転生先は競走馬 え?ウマ娘も? (ちょこ@みんと)
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1 プロローグ 何が起こったのか分からないけどね

この作品を書き始めたいきさつ

2022/4/15 ウィポ9 2022プレイ開始
2022/4/21 なんとなくPCでウマ娘プレイ開始
2022/4/27 なんか、急に書きたくなった
2022/4/28 よっしゃ書いたろ んで、投稿 ←今ここ




 

ふと、気が付けば。と言う感じで自覚した時には自分は馬の姿だった。

 

(え? ……え?)

 

意味不明であった。

確か、自分は人間だったはずなのに? ……あれ? 人間……だったよね?

と、問いかけても答えなんて返って来ない。確か人間だったはず? きっと。多分。メイビー。

 

(確か……携帯版機種のウィポ9の2022をプレイしながら、PCでウマ娘をしつつ、PC横のテレビでPS版ミリクラをしていたはず? ……うん、覚えているぞ。で、眠くなったから寝て起きたら馬になっていたと……。うん、意味分からん)

 

うろ覚えながら記憶をたどると徐々に思い出せる最後の記憶。明日は仕事が休みだからと課金しつつゲームを存分に楽しんでいた。楽しんでいた3つのゲームは競馬物なんだけどね。

で、なんか急に眠気に襲われたけどそれでも気合でゲームしていたけど、半分寝ながらプレイしていたから一旦寝ようと横になった。眠気ですぐに意識が落ちて、目が覚めたら馬の姿だった。

 

(分からん。何一つ分からん。なんで馬? 本来の俺は? あれか? 死んだ後の転生先は馬ってことか? そもそも俺は死んだのか? 夢……じゃないよな? 五感をはっきり感じる夢なんてあるのか?)

 

立ち上がる。馬という人の姿とは全然違う姿のはずなのに、スムーズに4本の足で立ち上がれた。

寝藁から起き上がると飼葉が置かれている箱に向かう。まだ十分にある飼葉を一口咥え食べる。

 

もっしゃもっしゃ……

 

(ああ……、飼葉が美味い。やっぱり馬になったんだなぁ……。味を感じる夢なんて無いんだろうなぁ……。やっぱり俺、完全に馬になっちまったみてぇだよ……)

 

もっしゃもっしゃと飼葉を食べて小腹を満たしたら、現実逃避をする様に寝藁に横になり寝た。

 

 

 

 

 

(ま、深く考えるだけ無駄だろ。俺、死んだ。俺、馬に転生。俺、馬生を楽しむ。うん、それでいいじゃないか)

 

翌日、俺は牧場を元気に駆け回る。馬になった以上は人間に戻れないものとして、人生ならぬ馬生を存分に楽しもうじゃないか。

そう考えを改めた俺には次に気になることがあった。

 

(俺、なんの馬?)

 

 

 

その後しばらくして、調教が始まった。決していかがわしい意味ではないよ?

どうやら俺は競走馬として生まれたようで、牧場に併設されている坂やコースを駆ける日々が始まった。

 

「この馬大人しいですね。全然荒れませんし、指示に従ってくれます。これはレースでも乗りやすいと思いますよ」

 

「まだ単走だから何とも言えんが、馬群にまぎれたら分からんからなぁ」

 

「まぁ、デビューしてからの調教次第ですね。早く走れるので最悪逃げるしかありませんけど」

 

騎手・牧場長・馬主さんが俺の近くで俺について話をしている。

ここ最近の調教から、全力を出せば1200~1600mまでなら問題なく走れる。それ以上は走れるけど遅くなってしまうし、それ以下だと体力を使い切る前に終わってしまう。

そう考えれば、スプリンターズ・高松宮記念・安田記念・マイルCSあたりを狙うことになるんだろうか?

 

「よし、短距離とマイルのレースを狙っていこう。スピードは十分にあるから最後の直線を走れるスタミナと坂を上るパワーを中心に鍛えようか」

 

「わかりました」

 

騎手が俺に跨ると坂の方に俺を誘導する。騎手の合図で一気に坂を駆けあがる。今日も俺は全力で調教に取り組むのだった。

 

 

俺が気が付いた時は、産まれてから2年目だったようで、年が明けると栗東トレーニングセンター、通称トレセンに移された。

担当調教師の話から、どうやら俺は早熟なようでデビューは7月後半に決まったようだ。距離は1200mで逃げで行くらしく、主戦予定の騎手が俺に毎日のように乗り込んでいる。

 

それと俺の生きている時期も何となくだが理解した。調教師や騎手たちの会話に時々『テンポイント』『トウショウボーイ』『グリーングラス』という名前が上がるのだ。

どうやら俺は1976年に生まれたんだとすぐに気が付いた。まぁ、トレセンに来る際に馬主から『~~~76はシュネージュネコにしよう』と言っていたからね。

 

しかし、馬主の名付けよな。なんだよ『シュネージュネコ』って。『ネコ』って。俺は馬ぞ?

馬主さんは自家生産馬に限り冠名を使うようで、牡馬には『ネコ』で牝馬には『メイド』とつける。

いやね、何でネコとメイド? ネコミミメイドが好きなん? って小一時間ほど問い詰めたい。馬主さんの趣味ですか? 趣味を俺たちに押し付けているんですか? と。

 

まぁ、馬主さんがいいならいいんだけどね。ドイツ語の雪のシュネーとフランス語の雪のネージュを合わせて、シュネージュまではいいんだけどなんで最後にネコを足す?

雪猫? いや、雪雪猫? 牧場にネコがいっぱい住んでいるからか? まぁ、もういいんだけどな。 猫な馬として頑張って走るだけさ。

 

と、色々思いつつ時は過ぎ、いよいよ今週末は俺のデビュー戦。作戦は最初から最後まで全力で駆け抜ける『逃げ』で行くことになった。

『先行』案もあったんだけど、調教で俺が徹底的に馬群を嫌がったからと思われる。

 

……だって、馬群のあいつらうるさいんだもん。走りながら周りを威圧しているのか怒鳴っているのか、とにかくやかましいから馬群には近寄らないようにした。もう徹底的に。

最初は我慢したけど、2回目以降は走るのを拒否したもんね。そのかいあってか調教師も騎手も俺は馬群がダメだと判断したみたい。

 

仮に、馬群にまぎれそうになるとしても大外に出る様にして、とにかく馬群には近づかないようにしていた。大外を走る関係で1600mコースに対して俺だけ200mぐらい長く走ることもあるけど、それでも逃げ切れるくらいのスピードとスタミナを持っていると自負できるくらいに頑張った。

週末には今までの頑張りを発揮できる日だ。週末に備えて今日はゆっくり休もう。

寝藁に横になると俺は目を閉じそのまま眠りについたのだった。




ちなみに、作中の馬主さんは私のウィポ9のプレイデータから引用。
冠名は「ネコ」と「メイド」と書いてありますが、実際は「ネコ」と「ロリ」です。
「メイド」はクラブの牝馬の冠名です。

さすがにね、ゲームで「ロリ」は問題なく使えたといっても、小説に使ったらダメじゃね? と思って変えました。

馬名や名前として「ロリ」を連呼するのはねぇ……?
レース中の実況で「ロリ」を連呼させるのはねぇ……?

まぁ、でも問題なさそうな? 「ロリ」の名前で出しますけどね。



どうでもいいことですが、
作者は今現在、本当にゲームを3つ同時プレイしています。
「ミリクラ」は1999年頃? 発売のPSソフトの「ミリオンクラシック」です。作者が好きなソフトで今でも時々プレイしていますし、中古も含めて予備としてソフトを3本持っています。賛否両論ある遺伝子システム、あのシステム好きだったんですけどね。


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2 馬編 転生、転生、また転生

まだ1話だけ

なのに

『お気に入り:21』
『UA:848』

( ゚д゚)ポカーン

本当に失礼な事を言わせてもらいますが
『えっ? まじで? 大丈夫なん?』と、素で思ってしまいました。


目が覚めた。

まず目に見えたのは見覚えのない風景。ここどこ?

 

いやね、うっすら覚えはあるのよ?

でも、半年以上前の風景なのよ?

 

え? あれ? いや、まさかね……

 

 

 

 

 

どうやら、転生したようです。

 

馬に。

 

 

いやいや、なんで?

また馬?

 

『転生したら馬だったけど、また転生したら馬だったよ』

 

ああ、うん。売れないラノベのタイトルみたい。

でも事実。

 

だってそう、見覚えのあるようで見覚えのない人たちの話から『ミスターシービー』『シンボリルドルフ』の名前を聞くことがあり、1980年に突入していると理解できた。

っていうか、俺の名前の後に『84』って数字をつけているから、1984年生まれなんだろうな。

 

ウィポ情報だけど、確か同年生まれに牝馬ではマックスビューティー、ダートのイナリワン、マイル・短距離のホクトヘリオス、長距離のタマモクロスがいる年じゃなかったっけ?

俺は牡馬だから牝馬はいいとして、来年にはオグリキャップやスーパークリークが生まれるんだろ?

 

ムリじゃね? 

いや、距離によってはワンチャンあるのか? でも厳しくないか?

それ言えばどの年代も厳しくないか?

 

はぁ……

かつてのスターホースやアイドルホースと戦うのかぁ……

 

ゲームだと自分で所有してGⅠ取りまくっていたけど、馬となった今では真っ向勝負をしないといけない。

種牡馬入りしたいとは言わないけど、せめて引退先は乗馬になってのんびり余生を過ごしたいなぁ……。

 

……いや、まてよ?

ムリしてGⅠに行かなければいいんじゃないか?

 

GⅡやGⅢで頑張って勝って、コンスタントに稼いで行けばそれなりの引退先になるんじゃないのか?

最悪OPのみでもいいんだし。というか、決めるのは馬主さんたちなんだから、勝てそうなグレートで勝って、それ以上のグレートで負けていれば、最低限稼げるだろう。

よし、そうしよう。そうすれば強敵とかち合わずにすむ。……はずだと願いたい。めざせ、穏やかな老後。

 

 

月日が流れて、調教が始まった。今回の馬生では中距離に適応しているみたいで、頑張れば2800mは行けそうだ。脚質は相変わらずの「逃げ」だけど。

年が明ければトレセンに移動となる。2度目なので何をすればいいか分かっているので、あとはデビューに向けて整えていくだけだ。

 

なんて思っていたらあっという間にデビュー目前となった。

調教? 順調でしたよ。

相変わらず馬群に近寄らないようにして、とにかく逃げまくったね。

 

あと、気のせいかも知れないんだけど、調教開始の時点で体が軽かったんだよね。

なんだろう、こう……、倍の時間の調教を受けているような感覚?

1976年時点の調教の効果が残っているのか? 実際、トレセンでは強め調教は最初の方だけで、ほとんど軽めにしか調教していないんだけど、それでも逃げ切って勝てるんじゃないかってぐらいの能力がある。

と、調教師や騎手が言っていた。

 

まぁ、なんだっていいさ。

まずはデビュー、そして引退後に穏やかな老後を送れるよう頑張りますか。

 

 

 

 

 

……

…………

………………

 

 

 

 

 

はい、3度目です。

 

何がって?

 

転生ですよ~。

3度目の馬転生からの、馬生の始まりですよ~。

 

もうね、涙が出る。

前世? は1984年だから、前々々々世になるのか? 人間時代の前の世代で俺何かしたん?

あ、ちなみに今は1991年です。1991年のシュネージュネコです。

 

3度目の馬生なんだけど、名前はシュネージュネコなんだよなぁ。生まれ変わるんだからせめて違う名前に……せめてネコを外して欲しい。

まぁ、馬な自分はそんな事を伝えれないんですけどね。

 

色々あるけど、やっぱりどの世代もヤバイね。もう笑うしかない。

今年は、1989年生まれのサクラバクシンオー、ミホノブルボン、ニシノフラワー、ライスシャワー、マチカネタンホイザが新馬戦の年だし、ビワハヤヒデ、ウイニングチケット、ナリタタイシン、ベガ、ホクトベガ、ユキノビジンが去年生まれている。

なんなら今年はナリタブライアン、ヒシアマゾン、サクラローレル、タイキブリザード、ピコーペガサス、エアダブリンが生まれている。国内だけじゃなくて海外でも活躍した馬が生まれているので、同世代の俺ではちょっとどころか完璧に無理だ。

 

まぁ、彼らが来ないようなOPでそれなりに稼ぐしかないかな?

あ、ちなみに、今回はマイラーがベスト距離みたいで、大体1400~2000mが限度か? 

でも、前回の馬生でも思ったけど、なんとなく過去2回分の調教の効果を引き継いでいるっぽいんだよなぁ……。

 

というのも、トレセンに来て初の調教で、「もうデビュー前の仕上がりでは?」と、調教師や騎手が驚いていたぐらいだったもんね。そのせいか知らんが、調教は適当に、本当に適当に流す程度しかしていない。軽め調教以下だよ? なんなら歩くだけの日もあったくらいだよ?

まぁ、それでも時々行う強め調教では文句が出ないように追い切っているし、なんなら数頭の併走では常に先頭切って走っていた。

 

なんやかんやあって、デビューを控えた週になったんだけど。

もうね、なんとなくだけど、諦めている自分がいる。

 

どうせ、また転生するんだろ? と。

しない可能性もあるんだろうけど、なんとなくまた転生する気がするんだよなぁ……

 

 

 

 

 

なんて言っていたら、しちゃいました。

4度目の馬生は1998年。人間だった時にこの年は悪夢の年と覚えている。

 

『1998年 天皇賞秋 サイレンススズカ』で分かる人も多いと思う。

なので、ゲームの時は必ずサイレンススズカを自己所有して、1998年以降も育てていたし、なんならエディットで『健康』の項目を最低の『G』から『S』に上げるくらいに贔屓していた。

 

まぁ、デビュー前の仔馬の自分にはどうしようもないんですけどね。

 

調教で走った限り今回は長距離で行けるみたい。体感的には2400~3600mかな? 3600m走ってもそんなに息切れしないんだよなぁ。

トレセンに移ってからは本格的にステイヤーとして調教が始まった。ただ、今までは『逃げ』で行っていたけど流石に3600mも逃げ続ける事は出来ないこともないけど、しばらく体がガタガタになった。

 

では、どうするのか? 

 

「やっぱり『追い込み』でしょうな」

 

という調教師及び騎手の指示の元、3000mの模擬レースみたいな形で追い込みで走ることになった。

 

スタートと同時に飛び出し馬群を形成する有象無象、もとい競走馬たち。そんな彼らを眺める様に後方から駆け足程度の速さで追いかける。力を全然使わない程度の走りなのでどんどん離されていく。

 

「行くぞ!」

 

馬群最後方と10馬身離れたあたりで、騎手のゴーサインが出る。と、同時に一気に駆け出す。

いきなり駆け出して走れるのかと思ったけど、意外にすんなり走り出すことが出来て、一気にトップスピードになった。

駆け足程度でも走っていたため、体が温まっていたんだろうね。あっという間に前方の馬群を外から追い抜き、そのまま外からスルスルと追い抜いていく。やっぱり馬群に突っ込みたくないので、追い越す時は必然的に外からになるんだけど、距離が少し伸びるだけでむしろ追い越しやすいと感じる。

 

1000m後方を走り、1000mで先頭に出て、1000m独走状態で引き離す。

そんな結果になり、俺は今後ステイヤーとして追い込みでレースをする方針となった。

 

さて、3000m走ったんだけど、実際2000mぐらいにしか感じなかった。というのも、最初の1000mは最後方で、言い方を変えればのんびり走っていたわけで、疲れる要素なんて何も無いわけで。

だから、実際に『走った』と感じたのは中盤・後半の2000mだけだった。3000mの内2000mしか走っていないようなものだ。

これは俺だけなんだろうか? 繰り返し転生をしてしまったためなのか? 

 

 

 

 

 

なんて、考えていたら、はい。5度目の転生となりました。

もう、難しい事は考えない。その分楽できるからいいじゃないか、程度に考えて思考を止める。

 

止めた。

 

2005年の馬生では中長距離適応で、実際走っていないけど体感的に20~35かな? って思っている。

思うだけで実際に走ってみないと分からないんだけどね。

 

転生する度に能力は上がっていると思う。明らかに1回目の馬転生と比べて違うのを感じる。

最初から100%ではない。10%程度で徐々に解放されていく感じ。

まぁ、それはいいや。調教を始めれば全部分かるんだから。

 

思っていた通りに2000~3500mが適距離だった。ただ、相変わらず逃げ切れる自信は無いので、追い込んでいく戦法を取ることになりそうだ。

しかし、この追い込み。実際やってみると楽なんだよな。

 

レースを3つに分割して、序盤は疲労感ゼロの駆け足で体を温める準備運動フェイズ、中盤に加速を開始して外・大外から全員を抜き去り先頭に立つ追い越しフェイズ、終盤は先頭に立ちひたすら後方を引き離す独走フェイズ。

序盤は抜きにして、中盤と終盤だけ考えればいいような物なので、俺だけ序盤の分短いコースになっている、いや、追い越すのに外から回るから結局変わらないのか? 実際の距離は伸びているんだが、結果として変わらないといった感じだ。

 

前回の馬生で能力を100%解放しないまま転生したが、引き継いでいる能力は変わっていない。そう感じる。

というか転生ごとに能力を引き継ぐとか、だいぶ卑怯ではないでしょうか?

いいのかな? あと何回転生するか分からないけど、最終的にエライ事になるのでは?

 

なんて思うが、こんな馬生を送るしか出来ない俺にはどうすることも出来ないわけで、気にしないで生きるという事で考えるのを放棄した。

 

元々の人間の性格的にのんびりするのが好きな上、食う事と寝る事が特に好きだったので、今回の馬生はひたすら寝よう。んで、気が向いたら走ろう。そうするだけの能力はあるんだから。

 

……あるはず。

あるよね?

 

 

 

 

 

確かにのんびりするとは言ったけど。

ひたすら寝ようと言ったけど。

 

転生する必要ある?

6回目の現在は2012年です。

 

人間の頃の年代に近づいているけど、これいつまで転生するんだろうね?

 

引継ぎも5回目。もうね、走らなくても最初からある程度の能力があるんです。

だから今回の馬生はぐうたら生きる事にします。

そう決めました。と宣言。誰にも言えないけど。

 

 

「オーナー、シュネージュネコですが、寝てばかりっすよ?」

 

「その割には能力高いんですよねぇ。トレセンに入れてみましたが週に一回やっと走るかどうかってところです。の割には未だに誰も追いつけないんですよ?」

 

「ふむぅ……。連れ出してみたのか?」

 

「普段は大人しくて起きているかも分からない程に寝こけているんですが、一度無理矢理に連れ出そうとしましたら暴れるに暴れて、馬房の一部を破壊する程の暴れっぷりで。それでも何とか連れ出したら座り込んでウンともスンとも言わなくなっちまったんです。まぁ、自分から走りたくなればスタッフの裾を咥えて離さなくなるんで、その時に外に連れ出していますね」

 

「無理矢理はダメか。ある程度の能力はあるようだし、何となくだが自分の事を理解しているのではないか?」

 

「ええ、どうもそう言う節が見られます。1200から2600mが適距離なんですが、それ以上走ろうともしませんしそれ以下では止まりません。おまけに併せでは必ず前に出て走り切ってしまいます。普段は馬の群れに入っていくんですが、競争となると決して馬群に近寄りませんし、常に先頭で逃げているんですよ」

 

「今の時点で形として理解していて、走る能力もあるのならそのままでいい。無理矢理で何か起こる方が怖い。それに何となくだが、負けたら負けたで我武者羅に頑張りそうな気もするしな。このまま本人……本馬? に任せてデビューを待つとしよう」

 

 

馬主・調教師。主戦騎手が話しているのを聞いていた。

よし。馬主さん公認だ。全力でぐうたらするぞ~。

 

改めてそう決心した日の夜。

寝藁に寝転がり眠った後の事だった。

 

 

ユメを見た。

何も無い真っ暗な空間。頭の上に動物? の耳が生えた3人の女神像が目の前に鎮座している。

 

『ウマ娘』

 

なんの情報も無かったが、女神像を見てふと頭の中にその言葉がよぎった。

 

ふと隣に誰かいる。輪郭しか見えないがどうやら少女の様な姿形をしている。ただ、頭の上から角の様に2つの突起がある。

これは耳だ。

輪郭でしかないはずなのに、直感的にそう思ってしまった。

 

少女が手を伸ばす。つられて俺も手を伸ばす。

手と手が触れ合い、向かい合わせで指を絡める様に握る。

と、俺の中から『ナニ』かが少女の中へ流れ込み、同じように少女の中から『ナニ』かが流れ込んでくる。

 

決して不快ではない。むしろ心地いい。

全身がぬるま湯に浸かっているような、温かく気持ちい。

 

意識が遠のく。

 

(ああ、きっとまた転生する)

 

何となくそう感じた。

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

「やった……産まれました!」

 

「おお! 産まれたか! メイドフィールドの仔が!」

 

「はい、隣でメイドカフェの仔も無事に生まれました!」

 

「そ、そうか……。これで全部だったな? ……よし、早速オーナーに報告だ」

 

誰か知らない人間の声を聞きながらも、今までとは違う転生になるんだろうなと、心のどこかで感じている俺がいた。

 

西暦2038年の4月。

後にシュネージュネコになる、母メイドフィールドの息子としてこの世に生を受けたのだった。

 

結局7度目の馬転生なんだけどね。




ウマ娘のステータスや数値を見ていると……

PS版の『モンスターファーム』がなぜか頭の中をよぎりました。

どうでもいいことですね。


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3 馬編 可愛い幼馴染と可愛い妹と可愛い弟分がいる生活。ただし、馬。

休み前と深夜の変なテンションで
(゚∀゚)アヒャ
しながら

母馬の名前は『メイド』ではなく『ロリ』が本来の名前です。
ちなにみ、私のウィポのデータで、ゲームの中の世界の話ですが、世界中に広がっている牝系で、私の牧場を代表する2大牝系です。




「いやぁ、見事に真っ白だね~」

 

「ですね~。純白の雪みたいな毛色ですよ」

 

スタッフに呼ばれた馬主さんが姿を現すと、産まれてすぐの俺を見てそう言う。

今回で7回目となる転生だけど、実を言うと俺の毛の色は白毛なんだよね。

真冬の雪と同化してしまう程に白い毛で、太陽の光を浴びてキラキラ光ることもある。

 

「メイドフィールドの方は白毛の牡馬か。で、メイドカフェの方は芦毛の牝馬だな」

 

「家(馬房)が隣同士の男の子と女の子、幼馴染ってやつですね? 幸い両親の血筋は全然違いますから問題ないですね」

 

「何の話をしているんだ? 君は」

 

へぇ……俺の隣の馬房でも出産があったんだ。で、同じように生まれたと。

確かにある意味隣人? 隣馬? だし、幼馴染っていうやつなのか? にしても……

 

(じー…………)

 

その隣の生まれたての牝馬ちゃんからめっちゃ視線を感じる。

なんていうか、俺を穴が開くほどに一点視している。俺は母親を向いているが右からめっちゃ視線が飛んでくる。

 

「ほらぁ。ほらほらぁ。オーナー見て下さいよ。牝馬ちゃんが見つめてますよ」

 

「そんなわけ……うわ、本当だ。ガン見しているな。母が必死に舐めているけど見向きもしていないな」

 

「牡馬の方は照れているんですかね? 微笑ましいですね」

 

「いや、むしろ視線を合わせたくない感じじゃないか?」

 

(じー…………)

 

(ほら、あんたを見ているわよ? ちゃんと見てあげなさい)

 

(ううう……、母さんがそう言うなら……) チラッ

 

(!! ~~~♪) パアァァァ

 

(なんか輝いてるよぉ……)

 

(あらあらまあまあ♪)

 

彼女いない歴=年齢+転生の俺には、たとえ生まれたての幼女? であっても穴が開くほどの視線を向けられるというのは、不慣れを通り越して一種の恐怖でしかないのに……

 

それから牝馬の視線から目を逸らし続けていると諦めたのか視線が外れる。

ああ、もう終わったんだと、チラッと見るとギンッと視線が合った。……こわひ

 

 

 

しばらく母馬と一緒に過ごし、ある程度大きくなると母馬と仔馬で一緒に放牧地へと連れ出された。

馬主さんの牧場には20頭の母馬がいて、20頭全部が今年仔馬を出産した。なので広い放牧地には20頭の母馬と20頭の仔馬がいて思い思いに駆け回っている。

 

(んふふ~♪)

 

こういう外出になると、必ずと言っていい程に俺の横には1頭の牝馬がいる。そう、隣馬のあの牝馬だ。

馬房と言っても完全に仕切っているわけでは無いので、簡単に顔を覗かせることが出来る。なので、産まれた翌日から彼女の猛アプローチが始まったのだった。

 

(ね~、こっち向いて~)

 

(……) チラッ

 

(ん~~~♪ しゅき~~~♪)

 

毎回こんな感じだ。

残念ながら過去の馬生では競走馬として調教を受けていたので、周囲の馬は全員もれなく気性は荒く口が悪い。牡馬も牝馬も関係なく。自分以外は競争相手な環境では、敵意を向けても好意を向ける事はまず無い。

人間の時だってモテない人生だったし、なんなら彼女なんて出来た事も無い。

 

そんな感じで生きてきた俺、そこに突然向けられたというよりも浴びせられている好意に、ただただ戸惑うばかりだ。

 

まぁ、でもしばらくすれば慣れてしまう訳で、好意を向けられている事自体は悪い気はしないので、はいはいな感じで受け流しているがそれでも彼女は喜んでいる。

いうても、競走馬として生まれてきたわけで、時が来れば簡単ではあるが調教が始まるわけで。

 

 

「まだ騎手は乗っていませんが、調教はどんな感じですか?」

 

「メイドフィールドの38はよく走りますね。スタミナも申し分ないしスピードも十分。短距離から長距離まで走っても全然ダレませんね」

 

「メイドカフェの38もいいですよ。中~長距離も難なく走りますね。どちらかと言うと後半の加速があるんで差し足はイイ物を持ってますね」

 

走らせている騎手や調教師はそう言う。確かにこれまでの転生のボーナスなのか、俺の適距離は1200~4000という本当に馬? というレベルだ。ただ距離によって走り方が違うようで、2500m未満は逃げてそれ以上は追い込みがしっくりくる感じだ。

まぁ、普通の馬と違って元は人間だからね。人間としての思考が出来るから、距離に応じてペース配分や調整が可能と言う訳だ。少なくとも適距離を一つの戦法で走る馬とは違うと思いたい。

一方、俺に着いて回る彼女は2200~3600mの中長距離に適性があり、序盤の加速は無いが後半に一気に加速して、瞬く間に追い越して行く追い込みが合っている様子。

 

(たまには一人にさせて~~~)

 

(まってぇ~~~)

 

と言う感じで、外に出れば大抵俺が逃げて彼女が追いかけるを、スタミナが切れるまでやり合っているだけなんだけど。

で、最終的には疲れ果てて2頭で休んでいるんだけど。

 

そんな感じで適度に走り回り、調教を受けて、月日が流れて。

年が明けて1月には母離れをしてそれぞれの個室(馬房)が与えられた。

 

隣はもちろんあの牝馬だ。

『いつもあなたのお側に』と言う感じだ。

 

本当は少し離れた馬房にするつもりだったらしい。

 

だが暴れた。

超暴れた。

誰とは言わないけど。

 

そして、俺の隣になった。

誰とは言わないけど。

 

そして4月。

 

母であるメイドフィールドは艶々の黒鹿毛の牝馬を産み、メイドカフェは綺麗な青毛の牡馬を産んだ。

 

 

 

母たちの出産の合間に俺達の調教が本格的に始まった。

いよいよ騎手を乗せて走る。まずはどの程度走れるのかを見ることになっている。

 

と、いうことで来年デビュー予定の20頭の仔馬に担当の厩務員が鞍を取り付けて行くのだが、初めて見るそれらの道具に仔馬たちは大いに暴れてあちこちでてんやわんやとなる。

俺? 元人間だから今から何をするのか分かっているので、大人しく道具を身に付けられていく。……うん、馬だからか知らないけど窮屈に感じない、むしろしっくりくる。

そんな俺の様子を横で見ていた幼馴染の牝馬は、害の無い物と理解したのか同じように大人しくしている。周りで暴れる仔馬を尻目にハミを受け入れ、蹄鉄を付ける時も抵抗しないのであっという間に終わる。

 

準備の終わった俺と幼馴染の牝馬の2頭で、背に騎手を乗せて早速コースに入る。1周2000m程の芝のコースを軽めに走り蹄鉄や身に着けた馬具に違和感が無いかを確認。騎手も俺の様子を見ながら軽めに走らせる。

 

「問題無さそうだな」

 

(騎手のあんちゃん、大丈夫だぜ。違和感無く走れるぜ)

 

声なんて届かないが心の中で呟く。騎手の手綱から合図が届く。『GO』サインだ。

 

瞬間的に全力で駆けだす。幼馴染を置いてきぼりにして駆け出す。景色が流れる。強い風が全身に叩きつけられる。同時に切り捨てて行く風。激しくなる鼓動。まだまだ余裕と言わんばかりの体。今ある全部のスタミナを燃やし尽くす勢いで駆ける。飛ぶように四肢に力を入れて駆ける。後ろから追いかけ始める幼馴染の声を置き去りにして。

 

ああ、なんて……

なんて爽快!!

 

人の身では決して味わえない、速さと怠さを身に纏い、それ以上の爽快感を感じてただひたすら走る。

昔、陸上部の奴らが「走るのは楽しい」とか、理解不能な内容を言っていたけど、馬の身になって駆けて思った。ああ、そうだ。すごく楽しい。

 

いつしか、俺の走りを見る仔馬たちは一様に大人しくなり、その隙を着いて厩務員が次々に馬具を取り付けていた。

 

 

「いや~、メイドフィールドの38は凄いですね。短距離から長距離まで問題なくこなせます。おまけに距離によって走り方を変えているみたいで、中距離以下は逃げる様に常に加速して、逆に長距離は正面奥の直線の半ばぐらいから加速し始めて、一気に追い越せる足を持っていますね。これは将来が楽しみですよ」

 

「メイドカフェ38もいいですね。中長距離を追い込みで十分差し切れる足を持っています。日ごろから追いかけっこしているのがいい感じになっていますね」

 

と、走り終えて馬具を外して木陰で休む俺達を見ながら、調教師や騎手がそう話していた。

 

 

 

(にぃ~に~)てちてち

 

後日、調教後の俺達と生まれたばかりの仔馬を連れた母馬たちが放牧地に合流した。

調教と言っても、転生ボーナスがある俺にしてみれば、適当にしてても問題ないレベルだ。

 

そのはずなのに俺は毎回全力で走っている。なぜかって? それはお隣さんにお住いの芦毛の追跡者がいるからさ♪

 

(ん~~~っ♪) スリスリ

 

(にぃ~に~♪) スリスリ

 

(にいちゃ♪ にいちゃ♪) スリスリ

 

 

「あ~……、メイドフィールドの38はすごいモテるんですね」

 

「モテるんでしょうけど……、本人はなんかもう諦めている感じですよ」

 

「なんだろう? 馬のはずなのに悟りを開いている雰囲気がしないか?」

 

 

あ~、馬主さん、そうなんですよ。

もうね、諦めました。

 

可愛い幼馴染(芦毛の追跡者)と可愛い妹(黒鹿毛の幼女)と可愛い弟分(アホの子)に毎日ぐいぐい押されている白毛の俺です。

結局こうなるんだからと、もう随分前から諦めています。

なんでしょうね? スリスリと親愛の情を示してくれるのは嬉しいのですが、ひどい時には1日中してますよ? 移動以外ずっとこれな時もあるんですよ?

 

 

「しかし、これは他の馬たちが怒るんじゃないのか?」

 

「ええ。でも最後にはメイドフィールドの38が追い払うんですよ。あ、どうやら絡まれそうですね」

 

 

(おい! 真ん中の白いの! いい加減その子から離れろ!)

 

(そうだそうだ! 可愛い牝を独り占めにするんじゃない!)

 

(…………)

 

(無視か? 無視とはいい度胸だな、あ゛あ゛?)

 

(………………)

 

(あ゛ぁ? 無視とはいい度胸だなぁ? んなナメた真似しt(うっさいんじゃー!!)……て……へ?)

 

俺たちに近寄りごちゃごちゃ五月蠅い牡馬2頭を無視していたが、うざくて早々に切れて吼えてしまった。

吼えたといっても馬なので、『ぶひひひぃーーー!』と豚の様に叫んだだけなんだけどね。

 

(さっきから横でごちゃごちゃとうるさいんじゃボケェー! 言いたい事があるならはっきり言わんかい!)

 

(え? あ……はい。すんません)

 

(で? 結局何の用だ?)

 

(あのですね……、横にいらっしゃる牝とですね、皆と一緒に遊びませんか……と)

 

(それは俺に言っても意味無くないか? コイツらに直接言えよ)

 

そう言うと苛立ちを無理矢理に抑えて落ち着きを取り戻す。答えは分かりきっていると思われるが、それでもめげずに牡馬は声をかける。

 

(あ、あの~……。向こうで皆と一緒に……)

 

(……ムリ) ぷいっ

 

(こわい……) ビクビク

 

(…………!!)

 

拒絶されてしまった。やっぱりね。

しばらく2頭で話しかけるが、次第に反応しなくなった様子を見て、牡馬はショックを受けるとフラフラと向こうの方へ戻って行った。

……やっぱりな~。分かり切っていたことだけど。

 

幼馴染様は気性が荒く、牡馬・牝馬関係なく排他的だ。近寄ると不愛想かつ無言で、口を開いたかと思えば拒絶の言葉。唯一、家族と俺にはユルユルになるだけで。

妹はまだ生まれたばかりというのもあるけど、人見知りならぬ馬見知りで、成長すれば変わるんだろうけど、今は兄である俺の影に隠れている。

幼馴染の弟は……、アホの子だから割愛。

 

(……なぁ、たまには他の奴らと)

 

(やっ) ぷいっ

 

(やぁ~) ぷいっ

 

(にいちゃ♪ にいちゃ♪)

 

……大丈夫なんかね? こいつら。




この話を投稿前の心境


2話目投稿

え?

UAとお気に入りが増えてる?

え?

なんで?



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4 ウマ娘編 かつてはオス。だが今はメス。

夜中のテンションで書いた話を投稿じゃい!


夢を見た。

 

人? の輪郭した光と手を繋いだ。

 

人? から流れ込んでくる『ナニ』か。

 

決して不快じゃないそれを受け入れて。

 

『私』は目覚めた。

 

 

 

急激に意識が浮上、そのまま覚醒する。

眠い目をこすりあくびを一つ。……二つ。

ベッドから降りたら部屋のカーテンを開け放つ。部屋に飛び込んでくる光の洪水。今日もいい天気だ。

 

しかし違和感。自分の部屋ってこんなんだっけ?

 

自分の部屋? に視線を這わせると姿見が見える。その姿見の前に立つと。

そこに映っていたのは、真っ白い肌、眠気は感じないのに眠たげな半眼、腰まで届く真っ白い髪と、女性特有の丸みを帯びた胸の膨らんだ体、頭の上に獣耳が飛び出ており、本来あるはずの場所に『耳』が無い。

 

「え? ……え?」

 

私の口から漏れ出たであろう声を頭上の獣耳が拾うが、その声は男では出せない思春期の少女のやや高めの声だった。

 

ふぁさ

 

姿見に映る私の腰のあたりで、たっぷりめのもふっとした毛に包まれた尻尾が見えた。

 

『ウマ娘』

 

瞬間、理解してしまった。

ああ、これが私の姿なんだと。

 

頭上の耳はウマ耳で、腰から見えるこれは馬尻尾なんだな。

そう、私は、気が付いたら……

 

ウマ娘になってしまったんだなって。

 

 

 

最期の記憶は覚えている。

まだ人間で男で。明日は休みだからと徹夜でゲームをしていたら、急に眠たくなってから一旦寝ようと思って横になって、起きたらウマ娘になっていた。

 

うん、意味が分からないね。

 

これはあれですか? いわゆる転生ってやつ? じゃあ、俺もう死んだ? 

神様に会って無いよ? チートももらってないよ? 転生するんならそれぐらいのサービスは欲しかったなぁ、と。

 

なんて、とりとめのない事を考えて。

思考をすっぱり切り替えて、さてこれからどうしようか?

 

途端、にゅるんと背筋がうすら寒くなるような感覚が全身を支配したかと思うと、ウマ娘としての今の『私』に、もう異物のように感じてしまう昨日まで『俺』だったはずのモノが流れ込んでくる。

 

……なんというか、昨日まで人間だった『俺』と、今までウマ娘として生きて来た『私』がごっちゃになってる。

でも『俺』の部分が少しずつ消えていく感じ。消えるというよりは、これは多分『私』に統合されているんだ。 

良く分からないけど。

 

長い時間の様で、でも実際は瞬間的な極々短い時間を経て、完全に『私』に溶けて混ざり合い新しい『私』になったと感じる。

 

「よし、今日から俺は私になる。幸いにして昨日までのウマ娘としての記憶もあるから、記憶喪失的な感じでファーストコンタクトを取る必要がなくなったわけだ」

 

記憶を頼りに私は寝巻から学校の制服に着替える。

今日から私は、ウマ娘のシュネージュネコとして生きるんだ。

 

……ウマなのにネコ?

 

 

 

「おはよう。今日は早いのね」

 

「お姉ちゃんおはよう」

 

「うん、お母さん、クロ。おはよう」

 

階下に降りるとお母さんと妹が朝食を食べていた。私も席に座りバターロールを一つ手に取り食べ始める。

 

「今日はトレセン学園の合格発表日ね。合格しているといいんだけど」

 

「大丈夫だよお母さん。お姉ちゃんはきっと受かってるよ」

 

「いやいや、あまり期待しないでほしいんだが? 妹よ」

 

そう、今日は先日受けたトレセン学園の合格発表の日。トレセン学園に行って先日受けた試験の合否の確認に行く。合格していれば晴れて4月からトレセン学園の生徒だ。

 

「う~~~、緊張してきた~~~」

 

「あんたが緊張してどうするのよ。ごちそうさま。それじゃあ行って来るね」

 

「「行ってらっしゃ~い」」

 

母と妹の声を背に家を出る。快晴の朝の光に目が眩んだが、じきに慣れて来ると玄関にウマ娘が立っているのが見えた。……お隣さんで幼馴染なんだけどね。

 

「おはよう、ネコちゃん」

 

「シロ、おはよう。いい加減ネコって言わないで欲しいんだが? 出来ればシュネージュから取って欲しいんだが?」

 

「ネコちゃんはネコちゃんよ? そんな事より早く行きましょう? 合格しているといいわね」

 

「そんな事って……。あ、シロ待って~」

 

シュネージュネコである私と、幼馴染のウマ娘のホワイトロリータの2人で、並んで歩いて合格発表の確認のためにトレセン学園へ向かう。

 

 

 

トレセン学園に到着。

4月から通うことになる同級生予定のウマ娘が大挙して、合格した受験番号が張り出された掲示板の前に集まっている。

 

「ゴミのようね~」

 

「シロ?」

 

「人ごみがすごいわね~」

 

幼馴染の呟きにギョッとしてしまうが、当の本人は気にした風も無く言い直す。

なんというか、シロは身内以外はどうでもいいというか、あえて口を悪くしている風でいる。でも仲のいい友人はいるので、全てを拒絶しているわけでは無いんだけど……。

 

「もう少し前に行かないと見えないなぁ……」

 

「大丈夫よ? ネコちゃんも私も合格しているわ。合格者一覧に2人の番号が書いてあるわ」

 

「そうか、それなら安心だ。ところで受験番号って教えたっけ? 何で知ってるの?」

 

「じゃあ、受付に受験票出しに行きましょう? こっちみたいよ」

 

シロに手を掴まれ引っ張られる。俺の言葉はスルーかよ? ちくせう

今通っている中等部はクラスは違うし、なんなら『シ』ュネージュネコと『ホ』ワイトロリータで出席番号も全然違うのに。前後や付近の番号はクラスメートで固まっているから、シロとは番号は全然違うし、そもそも教えた覚えも無いのに。

……なんで?

 

合格者一覧で確認は出来なかったが、受付では合格者として問題なく受理された。

……本当になんでなんだろう?

 

 

それからはトレセン学園に入学するための準備に奔走。……したのは最初の2~3日だけで、後はぐーたら寝て食べて過ごしていました。

準備といっても寮生活になるから着替えや筆記用具などを詰め込んだ。結果、いくつもの荷物で一杯の鞄が量産されたわけだ。

家具は各部屋にあるし、教科書や制服は寮に届くし、必要な物があれは都度外出すればいいのでこれ以上の準備は出来ないと思う。

 

よし、準備万端!

 

「ねぇ? ネコちゃん? バックに括り付けられているこの枕は?」

 

「え? 必需品だよ?」

 

「この圧縮袋に入っているこれは?」

 

「お気に入りの毛布と掛布団。ふわっふわでもっこもこなこだわりの逸品ですが何か?」

 

「……このビーズクッションは?」

 

「人をダメにするクッション? 必需品に決まってるじゃないか~」

 

「えぇ~~~?」

 

トレセン学園入学を数日後に控えたある日、準備が終わったシロが遊びに来たが、私の準備した物を見て困惑顔で首をひねっている。

下着類、タオル類、パジャマ、枕、クッション大・小、毛布、掛布団、敷包布、タオルケット、大きめのこたつ布団、加圧前のエアマット、ベッドサイズのウォーターマット……

 

「何か変?」

 

「ネコちゃ~ん♪ 私に襲われるのと、荷物をもう一度チェックするのと、どっちがいいかしら?」

 

四つん這いで舌なめずりをしながら接近してくるシロ。ちょっと怒ってる? こういう時のシロは冗談を言わないからなぁ……

何がいけなかったんだろうか?

 

結局、シロ的には必要な、私的にはいらなそうな、あれこれを詰め込んだ鞄が1つ追加となった。

 

そして、いよいよ

いざ! トレセン学園へ!



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5 ウマ娘編 選抜レース!

2023年シナリオに登場の強い3頭
さんざん苦しめられた3頭
完全にイメージです。


トレセン学園に無事入学。私とシロは第7クラスというクラスに入れられた。

なんで全7クラスの内7番目なのかは謎だが、1から6のクラスには、過去活躍した名だたる名馬がいた。

恐らくだが、ある程度の年代で区切られているみたいだ。同学年となる名馬相手に、どのようにレースをしていこうか、戦々恐々しつつも机に置いたクッションに顔をうずめて考える事にした。

 

「って、なんで教室にクッション持ち込んでいるのかな~?」

 

隣の席になったシロに問いかけられるが、それをあえて無視する。食う・寝るの2つが私の趣味であり生きがいと知っているシロは、基本的に私の好きな様にさせてくれる。

だから中等部でも授業中にクッション持ち込んで爆睡していても、横でのほほんと笑っているだけだった。試験はシロと常にワンツーを決めていたので、先生方も文句を言えなかったのもあるけど。

 

入学式(寝ていたので何も覚えていない)を終えて教室に入り好きな席に座り、今は担任が来るのを待つばかり。なので、持ち込んだクッションを取り出して顔をうずめても何も問題はないはず。

 

「いや、問題しかないだろ?」

 

前の方から声が聞こえ顔を上げると、前の席に座ったウマ娘がこちらをジト目で見ている。そのウマ娘の左右に座っているウマ娘もこちらを見ている。

見知らぬウマ娘の接近にシロが気性難を発揮して、表情をスンと消す。俺や仲の良いウマ娘以外はこんな感じだから、俺は慣れているが3人の視線に動揺が混じる。

 

シロと三者三様の視線を受けているこの状況で俺は

 

改めてクッションに顔をうずめた。

 

「いやいや、だからなんでだよ?」

 

「何? ネコちゃんのやることに文句あるの?」

 

前のウマ娘とシロが睨み合う。一触即発状態となる。……が、左右の2人は気にした風も無い。

 

「はっはっはっ! いやぁ~、中々に愉快な者たちがいるようで、楽しみだな!」

 

「……どうでもいいよ。お前が静かにして欲しいけど」

 

私以外の4人のウマ娘がそれぞれ話始めるが、私はそれらをまるっと無視する。 あ゛ぁ~~~……クッションが気持ちいいんじゃぁ~~~……

 

「つか、こいつもある意味すげえな」

 

「いいではないか! よく寝ることも大事な事だ! 大いにいいではないか!」

 

「いやいや、教室に持ち込んでいいのかよ?」

 

「で? あんたたちは何なの?」

 

シロの声に苛立ちが混ざり始める。これはもうすぐ爆発しそうだ。爆発したら後から俺が大変な事になってしまうから、とりあえず起き上がってシロの代わりに話すとしようか。

 

「……ねむ……。で? おたくらは誰?」

 

「ああ? ……ああ、そうか。まだ名乗って無かったな。俺はアウトオブアメリカ。こっちのうるさいのがインデュラインで、こっちの静かなのがテイクオフ。クラスに入ったら初っ端からクッション取り出したウマ娘に話しかけたくなっただけだ」

 

「そう? 話したんだからもういいよね? おやすみ……」

 

「待て待て。こっちは名乗ったんだからそっちも名乗れよ」

 

「えぇ~? 面倒……」

 

「分かりやすい程に眠そうだな! 改めて太陽王・インデュラインだ! 以後よろしく!」

 

「……テイクオフ。よろしく」

 

(……)くいくい

 

3人の自己紹介を聞いていると、机の下でシロが俺の袖を引っ張る。警戒を緩め始めている合図だ。

シロは他人に関して好き嫌いが激しい性格をしている。おまけに俺を妻だの夫だの公言している程に好意を寄せている。一部ふざけている節も見られるけど。

なので、俺がふざけたりバカな事をすると周りの反応を見る。批判的・拒否的な人には敵対するし、おまり気にしない・受け入れる人には寛容的になる。

 

実際、今のクラスの中で私たちに話しかけているのは目の前の3人だけで。他のクラスメイトは遠巻きにこちらを窺ってヒソヒソと話している。

シロ的にはこの3人は『問題無さそう』という感じなのだろう。無表情に色が戻り始める。

 

「……では、こちらも。私はシュネージュネコ。ネコと呼んでくれ。食う寝るに全てを注ぐ人生を歩もうとするウマ娘だ」

 

「ホワイトロリータよ。シロって呼んで」

 

「およ? そっちの無表情から敵意が薄れた?」

 

「シロってよんで。ネコちゃん第一主義なの。ネコちゃんの敵は私の敵よ」

 

「ああ、なるほど。分かりやすいな」

 

……どうやら、シロはこの3人を友人認定したようだ。良かった良かった。

 

なんて、入学初日にプチイベントがあったが、以降はつつがなくホームルームも終わり、寮の自室に戻り。

 

 

 

「シロ?」

 

「……や」ぷいっ

 

あ~……、爆発しなかったが、ちょっとイラっとしてプチ不満からストレスを感じているなこれ。こういう時シロは私を抱き枕にして寝る。そうしないとストレス解消できないから。

……しょうがない、今日は我慢しよう……

シロに抱き枕にされる間、私は自分の寝具を使えない。寝具に私が意識を向けるのを嫌がるからだ。しょうもないとは思うがシロとしては自分に意識を向けて欲しいようで……

 

「おやすみ」

 

「うん♪ おやすみ、ネコちゃん♪」

 

 

 

 

 

さて、私はウマ娘だ。

私たちはウマ娘だ。

 

ウマ娘としてこの中央トレセン学園に来た以上、レースに出て勝つ。ゆくゆくはGⅠの舞台で華々しく活躍する。

それはあらゆるウマ娘が心の奥底から望んでいる本能とも言える部分。ぐうたらに過ごしたい私だって、そういう本能はある。

 

厳しい審査や試験に合格した選ばれたウマ娘がここ、トレセン学園に集まる。自分以外はライバルという環境で、鎬を削り合い遥か高みを目指す。

 

今日はその高みへの第一歩とも言える選抜レースの日。いわば実力テスト。

選抜レースで実際に走り、自分の実力を発揮して、大勢のトレーナーに見てもらい、目に留まったトレーナーを契約をして、訓練を経て、新バ戦デビューとなる。

そう、今日を含めて数日間の間でトレーナーの目に留まる様に、自分の実力を示す。売り込む必要があるわけだ。

 

 

「ネコちゃ~ん♪ 頑張って~♪」

 

「お~……シロはご機嫌だな……」

 

ご機嫌なシロの声援を受けて芝2000mの選抜レースに出走するため、寮の入口から待機所に向かう。この後シロと入学式で知り合った『リカ』と『ライン』と『イク』も組み分けは別だけど同じ距離で出走予定だった。

入学してから何だかんだと一緒に過ごすうちに、シロもすっかり警戒心を解いた。……と思う。まだトゲはあるものの話をしているので嫌ってはいないはず。

3人は中等部でも一緒だったらしく、気性に難ありの問題児として遠巻きにされていたと、リカが笑いながら言っていた。

 

その3人は違う場所で集まるらしく、ここにはいなかった。

 

うるさく無駄に尊大なラインこと『インデュライン』、口が悪く常に喧嘩腰で不良扱いのリカこと『アウトオブアメリカ』、頭が良く座学は常に満点だが授業をサボりまくりのイクこと『テイクオフ』。ちなみにイクは今のクラスになってから、授業はサボらずに寝るか読書をしている。性格は大人しいはずなのにある意味問題児だね。

そこに加わったのは、食う寝る以外やる気ゼロの怠惰なウマ娘『シュネージュネコ』と、シュネージュネコ以外に興味を示さない排他的な超性格難の『ホワイトロリータ』。

それぞれのかつてのクラスメイトからすれば『なんか増えてる……』程度の認識だが、私達を知らぬ者からすれば目に余るようで、5人一組で常に遠巻きにされているのが現状だ。

まぁ、私を含めて全員がどうでもいいと思っているから大したことではないのだが。

 

待機所に到着後、走る番になったのでゲートに向かう。今回走るのは私を含めて6人。

私の適距離は1200~4000m。自分でも思うが意味が分からないね。でも、物心ついた頃からシロの時には過剰で身の危険を感じるような求愛? から逃げては捕まっていたのでこれでも『逃げ』る事には自信がある。長距離の逃げは無理だけど。出来ない事も無いけど体がガタガタになる。

 

今回は2000mなので十分に逃げれる。スタートが間に合わず先行でも、結局は先頭に立つのでユルユルっとスタートをすればいい。

1番目のゲートに入る。この狭さが落ち着く。立ったまま寝れそうな感じがまたいい。

基本的にウマ娘は狭いゲートを嫌がる傾向にあり、嫌々とゲートに入る他5人。集中力が欠けて気がそぞろになっている。これはもしかすると楽勝なのでは?

 

『さあ、各ウマ娘がゲートに入りました。選抜レース芝2000m、いよいよ出走です』

 

選抜レースでも実際のレースを想定して実況がついている。残念ならが走っている最中にじっくりと聞くことは出来ないので、後で録画を見てどんな実況をされていたのかを確認しようと思う。

いよいよその時がやって来る。ゲートに一点集中。

 

開いた!!

 

『各ウマ娘いっせいに飛び出しました。ハナを切るのは1番のシュネージュネコ、1人だけ抜け出して先頭を走ります』

 

ゲートが開いて一気に飛び出す。数瞬遅れて他5人のウマ娘も飛び出す。逃げは私だけで後は後方でバ群を形成している。

 

『先頭はシュネージュネコ、快調に飛ばしていきます。このままリードすることが出来るのか?』

『先頭から5バ身離れて2番のレインボーアマゾン、すぐ後ろに6番ヴェネチアダンス、1バ身後方に5番リズンペイシャ、並ぶように外に3番アグネスルーラ、すぐ後ろ4番フィーナーカフェがシンガリだ』

『意気揚々と差を広げていくシュネージュネコ、これはどうでしょうか?』

『掛かっているかもしれません。一息つけるといいんですが』

 

スタートしてすぐの1・2コーナーを余裕をもって曲がっていく、先頭を走っているから邪魔される事なくスピードを保ったまま直線に入れた。2番手は今第2コーナーを曲がり始めたところだ。

 

あくまでもこれは選抜レース。練習試合のようなもの。自分が今持てる実力を発揮して、トレーナーにアピールするのが目的。

だから1番になる必要はない。相マ眼のあるトレーナーなら例えビリでも素質アリと分かればスカウトするから。

 

私だってのんびり走りたかった。ビリでもいいと思った。

でも、『良血バ』『血統』にこだわるトレーナーが思った以上に多いわけで、私やシロの様な一般からの参加を快く思わない、最初から切り離している連中の目を見て思った。

 

これ私が勝ててばどうなる? と。

 

確かに私はぐうたらすることが好きだ。出来れば老後はのんびり悠々自適に生きたい。なんなら好きな様に食っちゃ寝できれば理想だ。

だけど、同じくらい面白い事が好きだ。場を混沌とさせるのが好きだ。何とは言わないが『ロウ』と『ニュートラル』と『カオス』なら、カオス一択だ。

整然と整った場面で場をぐちゃぐちゃにかき乱すのが好きだ。右往左往する周りの反応を見るのが好きだ。そんな様子を見てのんびり寝れたら最高だ。面白い事の為なら喜んで悪役も引き受けよう。

 

ああ、そうだ。いいじゃないか。

トレーナーの連中の目が、評価が、発する言葉が気に食わない。それでいいじゃないか。

どうせ私たちは入学前から気性に難ありの問題児として認識されている。今更普通に走るのは面白くない。

 

このまま一気に差を広げて大差で勝つ。カメラに入らないくらいに圧倒的に引き離してやる!

全然消費していないスタミナに火を灯す様に、ぐっと足に力を入れて駆けだそうとした。

 

 

 

瞬間

 

視界が爆発するような輝きで埋め尽くされた

 

 

 

『第2コーナーを抜けて、先頭が早いのかやや間延びした展開になっています』

『各自、自分のペースを保っているようですね』

 

『順位を振り返っていきます。先頭は相変わらずシュネージュネコ。おっと? シュネージュネコが加速を始めたぞ? 2番手との差をグングン広げていきます。スタミナは持つのか?』

『作戦でしょうか? それとも暴走でしょうか?』

 

目に映る景色が流れるように加速していく。普段の走りではありえない、トップスピード前回の走り。徐々に加速ではなく最初からフルスロットル!

突然の、本来はあり得ないはずの急激な加速に足がしっかり付いて行っている。むしろこれが当たり前なんだと体が理解して、合わせて手の振りも同調していく。

未だ混乱の真っただ中の頭の中は、それとは別に冴えわたってスッキリしている部分もあって、ウマ娘という存在を十全に理解していなかったと改めて感じさせられた。

 

この走りこそが私の……

ウマ娘としての私なんだと

 

私はウマ娘・シュネージュネコだ!

 

『シュネージュネコ、ものすごいスピードで第3コーナーに入ります。これは曲がり切れるのか? 後続は向こう正面の半分ををようやく過ぎたところだ』

『少し外に膨らんでいますが曲がっていますね。これは後方は追いつけますかね?』

 

『シュネージュネコに引っ張られるように後続のバ群が加速を始めた。しかし、カーブで速度が落ちています。シュネージュネコは第4コーナーを抜けて最後の直線に』

『圧倒的ですね。多少外に出ていますが、スピードを保ったままでカーブを抜けました。あとはスタミナが持つでしょうか』

 

楕円形のトラックコースを、丸みを帯びたの六角形と置き換えイメージ。角で少しずつ曲がる様に意識して走る。少し余計に走ることになるが、外を大きく徐々に曲がることで、本来ならスピードを落として体を傾けるカーブを、スピードを保ちゆっくり傾ける『ゆるやかなカーブ』として走る。

スピードが緩まるカーブでスピードを保ったまま走り抜ければ、その後の直線にそのままのスピードで入れるし、なんなら更に加速することも出来る。

 

理由は分からないが、どうやら私は同年代とはかけ離れた身体能力を持っているようだ。練習なんてしなくても大抵の運動は人並み・ウマ並み以上にこなせた。中でも『走る』事に関しては特にずば抜けていた。

短距離は常に先頭、長距離は最後の方で加速と、私1人で2人分の走りを行えた。これがなんなのか分からない。

けど、これも私の一部だ。私の中にいる『もう一人』もそう言っている。なら遠慮はいらない。2人分の全力を、ここから!

 

『最後のコーナーを抜けて、先頭に立ったのはシュネージュネコ。後続を大きく引き離して行きます』

『余裕の走りだ! これは楽勝ムード! これは決まりか? 後ろと大きく離れていく』

 

『200を通過。ここでシュネージュネコはさらに加速、この子の足はどうなっているんでしょうか? 後続は今第4コーナーを抜けましたが、同時にシュネージュネコがゴールイン!』

『圧倒的な大差でレースを制しました、シュネージュネコ。カメラを引いても後続が映らない程の大差だ。圧倒的な実力差を見せつけました』

『これは将来が楽しみですね』

 

ぶっちぎってゴール! 

のまま走り出す。

 

本来はここからトレーナーが注目するウマ娘に契約を持ちかけるんだけど、私とこの後走るシロは逃げ出すつもりだ。

私は基本ぐうたらが具現化したウマ娘だし、シロは人付き合いが超絶的に不可な性格。まずチームに所属なんて無理な話だと思う。

 

なので狙いは私達みたいな性格難でもいいと言ってくれるトレーナーかつ、個人が理想。最低限この性格を容認してくれれば、私がシロとの橋渡しをすればいいだけだしね。

 

『今、全員がゴー……っとぉ? シュネージュネコは止まらないで……今コースを越えて走り去りました! どこに行くんだシュネージュネコ!』

 

コースの外に出てそのまま駆け抜ける。ゴール付近にはウマ娘をスカウトしようとしていたトレーナーたちが見えたような気がしたが、彼らに囲まれる前に脱出……もとい逃げてやったぜ!

校舎前を駆け抜け寮の入口が見える頃には駆け足程度に速度を落としていた。後ろから誰も追いかけて来ないのが分かったからね。

 

で、寮の前には私物のエアーマットが十分に膨らんだ状態で置いてあり、マットの横にシロが立って待っている。

シロも私に気が付いたようで、両手を広げて私を出迎えてくれる。

 

「おかえり~♪ ネコちゃ~ん♪」

 

「ただいま~♪」

 

てててっと駆け足、からのぴょいっとジャンプ。

エアーマットに着地、からの五体投地。

 

「ネコちゃ~ん? これはどういう事かしら~?」

 

マットにぽすん、と座ったシロに頬を指先でつんつんされる。

うぬぅ……、幼馴染とはいえ、私のマットとの逢瀬を邪魔するとは……

 

「うぬぅ……、幼馴染とはいえ、私のマットとの逢瀬を邪魔するとは……」

 

「ネコちゃん? 心の声が駄々洩れよ?」

 

「それよりもシロ? もうすぐシロの番じゃないの? 頑張ってきてね。できれば一番になって。で、そのまま帰ってきて」

 

「注文が多いわね~。……まぁ、私のためって分かっているからあまり強く言わないわ。私もそのまま帰って来るから、待っててね」

 

すっと立ち上がった芦毛の幼馴染は、選抜レースに出るため手をひらひらさせながら、のんびりと歩いて行った。

その背中が見えなくなる頃には私の眠気も限界で、ふわふわなマットと暖かな日差しで、日向ぼっこ気分から微睡みモードに移行したのは言うまでも無かった。

 

 

 

 

 

「うわ、マジで寝てる」

 

「うむ! 気持ちよさそうで何より!」

 

「……いいなぁ……」

 

んゆ? 何か声が聞こえる……?

徐々に意識が浮上する感覚の後、寝惚けた思考のまま起き上がる。

視界には最近見慣れ始めた3人と、見慣れた不機嫌顔の幼馴染。

ああ、「邪魔された」って思ってるな、これ。

 

「おはよう、何? なんの集まり?」

 

「いや、俺ら選抜レース終わった後にシロが来たんだがよ? レースの後そのままコースぶっちぎって走り去るから、どこに行くのか気になったんだよ」

 

「最後方から7バ身差を一気に追い抜き、ゴールしてスカウトかと思えば! そのままいなくなったではないか! 愉快!」

 

「またか、なんて呟きもあったから余計に気になってね、追いかけてきたわけ。で、そのマット寝心地よさそうだね? 今度貸して?」

 

「こいつら全然離れないのっ! ネコちゃんどうにかしてっ!」

 

「無理言うなよ幼馴染。マットは貸すけど破損や没収は弁償ね? ところで、皆のレースは? スカウトは?」

 

五体投地で寝ころんだままというのは失礼なのでマットの上に座るが、右にイクがぽすんと座りそのまま倒れ、左にシロが座りながら私を抱えるように倒れこむ。

反転する視界。右から「あ~これいい~」という声が聞こえ、左からぴったりくっついたシロの深呼吸の音が聞こえる。

 

「……で? レースは? スカウトは?」

 

「おう、そのまま続けるんかい」

 

シロの手を振りほどこうとするが万力のようにがっちりと、私をホールドしている。なせが左からもホールドされて「いいなぁ~これ……」とか聞こえる。

 

「……で? レースは? スカウトは?」

 

「…………はぁ~……もういい」

 

「お疲れだな! 早く休むといいぞ!」

 

「俺、なんでこいつらと一緒なんだろな?」

 

んなこと知らんがな……。

首だけを動かして下を見ると、疲れた表情のリカと明るい笑顔のラインが見えた。

 

「あ~……、レースな? 俺達も1着だったぞ。でもな、中等部から問題児扱いっていうのを知られたらしく、扱いづらい気性難のウマ娘と思われているようで」

 

「一応声をかけてくれた者もいたのだがな! 私が太陽王と知るやモーゼの様に道を開けてくれたのだ!」

 

「まぁ、こいつと同類扱いされてな、あっという間にいなくなったよ」

 

「初対面でいきなり太陽王は触れたくないよな~」

 

なんて呑気に答える。3人の表情に焦りは無いし、能力はあるんだからその内どこかが拾うだろ。なんでも性格難の問題児ばかり集まる隔離所扱いのトレーナーもいるらしいから、最悪そこが拾ってくれるだろう。というか私たちも最悪はそこかな?

 

「で? お前らは? なんでぶっちぎって行ったんだ?」

 

「ネコちゃんを吸うためよ!」

 

「お前には聞いてない。てか吸うなよ!」

 

「シロの性格難があるからね、チーム所属は無理そうだし、こんな私たちを拾ってくれそうな個人トレーナー待ち」

 

「ああ、俺らと同じか。こっちもそんな感じだ。こいつら放っておけないからな、寛大な心の個人トレーナー様を探しているんだ」

 

尊大と奔放に挟まれる不良か……大変だな……

 

「まぁ、なんだ……頑張れよ?」

 

「なんで今俺同情された? おお?」

 

なんて、やいのやいの言いながら、初めての選抜レースの日は終わりを告げた。



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6 馬編 新馬戦

新馬戦
ウイポ9の番組表を参照してます


のんびり風味に、時には芦毛の追跡者に追い回される日々。

年が明けて、今年は新馬戦を始めいよいよデビューの年となる。

 

栗東トレーニングセンターに移動となった俺。その際、馬主さんから名前をもらった。

7度目のシュネージュネコの名前を頂きましたよ。ええ、もう諦めました。

 

 

「オーナー! シュネージュネコは早い段階でデビューできそうです!」

 

「そうか! ウチのネコはデビューが早いか!」

 

「ええ、あのネコは同世代と比べて抜きんでた能力ですので、期待していてください!」

 

「うむ。私のネコがGⅠに勝ち、ウイナーズサークルに上がるのを期待するとしよう!」

 

 

なんて、馬主と調教師の頭悪い会話を聞いていたんだけど……

俺ネコなん? 馬なん?

馬主様は俺が馬って認識しているんだよな? 本当にネコを走らせないよな? 走れないんだけど……

 

まぁ、ネコではなく馬の俺をちゃんとトレセンに送ってくれたから、馬主は俺が馬だと認識していると思っておくとしよう……。

そうそう、俺の隣の馬房にいる幼馴染にも名前が付けられた。

 

『ホワイトロリータ』号

 

いいのか? 馬主様、それでいいのか?

趣味なん? なんなん、冠名といいこの名づけといい、馬主様の趣味全開なん?

 

「ネコの妹はブラックロリータか……」なんて呟いていたけど、冗談だよね? 冗談であってくれ……

 

まあそれはそれとして、トレセンに入ってからは調教の日々となるわけだ。

 

 

「あの白いの動きませんね。食うか寝るかしてません?」

 

「ああ、まぁ2~3日に1回は馬房から出て来るんだがな。それでも逃げれば追いつけないし、後方から追えば一気に先頭だ。食っちゃ寝ばかりなのに意味が分からん」

 

「分からにといれば、横の芦毛もですが……」

 

「ああ、白いの横じゃないと暴れるって、オーナーから聞いていたが、ありゃあとんでもねぇな。1つでも馬房が離れたら破壊しやがった」

 

「おかげで風通しが良くなりましたね……」

 

「現実逃避してんじゃねぇよ……。あの芦毛も白いのと同じで全然動かねぇ。というか白いのと一緒じゃないと動かねぇ。俺はカップルを住まわせてるわけじゃねぇんだがな……」

 

「あれで2頭は強いですからね。なんなら即デビューできますよ」

 

「そうしてぇが……、まだ2月だ。早くても5ケ月待たなくちゃなんねぇ……」

 

「……っすね」

 

 

まぁ、入りたての子供みたいなのと比べれば、俺は7度目のトレセンだし? トータル馬齢14以上だし? もう引退だし?

……なんてあほなこと考えていないで走るか。たまに気が乗って外に出れば、ひよっこ共は馬具を着けるだけで暴れる。まだまだ先が思いやられるねぇ~。

 

「お? 今日は白いのは出て来たのか? なら芦毛も出て来るな」

 

「なら騎手呼んで来い。主戦予定にするから乗れる時に乗せとけ」

 

食っちゃ寝ばかりも体に悪かろうと、2~3日毎に気が向いたら馬房から出て運動をしに行く。食べた分は消費するので未だに太り過ぎるという事になっていない。

そして、俺が馬房から出てくれば、隣の馬房から出て来る芦毛の牝馬。そう、入厩当日に隣じゃなかったと暴れるに暴れた幼馴染、ホワイトロリータだ。名前が長いので『シロ』と呼んでいるが。

 

(お? シロも来たのか?)

 

(うん、ネコさんが行くなら私も行く)

 

ネコさん。そう、シロからはネコさんと呼ばれている。馬なのにネコ……

これも全て馬主の名付けが悪い。俺は悪くない。うん。

 

(そろそろ走らないと太るからな)

 

(今日はネコさんに追いつく!)

 

シロと走る際は主戦騎手を乗せて2400mを逃げと追い込みで何回か走る。で、どちらが勝つかというのをしているんだが……

俺は本来、長距離も走れるんだが、馬主の指示でまだ中距離までに抑えているらしい。何となくだが考えていることは分かるけどね。

『面白いから』という理由だけだと思う。「実況でネコだのメイドだの連呼されるの面白くない?」とかのたまう馬主様だからなぁ。

 

まぁ、どうせどこかで長距離は知らせて、驚く知り合いの馬主の顔を見る為だろうな。きっと。

 

馬主のくだらない児戯は置いておいて、早くて7月のデビューに向けての調整。

……なんだけど……

 

「休憩挟んで2400mを5本しましたが、スタミナ半端ないですね」

 

「ええ、足元も頑丈ですから連戦も可能かもしれませんね」

 

「シュネージュネコはオーナーの指示で長距離を追い込みで走らせると言ってますからね、逃げ先行差し追い込み何でもできる須田さんが主戦で決まりでしょう」

 

「宮間? それを言えば去年追い込みでGⅠを7つ取ったお前だろ? ホワイトロリータの主戦は」

 

「まだオーナーと正式な話はしてませんが、テキからは主戦で行くと聞いてます。俺もそのつもりでいるんで、この子でどこまでも行ってやりますよ」

 

「はっ。長距離を早いとこ取っとけよ? 早くて来年の菊花賞、遅くても再来年の天皇賞春にはこいつも行く予定だ。そしたらお前が取れるのは無くなっちまうぞ?」

 

 

 

(まけた~!)

 

(3勝2敗か。タイミング次第では勝ち負けがはっきりするな。シロの追い上げはこっちが驚く時があるからな。油断できないな)

 

(う~……、今日は勝てると思ったのにー! 長距離勝負では勝ってやるんだから!)

 

(今日最後の勝負だな? 負けないぞ!)

 

 

「じゃあ、最後に追い込みで3200m行きますか」

 

「本来ならあり得ないんだけどな? こんだけ走ってまだ走れるなんて、どこかおかしいよな? こいつら」

 

「もう気にしたらまけっすよ。走りは全然崩れていないし、こいつらも息そんなに上がってないんで。オーナーもテキも連戦は視野に入れるかもしれませんね」

 

「まあなんにせよ、指示があれば乗るだけだ。よし、行くぞ」

 

 

7度転生の俺のスタミナにはさすがのシロも追いつけなかったようで、大差で勝ってしまう。それでも普通の馬からすればおかしいレベルのスタミナなんだがな……

 

 

 

 

 

そんなかんじで、食って寝てほんのり走って、7月の第1週に俺とシロのデビューが決まった。

シロが福島4Rの2歳新馬戦の芝1800m。俺が福島5Rの2歳新馬戦の芝1200mとなった。

 

同日なのには理由がある。単純な話でシロが離れたがらなかっただけ。なんて言うけど、これって結構ヤバいのでは?

 

(なぁ、頼むよ)

 

(やぁ~です。絶対に、ネコさんに着いて行きますから!)

 

(離れてレースできないと、出れるレースに制限がかかるし、最悪もう会えない何て事だってあるんだぞ?)

 

(嫌なものは嫌なんです~!)

 

調教師が言うにはシロは気性難らしく、まだ子供みたいなものだからね……。我がまま盛りなのは仕方ないんだけど、これはちょっとな……

伝わらないとは思うが調教師の袖を引っ張って抵抗してみるか。

 

「おーし、次行くぞ」くいっ 「おん? どうした白いの」

 

(なぁ、シロの事どうにかならんかね……)

 

「すまんが、遊ぶのは後でな。今忙しいから」

 

「シュネージュどうしたんですかね?」

 

「さぁ、分からん。遊んで欲しい訳じゃないみたいだが……今度のレースで何か感じてるのかもな」

 

「何かって言うと……実力的なのは問題ないですよね? 同年代の子たちを相手にしていない感じですし……。ホワイトロリータの事ですかね?」

 

「いや、まさかな……。でもこいつは人の話が分かっているんじゃないかって時があるからな……。もしかするのか? まあ俺らも気にはなっていたんだが、オーナーからは「レースに出さえすれば大丈夫」って言われているから、とりあえず新馬戦に集中してみろ? な? 後はまたオーナーと考えるからよ。……って、こいつが理解しているか分からねぇけどな」

 

(お? そうなのか? じゃあ、一旦馬主を信じてみるよ)

 

調教師の裾を咥えて首をフルフルと振っていたシュネージュネコ。調教師の言葉を理解して納得したのか、咥えていた裾をパッと離して奥に引っ込む。……どうやら今日は寝る日の様だった。

 

「どう見ても理解しているっぽいんだよな……。オーナーは今回預けた20頭の内、シュネージュネコとホワイトロリータを特に推しているが……、オーナーの相馬眼は時々変態じみているからなぁ……」

 

どこか遠い目をした調教師は厩務員に、シュネージュネコとホワイトロリータにおやつの果物を与える指示を出し、調教コースへと出て行くのだった。

 

 

 

 

 

7月 第1週 日曜日

 

栗東トレーニングセンターから馬運車に揺られ、前日の土曜日に到着。当日は与えられた馬房でのんびりとします。もちろん隣はもう見慣れた幼馴染が入り、周りには明日の新馬戦を控えた馬たちが続々と入ってきます。

そうしてのんびりしていると、須田騎手と宮間騎手が姿を現しました。彼らは明日乗る俺たちの様子を見に来たようで、馬房から中を覗き込むようにして話をしています。

 

「シュネージュネコはあまり動いていないにも関わらず、理想的な体形になっているな。とりあえずは安心だ」

 

「ホワイトロリータもいい感じですね。一回一回の運動が激し過ぎるるんですよね。2頭とも走った距離だけ見れば馬かどうか疑いたくなりますからね」

 

(太りすぎも痩せすぎも走りにくくなるから、そこは流石に自制するぞ? 大体、果物や野菜が美味しいのがいけない! 飼葉も美味いし夏バテなんかになってる暇はないからな!)

 

(今日もネコさんと一緒♪)

 

環境が変わって暴れるかと思ったホワイトロリータも、横にシュネージュネコがいるからか、落ち着いている様子。シュネージュネコは既に寝藁に寝そべり、だらけモードになっている。そんな様子を見て騎手2人は、明日は大丈夫そうだと安堵する。

周りは慣れない環境に来たせいか、うるさいくらいに嘶く馬たちが多い。あまり近いと喧嘩になるからと離しているのに、隣同士でおまけに静かなのはここだけだ。

 

「明日は勝てますかね」

 

「弱気だな、まぁシュネージュネコは問題ないが、ホワイトロリータだな……。本来の距離からすれば短いし、シュネージュネコから離れる事になるからどうなるか……」

 

「オーナーからは負けてもいいと言われていますが、何とか乗りこなして見せましょう」

 

そう言い猿騎手の背中を見て、隣に視線を向ける。相変わらず何が面白いのか、こちらを見つめる幼馴染に伝える。

 

(明日は頑張れよ?)

 

(大丈夫! 明日頑張る!)

 

自信満々に言い放つが、逆に心配だ……

 

 

 

翌日

福島競馬場 第4R 2歳新馬戦

 

パドックは1頭の馬の嘶きが響き渡っていた……

 

(いやーーー! ネコさんの所に帰るーーー! 帰るのーーー!)

 

「落ち着け! 大丈夫だぞ! くっ! 予想以上だなこれ!」

 

今まで離れず常に側にいた、ある意味半身の様に思っている存在が近くにいないという事実。そのためホワイトロリータは感情が制御不能に陥っていた。

このままでは騎手が危ないし、なによりパドックを回る他の馬や、外の観客にまで被害が出てしまう。

無理矢理にでも引っ張りパドックから地下通路へ誘導するが、暴れっぷりは拍車をかけるのみ。

 

これはダメかも知れない……。そう思い始めた時、一人の男性がスッと暴れるホワイトロリータの前に立つ。「危ない!」と声が聞こえるが、ホワイトロリータが男性を視界に収めると、ぴたりと暴れるのを止める。が、不満しかありませんといった風のホワイトロリータを撫でながら、優しく話しかける。

 

(馬主さん! 私を帰して!)

 

「おお、ひんひん悲しそうだなぁ。でもすまんな、レースを走ったら返してあげるから、頑張ってくれないか? このままだとずっと会えなくなってしまうんだ。彼に会うためにも頑張ってくれないか?」

 

(……本当に帰してくれるの? 走れば戻れるの?)

 

「ビリでもいいからさ、頑張ってきてくれ。な?」

 

「いや、オーナーすごいっすね。手の付けようがなかったんですけど、こんなに大人しくなって」

 

「はっはっはっ! 馬といえど言えばどうにか伝わるもんだよ?」

 

「いえ、オーナーの様な変態じゃないんで、我々は」

 

「君もひどいね! まあいいよ。一回走ればどうにかなると思うから、ビリでもいいからホワイトロリータをよろしくね」

 

用は済んだと、背を向け笑いながら去るホワイトロリータの馬主。その背中を呆然と見つめる人々。ぼそりと、「あれが変人・変態と名高い小牧原オーナーか……」という声がどこからか聞こえ消えて行った。

 

 

宮間騎手は落ち着いたホワイトロリータを撫でながら返し馬を歩かせる。調教の様子からホワイトロリータの適距離の最低が2200mに対して、今回のレースは1800mと少し短いので軽く駆けさせて走る準備をする。

気性難で激しい馬だが、長距離を最後方から先頭まで駆け抜ける程の能力はあるので、走り始めれば後はこの馬次第だと、鞍上の宮間騎手は思う。

 

「福島の1800m……、ゴール手前200mから走るが、ここに上り坂がある。最初と最後と途中と3回の坂を上るレース、行けるはずだが後はこの子次第か」

 

 

2歳新馬戦を走る馬たちが返し馬から続々とゲートに入る。普段からシュネージュネコと共に過ごして調教も受けているから、ゲートに落ち着いて難なく入る。

狭いが特に気にした風も無いホワイトロリータはゲートが開くのを待つ。

 

(帰るんだ……早く帰るんだ……)

 

落ち着きのない周りの馬たちの苛立ちを聞き流して前を見据える。

ガコン! と、開いたと同時に飛び出す。

 

何も考えず、ただ早く帰りたい一心で。

 

 

ホワイトロリータのデビュー戦は、全6頭中6着。5着と10馬身差の大敗であった。

 

 

 

「オーナー、すんません。落ち着いたかと思ったんですが、全然でした。ホワイトロリータ本来の走りが出来ませんでした」

 

「いいよいいよ。ビリでもいいって言ったからね。それで、どう? 負けた後も暴れてる?」

 

「いえ、最後にゴールして地下通路に入ってから妙に大人しいんですよ。大丈夫ですかね?」

 

「ああ、大丈夫だと思うよ。走ってみてようやく気付いたんじゃないかな? 自分が競走馬だという事に」

 

「そういうもんですか? それで次はどうします?」

 

「7月4週目の土曜日、2歳未勝利戦だね。ここ福島で芝1800m。きっと勝てると確信しているからね」

 

 

 

シロが帰って来る前に、俺のレースの番となった。心配だが行くしかない。7度目の馬生でようやくデビューだからか、ちょっとワクワクしている。

 

(よーし! いっちょやるか!)

 

「お? シュネージュネコは気合十分だな。焦れ込んでるわけじゃなさそうだし、今日は楽勝かもな!」

 

パドックで須田騎手を背に乗せスタッフに引かれ歩く。全6頭で1枠での出走だ。

他の馬を見るが落ち着きがなく、焦れ込んでいる馬もいる。1200mとはいえあれでは持たないだろう。この試合貰った!

 

地下通路を通り返し馬へ出る。短距離は余裕で走れるが、長距離も走れるスタミナとパワーはあるので、芝の様子を確認しながら駆けだしてみる。

須田騎手が手綱で合図を出し、全力で走ってみるが統べる感じも無い。昨日はよく晴れたようで芝は濡れておらず、良馬場といったところだ。

 

『福島競馬場第5レース、2歳新馬戦。芝1200mの発走となります。各馬はこれからゲートに向かいます』

 

芝の状態を確かめている間にゲートインの時間になったようだ。1枠1番なので俺が最初に入ることになっている。

ゲートにすんなり入る。馬の身になったとはいえ、この狭さはなんか落ち着くものがある。……俺、馬だよな? ネコじゃねーよな?

 

『6番のホワイボタンがゲートに入りません。大丈夫でしょうか……。今入りました。各馬ゲートに入りました』

 

ゲートをじっと見据える。次第に周りの音が聞こえなくなる。自分と騎手の息遣いだけが聞こえる。余計な音が何も入らない。

ギギ……と軋む音。後ろ脚にぐっと力を入れる。

ガコン! とゲートが開くと同時に後ろ脚で地面を蹴る。飛ぶようにゲートから抜け出した俺はそのままの勢いで走り出す。

 

『スタートしました。シュネージュネコ、綺麗なスタートを切りました。ハナを切ったのはシュネージュネコ。そのまま先頭へ躍り出ました』

 

一呼吸遅れて後ろで足音が聞こえるが、すでに走り出した俺の耳には遠く聞こえる。返し馬で少し走ったせいか、温まった体は気持ちいくらいに動きが滑らかで、足に力が乗り気持ち良く走り出している。

 

『逃げるシュネージュネコ。あっという間に200m過ぎ坂を上るが足に衰えはない。5馬身離れてクラウンブルテナ、すぐ後ろインザアンバー、1馬身後ろにラズールカフェ、外にビッグドルフィン、3馬身離れてホワイボタンがシンガリです』

『先頭シュネージュネコは第3カーブに入ります。外に膨れながら加速していきます。後続との差は7馬身に広がります。ここで後続が追い上げ始めました。後続は追いつけるのか?』

 

カーブでは加速を始める。当然内側を回り切れないので、外に出ながら大きく曲がっていく。だけど、問題ない。いつもと変わらない。いつもと同じ、

4コーナーから緩やかに下り始めるのもあって余計に加速していく。坂を下りながら直線に入ると、目の前には上り坂! だが勢いそのままに駆け上っていく。急ではないが100m程度の短い間にある坂は意外と急に感じる。が、問題ない!

 

『下り坂の第4コーナーをカーブして先頭はシュネージュネコ。ゴール前の坂を難なく上って行く! 後続も後を追いますが届かない。シュネージュネコ、今1着でゴール板を通過! シュネージュネコ完勝!2着にクラウンブルテナ! シュネージュネコ初出場で力の違いを見せつけました!」

 

いつもと比べて走り足りなく感じるが、走りすぎるのも良くない。シロが気になるから、早いとこウイナーズサークルに行って、馬房に帰らないと。

 

「楽勝だったな。お疲れだ」

 

上から聞こえる須田騎手の声を聞き、歩を進める。後続馬たちが怯えた様子でこちらを見るが無視だ。

 

 

馬房に戻る。隣をちらりと見るとシロがいるが様子がおかしい。どうしたんだ?

 

(シロ?)

 

(……ごめん、一人にして……)

 

シロ? 一体どうしたんだ?

その日、シロがこちらを向くことは無かった……

 

 

 

 

 

トレセンに帰ってきてもシロの様子は変わらない。日に日に食事の量が減っている。何度話しかけても目を合わそうともしない。一体どうしてしまったんだ?

もやもやしつつも気分転換にと外に出てみるが変わらない。何もできないまま数日が過ぎ、馬主の指示で1週間放牧として、牧場に帰ることになった。

 

移動中の馬運車の中でもシロは終始無言。本当にどうしよう…・・・?

 

牧場に到着。とりあえず母さんと妹の所へ。妹も馬具を着けての軽めの調教が始まっているらしく、騎手を乗せて走り回っている。

 

(で、どうしたの?)

 

と母さんに問われたら、新馬戦以降様子がおかしいシロの事を話す。

 

(そう。でも大丈夫よ。あの子なら乗り越えられる)

 

確信を持ったような母さんの声を聞き、シロがいるはずの方へと視線を向ける。

 

 

(で、どうしたの?)

 

帰ってきた娘の様子がおかしい事に驚きつつも、顔を伏せてだんまりを決め込む娘が離し始めるのをのんびり待つ。

そんな母の様子にシロは歯噛みをするが、言葉が出る事は無くもどかしい気持ちが胸の中でくすぶる。

 

しばらくして、ぽつりと (くやしい……) と聞こえる。

 

(私、悔しかった……。ネコさんとずっと一緒と思ってた……。でも違う。ネコさんの……いない場所で、ネコさんと違う場所で……走って、気づいた。気づいた時には遅かった……。私、ネコさんを追いかけているだけだった。それだけだった。でもダメだった……)

 

(そう……)

 

まとまらない思いをぽつぽつと話し始めるシロ、それを聞き頷くのみの母。

 

(会いたかった。でも、ダメだった。このままじゃ、私……会えなくなっちゃう……会わす顔が……ないよぉ……)

 

(そうね、悔しかったのね。どうすればいい? 慰める? 走らなくていいって言えばいいのかしら?)

 

(違う! 私……今会うのは無理だけど……。次は走る! 私の走りで勝って、それから会う! おかえりって言ってもらえるように! 私、頑張る!)

 

(自己完結しちゃったわね。あの子は色々と規格外だからねぇ……。アレと一緒だとおかしい事が分からないから……。走ってから気づいちゃったのね? 些細な不安や違和感や寂しさが、耐えがたい程にすごく大きくなって心が乱されて、それでも走らないといけない。あなたは寂しさに負けてしまったのね。でもね、当たり前の事なのよ? ようやくスタートラインに立った。そう思ってこれから頑張りなさい。あなたが追いかける相手は遥か遠くにいるわ)

 

適当言ってなんか自己完結した娘と、規格外の幼馴染を思い浮かべてシロの母はそっと思うのだった。

 

(ネコさんネコさんって……、猫のことじゃないわよね? あの牡の話なのよね?)

 

 

 

結局シロとは話さないままトレセンに戻った。だけど、帰る時のシロはどことなく吹っ切れたような感じがした。

 

そして、7月4週目の土曜日。福島で開催の2歳未勝利戦に出るため、シロは暴れることなく馬運車に乗って行った。

多少の体重減はあるが、問題なく勝って帰って来るだろう。帰ってきたシロに俺はこう言えばいいはず……

 

おかえり!

ってね。




規格外が常に横にいたために、感じる事の無かったプレッシャー。
離れることで寂しさも相まって、爆発してしまったようです。自己完結してしまいましたが。


さて、今更ですが、読んでくださりありがとうございます。
ここで、私からお伝えしたい事が。

評価やお気に入りやブックマークをして頂き、ありがとうございます。

感想などのメールは極力、なるべくならしないで頂けると嬉しいです。
可能なら、評価もしないで頂けるのであれば幸いです。
作者のメンタルは、某すごくやわらかい戦車よりも、やわらかいので最悪死にます。


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7 ウマ娘編 出しちゃった♪(ヤケクソ風味)

実は、この話は一度書きましたが、書いた後に読み直しの段階で
「いや、周りの連中こんな反応しないだろ」
と、思い至り全部書き直してました、

よくよく考えたら、まだデビューしていなかったのに、この内容は無理がありすぎるw
と、読んでて笑ってしまいました。
が、どこかで使う予定なので、一旦保留として書き直してました。

あと、途中で別作品の方を書いていたので、その間こちらを触れていませんでした。

それとは別に、前の話の後書きに書きましたが、あまりメールしないでください。
まず読みませんので。最初ではありませんが、この場で断っておきます。

投稿後に気が付いたけど、場面がワープしていたw
書き直したけどね。


「あんたたちね! いい加減にしなさいよ!」

 

ある日、選抜レースに行こうとしていた時、そんな一言から始まった。

 

 

 

 

 

選抜レースに初参加した週の週末。私・シロ・リカ・ライン・イクの5人は未だにスカウトされずに、5人でぶらぶらしていた。

今日は土曜日。授業は午前中のみで、午後から放課後扱いとなり自由時間となっているが、スカウトされたウマ娘はトレーニングに励み、そうでないウマ娘は来週の選抜レースに向けて個人練習に励んでいる。

 

そんな中、私とシロは放課後になると真っすぐ寮の自室に戻り、これからどうしようか? と相談していたら、3人が唐突に部屋に押し入ってきた。

リカ・ライン・イクの3人が部屋に居座って駄弁り始めるのを横目に、隣で私の腰にしがみついているシロの不機嫌メーターが急上昇しているのを感じている。

 

……今夜も抱き枕決定かな……はぁ……

 

仲は悪くないはずなんだけど、まだどうも距離を測りかねている感じ。そのもどかしさもある様子。近付いていいのか離れた方がいいのか、イラつきつつも探っている感じだ。

でも、こうなると私は必ずといっていいほど、シロの抱き枕係になってしまうんだよなぁ……

うううっ……。しばらくお気に入りの寝具で寝るのを諦めるしかないのか……。

 

それはそうと……

 

「午前終わってすぐだからお腹空いた。食堂行こうかな?」

 

私の呟きに賛同する4人の声。3人は昼食に誘いに来たのだが、シロの不機嫌な様子を見て帰ろうかどうしようかしばらく様子を見ていたらしい。

つまり、シロが全部悪い。シロの鼻をきゅっと摘まんで「ネコひゃん!?」と声を上げるシロを引きずりながら食堂に向かった。

 

トレセン学園の食堂は独立して建てられたそこそこ大きめの建物で、お洒落なレストラン風な外見や内装をしている。食事の形態はバイキング方式となっており、お残しは許されないが好きな物を好きなだけ食べることが出来る。

寮の部屋で時間をつぶしていたのもあり、食堂はまばらに席が空いている状態で、到着した私たちはテーブルを2つくっつけて食事を取りに行く。

2つくっつけた理由は、シロが同席を嫌がったのと、1つでは乗り切らないから。私とシロで1つのテーブルを占領するのに、5人ではとてもじゃないが足りない。なので2つくっつけた。

 

ひとしきり食べてお腹が満ちるとデザートをつつきながらのおしゃべりに興じる。ちな、私はにんじんプリンだ。

 

「選抜レースは来週まであるんだろ? 俺らも出るけどお前らはどうするんだ?」

 

「出るよ? 出た後はブッチするけど」

 

「ネコちゃんに「お前には聞いてない」……ぶぅ!」

 

ヒシッとシロが私のお腹に顔を埋める。機嫌を損ねたわけじゃなく深呼吸をしている、ようは私を吸っている。私を吸うことで何が変わるのか分からないが、シロ的にはこれで摂取できる栄養素があるらしい。興味ないから聞かないけど。

 

「まぁ、俺らも出るけど、いろんな噂が出回っているせいで、スカウトは誰も来やしない」

 

「うむ! この私の輝かしい威光に! 近寄りがたいのであろう!」

 

「戯言は寝て言え? で、ネコたちの方は?」

 

「決まっていれば今頃ここにはいないだろう? トレーナーと契約しないと今後のレースに出れないから、最悪名前だけ借りるしかないのか?」

 

「ちょっと! さっきから聞こえているけど、あんたたち!」

 

バン! とテーブルを叩く音と大声が聞こえた。隣に座っていた見知らぬウマ娘がこちらを睨みつけている。今のは彼女がしたのだろうか?

 

「はて? どちらさま?」

 

「あんたたちね! いい加減にしなさいよ! 選抜レースに真剣に取り組んでいるウマ娘やトレーナーがいるのに! 言うに事欠いてなんてことを言っているんですか! 恥を知りなさい!」

 

「ああ、そうね。と言っても私たちの様な気性に問題あるのを受け入れるところあるの? 説明面倒だから省くけどチームプレイとか無理よ? それともあんたのチームが拾ってくれるの?」

 

「そんな訳ないでしょう! それじゃあチームに入るために頑張った私たちの努力が無かったことになるじゃない! ふざけないでよ!」

 

「別にふざけてないよ? 私たちがの気性については噂程度でも聞いているでしょう? 話を聞いてみたけど「矯正する」的なトレーナーばかりで無理だね。 それよりも、私の言い方はアレかもしれないけど、普通に会話しているだけだよ? なんで君がそんなに怒っているのか分からないよ」

 

「あ~……ちょっと落ち着け? 話が平行線になるぞ? いったん落ち着け?」

 

と、リカの声で俺は黙る。相手のウマ娘も黙るがこちらを睨んだままだ。そして相変わらずシロの深呼吸の音が聞こえる。なんなら相手の怒鳴り声の最中でも、シロの深い呼吸の音は聞こえたぞ? 

 

「一旦、話を整理しよう。片方は気性のせいでトレーナーが決まらない」

 

「私の言い分はそうだね。この気性でも容認してくれるトレーナーでないと、私は良くてもシロが無理だからね」

 

「で、もう片方は真面目にレースしないなら参加するな。っていう事?」

 

「そうよ! デビューすらままならないで終わる子だっているし、デビューしても勝てないまま終わる子もいる。このトレセン学園はそんな場所だけど、あんたたちのせいでチャンスを掴み取りたい子たちの幅が狭まってしまうの!」

 

「どっちの言い分も分かるんだよな……。俺も気性があれだからシュネージュネコを応援したいが……「ならば、レースで勝負をするといい」……って、えええぇぇぇーーーっ!」

 

「か、会長!」

 

リカが突然大声で驚く。それもそうだろう。視線を向けるとシンボリルドルフ生徒会長がこちらに向かってくる。

 

「会長?! どうしてここに?」

 

「いや何。生徒間で模擬レースに出まくるウマ娘がいると聞いてな。なんでもトレーナーを決めるつもりも無く走っては逃げているとか?」

 

「そうなんです! こいつらがいるせいで、トレーナーと契約したいと願う子たちにチャンスが巡って来ないんです!」

 

「ふむ? 順位に関わらず素質や見れるものがあれば、トレーナーは声をかけるはずだが? 声をかけられないのはそうするに値しないと判断されているのでは?」

 

「ぐっ!?」

 

私たちの事を訴えたつもりが逆に会長に黙らされる。このまま引き下がってくれないかな?

と、思っていたが、そうはならなかった。会長の視線がこちらに向けられる。

 

「とはいえ、レースにでるだけ出てそのまま逃げだすのも論外だがな。互いに言いたい事や言われたくない事あるかも知れないが、我々がウマ娘がである以上揉め事はレースで勝負をするのが最善ではないだろうか?」

 

「いや、どうしてそうなる?」

 

会長のセリフに突っ込むが、私の言葉は無視されたようで、そのまま会話を続ける会長。

 

「ただ、勝ち負けだけを競っても仕方があるまい。そこで、君たちがトレーナーに求める条件を提示してくれ。その条件を元に受け持っていいというトレーナーのみ、レースの観戦をしてもらおうと思う。そこでなるべくトレーナーと契約して欲しいのだが、それでどうだろうか?」

 

「……いいですよ? こちらが提示した条件を飲んで頂けるのであれば」

 

会長の視線と共に向けられた言葉。その内容を考えた上でその話を受けようと思った。条件提示で有象無象とも思えるトレーナーの大軍を減らせるのであれば、それに越したことはない。おまけに、シロを受け入れてくれる場所を探さないといけなかったので、会長の条件は渡りに船に思えた。

正直、模擬レースに適当に出ているが、どのようにして契約しようかのビジョンは何も無い。運よく都合のいいトレーナーが見つかればいいな、程度にしか考えていなかった。

 

「では、条件ですが……」

 

会長に条件を提示する。シロの条件も含まれているのでシロは黙っている。もちろん私とシロはペアで契約することも伝えてある。

これ幸いと、リカやラインやイクも条件を提示する。3人も対象だったのか挙げられる条件を聞き大きく頷く会長。

 

「では、今日の午後に模擬レースを行う。君たちの条件を全トレーナーに提示し、担当してもいいという者だけを呼ぶ。なので、ここでトレーナーを探してくれるとありがたい」

 

そう言うとシンボリルドルフ生徒会長はこちらに背を向け去って行った。

 

 

 

『シュネージュネコ・ホワイトロリータ条件』

・2人1組でのスカウトであること

・ホワイトロリータは超気性難で会話もろくに取れない可能性が高いので、会話はシュネージュネコを通すこと

・シュネージュネコがクッションやマット等の寝具を持ち込むことを了承すること

・可能であれば個人あるいは少人数チーム

 

ふざけているのか? 

同室者の第一声がそれだった。さもありなん。能力や素質の高い問題児たちが出した条件がひどかった。特に芦毛の2人組がひどい。他の3人はまだマシな方ではないだろうか?

チームワークゼロですと宣言している上に、寝具を持ち込もうとしている。彼女たちは何がしたいんだろうか?

 

「とはいえ、ようやく引き出すことが出来た条件なんだ。これでいくしかあるまい」

 

「しかし、会長!」

 

「エアグルーヴ。言いたい事は分かるが飲み込んでくれ。ブライアン、通達の方をよろしく」

 

無言で頷いたナリタブライアンが生徒会長室を静かに退室する。後に残されたのは表情は変わらないがイライラしている様子を隠そうともしない『女帝』と私だけ。

理事長に話を通せば二つ返事で了承を頂いた。気性難とは言え全てのウマ娘に与えられる権利だ。惜しくも手に掴めぬ者もいるが、それこそがここ中央トレセン学園であるとも言える。

 

「さあ、レースは午後だ。もう動き出している。あとは無事に彼女たちのトレーナーが見つかることを願おう」

 

呟いた声は静かな部屋に溶ける様に消えて行った。

 

 

 

午後になり、選抜レースが終わった後に開催される特別レース。

最近何かと騒がせている気性難ウマ娘5人のトレーナー決めのための特別レース。

 

生徒から生徒会長へ、生徒会長から理事長へと伝わった話は、こうして特別レースを行うまでになっていた。

シンボリルドルフが5人から聞き出した条件は、中央トレセン学園に所属する全トレーナーに伝達された。

まだ担当が決まっていない新人や、素質あるならばと見に来たトレーナー、切羽詰まった表情でターフを見つめるトレーナー等、様々な思惑を胸にしたトレーナーたちがコースを囲むように集まっていた。

 

「まるでオークションかセリの会場みたいだな」

 

ぽつりとこぼしたのはリカ。言われてみればその通りだ。さしずめコースを走る我々を競り落とそうとするトレーナーの群れ、といったところか?

笑えないな。

 

それよりも気になることがある。

 

「向こうで準備運動しているウマ娘って何だと思う?」

 

と私が問いかければ5人の視線がそちらを向く。その視線の向こうには既にデビュー済みの先輩ウマ娘が、ジャージ姿で「今から走ります!」と言わんばかりに入念に柔軟をしているんだが?

 

「……まさかだけど、先輩たちと勝負とか?」

 

「いや、さすがに……。あ、でも同年代とは勝負にならんからか? ……いや、まさかね?」

 

「残念だが本当だぞ?」

 

独り言に反応したのは生徒会長こと、シンボリルドルフその人であった。午前同様白い旗を手に持ちこちらに向かってきていた。

 

「じゃあ、我々は先輩たちと走る。と?」

 

「ああ。同年代では負けなしの君達には、先輩たちに相手をしてもらうのがいいだろうと。このレースはあくまでトレーナーたちに、君たちの素質を見てもらうことが目的だからね。勝敗以前に先輩を基準にしてどの程度走れるのかを見たいんだそうだ」

 

それは……

デビュー済みの先輩と未デビューの新人。比べるまでも無いだろう。

会長の言葉通りに受け取っていいなら、気楽に走って最低限の実力を見せればいいだろうね。

 

「ちなみに先輩方のオーダーだが、『全力』で来るように。とのことだ。大差をつけて楽勝勝ちするつもりでいるそうだ。では、励んでくれ」

 

サクサクと足音を鳴らして去る会長の背中を見送る。しかし、最後の最後に何て言うことを言うんだよ……。

 

「ッチ! 舐められているってことか?」

 

「……不愉快」

 

「うむ! 王と名乗る以上、全力で当たろうではないか!」

 

「……ギリッ……」

 

……かかり過ぎてるじゃないか……

どうすんだよ、これ……

はぁ、ため息しかでねぇよ

 

それに誰か突っ込んでくれ……

どうして私たちはリギルの面々と対戦することになっているんだ? と。

 

 

 

〇グラスワンダー VS アウトオブアメリカ 芝3200m

結果は5バ身差でリカの負け。しかし大差以下に抑えれたので素質ありと判断されたのか、大勢のトレーナーに囲まれている。気性難と言っても口が悪いだけなので、未だに担当が決まっていない新人を中心に囲まれている。

 

〇テイエムオペラオー VS インデュライン 芝2400m

高笑い響くレースを制したのはテイエムオペラオーで、3バ身差でラインの負け。彼女はそのままリギル所属となった。テイエムオペラオーが引っ張って行ったというのが正解だ。気が合ったのだろうか、リギルのトレーナーが頭を抱えているがご愁傷さまとしか言えない。

 

〇エルコンドルパサー VS テイクオフ 芝2400m

終始先行するエルコンドルパサーに追いつけなかったが、5バ身の差をを広げる事縮めることも無くレースは終了。割かし奔放な性格な彼女は、ツインターボやマチカネタンホイザと交流があり仲が良いようなので、彼女のチームに所属するのかもしれない。

 

〇ナリタブライアン VS ホワイトロリータ 芝3000m

先行のナリタブライアンに対して追い込むシロ。最終直線で末脚を発揮するも7バ身差でゴール。レース後は無事に私のクッションに顔をうずめていじけている。

 

 

さて、私の番になったのだが、私の適正距離は一応1200~4000mとなっている。……はず?

短距離・マイル・中距離は逃げて、長距離は追い込んでいく戦法を取るのだが、どうしようか……?

一応、選抜レースでは芝2000mしか走っていないので、適応距離は中距離と思われているだろうし。

 

「次はシュネージュネコの番だ。距離は芝2000m 相手はヒシアマゾンで行う。異存はないかな?」

 

「あ、芝4000mでお願いします。今日はちょっと頑張りたい気分なので」

 

「……は?」

 

私の発言に会長の意識が一瞬宇宙に飛んだようだ。相手になるはずだったヒシアマゾンも呆けているし、なんなら今まで私の戦績を記録しているであろう用紙をめくるトレーナー達も首を捻っている者も多い。

 

「えっと? 芝4000mと言ったか? 君は今まで芝の2000mを走っていただろう?」

 

「ええ、問題ないっすよ?」

 

長距離も問題なく走れる。基本は追い込みで走るが、ある方法で逃げることも可能。その後はシロに全部お願いしないといけないのが心苦しいが、今回は仕方ないと思う。

それに、ここまで4敗。勝敗は換算しないにしても悔しいなぁ。なので、日本国内には存在しない4000mレースを叩きつける。これだけで私に勝算はあるからだ。

 

「あ、会長? もう一つ。クッション背負っていいですか?」

 

そんな私の問いかけに、再び会長の意識が宇宙の彼方に飛んでしまうが、些事として流すことにした。

 

 

レースの準備として持参のクッションを背中に背負う。よし、これで準備万端!

 

「ネコちゃん♪ 頑張ってね」

 

シロは私が何をするか分かったらしく笑顔で手を振る。

唐突な距離変更に運営が慌てているが、私の対戦相手はヒシアマゾンから生徒会長に変更となった。

会長にしてみても、4000mなんて距離は未体験だそうだが、何となく走り抜いてしまうのでは、と思う。

 

それに、今回の長距離レースは最初から最後まで『逃げ』るつもりだ。本来は追い込むんだが、背中のクッションさえあればどうとでもなる。

 

ゲートイン完了。3枠に私、5枠に会長が入る。

 

「会長。何をしてでも勝たせてもらいます」

 

「望むところだ」

 

ガコン

 

無機質な機械音で開いたゲートから勢いよく飛び出す。

まずは2000m。全力で逃げる!

 

会長は先行・差しでレースを走るが、4000mという長丁場、足を溜めてじっくり行くようだ。

選抜レースに使うトラックは坂の無い平坦なコースで、多少の差はあるが気にしなくていい程度の差でしかない。一周2000mなので2週すればゴールだ。

 

だからこそ全力疾走!

逃げに逃げる!

 

ゲートを出て数歩で一気に最高速度へ。逃げを行う時の走りをいつもと同じようにする。

いつもと同じだ。何も変わらない。

 

速度を上げたまま。

速度は落とさない。

 

すぐに第一コーナーに差し掛かる。速度は落とさないで外に膨れながら第二コーナーも曲がっていく。

会長は速度を保ったまま最内を進む。最高速度ではないのに綺麗に曲がっていく。

 

会長が第二コーナーに入る頃に私は向こう正面の直線へ。

二番手の会長とは大きく差があるので、斜行にならないと分かっているので、直線で内の方へ寄りながらも速度を落とさない。

 

まもなく第三コーナー。やはり速度を落とさぬまま外に出ながら曲がって、そのまま第四コーナーも駆け抜ける。

正面の直線に入る頃には会長はようやく第三コーナーだ。

 

勝った!

なんて慢心はしない。

相手はGⅠ7冠バで無敗3冠バも達成した最強格。そんな相手とレースしているんだ、ゴールする瞬間まで気を抜けないし抜かない。

 

正面の直線に入っても全力で駆け抜けていく。スタミナ何て気にしなくていい。空っぽになるまで使い切っても大丈夫。

スタート前に会長に『何をしてでも勝つ』と宣言している。なので、遠慮はしない。

 

 

 

周りのトレーナーたちがざわめいている。

 

スタート直後からものすごい勢いで駆け抜ける白毛の新入生、シュネージュネコ。彼女はこれまでの選抜レースには芝の2000mで常に逃げて勝っていた。それは知っている。

でも今回は4000m。いつもの倍の距離だ。あんな速度で走れば半分しか持たないだろう。実際2000mの逃げタイムは、サイレンススズカに及ばないまでも相当早い。

何よりもコーナーがすごい。スピードを落とさず外に膨れながらも駆け抜けていく。通常、コーナーとなればある程度の速度が落ちるものだが、彼女は外に出る事で最高速度を保ったまま走っている。外に出る事で余計に走ることになるが、速度が落ちないのであれば誤差でしかない。

それに自分から外に出て来る者はいないので自然とバ群を避けて走れるのも大きい。彼女の今までの勝ちを見るとバ群とは関係のない外を走って勝っている。逃げなのでバ群に埋もれる事は無いのだが。

 

今、彼女は正面を駆け抜けていく。2000m。ようやく半分。だが……

 

 

 

「あいつ、持つのか?」

 

「大丈夫」

 

呟いたリカの声にシロが答える。その声には絶対の自信が含まれている。

 

「でも、4000mだよ? いつもの倍でいつもと同じように走っている。そろそろ落ちるぞ?」

 

「でも大丈夫。ネコちゃんがクッションを背負っているから」

 

「おいおい、レース中に寝るつもりか?」

 

リカの答えにシロはニコリとほほ笑むのみ。

見守る4人の視線の先には、速度が落ち始めたシュネージュネコが第一コーナーに入る所だった。

 

 

 

随分飛ばすな

 

先を逃げていくシュネージュネコの背中を見つめるシンボリルドルフの思ったことだ。

3200mのレースに出た事はある。というのに条件として出されたのは4000m。

彼女はこれまで2000mを逃げて勝っている。倍の距離を走るというのに、同じように逃げている。

 

確かに彼女は4000m走れるのかもしれない。しかし、逃げれない。だから彼女は落ちる。

 

一周してから速度が落ちて、第一コーナーを曲がる彼女の背中を見る。

新入生の無謀な挑戦。それでこのレースは終わりそうだ。後は私がゴールをするだけ。

 

そう思った。

 

瞬間

 

「っ!」

 

視線を戻すと速度を上げて走る彼女の背中が見えた。

一体どこにそんな体力が?

 

再び速度を上げて走り出す。まるでスタートしてすぐの様に。

 

「っ! まさか!」

 

決して慢心していたわけでは無い。油断もしていなかった。

だが、恐らく前提が違ったのだ。

私は4000mで、彼女は2000mを2回ということだっただけだ。

 

遠ざかる彼女の背中を見て、そう言えばスタートの前に行っていたな。

『何をしてでも勝たせてもらいます』と

こういうことだったのか。と、内心で驚愕しつつも、加速を始める自分が笑っていたことに気付いた。

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

息が苦しい。呼吸が荒い。酸素が足りない。足が痛い。もう疲れた。スタミナが切れる。足が重い。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

やっぱり全力で逃げれるのは2400mまでかな? それ以上は無理だ。追い込みで最後に頑張る方が性に合っている。

しかし、相手は『皇帝』シンボリルドルフ。私が新入生と思って油断している状態で全力で逃げに逃げてようやく勝てる相手。追い込みじゃあ絶対勝てない。

 

せっかく勝つんだ。ついでに見学者達の度肝も抜いておきたい。

やっぱり背中のクッションを使うことになりそうだ。いや、使うのはゴールの後なんだけど。

 

さぁ、始めよう

一部では『スキル』とか『覚醒』とか言われる、ウマ娘特有の特殊能力。本当に、ウマ娘とはファンタジーな存在だと思う。

 

だんだん落ちる速度。だけど今一度、足に力を入れて地面を踏みしめる。

 

固有スキル『胡蝶の夢』発動!

 

瞬間、体を満たす疲労感が綺麗さっぱり無くなる。まるで一晩眠った後の様に。

痛みも息苦しさも無くなり、底を尽いたはずのスタミナも満タンになっている。

体が軽い。地面を蹴る足に力が入る。

 

残り1600m

逃げれる! いや、逃げ切ってみせる!!

 

落ちた速度を再び全開で上げ、ターフを駆け抜ける。後方で会長は気が付いたようだけどもう遅い。真後ろから威圧感を感じるような気迫で物凄い追い上げて来てるんだけど気にしてなんていられない!

会長は4000mの内の残り1600m。

私は、2400mの後に寝て回復しての1600m。

 

実質、4000mと1600mの対決となった。

卑怯なんて言わせない! これが私の固有スキルだから!

文句があるならこんなスキルを持たせたウマソウルに言いやがれ!

 

 

 

「えっ?! なんで?! もうスタミナは無いはずじゃあ」

 

リカの驚愕の声にシロはニコニコと微笑む。

ああ、使ったんだ。と口の中で転がして、立ち上がる。

 

「お? どこに行くんだ?」

 

「ネコちゃんをお迎えに♪」

 

そう言うとシロはゴールに向かっていった。

 

 

 

「ありえない……」

 

4000mという超長距離とはいえ、皇帝・シンボリルドルフが勝つものと誰もが思っていた。

しかし、現実はどうだろうか。

途中で速度が落ちたが、最初から最後まで全力で駆け抜けたシュネージュネコ。まだデビューしていないというのに、とんでもない能力を秘めているウマ娘だと。

 

最終的に追い上げて来たシンボリルドルフも凄まじい末脚で、9バ身差まで詰めていたが結果はシュネージュネコの逃げ切り勝ちとなる。むしろ向こう正面から9バ身差まで詰めれた皇帝が凄まじいとも言えるが。

 

「これは……凄まじいウマ娘がいたものだ……」

 

誰かの呟く声は誰の耳にも入ることは無かった。なぜなら、誰もが見ているシュネージュネコが、ゴールして減速しながら背中のクッションを顔に当てると、そのまま転倒してしまったから。

 

 

 

先にゴールした芦毛の背中を追いながら見ていたが、ゴールして背中のクッションを顔に当てて減速しながら、地面にべちょっ!と倒れる姿を見て慌てて駆けだす。

シュネージュネコがゴールして倒れる姿に、場外から悲鳴のようなものが聞こえるが、まずは確認をとシュネージュネコの元へ駆け寄る。

 

「すぅ……すぅ……」

 

クッションに顔を埋めて穏やかに寝息を立てて寝ている姿に唖然としてしまう。「え? なんで?」と。

十分に減速をして倒れたので、故障や事故というわけでは無いと思う。見る限り外傷は無いからとりあえず安心だが、それにしてもなぜ急に眠ってしまったのか?

 

芝を踏みしめる音に誰かが近づいて来たのだと思い目を向けると、シュネージュネコといつも一緒にいる芦毛のウマ娘が立っていた。

 

「ああ、よく眠っていますね」

 

「大丈夫……なのか?」

 

ホワイトロリータがシュネージュネコを抱える。寝てもなおクッションを手放さないシュネージュネコに呆れるべきなのだろうか? 

 

「途中でおかしな加速をしていたと思いますが、ネコちゃんの固有能力なんです。会長をはじめとする名のある方々も、持っていると思いますが?」

 

「あ、ああ。確かに。しかし、ネコちゃん?」

 

「ネコちゃんの能力は翌日の体調の前借りと、レース後に前借りした分の睡眠を必要とする事。『寝て起きて、体調全開』を入れ替えることで、レース中に翌日分の体調を前借りします。そのため途中で全回復できるのですが、レース後には前借りした体調を回復するための睡眠をとらなくてはいけなくなるのです」

 

「そうか……。それなら途中のあの加速も納得だ。しかし、ネコちゃんとは?」

 

「私はこれから寮に戻りネコちゃんを寝かせます。残念ならがこの状態でのスカウトは難しいので、申し訳ないとは思うのですが後日でお願いします」

 

そう言い、私に礼をしたホワイトロリータはシュネージュネコを抱えたままターフを去って行った。

後に残されたのはシュネージュネコを心配する諸々の声と

 

「いや……ネコちゃん?」

 

しばし呆けた私だけだった。




前書きにも書きましたが、作者の精神安定的な意味でも、あらゆる意味での感想の投稿はしないでもらえると助かります。
あと、評価はしないでください。作者がビビるから。
出来ればUAも伸びてほしくない。作者が不安がるから。
お気に入りやしおりが増えるだけで現実逃避し始める作者です。

こんな、難儀で気性難な作者ですが、それでもいいと思えるのならこれからもよろしくお願いします。


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8 ウマ娘編 デビュー

作者は気性難です。取扱いにご注意を。
・あらゆる『感想』は調子が下がります。
・評価はしないでもらえると調子が安定します。
・『UA』『お気に入り』『しおり』が増えると宇宙猫と化します。
・投稿する時点で若干、過呼吸になっています。 
(;゚∀゚)=3ハァハァ

レースはゲームから参照

軽い鬱になってヤル気がゼロになり絶不調を乗り越えたと思ったら
夏バテ到来!
なんとか乗り越えるも精神的な調子が戻らぬまま……

ようやく戻れました。
それと、前話でシュネージュネコのスキル発動のシーンでスキル名を付け足しました。
由来は……ノリです。


模擬レースの翌日。

シュネージュネコはまだ眠っていた。

授業をサボったシロがお腹に顔を埋めて深呼吸を繰り返していたが、いつもと変わらない日常風景なので特に変わりのない日であった。

 

「いや、ツッコミどころしかない!」

 

部屋に響く声。部屋の住人以外の第三者の声である。というよりも様子を見に来たリカの第一声だった。ちなみに今は午後の3時頃である。

リカの声でもぞりと動く影。誰か起きたのか? と思えば、全く関係の無いはずの人物が目を覚ます。

 

「……イク?」

 

「んにゅ? どうしたのぉ?」

 

1つのベッドに寝ているこの部屋の住人2人ではなく、床に敷かれたマットの上にクッションを枕に寝ていた者が反応していた。リカの呟きの通りラインであった。

そういえば昼食後から姿を見ていないような? そう思いうがやはり昼食を一緒に摂ってから姿を見ていない。同じクラスなので見落としていることはないはず。

 

「イク、いつからここに?」

 

「んぁ? ……んぅ……お昼食べて、様子を見ながらここで一休みと思って、ネコの私物のマットとクッションを出して横になっていたんだけど……今何時?」

 

「昼から見かけないなと思っていたらここにいたのかよ。ちなみにもう午後の3時だ。トレーニング前に様子を見に来たんだが……、まさかお前が寝ているとは思いもしねぇ」

 

「あはは……。いやぁ、ネコの持ってるマットとかすごく寝やすくてさ。今度おすすめのを一緒に買いに行くんだよね。睡眠は大事だから」

 

分かる。分かるが、他人……他バの道具に寝転がって言う事じゃないと思う。持ち主が寝ているからって好き放題にしていないか? つか、シロと一緒にさぼりかよ……

 

「そろそろ起きろよ? 他の連中はもうトレーニングに行っているぞ。マチタン先輩がお前を探していたぞ」

 

「おぅ? 了解。二人とも起きそうにないし私もそろそろ行くかな」

 

結局、この日シュネージュネコは目を覚ますことは無く、ホワイトロリータは思う存分にネコを吸うことが出来たと、後に満面の笑みで語ったという……。

 

 

 

さらに翌日 朝

 

寝惚け眼をこすりながら起き……

れなかったので、お腹の上の異物をベッド横にぺいっ! と投げ捨てる。

異物が「あふん♪」と鳴いたが、いつもの事なので気にしないでベッドから降りる。降りる際に何か踏んだ気もするが、別に気にする事でもないので洗面所に向かい顔を洗う。

 

洗面所から戻ると幼馴染がベッド横の床に寝転がり恍惚の表情で悶えているが、これもいつもの出来事なのでスルーして部屋のカーテンを開ける。薄明るくなった外の風景が視界に飛び込む。

 

「うん、今日もいつもと変わらない一日になりそうだ」

 

そう呟くと制服に着替えて朝食を摂りにカフェテリアに向おうとして、部屋の中にいる幼馴染に先に行く旨を伝えると、扉を閉めて鍵を外からかけると空腹感を感じるお腹をさすりながら外に向かった。

 

 

 

カフェテリアでクラスメイトと合流して一緒に席に着く。

カフェテリアは朝練後のウマ娘たちが朝食を食べているためそこそこ混んでいた。これから登校前のウマ娘で溢れる事になるので早くも遅くも無い時間帯でもあった。

 

スキルを使った影響で丸一日半眠っていたので、お腹の虫が大合唱している。くきゅる~と、鳴り止まぬお腹を宥めつつとりあえず素早く食べれる物として、うどんと蕎麦とラーメンとナポリタンをテーブルに置く。

隣の席にはいつの間にか追いついたシロが何食わぬ顔で朝食をテーブルに置き座る。いつもの見慣れた光景に目を細め、箸を手に取り食べ始める。

 

ちゅるちゅる、ごくん。ちゅるちゅる、ごくん。

 

「ネコちゃんは相変わらず麺類は噛まないのね」

 

「だって、噛まなくても飲めるし、喉越しがいいんだよ?」

 

「麺類って喉越しをどうこう言う物じゃないはずなんだけどね?」

 

「いや、麵類は喉で味わうんだよ? だから、麺類は飲み物だよ」

 

 

 

「っ!!」

 

その声が耳に入ってハッとした。おもむろに私は立ち上がるとカウンターへ向かう。

 

「ちょ! おい、どないしたん!?」

 

後ろから声をかけられるが、今はそれどころではない。私は思うままにカウンターへ赴くと静かに一言告げる。

 

「ラーメンを大盛で」

 

あたたかい大盛のラーメンを持って席に戻る。「まだ食うんかい……」と隣から声が聞こえるが今は無視だ。

箸で麺をつかみすすると意を決して飲む。 ちゅるちゅる…… ……ごくん。

 

「!!」

 

多少抵抗はあったものの、口に含んだ麺を噛まずに思い切り飲み込む。そして驚愕する。

噛めば小麦の味と香りが麺に絡んだスープと共に口の中一杯に広がるのだが、噛まずに飲むと麺の風味とスープの味が一つとなり、まだ十分に熱の残っているそれが喉を通っていく。お腹の中に熱を感じて飲み込んだと理解すると、噛まなかったことで薄まらないスープの味と噛むのとは違う麺の風味が、喉から口と鼻へと抜けていく。

噛めば味、飲めば風味。なるほど、麺類は飲み物。いい得て妙だと思う。

 

「……なるほど」

 

「いや、何がなるほどやねん……。ちゃんと噛まんかい」

 

「しかしな、タマ。白いウマ娘が言っていたんだ。麺類は飲み物と」

 

「誰やねん、ソレは。いいからちゃんと噛みや」

 

と、タマが言うが私は器のラーメンを『噛んで』『飲んで』味わう。

レンゲにスープと麺をすくい、ちゅるごくん。うん、スープをすくうことで喉をするりと通り抜けるし、何よりスープの風味や香りが強まる。……気がする。

 

「だからちゃんと噛まんかい!」

 

 

 

「後ろ、なんか騒がしいね?」

 

「ん? ああ、タマモクロス先輩とオグリキャップ先輩だな。オグリ先輩がえげつない量のラーメン食べてる。……うわぁ、飲み干してる……」

 

どうやら後ろが騒がしいのは先輩たちが楽しそうに食事をしているからみたいだ。朝の食事風景としては問題ないと思うので意識から追い出す。

私の目の前に並んだ麺類は、空の器に変わっている。レースから今朝までの睡眠で消耗した色んな諸々は、これで回復したことになる。……けど、もう少し、こう……

 

「はい、ネコちゃん。お茶漬け。もう少し欲しいでしょ?」

 

私の前に置かれる茶碗一杯分のお茶漬け。もう少し欲しいと思っていたところに置かれるソレからシロに視線を向けると、ニコリと微笑むだけだった。

流石、私の幼馴染。もう少し欲しいと思った所に差し出されたお茶漬け。米とお出汁だけの具のないお茶漬け。最後に掻き込むのならこれで十分だ。

私はお椀を持ち米をほぐすと、一思いに掻き込み、飲む。

 

「うん、お茶漬けは飲み物だ!」

 

 

「っ!」 ガタン! 「うえっ!? ちょ! おい、待ちぃ! ドコ行くねん! おーい! って何やそれ? お茶漬け? いや、だから! ちょ! オグリ待て! だから飲むな!」

 

 

後ろが騒がしい気もするがスルーだ。夜が明けてから時間も過ぎているので、ここも混む時間になってきたのだろう。朝練終りのジャージ姿のウマ娘たちがちらほらと目立つようになった。私たちの食事も終わったのでそろそろ登校するとしよう。

 

 

 

放課後

 

リギルに所属したライン、カノープスに所属したイクは放課後になると早足で教室を出て行った。リカは新人の個人トレーナーと契約したそうだ。集団行動を是とするチーム所属を嫌がり、自由の利く個人トレーナーと契約したそうだ。まぁ。気性難と言っても悪ぶっていて集団が嫌いというだけで、割といいやつではあるんだけどね。……リカがなんかこっちを睨んでいるがスルーだスルー。

 

さて、私が寝こけていたから結局トレーナー契約できていないんだよなぁ……。これで誰も希望しなかったらどうしよう? シロに聞いても、あの後私を寮の部屋に連れて帰ったから良く分からないようだし。

会長に聞けばいいのかな? 会長に色々と丸投げしてしまった感があるからね。と、いうわけで生徒会室に行ってみようか。

 

 

「君たちを受け持ちたいと、希望するトレーナーたちだ。今現在所属しているウマ娘、昨年の成績やおおまかな方針について書いてあるから、参考にして欲しい」

 

生徒会室に向かうと業務真っただ中のシンボリルドルフ会長、エアグルーヴ副会長、ナリタブライアン副会長に出迎えられた。

対する私とシロ。応接用のソファに座りテーブルに広げられた書類を見る。シロは人見知りを発揮してしまい、私のお腹に顔を埋めて悶えているが放置する。3名の視線が刺さる気もするがそれも放置だ。

一応、私たちを育成したいと思っていると思われる、トレーナーの情報が乗っている。有名どころから無名の新人まで一通り。それらの用紙をザっと流し見ていく。主に所属しているウマ娘の人数と育成や出走の方針。

 

お? これは良さげだ。これにしよう。私の思いを考えればここがいいだろう。

 

「ここに決めたいと思います。『チームハダル』に」

 

「あ、ああ……。それはいいんだが……」

 

いまだ私のお腹をもふもふクンカクンカしているシロに視線が突き刺さっている。そのせいで、私の言葉も差し出した用紙もスルーされているような? ……ちくせう。

 

「えっと、会長?」

 

「あ、ああ……、すまない。チームハダルだったね? ……ふむ、確か卒業や引退で今は所属ウマ娘がいないチームだったな。実績は……GⅠでの勝利は無いがウマ娘の実力に合わせてGⅡ以下で勝利している。いわゆる中堅のチームだな」

 

「じゃあ、今は誰もいないんですね。ますます好都合です。シロはこの通り人見知りが激しいのであまり大人数でない方がいいんです」

 

「……(すぅーーー)……(はぁーーー)……」

 

「……この通り人見知りが激しいのであまり大人数でない方がいいんです」

 

「なぜ言い直した」

 

いやだって、ねぇ? どう見ても変質者にしか見えないこれを見て人見知りなんて言葉が通じるとは思えないんだよなぁ……。

実際、先ほどから突き刺さる3人の視線はどう見ても、変質者のソレを見る視線でしかない。

 

「……(すぅーーー)……(はぁーーー)……うぇへへ~」

 

「……はぁ~……」

 

何とも言えない空気の中、私は視線を天井に向ける。ああ、このまま現実逃避がしたいよぉ……

 

 

 

その後はトリップし始めたシロを生徒会室の床にポイして退室する。後ろから「おい! これを置いていくな!」と聞こえたが、生徒会室を出て扉を閉めた時点で隣でニコニコして立っているので、胡乱気な視線をシロに向けつつもチームハダルの部屋を目指す。

 

「で? 結局どこに所属するの?」

 

「私のお腹を吸わないで、お願いだから話を聞いていて欲しいな」

 

「え? ネコちゃんを吸うのは私の生きがいだよ?」

 

「辞めちまえ! そんな生きがい」

 

心底、不思議そうな表情をするシロを連れてチームハダルの部屋に到着。ハダル以外の希望者には会長の方からお断りの連絡を入れてくれるとのこと。束のような希望者リストだったので全力で丸投げしてきました。

コンコンとノック。部屋の中から男性の返事を聞き扉を開ける。

 

中には中年に差し掛かったぐらいの男性が一人。人好きのする顔で柔和な笑みで私たちを迎える。

 

「ようこそ、チームハダルへ。私はトレーナーの小牧原。以後よろしく」

 

「よろしく。シュネージュネコです。後ろのはホワイトロリータで、少々人見知りする娘なので、長い目で見てもらえるとありがたいです」

 

私が部屋に入るとトレーナーが椅子から立ち上がりこちらにやって来ると、手を差し出してきたので握手をしながら自己紹介をする。穏やかそうな感じの人で、これならシロも慣れるのは早そうだと安堵する。

 

「早速で悪いけど、2人の適性を見たいからコースに行こうか。模擬レースを見た限り中距離は苦にしていない様子だったけど、他の距離を知りたいからね」

 

「大体でよければですが、シロは中長距離で追い込み、私は全距離で長距離は追い込みで後は逃げで走ってます」

 

「お? それぐらいが分かっているなら話は早いね。実際に軽く走ってみてその後はメイクデビューも含めて今後の話をしていこうか」

 

トレーナー先導の元、練習場のコースへ向かう。シロと二人で芝のコースを走る。距離は1200m、1600m、2000m、3200mの各距離。

1200mは私が逃げ、シロは距離適性が合わずスピードが乗り始める前にゴールしてしまう。1600mのマイルも短距離同様の結果となってしまう。

余談だが、私は2000mは逃げるが3200mは追い込む形をとる。流石に長距離を逃げ切れるスタミナは無いので、中盤までは軽く流す程度に走って終盤に向けて徐々に加速して、最終直線でスパートをかける走り方をする。

 

中距離である2000mになるとシロの適正距離になる。シロは中・長距離の追い込みと得意としているため、中盤まではゆっくりと加速していくスロースターター型だ。中距離では残り1000mくらいからのロングスパートも可能だが、コーナーはあまり得意ではないので速度を維持して外に膨らむか、速度を落として曲がって再加速かを状況に応じて走っている。

長距離は最終直線での末脚により爆発的な加速が出来るので、中盤からのシロの動きは追い込みウマ娘としては普遍的な走る走り方をする。

 

しかし、シロはその走り方とは別にもう一つある。それは、私と一緒に走る時限定ではあるのだが……。

 

 

練習コース 芝2000m

シュネージュネコ 逃げ ホワイトロリータ 追い込み 12バ身差 残り400m時点

 

「うふふふ……♪ ネコちゃ~ん♪ 今行くわね~♪」

 

スキル【芦毛の追跡者】発動

 

シロが1歩、地響きがするかの如くに叩き付けるように踏み出すと同時に、一気に最高速度でターフを駆け抜ける。

コーナーの途中であったが、外に膨らまず速度を維持したまま内ラチに平行に駆け抜ける姿は異様の一言。ついでにだらしない表情で駆け抜ける姿も異様の一言。

残り200mで12バ身あった差は半身となり、私の後ろでぴったりと張り付くように走る。不気味を通り越して気味の悪い笑いと別の意味で荒い呼吸を添えて。もぅやだぁ、この娘……。

 

残り100mで私に並ぶように抜け出しそのまま追い抜いていてゴールを通過。クビ差で差し切られてしまう。

いつも思うが本当に不気味な加速をする。シロが発動するその能力は、なぜか私相手が限定だが、私に追いつくために一気に最高速度で走ることが出来る上に、私に追いつくまでの消費スタミナを大幅に減らすという物。追い付いた瞬間に背後で笑う様子から、私にはストーカーされてるようにしか思えないんだが……。

 

長距離はお互いが追い込みなので、併走のように流して最終直線でスパートをかけた私の背後にぴったりと張り付き、ゴール前で追い越すという結果に。走った後にシロに心底「キモイよ♪」と言ったら嬉しそうに悶えていた。本当、たまに何でこれが幼馴染なんだろうかと思う時がある。

 

 

場所は戻ってチームハダルの部屋へ。

小牧原トレーナーに走っている所を見てもらった上で、今後の事について話し合う事となる。

 

「あれだけの走りが出来るのならメイクデビューは早めがよさそうだね。シュネージュネコは7月1週目の中京で1600mのマイル、ホワイトロリータは翌週に同じ場所で2000mの中距離で行こう。勝利する前提で話を進めるが、走りたいレースとか目標はあるのかい?」

 

「トレーナー、私はネコでいいですよ? 目標はGⅠよりもGⅡ以下に多く出たいですね。ぶっちゃけ、ここを卒業した後を考えてお金を稼いでおきたいというのが本音です」

 

「私はシロでいいですよ。私もネコちゃんと同じく、GⅡ以下でお願いします」

 

「そう? 僕としては諸々の手続きとか取材とかの面倒があまりなさそうで嬉しいんだけどね? ほら、ね? それはそれとして、クラシック三冠とかトリプルティアラとか興味ないの?」

 

「名誉よりもお金です」

 

「おぉ~、ぶっちゃけたね。分かりやすくていいんだけどね」

 

苦笑するトレーナー。さすがにダメか? GⅠ目指そう的な感じになるのか?

 

「まぁ、いいでしょう。さっきも言ったけど、僕としてもGⅠでの手続きやインタビューやら諸々の面倒をしなくていいのは助かるからね。それに、実際に走る君たちの意見を重視すべきだと思っているからね」

 

どことなく私と気が合いそうなことを言うトレーナー。前半が本音では? と思わなくも無いけど私も面倒事は嫌いだし、手抜きをしたい系のウマ娘だし。このトレーナーとならやっていけそうと感じた私はデビューに向けて程々に気合を入れるのだった。

 

 

 

 

 

日は過ぎて7月1週目の日曜日。

小牧原トレーナーは、能力の底上げとして基礎固めを中心にメニューを組んだ。走行フォームとかまだまだ見直す所があり、徐々に早くなっていると実感し始めた頃、私達のメイクデビューの日となった。

合間合間でウイニングライブの練習もあり、踊る私を見るシロの表情が危なかったとだけ記しておく。そのシロは一発で完璧に踊っていた。曰く、ネコちゃんのおかげと。マジで意味が分からんかったし、理解しようと思わないので気にしない事にした。

 

前日に付近のホテルで一泊して、当日は軽くジョギングを行い調整に問題が無いこと確認。意気揚々と中京競馬場へ入る。

有力な対抗バはいないので、おそらく私の一人勝ちになるだろう。なんて気楽に考えて控室を出て行った。

 

 

『さぁ、最終コーナーから最初に抜けて来たのはシュネージュネコ! 速い! 後続との差は広がるばかり! 強い! 強いぞシュネージュネコ! 2番手のマルトリセイルがコーナーを抜けたが差は5バ身差! 差をグングン広げてこれはセーフティーリード! シュネージュネコが今1着でゴール板を駆け抜けた! メイクデビューを制したのはシュネージュネコ! 圧倒的な実力差を見せつけメイクデビューに勝利しました!』

 

翌週、同じ場所で

 

『最終コーナー抜けて大外からホワイトロリータが上がってきた! 3.5mの坂も何のその! 最後方から大外を通って先頭へ一気に躍り出た! 残り200m、後続も追いかけるが1バ身、2バ身と差が広がっていく! 2番のオールドスターは間に合わない! 勝ったのはホワイトロリータ! 2着のオールドスターと3バ身差で勝ちました! 最後方から7人をぶち抜いての1着! すさまじい末脚を見せつけたぞ!』

 

 

 

と、いうわけで。

あっさりとメイクデビューを制してしまったので、改めてトレーナーと今後のレースについての話し合いとなった。

 

「いやぁ、強いねぇ。全然余裕だったね。私も安心して見ていられたよ」

 

「それほどでもありますけどね。で、次のレースの相談なんですが……」

 

「それなんだけど、余裕とはいえ大丈夫なのかい? 連戦や中1週なんて普通はしないんだけどね? そうじゃなくても月2回の出走希望はやりすぎじゃないのかい?」

 

「あ、シロはともかく、私は大丈夫です。昔から一晩寝れば疲れなく起きれますので。なんなら、先週の疲れも無いですよ? というか、翌日にはもう無かったですよ?」

 

「それが本当なら凄いよねぇ? いやまぁ、翌日から当たり前のようにいつものトレーニングに参加していたし、体調に問題は無さそうだから大丈夫だと思ってはいるんだけどね? シロも翌日休んで次の日から練習に参加していたし、こっちもこっちで問題ないようにしか見えないしね?」

 

トレーナーが頬を掻きながら苦笑を漏らす。元々の特性というか体質というか、そういう物なんだからしょうがないじゃん? と、内心で呟く。

 

「で、トレーナー? 次のレースはどれに出ていいの?」

 

「本当に無理そうなら止めるからね? それでもいいなら……今週ジュニア級のGⅢ 函館ステークスがあるな。その後は8月2週に新潟でダリアステークス、オープン戦だな。8月の後半になればオープンやGⅢがちらほらと増えだすから、それを狙ってもいいな」

 

「じゃあ、今週! 早速GⅢに行く! 賞金3000万円を手に入れる!」

 

「全額もらえる訳じゃないぞ? 半分は税金やURAやトレセン学園が取り、1割はトレーナーで、残り4割がウマ娘って知っているよね?」

 

「分かってますよ? まぁ、でも手当や税金で諸々した後に1200万近く手に入るんですよ? 月30万の手取りとしても40ヶ月分! 40ヶ月も働かなくてもいいんですよ!」

 

「いや、働こうぜ? まぁ、そう考えるとそれなりの金になるのか?」

 

先日も言ったが、私はGⅠの勝利や名誉が欲しいわけでは無い。賞金を稼いで可能であればのんびりと余生を送りたい系の面倒くさがり屋なのだ。どうせシロは着いて来るだろうし妹も一緒に暮らすと言うだろうし、それを考えれば食費をメインに諸々考えれば月100万は欲しい。流石にそこまで使うことは無いと思いたいが、住んで食べるだけで生きていくわけでは無い。それなりに娯楽も楽しみたいし他に買い物や病院などの出費も考えれば、100万でも少ない可能性もある。

月100万で年間1200万。引退やトレセン学園卒業後が20歳前後として、85歳前後で死ぬと考えれば最低でも65年分で7億8000万が最低ライン。長生きする可能性やそもそも住む人数や環境により、月100万で足りない可能性もあるんだからそれ以上に稼がなくてはいけない。

まぁ、これに関してはシロも一緒に頑張ってくれるし、来年にトレセン学園に入学する私とシロの妹もこの考えに賛成しているので、最低4人のウマ娘で頑張るので一人当たり2億が目標となる。4割で2億なので最終的に5億稼ぐ必要がある。なので、最低限の目標として5億稼ぐこととして、それ以上を目指せばそれだけ生活が豊かになると考えている。

 

まぁ、保険や年金の関係で何かしらの職に就くけど、日雇いや派遣やパートなどの最低限仕事はしています的なスタンスを保てればいいので、そこまでこだわらないで生きて行こうと思う。

GⅠウマ娘になったからと言って必ず脚光を浴びるわけでは無いのだ。GⅠを快勝しても人知れず行方が分からなくなるウマ娘もいれば、GⅠ未勝利でも未だに人気のあるウマ娘もいる。

それを考えればやっぱり名誉よりもお金なわけですよ。名誉で食べていけるのはそれなりのドラマを持っているか、元々の名門ウマ娘だけだろう。寒門である我々には縁のない話である。

 

「と、いうことで、早速1200万円を稼ごうと思います」

 

「もう勝った気でいるんだね? いや、勝つんだろうけど」

 

「大丈夫です。舐めた真似はしません。出るからには全力で勝たせてもらいます」

 

ぐっと右手を握る。週明け自分の貯金残高に1200万円が追加されることを妄想しながらトレーニングに勤しむのだった。




アニメ版のウマ娘の第2シーズンの11話を見て

ティンときた!
Σ(゚□゚;)

『ウマ娘編』と『馬編』の後をどうしようか考えていたのですが、いい感じで思いついた内容があるのでその方向で書いて行こうと思います。
まぁ、まだまだ先なんですがねぇ~

途中の芦毛のウマ娘の感想については、知人に麺類は飲み物と勧めた時の知人の戯言ですので、あまり細かい事は気にしないでください。

久しぶりなのでリハビリとして短めで。



追記で前話で出したオリジナルスキルの紹介

シュネージュネコ『胡蝶の夢』
任意発動可能。スタミナが無くなりそうな時に翌日分のスタミナを前借りして全回復する。レース直後に前借りした分を補うために強制的に寝てしまい、翌々日の朝まで目覚めることは無い。

ホワイトロリータ『芦毛の追跡者』
中距離以上で残り1000mから発動可能。自分より前方にいる特定の芦毛のウマ娘の背後に追いつく変態的な位置取りと加速を行う。その際のスタミナ消費はほぼ無いに等しい。


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9 馬編 ただ走るだけと教えたい

気分が上がりました
筆(?)が乗りました

調子に乗りました 
ウェーイ!(∩´∀`)∩

なので、短いですが投げてみます

なんか、前話で数字表記がどうのこうのと書いた気がしますが……
統一して見たら違和感が……

もう、もう……もにょる!(悶)
というわけで、やっぱり統一はなしで。本当にすんません。そういう物と思って流して下さい。


 

彼と、彼と一緒にいた私が本当は特別だったって、理解した。

 

彼は速かった。誰よりも先に走り駆け抜けていく。私はそんな彼に追いつくので精一杯だった。っていうか速すぎじゃない?

産まれてすぐに彼と一緒に過ごすようになった。だからだろう。彼が普通じゃない事に気付けなかった。いつも一緒にいたからこそ気付くことが出来なかった。

 

始めて、『特別』が当たり前じゃないと気づいた時。

彼の側にいたからこそ気付かなかった。私と彼以外にも他にたくさんいたんだという事。

 

「行くぞー!」「ちょ、速い」「うぁー走りたくないのにー……」「待って、ねぇ待って!」「来るなよ! ぶつかって来るんじゃないよ!」「痛っ! なんでこっちに来るんだよ!」「ちょっと~、走りにくいんだけど~?」「前、邪魔。どいて」「お前こそ邪魔だ!」「うるさいよ? 皆うるさいよ?」

 

普段の彼と一緒だと聞かない声達。それはいつも後ろから聞こえるものだった。

だけど、この日は違った。彼がいなかったのに加えて、狭い中に押し込められたせいで気が散ってしまったのもある。一番後ろから彼と私以外を見て、とにかくうるさくてくて、とにかく怖かった。

 

彼ら彼女らはずっと言い合いをしていて、普段聞かない見ない光景に戸惑ってしまい、最後の最後までただ後ろを走って。

 

ただ怖くて

ただ泣き叫んでしまった

 

 

 

 

(うーーー……)

 

(あの? え? あのー……)

 

なんでか意味が分からないが、今の俺は唸るシロに鼻先をぐりぐり押し付けられている。力が入っていないからくすぐったいのでそろそろ止めてほしいんだけど?

 

(あの、シロ? どしたの?)

 

(ネコさんは普通じゃなかった……)

 

(シロ?)

 

(私、どうしたらいいんだろう……)

 

シロが負けて俺が勝った新馬戦が終わり1週間の放牧から帰ってきた。シロは母馬と話すことが出来たようで落ち着きを取り戻している。一、方俺の方の母馬はというと……

 

(いや、あんたと話す事ある?)

 

(いや~特に無いかな~)

 

と、実にハートフルに終始穏やかに話すことが出来た。本当だよ?

 

(お母さんに言われたの。ネコさんと同じじゃダメなんだって。私とネコさんは別、だから走り方も別。私は私の走りを探さないといけないの)

 

(言うても、逃げる俺に着いて来ているんだから能力はあるんだよ? まぁ、シロの走りが見つかる様に手伝うよ)

 

(? えっと?)

 

(もうそろそろ外に出る時間だ。一緒に色んな走り方を試してみよう)

 

 

 

「ああ、須田さん、どうも」

 

「宮間さん、お疲れさんです」

 

俺が主戦になるシュネージュネコと、宮間さんが主戦となるホワイトロリータが、大人しく鞍を付けられているのを眺めている。

 

「ん~、普段からシュネージュネコに着いて行ってるから先の方へと思ったんだけど、結局最下位だったなぁ」

 

「乗ってて思ったんですけど、いつもシュネージュネコと一緒にいるせいかは知りませんが、他の馬に怯えたような感じだったんですよね」

 

幸いと言えばいいのか、1週間の短期放牧で調子が落ちる事も無く落ち着いている。後は来週の7月第4週の未勝利戦を勝つことだけなんだが……

 

「どう思います?」

 

「何とも……。馬群は避けた方がいいのは確実か? ならいっそ、追い込んでみるか?」

 

「試してみるのもいいかもしれませんね」

 

馬群がダメとなるとある意味では気性難か? 当たって欲しくは無いが最悪は……

不安を感じつつも準備を終えたそれぞれの馬に向かい調教に向かう。今日は集団追い切り。実戦を想定した調教で勝負根性や馬自身に駆け引きを教えるのが目的なんだが、はてさてどうなることやら。

 

 

 

調教が始まった。今日の調教は集団追い切りのようで、俺の前方で群れと化した馬達がぶつかりひしめき合い駆けている。

俺とシロの上には屋根となる騎手が乗っている。手綱から伝わるサインも無く鞭が入るわけでもないので、前方の喧騒を気にすることなく2頭でのんびりと走っている。

 

(さて、走りながらで聞いてくれ。シロはあの中に突っ込むのはイヤなんだよな?)

 

(うん、ムリ)

 

(じゃあ、俺みたいに前を走るか今みたいに後ろを走るしかない。で、前を走るのはどう?)

 

(ん~……走れない事も無いけど、なんか中途半端に疲れる? 走れそうで走れない?)

 

つまり、不完全燃焼? 走り切って体は疲れても走る余力、スタミナが余っている感じか? それなら取る選択肢は追い込みか。

 

(それじゃあ、試しに一番後ろから一番前に行く走りをしてみよう。着いて来てみて)

 

(うん、分かった。着いて行くね)

 

(とはいえ、今はまだかな? 今は徐々に加速をしていこう。ゆっくりから徐々に、少しずつ。全力を出せそう、って何となくでいいから感じたら一気に速度を上げるよ)

 

(ゆっくり……徐々に……ゆっくり……)

 

言ったことをそのまま受け止めて、言われたように徐々に加速をしていくのを横目に見る。集団追い切りは2000mのコースを1周する。2000mなら走り切れる馬を集めての追い切りなので、ある意味模擬レースみたいな感じでもある。

今、1000mを通過。シロの呼吸が速くなるが、加速もいい感じに乗ってきている。

 

(ん、行けそう)

 

(よし、じゃあ着いて来て。あの群れの外から回って一気に前に行くよ)

 

そう言いぐっと足に力を入れ一気に加速する。ワンテンポ遅れてシロが後ろから着いて来ているのが分かる。

逃げのスピードに何とか着いて来ているので、シロの元々の脚質は追い込みで間違いなさそうだ。後ろから聞こえる息遣いは速いがリズムが一定で乱れが無い。まだまだ余裕があるという事だろう。

 

(一気に外に出る! 馬群からはじき出されても当たらないように更に外を!)

 

(っ! 行くっ!)

 

これから加速を始めようとしている馬群を横目に、馬群から大きく離れる様に外を駆け抜ける。合わせる様に後ろから聞こえる足音を聞きながら、コーナーに入っていく。

 

 

 

(これじゃあ、まるでリュックだな)

 

馬群を横目に駆け抜けるシュネージュネコと、後ろを追いかけるホワイトロリータ。きっと宮間さんも驚いているかもしれない。馬群を避けようとそろそろか、と思ったらシュネージュネコが勝手に外に出始めて、追いかける様にホワイトロリータも外に出て来た。そして今、そのまま馬群の横を大きく離れる様に、大外に向かいながら第3コーナーに入ろうとしている。

 

(っていうか、こいつの走り……逃げじゃなかったっけ? なんで追い込みで走るんだ? ええぇ……?)

 

大外に膨らんでも関係ないと言わんばかりに加速し、馬群の横を通る。コーナーを出たらもう馬群は後方。唯一ホワイトロリータだけが着いて来ている。

 

(ははっ……、馬に競馬を教わる、なんて聞いたことあるけど、馬が馬に競馬を教えているってことか? 笑えんな)

 

ゴールを駆け抜け徐々に減速をする。横に並んだ宮間さんの顔を見れば……ああ、何となく考えていることが分かってしまった。

 

(本当、笑えんな)

 

ご機嫌に尻尾を振る2頭をが向かうままに歩かせて、俺は宮間さんと嘆息し肩をすくめるのであった。

 

 

 

(すっごい! すっごかったの! こう……すごく、すごかったの!)

 

走り終えてご機嫌に尻尾を振って寄ってきたシロに苦笑する。全部を出し切って走れて満足といった感じだ。ついでに語彙力も出しているような気がしないでもない。まぁ、自分の走りを見つけれたようでとりあえず安心か。

 

(シロはこんな感じで走ればいいと思う。スタート直後はゆっくりで、徐々に加速。最後のカーブに入る前ぐらいから大きく外を回れば、誰にも邪魔されずに走れると思うよ)

 

(うん! ネコさんしかいない、ネコさんとだけの走り! 楽しかった!)

 

(おう。でも、今度からは俺はいない。本来走るレースでは俺はいない。だから)

 

(大丈夫。もう大丈夫。私はこの走り方で、勝ってくる。そして、いつか。ネコさんにも勝ちたい)

 

(ああ、待ってるよ。だから、いつかきっと。全力で勝負しよう)

 

じゃれ合い笑い合うようにのんびり歩く。今は同じ方を向いて歩いているけど、来年。きっとどこかで。俺とシロは向かい合う。

負けない。

未来のライバルに向けて、未勝利戦の勝利を願って。

 

 

 

「どうでした?」

 

「いや~、凄い馬ですわ」

 

調教も終わり宮間さんと柵にもたれて声をかける。苦笑いしながら答える宮間さんに、自分と同じことを考えていると思えた。

 

「オーナーがシュネージュネコは人の話を理解している、なんて言っていましたけど……」

 

「話どころか競馬を、走り方を分かっているよな? で、ホワイトロリータに教えていやがった。追い切りの調教中にだ」

 

「いやぁ、何かしそうな感じはしていましたけど、なんなら指示出す前に勝手に外に行きましたからね」

 

「こっちもだ。シュネージュネコの後ろを着いて行ったが、十分に走れるように徐々に加速をしていた。指示なんて出していないにも関わらずだ」

 

笑えんなぁ。と、苦笑いしながらこぼす。だがこれでホワイトロリータの未勝利戦の目途は立った。……と思えばいいんだろうか。

 

「……一応、報告しておきますか?」

 

「した方がいいだろうな……」

 

さて、なんて報告しようか? シュネージュネコがホワイトロリータに追い込みを教えていましたって? 病院を紹介されるのがオチかも知れんな。

本当、笑えないなぁ。

 

 

「大丈夫大丈夫。問題なし」

 

以上がオーナーの反応でした。適当すぎないかい?

 

「あの、オーナー?」

 

「言いたい事は分かるよ。大丈夫。何となくだけど、シュネージュネコは中に人が入っているんじゃないかってぐらい頭がいいからね。この前は一緒に週刊誌を見ていたんだけど、目線がね、ちゃんと追っているんだよね。文字や絵を順番に」

 

「え゛っ? ちょっとオーナー?」

 

「あの子は特別、っていうか異常。そういうモノと思って、一緒にいるホワイトロリータもそれに近いと思っていて欲しい」

 

何ともまぁ、楽観的というか何というか。でも、話が早くて助かる。正直、一から説明するとなると、どう説明した物かと頭を抱えていたのもあるからねぇ~。

 

「まぁ、何にせよ。ホワイトロリータの未勝利戦。よろしくね」

 

「任せて下さい。レースまでに追い込みの走り方を徹底的に教えますから」

 

宮間さんが力強く答える。これなら大丈夫そうだと、そう思いながら俺は宮間さんの肩を軽くたたいた。

 

 

 

 

 

7月 第4週(土) 福島

1R 2歳未勝利戦

 

負けたあの場所に昨日到着した。

私は、明日。

ここで。

勝つ!

 

 

 

『残り800mで宮間騎手が鞭を入れた。一気に加速を始めますホワイトロリータ。馬群を避ける様に外ラチに向かって行きます。馬群はそのまま第3コーナーへ』

『少し早い気もしますね。果たしてこれは作戦なのでしょうか?』

 

『第4コーナーを抜けて最内を進むオサフネグンターと大外を回るホワイトロリータが先頭。オサフネグンターに鞭が入りますがホワイトロリータが抜け出した! オサフネグンターは一杯か? 後方も追いつく気配はありません。残り100mでホワイトロリータが1馬身抜け出しました!』

『これはすごいですね。第3コーナー前からのロングスパートで、距離延長の大外を走っても関係ないと言わんばかりのごぼう抜きですね』

 

『ホワイトロリータが差を広げます。オサフネグンターは追いつけない。今、ホワイトロリータがゴール板を駆け抜けました! 2着は5馬身差でオサフネグンター。最後方からの強烈な末脚でトップに躍り出ました!』

『新馬戦では惜しくも最下位でしたが、それを覆すような凄まじいレースでしたね』

 

 

 

先頭。つまり、勝ちました。

一番後ろから、一番外を通って、一番前へ。

ネコさんに教えてもらった走りで、私は勝つことが出来ました。

 

(ネコさん……)

 

これで胸を張って帰れます。

そして、帰ったら一番最初に言いましょう。

 

『ただいま』って。




自分の作品の目次の下の方にある『読者層が似ている作品』
面白いのばかりで、つい読んじゃいますね。
面白い作品をありがとうございます。
果たして、自分の作品は面白いと思われているのか? 戦々恐々しながら身悶える日々です。

話は変わりますが……
来年の話なんですが……

私の大好きなゲームの発売日がっ!!

どうでもいいですね! 
はい!
すんませんでしたーっ!!


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10 ウマ娘編 年末のあれこれ

いやぁ~……前話のことなんですが……
テンションで書く物じゃないねw と笑ってしまいました。
だって、改めて読みなおしたら誤字が!
あれ? この表現? えぁ!? とかとか……
訂正はしたから大丈夫と思いたい。

話は変わってリアルのこと。

クッソいそがしい!!!

いや、マジで。リモートが出来ない業種だから、現場に行かないといけないんだけど……
コロナとか諸々で体調不良者が続出☆
勤務時間は変わらないのに、人員↓ 仕事量↑ な状況☆
お金欲しい☆彡 けど 働きたくない♪

終わらねぇ。ある意味で、オワタ。



12月1週目のとある日。

私こと、シュネージュネコは一枚の紙を見ていた。

 

シ:7月3週函館1200m GⅢ函館ジュニア級ステークス 3100万

シ:8月2週新潟1400m OPダリア賞 1600万

シ:9月1週小倉1200m GⅢ小倉ジュニア級ステークス 3100万

シ:9月4週中山1200m OPカンナステークス 1600万

シ:10月3週京都1600m OPもみじステークス 1600万

シ:11月2週京都1600m GⅡデイリー杯ジュニア級ステークス 3800万

計:14800万 手:5920万

 

ホ:8月5週新潟1600m GⅢ新潟ジュニア級ステークス 3100万

ホ:9月3週阪神1800m OP野路菊ステークス 1600万

ホ:10月2週東京1600m GⅢサウジアラビアロイヤルカップ 3300万

ホ:10月5週東京1600m GⅢアルテミスステークス 2900万

ホ:11月3週東京1800m GⅡ東京スポーツ杯ジュニア級ステークス 3800万

計:14700万 手:5880万

 

え?

これ何って?

 

まぁ、書いてあるように、12月1週現在までに出たレースと獲得賞金と総賞金と手取り賞金ですが?

 

え?

けっこうなヘビロテだって?

 

それはまぁ、私の生まれつきの特性のおかげというか……

 

シュネージュネコ 所持特性

『快眠主義◎』

常に疲れが残らない満足な快眠が保証される。

レース後の体力低下を防ぎ、『寝不足』にならない、また常に休養では全回復する。

なぜか、同室者も同様の効果を得られる。

 

という、生まれながらに寝不足になったことが無い特性というか、体質のおかげでレースの翌日にはスッキリ全開になっているためである。不本意だが、同室者のシロも同様の効果を受けているので、まぁ、簡単に言うと……

体力の低下を防ぎ疲労も無い生活を送れるので、中1週2週なんて無茶苦茶なレースローテが可能になっていた。それで体力と快眠にモノ言わせて出れるレースに出まくり上記の様な賞金を手にしているという事である。

 

本当は中1週や連闘のプランを考えていたのだが、トレーナーから『ルドルフ会長に殺される』とか『緑の悪魔に殺られる』とか土下座をしながら言ってきたので、しぶしぶ諦める形となった。

 

さて12月。

12月と言えば、ジュニア級のGⅠ戦線。

・阪神ジュベナイルフィリーズ 6500万

・朝日杯フューチュリティステークス 7000万

・ホープフルステークス 7000万

である。距離ではなく賞金が記載されている事については気にしないで頂きたい。

 

そんなGⅠのある12月に、私とシロはというと……

 

 

「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ~~~……」

 

「ネコちゃん? その声はどうかと思うわよ?」

 

トレーナ室にこたつを持ち込んでぬくぬくしていた。

ふぁ~~~ ぬくぬくですぅ~~~

 

え? どのGⅠに出るのかだって?

それは……

 

「しっかし、お前らよぉ。勝負服の申請していないって、どういう冗談?」

 

「ん~? 忘れていた?」

 

「速攻でシュレッダーですが何か?」

 

いや、シロ? そこはせめてゴミ箱にしとこうよ……

そう、勝負服の申請をし忘れていたのであった。ゴミ箱とかシュレッダーとか言っているけど、申請を忘れていた。いいね?

 

URAに問い合わせてみたら、今から申請しても間に合いそうにないとの返事。GⅡ以下で着用する体操着でいいか確認したらダメとの事。

で、今年はもうGⅠの3つぐらいしか目ぼしいレースは無いので、仕方が無いけど年明けまで私とシロは休養期間という開店休業状態なのである。

 

いや、本当はわざとなんだけどね。8月5週でシロがGⅢに勝った辺りで申請書が届いたんだよね。で、GⅠの賞金額が額なだけに出ると思うじゃん? それが私もシロも出たくないという意見で一致してしまったんだよね~。

なので、申請書類はシロがシュレッダーの餌にしていましたとさ。

 

GⅠねぇ……。だって、ねぇ?

GⅡ以下と比べて色々面倒なんだもん。テレビ撮影とかインタビューとか、申請書類諸々。トレーナーも「面倒。やりたくねぇ~」って言っていたから、「じゃあ、しなくていいね」ってなった訳。オーケイ?

 

ジュベナイルフィリーズの出走発表は来週になるからか、テレビでは年末のGⅠ戦線に向けて色々と、あーでもないこーでもないと有識者が語っている。

 

『どれに出ると思われますか?』

 

「あ、ネコちゃんと私が映ってる」

 

「んあぁ?」

 

と、寝惚けつつテレビに視線を向けると、私とシロの戦績が表示されている。『ジュニア級GⅠ戦線! 注目ウマ娘!』と題しているが、その白い2人は何をどう頑張っても出てきませんよー?

 

「ネコちゃんが朝日杯で、私がホープフルだって」

 

「正解は年明けての1月2週のGⅢ2つか、翌週のGⅡ2つなんだけどね」

 

「お前らが勝負服無くて出れない何て向こうも思わんだろうなぁ……」

 

「や、知りません。面倒ごとはパスで。GⅡ以下で頑張るんで」

 

ズズズ……

あ゛ぁ~……茶が美味しい。

 

もちろん、私達だけじゃなくて他にも期待できるウマ娘が次々に表示されていく。お? ラインたちが出て来た。

 

『インデュラインが朝日杯、テイクオフが阪神、アウトオブアメリカがホープフルに出走を表明していますね。先程の2名との一騎打ちが非常に楽しみなレースとなるでしょうね。しかし……、チームハダルの方からは特に反応が無いんですよね。これはもしかしたら2名ともホープフルの可能性もありますね。どれに出走しても非常に面白いレースとなるでしょう』

 

なんて言ってる。や、だから出ないって。なんなら冬休み期間は帰省するつもりだし。ついでにレース賞金から100万くらい下ろして旅行するつもりだし。

 

「お前らのおかげで特別ボーナスも出たからなぁ。俺も年末年始はトレセン学園にいない予定だ。年度代表なんて話も来ているが無視だ無視。めんどくさい事になるからお前らも無視しとけよ」

 

「トレーナーってこんな事を言うの? まぁ、面倒なのは同意です。なので、携帯は置いて行きます。2台目の携帯の番号を教えるので、何か連絡はそっちにお願いしますね」

 

「了解だ。やっぱり逃げるために携帯複数持ちは基本よな。こっちの連絡先も教えておくから冬休み期間はそこに連絡してくれな」

 

トレーナーと2台目の携帯の連絡先を交換する。何かあればこっちに……ね。まぁ、お互いに面倒ごとは嫌なので使うことは無いと思う。思いたい。

そんな事をしながらぼけ~っとテレビを眺めて1日が過ぎた。

 

 

 

12月 2週 阪神 

阪神ジュベナイルフィリーズ

 

「ん~、いないねぇ。やっぱり来週と再来週か~」

 

シュネージュネコが来る確率は低い、ホワイトロリータはもっと低い。が、どちらかと勝負できるかもしれない。と、登録した阪神のレース場に2人の姿は無かった。

 

「まぁ、来年。やり合う機会はあるでしょう。それまで勝負はお預けかな?」

 

ぐっと伸びをしてゲートに入る。あの2人がいないなら、相手になるウマ娘はいないなぁ。

という予想通りに、難なく1着でゴールを通過した。

 

来週と再来週か……。

あの2人が羨ましいな、なんて愚痴りながらウイニングライブに向かった。

 

 

 

『大方の予想通りに、シュネージュネコが朝日杯で、ホワイトロリータがホープフルでしょうね。ジュニア級の名勝負が期待できそうです』

 

という有識者の言葉を信じて来てみれば、そこには……誰もいなかった!

 

12月 3週 阪神

朝日杯フューチュリティステークス

 

「むぅ……勝負できると思っていたのに」

 

入学当初から気になっていた同級生でもあり、ライバルたりえる2名のウマ娘。シュネージュネコとホワイトロリータ。

シュネージュネコと勝負を! と思って来てみたが、誰もいないという結末が!

 

「だが、まぁいい! ここでGⅠウマ娘となり、来年のクラシックで改めて勝負だ!」

 

勢いのまま先頭でゴール板を駆け抜け、来年に向けて決意を新たにする。

楽しい勝負を待っているぞ! シュネージュネコ!

 

 

 

『予想は外れてしまいましたが……これでしょうね。有馬の後のホープフルステークスで、ジュニア級のトップ3の激突。いやぁ、楽しみですね。……だよね? まさか、参加しないなんてことあるの? ははは……そんなことナイナイ……』

 

「ネコちゃん? 何見てるの?」

 

「ん? ああ、有識者の戯言かな? 当たることのない予想をべらべら喋っているからね。ニヤニヤしながら見ていたんだ」

 

朝日杯フューチュリティステークス前日。チームハダルの面々は……

既にトレセン学園にはいなかった。

 

朝日杯フューチュリティステークスに向けて学園がバタついている頃を見計らい、私達はそれぞれ「欠席します」「有休消化をします」という旨を書いた書類を、そっと事務の申請書類を入れる箱の下に置いて来た。

一応、提出の際に事務員に伝えたが、「そこに置いておいて」と、箱の下を指さしたので、言われたとおりに置いて来た。だから問題ない。

携帯は充電した状態でチームルームに置いて来たので、電池が切れることは無く、しかし誰も出る事のない状態での放置となる。携帯に連絡したとしても留守電になるので、メッセージを入れた後は返事を待つことになると思う。しかし、いくら待てども返事は来ないんだけどね。

その状態でトレーナーと駅で別れた私とシロは一度自宅へ。その足で冬休みが明けるまで長期の旅行に出たのだった。だから、自宅に電話をしても私もシロも出ないが、まぁ些事でしかないだろう。

 

今回の旅行は各地を巡り美味しい物を食べ歩くのが主な目的だ。と、いうことで、朝日杯フューチュリティステークスの翌日、私達は九州の南にある焼酎と桜島が有名な県に来ていた。ここから徐々に北上しながら食べ歩いて行くのが主なプランとなる。

で、現在地は旅館。温泉と美味しい食事を堪能し、寝る前にとテレビを見ていたところだった。

シロと二人並んでテレビを眺める。私とシロについては見当外れな事を真面目な顔で語る人を笑いながら夜は更けて行った。

 

 

 

「おい! まだかっ!」

 

「すみません、今連絡をっ!」

 

とある場所。年末のホープフルステークスに向けて出走発表を前日に控えたとある日。ある場所ではそれなりの騒ぎが起こっていた。

 

「シュネージュネコとホワイトロリータどちらでもいい、連絡を取るんだ! まだホープフルステークスにギリギリ登録できる! 出走するように何とか……」

 

とある番組で語られたように、シュネージュネコとホワイトロリータがジュニア級のGⅠに出る事を望まれている。同じ世代にいる強者とも言えるウマ娘と、ぜひ名勝負を!

各所で様々な人が思う事であった。しかし、シュネージュネコとホワイトロリータと連絡が付かない。これでは出走してもらえない。

なぜか、シュネージュネコとホワイトロリータはホープフルステークスに出走するという、謎の確信を感じていた彼らはとにかく2人と連絡を取る様に走り回っていた。その確信は全くの見当違いであるという事に気付く事なく。

 

まぁ、ムリも無いと思う。GⅠに出る、そして勝つことはトレセン学園に通うウマ娘なら誰もが持つ感情であると思い込んでいる。しかし、肝心のその2人にその感情が無い事を誰も知らなかった。いや、チームトレーナーだけは知っていたが、そのトレーナーとも連絡が付かないので結局は分からずじまいだった。

無人のチームルームに携帯が放置されていて、話題の2人が既に学園にいない事を知るまであと数時間……

数時間後、世間は大いに賑わう事になる。悪い意味で。

 

 

 

『これは……驚きですね。まさかの回避ですか』

 

画面の向こうでそう言うコメンテーターに苛立ちを覚える。昨日まではホープフルステークスに出るって言っていたのに、翌日の今日になって回避なんてほざいている。

分かっている。こいつらが悪いんじゃない。あいつらも悪くない。むしろこれまでのレースを見ると休んで当たり前だと思う。

 

なんて思うが、納得できない。ラインもイクも楽しみにしていたのに、結果がこれだ。

 

「ッチ! くそぉ……ヤル気出ねぇ……」

 

結局、3強対決は消えてアウトオブアメリカ1強のホープフルステークスとなってしまった。直前で調子を落としてしまったが、勝ちは勝ちだ。

 

「まぁ、いい。来年だ。クラシックでヤリ合うしかねぇ」

 

来年からのクラシックに向けてトレーニングに励む。シュネージュネコとホワイトロリータにぶっちぎりで勝つために。その思いを熱に変えて。

 

 

 

 

 

冬休み明け

とあるSNSアカウント

 

『チームハダル 今年の目標 ウマ娘の意思を尊重し、GⅠは全て回避。チームの方針に従い、GⅡ以下で無理なくレースに臨みたいと思います』

『今年はGⅡ以下で稼ぎまくるぞ! 目指せ、安泰な老後に向けた資金調達! GⅠ? 全部無視ですね!』

『ネコちゃんに着いて行くわ~♪』

 

アウトオブアメリカの調子が下がった

インデュラインの調子が下がった

テイクオフの調子が下がった

 

あと、なんか色々とあちこちで調子が下がった

 



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11 ??編 おや? 私は一体……?

ウイポ10面白いです!
ついね、アプリのウマ娘もこれの執筆も
完全に放置していましたw

ほんっとぉ~に!
申し訳ありません!!!

ウマ娘とか3月30日から全く触れていませんね。
どうしましょう?


俺の新馬戦とシロの未勝利戦が終わり翌8月。今日も今日とて調教を頑張る日々だ。

シロの未勝利戦が終わってからという物、追い切りでは常に逃げる俺と追いかけるシロと、間の馬群という形で調教は進んでいく。

先頭の景色何て大層な事を言うつもりは無いが、やっぱり誰にも邪魔されずに走るのは楽しい。後ろの馬群の喧騒をバックミュージックにして、今日も悠々と先頭を走っているとコーナー前を過ぎたあたりで聞こえる力強い音。最後方から大外を通り俺に迫る足音。迷いの無い足運びで馬群を横目に抜き去り俺の横に並ぶのと、コーナーを曲がり終えるのが同時だった。

 

(っ! 負けないっ!)

 

(負けるかよっ!)

 

ラスト2ハロン400m。最内を進む俺と大外を回るシロ。騎手の鞭も入り最後のスパートをかけて芝の上を駆け抜ける。

抜きつ抜かれつ、ほぼ同時にゴールを駆け抜けると徐々に減速、並足で歩く俺にシロが横に寄り添うように寄ってきた。

 

「まずはオープンだそうで。シュネージュネコが9月4週のカンナステークスで、ホワイトロリータが9月3週の野路菊ステークスらしいですね」

 

「じっくり鍛えて挑むみたいですね。8月一杯は調子を見て9月に入って調整を、っていう感じですか」

 

聞こえてくる騎手の話に耳を傾けると、どうやら俺たちの次走が決まったようだ。この時期の2歳馬のレースで2000mは年末のホープフルステークスぐらいしか無かったはずなので、俺は短距離でシロがマイル辺りになるのか? まさかとは思うけど、シロに短距離を? 

いや、無いな。シロの走り方だと短距離は短すぎる。マイルでも短い。それを大外を走ることで誤魔化しているんだから、1800mが妥当だろう。

 

(? 何を話しているの?)

 

(ん? ああ、なんか次のレースが決まったみたい)

 

元々人間だった俺は騎手や調教師の言葉が分かる。適度に相槌を打っていたら馬主さんに「中に人入ってる?」なんて言われたこともある。

その影響なのか知らないが、最近シロも人の言葉に耳を傾けている様子がある。完全に理解はしていないみたいだが、何となく何か言っているなという感じにとらえている。

 

(次のレースからは別々だな。先にシロで次が俺って話している)

 

(ううう……、ネコさんがいない……)

 

(それが当たり前だから仕方が無い。まぁ、でも……)

 

(???)

 

来年がクラシック期に当たるのか。順当にいけば俺はクラシックでシロはティアラか? でも、シロの距離適性的にクラシックもあり得るのか? そうなれば俺もマイル・スプリント方面の可能性も? 

そもそも今年の年末もある。ジュニアクラスには3大GⅠがあるが、9月のレースはそれぞれに出るための実績作りの出走になるんだろうな。

どちらにしても、速くても……そうだなぁ……

 

(早ければ来年の年末に勝負になるのかな?)

 

そう、恐らく

日本勢の一頭として外国からの使者を迎え撃つか、年末の有馬のどちらかになるんのではないだろうか。

まぁ、それまでの勝ち鞍と賞金や人気にもよるけれど、そこになるんじゃないだろうか?

 

なんて考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……キモイなぁ……」

 

聞こえて来た第一声がそれだった。

 

………………

 

ふと気が付くと見知らぬ場所にいた。場所というか空間? ふわふわと浮いている。上も下も無い。頭がある場所が上になるので、上下反転していても分からない。

ふと、自分の姿を見る。人の手足が見える。懐かしい。馬の意識になってからは、俺自身を世話してくれる厩務員や馬主さんの姿で見覚えが……?

あれ? ウマ娘だっけ? え? 馬? あれぇ?

 

……っえ?! ちょっと待って! どっちの記憶もあるんだけど?!

ウマ娘の『シュネージュネコ』として、年末を過ごした記憶がある。これはヨシ。

馬としての『シュネージュネコ』の記憶もある。9月のレース何に出るんだろう? とか考えていた。これもヨシ。

 

……いや、おかしいぞ? あれ?

ウマ娘として、3年間GⅡ以下で走り抜けてお金を稼いで余生を過ごしている記憶もある。

馬として、なんやかんやあって種牡馬入りして余生を送った記憶もある。

 

……そもそもだ、馬の方はそれ以前の記憶もあるのは何で?

『マルゼンスキー』とか『シンボリルドルフ』とか、『ディープインパクト』とか……、馬とし生きた時に聞き覚えがあるんだけど? 皆生きている時代が違うはずなんだけど? ウマ娘は謎時空でみんな一緒だけど。

 

いくつもの『馬』としての一生と『ウマ娘』としての一生を送った記憶が『全部』あるんだけど? これ、絶対おかしいよね?

 

 

…………

 

『で、落ち着いた? 話していい?』

 

「ア、ハイ。すみません」

 

目の前に浮かぶ光の玉が話しかけてくる。自分の中にあるいくつもの記憶については一旦置いておくとして、先ほどから視界に入てくる光の玉と向かい合う。

 

『まぁ、まずは私の話を聞いて欲しい。その後で質問を受け付けるから。いいね?』

 

「了解しました」

 

『まず、本来の君は一人の人間であった。が、君という存在は死んでしまったんだ。最後の記憶はゲームをしていたと思うんだけど、数ケ月後に元々持っていた遺伝子の疾患の悪化により、徐々に弱って死んでしまう。で、輪廻転生の輪に入れようと思ったんだけど、訳があってウマ娘の世界に転生してもらおうと思ったんだ』

『しかし、ウマ娘に転生させるにしても、引き継ぐウマソウルが無い。元人間だもの。しょうがないよね。なので、同時並行していくつかの時代に、実際の競争馬として転生してもらい、競走馬として走ってもらったんだ。あ、史実の馬同士で生まれた名も無き馬だよ? 未勝利のままで引退したか、重賞どころかオープンすらも掲示板外の勝ち鞍なしで繁殖入りできなかった、歴史に名を残せなかったけど実在した馬だからね?』

 

「はぁ……」

 

この光の玉が何なのか、まぁ神様的な存在なんだろうなぁ……。その光の玉により私はウマ娘と馬の両方の生を送ることになったようだ。だから両方の記憶があるのは分かったし、両方の生涯が終わったことも何となくだが分かっている。

 

「覚えている限りでは両方の生涯が終わった訳なんですが、私はこの後どうなるんでしょうか?」

 

『そのことについても今から説明するよ。というか、ここからが本題なんだ。先程も言ったけど、元々はウマ娘として転生してもらう予定だった。だが、ウマソウルは無い。だから適当に競走馬として生涯を終えてもらった。これで簡単ではあるが一応のウマソウルが出来上がり、ウマ娘として転生することが可能となった。ここまではいいね?」

 

『さて、本題から少し外れる事になるけど、君は「正史」と「外史」という言葉を知っているかな? あ、答えてもらう必要はないよ。ものすごく簡単に言うと『原作』と『パロディ』程度の認識で十分だよ。ここでは事細かに説明するつもりはないからね? 人間として生きていた世界、これは正史。ウマ娘の世界は正史の中で作られた架空の物語の上の世界、外史に相当する。で、競走馬として生きた世界はウマソウルを獲得するための正史に酷似した外史だ。だって、本来の君は馬じゃなくて人間だったんだからね』

 

『で、ここからが本題になるんだけど、本来外史であるはずのウマ娘の世界。これを多くの人が認知する過程で、外史でありながら正史に似たモノになろうとしている。つまりは異世界。……の様な物と思ってくれていい。で、ウマ娘の世界という限りなく正史に近い世界は無数に枝分かれした外史を生み出し始めている。それは何ら問題ないんだけど、本来のウマ娘の世界から見ておかしな方向へ進んでいる世界もある』

 

そう言うと手の平に乗る程度の大きさのガラス玉が出現する。その玉はうすぼんやりと徐々に何かの映像を映し始めていく。徐々に見えて来た映像、その中身は……

 

「ウマ娘? レース? いや、トレーニングか? にしては……なんだ? なにか……んん?」

 

『これはおかしな方向に進んだ外史の一つ。この世界でのウマ娘のレースは、いわゆる冠名持ちの一族が常に上位に君臨し、それ以外の寒門には活躍の場がないどころか、オマケ以下の価値しかない世界になっている。本来の世界では寒門やモブウマ娘でも場合によっては勝つことも可能だ。だが、この世界ではその可能性はゼロ。踏みつぶされるだけの存在にっている』

 

「いや、それはおかしい。だって、ウマ娘の世界を元にして別れた世界だとしても、理事長やシンボリルドルフといった人たちが何かしらしているはずでは?」

 

『それがそうもいかないんだ。というのも各一族の長や主たちは今の状況を危うく思い色々動き始めているんだが、URA所属の理事や重役たちはそれを良しとしていない。世界に通用する育成を、世界で勝つウマ娘は名門であるべき。という妄執に取り付かれているせいでね。シンボリ家やメジロ家を筆頭に、前世で冠名としてあったそれらは、この世界では種別は違えど各分野での派閥を形成している名門と言える一族なんだ。その名門が常に勝者なければ認めないと言い張っているのが今のURAのトップ層にいる者たち。そんな彼らのせいで冠名持ち以外が重賞を勝とうものならURAトップ層が直々に交渉に来るんだ』

 

「それ、絶対交渉ちゃう……、脅しや圧力っぽいモノになるんじゃぁ……」

 

『実際にはそう。結果、持てるエリートと持てないその他という構図になってしまっている。それで人知れず学園を去る者も多い。ウマ娘も、トレーナーも。そんな世界に降りてもらいたいと思っている』

 

「えっ!? こんな末期の様な世界にですか?」

 

『そう、この末期の様な世界で、寒門出身の一般ウマ娘として、徹底的にぶち壊して欲しいんだ。君にして欲しい事は2つ。君自身が勝ち続ける事。君以外に名門以外のウマ娘をスカウトして勝つこと。それにより世界自体が持つ自浄作用で自然と元の世界の方へと戻ろうとする力が働いてくれるからね。ただ勝つ。それだけをしてくれればいい』

 

「待って!? 話からして私も走らないといけないの!? スカウトしてって、トレーナーもしないといけないのっ!?」

 

『君の向こうでの立場は、飛び級で欧州・米国のトレセン学園でサブトレ研修を終えた新人トレーナー兼、未デビューウマ娘となっている。デビューに関しては好きな時期にするといい。輪廻を繰り返したせいで変態的とも言える能力を持っているからね。あと、スカウトするのは誰でもいいけれど出来れば冠名の無い娘にして欲しいな。あの世界では冠名イコール名門出身っていう事になっているから」

 

「おねがいっ!? ちょっとまってっ!? とんでもない設定になっていない!? 英語とか話せないのに飛び級!? そんな設定むりg『じゃあ、頑張ってね~。適当に勝って適当にウマ娘生活を楽しんでね~』だからまt

 

そこで

意識が途絶える。

 

 

 

その直前に思ったんだけど、質問受け付けてくれるんじゃなかったの?




思えば
元々はウマ娘の小説を書こうと思っていたんですよ。
作者的に馬編書いてて思ったわけですよ。
まぁ、いいんですけど。

ちなみに、ここまでがプロローグ扱いになります。
一応、次の話から本編になります。
まぁ、知らんと思うでしょうし、あまり気にしなくてもいいです。はい。


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12 はじまり はじめまして

 

 

 

……夢?

これは夢なのか?

 

なんかふわふわしている

意識は……朦朧とする

 

手足に力が入らない

波間に漂うように

身体がふわふわと浮いている感覚

 

 

…………

 

 

『イチフジイサミ、後ろから懸命に追う! 日本のGⅠ4勝の実績を持つ彼女でも世界の壁に届かない! ハリーハリエット! 今、1着でゴール! 後方から追いかけるもイチフジイサミは5着と掲示板が精一杯! 日本悲願の初勝利を目指したタタソールズゴールドカップ、日本の挑戦者は5着に破れました!』

 

『海外GⅠ初勝利を目指すタカエノカオリ、日欧王者の戦い! タカエノカオリまだ来ない! クリールアルマゲスト逃げる逃げる! 残り200mで逃げるクリールアルマゲストと追うタカエノカオリの一騎打ち! だがタカエノカオリわずかに届かず。最後の200m、1バ身の差を縮めれず決着! カンタラステークスの勝者はクリールアルマゲスト! タカエノカオリ、日本のウマ娘はわずか1バ身届かず!』

 

 

…………

 

 

『やはり……』『ですな……』『であるなら……』『…………』

 

 

…………

 

 

「待て! 待ってくれ!」

 

「……トレーナー……ごめんなさい……」

 

「待てっ! ……クソっ!!」

 

 

…………

 

 

海外挑戦かな?

惜しくも負けてしまったみたいだけど

次は頑張ってほしいな

 

暗い部屋

年配のヒトミミのおっさんがひしめき合っている

なんか臭そう だけど話している内容が不穏?

 

あのウマ娘はトレセンを去っちゃった

トレーナーが呼び止めるけど振り返らなかった

一体何があったんだろう?

 

夢?

身に覚えのない内容が流れていく

 

レースを走るウマ娘 悔しがるウマ娘 去るウマ娘 トレーナーも去って行く ほくそ笑むヒトミミおっさんズ

色んな映像が流れて それを見て 消えて

 

 

 

 

 

「うあぁ~~~~」

 

「だぁ~あ~うぅ~~~」

 

目が覚める。夢を見ていたのだろうか?

ころりんと寝返りをうつ。2歳前の幼児の身としては言葉も満足に話せないので、あうあう言いながらコミュニケーションを取っているようないない様な?

寝返りをうって仰向けからうつ伏せになると、視界には私と同じような幼児ウマ娘が見える。白毛の私はシュネージュネコで、妹で黒毛のブラックロリータ(クロ)、幼馴染にあたる芦毛のホワイトロリータ(シロ)、その妹の栗毛のフェニックスネコ(ニック)。

うつ伏せの私の両サイドから芦毛と黒毛がのしかかってくる。栗毛は私の目の前で座り指をくわえて呆けている。

 

「だぁ~~~~~♪」

 

「あ~~~い♡」

 

私が起き上がれないように体全体で圧し掛かり、髪の毛を涎塗れにしながら食んでいる幼児2人が飽きるまで、私は成すがままにされる。

しかし、なぜか飽きることは無く髪の毛どころか背中も涎塗れにされてしまい、それぞれの親に止められるまで幼児2人の成すがままにされるのだった。

 

 

 

5歳

私・妹・幼馴染の4人はいつも一緒に過ごし、すくすくと成長して拙いけど言葉も話せるようになり、社会性を身に着けるためにと幼稚園に通うことになった。

通ってしばらくして友達と呼べる子達とも仲良くなれた。……と思う。嫌われてはいないはず。

あと、子達といったけど娘達と言った方が正確。だって、ウマ娘の子しか知り合えていないからだったりする。皆年下なのか喋りが拙いから名前も満足に聞き取れない。けど、毎日のように遊んでいるから皆仲良しだ。……と思いたい。

 

その1 栗毛ウマ娘

初日にシロたちと追いかけっこしていたらいつの間にか横にいた娘で、走る時はいつも付いて来てニコニコしている。走るのが好きで他には興味を示す様子が無く、走ることなら何でも良いんじゃないかと思えるくらい。雨の日でも外に飛び出そうとしていたのを止めたらウマ耳をへにょらせる可愛い娘。

最近では走りたい時は何故か私の服の裾を引っ張り、キラキラした目で「はしる!」と言い見つめてくる可愛い娘。

 

その2 黒鹿毛ウマ娘

鼻頭に絆創膏を貼るウマ娘で、肉が好きで野菜嫌いのウマ娘。駄菓子屋で買ったカルパスを食べていたら、横でキラキラした目で見つめられたのであげたら懐かれてしまった。あまり喋ろうとしないけどカルパスを持っている時は「ニク!」と腕にしがみ付いて来るので、餌をあげる親鳥の気分にしかならないし、ウマ耳ピコピコ尻尾ふるふるする姿を見るとあげないという選択肢は存在しない。

何も持っていないときは「……ニク……」と悲しげに鳴くので、ついあげてしまう私は悪くないと思いたい。走るのは好きかどうかは分からないが負けず嫌いな様だ。姉がいるらしいが別の園に通っているのか会った事は無い。

 

その3 桃髪ウマ娘

気が付くと後ろで「う~♪」と鳴いていたウマ娘。足が遅く走ればいつもビリだけど、皆と一緒に走るのが好きみたいでいつもニコニコしている。色んな物に興味を示し自由奔放を絵にかいたような娘で、いつの間にかいなくなることもしばしば。まだあまり話すのが得意みたいじゃないみたいで「う~」しか聞いた事が無い。

走るのは遅くいつもビリ。砂場で走るのが好きでいつも泥んこだがいつもニコニコしているから癒されている。

 

その4 栗毛ウマ娘

桃髪の娘と言葉の勉強をしていたら知り合ったウマ娘。言葉は理解しているし何なら喋れるのに返事は「にゃ~♪」と言う。最近は親の影響か返事に「こぴ~♪」も追加された。理解力が高く地頭がいいと分かる娘で、転生済みの私から見ても十分に天才児と言えるが、本人があまりそれを表に出そうとしない。

飽きっぽい性格だけど走るのは好きそう。負けず嫌いとも違うけど楽しそうに競争している。長い距離を走っても元気に両手を上げて「にゃ~♪」と言う姿をよく見る。

 

その5 黒鹿毛ウマ娘

青いバラの髪飾りが似合うウマ娘。いつもビクビクオドオドしており何かにつけて謝る娘。あと、すごい不幸体質なのかちょっとした不幸によく見舞われているが、いつも皆と一緒に過ごしているので、咄嗟の手助けをすることも出来るため、そこまで大きい事にはなっていない。細かい事を気にしない桃髪の娘と一緒に笑う姿を見る。

まだ体が十分に出来ていないためか、ポテポテと可愛らしく走るけど誰よりも長く走っている。

 

知り合った順番に書き出してみる。ウマ娘というアプリを知っているから、どれが誰なのかは分かるけど、私含めて皆幼児なので、ぽてぷにころんと言う感じで日々を過ごしている。

 

 

 

場面変わって10歳 欧州のトレセンを飛び級で卒業する場面。

更に飛んで12歳 米国のトレセンを飛び級で卒業する。

 

走馬灯のように流れているので、これが現実と言う感覚が薄い。場面が過ぎると体験していないのに、あたかも飛び級で卒業してしまった感覚を持ってしまう。

自分が特別才能に優れているとかではない。これは神様? がいう私がこの世界で生きるための設定に近づけるために、整合性を合わせるための後付けの物なんだろう。この世界に認識されて私自信の感覚として、私が理解しているので問題なく受け入れられたんだと思う。

 

私、シュネージュネコは。

この世界で未デビューウマ娘と新人トレーナーという2つの肩書を持って。

 

「歓迎ッ! 今日から、新入生として、新人として! このトレセン学園で君の活躍を期待する!」

 

日本の中央のトレセン学園で。

理事長の言葉を聞きながら自信を知覚した私は。

今日、今ここからウマ娘としての新たな生を送ることになるんだと理解した。

 

 

「今日からよろしくね♪ ネコちゃん♪」

 

理事長ではなく私の横顔を見つめる芦毛の幼馴染の姿を視界から外しつつ、なんでここにコイツがいるんだろう? と考えてしまった私は悪くないと思う。それとシロは理事長の方を向いて? 

 




知り合ったウマ娘、その1から5は誰なんでしょうね?(すっとぼけ)
「……ニク……」と「う~♪」「にゃ~♪」が書きたかっただけです。
ネタ分かる人いるのかな? 

1,何も知らず初回で妹を選んで泣きながらクリアしました。妖精と家出娘は必ず入れます。深窓の令嬢も好きです(どうでもいい)
2,個人的には2期のOPが好きです。

にゃ~♪については完全な個人的なイメージ。
幼児の頃はそう言っていそうだな、という個人的な独断と偏見です。


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13 把握

ウイポ10 1973年シナリオより
前話の「イチフジイサミ」と「タカエノカオリ」は譲渡馬として使用していました。
イチフジイサミは海外GⅠは無理でした(国内GⅠ5勝)が、タカエノカオリは海外GⅠ4勝して国内と合わせてGⅠ9勝という快挙。
前話の2着? あれは結果を反対にしました。ゲームしながら書いてましたし、なんなら4馬身差で勝ちましたが?

などと、どうでもいい事を書き連ねて強いましたが、あまり気にしないように。

つらつらと冠名を上げていますが、あまり関係ないので気にしなくても大丈夫です。


シロと連れ立って校舎を出ると、まずは状況整理のために落ち着ける場所を求めて、カフェテリアに向かう。

今年からトレセン学園の中等部に入学することになっているが、既に欧州と米国でのトレセン学園のトレーナー科を飛び級卒業したことになっているので、義務教育として中等部卒業までここに縛られる以外の理由はない。

なんならトレーナーとしての籍があるので、学業そっちのけで働いてもいいと、理事長からお墨付きも貰っている。まぁ、トレーナーという立場よりも学生の立場の方が未デビューウマ娘と接する機会が多いので、学業を疎かにする理由は無い。

 

入学式前の春休み。校舎はがらんとして遠くのグラウンドからトレーニングをしているであろうウマ娘の声が聞こえる。

シロと一緒にテラスの席に着き、アイスティーとサンドイッチを2つずつ注文する。さて、一つずつ情報を整理していこう。

 

まず、目の前にいる幼馴染こと、ホワイトロリータ。彼女は私と同じで今年からの中等部新入生でありながら、私のサブトレとして正式にトレセンに雇われている。

私とシロ。新入生同士でありながら新人トレーナーと新人サブトレーナーと言う立場。意味分かんないね。

 

「えへへぇ~♪ ネコちゃんと一緒だぁ~♪」

 

両頬を抑えクネクネ動く幼馴染を一瞥して次の事を考える。

すっ、と手提げカバンから取り出したのは通帳。全国どこでも使える銀行の通帳で、ページをめくり一番新しい場所に記載されている総計額には、3億と記載されている。これも意味が分からない。

シロの持っている通帳にも同じく3億と記されており、2人合わせて6億と言う大金を持っていることになっている。本当に意味が分からないし覚えがない。

 

「なんだろうね? このお金」

 

シロの言葉はもっともだ。後で銀行に行って実際に使えるのか確認してみよう。

次に、タブレットを取り出す。まず、前世も含めてこんなのと盛った覚えが無い。両手サイズのタブレットに赤いカバーが付けられて? はめられて? いる。カバー横の電源を押すとロック画面に行かずにトップ画面が表示される。

情報を見るとちゃんと私名義のタブレットのようだ。購入した覚えは無いが後でロックをかけておこう。トップ画面にあるメールアイコンが点滅していたから、タップして開いてみると2件受信してあった。『君へ』と『情報』の2つの件名があったのでまずは『君へ』を開く。

 

『このメールを見ているという事は無事に転生で来たんだと思う。まずはおめでとう。このタブレットは私からのプレゼントだ。決して壊れず劣化もしない私謹製だからね。このタブレットではおススメのウマ娘情報や、管理しているウマ娘を数値化できるから、色々と参考にして欲しい。先にも言ったが、君にはとにかくGⅠという舞台で勝ってほしい。どのレースとかの条件は無いが出来れば海外にも進出してくれると嬉しい。そうすれば元の世界に戻そうという力が強くなり、君にとっても過ごしやすい世界になると思う。完全に元の世界に戻ることは無いけど、限りなく近い世界に修正されていくから、君の活躍に期待している。無事に世界の修正が終われば後は君の好きな様に生きてくれて構わない。とりあえずの活動資金として、銀行の通帳にお金を入れてあるから好きに使うといい。返す必要も無い。じゃあ、頑張ってくれ』

 

どうやらあの神様からのメールのようだ。で、このタブレットはプレゼントという事か。あ、あと銀行のお金も使っていいみたいなのでありがたく使わせてもらおう。

ウマ娘の能力の数値化は有り難い。管理や育成がしやすくなるし、指標としても役に立つだろう。で、とりあえずの目標は、何をどのくらいかは分からないが、海外も含めてGⅠに勝つ必要があると。

 

まぁ、こうなった以上は頑張るしかないので、頑張るけど……。

とりあえずもう一つの『情報』をタップする。中にはこの世界で名門とされる『冠名』の一覧があった。この世界ではURAの一部のお歴々が、この冠名持ちの一族を優遇というか色々便宜を図っているみたいだ。私がGⅠを勝つ上で確実にぶつかるであろう者たちである。

 

・シンボリ

・メジロ

・アドマイヤ

・マチカネ

・ナリタ

・トウショウ

・メイショウ

・テイエム

・ヤマニン

・アグネス

・エア

・サクラ

・サトノ

・エイシン

・シチー

 

以上の15があるそうだ。長い歴史もそれなりにあるようで、分家の分家の分家になると一般家庭と何ら変わりない所もあるみたい。だが、名門の一族というくくりには入るみたいで、レースに活躍すれば一般家庭出身でも十分にその後の暮らしが安定するらしい。そうでなくても基本的に彼らが少なからず優遇されているようだ。

前世を思い出すと冠名以外でも活躍している馬、もといウマ娘はいるがそれらは没落扱いや籍を外れた者たちと言う形になっているみたいで、それなりの資産を持っていても名門では無いと言うのが、今のURAの意志だそうだ。あ、各家はそうは思っていないようで、URAの対応にウンザリしているんだとか。主に互いの意見をぶつけあい『URA vs 名門』という構図で見えない場所でもヤリ合っているらしい。

 

そんな中に割り入るように入る必要があるんだが……怖いなぁ。

まぁ、時期にもよるが手薄なGⅠとダートをメインにして、合間で海外に出て行く方向で進めよう。

 

……なんか途端に面倒くさくなってきたぞ?

 

ウマ娘管理画面を開いてみよう。アプリをタップして開いてみると、私とシロの能力が数値化されていた。スピード・スタミナ・パワー・根性・賢さに加えて健康・瞬発・柔軟があり、他に適正距離・適正馬場・適正脚質も明確に記録されている。あとはゲームチックな感じで所有スキルに発動条件もあった。

 

「これが本当なら管理しやすいな」

 

「ネコちゃん? どしたの? サンドイッチ食べよ?」

 

いつの間にか来ていたサンドイッチを頬張りつつ、タブレットのトップページから『おススメウマ娘情報』を開く。情報一覧には『1987年 クラシック世代』というメタな見出しがある。

今日現在の年月は知らないが、今年ジュニア期としてデビューするのは、ここに書かれている1987年世代ということになるんだと思う。

 

『朝日杯3歳ステークス 優勝:サクラチヨノオー』

『阪神3歳ステークス 優勝:サッカーボーイ』

 

ジュニア期においてはこの2名が特におすすめとの事。だが、こちとら未デビューウマ娘&新人トレーナーなんだが? 2重の意味で実績の無い私にスカウトなんて無理ゲじゃね?

 

実績……

あれ?

 

今思ったんだけど、これ私が走ればいいんじゃないの?

実績を積み上げることにもなるし、私がシロをスカウトして、シロが私をスカウトしたことにすれば、スカウトした事にもなるし、万事解決になるんじゃない?

 

いける……と思う。私もシロも未デビューウマ娘だ。トレーナーは未デビューウマ娘をスカウトして、トレーニングやレースに出走をしていく。

未デビューウマ娘であれば問題ないはず。未デビューかつトレーナーの扱いがどうかは知らんが、少なくとも私とシロは未デビューに間違いは無いのだ。

 

うん。行けそうな気がしてきた。

いける。

うん、いけるいける!

 

 

 

「ということでいいでしょうか?」

 

「う~ん……まさかこういう風にしてくるなんて……」

 

「驚愕ッ! なんということを考えているのか!」

 

たづなさんは困り顔、理事長は呆れ顔。

いや、申請は通ったけどね。私とシロがお互いをスカウト。

こんな方法を取るとは思っていなかったようだ。

 

と、いうわけで。少なくと私かシロのどちらかが引退するまでの2~3年は、煩わしいスカウトに精を出す必要がなくなったわけだ。

 

「さて、そうと決まれば早速トレーナー寮へ……あれ? 学生寮? んんぅ?」

 

「お二人は栗東の学生寮とトレーナー寮の2か所の使用が可能ですよ。学生寮出は同室、トレーナー寮では隣室となっています」

 

「あ、じゃあ、日によって帰る場所はどっちでもいいって事?」

 

「ええ、学生とトレーナーと、どちらの立場を取るかでお好きな方と使えばいいと思います」

 

今後拠点とする場所が2か所になった訳だが、どっちも使うか片方だけ使うか考え……あ、なんか面倒。

 

「学生寮とトレーナー寮の生活環境ってどうなってます?」

 

「まず部屋の広さですね。個室か2人部屋か。トレーナー寮は少し広めのワンルームのマンションと思って頂ければ。生活環境が共同か個人かの違いですね。食事は学生・トレーナーともに食堂の利用が可能です」

 

「冷蔵庫とかの持ち込みはどうです?」

 

「学生寮はあくまで共同生活の場なので、いくつかある大型冷蔵庫を共同利用してもらっています。トレーナー寮の方は自己負担で好きな様に持ち込んで頂いて構いません。……こういうことを聞くという事は、両方利用するつもりではない。ということですか?」

 

「そうですね。管理が面倒なのでどちらかにしようかと思っています。考えてみてトレーナー寮がいいかな? なんて思っていますけど。後々は稼いだお金で近くで借りるかしますけど」

 

今すぐにでも近くに借りれない事も無いんだけどね。だけど、通帳のお金を使うとなれば、今の自分が持っているとおかしい額のお金が入っているからね。安易に使えそうにないから、とりあえずデビューしてから考えよう。

 

「では、学生寮は解約してもいいですか?」

 

「お願いします。さっそk「あ、トレーナー寮も一つ解約で」……おい!」

 

今まで黙っていたシロが突如、会話に割り込んでくる。そして意味不明な事を言う。シロはどこに泊まるつもりなんだろう? 嫌な予感しかしないけど……

 

「えっ……と? ホワイトロリータさん、それはどういう?」

 

「私、ネコちゃんと一緒に住むんで。それでお願いします」

 

予感的中! ほらね。やっぱりね。この幼馴染は……本当にもう!

家が近所で幼馴染という間柄のためか、四六時中かつ物理的に、側にいるのが当たり前になっているんだよね。

なぜか好意を寄せられているのは知っている。知っているんだけど、その思いが変な方向に突っ切っているせいなのか、常に視線を感じるし、息が荒いし、髪の匂いを嗅がれるし、洗濯物の衣類に頬ずりするし、なんか吸い付いて来るし、絡みついて来るし、離れても気が付けば後ろにいるし……

 

あれ? これ世間一般的にストーカーってやつでは? 

いやいやいや。いくらなんでも? 幼馴染で好意を寄せられているだけだよ? そのはずだよ? ストーカーなんて……

 

チラリとシロに視線を向けると……

目が合った! うわぁ…… なんで「にちゃあ」って笑うの? キモイよ? 変態なの? 一緒に住んだら私の貞操の危機じゃないの?

 

ブルリ

妙な寒気を感じる。

これは……身の安全のためにもシロのトレーナー寮の部屋の解除を阻止しないと!

 

 

 

 

 

 

 

……………………

 

…………

 

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけでよろしくね♪」

 

「あれぇ?」

 

トレーナー寮の一室。

広めのフローリングの真ん中で、向かい合って座りニコニコ微笑むシロに対して、首をかしげる私の姿があった。

 

なぜに!




ウイポ10を3月30日に開始して
ウマ娘を放置して……
3ケ月が経ちました……

今日久しぶりに起動したら、更新データ1.1GBという、とんでもデータの更新ががが……
まぁ、PCだから通信制限に引っかかることはないから気にしないでのんびりと♪

ところで、例えばだけど……
90日ぶりの「おかえり」的なモノは無い? あ、無い?
ア、ハイ



作中に記載した朝日杯3歳ステークスは、2001年に朝日杯フューチュリティステークスに変更される前の名称です。
同様に阪神3歳ステークスも2001年に農林水産省賞典 阪神ジュベナイルフィリーズに変更されています。


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