銀河英雄伝説~転生者の戦い~ ((TADA))
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001話

新たなる銀河の歴史の始まり


読者諸君は転生という言葉を信じるだろうか。本来は仏教用語であるが、現在は様々なエンタメ作品において主人公が前世の記憶を持ったまま新しい世界に入ることが多い。

何故、転生についてうだうだと語ったかというと。俺が現代日本から別世界へと転生してしまったのだ。

転生した先はなんと銀河英雄伝説の世界。しかも帝国の名門伯爵家。初代ルドルフから皇帝に対して直言を許された家柄。しかも何がびっくりってロイエンタールとは従兄弟な上に、美形な金髪姉弟とはお隣同士。これはロイエンタールと金髪の坊やのコバンザメになって生涯安泰に暮らそうと思ったら家が権力闘争の煽りを食らって没落。目出たく同盟に亡命と相成りました。せっかく2人とは良好な人間関係を育み、アンネローゼともいい感じだったのが……

まあ、仕方ないと諦めて自由惑星同盟に渡ったら両親が長旅に祟って病死。生きて行くために仕方なく士官学校の戦術研究科に入学。でもそこで未来の魔術師と親友になれたからまあいいだろう。基本的にはヤンとラップとバカをやりながら卒業。現在に至る……

 「何を言ってるんだい、シュタイナー」

 「うんにゃ、なんでもねえよ」

今は宇宙歴788年のエル・ファシル。俺の隣にいるのは自他共に認める親友であるヤン・ウェンリー。そうですね、これはヤンが有名になるエル・ファシルの脱出戦ですね。

 「やれやれ。俺たちもリンチ少将に嫌われたもんだな」

 「無駄飯食いに亡命貴族だからね」

 「ヤンはまだしも俺のはどうしようもない気がするんだが」

 「仕事はできるのに」

 「運動神経が切れてる人間と一緒にしないでくれ」

 「素手で戦艦の装甲を破れる人外よりかはましだと思うよ」

 「俺が人ではないと申したか」

 「え? 人間だったのかい?」

なんと失礼な奴だ

 「まあ、バカな話しはここまでしてお仕事の話しをしようか……」

 「積極的賛成。とりあえず脱出に必要な数だけの輸送艦は調達したぞ。ついでに不満が出そうだった民間人の代表団の連中も説得しといた」

 「流石。仕事が早い。どうやって説得したか聞いていいかい?」

 「無限リピートって恐くね?」

 「聞いた僕が間違ってたよ」

どこまでも失礼な奴だな

 「それじゃあ脱出艦隊の編成と部隊指揮をお願いしてもいいかい、シュタイナー少尉?」

 「任されましたよ、ヤン中尉」

資料に目を通し始めたヤンを放置してそこから立ち去ろうとすると、遠くから金褐色の髪を持った10歳中頃の少女が近づいてくるのが見えた

 「おい、ヤン」

 「うん?なんだい?」

 「フラグ乙」

 「は?」

さ〜て、不思議そうにしているヤンは放置して俺は生き残るためにお仕事をしてくるかな

 

 

 

とりあえず脱出準備はすべて完了して、後は脱出部隊の司令であるヤンのゴーサインを待つだけになった。いつまでも出発の指令を出さないヤンに不安そうに見てくる下士官や民間人は多いが、暢気に話している俺とヤンを見て毒気が抜かれているのか直接文句を言ってくる奴はいない

 「以上が俺の730年マフィアに対する考察だが、おまえさんの意見は?」

 「そうだね……基本的な意見には賛成かな。でもアッシュビー提督の情報網は同盟と帝国全土に張り巡らされたスパイ網だったって意見は賛成しかねるな」

 「そうか? あそこまでの暴走的戦術判断を下せるのはスパイ網があったからでしっくりくるんだが」

 「その根拠もあるのかい?」

 「もちろんだ」

 「ヤン中尉!!」

俺が原作知識を利用してヤンと歴史談義をしていると、下士官が慌てた様子でヤンのところにかけよってくる。

 「何かあったかい?」

 「り、リンチ少将が我々を置いて脱出をしてしまいました」

その発言に軍人、民間人関係なく大騒ぎになる。ヤンは民間人の代表に詰め寄られている。民間人の相手を俺に全部丸投げしやがったからな。いい気味だ

 「しゅ、シュタイナー少尉。どうなさるんですか!?」

ヤンを見ながらニヤニヤしていたら軍人達は俺のところに来ている。暑苦しい野郎はいらん。美人な女性を要求する。心の底からそう思ったが、口に出したら問題だったので別のことを言う

 「そんじゃあ、ヤン。リンチ少将がようやく行ってくれたから俺たちも行くか」

 「ああ、うん。そうだね」

 「は? ど、どういう意味かね」

俺とヤンの会話に民間人の代表者が困惑したように俺たちに尋ねてくる

 「帝国軍の目は全部リンチ少将にむかっているということです」

 「ま、過程がどうであれ結果的には民間人を逃がすための囮になったんだから充分に美談でしょうよ」

ヤンの発言の後に俺が皮肉を言い放ってやるとあたりが静まりかえった。およ、外したか

 「まあ、とにかくは脱出しましょう。まずは無事に安全なところまで行くことです」

ヤンの言葉にその場にいた人々は一斉に動き出す。俺とヤンも指示を出すために働き始めるのだった。

 

 

 

ハイネセンまで辿り着くと、歓声が出迎えてくれた。艦隊指揮や民間人のことをやらなければいけない俺はまだ艦内にいる。先に外に出たヤンは政治家やジャーナリストに囲まれている。

 「英雄に仕立て上げられた奴は大変だ」

 『ヤンのことか』

 「もちろんですよ」

通信をしている相手はアレックス・キャゼルヌ。気のいい先輩だ

 『しかし、おまえさんも色々な才能を持っているな。今回のこの脱出名簿の資料を作ったのもそうなんだろ?』

 「指揮していた人物がこういうことには使えない人間だったんで」

 『それに艦隊指揮もか。参謀、分艦隊司令、後方責任者。どれでもできるな』

 「後方責任者がいいですね。死ぬ心配が一番少ない」

 『手柄を立てられんぞ?』

 「残念ながら命のほうが大事です」

俺の発言にキャゼルヌ先輩は大笑いしてくる。失礼な話しだ

 「とりあえずは早く帰って寝たいんですけど、何か資料に不備はあります?」

 『いや、特にはないな。そうだ、おまえさんとヤンは3日後空いているか?』

 「3日後ですか? ヤンは知りませんが俺は大丈夫ですよ」

 『そうか。じゃあ夜は空けておけ。美味い飯を食わせてやる』

 「ありがたい。最近は碌に寝てない上に碌に食ってなかったから助かります」

 『おまえがそんなんてことはヤンもだな。やれやれ、しっかり栄養補給させてやる』

 「ゴチになります」

 『よし、じゃあ報告はこれまでだ。ご苦労だった、シュタイナー少尉』

 「は!!」

最後にキャゼルヌ先輩に敬礼を返すと通信が切れる。これで俺の今回の任務は無事に終了。さて、家に帰りたいんだけど表にはまだ大変そうにしているヤンの姿がある

 「仕方ない。もうちょっと艦内の点検で時間でも潰すか」

俺の安泰のためにヤンには人身御供になってもらおう。原作ではそうだったし、特に問題ないだろう




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
現代日本から銀河英雄伝説の世界に転生した主人公。帝国時代から未来の戦乱を見据えて帝国内の領土内を調べており、それをまとめて同盟にも持ってきていた。運動神経お化けで素手で戦艦の壁をぶち破れるが艦隊戦メインの作品なので生かされることはない

ヤン・ウェンリー
原作主人公の戦争チート。ヘルベルトとは親友



作者の他の作品をお読みのことはいつもありがとうございます。初めての方は始めまして。

作者は昔から銀河英雄伝説が大好きで原作は何回も読み、旧アニメもBlu-rayBoxを買っているくらいのクソオタクです。

更新頻度はどの程度かわかりませんが、最低でも月一で更新していけたらと思っています。


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002話

銀河の歴史がまた一ページ……


エル・ファシルから帰還して半月、ヤンは原作通りに二階級昇進して少佐になった。副官のような役割をして仕事をした俺は一階級しか昇進しかしなかったが、これはヤンの英雄性を高めるための政治的判断だと思う。その証明に俺は後日に昇進が内定している。一緒に引き上げてきた全員が同じ処置になるようだ。帰還した当日は、ヤンの官舎にジャーナリストや野次馬が集まっていたらしく、俺の家にヤンが逃げ込んできた。俺も鬼じゃないからな、三日間は匿ってやったよ。俺も、ヤンも彼女いないからな。ラップの野郎、上手くやりやがって……

そんな中で俺は後方基地勤務の辞令を受けた

 「前線での適性を見たから、次は後方での適性でも見ようとしているんだろう」

とはキャゼルヌ先輩の発言である。俺もヤンと一緒で地味にシドニー校長に名前覚えられているからな〜。いやだ、いやだ

 「で、俺は異動の準備で忙しいんだけどな? 下らない用事だったらぶっ飛ばすぞ」

 「やれやれ、恐いね」

慌ただしい準備をしている俺の官舎にやってきたのはヒマしているヤンである

 「せっかく来たんだったらちょっと手伝えよ。もしくは要件をさっさと言え」

 「わかった、手伝うよ」

俺の言葉にヤンは苦笑しながらも立ち上がるのだった

 

 「で、何のようだ?」

片付けが一段落し、俺は紅茶を入れてソファーに座る。対面のソファーにはヤンがカップを片手に腰掛けていた。

 「シュタイナーに尋ねたいことがあるんだ?」

 「なんだ? 金と女以外の相談事だったら何でも言ってみろ」

俺の発言にヤンは苦笑すると、再び口を開く

 「新しい任務を拝命してね。その任務の内容がちょっと奇妙なんだ」

 「へえ。どんな内容だ?」

そう言いながら俺は紅茶を口に含む

 「ブルース・アッシュビー元帥が謀殺されたかどうかの真偽を確かめろって命令さ」

だが、ヤンの発言にせっかく口に含んだ紅茶を吹き出してしまった。ヤンも苦笑しながらかかってしまった紅茶を拭き取る。

ブルース・アッシュビー。同盟軍史上最大の人気と尊敬を集める英雄。連戦連勝のまま、最後の戦いにも勝利しながら戦死した歴史上の偉人。「730年マフィア」とも呼ばれる幕僚団を率いて帝国軍を苦しめた

 「まあ、ひょっとしたらいずれはおまえが同盟で最大の人気を集めることになるかもしれないけどな」

 「よしてくれよ。今後10年は昇進する予定もないんだから、英雄になんかなれないさ。それにその前に……」

 「引退するってか? シトレ校長が逃がしてくれたらいいな。あの人、おまえのこと買っていたじゃないか」

 「君も人のことは言えないだろ?」

 「まあな」

俺が笑いながら言うと、ヤンも笑った

 「それで……シュタイナーはどう思う?」

 「ふむ……」

ヤンに尋ねられると、俺は考え込む。こういう話しになるってことは、これは外伝の『螺旋迷宮』か。

 「謀殺の可能性があるとしたら第二次ティアマト会戦のはずだろ? アッシュビー元帥が謀殺できる余裕があるんだったら、帝国軍があの戦いに負けるとは思えないんだがな」

 「僕も同感だ。だが、シュタイナーは前にアッシュビー提督が勝てていたのは帝国・同盟の双方に伸びたスパイ網があったからだって言っていただろ? そのスパイ網を帝国軍が利用してアッシュビー元帥を謀殺したんじゃないかと思ってね」

 「馬鹿言え。俺の立てた仮説も、こっちにある情報と、帝国にいたころに調べてみた情報をまとめた上での仮説にすぎんよ。だから信憑性も薄い。わかっていることだろ」

あとは原作知識もあるけどな

 「第一、俺がそのスパイ網を使えるんだったら、730年マフィアをまとめて葬っているよ。そうしたら同盟軍の軍部にも大きなダメージを与えられるしな。それに、第二次ティアマト会戦には俺の爺さんが分艦隊司令として参戦していた。爺さんがそのことすら気付かない無能な爺さんだったとは考えたくないしな」

俺の言葉にヤンは全く同感だと言った風情にため息を吐く

 「僕もそう思うんだよ。色々な資料を調べてみたけど、どう考えても謀殺には行き着かないんだよ」

 「だろうな。仕方ない、資料の根拠になるかはわからんが、俺の記憶と数少ない帝国から持ってきた資料の中で使えそうなのを俺の出発までに纏めてからお前にやるよ」

 「悪いね、助かるよ」

 「かまわんよ」

そう言って2人で紅茶を飲む。あ、そういえば

 「なあ、ヤン。どうせだったら730年マフィア本人に会ってみたらどうだ?」

 「本人っていうとアルフレッド・ローザス退役大将かい?」

 「その通り」

 「……どうやって知り合いになったか聞いても大丈夫かい?」

 「俺の持論を証明するような情報を聞けないかどうか聞きに行ってからだな。予想外にローザス提督に気に入られていてな。それ以来、ちょくちょく会っているんだよ」

 「相変わらず顔が広いね」

 「褒めるなよ」

 「照れるなよ」

軽口の応酬を少し済ますと、ヤンは立ち上がる。俺も立ち上がって玄関まで見送っていく

 「それじゃあ頑張れよ、探偵さん」

 「激励として受け取っておくよ」

俺の皮肉に髪を掻き混ぜながら返すと、ヤンは帰っていくのだった

 

 

10月の初頭。俺はヤンと一緒にアルフレッド・ローザス提督の家にむかって歩いていた。実は、俺の新しい任務の出立日も今日なのだが、流石に紹介した手前俺が案内したほうがいいだろうと思ったのである

 「10月は黄昏の国。人と光は黄昏のなかを声もなく歩み去る……か」

 「知らなかったな。今をときめくエル・ファシルの英雄殿は随分と詩人でいらっしゃる」

 「秋だからね。感傷的にもなるさ」

 「似合わないキャラ付けは止めとけよ」

 「そんなに似合わないかい?」

 「ラップだったら絵になるだろうけどな。俺やおまえさんには無理だろ」

 「それは残念だ」

言葉ほど残念には思っていないようにしか思えない

 「ま、感傷的になるのもわかるがね。こんな綺麗な道だったら恋人と歩きたかった」

 「いるのは残念ながら悪友だからね」

ヤンの言葉に2人同時に肩を落とす

 「ないものねだりをしてもしょうがない。ほれ、ついたぞ」

 「ここかい?」

 「庭もちゃんと手入れされていて綺麗だろ?」

 「確かにね」

口でヤンに説明しながら、俺はチャイムを鳴らす

 『はい、どちら様ですか?』

 「シュタイナーです。ローザス提督にお話を伺いたいという歴史学志望の駆け出し軍人を案内してきました」

 「人のこと言えないだろ?」

俺の紹介にヤンが小声で突っ込んでくる

 『ふふふ、ヘルベルトさんね。今、玄関を開けるわ』

そう言われてからすぐに門扉の鍵が開けられたので、俺とヤンは敷地内へと入っていく。そして玄関の扉が開けられると、そこにはアルフレッド・ローザス提督の孫娘であるミリアム・ローザスだった

 「お久しぶりですね、ミリアム嬢。これはお土産です」

 「あら、美味しそうなケーキね。ヘルベルトさんも昇進おめでとう」

 「ありがとう、と素直に言っていいんですか?」

 「いいんじゃないかしら? 人を殺して得た階級じゃなくて、人を生かして得た階級なんだから誇っていいと思うわ」

ミリアム嬢の発言に俺とヤンは同時に苦笑する。相変わらず可愛らしい顔をして厳しいことを言う娘だよ。

そのまま俺とヤンはミリアム嬢に促されてローザス提督の部屋まで案内される。扉が開かれると、椅子にローザス提督が座っているのが見える。俺とヤンは同時に敬礼して挨拶する

 「ローザス閣下、お久しぶりです。今回は突然の訪問で申し訳ございません。こちらはヤン・ウェンリー少佐であります」

 「ヤン・ウェンリーです。今回は突然の訪問で申し訳ありません」

 「私こそ訪ねていただいて光栄だ。私のように半分、世を捨てた者でもエル・ファシルの英雄の名は知っている。ヘルベルトからも君の話しをよく聞いていたよ」

ローザス提督の言葉に、ヤンが何を話したか俺に視線で問いかけてきたが、俺は意識的に無視した。

 「しかし、ヘルベルト。君は今日、任務地に出発だったのではないかね?」

 「ええ、まあ。実はもう出発しなくちゃ間に合わない可能性もあります」

俺の言葉にローザス提督は苦笑し、ヤンは困ったように頭を掻いた

 「すでに宇宙港のほうに荷物を運んであるので御安心を。後はこの体が1つ行けば問題ありません」

 「ふむ、そうか。見送りはいるのかね?」

 「いないと思いますよ。友人、先輩、後輩全部が仕事だと思いますので」

 「見送ってくれる恋人は?」

 「いたらローザス提督にはご紹介していますよ」

俺の苦笑しながらの言葉に、ローザス提督は面白そうに笑った

 「ミリアム。シュタイナー大尉がご出発のようだ。宇宙港まで行ってお見送りしてきなさい」

 「わかったわ」

ローザス提督の言葉に、紅茶を運んできたミリアム嬢が答えた

 「良かったわねヘルベルトさん。美人の見送りがついたわよ」

 「羨ましい限りだね」

 「美人ではあるが、とびっきりのじゃじゃ馬だよ」

ヤンの茶化しに俺が肩を落としながら言うと、ミリアム嬢は不満そうな顔になった

 「ヘルベルト、次はゆっくりできる時に来なさい」

 「了解しました。それではローザス提督、失礼します」

最後にローザス提督に敬礼をしてから部屋を出る。その際にヤンともアイコンタクトを行なっておく

 (頑張れよ)

 (ああ、シュタイナーも新天地で頑張りなよ)

 (出来る範囲内でな)

俺が部屋から出て行くと慌てた様子でミリアム嬢がついてくるのだった

 

 

宇宙港には人が大勢出ていた。俺の乗る便ももうすぐ搭乗開始である

 「でも、本当に見送りの人いないのね。友達少ないんじゃないの?」

 「狭く深くがモットーでして」

 「負け犬の遠吠えみたいよ?」

 「失礼な」

ミリアム嬢の言葉に俺は少しだけ憮然とした表情で見る。それを見てミリアム嬢は楽しそうに笑う。ローザス提督の話しだと、幼い頃に両親を亡くし、兄弟もいなかったミリアム嬢は、俺のことを兄だと思っているらしい

 「それで? ヘルベルトさんはいつ帰ってこれるの?」

 「さあ、ねえ。ひょっとしたらこのままずっと後方勤務の可能性だってありますからね」

俺の発言にミリアム嬢は不満そうな顔になる

 「そんな不満そうな顔しないでくださいよ。次は遊びにでも連れていってあげますから」

 「……約束よ?」

 「もちろんです」

俺の言葉に今度は満足そうに頷く。それと同時に、俺の乗る便の搭乗が開始された

 「それじゃあ、ミリアム嬢、お元気で。ローザス提督にもよろしくお伝え下さい」

 「わかったわ。ヘルベルトさんも頑張ってね」

そう言って最後に握手をすると、俺は搭乗ゲートに歩を進めるのだった




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
亡命者なのに730年マフィアと謎の繋がりがある主人公

ヤン・ウェンリー
悲報:英雄、探偵になる

ミリアム・ローザス
ヘルベルトくんの妹分

ローザス提督
730年マフィア唯一の生き残り。ヘルベルトくんを気に入っている



そんな感じで螺旋迷宮の導入の第二話でした。

ですが主人公のヘルベルトくんは後方勤務なので螺旋迷宮編はこれで終了。

ミリアム・ローザス嬢は個人的に好きなキャラなので今後も出番がある予定です


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003話

銀河の歴史がまた一ページ……


やあ、諸君。時代は流れて792年まで進んでしまったよ。俺が辺境任務に着いている間にアルフレッド・ローザス提督が亡くなってしまった……ミリアム嬢から連絡を受けて、世話になったから葬式には参加したかったんだが、いかんせん辺境任務に着いていたために参加できなかった。これは申し訳ないことをしたと今でも悔やんでいる。ミリアム嬢はフェザーンに婚約者がいるらしいから心配しないでくれと言われたが、ヒマを見ては連絡を取っている。可愛い妹分だしな。

ちなみにアルレスハイム星域会戦にも幕僚の1人として参戦し、艦隊統率や作戦提案をしたらそれが上手くはまってしまい戦功をたててしまった。その結果に少佐に昇進、今は第五次イゼルローン攻防戦である。ここで久しぶりにヤンと後輩のアッテンボローに会った。俺たちは総司令であるシドニー・シトレ大将の参謀チームとして働くことになっている。

 「我が軍は四度にわたって眼前のイゼルローン要塞攻略に挑み、四度にわたって敗退をした。まさに不名誉な記録と言えるだろう」

ちなみに今は会議の真っ最中だ。アルレスハイム星域会戦から帰還したらすぐさま転属、出陣はないわ。校長、ドン引きですよ

 「今回の遠征は、この不名誉な記録を中断させるのが主目的である。記録の更新を防ぐため、各艦隊指揮官および参謀陣には作戦を完遂できるよう最大限注力して欲しい。ヤン少佐、資料を」

 「了解しました」

そういって資料が表示される。ここはやはり原作通りに進むらしい。帝国艦隊にコバンザメのようにひっついて動き、要塞主砲を封じる手段だ。確かにこれなら要塞主砲は撃てないだろう。ただし、普通の感性の持ち主なら、だ

 「難しそうな顔をしているな、シュタイナー少佐。何かあるのかね?」

どうやら顔に出ていてしまったようだ。シトレ大将が楽しそうに俺を見ている

 「いえ、今回の作戦なら要塞主砲を封じることができると思われます。ただし……」

 「ただし?」

俺の言葉に参戦していたボロディン中将が尋ねてくる

 「要塞防御司令官がまともな神経でしたらです」

俺の発言に会議に出席していた全員が腑に落ちない顔になる。それはそうだろう。俺も急にそんなことを言われたら返答に困る

 「イゼルローン要塞は2人の大将により守られています。1つは駐留艦隊司令官、もう1つは要塞防御司令官です」

そこまで言って俺はベレー帽の位置を整える。

 「2人の関係が良好なら何の問題もないのですが、実を言うとその両名の仲が良好だというのは過去にありません」

 「……我々が食らいついて要塞に取りつこうとすれば、味方諸共吹き飛ばすということか」

 「その可能性は高いかと」

シトレ大将の言葉に俺は頷く

 「ふむ……その情報の信憑性は?」

 「私が銀河帝国にいたころに、実際に要塞防御司令官の任についていた大叔父の言葉なので信憑性は高いかと」

 「なるほど、内部情報のようなものだな」

ボロディンの楽しむような発言に、俺は苦笑で返す

 「よろしい、ならばそれに対する作戦をシュタイナー少佐とヤン少佐の両名で考えてみてくれ」

 「「了解しました」」

俺とヤンは同時にシトレ大将に敬礼を返す。学生時代の俺とヤンが組んだ時の作戦成功率を考えての編成だろう

 「以上だ、詳しいことが決まりしだい連絡する。解散」

シトレ大将の言葉に各艦隊司令官や参謀チームも部屋から出て行く。俺もヤンとアッテンボローと並んで部屋を出た

 「でもシュタイナー先輩も要塞防御司令官と駐留艦隊司令官の不仲なんてよく覚えていましたね」

 「な〜に、滅多なことでは怒らない大叔父がぶちぎれていたのが印象深くてな。子供心にそれでいいのか帝国軍と思ったもんさ」

俺の言葉にアッテンボローは面白そうに笑い声を挙げた

 「しかし、そんな話しを聞くと相手も人だって感じるね」

 「当然だろ。ヤンには俺がエイリアンに見えるのか?」

 「エイリアンには見えないけど、人類に分類していいかは迷うところだね」

 「……言ってくれるじゃねえか」

 「くっくっくっ。相変わらずですね、お二人は」

俺とヤンのやり取りをアッテンボローは楽しそうに見ている

 「さて、俺とヤンは修正案を考えなくちゃいけなくなった。アッテンボローはどうする?」

 「お邪魔させていただきますよ」

 「おまえも相変わらずだね」

そういいながらヤンは執務室を開ける。参謀長には個室だが、参謀チームには2人で一室の執務室が与えられる。ここは俺とヤンの部屋だ。俺はソファーに座り、ヤンは机の上に座る。アッテンボローは入り口近くのところにたっていた

 「さて、ヤン。どうするね」

 「シュタイナーに案は?」

 「なくもない。おまえは?」

 「同じさ」

 「是非とも拝聴したいね」

俺の言葉にヤンは疲れたようにため息を吐いてくる

 「やれやれ、どうせ考えていることは一緒だろ?」

 「念のためさね」

 「ふう、僕が考えたのは要塞主砲が発射されたとしても被害をどれだけ少なくできるかってことさ」

 「同感だ」

ヤンの言葉に俺も頷く。すると今度はヤンが俺に話すようにふってきた

 「俺なら艦隊をいくつかに分散させる。4つに分けたら一艦隊あたりが少なくなるからな、3艦隊くらいがベターってところか」

 「そこにさらに最初に要塞主砲の射程に入る部隊を無人艦艇中心にして編成したらいいと思うんだけど」

 「ああ、そりゃあいい。それならさらにリスクも少なくなる。ならそれで出しちまうか」

 「そうしよう」

 「……相変わらずお二人とも脳の回転が早いですね」

 「「ありがとう」」

アッテンボローの褒め言葉に俺とヤンは同時に返すのだった

 

 

 

 

第五次イゼルローン要塞攻防戦は、結果から言うと敗北した。艦隊を分散したおかげで、被害はそこまで大きくなかったが、発射された要塞主砲が艦隊旗艦に直撃して消滅してしまったのである。そこから帝国の反撃が始まってしまい。二発目の要塞主砲で止め。ボロディン中将のおかげで、被害は最小までとどめられたが、それでも受けた被害が大きい。

 「ま、しばらくイゼルローン陥落は無理かな」

 「暢気だね」

ヤンは苦笑しながら俺に言う。こいつが4年後には目の前のイゼルローン要塞を落とすってんだから驚きだ。俺とヤンは紅茶を飲みながら星を見ている

 「シュタイナーならイゼルローンをどうする」

 「無視する」

俺の発言にヤンは驚いたように俺を見る。そんなおかしいことは言ってないだろ?未来でおまえがこれに近い発言をするぜ?

 「どういう意味だい?」

 「帝国に行く道は一本じゃないだろ」

俺の言葉にヤンは納得したように頷く。これだけで納得しちゃうんだからこいつはすごいよな。原作を知らなかったら俺は気付かないぞ

 「なるほどね、それは盲点だったよ」

 「それじゃあおまえさんはどうやってあれを落とそうと考えているんだ?」

 「シュタイナーはどうだい?」

ヤンの言葉に俺は黙って紙とペンを用意する。これに自分達が考えているものを書いて同時に見せるのである。学生時代からやっている1つの遊びだ

 「それじゃあ」

 「せ〜の」

ヤンの掛け声と共に2人同時に書いた紙を見せ合う。そこには同じ単語が書かれていた。それを見て俺たちは笑い合う

 「同じ考えか」

 「そうみたいだね」

俺たちが書いた単語。それは『内部』であった。




シュタイナーくん
シトレに気に入られているので色々なところに飛ばされて昇進速度も早い

ヤン
原作主人公。公式チート

シドニー・シトレ
シュタイナーとヤンを気に入っているので色々贔屓している模様

ボロディン中将
同盟が誇る名将の一人



そんな感じで第三話です。ほとんどヤンに寄生している主人公くん。だってこの辺はあまり原作改変したくないんや

そして突っ込みされまくった階級問題ですが、この作品ではそういう設定ということにしておいてください。だってこの作品はSF(少し不思議な)小説ですから

さらっとでてきてさらっと活躍しているボロディン中将。作者の推しなので今後も機会があったら贔屓していきます(予告


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004話

銀河の歴史がまた一ページ……

シュタイナー家に家族追加

ちょっと無理矢理感は否めませんが細かいことは気にしないでください


さてさて、第五次イゼルローン要塞攻防戦から帰還したら、ヤンと一緒に中佐への昇進を果たした。ヤンと組むことが多いせいか出世スピードが早い。なんというチート。

そして帰還してからおかしな通知がきた

 『トラバース法に関する規定での子供の養育について』

どういうこっちゃね。これは結婚家庭に行くべきことではないのか。とりあえず思いつく限りの悪態を吐き、中身を確認する。すると俺が保護者になる被保護者の情報が入っていた

 『カーテローゼ・フォン・クロイツェル

  母親は帝国からの亡命者。同盟軍に所属していたが病死』

俺は一陣の風となってキャゼルヌ先輩に襲撃をかけた

 

 

 

俺の言葉をどこふく風。気がついたらシェーンコップの娘を引き取ることになっていた。『おまえなら亡命者の苦しみがわかってるだろう?』なんて言われたら否定できないよ。同盟にも地味な差別ってあるからな〜。亡命者だからこそ、俺も英雄としては扱われないわけだし。ま、それで助かっているけどな

そんなこんなで、俺は急ピッチで部屋を片付けている。流石に俺にもプライドがあるので、原作のヤンのように汚い状態で迎えられはしない。あの状況で迎えたヤンはおかしいよ。可憐な少女に有害なデータは何重にもプロテクトをかけて簡単には開けないようにし、さらにパスワードを間違えると自動で消滅するようにしておく。さらに室内に散乱していた本などもすべて片付ける。

部屋の整理整頓を終え、本人が来る当日になって、俺は重大なことに気がついた

 「女の子の必要な物や、必要になる物なんかわからんぞ。俺は」

さてどうするか。ここで助けを求めるとしたら3人。1人目はこの状況を作り上げた張本人の奥方であるオルタンス・キャゼルヌ夫人。2人目は友人の恋人であり、本人とも友人であるジェシカ・エドワーズ。3人目は妹分であるミリアム・ローザス。このうちミリアム嬢はハイネセンにはいない。ジェシカはデートだと昨日、俺の家に来たラップが言っていた。そうとなるとキャゼルヌ夫人か。そう思って俺がヴィジホンを取ろうとすると、それより先にヴィジホンが鳴り始める。俺は内心、首を傾げながら電話を取ると驚くべき相手だった。

 

 

 

 「しかし、ミリアム嬢がハイネセンに来ていて助かりましたよ」

 「私も驚いたわ。ヘルベルトさんに私の結婚相手の紹介に来たはずなのに、急に『女の子の生活に必要な物の買い出しに付き合ってください』だもの」

ミリアム嬢はそう言って楽しそうに笑い、俺は苦笑した

 「ヒューガーさんもすいませんね」

 「あ、いえいえ。こちらも楽しくすごさせていただきました」

俺を見て微笑しているイケメンはスレイン・ヒューガー氏。フェザーンのやり手商人で、俺とたいして年は変わらないが、すでに財を築き始めているらしい。性格も温厚で人の良さそうな好青年である。さすがはローザス提督。人を見る目は確かだったようだ

 「でも、ヘルベルトさんが子供を引き取るなんてね」

 「私も驚きですよ。急に8歳のパパになれって言うんですから」

ミリアム嬢の言葉に返すと、ミリアム嬢はさらに楽しそうに笑い、ヒューガー氏も楽しそうに微笑んだ

 「せっかくだから、お二人も彼女の歓迎会に参加していきませんか?」

 「私はいいけど、スレインは?」

 「ええ、是非参加させてください。シュタイナーさんの娘さんなら、私達にとっては姪のようなものです」

ヒューガー氏の言葉に俺は優しく微笑むだけだった

 「他に誰が来ることになっているの?」

 「そうですね……ヤンにアッテンボロー、それにラップとジェシカのカップルに、来れたらキャゼルヌ一家ですね」

 「あら、意外と多いのね」

 「ヤンとアッテンボローは俺をからかいに来るだけでしょう。『相手もいないのに娘ができた』とか何とか言いにね」

 「仲が良いんですね」

 「否定はできませんよ」

ヒューガー氏の言葉に俺は疲れたように頷くのだった

 

 

 

 

そんなこんなで夜。もうすぐ俺の被保護者になるカーテローゼ・フォン・クロイツェルが来る時間である。キャゼルヌ先輩とヤン、ラップ、それにアッテンボローとヒューガー氏はソファーに座って談笑しており、それなりに盛り上がっているようだ。俺はミリアム嬢やキャゼルヌ夫人、ジェシカと一緒に台所で料理を作っていた。キャゼルヌ家の嬢ちゃんたちは野郎陣が相手をしている。最初は料理が出来ることに驚いていた全員だったが(文字通り部屋にいた全員。どういう意味だ)、1人暮らしなのだからできて当然と返すと、納得したように頷いていた。ヤンはダメージを負っていたが

料理が出来て机に並べていると、俺の被保護者になる娘が家にやってきたようである。手の空いていたミリアム嬢が、キャゼルヌ家の嬢ちゃん達を連れて迎えに出る。俺も手に持っていた料理を机に並べ終えてから迎えに出ようとすると、その前に部屋に薄く入れた紅茶の色の髪と青紫の瞳を持つ、将来は美人に育つことがわかる少女が入ってくる。

 「初めまして、ヘルベルト・フォン・シュタイナー中佐。カーテローゼ・フォン・クロイツェルです。ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします」

そう言って自分の保護者になると思われる人物に挨拶をしている。うん、お兄さんもきちんと挨拶できる子は好きだよ

……でもそいつは違うから

カリンが挨拶をしたのは、仕事帰りに直接来たために軍服姿だったヤンであった。ヤンは困ったように頭を掻いている。

 「え〜と、君の保護者になるのは僕じゃなくて、そっちなんだけど」

その発言に驚いたように、カリンはヤンの指のほうに振り向く。そこでさらに驚いた表情になった。

これから自分の保護者になる人は軍人で、その人物の家に行ったら見覚えがあって唯一軍服の人がいたから、その人だと思って挨拶をしたら人違いだった

で、本物の保護者になる人物は「イヌの絵が書かれているエプロン」をつけている人物だった。これは驚く。誰だって驚く。俺だって驚く。しかもその保護者は帝国では屈指の名家の貴族の生まれだったんだから驚きも倍増だろう。とりあえずは俺も置こうしていた料理を持った状態でカリンの前まで行く

 「え〜と、君の保護者になるヘルベルト・フォン・シュタイナーです。まあ、気軽にヘルベルトって呼んでくれるかい」

 「は、はい!! よろしくお願いします」

う〜む、固いな。余計に固くなってしまった気がする

 「とりあえず……一口どうだい?」

そう言って料理を進めると、最初は戸惑っていたようだが、覚悟を決めたのか乗っていた料理を一口食べる

 「あ……美味しい……」

 「それなら良かった。作った甲斐があったよ」

 「え!? て、手作りですか?」

 「うん、まあ。せっかく家族が増えるからね」

俺の言葉にカリンは恥ずかしそうに俯く

 「あ、ありがとうございます……」

 「うん、これからよろしくね、カリン」

そう言って恥ずかしそうに俯いているカリンの頭を、空いているほうの手で撫でてあげる俺だった。

 

 「いい親子になりそうだね」

 「そうだな。なんだかんだでシュタイナーも面倒見がいいからな」

 「言えていますね。シュタイナー先輩を慕っている奴って意外と多いですよ」

 「つまり、俺の目利きは正しかったってことだな」

 「年が近いのがちょっと問題くらいですかね」

 「確かに、親子にしては年が近いし、兄妹にしたら離れすぎてる」

そんな会話を男組はしているのだった




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
原作キャラを引き取ることになって大混乱

カーテローゼ・フォン・クロイツェル
シュタイナーにとってのユリアンポジション。元帝国屈指の大貴族、現同盟軍の出世頭に引き取られて緊張

ミリアム・ローザス
婚約者をつれてシュタイナーに挨拶に来たら女の子の必要なものを買いにいくことになった

ヤン・ウェンリー
仕事が遅くまであって顔をだしたら保護者に間違えられた。全ては有名人なのが悪い

アレックス・キャゼルヌ
全ての元凶




そんな感じでシュタイナー家に家族追加。ロリカリンちゃん!!

ヤンにとってのユリアンポジションなので割と重要キャラになる予定。

カリンちゃんがヤンを保護者と勘違いしたのは『どこかでみたことがある→たぶんもらった資料の写真だわ=礼儀正しい挨拶』って感じ

まだ子供だからエルファシルの英雄って言われてもわからないのです(たぶん


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005話

銀河の歴史がまた一ページ……


宇宙歴796年。俺は侵攻してきた帝国軍の迎撃のために第六艦隊の500隻ほどの艦隊を統率して戦場に出ていた。第六艦隊の司令官はムーア中将。しかも戦場はアスターテ。止めにとった戦法は三方位からの包囲戦。どう考えても原作開始のタイミングのアスターテ会戦ですよねぇ。しかも第六艦隊って敵前で戦場転換をやらかして全滅する艦隊だ。最悪すぎる場所である。

幸いなことにムーア中将に嫌われているので、編成の外れに置かれたので助かったという点だ。さらに幸いなことに俺の原作知識でここに士官学校時代からの友人であるジャン=ロベール・ラップ少佐がいるとことを知っている。ラップの性格上、ムーア中将から嫌われるのはわかりきっていたので、ムーア中将にかけあって俺の艦隊にきてもらった。

 「さ〜てと、ラップよ。第四艦隊はどうなったと思う」

 「おそらくは全滅しただろうな」

艦橋で俺と参謀となったラップは軽く会話する。一応、ムーア中将にヤンがいる第二艦隊との合流を進言したが、全体の指揮に口を出すなと言われて怒られた。

 「困ったもんだな。俺はカリンの将来があるからまだ死ぬわけにはいかないんだが」

 「奇遇だな。俺もジェシカとの結婚があるから死にたくない」

トラバース法によって我が家にやってきたカーテローゼ・フォン・クロイツェルことカリンとは友好的な仲になっている。むしろ、実の父親のように慕われている。俺も実の娘のように可愛がっていた。その後にヤンの家にもユリアン・ミンツ少年がやってきた。その後にお互いの家で顔合わせを行い、カリンとユリアンは友人のような関係になっていた。

その後も酒場で酔いつぶれた俺とヤンを何度も迎えに来てくれたことには感謝している。

ラップもこの戦いの後にジェシカ・エドワーズと結婚するそうだ。

 「それで? シュタイナー准将はどのくらいで来ると思っているんだ?」

 「もうそろそろ来るだろうな」

俺とラップの会話の瞬間にオペレーターから敵がやってくる報告が入る。

 「規模は?」

 「二万隻です!」

オペレーターの言葉に俺とラップは肩をすくめる。

 「第四艦隊は全滅したようだな」

 「まぁ、各個撃破のいい的だわな」

 「旗艦ペルガモンより通信! 『全艦反転して迎撃せよ』とのことです!」

 「頭悪いんじゃないか、ムーア中将は……」

司令官からの通信に俺は思わず呟く。原作知識もあったが、この世界では戦術も学んだ。それのおかげでこの命令の愚劣さがわかる。

敵艦隊の一部の動きが悪いのを見破った。おそらくは貴族の提督だろう。脱出を狙うのならあそこだな。

敵艦隊の砲撃で第六艦隊総旗艦ペルガモンの消滅の報告を聞いて俺はすぐさま行動に移す。

 「全艦、伝達していた通りに陣形をとれ」

俺の言葉にラップが俺の艦隊に命令を伝達させる。少しの時間で陣形を取らせると、動きの悪かった一部の艦隊に突撃する。

士官学校時代から戦術や艦隊運用ではトップクラスの成績を誇っていたので、少しも難しい仕事ではない。

 「敵艦隊突破!」

 「それじゃあ、さっさと雲隠れするぞ。ここにいたら残党狩りで死ぬ」

オペレーターの嬉しそうな言葉に、俺は手を振りながら答える。俺の艦隊には第六艦隊の残党もついてきていた。その数は少数だが約2500隻程度。合計で3000隻程度になった。

 「このまま逃げるのか?」

 「まさか。せっかくだから第二艦隊のヤンを助けに行くとしよう」

ラップの言葉に俺はニヤリと笑いながら答えるのであった。

 

 

 

 

 「おやおや、パエッタ中将が負傷したか」

 「その後に誰が指揮官になるかだな」

俺が暫定的に率いることになった第六艦隊3000隻は第二艦隊と帝国軍の戦う戦場の近くで、レーダーに映らないように潜んでいる。

 『全艦隊に告げる。私はパエッタ総司令官の次席幕僚ヤン准将だ。旗艦パトロクロスが被弾し、パエッタ総司令官は重傷をおわれた。総司令官の命令により、私が全艦隊の指揮をひきつぐ』

 「お、ヤンは生きていたか」

 「相変わらず悪運の強い男だ」

 「シュタイナーそれはブーメランだから」

ヤンの放送を拾って聞きながらラップと会話する。

 「これからどう動くんだ?」

 「ヤンの手助けをするさ」

俺はそう答えると艦隊に指揮を出す。

 「全艦出撃! 第二艦隊を援護するぞ!」

俺の指揮によって第六艦隊残党3000隻が帝国軍に襲いかかる。敵もこちらの動きに気づいていなかったのか、混乱に陥る。ヤンのことだからこの隙に態勢を整えるだろう。

こちらも相手の動きに対応し始めたのを見てすぐさま退却する。一部が突出してこちらに向かってこようとするが、ヤン率いる第二艦隊が帝国軍に攻撃を開始したので、少数のこちらでなく第二艦隊の相手に注視し始めた。

 「ラップ少佐。こちらの損害は?」

 「98隻。まぁ、少なくて済んだと言うべきだろうな」

奇襲とは言え被害は出る。俺はそれを聞いて同盟軍のベレー帽をとって団扇代わりに仰ぐ。

 「これからどうする?」

 「ラップにはあれに突入する勇気があるか?」

 「無理だな」

俺の問いかけにラップは即答した。今世界では意外と縁の深いラインハルトだが、原作通りに天才っぷりを発揮している。第二艦隊を相手にしながらこちらの動きにすぐさま対応できるようにしている。これに調子にのって突入したら宇宙の塵になるだろう。せっかく第六艦隊という死亡フラグを突破したのだ。これ以上は勘弁して欲しい。

しばらくは細かい艦隊運用で帝国の注意をひきつけるというヤンの援護をしていたら、ヤンは原作通りにラインハルトの紡錘陣形突入を逆手にとって帝国軍の背後に回って消耗戦を強いようとした。その時点で俺の仕事はやることがなくなったと言っていい。

ヤンとラインハルトはお互いに呼吸を合わせるようにお互いに軍勢を退いた。俺もヤンの第二艦隊の側による。

 「第二艦隊総旗艦パトロクロスから通信です」

 「繋いでくれ」

オペレーターの言葉に俺がそう言うと、通信画面に悪友の顔が映った。ヤンは一瞬だけ驚いた表情をしていたが、すぐに呆れたようにため息を吐いた。

 『やれやれ……第六艦隊は全滅したと思ったんだけどな』

 「当然全滅さ。残存はここにいる約3000隻だけだ」

 『……司令部はどうなった?』

 「総旗艦ペルガモンは轟沈。ムーア中将は戦死した」

俺の言葉にヤンは沈痛そうな表情になる。ラップがムーア中将の幕僚を務めていたことを知っているからだ。

 「安心しろ、ヤン。ラップ少佐は生きている」

 「よう、ヤン准将。無事なようでなによりだ」

俺の通信にラップが楽しそうに通信画面に現れる。それを見てヤンは少し驚いているようだったが、すぐに嬉しそうに笑った。

 『驚いたな。どんな手品を使ったんだい?』

 「ムーア中将は嫌いな人間を一箇所に固めておきたかったみたいでな。俺の艦に幕僚として招いた」

 「ある意味ではムーア中将に命を助けられたな」

ラップの言葉に俺たち3人は笑い声を挙げた。せっかく死亡フラグを叩き折って生き残ったんだ。これくらいは許されるだろう。

 『シュタイナー准将はその艦隊の指揮と、生き残っている艦隊を探して欲しい。できるだけ助けてあげてくれ』

 「了解した」

 『それとラップは僕のところに来てくれ。実を言うとパトロクロスの損傷時に司令部にも戦死者が出て人手が足りない』

 「……アッテンボローはどうした?」

確かアッテンボローもヤンと同じく第二艦隊の幕僚としていたはずだ。

 『不幸中の幸いながら生きてますよ。まぁ、こんななりですけどね』

ヤンの背後に現れたのは片腕を吊っているアッテンボローの姿だった。ラップを生き残らせたバタフライエフェクトでアッテンボローが死んだかと思ったが、杞憂だったらしい。ヤンの背後で楽しそうに手を振ってきた。

 『そういうわけで、よろしく頼めるかい。シュタイナー准将』

 「了解です。ヤン准将。ラップ少佐を送り出したら救助任務に入る」

 

 

 

アスターテ会戦は同盟の大敗で終わった。投入した三個艦隊の内二個艦隊が壊滅、残りの一個艦隊の司令官も重傷を負った。政府はヤンを英雄に仕立て上げて大勝利とか言っているが、アホとしかいいようがない。

 「ヘルベルトさん。起きてください」

 「起きているよ、カリン」

部屋でボッーっとしていたらカリンがエプロンをつけてやってきた。

俺とカリンの関係性をダメ親父とシッカリ娘と言ったのはアッテンボローだったか。

カリンは呆れたようにため息をついている。

 「起きているなら早く来てください。戦没者慰霊祭に参加されるんでしょう?」

 「行かないよ、めんどくさい。どうせあれの主役は国防委員長だしな。生き残った将兵はお呼びじゃないさ」

 「そうなんですか?」

 「そうだよ。そうだな……カリンは同盟で生まれたから、どんな時に同盟が戦争を起こすか知っておく必要があるかな」

 「それも知りたいですけど、その前にご飯を食べてください」

 「……はいよ」

カリンに言われたので食卓へ向かう。ちなみに我らシュタイナー一家が住んでいるのは、原作でヤンも住んでいた軍用官舎の官舎である。ヤンの家も近くにあってしょっちゅうどちらかの家で酒を飲んでは歴史談義に花を咲かせてお互いの被保護者に叱られている。

俺はカリンの作ってくれた朝食を食べ終えると、ソファーに座る。カリンも俺に紅茶を入れると同じようにソファーに座った。

 「さて、カリン。同盟が軍を起こすのはどういう時が多いと思う?」

 「……帝国軍が攻めてきた時でしょうか?」

俺の問いにカリンは少し考えるようにして答えた。

 「それも間違っていない。イゼルローン回廊が帝国軍の手にある以上、攻撃の主導権を握れるのは帝国軍になる」

 「他にもあるんですか?」

カリンの問いかけにすぐには答えずに紅茶を一口飲む。

 「選挙が近くなると、だよ。カリン。思ったことはないか? 選挙が近くなると軍が出征することが増えると」

 「そうなんですか?」

気づいていなかった様子なので、過去の同盟軍の出征データと選挙時期のデータを映し出す。そこには選挙が近くになると軍の出動回数が増えているデータが出ていた。カリンはそれを見て驚いている。

 「見ての通りだ。政治家という生き物に限らず、為政者というものは民衆の視線を逸らすために戦争を起こすことは少なくない。これは人類の歴史が証明している」

これは俺とヤンの共通した意見である。

 「そうすると皇帝親政のほうがいいんでしょうか……」

 「一概にそうとは言い切れない。皇帝が名君ならば大丈夫だろうが、ゴールデンバウム王朝最大の暴君として知られるアウグスト2世のような人物だったら国は最悪だ。そして皇帝がマトモだったとしてもそれに仕える人物によっては国も傾く。現在のゴールデンバウム王朝ではブラウンシュヴァイク公爵家とリッテンハイム侯爵家がそれに当たるな」

ブラウンシュヴァイクとリッテンハイムの名前が出た瞬間にカリンが緊張するのがわかった。はて? カリンはあの二大貴族に関係があっただろうか。

 「……あの、ヘルベルトさんはブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム侯を恨んでいるんですか?」

 「うん? 何故だ?」

カリンの問いかけに本気に意味がわからない。なんで俺が両家を恨むなんて……ああ、亡命のことか。

 「確かに俺が亡命することになったのはブランシュヴァイクとリッテンハイムのせいだけど、そこまで恨んじゃいないよ。時勢の流れもあっただろうしな」

俺が帝国にいた時のシュタイナー家は上級貴族であり伯爵の地位にあった。なんでも祖先はゴールデンバウム王朝の創建を手伝った功臣だったそうだが、出世欲や地位などには興味がなく、ルドルフからの再三の勧めで伯爵の地位をもらったそうである。そしてルドルフ直々にゴールデンバウム王朝皇帝に直答を許された家柄である。代々の方針で国政に口を出すことは少なく、門閥にもなろうとしなかったという奇特な一族である。暮らしも庶民的な生活を好み、そのおかげで幼少期にアンネローゼとラインハルトの金髪の姉弟と出会うことができたわけだが。

だが、ブラウンシュヴァイクとリッテンハイム家に嵌められて権力闘争をすることになり敗北。両親に連れられて同盟へと亡命へとあいなった

カリンもそのことを知っているから気を使ったのだろう。

 「気にする必要はないよ、カリン。帝国にいた時の友人と戦うことにちょっとは抵抗があるが、それでもヤンやラップ、それになによりカリンと出会えたからな。こんなに嬉しいことはない」

俺の言葉にカリンは嬉しそうな表情になった。その表情を見て俺も微笑む。確かに帝国にいた時の従兄弟であり親友だったロイエンタールとか弟分だったラインハルトと戦うことは嫌だが、こっちでも大切なものができてしまったのだから仕方ない。というか将来ラインハルト率いるチート軍を相手にすることを考えると憂鬱になる。まぁ、こっちには銀河英雄伝説最強チート(ただし頭脳のみ)のヤンがいるから頑張ってもらおう。

それから帝国と同盟における国の問題点をカリンに教えていると、官舎の呼び鈴が鳴った。それを聞いてカリンが玄関に出て行くのを見送る。

 「ヘルベルトさん。お客様です」

 「帰ってもらってくれ。何せ俺はアスターテ会戦の傷で寝込んでいる設定だからね」

 「奇遇だね。僕も同じ理由で寝込んでいるんだ」

聞き覚えのありすぎる声に入り口を見ると、ヤンがブランデーの酒瓶を片手に立っており、その隣にはユリアン少年も笑っていた。カリンも苦笑している。

 「おやおや、アスターテの英雄様がこんなところに来ていていいんですか? 今日の戦没慰霊祭の主役でしょうに」

 「あれの主役は戦没者と我らが敬愛すべき国防委員長殿さ。生者に用はないだろうさ」

 「だが国防委員長殿はおまえさんを呼びたがっているんじゃないか?」

 「そこまでの給料はもらっていないんでね。あぁ、悪いんだけどカリン。グラスをとってもらっていいかい」

 「……はぁ。ヘルベルトさんもヤン准将も飲みすぎないでくださいね。ユリアン、おつまみ作るの手伝ってくれる?」

 「そう言われると思って用意してきたよ」

 「手際がいいこと」

カリンもキッチンからグラスを二つ持ってくると、俺とヤンの前に置く。ユリアンも用意してきたつまみをテーブルに広げた。

 「ラップは?」

 「ジェシカと一緒に新居探しだとさ。あいつも戦没者慰霊祭はサボるみたいだな。アッテンボローは……聞くまでもないか」

 「アッテンボローが出るわけないだろ? 後でお酒もってここに来るってさ」

不良学生気分が抜けない連中である。アニメ版ではヤンはジェシカに対して好意を抱いている描写があったが、この世界ではない。

しばらくヤンとお酒を飲みながら談笑していると、ヤンの言葉通りにアッテンボローが酒瓶片手にやってきた。カリンがアッテンボローの分のグラスを用意し、ユリアンと二人でおつまみの追加を作り始めた。

 「いやぁ、シュタイナー先輩とヤン先輩の家はいいなぁ。あんな気がきくお子さんがいらっしゃるんだから」

 「それじゃあアッテンボローも引き取ったらどうだ。なんだったらキャゼルヌ先輩に相談してもいいぞ?」

 「それがいい。キャゼルヌ先輩もアッテンボローの問題児っぷりを心配しているようだしね」

アッテンボローの軽口に俺が牽制すると、ヤンが笑いながら止めをさした。アッテンボローは降参とばかりに両手を挙げた。

 「私とユリアンからしたら三人共問題児だと思いますよ? 戦没者慰霊祭をさぼって昼間からこうしてお酒を飲んでいるんですから」

追加のおつまみを持ってきたカリンの言葉に大人三人は揃って降参した。発言が尤もすぎたからだ。

ユリアンはそんな俺たちを笑っていながら口を開いた。

 「そろそろ戦没者慰霊祭のお時間ですけど、テレビも見なくていいんですか?」

 「いいかい、ユリアン。僕たちはせっかく美味しいお酒を飲んでいるんだ。それなのにわざわざお酒を不味くする奴の顔を見る必要はないだろう?」

ヤンが尤もらしいことを言っているが、その内容はただたんにトリューニヒトの顔を見たくないだけだろう。

だが、俺とアッテンボローもその意見に賛成すると、ユリアンは笑いながら引き下がり、カリンは苦笑を深くした。

それから3時間ほど酒盛りを続けていると、家のヴィジホンが鳴る。俺はそれに嫌な予感を感じたが、我が愛する義娘が出てしまった。

 『やぁ、カリン。そこに不良軍人が三人ほどいないかい? 具体的にいうとヤン准将とシュタイナー准将とアッテンボロー中佐なんだが』

 「お疲れ様ですキャゼルヌ少将。お三人様なら我が家でお酒を飲んでいらっしゃいますよ」

止める間もなく、カリンが無慈悲な宣告をした。画面の向こう側で呆れたため息を吐いたのを感じる。

 『悪いがヤンかシュタイナーに変わってもらえるか?』

 「わかりました」

そう言ってカリンはヴィジホンを俺とヤンの間に置く。アッテンボローはすでにキッチンに避難している。相変わらず撤退戦が得意なやつだ。ヤンと視線だけで会話をし、通話をヤンに押し付けることに成功した。

ヤンはげんなりとした表情をしながらヴィジホンに出る。

 「どうも、キャゼルヌ先輩」

 『お、ヤンが出たか。まぁ、ちょうどいい。シトレ元帥からの伝言だ』

 「シトレ元帥から?」

シトレ元帥には士官学校時代から目をつけられている。

 『「学生時代からサボりのやり方が成長していない奴だ」だそうだ』

キャゼルヌ先輩の言葉にヤンは肩をすくめる。

 「ばかだな、ヤン。サボる口実くらい成長させろよ」

 『そういうシュタイナーは奇をてらいすぎたな』

 「後学のためにシュタイナー准将が何て言って欠席したか教えていただけますか?」

ヤンが質問するとキャゼルヌ先輩は面白そうに笑った。

 『何でも「酒が美味くて腰が痛いので欠席します」だそうだ。シトレ元帥も面白がって国防委員長にそのまま報告してな。国防委員長の唖然とした表情は傑作だったぞ』

 「シュタイナー准将は頭大丈夫かい?」

 「うちの家で朝っぱらから酒を飲んでいる発言とは思えないな」

 『なんだ。やっぱりおまえら飲んでいるのか。ラップもいるのか?』

 「ラップは新居探しです」

 『それはいい。ヤンもシュタイナーもいい年なんだから結婚相手を探したらどうだ?』

 「同盟が誇る英雄様はまだしも、帝国からの亡命者のところに嫁ぎたがる相手がいないでしょうに」

 「僕だって相手がいないよ」

 「アッテンボロー。アスターテの時にヤンの執務室に送られてきたファンレターの数はわかるか?」

 「多すぎてわかりませんよ」

俺の問いかけにアッテンボローが楽しそうに返してきた。

 『なんだ。ヤンは相手をすぐに見つけられそうじゃないか』

 「よしてくださいよ、キャゼルヌ先輩。それで、ご用件はなんでしょうか?」

 「流石は英雄殿。引き際を心得ていらっしゃる」

 「うるさいよ」

俺の茶化しにヤンは疲れたようにため息を吐いた。キャゼルヌ先輩も面白そうに笑いながら俺たちに言ってくる。

 『明日1300に統合作戦本部長室に出頭しろとのことだ』

キャゼルヌ先輩の言葉に俺は忘れ始めている原作知識を引っ張り出す。これは確かヤン率いる第13艦隊が結成されてイゼルローン要塞の攻略につながる話だったはずだ。

 『それと同じ時刻にシュタイナー、おまえさんも出頭しろとのことだ』

 「俺もですか?」

思わず口を挟んでしまった。すでに原作は壊れつつあるが、大きくはそれていなかった。う〜ん、ひょっとしたらヤン艦隊に配属されるのかねぇ。ま、それだったら死ぬ確率が低くなっていいけど。

 『二日酔いの状態では来るなよ』

 「安心してください、キャゼルヌ先輩。僕たちは信用できないかもしれませんけど、被保護者は優秀なので」

ヤンの言葉にキャゼルヌ先輩は面白そうに笑い声をあげた。

 『なるほど。おまえさんたち二人だけだと、サボってどこかに逃げる可能性もあるからな。カリン、ユリアン。二人を頼むぞ』

 「「了解しました」」

冗談で言ったであろうヤンの発言を肯定されてしまい、しかも被保護者達もキャゼルヌ先輩に頼まれ元気よく答える始末。

俺とヤンの複雑そうな表情をアッテンボローが爆笑しているのであった。




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
ダメ親父

ヤン・ウェンリー
ヘルベルトくんと一緒に酔いつぶれては被保護者に迷惑をかけている

カーテローゼ・フォン・クロイツェル
カリン。しっかり者被保護者2

ユリアン・ミンツ
ヤンの被保護者。しっかり者被保護者1

シュタイナー伯爵家
ゴールデンバウム王朝屈指の名家。皇帝への直答や諫言などを許された唯一の家。代々権力に興味がなく、領地惑星に善政をしいて庶民的な暮らしをしていた。ブラウンシュヴァイク、リッテンハイムに嵌められて没落



そんな感じで一瞬で終わったアスターテ会戦です。
今後のためにラップくんは生存。一応、完結までの流れも決めているのでラップくんの活躍にこうご期待

そしてカリンも本格参戦。やっぱり銀英伝の保護者と被保護者の関係はダメ親父としっかり者なのでシュタイナー家にも適応。

でも原作からしてカリンはこういう対象がいたら面倒見がいい気がしてました。

ちなみにヤンにとってのユリアンという形で、シュタイナーにとってのカリンは割と重要ポジションだったりします


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006話

銀河の歴史がまた一ページ……


戦没者慰霊祭の翌日、俺とヤンは統合作戦本部にやってきていた。キャゼルヌ先輩からの連絡の後も飲み続けた結果、見事に潰れ、俺の家のリビングで俺とヤンとアッテンボローは雑魚寝していた。ユリアンはこれを見越していたのかヤンの軍服を持ってきており、俺もカリンに叩き起こされて家から追い出された。ヤンとアッテンボローと苦笑しながら地上車に乗り込んで統合作戦本部にやってきたのだ。

アッテンボローは人事部に呼び出されているらしくて途中で別れ、俺とヤンは二人で統合作戦本部長室にやってきていた。

 「何を言われると思う?」

 「シトレ元帥は私達に無茶振りするのが好きだからね。見当もつかない」

俺の質問にヤンは軍帽を指先で回しながら答えてきた。相変わらず態度の悪い奴である。

そしてようやく順番がやってきたのか、俺とヤンが呼ばれて本部長室に入る。机に座っているのはがっしりとした体格の大柄な黒人男性。シドニー・シトレ元帥である。キャゼルヌ先輩もいた。

 「今回はちゃんと呼び出しに応じたようだな」

 「命令であれば我々だって来ますよ」

シトレ元帥の言葉にヤンが苦笑しながら答える。それにシトレ元帥は面白そうに笑った。

 「ほう。士官学校時代に呼び出した時は屁理屈を並べてこなかったことも多かったが?」

 「それは全部ヤン准将のせいですね。ええ、間違いない」

 「待った。八割はシュタイナー准将のせいの間違いだ」

シトレ元帥の言葉にお互いに罪をかぶせあう俺とヤン。シトレ元帥は俺たちを見て本当に面白そうに笑った。

 「君らは変わらんな。こうして二人を並べてしまえばあの頃のままだ。まぁ、座りたまえ。ヤン少将。シュタイナー少将」

あまりに自然な流れに用意されていたソファーにそのまま座りそうになったが、おかしな点に気づいてヤンと顔を見合わせる。

それを見てシトレ元帥は益々面白そうに笑った。

 「君たちは昇進して少将になる」

 「敗戦の将ですよ。私たちは」

 「宣伝くらいは見ているだろう。第二艦隊と第六艦隊の残党が奮戦して憎き帝国を撃退。ヤン・ウェンリー准将はアスターテの英雄となり、ヘルベルト・フォン・シュタイナー准将は敢闘精神溢れる闘将だそうだ」

シトレ元帥の言葉にげんなりする。俺は敢闘精神溢れる人間じゃない。むしろ戦争を嫌っている人間だ。なにせ前世は平和大国日本出身なのだから。

 「そんな二人を昇進させないわけにもいくまい。これも給料の内だと思って諦めて作られた英雄になって欲しい」

シトレ元帥の言葉に俺とヤンは揃って肩を落とした。昇進するということは責任がついて回ることであり、重石が増えるということである。

まぁ、亡命貴族である俺の場合は軍人以外にはろくな仕事につけないわけだが。そう考えると『自由』を謳っておきながら自由が少ない国だとも思う。

 「それともう一つ、軍の編成に一部変更が加えられる。第四・第六艦隊の残存部隊に新規の兵力を加えて第十三・第十四艦隊が新設される。ヤン少将が第十三艦隊。シュタイナー少将が第十四艦隊の司令官に任命される」

ヤンの第十三艦隊はまだしも、自分も第十四艦隊の司令官ですかそうですか。

 「艦隊司令官は中将を以ってその任にあてるのではありませんか?」

 「新艦隊の規模は双方ともに通常のほぼ半分だ。艦艇6400、兵員70万というところだ。そして両艦隊の最初の任務はイゼルローン要塞の攻略ということになる」

シトレ元帥のさらりとした言葉にヤンは絶句している。何せ六回もの攻勢で落とせなかったイゼルローン要塞を新設された半個艦隊。しかも艦隊規模では一個艦隊で落とせと言っているのだ。原作知識がなかったら俺は謹んで辞退して、速やかに辞表を提出するだろう。

 「総数では一個艦隊であのイゼルローンを攻略しろとおっしゃるのですか?」

 「そうだ」

 「可能だとお考えですか?」

 「君たちにできなければ他の誰にも不可能だと考えておるよ」

古くからある殺し文句だよなぁ。そう考えながら横目でヤンを見ると何事か考えこんでいた。

 「もし君たちが新艦隊を率いてイゼルローン要塞の攻略という偉業を成し遂げれば、ヤン少将に対する好悪の感情はどうあれ、トリューニヒト国防委員長も君達の才幹を認めざるを得んだろう」

この辺りの発言は原作と変わってないかな? 何せこちらの世界に来てから30年近くたっているので細かいところまでは覚えていない。

 「そしてシュタイナー少将。君もまたこれを成し遂げれば同盟における亡命者達の地位向上に繋がるだろう」

肩身の狭い思いをしている帝国亡命者のために一肌脱げってか。まぁ、カリンのためにやってあげなきゃいけないことだしなぁ。

俺とヤンは顔を見合わせると疲れたように同時にため息をついた。

 「微力を尽くします」

 「ヤン少将と共に菲才の身を使わせていただきます」

 「そうか。やってくれるか」

俺とヤンの言葉にシトレ元帥は満足の熊で頷いた。

 「新艦隊の編成と装備を急がせよう。必要な物資があったらキャゼルヌに言ってくれ。可能なかぎり便宜を図らせる」

シトレ元帥の言葉にキャゼルヌ先輩は頷いた。

 「あぁ、それとシュタイナー少将の旗艦には新しい高速戦艦が配備される」

 「? 生粋の同盟人であるヤン少将ではなく、亡命軍人の自分にですか?」

亡命軍人は同盟軍でも冷や飯を食わされることが少なくない。だからこそ薔薇の騎士連隊(ローゼン・リッター)のような部隊が結成されるのだ。亡命者の子孫で出世した人物ならロボス元帥もいるが、俺のように亡命した本人が将官まで出世するのは稀だ。

だから新しい艦艇もヤンのほうに優先して配備されると思ったので意外だった。

 「その高速戦艦は帝国の最新鋭戦艦の設計図を下地にして開発されたものだ。帝国の設計した戦艦を亡命者に使わせる……まぁ、トリューニヒト国防委員長の皮肉だろうさ。安心したまえ。性能で言えば同盟のどの艦艇より優秀だ」

 「安心できる要素がありませんよ」

シトレ元帥の言葉に俺は疲れ切った表情で答えるのだった。

 

 

 

 

シトレ元帥との会談の後、俺とヤンとキャゼルヌ先輩は士官用ラウンジに来ていた。必要な物資を調達してもらうためだ。

 「それで? どんなことを仕掛けようとしているんだ?」

 「それは秘密です」

 「おいおい。俺にも秘密なのか?」

 「こういうのは後で知ったほうが楽しいと思いませんか?」

 「なるほど。それもそうだ」

キャゼルヌ先輩の問いかけにヤンが答えると、キャゼルヌ先輩は追求してきた。そこで俺がさらりと告げるとキャゼルヌ先輩は面白そうに笑いながら同意した。

 「それで? 何か用意してほしいものはあるか? おまえたちなら袖の下なしで用意してやるぞ」

 「う〜ん、そうですねぇ……」

 「そのまえにキャゼルヌ先輩。俺が乗ることになる新型戦艦のデータありませんか?」

 「おお、そうだった。シトレ元帥から渡すように言われていたんだ」

そう言って受け取った戦艦のデータを見る。

流体理論とエリア・ルールを採用した流線型の艦型でビーム兵器を反射・拡散するシュピーゲル・コーティングを施した表面処理装甲。32目標を同時補足し、そのうち16目標を攻撃することが可能。演算対応速度は従来型の戦艦より70パーセント高速。スパルタニアンの搭載能力は軽空母なみ。そのために自艦だけで全方位傘型防空態勢を形成できる。

……どう考えてもラインハルトの乗るブリュンヒルト型です。本当にありがとうございました。しかも見た目はトップをねらえのエクセリオン。艦名は『エクシール』。ドイツ語で亡命者という意味である。

俺が疲れ切ったようの目頭を押さえていると、ヤンが鹵獲した帝国軍の軍艦と制服を要求していた。原作通りに内部に人を送りこんで乗っ取るつもりらしい。

 「シュタイナーは何かあるか?」

 「できれば艦隊編成はこのエクシールと同じ高速艦を中心にしてください」

とりあえず俺が目指すのは高速機動艦隊である。戦場から戦場を高速で移動して奇襲して逃げる、それが方針だろう。

俺の言葉にキャゼルヌ先輩は頷いてくれた。

そのタイミングで下の階で騒ぎが起きる。どうやら給仕役の少女が同盟士官にコーヒーをかけてしまったらしい。それに同盟士官が怒ったようだ。

 「懐の狭い連中だね」

 「全くだ。どれ、ちょっと止めてくるか」

 「そうだな。シュタイナーが行けば連中が全員気絶で済ませられるだろう……っと、ちょっと待った」

俺を送り出そうしたキャゼルヌ先輩が逆に止めてくる。久しぶりに白兵戦ができると思った俺は出鼻がくじかれた思いだった。

 「なんですか?」

 「もっと面白い連中がきた」

キャゼルヌ先輩がそう言って指差した先にいたのは類稀なる美男子を筆頭にした屈強な兵士達。

 「薔薇の騎士(ローゼン・リッター)の隊長。ワルター・フォン・シェーンコップにその部下達だ」

 「……あぁ、あれが」

カリンの父親か、という言葉は内心に止めておく。これを知っているのはカリン本人を除けば俺だけだ。ヤンには知らせていない。キャゼルヌ先輩は知っているかもしれないが、口は開かなかった。

その後に士官のほうが国防委員長との距離の近さを言い立てたようだが、シェーンコップはそれを鼻で笑うと、給仕が持っていたコーヒーを相手にぶちまけていた。士官のほうもそれに怒って殴りかかろうとしたが、他の士官がローゼン・リッターであることに気づいたらしく。そそくさと退散していった。

 「……先輩。追加いいですか?」

 「おう。なんだ?」

 「薔薇の騎士(ローゼン・リッター)連隊を私の艦隊にください」

ヤンの言葉にキャゼルヌ先輩の驚いた表情が印象的だった。

 

 

 

 

さて、イゼルローン攻略まで日時がないので急ピッチで艦隊編成をしている。原作通りに第四艦隊の残存部隊であるエドウィン・フィッシャーはヤンに預けた。むしろフィッシャーがいなければヤン艦隊の動きが鈍る可能性がある。ヤンは他にも原作通りにムライ、パトリチェフを幕僚として招いていた。

困ったのは俺の第十四艦隊である。何せ原作で第十四艦隊が結成されるのは同盟の滅亡間近の時である。それが前倒しで結成されたために有能な人がいるかがわからない。

数少ない転生特典である『一度覚えたことは忘れない記憶能力』で原作知識を引っ張り出して名簿と睨めっこしていたら、士官学校の教官の中にチュン・ウー・チェン准将を発見したので第十四艦隊主席幕僚に招き、原作と違って生き残っていたラップ(中佐に昇進)を次席幕僚にした。そして分艦隊指揮官として俺と同じ第六艦隊残党であるラルフ・カールセン准将が来てくれた。正直、原作で豪胆な勇将だったカールセン提督が来てくれるとは思っていなかったので助かった思いである。

キャゼルヌ先輩の尽力もあって艦隊も高速機動編成になり、ラップとカールセン提督に頼んで急ピッチで鍛えてもらっている。俺はヤンと似たような意味で軍人に見えないチェン准将と一緒に様々な書類を整理している。この間は忙しくて家に帰るヒマもなかった。そこでキャゼルヌ先輩に頼んで俺にも優秀な副官をくれと言っておいた。いつのまにかヤンにはフレデリカ・グリーンヒル中尉がいたのに、俺にはいなかったのだ。そのことで文句を言ったら。

 『あぁ、すまんすまん。シュタイナーはなんでもそつなくこなすから配属が遅れてしまった。何せヤンは頭以外は役にたたないからな』

と言われて納得してしまった。あいつも今まで見たことないくらいに働いているが、ヤン一人だったら艦隊編成なんかできないだろう。

 「……あぁ、チュン准将。そろそろヤン少将と作戦会議の時間だ」

 「おっと。もうそんな時間でしたか。やれやれ、ここに配属されてから一息つく間もありませんね」

 「申し訳ありませんね。残業代や特別手当もでないのに忙しくさせてしまって」

 「なに、仕方ありませんよ。出された命令が命令ですからね」

そう笑いながらパン屋の二代目と揶揄されるチュン准将は朗らかに笑った。俺とヤンに命令された内容はすでに軍部で有名で、「おムツも取れない赤ん坊達が素手でライオンを殴り殺そうとしている」と嘲笑されていたのだ。それを弁護してくれたのが第五艦隊司令官のビュコック提督、第十艦隊司令官のウランフ提督、第十二艦隊のボロディン提督だった。原作ではビュコック提督だけだった気がしたが、そこに名将として知られるウランフ提督とボロディン提督も加わった。それによって高級士官クラブで俺たちを酒の肴にしていた士官達が黙ったというのも同時に知られている。

俺とチェン准将は同時に立ち上がって編成時に統合作戦本部に間借りしている部屋から出る。そして会議室に入るとそこは蛻の空だった。

 「少し早かったみたいですね」

 「そのようで。まぁ、ヤン達が来るまでノンビリしましょう。最近はずっと忙しかったですし」

 「ですね。あぁ、シュタイナー少将。コーヒーいりますか?」

 「いただきます」

チュン准将の言葉に肯定すると、チェン准将は和やかに笑いながらコーヒーをいれてくれた。それからしばらく雑談をする。その中でわかったのは、チュン准将はキャゼルヌ先輩と同期だったらしい。新事実である。

 「すまない。少し遅くなってしまった」

しばらくするとヤン艦隊の常識人であるムライ准将と一緒にヤンが入室してきた。俺とヤンだけだったら間違いなくしないが、規律に厳しいムライ准将がいるので立ち上がって敬礼する。それに少しばかり不思議そうにしていたヤンだったが、ムライ准将が咳払いしながら敬礼をすると慌てた様子で敬礼してきた。秘密会議というわけではないが、それぞれの艦隊の幹部連中が軒並み忙しいので、司令官と主席幕僚だけでの会議となった。

チュン准将が気を利かせて二人分のコーヒーをいれて作戦会議に入る。

 「まぁ、作戦会議と言っても私とシュタイナー少将が一緒に考えていた作戦をムライ准将とチュン准将に聞いて欲しい」

 「おまちください、ヤン少将。そのお言葉ではヤン少将とシュタイナー少将は昔から作戦を考えていたようですが?」

ムライ准将の言葉にヤンは軍帽をとって困った様子で髪をかき混ぜる。

 「ムライ准将。自分達は第五次イゼルローン攻略戦に参謀として参加していました。その失敗の後に考えた作戦です」

 「まさか、自分達がその役割をすることになるとは思っていませんでしたがね」

俺の言葉に苦笑しながらヤンは続ける。

 「それで? どのような作戦なんです?」

相変わらずどこかノンビリとした雰囲気を出しながら聞いてくるチュン准将。

 「簡単に言うと内部から切り崩す作戦です」

 「古来から難攻不落と呼ばれた要塞の多くは、内応した将軍や兵士によって落城しています」

 「そうなりますと調略をしかけるということでしょうか?」

ムライ少将の言葉にヤンは苦笑して首を振る。そして俺を見てきた。俺に説明しろということだろう。

 「イゼルローン要塞は帝国の要衝です。そのために仲は悪くても帝国に対する忠誠心が高い人物が要塞司令官、駐留艦隊司令官に任じられます。この二人を内応させるのは難しいでしょう」

 「そうなると兵士ですか?」

 「いえ、兵士の蜂起は期待しないほうがいいでしょう。政治家は帝国の臣民を解放するとか言っていますけど、正直に言うと帝国臣民は別にそれを望んじゃいません」

俺の言葉にムライ准将とチュン准将は驚いた表情になる。

 「元々帝国臣民は自由とか権利とかを持って生活しているわけではないんです。帝国臣民が望んでいるのは自分達の身の安全と食料です。それを保証してくれれば帝国だろうが同盟だろうが、どちらでも構わないでしょう」

俺の言葉にムライ准将は難しい表情で考え込み、チュン准将も少し考えていたが、思い直したように口を開いた。

 「そうするとどうやって内部から崩すんですか?」

 「簡単は話です。いないなら作ればいいんですよ」

 「「作る?」」

チュン准将の言葉にヤンが答えるとムライ准将とチェン准将が同時に疑問の声をあげた。

そこから電子ディスプレイを使っての作戦の説明に入る。ちなみに電子ディスプレイの操作は俺が担当する。ヤンが動かすことができないからだ。

 「まず、鹵獲した帝国軍巡洋艦に帝国兵に扮した白兵戦部隊に乗り込んでもらい、さも同盟軍から逃げているかのようにみせかけて要塞内に侵入します。その時に艦長役の人物には帝国本土からの重要機密情報を持ってきたという役割を持ってもらい要塞司令官に接触。これを拉致、または無力化した後に要塞システムを掌握。空調システムを弄って睡眠ガスを要塞内に流してもらい、要塞全体を無力化する。その後に艦隊が進駐して要塞を陥落させる」

ヤンの説明に返ってきたのは絶句だった。ムライ准将は常識的な参謀であり、チュン准将も優秀だがどちらかと言えば常識的な部類である。

 「それぞれの役割分担は私の第十三艦隊が要塞攻略。シュタイナー少将の第十四艦隊が要塞駐留艦隊の足止めをお願いすることになる」

 「……あぁ、なるほど。だからあのような訓練なんですね」

ヤンの言葉にチュン准将がどこか納得がいった感じで頷いた。俺がラップとカールセン提督にお願いした訓練は高速移動訓練の他に相手を釣りだしたり、足止めをするための訓練である。それがチュン准将には不思議だったようだが、納得したのだろう。

 「しかし、そうなりますと潜入する部隊は信頼でき、尚且つ白兵戦に長けている部隊に任せなければなりませんが……」

 「正直、そこまで豪胆な任務が果たせそうな白兵戦部隊がありませんねぇ」

ムライ准将の難しい顔をした言葉にチェン准将が続けた。

 「うん。私もそれには同感だ。だけど、豪胆な部隊には当てがある」

 「と、言いますと?」

 「ローゼン・リッターだよ」

ヤンの言葉にムライ准将とチュン准将は本当に絶句した。原作知識+ヤンから事前に説明があったので俺はそこまで驚かなかった。

ローゼン・リッターは歴代の隊長が十二名。四名は帝国との戦闘で戦死。二名は将官に出世した後に退役。六名は帝国に再度亡命したという歴史がある。現在のシェーンコップ大佐は十三代目であり、裏切り者になるんじゃないかという噂があった。

 「お信じになるのですか?」

 「正直に言うと自信がない。だが彼を信用しない限りこの作戦は成功しない。だから信用することが大前提なんだ」

ムライ准将の言葉にヤンは軍用ベレー帽を指先で回しながら言う。

 「まぁ、シェーンコップ大佐には私から直接伝えるつもりだ。少なくともそれが筋だろう」

ムライ准将とチュン准将はしばらく黙っていたが、しばらくするとムライ准将はため息をついた。

 「これはどちらかと言えば作戦ではなく詭計と言えますな」

 「正直に小細工って言っていいんですよ」

 「ああ、なるほど。確かにそちらのほうがしっくりくる」

ムライ准将の言葉に俺が笑いながら言うと、チュン准将も笑いながら言ってきた。ムライ准将は1度咳払いをして室内に再度規律を戻らせると言葉を続ける。

 「小官にはほかに代替案もありません。ヤン少将、シュタイナー少将のお二人が立てた作戦が一番でしょう。チュン准将はどうですかな?」

 「私も特にないですね。まぁ、言われてみれば確かにそれしか方法がなさそうですね。六回の攻略戦が全て正面からの攻撃で失敗したことを考えれば、試してみる価値はあるでしょう」

両艦隊の首席参謀の同意が得られたところで、作戦内部に対する詰め合わせを始める。特に駐留艦隊の扱いに関しては要塞の奪取が完了するまでは足止めが絶対条件だ。要塞奪取後は要塞の主砲である『雷神の槌(トゥールハンマー)』の射程内に誘き寄せて発射。その後は降伏か逃亡かを選ばせるということで一致した。

ヤンとムライ准将には作戦会議室で別れると、チュン准将と二人で歩きながら執務室まで歩く。

 「しかし、ヤン少将とシュタイナー少将はすごいですね。以前からあのような作戦を考えていたなんて」

 「作戦という作戦は考えていませんでしたよ。ただ、お互いに内部から崩さなきゃいけないという共通認識は持っていたので、今回の任務で作戦内容を煮詰めたんです」

 「いやいや、それでも大したもんだ」

そんな会話をチュン准将と会話しながら執務室に入ると一人の女性が待っていた。赤褐色の髪と瞳、小麦色の健康的な色の肌の女性士官。シェーンコップやポプランだったら間違いなくナンパするであろう美女だった。

女性士官は俺とチュン准将に向かって敬礼してくる。

 「ヴァレリー・リン・フィッツシモンズ中尉です。この度ヘルベルト・フォン・シュタイナー少将の副官を拝命しました」

そこで俺の原作知識が蘇る。

フィッツシモンズ中尉ってシェーンコップの愛人でヴァントフリート4=2で戦死したんじゃなかったか?

そのようなことは顔には出さず、こちらも敬礼で返す。

 「第十四艦隊司令官になったヘルベルト・フォン・シュタイナー少将です。こちらが首席幕僚のチュン・ウー・チェン准将」

 「チュン・ウー・チェン准将です。よろしく」

 「他の幹部とも顔合わせさせてあげたいんだけど、残念ながら副司令官のラルフ・カールセン准将と次席幕僚のジャン=ロベール・ラップ中佐は訓練のために宇宙にいる、後日紹介しよう。そして残念なことに仕事が山積みになっている。超過勤務手当も特別手当も出ないけど仕事を手伝って欲しい」

 「もちろんです。ですが、仕事が終わった後に何かご褒美があってもいいのではないですか?」

フィッツシモンズ中尉の言葉にチュン准将も楽しそうに笑い声をあげた。こりゃあシェーンコップの愛人だっただけはあって、一癖も二癖もありそうな人物だ。俺は降参するように両手をあげた。

 「わかった。チュン准将、カールセン准将、ラップ中佐、フィッツシモンズ中尉にはコニャック一杯でも奢るとしよう」

 「コニャック三杯でいかがですか?」

 「二杯で勘弁して欲しい」

俺の願いにフィッツシモンズ中尉は楽しそうに笑いながら同意してくれた。それから三人で仕事に入る。原作に描写はなかったが、フィッツシモンズ中尉は優秀だ。キャゼルヌ先輩が紹介してきたこともわかる。

隠れてフィッツシモンズ中尉について調べてみると、確かにヴァンフリート4=2に配属されていたが、病気になって後方へ。その間にヴァンフリート4=2の戦いが起こって難を逃れたらしい。最近まで病気療養のために予備役に入っていたが、正式に軍に戻ることになった時に俺の艦隊の副官になることになったようだ。仕事しながら世間話をするふりをしながらシェーンコップについて聞いてみたが、どうやら口説かれたのが確かだが、本格的に愛人関係に入る前に後方に行ったそうである。シェーンコップの厄ネタはカリンだけで十分なので一安心である。

 

 

 

 

第十三艦隊、第十四艦隊の準備が終わると結成式を執り行うことになった。もちろん発起人はトリューニヒト国防委員長。本当に余計なことしかしない奴である。第十四艦隊の幹部の顔合わせは事前に済ませていた。チュン准将、カールセン准将、ラップは最初に顔を合わせており、副官となったフィッツシモンズ中尉を紹介するだけで済んだからだ。結成式の前日に第十三艦隊の幹部と第十四艦隊の幹部の顔合わせもした。ヤンから正式に副司令のフィッシャー准将、首席幕僚のムライ准将、次席幕僚のパトリチェフ大佐、ヤンの副官のグリーンヒル中尉を紹介された。驚いたことにグリーンヒル中尉はエル・ファシルの時に俺がいたことを覚えていたようである。

こちらも副司令のカールセン准将、首席幕僚のチュン准将、次席幕僚のラップ中佐、副官のフィッツシモンズ中尉を紹介した。その場にいたシェーンコップはフィッツシモンズ中尉がいたことに気付き、口説こうとしたがムライ准将に咳払いで止められていた。

その時にシェーンコップからヤンとの問答を聞かせられ、俺はどうなのかと尋ねられた。俺の意見はヤンにほとんど同意見である。束の間の平和が欲しい。被保護者に戦争に出てほしくないと正直に告げたらシェーンコップは面白そうに笑いながら去っていった。これは果たして気に入られたのやら……

結成式では我らがトリューニヒト国防委員長が演説していらっしゃる。演説台の横に二つの席が用意されており、片方には俺が座っている。もう片方にはヤンがいるはずなんだが、どうやら遅刻しているようだ。まぁ、俺自身もカリンに起こしてもらえなかったら確実に遅刻していたはずなので強くは言えない。

トリューニヒト国防委員長の演説が終わると、俺の演説になってしまった。あまりやりたくないのだが、これも給料の内だろう。

 「あ〜、第十四艦隊の司令官になったヘルベルト・フォン・シュタイナー少将です。名前にフォンという称号が入っている通り私は帝国からの亡命者。まぁ、亡命軍人というやつですね。だからと言って帝国に憎しみを持っているわけではありません。私の任務は一人でも多くの部下を故郷の土地に生きて返してあげることだと思っています。だからまぁ……みんな、頑張って生き残ろう」

俺の演説の直後に第十三艦隊、第十四艦隊の兵士達からは大きな拍手が起こる。それはトリューニヒト国防委員長より大きな拍手だった。それと同時に会場の袖に礼服を着ているヤンが走り込んできたのを見た。俺はそれを見て口の端で笑う。

 「どうやら遅刻していた第十三艦隊の司令官が到着したようです。ええ、遅刻したからにはきっとすごい演説を考えてきたんでしょう。みなさん、期待してみてください」

俺の言葉にヤンは困った様子で髪をかきながら演説台に現れる。俺はそれと交代するように自分の席についた。

 「え〜と、第十三艦隊司令官のヤン・ウェンリーです。第十四艦隊司令官のシュタイナー少将の言葉に反するようで申し訳ありませんが、そんな壮大な演説は考えていませんでした」

 「本当に使えねぇなぁ!」

 「性根が真っ黒になってブラックホールレベルの深淵になっているシュタイナー少将の言葉は無視しましょう」

俺とヤンの掛け合いに兵士達からは笑い声が出る。幹部達も笑いをこらえているが、唯一真面目なムライ准将だけは困ったものだとばかりに首を振っていた。

 「え〜と……どうもこういうのは……」

ヤンはそこまで言って困ったように髪をかく。

 「つまり……祖国のためとか、命を賭けてとかじゃなくて……その……うまい紅茶が飲めるのは生きている間だけだから……みんな、死なないように戦いぬこう」

ヤンの言葉に兵士達は本心からの拍手をしている。どうやら、俺とヤンは兵士達からは話せる司令官として共感を得られたらしい。

 

 

宇宙歴796年4月27日。ヤン・ウェンリー率いる第十三艦隊と、ヘルベルト・フォン・シュタイナー率いる第十四艦隊はイゼルローン攻略の途にのぼったのであった。




第十四艦隊幹部
司令官 ヘルベルト・フォン・シュタイナー
副司令官 ラルフ・カールセン
参謀長 チュン・ウー・チェン
副参謀長 ジャン=ロベール・ラップ
司令官副官 ヴァレリー・リン・フィッツシモンズ


そんな感じで第十三、第十四艦隊結成編です。

感想のほうでもシュタイナーくんやラップはヤン艦隊に入るのか新艦隊を作るのか気になっている方がいらっしゃいましたが、新艦隊結成になりました。

オリ主くん以外はできれば原作キャラを使いたいと思ったので原作後半からビュコック提督と一緒に活躍するパン屋の二代目とカールセン提督をピックアップ。そして生き残っていたラップも新艦隊へ。フィッツシモンズ中尉も外伝ででてくるシェーンコップの愛人です。この作品では違っていますけど

シェーンコップの爆弾はカリンだけでいいから!


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007話

銀河の歴史がまた一ページ……


俺は自分が司令官を務める十四艦隊旗艦・エクシールの艦橋にある司令席に座っている。態度は指揮台に足を乗せ、ベレー帽で顔を覆っている状態だ。首席幕僚のチュン准将と次席幕僚のラップはコーヒーを飲みながら呑気に談話しており、副司令のカールセン提督もコーヒー片手に俺が貸した戦術書集(地球時代の戦術書多数)を興味深そうに読んでいる。副官のフィッツシモンズ中尉も自分の仕事を片付けながら紅茶を飲んでいる。

俺の第十四艦隊司令部がのんびりしているのは、今回の任務の主攻を務めるヤン率いる第十三艦隊が待ち合わせのイゼルローン回廊宙域に到着していないからだ。一応、俺の艦隊が高速機動編成なのも加味して同時くらいに待ち合わせの宙域に到着する予定がカールセン提督とラップの訓練と、俺の艦隊指揮(ヤン曰く『天才的艦隊運用』)が合わさった結果、かなりの速度で予定宙域に到着してしまったのだ。その速度はなんと4000光年を10日である。

そんな訳で俺は別の艦に乗っている部下達と交流したり(転生者の能力のおかげで記憶力も半端ないので第十四艦隊総兵士69万8721人全員の顔と名前、開示できるプロフィールは全部覚えた)、周辺宙域に偵察のスパルタニアンを出したりしながら第十三艦隊の到着を待っている。

 「接近してくる艦隊があります!!」

 「……おぉ、ようやく来たか」

オペレーターの言葉に俺は顔に乗せていたベレー帽をどかす。表示されたディスプレイにはヤン率いる第十三艦隊が表示されていた。

 「第十三艦隊旗艦・ヒューベリオンから通信が入っています」

 「了解。繋げてくれ、フィッツシモンズ中尉」

俺の言葉にフィッツシモンズ中尉はコンソールを操作してメインディスプレイにヤンとの通信を繋げた。

 「遅いぞ、ヤン。14日も待たせるとか、相手が女性だったら頬に張り手じゃ済まされないぞ?」

 『第十四艦隊の速度が異常なだけだからね? 私達の艦隊だってできあいの艦隊にしては賞賛に値するものだから』

 「残念ながらその賞賛は名人・フィッシャー准将とそれに応えた兵士の皆さんに対する賞賛だから。決してお前に対しての賞賛ではないな」

 『適材適所ってやつさ。もし私が艦隊運用するって言ったらどうする?』

 「ヤンが自分で仕事するわけないから偽物かどうかを疑うな」

 『そこまで言うかい?』

俺とヤンのやり取りにエクシールだけでなく、ヒューベリオンの方からも忍び笑いが出ている。

 『失礼。作戦に参加する司令官が仲が良いのは良いですが、話を進めていただいてよろしいですか?』

 「おう、ヤン。お前のせいでムライ准将に叱られたぞ」

 『君はなんでも私のせいにしすぎだね。今回、話を脱線させたのは君だぞ?』

 『お二人とも』

ムライ准将の言葉に俺とヤンは同時に肩を竦めた。

 「厳しい教官に叱られる出来の悪い生徒みたいですね」

 「それは正解だよ、フィッツシモンズ中尉。こいつらは士官学校時代にしょっちゅう呼び出されては叱られてた」

 『そこでさらりと自分を外すのはどうかと思うよ、ラップ中佐』

 「お前さんも一緒に呼び出される仲だっただろうが」

俺とヤンの言葉に「覚えてないな」と悪びれる様子がないラップにエクシールは今度こそ爆笑の渦に包まれた。強面カールセン提督も笑っている。

 『お二人とも』

 「『すいません、ムライ教官』」

ムライ准将に注意された瞬間に、条件反射でヤンと同時に謝ってしまった。しかも階級が下のムライ准将を思わず教官呼びである。これにはヒューベリオン側も我慢できなかったのか、笑い声が聞こえる。

 『さて、ムライ准将が本気で困った顔で首を振っているから話を進めようか』

 「話を進めるって言ってもなぁ。ヤン、お前さんは艦隊司令部に作戦内容は伝えてあるのか?」

 『当然じゃないか。私が作戦を伝え忘れることがあると思うかい?』

 「士官学校4回生の時にコンビを組んだ時忘れたよな?」

 『シュタイナー、過去に囚われてちゃいけないよ? それにほら、お詫びに3回奢ったじゃないか』

 「俺は12回奢らされたな」

 『お二人とも!!』

今度は語気が強めにムライ准将に注意されてしまった。ヤンと話をしていると自然と脱線してしまうのが良くない。

 「それじゃあ手筈通りに、ヤン少将」

 『武運を祈るよ、シュタイナー少将』

ヤンとそれだけ会話して通信を切る。

 「フィッツシモンズ中尉。十四艦隊全艦に通信を繋げてくれるか」

 「了解です」

俺とヤンのやり取りを笑いながらみていたフィッツシモンズ中尉に頼むと、すぐに通信を第十四艦隊全艦に通信を繋げてくれた。俺は司令席から立ち上がって演説する。

 「第十四艦隊司令ヘルベルト・フォン・シュタイナー少将だ。待ち合わせに遅れていた相方がようやく来た。なので短かった休暇は終了。これからピクニックの時間だ。なぁに、私達の仕事はイゼルローン駐留艦隊の足止めだ。私は無茶って言葉が大嫌いでね。できる限り同盟軍が楽をできる作戦をヤン少将と考えた。まぁ、失敗したら全責任は司令である私とヤン少将。それにこんな頭のおかしい命令をしたシトレ元帥だけだから気楽に行こう」

それだけ言って俺は司令席に着く。そして司令席の後ろにある幕僚達が座る円卓の方に向く。現在、ここに座っているのは首席幕僚のチュン准将、次席幕僚のラップ。副司令のカールセン提督である。フィッツシモンズ中尉は副官なので司令席のすぐ隣にある副官席に座っている。

俺は全員を見渡してのんびりと口を開く。

 「それじゃあイゼルローン要塞駐留艦隊司令のゼークト大将を釣り出しに行くか」

俺の言葉に全員が敬礼を返してきた。

 

 

 

 

 「敵、前進してきます!!」

 「敵の前進に合わせてこちらは後退。急ぎすぎず、慌てすぎないようにだ」

オペレーターの言葉に俺は努めてのんびりとした口調で艦隊に命令を下す。イゼルローン要塞駐留艦隊と対峙してから、何度も繰り返していることである。

 「敵が1万5000もいると押しとどめるのも一苦労ですね」

 「その通りだよ、チュン准将。フィッツシモンズ中尉、カールセン准将に連絡。鼻先にエサをチラつかせてやってくれ」

チュン准将の言葉に返しながら、俺はカールセン提督に指示を出す。定期的に攻撃が届く範囲ギリギリに艦隊を出しておかないと逃げられてしまう。なのでカールセン提督に敵の攻撃点ギリギリのところで動いてもらったりしている。

だが、これを始めてから既に数時間だ。

 「……流石にそろそろ砲火を交えないといけないと思います?」

 「そうですねぇ。今までは司令の艦隊運用でさも戦っているかのように見せていましたが、そろそろ限界ですかねぇ」

俺の問いにチュン准将は困ったように同意し、ラップをみるとラップも頷いた。俺はベレー帽をとって団扇のように扇いでから指示を出す。

 「仕方ない、か。フィッツシモンズ中尉……」

 「その必要はなさそうですよ。今、第十三艦隊のヤン少将から特別通信が届きました。『今度のお酒はシュタイナー少将の奢りで頼むよ』だそうです」

おやまぁ。

不思議そうな顔をしているチュン准将とフィッツシモンズ中尉。呆れた視線を送ってくるラップ。

 「イゼルローンを無血占領したようだな。私は微量でも帝国軍の血が流れると予想したんだが、あのペテン師は上手くやったらしい」

俺の言葉に驚愕するチュン准将とフィッツシモンズ中尉。だが、俺はその驚愕顔を無視して命令を出す。

 「カールセン准将に作戦を第二段階に進めると言ってくれ」

 「りょ、了解しました」

動揺をすぐに抑えて俺の指示をカールセン提督に送るフィッツシモンズ中尉。

ヤンとの作戦では要塞内部で反乱が起きたという偽情報をイゼルローン要塞駐留艦隊に送っているはずである。ゼークト大将は早く要塞に戻りたいはずだから無理をしても攻勢に出てくるはず。

 「敵艦隊前進!! 先ほどより速いです!!」

 「大丈夫、予想通りだよ。射程距離外でも構わないから砲撃しながら距離を取れ」

俺の言葉が速やかに艦隊に伝わり、全艦から一斉射撃が行われる。だが、有効射程距離外なので敵の艦が沈むことはない。むしろ勢いよく攻めてくる。

 「よし。全軍後退、できる限り潰走に見せかけろ」

俺の指示に従って全軍が潰走に見せかけた後退を始める。だが、それは演技としては物足りないものだった。

 「潰走の練習も必要かねぇ」

 「潰走の練習なんて聞いたことありませんな」

俺の呟きに反応したのはラップで、チュン准将は困った表情になっておりフィッツシモンズ中尉は楽しそうに笑っていた。

 

 

 

 「……改めて見ると酷い光景だ」

俺の呟きに反応できる人間はエクシール艦橋にはいなかった。

ヤンはイゼルローン要塞駐留艦隊を『雷神の槌(トゥール・ハンマー)』の射程内に捉えて発射したのだ。帝国軍の先頭にいた数百隻は一瞬にして消滅した。その光景に味方の第十四艦隊も絶句したのだ。

 「これは戦争じゃない。一方的な虐殺だ」

俺が小さく呟くと同時に、帝国艦隊から砲撃が出るがイゼルローンには傷一つつかない。

 「全艦、輪形陣を組んで前進。帝国軍の逃げ道は塞ぐなよ」

俺の指示にようやく正気に戻った第十四艦隊は戦列を組んで帝国艦隊の背後を脅かす。これでゼークト大将が取る方法は二つ。

 「さて、ゼークト大将はどっちを取るかな……」

 「ヤン少将の名前で通信が出ています。『これ以上の流血は無益である、降伏せよ』とのことです」

おや、ヤンが言うべき言葉がない。もしかしたらこちらの艦隊に気を使ったか。

 「フィッツシモンズ中尉。ヤン少将の言葉に付け足す形で私の名前で通信を送ってくれ。『降伏するのが嫌ならば、逃亡せよ。追撃はしない』と」

 「了解しました」

フィッツシモンズ中尉は俺の言葉をそのまま帝国軍に通信を送る。

「帝国軍からの返信です。『汝らは武人の心を弁えず、吾、死して名誉を全うするの道を知る、生きて汚辱に塗れるの道を知らず。このうえは全艦突入して玉砕し、もって皇帝陛下の恩顧に報いるのみ』と言っています」

 「フィッツシモンズ中尉。悪いが全方位通信を開いてくれ。それだったら向こうが拒否しようが聞こえる」

瞬間的に俺は立ち上がりながら言っていた。フィッツシモンズ中尉は驚いた様子を見せながらも通信を繋いでくれる。

 「私は自由惑星同盟第十四艦隊司令官ヘルベルト・フォン・シュタイナー少将です。ゼークト大将に告げる。卿は我々に対し武人の心を知らずと言った。当然である。我々は武人ではなく艦隊司令官である。艦隊司令官である我々の任務は多くの部下を生きて祖国の地に返してやることだ。卿が死ぬのを我々は止めない。それが卿の矜持であるからだ。しかし、その矜持に部下を付き合わせるのは我々は許せない。もし卿に艦隊司令官としての自覚があるのならば部下を道連れにするような真似はするな」

それだけ言って俺は通信を切らせる。そしてフィッツシモンズ中尉の視線に気づいた。

 「私は甘いと思うか? フィッツシモンズ中尉」

 「軍人としては甘いかもしれません。しかし、私はそんな甘い指揮官の下で戦いたいです」

 「私も同意見です」

 「もちろん小官もです」

フィッツシモンズ中尉の言葉に続くようにチュン准将が続き、さらにラップも続いた。するとエクレールだけでなく、他の艦からも同意する声が挙がった。

 「帝国艦隊から通信が入っています!!」

オペレーターの言葉に俺は一回だけ頷いて通信を繋がせる。通信が繋がったゼークト大将は覚悟を決めた男の表情をしていた。

 『銀河帝国軍イゼルローン要塞駐留艦隊司令官ハンス・ディートリッヒ・フォン・ゼークトである。まず、貴公達に深く陳謝すると同時に感謝する。私の行動は一軍を率いる者として不適格な行動であった。それに気づかせてくれた貴公達には感謝の念を禁じ得ない。しかし、私は帝国軍人であり、帝国貴族の末席に名前を連ねるゼークト家の人間としておめおめとオーディンに帰ることはできない』

その言葉に意見を言おうとした別ウィンドウに表示されているヤンを俺は視線で押しとどめる。

 『しかし、シュタイナー少将の言葉の通り、指揮官として部下を道連れにすることはできない。ならば、私が取れる手段はただ一つだけだ』

そう言ってゼークト大将は懐からブラスターを取り出す。

 『ヤン少将、シュタイナー少将。決して部下を追撃することはないのだな?』

 『約束します』

 「決して背後から撃つような真似はしません」

ゼークト大将の言葉にヤンと俺は言葉を続ける。

 『ヤン少将だけならば信ずることはできない。しかし、ルドルフ大帝から直々に直答を許されたシュタイナー伯爵家出身であるヘルベルト・フォン・シュタイナー少将の言は信ずる。そしてそのシュタイナー少将と轡を並べたヤン少将もまた信ずる』

そこまで言うとゼークト大将は米神にブラスターを当てる。

 『さらば』

ゼークト大将はそれだけ言うとブラスターの引き金を引いた。頭にブラスターの光線が突き抜け血が飛び散る。

俺とヤンは黙って敬礼をすると、帝国軍からの通信が切られた。そして整然と退却をしていく。

俺はその光景を見送りながらイゼルローン要塞のヤンに通信を繋げて会話をする。

 『感謝するよ、シュタイナー。君のおかげで兵が無駄に死なずに済んだ』

 「敵も味方も多く死ぬのは兵士だ。俺はそれを少しでも減らしたかっただけだよ」

ヤンとそんな会話をしながら、俺はゼークト大将の最後を思い出していた。

国に殉じる。それはできそうでできないことである。転生者という理由もそうだが、俺は銀河帝国から自由惑星同盟に亡命した。そんな俺は祖国という存在がないと感じてしまう。ヤンのように民主共和制の信奉者というわけでもない。俺はどこに向かえばいいのだろうか……

 『……シュタイナー。どうかしたかい?』

 「いや、なんでもない。それよりヤン。ハイネセンに作戦成功の報告はしたか?」

 『いや、これから送るよ。文面はそうだね……『なんとか終わった。もう一度やれと言われてもできない』ってところかな』

 「ついでに『作戦に参加した将兵全員に特別賞与をくれ』と付け足してくれ」

俺の言葉にヤンはどこか疲れた表情をしながら笑うのであった。




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
最後にちょっとセンチメンタル

ヤン・ウェンリー
どうやら小説版だった模様(旧アニメは血が流れる

ハンス・ディートリッヒ・フォン・ゼークト
なんか死に方がかっこよくなったイゼルローン駐留艦隊司令官



そんな感じでイゼルローン攻略編でした。

基本的に原作準拠ですが、シュタイナーくんが駐留艦隊の足止めと担当。そしてシュタイナーくんの存在のおかげで死に方が変わったゼークト大将

そして設定的にあったけど出す場面がなかった転生特典である記憶能力を初登場!
これのおかげで帝国でのことや原作の流れを覚えているという設定です


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008話

銀河の歴史がまた一ページ……


俺とヤンが率いる第十三艦隊と第十四艦隊がイゼルローンを陥落させて首都ハイネセンに帰還すると歓呼の暴風に迎えられた。アスターテでの惨敗はあっさりと忘れ去られ、ヤンの知略と俺の武略、そして俺たちを登用したシトレ元帥の識見が想像できる限りの美辞麗句で賞賛された。そして手回し良く準備された式典と祝宴、その中で俺とヤンの中将への昇進が発表され、それに伴って俺とヤンの周囲には取材スタッフが殺到した。

そんな喧騒に関係ないように俺はカリンが用意してくれた食事と紅茶を飲みながらテレビに若干ウンザリした表情のヤンが出ているのを笑いながら見ていた。それをカリンは呆れたように見ていた。

 「ヘルベルトさんには本当に呆れましたよ。いくらテレビの取材が鬱陶しいからってインタビューであんなことを言えば謹慎処分されるくらい私でもわかります」

 「カリン、この国は建前上は言論の自由を謳っている。俺はその権利を行使しただけさ」

俺の言葉に再度カリンは呆れたようにため息を吐いて食べ終えた食器を片付け始めた。

俺は今、謹慎処分中である。それと言うのもインタビューで答えた発言が主戦派の方々の怒りを食らったからだ。

別に大したことを言ったわけではない。『帝国への侵攻を語る方々はいますがどう思いますか?』と言う質問に対して『考えるまでもなく愚行。それを発言しているのが軍人だったら速やかに退役した方が自由惑星同盟に対して有益である』と答えただけだ。

これに軍上層部の主戦派論者がこぞって槍玉にあげたのだ。一時は逮捕すべしと言う声も上がったそうだが、シトレ元帥が庇ってくれたおかげで謹慎処分で済んだと言うことをキャゼルヌ先輩から聞いた。

俺の発言は原作で同盟滅亡の原因である帝国領侵攻作戦を起こさせないための発言だ。その作戦によって同盟軍はウランフやボロディンを始めとした人的資源、そして物資を浪費して滅亡の原因となった。そこで俺は先ほどの発言をした。虚像とは言え俺は自由惑星同盟軍においてヤンと並んで戦争の天才と言われている。そんな人間が帝国領侵攻に対して反対の立場をとるとどうなるか?

結果は市民の意思も分断されることになった。

原作では市民の総意とした感じで帝国領侵攻が決定したが、こちらでは侵攻賛成派、反対派と二分されている。テレビでもそれについて激論が交わされている番組が多い。

そしてヤンも明言はしなかったものの、帝国領侵攻には反対の意思を出したことによって議論はさらに嵐となっている。自由の身であるアッテンボローからの連絡によれば、酒場でも知らない人間同士が激論を交わしているのを見ることが多いそうである。

そしてこの論争の切欠を作った俺に再度インタビューしようとしてくるテレビ局は多いが、俺はカリンに『シュタイナー中将は謹慎中のために取材に答えることはできません』と言って追い返していた。

その時に官舎のインターホンが鳴る。それに反応してカリンが慣れた様子で出て行く。

 「カリン、あまりにテレビ局がしつこいようだったら塩でも撒いてやれ」

 「それをやったらヘルベルトさんは無駄に敵を作るだけですよ。と言うかなんで塩を撒くんですか?」

 「まだ人類が地球という1惑星にしか住んでいなかった時代のさらに昔、日本という国にあった二度と来るなという意思表示だよ」

 「それをやったらヘルベルトさんがさらに孤立しますよ? ただでさえ軍部の中でも孤立しているんでしょう?」

 「今更他の軍人との関係修復は無理だよ。それに亡命軍人一世の俺と仲良くしようとする奇特な人物の方が少数派さ」

俺の言葉にカリンは肩をすくめて玄関へと向かう。それを見送って俺はソファーに寝転がる。

正直言うとこの先の展開は二つしかない。帝国領侵攻作戦が発令されて原作さんが仕事をするか、それとも発令されないで未知なる銀河英雄伝説に突入するかだ。個人的に言えば発令されないで欲しい。自由惑星同盟と言う国はどうでもいいがヤンやラップ、アッテンボロー、キャゼルヌ先輩、カールセン提督やチュン准将、フィッツシモンズ中尉などの死んで欲しくない人が増えてしまった。

それの筆頭はカリンだ。原作では後半まで全く出てこなくて、どんな人生を歩んでいたがわからないが、こちらではキャゼルヌ先輩の仕事で俺のところに来て、少なくとも原作よりマシな生活をさせてあげられていると思う。それに何より俺自身がカリンのことを実の娘のように思っている。いずれ機会があれば実の父親であるシェーンコップにも合わせる手筈を整えてあげたいが、それをできる余裕がまだない。何より原作ではカリンは父親であるシェーンコップと和解することなくシェーンコップが戦死し、それをカリンは悔いていた。養父としてはそれをどうにかしてあげたい。

 「……まぁ、カリン自身の意思も大事なんだがなぁ」

俺はつまらない議論を続けるテレビを消して、天井を見上げる。

 「ヘルベルトさん。お客さんです」

 「おや、謹慎中の俺に会いにくるなんて奇特な人間は誰だ? 軍人だったら上層部に睨まれることになるぞ」

 「その忠告は第十四艦隊の幕僚になる前に言って欲しかったな」

カリンと一緒にやって来たのはつい先日結婚式を挙げたジャン=ロベール・ラップとジェシカ・E・ラップ夫婦だった。

 「おう、新婚ホヤホヤのお二人さんじゃないか。今日は何の用事だ?」

 「なぁに。我らが敬愛すべき第十四艦隊司令官殿に結婚のご報告とご機嫌伺いに参りました」

 「なんだ? 結婚式に出られなかったことを恨んでいるのか? 仕方ないだろう? 謹慎中なんだから」

 「だからってカリンに伝言持たせて学生時代の悪事をバラすとか何を考えているんだ。危うく婚姻届と一緒に離婚届けも提出するところだったぞ」

俺とラップの会話をラップ夫人は楽しそうに聞いている。

 「悪かったなエドワーズ……あぁ、じゃなかった。ラップ夫人。結婚式に参加できなくて、正直なところラップの結婚式はどうでもいいが、ラップ夫人の晴れ姿は見たかったんだがな」

 「別にいいのよ。それにテレビでのあの発言の方がシュタイナーらしくてよかったわ」

楽しそうに笑うラップ夫人。原作では悲劇的な死を遂げた彼女だったがこちらの世界では幸せになれそうでよかったものである。

そのまましばらく雑談していたがラップが目で合図を出して来たので、カリンとラップ夫人には買い物に出かけてもらう。

 「それで? 民間人の2人に聞かせられない話ってなんだ?」

 「第十四艦隊についてだ」

やっぱりそれか。

司令官の迂闊な発言によって微妙な立場になってしまったのが第十四艦隊だ。俺としては解散になる覚悟もあったのだが、それに待ったをかけたのがチュン准将だった。チュン准将は第十四艦隊を解散させないように動き始めたのだ。第十四艦隊副司令官であるカールセン准将も同じ叩き上げであるビュコック提督に働きかけたり、ラップやフィッツシモンズ中尉は第十四艦隊所属の兵士達やその家族に署名活動を行ってそれを軍部に提出したりしていたらしい。驚いたことにその署名の中にはビュコック提督、ウランフ提督、ボロディン提督、クブルスリー提督の名前もあったそうである。

 「とりあえず解散はなくなった。シトレ元帥はもちろん、トリューニヒト国防委員長も第十四艦隊の解散には反対の立場をとったからな」

 「トリューニヒトがねぇ……」

 「お前さんがトリューニヒトが嫌いなのはわかる。俺だって嫌いだ。だが今回は助けられたと思えよ」

 「ただの票集めのためだろうが」

 「それでも助かったのは事実だ」

やっこさんだって俺に好かれているなんて思っていないだろうに何の真似だ。

 「だが、ヤンの第十三艦隊には補充があって一個艦隊規模に再編成されるが、うちの第十四艦隊は半個艦隊のままだ」

 「それは困る」

 「困るのはこっちだ」

俺の言葉にラップは疲れたようにため息を吐いた。ラップも優秀な軍人である。だからこそ戦争は数であることを知っている。そのために数が少ないことが不利なことは分かり切っていることである。

 「とりあえずシュタイナーの謹慎は明日で解かれることになった。そしてお前さんは三日後とある会議に出席してもらうことになっている」

 「楽しい会議か?」

 「楽しい会議なんかあるわけないだろ。それにシュタイナーには特別不本意な作戦会議かもしれないな」

ラップの言葉に死ぬほど嫌な予感がする。そしてラップは口を開く。

 「銀河帝国侵攻作戦のための会議だ。第十四艦隊も帝国侵攻作戦に参加することになった」

自由惑星同盟は死刑執行書にサインをしたらしい。

 

 

 

宇宙暦796年8月12日。統合作戦本部の地下にある会議室に侵攻作戦に参加する将官が集められた。

総司令官にラザール・ロボス元帥。総参謀長にドワイト・グリーンヒル大将。作戦主任参謀コーネフ中将。情報主任参謀ビロライネン少将。後方主任参謀にキャゼルヌ先輩。作戦主任参謀の下に作戦参謀が5人置かれ、その中に同盟最大の戦犯であるアンドリュー・フォークもいる。原作さんはしっかり仕事をしてしまったらしい。

実戦部隊には9個艦隊。

第三艦隊、司令官ルフェーブル中将

第五艦隊、司令官ビュコック中将

第七艦隊、司令官ホーウッド中将

第八艦隊、司令官アップルトン中将

第九艦隊、司令官アル・サレム中将

第十艦隊、司令官ウランフ中将

第十二艦隊、司令官ボロディン中将

第十三艦隊、司令官ヤン中将

第十四艦隊、司令官に俺ことシュタイナー中将

総動員数は3000万人を超える大軍である。その前例のない巨大な作戦計画に無心でいられない将官も多く、出ていない汗を拭ったり、用意された冷水を立て続けにあおったり、隣の席の同僚と私語をしている姿が目立つ。

俺とヤンは普段だったらそんな空気を無視して世間話をするところだが、ヤンは無言で腕を組んで目をつぶっており、俺は不満な表情を隠そうともせずに軍帽を回している。

そして午後9時45分。統合作戦本部長シトレ元帥が首席副官マリネスク少将を伴って入室すると、すぐに会議は開始された。

 「今回の帝国領への遠征計画はすでに最高評議会によって決定されたことだが、遠征軍の具体的な行動計画案はまだ樹立されていない。本日の会議はそれを決定するためのものだ。同盟軍が自由の国の、自由の軍隊であることはいまさら言うまでもない。その精神に基づいて活発な提案と討論を行ってくれるように希望する」

シトレ元帥の顔にも声にも昂揚感はない。今回の出兵に反対なんだろう。

そして会議が始まって1番最初に発言を求めたのはこの作戦案を直接最高評議会に持ち込んだフォーク准将だった。

 「今回の遠征は、我が同盟開闢以来の壮挙であると信じます。幕僚としてそれに参加させていただけるとは武人の名誉、これにすぎたるはありません」

抑揚に乏しく原稿を棒読みするかのように話すフォーク准将。フォークは延々と軍部の壮挙、つまりは自分の作戦案に美辞麗句で自賛している。その無意味な時間につい俺の口が滑る。

 「よくぞまぁ、そこまで自分の作戦案を褒められるものだな。どれだけ自分が大好きなんだ」

軍部でも今回の作戦案はフォーク准将が立案したことは知られている。というより俺が流した。フィッツシモンズ中尉が想像以上に優秀でそのような情報戦もできる人間だったのでお願いしたのだ。

俺の発言にフォーク准将の言葉は止まり、実戦部隊の指揮官達からは失笑が漏れる。フォーク准将は一応格上の俺に突然怒鳴るという真似はしなかった。しかし、目元のあたりがピクピクと動いている。

 「シュタイナー中将。発言をする時は本部長に許可を求めるのが当然だと小官は考えますが?」

 「それは悪いね。なにせこっちは誰かの言葉で数日前まで謹慎中だったものでね、話し相手に飢えているのさ。しかも噂によれば俺を謹慎に追い込んだ相手がこの作戦に幕僚として参加していると来た。ついつい口を滑らせてしまうのも仕方ないだろう」

もちろん俺を謹慎に追い込んだのはフォーク准将だし、そのことを俺はもちろん軍の大半が知ることになっている。そのために第十四艦隊と第十三艦隊の士官達からはフォークの評価は最低である。

 「ついでに言うとだ、フォーク准将。この作戦案は軍の将官が本部長等を通さずに直接最高評議会に持ち込んだそうだ。軍という形に対してそれはあまりにも軽率な行動であると小官は考えるが、貴官はどうお考えかな?」

もちろんフォークが直接最高評議会に持ち込んだということも俺が軍に情報を流しており、すでに実戦指揮官のみならず、市民達にも知られることだ。

 「シュタイナー中将。貴官が謹慎中で話し相手が被保護者しかいなかったことはわかる。だが、ここは作戦会議の場だ。話し相手には後でヤン中将にでもなってもらいたまえ」

シトレ元帥がどこか呆れながらも楽しそうに窘めてくる。俺はそれに一度敬礼すると大人しくする。横目でヤンを見るとヤンも楽しそうに俺を見ていたのでウィンクを返す。見えないところで中指が立てられたのでこちらも中指を立て返しておいた。

次に発言を求めたのはウランフ中将だ。

 「吾々は軍人である以上、赴けと命令があれば何処へでも赴く。まして、暴虐なゴールデンバウム王朝の本拠地をつく、というのであれば喜んで出征しよう。だが、いうまでもなく、雄図と無謀はイコールではない。周到な準備が欠かせないが、まず、この遠征の戦略上の目的が奈辺にあるかを伺いたいと思う」

帝国領内に侵入し、敵と一戦を交えてそれで可とするのか。帝国領の一部を武力占拠するとしても一時的にか恒久的にか。それとも皇帝に和平を誓わせるまで帰還しないのか

 「迂遠ながらお聞きしたいものだ」

ウランフ中将が着席すると、返答を促すようにシトレとロボスの両元帥が等しくフォーク准将に視線を向けた。

 「大軍をもって帝国領土の奥深く侵攻する。それだけで帝国人どもの心胆を寒からしめることができましょう」

 「では戦わずして退くわけか」

 「それは高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処することになろうかと思います」

ウランフ中将はフォークの返答に眉をしかめて不満の意を表した。

 「もう少し具体的に言ってもらえんかな。あまりに抽象的すぎる」

 「要するに行き当たりばったりということではないのかな」

 「「ブフゥ」」

皮肉を効かせたビュコック中将の言葉に思わず俺とヤンは吹き出してしまった。他の提督達は漏らす事はなかったが忍び笑いをしている。

流石のフォークも亡命軍人である俺に噛み付く事はできても、同盟軍が誇る宿将であるビュコック中将に噛み付くわけには行かないのか、丁重に無視をするという手段をとった。

 「他に何か……」

フォークがそう言ったので今度は俺が発言を求める。それに室内にいた全員が驚いた雰囲気を見せる。シトレ元帥に許可されたので起立して俺は口を開いた。

 「後方主任参謀であるキャゼルヌ中将がいるならば軍の行動に対して補給は万全であると私は考えます。ですが、今回同盟軍が動員する3000万の軍人に、5000万人以上の民間人の食料を確保する事は可能ですか?」

俺の言葉に両元帥の視線が後方主任参謀であるキャゼルヌ先輩に集まる。キャゼルヌ先輩はどこか驚いた表情をしながら両元帥に返答する。

 「不可能です。同盟軍の兵站だけでもかなりの無理をしています。そこに5000万人もの食料を追加することになればイゼルローンの生産はもちろん、同盟全土の物資をかき集めても足りません」

 「……ふむ、シュタイナー中将。少し詳しく説明してもらえるか」

 「了解です」

シトレ元帥の言葉に俺は軽く口を開く。

 「例えば我が軍は帝国領内に500光年ほど侵入したとしましょう。その中には200を数える恒星系があり、そのうち30あまりが低開発とは言え有人惑星で5000万人ほどの民間人がおります」

 「それだけの市民が解放されるというだけで、他の星系の市民はこぞって我らを迎えるでしょう!!」

フォークのどうでもいい発言を俺は無視する。

 「問題はその5000万人が食料を持っていなかった場合です。我々は護民を掲げています。そのためにその5000万人の民間人が食料を要求すれば答えねばなりません」

 「……まさかシュタイナー中将は帝国軍が焦土戦術を取ると言うのか」

 「シトレ元帥はお話が早くて助かります。民間人に食料を供給すればその分は軍の食料が減ります。古来より腹を空かせた軍が勝った例は少ないですな」

俺の発言に室内全員が少し騒つく。

 「その戦術は帝国軍自身が民心を失う戦術であり、とても軍人がとる戦術とは思えません!!」

 「フォーク准将は勉強不足だな。相手は専制国家だ。民のことなど二の次三の次だ。一番大事なのは皇帝であり、次に大事なのは貴族の面子だ。ゴールデンバウム王朝の貴族において民なんぞ家畜みたいな扱いさね」

 「……ほう、それはゴールデンバウム王朝開闢以来の名家であるシュタイナー伯爵家出身の中将にとっても同じようなものですかな」

 「私が否定したところで貴官は自分が信じたい情報しか信じないだろうに。好きなように妄想の羽を広げておくんだな」

フォークの皮肉にも俺はさらりと返しておく。その後に両元帥から意見を求められたフォークは「兵站の仕事は後方主任参謀であるキャゼルヌ中将にお任せします」と言って逃げた。その発言の瞬間にぶちぎれてフォークを怒鳴りそうになったキャゼルヌ先輩は隣に座っていた同僚に宥められていた。

そして次に発言を求めたのはヤンだった。

 「帝国領内に侵攻する時期を現時点に定めた理由をお訊ねしたい」

 「選挙が近いからだろう」

ヤンの言葉に間髪入れずにビュコック中将が皮肉な言葉を放り込む。

 「戦いには機というものがあります」

フォークはヤンに対して得々と説明をする。

 「それを逃しては、結局運命そのものに逆らうことになります。あの時決行しておれば、と後日になって悔いても、時すでに遅しということになりましょう」

 「つまり現在こそが攻勢に出る機会だと貴官は言いたいのか」

ヤンの口調には呆れを通り越してバカバカしい相手をしているという雰囲気を感じ取れた。

 「大攻勢です」

フォークの訂正にヤンは心底呆れたため息を吐いた。

 「イゼルローン失陥によって帝国軍は狼狽してなすことを知らないでしょう。まさにこの時期、同盟軍が空前の大艦隊が長蛇の列をなし、自由と正義の旗を掲げて進むところ、勝利以外のなにものが前途にありましょうか」

 「理想論だな。現時点で同盟軍の財政はギリギリだ。今回の出兵で帝国を併呑できたとしても、それを統治する金も人もいない。恐らくは残った貴族達のゲリラ戦によって同盟の財政はますます破綻していく」

 「シュタイナー中将の言う通りだ。そして勝てると言う確証もない。おそらく我々の迎撃に出てくるのはローエングラム伯だ。彼の軍事的才能は想像を絶するものがある。それを考慮に入れて、今少し慎重な計画を立案すべきではないのか」

ヤンの言葉にフォークが口を開く前に宥めるようにグリーンヒル大将が口を開く。

 「ヤン中将、君がローエングラム伯を高く評価している事はわかる。だが、彼はまだ若いし、失敗を起こす事もあるだろう」

 「グリーンヒル大将。最初の前提としておかしい。最初から相手の失敗を前提にして作戦を立てるのは無意味だ」

 「シュタイナー中将の言う通りです。勝敗とは相対的なもので……彼がおかした以上の失敗を我々がおかせば、彼が勝って我々が敗れる道理です」

 「生粋の同盟軍人であるヤン中将からは言いづらいでしょうから、代わりに亡命軍人である小官が言いますが、大前提としてこの構想自体が間違っているのですよ」

悪いが俺とヤンが組むとびっくりするくらいに口が回る。それはこの場でも遺憾なく発揮された。

だが、フォークには無意味だったらしい。

 「シュタイナー中将が唱えた焦土戦術はあくまで可能性であり、ヤン中将が言われたローエングラム伯の脅威は予測でしかありません」

 「……こいつの頭は飾りか?」

俺の呟きが聞こえたのは隣にいたヤンだけだったのだろう。ヤンは呆れたようにため息を吐いた。

 「敵を過大評価し、必要以上に恐るのは武人として最も恥ずべきところ。まして、それが味方の士気を削ぎ、その決断と行動を鈍らせるとあっては、意図すると否に関わらず、結果として利敵行為に類するものとなりましょう。どうか注意されたい」

その発言に瞬間に会議用テーブルの表面が激しい音を立てた。ビュコック中将が叩きつけたのである。

 「フォーク准将、貴官の今の発言は礼を失しているのではないか」

 「ど、どこかです?」

老提督の鋭い眼光に射込まれながら、フォークは胸をそらした。

 「貴官の意見に賛同せず、安全をきすべしと言う当然の献策を行った両提督に対して、利敵行為呼ばわりするのが節度ある発言と言えるか?」

 「わたくしは一般論を申し上げているだけです。個人に対しての誹謗と取られては、甚だ迷惑です」

フォークの頬肉がピクピクと動いている。俺とヤンは同時に小さなため息を吐いた。

 「……そもそもこの遠征は専制政治の暴圧に苦しむ銀河帝国250億人の民衆を解放し、救済する」

フォークの発言の途中で今度は俺が机に思いっきり足を叩きつけるように載せる。その行動に室内全員が驚き、付き合いの長いヤンやキャゼルヌ先輩も驚きを見せている。

 「フォーク准将。この場は作戦会議の場だ。貴官の独演会場ではないし、我々も貴官の中身が全くない演説を聞くほどヒマではない。貴官がそのくだらない演説を続けるようであれば私は中座させて欲しい。それがダメならば私は昼寝をさせてもらう。ヤン中将。悪いがあの頭の悪い参謀の演説が終わったら起こしてくれ」

 「それは困った。私も貴官と同じことを考えていてね。2人同時に寝てしまうと起こしてくれる人物がいない。いや、私なんかよりよっぽど優秀な成績で卒業されたフォーク准将だったら私達2人の艦隊など必要ないかもしれないがね」

 「ほう、それだった兵卒叩き上げで士官学校に行っていないワシも必要ないかもしれんな」

俺とヤンの会話に平然と混じってきたビュコック中将。フォーク准将は頬肉のピクピクが止まらない。このままヒステリーを起こしてぶっ倒れてくれないかと思ったが、ロボス元帥が編成の話に切り替えたことによってその場は収まった。

配置は決定された。先鋒は俺の第十四艦隊とウランフ中将の第十艦隊。第二陣にヤンの第十三艦隊である。

それによって会議は解散される空気となったが、俺は再度発言を求めた。許可されたので俺は立ち上がりながらフォーク見る。フォークは俺の視線に一瞬だけ怯むが、すぐに傲然を見返してくる。恐らくはロボス元帥の信頼が高いことを笠に来ているのだろう。

 「フォーク准将、貴官は先ほどの会議の中で自分のことを武人と言っていたな」

 「その通りです。私は誇りある同盟軍人であり、武人です」

その言葉に俺の口は皮肉げに歪む。

 「私とヤン中将は先のイゼルローン奪取作戦において要塞駐留艦隊司令官であるゼークト大将と対話した。彼はその時に武人として同盟に降る事もできないし、武人としておめおめとオーディンに帰るわけにもいかないと言って、責任をとって自身の頭をブラスターで撃ち抜いて自害した。なるほど、確かにゼークト大将は誠の武人かもしれない。だが、弁舌だけを弄し、自身では何もしない貴官はなんなのか? 貴官は責任を持って自分の頭をブラスターで撃ち抜く覚悟はあるか?」

俺の言葉にフォークは口をパクパクと開けたり閉めたりしている。俺はそれに対して冷笑で返す。

 「ないようだな。それでは貴官は武人ではなくただの弁舌家だよ」




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
謹慎食らっても原作回避しようと思ったが無事に失敗

カリン
保護者がしょっちゅう問題行動を起こすのを呆れ気味

第十四艦隊幹部の皆さん
どうやら皆さん居心地がいい模様

アンドリュー・フォーク
シュタイナーの煽りにぴくぴく最高潮だったがギリギリ耐えた模様



そんな感じで無事に原作さんが仕事してくれました!帝国領侵攻作戦決定!やったね、シュタイナーくん同盟滅亡のトリガーが引かれたよ!

そして中身のない会議をフォーク煽りに使うシュタイナーくん(+ビュコック爺さん)。でもギリ倒れなかった模様。残念。

感想でご質問があった『転生特典はいくつですか?』というご質問ですが、圧倒的な身体能力と完璧に近い記憶能力の二つです
まぁ、身体能力のほうはほぼ死に設定なんですが。


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008.5話

銀河の歴史がまた一ページ……


銀河帝国ローエングラム元帥府執務室。ここでは元帥府の主であるラインハルトが鼻歌を歌いながら執務を行っている。

それをみて内外共にラインハルトの側近であるキルヒアイスが微笑みながら話しかける。

 「上機嫌ですね、ラインハルト様。その歌は確か……」

 「ああ、キルヒアイスにも幼い頃から聞いているだろう? 兄上……シュタイナー伯爵家に代々伝わる歌だ」

 「はい、幼年学校の頃はよくラインハルト様と一緒に歌ったものです」

キルヒアイスの言葉にラインハルトは「そんなこともあったな」と上機嫌に笑った。

ラインハルトの笑いが収まってからキルヒアイスは真剣な表情で一枚の報告書を机の上に置く。

ラインハルトがその報告書を手に取り目を通すのを確認しながらキルヒアイスは口を開く。

 「同盟軍の侵攻編成です。実戦参加艦隊は9個艦隊。総動員数は3000万人を越えます」

 「よくぞ編成したものだ。注意すべき艦隊は?」

 「第五艦隊、第十艦隊、第十二艦隊、第十三艦隊、第十四艦隊かと」

 「ビュコック、ウランフ、ボロディン、ヤン、そして兄上か。他の提督も帝国では名の知られた提督だ。本気だな、同盟は」

そう言ってラインハルトは報告書を机に置き、椅子から立ち上がって窓から外をみる。そして真剣な顔で口を開く。

 「焦土作戦には反対か? キルヒアイス」

迎撃作戦の総指揮を任されたラインハルトは新しく配属されたオーベルシュタインの進言された焦土作戦を受け入れたのだ。

ラインハルトの問いにキルヒアイスは答える。

 「旧イゼルローン要塞駐留艦隊の軍人達は皇帝の特別恩赦で誰も罪に問われることはありませんでした。それは帝国にとってもよいことだと思われます。しかし、オーベルシュタイン大佐はゼークト提督の幕僚でありながら戦いの最中にその任から逃亡した容疑がかかっています」

イゼルローン要塞陥落の大事件は帝国全土を驚かせた。そして一部の貴族達が撤退してきたイゼルローン駐留艦隊の軍人を処罰しろという声があがったのだ。

ラインハルトは即座に皇帝・フリードリヒ四世に恩赦を与えるように進言しようとしたが、それより先にフリードリヒ四世はイゼルローン駐留艦隊に対して恩赦をだし、罪に問わないとしたのだ。そのためにイゼルローン駐留艦隊の軍人達は罪に問われることはなくなり、新しい配属先に配属されることとなった。そしてラインハルトの下にも多くの軍人達がやってきて、その中にオーベルシュタインもいた。

 「キルヒアイス」

 「は」

 「私は宇宙を手に入れる」

ラインハルトの言葉にキルヒアイスは何も言わずに頷く。ラインハルトは窓から外をみながら言葉を続けた。

 「私は兄上に貴族……支配者としての心構えも教わった。その中には綺麗事だけでは済まないことを知った。そのような汚れ仕事にはオーベルシュタインのような男が適任だ」

 「しかし、オーベルシュタイン大佐はラインハルト様に忠誠を誓うでしょうか」

 「少なくともあの男は帝国に対する憎しみがある。その点では私とあの男は同類であり、裏切ることはないだろう。あの男は私を利用してゴールデンバウム王朝を滅ぼし、私もまたあの男を利用してゴールデンバウム王朝を滅ぼす」

そこまで言うとラインハルトはキルヒアイスに振り返って笑う。

 「だが、兄上も侵攻軍に参加しているならちょうどいい。これを機会に兄上を捕らえて姉上の所に一緒にいってもらおう。姉上に対する最高の土産になるぞ」

ラインハルトの姉・アンネローゼが同盟に亡命し今回は侵攻軍の一翼を担うシュタイナーに惚れているのはラインハルトとキルヒアイスにはわかりきっていることだ。アンネローゼ本人は隠しているようだがラインハルトとキルヒアイスにはお見通しである。

 「ですが、そう簡単に捕らえることができるでしょうか」

 「なに、完全包囲して降伏勧告をすれば兄上だったら降伏するだろう。何せ指揮官の仕事は『将兵を生きて故郷に還すこと』らしいからな」

ラインハルトの笑いながらの言葉にキルヒアイスも微笑みながら一礼するのであった。

 

 

 

 (帝国侵攻作戦の指揮官とは随分とらしくないことをしているじゃないか、ヘルベルト)

ロイエンタールはワイングラスに入ったワインをみながらそう内心呟く。

ローエングラム元帥府の中でも屈指の名将で知られるオスカー・フォン・ロイエンタールと、同盟の第十四艦隊指揮官ヘルベルト・フォン・シュタイナーが従兄弟というのは帝国では広く知られている。

イゼルローン陥落の報とその方法を知った時、ロイエンタールが感じたのは「相変わらず詐欺紛いのことをやっている」という笑いであった。

同盟に亡命したシュタイナーをロイエンタールは今でも親類であり、友だと思っている。それは寂しい幼少時代を過ごしたロイエンタールにとって友と呼べる唯一の存在がシュタイナーであったからだ。幼い頃からロイエンタールやシュタイナー家の家臣の子供達、さらにはシュタイナー伯爵領の領内の子供達を引き連れて詐術のような真似をして大問題を起こしていた。

だが、その親しみやすさから同年代の子供達から圧倒的な支持を受けていたのがシュタイナーであった。

 「しかし、ヤン・ウェンリーとヘルベルト・フォン・シュタイナーか。どちらか一人でも厄介なのに二人同時に侵攻作戦に参加するとはな」

ロイエンタールと一緒にワインを飲んでいたミッターマイヤーの言葉に記憶の旅にでていたロイエンタールの思考が戻ってくる。

 「ビュコック、ウランフ、ボロディンといった帝国でも名の知られた名将。そして難攻不落のイゼルローンを落とした二人、か」

 「地の利は我が方にあるが、指揮官としての質は同等……と俺は見ているが、卿はどう思う?」

ミッターマイヤーの言葉にロイエンタールはワイングラスを机に置く。

 「そうだな。指揮官としての質は同等か俺達のほうが少し上といったところか」

 「卿もそう思うか。そうなるとやはりシュタイナー伯爵が同盟に亡命したのが悔やまれる。こちらに残っているならば共に轡を並べていたかもしれないというのに。ブラウンシュヴァイクとリッテンハイムめ……!」

ミッターマイヤーが苦々しく吐き捨てるのをロイエンタールは笑う。

ローエングラム元帥府の諸提督や帝国の軍人達はイゼルローンを陥落させた提督の一人がヘルベルト・フォン・シュタイナーという政争に負けて同盟に亡命した元帝国の名門貴族だと知られると、その怒りの矛先はシュタイナー伯爵家を没落させたブラウンシュヴァイクとリッテンハイムの両貴族に向けられた。

ミッターマイヤーもその一人だ。

 「ヘルベルトの奴がこちらに残っていれば……と思うのは俺も同意見だ。だが、こちらに残っていたからと言って軍人になっていたとは思えん」

 「というと?」

ミッターマイヤーの言葉にロイエンタールはワインを一口飲んで再びワイングラスを机に置く。

 「昔からあいつは人を使うのがうまかった。それこそ適材適所に人を配置したりな。だからどちらかと言えば提督の一人ではなく、上に立つ一人としての指揮官……それこそ元帥のような立場が適任だろう」

 「ふむ、ならロイエンタールはもしローエングラム伯とシュタイナー伯に双方に元帥府に請われればどちらにいったのだ?」

 「ヘルベルトだな」

 「即答か」

ロイエンタールの言葉にミッターマイヤーは大きく笑う。その笑いが収まるのを待ってからロイエンタールは言葉を続ける。

 「だが、仮にヘルベルトが帝国で元帥府を開いていれば、その元帥府は意外と豪華になるかもしれんぞ」

 「そうなのか?」

ミッターマイヤーの問いにロイエンタールは言葉を続ける。

 「メルカッツ提督は元々シュタイナー伯爵家の家臣の家柄で、その才能を見込まれてシュタイナー家からの推挙で帝国軍人となり、上級大将まで上り詰めている。だが、今でもその忠義はシュタイナー伯爵家にも向けられている。次にメックリンガーだが、メックリンガーは元々シュタイナー伯爵家の領民出身だ。シュタイナー領民学校での成績優秀だからシュタイナー伯爵家の推薦で帝国士官学校へと入学した。メックリンガー自身もヘルベルトと共に色々とやっていたそうだ。その関係を考えればメックリンガーもまたヘルベルトの元帥府へといくだろう」

 「ふぅむ、メルカッツ提督とメックリンガーか」

メルカッツがシュタイナー伯爵家の元家臣というのは広く知られている。だが、メックリンガーがシュタイナー領出身というのは初耳だったのかミッターマイヤーも驚いている。

だが、ロイエンタールもローエングラム元帥府に移動してメックリンガーと親しくなってから聞いた話だ。シュタイナーのいくつかやっていた悪事にメックリンガーも参加しており、その時にロイエンタールも見かけていたそうである。

 「そしてシュタイナー伯爵家が解体された時、多くの優秀なシュタイナー家の文官が帝国に登用された。その中には帝国の財政を立て直し帝国騎士を受勲したブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒもいる。もしヘルベルトが帝国に残っていて元帥府を開いたらシルヴァーベルヒもまた元帥府にいって辣腕を振るっていただろう」

ロイエンタールの言葉にミッターマイヤーは感心するように腕を組んで口を開く。

 「たいしたものだな、シュタイナー伯というのは」

 「『人こそが国の宝』。それがヘルベルトの口癖であったよ」




ラインハルト・フォン・ローエングラム
黄金獅子。シュタイナーの弟分。ヘルベルト×アンネローゼ過激派

ジークフリード・キルヒアイス
赤毛ののっぽさん。ラインハルトの側近。アンネローゼに対しては敬愛しているけど恋愛感情はない模様

オスカー・フォン・ロイエンタール
シュタイナーの従兄弟。幼少期にシュタイナーと一緒に法律的アウトなこともやってた

ウォルフガング・ミッターマイヤー
未来の『疾風ウォルフ』。ロイエンタールの親友なので、シュタイナー伝説も色々聞いていてシュタイナーくんに友好的

元シュタイナー伯爵家関係者
 ウィリムバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ 元シュタイナー伯爵家家臣
 エルネスト・メックリンガー シュタイナー伯爵領出身
 ブルーノ・フォン・シルヴァーベルヒ 元シュタイナー伯爵家文官




そんな感じで感想であったので帝国側のラインハルトとロイエンタールのお話です。

帝国時代に色々アウト的なことをやっていたシュタイナーくん。それに参加していたロイエンタールやメックリンガー。ロイエンタールは覚えていませんがラインハルトも参加していた設定もあります。

ちなみにシュタイナー伯爵家関係者は他にもいます。

お楽しみに!


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009話

銀河の歴史がまた一ページ…


俺が率いる第十四艦隊は同じく先鋒のウランフ中将と別れて帝国領内に進軍している。そして最初の有人惑星を占拠し、ラップを地上に下ろして惑星の現状を知って会議を開いていた。

 「それではラップ中佐。確かに地上に食料は存在しなかったんですね?」

 「その通りですチュン准将。帝国軍の連中、パンの一欠片も残してはいませんでした」

 「……シュタイナー中将の予言した通りになってしまったわけだな」

チュン准将の言葉にラップが答えると、カールセン准将が重々しく続く。

ラインハルトのやつは原作通りに焦土戦術をとってきた。無人だからと言って勝手気ままに進軍すれば、補給線は伸びきったところを切られて俺たちは何もできずに敗退するだろう。

副司令官と総参謀長、副参謀長の視線を感じながら、俺は軍帽を指で回しながら考える。

 (恐らくはこの進軍が保てるのは一月程度。それが終わったら残っているのは地獄だ。飢えた状態に低い士気。それでラインハルト率いる天才艦隊と戦う? どんな罰ゲームだ)

そこまで考えたところで回していた軍帽が指から飛んでいく。そしてそれを「薄く淹れた紅茶の色」の髪と「青紫色」の瞳をもつ美しい少女が拾い、俺に渡してくる。

 「シュタイナー中将。真面目に軍議に参加してください」

 「作戦動機が不真面目な作戦に真面目に参加するとかバカバカしいと思わないか? カリン」

俺の被保護者であるカーテローゼ・フォン・クロイツェルである。

何故カリンが作戦行動中である第十四艦隊旗艦・エクシールに乗艦しているかと言えば、原作のユリアンがヤンのイゼルローン要塞時に一緒について行った理由である『将官に対する従卒』の存在である。カリンは学校を飛び級して卒業してしまうと、俺の従卒に志願してきたのだ。

もちろん俺は反対である。ただでさえ死ぬ可能性の高い軍人という職業。さらには負け確定のような帝国領侵攻作戦からの参加など絶対反対であった。カリンは最初は軍人になりたいと言ったが、それは俺を一蹴した。『人を殺す仕事なんかに就く必要はない』と言ったのだ。しかしカリンは『私はまた自分の知らないところで親を亡くすのは嫌です』という返答に俺は何も言えなくなった。おそらくカリンは実の母親の死に目に会えなかったのだろう。そして原作ではその恨みをシェーンコップに向けた。しかし、こちらの世界では(一応)親扱いである俺という存在によって、親に対する愛情が俺に向かってしまったのだろう。俺の『俺は死なないよ。カリンの花嫁姿を見るまで死ねるか』という言葉に『お母さんは同じことを言っていましたが、結局は死んでしまいました』という返答に俺は言葉を無くした。

だが、俺は決して首を縦に振らなかった。せっかく順風満帆な生活で、学業優秀、美人なために異性からもモテるカリンなのだ。命を捨てる必要はないと言い張った。

そしてカリンは搦め手から攻めてきた。まずヤンに相談に行ったようだが、ヤンもユリアンやカリンが軍人になることを反対しているために逆に説得される形となったようである。次に頼ったのは頻繁に俺の家に来てはリビングで眠っては蹴られて起こされるアッテンボローだった。アッテンボローはカリンにお願いされる形でやって来たが、将来的に伊達と酔狂で革命戦争をやる人間に俺が説得されるわけもなく、あっさりと論破されて帰って行った。カリンが次に頼ったのはラップだったが、ラップも俺とヤンの同じ考えのために拒否。そしてキャゼルヌ先輩も出て来たが『シュタイナー家の問題です』と言い張って拒否した。

そして最後にカリンが出して来た相手が問題だった。カリンは俺がお世話になったアルフレッド・ローザス提督の孫であり、妹分であるミリアム・R・ヒューガー夫人だった。キャゼルヌ先輩から話を聞いたカリンが家族包みで未だに付き合いのあるミリアムと連絡をとったのだ。フェザーンに住んでいるミリアムとハイネセンにあるシュタイナー家の間でヒューガー家とシュタイナー家の家族会議の結果、俺はミリアムの『自分の知らないところで親が死ぬことほど悲しいことはない。そしてヘルベルトさんが死んだらカリンは再び養子に出されることになる。ヘルベルトさんやヤンさんのような軍人だったらいいけど、ブルース・アッシュビーのような人間の家に養子に出されたら悲惨だと思うわ』という後半は完全に私情の説得に折れる形で俺はカリンのことを認めた。

しかし、決して譲歩しなかったのは『まだ完全な軍人にはならない。そして軍人になる時は俺の許可をとる』という条件を受け入れさせたことによって、カリンは従卒として俺と一緒にエクシールに乗り込むことになった。

カリンからキャゼルヌ先輩に連絡してから30分後には辞令が降りたことに完全な出来レースな気がしたが、手遅れであった。

俺はカリンから軍帽を受け取ると適当に頭に乗せる。カリンはため息を吐きながら俺に乗せられた軍帽の位置を直していた。

 「シュタイナー中将の教育はよく行き届いているものですね」

 「それはそうさラップ中佐。なにせ貴官を始めに我が家には反面教師の鏡がいっぱい訪れる」

 「小官が始めというのは納得できませんな。始めはヤン中将でしょうに」

 「私やユリアンにとってはシュタイナー中将もヤン中将もラップ中佐もアッテンボロー准将もご一緒ですよ」

カリンの言葉に俺とラップは降参のように両手を挙げ、チュン准将とカールセン准将、副官席に座っているフィッツシモンズ中尉だけでなく艦橋にいる乗組員全員から笑い声が出る。

うん、絶望的な状況とわかっていても笑えるというのは大変助かる。

 「フィッツシモンズ中尉。スクリーンに進軍予定宙域の地図を出してもらえるか」

 「了解です」

俺の言葉にフィッツシモンズ中尉がコンソールを叩くとスクリーンに帝国領内の地図が現れる。

 (さて、どうやって自分達が生き残りつつ他の艦隊も生き残らせるかが問題だ)

俺が思考する時のクセ(カリンに指摘されて気づいた)である腕を組みながら右手人差し指で組んだ腕の部分を叩くが出ると、幕僚だけでなく艦橋も静かになる。俺の考えるクセをカリンから聞いたチュン准将が艦橋の乗組員全員に教え、俺の思考の妨げをしないようにしたのだ。正直、とても助かる処置である。

 (自分達だけが生き残るのなら簡単だ。適当な理由をつけてこの惑星で待機。補給が途絶えた時に進軍不可能としてさっさと逃げてしまえばいい。だが、それをやると他の艦隊は逃げることができない)

カリンがさり気なく用意した紅茶を一口飲みながら思考を続ける。

 (ヤンとビュコック提督は当然として、今後のことを考えればウランフ提督とボロディン提督にも生き残っていただかねばならない……後はアップルトン提督か? 話をしてみた感じだと原作で描写の少ないホーウッド提督とアル・サレム提督も有能だ。いや、有能なのは当然か。なにせ同盟史上初の大軍勢の指揮官に選ばれるんだから凡将なわけがない)

 「フィッツシモンズ中尉。現在わかっている味方の配置を地図上に映し出してくれ」

俺の言葉に邪魔をしないように返事はせず、無言で地図上に味方の配置を映し出してくれる。俺はその配置を見て舌打ちが出る。

 (ホーウッド提督とアル・サレム提督が突出している。これでは帝国軍の反撃が開始された時に真っ先に標的にされる。位置的にアル・サレム提督の第九艦隊は戻れるかもしれないが、ホーウッド提督はこのまま行くと帰ってこれなくなる。見捨てるか……いや、それができるなら最初から悩んじゃいない。それならどうするか)

そこまで考えたところで俺は一つの辺境惑星が目に入る。『クラインゲルド子爵領』。辺境惑星の通行の要衝。ここからなら他の艦隊への援護にも行きやすく、最悪の場合は自分たちの艦隊も後方から進軍しているビュコック提督の援護も受けやすく撤退しやすい。そして何よりあの作戦ができるかもしれない。

 「……これまた分の悪い賭けになるか。イゼルローンと言い今回と言い貧乏くじを引いてばかりだ」

 「逆に考えるべきですな。これだけ最悪な状況ばかりを経験していればこれから先の最悪の作戦にも『あぁ、またか』という気持ちで軍首脳部に対して文句を言える立場を手に入れた、と」

カールセン准将の冗談に俺は苦笑する。

 「フィッツシモンズ中尉。我が軍の後方から進軍中の第五艦隊司令官のビュコック中将に通信を繋いでくれ」

 「了解しました……第五艦隊旗艦リオ・グランデに通信繋がります」

フィッツシモンズ中尉の言葉と同時に自由惑星同盟軍の宿将であるアレサンドル・ビュコック中将がスクリーンに現れる。俺が敬礼するとビュコック提督も敬礼で返してくる。

 『どうしたシュタイナー中将。報告であれば吉報であればワシは嬉しいのだがね』

 「吉報と凶報。どちらもご用意しておきましたが、どちらから聞きたいですか?」

俺の言葉にビュコック提督は顎を摩りながら口を開く。

 『それでは吉報の方から聞いておこうかの』

 「我が第十四艦隊が惑星の占領に成功しました」

 『あぁ、そうか。いや、その報告だけで凶報の方の予想もついてしまったが、一応聞いておこう』

 「惑星の民のための食料がパンの一欠片も残っていません」

俺の言葉にビュコック提督は難しそうな表情をして目頭を抑える。

 『貴官が予想していた通りの展開になったわけだな』

 「残念ながら」

俺の言葉にお互いに無言となる。だが、次に口を開いたのはビュコック提督だった。

 『それで? 貴官はどうする? このまま帝国領に侵攻することは滅びの歌を全員で合唱することになると思うが』

 「私はビュコック提督が到着するまでの食料だけをこの惑星に残してクラインゲルド子爵領に侵攻します」

 『待て、貴官は進軍するつもりか?』

 「私が進まないとビュコック提督が立ち止まれる惑星がないでしょう」

俺の言葉にビュコック提督は納得したかのように頷いた。

 『なるほど。突然の兵糧消費の増大により兵糧の備蓄に不安を感じたために、追加の兵站が届くまで進軍を停止するという理由付けか』

 「ご明察です」

 『だが貴官が進むクラインゲルド子爵領となると、帝国の辺境とは言え交通の要衝だろう。第十四艦隊が危機になるのではないか?』

 「私もクラインゲルド子爵領で進軍は停止します。まぁ、帝国の反撃が起きた時には私も考えがあります」

 『そうか……貴官の戦略と戦術については疑っていない。だからこそ貴官とヤン中将はこれからの同盟に必要だ。命を粗末にするなよ』

 「ご心配なく。私は何よりも自分の命が大事な超エゴイストですので、命を捨てる気はさらさらありません」

 『その言葉を信じよう。それでは武運を祈る』

ビュコック提督の言葉に俺は敬礼するとビュコック提督も敬礼を返してきた後に通信が切れる。

俺は通信が切れると一回だけため息を吐いて第十四艦隊首脳陣の方に振り返る。司令席を後ろに回すだけで、首脳陣の会議に入れるこの座制配置はヤンのヒューベリオンを参考にさせてもらった。

 「さて、私がこれから述べる作戦はハッキリ言って無茶と無謀と無理を混ぜ合わせた狂人の作戦だ。まぁ、文句はあるだろうがこれが上手くいけば数多くの同盟軍の将兵が生きて帰れることになる。反対意見もあるだろうが、とりあえず大人しく聞いてくれ」

そして俺が作戦を説明する。作戦内容が進む内に全員の表情が驚愕に染まっていく。

 「……司令官は成功すると思いますか?」

 「正直なところ自信はない。だが、1人でも多くの同盟軍の将兵を本国に帰還させるためにはこの手段しかないと思っている」

チュン准将の言葉に俺は正直に答える。真っ正面から言えば頭がいかれているとしか思えない作戦だ。だが、第十四艦隊の高速機動艦隊の速度ならば不可能ではないと思っている。そのためには首脳陣。特にカールセン准将の協力は必要不可欠だ。

 「私はアスターテの会戦でシュタイナー中将の機転のおかげで生き残れた。そのシュタイナー提督の願いと言うならばその任務、ぜひとも遂行させていただきたい」

カールセン准将の言葉で第十四艦隊の帝国領侵攻作戦においての動きは決まった。

 「第十四艦隊はクラインゲルド子爵領まで軍を進める。そこからはこの作戦の準備に入る。カールセン准将はこの作戦における艦隊の振り分けを、チュン准将は私と一緒に作戦を煮詰めます。ラップ中佐はクラインゲルド子爵領に着いたら現地の民と良好な関係を築いてくれ」

俺の言葉に全員が敬礼で返してくるのであった。




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
原作知識を生かして同盟の将兵を多く生きて返そうと色々計画する

カーテローゼ・フォン・クロイツェル
学校を飛び級卒業して養父についてきた

ヘルベルトくんの作戦
また次回をお待ちください



そんな感じで帝国侵攻作戦開始です。そして開幕早々に原作パワーをぶつけられるシュタイナーくん。頑張って足掻いて同盟の将兵を生きて還して欲しいところ

そして学校を飛び級卒業してヘルベルトくんの従卒になったカリンちゃん。話の展開上ユリアン以上の天才児になりました。

そういえば作者は文庫で銀河英雄伝説(外伝、ハンドブック含む)を買っているんですが、最近出始めた愛蔵版も買っています。当然、最近でたブリュンヒルトのプラモデルも買いました。

銀英伝ファンなら当然ですよね!


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010話

銀河の歴史がまた一ページ……


 「クラインゲルド子爵領から帝国軍艦艇が離脱して行きます!」

オペレーターの言葉に艦橋にいる人々の視線が俺に集中する。俺は軍帽を指先で振り回しながら軽く口を開く。

 「放っておけ。ここで数隻の軍艦を沈めても大勢に影響はないし、むしろ本命の戦いの時にエネルギーが足りなくなったらバカみたいだからな」

 「全艦に通達しておきましょう」

俺の言葉にチュン准将が全艦に命令を伝える。

 「ラップ中佐。惑星に降りて食料の確認と鎮撫を頼む」

 「了解しました」

俺の言葉に敬礼を返して艦橋から出て行くラップ。俺はそれを最後まで見送ることなく脳内にある第十四艦隊に所属する全将兵の名前と大まかな経歴が流れて行く。その中にある一つの名前で俺の記憶が止まる。

 「フィッツシモンズ中尉。フランツ・ヴァーリモント少尉を呼び出してくれ」

 「はい? は、ハイ。了解しました」

フィッツモンズ中尉は不思議そうに問い返してくるが、俺がすでに考え事の体勢に入っていることに気づいてすぐに行動に移している。

 (確かヴァーリモント少尉はアニメオリジナルキャラクターだったはず。ホーウッド中将の部下だったはずだが……まぁ、せっかくこっちにいるんだから利用させてもらおう。何より本人もやりたかった仕事だったはずだからな)

それからしばらく思考をこれから先のことに巡らせる。俺の考えた手が上手く行けば原作より多くの将兵が生きて帰れる。失敗すれば第十四艦隊が吹っ飛びかねない危険性もあるが。

 「あぁ!! クソ!! 指揮官になんかなるもんじゃないな。俺はどちらかと言えば命令を受けて動くべき人間のはずだろ」

「シュタイナー中将」

小声で呟いていたのを、紅茶を片付けていたカリンに聞かれたのか軽く叱られる。やれやれ。これじゃあどっちが保護者かわかったもんじゃない。

 「フランツ・ヴァーリモント少尉であります!」

そして俺が気がつくと、近くに若い士官がやってきていた。ヴァーリモント少尉だ。俺も一回だけ話をしたことがあるので覚えている。

 「よく来てくれたヴァーリモント少尉。貴官にある重大な任務を与える。これは第十四艦隊の命運を左右する任務だと思って欲しい」

俺の言葉に緊張した表情をするヴァーリモント少尉。そりゃ一士官に艦隊の命運を託すようなことを言われたら緊張するわな。

俺は軽く笑いながら手をヒラヒラと振る。

 「冗談だ。重大な任務ではあるが流石に第十四艦隊の命運を左右する任務ではないさ」

 「は? はぁ……」

俺の言葉にどこか困った表情をするヴァーリモント少尉。

 「シュタイナー中将。若手士官をからかうのはどうかと思いますよ」

仕事をしながら俺たちを見ていたチュン准将に怒られてしまった。俺は軽く肩を竦めると話を続ける。

 「ヴァーリモント少尉。貴官は確か農業を専攻して学んでいたな」

 「は! その通りであります!」

 「ついでに言うと将来的には無人惑星を開拓してみたいと私に話してくれたな」

俺の言葉に驚愕の表情を浮かべるヴァーリモント少尉。

 「覚えていてくださったのですか?」

 「部下に関することはできる限り覚えようと思っているのでね。まぁ、そこでだ。貴官には将来の無人惑星開拓の練習の機会を与えようと思う」

 「……どういうことでしょうか?」

俺はカリンが淹れてくれた紅茶を飲みながら説明を続ける。

 「帝国領における辺境惑星の経済状況なんて酷いものでな。辺境惑星や貴族の収入は帝都・オーディンに吸い取られていて、オーディンに近い惑星ならまだしも辺境惑星の扱いなんて酷いものさ。貴官が聞いても信じられないかもしれないが、農業だって碌な機材は使えていない。そのために農業レベルも低下していて、下手したら人類が地球なんて辺境惑星に住んでいた時代と同程度のレベルの可能性がある」

俺の言葉にヴァーリモント少尉は絶句する。そうだよな。自由惑星同盟は建前として自由と平等を謳っているので、きちんと辺境惑星まで開発の手は伸びている。

 「さて、そこで貴官にはこのクラインゲルド子爵領の解放された民に対して魚の捕り方を教えてあげて欲しい」

俺の発言でヴァーリモント少尉だけでなく、副官席で話を聞いていたフィッツシモンズ中尉も理解できていない表情をしている。

う〜ん、通じなかったかぁ。

 「真面目な言い方にするとな、ここの一般人に対して農業のやり方を教えてあげて欲しい。貴官はせっかく学んだ知識を生かせる良い機会だし、将来無人惑星の開拓の時にも役立つと思うんだがね。やってくれるか?」

 「は! そのような任務でしたら是非ともやらせていただきたいです!」

 「元気が良くて結構。必要な物資や機材はチュン准将に言ってくれ。チュン准将」

 「わかっていますよ。できる限り要望に答えてくれ、ですね」

チュン准将の言葉に俺は頷く。

 「既に地上には次席幕僚のラップ中佐に降りてもらっている。階級上仕方ないから貴官はラップ中佐の指揮下に入ってもらう。まぁ、ラップ中佐には多少無茶は言っても大丈夫だろう」

俺の言葉に嬉しそうに敬礼するとヴァーリモント少尉は小走りで艦橋から出て行く。

 「部下のことを気にかけてあげるんですね」

 「カリン。私みたいな指揮官は基本的に部下に対して無茶な命令を出すことが多い。だからこそ平時においては部下の望みを叶えてあげることが指揮官としての務めだよ」

カリンの言葉に俺は軽く返す。こちらの世界に転生し、亡命からの軍人コースに入ってしまった俺が実感したことだ。できる限り部下が気持ちよく仕事ができるように動いてあげる。いわゆる福利厚生みたいなこともしてあげるのが指揮官の務めだろう。

 「シュタイナー中将。地上に降りているラップ中佐から通信です」

 「繋いでくれ」

フィッツシモンズ中尉の言葉に俺が即答すると、すぐにラップの顔が映し出された。

 『シュタイナー中将。こちらはラップ中佐です。報告……というよりも事実確認ですが、予想通りこの惑星にも食料は残されていません』

 「まぁ、そうだろうな。なら市民の代表者と話し合いをして欲しい。今、ヴァーリモント少尉という人物を農業の発展を任務として地上に降ろす。ラップ中佐はヴァーリモント少尉に協力して惑星の農業発展に尽力してくれ」

 『農業発展の任務の件は了解しました。ですが、市民の代表者というのが問題でして……』

いつもならポンポンと口が回る悪友を不審に思いながらも、俺は紅茶を一口呑む。

 『実は市民の代表者としてこの惑星の領主であるグラインゲルト子爵ご本人がおります。そしてクラインゲルト子爵は自分の命はどうなっても構わないから、民と義娘、孫の身の安全を願っています』

ラップの言葉に口に含んでいた紅茶が噴射されたのだった。

 

 

 

 

 

俺はラップの報告を受けた後に地上に離着が可能な第十四艦隊旗艦・エクシールを地上に降ろし、軍用ジープに乗り込んでクラインゲルト子爵の屋敷に向かっている。

 「シュタイナー中将。本当に私達だけでよろしいのですか?」

 「構わないさ、フィッツシモンズ中尉。もとよりこちらには相手を害する気持ちはない。それに相手さんも俺を殺せば不味い立場になることは百も承知だろうしな」

随員は副官のフィッツシモンズ中尉と従卒のカリンだけである。最初は1人で軽く行こうと思ったのだが、チュン准将が猛反対したために随伴をつけることになった。チュン准将は武装した兵士を5人つけようとしたのだが、俺はあくまで『話し合い』という点を強調して非武装で行こうとした。

そして落とし所としたのが、相手が危機感を覚えないという理由で女性であるフィッツシモンズ中尉。そして本人の強い希望でカリンである。

ヴァーリモント少尉の指示で動き回る同盟軍兵士と、クラインゲルト伯爵領の一般人。ラップに忠告されたのか、ヴァーリモント少尉も地元の一般人と友好的な付き合いをしていて何よりである。

そして俺は一つの大きな屋敷に到着する。有人惑星を領地に持つ貴族としては平均的なサイズを持つ屋敷だ。

俺は自分で運転していた軍用ジープから降りると、屋敷の入り口に向かう。入り口には執事と思わしき老年の男性が立っていた。

 「自由惑星同盟軍第十四艦隊司令官ヘルベルト・フォン・シュタイナー中将です。クラインゲルト子爵にお会いしたいのですが」

 「……こちらにどうぞ」

執事の男性は緊張した面持ちで俺たちを案内する。場合によっては自分の主人が処刑される可能性もあるのだ。緊張するのも無理はない。

そして俺が案内された一室に入ると、貴族の服装をした1人の老人が待っていた。

 「アルベルト・フォン・クラインゲルト子爵だ」

 「自由惑星同盟軍第十四艦隊司令官ヘルベルト・フォン・シュタイナー中将です」

お互いに握手をすると、用意されていたソファーへと腰掛ける。俺の背後にはフィッツシモンズ中尉とカリンが立ち、いつでもブラスターを抜けるような気配を感じる。

 「ゴールデンバウム王朝開闢以来の名家であるシュタイナー伯爵家の末裔を敵として迎え入れるとは思っていなかった」

 「それについてはブラウンシュヴァイクとリッテンハイムを恨んでいただきたいですな。両家の働きで我が家は目出度く亡命の憂き目にあったのですから」

俺の言葉にクラインゲルト子爵の表情が強張る。

 「卿が我ら帝国貴族を恨むのはわかる。卿の一族を庇おうとしなかった我ら貴族がその責めを負うべきだろう」

クラインゲルト子爵の言葉を無言で先に促す。

 「だが、それは我ら貴族が負うべき責めであり、領民には一切関係ない。だからこそ領民に対して不当な扱いは辞めていただきたいと思っている。無論、身勝手な願いなのは理解している。だが、これを受け入れてくれるならば、この老骨の首を差し出しても構わない」

俺は内心で驚いていた。俺は帝国にいた時も自領にいる以外はオーディンにいることが多く、クラインゲルト子爵のような貴族には会ったことがなかった。

 「ラップ中佐からは義理の娘さんとお孫さんも助命して欲しいと願っていると聞いていましたが?」

俺の言葉にクラインゲルト子爵は黙って目を瞑る。

 「親として……祖父としての願いならば2人の命は助けていただきたい。だが、貴族の助命など卿等反乱軍……自由惑星同盟軍には認められないだろう」

クラインゲルト子爵は堂々と言い放った。俺はそれに対して思わず口笛が出てしまう。それを当然のようにカリンに視線で窘められた。

 「まぁ、クラインゲルト子爵。先に結論だけ述べさせていただくと、子爵御本人、そして義理の娘さん、そしてお孫さんの命はこちらの条件を飲んでいただけるなら問題ありません」

俺の言葉に驚く表情を浮かべる子爵。

 「他の領民の皆さんと一緒にこの惑星で我々を受け入れた事で、帝国軍ではなく自由惑星同盟に降り、以後一般市民として生きていくという判断をしたという判断をとることができます」

 「私は帝国の貴族として反乱軍に降ることは」

クラインゲルト子爵の言葉を遮るように手のひらを差し出して発言を止める、俺は言葉を続ける。

 「まぁ、これは後方にいる連中を納得させるための方便です。本心は別にあります」

 「……本心とは?」

クラインゲルト子爵は訝しげな表情を浮かべている。俺はそれに対してニコヤカに告げる。

 「実はこの惑星の農業開拓を行おうと思っており、部下にもすでにその指示を出しております。子爵には住民側の代表としてその手伝いをしていただきたいのです。無論、その間の食料もできる限り我々が提供します」

俺の発言に益々訝しげな表情になるクラインゲルト子爵。まぁ、今の条件だとクラインゲルト子爵領側にしか利益がない。それを怪しんでのことだろう。

 「大方、帝国側の戦略は辺境惑星を利用しての焦土戦術でしょう。そして兵糧がなくなった時を見計らっての全面攻勢。それを持って同盟軍の撃滅をする。それがローエングラム元帥の狙いだと思いますが?」

俺の問いに子爵は何も返さない。それがすでに答えみたいなものだ。

 「まぁ、こっちも馬鹿正直にそれに乗る必要はありませんからね。我が艦隊は『有人惑星の開発と、追加の兵站が送られてくるまでクラインゲルト子爵領で待機する』とでも後方に送って、ここでノンビリさせていただきたいのですよ。もちろん、仕事はしなければいけないのでこの惑星の開発のお手伝いをさせていただきますが」

如何ですか、クラインゲルト子爵。

俺の問いにクラインゲルト子爵は少し考え込む。だが、すぐに考えを纏めたのか、俺の目をみて口を開いた。

 「シュタイナー中将の提案を受け入れる。早速、領民の代表者を集めてそのことを通達しようと思う」

 「助かります。何かありましたらラップ中佐という人物に話を通してください」

最後にそれだけ言うと俺はソファーから立ち上がり、帝国式の礼をしてから部屋を出ようとする。

 「帝国にとっての最大の失敗は卿を反乱軍に押し遣ってしまったことかもしれないな」

クラインゲルト子爵の言葉に俺は笑いながら返す。

 「私はそこまで立派な人物ではありませんよ」

 

 

 

 

それから自由惑星同盟軍第十四艦隊とグラインゲルト子爵領の共同開発は上手く行った。ヴァーリモント少尉の誠実な人柄と開拓したいという意欲が領内の人々に好意的に捉えられたようで、開発は上手く行っていた。ラップとチュン准将はヴァーリモント少尉の手助けをしつつ、今後の作戦のための準備をしており、カールセン提督も艦隊編成を整えつつあった。

そんな中、俺の仕事は後方から送られてくるフォークの嫌味を煽りで返したり、クラインゲルト子爵の好意で頂いた帝国領内の航路図を見ながら作戦を考えている状況である。

そして、ある決定的な報告がエクシールに入る。

それは補給物資を乗せた輸送艦隊が襲撃され、壊滅。補給物資が拿捕されたという報告だった。




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
原作知識(アニメ含む)と転生特典の記憶能力の良さで自由惑星同盟の生き残りをはかる

カーテローゼ・フォン・クロイツェル
養父の後を必死についていく姿は第十四艦隊においてかるがもの親子にたとえられる

フランツ・ヴァーリモント
アニメオリジナルキャラ。個人的にあのエピソード結構好きです

クラインゲルト子爵
シュタイナーくんと共犯者になったご様子(惑星開発の代金として帝国航路図を譲った



そんな感じで本格的に帝国侵攻作戦開始です(しかし侵攻しない

帝国の辺境惑星の農業レベルなどは独自設定です。ですがアニメとか見てる限り中世の農業をやっているようにもみえ、同盟側からしたら唖然ものだろうなぁ、と。そしてアニメオリジナルキャラのヴァーリモントくんをだす勇気。でも出番はたぶんこれだけ、許せ

そしてアニメだと侵攻作戦後の動向がわからないクラインゲルト子爵に生存フラグが!

シュタイナーくんとの関係は利用しあう仲(でも帝国軍より好意的な模様

そういえば作者はリメイク銀英伝はテレビ版はみたんですが近くの映画館で劇場版やってくれなかったのでみれてないんですがどんな感じですかね


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011話

銀河の歴史がまた一ページ……


 「物資は残り僅かになっております」

チュン准将の言葉を俺は黙って聞いている。輸送部隊が襲撃され、前線に届くはずだった兵糧はなくなった。

俺が率いる第十四艦隊は最初からわかっていることだったために、兵糧を最初から必要最小限の出費で留めており、民間人達と協力してクラインゲルド子爵領を開発して食料を調達できるようにしていた。だが、それでも限界は訪れる。

 「ヴァーリモント少尉。開発状況は?」

俺の言葉に普段はクラインゲルド子爵領の地上にいることが多いヴァーリモント少尉が立ち上がる。

 「基礎となる部分は終了しております。今後も開発を続ければクラインゲルド子爵領は一大農業惑星になるのも夢ではありません」

自信を持って報告してくるヴァーリモント少尉。よっぽど夢に一歩近づけて嬉しいのだろう。

そんなヴァーリモント少尉にチュン准将が苦笑しながら告げる。

 「ヴァーリモント少尉。それは外を見ればわかることだよ。司令官が貴官に尋ねたいのはその成果が我々に恩恵を与えてくれるかだ?」

 「し、失礼いたしました」

赤面しながら謝罪するヴァーリモント少尉。俺はそれを苦笑して返すと本命を尋ねる。するとヴァーリモント少尉は神妙な顔つきをして報告をしてきた。

 「1番最初に開発を着手したところでも、収穫までに半月はかかります。そして段階的に開発したため、第十四艦隊及びクラインゲルド子爵領市民全員分の食料には到底届きません」

 「……まぁ、そうなるな」

 「申し訳ありません」

俺の呟きに恥じ入るように頭を下げるヴァーリモント少尉。俺はそれを慌てて制する。

 「ヴァーリモント少尉が気にすることではないさ。私もできればいいなと考えていただけだからな。ここはむしろ帝国の市民に恩を売ることができたと考えるのが建設的だろう」

俺の言葉にヴァーリモント少尉は再度頭を下げて着席する。

 「そうは言ってもどうなさいますか、シュタイナー中将。今のところは司令官ご自身の言葉とラップ中佐の鎮撫で、艦隊と一般人から不満は出ていませんが、このままでは……」

 「全く持って嫌なことだね。チュン准将は食料が出てくる魔法の壺でも持っていませんか?」

 「持っていたら軍人ではなく、レストランでも開いてますよ」

 「お二人とも」

従卒として俺の側にいるカリンから叱られてしまう。その光景を見慣れている艦橋の人々から忍び笑いが出る。俺やラップは普段から怒られているし、チュン准将やフィッツシモンズ中尉も根底では俺たちのノリに近いので染まってしまい、カリンから注意されることが多い。カールセン准将はそれを呆れながらも楽しそうに見ており、この情報も第十四艦隊の将兵に伝わってカリンは『シュタイナー提督の被保護者で保護者役』と言われて愛されている。

 「シュタイナー中将。第五艦隊旗艦リオ・グランデから通信が入っています」

 「繋いでくれ」

フィッツシモンズ中尉の言葉に俺は通信スクリーンに椅子を向き直す。するとすぐに通信スクリーンにビュコック中将が表示される。

それと同時にエクシールに複数の通信スクリーンが表示された。内心で驚きながらも敬礼しながら表示を確認する。

第三艦隊司令官・ルフェーブル中将。第七艦隊司令官・ホーウッド中将。第八艦隊司令官・アップルトン中将。第九艦隊司令官・アル・サレム中将。第十艦隊司令官・ウランフ中将。第十二艦隊・ボロディン中将。第十三艦隊司令官のヤン。今回の帝国領侵攻作戦の艦隊司令官が勢揃いしていた。

 『突然ですまないな、シュタイナー中将』

 「いえ。このタイミングでのビュコック中将からのご連絡ですと、総司令官から新たなご指示でも出ましたか?」

俺の問いにビュコック中将は苦々しげな表情を浮かべる。

 『先刻、ヤン中将からの提案でワシから総司令部に撤退したい旨の提案をしてきた』

 『ロボス元帥はそれを受け入れましたか?』

ボロディン中将の言葉は問いではあったが、答えは分かり切っているような表情をしている。

ビュコック中将は呆れながら首を振る。

 『その前にフォーク准将が呼んでもいないのに通信に出てきおったわ』

 『そうなるとあの秀才参謀のせいで総司令官とはお話もできませんでしたか』

アップルトン中将の言葉にビュコック中将は再度首を振った。

 『フォーク准将はワシの面罵を受けて転換性ヒステリー症神経性盲目で倒れおったよ』

 「それは、また……」

どうやら原作通りに無能参謀殿は老将に面罵されてぶっ倒れたらしい。俺の呟きに諸提督の視線が俺に集まっている。

 『シュタイナー中将はその病気のことを知っているのか?』

ウランフ中将の言葉に俺は帽子をとって頭を掻きながら頷く。原作知識もあるが、俺が帝国にいた時に多くの帝国貴族がこれを患っていた。

 「それはワガママいっぱいに育って自我が異常拡大した幼児にときとして見られる症状です。帝国貴族の多くが発症しますが、だいたいは貴族としての教育で消え去ります。それでも根絶できていませんが」

 『なんてことだ……帝国領侵攻を企てた男が貴族のボンボンと同水準の精神年齢とはな』

俺の言葉にアル・サレム中将が嘆く。

 『まぁ、その場でグリーンヒル大将がフォーク准将を予備役に放り込んだ。そのまま精神病院送りじゃろうな』

 『願うならそのまま出てこないで欲しいですね』

ルフェーブル中将の言葉に提督達から苦笑いが出た。

 『グリーンヒル大将が出てこられたなら、ロボス元帥とお話することができたのでは?』

ヤンの場を取りなす発言に、ビュコック中将が苦々しい表情になる。

 『昼寝中だそうだ』

 『は?』

その呆気にとられた言葉は提督のみならず、各艦の艦橋にいてこの通信を聞いている同盟軍兵士全員の言葉だったかもしれない。

ビュコック中将は疲れ切った表情で言葉を続けた。

 『ご丁寧に敵襲以外では起こすなという命令を出したそうだ』

 『ふざけているのか、ロボス元帥は!? 最前線の我々が届かない兵糧で苦しんでいるときに昼寝だと!?』

ビュコック中将の言葉に激発したのはホーウッド中将だった。

 『ワシとしてもふざけているとしか思えん。だが、一個艦隊の指揮官として嘆いてばかりもおられまい。この状況をどうにか脱さねばなるまい。そこで貴官等全員に通信を繋がせてもらった』

ビュコック中将の言葉に全員が思案顔になる。ふむ、原作と違ったこの流れだったら多くの将兵が生き残れるかもしれない。

 「いっそのこと撤退してはいかがですか?」

俺の言葉に全員の視線が集中する。

 『だが、総司令部の命令を無視して撤退して良いものか……』

 「別に無視はしていないでしょう」

 『ふむ、どういうことじゃなシュタイナー中将』

アル・サレム中将の言葉に俺が軽く告げると、ビュコック中将が鋭い視線を向けてくる。

 「作戦会議の時にロボス元帥のスピーカーが言っていたでしょう。『臨機応変に対処することになるでしょう』ってね。現場組が『臨機応変』に対応した結果、撤退という結論になった……総司令官に許可を取ろうと思ったがお昼寝中で許可を取れず『前線指揮官の民主主義に則って撤退を承認した』なんて建前はいかがです?」

俺の言葉に提督達は一瞬だけ呆気にとられたあとに呵々大笑した。

 『なるほど。我々は民主主義の軍隊であり、総司令官の許可が取れなかったから民主主義に則って物事を決めた、ということじゃな』

 「まぁ、本国に帰ったら全員でめでたく辞表を提出することになりかねませんがね」

 『部下を無意味に殺すくらいだったら喜んで辞表くらい提出するとしよう』

俺の言葉にボロディン中将は笑いながら告げる。

 『そうなると問題になってくるのは撤退方法だな』

 「そこら辺は脳味噌以外は役に立たないペテン師に聞いて見たらいかがでしょう」

 『そこで丸投げとか酷くないかい? シュタイナー中将』

 「ウルセェ。今回はいつもと違って時間がないからお前さんと漫才する時間が惜しいんだ。何か意見はないのかヤン中将」

俺の言葉にヤンは副官のグリーンヒル中尉に言って各艦隊の配置図を見始めたようだ。だが、30秒程で考えを纏めたのか口を開いた。

 『とにかくまずは合流を目指しましょう。ホーウッド中将とアル・サレム中将は特に突出しているので合流を急いだ方がいいと思います。そしてアップルトン中将とルフェーブル中将は後退しながらシュタイナー中将とボロディン中将に合流。私とウランフ中将も合流次第、ホーウッド中将とアル・サレム中将の艦隊の支援に入ります。ビュコック中将は全体の撤退路を確保していただきたい』

ヤンの言葉に他の提督達も異存はないのか、素直に受けいれた。何せこのままだと全滅することは誰の目にも明らかなのだ。

 『方向性は定まったな。逃げ道はワシが確保しておく。生きて全員と会えることをワシは祈っておるよ』

ビュコック中将の言葉に全員が敬礼を返して通信を切る。

俺はため息を吐きながら帽子を団扇代わりにして扇ぐ。

 「ヤン中将の指示通りに動きますか? それならばシュタイナー中将が危険を犯すことはないと思いますが……」

チュン准将の言葉に俺は少し考える。確かに銀河英雄伝説の超チート(頭脳のみ)のヤンの策だったら間違いはないかもしれない。

だが、ここは物語の世界ではなく現実なのだ。

だから少しでも多くの将兵を生き残らせるための作戦を行うべきだろう。

 「いや、計画は実行します。そっちの方が少しでも多くの同盟軍の将兵が生き残れる可能性が高い……反対しますか? 総参謀長」

俺の言葉にチュン准将は困ったように首をふった。

 「自分達が生き残るだけでしたらヤン中将の策は1番でしょう。しかし、多くの将兵を生き残らせると考えたときは、シュタイナー中将の作戦がダメ押しになります」

チュン准将の言葉に俺は黙ってを目を瞑る。そしてすぐに目を開いた。

 「フィッツシモンズ中尉。カールセン准将のディオメデスに通信を繋いでくれ」

 「了解……ディオメデスに通信繋がります」

フィッツモンズ中尉の言葉と同時に通信スクリーンにカールセン准将の如何にも勇将とした顔が映る。

 『シュタイナー中将。どうしましたか?』

 「例の作戦を実行します。艦隊の編成はどうなっていますか?」

俺の言葉にカールセン准将の表情が強張る。

 『編成の準備は済んでおります』

 「わかりました。それでは地上部隊を回収次第、第十四艦隊旗艦エクシールは惑星軌道に戻ります。その後は手筈通りに」

俺の言葉にカールセン准将は緊張した様子で敬礼を返してくるのだった。




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
同盟軍生き残りのために渾身の秘策準備

第十四艦隊幹部の皆さん
だんだんシュタイナーくんに汚染されている模様

フォーク
原作力さんの力でようやくヒステリった

同盟軍前線指揮官
びゅこっく「撤退に賛成の人、手あげて!」
かくしきかん「は~い!!」



というわけでフォークくんがついに倒れたので本格的に同盟軍撤退戦が開始。前線指揮官が民主主義で勝手に撤退決めるとか実際にあったら大問題ですが、これは創作の世界なのでお許しをいただきたく

そして帝国侵攻同盟軍の生き残りのために渾身の秘策を発動するシュタイナーくん

予想ついても胸に秘めていてくださいね!


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012話

銀河の歴史がまた一ページ……


「敵艦隊来ます!!」

「隣の第八艦隊と連携して相手を誘い込んだ後に砲撃。射点は一点集中して放て」

 ヤンは絶えず襲いかかってくる帝国艦隊に対する迎撃の指示を出し続ける。

 撤退途中でホーウッド中将は殿軍となって戦死。アル・サレム中将は重傷を負いながらも第七艦隊の残党と第九艦隊を指揮してヤンとウランフ中将に合流した後に昏倒した。ルフェーブル中将も撤退途中に帝国軍に補足され、戦死。アップルトン中将は第三艦隊の残党と第八艦隊を指揮してビュコック中将が構築した拠点まで撤退に成功した。ヤンとウランフも自分達が担当する艦隊に第七艦隊、第九艦隊の残党を指揮してビュコック中将の拠点までの撤退に成功した。

 しかし、まだボロディン中将の第十二艦隊とヤンの自他共に認める親友であるヘルベルト・フォン・シュタイナー中将の第十四艦隊が到着していない。

 ヤンも第十四艦隊の位置を見たときに嫌な予感はしていた。交通の要衝で待機し、どこにでも援軍に駆けつけられる配置。逆に言えば帝国の反撃を喰らえば真っ先に狙われる位置である。

(シュタイナーが……いや、あいつがそう簡単に死ぬわけがない)

 ヤンの頭に一瞬だけ嫌な予感がよぎったが、すぐにそれを否定する。それは友人の死を考えたくないという一種の現実逃避であった。

「帝国軍艦隊に動揺……これは!? 味方艦隊です!! 第十二艦隊旗艦ペルーンを確認!! ボロディン提督の第十二艦隊です!!」

 帝国軍の艦隊の後方からボロディン提督の艦隊が帝国軍の陣形を突っ切ってくる。そしてそれをウランフとビュコックが勢いそのままに収容する。

(第十二艦隊に第十四艦隊におよそ1万5000隻。やれやれ、なんとか悪友も生き残ったようだな……)

 ヤンの胸中には安堵した気分が広がる。ホーウッド中将とルフェーブル中将は戦死、アル・サレム中将は重症。だが、ウランフ中将、ボロディン中将、アップルトン中将、ビュコック中将は健在。そしてコンビを組んだら負けると思えない悪友が戻って来た。

 現にウランフ中将、アップルトン中将、ビュコック中将、そしてヤンの構築した防御陣で部隊を再編するとボロディン中将はすぐさま戦線に復帰し、第十四艦隊もお得意の一撃離脱戦法で帝国軍を苦しめ始めた。

 だが、第十四艦隊の中にあるべき旗艦の表示がない。

 ヤンの口の中から水分がなくなっていくことに気づく。

「……グリーンヒル中尉。第十四艦隊旗艦エクシールはいるかい?」

 ヤンの言葉に驚いた表情を浮かべながらグリーンヒル中尉はコンソールを操作し始める。他の艦隊と協力しながらヤンは帝国の攻撃を弾き返す。だが、それでも相手の士気は高く、こちらは物資不足や総司令官に対する不信感から士気が低い。

 それでもヤンは親友と協力すればこの窮地を脱することはできると信じていた。

「ヤン司令官」

 グリーンヒル中尉はどこかいいづらそうにしながら口を開く。ヤンはそれだけで彼女が何を言うかわかってしまった。

「第十四艦隊の中に旗艦エクシールの姿はありません。副司令官カールセン准将の座乗艦であるディオメデスが中心となって戦っているようです」

 グリーンヒル中尉の言葉にヤンの表情はいつもの温和な表情ではなく、真顔になるのがわかる。

「この状況では詳しい状況を聞くこともできません」

「……うん、そうだろうね」

 ヤンはかろうじてそれだけを絞り出す。あの殺しても死にそうもない親友が死んだのか?

「敵艦隊来ます!!」

「迎撃しながら徐々に後退。これで前線艦隊は全て戻って来た。後は逃げるだけだ」

 そうだ。逃げてしまえば友人の安否も確認できる。

 だが、そこに実に空気が読めない総司令官の指示が安全なイゼルローンから飛んでくる。

『各艦隊はその場で帝国艦隊を迎撃せよ』

 規模の大小はさておきその命令を受領した各艦隊の指揮官達は怒りを覚えた。戦時中に関わらず呑気に昼寝。起きたと思ったら無茶振り。こう言ってはなんだがロボス元帥の知恵の泉はとっくに枯れ果てているとも思える。

 だが、命令が出てしまった以上は戦わざるえない。

 各艦隊との連携によって互角に戦えているが、それでも劣勢に変わりはない。

「第十艦隊旗艦バン・グゥに被弾!!」

「ウランフ中将は!?」

 オペレーターの言葉に思わずヤンは怒鳴り返す。ここでウランフ中将にもいなくなられたら帝国軍に押しつぶされるのは目に見えている。

「第十艦隊旗艦バン・グゥより各艦隊旗艦に通信!! 『旗艦は被弾し、小官も負傷したが戦闘続行は可能である』。以上です!!」

 ヤンは軍帽をとって髪の毛をかき混ぜる。ウランフ中将の気性として、負傷なんて問題視しないで戦闘指揮を取り続けるだろう。

「……どうする……考えろヤン・ウェンリー……」

 ヤンは思わず口に出してしまう。艦隊幹部からの視線を感じるが無視する。親友からは「お前は脳みそだけ働かせろよ。そしたら後は優秀な部下がどうにかしてくれるだろうさ」と笑いながら言われた。

 だからどうにか打開策を考える。思考を止めてしまえば親友の隣に立つ資格すらなくなる。

「これは……ヤン司令官!! 同盟軍の通信のみならず、帝国本土全域に向けての全方位通信が流されています!!」

 グリーンヒル中尉の言葉にヤンは通信を開かせる。

 そして通信を開いた先には親友が立っていた。

『自由惑星同盟軍に攻撃を仕掛ける全帝国軍に告げる。私は自由惑星同盟軍第十四艦隊司令官ヘルベルト・フォン・シュタイナー中将である。今すぐに自由惑星同盟軍に対する攻撃を中止せよ。それが受け入れられない場合は惑星オーディンに対して無差別な砲撃を加えるものである。そしてこれは私が本気であると示すための一撃である』

 シュタイナーの言葉と同時に銀河帝国皇帝が住む新無憂宮の北苑にエクシールの砲撃が加えられる。それによって新無憂宮の北苑には大きな砲撃痕が残った。

『これは脅しである。もしこれでも受け入れられない場合、私はここまで率いて来た百隻の艦と共に新無憂宮のみならず帝都・オーディンに無差別に攻撃を加え、最後は自沈して銀河帝国を崩壊させるつもりである。自由惑星同盟迎撃軍総大将ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥の良識に期待するところである』

 シュタイナーが発言してすぐに帝国軍は軍を後退させた。

 ヤンはその事実に安堵して指揮席に力なく座る。

「グリーンヒル中尉。ディオメデスに通信を繋いでくれるかい?」

「了解しました」

 帝国軍が軍を退いたので、同盟軍も艦列を整えながら後退した。

「第十四艦隊・ディオメデスに通信繋がります」

 グリーンヒル中尉の言葉と同時に通信スクリーンに第十四艦隊副司令官ラルフ・カールセン准将が現れる。敬礼してくるカールセンに対してヤンも敬礼を返しながら口を開く。

「この作戦はシュタイナー中将の発案かい?」

『その通りです。1人でも多くの将兵を生きて同盟に帰してやるために、シュタイナー中将が考えられました』

 カールセン准将の言葉にヤンは目をつぶって考える。シュタイナーは生き残らせることを重視する。そのためだったら悪名を被ることも辞さない覚悟を持っていた。

(私にそこまでの覚悟があるか? 私は民主共和政は残すべきだと考えている。しかし、そのために悪名を被る覚悟があるのか? あるいは大きな犠牲を払ってでも残そうと考えるのか?)

 そんな埒外なことを頭が叩き出すと、ヤンは1番気になっていた点についてカールセン准将に尋ねる。

「カールセン准将。シュタイナー中将は生きて帰ってくる公算があるのかい?」

そこで初めてカールセン准将の表情が歪む。

『シュタイナー中将は賭け、だと』

「……そうか」

 自由惑星同盟と帝国軍は静かに睨み合う体制となった。

 

 

 

 

 帝都オーディン。その新無憂宮上空に俺は旗艦エクシールを浮かべている。先ほどの脅しで新無憂宮だけでなく、近辺にある貴族の屋敷も騒ぎになっているようである。

 俺がクランゲルト子爵領から高速艦100隻で帝都オーディンを襲撃してラインハルトに対して停戦を命令させる。ラインハルトにとっては皇帝の安否など知ったことではないだろうが、ここにはラインハルトのアキレス腱であるアンネローゼがいる。だから軍を止めるという自信はあった。

 そして問題は俺たちがどうやってここから同盟まで帰るかである。

 艦橋には必要最小限の人数しかいない。下手しなくても死ぬ可能性が高い任務なのだ。大半の部下はラップに連れさせてカールセン准将の方に移した。

 幹部で残っているのはチュン・ウー・チェン総参謀長。副官のヴァレリー・リン・フィッツシモンズ中尉。そして従卒のカリンである。

 俺は当然カリンはラップに連れて行ってもらおうと思ったのだが、本人が頑なに拒否した。

「シュタイナー中将。地上の帝国から通信が来ています」

「繋いでくれ」

 フィッツシモンズ中尉の言葉に返す。さて、ここからが俺が生き残れるかどうか交渉である。

 そして通信スクリーンに現れた顔を見て口笛を吹いた。

「これはこれは……銀河帝国国務尚書にして銀河帝国の大貴族であられるリヒテンラーデ侯爵閣下が出てくださるのは光栄の極み」

 俺はそう言いながら手だけで合図してフィッツシモンズ中尉に指示を出して全方位通信を繋がせる。これで帝国のみならず同盟本土までこの交渉が流される。

『減らず口を……卿はゴールデンバウム王朝において並ぶものない名家であるシュタイナー伯爵家出身であり、あまつさえルドルフ大帝直々に陛下に直言を許された家柄であろう! それだけのご恩をゴールデンバウム王朝に受けながらも何故に陛下に向けて砲を向けるか!!』

「実に貴族的な発言ですな。だが残念ながら私は14歳の時に陛下の娘婿であるブランシュヴァイク、リッテンハイムの両家に両親が貶められ、自由惑星同盟への亡命を余儀なくされました。そして現在の皇帝はそれを止めようともしなかった。私はこれだけの恨みがあります。どうせブランシュヴァイク、リッテンハイムの両家のご当主も新無憂宮が安全だと思って避難しているのでしょう? そう考えるとこのまま新無憂宮を砲撃して瓦礫にしてしまったら私個人の恨みを晴らせると思いませんか?」

 俺の冷徹な表情の中に浮かべた微笑。そこに恐怖を感じたのかリヒテンラーデ侯爵は若干気圧される。

「だがまぁ。私も無抵抗な人々……特に一般人に対して被害が出るのは避けたいことです。ですのでこちらの条件を飲んでくださるのなら我々は大人しく引き上げましょう」

『……その条件とは?』

「同盟軍の迎撃に出ているローエングラム元帥に対して一ヶ月の停戦命令。及びエネルギー、弾薬、食料の提供。そしてそうですな……今回の焦土戦術に対して1番の被害を被った辺境惑星の臣民の人々に対して陛下自らの謝罪でいかがですか?」

『なぁ!?』

 帝国軍としては前者2つは受け入れやすいだろう。しかし、最後の1つは認めるわけにはいかない。

 何せそれは神聖不可侵な皇帝の過ちを受け入れることであるからだ。

 だから国務尚書は受け入れるわけにはいかない。俺も受け入れられるとは思っていない。むしろ交渉の本番はここからだ。ここから俺たちが無事に帰れる算段を立てる必要がある。

『……即答はできん』

「即答してもらわねば困ります。この間にも我々の同胞が苦しんでいるのですから」

 リヒテンラーデだって俺の狙いは気づいているだろう。だから時間をかけて落としどころを探すか、周辺の警備艦隊の来着を待つつもりだろう。だが、それは許さない。

『国務尚書。余が直接交渉しよう』

『な!? いや、しかし……』

『良い。相手はシュタイナー伯爵家の裔だ。余が交渉しても問題はあるまい』

 そう言われるとリヒテンラーデは下がり、かわりの人物が通信スクリーンに現れる。

「な!?」

 思わずチュン准将が声を挙げた。俺も出かけた言葉をなんとか押しとどめる。

 スクリーンに現れたのは第三十六代銀河帝国皇帝・フリードリヒ4世だった。

 俺は内心の動揺を表には出さず、表面上は皮肉な表情を浮かべる。

「流石の皇帝陛下も命に関わる問題となると表に出てきますか」

『そういうわけではない。卿はシュタイナー伯爵家の正当な後継者だ。なれば余自らが交渉することはルドルフ大帝のご意志でもあろう』

(……このタヌキ!)

 内心で思いながらも交渉は緩めない。最初はリヒテンラーデを相手にするつもりだったが、まさかの皇帝の登場だ。

「こちらは先程の条件を取り下げるつもりはありませんが?」

『一週間の停戦命令にエネルギー、弾薬、食料の補給』

「論外ですな」

 俺はそう答えながらも嫌な予感が背筋を通る。そしてフリードリヒ4世も笑いながら言葉を続ける。

『ならば三日間の停戦命令にエネルギー、弾薬、食料の補給。そして余自らが辺境惑星の臣民に対しての釈明』

 嫌な点を突かれてきた。こちらは絶対に受け入れないであろう『皇帝の謝罪』を表に出して、こちらの有利を引き出そうとしたが、向こうはそれを全面に受け入れられるとすごく困る。

「三日だけでは友軍が戦闘中域から逃げ切れない可能性があります。三週間の停戦命令にエネルギー、弾薬、食料の補給。そして辺境惑星臣民に対しての謝罪」

『二週間の停戦命令にエネルギー、弾薬、食料の補給。そして卿の艦隊が味方に合流するまでの身の安全』

 これを受け入れてしまうと護民を掲げる艦隊も身の安全には勝てないと思われてしまう。個人的にはそれでも構わないが、部下の中にはそれを潔しとしない人物も少なからずいる。

「三週間の停戦命令に辺境惑星に対する謝罪」

 ここで俺は補給を切り捨てた。最初から補給はさして重要ではない。あるに越したことはないが、現在持っているものだけでも友軍に合流は可能なのだ。

 だが、フリードリヒ4世はニヤリと口の端を浮かべて笑う。

『卿の狙いは自分達の帰りの安全と友軍の撤退の手助け。そして余が辺境惑星に対する臣民に対しての謝罪が狙いだと思うが……どうかね?』

(このジジィ、気づいてやがる!!)

 俺の狙いはまさしくフリードリヒ4世の言葉の通りだった。

『十日間の停戦命令に辺境臣民に対する謝罪。そして……』

 一度言葉を止めてフリードリヒ4世は楽しそうに口を開く。

『グリューネワルト伯爵夫人を人質として卿に預ける』

「このジジィ……!!」

 確信した。この爺さんは完全に俺の狙いを把握している。グリューネワルト伯爵夫人ことアンネローゼはラインハルトの実姉であり、彼女がいればうちの艦隊は少なくともラインハルトの艦隊からは攻撃されないだろう。

 俺は画面から見えない位置でチュン准将に指示を出して十日で友軍のところまで帰れるかどうかの試算を指示する。

「我々自由惑星同盟は個人の利益を尊重しています。いくら陛下が人質として出すと言っても本人が受諾しなければそれは受け入れられません」

『よかろう。すぐにアンネローゼに確認させよう』

「個人の利益を尊重する、と言いました。そのためにこちらで受け入れた後に本人の本意でなかったとわかった場合は交渉を再度行わせていただきたい」

 そう言っている間にチュン准将からメモが差し出される。

『間に合うかギリギリ。せめて十二日は欲しい』

 こうなるとアンネローゼが断ってくれると助かる。

『シュタイナー中将。アンネローゼは人質になることを受諾した』

 最悪すぎてぶっ倒れそうな状況だ。だが、ここで倒れるわけにはいかないので言葉を続ける。

「わかりました。それでは先程の条件でよろしいでしょう。しかし幸いなことに私はグリューネワルト伯爵夫人がミューゼル嬢だった時の知り合いです。もし送られてきたのは偽物だった場合は強行手段をとらせていただきます」

『よかろう。すぐにアンネローゼを卿の艦に送る』

 皇帝のその言葉と同時に俺は通信を切る。

「いささか不味いですな」

「全くだ……こうなるとグリューネワルト伯爵夫人が偽物であってくれた方が助かるんだが……」

 チュン准将の言葉に俺は帽子を乱雑に床に投げつける。あのジジィ。凡庸を装っているだけで、本質的にすげぇ切れる人間だぞ。

 そこで初めてカリンが心配そうに俺を見ていることに気づく。俺はそれで呼吸を整える。

「カリン。悪いが水を用意してくれるか?」

「はい。すぐにお持ちします」

 紅茶なんて贅沢品はもう残っていない。水だって貴重だ。

 カリンが持ってきてくれた水を一口飲んで気分を落ち着ける。

「帝国のヘリコプターが着艦を求めています」

「許可する。そして乗っているはずの女性を艦橋までの案内を……フィッツシモンズ中尉、頼む」

「了解しました」

 オペレーターの言葉に俺は返しながらフィッツモンズ中尉に命令する。するとフィッツモンズ中尉は座っていた副官席から立ち上がって艦橋から出て行った。

 そしてしばらくしてフィッツモンズ中尉は1人の女性を連れて戻ってきた。金色の長髪に同性すらも見惚れるであろう繊細な容姿。

 俺自身も幼い頃に会ったことのある姿の面影がある。

「久しぶりですね……ヘルベルト」

「なんで来ちゃうかなぁ、アンナ」

 その女性はまさしくアンネローゼ・フォン・グリューネワルト伯爵夫人本人だった。アンナは微笑を浮かべているが、俺は苦虫を噛み潰した表情を浮かべるしかない。

 これによって帝国側の要求を受け入れなきゃいけなくなった。

「カリン、グリューネワルト伯爵夫人を部屋にご案内してあげてくれ。幸いなことにラップ中佐が使っていた部屋が空室になっている。そこに入っていただけ。それと、俺の従卒の仕事はいいから、グリューネワルト伯爵夫人の近くにいてあげてくれ。これは見張りと同時に護衛の任務でもある。よろしく頼むぞ」

「はい!!」

 俺の言葉にカリンは敬礼するとアンナを促して艦橋から出て行く。アンナが俺と会話したいと思っているのはわかっているが、正直、こちらはそれどころではない。

「チュン准将。無事に帰れると思いますか?」

「五分五分と言ったところですね」

「そうですよねぇ……」

 若干、ウンザリとしながらも新憂無宮に通信を入れる。最初はリヒテンラーデ侯爵が出たが、すぐにフリードリヒ4世に変わった。

「グリューネワルト伯爵夫人を確認しました。先程の条件でこちらも受け入れます」

『喜ばしいことだ』

 フリードリヒ4世の顔が実にムカつく。なんだったらこのまま艦砲射撃で新無憂宮を消しとばしてやりたいところだが、それをやると自由惑星同盟軍の信用問題に発展するのでできない。

「それでは……十日間の停戦命令に辺境惑星臣民に対する謝罪を忘れないでいただきたい」

『無論だ』

 フリードリヒ4世の返答に腹立ち紛れに中指立てて通信を切ってやろうと思ったら、さらにフリードリヒ4世は爆弾を投下した。

『ヘルベルト・フォン・シュタイナー。卿を正式にシュタイナー伯爵家当主として認める』

「……なに?」

 相手の言った意味がわからない。

「私は自由惑星同盟の軍人です。そして銀河帝国から追い出された人間です。今更帝国の貴族に叙されたからと言って帝国に戻る気は微塵もありませんが」

『理解している。しかし、旧シュタイナー伯爵領の領民達は未だに『シュタイナー伯爵家の臣下』と名乗っている。ならばたまには領民達の願いを叶えてやるのも良かろう。反乱軍にいるとは言えシュタイナー伯爵は存命している。それだけで彼らの希望となろう。卿がいつか帰ってきてくれると信じてな』

 このジジィ。マジでタヌキだ。これだけで俺に対する自由惑星同盟の不信感を煽りやがった。下手したらまた亡命コースになりかねん。だが、ここで反論しても時間の無駄だし、立場を悪化させるだけだろう。だから最後に嫌味を残して行くとする。

「勿体無いですね。あなたが皇帝ではなく、謀略家であったなら稀代の謀略家として歴史に名前を残したでしょうに」

『褒められた、と思っておこう』

 フリードリヒ4世の返答に今度こそ俺は中指を立てて通信を切るのであった。




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
オーディン急襲したら貴族になった

フリードリヒ4世
ノリノリでヘルベルトくんと交渉した皇帝陛下

ヤン・ウェンリー
いろいろ考え始める銀河随一の頭脳

帝国領侵攻作戦同盟軍司令官の皆さん
原作よりは生き残れた模様

アンネローゼ・フォン・グリューネワルト
ヘルベルトくんに会えるということで実はうきうきだった姉上




そんな感じでシュタイナーくんの秘策発動! 惑星・オーディンを少数艦隊で急襲!!
双璧のパクリとか言わないでください

そしてなんか有能ムーブするフリードリヒ4世。個人的なイメージなんですがフリードリヒ4世は有能で先が見えすぎるから無気力になったんかなぁ、と思ってます。なので本質的には有能

そしてシュタイナーくんの秘策によって原作より無事な同盟軍司令官の皆さん。でもこの後にラインハルト率いるチート軍団と決戦もあるのでどうなることやら

あと深い意味はないんですけど、作者は石器時代の勇者ことオフレッサー上級大将好きなんですよね


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013話

銀河の歴史がまた一ページ……


 帝国軍の自由惑星同盟迎撃軍の提督の一人であるオスカー・フォン・ロイエンタールは銀河帝国軍ラインハルト・フォン・ローエングラム元帥の旗艦・ブリュンヒルトの会議に参加していた。

 ロイエンタールの従兄弟にあたるヘルベルト・フォン・シュタイナーの帝都奇襲から三日経っている。シュタイナーと従兄弟と言う関係からロイエンタールはシュタイナーのことをよく知っている。幼少期からシュタイナーには振り回されていたものだ。だからこそシュタイナーの帝都への少数奇襲に納得はしても驚きはなかった。

「しかし、シュタイナーと言う男は大したものだな。皇帝陛下相手にあの弁舌、さらには最後に中指まで立てていたぞ」

 ミッターマイヤーの言葉にロイエンタールは思わず笑みが出る。それに気づいたのはロイエンタールの主君であるラインハルトであった。

「どうかしたか、ロイエンタール」

「失礼いたしました。ミッターマイヤーのシュタイナー評価に思わず」

 ロイエンタールの言葉にラインハルトから笑い声が出る。

「私も幼少期にシュタイナー伯子……いや、もうシュタイナー伯爵か。よく遊んでもらったものだ。だから人となりもそれなりに知っている。どうせ後七日は反乱軍とは睨み合いしかできん。どうだロイエンタール、卿が知る兄上がやらかしたことを教えてはもらえないか?」

 ラインハルトの言葉にロイエンタールは少し考え込む。それに声をかけたのはワーレンだった。

「シュタイナー家はゴールデンバウム王朝開闢以来の名家。そのような問題行動とは無縁そうですが?」

「逆だ、ワーレン提督。やらかしたことが多すぎてどれを言っていいのかわからん」

 ロイエンタールの言葉に全員が絶句する。笑っているのは幼い頃にシュタイナーと共に悪さをしたメックリンガーとラインハルトだ。

 シュタイナー家がゴールデンバウム王朝開闢以来の名家なのは有名は話であり、華美な屋敷を嫌って市井に溶け込んで生活していたのも有名な話であった。

「そうですな……一番やらかした出来事といえばキャンプファイヤーですか」

「キャンプファイヤー? それのどこがやらかしたと言うのだ?」

 ビッテンフェルトの言葉にロイエンタールも記憶を呼び起こしながら答える。

「ただのキャンプファイヤーだったら問題はないさ。問題だったのは燃やしたのが大貴族の屋敷だったことだ」

 ロイエンタールの言葉に再びブリュンヒルトの艦橋が絶句する。笑っているのはラインハルトだけだ。それに参加していたというメックリンガーは眼をそらしている。

「ちょっと待てロイエンタール。シュタイナー伯爵は大貴族の屋敷を燃やしたのか?」

「その通りだ。十年以上前の『グランシュプール子爵邸焼失事件』は覚えているか?」

 ミッターマイヤーの言葉にロイエンタールが軽く答える。

「内務省や憲兵隊が結集しても犯人が見つからずに迷宮入りした事件のことか?」

「それだ。あの馬鹿はそれの指導者……正確に言えば張本人だ」

「待て。シュタイナー伯爵は当時10代前半だろう」

「正確にいえば12歳だ」

「12歳で迷宮入りの事件を起こしたのか!?」

 ミッターマイヤーだけでなく、ローエングラム元帥府の提督達全員から驚愕の声が出る。

「あの馬鹿は悪事を計画させたらどこまでも成功させる条件を整える。準備段階ではどこまでも微細な穴も許さないが、一度始めてしまったらアドリブもできる。それの一番の有名な成功品が『グランシュプール子爵邸焼失事件』だ」

 ロイエンタールはそこまで言って笑っているラインハルトに向き直る。

「閣下。ここで反乱軍と睨み合うだけでは芸がありません。ヘルベルトの逃げ道を塞いではいかがでしょうか?」

「兄上との約束で十日間は戦火を交えられないが?」

「ヘルベルトは被害を防ぐ戦いをします。今回も逃げ道を塞いでおけば無理して帝国軍の前に出てくることはないでしょう。うまくいけば停戦の十日を超えた後に奴を包囲できるかもしれません」

「……なるほど。そして兄上を包囲した後に降伏勧告をするわけか」

「御意。奴の能力は私が保証いたします。性格に難はありますが、それを上回る能力を持っております」

 ロイエンタールの言葉にラインハルトは力強く頷く。そして提督達に警戒を強めるのを指示する。

(さぁ、この窮地をお前はどう逃げる。ヘルベルト)

 内心でそう呟きながらロイエンタールも命令を受領するのであった。

 

 

 

 

 自分の保護者は奇妙な人だ。

 カリンは艦橋でブランケットに包まれながら指揮卓の上に行儀悪く座っている自分の保護者であるヘルベルト・フォン・シュタイナーを寝ぼけ眼で見つめる。

 保護者が自分達の生命線と言っていたアンネローゼ・フォン・グリューネワルト伯爵夫人の見張りは保護者の副官であるフィッツシモンズ中尉に変わってもらい、部屋で休むように言われたが保護者が心配で艦橋で休ませてもらっていた。

 銀河帝国を奇襲した百隻の乗組員を交代で休ませているが、指揮官である本人はこの七日間を一度も寝ずに指揮をとり続けた。今も黙って宇宙の航路を睨みつけている。銀河帝国軍が見張っているところには赤いポイントをつけて徹底的にそこを回避している。おそらくは今も百隻を一隻を失うことなく同盟軍に帰る策を必死に考えているのだろう。

 カリンにとって母親は亡き母親だ。だが、父はもう実父ではなく育ててくれているシュタイナーが父親である。母親が亡くなった時に感じた実父への憎しみもシュタイナーのおかげで薄れている。

 シュタイナーは不思議な人だった。実家はゴールデンバウム王朝開闢以来の名家であるシュタイナー伯爵家出身にも関わらず、気質は庶民的だ。なにせカリンと一緒に買い物に出かけると平気で店主と値引き交渉を行ったり、世間話を始めるのだ。

 最初は緊張したカリンだったが、シュタイナーの人柄もあってすぐに馴染むことができた。

 親を知らないところでもう失いたくない。その一心で戦場にも無理についてきた。心から信頼し、尊敬しているからこそ、シュタイナーが帝国に再亡命するようだったらカリンもついていく気持ちだった。

 シュタイナーの指揮する第十四艦隊も居心地が良かった。冗談や皮肉は飛び交うが、そこには確かな信頼関係があった。なにせ指揮官であるシュタイナーが一兵卒までの名前と顔を覚えており、頻繁に声をかけるのだ。その指揮官は戦場では天才的な用兵を見せる戦術家。そんな指揮官に第十四艦隊の兵士達も尊敬と信頼を寄せている。シュタイナーの保護者であるカリンもよく声をかけられたり仕事を手伝ってもらったりしている。

「閣下、β宙域に出していたスパルタニアンが戻りました」

「結果は?」

 チュン准将の言葉にシュタイナーが鋭い視線を向ける。シュタイナーのいつもの温和な雰囲気ではない気配に艦橋も緊張する。自分達が今まさしく薄氷の上を歩いていることを自覚しているからだ。

「哨戒艦隊が五百隻程度いるそうです」

 チュン准将の言葉にシュタイナーは黙って航路図に表示されているβ宙域に赤いポイントをつける。また一つ通行止めの宙域が出来上がったのだ。

「……突破可能な宙域はありませんか?」

 チュン准将の言葉にシュタイナーは黙って考え込む。カリンしか知らないシュタイナーが本当に困った時のクセである親指と中指を擦るクセが出ている。

「………一つだけある」

「……何か問題が?」

「いかにも臭い。細かく見なければ見つけられない細い道だ」

「逆にそれが怪しい、と」

 チュン准将の言葉にシュタイナーは頷く。

「相手の大将はラインハルトだ。そして麾下にオスカーがいる。オスカーの奴は俺のやり口を知っている。だからこそ危険だ」

 シュタイナーの言葉に艦橋に沈黙する。ヘルベルト・フォン・シュタイナーと敵将であるオスカー・フォン・ロイエンタールは従兄弟であると同時に親友と言う話は同盟軍では有名な話であった。

「帝国軍の戦艦が一隻近づいてきます!」

 オペレーターの言葉に驚いたのはシュタイナーとチュン准将の双方であった。

「チュン准将。貴方だったら一隻で百隻に挑みますか?」

「絶対にやりませんね。まず本隊に通信を飛ばして罠を張ります」

「その通りです……なのでこの戦艦の動きは一体……」

 その問答を止めたのはオペレーターであった。

「シュタイナー中将!! 敵艦から通信が入っております!!」

 オペレーターの言葉にシュタイナーとチュンは顔を見合わせる。

「はてさて、鬼が出るやら蛇が出るか」

「ですが出ないわけにはいきませんな」

「その通りです」

 二人の会話を聞きながらカリンも立ち上がって身だしなみを整える。そして崩れていたシュタイナーの制服も整えた。その時に小さく言われたお礼の言葉にカリンは微笑んで返す。

「通信を繋いでくれ」

 シュタイナーの言葉に帝国軍の軍人がメインディスプレイに現れる。見るからに真面目そうで厳格な表情をした若い男性だった。

 男性はシュタイナーを見ると感動したのか涙を流している。

『ヘルベルト伯子……!! よくぞ……よくぞまた帝国に帰ってきてくださいました!!』

「失礼。貴官は小官のことを知っているようだが、私は貴官のことを知らないのだ。お名前を頂戴してもよろしいでしょうか?」

『伯子……いえシュタイナー伯爵ヘルベルト様!! 私です!! ブルーノ・フォン・クナップシュタインです!!』

 名前を聞いてシュタイナーは思い出したのか指揮卓から飛び降りて叫ぶ。

「泣きべそブルーノか!!」

『その通りです!! 閣下に面倒をみていただいたブルーノであります!!』

 ブルーノと呼ばれた男性はシュタイナーに思い出してもらったことが嬉しかったのか、笑いながら泣いている。

『閣下……我が主君シュタイナー伯爵。非才なれど、このブルーノ・フォン・クナップシュタインは閣下を同盟領への安全な道案内をすべく参上致しました』

 クナップシュタインの言葉に艦橋にいる全員が絶句する。この若い艦長は帝国を裏切って同盟の軍人であるシュタイナーを案内すると言っているのだ。

 カリンすらも罠ではないかと疑う。艦橋にいる全員の視線がシュタイナーに集まる。そこにはカリンも見たことがないほどに真剣な表情を浮かべているシュタイナーがいた。

「ブルーノ。自分が言っていることを理解しているか?」

『当然であります。私がしようとしていることは帝国に対する反抗でしょう。しかし、私は帝国軍人である前にシュタイナー伯爵家筆頭家臣であるクナップシュタイン家の人間であります』

 つまり、目の前の青年はシュタイナーが帝国に残っていれば、シュタイナーの側近として働く人物であったらしい。そしてその忠誠心はシュタイナーが同盟に逃れてからも変わらずに持ち続けている。

 その事実にカリンはどこか誇らしくある。この混迷を極める世界において、無辜な忠誠心を向けられる自分の保護者にだ。

「ブルーノ。この場が私だけだったらお前の手助けを喜んで受け入れる。だが、ここには私に従うたくさんの兵士がいる。私とお前の友誼だけで全員の命は賭けられん。去れ。それがお前が帝国で生きるために必要なことだ」

 だが、シュタイナーはこの助力を拒んだ。シュタイナー個人の知り合いというだけで信用するわけにはいかないし、クナップシュタインのためにはならないということだ。

 その言葉にクナップシュタインに笑顔がでる。

『我が主君よ。それは無用な心配です。私がシュタイナー伯爵家に縁なる者というだけで、私が生きれる場所は惑星・エンフィールドだけであります。なればこそ、せめてクナップシュタイン家の人間としての勤めを果たさせてくだされ』

 シュタイナーが口を開く前に参謀長であるチュンが口を開く。

「閣下、彼の提案を受け入れましょう。もとより我々はもう道がないのです。ここは閣下に忠誠を誓う彼に賭けてみたらいかがでしょう」

 チュンの言葉にシュタイナーは一度腕を組んで眼を瞑る。カリンはその時に保護者が親指と中指を擦っているのを見逃さなかった。

「ブルーノ。私達の命、卿に預ける」

『ブルーノ・フォン・クナップシュタイン。命に代えましてもヘルベルト様達を同盟領にお返し致します』

 

 

 

 

 停戦が切れるまで後1時間。ヤンは第十三艦隊旗艦ヒューベリオンの指揮卓の上で静かに待っている。

 まだ己の親友は合流を果たしていない。ロボス元帥からはシュタイナーを見捨ててアムリッツァまで退却する命令が出ていたが、前線指揮官達はこれを拒絶し、親友が帰るのを待っている。なにせ親友のおかげで多くの将兵の命が助かったのだ。それを見捨てて逃げることなどできはしない。それはこの遠征に参加している同盟将兵全ての意思であった。

「……エクシールから通信は?」

「ありません」

 ヤンの言葉に副官のグリーンヒルが悲痛な表情で答えてくる。

(拿捕されたということはありえない。拿捕されたなら帝国はそれを喧伝するはずだ。なにせ帝都襲撃という屈辱を味わっている。その犯人を捕まえたなら派手に喧伝した方が民衆に対する圧力になる。しかし、それがまだない。そうなるとシュタイナーはまだ逃げているということだ。だけど、あの入念に準備をするシュタイナーが逃げきれない日数で交渉を終えるとも考えづらい)

 ヤンは考えこみながら帽子を取る。

(そうなるとシュタイナーの思考を読まれた……? 考えられる。敵にはシュタイナーの幼少期からの付き合いがあるロイエンタール提督、それにローエングラム伯がいる。二人が徹底的にシュタイナーの逃走経路を絞り、ここに来るのを遅らせることは充分に考えられる)

「帝国軍! 前進を開始しました!!」

「ヤン提督。約束の期限まで残り15分です」

 オペレーターと総参謀長であるムライの言葉にヤンは黙って頷く。幸いなことにこの十日の間に補給と休息、それに布陣を済ませることはできた。

 ゆっくりと近づいてくる帝国軍。すでに数では同程度。指揮官の質では帝国軍が少し上といったところだろう。

 だが、同盟軍もビュコックという老提督にウランフとボロディンという名提督が残っている。少なくともシュタイナーが帰ってくるまでは耐えられるというのがヤンの考えであった。

「停戦期限……過ぎました!!」

「帝国軍、進軍速度をあげています!!」

「全艦、迎撃準備!! オーディンにプチ旅行にいった仲間が帰ってくるまで耐えるぞ!!」

 副参謀のパトリチェフの言葉にヒューベリオンだけでなく、他の艦からも了承の返事が帰ってくる。

 そして後1光分近づけば同盟と帝国の戦火が再び交えることになると思ったとき、全方位通信が流れる。

『迎撃軍総大将 ラインハルト・フォン・ローエングラムに告げる。即刻に軍を退け、さもなければ私がこのブラスターの引き金を引かねばならない』

 そこにはアンネローゼ・フォン・グリューネワルト伯爵夫人にブラスターを突きつける、幽鬼のような姿になっている親友がいた。

(シュタイナー。君は悪名を被ってでも味方に被害が出るのを嫌がるのだね)

 

 

 

 

 

 クナップシュタインの案内はまさしく安全で最速なルートだった。なにせ自分の警戒網をそのまま利用して俺達を通したのだ。

 クナップシュタインと別れ、俺達は艦隊を急がせたが、停戦期限の間に帰還することは叶わなかった。なにせ少しづつ逃げ道を塞ぐように帝国軍がいたので、それを回避するので手一杯だったのだ。

 だからこそ最終手段を使わざるをえなくなった。

 俺はブラスターをアンネローゼに突きつけながら通信をつないでいる。これは俺の死刑執行書にサインしたようなものだ。あの超絶シスコンであるラインハルトが姉を殺そうとした俺を許すわけがない。つまり原作通りに進んでも、同盟が敗北した時点で俺の死刑が決定されるのだ。

 そう考えたら逆に開き直った。こうなったらどんな悪名を被ろうとも部下達は同盟領に返す。それが俺がこの世界でやるべきことだ。

「もう一度告げる。即刻に軍を退け。私のブラスターの引き金がまだ重いうちにだ」

 俺はできるだけ冷たく告げる。これはどれだけ冷酷に見せれるかだ。幸いなことに演技なら慣れている。ここでアンナが泣いてくれたら信憑性が増すんだが、彼女は全てを受け入れているかのように泰然としている。本当にこっちの思い通りにならないお嬢さんだ。

「帝国軍、軍を退きます!!」

 フィッツシモンズ中尉の静かな歓声に内心で俺は安堵のため息を吐く。それだったらもう一芝居だ。

「そして賢明なローエングラム伯ならば次の私の要求もわかるな?」

 俺の言葉に少ししてから帝国軍が道を開いて、俺が同盟軍に戻れる道を作り出す。チュン准将が指示を出してその中央を俺達百隻が通る。

 誰もが緊張している。なにせこっちは百隻。人質を見捨てられたら俺達は宇宙の塵の仲間入りだ。

 だから無事に帝国軍を抜けて同盟軍に合流できたとき、歓声が起きた。

 俺は艦橋で喜び合う部下達を見渡して安堵のため息をついてから、ブリュンヒルトに通信を繋げる。

 そこには何やら楽しそうなラインハルトが映っていた。

「ローエングラム伯の賢明な判断に敬意を表する」

『なに。私も姉上を見捨てるわけにはいかない。それにそれをやっているのは兄上だからな。それで兄上。姉上はいつ返していただけるのです』

「いますぐにシャトルの準備をさせましょう」

「少しよろしいでしょうか」

 俺とラインハルトの会話を黙って聞いていたアンナが突然会話に入り込んでくる。俺は止めたかったが、ラインハルトがきく態勢になってしまったので、断れる状況ではなくなった。

「ラインハルト、私は同盟に行きます」

「なぁ!?」

 俺は思わず叫んでしまう。なにトチ狂ったことを言っているんだ、この美女は。だが、言われたラインハルトはどこか納得した様子であった。

『兄上と添い遂げるためですか』

「その通りです。そして私はシュタイナーが同盟で置かれている状況を彼の養子と副官から聞きました。私はその負担を少しでも和らげてあげたいのです。せめて家庭という面だけでも……」

 最悪すぎてぶっ倒れそうだ。いや、俺も憎からず思っていたアンナとの結婚は構わない。だがそのために帝国から亡命するのは想定外すぎるぞ。第一、あの極度のシスコンがそれを許すわけがない。さぁ、はっきりとこの箱入りお嬢様に言い聞かせてやれラインハルト。

『わかりました。兄上でしたら私も安心して姉上をお任せできます』

「違うだろ、ライ!? ここは無理矢理にでも連れて帰れよ!?」

『おや、兄上にそのように呼ばれるのは久しぶりですね。ですが姉上が頑固なのは兄上もご承知のはず。その姉上が覚悟を決めていらっしゃるのです。弟としては姉の幸せを願うばかりです』

 心底楽しそうに笑うラインハルト。

『シュタイナー。亡命は本人の意思によるものだよ』

「ヤン!! テメェも楽しそうに乗っかるんじゃねぇぞ!!」

 目の下にクマを作った悪友の言葉に俺は怒鳴り返す。すると艦橋だけでなく、同盟軍からも受け入れ賛成の言葉が上がっている。

 こうまで来ては俺に反対する権利などない。

「……承知した。アンナは俺が預かろう」

『姉上をよろしくお願いいたします、兄上。ご祝儀ではないですが、同盟軍がこの宙域から離脱するのを追撃はいたしません』

「できる義弟を持って俺は幸せだよ!!」

 だが、正直なところ追撃がないのは本当に助かる。

『略奪者としては超一流だな、ヘルベルト。帝都を強襲して皇帝の寵妃を奪うとはな』

「随分と楽しそうじゃねぇか、オスカー?」

『そんなことはないぞ? あの完全犯罪をしまくっていたヘルベルトに女房ができることに俺は感動している。あぁ、結婚式には是非とも呼んでくれ。お前が帝国時代に行っていた悪逆非道を同盟軍に知らせるいい機会だ』

「言ったな? 招待状送ったら絶対に来いよ」

 俺とオスカーはそう言いあった後に中指を立てあって通信を切る。ラインハルトも最後にアンナにお祝いを述べると通信を切るのであった。

「とりあえずチュン准将」

「なんです?」

 どこか楽しげなチュン准将に俺は告げる。

「あとはカールセン准将に任せる。俺はちょっと気絶するわ」

「どうぞ思いっきり気絶してください」

 チュン准将の言葉を最後に俺は意識を飛ばしたのだった。




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
皇帝の寵姫を略奪した略奪者の鏡(なお、本人の心境

アンネローゼ・フォン・グリューネワルト
私は! ヘルベルトと! 添い遂げる!(08小隊感

ブルーノ・フォン・クナップシュタイン
シュタイナー伯爵家家臣筆頭。真面目すぎる忠臣

ラインハルト・フォン・ローエングラム
宇宙統一したら姉上も兄上も自分のところに帰ってくるよね!(ナチュラル傲慢

オスカー・フォン・ロイエンタール
どんな時も親友への煽りは忘れない

シュタイナーくんが帝国時代にやらかしたこと
だいたい大問題


そんな感じでシュタイナーくん同盟軍に無事合流!! 命張ってグリューネワルト伯爵婦人に銃つきつけたら嫁になったよ!!
弟の金髪は宇宙統一したら二人共帰ってくるから問題ない、と思っている模様

そしてずっと出したかったシュタイナー伯爵家家臣筆頭(この作品独自設定)のクナップシュタイン。原作の頃からみょうに好きなんですよね。真面目すぎてから回って死んだ印象が自分には逆に好印象

そして悲しいお知らせが一つ。
この回で書き溜めがなくなりました……!!
更新頻度は落としませんが、一話の文量は減る可能性があるのをご理解いただければ幸いです。

追記:シュタイナーくんの名前ミスってましたぁ! 一応直したつもりですが直ってない部分あったら教えてください!! あ、ミスる前の名前はシュタイナーくんの名前が決まってないときの仮名です。なので日本人名


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014話

銀河の歴史がまた一ページ……


 アムリッツァ。俺が目覚めた時にはそこに艦隊が配置されていた。十日以上……下手したら二十日近くを眠らず、何も食べずに過ごしていたので流石の俺も体力が限界だったのだ。

 そして目覚めてからカールセン准将から現在の状況を聞く。

 ホーウッド中将とルフェーブル中将は戦死、アル・サレム中将とウランフ中将が重傷を負って後方へ。残ったのはビュコック中将、ボロディン中将、ヤン、俺の四艦隊だ。アル・サレム中将とウランフ中将、それにホーウッド中将とルフェーブル中将の残存艦隊は各艦隊に振り分けられた。

 俺のところには引き取るのはやめておいた。即座に編成しても俺の艦隊に上手く機能するとは思えない。

 うちの艦隊からは百隻に搭乗していた部下は後方に送った。残ったのは総参謀長のチュン准将、副官のフィッツシモンズ中尉、頑なに俺の側を離れなかったカリンだけだ。

「帝国軍!! 接近してきます!!」

「さぁて、お仕事お仕事……と」

 オペレーターの言葉に俺はエクシールの艦橋の指揮卓で胡座をかいて呟く。

「我々には二個艦隊が向かってきています!!」

「旗艦はわかるか?」

「バルバロッサとトリスタンです!!」

「よりによって赤毛の坊やとオスカーかよ……」

 オペレーターの言葉に俺は帽子を外して天井を仰ぐ。ラインハルトの麾下でも有数の提督だ。買われたと思うべきか、籤運が悪いと思うか。

「カールセン提督に通信を」

「了解です」

 俺の言葉にフィッツシモンズ中尉がすぐさま通信をつないでくれる。

『なんのごようでしょう?』

「訓練通りに頼みます」

『了解です』

 俺の言葉に即座に了承してくれるカールセン准将。

 そして俺は一点集中砲火でオスカーの艦隊をほんの少しだけ混乱させると、そこにカールセン提督が突入して混乱を広げる。そしてそれを助長させるように俺の艦隊から集中砲火でさらに混乱させる。

 そしてオスカーが態勢を整えるために引いた瞬間を狙って今度はキルヒアイス艦隊に攻撃を仕掛ける。横撃を仕掛けたカールセン提督を援護するように集中砲火を浴びせる。キルヒアイスも被害を嫌がって即座に引いた。

「他の艦隊の状況は?」

「第十三艦隊は勝っておりますが、第五艦隊と第十二艦隊は艦隊内の連携が上手くいっていないようで……」

 チュン准将の言葉に俺は頭をかく。ビュコック提督もボロディン提督も名将だ。それで抑えきれないってことは敵が優秀なんだろう。

「帝国軍!! 再度接近!!」

「やれやれ……こうなったら意地でもみんなで生きて帰るぞ!!」

 俺の言葉に艦橋から力強い声が返ってくるのであった。

 

 

 

 

 

 赤毛の坊やとオスカーの攻撃を4回撃退に成功し、俺はカリンに入れてもらった水を飲む。

「後背に敵艦隊!!」

「ブッフぅ!!」

 オペレーターの言葉に俺は飲んでいた水を吐き出す。

「バカな!? 敵の前線指揮官達は揃っているぞ!? 敵の援軍か!?」

 チュン准将の言葉にフィッツモンズ中尉が大急ぎで後背に現れた敵艦隊について調べる。

「う、嘘でしょ!? 敵旗艦はブリュンヒルトです!! 総大将が自ら後背に現れました!!」

「……やられた」

 絶対にやらないと思われていた総大将による奇襲。これによって第五艦隊と第十二艦隊が崩れた。

「第五艦隊と第十二艦隊の撤退の援護をする」

 俺は水をカリンに渡しながら指示を出す。俺の動きに第十三艦隊のヤンも呼応してみせた。

 俺の艦隊が下がる時はヤンの第十三艦隊が敵を押しとどめ、第十三艦隊が後退する時は俺の第十四艦隊が敵を押しとどめる。この戦法はヤンと二人で組んだ学生時代からよくやっている後退戦術だ。そのためにお互いの呼吸もあっている。

 その甲斐あって帝国軍に付け入る隙を与えぬまま、逃亡圏内まで退くことに成功する。

「「それ逃げろ!!/よし撤退だ!!」」

 俺とヤンの命令はほぼ同時刻だったと後日言われた。

 

 

 こうして原作において同盟の死刑執行書となった帝国領侵攻は終わった。原作より被害が少ないとはいえ、それでも膨大な物資と戦死者を出し、同盟には致命的な被害がでることとなったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 アムリッツァ会戦。最後の帝国との戦いの場所の名前で呼ばれるようになった一連の戦闘は同盟全土を荒れさせた。最初から軍内部だけでなく、民間人からも反対の意見があったのだ。当然のように評議会議員の全員が辞表を提出したが、反対派だったトリューニヒト、ジョアン・レベロ、ホワン・ルイの三名は慰留され、トリューニヒトが暫定議長として暫定評議会を作ることとなった。

 軍では統合作戦本部長シトレ元帥と宇宙艦隊司令長官ロボス元帥の両名が辞任。帝国領侵攻で戦死したホーウッド中将とルフェーブル中将は二階級特進で元帥へ昇進。新しく統合作戦本部長に就任したのは元第一艦隊司令官クブルスリー中将。宇宙艦隊司令長官にはビュコック中将。それに伴って二人は大将に昇進。幕僚総監にはボロディン中将、宇宙艦隊総参謀長にアル・サレム中将。そして新設された同盟領鎮撫軍司令官にウランフ中将。その三名もアムリッツァの勲功により大将に昇進。俺とヤンも大将に昇進した。

 問題は俺の第十四艦隊とヤンの第十三艦隊である。

 どちらの艦隊もイゼルローンの陥落からアムリッツァまで最前線で戦い続け、被害を最小限に抑えて最大の戦果をあげていた。そのために部下達が今更別の司令官をいただけと言っても拒否されるだろうし、従うことをよしとしないだろう。

 そんな俺は自宅の官舎で謹慎中である。それというのも俺が帝都に襲撃しながら皇帝に対して何もしなかったということを問題として突き上げられたのだ。簡単に言うと俺の昇進などを妬む連中が少しでも問題を俺にさせたかったのだろう。再び俺に処断の危機が迫ったが、今回は軍内部だけでなく民間人からも反対意見が多く出され、謹慎という処分に落ち着いたのである。

 俺はダラダラとソファーに寝そべりながら手紙を書いている。

「呆れましたよ、ヘルベルトさん、わざわざ帝国からヘルベルトさんのお嫁さんになりにきたアンナさんを放置してお手紙ですか?」

 洗濯物を干してきたカリンがソファで寝そべる俺を見ながら呆れた様子で告げてくる。俺はそれに黙ってキッチンを指差す。指先には楽しそうに料理をしているアンナの姿があった。

「昨日になってようやく俺の家に来れたからな。今日は料理はアンナが作るんだとさ。亭主がキッチンに入らないでくださいと言われて俺は追い出されたよ」

「はぁ……だからってソファーでダラダラと……同盟軍大将の姿ですか?」

「家でまで勤勉だと部下は嫌がるものさ」

「よく回るお口ですこと。それで? 何を書いていらっしゃるのですか?」

「今回の戦いで戦死した戦死者の遺族に対する手紙だよ」

 俺の言葉にカリンは驚いた表情を見せる。

「……全員を覚えていらっしゃるのですか?」

「幸いなことにな。だからこうして謹慎を利用して書いている……っとこれで終わりだ」

 最後の手紙を書き終わり、俺は手紙を出してしまう。

「あら。書き終わったの、ヘルベルト」

「あぁ。食事か?」

「えぇ、準備が終わったわ。カリン、手伝ってもらっていいかしら?」

「はい!!」

 幸いなことにカリンはアンナにすぐに懐いた。どうやら帝国領侵攻の時に警護の命令をした時に仲良くなったらしい。少しだけ心配だったが杞憂だったようだ。

 その時官舎のベルが鳴る。

「カリ〜ン?」

「たまには働いてくださいね、シュタイナー家の大黒柱さん」

 カリンの言葉にアンナは笑っている。俺は頭をかきながら玄関へ向かう。そして扉を開くと見慣れた顔がいた。

「やぁ、元気そうだね」

「ヤンか」

 扉を開けていたのは片手にブランデーの瓶を持った同盟軍最高の名将の姿。

「どうもです、シュタイナー提督」

 そしてその隣にはユリアン坊やの姿があった。

「上がってもいいかい?」

「ああ、かまわない。アンナ!!」

 俺が玄関から声をかけると、台所からアンナが顔をだす。そしてヤンの顔をみて微笑みながら会釈した。

 そんなアンナに慌てながらヤンも頭を下げる。

「と言うわけで客人がきた。俺の分の食事はユリアンにあげてくれ」

「わかりました。何かおつまみを持っていきますね」

 俺の言いたいことを理解して発言したアンナに、ヤンは感心した様子をみせる。

「頭のいい女性だね。シュタイナーにはもったいないくらいだ」

「一言余計なんだよ。あ、ユリアン。アンナの料理は絶品だ。楽しむといい」

 ヤンの言葉に突っ込むと、ユリアンにそう声をかけ、俺はリビングのソファーに向かう。勝手知ったる人の家である。ヤンは俺の後をついてきて、ユリアンは慣れた足取りでキッチンに向かった。

 そしてソファーにお互い座ると、ヤンが持ってきたブランデーを開ける。

 そしてヤンは少し悪戯めいた表情で口を開く。

「悪友の結婚を祝して」

「お前もさっさと結婚しろよ」

「相手がいればね」

 さらっとそういうヤン。だが、お前の副官が自分をロックオンしていることに気づいているのだろうか。

 お互いにブランデーを一口飲むと、ヤンが口を開く。

「結婚式は挙げるのかい?」

「新しい命令がでるまではどこに移動になるかわからないからな。しばらくはしない」

 俺の言葉にヤンはなるほどと頷く。

「本音は?」

「ハイネセンとかで結婚式挙げるとなるといらん連中まで呼ばないといけないから挙げない」

「まぁ、間違いなく政治家連中はアピールのために来るよね」

 何せ同盟領ではアンナの押しかけ女房は『銀河一の大恋愛』ということで女性を中心に盛り上がっているのだ。それを見逃さないクソ政治家達はアピールのために俺達の結婚式に乗り込んでくるだろう(特にトリューニヒトとか)

 そんなの勘弁して欲しいから落ち着くまでは結婚式を挙げるつもりはない。

 するとつまみを持ってきたアンナにヤンが話しかける。

「アンネローゼさんはいいんですか?」

 ヤンの言葉にアンナは微笑んだ。

「ええ、かまいません。それに今はヘルベルトと一緒にいられるだけで幸せですから」

「おい、自分で聞いといて砂糖を吐くジェスチャーをするな」

 特大の惚気を正面から食らったヤンは砂糖を吐くジェスチャーをしている。主にこれは俺がラップからジェシカの惚気をくらった時にやっていたジェスチャーなのでヤンもよく知っているし、やっているのだ。

 そんなヤンをみながらアンナはクスクスと笑いながら言葉を続ける。

「それにヘルベルトはラインハルトとロイエンタール提督を結婚式に呼ぶつもりのようです」

 アンナの言葉に「お前バカじゃないの?」という視線を向けてくるヤンに俺は落ち着けというジェスチャーをする。

「いいか、ヤン。帝国領侵攻の時にオスカーの奴が『結婚式には呼んでくれ』と言っていたのを覚えているか?」

「ああ」

 ヤンの返答に俺は笑みを浮かべる。

「だったら呼ばないと失礼になるだろう」

「やっぱり君キチガイだよね」

 さらりと正面から失礼なことをほざくヤン。

「そしてラインハルトはアンナに残された最後の家族だ。呼ばないと失礼だろう」

「うん、その思考回路になる君はやっぱりおかしい」

 ちなみに帝国では原作通りに皇帝が死んだようで、ラインハルトとリヒテンラーデ軸が政権を握っている。この情報は帝国の反対側の同盟にもすぐに伝わっている。

 つまりラインハルトも来れるわけがない。

 とりあえずいつもの罵詈雑言の飛ばし合いになった俺とヤンをアンナは「ごゆっくりどうぞ」と声をかけるとキッチンに戻っていった。

 とりあえず10分ほどお互いに罵りあうと、気分を落ち着けるためにブランデーを口にする。

「で?」

「え? 何が?」

 俺の問いに素でわかっていない様子のヤンにがっくりとくる。

「お前さんが謹慎中の俺のところに来たのはクブルスリー大将とビュコック大将からの伝言があったんじゃないのか?」

「ああ、そうだった」

 そして慌てた様子で洋服のポケットを探しながら、一枚のディスクを俺に渡してくる。

「これは?」

「同盟軍の新しい編成が書かれているよ」

 聞くより見ろ、ということだろう。俺はディスクをいれると中の情報を確認する。

 イゼルローン駐留艦隊司令官 ヤン・ウェンリー大将

 イゼルローン方面遊撃艦隊司令官 ヘルベルト・フォン・シュタイナー大将

 俺はその情報をみて、一回目頭を揉むと、もう一回確認する。

 だが、文字の羅列は変わらなかった。現実は非情である。

「……同盟は帝国の悪しき前例に倣うのか?」

 同格の司令官がいて、その間隙をついて落としたのがイゼルローンだ。そしてこの人事はその悪しき前例に習う形であった。

 ヤンも困ったように頭を一度かきまぜる。

「クブルスリー大将やビュコック大将も同じことを進言したそうだが、トリューニヒト議長代行に押し切られたそうだよ」

 その言葉に俺は腕を組む。

 トリューニヒトの狙いは明白だ。今は強い協調路線をとっている俺とヤンの艦隊を引き裂きたいのだろう。

 そのために前線の指揮系統を混乱させるとか酷いの一言であるが、権力者の考えることなど俺には理解できん。

 そして真剣な顔でヤンは口を開いた。

「だから君と直接話し合おうと思って」

「何を?」

「便宜上、どっちが上か、さ」

 その言葉に部屋がピンと張り詰める。普段とは違う空気を察したのだろう。興味深そうにカリンとユリアンが覗いてくる。

 その二人を無視してヤンは言葉を続ける。

「同格の司令官が同じ要塞にいる。これは問題だ。それはシュタイナーもわかるだろう」

「当然だ。部下達にも無駄に混乱させたくないからな」

 俺の言葉にヤンは真剣な表情で頷く。

 そして同時に口を開いた。

「「お前がやれ/君がやってくれ」」

 そして空気が弛緩した。カリンはしかめっ面になり、ユリアンは楽しそうに笑っている。

 俺とヤンが視線で会話すると、先行はヤンになった。

「いいかいシュタイナー。イゼルローンは最前線だ。そして隣には帝国の辺境地域が広がっている。その帝国の辺境宙域では君の支持は高い。君がイゼルローンの最高司令官になれば、帝国との軋轢が少しは薄まるだろう」

 ヤンの攻撃が終わったので今度は俺のターンである。

「それは間違っているぞヤン。俺達は自由惑星同盟の軍人だ。そうなると気にするべきはやはり同盟の人心だ。同盟の人心、この一点はビュコック大将を除けば一番高いのはヤン、お前だ。そしてお前は同盟軍随一の名将でもある。その名将がイゼルローン回廊に居座れば同盟軍には安心を。帝国軍には簡単に攻めさせることはないだろう」

「お二人とも立派なことをおっしゃっていますけど、本音はなんです?」

「「めんどくさいからお前やれ」」

 カリンの言葉に俺とヤンははもると、がっちり握手。カリンは呆れたようにキッチンに戻り、ユリアンも笑いながら声をかけてくる。

「こうなったらお二人でじゃんけんでもしてお決めになったらどうですか?」

 それだけ言うとユリアンもキッチンに戻る。

 だが、俺とヤンは天啓が降りてきた表情になっている。

「じゃんけんか。盲点だったね……」

「ああ、これなら公平だ」

「だったら……一勝負するかい?」

 ヤンの言葉に俺はニヤリと笑う。

「ヤン、こういうのにはやるべき時ってものがあるんだ」

 俺の言葉に何か企んでいるのを見抜いたヤンは、笑いながら肩を竦めるのであった。

 

 

 イゼルローン方面遊撃艦隊

 司令官 ヘルベルト・フォン・シュタイナー大将

 副司令官 ラルフ・カールセン少将

 参謀長 チュン・ウー・チェン少将

 副参謀長 ジャン・ロベール・ラップ大佐

 副官 ヴァレリー・リン・フィッツシモンズ大尉

 分艦隊司令 ライオネル・モートン少将

 第一空戦隊隊長 ウォーレン・ヒューズ少佐

 第二空戦隊隊長 サレ・アジズ・シェイクリ少佐




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
謹慎を利用して部下の遺族に手紙を書くお手紙提督

アンネローゼ・フォン・G・シュタイナー
シュタイナー夫人。帝国から押しかけ女房かました全女性の憧れ

ヤン・ウェンリー
めんどくさいことはシュタイナーに押し付けようとする

カリン&ユリアンの被保護者コンビ
保護者よりしっかりしていると話題

じゃんけん
地球時代から続く公平な決め方



そんな感じでアムリッツァを一瞬で終わらせて戦後処理的お話です。

オーディン急襲したのにと難癖つけられて謹慎処分食らうシュタイナーくん。こいつ出撃から帰るたびに謹慎してるな。
そしてその謹慎を利用して戦死した部下の遺族にお手紙を書くシュタイナーくん。こういうことをするから部下達からの支持も高い理由の一つ。

そして最後にさらっとシュタイナーくんの艦隊の新編成発表。元からいる面々に地味だけど良将だったモートン提督を編入。そして空戦隊にポプランとコーネフコンビの悪友兼撃墜王であるヒューズとシェイクリを編入。
これでシュタイナー艦隊はだいたい完成です。

次回からはイゼルローン編。
コメディ成分増していきますよ!


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015話

銀河の歴史がまた一ページ……


 俺が率いる第十四艦隊とヤン率いる第十三艦隊は駐留するイゼルローン要塞へと到着した。一般人も含めての移動だったのでかなり大規模な移動である。

 そして俺達がイゼルローンに入ってしばしたち、兵員や民間人の多くの移動が完了した日。俺とヤンはどっちが名目上の上に立つかを賭けてじゃんけん勝負をすることになった。

『レディィィィィス!! エンド!! ジェントルメン!!』

 ユリアンのイゼルローン日記にて新年会が行われていた吹き抜けの空間にはステージが作られ、軍服でマイク片手に聴衆を煽るラップがいた。

『第十三艦隊、第十四艦隊の兵士やその家族達が賭けを行っている『ヤン大将とシュタイナー大将はどっちが上に立つか』の答え合わせの時間だぜ!!』

 ラップの言葉に面白そうな歓声をあげる兵士達。

『ちなみにこの映像は同盟本土と帝国辺境向けにも配信してるぜ!! 同盟領の方もどっちが上に立つかの賭けにまだ参加できるから是非参加してみてくれ!!』

 ちなみにこの賭けの元締めは軍である。俺とヤンが口八丁で丸め込み、軍を元締めにすることに成功した。ちなみにクブルスリー大将は俺、ビュコック大将はヤンに賭けている。

『現在の賭けの倍率はヤンのほうが上だ!! ヤン大将、この支持をどう思いますか!?』

「迷惑この上ないね」

『一般人の期待を迷惑と一蹴するクズムゥゥゥゥゥゥゥヴ!! ちなみにクズ度合ではシュタイナー大将も似たり寄ったりだぜ!!』

「お前、仮にも上司にその発言許されると思う?」

『許されてなかったら俺は初日で独房入りしてたよ!! 心が広い指揮官で嬉しいよなぁ、みんな!!』

 ラップの言葉に歓声をあげる第十四艦隊の兵士達。

『みんなが気になる勝負の内容は古来より続くじゃんけん一発勝負!! この勝負、どうしますか、ヤン大将』

 そう言ってラップがマイクをヤンに向けると、ヤンは真剣な表情で口を開く。

「私はグーをだす」

『おぉぉぉぉぉぉっと!!! ここでヤン大将お得意の心理戦だぁぁぁぁぁぁぁ!!!! ヤン大将はこう言っていますが、どうしますかシュタイナー大将』

「俺はヤンを信頼してパーをだそう」

『ここでシュタイナー大将は信頼という言葉を盾にしてさらなる心理戦を仕掛けるぅぅぅぅぅ!!!! 汚い!! 流石シュタイナー汚い!!』

 げらげらと笑っているラップを無視して俺とヤンはステージの中央でメンチを斬り合う。そして色々と汚い言葉も含めて言葉が飛び交う聴衆。

『さぁ!! 勝負の時だ!!』

 ラップの言葉に俺とヤンは一歩分の距離に離れて、お互いに腰だめの態勢に入る。

『泣いても笑っても一発勝負!! さぁ!! いくぞぉ!!』

 ラップの言葉に歓声がでる聴衆。

 しかし、ヤンは完全に俺の策にハマっている。いや、俺の動体視力と運動神経を甘くみていると言っていいだろう。俺の動体視力と運動神経を持ってすればヤンがだした後に手を変えるなど造作もないのだ!!

 そう!! つまりこれは約束された勝利のじゃんけん!!

『じゃ~んけ~ん!!』

 この動きで腰だめにしていた位置から俺達は手が動き出す。

 ヤンの出す手はグー!!

 ならば俺のだす手はパー!! これで俺の勝利……!! あまっちょろすぎるぜ奇跡のヤン……!!

 いや……!! しかし、ここで俺の動体視力がヤンの手の動きを察知する……!! 奴は手を開こうとしている……!! つまり出す手はパー……!! このままでは相子……!! しかし、俺の運動神経がそれを変える……!! 俺は出す手をチョキに変更……!! これで勝利……!! 勝ったな……!! 風呂入ってくる……!!!

 !? ヤンの手が開かない……!? まさかブラフ……!? まずい手を変え……!! 間に合わな……!!

『ポン!!』

 ヤン グー

 俺  チョキ

『勝負ありぃぃぃぃぃ!!! 勝ったのはヤン大将!! 奇跡のヤンの強さを見せつけたぁぁぁぁぁあ!!!!!』

 歓声&怒声&罵声が飛び交う中叫ぶラップ。グーを高らかに挙げるヤン。両ひざをついてort状態になる俺。

『ヤン大将!! ずばり勝敗の決めては?』

「シュタイナーなら必ず私の手をみて出す手を変えることは読んでいた」

『おお!! ではシュタイナー大将を破ったその秘策は?』

 ラップの言葉にヤンは決め顔で口を開く。

「私が途中で手を変えるほどの運動神経があるとシュタイナーが思っていたことさ」

「クソっ!! 予想のさらに斜め下にヤンの運動神経が悪かった!!!」

 これは完全に俺のミスである。まさか出す手を途中で変えられないほど運動神経が悪かったとは。

 そんな完全敗北の姿の俺の肩をヤンが嬉しそうに叩く。

「じゃあシュタイナーが上位大将ということでよろしく」

「ああ、そうだな。俺はじゃんけんで『負けた』しな」

「お、物分かりがいいじゃないか」

 心底嬉しそうな笑顔を浮かべるヤン。

 バカめ。勝負はすでに決まっているのだよ。

 そんな俺達二人をみて上機嫌にマイクを片手に叫ぶラップ。

『ではイゼルローン駐留艦隊上位大将はヤン大将に決定だぁぁぁぁぁ!!!!!』

「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 ラップの言葉に慌てて待ったをかけるヤン。

「ちょ、ちょっと待ってくれラップ。勝ったのは私だよ?」

『その通り。『勝った』のはヤン大将だ』

 そしていやぁぁぁぁぁな感じの笑みを浮かべるラップ。

『誰が『負けた』ほうが上位大将になるって言いましたかぁぁぁぁぁぁぁ!?』

「なにぃぃぃぃぃぃぃぃ!?」

 ラップの言葉に叫ぶヤン。だが、納得できないのか言葉を続けるヤン。

「い、いやしかし。私とシュタイナーは上位になるのをお互いに嫌がっていたんだから、ここは負けたほうが上位になるのが筋では?」

 そんなヤンの肩を俺は笑顔で叩く。

「ヤン、じゃんけん勝負に乗ってきた時点でお前の負けだ」

 そこでヤンは何かに気づく。

「君たち!! さてはグルだな!?」

「おいおいグルだなんて人聞きが悪い。あ、ラップ大佐。例の物はあとでお部屋に運びますんで」

『おっと、悪いですなシュタイナー大将』

「賄賂じゃないか!!」

 俺を指さして糾弾してくるヤンに向かって俺は腕を組んで堂々と言い放つ。

「愚か者ぉ!! 賄賂とは古代地球時代から現代でも使われる交渉術の一貫だ!!」

「このクズがぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

『はぁい!! 負け犬が何やら叫んでいますが、上位大将はヤン大将で決まりです!! 文句なら賄賂を今でも普通にやっている政治家連中を恨んでくださいねぇ!!』

「そう!! この交渉術は政治家先生達を見習った結果ですから!!」

 俺とラップの煽りに血管が切れるんじゃないかと思うくらい顔を真っ赤にしてぶちぎれているヤン。

 だが、呼吸を整えるとヤンはステージから降りていく。

 それを見送って俺とラップはステージにかけて奥が見えないように遮っていた布を取り払う。

 そこにはギター、ベース、ドラムのバンドセットが置いてあった。ドラムにはアッテンボローが座っており、ギターはポプランが持っている。そしてラップがベースを持った。

 俺はマイクをとって大きく叫ぶ。

『よっしゃぁ!! 次はみなさんお楽しみライブタァァァイム!!! まずは『閃光』って曲だ!! 俺の歌を聴けぇぇぇぇぇぇ!!!!』

 

 

 

 

『鳴らない言葉をもう一度描いて 赤色に染まる時間を置き忘れ去れば 哀しい世界はもう二度となくて 荒れた陸地が 零れ落ちてく 一筋の光へ』

 シュタイナーの歌声が響き渡る。集まっていた聴衆も大熱狂だ。カリンもアンネローゼと一緒に手を振っている。しかし、カリンにはある深刻な悩みがあった。

(歌はうまいし、いい曲なのに……!!)

 カリンは脳内に浮かぶシルエットを振り払うように首を振るが、それは消えない。

(なんでかぼちゃ被った全身黒タイツが踊っている姿が思い浮かぶの……!!)

 たぶん受信しちゃいけない電波を受信しているカリン。その脳内では『連邦に反省を促すダンス』を踊る偽マフティーの偽マフティーがいた。

 そんなカリンを心配したのか、アンネローゼがカリンの顔を覗き込む。

「カリン、どうかした?」

 アンネローゼの言葉に、いまだに脳内で踊り続けるかぼちゃ頭を脳内から無理やり蹴りだすと、カリンはアンネローゼに疑問に思ったことを聞く。

「ヘルベルトさん、歌上手いんですね」

 そう、シュタイナーの歌のうまさである。

 同盟でも様々なアーティストが歌を発表しているが、シュタイナーは下手な歌手より歌がうまかった。そのためにこの熱狂にも繋がっている。

 カリンの問いにアンネローゼは微笑む。

「忘れがち……私もたまに忘れるけど、あの人は帝国でも屈指の名門なの。だから歌だけじゃなくて他の芸術も色々こなせるわよ」

「はえ~」

 確かにカリンも頻繁に忘れるが、シュタイナー家は帝国でも屈指の名門なのだ。そのために貴族としての嗜みとして音楽をたしなんでいてもおかしくない。

「でも帝国貴族だったら普通はクラシックとかじゃないんですか」

「ヘルベルトのやることだから」

 アンネローゼの即答にカリンも思わず納得してしまった。色々と突拍子がないことをするのもシュタイナーである。

 そして一曲目が終わってMCタイムになる。ヘルベルトは水を一口飲むと、マイクで話始める。

『そんな感じで楽器できる第十三艦隊、第十四艦隊首脳陣で結成したバンド。『名前はまだない』です。なんかいい名前募集するぞぉ!!』

 シュタイナーの言葉に歓声をあげる聴衆。カリンとアンネローゼも一緒だ。

『というわけでバンド紹介いこう!! まずドラム、ダスティ・アッテンボロー少将!! ギター、オリビエ・ポプラン少佐!! ベース、ジャン・ロベール・ラップ大佐!! そしてボーカルはこの私、ヘルベルト・フォン・シュタイナー大将だ!!』

 大歓声。特にポプランには黄色い声援も多かった気がするのはカリンの気のせいだろうか。

 すると今度はラップがマイクで話し出す。

『というか今の曲とかこの後やる曲含めて全部作ったのシュタイナー大将なんだけど、お前なんなの?』

『帝国時代の一緒に色々やった私の仲間に音楽が得意な奴がいてな。そいつと曲を大量に作った』

 シュタイナーの言葉にカリンが驚いてアンネローゼをみると、アンネローゼも苦笑いである。

「事実よ。ヘルベルト作詞で『音楽のエル』って呼んでいた仲間が作曲していたの。私もよく一緒に演奏したりしたわ」

「アンネローゼさんもですか?」

「私もピアノを弾けるから」

 アンネローゼの言葉にカリンは何か思い出す。

「あれ? ヘルベルトさんが妙に私に楽器をやらせたがるのって……?」

「たぶん、一緒にやりたいんじゃないかしら」

 アンネローゼの言葉に難しい表情をして悩むカリン。その時ステージではシュタイナーとヤンによる罵倒の飛ばし合いが発生していた。

 難しい表情をするカリンを、アンネローゼは優しく頭を撫でる。

「やりたくなかったらやらなくてもいいの。私の弟は『私は聴く専門です』って言ってやらなかったわ」

 現在帝国でも最大規模の権力者の過去話を突然暴露されて困るカリンであったが、すぐに意識がステージに移る。

『よぉし!! じゃあ2曲目!! タイトルは『鉄のララバイ』。いってみよう!!』

 そして始まる演奏をみて、少しだけ楽器覚えようかと思うカリンであった。




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
勝負は始まる前から決まってるんだぜ、ヤン

ヤン・ウェンリー
上位大将。君に恥じはないのかい、シュタイナー

ジャン・ロベール・ラップ
審判はシュタイナーくんに買収されていた模様

賄賂
この映像をみて収賄で逮捕される政治家がでた

艦隊バンド『名前はまだない』
楽器練習に忙しくてバンド名までは決まってなかった

シュタイナーくんが作った曲
まだ人類が地球しかいなかった時代の日本という国にあった曲の模様

シュタイナーくんの帝国時代の仲間の一人『音楽のエル』
もしかして? 芸術家提督



そんな感じでイゼルローン編開幕です。
ここまでシリアスもちょいちょいあったので、イゼルローン編は全力でふざけていく所存。そのためにじゃんけん勝負(元締めは軍)とライブ活動をするシュタイナーくん。

ちなみにライブ映像も同盟領と帝国辺境で流れていたので、某黄金の獅子さんはとあるルートでライブ映像を手に入れてご満悦な模様。

そして完全に出来レースだったじゃんけん勝負。妙にクリーンを心がけるヤンなら絶対にハマる罠を仕掛けるシュタイナーくんが悪辣ぅ!

そして明かされるロイエンタール以外のシュタイナーくんの帝国時代の仲間の一人。
いったい何ネスト・メックリンガーなんだ……

ちなみにイゼルローン編は原作外伝のユリアンのイゼルローン日記みたいにカリン視点の話も入ってくるかもしれません。


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016話

銀河の歴史がまた一ページ……


カリンのイゼルローンの日々

 

 カリンがシュタイナーと共にイゼルローンにやってきてだいぶたったある日。カリンはシュタイナーの副官であるフィッツシモンズが病のために、その代わりに副官業務を代行することとなった。

 副官代行と言っても、主な副官業務はフィッツシモンズの同僚のグリーンヒルがやってくれることになっており、カリンの主な仕事は軽いお使いみたいなことや、すぐにさぼろうとするシュタイナーとヤンのお説教、そしてカリンと同じ立場になった友人のユリアンに従卒の仕事を教えるなどの簡単なことだ。

 カリンがシュタイナーの従卒として第十四艦隊(通称・シュタイナー艦隊)や第十三艦隊(通称・ヤン艦隊)の人々と接しているので、どこにいっても声をかけられるし、困っていれば助けてもらえる。それは養父であり艦隊指揮官のシュタイナーが兵卒にも慕われているのもあるが、カリンの人柄の影響もあった。

 大人は誰だって頑張っている子供をみたら応援したくなるものなのだ。

 そしてカリンは軍港までやってきて待機している。

 そして待ち人がやってきたので椅子から立ち上がって敬礼する。

「長期訓練、お疲れ様でした。モートン少将」

「おお、クロイツェルくんか」

 カリンの敬礼に、笑顔で敬礼を返してきたのは第十四艦隊分艦隊司令官。ライオネル・モートン少将である。

 厳つい顔だが、温厚な人物で人格者。シュタイナー艦隊の副司令官・カールセンより先任なので、シュタイナーが副司令官に任じようとしたところ「カールセン少将のほうがシュタイナー大将を理解しているでしょう」と言って、カールセンに副司令官職を譲ったことでも知られている。

 だが、その温厚な人柄に反して戦場では勇猛果敢で知られており、突撃と突破の指揮に関しては同盟軍でも屈指の能力を持っている。

 そんなモートンはヤン艦隊の分艦隊司令官でシュタイナーとヤンの後輩であるアッテンボローと共に新兵の訓練に行っていた。

 モートンは作成した報告書をカリンに手渡しながら、優しい笑みを浮かべてカリンに話しかけてくる。

「フィッツシモンズ大尉はどうした?」

「病欠です」

 カリンは報告書を受け取りながら簡潔に答える。カリンの言葉にモートンは少し驚いた表情をする。

「ふむ、病気か。まさか二日酔いとかではないだろうな」

 モートンの言葉にカリンは顔を背ける。

 それが答えであった。

 モートンは一度大きく笑うと、カリンに楽しそうに話しかける。

「ふむ、それは第十三艦隊のムライ総参謀長が顔を顰めていそうだ」

「フィッツシモンズ大尉は一時間のお説教を受けていました」

 カリンの言葉にモートンは堪えきれないといった雰囲気で大きく笑った。周囲にいた兵がなんだなんだと見てくるのがカリンには恥ずかしい。

 話を変えるつもりでカリンは一度咳払いをすると、モートンに話しかける。

「訓練はどうでしたか?」

 カリンの問いにモートンは笑いを収めると、難しい表情になる。

「うちだけでなく、アッテンボロー少将の艦隊もそうだが、やはり新兵が多く戦いは不安だな。詳しい報告は報告書に書いてあるし、後で私もシュタイナー大将に直接報告しようと思っている」

「了解しました。シュタイナー大将にもそう伝えておきます」

「うむ、頼んだよ」

 そしてお互い敬礼をして別れようとすると、最後にと言った感じでモートンが付け足してくる。

「それとシュタイナー大将には訓練出発前に若手兵士と一緒に脱衣ポーカーやって兵士四人を全裸にしたことの説明を求めるとも伝えておいてくれ」

「すいません、超叱っておきますので」

 瞬間的にカリンは頭を下げながらそう言っていた。確かにモートン分艦隊の出発直前にシュタイナーが部屋に帰ってくるのが遅い日があったが、そういうことだったのだろう。

 カリンの言葉にモートンは大笑いすると、今度こそ敬礼をして立ち去っていく。

 その後ろ姿を見送りながらカリンは大きく溜息をついた。

「お、どうした嬢ちゃん。溜息なんてついていると幸せ逃げるぞ」

「また、お父さんが何かやらかしたか?」

「シェイクリ少佐、ヒューズ少佐」

 カリンは話しかけてきた二人に敬礼をする。大柄な男性黒髪の男性がシェイクリ。金髪で優男風の男性がヒューズである。

 二人とも元ヤン艦隊に所属だったスパルタニアンのエースパイロットで、同盟軍の艦隊再編成でシュタイナー艦隊にやってきた。

 空戦能力は同盟軍の中でも屈指の腕前であり、ヤン艦隊の空戦隊隊長のポプランとコーネフとあわせてそのパーソナルマークから『トランプ』とも呼ばれている。

 シェイクリは自身を「ポプラン達に比べたら育ちがいい」と公言しているが、士官学校ではポプラン達と共に悪さばっかりをしていた男である。ヒューズはトランプの中で唯一の既婚者で、二歳になったばかりの娘がいた。この娘を仲間や部下に可愛い自慢をしてはうんざりされるのをよく見かける。

 そしてカリンの鍛えられた嗅覚が二人からのある臭いを感じ取る。

 カリンは半目になりながら二人をみながら口を開く。

「お二人とも、また訓練中にお酒ですか?」

 カリンの言葉にシェイクリとヒューズはニヤリと笑う。

 それが答えであった。

 そんな二人の反応にカリンは呆れたように溜息をつく。

「シュタイナー大将が出撃時の飲酒を認めてくれたとは言え、訓練でまで飲むのはどうなんですか?」

「大将も話がわかる人だよなぁ」

「ああ。まさか俺達も『そうか……空戦隊や陸戦隊だったら一杯ひっかけてから出撃してもバレなかったな……』って反応されるとは思ってなかった」

 まったく悪びれる様子もなくシェイクリとヒューズはしみじみと頷く。カリンはそんな反応に呆れたように溜息をついた。

「お、どうした嬢ちゃん。溜息つくと幸せが逃げるぞ?」

「その溜息の元凶の台詞じゃないと思います」

「だったら俺の娘の写真みるか? ちょうど昨日超素晴らしい写真が撮れてな」

 懐から娘の写真をとりだして娘自慢を初めたヒューズをカリンは丁寧に無視することにした。

「シェイクリ少佐。空戦隊の訓練状況はどうですか?」

「俺、ヒューズ、ポプラン、コーネフの鍛えた空戦隊で総当たり戦やって俺の空戦隊が一位。おかげで酒がうまいぜ」

 カリンの言葉にシェイクリが笑いながら答える。その言葉に感嘆の声をだすカリン。

 同盟軍でも屈指の腕前を持つトランプのメンバーだが、その中でもシェイクリが一番の腕前と言われていた。ポプランは自分が一番だと言っているが、ヒューズとコーネフはシェイクリが一番だと周囲に語っている。

 そして娘語りをやめて、ヒューズがカリンに話しかけてくる。

「そういや嬢ちゃんは空戦隊の訓練は受けないのか?」

「? そのつもりはありませんけど。何故ですか?」

「ほら、ヤン司令のとこの坊やがポプランのところに弟子入りしたみたいでな。今回はでてこなかったが、訓練みていたらなかなか筋がよくてな。なぁ、シェイクリ」

「ああ。ありゃぁいいパイロットになるぞ」

 カリンもそれでユリアンがヤンの『色々な選択肢があったほうがいい』という考えの下に、ポプランのとこで空戦を学び始めたのを思い出す。

 ユリアンはヤンの役に立ちたいと言って軍人を志しているが、カリンはそのような気持ちはない。シュタイナーの従卒になったのも『自分の知らないところで親が死ぬのはもう嫌だ』という気持ちだからだ。だからユリアンと違って軍人になろうと思っていない。

「私は軍人に興味ないので。というかむしろ軍人ってあまり好きじゃないので」

 カリンのあんまりな返しにシェイクリとヒューズは大爆笑である。

「おいおい! 嬢ちゃんの保護者が今や軍人の代名詞だろ!!」

「……あ、そういえばそうですね」

「「忘れてたのか!!」」

 カリンの言葉にシェイクリとヒューズは突っ込むと、再び大笑いする。

 カリンは頻繁に忘れてしまうが、シュタイナーとヤンは今や同盟軍を代表する軍人なのだ。色々とやらかしているので民間人からの人気も高い。

 普段の生活やシュタイナーとヤンによる配信『イゼルローンから愛をこめて』というラジオ番組を聞いていると二人が何なのかわからなくなるが、二人は同盟だけでなく帝国にもよく知られる名将なのだ!!

 普段は駄目親父であるが。

 カリンは笑い終えた二人からも報告書を受け取ると、空戦隊の訓練の後にアッテンボローのところにいっていたユリアンと合流し、司令官室へと向かう。

 年齢も近く立場も同じ。さらには前々からお互いの保護者がお互いの家を行き来しているので親友とも呼べる間柄になったユリアンと、カリンは世間話をする。

「そういえばユリアン。スパルタニアンの訓練し始めたんですって?」

「うん。ヤン提督がポプラン大尉に話をつけてくれて。あと、薔薇の騎士(ローゼンリッター)のシェーンコップ少将から白兵戦も教えてもらうことになっているよ」

 ユリアンからでてきた名前にカリンは持っているファイルを一瞬強く握りしめる。

 ワルター・フォン・シェーンコップ。カリンの実の父親だ。

 初めてシェーンコップと出会ったのはイゼルローンにやってきて三日目ごろ。一緒の要塞に住むということでシュタイナー艦隊とヤン艦隊の首脳部で顔合わせがあったのだ。

 そこでカリンは自分の実の父親を初めてみた。女性にもてるであろう端正な顔立ちと鍛えられた肉体。それらが全てカリンは憎かった。

 その男は母を捨てたのだから。

 母が亡くなった時、一度だけ手紙で母が亡くなった報告をした。そのために自分が娘だとシェーンコップは知っているはずであったが、特にアクションはなかった。逆にカリンの情報を知っているシュタイナーが少しだけ心配そうにカリンをみたのが印象的であった。

 だからカリンはシェーンコップを父と思うことはやめた。自分の父親はヘルベルト・フォン・シュタイナーだけだと思うことにしたのだ。

「カリン、どうかした?」

 難しい表情をしていることに気づいたのだろう。ユリアンが心配そうに自分を覗き込んでいるのに気づいて、カリンは一度首を振るとユリアンと会話を続ける。

「なんでもないわ。でもユリアン。あなた参謀志望でしょ?」

「うん。だからムライ総参謀長やチェン総参謀長からも色々と教えてもらってるよ」

「ヤン司令官と違って勤勉ね」

 カリンの言葉にユリアンも微笑む。こう言ってはなんだがユリアンの保護者のヤンは勤勉と対局にいるような存在だ。普段から怠惰。仕事の大半は副官のグリーンヒルに丸投げ。イゼルローン要塞の運営もほとんどシュタイナーがやっており、それにキレたシュタイナーが『イゼルローン要塞におけるキャゼルヌ少将の重要性について』というプレゼンをハイネセンのクブルスリーとビュコックに行い、キャゼルヌ少将がイゼルローンに配置換えになったのは記憶に新しい。

 それを聞いたヤンは「やった。これで私は仕事をしなくて済むぞ」と発言して、シュタイナーに「お前は最初から何もやっていない」と突っ込まれるシーンをカリンとユリアンは傍でみていた。

「そういえばキャゼルヌ少将はいつ到着するんだろう」

「ヘルベルトさんは十二月の中頃じゃないか、って言っていたけど」

 ユリアンの問いにカリンが答える。キャゼルヌのイゼルローン配属が決まってから、シュタイナーとヤンは連名で軍に『はやくキャゼルヌくれ。はよ! はよ!(意訳)』を毎日のように通信で送っていることを二人は知っている。

 そしてキャゼルヌの配属が決まってから二人がイゼルローンの運営に関する仕事を必要最小限しかしなくなったことを。

 内心で配属された瞬間から激務確定なキャゼルヌに祈りを捧げながら、二人はイゼルローン司令官室に到着する。

帝国時代は要塞司令官と駐留艦隊司令官の仲は悪く、執務室も別々の遠くにあったが、シュタイナーとヤンは部下の報告などを考えて同じ部屋がいいと判断。三部屋をぶち抜いて巨大な司令官執務室にDIYしてしまった。

 ちなみにこの執務室で頻繁に酒盛りしてはムライ参謀長にお説教される最高指揮官二人の構図はイゼルローン要塞の人々の公然の秘密である。

 カリンとユリアンは敬礼しながら扉を開く。

「ヘルベルトさん、モートン少将とシェイクリ少佐、ヒューズ少佐から報告書をお預かりしてきました」

「ヤン提督、ただいま戻りました」

「王を迎えるは三賢人! 赤き星は滅びず、ただ愚者を滅するのみ! 荒ぶる魂よ、天地開闢の魂を刻め! シンクロ召喚!! いでよ新たな我が力! スカーレット・スーパーノヴァ・ドラゴン!!」

「あ、強制脱出装置で」

 シュタイナーが召喚したドラゴン型のモンスターはヤンの伏せていた罠カードであっさりとデッキに戻った。

 右腕に嵌めた決闘盤から弾かれたカードをシュタイナーはEXデッキにいそいそと戻す。

「……ターンエンドだ」

「じゃあ私はこれからエグゾディアパーツが揃うまでソリティアするけど止めるカードある?」

「ねえぞクソがぁ!!」

 ヤンの煽りにぶち切れながらシュタイナーはサレンダーをしたことで勝者はヤンになった様子である。

 その光景にカリンは半目でみてしまう。隣のユリアンは男の子なので決闘盤に興味津々だ。

 そしてデュエルを終えた二人は部屋に入って来た二人に気が付いた。

「おお、お帰りカリン」

「ヘルベルトさん、何やっているんですか?」

「うむ、何やっているかと言われてもデュエル(決闘)をしているとしか言いようがないが」

 二人がやっていたのは人類の長い歴史のなかでも屈指の歴史の長さを誇るマジック&ウィザーズというゲームだ。なんでもその元になったカードゲームは地球時代まで遡れるらしい。

 それ自体はカリンも知っている。ハイネセンの学校にいた時はみんなやっていたし、なんだったらカリンもやっていて、シュタイナーともやったことがある。

 カリンが気になったのは二人の腕についている機械だ。

「その腕のは何ですか?」

「ああ、これか? これはフェザーンのヒューガーさんに『こんな感じの作れませんかね?』って聞いたらマジでできたらしくてさ。試作品を送ってくれたからヤンと遊んでた」

「みてみてカリン!! 本当に召喚できているみたいだよ!!」

 ユリアンがヤンから借りて自分のエースモンスターであるD-HEROデストロイフェニックスガイを召喚して喜んでいる。

 カリン的にそのモンスターは嫌な思い出しかないので視線をそらしながらシュタイナーと会話を続ける。

「ヒューガーさんが裏にいることはわかりましたが、お二人ともお仕事は?」

「「上が勤勉に働くと下が迷惑する」」

「二人ともお説教です。そこに正座してください」

 全く悪びれずに言い放った駄目親父二人にカリンはこんこんとお説教するのであった。




カーテローゼ・フォン・クロイツェル
シュタイナー艦隊とヤン艦隊の愛されマスコット(本人自覚なし
駄目親父二人(シュタイナーとヤン)を相手にお説教する姿は兵士達の癒しと笑いである。
使用デッキ:ウィッチクラフト

ライオネル・モートン
少将。勇猛果敢な人格者。

ウォーレン・ヒューズ&サレ・アジズ・シェイクリ
少佐。シュタイナー艦隊空戦隊隊長。愛家族家と飲兵衛

シュタイナーとヤンのやっていたカードゲーム
もしかして:遊戯王




そんな感じでイゼルローンの日々(カリン編)です。

最初の予定では三千字程度に抑えるつもりが、何故か倍の六千字近くになっていました。

そして原作で描写が少ないモートン提督はほぼオリジナルキャラ化。たぶんシュタイナー艦隊の外付け良心回路。
あとご感想で『モートンのほうが先任では?』というご指摘があったので急遽『モートンがカールセンに譲ったんだよ!』という設定付け。
人格者設定はそこから派生されました。

そしてみんな大好きポプラン&コーネフコンビの悪友コンビを本格参戦!! 原作ではほぼキャラ設定がないようなものだったので、道原かつみ版銀英伝から膨らませました。
シェイクリが一番いい腕という設定はユリアンのイゼルローン日記にてコーネフが「一番のパイロットは戦死して墓の中」という言葉からの着想になります。ヒューズの娘がいる設定も同じく道原かつみ銀英伝から。

あとカリンの爆弾のシェーンコップにも軽く触れておくスタイル。書きたいこともあるんですが、それがいつになるかは不明です。

追記:ユリアンのイゼルローン日記読んでいたらこの時のポプランとコーネフの階級が少佐だったのでシェイクリとヒューズも少佐に変更しました。直っていないところがあったらご指摘あるとうれしいです


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017話

銀河の歴史がまた一ページ……


 亡命者

 これは長い戦乱の間に様々な理由で帝国から同盟へ。またその逆に同盟から帝国へ行く人々を指す。

 俺も両親に連れられて同盟へやってきた亡命者だし、妻であるアンナもかなり珍しいケースであるが亡命者だ。そして俺の養女であるカリンは亡命者の子供の亡命二世だ。

 自由惑星同盟の帝国領侵攻作戦において俺はなんやかんやあってシュタイナー伯爵に叙爵された。

 侵攻の一部隊の司令官が侵攻領の貴族に叙されるという「こいつは何を言っているんだ」案件なんだが、事実だから仕方ない。

 そしてイゼルローンにヤンと共に指揮官として赴任し、二人で仕事をする振りをしながら駄弁っている時にヤンから「シュタイナー伯爵家の旧臣が君を慕って亡命してくる可能性があるんじゃないかい?」と指摘された。

 ありえる話である。

 なんだかよくわからないが我がシュタイナー伯爵家の家臣やその縁に連なる人々は異常にシュタイナー伯爵家に忠義を示そうとする。惑星・オーディンへの奇襲からの撤退の時に背信行為にも関わらず俺を助けてくれたクナップシュタインがいい例である。

 国境沿いの要塞にシュタイナー伯爵がいる。

 これを機会に俺の下にやってくる人物がいるだろう、というのがヤンの予想だ。

 そしてその予想は大当たりだった。

 イゼルローン要塞指揮官執務室。俺とヤンのDIYによって巨大な一室とかしたこの部屋に俺とヤン、そしてそれぞれの参謀長と副官のチュン少将とフィッツシモンズ大尉。そしてムライ少将とグリーンヒル大尉。ついでに俺とヤンの従卒兼養子のカリンとユリアンもいる。

 俺の前には帝国式の礼をしている大柄の男。身長は2mをこえ、頬には戦傷が残り、大量の髭を蓄えた帝国軍上級大将の軍服を着た男。

 銀河英雄伝説において白兵戦最強と呼ばれ、ファンからは石器時代の勇者と呼ばれたオフレッサー上級大将である。

 まさかの俺の下にやってくる亡命者第一号が帝国軍の装甲擲弾兵総監を務める超大物だったことに俺とヤンだけじゃなく、俺とヤンから話を聞いていたチュン少将とムライ少将、フィッツシモンズ大尉、グリーンヒル大尉も困惑の空気を隠せない。(カリンとユリアンはオフレッサーがどれほど大物かわかってないので俺達の空気に困惑している)

 そんな心理戦をしかけてきたオフレッサーは俺達の空気を気にすることなく、俺に深々と頭を下げた。

「ヘルベルト・フォン・シュタイナー伯爵。このバルドゥル・フォン・オフレッサー。先々代のシュタイナー伯爵から受けた大恩を返すべく参上しました。これからはヘルベルト様の手足となって戦いましょう」

 ここでもまた同盟軍側に心理的攻撃。オフレッサー上級大将と言えばトマホーク一本で上級大将に昇りつめ、『ミンチメーカー』とまで呼ばれた野蛮人という認識である。

 それが俺に対しては礼の限りを尽くしている。

 まだ俺が帝国にいたとき、俺の屋敷に頻繁にやってきてはシュタイナー家に忠節を尽くしていたことを知っている俺はダメージが少なかったので、俺はようやく口を開く。

「オフレッサー上級大将」

「どうぞオフレッサーと呼び捨てに。私はシュタイナー伯爵の臣下なれば」

 速攻でオフレッサーに訂正されてしまった。

 ここでごねても話が進まないと思ったので俺は素直にオフレッサーの言葉を受け入れる。

「オフレッサー。卿が来てくれて私も嬉しい。しかし、大丈夫なのか?」

「大丈夫とは?」

「いや、装甲擲弾兵総監が亡命してきて大丈夫か?」

 俺の言葉に今度はオフレッサーの瞳に怒りの炎が燃える。

「今の帝国は腐っております! あの憎きブラウンシュヴァイクとリッテンハイムが権力を握ろうとし! あまつさえ多くの貴族はそれを支持するという始末!! ブラウンシュヴァイクとリッテンハイムがやった所業を考えればそれは決してできぬ! なのにあの蛆虫共が!!」

「落ち着けオフレッサー」

 最後のあたりに素が出始めたので、俺は慌てて止める。超男所帯で出世したオフレッサーはこっちが引くくらいの罵声がでてくることがある。それはカリンとユリアンの教育によくない。

 俺の言葉に落ち着いたオフレッサーをみながら俺は会話を続ける。

「しかし、ならばブラウンシュヴァイクとリッテンハイムに対抗するであろうリヒテンラーデ侯や私の義弟のラインハルトの下に行く手もあっ」

「閣下」

 俺の言葉の途中でオフレッサーは真剣な表情で俺の言葉を止め、そしてその表情のまま言葉を続ける。

「閣下の義弟に対して不敬であるのは重々承知ですが、私は金髪の……失礼、ローエングラム伯は大嫌いです」

「だからって同盟に亡命するのはやりすぎじゃない?」

「実は友であり同士でもあるメルカッツも誘ったのですが、メルカッツは家族のこともあり、それはできぬ、と。友の心中をお察しいただければ、と私も嬉しく思います」

「うん。オフレッサーと一緒にメルカッツ提督まで来たら俺の胃がバーストするからよかったよ」

「それとクナップシュタインも来たがっていたのですが、奴もまた家族を持つ身ゆえ、私が一喝して止めておきました。あ、それとこれはいけ好かない気障野郎……失礼、ロイエンタールから預かってきた閣下の結婚式に出席する旨の回答書です」

 相手の軍人に結婚式の招待状を送っていた事実に厳しい目を向けてくるムライ少将の視線を無視して、俺はオスカーからの返答をみる。

 出席のほうに丸がついていた。

「親友で親族とは言え敵国の軍人の結婚式に参加するとかあいつ頭おかしいんじゃないか?」

「ヘルベルトさん。それ招待状を送ったヘルベルトさんが言ったら駄目です」

 思わず呟いた言葉にカリンが速攻で突っ込みをいれてくる。

 だが、まぁオフレッサーの状況は理解できたので、俺はオスカーからの煽り手紙をしまいつつオフレッサーに話しかける。

「正直なところオフレッサーが俺のところに来てくれたのはありがたい。うちの艦隊には白兵戦の部隊があっても指揮官がいなくて参謀のラップに任せてたんだ。お前さんには俺の艦隊の白兵戦部隊の指揮官を頼む」

「は! このオフレッサー、粉骨砕身して閣下にお仕えし、任された白兵戦部隊を宇宙最強の部隊にしてみせましょう!!」

 オフレッサーの強さを知っていると冗談に聞こえないから困る。

 とりあえず亡命者オフレッサー上級大将は片付いた。

 問題はもう一人のほうである。

 身分証明書によればフリードリヒ・フォン・クロイツェル。帝国側に残っていたカリンの祖父である。

 サングラスをかけ、アロハシャツを着た遊び人風の老人。

「……いや、フリードリヒ4世だよな」

「おっと! 儂をそんな放蕩皇帝と一緒にしないでくれ!! 儂はただの老人……カリン!! お前のお爺ちゃんじゃぞ!!」

「え?」

「カリンを困らせてんじゃねぇぞクソ爺!!」

 困惑したカリンを助けるように俺が罵声を飛ばすと、フリードリヒ4世は大爆笑であった。

「オフレッサー。元居たところに帰してきなさい」

「しかし閣下。私の亡命に力を貸してくださったのは陛下なので……いえ、来る途中の艦の中であまりのうざさに何度も捨てたくなったのは確かですが」

「この扱いの悪さよの。奇跡のヤンと呼ばれるヤン提督はどう思うかの」

「自業自得では?」

 フリードリヒ4世に俺達と同種の臭いを感じ取ったのかヤンからの言葉も辛辣だが、フリードリヒ4世はげらげらと笑うだけだ。

「というかお前死んだんじゃなかったのか?」

「残念だったなぁ。トリックだよ」

「よすんだシュタイナー!! 君のグーパンは人が弾け飛ぶ!!」

 思わずな言葉に拳を飛ばしそうになった俺に対して即座に突っ込みをれるヤン。フリードリヒ4世はオフレッサーの後ろで俺を煽っていたが、オフレッサーに猫のように捕まれると俺の前に投げられた。

「とりあえず爺。ここからちょっと真面目な話だ」

「うむ。よかろう」

「お前死んだはずだよな? つい先日銀河中をそのニュースが広がったから」

 タイミングとしては帝国領侵攻作戦の撤退直後。原作と同タイミングだったから俺も「狸爺も原作力には勝てないか」と思った記憶がある。

 なのにその爺が目の前にいる。どういうことだ。

 すると、フリードリヒ4世が真剣な顔をして口を開く。

「うむ。皇帝辞めたかったから死んだことにした」

「落ち着いてくだされ閣下!!」

「グーは駄目!! グーは駄目だシュタイナー!!」

 俺の振り被った拳を止めてくるオフレッサーとヤン。チュン少将とフィッツシモンズ大尉は笑っていて、グリーンヒル大尉は苦笑い。ムライ少将は困ったものだと首を振っていた。

 俺の反応を気にせずフリードリヒ4世は言葉を続ける。

「儂がローエングラムに取引を持ちかけてな。とある条件をつけて儂は死んだことにして新しい人生をスタートさせた」

「条件って?」

 ラインハルトが応じることだから帝国内部での地位向上とかだろうか。

 俺の言葉にフリードリヒ4世は真剣な表情で口を開く。

「お主とアンネローゼ、そして養女のカーテローゼ・フォン・クロイツェルの暮らしぶりを逐一報告することじゃ」

「ぶっふぅ」

 あんまりな条件に聞いていたフィッツシモンズ大尉が笑ってしまう。俺も脱力するしかなかった。

 シスコンの気持ちを甘くみていた。

「それにシュタイナー伯の近くにいたら色々と面白そうだしのぉ」

「見世物じゃねぇぞクソ爺!!」

「でも間違ってないよね」

「それはヤン提督はおっしゃれないかと」

 ヤンがにやにやして突っ込んできたら、冷静な顔をしたムライ少将に突っ込まれて何も言い返せないヤンワロス。

「それと、な」

 そう言ってフリードリヒ4世は首から下げていたロケットを懐から取り出して蓋を開く。

 そこには幸せそうな笑みを浮かべて立っているフリードリヒ4世とベーネミュンデ侯爵夫人の写真と黒髪が数本入っていた。

 それを見ながらフリードリヒ4世は優し気に、だがどこか寂しげに呟く。

「シュザンナに広い世界を見せてやりたくてな……」

 ……そんな顔されたら何も言えないわ。

 俺は溜息をついてヤン達をみる。

「ヤン大将、チュン少将、ムライ少将、フィッツシモンズ大尉、グリーンヒル大尉。この老人の正体は」

「わかってる。私達の胸の中にとどめておくよ」

 ヤンの言葉に俺は軽く頭を下げる。厳格なムライ少将は困った様子で首を振っていたが、文句を言う様子はない。

 それに少し驚いた様子のフリードリヒ4世だったが、すぐに微笑むと軽く全員に頭を下げる。

 そしてテンションあげた様子で立ち上がる。

「それでシュタイナー伯の養女のカーテローゼ……ああ!! カリンじゃったな!! それはそこの可愛い娘で良いのかの? お主のお爺ちゃんじゃよ……!!」

「え!?」

「調子に乗るなクソ爺!!」




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
ヤンと話をしていて自分を頼って亡命者が来るという予想は立てていたが特大の爆弾がやってきた。

バルドゥル・フォン・オフレッサー
石器時代の勇者。ミンチメーカー。この世界ではヘルベルトくんの祖父に世話になり、その配下となったシュタイナー伯爵家家臣。なお、この世界でもラインハルトは嫌い。

カーテローゼ・フォン・クロイツェル
なんか祖父が勝手に生えてきた。

ヤン・ウェンリー
シュタイナーのところに亡命者がやってくるのは予想してたけど、想像以上に大物が来てちょっと引いた

フリードリヒ・フォン・クロイツェル
ひょっとして:フリードリヒ4世




そんな感じでシュタイナーくんのところに亡命者がやってきました。

作者の個人的に好きなキャラであるオフレッサーを第十四艦隊へスカウト。これは割と最初から構想にありました。これにより第十四艦隊の白兵戦部隊は薔薇の騎士連隊をこえる白兵戦部隊になるかもしれません(活躍は考えていない
それとオフレッサーの名前はオリジナルです。原作やアニメでも名前でてませんよね?(不安

そして皆さん大好きフリードリヒ4世カムバック!!
最初の予定では原作が死亡したタイミングで退場のつもりで書いており、この作品でもそういうナレ死させたのですが、感想のほうで「あの爺が簡単に死ぬわけない」(意訳)と複数寄せられ、作者も「それは確かに」と思ったので復活の爺になりました。
皇帝としては死んだと書いてしまっていたのでラインハルトと組んだ狂言として再設定、そして新しい戸籍はカリンの祖父という設定に!!
突然生えてきた祖父にカリンは困惑する。

それと個人的にフリードリヒ4世が愛していたのはベーネミュンデ侯爵夫人だったんじゃないかなぁと思ったのでそのあたりも入れてみました。


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018話

銀河の歴史がまた一ページ……


 年末である。軍事要塞であるイゼルローン要塞には年の瀬正月など関係ないと思われるかもしれないが、そこは基本的にノリが軽い第十三艦隊と第十四艦隊の所属の軍人である。主にポプラン、シェイクリ、ヒューズの三人が中心になって俺とヤンに「年末パーティしようぜ!(意訳)」という陳情を持ってきた。

 基本的に騒ぎ好きな俺は即OK。基本的にはノリが軽いヤンもOKをだし、イゼルローン全体で年末に大騒ぎすることが決定した。

 軍事作戦以外では役に立たないヤンに代わって俺の仕事が倍率ドンになったが、ここで俺とヤン待望の人材がイゼルローンにやってきた。

 そう、アレックス・キャゼルヌ先輩である。

 キャゼルヌ先輩がやってきたその日にヤンはキャゼルヌ先輩に『要塞事務監』という役職を押し付け、イゼルローン要塞の管理はキャゼルヌ先輩に全部放り投げた。

 だが、そこは後方だけで少将まで成り上がったキャゼルヌ先輩である。三日ほどでイゼルローン要塞の基礎管理を構築し、ついでに年末パーティの準備まで終えてしまった。

 そしてキャゼルヌ先輩からの意趣返しに俺とヤンは年末パーティ開始のスピーチをすることになった。

 俺達二人だけなら漫談でもして即座に終わらせるのだが、キャゼルヌ先輩の巧妙なところは一人だけ政治家志望の名士を混ぜることで俺達に真面目にやらせようとしてきたのだ。

 そして今はまさしく年末パーティが始まるその瞬間。吹き抜けの会場にはステージが作られ、花火もあげられることになっている。軍人だけでなく民間人も今か今かと開始の合図を待っている。

 そして司会をしているフィッツシモンズ大尉に促されてヤンがマイクの前に立つ。

 そしてヤンは真面目な顔で口を開いた。

「皆さん、楽しくやってください」

 ヤン、脅威の二秒スピーチである。俺の隣で顎が外れんばかりに唖然としてる政治家志望の名士を無視して俺がマイクのほうに向かう。

 そしてヤンと入れ替わる時にハイタッチをしてから俺はマイクの前に立つ。

「皆さん、楽しくやりましょう」

 俺も脅威の二秒スピーチである。歓声をあげる聴衆に手を振りながら俺はヤンと並び、肩を組んで政治家志望の名士をみる。

「「さぁ、スピーチをどうぞ」」

 完全に煽っている態勢であるが、これできっとこの無駄に張り切っている政治家志望の名士もスピーチは短くせざるえないだろう。

 口の端をひくひくさせながら政治家志望の名士はマイクのところに立ち、スピーチを始めた。

 そして時計をみながらヤンが呟く。

「十秒だ」

「タイムオーバーだな。いくぞオフレッサー」

「は!」

 ヤンの言葉に俺は後ろで待機していたオフレッサーに声をかけると激しい足音をたてながらステージに昇って政治家志望の名士の傍にいく。

 少し怯えている政治家志望の名士。何をしでかすんだと期待している聴衆。

 それを無視してオフレッサーは俺の肩に肘をかけながら決め顔で口を開く。

「ナートゥをご存知か?」

「……は?」

 

 

 

 カリンは軽い眩暈を覚えた。

 ヤンとシュタイナーが二秒でスピーチを終えたのはわかる。何せ二人してそういうのは嫌いな人間だ。

 だが、政治家志望の名士が十秒スピーチしただけで長いと判断してそのスピーチを強制終了させるとは思っていなかった。

 しかもその方法がシュタイナーとオフレッサーによるキレッキレのダンスだ。

『ポランガットゥ ドゥンムロナ

ポットラギッタ ドゥーキナットゥ

ポレランマ ジャタラーロ

ポタらージュ ウーギナットゥ

キるセップル エスコニ

カッラサム セスィァナットゥ

マッりセットゥ ニーダロナ

クッらグンプ クーディナットゥ

エッらジョンナ ロッテロナ

ミラガパトック カリピナットゥ

ナー パータ スードゥ

ナー パータ スードゥ

ナー パータ スードゥ

ナートゥ ナートゥ ナートゥ ナートゥ

ナートゥ ナートゥ ヴィーラ ナートゥ

ナートゥ ナートゥ ナートゥ ナートゥ

ナートゥ ナートゥ ウーラ ナートゥ

ナートゥ ナートゥ ナートゥ』

 さらには謎の言語で歌を歌いながら踊っている。だが、そのダンスがパーティ開始の合図となり、花火が打ち上げられ、紙吹雪がまい、あちこちで乾杯の声が聞こえる。さらには多くの人々がシュタイナーとオフレッサーの踊りを囃し立て、一緒になって踊っているのだ。

 カリンは最近、オフレッサーの薦めでオフレッサーに近接戦闘を教わっている。そのためにオフレッサーの化け物染みた運動能力も知っている。それと同時にシュタイナーの人外な運動神経も知っている。

 その二人が見事にキレッキレなダンスをしていたらそれは盛り上がるだろう。ちなみに政治家志望の名士は腰を抜かしてほうほうのていで逃げた。その気持ちはわかる。見るからに蛮族なオフレッサーが目の前でキレッキレのダンスをし始めたら怖い。シュタイナーとオフレッサーをよく知るカリンでもちょっと引くと思う。

「おや、カリン一人かの」

 そこにやってきたのは何故か同盟軍の軍服を着こなした戸籍上はカリンの祖父であるフリードリヒであった。

 カリンは半眼になりながらフリードリヒをみる。

「お爺ちゃん、その軍服どうしたんですか?」

「うむ、話せば長くなるから結論から言うと脱衣ポーカーに勝ったので奪ってきた」

「駄目だこの爺……」

 シュタイナーの爺呼びがついカリンに移る。だが、フリードリヒはそれを気にした風はなく、持ってきたビールを一口飲むと、カリンにジュースの入った瓶を渡してくる。それをカリンは厳しい眼でみる。

「何もいれてませんよね?」

「うむ、確かに先日起こった『イゼルローン要塞大規模下痢事件』は儂が混入した下剤のせいでじゃが、流石に孫にはそんな真似せんぞ」

「もう駄目だこの爺」

 先日起こった大規模事件の自白をカリンは聞いてしまったが、周囲はパーティでアッパーな調子なので誰にも聞かれなかったのは幸いなのだろうか。ムライ中将あたりに密告したら説教二時間は堅いだろう。ヤンやシュタイナーは駄目だ。二人とも事後をめんどくさくて聞かなかったことにする。

 後日、ムライに密告することを決めたカリンは受け取ったジュースを一口飲む。

 そして驚愕した。

「そんな!? 普通のジュースだなんて!!」

「その反応は流石に酷くないかの?」

 ジュースに酒混入くらいはやるだろうと思っていたので、普通のジュースで逆にカリンが驚愕してしまった。フリードリヒが何か文句を言っているがカリンは無視である。何せすでに前科がいっぱいある。

「うん? そういえばアンネローゼはどうした? 一緒にいるはずじゃろ?」

 フリードリヒの言葉にカリンは黙って指をさす。

 その先にはラップ夫妻と一緒に華麗にキレッキレなダンスをするアンネローゼがいた。

 それをみてフリードリヒは満足そうに頷く。

「元気そうで何よりじゃ」

「というかあのダンスなんですか? 歌っている言語も聞いたことないですけど。帝国語でもないですよね?」

 カリンも周囲に帝国人(養母アンネローゼ、忠臣オフレッサー、祖父フリードリヒ)がいっぱいいるおかげで、普通の会話程度であれば帝国語は話せる。

 だが、そんなカリンでも今シュタイナーとオフレッサーが踊りながら歌っている言語は聞いたことがなかった。当然、同盟語でもない。

「ああ。あれはシュタイナー伯爵領で話されてる言語の一つじゃな」

「あ、ヘルベルトさんの領地の……」

 そこでカリンは何かに気づく。

「うん? シュタイナー伯爵領で話されている言語の『一つ』? もしかしてシュタイナー伯爵領には言語がいくつもあるんですか?」

 カリンの言葉にフリードリヒは頷く。

「うむ。シュタイナー伯爵家は初代から地球時代の文化の保全に取り組んでいてな。その関係で地球時代の文化がシュタイナー伯爵領の惑星・エンフィールドには多数残っておる。儂も若い頃は庶民に混じってよく遊びに行ったものじゃが、色々とカオスで面白かったぞい」

「突っ込みどころが多すぎる……!!」

 色々と突っ込みどころしかなかったが、カリンはぐっと堪えた。この程度で突っ込んでいてはシュタイナー家では生きていけない。

「おお、そういえばカリンに伝えておきたいことがあったんじゃよ」

「? 私にですか?」

「うむ」

 フィニッシュポーズを決めているシュタイナーとオフレッサー、それに拍手喝采を送る人々を無視しながらカリンはフリードリヒをみる。

 フリードリヒは懐から一枚の紙を取り出すとカリンに手渡してきた。

 渡されてきた紙をカリンは確認する。

『イゼルローン要塞美人Tier表』

 カリンは無言でその紙を引き裂いた。

「ああ! 間違い!! それは儂が個人的にとっていたアンケート!! 本物はこっち!!」

「こいつ死ねばいいのに」

 帝国だったら不敬罪で一発アウトな発言だが、今のイゼルローン要塞は同盟領なのでセーフである。

 改めて渡された紙をみるカリン。

 それはシュタイナー伯爵家の家系図であった。

 それをみてカリンは不思議そうに首を傾げる。

「これがどうかしたんですか?」

「うむ。現シュタイナー伯爵……お主の養父から数えて五代遡り、その娘のところをみてみるといい」

 フリードリヒに言われたとおりのところを確認するカリン。そこには『クロイツェル男爵家へ嫁入り』と書かれていた。

 それをみてカリンは再び首を傾げる。

「クロイツェル……どっかで聞いたことありますね」

「お主のフルネームを言ってみなさい」

「カーテローゼ・フォン・クロイツェルですが? ……あ!? クロイツェル!!」

「ええ、反応にぶ。儂が言うタイミング図ってたの莫迦みたいじゃん……」

 フリードリヒの反応は無視してカリンは興奮した様子でフリードリヒに詰め寄る。

「こ、このクロイツェル男爵家ってまさか!?」

「うむ、お主の先祖じゃな」

「えええええええ!!!!!」

 あんまりな言葉にカリンは驚きを隠せない。それに好々爺らしく笑いながらフリードリヒは話す。

「うむ、大好きなパッパと血縁関係あって嬉しいんじゃな」

「そんな、私の家はまともだと思っていたのに……」

「あ、そっち。というかシュタイナー伯爵家と縁があるからってまともじゃない扱いは流石の儂もどうかと思うんじゃが?」

「じゃあ、否定できるんですか?」

 カリンの言葉にフリードリヒはそっぽを向いて口笛を吹く。

 シュタイナーも自身の色々アウトな武勇伝は言わないが、シュタイナー家の歴代続くキチガイ行動は色々教えてくれる。だからカリンの中ではシュタイナー伯爵家(もしくはその縁者)=キチガイという方程式が成り立っている。

「そっか……でも私とヘルベルトさんに血の繋がりがあるんだ……」

 ぽつりと呟いたカリンの言葉にフリードリヒは優しそうに微笑む。

「そこでカリンに相談なんじゃが」

「なんですか?」

「この事実をどのタイミングでシュタイナー伯爵にバラしたら面白いと思う?」

「この爺死ねばいいのに」




ヤン&シュタイナー
長いスピーチ絶対許さない二人組

アンネローゼ・フォン・G・シュタイナー伯爵夫人
幼馴染なのでヘルベルトくんの汚染濃いめ

カーテローゼ・フォン・クロイツェル
まさかのヘルベルトくんのガチ血縁

フリードリヒ・フォン・クロイツェル
自由人な爺

ナートゥ
ナートゥをご存知か?



そんな感じで今月分投稿です。

原作のユリアン日記だとこの間にも色々イベントあったのですが、いちいちやってるとクッソ長くなるのでカット。ちなみに幽霊探しには原作三人+シェイクリ、ヒューズで行っています。

そして明かされる驚愕の真実ぅ!! 実はクロイツェル家はシュタイナー家の縁者だった!!
最初から設定はあったんですが、それを開示するキャラがいなかったので完全に死に設定になる予定が、とある自由人な爺のおかげで情報開示されました。

尚生かされるかは不明。

そしてさらっと明かされるシュタイナー伯爵領のカオス具合。シュタイナー伯爵領は統一されている現在の地球を想像してみてください。だいたいそんな感じです。

ところでRRRのBlu-rayはまだですか?(RRRはナートゥはもちろん劇中歌のDostiとSholaiも最高にかっこいい曲だから是非聴いてください!!


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019話

銀河の歴史がまた一ページ……


 徹夜で大騒ぎした翌日。軍事基地であるイゼルローン要塞では新年だろうが余裕で仕事なわけであるが、そこのトップ二人が俺とヤンである。するとどうなるか。

 『新年から帝国から侵攻してこないから大丈夫! もし侵攻あったら責任もって軍本部に辞表出すから!』という俺とヤンの説得によってイゼルローン要塞最後の良心であるムライ少将が呆れながら許可をだしたことにより、要塞の運営の最低人数を除きマジでイゼルローン要塞全体が休みになった。

 俺もカリンとアンナと一緒に新年料理を食べていたところ、フリーダム爺がオフレッサー連れてうちの家に乱入。新年早々から麻雀大会が発生した。

 ちなみに勝者はルールをよく理解していないカリンが国士無双を決めてフリーダム爺が飛んだ。

 そして新年二日目。俺はオフレッサーを連れてローゼンリッターの訓練所に顔を出していた。

 顔付近に飛んできたナイフを顔をそらして回避し、そのまま回転するように右足を蹴り上げる。俺の振り上げた足を涼しい顔をしてよけてから距離をとるローゼンリッターの隊長であるシェーンコップ少将。

 回転して俺の視界が外れた瞬間に飛び込んでくるシェーンコップ少将を感覚だけで俺はナイフを逆手に持って振り払う。

 甲高い音が立ったのでシェーンコップ少将がナイフで防いだのを感じ取ったので俺はバックステップで距離をとる。それにあわせるようにさらにシェーンコップ少将が詰めてきたのでそれにカウンターをあわせる要領でナイフを叩き込む。

「およ?」

 そして俺は回転して床に叩きつけられる。

 何が起こったか理解できずに目を開いて唖然としているとシェーンコップ少将がニヤリとしながら覗き込んできた。

「どうかしましたかな、シュタイナー大将。床はそんなに寝心地が良いですか?」

「徹夜で本読んだ結果あまりの眠気に士官学校の床で眠ったことのあるヤンじゃあるまいし、俺にそんな趣味はないよ」

 ヤンの黒歴史(いっぱいある)を軽く暴露しながら俺は立ち上がる。腕を回してみたり足を曲げたりしてみたが、特に痛いところはない。

「シェーンコップ少将、どうやって私を投げたんだ?」

 俺の問いに訓練用ナイフを仕舞いながらシェーンコップ少将は軽く口を開く。

「難しいことではありません。相手の力を利用してそのまま投げただけです。実践なら相手の顔面にナイフ突き刺してとどめを刺すのですが……まぁ、訓練ですからな」

「いや、多分それすっごい難しい技術じゃないか?」

 少なくとも俺はできない。

 だが、俺の言葉にシェーンコップ少将は軽く笑う。

「そうですかな? 訓練での動きをみる限りシュタイナー大将も出来そうですが」

「私の場合は恵まれた身体能力で押し切るだけだからなぁ。だからオフレッサーやシェーンコップ少将みたいな白兵戦闘の名人には敵わない」

「なるほど」

 俺の言葉に納得した様子をみせるシェーンコップ少将。そのまま俺とシェーンコップ少将は訓練場から出て、備え付けの休憩所でお互いにコーヒーを持って会話を続ける。

「しかし、シュタイナー大将も鍛えれば私をも越えそうですがね。亡命者なのにローゼンリッターに入れられないというのも珍しいですが」

「私の家柄が帝国屈指の名門だからな。そういう人物を司令官として登用して帝国に対するアピールに使う……そういう風にシトレ学長に説明されたな」

「政治ですな」

「まぁ、政治だよ」

 シェーンコップの皮肉気な言葉に俺は苦笑いして返す。

「ところでシュタイナー大将」

 そして真剣な表情で俺に話しかけてくるシェーンコップ少将。俺もその視線に返すと、同時にガラスの向こうで行われている訓練場の風景が見える。

 一人で同盟軍最強と呼ばれる部隊を蹂躙しているオフレッサーがいた。

「……失礼を承知で申し上げるが、オフレッサー客員大将は本当に人類ですかな?」

「帝国時代に人類か疑われて検査を受けた結果100%人類という結果がでた。それでも信じない帝国技研は『オフレッサー上級大将は新人類』とか言っていたが」

 帝国時代からその強さから人類かどうかを疑われていたオフレッサーであったが、無事に同盟でも同じ嫌疑をかけられてある意味で安心する。

 とりあえず二人でオフレッサーと戦って悲鳴をあげているローゼンリッター隊員を見なかったこ事にしてコーヒーを一口。

「それで? 何か私に話があったので?」

「ごふ」

 シェーンコップ少将の突然の言葉に図星を指されて少しむせる。

 俺は頭をかきながらシェーンコップ少将をみた。

「そんなにわかりやすかったか?」

「小官を避けていた上官が突然専門外の白兵戦訓練場にやってきて突然『少し稽古をつけてくれ』と言ってくるのには裏があると思ってしまいますな」

「わかりやすかったかぁ……」

 俺の言葉にシェーンコップ少将はにやにや笑いながら告げてきたので、俺はコーヒーを一気に飲むと空いた紙コップをゴミ箱に捨てる。

 そして真剣な表情で俺は口を開く。

「貴官の実の娘……カーテローゼ・フォン・クロイツェルについてだ」

 俺の言葉を聞いているのかいないのか、シェーンコップ少将は訓練場の惨劇をみながら黙っている。

 とりあえず俺は言葉を続ける。

「私は確かにカリンの父親役をやれている……うん、できればできていると思いたいのだが、やはり実の父親が近くにいるのならば実の父親にも会いたいと思っていると思うんだ」

 俺の言葉に片眉も動かさないシェーンコップ少将。

 だが、俺は言葉を続けるしかない。

「もし貴官が良ければ私が」

「シュタイナー大将」

 俺の言葉の途中でシェーンコップ少将が割り込んでくる。俺に向けられた視線は真剣だ。

「それはカーテローゼ・フォン・クロイツェルが望んでいることですかな?」

「……いや、私のお節介だ」

 俺の言葉にシェーンコップ少将が小さく笑う。

「シュタイナー大将。そういうのをなんていうのか小官が教えてさしあげましょう」

 そういって口の端をあげて皮肉気に笑う。

「余計なお世話、というのですよ」

 シェーンコップ少将の言葉に言い返そうと思ったが、俺はそれをお腹の中に留めて、大きく一回だけ溜息をつく。

(こりゃ親子の仲を修復するのは難しそうだ)

「ところでシュタイナー大将。小官からも一つお願いが」

「何だ?」

「シュタイナー大将の副官殿をデートにお誘いするのをお手伝いいただきたく」

「自分の子供を育てている養父に対して女紹介しろはクソすぎるだろ」

 

 

 

 

「「「ごちそうさまでした」」」

 シュタイナー家の晩御飯の食卓。俺、カリン、アンナの三人でアンナの作った晩御飯を食べ終えると、アンナは使った食器を片付ける。それを手伝おうとしたカリンを呼び止める。

 カリンは不思議そうな顔をしていたが、アンナは大事な話をするのがわかったのかお茶を置いてから台所にいった。

 俺がどう切り出そうか考えていると、カリンは不安そうな顔で口を開いた。

「あの……もしかして今度私がボーカルで出す曲のことでしょうか?」

「ああいや。それとはまた別の話だ」

「別の話ですか?」

 不思議そうに首を傾げるカリン。まだ少女といえる年齢ではあるが、着実に美人になってきているのは父親の遺伝子のおかげなのか……。

 俺はお茶を飲んで呼吸を整えると口を開く。

「カリン」

「はい」

 俺の顔で真面目な話だと思ったのか、カリンの背筋が伸びる。

「お前の父親……お父さんの話だ」

 俺は言葉を選びながら言葉を続ける。

「すまないが俺はカリンの本当のお父さんを知っている。そこで提案なんだがカリンが良ければお父さんと会う手助けをしたいと思っていてな」

 そこで俺はカリンをみると、カリンは俯いていて表情がわからない。

 しばしの無言の空間。アンナの食器を洗う音だけが響いている。

「ヘルベルトさん」

「なんだ」

 カリンの言葉に俺は答える。そしてカリンは顔を上げた。その表情をみて俺は息を飲んだ。

 カリンの表情は見た事がないほど、憎悪に満ちた表情であった。

「私の父親はヘルベルトさんです。ヘルベルトさんだけです」

「いや……だが、カリン」

「ヘルベルトさんだけなんです!!」

 叫ぶカリンに俺は何も言えなくなる。

 カリンは呼吸を整えると椅子から立ち上がる。

「申し訳ありません、ヘルベルトさん。通信教育の宿題があるので失礼します」

「あ、ああ」

 そうしてカリンは逃げるように自分の部屋に入っていた。

 それを見送って俺は大きな溜息をつく。

「ミスったかなぁ……」

「ええ、ヘルベルトにしては大きな間違いだったわね」

 そういって微笑んできたのはアンナ。だが、その微笑みにはどこか俺のことを責めている面がある。

 隣に座ったアンナは一口お茶を飲むと口を開く。

「カリンが実の父親を嫌っているのはまだ付き合いの日が浅い私でもわかったわ」

「そりゃ俺もよく知っているけどさ」

 俺だってカリンがシェーンコップのことを嫌っているのはよく知っている。

 それでも仲を取り持とうと思ったのは原作知識でカリンがシェーンコップ死後に泣いていたのを知っているからだ。

 だからこの世界ではその涙をなくせないかと思ったのだ。

「……何をミスったかなぁ」

「全部じゃないかしら」

「身も蓋もないなぁ」

 アンナの言葉に俺は苦笑い。アンナも苦笑いしながら会話を続ける。

「カリンもいずれ自分の実の父親と向き合える日がくるはずよ。その時までヘルベルトはカリンに親子の愛情を注いであげればいいの。私も手伝うわ」

 アンナの言葉はとても助かる。

 だが、なぁ。

「俺達は軍人だからいつ死ぬかわからんからなぁ」




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
思いっきり地雷を踏みぬいた転生主人公

カリン
実父嫌い。名前だすのも嫌い

ワルター・フォン・シェーンコップ
何を考えているかわからないイケメン

アンネローゼ・フォン・G・シュタイナー
シュタイナー夫人。ヘルベルトくんと一緒にカリンのいい親役

オフレッサー
後日ローゼンリッターで『帝国の作り出した人型白兵戦兵器』の噂がたった



そんな感じでカリン親子編です。シリアス風味ですすいません!!あ、石投げないで!!

でも今後の展開上どうしても触れておきたいカリンとシェーンコップの親子関係。シュタイナーくんは原作知識で良かれと思ってやったら見事にカリンの地雷を踏みぬいた模様。原作知識があるからってそれを生かしてもいい方向にはいかないよ、ということです
でもこの地雷を処理しとかないと今後にね……

そして話の展開で単騎でローゼンリッターを蹂躙したオフレッサー。

きみ本当に人類?


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020話

銀河の歴史がまた一ページ……


 イゼルローン要塞応接室。俺とヤンの司令官室の近くに設置されたその部屋は客人と会談をする部屋であった。

 普段であれば仕事をさぼった俺とヤンを筆頭にした第十三艦隊と第十四艦隊の幹部連中が集まって博打をしてはムライ少将に雷を落とされるその部屋は珍しく正しい使われ方をしていた。

 ソファーに座っているのは四人。イゼルローン要塞司令官のヤン。今日の結婚式のためにカリンに言われて髪の毛を整えている俺。そして帝国から俺の結婚式のためにやってきたオスカーとミッターマイヤー提督である。

 軽い世間話をしていたらヤンが苦笑いしながら口を開く。

「しかし、シュタイナーから聞いてはいましたが、本当に帝国の名将たるロイエンタール提督とミッターマイヤー提督が来られるとは思っておりませんでした」

 ヤンの言葉にミッターマイヤー提督も苦笑いしながら答える。

「最初はローエングラム伯爵自ら来られると言っていたのですが、流石に参謀のオーベルシュタインに止められまして……。ローエングラム伯爵直々のご命令という形で小官が代理として参りました。ロイエンタールの奴は最初から来る気満々だったようですが……」

 そしてヤンとミッターマイヤー提督の視線がオスカーと俺に向かう。

 そんな俺とオスカーの二人は。

「見ろ、ヘルベルト。これがカマサキの新型だ。デザイン超良くないか?」

「うお!! 流石はカマサキのバイクだ!! 男の子の心をよくわかってるな……!!」

「そうだろう。俺など新車発表時軍務中だったが隠れて発表動画をみていて、仕事終わりにそのまま予約しにいったからな……!!」

「くっそ!! うらやましいな!! 同盟にはバイク文化ないんだよなぁ……!!」

「ミッターマイヤー提督はあの二人が何の会話をしているかご存知ですか?」

「帝国の一般人層にはシュタイナー伯爵領を中心にバイク文化が広がっておりまして、つい最近バイクを作っているメーカーの新型発表があったのでそれの話ですね」

 ミッターマイヤー提督の言葉にヤンは少し驚いた表情になる。

「バイクって言うとあの地球時代の乗り物ですか?」

「ええ。しかもシュタイナー伯爵家領に残っている文化はガソリン車の文化ですよ」

「あんな化石文化がまだ残っているんですねぇ」

 ヤンがどこか感心しながら呟くのと、俺とオスカーが一通り盛り上がりが終わるのは同時だった。

 とりあえず部屋の隅っこで給仕の役割をしているユリアンが淹れてくれた紅茶を一口飲んで溜息をつく。

「しかし、数少ない親族とは言え敵領にのこのこ来るか普通」

 カリンがいれば即座に「それ招待状だしたヘルベルトさんが言っちゃ駄目です」という突っ込みが入っただろうが、ここにいる常識人は突っ込み役に不十分なユリアンと生真面目なミッターマイヤーしかいないので突っ込みは発生しなかった。

 俺の言葉にオスカーは優雅に紅茶を置くと足を組みなおす。

「ふむ。確かに敵地ではあるが、そこの司令官は騙し討ちのような卑劣な真似はしないと思えるヘルベルトとヤン提督だからな。あまり心配していない」

「本音を述べよ」

「同盟の女がどんな感じかみてみたくてな」

「こいつ刺されればいいのに」

 完全に女の敵な発言をしたオスカーにミッターマイヤー提督は苦笑いである。

「そこでオスカーに提案なんだが」

「聞こう」

「お前このまま俺のところに亡命しない?」

 俺の言葉に驚いた表情を浮かべるミッターマイヤー提督。ヤンは前に俺から聞いていて無反応だし、肝心のオスカーも眉すら動かさない。

 そしてオスカーは口を開く

「条件がある」

「お、おいロイエンタール!!」

 焦るミッターマイヤー提督の言葉を無視してオスカーは言葉を続ける。

「俺は帝国で帝国軍大将の地位と給料でこれだけもらっているわけだが、亡命したらそれ以上の給料はもらえるのか?」

「おいヤン。お前給料の中でいくらだせる?」

「駄目だよシュタイナー。私と君の給料足しても帝国軍大将の給料に届かない。ここはキャゼルヌ先輩を通して後方にかけあってみるしかない」

 俺とヤンのやりとりをみて冗談だと思ったのかミッターマイヤー提督は軽く笑った。

 当然、俺とヤンは本気だし、マジで後で後方にかけあってみるつもりだが、今はまあいい。

 そしてオスカーは持ってきていたキャビンの中身をごそごそと取り出し始めた。

「来た時から気になっていたんだが、そのでかいキャビンはなんだ?」

「帝国のヘルベルトとシュタイナー夫人の関係者から預かってきた祝いの品々だ。まずはこれだな」

 そう言ってオスカーが取り出したのはデカいトランクケース。その大きさは大人二人は入りそうなサイズだ。

「? 誰からだ?」

「ヘルベルトの義弟になられる方からだ」

 オスカーの動きに俺は止まる。俺の義弟になると言えば帝国の有力者の一人になったラインハルトである。

 あのシスコンが姉の結婚式に送る品物。どう考えても超高級品な気がしてならない。

「オスカー。俺ちょっと開けるの怖いんだけど」

「ローエングラム閣下から開封するところまで見届けるようにとのご命令だ。開けてくれなくては俺とミッターマイヤーが任務を果たせなかったことになる」

 オスカー一人だったら余裕で見捨てるのだが、流石にミッターマイヤー提督が巻き添えになるのは可哀想なので、思い切ってトランクを開ける。

 そして絶句した。

「うわ」

 隣に座っている関係上中身がみえてしまったヤンは思わず引いた声をだしている。

 当然だろう。トランクケースの中身はぎっしりとつまった金塊だった。

 金塊の上に乗っていた『姉上へ』と書かれた手紙を懐に仕舞い、『兄上へ』と書かれた手紙を開いて中身を確認する。

『親愛なる兄上へ。

 お久しぶりです兄上。今回は姉上とのご結婚、嬉しく思います。幼い頃からお似合いであったお二人のご結婚、私自身も参列したかったのですが、オーベルシュタインだけでなく、キルヒアイスにも止められてしまったので、断腸の思いでこの手紙に思いを託します』

 そう書き始めた手紙は全部で十五枚になっていた。そして何が恐ろしいって『まだ語り足りませんがあまり長くてもご迷惑となるのでここで筆を置きます』で終わっていることだ。あいつはこれ以上何を書く気なのだろうか。

 まぁ、原作で超絶シスコンで今世でもアンネローゼと結婚したことで抹殺対象に入ったんじゃないかと思って心配だったのが杞憂だったことは素直に喜ぼう。

 金塊の置く場所とか使い道は考えない。きっと後日の俺がいいアイディア浮かぶさ。

 俺が手紙を読んでいる間にオスカーは次の祝いの品を取り出していた。

 机に置いてあるのは一枚の油絵。そこに描かれているのは俺の帝国での領地だったシュタイナー伯爵領の惑星・エンフィールドであった。

 俺はその油絵をまじまじとみる。

「見事な絵画だな。誰の作品だ」

「俺とミッターマイヤーの同僚のメックリンガーだ」

 メックリンガー提督は知っている。原作でも好きなキャラだったし、今世においても芸術家としても軍人としても高い名声を誇る人物だ。

 だが、俺は首を傾げる。

「何故メックリンガー提督が俺に絵画を? アンネローゼ繋がりか?」

「ふむ、ヘルベルト。『音楽家・エル』は覚えているか?」

「ああ覚えている。俺の領地の領民で音楽の才能じゃなくて色々と知恵が働いたから色々と振り回した……ってまさか」

 俺の言葉にオスカーは頷く。

「『音楽家・エル』が今のエルネスト・メックリンガーだ」

「んんんんんんんん!?」

「シュタイナーが変なのはいつものことですけど、いつも以上に壊れているんですが、ミッターマイヤー提督に思い当たる節はありますか?」

「小官もロイエンタールやメックリンガーから聞いただけですが、シュタイナー伯爵は帝国にいた頃は死刑になってもおかしくない悪さをしていたようで」

「ああ、なるほど」

 どこか他人事な会話をしているヤンとミッターマイヤーを他所に俺は頭を抱える。

「いや、大丈夫……!! メックリンガー提督があのエルなら主君である俺を売るような真似はしないはず……!!」

「そのエルからの伝言だ。『私と一緒に作った音楽で随分と儲けているようですな』だそうだ」

「あああああああああああ!!!!! バレてるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」

 俺が発表して大人気となっている音楽を作ったのはメックリンガー提督(以降はエル)である。どうせ帝国の一臣民だから俺が同盟で派手にやっててもバレねぇべぇと思っていたらばっちりバレていた模様。

「安心しろヘルベルト。稼いだ三割を送れば裁判にはしないとエルは言っていた」

「……拒否したら」

「お前の過去の悪行を同盟にもバラすそうだ」

「ストレートな脅しぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

「シュタイナー家臣団って仲悪いんですか?」

「いえ、ロイエンタールやメックリンガーが言っていましたが、今でもシュタイナー伯爵の帰りを待つくらいには仲は良いそうです。それはそれとして脅しはするそうですが」

 主でも容赦しないのが信条なシュタイナー伯爵家である。当然その信条は家臣団やその関係者にも広がる。純粋な忠臣タイプのブルーノのほうが珍しいのだ。

 とりあえずオスカーが持ってきていたフェザーンを経由してエルに送金するための手続きの書類を書いてから、オスカーは次の品物を取り出す。

 それは1m程度の長さの袋であった。

 俺にとって見慣れたそれを懐かしく思いながら袋から中身を取り出す。

 そこには白鞘に収められた刀が入ってきた。

 俺は刀を白鞘から抜くと、美しい刀身が現れた。

 その美しさにヤンとミッターマイヤー提督からも感嘆の声がでている。

「エンフィールドの相模打か」

「流石は領主。わかるか」

「一応な」

 日本刀の技術は帝国でも一部の貴族領でも伝えられている。その中でも俺の領地であるエンフィールドの相模打が切れ味や刀身の美しさ共に帝国一であった。この刀は銀河帝国初代皇帝ルドルフにも献上され、貴族達の贈り物としても珍重されている。

 そんな刀を俺は白鞘に収めてロイエンタールをみる。

「誰からだ? こんな高級品を送ってくれる人物に思い当たるのがいないんだが」

「それはクナップシュタインからだ」

「ブルーノから? だがこう言ってはなんだがブルーノの給料じゃ相模打の最高級品である白鞘は買えないだろう」

「そこはクナップシュタインが職人にヘルベルトに送りたいと頼み込んだそうだ。職人のほうもヘルベルトにならって理由で格安で最高級な品を打ってくれたそうだ」

「愛されているね、ヘルベルト」

 ヤンのからかいに中指をたてつつ、俺は座っているソファーの隣に刀を置く。これからはブラスターの代わりにこれを腰に下げるとしよう。

「まだあるのか?」

「お前宛はこれで終わりだ。残りはグリューネワルト伯爵夫人……いや。シュタイナー伯爵夫人宛だから後で直接夫人に渡そう」

 そう言ってオスカーはでかいキャビンの蓋を閉める。時間を確認すると、結婚式まで少しだけ時間が残っていた。

 四人でユリアンに紅茶のお代わりをもらうと、ミッターマイヤーは何かを思い出したかのような言葉をあげる。

「そうだ。シュタイナー伯爵はオーベルシュタインと何か関係があるのですか?」

「オーベルシュタイン?」

「はい。フルネームはパウル・フォン・オーベルシュタイン。いつもなら冷酷な対応しかない鉄面皮がシュタイナー伯爵に関することだけ熱心なので」

 過去を思い出してもオーベルシュタインと関わった事実は俺にはない。

 だが、俺には思い当たるところがあった。

「ミッターマイヤー提督。そのオーベルシュタインという男、帝国の劣悪遺伝子排除法に引っ掛かる病気持ちではないですか?」

 原作を知っている俺はすでにオーベルシュタインは生まれつき目が見えなくて両目が義眼なのは知っているが、今世ではまだ知らないのですっとぼけて確認をとる。

 ミッターマイヤー提督も少し驚いたように頷いた。

「はい。生まれつき目が見えないらしく両目が義眼です」

 原作知識と今世の存在に差異がないことに頷きつつ、俺は言葉を続ける。

「エンフィールドには劣悪遺伝子排除法に引っ掛かった子供を預かる施設があります。オーベルシュタインもそこ出身なのでしょう」

 原作でも悪法として知られた劣悪遺伝子排除法だったが、この世界でも残念ながら発布されてしまった。

 だが、そこはしたたかに生きるシュタイナー伯爵のご先祖様である。一般臣民や下級貴族の家に産まれて殺されるしか未来がなくなった子供達を預かる施設を領地に作ったのである。

 この施設出身でありながらエンフィールドの発展に寄与した役人となった人物も多い。

 俺の言葉にミッターマイヤー提督は納得したように頷く。

「なるほど。流石のオーベルシュタインも命の恩人には冷たくできないらしい」

「みなさん、そろそろ結婚式のお時間ですよ」

 ミッターマイヤー提督の言葉と同時にアンナのほうにいたカリンが俺達を呼びに来た。

 その呼びかけに全員で立ち上がったところでオスカーが懐から一枚の親書を取り出した。

「酒を飲んで記憶を飛ばさない内にこれを渡しておこう」

 そう言ってロイエンタールはヤンに親書を手渡す。

 帝国の公式印が押された親書をみながらヤンは首を傾げる。

「ロイエンタール提督、これは?」

 ヤンの言葉にオスカーはニヤリと笑った。

「捕虜交換の提案です。我らが主・ラインハルト・フォン・ローエングラム閣下から反乱軍に向けてのね」




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
帝国にいたころはやばいことをいっぱいやってた

オスカー・フォン・ロイエンタール
この後の祝いの席で酒を飲みすぎて無事に記憶を飛ばした

ヤン・ウェンリー
捕虜交換の親書は封を切らずにキャゼルヌ先輩に渡した

ウォルフガング・ミッターマイヤー
同盟が誇る名将二人が思ったより話しやすくて驚いている



そんな感じで結婚式編です。結婚式はこれにて終了。結婚式の内容? 莫迦が莫迦やって盛り上がって参列者の大半が記憶飛ばしただけですよ。

そしてさらっと魔境に拍車がかかるヘルベルトくんの領地惑星・エンフィールド。日本刀の技術が残ってたり劣悪遺伝子排除法に引っ掛かった子供を引き取る施設がある模様。
どう考えても帝国に喧嘩うってる。

そしてそこの施設で育ったのでオーベルシュタインはヘルベルトくんと面識なくても忠誠心あり。きっと同盟を裏切らせて帝国に帰ってこさせるために暗躍しているでしょう。

あと最近気づいたのですが、この作品のお気に入り数が2000をこえていました。作者は今まで多くても700に届くか届かないかだったのでこの数に驚いています。

作者はX(旧Twitter)もやっているのでもしよければフォローをお願いします。小説の更新などはそれで流しておりますので
アカウント 惟宗正史/コレムネタダシ@小説家志望 @TadashiKoremune

今後も月一のゆっくり更新ですがお楽しみいただければ幸いです。


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021話

銀河の歴史がまた一ページ……


 

 ~イゼルローン放送プレゼンツ『イゼルローンから愛をこめて』~

 

「はぁい! リスナーのみんな、おはこんハロチャオ~! いつもニコニコ貴方の背後に這い寄る混沌ヘルベルト・フォン・シュタイナーです!」

「なんかsan値がピンチになりそうな自己紹介だね。あ、リスナーの皆さんどうもおはこんハロチャオ。イゼルローン士官や市民から『威厳のない将官ランキング』で二位にトリプルスコアをつけて優勝したヤン・ウェンリーです」

「軍人だけじゃなく市民からも威厳がないと思われているヤンで草」

「いや、確かに私も威厳があるとは思ってないけど、二位のシュタイナーも似たようなものだと思うんだけど」

「甘い奴だな。いいか? 俺が威厳があるところをみせてやる。まず立ち上がって背筋をしっかりと伸ばして立ちます。足幅は肩幅な。そして刀を床に立たせるように立て、柄の部分に両手を置く。そして真面目な表情……はい!」

「ば、バカな!! シュタイナーに威厳があるように見えるだって!?」

「大事なのはメリハリだよヤンくん。お前さんは常に空気が弛んでいるのがよくない」

「じゃあ、もし私の空気が張り詰めて緊張した雰囲気をだしていたらどうする?」

「敵襲を疑う」

「つまり私がこうしていることによって軍人や市民に緊張を与えないようにしているのさ」

「物は言いようだな。あ、やっべ、まだオープニングやってなかった」

「おっと、いけないいけない。それじゃあ行ってみよう」

「「イゼルローン両大将によるラジオ放送『イゼルローンから愛をこめて』スタート!!」」

 

 ~この放送は皆様の自由と権利を守る自由惑星同盟軍の提供でお送りいたします~

 

「そんな感じで始まりました『イゼルローンから愛をこめて』。いやぁ、久しぶりの放送になるなぁ、ヤン」

「私たちの放送をすると政治家に逮捕者が出るとこの番組は話題らしいよ」

「そのせいでしばらく放送自粛になってたからな。俺達が揃うとノリが軽くなるのが悪いな」

「なんていうかあれだよね。ジュニアスクールの男子学生のお昼の放送の悪乗りって感じがするよね」

「放送しちゃいけないことまで言っちゃうところとかもな」

「そこで私たちも考えました。私たちはだいたいノリで喋っているので後のことを考えないのがよくない。そこでやばい話題になりそうになったらマイクの電源を切る要員として十三、十四艦隊の外付け良心回路のムライ少将に入ってもらっております」

「今日はやばい発言ないのかぁ、とがっかりしたリスナーのみんな、安心してくれ。そのムライ少将を止めるために俺の部下で同盟でも『ミンチメーカー』と呼ばれた白兵戦闘の神・オフレッサーにも待機してもらっているぞ!」

「もうこの時点でムライ少将のストッパーがさよならしたね」

「普通の放送なんて誰も望んじゃいないからいいだろ。というわけで放送してなかった間のイゼルローンニュースにいくぜ」

「まずは新年会だね。いやぁ、シュタイナーのキレッキレのダンスをまだ見ていない人は是非一回みたほうがいいと思うよ」

「ダンス動画は同盟軍の公式HPにあるから要チェックだ!!」

「次にシュタイナーの結婚式。まさか帝国の良将として知られるロイエンタール提督とミッターマイヤー提督も参列するとは思ってなかったよ」

「オスカー……あ、ロイエンタールな。曰くラインハルト……ローエングラム伯は自分で来ようとして部下に止められたそうだ」

「ねえ、シュタイナー。その話を聞いた時から思ったんだけどローエングラム伯ってシスコ」

「それ以上いけない」

「……」

「……」

「よし、話題を変えよう」

「積極的賛成」

「これは同盟全土にもニュースになっているからリスナーも知っているよね。帝国軍から捕虜交換の話を持ちかけられて同盟側もこれを承諾。久しぶりの捕虜交換となるよ」

「捕虜交換で帰ってくる家族もいるだろうからこれはいい話題だな。だがな、ヤン。いくらハイネセンから任されたからってキャゼルヌ先輩に捕虜交換事務総長とかいう肩書でっちあげて丸投げするのはどうかと思うぞ」

「適材適所って奴さ。自慢じゃないが私が指揮したら来年になっても捕虜交換終わらないよ?」

「本当に自慢じゃない話が来たな」

「まぁ、いいじゃないか。キャゼルヌ先輩のおかげで捕虜交換の式典の準備は滞りなく進んでいるんだから」

「キャゼルヌ先輩の何が可哀想ってこのイゼルローン放送の責任者もやらされている点。ヤン、お前キャゼルヌ先輩に仕事させすぎじゃない?」

「じゃあ代わりにシュタイナーがやってくれるかい?」

「働きたくないでござる!! 絶対に働きたくないでござる!!」

「トップ二人がこのざまなので下につく人間は苦労する。キャゼルヌ先輩頑張ってください」

「可愛い後輩二人は応援してますよ。何せ応援だけだったらお金かからないんで」

「あ、カンペでたね。なになに『せめて誠意をみせろ byキャゼルヌ』だってさ、シュタイナー」

「今度キャゼルヌ先輩の可愛い娘二人にアンナの作ったアップルパイでも差し入れするか」

「要求しているキャゼルヌ先輩にはあげないクズの鏡」

「そういうヤンはどうするんだ?」

「私は如才ない男だからキャゼルヌ家の絶対権力者たるキャゼルヌ夫人に何か送るよ」

「汚い、流石はヤン汚い」

「君も人のこと言えないだろう。ほら、次のコーナーいくよ」

「あいよ。それじゃあ次は『イゼルローン両大将にお手紙送ろう!』のコーナーだ」

「今回も番組宛に送られてきたメールを態々紙に印刷して大きな箱にいれてあるよ」

「俺とヤンが交互にこの箱から手紙を取り出して送られてきた質問などに答える形式だ。んじゃまずは俺から……」

「何がでるかな」

「それじゃあこれで! 『ヤン提督、シュタイナー提督、おはこんハロチャオです』!」

「「おはこんハロチャオ~」」

「『私はシュタイナー提督のバンド『高級士官バンド』の大ファンです』。お、ありがたいね~」

「ハイネセンでも大人気らしいね」

「クブルスリー提督とビュコック提督も正式に認めてくれたしな。あ、続き読むぞ。『シュタイナー提督の被保護者が歌う『祝福』とっても良かったです!』。お、これは嬉しい反応。何せ俺の被保護者も心配していたからな」

「被保護者をみる保護者って感じでカリ……げふんげふん。シュタイナーの被保護者の感情こもってて良かったよ」

「ヤン……お前芸術理解できたのか……」

「くっそ失礼だなシュタイナー」

「はい続き続き。『高級士官バンドの新曲の『THE WINNER』もとってもかっこよかったです』嬉しい反応感謝感激雨嵐」

「タイトルがWINNERなのに歌詞で『勝利者などいない』って言っちゃうのいいよね」

「戦争になった時点ですべからくみんな敗者なんだよ!! はい、続き。『そこで質問なんですが、高級士官バンドはライブの予定などはないでしょうか? あるなら是非行きたいです!!』。う~ん、とても嬉しいお言葉なんですが、実は我々本業別にやっているんですよ。軍人っていうクソみたいない仕事なんですが」

「ほんと……なんで私たち軍人なんてやっているんだろ……」

「はぁい、ヤンが鬱モードになりそうなので次の話題行くわよぉ。ほれ、ヤン。引け」

「ああ。よし、それじゃあ……これで。『ヤン提督、シュタイナー提督、おはこんハロチャオです』」

「「おはこんハロチャオ~」」

「『僕は軍人を志しているんですが』。いやいや、やめたほうがいいよ。軍人なんて人を殺す仕事だよ? ろくでもないって」

「ヤン、ムライ少将が渋い顔してるぞ」

「おっといけない。こほん。『他にも軍人を志している友人達と帝国との戦いの想定をしたりしているんですが、僕がどれだけフェザーンからの侵攻の危険をといても友人達は相手にしてくれません。同盟の軍人であるお二人から見てもフェザーンからの侵攻は僕の妄想でしょうか?』。……あ~、いや。人はいるもんだねぇ」

「ヤン、一人で納得するな」

「あ、ごめんごめん。え~と、結論から言うとフェザーンからの侵攻は充分にありえると思います。私とシュタイナーの連名で統合作戦本部長のクブルスリー大将と宇宙艦隊司令長官のビュコック大将に訴え続けて、お二人もその危険性を承知して議会にかけあってくれた。そのおかげでガンダルヴァ星域の惑星ウルヴァシーに基地を建設して、その司令官にアップルトン提督が駐留されることになった。ウランフ提督もウルヴァシーに駐留してガンダルヴァ星域方面艦隊司令官に任じられたね。つまりイゼルローン方面には私とシュタイナー。フェザーン方面にはアップルトン提督とウランフ提督。この配置が同盟軍が現状できる帝国軍からの」

「なぁ、ヤン」

「ん? なんだいシュタイナー」

「あれ見てみ?」

「あれ? ……ムライ少将がオフレッサー客員大将に抑えられているね……」

「おらぁ、バカだからわからねぇけどよぉ!! ひょっとしてヤンがいっちまったのはまだ一般には知らされていねぇ、軍事機密って奴じゃねぇのかよぉ!!」

「何キャラだよ……え? この情報ってアウトだった……? あ、プロデューサーのシュタイナーのお爺さんが電源ボタンに」

 

 ~この放送は皆様の自由と権利を守る自由惑星同盟軍の提供でお送りいたしました~

 

 




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
市民から人気のあるバンドリーダー(本業・軍人)

ヤン・ウェンリー
威厳のないことに定評のある失言王

イゼルローンから愛をこめて
同盟だけじゃなく帝国辺境にも人気のラジオ番組。軍人とは思えないシュタイナーとヤンの漫才のような掛け合いが話題。
なお、番組内容によっては逮捕者がでる模様

高級士官バンド
新年会で組んでいたシュタイナー達のバンド名決定!(今後でるかは知らん

高級士官バンドの新曲
祝福:もしかして? 水星の魔女
THE WINNER:もしかして? 0083

同盟軍の現状の配置
イゼルローン方面 ヤン シュタイナー
フェザーン方面 アップルトン ウランフ
なお、この番組の直後に軍部から発表があった模様



そんな感じで今月は以前にちょろっとだしたラジオ番組風に作ってみました。
会話だけで書くと読むの大変ですかね。

そしてギャグをやっている背後で進んでいる時。この後は一気に捕虜交換まで飛ばすか悩んでます。

そして感想にてそう突っ込みを食らったアップルトン提督の行方。作者的に殺したつもりだったんですが、作品見直していたら見事に生き残っていたのでフェザーン方面基地司令官に任命。そして最初の予定でウルヴァシー基地司令にする予定だったウランフを方面艦隊司令官に。
これでイゼルローン回廊とフェザーン回廊への防備は完璧だ!!(なお、内乱


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022話

銀河の歴史がまた一ページ……


 同盟と捕虜交換の式典の日程が近づいてきている。それに伴って増えたキャゼルヌ先輩の仕事をヤンと一緒に眺めながら紅茶を飲むという生活が続いている。

 アッテンボローなどは「イゼルローン回廊に耳目が集まっているところでフェザーン回廊でシュタイナー先輩の義弟は何かやらかすんじゃないですか?」という問いに対して、俺とヤンはその可能性も考慮してハイネセンに連名で意見を送った。

 原作外伝のユリアンのイゼルローン日記では「は? ヤン提督はフェザーンだけ気にしていればいいんですが? それ以上は越権行為ですが?」(意訳)という返事を出されてヤンがプチ切れするというイベントがあったが、こちらの世界ではクブルスリー大将とビュコック大将が俺とヤンの意見を入れるために政府にかけあい、原作と違って色々な意味で民衆人気が高いヤンの意見を政府も無視できなくなり、超高速通信を使ってイゼルローン要塞司令官のヤンとイゼルローン方面艦隊司令官の俺、ハイネセンのクブルスリー本部長とビュコック宇宙艦隊司令長官、そしてフェザーン方面のガンダルヴァ星域のウルヴァシー基地司令官のアップルトン提督、そしてガンダルヴァ星域艦隊司令官のウランフ提督で会議を行うことになった。

 ヤンが自分で仕事を増やしたことに顔を顰めているのを指さし嘲笑いした後に会議を行った。

 結果として、捕虜交換の式典が行われる日程付近ではウランフ提督の艦隊がフェザーン方面の警戒を強めることに決定した。正確に言えばそれしかできないのである。残念ながら仕掛けてくるとしたらラインハルトからになるので、こちらとしては受け身の対策しかとれない。原作と違って人材や物資の損耗をだいぶ防げた帝国領侵攻作戦であるが、それでも同盟は傾くダメージなのは間違いなく、なんでもできるわけではないのだ。

 原作との違いはクブルスリー本部長とビュコック宇宙艦隊司令長官の発言力が高く、政治家も二人の発言を無視できない点である。民衆からもクブルスリー本部長とビュコック宇宙艦隊司令長官を双璧とし、帝国侵攻作戦の生き残りである俺、ヤン、アップルトン大将、ウランフ大将、ボロディン大将、アル=サレム大将を『同盟の六柱』として支持されている。どの提督もクブルスリー本部長を除けば共に苦楽をわかちあった戦友であり、クブルスリー本部長も俺とヤンに好意的なために比較的軍部もやりやすい空気になっている。

 ヤンと俺のでかい執務室の会議机に俺はキャゼルヌ先輩から受け取った名簿を置く。

「いや、この中から怪しい人物がいないか探せとか無理だろ」

 俺の言葉にヤンも見ていたリストを会議机に投げながら嘆く。

「キャゼルヌ先輩だって見つけられると思ってないと思うよ」

「じゃあ俺達のこの作業はなんだ?」

「キャゼルヌ先輩から仕事しない後輩達への嫌がらせかな」

「ファッキンキャゼルヌ」

 とりあえずキャゼルヌ先輩宛に中指をたてた俺とヤンの写真を送っていく。すぐに親指を下に向けたキャゼルヌ先輩の写真が送られてきた。

 そのやり取りを自分の仕事をしながら笑ってみているヤンの副官のグリーンヒル大尉と俺の副官のフィッツシモンズ大尉。

 二人の視線が外れて仕事に戻ったところで俺とヤンのアイコンタクト。

(逃げるか)

(のった)

 俺の提案に速攻でのったヤンと呼吸を合わせて立ち上がる。それと同時に机に追加のリストが勢いよく置かれた。

 持ってきたのは俺の養子で従卒のカリン。カリンの後ろにはユリアンもリストの山を持っている。

 中途半端に立ち上がっている俺とヤンをみてカリンは笑顔で口を開いた。

「まさかイゼルローンの司令官お二人が自分のお仕事ほっぽって逃げ出すわけないですよね?」

 完全に俺達の行動が読まれていた。

 罰が悪そうに椅子に座る俺とヤンに対してカリンは呆れたように溜息をつき、ユリアンは苦笑しながら山になっているリストを会議机に置いた。

 その山をみてヤンは頬が引きつりながらユリアンに尋ねる。

「ユリアン、それは?」

「帝国がら提出された同盟軍の捕虜のリストだそうです。キャゼルヌ先輩がお二人に不備がないか確認していただくようにとのことです」

「「うぼわぁ」」

 俺とヤンは同時に机に突っ伏した。それをみながらカリンが言葉を続ける。

「キャゼルヌ少将が私とユリアンからみてお二人が仕事をしていなかったらすぐに追加の仕事を持ってくるそうですよ」

「キャゼルヌの奴め!! 若者を騙すことに痛む心を持っていないのか!!」

「無駄さシュタイナー。キャゼルヌの奴は軍服の中に悪魔の羽と尻尾を隠しているのさ」

「あ、キャゼルヌ少将ですか」

「「すいませんでした」」

 俺とヤンの発言に速攻でキャゼルヌにちくろうとしたカリンにヤンと二人で土下座する。カリンも通信を繋ごうとしたふりだけだったので呆れたように溜息をついた。

 俺とヤンが追加されたリストを取り出して確認作業を始めてから1分後、ヤンが世間話を始めた。

「シュタイナー、君のところには汚物はきていないのかい?」

 ヤンの言う汚物とは国防族と呼ばれる政治家と、それにコバンザメのようについてきたマスゴミのことである。

 原作でもあったようにこちらの世界でも捕虜の出迎えと称して選挙活動をやろうとしている政治家と、その利権で旅行だとでも思っているのか煩いことしか言ってこないマスゴミ。つい先日も政治家が「軍人が敬礼しなかった」とヤンに苦情をつけ、マスゴミはベッドが固いというクッソどうでもいい苦情をつけてきた。

 ヤンの肩書が『イゼルローン要塞司令官』ということもあり、それらの苦情は全てヤンに上げられる。というかキャゼルヌ先輩を筆頭に全員が忙しすぎるのでヤンが受けるしかないのである。つい先日もヤンの官舎にまでマスゴミが押しかけてユリアンが塩をまいて撃退したそうである。

 そんなヤンに俺は簡潔に答える。

「俺の官舎周辺にはオフレッサーが巡回している。後方の安全地帯からしか文句の言えない連中にオフレッサーに突撃する勇気があると思うか?」

「え~、その警備システム羨ましい」

 ヤンのマジ羨望の言葉である。

 汚物達やってきた二日ほどは俺の官舎にも突撃をかけようとしたマスゴミがいたようだが、オフレッサーの睨みつける攻撃で逃げていったそうである。それ以来俺の官舎周辺は汚物が近づかない数少ない地点になっている。

「うちもどうにかできないかなぁ」

「纏めてイゼルローンの炉心に放り込むか? 死体も残らない完全犯罪のできあがりだ」

「それ採用。さっそくローゼンリッターに出撃させよう。君のところのオフレッサー客員上級大将も頼むよ」

「任せろ」

「お二人とも」

 カリンの言葉で俺とヤンはしぶしぶ通信をやめる。カリンが常識人で助かったな汚物どもめ。

「ヤン先輩!! シュタイナー先輩いますか!!」

 そう言って俺とヤンの執務室に怒鳴り込んできたのはアッテンボローである。ここに来る時はだいたい酒瓶片手にやってくる男だが、今回は怒っているのか軍帽を片手で握りつぶしながら会議机に拳を叩きつける。

「あの政治家を語るゴミとジャーナリストを語る汚物集団どうにかなりませんか!! あの連中とうとう視察と称して軍のところにやってきてごちゃごちゃ言ってきているんですが!!」

 アッテンボローは俺の艦隊のモートン少将と共に新人の軍人の練兵を行っており、汚物達はそこまで押しかけたようである。

 頭に血が上ってヤンに文句を言っているアッテンボローを尻目に、アッテンボローと一緒にやってきたモートン少将をみる。

「モートン少将。訓練に影響は?」

 俺の言葉にモートン少将は苦虫をかみつぶした表情で口を開く。

「でております。現場の兵からも苦情が多数」

 その言葉に俺は腕を組んで天井を見上げる。

 原作でもこういう流れになるのは知っていたが、原作と違ってこちらの世界では比較的まともな人物が多いのもあって原作とずれることを期待したのだが、駄目だったらしい。

 だったら俺の計画を実行に移す。

「アッテンボロー」

「それを連ちゅ!! なんでしょうかシュタイナー先輩」

 まだ怒った様子で顔を真っ赤にしているアッテンボローに俺はニヤリと笑う。

「確か政治家連中は名前とか政治団体の名前の入った万年筆とか持ってきてたな」

「? はい。明確に同盟公職選挙法第四条違反ですね」

「グリーンヒル大尉。連中が同盟憲章に違反しているのは間違いないか?」

 アッテンボローの言葉に俺が同盟憲章を全部暗記しているグリーンヒル大尉に確認すると、グリーンヒル大尉は頷いた。

「確かに彼らの活動は同盟憲章に違反しています」

「……あ!! シュタイナー、君まさか!!」

 グリーンヒル大尉の言葉にヤンが何かに感づくがもう遅い。俺はすでに会議机に備え付けられている通信機でオフレッサーに指示をだす。

「オフレッサー。今イゼルローン要塞にやってきている政治家連中は明確に同盟憲章違反を起こしている。全員営倉にぶち込め。ジャーナリストも軍事機密区画に入り込んでいる。これはスパイ容疑にかけられる。ジャーナリストの連中もかたっぱしから営倉に放り込め」

『は!!』

 俺の言葉に元気よく返事をして通信が切られる。

 唖然としているアッテンボロー、モートン少将、グリーンヒル大尉。爆笑しているフィッツシモンズ大尉。苦笑いしているヤンとユリアン。そして頭痛をおさえるように米神を抑えているカリン。

 それらを無視して俺はいい笑顔で告げる。

「これでイゼルローンの平和は保たれる」

「流石はシュタイナー先輩!! 俺達にできないことを平然とやってのける!! そこに痺れる憧れるぅ!!」

「ははは!! 褒めるなアッテンボロー」

「お二人とも!!」

 歓喜の声をあげるアッテンボローに答える俺に叱りの声をだしてくるカリンであったが、俺の忠実な部下なオフレッサーはすでに解き放たれた。もう手遅れである。

「……よし、逆に考えよう。ここは軍事要塞だから司法警察権は私たちの手元にある。これを機会に問題ある奴は全員前科者にしてしまおう」

「よろしいのですか? それをやると背広組を敵に回すのでは?」

 モートン少将の言葉にヤンは晴れやかな笑みを浮かべる。

「もちろん同時に私とシュタイナーの連名で同盟全土に彼らの罪を喧伝しておくとも。そうすれば民間人はこちらの味方になる。よぉし!! 私もやる気でてきた!! さっそくMPに指示を出さなきゃ!!」

 そしてヤンも通信機を使ってうっきうきでMPに指示をだしている。こういう時だけヤンも仕事が早い。

 足取り軽く出ていくアッテンボローと、一度敬礼してから執務室をでていくモートン少将を見送ってから、俺は思い出したようにリストを確認する。

「……やっぱりいないな」

「? どうかしたかい?」

 ヤンの言葉に俺は真剣な表情で口を開く。

「俺達の元上司、リンチ提督の名前が名簿にない」

 俺の言葉に表情を変えてヤンもリストを確認する。

 そして真剣な表情を浮かべながら俺をみてきた。

「まさかとは思うけど、リンチ提督が?」

 ヤンの言葉に俺は頷きながら口を開く。

「おそらくは内乱の火種だろうな」




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
政治家やマスゴミからのヘイトを一身に集める結果に

ヤン・ウェンリー
よっしゃ!! これを機会にめんどくさいゴミ一掃したろ!!

政治家&マスゴミの皆さん
賄賂などをいっさい許さないオフレッサー率いる第十四艦隊陸戦隊とローゼンリッターの厳正な監視下に行われた事情聴取によって、まともなのは釈放され、アウトなのは全員前科者として後方に送られた



そんなわけで年内最後の更新でございます。

本当は捕虜交換式まで書きたかったんですが、イゼルローンのゴミ掃除をしたら長くなってしまったので分割しました。

そして思いっきり政治家等からヘイトを集めるシュタイナーくん。全部今後のストーリーに必要なことですからね、仕方ないね(大量に産まれた犯罪者から目そらし

次回こそは捕虜交換式になります。お楽しみに!!


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023話

銀河の歴史がまた一ページ……


 捕虜交換式。ついに当日である。

 そうは言っても同盟も帝国も自分達が唯一の政権であり、相手を政権としては認めていないため、政府からの正式な使者はでてこず、代わりに軍部が行うことになる。そのためにイゼルローン要塞の指揮官である俺とヤンが使者となって捕虜交換式を行うことになった。

 自由惑星同盟軍正使ヤン・ウェンリー大将、副使ヘルベルト・フォン・シュタイナー大将。

 そして帝国側もまた政府からの使者は来ていない。

 銀河帝国軍正使ジークフリード・キルヒアイス上級大将、そして副使にまさかのグレゴール・フォン・ミュッケンベルガー退役元帥が出張ってきていた。

 確かにミュッケンベルガーは原作でもアニメでもラインハルトを買っていた雰囲気があったが、どうやらこの世界ではラインハルトの後見人のような役割になっているらしい。

 両国の国歌を流すわけにはいかず、両国の軍楽曲を流している中をヤンとキルヒアイスがお互いに握手をし、その後に俺とキルヒアイス、ヤンとミュッケンベルガーが握手をしている。

 俺の手を優しく握ったキルヒアイスは二コリと優しく微笑み口を開く。

「いつもラインハルト様からお話を聞いているので、初めて会った気がしませんね」

「悪名の九割は嘘だと思って欲しいですね」

 俺の言葉に優しく笑うキルヒアイス。たぶんラインハルトの言っていることは100%事実だが俺は保身に走る男なのだ。

 そして次に俺はミュッケンベルガーと握手をする。年を重ねた老練な武人、といった雰囲気のミュッケンベルガーも俺と握手をしながら口を開く。

「卿を反乱軍……いや、同盟に追いやってしまったのが帝国にとっての痛恨事であるな」

「恨むのならブラウンシュヴァイクとリッテンハイムを。あの両家が余計なことをしなければ私も帝国にいたでしょう」

 そう言って俺は手を放そうとするのを、ミュッケンベルガーは離さず言葉を続ける。

「その両家が滅びたとき、卿は帝国に帰ってくる気はあるか?」

 その言葉に俺は絶句する。会場に集まっているマスコミからも騒めきがでる。キルヒアイスは相変わらず優しく微笑んでいるだけだし、ミュッケンベルガーは真面目な顔だ。

 俺は一度呼吸を整えると苦笑する。

「すでに私は同盟の中で守るべき人々ができました。今更帝国には戻れないでしょう」

「そうか……だが、帝国はいつでも卿の帰りを待っているだろう」

 内心でやめろじじい!! 俺の同盟での立場が危うくなる!! と叫ぶが表には出さずに笑うだけだ。

「シュタイナー、笑顔が引きつってるよ」

 小声でのヤンの言葉に再び笑顔を整える。

 そして四人で会場内を歩き、中央のテーブルに歩み寄る。そこには捕虜のリストと交換証明書が置かれている。

 証明書の文面は普通は長々と書かれているものだが、そこは『アンチロングスピーチ』の俺とヤンである。グリーンヒル大尉とフィッツシモンズ大尉がギリギリまで短くした文章を俺とヤンが頭を突き合わせて極限まで削った結果、殆どが白紙になってしまったのは仕方がないことだろう。

 ちなみに国防委員会から送られてきた1ダースもの文案は全て司令官室のメモ帳として活用されている。

 それぞれの前に置かれた二通の証明書に俺達四人はサインをし、公職の印章を捺す。そして交換して再び同じ作業を行えば捕虜交換は終了である。

 その後にお互いの正使であるヤンとキルヒアイスが握手をすると大量のフラッシュが光る。その光の中をキルヒアイスは優しい笑みを浮かべながらヤンに話しかける。

「形式というのは必要かもしれませんが、ばかばかしくもありますね。ヤン提督」

「同感です」

 原作通りの会話をすると、キルヒアイスは最後に俺に目礼すると、乗ってきた乗艦バルバロッサに戻ろうとする。

 そしてその途中で居並ぶ中にユリアンを見止めて足を止める。

「君はいくつですか?」

 キルヒアイスの優しい言葉に、ユリアンは少し緊張した様子で答える。

「今年、15になります。キルヒアイス閣下」

「そうですか。私が幼年学校をでて初陣したのも15のときでした」

 そのまま会話を続けようとしたキルヒアイスを、ミュッケンベルガーが咳払いで止める。それを聞いてキルヒアイスは苦笑しながらユリアンに話しかける。

「頑張りなさい、と言える立場ではありませんが、元気でいてください」

 最後にそう言うとキルヒアイスはミュッケンベルガーと随員を連れて会場からでていく。

 俺とヤンもそれを見送り、捕虜交換式は無事に終わったのであった。

 

 

 

「「あ~~、終わったぁ」」

 イゼルローン要塞司令官室。ヤンは机に突っ伏しながら、俺は両足をデスクに投げ出しながら同じ言葉をだす。

 ロイエンタールが持ってきた親書によって決まった捕虜交換式は無事に終わった。色々と雑務は残っているが、俺とヤンはその仕事をキャゼルヌ先輩に投げつけて自由な身である。

 そしてヤンは思い出したようにデスクの引き出しをがさがさと漁ると酒瓶を取り出して俺に見せてくる。

「いっぱいどうだい?」

「いいねぇ。フィッツシモンズ大尉とグリーンヒル大尉もどうだ?」

 ヤンの言葉に俺はグラスを取り出しながらお互いの副官に尋ねる。グリーンヒル大尉は苦笑しながら申し出を断り、フィッツシモンズ大尉は笑いながら少しだけくださいということであった。

 そんなわけでフィッツシモンズ大尉の分をいれてフィッツシモンズ大尉のデスクに置くと、俺とヤンは中央のソファーに座って酒の入ったグラスを持ち上げる。

「「かんぱ~い」」

 そして勢いよくいっぱい飲み干す。

「あ~、これのために生きてる感じするわぁ」

「全く持って同感だね」

 俺の言葉に二杯目をグラスに注ぎながらヤンは答えてくる。

「あ、そうだ。ちょっと真面目な話いいかい?」

「俺とヤンの間で真面目な話……?」

「待つんだシュタイナー、君と私の仲がどれくらい長いと思っているんだ。これだけ長ければ真面目は話の一つや二つ……」

 そこまで言ってヤンは深く考え込む。

「あれ……? 私と君の間に真面目な話なんかなかった……?」

 俺とヤンは恐ろしい答えに行きつきそうになったのをなかったことにして、ヤンは会話を続ける。

「君、思いっきり引き抜きかけられたけどやばくない?」

「やっぱりそう思う?」

 俺の問いにヤンは力強く頷く。

 ヤンが言っているのはミュッケンベルガーの話である。あの爺さん、同盟全土に流れている状態で堂々と俺の引き抜きをかけてきた。

 俺に裏切る気は全くないが、同盟内で俺に嫌疑の眼が向けられて再び亡命になりかねない。

「あ、シュタイナー提督。小官は提督が帝国にいかれるならついていく所存ですよ」

「副官が忠臣で嬉しいよ、フィッツシモンズ大尉。要求はなんだ?」

「提督のデスクに入っている秘蔵のおつまみください」

「持ってけ」

 (主にムライ少将から)隠しているおつまみの存在が副官にバレているので、軽く返すとフィッツシモンズ大尉は鼻歌混じりに俺のデスクを漁ってつまみを取り出し、自分のぶんを確保すると俺達のところに持ってきてくれた。

 それをつまみにお酒を飲みながら俺はヤンに話しかける。

「やばいよなぁ。ヤン、何かいいアイディアない?」

「できる限り政府の言うことに逆らわない……それくらいかなぁ」

 考えてみたらヤンは原作でも被保護者のユリアンに言われるほど保身が下手だ。そんな奴に聞いた俺が間違いだった。

「……何か不愉快な視線を感じるんだけど」

「保身下手のお前に聞いた俺が間違っていたよな」

「失礼だな。私だって君に罪をなすりつける技術だけはあるぞ」

「俺もお前に罪をなすりつける技術はあるからお互い様だな」

 そういってハイタッチ。

 それと同時に司令官室の扉が開いてカリンが入ってきた。

 そして口を開く前に俺とヤンが酒片手につまみ食べてる姿をみてゴミを見るような眼になった。

「違う。聞いてくれカリン。これはヤンが言い出したことで俺は反対したんだ」

「違うんだカリン。私は神聖な司令官室で酒盛りはまずいと言ったんだけど、シュタイナーがつまみ片手に私を誘ってきたんだ」

「ヘルベルトさんもヤン提督も等しくゴミなので後でお説教です」

 少女にゴミ扱いされる駄目な大人二人の姿がそこにあった。(ちなみにフィッツシモンズ大尉は即座に酒とつまみを隠していた)

 カリンは頭痛を抑えるようにこめかみを抑えながら溜息をつくと、真面目な顔をして言葉を続ける。

「シュタイナー提督にお客様です」

「俺に?」

 俺の疑問に答える前に、カリンは外にいた人物を中に招き入れる。同盟軍の軍服を着た人物に俺は見覚えがありすぎた。

「ヴァーリモント少尉? フランツ・ヴァーリモント少尉じゃないか!」

「お久しぶりです、閣下」

 そこにいたのは帝国領侵攻作戦の時に俺の艦隊にいたアニメオリジナルキャラクターであるヴァーリモント少尉だった。

 アニメでは色々あって帝国領に残っていた感じのヴァーリモント少尉であったが、この世界では帝国領侵攻作戦の時にクラインゲルド子爵領の農業発展のために俺に残りたいと希望をだしてきたため、クラインゲルト子爵と話し合った結果、同盟軍の捕虜、という形にしてクラインゲルト子爵領に残してきたのだ。

 そんなヴァーリモント少尉を俺はソファーの向かい側に座らせる(そこに座っていたヤンは自分のデスクに行った)

「ヴァーリモント少尉、元気にしていたか?」

「おかげさまで元気にやっております。クラインゲルト子爵領の農業発展に目途がつきましたので、今は他の辺境惑星の開発にも従事しております」

 俺の言葉に笑顔で答えてくるヴァーリモント少尉。その笑顔はやりがいに満ちた表情をしており、帝国領に残した俺の判断は正しかったと証明してくれている。

 そしてヴァーリモント少尉は表情を改めて真面目な表情をすると、懐から一枚の手紙を取り出して俺に手渡してくる。

 それを受け取りながら俺は首を傾げる。

「これは?」

「クラインゲルト子爵から閣下への願いの手紙でございます」

「クラインゲルト子爵から?」

 クラインゲルト子爵領の発展により、クラインゲルト子爵は辺境貴族達の盟主のような立場になっている。

 その立場から俺に対する手紙。あまりいいものではない気がする。

 俺がヤンをみると、ヤンも理解したのかデスクから立ち上がって俺からクラインゲルト子爵からの手紙を受け取る。

「ヴァーリモント少尉……だったね。一応、イゼルローン要塞ではシュタイナーより私が上になる。悪いけど先に私が中を確認させてもらうよ」

「ヤン提督なら大丈夫でしょう」

 ヴァーリモント少尉の返答に頷くと、ヤンは手紙の中身を確認する。

 そして内容を読んで難しい表情をしながら口を開く。

「シュタイナー。クラインゲルト子爵は帝国の内乱時に中立を保ち、そのために君に辺境を守って欲しいそうだ」

「……そうきたかぁ」

 原作においてキルヒアイスが辺境の鎮圧にでていたことからわかるように、帝国の内乱時に帝国辺境貴族は反ラインハルトの立場をとったのだろう。直前の同盟軍による帝国領侵攻作戦の時の焦土戦術による反感もあったのだろう。

 だが、この世界においては俺は他の提督の協力もあって帝国辺境の状況はそこまで悪化することがなかった。

 そのために帝国辺境貴族は帝国側でありながら同盟にも友好的という状況になっている。

 だからこそ内乱で中立の立場を守るために俺の艦隊の派遣を要請してきたのだろう。

 難しい表情をして考え込む俺とヤンを困ったようにみながらヴァーリモント少尉は言葉を続ける。

「クラインゲルト子爵を始めとしまして辺境貴族の方々はローエングラム伯と門閥貴族の戦いに消極的です。ローエングラム伯は門閥貴族側にならなければいいというスタンスですが、門閥貴族側は味方にならなければ潰すべし、という意見が出ているようです」

「そこで軍事力の乏しい辺境貴族は同盟軍に助力を求めたということか」

「はい」

 ヴァーリモント少尉の言葉に俺は頭をかく。

「どう思う、ヤン」

「民衆が助けを求めてきたなら、私達はそれを助けないと護民の軍と言えなくなってしまう」

 ヤンも難しい表情をしながらそう言う。

 俺とヤンが派遣に消極的なのはラインハルトが仕掛けてきたであろう同盟の内乱がどれくらいの規模になるかわからないからだ。

 原作と同程度の規模であればヤンだけで対処は可能だ。だが、帝国領侵攻作戦で原作より多くの同盟士官が生き残った結果、反乱の規模が大きくなる可能性はある。

 ヤンもまたアップルトン提督やウランフ提督のことは信頼しつつ、反乱に同調しないと言い切れないために、できる限り同盟内に絶対に裏切らないと信頼のおける艦隊を置いておきたかったのだ。

 そうなるとヤンにとって完全に信頼できる艦隊は俺の十四艦隊のみとなる。

 だが、ヤンは長い溜息をつくと、諦めたように口を開く。

「ここで私達が話していても仕方ない。政府や軍部に掛け合ってみよう」

 

 

 

 その後、ヤンから極秘通信でクブルスリー本部長に伝えられたクラインゲルト子爵の願いは、クブルスリー本部長から政府に伝えられ、政府の三日間にもおよぶ会議の結果、俺の第十四艦隊は『帝国辺境の民を貴族の暴政から救うため』という名目で派遣が決定するのであった。




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
同盟内乱に備えるつもりが帝国への派遣が決定した亡命提督

ヤン・ウェンリー
同盟内乱の時のためにヘルベルトくんの艦隊は同盟に残っていて欲しかった

ジークフリード・キルヒアイス
赤毛のイケメン天才提督。ヘルベルトくんにも好意的

グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー
この世界ではラインハルトの実力を認め、その後見人のような立場になる。そしてマスコミがたくさんいる場所で堂々とヘルベルトくんを引き抜こうとする

フランツ・ヴァーリモント
実は帝国辺境に残って開発をしていた同盟軍士官



遅くなりましたが今月分更新でございます。

さらっと流れるように捕虜交換式を実行。そして原作と違ってキルヒアイスだけでなくついてきていたミュッケンベルガー。この世界ではラインハルトの実力を認めてその後見人になっている模様。でもミュッケンベルガーもラインハルトが簒奪を考えているとは思っていないようす。

今回書きたかったのは後半部分。同盟側二次創作小説にも関わらず同盟内乱時に同盟にいないオリ主がいるらしいですよ。

ここから少しずつ原作を沿いつつ乖離していく予定です。

え? ミュッケンベルガーがでてきた理由? 作者の趣味ですよ


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024話

銀河の歴史がまた一ページ……


 政府から帝国領辺境守備を命じられた俺は参謀長のチュン少将と副司令官のカールセン少将に出撃準備を指示。ヤンがハイネセンにいっている間に出撃の準備は整い、ヤンがハイネセンでクブルスリー本部長とビュコック大将に内乱の可能性を伝え、イゼルローンに戻ってきたタイミングで俺の艦隊の出撃準備が整ったので我が第十四艦隊はイゼルローン要塞から出撃した。

「帝国領に入ります」

「密約があるとは言え、ここは敵地になる。各艦警戒は怠らないように、と」

「了解です」

 フィッツシモンズ大尉の言葉に俺が指示をだすと、フィッツシモンズ大尉は改めて各艦に指示をだしている。

 それを聞きながら俺は椅子を回転させて会議用の机に向かう。艦橋の会議用の机に座っているのは参謀長のチュン少将、副参謀のラップ大佐、艦隊副司令官のカールセン少将、分艦隊司令官のモートン少将。そして陸戦隊指揮官のオフレッサー客員大将である。

 従卒のカリンが用意してくれた紅茶を一口飲んでから俺は口を開く。

「さて、今回の出兵の意義……というか方向性について話していきましょう」

「方向性と言いますと?」

 チュン少将の言葉に俺は軽く頷きながら言葉を続ける。

「帝国の辺境守備……言葉に表すと簡単ですが、実のところ帝国辺境というのは結構広大です」

「広義の意味ではイゼルローン方面からフェザーン方面。逆になるが地球方面も辺境と帝国では言われておりますな」

 俺の言葉にオフレッサーが補足してくれる。それに頷きながら俺も言葉を続ける。

「今回に限って言えばイゼルローン方面の辺境が守備の中心になります。しかし、クラインゲルト子爵を中心に組まれた辺境貴族連合にはフェザーン方面の辺境貴族もおります」

 そう言いながら俺はフィッツシモンズ大尉に指示をだしてクラインゲルト子爵から提供された帝国の宙図をだす。

 辺境貴族連合の惑星地域が赤くなった宙図は、イゼルローン方面からフェザーン回廊に向かって広がっていた。

 その宙図をみながらカールセン少将が顎を撫でながら呟く。

「我が艦隊だけでは全てを守り切るのは現実問題不可能ですな」

「その通りです。ラインハ……ローエングラム伯が侵攻してくることはないでしょうが、門閥貴族側は攻めてくる危険性はあります」

「そこも疑問なのですが、ローエングラム伯が辺境に兵を進めない確信などはあるのですか?」

 モートン少将の言葉に、俺はモートン少将のほうに向きながら答える。

「軍司令官の質はローエングラム伯のほうが圧倒的に上です。しかし、兵力という点においては門閥貴族達のほうに軍配が上がります」

「ああ、なるほど。兵力で劣っているからにはローエングラム伯は兵力を門閥貴族に当てるのが上策ということですか」

 俺の言葉にモートン少将が納得したように答える。それに頷きながら俺は言葉を続ける。

「その通りです。常識的に考えれば門閥貴族側も兵力をローエングラム伯にぶつけるのが当然なのですが、私が言うのもなんですが門閥貴族に常識は通用しません。なんだったら門閥貴族内部で仲違いして辺境に進軍してくる可能性もあります」

「門閥貴族の首班がブラウンシュヴァイクとリッテンハイムですからな。仲違いは遠い未来の話でもないでしょう」

 俺の言葉にオフレッサーが続けると、今度はラップが口を開いてきた。

「そこが疑問なのですが、正面にローエングラム伯、脇腹に辺境貴族連合を抱えながら仲違いする可能性が本当にあるのですか? そんなの各個撃破してくれと言っているようなものだと思うのですが」

「職業軍人の皆さんには理解できないかもしれませんが、貴族が第一に考えるのは己の面子です。そして門閥貴族は本格的な軍人教育を受けている者は少ない。つまり何をしでかすかわからない、というのが本音です」

 原作でもブラウンシュヴァイクとリッテンハイムは戦争中に仲違いしてリッテンハイムは離脱。そしてリッテンハイムは辺境平定に出ていたキルヒアイスに討たれた。

 そしてブラウンシュヴァイクも民衆反乱のあったヴェスターランドに核を撃ち込んで虐殺するというちょっとありえないことをやってのけている。

 だいぶ原作から逸れ始めているこの世界ではあるが、おそらくブラウンシュヴァイクとリッテンハイムの連合もそう長く続くことはないだろう。

 コーヒーをのみながらチュン少将が口を開く。

「そうなると仲違いしたブラウンシュヴァイク、リッテンハイムのどちらかが辺境貴族連合領に攻め込んでくる可能性が高い、ということですね」

「その通りです。その時に問題になるのが分派した門閥貴族の兵力です。ブラウンシュヴァイクより少ないリッテンハイムでも十四艦隊の五倍はあります」

 俺の出した兵数に幹部達から騒めきがでる。単純計算で一個艦隊で五艦隊規模を相手にしなくてはならないのだ。

 騒めきが収まってから全員の視線が俺に集中したので、俺は真剣な表情で口を開く。

「どうしましょう」

「そこは何か秘策があるところだろ、シュタイナー」

「創作の世界じゃねぇんだぞ、ラップ。そう簡単に秘策が浮かんでたまるか!」

 ラップの思わずの突っ込みに俺も返すと、幹部達だけでなく、艦橋にいてこの会議を聞いている軍人達からも笑い声がでる。

 とりあえず笑いが収まってから俺は言葉を続ける。

「いえ、実際問題本当に困ってまして。私たち第十四艦隊だけで辺境領を守れ、というのも無茶ぶりなんですが、実際に侵攻された時に迎撃するための兵力も足りていないというちょっと洒落にならない状況なんですよね。というわけで何かいいアイディアください」

 俺の言葉にまず発言を求めてきたのはオフレッサーだった。

「……オフレッサー、本当に意見聞いて大丈夫か?」

「ご安心ください。閣下のお悩みを晴らせる策を御覧にいれましょう」

 オフレッサーの言葉に俺は難しい表情をする。何せ意見をだそうとしているのは原作ファンから石器時代の勇者と呼ばれて恐れられているオフレッサーだ。門閥貴族に乗り込んでブラウンシュヴァイクとリッテンハイムの首を刎ねましょうとか言いかねない。

 俺の苦悩をみたのかチュン少将が苦笑しながら言ってくる。

「シュタイナー提督。オフレッサー客員大将も帝国で上級大将まで昇りつめたお人です。きっと大丈夫ですよ」

「……そうですねチュン少将。すまないオフレッサー。少し疑心暗鬼になっていたようだ。お前の意見を聞かせてくれ」

「は! 簡単ですぞ閣下。こちらからブラウンシュヴァイクとリッテンハイムの所に乗り込んで首を刎ねてしまいましょう」

「予想通りだよ!!」

 思わず机を叩く俺。あちゃ~、と言った感じで空を見上げるチュン少将。爆笑するラップとフィッツシモンズ大尉。苦笑いのカールセン少将。困った表情のモートン少将。そしてカリンは当然のように突っ込む。

「オフレッサーさん。どうやってブラウンシュヴァイクとリッテンハイムのところまで行くんです?」

「む? そんなのまっすぐに連中の本拠地までいければ、あとは俺が首を落として閣下の前に並べてみせるが?」

「……本当にできそうなのがオフレッサー客員大将の怖いところだな」

 オフレッサーの当然といった感じの返答にラップも思わず真顔で呟く。

 たぶんオフレッサーなら本当にやりかねないが、それをやるまでに艦隊に大規模な打撃を受けること受けあいなので却下する。

 すると今度はチュン少将が口を開いた。

「シュタイナー提督、帝国の辺境には駐留艦隊などはいないのですか?」

「一応、辺境守備のために数は少ないですがいるはずです」

「それをこちらにつけることはできませんか?」

「それだ!!!」

 チュン少将の言葉に俺は思わず立ち上がりながら叫ぶ。

 考えてみたら原作でもシュタインメッツは辺境守備についていて、その兵力と辺境を手土産にラインハルトに降伏していた。そして恐らくだがキルヒアイスは辺境にいて門閥貴族側についたそのような兵力を平定していく役目もあったのだろう。

 それを考えると全て合わせれば複数艦隊規模の艦隊になる可能性もある。それができれば辺境貴族連合領の守備と門閥貴族が攻めてきた場合の兵力の差もどうにかできる。

「フィッツシモンズ大尉。クラインゲルト子爵に通信して、辺境守備についている軍人を辺境貴族連合側につけるようにお願いをしてみてくれ」

「了解です」

 とりあえず一番の悩みが解決はまだされていないが、なんとか糸口がみえたので俺は紅茶を一口飲む。そしてカリンと目が合った。

「ヘルベ……シュタイナー提督、皆さんにあのことをお伝えしなくていいのですか?」

「あの事……? ああ、あれか。え? わざわざ言う必要ある?」

「皆さんとの関係を考えればお伝えしておいたほうがいいかと」

 カリンの言葉に俺は全員を見渡すと、全員が興味深そうに俺をみていた。

「あ~」

 俺は一度帽子をとって髪の毛をかき混ぜると、俺は口を開く。

「私的な話になりますが、妻との間に子供ができました」

 俺の言葉に一瞬沈黙する幹部達。

 そして勢いよくオフレッサーが立ち上がって大きく叫んだ。

「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!!!!!!!! 閣下に!!!!! 閣下にお子がぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!! このバルドゥル・フォン・オフレッサー、感激のあまり言葉にできませんぞおおおおぉぉおぉぉぉぉ!!!!!!!!!」

「こうなるから言うの嫌だったんだよ!!!」

「なんだ。やることやっていたんだな」

「その指やめろラップ!!!!!」

 泣き叫ぶオフレッサーとニヤニヤしながら下ネタの指を作るラップ。

 そう、俺とアンナの間に子供ができたのだ。まぁ、ラップの言う通りやることやっていたのでいつかはできるだろうと思っていたが、割と早くできて俺も驚いている。

 そしてこれは完全に『銀河英雄伝説』という物語とは別れたというべきだろう。何せ原作ではラインハルトの血縁者はアンナを除けば物語終盤に産まれた実子だけだ。

 だが、この世界では甥か姪かわからないが、血縁者が増えたことになる。下手したらローエングラム王朝の内部分裂の危機でもある。

(まぁ、先のことは先に考えよう)

 チュン少将やカールセン少将、モートン少将から祝福の言葉を受けながら俺はそう考えるのであった。




ヘルベルト・フォン・シュタイナー
素直に部下に意見を求める系司令官

チュン・ウー・チェン
第十四艦隊の名実共に頭脳

バルドゥル・フォン・オフレッサー
ハイパー脳筋忠臣系

シュタイナーくんとアンネローゼの子供
なんか産まれるそうですよ



そんな感じで辺境守備に出かけたシュタイナーくん率いる第十四艦隊の方針公開回です。

普通に考えて兵力差をどうにかしようとするよなぁ、と考え原作でもシュタインメッツが辺境にいたので、この連中を味方につけるために暗躍開始(尚、実際に動くのはクラインゲルト子爵の模様

そしてさらっと出されるこの作品オリジナルキャラ!!(まだ産まれていない

銀英伝の原作読んだ方なら思うであろう割と重要な立ち位置になりそうな赤ん坊。
安心してください。その予想当たってますよ。

そういえば基本的にキャラの声は石黒監督版で脳内再生していたんですが、シュタイナーくんの声帯誰だろうなぁ、と思った時に思いついたのはシリアスからコミカルな幅広い役ができる子安武人さんかなぁ、と思いました。

みなさんはどうですか?


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