平行世界に浮かぶ月 (海崎実紀)
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こんなSFみたいな話が現実であるんだ。

 

 

その日 言吹(ことぶき)夜重(やえ)は思い出した。

 

奴等に侵攻を受けるSFの世界を、

 

(ページ)を重ねる毎に高揚する感覚を。

 

 

 

 

 

 

テレビの画面越しに凄惨な光景を目にした時、砂嵐のようなノイズが意識上に走った。

 

それと同時に過ぎるのは性別の分からない一人の人間の人生。

 

都心に生まれ人並みに揉まれながら摩耗していった誰かの視点。

 

否、これは()()の自分だ。

 

夜重(やえ)は無意識に分かった。

 

 

画面の先に写る景色に見覚えがあった。

 

そして理解する。

 

ここは前世でハマっていた漫画、

 

“ワールドトリガー”の世界であると。

 

 

「なんで、成り代わりじゃないんだ·····」

 

 

言吹(ことぶき)夜重(やえ)は阿呆であった。

 

 

 

 

 

 

 

この世に生まれて早15年。夏の始まり頃か。

 

第一次大規模侵攻なるものが起きた。

 

界境防衛機関ボーダーが発足され、僅か半年余りで警戒区域の指定やあのバカでかい基地が建てられた。

 

そしてボーダー隊員1期生の募集が掛けられた。

 

夜重は五條市という原作には出てこない、三門市の隣の隣の市に住んでいた。

 

しかし家族の反対を押し切って三門市へと単身で移り住むことにした。

 

理由はもちろん、ボーダーに入る為だ。

 

 

「夜重、本当に行くの?」

 

「大丈夫だよ、兄さん。ちゃんと生きて帰るから」

 

引越しの前日、不安げに掛けられた兄の言葉に夜重はドヤ顔で返した。

 

「いや、兄さんが心配してるのはお前がその阿呆さを周りに撒き散らさないかだから」

 

「いっくん」

 

呆れを通り越した侮蔑の目を向けてくるのは夜重のすぐ下の弟である郁斗(いくと)だ。

 

 

 

夜斗は四兄弟の二番目だ。

 

上から朔也(さくや)(17)、夜重(15)、郁斗(13)、杏弥子(あやこ)(11)。

 

両親は健在で共働き、つまり下の子の面倒を見るのは必然的に上の子の仕事となる。なので兄弟仲は割といい。

 

朔也は受験生の大事な時期にわざわざ危険地帯に転校するのを純粋に心配していたし、郁斗は自分達を置いていくことに躊躇いのない夜重に腹を立てていた。

 

 

 

 

 

 

さて、紆余曲折(?)を経てやってきたボーダー入隊日。

 

1期生となる若者達に混ざる夜重は存外冷静に周りを観察していた。

 

(流石にお遊び気分で来ている奴は現段階では少ない、か。復讐心からや正義感からが多そうだね。あとは___)

 

「なあ、君!」

 

底抜けに明るい声に反応して振り向けば、オタク界隈では“光の中の闇”とか“覚悟ガンギマリ野郎”とか呼ばれる男が立っていた。

 

その横には後にB級で隊長を務める男もいる。

 

どちらもまだ少年である。

 

 

「えっと、僕であってる?」

 

「ああ。オレは嵐山准、よろしくな!」

 

「柿崎国治だ。よろしく」

 

「僕は言吹夜重。どうぞよろしく」

 

自己紹介をされたので快くそれに応える。

 

「言吹はいくつなんだ?」

 

「中学3年だよ」

 

「俺たちと一緒か!」

 

「自分が言うのもあれだけど、よく親御さんが許可したね。君達も受験生なのに」

 

 

これは純粋な疑問である。

 

一度決めたら頑として譲らないであろう嵐山はともかく、堅実そうな一般家庭で育った柿崎(偏見)がここに居るのが場違いな気がした。

 

実際に雰囲気を肌で感じて余計にそう思う。

 

「オレは、家族を守ることを優先したいって言ってきた。それに従妹もボーダーにいるしな」

 

「へぇ、ボーダーに」

 

「そうだったのか」

 

柿崎も知らなかったのか。僕は知ってたけど。

 

「それで、柿崎くんは?」

 

「俺は受験もしっかりやることを条件に許可を貰ったな。·····ボーダーの活動は()()がやらなきゃいけないことだろ?」

 

「そうだな!」

 

「·····」(柿崎国治。真面目で堅実、自ら不利益を被りに行く責任感は本物か。そういう所が好かれるんだろうね。僕も嫌いじゃない)

 

 

そして話の矛先は自分に向けられる。

 

まあ、話の流れ的にそうだろう。

 

「僕は、受験自体はどうとでもなるから」

 

「頭がいいんだな」

 

「頭()ね」

 

「なんでボーダーに入ったんだ?」

 

「うーん、“面白そうだから”、かな?」

 

 

ピシリと固まった空気に辺りに意識を向ければ、多くの人間が今の発言を聞いていたことを知る。

 

夜重が馬鹿正直に述べた理由は本心だ。

 

誰だってそうだろう。

 

漫画の世界に生まれたのだ、それを体感したいと思うのは当たり前だ。

 

それこそ画面越しにしか現状をしらない人間が、やれ正義だのやれ責任だのと(のたま)う方が滑稽だろう。

 

だが、災害級の被害を受けた三門市民には(いささ)か不謹慎に映る。

 

この侵攻で身内や友人を亡くした者はごまんといるのだ。

 

 

「___面白そうだと?」

 

当然、今の発言を看過できない者もいる。

 

 

「ああ。異世界からの侵略者をトリガーとかいう特別な力で阻む、こんなSFみたいな話が現実であるんだ。これほど面白そうなことはないでしょう?」

 

ニッコリと喜色を浮かべた表情に周りはドン引きである。

 

「ふざけるなッ!」

 

逆鱗に触れられたであろう少年に胸ぐらを掴まれる。

 

「お前にボーダーに入る資格はない!今すぐ失せろ!」

 

 

夜重は勉強はできるが頭が悪いタイプの阿呆だ。

 

だが、阿呆ではあるが愚かではない。

 

 

「少年。それを決める権利は___残念ながら君にはない」

 

はっきりと告げられた明確な事実に、辺りは水を打ったような静寂に包まれる。

 

あくまで笑みを壊さずに夜重は淡々と話す。

 

「募集要項にはきちんと目を通したかい。面白そうという理由で応募してはいけない、なんて書いてなかったでしょう。市民を守りたいとか貢献したいって理由で入隊するのはそれはそれは立派だとは思うけれど·····」

 

そこで言葉を区切ると、自身を射殺しそうな目で睨む少年___三輪秀次を正面から見据える。

 

「けれど、これは戦争だよ。求められているのは()()()()()兵士だ。大事なのは戦力になるかどうかと上の命令を聞けるかどうか、精神性とか動機とかはどうだっていいんだ。だって___

 

「はーい、ストップストップ。入隊式が始まるからそこまでにしよう!」

 

___へえ」

 

 

夜重と三輪少年とのやり取りに割って入ったのは能天気な声だった。

 

嵐山とそっくりな外見で同い年の、変わったデザインのサングラスをおでこに掛けた少年。迅悠一。

 

三輪少年は夜重と迅をひと睨みすると、大人しく手を離して背を向ける。

 

「いやぁ、災難だったね〜」

 

ヘラりと胡散臭く笑う迅に夜重も微笑み返す。

 

「自分で撒いた種だけどね」

 

「う〜ん、わかってるならやめようよ」

 

「残念だけど僕は僕の在り方を変えるつもりはないよ。僕の座右の銘は“僕がよければ全てよし”だからね。…ところで君は誰?僕は言吹夜重、どうぞよろしく」

 

「うわ、人の話を聞かないタイプか。オレは迅悠一、同い年だよ」

 

夜重の差し出した手を握りながら迅も名乗る。

 

 

 

 

 

 

 

これが夜重と原作キャラのファーストコンタクトである。

 

 

 




あれれ、書き出しこんな筈じゃなかったぞ。
主人公はただのアホの子の筈だったのに。
印象最悪じゃねえか。ザキさんドン引きよorz。
青少年の教育によろしくない。

因みに夜重くんが言いかけたのは、

“だって___まともな奴じゃ敵は殺せない”。

原作知ってるからっていうのもあるけど、敵を殺す前提なんですね。
まあ、戦争してますし当然っちゃ当然ですけど。
頭のネジが外れてるんですきっと。

正確な発言までは分からなくてもやべえこと言うの分かってたから迅くんは止めました。

兄妹は綺麗に2個ずつ違う。


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