紫の星を紡ぐ銀糸S (烊々)
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プロローグ


 プラネテューヌには『女神補佐官』という役職が存在する。
 国政を司る『教祖』と対をなす、女神に代わって軍事を司る役職であり、女神や教祖ほど前面には出てこないため、人によってはその役職自体知らないことも多い。
 その女神補佐官である人工生命体の男『ギンガ』は、これまで守護女神が世界を守ってきた際に陰ながら様々なサポートをしてきた。
 そんな守護女神たちや彼の前に、更なる困難が立ち塞がることを、今はまだ誰も知らない。



 

 

 

「やめろ……っ、私は……こんなことはしたくなど……っ!」

『この身体はもう私の身体だ。私がこの次元に降臨し、世界に破滅を齎すためのな』

「黙……れ……っ!」

『抵抗など無駄だ。さて、我が復讐と破壊のため、暫し眠りにつくとしよう……』

「……っ、はぁ……はぁ……収まったか……! ……これでは、私はもう……この世界の敵……いや、最初からそうだったはずだ。それなのに、女神どもに……そしてあの男に絆され……だがもう、戦わねばならない……か」

 

 

 

 

「ネプテューヌ様……」

「つーん」

「ネプテューヌ様、機嫌をお直しください……」

「知らないもーん。わたしに構わないで行っちゃえばいいじゃーん。ぴーしー大陸の女神様に会いにさー。わたしを放ってー」

 

 『ぴーしー大陸』とは、ゲイムギョウ界四大国よりも昔から存在しながら、長い間諸外国とあまり関わろうとしてこなかった国家である。

 しかし、ここ最近になって、ぴーしー大陸の女神候補生が四大国との交流を図るようになった。国家間の交流を開始にするにあたって、いきなり守護女神を向かわせるわけにいかないというのが国際的なルールであり、だからこそその先遣隊としてギンガがぴーしー大陸へ出張することになったのだ。

 そして、ネプテューヌにとってはギンガが他の女神の元に行くのが好ましくなかった。そんな二人の様子を見たイストワールが呆れた表情で口を開く。

 

「放っておけばいいんですよ、ギンガさん」

「しかし……私は……ネプテューヌ様には笑っていてほしいのです。ネプテューヌ様にそのような表情をさせたままプラネテューヌを離れたくはありません。それに、遠くに行っても、私の心はいつもあなたにお側にあります、ネプテューヌ様」

「そんなこと言って、向こうの女神に鼻の下伸ばすんでしょー?」

「うぐ、それは……」

 

(はぁ……どうしてそこで『いいえ』と言わないのですかギンガさんは……ネプテューヌさんが少し可哀想に思えてしまいますね……)

 

「まー冗談は置いておいて、気をつけてね、ギンガ」

 

 気が済んだのか、ネプテューヌはニコリと笑ってギンガを送り出す。

 

「ええ、行って参ります。ネプテューヌ様、イストワール」

「はい。行ってらっしゃいギンガさん。何もないとは思いますが、お気をつけて」

「お土産はプリンね」

「かしこまりました」

「ネプギアも仕事が入らなきゃ見送れたのにねー」

「機械系のモンスター討伐クエストなので、目を輝かせながら出発していきましたものね」

 

 ギンガは身支度を済ませ、プラネテューヌ教会を後にする…………前に。

 

「ネプテューヌ様ネプテューヌ様」

「ん? どったのギン……ねぷっ⁉︎」

 

 ギンガはネプテューヌを呼び寄せて軽く抱きしめた。

 イストワールはネプテューヌとギンガに気を遣ったのか、いつの間にか姿を消していた。

 

「……もー、いきなりびっくりするじゃん。わたしのことが好きすぎるのは構わないけどさ」

 

(はぁぁぁぁぁ〜……至福‼︎ これでしばらくネプテューヌ様のお姿を見ることができなくてもなんとかなりそうです)

 

「ギンガ……ギンガ? なんか喋ってよ。ねえ」

「すぅぅぅぅぅぅ……!」

「え、ちょっと待って⁉︎ 何を吸ってるの⁉︎ なんかキモいし怖い! 一旦離れて!」

「……え?」

「そんな絶望した表情しないでよ! わたしが変なこと言ってるみたいじゃん‼︎」

「では、気を取り直してもう一度」

「いいよもう! さっさと行ってらっしゃい‼︎」

 

 半ば追い出される感じで、ギンガはプラネテューヌ教会から出発したのであった。

 

「交流のある三大国とは違い、空から行けないのが少し面倒ですね」

 

 ぴーしー大陸行きの船に乗りながら、暇そうに呟くギンガ。

 すると少しずつ、ぴーしー大陸が見えてくる。

 

「ぴーしー大陸……行くのは久しぶりですね。遠い昔、ゲハバーンの所在を掴もうとゲイムギョウ界中を駆け回った時以来、でしょうか。ま、そんなものはこの次元にはなかったのですが」

 

 どんどん近くなっていくぴーしー大陸の大地に、ギンガは少しだけ心浮かせていた。

 

「さて、ぴーしー大陸の女神候補生様は、どんな方なのでしょうね。お会いするのが楽しみです」

 

 

 

 

 

 

 

      『紫の星を紡ぐ銀糸S』

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、あんりー。プラネテューヌの女神補佐官ってどんな人なのかなー? 女神や候補生、教祖は調べてすぐにヒットしたんだけど、女神補佐官だけは見つかんなくてさー」

「私も知らないわよ。もうすぐ着くらしいから、その時になれば分かるでしょうね。それよりも、この国、ぴーしー大陸の女神候補生として、失礼のないようにちゃんとしなさいよ、マホ」

「はーい。もーあんりーってば、あーしのお母さんみたい」

「誰がお母さんよ……もう」

 

 

 

 

 

 

 






簡単なキャラクター紹介

・ギンガ
 『紫の星を紡ぐ銀糸』シリーズの主人公。
 初代から代々プラネテューヌの女神に仕え続けている女神補佐官であり、女神に及ばずともその実力はかなり高い。
 身長は182㎝、外見年齢は二十歳程度。イストワールの金髪の真逆のような銀色の髪と星空のような青紫の瞳が特徴で、ネプテューヌ曰く「無駄に良い顔」な容姿。
 同じ人工生命体であるイストワールと思考をリンクすることによりギンガの身体でイストワールのスペックをフルに使用できる『ギンガイストワール』や、ネプテューヌの加護が強く込められた指輪『ネプテューヌリング』を用いて変身する『ギンガネプテューヌ』などの強化形態がある。
 守護女神のことを心から崇拝している。
 しかし、ネプテューヌだけには崇拝だけではない好意を抱いている。


・ネプテューヌ
 前作と前前作における原作主人公。
 プラネテューヌの守護女神。
 ギンガのことが好きで、ギンガも自分のことが好きだと知ったが、その思いを真に通じ合わせるのは自分が女神をやめた時だとお互い決めているため、今はまだあまりそう振る舞うことはしない。
 多分今作は割と影が薄くなると思う。


・ネプギア
 今作における原作主人公。
 プラネテューヌの女神候補生。
 「お姉ちゃんとギンガさんがくっつけばギンガさんをお兄ちゃんって呼べるのになぁ」とか思ってる。
 最近メキメキと実力をつけてきており、ネプテューヌにはまだ届かずともギンガには届きつつある。
 多分今作は前作以上に活躍してもらうことになる。


・イストワール
 いーすん。プラネテューヌの教祖。
 ギンガとはお互い恋愛感情は皆無だが、家族をも超えた信頼関係を持ち合ういわば『相棒』。
 割とお互いに対する当たりが強い。


・ノワール、ブラン、ベール
 他の国の女神たち。
 ギンガの女神補佐官としての手腕は評価しているが、性格がアレなのでプラマイ0なのは相変わらず。
 今作はネプテューヌ同様影が薄くなると思う。


・天王星うずめ
 プラネテューヌの過去の女神。
 ある事件を境に、一旦超次元ゲイムギョウ界から去ることになる。


・ユニ、ロム、ラム
 他の国の女神候補生たち。
 姉たちとは違ってギンガを慕ってるのはこちらも相変わらず。
 今作は活躍することになる。


・アイエフ
 プラネテューヌ教会の諜報員で、自他ともに認めるギンガの愛弟子。


・コンパ
 プラネテューヌのナース。度々死にかけるギンガをいつも看病するのがコンパ。だからギンガはコンパに頭が上がらない。


・マジェコンヌ
 原作では敵であったが、銀糸シリーズでは世界を守るために何度も共に戦った仲。
 ギンガとは互いに嫌いあってはいるものの、実力は認め合っている。
 しかし、今作では……


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01. 終わりの始まり

 

 

「ん? 何でしょう……この……?」

 

 ギンガは、ぴーしー大陸に到着して早々、何か違和感を覚えていた。

 ぴーしー大陸は平和であった。街は栄え、行く人々には活気がある。

 しかし、ギンガにとってはそれこそが違和感だった。

 

(まるで……可もなく不可もない『普通の国』ですね。普通すぎる、と言うべきか)

 

 ギンガは、プラネテューヌのことは言うまでもなく、他三国についても国家機密を除いたほぼ全てを知り尽くしている。

 しかし、ぴーしー大陸においてギンガが知るのは地理のみ。ぴーしー大陸の女神の統治に関しては、ギンガですらあまり知らないのだ。

 

「まぁ、女神候補生様にお会いすれば、色々と知ることができるでしょう」

 

 ぴーしー大陸の女神候補生に会うことに心浮かせながら、ギンガは軽快な足取りで教会へ向かった。

 

 

 

 

「お初にお目にかかります。私、プラネテューヌの女神補佐官ギンガと申します。よろしくお願い致します」

 

 ぴーしー大陸の教会に着いて早々、女神候補生らしき少女に跪き、挨拶をするギンガ。

 女神特有の"尊さ"とやらを感知できるギンガは、向こうから言われるまでもなく女神候補生がどの人物か理解していた。

 

(どーしよ、あんりー……)

 

 ギンガに跪かれながらも、ギンガに聞こえないぐらいの小声で隣の「あんりー」と呼ぶ少女に助けを求めるこのピンク髪の少女こそ、ぴーしー大陸の女神候補生『マホ』。

 

(どうしようって何よ、マホ)

 

 その横に立つ先程「あんりー」と呼ばれた銀髪の少女の名前は『アンリ』。

 ぴーしー大陸の教会員で、マホの親友兼お目付役といったところであり、本人はまだ否定しているが次の教祖候補と言われている。

 

(……見てアレ。顔の良さだけで宇宙作れそうな人が来るなんて思わなかったんだけど。やばだよ。やばたにえん……!)

(そんなこと言ったって、あなたはこの国の女神候補生なのよ? ちゃんと対応しなさいよ)

(えー、なんか怖い。あんりーやってよ)

(どうしてそうなるのよ!)

 

 女神の内緒話は聞かないと決めているギンガは、本来ギンガの聴覚では耳に入るはずの二人の会話をあえてシャットアウトしていた。

 

「……えっと、ぴ、ぴーしー大陸の女神候補生、マ、マホです!」

「教会員のアンリです。よろしくお願いします」

 

 緊張のあまり声がうわずったマホと、そんなマホを見て冷静になったのか、そつなく挨拶をこなしたアンリ。

 結局、アンリはマホに助け舟を出そうと、客人であるギンガへの対応を自分がしてあげるのだった。

 

「さて、挨拶も済んだところで、早速本題に入りましょうか。プラネテューヌとぴーしー大陸の国交の開始、そしてプラネテューヌ側からのシェアクリスタルに関する技術提供……でしたね?」

「はい」

「お分かりいただいてるとは思いますが、私は今この場では国交の前段階、つまりただのご挨拶で伺ったので、私には調書にサインをする権限がありません。その権限があるのは、女神ネプテューヌ様ですので」

「わかってます」

「しかし、イストワール……プラネテューヌ教会の教祖から、既に渡して良いと許可されているデータだけは今この場でお渡しします」

「良いんですか……?」

「ええ、勿論。女神様は助け合いですから」

 

 ギンガは屈託のない笑顔でそう言った。

 自身が仕えている女神ではなくとも、女神のために何かをしてあげたいというギンガの心情には一切の嘘偽りはなく、たったこれだけのやり取りでギンガはマホとアンリからの信頼を得ることができていた。

 

「……あの、見て欲しいものがあるんだけ……ですけど」

「言葉遣いなど、直さなくて構いませんよ。マホ様は自然体のままで良いのです。私はこういう性分なので気にすることはありません」

「え、いーの? じゃあさ! ギンガさんに見てほしいものがあるんだけど!」

 

 緊張も紛れたことやギンガの言葉もあり、マホはさっきまでとは大違いな明るい様子を見せ始めた。

 

「ギンガさん……マホを甘やかさないでください。すぐに調子に乗って変なことをするんですから、この前だって……」

「わー! わー! それ言っちゃダメー!」

 

 親友同士の微笑ましいやり取りを見届けた後、ギンガは教会の奥に案内されていく。

 

「見てほしいものとは……こちらですか?」

 

 奥の部屋に着いたギンガが見せられたものは、灰色に輝く小さなクリスタルだった。

 

「これは……クリスタル……いえ、まさか、この方は『女神様』ですか?」

「……驚きましたね。まさか見ただけでそれを理解するなんて……」

 

 魂の形を知覚できるギンガは、クリスタルを見ただけでその正体を看破したのだ。

 

「このクリスタルは、あーしのお姉ちゃん」

「お姉様……」

「あーしのお姉ちゃんは、足りない資源やエネルギーを補うために、自らの生命活動に使うシェアを最低限にするために肉体すらもこのクリスタルに変えて、眠りについちゃってるんだ……」

 

 シェアエネルギーとは、女神の生命活動に欠かせないエネルギーである。そして、シェアエネルギーを用いることで国のインフラなどを賄うこともできる。

 しかし、それは文字通り命を削っていることと同意。シェアエネルギーを失いすぎると、女神は肉体を維持することすら困難になってしまう。

 

「クリスタルそのものになって休眠しているこのお方こそ、ぴーしー大陸の女神様なのですね」

「ええ、『グレイハート』様です」

「……しかし、国が存続していれば自然とシェアは集まるというもの。ぴーしー大陸の国の雰囲気は何も問題は無さそうに見えましたが、何故ここまでシェアが不足してしまっているのですか?」

「『問題はない』、それが問題なんです」

「と、言いますと?」

「ぴーしー大陸は…………」

 

 ギンガは、アンリからぴーしー大陸における女神の統治についてを聞く。

 

「…………ということなんです」

「……ふむ、なるほど。ぴーしー大陸は、国としての在り方が先にあり女神様も国民もそれに当てはめるだけ、という統治なのですね。女神様のイメージを大事にするために、女神様は顔すらも国民に見せることはない……確かに、国そのものを存続させるためだけのシステムとしては理にかなってはいます。しかし、肝心の女神様がこうなられるのならば、私にとっては良いものとは言い難いですが」

「はい。それが"これまでのぴーしー大陸"です」

「うん、だから実はあーし……お姉ちゃんの顔すらも見たことないんだ。ある日、国のためにこんなクリスタルにまでなったお姉ちゃんを見せられて、お姉ちゃんがこうだから次の女神はあーしだ、って。まだ変身もできないから『候補生』って名乗ってるままなんだけどね」

「マホは、お姉さん……グレイハート様をクリスタルの姿から元に戻すため、教会や国のあり方すらも変えようと、様々な取り組みをしてきたんです。先程ギンガさんが言っていた国の雰囲気も、昔はもっと無機質なものでした。最近はマホの頑張りがあり、少しずつ改善されてきてはいますけど」

「ま、そこらへんの細かいところ全部あんりーがやってくれたんだけどね」

「マホが私に泣きついてくるからでしょ……しかし、ぴーしー大陸のシェアに関する知識だけでは限界があること、そして他の国と交流をしたいというマホの願いから……」

「……今回の件、というわけですね」

「はい」

 

 ギンガはその場で考え込む。

 シェアが足りずに身体が弱った守護女神を見たことは多々あれど、肉体を維持できないほどのシェア不足に見舞われた守護女神は見たことがなかった。

 しかし、自らのシェアの知識とそれをさらに超える相棒イストワールの情報量があればなんとかなる、とも思っていた。

 

「……ふむ。難しいことではありますが、不可能ではありません。マホ様が行おうとしているぴーしー大陸の変革ができれば、お姉様を元の姿に戻すことも可能でしょう。私たちも出来るだけサポートはします」

「ありがとうございます」

「ありがとうギンガさん! それと……もう一つ願い、みたいなものがあって」

「願い……とは?」

「他の国の候補生のみんな、いるっしょ? ネプギアちゃんとか、ユニちゃんとか、ロムちゃん、ラムちゃんも。同じ候補生だから……その……友達になりたいな、って」

「それは……良いですね。皆様に伝えておきましょうか?」

「いや、いーよ。あーしが直接行ってから友達になるし」

「ふふ、そうですか」

 

 それからギンガはマホとアンリに案内されながらぴーしー大陸の中心街を練り歩いた。

 

「……本日はありがとうございました。早いですが、話もまとまりましたので、ここらで失礼しようと思います」

「えー、もう帰っちゃうの? もっとゆっくりしていけばいーじゃん!」

「それも悪くはないのですが、国交文書に早くネプテューヌ様からのサインももらいたいですしね。善は急げ、といいますから」

「それはそーだけどさー」

「……マホ、あんまりギンガさんを困らせないの」

「ちぇー」

「すぐにまた会えますよ。今度は女神様も……」

 

 ギンガが言い終わる直前、ぴーしー大陸の中心街な方向から爆発音が鳴り響いた。

 

「「「⁉︎」」」

 

 その音に驚いた三人が街の方へ振り向くと先程までの晴天が嘘のように濁った空と、その下で暴れ回るモンスターのようなものの姿が目に入った。

 

「なに……あれ……」

「あれは……モンスター……なの……?」

 

 初めて見るタイプのモンスターであることと、それが放つ強大で邪悪なエネルギーにたじろぐマホとアンリ。

 しかし、ギンガにはその姿に確かな見覚えがあった。

 そしてだからこそ、二人以上に驚く様子を見せた。

 

「馬鹿な……マジェコンヌ……だと……⁉︎」

 

 ぴーしー大陸の中心街にて暴虐の限りを尽くすそのモンスターの姿は、正にギンガがかつて何度も戦った、マジェコンヌの最終形態であった。

 

「何故奴が……いや、今はそれよりも……マホ様! アンリさん!」

「は、はい!」

「はい」

「あなた方は連れ出せるだけの国民を連れて、プラネテューヌへと退避してください。アンリさんは出せるだけの船の手配をお願いします」

「わかりました。けど、ギンガさんは……? ……っ、まさか!」

「そのまさかです。私はあのバカをしばきに……いえ、奴を足止めします」

「だったら……あーしも戦……」

「マホ様」

 

 マホの言葉を遮ってでも、ギンガはマホを制止した。

 

「マホ様は、ぴーしー大陸の女神様、人々の心の光です。あなたに何かあれば、ぴーしー大陸は終わってしまいます」

「……マホ、行くわよ」

 

 納得し切らないマホを、ギンガの意を汲んだアンリが強引に連れて行こうとする。

 

「でも! あんりー!」

「まだ変身もできないあなたが、あんな強そうなモンスターに立ち向かえるの? ギンガさんの言う通り、私たちは私たちにできることをするしかないわ」

「……っ、ギンガさん」

「はい」

「この国の女神としてのお願い。ここは……任せるから……でも、絶対に死なないで!」

「かしこまりました」

 

 マホとアンリは他の教会員を連れ、できる限りの国民を避難させに向かった。

 

「行ってくれましたか……さて」

 

 ギンガは去っていくマホとアンリを見届けると、街の中心に浮遊するマジェコンヌを見上げる。

 

「全く、私がここに来たタイミングでこんなことが起こるとは……」

 

 そして、ネプテューヌリングとリミテッドパープルを起動し、マジェコンヌに向かって翔ぶ。

 

「……お前の真意を聞かせてもらうぞ、マジェコンヌ!」

 

 





 マホとアンリの関係はトゥルーエンド後のものが近いです。
 あらすじにも書いていますが、前々作前作とは違い原作シスターズvsシスターズのシナリオと大幅に違っています。
 キャラと一部設定を使った別物として考えてもらうと一番わかりやすいと思います。


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02. 崩壊の空

 

 

 

 

 ぴーしー大陸が出せるものに加えて、ギンガがイストワールや他の知り合いに頼んで用意させた船と飛行機で、避難民の八割近くはプラネテューヌまで退避できることになった。

 

「それにしても……まさか戦艦まで来るとは思わなかったわね。やけにキャラの濃いメカのおじさんと忍者っぽい人が動かしてたし」

「……ギンガさん大丈夫かな」

「わからない……けど、あの人が死力を尽くしてあのモンスターを止めてくれている間に、私たちも私たちにできることをやるしかないわ」

「わかってるよ、あんりー」

 

 

 

 

「あいつ……本当にマジェコンヌか……?」

 

 ギンガの目の前を飛ぶその姿は、明らかにマジェコンヌのものだった。

 しかし、その魂はあまりにも違っていた、

 ギンガの知るマジェコンヌよりも邪悪で禍々しい深淵なる闇、永く生きるギンガでも感じたことのないほどのものであった。

 

「なんであろうと、お前を止める! 『32式エクスブレイド』!」

「……む?」

 

 ギンガに気づいたマジェコンヌは、破壊の手を止め、32式エクスブレイドを叩き落とす。

 

「……貴様、なんだ? 女神の気配を感じるが、女神ではない……何者だ?」

 

(私のことを知らない……? やはりこいつはマジェコンヌではない……のか?)

 

「何にせよ、良いだろう。私に向かって来るというのなら、貴様は我が新たな肉体の試運転として使ってやろう」

 

 そしてマジェコンヌは、明確にギンガをターゲットに定め、掌から闇魔法のビームを放つ。

 

「……『ギャラクティカクロスシュート』!」

 

 ギンガは必殺光線を撃ち出して迎撃、ビーム同士が相殺される。

 

「なるほど、悪くない力だ」

 

(……っ、何という出力! マジェコンヌはネプテューヌ様から賜わった力ですら容易く勝てる相手ではないことはわかっている……しかし、今の奴は私が知る以上……!)

 

「こちらも試すとしよう」

 

 マジェコンヌは槍を顕現させ、ギンガに距離を詰める。

 

(来るか……!)

 

 ギンガも機械剣ネプテューヌGE(Galaxtica Expansion)を握り、マジェコンヌを迎え打つ。

 

「ほぅ……受け止めるとは、中々やる」

「お褒めいただき光栄……です……!」

 

 マジェコンヌの圧倒的なパワーの前に、ギンガの技量ですら劣勢を強いられる。

 

「だが……私には届かん」

「それはどうでしょう……っ!」

 

 ギンガはマジェコンヌの攻撃を避けようとはせず、ダメージを覚悟でマジェコンヌに肉薄する。

 そしてそれは、ギンガの狙いでもあった。

 ネプテューヌリングには、ギンガがダメージを負った時、指輪にかけられた女神の加護の出力が上昇し、ギンガを回復させつつ更にステータスアップをさせる機能がある。

 ギンガはその機能を逆手に取り、自らに強制変身解除をしないギリギリのダメージを与えることによってステータスアップを引き出す方法を考えついていた。

 しかし、変身解除後にのしかかる身体への負担は普段の比ではない。

 ギンガはこれを『ギンガネプテューヌ・オーバーフロー』と呼称している。

 

(ネプテューヌ様には内緒ですけれど……)

 

 そしてこれは、ネプテューヌが想定していない使用方法で裏ワザのようなものであり、ネプテューヌがこれを知った時どう思うかは…………

 

(……しかし、最低でもマホ様たちが逃げる時間を稼ぐためにはこうするしかありません!)

 

 オーバーフローにより、ネプテューヌの加護のエネルギーがギンガの身体の周りを火花のように走る。

 オーバーフロー形態は、最大出力ならば守護女神ネクストフォームとも戦えるほど。

 

(……む? 急激に奴の力が増しただと……?)

 

 全てのステータスが大幅に上昇したギンガネプテューヌの動きに、対応が遅れるマジェコンヌ。

 その一瞬の隙を、ギンガは逃さない。

 

「『ギャラクティカエッジ』!」

 

 ギンガの剣技『ギャラクティカエッジ』の刃が、マジェコンヌに炸裂する。

 

「……ぬぅ⁉︎」

 

(手応えはある……! しかし、この程度で倒せる相手ではありませんが……何事も積み重ねが大事だというもの)

 

「……ぐ……が……あぁ……ッ!」

「……?」

 

 自分の想定以上のダメージを受けている様子のマジェコンヌに困惑するギンガ。

 すると、マジェコンヌは変身を解除し、普段の姿に戻った。

 

「マジェコンヌ……? 何のつもりだ……?」

「……ギンガ! 今のうちに私を殺せ!」

「何……?」

 

 変身を解除したと思えば自分を殺すように呼びかけてきたマジェコンヌに、ギンガは更に困惑する。

 

「……お前……そうか、お前が本当のマジェコンヌか!」

 

 困惑しながらも、マジェコンヌの魂そのものを見たギンガは、今のマジェコンヌこそ自分の知るそれだと気づいた。

 

「ならばさっきまでの一体……?」

「詳しく話してる時間はない! お前の攻撃の影響で一時的に身体の主導権を取り戻せたが、『こいつ』は貴様が思っている程度の存在ではない……! 再び『こいつ』が身体の主導権を握り返す前に、私を殺せ!」

「……わかった」

 

 ギンガはマジェコンヌの意を汲み、剣を握り直してマジェコンヌに向ける。

 そして振りかかろうとした……が。

 

「……っ!」

 

 直前、ギンガの脳裏に、マジェコンヌとの記憶が走った。

 ギンガとマジェコンヌは、初めは敵対しており、何度も戦ったが、世界の滅亡を防ぐために何度か共闘もし、互いを気に入らないながらも理解し合うような奇妙な信頼関係を築いた仲であった。

 加えて、主にネプテューヌの影響で非情さを失いつつあるギンガには、無抵抗のマジェコンヌを殺すことができなかったのだ。

 

「……この阿呆め……私に下らない情を持ちおって……」

 

 マジェコンヌは複雑な表情でそう吐き捨てると、再び禍々しいオーラに包まれ変身した。

 つまり、身体の主導権を奪い返されたのである。

 

「……まさか、身体の主導権を奪われるとは……やってくれたな、女神擬き……!」

「……」

「遊びは終わりだ。貴様はここで殺しておく」

 

 マジェコンヌは邪悪なエネルギーを溜め、辺り一帯をギンガごと消し飛ばそうとする。

 

(私は奴を……マジェコンヌを殺したくはない……しかし、殺さないにせよ動きは止めなくてはなりません……だが、生易しい攻撃では止められはしない……ならば!)

 

 ギンガも、ネプテューヌリングに込められた加護のエネルギーを全開放する。

 更に自身の魔力も全開にし、その全てを身にまとい、炎のような輝きを放ち始める。

 

「……『ギャラクティカ……エクスプロージョン』‼︎」

 

 そして技名を叫ぶと同時に、マジェコンヌがエネルギーを溜め終わる前に、突撃し……

 

「……ッ⁉︎」

 

 ……解き放たれたギンガのエネルギーを起点に爆発が起こり、マジェコンヌのエネルギーにまで誘爆し、辺り一帯が爆風に包まれた。

 

 

 

 

「ギンガさん……爆発しちゃった……」

「なんでよ……! 死なないで、って言ったのに……!」

 

 船の上から双眼鏡でギンガとマジェコンヌの戦いを見ていたマホとアンリは、国を捨てて逃げてしまった上に、足止めを任せたギンガが爆散したことにより、失意の底に陥っていた。

 

「これじゃ……プラネテューヌの女神……ネプテューヌさんにどう顔を合わせればいいの……?」

「マホ……」

「女神候補生のネプギアちゃんにも……こんな様じゃ『友達になって』なんて言えないよ……」

 

 涙を流すマホを、アンリは抱きしめながら頭を撫でる。

 

「あなたが悪いわけじゃない。だから……泣かないでマホ」

「……ごめん、ありがとあんりー」

「そろそろプラネテューヌに着くわ。泣かないでって言ったけど、それまでは泣いてていいから」

「うん……」

 

 

 

 

 爆発が収まり、爆風と煙が晴れる。

 

「……チッ」

 

 ギンガの自爆特攻によるダメージの影響か、変身形態を維持できず、普段の姿に戻ったマジェコンヌ。

 しかし、その肉体はやはり『何者か』に奪われたままではあった。

 

「まさか……肉体だけでなく魂に届く斬撃を放てる者がいるとはな……私が知る限り女神ですら行えん芸当だが……」

 

 マジェコンヌは再び変身しようと身体に力を入れるが、エネルギーが足りずに何も起こらない。

 

「肉体のダメージが……このままではことを為せんな。しばらくは潜むしかない……か」

 

 マジェコンヌは人のいなくなったぴーしー大陸の大地に降下し、自らを一時的に封印させ、体力とエネルギーの回復を図った。

 

「何であれ、私が存在している以上、世界を滅ぼし破壊することは変わらん。そして今度こそ……貴様の全てを踏み躙り、嬲り殺しにしてやる…………ネプギア……‼︎」

 

 

 



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03. 予兆の光闇

 

 

 

「ぴ、ぴーしー大陸の女神候補生のマホ、です。こ、この度は、避難民の受け入れなど諸々、本当にあ、ありがとうございます!」

 

 失意を振り切り、勇気を振り絞り、マホは国の代表者である女神として、ネプテューヌとイストワールに感謝の言葉を述べる。

 

「大変だったね。ここまでくれば大丈夫だよ」

「でも、私たちを逃すために、ギンガさんは死……」

「生きてるよ、ギンガは。だって私が死ぬことを許可してないもん」

「えっ」

「だから生きてるし、君のせいじゃない」

 

 ネプテューヌとギンガの間に、信頼という言葉以上の関係性を察したマホは、それ以上ギンガに対しては何も言わないことにした。

 

「避難民の皆さんには、当面の間臨時の避難所で生活してもらうことになります。しかし、人数のキャパシティがあるので、他の国の女神様にも協力してもらうことになるでしょう。連絡はしていますし、皆さん協力してくれると言っていますから」

「ありがとうございます」

「いえいえ、こんな時ギンガさんなら『女神様は助け合い』と言うのでしょうし、勿論私もそう思っていますから」

 

 イストワールとアンリは、早速今後のことなど真面目な話を始める。

 そんなネプテューヌたちを、物陰から覗く候補生が一人。

 

「ネプギアったら、そんな物陰でウズウズしてないで、出てきなよ」

「えっ! あっ、うん……」

 

 ネプテューヌたちにはバレバレだったようで、声をかけられて出てきたのは、プラネテューヌの女神候補生ネプギア。

 

「えっと、女神候補生のネプギアです。よろしくお願いします」

「ネプギア……ちゃん。よ、よろしくお願い……します」

「もー、ネプギアもマホちゃんも、同じ女神候補生なんだから、そんなにかしこまらなくたっていいじゃん」

「そ、そうだよね。あの、マホさ……マホちゃん!」

「はい!」

「こんな時に言うのもアレかもしれないけど、私たち、友達になろうよ! 同じ候補生だし、色々助け合えるかもしれないから」

「……!」

 

 ネプギアの言葉を聞いたマホは、瞳から涙を零した。

 

「えっ、ど、どうしたのマホちゃん⁉︎」

「その……実は、あーしずっと前からネプギアちゃんに会いたいなって、友達になりたいなって思ってて……! 夢だったんだ。ネプギアちゃんみたいに候補生同士で仲良く過ごしたりするのが。だから……こんな時でも、その夢が叶ったのが嬉しくて……ねぇネプギアちゃん。その……『ぎあちー』って呼んでもいい?」

「ぎあちー……?」

「友達ができたら、そんなあだ名を付けたいって思ってたから……ダメ?」

「ううん! 良いよ! ありがとうマホちゃん!」

 

 過去のぴーしー大陸の習わしにより、他者と接することなく生きてきたマホに、この日初めて同じ女神の友達ができた。

 

「良かったね、マホちゃん」

「そうですね。女神様の友情というものは、いつ見ても尊いものです」

「ギンガから見ればそうだよね……って、ギンガ⁉︎」

 

 ネプテューヌの隣に立っていたのは、ぴーしー大陸にてマジェコンヌに自爆特攻を仕掛けたはずのギンガだった。

 

「はい。あなたのギンガです、ネプテューヌ様。帰りが遅くなってしまい申し訳ありませんでした」

「ギン……」

「おおっと、お待ちくださいネプテューヌ様」

 

 抱き付こうとするネプテューヌを、ギンガは急いで制止する。

 

「私今、全身水浸しでございまして。何せぴーしー大陸から泳いで帰ってきたので」

「関係ないもん」

 

 ギンガの制止を振り切り、思い切り抱き付くネプテューヌ。

 

「死んでないとは思ってたけど、あまり心配かけさせないで」

「はい。申し訳ありませんでした、ネプテューヌ様」

「いっぱい撫でないと許さない」

「濡れますよ?」

「いい」

 

 周りそっちのけでイチャつくギンガたちを、気まずそうに眺めるマホと、微笑ましそうな表情で眺めるネプギア。

 

「ねぇぎあちー。アレ何? 相思相愛カップル的なやつ?」

「違うけどもう似たようなものかな」

「ていうかその……ギンガさん?」

「はい」

「失礼かもしれないけど、思いっきり爆散して……ましたよね?」

「ご心配なく、アレは元々そういう技です」

 

 『ギャラクティカエクスプロージョン』は、自らの身体をエネルギーに変えて爆発する技であるが、爆発後に拡散したエネルギーを再構築して肉体を再生できる。つまり、敵への攻撃と離脱の両方を行える技なのである。使用後にしばらく戦闘が行えなくなるという欠点はあるが。

 ギンガはマジェコンヌへの攻撃後、海中にて身体を再構築し、潜水してマジェコンヌから身を隠しながらプラネテューヌまで泳いで帰ってきたのだ。

 

「あの局面ではあの技が最適でしたので。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした、マホ様、アンリさん」

 

 謝るギンガの横顔に、タオルを投げつけるイストワール。

 

「へぶっ」

「とりあえず着替えてきたらどうですか? 部屋中が水浸しになりますから」

 

 そう言ったイストワールの表情は、ギンガが生きていた喜びでの笑顔ではありながらも、ギンガが無茶をしたことや生きていることを自分に交信せずに黙っていたことへの憤りも感じられた。

 

「……そうします」

 

 ギンガもそれを察し、素直にイストワールに従う。

 数分後、着替えたギンガが皆の元に戻り、事の詳細を話す。

 

「とりあえず、ギンガさんは何と戦ったのですか?」

「マジェコンヌです」

「マザコングと……? あのおばさんまだ何か悪いこと企んでたってこと?」

「いいえ、違います。奴はマジェコンヌであってマジェコンヌではありません。細かいことは分かりませんが、何者かに身体を乗っ取られていると考えた方がいいでしょう」

「乗っ取られている……って」

「私の攻撃の影響で、一時的に奴を呼び覚まされ、その本人から聞いた情報なので、間違いではないでしょう。その時、奴は私に殺すように言いました。結局私に奴を殺すことはできなかったのですが。情けないものです。あんなやつに情を持ってしまうとは……」

「……そっか」

 

 ネプテューヌは、少しだけ安堵していた。

 ギンガから非情さが失われていたことは、ネプテューヌにとっては好ましいことだった。

 そしてネプテューヌだけでなく、ギンガとマジェコンヌの関係性を知らないマホとアンリを含め、その場にいたもの全てがギンガを咎める気はなかった。

 

「私が与えたダメージの影響で、しばらくは奴も下手に動けはしないはずです……が、敵の正体がわからない以上、私たちは後手に回るしかない現状ですね……」

「何か悪いことをしだした瞬間に、本気でこらしめに行くしかないかぁ。いーすん」

「なんですか?」

「いつでもハイパーシェアクリスタルを使える状況にしておきたいな。アレの管理は今いーすんに任せてるじゃん?」

「ネプテューヌさんがギンガさんとの模擬戦で乱用しますからね。一度ならず何度も」

「わたし悪くないもーん。わたしを昂らせるギンガが悪いかな」

「はい、私のせいです。ネプテューヌ様は悪くありません」

「ギンガさんはそうやってまたネプテューヌさんを甘やかす……ですが、わかりました。ハイパーシェアクリスタルはネプテューヌさんに返しておきますね」

「ありがといーすん!」

 

 それから数週間。

 避難民の受け入れを四大国で分配し、また四大国でぴーしー大陸の復興計画を進行させながら、マジェコンヌの捜索も続けていた。

 しかし、マジェコンヌの目撃情報はどこの国からもなかった。

 

「平和だねー」

「ええ、平和ですね。平和すぎるほどに」

「マザコングが何かしてくると思ってたけど、何もしてこないね」

「私の攻撃の影響を鑑みても、数週間も行動不能になるとは思えないのですが……」

「何か策を練ってるのかなぁ?」

 

 この数週間、マジェコンヌに警戒し続けているギンガとネプテューヌであったが、あまりにも何も起こらないため、ギンガはともかくネプテューヌの気は少し緩み始めていた。

 

「そんでね、このパーツとこのパーツを組み合わせれば、出力が二倍どころか二乗になるってこと!」

「すごいよマホちゃん‼︎」

「と言っても、システムの同調が上手くいかないから、その出力上昇は机上の空論でしょ?」

「もー、あんりーったらロマンがないなぁ」

 

 そんなネプテューヌたちの側で、謎の機械談義で盛り上がっているネプギア、マホ、アンリの三人。

 アンリはともかく、マホはネプギアとの交流を通じてすっかり持ち前の明るさを取り戻していた。

 

「こうなったらさ、あーしたちで作っちゃえば良いんじゃない? そのマジェコンヌ……? ってやつを探知するレーダーみたいなの」

「それ……良いかも。私とマホちゃんとアンリちゃんで協力すれば、上手くできるかもしれない!」

「悪くはないと思うけど、その肝心のマジェコンヌを探知するためのモノはどうするの? 何か特別な周波数を出しているとかなら簡単だけど……」

「そうだよね……あの、ギンガさん」

「どうしましたか、ネプギア様」

「マジェコンヌの痕跡を辿るためのモノって聞いて、何か思い浮かぶものはありますか?」

「ふむ……そういえば……思い当たるものはありますね」

「あるんですか? それは一体?」

「ナスです」

「「「「な、ナス……?」」」」

 

 ギンガの口から出た予想外の言葉に驚く三人と、心底嫌そうな表情をするネプテューヌ。

 

「奴の作るナスは極めて微量ながら魔力を有しており、その魔力はマジェコンヌの魔力に酷似しています。つまり、奴はナスからエネルギーを回収できるのです。おそらく、それが奴がナス栽培を続けていた理由の一つなのでしょう。奴のナスの魔力を感知するレーダーを作れば、奴の居場所を突き止めることができるかもしれませんね」

「なら、早速マジェコンヌ農園のナスを買いに行きましょう!」

 

 

 

(ギンガ……奴は私を殺すことができなかった。となれば、女神どももその保証はない。それではダメなんだ。そもそも私は女神どもの味方などではなかったはずだろう。討つか討たれるか。私たちはそうだったじゃないか。私も……覚悟を決める時か)

 

「随分と大人しくなったな。私に身体を渡さんと抵抗を続けることが無駄だとようやく理解したようだ」

 

『黙れ……』

 

「ふっ……さて、あの男から受けたダメージも回復し、以前よりもこの身体が私の魂に馴染んできた。まさかこんな植物を食べることで私の魔力が回復できるとは思わなかったがな」

 

『……』

 

「下準備も済んだ。そろそろ始めよう。この世界を……破壊する……!」

 

 

 



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04. 失われし光

 

 

「ネプテューヌ様はどちらへ行かれたのでしょう?」

「ナスを使った研究するって言ったら、部屋に閉じこもっちゃって……」

「そうですか。しかし、あのネプテューヌ様が閉じこもるだけでナスの研究をする自体は許可するとは。普段ならゴネて研究自体させないように仰ると思っていましたが……」

 

 もしこれがネプギアとギンガによる開発だったならばネプテューヌはもう少しゴネていたかもしれないが、ネプギアが新しくできた友人たちとの共同開発することに水を差すべきでないというネプテューヌなりの配慮なのだろう、とギンガはネプテューヌの真意を察する。

 

「できたぁ! 『ナス探知機』! 見て見て、ギンガさん!」

「ほぅ、良いですね。しかし、紫色の部分にもう少し光沢があると更に良くなるでしょう」

「なるほど! 機能も重要だけど、見た目も大事ですもんねー!」

「とりあえず、試運転しよっか?」

「おっけーぎあちー! よーし、早速、スイッチオ……」

 

 マホが装置を起動する直前、巨大な揺れがプラネテューヌを襲う。

 

「……っ⁉︎」

「なんだ……何が起こった……?」

「見て、アレ‼︎」

 

 ネプギアが指を差した方向は、空が黒く淀み要塞のようなダンジョンが隆起し始めていた。

 それに呼応されるように、ナス探知機のセンサーがけたたましく音を立てる。

 

「あそこから高エネルギーのナスと似た反応を探知しています……」

「ということは……」

「あれはマジェコンヌの仕業だね!」

「探す手間が省けました。マジェコンヌ、今度こそ決着をつけてや……」

「ちょっおぉっと待ったぁ‼︎」

 

 ギンガが要塞に突撃する意思を見せたその時、引きこもっていたネプテューヌが部屋から飛び出て、ギンガを制止する。

 

「ネプテューヌ様……?」

「わたしが行くって言ったでしょ。ギンガは待機。ネプギアたちもね」

「しかし……」

「大丈夫。ノワールたちも向かってるらしいし、チャチャっと片付けてくるよ」

「……かしこまりました」

「……ネプギア」

「お姉ちゃん……?」

「何かあった時は、任せたよ。ないと思うけど! ……じゃあ行ってくるわね!」

 

 ネプテューヌは女神化し、そのダンジョンへと飛んで行った。

 

「お姉ちゃん……それフラグ……」

 

 

 

 

「ノワール!」

「ネプテューヌ、遅いわよ」

「あなたが一番近かったからでしょう? ブランとベールは?」

「今向かってるって。それにしても……なんなのよアレ……」

「マジェコンヌが関係してるらしいわ」

「あいつが? 性懲りも無くまた悪事を重ねようってわけ?」

「そういうわけじゃなさそうだけど……」

 

 パープルハートたちの元に、二方向から接近してくる白と緑の光。

 

「よ、お前ら」

「もう来ていらしてたのね」

 

 ホワイトハートとグリーンハートも駆けつけてきた。

 

「アレが例の変なダンジョンか……」

「なんでしょうね……この、見ていると気分が悪くなってくる……まるで、わたくしたちと相反する性質のような……」

「とりあえず、あの中にいる奴を叩けばいいんだろ?」

「でしょうね。わかりやすくていいじゃない」

「敵の根城に突撃するわけだから……危険よ。みんな、大丈夫?」

 

 あまり時間をかけすぎると国民たちの不安を煽りシェアに影響が出てくる可能性があるため、四女神は危険を承知でダンジョンに乗り込む。

 

「何かあった時はあの子達がいるから大丈夫よ」

「……それもそうね」

 

 そして、自らに何かあった時に後を託せる者がいる。

 

「……わたくしにはいませんけれどね」

「じゃあやばかったらお前だけ逃げてもいいぞ」

「そういうわけにもいきません。帰る時はみんなで、ですわ」

「そうだな」

「じゃあ、突撃するわよ!」

「ええ!」 「ああ!」 「はい」

 

 ダンジョンに突入した四女神は、モンスターを軽く捻じ伏せながら、奥へと進んでいく。

 

「ふむ……そこらの雑魚モンスターよりはやるようですけれど……」

「私たちの敵ではないわ」

「思ったより手応えがねえな」

「みんな、アレを見て!」

 

 パープルハートが指を差した方向、ダンジョンの奥には、マジェコンヌが佇んでいた。

 

「マジェコンヌ……っ」

「来たか……女神ども」

「あなたは何者⁉︎ マジェコンヌではないんでしょう⁉︎」

「私も『マジェコンヌ』さ。しかし、貴様らの知る『マジェコンヌ』ではないだろうな。何せ、この次元には『ギョウカイ墓場』も存在せず、わざわざこうして一から作らなければならなかったからな」

「『ギョウカイ墓場』……?」

「さて、私の正体だったか? 知りたいのならば教えてやろう」

「……!」

 

 四女神はマジェコンヌの言葉に耳を傾ける。

 

「私は『犯罪神』と呼ばれていた者。名乗るならば『犯罪神マジェコンヌ』だ」

 

 『ギョウカイ墓場』そして『犯罪神マジェコンヌ』。

 どこか別の次元の四女神ならば聞き馴染みのある女神にとっては忌々しきその言葉だったが、この次元の四女神にとってはどれも初めて聞くものであった。

 

「犯罪……神……?」

「ブラン、何か知っていて?」

「私は辞書じゃねーぞ。ていうか知りもしねえし」

「それでも、私たちの敵であることに変わりはないわ」

「神なんつー大層な名前がついてるからには、最初から本気でいかせてもらうしかねえな」

「ええ、行きましょう」

 

 ブラックハート、ホワイトハート、グリーンハートはハイパーシェアクリスタルを手元に顕現させる。

 

(ギンガ……あなたには背負わせないために、マジェコンヌは……私が倒す!)

 

 続けてパープルハートもハイパーシェアクリスタルを掌の上に顕現させた。

 

「『ネクストプログラム』、起動!」

「……」

「……」

「……」

「……え?」

 

 しかし、ハイパーシェアクリスタルは四女神に反応することはなく、その輝きは失われてしまっていた。

 

「どうなってやがる……?」

「ハイパーシェアクリスタルが……」

「使えない……⁉︎」

「知っているぞ? 『ネクストフォーム』、だろう? 今の私ではその変身で四人がかりで来られればひとたまりもないのでな。少し策を練り封じさせてもらった。そして、ネクストフォームのない貴様ら四人ならば、私一人で葬ることも容易い」

「舐めやがって……!」

「その言葉、後悔させてあげるわ!」

 

 

 

 

「まずい……侵食が始まっています……!」

「どういうことですか?」

「あのダンジョンから漏れ出たエネルギーが、ゲイムギョウ界を蝕んでいっています。マジェコンヌめ……今まで表立った行動をしていなかったのはアレの下準備のためか……!」

 

 人並外れた感覚を持っているギンガは、『ギョウカイ墓場』から滲み出るエネルギーの性質をなんとなく理解していた。

 『侵食』……『犯罪神マジェコンヌ』の邪なエネルギーが『ギョウカイ墓場』を起点にゲイムギョウ界中に散らばっているのだ。

 

「ネクストフォームの四人がかりならば、今のマジェコンヌを倒すことは容易いでしょう。しかしマジェコンヌもそれを分かっていたからこそ……この侵食により人間と女神のシェアの流れを阻害させたのです。今、ゲイムギョウ界はシェアとマジェコンヌの侵食による綱引きのような状態となっています。この状態ではまだ女神様の生命力に影響はありません。しかし……」

「ネクストフォームになれない……ということですか?」

「はい……」

 

 ネクストフォームはその絶大な力を引き出すために、通常の女神化以上にシェアの流れが重要である。

 マジェコンヌの計画は、直接女神そのものを弱体化させるのではなく、シェアの流れを阻害し間接的に力を奪うことだった。

 

「イストワール! 私もあのダンジョンへ向かいます!」

「『ギャラクティカエクスプロージョン』の影響で戦闘力が戻っていないギンガさんが向かって何ができるのですか?」

「それは……」

「焦る気持ちは分かります。ですが、ギンガさんが今すべきことはそうではありません、よね?」

「……すみません。ありがとうイストワール」

「いいえ」

「ネプギア様」

「はい!」

「ユニ様、ロム様、ラム様を呼び、今のうちから作戦を練ります。いきなりで申し訳ないのですが、マホ様とアンリさんも協力してください」

「モチのロン!」

「かしこまりました」

 

 ギンガは、今集められる戦力を集中させ、事態の打開を図る。

 

(……侵食は女神様を弱体化させるにはうってつけの策だ。だが、女神様を倒すためのものとしては少々回りくどく、ゲイムギョウ界への影響も多くはない。おそらくは、次なる手があるはずだ……!)

 

 

 

「はぁ……はぁ……クソッ!」

 

 四女神は苦戦を強いられていた。

 

「わたくしたちが与えたダメージが即座に回復する……これでは、キリがありませんわ……っ!」

 

 ギョウカイ墓場の邪気により、四女神がマジェコンヌへ与えたダメージは即座に回復され、終わりの見えない戦いに、四女神は疲弊してきていた。

 

「ネクストフォームの火力がなきゃ、一撃でマジェコンヌの体力を削り取れない……!」

 

 通常の女神化も決して弱くはない。しかし、マジェコンヌを倒し切るには少々パワー不足が否めなかったのだ。

 

「言っただろう? ネクストフォームのない貴様らを葬るなど容易い、と。私は根拠のない強がりは言わん。このまま貴様らの疲弊が進んだところを突けば良いだけのこと」

「……っ!」

「安心しろ。貴様らだけを葬るわけではない。このゲイムギョウ界ごと滅ぼしてやろう」

 

 マジェコンヌが足元に歪な魔法陣を展開すると、大地と空が揺れ始めた。

 

「何をしたの……⁉︎」

「次元融合、と言えばわかるかな? この次元座標のすぐ近くに、うってつけの次元があったからな」

「うってつけの次元……? まさか……!」

「心次元ね……っ!」

「名称は知らんが、おそらくは貴様らの想定しているものに違いはない」

「心次元をどうする気⁉︎」

「この次元にぶつけるのさ。そうなればどうなるか……貴様らの想像するのも容易いだろう?」

「……っ!」

 

 異なる次元が同一座標に存在する時、次元同士は一度崩壊を起こし、一つの次元となる。

 かつて猛争事変の黒幕『暗黒星くろめ』が改革していた超次元の滅亡と同じ計画であった。

 

「やめなさい!」

「そう言われてやめるとでも?」

「この……っ」

 

 女神たちに次元融合を止める手段はない。

 

「このままじゃ……ゲイムギョウ界が……!」

 

 ネクストフォームへの変身が封じられている以上、マジェコンヌを止めることもできない。

 万事休すと思われた。

 

 

 

 

「やはり……次元座標が再び近づいています」

 

(次元融合……これが奴の策か……!)

 

 ギンガたちも次元融合を察知していた。

 

「私たちでは止めることはできません……っ」

「そんな……ゲイムギョウ界が……」

 

 しかし察知したはいいものの、ギンガたちにも止める手段はない。

 マジェコンヌを止めようにも、今からギョウカイ墓場に行ってマジェコンヌを倒せたとしてももう間に合わないこともわかっていた。

 

「……諦めるのはまだ早いぜ!」

 

 その時、プラネテューヌ教会に"ある人物"が駆けつけた。

 

「あなたは……」

「うずめさん!」

 

 現れたその人物とは『天王星うずめ』。

 心次元の成り立ちとなる過去のプラネテューヌの守護女神。

 

「今から俺が心次元に乗り込み、心次元を切り離す。心次元は俺の心の次元、俺にならできるんだ。本当なら次元融合の影響を零にもできるんだが……それをするには足りねえんだよな、【オレ】の分の力と神格ってやつが……」

「……お待ちくださいうずめ様、心次元を切り離す際、あなたは心次元に渡る必要がある筈。もし心次元に渡った後に切り離してしまえば……あなたは超次元に戻って来れなくなります……!」

「そうです! そして、あの渦巻き型のゲーム機からはもう次元を繋ぐ機能は失われています。うずめさんは独りで心次元を彷徨うことになるんですよ……⁉︎」

「やっぱギンガとイストワールにはそれがバレちまうかぁ。けど、俺はやるぜ。今はそれしか方法がないんだ」

「しかし……!」

「わかりました……!」

 

 ギンガとイストワールに代わってうずめの覚悟を受け入れたのはネプギアだった。

 

「うずめさんが決めたことなら、私は反対しません。けど、約束してください。必ず……戻ってくるって!」

「ああ!」

「もし戻って来なくても、私たちが何としても探しだしますから」

「そりゃ心強いな」

 

 ネプギアが「良い」と言ったならば、ギンガはもう口を挟むことはしなかった。

 イストワールもネプギアとうずめの意を汲み、うずめの提案を受け入れる。

 

「よし、ちょっくら行ってくる!」

 

 そして、うずめは単身、心次元に乗り込んだ。

 

 

 

 

「……俺の心の中とはいえ、久しぶりだな」

 

 うずめ自身も、心次元に立つのは久しぶりだったようで、猛争事変を思い出し、感傷に浸る。

 

「おっと、感傷に浸っている暇はねえな。早速次元を切り離すか」

 

 うずめは心次元と超次元のリンクを断ち切り、次元融合を停止させた。

 そしてその瞬間、うずめは超次元に帰還する手段を失った。

 

「……これでオーケーだな。そしてこれで独りか。ははっ、俺も弱くなったな……独りぼっちがこんなに寂しいなんて」

「……ならば、俺が話し相手になろう」

 

 そんなうずめの後ろに人影ならぬ魚影が一つ。

 

「う、海男⁉︎ お前なんでこんなところにいるんだよ⁉︎」

「次元融合が始まったことをヒレのレーダーで感じ取ってね。ならば君がこうするだろうと思って、予め心次元に来ていたのさ。君を独りにさせないためにね」

「……良かったのかよ? 超次元に戻れる保証なんてないんだぞ?」

「いいや、戻れるさ。さて、お茶でも飲みながら、ねぷっちたちの勝利を祈ろうじゃないか」

「……そうだな。ありがとうな、海男」

 

 

 

 

「次元融合が……止まっただと……?」

 

 うずめが心次元へ飛んだ直後に地鳴りが止むと、マジェコンヌは融合が止まったことを確信した。

 

「まぁ良い。ゲイムギョウ界滅亡の手段は幾らでもある。その内の一つが無駄になったに過ぎん」

 

 そして、満身創痍の四女神の方に向き直す。

 

「さて、今の貴様らを消す"だけ"なら容易いが……ゲイムギョウ界ごと破壊するには今ここで貴様らを消すわけにもいかんか……女神だけ消したところで、人間の信仰心があれば女神など幾らでも生まれる。そうでなくても候補生という存在もいる以上、今ここで貴様らを消すのは得策ではない」

 

 あくまでもマジェコンヌの計画の最終地点は、ゲイムギョウ界の滅亡であり、女神の排除は必須ではない。その先にはある女神への憎悪が秘められてはいるが。

 今すぐ女神という信仰の行き先を消してしまうと何が起こるかわからないことから、次元融合が失敗したことも加え、慎重に事を進めようとしていた。

 

 



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05. 虚無の再来


 久しぶりです。



 

 

「あなたマホちゃんっていうのね! わたしはラムちゃんよ! ルウィーの女神候補生! よろしくねー!」

「ルウィーの女神候補生、ロムだよ。よろしくね……!」

「初めまして、あたしはユニ。ラステイションの女神候補生よ」

 

 姉たち守護女神がギョウカイ墓場へと向かったことを受け、女神候補生たちは今後の行動について話し合う為にプラネテューヌに集合していた。

 そして、そこで丁度マホとの顔合わせもすることにしたのだ。

 

「ちょ〜嬉し〜、あーし今日でこんなに友達増えちゃった〜!」

「マホちゃんあそぼー!」

「あそぼ?」

「こらラム、ロム。あたしたちは遊ぶ為に集まったわけじゃないのよ」

「「はーい……」」

「ギンガさん。状況はどうなんですか?」

「かなり……厳しいと思われます」

 

 

 

 

「何を……企んでいようと……」

 

 疲労困憊、女神化を維持するだけで精一杯の身体をなんとか持ち上げ、パープルハートは立ち上がる。

 

「あなたの好きにはさせない……!」

「無駄なことを……」

 

 一撃で倒せない限り、マジェコンヌはすぐに回復してしまう。そして、今のパープルハートにマジェコンヌを一撃で倒す攻撃力はない。

 避ける必要もない攻撃。マジェコンヌは足を動かすことすらせず、ただ棒立ちで受けようとする。

 

「ネプテューヌ!」

「無茶よ!」

 

(どうしてギンガにはこのマジェコンヌを弱らせることができたのか……その答えは"これ"しかない!)

 

「……『ギャラクティカエッジ』ッ‼︎」

「……っ⁉︎」

 

 パープルハートが技名を口にすると、マジェコンヌが焦る。

 しかし、避ける猶予は既に無く、技が直撃した。

 

「……っ、ぐ……おぉっ!」

 

 仰け反ったマジェコンヌは、今までダメージを受けた時にはしなかった苦しみ方を見せる。

 『ギャラクティカエッジ』は、魂にまで響く斬撃。

 身体へのダメージはすぐに回復できるマジェコンヌだが、魂へのダメージはそうはいかない。

 初めて消耗を見せたマジェコンヌに対し、追撃を加えようとするパープルハートだが……

 

「…………っ、そんな……変身が……っ!」

 

 遂に体力が尽き、女神化が解けてしまった。

 

「く……ふぅ……威力は高いが……あの男のものに比べると鋭さに欠けるな……お陰で、我を失わずに済んだ」

 

 魂への攻撃をクリーンヒットされたマジェコンヌは、力尽きて仰向けに倒れるネプテューヌと、膝をつくノワールたちに目を向けた後、その場に座り込む。

 

「あいつ……私たちに攻撃してこなくなったわね……」

「どういうつもり……?」

「……その隙をつけるほどの体力がもう私たちに残ってねえのが問題だかな……」

 

 外傷をほぼないマジェコンヌだが、想定外のダメージを食らってしまったため、これ以上戦闘を長引かせたくないからか、女神たちに直接攻撃をすることをやめた。

 先程のネプテューヌのように、最後の力を振り絞った反撃に、想定外のダメージを喰らうことを恐れたからだ。

 

「……少し、甘く見過ぎたか」

 

 マジェコンヌが女神たちに方に手を翳すと、触手のようなモノが発生し女神たちを拘束する。

 

「きゃあっ!」

「くっ、またこのような辱めを……!」

「離しやがれ……っ!」

 

 あくまでも拘束、ダメージはなく、屈辱があれど、女神たちは体力の維持をするために無駄な抵抗はせずにいた。

 おそらくマジェコンヌが自分たちを殺す気ならばとっくに死んでいてもおかしくない状況。下手に行動するより、少しでも時間を稼ぎ、待機している女神候補生に充分な時間を与えようとしているのだ。

 

「……やはり、貴様らより先に奴らを処理するべきだな」

「……っ!」

 

 しかし、そんな女神たちの思惑を、マジェコンヌは看破している。

 

「とはいえ、私にも今から貴様らの妹たちを殺しにいけるほどの余力はない。だから、代わりにその役割を果たすモノを作ることにした」

「作る……?」

「『墓場』の名の通り、ここは現世と幽世を繋ぐ場所。私の力を使えば、地獄に眠る死者の魂を掬い上げることもできる」

 

 マジェコンヌは地面に手を置き、魔法陣を展開する。

 

「とはいえ、幽世に眠る魂など有象無象に過ぎんが……む? ほぅ、使えそうなのが二つ」

 

 マジェコンヌは、幽世から二つの魂を掬い上げ、自らの魔力で身体を復元させる。

 一つは『ジャッジ』。かつてギンガに鏖殺された巨大なモンスター。

 もう一つは『ブレイブ』。かつてギンガとアイエフに討たれた巨大なロボット型モンスター。

 

「こいつらは……」

「ふむ、悪くない完成度だな。さて、プラネテューヌへと向かえ。そして、候補生たちを無きものとしてしまえ。そうだ、ネプギアだけは殺すなよ。奴は私が自分の手で嬲り殺しにしてやるのだから……」

 

 ジャッジとブレイブはギョウカイ墓場から飛び立ち、プラネテューヌへと向かった。

 

「さて、我が眷属がゲイムギョウ界を破壊し尽くすか、貴様らの妹が食い止めるか。お互いここで高みの見物といこうではないか」

「悪趣味な……っ!」

 

 

 

 

「お姉ちゃんたち、大丈夫かな……」

「……」

 

 変わらず暗く淀んだギョウカイ墓場を見つめならば心配そうに呟く候補生たちに、ギンガは何も言うことができない。

 一度戦った身だからこそ、ギンガには今のマジェコンヌの強さがわかる。そして、ネクストフォームを封じられた女神たちに今のマジェコンヌを倒すことができない、ということも。

 

「……勝つことはできないでしょう」

 

 そんなギンガの心情を理解したイストワールが口を開いた。

 

「ネクストフォーム無しでは、今のマジェコンヌにネプテューヌさんたちは勝てないでしょう。勝てるのならば、最初の遭遇でギンガさんが終わらせています。しかし、勝てないことは戦わない理由にはなりません。それが『守護女神』という生き方なのです」

「じゃあお姉ちゃんたちは……!」

「大丈夫……とは言えませんが、敗北はしていても、すぐに殺されはしないでしょう。おそらくは数年前のズーネ地区と似たような理由だと思われます」

「ズーネ地区……?」

「お姉ちゃんたちが捕まったところだね」

「それは心次元でしょ?」

「その前だよ、ラムちゃん」

「あー、あの時のね」

「無事なら良かったわ。お姉ちゃんたちが捕まったなら、あたしたちが助けに行く。いつだってそうでしょ?」

「うん!」

「当然よ!」

「行こう、みんな……!」

 

 幾多もの危機を乗り越えてきた女神候補生たちは、もう状況に流されるだけの幼児ではない。姉の失敗は自分たちでカバーする、誰に言われなくても自分たちの意思で行動を始めようとしていた。

 

「なんかぎあちーたちすごい頼もしいんだけど」

「同じ候補生なのにこうも違うのね」

「あんりーひどーい! あーしも変身さえできるようになればなぁ……」

「変身したいっていう意思も大事だけど、変身してどうなりたいっていうのが一番大事だと思うんだ」

「ぎあちー……」

「マホちゃんなら絶対に見つけられるよ。だから、焦らないで頑張ろう?」

「……うん、ありがとうぎあちー」

 

 奮起する候補生たちを、少し離れて見守るギンガとイストワール。

 

「頼もしくなられましたね、候補生の皆様は」

「そうですね。数年前はまだあどけない少女だったのに、今ではすっかり一人前の女神の顔です」

「……先程は助かりました。イストワール」

「別に、私は何もしていませんよ」

「いいえ、あのようなことは私の口から説明するべきなのに、候補生の皆様も悲しむ顔を見たくない、と口を閉じてしまったのです。そんなことをしても意味はないと言うのに……私も弱くなったものです……」

「そうですね、私もギンガさんは昔より優しくなったと思います。そして、たとえそれが弱くなっているとしても、私は悪いことだとは思いません」

「そうですか…………っ⁉︎」

 

 その瞬間、ギンガは急速に接近してくる二つの強大なエネルギーを感じ取った。

 そしてすぐに、プラネタワーのサイレンがけたたましく音を立てる。

 

「……っ、職員は退避させろ! 衛兵は民間人の避難を! ここに落ちてくるぞ‼︎」

 

 ギンガはすぐにプラネタワー中に伝達し、候補生と自分たち以外の全ての人間をプラネタワーから避難させようとする。

 

「ネプギア様、ユニ様、ロム様、ラム様、戦闘の準備を! この反応、おそらく敵です!」

「「「「はい!」」」」

「マホ様とアンリさんは避難を! イストワール、普段ネプテューヌ様があなたから逃げるために使っている隠し通路を教えます。そこからお二人を逃してください!」

「そんなものが……いえ、わかりました。皆さん、お気をつけて」

 

 ギンガと候補生たちは、イストワールたちがプラネタワーを脱出するのを見届け、臨戦態勢に入る。

 

「……この気配、まさか」

 

 敵の反応は徐々に近づいてくることで、ギンガには鮮明に感じ取れるようになっていた。

 

「『ジャッジ』と『ブレイブ』だと……⁉︎」

 

 自らと因縁のあるそれらの気配を感じ取ったギンガは、動揺を隠せずにいた。

 それもそのはず、この二体は、かつて自分が討った。トドメを刺して消えるところまで見届けたはずなのだから。

 

「会いたかったぜええええ! ギンガぁああああ!」

 

 プラネタワーの外壁を破壊し、叫びながらギンガに斧を振り下ろすジャッジ。

 

「お前……生きていたのか……っ⁉︎」

「蘇ったんだよ! 犯罪神様の力でなああああッ!」

「犯罪神……?」

「ギンガさん!」

 

 ギンガの元に駆けつけようとした候補生たちの前に、ジャッジが破壊した外壁の穴から侵入したブレイブが立ちはだかった。

 

「おいブレイブ! ギンガは俺が殺しても良いよなぁ⁉︎」

「好きにしろ。その男のことは犯罪神様には何も言われていない。俺は女神候補生どもを討つ」

「ブレイブ! お前は私たちと分かり合えた筈……それなのに!」

「貴様のような男など知らん。全ては犯罪神様のため」

「……っ」

 

 ギンガはジャッジの攻撃に対応しつつ、頭の中で状況を整理する。

 マジェコンヌに取り憑いた"何か"は『犯罪神』という存在で、『犯罪神』はゲイムギョウ界の滅亡を目論んでおり、その力でジャッジとブレイブを蘇らせた。そして、ジャッジは記憶を残したまま、ブレイブは記憶と心を消して従順な僕として。

 

「……蘇ったのならば、何度でも殺すまで!」

「そう簡単に行くかよ!」

 

 

 

 

 ジャッジとブレイブの視点から送られてくる映像を強制的に見せられている四女神。

 

「あんな奴らに、ユニたちは負けないわ!」

「そうかな? 奴らには私の力を大いに与えておいた。単純な戦闘力だけを見るならば今の私よりも上だ」

「何ですって……!」

「……犯罪神って言ったよね。どうしてネプギアだけを執拗に憎んでいるの?」

「知ってどうする? まぁいい、隠すようなことでもない。教えてやろう。そうだな、私はこの次元の存在ではない」

「……だよね。もしあなたがこの次元の存在だったら、あなたのことをギンガが知らないはずないもん」

「我が使命たるゲイムギョウ界の滅亡……かつて私は自身の生まれた次元でそれを寸前まで持ち込んだ。しかし、当時は矮小な女神候補生如きだったネプギアの手により阻止され、我が肉体は奴に滅ぼされた。我が魂は人間共と女神の想いの力によりゲイムギョウ界から永遠に追放され、次元の狭間を彷徨うことになったのだ。しかし、ある時、次元を彷徨っていた私の魂が、何かに吸い寄せられ、この次元に誘われた。私は、同じ"マジェコンヌ"たるこの身体に取り憑き、今度こそ我が使命を果たすことを誓った。そして、一度私を滅ぼしたネプギアへの復讐もな」

「……でも、あなたの話を聞く限りだと、あなたの復讐したいネプギアはこの次元のネプギアじゃないんでしょ!」

「奴という存在そのものを赦すわけにはいかん。この次元のネプギアを殺し、ゲイムギョウ界を滅ぼした後は、あらゆる次元を超え、あらゆる次元のネプギアを殺すつもりさ」

「……そんなこと」

「『させない』とでも言いたいのだろう? しかし今の貴様に私を止めることはできん」

「……っ」

「だか、私は貴様ら女神や人間たちには少し感謝もしている。以前の私は、ただの邪な力の象徴たる存在でしかなかった。ゲイムギョウ界の滅亡という使命の元に動くだけのな。しかし、貴様らの心とやらに触れ、私も心を知った。憎悪を知った。そして、心のままに力を振るうのは、案外気分が良く、以前よりも強くなれたのだ」

 

 

 

 

 候補生とギンガはジャッジとブレイブの手によって分断され、ギンガvsジャッジ、女神候補生vsブレイブというマッチアップになっていた。

 

「『ギャラクティカエッジ』!」

「効かねえッ!」

 

 犯罪神マジェコンヌから力を与えられたジャッジ相手に、ギンガはギンガネプテューヌへと変身し応戦するも『ギャラクティカエクスプロージョン』の影響で低下したギンガの戦闘力は戻り切っていないこと、そして復活したジャッジの戦闘力が非常に高いことで、苦戦を強いられていた。

 

「妙な変身をするようになったが……もう俺の方が強えようだなァ!」

「……さっさとお前を処理して、候補生の皆様のところへ参らなければなりません」

「あー?」

「出し惜しみしてる暇はありませんね。地獄に送り返してやろう……『シェアリングフィールド』展開!」

 

 ギンガは『シェアリングフィールド』を展開、ギンガのフィールドの効果により、女神を信じていないジャッジの五感は奪われ、勝敗は決する。

 

「……馬鹿が」

 

 ────と、思われた。

 フィールドが展開される直前、ジャッジは全身から邪悪なエネルギーを解き放ち、フィールドを生成していたシェアエネルギーを相殺させ、シェアリングフィールドは不発となった。

 

「なん……だと……⁉︎」

「地獄は退屈だったからなァ。てめえのその技の正体を突き止め、その対策をイメージする時間は幾らでもあった」

 

 シェアリングフィールドを解除した直後、過剰に使用したエネルギーが焼き切れ少しだけ力が抜ける。たとえ不発に終わったとしても、それは変わらない。

 

「そしてェ! 犯罪神様から頂いた力で、そのイメージを具現化させたってわけだァ‼︎」

 

 力が抜けた隙に、ギンガの横腹にジャッジの斧が叩き込まれる。

 

「がぁぅ……っ!」

 

 咄嗟に防御したものの、思い切り吹き飛ばされ、外壁を破壊し、プラネタワーから落下していくギンガ。

 しかし、ジャッジの狙いが自分であることを裏目に取り、あえて落ちながらプラネタワーから人のいない方向へ進んでいく。

 

「く……っ!」

「ははははっ、おらぁっ‼︎」

 

 追撃のために降りてきたジャッジは、力任せに斧を振るだけでなく、衝撃波まで繰り出し、ギンガの体力を削っていく。

 巨体故にただでさえ高い攻撃力と防御力が、犯罪神によって更に強化され、絡め手も通用しない。ギンガにとってはほぼ手詰まりの状況。

 

「『32式エクスブレイド』!」

 

 放った大剣は、いとも簡単に弾かれる。

 

「……っ、『スラッシュウェーブ』‼︎」

 

 繰り出した衝撃波は、斧を振われるだけで掻き消される。

 

「……はっ、こんな奴に二度も負けたのかよ、俺はよ」

 

 ダメージによる蓄積されていく疲労とエネルギーや魔力の消耗により、ギンガの技の威力はどんどん落ちていく。

 ただでさえジャッジに効きづらいダメージが、更に入らなくなっていく。

 

「『デルタスラッシュ』!」

 

 最早ジャッジはギンガの技を防ぐことも避けることもせず、正面から突っ込んで来る。

 

「……っ⁉︎」

「これで、終わりだああああっ‼︎」

 

 そして、邪悪なエネルギーを込めた一撃が、ギンガに振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい? 俺たちに勝って守り抜いた世界だろ? こんな簡単に壊されていいのかよ」

 

 しかし、その斧はギンガに当たることはなかった。

 急に現れたその男が、ジャッジの斧を素手で受け止めていたからだ。

 

「あなたは……」

「あぁ? ギンガの野郎が……二人ぃ?」

「俺をこんなクソカスと一緒にするなよ。俺の名は──」

 

 ギンガと瓜二つの容姿。それは当然である。 なぜなら、その男はギンガの別次元の平行同位体なのだから。

 そう、その男の名は。

 

「──ルギエルだ」

 

 『ルギエル』。

 虚無の暴君が、再び超次元に降り立った。

 

 



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06.逆転の芽吹


 気がつけば前回の投稿から一年近く経っていた



 

「こんな雑魚に手間取ってんじゃねえよカスが」

 

 ルギエルはジャッジの斧を奪い取る。

 

「……ッ⁉︎」

 

 気がつくと自分の体が宙を舞っていたジャッジは、驚きを隠せずにいた。

 巨大な身体ゆえパワーも勝っていると思われた自分が、目の前の人間に力尽くで武器を奪われ、身体を空中に放り投げられたのだ。

 

「っらよ!」

 

 そして、ルギエルは落下してくるジャッジに飛びかかり、斧でジャッジの身体を粉々に破壊していく。

 

「ぐ……ぉおおおおおっ!」

「うっせーな。さっさと死ね」

 

 ジャッジを完全に破壊したルギエルは、斧を放り捨て、気だるそうにスタスタと歩く。

 すると、その後方で、破壊されたはずのジャッジが体を再生させ、立ち上がった。

 

「あ?」

「……へっへっへ、今のは効いたぜぇ? けどなぁ、俺は犯罪神様が生きている限り何度でも甦る! てめえらは死ぬしかねえんだよおおおお!」

「あー……そういう感じ?」

 

 ルギエルは、復活したジャッジの猛攻をひょいひょいと躱しながら、ギンガの元まで後退する。

 

「貸せ」

 

 そしてギンガの剣を奪い取り、邪魔だからと蹴り飛ばす。

 

「ぐふっ」

 

 ルギエルは剣を軽く振り回し、手に馴染ませる。

 そして、剣を構え、ジャッジの懐に潜り込んだ。

 

「……っ!」

「『ギャラクティカエッジ』……だったか?」

 

 ギンガの斬撃『ギャラクティカエッジ』をルギエルも使用し、ジャッジを斬り裂く。

 

「ぐ……おおおおっ!」

「へー、この技、攻撃の動きから再び構えがループするようになってて、相手が死ぬまで連撃できんだ。おもれー」

 

 のけぞったジャッジに、次々とギャラクティカエッジを叩き込むルギエル。

 また、ギャラクティカエッジは魂にまで届く斬撃。

 

「ぐ……なんだ……身体が……元に戻らねえ……っ!」

 

 魂を刻まれた者は、肉体の再生が行えない。

 つまり、決着がついた。

 

「……」

 

 相変わらずの暴力の化身とも言えるルギエルの暴れっぷりに、唖然とするギンガ。

 ルギエルの強さを身をもって経験しているギンガは、援護は不要と判断し、座り込んで休息を取っていた。

 

「あっ、ルギエルったらもう終わらせたんだ」

「あなたは……ネプテューヌさん……!」

「あ、ギンガ久しぶりー。助けに来たよ」

 

 ギンガの元に駆けつけたもう一人の女性は、猛争事変の際に暗躍していた別の次元の『ネプテューヌ』。

 

「あなた方は行動を共にしていたのですね……」

「そうだよ。まぁ最初は悪いことしないように、っていう監視のつもりだったけどね。ギンガと小さいわたしに影響を受けたのか、すっかりくろめもルギエルも毒気を抜かれちゃってさ。今では普通に楽しく旅してるよ」

「……そうですか。救援ありがとうございます。ですが、私のことはいいのです……! ネプギア様たちの方へ救援に向かってください!」

「あっちは大丈夫だよ」

「大丈夫……とは?」

「私たちの……最強の味方が向かってるからね」

 

 一休みしたら即候補生たちの救援に向かおうとしていたギンガだったが、ネプテューヌの言葉を信用し足を止める。

 詳細は知らないが、その『最強の味方』とやらの邪魔になりかねないと思ったからである。

 

 

 

 

「女神候補生と侮っていたが……なかなかやるようだな……!」

 

 犯罪神の力でパワーアップしていたブレイブに、女神候補生たちは健闘していた。

 前衛のネプギア、中衛のラム、後衛のユニとロム。そして回復技を使えるのが三人と、姉たち以上に連携を活かして戦っていたからだ。

 

「喰らえ! 『ブレイブソード』ッ‼︎」

「ロム、ラム、お願い!」

「任せて!」

 

 ブレイブが繰り出した必殺技を、ロムとラムの魔法陣によって底上げされたユニの射撃が相殺する。

 

「くっ……!」

「はぁああ! 『パンツァーブレイド』!」

 

 そして、ブレイブが必殺技を繰り出した隙を突き、ネプギアがM.P.B.Lの連続斬りを叩き込んだ。

 

「ぐっ……ぉおおっ⁉︎」

「これで……終わりです!」

 

 ネプギアの最後の一閃が、ブレイブを斬り砕いた。

 

「やったわね! ネプギア!」

「みんなのおかげだよ」

「早くギンガさんを助けに向かうわ…………っ⁉︎ ネプギア! 後ろ‼︎」

 

 ユニが叫んだ。

 

「えっ?」

 

 撃破した筈のブレイブが、何事も無かったかのように蘇り、立っていたのだ。

 

「嘘……倒したはずなのに……」

 

 犯罪神マジェコンヌ本体が生きている限り、その力で復活したブレイブは、何度でも蘇る。

 ブレイブの剛腕が、ネプギアを掴んだ。

 

「ネプギアを離しなさい! 『アイス……」

「待ってラム! 今撃ったら、ネプギアにも当たるわ!」

「……くっ」

 

 ネプギアへの誤射を考慮した他の三人の動きが止まった瞬間、ブレイブは背部装甲から高弾速のミサイルを射出する。

 

「「「きゃあああっ!」」」

「みんな! ……うわっ!」

 

 そしてブレイブはユニたちの方向へネプギアを放り投げてぶつけ、剣をブーメランのように投擲する。

 

「ぐっ!」

 

 そして、帰ってきた剣をキャッチし、思い切り振りかぶった。

 

「これで終わりだ……『ブレイブ……」

「『夢幻粉砕拳』!」

「……ッ⁉︎」

 

 しかし、その剣は急に現れた何者かによって阻まれる。

 

「何者だ、お前は……?」

「俺か? 俺の名は……」

 

 橙の光を放つその女神の姿を見て、候補生たちは嬉しそうながらも不思議そうな表情をする。

 

「『天王星うずめ』そして……」

 

 ネプギアたちは目の前の女神、天王星うずめを知っている。知っているのだが……ネプギアたちの知る天王星うずめ、そしてオレンジハートとは見た目が異なっているのだ。

 また、声のトーンも変身後の緩い声ではなく、変身前のものであった。

 しかし、ネプギアたちは目の前の『うずめ』が放つ輝きを知っている。

 女神化を超えた輝き、その名は────

 

「……『ネクストオレンジ』だ」

 

 女神候補生が放つ光とは明らかに出力が異なる輝きを放つネクストオレンジに、ブレイブは戦慄する。

 そして、目の前の敵はおそらく自分より強いことを、確信してしまった。

 

「な、何者であろうと、邪魔をするなら斬り捨てる!」

 

 しかし、敵の殲滅が命令されているブレイブは、退くことが許されない。故に、ネクストオレンジに斬りかかる。

 

「シェアエネルギー解放……」

 

 ネクストオレンジは、応じるように右腕にオレンジ色の光をまとわせる。

 

「ネガティブエネルギー解放……」

 

 そして、左腕に暗黒の闇をまとわせる。

 

「『夢幻虚夢双拳』!」

 

 両腕を前に突き出し、ブレイブの剣を破壊しながら、拳で身体を貫く。

 

「ぐああああっ!」

 

 更に、炸裂したシェアエネルギーとネガティブエネルギーが、ブレイブの中で相反し、身体を破壊しながら拡大していく。

 

「終わりだ」

 

 そして爆発が起こり、ブレイブは粉々に砕け散った。

 

「うずめさん! そのモンスターは、倒しても復活するんです!」

「知ってるよ、見てたからな。だからこうするんだよ」

 

 ネクストオレンジは、ブレイブが復活する直前に、その魂を捕捉し、手のひらサイズのシェアリングフィールドに閉じ込めた。そして、フィールドを魂ごと消滅させ、復活を阻止した。

 

「さて、久しぶり……ってほどでもねぇけど、ただいま」

 

 帰還したネクストオレンジ-天王星うずめの元に駆け寄る候補生たち。

 

「……でも、それってネクストフォームですよね? どうしてうずめさんがなれるんですか?」

「それはな……」

 

 ネクストオレンジは変身を解除し、通常の姿に戻る。

 すると、もう一人の『天王星うずめ』が、ネクストオレンジから分離し姿を現した。

 

「あ、あなたは……」

「『暗黒星くろめ』!」

 

 かつてゲイムギョウ界滅亡の危機を齎した宿敵が突然目の前に現れ、ユニロムラムの三人は武器を向ける。

 

「わわっ! ちょっと待ってくれ!」

 

 必死で三人を静止するうずめ。その中でネプギアだけは冷静に、くろめの元に歩いていく。

 

「力を……貸してくれるんですか?」

「……この世界を滅ぼすのはオレだ。オレ以外の何かに滅ぼされてたまるものか」

「そう言ってるけど、この世界を危機から守るために帰ってきたんだぜこいつ」

「黙れ」

 

 そして、なんとなくくろめから憎悪が消えてることを察したネプギアは、くろめに対して敵意を引っ込めた。

 

 

 

 

「とりあえず戦力は揃いましたので、こちらから打って出ることができます」

 

 四人の候補生に加え、うずめとネプテューヌ、そして前作のラスボス二人が集まったことで、ギョウカイ墓場と呼ばれるダンジョンへと向かうことにした一行。

 マホも、女神候補生だからと一緒に戦いの地へ赴き、アンリはイストワールと共にプラネテューヌ教会に残ってサポートに回っていた。

 

『あの犯罪神は今、自らの力を乗っ取った身体に完全に馴染ませるために休息をとっている、といったところだろうな』

 

 プラネテューヌから見える浮遊したギョウカイ墓場を眺め、クロワールが語る。

 

『あれが完全に済めば、どうなっちまうだろうな? それこそ、本当にこの世界が滅んでもおかしくねーな』

 

 楽しそうにケラケラと笑うクロワールをよそに、一行はギョウカイ墓場の下まで辿り着いた。

 

「とりあえず、飛んでいけばいいんだよね?」

「……あ?」

 

 上空からの気配にいち早く気づいたくろめとルギエルが、飛び上がり、謎の攻撃を弾き飛ばす。

 

「足止めのつもりか、アレ?」

「そのようだね」

 

 すると、上空から犯罪神の邪気で強化されたドラゴン型モンスターの群れが飛んで来ていた。

 

「しゃあねえ。ここは任せろカスども」

「オレも残ろうか?」

「うずめちゃんが残ると天王星うずめが本気を出せねーだろ。だから行きな」

 

 加えて、女神嫌い(くろめ除く)のルギエルには、さっさと女神の多い空間から離れたかったという理由もあった。

 

「あ、そうだ。ネプテューヌちゃ〜ん! なんか武器貸してー!」

「しょうがないなぁ。壊さないでね」

「保証しかねる。じゃーな!」

 

 ネプテューヌから予備の剣を借りたルギエルは、迫り来るドラゴンの群れに突撃し、無双していく。

 

「あの男に任せましょう。私たちは上へ」

「はい!」

 

 その隙に、残りの全員は上へ向かう。

 

「それよりも、まさかうずめ様たちが帰ってきてくれるとは……久しぶりに会えて嬉しいです」

「やめてくれ、そういうのじゃない。ただ……あの戦いの後にねぷっちに言われただろう? 気持ちに折り合いがついたらいつでも帰って来い、って」

「言われていましたね」

「今でもついちゃいけないさ。だから、その前に世界に滅びてもらったら困るんだよ」

「そうですか」

「だから、その嬉しそうな顔をやめろ。全く……」

 

 一行は、ギョウカイ墓場のダンジョンを抜け、モンスターを蹴散らし、遂に最深部へと到着する。

 

「ネプギア!」

「お姉ちゃん!」

 

 候補生たちは、そこに捕らえられていた四女神の元に駆けつけ、拘束を解いた。

 

「……毎度毎度悪いわねユニ、助けに来てもらって」

「もう慣れたわ。お姉ちゃんが捕まるのも、助けに行くのも」

「むっ……言うようになったじゃない。でも、ありがとうユニ。頼りにしてる」

「うん! えへへ」

「お姉ちゃんまた捕まってる〜」

「大丈夫……?」

「大丈夫よ。それに、最近はもう私がやらかしてもあなたたちがいるから平気とすら思えるようになってるわ」

「それはそれで良くないと思う」

 

 それぞれ女神と候補生たちが再開する中、ベールは新たな一人の女神候補生を捕捉していた。

 

「あら? あらあらあらあら? 新しい子がいますわね? いますわね! これは、わたくしの妹になりに来たということですわよね⁉︎」

「むぎゅっ」

「可愛いですわぁ……! お名前はなんといいますの〜?」

「ひっ、ま、マホです……」

「マホちゃん! あぁ……遂にわたくしにも妹が……!」

「た、助けて……おっぱいに殺される……」

 

 女神たちを心底鬱陶しそうな目で見ながら、マジェコンヌが口を開く。

 

「いつの時代も、どの次元でも、まるで蛆虫のようにワラワラと湧き出でくるな……守護女神というものは」

「随分な物言いだけど、その四女神にトドメもさせずに休憩してたとなると、よほど手こずったと見えるね、マジェコンヌ」

「自分の苦悩を私に投影するのはよせ。守護女神たちに敗北したのは貴様だ。暗黒星くろめ」

「オレを知っているということは、この次元のマジェコンヌの記憶でも覗いたか。それに、果たして守護女神に敗北したのはオレだけかな?」

「貴様……!」

 

 舌戦を交わし、互いに戦闘態勢に入る犯罪神マジェコンヌと暗黒星くろめ。

 

「行くぞ【俺】」

「お前の方がやる気なのは驚いたな」

「そういうのじゃない。ただ、あんな奴にオレができなかったことをやられるのが嫌なだけだ」

 

 かつての宿敵暗黒星くろめが当たり前のように味方に立っている姿に、四女神のうち二人は困惑を隠せずにいた。

 

「ねぇ、アレ暗黒星くろめよね?」

「生きていたの……? ていうか、なんで味方に?」

 

 もう一人は、捕獲した候補生を堪能しており。

 

「あぁ^〜マホちゃん……!」

「ぐえぇ……」

 

 そして最後の一人ネプテューヌは、その状況を喜びに満ちたような表情で見つめていた。

 

「候補生諸君」

「な、なんですか?」

「オレたちでこのギョウカイ墓場に蔓延る瘴気を相殺する。その間に君たちは奴本体を叩け」

「……はい! 行くよみんな!」

「おっけー!」

「任せなさい!」

「頑張るよ……!」

 

 



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07.光れ夢の星

 

 天王星うずめ、暗黒星くろめの二人が、シェアエネルギーとネガティブエネルギーを用い、ギョウカイ墓場の瘴気を削いでいく。

 その好機を逃さないよう、パープルシスターたちは、犯罪神マジェコンヌに使って突撃する。

 

「待っていたぞネプギア、この手で貴様を殺せる日を……!」

 

 犯罪神マジェコンヌは邪悪な笑みを浮かべ、候補生たちに向かい闇の雷撃を放つ。

 

「ロムちゃん!」

「わかってる」

 

 犯罪神の攻撃から身を守るべく、ホワイトシスターロムが発動した魔法陣が展開される。

 防ぎきれなかったものは、ブラックシスターが撃ち落とす。

 

「行くわよネプギア!」

「うん、ラムちゃん!」

 

 後方からの援護を受けたパープルシスターとホワイトシスターラムが、M.P.B.Lと氷剣アイスカリバーをそれぞれ握り、犯罪神に斬りかかる。

 

「「はぁああっ!」」

「ぐ……っ」

 

 犯罪神にダメージが入る。

 本来ならギョウカイ墓場の闇の瘴気がその傷を癒すが、うずめとくろめの尽力により、その効果は失われている。

 

「あの子たち……すごいわ……」

「ええ……もうあんなところまで……」

 

 候補生たちの連携を、感心しながら見る姉の女神たち。個人の力量ではまだ自分に劣るものの、四人揃った時の連携力では、自分達をも凌ぐかもしれない、そう思ってさえいた。いつも自分の後ろを歩いていた妹たちが自分たちに並ぶ日が、もうすぐそこまで迫っていると。

 

「なるほど……良き力だ。我が力がこの次元に馴染む前であれば、再び貴様らに敗れていたかもしれん」

 

 しかし、犯罪神は余裕の表情を崩すことはない。

 

「だがもう遅い。何もかも」

 

 犯罪神マジェコンヌから溢れ出す力が、戦場を包んでいく。

 

(まずい……!)

 

 その力の広がりの正体を、ギンガはいち早く察知した。

 続いてうずめとくろめも、気づいて表情を歪める。

 

「やばいなアレは……」

「ただでさえこの瘴気を抑えつけるのに精一杯だというのに……」

 

 しかし、阻止することは間に合わず、犯罪神マジェコンヌの行動を許してしまう。

 

「『ダークリング・フィールド』」

 

 犯罪神マジェコンヌが、この次元のマジェコンヌの記憶で見たオレンジハートの秘技『シェアリング・フィールド』を、自らの力で似た性質の技を再現したのだ。

 

(おそらく奴はフィールドの範囲を限定し、前線にいる候補生の皆様のみを呑み込み、一網打尽にする気だろう……!)

 

 フィールドが展開され、ギンガの言うとおり、闇の膜が候補生を呑み込む。

 

「候補生どもを一掃するつもりが、余計なものまでついてきたようだな。まぁ良い」

 

 犯罪神マジェコンヌが前方に手をかざす。

 同時に、魔力が解き放たれ、候補生たちは防ぐまもなくダメージを受ける。

 

「きゃあああっ!」

 

 フィールドの効果で底上げされた犯罪神マジェコンヌの魔力に、候補生は反応が追いつかない。加えて、犯罪神マジェコンヌのフィールドの効果により、女神は大幅に戦闘力が低下され、身動きもままならないほど弱体化していた。

 

「これで貴様らは終わりだ。呆気ないな」

 

 すると、ギンガがフィールドの外壁を破壊し、範囲内に侵入した。

 

「む……?」

「『シェアリング・フィールド』!」

 

 ギンガはフィールド内でフィールドを展開し、候補生たちを襲うデバフ効果を押し返そうとしていた。

 ギンガの出力では、犯罪神マジェコンヌのフィールドを相殺できない。だが、フィールドの効果を軽減することはできる。

 

「ふ……今の貴様に何ができる? このまま押しつぶしてやろう……!」

 

 マジェコンヌはフィールドの展開に更にエネルギーを注ぎ込み、フィールド同士の押し合いを通してギンガを押し潰そうとする。

 

「ぐ……ぐぐ……っ!」

「諦めろ。貴様では力不足だ。と言いつつも、諦めるような性分ではないか、貴様は」

 

 フィールドの展開に全神経を注ぎ込んでいるギンガだが、それでも犯罪神マジェコンヌに押し切られないギリギリで踏みとどまるのが精一杯だった。

 

「……ならば、そのまま死ね」

 

 犯罪神マジェコンヌが更にエネルギーを込める。

 

「させ……ませんッ‼︎」

 

 ギンガが押し潰される直前に、パープルシスターが傷だらけの身体をなんとか動かし、犯罪神マジェコンヌを『ギアナックル』で殴りとばす。

 

「ありがとうございます……パープルシスター……様……っ」

「こちらこそありがとうございます! ギンガさんのおかげで、なんとか動けました!」

「この隙に……フィールドだけでも破壊します!」

 

 犯罪神マジェコンヌがフィールドから意識を外したほんの一瞬で、ギンガはフィールドを押し返し、相殺させてお互いのフィールドを消滅させる。

 

「ちっ……まぁ良いか」

 

 しかし、劣勢なのは変わらず。

 満身創痍の候補生とギンガ、対するはほんの少し消耗した程度の犯罪神マジェコンヌ。

 

「貴様らが死ぬことは変わらん」

 

 フィールドを消しても劣勢は変わらず、犯罪神の圧倒的な力で候補生たちは蹂躙される。

 

「さて、ネプギア。今から貴様の仲間を、貴様の目の前で一人ずつ殺していく」

 

 犯罪神マジェコンヌは、倒れてるネプギアの髪の毛を掴んで持ち上げ、そのままユニの方にゆっくりと歩いていく。

 

「や、やめろー!」

「……ん?」

「ぎあちーを離せー!」

 

 すると、マホが犯罪神マジェコンヌに突撃する。

 

「マホちゃん! ダメ!」

「ふん」

 

 しかし、犯罪神マジェコンヌに素手ではたかれ、地面に転ぶ。

 

「ふぎゃっ」

「貴様は確か……ぴーしー大陸の女神候補生だったか……」

「そう……そうだよ! あーしはぴーしー大陸の女神候補生マホ! あーしが相手だよ! 犯罪神マジェコンヌ!」

「女神化もできない女神の成り損ないに何ができる? 貴様如きを殺すのに一切の魔力も必要ない。その程度の存在だ、貴様など」

 

 犯罪神マジェコンヌはネプギアを投げ捨て、自分に迫り来るマホを素手のみで迎撃する。

 マホの攻撃を素手で受け流し、地面に転がし、踏みつける。

 

「ぐ……うぅ……」

「こんな程度の力でこの私に立ち向かおうかど、愚かすぎて笑えるな」

「うっ……さい! 弱かったら戦っちゃいけないの⁉︎」

「はぁ……?」

「あーしだって……守りたいものがあるんだもん! あんたがどんだけ強くなって……守りたいものを守るために戦うんだから!」

 

 その瞬間、マホの目が光る。そして、光は全身へと伝播し、犯罪神マジェコンヌを吹き飛ばす。

 

「ぬぅ……」

「今のあーしならできる気がする……いいや、できる! 変身ッ!」

 

 マホは己のシェアクリスタルの力を解放し、女神化を果たした。

 

「変身完了……グレイシスター」

 

 ぴーしー大陸の女神候補生、グレイシスターが姿を現す。

 そして、マホがグレイシスターへと覚醒したことで、ネプギアのシェアエネルギーに共鳴し、消耗により失った力が再び湧き起こる。

 

「マホちゃんの想い、私にも届いたよ」

 

 ネプギアは立ち上がり、女神化する。

 

「ち……少し遊びが過ぎたようだ。だとしても……無駄だがな」

「それを決めるのはお前ではない」

 

 ボロボロの身体を強引に立ち上がらせたギンガが言う。

 

「死に損ないが……女神ですらない貴様なんぞに何ができる?」

「それはお前自身が一番わかっているんじゃないか?」

 

 言いながら、剣を構えた。

 

「ギンガさん、私たちも戦います」

「申し訳ありませんが、今の私の体力ではこの剣の一振りが精一杯です。パープルシスター様は、私の動きを見て、私の技を一つ覚えていただきたい」

「技……?」

「では……行きます」

 

 言い終わり、ギンガが駆ける。

 

(おそらく、私の攻撃は通らない。しかし……パープルシスター様がこれを使えるようになれば……!)

 

「『ギャラクティカエッジ』!」

 

 神速の一閃が犯罪神マジェコンヌに炸裂……することはなく、その動きは見切られ、剣は止められていた。

 

「マホちゃん……マジェコンヌからの攻撃は、任せてもいい?」

「はい……私が全て防ぎ切ってみせます」

「マホちゃん……変身したら喋り方変わるんだね」

「あ、いえ……これは……」

「ううん、すっごく良いと思う。じゃあ、行こう!」

「はい!」

 

 ギンガの剣を犯罪神マジェコンヌが抑えている隙をつき、パープルシスターとグレイシスターが前進する。

 

「ふむ……貴様の狙いは奴らか」

「ぐ……うわっ」

 

 犯罪神マジェコンヌはギンガを容易く弾き飛ばし、迫り来る女神候補生二人に魔法弾を放つ。

 

「私が……防ぎます!」

 

 グレイシスターは腕につけている巨大なスマホ型のユニットを盾のように展開し、魔法弾を防ぐ。

 

「今です!」

 

 防いだ瞬間、パープルシスターが盾の後ろから飛び出し、M.P.B.Lを振るう。

 犯罪神マジェコンヌは反応が遅れており、またパープルシスターの攻撃力では自身へ大したダメージを与えることができない、という驕りがあった。

 

「はぁああっ! 『ギャラクティカエッジ』!」

「───ッ⁉︎」

 

 しかし、その驕りが間違いだったことを知るのは、パープルシスターの剣技が犯罪神マジェコンヌに炸裂した直後だった。

 マホのグレイシスターへの覚醒により発生した小規模の女神の共鳴が最後の引き金となり、パープルシスターは今まで見えていなかった自らの力の『核心』に触れた。そして、魂に届く斬撃『ギャラクティカエッジ』の使用条件を満たしたのだ。

 

「ぐ……ぅ……き、さまぁあああッ!」

「あなたが……」

 

 パープルシスターが、先程までとは隔絶した強さを手にしていることを、犯罪神マジェコンヌは見抜けなかったのだ。

 そして、苦し紛れに放つ反撃は、グレイシスターによって全て防がれる。

 

「……別の次元の私とどんな因縁があるのか、それはわかりません。けど、あなたは、私がここで倒します」

「ネプ……ギア……ッ」

「『ギャラクティカエッジ』」

 

 一発のみならず、追撃に剣技を何度も振るう。

 魂が斬り刻まれ、犯罪神マジェコンヌは悶え苦しむ。

 

「ネプギア……貴様だけはぁああっ!」

 

 犯罪神マジェコンヌが己の中にエネルギーを貯める。

 

「貴様もぉ……道連れだぁああーっ!」

「……ッ!」

「ぎあちー! 逃げて!」

 

 そして、貯めたエネルギーを解き放ち、自爆しようとした……

 

「させんぞ」

 

 その瞬間、犯罪神マジェコンヌの身体が止まる。

 

「ようやく……魂が弱ったな。これで、この身体を取り戻せる! やめろ! この身体はもう私のものだ! お前は負けたんだよ、目の前の女神候補生にな。黙れ! 私の復讐はまだ済んではいない!」

 

 そして、自分だけで会話を始めた。

 目の前の不可解な言動に、パープルシスターはギンガの言葉を思い出す。

 

(そっか……今、普通のマジェコンヌさんと悪いマジェコンヌが戦ってるんだ!)

 

「マジェコンヌさん! もう何回か斬ります!」

「任せたぞ女神候補生ネプギアよ! やめろ! こいつの自爆は私が食い止める! 貴様、それでもマジェコンヌか!」

「はぁあああっ! 『ギャラクティカエッジ』!」

「やめろぉ! ナイスぅ! ぐわぁあああっ!」

 

 そして、追撃で更に犯罪神マジェコンヌの魂を斬ったことで、本当のマジェコンヌが肉体の主導権を完全に取り戻した。

 

「犯罪神とやら……貴様の力だけはもらってやろう。後はもう……消えろ」

 

 そしてマジェコンヌは、自らの身体の中に巣食っていた犯罪神の魂を喰らい、完全に消滅させた。

 

「すまなかったな、女神たちよ。助かった。そして……」

 

 こうして、この世界に突如して現れた脅威は無くなり、世界に再び平穏が戻る……

 

「最後の戦いを始めようではないか」

 

 筈だった。

 

「マジェコンヌさん……?」

「私は……貴様ら守護女神の敵だ。それなのに、くだらん情に絆され、本来の自分を見失ってしまった。私と貴様らは敵同士なんだよ。だから、決着をつけねばならん」

「でも!」

「今思えば良い機会だったのかもしらない。別の次元の『マジェコンヌ』を知り、私という存在がどういうものかを再確認するのは」

「そんなこと、あなたは望んでなんか……」

「黙れ!」

 

 パープルシスターはなんとかマジェコンヌを説得しようとするも、拒絶される。

 

「最後の戦い……とはいえ、力を奪われ戦えん四女神と、今の戦いで力を使い果たした候補生どもでは……戦いにすらならんか。いや、ボロボロの相手を蹴散らす方が悪役らしくていいだろう」

「やめてくださいマジェコンヌさん! あなたは本当は優しい人だって、みんな知ってるんですから!」

「それが、お前の望みか?」

「ギンガ……」

 

 犯罪神マジェコンヌにボコボコにされながらも、数分身体を休めなんとか立ち上がれるところまで体力を回復させたギンガが、マジェコンヌに問う。

 

「お前の考えなど分かっているぞマジェコンヌ」

「……」

「今のお前は、世界を愛している。だからこそ、世界の敵である自分が、世界の守護者たる女神様に討たれようとしているんだ。お前という存在が、またいつ別の次元の邪悪なマジェコンヌを呼び寄せるかわからないから、だろ?」

「……半分は正解だ。認めてやろう」

「もしそんなことになっても、また私が止めてみせます! だから、討たれようなんて言わないください!」

「黙れと言っている! 確かにギンガ、貴様の言っていることは当たっている! 半分な! だが、貴様らと戦うことのもう半分は私の本心だ!」

 

 マジェコンヌは、己の本心を吐露していく。

 

「私は……私は……昔の私に戻りたかったんだ! 残忍で冷酷な悪人の私に戻って、何も気にせず貴様ら守護女神と戦いたかったんだ!」

「……」

「そうだ! 私の名はマジェコンヌ。四人の小娘たちが支配する世界に混沌という福音を齎す者だ!」

 

 犯罪神から吸収した邪悪な力を身にまとい、マジェコンヌは高らかに宣言した。

 

  

 

 

 



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FINAL.再臨の極光

 

 

 

 

 

「マジェコンヌ、お前の言い分は分かった」

 

 守護女神に凶刃を向けるマジェコンヌに、ギンガは立ち塞がりながら言う。

 

「だが、理解はしても納得はしない」

「何……?」

「私は……いや、俺はお前のことなんて嫌いだ。女神様に不敬だし、言動も一々鼻につくし、それでヤケに強いし。こちとら日々強くなる女神様においてかれないようにするのが精一杯だってのに、お前はそれ以上のスピードで強くなりやがる。最悪だ」

「何が言いたい……?」

「でも、俺はお前のことを仲間だと思ってる。キセイジョウ・レイの時も猛争事変の時も、助かったよ。お前のことは嫌いだけど、お前みたいな奴が周りにいて欲しいって思っているんだ」

「……」

「だから俺はお前を止める。死なせはしない」

「やれるものならな」

 

 満身創痍のギンガと、犯罪神の力を吸収し更なる力を得たマジェコンヌ。

 側から見れば、戦いになるはずもない。

 だが、ギンガが、空に手を掲げると、強烈な光を放ちなある物体が飛来して接近してくる。

 

「アレは……」

「本来、今を生きる女神様が創る世界に、アレは不要なもの……だが、お前を止めるのは俺の意思だ。女神様に仕える者としての使命ではなく、俺という人間のエゴだ」

「ちっ……」

「封印から解き放たれし聖なる剣よ! 我が元へ来たれ! 『創世剣サーガ』‼︎」

 

 飛来した聖剣が、ギンガの手に収まる。

 溢れ出した光が、ギンガの身体を癒し、更なる光を与える。

 創世剣サーガとは、歴代のプラネテューヌの全ての女神の加護が授けられている聖剣。普段はプラネテューヌのダンジョン『初代女神の聖域』に封印されているが、そのあまりにもの加護の強さからギンガの危機に反応して勝手に飛んで来るため、ギンガは(ネプテューヌが嫌がっているからと)今の時代を守護するのは今の時代の守護女神であり過去の女神の加護が今この時代を守るべきではない、という思いで、その聖剣を更に強く封印していた。

 また、その封印はギンガの意思でのみ解くことができるのだが、犯罪神マジェコンヌの瘴気によるゲイムギョウ界への侵食でそれが行えずにいた。犯罪神から身体を取り戻したマジェコンヌが侵食を食い止めたため、封印の解除が行えるようになったのだ。

 

「さぁ、行くぞマジェコンヌ」

「やはり……我が最大の障害となるのは貴様か、ギンガ。ならば来い!」

 

 光の化身『サーガ』と化したギンガが、マジェコンヌに前進する。自らを光に変え接近して再び肉体を再構築することで、一瞬でその距離を詰める。

 

「『ギャラクティカ・エスペシャリー』」

 

 そしてゼロ距離で、全身から必殺の光線を打ち出す。

 

「ふんっ!」

 

 しかしマジェコンヌが身体の周りにまとうオーラで、光線は打ち消される。

 

「割と本気で撃ったんだがな」

「この程度が、本気か?」

「言う……!」

 

 サーガが剣を振る。常人の目にも留まらぬスピードの斬撃だが、マジェコンヌは自身の槍で軽く受け止める。

 マジェコンヌはもう片方の腕から、サーガの腹部に闇の波動を放つ。

 

「……っ」

 

  サーガの脇腹が消し飛ぶ。しかし、傷跡から漏れた光が即座に肉体を構築し、消し飛んだ脇腹が再生した。

 

「ぬ……っ⁉︎」

 

 サーガの再生能力に気を取られたマジェコンヌの一瞬の隙を付き、サーガがシェアエネルギーの光で伸ばした刃を振るう。

 

「『無限斬』!」

 

 振るわれた斬撃は、余波だけでギョウカイ墓場を両断した。

 

「ち……」

 

 マジェコンヌの身体に大きな傷が入るが、マジェコンヌも己の闇のオーラで傷を癒し、即座に肉体を修復する。

 

「ギンガ……マザコング……」

 

 二人の激戦を遠くから見守る守護女神たち。女神たちもサーガ光臨の影響で力を取り戻しているものの、二人の戦いに割って入ろうとはしなかった。

 絶大な力を持つ者同士の戦いに迂闊に入れないこともあるが、それ以上にギンガとマジェコンヌの個人の戦いに介入するのは無粋だと思っていた。

 

「ネプテューヌ、さっきのギンガの一撃でこのダンジョンが崩れてきているわ。私たちは脱出しましょう」

「みんなは逃げてて。わたしは……この戦いを見届けたい」

「……そう。なら、巻き込まれないように注意しなさい」

「ありがと、ノワール」

 

 ネプテューヌを除いた全ての女神が崩れゆくギョウカイ墓場から離脱していった。

 

(奴も俺も……互いの攻撃力以上に防御力や再生力が高い。ならば……攻撃力を底上げし、一撃で削り取る他ないな)

 

 予兆。

 サーガの周囲に溢れるシェアエネルギーが濃度を増し、渦を巻く。何らかの行動の予兆。

 

「……!」

 

 当然、マジェコンヌはそれを感知する。そして、その行動の正体も。

 

「良いだろう……!」

 

 マジェコンヌも自身の闇のエネルギーを凝縮し、サーガの元と似た性質の技で迎え撃とうとする。

 

「『シェアリング・フィールド』!」

「『ダークリング・フィールド』……!」

 

 同時に展開される光と闇のフィールド。

 フィールド技は性質として、同時に発生すると発動者同士の間に押し合いが発生する。

 発動者はその間、押し合いに負けぬようフィールドの維持に尽力しなければならないため、敵の攻撃にリソースを割けない。

 そして、フィールドの押し合いでサーガとマジェコンヌ両者は拮抗していた。そうなると後は、どちらがフィールド展開の消耗により先に押し合う力が弱まるか、という我慢比べになる。()()ならば。

 

「マジェコンヌ……犯罪神の影響もあれど、短期間で今の俺と互角なフィールドを展開できるようになったことは誉めてやる」

「褒めてやる、だと? 余裕そうな口ぶりをしていても、貴様のその変身は消耗が大きいのは知っているぞ。このまま押し合いを続ければ先にフィールドが消えるのは貴様だ」

「それはどうかな?」

 

 サーガのフィールドは、フィールドでありながら空間を形成していない。自身の力を張り巡らせたフィールドで空間を"閉じる"のではなく、自身が存在する周囲そのものをフィールドにする。例えるならキャンバスを用いることなく空間そのものに絵を描くような神業を、ギンガのシェアエネルギーへの理解と操作技術にて広げたフィールドの解釈で想像し、サーガのあまりあるエネルギーの総量と出力で実現させた。

 このシェアリングフィールドの有用性、それは、マジェコンヌのフィールド範囲内では押し合いが発生するが、その押し合いの外側から一方的にサーガのフィールドがマジェコンヌのフィールドを破壊できること。

 

「……っ」

 

 マジェコンヌのダークリング・フィールドが、外側からサーガのシェアリング・フィールドに破壊され、強制解除される。

 

「マジェコンヌ……」

 

 フィールドによりエネルギーの出力が底上げされた創世剣サーガの剣身が虹色に輝く。

 

「俺は……お前に常に女神様の仲間でいろなんて言わないさ。俺たちと敵対しようが構わない。お前が何をしようが俺たちが止めてやるけどな」

 

 フィールドの影響で威力が大幅に減衰されたマジェコンヌの攻撃は、サーガに当たったところでダメージにならない。

 

「けど、お前以外の何かが女神様や世界を滅ぼそうとする時は、また一緒に戦ってくれ」

 

 穏やかな言葉と共に、最後の一撃が振り下ろされる。

 

「『クリティカルエッジ』」

 

 サーガの必殺技かつプラネテューヌ守護女神相伝の剣技が、マジェコンヌを斬った。

 斬り口から解き放たれた光が、マジェコンヌの吸収した犯罪神の力を浄化していく。

 そして、戦場から漏れた光が、崩れゆくギョウカイ墓場を消滅させていった。

 

「……」

 

 クリティカルエッジの一閃に全ての力を費やしたギンガは、変身が解け、朧げな意識で、何もなくなった空を自由落下していく。

 飛行用のプロセッサユニットを起動しようにも、力を使い果たしたからか指一つ動かない。

 

(身体が動かない……手詰まりか。せめて着地の構えでも取れれば良いのだが……この高度から無防備で落下して果たして生きていられるだろうか。死にたいわけではないが……まぁ、ここで終わりでも大丈夫だろう。ネプギア様は成長なされた。他の候補生の皆様も同じように強くなれば、ゲイムギョウ界の未来も安泰だろう。あの方がプラネテューヌの女神様の座を継ぐ姿を見たかったが……)

 

「ギンガっ‼︎」

 

 すると、落ちていくギンガの元に、パープルハートが追いつき、ギンガの身体を抱きしめて飛ぶ。

 

「パープルハート……様……」

「ギンガ……!」

「マジェコンヌ……は……?」

「もう一人のあなたが回収して行ったわ。ていうか、マジェコンヌのことより自分の心配しなさいよ! どうしてあなたはいつも……! 自分の命は後回しにするのよ!」

「後回しにしてはいませんよ……結果的にそうなってしまっただけで……」

「屁理屈を言う元気はあって安心したわ! もう! それに……!」

「む?」

「どうしてマジェコンヌにはタメ口で一人称も『俺』で親しげに話すのに! 私にはそんな感じなのよ! そこが一番許せないわ! あなた一体私とマジェコンヌのどっちが好きなわけ⁉︎」

「パープルハート様に決まってますが? 私がこの世で一番好きなのはあなたですよ。そもそもアイツはムカつくから喋り方がああなってしまうわけで好感度ではありません、断じて」

 

 ギンガは身体は動かないものの、愛する守護女神の抱擁により急速に意識を回復させた。

 

「言葉だけじゃない。私から何しても反応薄いし」

「立場というものがありますからね。それがなければ常に抱きしめていたいと思っていますが」

「私が守護女神で、あなたが女神補佐官だから?」

「そうなりますね」

「私は守護女神として国民を愛しているし、あなたも愛してるわ。けどその愛って同じじゃないでしょう? ネプギアへの愛もそう、あいちゃんやコンパ、いーすんへの愛だって全部違うものよ」

「む……それは確かに……」

「だから、あなたを愛していても、他のみんなも愛せる。そこに差なんて付ける必要もない。だって違うものだもの」

「それはそうなのですが……なぜ今そんな話を……?」

「ん? えっとねぇ、ついこの間まではお互いのために言わないでおこうって思ってたけど、よくよく考えたら言わない必要はないって気付いたのよ。だから、愛してるわギンガ」

「んん……っ」

 

 パープルハートからの言葉にギンガは目を背ける。しかし、それは拒否の意ではない。それが照れているものだと気づいたパープルハートは、今まで自分に見せなかったその反応に、驚きつつも歓喜する。

 

「照れた? 照れてる? 照れてるわよね?」

「……言わなくてください」

「嫌よ。もっと言うわ。好きよギンガ。大好き。愛してる」

「ちょっと待ってくださいマジで……」

「そうね。私はあなたを困らせたい苦しめたいわけでもないから、ここらでやめておいてあげるわ」

「ほっ……」

「だから……」

 

 するとパープルハートは、ギンガの唇に自身の唇をそっと重ねた。

 

「……っ⁉︎」

「今はこれで勘弁してあげる」

 

 ギンガは顔を赤くした。そのような姿は、生まれてから誰にも見せたことはなかった。初恋の相手であるプラネテューヌの初代女神相手にも。

 そんなギンガの様子を見て、してやったりな表情のパープルハート。仕掛けた側でもあるが、少し顔を赤くしながら微笑んでいた。

 

「次は、あなたからしてね」

「ぜ、善処します……」

「あまり待たせたらまた私からするけどね」

「額や頬じゃダメですか?」

「ダメに決まってるでしょ」

「そんな……」

 

 そんなこと言いながら飛んでいると、プラネタワーが見えてきた。

 二人の帰る場所であり、プラネテューヌの過去と今と……そして未来の繁栄を示す場所。

 こうして、ゲイムギョウ界を突如として襲った危機は去った。全ての脅威は無くなった……わけではないが、残ったその脅威を含めてのかけがえのない日常であり、たとえ敵対していても、世界を守るために手を取り合う時は来るのだろう。

 また、一歩どころか何歩も進んだ彼と彼女の関係性がこの先どうなっていくのかは、今は誰にもわからない。

 

(無理だ。決壊した。今まではネプテューヌ様とパープルハート様がどれだけ愛おしくてもなんとか平然を保っていられたけど、もうここまでされたら無理ですね。どうしましょう……これでは、ネプテューヌ様とパープルハート様の顔をまともに見れません……くぅ……)

 

 それはそうと、明日のゲイムギョウ界は平和であろう。

 

 

 





 エピローグ的なのをやって終わりです。


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エピローグ

 

 犯罪神マジェコンヌが引き起こした動乱から数週間後。

 

「結局行っちゃうの?」

「言っただろう? オレはまだ自分の気持ちとこの世界に折り合いが付いていない。罪の償い方も、ね」

「償ったようなもんじゃん。帰ってきなよ」

「君にそう言ってもらえるのは嬉しいが、オレは大きい方のねぷっちたちと旅をするのも気に入ってるんだよ」

「そっか。じゃあまたね! 大きいわたしも!」

「うん、また遊びにくるね! 小さいわたし!」

 

 暗黒星くろめと次元の旅人ネプテューヌは再び次元を超える旅に出た。

 全ての守護女神と完全に和解した、というほどではないが、それでも彼女がゲイムギョウ界を守るために一時的に帰還したという事実を皆嬉しく思っていた。

 

「【オレ】のやつ、最後まで素直じゃなかったけどさ。俺と合体してネクストオレンジになれたってことは、もうそういうことなんだよ」

 

 くろめが完全にいなくなってから、うずめが言った。

 

「わたし全然出番なかったなぁ」

 

 次元の狭間にて、ネプテューヌがぼやく。

 

「キミは別の世界で大活躍したんだからいいだろう? 元社長」

「そうそう。楽しかったけど本当に大変だったよ。脱走したクロちゃんがあんなことするのは想定内だけど、まさかルギエルがクロちゃんの味方するなんて思わなかったもん」

「ま、彼は善であれ悪であれ世界の理を壊したい人間だからね。あの世界に眠る怨念の集合体と戦ってみたかったんだろう」

「ん? なになに? 俺の話?」

 

 すると、先に次元の狭間で二人を待っていたルギエルが、話に割って入る。

 

「ルギエルもみんなに挨拶すればよかったのに」

「やだよあんな女神が多いとこ」

「それより、マジェコンヌはどうしたんだい? 君が回収したんだろう?」

「あー、安全な場所に降ろしといた。その内回復して目覚めて元に戻るだろ。あのカスも殺す気で斬ったわけじゃねーだろうし」

「マザコング……大丈夫かな」

「大丈夫かどうかは知らないが、敵でありながらも彼女を受け入れることを、あの世界の女神たち、そしてギンガは選んだ。オレたちが心配する必要はないさ」

「それもそっか」

『世界滅亡は見れなかったけど、面白い現象は見れた。収穫はあったな』

「そりゃ良かった。じゃ、また別の次元に行こうぜ」

「良くはないよ! まぁでも、さぁ出発だね!」

 

 何はともあれ、四人の次元の超える旅が、再び始まった。

 

 

 

 

「さぁ働け働け労働者諸君! ナスの出来栄えは貴様らの働きぶりに比例すると思えよ!」

「相変わらず農家姿も様になってるっチュね」

「久しいなワレチューよ。そうだ。しばらくナス農園で金を稼いだら、また女神どもを倒す作戦を実行する。お前も付き合え」

「嫌っチュ……と言いたいところっチュけど、オイラもなんだかんだで悪いことしてる方が人生楽しいってことに気づいたっチュ。付き合ってやるっチュよ」

「ふっ、私も貴様も生粋の悪人ということだ。待っていろ守護女神ども……! 今度こそ私が勝ぁつ! ナーハッハッハ!」

 

(楽しそうにしやがってっチュね。まぁそれに付き合うオイラも大概っチュけど)

 

 

 

 

「ね、ねぇぎあちー……消し飛んだ筈のぴーしー大陸が元に戻ってるんだけど……何が起きたん?」

「ギンガさんのあの剣の効果じゃないかな? 破壊された世界を元に戻せるらしいよ」

「なにそれ。チートやん。怖。それより、ぎあちーまでぴーしー大陸に着いてきて来てくれなくても良かったのに」

「だって私、この度プラネテューヌ教会ぴーしー大陸出張技術開発顧問として任命されたんだもん。だからしばらく一緒だよ。よろしくね、マホちゃん」

「で、アタシがラステイション教会ぴーしー大陸出張技術開発顧問で」

「「わたしたちがルウィーのでーす!」」

「うぅ……ありがとう……みんな大好き……!」

「泣いてないでちゃんと仕事しなさい、マホ」

「分かってるってばあんりー!」

 

 

 

 

「行くわよブラン! 『レイシーズダンス』!」

「甘いっ! 『ツェアシュテールング』!」

「お二人とも本気で模擬戦するのも良いですけれど、わたくしと戦う時の体力は残しておいてくださいねー」

「分かってるわよ」

「じゃ、ちょっと休憩」

「それにしても、いきなり合同で鍛錬なんて、ノワールらしくない提案ですわね」

「……見たでしょ、あの子たちの……特にネプギアの強さ」

「私たちの妹まであの時のネプギアみたいになったら、追い付かれるのも時間の問題よ」

「姉の威厳のため……ですか。そうですわね……わたくしも妹たちのために強くあらねばなりませんわ!」

「「あなたの妹じゃないんだけど……」」

「とはいえ、ネプテューヌが誘いに乗ってこないのは珍しいですわね」

「どーせダラダラしてるんじゃないの?」

「だからこそ、俺が参加させてもらうわけだ。よっ、三人とも」

「あらうずめじゃない」

「あなたと戦えるのはなかなか楽しみね」

「お手合わせ願えますか?」

「三人同時は無理だから一人ずつ、な?」

 

 

 

 

「イストワール様が私たちにランチご馳走してくれるなんて珍しいこともあるんですね」

「珍しいのはそうですけどケチな上司みたいな言い方やめてくださいアイエフさん」

「あの、あいちゃんは部下だからっていうのはわかるんですけど、私までご馳走になっていいんですか?」

「コンパさんにもいつもお世話になってるので構いませんよ。それに、ここの巨大パフェ……食べてみたかったのですが、私一人では厳しくて食べるのに三日かかってしまいそうだったので……お手伝いしてくれませんか?」

「ええもちろん」

「楽しみです」

 

(まぁそれだけじゃなくて、ちょっとした人払いも兼ねてるんですけどね、ネプテューヌさんとギンガさん)

 

 

 

 

 閑散とするプラネテューヌ教会で、プラネテューヌの女神補佐官ギンガは、教祖イストワールに提出するための報告書を作成していた。

 

「世界が救われたから、世間はお祭りムードだっていうのに、働き者はいるもんだね」

 

 ギンガの作業部屋のドアに寄りかかりながら、ネプテューヌが言う。

 

「今回の件の報告書の作成がまだ済んでいないので……と、言いましても困りましたね。例の別の次元のマジェコンヌですが……あの存在をどう報告書にまとめたらいいか……聞いたままを書けばいいでしょうか?」

「いーじゃんいーじゃん」

「意外とうるさいんですよいーすんは、何か言われる前に言われそうなところは無くしておきたいんですよね」

 

 すると、ネプテューヌはギンガの膝の上に座り、何かをねだるように目をジーッと見つめる。

 

「……何か?」

「せっかく二人きりなのにお仕事ばっかでつまんない」

「と、言いましても……」

「じゃ、この前のアレのお返ししてよ」

「アレ、とは?」

「ちゅー」

「……こほん」

 

 ネプテューヌのストレートな物言いに、ギンガはわざと咳払いしながら照れ臭そうに目を逸らす。

 

「ネプテューヌ様はしたないですよ、嫁入り前の乙女がそんな……」

「わたしこれでも何百年も生きてるんだけど」

「私にとってはそれでも乙女です」

「じゃあ、あんなことして乙女の純情を弄んだんだね」

「したのはネプテューヌ様からじゃないですか……」

 

 ギンガは仕事の手を止め、ネプテューヌをそっと抱きしめる。

 

「私は、不器用な人間です」

「知ってる」

「無駄に生き過ぎたせいで、まともに人を愛することもできなくなってしまった男ですよ。本当にいいんですか?」

「いいの。あなたがいい。わたしが嬉しい時も辛い時もずっとそばにいてくれたあなたがいい」

「ネプテューヌ様……」

「ん?」

 

 名前を呼ばれ振り向いたネプテューヌの唇に、ギンガはそっと唇を重ねた。

 

「……っ、ひとまずは……この一回で勘弁してください」

「うん、いいよ。勘弁してあげる」

 

 

 

■ 『紫の星を紡ぐ銀糸S』終わり

 

 





 これにて『銀糸』シリーズ本編は終わりとなります。
 長らく読んでくださった方々、本当にありがとうございました。


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