紅眼の黒竜に懐かれた (Monozuki)
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〜転生、黒竜を添えて〜

 

 

 

 

 

 ──デュエルアカデミア

 

 この言葉をご存知だろうか。伝説のデュエリスト海馬瀬人によって設立され、将来有望なデュエリストの育成を主な目的とする学校である。

 南海に浮かぶ孤島に存在し、生徒は全て寮生活となる。まさしく全ての時間を懸けてデュエルを学ぶ場所なのだ。

 

 プロデュエリストへの道も開かれる夢の学校には、毎年多くの受験者が募る。中等部から進学しない高等部への外部受験者たちの本気度は他の学校の追随を許さず、倍率は言うまでもなく高い。

 

 決して軽い覚悟で通れる広き門ではない。

 そう、軽い覚悟(・・・・)では。

 

(……なんでこうなったかなぁ)

 

 デュエリストの象徴とも言えるデュエルディスクを装着しながら、自身の置かれている状況に呆然とする男が一人。場所は人々で溢れている、とある会場だ。

 目の前には同じくデュエルディスクを装着した大人。厳しい顔付きで此方に視線を向けており、ハキハキとした口調で話しかけてくる。

 

「受験番号47番、竜伊紅也(たついこうや)。準備はいいか?」

「──え? ……ああ〜、はい」

 

 煮え切らない態度ではあるが、試験官である男は特に気にしない。受験者故の緊張であると受け取ったのだ。そうでないことに気付く訳もないのだが。

 

 これより始まるのは──決闘(デュエル)

 

 デュエリスト同士のぶつかり合い、試験とは言え真剣勝負。会場の観客席からも、所々から視線が集まる。

 

「さあ、始めよう」

「……はい」

 

 ぎこちない動作でデュエルディスクを起動する紅也。そこにセットされた自身のデッキを見つめながら、ため息を溢した。

 

(……どうしよ)

 

 命を落としたら、転生していた。

 

 普通の会社員だった竜伊紅也は二十五歳という短い人生を爆走トラックに終了させられると、遊戯王の世界へと転生していた。

 

 何故遊戯王と分かったのか理由は単純であり、少しその辺を歩けば至る所でデュエルしている場面を目撃したからだ。趣味程度で遊戯王に関わっていた紅也も、青い龍と共に高笑いしながらテレビに登場した社長が誰かは流石に理解した。

 

 とあるカード(・・・・・・)がお気に入りで子供の頃から遊んできた遊戯王。アニメも軽く見る程度には好きだったコンテンツの世界へ転生したことを最初は素直に喜んだが、冷静になると絶望案件だった。

 

 何故か若返っている身体、天涯孤独の身、持ち物は十分な金額の貯金と前世で使用していたデッキが一つ。

 

 訳が分からず脳内がショートしていた紅也を救ったのは、一枚のカードであった。そのカードこそ、紅也が遊戯王を始めたきっかけであり、この世界に来ることになったきっかけでもあった。

 

 そのカードには精霊が宿っており、意思の疎通が可能だった。なんでも長い間自分のカードを大切にしていた紅也を気に入っており、この世界へ転生させたという話らしい。更にショートしそうになった紅也も、唯一関わりのある存在からそう言われてしまえば納得せざるを得なかった。

 

 そして一枚の紙を渡される。それがデュエルアカデミアの受験票だった。

 以上が、竜伊紅也のこの場に立つ理由の全てである。

 

 他にやることがない。ただそれだけの理由で、彼は最難関の倍率を誇る学校を受験しているのだ。

 何年ぶりかの勉強に手こずりながらも乗り越えた筆記試験、そこまでは良かった。問題は実技試験である。

 

 竜伊紅也はただの一般人なのだ。

 

 普通の人生を送り、急に終わりを迎えた。それだけの一般人だ。そんな男がいきなりデュエルとは、中々に酷な状況だ。

 しかし、これは紅也に問題がある。コミュ障とまではいかずとも内気な性格をしていた彼は、他の人に声を掛けてデュエルを挑むということが出来なかった。なので、彼にとってこの世界での初デュエルが今始まったのだ。

 

 デッキの調整で一人、対人戦などやれる筈もない。カードのパワーバランスを考えて持っていたデッキには使う訳にもいかないカードが多く存在した。そのこともあり、カードショップへ入れ替えるためのカードを買いに行った際もデュエルすることは叶わなかった。紅也は自身の不甲斐なさを恥じた。

 

「私の先攻だ。ドロー!」

 

 自身のこれまでを振り返っていると、試験官が声を上げデュエルが開始された。勢いよくデッキからカードをドローした試験官を見て、紅也はそこまで勢いつけなくても良いのではないかと思うぐらいに一般人だ。

 

 試験官 LP4000

 紅也  LP4000

 

 開始時のライフは4000。

 デュエルディスクに表示される自身の(ポイント)を確認してから、紅也は試験官へ視線を移した。

 

「魔法カード『増援』を発動! デッキからレベル4以下の戦士族モンスター1体を手札に加える。『切り込み隊長』を手札に加え召喚!」

 

 試験官がデュエルディスクへカードをセットすると同時に、フィールドへ屈強な戦士が現れる。

 ソリッドビジョンと呼ばれるシステムにより、カードのモンスターが立体的に現れるのだ。

 

「そして『切り込み隊長』の効果発動! このカードが召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスターを特殊召喚することが出来る!」

 

 『切り込み隊長』ATK/1200 DFE/400

 

 遊戯王というゲームに置いて、モンスターの召喚は1ターンに1度まで。しかしモンスター・魔法・罠の効果によって、様々な例外が存在するのだ。

 

「2体目の『切り込み隊長』を召喚! このカードの2つ目の効果により、君はこのカード以外の戦士族モンスターを攻撃対象に出来ない!」

 

 2体の『切り込み隊長』が互いの効果で互いを守り合う"切り込みロック"と呼ばれるコンボに会場が少し騒つく。1ターン目からあんなコンボをされてはいきなり手の出しようがないと、紅也への憐れみも混ざっていた。

 

「更に装備魔法『団結の力』を2枚発動! 『切り込み隊長』たちの攻撃力をアップさせる!」

 

 『団結の力』。装備しているモンスターの攻撃力・守備力を、自分フィールド上に表側表示で存在するモンスターの数×800ポイントアップさせる効果を持つ装備魔法だ。

 これにより2体の『切り込み隊長』たちの攻撃力は1600ポイントアップ。元々の攻撃力と合わせて2800となった。

 

 『切り込み隊長』ATK/1200→ATK/2800

 『切り込み隊長』ATK/1200→ATK/2800

 

 低レベルモンスターとは思えない高い攻撃力、しかもそれが2体である。勝ち負けで試験の結果が決まる訳ではないが、眺めてる者達は大半が既に紅也の勝ちは薄いだろうと結論付けた。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 ここで試験官のターンが終了。手札を十分に活用し、万全とも言える盤面を整えた。

 更に伏せられたリバースカードは、相手の攻撃宣言時に相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する『聖なるバリアミラーフォース』。もしもの時でも抜かりはなかった。

 

「……ドロー」

 

 試験官とは打って変わって静かにドローする紅也。デッキから1枚手札に加え、どう展開していこうか思考し──表情を歪ませた。

 

(ええぇぇぇぇぇ)

 

 彼のこの反応を普通に見れば手札事故、何もすることが出来ないのだと思われるだろう。しかし実際のところ真逆であり、余りにも出来過ぎていた(・・・・・・・)

 

 この方法で勝てば間違いなく目立つ。断言しても良い程に。だが、この方法以外であの盤面を相手に出来ることもない。紅也は胃が痛くなった。

 

(そもそもコイツ出しても目立つよなぁ。嫌だなぁ、やめようかなぁ)

 

 唸りながら考えを巡らせる紅也。やはり打つ手がないのかと周りに思われ始めた次の瞬間。

 

 

『──グルゥオッ』

 

 

 背後から強烈なプレッシャーが放たれる。対峙する試験官、観客席から見ていた者達、その全ての存在がゾクリと背筋に恐怖を感じた。

 内気そうな一人の男に何を、そう思うにも関わらず、確かなプレッシャーは放たれ続けている。

 

 そして今まで固まっていた紅也が動き始める。ぎこちなさなど何処かへ消えた滑らかな動きでカードを操り出したのだ。物凄い冷や汗をかきながら。

 

「……魔法カード『古のルール』を発動。手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚します」

 

 発動されたのは決闘王(デュエルキング)・武藤遊戯も使用した魔法カード。効果により手札から高レベルのモンスターを特殊召喚出来る。

 

 放たれるプレッシャーもあり、どんなモンスターが出てくるのかと会場中の視線を独占している。

 

 地獄のような状況で内心泣きながら、紅也は1枚のカードをデュエルディスクにセットした。紅也に取って現状、いや、二度目の人生で最も特別なカード。

 

 海馬瀬人の最強『青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)』と並び称される伝説の竜。

 

 青き龍は勝利をもたらす。しかし赤き竜(・・・)がもたらすのは勝利にあらず、可能性(・・・)なり。

 

 戦う勇気など微塵も無い男は──赤き竜を降臨させた。

 

 

「──『真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)』」

 

 

 その瞬間、会場の時が停止する。

 僅かに聞こえたのは、余りの美しさに息を呑む音のみ。

 1匹の竜は、完全にこの空間を支配した。

 

 『真紅眼の黒竜』ATK/2400 DFE/2000

 

(…………出しちゃった)

 

 肩を落とす紅也とは裏腹に、満足気な表情を浮かべる黒竜。ソリッドビジョンである割に表情は豊かである。

 

 決闘王(デュエルキング)・武藤遊戯の生涯の友、城之内克也のエースモンスターが『真紅眼の黒竜』である。

 この世界では超の付くレアカードであり、手に入れようとして全財産が消えた者も居る。

 

 紅也が愛し、紅也を愛した結果、彼をこの世界に転生させた張本人。いや、張本竜。

 

『……やらないと駄目かな?』

 

 言葉に出さず質問する紅也。意識がリンクしているため出来る芸当だ。それに対する黒竜の返答は軽い頷き。翻訳すると、全力出さないと焼く、ということになる(紅也の翻訳)。

 

 少しの時間が空き、会場の停止が解かれ始める。徐々に高まり出す声に胃痛を深めながら、紅也は意を決して勝負を終わらせにいく。

 

「……勝たせてもらいます」

「なに?」

 

 試験官にのみ聞こえる音量で告げられた宣言。この盤面を問題としない発言に思わず声が溢れる。

 

「魔法カード──『黒炎弾』を発動」

 

 黒竜の口から巨大な火球が放たれ、試験官を業火に包んだ。

 

「うわぁぁぁァァッ!!」

 

 試験官 LP4000→LP1600

 

【『黒炎弾』

 このカードを発動するターン、『真紅眼の黒竜』は攻撃できない。自分のモンスターゾーンの『真紅眼の黒竜』1体を対象として発動できる。その『真紅眼の黒竜』の元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。】

 

 この効果によって2400ポイントのダメージを受けた試験官は、ライフポイントを大幅に削られた。

 効果ダメージ。所謂バーンダメージとして最高峰のダメージを叩き出す『黒炎弾』を喰らったのだから、当然の結果ではある。

 

「──くっ! 『真紅眼の黒竜』だけでなく『黒炎弾』までとは! だがまだ私のライフは残っているぞ!」

 

 そんな試験官の訴えは、紅也の一言によって吹き飛ばされる。

 

「…………2枚目あります」

「なにぃぃぃィィィィッ!?」

 

 再び口を開く黒竜。灼熱のエネルギーを溜めて火球を生成。狙いを定め、勢いよく打ち出した。

 

 試験官 LP1600→LP0

 

 あまりにも呆気ない決着、紅也は勝利した。

 そして二発も『黒炎弾』を受けた試験官は、ソリッドビジョンであるにも関わらず気絶。担架に乗せられて運ばれて行った。

 

(……やり過ぎだろ)

『グルゥオ』

 

 デュエルが終わり姿を消し始める黒竜。恨みがましく言ってはみたものの、当の本人は満足気で消えていった。

 

「……ごめんなさい」

 

 試験官が運ばれた方向へ向き、謝罪する紅也。

 自身に向けられていた火球という名の脅しを代わりに喰らわせたこと、後悔はせずとも深く謝罪した。

 

 そんな紅也を観客席から見つめる女性が一人。

 

(真紅眼の黒竜。兄さんと(・・・・)…… 同じ(・・)

 

 波乱の入学試験は終了し、頑張り時の受験期も終了した。後は合格発表を待つだけだ。

 

 こうして──転生者、竜伊紅也の物語は再び幕を開けた。

 真紅の眼をした、黒竜と共に。

 

 

 

 




 掃除の際に出てきたレッドアイズデッキを見て書いた小説です。
 気楽に書いていきたいと思ってますので、よろしくお願いします。


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〜黒炎弾の人〜

 

 

 

 

 

 無事にデュエルアカデミア合格となった紅也。

 やり過ぎで不合格という不安もあったが、杞憂に終わってなによりだった。

 

 デュエルアカデミアまで巨大ヘリでの空の旅を満喫し、念願のアカデミアへ到着した合格者達。受験を乗り越えたからか全員表情は緩く、雰囲気は朗らかであった。これから始まる学園生活に期待を膨らませているということもあるだろう。

 

「…………」

 

 しかし、黒竜に愛されし男、竜伊紅也の表情は優れない。

 乗り物酔いなどならまだ良かった。薬を飲めば治るのだから。彼の置かれている状況は薬を飲んでも治らない。

 

「アイツだぞ」

「レッドアイズ使った人か」

「暗い人だわ」

 

 遠巻きに見られながらヒソヒソと小声で話題にされるというのは、中々に気分が良くない。ヘリの機内でも同じようなことがあったのだが、上陸してより多くの者に顔を見られてから頻度が増えたのだ。

 

 だが今のようなヒソヒソであればまだマシだ。紅也が特に嫌なのは別にある。

 

「アイツだぞ……『黒炎弾』の人」

「『黒炎弾』使った人か、二発も」

「『黒炎弾』の人だわ」

 

 グサグサと刺さる言葉を受けながら、紅也はアカデミアへと入った。

 

(……誰が『黒炎弾』の人だ)

 

 入学初日、不名誉なあだ名が付いた。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

 《遊戯王デュエルモンスターズGX》。

 アニメ遊戯王第二作品目として放送され、初代からの人気を落とすことなく遊戯王の人気を更に高めたファンの多い作品である。

 

 この世界がGXの世界であることは紅也も分かっていた。そこまで熱心に見ていた訳では無いが、少々の知識ぐらいは持っていたからだ。デュエルアカデミアと言えばGXというのも分かりやすいポイントではあった。

 

 デュエルを愛す熱血少年、遊城十代(ゆうきじゅうだい)を主人公とするGX。

 デュエルモンスターズの精霊を視ることが出来る十代が様々な経験を経て、子供から大人に成長していく物語だ。

 

(アニメならGXが一番好きだったかなぁ)

 

 空を見上げながらデュエルディスクを起動する紅也。

 入学式を終え、島を見て回る自由時間中に懐き度MAXの背後霊黒竜と歩いていた、そんな時だ。

 

 ──主人公に捕まった(・・・・・・・・)

 

「デュエルしようぜっ!」

 

 開口一番これである。流石は歴代主人公でトップクラスのデュエルバカだ。

 そしてセールスマンもビックリな押しの強さで押されまくった結果、内気な紅也は上陸して三時間でデュエルディスクを構えることになったのだ。

 

(……本当に十代だ)

 

 目の前にアニメの主人公。熱心なファンであったという訳でもなかったが、いざ体験すると込み上げてくる嬉しさはある。見ただけで元気に満ちている若さは、精神年齢二十五歳の男には眩しい。

 

「受けてくれてありがとな! 俺、遊城十代! お前の名前は?」

「……竜伊紅也。よろしく」

「紅也か! よろしくなっ!」

「僕は丸藤翔(まるふじしょう)っス。よろしく紅也くん」

 

 十代の後ろに立つ水色の髪をした気弱そうな男。原作通り、丸藤翔は十代の弟分に落ち着いたようだ。軽くお辞儀してから、十代へ向き直る。

 

「翔に聞いたぜ! あのレッドアイズを使うんだろ? 俺が会場行った時にはもう紅也の試験終わってたからさ、翔に話を聞いてからずっとデュエルしたかったんだ!」

 

 目をキラキラさせながら言葉を放つ十代。試験が紅也より後に行われる予定で、更に遅刻してきた十代は紅也のデュエルを観られなかったようだ。

 本当に楽しそうな様子を見て、デュエルを引き受けて良かったと紅也は少し思った。

 

「──じゃあ、いくぜ!」

「……お、おう」

「デュエルッ!」

「……デュエル」

 

 十代 LP4000

 紅也 LP4000

 

 ヘナチョコの照れにより開始宣言の音量は異なったものの、デュエルが開始された。先攻は十代、勢いよくデッキからカードを引いた。

 

「俺のターン! ドロー!」

 

 十代のデッキはE・HERO(エレメンタルヒーロー)を中心とし、それらを素材とする融合モンスターで戦うスタイルだ。

 

「いくぜ! 魔法カード『融合』! 手札の『E・HEROフェザーマン』と『E・HEROバーストレディ』を融合し、『E・HEROフレイム・ウィングマン』を召喚だ!」

 

 『E・HEROフレイム・ウィングマン』ATK/2100 DFE/1200

 

 そして十代の最も恐るべき特徴。それはドローの強さ、つまり引きの強さである。初手の手札に『融合』と融合素材が揃っていることなど普通、驚く程のことですらないのだ。

 どんなに苦しい状況でも一回のドローで全てをひっくり返す。主人公補正と呼ぶにはあまりにも凶悪だ。

 

「へへっ、カッコいいだろ? マイフェイバリットカードだぜ」

「ああ、カッコいいな」

「おっ、分かってるじゃん! まあ先攻は攻撃出来ないから、カードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

 攻撃出来ない状況でエース級モンスターを出しても対策されやすい。そのため先攻は派手に動かず盤面を整えるものなのだが、十代にはそんなことお構いなしのようだ。

 

「お、俺のターン、ドロー」

 

 十代という主人公のオーラに当てられたのか、少し声が大きくなる紅也。ドローを含めた6枚の手札を確認。どうやら試験の時のようなことにはならなそうだと一安心。

 

「『仮面竜(マスクド・ドラゴン)』を召喚」

 

 『仮面竜』ATK/1400 DFE/1100

 

 全身が硬そうな筋肉に包まれたドラゴンがフィールドに現れる。戦闘破壊された時にデッキから新たなドラゴンを呼ぶことが出来る優秀なリクルーターだ。

 

「おおっ! ドラゴンか! カッコいいぜっ!」

 

 今使用しているのは、この世界で買い揃えたカードに前世のデッキから抜いたレッドアイズを入れて構築したデッキだ。ちなみにレッドアイズは初期イラストであり、レアリティはレリーフだ(自慢)。

 そして時代からか、通常モンスターの割合が多めになっている。

 

「魔法カード『おろかな埋葬』を発動。効果でデッキからモンスター1体を墓地に送る。『真紅眼の黒竜』を選択」

「ええ!? レッドアイズを墓地に送るのか!?」

 

 十代の反応に応えようかと思ったが、既に頭は精一杯であった。まだまだデュエルには慣れないようだ。

 

「魔法カード『死者蘇生』発動。墓地から『真紅眼の黒竜』を特殊召喚」

 

 『真紅眼の黒竜』ATK/2400 DFE/2000

 

 墓地から蘇るのは不動のエース。真紅の瞳を輝かせ、対峙するヒーローへ咆哮した。

 

「おおっ! すげぇ! レッドアイズだ!!」

 

 拳を握りながら子供のようにはしゃぐ十代。大切なカードの登場にそこまで喜ばれると、紅也も素直に嬉しかった。だからこそ、十代のためにも真剣勝負に手は抜かないという思いが湧き上がる。

 

「魔法カード『スタンピング・クラッシュ』。自分フィールド上にドラゴン族モンスターが表側表示で存在する場合に発動。フィールド上の魔法・罠カード1枚を破壊し、破壊したカードのコントローラーへ500ポイントのダメージを与える」

 

 十代の場に伏せられている1枚のリバースカードを竜の足で踏み潰し、破壊した。

 

「『ヒーローシグナル』が……うわぁっ!」

 

 十代 LP4000→LP3500

 

 モンスターが破壊された時にデッキからE・HEROを呼ぶことが出来る優秀な罠を破壊し、『スタンピング・クラッシュ』の追加効果で十代のライフが削られる。

 

「続けて魔法発動だ、『禁じられた聖槍』。効果により『フレイム・ウィングマン』の攻撃力を800ポイントダウンさせる」

「うおっ! マジかよ!」

 

『E・HEROフレイム・ウィングマン』ATK/2100→ATK/1300

 

「バトルフェイズだ。『仮面竜』で『フレイム・ウィングマン』を攻撃」

「させないぜ! 罠発動! 『ヒーローバリア』ッ! E・HEROへの攻撃を一度だけ無効にする!」

 

 攻撃力を低下させることで僅かにこちらが上回った一撃は、伏せられていた罠によって防がれた。しかし、紅也にはまだ攻撃権を残しているエースが居る。

 

(…………楽しい)

 

 この世界に来て初めて湧き上がる感情が徐々に紅也を昂らせる。これも主人公の成せる技なのだろうか。柄にもなく"ワクワク"という言葉を使いたい気分にすらなっている。

 

「次の攻撃は防げるか?」

「へへっ、どんとこい!!」

 

 闘志が滾る瞳を煌めかせる十代。そんな彼にやはり感化されてしまう。

 

「……いくぞ。『真紅眼の黒竜』で『フレイム・ウィングマン』を攻撃」

 

 やれるだけやろう、そんな覚悟と共にした攻撃宣言──だったのだが。

 

「……あれ?」

 

 名指しで指定したにも関わらず、黒竜はピクリとも動かない。

 

「攻撃」

 

 声が小さかったかと思い、言い直す。しかし、黒竜は動かない。

 

「こ、攻撃!」

 

 出来る限り張り上げた一声でも、黒竜は動かない。空を流れる雲でも眺めるように静かだ。

 まさか遊戯王をやっていて、モンスターが言うことを聞かない状態になるとは思わなかった。同じモンスターでもポケットに入る感じじゃなく、カードから出てくるモンスターなのに。

 

(なぁにこれぇ)

 

 思わず変な口調になる紅也。十代も頭に? を浮かべている。このままではデュエルにならない。紅也はボケーっとしている黒竜へ慌てて声を掛けた。

 

『こ、攻撃って言ってるだろ! レッドアイズさんッ!?』

 

 届いている筈の声にすら反応を見せないレッドアイズさん。完全なる無視である。まるでそれぐらい自分で分かれと言わんばかりの態度だ。

 

(……考えろぉ、なんでだ?)

 

 真剣勝負うんぬんの覚悟を決めた瞬間に、エースモンスターに出鼻を挫かれるデュエリストが居るらしい。

 そんな情けない男は脳みそをフル回転中、解決策を導き出そうとした。

 

(なんか気に入らないんだろうな。じゃなきゃコイツは俺を困らせることなんてしない)

 

 精霊としての付き合いは短いが、嫌われている訳でないことは分かっている。であれば原因は他にある。何が気に入らないのか、紅也の頭に一つの考えが浮かんだ。

 

(……いや、まさかなぁ)

 

 しかし思いついた本人すらアホらしいと思う考え。十中八九違うとは思うが物は試し、紅也は僅かばかりの希望に縋りついた。

 

「──黒炎弾!!」

『グルゥオォォォォォッ!』

 

 先程までの緩さが一瞬で消え、黒竜として恥じない業火球を『フレイム・ウィングマン』へ発射。力の差を見せつける一撃で粉砕した。

 

「うわぁぁぁァァッ!!」

 

 十代 LP3500→LP2400

 

(……ええぇぇぇ〜)

 

 技名を叫ばないから負ける。とんでもなくダサい負け筋からなんとか逃れた紅也。自分のエースモンスターが思ったより面倒臭いと、今回のデュエルで分かった。

 

「気合の入った一発貰っちまったぜ!」

「……お、おう。カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 十代の賞賛に苦笑いで応える紅也。残り1枚となっていた手札を伏せ、自身のターンを終了した。

 

(ま、まあ。なんとかなったな)

 

 ハプニングが起こりそうではあったが、結果だけ見れば上々。

 十代の場は綺麗さっぱり残っておらず、手札も次のドローを含めても2枚。対してこちらにはドラゴンが2体。保険のリバースカードも存在する。手札こそ使い切ってしまったが紅也が優勢で十代は劣勢、誰がどう見てもそう思うだろう。

 

(……ひっくり返されるのか?)

 

 ここまで優勢な立場でありながら、紅也の頭からそんな疑念は消えない。

 なにせ相手はそこらのモブキャラではない、主人公・遊城十代なのだ。どんな絶望的状況でも諦めず自らのデッキを信じて奇跡を起こしてきた男を相手に、紅也は逆転されるかもしれないという焦りと、逆転する様を見せてくれという相反する思いを抱えた。

 

「紅也! お前最高に強いな! 燃えてきたぜ!」

「逆転……するつもりか? この状況から?」

 

 そんな紅也の問いに、十代は間を置かずに即答した。

 

 

「──当たり前だろ(・・・・・・)!」

 

 

 そんな言葉が紅也に衝撃を与える。

 これが物語の時を進める者。誰よりも勇敢に戦い、世界の危機すら救ってしまう主人公だ。

 

「……じゃあ、見せてくれ」

「おう! 見せてやる! 俺のドローは奇跡を呼ぶぜ!」

 

 闘志を更に引き上げ、己のデッキに指を掛ける。そのまま勢いよく、主人公は運命の1枚をドローした。

 

「俺のターン! ドローッ! よっしゃ! いくぜ!!」

 

 手札は2枚。手札の枚数=出来ること、遊戯王に置いて手札はなによりも重要なアドバンテージと考える者も少なくない。たった一度のドローで奇跡を呼び込んだ男は、逆転に向けて動き出した。

 

「魔法カード『強欲な壺』! 更に2枚ドローする!」

 

 手始めに『強欲な壺』。これも十代の引きの強さによって成せる技だ。

 引いた2枚のカードを見て、十代はニヤリと口端を上げる。

 

「『E・HEROバブルマン』を守備表示で召喚! そして効果発動! このカードが召喚に成功した時、自分フィールド上に他のカードが無い時、デッキからカードを2枚ドロー出来る!」

「……おお〜」

 

 アニメ効果の強欲な『バブルマン』。実際に目の当たりにするとインチキ効果も大概にしろ案件である。

 

「きたきたっ! 俺は魔法カード『融合』発動! 手札の『E・HEROスパークマン』と『E・HEROエッジマン』を融合し、『E・HEROプラズマヴァイスマン』を召喚だ!!」

 

 『E・HEROプラズマヴァイスマン』ATK/ 2600 DFE/2300

 

 黄色のボディに圧倒的な巨体。身体からはバチバチと電撃が弾けており、まさしく雷の巨人である。

 

「……すげぇ〜」

 

 攻撃力自体がレッドアイズを上回っているが、『プラズマヴァイスマン』の真価は秘められた効果にある。

 

「『プラズマヴァイスマン』効果発動! 手札一枚を墓地に送ることで、相手フィールド上に攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して破壊する! 対象は『真紅眼の黒竜』だ!」

 

 黄金の雷に焼かれ、レッドアイズは破壊された。

 

「──ッ! ……レッドアイズ」

「まだまだいくぜ! 『プラズマヴァイスマン』で『仮面竜』を攻撃!」

 

 紅也 LP4000→LP2800

 

 エースを破壊され、残ったモンスターも掃討された。圧倒的優勢であった盤面は1ターンで見事にひっくり返され、紅也の場に存在していたドラゴンは1体も残されていない危機的状況だ。

 

「よっしゃあっ! やったぜ!」

「……すげぇ〜」

 

 無邪気な笑顔でピースしている十代を、呆然と眺める紅也。中々上手い立ち回りが出来たと自負していたのだが、それを1ターンで覆されてしまった、この事実が紅也を少しの時間硬直させた。

 

「これでターンエンドだ!」

「……あ、罠を発動。『レッドアイズ・スピリッツ』」

 

【『レッドアイズ・スピリッツ』

 自分の墓地の『レッドアイズ』モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する】

 

 アカデミアの生徒がこのカードを見れば、蘇生させられるモンスターに条件の無い『リビングデッドの呼び声』の方が良いということを言うだろう。

 しかしこのカードが良いのだ、汎用性よりもテーマというロマンが勝るのだから。

 

「やるな! レッドアイズが戻ってきたぜ! ワクワクしてきた!」

 

 ターンエンドさせる前に墓地へと沈んだレッドアイズを無事に蘇生。ガラ空きのフィールドは回避したが、手札は0だ。次のドローで全てが決まる大一番、何を引けばこの状況から逆転できるのかすら分かってはいないのだが。

 

(どうすればいいんだよ。てか普通にプレミしたし)

 

 場にレッドアイズが居るとはいえ、他に使えるカードは何もない。

 綺麗に逆転された動揺から『仮面竜』のリクルート効果を発動することすら忘れていたので、2体目のモンスターを呼べなかった痛恨のプレイングミスも響いている。

 

 そして何より今のひっくり返しを見せられてしまえば、次のターンで決めなければ負けるという思いも湧き上がってくる。

 

(『プラズマヴァイスマン』は戦闘破壊出来ない)

 

 攻撃力が負けているため、自滅行為に他ならない。

 

(レッドアイズで『バブルマン』を破壊?)

 

 その場合次のターンでレッドアイズが効果破壊され、モンスターでも出されればダブルダイレクトアタックで敗北。しかも『バブルマン』は攻撃表示ではなく守備表示、十代のライフにはダメージすら与えられない。

 

(……無)

『グルゥオ』

(──理じゃないです)

 

 諦めモードを1秒すら許さない黒竜によって、紅也のネガティブな思考は焼き尽くされた。どうせ次のドローで決まるのだ。ヤケクソである。

 

(……ん? 待てよ?)

 

 ここでふと気づく。対象となったのは十代に残されたライフポイントだ。

 

(──2400か(・・・・・)

 

 デッキを信じれば答えてくれる。真のデュエリストは必要なカードを己の力で呼び込む。時代に名を残す者達はそうして激闘を勝ち抜いてきたのだ。

 

 作ったばかりで愛着もそこそこではあるが、今使用しているデッキがこの時代に置けるメインデッキだ。

 

(よ、よし。信じるぞ)

 

 思い描くは1枚のカード。モンスターでもなければ罠でもない。紅也自身が信じる最強のバーンカード(・・・・・・・・・)だ。

 

「……いくぞ、遊城」

「おう! 全力で来いっ!」

 

 自身の前に居る黒竜とデッキを信じ、紅也は腕を振り切ってドローした。

 

 その結果──デスティニードロー(神引き)である。

 

「……悪いな。俺の勝ちだ」

「ッ!? 不味い! あれ(・・)が来るよ! アニキッ!!」

 

 似合わない勝利宣言をする紅也。そんな彼の言葉に反応したのはデュエルを観戦していた丸藤翔であった。何故なら十代とは違い、翔は紅也の試験デュエルを目撃しているのだから。

 

 引いたばかりのカードを渋い表情で発動。

 

 

「魔法カード──『黒炎弾』」

 

 

 紅也は不名誉なあだ名を、甘んじて受け入れた。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

「がぁー! 負けたぁ!」

(……危ねぇ)

 

 デュエルが終了。結果自体は紅也の勝利であったが、その内容は実にギリギリなものだった。

 

(……『レッドアイズ・スピリッツ』伏せてなかったら負けてた)

 

 運命力を発揮したドローもそうだが、そもそもレッドアイズが場に居てくれなければ負けていた。

 更に十代に訊ね、次のドローカードを教えてもらったところフィールドか墓地で融合召喚を行える『ミラクルフュージョン』。やはりあのターンで決めていなければ負けていた可能性が高い。ギリギリのギリだ。

 

「やっぱレッドアイズはカッコいいぜ! 次は負けないからな! 紅也!」

「あ、ああ。次もいい勝負しよう、遊城」

「十代でいいぜ! もう友達だろ!」

 

 自身とは別次元のコミュ力に感動しながら、紅也は照れを捨てて返答する。

 

「じゃ、じゃあ十代。よろしくな」

「おう! よろしく!」

「僕も翔でお願いするっス! 紅也くん」

「よ、よろしく……翔」

 

 十代と翔は赤色の制服、つまり《オシリスレッド》の生徒。

 紅也の着ている黄色の制服が所属する《ラーイエロー》とは別の寮なので、これから仲良くしようという挨拶を終えると別方向へと歩き出した。

 

 友達として十代と翔とメアドを交換した。空白であった自身の端末に新しく連絡先が増えたことは素直に嬉しかった。

 

『……頼むって。あんま焦らさないでくれよ』

『…………』

 

 紅也はデッキから取り出した1枚のカードを見つめながら、諭すように優しく言葉を放つ。技名を叫ぶかどうかで追い詰められるデュエリストなど、世界中探してもそうそう見つからないだろう。

 

 紅也の言葉にも特に反応を見せないツンデレ黒竜。身体が薄く精霊化しており、隣を低空飛行しながらついてきている。この状態だと他の人間にはその姿を視る事は出来ない。

 例外として十代は視ることが出来るが、先程は精霊化しなかったのでこの黒竜が精霊であることを彼はまだ知らない。

 

 1人と1匹で歩き、順調に《ラーイエロー》の寮付近まで来た時であった。

 

「──竜伊、紅也くん?」

 

 不意に後ろから声を掛けられる。振り返ってみるとそこには、青い制服で身を包む品のある女性が立っていた。

 

「……そうですけど。……あっ」

 

 大人っぽい雰囲気が溢れているため歳上かと思い敬語。まあ初対面で敬語以外を使える程太い神経はしていないのだが。

 しっかりと視線を向けてから、声を掛けてきた女性が誰なのかを理解した。アニメGXにてヒロインとも呼べる立ち位置だった女性だ。

 

「私は天上院明日香(てんじょういんあすか)。貴方と同じ高等部一年よ」

 

 紅也が明日香の登場に驚きを隠せないでいると、神妙な表情をした明日香が口を開く。

 

「……貴方の試験デュエルを見たの。レッドアイズを使っていたわよね」

「え? あ……そ、そうですけど」

 

 美人との会話に免疫が無いこの男。ぎこちなさはありながらも、なんとか言葉を返す。

 

「少し興味があったの。ごめんなさい、急に声を掛けて」

 

 これ程の美人にそのようなことを言われれば、大抵の男は嬉しいだろう。もちろん紅也もその内の1人だ。

 内心舞い上がっていると、明日香は一言謝罪してから背を向けた。

 

「またね。今度は私とデュエルして欲しいわ」

 

 手を振りながらそんな言葉を残し、明日香は去って行った。

 

「……なんだったんだ?」

 

 原作キャラ達との邂逅を果たした入学初日。

 黒竜と共に過ごす学園生活が、始まった。

 

 

 

 




 歴代主人公で最も髪型が普通な十代くんとのバトルでした。
 GXは再放送とかでよく見てましたね。勝ち確BGMが流れた時の上りっぷりはヤバいです(笑)。


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〜譲れないもの〜

 

 

 

 

 

 とある内気な少年は、一つのカードゲームを知る。

 

 親に頼み、パックを買ってもらった。

 

 初めて手にしたカードは鈍く光を放っていた。

 

 少年はそのカードに、心を奪われた。

 

 学校終わりに家で遊ぶ、一緒にカードを買いに行く。

 

 少年には、そんな友達が多く出来た。

 

 幸福を与えてくれたカードを、少年は1番の宝とした(・・・・・・・)

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

 デュエルアカデミアでの生活が幕を上げ、期待に胸を膨らませる新入生たち。その内の一人である紅也も無事《ラーイエロー》に入寮を済ませ、学園の散策をして一日を終えようとしてた。

 

 現在の時刻はもうすぐ日付が変わる程の深夜。明日から本格的に授業が開始されるため多くの新入生は早めの就寝を心がけるだろうが、紅也はまだ就寝するつもりがない。行かなければならない場所があるからだ。

 

「……」

 

 デュエルディスクを装着していることから、目的は一目瞭然。

 表情はいつも通り変わらないが、僅かばかりに怒りの感情が滲んでいる。

 懐から前世で使用していたデッキを取り出し、少し迷うような態度を見せた後──1枚のカード(・・・・・・)を手に取り、今のデッキへと投入した

 

「……行くか」

 

 そうして部屋を後にする紅也。

 同じく怒りの感情を昂らせている、黒竜と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルアカデミアには当然の如く、デュエルをするためのフィールドが多く存在している。授業用のものから寮ごとに与えられた専用のフィールドなども完備されているのだ。

 

 紅也が足を運んだのはデュエルアカデミアの中でもエリートのみが所属することの出来る《オベリスクブルー》専用のデュエルフィールド。エリートたちが使用するだけあり、最新設備のオンパレードである。

 

 到着した紅也を、男の声が出迎えた。

 

「竜伊紅也、逃げずに来たことを褒めてやる」

「……それはどうも」

 

 セットするのが難しそうな髪型と自信に満ちている高圧的な態度。青色の制服に身を包む男は、腕を組みながら上から目線の一言を放った。

 

 この男、万丈目準(まんじょうめじゅん)。デュエルアカデミア中等部を首席で卒業しており、エリート集団の中でも抜きん出た才能の持ち主だ。

 世界にも名が轟く栄誉ある万丈目グループの三男でもあり、生まれながらのエリートでもある。

 

「覚悟は出来ているようだな」

「……ああ」

 

 不敵な笑みを浮かべる万丈目に対して、紅也の表情は静かだ。挑発とも取れる言葉を流し、デュエルフィールドへと上がった。

 

 そもそも事の発端は昼間にまで遡る。十代、翔の二人と共に学園内の施設を巡っていた時、万丈目とその取り巻きたちに遭遇した。

 その際に試験でレッドアイズを使った『黒炎弾』の人であることに気付かれ、因縁を付けられる。

 

『やぁ、竜伊紅也くん。午前0時デュエルフィールドにて待つ。互いのベストカードを賭けたアンティルールで勝負だ』

 

 夕食を終えて部屋でまったりしていた時、紅也の端末に送られて来たビデオメールの内容である。紅也の性格的に無視する案件なのだが、今回の件を無視する訳にはいかなかった。

 内容に付け足された万丈目からの一言が、彼を普通に怒らせたのだ。

 

『お前にレッドアイズは宝の持ち腐れだ、代わりに俺が完璧に使いこなしてやるよ』

 

 紅也にとって最も大切であると言っても過言ではないレッドアイズ。それに対してここまで言われたのだ。引き下がるという選択肢は紅也になかった。

 

「ルールは覚えているな。ベストカードを賭けたアンティルールだ。まあ、お前はレッドアイズだろう」

「……お前は何を賭けるんだ?」

「ふっ、必要ないと思うがな。まあいい、お前が決めると良いさ。俺に勝てたのなら」

 

 自分の勝利を少しも疑っていない万丈目。紅也は提示された案に対して、デュエルディスクを起動させながら返答した。

 

「カードは要らない」

「なんだと?」

「代わりに俺が勝ったら──頭を下げて謝罪しろ」

「……舐めた口を叩きやがって。後悔するんだな、あのドロップアウトボーイを潰す前にお前を潰してやろう」

 

 眉間に皺を寄せながら、同じくデュエルディスクを起動する万丈目。

 互いの準備が完了し、デュエルが開始されようとしていた時、新たにこのフィールドへ一人の女性が現れた。

 

「何やってるの!」

 

 現れたのは天上院明日香。使用時間外にデュエルフィールドが動いていることを不審に思いやって来たようだ。彼女自身もこんな時間に出歩いているので、怪しさで言えば同じなのだが。

 

「やぁ、天上院くん。生意気なルーキーに現実の厳しさを教えてやろうと思ってね」

「アンティルールって聞こえたけど。校則で禁止されているのは知ってるわよね?」

 

 ド正論を言われ口を閉じる万丈目。このままデュエルもお流れになりそうな雰囲気だが、それを振り払ったのは紅也であった。

 

「天上院……さん」

「竜伊くん。貴方もこんなデュエル受けちゃ駄目よ」

「──そうはいかない」

「ッ!!」

 

 やめさせようとした明日香に、強い口調で返す紅也。昨日の大人しそうな印象とは違う態度に、明日香は思わずビクッと肩を震わせる。

 

「悪いけど、見逃してくれ。……始めるぞ、万丈目」

「"さん"を付けろ! 後悔するなよ竜伊ッ!」

 

 激昂する万丈目と静かに怒りを滾らせる紅也。

 そんな様子を見て止めることを諦めた明日香。無理ならばと観戦することに決めたようだ。そうして二人の男によるアンティデュエルが開始された。

 

「デュエルッ!」

「デュエル」

 

 万丈目 LP4000

 紅也  LP4000

 

「俺の先攻! ドロー! 『地獄戦士(ヘルソルジャー)』を攻撃表示で召喚!」

 

『地獄戦士』ATK /1200 DFE/1400

 

 現れたのは凶暴な顔をした屈強な戦士。攻撃力は低いが厄介な能力が備わっているモンスターだ。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド!」

 

 派手には動かない静かな立ち上がり。十代とは違うデュエルスタイルであることが分かる。

 

「……ドロー」

 

 カードを引いた紅也に熱い意志が向けられる。背中を焼くように熱いそれは、背後に浮かぶ激おこ黒竜が放っているものだった。

 

(分かってるよ)

 

 早く自分を出せと訴えてくる相棒。自分よりも怒っている存在に苦笑いしながら、要望に応えるため動く。

 

「魔法カード『召喚師のスキル』を発動。デッキからレベル5以上の通常モンスター1体を手札に加える。『真紅眼の黒竜』を選択」

「ふん! このデュエルが最後だ。精々活躍させてやるんだな」

「更に魔法カード『古のルール』を発動……来い、レッドアイズ」

『グルオォォォォッ!!』

 

『真紅眼の黒竜』ATK/2400 DFE/2000

 

 手札に加えられたのも束の間、すぐ様フィールドに飛び出して来たレッドアイズ。激しい咆哮をフィールドに響かせた。

 十代とデュエルしていた時とは違い、燃える炎のような真紅の瞳は、より深い光で輝いている。

 

「装備魔法『団結の力』。レッドアイズに装備する」

 

【『団結の力』

 装備モンスターの攻撃力・守備力は、自分フィールドの表側表示モンスターの数×800アップする】

 

 現在の紅也フィールドにはレッドアイズのみのため、攻撃力は800ポイントアップした。

 

『真紅眼の黒竜』ATK/2400→ATK/3200

 

「レッドアイズで『地獄戦士』を攻撃──黒炎弾」

 

 紅也の宣言と同時に圧倒的な熱量の火球が邪魔されることもなく万丈目を襲う。ライフポイントの半分を奪う一撃は激しい衝撃となった。

 

「うわぁぁぁっ!!」

 

 万丈目 LP4000→LP2000

 

 大きなダメージを喰らったが、地獄の戦士はただでは死なない。

 

「『地獄戦士』の効果発動! 戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分の受けた戦闘ダメージと同じ数値のダメージを相手に与える!」

 

 紅也 LP4000→LP2000

 

 死に際の足掻きによって同じくライフが半分となる紅也。しかし焦った様子は見えない。

 

「更に罠発動! 『ダメージ・コンデンサー』! 手札を1枚墓地に送り、俺が受けた戦闘ダメージ以下の攻撃力を持つモンスター1体をデッキから攻撃表示で特殊召喚する! 現れろ! 『地獄将軍(ヘルジェネラル)・メフィスト』!」

 

『地獄将軍・メフィスト』ATK/1800 DFE/1700

 

 生贄が必要な☆5の上級モンスターではあるが、2000ダメージを受けた時の『ダメージ・コンデンサー』の効果対象であるため、デッキからフィールドへと降り立った。

 攻撃力の低い『地獄戦士』を攻撃表示で出していたのは効果を発動させるためだけでなく、次の一手のための布石でもあったようだ。デュエルアカデミア中等部主席は伊達ではない。

 

「迂闊な攻撃だったな。やはりお前にレッドアイズは相応しくない!」

「カードを2枚伏せて、ターンエンド。早くしろ……お前のターンだ」

 

 万丈目の挑発にも大した反応を見せない紅也。冷めた態度でデュエルの進行を促した。

 

「チッ……俺のターン! ドロー! フッフッフ……見せてやろう! これが落ちこぼれとは違うエリートの力だ! 装備魔法『デーモンの斧』によって1000ポイント! そして『悪魔のくちづけ』で700ポイント! 合わせて『メフィスト』の攻撃力を1700ポイントアップ!」

 

『地獄将軍・メフィスト』ATK/1800→ATK/3500

 

 ダブル装備魔法で大幅に攻撃力を上昇させたことで、レッドアイズの攻撃力では到底敵わない差が出来てしまった。

 

「『メフィスト』で『真紅眼の黒竜』を攻撃! ヘルスラッシュ!」

「罠発動、『ガード・ブロック』。戦闘によって発生したダメージを0にして、デッキからカードを1枚ドローする……ドロー」

 

 伏せていた罠によりダメージは受けず手札も増えたが、振り上げられた斧によってレッドアイズが一刀両断される。

 

「ふん、小癪な。まあいい、次の俺のターンでお前の負けだ」

 

『地獄将軍・メフィスト』には相手に戦闘ダメージを与えた時、相手の手札からランダムに1枚を墓地へ捨てさせる効果がある。それは防がれたが、有利なことに変わりはない。万丈目は満足気に笑った。

 

「ターンエンドだ」

「その前に罠発動、『レッドアイズ・スピリッツ』。『真紅眼の黒竜』を特殊召喚する」

 

『真紅眼の黒竜』ATK/2400 DFE/2000

 

「無駄な足掻きだな。レッドアイズでは今の『メフィスト』は倒せん」

 

 万丈目の言葉を聞き、確かにと納得する紅也。しかし、その問題は先程の『ガード・ブロック』によってドローした1枚のカードによって解決することが出来てしまう。

 

「次の俺のターンでお前の負けだ、そう言ったな」

「……?」

 

 復活したレッドアイズに視線を向けながら、呟くように言葉を放つ紅也。不審に思う万丈目へと視線を移し、紅也はハッキリと断言した。

 

「──次のターンで負けるのはお前の方だ」

「なにッ!?」

「俺のターン。ドロー」

 

 ドローしたカードを確認もせず、デュエルを終わらせるため動く。そんな紅也に動揺しつつも、自身の勝ちを疑わない万丈目。

 そもそも慎重な男である万丈目は紅也の試験デュエルから万全の対策を行なっている。その対策とは──『黒炎弾』に対してのものだ。

 

(土壇場で『黒炎弾』を引いたか)

 

 そうだとするならば、確かに敗北するのは自分だろう。しかし、万丈目は笑みを深める。『黒炎弾』の対策として投入したカードを罠として伏せているからだ。

 

(俺が伏せているのは『封魔の呪印』。手札にコストとなる魔法カードもある。お前が『黒炎弾』を発動した瞬間、お前の敗北は決まる!)

 

【『封魔の呪印』

 手札から魔法カードを1枚捨てる。魔法カードの発動と効果を無効にし、それを破壊する。相手はこのデュエル中、この効果で破壊された魔法カード及び同名カードを発動する事ができない】

 

 更に『封魔の呪印』は魔法カードの効果を無効にするだけでなく、無効にした魔法カードと同名カードをデュエル中に使用出来なくする追加効果を備えている。2枚目を引かれても問題はないのだ。

 

(レッドアイズは……貰った)

 

 己の勝利を確信する万丈目。そんな彼の心情など知る訳もなく、紅也は1枚のカードを手に取った。次の瞬間、紅也以外の全員が驚愕することとなる。

 

「俺はレッドアイズを生贄に捧げる(・・・・・・・・・・・・・)

「──ッ!? なんだとっ!?」

 

 万丈目だけではない、薄ら笑いを浮かべていた取り巻きも、黙って観戦していた明日香でさえも声を上げた。

 

「追い詰められて血迷ったか!」

「安心しろ、至って正気だ……そして手札からモンスター1体を特殊召喚する」

 

 ここへ来る前にデッキへ投入したモンスター。前世で使用していたデッキに入っていたカードであり、この時代ではまだ存在しない未来のカードだ。だからこそ使うかどうか迷いもしたが、このデュエルはレッドアイズで叩き潰すと決めたので使うことにしたのだ。

 

 消えていくレッドアイズを確認し、紅也はカードをデュエルディスクへとセットした。

 

 

「──『真紅眼(レッドアイズ・)の亜黒竜(オルタナティブ・ブラックドラゴン)』」

 

 

 激しい黒炎が巻き上がり、1体の黒竜が姿を現す。より攻撃性を増した身体はレッドアイズよりも深い漆黒で覆われ、両の眼は禍々しささえも感じる。

 

『真紅眼の亜黒竜』ATK/2400 DFE/2000

 

「……な、なんだこのモンスターは」

「『真紅眼の亜黒竜』は手札またはフィールドの"レッドアイズ"モンスター1体を生贄に捧げることで特殊召喚することが出来る。そして魔法カード『サイクロン』を発動、『悪魔のくちづけ』を破壊する」

 

『地獄将軍・メフィスト』ATK/3500→ATK/2800

 

 装備魔法が1枚減ったことで攻撃力が下がる。

 

「バカめ! それでも『メフィスト』の方が攻撃力が上だ! それに『デーモンの斧』ではなく『悪魔のくちづけ』を破壊するとは! 所詮は《ラーイエロー》だな!」

 

 万丈目の言葉に取り巻きたちも笑い声を上げる。『封魔の呪印』で『サイクロン』を無効化することも出来たが、どちらの装備魔法を破壊されても攻撃力の逆転は起こらない。それよりも警戒しなければならないのは、やはり『黒炎弾』だ。レッドアイズを蘇生させる手段が無いとも限らないのだから。

 

 明日香は取り巻きたちに冷めた目を向けるが、紅也の状況が悪いことも理解していた。

 

(……どうするつもり?)

 

 心配そうに紅也を見つめる明日香。これはアンティルール、いざとなれば自分が止めるつもりではあるが、それとこれとは別問題。

 そんな彼女の心配など他所に、紅也は黒竜へと指示を飛ばした。

 

「『真紅眼の亜黒竜』で『地獄将軍・メフィスト』を攻撃──オルタナティブ・フレア」

 

 レッドアイズ(相棒)ではないが進化系統なので、一生懸命技名を考えたのだ。そんな紅也に応えるように、オルタナティブは激しい黒炎を放射した。

 

「勝負を捨てたか! 迎え討て! 『メフィスト』ッ!」

 

 紅也 LP2000→1600

 

 僅かな攻撃力の差で、オルタナティブは破壊される。これにより紅也のフィールドにモンスターはおらず、次の万丈目のターンで勝負が決まる。この場に居る誰もがそう思った──そう、紅也以外は。

 

「この瞬間……『真紅眼の亜黒竜』の効果発動」

「何をしようと無駄だ!」

 

 見たことのないモンスターには驚かされたが、既に破壊済み。大した効果でもないだろうと一蹴する万丈目。

 

「このカードが戦闘または相手の効果で破壊された場合、『真紅眼の亜黒竜』以外の自分の墓地に存在するレベル7以下の"レッドアイズ"モンスター1体を特殊召喚出来る──『真紅眼の黒竜』を召喚する」

 

『真紅眼の黒竜』ATK/2400 DFE/2000

 

 何度も現れるレッドアイズに対し、万丈目が吠える。

 

「くどい! 例えお前の手札に『黒炎弾』があろうとも俺には効かん。無駄なことだと何度言わせる気だ!」

「……『黒炎弾』は使わないさ」

「なんだと?」

 

 紅也の一言に目を細める万丈目。そんな彼にゆっくりと言葉を放つ紅也。

 

「レッドアイズをよく見てみろ」

「……? 何だと言うんだ……ッ!!」

 

 促されるままにレッドアイズへ視線を向ける万丈目。何も変わりない姿に疑問を深めるが、ある一点の変化に気付くと、冷や汗を流しながら声を荒げた。

 

 

「こ、攻撃力──4800だとッ(・・・・・・・)!? 

 

 

『真紅眼の黒竜』ATK/4800 DFE/2000

 

 対峙している黒竜は先程までとは別物。そう言える程に圧倒的な攻撃力を携えて復活を遂げていたのだ。

 

「どういうことだッ!!」

「『真紅眼の亜黒竜』の効果で『真紅眼の黒竜』を特殊召喚した時、元々の攻撃力は倍になる」

「……そ、そんな馬鹿な」

「バトルフェイズ中に特殊召喚されたモンスターには攻撃権がある。よってまだ、俺のバトルフェイズは終わっていない。更にその伏せカード、攻撃反応型じゃないだろ。流石に2000ポイントダメージを受けて『メフィスト』は割に合わないもんな。使える罠ならさっき使ってた筈だ」

「…………」

 

 紅蓮の瞳を向けられる『地獄将軍・メフィスト』の攻撃力は2800。レッドアイズとの攻撃力の差は2000。この事実が意味する結果を、万丈目は受け止めきれなかった。攻撃を止める罠も無い、辿り着く結末は1つだった。

 

「……ま、まさか……『デーモンの斧』を破壊しなかったのは……」

「悪いな、結構怒ってるらしい──黒炎弾ッ!!」

『グルォォォォォォッ!』

「うわあぁぁァァァァァッ!!」

 

 万丈目 LP2000→LP0

 

 怒りの業火に身を焼かれ、万丈目は膝から崩れ落ちた。

 

 ──ジャストキル。

 わざわざライフポイントを丁度削り切れるように立ち回られるという見下されるような敗北は、これまでの人生をエリートとして歩んできた男には余りにも重過ぎた。

 

「俺の勝ちだ。約束は守ってもらう」

「う、嘘だ……。嘘だぁぁぁァァッ!!」

 

 頭を抱えながら走り出す万丈目。紅也に背を向けて足を動かす姿は、先程までの高圧的な態度を微塵も連想させはしない。

 引っ付いていた万丈目の無様とも言える敗走に、取り巻きたちも慌ててその場を去っていく。最後まで来た意味の無い者たちであった。

 

 一息ついていた紅也の意識を覚醒させたのは、慌てたように掛けられた明日香の声だった。

 

「竜伊くん! ガードマンが来るわ! 逃げましょう!」

 

 それは見回りのガードマンが来たことを知らせるもの。

 時間外のデュエルフィールドの使用、深夜の外出、怒られる要素は多い。デュエルでの疲労を振り払うかのように、紅也は明日香と共に走り出した。

 

(勝ったな)

『……グルゥ』

 

 デュエルの結果に、黒竜も満足気であった。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

「ふぅ、危なかったわね」

「ああ、ありがとう。天上院……さん」

「どういたしまして。後、私に"さん"は必要ないわ。面白いデュエルを見せてもらったし、楽しかった」

 

 無事にガードマンに見つからず外へ出た紅也と明日香。急いで走り抜いたので二人の息は少し荒い。

 

「それにしても、貴方って意外と好戦的なのね」

「……別に、そんなんじゃないよ」

「でも万丈目くんからの挑発に乗ったからデュエルしたんでしょ?」

 

 少し首を傾げながら訊ねる明日香。容姿が整っている彼女のそんな仕草に照れつつ、紅也はゆっくりと歩き出す。

 

「……そりゃ怒るだろ」

「えっ?」

「──大切なカードを奪おうとした挙句、宝の持ち腐れ(・・・・・・)なんて……言われたらさ」

 

 背中越しに発せられた言葉に、明日香は柔らかい笑みを浮かべる。

 

「ふふっ。そうね」

 

 小走りで紅也に追いつき、隣を歩く明日香。身長差はそこまで無いものの、若干明日香が見上げる形だ。暗いから平気だが、昼間であれば紅也の心臓が持たなかったことだろう。

 

「……天上院、もう暗いから寮まで送るよ」

「あ、ありがとう。紳士なのね、竜伊くん」

 

 勇気を振り絞った紅也の提案を素直に受け入れる明日香。断られていれば、彼の心に少しだけ傷が入っていた。

 

「じゃあ、お願いするわ。よろしくね」

「あ、ああ」

「少しの間だけど、さっきのデュエルのこと聞かせて欲しいわ」

「……良いけど期待するなよ? 余り説明は得意じゃないんだ」

「大丈夫。口下手な人とは普段話しなれてるから!」

 

 デュエルアカデミアの帝王(カイザー)にそんなことを言えるのは、アカデミアの中でも彼女ぐらいのものだろう。

 

 月明かりが照らす夜道。

 紅也と明日香は肩を並べ、適度に談笑しながら帰路についた。

 

 

 

 




 激おこ紅也&黒竜くんでした。
 カードパワーのインフレが過剰なものにならないよう配慮したつもりなので、楽しんで頂ければ幸いです。

 万丈目サンダーはGXでも上位に来るぐらい好きなキャラです!
 特に兄弟とのデュエルは記憶に残ってますね。サンダーの方がよっぽどエンタメデュエルしてると思います(笑)。


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〜月1試験〜

 

 

 

 

 

 デュエルアカデミアには1ヶ月に1度、在籍する生徒全員に対して午前筆記と午後実技の2つの試験が行われる日がある。

 

 この試験の結果によっては所属する寮のランクも上がるという、生徒達にとっては全力で望まねばならない行事なのだ。特にレッドゾーンと揶揄される《オシリスレッド》の生徒達は。

 

 そんな大事な試験の内の1つである筆記試験が終わり、休み時間を迎えた教室。既に大多数の生徒は姿が見えない。教室に残っているのは少数であり一箇所に集まっていた。

 

「その問題は少し迷ったけどDだと思うよ」

「こっちの選択問題はAにしたわ。三沢くんは?」

「ああ、俺もAだよ。まず間違いない」

 

 テスト後に自分の答えを言い合い、答え合わせをする者達。

 

「ああ〜、やっちまった〜寝ちまった〜。何のために勉強したんだか」

「気にすんな。午後の実技テストが本番よ」

 

 徹夜による寝不足から寝落ちした者、元から筆記を捨て実技試験に重きを置いている者。それぞれが思い思いの様子で過ごしているが、その中心に座る男は渋い顔をしていた。

 

「……いや、なんで俺の席に集まる?」

 

 どうにか空欄を作らずにテストを終えた紅也だった。

 ようやく頭を悩ます筆記を乗り切ったと安堵していた所へ集まってきた4人。集まってきたかと思えば各々自由に過ごし始めた。何故広い教室で自分の席に来たのか、紅也は溜め息を溢しながら呟いた。

 

「そう言うな。丁度中心で集まりやすかったんだ、47番くん」

「その呼び方やめてくれ。ていうかお前の席は俺の2つ隣だろ、三沢」

 

 紅也の呟きに返答したのは黒髪オールバックの男。受験番号1番という筆記試験トップで入学した秀才であり、紅也と同じ《ラーイエロー》所属である三沢大地(みさわだいち)だった。

 

 レッドアイズを使用していた紅也に対し興味を持ったようで、寮で行われた歓迎パーティーの際に面識を持った間柄だ。

 十代のことを1番くんと呼び実力を評価している、《オシリスレッド》にも差別意識が無い気持ちの良い男だ。

 

「良いじゃない。確かに集まりやすいもの」

「お前の席は遥か後ろだろ。天上院」

 

 三沢に便乗するように口を開いたのは、わざわざ後方の席からやって来た天上院明日香。エリートが所属する《オベリスクブルー》の彼女も三沢同様、格下の寮に対する差別意識は無い。

 万丈目とのアンティデュエル以降、紅也とはよく話す関係になっており、フレンドリーな態度で接している。

 

「やっちまったよぉ〜、紅也く〜ん!」

「な、泣くなよ。翔」

 

 寝る間も惜しんで勉強した者の悲劇。脱力したように泣きついてくる翔を宥めながら、肩に手を置き距離を取る。

 

「紅也はどうだったんだ? 俺は寝てたぜ」

「30分も遅刻してきたしな。本当凄いよ、十代」

「へへっ! そうか?」

「褒めてないからな」

 

 遅刻して来たというのに何も気にせず突撃出来る面の皮の厚さ。小心者の自分に少しでも良いから分けてほしいと、紅也は心の中で思った。

 

「にしても他の奴らどこ行ったんだ? もう昼飯か?」

 

 そんなことを思われているとは知る筈もなく、十代はスカスカとなった教室を見回した。

 

「購買部さ。なんせ昼休みに新しいカードが大量入荷するらしいからな」

「ええ〜!! 新しいカード!?」

 

 三沢の説明に驚く翔。どうやら知らなかったようだ。

 

「午後からの実技試験のために、新しいカードでデッキを補強しようとしてるんだろうな」

「だからあんなに猛ダッシュだったのか」

 

 納得したような声を出す紅也。翔と同じくカード大量入荷の話は知らなかったらしい。

 

「み、三沢くん達は行かないの?」

「俺は自分のデッキを信頼している。新しいカードなんて必要無いからね」

「私も同じね。調整する時間も満足に無いし、急に新しいカードを入れても邪魔になってしまうでしょうから」

「俺はそもそも知らなかった。そんなに興味は無いな」

 

 三沢、明日香、紅也の3人は購買部に行く意思が無いようだ。しかし十代はそうでもないらしく、翔と共に走り出していった。

 

「慌ただしいな」

「全くだ。実技試験までまだ少し時間があるが、紅也はどうするんだ?」

「俺は休憩スペースにでも行ってるよ。三沢は?」

「ビデオルームかな。対戦する可能性のある相手のデータを調べておくさ、君の分もね。じゃあ俺は行くよ、また後で」

 

 紅也と明日香に別れを告げ、三沢も教室を出て行く。

 アカデミアで行われた数多くのデュエルの録画を見ることが出来るビデオルーム。1年生で最も通っている人物は間違いなく三沢だろう。

 

「努力家だな。三沢は」

「だからこそ筆記の成績が1位なんでしょうね。凄いわ」

「そうだな……天上院はどうするんだ?」

「うーん、そうね。私も休憩スペースに行こうかしら」

「疲れてるのか?」

「ええ、少し」

「……じゃあ、行くか」

 

 席を立ち、出口に向かって歩き出す紅也とその後ろをついて歩く明日香。実技試験まで残り1時間程の空き時間。筆記での疲れを軽くするため、二人揃って休憩スペースへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デュエルアカデミアはとても広大な教育施設である。

 デュエルに関するものはもちろんのこと、絶海の孤島であるが故に生活を豊かにするための施設も充実している。

 

 紅也と明日香が訪れた休憩スペースもその内の一つ。多くの生徒達が利用出来るよう広い空間に作られ、大量の机と椅子が置いてあるだけでなくソファーなども設置されている。

 

 性格的に自分から誘うなど無理だが、女子側からの誘いもあったことで、紅也と明日香は現在横並びにソファーへと腰掛けていた。埋もれるタイプではなく反発する硬めのソファーではあるが、椅子よりも距離が近く感じられ、小心者はドキドキしていた。

 

「んん……ふぅ、落ち着く」

「……そ、そだね」

 

 楽な体勢になったからか、指を絡ませ一つ伸びをする明日香。小さく声を溢しながらの伸びは、年齢にそぐわないスタイルを惜しげもなく見せつけている。

 

「ん? どうしたの?」

「な、なんでもない」

「そう? ──それにしても、余り人は居ないのね」

 

 挙動不審な紅也の顔を不思議そうに見ながら、休憩スペースに人が居ないことを確認する明日香。

 

「ま、まあ、ほとんどはデッキ調整じゃないか? 実技試験前だしな」

「それもそうね。竜伊くんは余裕そうだけど」

「それは天上院も同じだろ」

「私は日頃から調整を怠っていないから」

「翔も見習うべきだな」

 

 流石は優等生。テスト勉強も同じように毎日やっていたのだろう。そんな紅也の言葉に明日香が反応する。

 

「翔くんと言えば、この間翔くんのお陰で十代とデュエル出来たわ」

「そうらしいな。負けたんだって?」

「…………ええ」

「ご、ごめん。嫌がらせで言ったんじゃないんだ」

 

 リラックスから一変、強張った表情へ切り替わる。やはり負けず嫌いということなのだろう。

 

「翔が風呂場覗きの現行犯だったっけ」

「ええ、冤罪だったけど」

「だろうな。翔はそんなことしない」

「友達だものね」

 

 言い切る紅也を微笑ましく思う明日香だったが、紅也の発言は彼女の意志とは方向性が違った。

 

「いや、翔にそんな度胸はない」

「……そ、そうね」

 

 翔がこの場に居ればなんとも複雑な表情をしていただろう。

 覗きの件は紅也も原作知識で知っていただけでなく、十代からの連絡で呼び出されもしていた。しかし結果は分かりきっているため、行かない選択肢を取ったのだ。夜遅くで眠かったこともあるが。

 

「……ふわぁ、寝そうだ」

 

 身体全体を預けている程良い硬さのソファーは、筆記で疲れた身体に眠気を与えてくる。目を閉じればぐぐっと睡魔が襲って来た。

 

「ふふっ、寝ちゃダメよ? この後は実技試験なんだから」

「天上院は眠くないのか?」

「ん〜、竜伊くんの顔を見てると眠くなってくるかもね」

「それは良くないな。起きるよ」

 

 自分だけならともかく明日香に迷惑をかけては良くないと、紅也は背もたれから背中を離し上半身を起こす。

 寝ぼけ始めた頭をスッキリさせるため、そして実技試験のためにデッキの最終チェックを行おうと思い至った。

 

「デッキの確認? 私が隣に居るんだけど……」

 

 少し困り顔になりながら発言する明日香。デュエリストに取って魂とも呼ぶべきデッキを他人に、ましてやデュエルしたことのない相手に見せていいのかという彼女なりの配慮だった。

 

「あー、そうか。じゃあ、余り見ないでくれ」

「……はぁ、私もさせてもらうわ。それならフェアでしょ?」

 

 その言葉通り腰のケースからデッキを取り出した明日香。気遣いを無駄にする紅也の様な男にも、彼女は優しかった。

 

「竜伊くんは……ドラゴン族主体か。やっぱりレッドアイズの影響よね?」

「ああ。ていうか1年生のほとんどが知ってるんだよな……。俺がレッドアイズ持ってるって」

「試験デュエルで派手に決めてたもの。レッドアイズで1ターンキル、誰がやったって目立つわよ」

 

 それもそうだと素直に納得。目立つと分かってはいたが、あの状況ではやらざるを得なかった。背後から黒炎弾で脅されていたのだから。

 

『グルゥ』

『ごめんて』

 

 低く唸る精霊化した黒竜へすぐに謝罪し、紅也は明日香のデッキへと視線を向けた。

 

「天上院は……戦士族か」

「ええ、エースモンスターは『サイバー・ブレイダー』よ」

 

 素材名称に指定ありの融合モンスターである『サイバー・ブレイダー』。

 相手のフィールドに存在するモンスターの数によって効果が変化するという稀な効果を持っており、使い方が難しい分上手く使用できれば状況を一変させる力を持っている。

 

(……でもなぁ)

 

 さらっと見た感じ、やはり強いデッキとは思えなかった。

 アニメでも明日香の勝率は低くはないが高くもない。まあ、相手と状況が悪いというのも要因の1つではあるのだが。

 

(そもそも……『サイバー・ブレイダー』出さなきゃ始まらないって感じか)

 

 エースモンスターと言うだけあり、信頼しているのだろう。低い攻撃力を補うため『フュージョン・ウェポン』といった融合モンスター専用の装備魔法や、自分のモンスターを守りつつ攻めに転じられる『ドゥーブルパッセ』といった罠も投入されている。

 

【『フュージョン・ウェポン』

 レベル6以下の融合モンスターに装備可能。装備モンスターの攻撃力と守備力は1500ポイントアップする】

 

【『ドゥーブルパッセ』

 相手モンスターが自分フィールドの表側攻撃表示モンスターに攻撃宣言した時に発動出来る。攻撃対象モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与え、その相手モンスターの攻撃を自分への直接攻撃にする。その自分のモンスターは、次の自分ターンに直接攻撃出来る】

 

 紅也の率直な感想の通り、『サイバー・ブレイダー』を出さなければ話にならないのだ。紅也自身もレッドアイズを中心としていることから、似たようなスタイルではある。しかし、レッドアイズと『サイバー・ブレイダー』ではそもそも前提が異なるのだ。

 

(……召喚条件がなぁ)

 

 そう、レッドアイズと違ってくるもの、それは召喚条件だ。

 

 名称指定されている融合モンスターは一部例外のモンスターを除き、指定されているモンスター同士を素材としなければ召喚することが出来ない。つまり、ただでさえ手札消費が激しい融合召喚に加えて、決められた融合素材を揃えなければならないということだ。

 

 『サイバー・ブレイダー』の融合に必要なモンスターは『エトワール・サイバー』と『ブレード・スケーター』の2体。十代などの例外を除き、始めから融合素材が手札に揃うなんてことはほとんど起こり得ない。

 

 これがレッドアイズならば最悪手札に来ておらずとも、サーチ魔法である『召喚士のスキル』で手札に呼び、召喚魔法である『古のルール』でフィールドに飛び出して来る。

 そう上手くはいかずとも、『サイバー・ブレイダー』より召喚しやすいことに変わりはない。

 

「そうだ! 良い機会だし、何か意見があれば聞かせて欲しいわ」

「…………ええっ」

「他の人から見てもらえば新鮮な意見が貰えるでしょ? まだまだデッキも改良していかなきゃいけないし」

「う、う〜ん」

 

 唸る紅也。意見を言うだけならば簡単だ。思ったことをそのまま言えば良いだけなのだから。しかしそう単純な話でもない。パッと見ただけで否定的な意見を言われて良い気分になる者など居ないだろう。

 

 そんな紅也の思考をなんとなく察したのか、明日香が口を開く。

 

「竜伊くん、思ったことがあるなら教えて。何を言われても怒ったりしないわ。全部ではないでしょうけど、貴方の実力は分かってるつもりだから」

「え、え〜っと」

 

 目を泳がせる紅也に強い視線を送る明日香。先程までの優しい眼ではなく、強さを求めるデュエリストの眼であった。そんな風に見られてしまえば致し方ない、紅也は自分の考えをそのまま述べた。

 

「──って感じ……です。俺は天上院のデュエルを実際に見たことがないから、あくまでもデッキだけ見て思った感想だ。的外れなものもあるかもしれないから……その、ごめん」

 

 緊張しながらも正直に意見した紅也。自身の考えが正しいとは限らないという意志も伝え、少しビクビクしながら明日香の方へと視線を送る。

 

「謝らないで、竜伊くん。ありがとう、凄く参考になったわ」

 

 そんなビビりに、明日香は優しく微笑んだ。言われた意見は至極真っ当なものであると認め、笑いながら礼を言う。思わず見惚れそうになる紅也だったが、取り敢えず怒らせてはいないことに安堵した。

 

「ん〜となると『サイバー・ブレイダー』を出しやすくするカードを入れるべきかしら」

「……そうだな。融合召喚するカードは十分だから、戦士族をサーチする『増援』とか良いんじゃないか?」

「そうね、それがいいわ」

「後さ、『スピリットバリア』と『ドゥーブルパッセ』を組み合わせるのも面白いと思う」

 

【『スピリットバリア』

 自分フィールド上にモンスターが存在する限り、このカードのコントローラーへの戦闘ダメージは0になる】

 

 永続罠であるこのカードを発動中に『ドゥーブルパッセ』を決められたなら、戦闘ダメージを0にしつつ、相手プレイヤーにダイレクトアタックすることが出来る。

 

「……!! 成程!」

「ま、まあ、今思いつくのはそんな感じ」

「ありがとう竜伊くん! 早速試してみるわ!」

 

 距離を詰め、紅也の手を握る明日香。興奮しており、距離感がバグっているようだ。照れる暇もなく大きなチャイムが鳴り響く。もうすぐ実技試験が開始されるという合図だ。

 

「もうこんな時間ね。行きましょう、竜伊くん」

「……えっ? あ、ああ。そうだな」

「ごめんなさい。私ばっかり意見貰っちゃった」

「いいよ、別に。また今度頼む」

 

 ソファーから立ち上がる2人。少々急いで試験場へ向かわなければならない中で、不意に明日香が問いかける。

 

「……ねぇ、竜伊くん」

「ん? どうした?」

 

 歯切れの悪い様子で数秒沈黙する明日香。その瞳には、僅かばかりの影が見えた。

 

「自分の他にレッドアイズを持っている人とかって……知ってる?」

「……そうだなぁ。城之内さん、とか?」

「ほ、他には?」

 

 すがるような声音の問いに、紅也は申し訳なさそうに答える。

 

「ごめん。知らないよ」

 

 『真紅眼の黒竜』はこの世界では伝説のレアカード。買い取ろうものなら豪邸すら建つレベルなのだ。そうそう持ち主など居よう筈もない。

 

「そ、そうよね……ごめんなさい。変なことを訊いて。急ぎましょう」

「……ああ、急ごうか」

 

 落ち込む気持ちを隠す様に足早に歩き出す明日香。そんな彼女の背中を、紅也は悲しそうに見つめていた。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

 同じ寮に所属する生徒同士がデュエルする実技試験が滞りなく終了。

 原作通り十代と万丈目がデュエルをし、十代が勝利を収めた。

 

 実技担当最高責任者であるクロノス・デ・メディチが買い占めたレアカードを与えられた万丈目だったが、十代が善行によって手に入れた『進化する翼』で召喚した『ハネクリボーLv10』の前に敗北。《オベリスクブルー》としてデュエルに敗北した。

 

 その様子を客席から見ていた紅也。自分が勝ったことで原作が変わったかと内心ヒヤヒヤしていたが、知識と変わらない展開であったことを確認して一息ついた。

 

「無事に勝ったみたいだな、47番くん」

「それはもういいって。そっちも勝ったんだな、三沢」

「ああ、読みが当たってね」

「完勝だったな。相手何も出来てなかったぞ」

「『黒炎弾』の人に褒めてもらえるとは、光栄だな」

「その呼び方本当にやめてくれ。47番で良いから」

 

 肩を落とす紅也。三沢はそんな彼を笑いながらデュエルフィールドを見下ろした。

 

「やはり十代は強いな。戦うのが楽しみだ」

「……十代の相手は疲れるぞ。特に十代がドローする時とか」

「引きの強さも実力の内。俺みたいな凡人は、努力を積み上げるだけさ」

「三沢が凡人なら、俺は何になるんだよ」

 

 最後のデュエルを見終わり、寮へ帰るべく歩き出す。三沢もついてきていることから、紅也と同じく寮に戻るらしい。

 

「紅也。君にもその内、勝負を挑むよ」

「お断りします」

「フッ、受けてもらうさ」

 

 楽しそうに笑う三沢とは反対に嫌そうな顔をする紅也。彼に三沢とデュエルするつもりは無い。他にやらなければならないことがあるからだ。

 

 少しだけ動かした視線が捉えたのは共にソファーへ座った明日香。周りにいつもの女子達は居るが、心ここにあらずと言った様子だ。

 

(……これは、無視出来ないよな)

 

 

 転生者が──動く(・・)

 

 

 

 




 三沢の霊圧が……消えてない。

 ということで今回はデュエル無しとなります。あったらデュエル内容考えるので大変なのですが、無いなら無いでやはり大変ですね。小説書くのって難しい……。

 そして多くのお気に入り登録と感想ありがとうございます!!

 ここまで評価して頂けるとは思っておらずビビり始めておりますが、自分なりのペースで物語を進めていきたいのでよろしくお願いします!


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〜悪魔を食らう黒竜〜

 

 

 

 

 

 竜伊紅也は転生者である。

 精霊が宿った『真紅眼の黒竜』に愛されたことで、命の終わりをきっかけにこのGXの世界へと転生した。

 

 アニメを見ていたことで原作知識と呼ぶべきものが紅也にはある。流石に全話の記憶が残っている訳もなく、ハッキリとした記憶は要所要所のものでしかないのだが。

 

 そんな覚えている記憶の中で自分(イレギュラー)が介入すべき所。それが月一試験の後に十代達が行う廃墟探検だ。

 

 この話では十代を疎ましく思うクロノスが闇のデュエリストを名乗るタイタンという男を雇い、十代を退学に追い込もうとする。

 しかし、問題はそこではない。問題はそれに巻き込まれる天上院明日香である。同じタイミングで廃墟に居合わせた結果、タイタンに人質として捕らわれてしまう明日香。それを阻止しようと紅也は動くのだ。

 

 これを阻止しておけば、後に行われる十代と翔による退学を賭けたタッグデュエルの件も起こりはしない筈。一石二鳥である。

 

(……なんか夜行性になった気がする)

 

 万丈目の件からそう日が経っていないにも関わらず、またもや夜更けに外出している。優等生とまでは言えずとも普通の生徒ではあると自負していた紅也だったが、夜間外出の不良になりつつあると苦笑い。

 

(……今回の件なら、使っていいよな?)

 

 そんな思いを肯定するかのように、腰に付いているデッキケースが震える。

 『真紅眼の黒竜』はもちろん、それ以外の黒竜たち(・・・・・・・・・)も賛成のようだ。

 

(──居た。十代達だ)

 

 夜に似合わない元気な大声とビビりまくる情けない悲鳴。極め付けはコアラのような特徴的過ぎる髪型の男。あんな髪型をしているのは原作キャラの1人である前田隼人(まえだはやと)以外に有り得ない。

 

 原作通りに廃墟へと行くようなので、こっそりと後を追い掛ける。物音を立てないように、細心の注意を払いながら。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

 天上院明日香にとって──兄、天上院吹雪(てんじょういんふぶき)は憧れであった。

 

 お調子者で軽い態度、自身とは正反対の性格をしていたが、明日香は兄を尊敬していた。幼い時に教えてもらったデュエルモンスターズは、彼女の人生に大きな影響を与えるまでになったのだから。

 

 負けず嫌いであった彼女は、兄の背中を追ってデュエルアカデミア中等部へと入学した。真面目な性格と天性の才が合わさり、明日香はすぐにトップクラスの実力者になったが、それでも兄には敵わなかった。

 

 高等部では必ず勝利する。そんな想いと共に見届けた兄の卒業。

 まさかそれが、兄の笑顔を直接見ることが出来る最後の機会になろうとは──夢にも思わなかった。

 

 ── 天上院吹雪が失踪した(・・・・・・・・・・)

 

 特待生として高等部へ進学した男が行方不明との一報が入ったのだ。

 中等部の頃から帝王(カイザー)と呼ばれたサイバー流の後継者丸藤亮(まるふじりょう)、そんな男のライバルとも呼ばれた天上院吹雪の消失は多くの者に衝撃を与えた。

 

 大規模な捜索も結果は実らず、遂に吹雪を見つけることは出来なかった。それから次第に周りの記憶から彼のことは薄れていった、人間の記憶とはそういうものだ。

 

 しかし、薄れるどころか日に日に強まっていく者達も居る。

 

 親友である丸藤亮、そして妹の天上院明日香だ。

 

 明日香が高等部へ進学してからというもの、亮とは毎日のように情報交換を繰り返している。あらゆる所から様々な情報を探ってはいるが、一筋の光明すら見えてはこない。目の前にあるのは何も見えない闇ばかりだ。

 

 諦めるつもりなど毛頭無い。だが、心というものは脆い。何も成果が無く、自分のしていることに意味を見失いそうになる、そんな日が幾度も訪れ始めた。無理かもしれない、無駄かもしれない、ネガティブな思考ばかりが増えていく。

 

 気分転換も兼ねて亮が誘ったのは、高等部への編入試験デュエルの見学。既に生徒である者達は見学する権利を持っていたからだ。余り興味が持てず断ろうかとも思ったが、滅多に無い口下手男からのお誘いともあって、明日香は同伴することにした。

 

 ──そこで光と出会うことになる。

 

 探してやまない兄と同じモンスター『真紅眼の黒竜』を扱う少年。大人しそうという印象であり、吹雪とは似ても似つかない。しかし、レッドアイズという共通点が明日香の意識を引いた。派手な1ターンキルも加わり、明日香は竜伊紅也という受験生に興味を抱いたのだ。

 

 試験の内容からして《ラーイエロー》である可能性が高いと寮の近くを探してみた結果、挨拶することが出来た。

 意図せず見かけた時間外のアンティデュエルでは、目の前でその強さと真っ直ぐな信念を見せられた。

 月一試験では自身のデッキに対して思い付かなかったアイデアを授けてもらい、久しぶりに気持ちが高まった。

 

 一緒に居て心地良く、そして楽しかった。

 天上院明日香にとって、竜伊紅也は一種の癒しにもなっていた。

 

 だからこそ、兄に繋がる情報が無いと知った時、彼女は落胆した。

 否、それは紅也に対してのものではない。自分が思った程、落ち込んでいない自分に対して(・・・・・・・・・・・・・・)明日香は落胆したのだ。

 

 ──諦めかけている? そんな訳がない。

 

 明日香の心に再び火がついた。無茶は出来ないが、ギリギリまで攻める。彼女が改めて探索を開始した、そんな時であった。

 

 立ち入り禁止とされる廃墟に入ろうとする十代達を見つけたのだ。

 

 当然注意する明日香だが、十代が聞く耳を持つ訳もない。説得は無駄に終わり明日香も引き下がる。

 意気揚々と廃墟へ入っていく十代達を木陰から見送り、寮へ帰ろうとした所で──彼女の意識は闇に沈んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……よし。この女を餌に、遊城十代を誘い出すとしよう」

 

 気絶している明日香を見下ろしながらそう呟く大男。全身が黒一色の装いをしており、顔には悪趣味な仮面が付けられている。

 この男の名、タイタン。"闇のデュエリスト"を自称し、報酬次第でどんな依頼もこなす裏社会の何でも屋だ。

 

 今回の依頼達成のため、近くに居た女子生徒を人質にしようと考えたタイタン。絵面だけでなく完全に犯罪者であり、闇といえば闇である。

 

「少し利用させてもらうぞ」

 

 気絶させた少女を運ぶため、手を伸ばした──次の瞬間。

 

 

「────その子に触るな」

 

 

 咄嗟に身を翻し、その場を離れる。大きな身体からは想像出来ない程に俊敏な動きで臨戦態勢に入るタイタン。伊達に裏社会で生き抜いてはいないようだ。

 

「誰だ?」

 

 警戒を途切らせることなく、背後から声を掛けてきた存在へ問いかける。暗闇でその姿をハッキリと確認することは出来ないが、声からして若い男であるだろうと予想を立てていた。

 

 ゆっくりと自身の方へ近付いてくるその男。気絶させた少女の近くまで歩み寄ってくると、ようやく姿を確認することが出来た。

 黄色の制服に身を包む、至って普通の男子学生であった。大人しそうな顔立ちに、タイタンは少しだけ警戒を緩める。

 

「アカデミアの学生か。最近の子供は夜更かしが好きらしいなァ」

「……狙いは廃墟に入っていった奴らだろ。この子は関係無い筈だ」

「ッ!? 何故それを──いや、いいさ。口封じさせてもらおう」

 

 口端を吊り上げながらコウモリの羽に似た不気味なデュエルディスクを起動させるタイタン。プロデュエリストすらターゲットとしてきた実力は確かなものであり、間違ってもアカデミアの1年生が勝てる相手ではない。

 

 しかし、対峙する少年は同じ様にデュエルディスクを起動。受けて立つ意志を見せてきた。しばらく起きる気配の無い少女を木の方へ運ぶと、デュエル開始の宣言をした。

 

「デュエル」

「デュエルゥッ!」

 

 少年   LP4000

 タイタン LP4000

 

「私のターン! ドロー! ……悪いが時間が無いんでね、すぐに終わらせるぞ」

 

 ターゲットが廃墟に入ってからの時間を考えても、このデュエルに時間は掛けられない。速攻で決めにいくため、タイタンは自身の戦術を展開した。

 

「私は手札からフィールド魔法『万魔殿(パンディモニウム)ー悪魔の巣窟ー』を発動」

 

 タイタンが使用するデーモンデッキの要とも言っていいフィールド魔法が少年も巻き込み発動される。禍々しいオーラと不気味な悪魔の石像に囲まれた空間は、ホラーが苦手な者ならば絶叫しかねないレベルだ。

 

「これにより、私は"デーモン"と名のついたモンスターの効果でライフを払わなくてもよくなった。そして『ジェネラルデーモン』を召喚!」

 

 『ジェネラルデーモン』ATK/2100 DEF/800

 

 現れたデーモンは屈強な身体に羽を生やし、☆4の通常召喚可能モンスターでありながら高い攻撃力を備えていた。

 そしてフィールド魔法の効果により、『デーモン』モンスター最大のデメリットであるライフの支払いが帳消しとなる。タイタンお得意の展開だ。

 

「『ジェネラルデーモン』は『万魔殿ー悪魔の巣窟ー』がフィールドに存在しない場合破壊されるが、もちろんそんなことにはならない」

 

 地獄の入口のような風景に立つデーモンは、まさしく将軍(ジェネラル)の名に相応しい貫禄を醸し出している。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 手札を多く使って揃えた盤面。攻撃力の高いモンスターを出しはしたが、タイタンの狙いは攻撃による勝利ではなかった。

 

(私が伏せたカードは『魔法の筒(マジック・シリンダー)』と『炸裂装甲(リアクティブアーマー)』。さあ、攻撃してくるがいい)

 

 例え相手に攻撃力を超えられたとしても問題はない。高い攻撃力ならば『魔法の筒』で相手がライフに大きなダメージを受けるだけ、複数体モンスターを出されても2枚目の罠『炸裂装甲』で破壊してしまえば関係ない。

 

【『魔法の筒(マジック・シリンダー)

 相手モンスターの攻撃宣言時、攻撃モンスター1体を対象として発動できる。その攻撃モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分のダメージを相手に与える】

 

【『炸裂装甲(リアクティブアーマー)

 相手モンスターの攻撃宣言時、攻撃モンスター1体を対象として発動できる。その攻撃モンスターを破壊する】

 

「さあ、貴様のターンだ。言い忘れていたが私は"闇のデュエリスト"でね、今行っているのは《闇のゲーム》と呼ばれるものだ。敗者は永遠に救いのない闇の中を彷徨うこととなる……覚悟を決めるんだなァ」

 

 プレッシャーを与えるように言葉を放つタイタン。誰しも生命の危機という条件には身をすくませる。緊張で頭は回らなくなり、些細なミスを犯す。遊戯王は運の要素も絡むが、基本的には頭脳による戦略がモノを言う。動揺した精神状態では、満足なプレイングなど出来はしないのだ。

 

「フフフ……どうした? 今逃げ出すなら見逃してやるが?」

「……」

 

 ドローもせずに手札をジッと見ている少年。タイタンは己の言葉を聞き、戦意を喪失したのだと確信。逃げ道を提案することで速やかにデュエルを終了出来ると考えた。

 

 しかし、対する少年にリアクションは無い。不審に思ったタイタンがもう一度言葉を放とうと口を開いた時、少年は動き出した。

 

「──ドロー」

「……フン。後悔しないことだ」

 

 どうやら降参の意思はないようだ。仕方がない、お決まりの脅しに効果が無いのならば実力で叩き潰すまで。

 タイタンは改めて構える、闇に堕ちるのが自らであることを知る訳もなく。

 

 

「魔法カード──『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』」

 

 

 少年が1枚のカードを発動する。少年の声が小さかったからか、タイタンに聞く気がなかったからか。恐らく後者ではあるが、タイタンには何の魔法カードを発動したのか分からなかった。

 

「デッキから融合素材モンスターを墓地に送り……融合召喚を行う」

「なに? デッキからだと……?」

 

 基本的に融合召喚を行う際には、手札から素材を選択する場合とフィールドから素材を選択する場合の2つのパターンが存在する。そのためそのどちらとも違うデッキから素材を選択するという言葉に少々驚かされた。

 

(……まあ、所詮はアカデミアの生徒。大したことはない)

 

 しかし相手が学生という事実が驚きすら鎮火させる。これまでにこなしてきた数々の仕事。彼をプロフェッショナルと呼ぶべき立場にする実績、それがタイタンの慢心を大いに膨らませていた。

 

 そしてその自信は──瞬く間に砕かれた。

 

 

「……な……なんだ……そのモンスターは(・・・・・・・・)……」

 

 

 相手は1枚の魔法カードから手札を減らすことなく、融合モンスターを召喚した。

 

 デーモンのような炎を噴射する(・・・・・・・・・・・・・・)──真紅の眼をした黒竜を。

 

 タイタンが振り絞るように溢した問いに、少年が答えた。

 

「デーモン使いなのに知らないのか? デーモンと『真紅眼の黒竜』の力を合わせた融合モンスター『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』だよ」

 

 『⬛︎⬛︎⬛︎ブラック・デーモンズ・ドラゴン』ATK/3200 DEF/2500

 

 少年の言葉を聞いたタイタンはそれを激しく否定した。

 

「ふ、ふざけるなァッ! これが(・・・)……『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』だとッ!?」

 

 恐れが身体を支配し、足が震え始める。視界に捉える黒竜は殺意にも似た波動を放ち続け、圧倒的な存在感でこの場を制圧した。

 

 もちろん、タイタンもデーモン使いとして『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』のことは知っている。しかし、目の前に立ちはだかっているものは違う。確かに既視感はある、だがそれだけで──全くの別物だ。

 

 そんなタイタンを尻目に、少年はターンを続行する。

 

「いくぞ……『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』で『ジェネラルデーモン』を攻撃。この瞬間、速攻魔法『虚栄巨影』を発動。バトルフェイズ中、モンスター1体の攻撃力を1000ポイントアップする」

 

 『⬛︎⬛︎⬛︎ブラック・デーモンズ・ドラゴン』ATK/3200→ATK/4200

 

「──デビル・フレア」

『グルザァァァァァァッ!!!』

 

 自身のモンスターを遥かに超える攻撃力。しかし、これは計算通りだ。込み上がる恐怖心をプライドで抑え込み、タイタンは動く。

 

「させるかァッ! 罠発動! 『魔法の筒(マジック・シリンダー)』ッ! フハハハハッ!! バカめッ! これで貴様の負けだぁぁァッ!!」

 

 正体が分からないならそれでも良い。勝利してしまえば終わりなのだから。圧倒的な攻撃力は時として我が身を滅ぼす。4200ものダメージを受ければライフポイントは完全に吹き飛ぶ。タイタンは勝利した事実に高笑いを上げた。

 

 ──罠が発動(・・)すればの話だが。

 

「な、なんだとぉぉぉォォッッ!!?」

 

 野太い声が地獄の入口に響き渡る。驚愕、そして理解不能な現実がタイタンを襲ったのだ。

 

「な、何故罠が発動しないッ!!!」

 

 ピッ、ピッと何度もデュエルディスクのボタンを押すが、やはり反応はない。激昂するタイタンに少年が冷えた眼を向けながら口を開く。

 

「このカードが攻撃する時、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠・モンスター効果を発動出来ない」

「なんだとッ!?」

 

 強力な効果。しかしそれ以上の理不尽にタイタンは吠える。

 

効果(・・)だとッ!? 『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』は効果を持たない融合モンスターの筈だッ!!」

「『ジェネラルデーモン』を破壊」

「グハァッ!」

 

 タイタン LP4000→1900

 

 お構いなしと言わんばかりの攻撃で、ライフが大きく削られる。相手のモンスターを破壊するどころか、自分のフィールドがガラ空きになってしまった。

 

(ま、まだだ……。ライフは残った)

 

 生き残ったことを確認し、タイタンはなんとか平静を取り戻そうとする。次のターンであのモンスターをどうにかしなければ負ける。そんな考えを見透かすかのように、少年は言葉を放った。

 

「……次のターンはない」

 

 死刑宣告とも取れるその発言は、タイタンの脳を停止させる。

 

「──融合召喚したこのカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時、自分の墓地に存在する"レッドアイズ"通常モンスター1体を対象として発動出来る。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを(・・・・・・・・・・・・・)……相手プレイヤーに与える」

「な、なんだと……」

 

 少年が墓地から取り出した1枚。それはこのデュエルを終わらせる一撃となるものだった。

 

「『真紅眼の黒竜』を選択──2400ポイントのダメージを受けろ」

 

 その言葉と共に『⬛︎⬛︎⬛︎ブラック・デーモンズ・ドラゴン』が唸り声を響かせる。口から溢れる重量を感じさせる黒炎、それはまさに地獄の業火。灼熱の火球が真っ直ぐ自身へと向けられ、タイタンは終わりを悟った。

 

(……私は……なんてものを相手にしたのだ……)

 

 原始的な恐怖に支配された時、タイタンの意識は闇へと消えた。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

「──ん、んぅ……」

 

 適度に身体を揺らす振動と顔を撫でる少し冷たい風により、気絶していた明日香はゆっくりと目覚めた。覚醒したばかりの意識はまだ少し朦朧としており、身体に力も入らない。

 

「……えっ」

 

 何度かの瞬きで視界をクリアにすると、自身が誰かに背負われていることに気付く。反射的に身体を引き離そうとしたが、なにやら見覚えのある後ろ姿に落ち着きを取り戻す。

 

「……竜伊……くん?」

「起きたか、天上院」

 

 何故か同期に背負われているという不可思議な状況に、明日香の頭はショートしそうになった。

 

「ど、どうして? ……それに、私……」

「散歩してたら天上院が寝ててな。昼寝好きなのは分かったけど、こんな時間にはやめておいた方が良いよ」

「なっ! ち、違うわよ!」

「そうなのか。気持ち良さそうに寝息立ててたから、てっきりそうなのかと思ってた」

 

 寝顔を見られただけでなく、寝息までバッチリ聴かれていた。少女としてもちろん恥ずかしいので、明日香は顔だけでなく耳まで真っ赤に染まった。

 

「立てそうか?」

「ご、ごめんなさい……なんか痺れてて」

「ん、分かった」

 

 自分の足で立とうとした明日香だったが、身体を支配する痺れによって断念。謝罪しつつ、再び紅也に背負われた。

 

「な、なるべく肌とかは触ってないから」

「……ふふっ、気にしないわよ」

 

 少し照れたような紅也を見て、穏やかに笑う明日香。不器用な紳士さに微笑ましさを感じたようだ。

 

 紅也に至っては、肌というより別の場所へ意識が向きそうになるのを必死に堪えていた。自身の背中に当たる圧倒的な柔らかさ、経験したことのない幸福感を与えられ、気を抜けば紅也は倒れそうだった。

 

「でもごめんなさい……私なんであんな所で寝ていたのか」

「……疲れてたんじゃないか? 寝言も言ってたし」

「ほ、本当!?」

「ああ、言ってたぞ──兄さんって」

「…………」

 

 紅也の言葉に黙り込む明日香。何から話せばいいのか分からなくなってしまったようだ。

 こんな夜更けに出歩いていること、紅也と知り合いになったこと、それら全てのきっかけは行方不明となった兄であり、頭の整理がつかなくなっていた。

 

 そんな彼女の内心を察したのか、紅也は優しく言葉を続ける。

 

「そんな緊張しなくても大丈夫だって。無理に聞こうとは思ってないからさ」

「……竜伊くん」

 

 作り笑いが慣れていないと一目で分かる笑顔。しかしそんな笑顔が明日香の心に余裕を与えてくれた。そして決心する。嫌な思いをさせてしまうかもしれないが、それでも話を聞いてもらおうと。

 

「……実はね、私の兄さん……行方不明なの」

「……そうか。それは心配だな」

「高等部に進学してから情報を集めてる……けど何も分かってないの」

 

 行方不明であることを最初に切り出せたからか、スラスラと言葉を紡ぎ出す明日香。

 

「兄は──竜伊くんと同じ『真紅眼の黒竜』を使っていたの」

「……だから前に、俺以外に持ってる人を知らないかって訊いたのか」

「正直に言えば、竜伊くんから兄のことが何か分かるかもしれないって期待はあったわ……ごめんなさい」

 

 背中越しの謝罪。顔は見えないが、声音から申し訳なさが紅也へ伝わる。

 

「謝ることないよ。むしろ力になれなくてごめんな」

「そんなこと!」

「──だからさ」

 

 明日香の言葉を遮り、紅也が言葉を放つ。

 

「俺も協力するよ、天上院のお兄さんを探すの」

「……えっ」

「人数は多い方が良いだろ。レッドアイズ繋がりで、何かしら進展があるかもしれないしな」

 

 それはオカルトっぽいか、などと笑いながらの言葉に、明日香は素直に嬉しさを感じた。何も飾っていないストレートな言葉は時に、人の心を大きく動かしてしまう。

 

「……良いの?」

「ああ、良いよ」

「ほ、本当に……?」

「本当に」

「……竜伊くん」

「ん?」

 

 横目で明日香を見る紅也。木陰で隠れていた顔が、月明かりに照らされる。

 

 

「──ありがとう」

 

 

 そこには、思わず見惚れてしまいそうになる程の笑顔。『黒炎弾』も顔負けな程のダイレクトアタックを喰らった紅也はと言えば。

 

「……お、お、おう」

 

 甘酸っぱい空気など彼方に置き去り、盛大に目を泳がせたのだった。

 

 

 

 




 書きたいと思ってた所まで書き切りました……。

 レッドアイズ達が強過ぎて、本気モードだとマジで一瞬で終わっちまいます。いや、今回のは一瞬で終わらしたろって思ってたんですけど……。
 デュエルに物足りなさを感じられた方が居たら申し訳ない。

 多分本気モードにならないといけない場面では前世、日常のデュエルでは現世のデッキを使うことになりますので、ご了承ください。でも例外はあると思います!

 そして連休が終わり更新速度が落ちます(確信)。

 次いつ更新出来るかは断言出来ません。気長にお待ちください!


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〜予想外の人物〜

 

 

 

 

 

 無事にタイタンの一件を片付けた紅也。

 これにより十代と翔が行う筈だった制裁タッグデュエルも起こらず、概ね予想通りの展開となっていた。

 

 そんな原作改変をした彼は現在、授業終わりの放課後で休憩スペースへと来ていた。1人ではなく、2人でだ。

 

「この場合は攻撃しない方が良いな」

「えっ? なんでスか?」

「伏せカードが多いし、こっちに対策出来るカードが無いから」

「そ、そうっスね……」

 

 椅子に座り、机でカードを並べる2人。デュエルディスクを使わない、昔ながらのデュエルをしているようだ。

 片方はあれやこれやと指差しながら色々と教えている紅也、そして教えられていたのは紅也が入学初日から知り合った丸藤翔だ。

 

 何故こんな事をしているか、もちろん理由はある。

 

 結果的に紅也が消した制裁タッグデュエル、このデュエルは丸藤翔というキャラにとって成長を遂げるポイントでもあった。そんなイベントを潰してしまった立場として、紅也は翔へデュエルの特訓相手になることを申し出たのだ。

 

 負け犬根性が染みついた翔だったが、自分と似た内気な性格でありながら実力がある紅也からの提案を、割と素直に了承した。兄貴分である十代に勝ったのを目の前で目撃したことも大きいだろう。

 

 そしてなにより──彼は変わりたかった(・・・・・・・・・)

 

 幼い頃から感じていた優秀な兄への劣等感、デュエルの弱い情けない自分への怒り、勝利することへの憧れ。

 

『翔は弱くない、足りないのは知識と自信だけだ』

 

 それが同情や憐れみから言われたのではないと素直に受け入れられたのも、紅也の持つ独特な空気感のお陰かもしれない。

 

 素直に話しやすい相手なのだろう。翔にとって最大の悩みである、兄についても相談してしまっているのだから。

 

『別に急がなくて良いだろ。翔のペースでさ』

 

 この言葉に、翔は少し気が楽になった。

 心に余裕が出来たからか、前より取り乱すことが無くなったようにすら感じている。冷静でいることはデュエルでも重要だ。

 

「でも段々考えられるようになってきたな。前なんて取り敢えず攻撃の脳死戦術だったのに」

 

 今回で4度目となる特訓。紅也から指摘されることも徐々に減っていき、翔のタクティクスは確実に向上していた。

 

「じゃ、じゃあ……ここでこうすれば、どうスか?」

「おお、良いじゃん。それはアリ」

「そ、そうスか! ……へへっ、やったっス」

 

 教師を相手にするより緊張せず、気楽な態度で接してくれる紅也。翔にとっては理想的な先生役であった。同年代であるにも関わらず、時々何故か年上に感じてしまうのは不思議だが。

 

 紅也と翔が話し合っていると、2人の使う机に1人の男が近付いて来た。

 

「やぁ、紅也。ここに居たのか」

「ん? 三沢か」

 

 紅也と同じ《ラーイエロー》に所属する三沢大地であった。言葉から察するに紅也を探していたようだ。

 

「2人でデュエルしてたのか?」

「うん! 紅也くんに色々教えてもらってるとこなんだ!」

「へぇ、それは興味あるな」

「俺がお前に教えることなんてないぞ。むしろ教えて欲しいぐらいだ」

「ははっ、そんなことはないさ。俺は君から学ぶことが多いと思っているからね」

「……それで、何の用だよ?」

 

 学年1位にそう言われても、あまり喜べない紅也。所詮自分は中間順位を取るので精一杯な男、少しムカッとしながら用件を訊ねた。

 

「前に話したろ? 君にデュエルを──」

お断りします

「って! まだ全部言い終わってないぞ!」

「いや、それこそ前に断ったろ。お前とデュエルする気はない」

「な、何故だ?」

 

 面倒だから、とは流石に言えなかった紅也。口で言っても諦めそうにない雰囲気なので、紅也は三沢にとある条件を出すことにした。

 

「じゃあ、十代に勝ったら相手するよ。その条件がクリア出来なきゃデュエルはしない」

「十代に……か?」

「そう、俺は十代に勝ってるからな。お前が1番くんと呼ぶ十代に勝ったら相手してやる。どうだ?」

「……分かった。約束は守れよ?」

「ああ、もちろん」

 

 なんとも自分に有利な条件を通した紅也。余程三沢とのデュエルが面倒らしい。原作主人公に勝ったアドバンテージがこのような形で生きた。

 息巻いて休憩スペースを出て行く三沢、部屋に戻ってデッキの調整でもするのだろう。無事、十代へ押し付けることに成功したようだ。

 

「行っちゃったっスね」

「そうだな。……ふわぁ」

「眠そうっスね。あっ、こうして僕に教えてるから寝不足になったとか!?」

 

 特訓が始まってからやけに多い欠伸。翔は自分が原因なのかと焦りながら訊ねた。

 

「違う違う、原因は……あれ(・・)だよ」

「あれ?」

 

 うんざりしたような表情で翔の後ろを指差す紅也。そこには翔にとって苦手な存在が、何故か紅也を恨むように睨んでいた。

 

「ええ……。紅也くん、何したんスか? 《オベリスクブルー》の人達が凄く睨んでるっス!」

「んー、なんだろな。身に覚えがない訳じゃないんだけど……あっ」

 

 頬杖をつきながら紅也が視線をズラすと、休憩スペースの外である廊下に原因と思われる人物がタイミング良く現れた。

 

「ああっ、明日香さんだ!」

 

 続いて翔も気付いたようで、嬉しそうに声を上げる。

 歩いていた明日香も翔に気付いたようで、ニコッと効果音の付きそうな笑顔を見せる。そして紅也の方にも気付くと、翔とは違ったアクションを見せた。

 

 

 ──より柔らかい笑顔&小さく手を振る。

 

 

 という普段の彼女からは考えられない可愛らしい仕草を、少し恥ずかしそうな表情で繰り出したのだ。

 

 チラ見していた男子生徒達はギャップ萌えで悶絶、女子生徒はそんな彼らへ冷たい目を向けた。

 

 そして同時に跳ね上がる紅也への殺意と嫉妬。《オベリスクブルー》の生徒達は血の涙を流す勢いで苦しみ出した。

 

「……こういう事だと思うんだ」

 

 無視する訳にもいかず、歩いていく明日香へ小さく手を振りかえす紅也。その様子を見て、翔は大体の状況を察した。

 

「なるほど、そういうことだったんスね」

 

 デュエリストとしての高い実力と美しい容姿により、明日香は1年生ながら『オベリスクブルーの女王』と呼ばれている。女子生徒にも熱狂的な人気があるのだ、男子生徒からの人気は比べ物にならない程大きい。

 

 そして最近、その女王に1人の男の影が見え始めた。

 男からの下心ある接近であればすぐに制裁するのだが、なにやら話しかけるのは常に明日香側から。これでは文句の言いようがない。

 

 そして相手はエリートの《オベリスクブルー》ですらない《ラーイエロー》。紅也に対して嫉妬の感情が抱かれるのも無理はなかった。

 

「頼むから翔は勘違いしないでくれよ? そもそも天上院に俺なんかじゃ釣り合わないって」

「そうっスか? 僕はお似合いだと思うスけど」

 

 きょとんとした表情で言っていることから、翔は本気で紅也と明日香がお似合いだと思っているようだ。

 

「……それに手出したら犯罪だし」

「えっ? なんでスか?」

「だって年齢が……じゃなくて、顔がバランス取れてないからさ」

 

 真実を口にしそうになる精神年齢25歳。女子高生に手を出せば犯罪という意識は、転生しても根強く頭に残していたようだ。

 

 そんな紅也へ、翔がニヤニヤしながら言葉を返す。

 

「紅也くん、カッコいいと思うスけどね。なんなら女子達が紅也くんの話してたの聞いたっスもん」

「……えっ、そうなの?」

「そりゃそうっスよ。レッドアイズの使い手で、大勢の前でワンターンキルもしたっスからね。十代のアニキと同じく、1年生の中じゃ紅也くんのこと知らない人の方が少ないっスよ」

 

 どうやら予想よりも自分は目立っているようだと、肩を落とす紅也。目立つことが本当に好きではない彼にとって、その状況は心の平穏によろしくない。

 

「……はぁ、嫌だなぁ」

「ほんとアニキとは正反対っスね」

 

 笑いながら紅也を見る翔。紅也に対してやはり色々と違うように感じる。

 十代のようにアニキでもなければ、亮のように兄でもない。

 

(……先輩って感じっスね)

 

 親しみやすく、尊敬しやすい。十代や亮とは違った魅力が紅也にはあった。

 

「さて、今日はそろそろ終わるか」

「はいっス! ありがとう! 紅也くん!」

 

 まだ時間は早いが、そろそろお開きにしようと紅也が発言。翔もそれに従い、カードをケースへと片付けた。

 

「じゃあまた明日! お願いするっス!」

「あ、翔……ちょっと待て」

「なんスか?」

 

 寮へ帰ろうとする翔を呼び止める紅也。制服のポケットから数枚のカードを取り出し、翔へ差し出した。

 

「これパックで当たったやつ。翔にやるよ」

「……えっ、これって!」

 

 差し出されたのは4枚のカード。

 

 ・【『ヘリロイド』

 ☆4 (風・機械族) ATK/1500 DEF/1300

 このカードがフィールド上に存在する場合、自分フィールド上に存在する『ミサイルロイド』は相手プレイヤーに直接攻撃する事が出来る】

 

 ・【『ランチャーロイド』

 ☆4 (炎・機械族) ATK/500 DEF/1500

 自分フィールドに表側攻撃表示で存在するモンスター1体を選択して発動。選択したモンスターの攻撃力は500ポイントアップする。この効果を発動したターン、このカードは戦闘を行う事が出来ない】

 

 ・【『ミサイルロイド』×2

 ☆4 (炎・機械族) ATK/1000 DEF/200

 このカードが戦闘を行ったダメージ計算後に発動。戦闘を行った相手モンスターの表示形式により、以下の効果を適用する。

 ●攻撃表示:その相手モンスターの攻撃力は、このカードの攻撃力分ダウンする。

 ●守備表示:その相手モンスターの守備力は、このカードの攻撃力分ダウンする】

 

 全て翔のデッキテーマである"ビークロイド"のカード達だった。

 

「い、い、良いんスかっ!? こんなに貰って!?」

「ああ、良いよ」

「で、でも、僕トレードするカードなんて……」

「じゃあタダでやる。どうせ俺のデッキには採用してやれないし、翔が使ってやってくれ」

 

 流石に自分では使いこなせないカードなので、紅也はカードを譲ることになんの躊躇いもなかった。

 

「……紅也くん。僕、強くなるっス」

 

 ここまでしてもらって頑張れなければ、弱虫以下の恥知らず。なにより、友達からの協力を無駄にしたくなかった。初めて親身になって相談に乗ってくれた、大事な友達なのだから。

 

「ん、頑張れ。十代とかなら喜んで相手になってくれるだろ。負けても良いから、なんか学んでこい」

「そうっスね! 僕、アニキに挑んでくるっス!!」

「おう。……ってもう走り出してるし、張り切ってんな」

 

 カードが喜ばれたようでなによりと、プレゼントした側としては満足な反応が見られた。翔の背中が見えなくなった辺りで、紅也もカードを片付けた。

 

『帰るか、お前達のカード磨きしないとな』

『……グルゥ』

 

 薄く姿を現した黒竜と共に、紅也も休憩スペースを離れる。

 それを見た《オベリスクブルー》の生徒達は睨み続けていたが、見えない筈の黒竜によって気絶させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 紅也が木の棒で黒竜と戯れながら、自身の寮まで順調に帰っていた──そんな時だった。

 

 

「──竜伊紅也、だな?」

 

 

 不意に背後から声を掛けられた。振り返ってみると、そこには意外過ぎる人物が腕を組み、紅也へ視線を向けていた。

 

「君を探していた」

 

 このデュエルアカデミアで最強と謳われ、『帝王(カイザー)』と呼ばれるただ一人の男。

 

 ──丸藤亮。

 

 紅也はとんでもない人に捕まった。

 

 

 

 





 翔に渡したカードは漫画版のオリジナルカードですね。渡したのは単なる思いつきであり、この先の話で翔のガチデュエルを書くのかと言われれば……多分書きません(無慈悲)。


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〜帝王からの挑戦〜

 

 

 

 

 

(なんか……デジャブだな)

 

 人の姿が見られない海沿いの倉庫近く。

 紅也はそんな場所で潮風に当たりながら──デュエルディスクを起動していた。

 

 前にもこんなことがあったなと空を見上げながら、真正面で同じ様に構える男へ視線を向けた。

 

「急な誘いで悪かった。どうしても君とデュエルがしたかった」

「えーっと……光栄です」

 

 男の名は丸藤亮。デュエルアカデミア高等部3年生にして、学園最強のデュエリストだ。

 

 部屋へ帰ろうとしていた紅也を捕まえ、この場所まで引っ張ってきた亮。想定外過ぎる展開に紅也も最大限に警戒しながら「何のご用でしょう……?」と恐る恐る訊ねた。すると亮が見せた反応は、無言で始めたデュエル開始の準備。紅也はフリーズした。

 

 亮曰く、デュエルの誘いをしていたつもりらしい。ついて来た時点で了承してもらえていたと思っていたらしく、紅也が乗り気でないことが分かると無表情が崩れる。

 

『……す、すまない。そうだったのか』

 

 整った顔立ちであるが故に、表情の変化が非常に分かりやすい。形の良い眉毛は八の字に下がり、しょぼんという顔文字の様な顔をされた。紅也は断りづら過ぎるデュエルを受け入れたのだった。

 

(……それに)

 

 デュエルディスクの起動を確認し、自身の左隣へ視線を向ける。普通の人間が紅也と同じ空間を見たとしても、何かを視認することは出来ないだろう。何故ならそこに居るのは、デュエルモンスターズの精霊と呼ばれる存在なのだから。

 

(なんでこんなにやる気なんだ?)

 

 紅也と共にある精霊、『真紅眼の黒竜(レッドアイズ)』。そんな黒竜は何故か、紅也を遥かに超えたやる気を漲らせていた。

 

『……どうした? なんか嫌なことあったか?』

『…………』

 

 理由を訊ねても、黒竜は反応しない。ただただ亮を睨み、威嚇しているようにすら感じる。考えても答えは出ないと、紅也は思考を放棄した。

 

「では、始めよう。手加減は無用だ、全力で戦おう」

 

 どこかキラキラした楽しそうな顔をする亮。そんな顔でそんな事を言われてしまえば、紅也も全力で望まざるを得ない。

 

「……はい」

 

 互いにデッキをセット。デュエル開始の準備が整った。

 

 

「「──デュエル」」

 

 

 亮  LP4000

 紅也 LP4000

 

「先攻は譲ろう」

「じゃあ遠慮なく……ドロー」

 

 相棒が手札に居らず、呼ぶ手段もないという珍しい初手。ならばと、紅也は様子見の盤面を整えた。

 

「『サファイアドラゴン』を攻撃表示で召喚します」

 

『サファイアドラゴン』ATK/1900 DEF/1600

 

 現れたのは全身を宝石であるサファイアに覆われたドラゴン。ただ立っているだけで絵になるような美しいモンスターだ。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー」

 

 カードを手札に加えると同時に、亮が動く。

 彼が使用するデッキは『サイバー・ドラゴン』を中心としたサイバー流デッキ。そのため後攻からの展開を得意としている。

 

「相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚出来る──『サイバー・ドラゴン』を特殊召喚」

 

『サイバー・ドラゴン』ATK/2100 DEF/1600

 

 やはりと言うべきか飛び出て来たメインモンスター。限度枚数である3枚をデッキに投入しているとはいえ、確実に初手の手札に持って来ているのは流石と言うべきか。

 

 ──と、亮の引きに感心している紅也だが、自分はデッキに1枚しか入れていない『真紅眼の黒竜』をほぼ毎回1ターン目で呼び出していたことを忘れている。

 

「『サイバー・ドラゴン』で『サファイアドラゴン』を攻撃、エヴォリューション・バースト!」

 

 機械的な動作で開かれた口、そこから発射された攻撃的な炎で『サファイアドラゴン』は破壊された。

 

 紅也 LP4000→LP3800

 

「そして魔法カード『タイムカプセル』を発動」

 

【『タイムカプセル』

 自分のデッキからカードを1枚選択し、裏側表示でゲームから除外する。発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ時にこのカードを破壊し、選択したカードを手札に加える】

 

「デッキから1枚カードを選び、『タイムカプセル』へ入れる。発動後2回目の俺のターンに選んだカードを手札に加えることが出来る」

(……あれ(・・)かなぁ)

 

 原作知識によって大体の予想を立てる紅也。卑怯ではあるが、知っているものは仕方ない。全力でやれと言ったのは亮なので、紅也は出来る限り全力で戦うつもりであった。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンド」

「ドロー……来た」

 

 フィールドにはモンスターこそ居ないが、手札は十分にある。そして無事に相棒も引き込んだ、まだまだ勝負はここからだ。

 

「『黒竜の雛』を召喚し、効果発動。このカードを生贄にすることで、手札からこのモンスターを特殊召喚します」

「──来るか」

 

 卵から顔を出す可愛らしい黒竜を見て、亮が言葉を溢す。その予想通り、紅也は手札から一体のドラゴンを呼び出した。

 

「──『真紅眼の黒竜』を特殊召喚」

『グルオオオオッ!!』

 

『真紅眼の黒竜』ATK/2400 DEF/2000

 

 普段以上に気合の入った咆哮。ソリッドビジョンとしてではない、確実に精霊としてのものだろう。

 何故かやる気満々の相棒を不思議に思いながら、紅也はお得意の一撃を繰り出した。

 

「魔法カード、『黒炎弾』。自分のフィールドに『真紅眼の黒竜』が居るので、相手プレイヤーにレッドアイズの元々の攻撃力分、2400ポイントのダメージを与えます」

『グルォオオオオオオッ!!!』

 

 とびきり大きい火球が亮へ向かって放たれる。本当に2400ポイントで収まる威力だろうか。

 しかし、相手はアカデミアの帝王(カイザー)。そう簡単にライフは削れない。

 

「罠発動、『ダメージ・ポラリライザー』」

 

【『ダメージ・ポラリライザー』

 ダメージを与える効果が発動した時に発動する事が出来る。その発動と効果を無効にし、互いのプレイヤーはカードを1枚ドローする】

 

 伏せられていた罠によって『黒炎弾』が無効化される。灼熱の火球は亮に当たる一歩手前で消滅してしまった、初の不発である。

 

「効果により互いに1枚ドローだ」

 

 流れを掴むための一撃は無効化されたが、レッドアイズが消えた訳ではない。紅也はむしろ良いカードがドロー出来たことを幸運と考えた。

 『黒炎弾』を発動したので、もうこのターンにレッドアイズで攻撃することは出来ない。紅也はそう決めつけたが、『黒炎弾』の発動自体が無効化されているのでデメリットも消えたこと気付けなかった。これまで全て決めてきた『黒炎弾』を無効化されたことに対して、少なからず動揺しているようだ。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドです」

 

 計2枚のカードを伏せた紅也。ダメージこそ与えられなかったが、悪くない状況だ。希望となるカードも伏せることが出来た。

 

「俺のターン、ドロー。──魔法カード『融合』」

「……マジか」

 

 前言撤回である、良くない状況だ。

 

「フィールドと手札の『サイバー・ドラゴン』2体を融合し、『サイバー・ツイン・ドラゴン』を召喚」

 

『サイバー・ツイン・ドラゴン』ATK/2800 DEF/2100

 

 2体の機械竜が合体した凶悪モンスターが現れた。高い攻撃力もだが、なにより効果が単純にして強力だ。

 

「このモンスターは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃することが出来る。『真紅眼の黒竜』を攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト!」

「──ッ!!」

 

 紅也 LP3800→3400

 

「続けて2度目の攻撃! プレイヤーへダイレクトアタック!」

「……うわ、結構怖いな」

 

 紅也 LP3400→600

 

 この世界で行ったデュエルで初めてライフポイントが1000を下回った、今回は流石に相手が強い。

 

「これでターンエンドだ。……そんなものか?」

「……へっ?」

 

 ドローしようとしていた紅也へ、亮が言葉を放った。声を掛けられるとは思っておらず、紅也は間抜けな声を出した。

 

「君のことは明日香から聞いていた、凄いデュエリストだと。だが本当にそうなのか?」

「ああ……なるほど」

 

 自分をデュエルに誘って来た理由がやっと分かった紅也。オブラートに包むという言葉を知らない最上級生へ、苦笑いしながら返答した。

 

「過大評価……と言いたいんですけど、それを言ったら評価してくれるやつに申し訳ないですからね」

 

 主に隣でキレてる黒竜に、とは言えないが。

 

「ならば見せてくれ。君の力を」

「……いきますよ。ドロー」

 

 これで手札が3枚。更に良い感じにカードも揃って来た。

 

「魔法カード『召喚師のスキル』を発動。効果でデッキからレベル5以上の通常モンスター1体を手札に加えます」

 

 普段はレッドアイズをサーチするための魔法だが、現在使用しているデッキにはまだこのサーチ条件に該当するカードが入っている。

 

「選んだのは──『メテオ・ドラゴン』」

 

 ☆6の通常モンスター。ステータスはそれに見合わず低いが、このモンスターを投入しているのには別の理由がある。

 

「罠発動、『レッドアイズ・スピリッツ』。戻って来い……レッドアイズ」

『グルォオオオオオオオッ!!!!』

 

 これでこのデッキ最強のレッドアイズを呼ぶ準備が整った。意趣返しと言わんばかりに、紅也は1枚のカードを発動させる。

 

「魔法カード……『融合』」

 

 素材とするのはフィールドの『真紅眼の黒竜』、そして手札へ呼んだ『メテオ・ドラゴン』の2体。

 

 

「──『メテオ・ブラック・ドラゴン』を融合召喚」

 

 

『メテオ・ブラック・ドラゴン』ATK/3500 DEF/2000

 

 空から現れたのは隕石のような身体をした禍々しい黒竜。

 その圧倒的な攻撃力はかの有名な『青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)』さえも上回っている。

 

「実物をこの目で見られるとはな……」 

 

 亮の目の前に飛来してきた『メテオ・ブラック』は融合素材の関係で滅多にお目に掛かれるモンスターではない。『メテオ・ドラゴン』だけなら用意することは容易いのだが、『真紅眼の黒竜』は超レアカード。そのため召喚することが出来ないカードとして、ショップなどでも安く手に入るのだ。

 

「『メテオ・ブラック・ドラゴン』で『サイバー・ツイン・ドラゴン』を攻撃!」

「……くっ!!」

 

 亮 LP4000→LP3300

 

 初めて亮のライフが削られる。しかしそれ以上に、一気に盤面を逆転されたことが亮の気持ちを昂らせた。

 

「──……すまなかった。どうやら、明日香が言っていた通りのようだ」

「……余裕そうですね」

「そんなことはない。ただ……味のあるデュエルだ」

「……はい。これでターンエンドです」

 

 サイバー流にある相手をリスペクトする精神。紅也はなんとなく、それが少しだけ分かったような気がした。

 

「俺も応えよう、君の全力に……ドロー!」

 

 勢い良くカードを引いた亮。このターンで決める気のようだ。あのカードを発動して2回目のスタンバイフェイズ、タイミングとしてはこれ以上ないターンだ。

 

「『タイムカプセル』の効果により、封印していたカードを手札へ加える──『パワー・ボンド』を手札に」

(……やっぱりか)

 

【『パワー・ボンド』

 自分の手札・フィールドから、機械族の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体を融合召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップする。このカードを発動したターンのエンドフェイズに自分はこの効果でアップした数値分のダメージを受ける】

 

 亮が信じる究極の融合カード。

 それを使い最強のエースを君臨させるため、準備を整える。

 

「罠発動! 『リビングデッドの呼び声』。効果で墓地から『サイバー・ドラゴン』を特殊召喚! 更に手札から『死者蘇生』を発動! もう1体の『サイバー・ドラゴン』も蘇らせる!」

 

『サイバー・ドラゴン』 ATK/2100 DEF/1600

『サイバー・ドラゴン』 ATK/2100 DEF/1600

 

 墓地から舞い戻った2体の機械竜。しかし、これだけでは終わらない。

 

「このターンのドローで、俺は3体目の『サイバー・ドラゴン』を手札に加えている。……これで全ての条件が整った」

 

 場に緊張感が張り詰める。もしこのデュエルをアカデミアの生徒が観戦していようものなら、この先の状況が手に取るように分かるだろう。なにせこれから亮が出すモンスターは数多のデュエリストを打ち倒して来た最強の機械竜なのだから。

 

「感謝する、竜伊紅也。素晴らしいデュエリストとモンスターへ敬意を表し、俺の全力で望むとしよう」

 

 モンスターは基本的に召喚条件が重ければ重い程、効果やステータスが強くなる傾向にある。

 

 融合系のカードが必要、素材名称指定、同名モンスターが3体、これらの厳しい条件をクリアした者にのみ召喚を許されるモンスター。

 

 亮はサイバー流の継承者に代々受け継がれて来た伝統のカードを──呼び寄せた。

 

「手札から魔法カード『パワー・ボンド』を発動! 現れろッ! ──『サイバー・エンド・ドラ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──『マジック・ジャマー』ッ!! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、時が止まった。

 

「……えっ?」

「……えっ?」

 

 無効化され、スゥーッと消えていく『パワー・ボンド』。それを目の前で見せられた亮は、生まれて初めて出したであろう声を発した。

 

【『マジック・ジャマー』

 魔法カードが発動した時、手札を1枚捨てて発動できる。その発動を無効にし破壊する】

 

 まさに名前通りのカウンター罠は、亮が勢い良く発動した魂のカードを呆気なく消し去った。

 

 ──竜伊紅也は転生者である。

 アニメのように画面映えを意識して、バトルの空気など読みはしない。相手のキーカードが魔法カードであると分かっていたので『マジック・ジャマー』を伏せた、それ以上でもそれ以下でもない。

 先程の『ダメージ・ポラリライザー』の効果で『マジック・ジャマー』を手札へ呼び込んだターンから、彼はこの瞬間のために布石を打っていた。そしてそれは見事に決まった。それだけである。

 

 ヒーローの変身を邪魔した悪役のような気持ちになる紅也。固まってしまった亮へ視線を向けながら、心で言い訳を開始した。

 

(いやでもあそこで『サイバー・エンド』出されたら『メテオ・ブラック』が破壊されて負けるし……。全力でやれって言ってきたのはあちらさんだし……。そもそも俺だってさっき『黒炎弾』無効化された訳だし……)

 

 ──などと心の平穏を保つため、紅也は思いつく限りに自分を正当化した。

 そんな言い訳を繰り返していると、亮が硬直から復帰した。

 

「タ、タ、ターンエンド……」

 

 一目で分かるレベルに動揺していた。

 それを見て更に焦る紅也。やはりやらかしてしまったと、自分を責めた。

 

(ああぁぁぁァァッやっちまったあああ)

 

 内心騒ぎながらも、まだ勝負が決まった訳ではないと思考を切り替える。深呼吸を一つしてから、デッキトップへ指を掛けた。

 

(そ、そうだよ。まだ俺が勝つと決まった訳じゃない。このまま攻撃しても向こうのライフは削り切れない、大丈夫だ。あれは勝負を決める一手にはならない)

 

 ポジティブに考える紅也。『マジック・ジャマー』の発動コストにより手札は0なのだ。相手の場には2体の『サイバー・ドラゴン』、伏せカードこそないが次のターンで勝負はまず決まらない。

 

(大丈夫、大丈夫)

 

 神様仏様レッドアイズ様。困った時の神頼みである。

 

「ド、ドロー」

 

 勝負はこれから。そう自分に言い聞かせ、カードをドロー。その瞬間、このデュエルの勝敗は決した。

 

「──……あっ」

「?」

 

 とても細い声を溢す紅也。そんな彼を不思議そうに見る亮だったが、震えた手により発動された1枚の装備魔法を確認し、自分の結末を理解した。

 

【『巨大化』

 自分のLPが相手より少ない場合、装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力の倍になる(・・・・・・・・・・・)。自分のLPが相手より多い場合、装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力の半分になる】

 

 LPの発動条件は満たしている。装備された『メテオ・ブラック』はその身体を巨大化させた。

 

『メテオ・ブラック・ドラゴン』ATK/3500→ATK/7000

 

「…………すみません」

 

 跳ね上がった攻撃力7000という超火力を受け、『サイバー・ドラゴン』はネジ一つ残らず消し飛ばされた。

 

 亮 LP3300→LP0

 

 紅也はこの日──アカデミア最強に勝利した。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

「……はぁ、終わった」

 

 亮とのデュエルが終わり、ようやく《ラーイエロー》の寮が見える所まで帰って来た紅也。疲労はMAXであり、身体も心も限界であった。

 

 敗北した亮はと言えば、1分程爆笑した後「君と戦えて良かった。ありがとう、竜伊……いや、紅也」などとカッコいい台詞を言い残して去って行った。最初から最後までやりたい放題の好き勝手。あの豪胆さ、帝王(カイザー)と呼ばれるだけのことはある。

 

「つ、疲れた。早く寝たい……」

 

 既に空には月がある。夕食と風呂を済ませて早くベッドにダイブしたい。そんなことを考えていた紅也の頭に、コツンと軽い衝撃が走った。

 

「いてっ……え? 今のお前?」

『グルゥ』

「え……お前、今実体化した?」

『グルゥゥゥ』

 

 紅也の言葉に不機嫌そうに頷く黒竜。

 紅也は取り敢えず、"お前実体化出来るんかい"というツッコミよりも先に黒竜の機嫌が悪い理由を確かめることにした。

 

「そういえばさっきのデュエルでもかなり怒ってたな。どうした?」

『……』

 

 理由を訊ねるとやはり黙ってしまう。それ程言いたくない理由なのだろうか。

 

(……怒る、怒る、怒る。んー、なんか気に入らないこと……あっ)

 

 そして思い付く一つの心当たり。自意識過剰かとも思うが、技名を叫ばないだけでご機嫌斜めになる精霊だ。この黒竜相手なら当たっている可能性の方が高いまである。

 

「カード磨きの邪魔されたから……とか? ──って、そんな訳ないか」

「…………グゥ」

 

 ──そんな訳あった。

 やはり大分懐かれているらしいと、紅也は改めて黒竜からの好感度を確認した。そろそろ寮が近いので、口ではなくテレパシーの方で言葉を送る。

 

『飯と風呂済ませたら磨いてやるからな』

『……』

 

 特に反応を見せない黒竜だが、気持ち尻尾が揺れているように見える。

 ご機嫌になった相棒を微笑ましく思いながら、紅也はようやく寮へ帰って来たのだった。

 

 

 

 




 機械の殺意vs黒竜の殺意のデュエルでした!
 綺麗なカイザー良いですよね、ヘルの方も魅力ありますけど、個人的にはアカデミア時代の天然なカイザーが好きです(笑)。

 今回は結構昔のカードを使えたかなと思っているので、書いていて少し楽しかった作者です(笑)。読者様方にも楽しんでもらって、昔の懐かしさとかを思い出して頂けたら良いなぁ。

 子供の時のサイクロン最強説、多分結構な人が子供の頃やったんじゃないですかね。ちなみに作者はもちろん経験者で、マジック・シリンダーを何回無効化したことか……(遠い目)。


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〜推しの旅立ち〜

 

 

 

 

 

 本日、デュエルアカデミアは半日で授業が終わる日であった。

 デュエリストとしての時間を作るため、週に2日はこういった日が設けられている。

 

 体育の授業を終えた三沢、十代、翔、そして何故か連れて来られた紅也の4人は《ラーイエロー》の寮へ来ていた。

 

「いや〜! 三沢は野球上手いんだな!」

「アニキ結局コテンパンだったスもんね」

「ふっ、秘訣はこれさ」

 

 能天気に誉める十代に、自らが使用したバットの裏側を見せる三沢。そこはペンで書かれた数式で埋め尽くされており、数学アレルギーを持つ者が見れば倒れかねないバットであった。

 最早狂気すら感じる所業に、紅也が引き気味にツッコんだ。

 

「……なんだそれ」

「勝利の方程式というやつさ。打撃だけじゃないぞ、紅也。俺が投げた球も全て計算通りのものだった」

「それで十代を完封か。無敵だなお前」

「次は絶対俺が勝つからなっ!」

 

 先程の体育で行った野球。内容は《ラーイエロー》と《オシリスレッド》での試合だった。互いにエースである三沢と十代の対決は三沢に軍配が上がり、そのまま《ラーイエロー》が勝利を収めたのである。

 

 そしてその対決に勝利した三沢から敗北した十代達へ、罰ゲームと称して1つの頼みが通された。そのためこうして寮までやって来たという訳だ。

 

「それで僕達への罰ゲームってなんなんスか?」

 

 そんな翔の言葉に不敵な笑みを浮かべ、三沢は取り敢えず3人を自分の部屋へ案内した。

 

「「なんじゃこりゃあっ!?」」

 

 叫ぶ十代と翔。部屋に入ると同時に、衝撃的過ぎる光景が視界を襲ってきたからだ。部屋の壁、天井、机に椅子、至る所にまでビッシリ書かれていたのは数々の数式であった。

 

「俺が思いつくままに書き留めた計算式さ。君達には……この星々のビッグバンの手伝いをしてもらいたい!」

 

 笑顔でモップとバケツを差し出す三沢。そんな彼を見て、別に罰ゲームを受ける立場ですらない男は小さな声で呟いた。

 

「──……えっ、俺も?」

 

 紅也はビッグバンに巻き込まれた。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 引っ越しの手伝いをした時の疲労を思い出す紅也。昼飯を済ませた後これ以上付き合いきれないと、お馴染みの休憩スペースへ逃げ込んでいた。

 ソファーに全身を預け、年寄りのようなため息を溢している。

 

「あら、竜伊くん。お昼寝?」

 

 もう暫く動きたくない。紅也がそんな風に天井を見つめていると、彼に向けて女性のものと思われる声が上がった。

 

「……天上院、か」

「ご、ごめんなさい。声を掛けちゃダメだったかしら?」

 

 ゲッ、と声を溢さなかったのは紅也のナイスプレーだろう。しかし表情には出してしまったらしく、明日香は何か悪いことをしてしまったのかと謝罪した。

 もちろんそんな訳がないので、紅也は慌てて否定する。

 

「い、いや、そういう訳じゃなくて」

「そう? ──じゃあ、同席しても良いわよね?」

「えっ……はい」

 

 実際すぐにこの場を立ち去りたかった紅也だったが、あまり露骨に避けるような行動も気分が良くない。紅也は諦めて1人分のスペースを空けた。

 

「ありがと。何してたの?」

「別に……休憩だよ。三沢の部屋でペンキ塗り手伝わされてさ」

「ペンキ塗り……?」

「深く考えないで良いよ。秀才でいるには、それなりの努力が必要なんだなって話」

「そ、そう。よく分からないけど、ここで会えてよかったわ」

「何か用だったか?」

 

 疲労している理由を話し終えた紅也。そんな彼に明日香はデッキを見せながら話し出した。

 

「デッキのこと相談したかったの。……最近会えてなかったから」

「ちょっと待て、その言い方は良くない。誤解される」

「……誤解? 何のこと?」

 

 きょとんと首を傾げる明日香。

 顔が良く、性格も良く、スタイルも良い。そんなモテる要素しかない人間でありながら、自分がモテることを理解していない人種というのはとても厄介だ。男女問わず、醜い嫉妬は生きていれば必ず湧いてくるものなのだから。

 

 とても目立つ存在の明日香は、休憩スペースへ入って来た時から周りの視線を集めていた。どこへ向かうのかとそわそわ見ていた男子生徒、その美しさに目を奪われていた女子生徒。

 しかし、そんな注目の存在が話し掛けたのは──地味で冴えない1人の男。紅也が緊張感を持つのも無理はなかった。

 

「……ちょっとこっち来て」

「た、竜伊くん?」

 

 ソファーから立ち上がり、移動を開始した紅也。驚きながらも明日香がついていくと、立ち止まったのは広いスペースから離れた壁際にある端の方の席であった。

 

「天上院は奥に座ってくれ」

「え? え?」

「ほら早く」

「あっ、ちょっと……!」

 

 戸惑っている明日香を無視し、紅也が奥へと座らせる。その後、自分も明日香の隣へ座ることで準備完了。

 この位置にある席であれば大勢の生徒に視線を向けられることもなく、仮に近くを歩かれたとしても紅也が壁になって明日香のことは見えない。心の平穏を保つ、安心空間の完成である。

 

 ──と、思ったのだが。

 

(……ミ、ミスった。──近い!!)

 

 端の方なだけありスペースは狭い。恐らく1人用のソファーと席なのだろう、並んで座る紅也と明日香の肩はピッタリと触れ合っていた。

 早く周囲の視線から逃れたいという気持ちが先走り、余りにも初歩的な事を見逃してしまったようだ。

 

「あ、あの……。竜伊くん?」

「わ、悪い! そんなつもりはなくて!」

「……別に、怒ってはないけど。なんでこの席に?」

 

 セクハラまがいの行動にも寛容な態度の明日香。これはモテるなぁと紅也が確信しながら、状況の説明を始めた。

 

「──そういう訳で、目立たない場所へ行きたかったんだ」

「気にし過ぎじゃないかしら。私、そんなこと言われたりしてないわよ?」

「いや、天上院はそうでも俺は違うから」

「どうして?」

「それは……」

 

 目と目が合ったらバトルと言わんばかりに殺意剥き出しで挑んでくる《オベリスクブルー》達。既に挑まれただけで62人、デュエルせざるを得なかったのが24人、デュエルすることを確約した相手が後18人も残っているのだ。紅也は青い制服とデュエルが嫌いになりそうだった。

 

「……まあ、色々あってさ。だから悪いけど、今後目立つ場所で話し掛けてくるのやめてもらっても──」

 

 思わず固まる紅也。隣に座る明日香の顔を見たことが原因だ。

 変わらず美しく、そして可愛らしい顔立ち、しかしその瞳は少しばかりの悲しみを感じさせた。

 

「……と、思ったけど。よく考えたら別にそんなこともないな、うん。俺はデュエルの相手が出来てラッキーだし、天上院とデッキの相談するのも楽しいし勉強になるし、良いことだらけだったわ、うん」

 

 とても早口で意見をひっくり返す紅也。明日香の予想外の反応を見て、本能的に不味いと察した結果だった。

 

「……本当に、迷惑じゃない?」

「あ、ああ。迷惑じゃない」

「私……竜伊くんには色々頼ってるから。そう思われたとしても当たり前なんだって……」

「──天上院。あの件(・・・)に関しては俺から言い出したんだ。迷惑なんて……思ってる筈ないだろ」

「……竜伊くん」

 

 普段ヘタレが男気を見せる。やはり年下に弱いのだろうか、妹のように思えて仕方がない。紅也は保護欲にも似た感情を抱きながら、明日香と視線をぶつけた。

 

「「…………」」

 

 暫く見つめ合っていると、ヘタレがヘタレ出す。自分のしていること、言っていることに羞恥心を感じ始めたのだ。隣で見ていた黒竜は鼻で笑った。

 

「……と、とにかく! そういうことだから気にしなくて良し。これまで通り頼む」

「わ、分かったわ……。よ、よろしくお願いします」

「こ、こちらこそ」

 

 なんとも言えない空気だったが、どうにか入れ替えることに成功。デッキの構築へ話を移すことが出来たのだった。

 

「じゃ、じゃあ……良い?」

「あ、ああ。もちろん」

 

 声だけを盗み聞きしたことで更に変な方向へ勘違いした《オベリスクブルー》達が、般若の形相で紅也へデュエルを挑み──黒竜に消えないトラウマを植え付けられたとか。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

 アカデミア中心にあるデュエルフィールド。そこには黄色の制服を着た三沢大地と青い制服を着た万丈目準が、勝敗によって互いが所属する寮を入れ替える条件でデュエルを行っていた。

 

 十代に敗北したことをきっかけにエリート街道から外れた万丈目。このデュエルに負ければ《ラーイエロー》へ降格が決まる。そんな崖っぷちな彼は、三沢のデッキを海へ捨てるというデュエリストとして最悪の反則を犯した。

 

 ──しかし、勝負は三沢の勝利で終わる。

 

 捨てられたデッキは調整用の物であり、本命は肌身離さず常に持ち歩いていたからだ。計算され尽くした三沢の完璧なタクティクスに、絶対に負けられないというプレッシャーを背負った万丈目が勝てる訳もなく、勝敗はすぐに決した。

 

「カードを大切に出来ない者は、デュエリスト失格だぞ」

「……くっ」

 

 三沢のド正論に脱力する万丈目。最低の行いをしてまで臨んだデュエルに敗北したショックは並大抵のものではなかった。勝者である三沢が《オベリスクブルー》への昇格を断ったことで残留という形に落ち着いたのも、万丈目のプライドを更に深く傷付ける要因となった。

 

 観戦していた十代、翔、明日香、亮、紅也の5人。それぞれが似たような反応を見せている中、1人の男は必死にカードを押さえ込んでいた。

 

(──ちょ、ちょっと、やめろって! これ以上追い討ちしたら万丈目折れるって! 戻って来れないぐらい壊れるって! 丸刈りにでもし始めたらどうすんだよ!?)

 

 押さえ込んでいたのは言わずもがなレッドアイズ(相棒)

 以前に万丈目が紅也に言った暴言をまだ根に持っており、実体化して頭を叩こうとしていたのだ。紅也はそれを必死になって止めていた。

 

(……万丈目)

 

 崩れ落ちる万丈目を見ながら、紅也は思い出す。あの男が、そんなに柔ではないことを。

 

(……次会う時は、黒い服だな(・・・・・)

 

 こんな状況だというのに、紅也の頬が少し緩む。

 

 生まれ変わった万丈目は弱小と蔑まれるモンスター達を使いこなし、伝説のレベルモンスターすらも使いこなし、最後の最後まで見ている者達を魅了する最高のデュエリストへと変貌を遂げる。

 

 原作を知っている紅也にとって万丈目は──。

 

 最高のエンターテイナー(推しキャラ)なのだから。

 

 

 

 




 万丈目と三沢をメインに書こうとしたら、明日香とのイチャイチャになってた……な、何を言ってるのかわからねーと思うが作者もわからねー(すっとぼけ)。

 そして前回のカイザー戦が好評のようで嬉しい作者です。

 GX序盤の方は個性豊かなデュエリストとモンスター、明るい雰囲気の学園生活って感じで楽しかったですね。その分……あの時期は……。

 物語があまり進んでませんが、自分なりのペースで頑張るので応援よろしくお願いします!!


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〜青春の黒炎〜

 

 

 

 

 

 冬休みは居残り組としてアカデミアに残り、黒竜と共にまったりした時間を過ごした紅也。

 少し長めの休みも終わり、再び授業とデュエルに精を出していた。

 

「……よっ!」

「はぁっ!」

「よいしょっ!」

「ふっ!」

 

 規則的に続くボールが跳ねる音。場所がテニスコートであることから何が行われているのかは一目瞭然だ。

 この間の野球に加え、サッカー、バスケ、バレーに水泳、そして現在がテニス。ここまで体育の種類が充実しているのも、やはりデュエリストには体力が必要ということなのだろう。

 

 そんなことを考えながらラケットを振っているのは、冬休み前《オベリスクブルー》の男子生徒達を相手に18連勝した紅也。黒炎弾パーティーが開催されており、久しぶりに『黒炎弾』の人の異名を轟かせることになった。

 

 そしてそんな紅也の相手をしているのは、紅也が18人切りしなければならなくなった原因である明日香。

 普段の見慣れた制服姿とは違い、地味なジャージであるにも関わらず様になっているのは顔面偏差値の高さが成せる技か。

 

(……ていうか、アレ(・・)はいかんだろ)

 

 そしてこのラリーで紅也は苦しめられていた。若返っているため体力の問題ではない、問題は──明日香にあった。

 

(目のやり場に……困る!)

 

 ラリーをしているため、当然明日香のことが目に入る。しかしそうなれば同時に、視線が奪われる魔力を放つ物体が猛威を振るうのだ。

 

 ジャージということで押さえつけられてはいるものの、強く主張する身体の一部(・・・・・・・・・・・)が右へ左へと激しい動きをすることで、とんでもないことになっている。

 

「……ああっ!」

「やった! 私の勝ちね!」

 

 遂に集中が途切れ、ボールに追い付けなかったようだ。そんな彼にしたり顔でピースする明日香。そんな彼女を見て、むしろ負けて拷問から解放されたようにすら感じる紅也だった。

 

「はぁ、きっつ。──ッ! 避けろ天上院ッ!!」

 

 上体をなんとか起こしながら空気を取り込もうとする紅也。

 深呼吸をしようとした瞬間、明日香へテニスボールが飛んで来たのを確認。危険を伝えるため精一杯の大声で叫んだ。

 

 そんな危機的状況の明日香を救ったのは、突如走り込んできた1人の男だった。華麗なラケット捌きでボールを打ち返し、審判をしていたクロノス教諭へダイレクトアタックした。

 

「大丈夫? 怪我しなかったかい?」

 

 キラーンと光る白い歯、爽やかな顔、優しそうな声と、まさしく王子様といった雰囲気だ。

 周りの女子達は目をハートにしているが、明日香は冷静に助けられたことへのお礼をした。

 

「ええ、助けて頂いてありがとうございました」

「……! い、いやぁ〜、知らなかったよ! 我が《オベリスクブルー》に君のような美しい人が居たなんて!」

「は、はあ……」

 

 明日香の顔を見てだらしなく顔を緩ませる男、名を綾小路(あやのこうじ)ミツル。《オベリスクブルー》の3年生であり、綾小路モーターズの御曹司というエリート中のエリート。玉の輿に乗るなら狙い目どころの騒ぎではない。

 デュエルの腕前も相当なものらしく、あのカイザー亮に引けを取らないという噂すら流れている。

 

 明日香がキザな態度に戸惑っていると、そんな状況から抜け出す救いの声が上がった。

 

「天上院、大丈夫か?」

「竜伊くん。ええ、平気よ。こちらの先輩が助けてくれたの」

「そうか。先輩、ありがとうございました」

「え? ……あ、ああ」

 

 礼を言われる綾小路だったが、紅也と明日香の親しげな雰囲気を感じ取る。ピクピクと眉をひくつかせながら、紅也へ声を掛けた。

 

「き、君は……誰かな?」

「《ラーイエロー》で1年の竜伊紅也です」

「竜伊……聞いたことないな。にしても《ラーイエロー》か」

 

 現在、綾小路の中は嫉妬の感情で溢れかえっていた。一目惚れにも似た感情を明日香へ向けていた所に登場した仲が良さそうな男。青春を信条とする綾小路にとって、自身の恋敵が現れたも同然だった。

 

「あ、明日香くんとは仲が良いのかい?」

「……普通ですね。デッキの話し合いとかならよくしますけど」

「なっ……。デ、デッキの相談……!」

 

 普段当たり前のように繰り返していることだったので、特に何も意識せず答えた紅也。しかし、それが間違いであった。

 

(せ、宣戦布告……!!)

 

 綾小路がそう捉えるのも無理はなかった。デュエリストにとって命程に大切なデッキの話し合いなど、余程親しくなければ出来ないことなのだ。しかも親しくなりやすい同性ではなく、年頃の男女。そういった考えをしてしまうのも当然と言えば当然だった。

 

 熱き心を持つ青春男、綾小路ミツルは覚悟を決めた。

 

 

「──竜伊紅也くん! 君にデュエルを申し込むッ!」

 

 

 紅也へラケットを突きつけながら、決闘を挑んだのだった。

 

「…………あえっ? 俺?」

 

 更衣室へ行こうとしていた紅也はフリーズした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どうして……こうなるかな)

 

 ジャージから着替え、再びテニスコートへ出てきた紅也。こっそり逃げようかとも思ったのだが、更衣室前で待ち伏せされては逃げようがなかった。

 

「さあ! デュエルディスクを構えたまえ!」

 

 紅也の左腕に無理矢理付けたデュエルディスクを構えろと吠える綾小路。目がヤバいと、紅也は素直にビビっていた。《オベリスクブルー》の人間はどうしてこう勝手なのだろう。1年から3年まで揃いも揃って自分勝手、紅也は完全に青色が苦手になった。

 

 だが、紅也はまだデュエルを受けた訳ではない。これから上手いこと綾小路に機嫌を直してもらい、どうにかデュエルを回避しようとしていた。

 そのためにすることは、下手に出ることだ。

 

「あ、あのー、そもそもなんで俺は綾小路先輩みたいな凄い人にデュエルを挑まれてるんですかね?」

「ふっふっふ! 分かってるようだね。僕が君に挑む理由──それは明日香くんだ!」

「て、天上院?」

 

 まさかの理由に、紅也は顎を落として間抜けな顔を晒した。

 

(またこのパターン……。《オベリスクブルー》の男子はカイザー以外みんな脳内お花畑なのか?)

 

 顔に手を当て、ため息を溢す。そろそろ本格的に参ってきた紅也。逃げても逃げても、倒しても倒しても、次から次へと現れるこのパターン。

 だがこうして真正面から挑んでくる分、綾小路はマシな部類かもしれない。数人で囲まれた時は流石の紅也もプッツンしそうになったのだから。

 

「俺と天上院は何もありませんよ。ただの友達です」

「ただの友達? 白々しい嘘はやめたまえ! そうだろう? 君達!」

「……君達?」

 

 バッと手を向けた先に居たのは、裏切り者達であった。

 

「そうだー! 紅也と明日香は仲が良いぞー!」

「そうよー! 明日香さんはよくそいつと会ってるわー!」

「殿方とデッキについてお話しするのはその方だけですのー!」

 

 元気よく腕を上げながら叫ぶ裏切り者1号、十代。そして続くのは明日香の友達である裏切り者2号と3号の枕田ジュンコと浜口ももえだった。

 

「あ、あいつら……」

「彼らはこう証言しているんだ。認めたまえ! 我が好敵手(ライバル)!」

 

 十代は久々に紅也のデュエルが見られる&ドローパンによる買収。ジュンコとももえは面白そうな展開に悪ノリし十代を買収して参戦、紅也の敵になりたくなかった翔は颯爽と立ち去った。

 

 一方的に奪い合う対象とされた明日香はと言えば──紅也と同じく顔に手を当て、深いため息を溢していた。

 なにやら綾小路は話を聞かないタイプ。十代もデュエルさせる気で、友人達もそちら側。明日香1人でどうにか出来る状況ではなかった。

 

(……ごめんなさい、竜伊くん)

(……うっそぉ、天上院)

 

 アイコンタクトで諦めを告げた明日香。それを受け取り絶望する紅也。テニスコートは混沌と化していた。

 

「さあさあ! 僕とデュエルだ! ──それとも何か? 所詮《ラーイエロー》程度の君では、僕を相手にするのが怖いのかい!?」

 

 挑発するためだろう。紅也を貶すような発言をする綾小路。しかし相手は精神年齢25歳、そんな安い挑発など効きはしない。

 

 そう──紅也には(・・・・)

 

(ははっ、そんな挑発に乗るかっての。こちとら元社会人……ん?)

 

 内心笑っていた紅也だったが、そこで異変に気付く。

 自分の意思で動かしていないにも関わらず、何故か──自分の左腕が上がっていた(・・・・・・・・・・・・)

 

(……な、なんで?)

 

 デュエルディスクを付けた左腕を、綾小路へ突き出すように動かしたのだ。

 

「ふふっ、受ける気になったようだね! それでこそ僕の好敵手(ライバル)だ!」

「い、いや! そうじゃなくて! ──ええっ!?」

 

 言葉とは裏腹に、デュエルディスクを起動する紅也。足も勝手に動き出し、綾小路から距離を取る。デュエルを開始する準備があっという間に整った。

 

「話した条件は覚えているね! このデュエルに勝った方が明日香くんのフィアンセ(婚約者)になるんだ!」

 

 何をバカなことを。紅也は素直にそう思ったが、今は自身に起きている異変の方が重要だ。

 

(なんでぇ? なんで身体が勝手に動くの?)

 

 ここまでの行動、彼の意志によって動かされたものは1つとしてない。頼れる相棒に泣きつくため話しかけようとしたが──その前に犯人を見つけた。

 

『お前かぁぁぁぁぁァァァッッ!!!』

『グルゥ』

『グルゥじゃないから! 何してくれてんだお前! 以心伝心なんだから俺がこのデュエル断ろうとしてたの分かってただろ!? レッドアイズくん!?』

『グルゥゥゥ』

 

 1ミリも悪びれていない黒竜。やってやった感全開のドヤ顔を見せられ、紅也は盛大に肩を落とした。

 どうやら綾小路の発言にムカついたらしく、紅也の身体を乗っ取り操作したようだ。

 

『お前……なんでも出来るな』

 

 自身の精霊が危ない存在かもしれない。そんなあり得ない可能性を考えてしまう程、紅也は頭を抱えていた。

 こうなればデュエルが始まる。逃げる選択肢はもう無い。久しぶりのヤケクソである、もうどうにでもなれ。紅也はデュエルディスクを構えた。

 

「準備はいいね?」

「はぁいッ!!!」

「お、おお……良いやる気だ。では行くよ!」

 

 若干紅也に押されながらも、デュエル開始の宣言がされた。

 

 

「「デュエルッ!!」」

 

 

 綾小路 LP4000

 紅也  LP4000

 

「僕の先攻! ドロー! 先手必勝! 魔法カード『サービスエース』を発動!」

「サ、サービスエース?」

 

 思わぬカードの発動に、ヤケクソ状態が解除。紅也は戸惑いの声を上げた。

 

「このカードはね。僕が手札から除外したカードの種類を君が当てる、外した場合は君に1500ポイントのダメージを与えるんだ」

「はぁっ!?」

 

【『サービスエース』

 自分の手札のカード1枚を裏側表示で除外して発動できる。相手はそのカードの種類(魔法・罠・モンスター)を選ぶ。当たった場合はこのカードとそのカードを破壊する。外れた場合は相手に1500ポイントのダメージを与える】

 

「さあ、選びたまえ」

「……ま、魔法カード」

「残念! モンスターカードだ! そして『サービスエース』の効果で君に1500ポイントのダメージだ!」

「くっ」

 

 紅也 LP4000→LP2500

 

 一気にライフが削られる。なんというインチキ効果、『黒炎弾』など可愛いものではないか。

 

(……アニオリカードってやつか)

 

 アニメオリジナルカード。それは現実でカード化されることのなかったカードであり、その多くのものにインチキ効果と呼べるものが存在する。

 こんなカードがこの時代に現実へ出ていれば、遊戯王というカードゲームは間違いなく崩壊していただろう。

 

「15ー0。僕はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

「……ドロー」

 

 いきなりの先制攻撃、手痛いのを喰らってしまった。しかしフィールドには1枚の伏せカードのみ、相手のデッキは中々に特殊なようだ。

 

「『仮面竜(マスクド・ドラゴン)』を召喚」

 

『仮面竜』ATK/1400 DEF/1100

 

「魔法カード『おろかな埋葬』により、『ミラージュ・ドラゴン』を墓地へ。そして『死者蘇生』で特殊召喚します」

 

『ミラージュ・ドラゴン』ATK/1600 DEF/600

 

「そんな攻撃力のモンスターをわざわざ呼ぶとは、何が狙いだい?」

「……『仮面竜』でダイレクトアタック」

 

 爽やかに訊ねる綾小路を無視し、紅也は攻撃宣言を行った。

 

「甘いよ! 罠発動、『レシーブエース』! ……何故発動しない!? うわぁっ!」

 

 綾小路 LP4000→2600

 

「『ミラージュ・ドラゴン』が存在する限り、相手プレイヤーはバトルフェイズ中に罠を発動出来ません」

「──ッ! あ、ああ! そうだったね! 僕としたことが!」

 

 明らかに知らなかった様子。まあドラゴン族を使わないのであれば無理もないと、紅也は深く考えなかった。ちなみに『レシーブエース』もアニオリカードであり、効果は凶悪。発動させなかったのは正解だ。

 

【『レシーブエース』

 相手モンスター1体の直接攻撃時に発動出来る。その攻撃を無効にし、相手に1500ポイントのダメージを与える。その後、自分のデッキの上からカードを3枚墓地に送る】

 

「続けて『ミラージュ・ドラゴン』でダイレクトアタック」

「うわぁぁぁっ!」

 

 綾小路 LP2600→1000

 

 2体のドラゴンによって、やられた以上にライフポイントを削った紅也。1枚のみの罠を警戒し、相棒ではなく『ミラージュ・ドラゴン』を選んだのが正解だったようだ。

 

『……グルゥ』

『拗ねるなって、勝ちにいくから』

 

 納得いかなそうな声をデッキから出す黒竜。紅也は苦笑いしながらそれを宥めると、次のターンへの布石を置いてターンを終了した。

 

「カードを2枚伏せて、ターンエンドです」

「僕のターン! ドロー!」

 

 ギリギリのライフだからか、気合を込めてドローした綾小路。険しい顔のままカードを動かした。

 

「よし! 僕は2枚目の『サービスエース』を発動! さあ紅也くん、選びたまえ!」

「……モンスターカードで」

「残念! 魔法カードだ! 1500ポイントのダメージを受けてもらう!」

(ええぇぇぇぇ)

 

 紅也 2500→1000

 

 あのカード本当になんなんだろう。紅也が納得のいかない顔で睨むが、綾小路はどこ吹く風。気にした様子もなく、戦術を続けた。

 

「これで終わらせるよ! 魔法カード、『スマッシュエース』!」

 

【『スマッシュエース』

 デッキの一番上のカードをめくる。そのカードがモンスターカードだった場合、相手に1000ポイントのダメージを与える。めくったカードは墓地に送る】

 

「ま、またぁ?」

「ドロー……モンスターカード! これで僕の勝ちだ!」

 

 勝ちを確信し高笑いを上げる綾小路。しかし紅也も伊達に強者達と戦ってきていない、日々成長しているのだ。

 

「罠発動! 『ダメージ・ポラリライザー』。ダメージを与える効果が発動した時に発動出来ます。発動と効果を無効にし、互いのプレイヤーは1枚カードをドローします」

 

 ドローで中々良いカードを引いた。この罠の効果でカードを引くと、何か補正でも乗るのだろうか。

 

「ぐぬぬ、首の皮1枚残したか……。でも君が引かせてくれたカードが、僕を勝利に導いてくれる! まず準備させてもらうよ。『強欲な壺』! カードを2枚ドローだ!」

 

 良いカードを引いたのは向こうも同じようだ。

 チートカードのオンパレード。全然爽やかではない。

 

「引きの強さも実力の内! 君のお陰で条件は整った! 僕は永続魔法『デュース』を発動!」

「デュ、デュース……?」

 

 徹底してるなと、むしろ感心してしまう紅也。

 

「こいつは互いのプレイヤーのライフが共に1000ポイントである時に発動出来る永続魔法。……だ、だからあの時ダイレクトアタックを受けたのは──計算通りだったという訳さ!」

(いや、どんだけ限定的な発動条件だ)

 

 焦ったように言い訳するチート部長を流し、発動されたカードへ注目する紅也。

 明らかに重過ぎる発動条件。となれば、強力な効果が秘められている可能性が高い。そんな紅也の予想は、見事的中することとなった。

 

「『デュース』の効果により、互いのプレイヤーはバトルフェイズ中1体のモンスターでしか攻撃出来ない。更にライフポイントが0になっても敗北はせず、2回連続でダメージを受けた時にのみデュエルに敗北する」

(……勝利条件の変更。また面倒なカードを)

 

【『デュース』

 お互いのライフポイントが1000ポイントの時に発動出来る。お互いのプレイヤーはバトルフェイズ中にモンスター1体のみでしか攻撃出来ない。

 以後、ライフポイントに関係なく相手に2回連続でダメージを与えたプレイヤーが勝者となる。この効果はターンを挟んでも有効とし、相手にダメージを与えられた時点で連続ポイントは無効となる。

(このカードがフィールド上にある限り、ライフポイントが0になっても敗北にはならない)】

 

「やはりこのターンでフィニッシュさ! 『伝説のビッグサーバー』を攻撃表示で召喚!」

 

『伝説のビッグサーバー』ATK/300 DEF/800

 

「そして僕の最後の手札! 『ファイヤー・ボール』! 相手ライフに500ポイントのダメージを与える!」

(……『バーン』の人って呼び名を広めてやろうかな)

 

 紅也がライフにダメージを受けたことで、綾小路にアドバンテージが与えられた。

 

 紅也 LP1000→500

 

 綾小路 ○●

 

「そして『伝説のビッグサーバー』は相手プレイヤーにダイレクトアタックが出来る! これで終わりだ! ビッグサーブッ!!」

 

 勇ましい掛け声と共に、『ビッグサーバー』がサーブを紅也へ向けて叩き込んだ。これを受ければ特殊条件により敗北、防がない訳がない。

 

「罠発動! 『ガード・ブロック』! 戦闘ダメージを0にして、カードを1枚ドロー!」

 

 優秀な罠によりダメージを回避した紅也。ダメージさえ受けなければ『デュース』の効果で敗北することはない。綾小路は絶好のチャンスを逃した。

 

「く、くうぅぅ!! あと一歩の所で! ターンエンドッ!」

「俺のターン、ドロー。……おっ」

 

 この世界にて行うデュエルで、初めて手札に来たモンスターを目にした紅也。一応未来のカードなのだがカードパワーは控えめと考え、普段使用するデッキに投入していたモンスターだった。

 

 今の状況には最善のカード、デッキにも懐かれ始めたかもしれない。

 

「『デュース』の効果でプレイヤーはモンスター1体でしか攻撃出来ない! 僕のライフに2回連続でダメージを与えることが出来るかな!?」

「出来ます」

「なにぃぃぃィィッ!?」

 

 まさかの即答に、雷が落ちたような衝撃を受ける爽やか王子。そんな男への鬱憤を晴らすかのように、紅也は1体のドラゴンを呼び出した。

 

「『仮面竜』と『ミラージュ・ドラゴン』を生贄にモンスターを召喚します」

 

 手札から呼び出すのは、"レッドアイズ"の名を冠する黒竜。初のお披露目に、紅也も少し興奮しながらデュエルディスクへ置いた。

 

 

「──『真紅眼の黒炎竜(レッドアイズ・ブラックフレアドラゴン)』」

 

 

『真紅眼の黒炎竜』ATK/2400 DEF/2000

 

 

 名に"炎"と付いている証と言わんばかりに、身体中から噴き出す激しい炎。獰猛さの中にも美しさを感じる、そんな黒竜が現れた。

 

「おおっー!! 紅也! そのドラゴンめっちゃカッコいいぜ!」

「た、確かにね!」

「ワイルドですわ〜!」

 

 裏切り者1号2号3号から上がる賞賛の声。裏切られたとはいえ自分のモンスターを褒められて悪い気はしない。むしろ初めて出せたブラックフレアなので、紅也のテンションは普段より高くなっていた。

 

「レ、レッドアイズ……なるほど、やはり君は僕の好敵手(ライバル)に相応しい男のようだ。だがそんなモンスターを召喚した所で話は変わらない! 1体しか攻撃出来ないんだからな!」

 

 そういった説明は死亡フラグ。遊戯王の世界では常識である。

 

「この黒炎竜は姿を変えることが出来るんですよ。──魔法カード『二重召喚(デュアルサモン)』。このターンのみ、俺はもう一度召喚権を得ます」

 

【『二重召喚』

 このターン自分は通常召喚を2回まで行う事が出来る】

 

「しょ、召喚権?」

「『真紅眼の黒炎竜』はデュアルモンスター。召喚権を使うことで、通常モンスターから効果モンスターへ姿を変えるんです。俺は『ブラックフレア』を通常召喚扱いで再召喚、効果を与えます(・・・・・・・)

 

 より一層激しい炎を噴射する黒炎竜。それを見て腰が引ける綾小路だが、自身の有利は揺るがないと強気で持ち直す。

 

「デュ、デュアルモンスター……? そんな訳も分からないモンスターがなんだと言うんだ!!」

「『ブラックフレア』で『伝説のビッグサーバー』を攻撃」

 

 圧倒的な攻撃力差の前に、『ビッグサーバー』はなす術もなく焼き尽くされた。

 

 綾小路 LP1000→LP0

 

 紅也 ○●

 

「ぐあぁぁぁっ!!!」

 

 唯一のモンスターが破壊され、戦闘ダメージを受けたことでアドバンテージが取られる。ライフは0になったがまだ敗北ではない、これでは1手足りないのだ。

 

「だ、だが、終わりだろう……? 僕のターン──」

「慌てないでください、まだ『ブラックフレア』の攻撃は終わっていませんよ」

「……な、なんだと」

 

 取り乱す綾小路に、紅也はトドメを刺した。

 

「『ブラックフレア』の効果。このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時に発動。──このカードの元々の攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与えます」

「バ、バカな……」

「先輩に2400ポイントのダメージです。……ゲームセット、ですね」

 

 黒一色ではなく純粋な紅の炎が混ざり合った火球が生成され、勢いよく発射された。綾小路は灼熱の炎に焼かれ、黒炎竜の咆哮によって──敗北の二文字を押し付けられたのだった。

 

 紅也 ○○

 

 ──紅也はストレスを発散した。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

 敗北した現実を受け止めきれなかったのか、綾小路は泣きながら走り去ってしまった。そのため、現在テニスコートには1年生しか居ない状況だ。

 

「──言い訳はあるのかしら?」

「「ありません」」

「ありませんわ」

 

 腕を組みながらキレているのは明日香。裏切り者である1号2号3号を全員正座させ、お説教タイムを実行していた。

 紅也も参戦するかと思いきや、『ブラックフレア』で派手に勝利したことによりストレスが発散。仏のような心で裏切りを許したのだった。

 

『……ありがとな、『真紅眼の黒炎竜(ブラックフレア)』。お疲れ様』

 

 手にカードを持ち、活躍を労う紅也。カタカタと少し震えながら反応する黒炎竜を微笑ましく眺めていると、右隣から不服そうな声が聞こえてきた。

 

『──グゥゥ』

『わ、悪かったよ。でも、今回は『ブラックフレア』の番だったってことでさ? お前は毎回出てたんだから、一回ぐらい譲っても……』

『グルゥオッ!!』

『分かった分かった! 次は絶対出てもらうから! なっ? 機嫌直せよ?』

『……グルゥ』

 

 ギリギリ納得してくれたのか、カードへと戻った黒竜。本当に出たがりな相棒である。

 

「た、竜伊くん」

「ん? どうした、天上院」

「今日は、その、ごめんなさい」

「天上院が謝ることじゃないだろ。……っていうか、十代達どうした?」

「気にしないで」

「いやでも」

「気にしないで」

「……お、おう」

 

 有無を言わせぬ迫力で、明日香は紅也を黙らせた。

 飛び火してきては敵わないと、紅也はいつの間にか姿を消している裏切り者達の現状を頭から放り出した。

 

「ああー。……疲れた」

「そ、それで、竜伊くん。デュエルの条件のことなんだけど」

「えっ? 条件?」

「その…… フィアンセ(婚約者)がどうとか」

 

 そういえばあったなと、紅也は明日香の言葉で思い出した。途中からデュエルに熱中していたようで、すっかり忘れていたようだ。

 

「わ、私達……まだその……早いん」

 

 照れながら言葉を続ける明日香。その姿は孤高の女王ではなく、可愛らしい普通の女子高生にしか見えない。そんな甘い空気を──読めない男がぶった切った。

 

「ごめんな、天上院」

「──えっ?」

 

 空気の抜けるような声を溢す明日香。紅也からの予想外過ぎる言葉に反応し遅れたようだ。そんな明日香の気持ちなど知らずに、空気の読めない男はターンを勝手に奪った。

 

「腹減り過ぎて……死にそう。奢るから飯でも食べよう、俺もう腹減っちゃってダメだ。テニスの後にデュエルはキツい」

「……あ、ああ〜、そうね! 私もお腹空いたわ!」

「今日の食堂には何があるかね」

「カ、カレーとか?」

「カレーは毎日あるだろ?」

「そ、そうよね。そうだったわ……」

「結構汗かいたから顔洗ってくるよ。ちょっと待っててくれ」

「ふぇ? う、うん。……ま、待ってる」

 

 1人で空回りしているようで、明日香はとても恥ずかしかった。取り敢えず紅也が戻ってくるまでに、この顔の熱を冷ましておかなければならない。

 

 走っていく背中を見つめながら、明日香は小さな声で呟いた。

 

 

 

「──……バカ

 

 

 

 




 一万文字超えそうになりました……。

 今回は『黒炎弾』の人よりチートなテニス部長先輩とのデュエルでした!
 アニオリを使うデュエルは書いていてカードの効果に引きながらも新鮮な感じでした(笑)。

 そして新たなレッドアイズであるブラックフレアが出せて満足です!イメージしてたように書けたと思うので、楽しんでもらえたら嬉しいです!


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〜進化した者達〜

 

 

 

 

 

 熱血テニス部長がデュエルに敗北したという噂が流れ、紅也へ挑む《オベリスクブルー》が減ってきた今日この頃。

 ストレスも減り余裕が出てきた紅也はと言えば、デュエル場で行われている3つのデュエルを観客席で見ていた。

 

 コーラを飲みながらリラックスして観戦している紅也。そんな彼に1人の男が声を掛けた。

 

「紅也。ここに居たのか」

「三沢か。ちょっとデュエル観戦をな」

「見応えのある勝負でもあるのか?」

「まあな。……一応教えた側として、見といてやらないとさ」

「教えた側? ──ああ、そういうことか」

 

 デュエルしている者を確認し、三沢は紅也の言葉の意味を理解した。紅也と共に特訓していた人物が《オベリスクブルー》の生徒と戦っていたからだ。

 

 赤い制服を着た──丸藤翔。

 真剣な顔をしているが、焦ってはいない様子。精神的にも随分と成長してきたようだ。

 

「翔か。ライフは負けているようだが」

「まあ、見てなって。面白くなるのはここからだ」

 

 紅也の言葉を受け、三沢もデュエルの行方を追った。

 

 翔   LP1200

 ブルー LP2000

 

「僕のターン! ドロー!」

「はっ、所詮《オシリスレッド》! このまま勝っちまうぜ!」

 

 煽るように騒ぐのは相手の《オベリスクブルー》。既に勝利を確信しているような態度だ。

 そんな相手に気を取られることもなく、翔はカードを動かした。

 

「魔法カード、『サイクロン』発動! 伏せカードを破壊する!」

「くっ! 『ミラーフォース』が……!」

 

 やはり発動出来ない運命にあるようで、頼みの綱は簡単に破壊された。伏せカードを無視しない慎重さも、確かな成長を感じさせる。

 

 しかし翔のフィールドには攻撃力1000と頼りない『ミサイルロイド』が1体。逆に相手のフィールドには攻撃力2300の『ゴブリン突撃部隊』が攻撃表示で存在している、戦力差は歴然だ。

 

「モンスターの攻撃力で負けているか、まだ状況は不利だな」

「確かにな。……でも、勝つのは翔だ」

 

 冷静に状況を分析する三沢だったが、紅也は翔が勝つと断言。三沢はどんな展開がされるのかデュエルへ注目した。

 

「罠発動! 『リビングデッドの呼び声』! 墓地から2体目の『ミサイルロイド』を召喚!」

 

 罠の効果で並べられた2体の『ミサイルロイド』。ブルーの生徒はそんな光景を見て、翔を馬鹿にするように笑う。

 

「その程度のモンスターを幾ら並べようと意味ねぇよ! 俺の『ゴブリン突撃部隊』は倒せない!」

 

 変わらず勝利を確信しているようだが、新たに翔が召喚したモンスターを見て、その笑顔は消え去ることとなった。

 

「『ヘリロイド』を召喚! そして効果発動! このカードがフィールドに存在する限り、『ミサイルロイド』は直接攻撃が出来る!」

「な、なんだとぉ!?」

 

 2本のミサイルを装備し、『ヘリロイド』が狙いを定める。削るライフは1発で1000ポイント。防ぐ罠もなし、勝負有りだ。

 

「2体の『ミサイルロイド』でダイレクトアタック!」

「うわあぁぁぁっ!」

 

 ブルー LP2000→0

 

 モンスターを素通りし、プレイヤーへの直接攻撃。これならばどれだけ攻撃力が劣っていようと問題はない。ライフが0になった方が負けなのだから。

 

「見違える程の成長だ。やはり、君から学んだことが大きいのかな?」

「元々アイツは優秀だったよ。……そもそも、デュエルアカデミアに編入出来た時点で全員優秀なんだ。ここの倍率忘れられがちなんだよな」

「確かに、それもそうだな」

 

 笑いながら同意する三沢に、紅也が声を上げて指を差した。見ていたのは翔だけではなかったのかと、三沢は差された方へ視線を向けた。

 

「あっちも決まりそうだぞ」

「あっち? ……あれは小原か?」

 

 翔の2つ隣でデュエルを行っていたのは、自身と同じ《ラーイエロー》に所属する同学年──小原洋司(おはらようじ)であった。

 

「悩んでたみたいだから相談乗ってたんだよ。緊張しがちなだけで、実力あるしな」

「それは知っているが……本当に小原なのか?」

 

 三沢がそう言うのも無理はなかった。ほんの数日前まで、小原洋司という男はあんなに堂々とデュエルする性格ではなかったのだから。

 

「なんだアレは? ……カチューシャ(・・・・・・)か?」

「そうそう。アイツ前髪長かっただろ? それが暗くなる原因かなって思ってさ。試しに付けさせたら、驚くぐらい性格変わったんだよな」

 

 サラッと人格変更宣言をした紅也。その言葉通り緊張を感じさせない堂々としたプレイングで、小原は相手を確実に追い詰めていた。

 

「『地獄の暴走召喚』を発動! 特殊召喚した『強欲ゴブリン』をデッキから更に2体特殊召喚!」

 

【『地獄の暴走召喚』

 相手フィールドに表側表示モンスターが存在し、自分フィールドに攻撃力1500以下のモンスター1体のみが特殊召喚された時に発動出来る。その特殊召喚したモンスターの同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から可能な限り攻撃表示で特殊召喚し、相手は自身のフィールドの表側表示モンスター1体を選び、そのモンスターの同名モンスターを自身の手札・デッキ・墓地から可能な限り特殊召喚する】

 

『強欲ゴブリン』ATK/1000 DEF/1800

『強欲ゴブリン』ATK/1000 DEF/1800

『強欲ゴブリン』ATK/1000 DEF/1800

 

 フィールドに3体出たゴブリンモンスターだが、攻撃力は貧弱。しかし小原の狙いはそこではない。自信満々な表情で勝負を決めるエースを手に取り、整えた王座へゴブリンの王を召喚した。

 

「──『キングゴブリン』を召喚!」

 

【『キングゴブリン』

 自分フィールド上にこのカード以外の悪魔族モンスターが存在する場合、相手はこのカードを攻撃する事は出来ない。このカードの攻撃力・守備力は、フィールド上のこのカード以外の悪魔族モンスターの数×1000ポイントになる】

 

『キングゴブリン』ATK/3000 DEF/3000

 

 鮮やかな戦術で並べられた"悪魔族"モンスター。宿る効果によって『キングゴブリン』の攻撃力は3000と圧巻だ。

 

「『キングゴブリン』で攻撃だっ!」

「ぐあぁぁぁぁっ!!」

 

 相手の場にも『地獄の暴走召喚』でモンスターは増えたが、圧倒的な攻撃力差の前に勝負にすらならない。こちらも勝負有りだ。

 

「す、素晴らしい戦術だ……」

「本当にな、流石は小原」

 

 パチパチと手を叩く紅也と違い、呆然と勝利を称賛する三沢。タクティクスだけで言えば、自分でも敵わないかもしれないと思わされてしまった。

 

「最後のデュエルも終わるな」

「まだあるのか!?」

 

 またも叫ぶ三沢。この流れでいけば、どうせまた驚かされるのだろう。そんな彼の予想はしっかりと的中することになった。

 

「今度は……神楽坂か。なるほどな」

「アイツこの間、翔とのデュエルで負けてな。その時、俺に相談してきたんだ」

「神楽坂ということは……デッキの相談か?」

「そうそう、結構悩んだよ」

 

《ラーイエロー》の神楽坂(かぐらざか)。優秀でありながら勝率が良くないと、ある意味で有名な男だ。記憶力が良過ぎるため、一目見たデッキの特徴を完璧に覚えてしまう。そのせいでデッキを作れば他人の真似、コピーと蔑まれてきたのだ。

 

「どんなカードを使えばいいかとか聞かれてな。俺は『レッドアイズ』とか"ドラゴン族"しか使ってこなかったから、色々考えたよ」

「それで? どんなカードを薦めたんだ?」

「ドラゴン繋がりで……アレだよ」

 

 ちょうどそのカードを使うタイミングだったようで、紅也は神楽坂を指差した。

 

「『サンダー・ドラゴン』の効果発動! 手札にあるこのカードを墓地へ送り、デッキから『サンダー・ドラゴン』を2体まで手札に加える!」

 

 ──『サンダー・ドラゴン』。

 遊戯王初期に登場したこのカードは、約18年程の時を経て爆裂的に進化した。

 

 ・新規カードの登場。

 ・優秀な魔法・罠。

 ・強力な融合モンスター。

 ・相性の良いカードの数々。

 

 長年日の目を見ることのなかったこのカードは、あっという間に環境を荒らし回る程の実力を発揮した。

 もちろんこの時代では新規カードはない。しかし、神楽坂という類稀なデュエリストとの適合により、既に多くのデュエルに勝利していた。

 

「魔法カード、『融合』! 手札の『サンダー・ドラゴン』2体を融合し──現れろ! 『双頭(そうとう)雷龍(サンダー・ドラゴン)』ッ!」

 

『双頭の雷龍』ATK/2800 DEF/2100

 

 たった2枚のカードから飛び出してきたエースモンスター。攻撃力も上級と言って差し支えなく、雷を纏いながら相手を威嚇している。

 

「魔法カード! 『ライトニング・ボルテックス』! 手札を1枚捨て、相手フィールド上の表側表示モンスター全てを破壊する!」

 

 激しい閃光と共に落ちた雷によって、対戦相手のモンスターが全滅。フィールドはガラ空きとなり、直接攻撃を受ける準備だけが整った。

 

「『双頭の雷龍』でダイレクトアタックッ! 超放電サンダー・フレアッ!!」

「うぎゃあぁぁァァッ!!!」

 

 2つの口から発射された稲妻のブレスが、相手のライフを残さず消し飛ばした。神楽坂のライフは4000のまま、完勝であった。

 

「……」

「どうした? 三沢」

 

 最早驚きの声すら上げず、黙ってデュエル場を見つめている三沢。翔だけでなく同じ寮の同期達までもが進化とも呼べる成長を遂げていたことに、まだ処理が追いついていないようだ。

 そしてそんな三沢を更に追い込むデータが、席を立ち上がった紅也に声を掛けてきた。

 

「紅也」

「どうも、亮さん」

「カ、カイザーッ!?」

 

 とても親しげな様子で話し掛けてきたのはアカデミアの帝王・丸藤亮。名前呼びしていることから、ただの顔見知りという訳でもないらしい。

 

「翔は成長したな……。お前のお陰だ。兄として、礼を言う」

「頑張ったのは翔ですよ、俺は少し勉強に付き合っただけですから。褒めてあげてくださいね……翔はきっと喜びます」

「フッ、そうだな。久しぶりに翔と食事でもするとしよう」

「それは良いですね。じゃあ下に降りますか」

「ああ、そうしよう」

 

 まるで友人のように会話している二人を、三沢は呆然と見ていた。入り込む隙などなく、紅也に声を掛けられるまで固まっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、お兄さん!?」

「翔……。良いデュエルだったな」

「お兄さんが……僕を褒めて……!」

 

 すぐに涙を滲ませる翔。デュエリストとして成長しても、泣き虫なのは変わらないようだ。

 

「紅也ぐ〜んっ!! ありがとぉ〜!」

「分かったから泣くな。そして俺から離れろ」

 

 声を上げながら紅也に抱きつく翔。涙で制服を濡らされるだけでなく、周りからの視線も痛い。翔を引き剥がし亮へ押しつけると、今度はカチューシャ男子が口を開いた。

 

「紅也! 見ててくれたか!? 完璧だったよな!」

「ああ、見てた見てた。凄かったな」

「へへっ、だろ!」

「大原に報告してやれよ。喜ぶぞ」

 

 大原進(おおはらすすむ)、小原と特に仲が良い大柄な男子生徒である。

 この学園では珍しく、デュエリストではなくゲームデザイナーを目指している心優しい少年だ。

 

「分かった! じゃあまたな!」

 

 元気よく走り出した小原を見送ると、3人目の教え子が声を上げた。

 

「俺の『サンダー・ドラゴン』は今日も強い! 紅也! 今度はお前の『レッドアイズ』が俺達の相手をしてくれ!」

「……き、気が向いたらな。三沢が空いてるってさ」

「そうか! じゃあ三沢! 今度はお前にデュエルを申し込む!」

「あ、ああ。分かった」

「俺は部屋に戻る! すぐにデッキの調整をしなくては! 『サンダー・ドラゴン』をより輝かせるコンボを考えるんだ! じゃあな!」

「「が、頑張れ」」

 

 目を輝かせながら寮へ帰っていった神楽坂。心から楽しそうな勢いに押され、紅也と三沢は怯まされた。

 

「……楽しそうだな」

「余程『サンダー・ドラゴン』が気に入ったんだろう。あんな神楽坂初めて見たよ」

「……アイツの前髪が雷みたいって思ったから勧めたとは言えんな」

 

 初めて他人の真似ではない、自分だけのデッキ。神楽坂の抑えられない喜びは、紅也と三沢には本当の意味で理解出来ないだろう。

 

「紅也、俺達は食堂へ行く。お前も来るか?」

「お兄さんが奢ってくれるらしいっス! 行こうよ!」

 

 紅也の腕を引っ張り、とても嬉しそうな翔。褒めてもらえたこと以上に、亮から食事に誘われたことが嬉しいのだろう。

 

「いや、俺達はいいよ。……なっ? 三沢」

「えっ。あ、ああ。そうだな」

 

 自分も誘われている対象とは思っていなかった三沢。同意を求められたことに驚きながらも、すぐに頷いた。

 

「兄弟で話したいこともあるでしょう。また今度の機会にお願いします」

「そうか。では、またな」

「紅也くん、三沢くん、またね!」

 

 和やかに談笑しながら去っていく丸藤兄弟。

 そんな後ろ姿を満足気に見ている紅也に、三沢は脱力しながら声を掛けた。

 

「……本当、お前の周りは退屈しないな」

「急にどうした。……俺も寮に戻るけど、三沢は?」

「そうだな……。俺も戻るとしよう」

 

 肩を並べて帰路へ着く2人。欠伸をしている紅也を横目で見ながら、三沢は改めて決意を固めた。

 

 十代(ライバル)に勝つため、そして紅也(ライバル)へ挑むため。

 

(帰ったら……俺もデッキの調整だな)

 

 学園で1番になるために倒さなければならない相手は多い。

 三沢は自分の中に湧き上がった感情に気付くと、笑いながら寮へ帰る速度を上げたのだった。

 

 

 

 




 3人のキャラが大幅強化されました。これがタッグフォースなら難易度上がりましたね。

 神楽坂は何気にチートだよなって思ってたので、こうして登場させられて嬉しいです!
 ちなみに『サンダー・ドラゴン』にした理由は書いた通りです(笑)。

 そして記念すべき10話目です!
 遊戯王という作品は頭を使うので、ここまでの頻度で書けている自分に驚きです。それも全て、読者様方からのお気に入り登録や評価による応援のお陰です!
 1番面白いのは、頂いてるコメントですけどね(笑)。

 これからものんびり書いていくのでよろしくお願いします!


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〜転生者の決意〜

 

 

 

 

 

「……三沢の様子が変?」

 

 デュエルアカデミアの購買名物、ドローパン。中身が分からないように包装されており、開けるまでどんな味が隠されているのか分からないギャンブルパンだ。

 派手にぶっ飛んだ味もあるらしいが、紅也がドローしたのはコロッケ。サクサクの食感とソースの味に舌鼓を打ちながら、たまたま居合わせた明日香の話に首を傾げた。

 

「……黄金じゃないか」

 

 紅也と同じくドローパンを手に持つ明日香。お目当ての味を引けなかったようで、包装を開けて残念そうな声を溢した。

 

「ああ、1日1個限定のやつな。天上院好きなのか?」

「ち、違うの! この間初めて食べたから忘れられなくて……じゃなくて!!」

 

 ぶんぶんと手を振りながら否定する明日香。どうやら1日1個限定である『黄金のタマゴパン』の味が忘れられないらしい。

 そしてカウンターにて明日香と隣同士に座っている紅也だが、最近は《オベリスクブルー》から因縁もつけられない。平和なものだ。

 

「確か、十代達と一緒になんかしたんだっけ? お前達の周りは忙しいな」

 

 気付かない内に早乙女レイが来訪していたり、気付いた時には既に帰っていたり。知識から抜け落ちていたイベントには、ことごとく縁がない紅也だった。

 

「え、ええ。夜遅くに『黄金のタマゴパン』だけを盗んでいく泥棒が居たの。どうも一般の学生じゃない感じだったから──兄さんに関係あるかと思って」

「無事解決しても、情報は無しか」

 

 話を聞きながらパクパクと食べ進めていく紅也。パンと同じタイミングで購入したお茶を飲みながら、軽めの昼食を終えた。

 

「……それで? 三沢が変って?」

 

 少し落ち込み出した明日香。そんな雰囲気を変えようと、紅也は先程出た話題を訊ねた。

 

「なにか悩んでたみたいなの。さっき見かけて声を掛けたんだけど、気付かないで歩いて行ったわ」

「……計算式でも考えてたんじゃないのか?」

 

 病的なまでの数式オタクである三沢。十分あり得る仮説だが、明日香は首を横に振った。

 

「それはないと思う……。上手く言葉に出来ないんだけど、なんとなく近いものを感じたから」

「近い?」

「兄さんのことで悩む……私自身に」

「……そっか」

 

 明日香がそう言うならそうなのかもしれない。無条件でそう考えてしまう程には、紅也は彼女の鋭さを評価していた。

 

「あっ、ちょっと待って」

「どうした?」

 

 断りを入れてから携帯端末を取り出した明日香。誰かからメールが届いたらしく、目を見開いて驚きを露わにした。

 

「十代からよ。……三沢くんのこと、分かったかもしれない」

「どんな内容だ?」

 

 差し出された端末を見る紅也。そこには確かに驚くべき内容が記載されていた。

 

 

『三沢が学園対抗デュエルの代表に選ばれたってよ!! でもまだ決まった訳じゃなくて、もう1人選ばれたやつとデュエルして勝ったら決まるらしい! 三沢からの提案みたいだから、デュエルの相手は三沢が選ぶんだってよ! 俺が戦いたいから三沢を見たら教えてくれよな!!』

 

 

「なるほど……あっ、俺のとこにもきた」

「三沢くん、相手選びで迷ってるんじゃないかしら」

 

 学園対抗デュエル、原作で言えばデュエルアカデミア『ノース校』との話だろう。ようやくあのエンターテイナーが帰って来るらしい。

 もうすぐ推しキャラが戻って来ると言う事実に、内心テンションが上がり出した紅也。

 

「十代で決まりだろ、他に適任も居ないし」

「問題があるとすれば、多分《オシリスレッド》の生徒ってことね。学園の代表だもの、クロノス先生辺りが騒ぐ光景が目に浮かぶわ。……十代側に立つ人がいれば話は別でしょうけど」

「……確かに」

 

 原作では最初にカイザー亮からの推薦で十代が選ばれ、それに反発したクロノスが《ラーイエロー》トップの三沢を推薦し、デュエルにまで持ち込んだ形であった。

 しかしタッグデュエルを潰したことで十代と亮のデュエルも消え、代わりに紅也と亮がデュエルをしている。原作を少し変えただけでも、やはり色々な影響は出てしまうようだ。

 

(……亮さん。俺のことは言わないでくれたのか)

 

 顔を合わせれば談笑する程には仲の良い紅也と亮。目立つのを嫌う紅也へ、亮が配慮したということだろう。

 

「まあ、三沢が十代を選べば決まりだろ。その決定にまでは、クロノス先生も文句は言わない筈だ」

「……竜伊くんは、それで良いの?」

「……えっ? なんで?」

 

 真剣な表情で訊ねる明日香に、思わず真顔で返した紅也。質問の意図が本気で分からないといった様子だ。

 

「多分三沢くんは……竜伊くんと戦いたいのよ」

「……俺?」

「話を持ちかけられた時にそのまま代表にならなかったのは、自分が代表になって良いのかっていう気持ちがあったんだと思う。……前に聞いたの、三沢くんの話──"俺には倒したいやつが2人居るんだ"って」

「十代と……俺ってことか?」

 

 自分で言ってて恥ずかしいが、恐らくは事実。その証拠に、明日香も頷いているのだから。

 

「"十代を倒して、紅也に挑む"……三沢くんはそう言ってたわ」

(……そんな感じに断ったんだっけ。あの時は《オベリスクブルー》のやつらに因縁つけられて、精神的にやられてたからなぁ)

 

 自分が出した条件を忘れていた紅也。改めて思えば酷い条件だ、原作主人公を盾にしているのだから。

 

「同じ《ラーイエロー》ならクロノス先生も了承する筈だし、三沢くんは竜伊くんを対戦相手に選びたい筈よ」

「……それを渋ってるってことは」

「竜伊くんに気を遣ってるんでしょうね。……目立つのが嫌いと知っているから」

 

 お茶を飲み干し、紅也は納得がいかないように言葉を溢す。

 

「……大体、なんで俺なんかを。天上院だって他のブルーの生徒だって居る、それこそ小原や神楽坂だって」

「それでも──竜伊くんなのよ」

 

 バッサリと紅也の言葉を切る明日香。強い意志が込められており、中途半端な返答は許されない雰囲気を感じた。

 

「多分、理由は自分でも分からないんでしょうね。私も……三沢くんと同じ立場なら分からないと思う」

 

 固まる紅也に、表情を緩める明日香。ドローパンの包装を丸めながら、優しく言葉を続けた。

 

「──努力して、研究して、考えて考え抜いて、三沢くんがどうしても勝ちたいと思った相手は……貴方なの、竜伊くん。他の誰でもない、貴方なのよ」

「他の誰でもない……俺」

 

 視線を落としながら、思考を巡らせる紅也。そんな彼を見て、明日香は優しく微笑んだ。

 

 

「本気でやらなきゃ──楽しくないでしょ?」

 

 

 やんちゃ小僧のような笑顔で、明日香は紅也へそう告げた。まるで、勢いに任せて背中を押すように。

 

「……考えてみるよ」

 

 席から立ち上がり、背を向けて歩き出す紅也。ドローパンの包装とお茶の入っていたペットボトルを捨てると、席に座る明日香へ一言だけ言葉を放った。

 

「──……ありがとな、天上院」

 

 明日香の方を振り返りもせず、紅也は購買を去って行った。

 

「……頑張ってね、竜伊くん」

 

 黄色い制服を見つめながら、明日香は静かに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竜伊紅也は転生者である。

 

 今自分が存在しているのは、架空の世界。それは紅也がこの世界に来てから頭に残し続けている、"縛り"のような考えだ。

 

 急に発生する危険な事件も、紅也は知識としてそれを覚えている。原作を見てきたのだから。

 

 どのキャラがどんなデッキを使い、どんな性格で、どんな風に活躍するか、全てではないが知っている。原作を見てきたのだから。

 

 どのタイミングで何が起こり、誰が関わり、どう解決するのか知っている。原作を見てきたのだから。

 

 ──竜伊紅也は転生者である。

 

 故に、この世界を本物と信じられなかった。

 故に、事件もただのイベントとしか思えなかった。

 故に、物事に対しても、働くのは義務感だけだった。

 

『主人公だから』と、遊城十代のデュエルを受けた。

『罪悪感を感じた』から、丸藤翔を特訓した。

『見捨てても寝覚めが悪い』と、天上院明日香を助けた。

『やる必要が無い』と、三沢大地の挑戦を断った。

 

 よく優しい性格と評価されるが、紅也はそれを否定する。決して、優しくなどはないと。

 

 全ては"原作を知っていたからやったこと"であり、"自分の意志でやりたいと思ったことはない"のだから。

 

(……俺が自分の意思でやったことなんて、万丈目とのデュエルだけか)

 

 青い空を独り占め出来る場所で、紅也は雑に寝っ転がっていた。この場所を教えてくれた十代は、ここでよく授業をサボっているらしい。そんな気持ちも分かってしまう程に、開放的な空間だった。

 

(お前に連れて来てもらった世界だけど……俺は何をすれば良いんだろうな)

 

 唯一無二の相棒である『真紅眼の黒竜』のカードを手に取り、紅也は言葉を発さずに訊ねた。それに対して黒竜は精霊化しただけで、返答と呼べる反応は見せない。

 

 目を閉じ、思考する。自分はこのままこうして生きていくのだろうか、黒竜に与えられた2度目の人生を。

 

(……それは、なんていうか、嫌だな)

 

 レッドアイズのお陰で転生者となった。

 十代とのデュエルで楽しさを知った。

 万丈目とのデュエルで怒りに身を任せた。

 明日香との話し合いが心地良かった。

 翔との特訓に熱が入った。

 亮とのデュエルで全力を出した。

 

 それら全て、この世界に来て経験した大切なことだ。

 

 そんな中で、同じ寮に所属ということでよく言葉を交わし、授業も共に受け、食事も同じ机で食べている男が居る。

 筆記の成績は学年1位、努力は決して惜しまない、1年生の中では最強候補にも名前が挙がる程の実力者だ。

 

(そんなやつが俺と戦いたい……のか)

 

 目を開ければ、すぐそこに黒竜。光を飲み込むような漆黒は、言葉に出来ない魅力を放っている。

 

「……お前は、どうしたい?」

『──グルゥ』

 

 そんなもの決まっている、そう言わんばかりに喉を鳴らした黒竜。この世界に来た時から変わらない答えを、レッドアイズは持っている。

 

「……じゃあ、やるか。相棒」

 

 立ち上がった男の顔から、迷いは消えていた。黒竜はそんな男の背中を、満足そうに見つめている。

 

「本気でやらなきゃ……楽しくないもんな?」

「グルゥオ」

 

 ──"どんな時でも側に居る"。

 黒竜の答えは、それだけなのだから。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

 初めて見た時から、アイツは目立っていた。

 

 夕日に照らされた道を歩きながら、三沢大地は1人の人間について考えを巡らせていた。

 

 伝説とも呼ばれるレアカード『真紅眼の黒竜』を操り、2発の『黒炎弾』を発動しワンターンキル。大人しそうな顔立ちとは裏腹に、試験デュエルをド派手に勝利した男のことだ。

 

 話してみると良いやつだった。

 知識量では負けないが、面白い発想に感心した。

 捻くれていながら、周りに気を配る優しさがあった。

 

 しかし、その男を凄いと思ったのは──それだけではなかった。

 

 本人も自覚しているように、三沢大地は秀才である。膨大な知識量から様々なカードを操るが、それは自身に対してのみの恩恵。他人に教えを説いても、理解してもらえないことがほとんどだ。

 

 故に、三沢は他者に何かを教えるということが出来なかった。

 

 自分に出来ないことをやってのける人物。そんな存在に無条件で尊敬にも似た感情を抱いてしまうのは、人間として仕方のないことなのだろう。理論に基づく生き方をしてきた三沢でさえそうなのだから。

 

 落ちこぼれと称される少年が、エリートに勝利した。

 気弱な天才が、己の才能を発揮出来るようになった。

 モノマネと呼ばれていた男に、進むべき道を示した。

 

 自分に同じことは絶対に出来なかった。明確な瞬間があったとすれば、それを実感した時だろう。

 

 

 ──"どうしても勝ちたい"と、思わされたのは。

 

 

「来たぞ、紅也。呼び出した用件を聞こうか」

 

 寮からそう離れていない場所。木が1本生えているだけの殺風景な場所に、三沢は呼び出されていた。呼び出した本人である紅也を見つけ、無意識の内に少々強めの口調で問いかけた。

 

「悪かったな、呼び出して。寮の部屋で言うのも雰囲気が無いと思ってさ」

「? ……別に良いさ。考えに行き詰まっていた所だ」

 

 紅也の言葉の意味が分からない三沢だったが、何かを決意したような顔に違和感を覚えた。

 

「──学園対抗デュエル。相手を探してるんだろ?」

「……知ってたのか。無条件で俺が代表になるのも気が引けてな、十代と君以外の相手を必死に選んでいる最中さ」

 

 少し嫌味のように話す三沢。悩みの原因に直接話を振られたことで、反射的にそういった態度になってしまったようだ。それを察した紅也は笑いながら口を開く。

 

「俺が相手するよ」

「──はぁ?」

 

 思わず溢れた声。冷静な三沢からは想像出来ない程の間抜けな声であった。

 

「学園代表決定戦、お前の相手は俺がする」

「……本気か?」

 

 予想外な言葉に、三沢は戸惑いながら聞き返した。紅也の性格を知っていたからこそ声を掛けなかった立場として、まさか本人から申し出があるなど思ってもいなかった。

 

「本気だ」

「……目立つぞ?」

「それは嫌だな」

「おい」

 

 即答され、三沢がツッコむ。紅也は地面に視線を落としながらも、しっかりとした声で語り出した。

 

「目立つのは本当に嫌いなんだ。良いことないし、迷惑なことの方が多いし、出来ることなら避けたい」

「…………」

「けどさ、そういうの抜きにして考えた時……俺はお前と戦いたいと思ったんだ」

「……紅也」

 

 他にやることがないからと、義務感でやってきた。知っているのは自分だけだと、義務感でやってきた。自分の意志などそこには無かった。

 

 ──しかし。

 

「これは"俺の意志"だ。お前の相手は……俺がする」

 

 空気が震える。鼓動が早まる。感情が──昂る。

 

「勝負しよう、三沢。俺の『レッドアイズ』とお前が本気で考えたデッキ……どっちが強いかハッキリさせよう」

 

 竜伊紅也(転生者)は、自らの意思で1歩を踏み出した。

 

 

 

「三沢。──お前にデュエルを申し込む(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 




 デュエル挑むだけで1話と言うね、ハハハ(真顔)。

 ドローパン事件と早乙女レイ襲来に関しては、申し訳ありませんが作者の独断でスキップさせて頂きました。だってオリ主のねじ込み方思いつかなかったんだもん……。

 そして巻き込まれ系の殻を破ったオリ主でした。

 明日香→優しい言葉。
 黒竜→優しい黒炎弾。

 ……んー、どっちも優しくてヨシ!

 次は三沢とのデュエルとなります。頑張って書きますので、楽しみにしててください!
 そしてなるべく感想欄にて、使用するカードの予想などはお控えくださいますようお願いします。予想は読者様1人1人の頭で留めておいてくださいませ。

 お気に入りも8000を超え、たくさんの人に見ていただけてると実感しております。これからも自分なりに書いていきますので、よろしくお願いします。



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〜全力の決闘〜

 

 

 

 

 

 この世界で初めて"自分の意志"によってデュエルを挑んだ紅也。準備期間の3日は瞬く間に過ぎ去り、学園対抗デュエル代表を決める代表決定戦の日がやってきた。

 

「……竜伊くん」

「なんだ? 天上院」

 

 デュエル場へ入るための通路。そこには決戦前に感情を昂らせている紅也と、それを見て不安そうな目を向けている明日香が立っていた。何故明日香が不安そうにしているのか、理由は単純だった。

 

「それ……隈よね?」

 

 紅也の目の下で存在感を放つ隈。黒ずんだそれを見て、明日香は心配そうな声を上げたのだ。

 

「大丈夫、大丈夫。この3日ぐらい4時間睡眠が続いただけだから。テンション上がっててむしろ絶好調だよ。狙ったカード引いたり、地面からカード引いたり出来そう」

「ほ、本当に大丈夫!?」

 

 明らかに普段のテンションではないだけでなく、なにやら訳の分からないことまで言っている。明日香はデュエルさせていいのかと本気で心配になった。

 

「よし、いくか。ちゃんと見ててくれ、天上院」

「え、ええ。無理はしないでね」

「いや、する」

「ちょっと!」

 

 明日香の言葉を秒で否定し、紅也は口端を吊り上げた。

 

「ありがとう、天上院」

「……えっ?」

「天上院が背中を押してくれなかったら、多分こうなってなかった。だから見てて欲しいんだ。──本気でやってくるよ」

 

 そう言い残し、紅也は通路を抜けてデュエル場へと上がっていった。耳を刺激する歓声、多くの生徒の視線、紅也が苦手とする要素満載の場だ。しかし、紅也の表情に動揺はなく、笑みすら浮かべていた。

 

 それを見ていた明日香はと言えば──。

 

 

「……えっ、はい

 

 

 呆然と、遅過ぎる返事をしていた。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

 気持ちが昂る、興奮が抑えられない。こんな風になるのは前世から考えても初めてだと、紅也は己の状態に苦笑した。そしてそんな僅かな冷静さすら、目の前に現れた男を見て、一瞬で消え去った。

 

「しっかり考えてきたんだろうな。俺の『レッドアイズ』を倒せるデッキ」

「ああ。この3日間で、俺は俺にある全ての知識を1つに詰め込んだ。見ろ、これがお前達を倒す──俺のデッキだ!」

 

 懐から取り出したデッキを紅也へ突きつける三沢。その表情には自信のみがあり、緊張や不安などは欠片も感じさせなかった。

 

「そういう君はどうなんだ? 目の下に隈があるぞ?」

「めちゃくちゃ頭を働かせたのと……必要なカードを手に入れるために色々手伝いをしてた結果だ」

「寝不足で実力が出せないなんて言うなよ?」

「言わない。後、寝不足なのはお前もだろ。夜遅くまでカタカタカタカタキーボード叩きやがって。隣の俺の部屋まで聞こえてきたわ」

「ふっ、すまない」

「このデュエルが終わったら別の部屋にしてもらえるよう……寮長に申請してやる」

 

 次から次へと止まらない言葉の応酬。決闘前のそんなやり取りを止めたのは、このデュエルを取り仕切る役目を任された実技担当最高責任者だった。

 

「もういいノーネ! 早く始めなさいーノペペロンチーノ!!」

 

 独特過ぎる話し方すら、両者のテンションを下げる要因にはならない。互いにデッキをデュエルディスクへセット、高らかにデュエル開始の宣言をした。

 

 

「「──デュエルッ!!」」

 

 

 紅也 LP4000

 三沢 LP4000

 

「俺の先攻! ドロー!」

 

 先攻を取ったのは三沢。練り上げられたデッキから引いた6枚を確認し、滑らかな動きでカードを操った。

 

「『マスマティシャン』を召喚!」

 

『マスマティシャン』ATK/1500 DEF/500

 

「効果発動! 召喚に成功した時、デッキからレベル4以下のモンスター1体を墓地へ送る。『トロイホース』を墓地へ」

 

 レベル制限はあるが『おろかな埋葬』と同じ効果。学者のような見た目通り、効果も優秀なようだ。

 

「そして墓地に送った『トロイホース』を除外し、手札から『岩の精霊タイタン』を特殊召喚する!」

 

『岩の精霊タイタン』ATK1700 DEF/1000

 

 効果で墓地へ送り、送ったモンスターをコストに効果で特殊召喚。流石と言うべきか、綺麗にモンスターを並べてきた。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンド」

「俺のターン、ドロー」

 

 先攻としてはお手本のように盤面を整えてきた三沢。派手には動かず、相手の出方を見る構えだ。しかし、そんな悠長な気構えでは、今の紅也は止められない。

 

「一気にいくぞ、『古のルール』を発動。手札からレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する。……こい、『レッドアイズ』」

『グゥルオオオオ!!!』

 

『真紅眼の黒竜』ATK/2400 DEF/2000

 

 当然のように1ターン目で飛び出してきた不動のエース。紅也のテンションに同調しているのか、既に口から黒炎が溢れている。

 

「手加減無しだ。──魔法カード『黒炎弾』」

『グゥルアアアッ!!』

 

 たった3枚の手札消費で、ライフを半分以上消し飛ばす容赦ない攻撃。直接喰らったことのある十代だけではない、試験デュエルを見ていた者達も冷や汗を流した。

 そんな中で黒炎弾が迫る三沢だったが、余裕の表情で伏せカードを発動させた。

 

「手札1枚をコストに罠発動! 『レインボー・ライフ』!」

「……マジか」

 

【『レインボー・ライフ』

 手札を1枚捨てて発動出来る。このターンのエンドフェイズ時まで、自分は戦闘及びカードの効果によってダメージを受ける代わりに、その数値分だけライフポイントを回復する】

 

 7色の光が黒炎弾を吸収し、無効化。そして三沢のライフポイントを大きく回復させたのだった。

 

 三沢 LP4000→6400

 

「──12%。君が1ターン目から相手に『黒炎弾』を決めた確率だ。対策は打たせてもらったよ」

「……やるな」

 

 ダメージを回避しただけでなく、『黒炎弾』の発動を無効化しないことで『レッドアイズ』の攻撃もしっかり封じている。研究し尽くしていることは間違いない。

 

「『アレキサンドライドラゴン』を召喚」

 

『アレキサンドライドラゴン』ATK/2000 DEF/100

 

「バトルだ。『アレキサンドライドラゴン』で『岩の精霊タイタン』を攻撃」

「『タイタン』の効果発動! 相手のバトルフェイズ中のみ、攻撃力が300ポイントアップする!」

 

『岩の精霊タイタン』ATK/1700→ATK/2000

 

 効果が発動され、攻撃力が並ぶ。しかし紅也は構わず攻撃、モンスターを減らすことを優先したようだ。破壊された時に1ドロー出来る効果を持つ『マスマティシャン』を破壊したくなかったというのもあるが。

 

「『タイタン』の効果を忘れていた訳じゃないだろ?」

「『レインボー・ライフ』の効果はターン終了時まで続く、ダメージを発生させてこれ以上ライフを増やしてやる必要は無いからな」

「なるほど……。寝不足の頭ではないようだな」

「俺はこれでターンエンド」

 

 三沢の皮肉をスルーして、紅也はターンを終了した。

 

「俺のターン! ドロー! 『強欲な壺』を発動! 更に2枚ドローだ!」

 

 強力なドローカードにより更に手札が増えた。新たに呼び込んだカードを確認し、三沢は不敵に微笑んだ。

 

「儀式魔法『チャクラの復活』を発動!」

「……儀式魔法か」

 

【『チャクラの復活』

『チャクラ』の降臨に必要。自分の手札・フィールドから、レベルの合計が7以上になるようにモンスターを生贄に捧げ、手札から『チャクラ』1体を儀式召喚する】

 

「手札から7つ星モンスターを生贄に(・・・・・・・・・・・・)、『チャクラ』を儀式召喚!」

 

『チャクラ』ATK/2450 DEF/2000

 

 儀式の炎が巻き上がり、大きな目玉と合わせて恐ろしい風貌をしており、アカデミアの生徒達は少し怯えた。

 

「バトルだ! 『チャクラ』で『真紅眼の黒竜』を攻撃!」

 

 繰り出された無数の斬撃、誤差のような攻撃力差で『レッドアイズ』が破壊された。

 

 紅也 LP4000→3950

 

「続けて『マスマティシャン』で攻撃!」

「……」

 

 紅也 LP3950→2450

 

「俺はこれでターンエンドだ。さあ、見せてくれ紅也。目の下に隈を作る程の覚悟で臨む、君達の力を!」

「言われるまでもねぇよ。ドロー」

 

 フィールドはガラ空き。そんな中で紅也が取ったのは驚きの行動だった。

 

「モンスターをセット。──ターンエンド」

「……俺のターン! ドロー!」

 

 あまりにも短いターン。勝負を諦めたと、そう感じた生徒も少なくなかった。観客席から見ている明日香、十代、翔、隼人の4人も慌てている程なのだから。

 

 しかし、1人だけそう思っていない男が居た。対峙する三沢だ。

 

(……あのセットモンスター。ただの壁としてなのか? それとも何か仕掛けがあるのか?)

 

 微塵の油断もせず、紅也の考えを探ろうとしていた。相手は自分が心から倒したいと願うデュエリスト、この程度で終わる訳がない。

 

「何を狙っているかは分からないが……バトルだ! 『チャクラ』でセットモンスターを攻撃!」

 

 またも無数の斬撃によって、紅也のモンスターが破壊される。再びフィールドはガラ空き、ダイレクトアタックのチャンス──ではなかった。

 

「セットモンスター、『真紅眼の幼竜(レッドアイズベビードラゴン)』の効果発動! このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、デッキからレベル7以下の"レッドアイズ"モンスター1体を特殊召喚出来る」

「リクルート効果か!?」

 

 三沢は攻め時と見て安易に攻撃した自分を責めた。幼竜を攻撃したばかりに、黒竜の怒りに触れたのだ。

 

「こい、『真紅眼の黒炎竜(レッドアイズ・ブラックフレアドラゴン)』」

 

『真紅眼の黒炎竜』ATK/2400 DEF/2000

 

「『真紅眼の幼竜』の効果はまだある。墓地にあるこのカードをデッキから特殊召喚したモンスターに装備カード扱いで装備し、攻撃力を300ポイントアップさせる」

 

『真紅眼の黒炎竜』ATK/2400→ATK/2700

 

「……厄介だな。カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 盤面の戦力が塗り替えられたが、ライフアドバンテージが大きい。三沢は引き続き油断せず、カードを伏せた。

 

「俺のターン、ドロー。『真紅眼の黒炎竜』に召喚権を使い再召喚、効果を与える」

「デュアルモンスターか……」

「バトルだ。『ブラックフレア』で『チャクラ』を攻撃!」

「くっ!」

 

 三沢 LP6400→6150

 

「更に『ブラックフレア』の効果発動。このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時──このカードの元々の攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与える。2400のダメージだ」

「なんだと!? しまったそんな効果が!! うわぁぁぁあっ!!」

 

 三沢 LP6150→3750

 

 燃え盛る炎によって大きなダメージが与えられ、あれだけあったライフは初期の数値に近いものとなった。

 

「カードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

「やってくれるな……。ドロー!」

 

 想定外の大ダメージは受けたが、ドローによって1枚のキーカードが手札へきた。

 

「──紅也。君に見せよう、これが俺の出した結論だ! 魔法カード『死者蘇生』発動! 墓地からモンスター1体を蘇らせる!」

 

 汎用性の高い蘇生魔法によって、三沢は1体のモンスターを墓地から呼び覚ました。それは生半可なモンスターではなく、先程倒された『チャクラ』でもない。紅也と『レッドアイズ』を倒すために、三沢が用意したとっておきの切り札であった。

 

 

「現れろっ! ──『バスター・ブレイダー』ッ!!」

 

 

 気合の入った声に応えるような勢いで、竜殺しの剣士は姿を現した。

 

 そして会場は歓声に包まれた。

 それもその筈だ、この『バスター・ブレイダー』はあの決闘王(デュエルキング)・武藤遊戯が愛用したモンスター。『ブラック・マジシャン』などに比べれば価値は下がるが、それでも十分に希少なカードだ。それを目の前で見られた興奮からか、椅子から立ち上がってしまった生徒も居る。

 

「……儀式召喚の時に生贄で墓地に送ってたのか」

「流石だな、その通りだ」

「それがお前の……秘策か。三沢」

「用意するのにも苦労したんだ。『レッドアイズ』を斬り倒す、竜殺しの力を持つ戦士をね」

 

『バスター・ブレイダー』ATK/2600 DEF/2300

 

 現時点で攻撃力は劣っているが、竜殺しと呼ぶに相応しい力がこのモンスターには備わっている。

 

「『バスター・ブレイダー』は相手のフィールドと墓地に存在する"ドラゴン族"モンスター1体につき、500ポイント攻撃力をアップする! 対象となるドラゴンは装備カード扱いの『真紅眼の幼竜』を除いた3体! よって攻撃力を1500ポイントアップする!」

 

『バスター・ブレイダー』ATK/2600→ATK4100

 

「先程使えばよかったと後悔させられたからね。厄介なカードには退場願おうか。『サイクロン』!」

 

 今度は汎用性の高い除去魔法、オーソドックスは外さない三沢らしい性格が出ている。装備カード扱いの『真紅眼の幼竜』が破壊され、『真紅眼の黒炎竜』の攻撃力が下がる。

 

 そして『真紅眼の幼竜』がモンスター扱いに戻ったことで"ドラゴン族"が増え、竜殺しの力は増した。

 

『真紅眼の黒炎竜』ATK/2700→ATK/2400

『バスター・ブレイダー』ATK/4100→4600

 

「このターンで終わりだ! バトル! 『バスター・ブレイダー』で『真紅眼の黒炎竜』を攻撃! 破壊剣・一閃ッ!」

「罠発動! 『ガード・ブロック』! 戦闘ダメージを0にして、デッキからカードを1枚ドローする!」

 

 大ダメージは避けたが、『ブラックフレア』が破壊される。

 

「防いだか、だがまだ『マスマティシャン』のダイレクトアタックが残っているぞ!」

 

 紅也 LP2350→850

 

 いよいよ後がなくなってきた紅也。ライフポイントは残り少なく、フィールドは3度目のガラ空き。観客である生徒達も三沢の勝利が近いと感じ始めていた。

 

 こんな絶望的な状況であるにも関わらず、当の本人は笑っているのだが。

 

「……三沢、本当に強いな。やっぱり戦うことにして良かった」

「な、なんだ、急に」

「いや、お前に勝ちたいと思った俺の気持ちは──間違ってなかったと思ってさ」

 

 とても穏やかな表情でそう言い放つ紅也。自分の状況が分かっているとは思えない発言だ。

 

「フィールドにカードはなく、『レッドアイズ』は墓地に居る。更に俺のフィールドには『バスター・ブレイダー』。逆転……するつもりか?」

 

 そんな三沢の言葉を聞き、紅也は以前似たような質問を十代へしたことを思い出した。今ならば、十代の自信も理解出来る。デッキを信じ、最後まで諦めない。そんなデュエリストに、自分もなりたいのだから。

 

 少しばかりの笑みと共に、紅也は返答した。

 

 

「──当たり前だろ(・・・・・・)

 

 

 逆転のため、紅也は既に動いていた。

 

「俺は破壊された『真紅眼の幼竜』の最後の効果を発動していた。装備カードとなっていたこのカードが墓地へ送られた時、デッキからレベル1の"ドラゴン族"モンスター1体を手札に加えることが出来る。──選んだのは『黒竜の雛』だ」

 

 破壊されても可能性を残す、幼くとも『レッドアイズ』の名に恥じない黒竜だ。

 

「……今更そんなカードを加えても、デッキに1枚のみの『真紅眼の黒竜』は墓地に居る。まさか、2枚目を!?」

「いや、俺のデッキに『真紅眼の黒竜』は1枚だけだ。けど意味の無いカードもない。この効果に意味があると、俺は信じる」

「面白い、俺の勝利の方程式を崩せるものなら崩してみろ! ターンエンドだ!」

 

 ワクワクしながらターンを終える三沢。手札は使い切ってしまったが盤面の出来は良い、紅也の動きに注目した。

 

「──俺のターン、ドロー! ……俺も使わせてもらう『強欲な壺』! 2枚ドローだ」

 

 これで手札は6枚、十分過ぎるほどに反撃のカードは揃った。

 

「魔法カード『おろかな埋葬』を発動。デッキから『サファイアドラゴン』を墓地へ送る」

 

「なんだと!?」

 

 驚愕の声を上げる三沢。それも当然だ、紅也が今したことは自滅行為に他ならない。相手のエースを更に強化しただけなのだから。

 

『バスター・ブレイダー』ATK/4600→ATK/5100

 

 とうとう5000を超えた圧倒的な攻撃力。この強大な力を前にしても、紅也は少しも怯んでいない。

 

「……これで条件が整った」

「条件だと……? ──まさか!?」

 

 流石は学年1位、紅也の狙いに気が付いたようだ。そんな秀才に敬意を感じながら、紅也は1枚の魔法カードを発動させた。

 

「……『龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)』を発動」

「やはりか!!」

 

 最悪の予想は当たっていたと、三沢は表情を歪めた。呼び出してくるモンスターが何なのか、既に見当がついているからだ。

 

【『龍の鏡』

 自分のフィールド・墓地から、"ドラゴン族"の融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体を融合召喚する】

 

「俺は墓地から『アレキサンドライドラゴン』、『真紅眼の黒炎竜』、『真紅眼の幼竜』、『サファイアドラゴン』……そして『真紅眼の黒竜』をゲームから除外、5体のドラゴンを素材に──融合召喚を行う」

 

 墓地からドラゴン達の魂が蘇り、混ざり合った。

 

 

「出てこい。──『F・G・D(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)』」

 

 

『F・G・D』ATK/5000 DEF/5000

 

 5本の首を持つ巨大な龍が出現し、会場全体を支配した。最高峰の攻撃力もそうだが、放たれるプレッシャーにこの場に居る全員が息を呑んだ。

 

「……紅也。それが君の秘策か?」

「まあな。これを貰うために、大徳寺先生の授業をめっちゃ手伝ったんだ」

 

 雑用、掃除、猫の世話、思い出したくもない程にこき使われた3日間。そんな苦痛を耐え、紅也はこのカードを手に入れていたのだ。

 

「だが攻撃力は『バスター・ブレイダー』の方が──しまった!」

「そう、上じゃないんだよ(・・・・・・・・)

 

 自身の間違いに気付く三沢。劣勢に立たされたのは自分であると、ハッキリ理解させられた。

 

『バスター・ブレイダー』ATK/5100→3100

 

 竜殺しの力が及ぶのはフィールドと墓地のみ。ゲームから除外されたドラゴンには効果が及ばない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「これを狙っていたのか……」

「相棒を除外はしたくなかったんだけどな。──お前に勝つためだ」

 

 むしろそんな躊躇いで勝ちにいかなければ、紅也は背後から黒炎弾に焼かれていたことだろう。

 

『勝つからな、絶対』

『……グルゥ』

 

 ケースへ戻した相棒に、勝利を誓う紅也。しかし、三沢もそう簡単に勝たせる程、甘くはない。

 

「──凌いでみせる! 永続罠! 『グラヴィティ・バインドー超重力の網ー』を発動する! これによりレベル4以上の全てのモンスターは攻撃することが出来ない!」

 

【『グラヴィティ・バインドー超重力の網ー』

 フィールド上のレベル4以上のモンスターは攻撃出来ない】

 

 状況が不利であると、すぐさま守りの術を発動。こうして逆転された場合に対しても、しっかりと布石を打っておいたのだ。自らのモンスターにも影響を与えてしまうが、その効力は絶大。紅也からの攻撃は完全に防いだ。

 

「流石だな、三沢」

「本気で勝ちにきているのは俺も同じだ!」

「……知ってるか? 三沢」

「な、何をだ?」

 

 目を閉じ、静かに語り出した紅也。テンションの変化についていけない三沢を放置し、デッキの主役について口を開いた。

 

「『レッドアイズ』は──"可能性のドラゴン"だ」

「可能性……?」

「今からそれを見せてやるよ。俺は手札からモンスターを召喚する」

「そ、そのモンスターは!?」

 

 目を見開いて驚く三沢。強力なモンスターが対峙するフィールドに、あまりにも相応しくない弱さのモンスターが召喚されたからだ。

 

『黒竜の雛』ATK/800 DEF/500

『バスター・ブレイダー』ATK/3100→ATK/3600

 

「ここで、そのモンスターを……」

「コイツがこの勝負を決めてくれるんだよ。『真紅眼の幼竜』が手札に連れてきてくれた、コイツがな」

 

 弱く、幼い黒竜。卵から出てもいない、未熟過ぎる存在。口から吐く炎も弱火中の弱火、あれでは焼きおにぎりすら作れないだろう。

 

 並び立つドラゴンの桁違いの身長差、雛がまるで豆粒のようだ。確かにあのモンスターなら『グラヴィティ・バインド』の効果も受けはしない。

 

 だからこそ三沢は戸惑った。自身のライフはまだ十分、雛ごときに削り切れる量ではない。そもそも『バスター・ブレイダー』だけでなく『マスマティシャン』にすら勝つことは出来ない。何をしてくるのか全く想像がつかなかった。

 

「……『ブラックフレア』が『バスター・ブレイダー』に破壊された時、『ガード・ブロック』の効果で引いたカード。それが可能性のカード、お前に勝つための……最後のとっておきだ!」

 

 紅也は残った3枚の内、1枚の手札を発動した。

 

「──魔法カード『受け継がれる力』! この効果で『F・G・D』を墓地へ送る!」

「そ、そんなカードを……!!!」

 

【『受け継がれる力』

 自分フィールド上のモンスター1体を墓地に送る。自分フィールド上のモンスター1体を選択する。選択したモンスター1体の攻撃力は、発動ターンのエンドフェイズまで墓地に送ったモンスターカードの攻撃力分アップする】

 

『黒竜の雛』ATK/800→ATK/5800

 

 5神龍の力を受け継ぎ、雛と呼ばれる黒竜は強大な力を得た。三沢のフィールドに居るモンスターを、全て焼き払える程に。

 

「そして魔法カード『禁じられた聖槍』。『バスター・ブレイダー』の攻撃力を800ポイント下げる!」

 

『バスター・ブレイダー』ATK/3600→ATK/2800

 

「……ふっ、負けず嫌いめ」

 

 この行動で、三沢は紅也の意図を理解した。攻撃表示の『マスマティシャン』を攻撃すれば勝利出来るにも関わらず、わざわざ『バスター・ブレイダー』の攻撃力を下げた。

 

 

 ──"黒竜""竜殺し"を倒そうとしている。

 

 

 それが分かった瞬間、負けず嫌いという言葉を使わずにはいられなかった。本当に、最高のライバルだ。

 

「仕上げだ……。装備魔法『団結の力』を『黒竜の雛』に装備! 攻撃力を800ポイントアップする!」

 

『黒竜の雛』ATK/5800→ATK/6600

『バスター・ブレイダー』ATK/2800

 

 膨れに膨れ上がった攻撃力差は3800。他に攻撃を防ぐ手段もない。三沢は現実を受け入れ、力無く笑った。

 

 黒炎を集中させる雛の周りへ現れるドラゴン達の影、まさしく"団結の力"だ。

 

 

「──次は、俺が勝つぞ」

「──ああ、やってみろ」

 

 

 短い言葉を交わし、紅也は最後となる全力の一撃を放った。

 

「トドメだ! 『黒竜の雛』で『バスター・ブレイダー』を攻撃! ──黒炎弾ッ!!」

「うあぁぁぁァァッ!!!」

 

 三沢 LP3750→LP0

 

 互いに持てる力を全てぶつけ合った決闘は、終わりを迎えた。

 

 竜伊紅也の──勝利によって。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

 会場を揺らす程の拍手と歓声。これは全て2人のデュエリストに向けられたものだ。激しい攻防、強力なレアカード、予想も出来なかった魂の攻撃。行われたデュエルの全てに、デュエリスト達は惜しみない賞賛を送った。

 

「やられたよ、完敗だ。奥の手である『グラヴィティ・バインド』まで完璧に破られるとはな」

「……それは偶然だ。敢えて言うなら──可能性をもたらす"赤き竜"相手に、手札っていう"可能性"を与え過ぎたな」

 

 デュエルが終わり、近寄って言葉を交わす紅也と三沢。激闘を繰り広げていたとは思えない程、2人とも穏やかで清々しい顔をしていた。

 

「代表おめでとう。俺まで誇らしいよ」

「……嫌味だろ。……それは絶対に嫌味だろ」

 

 良い笑顔でそう告げる三沢に、紅也は肩を落とさずにはいられなかった。これで『ノース校』との学園対抗デュエルは自分が戦わなければならなくなったからだ。

 

(……まあ、良いか)

『グルゥ〜』

 

 相棒と共に勝利を噛み締め、紅也は前を向いた。

 

「さっきも言ったが、次は勝たせてもらうぞ。紅也」

「ああ。……次も勝つのは俺達だけどな」

 

 距離を詰め、手を伸ばす両者。戦いが終わり、その場に立つのは良きライバル。健闘を讃える握手をしようとした──その時だった。

 

「……あ、れ?」

「紅也? どうした?」

 

 急にフラフラと身体を揺らし始めた紅也。三沢が声を掛けるも、どうも平気そうではない様子だ。

 

「いや……なんか。……あっ、ヤバい、かも」

「紅也ッ!!!」

 

 

 

 ──そして、紅也は倒れた。

 

 

 

 




 つ、疲れた……。

 間違いなくこれまでのデュエルで一番頭を使いました。
 三沢の使用したカードは『バスター・ブレイダー』ということでした!『ブラック・マジシャン』を使うよりは違和感ないと思っているので、読者様方にも楽しんで頂けると嬉しいです!

 そしてオリ主は倒れました。
 テンションが上がり過ぎてて若干キャラ崩壊みたいになってましたね(笑)。

 『F・G・D』はアニメで十代達が扱っていた描写があったので、比較的手に入りやすいカードという解釈をしました。
 それを大徳寺先生に利用されてこき使われた結果ですね。


 ※デュエルに不備があったので再投稿させて頂きました。
  ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでしたm(_ _)m


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〜事件の前兆〜

 

 

 

 

 

「──……あれ?」

 

 光を感じ、意識を取り戻した紅也。目を開けると、真っ白な天井が視界に入った。背中に感じる柔らかさと身体を包んでいる暖かさ、どうやらベッドに寝かされているらしい。混乱している頭を落ち着かせながら、紅也はゆっくりと上体を起こした。

 

『グルゥ』

「うおっ……ビックリしたぁ」

 

 起こしきった所で目の前に精霊化した黒竜。真紅の瞳とバッチリ視線が合わさった。ベッドの上に乗っかっている『真紅眼の黒竜』、普通に生きていたのではまず見られない光景に、紅也は苦笑いした。

 

「……そっか、倒れたのか。ハハハ」

 

 三沢とデュエルをしていたことは覚えていたが、何故ベッドに寝かされる事態となったのかはすぐに思い出せなかった。上がり過ぎたテンションと、少な過ぎた睡眠時間。いい歳した成人男性にあるまじき失態、紅也は口から震えた笑い声を溢した。

 

 自らの幼さをしっかり反省した後、改めて実感する。

 強い意志と覚悟、全力を持って臨んだデュエルに──勝利したのだと。

 

「……うっし」

 

 思わず緩んだ顔で、小さくガッツポーズ。幼さを反省した所ではあるが、こればかりは抑えられなかった。

 そしてそういう人に見られたくない挙動をした時に限って、何故か人に見られるのはよくあることだ。

 

「──あっ」

「……竜伊、くん?」

 

 ガラガラと病室のドアが開き、明日香が顔を見せた。彼女の視線は拳を握りしめている紅也をしっかり捉えており、紅也はとても恥ずかしかった。すぐにガッツポーズを解消しようとした紅也だったが、彼が動く前に明日香が足を動かした。

 

「大丈夫なの!?」

「あ、ああ。大丈夫、大丈夫!」

 

 駆け寄ってきた勢いのままに、紅也の手を両手で包み込む。明日香の体温が紅也へ伝わり、ヘタレはキャパオーバーしそうになっていた。

 そんな紅也のことなど知る筈もなく、明日香の勢いは衰えない。

 

「本当に大丈夫なのね? ──顔が赤いじゃない!」

 

 君のせいだと、紅也は言いたかった。

 気まずそうに顔を逸らすが、それは明日香の手によって防がれる。そして更に顔が赤くなるような行動を起こされた。

 

「熱があるんじゃないの!?」

「ちょ、ちょっと……天上院、さん」

 

 紅也の前髪を手で押さえ、自身の額を合わせる明日香。熱を測ろうとしているのは分かるが、紅也はそれどころではない。整った顔立ちときめ細やかな白い肌がほぼゼロ距離に来たのだから。

 

(まつ毛……なげぇ〜)

 

 あまりの衝撃に、紅也は小学生のような感想しか出てこなかった。目だけでなく、鼻までいい匂いに襲われている。顔の熱は簡単に上昇した。

 

「……熱いけど。本当に大丈夫?」

「ね、寝起きだからだって!」

「あっ」

 

 それっぽいことを理由に、明日香から距離を取る紅也。心臓に悪い顔面偏差値の暴力だ。

 

「でも……良かった。竜伊くんが倒れた時は本当に慌てたんだから」

「それは……ごめん。テンション上がり過ぎてて」

「ええ、それはデュエルを見てて分かったわ。……凄かった」

「あ、ありがとう。なんか、柄にもなく熱くなったよ」

「それも伝わった。竜伊くん、見たことないぐらい楽しそうな顔してたから」

「なんというか、恥ずかしいな」

 

 紅也は改めて考えても、毎日4時間睡眠になるほど熱が入ってしまったのが驚きだった。しかもそれが原因で倒れる始末、恥ずかしいことこの上ない。

 

(……三沢くんに、嫉妬しちゃうわね)

 

 そして自分に呆れている紅也を見つめながら、明日香は内心で三沢へ嫉妬の感情を抱いていた。

 冷めているとまでは言わないが、普段から落ち着きのある紅也。そんな彼が疲労で倒れる程の全力を出したデュエル。そんな相手を羨ましく思わないなど、明日香には無理だった。

 

 そんな明日香の心情など知る訳もなく、紅也は気になっていたことを質問した。

 

「なあ天上院、学園対抗デュエルってどうなった? そもそも俺はどれだけ寝てたんだ?」

 

 代表を決めるために三沢とデュエルしたのが、学園対抗デュエルの2日前。意識を失って倒れた紅也としても、現在の状況を確認しておきたかった。

 明日香は紅也の質問に眉を少し歪めると、同情するような声音で話し出した。

 

「……その、さっき終わったわ」

「…………へ?」

「ほんの1時間前……終わったわ」

「……マジ?」

 

 信じられないといった具合に訊ねる紅也へ、小さく頷いた明日香。気を遣っているような様子が信憑性を高めた。

 

「……2日も寝てたのか、俺」

「私が心配した理由も分かるでしょう?」

 

 苦笑い気味の明日香に、紅也は肩を落とした。

 

「……誰が代表になった? やっぱり三沢か?」

「いいえ、違うわ。──十代よ」

「……おお、どういうことだ」

 

 予想外過ぎる展開の連続。紅也は頭を抱えたくなった。そんな彼への助け舟として、明日香は事情の説明に入った。

 

「三沢くんもあの後で体調を崩してね。竜伊くんみたいに倒れるとまではいかなかったけど、代表はその時点で辞退したのよ」

「そして流れて十代に、か。クロノス先生がよく許可したな」

「三沢くんと鮫島校長からの推薦もあったから」

「なるほど」

 

 状況を理解しつつ、紅也は明日香は更に質問を重ねた。

 

「……天上院。『ノース校』の代表って誰だった?」

「驚くわよ。あの万丈目くんだったの」

 

 今度は腕を動かさず、心の中でガッツポーズ。推しキャラは原作通り、不死鳥の如く蘇ってきたようだ。

 

「そ、そっかー。万丈目だったのかー」

 

 緩みそうになる頬を必死に保ちながら、紅也は白々しい台詞を吐いた。一応驚く努力はしたようだが、演技力は皆無だった。

 

「こっちも凄いデュエルだったわ。結果的に十代が勝ったけど、万丈目くんが勝ってもおかしくなかった」

「……見たかったなぁ」

 

 本気で悔しそうに呟く紅也。しかしこの後悔に意味はない。もし倒れることなく代表になったとしても、それは万丈目と戦うことになる未来。紅也としては観客席からデュエルを眺めたいのであって、対戦相手になりたい訳ではなかった。

 

「取り敢えずはそんな感じね。デュエルが終わってここへ戻って来たら、竜伊くんがちょうど目を覚ましていたって訳」

「天上院、そんなに俺の様子見に来てくれてたのか」

「べ、別に……そんな頻繁に来てたとかじゃ……」

 

 恥ずかしそうに顔を逸らす明日香。そんな彼女に感謝の気持ちを感じながら、紅也は湧き上がる欲求を口にした。

 

 

「──……腹減った」

 

 

 2日近く何も食べていないのだから、当然と言えば当然である。意識してしまえば瞬く間に襲ってくる空腹感、紅也は悲鳴を絞り出すように声を発した。

 

「着替えよ……。天上院、少し出てってもらえるか?」

「わ、分かったわ。着替え終わったら教えて、私も付き添うから」

 

 紅也からの返事を待たずに部屋を出た明日香。どうやら彼女が付き添うことは確定事項らしい。

 

 過保護な少女を微笑ましく思いながら、紅也は黒竜に補助されながら立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いくら心配だからって……やりすぎじゃない?」

 

 黄色の制服に着替え、いつも通りの服装となった紅也。2日ぶりの食事を摂るべく食堂へ向かおうとしたのだが、考えもしなかった緊急事態が発生した。

 

「ダメよ、また倒れたりされたら困るもの。私もついていく」

「それは別に良いんだけど……」

 

 明日香の提案自体は断るようなものではない。問題は、彼女の付き添い方にあった。

 

(ち、近いんだよなぁ……)

 

 紅也の腕にピッタリと密着し、身体を支えようとしている明日香。表情は真剣そのものであり、本気で紅也を心配しているのが伝わる。自身の行動が紅也を苦しめているとも知らずに。

 

(〜〜〜っ!!!!)

 

 歩き出そうとした途端、密着度が跳ね上がる。左腕は完全に支配され、動かすことすら出来ない。いや、むしろ動かそうものなら通報案件となってしまうかもしれない。

 

(……柔らか(・・・)──いやいやいやいや)

 

 溶かされそうになる理性をなんとか保ち、紅也は意志を強く持った。完全な善意によって支えてくれている明日香に対し、そのような感情を持つなど失礼なこと。紅也は左腕にダイレクトアタックし続けてくる幸せを、嬉しいながらも恨めしく思った。

 

「ちょ、ちょっと、天上院?」

「どうしたの? 足でも痛い?」

「そ、そうじゃなくて……もう少し離れてもらえると」

「ダメ。竜伊くんフラついてるし、支えがないと危ないわ」

 

 断固として首を横に振る明日香。紅也が目の前で倒れたことが、余程ショックな出来事だったらしい。

 今の問答で言葉では無駄だと確信した紅也。そろそろ離れてもらわなければ色々とヤバい。混乱する頭を必死で働かせ、起死回生の一言を放った。

 

「の、喉乾いたなぁ。自販機行っていい?」

「……ごめんなさい。そうよね、喉乾いてたわよね」

「実はカラカラでさ、今すぐ何か飲みたいんだ。だから少しだけ離してもらえると……」

「じゃあ、私が買ってくるわ」

「えっ」

 

 有無を言わさない様子の明日香。通路に置いてあるベンチを見つけると、紅也の腕を引いて座らせた。

 

「ここで待っていて。戻ったところに自販機があったから」

「いや、普通に俺が買って」

「何が飲みたい?」

「だから……俺が」

「竜伊くん。──何が飲みたい?」

「……お茶でお願いします」

「うん。少し待っててね」

 

 笑顔で駆け出して行った明日香。そんな彼女の背中を見送りながら、紅也はようやく一息つけたのだった。

 

(……ああぁぁぁ〜)

 

 壁に背中を預けながら項垂れる紅也。善意の思いやりに対して下衆な考えをしたこともそうだが、歳下の少女をパシらせてしまった事実にも凹まされていた。

 

(良い子だよなぁ)

 

 男女問わず好かれる理由が分かる。

 紅也がそんなことを考えていると、一人の男から声をかけられた。

 

「──竜伊紅也!」

「……ん? ……万丈目?」

 

 重力に逆らう特徴的な髪型に、髪色と同じ漆黒のコートを着る男。見事デュエルアカデミア復活を果たした万丈目準であった。

 急な推しキャラの登場で、落ち着いてきた動揺が再び高まった。

 

(おお、黒い。万丈目……サンダーか(・・・・・)

 

 約3ヶ月ぶりに見た万丈目。偉そうな目と態度は変わっていないが、ブルーだった時の攻撃的なトゲトゲしさは消えていた。

 生まれ変わった万丈目との再会を喜んでいると、万丈目が静かに口を開いた。

 

「……お前を探していた」

「俺を? どうして?」

 

 ベンチに腰掛けたまま訊ねる紅也。アンティデュエル以外で絡みはなかったので、そのことだろうか。紅也が少しばかり警戒していると、万丈目は急に頭を下げ出した。

 

「──レッドアイズが宝の持ち腐れだと言ったことを……謝罪する。すまなかった」

「……万丈目」

 

 しっかりと頭を下げ終えてから、顔を上げる。そして万丈目はどこかスッキリしたような表情で、紅也へ高らかに宣言した。

 

「約束は果たしたぞ! これで文句はないな!」

「……ああ、ありがとう」

「フン! 貴様から礼を言われる筋合いはない! ──じゃあな!」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、万丈目は背を向けて歩き出した。耳元で騒いでいるのは精霊である『おジャマ・イエロー』だろう。原作通りの推しキャラに、紅也は素直に嬉しくなった。

 

『……なっ? 良いやつだろ?』

『……グゥ』

 

 どうやら黒竜からの評価も少し上がったようだ。これならば、万丈目を見かけて威嚇するようなことにはならないだろう。

 

 相棒の様子に満足しながら、紅也はお茶を抱えて走って来た明日香を笑顔で迎えたのだった。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

「体調は良さそうだな、紅也」

「……お前もな、三沢」

 

 授業終わりの教室。離れた席で受けていたため、三沢が紅也の席まで足を運び声をかける。全力デュエルで体調を崩した者同士、2人はお互いに相手を労った。

 

「知っているか? 紅也」

「何を?」

 

 紅也が教材を片付け終えると、三沢が面白い話でも聞いたように話し出す。

 

「十代達が大徳寺先生と課外授業に行くらしい。なんでも遺跡の近くまで行くとか」

「……へぇ、そうか」

「少し羨ましく思ってな。君はそうでもないようだが」

「……いや、錬金術の授業は取ってないからな。元々俺達には縁がない話だよ」

「確かにな、では次の教室へ向かおうか」

 

 三沢は冷めている紅也の反応にも、気を悪くした様子はない。知り合ってそこそこ時間も経っている上に、デュエルでぶつかりもした。人間性もそれなりに把握済みということだろう。

 

 まあ、紅也の反応にも理由はあるのだが。

 

(学園対抗デュエルが終わって、万丈目も帰って来た。そして大徳寺先生との課外授業……)

 

 物語の進行度から考えても、そろそろ始まる筈だ。1年生の時に起こる事件の中で──最も大きく厄介な事件が。

 

(……頑張りますか(・・・・・・)

 

 相棒のカードを取り出し、紅也は覚悟を決めた。

 

 

 

 




 オリ主は軟弱者なので2日間寝てました(笑)。

 そんなオリ主のプロフィールを載せておきます。


【挿絵表示】


 【名前】竜伊紅也(たついこうや)
 【年齢】16歳(精神年齢25歳)
 【身長】174cm
 【体重】63kg
 【好物】カレー、甘いもの
 【苦手な物】《オベリスクブルー》(男子)
 【所属】《ラーイエロー》
 【使用デッキ】レッドアイズ・ドラゴン族
 【精霊】『真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)
 【友人】遊城十代、丸藤翔、天上院明日香、三沢大地
 【特技】けん玉
 【好きなカード】『黒炎弾』


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〜最初の戦い〜

 

 

 

 

 

「……バイトの募集?」

 

 お馴染みとなったドローパンを片手に、紅也は購買部のトメと会話を弾ませていた。メガネをかけた包容力のある女性であり、ミスデュエルアカデミアの称号を持っている。

 デュエルアカデミア関係の人間にしては珍しく、デュエルに関しては素人同然だ。しかし、優しい性格や話しやすい態度から生徒達にも人気の人物である。

 

「そうなのよ〜、家の都合とかで1人辞めちゃってねぇ。紅也ちゃん誰か紹介出来ないかい?」

「んー、特に心当たりはないかなぁ。ていうか、俺より十代とかの方が知り合い多いんじゃないですか?」

「確かにそうかもだけど、あの子の知り合いは学生ばっかだろぉ? 紅也ちゃんはなんか大人の知り合い多そうだと思ってねぇ」

 

 年の功というのか、トメは割と鋭かった。驚きを表に出さないように抑えながら、紅也はドローパンに齧り付く。今回引いた味はまさかのイクラ、ハズレかと思っていたがプチプチとした食感はそれなりにパンに合っていた。

 

「……バイトか。良さそうな人居たら声かけときますよ、トメさん」

「そうかい! ありがとねぇ、紅也ちゃん!」

「あんま期待はしないでくださいよ?」

「分かってるわよぉ。……あら? なんだいそれ? 紅也ちゃんそんなの付けてたかい(・・・・・・・・・・)?」

 

 ドローパンのゴミを片付ける紅也に、トメが声をかける。見覚えのないアクセサリーが首から掛けられていることに気付いたようだ。そしてあまり趣味が良いとは言えないデザインに、トメは苦笑いした。

 

「……ああ、これですか。今朝校長室を通りかかったら、鮫島校長に貰えたんですよ」

「そうなのかい。……か、変わったデザインだねぇ」

「確かにそうですね。でも、必要な物だから……。じゃあ、俺はそろそろ行きます」

「あいよ、いつもありがとね」

 

 深くは語らず、紅也はトメに別れを告げた。これから忙しくなる。そのためのデッキ調整をするため、紅也は真っ直ぐ部屋へ戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──三幻魔のカード(・・・・・・・)?」

 

 心底不思議そうに声を発したのは、遊城十代。

 授業終わりに校長室へ行くよう指示を受けた十代と同じく、彼の他にも三沢、明日香、万丈目といった1年生。そして学園最強と名高いカイザー亮と実技担当最高責任者のクロノス。デュエルアカデミアでも飛び抜けた実力を持つデュエリスト達が集められていた。

 

「この島に封印されている、古より伝わる3枚のカード……それが三幻魔と呼ばれるモンスターです」

 

 6人のデュエリストを呼んだ鮫島は、集まってもらった理由である三幻魔について話し出した。

 

 鮫島曰く伝説によれば、三幻魔のカードが封印から解き放たれた時──世界には闇が広がり、破滅の未来を迎えてしまうらしい。

 

 いきなり世界などという大きな話をされ、明日香や三沢、万丈目は息を呑んだ。亮は顔にこそ出してはいないものの、驚いているという点では同じだった。

 

 そしてそれ程の力を持ったカードの封印を解こうとしている勢力がいた。

 

「……──"セブンスターズ"と呼ばれる7人のデュエリスト。彼らが三幻魔の封印を解こうと、アカデミアへ宣戦布告してきたのです。全くの謎に包まれた7人ですが、既にその内の1人がこの島へ侵入しています」

「なんですって!?」

 

 思わず三沢が声を上げた。挑戦してきた勢力が既に攻め込んで来ているとなれば、無理もない。

 そんな三沢に同調するように、明日香が疑問の声を上げた。

 

「……でも、どうやって封印を解くんですか?」

「──三幻魔は『七精門』という七つの石柱によって封印されています。そしてその封印は七つの鍵によって解くことが可能です。……そしてその鍵が、これです」

 

 鮫島が机の上に取り出した重々しい箱。優秀な頭脳で話を理解した三沢は、それを見てやるべきことを悟った。

 

「では……"セブンスターズ"はその鍵を奪いに?」

「その通り。そこで皆さんに力を貸してもらいたい。三幻魔の封印を解くにはこの鍵が必要不可欠。奪いにくる"セブンスターズ"から、この鍵を守って頂きたいのです」

「守ると言っても……どうやって?」

 

 万丈目の不安そうな声に、鮫島はハッキリと答えた。

 

「当然……デュエルです」

 

 七精門の鍵に選ばれるためにはデュエルに勝利しなければならない。それも古より決められた絶対的なルールだ。

以上の理由から、学園でも屈指の実力者達に鍵を守ってもらいたい。鮫島からの要求はそういったものだった。

 

 覚悟がある者は鍵を受け取ってほしい。そんな鮫島の言葉に真っ先に反応したのは、やはりと言うべきか十代。楽しそうなことにでも挑むかのような笑顔で、箱から鍵を取り出した。

 

 そんな能天気な十代に続き、呼ばれた者達全員が鍵を手に取った。

 しかしここで、明日香があることに気付く。

 

「ですが校長……ここに鍵は6つだけ。残りの1つはどこへ?」

「ああ、それでしたら心配は要りません。皆さんと同じく、信頼の置けるデュエリストが既に持っていてくれています」

「信頼の置けるデュエリスト……?」

「申し訳ないが、匿名希望でね。だが、必ず鍵を守り抜いてくれると信じている。……君達と同じようにね」

 

 こうして三幻魔復活を阻止するため、"セブンスターズ"との戦いが幕を上げたのだった。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

 ほとんどの生徒が寝静まった夜、紅也は久しぶりの夜間外出をしていた。最近は十分に睡眠を取っていることもあり、眠気は欠片も感じない。

 そしてこんな夜更けに部屋を出ている理由はと言えば、紅也の首から掛けられた紐に繋がる七精門の鍵(・・・・・)だった。

 

(……緊張、するな)

 

 この世界に来てから初めて感じる類のプレッシャー。それも無理はない、これから臨もうとしているのはただのデュエルではない。実際に痛みを伴う危険性がある──"闇のデュエル"なのだから。

 

 原作知識によって敵が十代を狙ってくることは知っている。そのため紅也は《オシリスレッド》の寮近くで木の陰に姿を隠していた。緊張を紛らわせるためにデッキを取り出し、カードの確認を始める。

 

『……どうだ?』

『グルゥ』

 

 紅也の隣に現れた黒竜、紅也の言葉に頷くといった反応を見せている。

 

『……近付いてるんだな』

 

 レッドアイズが感知していたのは、同族の気配(・・・・・)

 これから相手しようとしているモンスターを紅也は知っている。だからこそ、こうして自身の相棒に頼っているのだ。

 

(……来たか)

 

 2分程その場に待機していると、レッドアイズが低く唸り出す。どうやらお目当ての相手が来たらしい。

 木の影から少しだけ顔を出してみると、怪しい仮面をつけた怪しい人物が寮へ歩き出そうとしていた。

 

 今になって恐怖が湧き上がる。腕も肩も膝も、情けなく震え出した。しかしここまで来て震えて終わる訳にはいかない。これは義務感で決めたことではなく、自分の意志で決めたこと。逃げ出してしまえば、自分はもう戦うことは出来ないだろう。

 

 自身を奮い立たせながら、紅也はレッドアイズと共に一歩を踏み出した。

 

 

「──ひょっと待て(・・・・・・)

 

 

 恐怖から軽く噛んでしまったが、問題はない。気にしなければ勝ちである。変な仮面を付けているせいで聞こえ辛い筈と、紅也は淡い期待をした。

 じわじわと恥ずかしさに襲われていると、声をかけられた男が目を赤く光らせながら口を開いた。

 

「なんだ貴様は? ──ほう、その鍵を持つ者か。なるほど」

「そ、そういう訳だ。……お前の相手は俺がする」

「面白い、ならば相手をしてやろう。……ちょうどいい生贄も居るようだからな」

「……?」

 

 気になる言葉に警戒する紅也だったが、男はお構いなしに話を進めた。赤い目を更に光らせ、辺り一面を包み込んだのだ。

 咄嗟に腕を顔の前に持ってきた紅也。光が収まったのを確認し目を開けると、信じられない驚きの光景が広がっていた。

 

(……ファンタジー)

 

 上を見れば黒煙が上がる夜空、下を見れば嫌でも命の危険を感じさせられるマグマ。周りを岩で囲まれていることから、移動先が火口であることが分かった。

 

 そんな危ない場所に張られた光の床に、紅也は立たされていたのだ。

 

 全く原理の分からない瞬間移動を経験したが、今は驚き続けている状況ではない。マグマから飛んで来た炎の竜、それが光の床に激突し先程の男が姿を現したからだ。

 黒歴史確定のような格好でのド派手な登場。最早カッコ良さすら感じてしまう紅也だった。

 

「──我が名はダークネス。無謀にも私に挑みしデュエリストよ、貴様を最初の相手と認めてやろう」

「……どうも。早速始めようか」

 

 引き返すことも出来ず、戦うしか選択肢にはない。紅也はデュエルディスクを起動させ、デッキをセットした。

 

「フッフ、威勢がいいな。これより行うのは"闇のデュエル"。覚悟は決まっているか?」

「……まあ、それなりに」

 

 以前同じようなことを言っていたパチモンとは訳が違う。放たれるプレッシャーもそうだが、正真正銘のマジモンなのだから。

 

「良い眼だ……。これならば少しは楽しめそうだな。──アレは必要なかったかもしれん」

「……アレ(・・)?」

 

 仮面のせいで口元しか確認出来ないが、恐らくは笑いながらダークネスがマグマを指差した。紅也が素直にその方向へ視線を向けると、そこには思わず声を上げてしまう人物が捕らえられていた。

 

「──天上院ッ!!」

 

 紅也が立っている光の床よりも更にマグマへ近い位置。明日香はそんな危ない場所に作られた光の牢屋に閉じ込められていた。

 

「竜伊くん!?」

「どうしてお前が……ああ、クソッ!」

 

 明日香自身もどうしてこんな状況に陥っているか分からないようで、動揺を隠せていない。

 

「おい! 天上院は関係ないだろ! 今すぐ解放しろッ!」

 

 珍しく声を張り上げながら全力で叫ぶ紅也。もちろん明日香の身を案じているのもあるのだが、それ以上に──。

 

 この男が明日香を危険に晒している(・・・・・・・・・・・・・・・・)という部分が許せなかった。

 

「光の檻に守られてはいるが、あれは時間と共に消滅する。このデュエルが長引けば、彼女はマグマの中だ」

「……なんでこうなるんだよ」

 

 十代を狙っていたことは覚えていたが、明日香が巻き込まれていたことは忘れていた紅也。覚えてさえいれば防げた事態、紅也は自分を強く責めた。

 

「生半可な覚悟で臨んではつまらんからな。そして、このデュエルに敗北した者はこのカードに封印される」

 

 挑発するような声音で取り出したのは1枚のカード。イラストもテキストも見られない白紙のカードだが、漆黒の闇に覆われており危ないオーラを放っている。

 

(……時間が無いな。──やるしかない)

 

 明日香の命も危ういとなれば、最早緊張などしていられない。紅也は確実に勝つため、そして一刻も早く明日香を救出するために──懐に入っているデッキケースから1枚のカード(・・・・・・)を取り出した。

 

「では始めようか。魂を賭けた"闇のデュエル"を!」

「……速攻で終わらせる」

 

 三幻魔復活を阻止するため、最初の戦いが始まった。

 

 

 真紅の瞳を持つ──黒竜同士の戦いが。

 

 

 

 




 章分けなんてしてませんが、"セブンスターズ"編突入ですね。

 そして最近『ここすき』機能というやつを発見して、面白がっている作者です。どこが1番多いのかと探してみれば……カイザー戦の『マジック・ジャマー』(笑)。


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〜黒竜vs怒りの黒竜〜

 

 

 

 

 

「「──デュエルッ!!」」

 

 紅也    LP4000

 ダークネス LP4000

 

 マグマの上という絶対にデュエル場にはならないであろう危険地帯。そんなあり得ない場所で、命を懸けた決闘が開始された。

 

(天上院……)

 

 生贄と称され、捕らえられた明日香。閉じ込めている光の檻は時間経過と共に崩壊していく、長引けば命が危ない。

 

(こんなことなら、初めからこっちのデッキを……いや、今はそんなこと考えても無駄だ。集中しろ)

 

 懐に入れてある前世のデッキ。余程のことがない限りは使用しないと固く決めていたため、ダークネスには現世のデッキで挑むつもりであった。

 しかし危険に晒されたのは自身だけでなく、巻き込まれた明日香も同様だ。紅也が咄嗟に出来たことは、デュエルが開始される数秒前に1枚のカードをEX(エクストラ)デッキに入れることだけだった。

 

(……まずは、ここが勝負だ)

 

 そして初めの勝負所──先攻を取れるかどうかだ(・・・・・・・・・・・)

 

 デュエルに於ける先攻・後攻は、開始時にお互いのデュエルディスクに表示される。これは完全にランダムであり、決して早い者勝ちではない。

 

 この戦いで先攻を取れるかどうか、それは紅也にとって最も重要な要素であった。なにせ相手は自分と同じカードの使い手。最悪の場合、無抵抗に大ダメージを受ける可能性がある。それだけは避けたかったが、デュエルディスクに表示されたのは無情にも──後攻だった。

 

「私のターン、ドロー!」

 

 後攻になってしまったものは仕方ない。もう紅也に出来ることは最悪のパターンが飛んでこないように祈るだけだ。

 

「私は『黒竜の雛』を召喚!」

 

『黒竜の雛』ATK/800 DEF/500

 

 三沢とのデュエルで大活躍したモンスターだが、今回登場した役割はあの時とは違う。このモンスター本来の力を発揮するためだろう。

 

「『黒竜の雛』の効果発動! このカードを生贄にすることで、手札から『真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)』を特殊召喚する!」

 

 何度も経験したことがある王道パターン。マグマから飛び出して来た黒竜を見て、紅也は複雑な気持ちになった。

 

『真紅眼の黒竜』ATK/2400 DEF/2000

 

 しかしそんな微妙な感情を抱いている場合ではない。レッドアイズが出て来たということは、最悪のパターンに襲われる可能性が高まったということなのだから。

 

 ──そして、そんな予想は現実となった。

 

「魔法カード! 『黒炎弾』!」

(……最悪だッ)

 

 祈りはしたが続け様の不運。紅也は覚悟を決めて歯を食いしばった。

 

「私のフィールドに『真紅眼の黒竜』が存在する時、その元々の攻撃力分のダメージを相手プレイヤーに与えるッ!」

(……踏ん張れ(・・・・)ッ!!)

 

 これまで数多くのデュエリストへ向けてきた火球が、今度は自分へ向けられている。紅也は意識を保つべく、身体にありったけの力を込めた。

 

「灼熱の業火に焼かれ燃え尽きるがいいッ! 黒炎弾!」

 

 生成された火球が──放たれた。

 

 

 

「うあぁぁぁぁぁァァァァッ!!!!」

 

 

 

 "熱い"、"痛い"、"苦しい"。

 全身を焼き尽くそうとする炎はソリッドビジョンなどではなく、実際に紅也を焼いた。骨が溶かされたような錯覚すら起こし、精神は地獄のような熱さに支配されたのだ。

 全身を刺すような激しい痛み。炎が消えても残り続ける激痛によって、紅也は膝から崩れ落ちた。

 

 紅也 LP4000→1600

 

「……ガッ、く……。ああァ……カハッ」

 

 肺に空気が上手く取り込めず、苦しさから手札を落としてしまう。空いた手で胸を押さえるが、受けた衝撃は消えない。冗談ではなく、確実に命が削られた。

 

「竜伊くんッ!!」

 

 下から紅也の様子を見せられていた明日香が叫ぶ。いきなりこんな状況に連れてこられ困惑していたが、紅也から聞いたことのないような悲鳴が上がったことで涙すら出そうになった。

 バンバンと自身を閉じ込める光の檻を叩いていると、徐々に光が薄まっていった。そしてついには、穴が空いたのだ。

 

「きゃあっ!」

 

 勢いで身体が檻の外へ出そうになる明日香。なんとか踏み留まったが、もう少しでマグマへ落下する所だった。

 

「……て、天上院。大人しく……してろ」

「竜伊くん! 無理しないで! 私のことはいいから! 貴方だけでも逃げて!」

 

 恐らくは火口であろうこの場所、逃げ場などないことぐらい分かっている。しかし、叫ばずにはいられなかった。苦しみから立ち上がれてもいない紅也を見ているのだから。

 

「フッ、一撃でこのザマとはな。どうやら見込み違いだったようだ」

 

 失望したように笑うダークネス。自身の行動を先読みし、こうしてデュエルを挑んできたデュエリスト。いい勝負が出来ると期待したが、そうでもなかったらしい。

 

「潔くサレンダーしろ。楽になれるぞ」

 

 そんなダークネスの言葉に耳を傾ける余裕すら、紅也にはなかった。今やるべきことは立ち上がること、それ以外にないのだが身体が言うことを聞かない。刻み込まれた痛みと恐怖が、紅也の動きを完全に止めていた。

 

 ──しかし、このまま終わる訳にはいかない。

 

 最後の手段と、紅也は相棒に頼った。

 

『……レッド、アイズ。──頼む』

『グルゥゥゥ』

 

 自分の意思で身体を動かせないのなら、自分以外の意思で動かせばいい。既にレッドアイズと同化すれば身体を動かせることは知っている。紅也は自身の身体を相棒に任せた。

 

「……ぐっ、ああ、ッ!!」

「立ち上がるか……面白い。どこまで足掻けるか見せてもらおう。私はカードを1枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 とてつもなく長い時間が過ぎたようにすら感じつつも、紅也へターンが回って来る。床へ落とした手札を拾うだけでも一苦労だ。無理矢理動かしてもらっている身体はガクガクとフラつくが、紅也はレッドアイズと意識を共有し戦い始めた。

 

「……俺のターン、ドロー」

 

 全く動かせなかった腕が動く。レッドアイズとのシンクロ率は抜群なようで、行動と思考との間に違和感は感じられない。これならば存分にカードを操れる。

 

『一気に……いくぞ』

『グルゥ』

 

 人間と精霊による二人羽織デュエル。長引けば紅也の身体が限界を迎えるだけではなく、明日香の身も危ない。

 

 

──このターンで決める。

 

 

 紅也とレッドアイズの意識は1つとなった。

 

「魔法カード『強欲な壺』を発動……。カードを2枚ドローする」

 

 いつもながらのドローソース。これを初手で引けるかどうかで、動ける回数に大きな差が出てくる。

 

 そして2枚のドローによって目当てのカードを引き込んだ紅也。レッドアイズの精霊補正でも乗っているのか、狙い通り過ぎる。普段のデュエルならば卑怯とも思ったが、今はそんなことを気にする余裕などない。

 

 明日香との約束、明日香の命──そして自分の命。どれも捨てる訳にはいかない譲れないものだ。紅也はそれら全てを守るため、一切の遠慮を捨て去った。

 

「魔法カード『召喚師のスキル』。……デッキからレベル5以上の通常モンスター1体を手札に加える。選ぶのは──『メテオ・ドラゴン』」

「……ほう」

 

 選択されたモンスターの名前を聞き、ダークネスが声を溢す。あのモンスターが投入されているということは、融合素材とするドラゴンを所持しているのはほぼ確定と言っていい。それ以外で投入する理由など特にないのだから。

 

 ダークネスの読み通り、紅也は融合を行うつもりだった。ただ1つ間違いがあるとするならば──召喚するドラゴンが違うことだ(・・・・・)

 

「魔法カード『融合』。……手札の『真紅眼の黒竜』と『メテオ・ドラゴン』を素材とし……融合召喚を行う」

 

 デュエル開始直前にEXデッキへ投入した1枚。前世から使用している融合モンスターであり、この世界で使えば4000のライフポイントなど容易く消し飛ばすバケモノだ。

 

 紅也は苦痛に顔を歪めながら、レッドアイズの補助でカードをデュエルディスクへセットした。

 

 大地が揺れると共に空気が震え出す。天高くより飛来した隕石がマグマへ落下すると、圧倒的な温度のエネルギーを吸収し──1体のドラゴンが姿を現した。

 

 

「──『流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン』

 

 

 空気すら焼き尽くす獄炎を纏いしドラゴンが、紅也の前へと降りた。隕石から飛び出してきたとは思えない程に細身の身体をしているが、放たれるプレッシャーは異常と言う他ない。ダークネスを視線だけで焼き殺しそうな程だ。

 

「……流星竜(・・・)、だと? なんだそのモンスターは……『メテオ・ブラック・ドラゴン』では……ないのか」

 

 現れた流星の名を冠するドラゴンに、ダークネスは動揺を隠せないでいた。予想していた『メテオ・ブラック・ドラゴン』と名前こそ同じだが、姿は全くの別物。紫色の身体を流れる血脈のような業火、恐ろしさと美しさが共存している異様な存在感から目が離せない。

 

『流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン』ATK/3500 DFE/2000

 

 主人が死にそうな顔をしているからか、流星竜はダークネスへ向けて大きく咆哮する。火口に衝撃が轟くと共に、空からは再び隕石が降り注ぐ。ドラゴンの怒りを、形にするかのように。

 

「……『流星竜』の効果発動。──このカードが融合召喚に成功した時、手札・またはデッキから"レッドアイズ"モンスター1体を墓地へ送り、そのモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを……相手プレイヤーに与える」

「なんだとッ!?」

 

 驚愕するダークネスに意識を割く余裕もなく、紅也はなんとか意識を保ちつつモンスターを選択した。

 

「俺は『真紅眼の黒炎竜(レッドアイズ・ブラックフレアドラゴン)』をデッキから墓地へ送る。元々の攻撃力の半分……1200ポイントのダメージを受けろ」

「があぁぁぁァァッ!!」

 

 ダークネス LP4000→2800

 

 選ばれた『黒炎竜』の炎が流星となり降り注ぐ。ダメージは半分だが、先程の『黒炎弾』よりも炎の出力は大きい。

 

「……バトルだ。『流星竜』で『真紅眼の黒竜』を攻撃。──メテオ・フレア!」

『グルォオザアァァァァァッッ!!!』

 

 身体中の炎を集中させ、隕石のような業火球を生成。あんなのをまともに喰らえば、存在した証はこの世から灰すら残らず消えるだろう。

 ダークネスの『真紅眼の黒竜』は抗うことも出来ずに、断末魔を上げて消滅した。

 

「…………ぐはァッ」

 

 ダークネス LP2800→1700

 

 戦闘ダメージを受けるダークネス。直接受けるダメージよりはマシなのか、先程よりは表情に余裕がある。ここで相手の攻撃は終わり、次のターンで巻き返しを狙っているのだ。

 

 ──自分に、次のターンがないことを知らずに。

 

「更に速攻魔法……『融合解除』」

「ま、まさか!?」

「効果により『流星竜』の融合を解除。戻って来い……『レッドアイズ』、『メテオ・ドラゴン』」

 

『真紅眼の黒竜』ATK/2400 DFE/2000

『メテオ・ドラゴン』ATK/1800 DFE2000

 

 この戦いのために調整段階で新たに採用した『融合解除』が決まり、紅也のフィールドに2体のドラゴンが現れる。バトルフェイズはまだ終わっていないため、2体とも攻撃体勢だ。

 

「『レッドアイズ』で……ダイレクトアタック。──黒炎弾!」

『グルゥオォォォォォオオッ!!』

 

 自身を消し飛ばそうとする火球に対し、ダークネスもただ黙って見ているだけではなかった。

 

「罠発動! 『リビングデッドの呼び声』! 『真紅眼の黒竜』を墓地から特殊召喚する!」

「……攻撃は続行。いけ、『レッドアイズ』」

 

 互いの攻撃力は同じ、よって相討ちとなり2体の黒竜は破壊。だがこれで勝負は決した。ダークネスのフィールドにカードはなく、紅也のフィールドには攻撃権を残したドラゴンが存在しているのだから。

 

「……そんなバカな、この私が──」

「『メテオ・ドラゴン』のダイレクトアタック……これで終わりだ」

 

 夜空へ上昇した隕石(メテオ)は全身に炎を纏うと、落下エネルギーを加算した強力な体当たりを繰り出した。

 そしてそれは、この"闇のデュエル"を終わらせる──流星の一撃となった。

 

 ダークネス LP1700→0

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

 デュエルが終わり、激しい炎に包まれたと思えば、火口から別の場所へ転移していた。岩ばかりが見えることから、恐らく火山の上だろう。

 

「……ここは? ……竜伊くんッ!!」

 

 怪我もなく無事に解放された明日香。辺りを見回すと、力無く倒れ伏している紅也が目に入った。すぐに駆け寄り様子を見る。息があることを確認し、最悪の状況ではないと安堵した。

 

「……て、天上院。……怪我ないか?」

「…………うん」

「そっか……良かった。──ゲホッ、ゴホッ」

「竜伊くん! しっかりして! ……これは!」

 

 腕に抱えた紅也に声をかける明日香。声に覇気がなく、呼吸も乱れている。身体中がボロボロであり、先程受けた攻撃の激しさを物語っていた。

 そしてある物に気付いた明日香。それは紅也の胸に揺れている──七精門の鍵だった。

 

「鮫島校長が言ってた信頼の置けるデュエリストって……竜伊くんだったのね」

「……まあな。このデュエルだけは……俺がやりたいと、思ってさ。ごめんな、天上院。危ない目に遭わせて」

「──ッ! 違うわ……私が、捕まったりしたから」

 

 涙を滲ませる明日香。そんな彼女に申し訳なく思いながら、紅也は残された力を使って指を動かした。

 

「俺のことは……いいから。あの人を……」

「……えっ? あの人? ……ダークネス!」

 

 紅也が指差した方向を見ると、同じく倒れている男が居た。紅也と命の削り合いをしていたデュエリスト、ダークネスだ。

 

「……早く。俺は、大丈夫……だから」

「竜伊くん! 竜伊くん!」

 

 限界を迎えたようで、紅也は意識を手放した。泣きながら叫ぶ明日香だったが、泣いてばかりもいられない。ゆっくりと紅也を寝かせ、ダークネスに向かって歩き出す。

 

 そして明日香は、衝撃の事実を知る。

 

 

「──……兄さん?

 

 

 敵だと思っていたダークネスは、明日香が探し続けていた実の兄──天上院吹雪(てんじょういんふぶき)だった。

 

 

 

 




 『悪魔竜』に続き『流星竜』登場です!
 作者がレッドアイズの中で1番好きなイラストのモンスターです!(笑)。

 そして『黒炎弾』を黒炎弾の人が食らいました。撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけですからね、しょーがない。

 長いデュエルは流れを考えたりするので大変なんですが、1ターンキルも短いなりに文を工夫しようとしているので結局は難しいですね……。

 久しぶりの1ターンキルだったので、読者様方に楽しんで頂けると嬉しいです!


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〜謎多き恩人〜

 

 

 

 

 

 デュエルアカデミア保健室。そこには2人の男子生徒がベッドに寝かされており、1人の女子生徒が不安そうな顔で看病をしていた。

 

 寝かされている男子生徒の1人、天上院吹雪。

 アカデミア最強と謳われるカイザー亮と互角に戦うことが出来たデュエリストであり、周囲からは好敵手と認識されていた。しかしそんな彼はこれまで行方不明となっており、アカデミアへ帰って来たのも久しぶりのことだ。

 

 そして吹雪の隣のベッドに寝かされている男、竜伊紅也。

 ダークネスに身体を奪われていた吹雪を倒すことで、吹雪を取り戻した張本人である。闇のデュエルで受けた『黒炎弾』のダメージが大きく、吹雪と同様に未だ意識は戻っていない。

 

「……兄さん。……竜伊くん」

 

 眠り続ける二人を見守るのは、天上院明日香。

 念願だった兄である吹雪との再会、闇のデュエルの恐ろしさ、恩人である紅也の状態。たった1日で頭がオーバーヒートしそうになる程の情報量の多さだ。

 

 鎮めようと努力はしているのだが、やはり心が乱れてしまう。何故なら彼女は目の前で目撃しているのだ。兄を取り戻すために、文字通り命を懸けた男の戦いを。

 

 

『俺も協力するよ、天上院のお兄さんを探すの』

 

 

 月明かりが照らす夜道で交わした、1つの約束。

 明日香は涙を堪えながら、その時のことを思い出していた。

 

 数ヶ月程の付き合いではあるが、既に様々なことで助けられている。

 そして今回、自身の中で最も強く叶えたいと思い続けてきた願いを──叶えてもらったのだ。

 

(……大丈夫)

 

 彼らが眠りについてから3日。明日香は何度自分にそう言い聞かせたか、最早分からなかった。

 看護教諭である鮎川恵美(あゆかわえみ)が言うには目立った外傷もなく、命に別状はないとのこと。意識が戻るのも時間の問題らしいが、3日という時間で何も変化がなければ流石にネガティブな思考にもなる。

 

 ここまで近い距離に居るにも関わらず、"ありがとう"の一言すら届けられはしないのだ。精神的にも厳しいものがあった。

 

 そして明日香の頭を悩ませている要因はもう一つ。

 ──竜伊紅也という男の謎についてだ(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

(……見たことないモンスターだったけど、間違いなく"レッドアイズ"だった。──でも)

 

 あまりにも強過ぎた。明日香の疑惑はこの一言に尽きる。

 召喚するだけで相手ライフを削るバーン、更にはその能力に見劣りしないステータス。アカデミアの学生が召喚して良いモンスターでは到底なかった。『融合解除』と合わせてワンターンキルとなったのも納得の強さだ。

 

(……竜伊くん。貴方は……何者なの?)

 

 ベッドで眠り続ける紅也を見て、明日香は心の中で言葉を放った。自身よりも多くの知識を有する三沢に訊ねてみても、『流星竜』などといったモンスターは知らないと返された。三沢が知らないのならば、このアカデミアで知っているものなどまず居ない。

 

 明日香が再び頭を悩ませていると、保健室のドアが開く。入って来たのは、明日香と同じく紅也と関わりのある者達だった。

 

「よっ、明日香。昼飯買ってきたぜ!」

「君も少しは休んだ方がいい。お茶も買っておいた」

 

 笑顔でドローパンを差し出す十代に、明日香を心配する三沢。彼らも紅也を心配しており、明日香のようにほぼずっとではないが保健室には毎日顔を出していた。

 

「……ありがとう。十代、三沢くん」

「紅也と吹雪さん、まだ起きてないか」

「今日で3日目か。心配だな」

「……ええ。ずっと眠っているわ」

 

 袋から取り出したドローパンを手に持ったまま、明日香は心配そうな表情で横たわる2人へ視線を向けた。

 

「まさか"七精門の鍵"を紅也が持ってたなんてな。"セブンスターズ"とも最初に戦ったみたいだし、驚いたぜ」

「まあ不思議でもないさ。彼の実力を考えればな」

「……でも、そのせいで竜伊くんが」

 

 悲しそうな声を溢す明日香。目の前で紅也が倒れるのを見た分、心配する気持ちは特に大きい。

 

「心配すんなって」

「……十代」

 

 元気のない明日香を励まそうと、十代が声を上げる。元気が服を着て歩いているような彼の言葉は、聞いた者に力を与えてくれる。

 

「紅也も吹雪さんもきっとすぐに目を覚ます! お前の兄さんはあのカイザーとライバルだった男らしいし、紅也は俺達に勝った男だぜ! なっ? 三沢」

「ああ、十代の言う通りだ。明日香くんも、2人が目覚めた時のために元気でいなくてはな」

 

 十代の言葉に、三沢も肩を組まれながら同意する。そんな2人の様子を見て、明日香は少しだけ気が楽になった。

 

「……そうよね。兄さんも竜伊くんも、きっとすぐに目覚めてくれるわよね」

 

 明日香の言葉に強く頷いた十代と三沢。その後しばらく会話をした後、2人は保健室を去って行った。

 1人に戻った明日香だが、先程までの暗い表情は消えていた。やはり友人からの言葉は元気に繋がる。

 

 そこでふと、気付く。俯きがちだったからか、それともそんなことを考える余裕すらなかったからか。

 明日香が注目したのは、紅也のベッドの近くに置いてある台。その上には色の異なる2つのデッキケースが乗せられていた。

 

 扱っていたのを見たことがある赤色のケースには普段使用しているであろうデッキ、もう1つの黒色のケースはメインではない予備デッキといった所だろう。複数デッキを所持しているデュエリストは数こそ少ないが存在する。流石に三沢のように2つ以上所持しているパターンは希少だが。

 

(…………)

 

 現在、明日香の中では理性と好奇心が激しく戦っていた。デュエリストとして他人のデッキを盗み見るなど、恥ずべき行為だ。しかし、ほんの少し心に余裕が生まれたことで──魔が差してしまった。

 

(……ごめんなさい)

 

 椅子から立ち上がり、デッキケースを手に取った明日香。持ってみた感じ、普通の物と変わりない。ただの予備デッキ、頭ではそう考えているが、心はそう考えていない。

 

(この中に……あのカードも)

 

 もしそうならば、もう一度この目で見たい。兄を救ってくれたカード、見たこともないモンスター。看病で疲弊した明日香の心は、好奇心という名の欲望に敗北した。

 

「……? 開かない(・・・・)?」

 

 指でケースのロックを外したが、何故か開かない。鍵穴も付いていないので普通に開けられる筈なのだが、デッキケースのフタはビクともしなかった。

 

「──ッ! 私、なんてことを……!」

 

 そこで我に帰る明日香。慌ててケースを台の上に戻し、椅子に座り直す。中身を見なかったとはいえ、見ようとしたことは事実。明日香は強く自身を責めた。

 

(開かなくて良かった……。ごめんなさい、竜伊くん)

 

 紅也が起きたら素直に白状し、謝罪することを決めた明日香。恩人に対してやっていいことではないと、自らの行いを心から後悔した。

 

 明日香は思わず、紅也の左手に自身の手を重ねる。伝わってくる体温は低くはないが高くもない。顔色が良くないことも心配だが、寝顔が安らかなことだけが唯一の救いだった。

 

「……早く、目覚めて」

 

 少女は祈った。

 恩人と兄の意識が、早く戻ってくることを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──身体が浮いている。

 

 ハッキリとそんな感覚に囚われながら、紅也は目を開けた。周りには白い世界が広がっており、自身の他には何もない。

 

「……えっ? 死んだの? また?」

 

 転生者特有の笑えないブラックジョーク、などというつもりもない。意識を手放す直前の記憶がある分、そう考えても無理はなかった。

 

「嘘だろ……。黒炎弾1発で? 貧弱だなぁ、俺」

 

 むしろ十代やこの世界のデュエリスト達が異常なので、一般人の紅也と比べるのは少々酷な話だ。

 紅也が遠い目になりながら己の貧弱さを嘆いていると、そんな彼の頭にコツンと軽い衝撃が走った。

 

「いて……レッドアイズ」

『グルゥ』

 

 振り向けばそこには、見慣れた相棒の姿。しかし身体が薄くなっていないことから、精霊化している訳ではなく実体化しているようだ。

 

「なあ、ここどこだ? ていうか俺……生きてる?」

『グゥ』

 

 頷く黒竜、どうやら死んではいないようだ。

 最悪の事態は避けられたと、紅也は息を吐く。もし死んでしまったとすれば、明日香にトラウマを残してしまうことになる。せっかく兄が戻って来たのにそれでは、流石に後味が悪過ぎる。

 

「死んでないってことは夢とか? ……うん、痛くないな」

 

 ベタな方法ではあるが、頬をつねる紅也。痛みを感じないことから、自身の推測は当たっていると見て間違いなさそうだ。

 

「こんな状態になってるってことは……またベッドコースか」

 

 起きた時にまた明日香から心配されそうだと、紅也は苦笑い。だがやるべきこと、約束は果たした。充実した達成感はある。

 

「……それで? お前がここに連れて来たのか?」

 

 紅也の質問にまたも頷く黒竜。この不思議空間には相棒によって連れてこられたらしい。

 

「あのー、怒って……ますか?」

『……』

 

 返答する代わりに口から黒炎を溢す黒竜。中々にご立腹の様だ。紅也も心当たりがないなどと言うつもりはないが、ここまで怒るとは思っていなかった。

 

「……悪かった。……ごめん」

 

 低く唸り出し始めた黒竜へ、素直に頭を下げる。怒っている理由など、闇のデュエルで危険な目に遭ったこと以外に考えられない。

 身体に火傷などは負っていない筈だが、精神には大きなダメージを受けた。だからこそ、こうして叱られているのだろう。

 

『グルゥ』

「ん? ……おお、マジか」

 

 黒竜が紅也から視線を外し、何もない空間を見る。するとそこからいくつもの炎が舞い上がり、何体ものドラゴン達が姿を現した。

 

 

 ──前世から愛用している黒竜達だった。

 

 

「……すげぇな」

 

 そんな幼い感想しか出てこない程、紅也の目の前に広がる光景は壮観なものであった。

 

 初めて転生者としてデュエルした時に力を貸してもらった──『悪魔竜ブラック・デーモンズ・ドラゴン』

 

 こうして意識不明となった原因である闇のデュエルで活躍した──『流星竜メテオ・ブラック・ドラゴン』

 

 2体を先頭に見覚えのある真紅眼達が、1体を除いて(・・・・・・)勢揃いしていた。

 

「……えーっと、怒ってる?」

『『『『『──グルゥ』』』』』

 

 同時に上がる声。紅也自身も分かってはいたが、彼の味方は1体も居なかった。いや、正確には味方しているからこそ、こうして責められているのだが。

 

「……すみませんでした」

 

 もしお仕置きにデコピンでもされようものなら、紅也は本当に2度目の死を迎えるだろう。ただでさえこの場には、力加減の出来ない黒竜が多いというのに。

 

 紅也がまたもや頭を下げていると、『流星竜』と『悪魔竜』が騒ぎ出した。精霊であるレッドアイズに召喚されたからか、紅也にもなんとなく言っていることが伝わった。

 

「……もうあんな戦いはやめろって?」

 

 2体の黒竜に同調するかの如く、他の黒竜も騒ぎ出す。全員言いたいことは同じのようだ。

 

「それは……無理だな」

 

 ブーイングの嵐、というより黒炎の嵐。紅也にギリギリ当たらない距離を黒炎が激しく走る。真紅眼集団ブチギレである。

 

「ま、待て待て、理由があるんだって」

 

 一応聞く耳は持つらしく、黒竜達は大人しくなる。全ては紅也を心配しているからこその怒り。間違いなく懐かれてはいるし、愛されてもいる。

 

「────って訳でさ、もう少し頑張るつもり」

 

 紅也の説明に納得がいかなかったようで、再び巻き起こるブーイング(黒炎弾)の嵐。この一瞬で何人分のデュエリストのライフを削り切れたのだろうか。

 

(本当に……コイツらは優しいな)

 

 辺り一面黒い炎に覆われている地獄絵図を見ても、紅也は微笑ましい気持ちになっていた。自らを心配してここまで荒ぶってくれているのだから、デュエリストとしても嬉しさを感じていた。

 

『グゥ』

 

 どうやって落ち着いてもらおうかと考えていた紅也に、レッドアイズが声をかける。精霊であるレッドアイズは親分的な存在のようで、暴れていた黒竜達はすぐに静かになった。

 

『……グルゥオ』

「いや、それも無しだな。今のデッキでやる(・・・・・・・・)

 

 即座に提案を却下。レッドアイズは不機嫌そうに唸るが、紅也が譲らないと察して新たに声を上げる。

 

『グルゥ』

「それは本当だよ。もう少しだけだ」

『……』

 

 信じて良いんだなという眼に、紅也も強い視線を返す。数秒見つめ合ったのちに折れたのは──レッドアイズの方だった。

 

「悪いな、心配かけて」

『……』

 

 プイッと顔を背けるレッドアイズ。拗ねてはいないようだが、ご機嫌な訳もない。相棒に心配をかけている、紅也は心から申し訳なく思うが、自身の考えを曲げることもない。

 

「……さて、じゃあそろそろ起きるか」

 

 寝過ぎたようで、頭がぼんやりしている。紅也はそんな寝ぼけた思考を振り払うように、何故か温かさを感じる左手を黒竜へ伸ばしたのだった。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

「紅也と吹雪さん起きたかな?」

「……どうだろうな。明日香くんも睡眠を取っていると良いが」

 

 昨日と同じく、肩を並べて保健室へ向かう十代と三沢。手に持つ袋には昼食のパンだけでなく、栄養ドリンクなども入っている。三沢による明日香へのせめてもの気遣いであった。

 

 近付いてくる保健室。紅也と吹雪が目覚めていることを祈りつつ、三沢はドアを開けようと手を伸ばす。

 

 ──しかし、三沢の手が届く前にドアは開かれた。

 

 飛び出してきたのは血の気が引いたような顔をした明日香。見るからに動揺しており、ただごとではない。

 

 冷静さなど消え去った勢いで、明日香は衝撃の言葉を放った。

 

 

 

「竜伊くんがッ! ──居ないの(・・・・)ッ!!

 

 

 

 




 明日香がデッキケースを開けようとした時、レッドアイズくんは爪の先だけを実体化させ、開かないように必死になって押さえていました。
 明日香にバレないように、そして傷つけないように器用に頑張っていた訳ですね(笑)。


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〜不死と可能性〜

 

 

 

 

 

「……割とキツいな」

 

 額から汗を流しながら、辛そうな表情をして歩いている紅也。抜け出して来た保健室で明日香が騒いでいる頃だろうと罪悪感を感じながら、未だにあまり言うことを聞かない身体にムチを打っていた。

 

「ありがとう。レッドアイズ」

『……』

 

 フラつく足取りの紅也を補助しているレッドアイズ。完全に実体化しており、足跡も残っている。自身の身体を支えにしながら寄り添う様は、完全に介護職の姿だ。

 

 現在彼らが歩いているのは森、朝とはいえ木々が日の光を遮っているので周りは暗い。整備されていない道を歩いているので、紅也としてもレッドアイズの補助はとても助かっていた。

 

(治らないもんだな……)

 

 内心で呟く紅也。相棒に頼らざるを得ない状態なのも、ダークネスから受けたダメージによるものだ。何日か眠っていたようだが、自身の身体が回復しているとは思えなかった。

 購買部で購入したおにぎりとお茶で手早く食事を済ませたので、空腹感は感じていないのが救いだ。トメに見つからなかったのも幸運だった。

 

 闇のデュエルで受けたダメージは回復し辛いのか、それとも自分だけなのか。転生者だから受けるダメージが大きいなどとは考えたくないが、自身が貧弱であると認めたくもなかった。

 

「……よし、もうちょいだ」

 

 たとえ今回の戦いが終わった後で自分が倒れたとしても、その他の"セブンスターズ"は十代や三沢が倒してくれるという安心感。万丈目に明日香、更には亮やクロノスといった実力者達も控えているため、その後の戦いを心配する必要は微塵もなかった。

 

(天上院にはまた心配かけるかな。……先に謝っとこう)

 

 目的地はもう目の前に迫っている。紅也は心の中で明日香へ謝罪した後、レッドアイズと共に決戦の地へと乗り込んだ。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

 太陽の光が存在しない暗闇の洞窟。しかし何も見えないという訳でもなく、等間隔で設置されている蝋燭の火によって照らされていた。蝋燭の立てられているスタンドが洋風なのは、この洞窟に潜んでいた者の趣味である。

 

 その者こそ、ダークネスに続くアカデミアへの刺客。

 ──第2の"セブンスターズ"であった。

 

 腰まで伸びる鮮やかな緑色の髪に、透き通るような白い肌をした女性。男の視線を集めること間違いなしの抜群のスタイルをしており、露出度の高い赤いドレスと合わせて恐ろしい程の妖艶な魅力を放っている。

 

 女性の名はカミューラ。

 正真正銘の吸血鬼一族の末裔であり、ヴァンパイアを名乗れるこの世で唯一の存在だ。永き眠りについていた所を起こされ、自らの野望を叶えるため"セブンスターズ"の一員となっていた。

 

 勝利を得るために手段を選ばない覚悟のカミューラ。彼女は"七精門の鍵"を守るデュエリスト達を確実に倒すため、配下であるコウモリに敵対する者達のデッキの中身を確認させようとしていた。

 最初から相手の手の内が分かっていれば対処するのは容易い。情報を持って帰って来る配下達を洞窟に身を潜めながら優雅に待っていた、そんな時だった。

 

 ──突然の来訪者が現れた。

 

 帰って来たのは愛おしい配下達ではなく、これと言って特徴もない平凡な少年が1人。侵入者に対しての警戒心が薄れてしまいそうになる程、何故か疲れた顔をしていた。

 

 しかし、ある物を身に付けていたことで状況を把握。現れた少年が自身の敵であることを確信した。少年の胸に光り輝くそれは、カミューラがこの島に来た目的である"七精門の鍵"だったからだ。

 

「……どうも。初めまして」

 

 やはり疲れているのか、覇気のない声が発せられる。歩き疲れでもしたのか、息も少し上がっているようだ。

 気高きヴァンパイアとして誇りを持っているカミューラ。予想外の来客ではあるが取り乱すことなく、気品のある振る舞いと共に返答した。

 

「レディの部屋に無断で入って来るなんて、礼儀知らずではなくて? 鍵の守り人さん?」

「……それは失礼。身体が動く内に貴女に会いたかったんでね」

 

 まるで最初から自分がこの島に来ていたことが分かっていたかのような言い方に、カミューラは形の良い眉を歪ませる。

 

 そもそもこの洞窟に身を潜めている(・・・・・・・・・・・・)と知っていること自体が可笑しな話だ。居場所を見抜かれる程、落ちぶれてはいない。カミューラは少年に対する警戒度を引き上げた。

 

「……貴方、嫌な感じね。ここで潰しておいた方が良さそう。情報収集する前に戦うつもりはなかったけれど、仕方ないわ」

「戦う気になってくれたなら良いんだ。……まあ、俺を逃すような甘い性格はしてないだろうけど」

「坊やのくせに、随分と知ったような口を利くじゃない」

 

 少し苛立ったようなカミューラの言葉にも、少年は軽く笑みを浮かべるのみ。人間に対して強い憎しみの感情を抱いているカミューラにとって、少年の態度は面白くなかった。

 

「……じゃあ、始めようか」

「──ッ! 後悔しないことね! 私は人間相手に手加減出来ないわよっ!」

 

 小さな火が照らす洞窟にて、三幻魔復活をかけた2回目の戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 互いにデュエルディスクを展開し、向かい合う2人。洞窟とはいえスペースはそれなりに存在し、デュエルするのに問題はなかった。カミューラが滞在するためにと、配下達が洞窟内を削りまくった恩恵であった。

 

「分かっていると思うけど、これから行うのは"闇のデュエル"。文字通り命を懸けた戦いよ」

「ああ、分かってる。デッキの調整もしてきたんで、勝つ準備は整ってます」

「……可愛くない子ね」

 

 眉間にシワが寄りそうになるのを堪えつつ、カミューラは手を広げて優雅に声を上げた。

 

「お相手させて頂くのは私。"セブンスターズ"の貴婦人、ヴァンパイア──カミューラ」

「……竜伊紅也。普通の学生です」

 

 テンションの差が激しい名乗りを終え、カミューラと紅也は意識を切り替える。カミューラが言ったように行うのは"闇のデュエル"、腑抜けた気持ちで臨む戦いではない。

 

 最低限の礼儀を済ませた所で、2人はデュエル開始の宣言をした。

 

「デュエルッ!」

「……デュエル」

 

 カミューラ LP4000

 紅也    LP4000

 

 先攻を取ったカミューラは手札を確認した後、覚悟を決めてドローした。

 

「私の先攻……ドロー!」

 

 野望を叶えるため、カミューラは絶対に勝たなければならない。執念という力を糧に、彼女はカードを操った。

 

「『不死のワーウルフ』を召喚!」

 

『不死のワーウルフ』ATK/1200 DEF/1200

 

 現れたのは狼男のようなモンスター。攻撃的な牙と爪は、荒々しい威圧感を放っている。

 

「『おろかな埋葬』を発動。デッキから『ヴァンパイア・バッツ』を墓地へ送るわ。カードを2枚伏せて、ターンエンド」

 

 低い攻撃力のモンスターではあるが、"アンデット"族には厄介な効果を持つモンスターが多い。紅也は気を引き締めながら、デッキトップに手をかけた。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 6枚となった手札を確認。初手としては悪くない。

 

「魔法カード、『紅玉の宝札』を発動。手札から『真紅眼の黒竜』を墓地に送り、デッキからカードを2枚ドローする。……追加効果を使用。デッキからレベル7の"レッドアイズ"1体を墓地へ送る」

 

【『紅玉の宝札』

『紅玉の宝札』は1ターンに1枚しか発動出来ない。手札からレベル7の"レッドアイズ"モンスター1体を墓地へ送って発動出来る。自分はデッキから2枚ドローする。その後、デッキからレベル7の"レッドアイズ"モンスター1体を墓地へ送る事が出来る】

 

 前世のデッキに投入していた"レッドアイズ"専用のドローカード。今回の戦いに備えて、ここに来るまでに済ませておいたデッキ調整の結果だ。思い描いていた通りの初動をすることが出来た。

 

「"レッドアイズ"……いい響きね。貴方のように平凡な子には不釣り合いじゃなくて?」

「更に魔法カード、『復活の福音』。墓地からレッドアイズを特殊召喚する」

 

【『復活の福音』

 自分の墓地のレベル7・8の"ドラゴン"族モンスター1体を対象として発動出来る。そのモンスターを特殊召喚する。自分フィールドの"ドラゴン"族モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外出来る】

 

「む、無視したわね!」

 

 カミューラからの挑発を流し、フィールドに相棒を呼び出した紅也。不釣り合いなどの言葉は言われ慣れているので、最早挑発としての役割は果たせない。

 無視されたことに怒るカミューラを黙らせるかのように、黒竜は洞窟を揺らす程の激しい咆哮を上げた。

 

『真紅眼の黒竜』ATK/2400 DEF/2000

 

「……」

『グルゥオ』

「わ、分かってるって」

 

 順調にレッドアイズを呼び出した紅也だが、手札のカードを見て渋い表情をする。それを見ていた黒竜は、咎めるかのように1つ吠えた。

 

「……魔法カード、『黒炎弾』を発動。俺のフィールドに『真紅眼の黒竜』が存在するため、その元々の攻撃力分のダメージを相手に与える」

「なんですってっ!?」

 

 淡々と告げられた効果に驚くカミューラ。たった3枚のカードで自身のライフを半分以上消し飛ばそうというのだから、当然といえば当然だ。

 

「ああぁぁぁぁァァァアアッ」

 

 カミューラ LP4000→LP1600

 

 モンスターと伏せカードをスルーし、カミューラへ火球が直撃する。大きくライフが削られたことで発生した痛み。カミューラは苦痛の悲鳴を上げた。

 しかしポイントに見合った痛みではなかったようで、よろける程度の衝撃に収まっていた。そのため、カミューラはすぐに紅也を強く睨みつけた。

 

(……サンキュー、レッドアイズ)

『……』

 

 紅也の呼びかけに振り向くことなく、黒竜は相手から視線を外さない。どうでもいいから集中しろと言っているようだ。

 

 手札に来た発動可能な『黒炎弾』。ダークネスから受けた一撃に現在進行形で苦しめられている身として、紅也は発動するのを躊躇っていた。そんな思いを瞬時に汲み取った黒竜は、紅也を叱りつけると同時に火球の威力を調整。痛みを最小限に抑えたのだった。

 

「『黒炎弾』を発動したターン、『真紅眼の黒竜』は攻撃出来ない。カードを1枚伏せて、ターンエンド」

「おのれ……私のターン、ドロー!」

 

 美しい顔が若干崩れつつ、カミューラがカードを引く。開かれた口に見えるのは鋭く尖った歯。ヴァンパイアらしい一面だ。

 

「罠発動! 『リビングデッドの呼び声』! 墓地から『ヴァンパイア・バッツ』を特殊召喚! モンスター効果でこのカードが存在する限り、私のフィールドに存在する"アンデット"族モンスターの攻撃力は200ポイントアップする!」

 

『不死のワーウルフ』ATK/1200→1400

『ヴァンパイア・バッツ』ATK/800→1000

 

 効果で攻撃力が上昇したが、レッドアイズには遠く及ばない。しかしカミューラの表情に焦りは見えず、高圧的な笑みを浮かべていた。

 

「生意気な子には……お仕置きが必要ね。フィールド魔法『不死の王国ーヘルヴァニア』を発動!」

「……きたか」

 

 カミューラの周りに現れる古風な城の壁。洞窟内ということで全てがソリッドビジョンとして現れることは出来なかったようだが、たった一部だとしても言葉で表せない禍々しさを感じる。

 

【『不死の王国ーヘルヴァニア』

 手札の"アンデット"族モンスター1体を墓地へ送ることで、フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。この効果を発動するターン、そのプレイヤーは通常召喚を行えない】

 

「禁断のフィールド魔法。レッドアイズに敬意を表して、全力でお相手するわ」

 

 強力な破壊効果に加え、"アンデット"族モンスターと組み合わさることでデメリットも打ち消せる。禁断とされるのも納得のフィールド魔法なのだ。

 

「手札から『ヴァンパイア・ロード』を墓地へ送り、『ヘルヴァニア』の効果発動! ──全てのモンスターを破壊する!」

 

 赤い光が放たれ、フィールドに居る全てのモンスターに襲いかかった。しかし、カミューラはわざわざ召喚したモンスターを自分で破壊した訳ではない。

 

「『ヴァンパイア・バッツ』の効果発動! このカードが破壊される時、デッキの同名カードを墓地へ送ることで破壊を免れる!」

 

 デッキから取り出した『ヴァンパイア・バッツ』を墓地へ送り、破壊が無効となった。墓地へモンスターを送れただけでなく、フィールドがガラ空きになるのは紅也のみ。カミューラは思惑通りにいったと高揚するが、相手はそこまで甘くはなかった。

 

「……墓地の『復活の福音』の効果発動。自分フィールド上の"ドラゴン"族モンスターが破壊される時、墓地に存在するこのカードを除外することで破壊を無効にする」

「なんですって!?」

 

 神々しい光が発生し、降り注いだ赤い光からレッドアイズを護った。流石は前世でも強いと言われていた魔法カードなだけある。

 

「くっ! ターンエンドよ!」

 

 攻撃が決まらなかったことに苛立ちながら、カミューラはターンを終了した。

 

(……やっぱりか)

 

 この時点で紅也が確認出来たことは2つ。

 1つ目はカミューラのデュエリストとしての実力。十代や三沢、亮といった強敵と戦ってきた紅也からすれば物足りないものであった。眠りから覚めて日が浅いことを考えれば、仕方ないのかもしれないが。

 

 そして2つ目は──インチキカードの使用だ。

 先程自慢気に発動した『ヘルヴァニア』もそうだが、カミューラには切り札とも呼べる最強のチートカードが与えられている。原作通りならばこのデュエルでも使ってくると確信が持てた。調整に頭を悩ませた甲斐があるというものだ。

 

「どうしたのかしら? 怖気付いちゃった?」

 

 中々カードをドローしない紅也を見て、カミューラが嘲笑しながら言葉を放つ。予想外の侵入、レッドアイズ、『黒炎弾』と、冷静な彼女を焦らせる要素が畳み掛けてきたこともあり、自身が平静を装うために紅也を煽ったのだ。

 

 だがそんな幼稚な言葉は、恐ろしい一言によって潰されることになる。

 

 

「──貴女が願いを叶えるのは無理だよ」

 

 

 口に手を当てながら目を細めていたカミューラの呼吸が止まった。流れ出す冷や汗と共に湧き上がる恐怖の感情。たかが人間、しかし彼女は確かに目の前の少年を恐れたのだ。

 

「ヴァンパイア一族の復興は叶わない」

 

 ──何故そんなことを知っている? 

 

「俺を倒せても、他のデュエリストに必ず負ける」

 

 ──何故そんなことが分かる? 

 

「貴女の魂は……幻魔に喰われる(・・・・・・・)

 

 カミューラが放心していたのは、そこまでだった。

 

 

「貴様ぁぁぁァァァァッッ!!!」

 

 

 敵意剥き出しの瞳に、長い舌が口から飛び出る。まるで怪物のような顔に変わり、美しい女性としての顔は消え去った。カミューラの激昂具合は、デュエル中でなければ紅也へ直接襲いかかっていたようにすら感じられる程だ。

 

 そんな圧倒的な殺意を正面から向けられても、紅也は表情を変えず静かにカミューラを見つめている。少しだけ、悲しそうな眼をしながら。

 

「潰すッ! 貴様は必ずここで潰すッ!」

 

 声を張り上げ、荒ぶるカミューラ。

 紅也はそんな彼女の言葉を聞き、一度眼を閉じてから口を開いた。

 

「……俺達が勝つ。他の誰でもない、貴女のためにも」

「──ッ!?」

 

 まさかの発言に動きを止めるカミューラ。敵である相手からの予想外の言葉に動揺を隠せなかった。

 

「……俺のターン、ドロー」

 

 カードを引く紅也。

 必ず勝つという強い意志を持ち、戦いを再開した。

 

「『サファイアドラゴン』を召喚」

 

『サファイアドラゴン』ATK/1900 DEF/1600

 

 2体のドラゴンを並べ、攻撃態勢に入る。

 

「『サファイアドラゴン』で『ヴァンパイア・バッツ』を攻撃」

「くっ、『ヴァンパイア・バッツ』の効果! デッキから同名カードを墓地に送ることで破壊を免れる!」

「でも戦闘ダメージまでは無効に出来ない」

「ぐうっ!」

 

 カミューラ LP1600→700

 

 攻撃表示であるため、戦闘ダメージが発生。ライフポイントはレッドゾーンへ突入した。しかし、紅也はお構いなしに勝負を決めにいく。

 

「レッドアイズ……攻撃だ」

「終わるものか! 罠発動! 『妖かしの紅月』! 手札から『馬頭鬼』を墓地に送ることで攻撃を無効にし、攻撃してきたモンスターの攻撃力分だけ私はライフを回復する!」

 

【『妖かしの紅月』

 手札の"アンデット"族モンスター1体を墓地に捨てる。相手モンスター1体の攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分の数値だけ自分のライフポイントを回復する。その後、バトルフェイズは終了となる】

 

 カミューラ LP700→3100

 

 攻撃を無効にすると同時にライフを回復。更にはバトルフェイズまで終了させて難を逃れた。

 

「舐めるなッ! 私が抱く憎しみ……人間だけには終わらせない!」

「……カードを1枚伏せて、ターンエンド」

 

 感情を昂らせたまま、カミューラが吠える。一刻も早く目の前の男を倒すため、執念を込めてドローをした。

 

「ドローッ! 『強欲な壺』を発動! 更に2枚をドロー!」

 

 デッキもカミューラの思いに応えるように加速する。そして呼び込んだ2枚のカードを見て、カミューラは再び美しい女性の顔に変わった。

 

「ふふっ、いい子ね。これで生意気な貴方を潰せる!」

 

 愛おしそうにカードを撫でるカミューラ。どうやらキーカードを引いたらしい。

 

「墓地に存在する『馬頭鬼』の効果発動! このカードを除外することで、墓地の"アンデット"族モンスター1体を特殊召喚出来る! 『ヴァンパイア・ロード』を召喚よ!」

 

 "アンデット"族デッキに於いて強力な効果を持つ『馬頭鬼』によって、ヴァンパイアを統べる王が蘇った。しかしここで終わることなく、カミューラは自身にとって最強のモンスターを召喚する。

 

「『ヴァンパイア・ロード』を除外し──『ヴァンパイアジェネシス』を特殊召喚ッ!」

 

 紫色をした筋肉質な身体に、まるで鮮血のような赤い眼。カミューラのエースモンスターが、紅也を滅ぼすべく現れたのだった。

 

『ヴァンパイアジェネシス』ATK/3000→ATK/3200

 

「そして決め手は……このカードよっ!」

「……」

 

 カミューラが高らかに掲げた1枚のカード。

 それこそ紅也が最も警戒していたものであり、カミューラの切り札とも呼べる魔法カードだった。その効果は凄まじく、卑怯な手を使ったとはいえ、原作であのカイザー亮を敗北させた程だ。

 

 

「魔法カード──『幻魔の扉』ッ!! 

 

 

 発動させるのと同時に、カミューラの背後に禍々しい扉が出現する。見るからに普通ではない雰囲気を漂わせており、見た者を無条件で恐怖させる威圧感を放っていた。

 

「このカードを発動してデュエルに負ければ、貴方の言う通り私の魂は三幻魔への供物となる……でも勝てば問題ないわ。地獄へ落ちるのは貴方よ!」

 

 強力なカードには大きな代償が必要となる。『幻魔の扉』を発動するための代償は重いものだが、覚悟を決めたカミューラにとってはどうでもいいものだった。

 

「このカードはまず、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する!」

 

 手始めに説明されたのは相手モンスターの一掃効果。

 

「更にこのデュエル中に一度でも使用したモンスターを私のフィールドに特殊召喚出来る!」

 

 続けて説明されたのは無条件での蘇生。どちらか1つの効果でも強いものが合わさったチートハイブリッド。アニメのみに登場したインチキカードだ。

 これでカミューラは手札を使い切ってしまったが、同時に勝負も決められるため問題はない。

 

 カミューラのフィールドに居る『ヴァンパイアジェネシス』の攻撃力は『ヴァンパイア・バッツ』の効果で3200となっている。モンスターを蘇生しなかったとしても、ダブルダイレクトアタックを決められれば4000のライフは吹き飛ぶ。カミューラは勝利を確信し、高らかに笑い声を上げた。

 

「これで終わりよッ! あははははっ!!」

 

 これで1つ目の鍵は手に入れた。このまま自分が全ての鍵を奪い、幻魔を復活させる。

 

 そうすれば、自身の願いは叶う。

 

 奪われた尊厳、奪われた自由、奪われた愛。

 憎むべきは人間、カミューラは復讐の化身となりこの戦いに臨んでいるのだ。

 卑怯な手も使う、手段は選ばない、何が何でも勝利する。悪魔に魂を売った彼女の前に、多くのデュエリストは敗北することになる。

 

 

 ──相手が竜伊紅也(転生者)でなければの話だが。

 

 

『グルォオオオオオオッッ!!!』

 

 

 黒竜が、吠えた。

 洞窟には強い衝撃が響き、地鳴りのような振動を起こす。

 

「な、なんなの!?」

 

 フラつきながら体勢を維持するカミューラ。黒竜から放たれる異常なまでのプレッシャーに身の危険を感じ取る。

 

 しかしすぐに自身の優勢を思い出し、後ろを振り返る。そこでは自身を勝利へと導く扉が──()()()()()

 

「なんだとっ!? 何故『幻魔の扉』が!! ……貴様、何をしたっ!?」

 

 再び殺意を込めた視線を紅也へ向けるカミューラ。こんな状況を引き起こした人物など、この場には1人しか居ないのだから。

 

 

「……カウンター罠、『王者の看破』

 

 

【『王者の看破』

 自分フィールドにレベル7以上の通常モンスターが存在する場合、以下の効果を発動出来る。

 ●魔法・罠カードが発動した時に発動出来る。その発動を無効にし破壊する。

 ●自分または相手がモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚する際に発動出来る。それを無効にし、そのモンスターを破壊する】

 

「俺のフィールドにレベル7の『真紅眼の黒竜』が存在するため……『幻魔の扉』を無効にして、破壊したんだ」

 

 紅也の言葉が終わってから、再度レッドアイズが咆哮。崩れかかっていた『幻魔の扉』を完全に消滅させた。前世のデッキから投入しておいたカードが大活躍、紅也は狙い通りの展開に少しばかり緊張を解いた。

 

「……あ、ああ。私の、野望が……」

 

 何も存在しない空間へ手を伸ばすカミューラ。そんな彼女へ、紅也はゆっくりと言葉を放つ。

 

「幻魔の力は……消えたんだよ」

「──ッ! 『ヴァンパイアジェネシス』で『真紅眼の黒竜』を攻撃!!」

「罠カード、『和睦の使者』。このターン、俺のモンスターは破壊されず戦闘ダメージも0になる」

 

 紅也の言葉を、怒りの込もった攻撃で黙らせようとしたカミューラ。しかし罠カードによって防がれ、出来ることは無くなった。

 

「……ターンエンド」

 

 この宣言はターンを終了するためだけのものではなく、カミューラは勝負自体を諦めた。

 全ての覚悟を込めた『幻魔の扉』が目の前で破壊された衝撃は、カミューラの心を折るのに十分過ぎる威力だったようだ。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 サレンダーする余裕もないようで、カミューラは俯きながら立ち尽くしている。腕からも力が抜け、デュエルディスクの構えすら解かれている状態だ。

 デュエリストが勝負を諦めた以上、この勝負は紅也の勝利に決まった。だがそれでも、紅也の闘志は途切れることがなかった。

 

 この勝負、勝てば終わりという単純なものではない(・・・・・・・・・)

 

 原作知識を知っている紅也だけが、カミューラを本当の意味で止められる。まだ彼女は誰も傷付けていない、卑怯な手も使っていない、憎しみをぶつけ合ってもいない。止められるとすれば、今しかない。

 だからこそ紅也は、ボロボロの身体で無理をしてここへ来たのだ。

 

「カミューラさん。貴女は気付いていない」

「……」

 

 紅也が言葉を発しても、カミューラは力無く項垂れたままだ。しかし紅也は構わず言葉を続ける。

 

「貴女に止まって欲しいと思っている存在が……貴女が傷付くのを見たくないと思っている存在が……貴女を大切に思っている存在が……すぐ側に居ることに」

「……私を……?」

 

 カミューラのか細い声にしっかりと頷く紅也。

 

「だから……俺達が気付かせる」

 

 紅也は力強く宣言すると同時に、手札から1枚の魔法カードを発動させた。普段から助けられている強力な汎用カードであり、この勝負の決め手になるモンスターを呼び出すキーカードでもあった。

 

「『死者蘇生』を発動。墓地からモンスター1体を特殊召喚する」

「……墓地から?」

 

 首を傾げるカミューラ。それもその筈だ、紅也の墓地にモンスターなど存在していない筈なのだから。

 

「……! あの時……!」

 

 しかしカミューラは瞬時に記憶を呼び起こし、紅也が墓地へモンスターを送っていたことを思い出す。最初のターンで発動した『紅玉の宝札』には、ドローする以外にもデッキからモンスターを墓地へ送る追加効果が存在していた。

 

 墓地から1枚のカードを取り出した紅也。カードを見て少し微笑んだ後、勝利の鍵として投入したモンスターをデュエルディスクへセットした。

 

 

「──真紅眼の不死竜(レッドアイズ・アンデットドラゴン)

 

 

 可能性の竜は死して尚、

 その眼に──真紅の光を宿らせた(・・・・・・・・・)

 

 

 

 




 前世カード何枚か使用したけど、カミューラもチートだからセーフセーフという考えです(笑)。


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〜愛ある一撃〜

 

 

 

 

 

 美しい漆黒の身体に纏う蒼炎が、洞窟内を妖しく照らす。

 名前の通り真紅の眼をしており、対峙するカミューラへ穏やかな視線を向けている。

 

 まさしく──"不死の竜"

 "アンデット"と化した真紅眼は主の呼びかけに応え、戦いを終わらせるべく降臨したのだった。

 

「……久しぶりだな」

『……ゴォ』

 

 嬉しそうな顔で語りかける紅也と、それに応える『アンデット』。彼らの出会いは遥か昔、付き合いだけで言えば『レッドアイズ』に最も近い程だ。

 

 公式が発売する構築済みデッキ、所謂ストラクチャーデッキと呼ばれる物に投入されていたのが『真紅眼の不死竜』だった。『真紅眼の黒竜』の影響で遊戯王を始めた身として、紅也は"真紅眼"という単語にとても敏感であった。その月の小遣いを使い果たし、デッキを購入して手に入れたのだ。

 

 しかし残念なことに、『真紅眼の不死竜』は"アンデット"族であって"ドラゴン"族ではなかった。"アンデット"族がメインとして発売されていたストラクチャーデッキに入っているのだから当然と言えば当然なのだが、幼い紅也にとってはそれなりにショックな事実であった。

 

 紅也が"レッドアイズ"と合わせていたのが"ドラゴン"族だったため、『アンデット』に対しては機能しないサポートカードが多く存在した。その上『真紅眼の不死竜』自体の効果も独特なものであり、コレクションの1つとしての扱いとなってしまっていた。だからこそ、こうして召喚出来たことを紅也は嬉しく思った。

 

『真紅眼の不死竜』ATK/2400 DEF/2000

 

「……綺麗」

 

 新たなモンスターを召喚されたカミューラだが、抱いた感情は危機感ではなかった。まさに不死の名が付けられるのに相応しい姿に、戦いの最中であることも忘れて見惚れてしまっていた。

 

「このモンスターが、戦いを終わらせてくれる」

「……早くやればいいわ。私に防ぐ手段は残されていない」

 

 投げやりな態度で言葉を発するカミューラ。伏せカードもない状況、防ぐ手段がないというのは本当のことだろう。

 

「……貴方のような坊やに負けるなんてね。どの道、私の野望は叶わなかった訳だ」

「……」

「早くトドメを刺しなさい。どうせあるんでしょう? 私の『ヴァンパイアジェネシス』を倒す方法が」

 

 人間を認めるような発言をしたことに、カミューラ自身が驚いた。敗北を受け入れてしまったからだろうか、何故か少しだけ気持ちが軽い。眠りから目覚めて戦いへの覚悟を決めた時から、常に張り続けていた緊張感が消えていた。

 

「……装備魔法『巨大化』を『ヴァンパイアジェネシス』に装備。俺のライフが相手より多いため、装備モンスターの攻撃力は元々の攻撃力の半分になる」

「……ごめんね」

 

『ヴァンパイアジェネシス』ATK/3200→ATK/1700

 

 無抵抗に弱体化されたエースモンスターへ謝罪し、カミューラは無力な自分を責めた。『ヴァンパイア・バッツ』の効果で攻撃力が200ポイント上昇しているとはいえ、戦いに勝つにはお粗末な攻撃力にしてしまったのだから。

 これで自身の敗北は決まったも同然。相手からの攻撃を防ぐ手立てもなく、ライフポイントが大量に残っている訳でもない。

 

(ここまでね)

 

 目を閉じ、居なくなった同族へ思いを馳せる。結局、何も成すことは出来なかった。人間への復讐も、一族の再興も、生きる原動力であったもの全て、叶えることは出来なかった。

 

「『真紅眼の黒竜』で『ヴァンパイアジェネシス』を攻撃。……黒炎弾」

 

 低下させられた攻撃力で耐えることは出来ず、エースモンスターは灰となった。

 

 カミューラ LP3100→LP2400

 

「……『真紅眼の不死竜』で『ヴァンパイア・バッツ』を攻撃。──アンデット・フレア

 

 更に追撃として、紅也は容赦なく攻撃宣言をした。大博打に臨むような顔をして。

 

 破壊を無効にするための同名カードはもうデッキに存在しない。放たれた蒼炎の火球から逃れる術もなく、『ヴァンパイア・バッツ』は焼き尽くされた。

 

 カミューラ LP2400→LP1000

 

「……そしてダイレクトアタックで終わりってことね。見事よ」

 

 紅也のフィールドに存在する攻撃権を残した『サファイアドラゴン』を見て、拍手しながら微笑むカミューラ。どこか吹っ切れたような表情は、全てを諦めてしまったようにすら見える。

 

「確かにダイレクトアタックで終わりだよ……けど、攻撃するのは『サファイアドラゴン』じゃない」

「……なんですって?」

 

 他に攻撃権が残っているモンスターは居ないのは事実、カミューラは首を傾げた。もう1度『黒炎弾』を使うのかとも考えたが、『真紅眼の黒竜』が攻撃している以上それはない。そもそも使えるのならばとっくに使っている筈だ。

 

 思考を巡らせるカミューラだったが、次の瞬間──激しい怒りに包まれることとなる。

 

「──……は?」

 

 間抜けな声と顔で、カミューラは紅也のフィールドを凝視した。何も存在していなかった空間に『真紅眼の不死竜』が放った蒼炎が集まり出し、1体のモンスターが姿を現したからだ。

 

 見間違いようもない、これまで2度の破壊を免れて支えてくれた──『ヴァンパイア・バッツ』だったのだから。

 

『ヴァンパイア・バッツ』ATK/800→ATK/1000

『真紅眼の不死竜』ATK/2400→ATK/2600

 

 理解不能な展開に、カミューラの思考は停止。いつも頼もしい背中を見せていたモンスターが自身に牙を剥いた事実を受け入れられなかった。

 

「……『真紅眼の不死竜』の効果。このカードが戦闘で"アンデット"族モンスターを破壊し、墓地へ送った時──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 呆然とするカミューラに状況の説明を終えた紅也。バトルフェイズ中に特殊召喚されたモンスターには攻撃権が与えられる。つまり、『ヴァンパイア・バッツ』で攻撃が可能ということだ。

 

 カミューラは再び、激昂した。

 

 

「──アアァァァァアッッ!!!!」

 

 

 美しい髪を掻きむしり、そのまま頭を抱えるカミューラ。呼吸は荒く、身体全体が熱を持った。

 

「人間ッ! また私から奪うのかッ!? また私の大切なものを奪うのか!? 私の同族を皆殺しにした時のように!!」

「……」

 

 紅也を激しく睨みつけながら、カミューラが吠える。敗北を受け入れていた所へこの仕打ち、1度吐き出した怒りは止まることがなかった。

 

「お前達はいつもそうだ! 私達が何をした!? お前達に危害を加えたかッ!? お前達の生活を脅かしたかッ!? 私達はただ穏やかに暮らしていただけだ!!」

 

 全盛を誇ったヴァンパイア一族は、誇り高く孤高に生きていた。しかし、そんなヴァンパイア達を滅ぼそうとした種族が居た──人間である。

 外見や特性の違いから"モンスター"と蔑み、幼子であろうと容赦なく剣を振るった。そしてカミューラ以外のヴァンパイアは全て、この世から去ってしまったのだ。

 

「……私の、私の同胞を……『ヴァンパイア・バッツ』を……返せ」

 

 震えながら声を発するカミューラ。気付けば大粒の涙が流れ、悲しみが溢れ出していた。人間相手に弱みを見せたくないと手で眼を擦るが、涙は止まることなく次々と流れていく。

 

 そこに居たのはとても弱々しく、ただ悲しさに押し潰されそうになっているだけの普通の女性だった。悔しそうに、ただただ小声で返せと呟いている。

 

「──やっぱり、貴女は優しい人だよ」

「……? 何を、言ってる……?」

 

 突然言われた意味が理解出来ない発言に、カミューラは涙を止めて固まる。きょとんとした顔は、ある意味これまでで1番可愛らしい顔であった。

 

「自分のモンスターのために怒れて……そうやって涙を流せるんだ。貴女は優しい人だよ」

「……人間にそう言われても、嬉しくないわよ。私のモンスターで私にトドメを刺そうとする外道のくせに」

 

 鼻を啜りながら、拗ねるように言葉を発するカミューラ。ようやく涙も収まってきたようで、小さな子供のような仕草を取っている。

 

「そ、それは……何も言い返せない」

『グルゥ』

『ゴォ』

 

 肩を落とす紅也と、カミューラの発言に同意する『レッドアイズ』と『アンデット』。味方である筈の彼らにすら、紅也の行動は擁護されなかった。

 

「……けど、これしかないと思ったんだ。貴女を止めるためには、こうするしか」

「……さっきもそんなことを言っていたわね。私を止めるだの、私のためにだの……訳が分からないわ。貴方は私の敵、私は貴方の敵。それ以上でもそれ以下でもない筈よ」

 

 至極当然のことを言い放つカミューラ。これまでに面識もなく、ただ戦う相手という関係でしかない。だからこそ、紅也の行動理由がカミューラには理解出来なかった。

 

「……どうして俺達がこの場所に来られたと思う?」

「えっ……」

 

 優しそうな表情に変わり、紅也がカミューラへ質問を投げる。空気が緩んだことを察したのか、2体の黒竜も戦闘体勢を解いた。

 

「……分からないわ。私は証拠を残したりしていない」

 

 カミューラは間違いなく断言出来た。魂すら懸けて戦いに臨んでいたのだ、そんな初歩的なミスなど犯す筈がない。大人しく答えを聞こうと、紅也へ静かに視線を向けた。

 

「──()()()が居たからさ」

「……案内役? ……まさか!」

 

 紅也の言葉の意味を理解し、カミューラは洞窟の上を向いた。視界に入ってきたのは無数の赤い光、逆さまになって待機している愛すべきコウモリ達であった。

 

「お、お前達……私を裏切ったの?」

「それは違う」

「……えっ?」

 

 カミューラの言葉を強く否定した紅也。同時に腕を前に出し、一匹のコウモリを腕に止まらせた。

 

「コイツらは、貴女を心配していたんだ。復讐のために戦うことを決意した……貴女を」

「心配、していた?」

「人間に命令されて従う、勝利のためにプライドを捨てる、苦しそうに戦おうとしていた貴女を……コイツらは見ていられなかったんだよ」

「……そんな」

 

 口に手を当て、信じられないような顔をするカミューラ。肩を震わせ、事実を受け入れられない様子だ。

 

「俺は人間だ。……復讐をやめろとも、恨みを忘れろとも言えない。貴女が人間にされたことは、とても許せるようなことじゃない」

 

 でも、と続け。紅也は言葉を放つ。

 

「貴女を心配している存在が居る。辛そうな貴女を見ていられない奴らが居るってことを……知って欲しかった」

「……お前達」

「それに、見てたのは背中で……顔は見えないもんな」

「何を言って……ッ!!」

 

 カミューラの視線を奪ったのは、1体のモンスター。従順な僕として支えてくれていた、『ヴァンパイア・バッツ』だった。紅也の腕に乗っている個体と同じく大粒の涙を流している。ソリッドビジョンである筈のモンスターが、主を思って涙を流したのだ。

 

「……『ヴァンパイア・バッツ』」

「コイツらだけじゃない。『不死のワーウルフ』も『ヴァンパイア・ロード』も『ヴァンパイアジェネシス』も、みんな同じように貴女を心配してた」

 

 精霊を視ることが出来る紅也。現れたモンスター全てに精霊が宿っており、消えてしまう時までずっと苦しそうな顔をしていた。

 

「……そう。あの子達も」

 

 赤く腫らした目元を押さえながら、カミューラが口を緩める。人間に頼んでまで自身を止めてもらおうとしていた、それは同胞を失った彼女にとって何よりも嬉しいことであった。

 

「──認めるわ、人間。……いえ、竜伊……紅也だったわね」

「覚えてくれてたのか、カミューラさん」

「出来る女は記憶力が良いのよ」

「そうなのか、覚えておくよ」

 

 先程までの重々しい空気感は消えており、軽口すら叩けるようになっていた。クスクスと上品に笑う様は、まさしく麗しのヴァンパイアだ。

 

「……じゃあ、そろそろ終わらせようか」

「ええ、お願い」

 

 憑き物が落ちたような穏やかな表情で頷くカミューラ。そんな彼女の意思に応えるべく、紅也は勝負を終わらせるために攻撃宣言をした。自身の効果で攻撃力は1000、勝負を終わらせるのにちょうどいい数値である。

 

「ほら、行ってこい……『ヴァンパイア・バッツ』」

『ガァァァ』

 

 紅也の言葉を聞き、『ヴァンパイア・バッツ』はゆっくりと翼を広げてカミューラへ向かって飛んでいく。目標とされるカミューラは腕を大きく広げ、迎え入れる準備を完了。

 

 主と配下は、優しく抱擁を交わしたのだった。

 

 カミューラ LP1000→LP0

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

「……返します。すみませんでした」

 

 脱力したように腰を落としているカミューラへ、紅也が『ヴァンパイア・バッツ』のカードを手渡す。受け取ったカミューラは大事そうに胸へ押し当て、静かに笑みを浮かべた。

 

「立てますか?」

「……ええ」

 

 立ち上がるための補助として手を差し伸べる紅也。カミューラも素直に手を取り、ゆっくりと立ち上がった。

 

「……まさか、こんな形で負けるとはね。考えてもなかったわ」

 

 言葉とは裏腹に、清々しい顔のカミューラ。荒々しさは完全に消え去り、上品な女性にしか見えない。

 

「"セブンスターズ"は……やめますか?」

「ええ。もう続ける意味はないわ」

「そうですか……。なら良かった」

 

 ホッと息を吐く紅也。張り詰めていた緊張を解き、力が抜けたようだ。

 

「少し動かないでくださいね。……レッドアイズ、頼む」

『グルゥオ』

「えっ? な、何よ……!!!」

 

 紅也の言葉に頷き、実体化したレッドアイズ。カミューラの側へ寄ると、腕を張り上げて鋭い爪を一閃。首に付いていたチョーカーを切り裂いた。これこそ"セブンスターズ"に与えられた闇のアイテムであり、カミューラにはもう必要のない物であった。

 

「これでよし」

「ちょ、ちょっとぉっ!! いきなり何すんのよ!?」

「いや、"セブンスターズ"やめるって言ったから」

「心の準備があるわよ! いきなり首への攻撃を指示するな!」

「ああ……ごめん」

「誠意が伝わらないっ!!」

 

 物凄い剣幕で紅也に詰め寄るカミューラ。急所である首をいきなり襲われれば当然かもしれないが。

 ひとしきり文句を言い終わった後、カミューラは紅也と視線を合わせ、静かに疑問を口にした。

 

「ねぇ、どうしてそこまで……? 貴方と私は何の関係もない筈よね?」

「……まあ、そうですね」

 

 原作知識があるから、そう言えないのは毎度のことだ。言ったところで信じてもらえるとも思えないが。

 

「貴女を助けて欲しいと必死に頼んできたコウモリ達を見て、貴女は悪い人じゃないと思ったので……理由としてはそんな所ですかね」

「貴方……お人好しね」

「……そうかもね」

 

 呆れたようなカミューラと、それに同意する紅也。命懸けで戦っていた者達とは思えない程の緩い空気だ。

 

「……これからどうするか。また眠りにでもつこうかしら」

「いやいや、勿体ないでしょ。せっかく起きたのに」

「けど……私は……」

 

 行く場所などない。その言葉を飲み込みながら、カミューラは俯く。復讐から解放されても、天涯孤独の身であることは変わらないのだから。

 そんなカミューラを見て、紅也がパンッと軽く手を叩く。そして彼女へ予想外過ぎる提案をしたのだった。

 

「じゃあ……バイトしません?」

「……はぁー?」

 

 心から何を言っているのか分からない顔でカミューラが声を上げる。美人がやれば、意外に絵になるものだ。

 

「実はこのアカデミアの購買部でバイト探してるらしいんですよ」

「……だから?」

「カミューラさん、働きません?」

「……頭が痛いわ」

 

 しっかりと説明を受けても、やはり理解出来ない。頭に手を当てつつ、カミューラが質問した。

 

「やめるとは言え、私は"セブンスターズ"だったのよ?」

「操られていたとか言い訳すれば良いんですよ。1人目もそうだったし、いけるいける」

 

 疲れから知能指数が低下している紅也。普段なら言わないような無茶な発言をしまくっている。

 

「……大体、私に何の得があるのよ? 人間が憎いのは変わってないんだけど?」

「そうですね……。人間観察、とか?」

「……貴方、バカだって言われない?」

 

 可哀想なものを見る眼で、カミューラが呟いた。デュエルでの疲労がなければ頭を撫でていたかもしれない。

 

「頭が回んないんですよ。そして身体に力が全く入らない。──あっ、ヤバい、倒れそう」

「冗談やめなさいよ。こんな所で倒れられたってどうしようも……えっ、嘘! 冗談よね!? ちょ、しっかりしなさいよ!!」

 

 紅也の言葉を信じなかったカミューラだが、バタンと倒れた紅也を見て血の気が引いた。本来の優しい性格が完全に戻っている。

 

「……あー、なんとなく分かった気がする。意識が遠くなる感覚に慣れるのも……なんか嫌だなぁ」

「アンタ何なのよ! 急に乗り込んできて人の野望を打ち砕いて! 用が済んだら倒れるなんて! どういう神経してるのよ!!」

「……せ、正論過ぎる」

「ちょっと、顔色悪いわよ。ほ、本当に大丈夫なの? しっかりしなさいよぉ」

「こ、これを……」

「えっ? 何よこれ……紙?」

 

 苦しそうな表情でカミューラの腕に抱えられたまま、紅也はズボンのポケットから取り出した1枚の紙を手渡した。

 

「それを……購買部の、トメさんって人に渡せば……大丈夫だから……もうダメ」

「ちょっ、ちょっと! 分からない! 私分からないって! 誰!? トメさんって誰!! もおぉぉぉぉぉおっ!!」

 

 叫ぶカミューラにグッと親指を立てた後、紅也は無責任に意識を手放した。

 

 

 

 




 これにてカミューラ編終了です。
 アンデットドラゴン使うならここしかねぇって思ったので、こうなりました(笑)。


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〜新しい看板娘〜

 

 

 

 

 

「う〜ん、いい食べっぷりだねぇ」

 

 満足そうに頷いているのは、デュエルアカデミア購買部のトメ。おにぎり2個とドローパン3個を完食した紅也を見て、感心するように呟いた。自身が奢ったということもあり、紅也の食べっぷりに喜びを感じたこともある。

 

「元気そうで良かったよ。大変だったって聞いてたからさぁ」

「ありがとう、トメさん。この通り元気です。──最後のドローパンがゴーヤ味だったのは不満ですけど」

 

 口の中に残った苦みをお茶で流し込みながら、紅也は柔らかい表情でトメに向き合う。心配かけたことに罪悪感を感じながらも、こうして元気な顔を見せられて良かったと心を落ち着けた。

 

「3日も寝込んだって聞いた時はアタシも倒れそうだったよ。でも、紅也ちゃんは頑張ったんだねぇ」

「いやぁ、俺がしたことなんて洞窟に気絶しに行ったようなもんですから。……まあでも、また3日も意識が戻らないとは思わなかったけど」

 

 何はともあれ目的は果たした。紅也が関与しようと考えていた"セブンスターズ"とは戦い終わり、頑張り所は過ぎ去った。

 更には紅也が寝込んでいた3日間と寮で安静にしていた2日間で、残りの"セブンスターズ"も1人を除いて十代達が殲滅していた。動けずにいた期間で随分と物語が進んでいたようだ。

 

(……後悔はあるけどな)

 

 情けなく意識を失っていた間で起こったデュエル。それはアカデミアを乗っ取ろうとした万丈目兄弟によるイベントだった。万丈目のデュエルを生で目撃するチャンスを逃したことで落ち込んだ紅也だったが、三沢が記録していてくれた録画を見て、なんとか自分を納得させていた。

 

「食欲もあるみたいだし、アタシも安心した! 奢った甲斐があるってもんだ!!」

「ご馳走様でした、トメさん。奢ってもらってありがとうございます」

「良いのよぉ〜! それにお礼を言いたいのはこっちだよ! やっぱり紅也ちゃんに頼んで正解だった!」

「……あそこまでハマるとは思ってなかったですけどね」

 

 満面の笑みで喜びを表すトメに、少々微妙な顔で返す紅也。こういった未来を期待しなかった訳ではないが、ここまで上手くいくと逆に肩の力が抜けてしまう。

 

 ゴミを片付けながら紅也が視線を向けるのは購買部の受付。多くの生徒が、本当に多くの生徒が買う物を片手に肩をぶつけ合っている。赤、青、黄と色鮮やかな制服の群れにも関わらず全員が男子生徒だ。彼らの思惑はただ1つ、他の者よりも前に出て真っ先に受付へ飛び込む、それだけだ。

 

 

 ──美しい店員を独り占めするために

 

 

「俺俺!! カミューラちゃん! 次俺だから!」

「どけよお前! 邪魔だわ! カミューラちゃんが困ってんだろ!!」

「邪魔はてめぇだ! 辛気臭い顔しやがって!」

「お前に言われたくないわ!!」

「カミューラちゃぁぁぁん!! 好きだぁぁあ!!」

「ドローパンで金のタマゴ当たったら俺とデートしてくれぇっ!!」

「痛ってぇな! 足踏んだの誰だッ!?」

「カミューラちゃん! 俺はこんなバカどもとは違うから!」

「アウチッ、痛いノーネ!!!」

 

 約1名金髪の成人男性が見えた気がしたがスルー、紅也は見なかったことにした。

 興奮気味に騒いでいる頭に血が昇った男達。怪我人すら出そうな殺伐とした空気だったが、そこへ凛とした声が張り上げられる。

 

「──黙りなさいっ!!!」

 

 か弱さなど感じさせない芯のある声は男子生徒達の耳を一瞬で貫き、黙らせることに成功した。声質も耳心地の良いものであり、一喝されたというのに男達の表情は緩みきっている。

 

「順番に並びなさいと言ってるでしょう! それが守れないなら買い物をする資格は無いわっ! それに私とデートですって? デュエルで私に勝てたら幾らでもしてあげるわよ。だから今持ってる物に合わせて──パックも買いなさい

「「「「「はい! カミューラちゃんッ!!!」」」」」

 

 更には盛り上がりを見せた男達。デートという単語にテンションを上げながらパック売り場へ爆走し、我先にとパックへ手を伸ばす。場所が変わっただけでやることは変わっていなかった。

 

 目の前で繰り広げられる購買部とは思えない光景に苦笑いしつつ、紅也は少し引いたような顔で呟いた。

 

「……すっげぇ」

「だろぉ? ここ数日はカミューラちゃんのお陰で毎日こんな感じさ。商品が売り切れちゃうことも多いのよ。嬉しい悲鳴ってやつだねぇ」

「トメさんは? サボってるんですか?」

「やだよぉ、紅也ちゃんの相手してるんだからサボってないの」

「んー、それもそうだ」

 

 冗談を言い合うような朗らかな雰囲気。久しぶりに顔を合わせるということもあり、2人の表情は穏やかだ。そんな紅也とトメのほのぼのタイムを終わらせたのは、紅也の視界に入った1本の腕だった。

 

「あっ、トメさんトメさん。あれ」

「なんだい? ……ありゃ、大変だ。ちょっと代わってくるよ」

「行ってらっしゃい」

 

 紅也が指差した先にあったのは、先程男子生徒達を一喝したカミューラの華奢な腕であり、白い肌と相まって美しさを感じさせる。しかし手首の先からはそんな感想も抱けない状態であり、サムズアップによる親指でのSOSが発信されていた。プルプルと震えるそれを見て、紅也も流石にトメに対してヘルプを促したのだ。

 

 男子生徒の集団がパック売り場から戻ってくる前にと、すぐに裏へと逃げ込んだカミューラ。

 目を離した隙にカミューラからトメに変わっていたことで、膝から崩れ落ちている男子生徒の集団。大量のパックを落としながら絶望する様はとんでもなくシュールだ。

 

「……おっ、出てきた」

 

 紅也がそんな集団をボケーっと見ていると、スタッフ専用の出口から1人の女性が出て来た。足取りがフラフラしており、疲労困憊といった顔をしている。

 

 紅也は同情の意味を込めて、純粋な笑顔を向けた。

 

「──お疲れ」

「じゃないわよぉぉぉぉおおおっ!!」

 

 鮮やかな緑色の髪を1本に束ねた美しい女性は、元凶であるという自覚もないムカつく笑顔を晒した男へ──最大限の怒声を浴びせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあまあ、そんなに怒らないで」

「アンタのせいでしょ。よくもまあそんなヘラヘラ出来たものね」

「いやだって、思ったよりハマってたから面白……嬉しくて」

「今面白いって言ったわよね? 言ったわよね?」

「元気そうで良かった」

「話を聞けぇっ!!!」

 

 荒く呼吸をしながら肩を揺らすカミューラ。裏の方の席に移動したこともあり、客の前では見せない脱力した態度を見せている。足を組んで様になっているのは、元の顔面偏差値とスタイルが成せる技か。

 

「……はぁ、相変わらず小生意気で安心するわよ」

「カミューラさんも楽しそうでなによりです」

「どこがよ? 鬱陶しいガキに囲まれたって少しも嬉しくないわ」

 

 前髪を手で払いながら、ため息を溢す。少しばかり汗を流しており、労働の辛さが見て取れた。

 

「喉乾いた。何か買って来なさいよ」

「そう言うと思って、コーヒーとトマトジュースがあります。どっち飲みますか?」

「……トマトジュース」

 

 渋い顔をしながら差し出されたトマトジュースを受け取るカミューラ。やっぱりなぁと呟く紅也を睨みながら、差し込んだストローへと口を付けた。

 

「──ふぅ。まあまあね」

「美味しいってことか。それは良かった」

「なんでそうなるのよ!」

「カミューラさんはツンデレだから」

「……言葉の意味は分からないけど、バカにされてるってことだけは分かるわ」

 

 声を押し殺すように笑っている紅也を見て、不機嫌そうに頬杖をつくカミューラ。中世ヨーロッパでほとんどの知識が止まっている彼女からすれば、自身には分からない単語でバカにされている気分だった。

 

「でも本当に良かった。あの後上手く事情とかを説明出来たんですね。操られてたんだーって言い訳信じてもらえたでしょ? ナイス俺」

「どこがよ!! 私は気絶したアンタをアカデミアまで背負って運んだのよ!? 人の背中で無責任にぐーすか寝ちゃって! 私の苦労を知りなさい!!」

 

 紅也が後処理を全て丸投げした後、カミューラは本当に頑張っていた。

 

 男子高校生1人を背負いながら森を抜け、デュエルアカデミアまで辿り着く。様々な質問攻めに対して涙目で同情を誘い、アドバイスされた言い訳でなんとか乗り切る。トメさんという言葉を頼りにバイトすることにも成功した。目を覚まさない紅也を心配しながら、ここ数日は経験したこともない労働に勤しんでいたという訳だ。

 

「……ほんと、本当に大変だったのよ」

「なんか……ごめん」

 

 項垂れているカミューラを見て、罪悪感が出てきた紅也。目的を果たした達成感から丸投げしたとはいえ、流石に無責任だったと反省した。

 

「あっ、そうだ。アンタあの子に感謝しときなさいよ?」

「あの子?」

 

 唐突に顔を上げ、紅也を指差したカミューラ。咎めるような顔と声で、出来の悪い弟を叱りつけるような態度だ。

 

「天上院って子よ。アンタを運んで来た私に泣きながらありがとうって──人間にお礼言われたって嬉しくないけど! ……それだけアンタを心配してたってことでしょ。女を泣かせたんだから、それなりの対応はしなさい」

「……泣いてたか。だよなぁ」

 

 カミューラと同じく頬杖をつく紅也。その表情は険しく、責任を感じているようだ。

 

「俺がベッドで目を覚ました時も号泣してたよ」

「うーわ、アンタ最低ね。あんな良い子……じゃなくて、人間にしてはそこそこまあまあな子を号泣させるなんて。男として最低よ」

「……何も言い返せない」

 

 今度は紅也が深く項垂れる。

 説明が難しい事情があったとはいえ、毎日看病に来てくれていた女の子の前から勝手に居なくなり、帰って来た時にはまた気絶していたのだから。よくよく考えれば最低と言われても当然だった。

 

「そういえば昨日、その天上院って子がタイタンって奴を倒したらしいわ。私はよく知らないけどね」

「タイタン? "セブンスターズ"ですか?」

 

 興味もなさそうに頷くカミューラ。最早"セブンスターズ"には何の関心も無いらしい。

 

「瞬殺だったらしいわ。なんか『スピリット・バリア』を発動した状態で『ドゥーブルパッセ』? ……とか言ってたわね。戦闘ダメージを無効にしてバーンダメージ、そして次のターンでダイレクトアタック……だったかしら。そのコンボ使ってすぐに決着つけたらしいわ」

「……へ、へぇ〜。そうなんだ」

「なによその顔。嬉しくないの?」

「いや、可哀想なことしたかなって」

「……? まあいいわ。私にはどうでもいい話だし」

 

 微妙な反応をした紅也を不思議そうに見ていたカミューラだったが、自身には関係ないと伸びをして流した。抜群のスタイルは制服の上からでも主張が激しく、随分と無防備な姿と言える。隣に居る男が紅也でなければ、ガン見していたことだろう。

 

「でも詳しいですね。なんで知ってるんですか?」

「嫌でも耳に入ってきたのよ。さっきの見たでしょ?」

「ああ、なるほどね」

 

 たった数日で大人気の購買部カミューラ。彼女と少しでもお近づきになろうとする男達からの情報提供だったらしい。

 

「……コウモリ以外に配下増やしてるじゃん」

「向こうが勝手に教えてきたのよ。私が頼んだ訳じゃないわ」

 

 人気者には人気者なりの苦労があるようだ。

 紅也がそんな風に同情していると、カミューラが目を細めながら口を開いた。

 

「……まあ、体調は戻ったみたいね。減らず口は相変わらずだけど、顔色は良くなってる。乗り込んで来た時のアンタ、顔真っ白だったから。幽霊が出たのかと思ったわ」

「それ死にかけっていうか死んでますね。……体調はこの通り、全回復しました。不調の原因も分かったんでね」

「確かアンタ、気絶する直前にもそんなこと言ってたわね。──原因って?」

「ああ。……じゃなくって、中々体力が回復しなかった原因は……"精霊の実体化"でした」

 

 思わず分かりにくいボケをしてしまいそうになったが、ツッコミがもらえる筈もないと中止。少し動揺しながら『真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)』のカードをケースから取り出し、カミューラへ見せた。

 精霊として紅也を支えていたこと、それ自体が不調の原因だったと断言したのだ。

 

「私のチョーカーを破壊した時のやつ?」

「それが決定打ですね。実は洞窟に向かう時にも実体化したレッドアイズに補助してもらってたんですよ。元から体力切れかけなのにじわじわ減らしてて、カミューラさんに一撃喰らわせた時の実体化で限界を迎えたんでしょうね」

「首が刈り取られるかと思ったわよ……。それにしても、やっぱりただ便利な能力ってのも無いのね」

「『幻魔の扉』とか?」

「デリカシーの無い口はこれかしら?」

「い、痛い痛い!」

 

 上唇と下唇を同時にぐいーっと引っ張り、笑顔で痛みを与えるカミューラ。発動すら出来なかったことをバカにされているのも、彼女にとってムカつきポイント高めだった。

 

「す、すみませんでした。……ま、まあ、俺の体力が回復しなかったのには他にも理由があるんですけどね」

 

 制裁から解放され、唇の痛みも引いてきた。少し軽率な発言だったと謝罪しながら、紅也はもう1つの要因について触れた。

 

「ダークネスとのデュエルでダメージを負った時、今回みたいに俺は意識を失ってたんです」

「……アイツを倒したのはアンタだったのね」

「それはまあどうでもよくて。……同じく3日間ぐらいベッドで寝てたらしいんですけど、その時にレッドアイズが俺の安眠を守るためにちょこちょこ実体化してたらしいんですよ」

 

 主に騒ぐ野良猫や耳元を飛び回る虫などに対して実体化し、紅也の安眠を妨げる要因を排除していた。もちろん100%善意からの行動であり、紅也はレッドアイズに感謝していた。責めるつもりなど毛頭ない。

 

「携帯端末とかを充電中に使用すれば、減りはしないけど順調に増えもしない。それと同じことが起こってたから、俺の体力はほとんど回復してなかったんです」

 

 睡眠による回復量と実体化による減少量を比べた時、減少する割合の方が多かったということだろう。

 

「体力が戻った今となっては、それ程問題でもないですけど。実体化も普通にさせてやれますし」

「ダークネスに受けたダメージが大き過ぎたってことね」

「そうなります。だから俺、カミューラさんとのデュエルではダメージを受けたくなかったんですよ。実際ノーダメージだったでしょ?」

「本当にムカつくわねっ!!」

 

 頭を抱えながら唸るカミューラ。ここまで弄り倒されることになるとは予想しておらず、言葉に出来ない苛立ちを覚えた。言っていることが事実なのも余計に腹立たしい。

 

「ごめんごめん。……それに、闇のデュエルに関わることはもうないかな。ないと良いなぁ」

「今度やったら死ぬわよ。だからやめときなさい」

「ありがとう、姉さん」

 

 冗談のつもりで言った一言だったのだが、何故か固まるカミューラ。紅也の顔をジッと見つめ、数秒を要して硬直から解かれた。

 

「……誰が姉さんよ。……ふふっ、バカね」

「???」

 

 口元に手を当てながら上品に笑うカミューラ。貴婦人と自分で言っていただけのことはあり、とても様になっている。首を傾げる紅也を見てクスクスと笑った後、どこか清々しそうな顔に変わった。

 

「……さて、そろそろ仕事に戻るわ」

 

 組んでいた足を直し、制服を正す。なんだかんだ言っても、仕事に対しての態度は良好なようだ。

 受付の方から聞こえてくるのは、我慢の限界を迎えた男達によるカミューラちゃんコール。対応しているトメのことを考えて、カミューラは仕事に戻ろうとしていた。

 

「騒がしいな。あんなの聞くと、バイトに推薦したの少しだけ後悔します」

「全くよ、余計なお世話だわ。……でも」

 

 ──"棺の中で孤独に眠るよりはマシ"。

 

 そんな言葉を飲み込むように、残ったトマトジュースを全て喉へ流し込む。こんな言葉を聞かれれば、必ずまた弄られるとカミューラの本能が言っていた。

 

「やってやるわよ、人間観察。言い出したのはそっちなんだから、アンタも客として私の金ヅルになりなさい」

「時々様子見に来ますよ」

「ええ、それでいいわ。……さっ、見送ってあげるからとっとと行きなさい。私に見送ってもらえるなんて幸せ者ね。言っとくけど惚れたらダメよ?」

「結構です」

「アンタはいつか絶対ぶっ飛ばすわ」

 

 眉をピクピクさせながらも、柔らかい表情のカミューラ。購買部の出入口までついてきたことから、言葉通り紅也を見送るようだ。

 別れの挨拶をするためにカミューラが口を開こうとした瞬間、紅也が言葉を発した。

 

「あっ、そうだ。──これをカミューラさんに」

「……えっ?」

「ラッキーカードってね」

「でも、これ……アンタの」

 

 差し出された1枚のモンスターカードを確認し、あわあわと動揺するカミューラ。見覚えがあるモンスターどころの話ではない、自身がこうして新しい一歩を踏み出すきっかけをくれたモンスターなのだから。

 

「──『真紅眼の不死竜(レッドアイズ・アンデットドラゴン)』。大切にしてくださいね」

「ちょっ、本気!? アンタの大事なカードなんじゃ……」

「大事だからこそ、ちゃんと活躍させてくれる人に持っていて欲しいんです。俺じゃそいつの力を十分に発揮させてやれない」

「でも……なんで私に」

 

 突然のプレゼントということもあるが、なにより渡された物が予想外。カミューラは焦りながらも、『アンデットドラゴン』に視線を奪われていた。

 

「名前にドラゴンって付いてますけど、そいつは"アンデット族"ですから。効果と合わせて、カミューラさんのデッキにはしっかり合うと思います。フィールド魔法の『アンデットワールド』を入れると良いですよ。……『ヘルヴァニア』とかを抜いてね」

 

 紅也とのデュエルでも使用した禁断のフィールド魔法『不死の王国ーヘルヴァニア』。このカードを抜いて代わりに『アンデットワールド』を採用すれば、戦闘破壊した相手の"アンデット族"モンスターを奪うことが出来る『真紅眼の不死竜』とのコンボも成立し、不正もなく強いデッキに変えることが出来る。

 

【『アンデットワールド』

 フィールドの表側表示モンスター及び墓地のモンスターは全て"アンデット族"になる。互いのプレイヤーは"アンデット族"モンスターしかアドバンス召喚出来ない】

 

「……本当に、いいのね?」

「…………うん」

「嫌そう! すっごい嫌そうじゃない! いいわよやっぱり、アンタが持ってなさいって」

「嘘ですよ」

「……その割には酷い顔してたけどね」

 

 流石に何十年という時間の付き合い、手放すのが惜しくない訳もなかった。しかし、先程の紅也の言葉も全て本心。活躍させてくれるデュエリストが現れ、尚且つ信頼出来る人物。託すのにこれ以上相応しい者も居ない。

 

「ちゃんと……磨いてやってくださいね」

「泣きそうじゃないの」

「そんなことないです」

「……はぁ。貰えるなら貰っとくわよ。後で返せって言っても遅いからね」

 

 不器用な覚悟を尊重し、カミューラは『真紅眼の不死竜』を受け取った。どこか嬉しそうな顔を見て、紅也も頬を緩める。

 

「もう行きますね」

「今度は金持って来なさい。それと、天上院って子にちゃんとお詫びするのよ?」

「わ、分かってますって。……じゃ、また」

「ええ、またね」

 

 最後まで姉のようなカミューラに苦笑いしながら、購買部を去って行く紅也。

 

「…………ありがと

 

 遠くなっていく背中を見つめながら小声で呟いたカミューラ。丸くされた自覚があるのも、紅也が放つ不思議な空気感のせいだと決めつけた。

 

 気持ちを切り替えて仕事に戻ろうとしたカミューラだったが、そんな彼女に1人の男子生徒が震えながら声をかけた。見れば後ろにも多くの男子達が集まって来ており、全員がプルプルと震えている。

 

「……カミューラちゃん、あいつと仲良いの?」

 

 違っていてくれという思いが伝わるような悲しい声音。

 カミューラはそんな空気を読んでただの知り合いだと説明しようとしたが、瞬間的に紅也への報復を思いつく。弄られていた鬱憤を晴らす機会がきたと、満面の笑みで実行に移した。

 

 先程から男子達に視線を向けられまくっている『真紅眼の不死竜』に軽く口づけした後──カミューラは特大の爆弾を投下したのだった。

 

 

「私の……大切な人♡」

 

 

 カミューラはとても良い笑顔を見せた。

 

 

 

 




 はい、また敵が増えました(青以外にも)。
 三角巾のカミューラさんとかも良いなぁって考えてたんですけど、作者の好みにより髪を縛るだけとなりました。絶対可愛い(確信)。

 そしてまさかのカミューラさん強化。
 デート権のために挑むけどクソ強くて全然勝てない……せや!パック買お!(計画通り)。


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〜学園祭デート〜

 

 

 

 

 

 《オベリスクブルー》の女王・天上院明日香は焦っていた。デュエル中でも見せないような顔をして、自身の部屋を動き回っている。

 普段の冷静さは見受けられず、バタバタと出かける準備を済ませていた。特に気を遣っていたのは身だしなみ。起きてから鏡を見た回数は既に数えきれない。

 

「もうこんな時間!?」

 

 制服の乱れを直し、前髪を整える。

 確認した時計が示す時間は10時12分。待ち合わせの時間を12分もオーバーしている。7時に起きたにも関わらずどうしてこんなにも余裕がないのだろうかと、明日香は情けない自分に怒りすら感じた。

 

「……」

 

 全ての準備を終え、後は出かけるのみ。そんな明日香の動きを止めたのは、机の上に置いてあった──()()()()だった。

 

『明日香さん! これめっちゃ可愛いんですよ!』

『きっとお似合いになられますわ〜!』

 

 明日香の友人であるジュンコとももえからの贈り物であるヘアゴム。見た目に関しては派手な装飾もされておらず、小さなアクセサリーが2個付けられているだけだ。地味ではあるが鮮やかな青色をしており、こういった女子らしいアイテムに疎い明日香も珍しく気に入っていた。

 

「……よし」

 

 覚悟を決め、ヘアゴムを手に取る。腰近くまで伸びている髪を束ね、出来栄えをチェック。櫛で髪をほぐしながら、満足いくように手を動かした。

 

「って! 急がないと!」

 

 再び確認した時刻は10時23分。完全な遅刻である。

 慌てて部屋を出た明日香は、寮の出口を目指して全力で駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本日、デュエルアカデミアは普段以上に活気に満ち溢れていた。1年に1度の大イベント、『学園祭』が行われているからだ。

 青い空に白い雲。快晴にも恵まれた天気の下、多くの生徒達が思い思いに全力で学園祭を盛り上げていた。

 

 各寮ごとに出し物をしており、島全体が賑やかな雰囲気に包まれている。

 

 カフェを開いているのは《オベリスクブルー》。特別にブレンドしたコーヒーなどを提供しており、接客時の立ち振る舞いはエリートの名に恥じないレベルだ。イケメンが揃っているため、女子からの人気も高い。

 

 出店を開催しているのは《ラーイエロー》。目を引くのは焼きそばにたこ焼き、綿菓子にりんご飴といった食べ物。更に食べ歩き出来るだけでなく、射的や輪投げといった遊び心ある店も存在している。規模だけで言えば、3つの寮の中で最も大きいだろう。

 

 そんなお祭り騒ぎの日に、紅也は《オベリスクブルー》女子寮に足を運んでいた。もちろんやましい考えがある訳もなく、待ち合わせをするためだ。約束した待ち合わせ時間はすぎており、大分待ちぼうけを喰らわされているのだが。

 

「はぁ……はぁ……竜伊くん!」

「おっ、来たか。おはよう、天上院」

 

 扉から勢いよく飛び出して来た明日香を見て、穏やかに微笑む紅也。待ち合わせ時間を間違えていたかと不安になっていた所だったので、無事に合流することが出来て安心していた。

 

「ご、ごめんなさい! 遅れちゃって!!」

「いいよ、別に。よく寝た?」

「それは……まあ」

 

 勢いよく頭を下げる明日香に、ヒラヒラと軽く手を振る紅也。あまりにも緩い反応をされ、明日香は戸惑ってしまった。

 

「なら良いや。じゃあ行こう……か」

 

 何故か言葉が途切れる紅也。視線は明日香の後方に向いており、どこか気まずそうな顔をしている。何事かと振り向いた明日香の視界に入ったのは、青い制服に身を包んだ2人の女子生徒だった。

 

「……彼女達がどうかしたの?」

 

 少しばかり細い声になりながら訊ねる明日香。震えた声を出さなかった自分を褒めたいぐらいだった。

 そんな質問に答え辛そうな表情をしながら、紅也はやはり気まずそうに理由を話した。

 

「さっき声かけられたんだ。一緒に学園祭を見て回らないかってさ」

 

 三沢とのデュエルでそれなりに目立った紅也。あの時から紅也を評価していた女子は少なくなかったということだろう。

 顔も悪くなく、歳の割には落ち着いている大人びた雰囲気。加えて伝説級のモンスターである"レッドアイズ"を扱えるとなれば、このデュエルアカデミアでそれなりにモテていても可笑しくはなかった。

 

「へ、へぇー、そうなんだ」

 

 視線を泳がせまくりながら、動揺を隠せない明日香。ポーカーフェイスや余裕のある笑みなど、普段使い慣れている表情筋は機能せず、滑稽なポンコツ顔を晒している。

 

「よ、良かったの? 断って」

「えっ?」

「だって彼女達……可愛いみたいだし」

 

 俯きながら言ったせいか暗い声が出てしまい、明日香は慌てて顔を上げる。軽い言い訳でもしようとした彼女より先に、紅也が口を開く。

 

「──約束だろ? 天上院と見て回るって」

「……う、うん」

 

 たった一言で気持ちが軽くなる。単純な自分に苦笑しながらも、嬉しさが胸に込み上げてくる。約束という単語と、自身を優先してくれているという優越感が明日香を優しく包んだ。

 

「……」

「ど、どうしたの?」

 

 明日香が温かい気持ちになっていると、視線を向けられていることに気付く。珍しいものでも見るかのような眼をする紅也に、明日香は何か可笑しなところでもあるのかと心配になりながら訊ねた。

 

「……い、いや。髪縛ってるの珍しいと思ってさ」

「そうね。──が、学園祭だし! こういうのも良いかなって……変かしら?」

「いや、変じゃない! 似合ってると思う」

「そ、そう。……良かった」

 

 ホッと一息つきながら、束ねた髪を弄る明日香。美しい金色の髪は太陽光を反射し、キラキラと輝いている。白く細い首もよく見えるようになっており、健康的な魅力が放たれていた。

 

「じゃ、じゃあ行くか。昨日話した通り、俺が奢るから」

 

 見慣れない姿に動揺しながら、紅也が歩き出す。これ以上見ていると照れているのに気付かれてしまうと考えたようだ。嬉しそうな顔をしながら、明日香もその背中を追った。

 

「でも私は遅刻したし……お詫びって言うなら私が」

「気にしてないって。それにお詫びのレベルなら俺は絶対に負けないぞ。天上院を2回も号泣させてるからな」

「……もう、それは言わないで」

 

 恥ずかしそうに手で顔を隠す明日香。白い肌はほんのり赤くなっており、自らの醜態を思い出したくないようだ。

 

「だから今日は俺の奢りだ。せっかくの学園祭だしな、楽しもう」

「……ええ。そうね」

 

 昨晩、明日香の端末に掛かってきた電話。液晶に表示された名前は、明日香の身体を硬直させるのに十分な威力を秘めていた。こちらから掛けようかと頭を悩ませていた所だったということもあり、余計に慌てさせられていた。

 

 "竜伊くん"と表示された端末に向かいベッドの上で正座。優秀な頭脳を数秒フル回転させ、意を決して電話に出た。そして緊張する間も無く、電話相手から用件が告げられたのだ。

 

『明日の学園祭、良かったら一緒に回らないか?』

 

 フリーズが一瞬で済んだのは幸運だったと言える。それはまさに明日香が先程まで悩んでいた内容そのものであり、望んでいた結果が向こうからやってきたのだから。

 明日香は声が震えそうになるのをなんとか抑えながら承諾。待ち合わせ場所と時間を決め、長く感じた短い電話は終了した。

 

 こうして紅也と明日香、2人の学園祭デートが決定されたのだ。

 

(竜伊くん……元気そう)

 

 肩を並べて歩き出し、目的地である《ラーイエロー》へと向かう。横目で確認した紅也の顔色は良く、足取りもしっかりとしたものだ。目覚めてから2日間の自室待機が上手く体調を戻してくれたらしい。

 

「晴れて良かったな」

「そ、そうね!」

「……ふっ」

「な、なに?」

「いや、元気良いなって。天上院も学園祭楽しみだったんだな」

 

 遊園地に行く子供でも見るかのような微笑ましい笑顔。普段とは違う声の張り方をしてしまい、明日香にとっては不本意な解釈をされたようだ。いや、楽しみだったことは事実なのだが。

 

「……竜伊くんも、元気になって良かった」

「お陰様で。天上院には心配かけたな」

「本当よ。いきなりベッドから居なくなった時は心臓が止まるかと思ったから」

「それは大袈裟……ごめんなさい」

「ふふっ、良いわよ。無事に帰って来てくれたから」

 

 何を言っても自分が悪いと、素直に頭を下げる紅也。それを見た明日香は笑みを溢しながら、ようやく緊張が緩んできたのを感じた。

 紅也が目覚めた瞬間に抱きつきながら号泣するという年頃の少女には恥ずかし過ぎるアクションをしてしまった日から、明日香は紅也の顔をまともに見られなくなっていた。

 

 謎の感情に悩まされながらも、普段通りの接し方に戻せたことを安堵した。

 

(……前まではこんなことなかったのに)

 

 以前は感じなかった胸の高鳴りは、紅也が隣に居るだけでとてもうるさい。隣を歩く以上に密着したことすらある間柄だ。この程度の距離で何を動揺しているのか、明日香には分からなかった。

 

 そんなことを考えていると目的地に到着したらしく、賑やかな声が耳に届き始めた。

 

「いらっしゃい! 特製たこ焼きだよっ!!」

「焼きそば出来立てっ! 美味しいよ〜!!」

「綿菓子にりんご飴もありま〜す!!」

 

 明るい声が飛び交う《ラーイエロー》主催の出店。鼻を通るだけで空腹になりそうな美味しい匂いが充満しており、耳に聞こえてくる鉄板の音は食欲を刺激した。

 

「す、凄いわね」

「本当な。やる気満々だ」

「そういえば、竜伊くんは出し物の担当はないの?」

「俺は出し物決める時に意識不明だったから、やんなくていいって話に落ち着いたよ。天上院は? 出てくれって声は多かったんじゃないか?」

「私は……そういう気分になれなくて」

「……悪い。そうだな」

 

 少しばかり無神経な発言だったと謝罪する紅也。三幻魔復活を阻止するため、優秀なデュエリストとして明日香は鍵の守護者に選ばれた。"セブンスターズ"との戦いに神経をすり減らされ、学園祭にまで意識が向けられなかったのだろう。

 ただでさえ行方不明の兄との再会、そして恩人である同級生の一時的な失踪と、精神的にくる出来事が畳み掛けてきたのだから。

 

「俺が休んでる間にみんなが戦って、"セブンスターズ"も残りは1人。吹雪さんも記憶が戻ったみたいだし、今日ぐらいは鍵のことを考えないで楽しもう。気が張りっぱなしじゃ……って、原因の1つである俺が言えたことじゃないけどさ」

「……ふっ、ふふっ、本当にそうよ。ふふふっ」

 

 どうやらツボに入ったらしく、声を押し殺しながら笑う明日香。結果オーライと、紅也は自身の自虐発言を誉めた。

 

「腹減ってるだろ? 色々食べよう」

「ええ、実は朝ごはんも食べてないの」

「そりゃいい、たくさん食べられるな」

「……そんなに大食いじゃないわよ」

「ははっ、悪い悪い。──よし、最初は焼きそばにするか」

 

 不満そうに頬を膨らませた明日香。そんな彼女に軽く謝罪しつつ、紅也が焼きそばを扱っている出店を指差した。ソースの香ばしい匂いが近くまで漂ってきており、まんまと食べたくなっていた。

 

「焼きそば2つ頼む」

「はいよ! 焼きそば2つ……はいお待ち」

「???」

 

 2人を元気よく迎えた焼きそば担当の生徒。慣れた手つきでプラスチックの容器へ焼きそばを入れ、輪ゴムをかけた。笑顔で差し出し満点の接客かと思いきや紅也の顔を見た途端に豹変、どこか憎むような表情で焼きそばを手渡した。

 

 思わず固まる明日香だったが、当の紅也は気にした様子もなく焼きそばを受け取る。2つの容器を持ったまま、手頃なスペースへ移動した。

 

「おお、美味そう。はい、天上院の分」

「あ、ありがとう。……竜伊くん、あの人に睨まれてなかった?」

「そうか? 最近多いから気にならなかった」

「……なら良いんだけど」

「そんなことよりほら、冷めないうちに食べようぜ」

「結構本格的ね……」

「意外にこだわるんだよな。ん、美味い」

 

 モチモチとした食感の麺に、シャキシャキとした野菜。口に入れた瞬間に鼻を通るソースの香りも満足いくものであり、学生の出店で食べられる焼きそばとしては高レベルなものと言える。

 

「本当ね、美味しい」

「これぐらいの量だったらすぐに食べられるな。よし、次はたこ焼きだ」

「ええ、楽しみ」

 

 空になった容器を設置されているゴミ箱に捨て、次の出店へ向かう。すれ違う生徒達も様々な種類の食べ歩きをしており、目移りしてしまいそうだ。

 

「たこ焼きの店は友達がやっててさ。サービスしてくれるかも」

「そうなの。あの2人?」

「そうそう。おーい来たぞ、小原」

 

 店の前まで来た紅也達を迎えたのは、《ラーイエロー》トップの戦略家である小原だった。前髪を固定しているのは紅也から貰ったカチューシャではなく、出店に合わせた白いタオルとなっている。

 

「おおっ! 来たな紅也! それと……彼女か?」

「ち、違います!」

「おい、天上院に失礼だろ?」

「そうかそうか! 悪いな! サービスするから許してくれ。──大原! たこ大きめでいくぞ!」

 

 生地を流し込む小原の言葉に頷くのは、たこ係の大原。親友同士ということもあり、コンビネーションは抜群だ。

 

「ほいほいほい!! あらよっと!!」

「「おお〜!!」」

 

 華麗な手捌きで形が出来ていくたこ焼き。見ているだけでも楽しく、小原の技量が成せる技だ。

 

「はいお待ち! たこ焼き2人分! 友達サービスでたこ大きめだよ!」

「サンキュー。小原、大原」

「ありがとう」

「楽しんでくれな! 後で味の感想聞かせてくれ!」

「おう、分かった。じゃな」

 

 小原と大原に別れを告げ、近くにあったベンチへと移動する。学園祭のために用意されたので立派とは言い難く、2人座るのが限界といったサイズ感だ。そのため必然的に両者の距離は近くなり、明日香はまたしても原因不明の動悸に襲われそうになった。

 必死に感情を抑え込み、顔にも出さずたこ焼きを受け取る。たこの大きさで感動している紅也にほっこりさせられたのにも助けられた。

 

「んー、たこデカいなぁ」

「美味しい。鰹節もいい感じね」

「表面はパリッとなってるのに中は柔らかい。小原焼くの上手いな」

 

 青のりの風味も良く、パクパクと食べ進めていく2人。6個入りのたこ焼きはすぐに食され、満足感を残して姿を消した。

 

「「はぁー」」

 

 幸せそうな顔で息を吐く紅也と明日香。少しの潮風に吹かれながら食べるたこ焼きというのも、中々に悪くない。

 

「なんか一気に食べちゃったな」

「そうね。美味しかったわ、ありがとう」

「《ラーイエロー》の出店はレベル高いよな。……何か飲み物でも買ってこようか?」

「い、いいわよ。それなら私が行くし」

「今日は俺の奢りって話だろ?」

「……じゃあ、お茶を」

「分かった。少し待っててくれ」

 

 たこ焼きに刺さっていた爪楊枝と空になった容器を受け取り、紅也がゴミ箱へ捨てる。そのまま要望に応えるため、お茶を求めて歩いて行った。

 

「……ふぅ」

 

 肩の力を抜く明日香。緊張でガチガチになっている訳ではないが、無駄な力が入っていることも事実。そしてそんな時に限って考えないようにしていたことを思い出すのだから、人間の思考というのは上手く回らない。

 

(なんか竜伊くんを見てると……)

 

 ──落ち着かない。

 

 明日香の状態を表すなら、この一言に尽きる。

 本格的にそういった意識が芽生え始めたのは──やはり兄を救ってもらった時だろう。

 

 紅也がボロボロになりながら、文字通り命を懸けて戦ったことを明日香は知っている。不甲斐なく捕らえられ、ただ無力に見ていることしか出来なかったからだ。

 

(……いつも、助けられてるなぁ)

 

 友人として、デュエリストとして、命の恩人として。出会ってからというもの、なにかと助けられてばかり。行方不明の兄すら連れ戻してくれた時は、涙も堪えられなかった。

 

 意識を失い、倒れるまで戦ってくれた恩人。

 看病をしていた際は1日が長く感じ、気が気でなかった。そんな思いも知らずに勝手に次の戦いへ行かれれば、明日香としても心配で身が持たない。目を離せばどこかへ行っているのだから、まるで野良猫のような恩人だ。

 

「……ありがとうも、言えてないんだからね」

「なにが?」

「──ッ!!! た、竜伊くんっ!」

「お待たせ。どうした? 天上院」

 

 右手にお茶の入ったペットボトルを2本、左手には紙に包まれた何かを同じく2個持ちながら、不思議そうな顔をした紅也が目の前に現れた。

 呼吸が止まりそうになりながらも、明日香はどうにか自分を落ち着かせることに成功した。伊達に女王などと呼ばれていない。

 

「な、なんでもないわ。……お茶ありがとう」

「ああ。それとこれ、良かったら食べてくれ」

「これは……なにかしら」

 

 お茶を受け取り、喉を潤す明日香。冷えたお茶で頭も冷やし、動揺を抑え込む。その後紅也から差し出された白い紙に包まれた何かを受け取り、首を傾げた。

 

「『サンダー・ドラゴン焼き』」

「……えっ?」

「分かるよ。そんな顔になるよな」

 

 何を言われたのか分からないという顔をした明日香。そんな彼女に同意しながら、紅也は苦笑い気味に肩を落とした。

 

「お茶を買いに行った時に友達の神楽坂って奴が出店やっててさ。声かけられたから寄ったんだ。そしたら──『俺のサンダー・ドラゴン焼きは美味い! 買っていけ! 紅也!』……って、勢いで買わされた」

「そ、そうなの」

 

 紙を広げて中を見れば、そこには綺麗な焼き色がついた細長いタイ焼きのようなものが入っていた。

 

「なんというか……ええっと」

「無駄にクオリティ高いな」

 

 生地を流し込む型とかどうしたんだよというツッコミを入れたくなる程、神楽坂特製の『サンダー・ドラゴン焼き』は精巧に作られていた。鱗の1枚1枚まで丁寧に付けられており、雷のようなジグザグマークも美しい形を保っている。

 

 神楽坂から『サンダー・ドラゴン』への深い愛情を感じさせる一品に、紅也と明日香はどう反応していいか分からなかった。視線を合わせ、意を決して口をつけた。

 

「……美味しい」

「……美味いな」

 

 小声で呟く2人。もっちりとした皮は歯を拒むことなく優しく迎え入れ、中に入っている濃厚なクリームが香りと共に舌を楽しませる。クリームを見てみれば鮮やかな黄色をしたカスタードクリーム、『サンダー・ドラゴン』愛は細部にまで感じさせられた。

 

「──食った食った。満足だ」

「ふふっ、そうね。私もお腹いっぱい」

 

 ベンチにもたれながら、伸びをする紅也。そんな様子を見ながら、明日香も笑みを浮かべる。

 

「ありがとう、竜伊くん。全部美味しかった」

「どういたしまして。……それにしても、久しぶりにまったりしてる感じがする」

「あっ……。その、竜伊くん」

 

 お礼を言うなら今だと、明日香は身構えた。兄である吹雪を助けてくれたことに対して、しっかりとした感謝を伝えるのだと。

 

 ──しかし、その前に紅也が口を開いた。

 

「さて、そろそろ次行くか」

「えっ、あっ、その」

「実は翔に呼ばれてるんだよ。《オシリスレッド》の方にも来てくれって」

「……そうなの。……そっか」

 

 出鼻をくじかれ、黙ってしまう明日香。《オシリスレッド》に行くということは2人きりの時間も終わりだろう。そういった意味でも、明日香のテンションは下がった。

 

「聞いたら面白そうなことやってるらしいぞ」

「……どんなこと?」

 

 少し拗ねたような明日香の質問にも、笑顔で答える紅也。寝たきりの時間が続いたからか、自分が思うよりも学園祭を楽しんでいるようだ。

 

 

「名物──"コスプレデュエル"だってさ」

 

 

 

 




 ほのぼのを続けたくて学園祭が1話で終わりませんでした。久しぶりに本格的な登場をした明日香を楽しんで頂けたら幸いです(笑)。

 そしてこの小説のお気に入り登録が10000人を超えました!
 投稿し始めて約3ヶ月、こんなにも多くの人に読んでもらえるとは思っておらず、嬉しいながらも困惑しております(笑)

 完結させたいと改めて思ったので、これからも応援よろしくお願いしますm(_ _)m


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〜超魔導コスプレ〜

 

 

 

 

 

 デュエルアカデミア高等部に在籍している生徒達は所属する寮によって3つのランクに分けられている。

 

 デュエルアカデミア中等部から進学した者達が所属しているエリート集団──《オベリスクブルー》。

 高等部からの編入生も混ざっている、成績優秀者達の集団──《ラーイエロー》。

 

 この2つの寮のどちらかに所属出来ていれば、落第の心配もなく快適な学園生活を送れることだろう。

 

 しかし、最後に残ったレッドゾーン──《オシリスレッド》だけは話が別だ。

 

 筆記・実技共に成績は最低レベル、常に落第の2文字が付き纏う崖っぷちな生徒達が集められている寮だ。だからといって、寮を建てる場所まで崖っぷちなのは普通にやり過ぎだが。

 

 アカデミアの校舎から最も離れている寮ということもあり、《オシリスレッド》は学園祭の最中でも賑やかさで他に劣っている。そんな状況を打破するため、とある男が立ち上がった。

 

 

「──お願いしますっ!! 明日香さん!!!」

 

 

 お手本のように綺麗な土下座をしながら、丸藤翔は全力で叫びを上げた。聞いた者を狼狽えさせる迫力を秘めた声は、向けられた本人である明日香を確実に動揺させた。

 

「またストレートだな。翔」

 

 丸見えのつむじに視線を落としながら、少し呆れたように紅也が告げる。呼び出されて来てみればこの急展開、そんな反応をするのも無理はない。

 

「紅也くんが明日香さんとデートしてるなんて羨まし……じゃなくて、嬉しい誤算っス。どうか僕ら《オシリスレッド》のために明日香さんのお力を貸して欲しいんです!!」

「デ、デートじゃないわよ! ……それに、力を貸して欲しいって」

「《オシリスレッド》名物のコスプレデュエル! 盛り上げるためには華が必要なんスッ! そして華と言えば明日香さん以外には考えられません! どうか助けてください!!」

 

 "セブンスターズ"との戦いで消耗した体力と精神。翔にとって尊敬するアニキの十代ですら、《オシリスレッド》寮長である大徳寺の失踪によって普段の明るさが薄れてしまっている状況だ。

 翔は鍵の守り人ですらない自分に出来ることを考え、こうして実行に移していたという訳だ。

 

「そ、そんなこと言われても……竜伊くん」

 

 あまりにも覚悟を決めた翔の言葉を聞き、明日香は助けを求めるように紅也へ視線を向ける。しかし、その紅也は逆に助けてもらいたい状況だった。

 

「……あの、近いんですけど」

 

 ガッシリと肩を組まれ、密着されている紅也。身長差があるため、完全に押さえ込まれている。紅也が明日香と共にここに到着し、翔へ声をかけたのと同時に肩を組みに来た男──天上院吹雪はとびきりの笑顔で返答した。

 

「いや〜君の噂は聞いてるよ、竜伊紅也くん。ずっと君に会いたかったんだ」

「そ、それはどうも」

「体調を崩して寝込んでいるという話だったからね。もう大丈夫なのかい?」

「は、はい。大丈夫です」

「そうかい! それはなによりだ!」

 

 白い歯を光らせながら、高らかな笑い声を上げる吹雪。記憶を取り戻したことにより、溢れ出るアイドル性が完全に戻っていた。

 自身とは違い過ぎる人種に戸惑う紅也をフォローすべく、明日香が声を上げた。

 

「兄さん! 竜伊くんが困ってるでしょう!」

「明日香が世話になっただけでなく、僕も助けてもらっているらしいからね〜! 会えて嬉しいんだよ!」

 

 ダークネスに操られていた時の記憶は残っていないらしいが、助けられたという話から紅也に恩を感じているようだ。

 

「どうだい? 僕の妹、明日香は可愛いだろ?」

「……へ?」

「兄としては寂しいが……紅也くん。君になら、明日香を任せられ──」

「兄さんッ!!!」

「ああっ! 明日香! 耳はやめてくれ! 僕はただ未来の弟とのスキンシップを取ろうと」

「必要ありません!」

 

 割とすぐにキレた明日香。素早い動きで吹雪の耳をグイッと摘むと、力任せに紅也から引き剥がした。ペラペラと出てくる吹雪の言葉を一刀両断し、僅かに頬を赤く染めながら紅也へ言葉を放った。

 

「ごめんなさい、竜伊くん。こんな兄で」

「い、いや、平気だ。強烈なお兄さんだな」

「おっと紅也くん? お兄さんだなんて気が早いな」

「兄さん、これ以上変なこと言うならベッドに縛り付けるわよ?」

 

 絶対零度の眼で睨みつけ、吹雪を黙らせる明日香。完全に兄へ向けていい類の視線ではなく、吹雪だけでなく紅也も固まった。

 

「あーっ! もうー!! そういうのは後にして欲しいっスっ!! 今はとにかく明日香さんに力を貸してもらって、コスプレデュエルを盛り上げたいんス! この通りです!!」

 

 凍結しそうになっていた空気を切り裂いたのは、土下座しながら顔だけ上げるという器用な体勢で叫ぶ翔だった。吹雪への睨みを中断し、明日香が再び疑問を投げかける。

 

「私に力を貸して欲しいって言うけど……私はレッドじゃなくてブルーよ?」

 

 そもそも所属する寮が違うという尤もな意見だったが、それに返答したのは翔ではなく吹雪であった。

 

「良いんじゃないか? 明日香のコスプレなら僕も見たいぞ。それに……君も見たいだろう? 紅也くん」

「……そ、そうなの? 竜伊くん」

 

 学園でもトップクラスの顔面偏差値兄妹に視線を集中され、紅也は無防備なダイレクトアタックを受けている気分になった。整い過ぎている2つの顔に見つめられて削れる精神、紅也は正直な意見を述べた。

 

「て、天上院のコスプレなら……俺も見たいな」

 

 記憶にもあまり残っていないコスプレデュエル。学園祭の空気に触発されたのか、紅也は珍しく欲望に従った。

 

「……竜伊くんがそう言うなら」

「おおっ! 流石は我が妹! 翔くん、早速衣装のある部屋へ案内してくれ」

「はいっス! やったやった! 明日香さんの『ブラック・マジシャン・ガール』だぁっ!!」

 

 翔にとって最高のアイドル、『ブラック・マジシャン・ガール』。

 デュエルモンスターズの中でも多くの男性ファンを獲得しているモンスターに明日香のような美少女がコスプレすれば、間違いなく集客の要になる。

 

 明日香の手を引き、教えられた衣装部屋に歩き出す吹雪。本当に楽しそうな笑顔をしており、明日香も満更ではなさそうだ。

 紅也は無事に再会出来た兄妹を見て達成感と微笑ましさを感じながら、喜びのあまり大粒の涙を流している翔の肩に手を置いた。

 

「良かったな。翔」

「うん! 紅也くんが明日香さんを連れて来てくれたお陰っス! ……もう1人の候補に断られた時はどうなることかと思ったっスよ」

「もう1人の候補? 誰か他にも頼んだのか?」

「うん。最近購買部で働くようになったカミューラさんっていう人! 美人でスタイル良いし、絶対似合うと思ったんス。一瞬で断られたスけど」

「それは無理だな。『私は暇じゃないのよ』とか言ってそう」

「えっ? なんで分かったんスか?」

「……言ってたのかよ」

 

 不思議そうに首を傾げた翔へただの偶然だと言い訳しながら、紅也は知り合いの単純さにため息を溢した。学園祭の影響で購買部も忙しいということを考えれば、カミューラの発言も間違ってはいないのだが。

 

「さあさあ! 紅也くんも衣装部屋に行くっスよ! 僕、紅也くんのためにとっておきのコスプレ衣装を用意したっス!」

「分かったよ、そんな慌てるなって。──おっ、十代と三沢」

 

 紅也は犬のようにはしゃぐ翔を落ち着かせながら、レッド寮の2階からこちらに手を振る十代と三沢に手を振り返す。

 

「……2人とも元気そうだな」

 

 紅也が気絶した後、明日香、万丈目と同じく"セブンスターズ"を倒した十代と三沢。闇のデュエルに挑んだことから体調を心配していたが、必要なかったようだと安堵。紅也は翔の背中を追って衣装部屋へと向かった──のだが。

 

 

「これは……酷いな」

 

 

 人が絶望するのに時間は関係ない。

 紅也はそれが事実であることを、床に倒れた翔を見て確信した。

 

「お、おい、翔。元気……は出ないよな」

「あ゛あ゛ァァァァァァ」

 

 ショックが大き過ぎるのか、言葉すら出てこない翔。

 紅也は無理もないと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、静かに同情した。

 

「……トメさん、来てたんですね」

 

 とびきりの笑顔で衣装部屋に飛び込んだ翔を出迎えたイレギュラー。それはよく知る顔のトメであり、更にはよく知る衣装をギリギリで身に纏っていた。

 

「うふっ、『ブラック・マジシャン・ガール』は私の十八番だからねぇ。毎年こうして盛り上げに来てるんだよ」

 

 露出は多いがいやらしさは感じさせない、とても完成されたデザイン。衣装自体は素晴らしいのだが、これが『ブラック・マジシャン・ガール』かと聞かれれば断固として首を横に振るしかない。

 

「ほら、似合うだろぉ? ──あれ」

 

 ビシッとポーズを決めたトメだったが、同時に衣装もビシッと裂けた。あの衣装にとってトメの肉体は限界値を超えていたらしい。

 思わず石化する紅也、十代、三沢、明日香、吹雪の5人。衝撃的な光景を見ることもなかったため、翔が床に倒れ伏したままでいたのは不幸中の幸いだったかもしれない。

 

「去年はピッタリだったんだけどねぇ……縮んだ?」

「「「いやいやいやいや」」」

 

 シンクロした動きで手を振る紅也、十代、三沢。後ろから見ていた明日香と吹雪も困ったような顔をしている。

 そんな中でもトメは自身が太ったということを微塵も考えず、残念そうな顔をして購買部に帰っていった。

 

 ──丸藤翔に、深いトラウマを植え付けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「おお〜っ!」」

 

 狭い部屋に響く2人の男の声。コスプレ衣装に着替えた明日香を見て、紅也と十代が同時に発したものであった。

 先程精神に大ダメージを受けた翔は感動のあまり涙しており、明日香に向かって何度も頭を下げていた。

 

「感激っス……感激っス」

「も、もう、翔くん。恥ずかしいからやめてよ」

「すっげぇっ! すっげぇっ! 紅也! 三沢! 俺達もコスプレしようぜ!」

「悪くないな。俺もするとしよう」

 

 間近でコスプレを見てテンションが上がったのか、十代と三沢が衣装の山に駆け寄っていく。紅也はそんな彼らを微笑ましく思いながら、明日香のコスプレをジッと眺めた。

 

「『ハーピィ・レディ』か。意外だったな」

「女性向けこれしかなくて……ちょっと派手かな?」

 

 金色のアーマーに身を包み、紫色の翼を腕から生やしている。全体的な露出は少なめだが、肩と胸元が出されており女性的な色気が放たれている。髪を縛っていることもあり、うなじが見えているのも魅力を上げていた。

 

「よく出来てるな。……これ付け耳かぁ」

「──ッ! ちょ、ちょっと……竜伊くん」

 

 尖った付け耳に手を伸ばし、優しく触る紅也。完成度の高さに好奇心が止められなかったようだ。明日香が恥ずかしそうに声を上げると距離の近さに気付いたのか、紅也は慌てながら手を離した。

 

「わ、悪い! ……その、よく似合ってる……と思う」

「そ、そう……ありがとう」

 

 とても破壊力のある姿と顔を見せられ、緊張してしまった紅也。照れながらもなんとか褒め言葉を口にすることが出来た。男としての最低限は果たせたようだ。

 素直に褒められた明日香も、紅也と同じく頬を染める。翼で顔を隠す様はとても可愛らしい。

 

「た、竜伊くんはコスプレするの?」

「……そうだな。せっかくだしやってみるよ、翔がとっておきの衣装を用意してくれたって話だしさ」

「期待して欲しいっス! ちょっと取ってくるっスね!」

「そっか。楽しみ」

 

 翔が戻ってくるのを2人が談笑しながら待っていると、翔よりも先に十代と三沢が戻って来た。三沢は分かりやすく『切り込み隊長』だが、十代はゴチャゴチャした格好をしており、異様としか表現しようがない姿だ。

 

「じゃーん! どうだ! 紅也、明日香。似合ってないか?」

「……なんだそのコスプレ。三沢が『切り込み隊長』なのは分かる」

「魔法使いの帽子に戦士の鎧……盾に杖まであるわね」

 

 冷静に十代が身に着けている物を分析する明日香。見れば見る程ぐちゃぐちゃであり、最早新たなモンスターと言った方が正しいとさえ思える。

 

「あははっ、色々迷ってたらこうなっちまった。もう何にコスプレしたのか俺にも分かんねぇ」

「ふっ、十代らしいな。紅也はコスプレしないのか?」

「衣装を翔が持って来て……くれたな」

 

 魔法戦士のような感じで、見る人が見れば好きかもしれない。そんな感想を抱きながら、紅也は大きめの箱を持ちながら帰って来た翔に視線を向けた。

 

「これこれ! 紅也くんのコスプレ衣装っス!」

「おおっ! 良いじゃん! 紅也、早く着替えてくれよ!」

「気になるな」

「分かったよ。何が入ってんのかな」

 

 予想を立てつつ箱の中身を見てみると、やはりというかなんというか、紅也が予想していたモンスターのコスプレ衣装が入っていた。期待を裏切らない翔に感謝しつつ、制服を脱いで衣装を着た。

 

「うおーっ! 最高じゃん!」

「ああ、良いコスプレだ」

「思った通り、似合うっスね!」

「ええ、とってもよく似合ってる。やっぱり竜伊くんと言えば……このモンスターしかないわよね」

 

 4人から賞賛され、紅也は少し気恥ずかしさを感じる。しかしそれ以上に嬉しさが勝っており、衣装の具合を確かめるかのように手を動かしている。

 

「……『真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)』。こうして自分がなることになるとはなぁ」

 

 前世に存在していた()()()()()()()()()()を思い出しながら、自身の格好に笑う紅也。トゲトゲとした身体に、明日香と同じく背中には2本の翼が生えている。手の爪や尻尾も再現度は高く、紅也は普通にテンションが上がっていた。

 

(……似合うか?)

 

 返事をするように震えるデッキケース。どうやら相棒も満足な様子だ。十代にバレるのを防ぐため精霊化は出来ないが、感覚がリンクしているためレッドアイズにもコスプレ姿を見せることが出来た。

 

「でも頭はないんだな。用意しなかったのか? 翔」

「違うんスよアニキ。レッドアイズの頭って難しくって、時間足りなかったんス」

「ええっ! これって翔くんが作ったの!?」

「……凄いな。翔」

「えへへっ、そうスか?」

 

 まさかの手作りに驚く紅也達。これだけのハイクオリティで仕上げようとしたのなら、頭部が間に合わなかったという話も納得がいく。

 

「──なら、こういうのはどうだ?」

 

 何かを思いついたのか、三沢が動いた。箱に入っていた『ブラック・マジシャン』の帽子を紅也に被せた後、十代が持っていた杖を構えさせた。

 

「よし、悪くない」

「……いや、なにこれ?」

 

 満足気に頷く三沢に、冷や汗を流しながら訊ねる紅也。自身のコスプレしているモンスターが──ヤバいことになっている気がしたからだ。

 

「『真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)』と言えば城之内克也。その城之内克也の生涯の友と言えば、決闘王(デュエルキング)・武藤遊戯だ」

 

 講義でもするかのように語り出す三沢。驚愕でそれどころではないが、紅也はなんとか耳を傾けていた。

 

「かの有名な『ブラック・デーモンズ・ドラゴン』は城之内克也と武藤遊戯の友情が合わさった伝説のモンスターとされている。ならば、『真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)』と『ブラック・マジシャン』が合わさっても……友情のモンスターと呼べるだろう?」

「おおっ! 確かに!」

「互いのエースモンスターが融合なんて素敵ね!」

「絶対カッコよくて強いっス!!」

 

 三沢の言葉に興奮しながら賛成する十代達。コスプレしている本人とは真逆の顔をしている。

 精霊など宿っていない筈だが、紅也は何故か自室の金庫に入れてあるカードが騒いでいるような気がしてならなかった。

 

「融合モンスターならさ、レッドアイズ専用の融合カードとかあったら良いよなっ!」

(……ある)

「攻撃力は3000ぐらいが妥当かしらね」

(……あってる)

「効果もとんでもなく強い筈っスよね!」

(……その通りだよ)

 

 それぞれの意見に内心で頷く紅也。何故かピンポイントで当てにくる友人達に恐怖しながら、転生者かよというツッコミをなんとか押さえ込んでいた。

 

「種族はドラゴン……いや、決闘王に敬意を表して"魔法使い"族が良いか」

「そ、その辺で良いんじゃない? もうこの話」

「名前をどうするか」

「話聞けよ」

 

 わいわいと盛り上がる面々。新しいモンスターの想像が楽しいのは理解出来るが、紅也にとってはあまり盛り上がってほしくない話題だ。そんなにキラキラした顔で話すようなモンスターではないのだから。

 

「『真紅眼の魔法竜(レッドアイズ・マジシャンドラゴン)』……ではありきたりだな」

「でもレッドアイズは入れたいよな!」

「マジシャン・オブ・レッドアイズとかどうかしら?」

「「いいね!!」」

「魔法使いって魔導士とかとも呼べるっスよね。……魔導士。……ドラゴンだから竜とか付けて魔導竜とかどうスかっ!?」

「「「カッコいいっ!!!」」」

「……ご、強引じゃない?」

 

 もう止まらない4人。声をかけて静止することもせず、紅也はただ突っ立っていた。

 

「エースモンスター同士の融合なんだ! "超"って付けようぜ!」

 

 十代の小学生レベルな発言にも、特に反対の声は上がらない。全員が本当に楽しそうな笑顔で、年相応の無邪気さを見せている。

 言い出しっぺだからか、三沢が普段の冷静さも見せずに結論をまとめる。死んだ眼をした紅也を指差し、新たなモンスターの名前を叫んだ。

 

 

「これで決まりだ! そのモンスターの名前は──『超魔導竜ーマジシャン・オブ・レッドアイズ』だっ!!」

 

 

 ──紅也は全てを受け入れた。

 

 

 

 

 

⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎

 

 

 

 

 

(……つ、疲れた)

 

 疲弊しながら丸太へ腰掛ける紅也。既に辺りは暗くなっており、生徒達は祭りの空気を楽しみながらキャンプファイヤーを囲んでいる。

 

 原作通りに十代と『ブラック・マジシャン・ガール』が白熱したデュエルを行い、コスプレデュエルは大成功を収めた──までは良かった。

 精神的疲労からデュエルに名乗りを上げなかった紅也だったが、予想もしなかったアクシデントに見舞われたのだ。

 

 ──『ブラック・マジシャン・ガール』襲来。

 

 ぐいぐいと距離を詰められながら言いたいことを言った後、勝手に満足して『お師匠様の匂いがしたと思ったんだけどな〜』という一言を残して去っていった。短い時間だったが、紅也にとっては非常に辛い時間であった。

 十代に目撃されなかったため、精霊が視えることを知られなかったのが不幸中の幸いだった。

 

(……()()()()()()()、ね)

 

 懐のデッキケースに服の上から手を当てながら、なんとも言えない表情になる紅也。昼間のコスプレといい、今日は心臓に悪い日だ。

 

 紅也がキャンプファイヤーを見ながらしばらく放心状態でいると、後ろから声をかけられる。

 

「竜伊くん。ここに居たのね」

「天上院。……コスプレはもう良いのか?」

 

 紅也が振り向いた先に立っていたのは明日香。服装はいつもの制服に戻っているので、『ハーピィ・レディ』のコスプレは終了したようだ。

 先程まで友人のジュンコとももえの3人で『ハーピィ・レディ』3姉妹を披露しており、多くのファン達がカメラを構えて真剣な眼でフラッシュを連発させていた。

 

「え、ええ。……恥ずかしかったわ」

「吹雪さんもめっちゃ撮ってたな」

「わざわざ自前のカメラ持ってくるんだもの。1番楽しんでたわよ」

「ははっ、愛されてるな」

 

 少し見ない間に妹がこんな美人になって嬉しいぞ〜、などといった感想と共に激写。吹雪は自前のカメラを思う存分に活用していた。

 

 恥ずかしいのか顔に手を当てる明日香。隣に座っても良いかという彼女の言葉に頷き、紅也は腰を浮かせて明日香が座れるようにスペースを空けた。

 

「……学園祭も、もう終わりだな」

 

 隣に座る明日香のみに聞こえる声量で紅也が呟く。周りに生徒達も居ないため小声にする必要性はないのだが、祭りの終わりが近付いている空気感がそうさせた。

 

「そうね。……今日は楽しかった。誘ってくれてありがとう、竜伊くん」

「俺も楽しかったよ。最近寝てばっかりだったからな」

「……」

 

 ここ数日間はベッドの上で過ごしていた紅也。珍しく素直に楽しかったという言葉を使っていることから、本心であると分かる。

 そんな紅也の顔を横から見つつ、明日香は感謝の言葉を放つタイミングが今であると確信。デュエリストとしてタイミングを逃さない能力は磨いてきた。その本能が今であると告げたのだ。

 

「た、竜伊くん」

「……ん?」

 

 キャンプファイヤーに奪われていた視線を明日香へ向ける紅也。疲れたのか、少し眠たそうな眼をしている。

 意志が揺らぎそうな顔を見せられるも、明日香は気を強く持ち口を動かす。この場を逃せばチャンスはない。自身にそう言い聞かせ、紅也に対して頭を下げた。

 

「兄さんを助けてくれて……ありがとう」

 

 頭を下げているため、紅也がどんな顔をしているか明日香には分からない。あまり嬉しそうな顔はしていないだろうと予想しながらも、明日香は言葉を続けた。

 

「ボロボロになって傷付いて……それでも貴方は戦ってくれた。……そして、助けてくれた」

 

 生徒達の騒ぐ声が耳から遠くなっていく。

 今顔を上げれば情けない表情を見せることになると、明日香は頭を下げたままでいた。

 

「……本当にありがとう」

 

 最後まで感謝を込めて、明日香は言い切った。急激に恥ずかしさが込み上げてくるが、不快感などある筈もない。達成感にも似た何かを感じつつ、明日香はゆっくりと顔を上げた。

 

 

 ──そして、息が止まった、

 

 

 夜の闇とキャンプファイヤーによって作られた影、隣同士という近距離でなければ視認することは出来なかっただろう。

 優しく、温かく、それでいて柔らかい。見ただけで胸がざわつくというのも単純な話だ。そう自虐することで、明日香は心の平穏を取り戻そうとした。

 

「はい、どういたしまして」

 

 平穏が戻るどころか、ざわつきは加速した。

 キャンプファイヤーのお陰で顔が赤いことも誤魔化せている。そんな風に思わなければ、明日香は羞恥に耐えられなかった。

 

 明日香の気も知らず、満足そうな笑みを浮かべる紅也。ストレートに感謝されたことが素直に嬉しかったのか、珍しく緩い表情をしていた。

 

「良かったな。天上院」

「……え、ええ」

 

 紅也の顔を直視出来ず、明日香は足元へ視線を逸らした。自身の青色のブーツが視界に入るのと同時に、紅也の靴も見えた。近距離に居るということを視覚情報で伝えられたようで、明日香は更に動揺する。

 

「あ、あのね。竜伊くん」

 

 そして決心する。

 騒ぐ心をそのままに、明日香は紅也へ向き直った。

 

「1つ……お願いがあるの」

 

 途切れそうになる言葉をなんとか繋ぎ、潤んだ瞳で視線を合わせる。その辺の男子生徒であれば速攻で勘違いをし、速攻で告白し、速攻で玉砕していただろう。精神年齢25歳の男でさえ、空気を察して頬を赤く染めているのだから。

 

 思わず見惚れてしまう横顔に魅了されながら、紅也の耳に届いた言葉は──予想外の一言だった。

 

「竜伊くんのこと……()()()()()()()()()?」

「……えっ?」

 

 考えもしなかった展開に思考が止まる紅也。学園祭の終わり、キャンプファイヤー、楽しさと寂しさが混同する独特の雰囲気。そんな青春真っ只中のこの場で、紅也は思いっきり肩の力が抜けていた。

 

「そ、それが……お願い?」

 

 こくりと頷く明日香。耳まで赤くなっていることから、咄嗟に照れ隠しで言ったという訳でもなさそうだ。

 

「あ、ああ〜、そういうことね。うん、なるほど」

「竜伊くんと知り合ってもうすぐ1年は経つし……。そろそろ名前で呼びたいというか──も、もちろん! 無理にとは言わないけど!!」

 

 遠い目をしながら己の愚かさを恥じる紅也に、明日香が慌てて理由付けをする。第三者から見ればイチャついてるようにしか見えないが、当人達にそんなつもりは全くない。

 

「いや、名前は全然呼んでもらって構わないんだけど」

「本当っ!?」

「お、おお。もちろん」

 

 勢いよく距離を詰められ、狼狽える紅也。

 明日香も自身の行動に驚いたのか、すぐに身体を離した。

 

「ご、ごめんなさい。……紅也くん」

「…………」

 

 あまりの衝撃に固まる紅也。

 名前呼び程度で過剰だ、小学生か。などと自身を叱責するが、耳に届いた甘美な声が紅也の思考を鈍くさせる。

 恥ずかしそうに照れながら、あの天上院明日香が名前を呼んでくれたという事実は──想像を絶する破壊力を秘めていた。

 

「……紅也くんも、呼んでくれる? 私の……名前」

 

 学園祭という非日常が作る空気感に背中を押されるように、勇気を出した明日香が訊ねる。不安と期待を宿らせた瞳を紅也へ向け、答えを聞き逃さないように耳を傾けていた。

 

(な、名前!? ……名前か)

 

 そしてこういった状況に耐性がないヘタレは、内心めちゃくちゃ焦っていた。とびきりの美人からこんなことを言われれば、自身に気があるのかと勘違いしても無理はないのだから。

 

「ど、努力します……」

「……ふふっ、ありがと」

 

 そんな情けないヘタレに明日香は優しく微笑みを向ける。感謝を伝えることが出来ただけでなく、関係性も深まったと喜んでいるようだ。

 

 夜空を彩る星々の下、周りの声も消えて2人だけの会話が続く。

 戦いを忘れ──つかの間の平穏を噛み締めるように。

 

 

 

 




 黒竜達『はぁ〜〜〜???(呆れ)』

 書きたいことが多過ぎて書くの時間かかりました……。上手くまとまっているか分かりませんが、楽しんでもらえたら幸いです。

 あと最近MDで憎きデスフェニ相手に黒炎弾を決めて、勝利することが出来ました!
 墓地の復活の福音でレッドアイズを破壊効果から守ってからだったので、めっちゃスカッとしました!やはり黒炎弾は最高です……。


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