何のとりえも無い少女が異世界で生き抜くお話(チート能力は無い模様) (カルデアの廃課金マスター)
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1冊目

久しぶりの投稿なので初投稿です。リハビリなので亀投稿。


:月」日

 気が付いたら視界がぼやけてる。何が起こってるか全く理解不能。

 とりあえず、眠たいのでお休み。

 

 

@月:日

 良く分からないまま数日が過ぎた?

 疑問形なのは私でもどのくらい過ぎたのか分からないから。思考が纏まらないし、本能に従うままに寝ている時間が増えたからだと思う。

 というわけで、今日もお休み。

 

 

うj月bn日

 毎日?起きるたびに思考を巡らせている。

 ほんの少しずつ状況が把握できている……と思いたい。

 分からない事だらけだけど、分かってるのは私と言う存在が消えずに生きている事。

 これだけでも安心するのでお休み。

 

 

h月Ⅼ日

 何となく視界が安定して来た気がする。

 そして、段々と状況が理解できたかも?

 私は転生と言う空想上の出来事を体験してしまった……ZZ。

 

 

g月gび日

 寝落ちしてしまった。

 昨日は色々と考えこんでしまったからかな?

 ともかく転生だよ。

 転生…輪廻転生が真っ先に頭に思い浮かぶけど、我々オタクが真っ先に思い浮かぶ転生とは二次創作やら小説やらで一種のジャンルを築き上げている転生だ。

 

 

H月d日

 昨日は興奮して直ぐに眠くなってしまったらしい。

 転生と言っても断言は出来ていない。

 なぜなら、私が得ている情報は極端に少ないから。

 目に映るのはぼやけた光、耳から聞こええる音は環境音と全く聞きなれない話声。

 これじゃあ殆ど情報が無いのと同じだ。

 ただ、この状況を総合的に判断した結果、これはライトノベルや二次創作によくある転生なのではないか?と判断したまで。

 おばあ……ZZZZ

 

 

f月h日

 物事を多く考えすぎてしまったらしい。

 私の頭は一度に沢山の事を思考するにはまだ至っていないと言う事だろうか?

 こんな経験をするのも珍しいと思うし、私も聞きかじった程度の知識しかないのが残念だ。

 

 昨日はどこまで考えたか……。

 転生と判断したものの目が見えない以上確定してない、と言った所までだった。

 私もネット小説やライトノベルはそれなりに嗜む方。

 ただ、最近は忙しく中々手を付けられずにいた。

 私の知識は専らおばあちゃんが語ってくれた事のみ。

 未来予知をしていた訳ではないと思いたいけど、おばあちゃんの言葉には重みがあった。

 だから色々と覚えていいるのだろう……。

 

 

s月F日

 センチメンタルになっていた。

 あれこれ考えても仕方が無いので、何かしら目が見えるまで待つことにする。

 人はそれを『問題の先送り』と言う。

 

 

 

 

 

d月さ日

 多分数か月経った。

 ぼやけた視界はいつの間にか正常に機能するようになった。

 それで分かった事がいくつかある。

 

 まず、転生は間違っていなかった事。

 ある時私の手が視界に入ると違和感があった。

 確かに人よりも白く柔らかい肌をしていた、と客観的にも理解していたけど、今の手は小さくて弱弱しい赤ん坊のお手てだ。

 ぼんやりと手の平を握ったり開いたりを繰り返すと嫌でも理解する。

 あぁ、転生したんだな…って。

 

 

1月v日

 転生したと言う事は私は前世で死んだということだ。

 理由は分からない。

 最後に覚えてる記憶は……何だっけ?

 思いだそうとしても思いだせなかった。

 普通に学校に行く毎日?

 それとも職場?

 寝てる間にしては寝る前の記憶が無い。

 ……怖い。

 確かに私は日本人で女子高校生で過ごしていた記憶がある。

 同時に、何かしらの仕事に就いている記憶もある。

 でもそれは直前の記憶なのかは分からない。

 私と言う人生を無垢の赤ん坊に注ぎ込んだような……。

 怖い怖い怖い。

 

 

 

d月あ日

 精神的に不安になったからか、昨日は大泣きして疲れて寝てしまった。

 羞恥心でふて寝する。

 

 

 

hn月h日

 転生したことに関して深く考えないようにした。

 その他、現状で理解している事を紹介していこう。

 

 赤ん坊と言う親が居る。

 段々と見えてきた目でしっかりと確認しました。

 パパは茶髪のイケメン。多分20代前半?

 ママは金髪の美人さん。歳もパパと同じ位だと思う。

 二人ともお若いですな……。

 この世界では普通なのかな?

 

 肝心な名前は分からない。

 っていうか、言語が聞き取れない。

 当たり前だけど日本語では無いし、英語やフランス語・ドイツ語でもない感じ。

 まあ、英語以外は聞いても分からないんだけどね。

 ここは時間が解決してくれるはず。

 

 最後の一つ!!

 なんと!!

 

 

 

う月fl日

 ママに寝かされた。

 おっぱい飲んだら眠くなるのは仕方ないよね。

 あ、ママは巨乳だ。

 私にもその遺伝子が流れていると考えたらニヤニヤが止まらない。

 前世の私はいわゆる貧乳に属する大きさだったからなおさらだ。

 前世も遺伝子らしいので信じていいだろう!

 

 それで分かった事の最後。

 私とは別にもう一人の赤ん坊がいる。

 パパとママが私と同じようにあやすので、恐らく家族。

 同じ赤ん坊なところから1歳差の姉弟か双子。

 1歳差には感じられないから双子が濃厚かな?

 この辺りは追々分かるだろう。

 

 前世ではなり得なかったお姉ちゃんになるんだ!!

 

 

 

 

 

 

。月あz日

 多分数か月経過した。

 非常にマズイ事態が起こってしまった。

 弟が喋ったのだ。

 まだ単語までは至っていないが、パパとママは時間の問題だと思ってるみたい。

 対して私?

 未だに言語の聞き取りが出来ていないし、口や舌が発達してないのもあるだろう。

 私も何か言えよ!!

 

 

 

あ月l日

 ダメだ。

 弟はハイハイが出来るようになった。

 対して私は未だにママの腕の中。

 弟は簡単な単語をたどたどしく口に出すようになった。

 対して私は未だに言語理解が追いついていない。

 姉より優秀な弟は存在しない!!!はずなのに!?

 

 

 

g月jh日

 ようやく脳の発達が追いついてきたのか、パパとママがよく口にする単語が聞き取れるようになってきた。

 そう名前だ。

 私の名前はオシィらしい。

 可愛くない。

 

 双子の弟の名前はルディと言うらしい。

 こっちは名前らしい。

 パパはパウロ、ママはゼニスと言う。

 見た目から分かっていたことだけど、外国人っぽい名前だ。

 あともう一人、リーリャと言うメイドが居る。

 裕福な家庭なのだろうか?

 

 

 

j月物日

 朗報!!

 遂に言語を理解し始めた!!

 まだ完璧にはいかないが、後は時間が解決してくれるはずだ。

 我が弟であるルディ君は既に家中を探索してる。

 私も早く自由に動ける様になりたいものだ。

 首は動かせるが、ずっと同じ場所に居続けるのも辛いんだよッ!

 

 

 

あ月jhん日

 良い事は連続して起こる。

 それを私は提唱していこうと思う。

 言語を理解し始めてから少し。

 遂にハイハイが出来る様になった。

 これで私も自由に動ける!!

 

 

 

d月ぽい日

 言語を理解すると、パパウロの毎晩読み聞かせが楽しくなった。

 私が理解を示す前から読み聞かせは行ってくれていたのだけど、意味が分からなければ面白くもない。

 これで楽しめる。

 パパウロが読み聞かせてくれた本は二つ。

 『ペルギウスの伝説』と『三剣士と迷宮』

 両方とも物語。

 読み聞かせとしてはベストチョイスだ。

 私もそちらの方が有り難い。

 

 

月月ふぁ日

 自由に動ける様になったからと言ってルディほど私は動かなかった。

 目が届く範囲で遊んでた方が世話する身としてはありがたいはずだからだ。

 前世で親戚の子供を預かった時の教訓だ。

 ふと目を離した時に消えてると、その時の不安感は半端ない。

 特に身体が成長しきっていないならなおさら。

 

 

k月l日

 ゼニスママとパパウロの会話を聞いて分かった事があった。

 この世界は剣と魔法のファンタジー世界らしい。

 実際に目にしていないがゼニスママは魔法が使えるらしい。

 パパウロは剣を持って家から出て行く。

 魔法には憧れがある。

 一部の人間だけど、中高生になると魔法を使う妄想を私も行っていた。

 成長したらゼニスママに教えてもらおう。

 その為にも、先ずは喋れる様にならないと!!

 ルディはもう片言ながら話せるようになってた。

 パパウロとゼニスママよ、期待する目で見ないで欲しい。

 プレッシャーに物凄く弱いんだ……。

 

 

 

f月4日

 遂に喋る事が出来た!!

 「パパ、ママ」と言葉に出した時のパパウロとゼニスママの喜び様と来たら凄かった。

 跳び上がり、泣いて喜んでいた。

 ルディよりもかなり遅かったから心配していたらしい。

 学習能力が低くてごめんなさい。

 

 

g月8日

 パパウロがより一層読み聞かせを張り切る様になった。

 この機に口に出せる種類を増やそうとする魂胆らしい。

 私としても、逸早く喋れる様になりたいので願ったり叶ったりだ。

 この調子で頑張りたいと思う。




とりあえず2話目も明日投稿します。


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2冊目

47月q日

 パパウロが読み聞かせてくれる本は面白い。

 ペルギウス伝説はよくある魔王を倒す勇者の物語っぽくて好きだ。

 ルディはあまり気にいらないみたいなのが残念。

 子供ならこういった物語の方が面白くていいと思うのに。

 

 

g月日日

 偶にルーデウスの案内の下で家の探索を行うが、ルーデウスは直ぐに書斎……?家に数冊しかない本が置かれている部屋に籠ってしまう。

 つまらない上に、文字が分からないのに読むのはどうかしてる。

 ……文字を覚える必要があるのは分かるが、私にはなかなかどうして難しいらしい。

 

 

f月q日

 文字を覚えるべく本を眺めているが、集中力が前世よりも圧倒的に足りないらしい。

 直ぐに飽きてしまう。

 そうなる暇だ。

 大抵はボーっとゼニスママの家事か、外で鍛錬してるパパウロを眺めている。

 どちらも家に居ない時はメイドのリーリャを眺めて過ごす。

 そうしてると、と構って欲しいと思われているのか、こっちに来て相手をしてくれる。

 お仕事放り出さないで……。

 

 

 

f月ぉ日

 ルーデウスが二階でおねしょしてたらしい。

 2歳にもなっておねしょとはしょうがない弟だ。

 大きくなったらこの事でからかってやろうと私は決意した。

 

 

 

l月」日

 多分3歳になった。

 多分と言うのは、この世界では暦が完全に正確ではないからだ。

 誕生日らしいことも全く行わない。

 窓から見える景色…主に植物のサイクルから1年を予想して3歳だ。

 子供の成長は早いと言うが、全くその通りと実感する。

 子供の出来ることは限られてるが、それにしてもほとんど不自由なく動けるようになったのは大きい。

 一度出来てた事が出来なくなった時はこんなにももどかしいとは思いもしなかった…。

 

 

;月4日

 何事もなく日々は続く。

 この幼い体にも大分慣れてきた。

 頭の出来が悪いのか、やはりまだ文字は曖昧だ。

 日本語の様に文字と読みの構成が似ているのだけど、前世の知識……慣れ親しんだ日本語が邪魔をしているのかな?

 

 

k月4日

 ルーデウスは相変わらず本をずっと持ち歩いている。

 ゼニスママやパパウロ、リーリャの前では持ち歩くだけなのに、一人か私以外が居なくなると本を開いて読んでいる。

 やはり既に文字を覚えてるみたい。

 天才か?神童か?

 私なんぞ簡単な単語がようやく分かり出したところぞ!?

 

 

8月1日

 今日は凄かった。

 情報量が多い一日とでも言える。

 

 いつものように家の中でボーっとパパウロの鍛錬を眺めていると、二階から大きな破壊音が聞こえて来たのだ。

 あまりの衝撃にビクッと跳ねてしまい、椅子の上から転げ落ちてしまった。

 ゼニスママのお陰で大事には至らなかったが、幼い身体に頭を打つのはやばいよ。

 目の前が真っ白に一瞬なったよ。

 

 パパウロが急いで二階に駆け上がり、私を抱き上げたゼニスママが後に続くと、そこには壁をぶち破ったルーデウスが居たとさ……。

 ゼニスママの腕の中で成り行きを見守っていると、ルーデウスが中級魔法を使って壊したそうだ。

 うん……。

 3歳を少し過ぎたあたりのショタが中級魔法で壁をぶち壊した。

 この世界にとっては常識なのだろうか?私もこのくらい出来なきゃだめ?とゼニスママを見つめたら絶句してた。

 良かった。普通じゃないみたい。ついでにナデナデをしてもらえて私は満足です。

 

 

 一番肝心な事を忘れてた。

 家庭教師を雇うことになった。

 

 

 

8月2日

 何故家庭教師を雇うことになったかをかいつまんでみる。

 弟であるルーデウスが3歳にして中級魔法はぶっぱっなった→ゼニスママ「うちの子天才!!家庭教師付けましょう!」→パパウロ「男の子には剣術をうんたらかんたら」→ゼニスママVSパパウロ→リーリャ「両方学べば?」→以上、法廷解散。

 ということで家庭教師を雇うことになったのだ。とはいうものの、決めたからと言って直ぐに雇えるはずがない。

 貴族でもなれば決めたその日に人材を用意する事も出来なくもないと思うけど(偏見)、うちはただの家だ。

 募集要項を決めて、街に求人の張り紙を出しに行く。

 それなりに大きな街の冒険者ギルドに依頼を出した、と言っていたから誰も依頼を受けないと言う事にはならないはず。

 でも、家庭教師の先生が家に来るまでは時間がかかるのは仕方ない。

 

 

4月9日

 家庭教師が来るまでの間、ルーデウスに魔法を見せてもらった。

 危ないので中級魔法はゼニスママからお許しが出なかったけど、初級魔法はなんとか親の目がある場所でならオッケーをもらったのだ。

 感動的だった。

 私の中で魔法言うのはまだ本の中の世界の話だった。

 ゼニスママは魔法が使えるみたいだけど、日常生活では出番がなく、得意な回復魔法は誰かが怪我をした時に使っているみたい。

 パパウロ?論外だった。魔法の「ま」の字も扱えないらしい。

 

 話が逸れてしまった。

 ルーデウスが魔法を見せてくれたのだった。

 単純に何もない所から、水やら火やら土が現れて形を変えてく。

 ファンタジーだ~と改めて実感する事が出来た。

 

 

」月q日

 ルーデウスが魔法を使っている所を見ると、私も魔法を使ってみたいと思うのが転生者の性だよね。

 なので真似してみることにした。

 文字はギリギリ読めないので、感覚でやってみる。

 双子で弟たるルーデウスが出来たのだ。

 私に出来ない道理はない!!

 

 

^月^日

 魔法って難しいんだね。

 ルーデウスに倣って拙い声で詠唱を行っても何も起きなかった。

 どうして……。

 

 

え月は日

 私も魔法を習いたいと思っている事を知ったゼニスママが、家庭教師が来たら「1人増えても大丈夫?」と聞いてくれるようになった。

 その分給料の上乗せが必要だけど、パパウロには頑張ってもらおう。

 なんでも、元々女の子である私にはゼニスママが魔法の教育を施すつもりだったらしい。

 

 

*月?日

 ゼニスママとパパウロが喧嘩した。

 原因は勿論昨日の話だった。

 私が原因で仲の良い夫婦に亀裂が入るのは忍びないので、私がパパウロにおねだりと謝罪を行った。

 すると、一瞬で了承を貰った。

 普段は嫌なハグをしてきたが、今日くらい許そうではないか。

 き、筋肉が凄かったです…。

 ゼニスとリーリャは呆れた目でパパウロを見てた。

 

 

r月!日

 数日が経った。

 あれからは特に何も起きてない。

 魔法は一向に発動する気配がないので、家庭教師がやってくるまで待つ事にした。

 後少しで全部読めそうなんだけどなぁ。

 

 

t5月あlk日

 今日は遂に家庭教師がやってきた。

 ベテランの冒険者と聞いていたので、ライトノベル主人公みたいな若いお兄いさんを想像していたんだけ、良い意味で期待を裏切られた。

 幼女先生である!!

 いや、本物の幼女と呼べる私ほど小さくはなかったが、明らかに成人してなさそうなちんちくりんだった。

 しかし、実年齢は三十路越え。合法ロリはここに存在していた。

 

 初日から早速授業は開始された。

 私?ゼニスママの巧みな交渉術……ではなく単に報酬の上乗せと、幼女先生の人の良さが相まって無事に私も弟子にしてもらえた。

 

 そういえば、何気に初めて家の外に出た。

 空気が美味しい気がする。

 ルーデウスは初めての家の外が怖いのか、初めはぐずっていたが私が手を引っ張って連れ出した。

 こう言った細かい場所で尊厳を取り戻さなければ……。

 しかし、庭からは頑なに出ようとしない。

 妥協案として庭でやる事になった。

 庭の良さについて力説してたけどルーデウス、君も初めて庭に出たよね?

 

 初日はルーデウスの無詠唱魔法?に戦慄した幼女先生に放置されて終わった。

 ベテランの冒険者でも異常だと思う程、ルーデウスは優秀ならしい。

 いかん、姉としての尊厳が無くなっていく。

 

 

r月qw日

 次の日になってようやく幼女先生に認知された。

 「昨日は放置してしまって申し訳ありません」と丁寧に謝られたが、昨日はしょうがないよね、と許した。

 振り返ってみると何様のつもりなのだろうか?

 しかし、こちとら本物の幼女なので大目に見て欲しいです(精神年齢20歳前後)

 

 昨日のルーデウスと同じように、私も今の力を幼女先生に見せることになった。

 昨日のルーデウスを見た幼女先生は私にも期待してくれる。

 止めて。私にはあまり期待はしないで欲しい。

 

 

6月6日

 幼女先生に文字を習う事になった。

 私が魔法を扱うどころか文字すら完璧に読めないと分かると、幼女先生は明らかにホっとした。

 平均かは判らないけど、異常ってほどでもないみたいです。

 専属で文字を教えてもらうのはありがたい。

 これまでもリーリャやゼニスママに頼っていたけど、二人も私に付きっきりで居る訳にもいかない。

 これで文字をようやく習得する事が出来る!!

 

 

 

 

 

f月x日

 幼女先生に文字を習って数日。

 ようやく幼女先生に合格を貰った。

 これでようやくスタートラインに立てる。

 明日から念願の魔法だ!!

 

 

 

姫月型日

 魔法が使えた!!

 ルーデウスと比べるとまだまだだけど、第一歩が踏み出せたのは大きい。

 幼女先生も褒めてくれた。

 何かを成し遂げるのは気持ちいい。

 

 

魔月衛日

 魔法を発動出来る様になったけど、その次の段階が難しい。

 動かしたり、大きさを変えたりと色々ある。

 詠唱を覚えて唱えるだけじゃダメなの……。

 

 進みが遅い私と違ってルーデウスはどんどん成長していく。

 双子なのに何がこうも違うのだろうか?

 私が前世の記憶持ち(曖昧だが)だからだろうか?

 普通は+に働かない?

 

 

 

 

q月LK日

 ここ最近のサイクルを紹介しようと思う。

 午前中は魔法のお勉強。

 この時間帯、幼女先生は基本的にはルーデウスを中心に見ている。

 私は昨日習った事の復習をしていることが多い。

 ルーデウスのほうが断然才能あるから仕方ないよね。

 

 午後はルーデウスは剣術の稽古。

 パパウロに「私もやりたい!」と強請ったんだけど、女の子には甘いのかやらせてくれない。

 偶に団らん中に話してくれたり稽古を見て分かったことなんだが、ルーデウスは剣術はそこまで才能がある訳じゃなかったみたい。

 これで剣術まで才能があれば、チート能力持ちの転生者を疑っていたところだった。

 

 ルーデウス「は」と書いてあるように、私は剣術を学ばせて貰えなかった。

 パパウロ曰く「女の子に厳しい鍛錬をさせてなるものか」だそうだ。親バカである。

 確かに嬉しいんだけど、私は剣もやってみたかった。

 世界と言えば剣と魔法だろう。

 

 私はというと、午後は幼女先生との個人補修。

 最近は文字を覚えたので、ルーデウスとの遅れを取り戻すかのように頑張っている。

 いや、ルーデウスが優秀すぎるだけで、私は平均らしい。

 3歳児だもんね。

 

 

あ月い日

 幼女先生との個人補修は庭ではしない。

 今日も一緒に村へとお出かけ。

 今更知ったのだが、ここはブエナ村と言うらしい。

 更に大きく括ると、アスラ王国フィットア領のブエナ村だそうだ。

 きちんと国や領地の文化はあるみたい。

 異世界転生あるあるの中世ヨーロッパかな?

 

 村へと足を運び、気持ちの良いお日様の下で補習。

 とは言っても、やってることはそんなに難しくない。

 幼女先生の後について周ってこの世界の常識的な事を実践して学ぶ。

 どのくらいの期間になるか分からないが、長い付き合いになるのであいさつ回りも兼ねているらしい。

 

 村を歩いて出会う人にあいさつ回りをして村外れまで行くと、補習が本格的に始まる。

 つい先日までは文字を覚える授業だった。

 ここ最近はもっぱら初級魔法の習得に時間を充てている。

 基礎知識はルーデウスと一緒に学んだので、それの復習をしつつ実践練習だ。

 ここには優先すべきルーデウスがいないから、幼女先生を独占出来るから午前中よりも捗っている気がする。

 

 

7月う日

 長ったらしい詠唱を覚えて初級水魔法の『ウォーターボール』の発動に成功した!!

 この調子で頑張っていきたい。

 しかし、ルーデウスは無詠唱で魔法を発動していたので、先はまだまだ長い。

 

 

w月qP日

 村へと足を運んでみて分かった事が幾つかある。

 まず、幼女先生は初対面の大人には必ずビビられる。

 理由を尋ねた所「もう少ししたら教えます」と言われた。

 心の準備でも必要なのかな?

 

 

F月G日

 ブエナ村はそれなりに発展してる村だ。

 人口はそんなに多いイメージは付かないが、これは前世の記憶が影響してるからだろう。

 交通の便も悪くない。

 毎日ではないが、前世で言う都道府県に当たるフィットア領の中心都市ロアまで、荷馬車で大体1日もあれば付く距離らしい。

 近くに魔物が出現する森もあるらしいけど、家のパパウロ率いる自警団が間引きしてるらしい。

 

 

 

O月T日

 始まりは幼女先生が同伴だったけど、最近は一人でも村に遊びに行く事が許された。

 条件は2つだけ。

 日が暮れる前に家に帰って来る。

 村からは出ない。

 この二つさえ守れば自由だ。

 と言うのも、幼女先生についてまわっても面白くないからだ。

 

 

A月N日

 前回は語弊を生む書き方をした。

 面白くない事は無い。

 ただ、初めの方は楽しかったんだよ?

 初めての家以外の世界。初めての植物、人、動物。

 これを興奮しないで何が人間だ。

 しかし、それも日常となると飽きてしまうのは必然だった。

 幼女先生との補習も、魔力量の関係から午後全てを使える訳では無い。

 魔力切れで倒れる寸前を見極める先生は、数時間も練習しないで解放してくれる。

 正確な時間を知るすべはないから体感で15時前後。

 つまり、大体2~3時間ほどの自由時間の話だ。

 

 

O月S日

 自由時間の話で止まってた。

 初めの方は幼女先生の後を付いて回った。

 誰だって初めての場所を一人で周りたいとは思わないだろう。

 ちっこいがこれでも大人であり、高ランクの冒険者なのだ。

 道に迷う事は無いだろうし、迷っても何とかなるはず。

 そういう魂胆だった。

 

 幼女先生は村の人のお手伝いをほとんど無償で行った。

 理由を尋ねると「村に馴染むため」と教えてくれた。

 あいさつ回り以外にも色々と考える所を見ると、頼りがいのある大人っぽい!

 

 

I月I日

 幼女先生の放課後について続き。

 昨日も書いたけど、幼女先生の後を着いて行くのは楽しかった。

 初めは……。

 肉体年齢に思考が引っ張られるのか、うずうずして来たんだよね。

 思いっ切り走り回ったり、村の子供たちと一緒に遊びまわりたい要求に支配された。

 

 そこからは本能の欲求に従った。

 幼女先生の話をよく聞き、村の境界線を教えてもらい、村の中でも危ない場所を確かめる。

 家に帰って先ずゼニスママに話を通した。

 パパウロは親バカなので、娘の私が一人で遊び事を承諾しないだろう。

 いずれは一人行動を許されると思うが、男の子であるルーデウスが庭から先に全く行こうとしない今、パパウロはそれにかこつけて許さないはず。

 だから、グレイラット家の最高権力者であるゼニスママを落とす。

 ゼニスママを落とす切り札は幼女先生だ。

 

 幼女先生からもゼニスママの説得に加担してもらい、ゼニスママを落とす事に成功!!

 そのままの勢いでパパウロにも許可を取り付け、数日前にようやく一人で村に立ったのだ。

 

 

 




明日の投稿はないです。出来上がり次第投稿します。


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3冊目

 お待たせしました。6.5章の告知に狂喜乱舞なので初投稿します。★4配布は槍李書文に決めました。

 微小特異点修復で休日も潰れる日が多いので投稿は亀速度になります。目安としては1カ月。(今話は約1カ月かけて書いたゾ)

 数件の感想を頂きました。モチベーション維持に繋がるのでありがたい。
 日付は特に伏線などはないです。書いてる当時思った内容。つまり、解読しても意味ないゾ。


H月A日

 今日は初めて友達が出来た。

 ソルマ君と言うらしい。

 

 数日前から村を一人で歩いていると、一人の男の子に声をかけられたのだ。

 幼女先生と一緒に村を歩き回っていた時に見かけた子だったはず。

 同じくらいの年頃で、ルーデウスとは違ってやんちゃだ。

 子供視点での村案内をしてもらった。

 

 親に見つかり難い場所の情報とかいる?

 あ、怒られた時に隠れる場所かぁ……。

 3~4歳児が居なくなった時、保護者の気持ちを教えてやるべきか……?

 

 

I月H日

 ソルマ君が他のお友達を紹介してくれた。

 男の子ばかりだが仕方ないのかな?

 

 

U月S日

 今日と言うか、昨日の出来事。

 でも、日付的には今日になるのかな?

 とりあえず夜の事。

 

 何時も通り床に就いた私だったが、物音で目が覚めたのだ。

 ルーデウスが魔法の練習をしていた。

 夜遅くまでお疲れ様です……寝ないの?

 って感じで床に就くように促したんだけど……隣の部屋から聞こえて来たんだよね。

 男女の喘ぎ声が……。

 

 うん。

 どう考えてもパパウロとゼニスママだ。

 二人して顔を見合わせちゃったよ。

 物凄く気まずい空気が流れたよ。

 私は前世の記憶からその声がどういう状況下で聞こえて来るものなのは知っている。

 対してルーデウスはまだ1桁の子供。

 そう言うコトは知らないはずなのに、コッソリと部屋を抜け出して部屋に突撃をかまそうとしてた。

 あれか、「パパママプロレスしてるの?」って奴かな?

 

 私?楽しそうだとは思ったけど、やっぱり前世の記憶が邪魔をして行動を阻んだ。

 両親の喘ぎ声を聞いても発情もしなければ、不快にも思わないのは、精神が身体に引っ張られてる影響か?

 何がどっちに引っ張られるか実際に遭遇しないと分からないのがめんどくさい。

 

 結局のところ、私はルーデウスに着いて部屋を出た。

 パパウロとゼニスママのアレが見たいと言う訳でなく、ルーデウスに着いて行った方が楽しそうだと言う本能からだ。

 廊下に出るとパパウロとゼニスママの部屋を覗き込む幼女先生を発見した。

 ……この先は幼女先生の名誉の為に伏せようと思う。

 

 夜の出来事が衝撃的過ぎてその日に練習は身に入らなかった。

 

 

A月B日

 不公平だと思う。

 私は魔術しか習っていないのに、ルーデウスは剣術も習えるという点だ。

 「異世界に転生したのなら剣と魔法は外せない」と昔おばあちゃんが言っていた気がする。

 その影響か、私も剣術を習ってみたい欲が爆発寸前だ。

 早急に何とかする必要がある。

 

 

A月T日

 困った時はリーリャに相談。

 これが身に付いてしまったらしく、真っ先に相談した。

 すると、リーリャが空いてる時間に鍛錬を付けてくれるようになった。

 どうやら昔パパウロと同じ道場に居たらしく、初級程度なら指導する事も可能ならしい。

 アスラ王宮で働いてた時に怪我を負って退職したらしく「満足に動けないがお嬢様の相手をする程度なら問題ありません」と本人もやる気なので、私はそれに甘えることにした。

 

 

 

 

 

A月I日

 リーリャとの特訓が始まって数日が経った。

 リーリャが満足に動け無くても問題ない理由が分かった。

 指導者が動く必要が殆ど無いからだった。

 剣術を習おうと土台が無ければ何もできない。

 最近やってる事は専ら筋トレ。

 腕立て伏せに腹筋、後は走り込み。

 

 

S月A日

 体力作りがきつすぎる……。

 自分から言い始めたことだけど、リーリャマジで容赦ない。

 限界を見極めるのが美味いのよ。

 親バカパパウロならこうもいかないだろう。

 

 

I月S日

 辛い筋トレと走り込みを乗り越えた甲斐があった。

 

 今日は休息日。

 流石に毎日鍛錬してると身体が追いつかない。

 まだまだ子供なので休みは欲しいのです。

 ソルマ君とそのお友達と一緒に遊んだ。

 手始めに鬼ごっこをしたのだが私完封勝利した。

 少し大人げない気もするが、久しぶりの遊戯を全力で楽しむのは楽しかった。

 ……今度は少し手加減してあげよう。

 

 

 

E月I日

 さらに数週間が経過した。

 変化が一つ起こった。

 夜のお勉強が始まった。

 

 別にR18禁のことではない。

 5歳にも満たない子供に性教育は早すぎるし、そんな家なら家出してる。

 

 普通に夜の時間帯に行うお勉強の事だ。

 内容は雑学?一般常識?的な内容。

 この世界の事も知っておいた方が何かと役に立つ、と幼女先生に言われて始まった夜のお勉強。

 私としてはどっちでも良かったんだけど、ルーデウスが妙に乗り気だったので同じ部屋な私も一緒に受ける事になった。

 内容は主にルーデウスのペースで進んでいく。

 私は基本的に傍聴するだけのお勉強会だ。

 

 まぁ、言語や文字を覚えるのに手間取ったとは言え、頭の出来は前世の記憶から続けて悪くはない。

 聞くだけでもある程度の事は覚えていられる……はずだ。

 しかし何故だろう。ルーデウスには一向に敵わない。

 私の弟優秀過ぎない?

 

 

K月U日

 今日の夜のお勉強会では魔法の成り立ちについて習った。

 きっかけはルーデウスが幼女先生に質問したから。

 ハイエルフが元だという事が分かった。

 エルフはファンタジー世界の基本だよね。

 いつか会いたいものだ。

 後、魔大陸にスペルド族と言う怖ーい魔族がいる事も習った。

 幼女先生の反応はガチだったので、もしも出会う事が有れば土下座で許してもらおうと誓った。

 

 

 

 

N月N日

 数か月経った。

 魔法の方は余り進展していない。

 何とか初級魔法が発動出来る程度。

 中級魔法は詠唱も長くてやってられない。

 何で幼女先生は長ったらしい詠唱を覚えらるのか謎。

 私もルーデウスみたいに無詠唱で魔法が使えたら楽なのに。

 

 

M月A日

 魔法と打って変わって、剣術の鍛錬は順調だ。

 頭を空っぽにして剣を振るだけでいい。

 型とか覚える必要があるんだろうけど、先ずは剣を沢山振るう事が大事だ。

 決して、型を覚えるのから逃げてる訳じゃないよ?

 

 

 

T月N日

 5歳になった。

 明らかに1年以上経ってるのに誕生日を祝われないと思っていたら、どうやらこの世界では毎年誕生日を祝うと言う慣習がないらしい。

 5歳、10歳、15歳と成人までの間、5年区切りで家族で祝うのが習わしだそうだ。

 

 誕生日に付き物なのはプレゼントだ。

 パパウロからは本だった。

 小さい頃に文字を覚える為に「読んで」と強請ったのが効いたらしい。

 私もルーデウスみたいに真剣が欲しかったよ…。

 ゼニスママからは可愛い服だった。

 5歳ともなればオシャレに目覚めてもおかしくない時期だからだろうか?

 これは単純に嬉しいが……前世の世界と比べたらショボい。

 ルーデウスは植物図鑑だった。

 お勉強好きのルーデウスなので喜んでた。

 幼女先生からはなんと杖を貰った。

 正式名称はロッド?と言うらしいが、魔法と言ったら杖だろう。

 曾お祖父ちゃん愛読していたと言う某イギリスの魔法学校が舞台の児童書でもそうだった。

 なんでも、魔法使いは弟子にロッドを作成して渡すらしい。

 ルーデウスが初めから魔法を扱えたので失念したとか。

 ヒドイ。

 

 

R月O日

 誕生日が来たからと言って何も変わらない。

 朝起きてご飯を食べたら、お昼までは魔術の練習。

 お昼後は筋トレや素振り、リーリャの手が空いた時は型を少しだけ見てもらう。

 飽きた……一定の時間まで頑張ったら、後は夕飯まで自由タイム。

 村へ出てソルマ君たちと遊んだり、幼女先生を見つけてぶらぶら後を追いかけたりして時間を過ごす。

 魔法の方はあまり進んでいない。

 初級がギリギリなので中級に移ろうにも移れない状態だ。

 ルーデウスは上級魔法をも取得し、それらを組わせて発動する混合魔法と言う物を練習していた。

 発動や感覚こそ分からない私だったが、ルーデウスと幼女先生が言ってる事は理解できる。

 前世の記憶のおかげだね。

 ……まあ、私にはそれを行えるだけの技量と魔力が無いんですけどね。

 

 

F月A日

 今日は久しぶりに休息ということで、一日中何もしないで遊んだ。

 子供は遊ぶのが仕事だって聞いたことがあるから、これは仕事だった?

 

 

t月え日

 更に数週間後。

 今日は久しぶりにルーデウスと遊んだ。

 いや、アレを遊んだとは言えるのか?

 

 ルーデウスは庭には出るようになったけど、庭からは一歩も出ないから仕方なく庭で遊ぶ。

 奴は魔法バカなので、私も使える水の初級魔法である『ウォーターボール』で水合戦。

 前世の夏休みなどで、水鉄砲を使って水の撃ち合いをする遊びだ。

 最近は暑かったので、水遊びで涼しく過ごそうぞ!!

 

 合戦は魔力量と技量の差で当然の如く負けた。

 まぁ、楽しかったから勝ち負けはあまり気にならなかったよ。

 

 

ひ月m

 振り返る事が何も無いほど平穏な日常だった。

 特筆すべき事も無かった。

 

 

 

n月b日

 パパウロに剣術の鍛錬をしてることがバレた。

 初めはリーリャが怒られていたけど、私が「無理矢理協力してもらってた」と言ったら黙った。

 相変わらず私に甘いパパウロだ。

 ……むしろ、今日までバレなかったのが不思議。

 意外と鈍感なの?

 野生の勘が鋭そうなイメージだったのに。

 

 

☆月4日

 パパウロにバレた次の日から私も午後に剣術の鍛錬が組み込まれた。

 リーリャの時間をそのまま引き継ぐ形なので問題はない。

 ただ、ソルマ君たちと遊ぶ頻度が減ったのは悲しい誤算だった。

 

 

鯖月つ日

 パパウロとの鍛錬数日目。

 初めは筋トレをやらされそうになったが、筋トレの最中でルーデウスと同じかそれ以上体力があると分かったら打ち合いをさせてもらった。

 そう、ルーデウス以上の体力と筋力だ!!

 初めて弟よりも上回ったモノを持ててお姉ちゃん嬉しいよ。

 女の子としてどうかとは思うモノだが……。

 

 

I月B日

 昨日のルーデウスとの打ち合いはぼろ負け……とはならなかったが、経験の差で負けた気がする。

 力や速さでは負けてなかった気がするから、パパウロの話よく聞いて型や動き方を覚えよう。

 

 

N月T日

 パパウロの話をよく聞いて鍛錬の日々。

 ファンタジーっぽい魔法に憧れが強いけど上手く習得出来なければ面白くない。

 下手の横好きって言うけど、私はそこまで出来ないことに対して熱心になれなかった。

 ルーデウスまでとは言わないけど、もう少し習得が早ければなぁ…。

 まぁ、5歳児がやる事じゃないとは思う。

 

 剣術は順調に進んでる気がする。

 一応剣術に関する座学も少しだけ教えてもらった。

 が、今日はもう眠いのと、頭の中を整理するから明日にしよう。

 

 

2月5日

 一晩経てば頭もスッキリ。

 寝たら忘れてしまっていた……何てこともない。

 しかし、間違っていたら困るのでルーデウスと復習。

 奴は頭が良いので完璧に覚えていた(戦慄)

 以下、ルーデウスと一緒に纏めた事。

 

 ・この世界の剣術はかなり重要視されている。この世界の英雄や名のある冒険者なども殆どが剣を獲物としている。

 ・ファンタジー剣術らしく、岩などを一刀両断、剣閃と言う斬撃を飛ばすことができる等々。パパウロも岩を一刀両断して見せてくれた。テンション上がったね。

 ・ルーデウス曰く、剣術にも魔力が関係してるとのこと。身体能力強化と言う方向性に使っていると推測を披露してくれた。

 ・剣術は主に三流派が存在している。一つ剣神流。一つ水神流。一つ北神流。簡単に紹介すると、剣神流は一撃必殺を得意とする攻撃型の主流派。水神流は防御メインのカウンター剣術。北神流は何でもありの兵法的なものらしい。

 ・パパウロは剣神流を中心としつつも3つとも扱える。凄腕であるらしい。

 

 主にこんな感じだ。

 今後は剣神流と水神流を中心に習っていくらしい。

 北神流をやらない理由は、パパウロが嫌いなだけ。

 便利ではあるらしいが、剣士にとっては好まれない流派みたい。

 

 

0月0日

 基礎を知った所で鍛錬の時間だ。

 筋トレ、素振り、パパウロの真似をして型を覚える。時折ルーデウスやパパウロを打ち合い。

 実に充実した毎日だ。

 

 

万月D日

 ルーデウスの魔法への探求心は凄い。

 この前幼女先生に魔法学校へ進む道もあると言われてた。

 ルーデウスが幼女先生から卒業する日も近いと言う。

 私はまだ中級魔法で手間取っている。

 魔法はもう諦めた方が良いのかな?

 でも、それだとせっかくお金を出してくれているパパウロとゼニスママに申し訳が無い。

 もう少しだけ頑張ろう。

 

 

L月K日

 今日も今日とて魔法の練習と剣術の鍛錬。

 魔法は微妙だけど、剣術は少しずつ成長出来てる気がする。

 

 

I月N日

 やったー!!

 今日の剣術の時間。ルーデウスと打ち合いをしたら勝てた!!

 最近は引き分けが多かったけど、初めて完全に勝利と言える状況になった!!

 初めてルーデウスに勝てた……これほど嬉しい事はない。

 今夜はいい夢を見れそうだ。

 

 

E月N日

 ルーデウスに勝てた事で調子乗った私はそのままパパウロにボロボロに負かされた。

 世の中簡単に行かないってことが分かったよ。

 少しだけ慢心してた気もするので、良いタイミングで負けを貰った気がする。

 しかし、打ち合いの後パパウロに物凄く謝られた。

 鍛錬だからとやり過ぎた事に深く反省してるみたいだ。

 女の子だからか、ルーデウスには言わないのはズルいよ。

 世の中男女平等にしなきゃダメなんだよ。

 

 

N月K日

 今日は真剣なお話があった。

 家族全員と幼女先生を交えて家族会議だ。

 私の今後についてだった。

 今ならはっきりと分かる。私は魔法よりも剣術の方が得意だ。

 ルーデウスもそろそろ幼女先生からの卒業も近い。

 そこで、この先魔法を続けて教えてもらうか、それとも一区切り付けて剣術に打ち込むか。

 それが議題だった。

 議論に議論を重ねた結果、中級魔法を一通り習得した時点で卒業。今後は剣術を中心に打ち込んでいく事になった。

 皆「私のしたい様にすれば良い」って言ってくれたから秒で決まったんだけどね。

 

 魔法は中級魔法をある程度発動出来る様にしてお終い。

 私はパパウロの後を継ぐべく剣士になる!!

 ゼニスママ、ルーデウスが最強の魔法使いになってくれるさ。



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4冊目

FGOマスターは只今リンゴ農家へと転職してるので早目に書き終わりました。次回はこうも行かないでしょう。


 

ぁ月ん日

 卒業課題が決まってからは魔法の練習を多めにとった。

 偶にしか発動しない中級魔法を完璧にするのだ。

 

 

f月z日

 魔術の鍛錬で忙しいところ、パパウロが剣術の初級に認定してくれた。

 基礎の基礎的な事は既に達していると言う事らしい。

 パパウロ曰く、この調子で頑張って鍛錬を続けるとルーデウスよりも先に中級に認定出来るらしい。

 これは嬉しいとしか言いようが無い。

 

 

ぺ月ー日

 午前中魔法の練習、午後は剣術の鍛錬は変わらない。

 少し変わったのは剣術の鍛錬を少しだけ早目に切り上げて、残った時間を魔法の自主練習。

 こうでもして魔法の練習を増やさなければ、このまま平行線だと感じたからだ。

 あれである。テスト前の勉強みたいな感じ?

 

 

ン月き日

 ロリボディーが久しぶりに役にたった。

 いや、別に意味深ではない。

 子供の頃の方が学習力が高いと聞くが、全くその通りだった。

 ここ最近毎日詠唱を唱えてるお陰か、今では教科書(幼女先生直筆の呪文集)を見ないでも唱える事ができるようになった。

 ここまで来るのにルーデウスの数倍かかったぞ。

 

 

っ月ち日

 後は大事な時に失敗しないように何回も魔法を使って反復練習だ。

 何事も回数は大事。

 これは魔法でも剣術でも変わらない。

 

 

ぁ月~日

 練習練習。

 毎日へとへとになまで練習。

 これじゃあ英才教育だね。

 知ってますか?まだ6歳にもなっていないんだよ?

 ルーデウスがどんな大物になるか楽しみです。

 私?今は前世の知識で何とかなってるけど、一定まで行ったら後は凡人止まりだよ。

 

 

 

 

 

次月イ日

 約1ヵ月くらいが過ぎた。

 正確な日にちは忘れてしまった。

 そうだ!!明日は卒業試験の日になった。

 中級魔法は殆ど失敗しなくなったので、明日に試験を行うと言われた。

 なので、今日は早く寝ようと思う。

 緊張して一睡も出来ない、なんて事にならないようにしなきゃ。

 

 

ベ月は日

 結果から言うと試験は合格出来た!!

 家の外に出て村の外れが試験会場だった。

 まず、手始めに幼女先生が私に試験内容を言い渡した。

 覚えた魔法の中で一番だと思うものを披露する事。

 私は水属性の中級魔法『水砲』を披露。

 観よ!!ルーデウスとの水鉄砲合戦で鍛えた連射力と柔軟性を!!

 

 ルーデウスも水聖級魔法のキュムロニンバスを使って、無事に制御して合格だ。

 その際幼女先生が驚いてたけど、ルーデウスの魔法の才能では当然だろう。

 今更驚くこともない。(後方腕組面)

 

 

な月し日

 次の日、つまり今日。

 幼女先生は旅立って行った。

 ルーデウスに教えることは無くなり、自分の未熟さに気付いて一から鍛え直す旅に出るらしい。

 うちのルーデウスがすみません。

 似たような事をパパウロも言っていた。

 

 

マ月イ日

 速報!!?

 ルーデウスが何かやらかしたらしい。

 幼女先生に庭の外に連れ出して貰ったからか、早速外に遊びに出たのはいいものの、ソルマ君と喧嘩して怪我をさせてしまったらしい。

 詳しい内容は聞けなかったが、明日にでも仇討だ!!

 

 

ケ月ル日

 今日は濃厚だったぞ。

 朝は昨日の予定通りソルマ君の仇討。

 パパウロに鍛え上げられた剣術で圧倒。

 しかし、ルーデウスが冷静になって魔術を使い始めたら一気に形勢逆転されて負けた。

 

 その後にようやく事の顛末?を聞いた。

 ソルマ君の怪我は自演だったらしく、ルーデウスはソルマ君が虐めてたシフルと言う男の子を助けてあげただけだったらしい。

 パパウロが昨日怒っていたのは、ソルマ君の母親が言った言葉だけを鵜呑みにしてしまったから。

 ……ルーデウスの話を聞き終えた瞬間、私は謝って行動を開始した。

 今回の一件の張本人、ソルマ君の元へと急行。

 あった瞬間、彼はルーデウスの愚痴を行って来たが、それを一喝して説教した。

 ホントは剣を降って肉体に痛みで教えた方が効果的なのだろうが、それをやってしまうとパパウロに申し訳ない。

 暴力に頼ったらダメだとおばあちゃんも言っていた。

 

 

じ月っ日

 ソルマ君とは少しだけ疎遠になってしまった。

 最近は魔法の鍛錬に忙しかったせいか、遊ぶ時間がなかなか取れずに十日に一回遊ぶかどうか?って関係だったのに、この前の虐め事件で益々関係がぎくしゃくしてしまった。

 物凄く仲が良かった訳では無いけど、こうも関係が廃れてしまうと悲しい。

 同じ村に住んでる訳なんだし、この先仲直り出来る機会があればいいけど……。

 

 

 

 

 

そ月う日

 幼女先生旅立ってから早め数か月。

 私たちは6歳になった。

 例の慣習によりお誕生日会は無しだ。

 6歳になったからと言っても、大きく変わった事はあまりない。

 

 午前中は変わらずルーデウスと一緒にパパウロの剣術。

 昼ご飯を食べた後は私だけ剣術の鍛錬を続ける。

 どうやら私には剣術の才能があるらしい。少なくとも魔法よりは。

 その才能を伸ばすべく、パパウロの予定が空いてる限り私は鍛錬を行う。

 初めの頃の甘い考えはなくなっていた。

 

 パパウロの予定が空いていない時は一人で剣を振っている。

 が、午前中も鍛錬をしている訳で、これが一人でなら何も収獲は得ないから基本的に村をぶらぶらしてることが多い。

 それか家で家事のお手伝いか、ダラダラ寝てる。

 

 

は月マ日

 午前中の鍛錬中。

 ほとんど毎日ルーデウスと打ち合っている。

 戦歴はこんな感じ。

 剣術のみだと勝率85%、魔法アリだと65%位。

 剣術だとほぼ勝てるが、偶に不意を突いてやられる。

 魔法アリだと若干勝てる位だけど、魔法アリと言っても補助程度なのでギリギリだ。

 これが何でもありの勝負なら勝率10%を下回っていたかもしれない。

 

 

ジ月で日

 魔法の鍛錬も続けておく。

 継続は力なりだ。

 偶にルーデウスに助言を貰うけど、感覚派過ぎて分からない。

 これだから天才は……。

 

 

ビ月ビ日

 ルーデウスはここ最近ずっとシルフと言う友達と遊んでいる。

 合った事は無い。

 何をしているか聞いてみたら、魔法を教えてるらしい。

 幼女先生の真似事か……。

 普通に考えたら、6歳児にして魔法を教えられる程習得してるとかヤバない?

 

 

ッ月た日

 今日は休息日。

 ルーデウスは何時も通り出かけた。

 一緒に行っても良かったのだが、うわさに聞くシルフ君も知らない人が居たら緊張するだろうから止めておいた。

 風が気持ちよく、日向ぼっこに最適だった。

 

 

6月.日

 今日は嬉しい事があった。

 本気ではないが、手を抜いていなかったパパウロに一本取れたのだ!!

 これは偉大なる一歩である。

 この調子で頑張っていこう。

 

 

5月し日

 イベントはどうしてこうも重なって起こるのだろうか?

 そう言わずにはいられない一日だった。

 

 まず、今日はパパウロのお仕事に連れて行ってもらえた。

 パパウロの役職はブエナ村駐在騎士だ。

 簡単に言い換えるなら、ブエナ村を魔物から守るのがお仕事。

 重要な役職だが、村の経営とは別になる。

 確か……お貴族様の称号で一番下の奴だったはず。

 普段は村の警護や自警団の訓練などが仕事ならしいが、今日は森に入って魔物を間引きする日ならしい。

 偶に森に入って数を減らすのも仕事の内。

 この辺りは冒険者があまり来ないので、そうやらないとスタンビート?が起こって大変らしい。

 

 さて、森に入った話だ。

 初級になって数か月、そろそろ中級とはいかないが、実戦を近くでみるのも鍛錬とか言って連れて行かれた。

 何かあったらいけないので、私も借りた剣を装備しているし、絶対に大人から離れない様に念押しされた。

 幾ら初級の剣術が扱えると言っても、まだまだ身体が第二成長期にも差し掛かっていない子供。

 そんな子供に命をかけた戦いを強いる親が何処にいるだろうか?

 私は知らない。

 

 森に入った感想は凄かったの一言しか出ない。

 犬型の魔物数匹と猪型の大きな魔物が一匹。

 パパウロが人外の動きで瞬く間に終わらせてしまった。

 あれが三流派は全て上級まで鍛えた剣士の動き……。

 良い目標が見れて私は大興奮。

 

 

 イベント2つ目

 帰る途中だ。

 雨が降って急いでいたんだけど、家に帰って来たらルーデウスが女の子を無理やり脱がして泣かせてた。

 はてなマークが頭を占め、気が付いたらルーデウスにビンタして締め出してた。

 その後は泣いてる女の子を介抱。

 寝る直前に知ったんだけど、あの子はルーデウスと毎日のように遊んでると耳にしたシフルくんちゃんだった。

 ルーデウスは女の子と男の子の区別も出来ていなかったらしい。

 可愛い所もあるじゃないか。

 

 

 

ょ月う日

 ルーデウス痴漢事件から数日後。

 午前の剣術鍛錬中。

 パパウロがルーデウスに女の子の慰め方……堕とし方を教授してた。

 話してた内容をゼニスママに後で密告するとして、最低な考え方だったのでいつも以上に気合を入れてパパウロに剣を振るった。

 最近はパパウロの感覚的な教え方にも理解を示す事ができ、今日は一段と強くなれた気がした。

 

 ゼニスママに密告した結果、パパウロはおかず抜きの刑に処された。

 かわりに私のお肉が一つ増えたので大満足。

 ルーデウスが怖い目で見てきたのが解せない。

 

 

は月い日

 ルーデウスとシルフくんちゃんが仲直りしたらしい。

 と言う事で、今日は諸々の予定を蹴っ飛ばして会いに行ってきた。

 ふむふむ。

 前回は緊急事態だったので詳しく見る暇はなかったが、中々に中性的でどっちとも取れる顔立ちと体系をしている。

 服装を鑑みると、ショタに見えなくもない。

 

 

つ月ぜ日

 剣術の初級は十分に修め終えたと言えるだろう。

 次からは中級を本格的に習って行く。

 私もパパウロみたいに、剣で岩を斬るとかやってみたいものだ。

 

 

 

 

 

よ月☆日

 大ニュースだ。

 ゼニスママの妊娠が発覚した。

 私とルーデウス以来の赤ん坊なので、一家は大いに沸き上がった。

 私もルーデウス以来の弟か妹だ。

 楽しみにしよう。

 

 

彡月メ日

 超重要事態が発覚した。

 私によってはゼニスママの妊娠以上の衝撃的事実だ。

 なんと……私は姉ではなく妹だったらしい。

 つまり、ルーデウスが私の兄。

 私よりも先にゼニスママの体内から産まれた。

 これまでの6年間ずっと気付かなかった私史上衝撃的な事実だ。

 道理で、姉よりも優れた弟が存在するわけだ。

 だって弟は兄だったんだもの。

 

 

ン月テ日

 と言う事は、私にとって初めての年下の家族だ。

 ルーデウスは妹が良いらしいが、私は弟が欲しい。

 おねータンおねータンと呼ぶ弟……欲しくない?

 ルーデウスは天才だったから実現不可能だったけど、私は尊敬される姉になるのだ。

 今からでも計画を練っておこう。

 

 

ナ月ン日

 ゼニスママの妊娠が発覚してからというもの、剣術の鍛錬に集中できない。

 これは私だけでなく、ルーデウスもパパウロもだからしょうがない。

 

 

ス月あ日

 弟か妹の名前を考えたり、着る服を繕ったりしてると時間はあっという間に過ぎてしまう。

 平穏な毎日が続くと良いなぁ……。

 

 

け月は日

 フラグを建設してた模様。

 リーリャの妊娠が発覚した。

 …………お相手は村の男、となるはずも無かった。

 パパウロの浮気だった。

 

 ここで軽いおさらい?

 前世の私についてだ。

 5年以上も前だし、そもそも赤ん坊の時から記憶は曖昧だったので思い過ごしかもしれない。

 多分だけど、前世の私の家系はお母さんもおばあちゃんも、ひいおばあちゃんもひいひいおばあちゃんも恋愛結婚だったと聞く。

 つまり、両親は一途な恋であるべきで浮気ダメ絶対、と言う価値観が記憶が曖昧な私にも染み付いてたらしい。

 

 また一つ話は変わる。

 この世界にも宗教と言うのは存在している。

 グレイラット家は宗教を信仰していると言う訳ではないが、ゼニスママはミリス教徒だ。

 ミリス教はこの世界で最も信仰されている世界宗教と幼女先生に習った記憶がある。

 

 この話はパパウロの浮気に繋がる。

 勘のいいガギは気づいていると思うけど、ミリス教では重婚は犯罪だ。

 ゼニスママも狂信者までは行かないにしてもそれなりの信者だったはずで、今回の浮気は家庭崩壊まで発展し兼ねない問題だった。

 

 だった。

 やー、流石天才ルーデウス。

 一家の危機もその優れた頭脳で見事に解決に導いた。

 パパウロに責任を全てなし付ける形で……。

 確かに一番悪いのはパパウロだと私も分かる。

 でもそれを実行出来てしまうルーデウス恐ろしい子。

 

 私は何をしたかって?

 初めの方は「おー私の弟候補が増える!!」と喜んでたし、ゼニスママが部屋を出ていった後は追いかけて「分かる。浮気はダメだよねー」ってナデナデしてただけ。

 ハッキリ言おう。何もしませんでした。

 

 

 

な月に日

 最近可笑しいとずっと思っていた事があった。

 それが今日ようやく解決出来た!

 リーリャの妊娠が発覚してからだと思うけど、リーリャのルーデウスに対する態度が変わってた。

 昔はルーデウスを雇い主の息子として扱っていた気がするんだけど、今では一人の主人として扱ってる気がする。

 やはり、あの時リーリャがここに残っても良い様に動いたのが理由かな?

 だとしても、私への態度が変わらないのはいただけない。




はい、主人公ちゃんはルーデウスの妹でした。今まで姉と言っていたのは自己申告だったしね。


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5冊目

6.5章と聖杯戦線やってたので遅くなりました。やはり月一ペースになりそうです。


d月4日

 またパパウロとルーデウスが猥談していた。

 今回の件でパパウロは少しだけ開き直り、リーリャを第二夫人として迎えるつもりらしい。

 ここは異世界だから一夫多妻が認められているとはいえ、元日本人の一般人の女の子としては複雑な気持ちだ。

 

 

l月q日

 ゼニスママもリーリャも身重と言う事で、家事のお手伝いを行った。

 これまでも少しだけ手伝っていたのでパパウロよりは数段マシ。

 前世の記憶もあって、何も出来ないと言う事にはならなかった。

 

 しかし、それでもルーデウスの方がよっぽど役に立ってるのは何で?

 

 

M月I日

 二人ともかなりお腹が大きくなってきた。

 身内の妊婦さんを見るのは前世も含めて初めてだと思うから、かなり新鮮である。

 

 

U月T日

 日課になってる「お腹に手を当てて赤ちゃんの様子を探る」をやってたら、リーリャの赤ちゃんが足で蹴ったのが分かった。

 お腹の中から元気である。

 

 

I月G日

 剣術の鍛錬も頑張る。

 赤ちゃんが産まれて自我を持った時に頼れるお姉ちゃんになる為だ。

 ルーデウスが魔法で行くなら、私は剣術でやってやる。

 そう考えると、より一層鍛錬に励める様になった。

 

 

A月N日

 そろそろ出産日を迎える。

 前兆が起こりだしてきた。

 現代日本なら病院に入院する時期だけど、この異世界にそんな設備は存在しない。

 少しの事が赤ん坊と母親の命取りになると聞いたことがある。

 これは私も気合いを入れないとね。

 

 

A月K日

 今日から私はお姉ちゃんだ。

 この数日間は大忙しだった。

 まず、ゼニスママの出産が行われたけど、逆子?だったせいで物凄く大変だった。

 応援に呼んだ産婆さんが全く役に立たない。

 何とかリーリャやルーデウスが頑張って無事に出産が終わった。

 すると、今度はリーリャの出産が始まった。

 母体が違うのに双子みたいな関係なのは良い事だと思う。

 

 ルーデウスは何時もの天才ぶりを発揮して物凄く貢献してるのに対して、パパウロはオロオロして心配するばかり。

 私とルーデウスが産まれた時はどうしてたよ……。

 私?私はルーデウスと産婆さんの指示に従って雑用してた。

 

 生まれてきた赤ちゃんは二人とも女の子。

 二人もいるのだから、弟が一人くらい居ても良い気がしたけど、それはそれ。

 妹は妹で可愛かった。

 頼れるお姉ちゃんになるために頑張るぞー。

 

 

U月N日

 昨日は舞い上がって肝心な事を忘れていた。

 妹達の名前だ。

 ゼニスママが産んだのはノルン、リーリャが産んだのはアイシャ、そう名付けられた。

 

 二人共ゼニスママとリーリャの腕の中で寝ている。

 小っちゃくて可愛い。

 赤ちゃんは何でこんなにも可愛いのだろう……?

 

 

A月R日

 ノルンとアイシャが生まれてから、パパウロの剣術の鍛錬がより一層厳しくなった。

 カッコイイお父さんを見せたいのだろう。

 分かる。物凄く分かるよ。

 私もカッコイイお姉ちゃんを妹達に見せつけるのだ。

 

 ただ、張り切ったせいか午前の部が終わった時にルーデウスがぶっ倒れた。

 張り切り過ぎたようだった。

 でも、これでルーデウスよりも体力と根性がある事が証明されたし。

 

 

I月m日

 今日は久しぶりの休日だ。

 何時もの様にルーデウスと家事を手伝おうとしたのだが、リーリャに拒まれた。

 どうやら最近頼りっぱなしなのが気に入らないらしい。

 私は好きでやっているから大丈夫だよ、と伝えても今度はゼニスママがリーリャの味方になって反論してきた。

 最近自由に遊ばせてあげられないのを悔やんでいたようだ。

 まだまだ子供なんだから遊んでいらっしゃいと言われたら、流石のルーデウスも言い返せずに家を出た。

 

 手持ち無沙汰になった私は久しぶりにルーデウスについて行った。

 驚いた顔で見てきたけど、特に拒否反応はなかったから問題無かったはずだ。

 というわけで、今日はルーデウスとシルフ君ちゃんと一緒に遊んだ。

 まあ、熱々なお二人は魔法の練習をして、私が茶々を入れる感じだった。

 

 

A月S日

 今日も今日とて剣術の鍛錬だ。

 もう何も言われなくても剣を振るっている気がする。

 少しだけ手を抜いたパパウロとはいい感じに斬り合いが出来る様になって来たけど、未だに本気パパウロの背中は見えない。

 うーむ。

 壁にぶつかったって言うのかな?

 

 

I月T日

 今日の鍛錬中。

 パパウロから学校のお話が出た。

 学校に通えるほどの一般的な家庭だと6歳くらいになったら、一番近くの都市であるロアにある教育機関に行くらしい。

 と言っても、ここは中世ヨーロッパ風の異世界。

 前世の記憶にある様に国中の子供が全員無償で通えるわけではない。

 大抵はお貴族様か、大富豪、大商人が主な入学する学校だったはず。

 お貴族の最底辺に居るパパウロのお陰で私たちにも話が回ってきたのかな?

 

 だがしかし、私とルーデウスはもう読み書きと(私の場合は簡単な)算術が出来る。

 その上にルーデウスは水聖級魔術師で、私は中級水魔術師だ。

 学校で学ぶ事などないだろう……って思っていたんだけど、当の本人は物凄く行きたそうにしていた。

 もちろん私も行きたい気持ちがある。

 同年代のお友達……と言うか知り合い?はソルマ君やシルフ君ちゃんがいるけど、友達か?と言われたら素直に頷けないのが残念なところだ。

 ソルマ君はルーデウスが喧嘩してから疎遠だし男の子。

 シルフ君ちゃんは女の子だけどルーデウスのお友達以上恋人未満の関係で私はルーデウスの妹と言った認識だろう。

 ……同年代同性のお友達が欲しいです。

 

 が、学校なんて堅苦しいだけで私達だと絶対に耐えれないと行かせてくれなかった。

 実体験っぽいのでパパウロがそこまで言うのなら私も諦める。

 前世の小学校みたいな場所ではなさそうだ。

 

 しかし、ルーデウスよ。

 綺麗な女の子と仲良くなりたいが為に学校に行きたいと言うのはどうかと思うぞ?

 君にはシルフ君ちゃんが居るではないか。

 今度機会があればシルフ君ちゃんに言い付けてやる。

 

 

A月。日

 最近シルフ君ちゃんがよく家に遊びに来る。

 語弊があった。

 「遊びに」でななく「勉強しに」が正しい。

 ルーデウス曰く、魔法の練習に大事な事を教える為だそうだ。

 そういう名目で部屋に連れ込んで如何わしい行為をしてないか心配になってくる。

 あのパパウロの血を濃く引いてるルーデウスだからなぁ……。

 

 

つ月な日

 今日も剣術の鍛錬。

 魔法無しルーデウスにはほぼほぼ勝てる。

 が、パパウロには勝てるビジョンが見えない。

 最近は成長率が落ちてる気がする。

 これ以上伸びないのかな?

 

 

6月.日

 ルーデウスが遂にやってしまった。

 私はいつかやると思ってたよ。

 午後の剣術の時間、ちょっと小休憩ということで家の中に戻ったんだけど……シルフ君ちゃんが泣いていたのが聞こえた。

 遠かったので詳細は不明だが、「いやいや」言っていたのでこれはもう確定だろう。

 キスか乙女の大事な部分を舐めたか、その先かは知らんが大人の階段を登ったということは分かる。

 ふむ……ゼニスママにチクるか否か……。

 

 

5月し日

 悩んだがゼニスママには伝えなかった。

 手紙が届いたかなんかでパパウロが部屋に突撃したからだ。

 色々と評価が落ちているパパウロだけど、やる時はちゃんとやるお父さんだと私は思ってる。

 だから、彼が何も事を立てないのなら、何もなかったのかもしれない。

 

 それはそうと、手紙は幼女先生からで私にも来ていた。

 内容は「魔法の鍛錬は続けていますか?」だった……。

 ヤバい。

 剣術の鍛錬しかやっていない事がバレてる。

 何故だ?

 

 

ょ月う日

 手紙を貰って次の日。

 家族一同が揃った時にルーデウスがラノア魔法学校に行きたいと言い出した。

 何処かで聞いた覚えがするけど、何処で聞いたか全く思い出せない。

 しかもルーデウスはシルフ君ちゃんと離れるのが嫌だから二人で入学するとか言い出した。

 

 パパウロの返答は勿論ダメ。

 前世なら小学生に通う年頃だけど、ラノア魔法は物凄く遠くにあるらしくそんな場所に一人で入学なんてさせられない。

 第一にお金が無い。シルフ君ちゃんの分を合わせたら到底出せるものでは無い。

 そこでルーデウスは仕事をすると言い出した。

 ……まだ7歳だよね??

 私の兄の思考回路がぶっ飛んでる件。

 結局、パパウロが折れる形でこの話は終わった。

 夕食に重たい話をぶっこんで来ないで欲しい。

 朝食でも困るけど。

 

 

さ月い日

 幼女先生の時と同じく、仕事を探そうにも直ぐに見つかる事は無い。

 まだ7歳児なのだから、適当な場所で働かすわけにも行かないのだろう。

 まぁ、私には関係無い話だ。

 さあ、今日も剣術の鍛錬がんばるぞい。

 

 

 

 

 

こ月う日

 幼女先生の手紙を貰ったからには魔法の方も頑張らなきゃならない。

 と思って自由時間を使って自主練習を再開してみたものの、先生が居ないんじゃただの復習だ。

 何かいい手は無いか……?

 

 

だ月っ日

 久しぶりに気分が落ち込んでる。

 今日はルーデウスとシルフ君ちゃんの魔法教室に突撃してみた。

 そうしたら、シルフ君ちゃんが既に私の手の届かない領域まで成長している事が判明。

 ヒントを得ようと軽い気持ちで来ただけなので、自尊心を削られるとは思いもしなかった。

 

 

た月ね日

 気持ちが沈んだ時は剣を振るに限る。

 午前中の剣術の時間だけでなく、今日は一日中剣を振り回していた。

 

 

T月Y日

 バカだ。

 後先考えずに剣を振ったせいで腕が筋肉痛で死にそう。

 流石に動かせないと判断された私は、午前中の剣術の鍛錬を初めて休んだ。

 

 

O月U日

 今日も筋肉痛はまだ治らない。

 腕が使い物にならないからと、魔法の練習をしようにも身に入らない。

 ホントにどうするればいいのだろう……。

 

 

K月A日

 まだ治らない。

 どんだけ回復が遅いのだろうか?

 ボケーッとリーリャが家事をしている間にノルンとアイシャの相手をした。

 と言っても腕が動かしにくい関係上、主に目を離さずにいるだけだ。

 妹たちは可愛い。

 私の精神安定剤だ。

 

 

K月U日

 今日もダメだった。

 一生このままなのかな?

 少しだけ不安になる。

 

 

I月L日

 流石に不思議に思ったゼニスママには見て貰ったら疲労骨折だった。

 骨折してるのに日常生活には困らなかったのは不思議だ。

 腕を固定すると思いきや、ゼニスママが治癒魔法で治してくれた。

 ……治癒魔法だ!!

 

 

t月s日

 ゼニスママは治癒魔術師だ。

 幼女先生も使えるが、専門外で私には時間が無かったので教えて貰えなかったのだ。

 ゼニスママの時間が空いた時に教えて貰えるようになった。

 初級でも覚えられたら軽い怪我を治せるし、中級なら骨折も治す事が出来る!!

 当面の目標をこれにして頑張るぞい!!

 

 

A月い日

 先ずは初級治癒魔法の練習からだ。

 主に午前中の剣術の鍛錬でで来た怪我を練習台にしてやる。

 普通の初級魔法よりも早く、1日で習得出来た。

 と言っても、詠唱をキチンと全部して、全魔力の1/3を使ってようやく発動できる程度。

 しかしそれでも怪我を気にしないで動ける様になった。

 ただ「怪我を前提に動くと実戦でも癖が抜け無くなるからあまりするな」とパパウロに怒られた。

 明日からは辞めよう。

 

 

D月E日

 妹は正義だ。

 アイシャはノルンよりも成長が早いみたい。

 だからノルンに愛着が湧く。

 だって私を見ているみたい。

 まぁ、アイシャが嫌いってわけでは無いから安心して欲しい。

 

 

n月あ日

 今日はゼニスママに付いて育休中だから、私がしっかりしなければ……。

 

 

 

 

 

い月D日

 午前中は剣術の鍛錬。お昼ご飯を食べた後は診療所で初級魔法の練習。

 魔力量の低さと詠唱を一々唱えないといけない点を除いたらある程度バッチリになったと思う。

 明日からはいよいよ中級治癒魔法に入り込む。

 

 

E月S日

 ルーデウスが仕事をしたいと言い出してから1ヵ月ほどが経った今日。

 別れは突然だった。

 剣術の鍛錬中、急にパパウロはルーデウスに向かって本気で剣を振るった。

 私も初めはただの鍛錬の内容なのかな?と思ったが、パパウロはルーデウスの魔術を避けるとルーデウスの意識を奪った。

 そしてそのままルーデウスは知らない猫耳剣士さんとドナドナ……。

 私はただ、呆然と立ち尽くすだけだった。

 

 

U月k日

 次の日。

 寝て起きたらルーデウスが居なかった。

 ようやく実感が湧いてきたと思う。

 今日の自由時間は昨日の事を整理していた。

 

 ルーデウスはパパウロの伝手を使って、フィットア領の中心都市ロアへ家庭教師の仕事に行ったらしい。

 手荒な真似を使って追い出したのは、ルーデウスの意志確認とこうでもしないとシルフ君ちゃんと離れ離れにならないと判断したらだそうだ。

 言われて納得できた。でなければ家族に激甘なパパウロがDVをするはずがない。

 

 

 

 

水月着日

 ルーデウスが居なくなって早数日。

 デメリットとメリットに気が付いた。

 

 まずデメリット。

 双子の片割れであるルーデウスが直ぐに会えない距離まで離れたので少し寂しい。

 何だかんだでルーデウスがいるのが当たり前の日常になっていたのだ。

 デメリット二つ目。

 シルフ君ちゃんが家に来る様になった。

 この年で完全にルーデウスの事を意識しているようで、家に来てリーリャから礼儀作法を、診療所に来て治癒魔法の練習をしている。

 ルーデウスが頑張ってお金を稼いでいるのに、泣き言を言って待っているだけじゃなくて成長していたいらしい。

 これで家では妹二人を取られただけでなく、診療所では私の存在意義も取られた。

 憎いって程ではないけど少しだけ気に要らないって思ってしまうのは、まだまだ子供の精神に引っ張られていからだと思いたい。

 

 次にメリット。

 パパウロとの鍛錬の時間を独占出来る。

 午前中の鍛錬時間を独り占め出来るだけ。

 と言っても、より濃厚な鍛錬を受けられるのでメリットと言えばメリットだ。

 デメリットの方が大きくて嫌になるけど、そこは朝から剣を振るって、昼には診療所では魔法の鍛錬、夜は妹たちの相手をして癒されよう。

 ルーデウスが帰って来た時に、少しでも成長しているように頑張ろう。




ようやく1巻部分終了。次回からオリジナル要素増えます。


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6冊目

山奥に行ったら物凄く執筆時間が取れたので10日ほど早めに更新できました。

馬琴は天井しました。為朝は普通な確率。7周年が楽しみですね!


Z月I日

 剣を振る、昼ご飯を食べる、診療所で治癒魔法の鍛錬、晩御飯を食べる、妹と戯れる、寝る。

 この繰り返しを何日、何週間、何ヶ月繰り返しただろうか?

 

 

k月お日

 子供の成長は早い。

 生まれたばかりであればあるほどだというのを実感した。

 アイシャがハイハイで動けるようになったのだ。

 パパウロと私は一緒になって喜んだ。

 ノルンも早くハイハイができる様になればいいなぁ。

 

 

n月n日

 今日も剣術の鍛錬。

 腕を疲労骨折?して以来、限界を超えてまで剣を振るのは止めにした。

 というか、ゼニスママとパパウロに止められた。

 何度も何度も怪我をするくらいなら、剣を没収するって言いだされたのだ。

 頼みの綱であるリーリャに助けを求めても、彼女もゼニスママとパパウロの味方らしい。

 このままじゃあノルンとアイシャに頼られるお姉ちゃんになれないし、ルーデウスとの差は開く一方だ。

 もっと頑張らなきゃ。

 

 

g月E日

 シルフ君ちゃんに魔術のコツを教えて貰った。

 前世の化学みたいな事を話された。

 これをルーデウスから習ったというのか……。

 私には理解し難くて無理ゲーだったよ。

 やはり幼女先生のようにコツコツ頑張ろう。

 

 

t月う日

 アイシャから数日遅れでノルンがハイハイできる様になった!!

 可愛いのでゼニスママと手を取り合って喜んだ。

 可愛いは正義である。

 

 

h月あ日

 ルーデウスの事が少しだけズルく思えるようになる事実をパパウロから聞いた。

 ルーデウスがドナドナされた日、知らない間に居た謎の猫耳剣士さん。

 彼女はなんと剣王でパパウロとゼニスママの古い友人らしい。

 話が旨く行っていればルーデウスは現在、剣王である猫耳剣士さんの鍛錬を受けているとのこと。

 剣王直々のご指導とは……私もロアの街に行きたくなってしまった。

 

 

M月A日

 次の日。

 私も猫耳剣士さんのご指導を受けに行きたいとパパウロに話した。

 そしたら「お父さんを倒せる様になってから言いなさい」と言われた。

 確かにそうだと思う。

 上級剣士であるパパウロを倒せないのであれば、2つも階級が上の剣王の手ほどきを受けても、何も得られない可能性の方が高い。

 先ずはパパウロに勝つのが目先の目標に変わりはなかった。

 

 

Z月I日

 やる気が漲ってきたけど、何も変わらない。

 

 

G月あ日

 パパウロとゼニスママが絶賛別居中だ。

 別居と言っても家の中で、同じ部屋で寝ないでいると言う意味でだ。

 なぜこうなった……?

 仲を取り戻したルーデウスの兄貴が出稼ぎに行ってしまったからだろうか?

 明日、ゼニスママとお話してみようと思う。

 

 

K月Y日

 ゼニスママとお話した。

 子供としてはパパウロとゼニスママが仲良くしていないのは良くないと思う。

 前世の記憶があり精神年齢が身体年齢を超えている私はともかく、生まれたばかりのノルンとアイシャには多大な影響を与えるはずだ。

 それに、ルーデウスが帰ってきた時に喧嘩してたら悲しむ。

 的な事を慣れない調子で話したら、夜には仲直り出来ていた。

 仲がよろしいのは良い事だけど、ノルンとアイシャがまだ歩けもしない内に子供をまた作るのは止めてもらいたい。

 ……今度は弟でお願いします。

 

 

O月K日

 午前中の剣術の鍛錬。

 パパウロが見るからにやる気が漲っていた。

 ゼニスママと一緒のお布団で寝たのがよほど聞いたのだろうか?

 とりあえずボコボコにされた。

 本気パパウロの背中は遠い。

 

 

 

 

 

D月E日

 8歳になった。

 変わったことと言えば、ノルンとアイシャが1歳を迎えて、物に掴まって立てる様になった。

 子供の成長は早いものだなぁ。

 アイシャなんて、リーリャが英才教育を施しているのか、少しだけ単語を言葉に出す事が出来るくらいだ。

 ノルン……私みたいに劣等感を抱かないか、将来が心配だ。

 その時は先駆者として慰めてあげよう。

 

 

U月T日

 剣術の鍛錬は相変わらずと変化していない。

 少しづつ中級に近づいていると思いたいけど、少し真剣になったパパウロと打ち合うだけでヘトヘトだ。

 完全に壁にぶつかったまま終わってる。

 このまま登り切れないかもしれない。

 パパウロに「女の子なんだからここまでやれてるだけで十分過ぎる」と慰められた。

 それって、これ以上伸びないって言外に言ってる様なものじゃないかな?

 

 

E月I日

 魔法の方は少しだけ進んだ。

 診療所に通う毎日。

 努力が実を結んだのか、遂に中級治癒魔法を習得できた。

 ここまで長かった……。

 上級ともなれば、詠唱も長く覚えられないし、魔力も膨大に必要なので諦めた。

 これにて魔法の練習は一区切り着いたと言っても良いだろう。

 魔法には憧れがあるけど、ここまで習得が難しいとなれば憧れも醒めてしまうもの。

 これ以上の上達は見込めない、そう判断した私は新たな魔法を求めるのはここで終了。

 まぁ、先生が居ない以上、どう足掻いても新しい魔法の習得は難しいんだよ。

 後は復習がてらに自由時間に魔法を復習する程度で良いだろう。

 

 

 

b月あ日

 ここ数日は特に何もなし。

 

 

K月I日

 と思ったらアイシャが立ったぁあ!!

 予兆はあったものの、赤ちゃんの成長は何気ない時に起こるものだなぁと実感させられる。

 次はノルンだ。

 頑張れ、お姉ちゃんは応援してるぞ。

 

 

 

 

 

n月N日

 9歳になった。

 妹たち二人はすくすくと成長していっている。

 3歳と言えばルーデウスは魔法の練習を独自に行っていた頃だったと思う。

 私と言えば、パパウロやリーリャに強請って文字を覚えようと必死になっていた頃?

 アイシャはルーデウス並みの才覚の鱗片を見せているのか、既にたどたどしく喋っている。

 ノルンは私と同じ様に、まだ単語だけをぽつぽつと口に出す程度だ。

 贔屓してるわけではないが、お姉ちゃんはノルンをとても応援してるよ。

 

 

T月E日

 剣術の鍛錬は引き続き続けている。

 が、成果は微妙と言える。

 上達の為というより、習った事を習慣にする為にやっていると言った方がいいほど。

 何か突破口は無いか……。

 

 

N月N日

 一日中剣を振りながら考えた。

 ……一日中というのは過大表現だった。

 前回の反省点を活かし、休み休み休憩を挟みながら剣を振るった。

 これなら少し手が疲れるだけで済んだ。

 素振りしながら考えた結果だけど……特に何も思い浮かびませんでした。

 無心で素振りしながら考えるだけで思いつくなら、既に思いついてるだよねー。

 

 

Z月Y日

 数日経ったが何も思いつかず、悶々とした日々を送っていた。

 そんな時、剣術の鍛錬中にパパウロから思いがけない提案を受けてしまった。

 それは、パパウロの仕事に少しだけ同行して魔物の討伐を体験するという提案。

 この調子で対人の鍛錬を続けても成長が見込めないのなら、魔物相手の実践を行って別方向からアプローチをかけると言うもの。

 完全に考えなかった所からその考えが出てきた。

 パパウロとの対人で伸びないなら、魔物での実践で伸ばすなんて、剣術を習いたいと言ってダメだと言っていたパパウロから出る言葉とは思えない。

 あれだけ娘の私を溺愛してるなら、パパウロとの鍛錬よりも遥かに危険な実践を言い出すとは思えなかった。

 何はともあれ、剣術の鍛錬は次なるステップへと進む事ができる!!

 

 

O月U日

 と、意気込んだのは良いものの、数日間は音沙汰なく過ぎてしまった。

 幾らパパウロが村の駐在騎士とはいえ、9歳の子供を職場に連れ出すのに即決は出来ないらしい。

 「もう少し待って、森の魔物の活性化が終わったら連れて行ってあげるぞー」とパパウロは申し訳なさそうに告げてきた。

 仕方ない、これも私の身の安全という事で我慢しようではないか。

 

 

S月I日

 1週間が経った。

 まだ森へは連れていて貰っていない。

 ゼニスママに「やっぱり森は危ないから止した方がいいんじゃないか?」と心配された。

 ゼニスママの心配も分かるが、森が危なくない時に行くんだし、何よりもパパウロと一緒に行くのだ。

 あの親バカ父親が一緒に居て怪我をするはずがない。

 

 

M月A日

 まだダメな模様。

 ノルンとアイシャの相手をして待とう。

 

 

S月I日

 もう一度パパウロに聞いた。

 何故か魔物の活性化が戻らないらしい。

 早く沈静化しないかなぁ〜。

 

 

T月A日

 アイシャに「ねぇね」と言われた。

 は?可愛過ぎだろ?

 この可愛さの前には全てがどうでも良くなった。

 

 

T月A日

 お姉ちゃんの凄さを見せつける為に、今日の鍛錬は物凄く頑張った。

 久しぶりにパパウロとの戦績がいい感じになった。

 本気…かは分からないが、真面目になったパパウロと数合打ち合いが出来たのだ!!

 

 

 

 

 

M月E日

 もう1ヶ月以上が過ぎた。

 もしかしたら数ヶ月かもしれない。

 森の魔物の活性化はまだ治っていないのだろうか?

 明日夕食の時にでも尋ねてみよう。

 

 

T月O日

 もうッ!!

 信じられない。

 約束を忘れられていた。

 何が「最近は調子が良いみたいだし、めっきり言い出さなくなったから忘れてた。すまん」だ!!!?

 こっちは言い分を守って大人しく待っていたというのに……。

 頭にきた。

 少し早いが反抗期だ!!

 

 

M月O日

 次の日、早速反抗を始めることにした。

 まず朝起きて朝食時、パパウロとは目も合わせないし喋らない。

 次に午前中の鍛錬、準備運動と素振りが終わった後は黙ってパパウロに切り掛かる。

 休憩と言われても奇襲作戦だ。

 午後は家から出て村に行く。

 夕方以降、家に戻るのは夕食ギリギリ。

 もちろんパパウロとは関係を断ち切る。

 それ以外は普段通りだ。

 

 

 

 

H月A日

 反抗期を始めて数日。

 パパウロが目に見えて焦り始めた。

 流石に私が避けているのを理解したらしい。

 軽い気持ちで謝ってきたが、そんなもので私の怒りが消えることは無い。

 まだまだ反抗期は続く。

 

 

k月A日

 反抗期はまだまだ続く。

 同時にある計画も進行中だ。

 

 

K月U日

 反抗期中。

 パパウロは泣きそうな顔で仲直りしようと懇願してきた。

 しっかりと反省しているようだ。

 だが断る。

 

 

R月I日

 ゼニスママに「もう仲直りしたら?」と和解を持ちかけられた。

 私の早い反抗期に「少しは痛い目を見たら良いのよ」と応援してくれたいたはずだけど、流石に長すぎる期間とパパウロに泣き落としされたのだろう。

 リーリャも似たような感じだった。

 ここまで言われたら悩ましい。

 要熟考だ。

 

 

T月U日

 リーリャがアイシャに英才教育を施そうとしているので、今日はノルンと遊んだ。

 色々あって反抗期中だが、パパウロ以外との関係は非常に良好だ。

 普通に談笑するし、ノルンとアイシャのお世話したり遊んだりする。

 ノルンはアイシャと比べられたりするので、私とルーデウスとの関係に似ている。

 初めは私の一方的な気持ちだったが、物心が着いて感性を持ち始めてからは、私の気持ちにも共感してくれる良い姉妹だ。

 ただ……ノルンはパパっ子なようで、私とパパウロがバチバチしているのが悲しいらしい。

 妹にここまで言われたら腹を括るしかない。

 

 

D月O日

 ノルンに悲しい表情はさせられない。

 朝ご飯の時、いつも通り話しかけてきたパパウロに返事を返した。

 物凄い驚いて笑顔になった。

 それほど反応を返さなかったのが心に来ていたのか……。

 だったら初めから私との約束を忘れなければ良かったのに。

 これが女泣かせのパパウロか。

 

 

U月R日

 反抗期を表面上辞めた次の日。

 鍛錬中のパパウロが物凄くイキイキしているのが分かった。

 やる気満々過ぎて最後の方は着いていけなかったよ……。

 

 

 

I月D日

 今日は休日だ。

 最近はコンを詰め過ぎてたのでしっかりと身体を休ませようと思ってた。

 昼ごはんを食べた後、村を進んで風の気持ち良い丘で風を感じていたら、奴が現れたのだ。

 ルーデウスの嫁シルフ君ちゃんだ。

 なんか、ルーデウスの双子の妹である私とも仲良くしたいらしい。

 最近は私が忙しそうに村をかけ回っているのを見て、中々声を掛けづらかったそう。

 ルーデウスがいない間に、グレイラット家を囲いに来てた……。

 結果、シルフ君ちゃんのマシンガントークを喰らった。

 全然休めなかったぞ。

 

 

E月S日

 数日が経った。

 私から再び言い出していないが、パパウロはいつも通りだ。

 数ヶ月前にした約束は何処かへ行ってしまったらしい。

 もう一度言い出さないとパパウロは思い出してくれないのだろうか?

 それともサプライズ目的で秘密にしている?

 もう少しだけ待ってみよう。

 

 

I月T日

 鍛錬鍛錬。

 そういえば、そろそろ10歳になる。

 例の慣習により祝う日だ。

 もう10年か……。

 長いような短い時間だった。

 

 

A月Z日

 パパウロが嘆いていた。

 ルーデウスの10歳の祝いを直にしてあげられないと。

 仕事の関係で村を空けるのが難しいらしい。

 

 

E月S日

 ゼニスママの提案でルーデウスに手紙を書くことにした。

 最近は剣術の鍛錬ばかりだったので、文字を書くのは久しぶりだ。

 習慣付いていないから間違わないか不安だ。

 内容は寝ながら考えよう。




次回から10歳です。無差別転移事件が近づいてきましたねー。


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7冊目

7周年、水着イベントと忙しかったので遅くなりました。本来ならこれくらいの更新頻度を予定しておりました。つまり、1ヵ月未満で更新出来てたこれまでが異常だった。


S月Y日

 ルーデウスへの手紙を書いた。

 やはり文字を書く慣習が付いていないから、思い出すのに必死だった。

 もっと本も読もうと思った。

 

 肝心な手紙の内容。

 初めに誕生日おめでとー。私も同じだからロアの街で売ってる誕プレよろしく、とお祝いの言葉と手紙書いたからプレゼントを強請った。

 その後は、こちらはお元気ですよ、治癒魔法の中級を覚えたぜ!!その他は偶にしか復習してない、剣術はギリギリ中級に届きそうな感じ?的な近況報告をざっと。

 最後に、ノルンとアイシャが物凄く可愛い事を残りの場所に書き連ねた。

 出稼ぎに行くまではルーデウスも妹二人の事を可愛がっていたので、さぞかし悔しがるだろう。

 クハハハッ、帰ったら圧倒的なお姉ちゃんを身につけた私を見るが良い。

 

 

U月N日

 誕生日数日前。

 本来ならロアの街に行く予定だったとゼニスママから聞いた。

 行けなくなった理由、パパウロは仕事でどうしても村を出れない。

 ゼニスママ、ノルンとアイシャが少し体調が悪い。

 そっか、ならしょうがない。

 私だけでも家で祝って貰おう。

 ルーデウスは……きっとお貴族様風のパーティーでも開かれるだろう。

 パパウロ騎士だし、ゼニスママも外国の貴族令嬢だったみたいだし。

 

 

E月N日

 ノルンとアイシャの体調が本悪的に悪くなった。

 予兆だったのが起きたと言える。

 リーリャとゼニスママが妹二人にかかりっきりになったので私が要だ。

 手始めに家事を頑張ろう。

 掃除洗濯料理……元の世界と違って便利な家具がないけど、この世界に転生して10年も経てば慣れるもの。

 分からない所や自分の判断で出来ない事はリーリャに相談する。

 今日から数日間は剣術の鍛錬は抑え目かな?

 

 

n月H日

 誕生日前日。

 明日のお祝いにワクワクしてると、何時ぞやの馬車がやって来た。

 初めは誕生日に伴いルーデウスが帰って来たのかと思ったが、それは違った。

 私の迎えだった。

 ……私がこの家の子ではなく本当の親が迎えに来たとかそう言うのじゃない。

 単純に、このフィットア領を治めるボレアス家の家がルーデウスの誕生日を祝うべく迎えの者を寄越しただけだ。

 何も聞いていなかったのでビックリ。

 パパウロとゼニスママ曰く、私に対する誕生日プレゼント的なもの。

 双子なのだから、ルーデウスと会えないのは寂しいだろう。豪華なパーティーとまでは行かないが、貴族の館で祝って貰え。ロアの街の観光もして来なさい。等々。

 勿論、これだけが全てではなく、帰ったらここにいる家族がもう一度誕生日会を開くらしい。

 というわけで、断る理由もないので私もロアの館へドナドナ~。

 

 

A月NN日

 お昼過ぎに出発し、ロアの街に着いたのは夜過ぎだった。

 途中で休憩なし。

 前世と違って整備されていないガタガタ道を、スプリング?が無い異世界馬車で半日にも及ぶ進行。

 揺れすぎて若干酔った……。

 この世界での馬車は私には合わない。

 ロアの街に着き、屋敷へ入ると既に寝静まった後。

 途中休憩で晩御飯は食べていたのでそのままおやすみなさい。

 

 現在の時刻は夜。

 既にお誕生日会やらは終わって部屋でゆっくりしている。

 初めてのお屋敷、知らない街、知らない人達……。

 緊張しまくりだった。

 今日の動きを振り返って行こうと思う。

 

 誕生日当日、起きたら館の一室。

 メイドに起こされて、されるがままに湯浴み、着替えをさせられた。

 本職のメイドさんは凄かった。

 こちらが何もしないでもパッパッと身支度を整えてくれる。

 でも、ひらひらとした服装は正直に言って動きにくかった。

 着替え終わればこそこそと別の部屋に移動し、この館の主である……さ、サウロ?様に挨拶をした。

 お辞儀して挨拶をしたのにものすごい勢いで怒られた。

 あの人嫌い。色々と耐えられた私は偉い。

 その後はこの街の領主フリップ様?その妻のヒル……何とか様?にも挨拶。

 パパウロの従兄に当たる関係らしい。

 まぁ、今後はお貴族様と関わらない生活を目指したいので、家に帰る頃には忘れるだろう。

 

 その後は部屋に戻って時間まで待機。

 下手に動かれて迷子になると困るのと、ルーデウスと下手に鉢合わせするのを防ぐためらしい。

 一応お客様扱いなのか、何かあればお呼びくださいと言われた。

 今になって気づいたけど、用事が出来た時は何処で何をすれば良かったのだろうか?

 時間になったらメイドさんの後ろについて会場入り。

 ささやかなホームパーティーって聞いてたが、普通に盛大な会場に大勢の人だった。

 これがささやかってマジで?

 

 ルーデウスの生徒であるエリスお嬢様の声に合わせていざ入場。

 約3年ぶりの再会に、どんなリアクションをすればいいのか分からなかったが、ルーデウスはパパウロとゼニスママをご所望だったらしい。

 とりあえず「パパウロとゼニスママじゃなくてごめんなさい?」って感じでルーデウスの前に立った。

 そしたら、唖然→泣きそうな顔→抱き付かれた。

 あーーうん、3年も離れてた双子だもんね。

 気持ちは分からなくもないけど、屋敷の人が沢山いる中でこれは恥ずかしかった。

 ルーデウスの気持ちを考えてグッと堪えたけど。

 

 抱き合いが終わった後は誕生会が進行。

 ルーデウスだけでなく、私にもプレゼントが送られてきた。

 何でも、ルーデウスは3年間の間でこの屋敷に物凄く馴染んでおり、その双子の妹である私にも恩恵が少しだけ届いた……と言う訳だ。

 プレゼントは真剣だった。

 流石に名剣ってレベルではないが、市販で買える仲でもかなりお高い奴っぽい。

 この誕生会に招待してくれただけでも十分なプレゼントだったのに物まで……。

 ちなみに、ルーデウスは私の目でも分かるくらい高価そうなオーダーメイドの杖を貰ってた。

 ルーデウスと私とでは扱い違い過ぎじゃない?

 まあ、私はルーデウスのおこぼれに肖っているだけだから文句は言えない。

 普通に出された料理も物凄く美味しいし……。

 

 と言う訳で、楽しい?10歳の誕生日は過ぎたのであった。

 

 

2月÷日

 昨日の事で一つ忘れていた……いや、単に思い出したくないだけだったのかも?

 パーティーの途中でルーデウスに女の子を紹介されたのだ。

 エリスちゃんと言うらしい。

 歳は私達よりも数個上で、ルーデウスの生徒だと。

 第一印象は「狂犬」

 初対面なのに怒鳴られた。

 わけがわからないよ。

 この子横暴過ぎて嫌いだと言う事が分かった。

 まあ、もう二度と合わないかも知れないから、今日だけの我慢。

 

 

す月S日

 一泊して自宅に帰ってきた

 やはりここが一番落ち着く。

 一生ここから出て行きたくないけど、お仕事とか結婚とか考えるならそうもいかないんだろうなぁ…。

 10歳児にしては少々早すぎる悩みだ。

 

 で、パパウロとゼニスママとの約束通り、家に帰ったら誕生日パーティーを開いてくれた。

 お貴族様のパーティーも良いけど、豪華すぎて気が気でない。

 素で居られる身内だけの方が楽しかった。

 

 

A月NN日

 昨日は色々と疲れていたので、誕生日会が終わったら直ぐに寝てしまった。

 昨日の振り返りからしようと思う。

 誕生日会は実家らしくとてもほっと出来た。

 まず、ルーデウスの近況をパパウロとゼニスママ、リーリャに話した。

 三人ともルーデウスが元気でやっていると知りとても喜んだ。

 その後は何時もよりも豪華な食卓。

 ゼニスママが「昨日のパーティーに比べたらこんなものしか用意できないけど…」と言ってきたので「ママの方が美味しいし、愛情が入ってるよっ!」と言って泣かしてやった。

 

 で、肝心とは言っちゃ悪いが、誕生日会と言われたら一番重要なもの。

 そう、誕生日プレゼントだ!!

 パパウロからは実用性な真剣。

 5歳の時にルーデウスが貰ったのとは違う、大人が使っても可笑しくないちゃんとした真剣だ。

 同時に剣神流の中級を認定してもらった。

 ようやくだ……。

 ちょっとだけ泣けた。

 ゼニスママからの贈り物は髪飾り。

 おしゃれそっちのけで剣ばかり握ってる私に、少しでも着飾る楽しさを教えたいらしい。

 ……ごめんなちゃい。

 おしゃれは前世で十分味わったから、この世界でないと出来ない剣術の方が魅力的なんだ……。

 リーリャからは刺繍の入ったハンカチ。

 オシャレと実用性を兼ね備えた、実にリーリャらしいプレゼントだった。

 今後は全部、常に持ち歩いておこう。

 

 午後の自由時間は真剣を使った素振りをした。

 木剣よりも重たいので、慣れるまで時間がかかりそう。

 

 

 

k月O日

 真剣を貰った事で鍛錬に剣の重さに慣れる項目が追加された。

 流石に打ち合いでは使用しない。

 重さに慣れるにはとりあえず持って振る事が第一だ、とパパウロに言われた。

 同感だったのでもっと頑張ります。

 

 

T月O日

 2日経った。

 真剣も持てたことだし、少しだけ期待していたが、全く話題にならないとなると、それはそれで怒りが湧いてきそう。

 

 

S月I日

 剣を振る。

 重さにはある程度慣れてきたかもしれない。

 

 

N月O日

 前々から準備していたアレを実行するべきだろうか?

 悩む悩む。

 明日の鍛錬中にパパウロにそれと無く聞いてみよう。

 

 

M月I日

 最悪だ。

 初めに言いだして数か月も経ったのに、途中でそれで喧嘩までしたのに、また忘れられてた。

 怒ったので午前中の鍛錬は途中で抜け出し、あの計画の準備に時間を割いた。

 晩ご飯の時に帰ってもパパウロとは話さなかった。

 反抗期再びだ。

 ゼニスママが昔言っていた「パパウロは口だけで約束は一つも守らない」って言葉は本当だったみたいだ。

 ずっと準備はしていたので、明日には決行しようと思う。

 

 

Z月U日

 怖かった。

 有り得ない。

 でも駄目だ。

 自分がやったことなのに……。

 物凄く怒られた。

 パパウロが一番悪いのに。

 

 

 部屋に戻って一通り泣き止んで、心も落ちついたので今日の出来事を整理する。

 まず、前から準備した事を決行した。

 朝ご飯を食べる前に。

 家族が起きる前に昨日の内に準備していた保存食を持って家を出る。

 家出や誘拐と間違われない様に、ちゃんと書置きも残した。

 この書置きを書くのに一番準備時間がかかった。

 向かった先は森。

 一度、パパウロや自警団と一緒に入った事がある場所だ。

 ここで行うのは、当然実戦。

 かなり前にパパウロから、時期が来たら連れて行って戦わせてくれるって約束してから長い月日が経った。

 私が忘れたと思うなよ……。

 その日をどれだけ待ちわびていたか。

 一向に連れて行ってくれない上に、確認したら忘れられてた。

 更に数日待っても気配すらない。

 だから自分で行くことにした。

 村の自警団には剣神流の中級有段者は居ないらしく、なら中級を認定して貰った私の方が強いはず。

 なら、私だって森に入ってモンスターと戦っても大丈夫なはずだ。

 パパウロは加護保護過ぎるよ……。

 

 それで来たのが森。

 村の境界線を超えても何も無かった。

 剣を構えて進んだ。

 出来心で、数体倒せたら満足して帰るつもりだった。

 見つけたのは猪型の魔物。

 そろそろと近づいて、私の攻撃範囲に入ったら一気に距離を詰めて攻撃した。

 先手必勝だ。

 先手は無事に当たった。

 でも、変な場所にあったのか、剣は途中で止まって抜けなかった。

 暴れる猪型の魔物に振り回されて吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされた時の対処法も習っていたが、初めての実践だったのでそんなことは頭の中から吹き飛んでいた。

 受け身も取れずに吹き飛ばされ、木にぶつかって止まる。

 息がつまった。

 目を開けると、私に向かって突進してくる猪型の魔物。

 横に転がって回避した。

 極度の緊張もあって、既に息が上がっていた。

 その後はあまり覚えていない。

 がむしゃらに回避したり剣を振って攻撃をしたりした……ような気がした。

 多分、パパウロから習った事の半分も出来てない。

 

 疲労困憊になってようやく倒せた1体。

 予想以上に体力を消耗したので、当初の予定の2体目など頭に無かった。

 帰ろう。そう思った。

 でも、戦闘で訳も分からず動き回り、森の奥に入ったのか位置も方角も分からない。

 更に、何度か喰らった攻撃のせいでまともに歩けなかった。

 朝にあった、初めての実戦が出来るという高揚感は無くなっていた。

 道に迷ったら動かない方が良いと、前世では聞いたことがあった。

 それにならって動かなければ良かったのだろうが、軽いパニックになっていた私は森を出たい気持ち一心で走った。

 走ればきっと帰れる、そう思った……のだと思う。

 走った先にあったのは森の入り口…なはずもなく、複数体でこちらを睨んでいる魔物。

 

 もう訳が分からなかった。

 こんな事ならパパウロが言い出すのを待てば良かった。

 簡単に倒せる様に見えた魔物狩りも、子供の私には厳しすぎた。

 何もかもが楽観的に見過ぎていたと、今になれば分かる。

 

 がむしゃらに剣を振って、逃げて、剣を振って、逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて剣を振って逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

 

 気がついたらパパウロに抱きしめられていた。

 安心と罪悪感で泣きじゃくった。




さて、そろそろ曇らせタグがアップし始めます。


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8冊目

1ヶ月から少しオーバー。すまぬ。
ぐだぐだイベントが美味しいので周回してました。


6月m日

 は????

 今日は何が起こったのか全く分からない。

 何処……此処?

 

 

あ月N日

 手が痛い。

 どうやら、落下の衝撃で骨折したみたいだ。

 何とか詠唱を思い出して中級の治癒魔法で治した。

 お腹も減った。

 此処何処だろう……。

 

 

N月D日

 現状は全く変わっていないし、今後の不安も大きいけど、とりあえず現状を振り返って見ることにした。

 まず、最後に覚えてるのは、私が森に勝手に入って魔物にボコボコにされて迷子になった挙句パパウロに保護されて怒られた次の日だ。

 朝起きて厳しい目をしたパパウロに小言を言われ続けながら午前中の鍛錬。

 昼ご飯をモソモソと食べた私は、流石に鍛錬を続ける気にはならなかったので家を出た。

 ここでも小言を言われてイラッと来ながら、何処に行こうかと村を歩いた。

 行く当ても無く歩いて辿り着いたのは、ルーデウスとシルフ君ちゃんが二人でよく遊んでいた大木だ。

 

 何をするでもなくボーっと過ごしていた。

 次第にルーデウスならどうやっただろうか?

 相談してたら違った結果になっただろうか?

 あの出来の良い兄ならもっと良い解決策を教えてくれただろうか…。

 そんな風に考えていると、遠くの天に奇妙な物を見つけた。

 天の色が奇妙な感じで変わっていた。

 何だろう……と、ボーっと見ていたが、途端に変な気配を感じた。

 なんて言うんだろう、第六感?今まで感じた事の無い、物凄くヤバいって思える感覚だ。

 怖くなったので家に帰ろうと、腰を上げた所で変化は起こった。

 漫画の世界で見るようなレーザーが宙から地面に撃ちだされ、地面が爆発。

 爆発した白いナニカはどんどん、どんどん広がっていく。

 視覚的、地理的な距離の事は詳しいどころか全く分からないけど、多分数キロレベルの範囲じゃなかった。

 白いのは止まる気配は無い。

 このままじゃ巻き込まる、と判断した私は家に向かってダッシュ。

 鍛え上げた私の足は既に村の同年代を圧倒するほど。

 それでも、白いナニカはだんだん私の背後に迫て来て……。

 

 白いナニカに巻き込まれたと思ったら、私は空中に居た。

 は?って慌てて、理解して体制を整える暇もなかった。

 理解不能のまま地面に叩きつけられた。

 唯一出来たのは無意識レベルに刷り込まれた受け身だけ。

 しかし、それでも建物の2.3階なんて目じゃない高さから落下した衝撃は抑えきれない。

 右腕から落ち右腕の骨折は当然、治癒魔法を何度もかけたのに未だに痛い。

 昨日と今日はそれで落下地点から殆ど動けなかった。

 明日は痛みを我慢してでも動かないと……。

 体力の回復に努める為にも早目に寝よう。

 

 

E月お日

 今日は食糧確保と周囲の探索を行った。

 食糧の方は微妙だ。

 食べられるか食べられないかも不明な果実が数個見つかっただけ。

 幸い、治癒魔法で軽い毒なら治せるから、ホントに何もなければ食べよう。

 水に関しては魔法があるので問題ない。

 ルーデウスみたいなバカ魔力量が無くたって、毎日の最低限の水分補給が出来るくらいは確保出来る。

 ただ、生活に魔力を使う関係上、無駄な事で魔法を使う訳には行かなくなった。

 

 周囲の探索だが……。

 軽く歩いた感じ何もない。

 辺りは森。

 ジャングルって感じじゃないけど、近くに村らしきものがある風には思えないほどの自然。

 此処、ホントに何処?

 

 

W月A日

 お腹すいた。

 今日は人を探して歩いた。

 なんの成果も得られませんでした。

 明日こそ何か見つけたい。

 

 

T月A日

 吐いた。

 最悪な気分だ。

 思いだしたくもないので寝る。

 お腹すいた。

 

 

Z月E日

 昨日から気分が優れず、今日は体力と気力の回復に務めた。

 何せ、昨日はぐちゃぐちゃになった死体を見たのだから……。

 

 

☆月・日

 今日は気持ち悪かったので魔法で水を出して気分を落ち着かせていた。

 

 昨日の死体は謎の白い光に巻き込まれた人の残骸だろうと推測した。

 辛うじて分かった服は普通の村人か町人の物だった。

 冒険者なら周囲に争いの形跡があるはず。

 死因は……多分落下死。

 あの日、地面を走っていた私が高い場所に瞬間移動させられた事から分かるように、少なくとも高低差は同じ高度と言う訳ではないのだろう。

 何かが基準になっているのか、それとも完全ランダムなのかは私には分かるわけもないけど、一つだけ最悪な事が分かった。

 場合によっては私もアレの様になっていたかもしれないっていう事。

 偶々骨が折れる程度の高度に飛ばされただけ。

 もっと高ければ、咄嗟に受け身が出来ていなければ…、意識を失っていたのなら。

 嫌な『もしも』が頭を過る。

 

 だめだ、今日はもう寝る。

 

 

K月Y日

 体の状態や周囲は調べたけど、持ち物に関しては気にしていなかった。

 身につけていた物と一緒に飛ばされたみたいで、毎日の鍛錬で少しボロボロな服とズボン。

 あの日、鍛錬の姿のママ飛び出したので動きやすい服装だ。

 後は、家に居る時以外は持っている真剣。

 10歳の誕生日にパパウロからプレゼントして貰った物。

 ……喧嘩別れみたいな感じになっちゃったんだよね。

 きっと助けが現れて無事に家族全員が元に戻るって希望を抱いているけど、このままバラバラのまま一生が終わったら。

 そんな考えが頭を過ってちょっと鬱になった。

 

 

O月H日

 今日も歩いて人里を探した。

 かなり歩いたはずだけど、全く人の形跡が見当たらない。

 どれだけ奥深い場所に飛ばされたんだろうか。

 

 

R月A日

 何とか倒した魔物の肉は不味かった。

 焼くだけではダメだった?

 それはそうと、足跡らしき痕跡を見つけられた。

 数名ではなく、最低でも数十名はいるっぽい。

 でなければ私は見つけられなかっただろう。

 久しぶりの人の痕跡にホッとした。

 明日からは足跡を辿って見よう。

 

 

R月I日

 悲報:昨日の足跡は物騒な人達だった件。

 今は全力で存在を消して逃げている。

 昨日見つけた足跡を辿って人を探した。

 が、いざ見つけて見れば喧騒。

 人と人が殺し合いをしていた。

 私と同等以上に剣士が斬り合い、魔法が乱発。

 ……どうやら、お取込み中だった模様。

 そんな中に疲労困憊な私は入って行けるはずも無く、あえなく退散。

 何で争っていたのかは分からないけど、本能が関わったらダメだと訴えている。

 明日はもっと逃げないと……。

 

 

K月O日

 今日は一日中逃げていた。

 昨日の人の発見を皮切りに、人の集団に沢山合うようになった。

 遭遇した人達は皆、こぞって私を攻撃して来た。

 幸運だと思うが、少しの怪我は負っても大怪我は負わないで逃げ切る事が出来た。

 それが数回。

 流石に私も気づいた。

 此処の人達はヤバい。

 人型なのに全く知らない言語で喋り、私を見つけた途端に襲ってくる。

 見た目は本当に人間だけど、話がまるで通じない。

 何でもいいから言葉が通じる人に会いたい。

 

 

R月E日

 何と無く状況が理解できたかもしれない。

 謎の光に巻き込まれて飛ばされた先は、どうやら戦争のど真ん中だったらしい。

 見るからに装備や家紋?みたいな模様が付いたものを持って戦う人達。

 それが1箇所どころか、周り全てがそうだった。

 そりゃあ動物も少なくて、人里から離れた場所だよ。

 逃げるのは当たり前だけど、これからどうしようか……。

 

 

K月U日

 食べ物が欲しい。

 飲み水は魔法で何とかなるけど、食べ物はどうにもならない。

 戦争のせいで動植物は少なく、数少ないそれらは兵士達に狩り尽くされてるみたい。

 さらに言えば、安全な地じゃないと理解した動物たちは殆ど逃げて行ってしまってるみたい。

 幸運にも空を飛んでいた小鳥を魔法で撃ち落とすのが、ほぼほぼ唯一の肉の狩り方だと思う。

 一発で魔法を当てられる命中なんて無いし、当たるまで撃つと先に魔力切れで動けなくなってしまう。

 つまり、木の実以外に食べられる物が殆ど無いということを理解してしまった。

 ……早急にこの危険な場所から逃げるべきだ。

 

 

S月Y日

 悲報:軍人に見つかって追いかけ回された。

 逃げ切ったかも分からない。

 物凄く暗くなったのでせめてもの抵抗として、土魔法で土を少しだけ持って壁にする事で寝床を確保。

 しかし、相手は夜でも探してるかもしれないから、おちおち寝れるわけもない。

 少しだけ休んだら暗闇の間に場所を変えようと思う。

 

 

O月N日

 移動だけの日。

 

 

N月K日

 遂に捕まった。

 なんか、片方に見つかって追い回されてる最中にもう片方が接近。

 一網打尽にされて私もついでに捕まった。

 縄で手錠をつけられて、足にも鎖を巻かれてる。

 パパウロの誕生日プレゼントである剣は没収された。

 これからどうなるんだろう。

 

 

U月E日

 食べ物どころか、水すらない。

 と言うか性別とか関係無しに一か所で纏められてるから臭い。

 人によっては怪我でボロボロだし、治癒魔法を使わないまま放置なら死んでしまうかもしれないほど、酷い傷を負っている人もいる。

 あぁ、捕虜なんだからせめて生かしては欲しいなぁ…。

 

 

S月U日

 歩かされた。

 陣地に向かってるっぽい。

 考えてみたけど、戦争してるなら10歳ほ幼女がこんな場所にいるのが可笑しいと思わないのかな?

 剣か?剣を持っていたのがダメだったのか?

 

 

T月O日

 陣地に帰ったみたい。

 数名居た女性が少なくなった。

 ……。

 考えたくもない。

 

 

H月A日

 幼くて良かったかもしれない。

 うん、ただそれだけ。

 相変わらずお腹空いた。

 最後に満足に食べられたのが家でやった誕生日会か……。

 

 

 

 

I月G日

 数日経った。

 男の人も数人居なくなった。

 同性愛者でもいるのか、それとも女兵士がヤったのか。

 どうにかして逃げれないかな?

 

 

A月I日

 創作物によくある、戦争捕虜の待遇は悪くない、というのは嘘だ。

 現実は非道でやはりあれは創作だからこそなんだと改めて知った。

 この世界に転生してからずっとそうだった。

 凡人程度の才能しかなく、都合のいい助けは来ない。

 だとしたら、私がこの世界に来た意味は何だったのだろうか?

 前世だって満足に生きられたか分からないのに、この世界すら簡単に終わってしまえば……。

 

 

T月O日

 駄目だ。

 悪臭、生きて行くのに最低限以下の食事、変わり映えのしない部屋、居なくなる人。

 こんな場所に閉じ込められて可笑しくなりそう。

 実際に、壊れた人が戻って来る時がある。

 見たくないけど、嫌でも視界に入る。

 目を瞑っても悲鳴、喘ぎ声が聞こえてくる。

 あぁ…何でもいいから出たい。

 

 

K月A日

 今更ながら。

 ここは戦場の基地みたいな場所、だと思う。

 日夜人が攻めてきたり、ここの陣営の人が攻めたりしている。

 今日は酷かった。

 ここの基地から見て敵陣が攻め入ってきた。

 私がここに閉じ込められてから一番深刻な状況下だったと思う。

 一緒に掴まってる人達の仲間らしき者が開放してくれた。

 此処までは良い。

 先導してくれる人がいたけど、誕生日にパパウロから貰った剣を捨てて逃げる訳には行かない。

 一人で基地内を彷徨っていると私を捕えていた側の人間に見つかって元の場所に戻された。

 やはり、そう簡単に行かないものなのだ。

 

 

 

 

N月N日

 騒動から数日。

 腹いせなのか、数日水だけだった。

 限界になると腐りかけた物でも食べられるものなのか。

 

 

T月A日

 痛い。

 物凄く痛い。

 数日経った今更、牢屋から逃げた罰として折檻を受けた。

 子供だからか女の子だからか分からないけど、鞭で叩かれた程度で済んだのは幸いかもしれない。

 他の人を見ると、酷い人は殺されていた。

 足を切断されて逃げる意思を削がれた者も居た。

 そんな人たちを見せつけられていたら、四股が無事なだけマシだと思う。

 鞭で撃たれたくらい、何とでもない。

 

 

N月N日

 こんな時、ルーデウスが居たらと思う。

 あの天才が居たら魔法でも知識でも何でも使って簡単に逃げ出す作戦を思いついて実行してるだろう。

 双子なのに能力値全部持って行ったのはズルいよ……。

 

 

 

 

D月E日

 期間が終ったのか、それとも飽きたのか分からないけど、体罰の鞭打ちがなくなった。

 そうなると何も無い。

 忙しいのか、人手が足りないのか、両方なのかは知らないけど、最低限の守りを残して進軍したらしい。

 誰も居ない。

 一日中何も出来ない日が続いた。

 

 

 

S月I日

 ルーデウスなら、ルーデウスなら。

 ルーデウスならどのようにしてこの窮地を脱出するだろうか?

 最近はずっとそう考えている。

 お貴族様の館で数年ぶりに再会した時はあまりしゃべれなかった。

 それでも、短時間話しただけでもルーデウスは魔法でも、知能でも、そして剣術でも成長している事を知った。

 私なんて比べものにならない速度。

 ルーデウスなら……、この窮地をどうやって突破するだろうか?

 

 

T月A日

 ルーデウスなら、と考えているからか、そう言えば他の家族はどうなったのだろうか?と思い始めた。

 白いナニカはかなり遠距離から広範囲に渡って被害を及ぼしたと考えるべきだ。

 私だけがピンポイントで何処かに吹き飛ばされたとか考えにくい。

 ここに掴まる前に見た死体から分かるように、あの白いナニカが全部を吹き飛ばしたんだろう。

 家に居た家族も無事ではないはずだ。

 特にノルンとアイシャの事はとても心配になる。

 良くてパパウロが一緒なら良いが、この際大人の誰でも良いから一緒で居てくれと願うばかりだ。

 ……会いたい。

 そう願う気持ちで涙出てきた。

 




まだ序の口です。原作のターニングポイントは今回ですが、この物語のターニングポイントは次回になります。


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9冊目

 箱イベ開始前に間に合って良かった。目標3,000箱、対戦よろしくお願いします。


 質問来てたのでこの場でお返しします。
 サウロスが主人公への態度が強く見えるのでは、主人公視点なので間違っていないです。
 さらに言えば、サウロスはルーデウスとの初対面時にも大声を出し、貴族風ではないにしろ挨拶を交わしたルーデウスを叱っていました。そこから、全くそのあたりの知識を持っていない主人公がカーテシーなど出来るはずも無く、普通に挨拶した所ルーデウスみたいに言われた。
 前世の記憶がおぼろげながらあるにしても、身体に精神年齢が引っ張られてる主人公。10歳の少女が、上記の事が原因で嫌いになるのは十分過ぎる。容姿はゼニス似ですが、中身はパウロに近しい所があるので、内心で反発したって経緯ですね。

 エリスに関しては、今後書く機会があるかもしれないのでまた今度。


 前回更新時から数日後。一瞬だけ日間ランキングに乗っていたみたいです。
 何で????って気持ちが強かったですが、有り難い事には変わりないです。ありがとうございます。
 亀更新ですが、今後ともよろしくお願いいたします。


 

g月U日

 ここに来て何日経っただろうか?

 毎日を生きるのに精一杯で正確な日数は随分と前に数えるのを辞めた。

 少なく見積もっても、1ヶ月以上は経ったのかな?

 状況は一向に変わらない。

 以上。

 

 

 

 

D月A日

 何回も捕らえられてる基地が襲撃を受けた。

 1回くらいは成功してもいいんじゃないか?と思ったりしているが、敵の基地に襲撃を行っているのは私を捕えて陣営も同じだったらい。

 見張りの人がそう愚痴ってた。

 もう何年も戦争してるんだって。

 後何年続くことやら……。

 

 

G月U日

 最近、若く新人らしき人が毎日来る。

 一方的に話しかけてくる。

 何がしたいのだろう?

 

I月B日

 今日も来た。

 名前は知らない。

 ずっと喋ってる。

 暇なのだろうか?

 

E月N日

 久しぶりにまともなご飯を口にした。

 と言っても、クッキーとかそんなものだ。

 それでもまともな食料だよ。

 食べられたのは最近来る若い人が持って来てくれた。

 

T月O日

 やる事も無く、何をしても無駄なので最近よく来る若い人の事でも振り返ろうと思う。

 名前は知らない。

 赤い髪の若干のロン毛。

 イケメンではないが悪くはない感じ。

 歳は15歳~18歳程だと思う。

 前世の感覚に引っ張られて正直言って分からない。

 一つ確かなのはパパウロよりは断然若い事。

 数日前から私が押し込まれている牢屋にやって来る。

 交代や非常勤の見張りではないらししく、わざわざ休憩時間の合間を縫って来ていると言っていた。

 一緒の牢屋にいる女性奴隷色々と懇願されていたが、全く見向きもしないで私だけを見てくる。

 何だろう、危ない予感がする。

 

S月A日

 昨日は名前は知らないと言ったが、分からない理解できないが正解だ。

 喋る相手がほとんどいないからか、この場所では言語が通じないのを忘れそうになっていた。

 向こうも通じていないのが理解出来ているのか、身振り手振りで何とか伝えようとしている姿は少し可愛いかった。

 

I月K日

 改めて思えば、言語が通じないのはかなりヤバい。

 片言でも喋れたら、少しでも聞き取れたらこの環境が変わるのではないか?

 明日から頑張ってみようと思う。

 

 

 

O月U日

 言語の勉強を頑張り始めて数日経った。

 成果は微妙である。

 名前らしき単語が何とか聞き取れる程度。

 数日でここまで出来る様になったのを喜ぶべきか、それとも数日やってもここまでしか出来ない自分に嘆くべきか……。

 

D月E日

 環境が悪かった、と言い訳してみる。

 前世の学校みたいに、良い講師、机や筆記用具、教科書と言った勉強する環境が無いのが悪い。

 この劣悪な環境でどうやって学べと言うのだろうか?

 生きる為だから嫌でも頑張れる、やるべきだろう?

 なら実際に体験してみるが良い。

 成果も実感も無いだけでまるで進んでる様子が無く、手探りで独学で全く知らない言語を知らない常識がある場所で覚えろ。

 但し、扱いは奴隷に近い捕虜、教師は暇だから現れる一般兵士。

 無理だ……。

 こんな時天才は……ルーデウスは、私の兄ならどうやって切り抜けるだろうか?

 

 

S月I日

 ルーデウスの事を考えたせいか、またしても家族の事が心配になった。

 パパウロは……あの剣の腕なら何処に飛ばされていても生きて行けるだろう。

 言語が通じない事を除けば……。

 ゼニスママも大丈夫だろう。

 私よりも高位な治癒魔法の使い手で、元冒険者だから野宿や危険の切り抜け方も上手いはず。

 実家が外国の偉い家って言っていたから、実家と連絡さえ取れたら一番心強い。

 リーリャは少し心配だ。

 教養があり、剣の腕も初級よりはあるのでチンピラには勝てる。

 けど足が少しだけ悪く、長旅になると非常に厳しいはずだ。

 ノルマとアイシャは物凄く心配。

 まだハイハイが出来る様になった赤ん坊に何かを期待する方がおかしい。

 ゼニスママでもリーリャでも、パパウロでも良いから一緒に居てあげて欲しい。

 

 少し泣いた。

 今夜は眠れそうにない。

 

 

 

 

T月A日

 鳥肌がたった。

 思いだすのも怖い。

 でも、考えてしまう。

 

O月T日

 一日経って落ち着けた。

 昨日はあれだ……。

 襲われかけた、性的に。

 相手は最近よく私の元に訪れていた赤毛の人。

 どうやら、私の元に訪れていたのは気を引きたかったと推測する。

 言葉が通じないからか、私の反応を見て合意だと思ったらしい。

 あれが合意であるものか!!

 このロリコンめッ!!

 

Y月A日

 襲われたときに思いっきり噛みつき、手首を折ってやったからか、私の元に来なくなった。

 犯されるのは嫌だが、普通に楽しかったから残念極まりない。

 言葉は通じなかったけど、単純に私に会いに来てくれていたのは嬉しかった。

 まぁ、だからといって犯されるのは拒否するが……。

 

 

 

W月O日

 数日経った。

 牢屋に居た人たちと一緒に出され、何処かに移動させられている。

 馬車なんて物は無く、己の足で歩かなければならない。

 身にまとっているのはボロボロになった布切れ、最低限でしかない靴のなりこそないだけ。

 更にアクセサリーとして繋がれた手枷に足枷。

 普通の移動すら困難だ。

 

I月R日

 今日も歩き続けた。

 扱いは酷いが、考える限り最低では無いと思う。

 一日2回の休憩と簡素だが御飯もある。

 考え方のよっては、一日中檻の中で何も無い時間を過ごすよりはいいかもしれない。

 

E月T日

 良くない。

 久しぶりの行動に体力と身体がついていかない。

 既に足はずっと痛みを訴えている。

 次いでいけない者は引きづってでも進まされる。

 周りの人達の中では年齢が一番幼いけど、真っ先に脱落しなかったのは牢屋での扱いがマシな方だったからだろう。

 

 

E月お日

 あれから数日も歩いた。

 何度も限界を迎えたが、夜中に治癒魔法を使って治すことで引きずりまわされる事態を回避。

 それに、私が限界を迎え始めると、何故か休憩が挟むのだ。

 偶々だろうか?でも何度も続けば偶然とは考え難い。

 でも、質問は許されていないから、私が知るすべは無い。

 

は月R日

 今日も歩くだけだった。

 何度か敵やモンスターの襲撃を受けているのか、度々止まる。

 襲撃があるなら、何故比較的安全である砦から捕虜を移動させているのか謎。

 言葉が分かれば、同じ捕虜の人や駄弁っている兵士の話を聞いて予測が立てられるというのに……。

 ちっとも理解できない。

 何かの力が働いているのでは?と無意味な疑問を抱くほどである。

 

O月W日

 逃げようと何度か考えた。

 見張りはいるけど、牢屋の中よりかは可能性がある。と思う。

 逃げる為の障害は大きく分けたら二つだけ。

 先ずは、手足に付けられている手枷足枷。

 移動の為か、全く動かせない程じゃない。

 頑張れば壊せないだろうか?

 斬鉄とか出来たためしがないけど、窮地にこそ秘めたる力が目覚める……って憧れる。

 

 障害二つ目。

 単純な見張り役だ。

 力業でどうにかなるかもしれないが、1つ目の障害である手枷足枷をどうにかしないとどうにもならないだろう。

 万全且つ剣を持ってる状態なら5割ほどの勝率はあると踏んでいるけど、剣も持ってない動くのも一苦労な状態だと0に等しいはず。

 ……万全な状態でも5割しかないのは、歳のせいと思いたい。

 

 

I月N日

 晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、風の日も、歩き続けた。

 雪の日が無くて大助かり。

 それにしても、一体何処まで歩けばいいのだろう?

 数日は歩き続けたよ。

 足はボロボロ、髪だってゴワゴワ。

 気持ち悪いったらありゃしない。

 せめて綺麗な水で身体を拭かせてほしい。

 

 

E月R日

 嬉しい事があった。

 恐らく、謎の光にこの地に飛ばされてから、初めてで一番嬉しいことかもしれない。

 パパウロから誕生日プレゼントに貰った剣を見つけたのだ。

 もっとも、見つけただけで手元に戻って来たわけではない。

 休憩中に、兵士さんが持ち運んでいたのを偶々目にしただけ。

 予備の武器なのだろうけど、誰にも使われずに取り上げられたままの状態だった。

 

I月B日

 私の剣を目にしてからというもの、毎日隙を伺っている。

 逃げようという意志が湧いてきたからだ。

 そうだ、こんな場所なんか逃げてやる。

 五体満足で逃げて、ゼニスママと、ノルンとアイシャと、リーリャと、ルーデウスと、パパウロに、家族に会うんだ。

 

E月R日

 兵士の行動パターンを頭に叩き込むんだ。

 頭が沸騰するくらい知恵熱を出しているが、これも全部帰るためだ。

 この程度やらなくちゃ。

 

I月O日

 作戦を考えた。

 確かに兵士なのだろうけど、正規よりは雇われと言った感じが強かったので隙はあった。

 あまり重要ではない部隊だから、なのかもしれない。

 それでも、逃げても直ぐに見つかってしまうだろう。

 何度か魔獣や敵兵士の襲撃も受けたので、丸裸で逃げるのはもってのほか。

 なのでまず、私の剣を返してもらうことにした。

 剣さえあれば何も出来ずに終わる事はない……はずだ。

 見た感じ、聖級剣士は居ない。

 上級剣士が近くに数名……。

 パパウロと同じレベルが複数人も。

 逃げられるか不安になってきた。

 

N月N日

 何度もシミュレーションした。

 明日には作戦決行だ。

 大丈夫、大丈夫。

 剣さえ取り返したら一目散に逃げるだけ。

 移動中である今しかチャンスはない。

 基地にたどり着いたらまた牢屋行きだ。

 そうなれば逃げるタイミングは一生訪れない。

 大丈夫、パパウロより強い相手はいないはず。

 

 

 

 

 

s月y日

 未だに信じられない。

 逃亡の作戦決行から既に数日経った。

 今は高度な魔法結界の中で休んでる。

 ここなら余程の事が無い限り大丈夫って言われたけど、本当にそうだろうか?

 いや、今はあの人達の言葉を信じよう。

 ダメだ、まだ色々疲れてるみたい。

 

 

U月U日

 一日経った。

 冷静になっても理解が及ばないし、生きてるのが奇跡だと思う。

 何があったのか冷静に振り返ってみようと思う。

 現状把握は大事。

 

 まず、作戦決行日。

 警備の隙をついてパパウロからの貰った私の剣を返して貰った。

 何とか剣を手に取るまでは見つからなかったんだけど、剣を手に取っていざ逃げようと走っていると、見張りに見つかって追いかけられた。

 ここまでなら私も理解できる。

 その後、必死になって逃げただけならね。

 

 必死になって逃げていると、後ろから怒声が聞こえて来た気がする。

 初めは私に向かってだと思っていたんだけど、急に爆風が私を襲った。

 何もなく後ろからだったので、数十メートルは飛ばされた。

 染み付いていた受け身を取っていざ後ろ振り向くと、何か燃えていた。

 移動に使っていた馬車が燃えてた。

 兵士が燃えてた。

 捕虜が燃えてた。

 

 焼ける匂いが今でも頭を離れない。

 奇跡的に助かったのは私を含めてほんの数名だったと思う。

 生き残った人たちが何かを叫んでいた。

 多分、恐怖の悲鳴だったはず。

 彼らは頭上を指して……数秒後には肉塊に変わった。

 上から降って来たモノにぐちゃりと握りつぶされて、振り下ろされたかぎ爪にズタズタに切り裂かれて、振られた尾に吹き飛ばされてぶつかった樹木にシミになって、口から吐き出された炎に焼き尽くされて灰になって、人間の形すら残されずに殺された。

 確かに、生き残るためなら殺す事も視野に入れていた私ですら、唖然とするあっけない結末。

 これは違う。

 理不尽の塊だった。

 

 そう、突如として現れたのはドラゴン……だったと思う。

 トカゲみたいな頭、コウモリみたいな羽根、長い尻尾、身体は全身鱗で覆われていた。

 (当たり前だけど)実際に観たのは初めて。

 でも、絶対にドラゴンだと一目で分かった。

 それと同時に『終わった』とも思った。

 だってドラゴンだよ?

 子供に毛が生えた程度の剣術しか持っていない私に、生物最強を誇るドラゴンの相手が出来る訳がない。

 きっと、一瞬前の人達のようになるんだ……。

 

 へたり込んでしまう。

 頭に過ぎったのは家族一人一人の顔。

 気がついたら、立って剣を構えていた。

 足と手は震えて今にも倒れそうだった。

 それでも、私は立ち上がってドラゴンに向き合っていた。

 

 死ぬ。

 死ぬのは絶対だった。

 死ぬのなら、せめて逃げ惑うじゃなくて、戦って死にたい。

 唾をゴクリと飲み込んで覚悟を決める。

 行くぞッ……と思った。

 断片的に、ドラゴンが前脚を振り上げるのは見えた。

 

 

 

 一秒後、口から空気が勢い良く吐き出される。

 何が?と思った時には地面に叩きつけられて、身体がバラバラになる位の痛みが全身を襲った。

 確か……この時、私は水神流のカウンターの型を行うつもりだったはず。

 真正面から受けても、確実に受けきれないと分かり切っていたから、せめてカウンターは出来ないにしても攻撃を流せないとかと思ったのだ。

 結果、攻撃は受け流せなかったけど即死には至らなかったらしい。

 正確の行動だったはず。

 思い返して見ても、水神流以外は全部『死』に繋がっていたと思う。

 

 生きてる……?。

 でも、このままだと不味い。

 最低でも姿が見えなくなるまで逃げないと、このドラゴンは追って来るだろう。

 そう思えるほど怒り狂っていた。

 今になっても理由は分からない。

 とにかく尋常じゃない殆ど怒っていた……ように見える。

 ドラゴンの表情とか分からないけど。

 

 再びドラゴンと対峙。

 そして剣が手元にない事に気が付き、ドラゴンそっちのけで視線を巡らせるとあった。

 刀身の半分辺りからぽっきりと折れている剣が……。

 うん、振り返っている今でも結構キツイ。

 せっかく誕生日プレゼントとして貰った真剣。

 5歳の誕生日にルーデウスが貰った様なものではなく、ちゃんとした剣士が身に付ける上等な剣。

 そんな剣の折れた姿を見て、戦意が削がれてしまった。

 それこそ、剣の様にぽっきりと。

 

 地面に崩れ落ちる。

 もう、何もやる気が出てこなかった。

 死ぬ覚悟すらしてたと思う。

 前脚が振り下ろされるのを見た。

 

 目を瞑った。

 

 痛いのは嫌だなぁ…とか。

 

 もっと生きたかったなぁ…とか。

 

 またあっけなく死ぬのか…とか。

 

 もっと妹達を可愛がりたかったなぁ…とか。

 

 リーリャにもっと色々教えてもらいたかった…とか。

 

 ゼニスママには恩返ししかった…とか。

 

 パパウロにはちゃんと「ごめんなさい」したかった…とか。

 

 ルーデウス……弟だと思っていた双子の兄。

 

 ああ…結局置いてけぼりか……。

 

 

 走馬灯のようにこれまでの記憶が蘇っていた。

 しかし……。

 いつまで経っても痛みは来ない。

 痛みを感じる暇もなく死んじゃったの?とも思ったけど、妙にハッキリと意識や感覚があったのを覚えてる。

 

 

 恐る恐る瞼を開いた

 この時の光景を、私は一生忘れないだろう。

 そのくらい鮮烈だった。

 

 ぼんやりと映った視界の先にはドラゴン。

 その前には誰かがドラゴンの前脚を剣で受け止めっていた。

 ドラゴンは力を入れているのか、耳が痛くなる程の音量で吠えた。

 でも、前脚はピクリとも動かない。

 それどころか、その人が軽く剣を振ってドラゴンに打ち勝った。

 

 有り得ない、通常ならそう思っただろう。

 ただの人がドラゴン相手に力比べで買ったのだ。

 パパウロだって、魔法使いや他の剣士の支援があっても出来ない芸当。

 でも、そんな事だってこの時の私には全く目に入っていなかった。

 

 綺麗な人だった。

 短い赤毛っぽい茶髪をショートボブに切りそろえた髪の毛はサラサラしてそう。

 身体は先ほどの行動に反して華奢だった。

 背もゼニスママよりも低い。

 でも、そんな小さな身体からは微塵も貧弱な様子が感じられなかった。

 力強く、凛として、目にした途端に勇気づけられる、そんな感じが私を支配した。

 

 彼女は振り返って言った。

 笑みを浮かべていた。

 安堵だったかもしれない。

 知らない人なのに、安心感を覚える笑みだった。

 

 

「遅くなってごめんね」

 

 




長くなりそうだったので切りました。本当はもう少し続けたかった。

全体的な進行度をFGOのストーリーで例えると、1部のアメリカ終盤らへんかな?次回からキャメロット突入ですよ~。


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10冊目

モルガン祭は1,800箱ちょっとと悔しかったです。7章前に投稿出来て満足。


 

「遅くなってごめんね」

 

 彼女はそう私に謝った。

 謝られても……と私は思う。

 それと同時に、彼女の美しさや姿勢に見惚れていた。

 いや、その前に返事をしなきゃ。

 

「あ…え。は、はぃ」

 

 声がほとんど出なかった。

 当然だった。

 つい数秒まで息を止めてるに等しい時間だったのだ。

 今でも息がうまくできない。

 でも、彼女は私の様子を見ると満足そうに頷いて前を向く。

 

「ちょっとだけ待ってね。直ぐに終わらすから」

 

 そこからは一方的な蹂躙だった。

 ドラゴンが動くとそれに合わせて彼女も剣を振るう。

 風に揺られて宙を舞う木の葉のようにドラゴンの攻撃をユラユラと避ける。

 ただ避けるだけでなく、避けると同時に剣を振るって着実にドラゴンにダメージを当てえていく。

 

 攻防……と言って良いのか分からない程鮮やかな舞は、ほんの数秒で終わった。

 終わってしまった。

 

 

 先ほどと打って違いスッと力を抜く剣士。

 そこから先は見えなかった。

 瞬きも忘れて見惚れていたにも関わらず。

 剣術の鍛錬を長年受けているのか、同い年の子供よりも遥かに優れた動体視力。

 三大流派の中級ともなれば、一般の兵士かそれより少し強いとパパウロが言っていた。

 ならば、私は年齢の割には強い方なのだろう。

 でも、そんな私でも見えなかった。

 

 気が付けばドラゴンの首が落ちていた。

 生物を殺す上で最も効率的な殺傷方法。

 その辺の魔物や魔獣なら分かる。

 でも、落ちたのはドラゴンで、やったのは20代に見える女性。

 

 疑問に思うと同時に私を襲ったのは安堵感だった。

 まだ安全地帯ではない。

 魔物や魔獣、戦争を行っている兵士、そしてドラゴンと言う最上位生物が現れるこの場所はまだ安全とは言えない。

 しかし、これまでの捕虜生活や歩き通しの数日間、ドラゴンを前にした緊張感からの疲れは心身ともに限界を迎えていたのだろう。

 

 ドラゴンの首を落とし終えたのを最後に、私の記憶はここで途絶えた。

 一瞬だけ、その人が慌てたように近寄って来るのが見えた…かもしれない。

 

 

 

 

H月A日

 ということがあった。

 あの後、目が覚めると誰も居なかった。

 これまでの捕虜生活で負った傷や汚れが綺麗さっぱり消えており、何なら清潔な服まであった。

 服というよりは旅服に近いかもしれない。

 サイズも少し大きいだけで着れないこともない。

 せっかくなので貰った。

 

 というのが昨日の出来事。

 今日は昨日の出来事を振り返って、現状の確認をしていた。

 この場を離れたい気持ちがあるけど、まだ精神的に疲れているから休みたかったのと、居なくなった女の人が戻って来るかもしれないと言う希望からだ。

 もう疲れたので寝る。

 寝るけど、何時人が来るか分からないから怖い。

 

 

K月O日

 何度も起きたので眠かった。

 でも、日中こそ一番活動が活発な時間なので起きておかなきゃいけなかった。

 女の人は帰って来なかった。

 どこに行ったのだろうか?

 最後に見えた表情から、単純に見捨てるって事はないと思うんだけど……。

 待つ。

 

 

I月B日

 凄い。

 清潔な服と一緒に置いてあった剣が凄かった。

 切れ味が物凄く鋭く、木どころか岩すら紙を割くように切れた。

 私ではそんな上級レベルの技量を持っていないから、この剣が物凄いって事が分かった。

 調子に乗ってその辺にある物をスパスパと切って遊んだのは反省。

 気を付けないと斬っちゃいけないものまで斬ってしまいそうだ。

 私が未熟だからなのかな?

 とりあえず、折れてしまった剣の代用は見つかったので一安心。

 武器も無しに見知らぬ土地(戦争してるっぽい危険地帯)を渡り歩けるはずもない。

 

 

E月G日

 今日も動かずに待ってみた。

 飲み水は魔法を使って生成。

 それ以外で必要な場合は近くにあった川を使った。

 ルーデウスみたい馬鹿みたいに魔力が有り余ってる訳じゃないから、できる限り魔法は温存しておきたい。

 というのも、幼女先生との夜のお勉強でそう習ったからだ。

 川は思った以上に綺麗だったので助かった。

 食べ物は専ら木の実や野生の果物と野菜。

 お腹に当たることがあるかもしれないけど、ゼニスママに習った初級の解毒魔術が役に立ってる。

 

 

A月K日

 近くに小さな動物がやって来たので狩った。

 初めてだったから少し緊張した。

 素早く勘も良いので仕留めるだけでも一苦労で、その後の皮を剥いだり、血を抜いたりするのが地獄だった。

 パパウロから習っていなかったのが敗因だろう。

 ただ楽しく剣を振るうだけだった私と違い、ルーデウスみたいに新しい知識に貪欲で居たら違ったかもしれない。

 後悔ばかりが襲ってきて病みそう。

 とりあえず、久しぶりにお肉が食べれたのを喜ぼう。

 あまり美味しくなかったけど。

 

 

 

I月T日

 数日経った。

 多分5日くらい?

 自分でもよく生きていられると思う。

 幸い、近くに果物の群生地があったので助かってるけど、全部なくなったり冬になったら餓死しそうだ。

 

 本題はこっち。

 いくら待っても私を助けてくれた人は一向に現れない。

 何か理由があって帰ったのだと信じたい。

 あんなヒーローの様に現れて助けてくれたのに、実際は悪意があったとは考えたくもない。

 

 

D月E日

 今日はこの場を去る準備をした。

 持てるだけの果物を用意した。

 カバンなんて便利なものは無いから、服に着いてあったポケットに詰め込んだ。

 一日一食で我慢しても2日分あるかどうか……。

 両手いっぱいに運べばまだまだいけるかもしれない。

 でも、手がふさがっていると咄嗟の時に剣を抜けない。

 魔物や兵士、私を狙ってくる者たちは沢山いるのだ。

 と言う訳で却下。

 ルーデウスなら魔法を使って物を運べるカバンを作れるかもしれない。

 土魔法かな?

 暇があればフィギュア作ってたからなぁ……。

 あんな技術何処で習得したのだろう?

 独学だとしたら天才だ。

 神は兄に複数もの才能を与えすぎだ。

 双子なのだから私も欲しかった。

 

1月8日

 魔物数体と出会っただけ。

 軽い傷だけで仕留められた。

 火魔法で焼いて食べる。

 怖いのでコゲが付くくらいは焼いた。

 ……この炎と煙で人が寄ってこないだろうか?

 火の始末をして寝る。

 

4月5日

 何もなかった。

 果物食べて寝る。

 そろそろ別の果物見つけなきゃ。

 

h月A日

 短期的な目標として街、最終的には家に帰る事を思って行動しているが、一つとても重要な事に気づいてしまった。

 ……ここ何処?

 今まで必死だったので考えが逃げる事しか考えていなかった。

 現在地が分からなければ、どの方角に向かえばいいのかも分からない。

 でも、ここが中央大陸ではない事は何となく分かる。

 幼女先生主催の夜のお勉強でそう言ってた気がする。

 あれ?ルーデウスだったっけ?

 どっちも良い。

 私が習得しているのはブエナ村、もっと大きく言うならアスラ王国の公共言語である人間語だけだ。

 この地に跳ばれされて以降、出会った人たちは皆私が聞き取れない言語で話していた。

 となれば、人間語以外の言語を使っているのだろう。

 流石に私でもこのくらいは分かる。

 が、それ以外が全く分からない。

 ダメだ、記憶が曖昧なので寝ながら考えることにする。

 

 

K月O日

 今日も移動。

 迷った時は動かない方がいいと聞くが、あのままでも何も変わりそうにないので移動する。

 せめて人里まで行けたら何とかなるはず……。

 

 昨日の夜、寝ながら考えた。

 この辺の人達が私の分からない言語を使っているということは、考えられるのは別の大陸ということ。

 ブエナ村があるアスラ王国は中央大陸と言う大陸だったはず。

 私の記憶と幼女先生の話が本当なら、中央大陸にある国は人間語を使っていると言っていたはずだ。

 なので、多分中央大陸ではない。

 次に魔大陸絶対に違うだろう。

 私を捕えていた兵士は如何にも人間だった。

 肌の色も(前世感覚で)人間の範疇を超えていなかったので、幼女先生の様に人間に物凄く近い種族が集まっていなければ魔族も有り得ない。

 魔族って見た目が明らかに変な種族もいるらしいし……。

 って事で魔大陸も除外。

 

 次に考えられるのは、ミスリル大陸?とベガ何とか大陸。

 ミスリル大陸はゼニスママの故郷がある大陸で、世界で2番目に大きい国だそう。

 たしか……ミリス教。

 あれ?ミリス大陸?

 まぁ、正式名称は今はどうでもいい。

 ミリス大陸なら人間語は通じるはず。

 よって此処も除外。

 なら、最後のベガ何とか大陸が一番濃厚だろう。

 

 ……それで、ベガ何とか大陸はどんな大陸で、世界の何処に位置する大陸だったけ?

 

 

 

B月I日

 今日も移動した。

 現在地は不明だけど、森を抜けたら何か変化があるかもしれない。

 でも、戦争している人たちから隠れて移動しなきゃならないのが辛い。

 少しずつ、少しずつ移動するのだ。

 進み続けたら帰れると信じて。

 

 

M月Y日

 痛手を負った。

 今日遭遇した兵士は強かった。

 北神流の中級だたっと思う。

 技量は当然私よりも上。

 でも、全流派の上級を収めているパパウロには程遠い。

 回避や逃げに徹したから逃げきれた。

 最後に投げてきた剣に足をやられたけど、治癒魔法で何とか直した。

 魔力が少ないので寝る。

 

 

O月U日

 今日は見つかりにくい場所へ移動しただけ。

 完治には至っていなかったらしく、少し足に力を入れたら痛かったから。

 戦闘になったら間違いなく足を引っ張る。

 完治まで休憩と行こう。

 

 

D月E日

 念を入れて数日様子を見てた。

 お陰で足は完治出来た。

 しかし、歩き回れなかったので食料確保が出来ていない。

 何とか食いつないでたが、今日でそれも無くなった。

 

 

S月I日

 身体が怠い。

 水だけな日もあったから、栄養失調は確実だろう。

 何か……何でもいいので食料ください。

 

 

T月A日

 朝、目が覚めるとアレがあった。

 アレ……。

 言い方は色々ある。

 女の子の日とか、下り物とか……ぶっちゃけると生理だ。

 そっか……もうそんな時期か。

 確か、このベガ何とか大陸に飛ばさせる数日前が10歳の誕生日だったから、年齢的には少し早いけど有り得なくない。

 捕虜生活中に何週間、何か月経ったかも分からないから、もしかしたら11歳や12歳になっていてもおかしくはないけど……。

 そんなにも時間が経っていないと信じたい。

 何年も行方不明とか、家族に心配をかけるのは嫌だ。

 早く帰ってパパウロに謝りたいし。

 

 

K月U日

 生理が来た、と言う事は身体が二次成長期を迎えたと言う事。

 あれから身体の節々が痛い。成長痛だ。

 治癒魔法で和らげたい気持ちが物凄くあるけど、これは外的要因じゃないから受け入れる事にした。

 成長に支障が出て、一生ロリ幼女姿なのはいただけない。

 無事に生還した時、ルーデウスが大きくなってて、対してこちらのが成長してなかったら私は凹む。

 だから痛みを我慢するのだ。

 

 

R月I日

 今日は最悪だった。

 まだ体調が万全じゃないのに敵兵と出会った。

 幸い、人数は少なかったけど、二人だけやばかった。

 多分中級の北神流と上級に近い魔術師。

 パパウロとルーデウスを同時に相手取る鍛錬をしてなければ、殺されるか捕まっていたはず。

 パパウロ程剣は鋭くなく、ルーデウス程多彩な魔法で攻めてこなかったのが幸い。

 水神流で受け流しながら逃げに徹したから逃げきれた。

 逆に数太刀入れたから、近くは追って来れないはず。

 

 

S月U日

 休みたかったけど、距離を取るのが先だと思って歩いた。

 感覚を研ぎ澄まして少しずつ歩くのは非常に疲れる。

 木の実だけだと力が出ない。

 

 

M月A日

 久しぶりのお肉。

 美味しくないけど、食べれなくない程度の焼き加減が分かってきた。

 ただ、保存方法はどうにかならないかな?

 水魔法の氷結領域で上手く凍らせたら保存できないかな?

 でも、冷凍庫みたいにするならずっと魔法を使ってなきゃいかないし……。

 あ、それなら入れ物も作らなきゃならない。

 私はルーデウス程器用じゃないから、そんなこと出来るはずがない。

 

 

S月U日

 こうして実践や緊急事態に瀕してみると、無詠唱魔法がどれほど有能で羨ましいか分かる。

 戦闘時には不意を突けるし、集中力はゴリゴリに必要だけど剣術と両立出来るのも偉い。

 それ以外では詠唱を思い出す必要がない。

 この身体の頭が弱いのか才能がないのか、両方だと思うけど生きるのに必須な水を出すのにも一々時間を必要としない。

 ルーデウスが家庭教師に行く前にコツを聞いてみたが、感覚派過ぎて分からなかった。

 逆にルーデウスは剣術の方は感覚じゃ分からないみたいだから、真逆と言えば真逆だけど……性能の差が激しい。

 攻めて詠唱を短縮出来ればグッと楽になるはず。

 毎日飲料水を出してたら経験値が溜まって出来ないかな?

 

 

 

 

 

2月0日

 恐らく数週間経った。

 何度か遭遇した兵士さん達を行動不能にして逃げていると、出会った兵士さん達が私を見つけると指を指して撤退する様になった。

 ふっ、有名になったものだと慢心して居たら、逆に逃げない兵士さん達も十数回に一回は居た。

 そういう隊は大抵中級以上の剣士と魔術師が居る、軍の中でも精鋭に当たる隊だったかもしれない。

 心身ともに休まる時が無いからか、私の体力や剣は鈍る一方。

 どこかで一休みしたいけど、こんな危険地帯の中じゃ無理だ。

 

 しかししかし。

 数週間経ってようやく変化が見られた。

 森を抜けたのだ!

 広がる草原、遠くに見えるのはブエナ村に似た感じの村……。

 だったら良かった。

 

 何度見返しても、遠くを見ようを目を凝らしても、見えるのは砂。

 砂、砂岩、砂漠だ。

 ……これ、生きて帰れる?




今年最後の更新になります。少し早いですが、よいお年をお迎えください。


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11冊目

あけましておめでとうございます。投稿はだいぶ先でしたが、実際に執筆し始めたのは去年の今頃からでした。


7月章日

 森の入り口付近に拠点を構えて早数日が経った。

 何の下準備も行わずに砂漠横断に挑むほど無謀じゃないので、食料や水を集めたり貯めたりしていた。

 入れ物は土魔法で作った。

 ルーデウスの真似事だけど、ないよりましだろう。

 陶器のように表面がザラザラしてるけど、崩れて水に入ってないからセーフ。

 問題があるとしたら、耐久性能は高くないからガラス程じゃないけど慎重に扱わないと壊れるってところかな?

 戦闘時とか大丈夫だろうか?

 水は魔法で何とかなるから、壊れやすい入れ物と考えたら……。

 でもこれ、作り出すのに時間と集中力が結構必要なんだよね。

 

 ともあれ、準備は整ったはず。

 これ以上は何も打開策を思いつかないまま、森の入り口付近で過ごして時間が過ぎるしかないと思った。

 家族も心配しているはずだ。

 さっさと帰って連絡を取ろう。

 

 

 

m月A日

 舐めてた。

 砂漠横断舐めてたよ。

 日中は真夏よりも熱く、夜は真冬かってくらい寒い。

 貯めていた果物は3日も持たずに食べきった。

 出なきゃ腐ってた。

 水の消費も馬鹿みたいに多い。

 

 魔物の強さも馬鹿にならなかった。

 かなり強い。

 というか、1対1体と戦うだけで体力をかなり持っていかれる。

 森に居た魔物と比べものにならない。

 1体なら決死の覚悟でなんとかなる。

 でも複数いたら怪我は絶対に負ってしまう。

 逃げ一手だ。

 

 森に帰りたいけど、既に帰り道が分からない。

 真っ直ぐ進んでるかも分からないけど、とりあえず進むしかない。

 

 

 

D月A日

 この剣が無かったら既に何回も死んでいた。

 この剣ヤバすぎ。

 こんな業物が落ちてた(あの女の人が落としていったと考えるのが自然)のは不幸中の幸いだと思う。

 言っちゃ悪いけど、パパウロから貰った剣だと砂漠に住んでいる魔物には歯が立たなかったはず。

 武器の性能に振り回されてる感があるけど、まずは生き残るのが最優先だから有難く使わせてもらう。

 

 

 

2月5日

 危ないし気持ち悪いしなんなの?

 今日は巨大ミミズに遭遇した。

 地中から急に出てくるとか、少しでも回避が遅れたら食べれちゃう。

 予備動作も分かりにくいから危ない。

 私の勘が冴えわたっていなきゃ死んでたと思う。

 

 

 

 

 

日月K日

 何週間経ったのか。

 生きてるのが不思議だ。

 巨大ミミズは相変わらず危険だし、サソリは硬いし、コウモリなんかも飛んでるし、なんか臭い臭いがする時もあった。

 無人でも良いからオアシスが欲しい。

 

 

A月I日

 蜃気楼って本当に存在してたんだ……。

 オアシスだと思って進んでたら何もなかった。

 ここ一番の絶望感を味わった。

 

 

 

M月A日

 食べ物が無くなった。

 魔物の肉は飽きてきた……。

 

 

K月U日

 サボテンだと思ってたら木の魔物だった。

 何て言うんだったっけ?

 トレンド?

 

 

 

D月A日

 人と会った。

 相変わらず言葉は通じない。

 でも、人が良いのか一緒に行動する事が出来るようになった。

 言語が通じないながらも身振り手振りで色々頑張ってくれている。

 ありがたい。

 

 

L月A日

 複数人での行動は物凄く楽だ。

 警戒は色んな方向に出来るし、食料や消耗品と言った物も分けて貰えた。

 ベガ何とか大陸に飛ばされてから、人の悪意にしか触れていなかった私には物凄く心に沁みる。

 戦闘で役に立って恩を返さねば。

 

 

S月I日

 数日前、恩を返すと意気込んたのがアホらしい。

 チームワークを乱してお荷物だ。

 そりゃそうだよね。

 今まで魔物と戦った事もない雑魚村娘一人が、数日間砂漠を歩けたからと言ってベテラン冒険者になったわけじゃない。

 正直、人に会えた事で調子に乗ってました。

 

 

 

N月N日

 お荷物の私にも役に立った事が2つありました。

 水魔法と直感の2つだ。

 ギリギリ中級が使えなく、無詠唱を扱えない初級魔術師の私でも、水魔法が扱えるのは物凄く重宝された。

 砂漠では水はとても貴重で命にかかわる。

 魔術師は居ても魔力量はルーデウスよりも遥かに劣っていると思う。

 そこへ戦闘にはならないが、十分な飲み水を出せる剣士が現れたらそりゃあ喜ぶ。

 

 会話が出来ないから正確な意見はわからないけど、反応を見る感じこんな感じだと思う。

 馬鹿みたいに使えないけど、ある程度の余裕を持って水魔法を使って役に立とう。

 

 もう一つは直感。

 そうとしか言いようがない。

 事の発端はこの人達と合ってから何回目かの接敵の時だった。

 何となく嫌な予感がしてその場を離れると、数秒後にはミミズが砂漠の下から飛び出していた。

 勘に従って飛びのいていなければ死んでいた。

 1回や2回なら運が良かったとスルー出来る。

 3回、4回程度なら勘が良いと思えて来る。

 そして、10回目に差し掛かる頃にはただの勘とは言いにくく、手振りで他の人に伝えると従ってくれるまでになった。

 

 可笑しいと思えるけど、とりあえずは生き残る事が最優先。

 急に謎の力に目覚めようと、生き残れて家族の元に帰れたらそれでいい。

 謎解きはその時でも良いじゃないか。

 私が頭を悩ませるよりもルーデウスに話したらあっという間に答えを見つけてくれるかもしれない。

 

 とにかく、この二つで砂漠越えの役に立とう。

 

 

 

ナ月ウ日

 時折危うい場面が出て来るが、順調に進んでいる。

 後どのくらいで街に着くのだろうか?

 言語が分からないから聞けないし、聞いても理解出来ない。

 こればっかりは身振り手振りでどうにもならないからなあ……。

 

 

イ月・日

 身振り手振りで無理なら絵を書けば良いじゃない!!?

 久しぶりに良い案が閃いて嬉しかった。

 早速試そう。

 

 

ミ月ク日

 結果だけ言えば失敗した。

 砂漠ではサラサラした砂で絵が書けない。

 硬い場所で試しても、微笑まれて終わった。

 何故だ……。

 

 

 

 

ト月ラ日

 私以外全滅した。

 あっさりとした終わりだった。

 ティラノサウルスみたいな恐竜に頭を食いちぎられて、ミミズに丸吞み、スフィンクスに胴体を切断されて。

 辺りは真っ赤。

 全部血。

 私はどうやって助かったのか覚えていない。

 がむしゃらに剣を振って足を動かしてた気がする。

 

 

 

ン月功日

 また一人ぼっちの旅。

 数日の付き合いだったけど、目の前で人が死ぬのは悲しい。

 悲しいけど、立ち止まってはいられない。

 私は家に帰らなくちゃならない。

 道は分からないけど、あの人たちが進んでいたと思う方向に進む。

 

 

 

 

 

略月し日

 この砂漠にも慣れたものだ。

 既に1週間以上は経ってるはず。

 もしかしたら1ヶ月かも。

 歩きにくく、戦闘でバランスを崩して危なかった砂漠も慣れてきた。

 今ではそれなりに戦えている。はずだ。

 大怪我を負わずに魔物から逃げきれている。

 または、1体だけならギリギリ倒せる。

 疲労困憊で数時間の休憩は必要だけど……。

 まだ人に出会えないの?

 

 

 

た月が日

 限界。

 もう限界かもしれない。

 飲料水は水魔術で生み出した水、食べ物は襲ってきた魔物を運よく倒せたら。

 衣服はボロボロ。

 成長期なのか栄養不足なのに少しずつ成長して着れなくなりそう。

 偶に水で手洗いしてるとは言え、返り血がこびりついた服。

 なんかの拍子に破けて着れなくなりそう。

 こんなことなら、亡くなった冒険者から着れそうな大きさの服を貰えば良かった。

 死者のものには触らない方針で、全部燃やしたのはダメだったか……。

 

 

 

後月編日

 フラフラ。

 ふらふら。

 木陰で休みたい。

 

 

 

は月2日

 数回目の生理で動けない。

 危ないけど、比較的日陰な場所まで這って進んで休んだ。

 運が良かった。

 敵襲は1回だけ。

 

 

5月日日

 岩場で休んだ。

 そうだ、生理の回数でどれだけ日数が経ったのかある程度数えられてたはず。

 もう既に遅い。

 最低でも5回はあったはずだから、最低でも半年はこのベガ何とか大陸で迷子だ。

 5ヶ月も行方不明だと、とても心配してるはず。

 早く帰らなきゃ。

 

 

だ月と日

 一番辛い日は過ぎた。

 それでもまだ万全ではないので、今日も休憩する事にした。

 

 そんな日に限って魔物が襲ってきた。

 ギリギリ敗走した。

 治癒魔術を扱えなかったらかなり危なかったかもしれない。

 治療優先で明日も動かないでおこう。

 

 

 

 

思月い日

 ようやく動ける様になった。

 1週間程時間を無駄にしてしまったけど、ここまで来たら慎重に帰るに限る。

 

 

 

 

ま月す日

 何日か経った。

 もうベテランと言ってもいいかもしれない。

 複数の魔物が相手でもそれなりに余裕を持って逃げる事が出来る様になったし、ミミズの回避もお手の物だ。

 ……幾ら魔物を倒せたって、家に帰れなきゃ意味ないよ。

 

 

 

。月福日

 物凄く遠くに建物が見えた気がする。

 見つけたのが夕方で、日が沈む直前だったので見間違いかもしれない。

 期待はしないぞ。

 蜃気楼だった時の落胆で心が折れるかもしれないからね。

 

 …………。

 でも、本当に町だったら良いな。

 新しい服を新調したいし、お腹一杯ご飯食べたい。

 魔物に怯えずに眠りたい。

 

 

袋月は日

 夢じゃなかったッ!!

 ようやく町にたどり着けた。

 先ずはまともなご飯食べたい

 

 

メ月リ日

 悲報:言語が通じない上に通貨すらも見たことがない奴だった。

 昨日も野宿して夜を過ごした。

 お金……どうしよう?

 

 

 

 

 

ュ月ジ日

 町に到着して数日。

 何と無くこの町のルールを理解した。

 まず、宿が殆どないと思われる。

 その辺の地面に雑魚寝状態がデフォルトだった。

 中には所有権を主張して敷物を敷いたり、テントを建ててその中に寝たりしていた。

 これはありがたい。

 私も人が周囲に居ない場所まで移動して寝ている。

 

 二つ目、通貨は見たことない物だったけど、物々交換もオーケーみたいだった。

 しかし、私に交換出来るものなんてない。

 お肉とか食料は食べるために売れないし、衣服だって今来ているのが一張羅。

 折れたパパウロの剣は、少なくとも家族の元に帰るまでは手放すつもりはない。

 何もない。

 

 ルール的なのはここまで。

 次に希望だ。

 9割の人は良く分からない現地語を話していたけど、本当に時々だけど私にも意味が分かる単語が聞こえてくる時があった。

 私みたいにこのベガ何とか大陸に飛ばされた人なのか、冒険者でこの大陸に遠征しに来たのかは判断判断付かなかったけど、言葉が通じるかもしれない人がこの町にも存在している事が分かった。

 

 明日は調査して接触を図ろうと思う。

 思えば、数か月ぶりに会話が出来る……かもしれない。

 上手く話せるか緊張してきた。

 

 

ー月ヌ日

 と意気込んだはいいものの。

 そうそう運良く言葉が通じる人が見つかるはずも無かった。

 数日町をうろついてようやく一人チラッと聞こえて来ただけだから、確率はかなり低いと分かっていた。

 地道に頑張ろう。

 

 そういえば、持っていた魔物の肉がなくなったからお腹すいた。

 物々交換か、近場で狩って食べか……。

 

 

 

で月し日

 言葉が通じないなりに身振り手振りで物々交換したい事を伝えてみた。

 が、手持ちで交換出来そうなのは貰った剣だけだった。

 当然断った。

 この剣とパパウロの折れた剣だけは幾らお金を積まれようと売らないと決めていた。

 

 この剣が物凄い業物なのは何と無く分かる。

 でも、これがないと家族の元には帰れない。

 道中の魔物を倒したり、賊を追い払ったりするのに絶対に無ければ困る。

 食料や服に困ってるんだからこの剣を売って大金を他に入れた後、値落ちした剣でもいいじゃないか?とも思ったことがある。

 だけど、この剣を手放したら終わる気がしてならない。

 もう二度と手に入らない程の業物って欲もあるんだろうけど、8割以上がただの勘だった。

 このベガ何とか大陸に飛ばされてから、私の勘は馬鹿にならないというのを思い知っている。

 だから手放せないでいる。

 

 何だろう。

 あの人が置いて行ったからと深く考えずにいたけど、本当はもっと深い意味があるじゃないだろうか?

 時間は幾らでもあるから、空いた時間に考えてみよう。

 

 

た月。日

 このままだとお腹空いて倒れそうなので、町が見えるギリギリまで砂漠に出歩いて魔物を狩った。

 サソリかティラノサウルスが良い。

 コウモリは微妙だった。

 ミミズは以ての外。

 

 バーベキューみたく火魔法でお肉を焼きながら私は考えた。

 昨日の続きだ。

 朧げな意識を今でも覚えている。

 あの綺麗な人は確かに「遅くなってごめん」と言った。

 と言う事は、幸運でも群然でもなく、私を助ける事が目的だったはずだ。

 私が意識を取り戻した時に姿が消えていたのは離れなきゃならない理由があったのだろう。

 でなきゃ謝られる必要性が感じられない。

 剣を置いて行ったのは離れても私を守れるように……って考えすぎかな?

 でも、この剣がなければ砂漠を横断出来ていなかったはずだ。

 中級になったばかりの10歳剣士に名刀なんか必要ない。

 パパウロは普通の剣をプレゼントしてくれていたはず。

 普通の剣なら消耗して剣が折れるのも納得がいく。

 納得しているが未練が無いわけじゃない。

 砂漠越えか、もしかしたらその先の困難を払う為にこの剣を残してくれたのかもしれない。

 

 とりあえず。

 この剣のお陰で今の私がある。

 何が起こっても手放さないようにしよう。

 

 

 



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12冊目

1ヵ月半お待たせしました。ミクトラン後編、バレンタイン。ガチャは絶好調です。


言月峰日

 剣は売れない。

 財産も持っていない。

 となれば、砂漠で狩った魔物の素材や肉を売ろうと決めた。

 多少はお金になるだろう。

 物々交換で現物と交換でもいいや。

 

 

神月父日

 とりあえずは上手く行った。

 肉を料理してる人の所へ持って行って調理した物をもらう。

 

 食料→料理だから種類は変わっていないけど、久しぶりのまともなご飯は美味しかった。

 食事は大事だと気づけた。

 

 明日は衣服と交換出来る人を見つけなきゃ…………。

 飛ばされた時に来ていた服は成長期だからか服はぎちぎちでボロボロ。

 大きな服を布で縛って誤魔化すのもいい加減きつくなってきた。

 

 

は月1日

 服の交換は大変だったけどなんとかなった。

 戦利品は大き目の服を一式。

 貯めていた素材全部と魔法で水を限界まで出して交換だ。

 魔法が使えて助かった…………。

 交換を持ちかけた人全員が剣を凝視するんだもん。

 いくら積まれようとこの剣はあげないよっ!

 

 

連月目日

 服を調達した事で大胆に行動できる。

 今まではボロボロの半壊した服だったからね。

 十数歳の少女となれば肉体的にも大きく成長している時期だ。

 ゼニスママの血なのか、既に胸が膨らんできてたからこれ以上は危かった………。

 女の子は欲情の視線に敏感なのです。

 

 元来ていた服は取って置いた。

 何かに使えるかもしれないし、思い出に……って感じもある。

 折れた剣の鞘に縛り付けておく。

 

 

 

 

 

で月召日

 服を新調して数日。

 何とか生きていられる。

 言葉が通じる人は見つからない。

 既にこの町から出ていったのだろうか?

 

 

喚月し日

 どうしようか悩む。

 このままだといたずらに時間が過ぎるだけ。

 この町に留まっても安全に生活は出来るかもしれない。

 そうやって言葉の通じる人が現れるのを待つのもいいかもしれない。

 でも、次に現れるのが何時になるか分からない。

 数日後かもしれないし、数か月後かもしれない。

 もしかしたら何年も現れない可能性だってある。

 このまま立ち止まって奇跡を待つか、自ら動いて奇跡を探しに行くのか。

 私は後者を選ぶ。立ち止まってなんていられない。

 私が望む未来は自分の足で動いて掴み取るのだ。

 

 

ま月し日

 と言う事でそろそろこの町を出発しようと思う。

 その為には準備が必要だ。

 保存食を買い込んだり、荷物を持ち運べる様にバッグを買ったり、水を貯めておく水筒、お肉を焼く時に便利な鉄製の串、魔物を狩れなかった時に食べる用の保存食。

 全て物々交換だ。食料は大事なのか、魔物のお肉や素材は交換を申し込みやすい。

 泣く泣く諦めた物ものある。

 食器とか調味料とか。

 何時荷物を捨てなきゃいけなくなるんだから、本当に最小限の荷物だけにする為だ。

 

 ただの剣士じゃなくて魔法も使える剣士だから、水とか着火に必要な物は必要ない。

 本当なら魔力不足に備えて用意するべきなんだろうけど、今の私にはそんな余裕がないからしょうがない。

 つくづく魔法を覚えてて良かったと思う。

 ルーデウスと幼女先生様様だ。

 無事に帰れたら、ルーデウスみたいに幼女先生を崇め奉ろう。

 

 

 

た月。日

 いよいよ町を出発した。

 大丈夫。絶対に帰れる。

 ひとまずは町を見つけよう。

 同じように旅人でもオッケーだ。

 一人よりも複数人の方が出来る事が段違い。

 言葉が通じればもっと良いけど、最悪身振り手振りで何とかなるだろう。

 

 

ニ月ト日

 危なかった。

 町で過ごしてる間に勘が鈍ったのか、ミミズに食べられそうになった。

 少し掠ったけど初級の治癒魔法で治るレベル。

 町で過ごした数週間は私の勘と技量、集中力や精神を元の子供に戻すのに十分な時間だったらしい。

 これはダメだと私は気合いを入れ直す。

 明日から…………いや、今から集中して気配を常に探っていよう。

 …………このお肉を食べてからでもいいよね?

 

 

 

 

 

ク月リ日

 町を見つけた事で楽観視になり過ぎていたらしい。

 あれから数日か数十日経ったはず。

 何もない。

 人と出会うこともなく、日夜魔物に襲われつつ砂漠を歩く日々。

 でも、着実に家に向かって進んでいるはずだ。

 

 

 

 

 

 

ス月オ日

 キッツいなぁ…………。

 

 

ル月タ日

 昨日は精神的に落ち込んでいた。

 昨日の夕方前、魔物が数体集まっている場所を発見した。

 魔物が集まっているのは獲物…つまり人間が襲われている可能性が非常に高かった。

 私の身の安全を最優先するなら、避けて通るのが一番利口なやり方だと振り返っている現在は分かっているけど、当時の私は久しぶりの人に出会えるかもしれないっ!と喜んで駆け寄ったのだ。

 結果はこうして落ち込んでいる通り。

 

 魔物が私に気付くまで近寄った時には既に崩壊していた。

 生きていたのは満身創痍の女の子は一人。

 目にしたのもほんの少しだけだったから間違っているかもしれないけど、15歳~20歳くらいの人。

 年下の私が言うのもなんだけど、危険な砂漠で冒険者をするにはかなり若い人だった。

 その人は泣きじゃくり私に助けを求めてた……んだと思う。

 まだ遠くて正確には分からない。

 今では確認のしようもない。

 だって、その後その人はサソリに串刺しにされて死んでしまったから。

 それを目にした瞬間、私は回れ右してその場を逃走した。

 何体か私を追って来て、少し怪我を負ったが撃退出来た。

 

 久しぶりの死。

 明日には我が身かもしれない世界。

 早く安全な家族の元に帰りたい。

 そう思いが強くなった。

 

 ちなみに、久しぶりの人が目の前で殺されて気持ち悪い。

 魔物を倒せなかったから新鮮なお肉は無いし、そもそも食べ物を口に入れたら吐きそうだから止めておく。

 水分補給だけをして早めに床に就く。

 近くは一人でもいいかな……。

 

 

 

は月4日

 砂漠には魔物以外にも敵が居るらしいかった。

 これまで平和な町、砂漠では魔物だけが私を襲って来たけど、当然のように盗賊が現れた。

 水神流でカウンターを決めて離脱したのが幸いか、軽い傷だけで逃げ切れた。

 明日は少し長めに休憩を取ってから出発しよう。

 

 

4月連日

 ふざけるな!

 いや、私の考えが甘かったんだ。

 朝起きたら昨日の盗賊に包囲されていた。

 跳ね起きて抵抗したけど、十数人の人数不利に加えて北神流の上級剣士まで加わっていた。

 パパウロよりはやはり弱いはずだけど、他の人の攻撃にもしなきゃならないから勝てない。

 結果負けた。

 数名は倒せたけど大人数相手には無理だよ。

 ルーデウスなら上級魔法ぶち込んで範囲魔法で全滅出来たのかな?

 ともかく敗者の末路はどれも同じで今は捕まっている。

 懐かしき牢屋………なんて物が砂漠のど真ん中にある訳がない。

 手足をロープで結ばれて口は布を押し込められた。

 剣や他の持ち物を全部取り上げられている。

 これからどうなるのだろうか?

 とりあえず、即座に殺される心配は無さそう。

 

 

で月召日

 一先ず、飢え死には無さそう。

 残飯に近いものだが、食べさせてもらえる。

 やり方が、口に入れてた布を取り出して自由にした後無理やり突っ込む。

 私の気持ちを全く理解してない無理やりな横暴だった。

 布が取れた事で大きく息を吸い込んでいるとこだったから物凄く咽た。

 咽た事で口に入っていた物を少し吐き出してしまい、食べさせてくれた人にかかると彼は私を殴った。

 言語が通じ無くても怒っているのは分かる。

 理不尽すぎやしないか?

 

 

喚月。日

 今日は一日中移動していた。

 現在地と目的地が分かっているのか、その足取りに迷いはない。

 現地民は強いって事が分かった。

 飢え死にさせるつもりはないらしく、1回だけど食事も貰えた。

 水も数時間に1回、コップ一杯程度だけど飲ませてくれる。

 今のところ、私自身に何かしてくる様子もない。

 目線は物凄くいやらしい目をしているけど、決して触って来ない。

 ……自由がないのを除けばかなり良い待遇かもしれない。

 黙って着いて行けば町に着くかもしれない。

 と言う打算もある。

 一人で砂漠を彷徨うよりも、道を知ってそう人に付いて行くのふが一番だ。

 もっとも、相手が盗賊と言う悪人で、町に着いてからどうやって逃げるか?と言う問題が付きまとうけど、それはその時になって考えたらいいのだ。

 先ずは砂漠を超える。これ大事。

 

 

後月編日

 ここ数日間ずっと歩いている。

 早く、早く町に付かないか…………。

 歩きながら考えているのでどうやって剣を取り戻すか。

 私の剣はリーダーっぽい人が持っている。

 中級の実力は持っているっぽいけど、剣に遊ばれている感を覚える。

 やはりあの剣は私じゃなきゃ扱えない、のだと改めて思う。

 

 

 

は月2日

 ようやくたどり着いたと思ったら、町じゃなくて盗賊さん達のアジトだった件。

 …………そりゃあそうだよね。

 勝手に町に行くと思ってた私が悪い。

 どうにかして逃げなければ…………。

 

 

 

日月に日

 盗賊のアジトに連れて来られて数日経った。

 扱いは酷くはない……と思う。

 想像していた様に、毎日暴力や性的な暴行を受けたりは無い。

 商品としての価値を下げたくないのか、それとも私が考え付かない意味があるのか。

 そんなことどうだって良い。

 大事なのは『捕まって自由に出来ない事』以外何も無い事だ。

 盗賊だけど意外と紳士的な人達なのかもしれない。

 

 

 

ク月リ日

 前言撤回。

 普通に異世界の盗賊してました。

 盗賊のアジトに連れて来られて数日。

 牢屋とも呼べない簡素な部屋に同居人が出来ました。

 うん、私みたいに砂漠で遭難しちゃった人、単純に人数が少なくてカモにされてしまった人達。

 ぶっちゃけると、盗賊さんの毒牙にかかってしまった哀れな人達だ。

 全員で2名。

 男は居ない。

 全員女性だ。

 女の子2人旅だったのか、それとも男性はコロコロされてしまったのか…………。

 想像はしたくない。

 

 牢屋とも呼べるような呼べない様な部屋に叩き込まれた女性二人は見るからに傷心しきっていた。

 服を布切れと言ってもいいレベルに破けてるし、局部は赤く腫れていた。

 前世で十数年から数十年とこの世界で十一年程。

 それだけ生きていれば性的な知識だってある。

 これはあれだ、ここに来る途中に使われてしまったのだろう。

 それも結構乱暴に。

 

 気分が悪くなり、今日のご飯は吐き出してしまった。

 幸運だったのが、食べさせてくる盗賊さんが部屋を出てから吐いてしまったくらいだろう。

 後になって勿体無かったなぁと後悔している。

 貴重な一日一度の栄養だったのに……。

 

 

 

ア月。日

 質問:目の前ではないにしろ、日々日々性的暴力を受けている同居人がいる生活をしている人の気持ちを答えよ。

 答え:精神が可笑しくなりそう。

 

 はい、同居人が増えて早数日。

 多分1週間は過ぎたかもしれない。

 私の扱いは分からないし、同居人の扱いも変わらない。

 性処理が必要なのも分からなくもないけど、もう少し丁重に扱ってはどうだろうか?

 見ているこっちが辛い。

 

 

 

 

 

テ月ス日

 数週間が経った、と思う。

 正確な時間なんてもう分からない。

 同居人は減ったり増えたりしていた。

 理由は想像つく。

 使えなくなったモノは居ても仕方ないからだろう。

 

 日に日に弱って行くのが分かる。

 毎日雑だが食事はもらえている。

 同居人を無視すれば睡眠も取れる。

 しかし、筋力は落ちていく一方だ。

 どうにかしてここを早めに抜け出さないと…………。

 

 

 

カ月ト日

 遂に盗賊のアジトを出る事が出来た。

 どうやったか?

 盗賊さんに引っ張られてだ。

 つまり、盗賊さんが私を何処かへ移動させようとしてくれたから出る事が出来たのだ。

 ……何も変わっていないよね。

 

 

リ月ポ日

 今度の移動は楽だった。

 トカゲみたいな生物に轢かれている乗り物に乗ったから。

 分かりやすく説明すると、馬車で馬の部分がトカゲみたいな生物な違い。

 うん、物凄く楽だ。

 初めからこれで移動させて欲しかったけど、こんな砂漠でこんな重要そうなものをホイホイと使えないものかもしれない。

 盗賊だしね。

 移動は楽だけど、扱いは何も変わらなかった。

 手足は頑丈な鎖で縛れてて、口には猿ぐつわ代わりの布を丸めてポイ。

 お陰で同居人と意思疎通が全く出来なかった。

 そんな同居人達も入れ替わりながら残った人が一緒にドナドナされている。

 死んだような眼をしているので、この先の未来は真っ暗なのだろう。

 

 あれ?

 私も同じじゃない?

 

 

カ月は日

 売られる……。

 実感が湧かない。いや、湧く方が可笑しいんだよねー。

 今日は一日中ボーっと外の風景を見ていた。

 新幹線やバス、ましてや自転車にも劣る速度で流れていく景色。

 楽しくないけど、景色を眺めるしかやる事が無い。

 ボーっとしながらどうやって逃げようか?と考えていたのもある。

 せめて口が自由だったらやりようがあったかもしれない。

 ほら、近づいて来た盗賊さんに噛みついたり、言葉で説得したり、某三刀流剣士の様に口で剣を使ってみるとか……。

 もっと斬新なアイデアを発想して実現に向けて努力してたら良かったと後悔。

 

 

3月0日

 後悔気味に落ち込んだ翌日。

 後悔する必要が無い事に気づいた。

 何故なら努力は続けていた。

 剣術は当然、魔法だって私自身で出来る範囲で色々やって来たのだ。

 特に治癒魔法は幼女先生だけでなく、ゼニスママにも中級を習っていなかったらこのベガ何とか大陸に飛ばされて直ぐ死んでた。

 だから、頑張って努力していた。

 足りなかったって事もないはず。

 ただ。そう。ただただ運が無かった。

 一人じゃなかったら?言葉が通じる真ん中の大陸だったら?

 今こうやって生きていられるのも奇跡で感謝しているが、運が良ければもっとマシな状況下にいたはず。

 運が無かったのはどうしょうもない。

 なので、この話はお終い。

 出来ないことはできなく、過去を悔やんでも仕方がない。

 切り替えが大事だ。

 今を正しく認識して出来ることを積み重ねて行けば、必ず家族の元へ帰れるはずだ。

 

 

 

 

 

連月で日

 ベガ何とか大陸に飛ばされて森を彷徨って数日。

 戦争してるらしき人達に捕まって数週間から数か月。

 砂漠を彷徨って数週間から数か月。

 町?オアシス?で1週間程度。

 再び砂漠を彷徨って数日。

 盗賊さんに捕まってアジトまで1週間程度だったはず。

 盗賊さんのアジトで数週間。

 盗賊のアジトを出発して乗り物に揺られる事2.3週間

 合計してベガ何とか大陸に飛ばされて多分1年以上。

 2年や3年も経っているかもしれない。

 

 剣術の才能がそれなりにあったからこれまで頑張ってきたけど、それだけじゃ生きてい行けない世界だと思い知らされた。

 異世界ファンタジーの闇の部分も見てきた。

 アニメの様に都合の良い様にイベントが舞い降りて、サクサクと家族の元へと進む事もない。

 一歩間違えたら死ぬような世界、言葉も通じず一人きりで見知らぬ土地を彷徨った。

 へまをして何度も捕まった。

 死に掛けて見知らぬ人に助けて貰い、剣術の頂点と思わしき戦いを目に焼き付けた。

 

 エピソード記憶っていうのが皆無だけど、前世の知識を持った異世界転生はアニメや小説みたいに甘くない事を知った。

 全力で何かに取り組んでも解決しない理不尽な事があると知った。

 それでも、諦めずに進み続けたら前進すると思っている。

 

 うん、きっと帰れる。

 このベガ何とか大陸に飛ばされて1年以上、もしかしたら2.3年かかってようやく。

 ようやく大きな街が見えてきた。

 街に着いたら盗賊さんから逃げることを頑張ろう。

 パパウロから貰った剣を折れている事で扱いが雑なのか、隙を見つけたら私でも取れる場所にある。

 逆に言えば、謎の女性から渡された(手渡しじゃないけど、実質そうだと思う)剣はかなり厳重に見張られている。

 うん。わかる。

 あの剣はスマートで強そうな見た目をしているもんね。

 試し斬りをしたのなら更に驚くはず。

 剣の腕が殆ど無い人でも石くらいならスパスパ切れる業物だ。

 ホント、何でこんな業物を私にくれたのだろうか?

 

 と言う訳でそろそろ寝よう。

 寝ても起きても移動は勝手に行われるとは言えど、やっぱり夜寝て朝は起きて規則正しい生活は送っておくべきだ。

 明日には街に入る。

 油断を見つけて逃げ出すんだ。

 

 きっと出来る。

 必ず帰れる。

 私は有名な冒険者であるパパウロとゼニスママの子供で、天才魔術師ルーデウスの妹だ。

 この程度の苦難、乗り越えなきゃ家族に誇れない。

 妹達に『おねーちゃんカッコイイ!!』って褒められない。

 だから頑張ろう。

 諦めないぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、更なる絶望が私を襲う。

 

 

 

 

 




とりあえず一区切り。次回から別視点を数話挟むつもりです。


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13冊目

もう少し短くする予定だったけど、長くなりました。
本来なら1人辺り2,000文字程度で3人で1話を想定してた。


・リーリャ視点

 

 

 思い出すのは一番幸せだった頃の記憶。

 

 王宮メイドの職を追われ、職を探していた私を拾ったのはパウロだった。

 拾ったと言うのは語弊がありました。私の実家がやっている道場に居た弟弟子。彼からハジメテを奪われた事をネタに職に就こうと考えていた私を快く迎えて下さった奥様。

 

 ブエナ村に着いた私の仕事は奥様の身の回りのお世話が主だったない様だった。そもそも仕事を募集した理由が奥様の妊娠がきっかけなのだから当然だ。

 双子と言う事で出産は大変でしたが、王宮に務める際に一通りの知識を教わっているので問題はありませんでした。

 あるとすれば人手が足りなかったことでしょうか。王宮では複数人の女医に助産師がかかりつけになりましたが、ここでは私と村に一人居る老婆のみ。

 パウ…旦那様は全くの役立たずでした。男性には仕方のない事でしょう。

 

 生まれた双子は男女で、先に産まれた男の子をルーデウス。後に産まれた女の子をオーシノルと名付けられた。

 

 

 

 双子の世話は大変でした。

 ルーデウス坊ちゃまは赤子らしかねる目線を向けて来る。正直言って気味が悪い。

 夜中に悪霊を追い払う儀式を行いましたが、全く効果がありませんでした。

 逆にオーシノルお嬢様は全く普通の子でした。

 ルーデウス坊ちゃまが気味が悪いのは確かですが、世話の半分以上をお嬢様に向けていればいいのは助かると思っていました。

 

 が、双子の成長と共にその期待は裏切られる。

 

 ルーデウス坊ちゃまは動ける様になるとどこにでも移動した。

 文字通り何処へでも。唯一助かったと思うのは、家の外へは決して出ない事だったが、そもそも赤ん坊がドアを一人で開けられる事は無い。

 外に出る時は奥様と共に十分注意もしていたので、双子が勝手に家の外に出る事は無いのです。

 

 逆にオーシノルお嬢様はルーデウス坊ちゃまよりも数か月発達が遅れた。

 まず、夜泣きはするものの中々声を発しない。

 ルーデウス坊ちゃまとは違い、一日中寝転がったままなのも記憶に新しい。

 旦那様と奥様はとても心配なさっておりましたが、私はそこまで不安には思っていなかった。

 赤ん坊の成長速度には個人差がある。そう習っていたからだ。

 そもそもルーデウス坊ちゃまは平均的な成長速度よりも早すぎて、オーシノルお嬢様は平均よりも少し遅い程度。

 各々だけを見ればそこまで心配する必要は無いが、ルーデウス坊ちゃまとオーシノルお嬢様を比べたら差は歴然と映る。

 実の親である旦那様と奥様がたいそう心配するのも理解できる。

 なので私くらいは冷静に見守ろうではないか。

 そう毎日見守った。

 

 

 

 ルーデウス坊ちゃまから遅れる事数か月後、オーシノルお嬢様が遂に自力で動ける様になりました。

 旦那様と奥様はそれはもう喜んだ。

 その日の食卓は豪華になるほど。

 ルーデウス坊ちゃまも双子の妹が動ける様になったのが嬉しいのか、オーシノルお嬢様の頭を撫でたり家を案内するかのようにハイハイで先導するようになった。

 微笑ましい限りだが、私は少しだけ気味が悪いと思うようになりました。

 

 

 

 1年が経ちルーデウス坊ちゃまの行動がパターン化されてもオーシノルお嬢様は変わらなかった。

 運動のつもりか偶に動いては直ぐに辞める。

 動いて、休む。

 動きはするがルーデウス坊ちゃまよりはやんちゃではなく、必ずと言っていいほど私か奥様の目の届く範囲から外れない。

 こちらとしては有り難い事ですが、赤ん坊にしては少々可笑しい行動だ。

 お世話を行う人間の苦労を分かっているかのようにしか考えられない。

 しかし、ルーデウス坊ちゃまは文字を理解しているかの如く本を漁る前例がある為、一概にも可笑しいは言えない。

 傍目には真逆に見えるこの双子ですが、二人共賢さの鱗片を現していたと数年経った頃には思えてきました。

 

 

 更に1年が経過した。

 ルーデウス坊ちゃまから数か月遅れでオーシノルお嬢様も言葉を発する事が出来る様になりました。

 早めに言葉を発し始めたルーデウス坊ちゃまは家にある数少ない本を常に持ち歩き、文字の勉強を一人で行っています。

 逆にオーシノルお嬢様は旦那様に読み聞かせを強請っている場面が多く、大人を頼りつつ文字を覚えるつもりなのか。

 それとも、単に甘えたいだけなのか。

 ともあれ危ない事はしないし、自ら文字を覚えようとする姿勢は褒めるべき事だ。

 

 

 

 ルーデウス坊ちゃまが自力で魔法を使ったらしい。

 まだ5歳にも届かない年なのに凄い事だ。

 私は魔法についてそこまで詳しくないですが、治癒術師である奥様が「天才天才」と連呼していたので、親のひいき目を無しで見ても十分に才能があるのだろう。

 旦那様は剣士に育てたかったようですが、私の一言で両方とも学ばせる事になりました。

 

 

 家庭教師が家に来るまでの間、オーシノルお嬢様とルーデウス坊ちゃまは仲良さげに遊んでいた。

 オーシノルお嬢様は魔法がたいそう気に入ったらしく、ルーデウス坊ちゃまに強請って簡単な物をみせてもらっているのをよく見かける。

 奥様から許可を得たとは言え、大人が見てない場所で何かが起きたらすまない。

 監督役として私が見守る事になった。

 

 微笑ましい双子の馴れ合い。

 オーシノルお嬢様がルーデウス坊ちゃまに触発されたのか「私も魔法使う!」と言い出した。

 ルーデウス坊ちゃまの真似をしてポーズを取っているが、中々魔法は発動できない。

 この年で魔法を扱えるルーデウス坊ちゃまが以上なので、オーシノルお嬢様には落胆しないでコツコツと頑張って欲しいと思います。

 

 オーシノルお嬢様の魔法への熱はそれはもう凄まじいものでした。

 次の日には奥様に「魔法を習いたい」と相談してしまう程に。

 奥様も女の子であるオーシノルお嬢様には魔法を習わすつもりだったらしく、簡単に了承しました。

 旦那様……頑張って稼いでください。

 チラッと金銭面から私が解雇されるのは?と思いましたが、奥様は「そんなことしないわ」と言って下さったのでホッとした。

 

 

 家庭教師は魔族の少女でした。

 髪の毛の色が緑色でしたので一瞬身構えましたが、額に宝石の様な物はありませんでしたのでスペルド族では無かったようです。

 落ち着いて観察すれば、光の当たり具合で緑色に見えるだけで本来は青色でした。

 これは失礼な勘違いをしてしまいました。

 

 ルーデウス坊ちゃまは初日から家庭教師のロキシー先生の度肝を抜き、次の日から色々と新しい技術を学んでいました。

 対してオーシノルお嬢様は文字のお勉強からです。

 読み聞かせや自ら本を開いて勉強していても、流石に魔法を勉強するまでには至っていなかった模様。

 その日から毎日頑張るお嬢様を奥様と一緒に眺めるのが日刊になりつつありました。

 微笑ましいですね。

 

 

 ロキシー先生が家に到着して数日後。

 恐ろしく早い事にオーシノルお嬢様はもう文字を覚えてしまった。

 既に下地が出来上がっていたとは言え、たった数日でマスター出来る様なものではない。

 現に冒険者に限らず平民の中では一生文字を読めない者もいるくらいだ。

 覚える機会が無いと言えばそこまでですが、自ら学んで覚えようとする姿勢は素晴らしいものです。

 ルーデウス坊ちゃまには届かないにしても、オーシノルお嬢様も天才と呼べる才能を持っていると私は思った。

 ルーデウス坊ちゃまとは違い、可笑しな行動をしないのも私的にポイントが高い。

 

 文字を覚えた次の日からオーシノルお嬢様の魔術への道のりが始まった。

 魔術は専門外ですが、詠唱を唱えるだけで発動するだけの簡単な物では無い事は知っています。

 ルーデウス坊ちゃまは唱えただけで発動出来たからこその天才。

 オーシノルお嬢様は覚えたての文字を一生懸命読み解き、拙い声を上げて魔術を唱える。

 平均的な話だと、初級を習得するまで数か月から数年かかると耳にした事があるので、ロキシー先生の任期が終わるまでに習得出来たら良い方だろうと私は勝手ながら思っていた。

 奥様は中級魔術も少し習得して欲しいと仰っていましたが、天才のルーデウス坊ちゃまの双子の妹であり、自身も才能があるオーシノルお嬢様なら習得出来るかもしれない。

 初めの頃はそう考えていました。

 

 数日後にオーシノルお嬢様が魔術を発動する事が出来るようになり、コントロールを学び始めたと夕食の席で嬉しそうに述べた時は奥様共々卒倒しそうになりましたが、ルーデウス坊ちゃまと言う異例な天才がいなければ危なかったかもしれません。

 とは言え、3歳児が数日で文字を覚えて魔術の足掛かりにまで辿り着いたのは純粋に凄いと思います。

 オーシノルお嬢様は「その後の調整が難しい」と嘆いていましたが、私は時間の問題だと思いました。

 

 

 ルーデウス坊ちゃまは毎日家で魔術の練習ばかりしています。

 教育本では学べない事を学んでいるのが楽しいのか、日々庭や部屋で魔術を扱っているのを目撃する。

 一日中家で魔術の鍛錬を繰り返し行う姿は、子供らしくなく少しだけ怖いと思ってしまう。

 対してオーシノルお嬢様はロキシー先生と一緒に村へ出かけて来る。

 魔術の補修やそれ以外にも色々な事を教えて貰っているらしい。

 二人共学んでいるには変わりないですが、真逆のアプローチなのが双子らしいと言えばらしいです。

 ロキシー先生と外で何をしているのか気になりますが、本人が秘密にしているのでわざわざ聞き出す事も無いでしょう。

 

 そういえば、ルーデウス坊ちゃまの剣術の鍛錬が始まりましたが、そこでひと悶着起きました。

 オーシノルお嬢様が「私も剣を使いたい」と言いだしたのです。

 元々男の子なら剣術を習わせる予定で、ルーデウス坊ちゃまは魔術の才能があったので両方とも習う事になりましたが、オーシノルお嬢様は魔術だけの予定。

 これに旦那様も奥様も困った様子でした。

 結局、旦那様に言いくるめられたオーシノルお嬢様が折れる形で話は終わった。

 

 

 

 かのように思えた。

 数週間後が経った頃、お嬢様が相談を投げかけて来た。

 

 

「ねぇリーリャ、私も剣術を習いたいんだけど、どうやったらお父さんは頷いてくれるかな?」

 

 

 ある日の昼下がり。

 旦那様は警備隊のお仕事に向かい、奥様も診療所に向かった後です。

 家にはルーデウス坊ちゃまが部屋で魔術の鍛錬を個人的に行っているだけ。

 ロキシー先生も既に村へと向かった後の様です。オーシノルお嬢様は本日は別行動のご様子。

 

 

「お嬢様はまだ諦めていなかったのですね」

 

「うん。やっぱりルーデウスだけズルいよ。私もやってみたいの。一度やってみて才能がからっきしだったら諦めるけど、一度もしないままで終わるのは許せないの」

 

「そうですか……。どういたしましょうか」

 

 

 旦那様の気持ちも分からなくもない。

 お嬢様の容姿は贔屓目に見ないでも非常に整っている。

 旦那様は物凄い整っているとは言えないが、それでも貴族の血筋が残している最低限の顔立ち、奥様は言わずもがなミリスの大貴族らしくとてもお綺麗だ。

 そんな二人の容姿を双子も継いでいる。

 双子だが男女の性別の差があるのか、丸っきしそっくりとまでは揃っていないが、それでも単なる兄妹とは言い切れないくらい似ている。

 大きな違いと言えば、伸ばしている髪の毛の長さくらいだろうか?

 

 将来は奥様に似て大変美しく育つこと間違いない。

 できる限り自由に育てる方針とは言え、この様な可愛い娘に剣を持たせたくない旦那様の気持ちも分かるというもの。

 

 私は悩んだ。

 

 

「…………」

 

「……ダメ?」

 

「空き時間で宜しければ私が軽くお教えする事も出来ますが……」

 

「本当!? やったー。何時から? 明日だったら大丈夫??」

 

 

 気が付いたら了承していた。

 ……なんてことだ。

 理性があったのは断るべきか、それとも何か打開策が無いか考えているまで。

 オーシノルお嬢様がこてんと首を傾げておねだりされると、反射的に断る選択肢を消していた。

 この可愛い子の願いを断れるはず人はよっぽどのひねくれものなのでしょう。

 しかし、喜びを全身で表現しているオーシノルお嬢様を目にすると、この後の苦労なんてどうだって良い。

 

 

「はい、出来れば明日からお願いします。それと、奥様には伝えさせていただきます」

 

「えーママに言っちゃうの?」

 

「勝手に行ったと知られれば、怒られるのは私ですから……。ですが、奥様でしたらきっと分かってくれるはずですよ」

 

「そう? 分かった! じゃあ私もお願いしてくる!!」

 

 

 オーシノルお嬢様はそう言うと、元気よく奥様の元へと走って行った。

 せっかちで好奇心旺盛。

 パウロが親で間違いないと感じさせる。

 

 その後、オーシノルお嬢様がたどたどしく奥様を説得しているのをほんの少し手伝うと、奥様から剣を習う事を了承する事に成功。

 その夜に奥様から「どうするつもり?」と質問されたが「軽く体力作りを行うだけです。本格的なのは旦那様が頷いてからでないと」と私がオーシノルお嬢様に課そうと予定していた事をそのまま話した。

 奥様も護身くらいは出来る様になっていた方が良いとお考えだったようで、あっさりと承諾を頂いた。

 奥様自身も冒険者で、魔法だけ使えても役に立たないと身をもって経験していたらしい。

 

 ルーデウス坊ちゃまほどでは無くとも、魔法の才能が最低限はあるのだから剣術の才能が無くたって構わない。

 護身術まで行かなくても、ある程度動ける様になっていた方がこの世界では有利に動く。

 そう考えて、軽い気持ちでオーシノルお嬢様の剣術を引き受けた私でした。

 やるからにはスパルタで厳しめに。

 中途半端な鍛錬は変な増長を生んでしまう為に敢えて。

 

 と思ってったのだが、難なくとも行かずとも食らいつき、いよいよ剣を握ればかなり昔に辞めてしまった私にでも分かる才能があり、遠目で見るだけでもルーデウス坊ちゃまよりも剣の才能が眠っている事に気付くまで数か月。

 この時の判断はきっと正しかった。

 でなければオーシノルお嬢様は生きて戻る事が出来なかったのではないか?と、転移事件発生6年後オーシノルお嬢様が私達家族の下へ戻れた時に切実に思うのであった。

 

 




次回は1人辺りの内容を軽くしたい。


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14冊目

いつもよりも短いですがキリが良かったので投げます。
1週間遅くなりましたが、1周年ありがとうございます。


・シルフィエット視点

 

 ボクが初めて彼女を見たのはまだルディにも出会って居なかった頃だった。

 ルディに出会う前のボクは卑屈で自分に自信が全く持てないでいて、家の外に出て同じくらいの人に会うと何時も虐められてた。

 

 その日は偶々休みだったお母さんと一緒にお外を散歩していた。

 おかあさんと一緒なら虐めに合わないで済むけど、それでも何時誰が見ているか不安で一杯だった。

 一人だと家に引きこもってばかりなボクを心配して連れ出してくれたお母さんの好意を断れなくて、ほんの少しだけのつもりで村を歩いている最中。

 

 前から私と同じくらいの女の子が二人歩いてきた。

 緑の様な青色の髪の女の子と茶髪の女の子だ。

 二人は手をつないでいて大変仲がよろしい…。

 どっちかと言うと、お姉さんであろう青色の髪を持った魔術師風の女の子が、茶髪の女の子が迷子にならないように繋いでる風。

 ボクとお母さんと同じ。

 

 女の子とは言え二人共ボクの知らない人に変わりはない。

 お母さんの身体に隠れるようにして通り過ぎようとしたんだけど、ボクとお母さんに気づいた二人が声をかけてくる。

 

 

「こんにちは。この度グレイラット家の家庭教師としてやって来たロキシー・ミグルドです。短くない間この村に滞在すると思いますのでよろしくお願いします」

 

「まぁ! ご丁寧にありがとうございます」

 

 

 お母さんはそう言って頭を下げて自己紹介を返した。

 よく分からなかったけど、村の外から誰かの家にカテイキョウシとやらをしに来たらしい。

 

 私がお母さんの後ろで二人を観察していると、ロキシーと名乗った人がとなりの茶髪の女の子の背中を押した。

 

 

「ほら、挨拶出来ますよね?」

 

「はい先生ッ!! オーシノル・グレイラットですッ! よろしくお願いします」

 

「グレイラット……パウロさんの所の娘さんね。よろしくねー」

 

 

 彼女は元気よく声を出して挨拶をしてきた。

 お母さんはどの家の子なのか分かったらしく、彼女の頭をくしゃくしゃに撫でていた。

 ボクと同じくらいの年かな?

 それなのにボクとは大違いだ。

 

 その後、ボクはお母さんに促されて自己紹介をしたが、緊張と不安からハキハキと言えなかった。

 これがルディの妹との初対面。

 この頃から彼女は元気だった。

 

 

 自己紹介をお互いにしたものの、ボクが家からあまり出ないせいで会う事は無かった。

 お母さんやお父さんの話だと村の子と遊んでいるみたいだった。

 やっぱりボクとは正反対の子で、少しだけ羨ましかった。

 

 

 次に出会ったのは2年後、虐められてた所をルディに助けられて遊ぶようになった頃だった。

 その日は急に雨が降ってルディの家に非難したのだ。

 そこでルディに無理矢理服を脱がされて泣いていたボクを慰めてくれたのが彼女だった。

 

 

 

 そこからまた数日空いた。

 少しの間ルディとギクシャクしていたけど仲直りした翌日。

 

 

「ほへー、貴女が噂のシルフ君ちゃんね……。あ、この前は自己紹介できなくてごめんね?」

 

 開口一番、彼女はそう言って自己紹介を始めた。

 数年前に一度会っているのを忘れてるっぽかった。

 少しショックだ。

 ボクは覚えていたのに……でも、たった一言言葉を交わしただけの繋がりだったのだからしょうがないのかな?

 

 

 そこから彼女は偶にルディに着いて来るようになった。

 ボクとルディが魔法の練習をしているのを興味深そうに眺めたり、時には割って入って一緒に練習したりする。

 彼女もルディと同じお師匠さまから魔法を習っていたらしいけど、ルディと違って詠唱を唱えないと魔法を扱えないらしい。

 正直に言って、ルディから魔法を習っているボクの方が魔法の扱いは上だった。

 それほどまでにルディの説明は分かりやすかったけど、ルディ曰く「オシィよりもシルフィの方が才能があっただけだよ。オシィだって同年代に比べては良くやっているって先生や母様が言っていたんだ」とのこと。

 

 ボクにも勝るものがあるんだ、と思うと同時に彼女にも誇れるはずの才能があった。

 剣術だ。

 偶にルディと一緒に来る時に絶対に手に持っているのは木剣。

 魔法の練習に飽きた時は必ずと言っていいほど素振りをしていた。

 ルディが言うには、ルディよりも遅く習い始めたにもかかわらずルディよりも強く、ルディよりも才能があるらしい。

 女の子なのに凄いと思う。

 一度だけ彼女に剣を振る理由を聞いてみた事がある。

 

 

 

「ねえ、どうして剣術をやろうと思ったの?」

 

「ハッ、ヤっ! 剣を習い始めた理由かー」

 

 

 ボクが素振りしていた彼女に問いかけると、彼女は木剣を置いて柄に顎を乗せて悩み始めた。

 そんなに考えるものなのかな?

 

 

「ルーデウスがだけが剣を習えるってのが羨ましかったっていうのや魔法がダメダメなら逆に剣ならって気持ちもあるし……」

 

「オシィは勢いで生きているからね。気にする必要は無いと思うよシルフィ。後オシィ、行儀が悪いし危ないのでやめなさい」

 

「失礼な! それじゃあ私は考え無しの猛突進猪だと言いたいの? よし分かった。明日の打ち合いでは覚えておきなさいよ」

 

「それで!? 他には理由は無いの?」

 

 

 仲が良いのか悪いのか、ルディの言葉に彼女は声を荒げて否定した。

 そんな直ぐに手を出す様な姿勢が猛突進と言うわれる印象を与えると思うんだけど……。

 喧嘩はダメなのでボクは急いで言いかけてた言葉の続きを促す。

 

 

「むぅ……。えーっと、剣を振るうのは楽しいし、剣を持っていると懐かしい気持ちになるんだよね。何だろう…こう、背中に衝撃を受けたようなビビッて感覚」

 

「何ですかそれ。でも、オシィに才能があるのは本当だと思うよ」

 

 

 どうやら彼女にも理由は分からないらしい。

 ボクと違って助けられたから憧れたなんて理由じゃないのは確かだ。

 

 そうやって日々は過ぎて行った。

 ルディがロアの街に家庭教師にお金稼ぎに行った後も関係は変わらなかった。

 友達の妹、兄の友達。

 とボクは思っているけど、向こうはどうだったんだろうか?

 

 ルディが家庭教師に行ってからボクはより一層の努力を重ねた。

 将来ルディの隣には胸張って立てるようになる為だ。

 その一環でルディの家にお邪魔して色々と学ばせてもらう様になった。

 そうすると数日おきだったのが毎日会う事になる。

 自然と会話が弾むのも必然だったがある日、彼女がボクに頼み事をして来た。

 

 

「魔法を教えて欲しい? えーっとオシィも魔法使えるんだったよね? 何で?」

 

「もっと使える様になりたいの。一人でも鍛錬してみたけど、中級魔法で行き詰っているから……。ほら、ルーデウスに教わったシルフィ君なら何か状況を打破できるんじゃないかって思ったの」

 

 そう上手く行くかな?と思ったけど、物は試しでやってみる事になった。

 ボクも一人だとつまらないし、こうやって同い年の子と切磋琢磨するのに憧れていた。

 ルディはほら、師匠みたいな感じだし、そもそもボクがルディに教えてあげる事なんて何もないはずだ。

 対して妹であるオーシノルは剣の腕はルディでも勝てないくらい強いらしいが、魔法ではルディに劣る。

 色んな事が出来るルディと違って出来る事と出来ない事がはっきりしているオーシノルは親近感が湧くのかもしれない。

 

 その後、ルディに教わった魔法の知識を自分なりに噛み砕いて説明してみたけど、あまり理解出来ていない様子。

 うーん、理解はしてるっぽいけど、結果に繋がらないって感じ?

 ルディならもっと詳しく分かるかもしれないけど、今は会えないからしょうがない。

 魔法はあまり出来ない分、彼女には剣の才能があるとボクは思う。

 一度、パウロさんと鍛錬しているのを見学させてもらったけど、ボクでは絶対に動けない速度で動いて剣を振るっていた。

 どうやったらあんなにも動けるのだろう? 日々の努力なのかな?

 

 

 

 関係は進展を見せないまま終わった。

 ルディと彼女が10歳を迎えた少し後、色んな人の人生を滅茶苦茶にした転移事件が起きた。

 ボクはアスラ王国の王城の上空に転移してしまい、成り行きでアリエル様の護衛として雇用されることになり、アリエル様とルークと共に暗殺者を退けてラノア魔法大学へ留学し、ルディと再会して結婚。

 

 色々あってようやく一息付けた頃、パウロさんから手紙が届いた。

 内容はルディの妹であるノルンちゃんとアイシャちゃんをルディの下に送ったと言う事だった。

 二人共面識はある。小さかったから覚えていないかもしれないけど覚えられているかもしれない。

 その日の夜、ルディと彼女の話題になった。

 

「そう言えば、オシィはノルンちゃんとアイシャちゃんの事沢山可愛がってなぁ。ルディは10歳の誕生日に会ってたんだよね?」

 

「うん、急でびっくりした。パーティーの次の日は何故かエリスと打ち合っていたけど、かなり剣の腕を上げてたなぁ。今だと剣聖くらいあるんじゃないか?」

 

「どうだろう。チラッと聞いた話しだと色々と伸び悩んでるっぽかったし……。でも、転移先で上手くやれてるなら冒険者として活躍してるかもね」

 

「そうだけどいいけど……。でも、冒険者として上手く行ってるならボク達かパウロさんに連絡をしないのは何故だろう」

 

「確かに……。…………」

 

 ルディは少し考えると悩みを振り切る様に言った。

 

「きっと大丈夫だ。エリナリーゼさんの話だとベガリット大陸で生きているらしいし、父様だって向かっているなら安心出来る」

 

「……そうだね。剣の腕もあるし、魔法だって初級なら問題なく扱えるし、何よりも度胸があるから図太く生きているはずだね」

 

 大丈夫。大丈夫。

 ボクとルディは何度もそう口にする。

 まるでそう言っていなければ不安で押し潰されるかのような感じだった。

 

 

 そして、その悪い予感はノルンちゃんとアイシャちゃんがシャリーアにやって来て、数か月経った頃にやってきた手紙で当たることになる。

 

 




本当は2人纏めたかったけど、思った以上に長くなったのでシルフィだけに。


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15冊目

急に開催された箱イベと奏章Iで時間を取られたので初投稿です。1700箱気持ちえー。


・ノルン視点

 

 私にはお兄ちゃんとお姉ちゃんがいるらしい。

 そのことを自覚したのはお母さんと離れ離れになって大分経ってから。

 きっかけはお父さんが毎晩寝る前に話してくれる家族の話。

 

 お父さんの話では兄は魔法の天才でそれ以外の事もそつなくこなせるらしい。

 幼い頃の私は分からなかったが、ある程度分別が付くようになった頃にはそんな完璧人なんて居ない事に気が付いた。

 お父さんは誇張して話しているのだと何となく思っていた。

 お父さんに嫌われるのが嫌だったから目に見えて不機嫌になる様な事にはならなかった……はずだけど、記憶にない兄について語られても正直面白くなかった。

 

 兄の事を覚えていないのは、街へお金を稼ぐために家庭教師をしに行ったのだとお父さんは言っていた。

 大人でもないのに家庭教師とやらでお金を稼げる程度には優秀な兄ならしい。

 でも、そんな記憶にない兄なんかどうだって良い。

 

 殆ど……朧気ですらない兄よりも鮮明に残っているのは兄の双子の妹とだというお姉ちゃんだった。

 同じ日に産まれた私の妹、妾であるリーリャから産まれたアイシャ。

 私よりも出来が良い妹は何でも私よりも早く習得して褒められる。

 勿論お父さんもお母さんも私にも「頑張れ」と励ましてくれるし、出来た時は「頑張ったな」と褒めてくれる。

 でも、なんだってアイシャの方が早く出来て早く褒められる。

 それが私はとても嫌だった。

 

 しかし、アイシャよりも先ず私を優先してくれたのがお姉ちゃんだった。

 アイシャよりも私を贔屓してくれた。

 とは言っても、アイシャを邪険に扱っていた訳じゃない。

 

 昔の私には全く分からなかったけど、お姉ちゃんは努力家だ。

 毎日剣を振るっていたとお父さんは言っていた。

 剣だけじゃなくて魔法だって平均的な魔術師に劣らない程度には扱えるとも言っていた。

 お姉ちゃんは凄い人だ。

 毎日鍛錬で忙しいはずなのに、毎日私に構ってくれた。

 

 そんなお姉ちゃんはベガリット大陸の何処かに居ると言う。

 お父さんが探しても見つからなかったのは、魔大陸の次に過酷な大陸だったかららしい。

 その朗報を持ってきたのはお姉ちゃんと兄の魔法の先生だと言う人だった。

 お母さんもベガリット大陸に居ると言う。

 となると捜索の拠点をミリス大陸からベガリット大陸に移さなくてはならなくなった。

 ベガリット大陸はミリス大陸に比べて遥かに危険な大陸だから、私とアイシャは兄が住んでいると言うシャーリアに向かわなくてはならなくなった。。

 当初はとても嫌だった。

 記憶にも無く誰もが手放しに褒め称えるいけ好かない兄の下に、大好きなお父さんと離れて向かわなければならない事に私は大反対した。

 記憶に無い兄の下にと言うだけでも良い感じがしないのに、

 結局、ルイジェルドさんが護衛を引き受ける事で私は留飲を下げた。

 

 

 道中の事。

 アイシャが口出しをして変なことになったが、結果的にかなり早いペースでシャーリアへと向かう事が出来ている。

 ルイジェルドさんの迷惑になるから変な事をするのは辞めたらいいのにと思わずには居られなかったけど、ルイジェルドさんは快くアイシャの提案を受け入れて結果的に通常よりも早いペースで進んでいるのは気に食わない。

 分かってはいる。

 私一人が我儘言っている状況ではない事くらい。

 分かっていても感情を抑えることが出来ない。

 ダメだ、ダメダメ。

 

 お姉ちゃんならどうしただろう?

 

 ふと思ったのはお姉ちゃんの事。

 思いついたら即行動していたらしいお姉ちゃんなら、うじうじ悩んでいないで行動に移していたはずだ。

 そんな事を考えていると、ルイジェルドさんが心配して声をかけてくれた。

 

 

「大丈夫か?」

 

「? えーっと大丈夫って何がですか?」

 

「何か思い詰めている顔をしている気がしてな……。不安があるなら言葉にしてくれ。オレに出来る事なら何だって排除しよう」

 

 久しぶりに商隊を経由しないで行動している最中。

 夕食中にルイジェルドさんがそう言ってくれた。

 怖い表情をしている時が多いけど、本当は心優しい人だって私は知っている。

 今も、沈んでいた私を気遣っての発言なのだろう。

 

「いや、その……。ルイジェルドさんに言う程の事じゃ……」

 

「言ってみろ。解決にならなくても吐き出すだけでも少しは楽になるかもしれん」

 

「でも……」

 

 ルイジェルドさんに迷惑をかけたくない。

 ただでさえ頼りきっているのに、これ以上どう困らせればいいのだろう。

 ルイジェルドさんはそう言うけど、本当にこの人に言っても意味のある事なのだろうか?

 悩む、悩む、悩む。

 

 黙ったまま、言葉に出すのを控えていると、私の気持ち何て一つも理解してくれない、出来ない妹のアイシャが怒鳴ってきた。

 

「あぁもうッ! ルイジェルドさんがこう言っているんだから、ノルン姉はそれに甘えたらいいんだよ。むしろ言わない方が気になって仕方がないから邪魔になるんだよ」

 

 アイシャに言われてハッとした。

 確かにそうだ。

 アイシャの言う通り、私がうじうじしてるだけで迷惑をかけてしまうのなら、ちゃんと吐き出した方がいいのかもしれない。

 うん、ルイジェルドさんもそれを望んでいるのならそうするべき、なはずだ。

 

「じゃ、じゃあ聞いてくれますか?」

 

「あぁ。不満があるなら遠慮なく言ってくれ」

 

 不満じゃないですけど…と私は言いながら考えている事をぶちまけた。

 お姉ちゃんが心配だ。お姉ちゃんならこの状況でどうしただろうか?

 ただそれだけのことなのに言葉にするとなると物凄く時間がかかった。

 アイシャは急かしてきたけど、ルイジェルドさんは最後まで何も言わずにしっかりと聞いてくれた。

 

 最後まで話した後、ルイジェルドさんは「これはルーデウスから聞いた話だが…」と語り始めた。

 

 

「ルーデウスが言うにはオーシノルは器用貧乏だったらしい。魔法を学べば同じ年頃の子よりも多くを吸収し、努力で実を結ぶ。何度も何度も諦めずに挑戦して成功させる。ルーデウスが知ってるだけでも、全ての属性の初級を習得し一部属性では中級すら操れると聞いている。ルーデウスに比べるとそれだけかと思うかもしれんが、魔法を扱えぬ者又は魔法に身近な者にとっては十分に才能ある者だ」

 

「私も、ミリスの学校でも習いました。でも、中々上手く出来ませんでした……。アイシャは出来る様になったみたいだけど……」

 

「あのねッ!! 精々初級が何とか発動するだけだよ。そりゃあ、あたし達は学校でちょろっと習っただけで、お兄ちゃんとお姉ちゃんは水聖級魔術師から直々に習ったって言うアドバンテージがあるけど? それでも中級魔法っていうのは才能が無ければ扱えないの」

 

 学校で習ったでしょ…と呆れながら行って来るアイシャに私は少しだけムスっとした。

 確かに学校で先生がそんな事を言っていた様な気がする。

 でも、ミリスに居た時の私に授業の内容を何時までも覚えていられる様な余裕は無かった。

 お母さんやお姉ちゃんが無事でいてくれますようにと、毎日祈っていた。

 ベガリット大陸に居ると知る前だったらから、今よりもずっとずーっと気が気ではなかった。

 私はアイシャみたいに頭が良く無いし、実技だって怒られてばかり。

 何でも出来るアイシャに言われたくない。

 

 そんなアイシャは私の気持ち何て知らないとばかりに続ける。

 

「しかも! お兄ちゃんと同じで全属性の魔法を扱えるんだよ。これがどれだけ凄い事か……ルイジェルドさんなら分かりますか?」

 

「すまんが魔法はさっぱりだ。しかし、オーシノルは魔法よりも剣の方が得意だと聞いたぞ。俺が出会ったばかりのエリスに食らいついていける程であるとか言っていたな。歳の差を考えれば十分な方だろう」

 

 もっとも、ルーデウスから聞いた話ばかりで実際に剣筋を見ていないので正確には分からんが……、とルイジェルドさんは言った。

 ルイジェルドさん程の人がそう言うのなら、お姉ちゃんは無事で居てくれているはずなのだろう。

 エリスという人が誰だか分からないけど……ミリスで兄とあった時に居た赤毛の女の人だろうか……年上にも張り合えるお姉ちゃんはやっぱり凄い。

 お父さんだって毎日のように褒めていた。

 

「ノルン姉、これで分かったでしょう。」

 

「……分かったって何が?」

 

「魔法も剣術も一定以上の評価を得ているお姉ちゃんが無事じゃないはずないじゃん。ベガリット大陸に居るってロキシーさんのお陰で分かったんだから、後はお父さん達に任せたら良いの。きっと奥さ……ゼニスママと一緒に居るよ。ベガリット大陸から動けないのにも何かしらの事情があるだと思う。あたしとお母さんみたいに何処かに捕まっている……無し無し!!」

 

「不安になるような事言わないでよ……」

 

「…ごめん」

 

 

 アイシャのせいで立ち直りかけた気分が落ち込んでしまう。

 頭は良いのに人の気持ちを理解出来ないというか……。

 アイシャだって私に敵意を持って接して来ている訳じゃないのは分かっている。

 でも、やっぱり仲良くするのは難しそう。

 仲良くしたくない訳じゃない。

 お母さんは違っても同じお父さんの子供だもん。

 

 気まずい空気になっていると、ルイジェルドさんが私とアイシャの頭を撫でてくれた。

 

 

「心配するなとは言わん。子供が母親と姉が見つからなくて心配するのは当然の事だ。だがな、少しは父親の事も信頼してあげると良い。万が一にはルーデウスだって居る。あいつほどの魔術師が居て苦戦する事は無いだろう」

 

 

 だから心配するな。

 ルイジェルドさんはそう言って私とアイシャを毛布に包ませてくれた。

 先ほどまでの不安は完全ではないけど、気にならない程度には小さくなった……と思う。

 少なくとも、今は安心して眠れるほどには。

 ルイジェルドさんは見張りの為にも殆ど寝ないのだろう。

 ルイジェルドさんにも休んで貰いたいけど、私如きがルイジェルドさんの代わりに見張りをする事が出来なくて、むしろ何かをしようと言い出した方が迷惑になる。

 私は黙って毛布に包まると、直ぐに寝ることが出来たのだった。

 

 

 

 

 

・アイシャ視点

 あたしたち家族をバラバラにさせた……色んな人の人生を奪った歴史に刻まれるであろう災害が発生してから早5年が経った。

 当時のあたしは完璧に覚えているわけじゃないけど、それでも起こった事がある程度覚えてもいるし理解もしていた。

 白い光に包まれたと思ったらお母さんと一緒に知らない国の王宮にポツンと居たのだった。

 その後はお母さんが色々やって命の保証をされ、あたしとお母さんはお兄ちゃんとお姉ちゃんの魔術の師匠だと言うロキシー先生をおびき寄せる餌にされた。

 城から出られない事以外はそこまで拘束されない生活が数年続き、私とお母さんを捕らえた王子の痺れがいよいよ切れ始めた頃、私は城を抜け出してお兄ちゃんに出会った。

 お兄ちゃんはお母さんの言った通り天才的な魔術師で、頼ったら直ぐに問題を解決してくれた。

 そこから私はお兄ちゃんを尊敬するようになった。お母さんの言った通り、この人に仕えよう。一生かはまだ分からないけど、出来るだけ長くだ。

 

 お兄ちゃんについてはお母さんが小さな時に言っていた反感、そして助けて欲しい時に助けてくれたという点から今では物凄く大好きだ。

 お姉ちゃんについてはよく分からない。

 記憶はある。私とノルン姉を可愛がってはくれていた。

 でも、頻度で言えばあたしよりもノルン姉の方が多かった……そう私は思う。

 贔屓だ。そう思った事がある。

 王城でお母さんと捉えられていた時、出来心で聞いたことがあった。

 

 

「ねぇお母さん。今になって気になったんだけど、オーシィ姉って私よりもノルン姉の方を贔屓?優先?してた風があるでしょ? それって何でなの?」

 

「……確かにそうですが、お嬢様の前で言ってはなりませんよ」

 

「分かってるって。で、どうして? 理由がないとは思えないの」

 

「ノルンお嬢様と貴女は二人共旦那様の血を引いているとは言え、ノルンお嬢様はゼニス様の血を引いています。つまり片親と両親。どっちを優先するか明白だと思いますよ」

 

「むぅ。確かに正論だけどさ……。それって差別じゃないの?」

 

「身分が違います。我慢しなさい」

 

「でも、お兄ちゃんはそんなことしないと思うよ」

 

「ルーデウス様は心の広い方ですから。血に寄る優劣など付けないでしょう。もっとも、それはオシィお嬢様も同じです。お嬢様の場合、ノルンお嬢様に自分の境遇を重ねてみているからアイシャよりも親身になっているのでしょう」

 

 

 お母さんに言われてもピンと来なかった。

 私とノルン姉の関係をお姉ちゃんは重ねてみている?

 ……確かにお兄ちゃんとお姉ちゃんは双子で、私とノルン姉も異母姉妹で同じ日の1時間違いに産まれたらしいから実質双子のようなものだ。

 確かに兄妹揃って双子って考えたら少しは共感を得るのにも理解できた。

 でも、それじゃあ同じ妹であるアタシじゃない?

 

 

「アイシャには頼りのある姉に見えるかもしれないけれど、オーシノルお嬢様はお嬢様で苦労なされているの。言葉を覚えるのがルーデウス様よりも遅い事に嫉妬したり、魔法だってルーデウス様が簡単にこなしているのを見て沢山練習されたり、ルーデウス様だけ剣術を教えて貰っているのが我慢ならず、私が簡単な事を教える羽目になったりと……。思えば、オーシノルお嬢様にとってルーデウス様は目の上のたん瘤だったのでしょうね」

 

「だから、アタシの方が出来るから出来ないノルン姉を重ねて見ているって事? アタシからしたらオシィ姉も十分凄い人何だけどなぁ」

 

 毎朝パパと剣の稽古をやって、朝食を食べてから家の外で魔法の練習をして、更に剣を降っていると言う。ゼニスママが「もう少し女の子らしくお淑やかに育ってほしかったわ」と言っていたのを覚えている。

 今の私と同じくらいの年からそんな厳しい鍛錬を毎日行っているオシィ姉には脱帽する。

 剣術だってお兄ちゃんよりも出来るらしく、同年代の中では抜きん出て強い……とお父うさんは何時も言っていた。

 それなのに、魔法だって平均的な魔術師と遜色ない中級魔法を複数の属性で扱える。

 どう考えたってオシィ姉はお兄ちゃんと並び立つ凄い人だ。お兄ちゃんの功績がお母さんのデタラメじゃ無ければの話だけど……。

 

 この時の私はオシィ姉の事を勘違いしていた。

 子供の私にはオシィ姉はとても大人に見えて、お兄ちゃんの次に尊敬出来る人だった。

 でもそれは過大評価。オシィ姉だって普通の人間で、お兄ちゃんと同じように悩んで努力して、それでも届かなくて、意地汚く生きて、ボロボロになりながらも生き延びていた。

 




残る視点は二人です。


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16冊目

FGO8周年ヤバかったです。とりあえずトネリコは宝具5にしました。

あと、久しぶりの主人公視点に戻ります。


は月こ日

 物凄く久しぶりな気がする。

 そうだ。ここ数日?数か月?

 いやいや。

 季節の移り変わりが何周もしていた気がするから数年?

 ともかく、かなりの時間が経ったことだけは分かる。

 カレンダーなんて物が存在していたとしても、お金無し、食料無し、武器は折れた剣と使っても汚れない不思議な剣だけ。

 服もボロボロで布切れを纏っていると言った方が良いかもしれないレベル。

 家なんて上等なものはあるはずも無し、安全地帯なんて剣を握りしめて自ら作り出すもの。

 日用品なんて土魔法でその場しのぎ。ルーデウスが土魔法で色々作っているのを見てなければ、水で洗った葉っぱを使っていたかもしれないね。

 

 そう私は今、森に居る。

 砂漠ではない。

 森だ。英語だとフォレスト。

 まぁ、この世界に英語なんて無いから誰も理解出来ないんだけど……。

 

 気分が優れないから今日はこのくらいで。

 また気分が良い時にでも振り返ろう。

 別に紙に書いてるわけじゃないんだから、サボったって何の問題も無い。

 どうせ何も変わらない日々なんだかから、そのうち気が向いた時に。

 

 

 

 

い月べ日

 前回から1週間くらい経った……と思う。

 二、三日なら覚えていられるけど、それ以上ともなれば何日経ったなんか忘れるし、覚えている余裕なんかない。

 初めの方は木に印を付けて日数を数えたりしてたものだが、魔物や獣に壊されたり拠点を移動せざる得なくなったりと、印を定期的に付ける事が困難な日々が続くから辞めた。

 やる気があるなら、ベガ何とか大陸で初めて目が覚めた日からやってる。

 継続は力なりと言うけど、逆に一日でも早く出来ない日が続いたら即座にやる気が無くなるのが人間の性だろうね。

 

 

 

は月1日

 今日は雨で地面がぬかるんでいて、動物を狩るには向いていない。

 こうなれば一日中暇だ。

 もちろん、魔物さんには関係がないから警戒は常に行っていないと、油断した隙にガブリと食べられてしう。

 食べ物が自ら寄ってくるからそれはそれでありな気もするんだけど、今はギリギリ食べる物にも困っていないので却下。

 ある程度の怪我は魔力さえあれば治癒魔法で治るとは言え、自ら進んで怪我しに行くほどⅯじゃない。

 うん、これ以上の怪我はダメだ。

 これ以上身体を傷つけるのは止そう。

 今の生活にも慣れて来た。

 油断をしなければ生きて行くのは十分できるだろうな。

 問題は……現状維持しかできずに帰る手段や取っ掛かりが全く掴めないところだけど……。

 大丈夫だ。

 何とかなる。なんだかんだ言って生きてこられたんだ。

 

 

 

7月5日

 今日は久しぶりに近場の町に行くことにした。

 基本的な食べ物や物は現地調達しているとは言え、文明の利器に勝てないもの私が普通の村娘として育ったからだろう。

 タオル代わりの布とか、歯ブラシ代わりの固い毛を詰めた物とか……主に布だね。

 食べ物は魔物さんや動物を狩ったり食べれそうな木の実や果物を採れば良いし、飲み物は水魔法で生み出して、食器は砂漠時代にも使ったように土魔法で即席で作って破棄、家具はサバイバルに必要はない。

 タオルや服代わりに必要な布類だけは自力でどうにもならないので買う必要がある。

 あぁ、塩とかも余裕があれば欲しい。

 魔法やサバイバルで自力で調達が難しいのは町で手に入れるしかないよね。

 

 勝手知った森を抜けて砂漠へ。

 と言ってもギリギリ見える範囲に町はある。

 森を出て砂漠を歩き、森が見えなくなったくらいに町影が見えてくる。

 そんな距離だ。

 体感3時間くらい?

 時計なんて村で過ごしてた時からなかったから知らないけど。

 道中襲ってきた砂漠ミミズやデカイサソリは狩って今日の金銭としてもらう。

 冒険者登録なんてしてないし、言語が分からないからしていない。

 まぁ、知らない人の言葉なんてもう信じないけど…………。

 

 町へ着いたら狩った獲物を買い取ってくれる人を探して、身振り手振りでお金や目的の物と交換する。

 ぼったかれているかもしれない、いや絶対にそうに決まっているけど、私にはそれを調べ伝える手段がない。

 甘んじるしかない。

 まぁ、どうだって良い。

 お金があっても町には住めないし、住みたくない。

 

 最低限の物資を手に入れた私はサッサと町から出る。

 早くしないと日が暮れてしまうし、こんな大陸の町には少しでも居たくない。

 荷物があるから行きよりも僅かに時間をかけて森へ戻ってきた。

 やっぱり森は落ち着く。

 言葉の通じない人は居ないし、砂漠よりも危険度は低い。

 不満があるとすれば帰る手立てが全く立たない程度。

 

 せめて現在地が分かれば港町目指して一直線に進めるのに……。

 お金は魔物狩ってどうにかする。

 言語が通じる大陸なら今よりももっとやりようがあるだろうし、パパウロもゼニスママも私を見つけてくれるかもしれない。

 

 拠点にしていた場所に帰ってきた。

 魔物か動物か分からないけど、色々と壊されていた。

 ……よくあることだから大丈夫。

 

 

 

 

 

0月は日

 町に行って物資補給した日から数日経った。

 ようやく壊された拠点の整理が終わった。

 これがあるから大事な物は常に持っていなきゃいけないし、何時でも逃げられるように最低限の物しか大事に出来ない。

 まぁ、二本の剣さえあれば私は何処だって行ける。

 

 

こ月で日

 今日は豪勢にいった。

 まぁ、魔物さん達の襲撃が多く、血抜きして乾燥させてほし肉にする分以外も大量に余っちゃったから焼いて焼肉にしただけ。

 タレなんてあるはずも無く、塩を塗して焼いただけ。

 硬いけど食べれないことはない。

 白いご飯が食べたくなってきたけど、この世界にお米がないので一生無理だろう。

 今は少し硬いお肉だけで我慢してやろう。

 

 

 

し月た日

 猛暑日だ。

 日陰でダラダラと動きたくない気持ちに支配されそうになるが、この暑さだと昨日狩ったお肉は腐ってるだろう。

 今日のご飯の為に森を回って魔物さんでも動物さんでも見つけなきゃたんぱく質が取れない。

 1日くらいどうって事ないかもしれないけど、明日も明後日も御飯が食べられなければ?と考えれば、動ける間に動いて確保しなきゃならない。

 まあ、最悪常に持ち歩ている非常用の自家製干し肉と感想果物で凌げる。

 もっとちゃんとパパウロの冒険者時代の話を聞いてサバイバル術を習っておけば良かった。

 

 

 

あ月り日

 猛暑日が続いている。

 水が欲しい……。

 涼しい室内が欲しい。

 クーラーが欲しい。

 複数の魔術を使えば涼しい風を発生させる事が出来るかも知れないけど、そんなオリジナル魔術はルーデウスの得意分野だ。

 それに魔力は有限だから脱水症状にならない程度に水を飲む以外は使用厳禁。

 ルーデウスならまた違ったんだろうけど、私程度じゃ遊びに使う余裕なんてない。

 

 

 さて、現実逃避はこのくらいにしておこうかな?

 盗賊さん達に連れられて砂漠を横断し、着いた町で何があったのか、どういう経緯でこの森に辿り着いたのか。

 嫌だけど記憶の整理は必要だ。

 家族に見つけてもらった時、私が何をしてきたのか伝える必要がある。

 そうしなきゃ……コレは納得してもらえないだろう。

 コノ…………心臓付近に大きく残る傷跡は。

 

 

 

 

 

 盗賊さんに連れられて入った町で私は売られた。

 ゼニスママの容姿、発展途上の身体、私だけ性の捌け口に決してされなかった事実。

 客観的に見ても私は可愛い。

 さぞかし高く売れたであろう。

 私に感謝しながらミミズに食べられて死ねばいいのに。

 

 売られた私は綺麗に洗われた。

 あぁ、汚れたままだと客も嫌がるだろうからね。

 実際に体験や教わった訳ではないけど、良く分からない前世の記憶で知っている。

 そして初めての客を取って……。

 

 

 殺した。

 

 

 

 うん。

 やっぱり生き残り為とはいえ嫌だった。

 嫌悪感でごちゃごちゃになって、気が付いていたら殺してた。

 今更人を殺した事をどうのこうのいうつもりはないし、吐気はあったけど放心している暇なんて無かった。

 私の大切なものがしまってある場所に突撃してパパウロと恩人から貰った剣を奪取。

 そこからまた一心不乱に自分の邪魔をする人を切って、斬って、きって、キッテ……。

 気が付いたら死体の山の上に立っていた。

 

 自由の為とは言え殺人鬼が町に居るのは難しく、まともに見える人達が集まる前に逃げた。

 追手は来なかった。

 私が殺したので全員なのか、まだ上に伝わっていないだけなのか、私が気付いていないだけで追手は近づいてきているのか……分からなかった。

 

 砂漠を超えた。

 人影が見えたら冒険者だろうが構わず避けた。

 体力を考えずに一心不乱に毎日走った。

 数時間で倒れそうになると、倒れて休む。

 水は全部魔法で賄った。

 魔物は切り捨てて進んだ。

 とにかく町から離れることだけを考えて、何日も歩き通した。

 

 

 

 気分が悪くなったので今日は終わり。

 もう日もだいぶ落ちて来たから軽く周囲を探索して今日のご飯を用意しなきゃ。

 

 

 

 

 

え月R日

 暑い。熱い。

 今日は小枝や葉っぱを集めて編み込んで屋根を作った。

 拠点を新設する度にやっているから既に慣れた物だ。

 これで直射日光を防げるから幾らかマシになるね。

 ここの拠点はどの位持つのか……せっかく作ったんだから出来るだけ長く使いたいものだ。

 

 

 

う月S日

 旬の果物は美味しい。

 問題はそのまま丸かじりするしか食べ方が無い事だ。

 今度、絞ってジュースにしてみようかな?

 

 

M月H日

 純度100%のジュースは微妙だった。

 選んだ果物が悪かったのか、砂糖がなかったのがダメだったのかは分からない。

 不味くは無いから飲めないことは無いけど、これをジュースにして飲むくらいなら普通に齧った方が美味しかったかもしれない。

 ジュース作戦は失敗だね。

 

 

 

凛月N日

 冬が近い。

 砂漠であろうと寒気はあるらしく、森では中々動物や魔物さんを見つけにくくなっていた。

 これは不味い。

 本格的に冬になる前に食料を集めておかないと餓死する。

 森で生活を始めて初めの方は準備を怠ったから、餓死寸前まで行ってしまった。

 もうあの死にそうな日々は味わいたくないよ。

 魔法で水を出せなかったら確実に死んでた。

 なりふり構っていられないので、魔物でも動物でも、果物でも野菜でも何でもいいから食べれそうな物を集めるのだ。

 

 

 

 

 

上月D日

 本格的な冬になった。

 経度と緯度が関係あるのか分からないけど、この地域は幸いにも雪は降らない。

 それでも寒く、魔法で火を起こして身体を温めないと凍死してしまいそうになる。

 他の季節に比べたら圧倒的に少ないとは言え、魔物さんだって冬眠していない奴はしてないから出会ったらポケモンバトルだ。

 そんな中で寒くて身体が動かなかったら死ぬ。

 水も必要だから、毎日火魔法と水魔法の消費で魔力がヤバい。

 私の魔力量はルーデウスに比べたらゴミカスみたいな量なので、毎日が魔力量との戦いだ。

 

 

K月N日

 身体が固まらないように動いている。

 と言っても、運動レベルまで動くと体力が無くなって肝心な時に動けなくなるので拠点周りを歩いて魔物さんを早期発見に努めたり、一日に30分程の素振りを行うだけ。

 うーむ暇。

 

 

さ月n日

 暇なので久しぶりに回想の時間だ。

 確かに……砂漠を逃げて逃げて逃げまくった時から。

 

 毎日毎日砂漠を彷徨った。

 街が見えても立ち寄らずに別方向に逃げた。

 補給物資は要らない。食料は食べたくないけど魔物さんがあるし、水は魔法で生み出せる。

 気が休まらない日々だった。

 冒険者か旅人か商人か、誰かは分からないけど人を見つけた時は視認した瞬間に逃げた。

 どうせ言葉が通じないんだから、会っても無駄だから。

 もしかしたら私を奴隷にしようと捕まえようとするかもしれないと思えば、誰にも頼らずに逃げたのは正解だったはず。

 

 

 砂漠を彷徨って数日だったと思う。

 気が付いたら町の中だった。

 近くには冒険者らしき人と商人。

 どうやら倒れてた私を拾ってくれたらしい。

 砂漠で倒れたままだと魔物さんに食べられていたはずなので物凄い幸運だった。

 案の定通じない言語。

 身振り手振りでお礼を言って立ち去る。

 あまり関わりたくないけど好意を無下にするわけにはいかないからだ。

 ところが、立ち去る私を引き留めてきた。

 言葉が分からないから本当の事は分からないけど、多分私を心配してくれているらしい。

 引き下がってくれらないものだから数日だけお世話になることにした。

 この頃はまだ他人に対してあまり関わりたくない程度の気持ちしかなかった。

 

 言葉が通じないので身振り手振りで意思疎通を図る。

 意外と通じるときもあれば、文化圏の違いなのか全く通じない時もある。

 まぁ、この期に及んで乙女の尊厳とかないない。

 数か月お風呂に入れなくても、怪我で体中がボロボロでも、空腹で痩せ細っていても、それほど気にならなくなった。

 私が子供だからか、とても優しくしてくれる。

 うん、久しぶりの好意がとても嬉しい。

 私も出来ることがあれば恩を返そうと思う。

 

 

 

 ここまでにしておこう。

 少しだけ哀しくなってきたのと、私を狙っている魔物さんの登場だ。

 余韻に浸らせてくれたった良いんじゃないって叫びたくなる。

 でも、魔物にそんな言葉必要無いし、想いを出したからと言って現状が変わる訳じゃない。

 そう、一日一日を生きて救援を待つんだ。

 




主人公視点なので抜けてるシーンや敢えて描写してない場面があります。


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17冊目

サバフェス楽しかったです。


f月5日

 冬が過ぎて暖かくなってきた。

 揃って冬眠していた動物が起き出す頃だろう。

 忙しくなるけどその分食糧問題が解決するし、凍死の心配をしないで済む。

 まぁ、夏は夏で灼熱の地獄で干からびそうなんだけどね。

 

 

や月D日

 春はあけぼのと言うらしいからあけぼのに起きてみた。

 木の上に登って空を見てみると、青い空がだんだんと赤くなっていく様子が見られた。

 神秘的な気分になって気分がいい。

 今日は良いことが起きそうだ。

 

 

P月R日

 良い事は何も無かった。

 ……逆に考えよう。

 魔物に殺されることも無く、怪我を負う事も無く、拠点をボロボロに壊される事も無かった。

 何も起こらなかったのは平和であると。

 うん、私は激動な毎日を望んでいる訳じゃない。

 何もない平穏な日々それでいいじゃないか。

 

 もっとも、その平穏な毎日がこんな辺鄙な大陸じゃなくて、周りに家族が居たら良いのになぁ。

 

 

 

 

 

つ月魔日

 春だ。

 気持ちの良い陽気な季節……にはならない。

 砂漠が大部分を占めるべが何とか大陸では暑いか寒いかだ。

 春なんてあっても寒いと暑いの間って感じ。

 幼女先生の話をもっと聞いていたらこの大陸の脱出に繋がるヒントがあったかもしれない…。

 でも、幼女先生もべが何とか大陸には行った事が無いって言っていたはずだから、幼女先生でも知らない大陸でサバイバルするのは難しいかも。

 まぁルーデウスなら、それでもどこから得たのかも分からない知識を駆使してこんな大陸をとっとと脱出しているはずだ。

 私だってこんな言葉も文字も文化も違う大陸じゃなかったら如何にかなっていたもん。

 

 

d月F日

 本格的な春になった。

 夏になって猛暑で余計な行動が出来なくなる前に鍛錬を再開しようと思う。

 と言ってもパパウロに鍛えられていた時から変わってない素振りと型の練習を一人で小一時間程。

 毎日実戦はしている……と言うか起こらざる得ない。

 対人技術は殆んど成長しないと思うけど、魔物とかモンスターみたいな獣?……ともかく人型じゃない戦闘には慣れた。

 もしかしたら、魔物相手の戦闘ならルーデウスよりも強くなっているかもしれないね!

 そう思ったら毎日の鍛錬と食料集めに力が入るというもの。

 

 

 

 

鯖月祭日

 といったものの、今の自分がどのくらいの強さなのか全く分からない。

 指標がない。

 毎日の様に狩っている魔物の…ランク?がどの程度なのか?

 ベガ何とか大陸に飛ばされた当初に戦った兵士さん達はどのくらいなのか?

 私よりも強い人がいたから、最低でも上級剣士は居たはず。

 と言う事は上級剣士にも劣らない程度には実力が付いたと言う事かな?

 正直言ってパパウロの方が強くて、今でも勝てそうに無いから自信はそこまでない。

 はぁ~。

 ルーデウスは魔術で水聖級になっておきながら、剣術の方でも中級になっていると聞いた。

 片方だけでも凄いのに両方ともそれなり以上を修めているのはズルい。

 魔術が初級を修得した程度の私は、もっと剣術も魔術も頑張らなきゃならないのに……こんな変な大陸で足止めとかツイていない。

 

 

 

20月23日

 今日は雨だ。

 雨季に当たる季節だと思う。

 恵みの雨だけど、視界が悪くて音で敵を判別しにくいくなるから嫌いだ。

 食料に余裕があるから拠点で筋トレして過ごすことにした。

 

 久しぶりに前回の続きを振り返ろうと思った。

 どこまで振り返ったっけ?

 ……あぁ、私を砂漠で助けてくれた冒険者さん達にできる限り恩返しをしようって考えていた頃だった。

 

 

 あの後、あの冒険者さん達とは直ぐに別れる事になった。

 私が逃げたとか逃げられたとかじゃない。

 砂漠で巨大ミミズに地面の下からパクリだ。

 あっけない死だった。

 冒険者をしているから死ぬ覚悟なんて出来ているはずなので、本人も心残りはないだろう。

 また、一人になった。

 

 そこから砂漠を横断しながら町を転々とする生活が続いた。

 基本的にはサソリ、ミミズ、コウモリ何かが敵であり食料になった。

 焼けば不味いけど食べられなくはない。

 偶に遭遇する馬みたいなフォルムで顔と首部分が鷹みたいな動物は物凄く強かった。

 単体で出会った時は何とか怪我をしないで勝てるけど、群れに遭遇した時はボロボロになりながら勝利した。

 食べられる量は決まってるし、保存も中々出来ないし、売ろうにも持ち運べる荷物にも制限がある。

 群れは不都合しかない。

 

 あぁ、私を捕えようとする無法者共にも沢山であった。

 海でも山でもないから何賊なんだろう?

 砂漠だから砂賊?

 そういった人たちにはもう躊躇しない。

 剣神流で速攻、水神流でカウンター、北神流で奇襲して殺していく。

 時には大人数って言葉も生温い人数に出会うこともあったけど、そう言った時は逃げることを最優先に考えてガムシャラに頑張った。

 捕まるようなヘマはもうしないって思いながら、ただひたすらに剣を振って足を動かして感覚を研ぎ澄ました。

 

 

 何時だったから忘れたけど、私の分かる言葉で話しかけて来た女の人がいた。

 今までも町には同じ言語を喋れる人が居たのかもしれないけど、私に話しかけて来た人は初めてだった。

 警戒と同時に歓喜の感情が湧き出た。

 ボロボロで独りぼっちな私を心配してくれたらしい。

 そこから数週間、もしかしたら半年かそれ以上は付き合いがあったと思う。

 正確な日数なんて覚えてるわけがない。

 

 優しい人で親身になった私の悩みを聞いてくれたし、色々と情報を教えてくれた。

 あぁ、そうだ。

 ベガリット大陸と言う名前を思い出したのもここだ。

 この大陸はサキュバスと言う存在が居て、男性たちを魅了してしまうらしかった。

 そこでこの大陸では後腐れのない性処理の文化が根強いているらしい。

 やっと理解は出来たけど、私の性分には全く合わない文化だ。

 絶対に触らせてなるものか。

 

 

 今日はお終い。

 夜遅くなって眠いし、これ以上は今日語るべきではない。

 

 

 

 

 

A月A日

 熱くなってきた。

 涼しく比較的過ごしやすい季節は通り過ぎるのが早い。

 森だから日陰があったまだマシだけど、生活用品を補充しに砂漠を超える時は地獄だろうなぁ。

 鍛錬にもなるし、日が陰ってからダッシュで向かうのはどうだろう?と考えてみる。

 

 

 

A月は日

 行きはよいよい帰りは恐い。

 まさしくそうだった。

 行きは多少明るいし、向かっている町に灯がともっているから見失いことは無かった。

 だけど帰り路が全くわからなかったので、結局町で一泊警戒しながら座って待ってから森へ戻った。

 砂漠だ月明かりだけが頼りになる。

 そんな文明の欠片も無い場所で夜、砂漠を踏破するのは自殺行為だと私でも分かる。

 月が雲で見えなくなってしまえば忽ち歩くべく指針を失い、闇雲に歩こうものなら折角人が立ち寄らない場所へ帰る事が出来なくなってしまう。

 私が住んでいた大陸に帰る為と、一か八かの掛けに出るべきだったか……。

 

 いいや、それで死んでも元も子もないはずだ。

 安全策を取って地道に生き残ってパパウロやゼニスママの救援を待とう。

 

 

 

3月完日

 どべーっとしながら休んでいた。

 熱くなってきたから体力の使いどころをよく考えなきゃ。

 

 

巫月は日

 例年よりも熱くないと感じるのは単に今年が特別なのか、それとも私の身体がこのベガリット大陸に慣れたからなのか。

 前者よりも後者の方が嬉しいな。

 

 この大陸の気候に慣れる程長い年月戻れてないのか、と気分は落ち込んでしまった。

 

 

 

 

5月石日

 夢を見た。

 裏切られた夢だ。

 私が積極的に戻ろうという意志を初めに削いで来た出来事。

 いい機会だから記しておこう。

 

 ベガリット大陸に飛ばされて一番優しく親身になってくれた女性。

 毎日ずっと一緒に居たわけではないけど、最低でも3日に1回は顔を見せてくれて悩みを聞いてもらった。

 そんな女性は、私を奴隷に売り飛ばす為に親身になってくれてただけだった。

 この人なら大丈夫って信じていた時にあった裏切りに私は相当荒れた。

 もちろん、当然の報いを受けて貰った。

 今でもその感触は覚えている。

 一生忘れないだろう。

 

 それからより一層疑い深くなり、人と対人する時は軽い気持ちを辞めて常に警戒した。

 でもでも、それでも心の中では寂しかったのだろう。

 時々良さげな人を選別しては少しだけ歩み寄ってみてみたけど、やっぱり何かしらの欲を持って私に近寄って来ている事が分かった。

 単純にゼニスママ譲りの顔とスタイルを目的として、大多数に囲まなければ大抵の魔物を倒せる剣の腕を目的として。

 大抵はこの二つだけど、偶に私が使っている剣を奪おうとしてくる輩も居た。

 まあ私が切り捨てるか、不幸な目にあって私の下に戻ってくるのだけれど……。

 

 1年にも満たない間に私からこの大陸の……いや、見知らぬ人への信頼はゼロを通り越してマイナスへと堕ちた。

 ゼロならまだ信用しないで利用するだけに留める事も出来たのかもしれない。

 でも、ゼロを超えてマイナスになった信頼は並大抵の事では覆らないし、覆そうとも思えないと知った。

 

 簡単に言えば、私は人と出会う事を極端に嫌った。

 町に入るのは人工物が必要などうしてもの場合だけで、数か月に一度だけ常に警戒してコソコソ隠れて売人とも目を合わせず、時には出会わない方法を使って欲しい物を入手する。

 砂漠では暑さと寒さで死ぬから、森を探して生活拠点にする事に決めたのもこの時期だったはず。

 

 あぁ、正直に告白しよう。

 私は人間不信になったのだ。

 

 

 

 

 

5月月日

 秋を迎える。

 嫌な事を思い出したから、最近は街へ物資調達へ行けていない。

 布は欲しいけどあったら便利程度だ。

 無くても困らない。

 多少の汚れは気にならないし、服だってボロボロでも構わない。

 人はここに居ないし来ないからさらけ出したって何ら問題も無い。

 

 流石に恥ずかしいから全裸にはならないけど。

 

 

 

 

イ月B日

 冬になる前。

 そろそろ保存の効く食べ物を集めておかないと。

 まあ、最悪砂漠に行けば魔物さんが新鮮なお肉を求めて顔を見せてくれるだろう。

 動物よりも不味いから余り食べたくないんだけど、餓死するよりはマシ。

 空腹で剣を握れなくなって骨になる前に砂漠へ向かうギリギリのラインを見極めるのは嫌だなぁ。

 

 

 

n月と日

 今日の夜は晴れだ。

 珍しい晴天。

 人工の光が全くない大自然での夜空はびっくりするほど綺麗だ。

 殆ど記憶が無くほんの少しだけの知識しか残っていない前世でも、大自然での夜空は綺麗だ、と言っている。

 

 何故ふと満天の星空煌めく宙を眺めているかというと、何となくだ。

 夜とは言え何時敵が襲ってくるか分からないから常に剣を握りしめて経過している私なのだが、今日は物凄く静かだったから気が緩んだのだろう。

 そして気が付いたら森の終わりまでやって来て砂漠との境界線から満天の星空を見ていた。

 

 緊迫した毎日。

 消耗していく身体と精神。

 

 そんな中で何となくで足を運んで見上げた空は綺麗だった。

 何も考えず、周りに気を使わないでただただ夜空を眺める。

 

 なんでだろう。

 涙が止まらない。

 家族に会いたいって気持ちは何年も前から少しも変わらないのに。

 今になって、この瞬間だけは抑える事が出来なかった。

 

 

 

H月捕日

 昨日は眠れなかった。

 お日様が登る頃になってようやく涙は止んだ。

 泣き疲れたのか、今更ながら眠たくなってきた。

 こんな場所で、こんな時間帯に寝てしまったらいざという時に起きれない。

 いつもは半分寝て半分起きてるような状態で取れてる睡眠が、今寝たらぐっすり全ての脳が眠てしまうだろう。

 そんな状態なら敵がすぐ近く来るまで気づかないで、下手したら怪我を負ったり致命傷を追ってそのまま……ってなる可能性が高い。

 だから意識を失うなら昼間よりは活動数が減っている夜まで我慢だ。

 

 恐らく身体的には一番辛い日になるだろう。

 泣きつかれて眠たいが寝てはならない。

 意識を保つ為に動いていようにも激しく運動し過ぎると疲れ果ててゴロン。

 かと言ってボーっとしてたらそのままゴロン。

 八方塞がりじゃない?

 眠気をガーッと飛ばす食べ物か何かが欲しいけど、この世界にそんな物があるのか知らないしあっても無一文でサバイバーな私には手に入れる事は出来ないだろうけど。

 

 

k月う日

 気が付いたら朝だった。

 夜まで我慢して寝たのか、それとも日中から爆睡してしまったのかは分からない。

 眠くて眠くて、じーっとしてたら意識を失いそうになるから動いていて、かと言って激しい運動だと余計に眠くなる。

 多分剣を片手に森を徘徊していたんだと思う。

 うん、朝起きてから私が最近拠点にしている場所まで戻る最中(目覚めた場所が何処か分からなかったから帰るのに非常に苦労した)剣で切られて死んでいる魔物や動物の死骸を沢山目にした。

 恐らく私が出合い頭に斬り付けたのだろう。

 一夜経っているからか臭いが凄かったし、一部食べられていて気持ち悪かった。

 出来るだけ綺麗な状態で残っている動物を1体だけ持って帰って、急いで魔法を使って火を出して焼いて今日のご飯にした。

 

 一応私以外の人間がこの森にいる可能性を考えて、数日間は警戒していよう。

 

 

 



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18冊目

サムライレムナント楽しいです。


 

S月O日

 おかしい。

 森が変だ。

 なんかこう動物やモンスターの動きが何時もと違う気がする。

 

 

R月K日

 あくる日の事だ。

 ここ数年で最も変わった事が起こっている。

 先日おかしいと思った事が判明した。

 と言ってもまだ予測段階。

 これから観察して本当かどうか確かめる。

 

 

O月R日

 居た。

 遠目から観察するだけに留める。

 目的が分からない内は接触するのはダメだ。

 

 

U月G日

 強い……。

 少なくとも私が単身で相手しても勝てないだろう。

 連携が良くとれているけど物足りない感も感じる。

 

 

A月M日

 見つかった。

 急いで逃げる。

 何か呼び止めて来るけど、ああ言った奴等程信用できないって私は学んだんだ。

 かなりしつこく追って来たけど、夜になれば流石に捲く事が出来た。

 夜は半分くらい意識を残して寝て、朝日が姿を見せる前に別の場所へ拠点移動だ。

 

 

A月R日

 今日は合わなかった。

 良い事だけど何時また現れるか怖い。

 

 

 

 

I月ー日

 数日後、また現れやがった。

 二人組の内一人だけだ。

 身長の低いオジサンが居なくなっている。

 信用ならなそうな笑みを浮かべる猿顔だ。

 まだ低身長のオジサンの方が信用できそうな見た目をしているぞ。

 何か言っていたけど、視界に入れた途端に剣を振って威嚇したら逃げて行った。

 

 

K月U日

 また来た。

 昨日の今日で暇な奴だ。

 また威嚇したら、今度は距離を置いただけだった。

 武器を出して襲わないならこっちも襲って来ないと舐められているのだろうか?

 ふんっ、明日も来るようならその甘い考えを後悔させてやる。

 

 

E月S日

 今日は遅かった。

 ふふふ、今日は何時もと違った巡回経路を巡ったからね。

 お陰で動物もいい感じに狩れた。

 今夜は御馳走だ。

 

 

U月T日

 毎日森を徘徊していると思われたら心外なので、朝適当に剣を振った後は昨日狩った動物を小分けにして保存する作業の続きを行った。

 大量だったから昨日で終わらなかったのだ。

 夜遅くまで火をつけておくわけにはいかないから、必然的に太陽が落ちて少し経ったら寝る→日が昇ったら起きると言う生活が基本だしね。

 

 流石に拠点の場所はばれていないのか、猿顔のウン臭い奴は来なかった。

 

 

O月M日

 数日経った。

 見つけ出したのか、私の拠点にしている場所に猿顔がやって来た。

 流石にそれはない。

 私が安息地にしている場所にズカズカ入り込んで見逃す程私は甘くない。

 斬りかかったらドワーみたいに低身長のオジサンが防いだ。

 そこから数度打ち合ったけど勝てそうに無かった。

 手加減されてるのが分かるのも腹が立つ。

 怪我を覚悟で打ち合えば行けるかもしれないけど、そこまでの価値がない。

 そもそも向こうが手加減をしてくれているのだから、隙をついて逃げた。

 はぁ…拠点を移さなきゃ。

 

 

A月Z日

 最低限の持ち物。

 それこそ剣二振りと動きを阻害しない程度で持てる布や保存食を持つだけなので拠点移動は簡単に終わる。

 猿顔はそこまで早くなく、低身長のオジサンは見た目通り以上の速度は出ない。

 念の為一度カモフラージュの拠点経由して新しい拠点に立った。

 正確な位置は把握できていないけど、前に居た場所から一日も離れている。

 土地勘のない奴等なら数週間から数か月は安全なはず。

 

 

 

 

 

I月D日

 数週間も持たなかった……。

 持ったのは1週間程度。

 何故だ……。

 

 

E月M日

 日にちの間隔なんて大雑把な体感なので分からないけど、猿顔と低身長のオジサンが初めて私の前に現れてから1ヵ月から2ヶ月程経過したと思う。

 それだけの期間が経てばある程度分かって来る事もある。

 まず、毎日来る時もあれば数日から1週間程度来ない時もある。

 森に住んでる訳じゃないから、物資の調達とかで一旦近場の町へ戻っているのだろう。

 二つ目、基本猿顔が絶対に居て低身長のオジサンは居ない時もある。

 話しかけてくるのは大抵猿顔の方。

 詐欺師の様に私を懐柔してこようとしている。

 となれば、低身長のオジサンは護衛か何かだろう。

 

 この二人には私を傷つける気はサラサラないようにも感じる。

 事実、襲ってくる魔物や動物に武器を向けても、私には一切向けてこない。

 唯一の例外は私が鬱陶しくて斬りかかった時だけど、正当防衛の域を出ないし私には一切当っていない。

 本当に私を保護しに来た可能性もある……?

 

 

E月N日

 昨日はバカな事を考えてしまった。

 今更私に優しくしてくれる人なんて居やしない。

 私が信頼出来るのは家族だけ。

 ……幼女先生やシルフ君ちゃんも入れても良いけど、シルフ君ちゃんがこんな場所に来れる訳がないし、幼女先生なら可能性はあるけど、あの猿顔や低身長のオジサンが幼女の知り合いだとは思えない。

 やはりあの二人は信じるべきではない、簡単に結論は出た。

 

 

D月O日

 とは言え、とは言えだ。

 猿顔はベガリット大陸の言葉ではなく、私が理解できる言葉で話しかけてくれる。

 人と顔を合わせても全く通じない言語に常識の中で過ごして早数年。

 それだけの年月を独りで過ごして来たのだ。

 理解できる言葉が耳に入って来るのは気持ちがいい。

 偶には言葉を見聞きしないと忘れそうになる。

 ちなみに、読み書きの方

 

 並大抵の事じゃあ堕とされないぞ。

 それこそ、目の前に家族か幼女先生が現れるくらいじゃないと、この森から出て行くわけにはいかない。

 もう他人は信用しないって決めているんだ。

 

 

U月D日

 猿顔は遂に私の家族の名前を使って私をこの森から引きずり出そうとしてきた。

 腹が立ったから斬り付けてやった。

 これまでの牽制目的で寸止めとかわざと狙いを外すとか、そんなちゃっちな攻撃じゃない。

 殺す気で急所を狙った一撃だ。

 

 それを難なく受け止めて流された。

 猿顔ではなく低身長のオジサンにだ。

 冒険者パーティーならタンクの役割を担っていたのだろうか?

 それとも猿顔が戦闘がからっきしだから仕方なく?

 ともあれ、ここ数年無かった事に私はうろたえてしまった。

 この大陸に飛ばされた当初はまだ戦闘を知らない子供だったけど、色々経験して純粋な剣の技だけじゃなくて躊躇いとか何が何でも生き残る方法とか、ブエナ村に居るだけじゃあ絶対に学べない事を学んで身につけて成長したつもりだった。

 

 あの頃よりも格段に心身ともに強くなったと思ったのに……。

 私はここに飛ばされて何をしてきたのだろうか?

 必死に生きて成長したつもりになっていただけで、ただただ逃げていて運が良かったから生き残っているだけなのではないだろうか?

 そう考えると頭が真っ白になって何も考えられなくなって、私はこの二人から逃げた。

 

 拠点に置いてる持ち物とか関係なかった。

 その場で持っていた物……つまり身につけていた服と2本の剣、僅かな保存食だけ。

 今までコツコツと集めていた財産は呆気なく捨てて、常に持ち歩いている本当に大切な物と僅かな保存食だけを持って逃げた。

 勿体ないなぁと思うけど、元々緊急時には捨てる予定で持ち歩いていなかったのだ。

 しょうがないとそこは割り切る。

 

 

 今日の出来事を思い出していると冷静になってきた。

 もう少しだけ移動したら安全な場所を探して木の上に登って休もう。

 

 

E月S日

 今日はずっと木の上で過ごした。

 人が近くに来たら直ぐに分かる様に気を張っていたから物凄く疲れた。

 身体じゃなくて精神的な疲労が大きい。

 今すぐにでも地面に降りて草葉を集めた簡易ベッドで寝たいが、そんな油断した時に限って命を落とすのだと私は知っている。

 最低でも明日までは木の上生活になるよ。

 

 

 

U月。日

 昨日は木の上で休んでいた。

 体感数時間置きに数十分は意識が飛んでいたから、今日一日は寝る。

 と言っても殺気を感じ取ったら直ぐに動ける程度には浅い眠りだけど……。

 

 

似月木日

 今日は木から降りて身体を伸ばした。

 ポキポキと鳴って気持ちが良かった。

 久しぶりに素振りして鬱憤を晴らす。

 やはり剣は良い。

 

 で、素振りして保存食食べて、静かに歩いて木の実や動物を探して歩いた。

 あれから4日経ってかなり冷静になれた。

 言い訳に近いけど、あれほど取り乱す必要も無かったんじゃないかな?と考えるに至った。

 今日の残りの時間は色々考えてみようと思う。

 

 

侍月滓日

 うん、やっぱりあれだけ取り乱す必要も無かったっぽい。

 言語も文化も違う土地で独りで生き残れている時点で十分凄いだろうし、お金も無しに生きていけるサバイバル術を独自に習得して生きているのは十分成長と言えるだろう。

 剣術と言うか戦う術も成長してないはずがない。

 魔物と戦えるようになった、人と向き合っても躊躇なく斬り付ける事が出来る。

 平和なブエナ村で保護者たるパパウロから稽古を受けているだけでは絶対に身に付く事の無かった術だ。

 これを成長と言わずに何というのだろう?

 

 そして強くなった気がしない理由の一つに衰弱がある。

 初めての大陸、仲間も居ないで独りっきり、満足に食べるものもなく、睡眠は常に死と隣合わせだから軽いものに。

 慣れたもう大丈夫だと思っていても、私が感じ取れていないだけでストレスは受けていたはず。

 そんな生活を何年も続けてジワジワと私の身体を蝕んでいたはずで、技量や感覚は確かにブエナ村に居た頃よりも格段に成長したかもしれないけど、完全に回復した状態とは程遠いものだったかもしれない。

 つまり、最低値と最大値は上がったけど、回復するのはその平均だからどれだけ休んでも本来の実力を発揮する事が出来ないんじゃないか?

 

 私はそんな考えに至ったのだ。

 だから私は弱くない。

 むしろ強くなっているはずだ。

 早く家族の下に帰って、私がどれ程強くなったのか見せてあげたいな。

 もしかしたらパパウロから本気の勝負で一本取れるかもしれない。

 ゼニスママに近い治癒魔法を使ってビックリさせられるかもしれない。

 リーリャにはお手伝いを申し出て今ままでの感謝を伝えよう。

 ノルンとアイシャには会えなかった分目一杯可愛いがるんだ。

 

 そして我が半身にして兄であるルーデウス。

 あの天才的な魔術師に一泡吹かせてやりたい。

 剣だけなら私が勝てて、魔法アリならルーデウスの方が強かった。

 あの頃からもっと強くなっているはず。

 でも私だって強くなっているんだ。

 マグレでも、初見殺しでも、何でもいいから一泡吹かせて「してやったり」と言いたい。

 

 

 

面月白日

 昨日の考えが私にもう一度火をつけたのだろうか?

 家族の下に帰りたい、この大陸から出て行ってやる。

 そう言う気持ちが再燃焼してきた。

 確かに今の私なら何とかなるかもしれない。

 しっかりと身体を休めたら砂漠に生息する魔物も、デカイ鳥みたいな馬みたいな奴が集団で襲って来ない限り何とかなる。

 後の問題は方角。

 見当違いの方向に向かえばそれだけ時間と体力と気力の無駄だし。

 それが一番の問題だ。

 適当な方向に行ける場所まで進んで海まで辿り着いたら海岸沿いに歩くとか?

 大陸一つの外周を回るのにどれくらい時間がかかるのか?と言う点に目を瞑れば現実的な案だと思う。

 砂漠をフラフラと彷徨うよりは遥かに港町に辿り着く可能性は高いはず。

 

 

馬月娘日

 今日は森で拠点作りだ。

 前の拠点は放棄したから新しく作り直さなきゃならない。

 もしかしたらまた放棄するかもしれないから、前に拠点を作った時よりもモチベーションは低い。

 どうせ捨てる事になるんだったら適当でも良いよね?

 

 

3月期日

 日曜大工が上手くなっている気がする。

 と言っても剣だと細かい部分が斬りにくいから大雑把になっちゃうけど…。

 土魔法の腕だって上達しているはず。

 まぁ、それでもルーデウスの天才っぷりには及ばないんだけどねー。

 自分が使えればそれでいいのだ。

 

 

陰月実日

 名案を思いついた。

 猿顔の人に故郷の大陸まで案内してもらえばいいじゃない案だ。

 言葉が通じるなら、多少なりと要望を叶えて貰えるかもしれない。

 猿顔がホントにしろウソにしろパパウロとゼニスママの知り合いを名乗るなら、奴等は私の信頼を稼ぎたいはずだ。

 時間をかけずに私を捕まえたいのなら既に実力行使に出ているはずで、今の所それをしていないと言う事は時間をかけてでも私の信頼が欲しいと言う事ッ!!

 となれば、私が心を許した風を装って近づいても即座に捕まえてアレコレしてくる可能性は低いはず。

 うん、私も警戒してるけど信じてみようかな?と思わせつつ近づいて利用する。

 良くて言葉の通じる大陸、最悪港町まで連れて行ってくれたらおけーだね。

 

 

 

 

l月D日

 大きな目標を決めたのは良いが、一先ず猿顔が現れないと話にならない。

 身辺整理でもして待っていうよう。

 時間は幾らでもある。

 今更数日、数週間遅れたところで何ともない。

 

 

術月呪日

 暇だ。

 身辺整理は一瞬で終わった。

 元々無一文で、かけ無しの荷物も前の拠点と一緒に放り捨てた。

 大事な物は常に身につけている。

 暇なので鍛錬しておこう。

 

 

光月闇日

 唐突だけど、猿顔を利用して家に帰ろう。

 そんな考えが頭を過ったのには理由がある。

 毎日、素振りや動物や魔物相手に剣を振るっていたから自覚が薄いかもしれないけど、衰弱は確実に私の身体を進行していっている。

 強くなった気がしない理由を考えた時にも考えたけど、やっぱりこれ以上私の体調が良くなる事は無い。

 むしろどんどん最高値は減り続けて行く。

 それじゃあダメだと考えた結果、何も出来なくなる前にこの大陸を出ていく行動を最後に起こそう、そう思ったのだ。

 

 

 

正月灰日

 数日経った。

 猿顔は現れない。

 

 

 

千月船日

 猿顔はまだ来ない。

 

 

 

25月粋日

 猿顔は現れない。

 諦めた?

 私が決断したのに?

 ここに来てまたすれ違いかぁ。

 

 

用月回日

 まだ現れ無い。

 諦めた説が私の中を占めている。

 でも、あれだけ粘ってたからまた現れるはずだ、物資を補給しに町へ戻っただけだ。

 そう淡い期待を抱いている私もいる。

 ……どっちが正解なんだろう?

 

 

枕月真日

 迷ってたら何も始まらないと既に知っているはずなのに、私は又しても時間を浪費したらしい。

 確かに猿顔に港町まで……欲を言えば私が知っているロア?の街まで道案内してくれたら嬉しいんだけど……。

 もう私の前に現れないのならしょうがない。

 明日の朝、出発しよう。

 

 

 

 

 

寒月玖日

 ルーデウスと幼女先生が猿顔と一緒に居た。

 

 何故?



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19冊目

明けましておめでとうございます。年明け前に出したかったのですが、中々キリの良い場所まで進める事が出来ず、文字数が何時もの倍になり遅れました。

クリスマス2023は1400ちょいでした。


・ロキシー視点

 

 オシィと始めて出会ったのは彼女とルディが3歳の時だった。

 お金に困っていた私は辺境の村で家庭教師の依頼を受けてブエナ村に向かい、そこで天才と出会った。

 ルーデウスは教えると直ぐに吸収して物にする天才だった。私もこれには腕を鳴らしたものだ。

 逆にオーシノルは文字を覚えたての年齢通りの子供でした。

 

 初めはルーデウスだけを見るつもりが、報酬の増額に釣られてオーシノルにも教育を施すことになった。

 ルーデウスくらいの理解度ならともかく、年相応の反応しか示せない子供となると……少しばかり荷が重い気がしてたまりませんでした。

 しかし、一度頷いた依頼を直ぐ断る訳にもいきません。報酬の増額は今後の事を考えると非常にありがたいですし、何よりもオーシノルのキラキラとした目を見て嫌ですとも言えません。

 えぇ、彼女はルーデウスが使った魔法をキラキラした目で楽しそうに見るのです。

 そんな楽しみにしている彼女をどん底に落とすことなど、私には出来ません。

 それに一度やってみないと何も始まりませんから。ダメだったらやんわりと諦めてもらいましょう。

 

 

 結果としては才能はあった。

 ルーデウスが天才として目立たないが、普通の魔術師としての才能は持ち合わせている。

 本人はルーデウスみたいに出来ないのを悔しがっている様子だったが、3歳児としては十分すぎる素質をみせている……はずだ。

 この子が何処まで行けるのか分からないけど、私が教えられる範囲で色々と教えてあげるよう。

 

 

 

 

 グレイラット家でお世話になって1年が経った。

 ルーデウスは相変わらずの吸収力をみせて私が魔術を教えてる度にメキメキと成長していく。

 会った時に中級者魔術を発動出来たルーデウスは既に上級魔術を制覇しそうなほどだ。

 このペースなら聖級魔術を教えて私の役割が終わるのもそう遠くないだろう。

 

 妹であるオーシノルの方はと言うと、天才であるルーデウスとは違ってスタートから出遅れていた。

 先ずは文字を教える所から始まり、文字を覚えたら詠唱を覚える。

 双子の兄であるルーデウスが無詠唱で魔術を発動出来るから妹のオーシノルも意味と文字を覚えたら無詠唱で行けるのではないか?と僅かばかり期待していた私であったが、結果はまるで普通にダメだった。

 かと言ってこの1年見た感じ全く才能がないわけではない。

 今は初級魔法を全属性覚えようとしている最中だ。

 素質の無い者なら成人であろうと初級魔法すら一生をかけても習得できない場合が多い。

 一般的な魔術師でも良くて上級魔術、それも一属性のみ。

 あぁ、忘れてはならないのは彼女がまだ4歳の幼い子供だと言いう事だ。

 私が同じくらいの子供の頃は……村に馴染めなかったから家で独りで居ましたね。

 普通の子供なら外で他の子と一緒に毎日遊んでいる齢の子供だ。

 そんな子共なのに、全属性の初級魔術を習得しようと頑張っている。

 立派だ。天才であるルーデウスの様な才能がないにもかかわらず、毎日ひたすら詠唱に向き合う日々は齢を考えれば投げ出してもおかしくない。

 それだけルーデウスが魔術を扱えるのを見て、憧れを抱いていると言う事なのだろうか?

 

 1年経ってオーシノルは文字を覚える所から初級魔法をある程度発動出来る様になるまで成長した。

 それも全属性だ。ルーデウスが当たり前の様に全属性を扱えられるからオーシノルはピンと来てない様子だが、全属性の魔術を扱えると言うのはそれだけで大した才能である。

 一般的には一つか二つに絞って魔術を覚えて行くもので、上級魔術師でもその人が得意とする属性ともう一つか二つ目は初級か良くて中級しか扱えない。

 なのにオーシノルは全属性を覚える気でいる。

 

 ……普通は複数の属性を扱えるだけで才能があると伝えた方が良いのだろうか?

 私は悩んだ。しかし直ぐに、ルーデウスが当たり前の様に全属性を無詠唱で扱ってる時点で普通の魔術師のアレコレを説いても無駄だと思い至った。

 それに、通例を教えずに何処まで成長できるかも見ものですね。

 

 

 

 そんなオーシノルことオシィは午前中の魔術の授業が終わると、私と一緒に家の外に出て後ろを付いてくるようになった。

 恐らく家の外に出る機会を伺っていて、私はそれの出汁にされたのだろう。

 意外とずる賢いですね。

 しかし、私の後ろをちょこちょこ付いて来て、気になった事は何でも質問して吸収しようと言う姿勢は非常に好感を持てます。

 そんなわけで魔術の授業が終わると私とオシィは村へ足を延ばして色々と課外授業だ。

 

 外で遊ぶのは良い事だ。

 私はが過ごしていた魔大陸では村の外に出るのは危険で、村に馴染めなかった私は家の中だけが私の活動範囲だった。

 魔術の才能には関係の無い事だろうけど、今後の人生を考えれば色んな知識を覚えているのは間違ったことではないため、オシィに色んな知識を授けた。

 えぇ、オシィ自身はルディと比べて自身を酷評しているけど、十分に自頭も良いし魔術の腕だってこのままならやっていけるだけの技量はある。

 もしかしたら、十数年後に何かの依頼でバッタリ鉢合わせて思い出話なんかを……。

 いけませんね。オシィがまだ冒険者になりたいと思ているのかもわかりませんし、親バカであるパウロさんが過酷な冒険者業を許すのかも分かりません。

 ルディと一緒なら有り得なくもないかもですね。

 

 夜はルディとオシィの部屋にお邪魔してこの世界の常識などのお勉強だ。

 この二人が将来どんな仕事に就きたいかは誰にも分かりませんが、覚えておいて損はない知識を授けています。

 世界にある各大陸の主な特徴、主要国家の位置と特徴、種族についても私の知る限りを教えました。

 特に、悪魔であるスペルド族についてはしっかりと教え込んだ。

 此処数十年は噂すらも聞かない種族だから絶滅してしまったと世間では言われているが、わたしとしては何処か人里から遠く離れた辺境の地で密かに生き延びていて機会を伺っている説を押している。

 ルディもオシィもよく分かってくれたはずだ。

 

 

 午前中に魔術を授業、午後は家を出てオシィと課外授業モドキ、夜には二人に汎用知識の授業。

 そんな感じで一日のサイクルは終わる。

 我ながら充実した1年だった。

 このペースなら、後1年程でルディには私の全てを教える事が出来そうですし、オシィも中級魔法を一つは覚える事ができるかもしれません。

 

 長い人生の中でも濃く充実した1年だと言えましょう。

 それはこの先続いて行く人生と比べてもそうだと言えます。

 逆に言えばこの1年とこの先の1年、二人の先生だった2年間が最も平和でほのぼのとした時間だったのかもしれないと、数年後の私は思う。

 

 

 

 それから更に1年後、ルディは予定通り水聖級魔術師となった。

 6歳でしかない子共が水聖級とは天才とはやはり凄くてズルいと思いますよ。

 私の自信はこの2年間で粉々に砕け散った。

 各地を巡って迷宮に潜ったり強い魔物と戦ってもっと研鑽せねばと決意を固めたのであった。

 

 ルディとは逆にオシィは普通に優秀な弟子と言った枠に収まった。

 卒業試験では中級水魔法を複数使って面白いパフォーマンスを見せてくれる始末。

 水属性以外にも火属性も中級まで習得出来ていると行ってもいいだろ。

 残りの属性も偶に失敗する事はあるものの、十分に余裕を持った時ならば成功率はかなり高い。

 ルディは初めから中級を覚えていたので感覚が麻痺しているのかもしれませんが、初めは文字を読むのも拙かった子供がたった2年ぽっちで中級魔法を使えるようにまで成長出来た。

 ルディがいなければ天才ともてはやされても可笑しくなかったと思いますが、逆にルディが一番近くに居る事で目標となり、自分の魔術の実力が平均よりも高いとは思わずむしろまだまだだと自虐するまでだ。

 ……身近に平均的な魔術師が居なかった弊害が出ていますね。

 まぁ、天狗になってできもしない期待をかけられて失敗するよりはマシでしょう。

 うぅ、嫌な記憶を思い出してしまいました。

 

 

 

 家庭教師を終えてからも二人の弟子を忘れる事はありませんでした。

 研鑽を積んで迷宮を攻略して、その功績でシーロン王国第七王子パックスの家庭教師と招かれ、そこで見つけた書物を読み解いて水王級魔術師へとなる事が出来ました。

 これもルディに出会って私の自尊心を粉々にへし折ってくれたお陰です。

 

 この頃のルディはロアの街でお嬢様の家庭教師をしていたそうで、そのことを私は手紙で知りました。

 残念ながらオシィとは直接的なやり取りはありませんでしたが、ルディ曰く私と別れてから剣術の才能に目覚めたらしく、数年のハンデをもってしても純粋な剣の技だけでは勝てない程らしい。

 魔術の先生なので思う所はあるにせよ、オシィも誇れる才能を見つけた様で私も嬉しいです。

 ルディが魔術として天才なら、オシィは剣術の天才でしょうか?

 実際に目にした訳ではありませんので、どの程度の才能を持っているのか分かりませんが、もし冒険者としてコンビで活動を行うならこれ以上ない程のコンビでしょうね。

 それこそ、純粋な剣士と魔術師のコンビよりも相当強くなりそうです。

 双子なのでコンビネーションは抜群でしょうし、偏りはあるにせよ二人共剣術で接近戦に魔術で遠距離戦を両方とも行えるのも他の剣士と魔術師には無い優れた物だ。

 

 えぇ、この頃の私は二人の将来がとても楽しみで仕方がありませんでした。

 全てが順風満帆な気がして、何の不安もありませんでした。

 

 それが砕け散ったのはグレイラット家の家庭教師を辞めてから5年程経ったある日の事。

 アスラ王国で異変があると感じ取った私は常々辞めたいと思っていたパックス王子の家庭教師を辞任し、アスラ王国へと向かった。

 

 

 

 そして半年後。

 道中で様々な噂を耳にしたが、やはり目にするまで信じられなくて私はフィットア領まで歩き、現実を目の当たりにした。

 人工物全てが消え去ったフィットア領をだ。

 やはり噂は本当だった。

 

 突如としてフィットア領を襲った魔力災害。それは範囲内の全てを無にかえし、世界中のありとあらゆる場所へランダム転移させると言う非情に極悪な災害だった。

 転移した先が地上ならそれだけで幸運。割合は分からないが、少なくない人が空中に転移させられてそのまま地面に叩きつけられて亡くなっている。

 地上に転移出来た幸運な者でも、紛争地帯や別大陸に森や砂漠の中と人が、一般人が生き残るには過酷な場所に転移させられてしまえば、生き残ってフィットア領に戻るのは非情に難しいと考えるのは容易だ。

 

 フィットア領について諦めなきれなくて、難民キャンプがあると言う場所まで足を進めた。

 そこで目にしたのは活気が全くない集落だった。

 世界でも有数な豊かなアスラ王国でこんな場所があるなんて……と驚くほどだった。

 冒険者ギルドに行くと項垂れている人が居た。神に怒りを抱く神官が居た。全てを失って自殺しようとする商人が居た。

世界中の悲しみを寄せ集めた様な場所が、フィットア領難民キャンプだった。

 

 1時間の時間をかけて私は情報を集めて、何が起きたのかを把握した。

 掲示板には行方不明者の一覧が貼ってあり、グレイラット家の面々を探すとゼニス、ルーデウス、オーシノル、リーリャ、アイシャの名前があり、パウロとノルンは生きている事が確認を取れた。

 掲示板にはパウロからの手紙があり、彼はルーデウスに向けて家族を探せと伝言していた。

 確かに、あのルーデウスなら転移事件に巻き込まれていても死んでいなさそうな雰囲気がある。

 ……でも、いくらルーデウスだろうと急に見知らぬ土地に飛ばされてしまえば無事で居られる保証はどこにもない。

 

 私は探索に参加することにした。

 と言ってもパウロと合流する必要はないでしょう。

 私は彼らが行けない場所に向かうべきです。

 一番心配なのはオシィですね。

 ルーデウスも心配ですが、彼と比べたら双子の妹であるオシィの方がまだ不安になる気持ちが強い。

 二人共同じ年齢なのだから比べたらダメだと分かっていながらも、私はオシィの方が遥かに下であると見てしまう。

 とは言え、余程の高所から地面に叩きつけられていたり、魔物が入り乱れている危険地帯でもない限り生きていられるはず。

 短い間ですが、ちょっとした技術なんかは話してあったはずですし、魔力切れになっても剣で戦える。

 あぁ、オシィの場合は剣の方が才能があると言う事ですので、普段は剣で戦っていざって時などに魔法を使う魔法剣士の立ち回りが合いそうですね。

 

 ともあれ、パウロがミリス大陸に拠点を持っているなら、私は行きにくい場所へ向かうのが得策ですね。

 拠点にしているミリス大陸は言わずもがな、実際に被害を受けたフィットア領があるアスラ王国周辺や中央大陸は一先ず後回しにしても問題ないでしょう。

 言葉が通じる場所や比較的に安全な場所ですし、余程の悲運が重ならなければルーデウスなら生きていけるでしょうし、オシィもルーデウス程の安心感は無くても二人で村を歩いていた時に色々と教え込んでいる為、普通の場所に転移させられていた場合は生き残れているはずだ。

 ならば候補は全体的に過酷な土地である魔大陸、砂漠と独自な文化が芽生えていて世界最大の迷宮都市を抱えているベガリット大陸、情報が全く入って来ず入る方法すら思いつかない天大陸。

 天大陸はそもそも行き方が全く分からないので却下。

 残るはベガリット大陸と魔大陸ですが……まだ土地勘のある魔大陸にしましょうか。

 生息している魔物の危険度からも魔大陸の方が上ですし、ベガリット大陸ならまだ共通言語を喋れる冒険者などに出会える可能性がある。

 対して魔大陸は武者修行中の剣士程度しかあの地には居なかったはずだ。

 うん、圧倒的に魔大陸の方が生き残れる可能性が低い。

 

 

 私自身が自分の美徳だと思っている即断即決。

 決めてから直ぐに支度をしてフィットア領難民キャンプを出立。

 道中でパウロの元パーティーメンバーだと言うエリナリーゼさんとタルハンドさんと出会って、目的が同じと言う事でパーティーを組んで魔大陸に。

 そして長い時間をかけて魔大陸を探し大陸の端、私の故郷の近くの街で魔界大帝キリシカ様の活躍によりグレイラット家全員の居場所を知る事が出来た。

 ルーデウスは魔大陸に転移させられたそうだが、どこかの街ですれ違って今は魔大陸を既に出てミリス大陸。

 リーリャとアイシャは中央大陸なのは見逃した感じがしたが、ゼニスとオシィはなんとベガリット大陸に転移させられていると分かった。

 訪れた事が無い、魔大陸よりも危険度は下がると言う事で行くのを後回しにしたのが悔やまれますね。

 ともあれ居場所を知れたら行動あるのみ。

 先ずはパウロと合流する事を第一目標としてミリス王国の王都ミリシオンを目指す事になった。

 タルハンドさんは渋々でしたが、エリナリーゼさんは断固としとてパウロに顔を合わせるのを拒否した為、ここでお分かれしてこのまま中央大陸に移動してルーデウスに家族全員の居場所を伝えることに。

 せっかくパーティーとして良い感じになって来たばかりなので寂しい気持ちもありますが、お互いに長寿のようですし、いずれ再会する時もくるでしょう。

 と言う事でタルハンドさんと共に来た道を戻る。ペースは早めを意識していたが、エリナリーゼさんと言うアタッカーが抜けたこともあり、大陸に生息している魔物に手こずる……こともなく魔大陸を出た。

 ミリス大陸に入って更にペースを上げてミリシオンについてパウロに私達が得たゼニスとオシィの情報を伝える。

 因みに、リーリャとアイシャは既にルーデウスが助け出してミリシオンに到着していた。

 ルーデウスは優秀過ぎて何も言うことがありませんね。再会した時には既に王級の魔術をいとも簡単に扱っているかもしれません。

 

 

 ミリシオンでは数日滞在した。

 先ず、パウロが頭目を務めていたフィットア領民の探索隊を解散した。既に事件が起きてから5年以上が経過して、その間に事件の規模を考えれば少なくない人々を見つけて助け出してきたが、そろそろ打ち止めだろうという空気が蔓延していたのが拍車をかけたらしい。

 ゼニスの実家やアスラ王国からの資金提供もそろそろ限界に近く、ここ最近もフィットア領民の救出は全くと言っていいほど停滞していたらしい。

 そこに来て家族全員の居場所が分かったと来る。団員とも相談した結果、これ以上は難しいと言う事で5年以上に及ぶ探索は終了となった。

 

 アスラ王国に戻る者、このままミリス大陸で生活する者、別の新天地を求めて発つ者、フィットア領民探索隊はバラバラに散っていった。

 パウロはゼニスとオシィを見つけ出す為にベガリット大陸に向かう。もちろん、私もタルハンドさんもその手助けをする為に此処へ舞い戻ってきたのだ。ここで一緒にベガリット大陸へ向かうことにする。

 ミリシオンを出発しベガリット大陸を目指すにあたり、ノルンとアイシャをルーデウスの下に預けるか否かと言う一つ問題事項があったが、ルーデウスとパーティーを組み魔大陸からアスラ王国フィットア領まで送り届けた恩人、ルイジェルドが偶々現れて二人を護衛する事で解決した。

 ルーデウスを魔大陸からアスラ王国まで送り届けてくれた事や、実際に会って話をした事のあるパウロが「任せる」と言うのだから私が横やりを言う筋合いはないのですが、あのスペルド族の悪魔に任せるのは……。

 どれだけ太鼓判を押されても私は怖い感情を無くす事は出来ない。というかルーデウス。私が子供の時に言った忠告を無視していますね。

 ……まぁ、お陰で助かったのだと思えば複雑な気持ちですが……。

 

 と、今はルーデウスよりもオーシノルだ。

 魔大陸よりもベガリット大陸が危険だとは言われないが、中央大陸やアスラ大陸よりも危険な場所である事に変わりはない。

 ルーデウスは運が良かったと言えばそうなる。落下地点に強いスペルド族が居て味方に出来た。

 オーシノルも同じ様に頼れる人を見つけたのだろうか?

 でも、それならルーデウスと同じ様に中央大陸に向かわない理由が分からない。

 キシリカ様の魔眼では生死しか分からなかったけれど、今にも死にそうな危機にある訳ではないみたいではある。

 怪我をしていて砂漠を超える事が出来ないとかだろうか?

 にしても、転移事件から5年以上も経過している。

 落下の怪我であれば治っているはずですし、オーシノル自信も中級の治癒魔法を扱えるとルーデウスの手紙には書いてありました。

 大抵の怪我なら自分で治してしまうはずで……中級で治せない様な怪我を負っているのだろうか?

 どっちにしろ、助けが必要なのは間違いない。

 ゼニスと違い具体的な場所を絞りにくいのが大変ですが、生きているならその内見つかるでしょう。

 言葉の事を考えれば大きな街に居るはずでしょうし。

 

 

 

 

 

 そんな淡い期待は簡単に打ち砕かれた。

 

 

「そう言えば、オーシノルは見つかりませんでしたね。……どこに居るのでしょう?」

 

「…やっぱり俺も残るべきだったでしょうか? タルハンドさんやギースだけに任せずに……」

 

「いいえ。やはりルディは一度帰って来るべきでした。今の貴方には休息が必要です」

 

「でも……そうですね。先生の言うとおりです」

 

「それに……ゼニスの事を報告しなければなりませんし、貴方には帰りを待つ家族が居るのでしょう」

 

「はい。あぁ、ロキシーの事も皆んなに紹介しなければなりませんね」

 

 

 ゼニスの救出には成功した。

 パウロの死とルディの片腕を犠牲にして。

 これ以上は色々と限界だと言う事でルディが家を構えているシャーリアの街へ帰る途中。

 オーシノルはまだ見つかっていない。

 ゼニスは何処の迷宮に連れ去られたのかギースさんのお陰で比較的簡単に見つかり、迷宮攻略が非常に難易度が高かった。

 オーシノルは恐らく逆で居場所の特定が非常に難しい状況となった。

 ギースさんがゼニスさんの救出の合間を縫って情報を集めていたものの、私達の耳にはいるレベルの情報は見つからなかったっぽい。

 ゼニスの救出は成功してパウロを失った私達は一先ず帰還の決断をした。

 ゼニスが謎の現象に囚われてしまった点もあり、オーシノルも生きてはいるが何らかの理由で動けない可能性が出てきた。

 早く救出してあげたいのは山々だが、ルーデウスは一度帰らなければならない。

 家族と家族。妻子と双子の妹。

 苦渋の選択だったのだろう。

 

 だけど、帰る途中でギースさんが一つの提案をした。

 この地に残ってオーシノルの探索を続けてくれると言う提案だった。

 距離の事を考えればおいそれと乗れない提案だったが、ルーデウスが短期間でベガリッド大陸に向かえた理由が決断させてくれた。

 ルーデウスは教えられないと言って目隠しを皆さんにしていましたが、使ったメンバー全員は恐らく気づいているでしょう。まったく、転移魔法陣なんてどうやって見つけ出したのやら。

 

 ベガリッド大陸に残ってオーシノルを探してくれるのはギースさんとタルハンドさんの二人。

 戦力的には少し厳しいが、タルハンドさんはSランク冒険者なので前衛さえ用意できればなんとかなるとのこと。

 迷宮攻略で得た金銭もあるので、冒険者でも雇えば砂漠を渡る程度ならなんとかなるだろうとも。

 安心は出来ないが、この状況下で頼れるのはあの2人だけだ。

 ルディが片腕が無くなって子供も産まれそうだと言う。

 私が残ると言えばルディは更に悩んで残ると言う決断をしてしまうかもしれない。

 私はルディと結ばれただけでも嬉しいのだ。それ以上何を求めて、何を奪おうか。

 

 そう言う訳でギースさんとタルハンドさんと別れた私たちは無事にシャーリアの街へ帰る途中なのだ。

 時間はかかえるが、万が一発見した場合は手紙を送って貰える。

 それがいつになるか分からないが、最短でも半年程度はかかるだろう。

 半年も有ればルディだって万全の状態に戻るはず。

 ですので…

 

 

「オーシノルは大丈夫ですよ。魔術と剣術の両方を中級で扱える人なんてそうそういませんし、ルディが居ない所でオシィに色々教えてあります。だから不安に思う事なんてないです。ルディが魔大陸から無事に戻って来れたように、現地で言葉の分かる人と知り合って今では中央大陸の何処かを歩ている、なんて事もあるかもしれませんよ」

 

「……そうですね。それなら後で再会した時にでも文句の一つくらい言ってやりませんと。中央大陸に居るなら連絡の一つくらい寄越しなさい。俺の噂くらい冒険者をやってれば一つくらい耳にするでしょうし、何ならフィットア領難民探索隊に連絡をとれば…なんて、どうでしょう?」

 

「地頭は悪くないのに抜けている部分がありましたからね、オシィは」

 

「えぇ、俺がロアの街に向かう前では、剣術だけなら既にオシィの方が上でしたし、先生の教えが上手かったので全属性初級なら扱えて、一部では中級まで食い込んでいます。俺も真正面から相手をするのはかなり嫌な相手と言えるでしょうから、冒険者でもAランクくらいはなければ返り討ちにしてしまうでしょう。搦め手を使われたり詐欺師に騙されて無ければ良いのですが……」

 

「間抜けではないのですから、そこまでは無いと思いますよ。案外、他の大陸の文化やモンスターを楽しんでいるかもしれませんよ」

 

「……そうだと良いですね」

 

 

 こんな感じにルディと会話しているけど、本当は分かっている。

 オシィがベガリット大陸で頼れる人に出会って中央大陸まで帰れているなんて事は。

 そんなの都合のいい妄想に過ぎない。

 

 私がキシリカ様から居場所を聞き出すまで5年以上。

 ベガリット大陸を探し始めて既に1年に近づこうとしていた。

 動けるのなら中央大陸に居ても可笑しくない時間が経っている。

 やはりゼニスの様に事情があって自由に動けないと考えるべきだろう。

 キシリカ様から居場所を聞いた時も、見えにくいと言っていたから、それが関係しているはず。

 ゼニスの様に無機物の中に取り込まれているのか、それとも単純にキシリカ様の魔眼との相性が致命的に悪かったのか……。

 いえ、オシィがキシリカ様の魔眼を何らかの形で防げるとは思いません。

 やはりゼニスの様に……。

 

 と、悪い方向へ方向へ思考が嵌り込んでいた所に、ルディが手を繋ぎながら言ってくれた。

 

 

「オシィなら大丈夫ですよ。彼女は俺なんかよりもずっと強くて眩しい妹です。魔法だって剣だって天才じゃなくてもずっと努力を続けて来ていました。その頑張りを知っている俺達が信じてあげていなければ、一体誰が彼女を信じるのでしょうか。オシィは大丈夫です」

 

「……はい。ありがとうございます、ルディ。私の方がしっかりしなければならない時なのに……」

 

「先生は俺なんかよりもずっとしっかりしていますよ。そんな先生だからこそ今の俺が居て、オシィも先生が教えてくれた知識を生かして生き残っているはずです」

 

「褒めすぎですよ」

 

 

 本当に良く出来た弟子だ。自慢の恋人ですよ。

 そろそろうじうじするのは辞めましょう。

 今はルディの新しい家族に紹介してもらって、許されるのなら同じ家で暮らして、体と心を休むのが最優先。

 しっかりと休んでルディの時間が取れるようになったらまたベガリット大陸に向かってオシィの探索を再開するのです。

 もしかしたら私たちがベガリット大陸に再び向かう前に、ギースさん達が本人を見つけているかもしれない。

 そこまではなくとも、手掛かりくらいは見つけているでしょう。別れ際に手掛かりらしき物を見つけた…様な雰囲気を醸し出していましたからね。

 でなければあの場所でわざわざ別行動すると言い出すはずもありませんし、探索隊の中で情報に一番精通していたのも彼ですし。

 きっと何かしらの情報を掴んで、あの場所で向かうことにしたのでしょう。

 そう言い方向に考えていた方がきっと良い。

 

 

 

 そしてシャリーアの街に着いてから半年後。

 街での新しい生活や人間関係にも慣れ、ルディも無くなった腕を友人たちと一緒に作り上げた儀手で補う事に成功。

 こちらでやらなければならない事にもひと段落付き、そろそろベガリット大陸に再び向かおうか?と日々の食事で話題に上がるくらいになってきた頃。

 

 冒険者ギルドの速達でギースさんからルディ宛に手紙が届いた。

 オシィが見付かったようだった。



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20冊目

前回から2ヶ月半。大変お待たせ致しました。1万文字超えてます。


・ルーデウス視点

 

 

「お兄ちゃ~ん!! 手紙!! 手紙が届いたよッ!!」

 

 

 ある日の昼下がりの事だ。

 愛する妻であるシルフィはアリエル王女の護衛任務に行き、ロキシーはラノア魔法大学で先生のお仕事だ。ノルンもまだ家に帰って来るには少し早い。

 リーリャはアイシャが行っている家事を少しだけけ手伝いつつも、ゼニスの側を離れないでいる。

 ゼニスは庭でアイシャが育てている植物?魔物?を眺めていた。

 

 つまり、俺は暇だった。

 今日は大学での講義も無く、ナナホシの研究も昨日終わらせてきた。

 偶に休みを無理にでも作らないと、マジでぶっ通しで倒れるまで続けるからな。

 暇な俺は娘のルーシーの側に着いて色々と構っていた。

 

 

 そんな時、俺の部屋にアイシャが飛び込んできたところで冒頭に戻る。

 仕事中なのに声を上げるなんて珍しいな、と思いつつルーシーが泣かない様に窘めつつ手紙を受け取る。

 

 

「そんなに声を出す事ないだろう? ほら、ルーシーが……」

 

「騒がないね。ほら、ルーシーは私が見ておくから早く手紙を見てよ」

 

 

 我が娘はアイシャの慌てた声程度では揺るがないのだ。

 とそんなことよりもアイシャが持って来てくれた手紙に注目してやらないとな。

 一体誰からだろうか?

 俺に手紙を書く奴なんて限られている。

 

 

「ってギース!!? ベガリット大陸からまた速達を送って来たのか」

 

 

 手紙の主はギースだった。

 デジャブを感じる。

 そうだ。ゼニスの救出に向かう時もギースがパウロに内緒で手紙を寄越して来たのがキッカケだった。

 今、ギースが手紙を寄越すなんて一つしか思い浮かばない。

 見付かったのか、それともゼニスのように救出が困難なのか?

 

 

「オシィ姉は見付かったのかな? お兄ちゃん早く早く」

 

「あ、あぁ」

 

 

 再びアイシャに急かされて手紙を開ける。

 ギースらしく挨拶も無しで用件だけをすっ飛ばして俺達が知りたい事が書いてあった。

 読み終わるのにそう時間はかからなかった。

 内容はこうだ。

 

 オーシノルらしき人物は見付かった。

 連れて帰るのに応援を頼む。

 ルーデウス以外は本人が知っている身内で女性だけで。

 

 と言う事らしい。

 見付かった……。

 連れて帰るのにどうして応援が必要なのか?

 付き人は俺以外女性だけなのも疑問に思うが、ひとまずは

 

 

「……見付かったか」

 

「ホント!!? 私にも読ませてお兄ちゃんッ!」

 

 

 手に持っていた手紙をひったくられる様にして奪われるが、そんなことは全く気にならなかった。

 アイシャの声でゼニスとリーリャが部屋にやって来て、手紙を見たリーリャが静かに泣き出しても俺には気にならなかった。

 どう言えば良いいのか。

 実感が湧かない。多分そんな感じだ。

 

 双子の妹。

 俺の中身がおっさんだから片割れと言うほどではない。

 前世のラノベで見まくった意思疎通が完璧に行えたり、常に一緒に行動しているとか、容姿が物凄く似ているとか。

 俺とオーシノルはそんな事は全くなかった。

 

 ただ、俺とオーシノルを表す言葉があるとすれば、正反対が一番しっくりくるだろう。

 活発的で何事にも行動して失敗しても諦めない心。

 魔法が得意な俺と逆で剣の才能がピカイチ。

 中身がくそ陰キャ童貞の俺なんかとは違った天然物の少女だった。

 

 容姿はギリギリ似ているだろう。

 最後に会った時は髪の毛を背中まで伸ばしていて、剣を振るう時には雑に縛って纏めていた。

 本人は切りたそうにしていたが、ゼニスが切らせなかったのだろう。

 色よりも食を選ぶような奴だったから、肉付きは良かったんだよなぁ。

 血筋もあって今ではどえらい美人さんに育って居るだろうな。

 寄って来る男どもとは真剣にお話ししないとな。

 これはパウロの代わりだ。アイツなら絶対に同じ事をしただろう。

 そういえば、生徒会に入って人気が出ているノルンは大丈夫なのだろうか?

 

 

 

「それでルディ。ベガリット大陸には当然行くのでしょう?」

 

 おっと、色々と妄想していたらいつの間にか時間が飛んでいた。

 今は仕事から帰ったシルフィとロキシー、こんな時に呼ばなければぎこちないながらも良い関係へと向かっているので急遽呼び戻したノルンがギースからの手紙を読んでいる最中だった。

 悪いけど、夕飯の支度はアイシャとリーリャに任せてある。二人とも一足先に手紙を読んで感情の整理をつけているから。

 

 手紙を読んだ三人は一先ずオーシノルの生存を喜び合った。

 ロキシーとシルフィは大人な対応として大人しいが、シルフィは若干目に涙が浮かんでいる。

 単純計算になるが、この中で一番過ごした時間が長いのはシルフィで、一番一緒にいた時間が長いのはロキシーだろう。

 ノルン? 妹は俺よりも一緒に過ごした時間が長いからか、手紙を読んだ瞬間泣いた。

 グズグズだ。

 

 というところで先のロキシーからの言葉だ。

 ベガリット大陸に向かに行く。

 これは迷う訳もない。

 帰りの事も考えれば俺達が迎えに行って転移魔法陣のショートカットを使わなければ、今から半年以上再開に時間がかかってしまう。

 そもそも、ギースから迎えに来てくれと頼まれているのだから、迎えに行かない道理はない。

 

「えぇ。勿論向かいます。幸い、俺達にはショートカット出来る特別な方法があるから、休学申請も簡単に通ると思います」

 

「前回の時とは違って、言って直ぐに帰って来れるから時間も移動時間だけでいいんだよね?」

 

「いえ、どうでしょうか。手紙にはオシィが知っている女性のみと書かれています。一筋縄では行かないと考えて置いた方が得策でしょう」

 

「えーっと。じゃあ、オシィと面識がある人は……、当然ルディ、ボク、ロキシーさん。ルンちゃんとアイシャちゃんは微妙かな?」

 

「どうしてですか? 私たちはお姉ちゃんに色々とお世話になりましたよ」

 

「転移事件が起こった時から既に5年も経過している。見た目が殆ど変わってないロキシーやリーリャさん、母様が一番なのでしょうが……。流石に母様とリーリャをベガリット大陸に行かせるのは無しで」

 

「当然、ノルンちゃんとアイシャちゃんも危ないからダメだね。ボクはどうだろう? ルディと違って髪の毛の色が変化していても分かるかな?」

 

 

 悪かった。悪かったからその話を蒸し返すのは辞めてもらいたい。

 髪の毛以前に、シルフィはルーシーのお世話がある。

 リーリャに見てもらう事も可能だが、自我も芽生えてない様なルーシーとシルフィを半年も引き離すのはダメだろう。

 アリエル様の護衛を長々と休め無い問題もある。

 事情を説明すれば納得してもらえる器量はあるお方だが、これまで色々と便宜を図って貰っている。

 この街で争い事などが起こるとは思えないが、アリエル様の護衛の中では一番実力を持っているシルフィが半年以上も側を離れるのはやはり問題がある。

 

 

「と言う事で、シルフィもお留守番です。ルーシーと家の事を頼んだよ」

 

「むぅ……分かったよ。その代わり、しっかりと連れて帰ってよね」

 

「あぁ、今度こそは失敗はしないさ」

 

 

 まぁ、ゼニス程の障害はないはずだ。

 精々俺以外の男性を連れて行ってはならないのか気になる程度だ。

 シルフィもダメとなるれば、やっぱり今動けるのは俺とロキシーだけになる。

 ゼニスはもちろん家から遠出する訳にも行かず、ゼニスが行かないとなれば世話をしてくれているリーリャも当然無理だ。

 ノルンは学校があるし、アイシャは家事がある。

 それ以前にベガリット大陸は魔大陸の次に危険な大陸で、砂漠を超えるとなれば魔物の奇襲に警戒してなければならない。

 そんな大陸に可愛い妹二人を連れて行ける訳がない。

 

 

 というわけで俺とロキシーの二人旅が決まった。

 ゼニスの時ほど焦っていないのは、無事に見つかっていると言う点が影響しているだろう。

 ロキシーと二人旅になるのは初めてで、少しだけワクワクと緊張している。

 魔法使い二人とういうアンバランスな二人なのも関係しているだろうな。

 まぁ、驕るつもりはないが、一般的に見れば俺もロキシーも冒険者としては熟練に位置する魔法使いだ。

 もしもの時は俺が前衛をやればいい。

 毎日筋トレや走り込みは欠かしていないし、剣だって今では中級以下だろうが振っている。

 ロキシーを前に立たすよりは断然マシだ。

 

 翌日、ロキシーと一緒に半年ほどの休学申請(ロキシーは休職だが)をジーナス教頭へ申し出た。

 ゼニスに引き続き短い期間で短くない期間の休学だったので、最悪退学もあるかなぁと考えていたが、俺の実績とそんな卒業生を排出したと言うネームバリューの方が高いらしい。

 俺なんかがそこまで高く買われているのは少し萎縮してしまう。

 前世の俺から対して変わっていなければ、魔大陸に転移してなければ、ルイジェルドと出会っていなければ俺は増長してしまっていただろう。

 だが、俺は世界最強を知っている。俺が一生をかけても届かない領域にいるだろうということも。

 あの異次元とも言える格別な魔法無効化を、手刀で名剣をも上回る威力を持った一撃を、俺は知っている。

 上には上がある。それを実感してるからこそ、ジーナス教頭が、この学校や周囲が俺をここまで評価してくれてるとは思いもよらなかったのだ。

 

 逆にロキシーが休職するのは少しだけお言葉を頂いてしまったが、俺がどうしてもと言うと承諾してくれた。

 オシィを連れて帰って来たら色々としなければ。先ずはお土産や俺でできる範囲で役に立とう。

 逸れ竜の討伐だってやっちゃうぞ。

 ジーナス教頭以外にもアリエル様を筆頭にザノバやクリフ先輩、ナナホシの奴にもお世話になっている事には変わりないからなんか買ってやるか。

 

 と、そんなこんなで旅の支度が整い、出発の日がやって来た。

 

 

「じゃあルディ、行ってらっしゃい」

 

「うん、行ってきます」

 

 

 シルフィと抱き合う。

 砂漠の移動で戦闘があるとはいえ、ゼニスの時と違って迷宮攻略はしないはずだ。

 だけど、シルフィにとってはやはり心配なのだろう。

 逆の立場なら俺だって心配する。

 

 

「今度は怪我なんてしないで帰って来てよね。皆無事でだよ」

 

「今度は油断しないし、そもそも迷宮なんて潜らないだろうから大丈夫さ。オシィの状況次第だけど、直ぐに帰って来るよ」

 

「任せてくださいシルフィ。ルディは私が守りますので。前の様な事はあり得ません。逆にシルフィは家の事を頼みましたよ。ルーシーも、行ってきます」

 

 

 ロキシーがシルフィとルーシーに行ってきますの挨拶をしている間、俺は俺でゼニスとリーリャと話す。

 

 

「じゃあ母様行ってきます。オシィはちゃんと連れて帰って、これで家族全員です。リーリャさん、母様と家の事を頼みます」

 

「はい、お任せください。ルーデウス坊ちゃま……いえ、オシィお嬢様をよろしくお願いいたします」

 

 

 ゼニスは何も言わず表情も変えない。

 しかし、俺の胸を叩いた。

 言葉は聞こえないかったが、ゼニスは「オシィをよろしく」そう言いたかったのだろう。違ったとしても似たようなニュアンスだろう。

 ゼニスに向かって頷いてから他の家族との挨拶が終わったロキシーを連れて旅立つ。

 最後に、後ろからアイシャの声が聞こえて来た。

 

 

「いってらっしゃーい!! 絶対に全員無事で帰ってきてよね~~!!」

 

 

 それに手を振って応えて、俺とロキシーはシャーリアを出発した。

 ノルンが戻って来れなかったのは残念だが、昨日大学で出発の話はしたし、戻って来た時は知らせを受けたら飛んで帰ると言っていた。

 

 これだけ多くの人に帰還を祈られているんだ。

 絶対に無事に帰って来てやる。

 だからお前もあと少しだけ頑張れよ。

 

 そう心の中で双子の妹に語り掛けた。

 伝わる訳ないよな。

 今までも双子らしい特殊能力が起きた欠片も無かったから。

 それでもなお、俺は旅の間はかなりの時間をオシィの無事を考えていた。

 

 

 

 

 

 一番怖かった転移遺跡にオルスデッドが待ち構えている、何て事も起きずに無事にベガリット大陸に転移。

 前回は黙認してもらったが、結婚して実際に転移魔法陣を使うとなれば黙っておく事は出来なかった。

 まぁシルフィとロキシーには出来る限り秘密は作りたくないから、教えたところで特段と問題はない。

 二人とも秘密をペラペラと喋る人ではないしな。

 砂漠横断は懸念していた程問題は起きなかった。

 近づく魔物はロキシーと俺が魔法をぶっ放すだけで倒せる。

 唯一地面の下から奇襲を仕掛けて来るワームだけが危ない場面もあったが、軽く魔眼を発動させておくことで何とかなった。

 

 そうしてギースから指定されたオアシスに辿り着いた。

 別に何て事の無いオアシスだ。

 ゼニスを連れ帰った時にも立ち寄ったオアシスだ。

 

 

「そういえば、ここでギースとは別れましたね。ルディ、ギースは具体的に何処で待っているか書いてありましたか?」

 

「いいえ。オアシスの指定だけでした。……何処で待っているんでしょうか?」

 

「では酒場ですね。冒険者ギルドがあればそこかも知れませんが……ここには無さそうですし、でしたら酒場です。分かりやすいですし、話をしながら食事を取るにも最適です」

 

「なるほど分かりました。では酒場に行って見ましょう」

 

 

 ソロで色んなパーティーにお世話になっていた俺は、大抵は待ち合わせ場所を決めてから別行動したり、そもそも向こうから俺を見つけて誘って来たりとしてた。

 俺から誰かを探すなんて冒険者としてはしてこなかったので、こう言った辺りはやはりロキシーの方が経験豊富だ。

 流石ロキシー。

 

 そして、ロキシーの考えは当たっていた。

 酒場に入るとギースとタルハンドさんが困り顔で酒を飲んでいた。

 オシィは見当たらない。

 

 

「おぉ!! 今回もお早い到着感謝するぜ先輩」

 

「ロキシーも息災そうでなりよりじゃ」

 

「えぇ、二人共お元気そうで何よりです。で、オシィはどこですか?」

 

 

 俺が尋ねると顔を見負わせる二人。

 その反応で、何となく嫌な予感が俺とロキシーの頭に響く。

 

 ギースが言いにくそうに現状の説明を行ってくれた。

 最悪ではないが最高でもないと言った内容だった。

 

 

「まぁ話は移動しながらでも問題ないだろう。ここを出て砂漠を少し超えるが体調は問題ねぇよな?」

 

 オアシスにたどり着いたばかりなのに砂漠を超える?

 オシィは此処にいないのか?

 そんな疑問が頭を過るが、俺もロキシーも疲労こそあれどまだ動ける。

 大人しく先頭を行くギースについて行きながら二人の話を聞いた。

 

 

 

 

 あの時オレはここ数年、この辺りをナワバリにしている少女の噂を耳にしていた。

 数年って言うもんだからパウロの娘なんじゃないか?とオレは情報を追って精査していたんだ。

 何でその時にそのまま言わなかったのか? パウロが亡くなっちまい、ゼニスもあんな状態で満足に動けやしねぇ。

 センパイだって色々な事が起こり過ぎて傷心中な状態で、情報が入ったから寄り道したいなんて言えるはずも無い。

 ん? 家族の居場所が分かってたらそんな弱音吐かない?

 だから、そんな状態じゃなかったって言ってんのよ。

 あぁ、タルハンドの言う通りだ。過ぎちまったもんは仕方ねぇ。

 そんで、センパイ等と別れた俺とタルハンドはこのオアシスで噂の少女の話を集めたのよ。

 やれ、襤褸切れを纏った小汚い少女だ。剣の腕はある見てぇで砂漠のモンスターを狩って日銭を稼ぐつもりだ、何かから逃げてる見てぇに怯えてるわ。

 保証は何処にも無かったが、魔界大帝の魔眼で得たオーシノルの位置情報はベガリット大陸に居るという事だけだ。

 ゼニスの時よりも情報が乏しかった俺たちはどんな些細な情報だろうと聞き込んで真意を確かめなきゃならねぇ。

 ここで得た情報は消して多くは無かったが、全く少ない訳でも無かった。

 パウロの野郎から聞いてた特徴とも一致していて、ゼニスの時ほど危険地帯にいるわけでも無かった。

 このオアシスからぎりぎり見えない森に噂の少女は暮らしていると聞き、数週間に一回森じゃあ手に入いらない物を調達する為にオアシスへやって来るという。

 そんな情報を得た俺たちは森へ向かって見たんだよ。

 ベガリット大陸は砂漠だけの大陸に見えて、ところどころに森が生い茂ってるのは知ってるか?

 噂の少女が住んでるのもそんなベガリット大陸で数少ない森の一つだ。

 人が住むには少し厳しい環境だが、砂漠よりはマシな環境で少ないながらも動物だって生息してて水さえ確保出来るなら住めないことは無い、ってのがこの辺りに住んでる人の評価だ。

 住めるからと言って人間社会からわざわざ離れる意味なんて考えるのも難しくねぇ。

 俺とタルハンドはその辺を失念してた。

 

 とりあえず森へ行ってみが、初めの数日間は会えなかった。

 出口、このオアシスの方向を見失わないように目印を付けながらだったから少しずつだったが、それでも数日間全く出会わなかったのは大変だったぜ。

 パウロの野郎が教えたのか、それとも独学なのか今じゃ分からねぇが、このベガリット大陸でソロで動けるだけの力量はあったんだろうよ。

 それとも……いや、今はいい。

 少女に出会えたのは森を探索し始めて数日経った頃だった。

 ベガリット大陸では大きな森だろうが、ミリス大陸の大森林と比べたらちっぽけな存在だ。

 数日もあれば鉢合わせくらいするってもんだ。

 

 初めて対面した時は俺一人だった。

 この森はそこまで広く無い上に俺一人でも問題なかったからタルハンドとは別行動中だったはず。

 

 

 

「それで一度対面したんだが逃げられちまった」

 

「逃げられた?」

 

 

 ギースの言葉を聞いて俺は耳を疑った。

 逃げたって一体どうして?

 そんな俺の疑問を払ってくれたのはロキシーだった。

 

 

「ルディ、ギースとオシィは初対面ですよ。むしろ知らない人を安易に信じなかったオシィの方が正しいです」

 

「あー確かにそうでした。あれ? ってことはどうやってオシィだと判断したんですか?」

 

「だからまだ確定してないって言ってるだろセンパイ。パウロの野郎から自慢されてた情報と容姿を元にほぼ当たりだろうって勝手に判断してるだけだ」

 

「待ってください。それならオシィと言葉も交わしてない?」

 

「いや、森は徘徊している隙を伺って毎日会いに行った。マジで凄かったぜ。こんな大陸で独りっきりサバイバルしてるだからよ。普通そんな道選らなねぇだろ」

 

 

 サバイバル?

 近くにオアシスがある中で?

 ギースの話を聞けば聞くほど疑問が湧き出て来る。

 

「明らかに普通ではありませんね。言葉が通じずともオシィなら身振り手振りでどうにかしてしまいそうですし、大きなオアシスを探せば、それこそ迷宮都市ラパンまで行けば言葉が通じる者は必ず居るはずですから」

 

「オシィとは全く話せなかった訳ないですよね?」

 

「あぁ、数日間通って仲良くなろうと頑張ったんだぜ。タルハンドのいかつい顔が近くに居ると怖いだろうと思って俺一人で。だけど、タルハンドと一緒に拠点にしているであろう場所に近づいた途端に剣で斬りかかって来やがった」

 

「ありゃ確かにパウロの剣だ。鋭く確実に得物の息の根を止めに来た。まぁ、パウロの剣筋を知ってるお陰で何とか防げたが、並みの剣士だと持って五太刀じゃろうて。付け加えると、パウロとは違って魔術まで使って戦って来るから厄介よの」

 

「一人だとは言えSランク冒険者のタルハンドさんをここまで言わせる少女……ほぼ間違いなくオシィですね。魔術を教えたのは私ですし、剣を教えていたのはパウロさんですし」

 

 

 だとすれば、ますまず疑問が浮かんでくる。

 それだけの強さを持っているなら大きな街に居ても可笑しくないはずだし、上手くやれば中央大陸に戻ることだって出来たはずだ。

 まだ確定は出来きないが、容姿と戦い方かしてオシィなのはほぼ間違いない。

 しかし、やはりこんな人里から離れた森でサバイバル生活を送っているのか分からない。

 オシィの性格なら、転移させられた土地から何もしないで行動をしないはずがないからだ。

 俺の知っているオシィは行動的で考えるよりも先に手が出るタイプ。

 知らない土地に転移させられたら先ずは家に帰ろうとするはず。

 パウロに何度もせがんでいた冒険者時代の話みたく、自分も冒険者になるんだー!とばかりに冒険者ギルドに登録して、依頼をこなして路銀を稼ぎつつベガリット大陸から中央大陸に戻りアスラ王国に帰る。

 その道中で立ち寄った冒険者ギルドでパウロの伝言を読んで…パウロと合流し、ゼニスの救出の為の力になる。

 ……有り得たかもしれない未来だった。

 しかし現状は、転移させられたであろう土地で冒険者にもならずサバイバル生活。

 何かが可笑しい。

 俺の知っているオシィとは別人だ。

 

 

「となれば、オシィに何か起きたと考えるべきでしょうね。ギース、何か会話して気づいた点はないのか?」

 

「うーん。会話も中々ままならない状態だったからなぁ。これでも一方的にでもこっちの話を聞かせるの二も苦労したんだぜ。しかもだ、前回から期間が空いちまったから最悪初めからの可能性もある」

 

「初めからと言うと……」

 

「目にした途端に剣を向けて来るじゃろうな。何が逆鱗に触れたのか分からんが、拠点を幾度も捨ててまで逃げ回っている相手じゃぞ」

 

「ありゃパウロの名前を軽率に出したからだろうよ。アイツの代わりに来たって言った瞬間だぜ」

 

「それは可笑しいです。父様の名前を出したのなら少なくとも話くらい聞いてくれるはずですし……。ギース、名前は名乗ったのか? 元のパーティー名は?」

 

 

 パウロに何度も冒険者時代の話をせがんでいたオシィならメンバーの名前くらいは知ってるはずだ。

 

 

「もちろん伝えたさ。結果は……言うまでもねぇな」

 

 

 一体何があったというのだ?

 ……いや、考えても仕方ない。

 

 

「今までの話を纏めると、オシィらしき人物を見つけた。ほぼ確定しているが、説得に失敗。家族である俺を呼んで直接連れて帰ろうって事でいいですか?」

 

 

 俺の言葉に頷くギースとタルハンドさん。

 パウロの元パーティーメンバーではオシィの警戒を解けなかったから、俺とロキシーの出番と言う訳だ。

 でも待てよ……ノルンとアイシャならともかく、オシィは俺の事が分かるだろうか?

 双子だけどせいぜい容姿が似ている以外の双子要素が無い俺とオシィ。

 フィットア領転移事件から既に5年以上、俺が家庭教師としてロアの街に行く為に家を追い出されたのが7年前……。

 10歳の誕生日に会っているとは言え、それから5年も経てば身長も伸びて身体つきも変わっているはずだ。

 流石に髪色が変わっていたり、全く違う顔になっていたりしたら別人だと思うが、ギースの話ではパウロの自慢話を聞いていただけで分かるレベルなはずだ。

 俺なら必ずオシィの事がわかるはずで、逆もまだ叱り。

 俺の事が分からない程オシィの記憶が曖昧だったのなら、最悪ロキシーが居るから大丈夫だろう。

 言っちゃ悪いが、ロキシーは俺とオシィの家庭教師を辞めてから殆ど変わっていない。

 いやまぁ、そこが可愛い所でもあるのだが……今はそのことに感謝だ。

 

 

 

 

 

 砂漠を渡って森に到着した。

 日が傾いていて、居場所の把握が難しいとのことで今日は森の端で野営を取る。

 何事もなく朝になり片付けをして森の中に入ってオシィを探す。

 ギースの話では、オシィは森に拠点を構えているとのことだったが、ギースがしつこく会いに行き失言をしてしまったせいで別の場所に移したと言う。

 先ずはオシィの拠点を見つけ出す所から始まった。

 

 森には魔物や動物が多数生息していたが、ベガリット大陸の砂漠で有名なグリフォンに比べれば遥かに弱い。

 魔術師3人の偏った編成だったが、それでも集まっている個人の力量が高くて苦労は無い。

 

 

 森を探索する事数時間後ようやく俺たちは目的の人物を見つけた。

 

 

 ボロボロの布切れに近い服。

 所々汚れている肌。

 ボサボサで不格好に短くしている髪の毛は俺と同じ色合いをしている。

 腰にぶら下げている剣を抜き俺たちに向けていて、何時でも剣の間合いに飛び出せる様に体制は低い。

 ぎらついている目はパウロそっくりで、今にでも俺達を射殺さんと睨みつけていた。

 

 そうだ。

 成長していようが見間違えるはずもない。

 パウロとゼニスを割った様な容姿、俺の女体版とでも言えそうなその姿は間違いなくオーシノル・グレイラットだった。

 

 おいおい!?

 俺かロキシーを見れば説得は済むはずだっただろうッ!?

 無意識のうちに魔眼に魔力を注いていたが……ブレて見える。

 何時ぞやルイジェルドに使った時と同じだ、と言ってもルイジェルド程はぶれていない。

 俺の知っているオシィから成長しているとしたら最低でも別れた時のエリスと同じくらいの技量を持っていると考えた方が……。

 

 って違うだろ。

 俺達は戦いに来たんじゃない。

 目でロキシーに合図を送る。

 これで分かってくれたら良いのだが……彼女は頷き返してくれた。

 偶に失敗してしまう彼女の事だから、俺の意図してない事をしでかさないかハラハラするが、まぁロキシーなら大丈夫だろう。

 やる時はやる人だし、まさか弱っている弟子に魔術を放ったりしないはずだ。

 

 

「武器を降ろしてオシィ。俺だよ。ルーデウスだ」

 

 

 こうして俺とオシィは再会したのであった。

 実に6年ぶりの再会だった。

 

 感動の涙の再会とはならない。

 この世界は物語ではない。

 現実であり、自分が世界の中心ではなく、時には理不尽に残酷な結果が押し付けられるということを再確認する。

 あぁ、世界はクソだ。

 それでも俺は生きていかなきゃならない。

 

 まぁ生きていただけマシ……。

 そう思う事で俺は心を安定させて、オシィの説得を始めるのだった。




次回から元に戻します。


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