現代に蘇りし超戦艦「大和」 (クローサー)
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前日譚
再臨の時


加筆修正(前日譚投稿)。
モチベと衝動が赴くままに。少し前に「出撃準備」の加筆修正も行なっております。


中国統一戦線の電撃的打倒。

欧米植民地化していたアジア諸国の解放。

大東亜共栄圏の確立。

第二次世界大戦の勝利。

 

これらを僅か8年で成し遂げた大日本帝国は、間違いなく繁栄を極めていた。しかしそれは、ナチス・ドイツやアメリカ合衆国も同じ事が言えるだろう。

 

 

アジア諸国を解放し、大東亜共栄圏として太平洋を手中に収めた大日本帝国(有色人種の希望)

ヨーロッパ全域を征服し、ソビエト連邦を崩壊させて東方生存圏を確立したナチス・ドイツ(狂気の最強軍事国家)

第二次世界大戦に敗北しながらも、圧倒的な経済力で成長を続けていたアメリカ合衆国(民主主義最後の砦)

 

 

三大国のイデオロギーの相違は、あっという間に世界を舞台とした戦わない戦争…「冷戦」となって顕現。

世界は分断され、数多くの国家は三大国が繰り広げる冷戦の舞台として利用され、数多くの革命、国家の分断、国家の再統一を生み出し、何億人もの尊き命が戦場で散って行った。

 

しかしどんな戦いにもいつかは終わりが来る。世代の交代によって、大日本帝国とアメリカ合衆国は融和の歩みを試みた。

最初は酷く小さな1歩だったそれは、長い長い努力の末、次第に大きくなっていく。やがて二大国は真正面から向き合って融和の握手を交わし、大日本帝国とアメリカ合衆国の二大国の冷戦の終わりを、世界に告げた。

 

2010年。大日本帝国とアメリカ合衆国の関係改善に水を差すかのように、ナチス・ドイツ3代目総統は「フリードリヒ・デア・グローセ」及び「グロース・ドイッチュラント」を大規模近代化改修の後に再就役する事を発表した。

 

何の前触れもない電撃的な発表は、全世界に衝撃を以って伝えられる。

この発表に対して、大日本帝国とアメリカ合衆国も呼応した。否、せざるを得なかった。何せ「敵が持つ兵器は自国も持たねばならない」というのは、軍事上の基本。

すぐさま大日本帝国は「大和」及び「武蔵」、アメリカ合衆国は「アイオワ」、「ミズーリ」、「モンタナ」を大規模近代化改修の後に再就役する事を発表。

 

此処に、戦艦の近代化大規模改修という名の三大国の威信を賭けた「第二次冷戦」が勃発したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2014年7月13日、横須賀本港。

 

その外縁には、東京湾を見渡せる場所を埋め尽くすかのように、数十万人もの日本人達が集結していた。

横須賀港に設置された式典には大日本帝国首相を始めとして、大東亜共栄圏に加盟している各国の要人の姿も見える。

 

彼等の目的は、此処に訪れる大和を一目見る為。

 

つい先日、大和が近代化大規模改修を終え、呉の造船ドックにて進水式が行われた事は記憶に新しい。

勿論進水式でも盛大な式典が行われていたが、今回はより大きな式典となるのは、規模を見れば一目瞭然だ。

 

現在、午前の10時27分。

式典では大和来航前に行われる一連のパフォーマンスや演説が終了する所に差し掛かっていた。ステージに立つ大日本帝国首相はマイクを手に取り、演説を行なっていた。日本国民に対する演説をしていた最中、右耳に付けられていたイヤホンに無線の声が入ったらしい。区切りの良いところで一度演説を切り、イヤホンから聞こえて来た声に応えるように小さく呟いた。

 

『……分かりました』

 

短く返事をした彼は再びマイクを持ち直し、演説へと戻る。 

 

『では、皆様!!彼方にご注目下さい!!』

 

その言葉をきっかけに、首相が指した先…即ち、本港地区の半島。その影から、数隻のイージス艦に護衛されながら横須賀港に近付く巨大な艦が現れる。

世界最大の46サンチ砲搭載艦にして、近代化大規模改修によってイージス戦艦へと生まれ変わった大和が、遂に姿を現したのだ。

 

『大日本帝国の象徴たる超弩級戦艦、大和!!彼女がイージス戦艦として今、此処横須賀に帰ってきました!!!!』

 

興奮を隠し切れない様子で叫ぶと同時に、大和の艦首に取り付けられてある旭日旗が大きく揺れる。

 

「おおぉっ……!!」

「大和だ、大和だ!!」

 

感嘆の声の後、歓喜の声を上げる観衆達。大日本帝国が誇る世界最強の軍艦の帰還を、誰もが待ち望んでいた。

 

『それではこれより、大和の46cm砲による祝砲が発射されます!とても大きい砲撃音となりますので、苦手な方は耳をお塞ぎ下さい!』

そう言い終えた直後に大和の46cm砲の砲身が上向く。そして会場に設置されているスピーカーからは、祝砲のカウントダウンが始まる。

そして。

 

『5、4、3、2、1……今ッ!!!』

 

 

──ズドォォォォォォォォォンッ!!!!!!

 

 

その瞬間、轟音が鳴り響いた。それは空砲であれど、世界最大を誇る46センチ砲弾を撃ち出す火薬量と全く同じ。

 

 

──ズドォォォォォォォォォンッ!!!!!!

 

 

祝砲の反動により、船体は大きく震える。しかし大和は、そんな事など意にも介さず。

 

 

──ズドォォォォォォォォォンッ!!!!!!

 

 

悠然と聳え立つその姿は、正に大日本帝国の誇りそのもの。

その雄姿に誰もが息を呑み、魅了される。

都合3度の斉射、計27発の祝砲*1が終わり、静寂が訪れる。

 

その静寂は、やがて人々の声によって打ち破られる。

それは一人一人が発する小さな声。しかしそれは感情を共有する人々に共鳴していき、やがて大きな歓声となって、横須賀本港に響き渡る。

 

「万ざぁぁぁぁい!!」

「大日本帝国、万ざぁい!!」

「大和、万歳ッ!!」

 

大和に向けて手を振り上げ、衝動がままに歓呼の声を上げる。

 

『万歳!!!!』

 

それはやがて、一つの声として統制される。

 

『万ざぁい!!!!』

 

歓喜の声へ。狂喜の声へ。

 

『万ざぁぁぁぁぁぁぁぁいッ!!!!!!』

 

全国民が一つとなって、海の女王たる彼女の再臨を祝福した。

*1
本来ならば21発が最大だが、全門斉射のままが見栄えが良いという理由で、特別に27発の祝砲が実施された。




Q.こういう式典って、多分こういう流れじゃなくね?
A.この世界の大日本帝国はこんなノリなんだ。


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本編
その艦の名は


まさかまた、日本国召喚の二次創作を書く日が来るなんてなぁ…
でも書きたくなってしまった以上、書きたい事は書く。


世界は、大きく変わりつつある。

その始まりは、中央暦1639年8月の事だった。第二文明圏ムー大陸の西…西の果てに突如としてある国家が現れる。

 

その国の名は「グラ・バルカス帝国」。 

通称を第八帝国とする彼等は、周辺国の第二文明圏外国や列強国への接触を開始。しかし第二文明圏の多くの国が攻撃的であり、尚且つグラ・バルカス帝国への認識が文明圏外国ということもあって各国にさんざん軽くあしらわれ、遂には第二文明圏列強国「レイフォル」の保護国である「パガンダ王国」が、国交開設に出向いていた皇族を含んだ使者団を処刑する事件が起きた。この事件にグラ・バルカス帝国は遂に怒り、パガンダ王国を含んだ第二文明圏への侵略を開始。パガンダ王国を僅か4日間で滅ぼす。保護国を滅ぼされた第二文明圏列強国 レイフォルはこの行動に怒りを表し、グラ・バルカス帝国に対して軍事行動を開始した。列強最弱国とはいえ、それでも100門級戦列艦や竜母を含んだ43隻の艦隊。これだけでも並の文明圏の海軍は敵わなかっただろう。

 

しかし、グラ・バルカス帝国はそれを遥かに超える超兵器を投入したのだ。

レイフォル艦隊殲滅の為に出撃したのは、「グレード・アトラスター」単艦のみ。しかし300mを超えるその巨体に搭載された武装と能力は恐るべき戦闘能力を発揮し、レイフォル艦隊を20分足らずで殲滅。その勢いそのままに、グレード・アトラスターはレイフォル首都 レイフォリアに向かい、全力攻撃を開始。その結果レイフォリアは灰燼に帰し、レイフォル皇帝は居城にて砲撃に巻き込まれて死亡。残存した軍部はグラ・バルカスに対して無条件降伏。戦争勃発より僅か3日間でレイフォルは滅亡。グラ・バルカス帝国はレイフォルを自国領に編入し、入植を開始。

グレード・アトラスターが単艦でレイフォル艦隊43隻を撃滅し、その足でレイフォル首都レイフォリアを焼き尽くして列強国を滅ぼした事は、この世界の歴史に激震を起こし、グレード・アトラスターは世界最大最強の艦として恐れられる事となった。

 

 

それから約1年後。今度は東の果て、第三文明圏にて新たなる世界の激震が「2つ」走ることになる。

第三文明圏列強国「パーパルディア皇国」が、グラ・バルカス帝国のように突如世界に姿を現した謎の新興国「大日本帝国」に降伏。74の植民地は全て独立。本国も大日本帝国の属国とされ、列強国から転落する事となる。

 

もう一つの衝撃は、「エストシラント沖大海戦」に於いてパーパルディア皇国の3個艦隊が大日本帝国の1個艦隊に殲滅されたというもの。

これだけの言葉なら世界にまで広がる衝撃かと言われると怪しい所はあるが、双方の艦隊の内訳を見ると話は全く変わってくる。

 

パーパルディア皇国の3艦隊は木造艦船600隻から構成されるのに対し、大日本帝国は僅か11隻の艦船。つまり大日本帝国は約55倍の物量差を叩き潰したという事だ。これは先のグレード・アトラスターのが確認された「ムー大陸西方海域海戦」の43倍の物量差を上回るのに加え、パーパルディア皇国が降伏して大日本帝国の降伏文書に調印する際、外交官などを載せてエストシラント港に現れた1隻の超巨大戦艦。

その姿はグレート・アトラスターにも劣らない巨体を誇り、僅か11隻の中にこれが含まれていたのならば、確かに殲滅する事など容易な事だろうと目撃したあらゆる者達を納得させると共に、もう一つのグレート・アトラスターの存在を知る事となった多くの文明圏国は、その事実に恐怖する事になる。

 

 

グラ・バルカス帝国と大日本帝国。

世界秩序を破壊し、新たなる列強国として現れた二国の邂逅は、すぐに訪れる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先進11ヶ国会議。

神聖ミリシアル帝国の港町カルトアルパスにおいて、2年に1度開催される各文明圏の有力な文明国による国際会議であり、世界に多大な影響力を持つ大国が参加。参加国のみが今後の世界の流れを提案して議論し、決定することができる。

それは参加するだけでもこの世界では名誉なことであり、世界中から「大国」として認識される。

 

しかし今回の先進11ヶ国会議は、今までと少々勝手が違う。

前回まで先進11ヶ国会議の固定参加国として参加していた第二文明圏列強国レイフォル、第三文明圏列強国パーパルディア皇国が相次いで滅亡。レイフォルの領土と周辺国家は植民地となり、パーパルディア皇国の元植民地は独立し、本土は属国「パーパルディア連邦」として建国。僅か1年で前回制定した世界運用の方針は完全崩壊し、主催国の神聖ミリシアル帝国は急遽、大日本帝国とグラ・バルカス帝国を暫定的な参加国としてそれぞれ招待。両国はこれに応え、先進11ヶ国会議に出席する事も決定している。

 

彼らを除く世界各国は、今回の先進11ヶ国会議は荒れるだろうと予感していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

中央歴1942年4月22日。

神聖ミリシアル帝国 カルトアルパス港。

第一、第二文明圏内に於いては有数かつ広大な規模の港湾機能を持つ。その規模は、「神聖ミリシアル帝国の第二の心臓」と例えられる程である。故に其処は中央世界の貿易拠点となり、世界中の商人たちの生の声が聞けるため、その手の者達からは様々な情報が飛び交いスパイが集まる町としても知られる。

それはさておき、主催国の領土かつ大規模な港湾機能を持つこの都市は、先進11ヶ国会議に最適な開催地として選ばれており、今年も港湾は大賑わいとなっている。港湾管理者の元には、先進11ヶ国会議参加国の軍艦の情報が、次々と集約されてくる。

港に着いた艦は、魔導通信具を持つ港湾作業員が連携して誘導、着岸させていく流れだ。

 

『第一文明圏トルキア王国軍、到着しました!戦列艦7、使節船1、計8隻』

『了解、第一文明圏エリアに誘導せよ』

『続いて第一文明圏アガルタ法国、到着。魔法船団6、民間船2』

『了解、先に到着したトルキア王国軍船団の隣に誘導せよ』

「…この辺りのは代わり映えせんな」

 

魔導通信具からの報告を聴きながら、港湾管理者のブロントは、カルトアルパス港管理局の窓から港湾の様子を眺めていた。

軍艦が好きな彼にとって、この行事は仕事であると同時に祭りのようなものである。

 

「此処に第零式魔導艦隊がいれば、各国の艦隊も貧相に見えるだろうな」

 

第零式魔導艦隊とは、神聖ミリシアル帝国海軍が誇る精鋭艦隊。最新鋭艦が配備される花形の艦隊であり、神聖ミリシアル帝国の強さの象徴でもある。普段はカルトアルパスを拠点としているのだが、今日からは先進11ヶ国会議の場となる為に、この時期になると西にあるマグドラ群島にて訓練航海を行うのが恒例となっている。自国の誇りの象徴を他国に見せ付けられないのを残念に思いつつも、次の艦隊を待つ。

ブロントは今回、どんな艦を送ってくるのか楽しみにしている国が2つある。

 

一つは、西の列強国レイフォルを落とした新興軍事国家グラ・バルカス帝国。

一つは、第三文明圏列強国パーパルディア皇国を解体した謎大き国、大日本帝国。

 

両国とも一体どのような艦隊で来るのか、この時点で彼の胸の高まりは止まらずにいた。

アガルタ法国の船団が全艦着岸したその時。岬の塔の監視員が突然通信越しにわめき始めた。

 

『な、何だあれは!?』

『あれは艦…なのか?なんて大きさなんだ…!?』

「こちらアルトカルパス港管理局、報告は適切に行え。何が見えた?」

『あっ…失礼しました。大日本帝国国旗を掲げた巨大な艦が1隻、そちらに向かっております』

「了解した。…来たか!」

 

ブロントは魔導通信の発信を一旦切り、1人興奮気味に呟く。

しばらく待っていると、水平線の彼方から灰色の艦が見えてくる。接近と共にその姿は巨大となっていき、湾内に入ってくる頃には余りにも巨大な全貌を明らかにした。それは、世界一の列強国と謳われる神聖ミリシアル帝国の魔道戦艦のスケールに見慣れていたブロンドでさえ絶句する程の造形美と力強さを持った艦であった。

 

「これが、パーパルディア皇国の艦隊を殲滅した巨大戦艦…!!」

『だ、大日本帝国到着。戦艦一隻のみ』

『了解。第三文明圏エリアに…入るのか…?いや無理だ、第三文明圏エリアじゃどう考えてもそんなスペースが残っていると思えない』

「第二文明圏エリアに予備のスペースがある、そこに誘導せよ。あの巨体が身動き出来なくなるよりはずっと良い」

『了解しました』

 

誘導先の変更指示を受け取った湾岸作業員が慌ただしく動き、入ってくる巨大戦艦の誘導を開始。その指示に従い、ゆっくりとカルトアルパスへ着岸していく。

アルトカルパスの住民達は、その巨大で優雅な姿に圧倒されていた。

 

 

 

あらゆる者達を釘付けにしているこの艦の名は、大和。

 

大和型イージス戦艦 大和。

 

1940年8月8日に進水。第二次世界大戦勝利後、1970年に一度退役。2010年から大規模近代化改修が開始され、転移直前の2014年に再就役。転移後はロウリア戦役、パーパルディア戦役に参加。合わせて木造船数千隻もの撃沈戦果を持つ。

 

 

大日本帝国が誇る、世界最大にして世界最強の戦艦だ。




イージス戦艦として現代に蘇った大和と、現役として活躍し続けるグレード・アトラスター(もう一つの大和)

対決したらなんか面白そうだなぁ、と思ってやってみた。需要あるかどうかは知らん。


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出撃準備(1/8加筆修正)

この作品は「大和」が主役なので、大和に関わらない設定はフィーリング(という名のガバガバ設定)。息抜き作品故に出来るだけ頭空っぽにして書きたい。

2023/1/8追記
前半の文章に加筆修正しました。


大和型戦艦一番艦「大和」。

 

対米戦争に備え、1940年8月8日に機密裏に建造。いくつかの海戦を経て第二次世界大戦を生き残った後、冷戦の最前線で大日本帝国の強大な戦艦として、モンタナ級戦艦やH級戦艦としのぎを削る。その後1970年に一度退役し、予備艦の一つとして暫くの間の平和を過ごした。

しかし2010年、イデオロギーの相違から関係が冷却化し続けていたナチス・ドイツがH級戦艦「フリードリヒ・デア・グローセ」及び「グロース・ドイッチュラント」を大規模近代化改修の後に再就役する事を発表すると、大日本帝国とアメリカ合衆国も更に呼応。大日本帝国は戦艦「大和」及び「武蔵」を、アメリカ合衆国は戦艦「アイオワ」、「ミズーリ」、「モンタナ」をそれぞれ大規模近代化改修の後に再就役する事を発表し、三つ巴の「第二次冷戦」が勃発する事となる。

 

第二次冷戦の目玉となったのは、それぞれが再就役させる戦艦。つまりはフリードリヒ・デア・グローセ、グロース・ドイッチュラント、大和、武蔵、アイオワ、ミズーリ、モンタナの7隻。

「戦艦」という国民達に分かりやすい力の象徴であるソレは、他国に負けぬよう其々が国力と技術を惜しみなく投入し、第三次世界大戦にも耐え得る性能の獲得を目指して改修された。

大和と武蔵の大規模近代化改修の大まかな概要は、以下の通りとなる。

 

・仮想敵は大規模近代化改修後のフリードリヒ・デア・グローセ、グロース・ドイッチュラント、アイオワ、ミズーリ、モンタナ、及び米独艦隊。これら有力な敵戦力の脅威とするには、一種の「アーセナル・シップ」へと大和を進化させる事が最適解と判断する。

・日本版イージスシステム「10式総合戦闘装置(神の目)」を搭載。これにより、直線的な新型艦橋へと換装する。

・上記の搭載に合わせCIWSや対空砲、ミサイルVLSを搭載。

・敵戦艦との砲撃戦も考慮し、15.5cm3連装砲を自動装填及び無人砲塔化した18cm連装砲に換装。主砲の46cm砲は再新すると共に砲身長を拡張、自動装填装置を導入。

・機関は大和及び武蔵専用に新規開発されたガスタービンに換装。悪化する燃費は、機関換装や区画整理によって生まれる余剰スペースを燃料タンクとして活用する。

バイタル・パート(重要防御区画)内にCICを設置。

・航空機運用機能は完全に撤廃し、生まれた余剰空間に10式垂直発射装置(VLS)を搭載する。

 

その他にも省人化や最新設備の導入などがあるが、特徴的となるのは上記の物となるだろう。近代化大規模改修の優先順位は大和>武蔵となり、2012年の震災などで遅れが生じつつも、最終的に2013年に完了。試験航行やシステムチェックなどを行い、2014年に大和は再就役する事となった。

大和の武装は、以下の通りである。

 

・10式50口径46cm3連装砲 3基9門

・10式18cm連装砲 2基4門(旧12.7cm三連装砲の部分に搭載)

・90式76mm単装砲 4基(艦橋の左右に設置)

・84式25mmCIWS 8基(艦橋の前後左右に設置)

・10式垂直発射装置 6基(旧カタパルトの位置に設置。1基に付き6×6のミサイルセル)

 

46cm砲という世界最大の主砲と、総数216のVLSによる世界最大のミサイルセル保有数。この2つの要素をたった1隻で独占する事となった大和は、正に「世界最強のイージス戦艦」として2014年に、再び青い海へと再臨した。

 

だが、此処から大日本帝国と大和は実に奇妙な歴史を辿る事となる。

武蔵の近代化大規模改修が本格化していた2015年、突如日本列島は異世界に転移。植民地を突如全喪失した上、既存の国交や交易が全て途絶えた事により、1年未満で資源危機が訪れる事は明白だった。幸い、早期にクワ・トイネ公国やクイラ王国との国交を結び、食糧資源や石油資源などを輸入することにより、資源危機は早期解消を見せる。

が、此処から大日本帝国は戦乱の歴史に巻き込まれる事となる。ロデニウス大陸を統一せんとしたロウリア王国、初接触の大日本帝国に対して服従を要求し、「フェン王国」侵攻の際に捕らえた外交官を殺害し、大日本帝国を激怒させたパーパルディア皇国。この2ヶ国と僅か2年で戦争を行う事となる。

この両戦争の海戦に大和は投入され、絶対の技術差と戦力差を以って圧倒。ロウリア海軍の木造船3000隻以上、パーパルディア皇国海軍の木造艦を600隻の殆どを単艦で撃沈し、その存在をグレード・アトラスターと共に世界に轟かせた。

 

余談だが、転移によって仮想敵国の技術や国力が大幅な低下した事により、武蔵の大規模近代化改修は一時中断。VLSの搭載数を削減し副砲を追加搭載するという新規改修案が提出され、議論が進められている。

 

そして今回、大和は外交官を乗せてこの世界の列強国「神聖ミリシアル帝国」が主催して開催する先進11ヶ国会議に参加。大和を使った砲艦外交で他国を牽制する為、先進11ヶ国会議の開催場であるアルトカルパス港に大和は単艦で派遣される事となる。

何故艦隊ではなく単艦かというと、まず戦闘を前提としたものではなく、あくまでも他国牽制の為の砲艦外交でしかない。そして大和の圧倒的な戦闘力は既に他国に知れ渡っており、軍事力のアピールは大和のみで十分に主張する事が出来るからだ。大和を加えた艦隊を組んでいくとなると、流石に過剰な警戒を招く事になる。

あくまでも他国の牽制程度に留める為、大和単艦での参加という形になったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大和がアルトカルパス港に着港して外交官を下ろした少し後、アルトカルパス港に入ってくる1隻の巨大戦艦。

それは大規模近代化改修を施される前…WW2(第二次世界大戦)の時の大和にそっくりで、大和に乗っている者達にデジャブを与えていた。

 

「あれが、グレード・アトラスターか…」

 

CICのモニターに映し出されるグレード・アトラスターを見つめながらそう呟いたのは、大和の船長を務める「瀬戸 衛」。

 

「見れば見る程、二次大戦時の大和とそっくりですね」

「流石に細部は違うようだがな。25mm機銃の代わりに高角砲が針鼠のように搭載されているように見える。対空能力は当時の大和よりも上だろう」

「となると、航空戦力もそれ相応の戦力は確実に保有している事が考えられますね」

 

艦長と副長がそんな会話をしている間にも、グレード・アトラスターは湾岸誘導員の誘導の元、ゆっくりと第二文明圏エリアへと入港していく。

そうなれば当然、第二文明圏の空きスペースに臨時で停泊している大和に接近し、グレード・アトラスター側からも大和の全容をより詳細に確認できるようになる。

 

グレード・アトラスターの艦橋から大和を見ているラクスタル艦長は、その光景を見て目を細めた。

 

「あれが、報告に上がっていた我が艦に似た戦艦か…成る程、確かによく似ている」

「艦橋は直線的で、対空砲はかなり少なく見えますね。余剰スペースもかなりあるようですが……何方にしろ、あの対空砲の少なさを見るに、航空攻撃に対しては脆弱でしょう」

「そうだな。しかし、それでも油断は禁物だろう。我が艦と同等の防御力はあると考えていい筈だ」

 

ラクスタルはグレード・アトラスターの防御力の高さを信じているが、同時にグレード・アトラスターと良く似た大和の防御力も高いと考えていた。

大和の主砲に注目して観察すると、やはり大和のそれはグレード・アトラスターの主砲と酷似していた。恐らくだが、口径も同じか僅かに上回っているだろう。

 

(今までの敵は容易く葬ってきたが…この艦と戦うとなると、そうはいかないだろうな)

 

大和と戦えばどうなるのか。グレード・アトラスターの乗組員達は、どんな形であれ必ずグレード・アトラスターが勝利し、真なる世界最強の戦艦となる事を確信していた。そして大和の乗組員も、どんな敵が立ちはだかったとしても、必ず大和が勝利すると確信していた。

 

大和の横を通り過ぎたグレード・アトラスターは、そのまま第二文明圏エリアに着港する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうして世界を牽引し得る11ヶ国が集い、新たなる世界秩序の構築を目指して開催された先進11ヶ国会議。

しかしその会議は余りにも酷い進行を見せた。

 

エモール王国による空間の占いの結果(古の魔法帝国復活)の公表。

グラ・バルカス帝国による世界服従勧告。

神聖ミリシアル帝国の地方隊(第零式魔導艦隊)がグラ・バルカス帝国の艦隊の攻撃を受け、事実上の戦争状態に突入したという事。*1

 

つまり、どういう事かを簡潔に言えば。グラ・バルカス帝国は世界を…否。

 

大日本帝国(大和)を、敵に回したという事だ。

 

 

『総員、傾聴。艦長の瀬戸 衛だ』

 

『現在我が艦が停泊しているアルトカルパスにて開催されている先進11ヶ国会議にて、一つ火急の事態が発生した』

 

『つい先日グラ・バルカス帝国が世界に対して服従勧告を行い、そして先程、主催国である神聖ミリシアル帝国が此処から西にあるマグドラ諸島の地方隊が被害を受けたと公表した。この攻撃はグラ・バルカス帝国艦隊によって行われ、此処アルトカルパスに向かっている可能性があるとの事だ』

 

『神聖ミリシアル帝国を筆頭とした9ヶ国が、この事態に対し臨時に連合艦隊を結成する事を決定。我が国もこれに参加する事を決定し、我が艦は臨時連合艦隊の1隻となる』

 

『敵は今までの木造艦やワイバーンとは違う。二次大戦時の技術と戦力を持った近代国家が相手であり、この湾岸の先に、超弩級戦艦が率いる1個艦隊が待ち受ける事は確実だ』

 

『対して味方の海上戦力は木造艦や一次大戦の戦艦、どれだけ良くても戦間期の巡洋艦程度の物。神聖ミリシアル帝国のエアカバーが提供されるとの事だが、対等以上の敵との実戦経験が無いパイロットで、果たしてどれ程の戦果が期待出来るのかは不透明と言わざるを得ない。つまり最悪の場合、現戦力でまともに対抗し得るのは我が艦のみとなる』

 

『だが、何ら臆する事など無い。何故なら我が艦は世界最強のイージス戦艦であるからだ。我が艦の能力を存分に発揮すれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事を私は確信している』

 

『総員、第二種戦闘配置に付け』

*1
実際は世界最強の艦隊であった第零式魔導艦隊が文字通りの「全滅」となった。しかしこれを公表する事は国威に極めて影響される為、他国にはあくまでも「奇襲によって地方隊が壊滅した」というカバーストーリーで説明された。




次回からアルトカルパス沖海戦改め、フォーク海峡海戦をやっていく予定。気乗りしたらだけど。


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攻撃開始

完成はしてたけど、地球防衛軍6をやりこんでて最終見直しが遅れた。

戦艦復帰の設定が余りにもフンワリとし過ぎたなー、と反省。
どっかのタイミングで、設定を少し改訂しよう。

相変わらずのフワフワ進行で今回もやってくぞ。日本国召喚はこんくらい気楽にやるのが良い。


「さて……」

 

港町アルトカルパスから出港し、即席で編成された世界連合艦隊の最先頭でマグドラ沖を目指す大和。

その船内、バイタルパートで守られたCICにて船長の瀬戸 衛は状況を改めて整理していた。

 

此方(世界連合艦隊)の戦力は、以下の通り。

 

・大日本帝国 イージス戦艦大和

・神聖ミリシアル帝国 魔導巡洋艦8隻

・ムー 戦艦2隻、装甲巡洋艦4隻、巡洋艦8隻、空母2隻

・トルキア王国 戦列艦7隻

・アガルタ王国 魔法船団6隻

・マギカライヒ共同体 機甲戦列艦7隻

・ニグラート連合 戦列艦4隻、竜母4隻

・パンドーラ大魔法皇国 魔法船団 8隻

 

以上61隻の大艦隊となり、この陣容に殆どの各国の担当者は自信を持っていた。

 

「………改めて見返すと、一体何の罰ゲームだ?」

 

だが、大和乗組員全員がこの陣容に対して自信を抱くどころか、殆ど邪魔なお荷物(護衛対象)しか居ないことにため息を付いていた。

 

「百歩譲ってムーの艦隊やミリシアル帝国の巡洋艦は良いとしても……いや、それでもムーの艦はWW1(第一次世界大戦)レベルの艦だから、どちらかと言うと戦力外寄りか。残りは完全に戦力外の、中世の戦列艦や魔法頼りの船団ばかり…」

「かと言って戦力外と言って追い出すのも、政治的にも不可能です。結果的にとはいえ、無能な味方は敵よりも厄介ですな」

「全くだ」

 

相手は、第二次世界大戦相当の技術を持った近代的な艦隊。そんな相手に戦列艦をぶつけたらどうなるかなど、議論するまでもない。魔法という不確定要素があれど、しかしこの戦いに於いては完全に役立たずだろうという事は、これまでの戦役と他国の交流で察してはいた。

 

「とはいえ、嘆いていても状況は変わりない。この即席で脆い艦隊で、グラ・バルカス帝国の艦隊に勝利しなければならない」

「問題は、相手の艦隊がどのような規模になるかですね」

「空母がいれば、初手は必ず航空攻撃で打撃を与えてくる。そうなればミリシアル帝国とエアカバーに入る予定だ。空戦で撃墜漏れした航空機を、我々が迎撃すればいい。不味いパターンは、戦艦中心の艦隊で組んで来る事だ」

「そうですね…ミサイル構成が従来の対空攻撃に重視したものとなっているので、対艦ミサイルが足りれば良いのですが」

 

現在、大和のミサイルVLSに装填している殆どのミサイルが97式長距離対空誘導弾(艦隊防空ミサイル)99式短距離対空誘導弾(個艦対空ミサイル)であり、超遠距離の対艦攻撃力に欠けている状態となっていた。

その理由は転移後のロウリア戦役及びパーパルディア戦役。転移後の仮想敵国では、対艦ミサイルは完全にオーバーキルかつコストパフォーマンスが極悪を極め、対艦攻撃ならば艦砲のみで十分に過ぎる。そしてワイバーンに対する長距離攻撃手段として対空ミサイルが最適という結論の元、一時期はVLSが対空ミサイルのみで占有していた。しかし、グラ・バルカス帝国や神聖ミリシアル帝国等の技術レベルが判明するにつれて対艦ミサイルの搭載は必要という事で、16発だけだが12式対戦艦誘導弾が再搭載されていた。

今回の派遣の際も「行き来の際に原住生物の襲撃が無い限り、戦闘も発生しないだろう」という事で、対空重視のまま出港していた。しかしこの判断を非難するのは余りにも酷だろう。この時グラ・バルカス帝国が全世界に対して宣戦布告を行うなど、全知全能の神でも無ければ分かるわけが無いのだから。

 

「カルトアルパス海軍基地より連絡。グラ・バルカス帝国と思われる航空機が接近中。距離約130km、機数約200」

「艦隊の発見報告は?」

「ありません。他にはアルトカルパス海軍飛行隊基地より、ミリシアルの戦闘機『エルペシオ3』42機が離陸したとの事」

「200となると…正規空母2隻、いや3隻と言う所だな。エルペシオ3の機影は捉えられるか?」

「たった今補足しました。数分後、後方より艦隊上空をフライパスします」

「さて、世界一と名乗るに相応しい実力を見せてくれ。神聖ミリシアル帝国」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

十数分後。

 

「………なぁ、副長」

「はい」

「このレーダー反応は、私の見間違いか何かか?」

「残念ながら、現実です」

 

CICの画面には、青色に識別された神聖ミリシアル帝国の航空機と、赤色に識別されたグラ・バルカス帝国の艦載機が入り乱れて空戦を行なっている様子が映し出されている。

但し、グラ・バルカス帝国のレシプロ戦闘機が、神聖ミリシアル帝国のジェット戦闘機を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()状態で、戦闘が推移してしまっていた。

 

「想定を遥かに超えて酷いな、これは。ミリシアルのジェット戦闘機が()()()()()()()()()()()()()様子を見て、嫌な予感がしていたが」

「にしても、まさかジェット戦闘機がレシプロ戦闘機の性能に()()()()()とは思いませんよ。異世界だから、と言われればそれまでですが…数的にも不利なのに、性能面でも負けてしまってはこうもなります」

 

そう話しているうちに、レーダーの青い点(ミリシアル航空機)の反応が消失した。対して赤い点(グラ・バルカス艦載機)は、ほとんど数を減らしていないように見える。

 

「ミリシアル帝国航空機、全機撃墜されました。グラ・バルカス航空機の損害、確認出来ません」

「…さて、これで頼りになる戦力は我が大和を除いてこの戦場に存在しない事がはっきりした。ならば存分に見せ付けてやろう」

 

 

「大和こそが、世界最強の戦艦であると!対空戦闘用意!」

 

 

遂に、大和が三度の戦火を噴かせる時が来た。

 

「全対空ミサイル用意、目標敵艦載機」

「誘導限界数で撃ち込め、命中後は随時適当な目標に攻撃を継続。射程に入り次第、18cm砲及び76mm砲の対空射撃も実施せよ。艦載機の数は多い、必ず艦砲の射程に入り込んでくるぞ」

「了解」

「攻撃準備、完了!」

「撃ち方はじめ!!」

 

艦長たる瀬戸の号令を合図に、6基の10式垂直発射装置から対空ミサイル16発が連続で撃ち上がる。誘導能力の関係上、およそ200機を同時迎撃は出来ない。そんな事をすれば誘導能力のキャパシティを超過し、ミサイルの無駄撃ちに終わる。故にまずは、確実に命中(誘導)出来る16発を放っていく。

 

突如、世界連合艦隊の先陣を切って進む大和の船体後部から噴火の如く炎を吹き上げる光景を見ることが出来た、世界連合艦隊の人員は例外無く驚愕し、動揺した。

 

「な、何だ!?」

「いきなり爆発したぞ!!なんでだ!?」

「…いや、違う!!何かを打ち上げて…前に飛んでっている!」

 

その中でもある伝説の内容を知っている人物は、とある兵器を思い浮かべていた。

 

「……まるで、誘導魔光弾のようじゃないか……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラ・バルカス帝国東部方面艦隊の空母から発艦した艦載機200機。

彼等は防空戦力として出撃してきたミリシアル帝国のジェット戦闘機を難なく殲滅した後、乱れた陣形を整えて再びアルトカルパスへと進路を取っていた。

彼等の目標は、アルトカルパスより出航しているであろう敵艦隊への攻撃。正確に言えば、大和への攻撃だった。

大和さえ撃沈すれば、残るのは対空など一切考慮されていない時代遅れの船の群れ、殲滅するのは容易い。故に、最初の一撃の火力を大和に集中させ、一瞬の抵抗すらも許さずに叩き潰す。

 

『件のヤマトって奴はグレード・アトラスターと似てるって話だが、どんなもんかね』

『さぁな。ただ、大したことは無いだろう。情報によると対空兵装は貧弱らしい。防御力が高くても、対空戦闘が出来なければ意味が無い』

『そうだな。まぁ、戦艦を墜とせば勲章が貰えるし、良い稼ぎにはなるか』

 

編隊を組んで空を飛んでいる彼等は、適度な緊張をしつつも気楽な雰囲気で無線による会話を行なっていた。

この戦いの前にも、グラ・バルカス帝国東征艦隊は世界一と謳われている神聖ミリシアル帝国、その最高海軍戦力たる第零式魔導艦隊を消滅させている。

 

最早、グラ・バルカス帝国に敵う者なし。そう彼等は確信し、劣等なる現地文明達を舐めていた。

 

 

だからこそ、彼等は、グラ・バルカス人は想像する事を忘れてしまった。

 

『………ん?』

 

自分達以外にも、この世界に何かしらの文明が転移して来ているかもしれない、という想像を。

 

『どうした?』

 

自分達以上に、技術力が優れた文明が存在しているかも知れない、という想像を。

 

『何か、近づいてきて──!?』

 

自分達が今、今まで侮ってきていた「技術力に劣る蛮族」の立場に立っているかもしれない、という想像を。

 

 

それを考えなかった代償が今(16発の対空ミサイルが)彼等の目の前に(彼等の眼前に)




安定の初手対空ミサイル。


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絶対的な暴力

久し振りの更新。ブランクもあって結構あっさりとなった。
それとちょこっとだけサイレント修正。まぁ見直さなくても問題ないです。


それは、一方的な蹂躙劇となる。

 

『なにが、何が起きたぁ!!!?』

『何かが突っ込んで来たぞ!!全機散開しろ!!』

 

水平線を越え、音速の3倍以上の速度で飛来した16発の対空ミサイル群。

それらは正確にインプットされた各々の目標に向けて一直線に飛行し、近接信管が作動。僅か十数メートルという超至近距離で爆発し、設計段階から意図的に調整された幾千の破片が円錐状に散開。

編隊飛行による密集した航空機群に対する初撃には抜群の攻撃力を発揮したそれらは、目標の16機を爆散させるだけでなく、その近くにいた編隊機の一部にも、破片が命中。運良く過貫通だけで済んだ機体もいれば、運悪くコックピットやエンジン、燃料タンクにヒットし、墜落していく機体もあった。

 

そして当然、彼等への攻撃はこれだけで済むはずが無い。

 

『また来る!!』

『クソッタレがぁぁぁぁ!!!?』

 

16発の対空ミサイルが再び飛来し、爆発。

飛来、爆発の繰り返し。その度に味方が消えて行く。その度に仲間の断末魔が無線機から出力される。

極限まで効率化された攻撃は、瞬く間に連戦連勝を繰り返したグラ・バルカス帝国の航空隊を撃滅して行く。しかし、後にグレード・アトラスターとの砲撃戦を控えている為、ミサイルのみで全機を撃墜はしない。

 

ミサイルの波状攻撃は、第八波(128発)の全弾命中を以って終了する。

しかし、大和の対空攻撃能力はミサイルだけではない。生き残ったグラ・バルカス艦載機隊はその事を考える事なく、仲間を一方的に殺された怨念を吐きながら全速で進んでいく。

 

そして、彼らは遂に水平線の先にある一隻の戦艦を目視する。

 

『アレだ──!!?』

 

それと同時に、射程40kmの射程を持つ10式18cm連装砲の対空砲火が始まった。世界連合艦隊から先行し、面舵60度によって2基4門の全火力を発揮。10式総合戦闘装置(イージスシステム)と近接信管によって百発百中に近い命中精度を獲得したそれは、1基の交互射撃で分間20発の速射能力と合わさって次々と艦載機を破壊していく。

とはいえ誘導砲弾では無い上2基4門という火力の少なさでは、やはり更なる接近は避けられない。

 

だからこそ、更なる対空迎撃が発動する。

 

凡そ9km以内の距離に入り込んだ生き残りの艦載機達に、90式76mm単装砲の対空砲火が加わる。

大和に搭載された90式76mm単装砲は、対艦砲も兼ねている18cm連装砲とは違って「対空砲」としての役割を重視する為に専用で設計されている。

 

分間70発の速射能力。76mm砲故の取り回しの速さ。砲身の延長化による射程距離の拡張。

 

そして艦載機達は1機でも多く生き残って大和に打撃を与えようと可能な限り散開し、やや半包囲のような形で大和に接近していた。

つまりそれは、18cm連装砲と76mm砲の全火力を存分に発揮できるという事であり。

 

『ああああああっ!!!!』

 

常勝の栄光を誇っていたグラ・バルカス航空隊の終焉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、航空隊が全滅するとはな…」

 

場所は変わって、グラ・バルカス帝国海軍東方艦隊旗艦 グレード・アトラスター艦橋。

そこで空母達から発艦し、航空攻撃を行おうとしていた航空隊が全滅したとの報告を受け取ったラクスタルは思わず呟いていた。彼等の周辺では、参謀達が長い間戦術を議論している。

 

「敵に損害を与えられたか確認出来たか?」

「…いえ、接近中に2種類の苛烈な迎撃を受け、1発の攻撃を行う事すらままならなかったようです」

「2種類?」

「はい。一つは超高速のロケットらしき兵器による迎撃、もう一つは「ヤマト」に搭載されていた副砲による対空砲火です」

あの時(入港時)にはロケットを搭載しているようには見えなかったが…いや、今はそれを議論している時ではないか。重要なのは、ヤマト相手に航空攻撃は通用しなかったという事だ」

「それに加えて、ヤマトは我が艦に匹敵する攻撃力を持った超弩級戦艦です。ここに至っては、我が艦隊の全力を以って対応すべきと考えます」

「…ああ。各艦に伝達。空母及び──」

「レーダーに反応!!高空より何かが急速接近中!!」

 

ラクスタルは艦隊に指示を出そうとしていた時。レーダー員が反応を捉え、叫んだ。、

 

「全艦対空戦闘用意!!レーダー員、何かとは何だ!?」

「マッハ4以上!!間も無く艦隊に着弾しますッ!!」

「はっ──!!!?」

 

次の瞬間、彼等は信じがたい光景を目にする事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラ・バルカス帝国海軍東方艦隊に飛来したのは、大和のVLSから発射された16発の12式対戦艦誘導弾。

グレード・アトラスターを除く戦艦及び空母に2発、巡洋艦及び駆逐艦に1発ずつ振り分けられて誘導されていたそれらは、高度約17000mの高空からマッハ2.6の超音速で接近し、艦隊に接近。

そこから全速力で降下し、更に加速した勢いのまま各目標に命中した。

 

ここで少し話は変わるが、対艦ミサイルの名称に違和感を感じた者は居るだろうか?

 

12式()()()誘導弾。

この名称は、誤字にあらず。大日本帝国が2012年に開発した、唯一かつ正真正銘の対戦艦ミサイルだ。

 

通常の対艦ミサイルとは異なり、射程低下と引き換えに先端部に徹甲化が施されたことによって装甲に対する貫通力が付与され、更に三大国が採用している通常の対艦ミサイルの挙動(ポップアップシステム)は採用せず、超高空を超音速で飛行。敵艦隊の迎撃に対しては飽和攻撃で強行突破し、そのまま全速力で降下。マッハ3以上の超音速と徹甲によって戦艦の装甲を貫徹し、船体内部で爆発する事によって1撃で戦艦を破壊する。

 

地球世界では大和のVLSに眠り続け、転移世界では当初戦艦級の敵が現れる見込みがなく、一部では廃棄すら検討されかけていた兵器。

しかし今それを使うに値する敵が現れ、そしてその威力を十二分に発揮する。

 

 

──ドゴゴゴゴゴォン!!!!!!

 

 

約1秒未満の誤差で各目標に命中した12式対戦艦誘導弾。戦艦の装甲すら貫徹する威力にもなれば巡洋艦以下は過貫通を引き起こし、弾頭が海中へと突入していた。

 

命中から僅かに遅れたタイミングで、750kgのTNT爆薬が起爆。戦艦及び空母に命中したミサイルは船体内部で致命的なダメージを与え、あらゆる設備と人員を破壊し尽くす。巡洋艦以下はバブルパルスと呼ばれる現象によって、船体が真っ二つに叩き割らられる。

 

誰がどう見ても、全てが致命傷の一撃。その証拠に、12式対戦艦誘導弾が命中した全隻が急速にその身を海中に沈め始め、乗組員が避難する間も無く轟沈を開始。

 

グラ・バルカス帝国海軍東方艦隊は、壊滅した。ただ一隻、()()()()()()()()()()()()()()()()()()グレード・アトラスターを除いて。

 

生き残った彼女(グレード・アトラスター)は、なりふり構わず面舵を切って180度の転進を行おうとしていた。最早戦略がどうとか、戦術がどうとかいう次元の話ではない。最早敗北は決定的であり、この恐ろしい事実の情報を本国に持ち帰る。それを理由に恐怖を誤魔化し、全速力で撤退を開始した(逃げていた)

 

 

「機関全速、砲撃戦及び砲撃迎撃用意」

 

 

尤も、逃げ切れるか否かは別問題であるが。

 

彼等(大日本帝国)に容赦は無い。愚かにも戦争を挑んできた者達に其れ相応の代償を支払う為に、そして我等(大和)こそが世界最強の戦艦である事を世界に証明する為に。

 

さぁ、邪魔者(艦隊)は排除した。彼等も待ち望んでいたであろう戦い(砲撃戦)を始めよう。




さぁ、砲撃戦やろうかグレード・アトラスター。1対1で絶対に彼女(大和)は逃さないけどな。


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砲撃戦

勢いに乗って最後まで書けました。
…何でマクロスの「ライオン」を聴きながらこの話作れたんだろ。Arcana Eden聴くつもりだったのに。


「ヤマトまでの距離、48km!!」

「第1戦速、面舵90!!右砲戦用意!!」

 

グレード・アトラスターの後尾下部に搭載されている巨大な方向舵が右に傾き、スクリューの回転によって発生する巨大な水流を変化させる。しかし約6万トンもの排水量を持っているこの艦が転舵するには数十秒もの時間を必要とする。しかしそれを過ぎれば、その巨体にしては軽快な勢いで右へと曲がっていく。

 

同時に、グレード・アトラスターの主砲にして故郷のユグド世界最大の主砲である46cm3連装砲3基がゆっくりと旋回し、砲身が少しずつ上向く。その狙いは、グレード・アトラスターの最大船速(30.5ノット)を僅かに上回る32ノットで追撃して来ているたった1隻の戦艦、大和。

 

 

しかし、グレード・アトラスターの乗組員全員が「たった1隻」と侮る事はない。

 

 

1隻の戦艦に、常勝を誇る200の艦載機が殲滅させられた。

1隻の戦艦に、1個艦隊(14隻の東方艦隊)が壊滅させられた。

1隻の戦艦に、グラ・バルカスの栄光が打ち砕かれた。

 

1隻の戦艦に、だ。

 

そして今、唯一の生き残りであるグレード・アトラスターも彼女(大和)から逃げ果せる事は叶わなかった。

僅かに最高船速を上回られたという事実。それ即ち逃走すら許される事はない。だからこそ、グレード・アトラスターは最後の望みを賭けて、46cm砲による砲撃戦を挑む。

 

彼等には、艦隊を壊滅させたあの攻撃を再度行わない理由は分からない。しかし再度行われた所で、グレード・アトラスターに抗う手段など無い以上、考えるだけ無駄。だからこそ彼等は敢えて考えず、大和との砲撃戦を制する事に集中している。

 

面舵90度の転舵が完了し、レーダー照準によって3基の46cm3連装砲の照準を詰める。

相手(大和)は砲撃戦に於いてもグレード・アトラスターと同等の能力を持っているであろう事は、分かり切っている。故に先に一撃を与えられるかが重要だ。ダメージレースになったとしても、1撃の差が致命的な差になるかもしれない。

 

「ヤマトとの距離、44km!」

「主砲全門、装填完了!!」

 

現在の状況としては、グレード・アトラスターが主砲全門斉射の体勢を完了させたのに対して、大和は変わらず全速前進を続けている。所謂「T字戦法」に近い状態となっている。

 

この状態では、グレード・アトラスターは46cm砲3基9門の全火力が発揮出来るのに対し、大和の砲撃は船体前部の46cm砲2基6門しか発揮する事が出来ない。船体がグレード・アトラスターに対して真っ直ぐ向いているため、グレード・アトラスター側から見れば多少当たりにくくはなってはいる。しかし3門の火力差は大きい。

 

「舐めるなよ…砲撃戦ならば、制するのは我々(グレード・アトラスター)だ!!

 

グレード・アトラスター艦長 ラクスタルが叫ぶ。こんな形では望んでいなかったが、完全なるタイマンの砲撃戦。これに燃え上がらない者は、外交官を除けばグレード・アトラスターに誰一人として乗り合わせていない。

 

射程(40km)まで後10秒!!9、8、7……!!」

「主砲、斉射用意!!」

 

そして遂に訪れるその瞬間にして、この海戦の最終局面。

 

「6、5、4、3…………射程内、今!!」

「っ撃ぇぇぇぇ!!!!」

 

次の瞬間、グレード・アトラスターの46cm3連装砲から海面を一瞬抉る程に巨大な発射炎が出現し、衝撃によって船体が震える。撃ち出された1.5tの46cm砲弾は空気抵抗等を受けながら、大和へと飛翔していく。

 

先手を打たれた大和。しかしCICに居る各員は変わらず冷静に対処を探る。

 

「敵艦、主砲斉射。全弾遠弾……いえ、近弾1の可能性有り」

「近弾?1射目、それも全門斉射だぞ。間違い無いのか?」

「現在再確認中です……………間違いありません、遠弾8、近弾1です」

「レーダー照準とはいえ、初撃でここまで合わせられるとはな。どうやら相手の練度想定を過小評価していたらしい」

「迎撃しますか?」

「初撃は不要。此処で当たるような不運など、大和は持っていない」

 

主砲斉射から約50秒後、大和の後方に9つの巨大な水柱が立ち上がる。その内の1本は、比較的大和に近い位置で立ち上がった。

直ぐに着弾位置が観測され、それを元に照準の情報を修正。再装填の為に一度降ろされたグレード・アトラスターの46cm砲の砲身がもう一度起き上がり、修正された角度へと合わしていく。

 

照準が完了し、すぐさま第2射が放たれる。

 

「敵艦、第2斉射。9発中2発が至近弾の可能性有り」

「砲弾迎撃開始。以降は敵至近弾を随時迎撃せよ」

「了解、対空ミサイル発射!」

 

此処で、全速前進を維持していた大和が初めて動いた。大和の旧カタパルト部分に搭載されていた10式垂直発射装置(VLS)から2発の対空ミサイルが放たれる。発射時に発生する猛烈な発射煙は、グレード・アトラスターからも目視で観測出来た。

 

「ヤマトの後部が爆発!?」

「何!?まだ第二射が着弾する時間じゃないぞ…?」

 

観測員から報告を受け取ったラクスタルは、首に紐で掛けていた双眼鏡を手に取って大和を観測する。

 

「………光の、矢?」

 

その時、煙の中から2つの対空ミサイルが姿を現した。

 

「…違う、ロケットだ!!ロケット攻撃が来るぞ高角砲射撃用意!!」

 

艦載機を殲滅し、恐らく艦隊を撃滅したであろう超火力の攻撃が今行われた事に、全員の額に冷や汗が流れる。

 

しかし彼等の予想は間違っている。

2発の対空ミサイルはグレード・アトラスターには目もくれず、46cm砲弾に向けて飛翔。そのまま至近弾になる筈だった2発を精密に迎撃し、空中に巨大な爆発が2つ生まれる。

そこから数十秒後、残りの7発が大和の後方に着弾。先程よりも少し近い位置にはなっていたが、しかし大和に何ら損害は与えられていない。

が、その光景を見ていたグレード・アトラスターの乗組員はそれどころでは無かった。

 

「…何故、7発しか着弾していない?何故、空中で2つの爆発が発生した?」

 

9発の主砲弾、2発の光の矢(対空ミサイル)、2つの空中爆発、7つの水柱。

この要素を並べれば、自ずと彼等にとって信じ難い答えは出る。

 

「……空中で……空中で、砲弾を、迎撃しやがった……!!」

 

それは、グレード・アトラスターにとって決してあってはならない事だった。

 

彼等にとって、目視がほぼ不可能な速度で飛翔する砲弾に対して、防御する手段は2つ。

「装甲で耐える」か、「回避で避ける」か。

しかし、彼女(大和)は「砲弾を迎撃する」というあり得なかった第3の方法を持ち出して来た。

 

こんな事をされれば、如何に強力な砲弾を撃ち込もうが迎撃してしまえば届く事は無い。

それは砲撃のプラットフォームである戦艦にとって悪魔的な所業であり、そしてグレード・アトラスターの46cm砲ですら大和には通用しないという事実を突き付ける物だった。

 

怯むな!!ヤマトは今、2発しか迎撃しなかった。ヤマトでも全弾を迎撃する事は流石に出来ないという事だ!!」

 

「今も尚、ヤマトは主砲を発射せずに接近を続けている。恐らく奴の狙いは、確実に主砲が命中出来る距離まで接近する事だろう。その前にヤマトの迎撃能力を突破して強力な一撃を与え、この海域から撤退し、生きて祖国に帰るぞ!!」

 

各員の闘志が折れ掛けていた所に、ラクスタルの一喝。

 

勝利するのではなく、生きて帰る。これによって折れ掛けていた闘志が立ち直り、それどころか過去最高の士気となって唸りを上げる。

 

「撃てぇ!!!!」

 

生きて帰る為に、戦う。その為に、今目の前にいる絶望に抗うのだ。

 

 

「敵、第3斉射。至近弾1、対空迎撃発動」

「敵艦との距離、約37kmです」

 

 

だが大和はその悉くを粉砕し、進んでいく。

 

第4斉射。至近弾2、迎撃。

第5斉射。至近弾3、迎撃。

第6斉射。至近弾2、迎撃。

第7斉射。至近弾2、迎撃。

第8斉射。至近弾1、迎撃。

第9斉射。至近弾2、迎撃。

第10斉射──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「当たれ、当たれ、当たれ、当たれよぉ!!!!」

 

グレート・アトラスターの46cm砲が再び砲を吹く。そしてゆっくりと転舵し、グレード・アトラスターと方向を合わせつつ46cm砲がゆっくり旋回している大和から、1発の対空ミサイルが放たれる。そして予定調和のように至近弾が撃ち落とされ、8発の近弾が着弾する。

 

25斉射目の砲撃も、儚い結果となった。現在のグレード・アトラスターの戦果といえば、大和の対空ミサイルを至近弾迎撃の為に54発を使わせた程度だ。

 

「転舵完了。主砲照準、間もなく完了します」

 

既に大和の46cm3連装砲3基9門の装填は完了している。後は狙いを合わせ、号令が下れば漸く大和の砲撃が始まるであろう。

 

「………主砲照準、完了!主砲斉射準備良し!」

「主砲、撃ぇ!」

 

距離にして約22km。同航戦に移行して主砲照準を終えた大和が、今海戦で初めて主砲を発射した。

 

グレード・アトラスターにも劣らない発生炎と衝撃を発生させ、飛翔する9発の46cm砲弾。

しかしグレード・アトラスターと明確に違うのは、全弾が10式総合戦闘装置によって精密に照準され、飛翔中の今も尚10式総合戦闘装置の誘導を受けている46cm誘導徹甲弾であるという事だ。*1

 

「敵砲弾、着弾します!!」

「総員衝撃に備えろぉ!!」

 

次の瞬間、グレード・アトラスターに大和の砲弾が飛来。最後まで完璧に誘導された46cm誘導徹甲弾は、全弾がグレード・アトラスターに命中。9発着弾の衝撃でグレード・アトラスターの船体を大きく揺さぶり、衝撃に備えていたはずの艦橋内に居た人間の何人かを吹き飛ばす程の威力を持っていた。

 

「ッ……被害報告急げ!!」

「……右舷前部及び後部甲板に甚大な損傷、一部火災も発生しています!!浸水もです!!」

「第2主砲塔大破、使用不能!!」

「何だと!?初弾だぞ!?そんな馬鹿な事があってたまるか!!……クソっ応急班、ダメージコントロール急げ!!」

 

グレード・アトラスターの艦内は、まさに阿鼻叫喚といった有様だった。大和の砲撃は始まったばかりだというのに、既に大きな損害が発生している。

グレード・アトラスターは既に25回の斉射、225発の46cm砲弾を放って何の損害も与えられていないというのに。

 

(……まさか、ここまでとは)

 

ラクスタル艦長は自身の認識の甘さを痛感していた。

彼はこれまでの軍属で多くの修羅場を潜り抜けて来た。それは決して運だけで勝ち取った物では無い。常に最善の選択をし、最効率で戦い、仲間と共に戦ってきたからこそここまで生き残れてきた。

 

しかし今回はどうだろうか?1隻の戦艦相手に1個艦隊と200の航空機が手も足も出ず、最後に残されたグレード・アトラスターも良い様に弄ばれているだけではないか。

こんな事は今まで一度も無かった。こんな経験をした事も無ければ、こんな事態に陥った事も無い。この事実に、彼は今まで感じた事の無い恐怖を感じていた。一体どこで何を間違えてしまったのだろうか。

…いや、それは分かりきった事だ。細かい事を挙げれば幾つも出てくるが、しかし最終的に辿り着くは一つの結論。

 

(我々は、ヤマトという存在を、大日本帝国という国家を過小評価し過ぎていたのだな。現に彼の国の象徴として此処に来た彼女は、我々の想像を遥かに超える化け物だった)

 

そう思った時、ラクスタルは心の中でこの戦争の敗北を確信した。

1隻の戦艦に対して、グレード・アトラスターをも含んだ1個艦隊がこんな醜態を晒している。ならば大日本帝国が艦隊を揃えてしまえば、この海戦よりも悲惨で一方的な結果になるのは確実だ。

そして陸に於いても、空に於いても同じ事になるだろう。此処まで圧倒的な技術力の差を見せつけられて、どうして陸空で勝てるなどと思えるだろうか。

 

(この世界に来て、他国を「蛮族」と見做していた我々が、「蛮族」の立場になるとはな)

 

だが、彼の闘志は折れてはいない。最後の最後、その瞬間まで彼は諦めないと彼は決心した以上、最後まで抗う。

 

「まだだ!!まだ我々は負けていない!!残った主砲で反撃せよ!!」

 

ラクスタルの檄により、大和への攻撃を再開。第26斉射が放たれる。

そして大和もまた、抵抗を続けるグレード・アトラスターへ攻撃を続行。対空ミサイルで至近弾を迎撃しつつ、先程と同様に9発の46cm誘導徹甲弾を放つ。

 

「砲撃、迎撃されました!!敵艦無傷!!」

「敵第2斉射、来ます!!」

 

大和の第2斉射が着弾。先程と同じく9発全弾が命中。殆どが前部及び後部甲板に命中する中、1発が左舷艦首付近に直撃。更にもう1発が右舷艦尾付近に命中し、後部主砲近くで火災を引き起こす。応急班が消火を試みたが、直ぐに主砲の弾薬庫に注水による防火措置が施され、第3砲塔の砲撃能力も失われた。

 

残された第1砲塔で反撃するも、やはり大和の対空ミサイルで至近弾が迎撃され、無意味に終わった。

 

「……艦長。我が艦にヤマトに対抗出来る手段は、最早ありません」

「…………」

 

副長の言葉に隠された意味を、ラクスタルは正確に理解した。

 

「……そうだな、副長。これ以上の抵抗は無意味、か」

 

その時、大和の第3斉射が着弾。今度はグレード・アトラスターの艦橋付近に命中した弾があるのか、艦橋そのものが大きく揺さぶられる。

たった3度の砲撃にも関わらず、27発の46cm砲弾によって各所で甚大な被害が発生。大火災が広がり、右舷の損傷各所から浸水も発生して傾斜は10度近くに広がっていた。グレード・アトラスターの生存者達は、この艦の運命は最早風前の灯火である事を悟っていた。

 

「……総員退艦、ヤマトに降伏の通信を入れろ。もし通信機能が破壊されているなら白旗だ、兎に角これ以上の戦闘の意志がない事を、向こうに伝えるんだ」

「……了解しました。総員退艦!総員退艦だ!!」

 

その後、グレード・アトラスターから生存者が総員退艦。その直後、グレード・アトラスターは右舷からの浸水と傾斜に耐えきれなくなり、世界連合艦隊の目の前で横転。その身を海中へと沈めていった。

こうして後に「フォーク沖海戦」と呼ばれる事になるこの海戦は、グラ・バルカス海軍東方艦隊の壊滅と、グレード・アトラスターの沈没によって終結。

 

この戦いで、大和が世界最強の戦艦であるという事を世界に知らしめるのと同時に、神聖ミリシアル帝国の権威の失墜の始まり、グラ・バルカス帝国の敗北の始まりを告げるものとなる。

 

 

 

その後、大日本帝国は世界連合と共にグラ・バルカス帝国との戦争に突入。

 

大和も最前線に投入され、活躍する事になるがそれは別の話。

 

この話は、此処で筆を止めるとしよう。

*1
本来はGPS誘導による誘導砲撃で行われるが、転移後の今回はGPS衛星の範囲外の為、イージスシステムによる代替誘導が行われている。




という訳で、今作は此処で完結とさせて頂きます。
何処かで時間を作って、「出撃準備」にて記述している大和再改修の経緯とかを加筆修正する予定ですが、物語としては此処で終わりです。書きたい事を書けて満足。

1/4追記
ちょっとした裏話を下記の活動報告に。興味ある方は是非。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=291562&uid=56685


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