タンクトッパーイズク (規律式足)
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1話

 

 プロローグ

 

 僕は泣いていた、

 雨降る公園で声をあげて、

 僕は泣いていた、

 認めたくない現実を思いしって

 僕は泣いていた、

 自分の言葉で母を泣かせてしまったことに、

 僕は泣いていた、

 それしかできないから、

 

「どうしたんだ少年?」

 そんな僕に話しかけてきた人、

「こんな雨の中、傘もささないで」

 その人は大柄で鍛えられた体に、タンクトップを纏っていた。

「母を泣かせてしまいました、

 僕のヒーローになりたいという夢を応援してくれた一番大切な人を」   

 テレビで活躍するヒーローのオールマイトの真似をしたただのごっこ遊びだった。母はそれに付き合ってくれて僕はヒーローに成れると言ってくれた。

『私が来た!』自分もそう成れると真似してきたことがジクジクと心の中で傷のように痛い。

 無個性だと診断され、諦めきれず父のように火を吹こうと息を吐き、母のように指を動かしたことが苦しい。

 ごめんね、ごめんね、とそんな僕を抱きしめながら泣く母の姿が辛い。

 そんな母よりもヒーローに成れないと自分のことしか考えられない自分が醜い。

「お兄さん、無個性でもヒーローになれますか?」

 なんとなく思ったんだ、こんなに鍛えている彼はヒーローなんだと、だから僕は聞いてみたんだ。

「ヒーローは強くなければいけない」

 そして彼は否定した、

「だから個性という武器がなければ務まらない」

 無個性では無理だと、

「だが強さとは個性の有無ではない」

 けど、けど、

「強さとはタンクトップをいかに着こなすかだ!」

 叫ぶような声が震える僕の体に叩きつけられる。

「タンクトップとは強さそのもの、その性能を引き出せれば、即ちタンクトップの似合う男になればいかなるものにも、個性にもきっと打ち勝つことができる!」 

 漲る気迫、溢れる自信、揺るがぬ信念、そして磨き抜かれた体、この人は信じているんだタンクトップを、タンクトップを信じる自分自身を。

「さあ少年、そんな格好では風邪をひくぞ。

 タンクトップを着るんだ」

 彼はタンクトップマスターは僕に道を示してくれた、

 僕の進むべき道を、           

 

 あの日僕は自分が無個性だと知った。

 あの日僕はヒーローに成れないと心折れた。

 あの日僕は母を泣かせた。

 あの日僕は公園で泣きわめいた。 

 あの日僕は人生の師とも言える人と出会った。

 あの日僕は、真の強さを知った。

 あの日僕は、僕は、タンクトップと巡りあった。

 これは僕が、最高にタンクトップを着こなしてヒーローになる物語。 

 

 なお数年後幼馴染の爆豪君にこの話をしたら、話しかけられた時点で警察呼べよとドン引かれた、解せぬ。

 

 

 

 



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2話

 
 


 

 あの運命の日から数年後、僕緑谷出久は中学三年生になった。

 タンクトップマスターにタンクトップを着せてもらい家に送ってもらった、遠慮する僕にヒーローだからとマスターは送ってくれたけど、マスターを見た母が110番するという一騒動あった。マスター自身デビューしてまだ一年という若手ヒーローなのと、ひと目で分かるヒーローコスチュームじゃないのが原因だったみたい。

 とはいえ誤解がとけたあとそのまま去ろうとするマスターに僕は強引に弟子入りをして、現在に至るまでその関係は続いている。

 若手ヒーローだったマスターは今や肉弾戦においてオールマイトや超合金クロビカリに並ぶトップヒーローの一角であり、舎弟ともサイドキックともいえるタンクトッパーもたくさん抱える大事務所のリーダーだ。

「僕もそこに行きますから」

 誓いの言葉と共に僕は駆け出す、遥か先を征くタンクトップの似合う人に追いつこうと。

 なお、制服ではなくタンクトップ姿だったため校門で注意された。 

 

「えーお前らももう3年ということで、本格的に将来を考えていく時期だ!」 

 担任の先生のハイテンション、そして言葉とともに放たれる個性。無個性である僕は劣等感を抱きそうになる光景だが。

 自分の心と体にタンクトップがある限り、タンクトッパーは揺るがない。

 劣等感なぞ積み重ねた努力と日々とタンクトップの前には塵同然。

「そういや緑谷も雄英志望だったな」

 爆豪君が高額納税とか言ってるのを聞き流していたら担任のそんな一言でピタリと場は静まる。

 しかし爆豪君も雄英志望か、まあ彼は個性もバトルセンスも学力も飛び抜けてるし当然かな。

 今のままでも多分タンクトップタイガーさんとタンクトップブラックホールさんくらいなら勝てるくらい強いし。

 まあ惜しいのはタンクトップを着てないことだよね。やっぱりあれだけの逸材がタンクトップを着ないなんてありえない、戦闘力だって着ただけで五倍増しで着こなしたら二十倍、極めたら無限大だ。やはり昔から繰り返してるようにタンクトップを着るように説得するべきだよね。爆豪君のお母さんも(面白がって)普段着を全てタンクトップにするよう協力してくれたし、また菓子折りと新デザインのタンクトップをもってお願いしにいくべきか。

 全く今週のタンクトップ会議に毎日のタンクトップ巡回に修行に受験勉強にと忙しい日々だ。

「あー、一応本当に一応言っとくけど緑谷無個性なのにヒーロー科で大丈夫か?お前なら普通科もサポート科も経営科も余裕だぞ、何も試験に戦闘とかあるらしいヒーロー科じゃなくても」

 なぜかおそるおそる尋ねる担任の様子に僕は、 

「タンクトップとは強さそのもの!

 即ちタンクトップの似合う男になれば個性にも打ち勝つことが出来る!」

 自らの鍛えた肉体と纏うタンクトップを見せつける。

 体質なのかマスターやタンクトッパーの仲間たちみたく体は大きくならないけど、クロビカリさんにも褒められた自慢の引き締まった体だ。

「アッハイ、けど制服着ようね」

「タンクトップが僕の制服です!」 

「うん、つまり折寺中のじゃないから着てね制服」

「すいません」

 謝罪する僕になぜかホッとした担任は進路志望を回収してそそくさと去っていった。

 さて、

「タンクトップを着ようぜ爆豪君!」

「誰が着るかっ!つうかソレ止めろって言ったよな!

 お前のせいで冬でもタンクトップだらけなんだよ!」

「?」

「なんだその心底理解できないような面はよぉ」

「タンクトップの保温性なら冬の雪国でも余裕だったけど?」

 爆豪君の言葉だと冬にタンクトップだけだと寒いみたいじゃん、何を言ってんだろ彼は?

「テメェらだけだ、いやマジで」

 そんな彼の呟きは僕の耳に届くことはなかった。



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3話

「やっぱ士傑にすっかな?」

 と呟きながらなんかうっすら白くなり遠い目をしだした爆豪君がいたがいつものことだから気にしない。

 カラオケに行くからとクラスメートに誘われたけど、タンクトップ会議の資料集めのために今日はタンクトップ巡回をしないと、確か議題は夏の新色だったかな?まだ自分のテーマカラーの決まってない僕はこの手の議題の時は率先して動かないと。

「雄英高校か」

 進路希望で出しはしたがあまりヒーロー学校には拘ってないんだけどな。

 マスターにクロビカリさんに豚神さんなんかの知り合いのヒーローの出身校ではないし、同い年でタンクトッパーではない別の学校の友人である鉄バット君も目指してない(まあ妹さんが応援したら入学するだろうけどシスコンだし)

 ただマスターと仲の良いヒーローであるベストジーニストさんが勧めてきたんだよね、どこでも良いなら最高峰に行けって。幸い学力も足りてたし家から通えるから問題もない、苦難を与えるという教育方針も魅力的だ。

(でもな)

 その気になりきれないのは、なんでだろう?

 マスターを後ろから見てきて学校や環境にこだわる必要がないこと知っているからか、それとも、

「僕が無個性だからかな?」

 日本から最高の個性持ちが集まる学び舎で果たして僕は耐えられるのか、そも名門校の教師達が受け入れてくれるとも限らないしね。

 踏ん切りがつかないもどかしさを僕は感じていた。

 あーあ未だ拘るとは未熟の極み、タンクトップ巡回の後は資料をまとめる前に(タンクトップに)感謝の正拳突き一万回しないとな、邪念を振り払うのはいつだってタンクトップと鍛錬だ。

 

「Mサイズの隠れミノ」

 そんな風に考えこんでいたからだろう、マンホールの穴からでるヴィランに反応が遅れたのは、

 

「ぐばっ」

 意識が現状に追いついたのは拳を振るった後、粘体状のおそらくヴィランは風圧によって道路やアスファルトに飛び散っていた。 

 体が勝手に纏わりつこうとするヴィランを弾き飛ばした、これはタンクトップの引き締まり感により鋭敏になった神経『タンクトップセンサー』とタンクトップの動きやすさと流水岩砕拳のバングさんによる反射訓練が、無意識下における自動迎撃を可能とする、

『タンクトップオートカウンター』

 しかしいかに学校帰りいかに防げたとはいえ、ヴィラン蔓延る世の中薄暗いトンネル付近で油断するとは。

「未熟だよなあ、進学やめてバングさんとこに行こうかな?」

 昔のヤンチャのせいでヒーローには成れんのワシ、と言うバングさんは流水岩砕拳の道場主。本格的に内弟子になってからヒーローを目指すのもありかな、昔に比べて身体能力は強くなっても未だに僕は自覚する程に心も体も弱いままなのだ。

 

「もう大丈夫だ少年!!」

 そういやヒーロー呼ばなきゃ、ここらで一番近いヒーローはいや警察に連絡してからかな?と進路とヴィランについて考えていたら、マンホールを吹き飛ばしながら彼はそこにいた。

 

「私が来た!」

 

 平和の象徴、悪の抑止力、数多の異名と比類なき実績を誇る、ナンバーワンヒーロー。

 そして僕がヒーローに憧れたきっかけ。

 人を助けることがめちゃくちゃがかっこいいのだと思わせてくれた存在。

 僕のヒーローのはじまりは彼の笑顔からだった。

 

「て、ヘドロヴィラン飛び散っている!何があったんだコレは?!」

 だから戸惑いつつもヴィランをペットボトルに詰める彼に問いかけた、あの日と同じ言葉を、

 

「無個性でもヒーローになれますか?」  

  

 個性が無くともヒーローが出来るのか、

 個性のない人間でもあなたみたいになれるのか、

 恐れ知らずの笑顔で助けてくれる、オールマイトみたいな最高のヒーローに、

 そう僕は言葉を続ける憧れに思いをぶつける。

 いくら鍛錬を積もうと、いくらタンクトップを信じようと、いくらマスターやクロビカリさんみたく無個性のヒーローの背を追っても、

 僕は僕を信じきれない。

 僕は僕を肯定できない。

 だから、この人に僕は答えを求めた、

 あの日のように、

 

 その後、プシュー、と空気の抜けるような音と共に語れられた衝撃の事実とともに、オールマイトは質問に答えてくれた。

 その言葉は正しく、無個性の少年の身を案じ誠実に答えてくれたものだった。

 だが、

「きっと欲しい言葉ではなかったんだろうな」

 このスッキリしない気持ちが僕の本心なんだろう。

 果たしてこんな思いを抱く者がヒーローを目指してよいものか、

 実力は十分だとプロヒーローに太鼓判を押されても、

人助けとはそんな生易しいものではないのだから。

 



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4話

 

「自分を見失っているな出久」

 いつだったかの、マスターとの会話。

「強くなっちまったヤツにはよくあることだ」

 それは僕が自分の実力を自覚し始めた頃。

 ナンバー4ヒーローであるベストジーニストに、戦闘力ならサイドキックレベルだと評価された頃。

 マスター以外のタンクトッパー達に勝てるようになった頃。

「俺はお前に強さしか示してやれん」

 それでも勝てない人達との差に打ちのめされてた頃。

「思い出せ、なんのための強さだったか

 お前はなぜタンクトップを手に取ったか」

 走り続けることに夢中で見なかったこと、

 それを進路という形で足を止めた時、僕は僕の中身に向き合うことになったんだ。

「お前のタンクトップにシワがよっているぞ」 

 

 僕はなんでヒーロー目指してたんだろ?

 

 

 

 爆音。

 思考に夢中に成り、タンクトップ巡回する気にもなれずに歩いていると、聞き慣れた爆音が街を震わす。

「?」

 妙なことだ、この音は間違いなく爆豪君の個性。

 ガス爆発でもエンジンに引火した音でも発破でも花火でもない。

 彼は一見粗暴で喧嘩ごしですぐに手の出るついでに個性出るタイプだが、街中で個性ぶっ放すような非常識さは持ち合わせていない(何気にみみっちいし)さらにこの音なら家屋の一つや二つ破壊されてもおかしくされてない。

(何があった?)

 気がつけば僕は騒ぎのある商店街に足を向けていた。

 

 山程の野次馬、破壊された街、引火した店舗にヒーロー達。シンリンカムイが負傷者を回収し、バックドラフトが消火、マウントレディは現場に行けず、デステゴロは救出しようにも粘体を前に打つ手はない。

(オールマイトは?)

 ヘドロヴィランはオールマイトが回収したはず、だが本人はどうした?見渡せば観衆の中に焦った様子のトゥルーフォームのオールマイトがいた。何らかの原因でヘドロヴィランを逃してしまったのだろう。

 逃げたヴィランが爆豪君をミノとして使おうとしているそれだけのこと。

 今は爆豪君の個性被害をヒーロー達が体を張って防いでいる、有利な個性のヒーローが到着すればそれで解決する。だからヒーローではない無個性な僕は邪魔にならないよう避難することが最善なのだ。いくら強くともこの状況をどうにかできるかもしれなくても、無個性でヒーローではないのだから。

 目があった、捕らわれている爆豪君と。

 いつか見たあの目を。

 そしたら僕は走り出していた、いつかのように。

 何で出た、ヒーローでもないのに、

 何で走る、無個性のくせに、

 知ったことかよ、そんなこと!

「緑谷、なんで、」

「理由なんて知るか!」

 苦しい時の体感時間は一瞬が一生、だったら早く助けないといけない、いやそんなことはどうでもいい。

「そんな顔したヤツに手を伸ばすために僕はタンクトップを着てるんだ!!」

 そのための鍛錬、そのための強さ、そのためのタンクトップ。

 ヒーローになるためのタンクトップではない、

 オールマイトが人々を救ったように、

 タンクトップマスターが声をかけてくれたように、

 誰かを救うために力(タンクトップ)を求めたんだ。

「暴風タンクトップパンチ!」

 タンクトップの動きやすさから倍増したパンチを直接当てるのではなく拳風を起こすために振るう。まとわりつく粘体を吹き飛ばすために。

「爆豪君!」

 再度取り憑こうとするヘドロから離すために腕を掴み引き寄せる。

「おい緑谷!」

 爆豪君の叫びは大口開けるヘドロヴィランが見えたからだろう。

 しまった爆豪君の手を握っているから、タンクトップオートカウンターが発動しない。

 ならばタンクトップトルネー

「君を諭しといて己が実践しないなんて!!」

 割り込むように駆けつけたオールマイトが活動限界を超えているからか血を吐きながら叫ぶ、

 なお爆豪君は両手を掴んだ僕の様子から何をしようとしたのか察して青褪めていた。

「プロはいつだって命懸け!!デトロイトスマッシュ!!」

 

 

 右手一振りで天気を変えるオールマイトの一撃が今回の騒動の幕を下ろした。飛び散ったベトベトは回収され無事警察に引き取られた。

 僕がヒーロー達に凄く怒られたが、タンクトップを着ているのを確認されたら「アッハイ」となぜか身体能力など納得された。

 逆に爆豪君は称賛された、そもそも襲われたクラスメートを庇ったためまとわりつかれたと、逃げたクラスメートが発言したのだ、確かに機動力に優れた爆豪君が簡単に捕まる筈はない。

 

「緑谷!!」

 事件が終わり帰路についた先で爆豪君が叫ぶ。

「助かったありがとう」

 礼とともに下げられた頭、彼はプライドが高い。だがそれだけではないことを僕は知っている。

「昔みてえな面に戻ったじゃねえか」

 呟くような一言をこぼして去っていく。心配かけてたんだなと今更ながらに気付く、さすがは幼馴染だ。

 無個性を気にして心を淀ませていたことを察していたとは。

 そうだもう迷わない、僕は

「私が来た!!」

 オールマイト?

「色々言いたいことがある、礼と訂正、提案したいこともある、だが先にこれだけは言わせてくれ」

 ああ僕は、ずっと言って欲しかったんだ。

「君はヒーローになれる」

 

 雨降るあの日僕はタンクトップに出会った。 

 タンクトップという希望に出会った。

 今日もまた雨は降る、なぜか僕の周りだけ、

 暖かい雨が降る。

 

 

 

  

 

 

 



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閑話、爆豪視点

 

「かっちゃん、もしかして、タンクトップ信じてないの?」

 

 ボムッ

 自身の個性の音と悍ましい寒気に跳ね起きる。

 炎熱個性や可燃性の高い個性、汗などの分泌物が特殊な効果のある個性のための特殊繊維寝具は個性が暴発しても傷一つつかない。だが流石に音は階下に響いているだろうから、またお袋にオネショかよとからかわれてしまうだろう。

「クソが」

 お袋のからかいはいつものこととはいえ、親父の心配そうな態度は申し訳なくなる。

 夢見が悪くて個性の暴発、睡眠時の個性対策は未だに完全解決していない個性問題の一つだ。

 だがそれ以上に。

「幼馴染が頭おかしい(タンクトップ)

 頭を抱えながら夢で見た幼馴染の姿をその言葉を思い出す。

 からかう?いや純粋な疑問としての一言。

「タンクトップ着たからって強くなれるわけねーだろ」

 その返事がアレだ。

 零距離でこちらをまるであの水の枯れた井戸のような目で見つめ、地獄の底から這い寄るような声で言う。

 ああ認めたくねーけど認めてやる。

 クソ怖ーよ。

 トラウマと言っても過言ではない記憶。

 多分アレなかったらもっと傲慢な性格だったんだろうな俺と思いつつ、笑い声を噛み殺したお袋が呼ぶ朝食の席へと向かった。

 なおオネショはしていない、確認した。

 

「えーお前らももう3年ということで、本格的に将来を考えていく時期だ!」 

 タンクトップのない星に行きたい。

 いやそっちの進路じゃねーよ。

 クラスメート大半がヒーロー志望、まあ個性を活かせる仕事で一番わかり易いしな。つってもヒーロー飽和社会とか言われてるから資格取得厳しくなってるみたいだけど。だが、

「あのオールマイトをも超えてトップヒーローとなり必ずや高額納税者ランキングに名を刻むのだ!」

 口に出して表にださないと夢は叶わねえ。

 それはそこにいるタンクトッパーを見れば理解できることだ。

「そういや緑谷も雄英志望だったな」

 進路にヒーローの話で盛り上がっていた空気が担任の余計な一言で死んだ。俺のもそうだけど人の進学希望話すなや。平凡な市立中学の折寺中初の雄英進学者(そのため推薦枠もない)になれそうだからってよ。

 しかも緑谷の話題とか、いやアイツも模試でA判定だし、スゲーのは分かるけど。 

 緑谷出久はこの学校の有名人、常にタンクトップタンクトップ言って体を鍛えてる変人で、今時絶滅危惧種に等しい無個性。だが学力体力おいて常にトップ、体力試験なんて異形タイプ個性が絶対有利なのにかかわらず負けなし、その上誰もが嫌がることも率先して行い、ボランティア活動にも積極的、面倒見もよくトラブル解決にも貢献して多くの生徒に慕われている。タンクトップを除けば完璧超人とよく言われるが、それとったら小心なヒーローオタクなクソナードになるのでは?と俺はなぜか思う。

「個性あったら良かったのに」

 ポツリと呟いたのは誰だったか、幾人かの無個性ヒーローが登場し活躍しても依然として無個性がヒーローになるには敷居が高い。慕う緑谷が無個性だからヒーローになれないのではないかと心配するヤツがこのクラスには何人もいるのだ。本人はのんきに担任と漫才してるが周りの心配に気づけアホが。ただでさえ悩んでるのは皆知っているのによ。

「タンクトップ着ようか爆豪君!」

 それやめろマジで。

 

「しかし緑谷のヤツせっかくカラオケ誘ったのにこねーな」

「アイツ来たら女子も来るのにさ」

 下心アリアリで誘ったのかコイツラ、俺は延々とタンクトップの歌を熱唱されるのは嫌なんだが。無駄にモテるから女子は釣れるのは分かるけど。

「けど昔から緑谷あんなんだったのか?」

「幼馴染なんだろ爆豪」

 ヒーロー気質の方なのか、タンクトップの方なのか。

 昔からあんなヤツだったのは事実だな。

 ただまあ川に落ちた俺に手を差し伸べたのはアイツだったよな。

 ボトリ、

 水気を帯びた鈍い音がした方を向けば、粘体に目玉と大口をつけた存在がクラスメートに襲いかかろうとしていた。

「逃げろテメェら!」

 両手を爆破して加速、間に割り込み吹き飛ばそうと腕を振るった。

 

 

 クソッタレなヘドロ野郎に纏わりつかれ体の自由が奪われる、自身の抵抗による個性暴発と乗っ取られた体が助けようとするヒーローを弾き飛ばす。なんとか意識だけは保っているがそれも時間の問題、このまま自分が自分じゃなくなりそうな感覚に恐怖を抱く、助けてほしいと思ってしまい普段は意地でもはかない弱音が溢れそうになる。口元が覆われいよいよまぶたくらいしか自由が効かなくなった時、アイツは来た。

「緑谷、なんで」

 ヒーロー志望ではある、だが知り合いにプロヒーローがいるアイツはルールを熟知し己をわきまえている、だからこんな無鉄砲なことはしないヤツなのに、

「理由なんて知るか」

 吠えた言葉はアイツの本音、理屈を飛ばした思い。

「そんな顔したヤツに手を伸ばすために僕はタンクトップを着てるんだ!!」

 こんな時もタンクトップかよ、呆れるというかドン引くというか、それでもらしいなと思う。

 ガキの頃、川に落ちた俺に手を伸ばした姿が重なるように見えた。 

 パンチ一発でヘドロを飛ばし引き寄せる、だが追いすがるヘドロに対し何やら覚悟決めた表情になり、俺の両手を掴みだして「タンクトップトルネー」いや待てお前回るのか回すのか俺を掴んだ状態で回転する気かこいつ

、やめやがれテメェの馬鹿力でそんなことやりやがったらこっちがどうなると思ってやが

「デトロイトスマッシュ!!」

 ありがとうオールマイト、アンタがナンバーワンだ。

 

 

 どうなるかと思った騒動も終わったら後片付け、説教されるアイツに褒められる俺。

 クラスメートを助けられて、ヒーローに評価された、そう悪い結果ではない。

 緑谷も吹っ切れたみたいだし、これで良かったのだろう。

「ところでよ」

 物陰から感じた視線の主に声をかける。

「いつまで見てんだオッサン共」

 スッと出てきたのはタンクトップを身に着けた巨漢とジーンズを合わせたコスチュームを着た男。

 プロヒーロータンクトップマスター。

 ナンバー4ヒーローベストジーニスト。

「何してんだあんたら?」

 多忙なトップヒーロー共が何してやがる。

「いや俺はタンクトップ巡回でな」

「事務所から何十キロだここ」

「ジーンズの買い出しだ」

「誤魔化し下手か!」

 大方緑谷が心配だからだろうに。

「タンクトップは力の象徴、ゆえに俺は出久のヒーローの象徴になれない」

「有望な少年が勧めた進路で悩んでると気になってな」

 分かりやすく悩んでたしな。まあそれも解決したようだが。

「お前が気にしてくれたおかげだ、ありがとう」

 そう言って過保護オッサンストーカーズは去ろうとしたが、それを俺は呼び止める。

「どうした少年?」

「俺は強くなりてえ、いつまでもアイツの下なんて我慢できるか」

「ほう」

「礼を言うなら俺を強くしてくれ」

 緑谷がスゲえのは納得してる、だがこのままじゃいられない。雄英高校入試までに強くなりたい。

「ふ、そうか」

 理解を示したタンクトップマスターは、

 堂々胸をはり、

「タンクトップを着ようか」

 そう言った。

「タンクトップ以外で」

 だからそんなんで強くなんのテメェらだけだ。

 

 

 

 

 



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閑話、オールマイト視点 後継者はタンクトッパー

 

「え、何アレ?」

 

 私の名前はオールマイト!!

 平和の象徴とも言われるナンバーワンヒーローさ!!

 宿敵オールフォーワンを相打ちに近い形で撃退した私は重傷を負い度重なる手術と後遺症で憔悴。もはやヒーローとしての活動限界は一日三時間程度に衰えてしまったのさ!!

 だが私は負けない!!

 人々を笑顔で救い出す平和の象徴は決して悪に屈してはいけないんだ!!

 だがそんなある日のことさ、遠出した先に捕らえたヘドロヴィランとの騒動で私は運命の出会いを果たす。

 師から受け継いできた個性『ワンフォーオール』を託すに値する、ヒーローとしての精神を持った次代の象徴になれるであろう少年を見つけたのさ!!

 

 なんかタンクトップを着てるけどね!!

 

 最初は鍛えてる少年かと思ったさ、まあそれ自体は珍しいことじゃない、超合金クロビカリ君が活躍しだしてからエクササイズとかボディビルとか大ブームだし、彼無個性なの信じられない体だけど!!

 なんでヘドロヴィラン飛び散っているのか不思議だったけどアレ緑谷君やったね、今思うと。

 そんな超合金クロビカリ君のファンみたくマッチョかと思ったら、彼は尋ねてきた無個性でヒーローになれるのかと、私は無理だと言ったさ。確かに超合金クロビカリ君、タンクトップマスター君、豚神君、番犬マン君、彼らのような無個性ヒーローは活躍している。けどね彼ら公にされてないけど全員『スカウト』なのさ!!

 ヒーローもヴィランも自然災害も容易く倒す一般人である彼ら(番犬マンはヴィジランテ)にヒーロー公安委員会は接触し交渉、優遇措置や司法取引(クロビカリの格好と番犬マンのヴィジランテ行為)をしてヒーローになってもらったのさ。故に無個性がヒーローになるのは事実不可能としか言えない。彼ら四人は多くの個性研究者(私の友人も)をなんで強いかわからないという知恵熱のあまり病院に叩き込んだ人類のバグだからね!

 私の無理という言葉に落ち込む緑谷少年、かつての私を見るような罪悪感はあれど仕方ないことだと思った、何せその時は緑谷少年が鍛えた力を持て余した少年にしか見えなかったんだ。それだけ彼の鬱屈した感情は読み取れたのさ。緑谷少年への言葉の気不味さもあって活動限界を承知で空へ飛んだ、それが原因でヘドロヴィラン落としちゃったけど。そういえばサイン強請られなかったの地味にショックだぜ緑谷少年!!(根に持ってる)

 

 その後再び起きたヘドロヴィランに捕らわれた友人をいや誰であろうと駆けつけたであろう緑谷少年が助け出し、力を振り絞った私がヘドロヴィランを吹き飛ばしたのさ!!なんか緑谷少年にまかせたら商店街と爆豪少年がエゲツない目に合いそうな気がしたし!!

 ところでタンクトッパーの方だったんですね緑谷少年アッハイ。 

 

 

「君はヒーローに成れる」

 

 私の本心からの言葉に、緑谷少年は空を見上げて涙を流す、さながら雨を浴びているかのように。

 私はもっと自覚すべきだったのかも知れない。

 ただ一言が、人を傷つけ苦しめ、

 ただ一言が、人を救う。

 ただ一言が、人をヴィランに至らせ、

 ただ一言が、人をヒーローにするのだと。

 私の言葉は彼の何よりも欲しかった言葉なのだと。 

 私は私の持てる全てをもって君をヒーローにしてみせるとその日誓った。

 

 私考案!!『目指せ合格ドリームプラン!!』が一月で達成された件について。あとサイン要らない緑谷少年今なら十枚は書くよ(根に持ってる)

 今じゃ緑谷少年は強化されたトレーニングをこなし何故か、座禅し瞑想している。個性を受け取ってから感じだした違和感を調べてるらしい。『タンクトップコミュニケーション』て何?

 ここ数日繰り返しているのだが、今日は突然カッと目を見開き、立ち上がると。砂浜から飛び上がりまるでお師匠のように自在に浮遊、さらには黒い縄や煙まで出しはじめた。まるでオールフォーワンのような複数の個性操作。

 

「え、何アレ?」

 

 

 

 



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7話

ヒーロー公安委員会認定
無個性ヒーローナンバー①
『超合金クロビカリ』
極限まで鍛え抜かれた筋肉を誇る男。
そのバワーは容易くビルを持ち上げ、その拳の破壊力は現在存在する全ての測定器で測ることができない。
恐るべきはその怪力ではなく、むしろその筋肉による防御力、超合金と自ら名乗っても過言ではない超硬度の筋肉は現行兵器及び全ての個性に耐えきるとされる。
ヒーローになった経緯は、彼の参加した無個性のみのボディビル大会で審査員である富豪達を狙ったヴィラン組織襲撃事件、そのトップヒーローですら苦戦するであろう集団を彼は素手かつ無傷で鎮圧した。
助けられた富豪達の要望という形の命令で公安委員会は彼をヒーロー認定することとなったのだが、超合金クロビカリ本人がヒーローに乗り気ではなかった、しかし常にその格好でどこにいても罪ならないと条件をだしたら即座に了承した。
だがあくまで本人はヒーロー業は副業だと完全に割り切っており、パトロールなど一切せず公安の依頼やイベントのみをこなしている。それ以外の時間は鍛錬に費やしているらしい。善人ではあるのだが、損得勘定できる社会人気質でもある。
某公安委員会職員は、スポンサーには勝てなかったよ眠い、とコメントした。




 

 雄英高校ヒーロー科、全国最難関とされるその入試試験を本日挑むこととなる。

 あの日オールマイトにヒーローに成れると言われてから多くのことがあった。オールマイト考案の強化トレーニング、オールマイトの個性譲渡、ワンフォーオールに宿った先代達との尽きることないタンクトップトーク、タンクトッパーに個性を譲渡したことによるオールマイト集団説教、及び先代達から知り得たオールフォーワンの情報説明、先代達の個性も一部使用できるようになったが訓練はしても原則禁止を言い渡された複数の個性を使える事実はあまりにも目立ち過ぎるため、あくまで身体能力上昇と技術でできる範囲で収めてほしいとのことだ。オールフォーワンが滅びてない以上、情報が広まるのは避けた方が良いという判断である。

 ただ師匠であるタンクトップマスターとナンバー4ヒーローベストジーニストさんにこの件を相談したいと告げた、どうせマスターにはタンクトップコミュニケーションでバレてしまうし、先代の個性である黒鞭の個性習熟のためジーニストさんに手ほどきを受けたいのだ。マスターの元での鍛錬で黒鞭などの捕縛術、鞭武闘、鉄鎖術の経験はないためだ(使い手との戦闘はあるが)

 難色示す年長者ズ(オールマイト除く)だが、どうせマスターにバレるならベストジーニストにも伝えるべきだと判断した。公安委員会の強権により誕生した無個性ヒーロー達は彼らのような古い世代の者には受け入れ難く、マスター以外はヒーロー達との付き合いを半ば拒否してる(実際は好き放題してるだけ)ため信用できないらしい。むしろ番犬マン以外と付き合いのある出久こそ例外的な存在なのだ(マスター繋がりだが)

 かくして、タンクトップマスター、ベストジーニストを含めた新たな体制の元中学生活最後の一年は消化されたのである。

  余談だが、個性を得た理由を

 

『タンクトップのおかげだよ!!』

 

 と告げたら、

 

「「「「なら仕方ないね!!!!」」」」

 

 と爆豪君含む全ての人達が納得した。流石はタンクトップ。

 ちなみにその一報を受けた各国個性研究者並びにオールマイトの相棒であったデヴィット博士は、またタンクトップか、という言葉ともに血反吐をぶちまけ緊急入院したらしい(根津校長達が危惧してたのはコレ)

 

 無個性ヒーロー誕生により起こり続けてる騒動(噂ではどこぞの病院の院長も倒れたらしい)が社会を騒がす中、僕は雄英高校の門の前に立った。

 

「おう緑谷」

 

「おはよう爆豪君」

 

 中学校以外では顔を会わすことが少なくなった幼馴染との久しぶりの会話、なんでもマスターの紹介で知り合いの武闘家に弟子入りしたらしい。足運びから流水岩砕拳ではなさそうだけど、どこの流派なのか。

 

「クソロン毛殺す、クソ色黒殺す、クソ天才殺す、クソ舐めプ野郎殺す、クソ師匠殺す」

 

 弟子入りしてから荒みだして昔の爆豪君みたいだよ。もしかして弟子入りしたのあの天才武闘家かな?才覚ずば抜けた反面性格悪いしあの人。

 

「何がヒーローなんて馬鹿のやることだ、女好き天才拳士風情が、ヒーローになって拳士としても超えてぶち殺してやる」

 

 煽られたんだろうな死ぬ程、ヒーロー志望とは思えない面構えだよ爆豪君。挨拶したあとブツブツ言いながら彼は去って行った、あっすいませんあの子ヴィランじゃないんです受験生なんですだから通報はやめたげて。

 

「ぶは、ウケる」

 

 幼馴染のいらん騒動を治めているとその様子が面白かったのか笑い出す少女がいた。

 

「ごめんね笑っちゃって、でも鬼のような表情したヴィランみたいな子と真剣な君の対比が、ぶふっ」

 

 緊張ほぐれてなによりですよ(泣)

 いつもは宥めるの君だろうに爆豪君。

 

「でも緊張ほぐれたみたい、お互い頑張ろう」

 

 うん、かわいい女の子と話せたから良しとしようか。

 




おまけ、その頃のサーナイトアイ事務所。

「あ、ああああ」
 
「どうしたんですかサー?」

「怒涛の大災害が押し寄せて、オールマイトがああ」

「サー、お気を確かに!」

「タンクトップがヤバい、ぐふっ」

 注、心配してるのミリオだけで他の所員達は慣れました。目や口から血を吹き出したりしてますが、のど飴舐めてないので死んでません。


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8話

ヒーロー公安委員会認定
無個性ヒーローナンバー②
『豚神』
外見は極度の肥満体の男性。その体型のためか常に何かを食べ続けている。普段は食レポなどのライター業などをしているらしい。
その戦闘スタイルははっきり言って異常、いかなるものも飲み込み捕食する、即死するような猛毒や消化できる筈のない物質も肉体に影響なく消化できる。ただその巨体にふさわしくパワーもあり貯められた脂肪の防御力も高い。ヴィラン相手には素手で戦い、処分の決定した危険生物は捕食する。
認定経緯は、とある実験施設から逃げ出した実験動物に襲われた人々を守るため戦い、実験動物を全て捕食をしたため。だがヒーローとして認定したというより、これだけの能力があるのに生物学上は無個性である点が警戒危険視されたため。ヒーローという形で監視をしているのが真実なのである。豚神本人も気付いているが気にしてはいない。 
某公安委員会職員からは、見た目と能力が問題ですが性格はマトモなのが救いです、寝かせて。とのコメントでした。


 

「今日は俺のライブにようこそー!!」

 

 ボイスヒーロープレゼント・マイクの盛大な滑りから雄英高校入試実技試験は幕をあけた。先程まで殺意の波動に乗っ取られどこからどう見てもヴィランだった幼馴染は、

 

「タンクトップ着せるぞ」

 

と耳元で囁くことで正気に戻った、前の席の真面目そうな人がチラチラ見てたからいい加減黙らないとね。試験内容は試験場でのロボ討伐、情報力、機動力、判断力、戦闘力と市井の平和を守るための基礎能力がP数で計れる試験という訳だ。

 

「おい緑谷」

 

 同校のためか試験場は別になったのだが、振り分けのため移動中な爆豪君は声をかけてきた。

 

「俺はこの十ヶ月で強くなった、テメェとの決着は雄英でつけるぞ」

 

 だから落ちるなよ、と言外に語っている爆豪君なのだけど、合格確定みたいな態度が周囲の反感かってることに気付いて。睨まれてるよ君、そして僕(とばっちり)それもまた彼なりの自分を追い込むやり方かも知れないけど僕が巻き込まれてますけど。言うだけ言って去っていく幼馴染の姿に呆れながらも、あの負けん気と向上心は見習うべきなんだと思った(ヤケクソ)

 

「ハイスタート」

 

 針のむしろの中で告げられた開始の合図。

 条件反射的に体が動き走り出せたのはタンクトップのおかげ、

 

「どうしたあ!!実戦じゃカウントなんざねえんだよ!!走れ 走れぇ!!賽は投げられてんぞ!!」 

 

 一人先を行く僕のあとを追うように、プレゼント・マイクの言葉に追い立てられながら他の受験生も走り出した。実戦経験の有無が明確に差としてでることを僕は実感していた。

 

「標的補足!!ブッ殺ス!!」

 

「タンクトップパンチ!!」

 

 タンクトップの動きやすさがパンチ力を倍増させた一撃で、攻撃的な音声の仮想ヴィランを粉砕する。肉体は常時ワンフォーオール10%で強化、機械仕掛の仮想ヴィランたちを苦もなく破壊できた。出力じたいはまだ上がる、試験でかつ十分という短時間なら最高出力で会場ごと粉砕すべきかも知れない、だが複数人同時に試験を行うのはただ蹴落とさせることだけが目的とは思えないのだ。

(余力を残しつつ全力で)

 短期決戦で全てをだしきるべき時は必ずある、しかしヒーロー活動は撃退後の後始末やケアも含めてこその人助けなのだから。

 

 圧倒的脅威の出現。

 所狭しと大暴れしているギミックと説明されたそれはあまりにも大き過ぎた。ビル一つ分いやそれ以上かも知れないそのロボは市街地を破壊して進軍する。あんなドッスンいたらマリオブチ切れそうと思いながら、僕は足を前に進める、他の受験生のように巨大ロボットから逃げるのではなく向かうために。意図的に壊して強さのアピールしようというのではない(爆豪君やってそう) ただ感覚、これは先代達の経験か個性による被害の推定かも知れないが分かるのだ、僕が何もしないと受験生全てが逃げ切れないと。ならば進む、何かをするために。

 

「待つんだ君!!」

 

 駆け出す僕を静止する声、それはブツブツ呟く爆豪君を注意しようとしてた真面目そうな受験生だった。

 

「講師の方がアレはギミックでポイントにならないと言っていた、危険だから逃げるべきだ!!」

 

 通り過ぎる人達の中には向かう僕を馬鹿を見るような目で見てきた人もいたのに、彼はこちらの身を心配して話しかけてきたらしい。だからこそ僕は行く。そんな彼が逃げ切れるように。なにせ、

 

「苦難に立ち向かうモノ、それがタンクトップだ」

 

 ここで前に進むために僕はタンクトップを着ているのだから。

 前方には倒れている少女、入試前に会話した子だ。不思議な縁もなるのだと思いながら、僕は彼女を助けるために全力をぶつける、憧れるあの人の技を!!

 いくら鍛えても筋力が上がっても肉はつかない、豚神さんと一緒に大食いしても、マスターや他のタンクトッパーの皆みたいや巨漢にまで成長しない。いまだ成長期ではある、けどマスターのあの憧れの必殺技ができないことが僕のひそかな悩むだった。けれどあの日オールマイトに個性を託されたことで、その悩みに光明が生まれた、そう個性ワンフォーオールの力が!

 

「ワンフォーオール30%」

 

 ワンフォーオールの膨大なエネルギーをタンクトップ力で押し止める、そして大地を揺らし相手の動きを止めタンクトップの動きやすさを利用して放つ、僕が憧れ続けた必殺技、

 

「タンクトップタックル!!」

 

 ブチかまされた僕の体はゼロポイント仮想ヴィランを粉砕した。尊敬するあの人のように。僕はまた憧れに一歩近づけたのだ。

 確かな達成感に包まれたが、粉砕とともに浮かび上がり只今上空このままでは落下してしまうので、なんとかしないと危ないのだが先代の浮遊の個性は使えない、ならばタンクトップの動きやすさによる空中歩法タンクトップエアウォークで移動しようとしたら、仮想ヴィランの残骸にしがみついた少女がこちらの頬を張り落下速度が緩やかになる、なるほど重力を無くす個性か、試験中に浮いてた仮想ヴィランは彼女によるものだと理解し、僕は無事着地した。反動か疲労なのかで具合の悪そうな彼女を介抱しようと近付いたところで、

 

「終〜了〜!!」

 

 入試の実技試験は終わった。

 達成感のあるやり遂げた気持ちで、お疲れ様と歩みよってくるリカバリーガールに協力した。

 

 

 

 場所は変わり、実技試験を判定するモニター室。

 圧倒的ヴィランポイントで戦闘力と機動力を評価されている爆豪勝己とともに一人の受験生が話題となっていた。

 

「彼モマタ凄イポイントダナ」

 

「ええ試験開始とともに一番に駆け出し拳一つで仮想ヴィランを粉砕してます」

 

「爆破の彼と違い、レスキューポイントも稼いでいるわね、よく周りを見ているわよこの子」

 

「何よりも圧巻なのは最後のアレだな、思わずYEAH!って言っちゃったからなー」

 

「(緑谷少年私よりタンクトップマスターなんだSMASHじゃなくタンクトップタックルだし)」

 

「けど彼タンクトッパーですよね?」

 

 ビシリと空気が凍る。

 タンクトッパー、それはタンクトップを着た人達の総称、タンクトップを着ただけの人達の総称の筈だった。

 あの無個性ヒーロータンクトップマスターが現れるまでは。

 

「まあいくらタンクトッパーだからと言ってはですね」

 

「そうよ、成績は問題ないどころか主席なんだし」

 

「バウワウワオーン」

 

「シカシ対策ウタネバ雄英高校ガタンクトップニ沈ムコトニナルノデハ?」

 

 だがタンクトップは強さの証と主張するタンクトップマスターの物理法則をぶち破る奇行のせいで、タンクトップを着るとなんか強くなるという、科学的理論が成り立たない異常事態が常態化しているのだ。実際個性持ちのタンクトッパーは個性の出力も上がってたりする。

 

 私達アレに向き合うの?

 

 プロヒーローであり生徒を導く教員である彼らは迫りくる脅威(タンクトップ)にその身を震わせていた。いかにプルス・ウルトラでも限度はあるのだ。

 

 

 

 

 

 



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閑話、とある紳士視点

ヒーロー公安委員会認定
無個性ヒーローナンバー③
『タンクトップマスター』
鍛え抜いた肉体にタンクトップを纏った男性。
他の三名の無個性ヒーローが、要人警護にイベント、表沙汰にできない事件や裏方、地域限定かつ経歴、などの理由から基本的なヒーロー活動を行わないのに対し、パトロールにヴィラン退治、後進の育成など唯一まともなヒーロー活動を行っている人物。
世間一般の認識では無個性ヒーローとは彼、タンクトップマスターを指している。
認定経緯は、元々スポーツジムのインストラクターをしていたが、ある日プロヒーロー『菜食ヒーローベジダイバー(後のタンクトップベジタリアン)』がジムに通う女性(後のタンクトップガール)に絡んでいたのを注意、逆上し攻撃してきたベジダイバーを正当防衛で返り討ちにした。それから無個性の分際で生意気だと、襲いかかる不良ヒーローやヴィランを極まったタンクトップ力と鍛え抜いた肉体で返り討ちし続け、公安委員会にスカウトされることになった。
スカウトに対し、戦うことで改心した者達の存在もあり快諾。打ち負かされたヒーローやヴィランがサイドキックになることを希望し、それが事務所の始まりのきっかけとなった。
某公安委員会職員は、『タンクトップがこんな社会問題になるなんて予想できるか!』とメモに書いて爆睡している。


 

 

 私の名前はタンクトップジェントル、君達にはジェントルクリミナルと名乗った方が分かり易いだろう。

 そう、ネット界隈の奥底の片隅で密かに大ブレイクする片鱗を見せた紳士。それが、私タンクトップジェントルの元の姿なのだ。

 今となっては恥ずかしい話さ、タンクトップを着てなかったし(と他の者は言うね)、タンクトップを着てないなんてまるで裸も同じだった(いやタンクトップの下は裸だろうに)、そんな恥ずかしい私は当時相棒であるラブラバと共に紳士的でない者に制裁を与える現代の義賊をしていたのさ。

 目的地のコンビニでタンクトップマスターにしばかれるまでは。

 彼の通うジムの側のコンビニは狙うべきではなかったと今更ながら思うよ。

 いやしかしね、今こそ怪物扱いすらされる無個性ヒーロー達だが、当時はヒーロー公安委員会による無個性への媚を売る行為にしか思われてなかったのだよ。

 だってねえ、個性なくして超常現象を巻き起こすなんて信じられるものか、誰もがそう思っていたよ。

 実際はそんな次元じゃなかったのだがね。

 タンクトップマスターは正に進化する怪物ともいえる存在だったのだから。

 かくしてマスターにしばかれた私達は、マスターの元で更生することになり辛い訓練と勉強の日々を送ることになった。

 留年を繰り返し落第、事件を起こし人として最低辺まで落ちた私だったが、このタンクトップ事務所で容赦なく鍛えられその地力を上げることができた。

 何気に顔の広いマスターは人脈凄まじく、自身は無個性であっても個性指導にたけたプロヒーローや技量に優れたトップヒーローとの付き合いがあり、私のような発動系の個性も指導してもらうことができたよ。

 マスター自身は筋肉トレーニングにタンクトップの心得の指導のみだったけどね!!

 そんな日々を繰り返すうちに技量は上がり、私はかつて取れなかったヒーロー資格を正式に取得できたのだ。

 その上なんと、実力でタンクトップ事務所のナンバー2の座についてしまったのだよ!! ラブラバが。

 これは事務所に入ってからすぐに判明したことなのだがね、私のタンクトップ力は低い。マスターの後ろで控えている直弟子のような間柄である緑谷出久君が測定したところ(タンクトップカウンターとは一体?)私はタンクトップ力たった5のゴミらしい(ちなみに比較的新顔のタンクトップかませブラ、いやブラックホールやタイガーですら150前後とか)

 なんでもタンクトップを疑う者はタンクトップ力は伸びないらしく、冬場にタンクトップだけだと寒さを感じる私は異様に低いらしい、おかしいの君達だからね!!(こういうトコ)

 しかしタンクトップ力の低い私とは違い、ラブラバはタンクトップとの親和性が半端無く、所属してタンクトップを着たときからみるみると頭角を表していった。

 ストーカーするほどの思いこみの激しい性格や行動力の固まりみたいな部分が要因かなと私は推察しているよ(こういうトコ)

 事務所内でヒーロー歴の一番長い、ヒーロービルボードチャートにも上位に名を連ね(無個性ヒーロー達はカウントされない)事務所内でナンバー2の座についていたタンクトップベジタリアンを個性を発動せずに下し。  

 さらにはマスターの直弟子であり、子供ながらにして実力なら本当のナンバー2であると言われていた出久君も打倒し(傍から見たら子供同士の戦いにしか見えなかった、破壊される周囲の被害以外は)彼女は正式にナンバー2の座についたのさ。

 小柄な女性ながらに筋肉隆々なタンクトッパーを打ち負かし、パソコン業務から経理までも取りまとめるラブラバ、いやタンクトップラヴァーはマスターの右腕として活躍しているのさ。

 その上個性も超強化され、私がまさかあんなことになってしまうとは、タンクトップ事務所の最終決戦兵器とか呼ばないでください。 

 私かい? フフ泣いてないよ、タンクトップブースト(だからなんなんだろうコレ?)の見込めないながらに技量を磨き、タンクトップ力最低値でありながら事務所で十位圏内の実力者さ、フフ。

 まあ、マスターの盟友であるベストジーニストなどのツテから、他のヒーロー事務所に応援として呼ばれるのは何気に多いけどね。タンクトップラヴァーが嫉妬するのは大変だが、認められている感じがしてやりがいを感じているよ。

 人員が増えて困った時もあったな。

 元々素行の悪い力自慢のヒーロー、ベジタリアンの個性である菜食(野菜を食べることで一時的にパワーアップ)のような増強系の個性持ちばかりでそれが(単純)だからタンクトップブーストがかかり手のつけられなくなる問題が増えてね。

 ヴィランに対する過度な攻撃や、実力の劣るヒーロー達へ威圧するようになったのだよ。

 そのせいで、タンクトッパーはタンクトップマスターの虎の威を借る狐なんて呼ばれもしたなあ。

 マスターはマスターで、評価を気にしないタチで自分を慕う舎弟には甘い性格だから、ベジタリアンやガールにラヴァーと出久君と私で対策に追われたものだ。

 結果として出久君(子供)とラヴァー(見た目が子供かつ女性)にフルボッコにされ説教、私がベストジーニストさんに引き渡して七三矯正してもらったな。(ベジタリアンとガールは根回し)

 そのせいで一時期タンクトップ事務所なのか、七三分け事務所なのか分からなくなったな(遠い目)

 ああそうだ、私のヒーローコスチュームは銀色のタンクトップにデカデカと『紳士』とプリントされているのだよ、ダサいと感じたら駄目なのかな?(こういうトコ)

 ラヴァーは同じ色にハートマークになっているよ。

 

 かくして様々なトラブルを乗り越え、私はかつて焦がれた夢の中にいる。

 予想とも予定とも違う形なれどやりがいはあり、日々充実している。

 歴史に名を残す人物に成りたいという夢はまだ途上なれど、一度諦めた夢をまた見れたのだ、いつか辿り着けるだろう。

 そんな風に今は思えるのだ。

 

 さあて、幻の紅茶ゴールドティップスインペリアルを仕入れにいこう。

 今宵の催しは、タンクトップ祝いではなく、同じく夢に一歩踏み出した、出久君と勝己君の入学内定主席合格祝いだ。多くの者が来て多くの者が祝うそのイベントを盛上げないとね、紳士として。

 来賓は、超合金クロビカリ、豚神、根津校長、リカバリーガール、イレイザーヘッド、オールマイト、ベストジーニスト、ミルコ、ホークス、リューキュウ、プッシーキャッツ、ウォーターホースご家族、格闘家のバング氏にスイリュー、ボルテーンにメンタイって。

 合格祝いでこれだけ集まるって既に伝説だよ!!

 彼ら二人は伝説から始まるのかい!!

 トップヒーロー達はこれだけ休んで良いのかい!!

 ただでさえタンクトッパーも数多いのに!!

 

 果たして合格祝いなのか、世界的なヴィランの掃討作戦の会議なのか分からない面子に頭を抱え、私は買い出しに向かった。 

 

 

 

 

 



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10話

ヒーロー公安委員会認定
無個性ヒーローナンバー④
『番犬マン』
犬のきぐるみを着た青年。その挙動は犬そのもの。
自身の故郷である都市の駅にある台座に一日中鎮座している。
郷土愛に溢れる青年で、故郷に起きる全てのヴィラン犯罪を撃退し続けている。
そのためその都市の犯罪件数は限りなく少なく、世界一安全な都市として有名。
元々有名なヴィジランテであり故郷のために戦い、自らの利益を望まない姿は多くのものに尊敬されている。
だが反面それ以外のことは一切興味なく、政府公安の要請全てを無視している。彼の力があればより平和になると思った一部政府高官が、エンデヴァーをリーダーとしたトップヒーロー二十名による捕縛作戦を強硬したが、全員叩き潰され失敗に終わる。
認定経緯は、その作戦が都市の住民達に知られ抗議集会が行われたため。後に幼少時のデータから無個性だと判明し、特権を与えられ無個性ヒーローとなる。もっとも番犬マンは何を言われても反応しないが。
某公安委員会は、縄張りを日本全土に広げて欲しいとのこと。


 

 春、それは高校生活の始まり。

 雄英高校入試突破、プロヒーローが大勢集ったお祝いを終え、今日僕はこの日を迎えた。

 

「出久、超カッコイイよ」

 

 喜び、送りだしてくれる母に僕は振り返り、ずっと伝えたかった言葉を告げる。

 

「お母さん今までありがとう」

 

 無個性で生んでしまったと、自分のせいで息子の将来を奪ってしまったとずっと悩み苦しんできた人に僕は言う。

 

「こんなにも健康で、鍛錬に答えてくれる体に産んでくれてありがとう」

 

 あなたから貰ったモノは、欠陥品なんかではないと。

 素晴らしい贈り物だったのだと。

 

「僕がこの日を迎えられたのは、お母さんのおかげ、

 お母さんがくれた体のおかげ、だからありがとう」

 

 僕はこの体で生まれて幸せです。

 

 

 

「アレ?爆豪君?」

 

「ん?ああ緑谷か?」

 

 バリアフリーなのか大は小を兼ねる精神なのかやたらと巨大な門があり、物珍しさから一歩止まればそこに見知った幼馴染がいた。

 

「同じクラスみたいだね?」

 

「だな、担任もプロヒーローらしいし、指導しやすいタイプか制圧しやすいヤツでも集めたのかね」

 

 ドアを開けた先に居る、既に座っているクラスメート達を眺めてそう言った。

 ホームルーム担当なだけの一般高校の担任とは違い、ヒーロー科の担任の生徒への影響は大きい。高校からヒーロー科に入り勉強する者にとっては一生頭が上がらない恩師にもなるという。

 だから雄英高校も担任の個性と戦闘スタイルが、生徒の個性に合うか考慮してクラス分けするだろう。いかに十人十色どころではない個性といえど、類似しているものはあるし、大まかな分類は可能なのだ(それでも大雑把な区分がせいぜいだが)

 さらに個性暴走を想定して鎮圧できるかもあるだろうが、此処雄英にはイレイザーヘッドという、ヒーロー業界のジョーカーがいるから問題はない。

 

「おはよう、俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ」

 

 試験で見た覚えのある真面目そうな少年。

 確か聡明はエリート私立だったか?

 

「ああ、君か覚えているよ! あの零ポイントヴィランを撃退したタンクトップの」

 

 まあタンクトッパーですから(誇らしげ)

 

「君の言葉、胸に染みたよ。

 苦難に立ち向かうモノ、それがタンクトップ

 だなんてさ」

 

((((ナニソレ?))))

 

 飯田君の言葉にクラスメートが同時に疑問を抱く。

 

「だから、ボ、いや俺もタンクトップを着ようとしたんだ、なぜか両親に止められたが」

 

(((いやタンクトップくらい許可いらんだろ)))

 

「タンクトップは凄いのにな!」

 

「フンっ」

 

 新たな同士の誕生に喜びを感じて震えていたら、突然爆豪君が飯田君の腹部に正拳を叩き込んだ。見事に入った一撃は飯田君の意識を刈り取る。

 

「いや何してんのお前っ!」

 

 流れるように行われた暴力に髪を染めたトンガリ頭君が反応するが、

 

「治療。おいそこのデカイたらこ唇」

 

「あ、俺か?まあ合ってるけど砂藤な」

 

「そか悪い、砂藤こいつ支えてくれ」

 

 言葉には反応せず、近くにいた年齢の割には大柄な砂藤君に、飯田君の体を両脇の下に手を入れぶら下げるように支えてもらいだす。

 

「あとは、」

 

「う、うう」

 

 ぱん、と飯田君の意識を叩き起こし、その顔の前で

右手で光がでる程度の爆発をチカ、チカ、とパターンがあるかのように爆ぜさせる。

 

「お前はタンクトップに影響されてないお前はタンクトップの謎理論に目覚めてないお前はタンクトップを衣服以外に認識していないお前はタンクトップを凄いと思っていないお前はタンクトップを〜」

 

「何してんのお前?」

 

 右手を光らせながら飯田君の耳元で、かなり聞き捨てならないことをエンドレスリピートする爆豪君。

 支えている砂藤君の当然の疑問を口にする 。

 

「治療」

 

(((洗脳では?)))

 

「タンクトップに染まり切る前に即対処しねえと」

 

(((だからタンクトップに染まるとかナニ?)))

 

「じゃねえと、身近にいる年がら年中タンクトップと叫びながら謎理論で常識をブチ壊すストレスの種みたいなヤツになりかねん、こいつ真面目そうだが単純みたいだし」

 

「そんな人、爆豪君の身近にいたっけ?」

 

 いたら友達になれそうだ。

 

「お前だよ」

 

 

 

 そんな一騒動も終わり、意識を覚醒した飯田君は常人レベルまでタンクトップ力が下がってしまった。彼は適正高いのに残念なことだ。

 爆豪君は席につき、先程話しかけてきたトンガリ君、切島君に再度声をかけられていた。なんでも入試会場が同じでその活躍を見ていたらしい。

 僕は僕で、遅れてきた会場で同じだった麗日さんと話している。他の人達も入試会場つながりの会話が多いのでインパクトある実技試験はこれも狙っていたのかも知れない。

 なお、推薦組で共通する話題のない百さんが、チラッチラッとこちらを伺っている。昔超合金クロビカリさんの仕事に付き添いで知り合い(同年代がいたほうが助かるから頼まれた)以来連絡を取り合う彼女と同じクラスになるとは。

 ちなみに女の子と会話しても照れたりはしない、事務所にはタンクトップガールにタンクトップラヴァーもいるし、クロビカリさんのイベントでも女性が多くて慣れているのだ。

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

 廊下で寝袋に入り寝転がっている不審者。いやさっきまでいませんでしたよねイレイザーヘッド。

 

「ここはヒーロー科だぞ」

 

 取り出したゼリー食を啜り、芋虫みたいに立ち上がるとヌーと寝袋から抜け出して。

 

「ハイ静かになるまで8秒かかりました、時間は有限君達は合理性に欠くね」

 

 学校だとこんな風なのか、マスターと組んでヴィラン掃討する時はもっとマトモなのに。

 

「担任の相澤消太だよろしくね、早速だが体操服着てグラウンドに出ろ」

 

 机の横の紙袋はソレですね。

 僕はなぜ母が入学式に参列する準備をしてなかったのかその理由を悟った、事前通達はしていたのだろう。

 

 

「「個性把握テスト!?」」

 

 入学式とガイダンスはしないで即開始、イレイザーヘッドらしいなとは思う。

 悠長な行事に出る時間はないと言うが、体育祭がかつてのオリンピック扱いであり、偉大なヒーローには雄英高校が絶対条件とすら言われる此処は世間の注目が高くテレビ中継もされてる筈なんだけど?

 実際眼の前の体育館にはガヤガヤと人の気配するし、

 

「どこだ、焦凍ーーー!!」

 

 ナンバー2ヒーローの叫びも聞こえますけど?

 

「雄英は自由な校風が売り文句、そしてそれは先生側もまた然り」

 

 クラスメートの一人が無表情から苛ついた表情になっているのも無視して、相澤先生は説明する。

 個性禁止の体力テストを個性を用いてやれと。

 個性禁止と個性使用時においての差異、また経験あるテストにおいての個性の使用を確認する。

 爆豪君の爆風に乗せたソフトボール投げの記録は、個性禁止では考えられないものだった。

 

「まず自分の最大限を知る、それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 比較しやすい記録だからこそ分かる、個性の上げ幅。

 それこそ成長において一番重要なこと。

 面白そうだとはしゃぐクラスメートを見ながら、このテストの重要性を考える。

 だが、その面白そうと言う発言は、相澤先生のナニかを反応させた。

 

「面白そうか、ヒーローになるための三年間そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?

 よしトータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

 

 相澤先生の雰囲気とともに空気が変わり、一年A組はいきなりどでかい受難を与えられた。

 

「生徒の如何は、先生の自由

 ようこそこれが雄英高校ヒーロー科だ」

 

 入学初日の大試練。

 

「あ、緑谷はタンクトップ脱いでやれよ、身体能力増強は個性のみな」

 

 タンクトップのせいで正確なデータ取れないんだよ、と無情な一言。

 

「死にますよ僕!!」

 

 僕は生き残ることができるのか!!

 

(((いや死なんだろ、というかタンクトップってナニ?!)))

 

 

 

 

 



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11話

 

 タンクトップ。

 それは僕緑谷出久にとって、力の象徴であり、心の拠り所であり、魂の片割れであり、命そのものであり、鍛錬を共にした相棒であり、自らを示す証であり、能力を制御する要であり、仲間との絆であり、体の一部であり、未来を指す羅針盤であり、現代を記す日記であり、過去を思い返す記憶であり、吉兆を占う祭具であり、力を増す増幅器であり、絶対の防具であり、至高の武器であり、成長促す鍛錬着であり、自らを縛る拘束着であり、温もり与える光であり、冷たさ与える闇であり、離れ難き友であり、明日へと飛び出す翼であり、一歩踏み出す足であり、苦難を受け止める体であり、叡智授ける頭であり、希望掴み取る腕であり、己の全てである。

 四歳のあの時より、常に共にあった存在。

 それを脱ぐなど、生皮剥がす程の激痛をもたらし、全裸になった時のような羞恥心を与えた。

 つまり今の僕は、

 

「死にそう」

 

「まだ生きてんだから大丈夫だろ」

 

 ふふ重力ってこんなに重かったっけ、空気ってこんなに取り入れにくかったっけ、

 

 体が重い。

 

「それでエンジンついた速さ自慢を超えてんだろ」

 

 力が入らない。

 

「握力計握り潰すなや」

 

 体が鉛のようだ。

 

「葡萄頭の絶望顔が目に入らないのか」

 

 腕が上がらない。

 

「∞と俺の記録の次にボール飛んだだろうが」

 

 体力が尽きる。

 

「原付きと並行して走れる奴のどこがだ」

 

「「「お前もだよ!!」」」

 

「お前だとう!!」

 

「「「そこでキレるとか面倒くさい奴か!!」」」

 

 僕の(緑谷出久)体力テスト記録二位。

 ワンフォーオール常時発動20%を維持プラス幼少時からの肉体鍛錬の成果は、タンクトップ無しでもクラスメートを圧倒する記録を叩き出した。

 ワンフォーオールに宿る先代達の励ましが無ければ、個性の制御は厳しかったかも知れない。

 オールマイトは知らなかったワンフォーオールの特性であるが、実力ある先達から常に助言を貰え、相談できるというのは、複数の個性の使用や圧倒的肉体強化以上のメリットではないだろうか?

 その分、その力を無しにオールフォーワンを打倒し、平和の象徴へと至ったオールマイトの偉大さが理解できるというものなのだが。

 ちなみに一位は爆豪君。

 元々尋常じゃない才能があって、本人の性格ゆえの負けん気の高さ、僕に勝とうという努力、そして去年一年のスイリューさん(爆豪君並かそれ以上の天才)との一対一の鍛錬。

 結果、僕を超えて一位だ。

 

「タンクトップ着てねえテメェより上なんて意味ねえよ、翼をもがれた鳥に勝てて嬉しいわけあるか」

 

(((だからタンクトップって何なんだ?!)))

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

 表示されてた順位の一覧を消しながら相澤先生はそう言った。絶望の表情で打ちひしがれていた葡萄頭の峰田君はその言葉に涙を流しながら頭をあげた。

 

「君等の最大限を引き出す合理的虚偽」

 

 天下の雄英高校受かったんだから、そこがゴールだと勘違いしてしまう者もいる。実際今まで勉強漬けの生活をおくっていて成果がでたら浮かれるのは当たり前のことだ。

 だがヒーロー科はそれではいけない、施設や実習によってはそれで命を落としかねない危険だってある(巨大ロボとの戦いも本来は命懸け)

 だからこそ除籍という冷水をぶっかけて教えたのだろう。

 ここはゴールじゃない、ここはスタートだと。

 命懸けの道を走り出すスタートなのだと。

 百さんが横でウソに決まってじゃないと言っているが死んでしまうかも知れない、浮かれている者を置いておくような人では相澤先生はないのだ。

 しかし、

 

「やはり最高峰、クラスメートの実力は申し分ない。皆がタンクトップを着たらどれだけ高みにいけるか楽しみだね」

 

「何ヤバイこと言ってんだお前、それといつ着たタンクトップ」

 

 失われていたタンクトップ力が全身に漲り、体に活力が溢れる。

 やはりこれがないと生きていけないな僕は。

 

 

「無個性ヒーロータンクトップマスターの直弟子!」

 

 学校も終わり放課後の教室、僕らは自己紹介も兼ねて一部生徒を除いて集まっていた。帰宅まで時間の余裕はあるのだが、ファミレスなどに寄るには人数が多いためだ。

 

「無個性ヒーローか、確か都市伝説の類という話じゃないのか?」

 

 黒影の個性持つ常闇君は、一部の人の認識を告げる。

 そう思われているのも事実なのだ、何せ実際ヒーロー活動しているのはタンクトップマスターだけだし。

 無個性がヒーローをできないという常識。

 さらにはマスターがタンクトッパーとして有名なため無個性ヒーローという名称があまり使われないのだ。

 

「そうよね、あれだけのことが出来る人達が無個性なんて信じられないわ」

 

 カエルの個性である梅雨ちゃんは言う、彼女は昔番犬マンの映像を見たことがあるらしく、アレが無個性とは思えないらしい。番犬マンはマスター達から見ても逸脱した存在だから仕方ないと思う。

 

「事実だよ、とはいえ本人達もアピールしたいことではないらしいし、どうでもいいみたい」

 

 良く言われる無個性擁護とかのために作った制度ではない。どうにかヒーローの枠組みに押し込まないといけない人達が揃って無個性だったから、無個性ヒーローという形を作らざる得なかったとのこと。本人達が個性があると偽証してくれた方がラクだったらしいけど、嘘つくのを嫌がったとか、マスターなんか無個性で有名だったし。

 

「んなことはどうでもいいんだよぉ」

 

 なんだこのまるで地獄の底から響いてくるような声と殺意は、あの小柄な体躯から溢れているぞ。

 

「なんで初日からクラスメート女子と名前呼びなんだチクショーがよう」

 

 ああ百さんのことか。だって友人だしね。

 

「あー私も気になった!どんな関係なの二人とも?」

 

 透明な体を制服で包んだ葉隠さんは、大きな挙動でそう言う。タンクトップアイ(生物の生命力を形として見える)を使えばはっきり見えるけど、かなりの美少女だよね。

 

「えっと出久さんとはパーティで知り合いまして、その時から親しくさせて頂いてます」

 

 クロビカリさんに頼まれた件だね、あの人なぜか一部お金持ちに大人気だから、護衛の名目でよくパーティに招かれるんだよね、実際に無敵かってくらい強いけど。

 あと百さん、顔赤らめてチラチラこちら見るのはおよしなさい。周りが勘違いしてしまうでしょ。

 

「こんなタンクトップ馬鹿が気にいるとか悪趣味な女って本当に多いよな」

 

 中学でも多かったと男子達のヘイトを僕に寄せる発言の爆豪君。なぜかギクリと麗日さんは反応するし、峰田君なんかもう血涙だよ。

 

「悪趣味て、タンクトップガールが初恋相手の爆豪君がそれ言うの?」

 

 まあ仕方ないよね美人でカッコイイお姉さんだし、オトコのコなら憧れるよね。本人はマスターに夢中で即失恋してたけど(愉悦)

 

「だからテメェは人の古傷を抉るんじゃねえ!」

 

「君が先に悪趣味言ったんだろ!」

 

 タンクトップは素晴らしいだろうが!!

 

 そうして時間がくるまで僕らは話した、取っ組み合いになりそうなやり取りを皆で繰り広げた。

 楽しいと心から思い笑った。

 

「「「それでなんでタンクトップ着ると強くなれるの?」」」

 

「タンクトップ着たら強くなれて当たり前でしょ」

 

「お前らだけだよ」

 

 



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12話

 

 波乱の初日が過ぎ、次の日。

 結局タンクトップを着たら強くなれると、クラスメート達にいくら言っても納得してくれなかった。

 そんな訳がないとか、気合で個性のあり方を変えたり進化させる個性持ちが何を言っているんだか。

 そんな凝り固まった常識こそがタンクトップを阻害するいうのに。

 出来るから出来る。

 タンクトップを着こなしたら最強。

 それこそが真理だ。

 

 なんてことを考えながら午前の授業を受ける。

 ややツッコミ気質な人が多いような気がするけど、クラスメートは皆良い人ばかりだ。

 

「おらエヴィバディヘンズアップ盛り上がれー!」

 

 どうでもいいけど、英語担当教員のエセ外人キャラってなんなんだろう?ありふれすぎてそのキャラ没個性。

 多分みんな普通だとか思ってそうだね。

 

 昼は大食堂で一流の料理を安価で頂ける。

 クックヒーローランチラッシュは白米押しだ、同意するけど。

 

「緑谷君と爆豪君に聞きたいことあんだけど?」

 

 と言い出したのは麗日さん。

 プロヒーローの料理を味わえると、二日目ながらに食堂へと足を運んだのだ。

 メンバーは、僕に爆豪君に麗日さんに梅雨ちゃん。他のクラスメートは別のテーブルだ。

 

「聞きたいこと?」

 

 返事をしながら激辛麻婆丼に添えてある山椒を山程ぶっかける爆豪君、君は四川省出身なのかな?

 

「私も思ったことなんでも言っちゃうの」 

 

 とは梅雨ちゃん。きっと眼の前の麻婆丼のことだ。そうだね本場テイストな麻婆の食べ方だしね爆豪君。

 

「「二人とも幼馴染なのになんで名字呼びなの?」」

 

「あだ名じゃなくても、名前呼びくらいはしそうだわ」

 

「喧嘩しとるわけじゃなさそうだし」

 

 あー、そっちかー。

 話したくないな正直、大した訳じゃないし。

 

「メシ時にする話じゃねえよ」

 

 と不快そうに劇物を掻き込む爆豪君。言いたいことは分かるけど、ほら二人共明らかに誤解して申し訳なさそうだよ?

 と、そんな様子をタンクトップテレパシーで伝えようとして、

 

「妙な技食堂で使おうとするなよ」

 

 と静止をかけられる。

 心外な、タンクトップのぴっちり感による伝達性で心の声を相手に届けるタンクトップテレパシーのどこが妙な技だというのか。

 

「メシがまずくなる話だがいいのか?」

 

 コイツ話をする前に自分の分平らげやがった。

 

「名前呼びで親しいからと、腐った連中がBL同人のネタにしやがったんだよ」

 

 要約してある話だけどそのまんま。

 中学の時、学校内で評判の良い男子二人をネタにして一部女子がはっちゃけたのだ。僕も不快だったし、失恋したての爆豪君は耐えられず引きこもりかけた。

 爆豪君のお母さんになんとかしてくれと(爆笑されながら)頼まれたので、タンクトッパー達で部屋に押しかけてなんとか解決したけど、あれは酷かった。

 

「それは辛かったわね」

 

 無自覚に人を傷つけた元クラスメートを不快に感じてそうな梅雨ちゃんと、想像したのか顔を赤らめる麗日さん。かなり広まって大変だったなアレ。

 まあヒーローやってたら大なり小なりありそうだけどあの時はタイミングがね。

 以来お互い名字呼び。内心だけで名前呼びしても個性のせいなのか反応されて騒がれたから、内心でも名字呼びを徹底しているのだ。

 

「いやむしろテメェのやらかしの方が」

 

 昔を思い出して顔を青ざめる爆豪君。

 この呼び方はもう癖だよね。

 ちなみに僕の昼は、野菜スムージーにプロテイン。

 体質ではあってもタンクトップかませブラザーズ、もといブラックホールやタイガー以下の筋肉なのは嫌なのだ。

「白米喰えよ!!」

 ランチラッシュの怒声をあびながら僕等は食堂をあとにした。

 

 

 そして午後の授業いよいよ、雄英高校もヒーロー科の本番。ヒーロー基礎学!!

 

「わーたーしーが!! 普通にドアから来た!!」

 

 普通じゃないです。

 とりあえずテンションが違う、いやプレゼント・マイク先生も似た感じだから普通?  

 

「オールマイトだ、すげえや本当に先生やってる」 

 

 通知されたけど昨日会ってないしね。

 

「銀時代のコスチュームだ、画風違いすぎて鳥肌が」

 

 いやいやクロビカリさんに比べたら普通だよ。

 

「ヒーロー基礎学! ヒーローの素地を作る為様々な訓練を行う項目だ科目だ!!

 早速だが今日はコレ!! 戦闘訓練!!」

 

 ポーズを決めるオールマイトに、興奮するクラスメート達。当然だ、ヒーローの本領は戦闘、ここにいるクラスメート達はそれを受け入れた、戦える者達なのだ。

 

「そしてそいつに伴って、こちら」

 

 教室の壁からせり出す棚。ハイテクだな。

 

「入学前に送ってもらった個性届けと要望に沿ってあつらえた、戦闘服!!」

 

 雄英高校に入るメリットの一つがコレだったりする。

 普通のヒーロー科はここまでしてくれないし、自腹での依頼が当たり前。

 雄英高校というブランド、企業の試作を兼ねている、自前でサポート科を抱えている、などの点から生徒に無償でコスチュームの配布が可能なのだ。

 

「着替えたら順次グラウンドβに集まるんだ!!」

 

「「「はーい!!」」」

 

「格好から入るってのも大切なことだぜ少年少女!

 自覚するのだ今日から自分は、 

 ヒーローなんだと!!」   

 

 コスチュームに着替える皆の姿、興奮を隠せないその様に僕も熱くなる。

 ズボンはベストジーニストからもらった黒色のダメージジーンズ。

 上は、僕の名字からとった緑のタンクトップ。

 そしてその上着として、オールマイトを意識した背中にSMASH HEROと二段に別れたロゴの描かれたジャケットを羽織り、額に防具としても機能する、ワンフォーオールの覚醒状態を示すイナヅマの走った柄のバンダナ。

 最後に首からタンクトップの「タ」のロゴの入ったペンダント。

 手甲なども考えたけど、流水岩砕拳を使う僕には邪魔になるので薄手の手袋だけをする。

 お世話になった人達、憧れるヒーロー達の要素を組み込んだコスチューム。

 最初は他のタンクトッパーみたいに、シンプルにしようとしたけど、ジェントルの助言でこうした。

 マスターの教えだけが、タンクトップだけが僕の背負うものではない。そう言ってくれたのだ。

 だから、その思いを胸に抱えて、

 僕は、『タンクトップオールグリーン』としてヒーローに成る。

 初のヒーロー基礎学、初の戦闘訓練、僕は気合を入れた。

 

 

 

 

 




コスチューム案はミスターサーさん、素知らぬ猫さんのデザインが元です。ヒーロー名に関しては原作より早いけど、クラスメートも子供の頃から考えていたし、タンクトッパーはコスチュームがヒーロー名なので早めの公開となりました。ヒーロー名も南畑うりさんからの案を参考にしております。ありがとうございました。


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13話

 

「「「いやタンクトップじゃないんかい!!」」」

 

 慣れない格好(普段制服かタンクトップのため)のせいで皆より遅れてグラウンドにでたらクラスメートから一斉につっこまれた。

 爆豪君にいたっては、まるで世界終焉の予言でも見たような反応だ。

 確かにタンクトッパーは、ジーンズにタンクトップが当たり前で有名だけど、ジャケット羽織ってるだけできちんとタンクトップだよ。

 オールマイトなんか「私要素ある」とか喜んで拳握りしめてるし、もう少しオールマイトの弟子であることアピールした方が良いかな?秘密だよね、師弟関係。

 

「とりあえず保健室行け緑谷、お前は病気だ」

 

「顔真っ青な君が行きなよ爆豪君。

 コスチュームに関してはジェントルのアドバイスどおりにしたんだよ」

 

 いやタンクトップ脱いだら死ぬと言ったのは僕だけどさ。

 

「なんだあのマトモな紳士が言ったのか、なら大丈夫だな」

 

 ジェントルって外部の方が評価高いよね。ラヴァー以外には。

 

「タンクトップ力低いのが欠点だけどね」

 

 まだ2桁なんだよねあの人。実力は高いのに。

 

「だからマトモなんだろうが」

 

 

「さあ始めようか有精卵共!! 

 戦闘訓練のお時間だ!!」 

 

 パトロールしているヒーロー達により対処される捕物や戦闘の方が野次馬などもあって目立つが、凶悪敵は屋内での戦闘が多いなどの説明。

 それに対しての質問の多さにカンペ(そういえば新任だったよなオールマイト)を見ながら説明する。

 内容は屋内での対人戦闘訓練。

 設定は、敵がアジトに核兵器を隠していて、ヒーローはそれを処理しようとしている。

 ヒーロー役の勝利条件は制限時間内に敵を捕まえるか核兵器を回収する事。

 敵役の勝利条件は制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえる事。

 コンビと対戦相手はくじ、体力テストと同様にどこまでできるか知ることが大切なので、誰と組むとかは考慮外なんだろう。

 僕が組む事になったのは葉隠さん、役割は敵だ。

 しかしなんだろう、凄く嫌な予感がする。

 絶対にタンクトップアイは使うなと、タンクトップがタンクトップシックスセンスが告げている。

 彼女はきちんと透明なコスチューム着てるよね?

 

 屋内対人戦闘訓練開始。

 まずやるのは、爆豪君と飯田君が敵役で麗日さん尾白君がヒーロー役だ。

 他の生徒は地下モニタールームで音声無しの映像のみで見て学ぶ、まあこんな監視カメラの視点で見るのも初めてだろうから勉強になる。

 今は突入前の作戦タイムだ。

 

「んじゃ、オフェンスとディフェンスで分けるとしてどうする飯田?」

 

「む、分けるのか?二人で核兵器を守るのもアリだと思うが」

 

「まあ例えばもぎもぎのヤツとかなら拘束タイプだしアリだろうが、俺等は動けるタイプ、この広さで二人動くのは邪魔になるだろ?」

 

「うむ言われて見ればそのとおりだな、敵が迎撃しないのも役割として不自然だ」

 

「で、エンジンによる加速が飯田の持ち味だよな、入り組んだビル内でどこまで動ける?」

 

「接近戦で遅れをとるつもりはないが、万全とは行かないな、威力を出し切る距離が取れない」

 

「ならディフェンスでいいか?ここ片付けりゃ広さは充分だろ?ただ場合によっちゃ誰もこないで終わるぜ」

 

「うむ、評価されてる以上活躍しないのは思う所あるが、派手に活躍するだけがヒーローではない。まだ一回目だし今回は守りに徹しよう」

 

「次も組んだら逆にする、それでいいな?」

 

「心遣い感謝する。だが容易く捕えられるとは限らないぞ、麗日君は触れたら終わりだし、尾白君は格闘経験もある、それにあの尾が室内戦に向いてる」

 

「慢心はねえよ、だがアイツラに遅れを取るほど弱くもねえ。格闘経験?あの師匠やタンクトップ馬鹿に比べたらどうってことはない」

 

「ならば任せた」

 

「ああ、一応言っとくが誰か来たら即迎撃な、

 俺が戻る時は合図する」

 

「承知した」

 

 

「って爆豪君チームは言ってるよ」

 

「「「なんで分かんだよ!!でも説明ありがとう」」」

 

 モニターを見ながら、作戦タイム中の二人の会話内容をクラスメートみんなに伝える。ちなみに尾白君達は、当たり前だが二人で突入、迎撃を尾白君が行い、麗日さんは核兵器に向かうとのこと。

 

「いやね、緑谷少年。全部私が聞いてたとおりなんだけどなんでわかるの」

 

 音声を拾っていたオールマイトが恐る恐る尋ねてくるけど。

 

「読唇術ですけど」

 

 難易度の割にヒーローに必須なこの技術。監視カメラは必ずしも音声拾わないし、敵の戦闘指示も離れていても知ることができる。

 

「?」

 

 皆の反応がないことが気になったら、

 

((((技名にタンクトップついてない?!))))

 

 なんか驚かれてた。

 

 

「じゃあよ、緑谷はこの訓練どうなると思う?」

 

 フルフェイスな瀬呂君が尋ねてくるが。答えは決まっている。

 

「爆豪君が迎撃して捕縛して終わり」

 

 結果は明らかだ。

 

「オイオイ、いくら幼馴染でもそら贔屓目ってヤツだろ?尾白も麗日も入試や体力テストで活躍してたろ」

 

 僕のあっさりした答えに切島君は反論する。

 一理はある、あの二人の相性も悪くない、けれど。

 

「圧倒的に実力が足りない」

 

 対戦相手はあの天才爆豪勝己だ。

 次世代最強といわれる天才格闘家、冥テイ拳のスイリューが鍛えたら面白いと判断した男。

 弱者と才能の無い相手には一切目もくれないあの人が十ヶ月以上も相手して、その上未だに師弟関係を続けている存在。

 ありあまる才能に、戦いに向いた爆破の個性、そこに格上との戦闘経験に武術の動きが組み合わさる。

 現役ヒーローのタンクトッパー達もベジタリアンにジェントルといった限られた者しか勝てないだろう。

 

「個性を用いての戦闘以前にロクにケンカもしたことのない二人じゃ相手にはならないよ」

 

 純粋な体術だけでもスーパーファイト本戦出場者レベル。爆豪君と戦う最低の水準でもそれくらいだ。

 

 僕の本心からの言葉に息を飲むクラスメートとオールマイトがいた。

 

 

 訓練が開始して潜入する二人、そこにいつものように歩いて近づく爆豪君。

 油断からではない、自身の本拠地で構えるヴィランに焦りはなく、想定内とばかりに対処するものだ。

 迎撃しようと尾を振るう尾白君、麗日さんは自身を軽くして話し合いどおりに抜けようとする。

 だが、爆破の加速で瞬時に間合いを詰め、頭を右手で掴んだかと思ったら爆破の衝撃で尾白君の意識を落とす。その動きに目を奪われた麗日さんに爆破で回転しながら捕縛テープを巻く。

 一瞬の交錯、そうとしか言えない僅かな時間で敵チームは勝利した。

 

 講評は一言、爆豪君強すぎ。

 話し合いとかも良かったが必要だったかと言いたくなるぐらい強すぎた。 

 百さんも役割分担に問題なく、ただ爆豪君が強かったと評した。

 だけどオールマイトや超合金クロビカリにタンクトップマスターといった個人戦闘力で状況をひっくり返す存在は確かにいる。そんな存在がいるかも知れない状況で戦うこともあるのだと、ヒーローは思考の隅において置かねばならない。

 落ち込む麗日さん達に、そんな説明をオールマイトはしていた。

 

 

 ビルに破損はないのでそのまま第二戦。

 核兵器のハリボテのとこが綺麗になってたけど問題はない。

 やるのは、轟君と障子君がヒーロー側で、僕と葉隠さんが敵側だ。

 

「緑谷君私ちょっと本気だすわ、手袋もブーツも脱ぐわ」

 

「ちょっと待って、葉隠さん透明素材のコスチュームじゃないの?足の裏とか怪我するでしょうやめなさい」

 

 まさか全裸かこの子、確か生地に細胞練り込んで反映させる手法があるからコスチュームを改良しないと、

 とまで考えた所で、部屋が凍りついた。

 幸いブーツは脱いでないから葉隠さんは大丈夫だろうけど。

 

「うう全裸な私にはしんどい寒さだよ」   

 

 気配的に、まだ一階。時間に余裕はあるな。

 

「ほっ」

 

 先ずは張り付いた靴を剥がして。

 

「葉隠さん大丈夫?」

 

 首から下げた『タ』のペンダントからスルリとタンクトップを取り出して。

 

「タンクトップを着るんだ、暖まるよ」

 

 かつてマスターがしてくれたようにタンクトップを渡した。

 

「……緑谷君、焼け石に水って言葉知ってる?」

 

「?」

 

「渡すなら普通はジャケットの方でしょ!!

 なんでタンクトップ、どこからタンクトップ、

 そしてその格好でなんで平気なの?!当たり前のように張り付いた氷砕いたし!!」

 

「いやタンクトップの保温力なら、北極だろうと春の陽気だし」

 

「感覚おかしいよ!!」

 

 やっぱりツッコミ気質な子多いよねA組、と思いながら葉隠さんの足元も砕く。

 

「じゃあ、あとは待機かな?」

 

「なんで?爆豪みたく攻めないの?」

 

「それもいいけど、向こうは障子君いて索敵しているだろうし、精度にもよるけど油断はできない。  

 なら凍って動かないと思ってノコノコ来たら迎撃しよう」

 

 ルールで時間制限があるため必ず侵入はしてくる。戦うならそのタイミングだ。

 

「意外、タンクトップ無双とかやるのかと思った」

 

「負ける気がしないけど、セオリー曲げてまでやるタイミングじゃないよ」

 

 しばらくして案の定きた轟君。

 

「悪かったな、レベルが違い過ぎた」

 

「って言うには経験と判断力、何よりもタンクトップが足りてない」 

 

 拘束度合いも確認しないで入るなんて油断が過ぎる。

 

「?!」

 

 拳を振るう僕に咄嗟に反応した轟君は、僕を凍りづけにする。

 

「驚いたが、それだけだ」

 

 汗を拭うように右手で顎をこするが、それもまた油断だ。

 

「たとえ体が凍りついても、

 タンクトップは凍らない」

 

 再度砕き、驚いた表情で身構えることができない轟君にタンクトップブローを放った。

 

 轟君を殴り気絶させ拘束。異変を感じた障子君が慌てて来ようにも時間切れで終了となった。

 

 

 

「お疲れさん!!誰も怪我はないし真摯に取り組んだ

 初めての訓練にしちゃ皆上出来だったぜ!」

 

 除籍と言われ圧力のかかった授業の後で、拍子抜けだと感じたクラスメート達だけど。

 それもまた自由だとオールマイトは告げて去っていった。活動限界は大丈夫なんだろうか。

 

 

 クラスメート達にとって初のコスチューム、初の対人戦、興奮したまま盛り上がった皆は反省会を開こうと言う。それで正確な分析をした僕にも参加して欲しいらしい。勿論頷いて、皆にアドバイスを求められる。

 

「結局俺らに何が足りてないんだ?」

 

「決まってるよそれは、タンクトップを着ていないことだ」

 

「「「それはもういいよ!!」」」

 

 楽しく笑い合う、ただそんな中不穏な気配を感じるとタンクトップは告げる。

 そう、悪意がそこまで来ていると。

 

 

 




ちなみに爆豪君は汗を書きやすいようコスチュームは長袖で格闘の邪魔にならないよう、手榴弾を模した手甲も細くスマートになってます。
あと話し合いの時、飯田君はマスク取ってます。


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14話

 

 

 朝雄英バリアの前に超合金クロビカリがいた。

 

 

 超合金クロビカリ、無個性ヒーローの最初の一人で本業はボディビルダーとジムトレーナー。

 ヒーローは副業だとあっさり言い切ってしまう、ヒーロー精神の欠ける人物と言われがちだが、基本は頼まれたことを断らない善人。

 マスターとはサプリメント会社のイベントで知り合いそれから友人となり、無個性ヒーローだから知り合いというわけではない。

 僕にとっては筋肉を鍛える指導をしてくれるトレーナーみたいな人で尊敬してる先達だ。

 ただ個人で強過ぎるのと指示に忠実な人のため、任務活動はオペレーターと二人だけで行い、僕がヒーロー活動を一緒にしたことはない。

 そんな人物が何故か、雄英高校の前にいた。

 雄英高校の門の前にいた。

 雄英高校の門の前にいて、ポージングしていた。

 報道陣の度肝を抜きながら。

 

「さあ俺を見てくれ、黒光っているだろう?」

 

 これお茶の間に生放送なのかな?

 ファンの人以外は吹くよ。

 

 そんな珍騒動もあって雄英高校生はマスコミに絡まれることなく登校できた。

 オールマイトが雄英高校の教師に就任したというニュースで連日集まるマスコミ達の対処を彼は受け持っているのだろうか?

 

「葉隠さんがクロビカリみたいに鍛えたら最強かも」

 

 今、真理の扉が開いた。

 透明な究極の防御を誇る筋肉、まさにインビジブルデストロイヤー。

 

「張り倒すよ緑谷君(激怒)」

 

 テメェは乙女をなんだと思ってやがると、後ろを歩いていた葉隠さんに頭を叩かれる。

 正直、ヒーローってもう少し筋肉と格闘経験つけるべきだと思う。それだけで大分違うのに。

 タンクトッパーが活躍してる理由の大半がそれだ。

 ただ頑強で格闘経験があるだけが、犯罪を犯すヴィラン達を撃退しているのだ。

 そもそも鍛えるなんて苦しくて地味で嫌なことを、嫌なことをしたくないヴィランがするわけないしね。

 

「だからといって乙女に言っていいことじゃないから」

 

「腹筋割れてる女子って良くない?」

 

 正直ときめくのだけど。

 

「ヒーロー女子の一生つきまとう職業病に何を言っているか」

 

 ヒーロー女子は筋肉質になる、特に直接戦闘するタイプは。

 ミルコは言うに及ばず、プッシーキャッツの皆さんも案外手足太いよね、とても良い。

 

「緑谷くんの性癖はわかったから、ヤオモモとお茶子ちゃんには伝えておくとして、さっきのアレなんだろ?」

 

「超合金クロビカリのこと?マスコミ対策かな?」

 

 虫よけに金剛力士像を置くようもんだけど。

 

「アレが無個性ヒーローかあ、初めてみたよ。

 緑谷君言ったみたいに先生達に頼まれたのかな?」

 

「案外ジョギング中に人集りを見つけてファンサービスしてるだけかもね」

 

 あの人ならやりかねん。

 人々の視線は全部自分に向かうと信じて疑ってない人だし。

 うちのクラスの青山君みたいだよね(笑)

 

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ、Vと成績見せてもらった。

 麗日、尾白、あまり落ち込むな。

 想定外の強者なんざヴィランにはいくらでもいる。

 訓練で経験できるうちにしとけ」

 

 朝のホームルーム、相澤先生の戦闘訓練の講評からはじまった。全体的に問題はないらしく、尾白君たちの気遣いをしていた。

 

「さてホームルームの本題だが、

 急で悪いが君らに、学級委員長を決めてもらう」

 

「「「学校っぽいの来たーー!!」」」

 

 無駄に威圧かけるから身構えたけど、その実当たり前の役職決めだった。

 いやこれ、初日のガイダンスでやることだよね。

 

「委員長やりたいですソレ俺」

 

「ウチもやりたいス」

 

「オイラのマニフェストは女子全員膝上30センチ」

 

「ボクの為にあるヤツ☆」

 

 みんなやる気だよね、当たり前だけど雄英高校に受かる人はクラス一、あるいは学年一、学校一の優等生。意識が高くて当然だよね(峰田君は欲望むき出しだけど)

 また普通科なら雑務扱いでも、ヒーロー科では集団を導く、リーダー役を鍛えられる役なんだ。

 そうこの濃い面子を導く、リーダー役なんだ。

 皆が手を挙げる中興味なさそうなのは、どうでもよさそうに見てる轟君と、学級委員長と聞いた時点で顔を土気色にした爆豪君だけみたいだ。ちなみに僕も参加する気はない、まとめ役はタンクトッパー達だけでたくさんだし放課後は忙しいから。

 

「静粛にしたまえ!! 

 多を牽引する責任重大な仕事だぞ! 

 やりたい者がやれるモノではないだろう!!

 周囲からの信頼あってこそ務まる聖務!

 民主主義に則り真のリーダーを皆で決めるというならこれは投票で決めるべき議案!!

 ところで、顔色悪いがどうした爆豪君!!」

 

「「「そびえ立ってる上、多数決提案して、クラスメートを心配したー!!」」」

 

 まあ妥当だよね、やりたい気持ち丸出しだけど。

 

「気にすんな、学級委員長という名のタンクトップ係がトラウマなだけだ」

 

 飯田君の言葉に大丈夫だと言うけど口の端から血が出てるよ爆豪君。

 

「お前才能マンなのにちょいちょいトラウマあるな、緑谷関連の」

 

 失敬だね上鳴君は、彼もタンクトップ漬けにしてやるべきか。

 

「まあ爆豪ちゃんは治療すべきで、緑谷ちゃんは反省すべきだけど。

 日も浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」

 

「そんなん皆自分に入れらぁ!」

 

「だからこそここで複数票獲った者こそが真にふさわしい人間ということにならないか!?

 どうでしょうか先生!!」

 

「時間内に決めりゃ何でも良いよ」

 

 っと多数決で決めることになったけどそこで、

 

「だったらいいか?」

 

 と爆豪君は手を挙げた。

 

「俺は学級委員長をやりたくねえし、仮に投票されても困るから、先に一票入れてよいか?」

 

「別に構わないが誰に投票したか言わなくても」

 

「緑谷とかもやる気ねえし、皆が自分に入れるなら分かるしな」

 

「なら僕も乗っかるよ、放課後忙しいから学級委員長やる時間とれないし」

 

 なら仕方ないかと納得してくれたみたい。

 

「って僕に入れるのか君達!!」

 

「相手を気にせず正論吐けるヤツは向いてるだろ?」

 

「多数決提案したし、実力もあるしね」 

 

 クラス内なら五指に入る実力者、ヒーローなのだから腕っぷしは重要だよね。

 

「ならば僕は君達に投票しよう!! しかしどちらに入れるべきか!!」

 

「タンクトップ係はもう嫌だからやめろ」

 

「ここで自分に入れないトコも向いてると思うよ」

 

「ならばその思い受け取らせてもらおう!!」

 

 こうして多数決は僕たち以外も自分ではなく他の人にいれるようになり、

 飯田君が学級委員長、百さんが副委員長になった。

 

「ねえ爆豪ちゃんのタンクトップ係とかにツッコまなくてよいのかしら?」

 

「そこはタンクトップだから気にしなくてよくない?」

 

 

 

 飯田君が非常口になったらしい。

 僕はスムージーとサプリメント派だから今日は教室で摂ったけど、警報のなる騒動に身構えていた。

 よくわからないけど流石は学級委員長だと食堂にいた皆が称えてた。

 けれど、

 

「この騒動なんだろうね」

 

 マスコミの突入というのが騒動の理由らしいが果たしてそれだけか?

 いくらオールマイト関連だからと言っても会社が訴えられかねない事件までおこすのか?。  

 それに、ワンフォーオールの先代達の個性の一つである『危機感知』が反応している。

 

(調べるべきか?)

 

 正直根拠はタンクトップと危機感知が反応したことだけど、それじゃ先生方は動きようがない。

 また勘違いしてはいけない、僕はタンクトップマスターについて回って学んだけど一般人でしかなく、オールマイトの個性を継承し、オールフォーワンと戦う宿命を手にしたがヒーローではない。

 

(嫌な予感がする)

 

 場合によってはワンフォーオール全ての個性と、流水岩砕拳、それにタンクトップを全開で戦うことになるかも知れない。

 とりあえずは、先代達の説得からか。

 タンクトップコミュニケーションで大分わかりあえたと思うけど、まだ完全ではないし、オールフォーワン関連以外での使用は許されてはいない。

 だがもしも必要になったら、手札の一つとして扱えるようにしないと。

 理不尽に泣く誰かに手を差し伸べるために。  

 

 

 

 

 

 

  



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15話

 

「タンクトップって何なんだー!!」

 

 コミュニケーション失敗。

 やはり人と人がわかりあえるのは難しいものだ。

 三代目以降の個性は使えるようになったが、やはりオールフォーワンとの関与がないと駄目か。

 緊急時の使用は許してくれたから良しとしよう。

 万が一に備えて保険は用意したが、使わないと良いけど。

 漠然とした不安だけでは過ぎた保険だしね。

 理由を聞かない頼める人はあの人だけだし。

 

(何事もなければ良いが)

 

 タンクトップの引き締まりが、気を緩めるなと僕に告げていた。

 

 

 

「今日のヒーロー基礎学は人命救助訓練だ」

 

 ヒーローの本分とされる重要な仕事。

 これが出来るかどうかがヒーローの評価に直結している。ヒーローを只の戦闘屋にしない大切な要素だ。

 教員は3人体制で、コスチュームは自由。

 場所は敷地内とはいえバスが必要な程離れた施設。

 バスの移動に委員長として飯田君が仕切るが、やや空振りしたみたいだね。

 

 バス内で個性についての雑談はあったが、のる気にはなれずぼんやりとした。

 不安は増すばかりだ。

 

「どうしたの緑谷ちゃん?」 

 

 だからクラスメート達が心配するのも仕方ないことなのだろう。

 

「大丈夫だよ」

 

 本当にそうだろうか、と悩みながら誤魔化すが。そんな僕の様子を爆豪君はじっと見ていた。

 

 あらゆる事故や災害を想定した演習場、名前に関してはツッコまない。

 担当するのは、災害救助で目覚ましい活躍をして麗日さんの大好きなヒーロー『13号』

 オールマイトも参加する予定がヒーロー活動で活動制限時間をギリギリにしたらしい。

 オールマイト不在で始める前に、13号先生から小言を兼ねた、個性使用についての説明。

 力のあり方を生徒に伝えた。

 

『鍛えた力は誰かのために使うべきだと俺は思う』

 

 そうですよね、マスター。

 個性無個性関係無く、誰かのために使ってこそ力だ。

 

「一かたまりになって動くな!!」

 

 奇しくも、

 

「13号!!生徒を守れ」

 

 命を救える訓練時間に僕らの前に現れた。

 

「動くなあれは、敵だ!!」

 

 プロが何と戦っているのか。 

 何と向き合っているのか。

 その途方もない悪意を。

 

 周到に準備された計画。

 目的あっての奇襲。

 用意された人員。

 それを迎えうつ、肉弾戦においてはオールマイトに次ぐ実力者イレイザーヘッド。

 だが、

 

「初めてまして我々はヴィラン連合、

 僭越ながらこの度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせて頂いたのは、

 平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」

 

 オールマイトの命を狙うヴィランは星の数程いる、だがこれほどの準備をし、かつ実行できるのは、

 

(やはり悪意尽きてないかオールフォーワン)

 

 爆豪君、切島君の攻撃も無効化する体に、ワープの個性。オールフォーワンの連想が対処を遅れさせた。

   

「場所は水難エリアか」

 

 落ちた水中で襲いかかるヴィランを蹴散らし、近くにいた梅雨ちゃん達と合流。

 エリア中央の船に乗り込み、状況の把握だ。

 

「猶予はないな」

 

「緑谷ちゃん?」

 

「全員叩き潰して皆を助けだす」

 

 消えないのだ危機感知が、皆の危機が強まるばかり。

 皆もまたヒーロー志望。

 そう簡単にやられはしない。

 けど、オールフォーワンが背後にいる以上それだけではすまないと先代達が告げてくる。

 

「おい緑谷お前強いからって無茶する気じゃないよな?オイラ達まだ学生でプロじゃないんだぞ」

 

 泣きわめいていた峰田君もただならぬ空気となれば自分よりも相手を心配してくる。

 こんないいクラスメート達なんだ。

 死なせるわけにはいかない!

 

「梅雨ちゃん、僕が水中のヴィラン共を仕留めるから峰田君を連れて対岸まで渡って」

 

「そんなことが出来るの?」

 

「タンクトッパーを舐めないでくれ、あんな連中千人いようとものの数じゃない」

 

「オイ緑谷?」

 

 水面に手を当てて、ワンフォーオールの出力20%に武術である発勁とサード個性を合わせる。

 

「タンクトップ発勁」

 

 衝撃の伝播しやすい水中を戦場にしたことを呪えヴィラン共。

 一網打尽にしやすいんだよ水中はな。

 放たれた衝撃波がヴィラン全員に走り、激痛と共にその意識を奪い取る。

 

「石打ち猟にて一丁上がりだ」

 

 現在やってはいけない漁法、石を投げた衝撃で魚を気絶させる漁法。まあ石は投げてないが衝撃だから一緒だろう。

 

「凄いわ緑谷ちゃん」

 

「まじかよこれ」

 

 啞然とする二人だが今はそれどころじゃない。

 

「急ぐよ二人共」

 

 いくつかの危機は弱まっている。だが肝心の相澤先生のいる中央は増すばかりだ。

 

 水難エリアを越えた先、そこには脳みそむき出しの怪人が相澤先生を取り押さえていた。

 握られたその腕をへし折って、

 ざけんなよ、

 ざけんなテメェ!

 全力の拳は、押さえつけていたヴィランを殴り飛ばした。

 

「は?」

 

 全身に掌をつけたヴィランが間抜けな声をあげる。

 想定外なんだろう、今の妙な感触からしてコイツは普通じゃない。

 

「おい待て、コイツは対平和の象徴改人」

  

「うるせえよ」

 

 厄介なのはこのデカイの。あとの連中は相澤先生と保険がくれば万全だ。

 なら全力で、

 

「ぶちのめすぞクズ共」

 

「決めたよ、お前は殺すぜクソガキ」

 

 手男の威圧恐るるに足らん。いやこれは単なる癇癪に過ぎない。

 

「殺せ脳無!!」

 

 轟風を巻き起こす巨漢の拳は一撃で死ぬ。

 当たればな。

 

「流水岩砕拳」

 

 究極の守りの拳たる流水岩砕拳を前に、腕力任せの拳など当たる筈も無し。

 腕の側面に掌あわせ流し、その威力を上乗せし打ち込む。

 戦う相手の力をも使う、それが流水岩砕拳。

 そこにタンクトップの動き易さまで加わるのだ、こんな奴に遅れをとる道理がない。

 両手が閃光の如き軌跡を描き、雑に振るわれる両腕を捌き流し跳ね返す。威力の集中した部位は抉れ生々しい筋肉がむき出しになる。だが、抉った箇所が迫り上がり損傷を埋め修復。

 打ち込んだ打撃の感触もおかしく、まともに通じていないのか?

 

「は、余裕ぶっといて手をこまねいているな。

 そうだ絶望させるために教えてやる」

 

 手男の玩具を自慢するかのような発言それは、

 

「その改人脳無はショック吸収に超再生の2つの個性をもつ、オールマイトの全力にも耐えられるよう改造された超高性能サンドバッグ人間さ」

 

 確かに絶望に足る情報。

 

「お前みたいな格闘馬鹿じゃ百年かかろうと勝てない存在だ」

 

 だが、諦める理由なんかない。

 

「その上、増援も見込めないな」

 

 ドサリと音がすれば、そこには黒いモヤから飯田君が放られていた。

 

「良いのか脳無から目を離して」

 

 腹部に衝撃。

 飯田君に目を向けた瞬間、脳無の拳は僕の腹にめりこんでいた。

 足で踏ん張るが威力を流しきれず、ゴロゴロの地面を転がる。

 動けぬ体、防がれた救援、負傷したヒーロー達に、囲まれたクラスメート達。

 万事休すか。

 保険はまもなくの筈、だがその前に何人か殺られる。

 なら、個性を総動員し、タンクトップマジックで、

 

 BOM!!

 

 爆音が飯田君の側にいた黒いモヤを吹き飛ばし、クラスメート達を囲うヴィラン共は氷漬けになって動きをとめる。

 

「何してる緑谷、立てねえのか?」

 

 あえて挑発するような言い方の幼馴染に苦笑して立ち上がり、

 

「なあに確かに大した一撃だったよ

 タンクトップを着てなければ危なかった」

 

 シワシワなタンクトップをピンと張る。

 

「手を貸してくれ、勝己」

 

「お前」

 

「保険はある、だがその前に

 眼の前のガラクタをぶっ壊す」

 

 爆豪君、いや勝己の横に立ち構える。

 

「頼む勝己」

 

「はっ足引っ張るなよ、出久?」

 

「無論だ!!」

 

 突き出した拳を交差させ踏み出す。

 死の恐怖はない、僕らには相対したそれぞれの師という最強が思い出される。

 あの人に比べたら大したことない。

 経験は恐怖という怯みを打ち消す。

 背後には絶対引けぬ理由もある。

 ならば僕らが負けることはない。

 繰り出される一撃一撃が必殺の脳無の攻撃は全て流水岩砕拳で捌ききり、勝己の冥躰拳が無防備な体に叩き込まれる。

 攻撃と防御を分けきった役割分担は、それぞれの全力を余すことなく出し切る。

 100の防御と100の攻撃、もはや単体で勝れるものではありはしない。

 先程の攻防が閃光ならば、今の動きは激流。

 尽きぬ拳の流れが波となって流し切る。

 

「何をやってやがる脳無!!でかいので決めろ!!」

 

 業を煮やした手男の命令で、脳無は全身の筋肉を集めたように膨れ上がった腕を振りおろそうとするが、

 

「ド素人が余計な口を出すもんじゃねえよ」

 

 そんな分かりやすい一撃を許す僕らではない。

 

「爆裂震虎拳」 

 

 地面に放射状のヒビが入る程踏み込み脳無の胴体に抉りこむように突き上げる。と同時に爆破を発動しその破壊力を大幅に上げる。

 冥躰拳の奥義である冥躰震虎拳に個性を加えた勝己の必殺技だろう。

 衝撃は爆音と共に天井へと突き抜けた。

 ならばこちらも、

 ワンフォーオール100%プラス流水岩砕拳の流水の動きプラスタンクトップ力120%。

 掛け値無しの全力。

 

「タンクトップSMASH!!」

  

 タンクトップの動き易さからなる全力全開のラッシュ。

 勝己の必殺技と僕のラッシュは、ショック吸収では対応しきれず、再生も間に合わせずに打ち込まれ、USJの天井を突き破り施設の外へと叩き出した。

 

(今ので気付くと良いけど)

 

 時間も大分立つ。誤魔化しも限界だろう。

 筋肉の過剰の強化のため両手から血を吹き出しながら僕はもはや残る部下が黒いモヤだけになった手男を見る。

 

「なんだよ、平和の象徴はいないし。

 平和の象徴用の改人はガキ二人なんぞに負けるし。

 あいつ、俺に嘘を教えたのか!?」

 

 やはりこいつは主犯ではなく後ろにいるのはオールフォーワンか。

 

「引き下がれるかよ、クソゲーでも平和の象徴ならともかくこんなガキ共にいいようにされてよ」

 

 ガリガリと掻きむしり、ヒステリックに叫びを上げる手男。だがなぜだろう?先々代がナニカ反応している? 

 

「おい黒霧ィ、他にも脳無連れてこいこのガキ共をぶっ殺す」

 

「しかし死柄木弔」

 

「いいからやれよ!!」

 

「承知しました」

 

 問答の末、ワープゲートから先程の脳無に似た怪人が数体這い出てくる。

 恐怖に震えるクラスメートに、身構えるイレイザーヘッドと13号、動ける轟君と切島君は守るように前面に立つ。

 

「おい、出久やれんのか?手から血でてんぞ」

 

「問題ないよイメチェンさ、まだ余裕」

 

 軽く振って(激痛走るが)大丈夫だとアピール。

 

「そうかい」

 

 勝己はニヤリと笑うと自分もしんどいのに、迫る脳無達へと構える。

 

「それにさ」

 

 瞬間空から黒い物体が落ちてきて、轟音とともに砂塵が舞う。

 

「保険がようやく来たのさ」

 

 僕の知り得る最強の存在。

 

「遅れてすまないな出久君」

 

 オールマイトすら超える巨体。

 筋肉で構築された黒光りする肢体。

 絶対の防御と最強の破壊力を誇る、無敵の生命体。

 

「飛行機のチャーターに手間取った」

 

 人類のバグ。

 無個性ヒーローナンバー①超合金クロビカリ。

 最強の一人がそこにいた。

 

「大丈夫かみんなボロボロじゃないか?」

 

 両手を広げて、襲いかかる怪人達を受け止めると、そのまま後ろを向いて声をかけてくる。

 抵抗する怪人達が音をたてて攻撃しているが、その黒光りする体には傷一つ付かず平然としていた。

 

「なんだアイツなんだアイツ、おい黒霧ィィあのバケモンはなんだぁ!!」

 

「噂の無個性ヒーローですか?なぜここに」

 

 

「疲れた?少し休むといいよ。筋肉には休息が必要だ」

 

 するとまるでいつものジョギングのように走り出すと

体が当たった怪人達はそれだけでひしゃげて吹き飛んでゆく。

 

「どんな筋肉だよ」

 

 誰かの呟きは皆の本心だ。

 マスターも鍛えているがここまではできない。

 

「保険ってあの人か?」

 

「タンクトップが危険だと伝えてたからね、万が一の備えだったけど」

 

 不審な目を向けていたイレイザーヘッドもこれには納得した。

 明確な個性である、未来予知系統すら信じられにくいのだ。タンクトップからなんて信じられるわけがない。

 

「っけんなよバケモン、俺の崩壊なら!!」

 

 見れば手男がクロビカリに触れていたがイレイザーヘッドみたいに崩れることはない。

 

「ふざけんななんで崩れない?!」

 

「何を言ってるんだか、個性が鍛えた生身に敵う訳がないだろう」

 

 呆れたように呟けば、そのまま後ずさる手男を捕まえようとする。

 

「くだらないお遊びはここまでだ」

 

「ふざけんな、黒霧ィィ!!」

 

「む?」

 

 クロビカリが後ろを振り返ったらそこに黒霧はすでにおらず。モヤは手男を包み込んでいた。

 

「今回はゲームオーバーだ、今度は平和の象徴もろとも殺してやるぞ。バケモンにガキ共」

 

「それはムリだな☆」

 

「保護者に頼らずテメェできやがれ」

 

「やらせないタンクトップにかけて」

 

 負け惜しみの悪態に怯みはしない。

 あんな連中に怯まず立ち向かう為のタンクトップなのだから。

 

 雄英高校襲撃事件。

 それは後にヴィラン連合との戦いのそのはじまりとされる事件である。

 この日以降、魔王オールフォーワンとの戦いに終止符がうたれるまで世界は荒れることになる。

 

 そんな日々が来ることをタンクトップで感じながら、クロビカリや無事なクラスメートと共にUSJ内のヴィランを片付け、皆の無事を喜んだ。

 

 

 

 

 

 

 



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閑話、爆豪視点

ちなみに異能開放軍において、無個性ヒーロー四名は完全抹殺対象です。
個性を超える無個性であり、現社会に不満を持たずに受け入れてる存在だからです。
だが現状、抹殺作戦は全て失敗に終わってます。



 

 外部との連絡がつき、雄英高校教師陣が駆けつけてきた。残党共は全て片付け終わっており、その最前線で体を張った超合金クロビカリにクラスメート達は畏敬の念を向けていた。

 

(当然か)

 

 無個性でも強いヤツがいるなんざ、思いもしないだろう。ましてや目撃するなんて。

 今じゃタンクトップで個性を得たが、無個性でも強い存在が当たり前だった俺ですらその活躍には度肝を抜かれた。

 しかし、鍛えた生身に個性が勝てる筈ないだろうという発言は今の社会を否定しすぎだ。

 無自覚で敵を拵えるタイプだと出久から聞いてはいたが、納得な性格だ。

 自身の絶対自信から来る無意識な傲慢さ、加えて無関心さは、自分に自信がある者程許容できないだろう。

 教師と警察により、チンピラで捨て駒で数合わせなヴィラン共が回収され、クラスメート達も安全確認後に簡単な事情聴取を受ける。

 クロビカリを呼んだ出久は詳しく話を聞くようだが、軽傷の者の治療が終えたら解散らしい。

 ようやく一息つけたと周囲を眺めていたら、

 力尽きたかのように、ゆっくりと崩れ落ちる出久の姿があった。

 麗日が地面に激突する前に個性で浮かしたが、その光景はクラスメート全員が見ており、場は騒然となる。

 

「過労だな、筋肉が疲れきっている」

 

 クロビカリが軽く見立てて、リカバリーガールに引き渡されるが、同じ見立てのようだ。

 命に別状はないが、自身の個性では治癒できない状態だと。

 最大の功労者のその姿に、教師警察生徒の面々は無力を感じうつむいた。

 

 

 翌日は臨時休校となり、出久は入院している状態でホームルームは始まる。

 驚異的なプロ意識の元復帰した相澤先生だが、全身包帯巻きな状態で来られても落ち着かないのだが。

 

「俺の安否なんざどうでも良い、何よりまだ戦いは終わってねえ」

 

 ヴィラン残党でも判明したのか?

 

「雄英体育祭が迫ってる!」

 

「クソ学校っぽいの来たあああ!」

 

 叫ぶが日常の香りに皆、ホッとしているようだった。

 

「緑谷君はどうなんですか?」

 

 という飯田が質問したが、

 

「新しいタンクトップを送ったら疲労回復して明日には復帰だとよ」

 

 と呆れたように返した。

 納得はするがなんだあの珍生物は。

 ヴィラン襲撃を受けても開催するメリットと警備の強化について説明。 

 生徒のアピールに現役ヒーロー達のスカウトの機会に日本最大級のイベントである事実は襲撃程度では取りやめることはない。

 むしろ経済効果も雄英高校のブランドも踏まえて、中止させることが目的だという可能性すらあるので、引き下がることなど出来るわけがないのだろう。

 まあ引き下がるやら怖じ気づく扱いされるのは面白くないから開催に不満はないのだが。

 

「いず、緑谷君はどんな理由でヒーローになりたいんかなあ」

 

 昼食の場、飯田や麗日に耳郎と一緒になり、辛味増しグリーンカレーを食っていたら麗日がそんなことを呟いた。先程のヒーローになる目的の話の続きか?

 

「とりあえず名前呼びでいいんじゃねえか?

 アイツ女慣れしてるから、なんとも思わねえぞ」

 

「ヤオモモが恥ずかしそうに言っても無反応だしね」

 

 俺の言葉に耳郎も乗っかる。

 本人は気にしてないが、日常的にアピールしている八百万、二言目には実家に紹介とか言ってる当たり本気なんだろう。

 アイツなら一生側でタンクトップを創り続けるとか言えば、即オチしそうだが。

 

「いやウチそんなんちゃうから!」

 

「じゃいいや」

 

「食いついてやんなよ、照れてるだけじゃん」

 

「あのタンクトップ馬鹿相手の恋愛相談も散々やってんだよこっちは、無いなら無いにこしたことはねえ」 

 

 ストレスでグリーンカレーが血の味になるわ。

 

 中学時代女子に呼び出されたら出久に関しての相談だぞ、知るかそんなんと何度思ったか。

 

「しかし爆豪君なら知っているのではないか?

 緑谷君の理由には僕も興味あるのだが」

 

 ヒーローに成りたい理由ねえ。

 麗日みたいに金のためがどうとかは正直どうでも良いんだが。

 理由を必要とする程遠い仕事ではないだろうに。

 とはいえ最近のアイツの無茶ぶりに違和感があるのも事実だよな。

 ガキの頃からおかしいレベルで鍛えていたが、去年からのソレは常軌を逸している。

 まるでヒーローになる、タンクトップを着こなす、それ以外にも目的、やらなきゃいけない使命が増えたかのように。

 今回の事件にしても、あることを想定して無理をしたから倒れる程に疲労したんじゃないのか?

 何かを見落としている?

 アイツの普段の行いに違和感は、

 

 タンクトップ、タンクトップ、タンクトップ

 タンクトップ、タンクトップ、タンクトップ

 タンクトップ、タンクトップ、タンクトップ

 タンクトップ、タンクトップ、オールマイト

 タンクトップ、タンクトップ、タンクトップ

 タンクトップ、タンクトップ、タンクトップ

 タンクトップ、タンクトップ、タンクトップ  

 

 普段との違いってなんだろう?

 違和感もクソも、変じゃないアイツなんていねえよ。

 

「爆豪君?」

 

 思考に没頭して頭痛と胃痛と吐き気がしてきたが、それよりも会話の途中だったな。

 

「泣いてる誰かに手を差し伸べる存在に成りたい。

 それが理由らしいぞ」

 

 ついでに昔聞いた出久とタンクトップマスターの出会うエピソードも語る。元々ヒーロー気質だったが、アイツの根幹はこれなんだろう。

 ちなみに飯田は感動していたが、女子二人はかつての俺と同じ反応をした。

 普通そうなるよな?

 

 

「何ごとだあ!?」

 

 麗日の叫びが放課後の教室に響き渡る。

 

「出れねーじゃん!何しにきたんだよ」

 

「敵情視察だろ、敵襲撃事件で無駄に目立ったからな」

 

 新聞やテレビにも取り上げられてんだ。

 同期生がそうなったら見に来るだろう。

 

「悪いけどどいてくれ、事件に関しては学校から口止めされてんだ」

 

 野次馬が聞きたいのは襲撃の詳細だろう。

 このネット社会、ソッコー広まるから黙ってろと担任からは釘刺され済だ。

 

「自分らだけ知ってる感じ?随分特別扱いで偉そうだな」

  

 なんでそうなる?学校の指示だわ。

 

「ヒーロー科になるとそんな待遇なのか?」

 

 守秘義務関係は別だろうに。

 

「普通科とか他の科ってヒーロー科に落ちたから入ったって奴、けっこういるんだ知ってた?」

 

 学力考えたら妥当な判断だな。

 

「体育祭のリザルトによっちゃヒーロー科編入も検討してくれるんだって、その逆もまた然りらしいよ」

 

 そうか峰田やばいな、実力はあるが素行で。

 

「敵情視察?少なくとも普通科は調子にのってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー、宣戦布告に来たつもり」

 

 調子にか、

 

「のれるわけねーだろ、んなもん。

 たかがガキ傷つけようと来たチンピラ返り討ちにしたからなんだ。

 たかが玩具手にしたガキを跳ね除けた程度のことが誇れるか」

 

 苛立ちは言葉になって吐き出される。

 

「自分にもっと力あれば、あの馬鹿を入院させる必要なんてなかったんだよ。

 手前の無力さに反吐が出る」

 

 俺だけではなくクラスメート全員が感じた思い。

 あの無力感、相談すらされなかった事実に情けなさすら感じる。

 調子になんてのれる筈がない。

 

 俺の言葉に気負された普通科は後ずさる。

 威圧する気はねえ。

 腹立たしいのは自分自身だ。

 

「隣のB組のモンだけどよお!」

 

 今度はなんだよ。

 

「話聞こうと思ったけど、色々大変みてえだな。

 体育祭では頑張ろうぜ!」

 

 切島みてえな奴だな、アツい感じだ。 

 集まっている連中もそれをきっかけに散っていった。

 興味本位な野次馬だったのと、襲撃の話が聞けないこと、あとは俺の話が原因だろう。

 しかし、

 

「帰るだけなのになんか疲れたな」

 

「ところで爆豪ちゃんはなんで急いで帰るの?」

  

「あん?出久の見舞い」

 

「「「俺らも誘えよツンデレ幼馴染!!」」」

 

 




タンクトップのせいで、オールマイトいたの意識されてません。
ちなみに、ガチでタンクトップのせいで個性目覚めたと誤認されてるため、かなり混乱が起きてます。


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17話

 

「出久よ、随分と無理をしたな」

 

 あの襲撃事件後に僕は意識を失ったらしい。

 着替えさせられた入院着が体力を削っているようだ。

 

「マスコミ襲撃事件から個性を使い続けてたな?」

 

 マスターは確信してる様子で尋ねてくる。

 

「はい」

 

 いかにタンクトップが危険を知らせてくれるとはいえ完全ではない、だから僕は4代目継承者の個性である危機察知を使い続けていた。学校にいる間はずっと。

 元々の使い手なら常時発動できるソレも、ワンフォーオールとタンクトップを経由しないと使えない僕には負担だったようだ。緊張のあまり気づかなかったけど。

 

「その力、持ち主であったオールマイトですら把握しきれてはいない、ましてや秘匿すべき個性、お前が周囲に伝えないのは仕方ないと納得できる、だが」

 

 そこでマスターは言葉を切り、辛そうに顔を歪める。

 

「頼られぬヒーローに価値などあるのか?」

 

「マスター」

 

「背負うなとは言わん、それだけの実力と覚悟はお前にある。

 だがお前一人の使命を共に背負うことができない程俺達は脆弱ではない」

 

 マスターの言葉に僕は自らの過ちに直視した。

 

「使命と宿命で視野を狭めるな、己を見失うな出久

 己が着るべきタンクトップはどれなのか、もう一度考えてみろ」

 

 最善と思い上がりを混同していた事実に。

 

 

「おい、出久。クラスメートで見舞いに」

 

「タンクトップが一枚、タンクトップがニ枚、タンクトップが三枚、タンクトップが四枚、タンクトップが」

 

「すいません部屋間違えました」 

 

 自らの着るべきタンクトップを見つめるため、皆から贈られたタンクトップを真剣に数えていたら、なぜかクラスメートからは引かれ、耳郎さんは気絶した。

 なんでも、暗い病室の中で目をランランに光らせて三日月のように口を歪めながら笑っていたらしい。

 タンクトップを数えてたらそうなるよね?

 

 

 

 そんな日々を過ごして早二週間。

 雄英体育祭本番当日を迎えた。 

 

「皆準備は出来てるか!!もうじき入場だ!!」

 

「コスチューム着たかったなー」

 

「全くそのとおりだね」

 

「いや緑谷は一番コスチューム関係ないでしょ」

 

 体育祭前のやり取りも楽しいよね。

 

「緑谷」

 

「轟君、何?」

 

 珍しいな、彼には避けられていると思ったけど。

 

「客観的に見て、お前と爆豪の方が実力は上だと思う」

 

 脳無との戦いからそう見えたのかな?

 轟君の広範囲攻撃は強力でも耐えられない訳ではないし。

 

「お前、無個性ヒーローの弟子でオールマイトに目をかけられてるよな、別にそこ詮索するつもりはねえが、

 おまえには勝つぞ」

 

「おお!クラス最強に宣戦布告!?」

 

「急にケンカ腰でどうした!?直前にやめろって」

 

「仲良しごっこじゃねえんだ、何だって良いだろ」

 

 なるほどね。 

 彼を見てるうっすら分かる、ナニカに囚われるということはこんな風に見えるのか。

 

「轟君が何を思って僕に勝つって言ってんのか。

 正直分からない」

 

 それが何かは知らない。

 けど、見るべきものを彼が見えてないのは分かる。

 この雄英体育祭と、参加する皆のことを。

 見てもいないことが僕には分かる。

 

「けどさ、これだけは分かる。君は着るべきタンクトップを間違えてるよ」

 

「?」 

 

「その事実に気付くんだ」

 

(((シリアス顔だけど意味伝わらねーー!!)))

 

 

 

 そう、ここは夢の舞台。

 かつて立ちたいと願った場所。

 オールマイトにも言われたんだ。

 

「君が来たってことを知らしめて欲しい!!」

 

 って。

 だから、僕も本気で獲りに行く!

 

 

「雄英体育祭!!ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!

 どうせてめーらアレだろコイツラだろ!?

 敵の襲撃受けたに拘わらず鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!」

 

「失礼な、鋼なんてヤワな代物じゃないタンクトップの精神だ」

 

「お前だけだよ」   

 

「ヒーロー科!!1年!!A組だろうぉぉ!!」

 

 流石はプレゼント・マイク、よい説明だけど。

 他の科の人達、煽られてない? 

 引き立て役みたいな扱いで。

 実際たるいとか言ってる人いるし、

 

「選手宣誓!!」

 

 相変わらず凄い格好な人だな、ミッドナイト先生。

 超合金クロビカリさんには負けるけど。

 今年の一年主審をやるみたい。

 

「18禁ヒーローなのに高校にいていいものか」

 

 常闇君てムッツリかも、反応してるし。

 

「いい」

 

 ミッドナイト先生は、鎮圧むきだしね。

 

「静かにしなさい!!

 選手代表!!1ーA緑谷出久!!」

  

(((大丈夫かな?タンクトッパーなのに)))

 

 そういえば、推薦除いた首席とかから選ばれるんだっけ?事前に話を聞かされてないからどうしよう。

 僕の言いたいこと、僕が世界中に伝えたいこと。

 

(((考えこんでるけど嫌な予感)))

 

 一歩一歩上り考える。 

 この場で僕が伝えたい、その思い。

 そうそれは、

 

「タンクトップとは強さそのもの!!

 その性能を引き出せれば!!

 即ちタンクトップの似合う者になれば!!

 いかなるものにも!!

 個性にもきっと打ち勝つことができる!!

 世界中の人々よタンクトップを着て自分自身を磨こう!!」

 

(((やらかしやがったよ!!あのタンクトッパー!!))) 

 

 クラスメート達と教師陣が頭を抱える中、僕は世界中の人々に伝える。

 弱い自分に新しい世界を見せてくれたその言葉を。

 

 

 

「アッハイ、

 緑谷君マイクテストありがとうございます。

 じゃあ気を取り直して、

 1−A爆豪勝己君、選手宣誓をお願いします」

 

(((無かったことにしてやり直したー!!)))

 

 プレゼント・マイク先生がすかさずフォローして問題なく体育祭は進行した。

 なお勝己は煽ることなく真摯に宣誓して、好評だったみたいです。

 ちなみにやり遂げて満足した僕はクラスメート達からシバかれた。

 僕の宣誓も反響あったみたいだけど。

 

 このように騒動ありながらも雄英体育祭は始まった。

 皆の全てをぶつけあい、研鑽する舞台が。

 

 

 

 

 



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18話

 

「なんでこんなに疲れてんだ俺、まだ始まってもいないのに」

 

 急遽選手宣誓をやるハメになるも、完全にこなすとは流石才能マン。

 感心する僕に集まる冷たい視線と、勝己に集まる同情の眼差し。

 

「しかもまだ嫌な予感すんだけど」

 

 タンクトップ程ではないけど当たるよね君の予感。

 

「それじゃ早速第一種目行きましょう。

 いわゆる予選よ!

 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!

 さて運命の第一種目は! コレ!」

 

『障害物競走』

 

 スタジアム外周4キロで、コースを守れば何をしても許されるルール。

 僕や勝己には物足りないくらいだが、障害物にもよるかな?

 

「?」

 

『オイオイどうした?なんか生徒達が集まって円陣組んでんぞ』

 

 マイク先生が言うとおり、一部の生徒達が円陣組んでる。

 

「仲間と気合を入れるのね、私こういう青春的なの好きだからアリよ!!」

 

 すると円陣を組んだ集団のリーダーらしき生徒が、一声を放つ。

 

「タンクトップとは!」

 

「「「強さそのもの!!」」」

 

『え、ナニコレ?』

 

 マイク先生の疑問の声に、その場の誰もが戸惑った反応をする。

 

「その性能を引き出せれば!!」

 

「「「いかなるものにも打ち勝つことができる!」」」

 

「入試の時の感動を!」

 

「「「あの力強さをっ!!」」」

 

「追うべき目標として!」

 

「「「邁進するっ!!」」」

 

「我ら雄英高校タンクトップ同好会!!

 まだ未熟極まりない身なれど、

 ヒーロー科サポート科経営科普通科関係なく、

 蹂躪するのがっ!!」

 

「「「タンクトップ!!」」」

 

 最後の言葉とともに雄英高校指定ジャージを脱ぎ捨ててタンクトップ姿となる。

 息のあった掛け声、随分統制とれてるな。

 マスター(尊敬)とラヴァー(恐怖)とガール(美人)いない時の事務所のタンクトッパーに見習わせたいくらいだよ。

 

『だから、ナニアレ?新しいヴィラン組織?』

 

『生徒に失礼だろうが、単なる同好会だろ?

 部活動とは違って申請必要ないから仲良しクラブみたいなもんだな』

 

『蹂躪とか言ってる仲良しクラブってなんだよっ!』

 

『何でもアリが雄英高校だ』

 

『いや何でも過ぎだよ、ってお前のクラスの緑谷君が創ったのか?』

 

『いや緑谷は修行やら事務所に顔出すとかで多忙だし、放課後時間無い筈だが』

 

『そういや、トレーニングセンターの使用願が一年から出たとかでセメントスが感心してたよな』

 

『多分アイツらだろ?トレーニング器具とか充実してるし』

 

『その成果が僅かな時間であの統率かHAHAHA、笑えねえよ』

 

『笑ってんだろ』

 

 マイク先生とイレイザー先生のやりとりを聞きながら彼らが新たなタンクトッパーなのだと知る。

 そうか、僕の入試での行動は誰かに影響を与えていたのか。

 むず痒いような恥ずかしいような気持ちになるけど、同時に誇らしくある。

 僕の影響で彼らは自分達を磨いていたのだから。 

 

「ああコレだったか」

 

「爆豪ちゃん大丈夫?足が生まれたばかりの子鹿みたいよ?」

 

「大丈夫だ、慣れてる」

 

 後ろには何故か胃を押さえながら震えてる勝己がいるけど。

 

「さあさあ位置につきまくりなさい」

 

 呆気には取られても問題はないらしく、ミッドナイト先生が進行した。

 外周に行くためのゲート、長くて細い道の前は11クラス分の人数で(一部不参加もいるけど)すし詰めだ。

 正直、勝敗なんてどうでも良いと思っていた。

 スカウトや目立つことに関心はない、既に行く先はきめている。

 こんな機会だからと奮起もしない、常に全力だ。

 でも、

 本気になるみんなと同じことが出来るイベント。

 それを存分に楽しむ。

 だって、全力を出すことは楽しいから!

 

「スタート!!」

 

「タンクトップダーッシュ!」

 

 開始と同時に全力ダッシュ。

 タンクトップの動き易さはジャージを羽織ろうと健在だ、人混み?ヒーローが現場に駆けつける時は人混みを相手に触れず傷つけずに掻き分けるのが基本。

 さらに流水岩砕拳の道場はだてに山奥にあるわけではない。

 生茂る山林を全力で周囲に影響与えずに走り抜ける訓練だって当たり前にしているのだ。

 足元を凍らせながら走り抜ける轟君を追い越し、僕は先頭となって走る。

 先を征くモノ、それがタンクトップなのだから。

 

「自力が違うか、捕らえられねえ」

  

 凍結による加速と妨害を試みたようだけど、先を行く僕には関係ないし、そのやり方をクラスメート達は知っている。

 勝己は爆破で、百さんは創造で棒をつくりだし、芦戸さんは酸で溶かし、常闇君は黒影で体を浮かし、個性が適してない皆もタイミングよく跳んで回避。

 知っているかどうか、即ち経験は初動に活きる。

 

「クラス連中は当然として思ったより避けられたな」

 

 轟君がそう言うのも当然か、先頭の巻き込まれた人達を見てから対応した者以外にも、躱した生徒たちがいるからだ。

 対応力、ヒーローに必須な能力だ。

 アレ峰田君? 

 

「轟のウラのウラをかいてやったぜ、ざまあねえってんだ! くらえオイラの必殺」

 

「馬鹿っ!危ねえ峰田っ!」

 

 躱した勢いでもぎもぎを投げようとする峰田君に怒鳴りつける勝己。

 BOM!

 殴りかかろうとするロボを、右手で峰田君の頭を掴んでどかし、左手の爆破で破壊する。

 流石の火力だけど、勝己。

 

「あっ」

 

「ひっついちゃったね」

 

 迂闊な行動に今気づいたのか呆気に取られた顔になるし、峰田君に至っては悟った表情だ。

 

「畜生っ!仕方ねえっ!」 

 

 ブンブンと右手を振り回すも(峰田君付)取れないと理解したのか、そのまま走り出した。

 まあ山奥の道場まで米俵+αで運んでたみたいだし大丈夫でしょ。峰田君小柄だし。

 周囲の人達や観客なんて勝己のお人好しぶりにほっこりしてるね。

 

『さあいきなり障害物だ!!

 まずは手始め、第一関門ロボインフェルノ!!』

 

 入試の仮想敵か。

 確かにデカくて硬いけど、壊せない程ではない。

 けどね、

 

「タンクトップデビルバットゴースト」

 

 すり抜ける。

 タンクトップ事務所の、タンクトップボウラーが棚に置いていたアメフト漫画。

 その主人公の技を模倣する。

 格好良かったから練習してみたけど予想より使える。

 全力ダッシュを減速しないで走り抜けるなんて便利な技だ。

 アメリカンフットボールの技能はヒーローにも有用かも知れない。

 いやどの道どの職業でも活かせる技能はあるということかな。

 

『1ーA緑谷!! 障害物をお構いなしに先頭のまま全て抜き去ったっ!! アイツもしかしてアイシールド21の正体かあ!!』

 

『本物は帝黒にいるだろうが』

 

『読んでんじゃねえかイレイザー!!』

 

 マイク先生の漫才を聞きながら、僕は第一関門を突破した。

 

 

 

 




今話の当作品設定①
アイシールド21が漫画として実在する。 
設定②
雄英高校タンクトップ同好会。
緑谷君と入試が一緒でヒーロー科以外に受かった生徒達が作った集団。
最初はネタとして盛り上がるだけのお喋りしてただけが、タンクトップ事務所のホームページを見て、緑谷君が幼少時から鍛えてることを知り憧れた。
まだ僅かな期間で未熟だがしっかり鍛えている。
なお緑谷君含めてその存在は誰も知らなかった。
今回体育祭で結果をだしてから緑谷君と会話することを目標にしている。


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閑話、障子目蔵視点

 

 凄いことになっているな。

 それが俺、障子目蔵の雄英体育祭が始まってからの正直な感想だった。

 ヴィラン襲撃事件後に行われた雄英体育祭。

 開催するには安全など気にする所はあるが、警備の大幅な増員もしているため大丈夫だろう。

 それに加えて、襲撃事件には居なかったナンバー1ヒーローオールマイトに、観客いや保護者としてナンバー2エンデヴァー、スカウト目的のプロヒーローも大勢いるのだ。

 戦力としては世界最高峰なレベルだろうと思う。

 スカウト、アピール、将来ヒーローとして活動するために必須な下積みとしてのサイドキックになるためにもこの期間は逃せない。

 特に自分のような、可愛らしい部類ではない異形タイプの個性持ちはサイドキック先すら狭き門だ。

 地元であった差別と偏見は、容姿とイメージが重要なヒーロー業にも付き纏う。 

 実力と有用性を示す。

 それが俺のようなタイプが受け入れられる唯一の術なのだ。

 だが、

 インパクトあり過ぎだろ、緑谷よ。

 クラスのある意味一番の問題児である彼はどうやら今日も全開らしい。

 いや、アレで意外とマトモで生真面目な性格だから事前に話を通しておけば無難な選手宣誓はしただろう。

 クラスメートだから分かるが、あの宣誓はテンパっただけだ。図太くみえても、タンクトップが絡まないと急な対応など慌てるタイプだ。

 その後、爆豪が上手くまとめて本当に助かった。いつものように爆豪は疲れ果てていたが。苦労はかけてると思う、だが天才マンと称される程にお前は状況を良く取りまとめてくれるのだ。 

 

「「「タンクトップ!!」」」

 

 この僅かな期間で、同好会を創り団結し鍛錬もして統率もとれてるなんて凄いな。

 うん、そう思うようにしよう。

 実際凄い行動力だしな。

 見ればチラホラ見覚えのある顔、入試の時同じグループだったメンバーか。俺も同じグループだったが、緑谷の活躍は凄かったからな、憧れるのも分かる。

 その同好会の存在に、マイク先生は青ざめ、観客は啞然とし、爆豪は予想はしていたようだが、予想以上だったのか胃を抑えながら。足を生まれたばかりの小鹿みたいに震わせている。

 もとより驕っているつもりはないが、クラスメートと同じヒーロー科のB組だけを警戒するだけでは足りないようだ。

 ミッドナイト先生の開始宣言とともに狭いゲートを駆け出す生徒たち。

 やる気というには気合が入り過ぎている轟に警戒していると、彼は走り出すと同時に冷気を地面に放つ。

 最前列にいた者が足を凍らされ動きを止められる。

 だが

 

「タンクトップダーッシュ!」

 

 緑谷は先頭にいた轟をあっさり追い越し氷結範囲から離れ、クラスメート達も実習とUSJでの戦いの経験から氷結の対処をこなした。

 峰田に至ってはもぎもぎでやり返そうとしたが、現れた仮想敵に攻撃されかけるも、駆けつけた爆豪に助けられていた。

『第一関門ロボインフェルノ』

 入試の時のお邪魔ユニット0P敵による妨害。

 

「タンクトップデビルバットゴースト!!」

 

 隙間なく密集してる筈の仮想敵すら全力疾走のまますり抜けるタンクトッパーはおいておくとして、どうしたものか。

 考えていると、推薦入学で初見のはずの轟が天に昇るような冷気で凍らせた。

 その隙間から通り抜ける轟と後を追う生徒たちだが、不安定な体勢の時に凍らされたため倒れてくる。

 

「危ねえだろうが」

 

 それを峰田を右手に付けて大工道具のように肩に担いだ爆豪が、

 

「冥躰震虎拳」

 

 左手一本で粉砕する。

 ヴィラン襲撃時に見せた凄まじい格闘技、緑谷と爆豪は個性使わない武術のみでも他を圧倒している。

 

「すげーな爆豪!」 

 

「放課後のヤツじゃねえかやるなオイっ!」

 

「切島は硬化で平気だったろ?左手で片手じゃ本来の半分も威力でねえよ」

 

「「これで半分以下かよ!!」」

 

「仲いーなお前ら、ていうか本人?」

 

 爆豪、峰田、切島、B組の生徒は軽く仮想敵を粉砕しながら先頭を行く緑谷、轟を追っていた。

 

 

『オイオイ第一関門はチョロいってよ!!

 んじゃ第二はどうさ!?

 落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!

 ザ・フォール!!!』

 

 大穴に僅かな足場をロープで繋いだのか。

 あいも変わらずおかしな建築技能だ。

 

『ちなみに先頭のタンクトッパーはあっさり走り抜けやがったから、お前らも急げーー!!』

 

 緑谷よお前。

 足場に影響されないのは武術の基本だとは言っていたがあっさり超えすぎだろ。

 しかし、

 

「爆豪、両手なら飛べるだろう?峰田をいつまで担いでいるんだ?」

 

 爆豪に気になったことを尋ねた。

 爆破すれば峰田を引きはがせるだろうに。

 

「大したことねーよこのくらい、ヒーローが人一人担いでいつもどおり走れないなんて言えるか。

 爆破なんてしたらコイツが焼けちまうだろ?」

 

 お人好しにも程があるな。

 

「(キュンッ)えっ、何この胸の高鳴り?」

 

 そういえばもぎもぎって峰田の意思次第か?

 もしやひっついてるのはラクしたいからでは?

 あと気色悪い反応するな峰田よ。

 爆豪も顔が引きつってるぞ。

 

「捨てていきましょう爆豪ちゃん、そこに大きなゴミ箱あるわ」

 

「離れないなら頭ごと溶かそうか?」

 

 話を聞いていた蛙吹と芦戸が妙な威圧感を放ち、爆豪に提案していた。

 蛙吹は無表情ながらに不快そうで、

 芦戸は笑いながらも掌から滴る強酸が地面を溶かしていた。

 

「いや大丈夫だ」 

 

「単なる吊り橋効果だから許してくださいお願いします」

 

 緑谷もそうだが爆豪もモテるな。

 人柄を考えると納得するが、難儀なことだ。

 ザ・フォールはしゃがみながらロープをつたえばよいし、複製腕を広げて皮膜をグライダー状にすれば飛べるだろうな。幸い筋力は足りているし。

 それぞれの対処法で崖を乗り越える。

 

『最終関門、かくしてその実態は?

 って説明する前に走り抜けるな!!タンクトッパーこの野郎っ!!

 一面地雷原なのにお構いなし、爆発する前に走り抜けるとかどんな脚力だお前は!?』

 

『そもそもアイツ飛べるくらいの脚力だしな、地上走るだけマシだ』

 

『最終関門怒りのアフガンもタンクトッパーの前には形無しだぁ!!』

 

 流石というべきか、轟すらまだザ・フォールを超えていないのに。

 

『さあさあ序盤から単独トップで走り抜けた、容赦なきタンクトッパー緑谷出久!!堂々の一着だあ!!』

 

 

 

 さてその後のことだが、もとより体力に自信があり複製腕により感知ができるゆえ苦労なく突破した。

 順位は14位と中間といったところだ。

 凄いのは爆豪か、アイツは結局峰田を肩に担いだまま追い上げなんと3位になっていた(峰田は4位、周囲からは睨まれていたが)

 B組も俺より上にいて油断はできないな。

 個性を知らない分の次の種目でどうするか。

 さて、あとは待つばかりと休みながら中央のモニターから後続を見ていたら、激しい争いが起きていた。

 

「タンクトップ!!」

 

「オイ物間抜かれてんぞ!!」

 

「個性ノ温存トカイッテラレマセン!!」

 

「なんだよコイツラ普通科の分際でぇっ!!」

 

「「ターンクトップ!!」」

 

「ボンド足止め!!」

 

「このままだとB組まとめて負けちゃうよ!!」

 

「ん」

 

「「「タンクトップは止まらない!!」」」

 

「私透明だから轢かれるよお!!」

 

「ああ、ベイビーがあっ!!」

 

「お腹ヤバイね☆」

 

 大混戦だな。

 なるほど、次の種目に備えて観察と温存をクラス単位で行っていたのか。

 一部の上位生徒はのらなかったのか。

 それも戦略だがA組だと発想すらなかったな。

 しかし予想外のタンクトップ同好会の存在と猛追によりその余裕はなくなったのか。

 タンクトップ同好会とて地力と授業の関係上劣ってはいたが、今は最後の力を振り絞って追い上げているな。

 このままだと順位はどうなるやら、青山とかかなりぎりぎりだしな。

 まあ個性の確認はしておこう、ずるく感じるが戦略が上手くいかないこともあるということだな。

 

 

 大混戦の末障害物競走は幕を閉じた。

 結局タンクトップ同好会は誰一人として勝ち残ることは無かった。いかに鍛えようとその期間は短く未だタンクトップ力は低いのだ。

 やりきったという満足と届かなかった悔しさに涙流す彼らに、ふらりと緑谷は近づき彼らを労った。

 君達のタンクトップはまだ始まったばかりだと。

 憧れの人の言葉と、告げられた次のタンクトップ集会の場所と日付、参加する権利に彼らは一斉に歓喜の雄叫びをあげた。

 

 頭を抱える先生方と爆豪を振り返りもせずに。

 

 

 

 

 

 

 



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20話

 

「予選通過は上位42名!!

 残念ながら落ちちゃった人も安心なさい!

 まだ見せ場は用意されているわ!」

 

 若きタンクトッパー達よ(同い年)君達の無念を背負い必ずやタンクトップに勝利の栄光を捧げることを誓おう。

 君達の執念がB組の個性を暴き、タンクトップの力を世にしらしめた。ならば君達の先を征く者としてその情報と執念を活かして見せよう。

 タンクトップの繋がりが同胞たるタンクトッパーの力と為す、これ即ちタンクトッパーが奥義が一つ。

 

『タンクトップリンク』

 

 20名にも及ぶ思いとタンクトップを背負いし我に勝る者無し。

 

 

「なあ爆豪、ちょっといいか?」 

 

「どうした切島?出久のこと以外ならいいぞ」

 

「緑谷なんだけど、なんか感極まって涙流して、

 強くなってね?」

 

「出久のこと以外って言ったよな!!

 胃がもう限界なんだよ!

 あと多分タンクトップ関係だから考えるだけ無駄だろうよ!」

 

 

「さーて第二種目よ!!私はもう知ってるけど!!

 何かしら!?言ってるそばから、コレよ!!」 

 

 騎馬戦か、惜しいなタンクトッパーが残っていれば合体技タンクトップユニオンで圧倒できたのに。

 上鳴君みたいな指向性のない放出系は不利かな?あとはB組クラスのキノコの娘とか?

 相澤先生で思考慣れしてるA組は、騎馬戦の情報だけでスラスラ理解しだし、ミッドナイト先生が説明させろとキレだした。

 そして肝心のポイント配分、案の定一位から高ポイントになるか。

 しかも保持していれば勝ち抜け確定な1000万ポイントを僕にか。

(滾るね!)

 

「上位の奴ほど狙われちゃう、下剋上サバイバルよ!」

 

(((いや狙わねーよ、騎馬戦終わるまでどっか行ってくんねーかなあのタンクトッパー、一人勝ち抜けていいから)))

 

 一部生徒の本音が酷いね。

 しかし、このポイントだと組んでくれる相手がいるかどうか?最悪勝己をタンクトップガール写真集(非売品、マスターにアピール用)で買収するか?

 勝己と戦いたいけど、先ずは乗り越えないことには。

 それに勝己は皆に人気で囲まれてるし、あと青山君は限界寸前みたいだけどレフェリーストップはないのですか?チラリとミッドナイト先生を見たら、

 

(全国中継でぶちまけるのも自由!それが雄英!)

 

と親指立てられた。伝わったらしい、そしてドSだあの18禁ヒーロー。

 

 ってそんなこんなでチーム決まってる。

 待って勝己、写真集あげるから。

 

「緑谷君組もう!!」

 

 麗日さんっ!!

 

「いいの僕タンクトップだよ!?」

 

「今ジャージやん、それにそこはポイントを狙われるとかじゃないん?」

 

「最高ポイントとかラスト一秒で保持すればいいから誰がもってても一緒だよ」

 

 むしろ人数最少チームに押し付けて勝ち抜け枠増やすのが正解だろうね。

 これはポイントでは無く勝ち抜け権扱いすべきなんだよ。

 

「だったら何より仲良い人とやった方が良い!」

 

 そっかそうだね、チームなら意思疎通がスムーズな人が望ましいしね。タンクトップを着てない相手だと、A組の麗日さんや百さん、飯田君が良いよね。

 しかし、その二人は轟君チームか。

 勝己は、芦戸さん切島君瀬呂君と組んだみたいだし。

 

「私と組みましょ1位のタンクトッパーの人!!」

 

 はい、1位の私がタンクトッパーです。

 

「私はサポート科の発目明!!

 あなたのことは憎きタンクトッパーとしか知りませんが立場を利用させてください!!」

 

「憎い? まさか君はマスターとジーニストが封印した全裸大帝の関係者なのか!!」

 

「ねえ、緑谷君全く関係ないと思うけど。

 何そのヴィラン?というか何と戦っとるんヒーロー」

 

「貴方達タンクトッパーのせいでサポートアイテムはタンクトップに劣ると認識され、なんとかタンクトップの秘密を探ろうと研究しようともただの布じゃんという結論しか出ない日々、我らサポート科はその存在意義を問われているのです!!」

 

「よかった、復活してないのかあのヴィラン。

 周囲を原始時代に回帰させる最悪のヴィランだからね、復活したら現代文明崩壊だよ」

 

「原始時代でも服はあったやん」

 

「貴方と組むことはサポートアイテムの否定、だけど背に腹は代えられない、目立つため注目されるため次に進むため、私と組みましょう憎きタンクトッパー!!」

 

「タンクトップとジーンズがない世界なんてカオスだからね、マスターもジーニストも死力の限りを尽くして撃退したんだよ」

 

「普通にヤバいヴィランなのに、撃退理由がズレてへん?」

 

「緑谷よ、組んで欲しいのだが。せめてまともに会話くらいしたらどうだ」

 

 だってタンクトップ否定されたし。

 何はともあれ、チームは完成した。

 僕緑谷出久に、麗か美少女麗日さんに、ダブルでタンクトップを着れる常闇君に、アンチタンクトップの発目さん。

 

「紹介に贔屓と要求と悪意が感じるぞ」

 

「ツカ、キネーヨ」

 

「いややわ、美少女なんて」

 

「サポートアイテムがタンクトップを打ち負かします!!」

 

 チーム決め時間は終了、こうして第二種目騎馬戦の幕は開く。

 

 

 

 

「ここにいるほとんどがA組にばかり注目している。

 彼らと僕らの違いは、会敵しただけなのにだ。

 B組が予選で中下位に甘んじたか、調子づいたA組に知らしめてやろう、ゼィッハァッ」

 

「いや調子づいてないだろアイツら」

 

「まだ息切れしてんじゃんお前」

 

「むしろ注目されたのタンクトップ同好会だし」

 

「戦略ハスデニハタンシテマース」

 

「ね」

 

 

 

 

 

 




当作品設定
『全裸大帝』劇場版あったらという感想から思いついた完全オリキャラ。
個性は『文明回帰』自身の周囲数kmの範囲の科学製品を動かなくする能力、市街地でやれば容易く都市崩壊を起こせる最悪の個性。自然回帰思想のテロリストだが、基本個性という身体能力なヒーロー達には意味が無かったりする。ちなみに全裸になる必要も無い、単なる本人の趣味。個性が危険すぎるため人権侵害承知で特例で冷凍封印され、どこぞの山奥に封じられている。


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21話

 

『さあ上げてけ鬨の声!!

 血で血を洗う雄英の合戦が今!!

 狼煙を上げる!!』

 

「緑谷よ作戦は?」

 

「そうですよ憎きタンクトッパー」

 

「緑谷君狙われてまうよ」

 

「決まってるよそんなもの、蹂躪(タンクトップ)さ」

 

「「「分かるかっ!!」」」

 

 もう仕方ないな、説明するよ。

 先ず僕がタンクトップエアウォークで空を駆け、全ての鉢巻を奪い取り、勝利する。

 

「って感じ」

 

「緑谷よ、騎馬戦の意味知っているか?」

 

 常闇君、黒影揃って目が冷たいよ。

 

「これだからタンクトッパーは」

 

 発目さんそれ敵を見る目だよ。

 

「みんなで逃げるだけじゃいかんの?」

 

 麗日さんて天使かな、タンクトップ着たら完璧。

 

「轟君を代表に、足止めや拘束するのに適した個性持ちばかりだしね、手札消費して対処するより潰しに動いた方が安心だよ」

 

「確かに峰田に、八百万に、上鳴、B組にもチラホラいたな」

 

「茨に、地面柔らかくしたり、ボンド撒いたりしてましたね、あとキノコ」

 

「アイテムに、黒影君に、軽くして機動力あげてもキツそうやん」

 

 そうじゃない面子も厄介、なら守りや逃亡は悪手だ。

 奪われても平気なくらい狩る。15分なら攻め続けるくらいが丁度いい。 

 

「上手くできるのか?」

 

「なあに、上手くとかじゃないよ。勝つんだ」 

 

 オールマイトには次代の象徴になることを期待されている。

 タンクトップマスターには楽しめと言われた。

 ベストジーニストには全力を尽くせと背を押された。

 常闇君は上のステージへ、発目さんは作品を紹介したい、麗日さんは家族のため名を上げたい。

 若き(同世代)タンクトッパーからは後を託された。

 だったら、

 

「全力で楽しんで勝ち上がる」

 

 勝つしかないよね。

 

 

 

『よーし、組み終わったな!?

 準備はいいかなんて聞かねえぞ!!

 いくぜ!!残虐バトルロイヤルカウントダウン!!

 3!! 2!! 1!! START!!』

 

 

「いくよタンクトップエアウォーク!!」

 

『ってオイ!!集中狙いされる1000万ポイントが自ら奪いに行ってるよっ!!』

 

『逃げるにゃ長いし囲まれてるからな』

 

『つーか当たり前のように飛んでるぞ緑谷っ!!』

 

『オールマイトだって飛ぶだろ?筋肉ありゃできるよ』

 

「お前ならそうするよな、出久っ!!」

 

 やはり来たかっ!!

 

「勝己っ!!」

 

 両手の爆発による空中移動、どんなバランス感覚なんだか、ぶっちゃけ神業なんだよねソレ。

 

「空中タンクトップパンチ!!」

 

「爆進脚!!」

 

『ここで同じく空を飛んだA組爆豪と拳と蹴りの応酬だぁ!!』

 

『両手で飛んで足で攻撃か、爆豪も手札多いな』

 

「まさか、こんなとこでやるとはね?」

 

「仕方ねえだろ?制空権握ったタンクトッパーを放置できるかよっ!!」 

 

 空中機動はヒーロー活動の基本とはいえ、流石だよ。

 基本は足技、だけど空中でバランスが取れるから両手も個性も使い多彩な攻めで襲いかかってくる。

 なら、

 

「流水岩砕拳」

 

 空中でできないわけないよね。

 

「上等っ!!」

 

 会場上空で繰り広げられる空中武闘。

 それは多くの観客を魅了熱狂させ盛り上げる。

 生徒達もその武技に上を見上げて手を止める。

 そしてその場の誰もが思った。

 

「「「騎馬戦やれよ!!」」」

 

 うん、僕と勝己の空中対戦だよねコレ。

 ならばと決める勢いで必殺技を放つ。

 

「タンクトップラッシュ!!」

 

「冥躰空龍拳!!」

 

 僕の拳の連打と、勝己の回転からなる連撃がぶつかりあい。お互い弾かれたように自分達の騎馬へと戻る。

 

「緑谷君、大丈夫?!」

 

「流石勝己、ハチマキ狙う余裕なんて無かったよ」

 

 アレで武術は一年足らずなんだからとんでもないよ。

 

「爆豪、平気か!?」

 

「クソッ一本だけかよ」

 

 一本?はは、瀬呂君のテープを隠しといて最後にハチマキを奪うなんてね?

 悔しいなぁ!!

 

「熱くなるな緑谷よ、幸い10ポイントだ」

 

 手札の多さ、制限してる個性に割く意識。

 思考が行動を鈍らせる、無駄を無くすにはまだ経験が足りていない。

 多様さこそが自分の強みだと自負しているが、シンプルに自分の強さを高める天才には一手遅れてしまう。

 

『ヒュー、凄えなあの二人』

 

『一年だと頭抜けてんのは事実だ』 

 

『あれだけやって不満しかないってお互い顔に書いてあんぜ』

 

『貪欲だからなアイツらは』

 

 そうだ、負けたくない。

 

「みんな、次はチーム戦で勝つよ」

 

「もとよりそのつもり」

 

「頑張ろうイ、出久君(小声)」

 

「ベイビーの活躍の場を寄越しなさい、憎きタンクトッパー」

 

 周囲の個性と戦法の把握。

 チームメンバーの能力。

 先程の攻防で削れた時間。

 全てを総括し捌ききれない筈がない。

 

 

 アレ?

 勝己とB組の物間君か?

 

「単純なんだよA組」

「いや気づいてるわ」

 

 漁夫の利を狙うには相手が悪いよね。

 

「第一種目の説明から人数がどれくらいとか考えなかったのかい?」

 

「それで目安つけて、障害物競走でクラス単位での温存か?せっかくの能力アピールの機会に勿体ねえ」 

 

 確かに騎馬戦より個性アピールできる機会だったね。

 

「うぐっ、僕たちは態と後方にいることで君達の個性と性格を把握したのさ!!」

 

「先にゴールしてモニターで見れたんだが」

 

 特に僕は待ち時間長かったね。

 

「大体なんだよアイツらは!!

 普通科の癖に生意気なんだよ!!

 タンクトップ着たからって強く成れるわけないだろうが!!」

 

「いや、馬鹿、やめろ、それ以上余計なこと」 

 

「あんなのただの布切れだろう!!」

 

 

「君さ、タンクトップ信じてないの?」

 

 

「ヘ?」

 

「がふっ」

 

「君さ何を言ったのかな?

 君さ何を馬鹿にしたのかな?

 もしかしてさ、

 この世の全ての可能性であるタンクトップを布切れとかほざいてないよね?

 ねえ、ねえ、ねえ、ねえ?」

 

「アバババ」

 

「おい出久、今体育祭中なんだから後にしろ」

 

 かなり距離はあったけど、聞き捨てならない暴言を前に一瞬で物間君の前に跳び、額が触れ合いそうな距離でその目を覗き込む。

 タンクトップを正しく見れない目なんてただのガラス玉、そんな球体いらないよねえ?

 

「おい爆豪大丈夫か?!」

 

「問題ねえ、ただ古傷が開いただけだ」

 

「顔が真っ青で、目が充血して、体が痙攣して、胃を押さえていて、口の端から血を流しているのは駄目だと思うよ」

 

「もうリタイアでいいから、リカバリーガールのとこ行こうぜ、勝ち抜きよりお前が心配だよ」

 

「あの婆さんでも心因性のヤツはどうにもならなかったよ」

 

(((もうお願いして、無理だったのか)))

 

「ああなったらあの馬鹿は止まらねえ。

 無視して騎馬戦を続けるぞ」

 

 

 

 えーとこの後の顛末だけど、

 僕が物間君への説教している間に騎馬戦は終了。

 周囲丸ごと氷結した轟君とか戦車みたいに担いだ障子君とか頑張ったみたい。

 B組も僕を狙おうとしたみたいだけど、全て勝己が返り討ちにして鉢巻を回収。

 まともにやりあわなかったことで轟君はかなり不満そうで、途中でほっぽりだしたことでチームメイトからも文句を言われた。

 相澤先生にも呼び出しを受けたから説教だよね。

 上位四チームによる最終種目の進出。

 例年どうりならタイマンバトルだよね。

 そういえば、珍しく先代達から警告を受けた。

 騎馬の一チームが洗脳されていたとか。

 本来は何も言わないけど、あの暗黒時代を生きた彼らには洗脳タイプの個性は警戒してしまうものらしい。

 悪用された個性の代表みたいなものだとか。

 けれどそれだけじゃない、あの手の個性の者が、堂々と日向を歩けるようになった時代の移り変わりに喜んでもいた。

 昔は罪を犯さずともひっそり身を隠して生きるのが当たり前だったとか。

 ともあれ警戒はしとけらしい。

 あの手の個性はワンフォーオールの現状に影響がでるかもしれないらしい。

 対戦相手になったら先制タンクトップブローかな?

 こうして騎馬戦は幕を下ろした。

 物間君も説得の末、タンクトップを信じる真人間になったし、勝ち残れたから充分だろう。

 あとはレクリエーションと最終種目だ。

 

「タンクトップ、タンクトップ、タンクトップ

 タンクトップ、タンクトップ、タンクトップ」

 

「いらんことを言うから哀れな」

 

「同じチーム組んで巻き添え食ったんだけど俺ら」

 

「タンクトッパー、やべえ」

 

 

 

 

 



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22話

 

 第二種目も終わり、レクリエーション前の昼休憩。

 相澤先生からの呼び出しは説教ではなくタンクトッパーの仲介依頼だった。なんでもタンクトップ同好会を育てたいが、ヒーロー科の交換は現生徒の実力的に無理、ヒーロー科の増科も人員の都合で無理とのこと。だから放課後意欲ある者を指導する人員を仲介してほしいとのこと、僕はそれを承諾し後日連絡すると伝えた。

 そんな用事を済ませたら、今度は待ち構えていた轟君と話すことになった。

 

 彼の根幹とも言える人生を。

 彼が何故僕に宣戦布告したのかを。

 父エンデヴァーのやらかしたこと、

 母が彼にしでかしてしまったこと、

 彼の出生、彼の過去、彼の目的。

 

 

 いや僕にどうしろと。

 なんか師匠役なのに影薄いなって感じのオールマイトとの関係性に気付いたのは凄いけどさ。

 そんな話されても反応に困るよ。

 コミックだったら主人公だって背景だけど、えっと警察か家庭裁判所に連絡するべき?

 エンデヴァー、これ大スキャンダルですよ。

 

「さらにお前は、あの無個性ヒーロー達とも知り合いなんだろ?」

 

「うん、タンクトップマスターは師匠だし、豚神さんとも超合金クロビカリさんとも知り合いだけど」

 

「番犬マンは?」

 

「会ったこともないよ」

 

 マスターなら面識くらいはありそうだけど。

 

「クソ親父は無個性ヒーローに負けた」

 

 いやまあ当然だよね。

 あの人達ってほら、バグだし。

 

「自慢の炎はクロビカリの皮膚に焦げ目すらつけれず、番犬マンに至ってはプロヒーローで徒党組んでも返り討ちだ」

 

 あの無自覚に煽るクロビカリさんと、無個性ヒーロー最強の番犬マン相手じゃ仕方無くない?

 特に番犬マンは、無個性ヒーロー3人がかりでも勝てないって本人達言ってるし。

 

「タンクトップマスターとは関係ないみたいだが、お前がオールマイトに目をかけられてタンクトップマスターの弟子なら」

 

「親父の個性を使わないでお前に勝って、奴を完全否定する」

 

 それは否定になるのかな?

 

「時間とらせたな」

   

 そう言って去って行く轟君に僕は告げた。

 

「今の君でいいのか?」

 

「何?」

   

「今の君の姿は誰かに誇れるのか?」

 

「訳わかんねえよ」

 

 そう言って今度こそ轟君は去って行った。

 ハァー、なんと言えばよいのやら。

 

「君はどう思う?勝己」

 

 曲がり角にいる幼馴染に尋ねる、スッキリしない気分のままに。

 

「知ったこっちゃない、ってのが本音だな」

 

「だよね」

 

「同情はできるし、重いもん背負って辛そうだなとは思うがそれだけだ。こっちができることなんざ何もねえ」

 

「家庭の事情だし、助けを求められてもいない」

 

「ましてや最終種目のトーナメント、お前はアイツに負けるか?」

 

「ありえない」

 

 個性の技量、個性の習熟、轟君がそれらを高い水準で修めているのは認める。けど、

 

「タイマンバトルで遅れをとるかよ俺達が」

 

 格闘技術で分があるのは僕らだ。

 それに個性、身体能力強化だけでも圧倒できる。

 負ける気はまるでしない。

 

「左使えば勝てます、って言ってるみてえな態度も気に入らねえしな」

 

 無自覚だろうけど、炎使えば余裕だ、みたいな感じだったよ轟君。でもね、

 

「お前はスッキリしてねえんだろ?」

 

 そうこの気持ちはなんだろう、今の轟君を見ると湧き出るこの気持ちは?

 どうして最後にあんな言葉を告げたんだろう。

 

「助けたいからだろ?」

 

 え?

 

「あんな奴に手を差し伸べたいから、タンクトップ着てんだろ?」

 

 それは、

 

「いつも見たくそう言って、助けちまえ」

 

 そうだ僕は、轟君が迷子に見えたんだ。

 辿り着きたい場所も分からなくなった迷子に。

 縋り付いた手を払われた迷子に。

 寂しくて涙を流す迷子に。

 呆然と途方にくれた迷子に。

 僕は見えたんだ。

 だから、手を差し伸べたいんだ。

 僕がしてもらったみたいに。

 

「助けたいからと言葉探すなよ。

 言葉尽くすだけじゃ意味がねえ。

 腹から湧き出る言葉が相手に響いたら助かるんだ」 

 

 下手な言葉じゃ伝わらないだろうし。

 

「全力でぶつかってやれ、先ずはそっからだ」

 

「相変わらずお人好しだよ勝己は、ほら轟君の心配だってしてる」

 

「はっ、俺はただ決勝戦でテメェをぶっ倒すのに余計な茶々いれられたくねえだけだ」

 

 そういえば本格的な決闘は初めてか。

 

「テメェを倒して、強くなるのにタンクトップは関係ねえことを証明してやるよ」

 

 ああ、受けて立つよ。親友。

 僕は全てに勝利して君と戦う。

 でもね、

 君は勘違いしてるみたいだけどさ、挑むのは僕の方。

 子供の頃憧れたヒーローに僕は今日挑むんだ。

 

  

 

 

 

 

 



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23話

 

『最終科目発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ!!』 

 

「そういえばレクリエーションだよね、勝己はでる?」

 

 流れる放送に自由参加なレクリエーションをどうするか聞いてみた。

 

「タンクトップ同好会が参加するみてえだし、俺は出ねえよ」

 

「僕もそうかな、タンクトップで体力回復できるけどそんな気分にならないし」

 

 レクリエーション前のトーナメント発表。

 会場に向かうとクラスメート女性陣がチア衣装をきていた、何故に?

 

「峰田さん、上鳴さん、騙しましたわね!?」

  

 ああ、招かれたチアガール見て思いついたのか。

 百さん乗せやすいしね。

 

「なあ、お前ら」

 

 ただね、

 勝己に今余裕ないの(元凶)に気づいてなかったのかな?

 

「胃が限界なのに追討ちかけてんじゃねえよ」

 

 二人の顔を掴んで握りしめる、これで爆破したらおしまいだね。

 

「いやだってよ、見たいじゃんかよ!!」

 

「そうだって!お前も男なら分かるだろ!!」

 

「否定はしねえが、騙してまでやんな。

 素直に頭さげて頼めや」

 

「「お前や緑谷じゃないと了承してくんねえよ!!」」

 

 まあ君達二人は日頃の行いがね。

 

「まあまあ勝己、みんな似合っているし眼福だと思ってさ」

 

「眼福以上に辱めた罪悪感が胃にくるわ」

 

 勝己は真面目だよね。でもさ、

 

「「「「眼福だってエヘヘ(照れ)」」」」

 

 満更でもないみたいだよ、皆さん。 

 

「「この反応の差だよ」」

 

「やっぱり日頃の行いでしょ」

 

「お前が言うなマジで」

 

 その後、勝ち残った四チーム16名のトーナメント説明と組み合わせ決めのくじ引き。その途中で先代達が気にしていた操られていたチームの二人が辞退して、別のチームのB組の二人が繰り上がったり、トーナメントの対戦相手が決まったりした。

 相手は心操君、恐らく洗脳タイプの個性使いか。

 勝ち上がったら、次は轟君。

 勝己とはお互い順調なら決勝戦、いいね。

 

 タンクトップが締まってきたよ。

 

 トーナメントはひとまず置かれて楽しく遊ぶレクリエーション。

 アピールにもなるため参加する生徒は多いし、チアガール衣装の女性陣も盛り上がって眼福な光景だよね。

 僕と勝己は休憩を兼ねて観客席のベンチに座りながら眺めていた。

 

「おうここにいたか?」

 

 うん、この声は?

 

「バットじゃねえか、来てたのか」

 

 勝己が聞くと、そこには学ランを着て肩に鉄バットを乗せた青年。友人である、鉄バット(くろがね ばっと)がいた。

 

「お前らが招待チケットくれたからな、妹と一緒に来たんだよ」

 

「その妹はどうしたよ?」

 

 シスコンが妹と離れるとかよっぽどだよね。

 

「タンクトップ事務所の連中がいたから、連中で遊ぶとよ」

 

 何気にあの娘も肝っ玉すごいよね。

 バットを叱りつけるし、タンクトッパーで遊ぶし。

 

「助かったけどよ、良かったのか招待チケット?

 お前らの家族とかはどうしたよ」

 

「僕の家は父さん海外に赴任してるし、母さんはほら涙もろいから試合見たら水浸しになっちゃうよ」

 

「お前の母さんの個性それじゃねえの?

 俺ん家は、親父が出張でお袋はついてったよ」

 

 勝己のお父さんは人が良いから、休みの多い体育祭の日とか仕事を代わってあげてるみたい。息子が参加する年くらいは見たらいいのに、相変わらず人が良い。

 

「しかし、テレビで何度か見たが生では初めてだな、雄英体育祭」

 

 僕はあまり見たことないけど、バットは妹さんと見るんだよね。

 

「なんつーか」

 

『タンクトップ!』

 

『背脂なんかあるかー!』

 

『タンクトップ!』

 

『大玉で轢くな!!』

 

『この勝利をタンクトップに捧げる!!』

 

『『『普通科に捧げろ!!』』』

 

 眼前のレクリエーションの光景を見てバットは、

 

「タンクトップだな」

 

「でしょう、ふふんっ」

 

「完膚無きまで誤解だ、バット。

 誇らしげに胸を張るな、元凶」

 

 こんなやり取りも久しぶりだ。

 バットは戦闘力は申し分ないけど、学力面で雄英高校進学を諦めたんだよね。

 でも居たら楽しかったよね、シスコンだし。

 

「そういえば、豚神の旦那もいたぞ」

 

「豚神さんが?珍しいね」

 

 自分が嫌だからというより、人の迷惑になるのが嫌だから、基本人が多いトコを避けるんだよねあの人。

 

「体育祭限定メニューでもあったか?」

 

 ありそうだけどそれでも来るかな?

 

「あと連れもいたな、見たことない奴」

 

「じゃあ食レポの仕事か?連れは仕事関係者とかだろ」

 

「豚神さんか、エンデヴァーとかアンチ無個性ヒーローもいるから心配だよ」

 

 無個性ヒーローの存在嫌がる人って多いしね。

 

「絡まれても余裕だろ」

 

「見た目に反して機敏だしな」

 

「そうだけどさ」

 

「そろそろ、妹のトコ戻るけどよ。

 勝己、出久、決勝戦楽しみにしてるぜ」

 

「はっ、テメェが参加できなくて悔しくなる戦いにしてやるよ」

 

「全身全霊を尽くすよ、楽しみにしといて」

 

 

 こうして、レクリエーションの時は過ぎる。

 神経を研ぎ澄ます者、

 緊張を解きほぐそうとする者、

 旧交を温めた者達、

 それぞれの思いを胸に、あっという間に時は来る。

 

 

 

 

 



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閑話、オールマイト視点 

 

 それは緑谷少年がヴィラン襲撃後に倒れ入院していた頃のこと。

 

「オールマイト」

 

「やあタンクトップマスター君」

 

 お見舞いに来ていたタンクトップマスター君と私は病院で鉢合わせした。

 

「出久とは会話を?」

 

「ああ褒めてあげたいのに、慣れない説教をするハメになってしまったよ」

 

 実力はある、当時の私よりも強いかも知れない。だが危険を危険だと判断し撤退できないのは、それはそれで危ういのだ。

 

「それで良いと思うがな、アイツはどうも危なっかしい」

 

「危ういか、確かにね。緑谷少年にワンフォーオールを託した私が言うのもなんだが、彼は気負い過ぎているように見える」

 

 今回見えてしまったヤツの影、それが緑谷少年により宿命を意識させてしまったのだろうか?

 未だ確定ではないとはいえ、オールフォーワンの生存の可能性のせいで。

 私がヤツを仕留めきれなかったばかりに。

 

「オールマイト」

 

「どうしたんだい、タンクトップマスター君?」

 

「俺は所詮、貴方達が創ってくれた平和な時代でぬくぬくと育った若輩者に過ぎない」

 

 私に頭を下げながら彼は言う。

 

「ワンフォーオールの宿命とやらも理解しているとは言い難い。だが、

 どうかオールフォーワンとの戦いに介入することを許して欲しい」

 

 一人の大人として、少年を思って言う。

 

「先に立つ者として、出久の前に戦うことを許して欲しい」

 

 師としてか、舎弟を思いやる兄貴分としてか、彼は自分が戦うと言う。

 それが自分の果たすべき役割だと理解して。

 だから私は、

 

「構わないさ、ただ先に戦うのは私だよ」

  

 君が先達だと言うなら私だってそうなのだから。

 君が戦うのは否定しない、その気持ちは理解できるからだ。

 ただお師匠がしてくれたように、私だって示すべきなのだ、ヒーローとしての生き様を。

 確実に勝てるとは言わない、衰えた私ではあるいは勝てないかも知れない。

 でも君がいる。

 私が見つけた後継者を導き育てた君がいる。

 君がいるから安心して戦いに臨める。

 

「私が決着をつけれなかったら頼むよ、タンクトップマスター」

 

 

 

 そんな約束をしてから数日たった、雄英体育祭午前の部、実にタンクトップだったねHAHAHA。

 緑谷少年だけじゃなくてもタンクトップだよ。

 昼休憩前に見かけたエンデヴァーに優秀な息子がいるけど、次代を育てるハウツーを教えてと言ったらあっさり断られてしまったよHAHAHA。

 その上、息子である轟少年をアレとかつくった仔とか言い出すし、反応に困るぜ。

 私、独身だしねHAHAHA。

 レクリエーション中に、エンデヴァーにあんな反応されたことを考えてたけど、十年ぶりになのに親しくしすぎたかな?

 そんな中、プレゼント・マイクの開始宣言で最終種目のガチンコバトルトーナメントは始まった。

 せっかくだから私は第一試合が始まる前に緑谷少年に激励の言葉を贈った。

 笑っちまって臨め、虚勢でも胸を張っとけ、私が見込んだことを忘れるな!!って。

 ちなみに一回戦だが、お師匠含んだ先代達が洗脳対策として速攻キメるよう指示をだしているみたい、エグいぜ。

 

「疾風タンクトップブローっ!!」

 

 開始合図とともに、ワンフォーオール20%で心操少年の腹部を強打、緑谷少年もエグいぜ!!

 殴られた心操少年は一撃で沈み、緑谷少年の勝利。

 ヒーローに向いている性格ではあると思うけど、かなり容赦はないんだよね緑谷少年。

 試合後に心操少年と何かを話しているね。

 心操少年は相澤君が気にしていたし、普通科でここまできたのだから評価されると思う。

 後は本人しだいだね。

 

 続いては第二試合、轟少年と瀬呂少年。

 地味だけど優秀という評価の瀬呂少年は、個性操作も身のこなしも優れた有望なヒーロー候補だ。

 拘束と機動に秀でるのは現代のヒーローに最も求められてることだからね。

 しかし相手は轟少年。

 力としての出力に差があり過ぎるね。

 熱気や冷気の個性は、実はありふれてはいるけど、それが高出力な場合は希少だ。

 ましてや轟少年は、父であるエンデヴァーに鍛えられてるせいかとんでもない出力だね。

 会場にどんまいコールが流れる辺り、相手が悪かったというのが瀬呂少年の評価のようだ、確かに妥当だ。

 

 第三試合なんだけど、うん。

 B組塩崎少女と上鳴少年。

 まあ個性の相性が勝敗に反映しやすいよね。

 この年頃なら仕方ないけど。

 ただね、ナンパして大口叩いてその結果は頂けないぞ上鳴少年。

 緑谷少年と爆豪少年の入学祝いで出会った、格闘家のボルテーン氏でも紹介してもらうべきかな?

 

 第四試合は、飯田少年とサポート科の発目少女。

 機動力に優れ足技主体な飯田少年が有利なのは間違いないのだけど、これはノセられたね。

 初目少女の発明品発表会になってしまったよ。

 まあ誰と戦うか分からないのに飯田少年向けにあれだけ発明品があったのだから、多分もっと開発してるんじゃないかな?雄英入学の期間から考えても優秀なのは間違いない、親友に紹介しようかな。

 

 第五試合は、芦戸少女と青山少年。

 威力は高いけど直線で回避しやすいネビルレーザーを芦戸少女がどう捌くかが焦点だね。

 回避しやすいとはいえ、見通しの良いリング。

 芦戸少女が、蛙吹少女に並ぶA組で身体能力の高い女生徒とはいえどこまでやれるか。

 結果は芦戸少女の勝利、個性である酸を上手く青山少年のベルトに当てたね。

 

 第六試合は、常闇少年と八百万少女。

 限界の分からないリーチのある黒影の個性を使う常闇少年と、創造によっていかなるものも創り出せる八百万少女。

 ほぼ万能ともいえる八百万少女だけど、リングの上で接近している状態だと不利は否めなかったね。

 創造が後手に回り、常闇少年の勝利。

 

 第七試合は、B組鉄哲少年と切島少年。

 個性ダダ被りのためか、硬化した肉体で真っ向勝負の殴り合いだったけど。

 見事に両者ダウンして引き分け、回復後に腕相撲などの簡単な勝負で決着をつけるようだね。

 

 そして初戦最後の第八試合、爆豪少年と麗日少女。

 残酷だが勝敗は決まっている。

 どうしようと麗日少女に勝ち目はない。

 それぐらいに爆豪少年はぶち抜けている。

 それだけで充分といえる破壊力のある爆破の個性、鍛えられ磨かれた武術、そして顔見知りのヒーロー全てが認める圧倒的才能に、向上心の塊とも言える精神。

 戦闘力においてはプロヒーローに匹敵、あるいは超えてるだろう彼に、麗日少女では勝ち目がない。

 試合開始、爆豪少年は爆破で加速し麗日少女の首筋に手刀を放つ。傷つけずに無力化、それは相手が女子だからではなくヒーローの求められる高水準な技量だ。

 てっきり終わるかと思ったがなんと麗日少女は予測していたのか、予めガードをしていたため凌げた。

 実習での動きから最短で決めると読んでいたんだろうね、あるいは緑谷少年の入れ知恵かも知れない。

 距離を置き、次で決めると構えをとる爆豪少年に、麗日少女は本気でやって欲しいと叫ぶ。

 確かに加減して気絶させて済ませようとも見えるからね。ただ、

 本気だと爆豪少年は告げる。

 ただ爆破で破壊することが自分の本気ではない、もてる技量でふるう体捌きもまた本気なのだと。

 長期でやれば、遅れを取りかねない力と思いが麗日少女にはあるから最速で決めるのだと。

 爆豪少年は向かい合う者を見下さない、それは幼少時からタンクトップで自らを高める緑谷少年と幼馴染だからかも知れない、緑谷少年を通じて実力者ばかりの世界に触れていたせいかも知れない。 

 侮らないからこそ、自身のもてる最善手を。

 麗日少女の無重力個性による一手を打たせないために最速で決める。

 驕らぬ天才に容赦の二字は無い。

 加速する爆豪少年の掌底を両手を交差して防ぐ麗日少女、だが爆豪少年はさらに足場にヒビが入る程踏み込み防御されたままの体勢で衝撃を伝える。いわゆる武術の鎧通しに追撃とばかりに爆破を放ち吹き飛ばす。

 吹き飛ばされた麗日少女に意識は無いようで、勝敗は決した。

 爆豪少年の勝利、やはり彼は強い。

 

 勝ち上がった者たちによる次の試合はより凄まじいものになる。 

 そう確信のもてる戦いだったね。

 

 ちなみに、轟少年との試合が確定したときに覚悟を決めたような表情を緑谷少年がした。

 気になって聞いてみたら、轟少年とエンデヴァーの間にあった出来事と、宣戦布告されたことを伝えられた。

 

 そんな事してたの彼!?

 と思わず叫びたくなったよ、私にとってエンデヴァーはともに競い合う同胞という認識だったけど、超えられない壁扱いとか。

 しかも個性婚に家庭事情とか重すぎるよ!!

 平和の象徴たらんとヒーローをしていたけど、私なんてそこまで大した存在じゃないんだけどな。

 事務所仕事や経理とか書類とか苦手で人に押し付けてるし、教師としても指導者としても半人前だし。

 

 エンデヴァーの件て私のせいなのかな?

 この年になってヒーロー活動以外は周囲に無頓着だったと思い知らされるよ。

 どうしよう。

 

 

 




おまけ 作中に入れられなかった一コマ

「あれは」
 
 勝己が目を向けた方向を見たら、そこにはバットの妹さんを抱っこしているタンクトップガールがいた。
 失恋したとはいえ憧れの女性の姿に勝己は、

「何だアレ、聖母かよ」

 ひどくときめいた表情で見惚れていた。
 初恋だしね、仕方ないね。でもさ、
    
「どう見てもタンクトップでしょ」
 
 きちんと見なよと僕は言う。
 全くこれだから青少年は。
  
「表出ろテメェ」
 
 その後ブチ切れ勝己と組み手した。



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25話

注意、コミックス未掲載情報、並びに多大なご都合主義かつ作者のキャラ解釈あります。
今まで以上に原作改変あるのでお読みの前にご注意下さい。


 

 ナンバー2ヒーローエンデヴァーにおいて、オールマイトに勝てないことは、あるいは納得できていたことなのかも知れない。

 諦めきれず、次代を創りあげてまで超えようとしていてもどこかで勝てないことに納得していたのかもしれない。

 個性目当ての縁談、自分の個性の弱点を埋められる個性の掛け合わせである個性婚。

 相手の借金につけ込んだ、最低な行為。

 向こうの家族を救った事実が罪悪感を軽くしたのもあったのだろう。

 上手くはいっていたのだ、家族として。

 息子がヒーローを目指したのも嬉しかったのだろう。

 彼は誇らしげに息子に力の使い方を教えたのだから。

 長男の個性が、火力は自分を超えても反動も自分以上で命に関わると知るまでは。

 だから個性の使用を禁じた。

 それでも諦めない、火傷をつくり続ける息子を諦めさせるために、成功作ができるまで子供を作った。

 自身の個性の反動を打ち消す、炎と冷気を両立する子供。そんな子がいれば、自らを焼く行為をやめてくれると願って。

 そうして生まれたのが、轟焦凍。

 家族の過程を知らない、向上心と名誉欲の暴君であり家族を虐げるエンデヴァーしか知らない成功作。

 成功作しか見ない父に見てもらうため暴走し、死んだことになった長男の存在により後に引けなくなったエンデヴァーしか知らない末弟。

 

 そんな話を突然訪ねてきた青年に言われた。

 火傷の跡を継ぎ接ぎのようにした容姿のコートを着た青年、轟燈矢に。

 死んだ筈の存在、助かったには理由があるが今は言えないらしい。

 だが彼は生きて、轟君と試合前の僕に話しかけてきた。

 幽霊ではなく生きた人間として。

 話には続きがあった。

 オールマイトに勝てないのは納得できる、彼の積み重ねた功績は、全く同じことをしても覆せない。

 だがエンデヴァーは会ってしまった、最悪に。

 彼にとっての絶望、無個性ヒーロー達に。

 無個性ヒーローは彼にとって評価に値する存在ではなかった、何せ第一号たる超合金クロビカリは権力者のワガママでヒーローにされた存在だからだ。

 だから超合金と謳われる彼の皮膚の耐熱実験の依頼を渋々受けた、くだらないという本音を隠しもしないで。

 しかしそれは失敗だった、彼の鍛え抜かれた筋肉は火力において個性最強であるエンデヴァーのヘルフレイムを全て防ぎきったのだから。

 鍛えた生身に個性が勝てる筈がないだろう。

 そのクロビカリにとっては何気ない一言でエンデヴァーは崩れ落ちた。

 なら自らの炎に焼かれる自分は、受け継がせてしまった炎で焼け死んだ我が子は何なのかと。

 個性婚なんてせずに目の前の筋肉のように鍛えればよかったのではないかと。

 折れることは許されない、今までの所業ゆえに。

 ゆえに挫折を嫌悪に変えて、クロビカリを嫌うことで自己を保った。

 何せ戦闘では機動力に欠けるクロビカリには勝ち目があり、何よりクロビカリはヒーローとしては失格に近い価値観の持ち主だったからだ。

 だが、次に出会った存在。

 番犬マンとは戦うべきではなかった。

 郷土愛、それだけのために戦う彼はヴィジランテの鑑といえる。

 故郷以外はどうでもいいと言うのはどうかと思うが、ヒーローとしても間違っていない。

 間違っていない存在を、有効活用と言って良いように使うために捕縛しようとして、返り討ちにあった。

 言い訳できぬ程の圧倒的敗北で。

 だからこそ今のエンデヴァーは揺らいでいる。

 自身がどうしたいのか分からなくなっている。

 死んだことになっている息子の仏壇の前で弱音と懺悔を繰り返す程に。

 だからきっと、彼は変われる。

 家族と向き合える。

 そう言い、燈矢は頼みこむ。

 

「焦凍を倒して欲しい」

 

 末弟を打ち負かして欲しい、末弟に変わるきっかけを与えてやって欲しいと。

 そうすれば、きっと轟家がお互いに向き合うきっかけになるから。

 あの子は、自分とは違い画面の向こうのオールマイトに憧れたのだから。

 

「元からそのつもりです」

 

 救いたいという思いは自身にもあり、決勝戦にて果たしたい約束もある。

 だから勝つことは決めているのだ。

 全力でぶつかることも。

 

「そうか、ありがとう」

 

 その言葉を最後に彼は踵を返した。

 どこへ?と尋ねると現在は豚神さんの元で世話になっているらしい。

 家族の元へ戻ろうとした後、父に認められるため、父に屈辱を与えた無個性ヒーローに襲いかかり返り討ちにあったと。

 そうして豚神さんに保護されたとのことだ。 

 エンデヴァーに対するわだかまりはすでにない。

 仏壇にて吐き出した弱音で自身を過去にしていないと知った以上、もういいのだと。

 それだけで満たされたから。

 それでもまだしばらくは再会する気はないらしい。

 会う時は、他の皆と和解した後が良いと言う。

 それが会話の終わりとなり彼は去っていった。

 

 勝つ理由がまた一つ増えた、僕はそう思った。

 元より勝つ気ではいたのだ、全力でぶつかる気も。

 だから、やる。

 

 漢らしい腕相撲対決の結果、見事切島君が勝利。

 次の試合には切島が進むことになった。

 全力で戦った相手と手を握り合い友情を育むのはこういった催しの醍醐味だろうね。

 轟燈矢さんとの会話を終えた僕は、会場につながる通路でエンデヴァーに話かけられていた。

 

「うちの焦凍にはオールマイトを超える義務がある」

 

 義務、か。

  

「君との試合はテストヘッドとしてとても有益なものとなる。くれぐれもみっともない試合をしないでくれたまえ」

 

「僕はオールマイトではありません」

 

「そんなの当たりま」 

 

「僕はタンクトップを着こなして、誰かに手を差し伸べるヒーローになる男です」

 

 秘密だからオールマイトの後継になるとは言い切れないのが心苦しいけど。

 

「轟焦凍君も、貴方ではない。

 彼として成りたいヒーローがあるんだ」

 

 今の彼はそれを忘れているけど。

 

 

『今回の体育祭 両者トップクラスの成績!!

 まさしく両雄並び立ち今!! 

 緑谷対轟!! スタート!!』

 

 開始同時に生み出される氷柱群。

 それを遠当てタンクトップパンチで薙ぎ払う。  

 ワンフォーオールは20%を維持。

 彼の氷では僕を捕らえることはできない。

 個性も身体能力、使えば彼は自ら冷気で鈍化することは自明。

 耐久戦に持ち込むのも戦略的にはアリだが。  

 まずは直接ぶん殴る。

 

「直撃タンクトップブロー!!」

 

 タンクトップの動き易さからなる、タンクトップステップで接近し腹に一発ブチこむ。

 ああ、そうだ。

 助けたいとは思う、けどね。

 家庭の事情を連チャンで語られてパンクしそうなんだよ!!

 タンクトッパーはな、頭単純なんだよ!!   

 

「ぐうっ」

 

 轟君は吹き飛ばされるが腹を抑えて立ち上がる。 

 流石に鍛えてるだけはあるね、一発KOとはならないか。

 

「なんで、だよ」

 

 牽制のために氷柱を放つ轟君。

 裏拳一閃で薙ぎ払う僕。

 

「なんでお前が、タンクトップ着てるだけのお前が」

 

 足元に氷を作り出し接近し、直に触れて凍らせるも、

 タンクトップは凍らない。

 実習のように砕き、カウンター。

 

「オールマイトみたいに見えんだよ!!」

 

 頬を打たれ転がりつつも叫ぶ。

 燈矢さんの言ったように彼もオールマイトに憧れていたんだ。

 僕と同じで、

 

「雨の日にさ」

   

「?」

 

「泣いてた最低のガキがいた」

 

 思い返すオリジン。

 

「無個性だと診断されたガキは、ヒーローに成れないと母を責めたて泣かしたんだ」

 

 未だに忘れられない過去の自分。

 

「そいつは手を差し伸べられ、タンクトップに出会って強くなった。まあ苦労はしたけどね」

  

「それがどうした」

 

「変わるきっかけなんてそんなもんじゃない?」  

 

 たった一言が、たった一度伸ばされた手が、差し出されたタンクトップが。

 変わるきっかけとなり、救われる。

 

「成りたい自分がいるんでしょ?

 掴みたい手があるんでしょ?

 だったらやっちゃいなよ」

 

 変わることは怖くなんてないのだから。

 

「変わっていいのかよ!成っていいのかよ!

 存在そのものが母を苦しめた俺が!!」 

 

 ヒーローに成って良いのかと轟君は叫ぶ。

 

「救いたい人がいて、手を伸ばしたらそいつはもうヒーローだ」

 

 轟君の思いに呼応して左の炎が吹きでる。

 なるほど凄い火力だ、けどね。

 

「どうなっても知らねえぞ」

 

 体温変動による限度の無くなった、ヘルフレイムを超えるだろう超火力。

 超合金クロビカリさんでもない限り、防ぎきることは不可能。

 だが、

 

「緑谷、ありがとうな」

  

 礼を言うのは早いよ。

 ワンフォーオール限定開放100%オーバー、暴走する力はタンクトップが締め上げる。

 防ぎきれないなら、吹き飛ばす。

 力こそパワー。

 火力を超えるは筋肉とタンクトップ也。

 限界以上のパワーを炎へと叩きつける。

 放たれた豪腕は轟君の放った熱気全てを薙ぎ払い、凪いだ風のみが残る。

 

 

『何今の、お前のクラス何なの?』

 

『散々冷やされた空気が瞬間的に熱され膨張したんだ

 んでそれを緑谷が殴り消した』

 

『オールマイトかよ、アイツ。

 筋肉ってタンクトップってあそこまでできんの』 

 

『轟に当てないで炎だけ消したのも見事だな、直撃したら即死だろうに』

 

『ヤバいこと言わんでくれ、イレイザー』

 

 炎で焼けたジャージで左上半身がはだけている轟君は、ぶつかりあった結果に呆然としている。

 

「今回は僕の勝ちかな?」

 

 限界を超えてもこちらに余力はある。

 まだやれるよ。

 

「ああ、そうだな」

 

 結果を受けいれた轟君はそう頷いた。

 

『轟くん、敗北宣言。緑谷君三回戦進出!!』

 

 ミッドナイトの勝利宣言でこの戦いは終わりだ。

 なんか肩の荷がおりた気分だね。

 迷子を送り届けた感じだよ。

 

「なあ、緑谷。俺も強くなれるか?

 お前みたいにタンクトップを着たら」

 

「タンクトップを着るのはあくまでスタートだよ。

 まずは着てから、そして己を高めるのさ」 

 

「そうか」

 

 試合終了後、通路に向かう轟君をこっそり追跡。

 タンクトップステルスを発動してるからバレることはないだろう。

 

「邪魔だとは言わんのか、子供じみた駄々を捨ててようやくお前は、完璧な上位互換となった」

 

 待ち構えていた、エンデヴァーは言う。 

 どこか強がっているように。

 

「負けたのは良いだろう、個性制御が完璧となれば容易く超えることができるだろうしな

 卒業後は俺の元へ来い!!

 俺が覇道を歩ませてやる!」

 

 そう言って手をのばすエンデヴァー。

 だが轟君の言葉は意外なものだった。

 

「アンタが苦しんでたのは知ってたよ。

 燈矢兄さんの墓前で嘆いていたことは、母さん含めてみんな知ってる」

 

「なっ?!」

 

 驚愕するエンデヴァー。

 

「夏兄だって受けいれようとしてんだ、あんな姿みたらな」

 

「そんな俺はっ?!」

 

「認めたくなかったんだよ俺が。

 認めてしまったら自分がどうなるか分かんねえから、 

 どう変わるのか怖いから」

 

「踏み出す勇気がなかったんだ、みんな」

 

 必要だったのはは変わった自分を受けいれる勇気。

 ただそれだけだった。

 

「母さんと話す。思いを全部伝える。

 多分俺は家族としてやり直した上で、オールマイトみたいなヒーローになりたいんだ」

 

 そうして、轟君の騒動は終わった。 

 啞然とするエンデヴァーを置いて彼は歩きだした、

 成りたい自分になるために。

 

 

 

 

 

 

 



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閑話、とある紳士視点

 

「ふむ、出久君も爆豪君も頑張っているみたいだね」

 

 携帯のテレビ中継にて映し出される活躍している顔馴染みの二人。

 休憩時間のみ確認しているとはいえ、やはりあの金の卵ともいえる少年達は有精卵揃いの雄英高校においても飛び抜けていた。

 事務所にてラヴァーが録画編集してくれているとはいえ、ついつい気になってしまう。

 雄英体育祭が開催し盛り上げる中、私タンクトップジェントルは保須市にてパトロールを行っていた。

 雄英体育祭は誰もが熱狂する国内最大の催しというだけではなく、若き雛鳥の品評の場でもある。

 ゆえに多くのヒーロー事務所が最小限の人員のみ残して、あるいは休業してまで観戦しにいくのだ。

 その分、街のパトロールなど日頃の業務が疎かになってしまう側面もあるのだが。

 まあ、観戦するのは一般人やヒーローだけではなく、ヴィランとて同じこと。娯楽としてあるいは将来の障害の品定めとしてモニターに張り付いているのだろう。

 事件発生率が雄英体育祭の時だけ極端に増加しないのはそこら辺が理由かもしれない。

 一部の私達のようなヒーローが普段どおりの業務をしているのも理由の一つだろうが。

 先程すれ違い挨拶したターボヒーローインゲニウムもその一人だ。彼ときたらサイドキックが体育祭を見たがるからと、チーム連携が本領であるのにも関わらず一人でパトロールをしていた。

 彼とて今年入学した弟の勇姿を応援したいだろうに。

 ちなみにタンクトップ事務所は人数が多いため、熾烈なタンクトップくじにて体育祭観戦者と休暇の者を決めた。私も見たかったが、マスターが率先して辞退したのにならいパトロール組となった。

 なに、後で録画を見よう。どうせなら出久君と爆豪君も一緒に紅茶でも飲みながら、参加者達のコメント付きならより楽しめるだろう。なぜか爆豪君のために胃に優しい紅茶が必要な気がするが、なぜかさらに胃に優しい菓子まで必要な気がするね。

 心当たりがありすぎるが頑張ってくれたまえ爆豪君。

 しかし、嫌な予感がするね。

 張り詰めたような、静けさの中に静電気が走るようなピリピリした空気が閑散とした街並みに流れている。

 念の為ともに来たタンクトップラビットとタンクトップジャングルは二人一組で行動させて正解だったかも知れないね。

 

「なあ君もそう思うだろう、ヒーロー殺し君?」

 

 今まさに倒れ伏すインゲニウムに凶刃を振るわんとする覆面の怪人。

 神出鬼没、過去17名ものヒーローを殺害し23名ものヒーローを再起不能に陥れた、通称ヒーロー殺し。

 敵名、ステイン。

 全くついてないね、私は。

 だが、インゲニウムのピンチに間に合ったのは運が良い。

 これ以上の被害を防げる事実もね。

 

「ジェントリーバリア」

 

 話しかけた私に構わずインゲニウムの足に刀を振り下ろすステイン。だがジェントルステップで接近し、すでにインゲニウムの周りの空気は柔らかくしてある。

 

「硬いものより斬りにくいだろう?」

 

 ぐにょりと柔らかい空気は下手な鋼鉄よりも斬りにくい、コツを掴めば斬れないこともないが初見では厳しかろう。

 ジェントルステッキを振るいインゲニウムからステインを遠ざけ、ステッキを一文字に構え相対する。

 

「ハァ、タンクトップジェントル。かつては下らん動画を配信していた義賊気取りの元ヴィランか」

 

「私のことを知っているとは光栄だよ、知名度としては君の足元にも及ばんがね」

 

 情報社会の弊害かね、容易く他者に己を知られる。

 

「粛清する価値もない塵だったが、今の貴様は違う」

  

 ガチンッと刀とステッキが交差し火花を散らす。

 瞬時にステッキを柔化し刀を絡めとろうとするが、ステインは後ろに飛びそれを防ぐ。

 

「無個性ヒーロー、あの素晴らしき番犬マンと並び称される個性なき怪物達。

 論外である超合金クロビカリを除き、豚神とタンクトップマスターと番犬マンは英雄足る存在だ」

 

「マスターを評価してもらい恐悦至極だよっ」

 

 ステッキをフェンシングの如く構え、突きを放つ。

 私の細胞を混ぜてあるこの特注ステッキは体の一部も同然、触れた先から個性を発動できる。

 武器を柔化して無力化する!

 

「タンクトップマスターの元で更生し鍛錬を積んだ貴様は最早俺の粛清対象ではない」

 

 逃がさんっ!!

 

「重体の者を捨て置く者が、ヒーローか?」

 

「真のヒーロー足るインゲニウムは、自らの身より他者を案じる!!

 その意を汲まずしてヒーローとは名乗れぬよ!!」

 

「良いな貴様」

 

 ニヤリと笑うステインだがどうやら引く気のようだ。

 それを許すつもりはない。

 下がるステインと追う私、インゲニウムは携帯にて連絡をとっているのは確認した。

 応援も救助も駆けつけてくる。

 ならば私は逃さず捕らえる!

 刀とステッキのぶつかり合う音は人気のない街に絶えることなく響き渡った。

 

 

「未熟だな私は」

 

 後一歩の所とは言えまい。

 ステインは強かった、個性こそ使われず仕舞いだったがその斬撃は致死の一閃。

 命を繋いだのはなんとか体得したタンクトップセンサーのおかげ、私のタンクトップ力では常時発動など夢のまた夢だが短期戦においては有効な手札だ。

 私のステッキ術と合わせてなんとかステインの刃全てを捌き凌ぐことができた。

 だが、

 

「黒いもや、先日の雄英高校襲撃犯のワープ個性か」

  

 名は確かヴィラン連合。

 ステインは個人の思想犯という通説だったが、誤りだったのか?

 確かにワープ個性あらば神出鬼没なのは納得ではあるのだが。

 しかし、ヤツは数年前にヤクザやヴィランを殺して回ったヴィジランテ、スタンダールと同一人物の可能性が高いと聞いていたが、ヴィラン連合なるものと手を組めるものなのか?

 まあ良い。

 幸いなことにインゲニウムは斬られはしても、個性で動けなくされていたようで命に別状はない。

 ステインに再起不能にされたヒーローの一人として名を刻まずには済んだのだ。

 ヤツは再びこの街で凶行を振るう可能性は高いが、こちらにも準備をする時間ができた。 

 万全の準備の元、ヤツの凶行をここで終わらせる。

 

 ふむ、携帯のテレビを見れば、

 雄英体育祭はいよいよ最終試合。

 勝ち残ったのはやはり出久君と爆豪君か。

 爆豪君にとっては望み続けた決戦。

 最高の舞台でその勝利を飾るのだ、二人とも。

 

 

 

 

 

 




おまけ、オリタンクトッパー紹介。 
タンクトップラビット。
個性、兎耳。
兎の耳飾りをつけると身体能力が強化される。
兎耳と兎の尻尾をつけたイカツイオッサン。
自称ミルコのライバル。 
因みに尻尾は必要ない、本人の趣味。


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閑話、爆豪視点

 

 強くなりたい。

 そう思ったのはいつだったか。

 一番になりたい。

 そう思ったのはいつだったか。

 ヒーローになりたい。

 そう思ったのはいつだったのだろうか。

 そして、

 こいつに勝ちたいと、自分が下だと当たり前に認識してしまったのは、果たしていつだったのだろうか。

 爆豪勝己にとって緑谷出久とは一体どんな存在なのだろうか。

 

 スイリューという天才がいる。

 十ヶ月間雄英高校に進学するまで師事した武闘家。

 あの男は天才だった。

 才能だけで最高峰まで登り詰めてしまった天才だ。

 稽古とは名ばかりのボコられ煽られた日々の中、結局一度も勝つことは疎かまともに一撃もいれることができなかった。

 いつか必ず超える。そう思っている相手だ。

 でも、緑谷出久に抱くような思いではない。

 下にいることが我慢ならない相手ではない。

 それは、スイリュー自身がイマイチ真剣ではないからかも知れない。彼自身に負けてもいいやと投げやりな部分があったからかも知れない。

 でも緑谷出久は違う。

 アイツには負けたくないと思う。

 何も全てにおいて連敗してるわけじゃない。

 勝つことも多いし、負けっぱなしではない。

 ただ向こうも我慢ならないようで、下だった分野はなんとしても超えようとしてくる。

 張り合う相手。

 それが緑谷出久との関係なのだろう。

 だから、

 

「勝つぜ出久」

 

「負けないよ勝己」

 

 こんな飛び切りの舞台。

 誰もが見てる場所で、負けたくはない。

 否、勝つ。

 

『さあいよいよラスト!!

 雄英一年の頂点がここで決まる!!

 決勝戦 緑谷 対 爆豪!!

 今!!スタート!!』

 

 ゆっくりとお互い歩み寄る。

 拳の届く位置へと。

 お互い一礼し、拳を合わせる。

 観客も司会も、大声で囃し立てる中。

 はじまりは、水を打ったように静かだ。

 ゆっくりと拳を突きだす。

 向こうもまた確認するかのように受け流す。

 稽古でもしているのかと野次が飛ぶ。

 だが動作こそゆっくりなだけで、それが必殺であると知っている。

 技量差あれば即座に決着がつくと知っている。

 ゆっくりとした武技の応酬だからこそ、お互いの実力が拮抗していると理解できる。

 繰り返す内に不平を叫んでいた者たちも黙りだした。

 その頃には加速しだしたお互いの拳打が、武の心得のない者には追い切れなくなっていた。

 

「凄いね、勝己。たった一年でここまでやるなんて」

 

「テメェがあれもこれもと手を出し過ぎなんだよ」

 

 タンクトップで得た個性が肉体強化だけとは思えない無自覚な予備動作がコイツにはある。

 複数の個性の可能性、確かに公にはできないだろう。

 だが使われてない事実が手加減されているようで腹が立つ。

 

「俺の爆破に冥躰拳、手加減して捌けると思うな」

 

「(場面ごとには使えるけど常時発動は練度的に微妙なだけなんだけど)加減なんてないさ、全力だ」

 

「「いくぞ(よ)!!」」

 

 稽古然とした武術の応酬ではない、機動戦。

 お互いに距離をとり、両手を爆破し加速。

 出久も強化した際の紫電を鳴らし駆ける。

 ぶつかりあい、弾き合い、軌跡を描きながら激突し、セメントスが拵えたリングを所狭しと動き回る。

 爆発音と激突音が会場中に響き渡る。

 いつまでも続くかと思われたそれは、出久が静止することで止まる。

 (溜めか)

 技を打つための予備動作。

 打ってくださいとばかりの硬直。

 ここで接近し大技で決めれば勝てると思わせる隙。

 だがそれが露骨な罠だとしても、ぶち抜けば勝ちだ。

 

「冥躰震虎拳!!」

 

 大型トラックも真正面から粉砕する必殺技を叩き込む。

 仮に先程やりあった切島やB組の鉄哲のような頑強自慢でも平たくできる一撃。

 いくらおかしな耐久力のテメェでも効くだろう。

 

「グフっ」

 

 口や鼻からの出血、確実なダメージ。

 

「君なら、ここで打つと思ったよ」

 

 だが苦悶の表情の中でも緑谷出久は笑う。

 耐えきれる自分と恐らくタンクトップを確信して。

 

「この間合いなら避けられない」

 

 それは極ありふれた正拳の挙動。

 しかしそれはあまりに速すぎた。

 

(ワンフォーオール50%にタンクトップの動き易さ)

 

「一撃必殺タンクトップ正拳!!」

 

 恐らく正しく認識できたのは、イレイザーヘッドをはじめとした体術に秀でたヒーローと、直撃した俺だけだろう。

 アイツの緑谷出久の拳は、確かにこの瞬間。

 音を置き去りにした。

 

(決まった)

 

 反応など出来るはずもなく、体が爆散するんじゃないかと思うくらいの衝撃に意識が飛びそうになる。

 けどな。

 来ると分かってんだから、耐えられる。

 勝利を確信した出久の顔に、睨み付けるように笑う。

 

「テメェがタンクトップで耐えられること、俺が耐えられないはずねえんだよっ!!」

 

 どこ裂けたか分かんねえけど、口内に溢れる血を吐き出しながら叫ぶ。

 さあ、これで終いだ。

 リングをぶち抜く踏み込みの威力をのせた突き上げるような拳に、最大火力の爆破。

 

「爆裂震虎拳!!」 

 

 だけじゃねえよ。

 出久のジャージが吹き飛び白目をむく。

 浮かんだ体にもう一撃。

 上体を後ろに下げ、捻り回転をかけた右腕に爆炎を纏わせ放つ。

 

「爆流鳳昇拳!!」

 

 ぶち破る右正拳に追いかけてくる爆炎。

 エンデヴァーの赫灼熱拳にはまだ及ばねえだろうが大した火力だろ?

 リング中央から渦巻く炎が真横に走る。

 セメントスが個性で壁を張るが熱気が周囲を炙る。

 

(決まったことに浮かれんな、残心だ)

 

 勝利が確定するまで油断すんな。

 相手は、タンクトッパーだぞ。

 喰らった一撃のダメージに全力の弐連撃。

 飛びそうになる意識をなんとか繋ぐ。

 霞んだ視界の中、撒き散らした熱気がゆらゆらと空気を歪めその光景を映し出す。

 仰向けに倒れた緑谷出久の姿を。

 

(勝ったのか?)

 

 意識はないように見える、全身は黒焦げだ。

 なら俺は、この戦いに、

 

 ビクリっと仰向けになった死に体の筈の出久の両腕が動きだす。

 確認のため近寄っていたミッドナイトがギョッとした顔で飛び退く。

 は、まじかよ。

 両腕は、ジャージが焼け飛んで剥き出しになったタンクトップをグイと引っ張ると、まるで鼓動のようにバチンっ小気味よく鳴った。

 すると白目向いた目に意識が戻り、何事も無かったように立ち上がった。

 司会のプレゼント・マイクも主審のミッドナイトもクラスメートも観客もヒーローもテレビの向こう側の連中も悲鳴上げて驚いてんだろうな。

 

「一応聞くぜ?なんで立てんだ?」

 

 ったくよお。

 立ち上がりこちらを見つめる出久の瞳は揺るぎない。

 

「タンクトップマジックさ」

 

 当たり前のように、その超現象を言う。

 マジでどうなってんだよコイツはよ。

 本当にどうなってんだよタンクトッパーって生き物は。

 余力はねえ、立ってんので精一杯。

 でも負けねえ。

 

「ワンフォーオール100%

 タンクトップタックル!!」

 

 構えた体にぶち当たるタンクトッパー。

 トラック直撃なんて目じゃない一撃をくらい、僅かな期間宙を浮いた感覚がしたが、背中のぶつかった衝撃を最後に意識を失った。

  



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28話

 

「それではこれより!!表彰式に移ります!」

 

 激戦の後が嘘のように片付けられ綺麗になった会場。

 そこに創られた表彰台の1位の場所でタンクトップを張る僕と、2位の場所で全身を拘束具で縛られてもがきながら血涙流して僕を睨み付けてくる勝己、3位の場所で居心地悪そうな常闇君、同着3位の飯田君はお兄さんがヒーロー殺しに襲われて病院に搬送されたため早退した。

 

「何アレ?」

 

「勝敗には納得してたよね」

 

「へー、そんなにあの人に夢中なんだ」

 

「ケロ、失恋したのよね」

 

「それでも酷えよ」

 

「いやあの起こし方は外道だわ」

 

「本人に頼めよ、居るわけだし」

 

「男の子の純情なんだと思ってやがる」

 

「一生モンのトラウマだよ」

 

 いやそんな目で睨まないでよ。

 重傷でも式に参加しない訳にはいかないし、君が飛び起きそうなやり方ってこれだったんだもの。

 その場にいたみんなも僕を外道扱いするし。

 今も呆れた目で見てくるし。 

 全く、ただタンクトップ声帯模写でタンクトップガールの声を使って、

 

「勝己君、起 き て」

 

 と耳元で呟いただけじゃん。

 飛び起きて周囲見回してたじゃんキミ。

 目があった時、

 

「だが僕だ」

 

 と言ったのは悪ノリしすぎだけどさ。

 うん、殺意が先程の比じゃないね。

 今にも飛び掛かってきそうな勢いだね。

 まあそれはさておいて、ミッドナイト先生がメディア意識しながら色っぽく飯田君の事情を説明している。

 保須市、タンクトップジェントルにタンクトップジャングルにタンクトップラビットの3人が休業したヒーローの代わりにパトロールしている筈だけど大丈夫かな? 

 ジェントルならなんとかできそうだけど、他2名は噂のヒーロー殺し相手は厳しいだろうし。

 インゲニウムも含めて無事だといいけど。

 

「メダル授与よ!!

 今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

 

「私がメダルを持って「我らがヒーローオールマイトォ!!」」

 

 カブったね。

 でもオールマイトって割とそういうトコあるよね。

 段取り下手っていうか。

 

「常闇少年おめでとう!強いな君は!」

 

 気を取り直して、メダルをかけてハグ。

 

「もったいないお言葉。

 しかし3位と言えど、上2人との差が天地」

 

「そうだね、2人はフィジカルがとんでもない。

 個性に頼り切りではなく、地力を上げれば取れる択も増すだろう」

 

「御意」

 

 つまりタンクトップだね。

 常闇君、黒影と一緒にダブルタンクトップだ。

 

「爆豪少年、おめでとう」

 

「オールマイトォォ!! 横のタンクトッパーを爆殺する許可を俺にぃぃ!!」

 

「素晴らしい決勝戦が台無しになりかねない形相だけど、どうしたの?(顔すげえ)」

 

「アンタも初恋の人の声で目覚めたら、目の前にドヤ顔タンクトッパーが居るのを想像してみろ」

 

「え、お師さん?

 うん、怒りのデトロイトスマッシュ100万連発するね」

 

 人体がペースト状になりそう。いや塵も残らない?

 

「そんな感じなんだよぉぉ!!」

 

「うわぁ、緑谷少年マジか。

 けどね、切り替えも大事だ。

 今回の体育祭で君の活躍は素晴らしい、緑谷少年がいなければ間違いなくトップだったと断言できる」

 

「最後のアレが無ければ素直に受け取れたんですが」

 

「HAHAHA、けどねちょっと問題ある子だけど緑谷少年がいたから君はここまで来れたんだろ?」

 

「知ってますよ」

 

「ならば受け取りたまえ、君はこれはその証だ」

 

「うす」

 

「最後に緑谷少年!!

 凄かったね君は(色んな意味で)」

 

「はい!!タンクトップですから!!」

 

「(そういうトコぉ!!)だけど私もここに居る皆も君の頑張りを努力を知っている。

 だから胸を張り誇るんだ!!

 君は私が、私達が認めた1年トップだと!!」

 

「歩んできた道、そして道をともにした皆とタンクトップに友愛と感謝を」

 

「さァ!!今回は彼らだった!!

 しかし皆さん!

 ご覧頂いた通りだ!次代のヒーロー達はその芽を伸ばしている!!

 てな感じで最後に一言!!」

 

 最初は乗り気ではなかった雄英高校。

 実力あるが故にどこか驕っていた自分。

 けどそんな自分に追い付こう、打ち負かそうとする皆の存在がどこか嬉しく感じた。

 好敵手をなぜ、とも、と読むのか僕は分かった気がしたんだ。

 

「おつかれさまでした!!」

 

「「「プル、プルスウル、え?」」」

 

「「「「タンクトップッ!!」」」」

 

「そこはプルスウルトラでしょオールマイト!!」

 

「いや疲れたかな?って」

 

「「いい加減しろ!!タンクトッパー!!」」

 

「タンクトップ万歳!!」

 

 

 そんな感じで雄英高校一年での体育祭は終了した。

 なんか締まらない最後だったけど(ほぼ元凶)

 制服に着替えて、帰りのホームルーム。

 相澤先生から明日明後日の休校と、プロからのドラフト指名についての説明がされた。

 僕はジェントルとか保須市の件が気になるけど、事務所が正式に受けた依頼に首は突っ込めない。

 連絡はないから無事だとは思うけど。

 タンクトップ同好会や指導については、ヒーロー殺しの件が落ち着いてからかな?

 

 あ、豚神さんからメール。

 お疲れ様会を開きたいって。

 飯田君次第だけど、クラスの皆に声をかけよう。

 休校中の予定は大丈夫かな?

 

 

 

 

 



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29話

 

「それでは雄英体育祭お疲れ様でしたー!」

 

 音頭をとってお疲れ様会の開始を宣言する。

 休校二日目。

 入院している母と面会した轟君、襲われた兄の病院に行った飯田君の二人も無事参加できたようだ。

 轟君の事情については、緩やかに和解していくだろうと言っている。エンデヴァーの苦しみと弱音。それを知ってまで憎むことは家族の誰も出来なかったのだ。

 そもそも厳しい話だが、オールフォーワンの打倒を成し遂げた功績以上に手柄など上げようがないし。

 熱がこもる体質のエンデヴァーが、オールマイト以上の機動力で事件解決は厳しいものがあるのだ。

 オールマイトの引退。

 それこそがエンデヴァー自身が受け入れられない、彼がナンバーワンになる一番確実な方法なのだろう。

 飯田君、インゲニウムについてだ。

 ヒーロー殺しステインの襲撃により重傷を負った彼だが、途中でジェントルが駆けつけたことにより、命に別状無く、しばらく入院はしてもヒーローとして復帰は可能らしい。

 さらに彼の証言のおかげでステインの個性もおおよそ判明した。

 相手の血液を舐めることをトリガーとした、肉体を弛緩か麻痺か拘束する個性。

 本人も達人レベルの刀剣使いで、個性使わずとも下手なコスチュームを切り裂ける技量の持ち主らしい。

 高速機動からの転倒対策として重装甲なインゲニウムのコスチュームが斬られたのだから余程な腕前なのだろう。

 しかしジェントルは取り逃がしたとボヤいていたけれど、タンクトップ事務所でも相手になるのは何人もいないと思う。

 僕も黒鞭の個性を使わないと厳しいだろうし、タンクトップという無敵の防護服を纏っていても剥き出しの体を斬られてしまう。

 タンクトップ力は低いけど杖術と個性を修めたジェントルだから健闘できたのだろう。

 相性的にはクロビカリさんが最適だけど、あの人は機動力に難ある人だし、ステインは逃げれるタイプの実力者。襲いかかる相手の返り討ち専門なクロビカリさんは負けないけど勝てない。

 さらにしばらくは本業で、ヒーローはしないみたいだし。クロビカリさんの批判されるトコやヒーロー扱いされないのは、人命かかっていても余程じゃないと自分の都合を優先する所だよね。USJの時もたまたま手が空いてたから引き受けてくれただけだし。

 私欲で自分の力や無個性ヒーローの立場を使わない辺り真っ当な人だけど。無私でヒーローをやることは絶対ないし。

 まあ、思考はここまでにしといてせっかくのお疲れ様会。楽しまないと。

 

「そんでよ爆豪?なんであのタンクトップお姉さんに夢中なんだよ」

 

「そうだよ紹介してくれよ」

 

「あのタンクトップの下、ノーブ(パシっ)」 

 

「セクハラは駄目よ峰田ちゃん」

 

「でも私も気になるなー、馴れ初めとか?」

 

「無個性ヒーロー豚神か、デカイな」

 

「いやさんを付けろよ轟、失礼だろ」

 

「しかしよく食べる」

 

「ちゃんこ鍋を椀子そばみたいに食べてますけど」

 

「ドラフトか、俺指名くるかな?」

 

「決勝出場の僕は確定☆」

 

「いや障害物競走とか騎馬戦とかお前アレじゃん」

 

「タンクトップ同好会が目立ったよね」

 

「どんまいって言われた」

 

「俺はナンパスタンガン」

 

「出久さんは何を召し上がられます?」

 

「これも美味しいよ出久君」

 

「ウチ挟んで火花飛ばさないでよ」

 

「しかしこんなにご馳走になるとは」

 

「いいよ僕沢山食べてお店に迷惑かかるから、人数増えても同じだし、好きに食べて楽しんで。

 ヒーローとしてのアレコレを教えられなくて申し訳ないけど」

 

「確かに俺ら全員分より既に食ってますね?

 意外と緑谷も食うし、普段プロテインにスムージーじゃんお前」

 

「体作りのために沢山食べる時は食べるよ。

 むしろ切島君はちゃんこ鍋三杯は食べないと」

 

「基本デカければ強いしな。

 デカくて体重あって素早く動ければ強いんだよ」

 

「そうなのか?」

 

「切島君は硬化的にも守る範囲広がるしね」

 

「食って寝て肉蓄えて、運動で筋肉に変えたら良いんだよ、モヤシの戦闘者なんて大したことねえ」

 

「やはり結局ヒーローはフィジカルか」

 

「(コクッコクッ)」

 

「オールマイトはそうだけど。最近のヒーローは個性重視じゃね?拘束とかで」

 

「フミカゲガデカクナレバオレモオオキクナルカ?」

 

「黒影、体質的なものもある」

 

 お店を借りきってのお疲れ様会、皆それぞれ楽しんでいる。家族の件があった二人も今は穏やかな表情で過ごせている。なんとかなって本当に良かった。

 アレは燈矢さん?

 

「轟焦凍君だよな?これをどうぞ」

 

「? これは」

 

 持ってきたお膳を轟君の前に置く燈矢さん。

 

「好きなんだろ?盛り蕎麦」

 

 大盛りだと言って燈矢さんは離れた。

 

「今の人、どっかで」

 

 彼は今しばらくは名乗りでる気がないらしい。

 過去の自分のしでかしてしまったことが心の枷になっているのだと。

 でもこうして少しずつでも関われたら良いと思う。

 豚神さんの話だと、燈矢さんの生存には大物らしきヴィランが関わっていたみたいだから、その調査と護衛も必要だと判断しているようだ。

 豚神さん自身はヒーロー業界にあまり詳しくないし、どこにそのヴィランの目があるか分からないから公安にも伏せているとのこと(まあ公安も疑わしいしね)

 

 食べて飲んで話して盛り上がって、豚神さんが大食しつつも優しげに見守ってくれながらお疲れ様会は良い思い出の一つとして心に刻まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ぶっちゃけ、燈矢さんが焦凍君に盛り蕎麦ご馳走するためだけの話です。


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30話

 

 本日は雨天なり。

 雨にも関わらずハイテンションな飯田君とすれ違い、教室に入る。

 そこには雄英体育祭で有名になりそれぞれ反応されたクラスメート達の姿があった。

 応援されたりどんまいされたりと反応は様々だが、知名度が一気に上がる。

 グレイトフルヒーローには雄英高校卒業が絶対というのも納得だ、明らかに雄英体育祭で活躍どころか参加したかどうかで差ができている。

 ちなみに僕の反応は当然『タンクトップッ!』だったよ、うん実によい挨拶だ。

 

「すでに社会問題じゃねえか」

 

 朝から頭抱えているけど体調悪いのかな勝己。

 いつものことだから置いとくとして、チャイムの音とともに相澤先生の登場。

 今まで覆われていた包帯がとれて良かった。

 そして始まる、ヒーロー情報学。

 ヒーロー規定やらルールに関わるとても重要な授業だけど、今日は毛色が違った。

 皆の胸ふくらむ、『コードネーム』ヒーロー名の考案だ。先日話されたプロヒーローのドラフト指名に関わることで、自分で決めた名前を背負って、場合によっては将来のサイドキック先になるかもしれない相手に売り込みにいくのだ。まあ一年目は興味に近いらしいけど。

 そして表示された指名件数。

 勝己が5000超えとぶっちぎりで、次点が轟君の3000弱、順位入れ代わり常闇君が360とかなり差がでたね。

 

「あの、一位だった出久君は?」

 

 と麗日さんが誰もが気にしていたことを尋ねた。

 

「緑谷は1件だ」

 

「「「ハイ?」」」

 

「緑谷は1件もあった」

 

「「「イヤイヤイヤ、体育祭の順位は?」」」

 

「教師陣皆驚いてたぞ、タンクトッパーに1件もあったことに」

 

「それは、タンクトップ事務所ですか?」

 

 そういえば今までウチ職場体験の学生なんて来たことないけどどうしてたんだろ?

 

「ああタンクトップ事務所はかなり特殊でな、タンクトップさえ着れば何人でも体験できる。

 ただ彼処は一般的なヒーロー事務所じゃないから、ヒーロー活動の職場体験には向いてないんだ。

 引き受けてはくれるがな」

 

「つまり指名件数にカウントされてないんですね」

 

「そうだ、希望者いたら緑谷に伝えるようにな」

 

「「「というか職場体験行く側じゃない?!」」」 

 

 後で理由を聞いたらどうせタンクトップ事務所に行くしと希望ださない事務所が多かったとか。

 知り合いのベストジーニストとかは必要ないだろ、というスタンスだったらしい。

 そして、ミッドナイト先生判定のヒーロー名決めが始まった。相澤先生は自分のヒーロー名もプレゼント・マイク先生に決めてもらったくらいだから、そういうのはできないらしい。

 そして15分後にクラスメートの前で発表。

 自身満々にでた先行二人がアレ過ぎて大喜利舞台のようになってヤバかったけど、なんでもそつなくこなす梅雨ちゃんのおかげでなんとか空気が変わった。

 捻ったものからどストレートなものまで様々なバリエーションがでたところで僕の番。

 

「タンクトップオールグリーン」

 

 タンクトッパーである誇りとオールマイトから託されたもの、そして自身の名字からだ。

 

「良いわね、貴方らしさがでている力強さがあるわ」

 

 悪い判定ではなくて良かった。

 続いて勝己。

 

「バクリュー」

 

「響きが良いし貴方らしいけどどうして?」

 

「ヒーローを馬鹿にする師匠の名前を背負って、ヒーローとして活躍してやんだよ」

 

 恨み骨髄なんだね。

 確かにあの澄まし顔が不快そうに歪むかも。

 まあ勝己のことだから尊敬してるからってのもあるだろうけど。

 

「タンクトップショート」

 

「お願いだから落ち着いて、ね?」

 

 しかし次の轟君ので慌てふためくミッドナイト先生。

 

「その名前をつけると問答無用でタンクトップ事務所所属扱いになっちゃうから、人生を棒に振っちゃだめよ」

 

「けど緑谷みたく強くなりたいので」 

 

「プロデビューしてからもタンクトップ事務所での改名はできるから、まだ止しときなさい」

 

「はい」

 

 落ち込んだ轟君が渋々タンクトップに斜線をひいて、ヒーロー名をショートにした。

 いや実名もどうだろう。

 

「じゃあ最後に飯田君」

 

「ハイッ、タンクトップターボです」

 

「私の話聞いてたかしら?」

 

 ミッドナイト先生が怒ってる、まあ当然だろうけど。

 

「理由はあります!

 先日兄を助けてくれた、タンクトップジェントルの名をその身に刻み、彼のように成りたいという決意表明です!!」

 

「ならジェントルからとりなさい」

 

 疲れ切った声だね。

 理由がクソ真面目だし。

 

「つーか飯田のスピードでタンクトップ姿なら、転けた時に紅葉おろしになんだろ?」

 

 だから重装甲なコスチュームだしね。

 タンクトップの名前背負って、タンクトップ姿じゃないのは僕が許さないし。

 

「だがっ!!」

 

「お兄さん尊敬してるなら、インゲニウムGとかもありじゃない?」

 

「ジェントルだからGか?」

 

「うん、兄弟だしそういった付け足しでもありだと思うよ」

 

「まあ進路どころか人生確定しちまうタンクトップよりはマシだな」

 

 僕らのやり取りに悩む飯田君。

 ジェントルの活躍みたら尊敬するのは分かるしね。

 

「正式には後日決めてもよいけど、その名前が定着しちゃう前に決めなさいよ」

 

 と、まだ悩む轟君と飯田君に告げてから、ヒーロー情報学は終了した。

 

 タンクトッパー増えるのは歓迎だけど、タンクトップ着てから名乗ってほしいしね。

 

 

 

 

 




原作改変要素
爆豪君、ヒーロー名変更。
バクリュー。 
飯田君、インゲニウム引退しないため未定。 
仮案で、タンクトップターボ、インゲニウムJ。
他は原作どうり。
ただタンクトップ事務所希望者は、一時的に頭にタンクトップが付きます。


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31話

 

 盛り上がったヒーロー情報学の後、それぞれ職場体験先はどこにするかでリストを眺めていた。

 勝己なんて5000以上だから事務所見るだけで一苦労だよね。

 指名されてない生徒は、学校でオファーした40件の事務所かタンクトップ事務所だって。

 

「そういえば出久はどこなんだ?」

 

 僕は指名のあった1件で確定。事務所名は、

 

「あ、グラントリノ事務所だ」

 

「オールマイトの知り合いの爺さんだよな」

 

 面識はあるけど関係は知らないんだっけ。

 ワンフォーオールも伝えてないしね。

 

「意外だな、お前はプロヒーローの知り合いから来そうだと思ったが、ミルコなんかに気に入られてたろ?」

 

「確かにミルコとは親しいけど、また番犬マンにリベンジだって」

 

 トップヒーローミルコ、兎の個性持つ国内の女性ヒーロー最強(タンクトップラヴァー除く)とも言われる彼女は、無個性ヒーロー番犬マンに戦いを挑んでいた。

 政府に命じられたエンデヴァーをリーダーとして行った番犬マン捕獲作戦に参加した彼女は、敗北以来暇さえあれば番犬マンにちょっかいをかけていた。

 事件扱いにならないかと思うけど、番犬マンが気にしてないため問題はないみたい。

 いつも軽くあしらっては猟師みたいにミルコの耳を掴んで狩りの獲物のように持ち上げてるらしい。

 あ、また負けてる。

 駅前の番犬マン台座の上でミルコを持ち上げてる番犬マンの画像がネットに投稿された。

 

「あの人、アレがくせになってんじゃね?」  

 

 呆れたような勝己の言葉に僕は同意する。

 動物系ヒーローに反感買いがちな着ぐるみの番犬マンは、プロヒーローにもよく勝負を挑まれる。その全てに圧勝しているわけだけど、大概一度負けたらもう挑まれない。例外なのはシシドにギャングオルカやミルコくらいでホークスも一度挑んだけど、最速のヒーローと謳われる自分にあっさり追いつき首根っこ掴まれてから挑んでないとか。

 本人曰く狩猟された鷹の気分になったそうな。

 

「あっ、タンクトップラビットがコメントして叩かれてる」

 

「あのウサ耳オッサンも懲りねえな」

 

 情けないぞ我がライバル、というコメントに他の人からぶっ叩かれてる。

 タンクトップ事務所でも新人ヒーローの紹介の時炎上したんだよね。名前だけ先に告知されたから。

 ガール、ラヴァーに続く女性タンクトッパーだと期待されてたみたいだけど、実際はウサ耳ウサ尻尾付き筋肉オッサンだったから。無駄に強いのにね、あの人。

 

「勝己は?」

 

「エンデヴァー事務所。ナンバー2だし炎での機動力が参考になりそうなんでな」

 

 指名件数の割にあっさり決めたね、知り合いではないから甘えなくて済むのもあるみたい。

 まあ知り合いなら即現場ってのもありそうだけど。

 

「なあ緑谷」

 

「どうしたの?」

 

 話しかけてきた相手は、砂藤君。

 彼も指名はないからさっきまでオファー先のことで皆と話合ってたよね。峰田君がマウントレディと叫んでたけど。でもあの人デビューしてまだ一年ちょいだよね。なのに雄英高校からオファーとか凄いな。

  

「タンクトップ事務所に職場体験、ってお前もかタラコ野郎って顔すんなよ爆豪」

 

「連絡とるだけだから問題ないけどどうしたの?」

 

 タンクトップセンサーでも反応ないから、タンクトップに関心ないよね。

 

「いやさ、彼処って俺みたいな増強系個性多いだろ?

 個性の強化の参考になるかと思ってよ」

 

 ああそっか、砂藤君の個性シュガードープは砂糖を摂取して身体能力強化だもんね。

 タンクトップベジタリアンやタンクトップアルデンテと同じタイプなのか。

 

「そういうことなら大丈夫だけど、本当にいいの?

 普通のヒーロー活動体験しないで鍛錬漬けの一週間になるかも知れないよ?」

 

 事務所予定でも代理パトロールの仕事はなかった筈だし、大きなイベントの警備依頼はあったかな?

 

「パトロールとかもねえのか?」

 

「そこら辺ヒーロー間での縄張り争いが面倒でね」

 

 業界の裏事情というか暗黙の了解ってヤツだよね。

 パトロールだけだと収入にならないし。

 

「ウチは休業するヒーローの代理でしかやらないよ」

 

「そうか」

 

 悩む砂藤君にさらに事情を告げる。

 

「そもそもウチって、ヒーローが業務拡大や後進育成のために事務所構えるのと違って、マスターを慕う舎弟が増えて集まってたらいつのまにか事務所扱いになってたんだよ」

 

 だからマスターは仲間をサイドキックなんて呼ばないし、率いてる意識もないんだよね。舎弟だから大切に面倒みてくれるけど。

 昔なんて経験者であるベジタリアンを副所長にしてガールや僕がサポートとしてようやく事務所運営してたぐらいだし、今はラヴァーが完璧にやってくれるけど。

 

「頼んどくから鍛錬はできるけど?」

 

「ならそれでお願いします、やっぱりタンクトッパーの頼もしさは憧れるしな」

 

 昔見たことあるのかな?なら納得だけど。

 

「そういうことなら、僕もお願いできるだろうか?!」

 

 この声は飯田君だね。横で勝己が、テメェもかメガネって顔してるけど。

  

「兄を救ってくれたタンクトップジェントルに是非とも習いたいんだ!!」

 

 何したのジェントル、やたら尊敬されてるけど。

 でもなー、ジェントルは予定だと。

 

「ごめん、肝心のジェントルが昨日から派遣されててしばらく不在なんだよ」

 

「派遣?」

 

「うん、応援というか手助けというかそんな感じで。

 ワイルドワイルドプッシーキャッツのトコに」

 

「またかマトモ紳士。こないだもそこじゃねえか?」

 

「ジェントルは戦闘力とサポート力のバランスよくて頼りになるしね」

 

「それだけが目的じゃなくて年近いから狙ってんじゃねえか?プッシーキャッツ」

 

「ラヴァーが包丁研ぎながら泥棒猫は三味線とか言ってたけど、多分大丈夫でしょ」

 

「何が大丈夫か皆目分からねえよ、邪神の祭器でも拵える気かあの人?」

 

 ジェントルが人気あると喜ぶくせに嫉妬もするからラヴァーって面倒臭いよね。

 

「そうか残念だ」

 

「砂藤君みたいに似たタイプの個性のヒーローも他にいないから今回は止めとけば?せっかくの職場体験の機会だし」

 

 タンクトップよりジェントルにこだわっているなら尚更ね。

 

「忠告ありがとう緑谷君。なら今回はマニュアルさんの事務所にするよ」

 

「「「誰?」」」

 

 有名ヒーローじゃないよね。飯田君ならランク高いヒーローからも指名来てそうだけど。

 

「あまり有名ではないが、保須市のヒーローで兄の見舞いに来てくれたんだ。働きも堅実らしいしこれも縁だと思ってね」

 

 わざわざ見舞いとか律儀な人なんだね、酷いヒーローなんかこれでインゲニウムのランクが下がると喜ぶのに。

 

「まあせっかくの縁は大事にしたほうが良いと思うけどよ、学ぶことも多いだろうしな。けどよ」

 

 正直最初の職場体験だから現場の空気感じるだけでも十分だよね。けど勝己には懸念があるみたい。

 

「兄を襲ったステイン探しが目的じゃねえだろうな?」

 

 それはありえるね。今までヒーロー殺しステインは一つの街で四人殺している、インゲニウムを仕損じたとはいえそれで場所を変えたりしないだろう。思想犯は自分のルールを変えないものだからね。保須市のヒーローであるマニュアルの事務所を選ぶのが、ステイン探しが目的なら理屈としておかしくない。飯田君にとってはたとえ復帰できたとしても、尊敬する兄が重体にされたのは事実なのだから。

 

「勝てねえ相手に退けねえ時はある、けど勝てねえ相手に自ら向かうのは単なる自殺だぞ」

 

 ジェントルですら捕まえられなかった相手に飯田君がどうこう出来るはずがない。

 許せない相手でも挑んでよい相手じゃないのだ。

 

「怨んでないとは言わない、だが自分でどうにかできると自惚れはしない。もし遭遇したら襲われてる人を助けてから逃げるよ」

 

「分かってんなら良い、助け必要なら呼べよ」

 

「勿論だ」

 

 思ってたより冷静で良かった。

 これでもしインゲニウムが殺されてたり再起不能だったらどうなってたのやら。

 話しが一段落して、砂藤君と飯田君が席に戻ったら今度は轟君でした。

 

「なあ緑谷?」

 

「是非ともエンデヴァー事務所にすべきだねタンクトップ事務所で鍛えるとは言っても所詮は筋トレの延長だし君みたいな放出タイプの個性はいないからだからまずは自身の個性の使い方をナンバー2ヒーローであるエンデヴァーに習うか現場での使い方を実際に見るべきだねなにせ炎なんて危険な力で街に被害をださない繊細な使い方もできるし氷もブッパなす君はその繊細な使い方を学ぶべきだろうねそうすればそれだけで大幅にできることにつながるよタンクトップを学ぶならそれからでも遅くないし自分の限界をタンクトップで超えるならまずは自分を限界まで鍛え抜くことが前提だからね大丈夫いつだって頼まれたら事務所に案内するから、

 今回はエンデヴァー事務所にしようね轟君?」

 

「ああ分かった」

 

 畳み掛けるような言葉の波に圧倒されて、そう頷いた轟君はエンデヴァー事務所に決めた。

 ふー、エンデヴァーに頼まれたこと達成。

 とりあえずこれで大丈夫でしょ。

 最高傑作完成のためなら断ったけど、息子に良いとこ見せたいからなら断われないよ。

 貰うもんもらったし。

 エンデヴァー事務所オリジナルデザインタンクトップなんてレア物だしね。しかもサイン付き。

 

「家庭を気遣ってじゃなくて賄賂貰ったからかよ」

 

「無償よりも、有償の方が安心できることもあるんだよ」

 

 特にエンデヴァーは無個性ヒーローアンチだったから余計にね。

 

「なるほどな」

 

 こうして職場体験の準備は終わった。

 色々不安だけど、その都度対処するしかないよね。

 しかしどうしたんだろグラントリノ。

 わざわざ職場体験先に名乗りでて、

 これ以上さらに教わることでもあるのかな?

 

 

 

 

 




おまけ タンクトッパー紹介
タンクトップアルデンテ
一応ワンパンマン原作キャラ
よく朝食にパスタを食べる。粉チーズをかけすぎる。
個性 粉チーズ覚醒
パスタではなく粉チーズを食べると一定期間肉体強化


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閑話、爆豪視点

 

「ここがエンデヴァー事務所か」

 

 都心にそびえ立つ巨大ビル。

 ナンバー1ヒーローオールマイトが名声に反してささやかな事務所であることを考えれば、恐らく国内最大であろうヒーロー事務所。

 サイドキックは30人以上。

 業務は基本的にパトロールと待機、緊急要請や警護依頼、イベントオファーなど一日100件以上の依頼を捌いているというとんでもない場所だ。

 出久に強引に連れてかれたタンクトップ事務所もそうだが、見ているだけで身が引き締まるな。

 平和の最前線、平和の防波堤といったトコか。

 出久との繋がりでプロヒーローとの知り合いは多いがこんなに組織って感じは初めてだ。

 タンクトップ事務所は所属する面子が舎弟にすぎないから緩いトコあるし。

 出迎えたのは有名サイドキックのバーニンで、同じく職場体験を受けることになった轟と並んでエンデヴァーの部屋へと向かう。

 

「よく来たな、バクリューにショートよ」

 

 威厳あるなエンデヴァー。出久から聞いた家庭事情から駄目親父なイメージあったが、流石はナンバー2ヒーロー、放つ覇気が違う。師匠やバング爺さんみたいな強者の気配がする。

 

「今回いかに雄英高校とはいえ、ひよっこに過ぎない一年を職場体験させるのは貴様らにそれだけの価値、将来性があると判断したからだ。望んで得られる訳ではないこの機会を自らの糧にしてみせろ」

 

 正解だったなココ選んだの。

 知り合いのヒーロー達にはない、野心と向上心が感じるよ。

 

「分かったな、ショート!! これが父の姿だ!!」

 

 息子へのアピールも欠かさないのな。

 

「どうでもいい、仕事を見せてくれ」

 

 終始不満げだなコイツ。そんなにタンクトップ事務所行きたかったのか?

 

「良いだろう見せてやろう!! だが初日は貴様らがどこまで出来るかの確認だ!! パトロールをするにしても貴様らの実力が分からねば話にならん!!」

 

 そうしてエンデヴァーに連れられ地下訓練場で実力を見せることになった。

 まずはエンデヴァーとの組手だが、ナンバー2だけあって強かった。爆破による機動も火力も似た系統であるだけに向こうとの習熟の差がダイレクトに出た。

 冥躰拳を主体でやれば良いトコまで行くのだが、エンデヴァーのヘルフレイムと赫灼熱拳を出されると後手に回らざるえない。

 爆破でヘルフレイムを捌き、赫灼熱拳を出される前に仕留める。それが現状の最善手だな。

 

「やはり今の焦凍では相手にならんか」

 

 決勝戦にはどのみち進めなかったな、と何かに納得したように呟いた。見れば轟も悔しそうにこちらを見ていた。

 まだ鍛錬はこれからだと構えるがエンデヴァー自身がここまでだと言わんばかりの態度で下がっていた。

 なぜだ?

 

「あのさ、あのエンデヴァーのヘルフレイムとかここまで凌いで、その上勝ち目があるみたいに構えるなんて学生レベルじゃないぞ?」

 

 とバーニンは説明してくれた。

 確かにこっから先は怪我前提の戦い、実力を測るには度を越しているな。

 

「あの無個性ヒーロータンクトップマスターの直弟子を追い詰め、ベストジーニストやミルコが天才だと太鼓判を押す逸材なだけあるな」

 

 他に言い触らしてんのかあの二人。自分達のキャラじゃねえだろうに。

 眼の前にいたら手厳しいことしか言わないくせに、他所で高評価とか照れくさくて恥ずいわ。

 

「焦凍も並のヴィランでは相手にならんだけの実力はある!! 明日からのパトロールには二人とも連れて行けるだろう!!」

 

 エンデヴァーとパトロールか、とんでもねえ経験になるな。

 

「場所は保須市!! 目的はヒーロー殺しステインの発見及び捕縛だ!!」

 

 飯田の兄、プロヒーローインゲニウムを打倒し、タンクトップジェントルから逃げ切ったヴィラン。

 

「個性対策としてコスチュームの防刃性の確認、また発見したとしても決して近距離で戦うな!! 遠距離攻撃で牽制しつつ俺を呼べ!!」

 

 インゲニウムによりもたらされた情報はしっかりとヒーロー達に活かされているようだ。

 

「ショート、お前達は先に戻っていろ!!

 俺はバクリューと話すことがある」

 

「? 分かった」

 

 首を傾げながらも頷いて、他のサイドキック達とともに轟は訓練場を後にした。

 しかし エンデヴァーが俺に何の話だ?

 

「さて話というのだがな」

 

 二人きりになると途端に歯切れ悪そうに切り出した。

 

「どうしたら焦凍をタンクトッパーにしないで済むだろうか?」

 

 やっぱりタンクトップの件かよ。

 

「焦凍の気持ちは俺にも分かる。

 コレを手に取れば強くなれる、力を手にすることが出来る。そんな誘惑に耐えることがどれだけ苦しくて大変な事なのかを」

 

 タンクトップの話だよな?

 

「若さというものはいつだって急がしてしまう。

 安易に結果を求めてしまい、ソレに手を出すことが身の破滅に繋がると知っていても、自分は大丈夫だと思い込ませてしまうものだ」

 

 タンクトップの事だよね?

 

「その思い込みのせいでどれだけのヒーローがタンクトップに手を出してしまったか」

 

 手を出すて、タンクトップ着ただけだよね?

 

「それが自身のアイデンティティの否定だと言うのに」

 

 まあヒーローがタンクトップ着たら、即座にタンクトッパー扱いだしな。

 

「俺の息子はそんな浅はかな行動を取ろうとしているんだ」

 

 頭抱えているけどタンクトップを着て筋トレするだけの話だよな?

 確かに出久は変な超能力使うけど、そんなことできるタンクトッパーはごく一部だし。

 

「バクリューよ、タンクトップの誘惑に耐えきりそれだけの力を得た貴様なら、何か対策をとれるのではないか?」

 

 対策って、勧誘してんの基本出久だけだし。

 他の連中は強制してこないけど。

 

「俺は反対して息子に嫌われたくないんだ!!」

 

「知るか」

 

 私情じゃねーか!!

 

 

 こうして職場体験の初日は過ぎていった。

 なんかオチみたいに情けない姿も見せられたが、息子を真剣に思っているのは伝わった。

 なお、このあとに超合金クロビカリがエンデヴァー事務所に招かれてエンデヴァーを鍛えるという出来事があったが、それはまた別の機会に思い返そう。

 家族との和解、良い事だがなんか色々とはっちゃけてるなエンデヴァー。

 

 

 

 



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閑話、砂藤視点

全世界の物間君ファンごめんなさい。


 

 まず目につくのは天を突かんとばかりピンとはったウサギ耳、その下の頭には帽子が乗っており、顔は目には水中ゴーグル、鼻は宴会芸用の付け鼻と付け髭。

 体の方は虎柄のペイントが塗られており、胸と腕にはジャングルみたいな付け無駄毛。

 そんな珍妙な格好の人物。

 こんな珍妙な格好をする羽目になった彼。

 そんな彼の名前は物間寧人という。

 コトンっとテーブルに皿が置かれる。

 中身は人参の砂糖煮の粉チーズかけ。

 この実験の最後の仕上げ。

 コレを平らげてから彼は個性を発動するのだ。

 コピーという個性、同系統の強化であれば複数の個性を同時に発動できると気づいてしまったが故の実験。

 事務所に居た強化タイプ個性を一つずつ追加していった結果とんでもないシロモノになってしまった。

 最初は指差して笑っていたタンクトップタイガーとタンクトップブラックホールも、徐々に笑みを消していき今ではトッピング全部のせのカオスな牛丼を見た時のような眼差しを向けていた。

 どうしてこうなった?

 俺砂藤力道はこの職場体験のはじまりを思い出す。

 それは数日前のことだ。

  

 俺がタンクトップ事務所を職場体験先に希望したのは個性を伸ばすのにうってつけだと思ったからだ。

 確かにオファー先でヒーロー事務所の空気を肌で感じるのも重要だし興味があるのだが、俺の場合自身の課題が明白過ぎる。短期決戦しか用いれない個性である以上持続時間を増やすか、強化する肉体のスペックを上げるしかないのだ。

 だから個性を発動した俺よりも強い緑谷を鍛えたタンクトップ事務所を選んだのだ。

 なのだが、なんでよりにもよってコイツと一緒になるかな?

 B組物間寧人。

 体育祭の時にしつこくA組に絡んできた頭アレなヤツ。

 障害物競争でのタンクトップ同好会と、騎馬戦での緑谷とのアレコレには同情したが、敵意を向け煽ってくるコイツと仲良く出来るはずもなかった。

 それは向こうも同じなのか、特に話をすることもなくタンクトップ事務所に向かった。

 

「お前らが職場体験に来た、シュガーマンとファントムシーフか、話は出久とブラドキングから聞いている。

 俺の名はタンクトップベジタリアン、この事務所でまとめ役をやっている一人だ」

 

 通された応接室で対面する男性が、タンクトッパーの中でもプロヒーローとして名高いタンクトップベジタリアン。俺と似た個性を持つヒーローだ。

 

「説明は受けていると思うがウチは普通のヒーロー事務所とは毛色が違う。基本仕事は依頼のみでパトロールなどは代理依頼がないとやらんし、ヒーローからの応援要請が主な業務だ」

 

 ヒーローをバックアップするヒーロー事務所か。

 

「大半の連中は副業あるし、事務所に所属しているのもタンクトップマスターを兄貴分として慕っているからだな」

 

 だから成り上がるため、名を上げる目的なヤツには向いてないという。

 

「あと仕事は八百万グループなどの大企業や国際会議などの大規模イベントの警護任務もやる、まあ一定以上の実力者がここまで数がいる事務所なんてウチくらいだしな。そういったイベントは護衛の数がいるし、複数のヒーロー事務所を雇うと指揮系統に問題が起こりやすいから指揮系統が一本のウチはラクなんだと」 

 

 複数の事務所か確かに揉めそう、ランキングで決めるにしても反感を持つだろうしな。

 事務所のサイドキックにしても似た系統の個性が集まるのもエンデヴァー事務所以外はあまりないらしい。

 あくまで事務所はリーダーのヒーローを目立たせるためサポートするための所だから多様な個性が求められるわけだ。逆に企業は一定の実力の同じような存在が複数必要だから、タンクトップ事務所は需要があるのか。

 

「だからこの一週間はお前らは鍛錬の期間だと思ってくれ、シュガーマンはそのつもりだと聞いているし、ファントムシーフはブラドキングから性格の矯正してくれと頼まれたからな」

 

 物間コイツ、だからここなのかよ。

 あとタンクトップベジタリアンとブラドキングは同期で友人だとか、今でも連絡を取り合うらしい。

 

「何か質問は?あとはいくつか注意事項ぐらいだが」

 

 俺はないな、緑谷から聞いてるし。

 

「じゃあ僕からあります」

 

「なんだ?」

 

「タンクトップを着て強くなるのはどんなカラクリがあるんですか?」

 

 ああ、それか気になるよな。

 あまりに劇的に成長するからプロの間じゃ個性活性薬とかと同じ扱いされてるとか。

 無個性であるタンクトップマスターが、超大物ヴィランを撃退してる実績も疑われる理由だとか。

 あと緑谷の個性発現とか。

 

「またそれか」

 

 うんざりした反応のタンクトップベジタリアン。

 きっと何十回も同じ質問されたんだろうな。

 

「タンクトップ着こなしたら強くなるのは当たり前だろうと思うが。それじゃ納得しないよな。

 一応理屈としては、タンクトップマスターという明確な目標があって、タンクトップという強くなる根拠があって、存分に鍛錬できる環境だからだな」

 

 本来ヴィランを捕らえるのにそこまで力は必要ない。

 それこそ雄英高校入試でロボを破壊できるなら、人間を打ち倒すなぞ造作もない。

 だからヒーロー育成学校は、今まで使う機会のない個性の制御と成長を優先し、肉体は疎かにしがちになってしまうとか。

 法律に資格などの専門分野に高校としての一般科目面もあるから単純に時間が足りないのもある。戦うための肉体作りは本人の自主練に限られてしまう場合もある。

 武術は一日にして成らず。

 それのみに生涯を費やす武術に身につけるにはヒーロー学校の期間は短すぎる。

 緑谷出久が強い最大の理由は、タンクトップを除いてここにあるとか、4歳から鍛錬を始め、流水岩砕拳も8年以上は学んでいる。

 費やした時間という覆せないモノがそのまま実力差として現れているのだ。

 ちなみに爆豪勝己は例外、あれは天才だから学習能力が半端なく、常人の数倍で体得できてるらしい。

 

「疎かになってた肉体作りに集中したら強くなれて当たり前だろ?個性も身体能力だしな」

 

 あとはタンクトップマスターの人徳で訪ねてくるトップヒーローたちが適切なアドバイスもしてくれるとか。

 成長するに当たって最高の環境なんだなここ。

 

「俺らにしても迷惑な認識だがな、俺らは馬鹿やった時に止めてくれたマスターを尊敬してるだけだし。タンクトップを着たら強くなるじゃなく、着こなしたら強くなれる。着こなすために身体を作ることが大切だろ」

 

 タンクトップ事務所の皆さんがマッチョだらけなわけだよ。

 

「そうですか」

 

 物間的には肩透かしか。

 コイツの個性じゃ仕方ないかもしれないが。

 

「さて鍛錬前に注意事項だが、」

 

「「「おかえりなさいませ、姐サン!!」」」

 

 事務所で待機していたタンクトッパーが一斉に立ち上げり頭を下げる。

 そこには小柄なツインテールの女性。

 恐らく緑谷から絶対に逆らうなと念押しされた、

 

「タンクトッパーラヴァー、ウチのナンバー2だ。いいか彼女には逆らうなよ」

 

 小学生みたいな女性にマッチョ共が従うのは違和感持つ光景だが、彼女からは何やら覇気のようなモノを感じる。

 

「もし逆らったら、」

 

「「逆らったら?」」

 

「アイツらみたいに、ジェントルしか愛せない身体にされるぞ」

 

 なぜに?

 

「「「ジェントル♡」」」

 

 確かに写真見てうっとりしてるなあの人達。

 怖いよ。

 

「知りたくもねえが、まあマスター除いて一番強いからってのもあるしな」

 

 タンクトッパーラヴァーはこちらには軽く会釈すると副所長室に入っていった。

 

「さて、じゃあ鍛錬開始とするか。シュガーマンは基礎鍛錬をやって貰うとして。ファントムシーフはさらに個性を鍛えるか。おい、タンクトップラビット!!」

 

「呼びましたかピョン?」

 

 タンクトップベジタリアンはウサ耳をつけたケツアゴの男性を呼びつけた。いや語尾。

 

「殴りたいくらいキモい語尾はおいとくとして、このファントムシーフにウサ耳とお前の個性をコピーさせてやれ」

 

 ああ、装飾品で増強するタイプの個性か。

 結構いるよな。

  

「承知したでピョン」

 

 スルリとズボンからウサ耳を取り出し流れる動作でファントムシーフにつけるタンクトップラビット、ズボンから取り出した事実に反応すら出来なかったわ。あっ、ウサ尻尾もつけた。付けられた本人も悲鳴すら上げる暇もない。

 

「よし個性を発動しな」

 

 死んだ目で個性を発動するファントムシーフ。

 確かに強くなってる感じがするな。

 

「出久いたらタンクトップカウンターで正確に測定できるんだが強くなってるみたいだな。

 よし、シュガーマンお前もやれ」

 

 その指示に従い、手に触れて個性をコピーさせる。

 タンクトップベジタリアンのその間に事務所の冷蔵庫からトマトを取り出して砂糖をぶっかけた。

 

「じゃあ次は俺の個性もだな、野菜食えばいいから、コレ食えばシュガーマンの個性と同時に発動するだろ」

 

 

 この試しでファントムシーフ、物間の個性は強化タイプなら同時がけが負担にならないことが判明した、しかも装飾品タイプなら(見た目以外)ノーリスクだ。それから数日かけて戻ってきたタンクトッパーの個性を一つずつ合わせがけしだしたのだ、

 

 タンクトップラビットのウサ耳でウサギの能力を。

 タンクトップハッターの帽子で感知力の上昇。

 タンクトップスイマーの水中メガネで視力アップ。

 タンクトップハカセの付け鼻と付け髭で知力向上。

 タンクトップタイガーの虎柄で身体能力を向上。

 タンクトップジャングルの無駄毛(本人は自毛だが付け無駄毛でも可)で防御力上昇。

 そして

 タンクトップベジタリアンの菜食に、

 タンクトップアルデンテの粉チーズ覚醒、

 そしてタンクトップシュガー、ではなく俺のシュガードープで一時的強化。

 

 他のタンクトッパーは今不在か、タンクトップブラックホールの超握力とか常時発動タイプだったり、タンクトップレーサーみたいに愛車が必須だったりするタイプらしい。

 タンクトップ事務所個性ありったけ乗せファントムシーフ。

 今ここにとんでもないヒーローが爆誕したのだ。

 

 ちなみに空いた時間は身体が耐えられるようにめっちゃ鍛錬した、設備すげえよココ。

 だがしかし、ここで問題が発生した。

 

「ウガーッ!!」

 

 個性を発動したファントムシーフが(溜まった鬱憤を発散するかのように)暴れだしたのだ。

 その力は見ただけでUSJに居た脳無とかいうのに匹敵どころか超えてそうだ。

 自信満々な態度で取り押さえようとしたタイガーブラックホール兄弟は瞬殺(死んでない)され、今タンクトッパー総掛かりで止めようとしたら、

 

「タンクトップラブパンチ。

 (ジェントルに対する)愛ある拳は全てを打ち倒すのよ。全く最終日なんだから皆遊び過ぎよ」

 

 通りすがりのタンクトップラヴァーに一撃で沈められた。

 あの人本当に強いんだな。

 

 雄英高校一年目の職場体験はこうして終了した。

 色々濃かったが、タメになることも多かったし一度あったパトロールも勉強になった。

 何より凄く居心地も良かった。

 残念なことにマスターには会えずじまいだが、いつでも遊びに来て良いそうだからまた来よう。

 職場体験中に、飯田達のヒーロー殺しによる騒動もあったようだが、大して怪我もなく無事で良かった。

 

 明日クラスの皆と話すのが楽しみだな。

 物間のこの格好の写真見せるのも。

 B組の黒色からトラブル対策に弱み握っとけとアドバイス受けたからきっちり保存してあるし。

 皆はどんな体験したんだろう。

 

 



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閑話、轟焦凍視点

エンデヴァーファンの皆さんごめんなさい。


 

 家族が和解したら、親父が壊れた。

 

 物心つく前から俺は家族の中で特別だった。

 完成品、最高傑作、望まれた存在。

 個性婚による掛け合わせの成功作。

 火力最強個性とされるヘルフレイムの欠点を無くそうとして創られた存在。

 ナンバーワンヒーローオールマイトを超えるために生み出された存在。

 物心ついた頃には、そんな妄執に塗れた言葉を虐待も同然の鍛錬と共に、父親である轟炎司ナンバー2ヒーローエンデヴァーは吐き続けていた。

 平和の象徴を超えさせようとする家庭内での恐怖の象徴。

 そうエンデヴァーは恐ろしい存在だった。

 家族を薪としてまで燃え上がろうとする地獄の劫火だった。

 どこがヒーローなのだと言い捨てたくなる存在だったのだ。

 そう、

 燈矢兄さんの墓前で嘆き悲しむ姿を見るまでは。

 自分の存在は、燈矢兄さんを救う、止めるための存在だったと知るまでは。

 勝手だと思った。

 結局俺は目的のために創られたのだと絶望した。

 けど、ナンバーワンヒーローにするという名声のためではなく、オールマイトを超えるという執着のためでもない、夢を諦められず自らを焼く息子を救うため、という理由には、自分自身のナニカが報われたんだ。

 俺は救うために生まれたんだ、と。

 家族からの自分の見方が変わっていると気づかない親父は、もう後には引けないとばかりに必死になり、それを周囲は痛ましいものを見るように感じていた。

 けれど気づいていた筈の俺も、母の監禁同然の入院や日々の鍛錬に反感ばかり持つようになっていた。

 許したい親父に反発して、反発した事実であとに引けなくなって、母さんを入院させたのは苦しめたのは俺が生まれたからではないかと、心がぐちゃぐちゃになっていた。

 雄英高校に入学したのはそんな気持ちの時だった。

 こんな必死な自分に比べてクラスメートのコイツらは何なんだと軽蔑すらしてたと思う。

 けれど、最初の体力テストで緑谷の記録と奇行に驚かされ。実践訓練で、爆豪の実力に感心し緑谷に負けて。

 USJ襲撃事件では二人の戦闘力と超合金クロビカリの存在に圧倒された。

 そして雄英体育祭、俺は手を引かれて導かれるように救われたんだ。

 変わっても大丈夫なのだと勇気付けられ、ヒーローに成れるのだと肯定されて。

 それを出来るようになるタンクトップに、オールマイト以外初めて憧れたんだ。

 職場体験ではタンクトップ事務所に行きたかったのだが、今はまだ時期じゃないと諭されたのはショックをうけたが、確かに反発して使用してない期間があるため炎の制御は甘い。やれること、自分自身を極めてからでも遅くはないと理解できる。

 けど、行きたかったな。

 緑谷と爆豪があそこまで成長できたタンクトップ事務所に。

 

 だから親父のエンデヴァー事務所を職場体験に選んだは仕方なく、という気持ちもある。

 ヒーローとしての親父を見るいい期間だと思いつつもそれでもという気持ちが抜けない。

 初日の実力を測るための稽古で、いいように相手どられて負けて。

 爆豪は食いついている様子に劣等感を刺激されたりもした。

 そんな風に今日という日を終えようとした時、彼は現れた、無個性ヒーロー超合金クロビカリが。

 

「そうだキレてるよ、エンデヴァー!!

 ナイスバルクだ!!」

 

「はいっ、先生!!」

 

 そして親父に筋肉指導だかボディビル指導を始めた。

 

「なんだコレ?」

 

 確か超合金クロビカリのこと嫌ってたよな。

 個性を鍛えた筋肉で防ぐバグみたいな存在だって。

 それで親父打ちのめされてたよな?

 その後番犬マンにも負けたのもあるけど。

 

「ヘルフレイムを耐える筋肉を鍛えて手に入るなら、なんとしても身につけたいんだと」

 

 説明したのは親父に用があると残された爆豪。

 疲れてはいるみたいだけど、なんか慣れてるな。

 

「エンデヴァー、君は元々きちんと鍛えていた!!

 素晴らしい筋肉だ!!

 けれど君はただ筋肉を苛めていただけに過ぎない」

 

「苛めていただけ、ですか」

 

 45歳の実の父のパンツ一丁姿とかキツイな。

 さらにサイドチェストをキメてるし。

 

「そうだ!!」

 

 応えるクロビカリはダブルバイセップスだ。

 この人の格好もまだ数回目だからインパクトあってキツイな。

 

「筋肉とは苛めるだけではいけない、慈しみ、対話することでその真価を発揮し、応えてくれる!!」

 

 そこでアブドミナルアンドサイをキメる必要は?

 

「慈しみ、対話」

 

 なんか親父が感銘を受けているな。

 

「そう、今の貴方ならそれが出来ると筋肉が教えてくれた。エンデヴァー、貴方は変わった。自らを縛る思いから開放され、己と向き合えた」

 

 ウチの事情知っているのかあの人?いや筋肉がチクったのか。

 

「違うんだ、先生。

 家族がこんな俺を見捨てないで、もう一度向き合ってくれたんだ!!」

 

 親父、気持ちは分かるが格好パンイチ。

 

「家族と向き合えない者が、筋肉と向き合える筈がない。けれどエンデヴァー貴方はかつての自分を家族の絆で乗り越えた、今の貴方なら筋肉と対話が出来る筈だ」

 

「今の俺なら」

 

「エンデヴァー、いや轟炎司さん。

 今こそ貴方が輝く時だ!!」

 

「クロビカリ先生」

 

 

「なあ爆豪?」

 

 感動的な空気だけどどうしたらいいんだ。

 

「どうした?」

 

「なんかついていけねえ」

 

 親父もよく考えた上で成長しようとしてるのは分かるのだけど。

 

「これについていけねえならタンクトップ事務所無理だぞ。まともな時はまともだが基本こんなノリだ」

 

 そうなのか。

 

「なら頑張る、頑張って理解する」

 

 緑谷みたいになりたいんだ俺は。

 

「タンクトップを諦める選択肢はないのかよ」

 

 なんか爆豪が愕然としているけど、なんでだ?

 

 

 うん、よく考えたら親父も苦手なクロビカリに師事してまで強くなろうとしてるだけだしな。

 俺にオールマイトを超えさすのでなく自分で超えようとしてんだな。

 なら俺は俺で自分の個性を極めて、タンクトップを着るんだ。

 

「息子が覚悟決めてんぞナンバー2。

 あとクロビカリがステイン捕縛を断った元凶あんたじゃねえか。

 ヒーローとしてそれでいいのかよ」

 

 



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35話

 

「いくぞ小僧」

 

 グラントリノの言葉に頷き、その小さな背中を追いかける。

 職場体験で僕を指名したグラントリノ、その目的は僕の指導である。

 既に何度も顔を合わせ、僕の実力を知っているグラントリノは指導方法をオールマイトにしたようにひたすらボコる、ではなくひたすら実戦を積むことにすると告げた。何気に過保護なマスターは、自分がいれば自分でやる性格なので後ろについて回っていても実戦経験はそれほどではない。

 バング師匠の元で流水岩砕拳を学んでいた時も稽古としての戦いや、スーパーファイトの出場はしたもののアレだってルールのある試合だ。いくら残虐な性格であっても武道家達のモラルは一般人よりよほど高かったりする。

 ヒーローと個性の台頭により居場所を失いつつあるのはヤクザや極道と同様彼ら武道家もなのだ。

 個性黎明期以前より武道や武術道場が廃れつつあるのは、個性により規格を揃えた試合が困難になったからだけではない。個性犯罪が猛威を奮った時代に身体を張って人々を守り立ち向かった武道家達はオールフォーワンに討ち取られ、その流派を断絶されてしまったのだ。

 現存する流派の多くは、個性黎明期後に復活、再構築されたものばかりでその歴史は浅い。

 その上門下生を募ろうとしても、個性使用を許可されて設備の整った施設なんて個人資産で用意できるものではない。バング師匠みたいに完全に個性使用をしないと告知して、立地が秘境レベルに不便じゃないと道場なんてまず開けないのだ。

 つまりヒーロー飽和社会の強い武道家達は、実力が高い程個人で武術(オリジナルの)極めた単なる趣味人であり、趣味を自慢できる絶好の機会であるスーパーファイトではルールをきちんと守るのだ。

 だからグラントリノはそんな僕の偏った実戦経験をなんとかするため、職場体験は全て現地での実戦を行う方針なのだ。

 

「明日は渋谷に行くが今日は近場だな、ちょい荒れてる場所あるから」

 

 軽い準備運動だとグラントリノは言って現場に向かった敢えて街中を空中機動で駆けるのも僕を試してのことだろう。振り切られることなく現場に到着し戦闘。

 街中で暴れているヴィランを撃退し、警察へと引き渡す。ワンフォーオールを使うまでもない相手だが、そんな輩でも当たり前に事件を起こしている。

 ヒーローに勝てる筈もないのに当たり前のように暴れたり、犯罪を犯すのはなんでだろう?

 平和な地域だと戦闘はなく、地域住民のちょっとしたトラブルを解決するなんでも屋みたいなヒーローもいるらしい。けれどこうも当たり前にヒーローの戦闘行為があると、ヴィランそのものに疑問を持ってしまう。

 個性を使用できない鬱屈が原因なのか、個性を使用して暴れるだけで手に入るモノが魅力的なのか、暴れる前に暴れる以外になにかできないのか、ヒーローが場当たり的に解決するだけで良いのかとすら思ってしまう。

 そしてその行動の裏にオールフォーワンという扇動者がいない事実も。

 ワンフォーオールの中の先代達との語り合いの中で僕は過去の記憶を見せられることも多い、いかに世界が移り変わったのかを知ることは興味深く勉強になる。荒れてた時代、略奪が当たり前だった時代、ヒーローが息を潜め逆転の時を待っていた時代、瓦礫の山を踏みしめ魔王の如く君臨するオールフォーワンに怯える時代、僕にとっては当たり前な平和はオールマイトが平和の象徴になることで実現したのだと思い知った。

 希望がいるのだ、人が真っ当に生きるには。

 規範が必要なのだ、人が道を踏み外さないためには。

 打倒しなければならないのだ、魔王になりたいからだけで全てを無茶苦茶にするオールフォーワンを。

 現場を知ることでその思いはより強くなった。

 そうして初日の職場体験を終えた。

 明日は渋谷だ。

 

 グラントリノにいざという時のための用意は渡せたし明日に備え、しっかりと休もう。

 

「覚悟しすぎだろう小僧」

 

 血液の入った保存のための特製の瓶と遺書、さらに僕の命の危険になると反応するブザー。オールフォーワンが生存している以上、いつでもワンフォーオールを託せる準備はしておかねばならない。グラントリノも信頼できる一人だから渡せる機会に渡しておこうと用意しておいたのだ。

 ヴィラン連合の存在がより僕の危機感を高めていた。

 

 

 その夜グラントリノ事務所に泊まったけど。

 飯田君を心配して連絡はしてみたら、どうやら大丈夫のようだ、ノーマルヒーローマニュアルさんにも同じ内容で心配かけてしまったと言っていた。だから飯田君本人は大丈夫なのだろう。

 勝己からは、明日から保須市だと連絡が来ていた、彼のことだから飯田君のことも気にかけてくれるだろう。

 ただエンデヴァーは筋肉の方だったと謎の一文もそえてあったけど。

 何があったんだろ?

 

 

 

 



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閑話、飯田視点

 

「天哉、ヒーロー殺しと会ったら逃げろよ」

 

 幸いしばらく入院すれば後遺症なくヒーローに復帰できると診断された兄、ターボヒーローインゲニウム。

 

「保須市のマニュアル事務所に行くんだろ?

 だったら絶対に立ち向かったりしないでくれ」

 

 若くして独立し、多くのサイドキックを従えている兄は自分に重傷を負わせたヒーロー殺しステインの実力を理解していた。

 僕では勝てないと。

 

「喧嘩のトラブルで個性を使用したり、金欲しさで個性を使う犯罪者や、力を振るいたいチンピラなんかじゃない。揺るぎない思想の元自らを鍛え上げ、多くの実戦で経験をつんだ存在だ」

 

 今時そんなにいるタイプではないらしい。

 自らを鍛え上げられるならヒーローを目指すのが今の社会だから。

 

「お前が、俺のことで怒ってくれるのは嬉しいし。

 マニュアルの所に行くのも反対はしない」

 

 けれど、ステインとは戦わないで欲しい。

 そう兄は告げた。

 実際に遭遇したからわかっていたのかも知れない。

 ステインは再び保須で凶刃を振るうことを。

 

 

 職場体験2日目、マニュアルさんとのパトロール中にその騒動は起きた。

 爆発音に悲鳴。

 ヒーロー殺しの騒動で市外のヒーローすら集結している状況で起きた事件。

 本来ならこんな状況では息を潜めやり過ごすのがヴィランであり、そのためのパトロールだとマニュアルさんは言っていた。

 だからこそ、普通じゃない状況にプロヒーローといえど驚きは隠せないでいた。

 

「天哉くん!現場行く!走るよ!」

 

 だがすぐに反応し行動できるのもプロヒーローだからだろう。

 アレは?

 背中を追おうとふと路地裏をみたら、キラリと光が奔った気がした。

 

「マニュアルさん!」

 

「どうした天哉君?」

 

「路地裏に何かいるようなので確認してきます」

 

「本当かい?」

 

「はい、ただ気の所為かもしれませんが気になって」

 

「じゃあ僕も行こう」

 

「マニュアルさんは現場に!確認次第後を追います!」

 

 見間違いの可能性が捨てきれず、明らかに起きている事件を優先してほしいと頼む。

 

「分かった、けどもしヴィランがいたら逃げて助けを呼ぶんだ!!」

 

 僕の言葉を理解して、そう返事をしてくれた。

 どちらにしろ一刻を争う事態なのだ。

 

「はい!」

 

 騒動に乗じての犯罪かも知れない、急がないと!

 

 

「その人を離せ!!」

 

 路地裏の薄暗がりの中見えたのは、頭を掴まれた人て刃物を振ろうとする男。

 声を上げ取り押さえようと飛びかかるが、返す刀でヘルメットがふっ飛ばされた。

 

「スーツを着た子供、何者だ」

 

「俺はヒーロー事務所で職場体験中の雄英高校生だ!

 凶器を捨てて、その人を離せ!」

 

「消えろ子どもの立ち入っていい領域じゃない」

 

 起き上がり睨みつければ、その人物が誰だか分かる。

 血のように紅い巻物と全身に携帯した刃物、ヒーロー殺しステインだと。

 そして悟る、その目的を。

 同時に思い出す、悔しそうにベッドで横になる兄の姿を。

 

「既にヒーローに連絡した、お前は捕まる!

 だからこれ以上人を傷つけるな!」

 

 憎悪はある、復讐したい気持ちも。

 逃げなければ行けないとも思う、立ち向かってはならないという言葉も思い出す。

 けど、

 

「ここで逃げたらあの人が死ぬだろうが!」

 

 憎悪も復讐心も恐怖も教えも約束も吹き飛ばして、助けなければならないと心が叫ぶ。

 僕のなりたい、僕の憧れた、僕が追いかけた存在は、そんなヒーローなのだから。

 

「仇討ちの目をしてるかと思えば、それを飲み干す信念もあるか。

 下がれ、お前は標的ではない。学生ならばさらに学び強くなり悲劇を知り、真のヒーローとなれ」

 

 ふざけるな。

 ふざけるな!

 

「真のヒーロー? 兄さんをインゲニウムを襲っておいてヒーローを語るな!」

 

 激昂し、エンジンを熱くし蹴りを放つ。

 だが目的は掴まれたヒーロー。

 解放されれば逃げてもらえる。

 だが、

 

「熱くなったかと思えば、逃がすための布石か。

 ヒーローらしい良い判断だ」

 

 ステインは加速した僕をあっさりと捌き、靴の鋲で腕を穿ち、刀を刺した。

 

「弱いな、お前もお前の兄も弱い。

 信念あろうとそれでは贋物だ」

 

「贋物なんかじゃない、兄さんは多くの人を救け導いてきた立派なヒーローなんだ」

 

 あの人がやってきたこと、たくさんの人間の為になれて嬉しいと言う兄が、どこが贋物なんだ!

 

「あの人は、インゲニウムは、僕に夢を抱かせてくれた立派なヒーローだったんだ!!」

 

「だが弱い」

 

 思いと叫びを断ち切る、ギロチンのような声。

 

「弱いんだよ、インゲニウムにお前は、

 その程度の力で良いと甘えているんだよ、お前達は」

 

 冷たく憤りすらかんじる重い声。

 

「だから俺程度の悪に敗れるし、いつだって信念と強さを兼ね揃えた真の英雄達を頼っている」

 

 僕たちが甘えている?

 

「徒に力を振りまく犯罪者を捕らえるだけが精一杯で、裏で蠢く巨悪に気づきもしない、さらに立ち向かう実力すらない。

 戦うのは真の英雄達だけだ。

 そんな貴様らが彼らと同じヒーローと名乗ることを許すことができない」

 

 何を言っているんだ?

 

「平和の象徴オールマイトが創り出した平和が、貴様らヒーロー紛いの軟弱化を招くなら、俺がヒーロー共の危機感となり社会に警鐘を鳴らそう」

 

 身体が動かない、これがステインの個性か。

 

「お前は生かそう、見込みがある。 

 だから眼の前の死を学び、己の無力さを知れ。

 いずれ真の英雄になるためにな」  

 

 ヒーローに向かって凶刃を振り上げる。

 

「待たせたな、だが誇るんだなお前の死は若きヒーローの芽を育つ役に立てる。

 じゃあな正しき社会への供物」

 

「やめろー!!」

 

「救けに来たよ飯田くん」

 

 無力に叫びを上げる僕の眼の前で、空を駆けて現れ、ステインを殴りた飛ばしたクラスメート。

 同期でありながら飛び抜けた実力を誇る友人。

 最悪のピンチに、最高といえるタイミングで彼は救けにきてくれた。 

 タンクトップオールグリーン、緑谷出久は。

 

 

 



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37話

 

「救けに来た、か良い言葉だ。

 ならばその学生を連れて下がれ。

 俺の目的はコイツら贋物の粛清だ」

 

 ヒーロー殺しステインの目的は動けないヒーローの殺害。飯田君はその対象ではない。

 ならば飯田君を連れて逃げることが正しい。

 けれど、

 

「ソレをさせないために僕が来た」

 

 動けないヒーローはずっと目で訴えていた。

 助けてくれ、じゃない。

 俺が標的だから君等は逃げろ、と伝えていた。

 自らを省みない者がヒーローだと言うなら、彼が贋物なんてありえない。

 彼は、ヒーローだ。

 

「下がらないでぶつかり合うというのなら、弱い方が淘汰されるわけだが、さァ、どうする?」

 

 USJの時のチンピラ共とは違う、殺人者の目。

 

「決まっている、ここで引いたらタンクトップは着てないよ」

  

 怪人脳無とは異なる強さ。

 暴威が如き怪力ではない、研ぎ澄まされた殺意の刃。

 

「苦境を打ち破るモノ、それがタンクトップだ」

 

「良いなお前。やはりタンクトップマスターも素晴らしい、タンクトップジェントルといい、お前といい、他者を導き育てる才がある」

 

「憧れる背中だからね」

 

 ヒーロー殺しステインの個性対策のため一太刀も受けずに捌く。

 あの殺意ののった刃を相手にどこまでやれるか。

 

「いくぞ」

 

「こい!」

 

 パンチの多いタンクトップ技では隙が大きいため、流水岩砕拳で凶刃を流しそらす。

 狭い路地裏では動きに制限のあるはずの太刀がまるで大蛇のように自在に動き迫る。

 本来流した力を転じて迎撃する流水岩砕拳が、返す余裕もなく捌くことに精一杯にされている。

 いや、ステインの技量が凄まじいのは事実だがそれのみではない。込められた殺意が、ヴィランなどとは一線を画している。

 ヒーローでは勝てない事実に納得する。

 ヴィランの個性ありきの攻撃は強力なれど、使うこと自体が目的のヴィランに殺意がのるはずもなく、軽いのだ。込められた思いにより重みがここまで違うとは。

 人を殺すために研ぎ澄まされた技術に僕は恐怖と感嘆を抱いていた。

 危機感知、タンクトップセンサーを併用して流水岩砕拳でようやく捌ける、ヒーロー殺しステインとはそれほどの存在だった。

 

「お前は強いな、それで良い。

 ヒーローとは強くなければならない。

 素晴らしい理想も、正しき理念も、輝かしき未来も、強くなければ貫けない。

 汚泥の如き悪意に塗り潰されぬために、ヒーローとは強き存在でなければならない!!」

 

 ステインが叫ぶ。

 彼の見てきた裏社会の脅威がために。

 

「足りないんだよ、ヒーロー共に。

 悪意を跳ね除ける力が、俺如きに敗れる者にヒーローを名乗る資格はない!!」

 

「だから殺すのか!弱さを理由に!」

 

「そうだ! 拝金主義者という論外、名誉に取り憑かれた俗物、個性を振るいたいだけの阿呆、実力の足りない贋物、全てを粛清しヒーローを取り戻す!

 信念と強さを兼ね揃えた真の英雄を!」

 

「今のこの社会、今のこの世界は」

 

 ステインの言葉に理解を示したくなるのは歴代達からの記憶を見たが故か。

 けれど、

 ステインの言葉を否定するのは、歴代達の記憶を命を最期を知るが故だ!

 

「力が無くても、誰かのために命をかけて戦い。

 希望を繋いできたからだ!」

 

 オールフォーワンに討たれた歴代達。

 彼らは託し、それがオールマイトへと平和の象徴へと繋がったのだ。

 そしてオールマイトが守りたい日常は、力無くとも優しさある者たちが形作っていたものだ。

 

「迷子の手を引く優しさを、力無いからと否定することは許さない。

 僕に手を差し伸べてくれた人は、強いから手を差し伸べてくれたわけじゃない」

 

 力なき正義に価値はない。

 だが、

 優しさ無き日常にも価値はない。

 弱くとも誰かを助けられる存在に価値はある。

 

「お前の言葉は正しい。認めるだけの価値はある。

 ならば跳ね除けて見せよ、俺という脅威を!」

 

 太刀だけではなく、全身に仕組まれた凶器をもって襲いかかってくる。

 血を一滴流せば終わる。

 けれど、タンクトッパーであって、クロビカリの無敵の肉体を持たない僕ではステイン相手に無傷なんて不可能だ。

 流水岩砕拳を抜かれ、一撃受けることがゆっくりとした視界の中で悟ると、そこに割り込む姿があった。

 

「子どもにここまで言われて、大人が大人しくしていられるか!」

 

 割り込んで来たのはヒーロー。

 ステインに殺される寸前だった、動けなかった彼。

 腹部にサバイバルナイフがめり込みながらも彼は叫んでいた。

 ヒーローとして、大人としての矜持を。

 

「レシプロバースト!」 

 

 そしてそれは彼も同じ。

 

「兄は贋物なんかじゃない。

 そう、兄さんは平和な日常を作るヒーローなんだ!」

 

 動きを止めたステインの太刀を砕き、凶器を弾き飛ばす。

 虚をつかれ、動きを止めるステイン。

 だがそれも一瞬、彼の凶気たる信念は己の停滞を許さない。

 しかし、僕にはその一瞬で充分過ぎる。

 

「ワンフォーオール100%、タンクトップタックル!!」

 

 加速した身体がステインの身体を、反対車線の潰れたテナントに叩きつける。

 

「ガハッ」

 

 手応えあり。いかに鍛えようとワンフォーオールで強化された筋力による一撃は耐えきれない。

 

「ここか!緑谷!」

 

 ヒーローの傷を塞ぎ路地裏から出てきた所、ヒーローを引き連れた轟君がいた。

 

「悪い一斉連絡きたけど、脳無みたいのと便乗したヴィランに手間取った。

 今親父と爆豪が対処している」

 

 そうか、エンデヴァーもいるのか。

 

「コイツ、ヒーロー殺しか!」

 

 瓦礫に埋まるステインに気づいたヒーロー達が手早く拘束し、ついでに傷の具合も確認していた。

 

「おい小僧、対処しても良いとは言ったワシの視界から離れるな!」

 

 飛び出していったのはグラントリノでしょうに。

 時間で言えば五分程度の戦いだった。

 けれど、濃密な殺意を受け極限まで集中していたためもっと長く戦っていたように感じた。

 バサッ

 その音にグラントリノのだけではなく僕も気づいた。

 だからその方向を見て、その脳無を見て、僕の思考は停止した。

 

「翼君?」

 

 姿形は脳無だ。

 しかしその個性が、こちらに向ける眼差しが。

 かつて勝己達と一緒に遊んでいた友人を想起させてしまった。

 動きを止めた僕を捕らえる脳無。

 掴まれてなお、止まった思考が身体を反応させない。

 

「何してる小僧?!」

 

 グラントリノの叫びにようやく動きだそうにも、もはや上空だ。

 だが、隠しナイフで拘束から逃れたステインが、零れた脳無の血を舐め個性を発動し脳無に止めを刺した。

 

「贋物が蔓延るこの社会も、

 徒に力を振りまく犯罪者も粛清対象だ。

 全ては正しき社会の為に」

 

 そのタンクトップタックルをくらい重傷の筈のステインにその場の全員が圧倒されていた。

 

「何をしている! そっちに一人逃げたハズだが!」

 

「轟、飯田と出久はどうした?!全員無事か!」

 

 そんな中駆けつけてエンデヴァーに勝己。

 取り逃がした脳無を追って来たようだ。

 脳無から解放されて、地面に着地した僕はステインから距離をとる。

 

「あの男はまさか」

 

「エンデヴァー」

 

「ヒーロー殺しか!」

 

 エンデヴァーが炎を構え放とうとするが、ステインもまたエンデヴァーを認識し叫ぶ。

 

「贋物、正さねば、誰かが血に染まらねば!

 英雄を取り戻さねば!

 蘇る巨悪に、人々が平和が蹂躪される前に、

 積み重ねられた屍と犠牲が無駄にされないために、

 力と信念を持つ真の英雄が必要なのだ!」

 

 その言葉に、百戦錬磨のグラントリノが、プロヒーロー達が、僕や飯田君や轟君に勝己が、気負されて後ずさる。

 

「俺如きに怯むか!!

 そんな者達が平和の担い手が務まるか!!」

 

「黙れ悪党」

 

 そんな中、エンデヴァーだけは動いていた。

 右手に炎を纏い、大きく振り上げて、

 

「人々の日常を守る、己の家族を守る! 

 ヒーロー達の家族を泣かせてきた貴様が!  

 ヒーロー達の日常を、幸せを壊してきたテメェが!

 ヒーローを語ってんじゃねえっ!!」 

 

 怒りの叫びとともにステインにその拳を打ち込んだ。

 

「それで良い」

 

 衝撃と炎に包まれたステインは、エンデヴァーの言葉に笑みを浮かべるとそのまま意識を失った。

 

 ヒーロー殺しステイン。

 ヒーロー讃歌を謳う凶人にして殺人鬼。

 強く無私なる者こそがヒーローとする彼は、自らを否定し打ちのめす存在を期待していたのかも知れない。

 情を持つ強者を。

 正直、今までの行いからエンデヴァーがそうだったことに僕は驚いたけど。

 家族との和解が彼をそうさせたのかも知れない。

 

(オールマイトを超えるナンバーワンヒーローか、遠のいたかもね)

 

 自分の目標がより高い存在になったと思う。

 なぜかそれが嬉しくて同意を求めるように勝己と轟君を見れば、二人とも苦虫を噛み潰したような顔で頷いていた。

 

 しかし、あの脳無、もしあれが翼君だとしたら。

 思考に浮かんだ懸念を頭から追い出し、後始末の手伝いへと向かった。

 

 

 



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38話

今回面白くないです。なんでこんな覚悟ガンギマリなんだろこのタンクトッパー?ギャグが書きたい。


 

 ヒーロー殺しステイン逮捕。

 そのニュースは瞬く間に日本中に知れ渡った。

 オールマイト登場以降、公になっている単独犯罪者では最多の殺人数。

 犯罪史上に名を残すであろう敵の逮捕は、様々な形で波紋となり日本を揺るがすこととなる。

 

 事件後の事だが、無傷で済んだ僕は軽い検査のみで入院することもなく、警察による事情聴取を行った。

 重傷なのは、肩を刀や鋲で打ち抜かれた飯田君と腹部をサバイバルナイフで貫かれたプロヒーローネイティブさんだ。

 他は脳無の相手をしていたヒーロー達も重軽傷者多数とのこと。

 ちなみに訪ねてきた保須警察署の署長さん、犬顔の面構犬嗣さんとステインとの戦闘行為で話があったが、正当防衛扱いで済んでしまった。

 飯田君は、路地裏に入る前に職場体験先のノーマルヒーローマニュアルさんにきちんと連絡していたし、ステイン発見時にも救けを求めていた。

 僕にしても、戦闘行為をグラントリノから許可を得て武器、サポートアイテムを用いず素手でやりあったためだ。なんというか、僕も飯田君も個性の使用扱いにすらならないらしい。

 広い意味で異形タイプ扱いな飯田君は使用認定しにくいし、僕みたいな強化タイプは発動したかどうかなんて判断しにくいらしい。

 仮にその場に、轟君や勝己のような使用後の痕跡が残りやすい者達がいたら、形だけとは言え咎めたり場合によっては罰則も必要だったらしい、ついでにそれを誤魔化す大人の汚いやり口も。

 結局、公な事実としては路地裏で襲われたプロヒーローと雄英高校生二人の必死の抵抗に逃亡しようとしたステインを発見したエンデヴァーが仕留めた、という形で落ち着いた。

 まあ全身粉砕されていたとはいえ、最後に見事な啖呵をきってステインを打倒したのはエンデヴァーだし。

 なお、病院ではエンデヴァー事務所で即戦力として駆り出されていた勝己と会話したり、そんな勝己を見て奮起している轟君がいたり、エンデヴァー事務所にインストラクターとして雇われた超合金クロビカリがお見舞いのポージングをキメたりしていた。例の格好かつ裸足で街中を闊歩する超合金クロビカリは無駄に目立っていたな。

 そして僕は、幸いにして勝己は気づかなかった脳無の一体の正体の可能性をグラントリノを通じてオールマイトに告げた。

 僕が継承者であるとバレていたら、身近な人間を脳無に改造ぐらいしかねないのがオールフォーワン。だが翼君は幼稚園では一緒だったがそれ以降は引っ越して疎遠になっていた。僕の心を壊すには関係が薄い相手だ。

 ならば、脳無の素材として誘拐された可能性があるため、彼の状況がどうなのか知る必要がある。

 歴代達の話では、複数の個性を扱う腹心の部下はいたが、脳無のような存在は今まで確認されていないとのこと。オールマイトに敗れたことで生み出した存在で、作成できる技術持つ部下または協力者が新たに加わった可能性が高いらしい。

 翼君の現状を調べることでそれの手がかりを得ることができれば良いのだけど。

 正直、知り合いをこんな目に合わされた(まだ確定ではないけれど)事実に心折れそうになる。けれどまだ組織だってオールフォーワンに抗っていた時代は、個性の譲渡、あるいは回収を理由に仲間を裏切る者達も多くいたらしい、さらにこちらの身内に喜々として害を加えるオールフォーワンの精神性。それらが主な理由で現在のワンフォーオールの秘匿と極少数でのオールフォーワンに対抗する形になってしまった。

 先々代、オールマイトの師匠もそれを危惧して身内の実の息子と別れたのだ。

 今回の件は、僕関係だからという線は薄い。

 こちらが気づいた時点で正体を自分の口から楽しそうに暴露するのがオールフォーワンのやり口だからだ。

 けれど、場合によっては関わりある人達から離れる必要があるだろう。

 ヴィラン連合に恐らくブレインとして暗躍しているオールフォーワンから皆を守るために。

 歴代達は、覚悟を決める僕に継承者としての思考だけで生きるのではなく、学生として過ごすことを望んでいる。まだオールフォーワンとの戦いばかり考えるべきではないと。

 それは理解できるし、嬉しくも思う。

 けど、皆の安全を考えると。

 

 またしばらく話し合いだな。

 最近歴代達とのこんなやり取りが増えた気がする。

 ひたすら実戦とオールフォーワンについての話し合いを終えて、僕はグラントリノ事務所での職場体験を終えた。

 

 



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閑話、爆豪視点

 

 雄英高校に通う学生は優しさでできている。

 俺、爆豪勝己はそう思っている。

 雄英高校といえばオールマイトにエンデヴァーやベストジーニストといった偉大なヒーローを輩出してきたヒーロー科こそ主役だと勘違いしがちだが、他の科の生徒も学力、実力、容姿、モラルにおいても数ある高等学校においても最高峰であると断言できる。

 もう一度言おう、雄英高校に在学する生徒は優しさでできている。

 そう、

 先日の雄英高校体育祭において、ある意味というか色んな理由で有名になった生徒。

 ヒーロー科であるB組の生徒。

 一年はおろか学校全体でも、彼って性格アレだよね、と認識されている問題児、『物間寧人』が、なんと頭にウサ耳バンドをつけて登校してきても、一度見て顔を引き攣らせたり、高速で二度見こそしても、騒ぎ一つ起こさずに優しげな顔で通り過ぎるのだから。

 というかアレ見覚えあるのだが、タンクトップ事務所屈指の変態タンクトップラビットの付けウサ耳だよなと思いはするが、雄英高校生らしく優しさでできている俺は全力で他の生徒達と同じようにできる限りの優しげな表情を作り通り過ぎた。

 正直朝から疲れたから回れ右して家に帰り、出久に献上されたタンクトップガール写真集を見て癒やされたくなった。

 そんな職場体験明けの朝の始まり。

 

 スゲー盛り上がってんな。

 クラス内は朝から賑やかだ。

 職場体験一週間、一部除いて久しぶりに顔を合わせる同い年の面子との会話は途切れることがない。

 当然話題は職場体験のこと、無難にパトロールや業務説明で終わった者、避難誘導や後方支援を行った者、隣国の密航者捕縛を行った者、格闘技に目覚めた者や女性にトラウマを植え付けられた者にチヤホヤされた者と人それぞれだ。

 ただ、そんな中一番クラス内で気にされていたのは現在日本中でもっとも話題になっているヒーロー殺しの件に関わった俺達四人、もっとも俺は現場に居たレベルでほとんど関わりがないのだが。

 ヒーロー殺しを発見し、ヒーローを助けようとした飯田に出久、ヒーローを引き連れて駆けつけた轟、エンデヴァーと一緒に合流した俺。

 翼の生えた空飛ぶ脳無にヒーロー殺しがトドメを刺した後に出久達と合流したが、その後の瀕死の肉体でのステインの咆哮に俺は気負された。

 はっきり言って屈辱極まりない経験だ、たとえヤツの言動に一理あろうと。

 あの中で唯一動けたエンデヴァーの怒りの鉄拳は、俺だって放つべきだったのだ。

 家族という大切な日常がある身としては。

 尾白と障子がヒーロー殺しとヴィラン連合との関わりがあるという件でUSJにヤツがいなくて良かったと安堵し、上鳴が最近ニュース以上に騒がれている動画について感想を言う。

 突き抜けたヤツは格好良い。

 それはオールマイトにエンデヴァーの例もあり否定はしない、だが飯田という身内に被害が出ている者の前で言うことではない。

 出久の反応で、それに気づいてすぐ謝れるから悪いヤツではないが、軽薄で考えが浅いトコあるよな。

 もっとも、飯田も俺と同じでヒーロー殺しの咆哮と信念に一理あるようだ。

 だが、迷いはして悩みはしたようだが己のヒーローとしてあるべき姿は定まったようだ。

 粛清対象であった兄は間違ってなく、自分が目指すべき姿はそれであると。

 ちなみに件の動画、ヒーロー殺しの咆哮及びエンデヴァー怒りの鉄拳もとい炎拳は、英雄回帰と日常讃歌という2つの思想として広まっている。

 ヒーロー殺しの過去、教育体制から見えるヒーロー観の根本的腐敗という考えに、個人による街頭演説と諦念。

『英雄回帰』

 ヒーローとは見返りを求めず自己犠牲の果てに得うる称号であり、誰にも負けない圧倒的強者でなければならないという思想。

現代ヒーローは英雄を騙る贋物であり自分にすら劣る者は英雄たる資格はないと粛清を繰り返すことで、世間にその事を気付かせる。

 他者を害したいヴィランに大義名分を与えかねないこの思想は、ヴィラン以外にもヒーロー観の定まらないヒーロー候補にも広まるのではないかと懸念されている。

 それに対して『日常讃歌』

 エンデヴァーの怒りの炎拳の叫びから広まりつつあるそれは、ヒーローの守るべきモノをあらためて世間に訴えた。人々の日常とはヒーローの日常であり家族、それを害する存在から守り戦うことこそがヒーローであると世に示した。

 よりによってソレを叫んだのが笑顔溢れるオールマイトではなく、功績第一主義と認知されていたエンデヴァーであり、また一部ヒーローが透けて見えてしまうアピールではなく本心からの叫びであることが影響の原因となっている。

 古参ガチ勢エンデヴァーファンからはアンタ変わったよと血涙流して否定されたりしているようだが、有名なエンデヴァーガチ勢の某速すぎたヒーローは、コレはコレで有りと発言している。

 ステイン被害者の遺族からは感謝、妻子持ちのヒーローから賛同と称賛、未婚女性ヒーロー達は結婚願望を増すという影響もでているとか。

 不動のナンバー2ヒーローが、ナンバーワンになる日も遠くないかもしれない。

 

 その後、気を取り直した委員長が始業だからと席に付くよう促した。

 

 ちなみにそんな渦中にあったエンデヴァー事務所に居た俺と轟はどうだったかと尋ねられたが、

 

「「クロビカってた」」

 

 二人揃ってそう答えた。

 いやだってあの45歳ヒーロー、仕事後に超合金クロビカリとずっとトレーニングしてたし、張り詰めた筋力の光景が目に焼き付いてるわ。

 最後らへん、俺の冥躰震虎拳くらっても軽く血を吐く程度の耐久力ついてたし。

 事件よりそっちのインパクトの方があるわ。

 

 さらに卒業後にエンデヴァー事務所に就職しないかと勧誘されたし、家の娘なんかどうだと現在教師をしている長女の冬美さんを勧められもした、余程気に入られたらしい、轟も爆豪なら有りだなと頷くし。

 家のお袋が初恋を忘れる良い機会(余程なお世話だ)と乗り気なため縁談するハメになりそうな感じだ。

 あの事件以降考え込むことの増えた出久が心配なんだが、俺自身もやるべきことが増えたためどうすべきか。

 スイリュー以外にもあの爺さんから習いだしたため、時間が足りなすぎる。

 とりあえず、同じく出久の様子を気にしてる連中集めてなんとかするか。

 



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40話

 

 夏休みに林間合宿をやるらしい。

 キャンプのような非日常的イベントをクラスメートみんなでできる。その事に夏らしいイベントやセクハラ発言が飛び交うが、僕と勝己は特に反応はしない。

 そもそもバング師匠の道場は秘境の親戚みたいな立地だし、勝己は鍛錬以外の数少ない趣味は登山だ。

 山に一々反応するシティボーイではないのだよ。

 むしろ問題はその前段階、どうやら期末テストで合格点に満たなかったら学校で補修地獄らしい。

 せっかくのイベント、誰かが欠けたら寂しいから切島君が発破をかけていた。

 

 

 そんなこんなで六月最終週、期末テストまであと一週間を切っていた。

 僕も鍛錬したり、バング師匠と修行したり、エンデヴァーの長女の冬美さんに勝己の好物レシピを教えたり、来年発売予定のタンクトッパーヌードカレンダーの写真撮影や打ち合わせをしたり、タンクトップラビットを皆でフクロにしたり、心配してくる勝己達とカラオケ行ったり、出会いが欲しいと叫ぶ峰田君達に猩猩家のバブルスお嬢様を紹介したり、と忙しい日々を過ごしていた。

 

「全く勉強してねー!」

  

 と叫ぶのは学力最下位の上鳴君。

 雄英高校入学できるくらいだから地頭は悪くないはずなのに、入試だけ頑張ったタイプかもしれない。

 横で笑う芦戸さんも大差ないようだ。ちなみに峰田君は意外と成績は上位で演習試験について言及していた、確かに片方だけ合格点でも許さないよねココは。

 なお、成績については僕と勝己と百さんは同着一位。

 轟君が授業受けてたら赤点はないだろと、止めをさしていた。

 

「つーか緑谷なんてタンクトップタンクトップ言ってんのになんで頭良いんだよ!!

 脳筋は馬鹿だと相場が決まってんだろ!」

 

 んなこと言われても、

 

「脳みそも筋肉なんだから、鍛えたら応えてくれるのは当たり前でしょ?」

 

 超合金クロビカリだって十ヶ国語ペラペラだよ。

 

「予想以上に筋肉!」

 

「いや勉強してるだけだろ」

 

 呆れたように勝己も言う。

 結局やってるだけだしね。

 その後百さんの勉強会の提案にクラスメートが集まり頼られるのが嬉しいのか、百さんも張り切っている。

 

「お前らは行かねえの?必要ないだろうけどよ」

 

「教える側にまわるのもな」

 

「タンクトップ勉強法は向き不向きあるしね」

 

 

 

 場所は変わって食堂。

 いい加減米食わねえとしばき倒す、というランチラッシュの気迫に(一緒に食事する皆が)負け、今日は珍しくカツ丼だ、美味い。

 食事メンバー、飯田君葉隠さん梅雨ちゃん麗日さん轟君だ。

 会話内容は皆が気にする期末テストの演習試験、一学期でやったことの総合的内容らしいけど、どうなるのやら。相澤先生とか根津校長の性格考えると一捻りしそうだよね。

 

「ヒイ、タンクトッパー?!」

 

「あ、タンクトップパレード(仮)だ」

 

 悲鳴に反応すると、タンクトップ事務所に職場体験で更生を依頼された問題児、強化個性全部乗せの物間寧人君だ。

 

「むう」

 

「羨ましい」

 

 そんな彼のヒーロー名(仮)に羨ましそうに睨みつける、飯田君と轟君。

 

「コスチュームの安全面が」

 

「さらに姉さん焚き付けて、爆豪入り婿にして事務所継がせよう」

 

 ウチは誰でも(タンクトップ着たら)歓迎だけど、周囲が止めるよねこの二人は特に。独り立ちだってできる逸材、実力なら雄英高校一年のトップ4に入るし。

 僕を見て怯え、タンクトップパレードの名称にロックオンされてることに気付いた彼は、ピンと張ったウサ耳を揺らしながら気を取り直して、

 

「君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね」

 

 って嫌味タップリにこちらがトラブル体質だと煽ってきた、ブラドキング先生にチクってウチで今度はベストジーニストも含めた矯正かな?でも今も七三分けだし。

 

「シャレにならん飯田の件知らないの?」

 

 とB組委員長が(物理的に)止めてくれた。

 

「ゴメンなA組こいつちょっと心がアレなんだよ」

 

「いいよ別に(タンクトップおしくら饅頭の刑に処すし)」

 

 許しはしても処すよ。

 

「あんたらささっき期末の演習試験不透明とか言ってたね、入試の時みたいな対ロボットの実戦演習らしいよ」

 

 先輩から聞いたという情報に皆がホッとするけど、麗日さんはともかく、梅雨ちゃんと葉隠さんは苦手分野だよね?タンクトップアイで見てもアラ美少女、筋力はそこまで(とはいえヒーロー科平均はあるけど)じゃないよね。

 

「馬鹿なのかい拳藤、せっかくの情報アドバンテージを。ここで憎きタンクトッパー、じゃなくA組を出し抜くチャンスだったんだ」

 

 お前あとで事務所こい。

 

「憎くはないっつーの」

 

(((B組の姉御的存在、というかウチの爆豪枠)))

 

「ところで爆豪はいないの?話してみたいんだよね」

 

 と片手でタンクトップパレードを掴みながら勝己について聞いてくる。

 なるほど君もあの兄貴系モテ男が気になるか。

 

「ラブレターは一日5枚までだよ」

 

 中学時代を思い出しながら先手をうつ、(断りの)返事書くのも大変だしね。

 

「アイツは姉さんの婿だぞ」

 

 さりげに牽制と人目のある場所で外堀を埋める轟君。

 

「ケロ」

 

 不満そうな梅雨ちゃんもいる。他の皆は様子見だね。

 

「いやそんなんじゃないから、苦労してるって聞いて話をしてみたくてウチも問題児いるし」

 

 ねえ君たち?なんで問題児でこっち見るの?

 

「確かに気にしてる子、ウチでも多いけどさ。

 決勝戦とか格好良かったし」

 

 格闘技ファンにはたまらんよね、君とか。

 ちなみに僕はモンスターとか魔王扱いらしい、なんでやねん。

 

「じゃ、そういうわけだから」

 

 顔を赤らめて逃げるように去る拳藤さん。

 相変わらずモテるな勝己。  

 タンクトップガールに報告して応援の言葉かけてもらおう(外道)

 

 昼休憩後にやあモテ野郎と勝己を煽って、演習試験がロボならプッパで楽勝と沸く馬鹿二人を見る。

 果たして立て続けに大事件連チャンしてるのに、例年どおりにするのかな?というか相澤先生廊下で聞いてるから直前で変更してもおかしくないよ?情報収集バレたら変更するの当たり前だし。

 

 浮かれる皆を見ながら一抹の不安を感じて頭を悩ませる。先日改めてオールマイトと話した巨悪オールフォーワンの件、そして僕の秘密に辿り着きつつある勝己達の件。オールマイトも相棒だったデイビット博士に秘密にしたワンフォーオールのことをどうするか。

 親友にぶち撒けたいという本音はあるが、秘密を守らねばならない。

 悩みを抱えて僕は帰路についた。

 

 



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閑話、オールマイト視点 

 

 緑谷少年、君が遺書を用意していると知った時の私の気持ちを、君は考えたことがあるかい?

 

 

「俊典、お前の後継者のイズクのことだけどよ」

 

「グラントリノ職場体験ではありがとうございます。

 まさか緑谷少年の指名数が零件とは思ってもいませんでした。タンクトッパーってあそこまで敬遠されるのですね」

 

「指名数が一万でもウチに来させたわ、んなことはどうでもよい」

 

「では、どうしました?緑谷少年は問題を起こす子ではありませんよね?ヒーロー殺しの件ですか?」

 

「なあ俊典よ、俺達は軽く見てたかもしれねえぞ?」

 

「軽くですか?」

 

「志村やお前すら経験したことのないワンフォーオールの力、歴代達の個性の使用と対話についてだ」

 

 軽く、とはどういうことなのだろうか?

 個性の使用については手札が増えるくらいだろう。緑谷少年は元より多才だし、オールフォーワンを身体能力の増加で一度打倒した私からすれば、多数の力より突き抜けた個の方が強いと思う。

 歴代達との対話に関しては、お師さんと話せて羨ましいくらいなのだが。

 

「アイツはな、イズクはな。

 歴代達と対話して期待されちまったんだよ。

 オールフォーワンとの決着をつけられる存在だと」

 

「それは私もです、緑谷少年ならやり遂げられる!!」

 

「お前とアイツは違う、違ったんだよ。

 俺はそんな当たり前のことに気づかなかった」

 

 私とは違う?

 それはそうだろう、緑谷少年は私より素晴らしいヒーローになれる。

 当時の私よりも鍛え抜かれた体、体得している武術、導いてくれる周囲に先達、支えてくれる友人達、頼りになる仲間達に、日常としての家族と、タンクトップ、微力ながら私という存在、そして緑谷少年自身の素晴らしき精神。

 非の打ち所がない後継者だと断言できる!! 

 

「イズクは知り過ぎちまった、それが問題なんだ。

 知り過ぎちまってるから最悪を想定してしまう」 

 

 最悪の想定をしても折れずに立ち向かえるなら大丈夫なのでは?

 

「個性黎明期からの時代変遷と社会の変化、

 歴代達の思いに最後、オールフォーワンの所業、

 お前の創り出した平和の尊さ、

 そして、自分では敵わない強者の存在。

 当時のお前より圧倒的に情報過多だな」  

 

「確かに私はお師さんに弟子入りして、オールフォーワンについてもその存在と本質を理解したのはお師さんに託されてからですが。

 その、単純な私と違って頭の良い緑谷少年なら問題ないのではないですか?」 

 

「あったんだよそれがな、まあ無個性ヒーローなんてとんでも存在にも原因はあるがな」

 

 彼らにも?

 

「俊典、一度イズクを叩き潰せ。

 無理してでもお前が健在だと証明しろ。

 じゃねえとイズクは、」

 

 緑谷少年は?

 

「                」

 

 その時のグラントリノの言葉に私は絶句した。 

 緑谷少年が何を考えていたのか、その時私は初めて知った。

 私という存在が彼にどんな影響を与えていたのか思い知った。

 そんな風に、緑谷少年は私を見ていたのかと初めて認識した。

 緑谷少年の覚悟、それを私は甘くみていたのだ。

 認められないよ緑谷少年。

 そんな最後を私は許さない。

 ヒーローとしてじゃない、一人の君を心配する大人として。  

 

 

 期末テスト演習試験。

 敵活性化もあり、ロボとの戦闘訓練は実戦的ではないという意見による大幅な変更。

 対人戦闘、活動を見据えたより実戦に近い教えを重視するための試験。

 二人一組による、教師であるプロヒーローとの戦闘。

 さらに動き傾向成績親密度個性など、諸々を踏まえた組み合わせ。

 明確な課題や基準をそれらのチームに本人らに秘密に課し、突破できるか否かが合否判定となる。

 だが、この試験方式において問題となる二人がA組にはいる。

 タンクトッパーにしてワンフォーオール継承者である緑谷出久。

 エンデヴァーらトップヒーロー達を唸らせる程の生粋の天才爆豪勝己。

 両者共、その自力が高く戦闘能力はもはやプロヒーロー以上、体得している武術は対人戦闘において有利過ぎる。

 精鋭揃いの雄英高校教師陣ですらタイマンで勝てるのはイレイザーヘッドとオールマイトだけだろう。

 挙句、二人一組となればこのどちらかと組めば課題関係なく突破できてしまう可能性が高い。

 不公平を承知の上で、彼らだけ別の試験方式にする。

 それが最善だと私達は判断した。

 

「緑谷少年とは私が戦います」

 

 試験方式はタイマンバトル、合格基準は対戦者に一任する。

 元よりこの二人は合格で問題ないのだ。

 だから、この機会に新たな課題をぶつける。

 

「爆豪少年には武術の師であるスイリュー氏を提案します」

 

「君がここまで提案するなんて珍しいねオールマイト」

 

 教師として新米な私がやって良いことではないのだろう。けれど、これからを考えると必要なことなのだ。

 爆豪少年にしてもそうだ、彼にはこれからお師さんにとってのグラントリノのような存在として、緑谷少年を支えてほしい。

 私にとって、デイビット・シールドのような、サーナイトアイのような、塚内君のようなそんな存在に。

 弱さを曝け出して頼れる存在になってほしいのだ。

 だから、

 

「今回の期末テスト、彼らには徹底した敗北を経験してもらいます」

 

 君たちを私は叩き潰すよ。

 

「充分ニ勤勉ダト思ウガ」

 

「そこまでする必要あるかしら?」

 

「真面目な子達ですよね」

 

 他の皆は反対みたいだね、確かに過剰な仕打ちだ。

 でも、

 

「必要なんですね?」

 

 相澤君は聞いてくる私の真意を。

 

「ああ、彼らには必要なことだ」

 

「ならいいじゃないですか、どうせアイツらの実力は飛び抜けてますし」

 

 その担任である彼の言葉で今回の方針は確定した。

 

 

 

 

「てなわけで組み合わせはこうなったわけだが」

 

 校長VS芦戸・上鳴

 13号VS青山・麗日

 プレゼント・マイクVS口田・耳郎

 エクトプラズムVS蛙吹・常闇

 ミッドナイトVS瀬呂・峰田

 スナイプVS葉隠・障子

 セメントスVS砂藤・切島

 パワーローダーVS飯田・尾白

 イレイザーヘッドVS轟・八百万

 

「先生方! 緑谷君と爆豪君はどうなるのですか?」

 

 生徒達ですら、彼ら二人を組ませるのは強すぎるとわかっているみたいだね。

 だから、

 

「両名は一対一で、相手は」

 

「私が緑谷少年と戦いにきた!!」

 

「全く、馬鹿弟子の相手なんていつもしてるのに」

 

 私ナンバーワンヒーローオールマイトと若き天才武闘家冥躰拳のスイリュー。

 

「「「なっ!!」」」

 

 特別扱いに生徒達がざわめくけど仕方ないね。

 なにせ相手が私と、ヒーローですらないスイリュー氏だからね。

 

「オールマイト?」

 

「どういうつもりだ、遊び人師匠」

 

「HAHAHA、説明はあとだよ」

 

「ボコるだけさ、いつもどおりにね」 

 

 頼んだはいいけど、テンション低いねスイリュー氏。

 それでも引き受けてくれただけ御の字だよね。

 遊び人て評判だから意外だけど。

 さあそれぞれ別れ試験会場についたら、

 蹂躪だよ緑谷少年。

 

 

 

 

 

 



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閑話、爆豪視点

 

「それでなんのつもりだよ」 

  

 期末テスト演習試験。

 ロボとの戦闘なんて流石にやらないだろうと予想していたが、なんでヒーローでもないコイツが相手なんだ。

 冥躰拳のスイリュー。

 タンクトップマスターに武術の師匠として紹介されたコイツのことは強さ以外何一つとして評価していない。

 一応は師匠らしく型や動きは教わったが、あとはひたすら実戦形式だった。

 しかもヒーローをこき下ろす煽り付きのな。 

 修行も適当にやってきた、あとは才能だけだね。と武闘家達に喧嘩売ってるとしか思えないスタンスで、実際誰よりも強い。鍛えた力は誰かの為に使うべきと考えているタンクトップマスターとは違い、自分の力は自分のために使うと言って憚らない。

 生活は武道大会の賞金とファイトクラブのファイトマネーで賄い、あとは女と遊ぶだけ。

 犯罪を犯してないだけで真っ当とは言い難い生活を送っている。

 

「なんのつもり?仕事だよ」

  

 その仕事が大嫌いだろうがアンタ。

 飄々とした態度のスイリューは移動した先のエリアで軽くストレッチをして身体をほぐしている。

 そんなこと今までロクにしてなかったのに、モニターに映っているからか?

 

「じゃあ試験内容を教えてくれませんかね?

 まさか単なるタイマンじゃねえだろ」

 

 期末テストなら勝ち筋のある試験の筈。

 ハンデを付けた教師達が捕縛か逃走の条件の満たさせる方式だと思うが。

 単なる協力して戦うなら会場の移動は必要ねえし。

 

「お前達にはそんなの無いよ。単に俺とオールマイトが徹底的にボコるだけ。

 でもそうだな、偶には師匠らしいこと言うなら」

 

 実力差からハンデ無しは分かるが、なんだその試験。

 いじめか差別かよ、と内心毒づく中でスイリューの言葉を待てば。

 

「お前ヒーロー辞めろ」

 

 は?

 コイツ今なにをぬかしやがった。

 

「この仕事受けたの気まぐれなんだけどさ、

 事情聞いて改めて思ったよ、ヒーローなんてくだらないって、馬鹿じゃないのかって。

 誰かのために命懸ける?正気じゃないよお前ら」

  

 いつも馬鹿したような笑みのスイリューが珍しく嫌悪の表情をしている。

 

「目をかけてるクソガキが、そんな事で死ぬかも知れないなんて気に入らない。

 だからさ、辞めちまえこんな学校」

 

 お前ならもっと面白く生きれるだろう、と言葉を続けた。コイツは俺を買っている、同じ天才で同じ視線を持てる同類として。

 

「っけんな。アンタにゃ冥躰拳を教わったことに感謝してるが、そこまで言われる道理はねえ。

 図に乗るなよ、アンタの弟子入りしてんだってあくまで目的のためだ。俺が出久に勝つためなんだよ」

 

 確かに入学してから死ぬ可能性のある事件はあった。

 確かにヒーローは殉職する可能性のある職業だ。

 けど今すぐ生きる死ぬの話しになるには、状況が飛びすぎている。

 まるで危機的状況が確定しているみてえじゃねえか。

 

「イズク君に勝つねえ。無理だろ」

 

 その言葉と共に上段蹴りが飛んでくる。

 テメェ不意打ちかっ!

 実力差のある相手の攻撃はわかっていても躱せない。

 無様に側頭部にくらい地面を転がる。

 

「るせえっ!今の俺が弱いのは知っているっ!

 出久が強えのもだっ! だから鍛えてんだろうが!」

 

 今更自分がトップだなんて驕らない。

 自分がまだ及ばない存在だって認める。

 けれどこれから先いくらでもアイツに戦いを挑み続けていけば、いつかは勝てると確信している。

 だって俺は天才だ。

 出久が、眼の前のコイツが認めてくれた天才なんだ。

 

「だからさ、」 

 

 そんな思いはスイリューの乾いた言葉が、這いつくばる俺に続けて放たれる蹴りとともに吹き飛ばす。

 

「お前が超える前に死ぬんだよイズク君」

 

 その言葉に俺は止まった。

 何も考えられない、真っ白なそんな感覚に陥った。

 再度ゴロゴロと地面を転がり、スイリューの言葉の意味を考えて咀嚼して呑み下そうと、なんとか頭を働かせようとするが、そんな事はできない。

 

「期末テスト、君等二人には必要ないと判断された。

 お前達スネックさんやイナズマックスさんより強いしね。並のプロヒーローじゃ相手にならないよ」

 

 武闘家なのにプロヒーローをやっている稀有な存在。その二人を例にあげる。

 

「だからオールマイトはいい機会だと思ったんだろ、お前達を叩き潰すタイミングだと。

 いや、オールマイトはイズク君を叩き潰さないといけないのかな?立場的に。彼の個性って多分アレだしね」 

  

 一歩一歩こちらに近づいてくるスイリュー。

 そういえば聞いたことがある武術界は、個性黎明期以降表社会より距離を置いて、だからこそ正しく情報が伝えられていると。

 

「お前に関してはとばっちりだね、勝手に期待されてんだよ、イズク君を支える存在だって。まあ雄英高校で相手どれる人いないだけだろうけど」

 

「出久が死ぬって、アイツが死ぬって何なんだよ!!

 なんで一学生に過ぎないアイツがそうなるんだよ、

 なあ師匠、アンタは何を知ってんだっ!」

 

 俺のことなんてどうでもいい。

 なんであのタンクトップタンクトップ言ってる、誰よりヒーローらしい鍛錬馬鹿が死ぬ話しになるんだっ!

 

「彼が遺書を用意してたの知っている?」

 

「はっ?」

 

「確信あるんだろうね、何よりも本人が。

 多分近いうちに死ぬって。

 だからイズク君は」

 

 スイリューは、オールマイトから話されたという出久のアイツの目的、やろうとしていることを告げた。

 

「最も平和のためになるタイミングで死ぬつもりだ」

 

(多分オールフォーワンの戦力をできるだけ減らして個性を奪われる前に、タンクトップマスターあたりにワンフォーオールを譲渡するつもりだろうね)

 

「んだよ、ソレ。

 おい、教師達は、ヒーロー達は何してやがる。

 オールマイトは、タンクトップマスターは、グラントリノの爺さんは、なんでそんな覚悟をキメさせるまで放置してんだよ!」

 

「詳しくは知らない、俺はそこまで彼と親しくないし。

 話し聞いても勝手にすればって思った。

 ただ、お前が俺の弟子がそんな馬鹿らしい話に巻き込まれるのは納得できないから辞めさせにきた」

 

 あくまで自分と自分の気に入ってる俺のためだとスイリューは言う。

 死にたいならば勝手にすればいい。

 自己犠牲、ヒーローのソレを理解できないから。

 でも、自分の弟子が爆豪勝己がそうなることは許せない。そんな風に師匠の目は語っていた。

 だから、

 

「そこ退いてくれ師匠」

  

「何処へ行く気だ?」

 

 師匠の不器用な心配は分かった。

 弟子がそんな風になってほしくない気持ちも知った。

 出久になんらかの事情があることも理解した。

 だから、

 

「アノ馬鹿をブチのめして事情を吐かせる」

 

「駄目だよ、それは許さない」

 

 師匠はそこで冥躰拳の構えをとる。

 

「お人好しのお前は、間違いなく彼らを許容する。

 そして彼らに助力する」

 

 俺はそれが許せない。

 その言葉は必殺の拳と共に打たれた。

 でもソレはもう見えている。

 顔面狙いの拳を頭をずらすことで躱し、カウンターで腹を打つ。

 予測していた師匠は後ろに飛ぶことで衝撃を逃した。

 

「夢なんだよヒーローになることがっ!」

 

 その師匠を追いながら俺も殴りかかる。

 

「そんなものが命を懸けることかっ!」

 

 師匠も拳を振るいぶつかり合う。

 

「憧れたんだ、勝ち続ける姿にっ!」

 

 叫びが拳のぶつかり合う衝撃が空気を震わせる。 

 

「オールマイトはそれ以外何もない!

 あのナンバーワンヒーローは、平和と勝利以外何もないだろうが!」

 

 繰り返し打ち出される拳が、火花を散らしお互いの間で爆ぜる。

 

「俺は出久と一緒にヒーローに成って勝ちたいんだよっ!」

 

「その当人が自己犠牲心の塊で死にたがりだろうが!」

 

 俺の攻撃は全て師匠に防がれ、攻撃するたびに俺だけがダメージをおう。

 

「だから止めんだよっ!一緒に歩こうと手を引くんだ」

 

 あの日のアイツが川に落ちた俺に手を差し伸べてくれたように。

 

「「冥躰震虎拳っ!!」」

 

「「冥躰空龍拳っ!!」」

 

「「冥躰鳳翔拳っ!!」」

 

 繰り出される奥義全ても尽く上をいかれる。

 何一つとして俺は師匠に及ばない。

 

「なんでだ、なんで遊び呆けているアンタに俺は及ばない。あんだけ鍛錬してもアンタに勝てないんだよっ!」

 

 俺は強くなった、師匠がロクに鍛えてないなら追いつける筈なのに、なんでその距離は縮まらない。

 俺の鍛錬は全て、師匠の才能以下なのかよ。

 

「お前が、俺を師匠と呼ぶからだよ」 

 

 何時もの皮肉混じりの嘲笑ではない、堂々とした自慢気な笑みをその顔はしていた。

 

「弟子に負けるなんて格好悪い姿をさらせるか」

  

 んだよ嘘つきめ、今時隠れて修行なんて流行らねえんだよ。 師匠。

 

 

 

 それが期末テストの時間で起きた俺に関すること全てだ。そんで、

 

「何か言うことはねえのか出久?」

    

 場所は変わって保健室。

 全身を殴打された俺はミイラのごとく包帯で梱包されてベッドに寝かされていた。幸い骨は折れてねえ。

 横には俺以上にズタボロな馬鹿。

 あのオールマイトを下手な敵以上にマジキレさせた大馬鹿野郎だ。

 

「巻き込みたくない」

 

 散々ボコられても変わらない。

 痛みで変わる程度ならここまでこじれない。

 人を助けるためならどこまでも強情になれるのがコイツだからだ。

 

「僕は皆に死んでほしくないんだ」

 

 それだけのナニかがあるのかよ。

 確信を得ても呆れてため息がでる。

 けどな、

 

「ヒーローになりゃ、安全なんてありえないだろうが」

 

「オールマイトにもそう言われたよ」

 

 分かってんだろうなコイツにも。

 もう黙っていられないと。

 そう揺るがすくらい、オールマイトは肉体的にも精神的にもボコッたのか。

 

「あの脳無さ、翼君だった。調べてもらったら確定したんだ。本人も行方不明、もう五年だって」

 

 ヒーロー殺しの時の翼のついたヤツか。

 だからコイツは決めちまったのか。

 

「勝己、林間合宿が終わるまで待ってほしい」

 

「そこでナニカ起きるんだな」

 

「僕はそう確信してる」

 

「居るんだな?クラス内に、ヴィラン連合の内通者が」

 

「ソレをやらせるヤツが敵なんだよ」

 

「お前は内通者も救いたいのか」

 

「あの魔王気取りは、ロクでもない手段で従えるんだ」

 

 はあコイツは全く。

 

「分かったよ、林間合宿終わるまではまってやる。

 だが条件が三つある」

 

「条件?」

 

「一つ、林間合宿で起こるコトは説明しろ、つーか何か起きたら俺に頼れ」

 

「分かった、僕は君を頼るよ」

 

「二つ、遺書なんてフザけた物は破り捨てろ」

 

「分かった、オールマイトにも叱られたしね」

 

「三つ、未来日記を書け」

 

「未来日記?」

 

「それに書いて本当にしろ、テメェは好かれてる女連中に囲まれて、最高のヒーローに成るってな」

 

「勝己」

 

「林間合宿までだ待つのは、その後全部話してもらうからな」

 

 納得はしてねえ、けどコイツの葛藤くらいは受け入れよう。

 コイツがやりきるまでやらせたら助けてやればいいのだから。

 

 

 

 ちなみに期末テストで俺らは合格扱いらしい。

 試験時の内容も根津校長とリカバリーガールのみで秘匿するのだと。

 師匠は雄英高校に居ることは納得してくれた。

 ただ、死ぬことだけは許さないと念をおされたが。

 なお、単に俺より強いからとスイリューを推薦したオールマイトは重傷な俺の姿に驚いて。もろもろ終わったら説教されるらしい。

 

 

 

 

 



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43話

  

 期末テストが終わって翌日。

 激怒したオールマイトによる死ぬ三歩手前くらいまでの重傷もリカバリーガールとタンクトップにより完治して僕は何事もなく登校した。

 グラントリノに相談していた内容。

 僕の考えていたオールフォーワンとの戦いにおいての役割は、許されることではなかったのだ。 

 自分の命を軽んじていたのではない。

 単に僕は、起こり得る悲劇にびびって楽になりたかっただけなのだ。

 僕の行いは、覚悟を模した逃避に過ぎなかっただけだと思い知らされた。  

 私達の力を信じてくれと、泣きながら抱きしめてくれたオールマイト。 

 ボロボロにされても共にヒーローになりたいと言ってくれた勝己。 

 それだけじゃない、皆そんな風に僕を思ってくれると認識すると、どこか心が軽くなった。

 明日が来るのが怖い、そんな当たり前を受け入れることが、僕はできた気がしたんだ。

 だから、

 登校してすぐに教室で正座させるのは勘弁してください勝己様。

      

「出久テメェ、俺がなんで怒っているか分かるよなあ」

 

 すいません、心当たりしかありません。

 昨日の件かな?いや皆には期末テストのこと話さないって言ってたし。

 すいません、心当たりしかありません。

 

「コレだ、コレ」

 

 トン、トン、と右手に持った綺麗な布で包まれた箱を左手の人差し指で叩きながら見せつけてくる、

 お弁当ですね分かります。

 柄的に実家のヤツじゃないね、勝己のお母さんは新聞で包む性格だし。

 後ろに居る轟君のやりとげたぜ、ってドヤ顔からして冬美さんが作ったお弁当かな?

 梅雨ちゃんの先手取られたって表情(芦戸さんは期末テストがアレでそれどころじゃない)からして確定だよね。

 

「お前の入れ知恵だな?」

 

 年上お姉さんの手作り弁当なんて全男子のご褒美じゃん。

 そして冤罪だ。

 

「ソレは夏雄さんの彼女さんのアイデアです」

 

 レシピ習いに来た冬美さんがそう言ってたよ。

 

「いやどこまで話し広がってんだよっ!」

 

 弟の彼女なんて普通に他人だしね。

 どこまでって、豚神さんに匿われている燈矢さんから事実確認されるくらいの範囲かな?

  

「大丈夫だ、義兄さん」

 

 轟君、それあかん発言。

 

「きちんとお弁当の中には好物のぼたんこしょうの肉詰めも入っている」

 

 ここで親指突き立てて言うとか彼も変わったね。

 ちなみにぼたんこしょうはピーマンサイズの唐辛子という罰ゲームに使いそうな野菜。マイナーだけど辛いから好物なんだよね勝己。確かピーマンの肉詰めと勘違いしたお父さんが被害受けたとか。

 

「なあ、なんで俺の好物が轟家に知られてんだ?」

   

 いや悪いとは思うけどさ、勝己。

 梅雨ちゃんもメモしてるけどさ。

 

「ねえ勝己?

 年上の眼鏡かけたお姉さんが気になる男の子のために好きなモノを作ってあげたいって、もじもじと頬を赤らめながらレシピを聞いてきたらどう思うよ」

 

 こないだ事務所に訪ねられて来て、その場にいた(ジェントル愛連中)以外のタンクトッパーがノックアウトされたからね。ついでに勝己に嫉妬してたけど。

 

「最高だと思、っは」

  

 人類なら例外除いてそう思うよね。 

 意地で正気に戻ったみたいだけど。

 

「まあ同じことラヴァーが聞いてきたらためらわず警察に通報するけど」

 

「マトモ紳士のホクロの数まで知り尽くしているあの人には必要ないだろ」

  

 出会いがネット動画をハッキングしての住所特定だしねあの人。

 

「外堀うめられているみたいで、気分悪いだろうけどこっちも断われないよ。真剣みたいだし」

 

 むしろ一週間くらいの付き合いでなんであそこまで入れ込ませられるかな、このスケコマシ。

 

「好かれて悪い気はしねえよ、けどまだ高校生だぞ俺は」

 

 高校卒業後即入籍はハードル高くて怖じ気つくよね。

 

「まあ、いつものからかいじゃねえならお前責めんのも筋違いだな悪かった」

 

 いや日頃弄り倒しているから妥当な扱いだと思うよ、なのにきちんと謝れる勝己は凄いよね。

 

 

「ところで」

  

 どしたの爆豪弟(仮)君?

 

「アイツらお通夜みたいだな」

 

 他の皆が必死に目をそらしてたのに。これが天然か。

 見ればそこには絶望顔の、芦戸さん上鳴君。

 明確に不合格なチームだ。

 校長先生相手は力押しできても厳しいと思うけど、勝ち筋が設定されてたのかな?

 

「皆、土産話っひぐ、楽しみに、ううしてるっがら」

 

 泣きながら言う芦戸さんに罪悪感ヤバいね、特に僕と勝己は。

 

「まだわからないよ、どんでん返しとかよくやるしこの学校」

 

「緑谷それ口にしたらなくなるパターンだ」

  

 でも相澤先生、常識破り大好きだし。

 

「試験で赤点取ったら林間合宿行けずに補修地獄!

 そして俺らは実技クリアならず!

 これでまだわからんのなら貴様らの偏差値は猿以下だ!!」

 

 黙れ学力最下位が、君は筆記もギリギリだろうが。

 

「落ち着けよ長え、わかんねえのは俺と切島もさ。

 俺は峰田のおかげでクリアしたけど寝てただけだ。

 切島も砂藤が機転効かせたからクリアしたけど足を引っ張ってたしよ」 

 

 そういえばそうだね。

 瀬呂君はミッドナイト先生の眠り香で膝枕。

 切島君は真っ向勝負にこだわってたのを砂藤君が注意して、最後は硬化した切島をぶん投げてセメントス先生にぶち当てたよね。

 砂藤君はタンクトップ事務所でタンクトップベジタリアンに強化の仕方を教わって、砂糖の種類で強化箇所を変えれるようにしたんだよね。それで聴力強化で擬似的な感知もできるようになったとか。

 

「とにかく採点基準が明かされてない以上は」

 

 意外と分析タイプだね、瀬呂君。

 

「「同情するならなんかもう色々くれ!!」」

 

「タンクトップならあるけど?」

 

「「いらん!!」」

 

 そっか残念。

 

「予鈴が鳴ったら席につけ」

   

 おはようございます相澤先生。  

  

「おはよう今回の期末テストだが、残念ながら赤点が出た。したがって林間合宿は全員行きます」

 

「「どんでんかえしだ!」」 

 

 もう相澤先生の言葉は逆にとらえるべきだろうか?

 筆記はゼロだったけど、実技で、芦戸さんと上鳴君にやっぱり瀬呂君と切島君が、赤点だった。

 追い込む為に行けないと合理的虚偽したけれど、強化合宿でわざわざ場所を変えるのだから実技主体な筈、実技試験で赤点ならなおさら必要だろうね。

 しかし喜ぶ赤点集団にトドメをさすのが相澤先生。

 赤点組は学校に残って補修よりキツいみたいだ。多分睡眠時間を削るのかな?

 

「何はともあれ、全員で行けて良かったね」

 

 尾白君は特にクラスの和を気にしてるしね、勝己ともそんなとこで仲良いし。

 一週間の強化合宿。

 皆色々準備必要みたいで、買い物に誘われたけど。

 

「タンクトップ一つで充分だよ」

  

「山籠りには慣れてるしな」

 

 僕と勝己は必要な物は持ってるよね。轟君はお母さんのお見舞いいくし。

 

「ノリが悪いよ空気読めやKY男共!!」



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44話

 

「ってな感じでやってきました!」

 

 県内最多店舗数を誇るナウでヤングな最先端!

 木椰子区ショッピングモール!

 

「なあ、俺は別に必要なもんねえって」

 

「一人で無人島に流れ着いてもタンクトップがあれば大丈夫だよ」

 

 クラスメートが盛り上がる中、テンションの低い二人の若人。それが僕緑谷出久と爆豪勝己。 

 勝己は人の多いトコ苦手だからね。

 逆ナンされるから。

 

「やかましいわKY男子共、お前ら来ねえと女子が参加しねえんだよ!」

 

「「それが本音かよ!というか中学時代もあったな」」

 

「「「中学時代もかいお前達!」」」

 

 なるほど必死に誘うわけだよ、女性との買い物なんてクラスメートでもそうそうないしね。

 僕たち来ないと女性陣来ないのか、言い出しっぺ葉隠さんなのに。

 でもね峰田君。

 既に両腕が芦戸さん梅雨ちゃんに抱きつかれて、後ろで耳郎さんが不満気に見てる光景とか君は認識したかったのかい?

 僕は僕で、百さんに麗日さんが距離を詰めようとしているし、葉隠さんが首に手を回して背中に抱き着いてんだよね。HAHAHA。

 

「「「このモテ男共が」」」

 

「「こっちが悪いのか?」」

 

 こうなることは察していたよ、はぁ。

 それでも酷い妬みでいじめにならないのが幸いだよ。

 そんなことする子達じゃないしね。

 しかし、私服姿でも体育祭のせいで注目されてるね。

 スマホに撮られるのマナー的にどうなんだろ?

 

「それでどうしよっか?皆同じ物が必要って訳じゃないよね?」

 

「せっかくだから順繰りに皆で回るか?

 時間もあるしな」

 

 店は山程だけどある程度エリア分けされてる、あんま来たことないし、観光がてら見物もありかな?

 

「とりあえずウチ大きめのキャリーバッグ買わなきゃ」

 

「俺はアウトドア用の靴ねえんだよ」

 

「ピッキング用品と小型ドリルってどこ売ってんだ?」

 

「峰田は入口の警備員に預けていこう」

 

 色んな意見があったので目的ごとに班分けして時間決めて自由行動となった。

 勝己は必要な物がないため芦戸さん達の荷物持ちをやるみたい。

 両腕から離れてほしいみたいだけど、来るまで間に三回逆ナンされたんだから、抱きつかれてなさい。

 

「じゃあ出久君は私達と、」

 

 と麗日さんに誘われようとしたとき、一人の青年が目についた。フードを纏った不気味な彼は、僕に意識を向けていた。

 一人になるべきだね。

 こっちを窺っているよ。

 

「ごめん、ちょっとトイレ。先行ってて居場所はタンクトップで分かるし」

 

 とりあえず一芝居売って距離を取ろう。

 

「待つけど?」

 

「時間は有限だしさ、行っててよ」

 

 気配からして危険だ。

 それに何故か、ワンフォーオールが疼く。

 けど念の為。

 

「皆を頼んだよ勝己」

 

「分かった」

 

 全てを察してくれる幼馴染に頼んだ。

 皆がバラけて一人になった所、僕は自販機に向かい。

 

「それでさ、何か飲む?」

 

「随分図太いんだな、緑谷出久。

 じゃあ腰でもかけてまったり話すか」

 

 雄英高校襲撃事件、あの脳無に指示をだしていたヴィラン、死柄木弔と僕はこうして邂逅した。

 

「だいたい何でも気に入らないんだけどさ、

 今一番腹立つのはヒーロー殺しさ」

 

「仲間、ではないよね。むしろステインは君達を誰よりも危険視していた」

 

「だったみたいだな。こっちはヴィランの先輩を勧誘したと思ったら、敵を懐にいれただけだった」

 

「脳無を保須に放ったのは嫌がらせなワケか」

 

「まあな、ヒーロー殺し様の粛清よりインパクトをだしたかったんだよ。俺達ヴィラン連合のな」

 

「その嫌がらせのためにどれだけ犠牲、とか言っても通じないよね?」

 

「気にしてたらヴィランしてねえよ」

 

「勝手だな、迷惑だよ」

 

 話してみると、記憶にある巨悪や大物ヴィランとはまるで違う存在だな。何か己に芯があって行動している輩とは違う。力を持て余し途方にくれた若者にしか感じない。個性社会によって顕在化された個性の衝動に心がついていかない青年にしか見えない。

 だからこそ厄介。

 こういった輩にこそ、巨大な悪意の塊であるオールフォーワンは噛み合い過ぎる。ヤツの存在がコイツらには芯となってしまう。

 

「なあ、なんで誰も俺を見ない?

 いくら能書きたれても結局ヤツも気に入らないものを壊しただけだろう。

 俺とは何が違うと思う、緑谷?」

 

 問いかけね。

 けどさ、答えは決まっている。

 

「変わらないさ、お前達は他者を踏み躙る、衝動に呑まれただけの悪党だ。

 目立つ云々は知ったことじゃない、理想なんぞ関係がない。騒いでる連中は単にネタが欲しいだけだろ?」

 

 ステインの信念理想は一理ある。

 だが、アイツの存在を認めてるヒーローなんていないんだよ。

 

「は、それでヒーロー志望かよ。

 お前ってこっち側じゃねえの?」

 

「僕は誰かに手を差し伸べる為にヒーローになる。

 娯楽として大衆を満足させる為じゃないよ」

 

「何か、分かるかもと思ったんだけどな。

 お前とは噛み合わないな」

 

 死柄木弔はそう言って立ち上がり、去ろうとする。

 

「逃すと思うか?」

 

 僕は構える。

 コイツはヴィラン、そして危険だ。

 

「黒霧に脳無を配置させてある。追ったら暴れさすからな。お前と爆発野郎ならなんとかできてもいっぱい死ぬぞ」

 

「くっ」

 

「結局オールマイトなんだろうな。アイツのヘラヘラした面が気に入らない。

 お前や無個性ヒーロー共は噛み合わないけど、とりあえずオールマイトを潰してから考えるよ」

 

 ヒラヒラと手を振りながら死柄木弔は去った。

 

「すいません、会話内容は伝わりましたか?」

 

 僕は電話を繋いだままの塚内さんに話しかける。

 

「ありがとう緑谷君、けれど追跡はしないでくれ。

 騒動にしないでこちらで対処にあたる」

 

「しかし」

 

「何もなかった、今回はそうするべきだよ。

 転移個性なら対処できないしね。

 雄英高校にはこちらから伝えておくから君は休日に戻ってくれ」

 

 言っていることはわかるけど。

 

「騒動を起こし名をあげるのが目的なら、こちらも騒ぐべきじゃない。有益な情報は手に入り犠牲者はいない、ならそれで良しとしよう」

 

「分かりました」

 

 単なる遭遇、そして死柄木弔自体は捕えるにはまだ足りないのか。

 落ち着かない気分を抱え、僕は皆と合流し休日を楽しんだ。

 これから起こるであろう騒動を予感しながら。

 

 

 



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閑話、尾白視点

 

 緑谷と爆豪がモテモテだったショッピングモールでの買い物の翌日。

 いつものように雄英高校へと登校していた。

 期末テストでの悲劇やら喜劇やら合理的虚偽を乗り越え一学期も残り僅か、初夏の趣きのさわやかな天気を、

 

「タンクトップっ!」

 

「「「タンクトップっ!」」」

 

 さわやかな、

 

「タンクトップっ!」

 

「「「タンクトップっ!」」」

 

 さわ、

 

「タンクトップっ!」

 

「「「タンクトップっ!」」」

 

 さわやかな朝を台無しにした爆走するタンクトップ同好会を見ながら登校する。

 先頭には当然緑谷。

 朝から自主練に励んでいるようだ。

 あと三周とか言っていたから、広大な雄英高校敷地周りを朝のホームルームまでに三周するらしい。

 来年の体育祭も荒れるのかな?

 自分も自主練に励もうと誓った朝だった。

 

 ショッピングモールで緑谷がヴィラン連合と接触してたらしい。そのため合宿は例年とは違う場所で、当日まで秘密とのこと。警察の指示とはいえ黙られていた事実は不満だけど、それも楽しい時間を台無しにしたくない緑谷の気遣いなんだろう。

 そういった点でも差を感じてしまうなと思った。

 

 午前中の授業は普通、マイク先生が滑るくらいでテスト後のため復習程度だった。休憩時間に飯田が今夏のトレンド眼鏡特集を、轟が最新タンクトップのカタログを読み込んでいることが無駄にインパクトがあった。

 

 そして昼休み。

 武術関連で仲の良い爆豪と昼食を取ろうとしたら、爆豪はそれどころじゃなかった。

 机の上には10個はある弁当の山。どうやら轟のお姉さんの弁当の件で爆豪に気のある女性陣が対抗してきたみたいだ。

 

「それにしても多くないか?」

 

 いただきます、と手を合わせ一言呟いた爆豪に聞いてみた。芦戸に梅雨ちゃんに耳郎が用意しても数が多い、まさか二つ用意したのか?

 

「となりのB組の女子と普通科の女子からもあってな」

 

 どうやらクラス内からだけではないらしい。

 黙々と時折メモをとりながら食べ進める爆豪はそう答えた。

 確かに体育祭での爆豪は格好良かったし、普段の爆豪を知ったら余計に惚れるだろう。

 無個性ヒーローの豚神さんとの食事で大食いなのは知っていたが、あっさり食べてるな。

 

「けど勝己」

 

「どうした出久」

 

 緑谷は緑谷で八百万から渡された巨大な和塗りの弁当箱、重箱の一段だけみたいな物の包みを開けながら言った。爆豪にとって無視できない発言を。

 

「轟君からの弁当は、轟君のお姉さんが渡して欲しいから頼んだと広めた方が良いよ?」

 

「できるか、ただでさえ妬まれてんのに」

 

 確かに全校男子生徒に睨まれてるよね、醜い嫉妬で。

  

「轟君が同性恋愛的に渡しているって噂が、」

 

「この弁当は轟君のお姉さんが俺のために作った弁当ですっ!!」

 

 全校に伝われとばかりに叫びだしたね。

 モテるのは許容できても同性愛ネタは嫌だよね。

 緑谷は幼馴染に助言を終えると弁当箱の蓋を開ける。

 そこには、

 例えるならそう、純白の雪景色に咲く一輪の紅い花。

 そんな景色が弁当箱を彩っていた。

 そうそれは、古き良き日本の弁当。

 

「日の丸弁当だね」

 

 いや米の量。

 何してんだ八百万、せっかく麗日が貧乏で、葉隠が料理苦手な中のアピールチャンスで嫌がらせ?

 するとヒラリヒラリと弁当箱の蓋から紙切れが落ちてきた。そこには、

 

(マトモに食べて頂けるのはこれが限界でした)

 

 と血文字で書かれていた。

 八百万がケガしている様子がないから多分使用人が書いたのかな。

 お嬢様らしいアレな料理でもしたのだろう。

 色々察した緑谷も手を合わせて食事を開始した。

 しかしそんな状況を見過ごすほどクラスの男子達は無情じゃない。

 醤油、ウスターソース、マヨネーズ、ケチャップ、色んな調味料を緑谷に渡していた。

 純白の大地(白米)に優しさ(調味料)が染み渡る。

 なんと美しい景色か。

 いやおかず分けてあげたら?

 

「「「女子に弁当もらうヤツに卵焼き一片だろうともやるきはねえっ!!」」」

 

 あ、嫉妬はきっちりしてるんだ。なんかほっとした。

 ちなみに女子はこの場にいない。

 他の女子の手作り弁当を食べている時にいたら、気になって仕方ないみたいだからだ。

 そんな見ているだけで疲れる昼食を終えて、午後の授業に臨んだ。

 

 

「オールマイトが、男子生徒をお泊りデートに誘っとるーーー!!」

 

 五限が終了した(今日は座学)休憩時間、トイレに行く生徒を見てたら廊下からそんな叫びが響き渡ってきた。

 声の主は麗日?

 緑谷を追っかけてたような?  

 

「誤解だから麗日少女!!」 

 

「だって一緒にIアイランドに行こうて」

 

 それって確か夏休み期間にあるイベントの、Iエキスポの会場だよな?

 教壇の影で寝袋に包まっていた相澤先生がうっとおしそうにもそもそと這い出し教室からでる、しばらくして捕縛布で拘束した麗日とオールマイトを引きずって戻ってきた。

 回収中に話は聞いたのか。

 麗日には、大騒ぎしましたと書かれたパネルを首からかけられ教室の端で正座させ、その横に紛らわしい言い方しましたと書かれたパネルをオールマイトにかけて正座させていた。 

 どうやら、オールマイトがIアイランドに招待されたから緑谷も一緒にどうかと誘ったらしい。アメリカ時代の相棒が緑谷、というかタンクトッパーに興味あるようで来てほしいらしい。

 解剖されないよな?

 タンクトッパーって個性研究者を発狂させてるって噂だし、緑谷ってタンクトップ着たら個性が目覚めたとか言われてるし。  

 しかし緑谷は体育祭の副賞でIエキスポの招待券があるからどうせ行く予定だと応えていた。

 けど個別に招待されるなら副賞を譲っても構わないかと相澤先生に訪ねたら、体育祭上位なら良いよと返された。なので緑谷は爆豪にソレを譲っていた。

 が、ここで問題が発生した。

 副賞の招待券は連れを一人誘えるのだ、その座を求めて女子達が色めきたったのだ。

 八百万に轟と飯田は実家関係で行く予定があるから、皆を誘えると告げたが、爆豪のペアとなり参加では意味合いが異なる。そうペアでありパートナーとして世界のトップヒーロー達の参加するイベントに行くのだから。

 なおそれを知った爆豪が、緑谷に謀ったなテメェという顔を向けていた。

 流石に気まずいのか緑谷も顔をそっとそむけた。  

 同じトラブルは緑谷も起き得たからだろう。

 熾烈なジャンケン合戦を芦戸が制し、ホテルも同じ部屋なのかな?と照れながら爆豪に言っていた。

 峰田上鳴は血涙を、蛙吹耳郎は殺気を、他の生徒は嫉妬と同情の視線を向ける中、爆豪は一人口の端から血をヨダレみたいに垂らしていた。ストレスで胃が逝かれたのだろう。芦戸は嫌ではなくとも、高校生の異性との同室で起こるだろう風評にまで思考がいったようだ。

 なお相澤先生が異性なら部屋は別だよの発言で場は収まった。

 このタイミングを狙ったのかな? 

 なお、この件でクラスの皆でIアイランドに行くことが決まった。

 サポート科でなくとも行く価値はある場所だし、せっかくだから行こうと、八百万が招待券を手配してくれるみたいで申し訳無いが。

 ちなみに既にアルバイトとして行く予定だった、峰田と上鳴はこれ以上無いくらい落ち込んでいた。さらにアルバイトの辞退は絶対不可、雄英高校生徒だから採用されたのであって勝手辞退は雄英高校の名に傷つけるだけでなく、両名のヒーロー候補生としての今後にも関わるらしい合掌。

 

 クラスメートの皆での夏休みのイベント、林間合宿前に楽しみが増えたな。

 



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劇場版 二人の英雄

 

「あそこがIアイランドですか」

 

「そうだよ緑谷少年、流石の君も初めてだろう?」

 

 眼下に広がる人工の島。

 混沌としつつもどこか計算され尽くして作られたかのような島は、世界屈指の研究機関というよりはアミューズメントパークを思わせた。

 いやそれが狙いなのかも知れない。完全に封鎖された場所だからこそ見える所は楽しげにしたほうが良いし、研究と言ってもヒーローのサポートアイテムが中心、見栄えよく、人気がでるようデザインは昨今のサポートアイテムの必須項目だ。

 オールマイトと二人で行くことに憧れの人と行く興奮があるが、麗日さんの皆で行ったらいいやん、というジト目が思い出される。オールマイトの時間制限、僕との後継者としての関係、皆にいつか伝えることができるのたろうか。

 

「あそこで私のアメリカ時代の相棒、デヴィット・シールドが研究者として働いているよ。最近まで入院していたけどもう大丈夫だ」

 

「入院ですか?」

 

「タンクトップについての研究で胃を壊してね」

 

「流石にタンクトップを着たら個性発現は無理あったんですよ」

 

 僕の個性発現の言い訳、それが起こした研究者達の暴走発狂は一時大混乱だったみたいだ。

 

「それについては散々説教されたからねHAHAHA」

 

 根津校長マジギレして全身の血管浮き上がってヤバい薬打ち込まれたマウスみたいになってましたね。

 

「こっちとしてもそんな過剰反応することかな、って気分ですよ」

 

 タンクトップを着こなしたら強くなれるなんて、毎日日が昇るのと同じくらい当たり前なのに、なんで入院するくらい研究するのかね。

 

「いやサポートアイテムの存在意義がね」

 

 まあ僕自身タンクトップあれば他はいらない感覚なんだよな。

 体育祭以降発目さんに付き纏われたけど、サポートアイテムより鍛える方が良いし。

 

「とにかく、せっかくの機会だ。

 私の友人にも会ってもらいたいし、最先端に触れることはヒーローとしても有意義、それにIアイランドは楽しい場所だからね。存分に見て回ろうか」

 

 と偶には師匠らしいこととかしたいし、とポツリと呟いた。結構気にしてるよねオールマイト。

 人前に長時間居るからマッスルフォームの維持が大変だよと本人は笑っているけど、これオールマイトは気づいてないようだか今回の式典でプログラム変更してオールマイトも出ることになるんじゃないかな?平和の象徴ってそんな存在だし。

 

 コスチュームに着替えて空港からでる。

 飛行機から見ても思ったが圧倒される景色だ。観光客も多いし、ちらほらとヒーロー達もいる。普段自国からでないトップヒーロー達までいるのはそれだけレセプションパーティが重要な催しだからだろう。

 

「待ちあわせの場所まで少し歩こうか」

 

 オールマイトの言葉に頷いてあるけば、そこは平和の象徴。たちまち多くの人に囲まれて抱きつかれキスをされる。そこら辺はアメリカ的なのかな?と偏見混じりの感想を抱くけど、巻き込まれたくない僕はタンクトップステルスで気配を消して騒動が終わるのを待った。

 

 人工ながら見栄えの良い川を眺めながら約束の人を待つ。オールマイトのせいで遅れるかなと思ったけど、まだ待ち人は来てないようだ。

 

「オジサマー!」

 

 ガションガションと音を立てて現れる女性。

 オールマイトも親しげに抱きつき、招待してくれてありがとうと告げる。

 17歳とか言っているからデヴィット博士の娘さんだろうか?

 しかし、

 

「光源マイト」

 

 まさかオールマイトがそんな趣味だったとは。

 どうりで独身な訳だ。

 

「光源マイトッ?!、緑谷少年君は何か誤解してないかね?!」

 

「いえ、愛の形は人それぞれですから」

 

「明らかに誤解してるヤツ! 日本と外国はスキンシップに差があるんだよ!

 彼女は私の親友の娘で私にとっても姪みたいな存在なんだよ!」

 

「メリッサ・シールドです。よろしくね」

 

「初めてまして雄英高校一年緑谷出久です」

 

「無視?!」

 

 ひとしきりオールマイトをからかったけど、やはり弄るなら勝己だよねと思い、メリッサさんと雑談する。

 金髪眼鏡美少女にコスチュームをマジマジと見られるのは恥ずかしいものがあるけど。

 将来のヒーロー候補とかこそばゆいよね。

 ちなみにタンクトッパーだよとオールマイトが告げたら、

 

「解剖させて!!」

 

 と目をキラキラさせて頼んできた。

 いやだから研究者にとってどんな扱いなのタンクトッパー。

 

「せめてデータを取らせてー!!」

 

 としがみつく彼女を引き剥がしながら、約束があるんでしょと説得する。

 

「生タンクトッパーなんて希少な存在なのー!」

  

「タンクトップを着た一般人だよ!!」

   

「HAHAHA緑谷少年、サーナイトアイのジョーク並に笑えないよソレ」

  

 オールマイトまで!!

 だからタンクトップを着こなしたら強くなれるのは当たり前だろうが、離せって。

 美少女に抱きつかれても嬉しくないこともある。

 微妙に世知辛い事実を知った気分だよ。

 というか、やっぱり発目さんの同類じゃねえか?! 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、デイブ!」

 

「トシ、来てくれたか!」

 

 再会し抱き合うマブダチ二人。

 そういえばオールマイトとこんな距離感の人って初めてみたような。

 名前で呼び合う当たり本当に親しいんだね。

 あの後研究室でデータを取らせることを確約してなんとか引いてもらった、解剖はされません。場合によっては滞在期間が伸びるかもだけど仕方ない。マスターが仕事以外でヒーロー関係と距離置いてるのはコレが理由かも。そういえばIエキスポの招待状も届いていたけど断ってたような、できればタンクトップガールとデートも兼ねて参加して欲しかったのに。ちなみに何気に毎年参加してた超合金クロビカリはエンデヴァーの依頼があって不参加で、豚神さんに至っては国外の移動が認められない。

 

「彼が前に病院で話した緑谷少年だよ」

 

「解剖させてくれないかっ!!元には戻すから!!」

 

 だから(以下略)

 

「いやーすまないね。何度もタンクトップマスターとコンタクト取ろうとしたけど、まるで取り合われなくてついね」

 

 ノーベル個性賞とってオールマイトの元相棒でもマッドサイエンティストじゃねえか。

 

「すまないね、緑谷少年。普段はこんなヤツじゃ、

 いや昔からこんなヤツだったような?

 そういえば試作コスチュームで爆発した記憶が、」

 

 やっぱりこの人も発目さんの同類じゃねえか。

 サポートアイテム関連はこんな人ばかりだね。

 やはりタンクトップこそ至高のサポートアイテムで間違いなしだ。

 

「緑谷君、君には後で調べさせてもらいたいから時間を貰えないか?解剖とかは冗談だしね。

 ただ今はトシと積もる話があるから。

 メリッサ彼にIアイランドを案内してあげてくれないか?」 

 

 そういえばそろそろ活動限界か、ワンフォーオールについても知っているみたいだしその気遣いだね。

 

「わかったわパパ! ただイズクを調べる時は私も参加させてね」

 

 なんでだよ。そして名前呼び?!

 

「そうだね考えて置くよ、行っておいで」

 

 発目さん弐号と二人きりとか不安だ、タンクトップセンサーで来てるだろうクラスメートを探して合流しないと。

 

「楽しみだなー」

 

 油断したら殺られる。(解剖される。)

 



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劇場版 二人の英雄 2

 

 現在僕は研究者の眼差しを向けてくる発目さん弐号ことメリッサさんとIアイランドを見学していた。 

 彼女は僕のヒーロー名を聞いたり、タンクトッパーの生態を尋ねてきたりと興味津々のようだ。聞けばIアイランドの中でタンクトッパーは注目されている存在で、その力の謎を解き明かせば個性の新たなステージが開かれるのだとガチで信じられているらしい。頭の良い人って一周回ってただの馬鹿なのだろうか?

 そのため僕のようなタンクトッパーを狙う者が多いから注意してほしいとのこと。いや君達親子がまさにそれだからね、自己紹介かな。データを取れると確約できたから冷静になっているだけで彼女も同じ穴のムジナ、油断することなく施設を巡る。

 とはいえ真剣に将来を見据え勉強をしている彼女の在り方はタンクトッパーに通じるモノがあり、目新しい発明品のことを含めて楽しい時間だった。

 

「楽しそうやねえ、出久君」

 

 そんな中聞こえた声。気配は感じていたが、

 

「楽しそうやねえ」

 

 麗日さんが麗らかではない感じで二回言われました。

 怒ってますね、これ。こういった役どころは勝己担当だろうに。

 

「本当に楽しそうですわね」

 

「見ず知らずの女の子とね」

 

 やあ百さんに耳郎さん、オヒサシブリ。

 不機嫌なのはお二人も一緒ですが、理由は違うみたいですね。だからとりあえず、

 

「こちらメリッサ・シールドさん、オールマイトの相棒だったデヴィット・シールド博士の娘さんで発目さん弐号。今はIアイランドの案内をしてくれてる」

 

 オールマイトの相棒で驚き、発目さん弐号で色々察してくれる女性陣。体育祭でのインパクトもあるし、あれからもちょくちょくトラブルを起こしたからね彼女。

 

「発目さん?」

 

 首を傾げるメリッサさんだけど、多分会ったら意気投合しそうだよね彼女と。

 

「そっか、こっちも見学しながら爆豪とかを探してる感じ。他のクラスメートは明日の一般公開からだし」

 

 勝己と芦戸さんなんか僕が譲った優勝特典の特別招待券だから今日から見て回れるんだよね、飯田君や轟君とかの招待状持ちの人も。

 

「それでさ」

 

 耳郎さんがもじもじと言いにくそうに、自身の耳たぶであるプラグをいじりながら、

 

「緑谷の謎センサーで爆豪を探してくれない?」

 

 乙女かっ!

 自分が女らしくないと気にしている様子だが、女性らしさとはスタイルに非ず、恥じらいと仕草なり。

 こんな娘に好かれて羨ましいなと思うくらいだぞ、幼馴染よ。

 けど、

 

「タンクトップセンサーでも流石にこの島全体は無理ですよ」

 

 相手が勝己だから発見しやすいけど、範囲が広すぎだよね。

 

「そうだよね」

 

「まあ勝己のことだから芦戸さんに合わせてアクションタイプの催しを回っているんじゃない?」

 

 彼女何気に身体能力女子トップ格だし。

 

「それはありえそうですわね」

 

「美奈ちゃん動くやつ好きやしね」

 

 勝己はこういった時は相手を優先するし。

 

「そっか」

 

 耳郎さんは僕らの言葉に納得した見たいだけど、明らかに会いたいな、と態度に現れていた。

 想い人と特別な場所を歩く。

 今それを堪能しているだろう芦戸さんを羨ましく思って自分をそうしたいと思い馳せる。

 実に乙女チックだ。

 

(仕方ないか)

 

 何故か個性の危機感知が反応しているが、ここまで乙女な反応されて放置はできん。

 タンクトップ力全開、

 タンクトップオーバーセンサー。

 さあどこにいる?リア充野郎。

 ん?

   

「いたぞタンクトッパーだ!」

 

「捕まえろ、貴重な研究対象だ!」  

 

「待て、交渉が先だ!」

 

 集中していると僕を狙って集まってくる白衣の集団を感知した。

 

「って誰やこの人たち」

 

「Iアイランドの研究者の方達、ですわね」

 

「何しにきてんの?」

 

「多分希少な生タンクトッパーであるイズクを捕獲してデータを取ろうとしてるんだわ」

 

「「「何その扱い?!」」」

 

「私とパパが先約なのに」

 

「同じ穴のムジナですわ彼女、流石発目さん弐号」

 

 この人集りの中では集中もできず、さらに捕まるとロクな目に合わないことは明らかだ。

 かといってしばき倒すわけにはいかないし。

 こうなったら、

 

「ごめん耳郎さん、とにかく僕は逃げてコイツラまくから」

 

 逃亡しか手はないよね。

 僕は足に力をこめて全力で逃げ出した。

 

「待ってくれまだ話しが、」

 

「そうだ、Iアイランドの定住権とかどうだ?」

 

「今なら私の娘もついてくるぞ!」

 

「「「いやアンタ独身で娘なんてモニターの中の存在だろ!!」」」

 

「私の妻と娘を馬鹿にするな!!」

 

 後ろから戯言が聞こえるが無視して走り出した。

 

 

 

 

「ってことがあったんだよ。もう帰りたい」

 

 場所は変わってカフェ。

 散々逃げ回って撒いたのを確認した後に休憩のために入ったら、なんと峰田君上鳴君がバイトしていた場所だった。

 

「ここまで緑谷が疲れ切ってるの初めて見たぜ」

   

「オイラ達が労働に勤しんでいる中で女の子達に囲まれて楽しんでたからだよ」

 

「ブレないね、峰田君」

 

 間が悪かったよね、君達二人は。

 とはいえ、バイト代は高額で宿泊費も格安で済んでるのは雄英高校生という信頼からだよね。

 他の皆は、百さんに手配はしてもらっても自費で安くない額だしてるのに、まあそれでも雄英高校生の勉強のためだからとホテルも割引してくれるみたいだけど。Iアイランドはヒーローとその関係者にはかなり優遇してくれる場所だからね。家族とのバカンスに利用するヒーローも多いとか。

 

「ま、でも疲れてんだろ?なんか注文しろよ。

 金はもらうがな」

 

「奢れよ上鳴そこは」

 

「じゃあ、なんかタンクトップ的なヤツを」

 

「「メニューから選べ」」

 

 勝己の位置はうっすら把握したけど、メリッサさん達と逸れてしまったな。連絡でもとれたらいいんだがどうするか。

 幸いなことに、追いかけてきた科学者達は警備ロボットに連行されたけど、探し回るのもね。

 

「あ、本当におった」

 

「ね、言ったとおりでしょ」

 

「うむ久しぶりだな緑谷君」

 

 カフェでこれからの方針を決めかねていたらメリッサさん達プラス飯田君が現れた。

 目立つよう外のテーブルに居たけど、どうして居場所が分かったんだろ?

 

「メリッサさんの教えてくれたとおりでしたね」

 

「警備にはこっちから通報しといたからもう追われる心配はないよ」

 

 それであのゴミ箱みたいな形のロボット達が鎮圧弾やらスタンガンやら網やら打ち出してたのか。追われることになったらああなると知れて良かった。

 メリッサさん達もしばし休憩してドリンクを楽しんでいると、峰田君上鳴君がメリッサさんにアピールをしだして飯田君に注意されるなどのトラブルが発生。

 だから二人とも此処での勤務態度は今後に響くよ。

 基本ヒーローを立てるメリッサさんの態度は初対面ではあってもヒーロー科の皆には印象が良いみたいだ。

 僕の印象はマッドサイエンティストな発目さん弐号だけどね。美人だけど。

 BOMッ!!

 施設から爆音が響く。

 アレが体験型アトラクション施設かな?

 タンクトップセンサーでの確認はできなかったけど、勝己とかならあそこじゃないかなと提案して、カフェを後にした。峰田君と上鳴君は恨めしげに見てたけど。

 

 山、いや崖を模したステージに配置された的であるロボットを破壊しそのタイムを競うヴィランアタック。

 やはり近年のヒーローに求められるのは機動力なのかなと思いながら柵に近づくと、丁度タイミング良く勝己の登場。

 近くの柵では勝己頑張れー!!と名前呼びの芦戸さんがアピール中。悪ノリ司会がそれを発見して彼女さんが応援してますよと煽るものだから、耳郎さんの気配が剣呑なモノに。

 結果は15秒、勝己にしては微妙なタイムだけど、彼女さん発言で力が抜けたのかな?

 

「合流してたのか出久」

 

 挑戦終了後、僕たちに気づいた勝己が柵まで飛んできて合流。

 

「後は轟君かな?居るとしたら」

 

 他の皆はホテルの固まってるショッピングモールエリアとかだよね。

 

「だな」

 

 合流する必要はないっちゃないけど、せっかくなら集まりたいよね。

 

「緑谷もやったら私の勝己には勝てないだろうけど」

 

 芦戸さんや君積極的だね。

 

「いつからそうなった、単に招待状で一緒に行けただけじゃん」

 

 耳郎さんも反応するんだね。

 

「それでパートナーとして世間に認知されちゃうから、だけって大きいよね」

 

 ああ普段仲良しな女性陣に火花が、勝己は胃を押さえているし。

 

「出久、胃薬ないか?挑戦前にくれ」

 

「タンクトップ着ると治るから、薬の持ち合わせはちょっと。あっ胃に優しそうなドリンクはあるよ」

 

「すまんくれ」

 

 自販機で買った、ブッダも愛飲!スジャータの乳粥ドリンクを渡すと、顔を顰めるも飲み干した。

 いやネタドリンクにはリアクションして。

 

「ちと臭いがキツいが断食後に良さそうだな」

 

 真面目な評価じゃなくリアクションして。

 寂しさを感じながらヴィランアタックに挑戦したら12秒、まだ詰めれるね。

 すると気が抜けていたとはいえ結果が上回れたことに勝己が反応して再挑戦、10秒。

 それが面白くない僕が、ワンフォーオールの出力上げて8秒。

 額に青筋浮かべた勝己が全力でやって5秒。

 苛ついた僕も無理して5秒。

 

「「意地張りすぎでしょ、男の子かっ!!」」 

 

 もうタイムじゃねえ、どっちが先に倒しつくすかと二人同時に参加しようとして女性陣に突っ込まれる。

 最後ら辺、炸裂音と雷光しか見えなかったとか。

 観客は大盛りあがりだけど、司会の人は涙目でした。

 なお参加するタイミングを逃した轟君がしれっと合流してた。

 

 18時の閉園時間まで催しを堪能して、労働に勤しみ疲労困憊な峰田君上鳴君にメリッサさんがパーティーチケットを分けてあげたりとして、一時解散した。

 セントラルタワーに正装で集合だけど、

 正装ってタンクトップだよね?

 あっスーツ手配済ですか百さん、ハイすいません。

 ホテルに送ってあると告げられ皆と別れた。

 ただメリッサさんが少々時間が欲しいと言うので彼女の研究室まで向かった。

 そこで聞いたのは彼女の思い。

 無個性である彼女の挫折と、今の夢。

 憧れの父の姿に、サポートアイテムで人々を救う彼女の在りたい未来。

 

「分かるかな、そういうの」

 

「え、イズクも?」

 

「無個性と分かって泣いてた僕にマスターが手を差し伸べてくれたから、今の僕がある」

 

「それでタンクトップで個性を得たのよね?」  

 

「まあそれはちょっとアレだけど。 

 ただオールマイトみたいなヒーローになりたいだけから明確なヴィジョンができたんだ」

    

 今の君みたいにね。

 出合い頭のインパクトからの印象が強かったけど、彼女は誰かのために何かできる人だ。

 仲間が増えた、そんな気分だね。

 

「あっ、そうだコレ使って」

 

 笑いかけた後、何故か顔を赤くした彼女に発明品であるフルガントレットを説明されたり渡されたりしていると、飯田君の電話がかかり約束におくれそうだからと急いで着替えに向かった。

 

 ホテルの入口についたけど女性陣はまだだね。

 勝己とか男性陣とは合流した。

 女性はドレスとか大変だしね。 

 峰田君達は期待に溢れた表情だし。 

 遅れてゴメンと謝られるが格好を見れば納得。

 勝己も目を見開いて反応して、褒めこそしないが、顔を恥ずかしげにそらしたので芦戸さんと耳郎さんは満足みたいだ。

 こんな対処じゃスイリューさんに馬鹿にされるなと呆れていたら、メリッサさんも合流。  

 パーティー会場に来ていないから迎えに来てくれたみたいだ。

 真打ち登場と盛り上がるけど、確かに美人。

 皆が劣るとは思わないが、場馴れした感じとスタイルが大人らしさを強調して、一線を画しているね。

 どうかな?と僕にはにかむメリッサさんに素敵だねと微笑み返す。

 いやなんでお前は慣れてんだと勝己が突っ込むけど、超合金クロビカリに付き人頼まれるんだよ僕。

 そんな一息ついた空気を台無しにするかのように警報が響き渡った。

 慌てる僕らに流れた放送は爆弾が仕掛けられて警戒態勢に移行するというもの。

 携帯も通じない中、メリッサさんが対応に疑問を感じたため、非常階段からオールマイトと合流を提案。

 頼り切るのはどうかと思うけど、情報が一番入るのは彼だろうしね。

 

 しかしいざパーティー会場に行ったら、状況はそれどころじゃなかった。

 トップヒーロー達はオールマイトを含めて拘束され、警備システムを管理しているセントラルタワーはヴィランに占拠されており、人質は島の住人全て。

 オールマイトは自分がなんとかするからと告げられるけどやるべきことは決まっている。

 飯田君と百さんはオールマイトの指示に従うべきだと提案して、皆がそれに頷くけど。僕と勝己はスーツの上着を脱ぎ身体をほぐす。やはり正装とはタンクトップだよね。

 

「緑谷君?」

 

 飯田君の言葉には頷かず、ただ確認するように一言。

 

「勝己頼んだ」

 

「あいよ、てめえも抜かるなよ」

 

 それだけで伝わる、だからこその幼馴染。

 

「お前らどうする気だ」

 

 轟君の疑問には簡潔に。

 

「ヒーローを開放し、ヴィランを叩き潰して、パーティーを楽しむ」

 

「お前ら話聞いてたのかよ!」

 

 峰田君の悲鳴に対しても僕は、思いを告げる。

 

「危機的状況に誰かが助けてくれる。

 その誰かに為りたいから僕らは雄英高校の門を叩いたんだろ?」

 

「クソヴィランが勝ち誇る面とかムカつくんだよ」

 

 息を呑む皆を前に案を伝える。

 

「二手に別れよう、勝己は非常階段から囮役をやってくれ」

 

「どうせどっかで隔壁は降りてんだろうしな、せいぜい引き寄せるさ」

 

「いや二手ってそれ以外の道はないわよ」

 

 地理に詳しいメリッサさんが聞くが、

 

「家から締め出されたら窓から二階が基本だろ?」

 

 僕は外を指差した。

 そんなトコからどうやってと騒がれるけど、僕には可能、自力で登れるし、浮遊の個性もあるしね。

 相手が思いもしない行動とってこそ奇襲。

 後は、警備システムをなんとかすれば良い。

 

「それで警備システムの解除とかできるの出久君」

 

 麗日さんのその疑問に僕はピタリと硬直して。

 

「勝己、コンセント抜いてもう一度挿したら、元に戻るよね?」

 

「テメェを一秒でも信じた俺が馬鹿だったよ」

 

 最悪壊せばなんとか。

 

 作戦は肝心なトコで躓くのであった。

 

 

 



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劇場版 二人の英雄 3

 

「んで、言い訳を聞こうか?」

 

「一高校生が外国語の最新警備システムを操作できるわけないでしょ」 

 

「納得したが、作戦の最重要箇所だろうが阿呆」 

  

 返す言葉もない。 

 流石にコンセントのくだりは冗談だが、警備システムをなんとかしないことにはプロヒーロー開放どころか、島にいる全ての人の命に関わるのだ。 

 警備ロボットに攻撃命令をだされたらどんな惨劇となるか。

 

「となると警備システムをなんとかできる人を探して助けるとか?」

 

「警備室に血の雨降ってなきゃいけそうだが、治療手段がねえ」

 

「いっそ壊す?」

 

「パソコンの勉強やり直せ」

 

 二手に別れて警備室に向かうことは問題ない。

 だが足りないのは専門知識、こればかりは個性ではなく学ばないとなんとかできない。

 

「あの、」

 

 するとメリッサさんが手を上げていた。

 

「私ならシステムをなんとかできると思う。

 大元はパパの作ったものだし、見たことあるの」

 

 それなら書き換えられたシステムをなんとかできるかもしれない。

 けど問題として、

 

「なら決まりだ。八百万ベルト作れ、頑丈なやつ。

 出久とシールド女史が外から潜入し奇襲後に警備システムの奪還。

 俺達が非常階段を登って真正面からヴィランの目を引きつつ警備室に向かう」

 

「勝己それだと」

 

「シールド女史が危険だとでも?

 相手がデヴィット博士を連れていった以上どこにいても同じだ。人質にはうってつけだしな。

 警備ロボットに囲まれてもアウトだからお前が連れていった方がまだ安心だ」

 

 言われてみれば確かに。

 富豪やプロヒーロー達の身柄を放置している以上連中は恐らく身代金目当てではない。

 より大きな利益を生む発明品と、発明品を生み出せるデヴィット・シールド博士の頭脳そのものが目当てなのだろう。そして彼に言うことをきかせるために有効な手段が娘であるメリッサさんだ。

 

「強制はしねえ、けど自ら名乗りでた以上やる気なんだろう?」

 

「うん、私は皆を助けたい!」

 

「よし出久テメェは必ず警備室まで送り届けろ、そうすりゃこっちの勝ちだ」

 

「了解、彼女は任せて」

 

 無個性だ女性だからとは言わない、積み重ねた状況を打開できる力が彼女にはあり、彼女にやり遂げる思いがあるなら、力にならずして何がタンクトップか。

 

「俺達は無視か爆豪?」   

 

 まあ黙ってられないよな、君達も。

 

「USJの時と同じで無力だと言いたいのか」

 

 君達が気にするのは分かる、けどそういう性格じゃないよ勝己は。

 

「来ると分かりきってる奴らに確認は必要か?

 出久が囮とか言ったが両方本命、ぶち抜いて助けるぞテメェら」

 

 信じているからね勝己は、皆がヒーローなんだってことを。

 

「おらはじめる前にテメェが音頭とれや出久」

 

「ああ緑谷君なら適任だ」

 

 飯田君の言葉に皆が頷き、自然と円陣となっていた。

 

「みんなはじめる前に言っとく、今回の件学生である僕らには荷が重くやるべきことではないことだ。

 でもさ、仕方ないだろ?

 助けてくれる誰かがいないなら、誰かには僕らがなるしかない。助けたい、そんな気持ちが心に一欠片でもあるというのなら、

 さあみんなでヒーローをはじめよう!!」

 

「「「おうっ!!」」」

 

 絶対に助けだす。

 そんな気持ちを新たに僕らは動きだした。

 

 

 

「とはいえ怖いかな?これ」

 

 上空かなり高め。

 垂直なセントラルタワーの壁を登り続けることかなりの距離。懸念していた空中ドローンの気配もなく、順調に目的地へと近付いていった。

 具体的にいうとロックマンXの壁蹴りをエンドレスでやっているだけだけど、いかにタンクトッパーでもしんどいもんはしんどい。

 メリッサさんが話かけてかたのは、そんな浮遊の個性を使うか脳内で検討し始めたころだった。

 

「イズクは強いね」

 

 よく考えたら年頃の娘さんをおんぶしてベルトで体を固定するのは問題かな?峰田君血涙流してたし。

 

「私は怖い、ヒーローになりたかったとか言ってたくせにこれからヴィランと遭遇するかと思うと震えがとまらないの」

 

 彼女の言葉は当たり前のことだ、誰だって痛いのは嫌だし、死の恐怖は拭えるものではない。

 僕が平気なのは、本気で怒ったオールマイトを知るがゆえだろう。 

 恐怖に勝る感情を抱きながら戦った経験が、僕にヴィランとの戦いを躊躇わせないのだろう。

 こんなんじゃ個性あってもヒーローなんてなれなかったよね、とメリッサは僕の肩に顔を乗せながら呟くがそうは思わない。

 

「その感情を抱えながら、そんな恐怖を自分以外に味あわせたくなくてヴィランに立ち向かおうとする君は既にヒーローだよ」

 

 恐怖を知り、恐怖に打ち勝つことこそが真の強さなのだから。

 

「ありがとうイズク」

 

 メリッサの体から震えが止まった。

 何があっても守るつもりだが、彼女自身が動けるならそれに越したことはないのだ。

 

「彼処よ」

 

 指差された箇所は非常口。

 災害時救急隊が入れるようになっている仕様のため外から容易くあけることができた。

 僕はメリッサさんを下ろすと人の気配がする方向へと向かい、大きく開いた場所を見つけた。

 音もなく侵入して、入口の壁に隠れて中を伺うと其処は警備室ではなく保管庫だった。

 

「君が今回の件を企んだんだね、サム」

 

 その場にいたのは3人。

 メリッサの父であるデヴィット博士とその助手である肥満気味の男性のサムに、ヴィラン達の首領だと思われる鉄仮面の男。

 

「思い出せば、ヴィランを装った者達に襲撃させて研究成果を取り戻す提案を君はしてきてたね。今の今まで忘れていたよ。

 サム、僕は君を信じていたんだけどね」

 

 自嘲するように力無く笑うデヴィット博士。

 タルタロス並の警備にヴィランがどうやって侵入したのか気になっていたが、内部からの手引きがあれば不可能ではない。

 

「先に裏切ったのは貴方じゃないですか」

 

 裏切る?

 

「個性を増幅させるサポートアイテム、この装置と理論を公開できたらどんな栄誉と名声を得られたことか。

 なのに貴方は退院してからは、政府からの封印要請に反対もしないで納得し、せっかくの機会を不意にしたじゃないですか!

 私がどれだけお仕えしてきたと思うのです、栄誉も名声も得られないなら、お金だけでも欲しいじゃないですか!!」

 

 そんなことのために。

 

「それは親友のために創ったんだ。

 弱っていく親友が再び戦えるようにと、あの輝きを失わないために創ったんだ。

 けれど、彼は必要ないと笑った。

 いつものように平和の象徴たる笑顔でそう言ったんだっ!!」

 

 デヴィット博士は名誉ではなくただ友のためにあのサポートアイテムを創った。

 だから納得したのか、その研究を理不尽に奪われたとしても、他ならぬオールマイトがそう望んだから。

 

「それはお前には有り余るほどの名声があるからだろうが!!」

 

 納得はしないよね、こいつみたいなヤツには。

 

「さあ約束の品です、報酬は頂けますね?」

 

 ひとしきり叫んだ後、媚を売るように鉄仮面にケースを渡すサム。

 メリッサさんが出たがっているがまだそのタイミングじゃない。

 

「報酬? ああ報酬ね」 

 

 ケースを受け取った鉄仮面はつまらなそうに呟くと、逆の手に握る拳銃をサムに向けた。

 

「な、なんで?」

 

「研究しかできない馬鹿は、ものを知らないらしい。

 まともな取引するヤツがヴィランなんてするかよ。

 奪ったらタダになるんだぞ?

 博士と違ってコイツの理論を再現できるわけでもないしな」

 

 コンコンとケースを叩きながらそう言った。

 お前はいらないと言外に告げ、指先に力をこめる。

 

「ああ博士、アンタにはついてきて貰おうか?

 警備システムはこの奥でウチのモンが掌握している。娘とついでにこのデブの命が惜しければ従え」 

 

「まともな取引をしないからヴィランなんだろ?」

 

 娘のことをだされ冷や汗をかくデヴィット博士だが強がるように言う。彼は分かっている、もうどうしようもならないと。ヒーロー達が、オールマイトが拘束され助けなどこないのだと。

 

「取引?命令だ」

 

 けれどここには僕がいる。

 

「もうやめてもらうよ。ここからは僕が相手だ」

 

「まだガキがいやがったか」

 

 勝己達は充分に引き付けてくれたみたいだね。

 

「イズク君、メリッサも」

 

 驚く博士の声を聞きながら、僕は鉄仮面を見すえる。

 強いヴィラン、油断はできない。

 

「図に乗るなよガキが!!」

 

 鉄仮面が周囲の鉄を操って襲いかかるが、僕はそれを片手で受け止める。

 巨大な鉄の先端を握りながら、腹に溜まった思いを叫ぶ。

 

「返せよソレ」

 

「あ?」

 

「ソレは一人の男がダチのために創ったものだ、おまえ何かが持っていていいもんじゃない!!」

 

 オールマイトとデヴィット博士の友情の形を自身の欲望に使おうとするコイツに憤り叫ぶ。

 速やかにぶちのめし終わらせる。

 そう決意して拳を握りしめ構えれば、

 博士が鉄仮面に飛びかかっていた。

 

「イズク君、君はメリッサを連れて警備室へ!

 まだコイツの部下がいる!

 メリッサ、システムを解除してヒーロー達を開放するんだ! 私の娘ならできる!」

 

「パパ!!」

  

「イズク君きっかけは君だったんだ、君のおかげでトシと久しぶりに本音で語り合えた。

 昔のような彼の相棒に戻れたんだ!

 だから、ヒーローならやるべきことを為し給え!」

 

 倒せない相手ではないと思う、けれど確証なく一人のヒーローの思いを無下にはできない。

 

「行くよメリッサ」

 

 彼女を抱えて警備室へと走る。

 そこにはいるヴィランを倒して島を開放するんだ。

 

「仕方無え、取れるものだけで我慢するか」

  

 鉄仮面の呟きが焦燥を募らさせるが、博士の思いを優先し、僕は駆けた。

 

 

 

 

  



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劇場版 二人の英雄 4

 

「速攻タンクトップパンチ10連打ァ!!」

 

 警備室の操作盤の椅子に腰掛けていたヴィランをオーバーキル気味に仕留める。

 一応登る時にメリッサさんを固定していたベルトで縛り上げるが、個性によっては拘束が無意味なんてことは現場ではよくあることだ。確実に意識を断つまでの攻撃がヒーローに推奨されているのはそんな背景もある。ちなみにヒーロー達がヴィランを拘束する道具類は、多少の保障を政府から受けられるけど、ほぼ全額ヒーロー達の自腹で、そういった道具の必要ない拘束系の峰田君や瀬呂君、あとはB組の茨さんとかは(金の無い)ヒーロー達から大人気だったりする。拘束具はかなり高いけど消耗品の上、性能によっては値段が天井知らずなのだ。  

 僕が倒して拘束している間にメリッサさんは警備システムの解除を実行している。

 瞬く間に移り変わる画面と目で負えない速度の指の動き、僕には理解できないことを彼女はあっさりとこなしていた。

 殴打された後で個性か薬で意識を奪われている元々ここに居た警備員達を、命に別状はないか確認した後一纏めにしていたら、出来た、とメリッサさんがホッとしたように呟いていた。どうやら終わったようだ。

 

「メリッサさん」

 

「終わったわ、マイトオジサマもヒーロー達も開放されたわ」

 

 モニターを見ればパーティー会場のヒーロー達が鬱憤を晴らすかのようにヴィラン共を鎮圧していた。

 活動限界が心配だったオールマイトも大丈夫なようですぐにこちらに向かうようだ。

 

「行くの、イズク?」

 

「ああ」

 

 オールマイトがトップヒーロー達が開放された以上僕らがやるべきことをない。

 プロヒーローに任せて避難すべきだ。

 だが、

 

「パパを助けにいくのね」

 

 モニターの一画面に映しだされる屋上の光景。

 ヘリコプターに血を流す博士を引きずる鉄仮面の姿。

 逃がすかよ。

 個性社会において空中移動はリスキーだ。

 飛空系のプロヒーローには現在の飛行機類を上回る者も少なくはない。

 今さらヴィラン共が逃げても海上で捕らえられる可能性は充分にある。

 それでも、

 

「それがヒーローだからね」

  

 傷ついた人に手を差し伸べるのが、僕が成りたい存在なのだから。

 

「私も連れてって」

 

 出来ることはもうないけど見届けたいというメリッサ。

 

「もちろん、君はパートナーだしね」

 

 彼女がいなければ今回は何もできなかったのだから。

 

 

 再び彼女を抱えて駆け出す。

 屋上に辿り着いたが、既に飛び立ち空中を行くヘリコプター。

 慌てたのかドアを閉めていない状態で鉄仮面は勝ち誇っていた。

 もはや部下はいないにも関わらず、それでも目的は達成だと。

 Iアイランドなら上空の備えも万全の筈だったが、この期間は花火などのため警備が変更されている。

 直ぐに動けるのは僕だけだ。

 ワンフォーオールの強化だけでは心許ない距離。 

 ならば浮遊の個性も使用して助け出す。

 力をこめて発動しようとすると、ヘリコプターを金色の流星がぶち抜いた。

 プルス・ウルトラァァァ!!との叫びから間違いなくオールマイトだけど、広い屋上の上空じゃなかったら大惨事ですよ(汗)

 屋上に落ちて爆発とともに燃え上がるヘリコプターを背景に友を抱えて悠然と歩いてくるオールマイト。

 これで終わりか。  

 デヴィット博士は助け出し、警備システムも元に戻した。セントラルタワー内部のヴィランはプロヒーロー達に勝己、さらに復旧した警備ロボットがなんとかするだろう。

 オールマイトがデヴィット博士を下ろして声をかけようとした所で、僕はオールマイトと博士がケースを持っていないことに気が付いた。

 鉄仮面が持っていたから巻き込まれたかと思った瞬間に悪寒が走った。

 すぐさま危機感知を発動し、オールマイトを突き殺そうと迫る柱サイズの鉄の槍をタンクトップパンチで弾き飛ばした。

 だが、危険度の高い危機を優先したせいで、鉄のケーブルがデヴィット博士を拘束し引き寄せることを防げなかった。

 

「ハハ、大した効果だこの個性増幅装置はなぁ。

 触れずともここまで操作できるようになるとは」

 

 ヘリコプターの残骸地点を中心に、鉄を盛り上げた舞台に立つ鉄仮面。

 その周囲にはウネウネと触手のように鉄の棒が蠢いている。

 とんでもないモノを開発したねデヴィット博士。

 操作タイプ個性でここまで出力が上がるなら、肉体に依存するタイプの個性は発動したら爆散するんじゃないかな?

 そら研究を封印されるわけだ。博士が手掛けるならともかく、理論から模倣した場合どれだけ犠牲者が出るかわからないぞ。立証するべきではない理論、その恐ろしさと危険性を目の当たりにした気分だ。

 

「パパ!!」

 

「デイブ!!」

 

 毛糸玉のようにケーブルに包まれ拘束されるデヴィット博士、その姿を見て叫ぶメリッサさんに、白煙を吹き出し始めたオールマイト。彼はもう限界だ、それでもプルス・ウルトラでやりきってしまいそうな気がするが、これ以上はやらせられない。

 いや必要もないか。

 二人の前に立ち、襲いかかる鉄の槍の群れを流水岩砕拳でいなしながら僕は確信する。

 駆けつけてきた気配達を感じたから。

 

「旋風鉄斬拳」

  

 屋上に空いた穴から爆炎を巻き上げ飛んできた彼は、広げた両掌を渦巻くように振るう。

 如何な原理かそれだけで強靭な筈の鉄のケーブルは切り刻まれ、拘束されていたデヴィット博士が宙に投げ出される。そこへ現れた氷のレール上をエンジンで加速した飯田君が駆け抜け博士を受け止める。

 そして現れるクラスメートであるヒーロー達。

 誰一人欠けることなく、せっかくの衣装がボロボロだったり頭皮から血を流したりウェイだったりするけど、彼らは此処に辿り着いた、ヒーローとして此処に来た。

 

「ったく何してんだ出久。後続が追いついちまったじゃねえか?」

 

「なーに、君は見せ場を外さないって知ってるからね」

 

「へっ」

 

「ところでいつ旋風鉄斬拳なんて体得したのさ?」

  

「体育祭後にボンブさんが、ライバルが流水岩砕拳を使うなら教えてやるって話かけてきてな。

 人にゃ使えねえが打撃が効きにくいこういった時は便利だな」 

 

 いやこの短期間で体得できるシロモノじゃないんだけど、相変わらず天才だな勝己。

 

「後はアレだけか?」

 

 僕の横に立ち、勝己は問う。

 

「ああ、博士の研究成果で強化された金属操作の個性を使う熟練のヴィラン。

 アレを倒せばお終い」

 

「厄介なのは範囲と威力だな、生身で受け止めれるヤツは今はいねえ。後ろには動けないシールド親娘にオールマイトもか?」

 

「ここまでで手傷を負ったみたいでね」

 

「ならやることは簡単だな」

 

「ああそうだね」

 

 僕ら二人は並び同じ歩幅で歩き出す。

 いつものように、いつもそうしてきたように。  

 長い年月を過ごしてきた幼馴染は、苦難を超えてきた親友は、共に競い合ってきたライバルは、

 同じ目標に向けて走り出す。

 

「轟、氷の壁だ」

 

「飯田君、君を中心に越えてきた鉄の対処を」

 

「「後ろは任せた」」

 

「行くぜタンクトップオールグリーン」

 

「勝つよバクリュー」

 

 さあ、タンクトップを締めよう。   

 これがラストバトルだ。

 

 

 

 

「なあトシ、僕は君のためにあの装置を創った。

 君がずっと平和の象徴でいられるように、あの輝きを失わないために」

 

「デイブ」

 

「友情だ、そのためだ、そこに偽りなんて一欠片もないと断言できる。

 けどね、僕はただ失うのが怖かっただけだったのかもしれない。僕の目に焼き付いた君という光を」

 

「デイブ、それは私もだ。

 いつだって考えてたさ、私がいなくなった世界はどうなってしまうのか。いつか必ずくる未来が不安で怖くてしかたなかった。

 でもね、最近は違うんだ」 

 

「そうなのか?」

 

「私なんてそれ程大したものじゃない、長い長い人の歴史のほんの一欠片。私の才覚を凌ぐ者達が今この瞬間にも産声を上げて、いずれ私を超えるヒーローになってくれる。

 安心してこの立場を引いて良いのだと、そう思えるのさ。無個性ヒーロー達にエンデヴァー、雄英高校の教え子達、そしてあの二人を見てるとね」

 

「オールマイト。そうだね。

 やれやれ自分達が替えの効かない偉大な存在だと思うのは、年寄の悪癖だね。若い頃は散々反発してたってのに。

 まあバクリューはちょっと羨ましいけどね」

 

「爆豪少年がかい?」

 

「だって私は君の相棒として支えてきたけど。

 君に並んで共に戦うなんてできなかったんだからね」

 

 

 

 

 

 襲いかかる鉄の槍?帯?筒?ケーブル?とりあえず触手状の何かの上をワンフォーオールとタンクトップで強化した肉体で駆け抜ける。流水岩砕拳では捌ききれない分は黒鞭の個性で弾く。実戦では普段使わないが、ベストジーニストとの特訓の成果は着実にでている。

 横の勝己も爆破に旋風鉄斬拳を併用して切り刻み吹き飛ばす、打撃と破壊力がウリな冥躰拳は向いてない相手だしね。

 黒鞭について気になってはいるみたいだけど、察しの良い彼は、それが林間合宿後に話す秘密だと気付き何も言わない。だからこそ存分に僕は戦える。

 

「ガキ共がァァァ!!」 

 

 後ろの飯田君達も狙っていた触手が、突き進む僕らに集中して襲いかかる。

 

「道を、こじ開けるっ!!」

 

 まずは発勁、からの、

 

「タンクトップタックル!!」

 

 発勁の衝撃で緩んだところにワンフォーオールで強化した体をぶち当てる。

 

「馬鹿が」

 

 嘲笑う鉄仮面。触手の群れの先には巨大な鉄の立方体が待ち構えていたかのように浮かんでいた。

 そのまま押し潰そうと迫るソレを前に臆する道理など有りはしない。

 

「馬鹿はテメェだ、鉄クズ野郎」

 

 爆裂震虎拳。

 実際にくらったから分かるけど、一撃の威力なら文句無しに最強な必殺奥義。タンクトップを着てなければ即死だったね。

 鍛え抜かれた勝己の拳に磨き抜かれた爆破の個性、巨大な鉄の塊程度が耐えられるものか。

 さあもう後はない、ヴィランは目の前だ。

 追い詰められたにも関わらず、ヴィランのニヤケた面は変わらない。破った勢いのまま空中を飛んだ僕らは、足元から伸びたケーブルに全身を縛られた。なるほどこれがその顔の訳ね。でもさ、

 

「もう飽きたわコレ」   

  

 旋風鉄斬拳は手首を動かせれば放てるし、

 

「何度も見たからね」

 

 体からでる黒鞭のエネルギーで壊せるよ。

 

「?!」

 

 驚いたみたいだけど、もうお終いだ。

 

「フザケンナ、フザケンナよ、俺がこの俺がオールマイトですらねえ、こんなガキ共にィィ!!」

 

 頭部につけた個性増幅装置がより輝き、周囲全ての鉄を集め巨大な柱となる。

 うんヤバいね、ビルみたい(足場のセントラルタワー程じゃないけど)

 というかアレは形的に、

 

「鉄の固まりでできた龍?」

 

「いやあの触手のワサワサ感からむしろ」

 

「「ムカデだね(な)」」

 

 いや困った、今の僕達のいかなる必殺技もアレを破壊するには足りない。無力を感じ絶望するほどの脅威であるはずなのに、何故か僕たちは顔を見合わせて笑った。

  

「狂ったか、何がオカシイィィ!!」

 

 そう僕達個人の必殺技なら通じない。

 けど今は二人だ。

 二人並んで此処にいる!!

 

「やるよ」

 

「ああ」

  

 打ち砕こうとビルのような巨体が迫る。

 僕らは二人、鏡合わせのように同じ構えをとり、流れるままに動く。

 

「旋風」 「流水」

 

「「轟 気 空 裂 拳」」

 

 放たれた技はかつて一度だけ見た、バング師匠とボンブさんの合体奥義、年経た二人には一回きりが限度と言っていた大技の威力は絶大と言っても過言ではない!!

 直撃をくらい弾き返され大きく仰け反った後、くまなく巡った衝撃が一拍遅れてその巨体を弾け飛ばす。

 

「はっ?」  

 

 信じがたい光景に呆ける鉄仮面、その頭部の個性増幅装置は出力が出しすぎたか輝きを失い、ひび割れる。

 

「「これで終わりだぁ!!」」

 

 僕の左拳、勝己の右拳、並んで打たれた一撃が今回の事件の幕引きだった。

 

 

 

「なあトシ、忘れていたんだな僕は」

 

「何をだい?友よ」

 

「どんなに絶望的だって夜は明けて、必ず希望の日は昇るってことをさ」

 

 オールマイトという光が焼き付いたその目には新たな光が見えたのだから。

 気絶したヴィランを引きずる両者に駆け寄る若きヒーロー達、日の出に照らす彼らこそ希望そのものだ。

 

 

 

 

 

 

 後日談ともいえる、その後の出来事。

 激闘の末力尽きた僕はメリッサさんに抱きしめられることになる、タンクトップ力が尽きかけているから新しいタンクトップの補充を望むが泣いている彼女は放してくれなかった。両側の麗日さんと百さんは仕方ないかという表情だったけど。

 ちなみに勝己は格好良かったと芦戸さんが大胆にも頬にキスをして、対抗した耳郎さんまでも反対側に、本人は顔を真っ赤にして気絶(疲労困憊で限界だったし)ははザマア。

 轟君飯田君は俺達も次は一緒にだと意気込んでいて、何気に元気だった。やっぱり拳法の有無が連携に関わるからね、二人の師匠になれる人いるかな?

 上鳴君峰田君はいつもの。いや頑張ったんだろうな二人とも、特に峰田君のイザという時の勇気は尊敬すらしている。

 そして駆けつけてきたプロヒーロー達に回収され病院に搬送された、それよりもタンクトップを。

 なお幸いにもオールマイトはぎりぎり活動限界は保てて秘密はバレずにすんだ。

 

 入院して半日、新しいタンクトップを着ても轟気空裂拳の疲労は抜けきれず体が重い。

 

「いや俺は指一本動かないんだが」

 

 タンクトップ着ないからだね(断言)

 ベッドに体を横たえる勝己には世話できるのが嬉しいけど、心配そうな顔したクラスメートの女性陣。

 邪魔しちゃ悪いから、Iアイランドの見学してくるね。お土産はタンクトップでいいね。

 

「待ちやがれ、せめてコイツラも連れてけ。せっかくのIアイランドを病院で過ごさすなよ」

 

 お大事に〜(笑)

 

 

 事件の主犯達は全員逮捕、ヴィランを招きいれた元凶たるサムは自室で金目のものを掻き集めていた所で捕まった。むしろ此処は出ていくことが不可能なんだよ。

 ただいかに鉄壁でも内部から招かれると危ないという意識が警備隊に生まれ、同型とも言えるタルタロスと共同で対策が講じられるようだ。

 助手の捕まったデヴィット博士も責任を問われたが、今回の騒動の被害額の全額を特許をいくつか手放すことで支払い、済んだようだ。

 もとより彼は被害者で今回の件の功労者だからね。

 

 大まかなところはそんな感じだ。

 あ、あと一つだけあった。  

 プロヒーロー達が駆けつける少し前、ドローンにて屋上の様子を探られていたらしい。

 そのため奮闘するみんなと僕と勝己の様子がプロヒーローと富豪達に見られてしまったのだ。

 個性などのヤバい情報は知られてないようだけど、僕達はまた大きく名前を知れ渡らせることになってしまったのだ。

 さらに後日編集して報道される可能性も高いらしい。

 とりあえず、上鳴君どんまい!!

 

 

 そして数日、色々な用事を終えた僕達はIアイランドを去ることになった。

 クラスメートの一部は既に帰り、残るは僕とオールマイトだけ。

 見送りにはデヴィット博士とメリッサさんがいた。

 

「ありがとう、イズク君。

 全ては君のおかげだよ。オールマイトの後継者、その大任を果たすためこれからも頑張ってほしい」

 

「博士」

  

「イズク、ありがとう。本当にありがとう」

 

 こんな勇気があり頑張り屋な素敵な女性に礼を言われるなんて、男冥利に尽きるね。

 

「また、すぐに会えるから!!」

 

「だったら嬉しいよ」

  

 Iアイランドに居るのだからそうそう会えはしないだろうけど。

 

「うん!!本当にすぐだから!!」

 

 ? 

 

「じゃあまた『すぐに』会おう!! 未来の平和の象徴よ!!」

 

 博士もやたらと強調してるな。

 責任問題は解決してもやること多いだろうに。

 別れ飛び立つ飛行機の外には未だ手をふる二人の姿が映っていた。

 

 

 




 それはデヴィット博士が入院してすぐ、個性による治療が可能のため即日退院も可能だと言われた後の事。
 彼の病室にオールマイトが訪ねてきた。

「私が友の見舞いに来た!!」 

「おいおいすぐに退院だよ、軽い怪我だしね」 

「ああ知っているともデイブ、でも君に頼みがあってね」

「君がかい?珍しい。僕にできることならならなんなりと」

 オールマイトは勢いよく頭を下げ懇願する。

「あの個性増幅装置を作ってほしい!!」

「トシ?」

「違法なのは承知だ、しかし必要なんだ。ただの一度だけ使えればいいんだ」

 その様子に博士は察する彼の目的を。

「今度こそ決着をつけるのか」

「ああその機会は近いだろう。私はその最後になるであろう戦いを万全の状態で臨みたい」

「平和の象徴としてかい?」

「次代を託すものとして、次代にその背中を生き様を見せたいのだ」

「条件がある、決して死ぬな。それだけだ。
 未来で次代の輝きを日本で共に縁側に腰掛けながら見ようじゃないか」

「デイブ」

「機関との交渉のやりようはある、他ならぬ君だし。相手が相手だ。
 勝つぞオールマイト、二人の最後の大仕事だ」

「ああっ!!」



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50話

 

 Iアイランドの騒動からしばらくした夏休み。

 今まで一度足りともヴィランの侵入を許していなかったIアイランドの大事件は全世界へ報道され、その騒動を解決した我等が雄英高校一年A組はワールドクラスの知名度になってしまった。

 ドローンに録画された映像はデヴィット博士の個性増幅装置の存在がふせられ、あの鉄仮面はワールドクラスのスーパーヴィランとして名と強さついでに罪状を大きく上げることとなる。

 僕と勝己は轟気空裂拳を放つ瞬間を撮られ、轟君飯田君達の活躍、そして上鳴君のウェイ顔がお茶の間に放送されてしまった。

 超新星達。

 USJ、体育祭と続いて僕達はそんな高いハードルで世界から見られることとなる。

 それはともかくとして僕は目の前の2枚の映画チケットを見て悩んでいた。

 タンクトップラビットが仕事のお礼として受け取ったが既に見てしまったためいらないと渡された映画チケット。

 『ウサギとカメの世界大戦、あのかけっこの屈辱を僕らは忘れない』

 のタダ券なのだが、どうしたら良いか。

 一体誰に渡せば、一番(勝己が)面白いだろうか。

 自分が誰かに渡したらトラブルの種だし、せっかくだから梅雨ちゃん耳郎さん芦戸さん冬美さんに渡すべきだろう。果たして誰が一番勝己を真っ赤にするか。

 夏休みの課題を終え、朝の鍛錬を済ませた僕は居間に座りテーブルの上のチケットを前にそんなことを悩んでいた。

 ピンポーン。

 玄関のベルが鳴った、宅配だろうか? 

 注文した限定タンクトップはまだ先の予定のはずだけど。

 気になりながら玄関を開けるとそこには、

 

「おはようございます、お隣に引っ越してきました。デヴィット・シールドです。今後ともよろしく」 

 

「娘のメリッサ・シールドです。こちら引っ越し蕎麦です」

 

 なんで居るんですか?個性社会の超VIP親娘。

 

「久しぶりだねイズク君。手続きのためこんなに時間がかかってしまったよ」

 

 半月たってませんよ、博士。

 

「ね、すぐに会えたでしょ?」

 

 君は学生の上研究室も構えてたよね、メリッサさん。

 

「とりあえず、玄関で長話もなんですからどうぞ。

 母は数日ほど留守でして」

 

 単身赴任のお父さんが久しぶりに帰国したから、二人で旅行に行ってるんだよね。

 僕も誘われたけど、夫婦水入らずを邪魔しちゃ悪いから。

 

「そうか、間が悪かったな。是非ともご挨拶をしたかったけど」

 

「私もお会いしたかったな」

  

 長期休みだから仕方ないよね。

 居間で座ってもらい人数分の麦茶を出す。夏はこれだよねと思うのは日本人だからかな?

 興味深そうに見ている親娘の姿が微笑ましくなる、まあ日本の住宅って外国と大分違うみたいだしね。

 麦茶で喉を潤し、一息つけた所で博士は説明する、どうして日本に来たのかを。

 きっかけはやはりあの事件。

 被害者で補償すらしようとIアイランドでの博士の立場は悪くなり居づらくなってしまったこと。絶対安全を謳い、科学者達の箱庭を揺るがしたことはそれだけ重いのだ。

 そしてオールマイトのこと。

 親娘揃って事情を知ってしまった今、彼を放っては置けず相棒として傍でサポートしたいのだ。正直こんな機会でもなければ博士がIアイランドから出ることは不可能だったらしい。

 仕事先についても問題はない、雄英高校のサポート科の講師として雇ってもらえたらしく、研究も雄英高校の施設なら充分とのことだ。メリッサさんもサポート科に編入するようだ。

 安全面に関しても大丈夫だ。このアパートは僕がワンフォーオールを受け継いだと知ったタンクトップラヴァーの手によって土地ごと買い取られ改造されている。

 セキュリティ面は当然として、住民たちもタンクトッパーが主だがウチの一家を除いてプロヒーローだけなのだ。ヒーロー関係限定で家賃は格安、そのため生活の厳しいヒーロー達が多く集まっているのだ。

 

「ヒーローの生活が厳しいのかい?」  

  

 その説明にデヴィット博士は疑問をもったようだ。

 ヒーロー飽和社会ではあるが、犯罪発生率の高さからヒーローは食うに困らない仕事という認識が一般的だ。

 だがこの国にはオールマイトがいる。

 彼の活躍だけでヒーローの仕事は減る。

 その上日本のヒーローは公務員扱いで副業は認められても、被害者から報酬を受け取ったり、凶悪ヴィランに対する被害者遺族からの個人的な討伐報酬が認められない。依頼をされれば、依頼人からは受け取れるが突発的な人助けに関しては、良くて特別報酬が下りるが、基本はヒーローとしての評価と査定が上がるだけだ。

 討伐報酬に関しては国からは出るが他国に比べたら安い上、ヒーローが復讐代行業になることを危惧して遺族からの報酬は禁止されている。

 暴力が許された派手な警備員、公務員な探偵、実力は世界でもトップクラスにも関わらず日本のヒーローはそんな認識だ。事務所もヒーローの数だけあると言われるほど小規模で個人企業すぎる。屋台のラーメン屋じゃないんだからとラヴァーが愚痴っていた。

 

「日本は家賃が高いですからね、けどこのマンションの共同生活みたいな感じは楽しいですよ」

 

「トシとヒーロー公安委員会のオススメ物件だったけどこれなら安心だね、セキュリティ面なら私も協力できるしね」

 

「ならラヴァーに連絡しますね」

 

「生タンクトッパーを観察できる良い環境でもあるし」

 

 あっそれもあるんですね。

 それからいくらか話したあとシールド親娘は帰っていった。林間合宿までまだ時間はあるし、彼らもまだまだやるべきことがあるらしい。

 そういえば、夏休み中にメリッサさんに学校案内も頼まれたな、クラスの皆にも声かけるか。夏休み中でも連絡すれば施設を使えるし。

 夏休み中に皆に会えることに喜び予定をたてる。

 しかしそれがあんな騒動になるとはその時僕は予想すらしてなかった。

 

 

 



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51話

注意、ギャグです。オリ設定有り。


 

「これより宗教(モテナイ男)裁判を始める!!」

 

 漆黒の衣装を纏ったもぎもぎした頭の少年が一際高い盤上にて宣言する。

 

「被告、緑谷!!

 被告、リア充!!

 判決、死刑だ!! 死刑、死刑、死刑だぁ!!」

 

 いや個性社会に宗教ネタはアウトじゃないですか?

 ミネリコ・マクスウェル司教、いや大司教。

 

「貴様は哀れだ!!

 だが許せぬ!!

 実を結ばぬ烈花のように死ね!!

 蝶のように舞い蜂のように死ね!!」

 

 テンション振り切れて、ヒーローとしてアウト発言ですよ。

 高らかに吠える彼を見ながら、僕はどうしてこうなったかを思い出す。

 単にシールド父娘が隣に引っ越してきただけなのに。

 

「さあ刮目せよ、これがモテナイ男達の力だ!!

 死刑執行!!」

 

 

 

 タンクトッパーの朝は早い。

 朝起きて体を清めると、タンクトップに感謝の祈りを捧げてからトレーニング。それが終われば朝食の支度をする。

 マンションの中央の中庭部分に他のタンクトッパーとともに竈にて湯を沸かす。

 今日はお母さんがいないから皆との朝食だ。

 

「イズク?」

 

 そんな僕達がやっていることに気づいたのかメリッサ(呼び捨てするように言われた)とデヴィットさん(お義父さん呼びは拒否した)が降りてきた。

 マンション住民達の共同での食事の準備、それはここヒーローマンション、またはタンクトップマンションの名物みたいなものだ。

 グラグラと大釜に沸いたお湯にパスタをぶちこみながら、横で大量の刻まれた余り野菜をトマトと調味料で炒めながらソースを作る。トマトは偉大だ、どんな野菜を入れても大概味を纏めてくれる。

 

「食事とか自分だけ作るの大変だからね、こうしてみんなで用意するんだよ」

 

 まとめて作った方が味が良いし、一人暮らしだと材料を使い切れないことがある。

 ヒーロー活動をしていると報酬やお礼を野菜やらお米で渡される場合も多いのだ。持て余したそれらをうまく消費するために持ち寄った材料で食事を皆で作るこんな形が定着してしまった。

 

「ん、アルデンテ」

   

 パスタの茹で加減をタンクトップアルデンテが確認してからソースを絡めて完成。

 

「メリッサ達もどう?朝食はまだでしょ」

 

 皿に彼女らの分を盛り手渡す。

 中庭に用意されたテーブルで皆で食事。

 いつものヒーロー達の朝だ。

 タンクトッパー達に、住人であるスネックさんやスマイルマン三兄弟、そして当たり前のようにいるマウントレディ。

 彼女はここの住人じゃないけど朝のパトロールついでに食べていく。定期的に食材を持ってくるから問題はないけど、料理はできない。

 今まで馴染みのない光景だったからか面食らった様子の二人も、楽しそうに話しながら食事をしていた。

 まあメリッサとの関係を勘繰られて茶化されたり、デヴィットさんの素性に結構権威とかに弱いスネックさんが平伏したりしてたけど。

 

「そうだ、イズク。夜はスイマーが貰ってきた鮭でちゃんちゃん焼きをやるから手伝ってくれ」

 

 海難系の派遣が多いタンクトップスイマーは丸々一匹魚を貰ったりする、半身は焼いてあとはアラ汁かな。

 了承した僕はメリッサと片付けをしながら頷いた。

 

 いつもの朝を過ごしたら制服に着替え、雄英高校に行く用意をする。

 今日はメリッサの学校案内だ。

 雄英高校は夏休み中だが、極一部の部活動の生徒や熱心な自主練する生徒のために許可さえとれば入ることができる。

 デヴィットさんもサポート科のパワーローダー先生に会うために行く予定だからと車を出してくれるとのことだ。約束の時間に隣を訪ねれば、雄英高校の制服に見を包んだメリッサの姿。僕の前でクルリと回って見せてくる彼女に似合っていると伝えれば嬉しそうに微笑んだ。

 妻を思い出すよ、とデヴィットもご満悦だ。

 

 

 雄英高校に到着して、駐車場でデヴィット博士と別れた。メリッサの手続きは済んでいるので僕と一緒に見てきなさいと言われた。

 とはいえ、Iアイランドで親しくなったクラスの皆が教室で待っているのでまずはそこに向かう。

 道すがらに説明しながら教室に行くが、学校は人が少ないとガランとしたもの悲しい印象が、

 BOM!!

 

 寂しい感じが、

 

 ドゴムッ!!

 

 静かな雰囲気が、

 

 ヤメロー!!発目、今日は来客がいるんだぞ!!

 だからこそ、ベイビーを魅せねばならないのです!!

 

 一切ないね、サポート科は。

 引かないで楽しそうと目を輝かせるメリッサは素質は充分みたいだよね。

 一年A組の教室につきドアを開けた瞬間、体を走る謎の衝撃を受け僕は意識を失った。

 

 

 そして話は冒頭に戻る。

 並び替えられて開かれた中央でテープでぐるぐる巻にされた僕。

 それを囲うクラスの皆の姿。

 怒り狂う人と憐れむ人と関わりたくないと顔をそらす人と反応はそれぞれ、勝己は胃を抱えて蹲っているね。

 そして吠えながらキャラ崩壊してる峰田君。

 なぜこんなことに。

 

「おまえがIアイランドの騒動終わったらラブコメ三昧だからだコラァァァ!!

 オイラ頑張ったじゃん、血だらけで頑張ったじゃん!! けどモテねえんだよちっとも!!

 なのに脈あるかと思ったメリッサさんはお前に夢中で、爆豪はハーレム介護か畜生!!」

 

 流れ弾くらった勝己が瀕死だね。

 入院での世話されたのはきつかったみたいだし。

 そしてメリッサ、頬を赤らめてこっちみないで。

 普段静観組な尾白君とかも目つき鋭いから。

 

「挙げ句同じマンションでお隣だと!?

 同じ敷地内の建物で生活なんてそれはもう同棲だと言っても過言じゃないだろ!!」

 

((((いや過言だよソレ))))

 

 一部冷静面子の突っ込みがタンクトップから聞こえるね。

 

「アレか、これから毎日おはようからおやすみまでのラブコメライフか!!

 作りすぎたカレーを届けるイベントやるのか、花火祭りで浴衣デートか、プールに行って泳ぐのか、それとも山でキャンプか、線香花火で肩を寄せ合うのか、親がいない日はお泊りか、夏休み中は二人でデート三昧か!!

 こっちは林間合宿までエロゲーライフだよ!!」

 

 峰田君、峰田君、メリッサが参考になるとメモ取ってるからネタ提供やめて。僕は残りの夏休みは林間合宿に備えてタンクトップ三昧のつもりだから、タンクトップ力を限界まで蓄積するつもりだから。というか君、

 

「夏休みの課題は?」

 

「初日に終わらせるだろフツー」

 

 真顔で返したね。

 ギクリと何人かは反応したけど、さては手つかずだな彼らは。

 意外と勤勉で勉強できる峰田君は終わらせてるのに。

 

「つまり貴様は死刑だ、死刑しかない」

 

「皆でそのイベントをやるのはどうかな?」

 

「エロゲやってるみたいにお前らのラブコメ眺めろというのか?」

 

 ブドウじゃなくてマスクメロンだね峰田君。

 

「さあ受けるがよい、リア充よ。

 これが裁きだ」

 

 にじり寄ってくる、自称モテナイ処刑人達。

 まあ暴力くらいなら仕方ないか。

 これからを考えるとオールマイトみたいに恋愛する気にはなれないから、女性の思いを蔑ろにしているのは事実だから。

 そう、これは正当な罰。

 いかなる暴力も受けいれよう。

 

「さすがに暴力は止めるぞ」  

 

「委員長としても見過ごせないな」

    

 轟君、飯田君。

 今までのもアウトだよね?普通は。

 

「フン、そんな生易しいことで許すものか」

 

 え?

 

「さあ、」

 

 峰田君は両手を広げると、

   

「そのタンクトップを脱がすのだ!」

 

「それだけはやめてくれー!!」

  

「今までで一番の悲鳴だな」

 

 

 こうして夏休みのとある一日は過ぎていった。

 騒ぎに気づいた相澤先生がひどく疲れた表情で鎮圧して罰則を課し終了。そんなに暇ならと平時の授業と同じくらいの課題を与えたとか。

 ちなみに映画チケットは口田君にあげた。

 体育祭の障害物競走の途中で助けた普通科の女子と付きあっているらしい。

 なお、残る夏休み。

 峰田君の叫びに感銘を受けた女性陣のため、僕と勝己は奔走することになった。

 まあ高校生らしくて良いけどね。

 



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52話

 

 シールド父娘も加わり賑やかさの増した夏休みを過ごし、いよいよ林間合宿当日となった。

 峰田君の発言もあってか女性陣が夏の思い出作りに熱狂してしまい、僕は百さん麗日さんメリッサ葉隠さんの四人と一緒に行動する日が多かった、雄英高校生なのに普通の高校生みたいに夏を満喫して良いのかとも思ったけど楽しい日々でした。良い思い出が出来たからハードスケジュールな林間合宿も乗り越えられると意気込んでいたら、勝己が真っ白に燃え尽きていた。

 いや今回は何もしてないよね僕!!

 口田君なんか彼女との記念なのかカバンにつけた亀の甲羅を背負ったウサギのストラップを優しい眼差しで見ているのに君は何で?

 勝己の口元に耳を近づけて、ボソボソとしたうわ言だか説明なのかを聞いてみたら、

 芦戸さんと二人でキャンプ、

 耳郎さんと二人で海、

 梅雨ちゃんと二人で縁日、

 冬美さんと二人で花火、

 拳藤さんと二人で格闘技観戦に、

 小大さんと二人で水族館に、

 それらを全て実行して精神的に疲れ果てたらしい。

 改めて見ると凄い数だね、しかもこの短期間でやりきったとか実は女性陣結託して予定管理してそうだね。

 笑えない冗談て、いやだってこれ普通被るよ予定。

 え、まだ誘われているの?他の子にも?

 さらに別口で取陰さんと角取さんから僕の連絡先を教えてほしいって頼まれてるとかって、四人相手でも手一杯だったから無理だよ僕、勝己じゃないんだから。

 ほらバス来たから乗り込もう、ね?

 B組のタンクトップパレードも挑発してるよ、A組のみんな全スルーして涙目だけど。ちなみにまだウサ耳ついてる。

 パレードを仕留めたB組の拳藤さんや小大さんも勝己に熱い眼差し向けているし、あと柳さんもだね。

 だから師匠と同じ女たらしクソ野郎と呼べって、いや君は誘いを断われないだけでしょ。

 

「女たらしクソ野郎が!!」

 

 見事な罵声ですね峰田君。

 魂籠もった熱い言葉だね。

 ああ俺はその名称が相応しいて勝己。  

 峰田君は峰田君でその後舌ではたかれイヤホンジャックされてもぎもぎ溶かされた。

 

「俺は、お前を超えるまで色恋沙汰にうつつ抜かせられないんだよ」

 

 ライバルとしては嬉しいけどそれ一生恋愛できない気が。負ける気ないというより、負けたくないし。

 ハッ、殺気。

 慌てて振り返れば女性陣(勝己狙い)から殺意の眼差しが集中していた。

 これ僕が悪いのかな?

 僕を仕留めても恋愛できるわけじゃないよ。

 人型の灰のような勝己を引きずってバスに乗せた。

 なおB組の取陰さん角取さんには結局捕まって連絡先を交換した。

 バス移動、みんなとワイワイやるのは楽しいよね。

 勝己が一番後ろの席で囲まれているけど。

 ちなみに女性陣は夏を満喫して機嫌良さそうにツヤツヤしてて、男性陣は口田君尾白君飯田君轟君障子君以外は黄昏れているね。

 峰田君はこの夏休みでエロゲーを十二本全クリしたとか、ギネスに登録できる記録なのでは?

 相澤先生が不穏な発言と空気(前フリ?)をしてるけど盛り上がったりしててみんな気づいてないね。

 一時間後、バスは見晴らしの良いトコで停車した。

 パーキングではなく、広場?

 峰田君はトイレに行きたいみたいだけど、ジュース飲み過ぎだよ。どこで止まるかきちんと言われてないのに不用心というか。

 B組のバスもないし、なんか有りそうだね。

 

「何の目的もなくでは意味が薄いからな」

 

 試験確定だねコレ。

 

「よーう、イレイザー!!」

 

 この声は、

 

『煌めく眼でロックオン!』

 

『ウサ耳映えるタンクトップ!』

 

『キュートにキャットにスティンガー!』

 

『『『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!』』』

 

 

「いや今、変なの居なかった?」

 

「ウサ耳つけたケツアゴのタンクトップおじさん」

 

「新メンバー?」

 

 その言葉にプッシーキャッツの二人は後ろを向くと腕を組んでふんぞり返る、タンクトップラビットの姿があった。 一拍後、声と拳を揃えて、

 

「「混ざるなーっ!!」」

 

「あああああああああ~!!」

 

 見事なダブルキャットアッパーでウサ耳おっさんを崖下へと殴り飛ばした。

 タンクトップ力が無駄に高いし、事務所でも実力は上の方だから大丈夫でしょ。

 あ、洸太君久しぶり。

 ご両親が長期のお仕事だからマンダレイに預けられて手伝いにきたの?偉いね。

 

「今回お世話になるプロヒーロー『プッシーキャッツ』の皆さんだ」

 

 ワイプシの愛称で知られる4名一チームのヒーロー集団で、ウチのお得意様だね。山岳救助が得意なベテランチーム。

 マンダレイの説明だと既にここはワイプシの所有地で宿泊施設はあの山の麓。

 それをこんな半端な場所で説明ってことは、

 皆がそこからの展開に気づいてバスへ戻ろうとしても既に遅い、というかバスの前の相澤先生はどうにかできないよね。

 

「悪いね諸君、合宿はもう始まっている」

 

 土流の個性は強力だな、この質量の波を一撃で吹き飛ばせる火力をどうにか会得しないと。いやワンフォーオールのパンチでいけるか。

 対処しようとする僕と勝己に、何もするなと相澤先生から抹消の個性とともに睨みつけられる。

 とりあえず怪我する人いないかだけ気にしよう。

 ピクシーボブの熟練度ならそんなヘマしないだろうけれど、高さが高さだし。

 

「私有地につき個性の使用は自由だよ!

 今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!

 この魔獣の森を抜けて!!」

 

 ドラクエめいた名称に疑問を持ち、雄英高校のやり方に服についた土を叩きながらうんざりしていると。

 尿意が限界な峰田君が土の魔獣と出会った。

 すごいよねピクシーボブ、いくらサポートアイテムでこちらを知覚していても、遠距離でこの操作とか。

 視覚の及ぶ範囲の土の操作、熟練どころじゃないレベルだよね。

 生物だと誤解した口田君の力は不発だけど、率先して動いた彼は凄い。

 襲いかかる土の魔獣は僕に勝己と飯田君と轟君で撃退した。

 目標地点まで目印もなく、山歩きに慣れてないメンバー二十名での集団移動。

 結構しんどいぞコレ。

 あと峰田君、百さんにパンツとズボン創って貰ったから茂みで着替えてきなさい。

 

 

 

 思ったより早くついたな。

 修行で山歩きに慣れている僕らがサポートしたとはいえ、皆レベルアップしてる。

 三時間をややオーバーしたけど、無事到着。

 ボロボロだけど怪我人は無し、まあいたら木の上で追跡してたラビットが救助したんだろうけど。

 上手く役割分担できたのが良かったかな。

 土の魔獣との戦闘、索敵、移動、サポートを高い水準でこなせてたし。

 

「「「お前と爆豪はロクに汚れてもいないけどな」」」

 

 流水岩砕拳の道場は、さらにド秘境だったからね。

 力無いツッコミだけど慣れだよ慣れ。

 山歩きは歩き方一つにもコツいるし。

 

 プッシーキャッツのコメントに対してもみんなグロッキーだ。

 

「しかし、躊躇なく土魔獣に対処できた君たち四人は流石に経験値が違うかな?三年後が楽しみでツバつけておきたいけど、私達にはジェントルが!!」

 

 ラヴァーに三味線にされますよピクシーボブ。

 まあ愛しのジェントルがモテることに喜んでるけどあの人。

 

「つーか、タンクトッパーも何人かいるみたいだけど出久は知らなかったか?」

 

「聞いてないけどそこら辺はヴィラン対策でしょ?

 タンクトップの感じから、ラビットにジャングルにハッターの三人だね。指導者としてより万が一の護衛かな?」

  

 感知力の高いハッターは遭難対策だとしても、ラビットとジャングルは戦闘員寄りだし。

 

「あのマトモ紳士は居ねえのか?」

 

「ジェントルは人気あるから人目引くし、一週間の期間が被ると林間合宿と関連つけられるよ」

 

 多分オールマイトもそれでいないんだろうし、いや活動限界も理由かな?

 

「学ぶことの多い人なんだがな」

  

 勝己は特に慕ってるし(恋愛に非ず)、元劣等生だけあって指導するの得意なんだよねジェントル。

 個性の扱いにも長けてるし。

 

 とりあえず昼食が夕食に成らずに済んだから、カリキュラム変更(想定外らしい)して、課題をやるぞと相澤先生が言った。先生の想定を超えたことは誇らしいけどクラスメートの皆の顔が死んだ。

 

 補修組はさらにあるって(トドメの追撃) 

   

 

 

 

 



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53話

 

 変更されたとはいえ本格的なカリキュラムは明日からだと相澤先生に告げられ、課題としてエンドレス土魔獣バトルをすることになったクラスメート達。

 昼食は疲労のため食事が受け付けなかったので軽めにすませたが、日が暮れての夕食は勢い良くかっこんでいた。大勢での食事に慣れていてそれほど疲労していない僕は配膳するプッシーキャッツの手伝いをする。ちなみに泣きながら食べる皆は聞いていないが世話をするのは今日までと言っているから、食材をチェックしてからネットでレシピを調べておくべきだろう。明日からはどんなに疲れていても食事はでてこない、市街のようにコンビニに頼ることができないのだ。

 皆でやることも大切だからカレーを最優先候補としておくが後はどうするか、さすがに毎食カレーとはいかないだろうし、やはりパスタ?

 独身ヒーローからは、一人暮らしで自炊すると丼とカレーとパスタのローテーションだよと煤けた表情で言われたが、大勢のメニューにもうってつけなんだよね。

 とりあえず明日はカレーで、それ以外は一覧を作って皆で決めよう。一人暮らしな子もいるし、勝己はレシピあればフルコースもできるくらい器用だから手伝いは大丈夫だしね。

 食事が終了したら後は風呂。

 頼まれた用意と仕込みが無駄になると良いけど。

 

 お風呂には洸太君も一緒だ。マンダレイにお世話を頼まれたのもあるし、何度かの顔合わせで僕と勝己をお兄ちゃんと慕う洸太君と一緒なのは一人っ子な僕らも弟ができたようで嬉しい。

 

「そういえばその洸太君とずいぶんと親しいな」

 

 マンダレイの親戚の子としか知らないクラスメートは疑問に思ったみたいだ。

 

「ニ年くらい前になるかな?マスターが血狂いマスキュラーってヴィランを撃退して、その時助けたウォーターホースってヒーローの息子さんなんだよ」

 

 助けたとはいえ、ウォーターホースもマスキュラーを殺す気で戦ったり、守るべき一般人がいなければ押し切れたというのが、マスターの言。

 一般人を守る、ヴィランも殺してはいけない、卑怯な手やカッコ悪いやり方は推奨されない。ヒーローは命がけの戦いの中でも制約が多すぎる。ヴィランは手段を選ばなくて良いから卑怯だ。

 洸太君の頭を洗いながら答える。ちなみに勝己だと爆破されてアフロになるとタンクトップタイガーがデマを吹き込んだせいで拒否されてしまう。後日アフロなタイガーがいたが自業自得だろう。

 

「それで親しいのか」

  

「タンクトップ事務所でも預かること多いしね」

 

 洸太君も将来タンクトッパーになると言ってるから楽しみだよね。勝己は止めたがってたけど、それで勝己兄ちゃんみたく最強になる、の一言で撃沈したし。

  

「求めてるのはこの壁の向こうなんスよ」

 

 そんな微笑ましい光景も意に返さない、それがエロブドウ峰田実。

 壁に耳をつけて音声を拾い、確認しテンションを上げている。

 

「ホラいるんスよ、今日日男女の入浴時間ズラさないなんて、事故そうこれはもう事故なんスよ」

 

 その言葉に助平とムッツリが年相応に反応する。あ、洸太君の教育に悪いから耳をふさぎたいけど、手が泡だらけだった。

 ありがとう障子君。うん洸太君には早いからね。

 飯田君が止めようとするが、これで止まったら峰田君じゃないよね、偽物だと思うよ。

 

「で、上に高圧電流でも流してあるのか?」

 

 僕の態度から対策済だと悟った勝己が物騒な事を言い出す、正直女性陣のために爆殺くらいしかねないし。

 顔を見ると洸太君いるから我慢してるけどブチ切れ寸前だね。

 

「自分でも言ってたのにね、男女の入浴時間は普通はズラすって」 

 

 まあズラしても覗きと下着ドロをするだろうけど。

 ヨダレをたらし、壁を乗り越えた峰田君。

 当然その先には、

 

「一緒に入りたいのかピョン?」

 

 対策するよね。

 

「ぎぃぃぃやぁぁぁっ!?」

 

 響き渡る覗き犯の絶叫。

 女性陣が気にするだろうからと湯船に浸からず、ポーズを取りながら待機してくれたラビットに失礼な。

 まあ美少女の裸体かと思ったら、ウサ耳(風呂でも取らない)ケツアゴマッチョオッサンいたら悲鳴くらいあげるか、覗きの分際で失礼だけど。

 

「捕まえたでピョン」

 

 あまりのショックに気絶した峰田君を捕獲したみたいだね。

 

「お疲れ様ラビットさん、すいませんこんなこと頼んでしまって」

 

「大人として当然だピョン、この少年は相澤さんに引き渡すピョン?」

 

「ええお願いします、合宿終わるまで空き時間は教員室で過ごして寝るときも教員室だそうです」

 

「寝るときも!!」

 

 なんだ起きたのか。

 

「とりあえず初犯だからこれで済みますが、二回目は強制送還プラス保護者面談だそうです」

 

「いや未遂なのにやり過ぎじゃね」

  

 確かに厳しいかもしれないけどさ上鳴君。

 これ普通は警察沙汰で林間合宿中止になってもおかしくないからね?

 なんか一部の犯罪はこの程度のこと認識されたりするよね?万引とか。

 僕の言葉に納得したみたいだけど、この場所が雇われたとはいえプッシーキャッツの善意で貸してくれてる個人的な施設だってもっと理解してほしいよ。

 用意してたドリルで壁に穴あけたりしたら弁償どころじゃないし、覗きの時点で全員叩き出されても文句言えないんだけど。

 峰田君はタオルを腰に巻いただけの格好で相澤先生に引き渡された。

 対策に協力しといてなんだけど、なんで一生徒の僕がここまでやるんだろ?こんなことやってる場合じゃないのに。

 

「そういえば聞こえた声はどうしたんだ?」

 

「アレは録音、僕がタンクトップ声帯模写して用意したの」

 

 とりあえず問題は解決したし、あとは洸太君とお風呂入るだけだね。

 せっかくの温泉なのに、ロクに入らないで覗きをするなんて勿体ないね。

 余談だけど、真っ直ぐな眼差しでお兄ちゃん達すごいね、と慕ってくる洸太君にクラスメート全員が可愛がって面倒を見るようになった。

 

 

 翌日、合宿二日目。

 朝5時半から強化合宿スタート、疲労と慣れてない時間に環境でボーとしてる人も多いね。

 全員の強化と、一年にしては異例な仮免の取得が目的な今回の合宿。

 そしてそれだけではない、具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の準備。

 相澤先生の言葉に皆が息を呑み気を引き締めた。

 

 

 

 

 

 

 



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54話

  

「個性を伸ばす」

 

 合宿二日目、B組のブラド先生が自らの受け持っている生徒達に説明している。

 

「前期はA組が色々目立っていたが後期は我々の番だ、いいか?A組ではなく我々だ!」

 

 目立ったのが実力より(一部除く)事件との遭遇率のせいだから複雑な気分だけど、ブラド先生は対抗心バリバリだね。

 不甲斐ない教え子でごめんて感じの生徒もいるようだけど、それほど生徒同士実力差はないんだけど。

 個性を伸ばすと言ってもまるで別物の個性をどう伸ばすのかわからないと取陰さんが聞いて、鎌切君が頷くけど、それが個性社会の問題の一つ。

 あまりにも多様過ぎて型にはめれない個性は、それぞれがオンリーワン。的外れな鍛錬で時間を無駄にすることも個性そのものを誤解することもザラにある。

 ヒーロー科に入学するまでロクに鍛えられないのはこれが主な理由だ(あとは環境)

 問題視される個性婚だけど、似た個性の悩みを持つ者同士が自然と夫婦になって個性婚みたく強化される事例も多いんだよね。ぶっちゃけ住居一つとっても似た個性同士じゃないと余計に手間とお金かかるし。

 

「筋繊維は酷使することにより壊れ、強く太くなる。

 個性も同じだ使い続ければ強くなりでなければ衰える!すなわちやるべきことは一つ!」

 

『限界突破!!』

 

 地獄絵図だよね、悲鳴と表情が。一部では血も流れているし。

 

「許容上限のある発動型は上限の底上げ。

 異形型・その他複合型は個性に由来する器官・部位の更なる鍛錬」

 

 いやみんなの悲鳴がね、痛いのばかりだし叫ぶと痛み和らぐけど。

 しかし方針は分かっても管理はできるのか、疑問を持つ生徒達に現れるヒーロー達。

 

『そうあちきら四位一体!』

 

『煌めく眼でロックオン!!』

 

『猫の手手助けやってくる!!』

 

『ウサ耳映えるタンクトップ!!』

 

『どこからともなくやって来る』

 

『鍛えた身体に生い茂るジャングル!!』

 

『キュートにキャットにスティンガー!!』

 

『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!』

 

 

「いや今、変なの居なかった?」

 

「虎、以外にもなんか」

 

「物間みたいなウサ耳つけたケツアゴタンクトップおじさんと、髭面のモジャモジャした感じのタンクトップおじさん」

 

「新メンバー?」

 

 というか二回目。ジャングルも参加してるし。

 再び気づいたプッシーキャッツの皆さんが、それっぽくポーズをキメたドヤ顔のタンクトッパー二人に拳を握りしめ、

 

「「「「混ざるなーっ!!」」」」

 

「「ぎゃあああ!!」」

 

 と見事なフルメンバーキャットアッパーをタンクトッパー二人に打ち込んだ。

 

「緑谷、あいつらはあんな感じなのか?」

  

 呆れた様子のブラドキング先生の問いに僕は正直に答えた。

 

「ラビットはジェントルと同じくらい自己主張強いですね、ジャングルはラビットとタンクトッパーになる前からの知り合いで弟分だから付き合ったのかと」

 

 ちなみにラビットとジャングルは元ヴィランの更生組で、ハッターとスイマーとロカビリーはヒーロー科中退組、経緯はそれぞれ違うけど今ではマスターを慕うタンクトッパーだ。

 

「ラビットさーん、ジャングルさーん、山の巡回の時間スよ、ってなんで地面転がってんスか?」

 

「趣味だ」

 

「ヨガだ」

 

「仕事中スよ」

 

 三人の中では年も実力も一番下なハッターが呼びにきたけどダメージのせいで転がったままな二人。

 

「あ、イズクさんどもっス」

 

「ハッターもお疲れ様、なんか知覚した?」

 

「いや気配したような感じなんスけど、よく分かんなくて、確認しにいこうにも肝心の二人が」

 

 ハッターは弱いからね、タイガーとブラックホールよりマシだけど。まあこの二人タンクトップ力は高いから

あと少しで全快するでしょ。

 

「ところでイズクさん訓練は良いんスか?カツキさんもなんかやってますけど?」

 

 勝己はお湯に手を浸して汗腺を広げてから爆破の威力を上げる試みをしている。武術によって実力は底上げされてるし、もともと高い水準の個性だけど伸ばす余地はあるしね。

 

「ブラドキング先生に呼ばれてね、僕としてはせっかくだから新技のエターナルタンクトップフィーバーを試したいけど」

 

 タンクトップ力を濃縮してエネルギー波として放出する必殺技だけど、威力と消耗が高過ぎるのが難点なんだよね。

 プッシーキャッツの説明が終わったのでそれぞれバラけるのかと思いきや、ブラドキング先生によって全員集められた。

 

「個性強化も大事だが、その前にトップとの実力差を知っておくべきだ」

 

 するとブラドキング先生の横に立たされていた僕の背が押される。

 

「さあ緑谷、B組皆と組み手だ。まさか怖じ気づいて断らないよな?」

 

 本当にA組に対抗心バリバリだよ、この人。放任的な合理主義な相澤先生とは対照的だよね。

 けどさ、ちょっと、

 

「さあ誰からやる?」

 

 舐めすぎだよタンクトップを。 

 

「面倒だから全員まとめてやりましょう、安心してください、手加減はしますから」

 

 ピキりと反応するB組諸君だけどさ、物間を代表に喧嘩売られ続けられてこっちも頭きてんだよ、A組のみんなは敵だなんて思ってないのに一方的に絡まれてさ。

 対抗意識だかなんだか知らないけど、吠えずに拳に実力を示しなよ。

 流水岩砕拳の構えを取り、僕はB組を迎え撃った。

 

 

 結果は言うまでもなく僕の勝ち。

 確かに優れた個性と実力の人もいたけど、地力の差が出た感じだ。個性は所詮身体能力、発動タイプはタイミング外して倒せば良いし、直接戦闘タイプは武術の心得の差が大きすぎる。また場所も悪い、入り組んだ路地ならともかく、開けっぴろげなこの場所は連携は取りやすくも不意打ちはまずできない。

 一番強かったのが、ラビットジャングルハッターの個性を合わせがけした物間だった。まあパワーあっても動きがぎこちない相手に遅れは取らないけど。

 戦いの結果に呆気に取られたブラドキング先生だけど生徒に立ち回りの反省点と個性の使い方を一人ひとりに説明していた、それをそのまま合宿の方針にするみたいだね。

 あとは広域カバーが可能なプッシーキャッツがサポートして個別訓練かな?タンクトッパー随一の防御力を誇るジャングルは切島君や鉄哲君の指導に向いているようだし。タンクトッパーもやれることはある。

 僕も自分の訓練に入り、エターナルタンクトップフィーバーを試してみたけど、ピクシーボブが用意した巨大な土の山を幾つも跡形もなく消し飛ばしてしまったから使用禁止になった。

  

 夜、みんなでカレーを作った。

 バテてるみんなはしんどそうだけど、飯田君の乗せられやすい性格が勢いつけた感じ。カレーとかは役割分担もしやすいし、固形カレールウのおかげで失敗もし難いから大抵美味しくできる。タンクトップマンションの生活で慣れてる僕と違ってみんなは火を点けての飯盒炊爨も盛りあがるしね。

 美味しくできたカレーにがっつきながら笑いあい楽しく過ごせた、疲れ果てても楽しいことをしていると元気になるよね。

 

 

 

 その夜、僕は皆が寝静まったのを確認した後一人の人物を待っていた。

 

「遅れてすまないピョン、ってふざけてる空気じゃねえな。どうした出久よ」

 

 その人物の名はタンクトップラビット、付耳兎吉。

 僕は彼に頼まないといけない、理不尽で最低で非道な願いを。

 

「明日、おそらくヴィランからの襲撃があります」

 

「となると肝試しのタイミングかね?夜でバラけてイベント中、狙うにはうってつけだ」

 

「はい、僕の個性の危機感知が一番反応している時間帯です」

 

 多分歴代の個性で一番使うこの個性は、おぼろげだが時間帯の想定でも危機の判断ができる。合宿の段階で警鐘を鳴らしていた個性は、明日が一番危険だと訴えていた。

 

「だが分かってんのか?そのタイミングを狙えるってことは内通者がいることを証明しているぞ?」

  

 僕はカレの姿を思い浮かべ、辛くなる。

 裏切るカレがいかに苦しんでいるのかを。

 

「はい、そして本題ですが。

 ラビットとジャングルに、あなた達二人に命の危険があると感じました」

 

 タンクトップの恩恵か、タンクトッパーなら危機感知の適応ができた。その結果二人が一番危険な目、いや命を落とす可能性が高いのだ、けれど。

 

「抱え過ぎだ小僧」

 

 僕のこれから言うことを察したラビットは、涙を流しうつむく僕の頭を優しく撫でてくれた。

 

「僕はお二人に、おね、お願いが、」

 

「分かってる、引かないと死ぬ状況で引かないでくれと頼みたいんだろ?」

 

 そう僕はラビットとその弟分のジャングルに死んでくれと頼んでいる。そうじゃないと、

 

「被害が増すだろうしな」

 

 納得した表情でラビットは頷いてくれた。

 

「抱え過ぎだ小僧、そんな状況なら元より引かねえよ俺達は。だからお前のせいじゃない、気にすんな」

 

 そうは言っても、そうは言っても!

 

「んでお前自身はどれくらい危険なんだと、って聞くまでもないか?あんだけ説教されてもお前も引くつもりないんだな?」

 

 ラビットは普段はおちゃらけていてもその実鋭い。

 こちらの目的も察してくる。

 だから正直に全て話す。

 

「先日サーナイトアイというヒーローが訪ねてきて告げられました、此処が分岐点だと。オールマイトを救えるタイミングだと、だから」

 

「マスターから、命令されてる」

 

 最後まで言わせずラビットは語る。マスターの思いを。

 

「お前の好きにさせろってな。

 好きにやりなイズク、あとは任せろ」

 

 こうして深夜の密会は終えた、あと注意する点としてラグドールが一番狙われやすいだろうと。

 オールフォーワンが一番欲しがりそうな個性は彼女のサーチだと歴代達も言っていた。

 今日一日は楽しかった、昨日だって楽しかった。

 みんながそんな日々を過ごせるために、みんなが笑って学生生活を謳歌するために。

 全ては明日決まる。



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55話

 

「これでよしっと」

 

 前のように遺書のつもりはない。

 けれど勝己には話すと約束したから、話せない場合の時の念の為の準備はしておく。

 書いた文章を確認し、封筒に入れると勝己のカバンにそっと入れる。できれば読まれる事態なんて起こらないで欲しいけど、タンクトップと危機感知がそうはならないと伝えてくる。

 サーナイトアイの言っていた未来の分岐点。

 最善の未来を掴むのだと誓い、僕は拳を握りしめた。

 

 

 

 

 林間合宿三日目、昼。

 みんなの動きがヘロヘロになっているね。 

 初日と二日目は緊張と興奮によって力が入っていたけど、三日目となると生活に慣れてきて疲労が顔をだしてくる。特に補修組の面々は皆の就寝時間から座学をやって睡眠時間が半分だからよりきついだろうね。

 相澤先生は補修組それぞれの問題点を指摘した上で、立ち回りの脆弱さに憤慨していた。

 立ち回り、ただ個性をぶっ放すことがヒーロー活動ではない、個性は最適な場面で使うモノであり、その場面まで一連の動きこそが大切なのだ。

 ついでに麗日さんと青山君もギリギリだったみたいだね、見せてもらった映像だとたまたま上手くいっただけで最善な行動をとったとは言い難い。青山君なんかは何もしてなかったし。

 ある程度みんなが落ち着いたら、ピクシーボブが今夜の予定を告げた。

 クラス対抗の肝試し。 

 アメとムチ的な楽しいイベント。

 あらかじめしおりに記載されてたけど、忘れている生徒もいたし、状況が状況だからイベントがあることに驚いた生徒もいる、物間君なんてウサ耳に帽子に無駄毛付き姿で(個性訓練中)で対抗のあたり気に入ったと言っているけど、多分補修組は無理じゃないかな?あとその格好見てみんな吹き出す手前だからね。

 ちなみに怖がっていた耳郎さんだけど、肝試しが二人きりで回ると聞いてやる気をだしたね。恋する乙女的においしいイベントだし。当然他の女性陣も色めき立ったんだけど、絶対に組み合わせになれないB組の女子達から負の波動が。

 これ組み合わせ次第でえらいことになるねと、勝己に言えば、テメェもだろと呆れた口調で返されたよ。

    

 いや夕飯肉じゃがって、皆では作れてもカレーとほとんど材料が一緒じゃん。高校生には物足りないだろうからと僕と勝己で何品かおかずを作る。揚げ物焼き物などのメインに副菜の和え物などを追加したらみんなに喜ばれた。肉じゃがはカレーと違ってお腹いっぱいかきこむタイプのメニューじゃないしね。

 お腹いっぱいになり、後片付けもすんだ。次は肝を試す時間だと芦戸さんと上鳴君が喜んでるけど、相澤先生が冷酷に水を差した。補修連中はこれから俺と補修とのこと。

 

「ウソだろ!!」

 

 と目を見開く芦戸さんだが、日中のヘロヘロ具合が相澤先生にはアウト判定だったらしい。捕縛布で補修連中とついでに峰田君をぐるぐる巻にして相澤先生は引きずっていった。

 

「闇の狂宴」

 

 常闇君、まああっているけどさ。

 肝試しルールは脅かす側はまずB組、一部女子のヤル気がえげつなかったそうです。A組は二人一組で3分おきに出発、ルートの真ん中に御札があるからそれを持って帰ること。

 賑やかしメンバーがいないとなんか静かだね。

 脅かす側は直接接触禁止で個性を使った脅かしネタを披露してくる。

 

「創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ!!」

 

 しかしそういえば失禁なんて峰田君くらいしかしたことないね、別件だけど。

 あとプッシーキャッツでも動きで性格分かれるね。

 マンダレイ盛り上がってないし。

 そしてクジで組む合わせ、うん補修組で人数減ったから一人余って一人チーム(僕でした) 女性二人組みが二つて肝試しの意義が。ここは女性は男子と二人きりになるとこじゃないのかな?

 

「クジのやり直しを提案します」

  

 耳郎さん、君も積極的だね。

 女性陣も男性陣もそれに賛成。百さんは組んでいる青山君を気遣って言わないだけで賛成してる。

 勝己と彼女持ちの口田君はそのまま派だ。女子と組むのに抵抗あるんだね。

 

「なるほど、せっかくのイベント男子と組みたいのは年頃の乙女としては当然。

 驚き怖がる名目で相手の腕にしがみつき甘えるのは乙女の夢。

 日頃学校で女バーバリアンとかアマゾネスとか筋肉女扱いされるヒーロー科女子達がか弱い女扱いされる数少ない機会。

 ましてや意中の相手と組める可能性があるなら納得できるわね」

 

 ウンウンと腕を組んで理解を示すピクシーボブ。

 貴方の学生時代になにかあったの?

 うちの女子達はそんな扱いないですよ、いや最近はアマゾネスみたいだけど。

 意中の相手ってトコで僕と勝己に女子の視線が二分した件について。

 

「その気持ちは同じ乙女として理解できるニャン」

 

 いや年齢、まあ乙女に変わりないけど。

 その言葉に希望を見出す女子陣だけど。 

 

「だけど認めません!!」

 

 ダヨネー。

 ピクシーボブはきっぱりと言い切った。

 理解どこいった。

 ええー、と反応する女子達。まあ協力してくれる流れだったよね普通なら。けどその人三十路独り身。

 

「肝試しで男子とイチャコラするなんて14年早い」

 

 年数が具体的過ぎる。

 私怨と嫉妬がアリアリだよ。

 

「ヒーロー科女子たる者、男なんて二の次よ」

 

 目が笑ってない、深淵の奥底に埋もれし者が同胞を増やそうと手を伸ばし引き摺りこもうとしてる目だ。

 まあ美人と評判の女性ヒーロー程恋人いないよね。

 女性ヒーローって恋人の存在が人気に直結するから、結婚と引退がセットな人多いし。ウォーターホースご夫妻なんかレアパターンだよね。

 ちなみに統計的に男性ヒーローは結婚相手にヒーローは嫌がる人が多いらしい。スキャンダルになるしそのヒーローのファンから叩かれるし、物理的に強いとかが理由だとか。

 大抵は後援者の親族とお見合いパターンで、ヒーロー同士の夫婦はチームアップが多い気心の知れた相手か、ヒーロー科の同級生とからしい。

 ブーブーと不満を示すみんなに、プッシーキャッツはとりあわずに肝試しはスタートした。 

 

 開始する少し前に気になる反応があったとタンクトップハッターが言ったため、タンクトッパー達三人が確認しにいったけど嫌な予感しかしないね。

 盛り上がるみんなを見ながら僕は意識を切り替えた。

 

 

 

 



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閑話、タンクトップハッター視点

オリ設定ありです。


 

「畜生、畜生畜生畜生チクショーッ!」 

  

 叫びを上げる、叫びを上げる。

 現状の恐怖に、襲いかかる理不尽に、情けない自分自身に、逃げるしかできない無力さに。

 

「チクショーッ!」

 

 振り払おうと叫びを上げるしかできない。

 タンクトップハッター、俺広見発斗は大して立派な人間ではない。

 ちょっと成績が良かっただけの、ちょっと便利な個性を持っただけの、ちょっと調子に乗りやすいだけの、どこにでもいる人間だ。

 だから、無理して入学した都内のヒーロー科のある高校で当たり前のように落伍者になって、区切りとして受けた仮免試験に当たり前のように落ちた。

 言い訳なら腐るほどした、体力がないから、個性が戦闘向きじゃないから、信念がないから、言い訳すらありふれたどこにでもいる奴だった。

 けど変われたと思った、中退したことを言えず公園で項垂れていた俺にマスターが声を掛けてくれた時に。タンクトップ事務所で一から鍛えて諦めたヒーロー資格を取れた時に。すこしはマトモな、出来る奴に成れたと思ったんだ。

 なのにそうじゃなかった。

 襲いかかるヴィランに仲間を置いて逃げるだけの情けない奴なんだ。

 意識のないラグドールを背負って逃げるだけの情けない奴なんだ。

 

「ラビットさん、ジャングルさん、どうか無事で」

 

 無理に決まってるのに祈りだけは口にする。

 なんとか他の学生達を連れて、宿泊施設にまで戻らないといけない、戻って応援を要請しないといけない。

 それまであの二人が持つなんて保証はない。

 その時間を稼ぐために二人はゆっくりすり潰されることを選んだから。

 

「チクショーッ!」 

 

 始まりは肝試し開始前に時間は遡る。

 

 

「ここら辺な気がするんスよ」

 

 俺の個性、帽子センサーはアバウトだ。

 範囲は山一つくらいならイケるけど詳細は一切分からない。なんとなく善くないもの、なんとなく悪いもの、なんとなく必要なもの、個性を発動するときにそれらがないかと考えて、あったら大体の位置がわかる。そんな個性だ。まれに位置だけが分かる場合があるけど、その場合はどういったものかは分からない、自分の目でそこに行って確認しないといけない。必ずナニカはあるから無駄足にだけはならないけど、はっきり言って使えない個性だ。

 夜の山での捜索なんてしたくもなかったけど、珍しく真面目なラビットさんにどんな違和感でも連絡しろと何度も言われたので仕方なく伝えた。だって山の中で良くないモノなんて、枝に引っかかったビニール袋(中に水が入るとレンズ効果で山火事になりうる)とかにも反応するんだぜ?きりが無いって。

 だから、肝試しでB組の担当をしているラグドールの側なんて大したものじゃないと思っていたんだ。

 そこに倒れてるラグドールと彼女に手を伸ばす脳みそ剥き出しの怪人を見つけるまでは。

 

「無駄毛守」

 

「兎蹴り」

 

 即座に反応したのは二人が、タンクトッパーでも荒事担当の戦闘要員だからだろう。

 ジャングルさんが両腕を交差して守り、ラビットさんがすさまじい威力の蹴りで怪人を吹き飛ばす。

 それを見た俺が慌ててラグドールに近寄り安否確認をする。意識がないだけで無事みたいだ。

 

「兄貴、コイツは」

 

「ああ雄英高校と保須市に出たっつう脳無とかいうヤツだな」

 

 怪人脳無、ヒーロー業界ではヴィラン連合とかいう連中が使う改造人間だと知られている。プロヒーローが束になっても対処できない存在とも。

 雄英高校ではイズクさんにカツキさん、保須市ではナンバー2ヒーローエンデヴァーに大ベテランヒーローのグラントリノが打倒し、他のヒーローだと足止めが精一杯だったらしい。

 そんな存在がなんで、

 

「オイ、」

 

「はい、ラビットさん」

 

 ドスの効いた声に慌てて返事をする。

 

「ラグドール背負ってすぐに宿泊施設まで逃げろ。

 途中で餓鬼共拾ってな」

 

「えっ?」

 

 ラビットさんが睨みつける方向を俺も見たらそこには、形は微妙に違うけど脳みそ剥き出しの怪人が、二十体もいた。

 

「マジですか」

 

 プロヒーローでも勝てない、トップヒーローじゃないと勝てない存在が二十体も。

 その絶望を前に頭が真っ白になっていると、

 

「護郎、テメェはハッターの護衛につけ」

 

 ラビットさんは弟分であるジャングルさんにも指示をだしていた。

 

「兎吉兄貴は?」

 

「コイツラの足止めする。此処は俺一人で充分だ」

 

 指を鳴らして脳無に向かうラビットさん。

 無茶だ勝てるわけがない。

 

「おいハッター、事務所の俺の焼酎くれてやる。

 幻の焼酎 毛王だぞ」

 

 ジャングルさん?!

 そう言うとラビットさんの横に立った。

 

「護郎」

 

「充分なのは、ゆっくりすり潰されて時間を稼ぐのは、なんでしょう?付き合うぜ兎吉兄貴。

 二人ならギリ生き残れるかもしんねえし、何より」

 

 ジャングルさんはニヤリと笑うと、

 

「喧嘩屋兎吉の背には鉄壁護郎あり、でしょう?」

 

 昔効いたヴィラン時代の二人の名称。

 普段のおちゃらけた様子からデタラメだと笑い話にすらなってたソレが真実味を帯びてくる。

 

「後悔はねえな?」

 

「アンタに負けて弟分になって、

 二人で兎毛団を結成して、

 マスターに挑んで敗北して、

 タンクトップ着て舎弟になって、

 事務所に努めてヒーローになって、

 ここで死ぬかもしんねえ戦いに挑む。

 後悔なんざ一つもねえよ」

 

「そうか、なら。

 餓鬼共守るために一緒に死んでくれ護郎」

 

「あいよ兎吉兄貴、せいぜい胸張って戦うさ」

 

「テメェの場合は胸毛だろ?」

 

「違いねえ」

 

 死地を前にしても、実の兄弟みたく親しげに笑い合う二人。

 窮地のはずなのに楽しげですらある。

 

「行きなハッター、ここは俺らが受け持つ」

 

「テメェを恥じるなよ坊主。単に戦う場所と戦い方が違うだけだ」

 

 三人で戦いましょう。

 その一言が、どうしても出てこない。

 三人で逃げましょう。 

 その一言を、どうしても言えない。

 怯えているから、恐怖に呑まれているから、コレが最善だと分かってしまっているから。

 思考に逃避しだした身体は一歩も動かない。

 けれど、

 

「「行けぇっ!!」」

 

 ぶっ叩くような二人の怒声になんとか追い立てられるように走りだした。

 

「タンクトップにウサ耳映える! タンクトップラビット!!」

 

「鍛えた身体に生い茂るジャングル! タンクトップジャングル!!」

 

「「推して参る」」

 

 

 

 夜の山を駆ける。

 走りながら連絡は済ませたが、既に向こうも交戦中、マンダレイのテレパスで全員に情報の共有はできたのは幸いだ。

 視界が悪くとも鍛えた身体は木々にぶつかることなく進む。途中で拾ったB組の生徒達、どうやらキノコの個性を広域にバラ撒いたため毒ガスの存在に気づいたらしく、空気の壁や擬音の具現化で凌ぎながら避難していたらしい。A組の八百万がガスマスクを作り救助をしているようだが、一部生徒が元凶のヴィランに向かってしまったとのこと。

 こんなところでも対抗心かと舌打ちしたくなる。ヴィランならなんとかなる可能性があるが、あの脳無があとどれくらい居るのかわからないのに。

 表情には出さずに、生徒達には避難を促す。

 何人かの生徒は意識がなく背負われた状態、此処で他の生徒を探す余裕はない。

 

「いくぞ」

 

 渋る生徒達を纏めてから進む、途中テレパスで生徒達の戦闘の許可までされた。つまりそれはヒーロー達が駆けつける余裕がないことを意味している。

 どれくらいヴィランが来てやがる。

 しかも生徒どころか、プロヒーローすら手こずる手練ばかり。ヴィラン連合、伝え聞くより規模が拡大してやがる。

 

「旋風鉄斬拳!! 冥躰震虎拳!!」

 

 倒れた木々の中心で聞き覚えのある声と轟音が響き渡る。拘束着のヴィランの口から伸びる刃を切り刻みながら接近し、その胴体に必殺の一撃を叩きこむ、さすがカツキさんだ。見ればエンデヴァー息子さんが、蹲る烏頭の生徒の周囲を火で照らしていた。

 

「タンクトップハッターさんに、B組の連中か。

 無事みてえだな」

 

「そちらも無事ですか?」

 

「なんとかな、かなりヤバいヴィランだった」

 

 こいつはシリアルキラーのムーンフィッシュ!

 人の断面を見るのが好きなイカれたヴィランで捕まってた筈なのに、脱獄したのかよ。

 こんなヤバいヴィランまで仲間にしているとか、どれだけなんだヴィラン連合。

 カツキさんが倒してくれなかったらどれだけ犠牲がでたことか。

 

「ハッターさん、どう動くべきだ?

 指示をください」

 

 カツキさんの言葉に俺はハッとする。

 そう今やるべきことを。

 

「今いる全員で宿泊施設まで撤退です」

 

「探索とかはしないのか?」

 

 エンデヴァーの息子さんが不満げに言うが、従ってはくれるみたいだ。

 

「脳無が山中に居ます、探索は皆を安全なトコまで送り届けてからです」

 

 ラビットさん達のことがある、最大戦力のカツキさんには撃退に回ってもらいたい。けど、

 

「優先すべきは皆さんです」

 

 二人のタンクトッパーが守ろうとしている連中を危険には晒せない。

 

「流石だなタンクトッパー」

 

 パンッパンッと馬鹿にしたような拍手が聞こえる。

 木の上に杖をついてるヴィラン。

 アイツは、

 

「コンプレスだとっ! 今日はヴィランの発表会のつもりか!」

 

 またもネームドヴィラン。

 どれだけ戦力をかき集めやがった。

 

「タンクトッパーは勤勉で厄介。

 貴重な脳無を二十体も足止めするわ、目的の一つは潰されるわ、とんでもねえな」

 

 しかもコイツ。

 

「生徒を攫ってやがるな」

 

「エンターテイメントを台無しにするなよ。

 お前のセンサーって手品師には最悪だな」

 

 指でもてあそぶボール。

 アレに生徒が。

 

「まあ目的の対象じゃないけど、念の為にな」

 

「じゃあ返しやがれ」

 

 既に接近していたカツキさんが、手のひらをコンプレスに向ける。

 

「お前も厄介、誇れよ学生。

 俺達ヴィラン連合は、プロヒーローよりもお前ともう一人を警戒してたんだぜ?」

 

「知るか、返して死ね」

 

 爆破で仕留めようとするカツキさんに対してコンプレスは、

 

「そのためのコレなんだよ」

 

 指で弾かれたボール、あの中には生徒が。

 

「カツキさん!」

 

「解除」

 

 解除されて出てきた少女をなんとか受け止めたカツキさん。だがそれは大きなスキになる。

 

「逃してもらうぜヒーロー共。

 本命はお前らじゃない」

 

 逃げ足と欺くことだけが取り柄だと捨て台詞は吐きながらコンプレスは逃げていく。

 

「逃がすか! ハッターさん俺が追います!」

 

 助けた少女を別の生徒に預けて、静止の声も聞かずに飛び出すカツキさん。

 それでも俺は、

 

「皆さん、宿泊施設まで行きます」

 

 この判断を変えることはできない。

 反論も不満も強引に押しのけて宿泊施設に戻った。

 

 

 生徒を連れて宿泊施設でブラドキングと合流。

 イレイザーヘッドは迎撃にでているらしい。

 すでに通報はされているが、未だに救援は来ない。

 保護したラグドールと意識のない生徒に出来る限りの処置を施し、あとはここの警護だ。

 

「すまん」

 

 ラビットさん、ジャングルさんのことを聞き、救援を出せないことを謝るブラドキングに俺は気にするなと告げた。

 

「言ってたんですよマスター、自分のことは一番最後にするからヒーローなんだって」

 

 だから大丈夫だ。

 生徒を守るのが第一なんだ。

 溢れ出る涙を拭うこともできずに俺は、俺の託された役割を果たす。

 無力感に崩れそうになる身体を必死に支えて。

 

 まだ夜は明けない。

 




補足説明。
タンクトップハッターは比較的新人で、年下だけど古株で実力が上な緑谷君、爆豪君をさん付け。
タンクトップジャングル、本名 無駄毛 護郎。
兎毛団、付耳兎吉と無駄毛護郎が結成した武闘派ヴィラン集団。基本絡んできたチンピラを殴って従えて構成員は50名を超えた、が結成したその日にタンクトップマスターと交戦し壊滅。以降構成員はマスターの紹介で真っ当な職を得た。ネーミングセンスは無い。


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57話

 

 オールマイト、貴方にあんな未来があるなんて僕は認めない。

 だから僕がオールフォーワンを倒します。

 だから僕が終わらせます。

 貴方をワンフォーオールの席に座らせない。

 貴方は、幸せにならなければいけないんだ。

 

 

 

 その不意打ちに対応できたのは、タンクトップハッターのおかげだといえる。

 彼が感じた反応、それが必ずあると確信していたヴィラン連合の襲撃の始まりだと予測できたからだ。場所を聞いてより納得できた、便利な個性を欲しがるオールフォーワンにとってラグドールの個性は相澤先生の抹消並みに狙っているものだろう。だが相澤先生は単独で強すぎる、個性に寄らない肉体スペックで上回らない限りどんなヴィランでも一対一なら必ず勝てる。また歴代達の推測からオールフォーワンは感覚を個性で補っている可能性が高い、抹消個性を持ち戦闘に長ける相澤先生との対面なんて一番避けたい状況の一つだろう。あるいは脳無はオールマイト対策ではなく、イレイザーヘッド対策なのではと思ってしまうくらいだ。なのでラグドールが狙われる可能性は高く、ラグドールを必ず捕獲できる戦力が送られると推測できた。そして、その戦力がタンクトッパーでも戦闘力の高いタンクトップラビットとタンクトップジャングルの命を危機に陥れる存在であると、僕は危機感知の個性で分かっていた。

 そして、そちらに脳無が送られるなら次のヴィランのやることも推測できた。

 すなわち、プッシーキャッツ最強戦力にして今回の林間合宿での防衛の要である、ピクシーボブの不意打ちにおいての無力化であると。

 そう彼女ならば単独で複数の脳無の無力化だって可能なのだから。

 ピクシーボブの頭部を狙った一撃を反らし、下手人の腹部に一撃を叩き込む。

 吹き飛ばされたヴィランは腹を抑え、地面を向くが直ぐに持ち直した。強いなコイツ、チンピラではない。

 

「やっぱり貴方が厄介だったわね、緑谷キュン♡」

 

 そう言って布に包まれた長物を構えるサングラスの大男。コイツは確かヴィラン手配書集に載っていた、

 

「マグネよ、ヨロシク」

 

 ヴィラン連合は今度は手練を集めてきたか、クラスメートじゃキツイレベルだ。

 

「万全を期したハズなのになんで敵連合が!」

 

 叫ぶ尾白君に僕は答える。

 

「だからこそ、狙ったんだ。

 ヒーローの信頼を打ち壊すために」

 

 この時点でもう、僕らの負けだ。

 

 

 

 

「ご機嫌よろしゅう雄英高校!!

 我ら敵連合開闢行動隊!!」

 

 ヴィラン手配書集で見たことのないヴィランだ。

 今まで表にでなかった実力者か、それとも。

 

「自己紹介しよう俺はスピナー、ステインの夢を紡ぐ者だ」

 

 ステインにあてられた、鑑定人気取りのヴィランか。

 

「だったら敵連合こそ打ち倒す相手だろうに」

 

 やるか、このスピナーは大したことないけどマグネは強い。そして後ろの脳無共もね。

 見れば、ヴィラン二人の後ろには3体の脳無。

 タンクトップラビット達の方へ用意された個体も考えると何体居る?

 大盤振る舞いにも程がある。

 

「連絡? こんな時に、どうしたのタンクトップハッター?!」

 

 やはり、

 

「あら、あちらに行ったのね。猫ちゃん確保は失敗かしら?」

 

「ヴィラン襲撃、ラグドールが重体、脳無複数、タンクトップラビット、ジャングル両名が脳無の足止め」

 

「「なっ?!」」

 

 その情報にプッシーキャッツのメンバーが驚愕する。

 だがマンダレイが続けて指示をだす。

 

「ピクシーボブは土魔獣と土流で脳無を押さえて!!

 虎と私でこいつらを押さえる!!」

 

「マンダレイ!! 麗日さん達も襲われています」

 

 スマホに入った複数の緊急コール。

 こんな時のために皆に広めた用意だ。

 

「僕が向かいます!!」

 

「わかった、緑谷君は他の生徒の助けに行って!!

 他のみんなは委員長引率でマタタビ荘へ!!」

 

 プッシーキャッツとはタンクトップ事務所での付き合いがあった、だからこそ認められたようだ。

 飯田君にそのことを伝えて、僕は夜の山へと駆け出した。

 

 

 

 

 いた。

 肝試しの順路で襲撃すると思ったけどそのとおりだったね。

 麗日さんと梅雨ちゃんに襲いかかる刃物使いのヴィラン、覆面をしているがアレは、トガヒミコ?

 刃物を振りかざすトガヒミコに上手く避ける二人。

 

「大丈夫二人共?」

 

 何にせよ、間に合ってよかった。

 

「イズク君! そっかスマホの」

 

「緑谷ちゃんがクラスメートに広めて正解だったわね」

 

 ステインのことがあったらそりゃね。

 

「梅雨ちゃんとしては勝己の方が良かったかな?」

 

 あえてふざけた物言いをしないと、襲われた恐怖は体を硬直させてしまう。

 というか、未だに勝己が合流していない?

 位置的にはあっちが近いのに。ってことは、向こうにも脳無か別のヴィランが居る。

 

「そのとおりだけど、麗日ちゃんは緑谷ちゃんの方が来て喜んでいるわ」

 

「梅雨ちゃん?!」

 

 この娘にこの手の話題は避けるべきだね、返り討ちにあいそう。

 

「緑谷君ですか、貴方は厄介です。

 私達は貴方を一番警戒しています、貴方と爆豪君は強すぎるんです」

 

「それはどうも、だったらおとなしく捕まってくれるとありがたいけどね」

 

 ぶらりと両手を下げて、トガヒミコは語る。

 

「梅雨ちゃんもお茶子ちゃんも好きな人がいます。

 そしてその人みたくなりたいと思ってます。

 わかるんです、乙女だもん。

 好きな人と同じになりたいよね当然だよね。

 その人そのものになりたくなっちゃうよね」

 

 これが、この年で殺人鬼となる少女か。

 歴代達の記憶にも何人もいたシリアルキラー。

 

「貴方はどうなんですか?イズク君?」

 

「僕には誰かを好きになる資格なんざ無い。

 果たすべき目的と、その道に大切な人を巻き込みたくないからだ」

 

 ワンフォーオール継承者、それが家族を持つリスク。

 あの悪辣な魔王はつけいるスキを見逃したりは絶対にしない。

 事実調べてもらった、7代目の家族はもう。

 

「ダメですよ、ソレ。

 恋をしないと勿体無いし、麗日ちゃんが可哀想です」

 

 恋が行動の主体にある少女。

 こうなったのは環境か出来事か。

 あるいは個性の衝動が感情として発露しているのか?

 けれど、

 

「ゴメンねトガヒミコさん。

 ヒーローなら貴女に理解を示し、手を差し伸べるべきなんだろうけど。

 麗日さんを傷つけた君に腸煮えくり返ってるんだ」

 

 ちょっと許せないよね。

 

「なぁんだ、イズク君もカァイイ恋してるじゃないですか」

 

 楽しそうに、愉しそうに、嬉しそうに彼女は笑う、笑って、嗤う。

 

「けどまだ捕まりたくないのでバイバイ。

 イズク君、お相手はこの子がしてくれます」

 

 ガサリと茂みから出てくるのはやはり脳無。

 本当に何体居るんだよ。

 

「ああ、イズクはまたね。です」

 

「麗日さん達は離れてて!!

 直ぐに仕留める!!」

 

 初撃をいなし、流水岩砕拳の連打。

 回復能力はない。

 なら直ぐに、

 

「発勁」

 

 苦戦はない。

 脳無は厄介ではある、けれどハイパワーが主体で考える頭の無い存在は、流水岩砕拳を修めた僕には相性が良すぎるんだ。さらに三代目の個性である発勁のおかげで一撃で脳無の耐久力をぶち抜ける。

 

「二人とも、直ぐに避難を。皆は僕が助ける」

 

 脳無にも性能にバラツキがあることが幸いだ。

 与える個性に差があるのか。 

 特に今回のコイツは弱いタイプだし。

 いや、

 どろりと泥みたいに崩れた脳無を見て認識を変える。

 もっとヤバいヴィランが向こうにはいる。

 

「今のって」

 

「死んだ、とかじゃないわよね」

 

「複製とか分裂、ドッペルゲンガーでも生み出す個性が連中にはある。そんなのいたらピクシーボブが無事でも物量で押し切られるぞ」

 

 最悪の事態だ。

 ダメージで消えるタイプの複製でも、パワーは一撃食らったらヤバい存在。ピクシーボブの土魔獣よりは間違いなく強い。

 そんなのマタタビ荘で籠城しても厳しい。 

 相澤先生の抹消は効くのか?

   

「まあ詰みって感じだよな」

 

 現れたヴィランはやや汚れている、シルクハットをつけた仮面のヴィラン。

 

「コンプレス、だっけ? どんだけ勧誘に成功してんのさヴィラン連合」

 

 またもネームドヴィラン、しかもコイツは触れたらアウトな個性だったはず。

 

「本当に勤勉だなタンクトッパーは。さっきのタンクトップハッターも知ってたしな」

 

「警備する側が犯罪者の顔を知りませんじゃいけないでしょう?」

 

「お仲間のラビットにジャングルなんか複製体込みの二十体相手に奮闘してるぜ、本物だって混じっているのによく耐えるよな」

 

「タンクトップは伊達じゃないんでね」

 

 長話、時間稼ぎが目的か?

 

「だからだよ、緑谷出久。お前はだから狙われた」

 

 まさか、今回の目的は?!

 

「タンクトップ着たら個性を発現した存在なんて、脳無なんか創るヤツが放っておくわけないだろ?」

 

 オールマイト、貴方の嘘が影響でてますよ。

 ワンフォーオールがバレたかと思ってたら、ソッチですか!!

 

「? どした頭抱えて」

 

 ヴィランにも心配されるよね。

 

「それで僕の前に来たってことは交渉ですか?」

 

 僕の言葉に息を呑む麗日さんと梅雨ちゃん。

 この間合いに来たってことはそういうことだろう。

 

「お前もエンターテイナー殺しだな。

 ああそうだよ、ありがちでヴィランらしく、

 仲間の命が惜しければ着いてこい。お前の命は保証できないけどな」

 

「だったら人質を解放してからでしょ?

 どっちにしろ、脳無が複製されてるなら勝ち目がないし着いていくよ」

 

「えっ?」

 

「緑谷ちゃん?」

 

「こっちの個性知られてるなら仕方ないか。

 はいこっち、二つあったけど取り返されてな。

 ご存知、透明ガールだ」

 

 ピースする指に挟まれた球体、あれに葉隠さんが。

 ガチャリと僕の足元に手枷と足枷を投げられる。

 

「それを嵌めたらこの娘は返す、それでいいだろ?」

 

「随分と念入りだね?」

 

「武術極めたハイパワーな個性のタンクトッパーなんていくら警戒してもしたりねえよ。

 連中の凄さは体感したばかりだしな」

 

「他の連中は?」

 

「時間来たら帰るし、複製脳無は消すよ」

 

「なら了解」

 

 手枷の片方を嵌めたら、麗日さん達よりコンプレスが驚いていた。

 

「正気かお前、捕まったらバラバラに解剖されて調べられるんだぞ」

 

「「!?」」

 

「それが?」

 

 現状逆転の術はない。

 応援が間に合っても、それが無個性ヒーロー達であっても彼らには機動力という致命的な弱点がある。

 広い夜の山ではその実力は活かし切れない。そしてなんとなできるかもしれないオールマイトはこれない、ホークスは個人戦闘では複製脳無も厳しい。

 機動力と感知力は今後のヒーロー社会の課題だね。

 だから僕が捕まるのが正解だ。

 足枷も嵌めようとした所で、コンプレスは麗日さんに葉隠さんの入った玉を飛ばす。約束は守るんだね。

 ガチりと枷が固定されたら、葉隠さんが玉から解放された。

 急いで駆け寄ろうとする麗日さん、舌を伸ばす梅雨ちゃん、呆然とした葉隠さん。

 でも遅い。

 現れた黒いモヤが僕たちを遮る。

 そして、

 爆音とともに一番の親友も現れた。

 

「出久?」

 

「勝己」

 

 ありがとう。間に合ってくれて。

 

「君って本当に」

 

 任せたい相手、託せる相手が来てくれた。

 

「見せ場を外さないよね」

 

 ありがとう親友。

 状況が飲み込めず呆気に取られた表情に自然と浮かんだ笑みを向ける。

 

「みんなをお願い、大切な仲間達を頼んだよ」

 

 そうして僕は、黒いモヤに呑まれた。

 友に託して。

 

 

 

 完全敗北。

 通報により駆けつけた救急と消防、

 生徒40名の内、敵のガスによって意識不明の重体5名、重軽傷者多数 無傷ですんだ生徒も多くいた。

 そして、行方不明者 緑谷出久。

 プロヒーローは9名の内1名、ラグドールが頭を強く打たれ重体。

 タンクトップラビット、タンクトップジャングルの2名が、脳無集団との戦闘により意識不明の重体、その全身は傷がない箇所がない程にボロボロだった。

 一方、敵側は2名の現行犯逮捕、ラビット達と戦ったと思われる脳無三体を回収に成功。

 彼らを残し他の敵は跡形もなく姿を消した。

 

 彼らの林間合宿は最悪の結果で幕を閉じた。

 

 

「クソがあああああ!!」

 

 目の前で親友を連れて行かれた少年の叫びと、想い人

を攫われた少女達の涙、無力感に打ちのめされる雄英高校生達の思いとともに。

 

 



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閑話、爆豪視点

 

「そういう事だったのかよ」

 

 林間合宿襲撃事件、目の前で幼馴染を連れていかれた俺はただひたすらに叫び続けた。

 そんなことをしているべきではないと頭では理解している筈なのに、怒りと絶望を体から吐き出そうと必死に俺は叫び続けたんだ。

 駆けつけてきたイレイザーヘッドに保護された俺達はマタタビ荘へ戻り何があったのかを説明した。その時の麗日達の顔は見ようと思えないくらい酷いものだった。

 人質にされた葉隠を助けるため、ヴィラン襲撃を終わらせるため、自らを差し出した出久の行動。

 複製の個性で無尽蔵に用意される脳無という、敵の最悪の一手を悟ってしまった出久は犠牲が出る前に終わらせるべきだと判断したのだ。

 それが自らの命と交換だとしても。

 その場にいたヒーロー達の顔が歪む、自らの力不足、事前に防止できなかった事実に。

 怪我人はこのまま病院へ、それ以外の者は迎えが来るまで部屋で待機。クラスメートの誰もが沈黙する中で荷持を纏めている中で、出久からの手紙を発見したのだ。

 決して人前では読んではいけないと注意の書かれた手紙を。

 気にはなるが、現状では読めないので後にした。 

 話を聞きたそうにしている補習組と、沈痛な表情のクラスメートが気まずい沈黙を作る中、息を潜めるようにただ時が過ぎるのを待った。

 

 

 翌日、一部生徒は合宿場所近くに入院することになったので、場所と病室を記憶しながら厳重に警備された状態で家に帰った。 

 出迎えてくれた両親に、幼馴染を助けられなかったことを責められると顔を俯かせていると、二人は何も言わずただ抱きしめてくれた。

 ただひたすらに俺の無事を喜んで。  

 何かを言いたくても言えなかった。

 こんなことしてるヒマはないと動き出したかった。

 出久はそれどころじゃないのに甘えたくなかった。

 もっと責めて欲しかったのに。

 何をしていたと怒鳴って欲しかった。

 家族の温もりに安心したくなかった。

 

「俺は、俺は」

 

「いいんだよ、勝己。今だけは」

 

「アンタは何も悪くないんだから」

 

 二人の言葉に息をつまらせ、そのまま押し黙る。

 押し黙り甘えた。

 また動き出すために。

 

 

 自室に戻り、一番最初にしたのは気になっていた出久の手紙を読むことだった。

 先日の遺書の件が頭をよぎるが、流石にそれはないだろう。そして書かれた内容を知り、確かにこれは誰にも伝えられないと納得した。

 中学三年からのオールマイトの付き合いとその詳細。伏せられていた個性について、魔王オールフォーワンとオールマイトの因縁、そして敵のやり口について。

 ワンフォーオールという個性のヤバさ、最近のアイツの異様な勘の良さにも腑に落ちた。個性で危険を予め知り、ソレを経験豊富な複数のヒーローと相談しながら決めているならあんな対応にもなる。

 全部タンクトップのせいだと納得していたが、まさかこんな事情があったとは。

 隠し事に憤慨していたが、これなら話せなくても仕方ない。林間合宿でも襲撃そのものが自分が元凶だと思っていたらあんな行動を取るだろう。もっとも狙われる理由を勘違いしていたが。

 向こうは恐らく、ワンフォーオールの存在に気づいてはいない、Iアイランドの研究者のように身柄を狙ったのだろう。

 さてどうするか、手紙と一緒に入っていたアクセサリーのようなものは出久が死にそうになったら反応するらしい。そうなったら無個性のタンクトップマスターに血液を飲んでもらいワンフォーオールを譲渡する気なのだろう。まだ生きている。それだけでなんとかなる気がしてきた。

 スマホに連絡?

 見れば八百万達の見舞いに行かないかという誘いだった。元より行くつもりだったが、切島の提案にそれだけではない気がしてきて嫌な予感がしてきた。

  

 

 八百万の病室。

 出久以外の全員で見舞いに行った。

 峰田が暗い空気をなんとかしようと、ヤオモモと同じデカメロン、とメロンを持ち上げてセクハラぶっこいたので女性陣(特に耳郎)に処され危うく入院患者が増えそうになったのはおいておくとして、やはり皆の空気は重い。

 昨日には意識を取り戻していた八百万の顔には涙の後が濃く残っていた。出久のことを聞いたのだろう。いやそれは八百万だけではない、麗日も葉隠も目が真っ赤なのだ、蛙吹とて昨日何もできなかったと電話で話したくらいなのだ。

 

「結局いつもあの人が背負ってばかりですわ」

 

 初めて会った時からそうだったと八百万を言う。

 クロビカリの付き人みたいなマネをさせられていた出久とパーティーで出会い、歳が同じだからと話してる内に親しくなり何度も助けてくれたと。いつも自分の体を張って。

 八百万とて何もしていないわけではない、肝試し中にいち早く異常に気づきガスマスクを創り出し配ったからこその被害の少なさだ。

 今回の件で無力を嘆こうにも余りにも敵が周到過ぎたのだ。

 そしてさらにB組の生徒の協力の元、発信機を脳無に付けたと言った、それをオールマイトにも告げたとも。ヒーロー達も手がかりがない状態ではない。その事実に俺は少し安堵した。

 だが、その情報を別の形で捉えた者もいた。

 

「なら俺らで助けよう」

 

 そう切島が話を切り出した。

 昨日も来ていた切島と轟は八百万とオールマイトのやり取りを聞いていて、その受信デバイスで自分達で助けにいこうと提案してきたのだ。

 その言葉に激昂する飯田、兄の件で同じことをしでかしそうになったからこそ切島の身を案じ怒鳴りつける。

 

「んなもんわかってるよ!! 

 でもさァ!何っも出来なかったんだ!!

 ダチが狙われてるって聞いてさァ!!

 何っも出来なかった!! しなかった!!

 ここで動けなきゃ俺ァ、ヒーローでも男でもなくなっちまうんだよ」

 

 ブチリと何かがキレた音がした、それは俺の頭の血管かもしれない。反射的に殴ろうとしたが、

 ドガっ

 既に尾白が殴っていた。

 

「何だよソレ、何だよソレ!

 何もできなかったって、それで男じゃなくなるって、そんなくだらない感情のために自分から危険に飛び込むのかよ!」

 

「くだらないだと!!」

 

「くだらないよ!!」

 

 いつもは落ち着いている尾白がキレていた。

 あの襲撃事件で尾白は見ていたのだ、切島以上に無力感に打ちのめされても役割を全うしたヒーローを。

 

「あの人が、タンクトップハッターさんがどんだけ苦しんだと思ったんだ!!

 仲間を助けにいきたいのに涙を流しながらマタタビ荘を守っていたのを見てないのかよ!!

 助けられたくせに、だから無事だったくせにそれを台無しにする気かよ!!

 緑谷との付き合いだってずっとあの人達の方が長いんだぞ!!」

 

 タンクトップハッター、彼の活躍が無ければ生徒達は安全に辿り着けたかも分からない。安全に辿り着くためにどれだけの葛藤があったのかは彼しかしらない。

 でも尾白達は見ていたのだ、そんな彼の姿を。

 自らの感情よりも守るべき存在、果たすべき役割を優先したヒーローの姿を。

 それを知る者は同意する。

 やるべきことを全うすることも大切で、今回自分達は動くべきではないと。

 

「でも緑谷はタンクトッパーだろ!

 間に合わねえかもしれないじゃねえか!」

 

 切島が出久の命に言及しようとして、

 

「やめてくれ切島、ヒーロー失格なのは承知だがソレを考えてしまえば俺はもう立てなくなる。友人のそうなる可能性なんてまだ耐えられる程強くないんだ」

 

 障子と口田、そして女性陣は耐えられないとばかりに俯く。特に自分が捕まったからだと悔やむ耳郎と葉隠の心は耐えられない。出久がいつ殺されてもおかしくないなど。

 生存は知っているが伝えられない。

 ここで言ってしまえばどうなるか想像できてしまうからだ。

 

「まだ手は届くんだ」

 

 切島が八百万にそう言って、その場は解散となった。

 

 

 

 

 

「八百万考えさせてくれっつってくれたけど、どうだろうな?」

 

「まあいくら逸っても結局あいつ次第」

 

「来た」

 

 来ちまったか。

 木陰で様子を見ていたがやはり来ちまったか、八百万に飯田。

 耐えられなかったんだな、出久の死ぬ可能性に。

 だから、

 

「行かせねえよ」

 

 俺が止める。

 

「爆豪、お前」

 

 賛同したのかと勘違いした切島は嬉しそうだが、轟は睨みつけてくる。

 ああそうだ、お前らを行かせる気なんてねえ。

 

「なんでだ爆豪、お前は緑谷の一番の親友だろうが」

 

 怒りを滲ませる轟の声に俺は返す。

 

「その親友の願いだ、お前らを頼むってな。

 だから行かせねえよ、たとえ生涯恨まれようとな」

 

 幼馴染の最後になるかもしれない頼み、応えないなら幼馴染なんかじゃない。

 

「爆豪、俺は!!」

 

「屈辱を飲み干せないで何が漢だ。

 お前らを行かせない、ぶっ殺しても止めてやる」

 

 納得いかなくても力尽くでも止める。

 その覚悟はあるから、一生恨まれようとこいつらが死んでしまうよりずっとよいから。

 

「俺達もそうだよ」

 

 帰った筈のクラスメート達は誰一人欠けることなく集まっていた。

 切島達を止めるために。

 

「「「俺達はお前達を行かせない」」」

 

 ルールではなく、恐れたからでもなく、ただクラスメートを死なせなくないから俺達は、示し合わせずにも集結していた。

 

 それを前に切島は今度こそ項垂れて、彼らの行動を阻止できた。

 

 

(出久、約束は果たした。だからテメエも必ず戻って来やがれ)

 

 捕まっている友の無事を祈り、切島達に声を掛けて泣きながら語り合う友人達を見ながら、俺は夜空を見上げた。

 

 

 



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59話

  

 沈んでいく、沈んでいく、深い深い水底のような場所に墜ちてゆく。

 ズブリと黒いモヤに呑まれ、恐らくガスのようなモノを吸った僕は、意識を闇へと落としていった。

 さながらバング師匠のうっかりで崖から突き落とされた時のように、深く深く墜ちてゆく。

 しかし、何も見えない闇の中、輝く一つの光。

 あれはまさか、

 光に手を伸ばし掴みとる。

 そうこれは、これこそ、

 

『「タンクトップッ!」』

 

 

「うん、寝言までソレなのね君」

 

 マスク越しからも分かるドン引き感。所詮ヴィランにタンクトップの素晴らしさは理解できないようだ。

 

「いやなんか哀れまれてない俺?

 つうかこの子、状況分かってんの?

 凄くくだらないことで哀れまれたよね俺」

 

「気にするなコンプレス、タンクトッパーだぞ」

 

「それで済むからタンクトッパーは嫌なんだよ!

 なあ弔?今からでも遅くないから返してこないか?

 慰謝料としてタンクトップ十着も持たせれば許してくれるって」

 

「ふざけるな、二十着だ」

 

「「「許すのかよっ!!」」」

 

「僕個人の誘拐は訴え取り下げますけど?

 まあ雄英高校合宿襲撃については別ですが」

 

 落とし前つけないと許せないよね、皆の林間合宿の思い出を台無しにして、仲間を傷つけたわけだし。

 というかどんな状況?

 椅子に括り付けられてるけど、手枷足枷だけでタンクトップも脱がされてない。

 てっきり、

 

「てっきり怪しげな手術台に固定されて、

 やめろ○ョッカー!ぶっ飛ばすぞー!

 みたいな感じになるかと思っていたのに」

 

「脳みそ改造される前に助けてくれるヤツはいないぞ?」

 

「知っているんですね、というか網タイツな女構成員とか居ます?」

 

「ヴィランは働かないからヒマなんだよ。あとそんな規模じゃねーよ」

 

「それは残念、というか働きましょうよ」

 

「世の中働きたいヤツだけ働けばいいんだよ」

 

 スラスラと会話が続く。

 ヴィラン連合のリーダー死柄木弔、USJとショッピングモールと3回目の遭遇だが、存外話が合う。

 

「それで、林間合宿襲撃を成功した時点で目的達成したアナタ達が、一介の雄英高校一年生になんのようですか?」

 

 ラグドールはオールフォーワンの欲しいモノ。

 ヴィラン連合は雄英高校の信頼失墜による社交の混乱が目的。

 そしてドクターなる人物、脳無開発者がタンクトッパーを研究素材として欲しがった。

 ならば僕が、死柄木弔の前に拘束されているのはおかしいのだが。

 

「ずいぶん強気だけど、その実力あるしな。

 まあ、そうだな。単刀直入にいこう」

 

 死柄木弔は一度間をおいて、

 

「俺の仲間にならないか?」

 

 と、衝撃の言葉を発した。

 

「え?」

 

「えええーー!」

 

 コンプレスうるさい。というかさっきから一番反応しているけど、タンクトッパーとやりあったことでもあるのかな?

 

「はっきり言うけど、なんで?」

 

 正直誘うなら物間君(失礼)では?

 

「俺はUSJであのクロビカリとかいう化け物にやられてから無個性ヒーローについて調べた。先生は興味ないようだが、クロビカリ以外の無個性ヒーローについても知ったよ。それで思ったんだ、アイツらヒーローじゃないだろ?ってな」

 

 否定はしづらいな。

 マスターなんかも称号に関心ないし。

 他3名もそうだ。

 

「クロビカリはスポンサーの金持ち共のゴリ押し。

 豚神は危険生物扱い、

 タンクトップマスターは、ヒーローを撃退した実績から、

 番犬マンは、大衆からの圧力。

 まともな経緯じゃないよな?」

    

 そう、無個性ヒーローはマトモな扱いではない。

 ヒーローという名称はつけられてもヒーロービルボードチャートには乗らないし、公安から動向を監視されてもいる。

 現在の社会を壊しうる存在。

 それはまるで、

 

「ヴィランみたいな扱いだろ?

 本人達は周囲に無関心で、わざわざルールを破る気質じゃないから気にしてないがな」

 

 そう、所在の知られているヴィランのような扱いなのだ。無個性ヒーローもタンクトッパーも。

 

「だったらヴィランになろうぜ。

 ショッピングモールで噛み合わないと感じたのは敵としてだ。だってお前、ヒーローに興味ないだろ?」

 

 そんなことは、

 

「人を助けたい、手を差し伸べたいだけ、がお前だ。

 それをするには立場と環境が枷になっていると感じているだろ?こんな状況でなければもっと助けられるのではと考えているだろう?」

 

「ヴィランが人助けを許容するのか?」

 

「オイオイ勘違いするなよ」

 

 バッと死柄木弔は手を広げる。

 

「俺達は犯罪したいから集まってんじゃない。

 好きなことやってたら犯罪認定されただけ、

 やりたいことやれない今の社会に不満があるからぶっ壊そうとしているだけだ。

 だからさ、仲間が人助けをやりたいと言って否定するわけないだろ?

 好きなことをやろうぜ」

 

 ヤバいね。

 死柄木弔、コイツは。

 USJで絶対に仕留めておかなければいけない存在だった。成長してやがる、今この瞬間にも。

 コイツは間違いなく、オールフォーワンの後継にまで至ってしまう。

 仕留めるべきか、今ここで。

 

「まあ良く考えてくれ。

 ドクターとかいうヤツはうるせえが、俺にはお前を脳無になんかする気はない。  

 結構気が合うし、勧誘を諦める気がない。

 そうだな、午後から面白い番組が流れるみたいだからその時また話そう」

 

 するとマグネが椅子ごと僕を持ち上げて、別の部屋に運ぶようだ。

 

「世話に食事とかはマグネがあ~んしてくれるから楽しんでくれ」

 

「いやタンクトップ着てれば一週間は平気だけど」

 

 別にわざわざ用意されなくても、

 

「だから何なんだよタンクトッパー」

 

 またコンプレスが頭抱えてる。

 

「あのさ、死柄木弔」

 

 それでもこれだけは言っておこう。

 

「なんだ?」

 

「僕に手を差し伸べてくれたのは、タンクトップマスターというヒーローだった。

 だからいくら話があっても仲間にはならないよ」

 

「お前はコッチ側だよ、間違いなくな」

 

 その会話を最後に僕は別室に監禁された。

 世話焼きなのかあれこれやりたそうなマグネには下がってもらった。

 本当に仲間にしたいんだな。

 もっとイカれているかと思ったがそうでもない。

 けれどそれはお互いがオールマイトについて触れてないからだろう。

 ソレが会話の主軸だったらもっと拗れていたと思う。

 死柄木弔、彼の根底にはオールマイトに対する嫌悪がある、それが実体験によるものか、オールフォーワンに植え付けられたものかはわからないけど。

 まあそれでも、直ぐにドクターとやらに引き渡されて解剖されなかったのは幸いか。

 それについては死柄木弔に感謝しておこう。

 面白い番組、多分雄英高校の謝罪会見だろうな。

 マスコミは元から嫌いだから、また話が合うネタになりそうだよ。

 ヒーローに興味がなくて、人助けしたいだけか。

 否定はしないよ死柄木弔。 

 僕には世間や社会は煩わしく思える。

 でもさ、お前たちは僕の大切なみんなを傷つけた。

 そのことを大したことだと認識していない事実が。

 許せないんだ、どうしても。

 僕はお前たちを許さない。  

 お前たちが意外と話が合う、気の良い相手であったとしても。

 自由と渇望に目的も大事だ。

 けどね、情もまた同じくらい大切なのさ。

 ヴィラン連合、お前たちはそれを見落としている。

 だから共には歩まない。

 

 そうだ機会を窺おう。

 脱出ともう一つの機会を。

 そしてオールフォーワンを釣ることが出来たなら。

 己の全霊をもって打ち倒す。

 クラスメートの皆が、夢を憂い無く追いかけて生きていけるために。

 みんなが笑って過ごせるために。

 

 



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60話

今回は短いです。


 

 そして午後、バーの前に拘束された僕と流されるテレビ。予想通り面白いテレビは雄英高校の謝罪会見。

 頭を下げる先生方と野次る記者達。

 その追求はプッシーキャッツ達と、意識不明で入院しているラビットとジャングルに無事だったハッターにまで及んだ。

 プッシーキャッツには情けないだの、所詮アイドル気取りの女ヒーローだの、タンクトップ事務所にはやれ無個性ヒーローなんておかしいだの、元ヴィランがヒーローをやるなだの、ハッターは中退者じゃないかだの。

 無個性ヒーローの存在、タンクトッパーを面白く思ってない連中はここぞとばかりに責め立てた。

 それを見て沈黙する僕の様子に気を良くしたのか、持論を語り出すヴィラン連合。

 ステインの教示、自己顕示に変換する異様、ルールで縛りつける社会、責めたてる国民。

 自分達の戦いは問いだと語る。

 混乱を起こし、ヒーローと正義のあり方を、社会が正しいかを考えてもらうと言う。

 まるで同調してほしいかのように。

 けどその問いに対して僕は。

 

「どうでもいいよ」

 

 雄英高校の謝罪会見を叩く連中が人間の内面だとしても、ヒーローに完璧さを求める無責任な一面があったとしても、個性に対する受け皿が不十分な社会であったとしても、それでも、

 

「君達がヴィランであり、僕の大切な人達を傷つけた事実は変わらない。君達が理不尽を振りかざしている事実は変わらないよ」

 

 僕はそれを許さない。

 考えが浅いのだろう。

 視点が狭いのだろう。

 己のことしか考えてないのだろう。

 だが社会や世界がどうであれ、社会とは個人個人の生活の積み重ねられたモノだ。

 だから僕はその一つ一つに手を差し伸べる。

 僕は世界を救いたいんじゃない。

 僕は社会を守りたいんじゃない。

 僕は泣いている誰かを救いたいのだから。

 僕は蹲る人に手を差し伸べたいのだから。

 だから、

 

「終わりにしよう、死柄木弔。

 君達のことは嫌いではない、でも君達の作る先には誰かが泣いている。だから僕は此処で君達を打ち倒す」 

 

「残念だよ」

 

 ユラリと死柄木弔は立ち上がる。

 

「お前とはわかり合えると思ってた」

 

「わかり合えると、賛同するは別の話だね」

   

「仕方ない、ヒーロー達も調査を進めていると言っていた、悠長に説得してられない。

 先生、力を貸せ」

 

「良い判断だよ、死柄木弔」

 

 来た。 

 ついにこの時が。

 やっとオールフォーワンにたどり着いた。

  

「無個性ヒーローには関心はないけれど、タンクトップで発現した個性とやらには興味がある」   

 

 黒霧のゲートの奥から迫り出してくる気配。

 同じ人類とは思えない凶悪な威圧感。

 居るだけで絶望したくなるような存在感。

 オールマイトとの決戦で表舞台に立てなくなってこの威容。

 つるりとした表情無きマスクから伸びるホースが特徴な男。

 個性黎明期から数世代も闇に君臨し続けた絶対王者。

 これが、オールフォーワンか。

 

 仲間であるヴィラン連合すらその存在に呑まれる中で僕は一人。ワンフォーオールの中の歴代達と共に、唇の端を上げて笑う。

 強がりに決意を乗せて、僕は此処で全ての因縁にケリを着ける、

 

「ねえオールフォーワン、一ついいかな?」

 

「「「!?」」」

 

 先生としか言われていない存在の名前を言い当てた事実に、周囲は混乱する。

 

「タンクトップで個性が発現するわけないだろ?

 バーカ」

 

 バキリと拘束を力尽くで破壊し、左手から黒鞭を伸ばしヴィラン連合全員を縛りあげる。

 

「この個性は」

 

 記憶を掘り起こしたオールフォーワンが反応するがもう遅い。

 

「5代目の黒鞭プラス3代目の発勁、合わせて喰らえよ」

 

 握った左手の甲にパンっと右手を重ねる。

 放射状に広がった黒鞭に発勁の衝撃が伝播する。

 

「黒鞭打尽」

 

 その衝撃にある者は意識を絶ち、ある者は血を吹きだす、中には耐えきった者もいるがダメージは大きい。

 

「成程ね、緑谷出久」

 

 だが肝心のオールフォーワンはマスクに罅が入ろうと平然としている。

 

「君が9代目か」

 

 見つけた、と見えない筈の目で見つめられたように感じた。ニチャリと見えない筈の表情が嗤った気がした。

 だけど怯むな。

 此処でコイツは倒す。

 僕の全てを賭けてコイツを倒す。

 サーナイトアイの言っていた予知を覆すために。

 オールマイトにあんな終わりにさせないために。

 これからも悲劇が続かないために。  

 全てを終わらせる。

 

 

 

 



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閑話、オールマイト視点 

 

 緑谷少年、いつだか君は言っていたね。

 自分は生きてる間にどれくらいの涙を止めれるのだろうかと、どれだけ悲劇を防げるのだろうかと。

 ワンフォーオールに残された歴代達の記憶、その重みに耐えきれなくなった君の、数少ない弱音だったんだろうね。

 だからね、私は言うんだ。

 今この瞬間も、誰かのために戦う君は、自分が望んだ数だけ救えるだろうねって。

 これから訪れるであろう私の未来を変えようとする心優しい少年よ。お願いだから今だけは見ていてほしい。

 私が未来を変える瞬間を。

 君との出会いが生み出した未来を。 

 私の歩みの集大成を。

 

 

 雄英高校林間合宿のヴィラン連合による襲撃事件。

 攫われた緑谷少年の救出及びヴィラン連合壊滅を目的とした作戦。

 八百万少女の機転により判明した脳無保管拠点、警察の調査により判明したヴィラン連合の活動拠点。

 両方を同時に突入し、連中をまとめて一掃する。  

 今まで好きにされていた我々の反撃の一手。

 ここで全てを終わらせる。

 集ったヒーローはまさに精鋭中の精鋭。

 私オールマイトから、

 ナンバー2ヒーロー エンデヴァー。

 ナンバー3ヒーロー ホークス。

 ナンバー4ヒーロー ベストジーニスト。

 ナンバー5ヒーロー エッジショット。

 という国内最強のヒーロー達に加え、

 無個性ヒーローナンバー② 豚神。

 無個性ヒーローナンバー③ タンクトップマスターまで参戦している。

 

「超合金クロビカリ先生はどうされた?」

  

 エンデヴァーがそう問えば、塚内君は悔しそうに答える。彼もまた緑谷少年との付き合いから参加を希望したが、ヒーロー公安委員会のお偉方及びスポンサー達の護衛任務のため無理になったらしい。

 敵にオールフォーワンが居る以上最強戦力であるクロビカリは手元に確保して置きたかったのだろう。  

 参戦する戦力の規模、そして実際にワープ個性で脳無を送り込まれる可能性を考えれば彼だけでも本部に控えておくことは判断として間違ってはいない。

 不満に思うこと多々あれど、彼ら無くしてヒーロー社会は維持できないのは事実なのだ。

 だが、現ヒーロー公安委員会会長もただ頷いたわけではない。彼女の尽力あればこそ最速の男ホークスと、豚神の参戦はなったのだ。そして脳無を一つの生命ではなく死体人形の兵器であると断定、人目を避ける必要こそあるが豚神による捕食の許可もだされた。

 そう、誰もが本気なのだ。

 ヒーロー社会崩壊の切っ掛けにもなり得るこの事件、総力をもって解決にあたる。

  

「タンクトップマスター、君は大丈夫か?」

 

 その表情は感情が抜け落ちたかのように無表情。

 だが私には分かる、同じ怒りを抱く私には彼の煮詰まりきったマグマのような怒りが。

 

「怒りに呑まれはしない、だが、だが!!

 出久を取り返し、世話になった舎弟たちの礼をしてやろう」

 

 タンクトップに誓って。

 そうタンクトップマスターは宣言した。

 他にもギャグオルカにマウントレディ、シンリンカムイやタンクトップ事務所のメンバーも集結している。

 

「人数が多くないか?」

 

 誰かが呟くが、林間合宿でやられた増殖脳無に対しても人手がいる。

 個人で脳無と相対できるヒーローが数多く在籍するタンクトップ事務所は戦力としてうってつけだったのだ。さらに今回の件、仲間をやられ攫われた彼らの怒りも凄まじいものだからだ。

 

「俊典俺なんぞまで駆り出すのはやはり、」

 

「なんぞではありませんよグラントリノ。

 ここまで大きく展開する事態、奴も必ず動きます」

 

「オール・フォー・ワン」

 

「ええ、今日こそ決着の時です」

 

 彼、とも連絡をとった。

 全てを終わらせるのだ。

 いよいよ作戦開始間近、雄英高校謝罪会見はヴィラン連合に対するブラフと作戦開始の合図だ。

 私はもってきたアタッシュケースから友から託された個性増幅装置を取り出して装着する。

 そしてメリッサから渡された改良版フルガントレットを腕に纏わせる。 

 デイブ、メリッサ、君達との約束は必ず果たす。

 緑谷少年を助け出し、共に君達の元へと帰る。

 だから待っていてほしい。

 

 エッジショットのノックとピザの宅配を装うのと同時に壁を打ち砕くはずが、その直前の怖気の走る凶悪な気配と衝撃音に一時中断してしまう。

 中で何が?

 窺おうとすると、「タンクトップスカイアッパー!」

と言う叫び声が、天井をぶち抜いて吹き飛ぶ人影と共に聞こえてきた。

 

「アレは?緑谷少年!?」

 

 お師匠の個性で人影を追いかけながら空中で黒鞭を振り回し追撃を加えている。

 だが人影は複数の個性を用いてそれを捌く。

 あんな芸当ができる存在は。

 この世で唯一人。

 闇の帝王、オールフォーワン。

 緑谷少年、君はそんな奴と戦うのか。

 その歳で、その巨悪に。 

 私の代わりに戦おうというのか!!

 

「はは、いやぁ私の手駒以外で複数の個性を使う存在なんてね。しかも君は使いこなしている」

 

「歴代達と師匠、そしてタンクトップのおかげだ。

 奪うばかりの貴様と同じにするな」

 

「その力の大元が誰なのか知らないと言わせないよ、あとタンクトップって何だい?」

 

「阿呆が、これは貴様の力なんかじゃない。

 貴様という悪に抗い、立ち向かって紡いできたヒーロー達の力だ!! そしてタンクトップの持つ無限の可能性だ!!」

 

「つまり僕の与えたモノじゃないか!!

 というかただの衣類にそんな力があるかっ!!」

 

「だからお前はAFOなのだ!!」

 

 神野区上空にて、拳打に個性と叫びが轟く。

 ヴィラン連合アジト内には既に誰もいない。

 オールフォーワンが個性で逃したのだろう。

 手の空いたヒーロー達と警察は神野区の住人の避難を開始していた。

 ベストジーニスト達の向かって行った、脳無保管拠点は無事制圧を完了したと連絡がきた。

 

「俊典、アイツは強えな。

 俺らのだらしなさが強くしちまったんだな」

 

「グラントリノ」

 

「最強の後継者なんだろうよ、でもな若えのが生き急ぎ過ぎなんだよ」

 

「これからです、まだこれからなんです。

 私達が彼に緑谷少年に教えてあげるのですよ。

 グラントリノ」

 

「そうだな」

 

 

「『空気を押し出す』+『筋骨発条化』『瞬発力』×4『膂力増強』×3 この組み合わせは楽しいな、増強系をもう少し足すか。いくら拳法と黒鞭で捌こうと広範囲の衝撃は流せないみたいだね。緑谷出久」

 

 その衝撃により、上空にいた緑谷少年は地面に叩きつけられ既に避難済みの町に大きなクレーターを生む。

 

「緑谷少年!!」

 

 急いで彼の元へ、間に合え!

 

「君は強かったよ、緑谷出久。

 林間合宿襲撃時の疲労、その後に吸わされた筋弛緩剤を多く含んだガス、とても戦える状態じゃないのに良くやった。そのまま育てば間違いなくオールマイトを超える僕達の障害になるだろう。

 だからこそ、此処でワンフォーオールを回収し君を殺そう」

 

 複数の個性を同時に発動し、巨大になった右腕を振り上げる。

 

「オールマイトの時のような失敗を繰り返すつもりはないんでね」

 

「緑谷少年!!」

 

「ああ居たのかオールマイト、ならば見ていたまえ。

 師匠に続いて今度は君の後継者だ」

 

 手を伸ばしても届かない、緑谷少年も睨みつけているが体は動かないようだ。

 このままだと彼が、

 グラントリノに間に合わない距離で最悪の瞬間が訪れようとしたその時。

 オールフォーワンの巨腕は逞しい腕に止めらた。

 

「貴様今何をしようとした?」

 

 その声は怒りに震えている。

 

「俺の大事な舎弟に何をしようとしてやがるっ!!」

 

 タンクトップパンチ。

 タンクトップの動きやすさから放たれる、彼らタンクトッパーの代名詞のような技。

 だが今その技を放つは最強のタンクトッパー。

 怒りの彼が放つそれはまさしく次元が違った。

 ただの一撃。それがオールフォーワンの巨腕を半ばほどまで消し飛ばした。

 

「これは、誰よりも仲間思いなタンクトップラビットの分」

 

 タンクトップアッパー、その一撃で既に罅の入っていたマスクが消し飛び。

 

「これは、兄貴分のためなら死地にも飛び込む勇敢なタンクトップジャングルの分」

 

 タンクトップキック、その一振りは防ごうとした巨腕の残骸をちぎり飛ばす。 

 

「これは、己の無力さに嘆き苦しみながらも役目を全うした心優しいタンクトップハッターの分!」

 

 タンクトップクロー、広げられた掌はオールフォーワンの苦し紛れの反撃ごと残った左腕を刈り取る。

 

「これは、誰かに手を差し伸べるために己を磨き上げ鍛えてきた俺の最初の舎弟である出久の分!!」

 

 タンクトップラッシュ、弾幕どころではない拳の連打が津波のごとくオールフォーワンを砕き飲み込み押し流す。

 

「そしてこれがぁ!大事な、大事な! 大事な!!舎弟達を傷つけられた、俺の分だぁっ!!」

 

 タンクトップタックル、彼の代名詞とも言える必殺技は、ボロ雑巾のようやオールフォーワンに最後の一撃となった。

 かに思えた。

 崩れ落ちたオールフォーワンの肉体は逆再生するように元の姿に戻っていった。

 

「『復活』。一度しか使えない一度死なねば発動しない不便な個性だが、役にはたったね。まあ復活でも今日の分までしか治らないみたいで完全復活ではないけどね」

 

「そうか、なら何度でも叩き潰してやろう」

 

「どんな戯言だと思っていたが、厄介な存在だね無個性ヒーロー」

  

「俺如きで知った気になるな、無個性ヒーローとして同じ扱いをされることに抵抗があるほどに、他の三者は怪物だぞ」

 

 言うや否やオールフォーワンに飛びかかろうとするタンクトップマスターに私は声をかけた。

 

「ここからは任せてもらえないかな?」

 

「オールマイト」

 

「タンクトップマスター、君は緑谷少年を頼んだ」

 

 私の決意を感じ取ったのか彼は頷いてくれた。

  

「ケリをつけてこい」

 

 私の肩に手をおいて彼はそう言ってくれた。

 

「ああ、そのために、決着をつけるために私は来た」

 

「全く想定外のことばかりだ。

 珍しい個性かと思ったらワンフォーオールだし、

 9代目継承者はあまりにも強すぎるし、

 取るに足らないと思っていた無個性ヒーローは化け物だった。

 けどまあ、君が戦う気なら受けて立つよ」

 

 復活したオールフォーワンと私の拳がぶつかり合う。

 

「何せ僕はお前が憎い。

 かつてその拳で僕の仲間を次々と潰して回り、

 お前は平和の象徴と謳われた。

 僕らの犠牲の上に立つその景色、

 さぞや良い眺めだろう?」

 

 一度緑谷少年を地に落とした衝撃を、デトロイトスマッシュで強引に打ち消す。

 

「心置きなく戦わせないよ、ヒーローは多いよな。

 守るものが」

 

「黙れ、貴様はそうやって人を弄ぶ!

 壊し!奪い!つけ入り支配する!

 日々暮らす方々を!理不尽が嘲り嗤う!

 私はそれが!許せない!」

 

 ヤツの腕を握り潰し、顔面をぶち抜く。

 

「想定外だ、そろそろ綻ぶかと思ったら。

 随分と余裕があるねオールマイト」

 

 そうしてもまだ、巨悪は揺るがない。

 余裕があるかのように嗤った。

 

 

 

 

 



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62話

 

 オールマイトが戦っている。

 オールフォーワンと戦ってしまっている。

 僕が不甲斐ないばかりに戦い続けてきたあの人を再び戦わせてしまっている。

 一度は打倒した相手、あの恐ろしい闇の帝王と。

 体が動かない。

 不調だったのは承知していた。

 全開時の半分も戦えないと分かっていた。

 でも、でも、

 オールマイト、貴方が戦うよりずっとよいから。

 貴方に幸せに生きて欲しいから、だから。

 

「気にするな出久」

 

「マスター」

 

「オールマイトの選んだことだ。 

 アイツは後悔なんざしていない。

 己の幕引きを己で決めれることはな、とても幸運なことなんだ、だから」

 

 見届けてやれ、僕が彼の後継者なのだからとマスターはその大きな手で僕の背を叩いた。

 

「それにな、今のオールマイトは間違いなく最強なんだよ」

 

 

「成程それがかの天才デヴィット・シールド博士の発明品か。サポートアイテムも中々捨てたモノじゃない、個人的には気に入らないが科学が個性を超える日が来るかもね」

 

「発明品だと軽々しく語るな、コレは友が私のために創りだしてくれた友情の証!!

 悲願を果たさんとする私に対する最高のエール!!

 侮るなよオールフォーワン、今日の私は人生で一番強い」

 

「だからこそ打ち倒す意味がある。

 君という、仮初の平和を照らす太陽を掻き消して世界をあるべき姿に戻すとしよう」

 

 再度ぶつかり合う、残り火を友の力で燃え上がらせたヒーローと奪い集めた力を振るう魔王。

 両者は拮抗し、都市を、いや世界を揺るがす。

 世界の運命この一戦にあり。

 事件を嗅ぎつけたマスコミにより、世界中にこの光景が流れる。

 そしてそれこそがオールフォーワンの狙い。

 

「弔がせっせと崩してきたヒーローへの信頼、

 決定打を僕が打ってしまってよいものか。

 残念なことにお前の惨めな真の姿は晒せそうにないようだ、なら確実な敗北で世界を再び闇で包もう。

 魔王たる僕が君臨するにふさわしい世界に」

 

 覇気が増した。

 子供じみた妄想を実現せんとするイカれた精神、それを実現してしまう最悪の個性、積み重ねられ煮詰まった凶気と執着。

 これが、オールフォーワン。

 

「マスターっ!」

 

 いくら避難誘導しようと全ての人を避難できるわけではない、残された人だっている。だからこそヤツはソコを狙う、ヒーローが命を落とすのはいつだって誰かを守る時だからだ。

 オールフォーワンがオールマイトに隙を作るために周囲を破壊しようとしていることに気づき、マスターに自分ではなく他の人を守ってくれと伝えようとする。

 けれど、そんな必要はなかった。

 

「赫灼鋼拳フルメタル・バーン」

 

 そこにはヒーローがいた。

 全身から炎を放つ偉丈夫。

 自らに努力と名付けた、のぼりつめた漢。

 ナンバー2ヒーロー エンデヴァーは右腕を黒く輝かせその一撃と灼熱をもって、オールフォーワンの複数の個性による破壊の衝撃波を相殺した。

 

「何をしている、

 何をしている!!オールマイト!!」

 

 誰よりも事件を解決してきた男は吠える。

 誰よりも頂きに挑んできた男は叫ぶ。

 誰よりも平和の象徴を追いかけてきた男は、

 誰よりもその背中を見てきた男は、

 誰よりも大きな声で、

 今まで一度も言わなかった言葉を告げる。

 

「最後の戦いなのだろう!

 果たすべき宿願の時なのだろう!

 ならば後ろを振り向くな!

 前だけ見据え、敵を討て!!」

 

 オールマイトが、平和の象徴がいなくなることを受け入れて、そして、

 

「貴様の後ろには、俺達が居る!!」

 

 存分に戦えと、自分達を頼れとそう叫ぶ。

 集ったヒーロー達と肩を並べてそう叫ぶ。

 この国最高のヒーロー達。

 オールマイトの下で平和を支えてきた英雄達。

 彼らは今、平和の象徴オールマイトの最後の花道がため、憂い無く戦えるよう其処に立つ。

 万難尽く我らが払うと叫び立つ。

  

 その言葉を受け取ったオールマイトは、平和の象徴としてではなく、師匠の教えだからではなく、ごく個人的な笑みを浮かべた。

 フッと、胸から溢れた喜びが口から零れてしまったように、八木俊典は笑った。

 

「小粒な英雄気取り風情が猪口才な」

 

 全開ではなくともオールマイト以外に防がれない、オールマイトのトゥルーフォームを引きずり出せると確信した衝撃波を難なく止められた事実に憤り、オールフォーワンは腕を肥大化させて、再び破壊の風を放とうとする。

 けれど飛んできたナニカがオールフォーワンの肩にぶち当たり、あらぬ方向に衝撃波を散らす。

 どこに当たればそうなるか分からないと打てない、そんな一撃。地面に落ちたソレを印鑑の形をしていた。

 

「闇の帝王を自称するにしては、実にユーモアの足りない言葉だな」

 

 カツリと足音を立てて現れるサラリーマンのようなスーツ姿の眼鏡をかけた男性。

 袂を別けたオールマイトの元サイドキック。

 未来をその眼で見る男。

 サー・ナイトアイ。

 

「私にはもう、貴様の敗北が視えている」

 

 自らの全てであるヒーローがためここに参戦。

 

「再び私と轡を並べてくれるかい相棒?」

 

「無論ですオールマイト。貴方に請われて断る道理などない」

 

 アメリカから帰還し、勇名馳せたその時よりこの国を守り続けた両雄は、一度は袂を分かとうとも今再び共に走り出す。

 

「オールマイト!!」

 

 ついには余裕すら捨て去り、闇の帝王は吼える。

 

 

 

「言った筈だオールフォーワン!!

 今日の私は人生で一番強いと!!」

 

 師より賜った最高の教え。

 親友父娘に渡された最高のサポートアイテム。

 後ろを任せることの出来る最高のヒーロー達。

 共に駆け出す最高の相棒。

 そして、

 あとを託せる、最高の後継者。

 こんな素敵なモノを得られた私は間違いなく、

 世界で一番幸せ者だ。

 

「オールフォーワン、私を太陽だと言ったな。

 だがそれは違う!

 私は一粒の星に過ぎない!」

 

 サーナイトアイの掩護とともにぶつかり合うヒーローと闇の帝王。

 かつてそうされたように英雄は語る。

 

「この世界には犯罪に苦しむ世界という夜に数え切れない程のヒーローという星が輝いている。

 私は一際目立っただけの星に過ぎない!」

 

 改良されたフルガントレットは全開のワンフォーオールに耐えきり、個性増幅装置は本来の活動限界を大きく伸ばす。

 

「私の姿に憧れた一人の少女がアメリカを照らす星となった。

 砂漠の心優しき青年が一国の守護者へと至った。

 最強を目指した若獅子はいまや庇護を与える獣王だ」

 

 ぶつかり合い撒き散らされる衝撃と瓦礫の心配は必要ない、全てヒーロー達が防いでくれる。

 

「そして私を追い越さんとする同胞は、誰よりも気高く強い炎だ」

 

 取りこぼしかける反撃も、攻撃の出鼻をくじくように掩護がはいる。

 

「星はある、ヒーローは居る!

 ならば私が此処で燃え尽き流れようと、何を恐れることがある!!」

 

 そして、あの日出会った希望を見る。

 そう彼がいる。

 誰かに手を差し伸べたいと望む心優しき少年が。

 

「人々よ!不安に思うのなら願ってくれ!

 流れる私に願いを込めてくれ!」

 

 私の全て、

 ワンフォーオールの残り火を全て、

 ヒーローとしての全てをこめて、

 人々の願いを今背負い、

 巨悪を討たんとその拳を、最後の一撃を振るう。

 

「星に願いを!!

 Shooting Star SMASH!!」

 

 流れ星のように人々の願いを込めた燃え尽きる最後の一撃。

 生涯最高のSMASHは巨悪を打ち砕き、長かった夜に終わりを告げた。

 最後にいつものようにスタンディングオベーションを決めて。

 オールマイトは勝利を飾った。

 ヒーローとして最後の勝利を。

 

「次は君だ」

 

 テレビから発信された短いメッセージ。

 それは多くの意味があるだろう。

 まだ見ぬ犯罪者への警鐘。

 平和の象徴の折れない姿。

 ヒーロー達へのエール。

 誰もが受け取り、その胸を昂ぶらせる。

 平和の象徴の勝利、伝説の巨悪の敗北。

 世界を変える一戦は此処に幕を降ろした。 

 

 

 

 

 

 

 



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63話

ギャグを書きたいです(血文字)



 

 一夜明け、世間は騒然としていた。

 急遽生中継で流れた映像が、ヒーローとヴィランの頂点同士の決戦。

 ぶつかり合う衝撃と破壊される都市。

 ヴィランが街中で暴れることが当たり前で、普通に生活していても荒事を見たことがない人が少数派なくらい暴力がありふれた社会。

 誰もが見慣れた暴力のはずが、あの日の決戦は桁が違った。もはや娯楽としてすら認識されていたヒーローとヴィランの戦いに、多くの人々が肝を冷やした。

 それは多くの戦いを一撃で下してきたオールマイトが苦戦していた事実と、オールフォーワンの発するもはや覇気とすらいえる圧倒的な気配に久しく忘れていた恐怖を呼び起こされたからだろう。

 これが社会問題と成りつつあったヒーロー活動時の野次馬が改善するきっかけとなるのだが、まだ先の話だ。 

 オールマイトとサーナイトアイの共闘の上での決着、そしてエンデヴァーを筆頭としたヒーロー達の掩護と救助活動、それらは余すことなく放送された。

 幸いなことに、マスターとオールフォーワンの戦いの時には報道陣はたどり着いてなかったため放送されなかった、お茶の間に流すにはいささかヤリ過ぎな攻撃ではあったわけだし。もっともマスターは刑に服す覚悟でオールフォーワンを仕留める気ではあったようだが。

 なお僕は撃退されたオールフォーワンを収監後にマスターに連れられ病院に搬送、検査の結果かなりヤバい薬物を複数投与されていたらしく、死柄木弔が勧誘してなければ間違いなく命はなかったようだ。どれも解剖する検体に打ち込む部類の反応薬だったらしい。

 なんで平然と動いて戦えたのかと(普通は植物人間状態になるらしい)医者から聞かれたが、あの時掴んだ光即ちタンクトップのおかげなのだろう。医者が医学的興味を飛び越えて恐怖を感じたようにこちらを見てきたがどうかしたのだろうか?

 思わぬ借りが死柄木弔達にできてしまったから、捕えた際にフルボッコ後市中引き回しをやめて、フルボッコだけで済ませようと決めた。

 検査後念の為一晩だけ病院に泊まることになった。

 マスター達ヒーローは今頃後始末に奔走しているのだろう。

 僕がヴィラン連合を無力化しオールフォーワンと相対していたから、脳無を転移されるなど被害は起きず、避難誘導に専念できたため命を落とした被害者は誰もにないという。

 だからこそ、僕は僕の無力さを呪う。

 オールマイトを世界から奪ってしまったのは僕なのだから。

 目に焼き付いた多くの場面がコマ送りのように回想される。そこに込められたヒーロー達の思いに胸が熱くなる。

 分かっているんだ。

 自分を責めてはいけないと、これは良い結果だった未来なのだと。

 オールマイトの叫びを、オールマイトの思いを正しく受け取らなければならないと。

 上手くいったからこそ、余計な欲をかいているだけなのだと。

 いつだって僕は無いものねだりだ。

 自嘲しながらため息をついて、眠りに落ちた。

 そしたらワンフォーオールの精神世界で、お前ネガティブ過ぎと歴代達にからかいドツキ回されたので全員に(とばっちり2名)タンクトップを着せて報復した。あとオールマイトがあそこまでやれたのはお前のおかげだと礼も言われたので、少し心が軽くなった。そろそろ目覚めの時間だからと起きようとしたら、去り際に二代目が、まだ終わりではない、と何かを確信した表情で言っていた。因みに、ワンフォーオールの精神世界で起きていたら体は一応寝ていても疲労は残るらしく、目の下にでかい隈をこさえて帰ることなった。

 

 ヒーロー公安委員会の護衛の元帰宅したが、移動中にいくつかの注意と要請を受けた。注意の方は秘匿すべき情報について。そして僕の身柄が安全だとはいえないことについて、ドクターと呼ばれた脳無製造者の情報が不明な以上タンクトッパーが狙われる危険性は未だに高いだろうとのこと。要請については戦力として、僕が託されたワンフォーオールを除いても戦闘能力はヒーロー全体から見て最上位。今後も脳無やそれ以上の存在との戦闘が起こる場合、応援を要請すると告げられた。仮免資格は必ず取得しないとマズイようだ。ただでさえ雄英潰しなんて流行っているのに。

 最後に、無事で良かったと職員一同思っていると伝えられた。タンクトップ事務所に出入りしていたため付き合いのあった彼らにも心配をかけていたようだ。

 ようやく自宅についた僕は、顔を合わすなり無言のまま抱きしめてくる両親に挟まれそのまま数時間過ごすことになった。包まれた温もりに僕はようやく死の恐怖を思い出し実感し涙を流すことができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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64話

 

 そういえば夏休み中だったよね。 

 神野決戦と言われた騒動から数日、僕は帰宅し両親と再会してから特に何事もなく過ごしていた。  

 父は仕事もあり再び外国へと行った。 

 今の役職はそう簡単に離れられるものではなく、まだしばらくは向こうにいるらしい。

 家族で外国に暮らすことも考えたことはあるようだけど、日本が世界でもっとも治安が良いことは外国で長年暮らす父が誰よりも実感している、今回の騒動があっても移住を勧める気にはならなかったそうだ。 

 空港で見送る際、いかなる夢であっても自分は応援すると父は言った。自分も家族の生活のためといっても、側で支えてきたわけではないからと。ただ本当にやりたいことは見失うな、自分の感情に蓋はするなとキツく言われた。我慢していずれ決壊し破局するくらいなら、最初からぶち壊して新しく創ってしまえと。

 相変わらずユニークな人だなと思う。

 年に数回も会えないあの人は、情こそあれどネガティブとは程遠い我が道を行く人なのだ。

 父を送った次の日は、まる一日メリッサに拘束されてしまった。オールマイトが約束を破らないとは知っていても心配で仕方なかったと言う。彼女は母の前だというのに僕に抱きついたまま大泣きした、どれだけ心配をかけたのか、どれだけ彼女に想われているのか、自分が考え無しであったと思い知らされた日だった。ちなみに既にメリッサと親友になった発目さんから、タンクトップを打ち倒すのは私のベイビーだから他の誰かに負けるんじゃない、とまるで宿敵のようなメッセージを預かったらしい。いまいち彼女との関係は微妙だ、いや会うたびにサポートアイテムで襲撃してくるから敵対よりな関係かな、メリッサによると彼女なりの心配はしていたらしいけど。

 そしてクラスメートの皆や勝己とはまだ会ってはいない。無事であることは相澤先生から伝えて貰って僕からは告げていない。

 これは僕の意思というよりは雄英高校からの指示で、今ヒーロー科40名は選択の時なのだという。数年に一度起こってしまう在学生の死亡や悲劇、それに直面し自身の進退をどうすべきか考えてもらう必要があるのだと言う、ここでヒーロー科や雄英高校を辞める選択はあるべきなのだそうだ。無論雄英高校としてはヒーロー科全員を素質ある存在だと認識している、育てる覚悟も熱意もある。だからこそ、今一度今後理不尽に立ち向かうかどうか家族と話し合い選んで欲しいのだと。

 全寮制導入検討のための三者面談の前に、僕という当事者の存在と在り方でそれぞれ個人事の方針が定まらないよう連絡はできないのだ。

 僕が僕だから無事だったに過ぎないのは否定できないしね。仮に勝己が攫われたらと考えたら、まあなんとかなりそうかな?強いし。 

 あと家に関しては三者面談は既に済んでいる。

 というか、両親+タンクトップマスター+タンクトップ事務所の面々+付き合いのあるトップヒーロー+無個性ヒーロー二人+マンションの住人+バング師匠も同伴したから、何者面談だったんだアレ。

 母は父より心配性だけど、昔からヒーローには慣れていることと僕の決意、そして寮にはタンクトップ事務所のヒーローが交代で常駐することで納得してくれた。

 皆はどんな進路を選ぶのか、分かりきってはいるが、悔いのない選択をして欲しいと思う。

 あとラビットとジャングルは意識戻ったのは嬉しいけど、タンクトップ着れないくらい包帯をグルグル巻なのに参加しないで欲しいです。いや嬉しいけど入院しててよ本当に。  

 

 

「オールマイト」

 

「どうしたんだい緑谷少年?」

 

「僕は星になります、貴方のような星に。

 だから見ててください、いつまでも元気で」

 

「ヒーローを引退したら自分が消えてなくなっちゃうんじゃないかな、と思ってたんだ私は。

 それぐらいヒーローであることしか平和のことしか考えてない人生だった、一欠片も悔いはないけどね」

 

 平和の象徴になった男の独白。

 見る人によっては人間らしくないとすら評した彼の在り方。

 けど貫き通し、やりきった彼は。

 

「これからは、皆がしてくれたようにヒーローのファンになってみようと思うんだ。

 だから、書いてくれないかサイン。

 私がタンクトップオールグリーンのファン一号で、最初にサインを貰った男だ」

 

 どこか満たされた表情をしていた。

 僕はなぜか涙を流しながら、人生初めてのヒーローとしてのサインを書いた。

 

 

 

 



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65話

 

「行ってきます」

 

 空になった自室に別れの挨拶をして雄英高校に行く。

 此処に戻ってくる日が再びくるかは分からない。

 でもまた此処で寝泊まりする時は、今とは違う自分に成れてると良いなと思う。

 玄関で手を握り約束する母、マンションの敷地から出るときに声をかけてくるヒーロー達、すれ違うと応援してくる近所の方々、って多くて恥ずいわ。

 なんで雄英高校の寮に入るだけで地域ぐるみの応援になるのさ、田舎から旅立つ若者かっ!

 なおそんな僕に当たり前のように腕を絡めているメリッサ、いやあのこのまま登校したら峰田君が目から生搾りグレープジュースを吹き出すからやめて。逃げないようにて、人助けして遅刻して活動時間減らしてたオールマイトじゃないから。 

 メリッサは寮生活にならないため、こうして一緒に登校するのが最初で最後になってしまうと残念そうに呟いていたので、結局折れてこのまま登校した。なお途中道端に零れていたグレープジュースについては気にしないように目を逸らした。

 発目みたいに学校に住み込もうかな、と道中呟いていたけどあの子自宅に帰ってないの?パワーローダー先生ブチギレてないかな。

 

 再会、それは誰よりも競いあってきたライバルあるいは親しい女性と行うべきモノ。

 けれど、僕が懐かしい教室で最初にした再会は。

 

「○ねーー!!」

 

 怒りと嫉妬に燃える非○テ少年からのドロップキックからでした。 

 

「あっ」  

  

 受けても良かったけど、タンクトップオートカウンターが発動し空中タンクトップ18連コンボを峰田君に叩きこんでしまった。

 新学期そうそうボロボロな峰田君をとりあえず席に置いて教室を見れば慣れた感じのクラスメート達が揃っていた。

 

「朝から何してんだよ」

 

 呆れたような声をかけてきたのは幼馴染の爆豪勝己。

 あんなことを頼んでしまったため最初に何を話そうかあれだけ考えていたのにこうなってしまうとは。

 でもさ、

 

「タンクトップさ」

 

 そんないつもどおり感が、なぜか涙がでるほど嬉しかったんだ。

 あの時、黒霧のモヤに飛び込んだ時に諦めた日常が続いている今が嬉しくて仕方ないんだ。

 だから、

 泣いた原因は峰田君じゃないから追撃しようとしなくていいからみんな。

 

「約束果たしたぞ馬鹿野郎」

 

 通り過ぎる時ボソリと告げた勝己に彼らしさを感じてなんか嬉しくてなった。

 その後僕達は一旦荷物を置いて黒板に書かれた指示された場所へと向かう。

 雄英敷地内校舎から徒歩五分の築三日。

 ハイツアライアンス、ここが新たな僕のいや僕らの家だ!

 

「とりあえず一年A組無事集まれて何よりだ。

 お前らの決断と覚悟に敬意を称すよ」

 

 誰かが雄英高校を去る可能性だって充分にあったわけだしね。その決断も間違いだとは思わないし。

 また相澤先生だって責任を問われ、教員を続けれない可能性だってあった。

 けれどそこはいくつかの思惑も絡んでいるんだろうなと思う。

 

「その前に一つ、切島、轟、八百万、飯田。

 お前ら四人が緑谷救出に向かおうとしたらしいな。

 お前達はあの時ヒーローによる秘密裏な護衛がついていた、そのため行動は筒抜けだったわけだが、」

 

 一旦話をとめ相澤先生は頭を下げ。

 

「すまなかった、全ては俺達教員の不手際故だ。

 安心して任せられないくらい信頼を欠いたコチラに非がある。お前らの行動は問題だが仕方ないことだとも思える。

 だがなそれでも問題行動だ、命の危険だってあった。

 それと覚えておいて欲しい、止めてくれる仲間がいる素晴らしい事実を」 

 

 そう言って相澤先生がこれから寮の内部の説明をすると言って入っていった。

 あと今日一日は授業ないで自室の引っ越しだからと言われたのだが、

 

「「「教室に鞄置いたままだよっ!!」」」

  

 とノリよく皆突っ込んだ。

 これこそ一年A組だよね、と日常が戻った感にしみじみとした気分になった。

 

 



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66話

しばらくダラダラ日常編やります。
ヴィラン連合サイドはやりません、別作品でやりたいので。


 

 一棟一クラス右が女子棟左が男子棟、ただし一階は共同スペース。食堂や風呂、洗濯などは男女共同スペースにある。

 早速反応する峰田君(1KO済)だけど、豪邸やないかい、とふらついた麗日さん以外の女子の目もギラついているよ。

 二段ベッドを並べての合宿空間ではなく、一人一部屋にエアコントイレ冷蔵庫にクローゼット付きの贅沢空間なのは、雄英高校の都合だからかそれとも内通者のあぶり出しのためか。

 部屋作りの自由時間を与えられたけど、どうするか。

 えっとこれは普段使い用タンクトップ、こっちは鑑賞用タンクトップ、保管用タンクトップに、交換用タンクトップと蘇生用タンクトップで勝負タンクトップ。

 

 うん、あっさり終わったね。

 基本的に仕舞うだけだし。 

 あとは気になるキッチンにでも行くかな?暇だし。

 コンロの火力に調理器具が気になって一階に降りるとそこには先客がいた。

 

「あ、勝己もキッチン気になったの?」

 

「ああ、大した荷物もねえしすぐ終わった。毎日二十人分の自炊となると使い勝手が気になる」

 

 見れば同じように気にしてた勝己がいくつかの食材を取り出していた。

 

「お昼ごはん?」

 

「キッチンの使い心地の確認ついでにな。いくつか食材もあったし、ついでだ手伝え。他の連中は部屋に夢中みたいだしな」

 

 お昼まであと少しなのに下りてこないから熱中してんだね。じゃあちゃっちゃとやるか。

 

「メニューは焼きそば?」

 

「昼だし軽くな、やっぱり火力が一番気になるからな」

 

「そういえば食事はランチラッシュのデリバリーも出来るってさ」

 

「食材がもったいねえ、なんでも後援会の人達が送ってくれんだと」

 

「相撲部屋かな?ちゃんこ鍋もありだね」

 

「そのうち夕飯でやるか」

 

 軽口を叩きながらも手は滑らかに動く、下拵えをすませたら後は炒めるだけ。

 

「オールマイト引退したな」

 

「うん」

 

「あれだけ強くて内臓全摘済とかマジかよ」

 

「個性関係なくおかしいよねあの人」

 

「世界中のヒーローが奮い立っているみたいだな」

 

「あんな言葉を聞いたならね、君もだろ?」

 

「星になりたい、あの人が言ったヒーローに。

 そんな感じだ」

 

「そういえば、ヒーローコスチュームに星を入れる要望が殺到しているらしいよ」

 

「公安も色んなロゴに星を入れるらしいな」

 

 世界中に報道された神野決戦、その時のオールマイトの叫びが与えた影響の一つだ。

 我ら星なり、ヒーローなり。なんて言葉がヒーローの間で流行っているとか。

 

「そういえば口田はなんで顔中引っかき傷だらけだったんだろうな?個性の制御ミスか?」

 

「いやアレは、彼女さんが全寮制に怒ったせい。

 基本お家デート派な二人だったから嫌だったみたいだね。此処だと外出に書類いるしね」

 

「彼女持ちならではの悩みだな、出来上がりっと」

 

 お昼完成だね。

 じゃあみんなに声かけないと、一斉放送できるみたいだからそれで呼ぼう。

 しかし焼きそば、轟君なんかざるそばが良いとか言いそうだね。

 

 

「ざるそば」

 

「またの機会でな」

 

 うんやっぱり言ったね。

 

「旨し、旨し」

 

「なんかこう、彼氏飯って感じで良いね」

 

「勝己のエプロン姿」

 

「焼きそばとセットで写真を撮るわ」

 

 勢いよく焼きそばをすする男子勢に、エプロン姿の勝己に喜ぶ一部女子。

 寮生活、こんな感じで日々過ごすのかと思うと楽しみだよね。

 

「悪いな、二人にやらせてよ」

 

 砂藤君なんか自分も調理できるのにと気にしているけれど、僕達暇だったからね。

 そのうち一緒にやれば良いよ。

 

「けど爆豪緑谷ばかりに頼るのもな」

 

「でもオイラ料理なんて家庭科レベルしかできねー。不味いの食いたくないし」

 

 料理当番か、気にしなくて良いのに。

 僕と勝己は慣れてるだけだしね。

 それに授業始まったらぶっ倒れるまで訓練漬けだと思うよ、距離的に疲労とか気にする必要なくなったし。 

 

「出来るヤツ、やりたいヤツがやれば良いだろ」

 

 ワイワイガヤガヤと過ごしていると、食事の終えた芦戸さんが皆に片付け終わったら部屋お披露目会をしないかと提案してきた。

 まあ面白そうだけど、目がさ勝己をロックオンしているよね。目的明白だよね。

 僕もそんな感じで見られているし。

 部屋王決めだーと盛り上がってきたから、暇な僕らは優勝賞品でも作ろうかな?

 

「デザートでも作ろうかな?」

 

「じゃあプリンか、全員分はデカイ型で取り分けるようにして、優勝者にはアラモードとか」

 

「だね、ゼリーは好み次第で戦争だし」

 

「美味いだろハバネロゼリー」

 

「イチゴゼリーと勘違いした君のお父さん悲惨な目にあったからね」

 

 こうして部屋王を決定するための部屋お披露目会が行われることになった。

 明らかに女性陣の目的は別だし、峰田君はよだれ垂らしているけど。

 僕も誰かの自室なんて、勝己とメリッサの部屋くらいしかしらないから楽しみだよ。

 しかし、判定基準とかどうなるんだろね。

 多数決っぽいけど。

 



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67話

 

 部屋王決定戦をやるまでに勝己と夕飯の準備とプリンを作った。

 夕飯は焼き魚メインの純和風膳、副菜に肉じゃがをつけてある。今後は訓練でお腹空かした大飯食らいの高校生だからビュッフェ形式のおかずを自分でとる方式にしようと思うけど、人数分を用意することに慣れるために一人前毎のお膳にしてみた。

 

 夕方になって全員が部屋の内装を終えて食事を済ますといよいよ部屋王決定戦の開始だ。  

 

「じゃあまずは緑谷からねー」

 

「最初からメインディッシュですわね」

 

「「うんうん」」

 

「いやお前らだけだぞ、他の連中はハイタンクトップタンクトップって感じで興味無さそうなんだが」

 

 芦戸さんの音頭で皆が僕の部屋に入ろうとするが、百さん麗日さん葉隠さん以外のテンションが低い。

 いや面白いの無いのは事実だけど酷くない?

 

「意外と普通だ」

 

「こうタンクトップが敷き詰められてるのかと」

 

「壁一面タンクトップが飾られてるとか」

 

「タンクトップマスターの等身大パネルとか」

 

 基本的内装は備え付けのまま、そこに収納しただけの部屋なんだけど。

 というか衣類はクローゼットに仕舞うでしょ。

 

「でも壁に掛け軸が3つも掛けてある」

 

「まあ僕の根本みたいな感じだし」

 

 それぞれにタンクトップマスターの教えと流水岩砕拳の心得、そしてオールマイトの神野決戦での言葉を書いた手製の掛け軸。

 それらを壁に掛けてあり、あとは机の上にフォトギャラリーが置いてあり、百さん達やタンクトッパーの皆の写真が別途に貼り付けてあるのが僕の部屋だ。

 

「シンプルだけど落ち着いた感じで良いかな?」

 

「ネタとしてはいまいちだけどな」

 

「女子とのツーショット写真が何枚もあるのが気に入らねえな」

 

「いやタンクトッパーとの写真もあるだろ?」

 

 結果、マトモなのが意外。

 いや高評価なのかコレ?

 楽しみにしてた百さん達は、自分達との写真があることと、ツーショット写真が百さん達にメリッサとだけなので安心したような満足したような表情だった。

 

「フン、下らん」

 

 と自室の扉の前で腕を組む常闇君。

 彼はプライベート空間には人をいれたくない派のようだね。僕の部屋を見たんだから駄目でしょ。

 

「プリンプリン」

 

 部屋に入れまいとする常闇君だけど、自分の部屋に自信がある黒影に退かされた。どうやら黒影は部屋王の賞品であるプリンが食べたいらしい。

 部屋は全体的に黒くて、ダークヒーロー的?

 カッコいい内装だね、テーマ製あるし。

 黒影は暗闇で暴走するらしいから大丈夫なのかだけ気になるかな?

 結果、男子ってこういうの好きなんだ。

 

 次は青山君の部屋だけど。

 全体的に光放つ物ばかりで何故かミラーボールがテーブルの上に。スイッチとかどうなってんだろ?

 結果、思ってた通り、想定の範疇をでない。

 

 あと二階は峰田君の部屋だけど、興奮した様子の峰田君がこちらを息を荒げて見てきた。

 それを女性陣は塵を見るような目で見て、予め呼んでいた13号先生に声をかけた。

 

「先生お願いします」

 

「へ?」

 

「私物持ち込みは許されてるけど、公序良俗違反は駄目ですよー。注意書きはされてましたよー」

 

 指先の蓋を開けて自室に入る13号先生の意図に気づき、慌てて止めようとするが時既に遅し。

 

「ぎぃぃぃやぁぁぁ!! やめて先生やめて!!

 オイラが、オイラが間違ってました!!

 ブラックホールで吸わないでー!!」

 

「女の子も暮らす空間にこれは駄目ですよー。

 というか君の歳なら持ってちゃ駄目でしょー」

 

 エロ撲滅、エロ撲滅と口ずさみながら峰田君コレクションを塵にする先生。

 ちなみに峰田君の実家には許可済というか、むしろコレを期に処分して欲しいと依頼されたらしい。

 実家だと(父の書斎とかに)隠していて騒動になったこともあるそうだ。

 しばし後、やり遂げた13号先生と真っ白く灰のような峰田君がいた。部屋にはもう何も無かったという。

 一仕事終えた先生にお疲れ様と出来たてプリンを小分けして渡す勝己に。

 

「年下男の子手作りスイーツ!」

  

 と雷のエフェクトを出しながら反応する29歳独身女教師が居たけど。

 そういうのやめてマジで、と勝己はゲンナリしてた。

 まあ仕方ないよね。  

 

 なお結果、エロ撲滅完了。

 

 3階の最初、尾白君ルーム。

 普通って感じらしい、僕と違って事前の期待というか予想も無かったし。掛け軸やらフォトギャラリーの無い僕の部屋と同じ感じだね。格闘家なんだから道着やら指南書置こうよ。

 

 結果、普通。

 

 飯田君ルーム。

 本が棚に収まり切らないくらい置いてある勉強家な彼らしい部屋。ただ地震とかで危ないから、共有スペースに本棚を置くの提案しようかな?ベッドの横やら机の横にも平積みだし。後壁一面に眼鏡、麗日さん吹いてる。

 

 結果、勉強家で眼鏡って感じ。

 

 上鳴君ルーム。

 小物多くてゴチャついた感じ?でも綺麗に纏まってはいる。本人は自信あったみたいだけど広く浅くって印象がだよね。

 

 結果、チャラくて手当たり次第って感じ。

 

 口田君ルーム。

 丸テーブルが置いてあり、ペットのウサギがいる。

 ぬいぐるみとか可愛らしい感じ。

 あと机の上に彼女の写真、カップル仲良いね。

 デートとかの相談を受けてたから(僕も彼女いたことないのに)僕は知ってたけど、口田君に彼女がいる事実を初めて知ったクラスメート達が沸き立ち(男子は一部殺気立つ)盛り上がる。けど後にしなよと僕と勝己が取りまとめ、場は収まった。

 

 結果、可愛くて良いけど、彼女いたの!!

 

 次は4階。

 まずは切島君で、女子にはわかんねえぞと本人も言ってたけど。

 男らしい感じ。トレーニングメニューとか書いてあったり、大漁旗とか飾ってある。

 とりあえずトレーニングルームが学校敷地内にあるから、サンドバッグやダンベルは必要なかったかも?

 

 結果、アツイ、アツクルシイ。彼氏にやって欲しくない部屋ランキング2位くらいにありそう。

 

 障子君ルーム。

 本人曰く何も面白い物はないとのこと。

 ベッドも撤去した布団と机に座布団の部屋。

 机やベッドはサイズとか複製腕の関係で不便らしくこの形式がラクなんだって。本人に物欲もあまり無いのも関係してるとか。

 

 結果、ミニマリスト。

 

 さてあとは芦戸さんを筆頭とした女性陣の一番楽しみにしていた勝己ルームだけど、携帯に警備予定のタンクトッパーが到着したと連絡がきたため、一旦皆で挨拶に向かうことに。荒さなければ見てていいぞと勝己は言ったけど、クラスメートの皆も林間合宿でお世話になったことから挨拶したいらしい。

 部屋王決定戦を一時中断して出迎えに向かった。

 今週は誰が派遣予定だっけ?

 

 

 



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68話

短いです。


 

 顔出しにきたタンクトップハッターとタンクトップアルデンテに挨拶をして部屋王決定戦というか勝己の部屋に戻る。

 クラスメート達としては、ラビットとジャングルの安否(そういえば伝え忘れてた)を気にしてたみたいだけど本人達は元気に夏祭りの神輿を担げるくらい回復している(両者共祭り好き)、何気にタンクトップ力は事務所でもトップクラスだしね。

 ハッターとアルデンテの二人は同じ寮ではなく、すぐに対応できる別の建物で1週間過ごすらしい。

 感知能力の高いハッターに強化率の高いアルデンテなら脳無に充分対応できる組み合わせだ。事務所も感知能力と戦闘能力でチームを組むつもりのようだ。

 といっても前提として雄英高校の警備を抜けるのは至難だし、あくまで念の為だろう。

 林間合宿の件を含めてタンクトップ事務所の警備能力の高さは各業界で注目されている。

 

 さていよいよお楽しみの勝己ルームだ。

 実家の方は何度か行ったけどどうなってるかな。

 

「つまんねえぞ、見ても」

 

 勝己がそう言っても恋する乙女ズの目力ヤバいよ。

 とりあえず印象としてはモノトーンな落ち着いた空間であること。

 内装は僕や尾白君のようにほとんどいじっておらず、物を配置したり収納したりした程度だ。

 ベッドの布団などが個性対応の特注品であることも印象的かな。あとは壁に冥躰拳の道着である漢服に似た服がかかっており、本棚にヒーロー雑誌と登山雑誌が入っている。

 

「趣味の登山道具はどうしたの?」

 

 と耳郎さんが聞けば、

 

「しばらくは訓練に集中して山に登る気はないな」

 

 行きたくなったら一度実家に寄るらしい。嵩張るしね登山道具って。まあお互いナイフ一本で充分だけど。

 僕もそうだけど幼少時から訓練ばかりだったから自室って勉強するか寝るかの部屋なんだよね。

 だからシンプルに物はあまり置かないのだ。

 ただ机の上には写真立てと女性陣とのツーショット写真、僕と口田君と砂藤君で仲間だねと視線を向けたらギンっと睨み返された。

 ちなみにそれぞれの写真に彼女らにピッタリのイメージの写真立てだった。多分コレ手作りの木彫りのヤツだね、勝己ド器用だし。そのことに気づき女性陣は嬉しくて顔真っ赤になっていた。

 

「ところでよ、お宝はどこだあ?あるんだろタンクトップガール写真集がよぉ」

 

 お宝消滅した峰田君がそう言うが、勝己はもう処分したという。初恋をいつまでも引きずるのはな、とも。

 今までの女性陣との関わり、そしてタンクトップガール自身のマスターへの恋心もあってもう終わりにしようと思ったらしい。

 告白自体は中学生の時にしてるしね。

 どこか儚げに遠くを見据える彼にそっと寄り添う恋する乙女達、いやあ青春だね。

 黙れババア趣味と睨みつけられたが、僕は小学生の時に乗り越えたしね。

 部屋王ではなく、ラブコメの一幕を見て満足気なクラスメート達は勝己ルームから出た。

 

 結果、乗り越えたんだね初恋を。

 

 続いて瀬呂君ルーム。

 エイジアンな素敵空間だけど、キャラに関係あるのかな?意外性というか関連性が見られない。本人も今までそんな要素見せたかな?セロテープに関係あったっけ?

 落ち着ける良い部屋なのに、勝己のラブコメを引きずっている皆のせいで反応は悪い、とばっちりだね。

 

 結果、ギャップある素敵空間。

 

 そして轟君、クラス屈指の実力者でイケメンボーイの部屋は年頃女子心をくすぐるはずが、恋する乙女達はそこまでじゃない。

 驚愕の内装は和室、もう作りが違った。そういえば業者が畳運んでたのはこのためか、あと和箪笥も。頑張って実家と同じ感じにしたらしい。

 なんか色々天然でインパクトあるよね彼。あ、でもマスターサイン入りタンクトップが壁にかけてあって絶妙に部屋のバランスを崩していた。

 

 結果、なんか和室。

 

 そして砂藤君ルーム。

 あれ?甘い匂いするね。

 内装は調理器具の収めた棚にオープンが印象的で、あとは布団の柄?なんだこのSugarと書かれまくり布団はタンクトップベジタリアンみたい。

 彼も早く片付いたらしくシフォンケーキを焼いていたんだって。

 でもコレ、

 

「味変えた?前食べたのより深いよね」

 

 一口食べると、事務所に前持ってきたやつより味が違うね。より味わい深いね。

 

「お、分かってくれたか。千代子さんにアドバイス貰ってな試してみたんだ」

 

 嬉しそうな反応する砂藤君。

 

「やっぱり彼女出来ると影響でるよね、旨し旨し」

 

 タンクトップ事務所に遊びに来た時に知り合った、タンクトップガールの大学時代の後輩女性とお菓子の話で盛り上がった縁で付き合いだしたんだよね。

 ヒーローではない、パティシエの女性だけど個性もあってお似合いカップルだよね。向こう年上だけど。

 照れてる砂藤君に、血走った目の男子メンズが机を見たらこちらにも彼女とのツーショット写真。

 同じ夏休みなのに過ごし方に大きな差があったみたいだよね。

 あとで彼も問い詰められそうだけど、シフォンケーキ旨し。 

 

 結果、シフォンケーキにコイツも彼女いたの!

 

 次は女性陣の部屋、どうなるやら。

 とりあえず一階に降りなきゃ。

 

 

 



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69話

短いです。


 

 とりあえず彼女発覚した口田君と砂藤君とついでに峰田君が瀬呂君のテープでグルグル巻にされてから部屋王決定戦女性部屋開始。

 口田君は縛られたまま彼女以外の女の子の部屋に入るのは抵抗あると参加を断り、砂藤君もそれに同意した。そのリア充セリフに男性陣は舌打ち、女性陣は納得。こういった一言が男としての差に感じるよね。なお峰田君は女子部屋の物色とかやりそうだからついでに。

 

 そんなこんなで耳郎さんルーム。

 本人は恥ずかしがってるけど、確かに常闇君とは別路線の趣味部屋だね。

 いくつかの楽器に音響機器とレコードがある。女の子の部屋というより音楽家の部屋だね。メリッサもこんな感じだったね、まあ向こうは僕のホログラム(生体データ表示)が浮いてて少しばかり怖かったけど。

 気になったのか勝己が楽器を手に取り軽く弾いてみたけど(防音は完璧)流石は才能マン見事な腕前だ。

 今度二人で弾こうと耳郎さんが誘っているけど、微笑ましくてアオハルだね。邪魔というか余計なことを言いそうな上鳴君と青山君の口は障子君が塞いでいてくれたみたい。

 あと、机には勝己とのツーショット写真があった。

 

 結果、ガッキガッキでロッキンな部屋。

 

 そして葉隠さんルーム。

 ぬいぐるみとか飾り方とか、イメージどおりの女の子部屋に男子達はドキドキしてた。見た目透明だけどかなり彼女は少女趣味って感じだね。葉隠さんがわざわざ僕の腕を掴みながらインテリアを一つ一つ説明してくれたので胸がドキドキと反応してしまう。そうだこんな時こそタンクトップを数えよう、タンクトップが一着、タンクトップがニ着、楽園かな。

 

「落ち着け」

 

 予想以上に女の子らしさに免疫がなかった僕を勝己が正気に戻してくれた(何故か頭が痛いけど)

 なお彼女も写真を飾ってた照れるね。

 

 結果、ドキドキする女子っぽい部屋。

  

 と、続けて彼女達の部屋に触れていきたいのだけど、芦戸さんも麗日さんも梅雨ちゃんもあまりにもジョシ部屋感があって心がもたないよ。

 

 あえて言うなら、

 芦戸さんは、カラフルでファンシー。

 麗日さんは、一人暮らしのような生活感あり。

 梅雨ちゃんは、気温を過ごしやすいよう調整してあって観葉植物などがあった感じに、家族チャット用のパソコンがあった。

 

 そして最後の百さんルーム。

 最後にネタがあって良かったと思った僕を許してください。どうやって持ち込んで組み立てるの一人でやったのかなそのベッドとか思ったけど許してください。

 女の子部屋とお嬢様部屋ってなんかこう説明しにくい違いがあるんだねと思いました。

 

 そうそう女性陣の部屋全部にツーショット写真が飾られててかなり照れくさかったよ、僕と勝己。

 

 そして一階談話スペースで発表された第一回部屋王(いやこんな大規模な模様替えなんてそうそうしないでしょ)は、

 なんと常闇君。

 

「「「なんで?」」」

 

 そうなるよね反応。本人も凄く驚いているし。 

 理由、黒影がつぶらな瞳でプリンを食べたそうに見てたかららしい。まあ耐えられないよね皆は夕食のデザートだったわけだし。

 というか、食べられるの?個性だよね。

 せっかくだから砂藤君のシフォンケーキと合わせて、チョコプリンのせゴージャスケーキにしてあげたら美味しそうにモリモリ食べてくれた。

 複雑そうな表情の常闇君を置いといて、すっかり眠そうな轟君と歯みがきを忘れずにと告げる飯田君。

 それで解散、とはならず彼女発覚した口田君と砂藤君の尋問を皆ではじめていた。

 夜も遅いし、明日にすればいいのに。

 そういえば峰田君はずっと放置されていたような。

 

 そんな皆を見てから、僕は軽く体を動かしたくなって中庭で流水岩砕拳の型を繰り返しだした。

 やっぱり武術の基本ってこれだよね、と軽く汗を流していたら。

 同じように勝己も冥躰拳の稽古をはじめていた。

 しばし無言のままやっていたら、

 

「戻れた気にはなれたか?」

 

 と言ってきた。

 

「うん、部屋王とか気遣ってくれたんだよね」

 

 日常らしいそんな行動、非日常である命のやり取りを洗い流そうとする皆の気持ち。

 嬉しくて泣きたくなったのは、まだ拭いきれてなかったからだろうね。

 

「手紙を読んだ、重たいモンを背負ったんだな」

 

 そう託された個性ワンフォーオールは重い、オールマイトの引退でより重くなった、

 

「いつかクラスの皆にも話せ、アイツラなら一緒に抱えてくれるだろうよ」

 

 皆がいるその事実を勝己は告げてくる。

 けどさ、

 

「まだ終わってない、死柄木弔とドクターとやらが残っているよ」

 

「もう一人で行かせる気はねえぞ」

 

「それでもさ、いや頼るべきなんだろうね」

 

 分かっていても納得しきれないのは、無意識に見下しているのかな僕は、

 

「認めさせるさ、アイツラなら」

 

 勝己はそう言ってくれる、僕以上に皆を信じてくれる彼は。

 いつの間にか芝生に座りこんだ僕らは共に星空を見上げる。

 オールマイトがヒーローを称したソレを。

 

「約束守ってくれてありがとう、切島君とか救出に向かおうとしたでしょ?」

 

「んな昔の話しなんざ忘れたよ」

 

「プリンの評判良かったね今度は何作ろうか?」

 

「リクエストもあったな、レシピ見りゃ大概なんとかなるから作るか」

 

「しかし女の子の部屋に自分の写真あると照れるね。しかもツーショットだから、本当に女たらしクソ野郎みたいだよね僕たち」

 

「介錯を頼む」

 

「どこから出したのその短刀と刀?

 君、そこまで思いつめてたの」

 

 時折洒落にならないことをしながら僕らは夜通し語り合った。

 大切な日常を噛み締めて、これから先襲いくる非日常と戦うために。

 僕たちがヒーローとして守りたいものを決して見失わないために。

 今を積み重ねて明日へ行こう。

 僕たちのアカデミアライフはまだこれからだ。

 

 

 




最終回的な切り方だけど終わりませんよ。


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閑話、尾白視点

 

「緑谷の背負ってるものか」

 

 同い年のクラスメートである緑谷出久は普通じゃない存在だ。それはタンクトッパーだからという意味だけじゃない(八割はそうだけど)、なんというか気負いや意気込みや在り方、そんな言い表せないナニカが同級生である俺達とは違うのだ。

 単なる16歳のヒーロー志望の高校生にはない凄味がアイツからは感じてしまう。同世代にしては大人びていると言われていた俺や障子と比べてもだ。

 最初はタンクトッパーで実戦を経験してるから、幼少時から将来を見据えて鍛錬を積んでいたからと思っていた、けどこれだけクラスメートで友人をやっていればそれだけじゃないことは分かる。

 緑谷には背負っているナニカがあることくらいは。

 ソレを打ち明けられる爆豪を羨ましくも悔しい気持ちになり、あの二人との間にある実力を含めた様々な差に負けていられないと奮起する。

 夜通し語り合う幼馴染二人をこっそり伺っていた俺達は乱入したい気持ちをぐっとこらえて静かに解散した。

 入寮初日はこうして終わった。

 

 

 朝、目覚まし時計の音で起きた俺はいつもより早い時間に首を傾げるがそういえば実家じゃないことを思い出す。起きたら母が朝食を用意してくれているわけじゃない、やるべきことはあるのは分かるが具体的には分からないからととりあえず早めに起きようと思ったのだ。

 一階に行こうとすれば同じことを考えていたのか障子と階段で合流してまずは洗顔から。

 キッチンから響く音と漂う香りから緑谷達だなと当たりをつける。緑谷は道場に内弟子のように住み込みで修練していた時期があったらしい、そのため炊事洗濯掃除もまた鍛錬の一貫だと捉えている。だから大人数の食事の用意にも朝の早い時間からの支度にも慣れているのだろう。

 とにかく手伝うか、あの手際と爆豪がいるから不要だろうが何もしないのは気が咎める。障子と共にキッチンへと向かった。

 

「良いね〜」

 

「本当にね〜」

 

 ついた先にはテーブルに座り満たされた表情の芦戸さんと葉隠さん(見えないけど声の調子から)がいた。

 

「軽快な包丁のリズム、漂う味噌汁のホッとする香り、日本人の魂を揺さぶるねえ〜」

 

「それが(将来の)旦那だと思うと余計にね〜」

 

 早起きして何してんの君達。

 あとソレ男女逆では?いやその考えも古いか、各家庭それぞれだよね。 

 手伝いをしないのかと思ったら、キッチンには緑谷に爆豪だけではなく麗日に梅雨ちゃんまでいた。流石に人数的に邪魔だよな、一人暮らしを経験してる麗日や共働きの両親に変わって家事をしていた梅雨ちゃんとは違って、出来なくはないけど指示待ちになってしまうだろうし。テーブルくらい整えるかと動き出せば大型炊飯器を抱えた爆豪と目が合う、

 

「おはよう」

 

「ああ、おはよう。尾白と障子も早いな」

 

 女子二人は既に挨拶済みらしい。

 

「何か手伝えないか?」

 

 早起きしても見てるだけというのも何だし手伝いを申し出る。

 

「なら丁度良かった、この米でオニギリを作ってくれないか?」

 

 炊飯器をテーブルに置き、大皿と具の入ったタッパーにビニール手袋とラップとお椀を用意しだす。

 爆豪は個性的にオニギリとかは作るのに向いてないから、芦戸達に頼むつもりだったらしい。

 朝食の分ではなく、昼食のためのオニギリ、今日は戦闘訓練らしいからお弁当を用意したほうがラクだろうと思ったそうだ。そう言うと爆豪は他のおかずを作るためにキッチンへと戻っていった。

 大きさ揃えるためお椀一杯を米の目安にしてオニギリを握る。慣れない作業だがやっているうちにああ共同生活なんだなと実感して少し楽しくなった。

 オニギリを作り終えた頃には皆が揃ったので、片付けてから全員で朝食。

 メニュー昨日と同じ和食だ。

 リクエストあるならやるよと緑谷が言えば、間髪入れず轟が蕎麦と答える。

 峰田が女子の手作り朝食と興奮したり、盛り上がりながら食べていると、切島が香ばしい肉を焼いた匂いに反応する。確かインゲンの豚肉巻だったかな?

 朝食の中にはないから弁当のおかずだと思うが、上鳴などが今食べたいと言い出す。

 味付けが弁当用に濃くしてあるのだからと爆豪は渋るが、TABETAI、TABETAI、と騒ぐ面々に根負けして端っこの切れ端だけだぞと皆に配る。

 

「「「ありがとうお父さん」」」

 

「誰がお父さんだ」

 

 皆の悪ノリしたお礼に苦笑する爆豪。

 

「お替りもあるよ」

 

 と他のおかずを用意してた緑谷が言えば、

 

「「「ありがとうタンクトッパー」」」

 

「扱いの差っ?! いや合ってるけど」

 

 緑谷がお父さんなのは無いな。

 

「駄目よ勝己ちゃん、甘やかすと子供達の教育に良くないわ」

 

 と梅雨ちゃんが爆豪を窘めていた。

 誰が子供達か、子供達だった。

 

「端っこの少しくらいいいだろ?」

 

「言うべきところはきちんと言わなきゃ駄目よ」

 

(((注意してる形だけど、夫婦的会話を楽しんでやがる。この蛙っ娘かなり攻めてるぞ)))

 

 美味い美味いと夢中になっている連中を除いて、梅雨ちゃんの動きに気づいた者たちはただ戦慄した。

 

 

 色々あった朝食を終えて、場所は変わり学校の教室。

 教壇に立つ相澤先生が、当面の目標である仮免の取得について説明する。

 人命に関わるが故の責任重大さと、仮免とあれど例年5割以下の合格率。

 それを乗り越えるために必要なモノ、それが必殺技なのだと言う。

 学校っぽくてヒーローっぽいことに皆が興奮するのだけど、緑谷お前は自重しろよ?

 ニヤリと笑った緑谷を露骨に警戒しだした先生方を見ながら自分も何か考えないとなと思う。

 尻尾と格闘技を活かした技か、難易度高いよな。

 

 

 



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71話

 

「必殺技、即ちタンクトップだね」

 

「何言ってんだお前」

 

 イレイザーヘッド以外にもエクトプラズム、セメントス、ミッドナイトの3人の教師を加えた圧縮訓練で己を象徴する技を生み出す。 

 担任であるイレイザーヘッドに、

 生徒の人数分の対戦相手とアドバイザーを用意できるエクトプラズム。

 地形や物を用意できるセメントスと、 

 ネーミングセンスやいざという時の抑えになるミッドナイト。

 かなり合理的な配役だね。

 移動したネーミングがアウトな体育館で先生方に説明を受けてクラスメート達がそれぞれの反応を示す。

 これさえやれば有利、勝てる、型。

 それが必殺技の意味。

 またヴィランに対しても知られているからこそ警戒という形で対処を迫れるのも強みだね。

 対人戦闘において何かに意識を払っている状態は明確な付け入る隙だからだ。

 

「さあ、やるか」

 

 タンクトップを締めて創ろうじゃないか、新たな必殺技というヤツを。

 

「ああ、緑谷と爆豪は必要ないから座学か皆のサポートやれ」

 

「「はいっ?」」

 

 イレイザーヘッドの言葉に驚いて問いかけると。

 

「はっきり言ってお前達二人は強い。

 対人戦闘で勝てるヒーローなんてプロでも一握りだよ。必殺技も体育祭の時点で充分にできている。

 なら座学で救助項目を学んだ方が合理的だ」

 

 まあ確かに僕と勝己は強いけど、だからといってそんな扱い。

 

「他の生徒のサポートでも良い、それから学ぶこともあるしな」

  

 そうしてクラスメート達はエクトプラズムの分身を連れて各々散っていった。

 ガックリと項垂れる僕と勝己をそこにのこして。 

 

「どうする勝己?」

 

「言われた通りすべきだろ、とにかく座学だ」

 

 生真面目だよね勝己は。

 納得したのか用意されていた机を指差して言う。

 体育館の入口横にポツンとコンクリートで作られた机と椅子に山盛りな教科書とかシュールな光景なんですけれど。

 確かに、一年時に仮免取得は珍しいし、戦闘以外にもヒーローがやるべきことはあるけどさ。

 というかさっさと勉強はじめているよ勝己。

 マイペースだよね。

 

「アイツラには救助や避難誘導なんて学ぶ余裕はねえ。だったら余裕ある俺らがサポートできるようにしとくべきだろ」

 

 そうだよね。

 僕たちは一年二年の経験不足という劣っている分を自覚してでも挑むんだ。

 なら学校の仲間と団結して対応するべきだよね。

 雄英潰しなんて横行してるくらいだし。

 雄英潰しの話題を出せば勝己は苦々しい表情をしたがそれでも仕方ないと言う。

 

「どうせ現場にでたら雄英高校出身だからとヴィランにマークされてんだ。こういった機会に慣れておくべきだろうよ。林間合宿を襲撃したヴィランにも学歴コンプレックスのヤツがいたみたいだしな」

 

「マスタード、だっけ?B組の鉄哲君と拳藤さんが撃退してくれたヴィラン。

 彼らの活躍のおかげで被害が大分減ったよね」

 

「自らを交渉材料にしたテメェ程じゃないがな。

 俺らは中学校全体で祝福されたが、他の連中は妬まれたりとかあっただろうに。

 クラスの連中とつるんでいると忘れそうになるが、そういった嫉妬に狂う輩もいるんだよ」

 

「敵対して悪く言ってくる物間君とかそういった意味でありがたいかもね」

 

「ヒーローなんて目指してんだそういった風に見られると自覚した方が良い。うちの連中はもっと悪意に慣れるべきだよ」

 

 ましてや後の無い三年生の入り混じる仮免試験、一年生が参加なんてしたらそれだけでヘイトが集まりそうだよね。

 仮免試験自体は社会人でも受けることができるがヒーロー育成学校在学時に仮免を取得できていない事実はそれだけでヒーローとして劣等生のレッテルを貼られる。

 タンクトップ事務所のタンクトッパー、その中でヒーロー育成学校中退かつヴィランにまでなった上で更生してヒーロー資格を取得しプロヒーローとして活躍してるジェントルなんかはかなりの例外存在だしね。

 そんな雑談をしながら参考書を読み解く。

 ある程度は知っているとはいえ医療関係なんか昨日の常識が今日の間違いなんてよくあるしね。

 

 

 そして一段落してお昼の時間。

 

「「「お弁当ー!!」」」

 

 とはしゃぎながら飛びかかってくるクラスメート達の前にブルーシートを敷き、大きな重箱を広げる。あとは魔法瓶に入れた豚汁とお茶を配れば準備完了だ。

  

「美味え、美味え」

 

「ランチラッシュの学食も良いけど、皆で弁当はまた良いよな」

 

「ウチのクラスの旦那系高校生と家政夫系タンクトッパーは最高だよね」

 

「いやどんな区分だよソレ」

 

「実際学食まで行くのは時間が勿体ないから助かるな」

 

「敷地広いからね、自販機はあるけど売店はないし」

 

「体育館だぞここ一応、名前アレだけど」

 

「けど緑谷と爆豪は強いから訓練必要ないとか」

 

「武術を修めているからね、必殺技もそこに個性乗っけるだけで充分だし」

 

「「タンクトップは個性じゃないだろ」」

 

 ワイワイガヤガヤ昼食を楽しむけど、やはり必殺技や仮免試験についての話しになる。

 

「戦闘能力が重要って言われてもな」

 

「ヴィラン連合の件でヒーローは今後脳無に対処できるかどうかがキモになりそうだね」

 

「いやプロヒーロー数人がかりで足止めが精一杯じゃんアレ」

 

「だからこそヴィラン連合に対し後手になっている。

 アレを転移された時点で被害が確定だから」

 

「打ち倒せないなら無力化に拘束か、必殺技はそれを意識するかな」

 

「アレに通じりゃ、大概のヴィランはなんとかなるだろうし」

 

「仮免試験ってどんなか聞いてない?タンクトッパー達から?」

 

「ある程度は聞いているから資料として纏めとくよ。

 ただ今年からは先日の事件で大分変更されそうだけどね」

 

「オールマイトの引退あったしな」

 

「おら残さず食え、身体作りもヒーローの基本だ」

 

「「「言われんでも残さんわ、美味すぎ!」」」

 

「明日は蕎麦にしてくれ」

 

「弁当だと難しいね、朝ご飯にやるよ」

 

「そうか(シュン)」

  

 楽しいランチタイムはあっという間に終わり、午後からは尾白君に頼まれて組み手の相手だ。

 入口の方でオールマイトがトゥルーフォームで覗いていたけど、必要なさそうだねと呟くと後ろに控えていたサーナイトアイを連れて去っていった。

 まだ訓練初日、やるべきことはたくさんあるね。

 



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72話

  

 そんな圧縮訓練な日々と寮生活を過ごして、あっという間にヒーロー仮免許取得試験当日。

 途中でサーナイトアイが事務所でのヒーロー活動の大半をサイドキックに任せてオールマイトの護衛役についていると判明したり、発目さんとメリッサによるサポートアイテムの強制試着劇場があったり、B組の物間君が煽りに来たりしたけど、皆無事にこの日を迎えることができた。

 緊張する皆に相澤先生が、志望者からヒヨッ子、セミプロになってこいと活を入れてくる。

 そこで気合を入れるためいつもの一発決めて行こうと切島君が言い出せば、(僕だけタンクトップじゃなくプルス・ウルトラだと皆に事前に注意された解せぬ)皆でせーので

 

「プルス」

 

「「ウルトラ!!」」

 

 ナンカ増えてない?

 見れば帽子被った学生が加わってた。

 そこへ同じ制服の人が注意してくれて名前はイナサというらしい。

 謝罪として頭を地面にぶつかるほど下げられたけど、テンション高いね彼、瀬呂君の言うように生真面目な熱血って感じ。

 周囲がその騒ぎに気づいて同時に彼らが何者かを理解する。

 東の雄英、西の士傑。

 そう称される雄英高校に匹敵する難関校、士傑高校。

 あとなんかイナサという彼は雄英高校が大好きでプルス・ウルトラと言ってみたかったらしい。

 ならなんで入学しなかったんだろ?かなり実力ありそうだけれど。

 相澤先生が覚えていたらしく、推薦入試を一位だったのに辞退したのだと説明してくれた。家庭の事情とかかな?ただ相澤先生がマークしとけと言うくらいだから本物なんだろうね、変だけど。

 

「あとタンクトップ大好きです!! タンクトッパー達の超ファンです!!よろしくおねがいします!!」

 

「皆、彼は今日からマブダチ。

 タンクトップ好きに悪いやつはいない」

 

 グリンと戻ってきた彼の発言に、僕にマブダチが一人増えた。

 

「「「懐柔されんの早いな単純か!!」」」

  

 皆のツッコミを受けるけど、タンクトップを好きだと言う人あんまりいないんだもん。

 

 イナサ君騒動が一段落したら、今度は別の人が話しかけてきた。各学校が一同に集まるから知り合いとか遭遇しやすいのだろうね。

 

「結婚しようぜ」

 

 なんか相澤先生に猛アピールな女性ヒーローだな。

 

「おいおい緑谷、あの胸はスマイルヒーロー『Msジョーク』だろ?なんで知らねえんだ?」

 

「峰田君(なぜ胸?)いや付き合いあるヒーローしか知らないから僕、事務所での派遣もない人だし」

 

「オイラも外見と名前しか知らねえけど、相澤先生もテメェら側かよ」

 

 ギリっと歯を鳴らしながら睨みつけるけど、確かに意外だよね。凄くアプローチしてるけど。

 どうやら相澤先生の反応が面白くて気に入ってるらしい、いや相澤先生は無反応か嫌がりそうだけど。

 

「私と結婚したら笑いの絶えない幸せな家庭が築けるんだぞ」

 

「その家庭幸せじゃないだろ」

 

「ブハ!!」

 

 仲良いというよりはウザ絡みしてる感じじゃないかなアレ?

 

「オノレェェ、リア充がぁぁ」

 

「よく見なよ峰田君、いや目が血走って無理だね」

 

 そして相澤先生はリア充から程遠い生命体だから。教師としては充実してるかもだけど。

 

「なんだお前の高校もか」

 

「いじりがいあんだよイレイザーは」

 

 そこは否定しない。

 

「そうそうおいで皆!雄英だよ!」

 

 現れる四人の生徒たち。

 雄英高校と違って一クラス全員じゃなく選ばれた実力者なのか、それともヒーロー科の生徒が四人なのか。

  

「傑物学園高校2年2組!私の受け持ちよろしくな」

 

 紹介され親しげに話しかける真堂君とやら、手を握ろうとしてきたので僕は峰田君を持ち上げて応える。

 

「「「なんでっ?!」」」

 

 両手ではなくもぎもぎをギュッと握る羽目になる真堂君と、それに突っ込む皆。

 

「いや爽やかイケメン気取ってて全身から胡散臭いし、個性の発動条件かなって?」

 

「それには同感だが、オイラは良いのか緑谷よ」

  

 こちらの評価に顔が引き攣っているみたいだけど、明らかに対抗心と敵意だらけじゃん。

 

「真のイケメンとは天然な轟君と苦労人な勝己だよ」

 

「「「確かに」」」

 

「俺の苦労の大半お前のせいだからな出久」

 

 そんな話しをしつつも爽やかセリフを真堂君は言い続けるけど、やっぱり胡散臭いな。

 その後サインを強請られたりしたけど、相澤先生に促されてコスチュームに着替えに向かった。

 

 コスチュームに着替えてから集められた受験者達。

 あらためて見るとヒーローというより怪人みたいなんだけど、なんで正統派な格好ではなくこんなモンスターちっくにキメてんだ皆さん、

 そんな百鬼夜行みたいな会場で仮免試験の説明する目良さん。なんか懐かしいな、よく事務所に苦情を言いに来たり残業増えて寝れない!とか叫ぶ人だったね。

 雄英高校に入学する前の個性発現(嘘だけど)の時以来か。

 そこからの内容は、試験内容は勝ち抜けの演習。

 ステイン逮捕後に蔓延する思想の影響と彼の所感。

 そしてヒーローに求められている事件発生から解決に至るまでの速度。

 即ち求められるはスピード、故に条件達成者は先着100名を通過とする。

 そして達成条件である、アイテムの説明。

 

 なるほどね。

 つまり、とるべき戦略は。

 

「ああソコのタンクトッパーに言っときますけど、開始同時に仲間以外を殴り飛ばしたりしたら問答無用で失格ですからね。あくまでヒーローとしての体裁は守ってください。戦闘は認めますが、くれぐれもくれぐれもくれぐれも、やりすぎないでくださいね。

 分かりましたか?そこのタンクトッパー」  

 

「直接注意された?!しかも思考読まれている!!」

 

「「「何しようとしてんだお前」」」 

 

 開幕ブッパは基本なのに。

 こうして波乱の仮免試験は始まった。

 無駄に大掛かりな仕掛けとフィールドだから観客席まで殴り飛ばせば良いと思ったのに。

 

 



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閑話 イレイザーヘッド視点

 

 やりすぎないといいけどな。

 観客席でこれから試験で起こりうる出来事を想像して頭が痛くなるがそれもまた合理的か。

 仮免試験において恒例行事と成りつつある雄英潰し、あえて伝えなかったその情報を緑谷と爆豪のせいでA組は元よりB組まで伝わってしまった。まあ生徒に甘いブラドキングなら伝えて対策させそうだが。

 合格することに疑いはないが、問題はやりすぎないことだ。特に雄英潰しを知って仲間思いな連中はかなり苛ついていたしな。正直ヒーローらしからぬ行動だと思うし、雄英高校に恥をかかせようとやらかす連中も多い。

 気づいているのかね?雄英潰しをやらかした連中は主催者側であるヒーロー公安委員会にマークされ目先の利益のためなら他者を切り捨てるタイプだと評価されているということに。

 ヒーロー公安委員会は、実のとこかなり表に出せないコトをやらかしている。俺自身公安直属のヒーローに誘われたから確かだろう。アングラ系の仕事をやってた時にも公安のしでかした出来事の痕跡にいくつか遭遇したしな。

 合理的に判断し戦略として雄英潰しが有効なのは認めよう。だがあまり大人を舐めないで欲しいもんだ、その行動の真意に気づかない訳がない。

 やらかした時点でアウトな雄英潰しにどれだけの連中が参加しちまうか。

 

「イレイザー、チャック開いてる(クスクス)」

 

(何で俺の周りはこううるさい奴ばかりなんだ、山田といいコイツといい)

 

 わざわざ俺を探して近くの席に座ったと思ったらこの女は。

 

「しかし20人とはなァ。

 お前が除籍してないなんて珍しいじゃん。

 気に入ってんだ?今回のクラス」

 

「別に」

 

 そう除籍の判断は気に入るかどうかじゃない。

 そいつらの姿勢、それがそいつらの命に関わることを自覚しているかどうかで決めている。

 前回は駄目だった、まだ機会はあるがそれでもあのままだと実習で現場で命を失いかねない。

 そんなことはあってはならない。プロヒーローは何時だって命がけな仕事だ、だからこそ踏み止まれるならそれも一つの選択だと俺は思う。その機会を見つめ直すきっかけを与えることが俺の役目だと。

 

「ブハッ 照れんなよダッセぇなぁ!付き合おう!」

 

「黙れ」

 

 相変わらずだよ、コイツは。

 ため息をつきながら話しを聞く。

 雄英潰し、いかに雄英高校が不利であるかを。

 

(コイツの教え子達も参加か)

 

 杭が出てれば打つねえ、

 

「舐めすぎだろ」

 

「イレイザー?」

 

「やる事は変わらない、ただただ乗り越えて行くだけ。理不尽を覆していくのがヒーロー。

 プロになれば個性を晒すなんて前提条件、悪いがウチは他より少し先を見据えている」

 

 アイツラに向けて一斉にボールを投げて当たる訳ないだろうに。

 傑物学園の個性を用いた連携は見事だ、けれどな。

 耳郎に芦戸に常闇、成長の見られる良い動きだ。

 

「ずいぶん上から語るねイレイザー。

 ヒーローを目指す子は星の数ほどいるわけで、その志の高さには有名も無名もないんだぜ。

 主役面して他を見下してっと返り討ちに遭うのはそっちかもよ」

 

「ないな、そもそも緑谷と爆豪は俺より強い」

 

「?!」

 

 まあ経験やあしらい方など教えることはあるが、タイマンならもう勝てないな。

 

「それに、主役面なんてフザけたことを言ったな?

 それが舐めてんだよ。

 遥か先を行き自ら身を犠牲にしてまで誰かを守ろうと突き進むヤツに、そいつに追いつき共に進もうと必死に足掻いている連中。

 俺の自慢の生徒達に主役面したり見下してるヤツなんて一人もいねえよ」

 

 傑物学園高校の真堂の必殺技、地面を砕く大技を同威力の衝撃波を足一本で放ち無効化する緑谷。

 キレてんなアイツ。

 必殺技の習得開発はヒーローにとっては必須だ、自らの象徴になるほどに磨きあげるモノだ。だからこそそれが容易く破られれば崩れる。必殺技に掛けた時間が長いほど、プライドが高いほど、自信があるほどにな。

 

「個性発動、個性を上手く使うかどうかレベルじゃ緑谷の相手は務まらない」

 

 アイツ相手には個性を組み込んだ独自の格闘術を確立できてようやく戦えるレベルだ。

 そんなの同世代に爆豪くらいしかいないがな。

 誰が受かったか分からんのはもどかしいが、緑谷と爆豪、それにタンクトッパーの影響で生徒達は肉弾戦格闘技に重きを置いている。ルール上厄介な夜嵐とは遭遇しないまま先に合格されたから大丈夫だろ。

 ん?アレは士傑の学生か、クリア出来るのに受験者狩りをしているが仲間のサポートって感じじゃないな。ステインの思想に感化されて高潔さやら誇りを重んじるようになった手合いか?爆豪達と接触したみたいだが、軽く話してそのまま素通りしたな。上鳴に突っかかったようだが、敵対する程ではなかったか。

 緑谷も上手くクラスメートをまとめていたから大丈夫だな。はぐれたメンバーも合流してクリアか。

 

「べた惚れかよ羨ましいー。やっぱ結婚しようぜ」

 

「しない。お前もプッシーキャッツみたいなのか」

 

「こないだ一緒に飲みにいったけど同じ扱いはやめて欲しいな。私は一途だし」

 

「ハイハイ」

 

 一次試験は全員無事に合格か。他校の三年を見て蹴落とすことに迷ったりすることも懸念していたが杞憂だったな。当たり前か、アイツラはそんなことを気にしている余裕ないからな。

 終わったらサルミアッキをたらふくご馳走してやるか。偶にはいいだろうそんなことをするのも。

 二次試験もある、だがアイツラならやり遂げると確信しながらモニターを眺めた。

 

 

 

 




今作独自設定。
雄英潰しの公安の評価と反応。
肉倉先輩は落ちてません。上鳴君は注意したけでIアイランドの活躍もあるので敵対しません。
トガちゃん潜入してません、そもそもタンクトッパーなイズク君は彼女にとって苦手な部類です。


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閑話 轟焦凍視点

 

 仮免試験一次を個性で皆を巻き込まないために単独行動して突破。

 俺は一人、指示の下控室へと向かった。

 他の連中はいない、そこに寂しさを覚えるが緑谷や爆豪みたくサポートしながら戦うなんて技量は俺にはまだない。自分が突破することに専念せざる得ないのが俺の実力だ。だから二人と差がある事実に悔しく思う、アイツラなら誰よりも早く突破できるのに皆を優先しているのだから。

 けっこういるな。

 控室の突破者達、同世代あるいは一つか二つ年が上の実力者達。親父とばかり鍛錬してたし、偶に会う強いヒーローも年上ばかりだから見るのは新鮮な気分だ。雄英高校の同級生は別だし、先輩方は会ったことないし。

 

「マジっスか!?」

 

 聞こえた声のトコを見れば会場で絡んできた士傑の学生がいた。相澤先生の話しだと要注意な実力者。そいつは高いテンションで他校の生徒に話しかけていた。

 他の士傑生はいないから、アイツも単独で突破したのか。個性が俺みたく範囲の広い放出タイプなのかな。

 しかしどこかで聞いた覚えのある声だな。

 相澤先生が推薦入試トップだったとか言ってたから一緒だったのか?

 ヒマだし気になったから過去に思い馳せるのだが、正直あまり良い気分じゃない。当時の自分に否応なく向き合うハメになるからだ。あのままならない現状に苛ついて周囲を全て不快に感じていた頃に。

 今がそうじゃないから、親父が家族全員と向き合えて(最近自宅だとパンイチだけど)、俺がクラスメートがいないと寂しいと思うくらい学生生活を楽しいと感じているからこそ余計に過去の自分が嫌になる。どれだけ周りを拒絶して傷つけてきたのかを考えるとしんどくなってしまう。

 そんな気分で推薦入試の時のことを思い返せば確かに彼はいた、坊主頭の風使いで俺に張り合って僅差でゴールしたんだ。

 二度も話しかけてきたのに、俺はそれがはしゃぐガキにしか見えなくて鬱陶しかったんだ。だから冷たく跳ね除けた、あしらった。そんな軽く考えている連中と一緒になりたくなくて、それどころじゃないと自分のことばかりで。

 でも、その対応が夜嵐イナサを大好きな雄英高校に通う選択肢を奪ったんじゃないのか?

 俺みたいなヤツと同級生になりたくないからって。

 

「少しいいか?」

 

 だから、

 

「二人で話せないか?」

 

 とりあえず話してみたくなったんだ。

 

「いいスよ、話しましょう」

 

 イナサはニカリと笑った。

 

 

 控室の奥まった所でお互い壁に背を預けて向き合わずに会話する。正直内容が内容だけに向き合うのは気まずい気分だったから。

 

「俺熱いの好きなんスよ。ヒーローってのは俺にとって熱さだ、熱い心が人に希望とか感動を与える伝える。

 だからショックだった誰よりも熱い不屈の炎のヒーローが、氷より冷たい怒りの目をしていたことに」

 

 昔の親父の目か、家族皆が怯えていたあの眼差し。

 子供が見たらトラウマになるか(それが良いと目覚める人もいるらしいけど)

  

「だからかな?入試の時あんたを見て、あんたが誰かすぐに分かった」

 

 当時の俺はどこまでもやらかしてんだよ。

 

「日本一熱い高校生活目指して雄英高校を受験して、

 はじまった試験でお前に圧倒されたけど、けどさ」

 

 頭の上で腕を組んでイナサは言う。

 

「友達になりたかったんスよアンタと」

 

 当時の俺に手を伸ばしてくれたヤツを拒絶していたのか、確かに緑谷達みたく過去を知ってたり救おうとしてくれた訳じゃないけど。

 もう少し話そうと思えばあるいは。

 コイツもクラスメートになってたら緑谷みたく救おうとしてくれたのかも知れない。

 

「すまねえ。あの時俺は。当時のエンデヴァーは」

 

「良いスよ、昔のことは。

 体育祭見てアンタが悩んでたんだって気づいた。

 ヒーロー目指すなら救わなきゃいけないのに、嫌悪感から俺は雄英高校を選ばなかった」

 

 だから救えなかった、その機会は合ったのにと言う。

 

「ステイン逮捕の時のエンデヴァーを見た。

 あの人も熱い思いがあったんだと分かった。

 家族を思う熱い気持ちが伝わってきたんだ」

 

 それは自分が大好きな熱さそのものだったと言う。

 

「ガキだったんスよ自分は。向き合うの嫌がって逃げたガキっス。だから色んな機会を逃した。

 今は雄英高校を選ばなかったことを結構後悔してたりします。士傑も良いトコですけど」

 

 コイツがいるA組か。

 想像したら騒動が3割増しくらいされて楽しそうだあった。

 

「だから、何スけど」

 

 イナサは右手を差し出して、

 

「今から友達になりませんか?」

 

「こちらこそよろしく頼む」

 

 俺はその手を握った。

 

「学校違っても熱いダチいるのもアリでしょう」

 

「そうだな」

 

 そういえば、ふとコイツが喜びそうなイベントを思い出した。

 

「エンデヴァーだけど、近い内にやる超合金クロビカリのイベントに参加するぞ」

 

 鏡の前でポージングしながらカレンダーに書いた花丸を眺めてたし、遠足楽しみにする子供みたいに。

 

「マジすか!! 激アツじゃないスか!!」

 

「ああ尋常じゃないくらい暑苦しいぞ」

 

 緑谷も(嫌そうな顔してたけど)参加する。

 自分に太い筋肉がつかないからコンプレックスを刺激されて嫌なんだが、誘われて断れないらしい。

  

「クロビカリが眼の前でフライパンアートとかしてくれるらしいぞ」

 

 親父が飾ってたら居間とかに。

 自室に置けよ、というか燈矢兄さんは仏壇に置かれても喜ばないと思う。

 

「ウオォォ見てえ!!無個性ヒーローも熱いから好きなんスよね!!」

 

 そんな風に盛り上がりながら一次試験が終わるまで過ごした。

 過去の蟠りがときほぐれたようで心が軽くなった。

 

 

 



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75話

繋ぎ回、短いです。


 

「俺って全国レベルの出落ちナンパ野郎なのかな?」

 

「「「まあ大体そんな感じ」」」

 

 仮免試験一次、A組全員受かったけど控室で合流した上鳴君がヤバいくらい落ち込んでいた。そして皆がトドメさしてた。

 試験中にナンパして手酷くフラれたの?と一緒に行動していた勝己と切島君に尋ねたら、何でも他校生狩りをしていた士傑高校の二年生に絡まれたらしい。

 上鳴君の行動が雄英高校の品位を貶めているとか言われたとか。

 確かにB組の茨さんにナンパした上で大口叩いておいて瞬殺されたのはものすごく恥ずかしくて情けなかったけど、そこまで言うほどかな?茨さんは同学年で実力上位だから仕方ないと思うよ。あと品位の話なら他にも全国中継で全裸になった先輩とか居たらしいから。

 

「そんなんと同レベルッ!!」

 

 実力は差がありすぎだけどね。

 体育祭は全国レベルで目立つ機会だけど、全国レベルで悪目立ちする機会でもあるんだね。

 まあクラスメートに迷惑かけるなと注意されただけでその士傑の人は去っていったみたいだけど。

 戦わなかったんだ。

 まあこの三人組と戦うのは無理あるよね。遠近中全てに対応できる組み合わせだし。

 しかし、

 100名中20名雄英高校で、他にも士傑高校とか傑物学園高校とか団体で受かってるけどここから更に削るのか。

 最終的に何人なるんだろうと思う。

 現状の100名だけでもかなりの粒ぞろいだし。

 そんな風に思っていると、士傑のマブダチと会話していた轟君も合流した。

 すると控室のモニターから映像が流れ出した。

 見れば先程まで一次試験をやっていた場所が映しだされた、一次試験で落ちた人は回収され廃墟のようになった建物郡、そこが一斉に爆破された。

 

「「「何故ー!!」」」

 

『次の試験でラストになります!

 皆さんにはこれからこの被災現場でバイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます』

 

 目良さんのダルそう声が控室に響き渡る。

 けどさ、一応言っとくけどこんな爆弾騒動は海外ならともかく個性社会であっても基本的に銃刀法が守られて警察も優秀な日本だと滅多にない事態だからね。

 

「パイスライダー?」 

 

「現場に居合わせた人のことだよ、授業でやったでしょ」

 

「一般市民を指す意味でも使われたりしますが」

 

『ここでは一般市民としてではなく仮免許を取得した者として、どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』

 

 映し出される作られた被災現場には人の姿。

 あ、HUCの皆さんだ懐かしいな。

 タンクトップ事務所でも何度か訓練でお会いしたことあるよ。

 救助訓練で人を模した人形でもあまりにも現実とは違うしやる気も削がれる。それを問題視した大手劇団の団長が設立した会社で、引退した舞台役者やスタントマンに元消防隊員に子役の人が要救助者役をやってくれる。本物と間違うくらいの迫真の演技と救助に厳しい採点をしてくれる人達だ。

 しかしあの場所は神野区を模している感じだ。

 幸い事前の準備のおかげで人命にこそ被害は出ていなかったが都市として失ったものは大きい。

 あの時は多くのヒーローがいた、だけどいつもそうだとは限らない。

 だからこそ、こんな時に動けるヒーローにならないといけないんだ。

 

「上鳴君よ」

 

 イエティ?

 毛が凄い士傑高校の代表らしき人が話しかけてきた。内容は絡んできた学生の謝罪、本人も言い過ぎだったと頭を下げている。

 

「雄英とは良い関係を築き上げていきたい、すまなかったね」

 

 二年生で一個上なだけなのに凄いな。

 纏め役としての貫禄がでているよ。

 

「いえこちらこそ、全部事実ですから」

 

 落ち込みながら返事を返す上鳴君。

 これから試験なのに大丈夫かな?

 

 試験開始を告げる警報と放送が流れ、僕は勉強した箇所を活かす機会であり、勝己と一緒に皆に適切に指示をださないといけないと方針を定めた。

 気合を入れないといけないね。  

 

 



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76話

 

 この試験の説明を受けた時嫌な予感がしたんだ。

 一次試験の勝ち抜き戦とは異なる救助演習、それは経験の足りない一年である僕らには不利な試験だ。授業で習いこそしたが、それ以上に個性の使用法に戦闘能力を重視していたからだ。USJの襲撃事件の影響もある、襲撃事件後に施設がしばらく使用できなくなったため救助訓練のカリキュラムが全体的に遅れ気味なのだ。

 とはいえ勤勉な百さんは知識面は頼れるし、リーダー役として飯田君もアテにできる。必殺技習得期間に学んでいた僕と勝己が二人をサポートしてA組が一塊に動き役割分担を果たせば充分な成果をだせるだろう。

 だがこの嫌な予感は何だ。

 それどころではないとタンクトップが僕に語りかけている?

 もしやヴィラン連合の襲撃かとも考えるがそうではない、どちらかといえばスーパーファイトに参加した時のような強者の気配がするのだ。

 泣き叫ぶHUCの子役さんを保護しながらその思考に囚われていると、他学生の皆さんは適切な対応をとっていた。

 やはりまだまだ学ぶべきことは多い、その事実に嬉しくなる。けれど雄英高校だって劣っているわけではないようだ。どっかの誰かさんが大怪我や捕まったりするから救助の勉強を皆でしていたらしく一年とは思えない手際だと他学生も驚いていた。

 皆にそんな行動を取らせたどっかの誰かさんとは一体誰なんだろうか?やはり同じクラス内にいるのか?

 

「「「お前だよ」」」

 

 この調子なら救助は問題ないね。

 あとは出来るだけ迅速にだけれど、なんでこうも嫌な予感が拭えない。

 

「出久」

 

「勝己も?」

 

「ああ、なんかやばい気がする」

 

 だよね。勝己も武闘家だから感じるのだろう。

 

「この状況下で強者の気配、」

 

「んでもって公安の目良さんは俺らを知っているとなると」

 

「「えげつない敵役が襲撃をしかけてくる」」 

 

「超合金クロビカリやエンデヴァーが出てきても驚かないよコレ」

 

「今のうちに士傑に要請しとくか」

 

「戦力を掻き集めないとね」

 

 さて鬼が出るか蛇が出るか。

 

 BOOOOM!!

 仮救護所のすぐ前、壁を爆破してヴィラン出現か。

 現れたのは神野区での敵連合掃討作戦にも指名された異形タイプ武闘派ヒーローのギャングオルカにそのサイドキック達。

 彼自身の番付もナンバー10!

 確かに学生じゃ相手にならない強者。

 だけど、彼ではない。

 

「皆を避難させろ!奥へ!」

 

 即座に走りだす真堂さん。

 だが、駄目だ!

 

「気に入らねえツラだなぁ」

 

 その声を聞いた時、全身の毛が総毛立った。

 そして思う、ここまでやるのかと。

 真堂さんが大地を砕いて足止めしようとするが、その迎撃のために現れた存在。

 その存在があまりにもヤバ過ぎた。

 

「あ、あの御方は」

 

 後ろで峰田君も腰を抜かしている。

 僕だってそうしたいさ。

 あの人はそれだけの存在だから。

 ズガン!!

 振り下ろされた拳の一撃で真堂さんは小型のクレーターが出来る程に叩き潰された。

 それを為した人物。

 細長く萎れた疎らに毛髪生えるその頭に歯並びの悪いボロボロの口、そしてパツパツの学ランから突き出た腹に盛り上がるデベソ。

 全世界の非モテ達の頂点に君臨する伝説のブサイク。

 コンプレックスを戦闘力に変換するという恐ろしい個性を持ち、今まで多くの(イケメン)ヴィラン達の尊厳を破壊尽くしてきたヒーロー。

 敵っぽい見た目ヒーローランキングとモテないヒーローランキングとカッコ悪いヒーローランキング圧倒的一位の3冠保持者。

 

「外見と戦闘ステータスは伴わねえ現実を教えてやるよこのイケメン野郎」

 

 非モテヒーロー ブサイク大総統。

 イケメンに対する戦闘力はオールマイトをも軽く凌駕すると謳われた伝説のヒーロー。

 あの人には助けられたくないかなとすら言われる悲しきヒーローは今、仮免試験の敵役として君臨した。

 

「合格者出す気ないだろ!! 勝てるか!!」

 

 ちなみに付き合いはあったりする。

 タンクトップベジタリアンの同級生だからたまに事務所に遊びにくるのだ。

 なお鍛錬やトレーニングは一切しない。

 そういったイケメン行動は性に合わないとか。 

 同じ天才でもスイリューさんが武術の天才なら、ブサイク大総統はまさに個性使用の天才。

 マスターとて勝てるか分からないそんな存在を学生の試験にだすなよ。

 ただでさえなんでヒーローやっているのか分からない人なんだし。

 

「さあ観客に見せてやろうぜオルカちゃん、イケメン達の末路をなあ!!」

 

 この人本当にヴィランじゃないのが不思議だよね。

 

 



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77話

 

「総員傾聴!!

 敵はオールマイト級の実力者!!

 戦闘はこのタンクトップオールグリーンが引き受ける!!

 だがイケメン以外の拘束に向いたヒーロー達には掩護を要請する!!

 それ以外のヒーロー達は被災者の皆さんの避難誘導に専念してくれ!!」

 

 会場全てに響く大きな声で叫ぶ。

 相手は色んな意味で最強なブサイク大総統。 

 戦闘スタイル的に相性は悪くないとはいえ、相性をブサイクでねじ伏せるからこそのブサイク大総統、まず勝てる相手ではない。

 ならば打つ手は一つ。

 かつてタンクトップマスター達が全裸大帝を封じたように相手を疲労させて個性にて拘束する。

 イケメンはブサイク大総統の戦闘力を跳ね上げるだけだから、ここはフツメンオタク寄りタンクトッパーな僕が中心となり微妙な容姿メンズで対応する。

 

「ってドコ行くお前」

 

 即座に下がろうとする峰田の襟を掴み持ち上げる。

 

「え?だってオイラ、」

 

 持ち上げられたまま本人としてカッコいいと思い込んでいるキメ顔をかましながら、

 

「イケメンだろ?」

 

 現状ではまるで笑えない冗談をほざく。

 Msジョークの個性を使用されても笑えねえよ。

 

「寝言は寝て言え」

 

「かつて無いほどキレてない?緑谷」

 

 相手考えろ、足止めに専念しないと五分で壊滅されかねない実力者なんだっつの。

 

「任せろ緑谷」

 

「ああ僕たちも協力しよう」

 

「熱い展開スね、やりますよ!!」

 

「話聞いてたかイケメン共!!」

 

 天然イケメンの轟君に、真面目イケメンな飯田君と、熱血系坊主頭イケメンのイナサ君。

 この状況を悪化させるだけのイケメン共の登場に怒鳴り返す。

 

「「「いや自分イケメンじゃないし」」」

 

 3人の息の揃った返事にぶら下げたブサメン代表に尋ねる。

 

「峰田、どう思うよ?」

 

「大総統閣下にグチャみそにされて欲しい」

 

「それな」

 

 容姿なんてタンクトップのオマケだが、過大評価でも過小評価でも自己評価は正しくできないと困るんだよ。

 

「出久やれるのか?俺はギャングオルカ達を担当すれば良いんだろうが」

 

 連れてきてくれた拘束系個性フツメン代表の瀬呂君を下ろしながら勝己は言う。

 

「出来れば御免被りたいけど、ブサイク大総統の相手なんて僕くらいしかできないでしょ」

 

 それだってすり潰されるような足止めが精一杯だ。

 かといってワイルド系イケメンな勝己は実力の増したブサイク大総統の前だと轢き潰されてしまいだ。

 そもそもギャングオルカを担当するのだって無茶な役割だというのに。

 

「飯田君は向こうの指揮を、轟君イナサ君は防壁として炎の壁を維持してもらって、勝己はギャングオルカ達を相手取る」

 

 ギャングオルカもサイドキック達もハンデ付き、試験としては問題だがその事実が今は救いだ。

 もっと拘束個性は欲しいけどこの二人なら大丈夫だ。

 

「自分も協力させてもらおう」

 

「貴方は士傑の糸目微妙メン先輩!」

 

 上鳴君に説教した性格アレなこの人もイケメンじゃない。ならば戦力になる。

 

「糸目微妙メンッ!! 肉倉だ!!

 いかな存在であれ、我が個性の前には相手にならん!!」

 

 確か個性は身体の一部を貼り付けて相手を捏ねくり回し無効化するんだよね。

 効くかな?

 嫌な予感しかしないけど居るだけでもありがたい。

 

「よしならば、行動開始!!」

 

「「「「応!!」」」」

 

 

 

「なんてヴィランが想定された動きをするわけないよなイズクちゃん。

 俺と同じフツメンな実力者であるお前とやるわけねえだろ?」

 

 足止めしようとする僕を無視して素通りするブサイク大総統。

 そう、この人はイケメンを殴るためにヒーローをやっている男。やりたくないことは面倒なことはしない。

 だから、

 戦う理由をくれてやる!!

 

「僕はこの夏、女の子四人とプライベートビーチで楽しく過ごしました」

 

 ピタリとその巨体は止まり、ギギギと錆びたおもちゃのようにこちらに顔を向ける。

 

「好かれてる美少女達との海水浴、最っ高でした!」

 

 その後林間合宿あって大変だったけどね。

 

「俺はイケメンが許せねえ。

 容姿だけで全てを手にする連中を叩き潰したくて仕方ねえ。

 けどな、

 フツメンのくせにリア充な野郎はそれ以上にムカつくんだよっ!」

 

 釣れた。

 心までブサイクな彼ならここで僕を狙わないわけがないよね。

 膨れ上がった肉体をミサイルのように突っ込ませてくるブサイクをワンフォーオールで強化した肉体と流水岩砕拳で受け流す。

 流し切れない?!

 巨体の軌道を反らして瓦礫にぶつけるも衝撃が全身をビリビリと震わす。

 ただの突進でコレかよ。

 真っ向勝負なんて自殺そのもの。

 タイマンバトルは処刑に過ぎない。

 極まったブサイクに無限増幅するコンプレックス。

 天地震わすその戦闘能力はまさに最強。

 死んだねコレ。

 オールフォーワン相手取った方がまだマシだよ。

 理解できない思想と行動理念の魔王より、些細な理解出来る感情からくる衝動を発露させてくるブサイク大総統の方が納得できる存在として恐ろしい。

 足止めそのものに無理があった。

 

「凄まじいパワー、だがそんなモノ私の前には意味を成さない」

 

 肉倉先輩?!

 動きを止めたブサイク大総統にすかさず個性をぶつける。精肉の個性、揉んで対象の肉体を捏ねて丸くする。

 

「誰の身体が、肉団子だコラー!!」

 

 だが効かない。 

 

「何っ!!」

 

 ブサイク大総統の個性は、コンプレックスを戦闘能力に変換する。

 ならば戦闘能力とは何か。

 筋力か、否。

 腕力か、否。

 脚力、聴力、視力、握力、全て否。 

 その個性、肉体能力を増幅させるに非ず。

 そう戦闘能力とは、

 言うなれば戦闘において相手に打ち勝てる能力。

 状況に対する究極の適応力。

 ブサイク大総統はその溢れんばかりのコンプレックスのみが可能にする進化ともいえる力。

 闇の帝王が奪っても使いこなせない彼だけの力。

 

 つまり何が言いたいかというと。

 ブチ切れたら干渉タイプ個性通じないのこの人。

  

 勝てるかっ!!

 

 人の形をした絶望に立ち向かいながら僕は叫ぶ。

 ヒーローになるってこんな絶望にも立ち向かうのだなと思いながら。

 100%状態のワンフォーオールをタンクトップ力で維持し流水岩砕拳の動きで捌く、危機感知で致命的な一撃を避け、黒鞭を伸ばして相手の手足に括り付けて攻撃を反らしながら拘束、秒と持たないで引きちぎられるエネルギーだがその一瞬にサポートアイテムのもぎもぎランチャーで発射されたもぎもぎに瀬呂君のテープと肉倉先輩の精肉で固めようとする。

 そんな命削る綱渡りを演習が終了するまで、HUCの方々が救助されるまで続けた。

 そう、いつ終わりと知れない極限に集中した時間を。

 命が尽き果てるのではないかと思いながら。

 

「終わった」

 

 終了の放送と共に皆でぶっ倒れた。

 アレだけブチ切れてたブサイク大総統もあっさりと退いた。

 あくまでルール有りきの暴力。

 それが彼の線引なのだろう。

 あの人ヒーロー側で、本っっ当に良かった。

 審査制の演習、アピールやら活躍やら意識する余裕なんぞなく僕の仮免試験は終了した。

 これで落ちても諦めつくな。

 そんな虚無的思考に囚われながら。

 

 

 

 

 




オリジナルサポートアイテム設定。
もぎもぎランチャー。発目とメリッサの合作。
峰田君専用のサポートアイテム。
峰田君の頭部を覆うヘルメットにそこから伸びたホースと先端に発射ノズルとランドセルのような背負う装置がついている。もぎもぎは触れるとくっつくため、触れないように空気で吸い取り発射している。飛距離速度精密さに連射性も投げるよりアップしてるが、手でもぐより痛いのが欠点。


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78話

 

「「「「公安ぶっ潰す」」」」

 

「気持ちは分かるが落ち着け」

 

 満身創痍に満身創痍を重ねてデトロイトスマッシュを食らったような疲労感。

 浮かび上がる感情はただ一つ。

 復讐だ。

 なんで仮免試験にラスボス超えた裏ボス以上の無敵イベントキャラだすんだよ。

 勝てるか!!

 疲労で動けないが、頭は冷静になった。そして断言しよう、あんなんどうしろと。

 

「脳無対策の一環だろ?現場に勝てない相手がいる前提の試験なんだろうよ」

 

「なら脳無だしてよ」

 

 ブサイク大総統とやるより脳無100体の方がマシだっての。

 

「勝てるだろお前」

 

 呆れた口調だけど本音では同意してるみたいな勝己。彼自身ギャングオルカ達を相手取るハメになってしんどかったのだろう。

 こっちより100万倍マシだけど。

 

「爆豪はどうだったよ?」

 

 峰田君が聞けば、駆けつけてくれた援軍のおかげでなんとかなったそうだ。

 人型のシャチともいえるギャングオルカは言うまでもなく強敵、サイドキックが個性使用を禁じられ本人も拘束用プロテクターを付けていても勝己をしても勝ちきれなかったそうだ。

 

「ちと個人戦闘にばかり拘りすぎてたわ。統制の取れた群れの強さ、時間内に打ち破れなかった」

 

 制限あっても連携は健在。

 その指揮とフォローの巧みさは自身にない強さだと勝己は言う。僕と組んで戦うことはあるけど、タッグバトルと集団戦は別だしね。

 

「何はともあれ良くやったよお前達は。

 あの人を止めないと壊滅してたからな」

 

「そらそうでしょ」

 

「流石は閣下」

 

「うむそうだな」

 

「俺はフツメン代表じゃねえ」

 

 まあ短時間で終了したのはこの少人数で敵役を抑えて大半の人が避難誘導に専念できたからだしね。

 

「ホレ迎えも来たし、皆で戻んぞ」

 

 僕を勝己が、峰田君と瀬呂君を障子君と砂藤君が運んでくれるみたいだ。肉倉先輩は士傑の毛原先輩がモサモサと包んで連れていった。

 僕以外は直接やりあった訳じゃないけど、命の掛かった戦いってプレッシャーだけでもしんどいからね。

 ちなみに最初に潰された真堂先輩はとっくに助けられて運ばれたりしてる。

 

 そして結果発表。

 結果を待つ時間に皆がドキドキとしている、こういう時間てキツイよね。

 

「悟り開いたような表情の緑谷が言ってもな」

  

「もうどーにでもなれ、な心境だよ障子君」

 

 

『皆さん長いことおつかれ様でした。

 これより発表を行いますが、

 その前に一言、

 採点方式ですが、我々ヒーロー公安委員会とHUCの皆さんによる二重の減点方式であなた方を見させてもらいました。

 つまり危機的状況でどれだけ間違いのない行動をとれたかを審査しています。

 今の言葉を踏まえた上でご確認下さい』

 

 減点方式なら持ち点尽きたら退場しそうだけど、後ろでそんな動きあったのかな?

 とりあえず表示を見るけど、アレ大半受かってる?

 僕や峰田君のもあるし、ていうか雄英高校全員受かってるね。

 確認を終えた後配られたプリントには採点内容が詳しく書かれ、

 

『君は強すぎ。100点』

 

 てないよ。

 

「勝己は?」

 

「コレだ」

 

『君も強すぎ。100点』

 

「「適当かよ」」

 

 いやあんな連中を抑えきったわけだから強さに関して納得の評価だけどさ。

 

「オイ緑谷、的確なサポートしてたとか書かれてんぞオイラ!!」

 

「敵役とやり合うまでの救助活動も評価されてんだなコレ」

 

 無理矢理サポートに引っ張った二人が高評価なのはホッとした。

 自分だけならともかく巻き込んだ二人まで落ちてたら詫びようがないし。

 

『合格した皆さんはこれから緊急時に限りヒーローと同等の権利を行使できる立場となります』

 

 舞台上の目良さんは説明する。

 仮免資格と所持する意味とその責任を。

 そして、これから先に起こる危機を。

 オールマイトが引退したという事実が何をもたらすのか。

 僕らが知らないオールマイトのいない世界で、ヒーローになるという意味を。

 

『現状ヒーローになるということは、死地に飛び込むと同義であるといって過言ではありません。

 未だにヴィラン連合の完全壊滅に至っておらず、脳無という脅威は健在です。

 だから今回は理不尽な強者をあえて試験に投入しました。皆さんが立ち向かう存在を知ってもらうためです』

 

 死柄木弔、僕を誘ったあの人は今何をしている。

 思うがままに生きているのか?

 

『皆さん、オールマイトの神野決戦での言葉のように星となって下さい。

 あなた方が輝くことは人々の平和に繋がっています』

 

 その言葉の後に、今回の試験で落ちた人に補足説明をして仮免試験は終了した。

 受け取ったヒーロー活動許可仮免許証。

 その一枚の紙が、重く、誇らしかった。

 やり遂げた皆と笑いあえる現実が幸せだった。

 そう僕たちはまた一歩、ヒーローへと近付いていく!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何コレ?」

 

 場所は変わってハイツアライアンス。

 僕たちの家。

 いつも賑わう夕食の席が、あまりにも暗い。

 その元凶はテーブルの中央にこんもりと盛られた名状しがたきナニか。

 

「「今日の晩御飯です」」

 

 その名をサルミアッキという。

 

「何コレ、何コレ、私何かしちゃった!!

 これから離婚切り出されるの!!」   

 

「待って、まだやり直せる!話し合いましょ!」

 

「そういった話じゃないだろ?いやこんな晩御飯ならそう思うだろうけど」

 

「まあ夫婦仲壊滅してるか、熱狂的なサルミアッキファンな夫婦の二択だな」

 

「祝賀会じゃなかったのか?バスの中で用意していたとか言ってたろ?」

 

「どうしたコレ?」

 

 その言葉に気まずくなった僕たちは、

 

「「相澤先生のお祝いの品です」」

 

「「「「嫌がらせじゃねーかっ!!」」」」

 

「「「確かに断れないよね」」」

 

「「あとダンボール4つあります」」

 

「「「もうテロだよ!!」」」

 

 そんな帰ってからの一幕があったけど、とりあえずサルミアッキは片付けて祝賀会を開いた。

 仕込んでおいた料理に、ランチラッシュのデリバリーで大いに盛り上がりました。楽しかった。

 

 なおサルミアッキについては事情を説明したら豚神さんが引き取ってくれました。

 後日受け取りにきた豚神さんをクラスメート全員でさながら本物の神様みたいに拝みながら感謝した。

 

 



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79話

繋ぎ回です、短いです。


 

「公安ぶっ潰す」

 

「まだやってんのかお前」

 

 許すまじ公安、ブサイク大総統けしかけるなんて処刑だろアレ。かつて目良さんを三徹させたタンクトップ集会を開催してやろうか。

 

「ホレ始業式だから委員長注意する前に行くぞ」

 

「公安ならともかく飯田君に迷惑かけたら駄目だね」

 

 ならすぐに行かないと。

 

「切り替え早いのはお前の利点だよ」

 

 勝己の人の良いトコもね。

 途中、僕たちの試験にはシンリンカムイが敵役にでたよと自慢してきた物間君を峰田君瀬呂君と共にシバいて校舎から吊るしてから始業式に向かった。B組もこっちはブサイク大総統だったというとあっさり納得してくれた。あのヒーローってモテないけど知名度すごいから。

 あと心操君もいた、ゴツくなっていると皆気づいたみたいだけどアレは捕縛布の鍛錬でもしたのかな?

 

 始業式、校長先生のどうでも良さげな話とこれからの社会について語っていた。神野決戦、あの日から確かに社会は変わったのだから。それでもそこまで治安に変化はない、オールマイトのあの叫びはヒーロー達を奮起させ、一般の人の意識も変えたのだから。ニュースのコメンテーターさんもオールマイトのあの叫びが無ければ社会はより乱れていただろうと発言していた。そういえばエンデヴァーの印象も大分変わったみたいだ。今では不安より期待の方が強いと世論調査ででていた。あとは梅雨ちゃんとか芦戸さんはインターン活動を気にしていたようだ。2、3年生が取り組んでいる活動とか。

 僕たちは社会の後継者である、か。

 根津校長のその言葉が特に印象に残った。

 

 教室にて相澤先生による今後の説明。

 通常授業に加え厳しい訓練に寮生活、ハードになりそうだね。途中梅雨ちゃんの質問からインターンの説明もされていた。ウチのタンクトッパーだとベジタリアンぐらいしか経験ないんじゃないかな?タンクトップ事務所でやったことないし。

 校外でのヒーロー活動、以前行ったプロヒーローの下での職場体験の本格版。

 それに麗日さんが反応する、職場体験なんか体育祭での頑張りが指名数に直結(一部例外有り)していたわけだし。けれど聞いてみれば、校外活動は学校側からの要請ではなくヒーロー事務所が仮免を持つ生徒に個人的に話を持ち込むモノ。いわば将来サイドキックとして見込んだ学生と早めに関係を持ちたいから行う活動みたいだね。全員が出来る活動ではなくまずヒーロー側からスカウトされないといけないようだ。

 ただ一年での仮免取得はあまり例がなく、敵の活性化の相まって出来てもやらせるべきではないという意見もあるみたいだ。

 

「ってことは許可おりたらタンクトップ事務所でヒーロー活動ができるのか」

 

 元々タンクトップ事務所に弟子だからで参加してたけど、本来違法なんだよね。

 無個性ヒーローだから見逃されてただけで。

 でもマスターは危険なヴィラン相手は自分でやる人だし(そもそもタンクトップ事務所ではなく無個性ヒーロータンクトップマスター個人依頼)

 ヒーローインターンか、どうなるんだろ?

 

 

 

 



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80話

ギャグ回です。


 

 新学期始まってから数日過ぎ、ようやく寮からの学校生活に慣れてきたかなと思っていたら、勝己にお昼ごはんを誘われた。寮生活という環境の変化からまだお弁当を女生徒から渡されてはいないみたいだ。そして最初から学食で食べるつもりだったのか、お弁当も僕らの分を用意しなかった。僕は日替わり定食を勝己は特盛地獄辛ラーメンを注文した。がっついてすすり込む様子から余程辛いのを食べたかったんだねと思う。

 皆の分を用意するためか自分好みには料理を味付けしない、そのためタンクトップを着ていてもダメージを負うような辛い食べ物にありつけなかったんだ。

 わざわざ学食にくるわけだよ。辛い食べ物は同席してもキツイから僕を誘ったんだろうし、一人で食べるのも何だしね。

 そんな食事を楽しんでいると、

 

「イズクエモーンッ!!」

 

「どうしたのミ○タ君?(アノ声)」

 

「いやノるのな、お前。そして伏せる意味あるか?」

 

 涙を流しながら、まるで虐められた某メガネ少年みたいに峰田君が僕に助けを求めてきた。

 

「口田イアンと砂藤オがイジメるんだ!彼女居るって自慢してくるんだよ!」

 

「もうそんな事で泣いているのミ○タ君(アノ声)」

 

「いや性格的にイジメも自慢もせんだろあの二人」

 

「イズクエモン、オイラにも彼女だして!!」

 

「もう、本当に仕方ないなミ○タ君は(アノ声)」

 

「仕方ないですまんだろコレ、つーかタンクトップの中から彼女出すのかお前」

 

 ゴソゴソと懐をあさり中から例のブツを取り出す。

 

「タ ン ク ト ッ プ!!

 魂の片割れに人生の伴侶、すなわち恋人と言っても過言ではないね(アノ声)」

 

「まあお前だしな、それと効果音はどこからでた?」

 

 タンクトップを受け取った峰田君はベシリと床へと

叩きつける。

 

「オイラマジなんだけど、ふざけてんのお前?

 床に転がすよオイ(ブチ切れ)」

 

「こっちもマジだよ、タンクトップは恋人だろうが葡萄ヘッド(ガンをつける)」

 

「どっちに突っ込むべきかわからねえ」

 

 胸ぐらを掴み合う僕たちに勝己はため息をつく。

 こっちも彼女だしてって言われて困っているし、タンクトップを床に叩きつけんなよ。

 

「「とにかく女の子紹介してください」」

 

「増えてないか?」

 

「何してんの上鳴君」

 

 凄い勢いで頭を下げる峰田君といつの間にかいた上鳴君、確かにこの二人は一緒に行動すること多いけど。

 

「紹介っていっても、女子の知り合いなんて雄英高校以外だと中学の同級生くらいしかいないぞ?」

 

 空いた時間はお互い鍛錬に当ててるしね。

 中学の同級生だって連絡取り合ってるわけじゃないしね。

 

「ていうか二人共雄英高校に入学してテレビにもでたんだし地元じゃ有名人じゃないの?かつての同級生からモテモテにならないの?」

 

 有名人になったら寄ってくる昔の知り合いとか感じ悪いけど、見直されたと思えば別だし。

 

「中学時代に女子の知り合いなんていないぜ!」

 

「中学時代の女子全員に告白して振られたぜ!」

 

 揃って親指突き立てられても反応に困るよ。

 でも紹介できる相手なんていないよ。

 タンクトッパーだって基本モテないから、砂藤君が付き合った時にはリンチにしようとしてたし。

 彼女さん狙っているタンクトッパー多かったからな(だから年下に惹かれたのはある)

 中学時代の同級生は勝己狙いだし。

 

「いやお前狙いじゃね?」

 

「いやモテてたの君でしょ?ラブレター頼まれたし」

 

「こっちも好きなものとか聞かれたぞ(一目瞭然だったけど)」

 

「「モテ自慢はどうでもいいわ、しばくぞ」」

 

「「ごめんなさい」」

 

 けど本当にどうしよ。雄英高校と中学の知り合いは勝己に夢中で、タンクトップ事務所は女性は来ないし、超合金クロビカリのファンの女性は筋肉ついてないと無理だし(口田君と砂藤君こっちでもモテそう)、豚神さんは女性の知り合いとか紹介しないだろうし、ブサイク大総統は論外だし、マウントレディは借金持ちだし。

 あ、一人いたか。

 

「一人だけなら紹介できる娘いたよ」

 

「またえらくピンポイントだな」

 

「知り合いのヒーローの妹さんでね、そろそろ恋人の一人くらいいたほうが良いだろうからって誰かいないか、紹介を頼まれてたんだよ」

 

「珍しいな、お前がその手の話忘れるなんて」

 

「女誑しクソ野郎は論外って僕と勝己以外って条件つけられたからね」

 

 腹立つよね事実だけど。

 

「それで峰田と上鳴がストリートファイト始めているけどな」

 

 見れば紹介されるのは俺だと殴り合う二人。

 男の友情って儚い。

 しばし殴りあってはいたが、最後に峰田君の身長を活かしたアッパーが上鳴君の股間をぶち抜き勝利した。

 悶絶する上鳴君を踏みつけスタンディングオベーションをする峰田君。友情とは?

 それを見て僕は、知り合いのヒーローの妹さんの連絡先を進呈した。勝者への報酬だね。

 喜んで受け取った峰田君はスキップしながら食堂から去って行った。

 けどさ、一連の流れを雄英生が集まる食堂でやった自覚あるのかな峰田君。上鳴君もだけど。

 

「いいのかアレ?」

   

 峰田君の行った方を指さしながら勝己は言うけど、頼まれた条件が交際経験の無い男子生徒だからね。

 顔も知らない知らない女性ととにかく出会いたい知り合いなんて峰田君か上鳴君くらいだし。

 

「で、どんな相手なんだ?」

 

「容姿は知らないよ、女誑しクソ野郎には見せられないって言われたし。とにかく大柄でスタイル良い美人らしいよ」

 

「兄の贔屓目じゃねえか?つうかそのヒーロー誰だよ」

 

「勝己も知っている相手、武者のコージさんだよ」

 

「ああ、あの必殺技の無い元高校球児」

 

 そうヒーローにしては絶滅危惧種みたいな感じだった人、最近バット握れば出来たけど、基本武器は刀だし。

 

「生き別れだった妹さんと再会して、以来シスコン気味なんだって」

 

「あの錦鯉の話か?実話だったのかよ」

 

「まあ信じがたいよね」

 

「じゃあ妹さんは?」

 

「現役女子高生で名前は、原田ウマ子さんというらしいよ」

 

 

 

 後日峰田君に人生初の彼女ができた。

 デート後にキスマークと歯型を大量に顔中につけた峰田君がいたから成功したとは思っていたけど。

 ただ、ふざけんな緑谷!!と峰田君に泣きながら殴りかかられて困惑したんだよね。何があったんだろ?

 あと、雄英高校敷地内にセキュリティをすり抜けて大柄な戦国武将みたいな人が侵入していると噂がたった。

 格好はレオタード姿とか色々みたいだけど、ジェントルかな?いや配信はやめてるし。

 峰田君も初彼女とメールを一日100件やるくらいラブラブカップルみたいで微笑ましいね。

 これで覗き騒動とか減ると良いけど。

 なお峰田君に触発されてデートとかの話題がクラス内で盛り上がった。

 峰田君は何故か死んだ目だったけど。

 

 

 

 

 




パプワネタです。
ギャグ回なのでどこまで本編と絡むかは微妙です。


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閑話 爆豪視点

ギャグ回です。ある意味。


 

「夕飯の熊鍋にフライドベアにメンチカツだ」

 

「「「いただきまーす」」」

 

 血抜きの完璧な熊一匹。

 それを出久と共に解体して夕飯にした、修行中に何度かやったとはいえしんどい作業だったな。

 

「旨い、旨い」

 

「ヤバいよ、この肉」

 

「揚げ物もリアクションとるレベルだ」

 

「なんで野郎がおはだけしてんだよ!女子は?!」

 

「「やるなら好きな人の前だけでーす」」

 

「畜生!!」

 

「峰田は反応しないのか?」

 

「もう女とかいいスよ、オイラには彼女だけス」

 

「何があった?!」

 

「ところで勝己、この新鮮な熊とかどうしたの?敷地内にいたの?獲物なら鼠はいたけど」

 

「その鼠てスーツ着てないか?いくら雄英高校でも敷地内に野生の熊はいねえし、槍で一突きなんて芸当も無理だよ。貰ったんだよ見知らぬ人に」

 

「見知らぬ人?」

 

「そうだな、説明するか」

 

 そうして俺は語る、昨夜あった戦いを。

 遭遇した恐るべき使い手のことを。

 

 

 

 

 俺は雄英高校敷地内にて日課であるジョギングをしていた。走ることは鍛錬にも気分転換にも良い。

 夜の昼間より涼しい空気の中、俺は気分良く走っていた。

 だが、今日は何故かその空気に張り詰めたモノを感じていた。まるで大型肉食獣がいるナワバリに踏み込んだ時のような感覚、ここは危険地帯であると本能が告げていた。

 セキュリティ万全な雄英高校敷地内ではありえない感覚に戸惑いながらも、自身の感覚を信じあえてその危険の中心まで向かった。武人としての強者への興味、ヒーローとして危険な存在を調べようとした意識があったからだろう。

 そしてそこに居たのは、大柄の武人。

 全身これ筋肉と言わんばかりの巨駆、パンパンに張り詰めた筋肉は収める皮を弾き割りそうにも見えた。

 ボサボサの髪には艶こそあったが、それがその人物の野性味を損なうことはない。

 顔には鼻先にあった一文字の傷が歴戦の猛者であると示しており、口元から顎はモサモサな髭をたくわえていた。

 胴体に腰だけ日本の鎧を纏いあとはやや破れた服で体を包んだ、今から合戦に望んでも可笑しくない武人。

 それが雄英高校敷地内にて一撃で仕留められた熊を背負って歩いていたのだ。

 

「何してる?アンタどこの誰だ?」

 

 自分はここの学生だと伝え、返答を待つ。

 実力者や腕自慢ならそのまま語ってくれる場合もあるからだ。

 

「原田」

 

 ボソリと言われた名はやはり聞き覚えはない。

 大概のヒーローにヴィラン、武人の見た目と名前は頭に叩き込んでいたが原田なんて人物は覚えがない。いや最近どこかで?

 しかし素性に心当たり無くともこんな怪しい強者を通すわけには行かない。

 即座に仕留めようと個性で加速して決めようとしたのだが、

 俺は死んだ。

 いや死んだ自分をリアルに幻視した。

 熊を背負って両手が塞がっている筈なのに、突っ込んだ自分は槍で頭を貫かれていた。

 そんな強烈なイメージが叩き込まれた。

 ツツっと冷や汗が頬をつたる。

 個性ではない、個性やナニカでみせたものではない。

 強者ゆえに持ち得る存在感。

 それを出来ると確信させるだけの凄みが眼の前の御仁にはあった。

 

「フム」

 

 かなりやるようだな。

 と呟きながら熊を地面に下ろす。

 そして持っていた槍を構えた。

 それを見て俺は理解してしまった、自分では到底勝てない存在であると。

 槍、その存在が故に。

 

 かつて猿の一種であった人類が世界の支配者にまで上り詰めた大きな要因は言うまでもなく、前足を両腕に進化させたことに尽きる。

 四足歩行を脱却し、立ち上がることで視野を広くし脳を活性化させた。

 そして自由となった両腕を用いて数多の道具を生み出した。

 その発明品の中で最も活躍した道具は武器である。

 それにより、猿では捕えることができなかった自身より大きな獲物を狩ることが出来るようになり、食糧を行き渡らせることができたことが種と繁栄に繋がった。

 中でも槍、これこそが大きい。

 弓が生まれるまでの間の最強の殺戮兵器であり、弓が誕生した後も最強の武器であった道具。

 長く重い棒に尖った先端を付けたモノ。

 ただそれだけ、ただそれだけの存在が人類を最強の生物足らしめた。

 鍛えた男が槍一本で獅子を仕留める。

 長いリーチに重い一撃、それを扱う体力ならば可能となる。

 強大な暴力の化身であるマンモスも食糧にまでした道具、それが槍なのだ。

 

 そんな武具が凶器が自身に向いている。

 ましてや武術として振るわれる槍はさらに次元が異なりレベルの存在だ。

 刀や剣であれば両腕の動きから推察することができるだろう。

 だが構えられた槍、その穂先に集中せざる得ない槍は無理だ。

 先端から体全体が一本の棒状になっているため動きを見ることができず、穂先から意識を逸らせばその時点で貫かれて死ぬ。

 大口径の拳銃のように当たれば即死、向こうは一撃突けばこちらを仕留めることができるのだ。

 拳銃のように指先でのタイミングを伺うこともできない。やみくも突っ込んだところで、射抜かれる。

 脳内で動きをシミュレーションしてみたが、既に自分は二十五回のパターンで死んでいる。

 詰みだ。  

 武器と無手では戦いの領分は異なると師匠が言っていたがまさにそのとうり。 

 人が何故、武器を持って戦うのかその理由を悟った気分だ。

 冷や汗が一滴、地面に落ちた。

 やらざる得ないと動こうとしたところで、向こうが槍を下ろした。

 

「これだけの実力者がいるなら、ミッちゃんも安心だな。その熊は皆で食べてくれ」

 

 そう言ってもと来た道へと戻っていった。

 無防備に背を向けて、任せたと言わんばかりに手を振りながら。

 

 

「なあ出久、世界にはまだまだ強い人がいるんだな」

 

 あの一時の出会い。

 思い返すだけで血が滾る。

 勝てずともまた相対したいものだ。

 

「とりあえず言うけど勝己、ジャンル違うから」

 

 呆れたように出久が言い。

 峰田が何故か、ガクガクブルブルと震えていた。

 

 

 



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82話

すいません、またギャグです。
今回の被害者は、この人。


 

 新学期始まってからしばらく、寮生活の食卓に熊料理がたびたび上がるようになった。

 一日の授業を終えて、さて帰るか訓練施設でも借りるかと悩んでいたらプレゼント・マイク先生から声をかけられた。

 どうやら頼みがあるらしく、後ろには同じく声をかけられた勝己も控えていた。

 先日の峰田君の件もあったため念の為彼女はだせませんよと先に言ったら、何言ってんだコイツという顔をされた。

 なんでもどうしても僕達、女誑しクソ野郎二人に手を借りたいことがあるらしい。

 その言葉に、勝己と揃って帰宅を選んだ。

 

「熊の掌をどう料理しようか」

 

「アレ、コラーゲンみたいだから扱い大変だよな」

 

「待ってお願い助けて」

 

 縋り付く三十代教師だが、女誑しクソ野郎呼ばわりは事実だけと呼ばれて良い気分はしない。

 好意を持たれて嬉しいけど優先しないといけないことが多いのだ。まあ綺麗どころに纏わりつかれて喜んでいる自分がいるのは否定しないが。

 

 強引に引っぱられて学生食堂まで連れてかれたら(放課後も開放されて早めの夕飯やスイーツが楽しめる)僕たちの登場にトラブルを予感して慌てて帰る生徒達と、トラブルを期待してワクワクする生徒達がいた。

 

「とりあえずタンクトップ的なものかな?」

 

「俺は唐辛子茶」

 

 僕のボケをスルーしたつれない勝己。

 そこはメニューから頼めと注意するトコでしょ。

 

「オイオイ、二人ともせっかく先生が奢るんだぜ?

 一番高いのを頼んでも構わないぜ」

 

 と太っ腹な発言のマイク先生だけど、頼み事ってそれだけ身銭切るだけのことなのだと判断もできるから、勝己なんか渋面だ。

 まあまた絡まれても困るから、聞くだけ聞こう。

 

「じゃあこの学食で一番高い品を」

 

 メニューからじゃなく直接頼もう。どうせメニューからでるし、ランチラッシュ先生なら分かるだろうから。それに一度はこんなことしてみたかったし。

 

「じゃあ俺も」

 

 諦めてため息をつく勝己も同じものを頼んだ。

 学食だからそんな高くないだろうし。

 その注文に直接オーダーを取りに来た(トラブル対策のため)ランチラッシュは驚くと、本当に良いんだねと念押しされた、まあ払うのマイク先生だし。しばらくお時間頂きますと告げてから去るランチラッシュ先生に一抹の不安を感じたけど、何を作るのかな?やたら気合が入っていたし。

 

「そんで本題に入るぜ」

 

 しばらくかかるからと、僕がコーヒーで勝己が唐辛子茶を飲みだすと、珍しく真剣な表情でマイク先生が話を切り出した。ふだんはおちゃらけたキャラを徹底してる人だから新鮮だね。

 

「この写真を見てくれ」

 

 スッと出された写真には美しい和服を着て礼儀正しい姿勢をして立つ、ゴリラがいた。サイズがでかいね。

 というかこの人。

 

「それでどうしたんだよ?」

 

 個性社会のため外見に拘りはあまりないけど、動物タイプは動物って認識なんだよね。差別につながるから皆発言には気を遣うけど、特にヒーローは。

 ゴリラ個性の多分女性の写真に対して、勝己が疑問を口にすればマイク先生は重苦しい雰囲気で語りだした。先日の校長先生とのやり取りを。

 

 

 

「やあ!!我が校自慢の教師にし第一線で活躍するヒーローにしてラジオでも大人気なプレゼント・マイクこと山田ひざし君」

 

「いやはや褒め過ぎだぜ、根津校長」

 

「そんな君に素敵な頼みがあるのさ☆っ!!」

 

「素敵?根津校長が言うなら間違いはねえな」

 

「そう言ってくれると嬉しいね☆

 実はさるご令嬢との縁談の話が来ていてね。

 相手方は君を指名したのさ☆」

 

「マジすかっ?!

 雄英高校に影響あるトコのご令嬢なんてとんでもないお金持ちでしょ。もしかして逆玉の輿!!」

 

「HAHAHA、そのとおりだよ。ぶっちゃけ断ったら雄英高校潰されるレベル(ボソリ)

 だから悪いけど君に拒否権はないのさ☆」

 

「まあこんな仕事で出会いなんてないから普通にありがたいですよ」

 

「ミッドナイト君とは欠片も脈ないしね☆」

 

「はっ倒すぞ齧歯類」

 

「HAHAHA」

 

「それでこちらがお相手なのさ☆」

 

 

 

「って感じで渡された写真がコレなんだ」

 

 腕を組み闇を背負いながらマイク先生は語る。

 そこには人生に絶望した山田ひざしがいた。

 

「さる御令嬢じゃなく、ゴリラ御令嬢じゃね」

 

「ていうかこの人、世界的に有名な動物タイプ異形個性の大家で八百万家を超える超大富豪猩々家の三女バブルスさんじゃん」

 

「よく分かるなお前」

 

「動物タイプ個性は目元で個人を判断するのがコツなんだよ。まあバブルスさんはやたらデカイから分かり易いけど」

 

「サイズじゃねーか」

 

 コレマジで断れない案件じゃない?

 むしろ縁談相手にされてまだマイク先生が他の候補者に襲撃受けてないのが不思議なんだけど。

 

「HAHAHA、何が毛深い人は僕と同じで情が深いだよあの齧歯類。目がドルのマークだったんだけど」

 

「情はドコいった?」

 

「まあ根津校長は人じゃないし」

 

 断ったら潰されて、了承したら援助金だよね。

 

「だから頼む!!なんとかこの縁談を潰してくれ」

 

 いや下手に介入したら僕たちの命がヤバくなるのだけど。動物タイプ個性持ちのブラックリストに載るんですがソレ。

 

「いくら個性社会とはいえ、ブサイクはブサイクでゴリラはゴリラなんだ!!」

 

 動物タイプ個性が外見とかが強まった一因だよね。外見的に美醜認識も個性に寄っちゃうから自然と個性婚になるパターン。

 最初は毛深いだけとかだったらしいけど何世代も重ねてもう完全にゴリラだよね。

 反面、発動タイプ個性は美醜感覚は昔のままだからミッドナイト先生とかをブサイク扱いする人もいないわけだし(それでも一定数はいる)

 

「潰さないまでもナントカしてくれ!!」

 

 どうしたら良いんだろコレ?

 縁談叩き潰すとかリスクが高いって。

 勝己と顔を見合わせるけど、別に自分らの想い人を助けるとかの話しじゃないし。

 それにバブルスさんて百さんの親友なんだけど。

 うーん尾白君にナンパしてもらう?でも彼は彼で通ってた武術道場の跡取り娘(5歳)の婚約者だし。

 とりあえずナントカで良いならナントカするか。

 相手側から断ってもらう形の決着が理想だよね。

 

 

「おまたせしました」

 

 とランチラッシュ先生が注文したメニューの完成を告げに来た。

 本当に待たせたね。早い安い旨いが売りの学食にしては珍しいけど。

 

「当店で一番高いメニュー」

 

 そこにはズラリと並んだ料理の数々が食堂のテーブルを占領していた。

 

「クラス単位祝賀会用フルコース(×2)です」

 

 沈黙が僕たちを支配した。

 マイク先生はもう真っ白だ。

 いや確かに一番高いメニューを注文したし、念押しもされたけど。

 やらないでしょ普通。

 

 

 

 結局クラスの皆とB組の人達も呼んでのパーティーとなった、生徒たちは突然のご馳走に驚いてたけど理由は誤魔化した。

 あまりの出費に少しはお金をだすとマイク先生に申し出たけと言い出したのは自分だからと固持された。ただ協力はしてくれよと念押しされてしまったが。

 

 かくしてプレゼント・マイク先生のお見合いをナントカすることになった。

 不安しかないけど最早断れない。

 とりあえずやれるだけやろう。

 

 

 

 




銀魂ネタです。前に似たようなの書いたかな?


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閑話 爆豪視点

ギャグ回です。閲覧注意。


 

 そんなこんなで早1週間。

 プレゼント・マイクこと山田ひざしと猩々バブルスのお見合い当日。 

 

「やっぱり厳重な警備だね」

 

 小型のスコープを覗きながら出久は言う。

 場所はお見合い会場である富豪御用達の高級料亭を一望できる廃ビルの一室。

 ガラスの割れた窓から外から気づかれないように身を潜め、サーモグラフィー対策として断熱シートを被っている。

 

「ゴリラSP、武装ゴリラ、拳銃持ちゴリラに警棒持ちゴリラ、あとは鎖に繋がれた小型トロルコングに観音ゴリラまでいるよ」

 

「個性ゴリラの人達なんだよな?変なの混じってなかったか今?」

 

 世界有数の動物系個性集団らしいが、偏りというか個性では無理ある存在みたいなんだが。

 

「そうらしいけど、調教されたゴリラとかでも違和感ないよね?ゴリラばかりだし」

 

 俺も自分の目で確認するが、とられている陣形は隙がなく警備員達も実力者ぞろい、強引に突破したり助け出すという案はとれないな、いや最初からやる気ないけどなその案は特に。これがクラスメートの誰かや知り合いなら別だけど正直プレゼントマイク先生はそこまで親しくない存在だ。ヒーローなんだし自分でなんとかしろよという気持ちもあるくらいだ。

 

「そんで何か策はあるのか?」

 

 素直に頭を下げて断るのが正解だと思うが。向こうも嫌々な態度の結婚生活は嫌だろうしな。

 自分では思いつかないし、この状況下でできることもない。出久が楽器のようなケースを持ち込んでいるから何かしらの策はあるのだろう。

 

「とりあえず相手であるバブルスさんに嫌われることだね、会話中にアドバイスして嫌われるように仕向ける。そのためマイク先生には小型通信機を渡してある」

 

 なるほどどうしてお見合いになったか不明だが、人間関係なんて一言で破綻することもあるからな。

 

「まあ百さんの話だと、マイク先生の髪型がバナナみたいで美味しそうだから一目惚れしたから難しいけど」

 

「そんな理由かよ! 頭を爆破して頭髪死滅させたら解決だったろ!」

 

 きっかけがそれって本当に個性ゴリラなんだよな?

 

「そして最終手段がコレ。勝己持ってて」

 

 出久から投げ渡された小型スイッチのようなモノを受け止める、なんだコレは?

 

「発目さんに頼んだ発明品。それを押せば予め仕込みがされた礼服が通信機から発せられる音波で爆散する。

 突然全裸になればお見合いは台無しだ」

 

「人生も台無しだからな。そしてそんなモン投げ渡すなや」

 

 俺がキャッチしそこねてスイッチを押されたらどうするつもりだ。移動中にマイク先生が突然全裸になるトコだったじゃねえか。

 

「そして本命の案は、出来ればやりたくないかな?」

 

「会話で嫌われるのと、突然全裸しかねーのかよ」

 

 案を出さないヤツが言って良いセリフじゃねーが、他にないのか。いやマイク先生が既婚者か恋人いたら解決したけど頼まれたミッドナイト先生はむしろバブルスさんの味方だったし。

 

「さあお見合いの開始だね」

 

「しかし高級料亭の間取りなんてよく調べられたな?」

 

 ふと気になったことを尋ねれば、

 

「百さんに頼んで一緒に食事に行ったからね。間取りは正確に把握したよ」

 

 それはそれで後で拗れそうな問題だな。どうりで少し前の八百万の顔が真っ赤だったわけだよ。

 

 

 そして始まるお見合い。

 お互いに家族(ゴリラ)と責任者(ネズミ)を引き連れてテーブルに向かい合うように座る。マイク先生のご家族は適当言って断って貰ったそうだ。ぶっ壊す予定のお見合いだしな。

 向かい合って座ると根津校長が二人(?)を紹介して話が始まる。

 

『ウホ』

 

『えっと、ウホ?』

 

 

 通信機が音声拾ったから会話(?)内容を拾ったのだが、バブルスさんはウホ言い、マイク先生もそれに合わせて適当にウホと返した。いやあの人個性ゴリラの現代人なんだよな?なんで会話が標準語じゃないんだよ。

 

「勝己、もう帰ろう。マイク先生も嫌がってたけどノリ気だったみたいだし」

 

「通訳できんのかお前。そしてなんて言っちまったマイク先生」

 

「猩々語は猩々家のローカル言語だしね分からなくても仕方ないよ。

 マイク先生は、「良いメスだな、子供は何人欲しいかい?ベイビー」って言ってたよ」

 

「いや適当に言っただけだと思うぞ。そして出合い頭の一言がソレで破談にならないのか?」

 

「横で聞いてた根津校長もマジかコイツって顔してるしね。通じるんだから標準語で話せば良いのに。

 ちなみにバブルスさんはめっちゃ照れてるし、ご両親は良いオスだと喜んでいるよ」

 

「あの人達って個性ゴリラじゃなくて、別の惑星からきた別の文化の宇宙人じゃね?

 そして理解できてるのか根津校長、無駄にハイスペックだよ」

 

 しばしそんな様子で会話する二人だが、話せば話すほど猩々家ご両親は狂喜乱舞でバブルスさんは顔を真っ赤にして照れて根津校長は頭を抱えている。マイク先生はウホと適当に言うたびに墓穴を掘りまくっているみたいだ、いや通信機で止めてやれよ。

 

 それが続いた後、状況の悪化に気づいたマイク先生がトイレ休憩を申し出て作戦タイムとなる。ちなみにこの時点で会話から嫌われるのは諦めた。通訳の出久から聞いた内容(かなりセクハラ)でも嫌われないなら無理だろう。

 

『どうしたら良い?いや無理は承知だけどめっちゃ盛り上がってるんだよ!』

 

『もう猩々家の婿にならないとヤバい発言してますよマイク先生』

 

『俺なんて言ったの?!適当に合わせてウホウホ言っただけだよ!!』

 

 すると出久は考えこむ、なお今服を爆散しても責任を取る的な態度に取られるから無意味らしい。案があっさり潰れているじゃねえか。

 

『分かりました、案を実行します。これが駄目なら諦めてください』

 

『この際仕方ない、やってくれ』

 

『では、僕が合図をしたら窓際に立って窓を開けてください』

 

『それだけか?』

 

『ハイ』

 

『分かった、そうしよう』

 

 

 そこで通信は終わり、出久は楽器ケースからロングバレルのスナイパーライフルを取り出し手順どおりに組み立てだした。

 

「何してんのお前?」

 

「ねえ勝己?お見合い中に自分が狙撃されたらさ。

 お見合いなんて終わるよね」

 

 その前に人生が終わるわ。

 だから窓際なのかなるほど。

 いや落ち着いてる場合じゃねえ、流石にそれはマズイだろ。

 

「大丈夫、コレは玩具のガスガンで玉はゴム弾だよ」

 

 ちゃきりと窓枠に銃身を預け構える出久。

 

「あのなゴム弾は非殺傷設定のデバイスじゃないからな?」 

 

 この距離で当たる威力のゴム弾なんて頑丈のヒーローでも頭が吹っ飛ぶわ。

 

「これしかないんだ、これしか、これしか」

 

 ブツブツと呟き出久は今更気づいたが正気じゃない、目元にはでかいクマが出来てるし表情は虚ろで青白い。そしてなによりコイツ今タンクトップを着ていない。

 猩々家相手にトラブル起こす現実にヤバいくらいのストレスを抱えていたみたいだな。

 

「出久、やっぱり辞めようぜ。こんなことしてもよくねえよ」

 

 話の規模がデカすぎて現実味を持てなかった俺と違って、コイツは現実を直視した上でなんとかしようとしている。けどこれはマイク先生がなんとかしないといけない問題なんだ。

 幼馴染のあんまりな姿に止めようと声をかけたら、

 

「あっ」

 

 バスっと乾いた音が響いた。

 

「あっ」

 

 顔を上げた出久がそのまま引き金を引いていて、合図どおりにしたマイク先生を吹っ飛ばしていた。

 

 

 

「帰るか?」

 

「うん」

 

 後で謝ろう本気で。

 まあナントカするとは言ったが、解決するとは確約しなかったし。

 介抱されるマイク先生だがおでこにでかいタンコブが出来ていて呼吸は正常。

 発目製のガススナイパーガンとゴム弾は意識のみをきちんと刈り取ってくれたようだ。

 これ護身用に良いかもなと現実逃避しながら帰路についた。

 

 

 

 

 今回のオチ。

 マイク先生は四年後、バブルスさんが高校を卒業したら結婚するそうだ。

 なんでも献身的な介抱にときめいたとか。

 あと俺等は不問になった。

 猩々家では、お見合いの席で死んだ振りをして相手の本気を確かめるという作法があるらしい。いや本当宇宙人じゃないかってくらい文化違くない?助かったけど。

 ストレスで疲れ切った出久は女性陣とタンクトップのおかげでなんとか治った。相談されてから1週間一切眠れなかったらしい。

 

 とりあえず全て丸く収まって無事解決した。

 それで良しとしよう。

 

 

 

 



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閑話 治崎廻視点

 

 俺は夢の中を生きている。

 俺に手を差し伸べてくれた恩人。

 その人が叶えた夢に。

 

 どこにでもある繁華街から外れた小さな商店街。

 住民全てが顔見知りみたいな下町。

 祀られたモノも誰もに知らないだろう細やかな社。

 そこで開かれるタカマチ。

 規模は小さいが子供達のはしゃいだ声と地域の皆さんの笑顔が溢れる祭り。

 そこを俺は歩く。

 かつて俺がそうされたように。

 あの人がしてくれたように、俺はエリの手を引いて祭りを眺めながら、組員達の働きぶりを見ながら、時折エリがせがむものを買ってやって、俺は歩く。

 親父もこうしてくれたんだ。

 エリとは違い興味を示さない俺にアレコレ説明してくれながら。あの射的のやり方、あの金魚すくいのコツ、旨いたこ焼きに焼きそば、自分の宝物を自慢するかのように親父は教えてくれたんだ。

 エリが繋いだ手を引っ張る、また何か食べたいのだろうか?アレコレ食べたがる小さな子供向けに、小さなサイズを用意させたが成功はしているな。まあ食べきれてないのに親御さんに新しいものを強請る子供達もソレを叱る親御さんの姿も祭りらしいが。

 見ればそこはお面屋、ズラリと並んだお面はオールマイトと話題のトップヒーロー達が中心だ。アニメのキャラクターも僅かに取り扱っているがもう少数だ。まあ売れるからとオールマイトばかりなのは視覚的によろしくないと思うが、売れるしなあ。稼業の方針に悩んでいるがエリは何が欲しいのだろうか?オールマイトかエンデヴァーかそれともミルコか?女の子だし。

 しかしエリはフルフルと首を振り、お兄ちゃん達が付けているのは無いの?と聞いてきた。

 ああ今はプライベートだから付けていないが、普段俺や八斎衆が付けているペストマスクとかか。

 しかしアレらは骨董屋から見本を買って個性で自作したやつだからな(清潔度が気になるから)、まさかエリが欲しがるとは。

 すまない売ってないんだと謝って今度用意しておくと約束する(お面担当の顔が引き攣っていたが)、するとエリはワガママを言ったと思ったのか顔を伏せるが、俺はその頭をくしゃくしゃと撫でてやり、それが新しいシノギに繋がるから気にするなと告げる(お面担当がマジで売るんスかと驚愕していたが)

 結局エリはブサイク大総統のお面を選んで(魔除け効果とホラーマスクみたいだから何気に人気)帽子のようにずらして被りながら、俺の手を引っ張った。

 浴衣に下駄、右手にりんご飴と頭にブサイク大総統のお面。

 とりあえず今の姿をカメラにおさめて広告に使うか幹部会で検討しよう。

 そろそろ神輿ですよと何故か疲れ切ったお面担当が言う、もうそんな時間か。次はそこにしよう。

 引っ張るエリに神輿を見に行こうと伝えて賑わう人の中に戻った。

 

 八斎衆の腕力担当がマスク付けたまま祭り法被と捻じり鉢巻つけて一人で神輿を担いでいるんだが。

 確認のため他の連中を睨みつけたらあの馬鹿の暴走らしい。だがお客様は盛り上がってエリも凄い凄いと喜んでいるから注意で済ますべきか。神輿は子供含めた皆で担ぐから意味があるんだがな、途中までにさせて皆で担がせないと。

 神輿でいっそう盛り上がったあとは見晴らし良い所に移動だ。親父が教えてくれた絶好のスポットへ。

 薄暗い中辿りついた見晴らしの良い場所で、エリに空を見るよう促す。

 そうしたら夜空に花が咲いた。

 ボンッとした音と共に咲き誇る一瞬だけの火の花が。

 初めての花火に声も上げれず呆然と見惚れるエリ。

 祭りの華たる花火。

 これが無ければ締まらない。

 綺麗、とポツリと溢れた言葉。

 それを聞けただけで祭りに連れてきた甲斐はあったかな。

 

 

 

 指定敵団体であった死穢八斎會は既にない。

 ヤクザとしての看板は親父の決断で下ろした。

 現在はテキヤを主体としたイベント興行会社へと転身し活動している。

 別に偽装や隠れ蓑というわけじゃない。

 死穢八斎會はヤクザ稼業から足を洗った。

 疑り深いヒーローや手柄の欲しいヒーローからは未だに睨まれているが、そこは地域の皆さんが庇ってくれている。

 とある事情や自衛のためプロヒーローに勝る戦力は保持しているが、戦闘能力の高い組員は別の懇意のある団体に移籍している。

 今じゃ戦力になるのは俺と親父に八斎衆くらいだ。

 けれど後悔はない。

 俺は親父の望んだ生き方をしているから。

 

 こうなった経緯はまたいずれ思い返すのだろうな。 

 



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85話

ビッグ3が最強じゃないと嫌な人は閲覧注意。
つまり作者は閲覧注意です。


 

 頭が重いな。

 記憶も所々飛んでるし、意識がはっきりしない。

 歴代達も優しい眼差しで柔らかく微笑むばかりで教えてくれないし。

 なんか1週間くらいゴリラの事ばかり考えていた気がするけど、深く考えるなと何故か懐かしく感じるタンクトップを伝えてきたので気にしないべきかな。

 さらにその1週間の内に百さんと二人きりで高級料亭で食事もしたと葉隠さんがぷりぷりと怒っていたし僕は一体何をしたのだろうか?

 勝己に聞いても、気にしたらゴリラだからと真剣な表情で伝えられては問い詰める気にもならない。

 とりあえず葉隠さんには二人きりで食事に行く約束をしてなんとか許してもらった(なお記憶にないならノーカンだと百さんも言い出したので、結局麗日さんにメリッサとも出かけることになった) 

 ちなみに最近早朝になると玄関前に置いてある獲物が今日はポクテだった。

 これ南国のとある島の聖獣なんだけどなんでいるんだろ?まあ兎の一種だから美味しくて栄養価高いから体に良いけど。ただ口田君が兎を飼っているから希望者だけにするべきかな?自分は修行中に狩りをしてたから気にはしないけど身近な生き物を食べるのに忌避感抱く人もいるし。獲物自体は熊肉にも飽きてきたから助かるけどね。

 籠一杯の絞められたポクテを運んでいると、何そのぬいぐるみみたいなのと皆が驚く。兎だよと軽く告げながらサクサクと調理して朝ご飯にした。さっぱりしてる肉質だから朝から食べても重くなくて良いよね。

 皆見た目にドン引きしてたけど一口食べると味は良いよね、低カロリーだから女性向きかも。そういえば食べまくると女性にモテるって噂あるよねと勝己に言えば、そもそもこんな生物知らんと返された。

 まあ一般的じゃないからねポクテ、僕だってタンクトップスイマーとタンクトップパールと海で仕事中に遭難して流れ着いた先の(あの巨大な口は個性かな?)ジャングルではじめて知ったし。懐かしいなハレ君、ジャングルではお世話になったな。良い子だったけど彼も勝己みたいにかなりのツッコミ体質な女誑しだったから将来が心配だよ。

 そんな風に過去を懐かしんでいたら、いつの間にか僕と勝己の前のポクテ料理は取り上げられ上鳴君が凄い勢いで食べてた(峰田君も自分の分を上鳴君に渡してたやっぱり彼女出来ると変わるね)でも食べ過ぎると胸毛がすごくなるよって伝えるタイミングを逃しちゃった。

 

 

 

 朝教室に行ったら相澤先生が黄昏ていた。

 彼らしくないその行動に異常事態だと判断した飯田君が慌ててリカバリーガールを呼びに駆け出した。

 話を聞いてみたら、生徒にとんでもない難題を押し付けた高校時代からの友人に文句を言いに行ったら、その人物が遠い所に行ってしまったらしい。なんでも婚約者になった中学生の写真を見てニヤついていたとか。その件に覚えがあるような気がして思い出そうとするけど、先々代にドロップキックで叩きだされた。

 とりあえず気にするなと相澤先生が言った所で飯田君がリカバリーガールを担いで連れてきた。 

 相澤先生はため息をついたあと次は遅刻にするからな、と飯田君に注意してリカバリーガールには帰ってもらった。

 

「じゃ気を取り直して本格的にインターンの話をしていこう」

 

 未だ精神ダメージが抜けきれず怠そうな相澤先生が、声をかけるとそこには3人の3年生。

 インターンを直に体験しているだけではない、相澤先生すら認める現雄英生のトップ達。

 通称ビッグ3。

 

「ちなみに緑谷と爆豪はトップ2な」

 

「「まだ1年なんですけど?!」」

 

 実力を否定はしないし、Iアイランドの一件で世界的に目立ったのは分かるけど!

 

「アイツが俺と同じ扱いの三年」

 

 上鳴君はそこに反応するんだね。

 一人の先輩を睨みつけてブツブツ言ってる。

 調べたのかな仮免試験の後に。

 相澤先生に促されて自己紹介を始めるビッグ3の先輩達だけど、一瞥の迫力の凄まじい天喰先輩はノミの心臓らしい。

 確かに人前だと緊張して頭真っ白になって喋れなくなるよね。

 そんな彼を不思議!と言ってから、話し始めたのはビッグ3の紅一点である波動先輩。

 説明を始めるかと思いきや幼稚園児みたいに片っぱしから興味をもったことを尋ねてくる。

 天然な性格なんだろうか。

 ちなみに前だったらここぞとばかりにセクハラ仕出してた峰田君は「俺に近寄るなー!」と逃げてた。彼女できてから変わったよね彼。

 

「合理性に欠くね?」

 

 と不機嫌になる相澤先生だけど明らかに人選ミスだと思います。ビッグ3ではなく、インターンの説明役としての方で。

 最後のトリである通形先輩も見事に滑って、ビッグ3の印象が思い切り下がった。

 けど、

 

「強いよね彼ら」

 

「ああかなりヤルな」

 

 性格はまあアレなとこあるけれど彼らから伝わってくるその実力は本物。ちょっと戦ってみたいな。

 タンクトップが久々に滾るよ。

 好戦的な眼差しで彼らを見たら、ビッグ3はそれぞれの反応を示した。

 あ、殺気に怯えて逃げないで天喰先輩。

 あと興味を持って近寄らないで波動先輩。

 そして、通形先輩は表情から判断できないよ。  

 結局スベリ倒した自覚からか通形先輩の提案でクラスメート全員で彼と戦うことになった。

   

 場所は変わって体育館γ。

 やる気満々な通形先輩に、やめるべきだと言う天喰先輩。いや教室で貴方が説明できてれば問題なかったんですけど。

 そんな事を言うのはかつてあまりの実力差に挫折し、立ち直れなくなり挙げ句問題まで起こした人がいたかららしい。

 なるほどそんなことあればそう言うよね。

 けどさ、

 

「「「実力差?」」」

 

 僕の仲間達は、

 

「「「んなモン毎日感じてラァ!!」」」

 

 そこまで軟じゃないんだよ。

 自信のある余裕すら感じる通形先輩の態度。

 それが経験からくる強者の立ち振る舞いなのはよく分かる。

 ならばこそ一番手は誰かという挑発、受けてたってこそのタンクトップだ。

 と、飛び出そうとしたら勝己共々捕縛布に包まれ蓑虫に。お前らは後だと相澤先生は言う。

 僕のタイミングをずらされた後A組による一斉遠距離攻撃が着弾するも個性ですり抜ける。

 通形先輩がいなくなったかと思ったらワープのように背後に現れた、全裸で。先生、耳郎さんの悲鳴に勝己がキレかけてるから早く解いて。この距離で旋風鉄斬拳だされたら僕も巻き添えくうから。

 

「お前らいい機会だ、しっかりもんでもらえ。

 通形ミリオは俺の知る限り、緑谷爆豪を除いて最もNO1に近い男だぞ、プロも含めてな」

 

 エンデヴァーがキレそうな発言ですよソレ。

 クラスメート全員が伸されたし、確かに強い。

 相澤先生捕縛されて蓑虫な僕らをいい加減開放してくれないかな。

 なんか通形先輩の個性説明パートに入っているんですが!!

 ゲームのバグ的な個性を経験で使えるレベルまで押し上げたのは分かった。その個性に複数の行程が必要なのも分かった。それを補うために予測が必要だったのも分かった。それを支えたのが経験なのも分かった。インターンで得た経験がトップにしたから恐くてもやるべきなのも分かった!!

 

「じゃあこれで終了だ」

 

 で、結局僕達二人は戦わせんのかい!!

 

 しかしその相澤先生の態度が不満なのは僕たちだけではなかったようだ。

 

「相澤先生むしろこっちが納得できません。

 俺はともかくミリオが彼らに劣っているとは思えません」

 

 天喰先輩?!

 

「彼らがいくら強くてもビッグ3を超えるトップ2と呼ぶ程なんですか?」

 

 自分より友達のために熱くなるタイプなのかな?

 意外と熱い先輩だ。

 

「呼ぶ程だ。コイツラはお前達より強いよ」

 

 相澤先生、そんな言い方。

 

「だったらミリオより先に俺が彼らと戦います。

 見せてください、トップ2の力」

 

「俺はどっちでも構わないですがね」

 

 斬。

 バラバラと細切れになった捕縛布が落ちる。

 

「何だったらまとめてかかってこいよビッグ3」

 

 君も同じタイプだったね勝己。

 友達貶されたらキレるタイプ。

 指をゴキゴキと鳴らしながら、凶悪な顔で好戦的に笑う勝己。

  

「まあ落ち着いて二人共、今回はそんな話じゃないんだしね」

 

 通形先輩がそう言ってとりなす。

 まあ喧嘩みたいな空気になってるし。

 

「でもさ、君も俺達ビッグ3に負ける気がしないんだろ緑谷君?」

 

 通形先輩は僕をご指名か。

 

「なら戦います?強者との戦いはタンクトップが滾るんですよ」

 

 ここまできてお預けは無いでしょ。

 

「勝己は天喰先輩をお願い、通形先輩は僕がやる」

 

「ちっ強い方取りやがって」

 

「天喰先輩も強いよ」

 

「テメェ程じゃないだろ?」

 

「そっくりそのまま返すよ」

 

 さあて、トップ2とビッグ3の戦いだ。

 なお波動先輩は不参加でした。

 

 

 結果は僕らの勝ち。

 天喰先輩の食べた生物を肉体に反映させる個性とそれを活かす戦闘技術、個性の一部位の特化に複合などの応用は強かったけど勝己の敵ではなかった。

 如何なる状況下にも対応できる万能に等しい個性だが生物である以上勝己の爆破、熱と衝撃は耐えきれるものではない。食べたモノを再現してしまう個性なので、再現した肉体の強化が複数掛け以外では出来ない。あくまで人間サイズの蛸足蛤の殻にとどまってしまうのだ、充分過ぎるほど厄介ではあるけど。勝己は蛸足を切り刻み蛤の殻を叩き割り、天喰先輩を撃退した。

 そして僕だが、通形先輩のすり抜ける個性は脅威だ。けれど攻略法はある。彼はいくらすり抜けるようと攻撃手段は自ら肉体で、相手の皮膚だけを透過して内臓をぶち抜くことはできない。つまり超合金クロビカリに彼は勝てないのだ、切島君何やってんの。そして応用たるワープも周りにものが無ければ意味がない、彼が息を止めて周囲を把握できないだけで、すり抜けてる間彼が無色透明になるわけでもない。彼が地中に潜ると同時に発勁で地面を粉砕し、姿の見えた彼を呼吸のタイミングに合わせてぶち抜く。

 説明されなければもっと苦戦した。けれど通形先輩の攻撃力はタンクトップを破るのは足りない。

 トップ2。

 僕と勝己はその実力を示すことに成功した。

  

 戦いのあと悔しそうな表情でも素直に相手を称えるビッグ3の二人は人間ができていると思った。

 人格面やヒーローとしての在り方はまだまだ遠く及ばないから彼らの上扱いなのは、なんか尻が落ち着かない気分だけどね。

 こうしてビッグ3によるインターンの説明は終わり、クラスの皆が奮起することとなった。

 

 




オリジナルヒーロー紹介。
タンクトップパール。
個性 超肺活量。
主に水難救助隊の応援を行う若手タンクトッパー。
名前の由来は、どことは言えないが若くてして体の一部がパールのように輝いているから。
ちなみに体の一部とは関係ないけど海藻類を常に食べていて、彼が食事担当になる味噌汁が汁よりワカメが多くなる。
体の一部とは関係ないけど、とあるジャングルにてとある少女に胸毛で拵えたカツラを貰った時に感涙したこともある。
実力はあるが残念なハ○


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閑話 とある新人ヒーロー視点

 

 俺様の名は殺戮ヒーロー ダーク。

 ヒーローになりたてでまだ新人だが、自己分析でその実力はトップヒーローと同格だろう。

 幼少期の個性診断で個性があることは確認できたもののその個性が不明だったため、無個性扱いで高校を卒業して就職し十年間たった。

 だが遅咲きの個性はついに覚醒し、絶大なパワーを発揮したのだ。鉄のフライパンですらも軽々と折り曲げる程のな。

 この先数年以内に史上最強のヒーローとして世界中に名を馳せることになるだろう。

 一般人だった頃から害虫専門の駆除業者をやっていたから腕には自信がある。

 そんな俺様が手っ取り早く名を上げるには、やはり最初にヴィランやヴィジランテを打倒するのが良いだろう。

 その中で目をつけたのが無個性ヒーローとかいう連中だ。無個性にもかかわらずヒーローに成り高待遇を受けているサギ師共、ネットで調べたらそう出たから間違いないだろう。

 ぶっちゃけ普通のヴィランなんてまず遭遇しないし、警察に尋ねでもランキングの高いベテランヒーローならともかく新人ヒーローには危ないから教えてくれなかった。相手の実力も計れん無能共が。

 そこでネットで容易く調べることのできた、無個性ヒーローをターゲットに選んだのだ。サギ師ならヴィランだから倒して平気だろうしな。

 今日はこの会場でとある無個性ヒーローのファンとの交流会があるらしい。

 そこでファンに紛れて油断しきったところに奇襲をかける。

 ここが受付か、クックックッ侵入成功。ここにヤツがいるんだな。

 

「うおー!ここが超合金クロビカリのイベントっスか、自分初めてっス!」

 

「こんな催しに参加するの俺も初めてだ」

 

「いや父親のイベントぐらいはないのかよ轟」

 

「はあ貧弱な肉体を晒したくないのになあ」

 

 なんだまだ子供じゃないか。

 名門士傑学園の学帽を被ったテンション高い奴に。

 雄英高校体育祭に出たエンデヴァーの息子。

 大柄なタラコ唇。

 天然パーマなガキか。

 

「超合金クロビカリは凄いっスよ、あれだけの功績を個性無しで自らの鍛えた肉体だけで成し遂げたからマジ熱いっス!!」

 

「タンクトップマスターはイベントとかやらねえの?」

 

「つーかなんで俺誘ったんだよ緑谷。そこまで無個性ヒーローやクロビカリに興味無いぜ俺」

 

「鍛えてガタイが良いの砂藤君だから、切島君は細いし障子君は体晒すの抵抗ある口だし、口田君は今日デートだったし、勝己は普通に断ったから」 

 

 ふん、ヒーローの卵共か良いだろう。

 これから始まるこの殺戮ヒーロー ダークの伝説の目撃者に相応しい。

 

「あ、ちょっとお兄さん。

 ちゃんと並んでくださいね」

 

「あ、すいません」

 

 クックックッ、ヒーロー足るこの俺様が指示に従う理由なぞないがルールは守らないとな。

 

「アレ、新しい人?」

 

「わあ嬉しいな、無個性ヒーローだから色眼鏡見られちゃうのよね先生」

 

「イベント参加者増えて感激」

 

 なんだコイツラ気安く集まってきやがって。

 あと親しげに組まれた肩が動かないんだがなんてパワーだ。さては一般人に紛れたヒーローだな?

 

「ファン同士の交流熱いっス」

 

「ずいぶん気安いんだな」

 

「困ってね?あのフードの人」

 

「クロビカリファンはコミュニケーション力高いからなあ」

 

 ガキ共見てないで助けろ。

 細身だけど凄いパワーなんですけどコイツラ。

 

「なんの騒動だ」

 

 囲まれた俺に近寄る気配。

 咎めるように言ってくる人物。

 この威圧感ある口調に業火の様な熱気は。

 

「超合金クロビカリ先生に会えるからとはしゃぎ過ぎだぞ」

 

 ナンバー2ヒーローである、フレイムヒーローエンデヴァー。

 なんでいるの?

 

「ウオー!! エンデヴァーっスマジ熱いっス!!」

 

「本当に暑苦しいよな」

 

「仕事良いのか?あの現ナンバー1ヒーロー」

 

「まだ正式に認定されてないからね、時間の問題だけど」

 

 いや当たり前のような反応してるけど、ネットには無個性ヒーローアンチ筆頭だったよねこの人?!

 なにがどうなってんだ?!

 

「おっと、この会場に入るときは脱ぐのが礼儀だぜ!」

 

 爽やかな顔で何言ってんのハイパワー青年!!

 そしてバサッと衣類が脱ぎ捨てられて現れたのは視覚の暴力。

 溢れんばかりの筋肉並木。

 細身に見えただけの青年達は鍛え抜かれた筋肉の群れだったのだ。

 ぶっちゃけお淑やかに見えた女性達も筋肉で怖かったです。

 後に知ったことだが超合金クロビカリの熱烈ファン達の肉体性能は平均的なプロヒーローの数値を上回っているらしい。

 あとなんかポーズ決めてるエンデヴァーの肉体がややクロビカってた。

 

「すげー!!皆さん凄いッス。エンデヴァーも凄い体っス!!」

 

「元から鍛えてたしな親父」

 

「つーか美女のギャップが。俺彼女いるからきにならないけど」

 

「タンクトップを脱いで力がでないよ」

 

 学生達も年齢の割には凄い体ですね、天パ君は傷が凄いですよ。

 

「クロビカリ先生がファン一人一人にフライパンアートで好きな動物を折ってくれるんだ。

 ほら緊張すんなって!

 この人初参加らしいです」

 

 ちょ、マジなんなの?コレが超合金クロビカリ。

 見るからに筋肉の怪物じゃん。

 これ見てなんで詐欺師扱いしてんだよネット。

 

「そうか!

 鍛えればまだまだ大きくなりそうだな、君は可能性の宝庫だ!

 ウサギでもワンちゃんでも選んでくれ!」

 

「じゃあウサギで」

 

「はいよ☆」

 

 あの個性使って曲げるの精一杯なフライパンを粘土みたいに捏ねてるよこの人。

 見事に折り曲げられウサギの形になったフライパンを見て、やっぱりヒーロー辞めておこうかなと俺は思いました。ヒーロー資格はもってるだけで評価になるし。

 

 

 

 




オリヒーロー紹介
殺戮ヒーロー ダーク
個性 虫殺し
虫を殺すことにより身体能力が微かに上がる。
一時的ではなく蓄積タイプの個性だからかなりヤバい個性なのだが、増強値が微か過ぎて幼少期はまるで気づかなかった。
十年間害虫駆除業者をやってこの身体能力だから、ぶっちゃけ鍛える方が遥かに効率が良い。
なお本人は覚醒した認識で個性に関してまるで理解していない。
この後ヒーロー資格を持ったまま再就職したらしい。


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87話

繋ぎ回です。


 

「それで結局インターンはどうなんだーね」

 

「通形先輩のビリッけつからトップってのはロマンあるよねえ」

 

「とりあえず相澤先生のGOサイン待ちですわね」

 

 今日の授業終わって夕方。

 寮の共有スペースで話題に上がるのはインターンのことだ。

 あと百さんの髪を整える仕草てかなりグッとくるね。

 

「タンクトップ事務所はやってないの?」

 

「聞いたことないな、そもそもその制度自体知らないかも知れない」

 

 所員でヒーロー育成学校出身者が少ないし、事務所の成り立ちが特殊過ぎるからなあ。

 ベジタリアンとか知ってるかもだけど、話題に上がったこともない。それに受け入れるにしてもうちの実績ってマスター個人の実績みたいなもんだしね。

  

「ていうか緑谷が日頃から通っているのインターンみたいなもんだよね」

 

 そうなんだよなあ。

 昔は事件現場までしょっちゅうひっついていったし。

 通形先輩の話を聞くとやる気は出てくるし、やるべきだと思うけど、とりあえず知り合いのヒーローに片っぱしから連絡しようかな。

 でも体育祭での指名がアレだったし、唯一指名してくれたグラントリノは今警察とともにヴィラン連合追跡任務中なんだよね。未だにプロヒーロー上位の実力はあるけど年齢的に心配。

 他のタンクトッパーを補佐にって話もあったけどジェントル以外だと機動力に難があるんだよね。

 やっぱり百さんの言うように相澤先生の通達待ちになるよね。実施されるか微妙だし。

 

 

 

 そして翌日。

 相澤先生の話によると校外活動は協議した結果校長をはじめ多くの先生が「やめとけ」という意見だったようだ。そもそも1年で仮免取得が異例気味だし、ヒーロー側も1年蓄積の足りない学生は困るからってのはあるんだろうけど、だったら仮免取る必要無かったよね?

 ビッグ3を呼んで説明会まで開いたんだから意外だけど、全寮制の経緯を考えたら仕方ないんだろうね。

 あと上鳴君、いくら後ろの席だからって尾白君の尻尾弄るのは辞めたげて。

 

「が、今の保護方針では強いヒーローは育たないという意見もあり、方針として『インターン受け入れの実績が多い事務所に限り1年生の実施を許可する』という結論に至りました」

 

 確かに苦難を与えるという雄英高校の基本方針なら、そうなるのも自然だね。ただインターン受け入れの実績の時点でタンクトップ事務所とあと評価が高いとはいえまだ新人扱いのマウントレディのトコは無理だね。

 そもそもヒーロー側から持ちかけられるか、こっちからお願いするかしないといけないし。

 僕はどうしようかな?

 やりたいとは思うけど、個人的には実戦よりも知識や学業の方が足りてない気がするんだよね。

 現場の空気とかタンクトップ事務所で経験しているしなあ。

 ただ、ヒーロー活動の当たり前がタンクトップ事務所だから、別のヒーロー事務所のやり方を学びたいとも思うんだよね。

 このままだとタンクトップ事務所に務める予定だから他の事務所で働く期間は今だけだし。

 まあ将来なんてオールフォーワンとの件が完全に決着しないとありえないけど。

 タルタロスに収監された個性社会の巨悪。

 もはや何もできないと思いそうなものだが、ヤツを知る全ての人間がこれで終わらないことを確信している。Iアイランドの一件からタルタロスの警備も内部からの手引に警戒し改良されているが、ヤツの命尽きようと警戒は怠れない。何よりワンフォーオール歴代達がまだ警戒し続けているしね。

 

 しかし本当にどうしようインターン。

 スーパーファイト事務局から大会の参加依頼が来てたし、忙しいんだよね。

 そんな風に考えていると、スマホに連絡が来てた。 

 連絡相手は知り合いのヒーロー達。

 内容は皆同じで、インターンに来い、だった。

 横に居た勝己にも同じ連絡が来ていたし、体験学習は無かったのに何でだろうね?

  

 

 

 



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88話

 

「即戦力が今すぐ欲しいからだって」

 

「エンデヴァーさんもそう言ってるな」

 

 インターンをウチでやらないかとプロヒーロー達からのお誘いの連絡。

 その理由はざっくりと戦力が欲しいから。

 神野決戦、すなわちオールマイト引退以降治安は悪化する傾向にある。

 といってもオールマイトの叫びにより奮起したヒーロー達によって劇的な変化というほどではないのだが、元々個人で動いて当たり前だったヴィラン達がヴィラン連合を真似して徒党を組むようになったのだ。無論ただのヴィランに遅れを取るヒーローなどいない、好き放題やりたいだけの者に鍛えたヒーローが負けることなどありえない。だがヴィランは個人で動くモノという先入観に加え、ヒーロー側の多くが単独での活動のため不意を打たれて敗北することが増えているらしい。個人では上回っていても集団で潰される、そんな状況なのだ。

 そしてサイドキックを雇うヒーローはヒーロー業界内全体で実は少数派に分類される。前提としてサイドキックを雇える収入がないといけないし、事務所を構える必要がある。あのオールマイトのサイドキックであったサーナイトアイですら事務所の所員がサイドキック2名にインターン生1名という規模なのだから、サイドキックを雇うことそのものがどれだけハードルが高いか分かるだろう。そして飯田君の兄インゲニウムの凄さもまた。

 徒党を組むヴィランへの対応、ヒーロー側は徒党を組まれてもまとめて撃退できる実力者を派遣する手段しか取れていなかった。

 

「じゃあ勝己はエンデヴァーさんのトコ?」

 

「サイドキックに的確な指示できて個人戦闘力の高いヒーローだしなあの人」

 

 かつてはオールマイトに劣等感を抱いていたけど、要所要所でオールマイト以上の人だよねエンデヴァー。それこそオールマイト自身が私なんかになんで彼が劣等感抱くのだろと素で言ってしまうくらい。

 ベストジーニストの所も良いけど、拘束より撃退が向いているしね勝己は。

 

「出久はどうすんだよ?」

 

「正直連絡来たヒーローのトコはある程度知ってんだよね」

 

 とりあえず現場でサイドキックとして活動しても得るモノはあるだろう。場数を踏む事実は馬鹿には出来ないのだから。けど雄英高校のバックアップのある機会で行けるならより有意義なモノにしたいと思うのだ。

 

「選べる時点で贅沢なんだけどね」

 

 せっかくだからクラスの皆を推薦しようかな?

 ただインターンで公欠扱いになった場合、成績や授業態度に影響でたら即中止なため林間合宿補修組は厳しいんだよね。

 上鳴君とか芦戸さんは学業面がなあ。

 

「だったら俺と同じトコに来ない緑谷君?」

 

 壁からヌッと現れた全裸マン。

 ビッグ3の一角にして三年生最強、透過の個性を持つ通形ミリオ先輩だ。

 

「サーナイトアイ事務所ですか?」

 

「そう、サーに見出されたから俺は成長できたしね」

 

 選択肢としてはアリかな。

 オールマイトのサイドキックでサポート担当。

 というか、独断専行の化身であるオールマイトをサポートしきった事実だけで彼も超人だろう。確か個性は戦闘向きではなかった筈なのに、何気に戦闘力も高いし。

 

「最近はオールマイトの護衛もやっているから、とりあえず話だけでも聞きにいかない?」

 

 そういえばそんな話もあったな。

 オールマイトは平和の象徴だった。

 ヴィラン側には死神に等しい存在。

 だからこそヒーローを引退したオールマイトを襲撃しようという輩はいる可能性はある。

 実際引退したヒーローに報復、あるいは名を上げるために襲撃するヴィランは各国でおり、世界的な問題になっているんだよね。

 ヒーロー引退と同時にヒーローライセンスの返上して特権がなくなってしまうし。

 故にオールマイト自身、警備の厳重な雄英高校敷地内から滅多に出ないのだ。引退しようと影響力は健在で襲撃されたら大問題になるしね。

 

「分かりました伺いましょう」

 

 サーナイトアイからインターンの誘いを受けたわけじゃないけど一度話をしてみたかったし。

 勝己はインターンの手続きやらエンデヴァーに返事やらでそこで別れて、オールマイトとサーナイトアイのいる職員室へと向かった。

 

 

 

「少しトシと距離が近過ぎじゃないかな?サーナイトアイ君」

 

「これぐらいが妥当でしょう、シールド教授。

 むしろサポート科の一講師に過ぎない貴方がオールマイトに付き纏う方が問題だ」

 

「私はトシの親友なんだ、居たら話しかけるのは当たり前だろう?たかだかファンに過ぎない君と違ってね?」

 

「何年も前の関係をいつまで引きずるか見苦しい。

 既に別の道を歩み袂を別けた終わった関係でしょう。いつまでサイドキック面しているか」

 

「それを君が言うのかなぁ!!」

 

「あの、二人とも仲良く、」

 

「「(トシ)オールマイトは黙って(ろ)てください」」

 

「はい」

 

 職員室で修羅場発生。

 オッサン達(シールド博士とサーナイトアイ)がオッサン(オールマイト)を取り合ってる。

 絵面的に地獄だね。

 職員室の端の方でオロオロしてる先生方と、我関せずな相澤先生に、写真見てニヤついているマイク先生に、ヨダレ垂らしながら熱心に見てるミッドナイト先生がいるけど。

 

「日を改めますね、ミリオ先輩」

 

「それがいいかも」

 

 流石のナンバーワンに最も近い男でも加齢臭漂う修羅場に突貫は嫌だったようだ。

 僕達二人はそっと職員室から立ち去った。

 助けを求めるオールマイトの視線を見なかったことにして。

 

 



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89話

 

 オッサンとオッサンによるオッサンのための修羅場を見た翌日の朝。

 最早恒例になりつつあるがただでもらい続けるのも申し訳無いなと感じつつある狩りの獲物を確認しようと玄関をでたら、最近用意した台の上には掘りたての自然薯に川魚が置いてあった。そろそろお礼とかしないとな考えているが、そもそも誰がやっているのかも分からないのだ。勝己が遭遇した槍を持った大男が一番可能性が高いが、勝己が手も足も出ない槍の使い手なんて知らないしそんな知り合いに心当たりのあるクラスメートもいなかった(峰田君が挙動不審だったけど、峰田君に男の知り合いが居るわけないし) みっちゃんとか言っていたらしいから芦戸さんの知り合いかなと尋ねたけど知らなかったし。

 悩みながら今朝の山の恵みを回収していると、のそりとした音と気配がした。

 誰かランニングでもしていたのかと顔を上げたら、そこには人間サイズの巨大なポクテがいた。

 いや何で?

 先日の獲物が野生化したのかと思い、とりあえず晩御飯のおかずにしようと仕留めようとしたら、巨大ポクテはそっと抱えていた何かを差し出してきた。もしや獲物はポクテが用意していたのかと戦慄していたがそれはないだろう。ポクテは恩返しのためにも恨みのためにも相手の玄関前で舌を噛んで自決する生き物だ(表情に差はあるけど)きちんと血抜きして絞められた先日のポクテからして別の人がやったものだろう。

 そんな思考を他所に差し出されたモノを確認すれば獲物ではなく峰田君だった。

 顔中をキスマークだらけにしてまるで人生全てに諦めたような虚無の表情をした意識のない峰田君だった。ポクテがやったとは考えにくいし、ハレ君の話だと遭難した親族も助けられたことがあるらしいから、恋人とイチャついてそのまま寝てしまった峰田君を保護してくれたのだろう。

 ありがとうと頭を下げ手を振って見送った後、仕留めるの今度にしようと決めた。

 

 

 さて学校。

 かなり早い段階だと思うけど、クラスの皆はインターンをしようと職場体験で知り合ったヒーローや先輩などの伝手を使い連絡をしてる光景が目立っていた。

 確かにこと実力に関してはA組の生徒は下手なヒーローよりは上だと思うから実力あるヒーローの下でなら問題無く活動できると思う。

 それにヒーロー育成学校を卒業してプロヒーローになってしまうと生活ありきになってしまい勉強のために他のヒーローのお世話になる余裕なんてないしね。そもそもサイドキックに成れるのだってかなり稀だし、トップヒーローの事務所のサイドキックは準トップヒーロー扱いを受ける立場でもあるし。

 やっぱりヒーローの仕事を斡旋する組織が必要なんだろうな。

 ヒーロー公安委員会は、ヒーローの報酬に社会的立場や資格などを管理しているが、仕事の斡旋というか救難要請は現場近くのヒーローで対処出来ない大事件になってからしかしないのだ。だから基本的なヒーローの仕事は飛び込み営業のように自分の足で見つけているんだよね。

 雄英高校の3年間、ヒーローとして生活していくための仕事の伝手の確保は必須だね。

 クラスの皆を眺めながらそんな思考をしていると再び壁から現れたミリオ先輩。

 今度こそ大丈夫だからと職員室まで引っ張られてサーナイトアイの所まで行く。

 また修羅場を見るのは嫌なんだけど、シールド博士は現在サポート科で起きている事件、ロボットのプログラムミスでロボットによるドツキ漫才が待機用のロボット全機で発生してしまいその対処をパワーローダー先生と一緒にしているらしい。

 だから修羅場はないよと煤けた表情で言っている。

 まあミリオ先輩にしたら尊敬しているヒーローだし目に優しくない光景だからね。

 そして職員室、一緒に居たオールマイトにも話を通してもらいサーナイトアイ事務所での校外活動が決定することになった。

 決め手になったのはサーナイトアイのオールマイトをサポートしきった手腕。

 今後タンクトップマスターをサポートする場合、そのやり方を学んでおくことら有益だと感じたのだ。

 サーナイトアイにしても、事務所を二人のサイドキックに任せきりだから戦力は欲しいらしく、オールマイトの護衛の合間に指導をすることを約束してくれた。さらに個人で収集していたヴィラン事件記録の閲覧許可とその解説もしてくれるそうだ。

 事務所が担当している地区は数年前に死穢八斎會という指定敵団体が解散してから治安は回復しているが、突発的事件に敵騒動はなくなっていないので仕事はあるそうだ。

 現場を知り、経験を学ぶ、それを充分にできそうだと僕は気を引き締めた。

  



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90話

 

 さて色々あったがインターン先をナイトアイ事務所に決めた。しかしすぐにでも活動かと思いきやそうではなかった。現状サーナイトアイにとって最優先の仕事はオールマイトの護衛である、事務所の方はサイドキックのバブルガールとセンチピーダーにミリオ先輩ことルミリオンが問題無く運営できているそうだ。一時期暴走しかけたが死穢八斎會は元々ヴィジランテ寄りの極道、その本拠地付近で馬鹿をやらかす者は少ないらしい。

 サーナイトが事務所を開業した時期はまだ荒れていた時期だったらしいのだが今はそうではないのだとか。

 僕がインターンに参加するのはサーナイトアイと時間が被る日なので、今日は珍しく休みの日だ。

 時間があるなら鍛錬かタンクトップ事務所に行くのが普段の行動なんだけど、今日はなんかタイミングがズレてしまった。

 だったらデートにでも誘おうかとも考えてみたが、誘いたい子達には予定があった。

 なんか手持ち無沙汰になってしまったのでせっかくだからジェントルに出来たらで良いからと頼まれてたことをやるとしよう。

 

 

「何してんだ出久?」

 

 そんな風に勝己が声をかけてきたのは頼まれ事を始めてから大分たってからだった。

 場所は共有スペースのテレビ前、頼まれていた録画ももうすぐ終わりだ。

 

「ワールドナイスミドル大会の録画、ジェントルに頼まれたからね。それでヒマだったから見てた」

 

「貴重な休日の使い方がそれで良いのかお前」

 

 偶にはありかも?

 まあ何してんだろと途中で思ってたけど。

 

「ホレうちの親父から出張土産の菓子だ」

 

 渡されたお菓子を受け取るけど、相変わらずマメな人だよね。子供の友人にまでくれるなんて。

 

「今日は帰省したんだっけ?」

 

「距離的に帰宅が正しいと思うがな」

 

 安全面から寮生活に移行したけど許可さえあれば帰れる、だから偶には親に顔を見せに行ったらしい。

 

「お袋には彼女連れてこいと言われてな」

 

 遠い目をしてるね。

 まあ彼女に立候補しそうなのが複数人いるからそうなるよね。

 他人事じゃない問題だけど。

 

「しかし録画を頼まれたってことは今日は仕事なのかジェントル?」

 

「いや有給とってるよ」

 

「なら自分で録画しろよ、見たいならリアルタイムで視聴すれば良いだろうに」

 

「ジェントルがテレビを見るのは無理かな」

 

「は?いや有給とってんだろ、予定でもあるのか?」

 

「だってホラ」

 

 テレビを指差せば、ワールドナイスミドル大会の生中継が映っており、そこの背景に目立つ風貌のタンクトッパーがいた。

 

『マジカル、マジーック!!』

 

 隣にいる黒髪で眼鏡の青年と肩を組んで叫んでた。

 

「有給とって何してんだあの人?!」

 

「ジェントルってガンマ団元総帥でありマジック氏の大ファンだからね」

 

 あの人から紳士を学んだと言ってたけど、でもあの人の著書は帝王学に征服論とウキウキ主夫ライフに息子の愛で方とかだったような。

 まあ立ち振る舞いは紳士だけど。

 

「お前らもコレ見てんのか?」 

 

 そして新しく共有スペースにに現れたのは轟君。

 お前らも、って誰か知り合いが見てるのかな?

 

「出久がジェントルに頼まれたらしくてな」

 

 勝己の説明に轟君は、

 

「ウチも親父がな、」

 

 参加してるのかな?ジェントルと違って年齢的に出場できるし。

 

『今年こそ優勝だ!!いつまでも万年二位なんて言わせるな近藤ーっ!!』

 

「応援しにいってる」

 

「有給とって何してんだあの人?!」

 

 エンデヴァーさん、心戦組の近藤イサミさんに感情移入してたんだね。同じ万年二位だったから。

 

「せっかくの休日をもっと有意義に使えよ!!

 その時間に家族サービスするとかよ!!」

 

 というか、アレでなんで堅物とか冷酷なイメージ定着したんだろエンデヴァー?クロビカリのイベントにも参加してたし。

 ツッコミ所満載なワールドナイスミドル大会は終了して、結果はガンマ団元総帥のマジック氏の優勝。

 悔しがる二位の近藤イサミさんの目が殺意に溢れていたけど、マジック氏も煽っていたし仕方ないよね。

 頼まれた録画も終わったし、夕飯の準備でもしようかな。

 

 

「元気とユーモアのない社会に未来はないと私は思っている」

 

 七三分けにビジネススーツに眼鏡。

 サラリーマンのような外見。

 それに反して掲げるその理念。 

 本人の眼力と威圧感もあって、むしろ違和感を持つくらいだよね。

 この人の見た目なら、規律ある社会とか掲げる方が自然だし。

 まあむしろ堅物だからこそ、常に笑顔で人を救うオールマイトに感化されてしまったんだろうけど。

 しかし、

 

(今額に巻いてる、打倒シールド博士!!、の鉢巻もユーモアの一貫なんですか?ミリオ先輩)

 

(そこはノーコメントでお願いします)

 

 見ればバブルガールにセンチピーダーもウンウンと頷いていた。

 オールマイトの元サイドキック達の争いには誰もが関わりたくないらしい。

 

 

 

 



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91話

久方ぶりでリハビリ感。
内容はあんまりかな?


 

 ツッコミたいけどツッコメないインターンが始まって早2週間。

 ヒーロー活動に必要な勉強をほとんど終えているミリオ先輩と違って僕が優先すべきは基礎に当たる雄英高校の授業だ。なのでインターンは週に2日、土日の休日にしている。

 正直アルバイトみたいな感じだけど、一般人からしてみたら一人前のヒーロー扱いだ。何気に職場体験の時は一般人も職場体験扱いしてくれるので(ヒーロー情報で割と知れ渡る)向けられる視線はそれほどでも無かったけど、仮免取得したヒーローによるインターンだとそうはいかない。人によってはインターンでヒーローを挫折してしまうくらい一般人から向けられる視線は期待に溢れつつも厳しい、他にもインターンでやらかしたせいでヒーローになっても最底辺な人もいるらしいし。

 夢と現実の最後の分水嶺なんだよ、と自身の実力で同期を挫折させてしまったミリオ先輩は言う。ヒーローを諦める最後の機会、なんだかんだで殉職率トップな職業なのだから諦める決断も間違いとは言えない。ここまでで積んできた経験とヒーロー免許は決して人生において無駄にはならないだろうしね。

 しかし実際にヒーロー活動をやってみると今までの経験で知っていることより大変だと分かる。なんだかんだでタンクトップ事務所はヒーロー事務所としては大成功している部類だったようだ。まずマスターには警察と公安から直接大手の依頼が来るし、タンクトップベジタリアンの実績とタンクトップハカセの付き合いから警備依頼も絶えない、近場の交番からも急に人手が足りなくなったら要請を受けることが多い。まずは仕事を見つけること、それがヒーロー活動においていかに大変かを日々思い知らされている。パトロールなんかは大分縄張りが決まっていて乱入するとヒーロー同士で揉めることもあるようだ。

 ヒーロー公安委員会が担当地区ごとにヒーローを決めて仕事を割り振る制度を定めようとした時もあったけれど、それを誰よりも破っていたのがオールマイトであったため不可能だったらしい。

 正義の味方で平和の象徴だったけど何気に法律やら規定は違反する人なんだよねオールマイト。それより優先するものがあったからなんだろうけど。

 集団でコンビニのレジを強奪したヴィラン達をルミリオンと瞬殺しながら僕はそんなことを考えていた。

 ヒーロー活動、信念、仕事、タンクトップ、その在り方にどう折り合いをつけるかを。

 

 

「攻撃力上げたいけどどうしたらいいかな?」 

 

「タンクトップ着たら解決ですよ」

 

「いやそれは最後の手段だから」

 

 ミリオ先輩が悩んでいるらしい。

 その悩みは自身の攻撃力について。

 ミリオ先輩はほぼ無敵に等しいヒーローではあるけれど倒せない相手はいる。僕はまあアレだっけど、無個性ヒーローを置いといても現役ヒーローでもエンデヴァーとホークスには絶対勝てない。純粋にミリオ先輩の攻撃で勝てない防御力持ちに、透過を応用したワープの範囲外にいる感知力に秀でた存在、負けはしないが絶対に勝つことは出来ないだろう。

 とはいえそんなヴィランなんて極稀なんだよね、脳無との相性は良くないけど知る限りのヴィラン連合相手ならまず勝てるし。

 でも似たタイプ(身体能力が個性に関係ないのに超人レベル)に全裸大帝とかいるから伸びしろはあるんだよね。でもミリオ先輩はハズレレベルな個性をここまで磨き上げた上で、A組の皆を鎮圧できるレベルで鍛えているから充分過ぎる気がするけど。サポートアイテムで安易に攻撃力を上げれないのも難点だよね。

 

「とりあえず攻撃力高めな拳法の使い手を紹介しましょうか?」

 

 ただ拳法自体が、相手の攻撃を避ける前提な動きだからミリオ先輩とは噛み合わせがよくないんだよね。

 個性が発現してから武術が廃れるわけだよ。

 

「そうだね、武術の有無が同じ筋力でも威力に大きな差を作ると言うしね」

 

 動き一つが攻撃力を増す意味がありますからね。

 その動きに個性を乗せるのは大変でしょうが。

 そしたらミリオ先輩には常闇君にも紹介しようと思っているあの人が最適だよね。

 

「闇地獄殺人術の使い手であるバクザンさんにお願いしてみますね」

 

「それは本当に格闘術でヒーローが学んでいい武術なのかな?」

 

 ただちょっと対戦相手が再起不能になったり重傷したりするくらいだけど強いですよ。

 ゴウケツさんやスイリューさんには一歩劣るけど、当代最強の武闘家の一人だし。

 対戦相手の背後にワープして地獄送り手刀、最強じゃね?

 というか本当に戦闘の流れをぶった切ることのできるタイプの個性であるミリオ先輩は格闘技と合わないんだよね。

 

「課題だよね俺の」

 

 そう呟くミリオ先輩。

 それ以外は完璧なヒーローだから余計に足りない欠点が目立つよね。

 くどいけど、ミリオ先輩に攻撃力の増加が必要なヴィランなんて脳無くらいなんだけど。

 僕との戦い、それはミリオ先輩に大きな課題を与えたようだ。

 

 

 




溜まりすぎた積みゲーと積みプラを消化してました、あと残業。
今後もできたら上げます。


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閑話 タンクトップラビット視点

 

「此処に来るのも久しぶりだな」

 

 旧死穢八斎會本部。

 趣きある武家屋敷のような豪邸を前に俺は気を引き締める。なにせ呼び出してきた相手は極道に片脚突っ込んだなら知らぬ者はいない人物、伝説の大侠客である死穢八斎會の最後の組長、個人的にも盃こそ交わしてはいないが世話になったことのある恩人だ。死穢八斎會の看板を降ろした時以来だからもう数年になるか。

 

「用事があるらしいが、やっぱりオールフォーワンの件だよな」

 

 闇の帝王オールフォーワン、その再びの敗北と捕縛は世界を震撼させた、それは裏稼業も同じことであり足を洗った死穢八斎會とて無視は出来ないことだろう。

 まさかあの闇の帝王の一件に自分のような元喧嘩屋がガッツリ絡むことになるとは思いもしなかったが、死穢八斎會としても直接話を聞きたいのだろう。前回のタカマチの時に聞いてくれればよかったのだが。

 まあつい考え込んでしまったが、あまり門の前に居ても仕方ない、未だに死穢八斎會を警戒してるヒーロー連中もいるらしいしさっさと入ってしまおう。

 呼び鈴を鳴らすとすぐに応対されて中に入る、門をくぐればソースやら醤油やらの焼けた香ばしい匂いが漂っていた。匂いの元を見ればそこには開けた庭に屋台を並べ練習している組員(今は社員だが)に小学生や中学生ぐらいのガキ共、極道から足を洗ったとはいえ行き場のないガキ共に居場所を与えるのは辞めてないらしい。かつて自分もこんな感じに世話になったな、と懐かしく思う。喧嘩屋ですら無かったチンピラの自分に、屋台を手伝わせるだけで寝場所もメシもくれたものだ。

 

「わー、ウサギさんだあ」

 

 組員(社員)に案内されていると、すれ違った幼女がそんなことを言ってきた。ふっ、滲み出る愛らしさは純真な子供には伝わるものだな。

 

「ウサちゃんだピョーン」

 

 ならばサービスするしかあるまい。

 いやなんで吐きそうになっているのかね案内君、カワイイウサちゃんだピョン。

 

「わぁー!」

 

 ホレ幼女は目をキラキラ輝かせて喜んでいるじゃないか。

 

「お嬢、アレはウサちゃんじゃありませんから。

 一緒にしたら訴訟レベルの悍ましいナニカですから、こっちの部屋できちんとした動物図鑑を見ましょう?

 なんでグロ耐性高いんだろこの娘?血筋?」

 

 幼女とウサちゃんという心温まるワンシーンを面倒を見ている組員(社員)は引き剥がし別室へと連れていった。無論手を振って見送ったがな。

 

「行きましょう、先代がお待ちです」

 

 というか案内君はウサギアレルギーなのか?

 可愛らしいウサちゃんで吐きそうになるなんて。

 

 

 長い廊下を抜けた奥の和室に通される。

 そこには年経てなお眼光鋭い一人の侠客がいた。

 

「久しぶりだな兎吉、いやタンクトップラビットと呼んだ方が良いか?今回はよく来てくれた」

 

 向き合うように座るがこの人の前だと自然と身を引き締めてしまうな。

 侠としての格が自然とそうさせるのだろう。

 

「剣鬼の旦那に呼び出されて断る俠はいやしませんよ。あと兎吉で構いませんぜ」

 

「ふん、剣鬼とはまた懐かしい呼び名だ。

 俺如きにゃ過ぎた名だよ。オールフォーワンと殺り合ってたあの時代、親父も兄貴も兄弟も皆俺よか強く立派な侠だった、俺はただ生き残っただけだよ」

 

 もはや知る者も少ない伝説となってしまった裏社会での血戦。オールフォーワンの支配に抗い戦い続け散ってしまった侠達。死穢八斎會の元組長、剣鬼と謳われた眼の前の御人はその生き証人なのだ。

 そもそもあの魔王ムーブをしたいから闇の帝王をしていたオールフォーワンと裏社会の極道などの組織は敵対していた。なにせあの魔王様は、自身の個性アピールのために極道をまず標的にしたのだ。個性を扱えることで暴力を振るえるようになった連中には、暴力集団である極道を打ち倒すのはさぞ楽しかっただろう。

 さらに治安が乱れることも極道達は歓迎していなかった。暴力集団である極道が特別であるには表社会が平穏であることが絶対条件。どこぞのテロリスト集団のように個性に序列つけることによる支配なんて、極道達は願い下げだったのだ。

 表社会では生きていけない者達の生きる場所、社会におけるセーフティを担う立場、それが極道の側面でもあったのだ。

 何より、タカマチに裏カジノなどのシノギは金銭取引が成り立ち社会でなければ意味がないのだ。

 そこに強個性を求めたオールフォーワンによる身内や仲間の拉致が行われれば、敵対するのは当たり前のことだった。

 だがしかしあの闇の帝王の前には奮戦虚しく犠牲者が出るばかりで、結果としてオールマイトが相打ちに等しい形で勝利するまでの時間稼ぎしかできなかったのだ。

 

「しかしオールマイトが野郎を打ち倒すことができたのは、野郎の信者共を極道が打ち払ったからでしょう。いくらオールマイトが飛び抜けたヒーローだからと言って信者全ての撃退は無理でしたし」

 

「まあな」

 

 所詮は捨て駒、だが数の暴力は馬鹿にできるものではない。その捨て駒共を極道達は少なくない数減らしていたのだ。

 ヒーローと手を結んでいたわけではない、けれど同じ敵と戦う存在として知らない内に協力していたのだ。

 

「ところで先程幼い娘さんにお会いしましたが、お孫さんで?」

 

「ああそうだ、名前は笑理という。

 案の定訳ありな孫娘だよ」

 

 先代の言葉を考えるに個性暴走か何かが過去にあったのだろう。国でもそういった子供の保護はしているが、強力や有益な個性持ちは良いように利用されることもあるため、あまり良い環境ではないからな。

 若頭であった治崎も本人が周囲を嫌悪してなければそうなっていただろうし。

 

「旧交を暖めたいトコだが本題に入るとしよう」

  

 パサリと広げられたのは幾つかの書類。

 

「コイツをお前の伝手で公安に渡してくれ」

 

 ざっと眺めると行方不明者のリストに、とある地域の人の出入りをまとめたもの。

 

「こいつは?」

 

「脳無の素体の可能性がある裏社会の住人に、異能解放軍と関連してる連中の行き先だ」

 

 足を洗ったのによく調べられたものだ。

 いや足を洗ったからこそ、自衛のため情報収集は欠かせないのか。

 

「気を抜くなよヒーロー。いくらオールフォーワンが捕らえられてもその手足に、騒動起こしかねない連中はまだいるぞ」

    

 先代は威圧しながらそう告げた。

 

 

 

 

「なんで看板降ろしたんですか先代?」

 

 要件が終わってから俺と先代は縁側にて月を肴に盃を傾けていた。

 満月を見ていると餅をつきたくなるのはウサギでいる我が身故か。

 酒の満ちる盃に満月を映しながら先代は思い返すように語りだす。

 

「まずは息子が治崎が極道の復権のため焦っていたからだな、笑理を使ったエゲツない企みもあったようだが無個性ヒーローの存在で理念が揺らいで素直に相談してきたんだ」

 

 一息で盃を飲み干す先代。

 そこには苦悶の表情が見て取れた。

 

「恩返しなんざ、テメエが居てくれるだけで充分なんだよ馬鹿息子が」 

 

 一時期の治崎の暴走も先代を思えばこそか。

 盃に酒を注ぎながら、言葉を待つ。

 

「あとは世間から極道がいらないって扱いだったのもあるな、世知辛い話だか所詮日陰者だしな」

 

 オールフォーワンとの戦い、少なからず活躍してなお国は極道の排除を決めたからな。まあ地域住人は助けられたと知っているから好意的なんだろうが。

 

「治崎に笑理、他のガキ共のことを考えたら足を洗うべきだとは考えていたんだよ。オールフォーワンとの戦いを考えて戦力は保持したかったが、お前の伝手で八百万グループの警備会社に移せたしな」

 

 結局死穢八斎會という形に拘っていた理由はオールフォーワンを警戒してのことだったのだ。  

 オールマイトと相打ちしようとも、そんなことで警戒を解ける存在ではないのだから。

 現在タンクトップ事務所の伝手で八百万グループの警備会社に努めている彼らとて先代の呼びかけには必ず集まるだろうし。 

 

「しかしそれで何代も続いた看板をそう簡単に下ろすなんて」

 

「簡単じゃねえよ。

 でもな、ガキ共の未来と受け継いできた看板じゃどちらが大切か明白だったんだよ。息子の治崎には商才もあったから生活にも困らなかったしな。

 何よりもな、自分にとって一番大切なモンを見誤ることほど無残なモンはねえのさ、それにな」

 

 寂しくないとは思ってないだろう。

 それでも貫きたい信念が先代にはあったのだ。

 

「俺達極道は社会に必要だから生まれたんだ。

 必要なくなったら、看板下ろすのが当然だ」

 

 必要になったらまた生まれるだろう、と続ける。

 行き場のない者達の行き着く場所。

 真っ当とは言い難くとも、それは必要な場所なのだから。

 そんな場所に救われた自分は、先代の言葉に同意しながら盃を傾けた。

 平穏な社会で再びタカマチを開くという夢を叶えた侠と共に。

 



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閑話 治崎廻視点

 

「ではこれより会議をはじめる」

 

 イベント興行会社『八斎』 

 その現代表取締役である俺は会議のはじまりを宣言した。会議の内容は社の利益に大きく関わる重大案件、その中枢となるのは『笑理』だ。

 俺は今から恩人である親父の孫娘を金儲けの道具にしようとしている。

 親父は怒るかも知れない、もしかしたら盃を割られるだろう。

 だがこの計画にはそれだけの価値がある。

 この会議の結果しだいで収益は決まる。

 全ては死穢八斎會の、親父の、組員達の為。

 いかな罰を受けようと俺はやらなければならない。

 たとえ笑理を傷つけることになっても。

 組員達に白い目で見られようとも。

 俺はやらなければいけないのだ。

 

 笑理を宣伝ポスターに載せることを!!

 

 

「それでどちらのポスターを採用するべきか」

 

 ズラリと長机を囲うように幹部たる八斎衆は座り、その中央に祭り中に撮影した写真を加工した笑理のポスターが2つ並べてある。

 一枚目はブサイク大総統のお面を斜めに被った朝顔柄の浴衣を着てりんご飴を持つ笑理。

 二枚目はブサイク大総統のお面を斜めに被った向日葵柄の浴衣を着てチョコバナナを持つ笑理。

 さてどちらにすべきか、甲乙付けがたいな。

 

「ブサイク大総統のお面はやめません?」

 

「りんご飴とチョコバナナ、どちらが良いか?」

 

「利益どっちが大きいかですね」

 

「客の回転数と原価の問題か」 

 

「屋台の数も調べましょう、調理できる奴も」

 

「りんごの方が日持ちするか?バナナはシュガースポットでたら駄目だし」

 

「りんご飴は食べる時間掛かるから、チョコバナナじゃないですか?」

 

「確かにりんご一つは大きいよな、味も濃いし」

 

「りんごウマ」

 

「ヒック、ウィー」

 

「馬鹿二人は会議室から叩き出せ」

 

「よしきた」

 

「お前も案を出せ、嬉しそうに肩を回すな」

 

「浴衣の柄は季節に合わすか、それとも先取りした方が良いか?」

 

「どちらも似合うからな、子供用浴衣の貸し出しをやるか?」

 

「着替えも含めて手間がかかりすぎる、管理も必要だしな」

 

「近場に空いてる物件があったら借りて、業者に依頼して丸投げすればよいだろ?」

 

「トラブルになりそうだが、自分らでやるよりマシでやすね」

 

「ブサイク大総統のお面はスルーなのか?」

 

 一通り案が出たが、とりあえずまずは調査が必要みたいだな。

 ポスターに載るモノの人気はでそうだ。

 調べてから主催者に意見を求めて決めるとしよう。

 

「ところで社長、一つ気になることがありやして」

 

「どうした?」

 

 最近のトラブルは、全身に包帯まいたタンクトップラビットとタンクトップジャングルが神輿を担ぎに乱入したぐらいだが。他に何かあったか?

 

「お嬢の個性についてなんでやすが?」

 

「お嬢の個性てなんだ?」

 

「カワイイだっけ?」

 

「幼女だろ」

 

「巻き戻しだよ(キレ気味)」

 

 ああその件か、確かに昔は笑理の個性の暴走のたびに俺が対処してたからな。

 その力から、個性を無くす薬を開発できると踏んで親父に案を出したんだ。ヤクザ復権の足掛かりになるだろうと思って。

 ただ個性を無くしても、化け物みたいな無個性ヒーロー達がいる以上意味が無いから、構想だけをまとめて親父に相談したんだよな。笑理の細胞を素材に巻き戻し因子を抽出して個性破壊薬を作る、人倫に反した所業だが当時は余裕なかったからな。親父の真意も知らなかったのもあって焦っていたし。

 

「最近は社長が離れても平気みたいでやすが、暴走は大丈夫なんでやすか?」

 

 懸念はもっともだな。俺の個性以上に即死する可能性ある個性だし、知れ渡ればほしがる輩も出てくるだろうからな。

 今まで一番安全な対処法が強引に俺が元の形に戻すだったしな。

 そういえば話して無かったか。

 笑理の個性の制御について。

 だがこれを聞いた以上コイツラにもリスクを背負ってもらうことになる。

 

「覚悟はあるか?これを知ればお前達も犯罪の片棒を担ぐことになるぞ」

 

 威圧を込めて覚悟を問う。

 一人酔っぱらいがいるが、此処には信頼できる奴しかいない。

 ならばこそ今一度その意思を知る必要がある。

 

「「「「今更だ若頭(ヒック)!!」」」」

 

 一瞬も迷わない即座の返事。

 やはりコイツラは信頼できる(一人酔っぱらい)。

 コイツラには裏切らないで罪を背負う覚悟がある。

 ならば話そう、笑理の個性の対処法とそれによる起こる犯罪を。

 

「俺は笑理に個性を使ってあることをさせている」

 

 個性の使用は法律で基本禁止だ。

 ましてや笑理は未成年、自らではなく大人がさせている以上、虐待のような犯罪だろう。

 たとえそれが個性制御のためとはいえ。

 

「笑理の個性は巻き戻しのエネルギーが貯まると暴発してしまう、だから俺は毎日笑理に個性を使わせることでエネルギーを消費させているんだ」

 

「「なるほど」」

 

 巻き戻しにより物が元に戻る。

 それだけで利益に繋がることは推測できただろう。そして個性の営利的使用には許可がいる。申請しても笑理の年齢なら許可などでないが。

  

「しかしお嬢の個性は生物のみに効果があるのではないでやしたか?」

 

 一部の頭がキレるメンバーは気づいたか。

 そうそれで利益をだしているヤバさが。

 そう俺は、

 

「笑理に蛸を巻き戻させている」

 

 ズガンッ。

 一部のメンバーがリアクション芸人みたく椅子ごとひっくり返った。それぐらい驚いたのだろう。

 俺が笑理にさせていることは、足のとった蛸の巻き戻し。繰り返し何度も一匹の蛸から足を無限に取り続け、それによりウチは蛸の仕入れ費を大幅に削減しているのだ。正に市場破壊にも繋がる大犯罪だ。

 ちなみに肉類は無理だった、仮に豚肉から豚に巻き戻されても解体が手間だろうしな。まあ切り落としを俺の個性で一枚肉に加工したりはするが。

 

「どうりで利益が伸びるわけだ」

 

「確かに他所には流せない情報でやすね」

 

「賄いが蛸ばかりなのも納得したよ」

 

「タコウマ」

 

 

 そんなやり取りをして会議はお開きとなった。秘匿していた情報を流した割に反応はいまいちだったが。

 現状世間は荒れているが、幸いなことにウチは落ち着いている。

 オールフォーワンの逮捕は笑理の安全面でも良い情報だったしな。

 未だに残党や解放軍やらの懸念はあるが、俺らは関わる気がない。

 生活に不満は無いし、親父の夢であるタカマチをいつまでも開いていきたいからな。

 

「カルト集団をヴィラン連合が壊滅ね」

 

 調査書に記された情報。

 目的は示威ではなく単なる資金調達か。

 ウチは脛に傷を持とうが受け入れるが、コイツラはどうかね。

 居場所与えて落ち着くなら構わないが、そうはならんだろうし。

 ヴィラン連合は有名になりすぎた。  

 このままだと解放軍のデコ野郎が手を伸ばしそうなんだが、対処できるかね?

 公安に情報を流したが、規模がなあ。

 治安が乱れるのは望ましくない。

 子供達がサイフを片手に祭りを楽しめる社会であって欲しいものだ。

 

 




ちなみに先代は普段屋台に出す金魚の世話とかしています。あと朝顔の栽培。


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94話

お久しぶりです。



 

「格闘技って難しいね」

 

「どちらかというとミリオ先輩の個性が根本的に向いてないんですよ」

 

「噛み合わねえよな、その個性」

 

 雄英高校学生食堂、そこで僕と勝己にミリオ先輩は軽食をツマミながら話し合いをしていた。

 内容はミリオ先輩が学ぶ格闘技について。

 僕としては闇地獄殺人術を推しているのだけれど、やはり名前がちょっととミリオ先輩が躊躇うため未だに保留となっている。勝己もなぜそのチョイスと突っ込んだりしたけど、ミリオ先輩が求めているのは脳無を撃退できる破壊力。ならば一撃必殺がウリな闇地獄殺人術が最善なのだ。

 というか、多くの流派において前提や基礎となる防御に回避の型が不要なミリオ先輩は格闘技を学ぶのに向いてない。それらを学ぶ時間が無駄になる上、それらを体得しないと出来ない動きがあるからどうにも半端になってしまう。

 さらに呼吸を止めると個性が発動してしまうのが痛かった、多くの流派で技を放つときに息を止めて力を込めていたので、技を打とうとすると個性が発動して地面に落ちてしまったのだ(或いは服)

 拳を握りしめて力んだら、ストンと服が脱げたり、本人が地面にドプンと落ちた時はどんなコメディかと思ったよ(大真面目だから笑えないし)

 とりあえずミリオ先輩は複数のことを同時に考えられるマルチタスクを鍛えるのが最善かな、既にしているけど格闘技と個性の併用まではまだ無理みたいだし。

 そしたらあらゆる格闘術の技だけを学ぶべきかな?けどそうなると空手とかムエタイとかボクシングかな?でも打突系の格闘技も体を振るって遠心力とかで威力増したりしてるからやっぱり噛み合わないな。

 こうなれば個性で地面から飛び出る速度に威力を正確に測定するべきだね。その威力が充分なら自分を砲弾のようにぶち当てるスタイルもありだし。

 オリジナルな格闘術かつ捕縛術を編み出した相澤先生にも意見を求めに行きながら僕らは食堂で話し合いを続けた。

 

「そういえばサーナイトアイ事務所はどうなんだ?」

 

「基本データ分析から入る事務所だからタンクトップ事務所とは違う方式で参考になるよ。ウチはその手の情報収集はタンクトップラヴァーが一人でこなしちゃって必要なかったし(そしてタンクトッパーは基本脳筋)」

 

「蓄積されたデータが豊富だからね。犯罪の予兆とか僅かな違和感や些細な事件から辿り着いたりできるんだよサーナイトアイって」

 

「事件が起きたら対処、だけじゃいけないよな。

 エンデヴァー事務所はそっちに特化してたけどな」

 

「助けを求められた時点で手遅れな事態もあるしね、犯罪を探すのはどうかと思うけどそうじゃないと救えない命もあるし」

 

「そういえばサーが屋台の蛸焼きが安いことを気にしてたけどアレも事件の予兆かな?」

 

「それから事件に辿り着いたらスゲエよ」

 

「傍からみたらクレーマーだしね」

 

 ヒーローとして先を行くミリオ先輩はかなり僕らと話があって会話が弾む、ましてや同じインターン先だと話題も尽きない。

 

「サーのシールド博士敵視が最近増々酷くなって」

 

「最初は鉢巻だけだったのに、資料を掻き集めたり著書を調べたり」

 

「ダーツの的に写真貼り付けたり、等身大パネルに落書きしたりて」

 

「「一周回ってもう大好きだろアレ」」

 

「意中の相手を取り合っている内に互いを意識し合うラブコメか?いや同性かつオッサンじゃねーか」

 

「シールド博士もそんな感じだってメリッサがぼやいてたよ」

 

「止めたれよ娘」

 

「先生方からも苦情が、職員室で修羅場はやめてくれって。ミッドナイト先生と漫研が大歓喜してるから」

 

「問題なのはそっちかよ」

 

 世間はオールフォーワン捕縛後とオールマイト引退で荒れているのに何してんだろ僕たち。

 まあ学生なんだから学生するべきなんだけど。

 こうしたやり取りも今だからできることだし。

 

 そんな日常に成りつつある時間を過ごしていたら、

 

「イズクエモーン!!」

 

「またこのパターンかよ」

 

「何、なんなの?」

 

「どうしたのう⤴デンキ君(あの声)」

 

「「そしてノルのか」」

 

 いやだって様式美ですし。

 今回は上鳴君か、また女の子のコトだよね。

 彼の話題て大半女の子のコトだし、瀬呂君や切島君と肩組んで彼女欲しいと寮で叫んでたし(巻き添えかつ人が良くてやや本音な二人)

 

「合コン開いてください」

 

「あのさ、ネタ振ってきたの君なんだから峰田君みたくもう少しあわせようよ。最初から頼みじゃなくもうワンステップ挟んでさ」

 

「「そしてダメ出し」」

 

 しかし合コンか、直球だね。

 そもそもコンパって高校生がやることなのかな?飲み会みたいなものだよねアレ。

 要するに、女の子紹介すれば良いんだろうけど。

 

「紹介できる相手いないよ」

 

 峰田君の時やったくだりだし。

 

「つうか合コンなら女子に頼むべきじゃないのか?」

 

「グループお見合いみたいなノリだよね?」

 

 勝己の言うとおりだよね。ミリオ先輩のもあっているだろうし。

 男女交際したいグループ同士の飲み会みたいな感じだよね。

 

「そんなこと頼んだら女子達から評価下がるじゃん」

 

 モモさんに頼んだらSPとセットのお嬢様方が来そうだね。あと上鳴君の評価はね、まあクラス男子の中だと最下層だからね(峰田君が上方修正されたため)

 

「でも僕に紹介できる女性いるならタンクトップ事務所が独り身で溢れないよ」

 

 既婚者がタンクトップハカセだけで、彼女持ちも極一部なムサイ集団なんだよね。元々ヒーロー業界に女性は希少だし(世間に取り上げられる人は多いけど割合としてはやはり少ない)

 

「あと下手にそういったイベント開くと炎上しちゃうんだよね。まあ俺と君の世間の評価なら関係ないけど」

 

 雄英高校生が合コンとか取り上げられそうなネタだしね、テレビにも体育祭ででたし。

 そしてエゲツない自虐ネタは辞めません?上鳴君頭抱えてるから。全国中継脱衣男と出オチナンパ男は未だにネタにされてるよね。

 

「だって峰田にも彼女できたんだぜ、口田にも砂藤にも居て、尾白にも婚約者がいるし。俺にも出会いが欲しいんだよ」

 

 尾白君はホラ光源氏だから突っ込んじゃ駄目だよ。むしろアレは向こうのご意向だし。

 

「いや学生生活楽しみたいのは分かるけど」

 

「平日は授業に実習に鍛錬に自習で忙しくて、インターンで土日潰れているから息抜きしたいのは納得できるがな」

 

「そのスケジュールにどうやって男女交際ブチ込むの?(汗)」

 

 そんな余裕ないよね、今の集まりだって昼休みにやっているし。

 常闇君に至っては九州のホークス事務所でインターンだから戻ってきたら補修確定で、空いた時間にリモート講習してるらしいね。

 

「女の子のためなら時間を作る、それが男さ」

 

(これでなんで彼女いないんだろ?)

 

 性格はチャラいけどお人好し気味で優しいのに。

 なんとかしてあげたい気持ちはあるけど、女の子紹介は上鳴君よりむしろキャバクラ通いしてるタンクトップタイガーやタンクトップブラックホールを優先すべきなんだよね。

 本当にどうしよ。

 

「ケロ、それなら紹介しても良いわよ」

 

 梅雨ちゃんんん!!

 突然現れたお姉チャン系カエル女子ィィィ!!

 意外な娘が現れたよ。

 

「良いのか、上鳴だぞ?」

 

 勝己さん、それ普通に悪口じゃね?

 

「私のオトモダチも出会いを欲しがってたし。

 同じ学校の娘たちから雄英高校男子を紹介してってせっつかれているのよ」

 

 ああなるほど、元同級生の親友が現雄英高校生だよって言ったらそうなるか。

 雄英高校は男子のレベルも高いしね。

 

「だから一緒に合コンするのもありじゃないかしら」

 

 梅雨ちゃん、上鳴君が女神みたいに崇めてますよ。実際崇めても仕方ない状況だし。  

 

「ただ私も参加するとして、勝己ちゃんも参加して欲しいの?」

 

 それが目当てでしょ君。やはり抜け目ないなこのカエルっ娘。もじもじしながら言うのはカワイイけどね。

 

「まあここまできて放置するわけにはいかねえし構わねえよ。梅雨ちゃんいれば別の学校の女子に絡まれないだろしな」

 

 君も面倒見良いよね勝己。

 ちなみに僕とミリオ先輩はスケジュールに空きがマジで無いよね。気にしてなかったけどハードスケジュールだよ。

 しかし、

 

 喜び叫ぶ上鳴君に、嬉しそうな梅雨ちゃんとヤレヤレとした勝己。

 そんな彼らを見て僕は思い呟く。

 

「なんかこう、笑いの神が降臨しそうな予感がするんですよね」

 

「それ上鳴君の悲劇の予兆じゃない?」

 

 



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閑話爆豪視点

 

「なんか嫌な予感するな」

 

 いや俺は多分大丈夫だけど、上鳴とか酷い目に合うんじゃないかってそんな予感。

 まあ梅雨ちゃんとカラオケデートするなんて話が広まったせいで既に酷い目にあったし、だったら自分達もと合コンの女性面子が揃いかけたりしたけど、ブチ切れた上鳴が俺の出会いのためだよと叫んだのでなんとか収まった(女性陣の評価は下がったが)

 向こうの人数は梅雨ちゃんを含めて四人、親友である中学生の同級生の万偶数羽生子って娘とその友人二人らしい。なので男面子もあと二人欲しいのだが、上鳴が自分よりイケメンは連れていかねえと騒ぐものだから中々決まらない。 

 いや話を聞いた飯田が説教始めたり、轟がお見合いみたいな認識で顔をしかめたりもしたが、そもそもインターンで休日が無いヤツもいる。

 切島なんか内心行きたがっていたが(表面上強がってた)インターンで無理だし。

 瀬呂はヤバい予感するらしく拒否してた(あと誘いにのると上鳴以下の容姿扱いが嫌みたいだ)

 あとは青山だが、気がつけば居なかった。普段の行動が独特だが意外と危ない橋は渡らないタイプなのだ。

 障子も断ったしマジで面子足らないな、恋人持ち組も当然断ったし。あと二人、どうするべきか。

 いや俺が悩む必要ないのだけど、上鳴のヤツ必死だからなんとかしてあげたいと思うのだ。

 その場では決まらずその日は解散となった。

 

 

 しばらくしてからの休日。

 今日は(上鳴が)待ちに待った合コンの日。

 あれからなんやかんやタンクトップとかあってなんとか面子が揃い無事に開くことができた。

 合コンを開くために外出届を出したため(上鳴が)相澤先生がマジ切れしかける事態に陥ったが、俺はともかく上鳴は補習に課題が決定して無事に受理された。

 なお、もの凄くウキウキしている上鳴以外のメンバーもとい巻き添えは、

 B組の性格アレな奴こと、

 ファントムシーフ 物間寧人。

 合コン開催におちょくりに来た際に出久に捕縛されそのまま参加に。因みにコイツも成績がよろしくないため補習と課題が確定しているので踏んだり蹴ったりだ、いやおちょくりに来たから自業自得だが。

 そしてもう一人は雄英高校ビッグ3が一角、

 サンイーター 天喰環。

 参加することそのものに誰もが驚いたのだが、なんでも切島がインターン先であるファットガム事務所で今回の件を話した際に度胸を付けるために参加を命じられたとのことだ。あと女性の対処もヒーローには必要な技能なのだとか。ガチでハニートラップで情報を抜かれるとかあるらしいし。

 しかしあらためて参加メンバーを見ると、見事に容姿は整っているが性格に難がある奴が揃ったな(自身の性格に自覚あり)

 俺はサポートと梅雨ちゃんと楽しめば良いから気はラクだが、大丈夫なのだろうか?

 向こうもヒーロー科の学生らしいから話は合うと思うのだが。

 意外と楽しんでいる様子な物間(あまりこういった友人とのイベントは経験無いらしい)は置いとくとして、問題は既に死にそうな目をした天喰先輩だ。人前に立つのもしんどいノミの心臓の彼にとっては合コンなんて合戦場みたいなものだろう。初対面の女子とカラオケか、この調子ならファットガムの狙いどおり度胸は付きそうだな、終わるまで彼が持てばだが。

 

「あらやだ羽生子ちゃん、本当に向こうイケメンばかりじゃない」

 

「梅雨ちゃんの言ったとおりよ、もう期待以上ね」

 

 キャイキャイと声がしたのでアレが相手の勇高校の生徒だろう。

 梅雨ちゃんは向こうと先に合流してから来たのだが、どんな娘達なのだろうか?

 振り返り向けばそこには驚きの光景があった。

 そこに居るメンバーは正に異形。

 個性社会で許容範囲が広がったとされる容姿の中でも彼女達は飛び抜けていた。

 いや梅雨ちゃんは良いのだ、本人は気にしているのだが普通に美少女だ。彼女と親しげに話している蛇の頭をした娘恐らく万偶数羽生子だと思われる彼女もまだ平気だ、頭などが動物なタイプの個性持ちは有り触れているからだ。だが問題なのははあと二人、キャイキャイと話す彼女達はまさしく異形、というかナマモノ?だった。

 一人は巨大な人間サイズのカタツムリ、オシャレなのかリボンを角に当たる目の下に付けてる。

 もう一人は巨大な人間サイズの鯛、なんか側面から網タイツを付けた人の足が生えてる。

 個性持ちが当たり前になった現在、異形とされる見た目が当たり前な社会。しかし完全に人型、いわゆるホモサピエンスタイプから外れる外見は珍しい(何故かゴリラタイプは多いが)基本的に二手二足に頭一つでそこに個性が加わる感じだ。

 まあ珍しいだけで特になにかあるわけではないのだ、完全に外見がラッコなヴィランもいたし。

 ただ合コンとなれば話は別だ。

 アレらは正に最終兵器。

 合コンには死兵として自分よりカワイイ娘を連れてこないテクニックもあるらしいが、それとは一線を画す別次元の戦略。

 今よりこの地は槍や刀を振り回す合戦場ではなく、ボタン一つで殲滅される殺戮現場と化したのだ。

 果たして彼らはこの地獄から生き残ることができるのだろうか?(他人事)

 

「なあ爆豪?」

 

「どうした上鳴?」

 

 物間と天喰先輩が真っ青とおりこした土気色な表情と化した中、話しかけてくる上鳴。

 文句は受け付けてないぞ、俺が彼女達を呼んだわけじゃないし。

 

「今梅雨ちゃんと話している娘、めっちゃ可愛くね?」

 

 どうやら最終兵器達は正常に作用しているようだ。

 万偶数羽生子さん、うんカワイイとかカワイくないとか以前に蛇だから、頭というか顔が蛇だから。

 上鳴は最終兵器達により、普段の美的感覚を見事に狂わされているようだ。

 

「俺、あの娘狙おうかな?」

 

 上鳴よ、普段の君ならそんなこと言わないぞ。

 まあ本人が良いなら良いけど。

 梅雨ちゃんの中学時代の話で性格は良いらしいのは知っているし。

 自己紹介をしあいながら合流した俺達はカラオケへと向かった。

 出久、降臨したぞ笑いの神。

 いや笑えねーけど。

 

 

 そうして始まった合コン。

 特に司会やらイベントなどせずに単なるカラオケを楽しむ形式だ。

 歌いたい奴は歌って、軽食とドリンク摘みながらお喋りを楽しむ。

 上鳴は先程言ったように積極的に万偶数羽生子さんに話かけまくり自己アピール。そのグイグイとくる姿勢に男慣れしてない彼女は困っているようだ。

 そして天喰先輩、彼を気に入ったカタツムリのイトウさん(一応女性)と足の生えた鯛であるタンノさん(一応女性)に迫られ両側は塞がれていた。

 

「もう格好良くてさらにビッグ3なんて環様って素敵よねー」

 

「さらにインターンでも活躍してるのでもうプロヒーローじゃない、将来性も抜群ね」

 

 右側を粘液塗れ、左側を生臭くされ、天喰先輩の目は増々暗くなっていく。

 人って本当に絶望したらあんな顔になるんだな。

 

「個性は食べたモノの再現なんでしょ?

 環様、私を食べて〜」

 

「アラ、イトウちゃん積極的〜。

 なら私も。煮てよし、焼いてよし、タタキもワサビが染みるけど環様の為なら我慢しちゃうわ〜」

 

 抵抗する気力も最早ないのか、天喰先輩はナマモノ達に纏わりつかれ引き攣った表情のまま硬直していた。

 

 なお一人あぶれた物間は人の不幸は蜜の味と言わんばかりにシロップのかかっていないタピオカをひたすら食べていた。結構楽しそうだ、実害ないしな彼は。

 

「俺達は歌うか?」

 

「そうね勝己ちゃん」

 

 その後カエルの歌を梅雨ちゃんとデュエットして過ごした。普通に楽しかったです。

 話してみたら万偶数さん達も良い娘で友人としては楽しい娘達だったし。

 

 

 

 後日談というか今回のオチ。

 上鳴は普通に万偶数さんにフラれた。  

 積極的で怖かったらしい。

 女の子の扱いがなっていないとクラスの女性陣プラスミッドナイト先生から説教くらっていた。 

 天喰先輩は熱狂的な追っかけがついてまわるようになったとか。

 




人物紹介。
イトウ カツユ。
パプワに登場するナマモノそのまんまな女子高生。
万偶数羽生子さんとは高校で知り合い親友に。
個性は分身。小型の自分を出産のように産み出し様々なサポートができる(なお食用も可)

大海 タンノ。
パプワに登場するナマモノそのまんまな女子高生。
イトウちゃんとの縁から万偶数羽生子さんと知り合い親友になった。なお今作では雌。
個性は不死身、但し調理された時限定。
一度オールフォーワンさんもチェックしたが一目で資料を廃棄したとか。
何気に二人共素の身体能力が高い無駄に強者だったりする。


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96話

すいません、かなりギャグです。
この作品は基本ギャグです。
クロスオーバーあり。


 

「さてうどんの具合はどうかな?」

 

 今日の朝ごはんは釜玉うどん。

 昨日のうちに仕込んだ生地で作る打ち立てうどんはひと味ちがう。

 シンプルな釜玉うどんだからこそ分かる旨さを堪能してもらおうとキッチンに向かったら、部屋の隅に体育座りしている人がいた。

 

「もうあのまま寝ちゃったの?」

 

 先日の合コンで知り合った梅雨ちゃんの親友である万偶数羽生子さんにフラれ、その時のやり口から女性陣に説教を受けた上鳴君。

 落ち込んで体育座りになっていたけどまさか自室にすら戻っていないとは。

 

「ホラ、目を覚まして顔を洗ってきなよ」

 

 あとはシャワーも必要だよねと思っていたら、何やら様子がおかしい。

 具体的には上鳴君の頭から蔦のようなものが伸びていて人間サイズの立派なキノコが生えていた。

 この独特な形は確か、ドクツルタケだっけ?

 B組のあの子を連想してしまうが、昨日の夜に訪れたのだろうか?

 さらによく見ればその茸には顔がついており、懐から煙管を取り出して吸おうとしていた。

 

「ここ禁煙ですよ」

 

 警報装置が鳴りかねないので止めると、背中に冬虫夏草とマジックで書かれた彼は僕に振り返り、

 

「そいつはすまんにゃー」

 

 と火を付けずに仕舞ってくれた。

 

「お客様ですか?」

 

 侵入者では無いと思うが、来客予定なんてあっただろうか?今日は平日なんだけど。

 

「仕事で近くまで来たから姪っ子に会いに来たんだにゃー。どうやらこっちじゃないみたいだけど」

 

 よいしょ、と上鳴君から体を抜くとそのまま立ち上がった。

 

「なんかジメジメしてたからつい寄生してしまったにゃー。居心地は良かったと彼に伝えておいて欲しいにゃー」

 

 と、そう言ってコモロさんは去っていった。

 ドクツルタケも冬虫夏草になるんだなと新たな事実を知って、僕は朝食を作りに向かった。

 

「シャワーは浴びときなよ上鳴君。まだ朝食の準備かかるから」

 

「茸に取り憑かれたクラスメイトにかける言葉がそれなのかッ?!」

 

 生卵ダメな人いたかな?

 釜揚げうどんはは明太バターも良いよね。  

 叫ぶ上鳴君を放置して僕はうどんに取りかかった。家庭用ではない大型コンロにシンクはうどんを茹でるのにも向いているのだ。

 

 

 

「見て見てー!」

 

 特に勝己に声をかけてからダンスを始める芦戸さん。

 A組女子身体能力トップは伊達ではなくキレッキレだね彼女。

 皆それぞれ趣味があるけど、個性に関連するものから親が由来だったりと様々だね。

 僕はどうだろ、タンクトップが大元にあるけど修行や鍛錬かな?料理とかは修行で学んだものだし。

 芦戸さんに手を引かれ、見てすぐに同じ動きをする才能マンな幼馴染を見ながら、僕って無趣味なのかねと思った。

 というか芦戸さん以外にも砂藤君に耳郎さんとか趣味関連の仕事も目指せる才能(ウー)マンなんだよね。ヒーローに重視される戦闘能力もあるのに。

 僕や勝己(コイツはなんでもできるけど)みたいに全員が物心ついた時からヒーロー目指してる人ばかりじゃないだろうし。

 とはいえヒーローは様々な業種に関わるから、どんな趣味とも関連つけれるんだよね実は。タンクトップ事務所でも警備先の知識ないと勉強必須で、美術館やら音楽スタジオとかの時に専門知識あると助かるっていってたな。ある程度〇〇ヒーローで分類されてるけど、お客からしたらヒーローってなんでも出来て、なんでも知っているのが前提な扱い受けることがよくあるって言ってたなあ。

 

 

 

「文化祭があります」

  

「「「ガッポオオォイ!!」」」

 

 学校みたいな行事に飢えてるよね皆。

 一応通常授業は受けてるけどインパクトある事件ばかりな学校生活だからね。

 

「いやタンクトップとか緑谷関連のインパクトも多いからな?」

 

「トップヒーローや無個性ヒーローと顔見知りになったの緑谷のツテがあったからだよな」

 

「オイラなんか彼女できたし(絶望)」

 

「俺なんかフラれて冬虫夏草になったし」

 

「「「ソレは関係ないだろ(冬虫夏草?)」」」

 

 僕がやったことがここ半年ばかりの出来事と同系列に言われる程のことではないだろう。

 

「いやいやそれくらい生きてたら普通にあるよ」

 

 無個性ヒーローに知り合うのもトップヒーローとメル友になるのも彼女できるのも冬虫夏草になるのも長い人生よくあることだよ。

 

「「「「ねえよ」」」」

 

 因みに、僕や勝己を除いてもこのクラスで三人はそんな境遇なんだよね。

 

「ってことは出し物を決めるのか、まだ土日インターンだから厳しいな」

 

「よくスルーできるよな爆豪」

  

 常闇君は帰ってきたけど通える組はまだヒーロー事務所の希望でインターン中なんだよね、学校行事だからシフトを考慮してくれそうだけど。

 

「いいんですか!?このご時世にお気楽じゃ!?」

 

 切島君も大きなトラブルこそないけど犯人の取り押さえとか現場デビューしたからこその疑問だね。

 切島君の問いかけにもっともだと相澤先生は言うが、他科が主役であるが故に安易に中止できる行事ではないという。襲撃事件などの対策や対応でヒーロー科ばかりという不満やストレスも先生方が認識できるレベルであるらしい。

 

「そうなのか緑谷?」

 

「苦情として言う生徒が先輩方や普通科に何人か、って規模らしいよ。一年普通科はタンクトップ同好会が(腕力で)黙らせているし、経営科はとんでもないカリスマ持ち生徒が二人いて特に無し、サポート科に至ってはシールド博士が雄英高校に就職したのはヒーロー科のおかげだからって感謝されてるよ」

 

「普通科は別の意味で反感かってね?」

 

「そういえば世界的権威だったなあの博士」

 

 そして何故僕に聞くのさ、他科の状況は付き合いあるから知ってたけど。

 しかしオールフォーワンという指示を出す存在いなくてどんな行動するのかねヴィラン連合。死柄木弔は自由にやるのが目的とか言ってたけど今何してんだろ。タンクトップ事務所でもラヴァーが調べているけどネット界隈に情報はないみたい。

 とりあえず出し物を決めるため飯田君を中心人物に話し合いが始まった。

 皆やる気あるね、色んな意見があるけど僕はむしろ文化祭は見て回りたい方だから交代可能な売店タイプとがいいかな?

 

「珍しいな、緑谷は意見ねえの?」

 

 僕はなんでもじゃなくやりたいことだけ熱くなる性格だから。雄英高校限定タンクトップの販売はタンクトップ事務所がやるし。

 

「そう言う峰田君は、ストーカー対策に護身術指南教室なんてずいぶん真面目な案だね」

 

 授業で習ったことを自分達なりにまとめて実演しながら発表すればかなり良いと思うよ。

 

「いつ何時必要になるか分からねえからな(無駄だったけど)」

 

 彼女できてから変わったよね峰田君。今回の案も彼女さんのためなんだろうね。なんか表情が煤けているけれど。

 勝己も文化祭に興味ないからか意見を出してない。それに普段は周囲に合わせているけど基本的に個人主義で成果重視だから、皆で仲良く一丸になってやることが目的なイベントや活動だとつい対立しがちなところがあると自覚しているしね。

 しかし色々意見あるけどまとまらないね。

 それに文化祭は出し物しだいで内容に場所やら他クラスとの兼ね合いに調整がいるし、金銭管理に食品関連で書類に手続きもいるんだよね。事務まで飯田君達にやってもらうのも何だし。出し物が被った時の調整についても考えると、他科を優先となるとヒーロー科だけで決めて良いのかな?ヒーロー事務所に専属事務員が必須なのはこんなとこもあるからかな。

 

 

『お困りのようだね』

 

 なんとかまとめようと飯田君達が四苦八苦していると廊下から扉ごしに声が聞こえてきた。

 スッと(授業中なのに)彼らは当たり前のように入ってくるとカツンカツンと足音をたてて皆の前に立った。それがあまりに堂々としていたものだから真面目な飯田君ですら注意できなかった。

 

「彼は確か」

 

「知っているのか緑谷?!」

 

「うんさっき言った経営科のカリスマの一人で」

 

 

『諸君 私はお金が好きだ。

 諸君 私はお金が大好きだ。

 円が好きだ。ドルが好きだ。元が好きだ。

 ペソが好きだ。レアルが好きだ。

 支払い好きだ。購入が好きだ。取引が好きだ。

 貯蓄が好きだ。投資が好きだ。借金が好きだ。

 自宅で、役所で、店で、銀行で、学校で、街角で

 屋台で、ネットで、コミケで、メイドカフェで、

 この地上で行われるありとあらゆる貨幣取引が大好きだ』

 

 ニヤけたような表情が張り付いた眼鏡をかけた小太りの同級生。

 入学して僅かな期間で経営科の一クラスを一糸乱れぬ集団としてまとめあげた問題児。

 

『汗水たらしてバイトをするのが好きだ。

 給料が振り込まれていた日は胸がおどる』

 

『蚤の市で掘り出し物を探すのが好きだ。

 購入した何倍もの額で売れた時は感動すら覚える』

 

『友人達と軽い賭けをするのが好きだ。

 たとえジュース一本であろうと勝った時は最高だ』

 

『貯金箱に小銭を貯めるのが好きだ。

 数年かけて貯まった一円玉が手数料で消えた時はとてもとても悲しいものだ』

 

 扇動者  色間 勝三

 

『諸君 私はお金を 地獄のような金儲けを望んでいる。

 諸君 私に付き従うクラスメイト諸君。

 君達は一体 何を望んでいる?

 更なる金儲けを望むか?

 情け容赦のない糞のような金儲けを望むか?』

 

「マネー!!」 「マネー!!」 「マネー!!」 

 

 いやどこから出てきたの経営科の皆さん。防音されてて良かった。

 

『よろしいならば金儲けだ

 我々は渾身の力を込めて 今まさに振り下ろさんとする握り拳だ。

 だがこの雄英高校の教室で半年もの間堪え続けて来た我々に ただの金儲けではもはや足りない!!』

 

『大儲けを!! 一心不乱の大儲けを!!』 

 

『我らは僅か一クラス二十名の学生に過ぎない。

 だが諸君は一騎当千の金の亡者であると私は信仰している。

 ならば我らは諸君と私で総労働力1万9000と1人の商業集団となる』

 

 自分だけ一人分しか働かないと言ってない?

 

『我々を金勘定しかできないと言った連中に思い知らせてやる。連中に経営の成果を教えてやろう。

 さあ諸君』

 

『プロデュースを始めるぞ』

 

 つまりどういうことなんだろ?

 なんかクラス全体が彼の演説に呑まれているけど、何しに来たのかな。

 とりあえず言葉の圧が凄いし、彼が経営科のカリスマ扱いされてることに納得した所。事態はさらなる展開を迎えた。

 

 

「撃て」

 

「承知、デスシャワー!!」

 

 再び空いたドアから声と共に弾丸がシャワーの水滴のように走った(なお相澤先生は飯田君達連れて後ろに移動している)

 

「ぐべらッ、ぶぱッ、デフッ、ジュバッ」

 

 謎の悲鳴を上げながら弾丸に滅多打ちにされる。

 非殺傷の鎮圧用みたいだけど、これだけ撃たれたらヤバイって。

 飛び出そうとしたらなぜか撃たれてる張本人に手で制されるし。

 

「抜け駆けは粛清。そう取り決めただろう。

 B組が断った以上、ヒーロー科はA組しかいない。

 ならば共同、そう決めたのに」

 

 自身の横にガトリングガンの腕をした生徒を引き連れながら彼は呟いた。

 

「騒がせたなA組の皆さん。

 私の名前は盤板 算。経営科の委員長」

 

 オールバックヘアーの厳つい顔をした彼は冷徹な眼差しをもう一人の委員長に向けてから言う。

 

「貴方たちと共同での文化祭を提案しにきた。

 いや正確には、貴方たちの企画による事務手続きや雑務を請け負う提案のためにきた。

 なあヒーロー科A組の皆さん、我らを雇ってくれないだろうか?」

 

 クリップボードを脇に抱えながら、そんな僕らの思いも寄らない提案を彼は持ちかけたのだった。

 

 なおこの一連の騒動、両者共に事前に先生方の許可を得ていたらしい。そうじゃないと叩き出されてただろうしね。




人物紹介
 
小森 コモロ
巨大ドクツルタケに人の顔がついたような人物。
いくつもの山の大地主で雄英高校の出資者の一人。 
B組に姪がいるらしい。

色間 勝三
見た目が某作品の戦争狂いの少佐。
扇動に長けた無個性で何気に人望がある。
経営科のカリスマの一人で問題児。
メイドカフェ通いが趣味。

盤板 算
経営科のもう一人の中心人物。
色間とは普通に友人。
案を出してくれたミスターサーさんに感謝を。

腕がガトリングガンな生徒。
ワンパンマンのA級ヒーローみたいな経営科生徒。
個性は腕のガトリングガン化だが、ガトリングガンだけで弾は購入する必要あり。
ヒーロー科に受からなかった理由もそのせいで、経営科に決めた理由も資金があればヒーローに成れると判断しているため。

 


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97話

 

「リキッドが就職したってさ」

  

「リキッド?確か鉄バットとやりあった、リーゼントの凄いヤンキーだったか」

 

「うん、胸キュンアニマルとランドを愛するファンシーヤンキー。鉄バットがガンマ団の特戦隊に就職したんだって言ってた」

 

「スカウト限定なトコだろ其処、スゲエな」

 

「タンクトップ事務所に誘った時に断られたから複雑な気分だけどね」

 

「合う合わないは人それぞれだしな」

 

「彼なら良いタンクトッパーになれたから惜しい気がするけどね」

 

「今頃は何をしてるんだろな」

 

 なお後日知ったけどその頃の彼は北の海でクロールしてたとか。ファンシーヤンキーリキッドの苦難はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 雄英高校経営科インパクトから数日後。

 僕たちは文化祭の出し物の話し合いを続けていた。 

 インターンで大きな事件が起きたりしないので、時間的にはまだ余裕がある。

 けどそろそろ決めないと相澤先生の言う公開座学になってしまう。

 経営科の主導者の一人である盤板君に渡された資料を参考になんとか決めようとするけど、経営科のバックアップがやれることを広げてしまった。なんとか方針を定めないことには決めようがないね。場所に関しては経営科で念の為に体育館を押さえてくれるから、仮に舞台とかやっても大丈夫だって。

 

「劇にお化け屋敷はやるとこあるみたいだな」

 

 最初じゃないとパクリ扱いされるよね。

 うちのクラスだと案にもなかったし。

 

「屋台に関しては外部業者に依頼か」

 

 八斎會っていう評判の良いとこに依頼するみたいだよね。一般公開だとお客さまはランチラッシュレベルを期待するみたいだから学生には厳しいね。流石にポクテの串焼きやら満田アメ(最近雄英高校敷地内で繁殖している)は好みがあるし。

 

「タンクトップ同好会の、ヒーロー神輿ってのはなんだこりゃ?」

 

「雄英高校OBのヒーローとか卒業後ヒーローデビュー予定の三年生を神輿みたいな台に乗せてパレードみたいにグラウンドを回るんだって」

 

「普通に面白そうだな。それにデビューする三年生にはありがたい催しじゃないか?」

 

「知名度に繋がりそうだな、個性でアピールや宣伝もできそうだ」

 

「本人達もタンクトップにフンドシ姿で鍛えた体をアピールするって」

 

「タンクトッパーはオチつけないといけないルールでもあるのか?」

 

「タンクトップにフンドシ姿って新ジャンルの開拓かよ」

 

「あとオールマイトの横にどっちが座るかで騒動が起きてるみたい」

 

「またかよ、元サイドキック共」

 

「もうオールマイトは両手にオッサンで良いじゃん」

 

「相変わらず嫌な修羅場だ」

 

 面白そうなことやるクラスが多くて困るね。

 個人的にはお客サイドになりたいよ、遊園地とかもやるみたいだし。 

 クラスの皆で一つの出し物をやることに惹かれはするけど、クラスの皆で見て回るのも捨てがたいな。

 けどどのクラスも雄英高校敷地内で許される個性使用を活用してるからソコは外せないね。

 

「しかし緑谷よ」

 

 どしたん?障子君。

 今まで何か言いたげだった様子だったよね君。

 

「なぜ話し合いの場所がメイドカフェなんだ?しかも男子だけで」

 

 土曜日の昼下り。

 僕たち雄英高校一年A組男子は、全員で雄英高校近くのメイドカフェに来ていた。

 

「いや不満はねえよ」

 

「メイドはカワイイし、紅茶も軽食も美味い」

 

「落ち着いた雰囲気で、こうして集団で議論してても許してくれる」

 

「オタク御用達のイメージあったから敬遠してたけど普通に良いよな」

 

 お客は雄英生ばかりだしね。

 まあ問題としては、

 

「彼女持ち連中が絶望顔なんだが」   

 

「どうすんだよ、怒られるよコレ」

 

「ウマ子が、UMA子がメイド姿でやって来る」

 

「八つ裂き(ブルブル)」

 

 砂藤君と峰田君に口田君が頭抱えて俯いている。

 単なる喫茶店やカフェに美人な店員さんが居るくらいなら怒らないだろうけど、メイドカフェはカワイイメイドに会うのが目的な場所だから、彼女としては不満に思うよね。イチャついてるようにしか見えないから障子君くらいしか同情してないけど(飯田君と轟君は体調悪いのかな認識、男女のアレコレ理解してない)

 

「上鳴君の案がメイドカフェだったし、お詫びとして色間君に割引券もらったし、インターンの給料をパーっと使いたいのもあって」

 

 インターンには給料が発生している。 

 勝己はヒーローとして独立するためにコツコツと貯金しているけれど、僕はタンクトップ事務所に就職予定。クラス全員がインターンに参加できるわけじゃないから微妙な不公平感が自分にあって皆で使いたかったんだよね。ちなみに麗日さんは全額家族に送金、寮生活で生活費が仕送り分すら余るからだって。

  

「元凶は上鳴と色間か。あとイベントで自分だけ身銭は切るな。日頃から緑谷には世話になっているから、自分のために使ってくれ」

 

 障子君は人間できてるよね。

 賭けとかで当たった気分なんだけど。

 

「しかし、ここのメイドカフェって随分クオリティ高くね?」

 

「いやメイドの動きもそうだが、むしろ紅茶とカップや調度品の質が。これ採算とれないだろ」

 

 うん、どれも最上級品。

 商売じゃなくてお金持ちが自分用に使うレベルなんだよねどれも、メイドの動きには見覚えある気がするけれど。

 

「説明しよう」

 

 話し合う僕らにかけられる声。

 そこに居たのは一人の強者。

 後ろにレンズが幾つもついた眼鏡をかけた痩せた学生を連れて彼は居た。

 小太りで子柄な体にポスターが突き出たリュックサックを背負い、メイドの笑顔が世界を救うと書かれたバンダナを巻いていた。そして何より目を引くのが彼が着ているそのシャツの柄だ、デフォされた胸の模様にOPPAIのロゴ。いやセクハラじゃないあのシャツ?

 

 そんなオタクな格好で天下の往来を歩いてメイドカフェに通う。

 もう漢の中の漢だよ彼。

 アレ?良く考えたら雄英高校の制服着てメイドカフェ通いも凄いことかも。

 

「ほんの少し前までは此処もまたどこにでもある従来のメイドカフェだった。しかしある日訪れた一人の少女がメイドの立ち振る舞いと紅茶の質に不満をもった。翌日彼女は実家からメイドを連れてくると店員達に教育を施し、メイドカフェの改革を行ったのだ」

 

 その娘って根本的にメイドカフェそのものを勘違いしてませんか?そして実家のメイド。

 

「そうして生まれ変わったのが、このハイクオリティなメイドカフェなのだ。今でも週一でモノホンのメイドが指導に来るぞ」

 

 もうここのアルバイトも本物のメイドでは?

 

「流石は八百万家だな」 

 

(((何してんだヤオモモ)))

 

「やあ諸君、メイドは素晴らしいな」

 

 経営科のカリスマ、色間勝三はそう言いながら笑いかけてきた。

 数日前にガトリングガンの一斉射撃くらったのになんで平然としてんだろこの人。

 

 煮詰まっていた話し合いは、彼の登場でより混沌としていくことになった。

 

「そうだ緑谷君、私オススメのこのカフェに何か感想はないかね?」

 

「クオリティ高くて良いけど、タンクトップ着てないのが不満ですね」

 

(((メイドカフェの全否定しやがった))) 

 

「よろしいならば戦争(クリーク)だ。

 教育してやろうメイドというものを!!」

 

 彼は後ろのドクと呼ばれる生徒から拳銃(注、モデルガンです)を受け取りこちらに向けた。

 



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98話

 

「駄目だドク、当たらん」

 

「そもそもモデルガンだから弾出ませんけどねソレ。

 なんで雄英入れたんだろこの人」

 

 モデルガン(ドイツ的なアレ)の引き金をカチカチと引きながら首を傾げる色間君。いや普通の拳銃でもあの射線なら当たらないんですけど。

 後ろに控えるドクと呼ばれる生徒も自分でモデルガンを渡したのに呆れ気味だ。

 

「なら仕方ない、大尉を呼ぶか」

 

「ハウンドドック先生ですね、今来れるかな?」

 

(((ソレ人狼じゃなく犬だから、あと単に先生に言いつけてるだけだ)))

 

 自分では勝てないからと先生を呼ぼうとしている色間君だけど、雄英高校生山盛りのメイドカフェに先生がどんな反応するか正直気になるな。

 

「ソレはそうと色間だっけ?お前も相談にのってくれないか?」

 

 マイペースだね轟君。

 君と飯田君は周りの騒ぎブレずに文化祭の話し合いをしてたけどね。

 

「相談?出し物は何をするにしても経営科は利益のでるようにバックアップするつもりだが、流石に公開座学だと難しいが」

 

 文化祭なのに授業参観。

 やられたら他の先生方も困るだろうな、先生方も出し物やらブースがあるのに(相澤先生は警備やトラブル対処だから無い)

 

「ぶっちゃけやれること多くて決まんね、ウチのクラスメイトならなんでもできるから余計にな」

 

 そうなんだよね。何気にみんな基礎スペックと学習能力高いから練習時間とれるならなんでもできるよ。

 

「ならばやりたいことから選べば良いが、それもここまで人材が多様だと絞れんか」

 

 顎に手を当てて真剣に考えくれるのは有り難いけど、格好が格好だからシュールです(そして場所はメイドカフェ)

 

「B組は打倒A組と叫ぶうさ耳(まだ取れない)の仕切り屋がいたからすぐに決まったようだが、このクラスは強引な仕切り屋がいないのか」

 

「普段のまとめ役二人にやる気がなくてな。基本方針も決まらねえ」

 

 目的がみんなで楽しむためだからね。

 みんなとなら何しても楽しいから案なんてないよ。

 勝己は仕切り屋になることに抵抗ある口だし。

 

「とりあえずクラスの特徴でもリストアップしたらどうかね?期限も近いしな」

 

「特徴か、分かった。

 経営科からの要望はないのか?」

 

「むしろ無理難題を言って欲しいくらいだよ。

 そもそも私達は今後のため君等と良い関係を築きたいし、ヒーローを支えるという経験をするのが目的なんだからね」 

 

 マウントレディの経理事務の人みたいな経験をしたいのか(あの人達は業界全体でもかなり過酷)

 ヒーローの行動と生活の基盤を支える役割。

 国家公認ヒーロー活動初期は公安が担ってた仕事だけど今じゃ個人事務所でやるのが当たり前だからね。ちなみにオールマイトは警官の塚内さんだからかなり特殊だったりする、普通は政府はここまでしないのだ。

 

「そこまで経営科は考えているのか」

 

 クラスのみんなもそのスタンスには感心している。

 ヒーロー科とは違う形の意識の高さだよね。

 

「今年は特別だよ。

 ヴィラン連合の存在に、オールマイトの引退という社会の移り変わりに経営科も在り方を変えるべきなんだ。それに君達という当選確定な宝くじみたいな存在にアプローチを仕掛けない方がおかしいだろう」

 

 一部生徒の血筋というネームバリューだけじゃなく、クラス全体のレベルが例年以上で実績もあるしね。さらにオールマイトの最初の生徒達というのもまた知名度に繋がるようだ。

 金の卵という評価は既に不動のものらしい。

 

「気合を入れて出し物を決めさせて貰うよ。

 君達の期待に応えるためにもね」

 

 そう委員長である飯田君が話を締めた。

 

「楽しむのを第一にを忘れずにな。

 さて私はこれからドクとメイドロボの話し合いがあるのでね」

 

 そう言って色間君は奥の個室に向かっていった。

 いや何をしに来たの君達。

 

 なお後で知ったことだけど、割と密接だったヒーロー科と経営科の関係をぶった切ったのは実は相澤先生らしい。彼の方針である不適格な生徒の除籍が経営科からの交流を減らす要因になったとか。相澤先生の方針は生徒達の命を考えると正しいけど、周囲の影響が半端ないよね。

 



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99話

 

 メイドカフェにて男子たちでクラスメイトの特徴を話し合ってから出し物を決めるという方針が決まってから数日(つまり何も決まってない)

 僕たち雄英高校ヒーロー科A組は寮であるハイツアライアンスにてマジで決めないとヤバいから話し合いをしていた。

 なお彼女がいるのにメイドカフェ行ったクラスメイト達は、一人は頬に紅葉を咲かせ、一人は顔面キスマークだらけになり、一人は引っかき傷だらけと中々の惨状っぷりだった。あと関係ないだろうけど青山君が夜中にメイド姿の髭面マッチョを見たと頭を抱えてうなされている、侵入は厳しい場所だから彼は夢でも見たのかな?

 

「皆の特徴を活かしたクラスの出し物か」

 

「クラスの特徴か、綺麗所が多いこと、イケメンが多いこと、彼女持ちが多いこと、あとツッコミ役が多いことかな?」

 

「ヒーロー関係ないだろソレ」

 

 呆れたように言われても事実でしょ。

 

「やっぱりダンスとかの発表に個性を活用する感じにしてみせる?」

 

 体育館を抑えたりとか経営科はソレを期待してるみたいだよね。あの銭ゲバっぷりならグッズ販売もやりかねない。写真くらいなら普通の学校でもやるし。

 

「轟の氷結の操作もかなりのものだしな」

 

 演出として期待できるね。でかい氷塊だけじゃなく造形もできて、さらに最近だとシャーベット状にして振りまいたりとかできるみたいだしね、轟君は個性操作が半端ないよ。

 

「そこに音楽を合わせるか」

 

「そういえば個性を活用したライブとかヒーローがよくやってるな」

 

「なんだかんだでヒーローが一番個性の扱いに長けた職業だしな」

 

「音楽関係も手を出したい分野みたいだけど、強個性は大概ヒーローになるしね」

 

 となると出し物はライブ発表にするとして、

 

「ダンスの演出は芦戸さんに指揮してもらって、音楽は耳郎さんがリーダーかな?」

 

 芦戸さんは教えるのも上手くて熱意も凄い。

 音楽は部屋から分かるように耳郎さんが適任。

 曲は既存の曲のアレンジとか?

 

「正直ウチが仕切るのは躊躇いあるけどそうも言ってらんないね、ここで断るのはロックじゃないし」

 

 そういえば勝己の話だと耳郎さんは音楽もヒーローと同じくらい好きで進路も雄英高校か音楽学校か凄く悩んだらしい。ご両親も音楽関係の仕事しているらしいし、個性も音楽の演出に使えそう、好きなのは部屋みたら分かるからね。

 曲も文化祭までまだ時間があるからオリジナルでいけるみたい。

 

「演奏とダンスに演出で班分けかな?

 小道具やら裏方も必要だろうけど」

 

「こういった時は希望者で振り分けるべきか。

 ただ曲はこれからとして、轟君に青山君は演出をやったら映えるだろうね。

 演奏は楽器を引けるかどうかだな」

 

 ダンスに関してはみんな身体能力高くて動けるタイプだし、芦戸さんの指導力も高いから練習しだいだね。

 ちなみに僕は楽器は無理だ。

 

「練習すればなんとかだけど楽器演奏は厳しいな」

 

 歌うことならなんだかんだでできるけど(集まりや宴会だとよくやる)楽器演奏の経験ないんだよね。

 峰田君が身長で無理だったり、常闇君が意外と経験者だったり百さんがピアノから鍵盤がいけたりと、とりあえず楽器演奏ができるかどうかでサクサク振り分けていると、ここで問題が一つ。

 

「じゃあ爆豪はダンスで」

 

 そう天才マンである我が幼馴染の爆豪勝己である。

 ダンスは当然のこと楽器もイケるんだよねこの天才マン。ヒーロー名を天才マンに変えてやろうかね。

 

「は?演奏でしょ」

 

 だから取り合うよねリーダー二人は。

 どちらでも主戦力確定だし、恋する乙女的に接点を増やしたいだろうからね。 

 

「もめるな二人とも」

 

 障子君が止めるけど、どちらの主張も正しい。

 ならば、

 

「よし残像拳で二人一役だ勝己」

 

「できるかっ!?」

 

 タンクトップでブーストかければイケるさ。

 ほら君ならやれると皆が信頼している。

 

「その手があったと手を打つなお前らっ!?

 出来ねえよ、タンクトッパーじゃねえんだぞ!?

 というか残像は目の錯覚で増えてねえよっ!?」

 

「楽器担当足りないから爆豪は演奏な」

 

 そして轟君があっさりと締める。

 

「今のやり取りの意味はっ?!」

 

 ごめん、ちょっとからかった。

 バックダンサーが一列ズラリと残像の勝己とか面白い演出だとは思うけどね、

 

「大分決まったな。小道具や裏方に会場設営や受付に関しては一度経営科に話してからかな?」

 

 本来ならそれも自分達でだけど経営科はこういったことをやるために売り込んできたんだろうしね。彼らの働きで僕らは発表に集中できて、会場とかもより良くなりそうだね。

 

「あとは曲のでき次第か、責任重大だなウチ」

 

 少し不安そうに耳郎さんは呟くけど、あまり気負って欲しくはないかな、楽しむことが重要だから。

 

「大丈夫だろお前なら。相談ならのるしよ」

 

 肩をポンっと叩いて気負う耳郎さんを元気つけようとする勝己。

 あらやだ私の幼馴染イケメン。そういうトコだぞ君がモテるの。

 

「うんっ!!」

 

 元気に頷く頬を染めた耳郎さんは乙女顔。不安が取り払われ良かった。

 

 

「ところで、最初から気になっていたのだが?」

 

 どしたの障子君?というかなんだかんだでツッコミ役だよね君。

 

「どうして爆豪は執事服を着て、緑谷はメイド姿でいるんだ?」

 

 そして男子達が敢えて触れなかったことに彼はツッコんだ。

 

「「男子だけでメイドカフェ行った罰」」

 

「お前らだけ受けるのか(彼女いる組は除く)そして格好は女子達の趣味なのか」

 

「「「格好良いでしょ?」」」

 

「まあ爆豪は何着ても似合うな」

 

「「「カワイイでしょ?」」」

 

「お前らは正気にかえれ」

 

 タンクトップを中に着込んでいるから大して弱体化してないから大丈夫だけどね。

 勝己もそれで済むならと了承したし。

 

 こんな感じで日々は過ぎていった。

 アカデミアらしい楽しい日常は。

 

 



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100話

死穢八斎會編全て無いのでかなり時間あります。
耳郎ちゃんがやらかす話です。


 

 文化祭の出し物がライブ発表に決まり早二週間。

 クラス委員長である飯田君が経営科と話し合いお互いの役割分担を決める。

 その結果A組は出し物の発表に集中し、受付宣伝機材の手配に許可などは経営科が請け負った。

 ただその対価としてA組の生徒達をモデルとしたグッズ販売の許可を求めてきた。まあ写真や映像に関しては雄英体育祭を経験した以上今更だし、人前に立つヒーローを目指す以上は時間の問題だろう。学校で認可される範囲かつ本人の許しがあった場合ならと了承した。

 その提案に恥ずかしがる者も多少はいたがそれでもせっかくの機会だからとグッズ販売は問題なく許されることになった。

 しかし経営科もノリと勢いとネタで拵えた峰田君の等身大フィギュア(定価二十万)は売れるのだろうか?雄英高校の資材と施設で作ったから割と格安でできたみたいだけど。

 ちなみに売り上げは準備にかかった費用と打ち上げ代を引いた後、残りを未だ復興中の神野区に寄附する予定だそうだ。経験を積むことが彼らにとって得難い利益みたいだ。

 授業を終えた後の空いた時間に文化祭の準備。

 本格的な文化祭準備期間は文化祭開催日の数日前からだが、それまでにも準備はできる。耳郎さんが曲を完成させるまではダンス班の僕たちはダンスの基礎などを芦戸さんに習っていた。やってみればダンスもまた奥が深い、この足さばきに息継ぎのタイミングにリズム感、観衆に魅せる動きなどはヒーロー活動に活かせることばかりだった。

 そんな中、気まずいような恥ずかしそうな顔をした耳郎さんが話しかけてきた。何用か聞けば相談があるということ、勝己ではなく僕に言ってきたということは、

 

「勝己が何かしでかしたのかっ?!」

 

 彼女が僕に言うのならそれしか無い。

 

「しでかしたとか、この世でお前にだけは言われたくねえわっ?!」

 

 まあ日頃からしでかすの僕だしね(自覚あり)

 

「いや爆豪が何かしたとかじゃなくて」

 

 耳のプラグの先をチョンチョンと合わせながらチラチラ勝己を見ながら耳郎さんは言う。

 なるほど、勝己自身が何かやってはいないが主な要因というわけか。

 

「分かった、話を聞くよ」

 

 とはいえ僕に何とかできることだと良いけど。

 

 場所を移して個室にて話を聞く。  

 個別に仕切られた空間なら周囲に漏れることもないだろう。

 

「それで話というのは?」

  

「これなんだけど」

 

 彼女から渡されたのは3つの楽譜。

 なるほど出し物用の曲ができたから呼ばれたのか?それもこの短期間に三種類も。彼女が集中できるように手を回した甲斐はあったようだ。

 しかしコレは僕ではなくダンスリーダーの芦戸さんに見せるべきではと思ったけど、最初の曲とその歌詞を見て納得した。

 なるほどコレは芦戸さんに見せられないね。

 情熱的なその歌詞は読み応えあったが揉める原因になりかねないね。そんな感想を抱いて続いて二曲目を読めばコレも中々、脳内でタンクトップと唱えなければ恥ずかしくなりそうだ。そして三曲目を呼んだ感想は(汗)もう冷汗をかくだけだよ。

 とりあえず額を押さえてもう一度読んで内容を確認して、そこに書かれている歌詞が変わりないことを理解する。

 それが終わるとエア煙草(煙草をすう仕草)をして思い切り息を吐くと(ココアシガレットを買っておけば良かった)性格の悪いプロデューサーとクライアントの気持ちになって彼女に告げる。

 

「君ィ、今回依頼した内容覚えているぅ?」

 

「はい、すいませんっ!!」

 

 耳郎さんも自覚あるからか縮こまりながらも全力の謝罪だ。

 

「君ィに頼んだのはぁ、文化祭で生徒達が演奏する曲だよねぇ?」

 

「はい、そのとおりですっ!!」

 

 僕はパンパンと渡された歌詞を叩きながら言う。

 

「なのに何で歌詞が一個人に向けてのラブソングなんだいっ!!

 君は歌うのかっ!!

 この歌詞をっ!!

 文化祭で自作の曲で想いを歌うのかっ!!

 伝説だらけの雄英高校に新たな伝説を創る気なのかっ!!」

 

「すいませんっ!!」

 

 うーん、作曲に集中できるように勝己と二人きりになれるように手回したのが裏目にでちゃったか。作曲とか芸術は本人のモチベーションが大事だからできる限りのことをしたんだけど。喫茶店デートで二人で作曲なんて青春の一コマだもんね。そら恋する乙女なら舞い上がるか。けどこの短期間で三曲もラブソングを創るとか才能あるとしかいえないよね。

 まあとりあえず、

 

「それでどれにするの?」

 

 テーブルに楽譜を並べて聞く。

 

「へ?」

 

 なんでキョトンとしてるのさ君。

 

「? どれにするかの相談じゃないの?」

 

 クオリティ的にどれでも良いレベルだしね。

 

「えええぇっ!!」

 

 なんで驚いて叫ぶのさ。

 

「いや、これから選ぶのっ!!

 こんなの歌ったら死んじゃうよっ!!」

 

 勝己が恥ずか死ぬね。

 つかそれをだしたの君でしょが。

 

「いやだったらなんで出したのさ」

 

 金○先生のテーマソングだって実は失恋ソングだったらしいし、一個人へのラブソングをクラスの出し物で採用するのもありじゃない?

 

「そ、それは」

 

 顔を赤らめてもじもじしてるけど、そんな表情は勝己にだけ見せなさい。

 しかしなんでたろ?別にこれならどれでも良いけど、敢えて見せてきた彼女の意図は?

 

「もしかして怒られたかったの?なにしてんだって」

 

「(コクリ)」

 

 悪いことしてしまったという自覚からの行動か。

 いや文句は一応言ったけど、どちらかというとツッコミなんだよねさっきの。

 浮かれて一行もできてません、とかなら流石に怒って怒鳴り散らしたけど曲は三つもできてるしなあ。

 

「とりあえず使うの確定してる部分だけ抜き出してくれない?歌詞はまあ歌うの君だから最後でも良いから。

 浮かれちゃった自覚あるなら、今度はその想いを学校生活やヒーローを思い浮かべながら作りな」

 

「はい」

 

 縮こまる耳郎さんだけど、落ち込ませたくないんだよねこっちも。別に悪いことしたわけじゃなくてまだ時間に余裕もあるんだから。

 

「とりあえず勝己と二人きりの喫茶店デートは止めとくべきかな?」

 

「それはまだ続けさせてください。また新しい曲を作りますから」

 

 彼女ならできるだろうね。

 しかし乙女だねえ、彼女も。

 こっちもそろそろ芦戸さんを足止めする切島君の体が溶けそうで、梅雨ちゃんの足止めの上鳴君が精神的にヤバいけどこのクオリティの曲のためなら仕方ないか。二人にはまだ耐えてもらおう。

 そう言って退出する耳郎さんを見ながら青春の一幕に僕はほのぼのとした気分になった。

 

 



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101話

 

 なんやかんやラブコメあったり切島君が進化したり上鳴君がウェイしか言えない体になったりしつつも時計の針は進む。

 耳郎さんが曲を完成させたらあとは練習しつつも演出を加えていく形だ。参考資料を経営科が揃えてくれたので演出の幅が広がっていく感じだ。

 経営科のサポートは予想以上に至れり尽くせりで、芦戸さんが衣装案を出したらその場で費用に用意する時間まで算出してくれる。それに割り振られた予算を自分達の工夫や個性の応用で節約するのを考えるのもまた面白かった。だから百さん愛情弁当あれば個性で機材や衣装を創れますって言われても。確かに君が全て創ったら予算も道具も浮くけどね、それも節約だけどねっ!!

 文化祭一月前で学校全体が準備一色の中、その慌ただしさの中の平穏を僕は堪能していた。

 

「それで君はなにを悩んでるの勝己?」

 

 耳郎ちゃんラブソングインパクトは未遂に終わったでしょうが。

 バンド班の上鳴君の意思疎通問題もメリッサの創った翻訳機で解決したよね?

 校舎の端の非常階段に腰掛けて頭を抱えている幼馴染に僕はそう尋ねた。

 まあ彼が悩むのは大抵女性関係だけど。

 

「エンデヴァーに仕事を頼まれてな」

 

 インターン先から個別依頼か、まさにプロヒーローの第一歩を踏み出しているね。

 

「文化祭のいずれかに雄英高校で冬美さんの警護をしてほしいとのことだ」

 

「外堀にコンクリ流し込んでるね暫定ナンバーワンヒーロー」

 

 いや数日がかりの文化祭で日に一度のライブやったら後は自由時間だからエスコートデートをする余裕はあるけどね。元々彼女持ちの為に時間を作ろうってノリだったし。

 

「あとB組の拳藤がミスコンに出場するから是非来てほしいって」

 

 A組との接点増やすため共同企画とかしようとしてたしB組の一部生徒達が。まあタンクトップパレードの手腕と劇をやりたがる勢が押し切ったみたいだけど。

 

「というかA組の女子はミスコンに誘われなかったのかな?」

 

 ウチの娘達も素敵だよね?

 

「八百万とかは断ったんだよ、そういった姿はお前だけに見せたいって。あとサポート科のシールド女史も」

 

「最近の男子生徒達の殺意こもった視線はそれが原因かあ」

 

 襲撃こそまだないけどそれも時間の問題かな? 

 

「俺はどうしたらいいんだ?」

 

「というかクラスのみんな(途中で個別デートに移行作戦)とも文化祭回る予定だよね?」

 

「ちょっとタイムマシン探してくる」

 

 勝己よ、覗き込んだその木の穴はポクテの巣でタイムマシンの穴じゃないから。

 あまりに厳しいタイムスケジュールに現実逃避する気持ちはわかるけど、タイムマシンで同時に同じ時間に存在するのは絶対に問題起こるからね。

 

「さらに初対面の女子生徒にも一緒に周らないかと誘われてるから大変だよね」

 

 中学時代もよくあったよね懐かしい。

 

「お前はなんでそんなサクサク断れるんだよ?」

 

 むしろ断ることを相手の気持ちをないがしろにしてると気に病む方が間違ってるよ。

 向こうにしてもダメで元々でしょうに。いや勇気を振り絞ったのは事実だろうけどさ。

 日頃から自らの夢を優先すると公言しているくせに、この幼馴染は繊細で人情家だ。自分が振ることで流れる涙をいつも気にしている。

 

「誘ってきた相手の顔を思い浮かべてさ、本当にその娘の泣き顔が見たくない。そんなふうに思える相手を君は優先するべきなんだよ」

 

 僕の場合は、メリッサに百さんに麗日さんに葉隠さんだから困るよ。我ながら優柔不断で多情なヤツだ。

 そんな自分のことを踏まえてのガチ目な助言に対して幼馴染はまるで敵を見つけたような目を向けて、

 

「正体を現せ渡我被身子、そんな演技に騙されるような付き合いじゃねえんだよ」

 

 偽物と断定するように言いやがった。

 

「これは普通に怒ってよいよね?」

 

 オイ幼馴染。

 日頃の行いは自覚してるがふざけんな。

 あと誘拐された時に、絶対ヤ、って言われたから彼女は僕の血を飲まないよ。

 

 



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102話

 

 偽物扱いしやがった勝己とガチバトル。

 騒ぎを聞きつけたのか連絡されたのかA組のクラスメイトの皆が集まったので本物の証明のため勝己の初恋エピソードを暴露。

 初めての僕との組手で気絶したところをタンクトップガールが膝枕してくれたことが惚れたきっかけなんだよね。

 その僕と一部のタンクトッパーしか知らないエピソードを暴露されて、僕が本物だと認めて血を吐きながら崩れ落ちる勝己。

 いかに諦めて失恋したとはいえ初恋は初恋。

 いつだって思い出しては胸が切なく痛むものなんだよね。まあ勝己は皆の前で暴露されてストレスでノックアウトしたけれど。

 

「そういうことするからだぞ」

 

 真面目に話したら偽物扱い、オオカミ少年的な反応なのは理解しているし納得するけど腹立ったからつい。

 崩れ落ちた勝己を女性陣が介抱するのを見ながらそんなふうに話していた。

 

 さて皆と別れてから再び校内を巡る、そもそも見て回っていたのはヒマだからではなくミリオ先輩とメリッサに誘われたからだ(ダンスパートの習熟が予想より早いから自由時間になったのもある)

 途中で劇の大道具を運んでいたタンクトップパレードに遭遇したけど挑発されたので(拳で)撃退した。まあ後ろで角材構えてた泡瀬君がいたから必要なかったみたいだけど。因みにA組とB組は日に一度の発表予定だから時間をずらしてある、お客にしても何かと話題なヒーロー科の出し物を片方しか見れないのは嫌だろうし僕たちも劇を見たいからね。

 一緒に同じ出し物やっても面白そうだったけどな、とニカリと笑顔を向けてきたしB組も思っていたより敵対心を持っていないのかもしれない。まあ煽っているのが担任教師と煽動家みたいな物間君だからつられるのだろうけど。

 機会を作って交流しようかな。

 せっかくの雄英高校同期、敵対関係だけだともったいないからね。

 B組メンバーと別れて約束の備品室へと向かった。

 

 なるほど美人だね。

 個性にて空を舞う波動ねじれ先輩。

 ミリオ先輩に比べたら付き合いはない人だけど確かに雄英高校ミスコン準グランプリも納得というもの。

 というかグランプリのサポート科の先輩はこの人に勝っているのか凄いな。

 こういったイベントには関わらなそうな天喰先輩がカメラ構えていたことに驚きはしたけど、ビッグ3関連だと積極的なんだよね彼。考え過ぎて途中でお腹を抱えていたけど。

 ミリオ先輩に呼ばれた理由は波動先輩が僕の反応を見たかったかららしい。

 なんか自分の容姿に無反応な僕を波動先輩が新鮮で不思議だったみたいで、ミスコン用の衣装を見たらどんな反応するか気になったからだとか。

 いや綺麗な人だと思うけど、付き合いのせいか美人に慣れてるんだ僕。超合金クロビカリの付き添いはパーティーが多いから着飾った美人ばかりだし。

 そんな僕の反応に不満気な波動先輩はミスコンで唸らせてやるからとさらにやる気をだした、ただでさえ高校生活最後のミスコンだからとやる気満々なのに。

 ミリオ先輩に来てくれてありがとうと礼を言われて僕は備品室を後にした。

 

 そしてメリッサに呼ばれたサポート科。

 全学年一律で技術展示会を開くここは文化祭にて一番熱意溢れる場所かも知れない。

 企業や研究所からも注目されているこの展示会は学生の自由な発想から新たな技術の発展が生まれることを期待されている。

 例年であれそうなのに今年は注目される事情がさらにある。サポートアイテム開発の世界的権威であるデヴィットシールド博士の存在だ、彼の薫陶を受けたサポート科の生徒達がどれほどのものを作りあげるのか世間は期待しているのだ。

 サポート科ラボの入口前で合流したメリッサに手を引かれながら僕は組み立て途中の作品達を眺める、完成されたこれらが一同に並ぶ光景はさぞや壮観だろうけど、こんな風に内部機構が剥き出しでコードが繋がっている光景も中々良いかんじだ。完成品より僅かな期間しか見れない今この瞬間にしか存在しない形、そこにはある種のロマンがあるのではないか。

 ドッカーンッ!!

 うん、まあ完成できればだけど。

 またかよ発目、の声が聞こえてきたけど果たして彼女は間に合うのかな?パワーローダー先生から将来デヴィットシールドに匹敵する存在になるだろうと期待されている彼女、その作品は今からでも楽しみだね。

 完成できればだけど。

 なおメリッサの作品は僕を模したイズクロボ、いや本命はフルガントレットなどの防具タイプのサポートアイテムだけどそれとは別らしい。

 本物そっくりではなく剥き出しの鉄板やらボルトなどあえてロボらしさをだしたトコがポイントだとか。

 ちなみにデヴィットシールド博士自身が創った手本がオールマイトロボだったのでやっぱり親子なんだねこの二人。

 しかし、なんだろうあの椅子?

 サポート科ラボの中央に鎮座するケーブルとモニターに繋がれた二つの椅子、時々サポート科の生徒達がいじっているけど。

 メリッサに聞いてみたらアレはカップル本心チェッカーなる道具らしい。

 座ったカップルを様々な計測機で観測しお互いの本心やら相性を丸裸にするとか。

 研究に行き詰まった生徒が気晴らしで作りだして、同じような状況の生徒達が次から次へと手を加えているそうだ。

 この調子なら完成して文化祭の出し物に出来そうだねとメリッサは笑うけど、僕にはトラブルの種になるようにしか思えないな。

 いや確かに面白そうだけど。

 病んだ目で椅子に手を加えているサポート科生を見ながら僕はそう思った。

 

 

 一通り回った文化祭準備中の雄英高校。

 サポート科でもそうだったけど今しか存在しない熱狂した瞬間。

 文化祭当日より楽しいかも知れない一時にくすぐったいような笑みが溢れる。

 雄英高校に入学してヒーローを目指して命の危険があったりもしたが、この平穏があるから耐えられる、そんな風に僕は思ったんだ。

 準備期間の日々は過ぎ、いよいよ本番だ。

 

 

 

「ところでジェントルは襲撃にこないですよね?」

 

「一般公開しているんじゃないのかねっ?!」

 

 なんか電波を受信したんでつい。



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103話

 

 そして文化祭当日。

 ヴィラン連合襲撃に神野事件を乗り越え行われる学校全体一丸となる大イベント。

 教師陣が全てを用意する体育祭とは違う、生徒達が作り上げる祭典。

 楽しみを笑顔を感動を興奮を輝きを思い出を成果を結果を功績を、皆で生み出し作り上げる。

 笑顔を生み出すヒーローらしい行事だ。

 

 そんな文化祭が開始した中、僕はまた一人で校内をぶらついていた。

 発表までの自由時間、緊張しているメンバーはギリギリまで練習しているけど僕は他の出し物への興味が勝りこうして見て回っている。

 皆に飲み物とか買っていこうか?

 ついキワモノドリンクを探してしまうがここは無難なものをチョイスすべきだね。

 途中に外部業者である屋台の一つにお面屋さんがあったので遠回しに見てみた。

 お面屋さんなのになぜなズラリとペストマスクや仮面が並んでいたけど(そして店員さんも疲れた目をしていた)中々お客は入っているようだ。

 常闇君もフラリと訪れて気に入ったのかペストマスクなどを全種類購入していた。

 何してんだろう彼。というか嘴だからペストマスクがただのマスクだね。

 仮面の全種類購入に驚愕する店員さんだけど彼の衝撃はまだ続く。 

 スーツに銀縁眼鏡といういかにもサラリーマンな格好の男性がオールマイトのお面をまとめて4つ購入したからだ。いくら雄英高校で発売された記念品だとしても買いすぎじゃないかな?もしやどこぞの特撮のクライマックスフォームみたいにお面を身に纏うのかなサー・ナイトアイ。

 保存用とかの可能性もあるけど。

 タンクトップだったら僕もやるし。

 初日のしかも開始直後に濃いお客にぶち当たり、お面屋さんは早くもグロッキー状態だ。

 僕は元気つけるためにそっとタンクトップを渡してその場を去った。

 

「なんでタンクトップっ?!

 どうしてタンクトップっ?!

 さっきのお客といい、雄英高校って怖っ?!」

 

 

 ミスコンは最終日だからとりあえずサポート科に行くかなと向かっていたら、キョロキョロと何かを探しているようなミリオ先輩がいた。

 

「どうしたんです?サー・ナイトアイならさっきそこで見ましたよ」

 

「あ、緑谷君。探しているのはサーじゃなくて環なんだ?」

 

 こちらの声に気づいたミリオ先輩はそう返した。

  

「天喰先輩?買い出しか何かですか?」

 

 遅れるとか(小心だから)なさそうな人だけど。

 

「そうなんだ、今予選の最終調整中なんだけど。化粧品の足りなくなったヤツをね」

 

「必要に見えないですけどね波動先輩」

 

 お肌ツヤツヤだよね?

 

「男には分からない世界だからソコ。

 ましてや化粧品の違いなんて全然」

 

「それで天喰先輩が買い出しですか」

 

「不測の事態用の予備だけど、帰りが遅くてね」

 

 天喰先輩をどうこうできる人なんてそういないだろうから、途中でヒーロー活動でもしてるのかな?オールマイトみたいに。  

 

「携帯にでないなら校内放送借ります?」

 

 確か迷子呼び出しサービスあったよね?

 

「それやったら環が恥ずか死ぬって」

 

 在校生でビッグ3なヒーロー候補生が迷子で呼び出しとか語り継がれる赤っ恥な伝説になりそう。

 眼の前の体育祭での脱衣マンもある意味伝説だし。

 

「とりあえず校門で聞きます?警備のヒーローが何人かいる筈ですから」

 

 内部パトロールは先生方だけど、出入口は外部ヒーローにも依頼しているんだよね?

 

「そうするか、どうしたんだろ環?」

 

 そんな風に二人悩んでいたら、

 

「←←←うああああああっ!!←←←←」

 

 と凄まじい勢いで人混みを掻き分けて走る天喰先輩を発見した。

 この人混みでぶつからずに走り抜ける機動性、やはりヒーローとしての技量がとんでもないなあの人。

 最近は減ったけど、野次馬とかを掻き分けて現場に急行する移動能力はヒーローには必須だから。

 

「おーいっ?!何してんだ環ーっ?!」

 

 ぶつからなくても危ないから緊急時以外は避けるべきなんだけどどうしたんだろ、買い出しに遅れたから急いでいるのかな?

 ミリオ先輩の呼びかけにも反応せずにそのまま天喰先輩は駆け抜けてしまった。そういえば足に蹄ついてたけど個性を発動する事態?日頃から個性を使う人じゃないし。ミリオ先輩と頭の上に?マークを浮かべて首を傾げていると、

 

「「環様〜〜〜♡♡♡!!←←←←」」

 

 馬の脚で全力疾走している天喰先輩に劣らぬ速度で元凶が追いかけていた。

 アレって勝己が言ってた梅雨ちゃんの友人の友人である他校の合コン参加者だっけ?

 一般公開してるから来るのはおかしくないけど、話で聞くより異形系なんだね。

 っていうか鯛とカタツムリなのに早いな。

 眼の前を通ったと思ったらもうあんなトコに。

 とりあえず見つかりましたねと彼らの進行先を指差したら、ミリオ先輩は髪をかき上げ、両手を頭上で交差し、右掌を顔にあてながら(どこぞのイケメンヒーローが鏡の前でやったアレ)

 

「なんだ ただの ラブコメか」

 

 とポーズを決めていた。

 

「ユーモア溢れる切り返しですね」

 

 流石サー・ナイトアイの直弟子。

 コメディなのは否定しないけどラブはどうだろ?

 

「親友のアヴァンチュールを邪魔したくないから俺は戻るね。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて地獄に落ちろと言うし」

 

 確かに今の天喰先輩は馬の脚だけど蹴らないと思うなー。

 

「じゃあね☆」

 

 爽やかに手を上げてから個性を使い逃げ去るミリオ先輩。スタイリッシュに親友を見捨てたなあの人。気持ちはわかるけど。

 助ようにも全力疾走している天喰先輩一行はもう視界の端にすら映ってないので僕は予定どおりにサポート科に向かった。

 

 壮観だね。

 完成したサポート科の作品群。

 ロボにしか見えないパワードスーツから防具類に追跡プログラムなどのデータ類。

 未だ荒削りなれど、学生が自身で作り上げたとなれば将来を見定めるに足る。

 一部生徒に至っては本職に劣らない作品だからなおさらだね。

 発目さんも無事に完成したみたいだけど、警備ロボかなアレ?パワードスーツだとしたら個性使用できないような?

 ちなみにメリッサの創ったメカミドリヤ君は僕を認識したら一瞬目を赤く輝かせてバトルモードになりかけたんだけど、お互いのタンクトップを確認してタンクトッパーだからナカーマと仲良く肩を組んだ。

 なおメカミドリヤ君の装備として黒鞭の個性を模したサポートアイテムを付けたから複数の個性持ちだと判明しにくくなるよとメリッサに耳打ちされた。父親であるデヴィットシールド博士と共にワンフォーオールの詳細を知った彼女なりのサポートと気遣いに僕は胸が暖かくなった。彼女にそれだけ想われている事実が嬉しくも誇らしい。

 けどねメカミドリヤ君よ、パピーとマミー呼びは止めなさい。

 シールド博士の娘でありIアイランドで研究室を構えていた彼女は今回の注目株で多忙なため文化祭中に一緒に回る約束をして別れた。そろそろ戻らないとだし。

 

 そして何気に気になっていたサポート科のイベントであるカップル本心チェッカーを見れば、そこには地獄が広がっていた。

 いの一番にサポート科三年で評判の鴛鴦カップルが参加したのだが、

 

「容姿と雄英高校生である以外価値の無い女」

 

「実家がサポートアイテム会社だから付き合っているだけの男」

 

 と開けてはならない本心を暴露された。

 もっとも両者は笑顔のまま知ってたしと何事もなく手を繋いで歩いていったのだが、その様にその場に居た誰もが恐怖したという。

 その後も似たような惨劇7割、微笑ましいカップル2割、その他1割とイベントとしてはもの凄く盛り上がっていた。

   

 雄英高校文化祭はまだ始まったばかりだ。

 

 

  



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104話

 

 さて色々な騒動があっていよいよ僕達雄英高校一年A組の出し物直前。

 体育館の横断幕裏にて衣装合わせの済んだ皆は揃って最後のミーティングをしていた。

 僕の見てきたアレコレに文化祭を見て回るのが楽しみだとはしゃぐが、緊張は消えずにドキドキとどこか挙動不審だ。

 人前に出るのは慣れている。

 練習は十分に積んできた。

 事前準備に怠りなく。

 会場は経営科のおかげで万全。

 あとは本番、演るだけだ。

 

「失礼するよ」

 

 そんな胸を押さえて落ち着こうとしている時だった、彼らが現れたのは。

 僕らが発表に集中できた要

 共同企画を提案してきた経営科のリーダー達だ。

 彼らは僕達の前で襟を正すと、

 

「本番前だが、言いたいことがあってな」

 

 盤坂君は息を吸って思いをこめるように、

 

「経営科のやるべき準備は万全に完了した。

 君達はただ発表に集中してくれ。

 共同企画に賛同してくれたことに感謝している、これは私の夢の一つの形なんだ。

 だから、君達は存分に輝いてくれ」

 

 そう言った。

 後ろに控えた色間君はウンウンと頷くが彼から言葉はないようだ。

 その一言だけで彼らは去っていった。

 ただ利益のためじゃない、これもまた誰かの夢であるならよりやる気がでるというものだ。

 彼らからの激励により胸が熱くなり緊張なんてどこかに行ってしまうね。

 

 そして始まる本番。

 勝己の爆発音から音が響き、ダンス班はそれに乗る。リーダーである耳郎さんの挨拶を皮切りに僕らは踊りだす。 

 自ら手がけた想いをのせた彼女の歌。

 支えるバンド班の演奏。

 揃って踊るダンス班の身体のキレ。

 合間に盛り上げる演出班のアイデア。

 見せ場の青山君打ち上げミラーボールをしたところで僕は自分の変化に気づいた。

 両の瞳から流れる滂沱の如き涙に。

 悲しみからではない雫。

 まるで母みたいに止まらぬ涙。

 興奮しているがまだ涙を流す程ではないのだと自己分析した所で気付く、誰が泣いているのかと。

 これは彼らだ、彼らの感情だ。

 僕に託された個性、ワンフォーオールに宿る先代達の想いだ。

 散っていった彼らが感動し奮え、泣いているのだ。

 この光景が見たかったのだと。

 こんな日常のために戦ったのだと。

 こんな日々のために散ったのだと。

 こんな未来のために託したのだと。 

 個性の発生による起きた混乱。

 好意的に受け入れられなかった異能。

 諍いの元に、戦いの道具に、騒乱の種になるしかなかった力。

 彼らは知っている、彼らは見てきた。

 けれどそんな騒乱の中望んできたのだ、個性が誰かを喜ばせる力となることを。

 それが今叶っているのだと。

 ゆえにその歓喜の想いが涙となって溢れ落ちる。

 望んだ輝きにその目を焼かれながら。

 クラスの皆が輝いている。

 各々の想いをのせて。

 観客の人々が輝いている。

 その熱狂に包まれて。

 個性が輝いている。

 これは笑顔を創り出せる力なのだから。

 

 一つになった会場は盛り上げる。

 そこにあった反感も何もかも流しつくして。

 楽しかった。

 舞台が終わった後、誰もがそう言った。

 A組の出し物初日はそうして大成功のまま幕を閉じたのだった。

 

 

「にしてもスゲー泣いてたね緑谷」

 

「ダイヤモンドダストに負けてなかったぞ」

 

 本当に母みたいに泣いたからね。

 いや無個性じゃなくコレが個性だったんじゃないのかってくらいだし。

 

「しかし良かったね」

 

「うん、文化祭だけじゃなくもっとやりたいね」

 

「やりゃいいだろ?

 来年のその次の年も卒業してヒーローに成ってからも、こうして皆で集まって何度でもやればいい」

 

 勝己はニヤリと笑いながらそう言った。

 未来日記を埋めるような約束をみんなとして。

 けどね勝己さん、確かに良い提案なんだけどプロポーズみたいな言葉とその笑顔に一部女性陣がときめいちゃっているよ。勢いのまま飛びかかりそうなんですけど。

 いや良い提案なんだけどね。

 今にも飛びかかりそうな女性陣と勝己から巻き込まれたくないメンバーがそろそろと距離をとっていると、コンコンと扉を叩く音がした。

 経営科の人達かなと扉を開ければそこには見たことのない人達がいた。

 ペストマスクを付けた青年とブサイク大総統のお面を付けた少女というなんとも奇妙な二人組だ。

 

「すまないね、関係者じゃないから入っちゃまずいと思うがどうしても伝えたいことがあるんだ」

 

 青年は自分は今回雇われたイベント会社の治崎廻と名乗った。

 

「ほら、笑理」

 

 優しく背中を押されて少女が前にでる。

 

「あのね、最初は大きな音でこわくって、でもダンスでピョンピョンなってね、ぶわって冷たくなってね、プカーってグルグルーって光ってて、女の人の声がワーってなって私、わああって言っちゃった!」

 

 拙いながらも自身の情動を全身を使って表現しようとする少女。その姿にその精一杯の称賛にクラスの皆の顔がほころぶ。

 

「妹はこんなにも喜んでね、失礼を承知で来てしまったんだ」

 

 治崎さんはまだ体を動かして伝えている妹さんの頭を優しく撫でながらこちらを見る。

 一度何か思い返すように目を伏せるが、まっすぐにこちらを見て彼にとって重要なことを語りだす。

 

「俺にとって個性は病気だった。

 人を隔たせる病気、既存を壊す病気、混乱を起こす病気だとね。

 その事実が不快で仕方無くて、そんなことで居場所が壊されることが許せなくて、個性そのものを無くそうと手段を選ばなくなるほどに躍起になったりもしたことがあったんだが、けどね」

 

 彼は一度言葉を切ってから言う。

 

「こんな風に皆が一つになれるようなものを生み出せるなら個性も悪くないなと思えたんだ」

 

 個性の存在そのものに嫌悪を抱いた人は、

 個性の存在によって起きた悲劇を知る彼は、

 僕達の発表を見てそう言ってくれた。

 

「素晴らしい舞台だったよ、ありがとう」

 

 それが誠意であるかのようにペストマスクをとって彼はそう言った。慣れてなさそうな不器用な笑みで。

 時間ができたらウチの屋台に来てくれと彼は言う、親父直伝の焼きそばとたこ焼きが自慢なんだそうだ。私もお手伝いしているのっ!、とピョンピョン跳ねながら笑理ちゃんも言って彼らはその場を後にした。

 手を繋ぎながら仲良く歩く二人。

 僕には何故かそれが一つの奇跡のように見えた。

 きっかけ一つ違えたらあり得なかった、そんな未来のように。その後同じように感じた皆と一緒に去ってゆく彼らを見送った。

 さて後片付けしたら明日の用意をして、今日が終わるまで文化祭を楽しもう。

 文化祭は、まだこれからだ。

 



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105話

 

 さて大成功に終わった一年A組のライブ。 

 その後の二日間もそのクオリティを維持して校外にも高い評価を得た。ヒーローになるために音楽関係の道を諦めた耳郎さんだけど、今回のライブにて音楽の才能もまた大きく評価されることになる。副業が当たり前なヒーロー社会、本人の決意はともかくとして彼女にとって悪いことではないだろう。ぶっちゃけあのエンデヴァーですらヒーロー活動以外のイベントやコマーシャルに出演しているのだから。

 ヒーローという周囲に大きく知られる存在は下手なアイドルやら著名人より影響力や経済効果があるため、自分からの依頼より相手側からの要請もあるのだ。

 ちなみに今回のライブの映像は経営科が撮影管理していて、いずれ一年A組の誰かがトップヒーローになったら売り出すつもりだとか。

 ライブ終了後に詰め込み過ぎな著作権大丈夫なB組の劇を皆で見に行ったり、先程勧められた屋台を巡ったりした。焼きそばのあまりの美味しさに美麺ーンと上鳴君がリアクションとったり、たこ焼きの安さと美味さに驚いたり、焼きそばを薄焼き卵で巻いた巻そばとか、お好み焼きに焼きトウモロコシの薄切り揚げを混ぜるのも美味しかったな。八斎が企画するイベントは今後もチェックしておこうと思いました。

 さて二日目、今日は勝己の冬美さんとの護衛という名のデート日。

 一部女性陣がトラブルを起こしそうだけど意外なことにその気配はなかった。

 文化祭デートなんて自分達もしたいだろうが、寮生活にて自分達は勝己と接点が増えたのに対して、教職かつ轟家にて女手として家事もこなす冬美さんは勝己と会うことすら困難だ。だから今回は邪魔しないで我慢しようと決めたみたいだ。

 うん、勝己のインターン時の土日の宿泊先が轟家なのは黙っておこう。

 出し物以外の時間は冬美さんと文化祭を巡った勝己は周囲の視線に胃をやられたりしたが楽しく過ごせたみたいだね、勝己好み服装とか冬美さんの相談にのった甲斐があったよ。僕もクラスの皆やメリッサ達と他クラスの出し物を楽しんだ、普通科のお化け屋敷クオリティ凄い。一日終わってその後勝己がその日何もしなかった僕をやはり渡我被身子かと襲いかかってきたのだけど返り討ちにしてやった。

 あと等身大峰田君フィギュアが謎の大男のような人物に売れたり、上鳴君が普通科の女子生徒に告白されたりした、万偶数羽生子さんが忘れられない彼は断ったらしいけど。

 そして三日目、文化祭最終日。

 とりあえず見るべきは雄英高校ミスコンとヒーロー神輿だ。二日間もグランドにて行われたヒーロー神輿はテレビ放送もあって卒業後にデビューする三年生の先輩方の知名度に大きな助けになりそうだ、交代してるとはいえ一日中神輿を担ぐタンクトップ同好会の体力とインパクトある格好も注目されたけど。そして最終日である今日こそはメイン、雄英高校ビッグ3とオールマイトとそのサイドキック達の日だ、オールマイト達には嫌な予感するけど。

 ミスコン本番。

 一年ヒーロー科参加者である拳藤さんの手刀などの演武を活かしたアピール、板を叩き割る実力に流れる動きは見事だけどアレを普段からくらってる物間君の首って頑丈だね。あと勝己を見つけたからといって手を振ったら駄目でしょ、嫉妬の視線がネビルレーザーみたいに勝己を突き刺してるよ(本人は笑顔で吐血)今ので大分投票が減るだろうから彼女の優勝は厳しいね。アイドルは特定の誰かを注目したら駄目なのよ。グランプリ連覇中の絢爛崎 美々美先輩の出番、これは凄かった。

 サポート科であることを最大限に活用した絢爛豪華の極み、

 

「波動先輩が勝てないのも納得だね、やはり優勝はあの人か」

 

「お前ってインパクトの有無が割と基準だよな」

 

 ミスコンの判定じゃないだろとクラスの皆に突っ込まれた。いやだって僕の周囲ってインパクトある人だらけだし。

 そして既に結果は見えているが波動先輩の番。

 だがその予想はあっさりと覆えされた。

 インターンで一緒だった麗日さんに梅雨ちゃん、そしてビッグ3で親友であるミリオ先輩(服は着ている)も顔をビックリさせている、知っている彼女の知らない彼女らしさ。

 

「こうして見ると、本当に波動さんは純真無垢な妖精のようだ」

 

 天喰先輩、良い顔で良いこと言っているけど両脇の御二方のせいで満員のミスコン会場が円形脱毛症みたいな空間できているの。発言に嫉妬して顔面ベロベロされてますよ貴方。

 幻想的な宙の舞にこの僕ですら目を奪われた。

 これは優勝がわからなくなったね。

 結果発表は夕方5時、シメのイベントだ。

 さて僕はどうするか、勝己は拳藤さんにしないとヤバそうだけど。

 最後にビッグ3とオールマイト達によるヒーロー神輿だけど。

 うん、酷い修羅場だったよアレ。

 オールマイトの隣を争うオッサン二人が最終的に喧嘩神輿をおっ始めやがりました。

 オールマイトお面を顔と胴体に両肩と装着したサー・ナイトアイクライマックスフォームと、オールマイトの着ぐるみみたいなバトルスーツに乗り込むシールド博士の一大決戦。

 凄まじい戦いにグランドは大盛りあがりだけど、サポート科のパワーローダー先生とオールマイトが口から血を垂らして瀕死になってた。いやのせられてぶつかり合うタンクトップ同好会も問題だけどね。

 結果は最後の力を振り絞ったオールマイトによる両者鎮圧だけど、今回の件でまた一段と老け込んだねオールマイト。

 

 なおミスコン優勝者は波動先輩でした。

 美しさだけで無い彼女らしさが決め手だった。

 誰もが納得のそんな結果。

 王冠をかぶる彼女の笑顔もまた喜びの涙を流す友人と共に輝いていた。

 来年はどうなるかな、メリッサにA組女子がでないなら拳藤さん一強になるかも。

 

 色々あった文化祭はこうして幕を下ろした。

 日常を彩る、日常の中の非日常。

 平和な日々の中で穏やかかつスリリングな時間を過ごせたのだ。

 雄英高校文化祭は、荒れる社会の中で笑顔を溢れさせたのだった。

 皆笑った、僕も笑った。

 こんな素敵なイベントが来年もあれと笑いあった。

 

 けど僕はうっすらと予感していた。

 まだ戦いはあると、それこそ世界の命運をかけた一大決戦が。

 日常を甘受しつつも牙を研ごう。

 こんな日々皆とずっと過ごすために。

 



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106話

 

 文化祭終わってしばらく、11月も下旬に差しかかる頃のこと。

 文化祭にて万偶数羽生子を忘れられなくて普通科の娘の告白を断った上鳴君に梅雨ちゃんが羽生子さんと仲を取り持ってくれて現在文通しているとか。

 サポート科のアレが文化祭後にテレビ局に購入されて使用されているお見合い番組が地獄と化している(視聴率は良いらしい)とか。

 勝己が文化祭後に告白されまくって胃を壊し入院しかけたとか。

 僅かな期間ながら様々な出来事があった。

 そんな日常を謳歌しているのだが相澤先生の連絡で本日は来客があるらしい。

 ガチャリと扉を開けて来たのは、ポーズとキメ台詞をしたワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ(オフバージョン)の皆さんだ。

 夏の合宿以来だから数ヶ月ぶりかな?タンクトップ事務所には顔を出しているけど寮生活とインターンのため仕事をやる余裕はないのでタンクトップ事務所経由での付き合いもできなかったし。

 ちなみに洸汰君はいない、今日はご両親と過ごせる日だからそっちらしい。

 虎さんから僕に守りきれなくてすまないと謝罪されたりもしたけど、林間合宿の件は正直仕方ないと思う。増殖脳無の物量攻撃なんてマスターとラヴァー不在時のタンクトップ事務所でも陥落してしまうだろうし。

 なお今回来たのはヒーロー活動復帰の挨拶のためらしい、いくら仕方ないとはいえ預かった学生の誘拐に自分達の私有地への襲撃、あとはそれぞれの怪我もあって活動を休止していたのだ。

 だが数ヶ月がかりのメンバーの治療と私有地の確認に侵入対策も済んだのでヒーロー活動を復帰するのだという。

 とはいえラグドールの個性がオールフォーワンに狙われたのは事実。奪われても厄介な個性のため今後タンクトップ事務所から護衛を雇うことにするのだと言う。けど脳無複数相手どれるタンクトッパーなんて流石に数えるほどしかいない。そんなメンバーも指名依頼が来たりするから長期は厳しいだろうし。

 

「ところでハッター君はいないのかにゃん?」

 

 とラグドールさんが尋ねてきた。

 今週の雄英高校警備担当はタンクトップハカセにタンクトップレーサー(愛車は原付き)だったな。ハッターはジェントルに付いてヴィラン連合追跡調査だったかな?

 

「そっか」

 

 露骨にガッカリするラグドールさんだけど、その意図は予想がつく。

 

「タンクトップハッターはラグドールさんより5歳くらい年下ですよ」

 

 まだ若手なんだよねハッター。

 個性が調査特化だから重宝されるタンクトッパーなんだけど。

 

「いやいや、年下の男性の背中になんてときめいてなんてにゃいからっ!!自分の力不足を嘆いても役目を全うしたトコとか良いな、って思ってにゃいからっ!!」

 

 語るに落ちてるんだよなあ。

 あの状況で惚れるなってのは無理あるよね。

 特にラグドールは相手の状態が個性で分かるから本心から助けようとしたハッターが気になっても仕方ないだろうな。婚期に焦ってるのもあるだろうけど。

 

「連絡先教えます?」

 

 僕の電話帳はタ行がいっぱい。

 

「是非っ!!」

 

 正直だなあ。

 まあハッターは力不足を実感したせいで最近いつもより熱心に鍛えてるんだよね。ヒーロー免許とってから気が抜けてたのを恥じてたし。

 無理して体を壊さないように休むことを大切なんだけどね。ラグドールと会うようになればそこらへん意識できるようになるでしょ。

 

「あとはタンクトップラビットとタンクトップジャングルにも侘びをしたいのだが」

 

「あの二人なら平気ですよ、すっかり元気ですし」

 

 虎さんが言うけど、気にしなくて良いのに。

 確かに一時期生死の境を彷徨う重体だったんだけど、今じゃ雄英高校からのお見舞い金でバニーガールのいるお店で毎晩飲み歩くぐらい元気なんだよねあの二人。そういうトコが実力あるのに事務所で軽んじられる原因だってのに。

 

「そうか、だが感謝していると伝えてくれ」

 

「分かりました」

 

 さてタンクトッパーの話しが一段落ついた所で、プッシーキャッツの復帰についてだ。

 もろもろ済んだことはもちろんだが最大の要因は、今度発表されるヒーロービルボードチャートJP下半期の結果があってのことだ。

 報道陣を前にする公式発表の前にヒーロー達には通達されるのだが、プッシーキャッツは活動を休止していたにも関わらず411位だったとのこと。

 前回32位でランクは急落したが、全く活動しないのに3桁なのはそれだけ彼女達が期待されている証なのだろう(ちなみに実力者で実績があり一部に支持されているのに拘らずブサイク大総統はぶっちぎり最下位だったりする)

 待ってくれる人がいるヒーローが立ち上がるにはこれ以上ない理由だ。

 そういえばステイン事件で重体だったインゲニウムもリハビリ終わって復帰するんだっけ?

 B組にも挨拶に行くからと去ったプッシーキャッツを皆で見送ってから話題はビルボードの方へと移った。

 けどなあ、

 

「正直あんまり興味ないかな?」

 

 順位=ヒーローとしての格みたいな風潮だから、順位のためなら手段選ばないヒーローが当たり前にいる現状だけど。僕は割とどうでもいいんだよね。

 

「無個性ヒーローは欄外だからな」

 

 そんな僕の様子に首を傾げる皆に勝己からの説明。

 いやベジタリアンみたいに上位ランカーもいるにはいるけど肝心のマスターが評価されないからテンション下がるんだよ。

 全裸大帝みたいな表沙汰にできない強ヴィランの対処しているのに。

 

「なんで欄外なんだ?」

 

 轟君が疑問を口にするけど、大体超合金クロビカリのせいなんだよなあ。無個性なのが最大の理由だけど。

 

「超合金クロビカリがスポンサーのゴリ押しでヒーローになったから、ビルボードにスポンサーの意向が左右されかねないのがかなりの理由」

 

 お気に入りの超人をトップヒーローにしたいとか騒いだスポンサーがチラホラいるんだよね。支持そのものが組織票でどうにかされかねんし。

 

「話してみると意外と常識ある良い人なんだけどな(格好パンイチだけど)」

 

「あとは番犬マンのせい。一都市しか守ってないのにヴィラン捕縛数が日本一なんだよあの人」

 

 無個性ヒーローだからと舐めてかかる馬鹿が多過ぎなんだよ。デビューしたての実力過信したヴィランが番犬マンに山積みにされるのは街の名物だし。

 

「確か国会で日本全ての都市を合併して番犬マンに守って貰おうとか議論されてたよな?」

 

 普通に却下されたヤツだね。もしかしたら新たな平和の象徴誕生かもだけど多分無理だよ。名称変えたからといって故郷が増えるわけじゃないし。

 

「そんなんで無個性ヒーロー加えたら大混乱だから欄外扱いなんだよ」

 

 豚神さんやマスターは依頼は受けても象徴とか知らんってスタンスだしね。

 認知されてもヒーロー扱いすらされてない無個性ヒーロー達。慕ってる僕らとしては複雑にもなるよ。

 オールマイトのいないビルボードチャート。

 無個性ヒーローの存在もあり、今後の平和の指標になりかねない大事だね。

 

 



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107話

全世界百億万人のエンデヴァーファンの皆さんごめんなさい。


 

『神野以降初めてのビルボードチャート!!

 その意味の大きさは誰もが知るところであります。

 これまで発表の場にヒーローが登壇することはありませんでした。

 しかし今回は!! ご覧下さい!!』

 

 キャスターによる読み上げられるヒーロー達の最上位ランカー。

 世界最高峰の質を誇るとされる日本の、さらに頂点である十人の精鋭。

 ドラグーンヒーロー リューキュウ。

 具足ヒーロー ヨロイムシャ。

 洗濯ヒーロー ウォッシュ。

 樹木ヒーロー シンリンカムイ。

 シールドヒーロー クラスト。

 ラビットヒーロー ミルコ。

 忍者ヒーロー エッジショット。

 ファイバーヒーロー ベストジーニスト。

 ウイングヒーロー ホークス。

 そして暫定一位から正真正銘の一位となった、

 フレイムヒーロー エンデヴァー。

 

 その紹介を厳重に警備された会場の特別室から僕はオールマイト、サー・ナイトアイ、シールド博士と共に見ていた。

 学校は公欠。

 これに関してはヒーロー養成機関でも外せないイベントなので授業は中断され放送されているのかな?

 神野の件で個性も含めてオールマイトの後継として一部ヒーロー達から認知されてしまった僕はこうして参加する破目になってしまった。

 僕としてはタンクトップ派閥なんだけどね。

 オールマイトも師匠らしいことができて満足しているみたいだから突っこまないけど。

 しかしシンリンカムイの時にマイクを向けられたマウントレディだけど、あの人デビューして数年なのに23位とか凄くない?女性ヒーローなら下手したらトップ10に入っているし、公安の後押しあるホークスよりも下手したら凄いのでは?(まあデビューから色々話題に事欠かないヒーローだし)

 ヒーロー公安委員会会長の演説から、各ヒーローのコメントへと移る。オールマイトの神野の叫びから奮起したヒーロー達と意識が変わりつつある国民達のおかげで予想されるより世間は荒れてないが、それでも象徴が居なくなったと話題にはされている。

 コメントするヒーロー達だけど、一部除いて神野に参加したヒーロー以外はあんまり付き合いは無い。

 僕の付き合い=無個性ヒーローやタンクトップマスターとの関わりだから仕方ないけど。

 それぞれが自ら心境を語る中、茶々をいれるかのような発言をするホークス。

 それが公安が彼に望んだ在り方なのか、彼の本心なのかはわからないけど、ただ頑張りましょうでは許さない発破を彼はヒーロー全てに投げかけた。

 そして煽るようにエンデヴァーへとマイクを渡す。

 しかし傍からみたら喧嘩を売っているようだけど、ホークスと付き合いある僕には分かる。大好きなエンデヴァーにマイク渡せてめっちゃ喜んでるよ彼。

 エンデヴァーが一位確定した連絡を受けたら、タンクトップ事務所なのに構わず狂喜乱舞の大騒ぎしたし。

 

「若輩にこうも煽られた以上、自らの心境を語らせてもらう。

 偉大な一番星は、流れ星となった。

 故に彼が安心して空を眺められる新たな一番星となることを此処に誓おう。

 許されざる過去、消えぬ後悔を抱え、大事な家族の平穏とともにこの社会を守る。

 今日より『焰鉄ヒーロー エンデヴァー』と名を改め、新たな輝きで世界を照らそう」

  

 するとエンデヴァーは全身に力を込める。

 伸縮性耐火性に優れる筈のヒーロースーツがミチミチと音を立てる。そうさながら内部から溢れ出る力に耐えきれないかのように。

 バンッと風船が割れたような音とともに耐えきれなくなったスーツが弾け飛び、同時に純白の炎がエンデヴァーの体から吹き出す。

 

「人々よ、俺を見ていてくれぇぇっ!!」

 

 世界中の人々が見た新たな日本ナンバーワンヒーローの姿、それは。

 純白の炎に包まれた鍛え抜かれた黒光りする肉体。

 決められたポーズは筋肉が最も力強く見える、モストマスキュラー。

 エンデヴァーはここに新しい自分を世界に見せつけたのだった。

 

 後に語られることになるヒーロー史に刻まれた伝説の最強ヒーロー。

 焰鉄ヒーロー エンデヴァー。

 その始まりを人々はエンデヴァーインパクトと呼ぶ。

 

 

「ボディービルダー会場じゃないですよね此処」

 

「エンデヴァー、すっかり逞しくなって」

 

 ちなみに溢れ出る熱気は予めスタンバってたバリア系個性持ちの皆さんが死力を尽くして防ぎました。

 同じ壇上のヒーロー達は下がるか、クラストさんのシールドでなんとかなりました(ヒーロー公安委員長は避難済み)

 

 

 





 彼の発言を初めて読んだ時に爆れつハンター(古い)のガトーさんを連想してしまって。
 全世界のエンデヴァーファンの皆さんごめんなさい。


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閑話 ホークス視点

 

「焼き殺す気か燃え親父ーーーっ!!」

 

 ガインッ

 後にエンデヴァーインパクトと教科書に掲載されるビルボードチャート発表が終わった舞台裏、なんとか熱気から逃れることはできたが温度が温度のためガチで命の危機だった。

 ヴィランではなく新ナンバーワンにトップテンが殺されるなんてどんな事態だよとツッコミたくなる。

 故にナンバーファイブヒーロー、女性ヒーローのトップであるミルコが激昂して蹴りかかるのは当然のことだと納得できる。

 まあその結果は酷いものだ、頬をおそらく本気であのミルコに蹴られたに関わらずエンデヴァーは平然としており、蹴られた筈の頬は人類を蹴ったとは思えない鋼鉄を蹴ったような音を出してかつ軽く赤くなる程度のダメージだ。蹴ったミルコ本人が痛えーーっ!?と蹴った右足を抑えながら床をゴロゴロ転がっているのに。

 

「む、口の中を切ったか。クロビカリ先生の域は未だに遠いな」

 

 下手したら首もげるレベルの一撃なんですけどソレ。

 鍛え上げて体がどんだけ頑丈になったのやら、やはりエンデヴァーさんは最高だ。

 ヒーロービルボードチャート舞台、ヒール役を演じろ、調子にのった発言をしろと上からの命令に従ったが内容は割と本心だったりする。今までのままじゃ通じない時代はスタートした。オールマイトのいない世界であるともっと意識しないと。

 そう、この短期間でより大きな背中を魅せてくれたエンデヴァーみたいに。

 無個性ヒーローとヒーロー公安委員会の連絡役も担っている俺は超合金クロビカリのスケジュールも当然把握している。そして当たり前のようにエンデヴァーがクロビカリに師事したことも知っている。筋肉とヘルフレイムは混じり合い最強の力へと昇華したんだ。

 最高かよエンデヴァー!?

 事務所の立地やエンデヴァーの実力とかもあって中々接触できない、けど今回直にマイクを渡せたしこちらの言葉に反応してくれて、本当にヒーローやってて良かったよ。

 と、いつまでもエンデヴァーさんとその他を見てるわけにはいかないな。目的を果たさないと。

 

「すいません皆さん」

 

 声をかける相手は、エンデヴァー、ベストジーニスト、エッジショット、ミルコ。自分を含めたヒーロービルボードトップファイブにして無個性ヒーローと縁のあるヒーロー達。そしてヒーロー公安委員会がオールフォーワンや異能解放軍と無関係だと断じたメンバー。

 

「ちょっと時間貰えます?」

 

 待たせていたリムジンを親指で指しながら彼らに要件を伝えた。

 

 

 

「カンパーイ」

 

 アレ、無反応。

 いやミルコは人参を齧ってるな。

 

「どうしたんです皆さん?せっかくの親睦会なんだから盛り上がりましょうよ」

 

 場所を移してヒーロー公安委員会御用達しの飲み屋。多くの職員が利用する行きつけだ。

 メニューも酒も種類豊富だし注文に無理が効く、さらに接客態度も良い評判の店なんだけど、ミルコ以外は手もつけずに腕を組んでいる。

 寡黙なエンデヴァーさんも最高だが、ジーニストとエッジショットはオールマイトを見習ってノリを合わせるべきでしょうに(オールマイトと飲んだことないけど)

 

「それで本題はなんだ?集められたメンバーからしてただの親睦会ではないのだろう?」

 

 流石はエンデヴァーさん、察しの良い。

 

「そうです、ただの親睦会ではありません」

 

 もう少し飲んでから明らかにするつもりだった目的を悟るとは正にナンバーワンヒーロー。

 懐から巻いた紙を取り出し壁に貼り付ける。

 そこに書かれた文字は、

 

『無個性ヒーロー愚痴大会』

 

「「「帰る」」」

 

 即座に立ち上がる三人のヒーロー達。

 

「もはや彼らに遺恨などないわ」

 

「友を悪し様に言う趣味はない」

 

「というか神野の時にしか関わりがないんだが」

 

 いやあ、予想してた反応ですね。

 嫌そうな反応の二人に困惑気味なエッジショット。

 でもエッジショットは話を通しておきたいヒーローなんですよね。

 

「ングングング、プハーッ!!

 番犬マンはもっと私を構えーーッ!! 

 面倒くさそうな反応すんなーーーッ!!」

 

 生ビールのジョッキを飲み干して叫ぶ日本最強の女性ヒーロー。マイペースな彼女は普通にはじめていた。

 まあ常に無表情で鉄面皮な番犬マンが面倒くさそうな表情をするんだからよっぽどウザ(兎に非ず)絡みしていたんだろうなミルコ。

 そのミルコの叫びに呆気に取られたエンデヴァーとベストジーニストはせっかくの機会だからと席についてくれた(エッジショットは二人にあわせて)

 そして愚痴を言い合う親睦会ははじまった。

 

「なぜだ焦凍よ、なんで筋肉ではなくタンクトップなんだ」

 

「大体タンクトップマスターは過保護と言うにはあまりに舎弟を好き放題させ過ぎだ。タンクトップのようにフィットさせるなら、ジーンズの手入れのようにきちんとした指導が必要だというのに」

 

「構えーー、遊べーー、真剣にこっち見ろーー」 

 

「いやなんだこの状況、というか会長まで」

 

「普通に愚痴あるじゃないですか皆さん」

 

 飲んで愚痴を零す三人についていけずに困惑してるエッジショット。

 無個性ヒーローって意外と性格はマトモだけど裏を返せば、性格がマトモなことが意外に感じるくらいぶっ飛んだ行動ばかりってことなんですよね。

 一見マトモなタンクトップマスターもかなり言葉が通じないタイプだし。一番マトモなのが豚神さんの時点でお察しだけど。

 

「俺を見てくれーっ!」

 

「脱ぎだすな燃え親父っ!」

 

「聞いているのかタンクトップマスターっ!」

 

「見てますよっ!エンデヴァーっ!」

 

「待て主催者も酔っぱらい側に回るなっ!

 そしてどこから出したその団扇」

 

 そんなの羽の間に決まってるでしょ。

 酔いが回り脱いでポーズを決めるエンデヴァーとエンデヴァーに蹴りをいれるミルコ、個性でタンクトップマスターを形作り説教するベストジーニスト。

 ミルコが再び足を押さえてゴロゴロ転がる中で団扇を振ってエンデヴァーを応援する俺。

 一人乗りきれないエッジショットはツッコミだ。

 うん、普段はマスコミとかの目があるけどこんな機会もアリだな。

 とはいえそろそろマジの本題に移るか。

 

「じゃ、皆さんに集めた本題を話しますね」

 

 その一言で全員の意識が切り替わる。

 切り替えの速さもヒーローの必須技能だ。

 

「親睦会はカモフラージュか」

 

「そっス。どこに連中の目があるか分からないですからね。未だに信望者のいるだろうオールフォーワンに、一般人の中堅者層に支持される異能解放軍。皆さんを集めて普通に会議は無理ですね」

 

 現状警戒すべき組織はヴィラン連合に異能解放軍。

 それ以外だと突き抜けた単独ヴィランのみだ。

 ヒーロー公安委員会職員が良くやる無個性ヒーローへの愚痴なら疑われる心配もない(ちなみに無個性ヒーロー関連なら経費で飲み代は落ちたりする)。

 トップヒーローで集められたのがこの四人なのも信頼と実力もあるが何より無個性ヒーローと関係あるからなんだ。

 

「それで本題とは?」

 

 エンデヴァーさんの言葉に俺は応える。

 

「俺は上の命令でヴィラン連合に取り入ります。

 素早く情報を集め対処しなければいけないんで」

 

「オールフォーワンを捕縛したのにか?」

 

「脳無作成者を筆頭としたヤツの腹心達の存在がまだ不明なのと、死柄木弔が危険過ぎます」

 

「単なるガキじゃねーのかソイツは?」

 

「タンクトップオールグリーンが最大級に危険視してます、あいつは滝を昇り龍へと至る鯉だと」

 

「彼の見立てなら確かだろうな。そういえば三度の機会で捕縛できなかった事を悔やんでいたな」

 

「しかし良いのか?必要なのは理解できるがあまりにも酷い役割だ」

 

 エンデヴァーさん、貴方に気遣われる事実だけで俺は満たされますよ。

 こんなに嬉しいことはないです。

 

「ヒーロー公安委員会、いや世界各国はもう個性黎明期から続くオールフォーワンとの戦いに決着をつけたいんです。もううんざりしてるんですよ、アレに世界が振り回されることに」

 

 決戦は起こる、全てを終わらせる大戦が。

 その時に完全に準備を整えるために俺の役割こそが重要なんだ。

 

「分かった、こちらの手が必要なら言ってくれ。

 取引に必要な情報も提供する。

 だが、連中が事件を引き起こすなら犠牲者は出ないよう尽力するがな」

 

「そこはヒーローだから全力で救助を頑張ったと言い張りますよ。俺の立場は向こうも重宝するでしょうし」

 

「頼んだぞ、ホークス」

 

 俺はホークス、速すぎる男。

 ヒーローが暇を持て余す社会。  

 必ず手に入れてやる、俺の出せる最高速度で。

 

 




オマケ小ネタ 
 エンデヴァーインパクト後病室にて。


「誰がそのコスチュームを縫うんだい?」

「す、すまん」

「コスチューム会社でしょ母さん」

「「ハハハハ」」

「「??」」

 とある国民的アニメのセリフを言う母親と理解して笑いだす長女に次男。アニメを知らない父親と末っ子は訳が分からずに首を傾げていた。


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109話

 

「エンデヴァー改良版脳無を瞬殺したね」

 

「初撃を黒光りする肉体で受け止めて両断してたな」

 

「凄かったねあの技」

 

「四指焰刃って名前らしいな」

 

「黒光りする超硬度な指にヘルフレイムを濃縮して焼き斬る、まさに必殺技だね」

 

「必ず相手を殺す技過ぎるわ」

 

「脳無が動く死体でどんな細工あるか分からないからこその対処みたいだね」

 

「となると逆に厳しいな、トップヒーローは殺さないでトップを張っている面子ばかりだから殺しきれる破壊力なんてエンデヴァーくらいしかいねえぞ」

 

「シールドヒーローのクラストさんなんかはイケそうだけど、ヒーローそのものが捕縛前提だからねえ」

 

「脳無対策か、ヒーロー業界の課題だな」

 

「むしろ君は脳無相手の適役だからね、轟勝己君」

 

「シャレにならないからやめろ、ご両親とはいつ顔合わせとか言ってんだぞあの新ナンバーワン」

 

 エンデヴァーとホークスの会談中に起きた、会話できる高性能脳無の襲撃事件。

 焼き鳥屋のガラスを突き破って襲いかかる脅威。

 しかし相手はナンバーワンヒーローエンデヴァー。

 黒光りする肉体の防御力、火力の増したヘルフレイムの相手にまるで足りなかったようだ。

 その襲撃事件は報道されたもののニュースにも大して取り上げられず、むしろホークスと街を歩いていた時に取られた時の方が視聴率が高かったらしい。

 というかなんだあの服を脱ごうとした人。

 ホークスに瞬殺されてたけど、報道で暴露された個性が酷すぎだろ。

 昔から生まれ持った個性を嫌うどころか呪う人もいるらしいけど、あんな個性あったら納得だよ。

 あとホークスって速すぎる機動力よりも実は複数のことを同時にこなせるマルチタスクの方が強みだよね、歩きながらトラブルを同時に処理するなんて普通はできないよ。

 もう一つ目を引いたのはエンデヴァーガチ勢のファンの人。

 友達にサイン貰ってこいって言われて、反応してたのに、いざ話して見るとアンタ変わってしもたって血涙流して走りだしたのはインパクトあったね。

 まあファンサービス求められて脱ぎだしてポーズ決めたエンデヴァーは確かに以前より変わったけど。

 そしてそのエンデヴァーのポーズを激写してた一眼レフをどこから出したんだろホークス。

 

「つーかこんなヤバい脳無の情報っていうか映像記録は学生に見せて良いのかよ」

 

 一部ヒーローと一部の雄英高校生に見せられた改良脳無の記録。

 おそらく目的は、

 

「対処しなきゃならない状況に陥る可能性が高いか、対処を任せる予定の人材だからじゃないかな?」

 

 僕達以外に見せられた生徒はA組は轟君に百さんと芦戸さん、B組は物間君に小森さんに吹出君と骨抜君だった。全員に見せるべきだと思うけど実際に対処できそうな人を選んでるね。

 

「身体能力特化、硬度増加、拘束タイプを外しての選出か」

 

「再生個性持ちの可能性あるからだろうね」

 

 物間君は指揮官向きでかつ対処できる個性をコピーすればいい。

 凶悪な再生能力と身体能力をまとめて対処できるそんな存在が求められている。

 

「つーか、ならタンクトップジャングルとタンクトップラビットはなんで対処できたんだよ。素手だったろあの二人」

 

「鍛えた身体とタンクトップによる超パワーがあったからこそだよ」

 

 個性よりもパワー、ヒーローの逆行現状だとテレビのコメンテーターが言ってた。

 初期のヒーローは何よりも戦闘能力重視でマッチョばかりだったらしいし。

 オールマイトが長らくトップだったから、多くのヒーローがオールマイトとは違うことをやろうとして個性をいかに活かすかって風潮になったのかな?

 

「こっから俺達はどうすべきなんだろうな」

 

 やるべきことは学生生活を満喫し将来のための下積みとすること。

 けれど乱れている社会はそんな余裕がないのかもしれない。

 将来の不安に足元がグラついているようだね。

 

「けど、それよりもさ」

 

 ぶつかり合うA組とB組。

 班に別れてのクラス対抗訓練にして心操君のテスト。

 

「強いからって訓練からハブられるの辛いよね」

 

「この後クラス全員と戦り合うから良いだろうが」

 

「もっとクラスのみんなとコンビネーションと戦力とか対策とかしたいんだけどっ!!」

 

「タンクトップで全てを捻じ伏せる珍種がほざくな。とばっちりなのは俺の方だろ」

 

「流石にキノコは厳しいからっ!!」

 

「こないだコモロさんがタンクトップに弾かれたとか言ってたぞ」

 

 戦闘力に対する信頼が強すぎて参加できない授業を眺めながら僕達はアカデミアライフを過ごしていた。

 決戦までの平穏な日々を。

 

 

 



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110話

 

 A組とB組のクラス対抗訓練は無事終了。

 皆自分の課題を見つけ克服していくことだろう。

 となると僕と勝己VSヒーロー科+心操君で戦うのだけれど。

 

「どうする勝己?」

 

 所定の位置で待ちながら、軽く体を解しながら方針を尋ねる。僕は作戦とかに向いてない。

 

「全員の試合見て個性は知れた。

 司令塔潰して各個撃破でしまいだ」

 

「個別に対策は?」

 

「人数が多過ぎるから無駄だ、必要もないしな」

 

「いきあたりばったりの個人戦闘か、いつもどおり過ぎだよ」

 

「正攻法で勝てるなら正攻法でやるべきだ。

 生兵法は大怪我の元だろ?」

 

「違いない」

 

 二人だと作戦も何もないし、向こうは39人。

 それだけの人数、それだけの個性、さらにさっきまで戦った相手との連携など困難すぎる。

 人数が増えたからといって、戦力が単純にプラスされるわけないんだよ。

 A組とB組の対立煽る誰かさん達もいるしね。

 

「けどさ」

 

「?」

 

「嫌な予感するんだよね」

 

 勘だけど。

 

「お前の勘は当たるからな(とはいえ二人で協力しあっても労力が無駄なんだよな)気は引き締めておけよ」

 

「了解」

  

 さて鬼が出るか蛇が出るか、ブサイク大総統はやめて欲しいけど。

 開始の合図とともに歩きだす。

 呼吸は胞子を気にして、物陰には注意しつつも向こうからのアプローチを待つ。

 探して戦るより、攻めて来た人を狩るほうがやりやすい。しかしそろそろ中央につくけどなにもないな。

 

「妙だね」

 

「ああ」

 

 時間制限での決着はない。

 僕ら二人の確保が彼らの勝利条件だ。

 なのになぜなにもない?

 奇襲は勿論、葉隠さん梅雨ちゃんの斥候すらないぞ。

 

「八百万が爆弾作成して骨抜が地下に仕込んでいるのか?」

 

「クラスメートの危険度上げる発想やめない?」

 

 んなことされたらどうしようもないじゃん。

 

「だが囲んだら勝てるなんて考えてるわけじゃねえだろうし」

 

 実力は何度も見せてるしね。

 

「フハハハッ!!」

 

 訓練場で対戦相手達のリアクションがない中で思考していた僕達に響き渡る声。

 同時にズシンズシンと巨大な何かがこちらに向かう音がする。

 

「待ちに待った時が来たぁっ!!

 今日こそは憎きタンクトッパーとオマケを打ち倒す時!!」

 

「「勝己がオマケッ?!」」

 

 この音声はスピーカーか?何かの中にいるのかな。

 サポート科の二大問題児にしてアンチタンクトッパーである発目明さんの声と共に、入り組んだコンクリートジャングルをかき分けてその巨体は姿を現す。

 

「そう、この私発目明の現時点での最高傑作っ!!

 根津校長の資金提供で完成したドッかわいい至高のベイビーっ!!

 究極のパワードスーツにしてヒーローの新しい形となるであろう新境地。

 その実力、憎きタンクトッパーを打ち倒すことで見せつけてやりましょう」

 

 バケツのような頭に十字の顔。

 西洋のフルプレートアーマーを思わせる、雄英高校の仮想巨大敵とはまるで異なる人型。

 そのコックピット内から彼女は叫ぶ。

 

「この破壊男爵(バスターバロン)を!!」

 

 いやマジで?

 

「お前の客だ、なんとかしろ」

 

 ポンと肩を叩く勝己は凄く面倒臭そうな顔で現れた巨体を見ていた。

 

「というか巨大ロボットじゃんアレ?」

 

「パワードスーツと言い張ってるな」

 

 いやロボットならやりようはいくらでもあるけど、仮想敵で慣れてるし。

 けどなんでパワードスーツなんだろ。

 搭乗式のロボットじゃないかな。

 

「やはり舐めてかかりますね。

 だがその驕りを打ち砕くっ!!」

 

 なっ?!

 巨体にあり得ない速度と機動力でその巨拳を振り下ろす。なんだこの動きは。

 

「ふ、麗日ユニットにより軽量化されたボディは重力による負荷を機体に与えない!!」

 

 内部で麗日さんが個性発動してんのっ?!

 

「ちっ」

 

 勝己が旋風鉄斬拳でその拳を切り裂こうとすれば、鋼色の拳はより鈍く輝きさらには見覚えのある突起までもが表面を覆う、その二重の防御は勝己の旋風鉄斬拳すらも防いだ。

 

「さらにぃ、コスチュームに個性を反映するメカニズムを応用した合金は、両肩のコックピットに搭乗し接続されたヒーローの個性をも再現するっ!!」

 

 斬島君の硬化と鉄哲君の鋼化っ!!

 確かにミリオ先輩の透過とかマウントレディの巨大化とかコスチュームに反映される個性もあるけど、それをこの巨体でっ!!

 というか接続?

 迎撃が通じないため回避する僕と勝己は入り組んだパイプに飛び乗りながら個性を再現する巨大ロボットを見る、いや搭乗者の個性を反映するからパワードスーツなのか。

 

「ヒーローには明確な弱点がある。

 それは防御力に欠けること。

 いかに個性が戦闘向きでも、いくら鍛えようと人である以上は強度に大差がない」

 

 一部例外はいるけどね、クロビカリとか新エンデヴァーとか。

 

「鉄パイプを頭に食らったり、銃弾一発で行動不能になってしまうなど当たり前。

 いくらコスチュームで武装しようとも、強固にすれば重くなり機動力が落ちる、またヒーローが顔を売る商売である以上頭部を覆い隠すことができない」

 

 個性やデザイン優先で実戦的じゃないコスチュームは多々あるよね。特殊繊維で頑強に作り上げるにも限度があるし。顔に関してオールマイトみたいに笑顔が大切って理由もあるだろうけど。

 

「だがこの破壊男爵はその弱点を克服したっ!!

 強固なボディは搭乗者の身を守り、個性を安全に発動できるっ!!

 これぞ新たなヒーローのスタイルっ!!

 サポートアイテムこそ新時代を切り開くっ!!

 そうサポートアイテムは、タンクトップを超えたのですっ!!」

 

「なんで比較対象がタンクトップなんだよ」

 

 げんなりと呟く勝己。

 いや別に競ってないんだけどね(勝者の余裕)

 

「さあ、決着の時ですっ!!」

 

 

「いや、そもそもヴィラン相手にそこまで火力いらないからね」

 

「ヒーローが軽装なら、ヴィランはもっと軽装じゃねえか。コスチュームすら無いっての」

   

「というかコレもう別ジャンル」

 

「つーか、ここまで発目がヒートアップしたのは何もかもお前らタンクトッパーのせいじゃねえか?」

 

「いやクロビカリでしょ」

 

 軽口叩きながら目の前のパワードスーツを見る。

 現状再現できる個性を搭乗した鋼の巨人。

 正直、オールフォーワン、ブサイク大総統戦の時以来の危機だ。

 

「負ける訳にはいかないけどね」

 

「なんでだ?普通にヤバいだろアレ。確かに負けるのは嫌だが」

 

「いやだってアレ、ミリオ先輩が天敵だし」

 

「ああ」

 

 個性の相性がねえ。

 

「一応はトップ2なんだ、ビッグ3には負けらんないよ」

 

「じゃあ戦るか」

 

 共に構えて前にでる。

 貫き通すことそれがタンクトップだ。

 

 

 

 

「それでどうしたんです、発目に私財で協力とか」

 

 担当する教師達にすら知らされていない、サポート科発目明の乱入。そして創り出された発明品について担任達は元凶たる校長に詰め寄る。

 

「なに、いい加減あのタンクトッパーには思い知らせるべきだと思ってね、雄英高校の力ってヤツを」

 

 確かに飛び抜けた実力故に周りを下に見ているところはあるがここまでやるほどなのだろうか。

 

「それにね、あのタンクトッパーの野郎っ!!寮の周りにポクテ捕獲用の罠しかけやがってね。しかもチーズだよチーズ、チーズを餌にしやがったんだよ。

 あの時熊を担いだ女の子が助けてくれなかったら今頃朝の食卓に上がってたからね」

 

 私怨じゃねーか。

 そしてチーズに釣られてかかったのか、このハイスペック齧歯類。

 一同の呆れる視線をよそに根津校長は続ける。

 

「さらにだ、そのチーズ傷んでいてね。翌日お腹壊したんだ、絶対許さねえあのタンクトッパー」

 

 傷んでいたから罠に使ったのでは?と担任達は思ったりしてた。

 

「さあやるのだ破壊男爵、タンクトッパーを撃退せよ。爆豪君はとばっちりでゴメンね」

 

 クラス合同授業のシメはより激しさを増していくのであった。

 

 



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111話

コミックス未掲載情報載っているので、コミックス派の方は注意してください。


 

「コレ個人に向けていいもんじゃないでしょ」

 

 現存する兵器で最強じゃないかな?

 

「何もかもお前のせいだろうが」

 

 冷や汗をかきながらをこぼす弱音に空中で飛び跳ねながら避け続ける勝己は呆れたように返す。

 巨大な相手との戦いは慣れている。

 巨大化の個性持ちは意外と多く、分かりやすい強個性であるためヴィランになりやすい傾向にある(重機代わりをするには免許や技能や申請が面倒とか)、武闘家もゴウケツさんの鬼神化やバクザンさんの悪鬼化みたいな巨体化する人も多い。それに8歳から流水岩砕拳を学んできた僕には対戦相手が大きいのが当たり前だった。だから大きな相手との戦いはそう難しいものではない。

 けれど破壊男爵。

 ビルサイズの巨体に高硬度な装甲、重量を感じさせない機動性に複数の個性。これ戦闘力だけならオールフォーワンの上位互換じゃないかな?

 そんなレベルの相手だ。

 さらに、

 

『粉砕巨拳 ピーキーガリバーッ!!』

 

 拳藤さんの個性か、いや小大さんか?

 破壊男爵本体よりも巨大化した右拳を勢いよく振り抜かれる。回避するには距離が足りない、ならば押し返すっ!!

 

「ワンフォーオール百パーセント+発勁+タンクトップ力全開、タンクトップ発勁っ!!」

 

 巨大仮想敵なら消し飛ぶ最大威力の一撃も、破壊男爵の右拳を弾くので精一杯。

 

「爆流鳳昇拳っ!!」

 

 勝己の必殺技は距離があっても高火力の遠距離攻撃として通じる。

 いかに特殊合金であっても直撃すればダメージはあるだろう。

 

『響音防壁 サウンドディフェンダーっ!!』

 

 だが爆炎の鳳が鋼の機神に襲いかかるも、体の各部のスピーカーから放たれる音波が受け止め消し飛ばす。

 耳郎さんに円場君に宍田君の咆哮もかな?

 勝己の遠距離での最強技もまた通じない。

 重複発動する個性をサポートアイテムの機構で増大して巨体が振るう、勝ち目が見えないねコレ。というか個人で勝てる人って、ヒーローなら無個性ヒーロー達にエンデヴァーとブサイク大総統、武闘家ならゴウケツさんくらいじゃないかな?ヴィランでも二、三人いるかどうかでしょ(なお全裸大帝がいたら起動できない)。

 

「ヤッバイね」

 

「マント捌きも中々だな、直接殴ろうにも近寄る前に吹き飛ばされる」

 

 ミリオ先輩が愛用しているようにマントは防具として優秀、火縄銃くらいなら濡れた布で防げるし、硬い装甲よりも衝撃を散らしてくる。あのサイズなら荒波のような武器だしね。

 

『洗脳合唱 ノイズィハーメルン』

 

 そして離れれば広範囲の個性攻撃か、同じスピーカーから今度は攻撃もだよ。心操君と口田君のデュエットもかなりなものだ(そして歌上手いな二人共)。

 飛行するため常に衝撃を放つ勝己とタンクトップを纏う僕には関係ないけど、スピーカーで拡大してるだけでヤバいよねこの個性も。

 

「同時に発動してるがコックピットには限りがある筈だ」

 

「システムにも限度はあるだろうね」

 

「とはいえ発目のことだからどんな武装があってもおかしくない上」

 

「小大さんなら巨大にできる」

 

 下がればジリ貧。

 やはり退路は前にしかない、だからこそ。

 

「敵に向かって撤退だね」

 

「素直に突撃と言え」

 

 鬼島津かテメェはと勝己は笑う。

 

「それにまだ通じる技あるでしょ、僕達には」

 

「アレはしんどいんだけどな」

 

「タンクトップを着れば解決さ」

 

「いやお前らだけだ」

 

「けど」 「やるか」

 

「「轟気空裂拳」」

 

 I・アイランドにて決めた合体奥義、これなら破壊男爵とて打ち倒せる。あれからしばらくお互いに成長だってしているから威力だって段違いだろうしね。

 

『させないよ』

 

 そんな甘えた考えを声の主は許さない。

 

「「なっ?!」」

 

 僕達の間に茨の壁が現れ足場が泥沼のように崩れる、呑まれぬように飛び跳ねるが勝己とは離れ離れになってしまう。

 

『I・アイランドの新たな英雄、その二人の最強必殺技を使わせるわけないよねえぇぇっ!!』

 

 パレードはそこ(破壊男爵内)に居たんだ。てっきり現場指揮官やっているのかと、言動アレだけど何気に優秀だし。

 

「ま、破壊男爵ってのもまだ試作。全ての個性に対応できる訳じゃないだろうし外にいる奴等もいるだろうよ」

 

 従来のサポートアイテムの大型化で充分な人もいる上活かし切れない個性もあるからね。

 

「しかしまあ、大量だな」

 

 勝己が囲まれたか。

 

『君たちは強い。

 その実力は誰もが認め、次代のトップヒーロー確実だと既に世間注目されている。

 僕達の世代は君たちという巨大過ぎる壁がそびえ立ってしまっている。

 それはいくらなんくせつけようと僕だって否定できない事実で現実だっ!!』

 

 こちらに噛みつき倒しのパレードの叫び。

 なんかこう彼にストレートに称賛されると、一周回って怖い。

 

『だからこそ倒す、どんな手を使っても。

 君等に劣っていないと僕達の存在を証明し叫ぶために、死地に飛び込む君たちにおいていかれないためにもねぇっ!!』

 

 物間君。

 

『もう見飽きたんだよ、君たちの背中はさぁっ!!』

 

 個性にコンプレックスを持ち、雄英高校の負の面とも言われたりする彼の叫び。けどそれは劣等感だけじゃない、俺達も頼ってほしい、頼れる存在なんだと悲鳴をあげてるようにも聞こえた。どうりでA組もすんなり協力しているわけだよ。

 

「これも出久のとばっちりのような」

 

 勝己、君は唐突に冷静になるよね。

 首を傾げながら言ってるよね絶対。

 いや勝己は自分から飛び込まないし、ルールを守るからそうだけどさ。

 

「まあなんだ卑怯とは言わねえよな爆豪」

 

「切島、鉄哲除いたヒーロー科近接組勢揃いだ」

 

「ケロ、というか破壊男爵で活かせないメンバーよ」

 

「拘束タイプ個性の厄介さを知らない訳じゃねえだろう?」

 

「挑ませてもらうぞ爆豪」

 

「って破壊男爵が緑谷倒すまでの時間稼ぎだってわすれないでよ」

 

 時間稼ぎが狙いなら逃げの一手もありかな? 

 飛行に黒鞭を駆使すれば逃げるだけならなんとでもなるし。

 

「いいねお前ら最高だ」

 

 やらないけど。

 

「トラウマ超えるために追い続けてきた自分が誰かに追っかけられる。そんな自分に成れたことが誇らしくて嬉しいよ、けどな。

 此処で負ける俺は、お前らが追っかける俺じゃねえよな?」

 

 茨で遮られてるのが悔しいね、多分今の僕のライバル超カッコいいだろうな。

 

「やってみせろよっ!!」

 

 ズダンッ

 回原君かな?突っ込んだの、今の勝己には真正面は駄目だって。

 

「爆裂闘技。サポートアイテムありきな格闘技なんてどうかと思うが俺の新しい手札だ。貯めた爆発液をコスチューム各所から放出して加速する」

 

 BOMッ!!

 

「シンプルだがかなり強いぜ」

 

 両掌が自由になり、加速による起動力と破壊力を増すのかい。脳無に再生能力がセットなら爆発よりもよい手段だね。

 

「さあ、全員まとめてかかってこいっ!!」

 

 

「負けてらんないね」

 

 勝己が気張るなら僕だってやらないと。

 正直厳しいけどね。

 

『ついに観念しましたかタンクトッパーっ!!』

 

『ハハハ、今こそタンクトッパーによる全部乗せの怨みを晴らす時だぁっ!!』

 

『『『結局私怨かよ』』』

 

「逃げるのやめるっていうかさ、大地踏みしめた方が威力でるんだ」

 

 タックルはね。

 マスター、オールマイト、見ていてください。

 これが今の僕最大威力、掛け値なし全力の、

 

「タンクトップタックルっ!!」

 

 水滴とて石を穿つ、力の一点集中の前に装甲の重ねがけとて無意味だ。

 

『知ってましたよ』

 

 それとて彼女達は想定済。

 必ず勝てると確信したからこそ、今日この日の戦いを始めたのだ。

 

『小大さん、今ですっ!!』

 

『大』

 

『出なよ切り札ぁっ!! ソードサムライXっ!!』

 

 刀?いやいくら鋭くとも刃筋をたててない状態で受け止めても、盾ならともかく薄い(比較対象的に)刀身では防げずにへし折れるだけだろうに。

 ガインンっ!!

 だが直撃した時に感じた違和感、これはへし折るどころかまるで砂に突っ込んだように力が逃げるっ!!

 

『新作ベイビー ソードサムライX 

 衝撃吸収装甲開発の副産物ですが、刀身から衝撃を吸収して下緖から放出する。無駄に刀として切れ味よいからサポートアイテムとしては落第ですが、いかなハイパワーとて受けとめることが可能ですっ!!』

 

 しまった、力を込めた分だけ無防備に。

 

『『今です(だ)っ!! 皆っ!!』』

 

『黒影』 『ネビルレーザー』 『キノコ』 『コミック』 『鱗』 

 

 同時に襲いかかる巨大化した放出タイプ個性。

 そして、

 

『いくよ轟君』 『分かった物間』

 

『轟君の個性をコピーして、彼が全力で炎を放つよう冷気でサポートする。USJで君たちが脳無にやったことだろう?お互いの百パーセントを出し切る連携はねぇっ!!』

 

『『極大業火 ブレイズオブグローリーっ!!』』

 

 君は自分の個性を卑下するけどさ物間君。君の力は誰かに寄り添える凄い力だと僕は思うよ。

 

 シャレにならないけどね。

 

『ガンザックオープンっ!!』

 

『ナックルガードセットっ!!』

 

 バックパックで推進力を増して、手甲を装着して破壊力を増す、破壊男爵最強の一撃。

 

『タンクトッパーよ、塵へと還れっ!!』

 

 なるわ(必死)。

 

 

「アレ出久死ぬんじゃね?(冷や汗) やり過ぎだろ怪獣相手にしてんじゃないんだからよ」

 

「「「うん、確かに」」」

 

 

 

「どうすんですか校長?」

 

「正に完全勝利なり!! ………どうしよう」

 

 

 

『アーメン、安らかに眠ってくださいタンクトッパーよ』

 

「勝手に殺さないでくれる?いやガチで死ぬとこだったけどね」

 

 バスターバロンの組まれた両掌の手甲にヒビを入れながら立ち、僕は告げる。

 

『『『『?!』』』』

 

「「「「?!」」」」

 

「僕の切り札だよ(二代目の個性会得できといて良かった、まだ負担大きいから使いたくなかったけど)」

 

 けれど今度こそ本当にお終いだよ。

 

『総員退避ィー?!』

 

「ギアアップオーバードライブ 120%タンクトップパンチ」

 

 対オールフォーワン用切り札の個性である『変速』を用いた最強の一発。

 それは一撃で破壊男爵すらも粉砕した。

 そして僕は伏せて置きたかった奥の手を使わせる程に強くなった仲間達に僕は敬意を抱いたのだった。

 

「次は負けませんよ、タンクトッパー」

 

 砕けた破壊男爵から飛び散る皆を回収し、抱きかかえることになった発目さんにそう告げられた。

 

「次も負けないさ」

 

 とはいってもしばらく再戦は勘弁だけどね。

 変速での肉体の酷使は鍛え抜いた体とタンクトップを着ていても負担が大きい。

 かなりしんどいね。

 黒鞭で掴み、飛行で移動しながら下りる。

 勝己は無事勝利してこちらを見上げていた。   

 皆強くなった、これからも強くなる。

 こうして僕らはヒーローへの道を進んでいくんだ。

 




補足説明

破壊男爵(バスターバロン)
元ネタはジャンプ作品である武装錬金の一つ。まんま巨大ロボットで他の人の武装錬金を本体のサイズに合わせて使える。
他作品の主人公の個性に使いたかったけど、使い道が限られ過ぎたため断念してたのを採用。
技名について
他の武装錬金の名前を採用、それぞれ右手甲、鉄鞭、焼夷弾の武装錬金。一つはオリジナル。
四文字熟語的なヤツは、個人的に好きだし、説明にも良い感じになっていた。 
ソードサムライX 
これも日本刀の武装錬金、能力はまんま。


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閑話 ????サイド

 

 光世界照らせば闇も深く沈む。

 狂乱の果てに救いを見たハゲにより、逸れもの達は集いて一塊となる。

 

『異能解放軍及び敵連合は融合し新たな名を冠する!! 考案は私リ・デストロと連合スピナー!

 さあ! その名を! 死柄木 弔!』

 

「超常解放戦線」  

 

 オールフォーワン逮捕によりもはや名ばかりとすら侮られた彼らはこうして闇の玉座へと上り詰めた。 

 その胸に、未だ言語化できぬ想いを抱えて。

 

 その中、危険を犯しながらも潜り込んだ速すぎた男NO2ヒーロー ホークスは眼前に並ぶ指導者達と明らかに成長した敵連合達を確認し、危機感と共に勝利を確信する。いかに異能解放軍いかに敵連合、切り札足るギガントマキアを合わせようと、最強のヒーローとなったエンデヴァーに自身らヒーロー達、人類のバグたる無個性ヒーローらが力を合わせれば恐るにたらず。

 そう、思っていた。

 その視線に気付くまでは。

 見下し、嘲笑し、呆れ、測る、そんな視線を熱狂する集団に向けるヤツラに気付くまでは。

 

(正気か超常解放戦線。あんなバケモノ共制御できるわけがない)

 

 速すぎた男は焦る、確信した勝利が揺らぐどころではない事態を前にして。

 個人で超常解放戦線、トップヒーロー達を殲滅できる怪物それが四人も集っている現実に。

 

「世界が滅んじまうぞ」

 

 呟きは狂騒の中に掻き消えた。

 

 

 

「焦っているねえー、スパイ君?」

 

「哀れだな、まるで気づかない下の無能共よりはマシな分だけにな」

 

「俺達の存在に勘付いたか、可哀想にな」

 

「ダガカトイッテナニモデキナイ、国家ノ犬トハソウイウモノダ」

 

 集いし四者。

 人にして災厄に至った怪物達。

 一人は擦り切れたボロボロの衣類を纏い、王冠をかぶるこ汚い男。

 名をホームレス帝。

 勤める会社を上司命令のハダカ踊りでセクハラしたとされクビになりホームレス生活の果てに悟りを開いた彼は、美しき母なる地球がため人類の滅亡を誓う。

 尋常ではない破壊力を誇る光球を自在に操り、いくつもの都市を滅ぼした彼は討伐すべき人類の敵として全ての国家から認定されている。

 

「まあ下の考える頭の無い馬鹿共は好きにさせておけば良いさ、契約どおりに我が盟友全裸大帝の復活を果たしたら諸共滅ぼすしな」

 

 目的はこの国のどこかに封印された盟友の復活。

 彼にとって超常解放戦線など利用し使い潰すだけの存在でしかない。

 

 一人は鳥を模した着ぐるみ姿の男。

 番組の打ち切りとともに会社をクビになった彼は着ぐるみに導かれるままヴィランへと墜ちた。

 かつてドンカンバードと呼ばれたその着ぐるみは彼の個性にて進化変容し禍々しく恐ろしい形へと至った。

 覚醒 フェニックス男。  

 ホークスが最速のヒーローならば、彼こそ最速のヴィラン。オールマイトとの交戦経験すらある彼は、進化するヴィランとして各国より警戒されている。

 大国の空軍を個人で壊滅させたこともある、まさに天空の覇者ともいえる存在である。

 ちなみに、同じ衣類関係だからとタンクトッパーが公安に警戒される一因だったりもする。

 

「ヴィランもヒーローも勢揃いの大戦。世界に名を馳せる最高の機会だ(あとリ・デストロと番犬マンを勧誘しよう着ぐるみ仲間だ)」

 

 そして3人目。

 異様なほど青白い肌をした死人が如き青年。

 詳細定かではない彼はただゾンビマンとだけ呼ばれている。

 分かっているのは、世代すら違うと思わせる程の技術や知識を誰であろうと取引する謎の科学者の忠実な部下であること。

 いかなる相手でも必ず勝利すること、その2つのみである。

 主の密命を抱え、不快な連中と顔を合わせながら超常解放戦線に参戦。

 

(人類のバグ共の調査か、面倒な仕事だ)

 

 最後の一人、否一体。

 無機質なロボットは目であり耳であり手足。

 メタルナイトとだけ呼ばれる鋼の軍勢の指揮官であり生みの親であるボフォイ博士は、個性に溺れ振り回される社会を冷めた視点で観測する。

 ヒーローという特異個体に縋る社会に警鐘を鳴らし、平和のための機甲兵団を設立しようと訴えた結果、異端者として追放された人物。

 長き時の末、隣にいる人間を信用せず、自分一人で正義を為せるほどに力を蓄えた彼は、自らの理念の為にそこにいた。

 

「オロカナレンチュウダ」

 

 

 光と闇、ヒーローとヴィランは集結し。

 大戦の時は迫る。

 



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113話

久しぶりで書き方が。
とりあえず繋ぎ回です。


 

 ガチで雄英高校は僕を殺しにきてんじゃないかなって授業を受けたが、流石にやり過ぎなため校長は教師陣から罰を与えられることになったそうだ。

 まあ完全粉砕されたバスターバロンにかかった費用だけでも十分な気がするのだが、それても許せないことらしい。確かにセカンドの個性に目覚めていなければ死んでいたわけなのではあるが。

 今回発目さんの創り出したバスターバロンは本人の言うように新しいヒーローの形に成りそうな存在だが、それは見送られることになった。

 理由としては費用の問題、ヒーローが人気職業な理由の一つに身一つで始められる開業費用の安さがある。許可についてはヒーロー養成機関を卒業すればなんとかなるし、事務所は自宅アパートでも良い、コスチュームも規定がないためホームセンターで自作する人もいる(なおタンクトッパーはタンクトップ)。だがバスターバロンとなると流石に個人所有は無理だろう。それこそ国が施設を用意して運営しないと無理なレベルだ。

 もう一つはあるヴィランの存在。

 ロボット軍団を使役するメタルナイトと呼ばれるヴィラン。どうやら科学者であるそのヴィランにバスターバロンが奪取、操作されないという確証が政府は持てなかったのだ。ロボットの警備が一部を除いて一般化されない最大の理由がメタルナイトにあるのだから仕方ないことだろう。

 来たるべき大戦、その切り札に成り得る力はこうしてお蔵入りとなったのだ。

 

 そんな中過ごす日常で、泥花市において大規模なヴィランの事件が発生した。

 犠牲者多数で都市壊滅、被害規模は死傷者のでなかった神野とは比べ物にならないほどのものだったとのことだ。

 しかし妙だな、オールマイト現役時にも滅多になかった大事件にしては報道が少ない。それに事件の規模の割にヒーロー側にあまりにも情報が流れてこない。各地に派遣されるタンクトッパーはそれなりに顔が広いし、個人レベルの付き合いまで含めたら意図的に避けてるヒーロー以外は網羅していると言っていい。なのに誰も泥花市については関わりがない。

 疑わしいが、この規模の事件を改変できる組織なんているのだろうか。

 さらにヴィラン連合を警戒している公安が果たしてそんな予兆を見逃すか疑問に思うところだ。いかに当代最悪のヴィランであるホームレス帝に覚醒フェニックス男の足取りが掴めていないという大問題が発生しているとは言えあまりにもおかしい。

 マスターに相談すべきか、しかしタンクトップ事務所は依頼専門で独自調査は余計な疑念を持たれるからできないんだよね。

 受け身体質、これもヒーロー側の欠点だ。

 そしてヴィランにつけこまれる隙でもある。

 

 学生生活に専念しろ、そうマスターは言うが何かをしなければと焦ってしまう。

 いや分不相応なこの思考こそが力を得てから持ってしまった己の驕りなのだろう。

 やるべき立場の人がやることに力があるからと首をつっこむべきではないのだから。

 

 そんなこんなでいざ授業。

 特別講師として招かれた現役美麗注目株であると自称するマウントレディによるメディア演習。

 ショービズ色濃くなっていたヒーローに真の意味が求められている、と本人は言うがショービズの代名詞みたいな彼女に言われても。まあ女性ヒーローには特にこういった側面が強い業界だけど。

 しかしヒーローインタビューの練習か。

 タンクトッパーには無関係なんだけどソレ。

 というか世間に混乱を起こすからと公安に禁止されている業務の一つだ。

 そのことから僕とタンクトッパー志望の轟君は不参加確定だ。今までの事件から露出こそしてるが発言と報告は公安職員を介してのものだし。

 ヒーローとしてのスタンスが決まっている僕は割とこういった合わない授業がある。

 もっとも最近の情勢しだいではそうはいってられないかもしれないが。それでも無個性ヒーロー、そしてタンクトッパーはメディアに取り上げてよい存在ではないのだから。

 タンクトップ事務所に入るからと難色を示す轟君が強引に参加させられ、そのイケメンフェイスと天然ぶりに盛り上がる。必殺技のお披露目もおこない、インタビューにはあらゆる意味があるのだと理解する。

 クラスの皆が意外とちゃんとできている様子に僕は感心していた。

 何よりも笑顔、それがヒーローに必要なのだと伝わってくる感じだった。

 そして僕の番、必要ないけど授業だからやる。

 そう、ならば語ることは一つ、

 

「タ「お疲れさまでしたっ!!」」

 

 途中で遮るくらいならやらせるなよマウントレディ、さてはこないだの非公式人気投票でタンクトップガールに大差で負けた腹いせだな?

 

「こういった風に妨害される場合もあるから覚えておくようにね」

 

 メディアと揉めるとこんなことも意図的にされるらしい、真っ黒かヒーロー業界。アングラ系ヒーローが支持される理由だったりする。

 

 日常は過ぎる、嵐の前触れのように穏やかに。

 悪意という名のバベルの塔が積み上がる中で、果たしてヒーローは打ち砕ける雷となれるのだろうか。

 

 



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