『SPY×FAMILY』×『Lupin the Third』〜輝く宝石はスパイと泥棒を呼ぶ〜 (VOSE)
しおりを挟む

プロローグ〜Lupin side:半分のかけらを盗んだ男〜

どうも、VOSEです。
前回の酷い作品を見てくれていた人たちからは、大変なご迷惑をおかけいたしました。
次からはなんとか残していきたい気持ちで書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
さて、今回もまた、ちょっと面白いかなと思って書き始めたものを、プロローグだけですが2つ分投稿いたします。
この作品もまた更新が不定期になると思いますが、何卒ご理解の程、よろしくお願いします。
また、あらすじにも書いてあると思いますが、ベースとなる世界観の方を原作としていますが、もう片方の作品のキャラクターをメインに書いていることもありますので、ご注意ください。
それでは、長くなりましたが、ぜひご覧ください。
プロローグだけですが、どうぞ。


…ある日の夕暮れ…

ヨーロッパのとある国でのこと…

 

ジリリリリ…

 

警報の鐘の音が高らかと鳴り響いている。

鳴っている場所は銀行。

 

「おい!金塊がなくなっているぞ!」

「宝石もなくなっている!」

「貸金庫がやられた!早く犯人を捜すんだ!」

 

銀行を守っていた警備員たちは、血眼になって犯人を捜す。

しかし、犯人は既に遠くへ逃げていた。

 

「オホホホ!やったなぁ!次元!」

「おうよ!今日は楽勝だったな!ルパン!」

 

サル顔の男と、顎髭を蓄えたソフト帽を被った男が車に乗って陽気に談笑していた。

サル顔の男は、かの有名な怪盗、『アルセーヌ・ルパン』の孫である『ルパン三世』。

ソフト帽を被っている男は、そのルパン三世の相棒である『次元大介』。

2人は世界を股にかける大泥棒とその良きパートナーとして、今日も泥棒稼業に勤しんでいた。

 

「しかし、今日は予告状送っておいたのに、銭形のとっつぁんが来ないんだが…」

「どうせ今頃、何かしら企んでるんだろ…と思ったらお出ましぜ」

 

ルパンがふと、車のバックミラーを見ると、警察車両がゾロゾロとルパンの車を追いかけていた。

こんなにも早くルパンの後を追えることができたのか…

それはある男の存在がいたからである。

 

「ルパーン!観念しろー!」

 

拡声器を使ってルパンを呼ぶ男が、それである。

 

「おぉー!とっつぁーん!意外と早いなぁ!」

「ハッハッハ!この俺がお前のことを見逃すとでもおもったか!今度こそ、逮捕してやる!」

 

茶色のソフト帽に茶色のトレンチコートと、茶色づくしの風貌で現れたその男は、ICPOのルパン三世専属捜査官として活躍している銭形警部だ。

 

「それにしても早すぎやしないか?」

「多分張ってたんだろ。ま、そんなの、天下のルパン三世にかかればチョチョイのチョイってもんよ」

 

ルパンはそう言って不敵な笑みを浮かべると、車のスピードを一気に上げて、警察から逃れるように街中を縦横無尽に駆け巡った。

それこそ、大通りで大胆不敵に走っていくと思いきや、急ハンドルで路地裏に回るように走り、その行く先々で関係のない車を衝突させながら追手を突き放した。

 

「…まいたか?」

 

次元がふと、言葉を漏らした。

バックミラーにはパトカーが映っていない。

 

「そうみたいだな」

 

ルパンは笑顔で車を飛ばした。

一方の銭形警部は…

 

「くっそー!ルパンめ!今度こそ捕まえてやる!」

 

高く積み上げられてしまった車の山の、1番下で下敷きにされながらお決まりのセリフを漏らしていたのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…ルパン達がしばらく車を走らせると、ある家にたどり着いた。

赤い屋根の、ごく一般的な民家であるが、この家がルパンのアジトである。

アジトについたルパン達を中で待ち構えていた者がいる。

 

「たーだいまー!」

「あーら、おかえりなさい」

「おぉ!ふーじこちゃーん!」

 

峰不二子…ルパン三世の仲間の1人で、誰もが羨むような容姿端麗な女性ながら素性がわからない謎の女である。

 

「それで、今回の成果は?」

「みーてみて!こーんなに宝石盗ってきたのよ!」

 

ルパンはそう言うと、不二子の目の前にテーブルを置いて、盗んできた宝石や金塊をバッと広げた。

 

「すごいじゃない!さすがルパンね」

「だろだろぉ?ほぉら、お礼のキッスちょうだぁい!」

 

ルパンは不二子にキスをせがんだが、不二子はそんなルパンを放って宝石や金塊を手にした。

 

「ありゃりゃ…」

 

ルパンはキスをするために前のめりになっていたため、前に倒れてしまった。

 

「ったく…相変わらず不二子ちゃんはお宝に弱いんだから…」

「だって、今回の計画、私抜きじゃできなかったでしょう?あのセクハラ頭取の秘書になるのに必死だったんだから」

 

不二子は男が悩殺するようなその身体を使って、さまざまな所に潜入することができ、今回のルパンが行った強盗計画も、不二子が銀行の中に入ってセキュリティなどを調べ上げて出来た計画でもあったのだ。

 

「まぁったく…俺らだって大変だったからな…」

 

ルパンはそう言って散りばめられた宝石を一通り見回していると…

 

「…ん?これは…」

 

ルパンがある宝石を取った。

プリンセスカットにされている青く輝くサファイアのような宝石であった。

ただし、その宝石は何故か半分にカットされている。

 

「どうしたんだ?ルパン」

 

次元がルパンに近づいてその宝石を覗くように見た。

 

「…ちーっとこの宝石、どこかで見たようなことが…」

 

と、ルパンがつぶやいたその時だ。

外からいきなり機関銃で攻撃され始めたのだ。

 

「どひゃぁあ!」

「うわぁっ!?」

「きゃぁぁっ!」

 

ルパンと次元、不二子はそれぞれテーブルやソファを盾にして機関銃の攻撃を防いだ。

 

「ルパン!これはどういうことだ!?」

「俺が知るかよ!」

「ルパン!どうにかして!」

「んなこと言われたって!」

 

機関銃による攻撃はしばらく続き、数分経ってようやく落ち着いた。

 

「…なんなんだ?」

 

と、ルパンはそうつぶやいたそのすぐ後、何かの気配を察知した。

同じように次元と不二子も、何かの気配を察知し、それぞれ身を潜めるように隠れた。

その数秒後、不意にドアが勢いよく開かれた。

 

「ちっ…いねぇか…」

 

黒のスーツに黒の帽子を被った、全身黒ずくめの男が入りながら、部屋をぐるりと見回し始めた。

 

(…次元、不二子。3つ数えるから出てくれ)

(了解)

(わかったわ)

 

ルパンのアイコンタクトに、次元と不二子もアイコンタクトで返事する。

長年様々なところでともに活動していたこともあって、ルパンと次元、そして不二子は互いにアイコンタクトを送ることで意思疎通ができていた。

 

(3…2…1…)

「今だ!」

 

ルパンの号令とともに、3人は隠れていたところから一斉に飛び出した。

 

「んなッ!」

 

黒ずくめの男はいきなり飛び出たルパンたちに驚き、慌てて持っていた銃で応戦しようとした。

しかし…

 

「このっ!」

「はぁっ!」

「ふんっ!」

 

ルパンからは顎を、不二子からは尻を、次元からは鳩尾をやられ、黒ずくめの男はそのまま意識を失った。

 

「なんだ、こいつ」

「物騒なものを持ってきやがって」

 

男が持っていたのはM4カービンと呼ばれるアサルトライフルであった。

 

「ったく…どこのやつなんだ…」

 

と、ルパンがつぶやいたその時だ。

 

「動くな」

 

ドアの方から声が聞こえてきた。

ルパン達がふと振り返ると、先程倒した男と同じような格好をした男達がずらりと並んでおり、その先頭にいる男が銃を向けていた。

 

「おいおい、危なっかしいなぁ。つーか、誰だ?お前」

「お前らに言う資格はない」

 

黒ずくめの男は厳格そうな声で言った。

 

「それで、ルパン三世…その『西国(ウェスタリス)の希望』をこちらに渡せ」

 

男はルパンを知っているらしく名前を言った後、ルパンが持っている宝石を渡すように要求した。

 

「だーれが渡すもんかよ!こっちはようやく手間ひまかけて盗んだものなんだぞ!?」

「それはご苦労だった。それじゃ、それに見合う報酬も渡そう。さぁ、こちらに渡してくれないか?」

「それでもやなこったよ!」

「そうか…それじゃ、力づくでも奪わせてもらおう!」

 

男はそう言うと、持っていた銃をルパンに向けて撃ち始めた。

 

「アババババ…」

 

ルパンと次元は足元に撃たれた銃を、ダンスを踊ってるかのごとく避けた。

それと同時に、持っていた宝石を何者かに奪われてしまった。

 

「あっ!」

 

その盗んだ相手というのは…

 

「ごめんなさいね、ルパン」

 

峰不二子である。

 

「あ!不二子!汚いぞ!」

「何が汚いのかしら。あなただって泥棒をしてるのに」

「くっ…このぉ…」

 

言葉でルパンを封じ込めた不二子は、静かに黒ずくめの男の方へ寄る。

 

「これ、あげるわ」

 

不二子がそう言うと、男は口角をにっと上げた。

 

「そうか…それはありがたい」

 

男が宝石を取ろうと手を伸ばすが、不二子は器用に宝石を掌の中に収める。

 

「タダではあげないわよ?ほら、あなた言ってたじゃない。報酬を渡すって。それについて交渉したいのよ」

「ふむ…そうか…ならば、一緒に来てもらおうか」

「いいわ。それじゃ、ルパン。またね」

 

不二子はそう言うと、黒ずくめの男と共にドアの向こうへと消えていった。

 

「…追わねえのか?」

 

静けさが戻った後、次元が静かにルパンに呟いた。

 

「あぁ。大体の検討はついてるしな」

 

ルパンはそう言うと、窓辺に出てタバコを咥えた。

次元もそれにつられてタバコを咥える。

2人は各々タバコに火をつけ、すうっと吸って、ふうっと吐いた。

 

「…西国(ウェスタリス)…心当たりはあるか?」

 

しばらく吸って次元がルパンに問うと、

 

「まぁな…」

 

ルパンはどこか感慨深そうに答えた。

そしてルパンは、吸い終わったタバコを地面に落として靴で消すと…

 

「行くぞ、次元」

 

次元を呼んでドアの方へと向かった。

 

「ん?どこへだ?」

 

次元が行き先を聞くと、ルパンは横顔を見せた。

まるで子供のようなウキウキとした笑顔を見せたルパンは、次元に静かに伝えた。

 

東国(オスタニア)だ」

 

 




後書きはもう一つのプロローグに載せます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

プロローグ〜SPY side:最強のスパイに課せられた任務〜

前書きはもう一つのプロローグに載っています。


東国(オスタニア)のとあるアパートの一室…

そこには一風変わった家族が住んでいる。

 

「おい!アーニャ!ここはこうだって言っただろ!」

 

声を荒げているのはロイド・フォージャー…職業は精神科医だが、それは表の顔。

裏の顔は、隣国西国(ウェスタリス)のスパイ、コードネーム『黄昏』である。

 

「うぅ…アーニャ、わからない…」

 

拙い言葉で話す少女はアーニャ・フォージャー…見た目は普通の女の子だが、元々はとある組織の実験で生まれた超能力者。

その能力は人の心が読めるというものである。

 

「全く…昨日結局進めたのはノート1ページだけじゃないか…今日こそは宿題全部終わらせないとまずいのに…」

 

と、ロイドが頭を悩ませていると…

 

「2人とも。とりあえずコーヒーとココア、飲みませんか?」

 

そう言ってコップを持ってきた女性は、ロイド・フォージャーの妻のヨル・フォージャー。

職業は市役所職員。

ただこの顔も表の顔で、実際の職業は…殺し屋。

コードネーム『いばら姫』と呼ばれる暗殺組織『ガーデン』の1人である。

 

「ありがとうございます、ヨルさん」

「いえいえ、ここ最近忙しかったから、少し一息ついてもらおうかなって」

「はは、あざざます!」

 

この3人の家族は、それぞれバラバラである。

アーニャはロイド、ヨルの血縁関係ではないのだから。

この家族は、それぞれの利益のために集まった、言わば『偽装家族』みたいなものである。

それでもこうやって屋根の下で幸せそうに暮らしているのである。

と、そこへ…

 

「ボフッ!」

 

一匹の犬がやってきた。

かなり毛むくじゃらで、小柄なアーニャよりかなり大きい図体をしている。

 

「あ、ボンド!ボンドもきゅーけいする?」

「ボフッ!」

 

犬の名前はボンド・フォージャー。

由来はアーニャが見ているアニメの主人公から。

そのボンドにも秘密がある。

それは、ほんの少し先の未来が見えるというものだ。

ただし、その未来というのは、努力次第で見え方が変わることもできるという。

 

「ふーっ…ははのつくるココアはせかいいち〜」

「ふふっ、ありがとうございます」

「ボフッ!」

「あらあら、ボンドさんも口いっぱいミルクまみれですよ」

 

何気ない家庭の一コマ。

それを静観してたロイドは思わず微笑んだ。

 

「…やはり、ヨルさんのコーヒー飲むと落ち着くなぁ…」

「そう言ってもらえると嬉しいです」

 

と、それぞれが休んでいたその時だ。

ジリリリリ…と一本の電話が鳴り響いた。

 

「ん?なんだ?」

 

ロイドがその電話に出るも、受話器から流れてきたのはブザー音だけだった。

しかし、ロイドは凄腕のスパイ。

このブザー音の意味をすぐに理解した。

 

(これはTE暗号…『黄昏、すぐに本部へ来るように』…か…)

 

ロイドは暗号を口に出さずにすぐさま解いてみせた。

しかし、この暗号を解読した…というより、読んだ子が1人いる…

 

(ちち、またスパイのおしごと…)

 

心が読めるアーニャである。

ロイドは受話器を静かに開いた後…

 

「アーニャ、ヨルさん。すまない。急患が入ってきたようだから、ちょっと出かけてくる」

 

アーニャとヨルに申し訳なさそうに、出かけることを伝えた。

 

「いえ、大丈夫ですよ」

「ちち、しごと、がんば」

「ありがとう、2人とも」

 

ロイドはそう言うと、すぐに身支度をして出かけたのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

西国(ウェスタリス)の諜報機関、〈WISE〉…

東国(オスタニア)におけるスパイ活動の大元の組織である。

その組織の本部へとやってきたロイド…『黄昏』は、〈WISE〉の管理官(ハンドラー)である『鋼鉄の淑女(フルメタル・レディ)』のシルヴィア・シャーウッドと対峙していた。

 

「お疲れ様です、管理官(ハンドラー)

「よく来てくれた、『黄昏』。いきなりで申し訳ないが、早速本題に入る」

 

高そうな革の椅子に座ってる管理官(ハンドラー)は、いくつかの書類を『黄昏』の前に出した。

その資料のメインとなる写真に写っていたのは、プリンセスカットしたものを半分にされた、青く輝く宝石である。

 

「これは?」

西国(ウェスタリス)が海外の銀行の貸金庫で厳重に保管されていた『西国(ウェスタリス)の希望』だ」

西国(ウェスタリス)の希望?」

「そうだ。この宝石は一般市民はおろか、我が国の官僚クラスの人ですら知らない人もいる幻の宝石だ。半分にカットされているとはいえ、その価値は国家の予算の数十倍とも言われている」

「これがですか?」

 

『黄昏』は疑うようにその宝石が写った写真をくまなく見た。

 

「今はほんの一部しか知らないこの宝石なのだが、今回盗ませたそうでな…」

「貸金庫から盗んだ…?」

「あぁ。上からは、その宝石は国の大切な宝物の一つだそうで、血眼を変えてまで奪還するように要求したらしい」

「なんでその任務を〈WISE〉に?」

 

『黄昏』は当然のような質問を管理官(ハンドラー)になげかけた。

西国(ウェスタリス)も関わっているとはいえ、他国で起きた事件を〈WISE〉が担当するというのはいささかおかしい話である。

しかし、管理官(ハンドラー)は冷静に事の説明を始めた。

 

「今回盗まれた『西国(ウェスタリス)の希望』を盗んだ犯人が、こちらに向かっているとの連絡を受けた」

「犯人が?」

「そうだ。その犯人なのだが…『黄昏』も一度は聞いたことがある名前だ」

「俺も?」

「あぁ。その犯人の名前は…ルパン三世」

「っ!?」

 

『黄昏』はスパイであるにも関わらず、驚きの表情を見せた。

 

「ルパン三世って…アルセーヌ・ルパンの孫の…」

「その通り。先程別の組織の諜報員が、ルパン三世がこの国へと向かっていることが判明した。どういう理由なのか分からないがな」

 

管理官(ハンドラー)は長いため息を吐いて、徐に立ち上がった。

 

「今回『黄昏』に依頼したいのは、このルパン三世を捕らえ、宝石のありかを見つけること。分かり次第、我々で奪取し、西国(ウェスタリス)へ戻す。わかったな」

「了解した」

 

『黄昏』はそう言うと、ゆっくりと出口へ向かった。

 

「あぁ、それと…」

 

そんな『黄昏』を、管理官(ハンドラー)はすぐに引き止めた。

 

「…ルパン三世は、変装の名人だ。お前なら心配ないだろうが、気をつけるように」

「了解した」

 

『黄昏』は管理官(ハンドラー)の忠告を受けた後、再び出口へと向かったのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「ただいま」

 

夕暮れ…

『黄昏』…ロイドは、家に着いて家族に帰宅の挨拶をした。

 

「ちち、おかえりー!」

「ロイドさん、おかえりなさいませ」

「ボフッ!」

 

アーニャ、ヨル、ボンドがロイドを出迎えた。

 

「今日は早かったですね」

「患者の容態が悪くなかったので、すぐに帰ってこられました。とりあえず、夕ご飯作りますね」

「お願いします」

 

フォージャー家の家事は主にロイドが担当しており、掃除だけヨルがやる仕組みになっている。

なので、夕ご飯が待ち遠しかったアーニャはというと…

 

「ちち、はらへった」

 

と、挨拶の後すぐに倒れながら言った。

 

「はいはい、今作ってやるからな」

 

そして、ロイドが急いで料理を始めた。

その最中…

 

(…ルパン三世…すぐにお前を見つけて、宝石のありかを見つけ出させるからな)

 

ロイドが心の中で言った事を、不覚にもアーニャに聞かれてしまい…

 

(ルパンさんせい…誰だろ…)

 

と、好奇心を駆り立ててしまったのであった…




いかがでしたでしょうか?
まだプロローグの段階ですが、これからまだじっくり作品を作る予定ですので、長い目で、そして温かい目で見ていただけると幸いです。
では、今回はここまでにさせていただきます。
次回をお楽しみに。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1話〜東国(オスタニア)へ向かう途中で…〜

東国(オスタニア)へ向かう1台の車…

アルファロメオ・6C1750・グランスポルト…

ルパン三世の愛車である。

 

「ふぅ…風が気持ちいいなぁ、次元」

「そうだな」

 

仲良くタバコを吸っているのは、ルパンと次元。

しかし、ただのんびりとドライブを楽しんでいる様子ではなく、何かに注意しながら運転しているようだった。

 

「…ルパン、さっきからコソコソと嗅ぎ回ってるのはなんなんだ?」

「さぁな…少なくともとっつぁんとは関係なさそうだ」

 

ルパンの運転する車の後を追う、1台の黒塗りの車…

 

「見失うなよ…」

「わかってまっせ、先輩」

 

その車の中には2人の男がいる。

どちらもベージュのコートに、ベージュのソフト帽をかぶっている。

 

「しかし、俺らは今、あのルパン三世を追ってるんすよね、先輩」

「あぁ。まさかこんな時が来るとはな…」

 

2人は感慨深そうにルパンの乗る車を追跡していた。

 

「もし、ルパン三世を捕まえたら、俺らどうなるんすかね」

「さぁな。ただ、捕まえて吐き出させたら昇級は確実だろうな」

「おぉ!いいっすね!それじゃ、どこか止まったタイミングでも…」

「うるせぇ。しばらく黙って追ってろ」

 

しばらく車を走らせていくと、ルパンの車がとあるガソリンスタンドに止まった。

男達もその様子を見て、ルパンに気付かれないように車を止めた。

 

「…ルパン達、中に入りましたね」

「…行ってみるか」

「お?先輩行くんすか?」

「『黄昏』には及ばないが、少なくとも俺らもスパイの端くれだ。こういう状況で今のうちに手を打てば、あとが楽になる」

「了解っす!」

 

男2人はそう言うと、車を出てルパン達の後を追った。

 

「お前は後ろから回れ。俺は店内から入る」

「わかりました!」

 

小声で連携を取った2人はそれぞれの持ち場へと行き、ルパンの様子を見ることにした。

先輩の男が店内に入り、ドアのベルがチリンチリンとなった。

 

(…2人ともトイレか…)

 

男はそう思って、入り口付近で店内を物色していこうとしたその時だった。

カチッ…

男の後ろで音が聞こえ、頭に何か突きつけられる感覚を覚えた。

 

「…よぉ、ご苦労さん」

 

男に声をかける1人の男。

次元大介だ。

 

「っ!?馬鹿な!?」

「どこの馬の骨かわからんが、コソコソと俺らを嗅ぎ回ってるようだな」

「…それがどうした?」

 

男は長らく修羅場を経験しているらしく、頭に銃を突きつけられても冷静にいられた。

 

「単刀直入に聞こう。お前らは何者だ」

「…素直に話すとでも?」

「まぁ、いいさ。まずは少し眠ってもらおうか」

 

次元はそう言うと、銃のグリップを使って失神させた。

 

「ふぅ…ずっとコソコソと嗅ぎ回りやがって…」

 

次元はそう言うと、タバコを取り出して火をつけた。

一方、裏から回った後輩の男は、ゆっくりと通用口から入り、周囲に警戒しながらトイレに覗き込んだ。

 

(…今頃、先輩捕まえてるかなぁ…)

 

男がそう思ってトイレに入ったその時だ。

ドスッ!

と音がして、男が気絶した。

トイレの入り口の上でルパンが潜んでいたからである。

そのルパンに頭を叩かれた男は気絶してしまったのだ。

 

「ちょーっとばかし、寝ていな」

 

ルパンはそう言って、男の腕を背中で縛り、足も縛って拘束した。

その直後、トイレのドアが空いて、次元が中に入ってきた。

 

「ルパン、そっちは終わったか?」

「もちろん」

 

ルパンは男を担いで入口まで行き、先輩の男の隣に置いた。

 

「さぁて、どこのネズミの者かなぁ…」

 

ルパンはワクワクしながら彼らのコートの中を漁り始めた。

しばらくして、ようやく財布らしきものを見つけたルパンは、その中をさらに漁り始める。

 

「…んーっと…こいつは西国(ウェスタリス)のものだな…」

西国(ウェスタリス)?あの宝石の名前にもなっている…」

「あぁ。早速嗅ぎつけたみたいだな」

 

ルパンはそう言いながら、そそくさと店を出て車に乗った。

次元もその後に続いて車に乗り、ルパンはそれを確認して車を走らせた。

 

「…それでルパン。俺らはこれからどこへ行くんだ?」

西国(ウェスタリス)…と言いたいところなんだが、東国(オスタニア)にちょっと寄るぜ」

東国(オスタニア)?なぜなんだ?」

「あの宝石はちょっとした仕掛けがあってだな…と言っても、俺の記憶違いってのもあるんだが…もし記憶が正しければ、東国(オスタニア)にも同じような宝石があったんだよな」

「もしかして、お前が昔ドルーネから依頼を受けた、あの『トワイライト』と同じような仕掛けとでも?」

「さぁな…ただ、もしかするとそうかもしれん。いかんせん、俺の爺さま…ルパン一世が残した記録でしか見たことないからな」

 

ルパンは少し呆れながら次元に話した。

 

「お前のじいさんもその宝石狙ってたのか?」

「あぁ。今は戦争のせいで、鉄のカーテンで分断されている東国(オスタニア)西国(ウェスタリス)だが、かなり昔は一つの王国で、その王族が代々引き継いできた宝石があるんだが、それが半分になって出来たのが『西国(ウェスタリス)の希望』、そして、今回俺が狙う『東国(オスタニア)の夢』だ」

「『東国(オスタニア)の夢』…それが次のターゲットか」

「そぉいうこと」

 

ルパンはいつものような口調で次元に話した。

 

「しかし、何で今度は『東国(オスタニア)の夢』を狙うんだ?この前『西国(ウェスタリス)の希望』を誰かに盗られたばかりだろう」

「まぁ、こいつは俺の興味半分ってとこだな。せっかくならもう片割れも盗んでみたいじゃん?グフフフ…」

 

ルパンはまたいつものような笑い声で、次元を少々呆れさせていた。

 

「…それでルパン。次のターゲットはどこにあるのかわかってるのか?」

「さぁ。でも、手掛かりがあるのよ」

 

ルパンはそう言うと、とある紙と写真を次元に見せた。

写真は2枚あり、1枚は白い髭を蓄えた太めのおじいさんが高そうな椅子に座っているもの。

もう一枚はその男と、赤くロングの髪が特徴的な可愛らしい女の子が一緒に写っているものである。

 

「…こいつは?」

「ショーン・マクラルーン。東国(オスタニア)における一番の富豪で、今『東国(オスタニア)の夢』を持っている男だ」

「この男がか?なんで国が持っていない?」

「どちらも戦争で大打撃受けるが、東国(オスタニア)ではそれが少し顕著になってるみたいでな。少しでもお金にしようとオークションにかけてしまったらしい」

「なるほどな…それで、この女の子は?」

「こーのかわい子ちゃんは、ショーン・マクラルーンの孫娘、グレース・マクラルーンって子で、すっごい気品が溢れてて、おーれの好みなのよ!」

「はぁ…」

 

女の子のことになると饒舌になるルパンに、次元はまたかと言わんばかりにため息を漏らした。

 

「なんだ?文句あるのか?」

「お前、大体こういう女の子に弱いだろ…その癖、いい加減に治した方がいいぜ」

「んだとぉ!?」

「んで、なんでこのグレースって子の写真なんか持ってきてるんだ?」

「ショーンは多忙で滅多に姿を現さないが、グレースが東国(オスタニア)にあるイーデン校って場所に通っているお陰で、そこに通っている人などを招いてパーティをよくやっているんだわ。しかも毎週ね」

「毎週か…さすが富豪だな」

「んで持って、今回このパーティに潜入して、『東国(オスタニア)の夢』のありかを教えてもらおうっていうわけ」

「なるほど…理解した」

 

次元はそう言うと、持っていた紙をばっと放り投げた。

しかし、ルパンはそれに留める様子はなく、むしろ安堵の笑顔を見せていた。

 

「さぁて…着いたら何が待っているのか、楽しみだなぁ」

 

ルパンはまるで子供のような笑顔を見せて車を走らせたのだった…




いかがでしたでしょうか?
今回はまだ話が進んでいませんが、ここから先なんとか書いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
では次回、お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話〜ちょっとの手伝いと大きなお返し〜

東国(オスタニア)にある由緒ある学校…イーデン校…

アーニャはこの学校に通っており、毎日飽きない生活を送っている。

 

「アーニャちゃん!おはよう!」

「ベッキー!おはやいます!」

 

アーニャの元へ駆けてくる1人の女の子。

名はベッキー・ブラックベル。

東国(オスタニア)の大手軍事企業、ブラックベルの娘である。

 

「そういえば、アーニャちゃん見た!?昨日のドラマ!」

「アーニャ、あにめしかみてない」

「もぅ、そろそろ見てもいいじゃない?昨日の話とっても良かったんだから!特に…」

 

と、2人がたわいもない話で盛り上がっていると…

 

(はぁ…どうしよう…)

 

アーニャに、困っている様子の心の声が聞こえたのだ。

アーニャがその声の主を探すと、1人の女の子が花壇の方を見ていた。

透明感のある肌にしゃがんでいてもわかるほどの華恋な身体、肌にとても似合う赤髪にこの世の美しいものを合わせたような水色の目をした女の子が、その可愛らしい顔に似合わぬ困惑の表情を見せていた。

 

「ベッキー、ちょっとさきいってて」

「え?アーニャちゃんどうしたの?」

 

アーニャはベッキーから離れ、花壇の方にいる女の子の方へと向かった。

 

「どうかしましたか?」

 

アーニャがその女の子に声をかけると…

 

「え?」

 

女の子は困った様子からさらに困った表情を見せる。

 

「え、ええっと…その…」

「あ、もしかして、困っているように見えちゃった?あはは…」

 

女の子は気丈な様子でアーニャに声をかける。

 

「ごめんね。なんでもないよ」

 

と、女の子は言うが…

 

(本当はなんでもない訳じゃないけどね…)

 

という心の声を、アーニャが聞き逃さないわけがなかった。

ふと、アーニャが花壇の方を見ると、踏み荒らされた様子の植物の様子が見てとれた。

 

「これ…おはなさんたち?」

「うん…私が育ててたんだけどね…まぁ、悩んでても仕方ないかな。また育てればいいしね」

 

女の子は割り切るように言ってすっと立ち上がる。

 

「心配してくれてありがとね。それじゃ!」

 

女の子はそう言うと、走って離れていってしまった。

 

(…あのひと…ないている?)

 

アーニャは女の子の去り際に心の声を聞き、そのまま立ち尽くしていたその時だ。

 

「わぁ…あの人、もしかしてグレースさんじゃ!?」

 

アーニャの隣にいつのまにかいたベッキーが、目を輝かせながらアーニャに声をかけた。

 

「ベッキー、いつのまに」

「ねぇねぇ、アーニャちゃん、グレースさんと何話してたの?」

「これ」

 

アーニャは女の子と話した内容の全てである花壇をベッキーに見せたところ…

 

「何よこれ!もう、ひどすぎじゃない!」

「アーニャもそうおもう」

「アーニャちゃん!」

「ん?」

「この花壇綺麗にしましょう!」

「らじゃー!」

 

ベッキーの意見に賛同したアーニャは、ピシッと敬礼のポーズを見せたのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「…はぁ…一からやり直しね…」

 

女の子…グレース・マクラルーンが放課後、トボトボとあるところへ向かっていた。

手にはスコップとバケツ、ジョウロである。

 

「せっかくいい感じに育ったのに…残念だなぁ…」

 

グレースはため息をもらしながら花壇へ向かうと…

 

「あ!グレースさん!こんにちは!」

「こんにちはですす」

 

アーニャとベッキーが花壇で何かをしながら挨拶してきた。

 

「え?あなたたちはさっきの…なんで?」

 

グレースが目を丸くして2人がなぜいるのか聞くと…

 

「グレースさんのお手伝いに来ました!」

「おはなさん、かわいそうだから、アーニャたちでげんきにしてあげてたます」

 

ベッキーは笑顔で、アーニャは敬礼しながら花壇に植えられていた花を植え直していたことを伝えた。

そんな2人の後ろにある花壇を見ると、綺麗な花がたくさん植えられてあった。

 

「いつのまにかこんなに!?この花たちはどこから!?」

「私の執事にお願いしたの!そしたら結構多くて…」

「アーニャ、たいへんだった。でもたのしかった!」

「ねー!」

 

アーニャとベッキーは互いの土まみれの顔を見ながら笑い合った。

 

「…ごめんね…私の勝手にやってることなのに…」

「いいえ!グレース様は思いやりがあって、小さな命を大切にしているいい人なので、私たちはそれを手伝ったまでです!」

「アーニャもどうかん!」

「ふふっ…ありがと」

 

そこでグレースはふと、あることを思いついた。

 

「そうだ!今度私の家でパーティーやるのだけれど、来ない?」

 

アーニャとベッキーを、マクラルーン家のパーティーに招待したのだ。

 

「パーティー!?いきたいます!」

「いいんですか!?是非とも行かせていただきたいです!」

「良かった。断られたらどうなるかと思った…それで、日程なんだけれど…」

 

グレースはパーティーの日程を2人に教えたところ…

 

「あー…」

 

ベッキーの顔が急に曇った。

 

「どうしたの?ベッキー」

「うん…その日、ちょっと用事があって…グレースさん、すみません!パーティー参加できなくなりました!」

「ううん、気にしなくていいよ。私が勝手に誘ったのだから。ごめんなさい」

「こちらこそ、お誘いいただきありがとうございます!また今度、お邪魔させてもよろしいでしょうか!?」

「いいよ。歓迎するね」

「はいっ!ありがとうございます!」

 

憧れの1人であるグレースと仲良くなり、ベッキーは喜びを隠しきれなかった。

 

「それじゃ、名前教えてくれてもいいかな?」

「はい!ベッキー・ブラックベルです!」

「ブラックベル?もしかして、あの軍事企業の?」

「はい!そうです!」

「それなら、今度空いている時間聞いてみるわ。マクラルーン家とブラックベル家は昔からの親交があるから」

「そうなのですね!ありがとうございます!」

「そして、もう1人は…」

「アーニャ・ほーじゃーですす」

「ほーじゃーじゃなくて、フォージャーでしょ?アーニャちゃん」

「アーニャ・フォージャー…もしかして、入学初日に男子を殴っちゃったていう…」

「うっ…それは…」

 

過去の黒歴史を掘り返されたアーニャは、思った顔色を悪くしてしまった。

 

「あ、ごめん…傷つけるつもりはなかったの。私は、殴ったことに理由あったのかなって思ってて…あ、でも話したくなかったら話さなくていいよ」

「うぃ、あざざます」

「ふふっ、変な喋り方」

 

アーニャの舌足らずな喋り方に、グレースはおかしいと思い微笑んだ。

 

「それで、アーニャちゃんはどう?来られる?」

「ちちとははに聞いてみまする!」

「わかったわ。それじゃ、ちょっと待っててね」

 

グレースはそう言うと、急いで校舎の中へ入り、そしてすぐに戻ってきた。

 

「はい、これ。もし来られるなら、地図に書いてある私の家に来て、この紙を見せてね」

「はいます!」

 

かくして、アーニャはグレースの招待状を受け取ったのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…その日の夜…

 

「ちちー!ははー!」

 

アーニャの帰宅第一声で、ロイドとヨルが反応した。

 

「ん?どうした?アーニャ」

「このひ、あいている?」

 

アーニャはグレースからの招待状をロイドに見せた。

 

「なんだ?その紙は?」

 

ロイドはアーニャから招待状をもらい、中身を見た。

 

「うーんと…うーん…うん!?ま、ま、マクラルーン家のパーティー御招待状!?」

 

ロイドは手紙の内容を読んで、驚きを隠せなかった。

 

「マクラルーン家って、すごいところなのですか?ロイドさん」

「すごいどころじゃないですよ!東国(オスタニア)の経済界では知らない人はいない、国一番の大富豪なんですよ!?」

「えぇっ!?」

 

ロイドの言葉に、ヨルも思わず、持っていた空のプレートを落としてしまった。

 

(マクラルーン家は国の予算を上回るほどの財力を持つ超大御所!『WISE』の中でもマークしているところじゃないか!?しかも、マクラルーン家はデズモンド家とのパイプを持っている!)

 

突然舞い降りた、衝撃的な手紙に、ロイドは頭がクラクラするほど興奮していた。

 

「どうしたんだ!?アーニャ!どうしてこんな手紙を!?」

「ぐれーすっていうひとのてつだいをしたらもらった」

「グレース!?グレース・マクラルーンか!?」

 

2度目のサプライズに、ロイドは思わず心の中でガッツポーズをしてしまった。

 

(これはチャンスだ!マクラルーン家と仲良くなれば、デズモンドとのパイプを確実なものになる!)

「アーニャ、ありがとう!この日は空いているから行こう!」

「りょうかい!」

「ヨルさん、いいですよね!?」

「は、はい!どうしましょう…今のドレスでも大丈夫なのでしょうか…」

 

フォージャー家、全員がてんやわんやとなっているほどのパーティーの招待状。

これが、後々大事件になるとは、フォージャー家全員思いもやらなかったのであった…




いかがでしたでしょうか?
とりあえず溜めてる分だけ出そうと思って出しました。
もしよろしければ評価などをしていただけると嬉しいです。
では次回、お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話〜マクラルーン家のパーティー〜

…数日後…

フォージャー一家は、レンタカーでマクラルーン家の屋敷へと向かっていた。

 

(また管理官(ハンドラー)に口酸っぱく言われるだろうが…こればかりは仕方ないだろう…)

 

ロイドがそう思いながら乗っている車は、シトロエンDS。

見栄だけでもよくしようと借りてきたのだ。

また、格好もよくするためにいつもの仕立て屋さんでドレスコードを一式買い揃えたのである。

 

「楽しみですね!アーニャさん!」

「びーなっつ♪ぴーなっつ♪」

「ピーナッツはどこでも食べられるだろう…」

 

たわいもない会話をしながらしばらく走らせていると…

 

「…ここ…か…」

 

ロイドが、まるで絶句したような様子で話し始めた。

そうなるのも無理はない。

着いたのは門であるが、その先は道が広く整っているとはいえ、それはまるで山道のような先の見えない道が続いているのだ。

さらに言うなら、塀に囲まれているその先が、まるで森のようであったのだ。

先程まで街中を走っていたのだが、突如として現れた木の要塞に、ロイドたちはただ驚くしかなかった。

 

「す、すごい家ですね…」

「さすが東国(オスタニア)一の富豪ですね…」

 

ロイドとヨルは家の規模に驚き、アーニャはダンマリとしているが目が点になっていた。

ロイドが車を走らせ、敷地の中に入り、しばらく走っていくと…

 

「…うわぁ…」

「なんだか…これって…」

「おしろだぁ…」

 

バロック建築ながら、とても大きい家が見えてき始めた。

その家の前は広い庭園となっており、噴水もドバドバと水を吐き出しながら動いている。

 

「いらっしゃいませ。どちら様でしょうか?」

 

玄関前に着いたフォージャー一家は、出迎えてくれた執事の人に訊ねられた。

 

「ロイド・フォージャーという者です。娘のアーニャが、グレース・マクラルーンさんに招待されたと言うことで来ました」

 

ロイドがアーニャから預かった招待状を執事に見せた。

 

「はい、確かにお嬢様のものでございますね。はじめまして、フォージャー様。マクラルーン家のパーティーへようこそ」

「ありがとうございます。車を、お願いできますでしょうか?」

「かしこまりました。鍵をこちらに」

 

ロイドたちは車から降り、ロイドが鍵を執事に渡した後、屋敷の中に入っていった。

 

「ちちー!ははー!おおきなキラキラ!」

 

アーニャがシャンデリアを指しながら、目を輝かせてロイドとヨルに話しはじめた。

 

「す…すごいな…」

「こ、こんなところにいてもよろしいのでしょうか…私たち…」

 

家の大きさに改めて凄さを感じたロイドたち。

そこへ…

 

「やぁやぁ、ようこそいらしました、フォージャーさん」

 

白い髭を蓄えた肉付きのいい男の人がやってきた。

 

「っ!?あ、あなたは!」

 

ロイドは既に情報は仕入れていたので、その男が誰なのかすぐにわかった。

 

「ショーン・マクラルーンさん!」

「フォッフォッフォ。いやはや、よくご存知で」

 

そう、この男がショーン・マクラルーン…マクラルーン家の主である。

 

「おじさん、すごいひげもじゃもじゃ」

「こらっ!アーニャ!すみません…うちの娘が…」

「いいのじゃよ。娘がお世話になったからの…と、噂していたら」

 

ショーンが話を止めると…

 

「アーニャちゃーん!」

 

赤い髪にとても似合うピンクのドレスで身を包んだグレースが、吹き抜けになっている2階からアーニャの名前を呼んだ。

そして、吹き抜けの2階から続く階段から駆け降りてフォージャー一家の元へ駆けつけた。

 

「皆さん、初めまして!グレース・マクラルーンです!今回お越しいただいて、ありがとうございます!」

「いえいえ、うちのアーニャがお世話になったそうなので…」

「いえ!こちらの方がお世話になりました!ありがとね、アーニャちゃん」

「それほどでも」

 

こうしてしばらくたわいもない会話をした…その時だった。

 

「通してくれ!俺は招待客だぞ!」

 

玄関の入り口で執事に止められている1人の男がいた。

 

(なんなんだ?)

 

ロイドは疑問に思って、すぐにその男の身なりを見始めた。

 

(…胸ポケットが盛り上がっている…おそらく拳銃だろうな…そして靴下にはナイフがある…ショーン・マクラルーンを恨んでるやつってことか)

 

ロイドが冷静に分析をしている一方、ショーンは執事に尋ねた。

 

「何事かな?」

「はっ。この男が、招待状を持って現れたのですが、招待状が偽物でございまして」

「そ、そんなわけない!これはれっきとした招待状だぞ!」

「うむ…まぁ、執事の君が見間違うわけないが、わしが見てみようか」

「はっ」

 

執事は男を取り押さえたまま、招待状をショーンに渡した。

ロイドはそれを遠くながら見ることができた。

 

(…その招待状…たしかに俺らがもらった招待状と同じだが…どこが違うんだ?)

 

ロイドさえも見てもわからない、普通の招待状ではあるが、ショーンは招待状を受け取るなり、すぐに…

 

「…偽物じゃな」

 

と、即答した。

 

「んな馬鹿な!これは…」

「まず、紙の厚さが違うのう。招待状に使う紙によく厚さを似せておるが、うちで使ってるのは特注なのじゃよ。そんじょそこらの紙で出来るようなものではない」

「なっ…」

「それに質感も違う。もっと酷いのは、招待状に書かれてるわしのサインじゃが…こんな不細工な字は見たことがない」

「そんなわけあるか!これはあんたの字を…っ!」

「ほう…わしの字から取ったのか。なるほどなるほど…たしかにわしの字に似せてはいるが、よくよく見たら、震えて書いてるように見えるぞい。おそらくわしの字を似せるために誰かに書かせたようじゃが、こんなのじゃ似ても似つかん酷い字じゃ」

 

自分の字すら分析して違うと判断できるショーンを見たロイドは思わず…

 

(さすがショーン・マクラルーンだ…デズモンドより緩いとはいえ、滅多に姿を現さないだけある…用心深い…)

 

と感心してしまった。

 

「それに、この事は執事には既に叩き込んでいる。執事がノーと言えばノーだ。ヘレス」

「はっ」

「こいつを『あそこ』へ連れて行け。二度と来させないようにしてやってくれ」

「承知いたしました」

 

ショーンは執事に、突然現れた男を始末するように伝えた。

何かの雰囲気を察したグレースは…

 

「…ロイドさん、アーニャちゃん、ちょっと連れて行きますね」

 

と、ロイドに断った。

 

「あ、あぁ…」

 

ロイドも察したのか、アーニャを現場から離れるようにお願いした。

 

「アーニャちゃん、行こ」

「りょうかいですす!ぼうけん♪ぼうけん♪」

 

アーニャは意気揚々とグレースと共にその場から離れた。

 

「くっ…このぉっ!」

 

男は咄嗟に執事から離れ、胸ポケットから銃を取り、銃口をショーンに向けた。

 

「あんたのせいで…あんたのせいで!」

 

男は銃の引き金を引こうとしたその時だ。

目の前に執事が現れた。

 

「っ!」

 

執事は男が銃を持っている方の手を持ち上げた。

 

「ご主人様には傷ひとつ与えません」

 

そして執事は、まず男の鳩尾に1発入れた。

 

「ぐほぁっ!」

 

男は痛みに耐えられず、手から銃を離してしまう。

それを見た執事は男を投げ、地面に突っ伏させた。

 

「ガハァッ!」

 

それから執事は、男に固技を決めた。

 

「く、くるじぃ…たす…たすけ…」

 

男はうめき声を出した後、気絶した。

それを確認した執事は、男を軽々と持ち上げ、どこかへと行ってしまった。

 

「…さてと、お見苦しいところを見せてしまったね」

 

ショーンの先程の雰囲気とは打って変わって、優しい声でロイドとヨルに声をかけた。

その声で、ロイドとヨルはハッとなった。

 

「い、いえ!なんか、圧倒されて…」

 

ヨルはすぐに慌てふためきながら言った。

 

「な、なんか凄いですね…訓練されてて…」

「長い間こういう世界にいると、こういう輩が現れるのでね…大変なのだよ…全く…」

 

ショーンはやれやれとため息をこぼしながら言った。

 

「さてさて、こんなところであれですから、どうぞ中へ。パーティー、楽しんでいってください」

 

ショーンはそういうと、ロイドとヨルを中へ案内した。

 

(…一時期、〈WISE〉でも標的にしていたが、なかなか上手くいかなかった…やはりマクラルーン家は恐ろしい…)

 

ロイドは謎の汗をかきながら、パーティー会場へと入っていったのだった…




いかがでしたでしょうか?
ストーリーの展開的にはちょっと遅いかもしれませんが、もうしばらくお付き合いください。
もしよろしければ評価などしていただけると嬉しいです。
では次回、お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話〜楽しむスパイ。そして…〜

…ロイドとヨルから離れたアーニャは、玄関での出来事なんかそっちのけで、まるでお城のような屋敷の中を意気揚々と探検していた。

 

「おたから、あるかな?」

「ふふっ。この家自体お宝の山だから、色んなもの見つかるわよ」

「ほんとうに!?すごい!」

 

アーニャが楽しんでいる様子に、グレースはとても微笑ましく見守っていた。

 

(アーニャちゃんみたいな子がいると、退屈しないなぁ…)

 

と、グレースがふと思ったことを、アーニャは得意のエスパーで読み取る。

 

(アーニャ、たいくつしない…つまり、おもしろいこだと思われてる!)

 

アーニャは少しだけテンションが上がり、喜んだ後

 

(いや、ダメダメ…今日はこの子に"アレ"を渡さないと!)

 

そんなグレースの強い心の声を聞いたのだ。

それを聞いてアーニャの好奇心が湧かないわけはなく…

 

(“あれ"?なんだろう…わくわく!)

 

と、目を輝かせている。

グレースはそんなアーニャをよそに、持っていたバッグからあるものを取り出した。

 

「アーニャちゃん!これお願いしてもいい?」

 

そう言ってグレースが渡したものは、とても高級そうな箱である。

 

「たかそうなはこ!」

「お礼よ。本当はおじいちゃんからもらったものなんだけど、今は要らなくなって…だから、あげるわ」

「あざざます!」

 

アーニャは箱を持ちながら大手を広げて喜んだ。

 

「喜んでもらえて良かった。大事にしてあげて」

「うぃ!」

 

とても嬉しそうに喜んでいるアーニャを、グレースはまるで母親かのような、そしてどこか寂しげな表情を浮かべていたのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

一方のロイドとヨルは、パーティーで様々な人と交流を深めていた。

 

「…そうなんですよ。今回はうちの娘がここのお嬢さんと仲良くなりまして」

「あらあら、そうなのですね。やはりグレース嬢はお優しいのね」

「ほんと、こんな庶民の僕らでも誘ってくれて嬉しい限りです」

 

ロイドは淡々と様々な人に声をかけられては受け答えをしているが、内心では…

 

(おいおいおい!この人、経済界ではものすごく有名な人のご婦人じゃねぇか!それでこっちは政財界の…!なんなんだ!?この社交場は!?)

 

と、かなりの興奮していた。

ヨルはそんなロイドのそばにずっとおり、しっかりと受け答えをしているロイドを見ながら…

 

(すごいなぁ、ロイドさんは…それに比べて私なんか全く話せてなくて…)

 

と、表情には見せないもののどこか落ち込んでいる様子を見せていた。

そんなロイドとヨルの元に…

 

「楽しんでおられるかな?」

 

ショーンが挨拶回りで来てくれた。

 

「ショーンさん!はい、楽しんでます」

「いやはや、ここに来る人たちは全員それなりの地位があるものだから、いささか緊張されているのではないかと思ったのだが…さすがイーデン校の親御さんだ」

「いえいえ、僕らはそこまで及びませんよ。うちのアーニャが頑張ってくれたおかげです」

 

ロイドはショーンの言葉に謙遜しながら話した。

それを見たショーンはニコリと笑顔を返す。

 

「それでは、引き続きお楽しみください」

 

ショーンはそう言うと他の人の元へと向かった。

 

「ロイドさん、すごく優しい人ですね」

「えぇ、そうですね」

 

ヨルの言葉にロイドは思わず肯定したが、内心ではかなり疑っていた。

 

(さっきの笑顔…どことなく不気味な雰囲気を醸し出してたな…何かを探るような…)

 

ロイドはショーンの笑顔にどこか得体のしないものを感じ取っていたのだが…

 

(…今は関係ないな…とりあえず、ここで交友を作っておくことが、オペレーション〈(ストリクス)〉で重要になるかもしれないからな…)

 

と、現在進行形で行っているミッションを円滑に進めようとすべく、様々な人との交流を続けていったのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…一方、東国(オスタニア)バーリント中央警察署…

とある一台の車がその建物の前に止まった。

その車から降りてきたのは、茶色のソフト帽に茶色のトレンチコートを着た1人の男。

その男を、入り口で警戒に当たっていた警察官は敬礼をする。

トレンチコートの男は敬礼で返す。

そして、建物の中を歩き、とある部屋に入った。

その部屋の中には、荘厳な男の人が椅子に座って待っていた。

 

「アードルフ署長!失礼いたします!」

「ミスターゼニガタ。よくぞいらしました」

 

トレンチコートの男…銭形警部と、荘厳な男…バーリント中央警察署署長のアードルフ・シュルツはそれぞれ握手を交わして挨拶をした。

 

「しかし、ICPOのルパン専任捜査官のあなたがここに来たと言うのは…やはりかのルパンがこの国に来たということかな?」

 

アードルフは椅子に座るなり、ため息をこぼしながら呟くように言った。

 

「左様でございます、アードルフ署長」

 

銭形はそう言うと、ある資料をアードルフに提出した。

 

「すでに耳に入っていると思われますが、お隣西国(ウェスタリス)が海外の銀行に保管されていた半分にカットされている青色の宝石、通称『西国(ウェスタリス)の希望』が盗まれました。捜査の結果、ルパン三世が盗んだものとみて、我々が動いております」

 

銭形は今まで起きたことを簡潔に述べた。

 

「ふむ…ならば、なぜあなたがここにいるのかい?ミスターゼニガタ」

「それは、『西国(ウェスタリス)の希望』と同じような形である、『東国(オスタニア)の夢』が、今回ルパン三世の標的であると踏んだからです」

 

銭形は前もって調べ上げた情報を、アードルフ署長に報告した。

 

「なるほど…しかし、こんな国家機密なぜ君が知っているのかね?我々でも君達ICPOの説明がなければ知らなかったようなものを」

「ICPOの権限で様々な情報を仕入れたからです」

「なるほど…では、『東国(オスタニア)の夢』がどこにあるのかもわかるかね?」

「我々の調べでは、マクラルーン家が買い取ったとわかっておりますが…マクラルーン家はどのような家でしょうか?」

 

銭形はアードルフにマクラルーン家のことについて尋ねた。

 

「マクラルーン家は東国(オスタニア)一の富豪だ。戦争によって受けた被害で国家の予算が確保できなかった時に、マクラルーン家が援助をしてくれた。おそらく『東国(オスタニア)の夢』はその時の見返りみたいなものだろうな」

 

アードルフはマクラルーン家のことを話しながら、冷静に資料をみて分析した。

 

「なるほど…では、私はそのマクラルーン家に行って参ります」

 

銭形は早速、マクラルーン家の協力を仰ぐために行動しようとした。

しかし、それをアードルフは一旦制した。

 

「待ちたまえ、銭形警部。マクラルーン家はそんな易々と行くようなところでもないんだぞ」

「そうなのですか?」

「あぁ。何せ、今のマクラルーン家の当主、ショーン氏は…」

 

アードルフはさっきまでの荘厳な様とは打って変わって、少し気弱そうな顔を浮かべた。

 

「…噂ではあるが…『氷の王』と呼ばれている」

 




いかがでしたでしょうか?
まだこの調子が続きます。お付き合いください。
もしよろしければ評価などしていただけるとありがたいです。
では、次回お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話~不穏な動き~

とりあえずストックができたので放出します


…マクラルーン家のパーティーが最高潮となっている頃…

ロイドは様々な人と交流を重ねていたのだが、かなり多くの人と接したため、緊張も相まってかなりの疲労が溜まっていた。

そのため、ヨルと共に会場の脇にある椅子に座って休んでいた。

 

「やはりマクラルーン家…かなりの交流を持っているな…」

「わ、私もびっくりしました…まさか市長とも面会できるなんて思いもよりませんでした…」

 

ヨルも緊張していたせいか、疲れた様子を見せている。

 

「とりあえず休憩終わったら、もう一回色んな人と話をしてからアーニャと合流しますか」

「そうですね。アーニャさんもグレースさんと一緒に楽しんでいると思いますし」

 

と、ロイドとヨルで今後の話をしていた時だ。

2人の前を、1人の使用人が通った。

ロイドは一瞬ではあったが、どことなく違和感を感じた。

 

(ん?今の使用人…上半身と下半身に違和感が…)

 

ロイドはその使用人を注意深く観察すると、どこか挙動不審で、周りを気にしながら会場から出ていった。

 

(…あやしいな…本当なら無視したいところだが…どこか胸騒ぎがする…)

 

ロイドはいてもたってもいられず…

 

「ヨルさん、すみません。少々お手洗いの方に行ってきますね」

 

ヨルに嘘を言ってその場を離れた。

 

「あ、はい!気をつけて行ってくださいね!」

 

ヨルの返事を背に、ロイドは男が出た方へと向かった。

そんなロイドと入れ替わりに…

 

「ははー!」

 

アーニャがグレースに引き連れられながら、ヨルの元へトコトコと走ってきた。

 

「アーニャさん!探検、楽しめましたか?」

「うん!ぐれーすさんにいろんなところにつれていってもらったます!」

「それでしたらよかったです!グレースさん、ありがとうございます!」

 

ヨルはグレースに深々とお辞儀をした。

 

「いえいえ!私もアーニャちゃんと一緒に散歩できて楽しかったです」

 

グレースはヨルとアーニャにとびっきりの笑顔を見せた。

 

「そういえば、ロイドさんは?」

 

グレースはふと、ヨルのそばにロイドがいないことに気がついた。

 

「あ、ロイドさんでしたらお手洗いの方に行きましたよ」

「そうなのですね、それじゃ、ロイドさんが帰ってくるまでしばらく談笑しましょう」

「はい!」

 

ヨルとグレースは椅子に座って雑談をし始めた。

そんな2人をよそに、アーニャはというと…

 

(ちち…またスパイのにんむ?)

 

ロイドのことを心配していたのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…パーティーの盛り上がりが少し落ち着いた頃…

マクラルーン家の前に、多くのパトカーが駆けつけていた。

サイレンをけたたましく鳴らし、パトランプを煌々と光らせながら1台目、2台目…と次々にやってくる。

 

「おい、なんなんだ、この騒ぎは」

 

玄関で見張りをしていた執事達が慌て始めた。

何が起きているのかさっぱりわからないからだ。

そんな困惑している執事達の目の前に、一台のパトカーが止まる。

そのパトカーから降りてきたのは、茶色のソフト帽に茶色のコートを着た男…銭形警部である。

 

「おい!あんたか!ここにパトカーを連れてきたのは!」

 

執事の1人が銭形警部に声を荒げた。

そんな怒り心頭の若い執事に、銭形警部は冷静だった。

 

「あぁ、わしだ」

「困るんだよ!こっちは今パーティーの最中だ!お客さんに気分を害されたらこっちに迷惑がかかるんだよ!」

 

若い執事は銭形警部に詰め寄るように迫ったが…

 

「それはそうだな。すまんかった」

 

と、冷静に陳謝した。

 

「それじゃ、さっさと…」

 

若い執事は銭形警部一行に引き取りをしてもらおうと言いかけたが…

 

「すまんが、我々はこの家の当主である、ショーン・マクラルーンに用がある。話を通してくれないか?」

 

銭形警部は冷静に、そして一方的に話を進めた。

 

「ショーン様?今はそれどころじゃ…」

 

若い執事が事情を説明しようした時…

 

「呼んだかい?」

 

ショーン・マクラルーンが、まるでその場にいたかのようにふっと現れたのだ。

 

「しょ、ショーン様!」

「おいおい、若造。まだ修行が足らんな。そんなすぐにカッとなったら執事は務まらんぞ」

「も、申し訳ございませんでした!」

 

ショーンは若い執事を軽く叱った後、銭形警部の前に出た。

 

「それで、あなたは?」

「はっ!私はICPOの銭形警部でございます!」

 

銭形警部は敬礼して自己紹介した。

 

「ICPOの銭形…なるほど…ルパン三世かい?」

 

ショーンはなるほどと言わんばかりに頷いた。

 

「私のことをお分かりで?」

「私の友人にICPOの者がいてな。それで中の事は色々と聞いているのだよ。もちろん、銭形くんの話題もね」

「あぁ…それなら話は早い」

 

銭形警部は早速、事の次第を話した。

 

「ショーン氏は、西国(ウェスタリス)のとある宝石が盗まれた件についてはご存知で?」

「さぁ、知らないな」

「これなんですが…」

 

銭形警部は『西国(ウェスタリス)の希望』をショーンに見せた。

 

「うむ…不思議な宝石じゃな…」

 

ショーンはニヤリと笑いながら、まじまじと宝石の写真を見る。

 

「それで、この宝石がなぜうちと関わりがあると?」

「ショーン氏が所有している宝石の一つが関わっているのです。それがルパン三世が狙っていると踏んで、ここに来た次第でございます」

「ほほう…しかし、我々の屋敷はかなり厳重な警備を敷いておりますぞ」

「いや、ルパンはどんな手を使っても必ず盗みに来ます。そこで、私、ルパン専任捜査官の銭形警部が、必ずやあなたの宝石を守って見せましょう」

 

ここまで熱く弁を振るっていた銭形警部に、ショーンは少し目を閉じて考えた後…

 

「…それでしたら、我々の警備システムをご覧になりましょうか?」

 

まるで銭形警部を追い出すような口調で言い放った。

 

「ふむ…それは是非とも聴きたいのだが…」

「まずは…」

 

ショーンは、先程ロイド達が目の当たりにした手紙の秘密を銭形警部に伝えた。

さらに加えて詳しい警備システムも話した。

 

「私の金庫は、私と孫娘しか持っていない特殊な鍵を使っている。ピッキングではおろか、同じように鍵を作っても開かない特殊なものだ。もし無理矢理でもこじ開けようものなら警報が鳴り、金庫の前はあらゆるドアや通風口などが閉鎖されて特殊睡眠ガスを使用して犯人を眠らせる。これで文句はないだろう?」

 

ショーンは得意げに話していたが、銭形警部はいまいち腑に落ちなかった。

 

「しかしですな…その程度では、ルパンに…」

 

と、銭形警部が話そうとしたその時だ。

 

「これ以上、文句はあるかな?」

 

ショーンの本性が見え始めたかのごとく、冷たい目を銭形警部に見せた。

百獣の王すらもたじろぐような鋭く不気味な目に、正義感が強くどんな場面でも動じなかった銭形警部も冷や汗が出るほどだった。

 

「…さぁ、お引き取りを…まだパーティーは続いているのでね」

 

ショーンはそう言うと、会場の中へと姿を消した。

 

「…銭形警部、これでわかりましたでしょう?ショーン氏はあのようなお方だ」

 

銭形警部の隣にいた警察官が、ガクガクと震えながら銭形警部に声をかけた。

 

「あぁ…底知らぬ何かを感じたよ」

「で、でしょう?だからここは撤退を…」

「いや」

 

素早く撤退したかった警察の気持ちをよそに、銭形警部はある命令を出した。

 

「いいか!ショーン氏の敷地を囲むように配置しろ!ルパンは必ずこの館にいる!」

 

士気を上げるようなその声は、先ほどまで震えていた警察官を奮い立たせるのに十分だった。

 

「はいっ!」

 

マクラルーン家の前にいたパトカーが次々と出ていったが、その近くから離れることはなかった。

 

「…ルパン…今度こそ捕まえてやる」

 

そして、この銭形警部の勘が、この後見事に的中するのだった…

 




いかがでしたでしょうか。
もしよろしければ、評価などしていただけると嬉しいです。
では次回、お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話〜現れし大泥棒〜

…マクラルーン家の屋敷の中を、1人の執事がコツコツと歩いている。

黒髪はきっちりと整えられ、いかにも強そうな彫りの深い顔、着ているスーツはバッチリと決まっており、格闘家でもやっていたのかというくらいの肩幅が威圧感を醸し出していた。

そんな男を、ただ1人、違和感を持ってコソコソと尾行していた者がいる。

ロイド・フォージャー…あるいは『黄昏』…

胸騒ぎを感じたロイドは、その執事をずっと追っていたのだ。

 

(…やはりマクラルーン家の屋敷…これだけ歩いても2度同じ場所は通ってない…)

 

ここまで幾分か歩いていたロイドは、マクラルーン家の屋敷の膨大さを改めて実感していた。

 

(…しかしこの男…何をしているんだ?ずっと何かを探している様子なのだが…)

 

ロイドがそう思ったのは、執事がずっとキョロキョロと何かを探すように辺りを見回していたからだ。

 

(…まぁいい…とりあえずついて行こう…)

 

しばらく執事は館内を歩き回り、ようやくある部屋の前に止まった。

 

(…何をするんだ?こいつ…)

 

ロイドはさらに訝しんだ。

執事の男は部屋の前でキョロキョロと辺りを見回し、ふぅと、ドアの前で息を吐いた。

 

(…開けるのか?)

 

ロイドが男の動きを読んだその時だ。

 

「そこにいるのは誰だ?」

 

男が叫んだ。

ロイドに言っているかのように叫んだ男はただじっと、ドアを見つめていた。

 

(バレた…だと!?くっ…こうなったら…)

 

ロイドは仕方ないとばかりに、隠れていた角から姿を現した。

 

「いやーすみません。ちょっと怪しいと思ってしまって…」

「どういうことですか?」

「私、精神外科医なものでして。精神は行動によく出るものですから、あなたを見たときに怪しいと感じたもので」

「そういうことでしたか。でしたら、ここはお引き取りを…」

 

男がロイドを追い払おうとして言い放ったその時だった。

 

「こちらからもお引き取り願おうか」

 

ロイドの後ろから声が聞こえてきた。

声の主はショーンである。

そのショーンの後ろには、多くの執事がずらりと並んでいた。

 

「ショーンさん!?」

 

ロイドはショーンが現れたことにひどく驚いていたが、当のショーンはロイドを気にも留めず、目の前に対峙している男をにらんでいた。

 

「…ここまで我々の執事に成りすますとは、さすがだな…」

 

ショーンは不敵な笑みをにやりと見せた。

 

「何のことでしょうか」

 

男は白を切るつもりで声を上げたが…

 

「駄々をこねても無駄だぞ。今先ほどうちの者が、おぬしが化けている執事を発見したぞ。そろそろ正体を見せたらどうかね」

 

ショーンは見透かしているかのようにしゃべった。

 

「ちっ…しゃあねぇなぁ…」

 

男はバレたと確信し、声真似をすぐに解いた。

 

(やはり、変装していたか…)

 

変装の名人でもあるロイドの予想は当たっていた。

しかし、ロイドはこの声の主を頭の中で巡らすも、ヒットする人がいなかった。

しかし、ショーンは男の正体をも見透かしていた。

 

「さてと…何用かな?()()()()()()()?」

「おぉおぉ。もうそこまで気づいていたのか、これは参ったぜぇ」

 

ショーンの答えに、男…に変装しているルパンがいつものようなおちゃらけた様子で答える。

 

(ルパン三世だと!?それじゃこいつが…『西国(ウェスタリス)の希望』を盗んだ張本人…!)

 

ロイドは男の正体がルパン三世だとわかるや否や、周りに悟られない程度で臨戦態勢に入った。

ルパンはその気配に気づいてか気づかずか、ロイドの方をチラッと見た後にすぐにいつもの様子で話を始める。

 

「いやぁ、ちょぉっとばかし、ある物をいただきに来たんだけどな?今回は諦めようかなとね?」

「ほう?それなぜ?」

 

ルパンが珍しく盗むことを諦め、それに興味を持ったショーンが問いただした。

するとルパンは、いたずらっ子のような様子を見せて…

 

「だって、この部屋、()()()()()()()()のドアが開いちまってるんだぜ?」

 

ショーンに問うように言った。

その一言を聞いたショーンは…

 

「んなっ!?」

 

驚いた様子でドアへと駆け寄った。

ショーンが持っている鍵を鍵穴入れてくるっと回すも、鍵が開いた様子はない…というよりも、そもそもドアが開いているという状態である。

ショーンは慌ててドアを開けて中に入った。

部屋の中はショーンの書斎になっており、数々の本が本棚に並べられていた。

その本棚の一角は、隠し金庫があるのだが、その金庫が開けられている様子が見てとれた。

 

「金庫がっ!?」

 

ショーンが慌てて中身を確認すると…中は空だった。

 

「くっ…貴様ァッ!」

 

ショーンが先ほどの落ち着いた様子とは全く逆の、ひどく混乱して怒っている様子でルパンを睨む。

 

「おおっと?俺は何もしちゃいないぜ?ここに来た時にはすでに開けられてたからな?」

 

ルパンはショーンの睨みをものともせず、いつものような口調で話す。

 

「さてと…俺様はそろそろ抜けるとすっかな。ここにお目当てのお宝がないってことがわかったし」

 

ルパンはそう言うと、服に隠していた煙玉を部屋いっぱいにばら撒いた。

 

「っ!?伏せろ!」

 

それを爆弾と勘違いしたロイドはすぐに大声で言った。

ショーンと周りにいた執事達は咄嗟にしゃがみ身構えた。

そして煙玉から煙が撒かれると、瞬く間に部屋一帯が煙まみれになった。

 

「くそっ!前が見えねえ!」

 

ロイドやショーン、執事達は口元を抑えながらあたりを見渡すと、どこからか風が強く吹き、煙をすぐに払ってくれた。

その風の正体は…ヘリコプターである。

そして、ヘリコプターから垂れているハシゴには、猿顔で赤いジャケットを着た男が捕まっていた。

 

「ルパン三世!貴様どこへ行く!」

 

ショーンはルパンに強く言いながら近づこうとするも、ヘリコプターの風で近寄れなかった。

 

「さぁ、そんなの教えられるわけないだろ?まぁ、今回はこのくらいにしておくさ。それじゃ、あ〜ばよ〜」

 

ルパンがそう言うと、ヘリコプターはグッと上昇し、館との距離を取った。

 

「待て!ルパン三世!」

 

ショーンは風が止んだ後にルパンを追うも、遠く離れたルパン逃げられてしまった。

 

(ルパン三世…あいつが…『西国(ウェスタリス)の希望』をっ!)

 

ロイドは強く拳を握って、ルパンの後を目で追ったのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…ハシゴでヘリコプターの中に入ったルパンは、隣にいた操縦している男に声をかけられた。

 

「…ルパン、目当てのものはあったか?」

 

次元大介である。

 

「いんや。誰かに先越されたみてぇだな」

「あそこにはなかったということか…しかし、『東国(オスタニア)の夢』を簡単にあそこから持っていったということは…」

「あぁ。間違いなく、()()()の仕業だな…」

 

ルパンはそう言うと、ポケットからタバコを取り出し、火をつけて吸い始めた。

 

「それともう一つ聞きたいんだが…」

 

次元はふと、ルパンの顔をチラッと見て話し始めた。

 

「なんだ?」

「…お前、あそこで誰と会った?」

「どういうことだ?」

「いや、お前が別のところでワクワクしてると思ってな」

「お?そうか?まぁ…そうだな…」

 

ルパンはふと、ある男の顔を思い浮かんだ。

自分の変装を見破った男…

 

「確か…ロイド・フォージャーだっけかな…いや…『黄昏』か…」

 

ルパンは面白いことになりそうだと、不敵な笑みをつい浮かんでしまった。

 

「全く…浮かれるのもいいが、そろそろ下を見たほうがいいじゃないか?」

「下?」

 

ルパンがふと、下を覗くと…

 

「待て〜!ルパ〜ン!今度こそ逮捕してやる!」

 

大勢のパトカーを連れた銭形が追いかけていた。

 

「おっと、いっけね。とっつぁん、もう来てたのか…次元!頼むぜ!」

「任せとけって」

 

次元の操縦するヘリコプターは街中を自由に、そして逃げるように夜空へと消えていったのだった…




いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ評価等よろしくお願いします。
では次回、お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話〜逃した魚は大きいか?〜

…煙が晴れ、ロイドやショーンが辺りを見渡す。

先ほど現れた男…ルパン三世の姿は見えない。

変装している可能性も大いにあったが…

 

「ちっ…逃したか…」

 

ショーンの一言で、この場にはいない事がわかった。

 

「ショーンさん、大丈夫ですか?」

「あぁ、大丈夫じゃ。ロイド君…いや」

 

ショーンは立ち上がり様、ロイドの方を見てニヤリと笑った。

その薄気味悪い笑顔に、ロイドはすぐに危険を察知した。

 

「…まぁ、今回は見逃してやろう、『黄昏』くん」

「…気づいていたのか…」

 

ショーンはロイドの正体を知っていた。

しかし、それを知ってなお、ショーンは今回目を瞑ったのである。

 

「あぁ。今回は愛すべき…だったはずの娘の招待客ということで、見逃して招き入れたのだが…こちらも少々戸惑っていてな…」

 

ショーンはそう言いつつ、落ち着き払った様子で辺りを見渡した。

 

「…ならなぜ、俺を泳がせた?あなたのような人が、俺の正体を知っておきながら…」

「泳がせてなどいない。それに、正体を知っていて見逃したのは、今回君がここに来た理由が()()ではないことくらいわかっているさ」

「…さすがだな…ショーン・マクラルーン…」

 

見透かしているかのように話すショーンに、ロイドはただ感服しかなかった。

その時、ふと外が騒がしく聞こえてくるのが、部屋に届いた。

 

「パーティーの客達は避難しているようじゃな…」

「そうみたいですね。では、私はこれで。妻と子が待っているので」

 

ロイドはヨルとアーニャの元へ急ぐべく、この場を離れようとした。

ショーンはそれを見てすぐに止めた。

 

「少し待ってくれぬか?『黄昏』」

「ん?」

 

ショーンの呼びかけに、ロイドは返していた踵を止めた。

 

「ここは一つ、協力しないか?」

「協力?」

 

ショーンの提案に、ロイドは訝しんだ。

 

「わしはこの国一の大富豪じゃ。欲しいものはなんでも入ってくる。この意味はわかるな?」

 

ロイドはその言葉で、あぁと納得した。

 

「お主ら《WISE》は『西国(ウェスタリス)の希望』を探しているのじゃろ?そしてその犯人は、先ほど現れた『ルパン三世』…」

 

その筋しか知らない情報を仕入れていたショーンは、今の現状を報告するかのように、ロイドに話した。

 

「…もう、ここまで来たらなんでもお見通しだな」

「マクラルーン家を侮るでない」

 

ショーンはふっふっふと誇らしげに笑う。

そして、ショーンはある取引をロイドに与えた。

 

「今回の件、我々マクラルーン家とお主、『黄昏』で是非とも協力して、お主は『西国(ウェスタリス)の希望』、わしらは『東国(オスタニア)の夢』を奪還したいと思う」

「報酬は?」

「お主の希望ならなんでも叶えてあげよう」

 

ショーンの一言に、ロイドはすぐに飛びつきそうになった。

もしデズモンドとのパイプを持つことができるのであれば、オペレーション『(ストリクス)』が大きく進むことができるかもしれない…

 

「なんでも…ですか?」

「あぁ…いや、さすが何回も使われては困るから、せめて3回までとしよう。これでどうかね?」

 

ショーンの提案に、ロイドはすぐに悩む。

願いを聞ける範囲は3回まで…

すぐにいろいろと聞きたいことがあったが、少しだけ考える必要が出てきた。

 

「わしは立場上、そこまで多くの情報は引き出すことができないんじゃよ。だから3回までにさせてくれ」

「…わかりました。《WISE》に戻って報告します」

「いい結果が出ることを祈るよ」

 

ロイドはそう言うと、深々とお辞儀をしてその場を離れた。

 

「…さて、わしは…()()()をせねばな…」

 

ショーンはロイドが去ったあと、執事にあることを耳打ちさせたのであった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…地上へ降りたロイドは、ボヤ騒ぎが起きて避難している客人たちの中へ飛び込んだ。

 

「あ!ロイドさん!」

「ヨルさん!アーニャも!」

 

ヨルの声で、ロイドとヨル、アーニャは無事に合流することができた。

 

「二人とも、大丈夫だったかい?」

「はい!」

「アーニャ、ぶじにだっしゅつしますた!」

「よかった…」

 

二人が無事だったことで、ロイドはほっと胸をなでおろした。

しかし、安堵したのもつかの間…

 

「それより、ロイドさんこそ大丈夫でしたか?ずいぶんと時間がかかったような感じがしたのですが…」

 

という、ヨルの指摘に、ロイドは思わずどきりとした。

 

「え、ええっと…トイレ行っていたら、急に避難するように言われて…急だったもんですから、ズボン履くのにだいぶ手間取りまして…あはは…」

 

と、ロイドはごまかしながら話したが…

 

(ちちうそつき…さっきにんむ、いってた)

 

アーニャにだけはバレていた。

 

「みなさん、大変申し訳ございません!」

 

ふと、大きな声が聞こえたので、全員が声の方を見ると、先ほど自室にいたショーンが客人たちの前に現れていた。

 

「この度は、皆様に多大なるご迷惑をおかけし、大変申し訳ありませんでした。今回は唐突ではございますが、ここでいったんお開きにしたいと考えております。今回のマクラルーン家のパーティーにご足労いただき、大変感謝をしております。どうか、お気をつけてお帰りください。くどいようではございますが、今回は大変、申し訳ございませんでした」

 

誠意あふれる対応に、どこからか沸いてきたのか、客人たちが自主的に拍手を起こした。

ロイド、ヨル、アーニャもそれに合わせて拍手でショーンを繕ったのであった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…その帰り道でのこと…

 

「最後、あんなことになりましたけど、楽しかったですね、ロイドさん」

 

フォージャー一家はパーティーの感想会を車の中でしていた。

 

「そうですね、ヨルさん。アーニャはどうだった?」

「ぴーなっつ、おいしかった!」

「またピーナッツか…まったく、困ったもんだ」

 

と、和気あいあいと会話している中、ロイドはあることを頭の中で巡らせていた。

 

(…ショーン・マクラルーンの提案…正直、怖い橋ではあるのだが…)

 

事件現場で話し合っていたことについて、今後どうしていくのかということである。

 

(ショーン氏は《WISE》にこのことを話してもいいというニュアンスだったな…俺が《WISE》のことを話しても、嫌がるそぶりは見せなかった…まぁ、このことは胸に仕込んでおいた録音機で管理官(ハンドラー)に伝えるとして…問題は…)

 

ロイドがふと、急に思考モードに入ったため…

 

「ろ、ロイドさん?大丈夫ですか?」

 

いつものように、ヨルが心配するという光景が生まれた。

 

(ちち、かんがえごとしている…)

 

アーニャはいつものようにロイドの考え事を読んでいた後、ふと、あることを思い出した。

 

「そーいえば…ちち!」

「ん?どうしたんだ?アーニャ」

 

アーニャの声かけに、ロイドはすぐに反応した。

 

「これ、ぐれーすからもらったもの!」

 

アーニャは嬉しそうに言いながら、持ってきたバッグから煌びやかな箱を取り出した。

ロイドに是非自慢したかったのだろうが…

 

「あー、うん。すごい綺麗だな。大事にしておけよ?」

 

当のロイドはそれどころではないという感じで突っぱねる。

 

「むぅ…」

 

アーニャはロイドの反応を見て頬を膨らませた。

それを見たヨルは…

 

「うわぁ、すごい綺麗ですね!でも、もらったなら大事にしてくださいね。友達にも見せたらダメですよ。羨ましがってくる人がいますから」

 

と、フォローを入れつつアーニャに箱を大切するように伝えた。

 

「うい」

 

アーニャはご機嫌な様子で箱をバッグの中に入れ、道中わくわくしながら帰ったのだった…

 




いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ評価などしていただけると嬉しいです。
では次回、お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話〜消えた宝石の行方は?〜

…マクラルーンの屋敷の件から数時間後…

日が昇りかける前に、ルパンと次元はやっとの思いでアジトに到着した。

 

「ふぃ〜…やぁっととっつぁんから逃げられたぜ…」

「とっつぁんの執念深さは天下一品だからな…全く、しつこいぜ」

 

銭形からなんとか逃げ切ったルパンと次元は、マクラルーンの屋敷でのことを共有することにした。

 

「…何?『東国(オスタニア)の夢』がなくなっていただと?」

「あぁ。俺が入る前に金庫が開けられていた」

「となると…ダイヤはどこへ…」

「どこへ行ったかはわからないが、持ち出したやつなら決まっている」

「…グレース・マクラルーン」

 

ルパンの一言に、次元は納得した様子で静かに犯人の名前を言った。

 

「あそこの警備はとても頑丈だ。事前の警備システムの概要も知っていると思うが、あそこを開けるにはショーンとグレースしか持ってない鍵が必要だ。ショーン自身があの部屋へ入っていないとすれば…」

 

と、ルパンが推察をしていると…

 

「…その通りよ」

 

ふと、入ってきたドアから声が聞こえてきた。

赤い髪の女の子…グレース・マクラルーンだ。

 

「おおっと、噂してたらなんとやらだな」

「おい!ルパン!このアジトバレたらどうするんだ!」

 

次元は、ルパンと自分しか知らないアジトがグレースにバレたことによって、警察に通報されることを危惧したが…

 

「安心して。警察には言ってないわ」

 

グレースは通報してないことを告げた。

 

「ちっ…女の言ってる事は信じられない主義でな…」

「なら、それでもいいわ」

 

次元の言葉に、グレースは気にしないと言わんばかりに首を振りながら言う。

 

「それで?この事件を巻き起こした張本人がなぜここに?」

 

ルパンはグレースに単刀直入に、事を起こした理由を聞き始めた。

しかし、グレースは何食わぬ顔で…

 

「あら、西国(ウェスタリス)の宝石を盗んだのは誰だっけ?」

 

と、ルパンを挑発するような口振りを見せた。

だが、ルパンはそれに対して至って冷静だった。

 

「ほぉ?俺様がなぜ宝石を盗んだことを知ってると?」

「うちはこの国一の富豪よ。頼めばどんな情報でも入ってくるわ」

「なぁるほどね」

 

ルパンは合点がいったようで、すぐに頷いた。

 

「それで、マクラルーン家のご令嬢がなぜそのようなことを?」

「申し訳ないけど、それは言えないわ」

 

次元の質問に、グレースは首を横に振って否定した。

 

「全く、別に聞いたっていいだろぉ?」

「本当にごめんなさい。言えないわ」

「あ、そ。なら俺らが盗むだけだ。宝石はどこだ?」

「さぁ、どこでしょうね?」

 

グレースはまるでルパンと次元に挑発するように言う。

 

「なるほどな…俺らにゲームを挑んできたってことか」

「そういうことにしておこうかしら」

 

グレースは不敵な笑みを浮かべて踵を返した。

 

「私はここで失礼するわ。ダイヤ、頑張って探してね」

 

グレースはそう言うとルパンのアジトからそっと抜け出した。

 

「ったく、何が頑張って探してだ」

「まぁまぁ、いいじゃねぇか、次元。ここはいっちょ、乗ってやろうじゃないの」

 

ルパンはいつもの調子で話しながら、いつもの調子でお酒をとくとくとグラス2つに注いだ。

一つはルパンが、一つは次元が取り、互いに同じタイミングでお酒を口の中に入れた。

 

「…アテはあるのか?」

「さぁな…皆目検討がつかないが…まぁ、なんとかなるでしょ」

「検討がつかないって、お前…」

 

ルパンのいつものようないい加減な発言に、次元は呆れかえる。

 

「だぁって、グレースが勝手にやったことに巻き込まれたようなものだろ?ダイヤがどこに隠したのかは本人のみぞ知るって感じだ」

「それはそうだが…検討が一つもないわけじゃないだろ?」

「あるとすれば…まぁ、1人いるけどな」

「誰だ?」

 

ルパンの予想に、次元は顔を前に出した。

 

「グレースは事件が起きる前、とある女の子と一緒に館の中を歩き回っていた」

「その女の子に渡したとでも?」

「あくまで可能性の一つだな。それがダメだったら全てパーになるけど」

「どのくらいの可能性だ?」

「50」

「お前にしちゃ随分と弱気だな」

「弱くてもいいじゃねぇか。泥棒は常にギャンブルみたいなもんよ。当たるまでわからないような世界だからな」

 

ルパンはそう言うと、飲み切ったグラスを机の上に置いたのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…次の日…ルパンと次元はイーデン校へと向かっていた。

 

「…しかし、なぜイーデン校へ?」

「グレースが呼べる範囲を考えたら、イーデン校くらいしかないってこと」

「なるほどな…」

 

ほどなくして、ルパン達はイーデン校の校門前に着いた。

ルパン達が着いたタイミングでは、ちょうど家から通っている生徒たちがゾロゾロと学校へ登校しているタイミングだった。

 

「さぁてと…昨日来てた子は…」

 

ルパンがしばらく投稿している生徒ひとりひとりを確認していく。

が、昨日グレースといた子が見当たらない。

 

「…本当にイーデン校の子なのか?」

「うるせぇ!俺の予想は当たってるの!」

 

と、口喧嘩をルパンと次元がしていたその時、2人の目の前をスクールバスが通り過ぎ去った。

そのスクールバスの中に、昨日グレースと一緒にいた子が乗っていたのを、ルパンは見逃さなかった。

 

「っ!」

「どうした?ルパン。いたのか?」

「あぁ…いたぞ」

 

ルパンは持っていた双眼鏡で、スクールバスから降りてくる子を確認し、そして…

 

「…あいつだな…」

 

ルパンはそのピンク色の髪の子に狙いを定めた。

さらにルパンは、その子があるものを持っていたことを見逃さなかった。

 

「…あれはマクラルーン家に伝わる宝石箱だな。と言っても、入れられる宝石は一つだけだが、その宝石箱に使われてる宝石たちもかなりのものでな…あれを売れば日本の国家予算なんかは軽く手に入るだろ」

「やけに詳しいじゃねぇか」

「マクラルーンの屋敷には財宝がゴロゴロと眠ってるんだぜ?下調べなんざとっくに済ませてラァ」

「なるほどな」

 

次元はルパンの言葉に納得した後、双眼鏡をルパンから受け取ってピンク色の髪の子を追った。

 

「…それでルパン、どうするんだ?お前」

「どうするって?」

「しらばっくれてんじゃねぇ。あの女の子からどうやって箱を盗むんだ?」

「そりゃもちろん、得意分野で行くでしょ」

「…まぁ、そうなるか…」

 

ルパンが提案したプランに、次元はため息を吐きながらも了承した。

 

「そんじゃ行くか、次元」

「おう」

 

ルパンはそう言って車をどこかへと走らせたのだった。

 

 




いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ評価などしていただけると嬉しいです
では次回、お会いしましょう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話〜鴉〜

…時は昨夜に遡る…

とある倉庫に、タクシーが来た。

そこから降りてきたのは、その場所とはかなりかけ離れた服装を着た女性である。

まるでパーティーにでも参加するようなピンクの豪勢な服を着たその女性の名は、グレース・マクラルーン。

真剣な眼差しで倉庫の方へ歩いたグレースは、何の躊躇いもなく中へと入る。

そこで待っていたのは…

 

「遅かったな」

 

一色を黒の衣装で纏った1人の男…ルパン達を襲った黒ずくめの男である。

 

「悪かったわね。遅くて」

 

グレースは男と対峙するように歩み、十分距離を取ったところで止まった。

 

「さて…約束は守ったんだろうな…」

「約束?あぁ…資金援助ね」

「『東国(オスタニア)の夢』を持ってきたんだろうな」

 

男はまるで急かすようにグレースに言い放つ。

そんな男の様子を見たグレースは…

 

「あぁ、それね…申し訳ないけど、隠したわ」

 

と、嘲笑うように話した。

だが、男はそんな事を既に見透かしていたかのように、グレースと同様嘲笑った。

 

「…俺を見くびるなよ…」

「とか言って、自分は対して何もしないくせに」

「黙れ、小娘」

 

男はグレースの挑発に、苛立ちを感じて強めの口調で言った。

しかし、グレースは一歩も引かなかった。

 

「別に、殺してもいいわよ。そのかわり、『東国(オスタニア)の夢』のありかを失うことになるわ」

 

グレースはそう言って男を動揺させようとした。

だがまたもや、男はグレースの言葉に臆するどころか、余裕な表情をみせた。

グレースはその様子を不思議そうに見たが、その答えはすぐにわかることになる。

グレースの後ろで気配がしたため、グレースはすぐに動こうとしたが…

カチャッ…

銃を構える音が聞こえ、後頭部には冷たい鉄の感覚がした。

 

「あら、教えてくれなくてもいいのよ」

 

ふと後ろから女の声が聞こえてくる。

 

「言っただろ?俺を見くびるなとな?」

 

男は勝ったと思わんばかりに思いっきりのニヤつきを見せた。

 

「…あなた、何者?」

 

グレースは後ろにいる女に声をかける。

 

「峰不二子。これが私の名前よ」

 

女…峰不二子は自分の名前を名乗ったあと、グレースに耳打ちをする。

 

「峰不二子…たしか、ルパン三世と共に動いている一味の1人…」

「でも今は別行動。ちょっとルパンとは喧嘩しちゃってね」

「なるほどね」

 

グレースははぁとため息を吐き、やれやれと言わんばかりに口を開く。

 

「『東国(オスタニア)の夢』はとある子供が持っている。それ以上は言えないわ」

 

グレースの言葉に、周りにいたであろう黒ずくめの男の仲間らしき人らがしびれを切らして声を荒げた。

 

「ふざけんな!」

「この国に何人子供がいるとおもってる!」

「お前がこの国から逃したら世界中回らないと見つからんぞ!」

 

男らの声にグレースははぁとまたため息をついた。

 

「ならば拘束して拷問でもすれば?私はどのみち追われる身でもあるし」

 

そのグレースの言葉に、リーダーの黒ずくめの男は興味津々とばかりに目を光らせた。

 

「ほう?追われてるのか?」

「えぇ。マクラルーン家の家宝でもある『東国(オスタニア)の夢』を持ち出したのなら、父はカンカンに怒って私を地の果てまで追いかけてくるでしょうね」

「なるほどな」

 

黒ずくめの男はフッと笑みを浮かべ、グレースに近づいた。

 

「ならば、俺ら『東西統一協力戦線』の仲間にならないか?そうすれば匿うこともできるぞ」

「あら、いいのかしら。どうせ拷問でもするのだろうけど」

「さぁな」

 

男の提案に、グレースは顔がわからない男の顔をじっと見つめたあと…

 

「いいわ。入っても」

 

あっさりと提案に合意した。

 

「では、ようこそ『東西統一協力戦線』へ」

 

男はニヤリと笑ったあと、グレースに膝をついてグループ加入を祝福した。

こんなあっさりとした、茶番に似た合意劇にグレースの後ろで銃を構えていた不二子は…

 

「…ふぅん…」

 

つまんなさそうに口を尖らせながら銃口を下ろす。

 

「それじゃ、あなた様は特別な部屋へご案内しましょう」

 

黒ずくめの男はそう言ってパンと手を叩くと、男の後ろから手下らしき男が姿を現した。

手下の男も黒いスーツと黒のソフト帽といった全身黒ずくめのスタイルである。

 

「ありがとう」

 

グレースは手下の男の後を追うように歩き出そうとしたその時だ。

 

「あ、そうそう…」

 

グレースはあることを聞こうと、足を止めた。

 

「ねぇ、あなたの名前は?」

 

グレースは黒ずくめの男に名前を名乗るように聞いた。

男はわずかに見える人相を変えず…

 

「クロウ…仲間ではそう呼ばれている」

 

と、あっさりと自分の名前を明かした。

 

「そ、それじゃよろしくね」

 

グレースはそう言うと闇の中へと消えていった。

 

「…まぁったく、何にも面白くないじゃない」

 

グレースがいなくなったのを見計らって、不二子が不満そうに愚痴をこぼした。

 

「別にいいじゃないか。彼女はゲームを持ち込んできたのだぞ?」

「だからといって、易々と仲間に受け入れるのはどうかと思うわ」

 

不二子の言い分はごもっともで、不二子にとっては急に現れた女をすぐに入れたのは、不信感以外何物でもないのである。

しかし、男…クロウは余裕の顔を崩さなかった。

 

「何、彼女を仲間になんてするわけない。現に君は仲間としてここに居るわけではないだろう?」

「えぇ、まぁそうね」

「それに、彼女から宝石のありかを聞き出せなくても()がいるからな」

 

男がふっと笑って不二子を見ると、その反応で不二子は納得した表情を見せた。

 

「あぁ…なるほどね」

 

不二子はクロウの言葉で、ルパンがマクラルーンの家に忍び込んだことがわかり、納得したもののどこか腑に落ちないところも見せた。

 

「…どうした?不二子くん」

「いえ、気にすることではないわ」

「ならば良いが。さて…」

 

クロウはふぅと一息ついて、黒の帽子を取った。

その帽子の中は鼻の部分が嘴のように尖っているマスクをつけており、人相はわからなくなっている。

そして髪の毛は、本当に(クロウ)のように漆黒だった。

 

「私はこの後ディナーに行くのだが、不二子君はどうかな?」

「私は遠慮しておくわ。烏と食事だなんて食べられたものじゃないわ」

「残念だな。今日は高級フレンチでも共にどうかと思ったが」

「だって、私は仲間じゃないでしょう?」

「あはは、これは一本取られたな…それならば、不二子君はルパンの動向をお願いしてもよろしいかな?」

「いいわ。ルパンなら任せて」

 

不二子は手をひらひらとさせながらバイクのヘルメットを取って倉庫から出た。

しばらくして、バイクの音がけたたましく鳴り、そして静かになると、クロウは手をすっと上げた。

すると、影から子分らしき男が現れた。

 

「…クロウ様、お呼びでしょうか?」

「不二子の後を追え」

「了解しました」

 

男はクロウの言葉を受け、再び影に隠れた。

 

「…あくまでそれだけの関係さ…不二子君」

 

クロウはニヤリと笑いながら、子分同様影の中に入ったのだった…




いかがでしたでしょうか?
だいぶ遅くなりましたが、明けましておめでとうございます
今年もよろしくお願いします
今回の話は少し自分の中でもどうかな?と思うストーリーではございますが、今後の展開でなんとかいい感じに持っていけたらなと思ってます
では今回はここまでに
次回も楽しみに


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話〜スクールチェイス〜

…マクラルーン家のパーティーから一夜明けたフォージャー家…

昨日のパーティーで最後にトラブルに見舞われたものの、参加していたロイド達はすっかりご満悦な気分に浸っていた。

 

「ロイドさん、昨日のパーティーとてもよかったですね!」

「はい。貴重な体験できてよかったです。これも全て、アーニャのおかげだからな」

「はっはっはー、もっとうやまえ!」

「その言葉、どこで覚えた…」

 

朝食を済ませたフォージャー一家は、それぞれ仕事、学校の支度を済ませることにした。

 

(…これでよし!)

 

アーニャは今日必要な道具を鞄に詰めた後、ふと机の上に置いてある煌びやかな箱を見た。

 

(これをじなんにみせびらかしたら…)

 

アーニャはいつもの妄想を膨らませた後、その箱を鞄の中に入れた。

 

「おい、アーニャ。そろそろバスが来るぞ」

「あ、まって〜!」

 

アーニャは入れた後に慌てて玄関を飛び出し、すでに来ていたスクールバスに飛び乗った。

 

「ふぅ…」

 

アーニャは間一髪で乗り込んだことに安堵の一息を入れた後、バッグの中をこっそりと見た。

 

(…これでせかいへいわ…!)

 

この時、アーニャの笑顔がかなり不気味だったらしく、周りの子たちはかなり引いていたとか…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…バスを走らせてから十数分後…

バスはイーデン校の校門をくぐり止まった。

アーニャがバスを降りると…

 

「アーニャちゃん!おはよう!」

 

車からちょうど降りてきたベッキーが挨拶してきた。

 

「ベッキー、おはざます」

「昨日アーニャちゃん大丈夫だった?」

「きのう?」

「ほら、マクラルーン家でボヤ騒ぎあったでしょ?」

「ぼや…?」

「小さな火事よ…全く、その様子だと平気みたいね」

 

ベッキーは変わらないアーニャの様子にあきれながらも安堵した様子を見せていた。

 

「それで、パーティーはどうだった?」

「すっごいきらきらしてた!」

「そりゃパーティーだもの…ほかには?」

「ぴーなっつがいつもよりおいしかった!」

「またピーナッツなの?飽きないわね…ま、それがアーニャちゃんだけれども…」

 

アーニャとベッキーは校舎の中に入り、授業を受けるため教室へと向かっていると…

 

「…よぉ」

 

黒髪の男の子が二人の前をふさぐように歩いていた。

その男の子の後ろにはおかっぱ頭の男の子と、顔が細長い男の子もいた。

 

「げぇ、また何か用なの?ダミアン」

「悪いかよ」

 

黒髪の男の子はベッキーの言葉に、いつものように突っかかるような口調で返事した。

この黒髪の男の子はダミアン・デズモンド…ロイド・フォージャーもとい『黄昏』のターゲット、ドノバン・デズモンドの次男坊である。

次男であるため、アーニャはいつも『じなん』と呼んでいる。

 

「あ、じなん。おはやいます」

「うっせぇ、ちんちくりん」

「ふがっ!」

 

アーニャがダミアンに挨拶すると、ダミアンはいつものようにアーニャをあしらうように挨拶した。

その返事にアーニャは少しだけショックを受けたような素振りを見せた。

 

「まぁたアーニャちゃんをいじめてる」

「いじめてなんかねぇ」

 

いつになく冷たい態度を取るダミアンに、アーニャははっとした様子でおもむろにバッグの中からあるものを取り出した。

 

「じなん、これを見ろ!」

「ん?」

 

アーニャが取り出したのは、グレースがくれた宝石箱だった。

アーニャは自慢げに、そしてドヤ顔でそれをダミアンに見せようとしたが…

 

「…宝石か…うちにはたくさんあるけど、興味ねぇ」

 

当の本人は何も気にしない様子でその場を去った。

 

(がーん!またもや…なかよしさくせん…しっぱい…)

 

アーニャはがくりとその場にうなだれてしまった。

逆にその宝石箱に興味を持ったのは…

 

「アーニャちゃん!?何この宝石箱!?」

 

隣にいたベッキーである。

 

「きのう、ぐれーすさんからもらった」

「グレースさんから!?すごい綺麗…中何が入っているんだろう…」

 

ベッキーは宝石箱を調べようと中を開けようとした次の瞬間だった。

 

「こらぁ!」

 

後ろから怒鳴り声が聞こえた。

声の主はイーデン校の教師である。

 

「君たち、一年生だね?なんだ?その箱は!」

「こ、これ…たいせつなもの…」

「君たちも知ってるだろう?この学校では余計なものは持ってこないって…」

「…はい…」

「あ、あのこの子は悪くないんです!今日たまたま持ってきただけで…」

 

アーニャが先生に怒られているところを、ベッキーは一生懸命に弁明した。

と、その時である。

アーニャはふと、先生の心の声を聞いた。

その声は、先生の声とは全く違う声で…

 

(ったく…早くそれ回収しないと本物が起きちまう…)

 

と焦っているような声を聞こえたのだ。

 

(…このひと…せんせいじゃない…それじゃ…だれ?)

 

アーニャは少しずつ、後退りしながら先生…の偽物とベッキーの口論を見ていた。

そして少し決意したのか…

アーニャはとっさにベッキーの腕を掴んで逃げ始めた。

 

「ちょっと、アーニャちゃん!?」

「ベッキー!あのひと、にせもの!」

「え!?どういうこと!?」

「あのひと…せんせいじゃない!」

「どうしてわかるの!?」

「わからないけど…なんかちがう!」

 

アーニャとベッキーに逃げられた先生の偽物は…

 

「あ!こら待ちなさい!」

 

すぐさま2人を追いかける。

その最中、先生の偽物は耳に手を当てた。

そして小声で…

 

「おい次元!気づかれちまった!」

 

と、先ほどとは違う声で何処かへと連絡を取った。

実はこの先生…ルパン三世が変装しているのである。

耳にはトランシーバーを付け、別の場所で待機していた次元大介と連絡を取っていたのだ。

 

「気づかれた?どうして急に」

 

トランシーバー越しの次元も驚きを隠せない様子だった。

 

「さぁな…あのピンクの髪の子、何かあるな…」

「何かって何が」

「それはわからねぇが、とりあえず俺は追いかける!」

 

アーニャとベッキーは先生の偽物から逃げるために全速力で構内を駆け巡った。

先生に化けたルパンも、2人を追い詰めるべく走っていく。

しばらく鬼ごっこをした後…

 

「…嘘でしょ…行き止まり…」

 

アーニャとベッキーは逃げ場のないところに逃げてしまった。

 

「…ごめん…ベッキー…」

「謝らなくていいのよ…私はアーニャちゃんの言葉を信じるわ」

「ありがとう…」

 

しばらくして…

 

「はぁはぁ…」

 

ルパンがようやくアーニャとベッキーに追いついた。

普段ならすぐに追いつけるはずのルパンであったが、授業開始前の小学校のためそれなりに生徒がいたということと、ベッキーの機転によってちょこまかと動いていたためさすがのルパンでも見失ってしまい構内を駆け巡った結果、偶然アーニャとベッキーに遭遇したというわけだ。

 

「全く…先生の手を煩わせて…さぁ、その持ってるものを渡しなさい」

 

ルパンはゆっくりとアーニャの持っている宝石箱を取ろうと、手を伸ばした。

 

「っ…」

 

アーニャは涙目になりながら、宝石箱を腕の中で固く抱いている。

ベッキーはその様子を見て不安になりながらも、アーニャの前に出てゆく手を阻んだ。

 

「さぁ…それを…」

 

と、ルパンの手がアーニャ達に届きそうになった次の瞬間…

 

「おい!そこで何をしている!」

 

後ろから声が聞こえた。

その声は、ルパンが化けている先生の声とそっくり…いや、同じ声だ。

ルパンが慌てて後ろを振り向くと…そこにはもう1人、同じ風貌の先生が立っていたのであった…




いかがでしたでしょうか?
前回からだいぶ空いてしまいましたが、今後ともこの調子でやらせていただきますのでよろしくお願いします。
では次回、お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話〜まさかのまさか…〜

…遡ること1時間前…

イーデン校の屋根から双眼鏡を使って何かを覗く男が1人…

ロイド・フォージャー…又の名を『黄昏』…

オペレーション〈(ストリクス)〉の進捗を確かめるべく、誰にも気づかれないように行動していた。

 

「さて…アーニャの様子は…ん?」

 

娘のアーニャの様子を見ようとしたロイドは、イーデン校へ近づくとある車を目撃した。

 

「あの車は…メルセデス・ベンツSSK…あの車がこの街に来るのはなかなかないものだが…確か…」

 

ロイドは頭の中の持っている情報を色々と検索をかけた結果…総合的に考えて…というより、今まで起きたことの流れからとある男の存在を導き出した。

ロイドはその仮説が正しいことを確かめるべく、持っていた双眼鏡で車を見た。

そして、その車に乗っている男を見て確信に満ちた声でその男の名前を言った。

 

「…ルパン三世…」

 

ロイドは男の名前を唇を噛みながら言うと、すぐに頭を巡らせた。

 

「しかしなぜだ…あの天下のルパン三世がこの学校に来る理由なんて…」

 

ルパン三世が盗むような代物がイーデン校の中にあったのか…ロイドは今まで〈WISE〉で集められた情報を思い出そうとした。

しかし、イーデン校でルパン三世が望むようなお宝がないことに気づくまで1分もかからなかった。

 

「…なぜだ…なぜ…」

 

ロイドがずっと頭の中を検索していくと、とあることを思い出した。

 

『ちち!これ、ぐれーすからもらったもの!』

 

昨日の車の中でアーニャがそう言ってロイドに見せようとしたものがあることを思い出したのである。

その時ロイドは考え事をしていたが、ちらっとそのものを見たのである。

その時は宝石が散らばっている箱だと認識していたが…

 

「…まさかそれを狙って…」

 

ロイドはまさかと思って、アーニャが到着するのを待った。

しばらくして、アーニャを乗せたバスがイーデン校の門をくぐる。

そして、アーニャが降りて、ダミアンとの会話している中で、昨日の宝石箱が出てくるのを確認した。

 

「やはり…ルパンの目的は…!」

 

ロイドはすぐにルパンを近づかせまいと動こうとしたが…ふと、アーニャに近づいている1人の男の姿を目撃した。

 

「あれはイーデンの先生だが…やはり骨格とかがおかしい…」

 

すぐにロイドは屋根上から降り、ルパンが変装している教師と同じ人になりきって、逃げるアーニャ達と追いかけるルパンを追った。

そして…

 

「おい!そこで何をしてる!」

 

アーニャとベッキーを追いつめているルパン達の前にようやく辿り着いたのである。

 

「きっ、貴様は…!?」

「先程はよくもやってくれたな…この偽物め!」

 

ロイドはその教師になりきって追い詰めようとしたが、相手は天下の大泥棒で変装の名人であるルパン三世、そう簡単には論破も出来なかった。

 

「何を言ってる!そういうお前こそ偽物だろう!?」

「何を言ってる…俺は貴様に気絶させられてすり替えられた本物だ!」

「くっ…」

 

ルパンは偽物ではあるがロイドが来たことで万事休すといったところだが、とあることをふと思いついた。

 

「き、貴様は俺が気絶させられたというが、どういう方法で気絶したかわかるのか!?」

「っ!?」

 

流石のロイドもこの質問には言葉を詰まらせた。

もちろんロイドはその現場を見ていたわけではなく、同じ人が2人現れたこと、そして後から現れたことで本人であるかのような立ち振る舞いをしようと企んだのだが、それをルパンに看破されかねない質問をされたのだから困ったのである。

 

(くそっ…このままルパンの思う壺だ…どうする…)

 

そんなロイドを、アーニャは心を読む力で聞いていた。

 

(ちち、ピンチ!それなら…)

 

アーニャは勇気を振り絞り、ベッキーの手をもう一回引いて、ルパンの横を通り過ぎた。

 

「んなっ!?」

「え!?」

 

ルパンもロイドも、そしてベッキーも驚いたが、アーニャはロイドの後ろに付くや否や…

 

「このひとほんもの!よくわからないけどほんまの!あのひとにせもの!」

 

と叫んだのである。

これがロイドにとって大きな追い風となった。

 

「ほら、子供達もそう言っている。純粋な子供がこんな嘘はつかないだろう?」

「くっ…」

 

ルパンは観念したのか、頭をわしゃわしゃとかきながら…

 

「ちぃっくしょう!あと少しだったのによぉ!」

 

と、声を元に戻して話し始めた。

 

「な、何なの!?声変わっちゃったけど!?」

「よぉ、ブラックベルのお嬢ちゃん?はじめまして」

 

ルパンはそう言うと、遂に被っていたマスクをビリビリと破いて正体を現した。

 

「え、えぇ!?」

「かお、われた!?」

「俺の名はルパ〜ン三世。よろしくな?」

「ルパン三世?なんなの?その変な名前…」

「がくっ…ちょっとそんな言い方無いんじゃないの?」

 

ルパンは正体を現して挨拶をしたあと、はぁとため息を吐いてニヒルな笑みを浮かべた。

 

「今回はここでトンズラさせていただくが、次は逃さないぜ?んじゃ、あーばよー」

 

ルパンはそう言うと煙玉を地面に叩きつけ逃走した。

ロイドはすぐにアーニャとベッキーを抱えてその場から離れた。

しばらくロイドが走ったあと、アーニャとベッキーを下ろし、腰を落とした。

 

「大丈夫か?2人とも」

「は、はい!ありがとうございます!」

「あざぞます!」

「うん、元気そうで何よりだ」

 

そしてロイドは次にアーニャの方を見た。

 

「そして君、なんで追っかけられてたんだ?」

「わからない…でも…」

 

アーニャは素直に宝石箱をロイドに差し出した。

 

「これをだしてたら…」

「なるほどね…たしかにそれは持ってきてはいけないものだな。これは没収させてもらうよ?」

「…はい…」

 

アーニャはしょんぼりとしながらその宝石箱をロイドに渡した。

宝石箱をもらったロイドはそれを懐にしまい、そしてアーニャの頭を撫でた。

 

「え?」

 

アーニャは豆鉄砲を食らったような顔を見せた。

 

「…よく頑張ったな。朝から怖かっただろう?」

「…うん…」

「もう大丈夫だ。ここからは先生から言うから、君たちは何も言わなくていいからね」

「…ありがとう…ございまする…」

「うん。あと、隣の友達にもちゃんと謝ってね」

「はい…ベッキー…ごめんなさい」

「謝らなくていいのよ!逆にアーニャちゃん、すごい!よく偽物だってわかったね!」

「な、なんかちがかったから」

 

アーニャとベッキーの会話を楽しんだロイドは、裏工作をイーデン校内でやった後、〈WISE〉の基地へ行き管理官(ハンドラー)に報告し、中に入っているものを確認した。

すると、管理官(ハンドラー)とロイド…黄昏は思わず目を丸くした。

 

「…これは…」

「盗まれた『西国(ウェスタリス)の希望』と似た宝石…資料からおそらく『東国(オスタニア)の夢』でしょう」

 

そう…中に入っていた物は、赤い半分の宝石であったのである…




いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ評価や感想等よろしくお願いします。
では次回、お会いしましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話〜仕留め損なった?〜

…一方、お目当ての物『東国(オスタニア)の夢』を取り損ねたルパン三世は、愛車をひた走らせながら、考え事をしていた。

 

「ったく、らしくねぇなルパンよ」

 

隣の次元はタバコを咥えながらボソリと呟くように相棒に言う。

 

「そんなこと言われたって仕方ねぇだろうよ!はぁ…」

 

珍しく物を盗めなかったルパンは頭を垂れながら車を運転していった。

 

「…それにしても、あの小娘よくお前の変装を見破ったよな」

「あぁ。確かに気になるな」

 

次元の静かな驚きに、ルパンも同意する。

声まで変えたはずなのに何故かバレてしまった…

 

「ちっくしょ〜!なんか癪にさわるぜ!」

 

ルパンは珍しく頭を抱えながらカンカンに怒り始めた。

その怒りのせいか、ルパンが運転する車が蛇行運転してしまい、まるでジェットコースターのように横に揺れていった。

 

「お、おい!ルパン!暴れるなっつうの!」

「んなこと言われたって、こんな気分初めてなんだっつうの!」

 

しばらく車を蛇行させながらも運転したルパンは、とある路地裏へと入っていった。

 

「ったく…酔っちまうところだったぜ…」

「あはは、悪りぃ悪りぃ…でもまぁ、ちーっと、こうでもしないといけなかったんでな…」

「こうでもしなきゃ?どういうことだ?」

「…不二子だよ」

「なんだって?」

 

ルパンの発言に、次元はいつものように驚いた。

 

「本当は今すぐにでも抱きつきたかったけどな、今回ばかりはふ〜じこちゃんでも、流石にここの場所までは突き止められたくなくてな」

「ここ?どういうことだ?」

「まぁ、行ってみるとすっか」

 

ルパンはそう言って車から降りて、近くにあるなんでもないビルに入っていった。

ルパンと次元はしばらくビルの1階を練り歩いていると…

 

「…お?あったあった」

 

ルパンがそう言った先にあるのは、なんの変哲もない白塗りの壁である。

 

「あった?何がだ?」

「実に巧妙に隠れてあるが、俺の目には誤魔化されないぜ」

 

ルパンがそう言って、目の前にある壁を押した。

すると、そこだけ手の大きさの分だけ壁が凹んだのである。

そして、壁が完全に押し切ると、今度は横の壁が静かに開き始めた。

 

「隠し扉か…」

「あぁ。入ろうぜ、次元」

 

ルパンが中に入り、次元も気味が悪そうにしながら中に入っていった。

その先も廊下が続いていたが、先ほどいた廊下にある扉より、厳重な鉄の扉が並んであった。

 

「なんなんだ、これは…まるで牢獄みたいじゃねぇか…」

 

次元の言う通り、目の前にある景色はまるでどこかの刑務所を彷彿とさせている。

 

「ここはとある組織の資料室だ。まぁ、その組織ってのは今はどうなってるかわからないがな」

 

ルパンはそう言いながら、扉に指を差しながらゆっくり歩き始めた。

次元はそんなルパンの後を追っていく。

 

「ど、こ、に、あ、る、の、か、な…っと」

 

ルパンはテキトー指を差しながら、たまたま指が止まった扉に手をかけた。

扉の向こう側にあったのは、大量の資料が保管してある金属の引き出し式の棚であった。

 

「おいおい…そんな適当でいいのかよ、ルパン…」

 

次元はたばこに火をつけながら、呆れながら話し…

 

「テキトーでいいんだ!テキトーで!俺の勘がここだって言ってるんだっての!」

 

と、ルパンはいつもの調子で突っ込んで、棚の引き出しを一つ一つ開けて中を確認しながら物色していった。

 

「…んで?ルパン…お前の目的はなんだ?」

「どういうことだ?」

「わざわざこんなところに来たってことは…何か手がかりでも探しに来たんじゃないのか?」

「いーや?今回は野暮用だ」

「野暮用だと?」

 

次元はたばこの煙を吐きながら質問した。

 

「そ。あのお嬢ちゃんのことだよ」

「お前の正体を見破ったあの子のことか」

「そうそう。実はあの学校に行った時に少しだけあの子の経歴見させてもらったのよ」

「ほう?それはどうしてだ?」

「見た目の割に年齢が合わないってこと。あの見た目ならまだあんなボンボンの行く学校なんかには行かないだろ?」

「確かに、見た目の割にはあの学校に行ってるのはおかしいが…」

「それに、あの『黄昏』がついている子だ。何かあるんじゃないかって思ってな…」

 

ルパンの最後の一言に、次元は眉をひそめた。

 

「…そういや、『黄昏』って言ったっけか?誰なんだ、そいつは…」

 

次元の質問に、ルパンは見つからなかったの同時に起き上がって静かにその質問に答えた。

 

「『黄昏』…西国の諜報機関〈WISE〉の諜報員であり、俺と同じ『変装の名人』って呼ばれてるやつだ」

「諜報員…と言うことはスパイか…その『黄昏』ってのと何か因縁があるのか?」

「昔、とある仕事で〈WISE〉と接触する機会があってな。その流れで調べたことがあるのよ」

「なるほどな…てことは、名前だけしか知らないってことか」

「先の一件で会うまではな」

 

ルパンは昔の話をしながら資料を漁っていくと…

 

「お?あ〜った!あった!」

 

お目当ての資料を見つけたらしい。

 

「あったって?」

「とある実験の資料さ。コピーだが丁寧に写真も鮮明に写ってやがる」

 

ルパンはその資料の一枚を次元に見せた。

そして次元は、その資料の顔写真を見て驚いた。

 

「んなっ…こいつは!?」

「そ、さっきあの学校で『東国(オスタニア)の夢』を持ってた嬢ちゃんだ」

 

顔写真に載っていたのは、服飾品がないものの、先ほどイーデン校でルパンと対峙した女の子…アーニャ・フォージャーそのものである。

 

「おいおい、これはどういうことだ?ルパン」

「ま、とりあえず目当ての物は取れたことだし、さっさとずらかろうぜ。ここだと暗くて見えやしない」

「ずらかるって…そんなもん持っていっていいのかよ…」

「大丈夫大丈夫。俺は泥棒だぜ?」

「ったく…そうだったな…」

 

ルパンと次元は不気味な空間から逃げるように出て、車に乗り込んでを走らせた。

ちなみに謎の部屋の入り口はすぐに閉めた。

 

「…『被験体007』…なるほど…国を上げて改造人間みたいなのを作ってたってことか」

 

次元は車の中で、ルパンが盗んだ資料を見ながら呟いていた。

 

「そ。東国(オスタニア)ではその昔、とある組織が何かしらの実験で生み出したのがその子でな…その能力を見てみろ」

「能力?えぇっと…『他人の心を読む』?」

「そういうこった。どれだけ口で綺麗事を言ってても、この子の能力にかかれば内心どう思ってるのかバレてしまうってこと」

「それじゃ…ルパン、お前が変装してるってバレたのは…」

「その能力によるものだ」

 

ルパンの言葉に、次元はようやく腑に落ちた。

 

「なるほどな…」

 

しかし、次元は鋭い目つきでルパンの方を見つめた。

 

「…それにしてもルパン、お前この情報どうやって手に入れたんだ」

 

次元はもちろんのこと、ルパンも『被験体007』…アーニャ・フォージャーとは初対面である。

それなのに本人のことが書かれてあるファイルがあることをなぜルパンが知っているのか、次元は気になったのだ。

 

「そりゃもう、勘だよ勘」

 

ルパンはいつもの口調でおちゃらけたように言うも…

 

「そんなことねぇだろ!少しは本当のこと話せっつうの!」

 

次元はルパンの耳をつまんで引っ張りながら突っ込んだ。

 

「イテテ…!次元!待って、わかったから!」

 

ルパンはもちろん痛がるリアクションを見せて、次元を落ち着かせた。

次元が耳を離した後、ルパンは少し耳をさすりながら本当のことを離した。

 

「…マクラルーンの家だよ」

「マクラルーン?」

「あの家自体に、この国のありとあらゆる『情報』が流れ込んでくるのさ。ショーンはその『情報』を使って巨万の富を得たってわけだ」

「それで、ルパンはその情報を『盗んだ』ってわけか?」

「そ〜いうこと。いかんせんショーンっていう男、フォージャー家をずっとマークしていたようだ」

「マーク…?」

「あぁ。調べてたら色々と面白いんだ、あの家族」

 

ルパンは思い出し笑いしながら車をどんどんと走らせていく。

次元はそれを見て引いている表情を見せた。

 

「面白い…だと?」

「あぁ。なんだってあの家の父はスパイ、母は殺し屋、娘は超能力者、ペットの犬も実験の産物ってわけだからな」

「…は?」

 

流石の次元も、ルパンの言っていることが分からずきょとんとしていた。

 

「つまり、あの家族は所詮…『仮初の家族』ってわけさ」

 

ルパンと次元を乗せた車は、そのまま高速をどんどんと突き進んでいったのだった…




いかがでしたでしょうか?
タイトルは何も思い浮かばなかったので、これで勘弁してください
もしよろしければ評価などよろしくお願いします
では、次回お会いしましょう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話〜東の夢は西に渡る〜

…〈WISE〉の基地にて…

 

「…ふむ…」

 

本当に『東国(オスタニア)の夢』かどうか調べるべく、『黄昏』および管理官(ハンドラー)は〈WISE〉の研究機関に鑑定に出していた。

その鑑定の様子を2人はマジマジと見ている。

 

「…あの様子だと、おそらく本物だな…顕微鏡を覗いてる研究員が驚いている」

 

管理官(ハンドラー)はいつものように落ち着いた口調で話す。

 

「本物ですか…それはどうして?」

 

『黄昏』は管理官(ハンドラー)の確信めいた発言に疑問を持った。

 

「『黄昏』は聞いたことはあるか?昔西国(ウェスタリス)東国(オスタニア)は一つの国であったことを」

「〈WISE〉での勉強会の時に習いました」

「元々『西国(ウェスタリス)の希望』と『東国(オスタニア)の夢』は一つの宝石で、昔2つの国が統一していたころ…王国とでも言うべきか、その王国の国王に代々引き継がれて来ていた」

「はぁ…」

「しかし、王国は戦争を境に解体され、今の2つの国に別れてしまった。2つの国は戦争が終わった後、すべての責任をその時代の王に負わせることで取りまとめ、その時に王が持っていた国の宝であるその宝石を2つに割ってそれぞれ持つようになった…それが今のあの宝石ということだ」

「それはいつの話で?」

「我々が生まれる前だ」

 

『黄昏』は思わず納得して首を小さく縦に振った。

 

「しかし、それと宝石に何か関係があるんだ?」

「その先代の王とやらは、元々一つだった宝石に何か細工をしていたらしい。そして2つに割れた今の宝石には、その細工の跡が残っているというが…」

 

管理官(ハンドラー)がはたしてと言おうとしたその時、ガチャリとドアが開く音がした。

 

「鑑定結果が終わりました」

 

中から研究員が、『東国(オスタニア)の夢』が乗ってるパンを持って出てきた。

 

「結果は?」

「本物です。宝石の中に何やら図面らしきものが描かれております。過去の文献より、『東国(オスタニア)の夢』、および『西国(ウェスタリス)の希望』には図面が彫られ、2つの宝石が合わさることでその図面が浮かび上がるという仕掛けがあるのですが、この宝石にはそれの半分が描かれているのです」

「その図面はどんなものだ?」

「そこまではわかりかねます。何かの製造方法らしいものですが…」

「宝石に組み込むってことは、よほど知られたくないものなのか…」

 

管理官(ハンドラー)はその後、さらに詳しい分析を研究員に任せ、この後の方針を『黄昏』とともに歩きながら考えた。

 

「さて…我々としては、『西国(ウェスタリス)の希望』をなんとしても取り返したいところではあるが…」

「天下のルパン三世も持っていないとすると、誰が一体…」

「それについて、少し気がかりな話があってな…」

 

管理官(ハンドラー)の部屋に着くや否や、管理官(ハンドラー)は机の上からとある書面を出した。

 

「今回盗まれた『西国(ウェスタリス)の希望』は、実はとある組織の犯行の可能性が出てきてな」

「とある組織…ですか?」

 

『黄昏』はすぐに過去の犯罪歴のある組織を片っ端から探り始めるが、その様子を見た管理官(ハンドラー)が間髪入れずに宥めた。

 

「お前にはわからん組織だ。というのも、この組織がわかったのもつい最近だがな」

「つい、最近…」

「あぁ…その組織の名前は、『東西統一協力戦線』」

 

管理官(ハンドラー)が差し出したその紙には、『東西統一協力戦線』の詳しい内容が書かれていた。

が、最近知ったというのもあって、内容はあまり深々と書かれてなかった。

 

「この組織が、今回の事件を握っていると?」

「おそらくな…詳しい話は後日にしよう」

 

管理官(ハンドラー)はようやくひと段落したと言わんばかりにふぅと椅子に崩れ落ちた。

 

「珍しいですね、管理官(ハンドラー)がそこまで追い込まれるなんて」

「今回の一件は、国からすぐに片付けるようにしつこく言われている。国の宝だからな」

「そうですね…なんとしても、取り戻さなきゃ…」

「とりあえず、今日はここで切り上げよう。アーニャ嬢にはもうしばらく鑑定していると伝えてもらえると助かる」

「わかりました」

 

『黄昏』は管理官(ハンドラー)に敬礼して、部屋を後にしたのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…家路につく『黄昏』…ロイドは、『東西統一協力戦線』のことについて頭を巡らせていた。

 

(『東西統一協力戦線』…一体何が目的で宝石に狙いをつけたのか…もし、統一するだけなら武力を持つなり、テロを起こすなりして、国を貶めるようにするはずなのだが…)

 

と、そろそろ家の前に来たその時だ。

ロイドの向こうから1人、見慣れない格好をした男が現れた。

和服に袴を着ており、広々とした笠を被ってビニール袋を持っている。

 

(…あれは…確か、サムライだといったか…遠い東の国では昔そのような人がいたと本で見たことがあるが…)

 

ロイドが家の前で立ち止まると、向こうから現れたその『サムライ』もまた、家の前で止まった。

 

(…腰に長い棒…恐らく昔の東の国で使われた『カタナ』という武器か…まさか、刺客か?)

 

警戒しつつ、『サムライ』を睨んだロイド。

しかし、そのロイドの心配は杞憂となる。

 

「…お主が、ヨル殿の夫でござるか」

 

『サムライ』が発した言葉に、ロイドは驚く。

 

「っ!?あ、あぁ…あなたは?」

「やはりそうでござったか…」

 

『サムライ』は被っていた笠を取り、隠れていた笑顔を見せた。

 

「挨拶が遅れて申し訳ない。某は、ヨル殿の遠い友人である、石川五ェ門でござる」

 




いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ評価などしていただけるとありがたいです
では次回、お会いしましょう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話〜再会の侍〜

…遡ること数時間前…

ロイドが仕事へ、アーニャが学校へ行っている間、ヨルはこの日休みであったため1人買い物をしていた。

 

(今日頼まれていたものは…トマトにじゃがいもに、エンドウ豆…ロイドさんはこれでスープでも作るのでしょうか?ふふっ、楽しみです)

 

スーパーでの買い物を一通り終わらせたヨルはひと段落しようと公園へと足を運ぶ。

 

「うーん…気持ちいいですね…今度また、ロイドさんとアーニャさんと一緒にピクニックに行きたいですね。今度はユーリも連れてこないと…」

 

と、1人楽しい妄想を繰り広げていたその時だ。

 

「きゃあっ!」

 

どこからか女性の悲鳴が聞こえてきた。

 

「っ!?」

 

ヨルは声が聞こえるや否や、辺りを見渡した。

すると、すぐ近くで若い女性がひったくりに遭っていたのだ。

 

「ドロボー!誰か〜!」

 

女性は黒ずくめの格好をした男を追いかけたが、すぐに引き離されてしまう。

 

「コラ〜!待ちなさーい!」

 

ヨルはすぐにその泥棒を追いかけた。

すぐには追いつかないと思われたが、侮ることなかれ…

ヨルの裏の顔は、殺し屋『いばら姫』である。

常人離れしたその脚力で、ひったくり犯との距離を突き詰めていった。

 

「何っ!?」

「ていやぁっ!」

 

いつのまにか追いついたヨルのドロップキックに、ひったくり犯は避ける間も無く体がくの字になって突き飛ばされてしまった。

それと同時に女性の荷物が飛んだが、ヨルはそれを綺麗にキャッチした。

 

「あ、ありがとうございます〜!」

 

女性は疲れながら向かいの道路から走ってきた。

 

「ふふっ」

 

これで一件落着と思ったヨルだったが、ふと道路を左へ見ると、向こうから急スピードで駆けてくる一台の車がいたのだ。

 

「っ!?危ない!」

 

かなり至近距離まで近づいてきていた上に、自慢の脚でも女性を救い出すことができないと直感したヨルは女性を止めようとするも、女性は勢いそのままに道路へと入ってきた。

 

(ダメ…間に合わない!)

 

ヨルが諦めかけていたその時だった。

 

「キェェェッ!」

 

男の気合の声が聞こえてきたのである。

ヨルはその一瞬を見逃さなかった。

空から男が降りてきたと思いきや、手から刀を取り出して車を『真っ二つに切った』のである。

車はそのまま綺麗に半分に分かれてしばらく走った後に爆破。

女性は腰を抜かして尻餅をついたものの無事であった。

 

「…またつまらぬものを切ってしまった…」

 

男はそう言うと、女性に背中を向けたまま、顔をちらっと向けて問いかけた。

 

「大丈夫でござるか?」

「え、えぇ…」

 

一体何が起こったのかわからない女性は呆然としていた。

 

「…あ、あの…これ…」

 

ヨルは荷物を女性に渡したあと、すぐに男の方を見た。

肩までかかる長い髪に、和服に袴という東国(オスタニア)では見たことがない格好…

普通の人なら得体の知れぬ男に声をかけることはしないが、ヨルは違った。

 

(この人…どこかで見たような…)

 

ヨルがその男を思い出すのにそう時間はかからなかった。

 

(あれ…もしかして…)

 

ヨルがその男を思い出したと同時に…

 

「では、拙者はこれにて」

 

男がその場から離れようとしたため、ヨルはすぐに男を引き止めた。

 

「あ、あの!」

「ん?某に何か?」

「…ゴエモンさん、ですよね?」

「んなっ…なぜ…いや、待て…お主…もしかして…ヨル殿か!?」

「はい!お久しぶりです!ゴエモンさん!」

 

ヨルが思い出した男の正体…それは、ルパン一味の1人、十三代目石川五ェ門であった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…買い物を終えたヨルは、1人公園へと向かっていた。

 

「ゴエモンさーん!お待たせしました!」

「うむ」

 

公園のベンチで胡座をかいて座っているのは五ェ門。

その五ェ門の隣にヨルは座る。

 

「お久しぶりですね!ゴエモンさん!」

「ヨル殿も久しぶりだな。あの時から変わらず綺麗だ」

「もう、ゴエモンさんったら…」

 

五ェ門の言葉に、ヨルは思わずタジタジになった。

 

「それにしても、貴殿が日本に来て修行を積んでから10年経つか…」

「あの時は色々お世話になりました」

「某はただ『ガーデン』のお願いを聞いたまで。偶然縁があったゆえのことだ」

「そうですね。ふふっ」

 

ここでヨルは、ある当然の事を五ェ門に聞いた。。

 

「そういえばゴエモンさん」

「どうした?」

「どうして東国(オスタニア)にいるのですか?」

「あぁ…」

 

五ェ門はやはり聞かれたかと言わんばかりの生返事をし、続けて理由を口にした。

 

「とある用事でこの国に来ておるのだ。ヨル殿のいる国であるから、時間を見つけたらお主を探して挨拶をしようと思ってたところよ」

「そうだったんですね!うれしいです!」

 

ここでヨルは、とある事を思いついた。

 

「そうだ!ゴエモンさん、今日の夜予定ありますか?」

「予定?」

「はい!今日夜一緒にご飯を食べたいと思ってるのですが…大丈夫ですか?」

「某は結構だが、ユーリ…とやらか?ずいぶん姉思いの弟が居た気がするのだが…彼は大丈夫なのか?」

「あ、私とユーリは今、別々で暮らしてて…あと、私結婚してるんです」

「結婚?ヨル殿が?」

「はい!」

「なるほどな…」

 

五ェ門は表情を変えなかったが、どこか嬉しさが込み上げるようにあごを上げた。

 

「今日はロイドさんが作ってくれるんですが、ロイドさんが来るまでの間、私が料理を作ります!」

「ヨル殿の料理か。楽しみだな」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…そして現在…

 

「…石川五ェ門…?」

 

ロイドと五ェ門が対面している。

五ェ門はロイドがヨルの夫である事以外は何も知らないが、ロイドは五ェ門の名を聞いてひどく驚いていた。

 

(…石川五ェ門…確か、ルパン三世の一味の1人…なぜ、彼がヨルさんと…?)

 

少し慌てている様子のロイドを見た五ェ門はすぐに、ヨルとの関係を話した。

 

「某はヨルが日本に来た時の案内人で知り合った。それまでの関係である」

「っ!?な、なるほど」

 

ロイドはどこか安堵したのか、ほっと胸を撫で下ろした。

 

「…ヨル殿を大切にしているのだな」

 

五ェ門はほっとしたロイドの様子を見て、思わず微笑んだ。

 

「えぇ。自慢の妻ですから」

「それはよかった…良き夫を見つけたもんだ」

 

互いに打ち解けあった2人は、ロイドの誘いで家に入ることにした。

 

「そういえば、その袋は?」

「あぁ。先程ヨル殿が作ったご飯を食していたのだが、人間が食べられるようなものではなかったのでな…拙者が日本のご飯を振る舞うことになり買い出しをしていたのだ」

「あはは…」

「よく、あのようなご飯を食べられるな…ロイド殿…」

「慣れですよ…」

 

ヨルの作ったご飯で、ロイドと五ェ門の間に思わぬ友情が出来たのだった…




いかがでしたでしょうか?
今回の話もあくまで自分の妄想の枠でございますので、そんな設定ないだろ!みたいな言葉はご遠慮いただけると幸いです。
もしよろしければ評価などしていただけるとありがたいです
では、次回お会いしましょう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話〜突如として動き出す〜

…バーリントのとある廃墟ビル…

そこそこ高いビルの屋上から、1人の男が街を眺めていた。

 

「…ここにいたのね、クロウ」

 

クロウの後ろから声が聞こえてきた。

 

「…不二子くんか」

 

振り返ったクロウの奇妙なマスクの目に、不二子が反射して映る。

 

「こんなところで何してるの?」

「あぁ…これから花火が打ち上がるんだ」

 

クロウはそう言うと、また顔を街に向けた。

 

「花火?なんのこと?」

「今、仲間たちがスタンバイしている」

「なるほど」

 

不二子は何か納得した様子でクロウの隣に来た。

 

「そういえば…」

 

不二子は何か思い出した様子でクロウに質問した。

 

「グレースって子…最初会った時から見てないけれど…」

「あぁ…彼女のことか」

 

クロウはそう言いながら指をとある方向へと向けた。

その指の先には…ビルの鉄塔からぶら下げられたグレースがいたのだ。

 

「あらあら…あんな可愛い子をそんな風に扱っていいの?」

「彼女はやはり我々を裏切るつもりだったらしい。だからこうさせてもらった」

「裏切るつもり?どういうことかしら?」

「彼女は、何かの目的があって我々に近づいてきたらしくてね…協力する気は鼻からなかったってことだ」

 

不二子はクロウの説明を聞いて納得したかのように頷いた。

 

「さて…そろそろいい頃合いかな…」

 

クロウはふと、時計を見て街をまた覗く。

 

「どこから花火上がるのかしら?」

「まぁ、見ているといい…」

 

クロウは耳に手を当て、数回小さく頷いた後、時計のボタンを徐に押したのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…遡ること数十分前…

五ェ門がフォージャー家に来てから数時間経過した頃…

 

「…うん!うまい!この漬物とご飯は確かによく合いますね!」

「昔ニホンに来た時のこと思い出します〜」

「拙者の手料理に賛辞いただき、感謝する」

 

五ェ門がヨルの料理に耐えかねて、自ら作った料理をヨルとロイドに振る舞っていた。

 

「しかし、私がニホンの料理が食べたいと言ったら作ってくれるなんて…相変わらず優しいですね、ゴエモンさん」

「某は何も変わってござらぬ。それはヨル殿も然り。未だに純真な心を持っておられる。それがロイド殿が惚れた理由でござろう」

「あはは、ゴエモンさん、口がお達者で」

「本心だ」

 

と、ロイドとヨルで食事を楽しんでいたその時…

 

「ただいまかえりました!」

 

アーニャが元気よく中に入ってきた。

 

「アーニャさん!おかえりなさい!」

「うい!」

 

ふと、アーニャは五ェ門を見る。

 

「…ちち、はは。このひとだれ?」

 

アーニャは五ェ門に指を差しながらロイドとヨルに聞いた。

 

「こら!人を指差したらダメですよ!この人は、私の古い友人で石川五ェ門さんです」

「いしかわごえもん…?」

「はい!五ェ門さんは遠い東の国にある『侍』なんですよ!」

「さむらい…」

 

アーニャは五ェ門をまじまじと見つめ始めた。

 

(…スパイ…ころしや…さむらい…わくわくっ!)

 

アーニャはいつもの好奇心を膨らませていた。

 

「しかしヨル殿…お主子供を授かっていたのか?」

「あ、その子は僕の連れの子なんですよ」

「ロイドの子であったか」

「えぇ。でもヨルさんとも仲が良いんですよ」

「なるほど…」

 

五ェ門は納得した様子でアーニャをジロリと見た。

アーニャはこの時にふと、いつもの能力が発動してしまった。

 

(この小娘…何やら匂う…ロイド殿の娘にしては似てはおらぬし…学校に通っているらしいが、そのような年にも見えぬ…)

 

アーニャはそれを聞いてしまったため、思わず…

 

「アーニャ、べんきょうがんばってますす!」

 

と叫んでしまった。

 

「っ!?」

 

五ェ門は呆気に取られた表情を見せた。

 

「アーニャさん?どうしたのですか?」

「あ、ええっと…なんかせんげんしたくなって…」

「ほう…?それじゃ今週はしばらく勉強頑張るんだな?」

「はっ!?そ、それは…」

「頑張るんだよな?」

「…うい…」

 

ロイドに詰められたことによって、アーニャは下手なことは言うべきではないと反省した。

一方五ェ門はというと…

 

(この子…やはり何か持っている…)

 

と、アーニャを訝しんでいた。

 

「すみません、ゴエモンさん。アーニャは時々おかしなこと言うんですよ。でもそれがたまにはっとさせられたりして楽しかったりするんですけどね」

「なるほど」

 

ロイドと五ェ門で話をしてる中、自分の失言で嫌なことをさせられることになったアーニャは、荷物を置いて着替えた後奥で休んでいたボンドに慰めてもらっていた。

 

「ボンド…アーニャ大ピンチ!」

「わふぅ?」

「アーニャ…べんきょうづけにさせられてしまう!」

「くぅん…」

「どうすればいい!?ボンド!」

 

と、アーニャがボンドに抱きついた次の瞬間である。

アーニャがボンドの心を見た先には…

 

(…どこかで…ばくはつ!?)

 

いくつかの建物で爆発している光景が見えてしまったのだ。

 

「ボンド!この建物どこ…」

 

と、アーニャがボンドを掴んで叫び出そうとした次の瞬間…

ドゴーン!!!!!

…大きな爆発音と地響きが鳴ったのだ。

 

「っ!?何事だ!?」

 

ロイドは急いで外を見ると…いくつかの建物で爆発が起きていた。

 

(あれは…バーリントの主要な機関の建物の近くじゃないか!?それに()()()の近くでも…一体何が起きてるんだ…!?)

 

ロイドに続いて出てきたヨルと五ェ門も驚きを隠せなかった。

 

「あそこ…市役所の近く…なんてことを…」

「誰が一体…」

 

驚いている3人の後ろで、アーニャはただ茫然と立ち尽くすしかなかったのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…同じくしてとある廃墟ビルの一角…

 

「…どうかな?ミス不二子、私の花火は」

 

クロウは爆発を見ながら静かに、興奮しながら不二子に話した。

不二子は驚きを隠せなかったが、すぐに冷静になる。

 

「…ほんと、悪趣味ね…私はお金を手に入れたいだけよ?こんなことわざわざしなくてもいいじゃないの?」

「ふっ…ここまでしたのには、獲物を誘き寄せるためなのだよ」

「獲物?」

 

不二子がクロウに質問しようとしたその時である。

 

「…クロウ様、大変です」

 

クロウの手下らしき男が後ろから現れた。

落ち着いた声だったが、慌てている様子である。

 

「どうした?」

「グレースが…いなくなりました」

「え?」

 

不二子はふとグレースがいたと思われる場所を見ると、そこにはただブランと垂れ下がっているロープだけが残っていた。

 

「…そうか…花火に夢中になってしまったかな」

 

クロウは自分の失態を悔やんだ。

 

「今回は私も見ていなかったことに起因する。気にするな」

「はっ、申し訳ありません。それでグレースはどうしたしましょうか?」

「見つけろ、そして殺せ」

「わかりました。全員に共有しておきます」

 

手下はクロウの言葉を聞くと、すうっと暗闇の中に消えていった。

 

「…さて、不二子くん。君の願いのことなんだが…我々の悲願を達成した後に約束を果たさせてもらうことにしてもいいかな?」

「私はお金が入るならそれでいいわ」

「よろしい…これで、我々『東西統一協力戦線』が本格的に動くぞ」

 

クロウは誰にでもいう訳でもなく、静かに戦争の宣言を行ったのだった…

 




いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ評価等よろしくお願いします


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話〜事件、そして邂逅〜

…次の日…

ロイドは〈WISE〉本部に来ていた。

昨日の爆発事件で、ロイドは一瞬で爆発した場所の分析を行い、その場所の大半はバーリント、ないし東国(オスタニア)の重要な機関の施設がある場所の近くであることがわかった。

そして、その爆発した場所の中には…〈WISE〉本部の近くの建物もあった。

 

管理官(ハンドラー)、お疲れ様です」

 

ロイド…『黄昏』は、被害状況を確認するために本部へ赴いていたのだ。

 

「あぁ、お疲れ様」

「被害状況は?」

「大きな揺れがあったくらいだ」

東国(オスタニア)には気付かれてないでしょうか?」

「情報は漏れていないことは確認済みだ。爆発処理も、ここだけ揉み消してる」

「なるほど…」

「ただ、一般の目から見られているから、しばらくはここへのでいりは控えた方が良さそうだ」

「わかりました」

 

さらっと情報共有を行ったところで、『黄昏』と『鋼鉄の淑女(フルメタル・レディ)』は今回の同時爆破事件について話し合うことにした。

 

「現在我々で掴んでいる情報では、今回の爆破が起きた箇所のほとんどは東国(オスタニア)の重要な機関がある建物の近くで起きている。ただ一部は公に出されていない場所でも爆発は起きているがな」

「その一つがここであると…?」

「それもそうだがもう一つある…『秘密警察』だ」

「『秘密警察』でもか!?」

 

スパイモードでポーカーフェイスにしている『黄昏』でも、まさかのワードに驚きを隠せなかった。

 

「あぁ。あと、先程連絡が入ってきてな…昨日の爆発と同時刻、西国(ウェスタリス)でも起きたそうだ…」

西国(ウェスタリス)でもか…」

 

『黄昏』は唇を噛んだ。

これ以上のない怒りに溢れているのだろう。

 

「今回の一件で両国は疑心暗鬼になってる。どちらの国でも世論は第三勢力のせいではないかと言う人が大半だが、中には向こうの国の爆発は自作自演だって言ってるやつがいるし、政治家でそんなことを言ってる人がいるからな」

「そんな輩がいるんですか…」

「どちらもテレビや新聞でしか情報は仕入れてないからな…かくいう我々も、その情報と本国の情報しか知らない」

「くっ…」

「これを機に、強硬派が騒ぎ立てて戦争でもすれば、どこかから野次馬が現れて全て取っていくだろうな…遠い東の国の言葉で言うなら、まさに『漁夫の利』だ」

 

こうしてしばらく『鋼鉄の淑女(フルメタル・レディ)』と話した『黄昏』は、本部を誰にも見つからないように出た。

 

「…はぁ…これじゃオペレーション・〈(ストリクス)〉どころじゃないな…」

 

と、『黄昏』…ロイドが肩を落としていると、目の前でチャリンと音が鳴った。

 

「…コインか…」

 

ロイドはそれを拾おうとして動いたが、すぐに違和感に気づき、路地裏に目をやった。

そこには誰もいなかったため、ロイドはすぐに路地裏に入った。

そして、上を見た。

 

「ちぇー、もうバレちまったか」

「ルパン三世…」

 

ロイド…『黄昏』の視線の先には、物干し用のロープの上に立っているルパン三世がいたのである。

 

「さすが最強のスパイだけあるなぁ…あらよっと」

 

ルパンはやれやれと言わんばかりに地面に降り立つ。

 

「…何しにきた…」

「何って…挨拶だよ、挨拶」

「それならとっくに済ませてるだろ」

「食えねえやつだなぁ」

 

ルパンはそう言うと、口にタバコを咥えた。

『黄昏』はルパンの隣につく。

 

「…それで、俺に会いに来たってことは、何か目的あって来たんだろ?」

 

『黄昏』はルパンに訊く。

 

「いや特に」

「しらばっくれるな。でなきゃわざわざこうも会いに来ないだろ」

「全く…凄腕のスパイって聞いてたが、子供みたいだな」

「ふん、なんとでも言え…その気になれば、我々はお前をいつでも拘束できる」

「やれるならやってみろってんだ。まぁ、今の状況じゃまず厳しいだろうな」

 

ルパンはタバコに火をつけ、ふぅと吹かした。

 

「…タバコ吸わないのか?」

「子供がいるんでな」

「あの孤児院上がりのチビか?」

「…なぜそれを?」

「泥棒も情報は大切なのよ」

 

ルパンはタバコをめいいっぱい吸い終わった後、地面に落として踏んで火を消した。

 

「…何が望みだ。我々が持ってる『東国(オスタニア)の夢』か」

「半分正解。だが、俺はそれのさらに奥にある物が欲しいんだ」

「…」

「その様子だと、やっぱ〈WISE〉(そちらさん)も知ってるようだな」

 

ルパンはそう言うと、『黄昏』に向けて指を曲げて誘った。

 

「来いよ。ちょっとばかしドライブに付き合ってもらうぜ」

「…ふん」

 

ロイドはルパンに誘われてついて行くことにしたのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…ルパンと『黄昏』はハイウェイの上にいた。

ルパンは気持ちよくハンドルを握り、『黄昏』は外の風景をぼんやりと眺めている。

 

「…さてと…〈WISE〉はどこまで情報を掴んでるんだ?」

「まずそちらからの話が先だろう」

 

ルパンが『黄昏』に質問するが、『黄昏』は有無を言わさずルパンに訊ねた。

 

「ちぇー、少しは話してもいいじゃねぇかよ」

「泥棒に国家機密を話すバカはいるか。それに、今のお前に信用に値するものなど何一つもない」

「はいはい。国の犬さんには話さないといけないかね」

「なんとでもいえ」

 

ルパンの愚痴に、『黄昏』は冷静を保っていた。

 

「ま、そうそう話してくれないのは百も承知って訳だし、話してやるよ。こっちが掴んでる情報をよ」

「ふん…」

 

ルパンは不満たらたらとしながら、真剣な表情になって話し始めた。

 

「今回の爆破事件の犯人は、俺が襲われたのと同じ襲撃犯だ」

「ルパンを襲った…?」

「あぁ…名を『東西統一協力戦線』…昔東国(オスタニア)西国(ウェスタリス)の両方を統一していた国の復活を目的とした組織だ」

「その組織については〈WISE〉も把握している。だが、ここ数年は動きがなかったはずだが…」

「〈WISE〉もそうだが、『秘密警察』も今回の爆破事件を予知できていなかった…それだけ秘密裏に動いてたってわけだが、まぁ、後ろ盾もあって気づかなかっただろうな」

「背後に誰かいたってわけか」

「そーいうこと。んで、この後『黄昏』君には会ってもらいたい人がいるってわけ」

「会ってもらいたい人だと?」

「そ。『黄昏』に関わりあるやつとね」

「…誰なんだ…」

 

ルパンの言葉に、『黄昏』は頭の中を巡らせた。

しばらくハイウェイを走っていたルパンの車は、いつのまにか田園風景が広がる田舎道へと入り、やがて一軒の民家にたどり着いた。

 

「…ここは?」

「今は俺様のアジトになってる家だ。ま、すぐに立ち退きさせていただくけどな」

 

ルパンはそう言うと、玄関を開けて『黄昏』を中に誘った。

『黄昏』は帽子を深く被り直し、中に入った。

 

「右の部屋に入りな」

 

『黄昏』はルパンに言われて、入ってすぐ右にある部屋へと入った。

そこにいた人物に、『黄昏』は驚きを隠せなかった。

 

「君は…グレース・マクラルーン!?」

 

静かな様子で椅子に座っていた…グレース・マクラルーンであった…

 




いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ評価等よろしくお願いします
では次回お会いしましょう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話〜グレースの告白〜

…『黄昏』は、目の前のグレースを見てもなお、信じられなかった。

『黄昏』が掴んでいる情報と合わせても、かのマクラルーン家の令嬢がこんなボロボロな家にいるわけがない…

『黄昏』はただ困惑していた。

 

「…あなたが『黄昏』ね…情報は仕入れていたから顔はわかるけど、こうやって()()()()()()会うのは初めてね」

 

前に会ったグレースとは全く違う雰囲気にも、『黄昏』の困惑はさらに加速を増していた。

 

「…おい、ルパン三世…これは一体どういうことだ?」

「何って…俺はただ保護してただけだ」

 

ルパンはそう言うと明るい窓の額縁に座った。

 

「保護だと?」

「あぁ、今服を着させているからわからないだろうが、こう見えて下は傷やアザだらけだ。歩くのもままならないくらいにな」

「そんなことが…」

 

『黄昏』は驚いてもなお、平静を保っていた。

 

「へぇ、さすが凄腕のスパイだ。顔からは何も読めやしねぇ」

「それがスパイだ」

 

ふと、『黄昏』はルパンに訊く。

 

「…ルパン、なぜ君はここに連れてきた」

「そりゃ、俺が持ってる情報を渡すためさ。信用するに値するものをな」

「なるほど…」

 

ルパンの言葉に、『黄昏』は静かにため息をついた。

そして『黄昏』はグレースと目線を合わせるために膝をついた。

 

「…グレース・マクラルーン…君が持っている情報を教えてくれないか?」

「断る」

 

グレースは即答した。

 

「…と言おうとしたけど…状況が状況だもの…いいわ」

 

そしてすぐに撤回した。

 

「それでグレース…君は何を知ってるんだ?」

「『東西統一協力戦線』の裏を握ってる人物よ」

 

グレースの言葉に、『黄昏』は表情を変えなかった。

 

「驚かないのね」

「君が絡んでる人物だ。1人しかいない」

「そうね…ショーン・マクラルーン…彼が『東西統一協力戦線』の首謀者よ」

 

やはり『黄昏』は驚かなかった。

グレースの告白はさらに続く。

 

「私は…父が足を踏み外していることに気付いたのは、2年前…彼が、黒ずくめの男と話していた内容を偶然聞いてしまったの…」

「男は誰だ?内容は?」

「男は『クロウ』…元々は中南米の軍事国家で傭兵をやってた男なの。素性は不明…知ってるのは、そのカリスマ性で部下をたくさん引き連れていることね」

「クロウか…」

「そのクロウってのが、俺を襲った男よ」

 

グレースの説明に、ルパンが追加して言った。

そこへさらに…

 

「あと、そこにいる彼女の拷問を指示した男ね」

 

『黄昏』の後ろから女性の声が聞こえた。

 

「あぁら、不二子ちゃん」

 

峰不二子…ルパンの仲間で…

 

「あれぇ?()とはもう別れちまったのか?」

 

先程までクロウのそばにいた女でもある。

 

「えぇ、彼は素性を知りたくなかったみたいだから、怖くて逃げてきたわ」

「峰不二子…」

「あら、そこにいるのが、かの有名な『黄昏』さんね?初めまして」

 

突然の乱入者にも関わらず、『黄昏』は表情を変えない。

 

「んで、何しに来たのよ、不二子ちゃん」

「グレースって子が心配だから来ちゃったのと、あんな陰気臭いところはもう嫌になったってこと…そして、彼の素顔を教えに来たのよ」

「やつの素顔…?」

 

『黄昏』はすっと立ち上がった。

 

「えぇ…彼は、ずば抜けた指揮官でありながら、自らも先頭に立って戦闘に加わることで周りを鼓舞するような素晴らしい人間だけれど…中身は極悪そのものよ」

「そこまで言う?」

 

不二子の言葉にルパンは反応した。

 

「えぇ…彼は、たとえ子供でも女でも、負傷して動けなくなってしまった人でも、何でもかんでも殺すような人よ」

「罪もない女子供までもか…?」

「残念だけれどね」

 

不二子の言葉に、『黄昏』は思わず唇を噛んだ。

 

「その証拠に…彼はグレースを拷問した…そういう男よ」

「全く、ひどいもんだぜ」

 

ルパンの言葉に、流石の『黄昏』も同意を禁じ得なかった。

 

「だから、彼は放っていてはいけないの…」

 

やがてグレースの口から、憎しみを込めた声が聞こえてきた。

 

「…私は…覚悟して彼の元へ行った…それなのに…なんでこんなに…悔しいんだろ…」

 

グレースの言葉に、その場にいた全員が口をつぐんでしまう。

 

「…私は…彼を許さない…彼から…この国を守りたい」

「それはどういうことだ?グレース嬢」

 

『黄昏』はグレースの言葉の意味を知ろうと訊ねた。

 

「それは…さっき言った話の内容に繋がるわ…」

「そういえば…それで、話の内容とは…?」

「『東西統一協力戦線』の援助の話よ。父はクロウと手を組んで、『東西統一協力戦線』に資金や武器を援助し、さらに情報操作までやることを約束したの。代わりに『東西統一協力戦線』は目的を果たすために動くことを約束していたわ」

「情報操作…!?そこまでできるのか!?」

 

『黄昏』は驚いたが、ルパンは驚くことはなかった。

 

「そりゃそうだろ。なんせマクラルーン家の商売道具ってのが『情報』だからよ」

「んなっ!?」

 

『黄昏』はルパンの言葉にさらに驚いた。

 

「その情報…〈WISE〉は知ってるのか!?」

「知らんだろうな。マクラルーンが抑えているってのもあるけど…〈WISE〉(そちらさん)もマクラルーンには頭下がらねえはずだからな」

「どういうことだ…」

「〈WISE〉が仕入れている『情報』にはマクラルーンから買ったものもあるってことさ」

「そんなバカなことが…」

「あるんだなぁ。なぁ、次元」

 

驚きをずっと隠せない『黄昏』をよそに、ルパンは相棒の名前を呼んだ。

先程入ってきたドアから、次元…そして、五ェ門が入ってきた。

 

「ロイド殿…否、『黄昏』殿…お主、スパイを生業としていたのか」

「…あぁ…」

 

先に会っていた『黄昏』と五ェ門は静かに挨拶を交わす。

 

「なぁんだ、2人とも知ってたのか」

「あぁ…訳あってな」

「ふぅん…で、次元、例のやつは?」

「ほらよ」

 

次元はルパンにとある紙を渡し、その紙を今度は『黄昏』に渡した。

 

「それが証拠さ」

 

ルパンから渡された紙を、『黄昏』はまじまじと見つめた。

『黄昏』はそれを見終わったあと、静かに目を閉じてルパンを見た。

 

「〈WISE〉がマクラルーンから仕入れているのはほんの一部の情報だからズブズブの関係ではねぇが、これでハッキリしたろ?」

「あぁ…確かに、昔我々が仕入れた情報と一致する…使われているものもマクラルーン家の紋章が使われているしな…それに…」

 

『黄昏』が確信した様子であることに気がついた。

 

「この紙はマクラルーン家でしか使われていない紙だな…招待状でもらった時の紙と同じだ。厚さも質も…」

「さすが『黄昏』だな」

「おおかた、マクラルーン家から盗んできたんだろう?」

「そっちが本業だからな」

 

そして、ルパンはすっと立ち上がると、グレースの横に座った。

 

「さぁて、ここからが本番だ、嬢ちゃん?」

「なんでしょう?」

「…ショーン・マクラルーンの目的はなんだ?」

 

ルパンが先程までの声とは違った、本気のトーンでグレースに尋ねる。

グレースは寂しそうな表情になり、静かに話した。

 

「…父の目的は…かつて東国(オスタニア)西国(ウェスタリス)を束ねていた王国の復活、そして…その頂点になることよ」




いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ評価等よろしくお願いします
では次回お会いしましょう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話〜協力しようぜ?〜

「…王国の…復活…」

 

『黄昏』はグレースの言葉を信じられないでいた。

 

「…やっぱな…でなきゃ、あんな派手なことはしないぜ」

 

一方のルパンは平静を保っていた。

 

「なぜ…ショーンは王国の復活を目論む…」

 

『黄昏』は自分が持っている今までの情報を全て頭の中で繋ぎ合わせてみた。

しかし、誰に関しても結論には辿り着くことができなかった。

 

「…んで、考えた結果わかったか?スパイさんよ」

 

ルパンは『黄昏』の様子を見て、嘲笑うかのように話しかけた。

 

「…全くだ…見当もつかない」

「ふっ…やっぱこういうのは、泥棒の方が長けていたってわけか」

 

ルパンはそう言うと、懐からとある封筒を出して『黄昏』の前に投げた。

 

「見な。多分お前さんが知らないような情報が載ってるぜ?」

 

『黄昏』はルパンに促されるままに封筒に手を出し、中の書類を見た。

 

「…これは…?」

「昔の王国の王家の1人が書いていた日記の写しだ。本物はバーリント国立図書館に所蔵してある」

「なぜこれを…?」

「見てみればわかるさ」

 

『黄昏』は中の日記をくまなく見た。

 

(…書かれているのはおそらく国民による反乱が起きた頃の話…王家がこの時に処刑されたという話を勉強の時にしていたが…)

 

しばらく読み進めていくうちに、『黄昏』はある一文を見つけた。

 

『…私たちは、王の計らいによって城から逃げ出すことができた。でも、暴徒化した民衆が私を見つけ出すのに時間はかからなかった。私は最後の願いを民衆にぶつけた。私を殺して平和になるなら快く台に立つと…』

 

この文を見た『黄昏』は違和感を感じた。

その雰囲気を、ルパンも感じ取った。

 

「わかったか?」

「あぁ…この文の始まりには『私たち』と書かれているが、民衆が見つけ出した時には『私』としか書かれてない…」

「この日記の主は、反乱が起きた時に最後に処刑にされた王女様だ。王女様は裏の勝手から抜け出したらしいが、待ち伏せしていた民衆に捉えられたらしい」

「待ち伏せか…」

「しかし、見つけたのはその王女ただ1人…となると、その日記には矛盾が生まれるわけだ」

「なるほどな…」

 

ルパンの説明に『黄昏』は妙な納得を感じた。

 

「…つまり、ショーン・マクラルーンは、かつての王国の末裔…だから、2国を統一させようとしたのか…」

「そぉいうこと」

 

『黄昏』の推測と、ルパンの推測ががっちりとハマった瞬間である。

 

「そして、王国を復活させて自分はその上に立つというわけか…」

「その代わり、犠牲はやむを得ないって感じだがな」

「…あの爆発事件のことか…」

 

口を挟んだ次元の言葉に、『黄昏』は昨日起きた事件を思い出した。

 

「あぁ…昨日起きたテロでは、少なくとも数十人の死傷者が出ている…全員何の関係もない人達ばかりだ」

「…クソ…」

 

『黄昏』の言葉に強い恨みの声が乗せられてきた。

 

「ま、そういうことだから、ここはひとまず協力しねぇか?『黄昏』さんよ」

 

ルパンはそう言うと『黄昏』の前に出て手を差し出した。

 

「…あぁ」

 

『黄昏』はその手を強く握りしめた。

 

「…さてと…こっから移動したいところではあるけど…」

 

ルパンは早速動こうとした矢先、グレースの方を見てため息をついた。

 

「どうしたんだ?」

「いや、彼女はな…『東西統一協力戦線』の拷問で足が自由に動けない挙句に、そいつらから狙われてる身なんだわ…」

「それは厄介だな…」

 

ルパンと『黄昏』の会話に、グレースは仕方ないと思いながらも不満げに話した。

 

「…何?私はここで死んでもかまわないけど?」

「そういうわけにはいかない。少なくとも君は保護されるべき人間だ。〈WISE〉に頼んでもいいが、今はこちらも大変ではあるし…」

「…んじゃ、あの人に頼むしかねぇか」

 

ルパンはそう言うと、いつのまにか置いてあった黒電話に手をかけたのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…数分後…

 

「ルパン!御用だ!」

 

1人の男が屋敷に乱暴に入ってきた。

茶色のソフト帽に茶色のトレンチコート…ルパン三世の宿敵でお馴染みの銭形警部である。

 

「…ん?怪しい…」

 

銭形警部は入ってすぐのドアが空いていることに気がついた。

そして銭形警部は…

 

「ルパン!観念しろ!」

 

そう言ってドアを蹴破ったのである。

しかし、中にいたのは…1人の可憐な少女である。

 

「…ありゃ?おかしい…確かにルパンからここにいると言っていたのだが…」

 

その後銭形警部は、女の子の手に手紙があることに気がついた。

 

「…その手紙は?」

「おそらくあなた宛です」

 

銭形警部は女の子から手紙を受け取ると中身をすぐに見た。

 

『よぉ、とっつぁん。悪いけどよ、その女の子をICPOの力で保護してくれねぇか?というのも、その子はとぉっても恐ろしい組織に狙われてるんだわ。だから、よろしく。ルパン三世』

 

手紙を読み終えた銭形警部は、むしゃくしゃした気分になって手紙を下に叩きつけた。

 

「この野郎!俺を何だと思ってるんだ、ちくしょう!」

 

しかしその後、銭形警部はやれやれと言わんばかりにため息をついて女の子に身体を向けた。

 

「これより、貴殿をICPOで保護することにした。お名前は?」

「グレース・マクラルーン」

「ありゃ、かのマクラルーンの令嬢でございましたか。では、こちらへ」

「歩けないの。拷問されて足が思い通りに動けなくて」

「わかりました。おい、お前らで担いでやってくれ」

 

こうしてグレースは銭形警部によって保護されることになった。

その一方でルパン一味と『黄昏』はというと、ルパンの車に乗ってバーリントへ戻っていた。

 

「さてと…この後のことについてだが…」

 

ルパンはそう言うと、とある提案をしてきた。

 

「『黄昏』…いや、ロイド・フォージャー先生?」

「ん?」

「ちいっと、お宅をお借りできませんかね」

 

ルパンはニヤリと笑いながら『黄昏』の方を見たのであった…




いかがでしたでしょうか?
よろしければ評価などよろしくお願いします
では次回お会いしましょう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話〜ショーン・マクラルーンの過去〜

…ルパンと『黄昏』が協力体制を取り始めた頃…

マクラルーン家にて…

 

「…まだ裏切り者は見つからぬか」

 

ショーンはドスの利いた声で電話をしていた。

 

「…まぁいい。情報はこちらで仕入れる。お前らは各々行動して見つけ次第処分しろ」

 

そう言ってショーンは電話切った。

 

「…全く…あんなバカに育てた覚えはないぞ…」

 

ショーンはそう言うと、とある物を机から取り出した。

それはペンダントであった。

開閉式のペンダントで中には綺麗な女性の写真が写されていた。

 

「…我が祖母、姉、弟よ…そなたらの無念、晴らして見せよう…」

 

ショーンはそう言うと、ペンダントを強く握りしめ、今までの思い出を振り返り始めたのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…ショーンが生まれた頃、家はとてもいい環境とはいえず、毎日自給自足の生活を余儀なくされていた。

食べ物は十分ではなく、先に生まれた姉や弟などと均等に分けながら飢えを凌いでいた。

両親は共に出稼ぎに出ており、家にいるのはいつも姉。

ショーンとその弟の面倒を見ながら家事を日々こなしていた。

そんな姉の姿を見たショーンは少しでも楽にしてあげようと、家事の手伝いをしたり、小学に入りたての頃から仕事に勤しんでいた。

しかし、それでも貧しい生活は改善される様子はなく、出稼ぎに出ていたはずの両親は、ショーンが小学に入ってすぐ蒸発した。

そして姉は今までの過労がたたってしまい病に倒れてしまった。

ショーンと弟は、姉の介護をしながら家事や仕事を、まだ若干10歳の身でありながらこなさなければならなくなった。

しばらくして、東国(オスタニア)西国(ウェスタリス)の第一次戦争が始まり、マクラルーン一家は戦火から逃れざるを得なかった。

 

「姉さん!ウィル!こっち!」

 

若かりしショーンは病に侵されながらも懸命に逃げる姉と、まだまだ幼い弟の手を引っ張りながら街の中を駆け巡った。

しかし、戦争というものは残酷である。

程なくしてマクラルーン一家が逃げた先で砲弾が壁に着弾した。

その衝撃で壁は倒れ、マクラルーン一家の頭上に落ちてきたのである。

 

「危ない!」

 

そう叫んだショーン少年の声は届かず、3人は壁の下敷きになった。

ショーンは頭に衝撃を食らったせいで一瞬気を失っていたが、程なくして意識を取り戻した。

その目に映っていたのは…壁の下敷きになって身体が白く、人形のように動かなくなってしまった姉と弟の姿であった…

 

「…姉さん…ウィル…うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

ショーンはその場で叫ぶしかなかった。

どうしようもない怒りを誰にでもぶつけるように叫んだ。

それからまた程なくして憲兵がやってきた。

ショーンは保護され、2人の遺体も回収された。

残されたショーンはただ1人、避難所で寂しく生活をしていた。

 

「…許せない…西国(ウェスタリス)の奴ら…」

 

と、ショーンが1人怒りを滲ませていると、目の前で1人の男が横切った。

スーツを着たその男は、一枚の紙を鞄から落としたが気づかぬまま歩き去っていった。

 

「…なんなんだ…?」

 

ショーンはその紙を拾い上げて読んだ。

 

「…『東国(ウェスタリス)の避難キャンプへ趣き、爆弾を仕掛け1人残らず殲滅せよ』!?これは…!?」

 

ショーンはすぐにそのスーツの男が西国(ウェスタリス)のスパイであると気がついた。

ショーンは先程の男を軍に突きつけるために動き出した。

すぐに紙を提出するのではなく、落とした犯人を見つけ、怪しい行動をした瞬間をカメラに収めて軍に提出するように動いた。

避難所自体はそこまで大きいわけではなかったため、ショーンは一瞬の記憶を頼りに男を見つけ、爆弾を設置している様子もすぐに収めることができた。

ショーンはその証拠をもとに、軍の施設へ行き兵士に渡した。

 

「…これは…!?少年、ありがとう!」

 

施設の前にいた兵士は慌てて中に入り、すぐに何人もの兵を率いて男を捕まえに行った。

 

「…よく報告してくれた」

 

兵が行った後すぐに声が聞こえたため、ショーンは振り返ると、軍の司令官らしき男が立っていた。

 

「君、名前は?」

「…ショーン…ありがとう。君はいつか国のために大きくなれる。私が約束しよう」

 

司令官はショーンを褒めてどこかへと歩き出していった。

ショーン少年のこの出来事が、後に人生を大きく動かすことになるとは誰にも予想できなかった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

…スパイによる爆破未遂事件が起きてから数年後…

ショーン少年は青年へとなり、悪知恵を働かせてコソ泥をしていた。

 

「…ちっ…こんなもんか…」

 

生きるためにスリを繰り返していたショーンは、この日も財布を掏って中身を確認していた。

 

「まぁ、しゃあねぇか…あの見た目だが、貧乏そうだったしな…」

 

ショーンは財布に入っていたお金を全部取り、財布は質屋に売って次のターゲットへと動いた。

 

「…ん?あの男…」

 

ショーンが目をつけたのは、シルクハットに燕尾服を着た男である。

手にはアタッシュケースを持っていた。

 

「あのアタッシュケース狙ってみるか…」

 

ショーンは気配を消し、男がアタッシュケースを置いたところで盗んだ。

男はすぐにアタッシュケースがなくなったことに気がつくも、ショーンはいつのまにか移動していたため気づかれることはなかった。

 

「ええっと…金目のものはと…」

 

ショーンがアタッシュケースを開き、色々物色していった。

すると出てきたものは…

 

「…『東国(オスタニア)新基地図面』!?」

 

東国(オスタニア)の新しい空軍基地の図面であったのだ。

 

「これは…保安局に言えばもしかして…!」

 

ショーンは金目のものはすぐに取り、書類を持って保安局まで行った。

書類を見た保安局は驚き、ショーンは燕尾服の男が持っていたことを言うも、当局は持ってきたショーンを拘束し、尋問を始めたのだった。

 

「おい!これどこで手に入れた!」

「俺は燕尾服を着てたなんか裕福そうな男からバッグを取ったら入ってたんだ!」

「盗んで手に入れたってことか!?でも、この書類はまだ国防省の中でしか回ってないものなんだぞ!?」

「そんなの知るかよ!その男が持ってたくらいしか知らねえよ!」

 

このまま堂々巡りになるものかと思われたその時だった。

 

「…何事か」

 

尋問室に1人の男が入ってきたのだ。

 

「ちょ、長官!」

「あなたは!?」

 

ショーンはその男を見て目を見開いてしまった。

その男は保安局の長官で、ショーンが昔スパイの証拠を持って行った時に対応した軍の司令官だったのである。

 

「はっ!この青年が妙な書類を持ってきたので尋問していたところであります!」

「そうか…それで?」

「青年は、燕尾服を着た男から盗んだと供述しております。しかし、書類は内部機密のものでして…」

「あぁ…その男なら、先程我々で捕まえたぞ」

「ちょ、長官自らですか!?というか…えぇ!?」

 

長官から出た言葉に、尋問していた男は目を丸くしていた。

 

「この子は私が預かろう。君らは業務に戻りたまえ」

「で、ですが…」

「長官命令だ」

「…わかりました…」

 

男は渋々部屋から出た。

 

「こっち来なさい」

 

ショーンは長官に呼ばれて尋問室から出た。

案内されたのは長官室であった。

 

「…色々と大変だっただろう?」

「いえ…」

 

長官室で椅子に座らせられたショーンは、長官と対峙した。

 

「それで…盗んだのは書類だけか?」

「それだけだ」

「本当か?」

 

長官の質問にショーンは嘘を言ったが、長官はその嘘を見破っている目をしていた。

それに気がついたショーンは、すぐに諦めた。

 

「…お金になりそうなものを少し」

「お金に困っているのか?」

「あぁ…」

 

ショーンは素直に打ち明けた。

 

「そうか…なら、今から報奨金を出そう」

「え…?」

「それが目当てだったんだろう?」

 

何もかも見破られていたことに、ショーンは驚きを隠さなかった。

 

「どうして…わかったんだ?」

「『情報』だよ」

「…『情報』…?」

「あぁ…今までの会話に出てきた『情報』と、今起きていることの『情報』を繋ぎ合わせただけだ」

「それだけで…」

「あぁ…『情報』ってのは、時にお金に変わる場合がある。今回の君の行動だって『情報』を得たからお金に変わっただろう?」

「は、はぁ…」

 

ショーンは困惑していた。

ただ、お金のないショーンにとっては、今の話はとてもおいしいものに感じていた。

 

「…そうだ」

 

長官はお金を出そうとした時ふと、とあることを思いついた。

 

「君、『情報屋』になってくれないかい?」

「…俺がですか?」

「そうだ。君がもし有益な『情報』を渡してくれたら、私はお金を出す。簡単な仕事だろう?」

 

ショーンはこんなうまい話はないと思った。

それを見た長官は、さらにもう一押しショーンに迫った。

 

「もし『情報』が十分に揃えられたら…西国の奴らを潰すことも出来る…出来るか?」

 

その長官の言葉に、ショーンは乗った。

 

「…あんた、前俺に『いつか国のために大きくなれる』って言ってましたよね…それが今ではないかと」

 

ショーンの目には、心を燃やす何かが宿っていたのだった…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

それから幾分の月日が経った…

『情報』の商人として活躍したショーンは、いつしか東国(オスタニア)一の富豪となり、自らの経歴も『情報』によって書き換え、経済を動かすようになった。

そして、とある節で自身がかつて存在した『王国』の末裔であることを知り、その有り余る財力を持って、とある目的を果たそうとしていた…

 

「…このワシが…王国を…復活させる…」

 

ショーンの瞳にはまた、燃える何かが宿っていたのだった…




いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ評価等してくれると嬉しいです
では次回、お会いしましょう


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話〜泥棒とスパイの作戦会議〜

…バーリントへ戻ってきた『黄昏』…ロイドとルパンは、話し合いをするべくとある場所に来ていた。

 

「ひゅ〜、ここがロイドの家か」

 

そう、フォージャー家が住んでいるマンションである。

 

「しかし、いいのか?お邪魔しても」

「構わん。ここの方が安全ではあるからな」

「ま、確かに凄腕のスパイ様の家なら、情報が漏れる心配は無さそうだ」

 

ルパンは納得しながら、マンションに入っていったロイドを追いかける。

 

「ただいま」

 

ロイドは玄関に入るなり帰りの挨拶をした。

 

「あ、ロイドさん!おかえりなさい」

「ちち、おかえり!」

「ボフッ!」

 

今日は休日だったため、ヨル、アーニャ、ボンドと家族揃い踏みでロイドの帰りを喜んだ。

そしてヨルは後ろにいるルパンに気がついた。

 

「あの…ロイドさん?この人たちは…」

「あぁ、今度の病院のレセプションで一緒に企画を考えてくれる人でね」

「おっほ〜、なかなかのべっぴんさんじゃねぇか。初めまして、奥さん、私はトムと申します。以後お見知り置きを」

 

ルパンは『トム』という偽名を使ってヨルに挨拶をした。

 

「トムさんですね!ロイドさんの妻のヨルです。よろしくお願いします」

 

ヨルもルパンに深々と挨拶をした。

一方のアーニャはルパンの声を聞いて、色々と思い出していた。

 

(この声…アーニャしってる!)

 

そう、イーデン校でアーニャとベッキーを襲った人の心の声と一緒だったのだ。

アーニャはそれに気がついて言おうとした時だ。

 

(おぉっと、嬢ちゃん何も言うなよ?)

 

アーニャの超能力でルパンの心の声が聞こえてきたのだ。

しかしルパンはロイドとヨルに話している。

普通なら対象の人は話している人に向いているので、心の声もその対象の人に対しての心の声が聞こえるはずなのだ。

しかしルパンは、ロイド達と話をしながら心ではアーニャと話すという離れ業をやったのだ。

 

(こ、このひと.エスパー!?)

 

大抵のことなら興味津々に突っ込むアーニャでも、ルパンの芸当に驚くしかなかった。

 

(いいか?俺とお前の父ちゃんはこれから大事な話をする。子供のお前は変なことを言うんじゃないぞ?わかったら少しだけ頷け)

 

ルパンから一方的に言われたアーニャは、その通りしか出来ずにうんと頷いた。

 

「さて、立ち話もあれですからトムさん、中に入ってください。ボディーガードの方も一緒にどうぞ」

「いやぁ、すみません」

 

ロイドに促されてルパン一味はリビングの方へと入っていった。

 

「それじゃ、ご飯今から用意しますね」

 

ロイドはそう言うと着ていたスーツ類を脱ぎ、台所に立った。

 

「しかしゴエモンさん、今回用事があるってこの事だったのですね!」

「うむ」

「えぇ!?五ェ門、こんな美人と知り合いだったのかよぉ。羨ましいぜ」

 

ルパンとヨル、五ェ門で話をしている一方、アーニャは1人ポツンと立っている次元の元へと寄った。

 

「…ん?なんか用か?」

 

次元はアーニャに目線を合わせるようにしてしゃがんだ。

 

「これ、じゅう?」

「ん?あぁ…もしもの時にな」

 

次元はそう言うと、懐から愛用のコンバットマグナムを取り出した。

 

「すごいかたち!うってみたい!バンバン!」

「へへっ、いいじゃねぇか。ただ銃ってのは、自分に合ったものじゃないとな」

「じぶんにあったもの?」

「そうだ。人と言っても色々な人がいるように、銃にも色々な銃がある。同じ形でも、違ったりするんだよ」

「…」

 

次元の銃理論に、アーニャは思わず頭がいっぱいになった。

 

「あ、わりぃ…でもま、お嬢ちゃんも欲しかったら自分だけの銃を見つけるんだな」

「うい」

 

フォージャー一家、ルパン一味の談笑会は思ったより楽しく進んだ。

しばらくして、ロイドが料理を持ってきた。

 

「はい、どうぞ。自慢の料理です」

「おぉー、美味そうじゃねぇか」

「ありがとうございます」

 

ルパンは美味そうな料理を眺めてよだれを垂らしていた。

 

「おい、ル…トム、そんなにがっつくなよ」

 

次元は今にでも飛びつきそうなルパンを静止する。

 

「わかってるって…」

 

ルパンは次元に言われて少ししゅんとなる。

 

「それじゃ、いただきます!」

 

アーニャの一声で、談笑会…もとい食事会が始まった。

 

「んー、美味い!」

「この前も食べたが、やはりロイド殿の食事は絶品でござる」

「そうだな。塩加減が絶妙に効いてるし、シェフでもやったらどうだ?」

「嬉しいお言葉、ありがとうございます」

 

ルパンの嘘のない言葉に、ロイドは思わず微笑んだ。

ルパン一味とロイドのお酒も入って気持ちよくなったところで、ルパンは本題に入ることにした。

 

「ところでなんだが…今回の件についてなんですが…」

 

ルパンは普通の口調で話を始めたが、ロイドはそのルパンの口を見て驚いた。

 

「あぁ、あの件ですね(お前、なぜその技術を…)」

「えぇ、今回ロイドさんにはとある患者のケアをお願いしたく…(なぁに、俺にできないことなんか何もないんだぜ)」

 

ルパンはイド達スパイが使っている、口の形と発音を分けて話す技術を使って話し始めたのだ。

 

「…(この方が話しやすいだろ。奥さんにばれないためにはさ)」

「…(確かにそうだな…やはりIQ300の男は伊達じゃないな)」

 

ルパンとロイドはスパイの技術を使ってショーンに対抗するための作戦を練り始めた。

 

「…(あいつの計画を阻止するためには、色々と準備をするものがあるが…どう動くべきか…)」

「…(少なくとも、今お前らが持ってる『東国(オスタニア)の夢』が重要な鍵だ)」

「…(そういえば…『東国(オスタニア)の夢』と『西国(ウェスタリス)の希望』には何が描かれてるか、知ってるか?)」

「…(あぁ、知ってるとも)」

 

ルパンの言葉に、ロイドは少しだけこめかみを動かした。

 

「…(昔の王国では錬金術が流行っていてな。その中で偶然にもこの国でウランが出てきたんだ。その時出たウランは燐灰ウランだったもんだから、王国では早速研究を推し進めてな…)」

「…(そういえばその話は聞いたことがある。だが、こちらの資料はあまりにも少なすぎてにわかに信じられなかったが…)」

「…(そりゃそうだろうよ。なんせ、錬金術によってウランが武器になることを発見しちまったんだからな)」

「…(武器になる…ということは!?)」

「…(核爆弾だよ)」

 

ルパンの衝撃的な言葉に、ロイドは表情を変えないながらも驚いた。

 

「…(当時の主力と言ったらせいぜい馬に乗って剣を振り回していた頃だ。その時期にそんな物騒なものを発明なんかしたら、歴史が大いに変わってるだろうな)」

「…(それはそうだな…)」

「…(それで、当時の王はこの技術を他方に知られないために、お抱えの宝石商に頼んで2つの石にウランの精錬方法と核爆弾の製造を記したってわけだ)」

「…(そしてそれを国の宝として持っておくことで、門外不出としたというわけか…)」

「…(そういうことだ)」

 

ロイドは宝石の秘密をルパンから明かされたところで、今後の活動について話し始めた。

 

「…(それで…この後どうする。『東国(オスタニア)の夢』がWISE(我々)が…『西国(ウェスタリス)の希望』は実質ショーン・マクラルーンが持っている…これをどうにか上手く活用できないだろうか…)」

「…(まぁ、どうにもならんことはないだろうな)」

「…(どういうことだ?)」

「…(片方の宝石をそっちが持っているとすれば、ショーンは必ず手を入れたいはず。だがこの前の爆破事件は例外として、ショーンは自分の身元がわからないように行動しているほど慎重なやつだ。どうすればリスクを最小限にして宝石を奪い取るか…俺がショーンだったら、1番手っ取り早い方法となると…)」

 

ルパンが言いかけたその時だ。

玄関のベルの音が鳴った。

 

「郵便でーす」

 

同時に声も聞こえた。

 

「はーい。今出まーす」

 

ロイドとルパンで話していたので、ヨルが代わりに玄関に出た。

 

「こちら、ロイド・フォージャーさんに」

「はい、ありがとうございます」

 

ヨルは封筒を受け取り、宛先を読んだ。

 

「宛先は…ショーンさんからですね!」

 

そのヨルの言葉に、ロイドは驚き、ルパンはニヤリと笑ったのだった…

 




いかがでしたでしょうか?
もしよろしければ評価等よろしくお願いします。
では次回、お会いしましょう


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。