スキル「メンテ」で、俺は全てを魔改造する!追放先でみんなの真の力を開放したら世界最強パーティになっていた件。〜勇者のスキルが暴走?知らんがな!〜 (手嶋ゆっきー)
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第一章 金属アレルギーの剣士
第01話 スキルメンテ(1)


「フィーグ、お前の正式採用は無しにしたいと思うのだ。つまり、クビだ。いいな?」

 

 

 勇者パーティ試用期間の最終日。俺は突然、勇者アクファに呼び出された。

 そして、彼はニヤニヤしながら俺に告げた。

 

 

「えっ!? どうしてですか!」

 

 

 俺は勇者パーティのメンバーに、正式に採用されると思っていた。頑張って入れば、悪いようにはしないとも言っていた。

 いきなり試用期間が終わり採用無しと言われても、準備ができていない。

 万が一に不採用となった時のために準備しようとしたのだけど、勇者アクファは必ず採用するからと、俺の手を止めたのだ。

 

 

「悪いな、俺がさっき決めた。理由は分かるな?」

 

「分かりません。

 今までずっと、必死にパーティメンバーのスキル整備(メンテ)をしてきたじゃないですか!?

 今までの言葉は、ウソだったのですか?」

 

 

 正式に勇者パーティの一員となれば、王国からの支援も受けられ、より多くの報酬が貰えるようになる。

 そうなれば魔法学院に通う、妹の学費の支払いにも余裕ができる。

 

 俺たち兄妹には親がいない。

 だけど妹には精霊召喚士の才能があるので、魔法学院に通って勉強して欲しい。

 そのために、一生懸命頑張ってきたのに。

 

「お前のスキルメンテとかいう外れ(ハズレ)スキルがゴミだと分かったからだ。この、役立たずが!」

 

「そんなことはありません! 俺のスキルは多くの人に認められています。

 勇者アクファ、あなたのスキルもいずれ暴走するでしょう。その前に整備(メンテ)を——」

 

「俺の勇者スキルは暴走などしないのだ」

 

「違います。実際、俺が来る前に一度暴走したことがあると聞いています」

 

 

 ダンッ!

 勇者アクファは強く机を叩いた。大きな音がして机の上のものが揺れる。

 

 

「暴走はその一回限りだ。もう暴走などしないのだ!」

 

 

 スキルの暴走は適度な休息を取っていれば防げる。

 しかし勇者パーティには多くの依頼があり、そのどれもが難易度が高い。

 本来なら多くの休息が必要になる。

 その休息期間を短縮するのが俺の「スキル整備士(メンテナー)」だったはずだ。

 

 

「ですから、スキルは酷使することでいずれ暴走します。

 メンバーのスキルを瞬時に回復、覚醒させてきたのは俺です。

 今まで役に立っていたじゃないですか!?」

 

「なあ、フィーグ。俺はお前の一々口答えする態度が気にくわなかったのだ!

 しょせん凡人以下なのだから、勇者の俺に言われたことだけをやっておけば良かったのだ!」

 

「俺は……ずっとあなたの言うとおりにしていました」

 

 

 勇者アクファは俺に「戦闘中は余計なことをするな、見ているだけにしろ」と俺に命じていた。

 

 戦い方を提案をすると、勇者アクファは「お前に何が分かる?」と聞く耳も持たなかった。

 チャンスすら与えて貰えなかった。

 

 

「俺の完璧な指示があったのに、お前は何一つ役立たなかったのだ!

 役立たずだったから辞めさせたという理由も通る。

 ハハ、本採用の前に残念だったな!」

 

「ですから、俺はパーティーみんなのスキルの整備を——」

 

「違うだろう! お前は何もしておらず、パーティにいる聖女セイラによって体力も含め回復できていたのだ。

 休息は元々要らなかった!」

 

「その認識が……間違っているのですが?」 

 

「はは、そんなわけあるまいて。

 実際俺サマの勇者スキルは、お前のスキルの世話にならなくても、暴走などしていないでは無いか!」

 

「いいえ……今の依頼のペースだといつかきっと暴走します」

 

「デタラメ言いおって。この能なしめ。どうだ、うまかったか? 

 俺の活躍で得た報酬で食う飯は!?」

 

「……あなたは、間違っている」

 

「俺は勇者だ。間違うわけがないのだ!

 それに比べ無能のお前は……何もせずとも報酬が貰えるなど、羨ましいわ、本当に!

 

 勇者アクファはさらに口元を歪めて続けた。

 

「だいたい、スキル整備(メンテ)と言って女の体にベタベタ触りおって。

 スケベ心で触りたいだけだろう? お前が考えていることなんてお見通しなのだ!」

 

「直接触れた方が短時間で済むと、何度も説明したでしょう?」

 

「フィーグ、お前はまだ口答えするか。ギルドの依頼でお前を受け入れていたが、とんだ食わせモノだったのだ。これ以上話すことはない!」

 

 

 結局、最後まで俺の話を聞いてもらうことはできなかった。

 くそっ。これまでさんざん勇者パーティに貢献してきたつもりなのに、その仕打ちがこれか。

 

 

「お前が勇者パーティに所属していたという事実だけでも許しがたい!

 フィーグに命じる。今すぐ、俺サマの前から消え失せろ! 追放だ!」

 

 

 こうして、俺は一方的に勇者パーティを追い出されてしまったのだった。

 

 

 *****

 

 

 勇者アクファがフィーグを追放し、パーティを追い出してから数時間後。

 軽い足取りで、王都冒険者ギルドへ向かう勇者アクファの姿があった。

 

 

「なあ、デーモ。やっとアイツを追い出したのだ」

 

 

 勇者アクファに話しかけられた新任ギルドマスター、デーモは報告書の束をパラパラとめくった。

 

 

「フィーグと言ったか? 分かった、手続きは任せておけ。自主退職だと上には伝えておく」

 

「助かる。だが俺様の一存で追い出したことは隠しておきたい」

 

「ふむ。口封じでもするか?」

 

「そうだ、そういえば、俺が名前を貸しているパーティがいただろう?

 あいつらは俺の言うことなら何でも聞くし、腐ってもSランクパーティだが……」

 

「そのパーティに依頼するのか?」

 

「うむ。フィーグを追わせ、痛めつけさせろ。何か聞かれても知らないと言わせるんだ。どうせ、アイツは前線で戦えないボンクラだ。楽勝なのだ」

 

「ハッハッハ、お前が言うならそうなのだろうよ」

 

「俺サマが追い出したときのアイツの顔、見せてやりたかったのだ」

 

 

 勇者アクファは、足を組み、ドカッとギルドマスター室のソファに座る。

 

 

「だいたい、周りの者どもはフィーグのスキルが素晴らしいとか言っていたが、

 そんなはずがないのだ! 俺サマの勇者スキルのがよっぽど凄いのだ!」

 

「ああ、あの暴走以来、相当強くなったという勇者スキルか」

 

「そうだ。それなのに色々文句を付けやがって……。

 だが、追放だと言ったときの顔を思い出すとぐふっ。笑えてくるわ」

 

 

 二人はガハハハと笑い酒を酌み交わした。

 そして別の悪だくみを始める。

 

 ——これから先、王都冒険者ギルドをどのように操っていくか。

 集まる多くの報酬を、どうやって横領するのか。

 冒険者からどうやって金を巻き上げるのか。

 

 

「そういえば、俺サマが見つけたミスリル鋼の鎧はどうなった?」

 

「勇者(じるし)を付けたおかげでよく売れるわ。それに安い武器は全て買い占めて、品薄になっている。

 おかげで、レベルの低い冒険者は嫌でも勇者(じるし)の鎧を買うしか無い。笑いが止まらないほど売れている」

 

「さすが俺様の印だなぁ。ワハハハハ。さらに転売もしようか?」

 

「勇者アクファ、あなたは最近人が変わったように悪知恵が働くようになったなぁ。頼もしい限りだ」

 

 

 武器の買い占め、そして転売を目論む勇者に、王都冒険者ギルドマスターという立場を利用して、甘い蜜を吸おうとする男。

 

 二人はまだ気付いていない。

 割と早い時期に、そのもくろみが崩れ去ることを。

 今ある地位を、失っていくことを。

 

 いや、地位どころか——。

 



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第02話 スキルメンテ(2)

 

 俺は勇者パーティをクビになり無職になった。

 人格まで否定されたように感じる。ショックを受け、やる気がなくなり、死にたくなってくる。

 

 王都にいるとまた勇者アクファに会うかもしれない。

 会ったらきっと嫌味を言われるのだろう。もう嫌だ……。

 

 

「よう兄ちゃん、元気無いがどうした?」

 

「いや……職を失って。仕送りもあるしどうしようかと……」

 

「そうかい。色々あるだろうけど、故郷に帰るのも悪くないかもよ?」

 

 

 道ばたの店先の主人が声をかけてくれた。

 

 そうだな。それもいいかもしれない。

 冒険者をやめて、前みたいにギルド職員としてスキル整備だけをする仕事に就くのもありだろう。

 田舎でのんびりするのもいいかもしれない。王都は人が多い。

 

 俺は故郷に帰ることにした。

 妹や王都で世話になった人たちにも手紙で連絡する。

 

 さて、出発だ。

 足が重い。でも、どういうわけか俺は不思議な胸騒ぎを感じ走り出した。

 まさに今、出発しようとしている乗合馬車に乗り込む。

 

 

 俺は馬車に揺られながら思う——。

 

 

『スキルは世界を支配する』

 

 

 誰が言ったのか知らないが、俺はこの言葉が好きだ。

 俺は子供の頃から、ずっとこの言葉にワクワクしていた。夢に描いていた。

 

 スキルを整備(メンテ)するという能力を持ち、スキルの扱いに俺は長けている。

 このスキルがあれば将来、何でもできると信じていた。

 

 でも、結局俺は勇者パーティでは認められずクビになり、自信を失った……。

 ダメだな……俺は。

 妹がいるのに。頑張っているのに。

 

 

 *****

 

 

 二週間後。

 

 俺の生まれ故郷イアーグの街はかなりの田舎だ。

 周りは山や森ばかりの景色になっていく。

 

 馬車を乗り継ぎ、イアーグの街に近づく。その頃には、馬車の乗客は十人程度になっていた。

 

 昼過ぎになり太陽が高く昇っている。

 目的の故郷の街まであともう少し。

 

 そう思ったところ……森の中で異変が起きる。

 

 

 ヒヒーン!

 

 馬の悲鳴と共にひどい揺れがあり、馬車が止まった。

 外からはビュウビュウと強い風の音がする。いつのまに?

 

 外を覗くと、馬車を囲うように暴風が包んでいるようだ。

 馬車の乗客は騒然とする。

 

 

「お……恐ろしい」

 

「あと少しで森を抜けられるというのに、どうしてこんなことに?」

 

 

 何人か、魔法の心得がありそうな人もいるのだが何もできないようだ。

 俺は周囲を注意深く見渡し、状況を確認する。

 この行動は勇者パーティにいたときのクセのようなものだ。

 

 

「ぐあっ……何だコイツは……?」

 

 

 護衛の兵士たちが剣を構え森の出口を見つめている。

 

 馬車の先には半透明、緑色のヴェールをかぶった女性が見えた。

 人ならざる神秘的な雰囲気。

 

 

シルフィード(風属性の大精霊)が、なぜこんな所に……!」

 

 

 しかし、その表情は怒りに震えている。

 

 暴風の原因はこのシルフィードらしい。

 もともとこの精霊は温和で優しい性格のはずなのに。

 一体どうしたのだろう?

 

 首をかしげていると、暴風の奥から逃げるように一人の少女が走ってきた。

 

 

「たっ、助けて……!」

 

 

 切羽詰まった少女の表情を見て、俺は反射的に馬車から飛び降りる。

 すると、俺の背中から静止する兵士の声が聞こえた。

 

 

「おい、お前! 一般人は馬車の中に戻れ!」

 

「いえ、俺は勇者パーティの……」

 

 

 返す言葉を失う。

 俺は勇者パーティを追放されたのだ。今はどのパーティにも所属していない。冒険者ですらない。無職だ。

 

 しかも、俺はスキル整備士だ。剣技や魔法を使って、高位の精霊であるシルフィードに抵抗できるわけでもない。

 

 

 ——このボンクラが。何もするな!

 

 いつも勇者アクファにそう言われていた。

 いつもいつも。

 

 今、俺に指図する者はいない。

 だったら……!

 俺は制止の声を振り切り、駆け出した。

 

 

 先ほどの少女の声が聞こえた方向に走ると、やや露出の高い服を着た人がいる。

 十四〜十五歳くらいの少女で、妹のアヤメと同じくらいだ。

 

「ああっ……助けて!」

 

 その少女は俺を見るとしがみついてきた。

 ぶるぶると震えている。

 

 美しい金髪が目を引く。しかし、服装は随分大胆で、面積の少ない白い布地に目のやりどころに困る。

 胸の膨らみや腰のラインが露わになっていた。

 

 ふわっと柔らかい感触と、さわやかな甘い香りが鼻をくすぐる。

 

 少女の姿は、怪しげな術を使う「精霊術師」といった様子だ。

 肌には魔術で使う古代文字が刺青のように描かれている。

 でも、これは、たぶん……意味がない。

 

 どんな格好をしていても、精霊召喚術が上手くいくかどうかはスキルの性能や熟練度によって決まるからだ。

 つまり、単なる、コスプレというやつだ。

 

 

「シルフィードはよほどのことでない限り人を襲ったりしないはずだがどうして?」

 

 

 俺は少女に問いかけた。

 

 

「本当はもっと下級の精霊を召喚するつもりだったのに、シルフィード(こんな大物が)が——」

 

「じゃあ、君は風と水の精霊召喚術が使える、ドルイドか?」

 

「は、はい」

 

 

 彼女の大きな瞳が曇り、小さな声が続く。

 

 

「でも、わたくしはいっぱい努力してきたのに、才能がないと言われて……それでも、頑張ってきたのに——」

 

 

 少女は勇者パーティから追放された俺のような、寂しそうな目をしている。

 光を失っている。自信を失っている。

 

 少女は才能がないと言っているけど、この失敗がスキルの暴走によるものだったら?

 

 

「スキルの調子が悪いのに無理をしたのか?」

 

「そんなつもりは……格好もこうやって気合いを入れて頑張ったのに、失敗したみたいでっ」

 

 

 少女がぽつりと「やっぱり才能が無いのね」と寂しそうにうつむく。

 しかし、すぐに何かに気付いたのか、俺を見上げた。

 

 

「って、どうして貴男はわたくしに抱きついているのですか!?」

 

「いや、君の方から抱きついてきたんだけど?」

 

「えっ、あっ……」

 

 

 真っ赤になってそっぽを向く少女。

 

 そんなことより、今はシルフィードをなんとかしなければ。

 今は、少女が召喚し直すのが一番だ。

 

 

「失礼、手を繋ぎます」

 

「きゃっ!? 何をするのですか。この無礼者ッ! 離しなさい!」

 

「【スキルメンテ】発動!」

 

 

 彼女は俺の手を振りほどこうとしている。

 申し訳ないけど、今はこの手を離すことはできない。

 

 俺の考えが正しければ、きっと——。

 

「スキル診断開始!」

 

 俺自身のスキルを発動する。

 すると、診断を行ったスキルの結果が俺の頭に響く。

 

 職業スキル:

 【風属性精霊召喚】 LV39: 《【警告!】:暴走状態》

 【水属性精霊召喚】 LV25

 

 

 風属性精霊召喚 LV39。この年齢で、このレベルはなかなか見かけない。

 彼女の言葉通り、スキルを磨いて頑張ってきたのだ。

 

 それに、暴走しているスキルがある。

 暴走が原因なら、スキルを整備(メンテ)する俺の能力が役に立つ。

 

 

「俺は君の努力を信じる。君も、自分の力を信じろ!」

 

 

 俺は少女を励ますために声をかけた。

 

 この少女には、才能が、努力による(たまもの)が——。

 きっと、あるのだから。

 

 



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第03話 スキルメンテ(3)

 

 少女のスキルを再度確認する。

 

『職種スキル:

 【風属性精霊召喚】 LV39: 《【警告!】:暴走状態》

 【水属性精霊召喚】 LV25』

 

 

 予想通り風属性精霊召喚スキルが暴走している。

 暴走のため、予想外の精霊が召喚され制御も失っている。

 

 

 ——念のため俺のスキルも確認してみよう。

 そう思った瞬間に、ズキッと頭に痛みが走った。

 視界が激しく揺れ、キーンという甲高い音が俺の耳に刺さった。

 

 しかし、その異変はすぐに消える。

 王都から出るときの胸騒ぎといい、いったい何だ?

 俺は自分のスキルステータスを確認した。

 

 

『名前:フィーグ・ロー

 

職種スキル:

 スキルメンテ:

 【診断】

 【整備】

 【複製(コピー)

 【上書き(アップロード)

 【試行(テスト)】(←NEW!)

 

 複製済みスキル:なし』

 

 

 ん、試行(テスト)

 今まで無かったスキルが増えている?

 

 

「ちょっといい加減に離しなさい!」

 

 

 少女は俺とつないだ手を振りほどこうとした。

 しかし、今は離すことはできない。

 診断の次の工程は、相手のスキルを俺の中にコピーすることだ。

 

 

「【スキルメンテ:複製(コピー)】!」

 

「えっ……あっ——んんっ」

 

 

 少女の甲高い声が聞こえ、繫いだ手がしっとりと湿るのを感じる。

 次に、一通りのメンテスキルを実行。

 

 するとスキルからのアナウンスが俺の頭に響いた。

 

 

《複製——解析——整備——上書き——確認。

 問題なし。

 スキル【風属性精霊召喚:中】【水属性精霊召喚:中】のメンテが完了しました》

 

 

『職種スキル:

 【風属性精霊召喚】 LV39:《絶好調》

 《絶好調ボーナスあり》

 

 【水属性精霊召喚】 LV25:《絶好調》

 《絶好調ボーナスあり》』

 

 

 

「ふぅ……よし、成功!」

 

「あッ……ん…………身体が熱い……?」

 

「終わったよ。気分はどう?」

 

「えっ、私の中のスキルから力が溢れてくる!?」

 

 

 少女は、やや顔を赤らめ、ぽかんと口を開けて俺を見つめている。

 身体(からだ)全体が興奮しているのだろう。

 

 

「あのシルフィードを放っておけない。

 召喚が不完全だ。もう一度精霊召喚スキルを発動し制御を試みよう。

 そして、シルフィードと再契約する」

 

「でも……大精霊と契約なんてできっこない。

 私には才能が——」

 

 

 再び視線を落とす少女。

 その背中をそっと押す。

 

 

「レベル39の精霊召喚スキル……すごいな」

 

「私が、すごい?」

 

「うん、今までの悪い出来事は全てスキルが整備(メンテ)されていなかっただけだよ」

 

整備(メンテ)?」

 

「うん。君のスキルが正しく働くように調整することさ。それに、大人でもそのレベルのスキルを持つ者は少ない。もう暴走は収まったし、スキルの力を感じないか?」

 

「はい、感じます……体の中が熱い」

 

「大丈夫だ、自信を持って!」

 

「……は、はい!」

 

「さあ落ち着いて、スキルを発動しよう」

 

 

 少女の瞳が輝きを増し、彼女は力強くうなずいた。

 表情に自信がみなぎる。

 

 きっと、うまくいく。

 

 

「スキル【風属性精霊召喚】発動っ!!」

 

《付近でスキルの起動を確認。絶好調ボーナス:大精霊との召喚・契約が可能となります》

 

 

 少女が手を天に掲げ声を張り上げる。

 その声は、空気を震わせ周囲に広がっていった。

 

 遠くまで届きそうな芯のある声だ。

 彼女のスキルが起動し、次第にシルフィードの表情が柔らいでいく。

 

 あともう少し。

 俺は手助けをしたい。

 

 でも、自分にコピーされている【風属性精霊召喚】を俺自身が起動できないことに苛立ちを覚える。

 

 俺は修復した他人のスキルのコピーを自分自分の中に持っている。

 しかし、使うことができず、そのため俺は戦闘時は何もできなかった。

 

 ふと、あることを思いだして、俺は自分のスキルを確認してみた。

 

 

『名前:フィーグ・ロー

 

 スキルメンテ:

 【診断】

 【整備】

 【複製(コピー)

 【上書き(アップロード)

 【試行(テスト)】(←NEW!!!!!!!!!!)

 

 複製済みスキル:

 【風属性精霊召喚】: LV99 《絶好調》』

 

 

 試行(テスト)がアピールしているように見えるんだけど……。

 一体何だこれ?

 

 ……もしかして。

 俺は可能性に賭けこのスキルを起動した。

 

 

「【スキルメンテ:試行】を起動!」

 

《どのスキルを起動しますか?》

 

「【風属性精霊召喚】!」

 

 

 俺はいちかばちか、スキルの名を叫ぶ。

 

 

《風属性精霊召喚を試行(テスト)します。

 対象:近隣で実行中の召喚をアシストするか、別の大精霊を召喚できます》

 

 えっ?

 他人から複製(コピー)したスキルを、俺が起動できた?

 だったら、選択肢は一つだけだ。

 

 

「スキルのアシストを選択」

 

 

《【風属性精霊召喚】アシスト実行。成功しました!》

 

 

 周囲に渦巻いていた暴風が次第に治まっていき、心地よいそよ風になっていく。

 怒りの形相だったシルフィードが一転、優しい微笑みを俺たちに向けている。

 

 ゴーゴーとものすごい音を立てていた風が消えた。

 よし、成功だ!

 

 少女が目を見開いて驚いている。

 

 

「すごい……スキルが使いやすくなっている?」

 

 

 今まで鬼の形相だった表情のシルフィードがハッとした様子で、おずおずと俺たちの前にひざまずいた。

 

 人ならざる美しい顔や肢体の造形に引き込まれそうになる。

 半透明になっているところが、神秘さを増していた。

 

 

『……マスター。失礼いたしました。不完全にこの世界に顕現したため……苦痛に蝕まれ我を失っておりました。ご容赦を』

 

「シルフィード、俺じゃない。召喚主はこの少女だ」

 

『マスター、承知しました。では、改めて……可愛らしい召喚主殿。

 今後ともよろしくお願いします』

 

「大精霊シルフィードを制御できるなんて……しゅ……しゅごい……!」

 

 

 顔を紅潮させ、興奮気味に少女は叫んだ。次に、差し出されたシルフィードの手をそっと受け止める。

 ろれつが回ってないのが気になるけど、この様子なら問題なく契約もできるだろう。

 

 俺は握っていた手を離した。

 

 

「もう大丈夫だね。じゃあ、俺はこれで」

 

「あっ……あの……契約が完了するまで手を繋いでくださって……も……いいですわよ?」

 

「心配はいらない。もう俺なしでも大丈夫だよ」

 

「じゃなくって、その——」

 

 

 何かを言いかけた少女は、頬を赤く染めていた。

 俺に向けて手を伸ばし名残惜しそうにしている。

 

 

「今後は無理せずしっかり休養を取って、暴走を防いだほうがいい。君には力があるから、これからも頑張ってね」

 

「は、はい……本当に……本当にありがとうございますっ!」

 

 

 久しぶりだな、誰かの役に立ってお礼を言われたのは。

 喜んでもらえたり、人の力になれると嬉しい。

 俺の力は、きっとそのためにあるのかもしれない。

 

 馬車の方から周囲の暴風が静かになった様子に歓声があがった。

 

 

「わあああああ!」

 

「すっかり、風も止んで……生きた心地がしなかったけど、君があの精霊を沈めてくれたのか?」

 

「助かった……フィーグさんと言ったか? ありがとう」

 

 

 危険な状況だったけど、それを自らの判断と行動で脱することができた。

 

 皆を救うことができた。

 見知らぬ少女と力を合わせて、問題を解決した。

 パーティって、こういうことなのかもしれないな。

 

 

「素晴らしい! こんなに若いのに大したものだ。

 一般人などと言って申し訳ない。君は冒険者か魔術師なのか? 先ほどは済まなかった」

 

「俺は何も……ただ、あの少女の力を信じていただけです」

 

 

 俺を馬車に引き留めようとした兵士が頭を下げた。

 顔を上げて欲しい、と言って俺は彼と握手を交わす。

 兵士はイアーグの街出身のようで、いつも街にいるらしい。何か困ったらいつでも頼って欲しいと笑顔で話してくれた。

 

 

「あ、あの!」

 

 

 馬車に乗り込もうとしたとき、先ほどの精霊使いの少女が背中から声をかけてきた。

 やはり、よく通る凜とした良い声だ。

 少女の横にシルフィードが寄り添っている。

 

 

「助かりました!

 先ほどのあなたのスキルは一体……いえ、あなたのお名前を伺ってもよろしいですか……?」

 

 

 潤んだ瞳で俺を見つめる少女に告げる。

 

 

「俺の名はフィーグ。スキル整備士——《スキルメンテ》の使い手だよ」

 

 

 

 



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第04話 転売ヤー——side 勇者アクファ

——勇者視点。

 

 王都ギルドに勇者アクファが足を運ぶのは、大抵悪だくみをする時だ。

 

 

「よお、ギルマス」

 

「あー、勇者アクファよ、よく来たな。勇者が発見した真ミスリル鋼をウリにした鎧の話だが、順調だよ。

 相変わらず上級の冒険者はムリだが、下級の馬鹿な冒険者には高く売れているぜ」

 

 

 勇者アクファは。それを聞いてニヤリとした。

 ミスリル鋼で作られた! とうたっているが、その正体は買い占められた安物の装備だ。

 

 そんな粗悪品を勇者ブランドのものとして販売する。

 勇者がギルマスに提案した、悪だくみの一つだ。

 安く買い占め高く売る——いわゆる転売である。

 

 装備が不足し品薄になり、高い勇者印の装備を買うしかないという冒険者も出てきている。

 

 

「そうか。意外とバレないもんだな」

 

「ああ。まぁ見た目だけは悪くないし、勇者印に釣られる馬鹿が多い。

 そういえば、それを装備したら皮膚が腫れたとクレームを付ける冒険者がいたらしい」

 

「おい、大丈夫なのか? ギルド支給の物が不良品だなんてバレたら——」

 

「勇者アクファよ、あんたらしくもないな。大丈夫だ、訴えたヤツは闇市の奴隷商にでも売り飛ばすさ。

 もっとも、皮膚が腫れた奴隷では買い手が付かないかもしれないがな。ガハハ」

 

「お前もなかなか悪いな」

 

「おや、勇者様ほどではありませんよ」

 

 

 勇者アクファと王都冒険者ギルドマスター・デーモ。

 二人は王都ギルドの力を使い好き放題にやっていた。

 

 粗悪品を売りつけたり、冒険者に高額な借金をさせた挙句、脅迫し好き放題したり。

 王都には夢を持って地方からやってくる冒険者も少なくない。

 そんな無垢な冒険者を騙し、毟り取り、挙げ句の果てには裏の奴隷市に売り飛ばすこともあった。

 

 しかし、最近では勇者の名を用いて、より安全な金儲けに切り換え始めている。

 王都騎士団の監視も強くなっている。

 近年、外国から禁制品の魔道具や薬物などが国内に入ってきているためだ。

 

「それで、例の勇者パーティから追放したフィーグはどうした?」

 

「いや、予想以上に王都を離れるのが早くてな。今ヤツの故郷を襲わせるパーティを選定している」

 

「チッ。まあ、王都を離れたなら時間が多少かかってもいい。どうせ、その街のギルドに顔を出すだろうから……

 いや、それならいい手がある」

 

 

 勇者アクファは、ギルマスに何やら耳打ちする。

 

 

「なるほど。ああ、分かった」

 

「じゃあ、この前脅かした女を肴にこれからいっぱいやるか。ちょっと呼んでくるわ」

 

「ぐへへ……夜は長いしなぁ」

 

 

 勇者とギルマス。

 蜜月の仲である二人の夜は更けていく——。

 

 





お読みいただきありがとうございます。

この小説は、小説家になろう様にて、先行公開しています。
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第05話 故郷に帰ったらみんなから勧誘されました(1)

 

「俺はフィーグ。《スキルメンテ》の使い手だよ」

 

 

 俺は助けたドルイドの少女に名を告げた。

 少女はもう大丈夫、自信も付くだろう。

 

 

 馬車に戻ると、

 

「ありがとう。アンタのおかげで助かったよ。うちの近くに寄ったら、礼をしたいから是非訪ねてきてくれ」

 

「フィーグさんと言うのですね。あの、もしよかったら故郷にいる娘に会って貰えないでしょうか?」

 

「これは少ないが、我々の命を救ってくれたお礼だ。受け取ってくれ……いや、そう言わずに——」

 

 

 同じように皆が助かったと言ってくれた。

 俺の独断で行ったことだけど、うまくいって本当によかった。

 

 

 そして馬車は森の出口を超え、俺の故郷の街に向け動き出したのだった。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 ちょうどお昼になる時間、実家に帰り着いた。

 空は晴れ渡り、太陽は少し傾いている。あと数刻もしたら夕方だ。

 

 この時間なら、俺の妹アヤメは魔法学院にいるはずだ。

 街の冒険者ギルドに行くのは明日にして、家の中でアヤメを待つことにした。

 

 

 と、思ったのだけど……。

 

 

「おかえり、お兄ちゃん!」

 

 

 実家のドアを開けるなり俺の二歳下、十四歳のアヤメが俺に抱きついてきた。

 短い髪の毛に銀色の髪、そして俺の胸くらいまでしかない低めの身長。

 

 そういえば、さっきも森の中でこうやって抱きつかれたな。

 あのドルイドもアヤメと同じくらいの年齢だったっけ。

 

 

「びっくりしたぞ、アヤメ。ただいま——久しぶりだな」

 

「うん。お兄ちゃん、あのね……いつもありがとう。本当に感謝してる」

 

 

 俺に抱きついたままのアヤメは、やや視線を下げてそう言った。

 負い目なんか感じなくて良いのだけど。

 

 というか、どうしよう?

 勇者パーティをクビになったので今は支払いのアテがない。

 

 

「魔法学院の学費のことか? ま、まあそれは気にするな。俺が何とかする」

 

「お兄ちゃん?

 ……どうしたの?」

 

 

 急に顔を曇らせ、俺の顔をのぞき込むアヤメ。

 ダメだな、俺は。

 

 妹に変な心配させてしまって。

 とりあえず話題を変えよう。

 

 

「あれ、そういえばお客さんか?」

 

「う、うん。街のギルドマスターのフレッドおじさん」

 

 

 いつのまにかアヤメの背後に、見覚えのある男性がいた。

 おじさんってのは……ちょっと言いすぎだと思うぞ、アヤメよ。

 

 

「久しぶりだな、フィーグ!」

 

「ど、どうも。お久しぶりですフレッドさん」

 

 

 そう言ってフレッドさんはアヤメの真似をして俺に抱きついてきた。

 フレッドさんは二十三歳だったはず。後ろに束ねた長めの髪を揺らすイケメンだ。実際モテるらしい。

 

 俺にとっては頼れるアニキ的存在でもある。

 そして、この街の冒険者ギルドマスターだ。

 

 

「本当に久しぶりだな。今は勇者パーティにいるんだよな? 休暇か?」

 

「ねえ、勇者様ってやっぱりカッコいいの? お兄ちゃん」

 

 

 二人が俺にくっついたまま矢継ぎ早に質問をしてくる。

 しまった。

 アヤメには帰るとしか伝えてなかった。

 

 

 ゆっくり話をしようと俺たちはダイニングに向かう。

 

 ん?

 テーブルの上には、たくさんの美味しそうな料理が並んでいる。

 

 

「わぁ……結構なご馳走だな」

 

 

 まるでパーティをするかのような状況だ。

 テーブルの上には、鳥の丸焼きなどお肉や、サラダなどが並んでいる。

 

 俺のために準備したのだろう。

 

 アヤメやフレッドさんに申し訳ない気分になる。

 俺は覚悟を決め、姿勢を正すと交互に視線を送って話し始めた。

 

 

「実は俺、勇者パーティをクビになって——」

 

 

 簡単に勇者パーティ追放の経緯を二人に説明する。

 

 

「えっフィーグ……マジか。そんな事情だったとは……すまん」

 

「ううん。お兄ちゃんが帰ってきたんだしこれでいいのよ、フレッドおじさん」

 

 

 俺がクビになったと言ったとき、一瞬眉をしかめたアヤメだったがフォローをしてくれた。

 

 

「ありがとう二人とも。ほっとするよ」

 

「あたしはお兄ちゃんが戻ってきてくれて……本当に嬉しいの」

 

 

 アヤメはそう言って目を伏せた。

 そうか、アヤメは寂しかったのかもしれないな。

 一人だけでこの家にずっといたのだ。

 

 んん?

 

 

「で、あの人は誰?」

 

 

 さりげなく椅子に座り、俺たちの様子をうかがっている人に気付く。

 金髪がさらっとして綺麗だと思った。

 

 でも、顔を包帯でぐるぐる巻きにしている。

 よく見ると服からスラッと伸びる腕にも包帯を巻いている。

 

 ——背格好から推定すると、多分女の子だ。

 

 ちらりと包帯からのぞく彼女の顔は赤く腫れている。

 血が滲んでいるところもある。

 包帯はそんな状態の肌を人目に晒したくないからだろう。

 

 

「誰?」

 

 

 アヤメは知らないようだ。

 フレッドさんは、溜息をついている。知っているのかな?

 

 その謎の人物は、視線が集まっていることに気づき勢いよく立ち上がった。

 

 

「あっ、ごめんなさい。フレッドさんに無理言って連れてきてもらいました。

 私は、リリアっていいます。フィーグさんが戻ってくると聞いて駆けつけました」

 

 

 凜とした声が響く。女性というか、女の子だ。

 歳はおそらく俺と同じ十六歳くらいだろう。

 

 

「は、はあ」

 

「是非、スキルメンテを扱えるフィーグさんに、私とパーティを組んでいただきたくて……あっ」

 

 

 リリアは俺の近くに駆け寄ると包帯に巻かれた手を差し伸べてくれた。

 彼女のスキルに俺の能力スキルメンテが反応している。

 しかし、

 

 

「……どうしてもというのなら、組んであげてもいいですわ?」

 

 

 リリアは急に口調を変えていった。

 何か思いだして、演じるような感じだけど……。若干使用方法を間違えているような。

 ツンデレのツンというのは最初はデレてはいけないと思う。

 

 ともあれ、リリアは俺とパーティを組んで欲しいようだ。

 

 

「ちょっと待った!

 フィーグは冒険者ギルドの職員……いや、役員としてウチに来てもらいたい。

 以前のように【スキルメンテ】の能力を存分に発揮して欲しいんだ。報酬ははずむぞ?」

 

 

 フレッドさんが男の割に綺麗な手を俺に差し出した。

 

 

「待って待って!

 お兄ちゃんはこの家にいてあたしを毎日魔法学院に迎えに来てくれることになってるのっ!」

 

「ええっ?」

 

 

 アヤメはよく分からないことを言い、手を差し出してくる。

 皆が「お願いします!」と言いそうな勢いで俺に迫ってきた。

 

 

「フィーグさん。私とパーティを組んでください! ……いいえ、組んで差し上げますわ!」

 

「オレのギルドに是非!」

 

「お兄ちゃんは誰にも渡さないの!」

 

 

 俺は三人から猛烈に勧誘のアピールをされてしまったのだった。

 

 



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第06話 故郷に帰ったらみんなから勧誘されました(2)

「フィーグさん。私がパーティを組んであげてもよくってよ!」

 

「オレのギルドに是非!」

 

「お兄ちゃんは誰にも渡さないの!」

 

 

 俺に差し出された三つの手。

 謎のツンデレを演じている冒険者の少女リリア、冒険者ギルドマスターのフレッドさん、そして妹のアヤメ。

 

 俺を勧誘してくれるのは嬉しいけど、どの手を取るべきか?

 

 アヤメの学費を考えるとフレッドさんの手を取るのもありだろう。

 ギルドの職員として働けば給料の支払いも期待できる。

 

 だけど、俺は冒険をしたい。

 クエスト達成で報酬も得られるし、ダンジョンの宝を手に入れれば一攫千金も狙えるだろう。

 

 何より冒険はワクワクする。

 俺のスキルは人の役に立つ。

 色んな冒険をして、俺のスキルを有効に使っていきたいし、そうしていけば、いつの日か……強いパーティを作れる。世界最強のパーティだって夢じゃないはずだ。

 

 冒険を考えるとリリアだろう。

 彼女のことをよく知らないけど、これから彼女のことを知っていくことはできる。

 

 アヤメを選べば、その寂しさを癒やせるだろうけど、それでいいのか?

 ——結論は出ず、食事をとりながらみんなと話をすることにした。

 

 

「……さっき言ったとおり俺は勇者パーティを追い出されたわけだが」

 

 

 改めて説明すると、どん、とテーブルに手を突き、勢いよく立ち上がるアヤメ。

 

 

「お兄ちゃんを追放なんて何考えてるの! ほんと、勇者にがっかりなの。憧れだったのに」

 

「まあまあアヤメちゃん、落ち着いて。オレも紹介した手前あまり強く言えないが、おかしな話だとは思う。聞くところによると、最近の勇者の行動は目に余ると言うし」

 

 

 フレッドさんがそう言うと、次にリリアが口を開く。

 

 

「そうですよ。いくら勇者だからってフィーグさんを追い出すなんて、おかしいと思う」

 

 

 まるで俺のことを深く知っているかのようなリリアの口ぶりに全員の視線が集中する。

 たまらず、フレッドさんが聞いた。

 

 

「リリアはフィーグのこと知ってるの?」

 

「あ、いえ、噂で——」

 

「確かにフィーグのくらい噂に流れるか。それでフィーグはどうしたいんだ?」

 

「……俺は冒険者を続けたいと思います」

 

 

 勇者パーティにいた時のことを思い出す。

 

 戦闘中、俺がパーティのみんなの指揮をすればもっと上手く効率的に敵を倒せるのにと、そう思う事が多くあった。

 でも、勇者アクファは俺にわずかな提案すらもさせてくれなかった。

 

 もしできるのなら俺の望むとおりのパーティを作って、今までできなかったことをしたい。

 戦闘も効率化して、もっと強いパーティを作りたい。

 

 とりあえず、目指すのはSランクパーティ……いや、中途半端はよくないから、夢は大きく——。

 

 

「できれば俺はみんなをサポートして、強いパーティを作っていきたい。

 それこそ、勇者パーティにすら負けないような世界最強のパーティを」

 

 

 ここまで言うと、フレッドさんが声を上げる。

 

 

「じゃあ、三ヶ月後、王都で冒険者パーティ同士で対抗する剣闘士大会がある。

 非公式な大会ではあるけど、歴戦の強者や勇者パーティも参加するという噂がある。

 それに出て腕試しをする、というのも目標の一つで良いかも」

 

「そんなものがあるのですね。聞いたことがありませんでしたが、それまでパーティのメンバーを揃えられれば出場できますね」

 

「ああ。確かにフィーグぐらい力があれば、ギルドに閉じ込めておくのももったいないな。

 ……そうだ、オレも冒険に出かければいいじゃないか。

 よしフィーグ、一緒に冒険に出かけよう!」

 

「フレッドさん、ギルドはどうするの? ギルドマスターでしょ」

 

「あ、えーっと——」

 

 

 フレッドさんは目を逸らし口笛を吹き始めた。

 次に口を開いたのはリリアだ。

 

 

「冒険者になるというのは、私も賛成です。もちろん、パーティを私と組んで下さってもよくってよ!」

 

「……あいかわらず、少し言葉使いがおかしいが、まあいいや。リリア、どうして初対面の俺をそこまで信用しているんだ?」

 

「そ……それは——。お願いしたいことがあって」

 

 

 なるほど。依頼があるから、お世辞を言っていたのかな? けど、そのツンデレ口調はいらないと思うが……。

 ちょっと変わったところはあるけど、悪い人でも無さそうだし俺にできることがあるならリリアの力になってもいいかも。

 

 次にアヤメが話し始める。

 

 

「学費のために、お兄ちゃんが我慢してきたのなら、お兄ちゃんはやっぱり、自由にして欲しいかも。

 あたしが魔法学院を卒業したら、お兄ちゃんと一緒に冒険の旅に出かけるの!」

 

 

 誰が俺とパーティを組み、冒険に出かけるのか?

 

 三人は口論をはじめた。

 とはいえ、今すぐとなると剣士っぽいリリア一択なわけだが……。

 

 

「フィーグさんの担当は私、リリアです!」

 

「担当?」

 

「あたしもお兄ちゃん担当なの。同担拒否するの!」

 

「同担拒否ってなんだ? アヤメちゃんは、魔法学院を卒業した後でも良いだろ。

 リリアはよく分からないし、フィーグ、俺とパーティを……」

 

「「どうしてそうなるの!?」」

 

 

 みんな、俺を過大評価をしすぎじゃないのか。

 勇者パーティを追放されたってこと忘れているんじゃないのか?

 

 

 ——結局、食事を食べ終えても三人の答えは出なかった。

 ただ、三人に共通していることもあった。

 

 それは「フィーグは冒険者になるべきだ」ということ。

 みんなの意見を受け、俺は宣言する。

 

 

「俺は冒険者を続けるよ。そして強いパーティを作りたい。夢は大きく、世界最強のパーティを!」

 

 

 そう言うと、皆がささやかな拍手をくれた。

 

 

「フィーグ、それなら、世界一の前に勇者パーティより強くなるという目標を設けるのはどうだ?」

 

「そうよ。お兄ちゃんを追放したなんて……絶対見返すべき!」

 

 

 フレッドさんとアヤメがヒートアップする。しかし、俺は……。

 

 

「うーん、剣闘士大会で出会う時でいいよ。もう気にしていない」

 

「なるほど、()()()か」

 

「そっか。お兄ちゃん、変わったね」

 

「そうか?」

 

「そうだよ。優しく強く——かっこぃ……」

 

「ん? 何て言った?」

 

「ううん、何でもないの!」

 

 

 アヤメは嬉しそうに目を細め俺を見つめていた。

 

 

 ——そうして、賑やかな食事が終わる。

 

 

「じゃあ、食後の運動にでも、やるか。フィーグはオレのもんだ」

 

「お兄ちゃんは誰にも渡さないの!」

 

「やるって戦闘ですか? ……分かりました。私こそがフィーグさんを貰い受けます!」

 

 

 ん?

 戦闘で俺のパートナーを決めるってことか?

 ミニ剣闘士大会って感じだな。

 

 ところで、俺の決定権はどこへ……?

 

 

 



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第07話 故郷に帰ったらみんなから勧誘されました(3)

 

 誰が俺とパーティを組むか、三人は言い合っているが……少し必死なリリアに比べてアヤメとフレッドさんはそうでもなさそうだ。

 でも、俺の決定権は一体どこにある?

 

 いや、どこにもない。

 これはよくない。

 

 ビシッと言わなくては……!

 

 

「お、俺の意見を——」

 

「「「部外者は黙ってください!」」」

 

 

 ダメだこの人たち。どうにかしなくては。

 俺が一番の関係者だろう?

 

 俺はリリアとパーティを組むのが一番だと思っている。

 アヤメは魔法学園を卒業してからパーティに参加すればいい。

 フレッドさんはギルマスの仕事に戻らないといけないだろう。

 

 しかし、俺の考えをよそにアヤメとフレッドさんは勝手に盛り上がり戦闘の準備をして外に出て行った。

 

 俺とリリアを置いて。

 

 

「ふふふ……フィーグさん、私は皆さんが仲が良くて……ちょっと羨まし……べ、べつに羨ましくなんてありませんけど」

 

「確かに仲いいよな。俺は勇者パーティにいたときは寂しくて、こんなに賑やかなのは久しぶり」

 

「私と同じ……大変だったんですね——フィーグさん」

 

 

 そう言って、リリアは俺の胸に包帯が巻かれた右手のひらを当ててきた。

 彼女の温もりが伝わってくる。

 

 俺のスキルが反応しているのと同時に心が落ち着くのを感じる。

 何か俺のスキルが変化したのは間違いない。

 

 

《条件を満たしたので、スキル《改造》を獲得しました》

 

 

「リリア、ありがとう。ええと……これは?」

 

「これは私たちの部族に伝わるおまじないのようなもので……か、感謝しなさい」

 

「おまじない……部族……?」

 

 

 スキル《改造》か。《整備(メンテ)》と相性が良さそうな気がする。

 

 

 

「このおまじないをするのはフィーグさんが初めてです。

 私、話してみてフィーグさんのこと信頼しても大丈夫だと思ったので。

 こ、光栄に思いなさいっ」

 

「そ、そうか……で、リリアは外へ行かないの?」

 

「鎧を装備してからですわ」

 

 

 部屋の片隅に鎧が置いてあった。

 やや暗めの色をした金属製のもので、それなりに重そうだ。

 リリアは服を脱いだフレッドさんのように筋肉ムキムキでもないのにちゃんと装備できるのだろうか?

 

 

「そのツンデレ口調、無理して付けなくていいよ」

 

「ななな……人間の男性はこういうのが好きだと本で読んで……」

 

「人間?

 ……随分偏ってるし、それ行動と一緒じゃないと意味ないから

 もう随分デレてる」

 

「がーん。じゃ、じゃあ……やめます……」

 

 

 がーんって口にする人初めて見た。

 本の読み過ぎでは。

 

 

「うん。リリアは普通にしていていいと思うよ」

 

「は、はい。

 あの、フィーグさんに私のスキルを診ていただきたくて——もしよかったら」

 

 

 リリアは申し訳なさそうに俺の顔を上目づかいで見つめてきた。

 特に断る理由もないし、戦闘の前にメンテするのは悪いことじゃない。

 メンテの過程でリリアのことも知ることができる。

 

 

「うん、わかった。診断しよう。まずパーティを組もうか」

 

「はい」

 

 

 リリアとパーティを組む呪文を唱える。

 こうすることで、触れなくても俺のスキルが効くようになる。

 

 じゃあ、スキルメンテを起動——ん?

 

 リリアは俺にくるっと背を向けると服を脱ぎ始めた。

 恥ずかしがりもせず、背を向けているとはいえどんどん脱いでいく。

 

 

「ちょっ。リリア? 何を?」

 

「私に直接触れた方が良いのですよね?」

 

 

 触れた方が早くスキルメンテを終えることが出来るのは事実だ。

 でも初対面な上、リリアは女の子だ。

 

 俺の戸惑いをよそに、リリアはあっという間に上半身に身につけていたものを全て脱いでしまった。

 恥ずかしげもなく、どーんと、ばるんばるんと堂々としている。

 

 しかし……服を脱いでも全裸ではなかった。

 包帯が全身にぐるぐるに巻かれている。

 

 包帯の隙間から少しだけ肌が見える。

 赤く腫れ、所々膿んでいる。

 

 リリアを椅子に座らせ、俺は彼女の背中を見た。

 

 

「すごい包帯、これは?」

 

「半月前くらいから、鎧を装備すると肌が腫れて血が滲むようになってしまったのです」

 

 

 そう言ってリリアは顔を伏せた。

 所々、血が滲んでいて痛々しい。

 

 顔も包帯で覆っている。

 隠さなければならない状況というのは、女の子にとってどれくらい苦痛なのだろう。

 

 

「痛そうだな……でも、これから背中に触れるから痛かったら言ってね。【スキルメンテ】発動!」

 

「はい……ひゃあっ!」

 

 

 俺はリリアの背中に両手のひらを押し当て、スキルを発動させた。

 リリアはビクッとして背筋をぴんと伸ばし、小さな悲鳴を上げる。

 

 包帯越しに、背中とはいえ女の子の柔らかさと少し高い体温が手のひらに伝わってきた。

 スキルの情報も俺に流れ込んでくる。

 

「大丈夫?」

 

「ん……んっ……は……はいぃ」

 

 

 名前:リリア

 職種スキル:

 【装備】   LV43: 《【警告!】:暴走状態》

 【剣技】   LV40

 【風属性魔法】LV 1

 【水属性魔法】LV 1

 【聖域】   LV 1

 

 

「スキル【装備】が壊れて暴走しているね」

 

「えっ、スキルが暴走ですか?」

 

「うん。休養を取らずに無理をするとこうなる。

 それにリリア、君の肌はひょっとしたら金属に弱いのかもしれない」

 

「そんな……何十年も大丈夫だったのに?」

 

「何十年……??

 また変なことを言っているけど……平気だったのはスキル【装備】のおかげかもしれない。

 これが暴走したのなら……。

 

 【スキルメンテ:複製】!」

 

 

 リリアからスキル【装備】の情報が俺にコピーされた。

 ただ、他人のスキルは時間が経つと消えてしまう。

 使うこともできない。

 

 

「——リリア、顔が赤い……痛いか?」

 

「い、いえ、大丈夫です」

 

「ゆっくり、優しくするから」

 

 

 包帯の隙間から覗くリリアの首筋や頬が、触る前から火照るように赤くなっている。

 リリアは声を漏らさないようにするため、両手で自分の口を覆った。

 

 俺は背中に触れている手のひらに、優しく、わずかに力を込める。

 

 

「んっ……んんっ……はぁ、はあ……んんんーーっ!」

 

 

 リリアの声がひときわ高くなり、びくびくっと震えた瞬間スキルの整備が終わった。

 

 

《確認——問題なし。スキル【装備】の修復が完了しました》

 

 

 俺はふぅ……と息をつく。

 さっそく、【メンテ:改造】を使ってみよう。

 どうなるかな……?

 

 

《【メンテ:改造】——成功。リリアのスキル【装備】が【完全装備】に進化しました》

 

 

 おお。これがスキル【改造】か。

 スキルの進化は、鍛錬によってできると言うが……。それとはちょっと違う気がする。

 スキルの名前が変わって「完全」が付与されたわけだが……この後のミニ剣闘士会で分かるだろう。

 

 リリアは放心したように肩を落とし息をついている。

 

 

「終わったよ。もう大丈夫」

 

「はぁ……はぁ。あ、ありがとうございます——スキルから力を……感じます」

 

「大丈夫? 痛くなかった?」

 

「はぃ……で、でも……いつもこんな感じなのですか?」

 

「あんなに大きな声を出されたのはリリアが初めてかな?」

 

 

 そう言うと、リリアは両手で顔を覆って「うぅー」と声を漏らしている。

 包帯からはみ出した肌がさらに赤みを増していた。

 

 

「ううぅうううぅぅぅぅぅぅ……。

 初めて恥ずかしいって感じます……あの、すみませ……ん。隣の部屋で鎧の装備をしてきます……」

 

 

 さっきは、するすると服を脱いでいたはずなのに。

 今は消え入りそうな声をしていて、恥ずかしそうにして片手で顔を、もう片手で胸の辺りを覆っている。

 

 どういう心境の変化なんだろう?

 

 ん?

 彼女の髪から耳が突き出ていた。

 細く、長い耳の先が。

 

 この耳は……エルフ?

 エルフは人間の上位種——筋力も魔力も桁違いだと聞いたことがある。

 

 黙っていると言うことは、隠していることなのかもしれない。

 見なかったことにしておこう。

 

 

「リリアはこの部屋で着替えていいよ。俺は外に行くから」

 

「は、はいぃ。あの、フィーグさん……フィーグさんのおかげでスキルが治って改造強化されて……すごいです。このスキル、大切にします」

 

「ううん。元々、君の力によるものだよ」

 

 

 俺は外に出てリリアを待つことにした。

 そのスキルの凄さは、すぐに見られることだろう。

 



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第08話 指示——side 王都ギルマス・デーモ

 王都の冒険者ギルドの一室。

 もう昼だというのに、二日酔い気味のギルマス、デーモは頭痛に悩まされていた。

 

 転売の利益で得た高い酒が身体に合わないようだ。

 一応ギルドに出向いたものの、帰って寝ようかと思い始めていたときのこと。

 

 彼がいる部屋に、血相を抱え走ってきたギルド職員がやってくる。

 

 

「ディーナ公爵が突然いらっしゃったのですが……ご存じですか?」

 

「公爵だと……どういうことだ?」

 

「それが、フィーグという男が貴族や騎士達のスキルのメンテを行っていたようでして」

 

「はあ? わかった。オレが話す」

 

 

 心の中で舌打ちをしながら、デーモは応接室に向かった。

 公爵は貴族の中でも王族にも近い存在だ。王族と婚姻の資格を持つのも貴族の中で公爵という爵位を持つ者たちだけだ。

 無碍にはできない。

 

 慌てて応接室に入るデーモ。

 そこには、腕を組み、しかめっ面の中年男性が一人いて、デーモが部屋に入るとすぐにイライラをぶつけてきた。

 

 

「これはこれは……ディーナ公爵殿。今日はどのようなご用件で?」

 

「フィーグ殿のことだ。彼がどこにいるか知っているか?」

 

「フィ……フィーグ殿?」

 

 

 デーモは頭の中で考える。

 フィーグ殿()

 公爵に敬称付きで呼ばれる人物はそう多くない。

 

 頭を巡らすと、勇者アクファが口にしていた人物を思い出す。

 フィーグ……勇者パーティから追放された男。

 役立たずで、勇者アクファが追放したとかいうボンクラ。

 

 

「はっ。あの役立たずがいかがしました?」

 

「何? 役立たずだと?」

 

 

 ディーナ公爵の怒りが一段階上がる。

 

 

「はい……ボンクラですので、いなくなっても問題ないかと——」

 

「ハッ、フィーグ殿をボンクラ? いなくなっても問題ない? …………この大馬鹿者が!!」

 

 

 ディーナ公爵は苛立ちを隠さず、デーモを罵倒した。

 時々公務などで見かける事もあったのだが……デーモはこのように激昂するディーナ公爵を見るのは初めてだった。

 普段応和な人物が豹変する時ほど、恐ろしいことはない。

 

 脂汗がデーモの額を伝う。

 

 

「えっ……ど、どどど、どういうことですか?」

 

「フィーグ殿こそ疲弊したスキルをメンテ(整備)できる貴重な存在なのだ。それをボンクラだと……!?」

 

 

 再びドン、とテーブルを叩く公爵。

 その勢いに、王都ギルマス・デーモはたじろいだ。

 

 

 ——まさか……いや……もしかして。俺は大きな間違いをしていたのか? いや、勇者が間違っているのか?

 デーモは状況を飲み込めない。

 

 

「フィーグ殿をボンクラなどと呼んでいたとはな。まさかとは思うが……勇者アクファと何か悪だくみなどしてないだろうな?」

 

「い、いえ……そんなことはっ」

 

 

 現在進行形で、フィーグの口止めしようと手はずを整えているなどととは言えない。

 デーモはフィーグの居場所を把握している。しかし、素直に言ってもいいのか判断ができなかった。

 

 ——公爵はどこまで知っているのだ?

 もしかして、俺は終わっているのか?

 

 いや、こうやって公爵自ら乗り込んでくるくらいだ。大したことは知らないだろう。

 デーモは怒る公爵を前に、少し余裕を取り戻した。

 

 

「あの、フィーグは一体何をしていたのですか?」

 

「王都ギルドマスターのお前がそんなことも知らんのか? フィーグ殿は時々我が屋敷にやってきては、娘のスキルメンテナンスを行ってくれていたんだ」

 

「そ、それはどういう内容で?」

 

「私の娘は現在騎士団にいるわけだが、多忙でな。魔導爆弾のことは聞いたことがあるか?」

 

「魔導ば……い、いえ、寡聞にして」

 

 

 魔導爆弾という言葉にわずかに反応するデーモ。

 しかし、なんとか平静を装う。

 

 

「まあ良い。 とにかく多忙で【聖騎士】のスキルが調子悪くなることがあってな。

 暴走の予防というわけだ」

 

「スキルが暴走? 本当なのでしょうか?」

 

「私が嘘をついているというのか?」

 

「い、いえ……そういうわけでは」

 

「うむ。ならば、早くフィーグの居場所を教えてくれ」

 

 

 ——仕方ない、とりあえず今は時間を稼ぐしかない。

 そう考えたデーモはフィーグの状況を伝えることにした。

 

 

「そ、それが……彼は自ら勇者パーティを脱退し、もう王都にはおらず——」

 

「もう王都にはいないだと? 何があったのだ?」

 

 

 ディーナ公爵は青い顔をして立ち上がる。

 

 

「そ、それが、勝手に脱退したと」

 

「そんなことを聞いているわけではない!どうして引き留めなかったんだ!

 ……では、どこにいるのだ?」

 

 

 今度は顔色が青から真っ赤に変化しディーナ公爵はギルマスに詰め寄る。

 

 

「イアーグの街に——」

 

「イアーグだと!? 馬車で二週間もかかるではないか。馬鹿者が!」

 

「も、申しわけありません……」

 

「こうしてはいられぬ!」

 

 

 立ち上がり、去ろうとするディーナ公爵の背中に質問をする。

 

 

「い、いかがなされましたか?」

 

「早急に娘と相談することにする。それに勇者パーティに何があったのかも確認しなければな。

 あの人材を手放すなど信じられん。懇意にしている貴族や騎士、王族も多かったはずだが?」

 

「ま、まさか……そんな話は——」

 

「知らなかったじゃ済まないだろうな。失礼する!」

 

 

 ディーナ公爵が立ち去る姿を呆然と見つめ、額に脂汗を浮かべるギルマスデーモ。

 

 勇者アクファから聞いたフィーグの印象と随分違うぞ。

 もしかしてアクファは、俺に隠していたのか?

 いや、あの様子だと、知らなかったか、知ってて追放したか?

 

 デーモの中に勇者アクファに対する不信感が芽生える。

 これからも勇者アクファを信用してもいいのだろうか?

 

 最近、彼の行動がおかしいとは思っていた。

 元々隠れてコソコソやっていたあくどいことのスケールが大きくなっている。

 

 そう、まさに行動が暴走しているようにデーモは感じる。

 

 

「ヤバい。ヤバいぞ。これどうすんだ。

 まさかフィーグってヤツは……勇者より必要とされていたのか?

 追放してはいけなかった?

 王都に引き留めなければならなかった?

 口封じなど、考えるべきではなかった? ま……まさかな」

 

 

 事の重大さに気付きつつある王都ギルマス、デーモ。

 しかしそれは全て、後の祭りであった。

 

 

「どちらにしても、なんとか隠蔽しなくては。そうだ。こういうときのための、魔導爆弾じゃないか——」





お読みいただきありがとうございます。

この小説は、小説家になろう様にて、先行公開しています。
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第09話 試行錯誤をしてみる

 

 恥ずかしがるリリアを置いて家から出ると、道ばたでアヤメとフレッドさんが睨みあっている。

 一触即発の状況だ。

 お互い負けたくないというようで、バチバチと闘志を燃やしている。

 

 

 家の前の道幅は広く、三人の腕試しができる程度には広い。

 王都と違い人通りはあまり多くない。ここは田舎なのだ。

 

 

 アヤメが俺に気付いた。

 

 

「遅い遅い! 何してたのお兄ちゃん——まさかリリアさんと

 ……へ、変なことしてたの!?」

 

「変なことって何だよ?

 リリアのスキル修復(メンテ)をしてやってただけ」

 

「ズルいの。フレッドおじさんをすぐ倒すからあたしのも診て欲しいの!」

 

「アヤメちゃん。オレを倒すだと?

 ふっふっふ。オレの本気を知らないようだなぁ?」

 

 

 アヤメは魔法学園でもトップクラスの実力があると聞いている。

 彼女は炎と土系の精霊使いで、実力はA級の冒険者に匹敵するという。

 

 フレッドさんも現役で冒険者A級の昇格試験ができるくらいの腕前らしいが、彼が戦うところを見るのは初めてだ。

 ジョブは武闘家(モンク)

 一見スラッとした細身なので、肉弾戦をするように見えない。

 

 フレッドさんは、服を脱いでポーズをとった。

 すると、ムクムクとたくましい筋肉がはちきれんばかりに膨らんでいく。

 

 ——なるほど、これがモンクか。

 普通の服を着ているときはシュッとしていてそれほどゴツく感じなかった。

 

 このムキムキの筋肉は、一体どこに格納されていたのだろう?

 

 

「——お待たせしました」

 

 

 リリアが鎧を装備して家から出てきた。

 

 兜と全身鎧をうまく纏っている。

 まるで彼女用にあつらえたような、そんなフィット感がある。

 

 【スキル:完全装備】がうまく動作しているようだ。

 包帯の隙間から見える肌にあった赤い痕が、少なくなっているように思う。

 まだ包帯を顔や手足に巻いているが、そのうち必要なくなるだろう。

 

 リリアが駆け寄ってきた。

 

 

「フィーグさん、あの……その」

 

 

 リリアは言いかけて、言い留まった。

 

 

「リリア、どうした?」

 

「あの、鎧に触れても痛くならないし、武器を持っても手のひらも(かゆ)くありません。

 きっと元のように戦えます……本当に、本当に、ありがとうございます!」

 

 

 俺に抱きつきそうな勢いでリリアはまくし立てた。

 

 

「そ、そうか、そんなにか?」

 

「はい。フィーグさん、あなたは私が探していた——希望です!」

 

 

 リリアは声を震わせ瞳を潤ませている。

 

 希望って大げさな。

 それに、こんなに感謝されるとは思わなかった。

 ちょっと恥ずかしい。

 

 

「いや、リリアの持つスキルが元の性能を発揮しただけだよ

 もともと、君の力だ」

 

「そ、そう言われると……嬉しいですけど恥ずかしいです」

 

 

 リリアが頬を染めもじもじしていた。

 様子を見ていたアヤメが待ちきれない様子で言う。

 

 

「ねえお兄ちゃん、みんなで対戦しない?

 バトルロイヤルなの。リリアさんとお兄ちゃん、早く来てなの!」

 

「え、俺も?」

 

 

 バトルロイヤル方式。

 つまり全員が一度に戦い、最後まで立っていた者がチャンピオンというルール。

 

 俺だけが非戦闘職だけど、戦略とスキル次第では勝てる可能性がある。

 

 俺含め四人が向かい合いそれぞれ構えた。

 互いに負けないという気持ちがひしひしと伝わってくる。

 

 

「じゃあ、お兄ちゃん、開始の号令をお願いするの!」

 

「ああ。——では、始め!」

 

「先制します。スキル【剣技】!」

 

 

 合図をした瞬間、すぐにリリアは素晴らしい速さでフレッドさんに近づき、剣を振り下ろす!

 まずは剣士として肉弾戦になるフレッドさんを叩くつもりだ。

 

 

「ぐっ! なんだこのスピードは……スキル【剣帝】並みじゃないか?」

 

 

 剣技系のスキルは、【剣技】→【剣帝】→【剣聖】と変化する。

 リリアのスキルを改めて確認した。

 

 

 名前:リリア

 戦闘スキル:

 【完全装備】 LV43:《絶好調》

   *回避力50%アップ

   *防御力50%アップ

   *特殊魔道具装備可

 【剣技】   LV40:《絶好調》

   *攻撃力50%アップ

   *俊敏性50%アップ

 

 【風属性魔法】LV 1

 【水属性魔法】LV 1

 【聖域】   LV 1』

 

 

 《絶好調》ボーナスは大きい。

 

 

「くっ、リリア、やるな!」

 

「私のスキルが……す、すごい——これなら……!」

 

 

 フレッドさんの驚きの声とリリアの震える声が聞こえた。

 

 

「あたしを忘れてない?

 【精霊召喚魔法】起動! 炎の精霊イフリートよ、我が召喚に——」

 

「アヤメさん、させません!」

 

「うわっと……速い!?」

 

 

 リリアはアヤメに駆け寄り、威嚇するように剣を持っていない方の腕を振った。

 すんでのところでアヤメが躱す。

 その結果、魔法の起動が中断されるのを見て、リリアが身を引く。

 

 リリアがアヤメとフレッドさんに挟まれる形になった。

 しかし、リリアの表情に焦りはない。

 

 誰が勝つのか、現時点で俺には想像がつかない。

 

 

 この隙に、俺は【スキルメンテ:改造】を試す。

 

 

「【スキルメンテ:改造】起動!」

 

 

《スキル【改造】を実行します。対象となるスキルを選択して下さいい》

 

 さて、どれにしたものか。

 

 名前:フィーグ・ロー

 

 スキルメンテ:

 【診断】

 【整備】

 【複製(コピー)

 【上書き(アップロード)

 【試行(テスト)

 【改造】

 

 複製済みスキル:

 【剣技】』

 

 

 上から順に改造を試してみよう。

 

《【診断】は改造できません……【整備】は改造できません……》

 

 やっぱり無理か。

 ……あれ? もしかして……?

 

 

「【改造】を改造!」

 

《…………》

 

 

 スキルが沈黙した。

 あ、あれ? 怒った?

 

 戸惑っているように感じるが気のせいだろう。

 ど、どうなる?

 

 

《スキル【改造】が【改造】を改造しました。【魔改造】に()進化しました》

 

 

 な……なんだって?

 何を言っているのかよく分からない。

 やっぱ怒ってない? いやまさかな。

 

 よくわからないけど、きっと上手くいったのだろう。

 超進化とか自信たっぷりに言っているし。

 

 俺は入手した【魔改造】スキルを即行使する。

 

 

「【スキルメンテ:魔改造】起動!

 対象は【剣技】スキル!」

 

 

《スキル【剣技】を魔改造します——》

 

 



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第10話 手を差しのべて

「【スキルメンテ:魔改造】起動!

 対象は【剣技】!」

 

 

《スキル【剣技】を魔改造します——》

 

 

 スキルによる返事が聞こえた。

 

 

《成功——【剣技】が【剣聖:風神】に超進化しました》

 

 

 剣聖:風神。リリアのスキル【風属性魔法】と関連があるのかな?

 さっそく手に入れたスキルを試してみよう。

 

 俺は懐から護身用の短剣を取りだし構え、リリア・フレッドさん・アヤメがわちゃわちゃやっているところに飛び込んだ。

 

 

「【スキルメンテ:試行】、【剣聖:風神】!」

 

《成功——【剣聖:風神】 LV99 発動します》

 

 

 まただ。

 メンテの時にコピーされたスキルがLV99(カンスト)になっている。

 俺はアヤメに一太刀を向けた。

 

 

「お兄ちゃん!?」

 

 

 彼女はイフリート(火炎の大精霊)を召喚し、自身を守らせていた

 

 

『マスター。相手をさせていただきます』

 

 

 いや、俺マスターじゃないし。

 

 俺の短剣がイフリートを切り裂こうとする。

 

 イフリートは躱そうとするが、俺の攻撃の方が速かった。

 短剣は風をまとっている。エンチャントがかかったような状況だ。

 俺自身の周囲にも風が渦巻いている。

 

 ここに帰ってくるときに出会ったシルフィードが纏っていたような風だ。

 もっとも、あの時ほどの暴風ではないけど。

 

 短剣が纏った小さな風がイフリートの身体を吹き消していく。

 しかし火炎の大精霊はただではやられてくれない。

 

 消滅を悟ったイフリートは、最後の一太刀として指の先から炎を吹き出す。

 俺はスキル【剣聖:風神】の力を借り、後ろにバク転して躱した。

 

 

『マスターがこれ程の技を使うとは——。

 今回は私の負けですね。これは殺し合いではありませんので引くとします。

 久しく我が身体が躍りましたよ』

 

 

 火炎の精霊(イフリート)が消え去る。

 

 

 だが、それだけでは短剣の勢いが収まらない。

 その切っ先がアヤメに向かった。

 

 マズい……俺はアヤメに近づく前に短剣を引く。

 それでも間に合わず、短剣から湧き出す風がアヤメを押し倒した。

 

 

「きゃあっ!」

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん。擦り傷と、お尻を打っただけ。

 でも、守護させていた精霊をあっという間に消し去るなんて……いったい、どうして——?」

 

「話は後でな」

 

 

 驚きの目で俺を見るアヤメ。彼女はリタイアだ。

 アヤメはフレッドさんが用意していた傷回復のポーションをごくごくと飲み始めた。

 

 俺は次にフレッドさんに近づく。

 

 アヤメは不意打ちに近かったし、彼女は接近戦は不向きだ。

 しかしフレッドさんはそうはいかない。

 俺が振り下ろした短剣は、あっさりと彼の両手で挟まれた。

 

 

「グッ——」

 

 

 しかし、フレッドさんはたじろぎ、両手を離すと、アヤメと同じように後ろに下がった。

 フレッドさんは驚きつつ、両手のひらを見た。

 彼の手のひらは多くの傷が付き、血が滲んでいる。

 

「フィーグ、風を……かまいたちのような刃を短剣に纏わせているのか?」

 

「はい、そのようなスキルのようです」

 

「そうか……こんな力持ってなかったはずだが……

 いつのまに身に付けた? 驚いたな」

 

 俺はフレッドさんに迫り短剣を振るう。

 何度か躱され、攻撃も受けるが俺もすばやく避ける。

 

 身体が軽い。

 まるで自動的に動くように躱し、攻撃を続け、フレッドさんを圧倒する。

 

 

「フィーグ……強くなってる!

 今回は俺の負けだ」

 

 

 そう言いながら、フレッドさんは嬉しそうだ。

 

 

 残るはリリアだ。

 

 リリアは動きを止めていた。

 じっと、俺を見つめている。

 

 

「私の【剣技】が想定以上に進化している……?」

 

「君に貰った力だよ。リリア」

 

「そうですか。でも、そんな付け焼き刃のスキル、私の【完全装備】と【剣技】は負けません!」

 

 

 彼女が振り下ろす剣を、俺は短剣で受け止めた。

 その太刀筋を、俺は見極めている。

 スキル【剣聖:風神】がなければ、そしてそれを使いこなせなければできないことだ。

 

 俺の動きに目を見開くリリア。

 

 何度か剣を交わすうちに、彼女が巻いている包帯がほどけていく。

 するすると白い肌が露わになっていく。

 

 その肌に血は滲んでいない。腫れは完全に引いている。

 顔に巻いていた包帯もはずれ、その美しく可愛らしい顔が露わになった。

 

 細い耳がのぞく。エルフの耳……人間の上位互換の種族。

 細い手足に似合わぬ筋力で剣を振るっている。

 

 

「はあっ!」

 

 

 俺の胸元に、【剣技】を用いた鋭い突きがやってくる。

 それは風のように俺の横腹をかすめた。

 

 なんとかかわした俺は、リリアに接近。

 彼女の首元に短剣を突きつけ、短剣が発する風が彼女を傷付ける前にすぐに引く。

 

 

「はあ……はぁ……負けました……フィーグさん……すごい」

 

 

 リリアもギブアップ。

 勝負は俺の勝利で終わったのだった。

 

 ん?

 そういえば俺は何のために戦ったのだっけ……。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 俺とリリアの元に、アヤメとフレッドさんがやって来る。

 

 

「お兄ちゃん、強くなったの

 正直戦闘では私の方が強いと思っていたの」

 

「そうだな。スキルのおかげだよ」

 

「スキルの力もあるけど、それよりも……なんていうか」

 

 

 そう言ったっきり、アヤメは言葉を失い頬を染めてうつむいて、ぼそっと「心も強くなったみたい……」とつぶやいた。

 うーん、俺には自覚がないのだが。

 

 割り込むようにフレッドさんが話しかけてくる。

 

 

「正直、リリアを一番警戒していたのだが……間違いだったようだ。

 なんだあのスキルは……? 圧倒的だった。

 冒険者登録、するんだろう?」

 

「はい。明日にでも」

 

「じゃあ、試験官に依頼を出しておく」

 

「ありがとうございます」

 

「いやいいって。積もる話はまた後にしよう。じゃあ俺はギルドに戻るよ、また明日な」

 

「はい」

 

 

 そう言って、なんだか足取りも軽くフレッドさんは去ってしまった。

 次に話しかけてきたのはリリアだ。

 

 

「フィーグさん……あの、私——」

 

「そうだ、リリア。一つ試したいことがある。手を貸してくれないか」

 

「えっ? は、はい——」

 

 

 スッと差し出された手のひらを握り、【スキルメンテ:上書き(アップロード)】を実行する。

 

 

「ん……んんッ!」

 

 

 顔を赤く染め少し大きく声を上げ、びくびくっと体を震わせたリリア。

 

 

《リリアにスキル【剣聖:風神】の上書きが成功しました》

 

 

「こ、これは……?」

 

「うん。消える前に、と思って」

 

 

 リリアのスキル診断をしたら【剣聖:風神】のLVは40だった。

 俺はLV99で使用していた。前もそうだったが、どうやら俺が試行するときに限り最大レベルで行使できるようだ。

 

 だが、これは次回のメンテ時に他のスキルで上書きされ消えてしまうだろう。

 

 リリアは自らの胸の上部に手を当てた。

 そして、やや潤んだ瞳で俺を見上げていた。

 

 

「あなたはやっぱり本当のスキルメンテナー(整備士)だったのですね

 それに、このすごいスキル【剣聖:風神】まで……。

 なんとお礼をいったらいいのか分かりません。本当にありがとうございます」

 

「リリア、元々君の力だ。武器や身体に風を纏うのも、君の力のものだ」

 

「そんな……。

 絶望の中にいた私を救ってくれたのは間違いなくフィーグさんです。

 改めて、私と一緒に冒険をしてください。お願いします」

 

 

 リリアは、再度手を差し出してきた。

 

 リリアの剣士の腕前は確かだ。

 俺の目標……世界最強のパーティ——に同行してくれるというのなら、とても助かるだろう。

 

 今日の戦いだって、【剣技】の上位互換のスキルによる俺のゴリ押しで勝っただけだ。

 互いに皆手加減をしていた。

 もしこれが本気だったら……どうだったのか。俺も簡単に勝てないだろう。

 

 リリアは俺の能力に関する知識もあるようだ。

 しばらくリリアと行動を共にして、スキルメンテの話を聞くべきだろう。

 

 

「分かった。こちらこそ、よろしく」

 

「はい!」

 

 

 差し出された手を取り握手すると、花が咲くようにリリアの表情がほころんだ。

 

 

「フィーグさんに選んでいただけて、改めて、自信が持てたような気がします!」

 

 

 リリアの頬が夕日に照らされて、やけに赤く見えたのだった。

 

 

 ******

 

 

 日が暮れ、俺とアヤメとリリアで近くの食堂に出向き食事をる。

 その後、リリアの話を聞くことにした。

 今まで何があったのかを。

 

 どうやら彼女は、前のパーティで酷い目に遭った挙句、追い出されたらしい。

 



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第11話 スキルは世界を支配する。

 差し出した手を取ると、花が咲くようにリリアの表情がほころんだ。

 

 

「フィーグさんに選んでいただけて、改めて、自信が持てたような気がします!

 ……こ、光栄に思いなさい!」

 

 

 あ、ツンデレのふりってまだやるんだ。

 リリアの頬が夕日に照らされてか、やけに赤く見えた。

 

 

 ******

 

 

 日が暮れ、俺とアヤメとリリアは近くの食堂で食事をとる。

 その後、皆で家に帰りリリアの話を聞くことにした。

 

 アヤメがぶつぶつ言っている。

 

 

「さっきの戦いを見る限り、一番お兄ちゃんと互角に戦えてたのはリリアさんだし。

 パーティを組むのは……しょうがないの……」

 

「アヤメは魔法学園にきちんと通って欲しい」

 

「うう……。しょうがないの……分かったの」

 

 

 アヤメは割とスッキリとした表情をしている。

 どうやら、さっきの戦闘で何か感じるものがあったようだ。

 

 俺はリリアに明日の話をすることにした。

 

 

「明日はフレッドさんのとこ行って冒険者登録をしようか。多分、戦闘の試験もある。

 それが終われば、手頃な依頼を受けようと思う」

 

「あのフィーグさん、私から依頼があります。

 ……ありましてよ」

 

 

 一瞬リリアの眉が下がり、口がへの字になった。

 何か問題を抱えているのかも知れない。

 

 

「わかった。じゃあ、まずはリリアの依頼を受けよう。よろしくな

 内容を簡単に説明してくれないか?」

 

 

「はい。私が前所属していて、逃げ出したパーティなのですが——」

 

 

 要約すると、話はこうだ——。

 

 

 ******

 

 

 リリアは「スキルメンテ」を持つ者がいるという噂を聞いて、王都で俺を探していたらしい。

 すると、情報を知っているという男が話しかけてきたのだという。

 

 

「スキルメンテだあ? 知ってるぜ。教えてやるから俺たちのパーティに加入しろ」

 

「加入したら、教えていただけるのですか?」

 

「ああ。しばらく一緒に冒険したら会わせてやる」

 

 

 そんな会話の後、勇者パーティの二軍に参加したのだという。

 っていうか、勇者パーティの二軍? そんなもの公式にはなかったはずだが?

 

 怪しい男に誘われパーティに加入したリリア。

 しかし男どもはリリアが剣士であることを知っていながら、雑用など押しつけていたのだという。

 さらに、リリアに武器や防具の購入を迫ったらしい。

 

 

「俺たちのパーティは、ここで防具を揃えている。

 リリア、お前も装備を揃えろ。特にこの勇者(じるし)のミスリルの剣、勇者印のミスリルの鎧は必ず購入しろ」

 

「私は、今の装備で十分です。こんな高額なものは買えません——」

 

「文句を言うな。金がなくても女なら稼ぐ方法はあるだろう?

 それが嫌なら、何か高く売れそうなものは持ってないのか?」

 

「こ、これだけなら」

 

 

 リリアは、所持していたお金全てと、兄の形見の水晶珠を差し出したのだという。

 水晶珠はパーティのリーダーが預かっておくことになったらしい。どうやらその美しさを気に入ったらしい。

 

 勇者印の剣と鎧を身につけるようになってから、リリアの肌の調子が次第におかしくなっていく。

 肌が腫れたり血が吹き出たりぶつぶつが出来たり。彼女はたまらず包帯で顔や肌を隠すようになる。

 

 

 そうやって日々を過ごすが、目的の人物に合わせてくれないことに苛立つリリア。

 ある日、宿泊中の宿屋でパーティのリーダーに抗議をすると、とんでもないことを言い始めた。

 

 

「そうだな、リリア……俺たちの女になったら、会わせてやろう」

 

「それはどういう意味ですか?」

 

「こういうことだよ!」

 

 

 パーティの男たちは、一斉にリリアに襲いかかってきたという。

 しかし、包帯に包まれた顔や肌が露わになったところで顔色を変えた。

 

 

「な——なんだ、この腫れや血の滲みは……。顔も醜く腫らしやがって」

 

「汚ねぇ! こんな醜い女など見たくもない。俺たちのパーティには不要だ!」

 

 

 いくら抗議しても耳を貸してくれなかった——。

 しまいには、奴隷として売るぞと言って迫ってきたらしい。

 

 結局約束を反故にされた上、リリアはパーティから追放されてしまったのだった。

 

 

 ******

 

 

 そこまで話を聞いて、俺は思った。

 リリアはまんまと騙されていたのだと。

 

 典型的な詐欺だ。

 

 俺は大変だったな、とリリアの頭を撫でる。

 すると、彼女は俺の撫でている手に頬を当て、身体を寄り添ってきた。

 彼女の温かさと柔らかさが伝わってくる。

 

 そんなリリアを見て、アヤメが低い声を出した。

 

 

「リリアさん……あたし……」

 

 

 ビクッと俺から身体を離すリリア。

 しかし、アヤメは後ろからリリアを抱き締めた。

 

 

「その男たち、許せない」

 

「アヤメ、俺もそう思う。もしかして依頼というのはその悪徳パーティに対する報復?」

 

「ありがとうございます。

 私はただ、奪われた水晶珠を取り戻したいだけです」

 

「分かった。あともう一つ、聞きたいことがある」

 

「何でしょう?」

 

「君は何者だ? それと、【スキルメンテ】のこと、リリアは何か知ってる?」

 

 

 俺の言葉に、ふう、と一息つくリリア。

 

 

「……私はエルフです。長い間、森の奥深くの……さらに奥で、一人で暮らしていました」

 

 

 リリアは髪の毛から耳を見えるようにしてカミングアウトをした。

 俺は察していたし、驚きはない。

 だけどアヤメは「エルフっ? 初めて会ったの!」と目を輝かせている。

 

 

「父も母もみんな亡くなっていて、兄も、もうこの世には——。

 水晶珠はその兄がくれたものなのでどうしても取り戻したいのです」

 

 

 目を伏せて話すリリア。

 彼女は膝の上のこぶしを握りしめていた。

 

 

「形見なんだね。分かった」

 

「もう一つの質問ですが、我が一族は昔、スキルを整備したりスキルを生み出す技術について研究をしていたようなのです」

 

 

 リリアが授けてくれた【改造】は、その成果の一つらしい。

 とはいえ一族が全て亡くなった今、その技術は失われてしまったのだとか。

 

 

「スキルは職種スキルだけじゃないようです。

 例えば、特技スキル。身体スキルや種族スキルなど」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。特技はなんとなく分かる。

 でも、身体スキルや種族スキルって何だ?」

 

「私にもよく分からないのです。ただ、身体は例えば体型とか、性別すらもスキルとして扱うらしいのです。

 種族は、人間とかエルフとか……これもスキルとして定義されていて」

 

「まさか……まさか、例えば魔改造で身体スキル筋肉増強とか、

 人間というスキルを変化させてエルフになったりできるのか?」

 

「はい。その可能性を示唆していると思います」

 

「もしかして……性別を変えたりも?」

 

「た、たぶん……。本でTSというジャンルを読んだ事がありますが、それはもしかして、身体スキルを操作したのでは?」

 

 

 いや、多分それは違う気がする……創作だし。

 

 

「そしてユニークスキルというのもあります。

 例えば、【勇者】とか——」

 

 

 もし【勇者】スキルを俺が操作できたら?

 俺は勇者にだってなれる?

 

 今は理解できないし実感もない。

 でも、生き物の形すらもスキルとして表されるのなら……。

 

 

『スキルは世界を支配する』

 

 

 好きな言葉の意味の見方が、少し変わった。

 俺は……何にでもなれる?

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 リリアは宿を取っているということだったが、アヤメはリリアと話をしたいと言うので家に泊めることになった。

 たぶん、エルフという種族が珍しいから色々話を聞きたいのだろう。

 

 夜通し、アヤメの部屋でリリアと話をするつもりなのかもしれない。

 俺はそう思っていたのだが……。

 

 アヤメとリリアが一緒に汗を流した後、俺もお湯につかり、自室で寝ようとドアを開けたところ……。

 リリアが俺のベッドに座っていた。

 

 着替えが無かったのか、素肌の上に俺のシャツを着ている。

 

 

「フィーグさん、あの、色々お借りしています——」

 

 

 リリアは俺を上目づかいで見つめている。

 な、何だ?

 

 シャツの裾から伸びる足は細く長くて、でも女性特有のふくらみもあり綺麗だ。

 肌はほんのり上気してピンク色になっている。

 そんな姿に、俺は思わずドキドキしてしまう。

 



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第12話 リリアとの夜

 アヤメとリリアが風呂で汗を流している。

 

 久しぶりの自宅だ。

 明日から冒険者ギルドに向かったり、忙しくなりそうだし今日はのんびりしようと思う。

 

 二人が上がったようなので、入れ替わりで俺も汗を流しさっぱりする。

 

 

 リリアはアヤメの部屋で、同じベッドで寝るみたいだ。アヤメがいろいろ話を聞きたいらしい。お菓子でも食べながら夜通し話をするのだろうか。

 パジャマパーティってやつ?

 

 

 風呂から上がった。俺は二人の間に挟まるのはギルティだと思ったので、一人自室に戻る。

 すると、アヤメの部屋にいるはずのリリアが俺のベッドに座っていた。

 

 

「……お邪魔しています」

 

 

 リリアは素肌の上に、俺のシャツを着ている。

 ぶかぶかなシャツの裾からは細い足が伸びている。

 

 うーん。下着とか身に付けてるのだろうか?

 昼間は包帯以外、何も身に付けてなかったけど……。

 

 リリアの肌は少しだけ上気している。

 まだお湯の温かさが残っているのかもしれない。

 

 でもその割に、妙に顔が赤い。

 

 

「リリアはアヤメと一緒に寝るんだよな?」

 

「アヤメさんは先に眠ってしまわれまして。

 あの、少しお話がしたいです。

 フィーグさん、こちらに座っていただけませんか?」

 

 

 リリアが少し横に移動し、ちょんちょんとベッドに触れここに座れと合図をした。

 俺はリリアの隣に静かに腰を下ろす。

 

 石けんなど同じはずなのに、不思議とリリアから良い花の香りが漂ってきた。

 気のせいか、次第に目が冴えてくるような気がする。

 

 肌着同然になると分かるけど、リリアは意外におっぱいがあるな……。

 露わになった太ももも妙に艶めかしく……って俺は何考えてるんだ。

 

 彼女はこれから共に戦うパーティのメンバーなのだ。

 大切にしていかなければならない。

 

 俺はぶるぶると首を横に振る。

 

 

「そ、それで話とは?」

 

「先ほどお話した依頼ですが、その、受けて頂けますか?」

 

 

 そういえばまだ正式な返事をしていなかった。

 

 リリアが前所属していたというパーティとの交渉を、うまく進める手立てを考えなければならないが……ここで受けないという選択肢は無い。

 

 

「分かった。依頼を受けるよ

 パーティーメンバーの悩みは皆で解決しないとな」

 

「フィーグさん……ありがとうございます!」

 

 

 笑顔を見せ、俺に抱きついてくるリリア。

 肩から温もりが伝わり、さっき感じた良い香りを強く感じる。

 長い髪の毛はさらさらで、少しだけくすぐったい。

 

 リリアは俺の太ももに手のひらを当てた。

 可愛らしい手のひらは肩に伝わる温もりより熱かった。

 

 さて、話は終わった。

 後は寝るだけだが……リリアは部屋を出て行こうとしない。

 

 

「リリア、どうしたの?」

 

 

 そういえばさっきより、肌の色がより赤くなっているように見える。

 具合でも悪いのだろうか??

 

 

「大丈夫か? こんな時間だが、必要なら神官を呼んで治癒をしないと」

 

「いえ……その、私には依頼の報酬を払うだけのお金が無いのです」

 

「気にしなくてもいい。力を授けてもらったし、もう俺たちは仲間だ」

 

「フィーグさん……それでは私の気が済まなくて——」

 

 

 リリアは俺を見上げる。

 ドキドキというリリアの心臓の高鳴りが聞こえてきそうだ。

 

 

「え?」

 

 

 リリアは突然、布団の中に入ると、俺の身体を引っ張った。

 次に、腕枕をするように俺の頭を抱く。

 

 適度なボリュームの胸がふくらみが顔に当たる。

 それは柔らかく、暖かく、(はかな)げにも感じた。

 

 

「リリア?」

 

「あの、男の人はこうするといいって本に書いてありました」

 

 

 それ、どういう本なの?

 リリアはツンデレだとかよく分からない本をたくさん読んでいるな。

 

 俺を抱くリリアの力がきゅっと増し、顔が胸に押しつけられる。

 心臓が高鳴った。

 でも、リリアの鼓動はそれ以上のようだ。

 

 とくん、とくん……。

 

 

「フィ、フィーグさん」

 

「ハ、ハイ」

 

「こ、この後、どうする……のでしょう?

 昼はなんともなかったのに、今はすごく恥ずかしいのですが」

 

 

 どうするのかって聞かれても。

 リリアの顔を見ると、きゅっと目を(つむ)って一生懸命考えている様子だった。

 昼に俺の前で服を脱いだ時と違い、緊張と戸惑いと恥ずかしさが伝わってくる。

 

 

「この件で何もしなくていい……そうだな……。俺とパーティを組んでくれたこと、それだけで十分だ」

 

「でも……でも……それは私がお願いしたことです」

 

「俺は改造スキルという十分な報酬をもらった。気に病む必要は無いよ。

 それに、いくらでも頼って欲しい。ちょっと頼りないかもしれないけど」

 

「そんな……頼りないなんて……。

 ……フィーグさんっ……うっ……」

 

 

 リリアは泣いているようだった。

 辛いというよりは、もっと別の暖かい感情によるものかもしれない。

 

 

「今まで、頑張ってきたんだな」

 

「うう……フィーグさん……。私……わたし……

 家族もみんな死んじゃって……ずっと一人で……。

 こうやって誰かに縋れることが……嬉しくて」

 

 

 一族の滅亡を彼女は目にしてきたのだ。

 俺の知らないところで一体何が起きている?

 

 リリアとはもうパーティの仲間だ。

 せめて、涙が止まるときまで……。

 

 俺はそっとリリアの背中に手を回し引き寄せる。

 すると、リリアは俺の胸にぎゅっと抱きついてきた。

 

 部屋の明かりを消す。

 

 

「うぅ……ひぐっ……ぐすん」

 

 

 俺はリリアが少しだけ、素直な感情を見せてくれるようになったことが嬉しかった。

 事情は色々ありそうだ。これから少しづつ聞いていこう。

 

 寄せる体の温もりを感じながら、俺は泣き続けるリリアの頭をずっと撫でていたのだった。

 

 

 



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第13話 ランク決め戦闘試験(1)

 

 俺は朝日を感じて目を開けた。

 俺の鼻の先には、すぅすぅと寝息をたてているリリアの顔があった。

 

 昨日は張り詰めた表情をしていたリリアだけど、今はとても穏やかだ。

 長い髪の毛が朝日に照らされ、キラキラととても美しい。

 

 穏やかな寝顔をずっと、見ていたい。

 

 俺の視線に気付くようにリリアが目を開けた。

 視線が合い、リリアの頬が緩む。

 

 

「フィーグさん……おはようございます」

 

「うん、おはよう」

 

 

 俺の声はガラガラだ。

 ちょっと恥ずかしい。

 

 

「フィーグさんの匂い……落ち着きます」

 

「うん?」

 

「ふぁ……もう少しだけ寝ます……」

 

 

 リリアはそう言うと再び俺の胸元に顔を押し付けて眠りについた。

 俺はそっとリリアの髪を撫でる。

 窓から差し込む光は、もうすっかり朝の陽ざしになっていた。

 

 この状況で二度寝するのかよ……。

 

 などとツッコんだ俺もリリアの体温に包まれ、眠くなってきた。

 

 い、いや、マズいよな。

 アヤメが起きる前にリリアにはアヤメの部屋に戻ってもらわないと、何を言われるか分からない。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 食欲をそそる香ばしい匂いが鼻を満たす。

 俺とリリア、そして寝ぼけまなこのアヤメはダイニングで朝食を摂っていた。

 

 

「ちぇっ……リリアさんと話したかったのに寝ちゃったの」

 

 

 アヤメは少し頬を膨らませながら、朝食のパンを口に含む。

 どうやらアヤメが目覚める前に、リリアはアヤメの部屋のベッドに戻れたようだ。

 

 俺は正直なところ、リリアと目が合わせられなかった。

 微妙に気恥ずかしい。

 

 随分クサいセリフを言っていたような。

 

 視線を下に移動する。

 ふと、リリアは新品の包帯を顔や手足に巻いていることに気付いた。

 もう肌はすべすべだったし……隠すことはないと思う。

 

 

「リ、リリア、もう包帯必要ないと思うが?」

 

「フィ、フィーグさん、おは、おはようございます。

 さ、最近ずっと巻いていたので、こ、この方が落ち着くんです」

 

「そ、そうなんだね」

 

 

 不自然なリリアとのやりとりに、アヤメは首をかしげ、ジト目で見てきた。

 俺は視線を外し、下手くそな口笛を吹いてからパンを口に詰め込んだのだった。

 

 

 ******

 

 

 俺はアヤメを魔法学園に見送り、リリアと二人で街の冒険者ギルドに向かう。

 まだ朝の空気が冷たいものの空は晴れ渡り、太陽は眩しく輝いていた。

 

 

「よぉフィーグ、リリア。おはよう」

 

「「おはようございます、フレッドさん」」

 

 

 俺とリリアの声が重なった。

 すると、フレッドさんはうんうんと頷く。

 

 

「なるほどなあ」

 

「何がなるほどなんですか?」

 

「フィーグとリリアを見て思ったんだが……息がぴったりじゃないか。

 昨晩何かあっただろう? なっ?」

 

「何もないですよ!」

 

 

 また声が重なるかと思ったのだが、リリアは頬を染めて俯いてしまっていた。

 ちょっ、リリアさん?

 

 

「うんうん。何も言わなくていいぞフィーグ」

 

「ですから何もないですって」

 

「ハハッ。まあ、そういうことにしといてやるよ。

 それで、アヤメちゃんはいないのか?」

 

「アヤメは俺たちに付いて来ると聞かなかったのですが……説得して魔法学園に行かせました」

 

「そうか、分かった。早速冒険者登録するかい?」

 

「「はい!」」

 

 

 再び俺とリリアの声がハモった。

 今度は息がぴったりだ。

 

 

 まだ朝の冷たい空気が残る時間のうちに、冒険者登録が終わった。

 次に俺とリリア、そしてフレッドさんと数人の職員は、ギルド支部の中庭にある戦闘訓練場に向かう。

 

 

「じゃあ、早速ランク決定の戦闘試験をしよう。

 難易度は、最高のSSS級の英雄ランクから、SS、S、ABCDEF、G級の初心者ランクまである」

 

「俺たちは何級ですか?」

 

「規定ではどんなに強くても最初はC級までだ。

 昨日の様子からしても、フィーグとリリアのパーティはC級、中級者ランクスタートで良いだろう。いわゆるブロンズ級だ」

 

「わかりました」

 

「実際のランクは試験官と戦って、その結果で判断する。勝ち負けも重要だが、戦闘の質も判断の材料とする」

 

 

 俺が頷こうとしたとき、

 

 

「ちょっと待ったぁ!」

 

 

 俺たちに割り込む、やや嫌味を含む声が聞こえた。

 冒険者ギルドでは見慣れない、下品な貴族が着るような服を身につけた男が一人。

 その後ろには、スキンヘッドの神官らしき男と、痩せた剣士らしき男が見える。

 

 どう見てもギルド職員ではない。

 どちらかというとチンピラのような風情だ。

 

 

「あ……あの人達は——」

 

 

 リリアが俺の後ろに隠れ、服の裾をつまむ。

 そして、俺の耳元で「私がもといたパーティの人たちです」とささやいた。

 

 

 偉そうな貴族風のパーティリーダーはギザという名前らしい。

 いかにも悪人顔のギザが話を続ける。

 

 

「ランク決め戦闘試験の試験官は俺たちがやろう。いいだろう? フレッド殿」

 

「えっと……貴方たちは?」

 

「おや、リリアに、フィーグ()()じゃありませんか」

 

 

 わざとらしく言い俺の顔を見てニヤニヤと笑う男たち。

 リリアはともかく、なぜ俺のことを知っている?

 

 ギザは、フレッドさんをバカにするような目で見ながら言う。

 

 

「なあ、いいよな?

 俺たちのことは聞いているだろう? ()()()()

 

「ぐ……っ。確かにあんたらの言うとおりにしろと王都ギルドから連絡があった。

 しかし、戦闘試験に介入するなんて許可できな——」

 

 

 ガッ。

 

 スキンヘッド神官がフレッドさんを短剣の柄で殴った。

 あいつら、いきなり何を?

 

 

「もう一度聞く。なあ、いいだろ?

 フレッド、逆らうならギルドをクビにすることくらい簡単だぞ?」

 

 

 見ていられない。

 駆けつけようとしたけど、フレッドさんは俺に手のひらを向けて制した。

 

 

「分かった。フィーグと話をさせてくれ」

 

「構わないとも」

 

 

 フレッドさんは額に汗を浮かべ小声で俺たちに話しかけてくる。

 モンクとは言え、不意打ちだったのだ。無理はない。

 

 

「フィーグ、奴らは最近この街に現れたA級ランクの冒険者だが、フィーグとリリアのランク決め試験官を行いたいらしい。どうする?

 今日は諦めて、奴らがいないときにするも手だが……。

 

 もしやるならオレもフィーグ側に参加する」

 

 

 フレッドさんによると、奴らは王都ギルドからやってきた「勇者アクファ同盟」という冒険者パーティらしい。

 思わず「ダサッ」と声が出そうになったが飲み込む。

 

 フレッドさんもA級だ。リリアは、フレッドさんと遜色ない戦いをしていたはず。

 リリアの依頼も突破口が見いだせるなら、丁度いい。

 奴らはフレッドさんとリリアを舐めているようだけど、昨日の様子から思えば十分勝機はある。

 

 さらに、俺には魔改造がある。

 俺はギザという男に話しかけた。

 

 

「あなたたちが試験官で構いません。

 ただし、人数が合わないので、そちらが一人抜けるかフレッドさんの参加を認めてください」

 

「いいだろう。フレッドの参加を許す。

 戦闘試験だが当然勝敗を決める。もし、オレたちアクファ同盟が勝ったら、

 リリアはオレたちのパーティに戻ってもらう」

 

「彼女に危害を加えようとして追い出しておいて、今さらですか?」

 

「フン、フィーグ、お前にもちょっと(ツラ)を貸して貰おう」

 

 

 ギザが苛ついた様子で言った。

 戦闘試験の結果に妙なことを押しつけようとしてくる。

 

 やつら、勝つ前提だ。

 だったら……。

 

 

「じゃあ、オレたちが勝ったら……リリアから奪ったという水晶珠を返してくれませんか?」

 

「はぁ?」

 

「俺たちが勝ったら、の話ですよ」

 

「ケッ。オレたちが負けるわけないだろ。いいだろう」

 

 

 ギザの言質が取れた。

 それに、奴らが負けると疑ってないことも分かった。

 俺たちを相当下に見ているか、切り札を持っているのかもしれない。

 

 

「リリア……どうしたその顔は?

 こんな上玉だったとは……こりゃ色々と楽しめそうだ。どうせまだ処女なんだろう?

 色々教えてやる。可愛がってやるぜ」

 

 

 ギザが目を細め、リリアをいやらしい目つきで見つめている。

 すぐにリリアが身をすくめ、俺に縋り付いてきた。

 

 

「少し時間をくれ。リリアとフレッドさんと話をする」

 

 

 俺たちは、リリアとフレッドさんと作戦会議を行った——。

 そして。

 

 

「では、用意——始めッ!」

 

 

 ギルド職員の声と共に戦闘試験が始まった。

 



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第14話 魔導爆弾——side 王都ギルマス・デーモ

 

 王都ギルマス・デーモは、フィーグへの暴行を依頼したパーティに連絡を取った。

 

 魔道具による遠距離通信。

 とても貴重な魔道具だ。

 

 

「状況はどうだ?」

 

 

 状況とはもちろん、フィーグの口封じに関してのこと。

 

 勇者アクファ同盟の代表、ギザが状況を説明した。

 もっとも、ギザが全てを報告するわけがない。

 適当にかいつまんで、都合が悪いところは隠して伝える。

 

 

「何? フィーグがイアーグのギルドに顔を出しているだと?

 なるほど冒険者登録か。

 イアーグの冒険者ギルドマスターの名はフレッドだったな……分かった。話をつけておく」

 

 

 ——良いタイミングだなぁ、おい。

 戦闘試験で適度にフィーグを痛めつければ良い。

 デーモはただでさえ歪んだ顔をさらに歪ませてニヤリとした。

 

 イアーグの街の冒険者ギルドは、あの面倒なフレッドとかいうヤツが管理している。

 だが、王都ギルドの権力は絶大だ。

 ちょっと脅せば、ギザたちが戦闘試験の試験官をすることを承諾するだろう。

 

 ギザたたちはA級冒険者だ、負ける心配はない。

 フィーグを痛めつけ、腕の一本でも切り落としてしまえばいい。

 

 

「そうだな、痛めつけたらしばらくどこかに閉じ込めておけ。

 フィーグなど、しょせん【剣技】すら持たぬボンクラだ!」

 

 

 通信を終えたデーモは、大きな溜息をついた。

 あとは結果を待つだけだ。

 

 先日訪ねてきた貴族は公爵だった。

 怒らせたとあれば、かなり重い処罰があるかもしれない。

 

 さらに悪いことに、あの様子ではイアーグの街に使者が送られるかもしれない。

 デーモは最悪の状況を想定しつつ考える。

 

 ——追放したことを誤魔化さず、勇者がやったことだと言えば良かったか?

 いや、もう遅い。

 アクファ同盟の面々がうまくフィーグの身柄を拘束できればいいのだが……。

 

 

 イアーグの街の冒険者ギルドマスター、フレッドに連絡を取るデーモ。

 王都ギルド本部としての威圧で、「アクファ同盟」の言うことを聞くようにと命令し、もし従わなければ、クビにすると脅しも忘れない。

 

 これでいいはずだ。デモーモは自分を落ち着かせるように頷く。

 しかしとてつもない不安がデーモを襲う。

 

 

「そもそも、フィーグの力を見誤っていた?

 ボンクラだという話だったが……。

 いや、いくらなんでもアクファ同盟が苦戦することはあるまい。やつらは仮にもA級ランクの冒険者だ」

 

 

 強がりながらも、ぶるっと震える王都ギルマス、デーモ。

 不安に負けじと酒をあおり、大丈夫だと自分に言い聞かせる。

 

 

「まあ、ランク決め戦闘試験で事故が起きて大けがをして口がきけなくなるかもしれない。

 もし失敗しても——ギザに渡した魔導爆弾で全てを消し去ってしまえば良い。

 

 下手すれば、イアーグの田舎町くらい、まるっと吹き飛ぶかも知れないなァ」

 

 

 言いつつも、デーモの額からこぼれ落ちる汗は止まることを知らなかった。

 

 

 



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第15話 ランク決め戦闘試験(2)

「では、用意——始めッ!」

 

 

 ギルド職員の声で、ランク決め模擬戦闘が始まった。

 勝てば、リリアが奪われた水晶球を取り戻すことが出来る。

 

 負ければリリアを奪われてしまう。

 俺にも何かするつもりだろう。

 

 奴らはA級パーティだ。

 一方、俺たちは昨日組んだばかりの即席のパーティ。ランクも定かではない。

 

 しかし、俺には確信があった。

 フレッドさんはダテにギルマスをしているわけじゃない。

 リリアもスキルの状況を見て確信。決して弱くない。

 

 

「ハッ。こんなに綺麗な顔だったとはな。戻って来たら可愛がってやるぜ」

 

 

 軽薄な挑発にリリアは屈しない。

 リリアはキッとギザを睨み、剣を抜き近づいていく。

 

 

 俺とリリアは、模擬戦闘の前に言葉を交わしていた——。

 

 

 ******

 

 

「フィーグさん。素晴らしいスキル【剣聖:風神】を授かったのに、

 あの人たちの顔を見たら急に怖くなって——」

 

 

 震えるリリアの手をそっと握る。

 すると、彼女はじっと俺と繫いだ手を見つめた。

 

 次第に震えが小さくなっていき、消えていく。

 

 リリアは昨日の出来事を思い出したようだ。

 俺にスキルを上書きされる感覚を。

 

 

「フィーグさん。私……」

 

「リリアは強いよ。もともと、この【剣聖:風神】はリリアのスキル【剣技】から生まれたもの。

 ずっと努力してきたんだよね?」

 

「……はい。

 フィーグさんを信じれば良いのは分かっているのです。

 でもフィーグさんのように【剣聖:風神】を使いこなせるか……私の努力は正しかったのか……」

 

 

 リリアは目を瞑りゆっくりと息をつき俺の胸に飛び込んできた。

 彼女の髪の毛から伝わる心地よい花の香りが、ふわっと俺を包む。

 

 

「大丈夫。

 リリア、スキルの力を信じて欲しい。俺と、リリアの協力で今のスキルがある」

 

 

 俺を見上げる彼女の瞳が潤む。

 

 

「フィーグさん……そうですね。二人の……」

 

「リリアを虐げてきたあいつらに、本当の力を見せてやろう」

 

「……分かりました。

 この授かったスキルと……私と、フィーグさんを信じています。

 私は、負けません」

 

 

 上目づかいに俺を見るリリアの瞳に強い光が灯っていた。

 作戦会議をする前のリリアとまるで別人だ。

 

 俺とリリアを見るフレッドさんの、とても生暖かい目がめっちゃ気になった。

 フレッドさんは俺たちを残し「俺の存在忘れてねえ?」とつぶやいてから、ボリボリと頭を掻いて部屋の外に出ていったのだった。

 

 

 ******

 

 

 戦闘が始まった。

 

 

 ギザがリリアに迫る。

 でも、きっとリリアは上手くやってくれるだろう。

 

 

「【剣聖:風神】発動!」

 

 

 リリアの力強くも澄んだ声が模擬戦闘場に響いた。

 悠々と剣を構えるギザに突っ込んでいくリリア。

 

 最初の一閃で、勝負の行方が分かる。

 

 ヒュッ。

 

 あっさりとギザの攻撃を躱し、距離を詰めるリリア。

 リリアが戦闘の主導権を握っていた。

 

 ガキッ。

 

 剣と剣が交差する。

 しかし、ギザの首元にリリアの剣が迫っていた。

 

 

「なななななっっ。お、お前本当にあのリリアか?」

 

 

 リリアは無言でギザに剣を振り下ろす。

 

 

「ひ、ひぃっ!」

 

 

 情けない声を出すギザ。

 俺とフレッドさんはその姿に安堵する。

 

 

「フィーグ、俺たちは俺たちの敵に目を向けようぜ」

 

「はい!」

 

 

 目の前まで近づいてきた敵は二人。

 

 

「フィーグ、頼む!」

 

「了解! フレッドさん、スキルメンテ行います。完了まで耐えてください」

 

「ああ、任せろ!」

 

 

 俺を隠すようにして前に立ったフレッドさん。

 彼はいつも、戦闘をするときは上半身裸だ。

 

 俺はフレッドさんのムキムキの背中に触れる。

 

 

「いつもながら、微妙な気分になるなコレ」

 

 

 フレッドさんのぼやきを無視して、俺は精神を集中した。

 

 

「【スキルメンテ:診断・複製・整備】【スキルメンテ:魔改造】を実行!!」

 

 

 俺の声に応えて、スキルが起動する。

 

 

 名前:フレッド

 職種スキル:

 【モンク:身体強化】:LV59

 【モンク:格闘】  :LV60 《【注意!】:暴走間近》

 

 

 スキルが暴走間近じゃないか!

 危ないところだった。

 

 俺は素早く【複製(コピー)】と【整備(メンテ)】を行い、続けて【魔改造】を実行した。

 

 

《【魔改造】を実行します——成功しました》

 

 

 フレッドさんのスキル、【モンク:身体強化】【モンク:格闘】が魔改造されたようだ。

 

 

《【モンク:身体強化】は【完全装備】を用いて魔改造され【モンク:金属筋肉(メタルマッスル)】に超進化しました》

 

 

 んんっ?

 リリアと同パーティだから、彼女のスキルを用いて魔改造した?

 メタルマッスルという言葉の響きがヤバそうだが……。

 

 今にも細身の剣士とスキンヘッド神官がフレッドさんに武器を振り下ろそうとしている。

 

 俺は、【スキルメンテ:上書き】を実行した。

 すると、ビクビクッとフレッドさんが震える。

 鼻の穴を広げ興奮している。

 

 

「ふっふがっ。こ……このスキルは……【モンク:金属筋肉(メタルマッスル)】起動ッ!」

 

『【モンク:金属筋肉(メタルマッスル)】:LV59 (絶好調)』

 

 フレッドさんの叫びと同時に、むき出しの上半身が光を反射し始める。

 さすがだ。一瞬にして理解、スキルを発動させている。

 

 フレッドさんの皮膚は金属のような銀色に輝き、剣士の剣と神官の戦棍(メイス)を軽々と受け止めた。

 

 キィィィィィン!

 

 銀色の肉にぶつかり大きな音を立て、火花と共に弾かれる剣と戦棍。

 

 

「「何ッ!!!!??? なっ何だ……その身体は!?」」

 

 

 痩せ剣士とスキンヘッド神官が驚く。

 

 モンクという職階級(クラス)は身体を強化、固くすることができるという。

 でも、これは聞いていた話以上だ。金属製の剣や戦棍をあっさり弾いた上、刃こぼれもさせている。

 

 

「コイツは——すげぇ! フィーグ、ありがとな!!!」

 

 

 硬化時は動けないがすぐに解除して戦っている。

 硬化解除時にスキが生まれるようだけど、それを突くだけの力は奴らに無さそうだ。

 

 喜々ととして剣士の懐に飛び込んでいくフレッドさん。

 彼の顔は、歓喜に満ちている。

 

 

 一方、二手に分かれスキンヘッド神官俺に突っ込んできた。ニヤリと舌なめずりをしている。

 さっきフレッドさんを殴った男だ。

 

 

「フィーグ、お前はボンクラと聞いている」

 

「聞いているって誰に?」

 

「チッ」

 

 

 こいつらは、何者かに命令され俺たちを襲っている。

 模擬戦闘にかこつけて俺たちをボコボコにするつもりだろう。

 

 

「あなたたちを倒して、依頼主を聞きたいですね」

 

「お前やリリアみたいなボンクラが俺たちを倒す?

 笑わせるな!」

 

 

 俺だってリリアとの付き合いは短い。

 でも、笑ったり泣いたりしている姿を見てきたら……そして、その能力の高さに気付いたら、とてもボンクラなどと言えないだろう。

 

 

「……リリアの何が分かる?」

 

「分かるさ。俺たちはA級冒険者だからな!

 お前みたいな底辺以上に分かるんだよ。

 いいだろう、オレがお前に指導(レクチャー)してやる」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

「これは訓練じゃない。試験とはいえ戦闘だからな。何でもアリだ。

 卑怯とか言いっこなしだぜ」

 

「わかりました」

 

 

 俺は【スキルメンテ:試行】によりスキルを起動する。

 

 

《——【モンク:格闘】は【剣聖:風神】を用いて魔改造され【モンク:闘神】に超進化しました——》

 

 

 俺は大きく息を吸い、叫ぶようにスキルの名を呼んだ。

 

 

「スキル【モンク:闘神】起動ッ!!!!!」

 

「と、闘神……?」

 

 

『【モンク:闘神】:LV99 (絶好調)』

 

 スキンヘッド神官は額に汗をかき一歩下がった。

 威勢は完全に消えている。

 

 息を整えると俺は神官の懐に飛び込む。

 ……スキンヘッド神官の動きが、遊んでいるかのようにひどくゆっくりに見えた。

 





お読みいただきありがとうございます。

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第16話 ランク決め戦闘試験(3)

「スキル【モンク:闘神】起動ッ!!!!!」

 

「と、闘神……だとっ?」

 

 

 スキンヘッド神官が冷や汗をかいている。

 俺は短剣をしまい、素手での戦闘に切り換えた。

 

 スカッスカッ。

 

 スキンヘッド神官が振り下ろすメイス(戦棍)(かわ)す。

 メイスは金属製の棍棒(こんぼう)で、神官はこの手の武器をよく使う。

 

 俺がうまく避けられるのはスキルのおかげだろう。

 

 

「くっ。コイツ、なんでこんなに躱しやがる?」

 

 

 スキンヘッド神官が一歩引いた瞬間、俺は動きの止まった戦棍(メイス)を掴む。

 次に反対側の拳で、思いっきり神官の頬を殴った。

 

 ゴッ。

 

 骨が軋む鈍い音が響く。

 スキンヘッド神官の頬がへこみ、顔が縦に伸びた。

 

 あ、これはよくない。

 

 俺は直感的に相手の状況を察した。

 体力や身体能力、そして、どの程度の攻撃に耐えられるのか。

 この一撃を振り切ると顎の骨をはじめ他の骨も砕け脳に損傷を与えてしまう。

 

 最悪命を落とす。

 背後にいる人間のことを聞き出すためにも殺してはいけない。

 

 俺は力を僅かに抜き、ギリギリのところで調整した。

 ダメージそのものより、痛みが残るように。

 

 

「グッぐはっ……俺が避けられない……だと?

 い……痛え……」

 

 

 気のせいか、少し歪んだ顔でスキンヘッド神官が呻いている。

 顔が青ざめている。

 

 

「……クソっ。よくも殴りやがったな!」

 

「続けていきます」

 

「ヒェッ、卑怯だぞ! 正々堂々と武器には武器で戦え!」

 

「これは訓練じゃない、戦闘試験だと言ったのはあなただ。卑怯だと言うなとも」

 

「う、う、うるさいぃぃぃ!」

 

 

 青から赤に変わり、スキンヘッドに伝わる汗が光っていた。

 彼の声を無視して、俺はもう一撃、今度は腹を殴ってみた。

 

 

「ウグッッぐえッ」

 

 

 苦渋の表情。

 神官着の下に鎖かたびらを装備していたが、俺の拳の勢いはあっさり貫通し腹にめり込む。

 拳の先から、神官の内蔵がゆがむのが伝わってくる。

 

 これ以上はいけない。

 俺は、またもや力の調整をする。

 

 

 ガッ……ゴッ……。

 

 

 何度もスキンヘッド神官の顔に打ち込んだ。

 俺のこぶしは多少赤くなっている。モンクの硬化スキルほどでもないにせよ、少しの補強があるようだ。

 殴打武器のように敵の体にめり込む。

 

 

「グアッ……もうヤメテ……くれ……下さい」

 

 

 膝を地面につき倒れる神官。

 俺は一歩引く。

 

 

「レッスンを続けてください」

 

 

 俺は、よいしょっという感じで、肩を掴みひざまずいていた神官を立たせてあげた。

 

 

「なんで……まるで歯が立たない——。

 ……こん……なの……無理だ……はあ、はあ……」

 

 

 まともに立っておられず、フラフラしている。

 目を白黒させつつ、口から涎をたらしながら喘ぐ神官。

 

 

「あの、レッスンは——」

 

 

 バタリ。

 

 俺の言葉はスキンヘッド神官に届いていなかった。

 白目を剥いて気を失ってしまっている。

 

 

 周囲を見渡すと、フレッドさんがポーズをとって地面に寝そべる剣士にアピールしている。筋肉を見せつけている。

 俺の筋肉を見ろとアピールしているように見える。

 

 剣士の剣がぐにゃぐにゃに曲がっているし、剣士の顔もボコボコになっていた。

 

 俺の相手をしたスキンヘッド神官よりもひどい。

 多分硬化した拳で殴ったのだろう。滅茶苦茶痛そうだ。

 

 次にリリアの方を見る。

 こちらも、勝敗は決していた。明らかに、リリアの圧勝だ。

 

 リリアは、ギザを倒し、その首元に剣の切っ先を突きつけている。

 

 

「私の勝ちです。水晶珠を返してください」

 

「お、お前、本当にリリアか?」

 

「はい。貴方たちに虐げられてきた、()パーティメンバーのリリアです」

 

「き……綺麗だ」

 

 

 唐突な言葉に、リリアは何も答えない。

 

 

「今まですまなかった。

 リリアは強いな。それに美しい。

 オレたちのパーティに戻ってくる気はないか? 歓迎する」

 

 

 急に猫なで声になったギザ。

 コイツは今さら何を言ってるんだ?

 

 

「私に戻れとおっしゃるのですか?」

 

「そうだ。ご、誤解だったんだ。実力を隠しているとは人が悪い。

 それに、腫れが引いた顔がこんなに綺麗だなんて。

 大切にする。だから、戻って来てくれ」

 

 

 ふう、と息をつくリリア。

 その目が冷たい。

 まるで、ゴミを見るような目でギザを睨んだ。

 

 

「今まで……今まで私に向けた酷い言葉の数々を、私は忘れません」

 

「なんだと?」

 

「私は心からパーティを組みたいと思った方々と出会いました。

 もう、貴方たちのパーティには戻りません!」

 

「……まさかボンクラのフィーグのことを言っているのか?」

 

 

 ボンクラのフィーグ。

 その言葉を聞いた瞬間、リリアの細い眉が動いた。

 彼女の剣を持つ手に力が入る。

 

 

「今、何と(おっしゃ)いましたか?」

 

「何度でも言ってやる、ボンクラ——」

 

「あっ」

 

 

 リリアは、あれ? みたいな感じで声を上げた。

 

 リリアの持つ剣のきっ先が、キザ剣士の喉にわずかに突き刺さっている。

 少しだけ血がにじむのが見えた。

 

 あの様子だと、本当に突き刺すつもりはなかったろうが、我慢できなかったのかも知れない。

 

 

「ぐっグぇっ。

 すっ、すまない……けほっ……ゆ、許してくれッ!!」

 

「……すっ、水晶珠を返して下さ……い」

 

 

 リリアは焦っていた。

 悪いことをした、というより我を一瞬忘れたことに対し恥じているのかもしれない。

 気まずいのか、ギザから視線を外した。

 しかし、それがよくなかった。

 

 

「ぎああ……ああ!」

 

 

 視線を外したタイミングで手の力が入ったのか、さっきより深く剣の切っ先がギザの喉に突き刺さっている。

 

 ギザはかすれた悲鳴を上げると、そのまま気を失ったのだった……。

 

 リリアは目を逸らして、下手くそな口笛を吹き始めた。

 困ったときの俺の真似してるな。

 まあ、妙な本に書いてあることをするよりマシか。

 

 

 完全に気圧された荒くれどもは意識喪失。

 俺たちの完勝だった。

 

 

 ******

 

 

「これが……水晶珠か」

 

 

 俺がギザの荷物から取りだしたのは、リリアが追い求めているものだった。

 水晶珠は半透明のガラス細工のようなもので、細長い菱形の形をしてた。中心が仄かに光っている。

 

 なぜか、俺のスキルが反応している。だけども、それが何を意味するのか分からなかった。

 リリアに手渡すと、両手でそっと胸に抱えた。

 

 

「フィーグさん……ああ、なんてお礼を言ったら良いか」

 

「ううん、奴らの狙いは俺だったようだし、自分の力だけじゃ勝てなかった。

 俺の方がお礼を言いたいくらいだ」

 

「私はこの水晶珠を取り戻していただいたことが嬉しくて……。

 私は差し出すものがないので……その、私にできることなら、本当に、なんでも(おっしゃ)ってくだされば——」

 

「だからさ、俺は何も……リリアやフレッドさんの頑張りの結果だよ」

 

 

 すかさずフレッドさんが突っ込んでくる。

 

 

「あのなフィーグ、そこは素直に『今何でもって言った?』って言うのが正しいぞ」

 

「フレッドさん、あのですね……」

 

 

 くすくすとリリアが可愛らしく笑った。

 それにつられ、俺たちも……周りのギルド職員らもふわっとした心地良い雰囲気になった。

 

 

 みんなで和やかに話していると、拘束され首に包帯を巻いたギザが不満を口にする。

 

 

「けほけほっ……たかだか戦闘試験で、お、俺たちがなぜ拘束されるんだ?

 田舎ギルドマスターのくせに、フレッド、こんなことをして、ど、どうなるか分かっているのか?」

 

 

 喉が痛むのか、つっかえつつ言うギザだが迫力がない。

 しかしフレッドさんは涼しい顔をしている。

 そういえばさっき、何かギルド職員から伝言を受けていたようだけど。

 

 

 ちょうど、その時。

 

 

 ザッザッ。

 

 足音が聞こえて振り返ると、四十歳くらいの精悍な男性が現れた。

 この人に見覚えがある。

 

 

「それについては、私の方から説明しよう。久しぶりだな、フィーグ殿。突然王都からいなくなってびっくりしたよ」

 

「ディーナ公爵——それにエリゼ様まで」

 

「こんにちは、フィーグ殿。探しましたぞ?」

 

 

 白銀に輝く鎧を纏ったエリゼ様が、少し頬を膨らませて言った。

 女性の騎士でとても凜々しく、国内外で起きる騒乱や事件を解決し活躍されている。

 英雄と彼女を呼ぶ声もある。

 

 俺は時々、公爵の邸宅に招かれ、騎士エリゼ様のスキルメンテをしていた。

 でもおかしい。王都を去る際、挨拶の手紙は一通り送ったはずだけど届いてないのかな?

 

 

「なッ……。ディーナ公爵——それに騎士殿まで……王都の貴族や騎士がどうしてこの街に?」

 

 

 一瞬にして、ギザの顔が青ざめた。

 

 






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第17話 終焉の足音——side 王都ギルマス・デーモ

 

 王都ギルマス・デーモが「アクファ同盟」の面々に、フィーグの口止めを依頼した時のこと。

 デーモは、アクファ同盟のリーダー、ギザを呼び出し命ずる。

 

「……そういうわけだ。フィーグの始末を頼む」

 

「イアーグの街ですかい? 少し遠いですね」

 

「急いで向かってくれ。特急の馬車も使って良いぞ」

 

「わかりました」

 

「もし万が一でも失敗しそうなときは、この魔道具を起動するといい」

 

 

 ギルマスは持っていた表面に古代文字が描かれた、黒く丸いものをリーダーであるギザに渡した。

 それは、鳥のたまごくらいの大きさで、手のひらにすっぽりと収まる。

 表面は禍々しい模様が渦巻き、何か文字のようなものが見える。

 

 

「これは?」

 

「まど——」

 

 

 魔導爆弾と言いかけて、慌てて言い換えるデーモ。

 危ない。これは一般的に広まっていない名前だ。

 持っているだけで、重罪となる代物なので、情報が漏れてはマズい。

 

 適当に誤魔化し、もし使われない場合は改修すればいい。

 もし、使われた場合は、証拠もろとも全て消え去るので問題はない。

 

 こいつらには、適当に嘘の情報を与えておけば信じるだろう。

 デーモはそう考え説明する。

 

「周囲の者の記憶を消す魔道具だ。起動する言葉を教えておく」

 

「便利なものがあるんだな」

 

「ああ。特注品だ。使えるのは一回だけだから失敗した時のみ使え」

 

「そうかい。記憶を消せるなら、色々面白いことに使えると思ったんだが」

 

 

 ギザの顔が醜く歪む。

 色々と悪だくみを考え巡らしているのだろう。

 

 

「くれぐれも、慎重に扱え。繰り返すが失敗しそうなときにだけ使え。

 もし、依頼に成功した場合は回収する」

 

「へいへい、分かりましたよ」

 

 

 あまりに軽い言葉に苛立ちつつも、この時、デーモはさほど心配していなかった。

 

 アクファ同盟の者たちは、性格がどうあろうとプロなのだ。

 依頼はきっちりこなすだろう。そう信じていた。

 

 

「じゃあ、頼んだぞ、失敗したと場面で、これを起動させるのだ。もっとも、フィーグはボンクラと聞く。使うことはないと思うが」

 

 

 そう言って、デーモはフィーグの口封じを失敗した時のために、保険をかけた。

 

 奴はボンクラだ。万が一にも、そんなことはないだろう。

 デーモは、それを信じて疑わなかった。

 

 しかし、この()()()が逆にギルマス・デーモを抜け出せない、最悪の窮地に立たせることになる。

 

 

 その万が一の事態になるとは思わずに……。

 愚かにも、この魔道具は起動されることになる。

 

 周囲を巻き込み、軽く街一つを吹き飛ばす威力のある、その爆弾が。

 








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第18話 「死籠もり」の竜人(1)

「フィーグ殿。私がこの愚か者共に話をしていますので、急いでエリゼを診ていただけませんか?」

 

 

 公爵が俺に頭を下げた。

 スキルが暴走しかけているのだろうか?

 前回のメンテからあまり日が経っていないはずだ。

 

 ちらりと、俺の傍らにいたリリアを見て少し表情を固くしたエリゼ様。

 エリゼ様は、こちらへ、ギルド内の部屋に行くように俺の手を引く。

 

 中庭を離れようとした瞬間、俺の耳に幼い女の子の声が聞こえた。

 

 

『たすけて——』

 

 

 俺は慌てて周囲を見渡すが、声の主は見当たらない。

 不思議なことに俺以外には声が聞こえていないようだ。

 

 耳を澄ましたが、もうそれ以上声は聞こえなかった。

 仕方なく俺はエリゼ様が待つ冒険者ギルドの空き部屋に移動する。

 

 

「お久しぶりですね、フィーグさん」

 

 

 がらっと柔らかい口調に変えて話すエリゼ様。

 エリゼ様は、騎士であることを意識して人前では硬い口調で話している。

 

 

 エリゼ様に近づいたせいか、薔薇の花のような良い香りが漂ってきた。

 俺は立ったまま彼女の両手を取り、スキルメンテを実行する。

 

 

 が、その時——スキルが俺に告げる。

 

 

《戦闘に勝利し条件を満たしたため、新たに特技スキルの診断が可能になりました》

 

 

 ん?

 なんだ特技スキルって。

 

 しかし、今はエリザ様のメンテが先だ。

 いつものように診断から、整備、上書きまでを実行する。

 

 

『名前:エリゼ

 職種スキル:

 【聖騎士:聖剣】      :LV55《注意:消耗大》

 【聖騎士:癒やしの手】   :LV50《注意:消耗大》

 【聖騎士:防衛聖域(ドーム)】    :LV49《注意:消耗大》

 

 特技スキル:

 【貴族:作法】:LV20

 【貴族:教養】:LV33

 【貴族:舞踏】:LV41

 【裁縫】   :LV10 

 【読書】   :LV98 《注意:ロマンス小説の読み過ぎで消耗大のため暴走間近》』

 

 

 ん?

 

 【貴族:作法】とか、【裁縫】とか。

 魔法的なスキルと言うよりは、もっと一般的な「特技」を見る事ができるようになったらしい。

 

 恐らく【試行】もできるのだろう。

 他人の特技を試してみるのも楽しそうだ。

 

 特技スキルの中に一つ消耗が進んでいるのがあるな。暴走間近だ。

 しかもLV99(カンスト)に近いぞ……相当に本を読んでいるってことかな?

 だけどロマンスってなんだ?

 

 よく分からないまま、俺は【読書】をメンテした。

 

 あとは、職種スキルが全て消耗が進んでいる。

 危ないところだった。

 【聖騎士:聖剣】【聖騎士:癒やしの手】【聖騎士:聖域(ドーム)】順番にメンテを繰り返す。

 

 

「ふっふうぅ……」

 

 

 エリゼ様が頬を染めていらっしゃる。

 俺はエリゼ様の耳元に口を寄せ、質問する。

 

 

「あ、あの……エリゼ様……【読書】が暴走しかけていましたが……ロマンスって何ですか?」

 

「えっえええええええっ……ど、どうしてそれを——。

 し、知らない!」

 

 

 エリゼ様は、凜々しい顔を赤らめ横に振り必死に否定した。

 地雷だったようだ……。

 俺は失礼しましたと言い、無事にスキルメンテが終わったことを告げた。

 

 

「あ、ありがとうございます。

 先ほどのことは内密にお願いします」

 

 

 エリゼ様がうろたえていた。

 いつも騎士としてキリッとされている姿から想像できない。

 

 

「それでフィーグさん」

 

 

 少し落ち着いたエリゼ様が言った。

 そして上目づかいで俺を見る。

 

 

「叔父の養子になるという話は……まだお時間が必要でしょうか?」

 

「大変光栄なことですが……アヤメのこともありますし、もう少し考える時間を頂ければと存じます。難しいようならその、なかったことに——」

 

「いやいやいや……時間はありますので、大丈夫です。お返事をお待ちしておりますね」

 

 

 養子の話は前からちょいちょいエリゼ様から言われている。

 俺に身寄りが無いことを気にされているのだろうか?

 

 

「ありがとうございます。でも、どうして養子なんて……?」

 

「いつもお世話になっておりますし、叔父もフィーグさんを大変気に入っておりますし……何より私と婚約するためには——」

 

「婚約?」

 

「い、いえ、なんでもありません——あの、いつでも困ったことがあれば、私を頼っていただいて構いませんのでっ!」

 

「は、はい、ありがとうございます」

 

 

 養子か。

 貴族になってしまうと、色々自由が奪われそうに感じる。

 どうしてもアヤメの学費の問題が残るようなら最後の手段としてアリなのかも知れないけど、今は保留にしよう。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 俺はエリゼ様と一緒に公爵らの元に戻った。

 公爵は「アクファ同盟」の者たちに尋問をしていた。

 

 

「お前達……少し前からこの街で何をしていた?」

 

「な、何のことでしょうか?」

 

「とぼけるな!

 武器防具を買い占め、勇者印の武器防具を売るように脅していたことは知っているぞ?」

 

「お、脅すなんて……そんな……。ただ、協力を求めただけで」

 

「それが良くないのだ。お前ら、王都のパーティは王都での権限が強いのかも知れないが、この街は違う!

 冒険者ギルドはともかくそれ以外の店は、お前らは一介の冒険者に過ぎんのだ!」

 

「う……」

 

「領地を荒らした者は、いくらランクが高い冒険者だろうと許されんかもしれんぞ?」

 

「クソっ。ここまでか」

 

 

 ギザは、諦めたような表情をして、ぼそっと呪文のような言葉を発した。

 

 

 キーン……。

 

 

 耳障りな甲高い音が聞こえたと思ったら、ギザの服の胸元が()()()を発し始める。

 

 

「なっ何をした?」

 

「ふっ。お前らの記憶がこれから消えるのだ」

 

「何っ?」

 

 

 ギザの胸元が妙に膨らみ始め、服を突き破り黒く丸いものが姿を現した。

 たまごのような形状だが、表面は黒く禍々しい模様が浮き上がっている。

 

 

「これは……そんなバカな……まさか魔導爆弾……!?

 ……ぜ、全員避難!」

 

 

 エリゼ様が青い顔をして叫んだ。

 周囲の全員に衝撃が走る。

 

 エリゼ様は、まるで幽霊を見たような顔でその黒く丸いものを見つめた。

 一歩後ずさるものの、口元をぎりっと噛み、意を決した様子で踏みとどまる。

 

 

「何で、何でこんな所にっ!?街中(まちなか)だぞ、人が大勢いるのだぞ?」

 



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第19話 「死籠もり」の竜人(2)

「何で、何でこんな所にっ、街中(まちなか)だぞ、人が大勢いるのだぞ?」

 

「魔導爆弾とは何ですか?」

 

 

 エリゼ様は俺の声にはっと我に戻ったようだ。

 落ち着いた声色になる。

 

 

「は……はい。これは魔導爆弾といって、近年、国内外の紛争の現場で稀に見られるようになったものです。

 ()()()のたまごのようですが、(かえ)る瞬間に広い範囲を破壊し、燃やし尽くすほどの爆発を起こします。

 街一つくらいは吹き飛ばすくらいの……」

 

「竜人族のたまご? ……街一つくらいを吹き飛ばす爆発?」

 

「十年ほど前に、この街の近くであった爆発も……いや、ごめんなさい——」

 

 

 エリゼ様は俺の顔を見て口ごもった。

 とにかく、ヤバいものらしい。

 

 

『たすけて——』

『たすけて——』

『しにたくない——』

 

 

 再び、幼い少女のような声が聞こえる。

 周りを見ても、誰も気付いていないようだ。

 この声はまさか……?

 

 俺の想像通りなら、このたまごの中の子は……孵らず死ぬ。その生命力を全て爆発のエネルギーに変えて。一度も外の世界を見る事もなく。

 慌ててエリゼ様に質問する。

 

 

「止める方法はないのですか?」

 

「今のところ見つかっていません。

 情報が少なすぎるのです。

 何しろ、魔導爆弾の起動を見たものは、爆発に巻き込まれ生きていないのですから……」

 

 

 エリゼ様がギリッと唇を噛む。

 

 

「今まで何人の仲間が……コイツに——」

 

 

 彼女の顔を見ると、今がいかに絶望的な状況なのか、想像がつく。

 

 

「ひっひぃぃぃぃぃっっッ!」

 

「うわああああっ」

 

「爆弾だと? 記憶を消すものじゃなかったのか?」

 

 

 アクファ同盟のあらくれ者たちはのけぞり、もがきながら魔導爆弾から離れようとする。

 しかし、拘束されているため身動きができない。特にギザは魔導爆弾を抱えたまま、もがくだけだった。

 

 そんなギザの元にエリゼ様が駆け寄る。

 彼女は短剣を懐から取り出すと、ギザの首筋に当てた。

 

 

「なぜこんなモノを持っている?」

 

「そ……それは」

 

「言え!!」

 

 

 怒りは相当なものだ。冷静なエリゼ様の激昂する姿を見るのは初めてだった。

 脅すように、短剣をギザのすぐ横の壁に突き立てる。

 

 ガッという大きな音を聞き、ギザは身をすくめた。

 

 

「王都ギルドのギルマスが……いざというときはこれを使えと」

 

「なんだと? 止める方法は聞いていないのか?」

 

「そもそも記憶を消す道具だと聞いていて……し、しらない」

 

「そうか。お前たちは捨て駒のようだな」

 

「な……何?」

 

 

 ギザたちは今さら、自分たちが使い捨てであることを悟ったようだ。

 例え目の前の窮地を脱しても、今この危機を招いた責任は問われるだろう。

 

 公爵や騎士を危険に晒したのだ。

 ギザの瞳が、絶望の色に塗れていた。

 

 

「も、もう……勇者アクファ同盟はおしまいだ……」

 

 

 

 護衛や付近のギルド職員達が血相を変えて離れ始めている。

 しかし、退避を呼びかけたエリゼ様は一向に逃げようとしない。

 

 

「お、お父様……お逃げになってください。ここは私が——」

 

 

 エリゼ様が、ギザの胸元から魔導爆弾を手に取る。

 それを両手で胸に抱えた。

 

 

「エリゼ……まさか——?」

 

「【聖騎士:防衛聖域(ドーム)】起動!」

 

 

 エリゼ様の周囲が、半球状の白色の結界で囲まれた。

 聖域(ドーム)内で爆発させ、衝撃を少しでも弱めるつもりなのだろう。

 身を挺して皆を守ろうとしている。

 

 

「もう全て手遅れです……孵化が始まっています。

 爆発すれば、冒険者ギルドの建物くらいは……いいえ、街ごと簡単に吹き飛ばしてしまう威力です。

 できるだけ遠くに逃げてください。

 

 ……数分以内に爆発します」

 

 

 俺は覚悟を決め【防衛聖域】による結界を超えてエリゼ様に近づいた。

 

 

「フィーグさん、お逃げください。【防衛聖域】によって多少は被害は抑えられるはずです」

 

 

 さいわい、最後にメンテしたのが【聖騎士:防衛聖域】だったので俺に複写(コピー)されている。

 俺に迷いはなかった。

 

 

「【スキルメンテ:試行】、【聖騎士:防衛聖域】!」

 

《成功——【防衛聖域(ドーム)】 LV99、発動します》

 

 ブン、という低い音が響き、エリゼ様のより濃く大きい光の結界が現れる。

 この結界は内部からも外部からも攻撃を遮断するものだ。

 

 

「フィーグさんは……私より強い【防衛聖域】を張れるのですか……!

 すごい……でも、それでも……」

 

 

 驚きつつも、まだ十分でないことをエリゼ様は認めていた。

 そこへ……。

 

 

「よおフィーグ。俺もつきあうぜ」

 

「フィーグさん。私もご一緒させてください」

 

 

 フレッドさんとリリアが何でもないような顔をしてやって来た。

 命を落とすような、そんな危険な場所に。

 

 

「二人とも、どうして?」

 

「私と()()……フィーグさんがいない世界で生きていても仕方がありません……。

 ううん、私に何かできることがあると思っています」

 

「ああ。俺も同じ気持ちだぜ、フィーグ」

 

 

 もしかしたら——。

 二人のスキルがあれば——。

 より強固な防衛のスキルが得られるかも知れない。

 

 

「【魔改造】を、【防衛聖域(ドーム)】に対して実行!」

 

 

 俺は叫ぶようにして、魔改造スキルを起動した。

 

 

《【剣聖:風神】の空間を切り裂く性質と、

 【モンク:金属筋肉(メタルマッスル)】の、対象を変質させる能力を用いて、

 【防衛聖域(ドーム)】を魔改造します。

 

 ——成功しました》

 

 

 スキル整備(メンテ)が誇らしげに俺に告げた。

 

 



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第20話 「死籠もり」の竜人(3)

《【剣聖:風神】の空間を切り裂く性質と、

 【モンク:金属筋肉(メタルマッスル)】の、対象を変質させる能力を用いて、

 【防衛聖域(ドーム)】を魔改造します。

 

 ——成功しました》

 

 

 整備(メンテ)スキルが誇らしげに俺に告げた。

 

 

《【防衛聖域】は【次元隔離(バニッシュ)】に魔改造されました》

 

《【次元隔離(バニッシュ)】は、対象を異空間に隔離します》

 

 成功だ。よし……これで……。

 

 

『たすけて——』

 

 

 また、幼い少女の声が聞こえた。随分近くから聞こえる。

 そうだ、エリゼ様が抱えている魔導爆弾——竜人族のたまごから聞こえている。

 

 悲痛な声が俺の心に響いた。

 

 今は、とりあえず竜人族のたまごだけを異空間に隔離してしまえば解決だ。

 たまごの中にいる竜人(ドラゴニュート)の少女の命は消えてしまうだろうけど、街に被害はない。

 

 竜人の子を犠牲にして、街のみんなが助かるだろう。

 

 だけど魔導爆弾が竜人族のたまごなら。

 くわえて、スキル整備(メンテ)が反応しているなら。

 

 爆弾化というのが、俺の想像するものであれば——。

 別の解決方法がある。

 

 ()()()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()

 

 

 俺はそのために、ここにいるのだ。

 

 

 エリゼ様が抱えている黒いたまご——魔導爆弾を手に取った。

 するとエリゼ様が目を見開き、俺の顔を見つめてくる。

 

 

「フィーグさ……ん?」

 

 

 俺の顔を見て皆が不安そうな顔をしている。

 大丈夫だよ、俺は笑って言う。

 

 

「じゃあ……みんな。なんとか頑張ってみるから少し待ってて。エリゼ様、フレッドさん、それに、リリア」

 

「「「えっ……何を言って——?」」」

 

「【次元隔離(バニッシュ)】起動! 対象は、竜人族のたまごと()()()だ!」

 

 

 俺の視界が切り替わり、身体が強い力でぎゅうっと縮められたり伸ばされたりする感覚があった。

 視界がぐにゃりと曲がり、暗くなっていく。

 

 

「フィーグさん、いつまでも待っています。ご無事で——」

 

 

 リリアのそんな声が聞こえた。

 声色は優しく落ち着いていて、ただただ、信じていますと……そう言っているようだった。

 

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 

 真っ暗な空間の中に、俺と魔道爆弾だけがあった。

 鳥のたまごくらいだった大きさが、今では人の頭以上の大きさになっている。

 

 もう時間がない。

 間に合うのかどうか分からなかった。

 

 もし失敗しても被害はこの空間の中だけに留まるだろう。

 街や、人々の安全は守られる。

 ここに来たのはそんな打算があったためだ。

 

 そしていつものスキルを起動する。

 

「俺が抱えている魔導爆弾に【スキルメンテ:診断】起動!」

 

 

『名前:なし(種族:竜人族(ドラゴニュート)

 職種スキル:

  竜人:炎の息(ファイアブレス) LV90: 【警告:大暴走状態!】

  竜人:竜化 LV1:   【警告:封印状態!】

  竜人:飛翔 LV1:   【警告:封印状態!】』

 

 

 やはり。

 魔道爆弾とは竜人(ドラゴニュート)のたまご……つまり生き物だという話を聞いて、俺はこの可能性を疑っていた。

 

 診断結果が意味するところは……。

 

 竜人(ドラゴニュート)はまだ生まれていない。

 意識があったとしても、眠る時間の方が多いだろう。

 そんな状況でスキルを酷使することはありえない。

 

 だとしたら、これは何者かが意図的にスキルの暴走状態を作り出し、爆弾として利用しているということだ。

 

 

『やだ——しにたくない』

 

 

 誰かの声が頭に響く。

 

 

『だれか——だれかたすけて』

 

 

 こんなものがどうしてあるのか?

 どんな目的があれば、こんな酷いことができるのか?

 俺は理解ができなかった。

 

 

『——おねがいだから——』

 

 

 心に響く声は、まだ聞こえている。

 

 エリゼ様は孵化をする瞬間に爆発すると言っていた。

 何らかのトリガーにより孵化が始まり、その過程でスキルが最期の起動を始めるのだと。

 暴走の結果、周囲を巻き込んで爆発し、竜人の子はバラバラになり消滅する。

 

 それが、目の前で起きつつある。

 

 

『——だめっ、もう、もう、スキルが……きどうする!』

 

 

 ピシッと、たまごにひびが入った。

 

 爆発がスキルの暴走によるものであれば、俺のスキルが役に立つ。

 時間がない。

 やることは一つだ。

 

 

「今まで、よく頑張ったな」

 

 

 俺は、真っ黒な竜人(ドラゴニュート)のたまごに声をかけた。

 

 

「【スキルメンテ——】」

 

 

 言いかけたところで、両手のひらに熱く焼けるような感覚があった。

 俺の手のひらが火傷でただれ始めている。

 

 

 急げ。

 時間がない。

 

 

「【スキルメンテ:診断・複製・整備・上書き】を実行!!」

 

《スキルメンテを暴走中の【炎の息】に対して実行します》

 

 

 両手に抱えているたまごを落とさないように、俺は耐える。

 

 

《スキルメンテ:複製・整備・上書き——》

 

 

 いつもは一瞬で終わる工程が、とてつもなく長い時間に感じる。

 早く……早く……。

 まだか……まだか……?

 

 永遠とも思える一瞬が過ぎ去る。

 そして……。

 

 

《成功しました。——スキル【炎の息(ファイアブレス)】の整備(メンテ)が完了しました!》

 

 

 ひび割れは止まり、熱くなってきていたたまごは、次第に冷えていくのが分かった。

 たまごの表面が次第に黒から白く変化していく。

 

 とくん、とくん……。

 僅かな鼓動と温もりを感じる。

 

 俺の両手の中にあるたまごは、表面にあった禍々しい文字が消え、真っ白になっていた。

 仄かに光っている。

 

 

『名前:なし(種族:竜人族(ドラゴニュート)

 職種スキル:

  竜人:炎の息(ファイアブレス)LV90 【絶好調】

  竜人:竜化   LV 1【警告:封印状態!】

  竜人:飛翔   LV 1【警告:封印状態!】』

 

 

「ふう……やった! やった!」

 

 

 俺は喜びのあまり、たまごを抱えたまま飛び跳ねる。

 おっと、割ってしまっては元も子もない。

 

 そこで俺は重大な問題に気付く。

 

 

「あれ? どうやって帰るんだ?」

 

 

 【次元隔離(バニッシュ)】ってこのよく分からない空間に送り出すだけで戻してくれないのか……?

 俺は焦った。

 今まで、一番焦った。

 

 とはいえ、できることもなく。

 

 竜人族のたまごを爆散させなかっただけでもよかったと思うことにしよう。

 ここで待っていたら助けもあるかもしれない。

 

 

『ひしょうスキル……』

 

 

 また幼い声が聞こえる。

 俺は返事をしてみた。

 

 

「飛翔スキルか。確かに君はスキルを持っているようだけど?」

 

『すきるがつかえないから——すてられたのかな』

 

 

 確かにスキルが封印状態になっていた。

 でも捨てる? どういう意味だ?

 

 

「ううん、君はスキルを使える」

 

『ほんと?』

 

「ああ」

 

『じゃあ……いきていてもいい?』

 

「もちろん。生きて欲しい」

 

『えへへ……わかった』

 

 

 沈み気味だった声が、急に明るくなった。

 

 でも、この子は捨てられた?

 生まれてくるはずの命を捨てる?

 スキルが使えないから?

 爆弾にされた?

 自分が生まれても良いのかどうかすら疑問に持つような悲しみを……この子は抱いていた。

 たまごの中で死ぬ……死籠もりとなるのをただ待つだけの人生って何だ?

 

 この子は親の元に返すべきなのだろうか?

 でも、本当に、それで幸せになれるのだろろうか?

 

 

「任せて。ついでに魔改造もして強くしておこう」

 

 

《スキル【飛翔】を修復。

 ——成功。封印状態が解除されました。

 

 【次元隔離(バニッシュ)】の次元を操作する性質を用いて【飛翔】を魔改造します。

 

 ——成功。

 【飛翔】は【次元飛翔】に魔改造されました。上書きします》

 

 

「よし」

 

 

《【次元飛翔】は、通常の空間に加え、異空間から異空間に移動することもできます》

 

 

 なるほど。

 俺がこのスキルを使えば、元の世界に戻れるかもしれない。

 

 

《【次元飛翔】を用いれば、元の世界に戻れるでしょう》

 

 

 俺は大きく息をつき、叫ぶように言った。

 

 

「【次元飛翔】を起動!」

 

 

《【次元飛翔:LV99】が起動しました》

 

 

 俺の背中に光でできた翼のようなものが生えている。それはかなり大きく、広い。

 動かしてもいないのに、ふわっとした浮遊感があった。

 

 竜人族のたまご——。

 

 

「ありがとうな。君のスキルのおかげで帰れそうだ」

 

 

 たまごを撫でると、幼い少女の声が響く。

 その声は弾んでいて、希望に満ちていた。

 

 

『たすけてくれて————ありがとう

 こえをきいてくれて——ありがとう

 みつけてくれて————ありがとう——!』

 

 

 俺は、その声に応えるように、たまごを撫で続ける。

 さっきよりたまごのひびが増えている。

 孵化が始まっている?

 

 疲労のためか、途轍もない眠気が襲ってきている。

 俺はうつらうつらとしながら、ぼんやりと考えていた。

 

 ——王都冒険者ギルドは、国内外から優秀な人材を集めている。

 S級、SS級、SSS級、そのうえに君臨する勇者パーティ。

 

 一方、イアーグの街は王都に比べるとずいぶんな田舎だ。

 田舎ギルドのパーティが、王都ギルドに所属するパーティより強くなったら?

 いろんな場所からいらないと言われたメンバーが、世界最強と言われるようになったら?

 

 

「それは……夢のようなことかも……知れない……なぁ」

 

 

 俺は力尽き、仄かな光の中に意識を落としていったのだった——。

 

 

 





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第21話 「死籠もり」の竜人(4)

 

「……さん…………フィーグさん……フィーグさん——」

 

 

 誰かが、かすれた声で俺の名を呼んでいる。

 声の方向から光があふれていく。

 

 

「フィーグさん……早く起きて下さい……フィーグさん……」

 

 

 温かな陽差し。柔らかな肌触りの毛布。

 指の先には、しっとりとした誰かの肌の感覚があった。

 

 目を開けるといつもの天井が目に飛び込んでくる。

 ここは自宅、俺の部屋だ。

 

 人の気配を感じ首を傾けると、ベッドの脇にはリリアが椅子に座っている。

 俺を涙目で見つめていた。

 

 

「リ……リリア?」

 

 

 俺の声は、随分かすれていた。

 ぱっとリリアは笑顔になったが、同時に涙が頬を伝う。

 

 

「フィ……フィーグさん……よかった……よかったっ!」

 

 

 リリアは俺の手を取ると、大事そうに胸に抱え起き上がった俺に抱きついてきた。

 彼女の温もりが伝わって……リリアの胸に包まれて息が苦しい。

 

 

「リリア……ぐるしい」

 

「あっ」

 

 

 俺の苦しそうな顔に気付いたのか、リリアがぱっと離れた。

 

 

「一体どうなった?

 みんなは、たまごは……?」

 

「フィーグさん、大丈夫です、全て問題なしです!

 みなさんを呼んできます!」

 

 

 そう言って、リリアは優しく俺の腕を戻すと部屋の外に向かってぱたぱたと駆け出していった。

 しばらくして、がやがやとアヤメやフレッドさん、リリアが部屋に入ってくる。

 

 

「お兄ちゃん!」

 

「よぉ、フィーグ」

 

「フィーグさん。とても、とっっても心配しましたよ! まったく……」

 

 

 リリアが珍しく声を荒げて言い、ぷいっとそっぽを向き、少し頬を膨らませている。

 おお、完璧なツンデレだ。遂にマスターしたんだな。

 

 

「俺を信じているって言ってなかったか?」

 

「そ……それはそうですけど。もうあんな無茶はやめてください。

 どんなときも、私はご一緒します」

 

 

 言ってから俯き頬を染めるリリア。

 

 次に口を開いたのはアヤメだ。

 すやすや眠る、かわいい赤ちゃんを抱えている。

 

 

「お兄ちゃん、あたしもびっくりしたんだから!」

 

 

 いや、その赤ちゃんは何だ?

 

 

「フィーグ、色々大変だったが、二つもスキルを強くして貰ったしなあ……借りは大きいから。オレは何も言わん」

 

 

 いや、だからアヤメが抱えている赤ちゃんは誰?

 

 アヤメとフレッドさんはなんやかんや言いつつも嬉しそうだが……。

 しつこいようだが、俺はアヤメが抱えている赤ちゃんが気になった。

 

 ——誰の子だ?

 おい。おいおいおいおいおいおいおいおい。

 まさかアヤメ……父親は……まさかフレッドさん?

 

 

「お、おい……その赤ちゃんは……もしやアヤメの子か?

 父親は誰だぁっ!?」

 

 

 ちらっちらっと容疑者の一人であるフレッドさんを見た。

 するとなんだか恥ずかしそうにするアヤメ。

 

 

「あ、あのね……まだ、あたし赤ちゃん産んでないし……お兄ちゃん覚えてないの?」

 

「うん?」

 

 

 フレッドさんが口を挟む。

 

 

「フィーグが寝ていたのは三日ほどだ。アヤメちゃんが生んでいるわけないだろ?

 この子は、お前が連れて帰ってきた竜人(ドラゴニュート)のたまごから生まれた赤ん坊だ」

 

「え?」

 

 

 溜息をつきながらフレッドさんが簡単に説明してくれた。

 

 俺は魔導爆弾——つまり爆弾に改造された竜人族(ドラゴニュート)のたまごを抱え、時限隔離(バニッシュ)で異次元に転移。

 たまごの爆弾化を解除し、こっちの世界に戻った。

 俺が抱えていた竜人族(ドラゴニュート)のたまごは黒く禍々しい模様から、白い色に変わっていた。

 

 俺が戻って来たときには、胸に赤ちゃんを抱いていたのだという。どうやら、孵化したようだ。

 赤ちゃんの外見は人間とほぼ同じ。ちなみに女の子だ。

 

 時々聞こえていた幼い女の子の声は、この子が発していたことになる。

 

 竜人(ドラゴニュート)の赤ちゃんなど前代未聞。ギルドで処遇を検討するのだけど、処遇が決まるまでうちで預かることになったとのことだ。

 

 

「預かるって大丈夫なのか、アヤメ?」 

 

「うん、平気だよ。食べ物は要らないみたいで、ずっと眠ってるだけだから」

 

「そうか。食事が要らないのならなんとでもなるか」

 

「することと言えば、沐浴くらいかな。

 フレッドさんも、ギルドの皆さんも気にかけてくれているから」

 

「まあ、そういうこった」

 

 

 フレッドさんが頷く。

 色々支援があるのは心強い。

 

 

「お兄ちゃんも抱いてみる?

 可愛いよ」

 

 

 アヤメは俺に、赤ちゃんを渡してきた。

 俺は半身を起こし、その子を腕に抱く。

 

 もしかしたら、いろいろ事情があったのかもしれない。

 この子は本当に、スキルの問題で捨てられたのだろうか?

 

 みんなで守った命。

 俺はその重みを心に刻む。

 

 そう、結構赤ちゃんは重い。

 その重みに耐えられず、どんどん俺の腕が下がっていく。

 

 どんど……ん?

 

 重い。

 なんだか大きくなっていないか?

 周囲のみんなも異変に気付いたようだ。

 

 むくむくと、赤ちゃんから幼女へ……。

 なんか背中に羽らしきものも生えてきている。んんっ?

 

 

 幼女は十歳くらいになって成長が止まった。

 彼女を巻いていた布がギリギリ大切なところを隠している。

 

 ぱっと見た感じ、竜人族といっても、普通の人間とそれほど変わりがない。

 

 眠っていた幼女が、ゆっくりと目を開けていく。

 目と目が合った。

 その瞬間——俺を認識したのか、彼女の口元が緩み、可愛らしい笑顔を見せる。

 

 

「パ……パパ? わーい! パパだぁ! やっと会えたぁ!」

 

 

 幼女は俺に抱きついてきた。

 えっ? パパ? 俺は戸惑いを隠せない。

 

 しかしそれはリリアたちも同じだったようだ。

 

 

「「「「パ、パパ?」」」」

 

「あー。ママもいる!」

 

 

 そう言って幼女はリリアとアヤメを見た。

 

 

「「えっ」」

 

「あっ。初めて見た動くものを親だって思うあれかな? お兄ちゃん」

 

「そうか? 違うと思うけど」

 

 

 幼い竜人(ドラゴニュート)の肌の温もりが尊い。

 この命を守れて、本当に良かった。

 

 け、けど、パパって、う、うーん。俺の娘ってこと?

 いやいや……。

 

 戸惑う俺たちをよそに、その子は俺にぎゅうっとしがみついてくる。

 

 

「パパぁ。大好きだよっ!」

 



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第22話 「死籠もり」の竜人(5)

 

 リリアとアヤメによって着替えを済ませた竜人の幼女。

 服はアヤメのお古だが、なかなか似合っていた。

 ひらひらするスカートが可愛らしい。

 

 竜の羽は収納が可能なようだ。

 頭に小さなツノがある以外は、普通の人間の女の子に見える。

 

 俺たちはドラゴニュートの幼女をキラナと名付けた。

 魔導爆弾にされた影響なのか、時間の流れが不自然なようだが、徐々に治っていくだろう。

 

 

「んとね、みんなの声聞こえてたよ!」

 

 

 嬉しそうに、くるくると回って順に俺たちの顔を見つめてくるキラナ。

 キラキラと瞳がかがやいていて、とても楽しそうだ。

 

 

「あたしのスキルを治して強くしてくれたフィーグお父さん。

 そのスキルにね、リリアお母さんとフレッドお母さんを感じるの」

 

「……オレはお父さんじゃないのか……まあ相手がフィーグならお母さんでいいや」

 

 

 なぜかリリアとアヤメがフレッドさんをギロっと睨む。

 

 

「アヤメお母さんは、生まれてからずっとあたしを抱いてくれてた。優しくお世話をしてくれた……。お風呂にも入れてくれて……」

 

「ま、まあ……アタシは……赤ちゃんかわいいし」

 

 

 照れながらもアヤメは嬉しそうだ。

 何気に世話好きなんだな、アヤメ。

 まるで我が子のように見つける眼差し……とはいえ、子供が子供をあやしているようにしか見えない。

 こんなことを言うと怒られそうだが。

 

 

「フィーグお父さん大好き!」

 

 

 キラナは俺の顔を見るたびに、そう言って抱きついてくる。

 その勢いはなかなかのもので、さすが竜人族だと言わざるを得ない。

 

 おかげで、身体の筋肉が鍛えられていく。

 

 

「おとうさん、一緒にお風呂入ろ?」

 

「お兄ちゃんばっかりズルい。アタシも入るの」

 

「いいえ。私が……」

 

「じゃあ、みんなで入ろ?」

 

 

 誰が彼女をお風呂に入れるのかアヤメとリリアが張り合ってその権利を奪い合う日々。

 うちの風呂は狭いので俺は流石に遠慮して三人で入ってもらっている。

 

 ナチュラルに俺が誘われているが、キラナはともかく、リリアや実の兄妹とは言えアヤメと一緒にはいるのは気が引けた。

 というか、あの集団に男が挟まるのは、どうにもギルティなのだ。

 あのふんわり百合フィールドに男が挟まってはならない。

 

 いつも、風呂場からは三人のきゃっきゃっとはしゃぐ声が聞こえ、それを聞いて眠るのがいつもの日課になっていく。

 

 

 キラナは昼間は神殿に預け他の子供たちと過ごし、朝と晩はアヤメ、俺、リリアで面倒を見ることになった。

 竜人(ドラゴニュート)の子供だとは誰も思わない。伝説上の種族がまさか、こんな田舎にいるなんて、思いもしない。

 

 ギルドが彼女にどういう判断を下すか分からないが……フレッドさんもいるし不本意なことにはなりにくいだろう。

 俺はしばらく、このままでもいいと思う。

 

 竜人(ドラゴニュート)の一族が存在するとして、そこに返すかどうかは彼女の意向も含め考えていこう。

 

 

 キラナと一緒に街を散歩するのも日課になっていく。

 ある日、いつものように散歩をしていると、近所のお婆さんから話しかけられた。

 

 

「あんなに小さかったフィーグに子供ができるとはねぇ……時が経つのは早いねえ。で、嫁さんはリリアさんかい?

 それとも、あの幼馴染みのレベッカちゃんかい?

 まさかアヤメちゃん……なわけないよね?」

 

 

 時々俺の子供だと本気で勘違いする人もいて……俺は頭を抱えている。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆

 

 

「ギザたちはどうなったの?」

 

「アイツらは、騎士エリゼ様が全員しょっ引いていったよ。王都に連行するらしい。

 俺たちやギルド職員、さらには公爵や騎士も危険に晒したわけだからな。

 ただじゃ済まないだろう」

 

「まあ、そうか……」

 

「騎士エリゼ様は、それはそれはもの凄い剣幕だった。

 魔導爆弾にかなり悩まされていたらしい

 

 フィーグが目覚めないことも気にされていたようだ」

 

「そっか。じゃあ、また元気な姿を見てもらわないといけないですね」

 

「ああ。色々とギルドのためにも動いてもらっているし、随分とフィーグと懇意にしているようだし、暇ができたら王都に出向いて話をして貰えると助かる」

 

「そうですね」

 

 

 追加で話を聞いたところによると、王都ギルマスが黒幕ということだが——本当だろうか?

 王都のギルマスとは俺はあまり接点がなかったが、気になる話だ。

 

 

 ******

 

 

 俺は念のため数日休養を取らされた。

 心配性のリリアとアヤメ、さらにはフレッドさんによって。

 

 アイツら交代で俺を見張り、外に行かせてくれなかった。

 せっかく冒険者の資格も取ったのに。

 

 うずうずし始めた俺は、休養明けに、俺はさっそく冒険者ギルドに向かう。

 早速フレッドさんに依頼をもらおう。

 

 

「依頼の前に、パーティランクについてだ。

 ギルドで話をした結果、フィーグとリリアのパーティは、Cランク、つまり銀等級からスタートに決定した」

 

「そうですか。まあ規定通りってヤツですね」

 

「本当は、Aランクにそれぞれが楽勝してたわけだから、Sランクでもいいと思ったのだが、こればっかりは規定でな。勘弁してくれ」

 

「いいえ、大丈夫です。いきなり難しい依頼が来てもアレですし、そもそも俺自身は一人だと戦闘力がないので」

 

「OK。

 さて本題だ。既にフィーグ指定の依頼がある。

 

 フィーグの幼馴染み、レベッカちゃんからの依頼だ。

 彼女は武器屋をやっているわけだが、アクファ同盟のバカ共がしでかしたことの後始末を頼みたいそうだ」

 

 

 レベッカか。

 会うのは久しぶりだな。顔をしばらく出してなかったから何か言われそうだ。

 確か、鍛冶屋のおじいさんとお店をやっているんだっけ。

 

 装備を新しくしたいところだし丁度良い。

 お金はあまりないけど、依頼の報酬でなんとかなるかもしれない。

 俺はリリアと一緒に、レベッカが営む武器屋に向かった。

 





お読みいただきありがとうございます。

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第二章 釘バットの聖女
第23話 破滅——side王都ギルマス・デーモ


 

 王都ギルマス・デーモは、連絡が取れなくなったアクファ同盟の面々に対し、苛ついていた。

 

 

「あいつら……俺の連絡を無視しやがって。いや……まさか……?」

 

 

 依頼に失敗し、記憶を消す魔道具と偽り渡した魔導爆弾を起動させたのではないか?

 定期連絡もなく、こちらから連絡しても返事がないことと辻褄が合う。

 

 最後に連絡を取った時には、イアーグの街冒険者ギルドにいた。

 魔導爆弾を使ったのなら、冒険者ギルドの建物ごと吹き飛んでいるだろう。

 

 

「ま、まあ……それでも全てが消えるなら問題ない。

 念のため、フレッドに連絡してみるか」

 

 

 通信用の魔道具を取りだし、イアーグの街冒険者ギルドに連絡を取る。

 デーモは、不通になるだろうと思っていたのだが……。

 

 

『ご連絡ありがとうございます。イアーグの冒険者ギルドマスター、フレッドと申します』

 

「ゲッ……どどど……どうして」

 

 

 元気そうに答えるフレッドの声に驚くデーモ。

 どうしてコイツが生きて通話に応答するんだ?

 

 

『えっと、王都ギルド——の、どちら様ですか?』

 

「フン、わ、私は王都冒険者ギルドマスター、デーモだ。久しぶりだな、フレッド」

 

『はあ、デーモさんですか』

 

 

 支部のギルドマスターの割に、軽い返事が返ってきた。

 デーモは苛つく。

 

 ——コイツは元々反抗的だった。

 随分前に王都冒険者ギルドから裏工作を繰り返し追放してやったのに。

 王都から離れている田舎だとは言え、未だにギルマスにしがみつきやがって。

 

 デーモはフレッドの声に怒りを隠さない。

 

 

「おい。お前、なんだその態度は?

 俺は()()王都ギルドマスターだぞ。

 物言いに気をつけろ!」

 

 

 しかし、相変わらず舐め腐ったようなフレッドの溜息が聞こえる。

 

 

『はあ……』

 

「おい! 聞いているのか!?」

 

『聞こえていますよ。デーモさん。

 でも、あなたはもうギルドマスターではない。

 クビだよ、あんた。

 それだけじゃない。お前は犯罪者だ』

 

「な、何を言っている?」

 

『そこに向かってるぜ。

 こわーい捜査官が。

 

 もちろん、心当たりはあるだろう?

 オレへの圧力、おかしな武器や防具の転売』

 

「な、なんのこと……だ?」

 

 

 デーモは当然心当たりがあった。武器の転売は、全て勇者アクファと一緒にやってきたことだ。

 

 

『しかも転売された武器や防具はゴミだった。それを使ったために、肌が真っ赤に腫れ、手足や顔を包帯で隠さなきゃいけなかった冒険者の女の子がいる。

 その転売で、武器で商売がうまくいかない店もあった。売るのを拒否したため、苦境に立たされた店だってある』

 

 次々と指摘される武器転売などの悪事。

 フレッドは低い声で、怒りを抑えながらデーモを責める。

 

 だが、デーモ自身はそんなことどうでもいいと考えている。

 国民や冒険者が苦しもうと、大した問題ではないと。

 

 重要なのは、フレッドが生きていて、デーモが依頼した内容を知っていることだ。

 捜査官がやってくるとも言っている?

 

 焦るデーモに対し、フレッドは追い込むように続ける。

 

『さらにフィーグへの仕打ち。あんたもフィーグのことをボンクラと言っていたそうだな。

 エリゼ殿は、とてもご立腹のご様子だった』

 

「ま、待て……一体何を伝えた?

 きちんと説明するからお前からも話してくれ——」

 

『そうそう、魔導爆弾の出所についても、エリゼ殿がしっかり追求するそうだ。

 全員無事だぜ。あんたの送ったアクファ同盟も、巻き添えになりそうになった公爵や騎士エリゼ殿もだ』

 

「何? 魔導爆弾が爆発していないのか?」

 

『へえ、随分詳しいご様子で。俺は魔導爆弾の存在すら知らなかったぜ。詳しそうだなあんた。じゃあ、竜人(ドラゴニュート)の子が生まれる前に、たまごを爆弾にして殺そうとしていたのも……お前か?』

 

 

 フレッドの声は静かに震えていた。怒りを抑えながら話していることに、デーモは気付かない。

 

 

「ぐっ……い、いや、そんなことはない……噂で聞いたんだ。そ、そうかそうか……無事で何よりだが……ど、どうやって助かったのだ?」

 

 

 おかしい。魔導爆弾は起動したが最後、確実に爆発すると聞いていた。

 それをどうやって……?

 

 

『フィーグが全て解決してくれた』

 

「なっ……? フィ、フィーグだと?」

 

『ああ。すべて丸く収まったよ。後は、あんたが知っていることを騎士に話したら良い。もっとも、公爵や騎士を巻き添えにしようとした罪は重い。あんた、家族は?』

 

「い、いないがそれがどうした?」

 

『そうか。あんただけが処刑台に送られるのなら、暗い気持ちにならなくて済むな。楽しく酒を飲めそうだ』

 

 

 通信を切り、慌てて周囲を見渡し始めるデーモ。

 もう全てが終わっている。

 

 フィーグの口封じの依頼。

 取り扱いが禁止されている魔導爆弾の使用。

 証拠隠滅のため、偶然居合わせたとは言え、公爵や騎士、その他市民を巻き添えにしようとしたこと。

 武器転売による武器防具屋の苦境や、皮膚が腫れるなどの被害を冒険者に与えたこと。

 

 

「クソが……フィーグ……アイツが……アイツのせいで! いや、そもそも勇者アクファがアイツを追放したのがいけなかったのか?

 

 そういえば勇者アクファは……最近まったく顔を見せないが……まさか逃げたのか?」

 

 

 いくら他人を恨んだところで後の祭り。

 もうデーモにとって挽回のチャンスは無い。

 

 周囲に散らばる書類。

 特に捜査官などに見られたらマズい書類を鞄に詰め始めるデーモ。

 

 滝のように流れる汗は留まることを知らない。

 そこへ……。

 

 バン!

 

 突然部屋のドアが開き、ズカズカと数人の騎士と、捜査官、衛兵が入ってきた。

 そこには、騎士エリゼの姿もある。

 

 

「王都冒険者ギルドマスター、デーモ。貴様を逮捕する!

 貴様……よくも……よくも!!」

 

 

 ……騎士エリゼの瞳は憤怒に燃えていた。

 

 

「そんな……そんな……!」

 

 

 これから何が行われるのか?

 取り調べ……拷問?

 デーモはただただ、震えるだけだった——。

 

 



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第24.0話 閑話 リリアとアヤメ

 

 

 リリアはアヤメの部屋のベッドの上に座り、うーむと悩んでいた。

 今日は久しぶりにフィーグが外に出かける。彼はさっそくギルドに出向くようだ。

 

「リリアさん? どうしました?」

 

「フィーグさんはすごいと思います」

 

「えっ?」

 

 そりゃ、お兄ちゃんはすごいけど、急にどうしたんだろう?

 唐突なすごい発言に、アヤメは聞き返す。

 

「私の暴走したスキルを整備(メンテ)し、魔改造して【剣聖:風神】【完全装備】を授けてくださいました」

 

「うん、凄いスキルだよね。A級冒険者をボコボコにしたんだって?」

 

「はい、あの戦いでは圧倒的でした。多分、これならS級も、ひょっとしたらそれ以上も……」

 

「確かにその可能性はあるかも。いいなぁ、リリアさん」

 

 

 アヤメは、まだスキルの魔改造を受けていないので素直に羨ましいと思った。

 でも、兄妹なんだしいつでも診てもらえる、という余裕もある。

 

 

「はい……。私は、何十年も努力してきました。フィーグさんは、私の頑張りのおかげだと言ってたけど、魔改造されたスキルを習得するのに何百年かかったのやら」

 

「何十年か……ほんと凄いよね、お兄ちゃんって。教えてあげないとね」

 

 

 さすがエルフ、時間のスケールが違うと感心するアヤメ。

 

 

「はい。そう思うのですが、でもきっと、フィーグさんは言うと思うんです。私の努力のおかげだって」

 

「確かに。いつもいつも、『みんなはすごい』って言ってて、お兄ちゃん自分の努力を認めようとしないから」

 

「ふふっ……私もそう思っています。さすが、アヤメさん、よく見ていらっしゃるんですね」

 

「そ、それは、妹として当然というか? 当たり前のことだし!」

 

 

 アヤメは照れた様子でそっぽを向いて言った。頬が少し赤らんでいる。

 なるほど、これが真のツンデレか……本で読んだのと少し違うなとリリアは思う。

 

 

「それで、です。男の人は、可愛い服を着た女の人が好きだと本に書いてありました」

 

「そのハウツー本、大丈夫?」

 

「たぶん……なので、できればアヤメさんにフィーグさん好みの服を選んで欲しいなって思って」

 

「えぇ? あたしが? リリアさんの?」

 

 

 突然の提案に驚くアヤメ。

 アヤメ自身は、節約のため最近服を買っていない。

 でも、流行チェックは欠かさない。店の前で、あれがいいな、これがいいなと服を見るのが好きだった。

 

 服を見に行くというのは楽しみだ。

 

 でも、アヤメは兄であるフィーグの一番は自分であって欲しいと願ってもいる。

 リリアはライバルだ。素直に頼みを受けるわけにはいかない。

 そう思うのだが……。

 

 

「フィーグさんのことは何でも知っているアヤメさんなら、一番喜ばれるものを選んでくださると思って……」

 

「し、仕方ないわね。そこまで言うのならっ」

 

 

 リリアの褒めるような言葉に、あっさりと引き受けてしまうアヤメ。

 もっとも、リリアは狙って言ったわけでもない。心から思っていることを口にしただけだった。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 フィーグと待ち合わせの約束をし、街の服屋に出かけるリリアとアヤメ。

 店の奥から出てきた店員の女の子はアヤメの知り合いだ。

 彼女は、制服姿のアヤメを見て「いらっしゃいませ」と言いつつ、疑問を口にする。

 

 

「あらアヤメちゃん、魔法学園は?」

 

「あ、うん……この子の服を選んでから行こうと思って」

 

「あら、ずいぶん可愛い子ね。どんな服がいいの?」

 

「うーん、まずは、これかな?」

 

 

 選んだのは、貴族の侍女用のユニフォーム。いわゆるメイド服だ。

 早速試着室で着替えるリリア。

 

 

「ど、どうでしょうか?」

 

「う……似合う。ここまでメイド服が似合う人初めて見た」

 

「確かに。かわいいなあリリアさん」

 

 

 店員の女の子とアヤメの感想に、リリアは「じゃ、じゃあこれにしますか?」と聞く。

 しかし、アヤメはふるふると首を左右に振った。

 

 

「これもいいけど他に良いのがきっとあるわ」

 

 

 アヤメが選んだ服を次々に着ることになるリリア。

 執事用の男装に始まり、肌の露出の多いドレスや、涼しげなワンピース……そしてなぜか水着まで。

 

「すごい。スタイルのせいかしら? なんでも似合うわねこの人」

 

 

 店員の感嘆に顔を赤くするリリア。

 

 

「そ、そんな……恥ずかしいです」

 

「じゃ、次はこれね」

 

 

 アヤメが手にしたのは、スカートにブラウス。清楚系のファッションだ。

 

 

「おおぉ、これは素晴らしいです。すごく良い感じです」

 

「ふふふ、そうでしょう。じゃあこれで決まりね」

 

「はい、ありがとうございます! でも……」

 

 

 今まで着ていた全然系統の違う服はいったい……リリアは疑問に思いつつも、アヤメが楽しそうにしているのを見て口にはしなかった。

 

 リリアは代金を支払い、店を後にする。

 

 

「じゃあ、このままリリアさんは服を着てお兄ちゃんとの待ち合わせに行ってね。着替えは私が持って帰るから」

 

「はい……ありがとうございます! アヤメさん。きっと、フィーグさんは喜んでくれますよね?」

 

「うん。大丈夫、自信持って。髪も編んであげたし……とてもかわいい」

 

 

 アヤメはうっとりしながら、エルフの美貌というのは神秘的な何かがあると思った。

 リリアの可愛らしい姿を見ながら、ふと気になったことを聞いてみることにする。

 

 

「それで、リリアさんは、お兄ちゃんのことが好きなの?」

 

「えっと……はい、大好きです。悩んでいた私に希望を下さいました。私を認めてくださって……それから……」

 

「ううん、そうじゃなくて、男の人って意味で」

 

「えぇっ」

 

 

 途端に顔を真っ赤に染めるリリア。見えないけど、耳の先まで真っ赤なのだろう。

 

 

「どうかな?」

 

「……はい。男性としてお慕いしています。その、これからも私の全部を捧げてもいいと思います。そ、そういう関係になりたいです」

 

「そっかぁ」

 

 

 アヤメは、リリアが兄のことを恋愛対象として好きだったことに驚きはなかった。

 そういえば、なんか二人の様子がおかしい朝もあったし……。

 

 でも、リリアの言う全部を捧げるってなんだろう? それもリリアが参考にしているというハウツー本に書いてあったのかな? そういう関係?

 アヤメはまだ、その意味をまだ理解できない。

 

 

「今日は本当にありがとうございました。アヤメさんにも、何かお礼ができたらいいのですが」

 

「うーん、そうね…………ううん。お兄ちゃんのことよろしくね。じゃあ、私は魔法学園に行くから」

 

「あっ、はい!」

 

 

 リリアは嬉しそうに手を振る。

 兄に会いに行くリリアの後ろ姿を見ながら、アヤメも手を振り返してその場を立ち去る。

 

 二人の足取りは、どちらも軽やかで、楽しげだった。

 



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第24.5話 閑話 読心術

 

 ようやく俺は外出を許された。

 ただ、ゆっくりはできなさそうだ。

 

 さっそく冒険者ギルドが依頼を放り投げてきた。

 武器防具屋に出向き、話を聞いてきて欲しいとのことだ。

 

『アクファ同盟の者たちが転売していた武器の件、そして武器防具屋の鍛冶職人が調子を崩してる件の調査をして欲しい。

 恐らくスキルに問題が発生している』

 

 俺はリリアの武器防具の件で気になることもあり、依頼を受けた。

 それに、指定されたお店は俺の幼馴染みが経営している。

 困っているなら力になりたい。

 

 

 リリアと二人で武器防具屋に行く予定だったのだが、彼女は朝早くアヤメと一緒にどこかに出かけてしまった。

 行き先は教えてくれず、ただ街の中心にある噴水の前で待つように言われたのだ。

 リリアとの用事が終われば、アヤメは魔法学院に行くのだとか。

 

 

 噴水の前で待っていると、俺を見つけたリリアがぱっと顔を明るくして駆け寄ってくる。

 

 

「フィーグさんっ。お待たせしましたか?」

 

「いや、全然」

 

 

 少し早めにリリアとの待ち合わせ場所に着いた俺。

 でも暇を持て余すことはなく、元々この街にいたときの顔見知りに会って話をしていたので、待ったという感覚がない。

 

 

「それで、フィーグさん? あの……私……どうですか?」

 

「どうって……?」

 

 

 リリアがもじもじして、何か聞きたそうにしている。

 かと思えば……急に思い出したように付け加える。

 

 

「……か、感謝しなさい。あっ、あなたのために準備したんだからっ」

 

 

 あ、そのツンデレまだやるんだ……。

 しかもリリアは少し頬を赤く染めている。か、完璧じゃないか。

 

 俺が感心していると、催促するようにリリアが聞いてきた。

 

 

「あの……?」

 

 

 リリアが上目づかいに……もじもじしながら俺を見る。

 周囲にいる人たちがリリアを見て「可愛い」と言っているのが聞こえる。

 

 ん?

 そういえば、リリアの雰囲気が朝と違うな。

 

 清楚な白いブラウスに、ややシックな色のスカート。

 リリアのスカート姿って初めて見る。

 今日は包帯をしていない。

 

 髪の毛も、編み込んでいてどこぞのお嬢さんという感じだ。アヤメにしてもらったのか?

 相変わらず耳はうまく隠している。

 

 そういえばさっき、占いをやっているお婆さんのスキルを整備(メンテ)した時、特技スキル【読心術】が俺に保存されている。

 これを使えば、リリアが考えていることが分かるかもしれない。

 

 

「スキル——」

 

 

 俺は起動しようとして、中断した。

 こういうときに使うのはどうにも、気が引けた。ダメな気がする。

 なぜだろう?

 

 いったん自分の頭で考えてみよう。

 

 俺はじっと彼女の顔を見つめた。

 瞳がキラキラとしていて、何かを期待している様子だ。

 

 頭の先からつまさきまで、ひらひらな服を着ている。髪型も違う。靴も違う。

 俺にどうかと聞いているということは、俺に見せるため?

 そして、俺に喜んでもらいたいからだとしたら。

 

 誰かのために、色々と準備をしてくれた。

 純粋に嬉しいな。

 

 そうだ……彼女が期待していたのは——。

 

 

「うん、似合っているよ。とても可愛いと思う。

 服と、靴も、それに髪型も……全部いいね。何より、リリア自身が一番素敵だと思う」

 

「えっ——ええっ?」

 

 

 リリアは俺に背を向けて座り込んでしまった。

 あれ……? 間違っていたのか? でも、本心でそう思ったんだし仕方ないんだけど。

 

 ううむ。

 やはりスキルを使った方が良かったのか……?

 

 耳を澄ますと、小さい声で「——どうしたらいいんでしょう」と聞こえたけど、俺の方を見てくれない。

 

 

「あ、あの。リリア()()?」

 

「う……うう〜〜初めて言われた〜〜」

 

 

 少し心配になったけど、しばらくして振り返ったリリアは、顔がにやけるのが止まらない様子だ。

 ご機嫌のリリアに、俺は胸をなで下ろす。

 

 

「フィーグさん、ありがとうございますっ!」

 

 

 よかった。

 

 

「じゃあ、行こうか」

 

「はいっっ!」

 

 

 すっかりツンデレとか忘れているけど、楽しそうでなによりだ。

 俺たちに声をかける街の人がいる。

 

 

「お二人さん、デートかい?」

 

「い、いや、これは冒険者ギルドからの依頼で……」

 

「いいからいいから。頑張れよっ」

 

 

 端から見るとデートに見えるのか?

 仕事なんだけどな。

 その割にはリリアはずっとニコニコしているし、可愛く着飾っているから、勘違いされたのだろうか?

 

 などと思いつつ、俺たちはギルドからの依頼をこなすため武器屋に向かうのであった——。

 

 




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第25話 釘バット

 

 イアーグの街にある武器防具屋の一つ。レベッカの装備屋。

 俺はここに、かわいい服を着たリリアと一緒にやってきた。

 

 

「ここですか?」

 

「うん。よいしょっと——」

 

「ごめんなさい……剣と鎧を持って貰って」

 

 

 俺はリリアが身に付けていた剣と鎧を袋に入れて担いでいた。

 リリアは自分が持つと言ったのだけど、今着ている可愛らしい服に合わないので俺が持つことにしたのだ。

 

 っていうか重いなこれ。

 リリアは軽々と身に付けていたし、剣を振り回していたのに。

 さすが人間の上位種エルフって感じ?

 

 装備屋に着いて入り口から入ろうとしたとき、店内から出てきた人と肩がぶつかる。

 俺は袋を抱えたまま倒れそうになった。

 

 

「あっ……申し訳ありません。私のせいで——大丈夫ですか?」

 

「あ、はい」

 

「では、失礼します」

 

 

 ちょこんと挨拶をして去って行く少女。

 俺と違い、まったく動じない——感情の変化に乏しい少女に見えた。

 

 一瞬触れたことで、俺のスキルが反応し勝手に診断を始めている。

 

《名前:エリシス・ブラント

  職種スキル:

   神官:傷回復(キュア)   LV89

   神官:防衛聖域(ドーム)  LV81

   神官:不死者退転(ターンアンデッド) LV34

   神官:殴打  LV 51 

   神官:祝福(ブレス)  LV 71》

 

 神官は聖女の下級職と言われている。

 

 勇者パーティには聖女職がいた。

 世界で数人という大変珍しい存在だ。

 でも、レベルはこのエリシスって子の方が高い。

 

 聖女は誰でもなれるわけではなく一定の資質が必要。

 神官職もそうだが、神に祈りを捧げる関係上、信仰心が重要らしい。

 

 立ち去っていく少女を俺とリリアが見つめる。

 少女の所作はとても綺麗で、元は貴族なのかもしれない。

 

 清楚で可憐。

 神官着をまとう姿はそんな言葉がぴったりだ。

 

 ——ただ、一箇所を除いて。

 

 

「フィーグさん、先ほどの女性、変わった武器を持っていましたね?」

 

「うん……あれは木製の棍棒に釘を打ち付け、攻撃力を増した『釘バット』だ」

 

「釘バット?」

 

「うん。釘バット」

 

 

 アレで殴られたら痛そうだな。

 神官は血が出るという理由で刃物を武器に使わないと聞いている。

 この前戦ったスキンヘッド神官も戦棍(メイス)という金属製の棍棒を使っていた。

 

 そこにきて、釘バットである。

 木製の棍棒にたくさんの釘が打ち付けてある武器だ。棍棒と言えば棍棒なんだけど、あんなもの振り回したらヒャッハーッ!!! と自然に叫んでしまいそうだ。

 

 あんな武器で殴られたら、大量に血が出るんじゃないか?

 それって神官職や聖女が使う武器なのだろうか?

 

 

「フレッドさんが言っていた件ですが……さっきの人どうですか?」

 

 

 リリアが、さらっと言う。

 確かにフレッドさんは冒険者パーティなら、回復役が必要だと言っていた。

 勇者パーティにも聖女がいたわけで、回復役がいれば心強い。

 心強いけどさあ……。

 

 

「う……そうだな……。追いかけるにしてももう姿が見えないから、また会ったら声をかけてみようか」

 

「はい!」

 

 

 あんな武器を使っている理由が知りたい。

 女性だから木製武器を好むとしても、あれほど殺意に溢れ、威嚇するような武器じゃなくていいはずだ。

 

 戦闘になるといきなりヒャッハー♡とか言ったりしないよな?

 ……いや、あんなにお淑やかな神官だ。それはないだろう……たぶん。

 

 彼女とはまたすぐにでも出会うような気がした。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

「こんにちは。久しぶり、レベッカ」

 

「わあ……フィーグっ。ほんと久しぶりね!」

 

 

 訪れた武器屋で店番をしていた女の子が俺に抱きついてくる。

 彼女は幼馴染みのレベッカだ。

 会うたびに、こうやって抱きついてくるのは昔と変わらない。

 

 

「お、おう、依頼を受けたんだけど、どうかしたのか?」

 

 

 レベッカは武器・防具職人のおじいさんのこととで悩んでいるという。

 また、武器防具の転売——勇者印の武器や防具についても知っているという。

 

 リリアが装備していたものがどんなものなのか、ハッキリさせよう。

 それに、強力な装備も揃えたいところだ。

 




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第26話 幼馴染みの装備屋(1)

 元気ではあるのだが……どこか無理しているように見える。

 

「うん、来てくれてありがとう……あのね……お店が……おじいちゃんが……」

 

 

 そう言って、レベッカは目を伏せた。

 赤く腫らした目にじわりと涙が浮かんでいる。

 

 

「おい……大丈夫か?」

 

「うん……来てくれてありがとう」

 

 

 そう言って、レベッカは目を伏せた。

 じわりと涙が浮かんでいる。

 

 依頼にもあったけど武器・防具職人のおじいさんのことで、かなり悩んでいるようだ。

 おじいさんが、武器や防具製作に失敗することがあるという。

 

 原因を調べて欲しいとギルドに依頼があり、フレッドさんが俺に押しつけてきた。まあ、依頼主は幼馴染みのレベッカだし別に良いんだけど。

 

 ただ、俺がこの依頼を受けたのは別に理由がある。

 

 リリアが装備している勇者(じるし)の武器防具のことだ。

 

 血が滲むほどの彼女の不調……スキルの暴走。

 きっと、リリアが装備している武器防具に問題があるのだとフレッドさんとも話していた。

 それを確定するために、鑑定して貰おうと思っている。

 

 涙を拭い、元気が無かったレベッカだが、話していると次第に以前の調子が戻って来た。

 

 

「もう、王都に行ったっきり全然顔を出さないんだから」

 

「ごめんごめん。足が遠のいてしまって——」

 

「まあ、いいけど。で、そっちの可愛らしいお嬢さんは……?」

 

「ああ、俺と一緒にパーティを組んでいるリリアだ」

 

 

 本当はエルフなんだけど。

 敢えて言う必要も無いだろう。

 

 

「ふうん、パーティねぇ。フィーグって、こういう子が好みなんだ?」

 

「何の話だよ?」

 

 

 レベッカは少し頬を膨らませつつ、俺の腕に絡みつくと抗議するように言った。

 子供の頃からの距離の近さだが、もうお互い成長してるんだし少しは気にして欲しい。

 

 リリアも頬を膨らませ始めている……?

 いつまでもレベッカのペースに付き合うわけにいかないので、本題を切り出す。

 

 

「まず、これを見て欲しいんだけど」

 

 

 リリアの身に付けていた武器と鎧をテーブルの上に並べると、途端にレベッカの目つきが変わった。

 商売柄、この手の装備が気になるのだろう。

 俺は簡単に経緯を説明する。

 

 リリアが身に付けたら、皮膚が腫れたり出血したこと。どうも、王都に大量に出回っているらしいこと。

 この街でも増えているかもしれないこと。

 

 

「んー。なるほどね。でも、これをリリアさんが?

 ウソでしょ?」

 

「間違いないよ。あんな細い腕や足……」

 

「ちょっと、フィーグ、どこ見ているの?」

 

「い、いや、間違い無く彼女は装備して使いこなしていた」

 

 

 こんなに華奢なのに、重い剣を振り回し、鎧を身につけて素早く動くリリア。

 俺もいまいち、目の前のリリアを見てもピンとこない。

 

 リリアは俺たちの視線にきょとんとしている。

 

 

「信じられないけど、フィーグの言うことならそうなんでしょうね。

 なるほどね、これが噂の勇者印の装備ね。前見た物とだいたい同じだけど……これ、駄目よ」

 

「ダメ?」

 

「うん。ダメダメ」

 

 

 レベッカは両手をひらひらとさせて、呆れたような口ぶりで言う。

 

 

「知っているのか?」

 

「少し前ね、比較的安い装備が何者かに買い占められたことがあったの。それで、品薄になってね」

 

「そうなのか。今も装備品は品薄なのか?」

 

「うん。だから、うちでも作ろうとしたんだけど、おじいちゃんも超調子が悪くて——新作が作れなくて。

 だから……あまりお客さんが来なくなってて」

 

 

 また、少し暗い顔になるレベッカ。

 だいたい、問題というのは同時に起こるものなんだな。

 

 

「そんなに影響があるのか」

 

「そうね。少し前に勇者印の装備品を置かないかと売り込んでくる人がいたけど断ったせいなの。価格の割に品質も良くなくて。そんなの売れないよ」

 

 

 レベッカがうつむいた。

 俺は子供の頃、いつもしていたように、レベッカの頭にぽんぽんと撫でるように手を触れた。

 すると、レベッカはハッとしたような表情をして顔を上げる。

 

 

「も、もう……リリアさんもいるんだし恥ずかしいから」

 

「わ、わかった」

 

 

 言葉の割に、レベッカは俺の手を避けようとしないし、口元がふにゃっと緩んでいるぞ。

 

 でも、そうだよな。

 お互い成長したんだし。あんまりこういうことは控えないとな。

 

 俺とレベッカのやりとりを見ていたリリアから、焼け付くような視線を感じる。

 

 

「フィーグさん……むむむむ。親しそうに……いいなぁ」

 

 

 なんか強い圧を感じつつレベッカを見ると、鑑定のスキルを起動しようとしている。

 

 

「じゃあ、フィーグ、これ鑑定するね」

 

「ちょっとその前に、手を貸して?」

 

 

 俺はレベッカに触れ、スキルメンテを実行した。

 レベッカの口から吐息が漏れる。

 

 

「う、うん? ……んっ……あんっ……」

 

 

『名前:レベッカ・ラウ

 職種スキル:

 商人:鍛冶  LV10

 商人:鑑定  LV17(注意:暴走間近) 

 商人:仮装備 LV18』

 

 

 スキル【鑑定】が危ないので、メンテ(整備)しておこう。

 もしかしたら魔改造も出来るのかもしれない。試してみよう。

 

 

 《スキル【鑑定】を【スキルメンテ:診断】の「対象を調べる性質」を用いて魔改造した結果、スキル【心眼】に超進化しました》

 

 

 おおっ!

 俺のスキルも魔改造が行われたようだ。

 似たようなスキルだからかな?

 

 レベッカに【心眼】を上書きしつつ、俺の【診断】がどう変わったか見てみる。

 

 

「んっ……んっ!? ちょっ……待って……」

 

 

 上書きしたら突然、レベッカの頬が赤く染まり、息づかいが荒くなっている。

 大丈夫かな?

 

 

『名前:レベッカ

 戦闘スキル:(なし)

 

 特技スキル:

 商人:鍛冶  LV10

 商人:心眼  LV17 (絶好調)  ←NEW!!

 商人:仮装備 LV18』

 

 

「えっ? 【鑑定】が【心眼】になっている? スキルが超強くなってる……フィーグの力なの?」

 

「スキルが強化されたのは、レベッカが今まで頑張ってきたからだと思う。このお店をずっと手伝って来たんだろ?」

 

「う、うん……ありがとね」

 

「気にしないで。で、スキルはどう?」

 

「えっとね、もしかしてこのスキルって、前よりいろんなことが分かるのかな?

 この、勇者印の装備は私の勘だと、超ろくでもない物だけど、これ鑑定してみるね」

 

 

 レベッカはリリアの装備に目をやった。

 スキル【心眼】が起動される。

 

 レベッカが鑑定スキルを使うとき、瞳の色が変化する。

 俺は子供の頃から、その瞳がとても綺麗だと思っていた。

 

 普段は深い青色が、鮮やかな赤色に変化するんだ。

 

 しかし、今は……レベッカがスキル【心眼】を起動すると——彼女の瞳は、虹のような七色へ変化した。

 とても神秘的な、引き込まれるような虹色に。

 

 

「す、すごい。フィーグっ! このスキル【心眼】……素晴らしいわ!」

 

 

 レベッカがぱあっと笑顔になって言った。

 鑑定した装備の情報が、心眼にありありと映っているようだ。

 




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第27話 幼馴染みの装備屋(2)

「す、すごい。フィーグっ!

 このスキル【心眼】……素晴らしいわ!」

 

 

 レベッカは感激した様子で言った。

 

 

「でも、だからこそ分かる。やっぱダメだよ、これ。

 リリアさんよくこれ装備して戦ってたわね」

 

「どういうこと?」

 

「それはね——身体に触れるとよくない金属まで含まれている。肌が強いひとはいいけど、弱い人は腫れても仕方ないわ。見た目を良くするためだけにこんなこと……」

 

 

 装備名:勇者印の鎧

 エンチャント:マイナススキル【毒性】 (表面に塗られた塗料のため、肌が弱い者が長時間触れると、肌の異常、腫れや出血を引き起こす。防御力−10%)

 品質:低

 

 

「マイナススキル……そんなものがあるのか?」

 

「うん、私にはそう見えるの」

 

「しかも、こんなものを高額で売っていたと」

 

 

 強い装備だと勘違いして購入し、戦いに挑んだら……命を落とす可能性だってある。

 

 

「やっぱりこんなもの……転売品を加工したものなんてウチに置かなくて良かった」

 

「真面目に正直に商売をやってたんだな。レベッカらしいな。すごいよ」

 

「そ、そうかな? 普通にしてただけだけど……」

 

 

 急にレベッカはしおらしく、頬を染めたが、すぐに顔を上げ俺を見つめる。

 

 

「でも、このスキルすごいよ。なんでも分かるの。フィーグ、ありがとうね」

 

「もともとレベッカのスキルだ。それをちょっといじっただけ」

 

「だったら、いいけどね。装備屋なのに品揃え悪くなって……お客さん来なくなっててどうしようかって思ってたの。

 でもね、このスキルがあれば、新しく鑑定屋だってできるかもしれない。良いものと悪いものをもっと詳しく区別できる。

 本当に……ありがとう」

 

 

 涙目になって俺を見上げるレベッカ。

 今まで、俺が思ってた以上に辛い目に遭っていたのかも知れないな。

 

 

「リリアさんの鎧だけど、加工も良くない。雑な仕事すぎるわ。こんなのおじいちゃんが見たら何て言うか」

 

「そういえば、おじいさんの話も聞いてみたいな」

 

「そうね、うん、わかった」

 

 

 レベッカは再び少し目を伏せつつ、俺たちを店の奥にある工房に案内してくれた。

 どうやらじいさんは、装備の製作で急に失敗が多くなったらしい。

 

 それでも無理しながら作業していたら、火花が飛び散り火事になりかけたこともあるという。

 

 

「冒険者ギルドや神殿で診てもらおうと言っても、おじいちゃん聞かなくって」

 

「レベッカのじいさん、ちょっと頑固なところがあったからな」

 

「ふふっ。前ね、フィーグと一緒に工房に忍び込んだこと覚えてる?」

 

 

 覚えている。

 じいさんに見つかって滅茶苦茶怒られたのはいい思い出だ。

 

 レベッカと懐かしい話題に花が咲いた。だけど冷たい視線を感じ振り向く。

 

 そこには、ジト目で俺たちを見るリリアがいる。

 

 

「あの、リリア?

 どうしてそんなに頬が膨れてるんだ——?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

 

 一方のレベッカは得意げな顔をしている。

 

 鍛冶をしているわけでも無いのに、リリアとレベッカの間に火花が飛び散っているのが見えたような気がする。

 

 そんな様子にどうしようかと思っていると、何やら俺のスキル【整備(メンテ)】が何か言っている。

 

 

《心眼の状態をより詳しく鑑定する性質を用いて、【スキルメンテ:診断】を魔改造することが可能です。魔改造します》

 

 

 ん?

 スキルが勝手に動いている。

 

 

《成功しました。【スキルメンテ:診断】は、対象の状態(ステータス)を診断できるようになりました》

 

 

 状態?

 なんだろうそれは。

 

 ちょっとレベッカで試してみよう。

 

 

『名前:レベッカ

 状態スキル:

  身体:正常

   →【詳細】

  生死:生

  精神:正常』

 

 

 おっ。状態スキル:身体の【詳細】が見られるようになっている。

 早速詳細を見てみよう。

 

 

『名前:レベッカ

  状態スキル:

   身体スキル詳細:

    年齢  16歳

    身長 159センチ

    体重  49キロ

    BWH 88:59:80』

 

 

 お……おう。

 こ、これは……。

 

 いや、なんだか悪いことをしてるような気分になってきた。

 俺は頭を横に振り、邪念を追い払う。

 

 

「フィーグ? どうしたの?」

 

「いいいいいい、いや、なんでもない!」

 

 

 俺は目を逸らし、空中に視線を漂わせた。

 なるほど、人の状態を知ることができるようになったのか。

 

 生死と、精神状態が分かるようになったようだ。

 どういう時に役に立つのだろう?

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 工房についた。

 いつもはじいさんが鉄を打ち付ける音がするのだが、今日は静かだ。

 

 

「おじいちゃん! フィーグが久しぶりに来てくれたの」

 

「こんにちは。お久しぶりです」

 

「あぁ? フィーグだと? 悪ガキめ、何しに来た!?

 年長者の話を聞けないこの馬鹿者が!」

 

 

 工房に入るなり、罵倒を浴びせられた俺。

 

 元々は、こんな悪態をつくような人では無かった。

 いったいどうしたんだ?

 

 




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第28話 幼馴染みの装備屋(3)

 いきなり馬鹿者と言われてしまった。

 ずいぶん機嫌が悪いな。

 出直した方がいいのか?

 

 

「さっきの女もそうだ。

 なーにが、棍棒に釘を打ち付けてくれるだけでいいだ!

 ワシを舐めやがって」

 

 

 ぶつぶつとおじいさんが言う。

 ん? 棍棒に釘……釘バットのことか?

 

 でも、このじいさん、調子が悪いって言っていたような……?

 実際、言葉の割に声に張りがない。

 前はもっとデカい雷を落とされたような記憶がある。

 

 

「まあまあ、おじいちゃん。完成まで随分待っていただいたのだから——」

 

「うるさい!

 いつもの儂なら……ぶつぶつ」

 

 

 やっぱり。不調を感じているようだ。

 レベッカの辛そうな表情は、じいさんの不調と、こうやってキツく当たってくることが原因なのだろう。

 

 前はこんなにしょっちゅう怒鳴る人じゃなかった。

 確かに、悪さをするとめっちゃ怒られたけど。

 

 普段は愛想良く、俺とお茶を一緒に飲みつつも楽しそうに武器や防具の話をしてくれた。

 伝説の聖剣や魔剣を作ろうとしていたとか、そういう楽しげな話だ。

 頑固なところはあったけど気の良いじいさんだった。

 

 それが……今は顔をしかめ、俺を睨みつけてくる。

 敵意を周囲に向け、不要な対立を生んでいる。

 

 

「ふん、どいつもコイツも、馬鹿にしやがって。歳上の者に対する礼がなっとらん!」

 

 

 近頃は品薄によって客も絶え、材料も思うように手に入らないという。

 思うように製作ができない……そのストレスで性格も変わってしまったのだろうか?

 もしかしたら、スキルの不調も影響している?

 

 スキルの暴走が、性格も変えてしまう?

 

 もしスキルの不調があるなら、俺が解決できるかもしれない。

 俺は、じいさんに近づき、スキル整備(メンテ)をしようと触れようとした。

 

 

「まあまあ、色々言いたいことはあると思うけど。ちょっと触れさせて貰えればすぐ治って——」

 

「フィーグ!

 たかだか17やそこらの小童(こわっぱ)が。儂に何するつもりだ!

 ええい、離れろ!!

 年長者は敬うもんだ!」

 

 

 ダメだ。徹底的に嫌われている。

 そういえば爺さんも鑑定スキルを持っていたっけ。

 

 久しぶりなのに俺の年齢を正しく言ったのは、鑑定スキルのおかげかもしれない。

 さてどうしようかと悩んでいると、レベッカが申し訳なさそうな表情で俺に話しかけてきた。

 

「フィーグ、ごめん。

 今日は無理みたい。また機嫌の良いときに来てもらえないかしら」

 

 

 彼女の言葉尻を捉え、またじいさんが怒鳴る。

 

 

「ワシが機嫌悪いだと?

 黙れ黙れ黙れ! どいつもこいつも……勝手に儂を悪者にしやがって!!

 年長者を敬うことも知らぬヤツが指図するな!」

 

「おじいちゃん——」

 

 

 レベッカが涙目になってうつむく。

 この様子ではいつ来ても同じだ。

 

 俺は、レベッカの頭をぽんぽんと撫でる。

 

 

「上手く製作ができないのはスキルの不調かも知れない。一度、スキル診断してみたい」

 

「う、うん……でも」

 

 

 レベッカは深く溜息をついた。

 四六時中こんな様子なら、身内でも肉親でも、心が参ってしまうかも知れない。

 

 ふと、振り返るとリリアも心配そうな面持ちだ。

 

 だけど、リリアの顔を見て、ふと思いついたことがあった。

 

 

「はい? どうしました?」

 

 

 俺は、ごにょごにょとリリアに耳打ちする。

 するとリリアは目を丸くし、俺を見返してきた。

 

 

「えっ? 私が——おじいさんに?

 命令するんですか?」

 

「うん」

 

「わ、私みたいな部外者でも平気でしょうか?

 すごく機嫌悪いみたいだし、初対面ですし——」

 

「いいから。きっと大丈夫だよ」

 

 

 おずおずとゆっくり爺さんに近づくリリア。

 すぐに爺さんはリリアを睨み、厳しい言葉をぶつける。

 

 

「ふん、工房にそんなひらひらした格好して来やがって。これだから小娘(ガキ)は。

 今すぐここを出ていけ!!」

 

「あの、おじいさん、私の話を聞いていただけませんか?」

 

「ふん、小娘(ガキ)が。

 年長者を敬えと——」

 

 

 爺さんがスキルを使ってリリアを鑑定しはじめる。

 俺の計画通りになると思う。

 

 念のため俺もリリアを診断してみよう。

 

 

『名前:リリア

  状態スキル:

   身体スキル詳細:

    年齢 160歳……』

 

 

 リリアを鑑定したじいさんは、ガタガタと身体が震えはじめ、目を丸くして慌てはじめた。

 後ろに数歩後ずさる。

 

 

「ひゃひゃひゃ、160歳?? ワシより歳上だと?」

 

 

じいさんが年齢に驚いているが、俺もサイズを……ではなくて、リリアの診断の続きを確認して驚く。

 

 




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第29話 幼馴染みの装備屋(4)

 俺が驚いたリリアの状態とは……。

 

『名前:リリア

 状態スキル:

身体スキル詳細:

    年齢 160歳

    身長 154センチ

    体重  15キロ

    BWH 83:57:74』

 

 

 体重欄に目が釘付けになる。なんだこの数字……。軽すぎないか?

 確かにエルフは、雪の上を歩いても沈まないとかおとぎ話であったような気がする。

 そうか、あの軽い身のこなしはこれか。

 

 それはともかく、年齢が160歳。

 予想通りとは思ったけど、リリアは見た目も中身も16歳くらいにしか感じられない。そのだいたい十倍だ。

 

 

 

「ひゃひゃひゃ、百六十歳??」

 

 

 爺さんが目を丸くしてぶつぶつ言っている。

 

 

「なあ、じいさん、年長者の話を聞くんだろう? じいさんが言ってたよな?」

 

「ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬぬ。

 こんな子供が……歳上……?

 納得できん……百六十……歳?」

 

 

 いまだに信じられない様子だ。

 爺さんの瞳が赤く光っている。鑑定スキルを何度も起動しているようだ。

 

 リリアの性格などを知っている俺でさえ、百六十年も生きているとは思えない。

 見た目もレベッカより少し幼く見えるくらいだ。

 まあでも、あえて、エルフということは黙っておこう。

 

 爺さんの変貌ぶりにリリアはちょこんと首をかしげている。

 

 

「あ、あの、どうかされましたか?」

 

 

 じいさんはわなわなと震えながら、ついに観念したようだ。

 

 

「……わ、分かった。リリア()()、な、何でも言ってくれ……ください」

 

 

 自分の二倍以上の年齢の人物を前に、じいさんは妙にしおらしくなってしまった。

 腰を低くしている。

 年齢マウントをカウンターで返された、そんな感じなのだろうか。

 

 

「は、はあ……じゃあ、フィーグさんの言うとおりにしていただければ」

 

「わ、分かりました」

 

 

 すっかり小さく、丸くなったじいさん。

 敬語まで使っていて、ちょっと面白い。

 

 とはいえ、許可も得たことだし俺は遠慮なく爺さんに触れ、スキルを確認した。

 

 

《名前:マックス・ラウ

 職種スキル:

  鍛冶  LV89(警告! 暴走状態)

  全鑑定 LV70

  仮装備 LV49

 

 身体スキル:

  身体:正常

   →詳細

  生死:生

  精神:

   苛立ち

   心配症》

 

 

 やはりスキルが暴走している。

 スキルが治れば精神状態も落ち着くかもしれない。

 随分無理をしたのだろうか。

 

 材料が不足していたというし、失敗できないというプレッシャーもあったのかも知れない。

 しかし……最近暴走している人妙に多いな。本来、こんなに暴走なんかしないものなんだが……。

 

 俺はスキルメンテを起動する。

 ついでに魔改造も試してみよう。

 

 

《——スキル【鍛冶】の整備完了。

【鍛冶】は【心眼】のスキルと、マックス本人の()()により【特殊能力付与(エンチャント)製錬】に魔改造されました》

 

 

 爺さんの沈んでいた瞳に光が宿る。

 そして自らのスキルの変化を感じ取り、顔に驚きとも歓喜とも取れるような表情が浮かぶ。

 

 

「ぬおおおおっ。フィ、フィーグ! ——これはなんぞ?」

 

「俺のスキル【魔改造】だよ。

 今まで通り、武器や防具が作れるようになったと思うし、武器にスキルを付与できるようになったと思う」

 

「……な、なななななんと……ッ……特殊能力付与(エンチャント)じゃとぉ?」

 

 

 声がうわずっていた爺さんは、いてもたってもいられない様子で金槌を手に取り、金属を打ち始める。

 

 いつものキン、キンという音が工房に響く。

 これまでと比べて、力強く頼もしい音だ。

 

 しばらく金属を打ち続け、うんうんと頷いている。その出来に納得したようだ。

 振り返って、俺を見てまたうんうんと頷いている。

 

 

「フィーグ、さっきは声を荒げて悪かったな。

 これは……大変な力だ。フィーグのおかげだ」

 

「いや、爺さんの力さ。そのスキルですごい武器を作って貰えると嬉しい」

 

「あぁ……ああ!

 詫びの代わりというわけではないが、儂がいくらでも武器を鍛えてやる。

 いつでも頼ってくれ!!」

 

「じゃあ、俺の短剣とリリアの武器防具を鍛え直してくれないかな?

 溶かして作り替えてもいいけど、できそう?」

 

「フン、誰に言っている? もちろん!」

 

 

 俺の愚問に、嬉しそうに答えるじいさん。

 少し思案してじいさんは続ける。

 

 

「明日一日やって明後日にはできるだろう」

 

 

 随分早くできるんだな。

 俺たちの様子を見てレベッカにも笑顔が戻った。

 

 

「おじいちゃん! よかった……!

 じゃあ、材料は私がなんとかするから。

 フィーグにもらったスキルを使うわ!」

 

 

 じいさんが俺に手を差し出してきた。瞳が潤んでいる。

 

 

「世話になったな、フィーグ。

 しかし【能力付与(エンチャント)製錬】とは。

 

 このスキルを持つ鍛冶屋は、この国でも数人しかおらんという話だ。

 儂も努力したが、なかなか身につかなくてなァ」

 

「じいさん、泣いてる?」

 

 

 俺の言葉に、顔を背け涙を拭うじいさん。

 

 

「泣いてなんかないわい。雨だ」

 

「……そうだね」

 

 

 もともとじいさんは頑張ってきたんだ。

 魔改造の時に()()()()()とあったのはそういうことなのだろう。

 

 振り返ったじいさんが俺を笑顔で見つめてくる。

 

 

「フィーグは凄い成長をしたな。

 もう子供扱いはできんよなぁ」

 

「ううん、爺さんに比べたら俺なんかまだ子供だよ」

 

「なかなかモノを言うようになったな」

 

 

 驚きつつも、じいさんは嬉しそうに口元を緩める。

 じいさんの表情は柔らかく、同時に、力に溢れている。

 

 

「……で、フィーグよ。お前恋人はいるのか?

 もしいないのなら、レベッカは馴染みじゃろう? どうだ?」

 

「な、何言っているの! おじいちゃん!」

 

 

 レベッカが慌ててじいさんにツッコんだ。じいさん何言ってるんだ。

 

 

「ど、どうって言われても」

 

「レベッカは悪く思ってないようだし、儂はフィーグなら許すが——」

 

「おじいちゃん! もう……。

 じゃ、じゃあフィーグ、武器は預かっておくから、また明日来てね!」

 

 

 真っ赤な顔をしているレベッカだったが、憑きものが落ちたように明るい表情をしている。

 そんなレベッカに俺たちは工房の外に追い出されてしまった。何だよ急に?

 

 

「なんかバタバタしちゃったな……。でも上手くいきそうだし、武器も新調できそうだ。リリア、帰ろうか?」

 

「あの、少しだけお買い物して帰りませんか?」

 

「うん、そうだね」

 

「はい!」

 

 

 きっと、あの二人は良い装備を作ってくれる。すごく楽しみだ。

 俺たちの背中から、じいさんを応援するレベッカの楽しそうな声と、軽快な金属音が賑やかに響いていた。

 





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第30話 幼馴染みの装備屋(5)

 

 翌日の昼過ぎ、新しい装備を早く見たいと待ちきれなかった俺は、レベッカの装備屋に向かった。

 工房の方にレベッカと出かけると、じいさんが出迎えてくれる。

 

「おお。フィーグ、来たか……魔改造してもらったスキルだが、コイツはすごいな

 【能力付与(エンチャント)】だぞ! 【能力付与(エンチャント)】!

 腕が鳴ってしょうがないわ!」

 

「昨日からずっとこんな調子なのよね。もう何回もエンチャントォ!! って、言ってるの」

 

 

 呆れた様子のレベッカだけど、口元がニヤけている。

 彼女の心配事がなくなったのだろう。昨日までと違い、とても晴れやかな笑顔だ。

 

 幼いときの屈託のない、俺が好きな笑顔だ。

 

 

 それにしてもさぁ。

 じいさん……たった一晩のうちに印象が変わってないか?

 なんか、筋肉がもりっとしていて、身体が一回り大きくなったような。

 十歳くらい若返って顔つきもザ・職人て感じだ。

 

 ずっと金属を打ち続けているのか、煤まみれになりながらも、とても元気そう。

 

 

「それで、装備は……?」

 

「フィーグ、すまんな。つい興に乗ってしまってな。

 まだできてないんだ。また明日にでも来てくれんか?」

 

「俺も手伝います」

 

 

《【特殊能力付与(エンチャント)製錬】 LV99 起動》

 

 昨日じいさんに上書きしたスキルが残っていたので試行(テスト)で発動する。

 

 

「うん? フィーグに鍛冶ができるわけがないだろう?」

 

 

 俺は予備の道具を見つけ、作業を始めた。

 もう何年もしていたかのように、思い通りに武器を鍛え始める。

 爺さんが目を丸くしつつも、厳しい目つきになり俺の隣に並んだ。

 

 

「クソッ。ワシよりも上手に工具を扱いよるか。負けてられんな」

 

 

 じいさんは俺と張り合うように作業を始めた。

 こうして、俺たちは二人で競うように装備の精錬を進めたのだった。

 

 

 しばらくして。

 俺たちは汗だくになりながら、一通りの武器の精錬を完了させた。

 

 リリアの剣だが、溶かして身体に悪い物質は取り除いている。

 形状は前より細身にして、振り回しやすいようにした。

 

 そして能力付与(エンチャント)だ。

 エンチャントについては【魔改造】と同じように狙って特定の能力を付与することはできない。

 

 完成した後で鑑定することで、どんな能力が宿ったのかようやく分かるのだ。

 ただし、これから装備する者が望むものが付与されることが多いという。

 

 

能力付与(エンチャント)って、まるでガチャみたいだね。んーっと……これはSSRエンチャントね!」

 

 

 ガチャ? SSR?

 レベッカに話を聞いたところ、魔法を使ったゲームがあるそうで、その中での用語らしい。

 

 

『武器名:ハンティングソード

 エンチャント:スキル【報復者(フラガラッハ)】1戦闘に1回使用可能』

 

 

 【報復者(フラガラッハ)】とは、あらゆるものを切り裂く能力らしい。 なかなか強力なエンチャントが付与されている。

 例え鎧だろうと岩だろうと空間ごと切り裂くらしい。

 リリアらしくない、物騒なスキル名だな。

 

 次は俺の武器だ。

 

 

「これはSRエンチャントかな?」

 

 

 SR……少し落ちるってことか。

 

 

『武器名:短剣(ダガー)

 エンチャント:スキル【応答者(アンサラー)】常時起動』

 

 

 このエンチャントは、短剣を投げると敵に突き刺さりダメージを与えた後、自動的に手元に戻ってくる能力だ。

 無限に短剣を持っているような感じだな。

 もっとも、短剣によるダメージは急所に当たらない限りは大したことはないのだが。

 

 最後にリリアの鎧だが、レベッカからの提案を受けることにした。

 昨日、工房を出る前に、実はこんなやり取りがあったのだ——。

 

 

「実は、在庫なんだけど、リリアさんに合いそうな鎧があるの。

 今の金属鎧(プレートメイル)じゃなくて、皮鎧(レザーアーマー)ではあるのだけど——」

 

「防御力は落ちるけど、その分身軽にはなれそうだね。

 剣聖のスキルもあるし……敵の攻撃を避けられるならその方がいいのかも?」

 

「はい。私もそう思います」

 

 

 その鎧を見て、爺さんはやけに力が入っていた。

 

 

「この()()は年長者だからな……儂も本気でやらんとな」

 

 

 まあ、口ではそう言っているが、こと装備の精錬に関しては常に本気で取り組んでいる。

 正直、カッコいいと思う。

 

 ということで出来上がったのは……。

 

 

「これは可愛さSSR、

 エンチャントはRだねー」

 

 

 お、おう……。Rってっことは、普通よりちょっとだけ良い感じかな?

 

 

『防具名:オシャレな装飾付きレザーアーマー

 エンチャント:【探索者(サーチャー)】:一日一回使用可能』

 

 

 これはモノ探しの能力のようだ。

 戦闘自体には役に立たない能力だからRということなのかな?

 リリアが早速試着する。今日はかわいい服ではなく、身軽な格好で、腕に包帯を巻いている。

 

 

「おじいさん……すごく軽くて動きやすいです!」

 

「リリアさん……似合うし可愛い。URだわ!」

 

 

 UR? 確かにリリアによく似合っているし動きやすそうだ。

 レベッカは上機嫌で、大当たりと喜んでいる。

 

 爺さんは「ワシより年長者におじいさん呼ばわりされてもな——」と不満げだが、顔はしっかりデレていやがった。

 なんだかんだ、自分の仕事が褒められて嬉しそうだ。

 

 俺たちは大満足の装備を揃えることができた。

 二人に感謝しつつ、店を後にする。

 これで、本格的にパーティとして一歩を踏み出せる。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 ——レベッカの店は次第に客足が戻るようになる。

 徐々に材料が集まりはじめ、客も戻っていった。

 

 じいさんも、まだまだこれからだと、160歳になるまでは鍛冶を続けるつもりだと鼻息を荒くしているそうだ。

 確かに今のじいさんなら、そんくらいやりそうだな……。

 

 

 後日、レベッカの装備屋を訪ねた時のこと。

 

 

「フィーグっ!!」

 

 

 レベッカは俺の顔を見るとすぐに抱きついてきた。

 あ、あの、レベッカさん? もう子供の頃と違うんで色々当たってるんですけど。

 

 いや、もしかしてこれ当ててんのよってやつ?

 俺の気も知らないで、レベッカは何事もないように俺に言う。 

 

 

「おじいちゃんがいつでも武器のことで困ったら来てくれって言ってたわ!

 本当にありがとう。おじいちゃん信じられないくらい元気になって——フィーグのおかげね」

 

「いや、元々レベッカやじいさんの頑張りのおかげだよ」

 

「そうかな? フィーグってさ、いつもそういう風に言うね……そこが好きなんだけど……」

 

「えっ?」

 

「ううん、何でもない。それで……店もこんなに繁盛して……あのね」

 

 

 もじもじしていたレベッカが、意を決したように話し始める。

 

 

「あのね、今すぐじゃなくても……フィーグ、落ち着いたら店の後継者になってくれないかっておじいちゃんが言うの。

 前一緒に武器を作ったとき、楽しかったみたいで……私も賛成だし、どうかな?」

 

「えっ、継ぐ? 俺が?」

 

「うん……どう?」

 

 

 顔を赤く染めて俺にさらに胸をくっつけてくるレベッカ。

 

 

「と、とりあず、考えさせて?」

 

「うん。ゆっくりで良いからね」

 

 

 その時、レベッカを呼ぶ声が聞こえた。

 

 

「レベッカさん、この武器なんだが……」

 

「あっ、戻らなきゃ。フィーグ、考えておいてね!」

 

 

 装備屋のお客さんらしい。店の中は、沢山の人がいて繁盛しているようだ。

 お客さんに呼ばれて、仕事に戻っていくレベッカを見送って俺は考え始める。

 

 うーん、まだまだピンとこないな。

 冒険者を引退した後ならあり得るのかな……?

 

 随分先のことだけど追々考えていくことにしよう。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 ——それから。

 レベッカの装備屋の噂をあちこちで聞くことになる。

 

 安いものはそれなりに、高価な物は値段以上の性能を発揮する、あらゆる冒険者に最適なお店。

 女性向け可愛い装備品を売るオシャレなお店。

 

 虹色の鑑定眼をもつ、美人の店員がいるお店。

 依頼者の望みを反映した特殊能力付与(エンチャント)を行う、ちょっと頑固な装備職人のいるお店。

 

 悪質な転売商品が市場を席巻したときも、苦境に陥っても、質の悪いものは決して手を出さなかった誠実なお店……。

 

 装備にこだわりがある者は口を揃えて言う。

 

 

「じゃあ、とりあえず、レベッカの装備屋に行っとけば間違いないさ」

 

 

 噂が噂を呼び、レベッカの装備屋は客が途絶えない。

 やがて王都に支店を出すほどになり、王国随一の繁盛を見せる装備屋となっていくのだった——。

 





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第31話 暴走(1)——side 元・王都ギルマス・デーモ

——元・王都ギルマス・デーモ視点

 

 

 数人の騎士と、捜査官、衛兵たちが、王都ギルド本部にやってきた、あの日。

 オレは全てを奪われた。

 

 

「全てフィーグのせいだ。アイツのせいで、オレはこんな目に——」

 

 

 オレはどうしてもボヤいてしまう。

 

 そして——。

 

 

 薄暗い石づくりの冷たい部屋。

 鉄の棒が綺麗に並んでいて、廊下と繋がっている部屋。

 常に監視の目がある部屋。

 

 カビと、かすかな腐臭が漂うこの牢獄にオレ、元王都ギルマス・デーモはいる。

 

 あの日から、何日経ったのだろう。

 最初の十日までは数えていた。しかし……今は記憶も途切れることがあり、無理だ。

 

 尋問と拷問と食事、そして眠るだけの日々。

 

 近くの牢屋には、アクファ同盟の面々がいたのだが、彼らはオレよりマシのようだ。

 あくまでトカゲの尻尾のように切り捨てられたと判断されている。厳しい尋問ではあるが、それだけだ。

 

 強制労働などの罰が与えられるかもしれない。いつ終わるかは別としても、生きていられる。

 

 一方オレは、度重なる拷問による痛みで、夜も眠ることが出来ない。

 もっとも、陽の光など何日も見ていないので、もう日中のどの時間帯なのか分からなくなっていた。

 

 

「デーモ、尋問の時間だ」

 

 

 看守がそう言って牢の鍵を開け、オレを床に繋いでいる足かせを外した。

 牢屋の中では、俺は歩き回ることもできない。

 

 そして、永遠に続くような尋問が始まる。

 

 

「それで、あの魔導爆弾はどこで手に入れた?」

 

 

 拷問官が、鞭でオレの背を打ちながら尋問する。

 

 ビシッ、ビシッ。

 

 鞭が背中を打つ度に、引き裂かれるような痛みが襲ってくる。

 やめろ……やめてくれ。

 いくら言ったところで、尋問は終わらない。

 

 背中はミミズ腫れで酷い見た目なのだろう。

 意識が途切れそうになると、水を顔にかけられ強引に戻される。

 それをひたすら繰り返すのだ。

 

 

「だから……分からないんだ。

 いつの間にか、手にしていて、気がついたらアイツら、アクファ同盟に……」

 

「そんな言い訳が通用すると思っているのか?

 あの魔導爆弾は、王国を危機にさらす危険なものだ。エリゼ殿より、必ず聞き出せとの命を受けている。

 さあ言え! 誰から受け取った!?」

 

「だから……記憶が無いと……」

 

「じゃあ、なんで使い方を知っていた?

 アクファ同盟のやつらごと消そうと、わざわざ起動の呪文を教えていたではないか!」

 

 

 そう言われても事実なのだ。

 魔導爆弾をくれたのは誰か、いつの間にか思い出せなくなっている。

 前は確かに覚えていたような気がするのだ。

 

 魔導爆弾について語り合ったような気もするが……思い出せない。

 

 

「ふん。まあ今日はこれくらいにしておいてやるか」

 

「えっ?」

 

 

 オレは喜びと同時に不審にも感じる。

 始まって間もないのに終わり? いつもは、もっと何倍も時間をかけているのに。

 

 

「おっと、終わると言っても、俺の出番がという意味だ」

 

「な……なに……?」

 

「さすがにこのままでは埒が明かないからな。助っ人を呼んだ。麗しい美女に相手して貰えるんだ。喜べ、デーモ」

 

 

 美女ねえ……あのエリゼとか言う女騎士か? 確かに美人だったが……あの女は拷問もするのか?

 潔癖に生きてきました、というような典型的な公爵令嬢だと思っていたし、まあ違うか。

 

 その予想は、当たっていた。

 

 

「はーい。デーモさん。こんばんは♡」

 

「おわあああっ!!」

 

 

 突然女がオレの前に現れたので、思わず悲鳴を上げてしまった。この国でも珍しい黒髪の女だ。

 肌が多く露出した水着のようなドレスを身につけている。

 

 確かに美人だ。しかし、瞳は鋭く光り、口元の笑みは妖艶でありながら、どこか恐ろしくもある。こんな奴は見たことがない。

 

 

「ふふ……。私の名前はサートナよ。よろしくね♡ どうですぅ? 私みたいな可愛い子ちゃんが来るとは思わなかったでしょう?」

 

「くっ。何だお前は……?」

 

「あらあらぁ。まだまだ元気そうですねえ♡ じゃあ、じっくり……時間をかけて楽しみましょ」

 

 

 その女は、その柔肌に似つかわしくない、鈍く光る金属製の棒を持っている。その先は鋭く尖っている。

 

 

「おい! やめろ!! 何をするつもりだ!!!」

 

「うふふ……安心してくださいねぇ。私は優しくしますから。デーモさんの大事なところは傷つけませんから……ねっ♡ そ・の・か・わ・り、色々思い出してくださいねぇ」

 

「ひいっ」

 

「うふふふ……」

 

 

 サートナが口元を緩め、舌なめずりをしている。

 こいつ……。

 

 拷問官は二種類いると聞く。仕事として淡々と行う者と、こいつのように拷問を楽しむ奴だ。

 そんな噂を自分の身をもって確認することになるとは。 

 

 

「じゃあ始めますねえ〜。まずは、魔導爆弾の入手経路についてお聞きしつつ、遊びましょう」

 

「待て。やめてくれ! 頼むから!!」

 

「問答無用〜♡」

 

 

 オレは必死に抵抗するが、手足が拘束されている以上、逃げられない。

 

 

「うふふ、いい顔ですわねえ。では、スキル【混乱(コンフュージョン)】起動!」

 

「ぐっ……グアッァッ……」

 

 

 世界がぐにゃりと歪み、頭の中をかき回される感触がある。

 精神に影響をおよぼす魔法を受けている。

 

 

「はあいデーモさん。お薬ですよぉ♡」

 

 

 体内に差し込まれる異物の感覚に、オレの身体がのけぞる。

 

 

「ぐが……」

 

 

 世界が真っ白になった。かと思えば、色とりどりの蝶が舞い、かと思えば突然山のてっぺんに立ち身がすくむ。

 痛みと頭の混乱で狂いそうになる……が、それさえ許されず、精神を蝕んでいく。

 

 

「拷問を楽しむやつほど厄介な奴はいない。奴らは、人間の限界を知り、そのギリギリまで精神を追い込むからな」

 

 

 噂は本当だったのだ。

 

 オレは何回もの精神攻撃を受けた。

 永遠のような長い時間、俺は肉体的な痛みとは別の、精神的な苦痛を受け続ける。

 

 

 そして。

 

 どれくらい時間がかかったのか分からないが、突然意識がハッキリとし、頭がクリアになった。

 

 これは……。

 まさか……。

 

 記憶が蘇った?

 

 不鮮明なヴェールに包まれた映像が、今ハッキリと頭の中に思い浮かぶ。

 俺が黒い禍々しい丸い塊を受け取った時のこと。

 

 まるで、たまごのような黒いものを、オレは確かに()から受け取った。

 

 そうだ。

 

 俺に魔導爆弾を渡してきたのはアイツ。

 

 勇者アクファだ……。

 

 やっと思い出した——。

 



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第32話 暴走(2)——side 元・王都ギルマス・デーモ

 

 気がつくと、手足が枷に繋がれた状態で牢屋に寝かされていた。

 

 どうやら拷問は終わったらしい。

 気を失ったことで終わったことなど一度も無いのだが……。

 

 

「へっ、お前……生きてたのか」

 

 

 口の悪い看守が、オレに哀れみの目を向けてくる。

 

 

「あ……ああ……そのようだな」

 

「いくら水ぶっかけても起きないから、もう意識が戻るなんて思われていなかったようだぜ?」

 

 

 なるほど、死んだかもう意識が戻らないと思われて拷問が終わったということか。

 お優しいことだ。

 

 

「ぐっ」

 

 

 オレはひっきりなしに続く背中、いや全身の痛みに気が狂いそうになっていた。

 こんなんだったら、意識が戻らない方がマシだ。

 

 その時。

 

 

 ——ガシャン。

 

 鉄の扉が開く大きな音がして、誰かが入ってきた。

 見覚えのある姿、顔。

 

 

「勇者アクファ様、手短にお願いします」

 

「ああ、分かった」

 

 キイ、と錆び付いた牢屋のドアが開き、その人物が入ってきた。

 勇者アクファ……。オレを破滅に追い込んだ男。

 

 オレは床から起き上がる気力をもう失っていた。

 

 

「いいザマだな。デーモよ。

 大変だったなぁ」

 

「勇者アクファ……あんたがフィーグとかいう男を追放したはずなのに、どうしてオレがやったことになってるんだ?

 しかも魔導——」

 

 

 オレの言葉を遮るように勇者アクファがまくし立てる。

 

 

「はて? 何のことやら。お前がやったことだろう?

 だいたいお前が捕まったせいで、あのエリゼという騎士がギルドの改革を始めやがった。そのおかげで俺サマは収入が減ってしまったんだが?

 

 俺サマの印を付けた装備品も、全部田舎町に送られて精錬し直しているって話じゃないか?

 これで間抜けな冒険者の女を騙して抱けなくなってしまった。

 どうしてくれるんだ?」

 

「……お前……オレを陥れておきながら何を言っているんだ?」

 

「フン。俺サマをお前呼ばわりか……。

 まあいいさ、変に思い出されても面倒だしな」

 

 

 勇者アクファの瞳が妖しく光る。

 

 

「【勇者:祝福(ブレス)】スキル、起動」

 

 

 勇者アクファの身体から、黒い霧のようなものが沸いてオレの周囲を囲んだ。

 身体が言うことをきかなくなる。

 

 呼吸が速くなり、体中の傷がうずき出す。

 

 

「ぐッ……はっ?」

 

 

 この身体の状態はまるで呪いのようだ。

 これが祝福(ブレス)

 

 

「アクファ、お前……一体何を?」

 

「わはははは。どうした?

 我が勇者スキル【祝福(ブレス)】だぞ? もっと喜べよ!」

 

「く……苦しい。まさか、勇者スキルが暴走しているんじゃないのか?」

 

「だったら……?」

 

 

 開き直ってやがる。こいつ、自覚があるのか?

 

 オレは息苦しくなってきた。

 呼吸は速まるのだが、一向に苦しさがなくならない。

 視界もぼんやりしてきていて、暗くなってきている。

 

 勇者アクファの声が続く。

 

 

「暴走? それがどうした?」

 

「何ッ? お前……本当に……勇者アクファなの、か?」

 

「何を言ってるんだ? 俺サマは何も変わらないぞ?

 魔導爆弾も不発だったようだなぁ。ボンクラフィーグが解決したって? アイツの方も早めに始末しないとな」

 

「…………!!

 ぐぅ……」

 

 

 オレはついに息を吸えず、呼吸ができなくなった。

 冷たい床に突っ伏し、身動きが取れない。

 

 そうだ、看守は?

 せめて魔導爆弾は勇者アクファからもらった物だということを伝えなければ。

 コイツのせいで、オレは惑わされ、手を出してはいけないところに手を出してしまったのだと。

 

 僅かに顔を動かして見ると、あの口の悪い看守が眠っている。

 この国の看守や兵士たちは優秀で勤勉だ。眠るなんて事は今まで無かった。

 いったい何が起こっているんだ?

 

 

「キサマ……勇者アクファ……貴様ァ!」

 

「まあ運が良ければ生きているかも知れないな。いや、それは無いか」

 

 

 カツッ、カツッ……。

 勇者アクファの足音が遠ざかっていく。

 

 ガシャン!

 

 扉が閉じる音を聞いた時、俺の意識は闇の底に沈んでいく。

 もう二度と浮かび上がれない闇の奥底へ——。

 





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第32話 令嬢の行方

 

 装備屋レベッカのところでエンチャント付きの武器や防具を揃え、リリアと晩ご飯の買い物をして家に戻った。

 

 

「ただいまー」

 

「お兄ちゃんお帰り!」

 

「お帰り、パパぁ!」

 

 

 妹のアヤメとキラナが俺に向けてタックルをしてくる。

 アヤメはともかく、小さいはずなのにキラナのタックルは強烈だ。

 さすが、竜人族。

 

 

「お風呂にする? ご飯にする? それともキラナとあそぶ?」

 

「ご飯は、まだなんだろう?」

 

「うん!」

 

 

 キラナは屈託の無い笑顔で応えた。

 

 誰だ? キラナに変な言葉使い教えているのは。

 神殿で会う人物が怪しそうだが……まあいいか。

 

 

「今日はアヤメが当番か? 少し遅いし手伝うよ、晩ご飯作るの」

 

「お兄ちゃんありがとう! お願いね」

 

「じゃ、じゃあ私もお手伝いしましてもよくってよ?」

 

 

 ツンデレ口調を思い出したかのようにリリアが言い、

 

 

「私もつくるー!」

 

 

 キラナも続いた。

 そんなこんなで、楽しく料理を作りながらつまみ食いをして……満足して作った料理に舌鼓を打ったのだった。

 

 そういえばキラナは食べなくても良いけど、食べてもいいらしい。

 竜がそうであるように、精霊と同じようにエネルギーは空気からでも得られる。そのため食事は必須ではないけど、食べてもそれを消化できる。

 その辺りは、人間と変わらないらしい。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 それから数日後。

 俺とリリアは目の下にクマを作った状態で冒険者ギルドに来ていた。

 

 満面の笑顔をしたフレッドさんが、新たな依頼書を俺に渡してくる。

 フレッドさん、なんだか顔がテカテカしてるな。

 これ絶対、ギルドの収入で夜の街に出かけてるだろ?

 

 

「じゃあ、フィーグ、次の依頼(クエスト)よろしく〜」

 

「ちょっ……フレッドさん、人使い荒すぎでしょ。ブラックギルドじゃないですか」

 

 

 最近、俺を名指する依頼が増えていた。

 依頼主は洗濯職人や家具職人、農家や建築職人、兵士など。

 

 ほぼ全てがスキルの異常だったので、問題無く片付けることが出来る。

 レベッカの所みたいに、リリアが問題の解決をすることがあった。

 

 依頼の報酬はもちろんお金なのだが……それだけではなく、整備されたスキルで作ったお礼の品を受け取ってくれと言われることも多い。

 

 おかげで俺の家には、人をダメにするソファや、人をダメにする布団、

 人をダメにするコタツとかいう暖房器具などが差し入れされている。

 

 さらに、建築業を営んでる依頼人によって、リフォームされ、リリアの一人部屋が増設された。

 

 アヤメの学費を十分に支払えるだけの収入を得たし、依頼人から食事に誘ってもらったり食材を貰うことも増え、食べることにも苦労はしなくなっていた。

 

 とはいえ。

 あまりの仕事の多さにリリアも抗議の声を上げる。

 

 

「私も手伝ってはいますが、フィーグさん昼の仕事でクタクタになって、

 最近夜、元気ないんですよ」

 

「夜、ねえ?」

 

「フレッドさん、そういう目で俺たちを見るのやめてもらっていいですか?」

 

「へいへい。だいたい、断ってくれても良いって言ってるんだけど全部受けてくれてるのはフィーグの方だぜ? 適当に断ってくれたら一気にホワイトギルドだ」

 

「うーん。断れない……この街のことなら……小さい頃から世話になったし」

 

「まあ、でもその様子だとちょっと無理させたみたいだな。依頼の募集も含め考えて見るよ。

 だがこの依頼はフィーグ、お前が求めていたクエストかも知れないぜ?」

 

 

 フレッドさんはウインクをして俺たちにクエスト依頼書を見せてくれた。

 

 

『依頼主 :王都  フェルトマン伯爵

 

 依頼内容:行方不明の元婚約相手、エリシス・ブラントを探して欲しい。

      発見したら連絡を入れること。

      直接彼女と話をしたい。

 

 報酬  :十万ゴールド』

 

 

「へえ、王都のクエストも連絡があるんですね」

 

「ああ。こっちに回さないバカがいなくなったからな。風通しが良くなってやりやすいよ」

 

「で、これがどうして俺が求めているクエストなんですか?」

 

「このエリシスっていう令嬢だが、強力な神官スキルが使えるらしい。でも、それがどうも、最近になってうまくいかなくなったようだ」

 

 

 そう言ってフレッドさんはもう一枚、俺にクエスト用紙を渡してきた。

 

 

『依頼主 :

 エリシス・ブラント

 

 依頼内容:

  スキルの整備ができるものがこの街にいると聞く。

  わたくしのスキルを整備して欲しい。

  キルスダンジョンにいるので、可能なら会いに来て欲しい。

  私の探しているものが見つかったら帰るので、街で待っていてもいい。

 

 報酬  :千ゴールド』

 

 

「この人——」

 

「ああ。貴族が探しているのはこのエリシスという女性だ」

 

 

 なるほど。

 上手くすれば二つのクエストをこなせる。

 

 

「このエリシスっていうお嬢さんだが、ダンジョンに一人(ソロ)で行くくらいの猛者だ。

 もっとも冒険者としての登録はなく、教会の関係だから噂しか分からん。

 

 一人だと危ないこともあるだろう。

 フィーグも、こんな回復役がパーティにいてくれたら心強くないか?」

 

 

 確かに回復系の冒険者が俺とリリアのパーティに欲しいと思っていた。

 これから先、きっと必要になるはずだ。

 

 でも……名前に見覚えがある。この前すれ違った、釘バットを持った神官じゃないか?

 うーん。若干不安はあるけど、とりあえず会って話してから考えてみよう。

 

 口調はとても落ち着いた感じだったけど……釘バット……。

 いや、いいんだけど、あんな形の武器持って入ったら、すぐ神官兵に取り囲まれそうだ。

 

 

「それとな、フィーグ、伯爵はどうやら訳ありみたいだから気をつけて欲しい」

 

「分かりました。ところで、キルスダンジョンってどこにあるんですか?」

 

「フィーグさん、それは私が……知っています。私も一緒に行っていいですよね?

 道案内もできますし!」

 

 

 リリアは、いつもの上目づかいで俺を見上げた。

 

 

「もちろん、リリアも一緒に来て欲しい。

 せっかくパーティを組んだんだから」

 

「はい!」

 

 

 フレッドさんは意気投合する俺たちを見て「いいなぁ。オレも戦いたい」とつぶやく。

 続けて、フレッドさんは真剣な顔をして言う。

 

 

「フィーグ、キルスダンジョンの言い伝え知っているか?」

 

「いいえ」

 

「そうか。

 多分、エリシス嬢もそれが目当てだと思うが、こういう言い伝えがある」

 

 

 もったいぶってフレッドさんが続け……途中からリリアも加わる。

 

 

『——キルスダンジョンの最終守護者(ボス)を倒した者には、所持する全スキルを強化できる。その上新たなスキルの取得も出来るだろう』

 

 

 リリアとフレッドさんが、一字一句違わない「言い伝え」を口にした。

 

 

「スキルの強化と取得……それ本当ですか?」

 

「どうだろうな?

 噂では、スキルは【勇者】という話もあるが、本当かどうかは分からない。

 

 まだ誰もこのダンジョンを攻略できていない。強いご褒美があるのに、とても不人気なダンジョンだ。

 どうも、このダンジョン、立ち入った冒険者のスキルが不調になることが多いそうだ」

 

「【勇者】?

 それも気になるけど……。

 

 スキルの不調が暴走によるものなら、俺がいるパーティなら突破できる——?」

 

 

 そう俺が言ったとき、ぱっと明るい表情をするリリア。

 リリアの瞳が潤んでいる。

 

 

「ぜひ……ぜひ、行きましょう、フィーグさん!!」

 

「あ、ああ。やけにリリア、行きたそうだな。まあ、いいか。まずエリシス……彼女に会ってみよう」

 

 

 俺たちは、キルスダンジョンに向かうことにした。

 でも正直、もし危険なら、エリシスを見つけるのみにしよう。最奥のボスは諦めても良いんじゃないか?

 

 俺はそう考えていた。





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第33話 ダンジョンに仲間を求めるのは……

 キルスダンジョンは、ここイアーグの街から馬車で二週間ほどかかるらしい。

 イアーグの街から見て王都の方向にあり、その間に広がる大森林の奥にあるようだ。

 

 不人気なダンジョンのため定期的に向かう馬車も出ていない。

 でも、俺たちには高速で移動する手段がある。

 

 一旦、家に帰り、神殿での勉強を終えて帰ってきたキラナに話しかけた。

 

 

「キラナ、ちょっと触って良いか?」

 

「あんっ……もう、パパくすぐったいよぉ」

 

「あっ、ごめん!」

 

「ううん、もっと……触っていいよお」

 

 

 などと、俺のスキルを知らない者が聞くと誤解しそうな会話をしながら、【スキルメンテ:複製】を実行した。

 目的はキラナが持っているスキルだ。

 

 

「ふむ。【次元飛翔】実行!」

 

《【次元飛翔】 LV99 発動》

 

 通常空間の飛翔は初めてだ。

 だけど、あっさり身体が宙にうく。

 その様子を見て、キラナは瞳を輝かせた。

 

「パパすごい! 背中から光の羽が出てる! あたしもする!」

 

《【次元飛翔】 LV1 発動》

 

「おおーー」

 

 

 にょきっとキラナの背中の上部の辺りから竜の羽が現れた。

 といっても小さくてちんまりしている。

 人間で言えば十歳くらいの容姿のキラナに相応の大きさだ。

 

 幸い、肩まで大きく開いているシャツを着ていたので、服が破れることはなかった。

 

 羽をパタパタと羽ばたかせると、キラナの身体がふわっと浮く。

 

 

「おおおー! 浮いてるぅ」

 

「おっと!」

 

 

 キラナがふらっとしたので、慌てて抱える。

 安定して飛ぶことが難しいようだ。

 まだLV1だからこんなものなのかもしれない。

 

 

「もう少し練習しないとな。うまく飛べるようになったら、二人で一緒に飛んでみようか?」

 

「うん! 練習頑張る!」

 

 

 キラナは満面の笑顔で答えたのだった。

 なんらかの理由で封印されていたスキルだから、使えること自体が楽しいのかもしれない。

 

 

「うん、でも無理しないようにな」

 

 

 ちなみにキラナのスキル【炎の息(ファイアブレス)】はLV90だ。

 家一軒程度なら簡単に丸焼きにしそうなので、練習は広いところでするようにと念を押しておいた。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆ 

 

 

 俺とリリアはキルスダンジョンに向かっている。

 キラナから複製した【次元飛翔】を使用し、俺はリリアを腕に抱いて飛んでいた。

 

 

 パァン!

 

 飛行速度が音速を超え、俺の後ろで衝撃波が弾ける。

 

 パァン! パァン!

 

 

「きゃあああああ!!」

 

「リリア、下を見ない方が良い」

 

 

 どうやらリリアは高いところが苦手なようだ。

 隙の無いエルフ族だと思ったけど、苦手なものがあるみたいだ。

 

 

「うう……。下を見ないなら、何を見たらいいのでしょう?」

 

「目をつぶっておくとか?」

 

「そ、その方が怖いかも。じゃあ……フィーグさんを見てます」

 

「え」

 

「ふふっ。安心できますね」

 

 

 ううう。すごく恥ずかしいのだけど。

 俺の腕に抱かれたリリアは、ぎゅっと抱きつく。そして、ずっと俺の顔を見てニコニコとしていた。

 

 

 そういえば……。

 これから向かうキルスダンジョンについて、少し気がかりなことがある。

 

 俺が勇者パーティに所属していたときや、その前は、これほどスキルが暴走して困る人は多くなかったはず。

 それが、今ではギルドへの依頼が溢れるくらい異常をきたす人が多くなっている。

 

 何か原因がありそうだ。

 そう考えると、このダンジョンの性質にヒントがあるのかもしれない。

 もしスキル暴走を、このダンジョンがまき散らしていたとしたら……?

 

 このクエストを引き受けたのも、そんな心当たりがあったからだ。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 森が急に開けたかと思うと、少し盛り上がった丘にのふもとにダンジョンの入り口が見えた。

 入り口の近くには簡易な小屋が建っている。

 

 宿泊用の小屋だが、不人気なためか誰もいなかった。

 

 リリアが珍しく休みたいと言ったので、しばらく休憩をした。

 休憩が終わるとやたら元気になったリリアに俺は引っ張られてダンジョンに足を踏み入れる——。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 

 ダンジョンの第一階層は魔物(モンスター)に出会わず、代わりにバラバラに砕かれた魔物の死体が落ちていた。

 ううむ。先行きが不安だ。

 

 あっさりクリアし第二階層に進む。

 

 残念ながら、めぼしい物は特にない。

 

 しかし、通路の各所に血の染みを見かけるようになった。

 大量ではないものの、ちょいちょい見かける。

 

 それを見て、怖いのか俺の後ろから服をつまんで歩くリリア。

 スキル【剣聖:風神】を扱う腕前なのに、かわいい。

 

 対人戦では無敵の強さだったが、はたして魔物だとどうだろう?

 

 ……しばらく通路を歩くと、女性の声が奥の方から聞こえてきた。

 金属音や、聞き慣れない何者かの声も聞こえる。

 戦闘音だ!

 

 

「リリア!」

 

「はい!」

 

 

 俺たちは、女性の声がする方向に走り出した。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 少し広い部屋に入ると、数匹の緑色のオーガが見覚えのある少女を取り囲んでいる。

 紺色の神官着を身に付けている華奢な女性が、()()()()殴打武器を構えて、オーガに殴りかかっている。

 

 エリシスだ。でも、以前見かけた少女と同一人物なのか、自信が無い。

 口調が随分違うからだ。

 

 レベッカの店で会ったときは、すごく丁寧でお嬢様という感じだった。

 それが……どうしてこうなった?

 

 耳から入ってくる彼女の言葉は……なんというか……。

 荒々しい。

 

 

「ぐえっ、こっ、このヤロウ!! 卑怯だぞ!

 この野郎、死ねええっ!!」

 

 

 どこのヒャッハーだよ……。

 隣にいるリリアが気付く。

 

 

「あの武器、レベッカさんのところで見た——!」

 

 

 特徴的な形の棍棒……釘バットを神官が振り回している。

 

 

「うらああああああッ!

 クソッ倒れろよお前らァッ!」

 

 

 めちゃくちゃに釘バットを振り回すエリシス。

 ドカッ、ドカっとオーガに命中するが、たいしたダメージを与えているように見えない。

 

 オーガは打撃を食らい、釘によって引っかかれた皮膚から血が出ている。

 しかしやつらは再生能力があるため、多少の傷はすぐに回復してしまう。

 

 でも、あの戦い方をゴリ押ししていたら倒せそうな気がしてくる。

 それくらい、迫力があった。

 

 

 リリアが目を丸くしている。正直引く。っていうか俺は引いた。

 

 

「あの、フィーグさん……あの人すごいですね。軽く引きました……」

 

「全部、殴り倒しそうな勢いだな。あれでは撲殺神官だ」

 

「撲殺神官……」

 

 

 清楚な見た目や神官着、一方、釘バットと、あらくれ者のような発言。脳みその中で処理できない。

 

 まあ、すっごく変わっている人でも戦力になるなら……。

 うん、アリだな。

 





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第34話 撲殺神官

 

 

 殴り聖職者(アコライト)という存在がいるということは聞いたことがあるけど、撲殺神官と言った方が合っている。

 まるでヒャッハーと叫ぶあらくれ者のような言動にリリアも引いているくらいだ。

 

 

「フィーグさん、貴族の男性にエリシスさんに会わせる依頼ですが……大丈夫でしょうか?」

 

「そうだな。伯爵が今の荒ぶっているエリシスを知っているのか?

 ものすっごーく不安になってきた」

 

「私もです——あっ」

 

 

 リリアが軽い悲鳴を上げる。

 見ると、エリシスが殴りつけた釘バットが、オーガの体にめり込んでいる。

 どうやら肉に食い込み、抜けなくなったようだ。

a

 

「ウエッ?」

 

 

 額に青筋を立てて釘バットを引き抜こうとするエリシス。

 鬼だ。

 鬼の形相だ。

 

 

「ぐぬぬぬう!」

 

 

 荒々しい声とともに、スポッとエリシスが吹き飛んだ。

 

 再び殴りかかるエリシス。

 しかし……。

 

 ボキッ。

 

 釘バットが先端から三分の一くらいのところで折れた。

 よりによってこんなタイミングで武器が壊れるとは、運が無い。

 

 そういえばエリシスはレベッカの装備屋を訪れていた。

 あの時、じいさんはスキルが暴走していたはずだ。

 

 暴走したスキルで加工した武器が壊れやすくなっていても仕方ないかもしれない。

 だが、あの乱暴な振り回し方だと、じいさんのスキルと関係なく壊れそうだな……。

 

 エリシスは鬼の形相のまま、折れた釘バットを呆然として見つめている。

 まるで、悪夢でも見ているかのように釘バットを見つめたまま動かない。

 

 

援護(カバー)します!」

 

 

 リリアが駆け出す。

 素晴らしいスピードでオーガに迫り、エリシスを庇うように間に立った。

 

 俺は、真っ白になって突っ立っているエリシスの方に駆け寄る。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

 うっ、と頭を抱えて倒れそうになるエリシス。

 彼女を抱き抱え、俺は部屋の隅に移動する。

 

 キンッ、キンッと武器がぶつかる音が響く。

 リリアが応戦しているのだ。

 

 リリアの腕前ならオーガくらいなら楽勝だろう。

 ふと、腕の中のエリシスが俺を見つめていることに気付く。

 

 

「えっと……(わたくし)は……?」

 

 

 さっきまでのギラギラしていた目つきはどこかに消え、優しげで儚げな表情をしている。

 潤んだ瞳で俺をじっと見ていた。

 

 

「大丈夫か? 武器が壊れたようだが?」

 

 

 すると、はっと、何かに気付いたエリシスは周囲を見渡し、手にしている血だらけの釘バットに気付いた。

 

 

「わ、(わたくし)()()やってしまったのでしょうか?」

 

「また? 覚えていないのか?」

 

「はい……いつも夢中になると我を忘れて」

 

「夢中? 我?」

 

 

 夢中……。戦闘になると、人が変わる人間も多いと聞くが、彼女のそれは尋常じゃないな。

 

 エリシスを立ち上がらせると、右腕がだらんと下に落ち、握っていた釘バットがぐしゃっと床に落ちた。

 途端に顔色を変え、右腕を押さえるエリシス。

 

 

「えっ……い、痛っ!」

 

「どうしました?」

 

「腕が……うでがッ……」

 

 

 どうやら腕の筋を痛めてしまったようだ。

 よく見ると、神官着の破れたところから見える肌に傷がある。

 

 腕が腫れ始めている。

 戦闘中に怪我をしたのかもしれない。

 

 

「きゃあっ!」

 

 

 ドサッ。

 

 リリアが悲鳴と共に吹き飛ばされてきた。

 その先にいた俺は、リリアに押し倒された格好になった。

 

 

「いたた……」

 

「大丈夫か、リリア?」

 

「はい、平気です……キャッ! ご、ごめんなさい、フィーグさん」

 

「問題無い」

 

 

 リリアはさっと俺の上から立ち上がり、オーガの方向を向いて構えた。

 

 しかし、たかだかオーガごときにリリアの【剣聖:風神】スキルが負けるとは思えない。

 

 

「リリア、どうした?」

 

「フィーグさん、アイツら……切っても切っても治っていって……何体か倒したのですが……」

 

 

 見ると、サイコロ状にになったオーガの身体が転がっている。

 新装備の剣の切れ味はさすがだ。もしかしてエンチャント【復讐者(フラガラッハ)】を使ったのだろうか?

 それにしても、リリアさんも殺意強すぎませんかね?

 

 そういえばエルフはオークやオーガを嫌悪・憎悪しているという話を聞いたことがある。

 願わくは、それを人に向けないでほしいものだが……。

 

 リリアの顔色が悪い。

 彼女も武器を持つ右腕を抱えている。

 

 負傷しているようだ。武器を持てないほどでは無いが、防衛に徹することしかできなさそうだ。

 

 何体か倒したとは言え、リリアを負傷させるオーガの存在……なんか変だと思いつつ、違和感の正体がつかめなかった。

 

 傷を治すポーションは、今持ち合わせが無い。

 まずい。

 オーガが俺たちの方に向き、歩き出している。

 

 俺はエリシスに問いかけた。

 

 

「あの、薬かポーションは持ってないかな?

 神官なら治癒系のスキルを使って——」

 

「それが、今スキルがうまく使えなくて……」

 

「えっ」

 

 

 なるほど。十中八九、スキル暴走によるものか、何らかの制限を受けているかだろう。

 彼女のスキルを診断すればすぐ分かることだ。

 エリシスは、色々と諦めた様子で俺たちに頭を下げた。

 

 

「もうこうなっては……無理です。

 私が囮になるので、お二人はお逃げ下さい」

 

「大丈夫だ。俺に任せて欲しい」

 

 

 オーガと戦って負ければ命を落とすかも知れない。

 かといって、投降すれば何をされるか……俺はともかく女性は食料にされるだけでは済まないだろう。

 エリシスはそれを分かっていながら、申し出たのだ。

 

 俺は彼女の覚悟に応えるため、エレアの肩を抱く。

 そして、自信を持って彼女に伝えた。

 

 

「大丈夫。今だけでもパーティを組もう。それでスキル整備(メンテ)をする。

 リリアは、防衛に徹してフォローを頼む!」

 

「はい!」

 

 

 リリアが俺たちの前に立った。

 ちょっと辛そうだが、俺は俺の仕事をしよう。

 パーティでの、俺の役割を。

 

 俺はエリシアの手を繋ぐ。

 

 

「スキル整備(メンテ)発動!」

 

「あっ……うっ……うん……ダメ……神に仕える私がこのような……」

 

 

 身体をくねらせ、何か言っているが、気にしない。

 俺は淡々とスキルを整備《メンテ》していく。

 

 

 





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第35話 撲殺聖女

「大丈夫だ。俺に任せて欲しい」

 

 

 俺はエリシスの肩を抱き、自信を持って伝える。

 

 彼女のスキルを診断すると、俺の予想通りだった。

 取り急ぎ職種スキルの確認する。

 

 

《名前:エリシス

  職種スキル:

   神官:傷回復(キュア)   LV89 《警告:性能低下》

   神官:防衛聖域(ドーム)  LV81 《警告:無効》

   神官:不死者退転(ターンアンデッド) LV34 《警告:暴走》

   神官:殴打    LV51 《警告:変異して狂戦士状態!》

   神官:祝福(ブレス)    LV71 《警告:暴走》》

 

 

 このスキルの多さはなんだ?

 レベルも高い。神官は一般職だが、エリシスのスキルは上級職の「聖女」に匹敵するのでは?

 

 狂戦士(バーサーカー)状態ってのがちょっとひっかかるけど……。

 さっき、思いっきりヒャッハー、というか様子がおかしかったのはこれが原因だろうか?

 

 

「無理ですよね?

 私が囮になるので、お二人は逃げて下さい。

 私が調子に乗っていたのが原因ですから」

 

 

 囮になり俺たちのために命を捨てる気なのか。

 もちろん、そんなことはさせない。

 

 

「大丈夫だ。君はものすごい力を持っている」

 

「えっ……いいえ、私は……役立たずだから……。

 だから婚約者に捨てられて……」

 

 

 次第に、瞳が曇っていくエリシス。

 俺は、その様子を無視して叫ぶ。

 

 

「スキル整備(メンテ)発動。修復、そして魔改造実行!」

 

 

《順次実行します——成功しました。スキルの修復と魔改造が完了しました》

 

《神官:傷回復(キュア)は、【次元飛翔】の空間を操る能力と、本人の資質により、同一空間に全体に影響を及ぼす《神官:全体大回復(マス・ヒール)》に魔改造されました》

 

 

「あんっ…………あっ?」

 

 

 歯を食いしばって声をこらえているエリシスが切ない声を漏らしている。

 次第に自分のスキルの変化に気がつき、戸惑いの表情を見せる。

 

 

「これは……全体(マス)……大回復(ヒール)……?

 高位の大神官や聖女にしか使えないという伝説の回復術……。

 こ、これがあれば……」

 

「ふう、うまくいったようだな。大丈夫か?」

 

「……あ、は、はい。

 でも、この力は……。本当なのでしょうか?

 信じられません」

 

「間違いなくエリシス、君の力だ」

 

 

 エリシスは驚きのためか、目を見開き口をあんぐりと開けて俺を見つめていた。

 

 

「あ、あなたは神なのですか?

 いいえ……私の仕える神もこんなことはしてくれませんでした」

 

 

 エリシスの声が、訴えるように周囲に響く。

 

 

「何も助けてくれなかった……手を差し伸べてくれなかった……。

 それなのに……あなたは?」

 

「大げさだな。これは俺のスキル、《スキルメンテ》によるものだ。

 たいしたことない。君や、みんなの力が元になっている」

 

「この力が大したことの無い……ですか……?」

 

「うん。沢山スキルを扱える君のほうがよっぽどすご——」

 

「あなたは(まこと)の神だったのですね」

 

「んん?」

 

 

 なんか変なことを言っているぞ。

 その瞬間、エリシスの身体が光ったように見えた。

 

 

《エリシスは信念の変化および感銘により、状態スキル【天啓】を獲得。その力を用いて、職種スキルが魔改造されます》

 

《職階級は上級職に移行。スキルは一律、神官から聖女スキルに改造されます》

 

《聖女:全体大回復(マス・ハイヒール)を獲得しました。

 聖女:聖域(ドーム)を獲得しました。

 聖女:不死者退転(ターンアンデッド)を獲得しました。

 聖女:殴打を獲得しました。

 聖女:浄化を獲得しました。

 聖女:祝福(ブレス)を獲得しました。》

 

 よくわからないけど、きっとすごいことなんだろう。

 とにかくエリシスは神官から聖女になったらしい。

 ぱっと見、何も変わらないようだけど……。

 

 

「え……私が……せ、聖女?」

 

「みたいだな。早速、回復スキルを!」

 

「は、はいっ! 【聖女:全体大回復(マス・ハイヒール)】!」

 

 

 凜とした声でエリシスはスキルを起動を叫んだ。

 パーティに参加している俺たちの体が光に包まれる。

 

 

 ——その時、リリアは窮地に立たされていた。

 甘い蜜に引き寄せられる蟻のように、リリアに近づくオーガ。

 

 

「エルフ……エルフ……ぐへへええ」

 

 

 オーガがリリアの可愛らしい姿に目を細めている。

 美味しそうなおやつを見つけたような目つきだった。

 

 

「ぐっ……! いや、オーガなんて大っ嫌い!

 来ないで……!」

 

 

 あからさまに顔をしかめるリリア。

 心底オーガが嫌いなのだろう。

 

 そんなリリアの体が光を帯びる。

 身体の傷がみるみる塞がっていく。

 

 

「すごい……大回復の全体魔法!!」

 

 

 リリアが腕を見て驚いていた。

 さっきまで負傷し、だらんとしていた腕が完全に元通りに戻っている。

 

 

「フィーグさん、これなら……いくらでも戦えます!」

 

 

 声が弾んでいる。

 リリアの剣はあっけなく、やすやすとオーガを切り裂いた。

 

 すぐにリリアは次のオーガに向けて戦闘を継続する。

 

 しかし……次のオーガ、こいつの様子がさっきからおかしい。

 リリアの攻撃を避けているのだ。

 

 リリアが苦戦しているのは、この個体が原因のようだ。

 確かにこいつだけ、他のオーガと顔つきが違う。

 

 リリアと、この特殊なオーガの1対1(タイマン)

 なかなか決着がつかない。

 

 ただ、エリシスが必要なタイミングで《聖女:全体大回復》スキルを起動して支援するため、リリアが後れを取ることは無かった。

 

 しかし……。

 俺は、隣にいたエリシスが一歩前に踏み出していることに気付く。

 おや、エリシスの様子が……??

 

 

「うず……うず」

 

「どうしたの?」

 

「わ、わたくしも参戦してよろしいでしょうか?」

 

「何言ってんのっ!?」

 

 

 俺は条件反射的にツッコんだ。

 回復役は前に出たら集中的に狙われる。だからこそ、後衛職とも言われる。

 

 しかし、すぐに思い直す。

 エリシスならアリかも?

 





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第36話 実戦初勝利

「ん、エリシスどうした?」

 

「うずうず……フィーグさん、あの……(わたくし)も加勢して良いでしょうか?」

 

 

 エリシスの右手には、折れて短くなった釘バットが握られていた。

 左手にはその片割れ。

 

 短くなったとは言え、見た目は凶悪だ。

 それを両手に装備している。両手の釘バット(ダブルヒャッハー)は、もうどう見ても聖女ではないぞ。

 

 エリシスは貴重な回復役なはずなんだけど、どうしてこうなった?

 

 

「回復魔法の起動もしないといけない」

 

「もちろんです! どちらも頑張りますわ!」

 

「そ、そうか? じゃあ、リリアの支援をたのむ」

 

 んんっ?

 エリシスの瞳がギラつきはじめた。

 

 

「くれぐれも、回復優先でお願いし——」

 

「おーほほほほほほほ!」

 

 

 俺の言葉をかき消し、両手の釘バットを天に掲げて突撃体制に入った。

 

 駆け出すエリシスが迷いなく、恐ろしいスピードで突撃する。

 狂気と正気の狭間で揺れ動いているように見えるが、多分正気だ。あれが素なのだ。

 

 リリアに助太刀(すけだち)するエリシスの姿は狂戦士そのものだ。

 エリシスが聖女? 本当に?

 

 俺が敵だったらビビっちゃうね。

 

 

《天啓状態のため、さらにスキルが進化します。【聖女:祝福(ブレス)】は、暴走状態の狂戦士(バーサーカー)状態と、広範囲魔法を用いて、【聖女:(トキ)】に魔改造されました》

 

 この突撃で、さらにスキルが魔改造されたようだ。

 

 

「加勢しますわよ! うららああぁ! 滅びなさいッ!」

 

 

 い、一応前みたいな暴言というかひゃっはーではなくて、多少はマシな言葉使いになっている。

 でも本質が全く変わってない……な。

 

 

「全軍、突撃!!! ですわっ!」

 

 

 っていうか、全員? 俺も?

 俺は後方で指揮やスキルの整備を行う役目だ。これを譲るわけにはいかない。

 

 エリシスのかけ声に、リリアや俺たちの体が仄かに光った。

 な、なんか力が湧いてきている!?

 

 

(トキ)により、パーティ全員の攻撃力が100%向上しました。

 防御力が100%向上しました。

 体力が回復しました。一定時間自動回復します。

 魔力が回復しました。一定時間自動回復します。

 士気が100%向上しました。

 

 ——士気が正常範囲を超えたため、狂瀾状態になりました。》

 

 

 強力な能力向上(バフ)だが、どうも行き過ぎだ。

 狂瀾状態。確かこれは狂気に近いが、少し違う。

 

 

「攻撃しますっ!! 大嫌いなオーガにだって負けませんッ! ——殲滅します!」

 

 

 リリアの様子がおかしい。あんなこと言う性格だったか? ……それとも本性?

 腕を大きく振りかぶり、オーガに剣を振っている。

 

 しかし、リリアが繰り出すのは無茶苦茶な攻撃に見えて、冷静に相手の動きを見据えたものだ。

 攻撃を避けつつ、剣を繰り出している。これが【剣聖】クラスの剣技か。

 

 エリシスは最初に見かけたときと比べて少し冷静に見える。

 一応、狙いを定めて釘バットを振るっているようだ。

 

 さて、俺なんだが、どうにも落ち着かない。

 

 

「うず……うず」

 

 

 どういうわけか、俺もいてもたってもいられなくなってきた。

 これが狂瀾状態なのか?

 意識を正常に守ったまま、戦闘意欲が高まる。

 

 

「ぬおおおおおおお! 俺にも獲物を残すんだっ! 突撃ッ!」

 

 

 俺はエンチャント:【回答者(アンサラー)】を用いて短剣を投げた。

 短剣はとあるオーガの目に突き刺さり、手元に戻ってくる。

 

 

「グアアアアァァァッ!」

 

 

 戻って来た短剣をシュタッと受け取り、さらに連続して投げる。

 普段の俺はこんなことしない。しかし、今はとにかく、戦闘をしたい。敵を蹴散らしたい。

 

 俺たちの様子に、冷や汗を流しているオーガ。なんか引いている。

 後方で様子を窺っていた数匹のオーガがなにやらザワザワしている。

 

 先頭のオーガは反撃してくる。しかし、攻撃を食らってもエリシスも、リリアも、そして俺も皆、ビクともしない。

 オーガクラスであれば俺たちは一方的な展開に持ち込めるようだ。

 

 

「人間……エルフ……怖ッ」

 

 

 背を向けて逃げ出すオーガたち。

 既に一体ずつ倒していたリリアとエリシスがオーガの群を追う。

 

 

「敵が撤退を始めましたわ。追撃、そして殲滅しますわよっ!」

 

 

 先頭に立ったエリシスが叫ぶ。

 本来は一旦立ち止まり、状況を確認、体勢を立て直して進撃した方が良さそうだが……俺たちを止める物は何も無い。誰もいない。ツッコミ役がいない。

 俺も勢いに任せ、二人の後ろを追った。

 

 

 

 どどどっどどどどどどっ。

 

 

 砂埃をあげてダンジョンの奥に向かっていく二つの集団。

 

 オーガの群とテンションの高い人間+エルフのパーティ。

 集団は第二階層の一番奥に到達する。

 

 

「ナ、何ダアレハ……」

 

 

 ついに、オーガの巣があるエリアに入った。

 さまざまなガラクタがあり、そして恐らくボスであろうオーガロードが現れた。

 しかし……何が起きたのか把握する前に襲いかかる。

 

 逃げ場を失ったオーガたちに、リリアとエリシス、そして俺が次々と斬りかかる。

 全員が前衛だ。

 

 もう無茶苦茶だが、この勢いは止まらない。

 瞳をギラつかせ、口元に残忍な笑みを浮かべ歓喜に身を任せる。

 

 そして、俺たちは獲物を前に目を細めるのだ。

 

 

「「「グヘヘ」」」

 

 

 もう、どちらが魔物なのか分からない。

 物騒な声をあげて、俺たちは哀れな敵に襲いかかった。

 

 

復讐者(フラガラッハ)発動!」

 

「グアッ!?」

 

 リリアは、バフと【能力付与(エンチャント)】がかかった剣を使い、オーガロードを細切れにする。

 オーガロードは、何が起きたのか知る前に、倒されてしまった。

 

 残ったオーガは敗走を始める。しかし、それを見逃すエリシスやリリアではなく。

 結局なすすべもなく、オーガたちは全滅したのだった。

 

 

《戦闘終了につき、(トキ)の効果が消滅しました》

 

 

 戦闘が終わり一息つく。

 狂瀾状態といえど意識は失っておらず、むしろハッキリしていた。

 全員、正気を保ったまま戦っていたのだ。

 

 血のしたたる釘バットを見下ろし、エリシスがつぶやく。

 

 

「はっ。私ったら……いったい?」

 

 

 いや、エリシス。君も正気だったよね?

 

 リリアは肩で息をつきながらも……少し満足そうにしている。

 嫌いなオーガを倒したからだろうか。

 彼女は横たわるオーガの群に顔をしかめつつ、剣の汚れを落とし始めた。

 

 皆、少し疲れているけど嬉しそうだ。

 

 予想外の展開があったたものの、問題無く対応ができた。

 このパーティ構成は……検討の余地があるものの、なかなか良さそうな感じだ。

 

 

 

「私たち、勝ちましたわッ!」

 

 

 エリシスが高々と釘バットを掲げている。

 つられて、リリアも「おー」とか言っている。

 ……こ、これでいいのだろうか?

 

 ともあれ、俺の新パーティの初実戦は、圧倒的な勝利で終えたのだった!

 





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第37話 証拠(1)——side勇者アクファ

「うがああああっ! クソがぁ!」

 

 

 役に立たないパーティメンバーに悪態をつきながら、俺様は【勇者:剣聖】スキルを多重に起動。

 圧倒的な発動スキルの多さにより、オーガロードに切りつける。

 

 数度切りつけ、動かなくなったことを確認し、俺は戦闘の終わりを実感した。

 

 

「はぁっ、はぁっ」

 

 

 パーティメンバーはみな座り込み、休憩を取り始めているのを見て俺様はイラつく。

 

 たったこれしきのことで、息の上がりも早い。

 フィーグがいた頃は、もう少しマシだったはずなのに。

 

 フィーグを追放し、女魔法使いを入れ華やかになった。

 しかし、戦闘においては、苦戦することが多くなった。

 

 たかだかオーガロードくらいで何をこんなに消耗しているのだ?

 戦闘のたびに休憩などされたら、鬱憤だって溜まるものだ。

 

 

「くそ……」

 

 

 とっととこんなところ出て行きたい。

 今日の任務は、このダンジョンに沸いたという数百匹のオーガ群の殲滅だ。

 

最近調子が悪いと言われ、腕試し的なクエストを王家側が依頼してきやがった。

 こんなもの、王家が頼まなければ決して受注しないクエストだ。

 

 俺様はもっと、報酬のいい危険なクエストを受注したい。 

 ぼやいても仕方ないので、意識をクエストに向ける。

 

 おそらく、このオーガロードがボスであり、こいつを倒せば任務完了のハズだ。

 

 俺様はダンジョンから出るために歩き始める。

 その瞬間、背後から悲鳴が上がった。

 

 

「な!? なんだ!?」

 

 

 慌てて振り返ると、そこには先ほど倒したはずのオーガロードの姿があった。

 いや、確かに倒したはずだ。

 

 俺様を、睨みつけるようなパーティのメンバーたち。

 本当にトドメを刺したの? 彼女らの目はそう訴えているようだ。

 

 

 なぜそんな目で見るんだ?

 

 

「お前ら……あとで覚えてろよ?」

 

 

 俺は再び、オーガロードに対峙する。

 そして、再度の戦闘が始まった。

 

 おかしい……。

 明らかにおかしい……。

 

 さっきと同じ手順で攻撃を加えているにもかかわらず、ダメージを与えていない気がする。

 そもそも本当に俺様のスキルは起動しているのか?

 

 

「あなた、少し休んだ方が良いんじゃないかしら?」

 

 

 聖女職のデリラが、俺の方を心配そうに見つめる。

 他と違い、コイツだけは俺の味方だ。

 

 

「フンッ、これしき」

 

 

 俺は再度【勇者:剣聖】を多重起動してオーガロードに切りつけた。

 何度か切りつけるうちに動かなくなるオーガロード。

 

 

「そういえば、オーガ系は回復力がすごいから、首を切り落とすなどして完全に息の根を止めないと、何度も復活するってフィーグさんが言ってましたね」

 

 

 魔術師サラが言う。コイツは中立的な態度を取っているが、どちらかとうと反抗的だ。

 

 だいたいフィーグがそんなこと言ったか?

 あんなボンクラがそんな知識——。

 

 突然、俺様は強烈な頭痛に苛まれる。

 フィーグの顔が頭の中に浮かぶ。

 以前の戦いで、フィーグが言っていたことを思い出す。

 

 

「クソ、追放されてまで俺様を苦しめるのか……フィーグめ」

 

「勇者アクファ、いったいどうした?」

 

 

 聖女デリラが問いかけてくる。

 だが俺様の頭は重く、返事すらマトモにできない。

 

 

「今日はダメね。聖女:防衛聖域(ドーム)スキル起動! みんな、撤退の準備を」

 

「はいッ!」

 

 

 俺様は、聖女デリラに引きずられるようにして、その場を後にしたのだった。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 あの後、なんとか地上へと戻った俺たちは、王都に戻り一旦解散した。

 俺様は、報告のために王都ギルマス、デーモの元に向かう。

 

 本来なら、こんな雑用は俺様のすることではない。

 それでも俺が行く理由は、任務失敗の隠蔽が一つ。

 もう一つは、デーモに冒険者の女を見繕って貰い抱くためだ。

 

 しかし、再び頭痛と共に、記憶が蘇る。

 

 ……いや、いや、違うぞ。

 ギルマス・デーモは解任されたのだ。俺様はいったい、何をしようとしていた?

 

 続けて、別の記憶が蘇る。

 王都の地下にある牢獄での記憶。

 

 

「【勇者:祝福ブレス】スキル、起動」

 

「…………!! ぐぅ……」

 

 

 ……そうだ。

 俺様はあいつを手にかけた……のだ。

 王都ギルマス・デーモはもうこの世界にはいない。

 

 だったら……次のデーモの代わりを用意するだけだ。

 俺の口元が緩むのを抑えられない。思わずニヤリとしてしまう。

 

 さっきまで最悪な気分だったが、今は晴れ晴れとした良い気分だ。

 

 

「アハハハハハ!」

 

 

 俺は高笑いを上げながら、王都冒険者ギルドに向かう。

 周囲の者が俺を妙な目つきで見つめてくる。だが、気にならない。

 

 

 さて、王都ギルドの建物にやってきた俺様だが……。

 

 妙だ。

 王都ギルドの門前に衛兵がいて、立ち入る人物をチェックしている。

 

 

「あら、あなた……勇者アクファ殿ですね」

 

 

 目の前に現れたのは……なかなかいい女だ。騎士のようだが、何者だ?

 

 

「そうだが。君は?」

 

「失礼しました。私は、騎士エリゼ・ディーナと申します。先日、地下牢にいたはずの元ギルマス・デーモが死体になって発見された件について、少しお話を聞かせていただきたいのですが」

 

 

 コイツ……。俺様に物怖じしないとは良い度胸だ。

 しっかり後で()()しないとな。

 だいたい、俺様がアイツを殺した証拠はどこにもないはずだ。

 

 

「ふん、構わないよ。誰が殺したのかなあ? まさか俺様を疑ってはいないよなぁ?」

 

 

 俺様はおもわずニヤついてしまう。

 何か因縁を付けて脅してしまえば……デーモのようにうまい駒にできるかもしれない。

 少し威嚇してみたが、さてどう出るのか楽しみだ。

 

 

「なるほど……これはしっかり()()()しなければならないようですね」

 

 

 騎士エリゼとやらは顔色一つ変えず、そう返してきたのだ。

 

 

「はぁっ?」

 

 

 バレることはあり得ないとは思うが……その迫力に、俺様の背筋に冷たいものが流れる。

 





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第38話 証拠(2)——side勇者アクファ

 俺様は、騎士エリゼによって、ギルドの応接室に通された。

 よくここでギルマス・デーモと話をしたものだが。

 

 

「それで、先ほどの話ですが」

 

 

 実に冷静に、静かに話を進める騎士エリゼ。

 となりには、査察官がいて話を聞いている。

 

 査察官はともかく、問題は騎士の方だ。

 勇者という称号を得ている俺様でさえ、そう簡単に手を出せない。失踪したり死んでしまったら、王国は本腰を入れて犯人を捜すだろう。

 

 いや……そもそもたかがギルマスの殺人に、どうして騎士まで出張ってくるんだ?

 

 

「勇者アクファ殿。あなたは、先ほど、デーモについておかしなことを(おっしゃ)いました」

 

「え? おかしなこと?」

 

 

 大したことはまだ何も話していないはずだ。

 おかしなこととは?

 俺様はさっぱり分からない。

 

 

「『誰が殺したのかなあ』と」

 

「それがどうしたというのだ?」

 

「古典的なやり方で、ありふれたやりかたで……口を滑らすとは思っていませんでしたが、まだ分かりませんか?」

 

 

 うん?

 こいつは何を言っているんだ?

 俺様がきょとんとしていると、騎士エリゼはふう、と溜息をついて続けた。

 

 

「元ギルマス・デーモが死亡したことは一部の騎士や牢獄の関係者しか知らないことです。あなたは、どうして『殺された』と知っているのですか?」

 

「えっ……。いや、騎士エリゼ、あ、あなたが殺されたと言ったのでは?」

 

「私は、死体になって発見された、としか言っていませんよ?」

 

「な、何っ?」

 

 

 クソっ。古典的なやり方で、ありふれたやりかた、つまり、古くて多くの人間が知っている、ありがちな罠。

 それにまんまと俺様はハマったというのが?

 

 また頭痛がする。

 そして、記憶にあった騎士エリゼの声が頭に響いた。

 

 

『——先日、地下牢にいたはずの元ギルマス・デーモが死体になって発見された件について、少しお話を聞かせていただきたいのですが』

 

「うわあああっ!!」

 

 

 突然俺様の発した悲鳴に、目前の二人が目を丸くする。

 そうだ。確かに騎士エリゼは「殺された」なんて言ってなかった。

 

 

「どうされました?」

 

「い、いや……なんでも……」

 

 

 ヤバい。

 どうして知っているのか? 俺様には理由が説明ができない。

 元ギルマス・デーモが殺されたことを知っているのは、騎士や地下牢の関係者、そして……犯人だけだ。

 

 

「いやまてよ?」

 

 

 ふと、俺様の冴えた頭が言い訳……ではなく、釈明を思いつく。

 そうだ。あれは夢なのだ……ギルマス・デーモを殺したのは俺様ではなく、知らない他人で、そいつがデーモを殺す瞬間を——。

 

 

「ゆ、夢に見たのだ。ギルマス・デーモが殺されるところを。だから、それが事実だと思い込んで言ってしまった。それだけだ」

 

「……ふむ。夢ですか。勇者アクファ、あなたには【予知能力(プレコグ)】のスキルは無いはずですが」

 

「だ、だから、スキルとは関係ない夢なのだ。偶然見ただけなのだ」

 

 

 こう言ってしまえば、なんとでも誤魔化せる。

 騎士エリゼは、いぶかしげな視線を送りつつも、ふむ、と頷いた。

 

 

「わかりました」

 

 

 よし。なんとか納得させたようだ。

 案外チョロいな、この女。

 

 

「では、質問しますが、その夢ではどのように殺害をしていましたか?」

 

 

 どうせ夢の話なのだ。俺様は状況を説明してやることにした。

 

 

「犯人は、【祝福(ブレス)】のスキルで、デーモを殺したのだ」

 

「ふむ。【祝福(ブレス)】ですか? このスキルは、対象の能力値にボーナスを与える、つまり、筋力や体力などにバフを与えるもの。人を殺すなんてことはできませんが」

 

「だ、だから、夢の話なのだ。整合性を問われても困る」

 

 

 そう言うと、騎士エリゼは考え込んだ。

 いくら考えても無駄だ。ちょっと喋りすぎた感じはしたが、チョロい女のことだ。

 どうせ気付かないだろう。

 

 

「そうですね。ちなみに【祝福(ブレス)】というスキルもありふれていますわね。私たち騎士だって使えます」

 

「ああ。それ以外にも神官などもな」

 

「司祭や司教、そして聖女だって使える」

 

「それが何か?」

 

「例えば、の話ですが。このスキルが暴走したらどうなるでしょう? 本来バフを与える効果が、マイナスとなって対象を苦しめる。筋力を失い呼吸すらできなくなったら?」

 

 

 暴走? あれは暴走などではなく、スキルを反転行使しただけだ。勇者だからできることだ。

 そういえば、アクファも最後はスキルが暴走がどうとか、言っていたような。

 

 

「何が言いたい?」

 

「どうやって殺害したのかさっぱり分からなかったのですが、なるほど、【祝福(ブレス)】の有効時間を過ぎてしまえば、痕跡もなくなると。興味深いですね」

 

「それがどうしたというのだ?」

 

「このスキル、あなたも持っていますよね? 勇者アクファ」

 

 

 うっ。まさか気付いたのか?

 いや、大丈夫だ。反転して使うことなど、俺様以外は知らないはずだが。

 

 

「た、確かに持っているが」

 

「では、ここで私に使ってみてください」

 

「な、何?」

 

「ですから、私に使ってみてください。このスキルはほとんど魔力を消費しないので、使えますよね?」

 

 

 何だこの女は?

 やはり馬鹿なのか?

 スキルを反転せずに使えばいいだけだ。普通にバフがかかって終わりだろう。

 暴走などあるわけがない。

 

 そうだ。いいことを思いついた。

 

 

「明らかに俺様を疑っているな? もし何もなかったら、どうする気だ?」

 

「いえ、単に捜査の協力をお願いしているだけですわ」

 

「信じられるかそんなこと! じゃあ、こうしよう。もし何事も無くスキルでバフがかかれば……そうだな、俺様の言うことを一つ聞いて貰おうか」

 

「ええ。構いません。ですので、どうぞ、私に【祝福(ブレス)】を」

 

 

 かかった!

 これだから、頭の悪い女は好きだ。

 

 

「【勇者:祝福(ブレス)】スキル、起動!」

 

 

 俺様は声高らかに叫んだ。もちろん反転などはしない。

 ——スキルが起動する。

 

 





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第39話 証拠(3)——side勇者アクファ

 少し時を遡る。

 騎士エリゼが、デーモの取り調べをしていた時のこと——。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 デーモに魔導爆弾を渡したのは一体誰なのかを知るために、騎士エリゼは調査を行っていた。

 騎士の仲間や、王国民を何人も殺してきた凶悪な兵器。

 これ以上野放しにはできない。

 

 その途中で、ある人物が浮かび上がる。

 ——勇者アクファが怪しい。

 

 デーモと勇者アクファが、なにやら怪しい()()()()を行っていたことを突き止めていた。

 武器の加工転売をはじめ、様々な悪いことを。

 

 いずれ勇者アクファを告発し、王国に調査を求めるつもりだ。

 もっと詳しく調べれば、手がかりをつかめるかもしれない。

 

 しかし、腐っても勇者だ。騎士と同等の地位がある勇者アクファを追い詰めるにはもう少し証拠が必要だ。

 

 

「な、何? 元ギルマス・デーモが死んだ?」

 

 

 事態が予想以上に早く動き、騎士エリゼは不安を覚えた。

 死因は分からない。看守が発見した時は、何か黒いモヤのようなものが死体の周囲に漂っていたようだが、その正体も不明だ。

 

 焦りを覚えるが、ぐっと堪える。

 

 ……フィーグさんは今どうしているのだろう?

 同じ勇者パーティに所属していたフィーグさんなら、何かを知っているのかも。

 騎士エリゼは、イアーグの街にいるフィーグに通信魔道具を使って、冒険者ギルド経由で連絡を取った。

 

 

「フィーグさん、お久しぶりです。お体の調子はどうですか?」

 

「エリゼ様、お気づかいありがとうございます。はい、みなさんのおかげで完全復活です!」

 

「元気そうで安心しました。それで、少しお尋ねしたいことがあるのですが……」

 

 

 騎士エリゼは、デーモの死亡事件について伝えた。死体の状況、そして犯人が見つかっていないこと。

 勇者アクファと親しくしていたこと。

 

 

「それで、元ギルマス・デーモと親しくしていた勇者アクファについて、何か、気になったことなどありませんか?」

 

 

 フィーグは、ここで勇者アクファの名前が出ることを不思議に思っていた。

 騎士エリゼが、勇者アクファを疑っていることを告げていないからだ。

 

 

「うーん、そうですね。ひょっとしたら、彼はスキルが暴走しているかもしれません」

 

「暴走……ですか? フィーグさんが整備(メンテ)されていたのでは?」

 

「いえ、それが……勇者アクファはスキルが暴走するなんて、考えていないようでして。いくら説明しても、分かっていただけなくて」

 

「な、ん、で、す、って?」

 

 

 騎士エリゼの語気が荒くなる。騎士エリゼはフィーグの意見を聞かない人間に腹を立てた。

 その様子では、きっと扱いも良くなかっただろうと騎士エリゼは怒りを覚えたのだ。

 

 

「失礼しました。なるほど、暴走していると」

 

「本来のスキルと逆の効果が発生する可能性もあります。俺がいたときはあまり気にならなかったのですが……今はどうなのか分かりません」

「なるほど……もし、暴走していることを確かめるにはどうしたらいいですか?」

 

「俺が診断するのが一番ですが……そうでなければ、スキルを使ってもらうのが良いかもしれません」

 

「スキルを使ってもらい、効果を確かめると。フィーグさん、ありがとうございます。ちなみに、それ以外で暴走を判断する方法はありますか?」

 

「スキルが暴走してしばらくすると、精神に影響を及ぼすみたいで……オレの幼馴染みの話なのですが」

 

「幼馴染み」

 

「え、はい……その幼馴染みのじいさんがスキルの暴走を起こしたとき——」

 

 

 フィーグは、レベッカの装備屋で起きたことを説明した。

 レベッカの祖父の性格が怒りっぽくなってしまったことを。

 

 

「そんなことが……」

 

「はい。じいさんの場合は、怒りっぽくなる程度でしたが、酷いときは突然叫んだり、幻覚を見ることもあるみたいです。もしかして勇者アクファに会うのですか?」

 

「そうかもしれません」

 

「でしたら、気をつけてください。勇者としての力はあるので。騎士エリゼ様は【祝福(ブレス)】のスキルを持っていらっしゃったと思います。そのスキルを使って、精神力など高めておくと良いと思います」

 

「ありがとうございます。分かりました。大変に参考になりました」

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 フィーグの助言の通り、騎士エリゼは勇者アクファと話をする前に、自らに【祝福(ブレス)】をかけていた。

 彼女が強気で勇者アクファと話せたのは、フィーグの助言があったからだ。

 

 ——さすがですわ。フィーグさん。

 そう心の中でフィーグに感謝をしつつ、【祝福(ブレス)】を解除する騎士エリゼ。

 ——ここまでは順調です。ここからが私の戦いです。

 

 

「ええ。構いません。ですので、どうぞ、私に【祝福(ブレス)】を」

 

 

 騎士エリゼは、静かに勇者アクファに言った。

 ——勇者アクファが罠にかかった。

 内心で、そう思いながら。

 

 

 ☆☆☆☆☆☆

 

 

 

「【勇者:祝福(ブレス)】スキル、起動!」

 

 

 勇者アクファは声も高らかに叫ぶ。

 すると、彼の周りから黒いモヤのようなものが沸いて騎士エリゼに向かっていく。

 どう見ても、祝福という名のスキルから発生するものではない。

 

 

「くそっ! なぜだっ!?」

 

 

 勇者アクファは叫んだ。

 ——俺様はスキルの反転などしていない。なのに、なぜ……?

 ——まさか……反転などではなく……? 本当に……暴走なのか?

 勇者アクファの背筋に、つーっと冷たい汗が流れる。

 

 黒いモヤは完全に騎士エリゼを包んだ。

 

 

「ぐっ……なるほど……これか……はぁっ、はぁっ……はぁッ……」

 

 

 騎士エリゼは膝をつく。

 強力な身体へのデバフがかかり、身動きができない。

 査察官は顔色一つ変えず、騎士エリゼを凝視している。

 

 ——息をするのが苦しい。確かにこのままでは死ぬだろう。

 騎士エリゼは思う。しかし、彼女の表情はむしろ喜んでいるようだ。

 

 意を決して叫ぶ。

 

 

「勝負だっ! 【聖騎士:祝福(ブレス)】、起動!!」

 

 

 相対する二つのスキルが、エリゼの周囲でぶつかり合う。

 

 

 ——フィーグさんは自分の力を信じろと言ってくださった。だから、躊躇なく勝負をかけられる。勇者スキルが何だというのだ。私はずっと……。 

 くわえて、私のスキルは、フィーグさんにメンテしてもらった時の【絶好調】ボーナスが、まだ残っている!

 フィーグさんの力と私の力が合わされば、絶対に負けない!

 

 

 騎士エリゼの周囲を光のオーラが包む。

 黒いモヤと光のオーラが混ざり合い、お互いを消そうと渦を巻き始める。

 

 

「はっ、はっ、はっ……」

 

 

 騎士エリゼは息を吸えなくなっていた。しばらくすれば窒息してしまうだろう。

 彼女は意識が遠くなっていくのを感じていた。

 

 その一方……。

 

 ——こいつ、何をした? この俺様と同じ【祝福《ブレス》】を使ったのか? 俺様のスキルに勝てるはずがないだろう? でも、もしこの女騎士が死にでもしたら?

 

 勇者アクファの焦りは増すばかりだ。

 だからといって、他の人間の目もある。迂闊に動くことはできない。

 

 

 一方騎士エリゼは、必死に苦しさと戦い、意識を失わないように神経を集中させる。

 ——あと、もう少し……。

 

 

 そして……。

 

 パン! という音が部屋に響く。

 スキルの勝敗が決したのだ。

 

 

「はぁ……はぁ……ふう」

 

 

 騎士エリゼが、光のオーラを纏って立ち上がる。

 彼女は勝利したのだ。

 

 騎士エリゼは、息を整えると、口元を緩め勇者アクファに言う。

 

 

「これはこれは……勇者アクファ殿、あなたが夢で見た、元ギルマス・デーモを殺したものにそっくりなスキルでしたねぇ」

 

「い、いや……それは……」

 

 

 勇者アクファは焦っていた。額に大量の汗を浮かべている。

 ——どうしてこうなった? 罠に嵌められていたのは俺様だった? ……バカなのは俺様の方だったのか?

 そう勇者アクファは思うのだが、全て後の祭りだ。

 

 完全に騎士エリゼを舐めていたことを後悔し始める勇者アクファ。

 

 

「残念ながら、勇者アクファ、あなたの帰りは遅くなりそうですねぇ」

 

 

 騎士エリゼは嬉しさを隠せない。

 そして、内心でにっこりと微笑む。

 

 ——フィーグさん、あなたのおかげで、勇者アクファを追い詰めることができます……!

 





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第40話 竜種(1)

 落ち着いたエリシスは、俺たちに礼儀正しく頭を下げた。

 

 

「フィーグさん……。ありがとうございました。何より、聖女職にして頂いて……感謝しきれません」

 

「いや、エリシスの力だ。スキルの量、レベルとも聖女になってないほうがおかしい」

 

 

 

 さて、スカウトの時間だ。

 俺のパーティに加入してくれるといいけど、来てくれるだろうか?

 

 

「もしよかったら、エリシス、俺たちのパーティの一員にならないか?」

 

 

 リリアもうん、と頷きながら後押しをしてくれた。

 

 

「【全体大回復(マス・ヒール)】はすごいです。私からもお願いしたいです」

 

「エリシスは前衛と回復役を兼務できそうだ。もし君が探しているものがあるなら、俺たちも手伝うことができる」

 

 

 エリシスは、両手のひらを胸の前で組み、瞳を潤ませて口を開いた。

 さて……YESかNOか?

 

 

「……はい。わたくしも、是非フィーグさんとリリアさんとご一緒できればと思います」

 

 

 迷った様子もなく、即決だった。

 俺は拍子抜けをしてしまう。

 

 

「いいの? 誘っておいて何だけど、そんなにあっさり決めて。もう少し考えてもらってからでも構わないよ」

 

「はい。(わたくし)は、必要として下さる方の(そば)にいたいと思っています。

 ()()()()()を受け入れてくれる方の元に」

 

 

 ありのままか。

 最初はどうなるかと思ったけど、彼女は戦闘中、絶好のタイミングで全体回復魔法を行使していた。

 むしろ前線にいる分、戦いの状況が把握できて、味方のピンチを把握できる、かもしれない。

 

 

「ありがとう、よろしくな」

 

 

 俺が手を差し出すと、エリシスは握り返してくれた。

 無骨な釘バット(ヒャッハー)を持っている割に、しなやかで柔らかい手のひらをしていた。

 

 

「もし私がまた暴走したら、フィーグさんが治してくれるのですよね?」

 

「しょっちゅう暴走されても困るんだけど。最初会った時の口調というか暴言はヤバかった」

 

「あ、あれは本来の私の姿ではありません……たぶん」

 

 

 エリシスは思い出したのか、顔を真っ赤に染め恥ずかしがっていた。

 

 最初に会った時のアレは本当にスキル暴走の結果なのだろうか?

 もしかして素では? 俺は疑ってしまう。すまん、エリシス。

 

 エリシスは、俺を見上げて続ける。

 

 

「スキル以外のことも沢山の教えをフィーグさんは与えてくださったと思います。私にとって神のような存在です——」

 

 

 な、何を言い出すんだ?

 

 

「——いえ、神以上の存在です。是非、お仕えさせていただければ」

 

「神って……いや、俺はただのスキル整備士だ」

 

 

 エリシスは、短くなった釘バットを大事そうに抱えつつ、俺にひざまずき、祈りを捧げるような仕草をした。

 は、恥ずかしいからやめてくれ。

 

 

「と、とりあえず、その釘バットというか釘棍棒(スパイクメイス)の修理は必要だな。ダンジョンの下層に降りたら敵が強くなるだろうし」

 

 

 俺は、そう言ってダンジョンの奥を見つめた。下に降りる階段があり、壁には竜のエンブレムが描かれている。

 どこかで見たようなエンブレムだ。どこだっけ?

 

 思い出した。あの竜は……アヤメが普段着ている魔法学園の制服に付いていたものだ。

 確かあの制服にも竜の紋章があったはず。この世界の創世神話に出てくる、伝説の竜とされているものだ。

 でも、なぜ、こんなところに魔法学園の紋章が?

 

 うーむ、帰ったらアヤメに聞いてみるか。何か知っているのかも。

 

 どっちにしても、一旦ダンジョンの探索は後回しだ。

 武器も直さないといけないし、そもそもエリシスには先に解決したい問題がある。

 

 

「そうそう、フェルトマン伯爵のことだけど……」

 

 

 その名前を出すと、エリシスの表情が曇った。

 フェルトマン伯爵の依頼を受けている以上、キチンと決着を付ける必要があるだろう。

 パーティに心置きなく加入して貰うために。

 

 

「フェルトマン伯爵が……私を探しているのですか?」

 

「ああ。会いたいそうだ」

 

「そうですか……彼は、私をいらないと……婚約破棄をしてまで捨てたのです。治癒の能力が『足りない』と。彼の経営する診療所で役に立たないと言われました」

 

「なんだって? じゃあ君はそのためにこのダンジョンへ来たのか?」

 

「はい。どうしてもあの男を見返してやりたくて。スキルの強化を行いたいと思って」

 

 

 エリシスが簡単に事情を説明してくれた。

 

 ——彼女は貴族の出身で爵位は男爵。彼女の意思と関係なく、家の事情により、フェルトマン伯爵との婚約が決まったのだそうだ。

 少し後に、両親が事故で他界したという。

 

 エリシスの両親が経営していた診療所はフェルトマン伯爵が引き継ぐことになった。

 その診療所にエリシスが通い、患者の治療をしていた。

 

 しかしフェルトマン伯爵は一方的に婚約を破棄。

 

 

『役立たずなお前ではなく、聖女を妻に迎える。診療所は彼女に任せるので、お前は用なしだ。出ていけ!』

 

 

 突然、そんなことを言われたのだという。

 

 





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