この馬鹿らしいエルデ王に祝福を! (ポポァ)
しおりを挟む
プロローグ
褪せ人主人公のこのすばSSが無かったので書いてみました。
主人公のソウル主人公との被り防止のため素性:侍で葦名パワーを借ります。卑怯とは言うまいな。
かつて狭間の地で起きたエルデンリングを巡る戦い*1。
人間と。亜人と。巨人と。蟲と。獣と。デミゴッドと。祝福の導くままに殺しあった。
遂に異国の地より訪れた褪せ人は神殺しを成し。
手に入れたエルデンリングを暗月の魔女に捧げ、星の彼方より共に神の手を離れた大地を見守るのであった・・・
「全ッッッッ然発展しないでござる!!!!!!」
「ずっと争いを続けてきたのだからな。平和が馴染まぬかもしれんとは思ってはいたが……ここまでとは」
頭を抱えるエルデの王とそれを眺める暗月の魔女ラニ。
神々の干渉から解放され、狭間の地の人々が神の導きに頼らず歩き出し幾百年が経ち……相変わらず元気に殺し合いを続けていた。
「かつての故郷、葦名の地でさえ今では民がスタバでスマホいじってるのに!狭間の地では未だに首断っちして壺ぽいしてるでござるよ!不死身同士の殺し合いなんて虚しい争いさっさと止めて文明開化して欲しいでござる…」
「他国から来たTVクルーが海岸で蛸共の餌になったのは見物だったな。あれを生放送してしまった以上他国からの援助も期待できまい」
「探検!現代に残された最後の秘境の謎に迫る!未知の原生生物の生態を調査せよ!でござったか?4時間SPが上陸して10分で飯テロ動画*2になったのはその最後の秘境の王として誠に遺憾だったでござるよ。まぁかつては拙者も浜で誉と命を落としたもの。骨塚から這い上がる根性を見せて欲しいでごさるな!」
狭間の地の長い長い殺し合いはすでに見飽き、現在は新開発した祈祷『エルデの星海通信』を使い、衛星から他国のTV番組を違法視聴したり、こっそり擬態のヴェールを使い買ってきたスマホをいじったりしていた。
「はぁ~なんか日ノ本では最近異世界転生とかが流行ってるらしいでござるな~。狭間の地にも高校生とか疲れたリーマンとかを送り込めば現代知識チートで発展させてくれないでござるかな?今なら転生特典として夜と炎の剣とかアイテムボックスとか付けてもいいでござる」
「それでは狭間の地に褪せ人を送り込んだあの忌まわしい二本指と変わらないだろう。人々の歩みを見守ると決めたのだから、余計な干渉はやめておけ」
「まぁわざわざ送り込まなくても流刑地として重犯罪者が捨てられたり、武装した自称冒険者なんかが密航してくるでござるからな。そしてみんなモンスターパニック映画みたいなノリでサクサク死んでいったでござるが。自称冒険者なんかは良質な刃物を持ってるから追い剥ぎや亜人から動く宝箱みたいな扱いされてるし」
ピピっとテレビ(電力は雷を帯びた槍に変圧器を繋いだ)をリモコンで付ける。
画面にはサブマシンガンとロングソードに、手作り感溢れる鎧を装備した陽気な兄ちゃんたちがニコニコしながらボートで上陸し、浜辺で蛸さんたちに追い回され(サブマシンガンはここで使い切った)、草原でニコニコした追い剥ぎたちに追い回され、森でニコニコした亜人たちに追い回され、街道で助けを求めた兵士たちにニコニコしながら殺され死体を漁られる映像が流れた。
全体的に笑顔に満ち溢れていたが、全体的に血に塗れていた。
端的に言って全体的に笑顔で肯定できない世界だった。
「これだもんなぁ…」
「まるで成長していない…」
「やっぱり律から死を取り除いたままなのが良くなかったのでござるかな?でも死を戻したら不死が失われたことに気付く前に人類絶滅間違いなしでござる。黄金樹教の人たちも黄金樹燃えて絶望してたのに、なんだかんだ死なない事に気付いてからはポジティブに黄金樹の灰信仰に切り替えて殺し合いを再開してるし……」
「忌み地過ぎて他国から軍が送られてこないのがせめてもの救いだな。どうせ死なないが」
人々は自由を手にしたが、「どうせ死なないし別に殺し合わなくてもよくない?」という発想は何百年経っても広まらなかった。戦争が生んだ戦う事しか知らない悲しきモンスターたちが、結局死なないので戦いを終わらせなくても問題がなかったのだ。「どうせ死なないから殺し合ってもいいじゃん」に反論できる人がいなかった。反論しても殺されるだけなのが分かるくらいには賢かった。
「いつか殺し合いに飽きてくれるまで見守る事になりそうでござるな。もう何百年もこれ言ってる……」
「全部焼き払ってやり直そうという、狂える三本指の考えが少し分かってしまうのが悲しいよ」
「拙者はそれでも生き残る奴がいたらと思うと怖くてできぬでござる。……嫌な想像した、なにか気分を変えるものを……」
数百年、時間潰しに色んなものを作って押し込んだ収納箱をごそごそあさる。なぜか箱の中がすっきり整っていることに首を傾げているとラニがこちらを見ていることに気付く。
「私も暇だったのでな。いい時間潰しになるだろうと箱の整理をしたのだが……少し気になるものが出てきた」
「それは有り難いでござる。それは……?」
ラニの手(かわいい)には小さな布きれが握られている。受け取ってよく見てみると……
フィアのパンツ
死の呪痕と交換で、
死衾の乙女フィアがくれた、したぎ
本来はやはりしたぎであるが
男の身で、身に着けることはできない
あるいは、まだその時は来ていない
したぎを盗んだ侍に、
黙ってエマは、かたなをぬいた
あのしたぎの件は、とてもやばかった
このしたぎも、きっと、とてもやばい
「…………いやいやいや、これは、ちゃうねんでござるよ!そう!褪せ人の収集癖というか!そういう感じのサムシングっていうか!ウンコとか拾うし?じゃあ下着も?的な?」
「ほう?そうか……抱かれた感触はどうだった?」
「ノーブラおっぱい最こ 獣の瞳が震えている れ、『冷静』!……よよ鎧を着ていたのでな!何も分からんかったでござりょヨ」
濃密な死の気配を感じ慌ててキャンセルするも体の震えが止まらない。怖気ゲージと凍傷ゲージがぐんぐん増えていき、空気が凍てつき大地が霜に覆われていく。魔術で精神を整えるも急に賢くはなれない。
「私の王よ。嘘をつかなくても構わない」
FROSTBITE
肉体が凍え、皮膚が裂け血が噴き出す。恐怖のオーラに後ずさりし、徐々に崖に追い込まれている。
「ただ、頭を冷やす必要があるようだ」
「いや…その…あ、愛しているでござるよ!」
「ああ、わたしも愛しているとも。……お前の頭は悪すぎる。少しはどこかで、女心を学んでくるといい」
莫大な魔力の奔流、極寒の爆風を浴びせられ、抵抗も許されず崖の先、宇宙の暗黒へと投げ出される。
「気が向けば、ここに帰られるよう導きを送ってやる。しっかりと、反省することだ」
「ウアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
Tips:祈祷『エルデの星海通信』
新たな律、星と暗月の祈祷のひとつ
世界を見守るためのもの
星の光の導きにより、彼方の星から電波や光などを写し取る
文明の光は、遥か遠くの星にまで届く
人の英知が星さえ輝かせるのだ
狭間の地は、まだ暗い
主人公のプロフィールなどは後々。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第1話 馬鹿が宇宙からやってくる
読んでもらえるのが目で見えるのは励みになるってのはガチ
書き溜め無しのライブ感執筆ですが気楽に読んでもらえれば幸いです
〈山賊side〉
「おいてめぇ、本当にこっちであってるんだろうな?」
人の手の入っていない荒れた森の中、10人程の集団が歩いている。
その中でも一際装備が整った大男が声を荒げて部下らしき男に問いかける。
「へえ!間違いないでさぁ!確かに昨夜、こっちの方角に空から光る何かが降ってきたんでぇ!距離はありましたが、落ちた場所が薄っすら光ってたんで覚えてます!」
「チッ……ここまで歩かせて間違いだったらただじゃおかねぇからな!最近ツイてねぇ。クソッたれ共が目立ち過ぎて騎士団に目ぇつけられたせいでこんな辺境までくるハメになっちまったんだからな」
この大男は騎士の家の長男の生まれであるが、堅苦しい礼儀や規律に嫌気が差し、家から装備と金を盗んで飛び出したのだ。ゴロツキ共を力でまとめ山賊団を結成し、騎士団の巡回から離れた場所で賢く稼いでいたが、調子にのった部下が貴族への税を積んだ馬車を襲ってしまい討伐隊を派遣されてしまったのだ。
しかしそれをすぐに予測し、わずかな賢い部下と共に財産をまとめ、残る多くの部下たちを囮にし国外まで逃げ切ることに成功したのである。
「まぁまぁ……もうすぐ見えてくるはずでさぁ。……おっと、あれですぜ!」
少し先、木々の間から薄暗い森中を照らす小さな光源があるのが見える。近づいてみると30m程の開けた空間の中心に10m程の小さなクレーターができていて、その底に近い部分に小さな光の柱が立っているのが確認できた。
「ホントにありやがるとはな。しっかしなんなんだコレは?ただ何もない空間が光ってるだけにしか見えねぇが……」
「親分!底の方に何か埋まってますぜ!」
「ほう?じゃあそれが空から降ってきた何かか?てめぇら掘り返せ!」
部下たちに命じてクレーターの底を軽く掘らせると、全身鎧を着こんだ人間が土の中から現れた。土塗れで汚れてはいるが、空から落下したにもかかわらず破損した様子が無いことから、かなりの堅牢な鎧であることが分かる。
「ハッ!どこぞの金持ち騎士様が転移のトラップにでも引っかかったのか?有り難く金に換えてやるってもんだぜ!」
「ツキが戻ってきたんじゃないですか親分!さっそく剥ぎ取りますかい?」
「まぁ待て……先にこれだけはやっとかねぇと……なっ!!」
大男はそう言うと、腰に提げられた武骨なナイフを抜き放ち、兜のスリットから中へと強く突き刺した。手に伝わる感触から目を貫き、脳に届いたのが分かる。刺した箇所から血が溢れ、全身鎧の男は数回痙攣した後再び動かなくなる。
「おーおーまだ生きてやがったか。世の中バケモンみてぇなヤツも居やがるからな。長生きしたきゃ念には念を……ってな!」
「おぉ……さすが親分!」
「よっし!じゃあ楽しいお宝タイムだ!周りに武器が落ちてないかも探しておけよ!」
「へい!」
そう言うと大男はナイフを抜いて仕舞おうとし……腕が動かない。
「あぁ?」
見るとナイフを握った手、その手首が、全身鎧の男の手に掴まれて――
「あ゛あ゛……懐かしいな、この痛みは……」
むくりと、上体が起こされる。手首を万力のような力で絞め折られ、ナイフから手を離してしまう。手首を掴んだまま、兜のスリットにナイフの刺さったまま、全身鎧の男はゆっくりと立ち上がった。
「クソがっ!アンデッドだっ!野郎どもブッ殺せッ!!」
「『ザミェルの氷嵐』」
大男の号令と同時、即座に練り上げられた魔法が放たれる。小さなクレーターの中が吹き荒ぶ氷嵐に覆われ、部下たちの悲鳴が聞こえてくる。
「馬鹿な!まさかこいつリッチーか!?」
「今馬鹿って言った?馬鹿って言った奴が馬鹿でござる」
部下に期待するのを諦め、空いた手で愛用の騎士剣を抜き、なんとか斬り殺そうとするが力ずくで地面に引きずり倒される。
「がぁっ!!」
「装備を見るに貴公が隊長だな?とりあえず他のヤツらは要らんな」
片腕で倒れる大男が抑え付られ、空いた手の中に輝く文字列が浮かぶ。その中の一つを握ると手には青い結晶で作られた杖が握られていた。
「頭を下げておけよ。『アデューラの月の剣』」
杖の先から冷たい魔力で作られた大剣を生み出し、ぐるりとクレーターの中を一回り冷気を纏わせて薙ぎ払う。
部下たちの悲鳴が止まり、氷嵐が収まる。辺りには凍てつき両断された死体が転がっていた。
「さて、落ち着いたところで色々聞きたいことがあるでござるよ」
「畜生!ふざけやがって!てめぇなんぞと話すことなんざねぇよ!!」
「安心するでござる!何を隠そう拙者は説得大得意侍ゆえ!」
もがく大男の剣を持った腕が踏まれて圧し折れ、顎を掴んで持ち上げられる。蹴りを入れるも意に介さず、スリットに刺さったナイフを抜いた。
「ナイフで拷問でもする気か?馬鹿にしやがって!死んでもてめぇの思い通りになんざなるかよ!」
「拷問なんて酷い真似するはずなかろう?ただ……目を、見ろ」
顎を掴んだまま目を覗き込んでくる。スリットの中、ナイフで穿たれた先、血を零す眼孔のさらに奥。世界を、焼き尽くすような、黄色い、灼熱が、見えた。
「なんだ!!やめろ!!俺の中に入ってくるな!!!!!」
「『発狂伝染』。見つめ合うと素直にお喋りできるようになるでござるよ。さぁ……」
〈エルデの馬鹿side〉
「いやーなんとも幸先の良いスタートでござったな!目を覚ましてすぐ色々教えてくれる親切な人と出会えるばかりかお金まで手に入るとは!1回死にかけたしもうこれ半分異世界転生では?テンションあがるなぁ!」
情報収集とお宝タイムを終えてにっこにこで街に向かって歩き出す。なんと驚くべきことにこの世界では貨幣経済が成り立っているのだ!狭間の地でもルーンを使って物資のやり取りはできたが、紙幣なんてものが存在できるのは人々が理性的であり信用された国家がある証拠である。これはスゴイ!
聞いた話をまとめると、この世界は善良な女神によって運営され、宇宙から暗黒生物が降ってくることもなく、世界を燃やし尽くそうとする邪教徒もおらず、ムカデで不老不死になろうとする邪教徒もおらず、ヤバイ水で不老不死になろうとする邪教徒もいないとても清浄な世界らしい。
「しかも一番近い街が駆け出し冒険者の街だとか。冒険者ギルドまであるとか神かな?いやうちにも神いたわ。狭間の地にも冒険者ギルドがあればなぁ!」
この世界にも魔物がいて魔王がいて平和が脅かされたりしてるようだが、それでも狭間の地とは比べものにならない。あっちはそもそも脅かそうにも平和なんてないからだ。昔はあったらしいがここ数百年はない。
「なんとか冒険者ギルドのシステムを向こうに持ち帰りたいものでござるな。最初は分体でも作って運営させるか?でも拙者の顔だと誰も近づかない気がするでござる」
野蛮極まりない狭間の地だが、それでも馬鹿しかいないわけではない。激動の時代に、住民のほぼ全員を殺して回った野蛮界の頂点はみんなに知られているのだ。ナイフべろべろ嘗め回してる追い剥ぎも、棍棒振り回してキーキー叫んでる亜人も、この馬鹿を見かけるとスンッってなり静かに去っていく。
「拙者が主導すると何もかも上手くいかん気さえしてくるな……まぁとりあえずこの世界をエンジョイする方が先決でござるな!さらにラニ殿へのお土産を用意できれば満点でござる」
何事もなく時間は過ぎ(ギルドが楽しみすぎて途中から走った)駆け出し冒険者の街アクセルが近づいてくる。霊馬トレントを使えれば早かったのだが、うっかりネクロマンサー扱いされても困るのでこの世界の霊体の扱いが分かるまで自重しているのだ。
「入街料とかは無し。ギルド登録は千エリス。親切隊長が三十万エリスもくれたからしばらくは余裕そうでござるな。やはり旅とは人との出会いがあってこそでござる」
本人に聞かれたらアンデッド化間違いなしの妄言を吐きつつも街の門をくぐる。想像よりも遥かに規模が大きく、王都ローデイルに匹敵する土地にレンガの建物が並び道を馬車や人々が歩いている。あまりのファンタジー中世文明的光景に眩暈がしてきた。どうしてうちの土地も同じ剣と魔法のファンタジー世界なのにここまで差ができるのか。
「いかん……底辺から見上げれば高低差が心に響くでござる。現代日ノ本の発展を思い出せ!スマホが無ければセーフだ!」
道端で頭を抱えて独り言をつぶやく全身鎧マンに道行く人たちから困惑と警戒が伝わってくる。慌てて気を取り直し、手近なおじさんに冒険者ギルドの場所を聞く。
「失礼。冒険者登録をしたいのだが、ギルドの場所はどちらでござろうか?」
「冒険者登録!?その見た目で!?アンタどっからどう見ても歴戦の勇士じゃん!?それで駆け出し未満なのかい!?この道をまっすぐ行って右に曲がれば看板が見えるよ!?」
普通にびっくりされ、周りの人も頷いている。ヘルムにチェインメイルを合わせた頭部に、斬撃痕の残る丁寧な手入れのなされた鎧と籠手。腰には美しい拵えの刀と水晶を削り出したような杖を提げ、狼の毛皮飾りやマントは何度も染み込んだ血を洗った色合いになっている。駆け出す前に冒険終盤感が漂っていた。
驚きながらも律儀に道を教えてくれたおじさんに礼を言い、ギルドへと歩いていく。
「鎧を着ているのが日常過ぎてどう見られるのか思いもしなかったでござるな。まぁ侮られるより損は無かろう、たぶん」
たどり着いた冒険者ギルドの扉を開き、おいしそうな匂いのする中へ入る。新参に絡む荒くれ冒険者へのイメトレはばっちりだ。
「いらっしゃいませー!」
ウェイトレスのお姉さんが愛想よく出迎えてくれるが、特に案内などはしてくれないようだ。ギルドのシステムは常識ということだろうか?ギルドの中は薄暗く、奥は酒場になっていて何人もの冒険者と思わしき者たちが飲食と酒を楽しんでいる。そのうち何人かはこちらを見て何かあったのかと警戒をした。なぜ?
とりあえず登録ならば受付だろうと4人いる受付の一番巨乳の受付嬢の列に並ぶ。他の空いた受付からの視線は無視だ。
「はい、今日はどのような依頼でしょうか?」
「いや、冒険者登録をしにきたでござるよ。」
「はい、登録……登録!?し、失礼しました。ではまず手数料の千エリスとお名前をお願いします」
名前。なんかこう……数百年ぶりに名前を尋ねられた衝撃に思考が止まる。最初の名は葦名の地を出る際にけじめとして捨て、狭間の地にたどり着いてからはなんと名乗ろうかと考えていたが……思えば誰一人名前を聞いてこなかった。みんな初対面だときっちり自己紹介してくるのに、こちらの名前は全く聞いてこなかったのだ。名前を聞かれないまま王になり、名乗らないまま星で暮らしている。なんなら妻であるラニ殿でさえ拙者の名前知らないのでは?数百年、王とか私の王とかお前としか呼ばれていないことに今さら気づいて愕然とする。
……いや、もう、名無しで行こう!ラニ殿に名乗って名前で呼んでもらえなかったら発狂死しそうだし。
とりあえずこの世界で使う名前を決めなくてはならない。○○村の兵士さんみたいな感じにしておけば分かりやすくていいだろう。千エリスを差し出し名を名乗る。
「はい、〈ハザマエルデオー〉さんでいいですね?」
なんかサラブレッドみたいになったでござるな……
Tips:新エルデ王への評価
非常に不評(1603件のレビュー)
最も参考になったレビュー
ぶっちぎりで一番頭おかしい(失地騎士@土地返せバーカ)
何もしてないのに突然無言で何百回も殺されて意味不明すぎて文句言ったら「まだ持ってないから防具一式が欲しいでござる」口で言えよ!人類には言葉という文化があるの知らんのか?クッソ野蛮な地から流れ着いた野蛮ニスト。こいつだけはマジで意味分からん理由無くても切りかかってくる。飯食ってたら背中から大剣ブッ刺してくるしんで理由は特にないでござるとかマジ死ねウ○コ食って死ね!
3257 人がこのレビューが参考になったと投票しました
遂に名前公開のハザマエルデオーことハザマさん。冒険者ギルドにいきなり初めて見る血なまぐさいフルアーマー戦士が現れたら意識高い人は警戒するよねっていう。ウェイトレスが説明してくれないのも駆け出し感ゼロだからです。
武器は名刀月影に結晶杖(色々使う)防具は戦鬼シリーズ一式。カーリア騎士と迷ったけどロイヤル感皆無の蛮族侍なので戦鬼に。
一周目で狂い火封印してラニ様エンド。周回してないけど何百年も経っててちょくちょく狭間の地うろついてるのでレベルはかなり高い感じ。レベルカンストではないです。
ソウルに比べてルーンの描写が分からなさすぎる。ルーンで取引ってなんだよ…
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第2話 人間です 多分 きっと めいびー
エルデンだと"魔術"だけどこのすば世界では"魔法"なので人に説明するときなどは魔法呼ばわりします。
今更だけど祝福は導かれてないと見えないので山賊のみなさんが祝福見えてるのはおかしいですね。まぁ導かれしゴッド親切な人たちだったということでオネシャス!
「ではハザマエルデオーさん、冒険者について簡単に説明いたしましょうか?」
「はい」
「ではまず、冒険者とは――
名前も名乗ったところで受付の巨乳お姉さんから冒険者について説明を受ける。こっそりと魔術『内から見える兜』を使用し、自らの兜を透視することで顔の向きを変えずに視界を確保。……でかい!これは100センチ前後はありそうだ。谷間を見せつけるがごとき胸元が大きく開いたデザインの制服も合わさり非常に眼福である。
――というものがございます。ここまではいいですか?」
「はい」
やばい聞いてなかった。たわわが持つ白王が放つ引力波のごとき吸引力に抗えずガン見しつつも、きちんと話にも耳を傾けるよう気をつける。
巨乳のお姉さんはテーブルの引き出しからカードを取り出し見せてくる。
「こちらにレベルという項目が――
テーブルの引き出しを開ける時に少し屈んだことでさらに谷間がはっきり見えた。間違いなくノーブラだ。雰囲気はエッチではないこの巨乳お姉さんがブラを着けていないということは、ブラを着けることが一般的でない、またはブラが存在しないということだろう。この世界では胸が垂れたりしないのだろうか?レベルとか魂とか経験値とか言ってるしそのあたりに秘密があるのかもしれない。
――上げをして下さいね」
「はい」
マズいあまり聞いてなかった。よく食べてよく殺せば魂奪って突然強くなれるよみたいな感じだったと思うが自信は無い。多分ステータス画面みたいなヤツだろう。祝福と似たようなシステムだし、おそらくこの世界はそういう
「ではこちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴等の記入をお願いします」
「はい」
巨乳さんが差し出した書類に自分の特徴を記入する。
身長185センチ、体重80キロ、年齢?700歳はいってないくらいしか分からないのでサバを読んで25前後と書く。黒髪、目は竜眼でたまに黄色く光る、体に大きな火傷痕*1がある、目と口からビームが出せる、兜を脱ぐと超イケメン……
「……はい結構です。ではこちらのカードに触れてください。あなたのステータスが表示されますので、その数値に応じたなりたい職業を選んで下さいね。レベルを上げると職業に応じた様々な専用スキルを習得できるようになりますので、そのあたりも考慮にいれて職業を選んでください」
「はい」
職業?エルデの王じゃないのか?いやこの世界には多分エルデンリング無いから実質無職になるのか?考えてみればそもそも王らしい仕事なんて受け持っていなかった気もする。たまに下界に降りて珍しい素材や持ってない装備なんかを回収していたくらいだ。内心ひやひやしながらカードに触れる。
「はい、ありがとうございます。……おおっかなりすごいです!知力は低めですが他のステータスは全て大幅に平均を超えた高水準なものです!これならアークウィザード以外のほとんどの上級職にも最初からなれますよ!」
拙者知力だけ低いの?なんだか納得いかないが他はきちんと高いようだ。もやっとした思いを抱えつつも職業欄を見せてもらう。エルデの王ないじゃん!ここに表示されていない以上、この世界では拙者王族ですけど?みたいなキングムーブはやめておいた方がいいようだ。
正直すでに魔術と祈祷と戦技で不自由していないので、なんかいい感じの職がないかと探す。……ルーンナイト。魔法剣士系の上級職だろうか?ルーンサムライじゃないのが不満だが、職についての説明をちゃんと聞いていなかったので、馴染みのあるルーンを使う職に決める。
「ルーンナイトですね!多くの前衛向けスキルと、攻撃と補助魔法のどちらも使える隙の無い強力な万能職ですよ!ではルーンナイトっと……登録は以上となります!今後の活躍を期待していますね!」
ルーンで攻撃?ルーンで補助?早くも混乱しつつ巨乳さんの笑顔に見送られ受付を離れる。分かったことは"食べる""殺す""拙者強くなる"の3点だけだ。
現在レベルは4。おそらく親切隊長たちの分だけレベルが上がっていて、葦名の分も狭間の地の分もカウントされていない。向こうでは誰をぶっ殺しても魂吸収なんてしていなかっただろうし、フォーマットが違うから無効みたいなノリだろう。鍛えられた能力等は失われていないのでお得まである。
討伐数のページには山賊:10とだけ書かれているから間違いないだろう。狭間の地の分まで含まれたら、しろがね人:9999*2とか書かれて人に見せられないカードになっていた可能性があるので一安心である。
「うむ、まずは駆け出し同士のパーティーなんかを組んでみたいところでござるな。旅は共に歩む友がいればなお楽しいもの。独りぼっちで墓から抜け出し、外にでてすぐ変態白仮面にディスられる*3ような旅の始まりはもう御免でござる」
早速ギルドの壁に張られたパーティー募集の張り紙を見る。
・僧侶募集中!女の子だとなお良し!
・PT募集@1 魔僧戦戦弓 カエル狩り2h
・パーティメンバー募集"優しくて話を聞いてくれて仕事が終わってからも(ry
・上級職のみ募集!アットホームな雰囲気です!
・彼女募集!おっぱい大きくて可愛い子!!
「この中だと上級職募集くらいかな?ベテランパーティーでなければいいのでござるが……」
「……なぁ、やっぱりハードル下げようぜ。さすがに魔王討伐が目的だからっていきなり上級職オンリー募集ってのは厳しいだろ」
「うん?」
ピンポイントな話題が聞こえたので振り向くと、隅っこのテーブルに黒髪ジャージの少年と、……神!?神がいる!?青い髪に明らかに人間離れした美しい容姿、尋常じゃない気配と強大すぎる魔力に神聖オーラから一目で神、または神に属する何かであると分かる。推定女神を連れたこの少年は何者なのか。ジャージ着てるし日本人だろうとは思うが。
「このままじゃ一人も来ずにまたアクアと二人で工事現場に……なんか騎士っぽい人がこっちめっちゃ見てる。アクアお前なんかやらかしたのか?」
「はあ?なんで私が何かした前提なのよ?私の美貌に惹かれたんじゃないの?美しすぎるって罪よねー!」
向こうもこっちを見て好きに言っている。確かに美しいのは間違いないが。
どうもこの二人組が張り紙の上級職限定パーティーメンバー募集を出しているようだ。正直めっちゃ気になるペアなので、せっかくなのでパーティーに入れてもらえるか交渉してみようと思う。
「なぁ少年。上級職の募集をしているようだが――
「上級職の冒険者募集を見てきたのですが――
「あれ?」
「あれ?」
同じタイミングで声を掛けてしまった少女を見る。ややダウナーな雰囲気の赤い瞳に肩口くらいまでの黒髪、黒マント黒ローブ黒ブーツに黒トンガリ帽子に杖と、超正統派魔法使いスタイルの美少女だ。
「失礼。どうやら被ってしまったようだが、貴公も同じくパーティー募集を見てきたようでござるな。お先どうぞ」
「あっ丁寧にどうもです。……我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操るもの……!」
「えっそんな感じ!?……拙者の名はハザマ!ルーンナイトをさっき始めた、とにかく色々できる万能型イケメン侍……!」
「えええ……急に濃いのが二人も現れたんだけど!これはどっちから突っ込めばいいんだ……?」
どうやら自己紹介のインパクトに負けてスタンが入ったようだ。少年が頭を抱えて現実と戦い始めているのを尻目に、推定女神のアクア殿がめぐみん殿の方を向いて問う。
「その赤い瞳、もしかしてあなた紅魔族?」
「いかにも!我は紅魔族随一の魔法の使い手めぐみん!……優秀な魔法使いはパーティーにいりませんか?……そして図々しいお願いなのですが、面接の前に何か食べ物を恵んでもらっていいでしょうか……?もう何日も食べていないのです……」
「まぁいいけど。そっちの騎士みたいな人は……すごい変な魂してるわね?火の付いた闇鍋に針を刺して凍らせたみたいな魂してるけど本当に人間なの?」
「拙者の魂ってそんなんなってんの!?それ言われるまでは自信を持って人間だったでござるよ!」
いきなりの宣告に心底驚愕する。見た目は多少アレ*4でも大事なのは心じゃよ!みたいな感覚で生きてきたのに、神的存在にお前の魂すっげーキモイな!とか言われては流石に人生を振り返ってしまう。火はともかく凍ってるのはラニ殿が何かしたのだろうか?多分加護的なものをくれていると信じたい。
「あー、とにかく二人ともパーティーの募集を見て来てくれたってことでいいんだよな?俺はカズマ。こいつはアクアだ。飯を食べながらどうするか話し合おうぜ」
Tips:魔術『内から見える兜』
夜の魔術のひとつ、『見えざる姿』を改変したもの
兜を内側からのみ透過し視界を確保する、分かりやすく実戦的な魔術
狭間の地で手に入れた、前が見えない頭防具への対策で生み出された
さらにこれを応用した、自らの衣服を一部透過する魔術『見えるチ○コ』が存在する
君、隠したまえよ
数字が漢字だったりそうじゃなかったりするけど、九千九百九十九とかかえって分かりにくいかなって。ゆるして
話を聞いてなくてもとりあえず「はい」って言っちゃうタイプの褪せ人。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第3話 自分をジェイガンポジションだと思い込んでいる精神異常エルデ王
不定期更新ですが、無言で失踪とかはしません一応。
注文したいくつかの料理がテーブルに乗せられ、無言で勢いよく食べ始めるめぐみん殿とアクア殿は一旦置いておき、カズマ殿とお互いのことを話し合う。冒険の始まりの定番のひとつでござるな。
「カズマ殿は見た感じ拙者と同じ日本人でござろう?うっかり死んでこの世界に転生してきた感じでござるか?」
「ああ、その通りなんだけど……同じ?ハザマ…さんも日本人なのか?兜のせいで全然分からないけど」
「ハザマでいいでござる。いかにも拙者は生まれは日ノ本の葦名の国。ただかなり時代が違うでござるな。分かりやすく言うと戦国末期くらいの侍でござるよ」
「へぇ~時代が違う転生者とかもいるんだな。侍要素は口調と刀くらいしかないけど、その鎧とか杖とかが特典のチートなのか?」
「いや、これは持ち込んだ私物でござる。色々あって故郷葦名を捨て、狭間の地と呼ばれる剣と魔法のファンタジー世界に旅に出たのでござるよ。船で」
「船でファンタジー世界に行ったの!?俺の知ってる日本から一気に離れたんだけど!そのあしな?辺りからもうちょっと詳しく!」
「うむ。元々は侍として内府の密偵を狩る仕事をしていたのでござるが、どんどんおかしくなっていく地元に耐えられなくてな。渓谷を人面機関車が這いずり回り*1、夜空には見知らぬ西洋人の顔が浮かび*2、リーダーが自分の首を斬り義祖父を生やす*3。変わりゆく葦名のノリに全くついていけず故郷を捨てることを決意したのでござる」
「ええ……思ったより遥かに俺の知ってる日本じゃなかった!こういうパターンもあるんだな!アクアが世界はいっぱいあるって言ってたし!」
いっぱいある世界を観測できるならかなり高位の女神なのか?そんなのが酒場にいるけど実はこの世界結構重要なポジションにいるのか?狭間の地では次元がゆるふわなのか平行世界の観測・干渉は簡単にできた*4が、全く別の世界は観測できなかった。ついでに葦名はその辺全く無かった*5。
「まぁそれで、ファンタジー世界で魔法を学び、装備を整え、悪いヤツらをやっつけて、色々あって女神に追放されて、この世界に降ってきたのでござるよ。いわば不法転生なのでチートとかは貰ってないのでござる」
「な、なるほど……大分端折られたけどなんか胸やけするから今は聞かないことにするよ。俺はかなりスタンダードな転生者だったんだな……」
なんとも微妙な表情でとりあえず納得してくれるカズマ殿。いつのまにかアクア殿とめぐみん殿も食事が落ち着いていたようで、こちらの話も聞いていたようだ。なにやらめぐみん殿の瞳が少し赤く光っている。ビームを溜めているのか?
「むむむ。女神に追放された魔法剣士とはやりますね……それでも私には最強無敵の爆裂魔法があります。どんな敵でも粉砕する活躍ができるでしょう!あ、これカードです」
赤く光る瞳からビームを出すことなく、冒険者カードを取り出しアクア殿に手渡した。ついでに拙者のカードをカズマ殿とアクア殿の間に差し出しておく。
「ありがと。……確かにもの凄い魔力ね。アークウィザードなのも間違いないし、本当に爆裂魔法が使えるほどの凄腕ならどんな敵相手にも活躍できるでしょうね」
「こっちはバランスよくめっちゃ強いな。上級職も納得の高ステータスだけど逆に知力が俺より低いのが気になる。アクアといいこういうステ流行ってんのか・・・?」
拙者の知力男子高校生より低いの?おかしくない?義務教育を終えたらボーナス知力がいっぱい貰えるみたいなシステムでもあるの?中学卒業してるのがそんなに偉いのか?
これじゃインテリジェンス侍自称して刀仕舞ってメテオ降らしてたのが馬鹿みたいじゃん……!
「まぁせっかくあのクソみたいな募集でも来てくれた貴重な上級職だもんな。カエルにリベンジついでに実力を見せてもらおうぜ!女神を自称する痛い人との格の違いを見せてもらおう!」
「はあああああ!?自称じゃなくて本物の女神なんですけど?カズマのせいで地上に墜ちて超弱体化してさえあらゆる回復呪文から補助に蘇生まで完璧に使いこなせちゃう麗しの女神様ですけど?」
「女神に追放された騎士に女神までいるんですか……」
「ごめんなめぐみん。こいつ地上に墜ちて頭を強く打っておかしくなっちゃったんだよ。優しい目で見てあげてくれな?」
「拙者は信じておくでござるよ。鰯の頭も信心からでござる」
「それ信じてない奴じゃない?さぁそんなことよりカエル行こうカエル!」
「いや私女神だから!後でちゃんと証明してあげるから!覚えておきなさいよ!!」
地上に墜ちて全身を強く打った者としては同情してしまう。まぁ拙者はどこもおかしくなってないけどね?あと多分女神ってのは間違いじゃないだろう。
Tips:魔術『見えるチ○コ』
夜の魔術のひとつ、『見えざる姿』を改悪したもの
股間を外側からのみ透過し他者からの視覚を可能とする、分かりやすく変態的な魔術
初めてこの魔術を完成させラニに披露したとき、なんか突然死んだ
それ以降、使用を固く禁じられている
これはあくまで寄り道でしかなく、王が目指すはただ一つの至高の頂
すなわち、相手の服を透過する魔術である
ジャイアントトード。ケイリッドのクソ害獣共のような巨体を誇るカエルのモンスターであり、ただのカエルでありながらその大きさゆえ、ヤギなど家畜のみならず人間も捕食対象とするため相応の危険性があり、繁殖期においては人里にまで現れるため冒険者に多くの討伐依頼が出されている。
金属を嫌うため装備を整えれば捕食されることもなく、肉が食用とされるため狩って売って2度おいしいモンスターなんだとか。
「めぐみん殿は魔法に準備が必要とのことなので、先に拙者が近いのを倒して、その後めぐみん殿になるだけ遠くのカエルに魔法を使ってもらおうと思うでござる。問題ないでござるかカズマ殿?」
「ああ、特に問題ないしそれで頼むよ」
「ではさっそく。魔法でドカーンはめぐみん殿がやってくれそうだから、拙者は侍アピールのために刀でズバンとして見せよう」
「口調と刀しか侍要素無いって言われたの気にしてたんだ!なんかごめんね!?」
そもそもこの口調だって、葦名では普通に標準語だったのを狭間の地で出会った侍のユラ殿に「お主侍要素無くない?」と言われたから変えたのだ。
確かに全裸に壺を被って両手につるはし持って飛び跳ねていたのは侍っぽくなかったのかもしれないが、侍とは心の在り方であり、表層的なものの見方だけでは測れないのだ。だからハートが侍な拙者は侍。Q.E.D.
丁度すぐそこに一人でリベンジを挑んだアクア殿入りのカエルがいるのでこいつを侍アピールの対象にする。刀身が見えない名刀月隠を仕舞い、拙者の侍性を見抜けなかったユラ殿の遺した刀、長牙を取り出し装備する。カズマ殿の期待の籠った目に応えるためわざとらしくゆっくり抜刀。カエルの中からアクア殿の早く助けてという腹話術(真)が聞こえてくる。
「ではいざ。『奥義・葦名十文字』」
わざとらしく抜いた刀を一旦納刀し、疾さを極めた音速の居合切りを二閃。一撃(二撃)でカエルを絶命せしめオロロとアクア殿が口からまろび出てくる。
「おおーすげー!!これが本物の居合切りかぁ……あ、女神様足止めあざーっす」
「ううっ……生臭いよう……気持ち悪いよう……目の前斬られて怖かったよう……」
「ちゃ、ちゃんと当てない技術はあるでござるから……ほら!めぐみん殿がいよいよって感じでござるぞ!」
凄まじい魔力が空気を震わせ、なにやら詠唱するめぐみん殿から膨大な力が杖の先に流れ圧縮されていく。その注がれた魔力の量に星からポイされた時を思い出して冷汗が流れる。
「――黒き混沌より出でよ!究極の破壊!これが人類最強最大の攻撃魔法!『エクスプロージョン』ッッッ!!!」
杖の先から超圧縮された魔力の輝きが一閃し、遠くのカエルに着弾。隕石でも落ちたかのように大地と大気が震え、凄まじい轟音と共にカエルごと地表が吹き飛びクレーターが生み出された。
「……すっげーな、これが最強の魔法……」
「いやいやいや、これ人間に許されていい威力じゃないでござらんか!?文明に罅が入る強さだろ……」
マジで狭間の地にこの魔法が無くて良かったと心から思う。こんなもの耐えられそうなのは全盛期のラダーン将軍くらいのものだろう。城だの砦だの、人が作れるレベルの物でこの魔法を防ぎ続けるのは不可能だ。拙者が使えたなら大ルーンとか巨人の火とか全部無視して黄金樹を圧し折っただろう。
衝撃が収まり粉塵が舞い落ちてくるようになったころ、地面が揺れた影響か地中で眠っていたのだろうカエルがのそのそと這い出てきた。
「カズマ殿どうするでござる?狩りを続けるでござるか?」
「よし!めぐみん!一旦下がってハザマの後ろから魔法で援護を――あれ?」
「ぶっ倒れてるでござるな。危ないからとりあえず回収してくるでござる」
ダッシュで近づき落ちてたエサを食べようとしたカエルを切り捨て、魔法を放った後倒れてピクリとも動かないエサ殿を拾い上げる。意識はあるようだが完全に脱力しており酷く持ち辛い。
「ふふふ……爆裂魔法は究極無比の攻撃魔法……!よってその魔力消費もまた究極……!つまりもう魔力を限界まで振り絞ってしまったので全く動けません。さぁ私を安全な所まで運んでください!あと鎧が痛いので持つ人交代お願いします!」
動けないくせに威勢の良いめぐみん殿の言葉にカズマ殿はとてもげんなりとした表情だ。とりあえず嫌そうなカズマ殿の背中にめぐみん殿を預ける。そしてカズマ殿はカエル汁と粉塵に塗れてうめき声を発するアクア殿を見てからこちらを向き笑顔で宣言した。
「よし!今日はいい時間だし帰るか!俺はめぐみん背負ってるからハザマはアクアよろしくな!」
「あっずるいでござる!」
Tips:葦名の思い出
下着を盗んだ罰として机に括り付けられ開腹手術の練習台にされそうになった侍は、名前を俎板之上鯉太郎に改名することで許しを得た。しかしそれは、葦名の地に潜む鯉ガチ勢*6の刺客との長い戦いの始まりであった……
ギルドで絶賛され、度々スゴイと描写されるアクアの魔力よりめぐみんの魔力が2.3倍程高いという事実(アニメ版)。多分この世界はパッシブスキルの性能がぶっ飛んでるんじゃないかなと思います。
めぐみんが助かったせいでアクアが相対的に可哀想な目に。筆者は普通にアクア好きです。なんだかんだ優しいとこいいよね。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第4話 すれ違い宇宙
この話からは地の文では名前の敬称をほぼ省きます。説明と心象で分けるつもりでしたが、ごっちゃになるし間違えて表記揺れ不可避なので。クエストを終えて急に馴れ馴れしくなったと思って下さい。
カエル狩りを無事に終え、めぐみんを背負ったカズマと、ルーンから出した台車で運ばれていたがカエル汁に慣れたのか自分で歩き出したアクアと共にアクセルの街に帰還し、冒険者ギルドへの道を歩いている。
「しかしまぁこのロリっ子がたった1発魔法を使って動けなくなるようなポンコツだとは思わなかったよ。ハザマがいなかったらコイツも汁漬けだったんじゃないか?」
「おいロリっ子呼ばわりはやめろ。爆裂魔法の素晴らしさを思えば動けなくなるくらい些細なことでしょう!」
「あんなとち狂った魔法を使っておいて元気なほうがアレでござるがな。まぁ今回はあくまで爆裂魔法のデモンストレーションでござろう?」
「確かに実力を見せてくれって言ったのは俺か。先に動けなくなるって言って欲しかったけどな!まぁ切り札があるってことはいいことだし、普段は普通の魔法で戦ってくれるんだろ?」
「いえ私は爆裂魔法しか使えませんよ。爆裂魔法こそ私の全て!私の人生!爆裂魔法を使う事だけが私の生き甲斐であり、私のスキルポイントは全て爆裂魔法とその強化に使い切りました。爆裂魔法が究極的に素晴らしいので他の魔法なんか知りませんよ」
「素晴らしいわ!そのロマンの為に自分の人生全てを捧げる姿勢!この私水の女神アクアがあなたの生き様を認めましょう!」
自分が一発打ち切りの特攻野郎スタイルであることを宣言するめぐみんに、何に感動したのかそれを全肯定する汁の女神アクア。
「じゃあ何か?こいつは一発ドカンと撃って荷物に変わるか、後ろで棒立ちしてるだけのアークウィザード(笑)ってことか?……今日はお疲れ様でした。貴方の今後のご活躍をお祈りしています。ハザマこれからよろしくな!」
「ちょっと!パーティーに入れてくれるまで離しませんよ!延々と背中に貼り付いて毎朝爆裂魔法を撃ってやりますからね!美少女一人の衣食住を賄うだけで毎日爆裂魔法撃てるんだから安いものでしょう!」
「爆裂魔法が必要となることなんて無さそうだし、広い外以外じゃ棒立ち確定じゃねえか。毎日爆発する荷物の為に金使いたくねぇんだけど!」
「何言ってんのよカズマ!こんな良い子を放り出すなんてありえないわ!男の甲斐性見せなさいよ!」
めぐみんの採用について意見が分かれている。個人的にはロリ美少女魔法使いは一つの鉄板メンバーであると思うので、既婚ゆえ手出しはありえないにしてもパーティーを華やかにするためぜひ採用して欲しいので助け船を出す。
なによりもこんな筋金入りのやべー奴を野放しにしていては危険すぎるので目の届くところに置いておきたかった。具体的には詠唱始めたら黙らせられる距離。
「前に魔王を倒すと言っていたでござろう?魔王軍に打ち込むミサイルの維持費用と考えれば人間一人養うくらいは安いでござる。外で狩りしててうっかり消し飛ばされる可能性を無くす意味でも手元に居てもらった方がいいのではござらんか?」
「あー魔王は忘れてたな……そうなると切り札は必要かー。でもどちらかと言えば後者の方が重要だな。居ても居なくても迷惑とか疫病神か何か?もう間に合ってんだけど」
「今もしかして私の事疫病神呼ばわりした?水の女神様なんですけどー!信者沢山抱えてるこの世界の主神と言っても過言じゃない有り難い存在なんですけどー!!」
「つまり私もパーティーに入れてくれるってことですね!?これは爆裂魔法を習得しているお蔭でパーティーに入れたと言っても過言じゃないですしやはり爆裂魔法は最高ですね!」
「もうそれでいいよ……まともな前衛が来てくれただけでもよしとする……」
カズマががくりとうなだれ、ここにめでたく新たな冒険者パーティーが結成された。ゲームならファンファーレが鳴らされる場面でござるな!!
〈カズマside〉
生臭く汚れた元女神を連れ歩いていると街の人たちの目が痛いので、ギルドにクエスト報告に行く前に風呂に入りに行くことにした。
驚いたのは、脱衣所で全身鎧を一瞬で脱いだ侍のハザマが物凄いイケメンだったことだ。びっくりして褒めると「イケメンに産んでくれた義母上に感謝でござるな」とさらりと返される。なんだかイントネーションがおかしかった気もするが対応もイケメンだ。しかし全身と顔に酷い火傷痕があり、それを隠す為に街中でも全身鎧を脱がないのかもしれないが、あえて聞くのはやめておいた。
「そういえば、ハザマは本当によかったのか?その実力があれば俺たちみたいな駆け出しなんかよりもっといい条件のパーティーに入れると思うんだけど」
「そのことでござるか。前に拙者は女神に追放されて来たと言ったでござろう?それゆえ、機嫌を取りなすような何か*1を欲しているのでござるが、皆目見当つかぬ。それで、女神であるアクア殿から何か学べないかと思ってな。金銭も名誉もさして必要ないゆえ丁度良かったのでござるよ」
なるほど。というかマジでアクアの事を女神だと認識しているのなこの人。他の女神の事を知っているみたいだし、女神特有の判別方法があるのかもしれない。あの駄女神を見て本当に女神だなんて信じられる訳ねぇもんな。
ふと見れば多くの傷跡が残る手、その左の薬指に指輪が嵌っている。
「あれ?ハザマってもしかして結婚してるのか?指輪してるけど」
「む?ああこれでござるか。どこの指に指輪をするのが既婚者かなどはその地の文化によってまちまちでござるが、確かに拙者は結婚しているでござる。日本人ゆえ現代日ノ本の流儀に則った感じでござるな」
「へえー、まぁそんだけイケメンなら結婚もしてて当たり前か。奥さんは元の世界にいる感じか?」
するとハザマはその蜥蜴みたいな鋭い目を細め、指輪を撫でながら遠い目をして言った。
「いや……今は、遠い星から、見守ってくれている*2でござるよ。拙者はそう信じているでござる」
……やっちまった。すげー気まずい。この可能性を考えていなかったのは俺のミスだ。
周りのおっさんたちも即座に顔を背けこの空気から逃げ去っていく。
ハザマも周りの空気が沈んでしまったのに気が付いたのか、何か言おうとしたが結局止めてしまった*3。これはきちんと謝っておかなきゃいけないよな。
「すまん、ハザマ。考えが足りなかったよ。悪い事聞いちゃったな」
「いやいや全く気にしないで構わないでござる!いつか*4再会することも約束しているのでな。気を使われるとむしろ申し訳ないというもの」
幸いハザマは大人の対応をしてくれた。死んだ奥さんとの再会の約束を信じているなんて素直にカッコイイと思う。俺もせっかく異世界に来たんだし、こんな強くてカッコイイ男になりたいもんだ。
「さんきゅーな。この後はどうしようか?あとはギルドにクエスト達成の報告するくらいだけど、別に俺一人でも十分だし。今日はこのまま解散にして明日の昼にでも冒険者ギルドに集合でいいか?」
「分かったでござる。拙者は適当にその辺ぶらついてから休むとしよう」
予定も決まり、一緒に風呂から上がり外で別れる。この後はギルドに行ってクエスト完了の報告をするだけだ。
カエル狩りの報酬は死体の売却込みで10万ちょっとの金額になるだろう。四人で割ると少ないが、ハザマのお蔭で命の危険は無さそうだしレベルも上がると考えれば割には合う。あとは俺が強くなってもっと稼げるクエストをこなせるようになればいいだけだからな。
なかなか明るい未来を想像し、足取りも軽く冒険者ギルドへの道を歩く。
この時の俺は、この後また新たな頭のおかしい女にまとわりつかれる未来は想像もしていなかったのであった……
Tips:超イケメン侍ハザマエルデオー
彼は元々故郷、葦名において極めて平凡な、無双ゲーの拠点兵長みたいな容姿をしていた
潜入任務などに向くと評価されども、高身長イケメンばかりの周囲にイヤミか?と劣等感を抱いていた
そして狭間の地にて満月の女王レナラの生まれ直しによって、モテモテのイケメン侍に成ったのだ
しかし共にイケメンに生まれ変わった針子のボックの死に、深く涙することになる
いつも読んで下さりありがとうございます。
ストーリーの進行はかなりゆっくりめ。
着けてる指輪は自作した暗月の指輪レプリカです。
そしてこいつはスキルの説明をおっぱい見てて聞き逃したので理解しておらずまだ1ポイントも使ってません。
次回あたりでスキルを所得するかもですが、本編で言ってるとおり不自由してないのでパッシブ重視になると思います。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第5話 夜限定でエンカウントするタイプのエネミー
読んでくれる人の反応はとても励みになります。
サブタイトルは雰囲気でなんとなくつけてます。
皆さんのお蔭でなんと拙作が日間ランキング入り。嬉しくて忌み笑いの面みたいな顔になりました。
言葉の難しさを考えさせられる風呂から上がり、冒険者ギルドへクエスト完了の報告に向かうカズマと別れ、これからどうするかを思案する。
「さて、これからどうしようか。その辺ぶらぶらと言った以上は適当に彷徨って、何か面白いものでも探してみるか」
脱衣所でルーンパワーを使いパパっと装備した戦鬼の鎧一式に、武器は街歩きなので大型ナイフを1本腰に提げるだけにしておく。
まずは大通りから散策を始めてみることにし、歩きながら出店などを覗いて回る。
日の暮れかかった頃の大通りは、夕食の食材を買い求める婦人や、飲みの店を物色する冒険者たち、家路へと駆ける子供の騒ぎ声などで大いに賑わっている。
「ああ、なんという素晴らしい光景でござろうか……」
こういうのでいいんだよ、こういうので。平和な街の日常に、プラス要素の冒険者たち。剣と魔法のファンタジー世界のあるべき姿がここにある。
お店の人は目が黄色くぎらついてないし、婦人は血濡れの鎌とか持ってないし、冒険者たちはこちらを見て即増援要請の角笛吹いたりしないし、子供が外を出歩けてる。
「どうしてうちはこうじゃないんだ……これがデフォルト残機ゼロ世界の力だというのか……?やっぱライフ低い方が平均アライメントがLaw寄りになりやすいんでござろうか……?」
やっぱり残機ゼロってのが大きいのかもしれない。殺されたら嫌だからお互いを殺さないようにしようねって感じで損得勘定に持っていけるからだ。
石鹸3個くれるならギリ死んでもいいかなってレベルで命が軽い世界で、道徳心を育むのは難しいのだろう。あいつら馬鹿ばっかだし。
ぶつぶつと独り言を言いながら歩き、そっと周りの人が避けていく道なりに進むことしばし。とても美しく立派な大教会が見えてきた。狭間の地のマリカ教会では貴重なアイテムが手に入る、もしくは貴重なアイテム+頭のおかしい殺人鬼のセットだったがこの世界の教会はどうだろうか?大きな扉を開けて中に入ってみる。
「お邪魔するでござる。かなり広いな……真ん中に行ったらボスが降ってきそうなくらい広い……」
教会の中はとても広々としていて、数多く並んだ長椅子にはちらほらと祈りを捧げる人たちがいる。
豪華なステンドグラスが落ちかけの夕陽によって鮮やかに室内を彩り、中央奥にあるとても美しく豊満な体を持つ女神像が神々しく照らされている。おそらくあれが親切隊長(第1話)に教えてもらった女神エリスなのだろう。
壁を背にしてしばらく待機しつつ中を観察し、頭おかしい殺人鬼も天井に張り付いた大型ボスも居ないことを確認し一息つく。すると視線を下げた事で床にこっそりと刻まれたメッセージが目に入ってくる。
【エリスの胸はパッド入り】
「これは……なるほど、そういうことか……」
床に書かれた文字を見て、拙者の極めて優れたインテリジェンス侍ブレインがすぐさま正しい答えを導き出す。これはつまり、人々の勝手な思いが女神の正しき姿を歪めてしまったことに反対する、いわばチチリックに対するパイテスタント*1といえる人が書き残した切なる叫びなのだろう。
胸を、盛るな。と。
「分かるぞ。拙者にはその思いがよく分かる。神の在るがままの姿を人の都合で改ざんして何が信仰だというのか。なればこそ、その思いには応えてやらねばなるまい……!!」
なんとなーく気分的に防具を全く使わないありきたりな物に素早く変更しつつ――
「偽りの乳では、必ずやがては歪みが生まれるのだ!『回帰性原理』」
あらゆる欺瞞を取り払う、万物を変わらぬ姿へ回帰させる力の波が放たれる。薄く光る神秘の力が聖堂内に淡く溶け込み、欲に歪められた女神像があるべきスマートで清楚な姿を取り戻した。
驚いて祈りを止めた信者たちが、正しきnewな女神像への変化にざわめき始めた。
「信仰とは心の性癖。また一つ迷える人々を正しく導いてしまったでござるな。できる侍はクールに去るでござる」
そっと戦技『暗殺の作法』を使用し、姿と足音を消して速やかに立ち去る。エリス教の聖人認定されても困っちゃうでござるからな!
そうしてアクシズ教徒の仕業に違いないとざわめく教会から痕跡を消し日の落ちた街に消えるのであった……
Tips:正乳律原理主義
昔、エルデの王に至った記念に、ラニと二人の肖像画を三人の絵描きに描かせた
ありのままを描いた一人には褒章を与えた
胸を盛って描いた一人は縄で縛って海に投げ捨てた
胸を盛って肌を白くして腕を二本にして「こっちのほうがえっちじゃん」とか言った最後の絵描きは鎖で雁字搦めにして塊の重力石を抱かせて腐れ湖に沈めた
おっぱいはありのままがいい、信仰と同じように
素晴らしい善行を成し遂げた後、完全に日が暮れた夜の裏路地を、戦鬼一式に着替えなおして歩いている。
表通りのような治安は保たれておらず、みすぼらしい姿で路肩に座り込む家無しや、吐瀉物に塗れて地面に転がる身ぐるみ剥がれた酔っ払い、ナイフをちらつかせながらこちらを品定めの目つきで眺めるゴロツキ共など、裏路地の正レギュラーメンバーともいうメンツが揃っている。あとは巨大ネズミなんかがいれば試合にも出れるだろう。
「こう……あれだな。実家のような安心感……」
なんとも悲しいことにこの薄汚い空気に酷く馴染みを覚えてしまった。なんならさっき感動した表通りの街並みよりも良い空気まである。
このままうっかりレギュラー入りして部長に「お前は裏路地の柱になれ!」とか言われてしまってはたまらない。自分うっかり迷い込んでしまった善良な街人ですけど?みたいな態度をとってゴミ共との心の距離をはっきりしておく。
そのまま裏路地をキョドりながら進んでいくと、建物の死角にぽっかりと空いた袋小路的スペースがある。……そういえば祝福を更新していない。いかにもな人目につかない場所だしリスポーン場所をこの街にするためにも祝福を設置しよう。そう思い袋小路に入ろうとすると、建物の影から――
「へへっおい「ルーンパンチ!!」ぐはぁ!!」
「説明しよう。ルーンパンチとは毎度毎度毎度毎度毎度毎度毎度毎度曲がり角で角待ち待機して襲い掛かってくるクソゴミウ○コ共への溢れんばかりの憎悪をルーンにして拳に込めた一撃だ。効果は相手を死に体にする」
角待ち待機していたゴロツキの顎を光り輝く
「……とりあえず反射的に殴り倒したけどコレどうしようか……?山に自生する野良人間なら適当に切って捨てるが、常識あるモラリスト侍としては街中で人間を殺めるのはアカンでござるよなぁ……」
ぷらんと揺れるゴロツキを持ち上げたまま思案していると、どうやらリンクしてるタイプのゴロツキだったらしく背後から新たなゴロツキが近づいてきた。
「テメェなにして「ルーンキック!!」がはぁ!!」
「説明しよう。ルーンキックとは毎度毎度毎度毎度毎度毎度毎度毎度曲がり角の敵を警戒していると後ろに沸いて襲い掛かってくるゴミカスウ○コ共への溢れんばかりの憤怒をルーンにして足に込めた一撃だ。効果は相手を吹き飛ばしダウンさせる」
後ろから声を掛けてきたゴロツキの腹を光り輝く
「……いやいやいやダメでしょ!まずい!ガイアが拙者に裏路地のエースになれと囁きかけてくる!このまま殴り倒していると絶対良くない裏ルートに突入する!」
両手のツインゴロツキをそっと地面に降ろす。新たなゴロツキがリンクしてくる前に、大きなズタ袋を二枚取り出しそれぞれしまって隅っこに隠しておく。
さっさと祝福を設置して立ち去らなければならない。準備として祝福を模した呪物、祝福擬きを袋小路の真ん中に置く。そしてこれを祈りによって本物の祝福に改変するのだ。
「この作業久しぶりでござるなあ……よし。これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福これは祝福よしできた!!」
ピュアな祈りによって祝福擬きを祝福し祝福に変える(?)。もう自分でも祝福って何なのかよく分からなくなってくるが万事上手くいったのでオーケーだ。祝福〔アクセルの街裏路地〕が正しく機能しているのを確認し、リスポーンポイントを更新次第に足早にこの場を立ち去る。
後に残るのは二つのズタ袋、そして怪しい騎士がゴロツキを殴り倒し袋に詰めて怪しい儀式を行っているのを目撃してしまい、恐怖に慄く浮浪者だけであった……
Tips:祝福
かつて褪せ人をエルデンリングに導いた祝福は、新たな世紀には存在しない
自らの意志のみで道を決めることになったが、導きは無くとも祝福自体は残っている
これを利用し、己の意志で、己を前と決めた方向へ導くのだ
本来は、祝福無き世で全ての人間が行っていた事である
こいつ一人でいると狭間の地のネガキャンを呟くか人間に暴力振るうかしかしてねーな?
戦技は長い長い時間をかけて練習し、戦灰無しで使用できるようになっています。武器種制限はそのままですが。
読んで下さりありがとうございました。
話が全然進んでないけど、ちょっとずつ更新していくので気長にお待ちください。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第6話 狩りに優れ、無慈悲で、血ま酔っている狩人
Law(法)とLow(低い)間違えるマン(頭褪せ人)
カルマ値だと高いと悪いのか低いと悪いのかはっきりしないので修正してます。
何度も見直してるのに誤字が無くならないからちくしょう!誤字報告助かります……
書いていて妙に長くなったので今回はカズマ視点だけです。
〈カズマside〉
「いやー……昨日はなんというか、踏んだり蹴ったりというか、悲喜こもごもというか……そんな日だったな」
昨日は風呂から上がり、ハザマと別れて冒険者ギルドにクエストの報告に行ったのはよかったが……討伐クエストの報告にはカードの討伐記録を使うらしく、合流しためぐみんのカードの分は確認できたものの、ハザマの討伐分のジャイアントトード二匹の確認ができなかったんだよな。
幸いそっちの刀で斬られた二匹の死体は回収できたので、後々本人と一緒にカードと報酬受け取りの確認をすることを条件にクエストクリア扱いにしてもらったのだ。
問題はその後……疲れたから休むとさっさと二人が帰って行った後だ。
一人で食事をとる俺のもとに、とても美しい金髪の女騎士が声を掛けてきたのだ。
「失礼……まだこのパーティー募集はやっているのだろうか」
「ぜひ!この私をパーティーに入れて欲しいのだ!」
「先ほど街の門あたりで私は見たのだ!粘液と泥に塗れて呻く少女が……た、ただの荷物のように台車で運ばれるところを!わ、私もぜひあのような……いや、騎士として見逃せないのだ!私が彼女たちの盾となり、あらゆる責め苦を代わってやりたいのだ!」
「これでも私は上級職のクルセイダ―だ。あなたたちのパーティーには剣士はいたが盾職はいなかっただろう?ならば私を純粋な盾として、ガンガン使い倒して欲しいのだ!」
「毎日粘液まみれになるかもだと?むしろ望むところだっ!」
「ちなみに私は攻撃が全く当たらない」
会話したのは短い時間だったが、その興奮っぷりと発言の内容からかなりのダメ人間であろうことがよく分かった。
「この世界の可愛い女は全員頭おかしいダメ人間になる法則でもあるのか?ってくらいひどいな。いや、まだたった三人だし、厳密にはアクアはこの世界の人じゃないから決めつけるのは良くないか」
朝とは言えないけど昼にはまだ早い時間。
昨日他のメンバーには昼頃にギルドに集合と言っておいたので、このままギルド内の酒場で飯食ってのんびり待つか。
「うーむ……スキルの習得ってどうやるんだろ?」
討伐クエストを終えた俺のレベルは四になり、スキルポイントが三ポイント溜まっている。
せっかくだから記念に、安くて便利なスキルでも習得して出来ることを増やしてみたい。しかしスキルの習得方法がよく分からない。
そうしてカードを眺めて唸っていると。
「ねえキミ。良ければあたしがスキルの習得方法を教えてあげよっか?」
そうして声を掛けてきたのは盗賊風の恰好をした、サバサバした明るい感じの銀髪の女の子だった。そしてその隣には昨日ギルドで会話した、一応美しい金髪の女騎士がいる。
「あ、はい。教えてくれるんなら助かります」
「うんうん。キミは見たところ冒険者だろ?他の職だったらカードに習得できるスキル一覧が最初から表示されるんだけど、冒険者だけは違ってね。一度見た事のあるスキルを、そのスキルを習得している人に使い方を教えてもらうことで、初めてカードの取得可能欄に表示されるようになるんだよ」
「なるほど……だから俺のスキル欄はまっさらなのか」
「そういうこと。今ならサービスでクリムゾンビアを一杯奢ってくれるだけで盗賊スキルを教えちゃおう!盗賊スキルは安いポイントで便利なサポートスキルが習得できてとってもお得だよ!」
それは安い!前衛も後衛(一応)もいるし、パーティーの安定性を高めるためにも小回りのきく便利スキルは確かに悪くない。むしろぴったりと言えるな。
「それじゃあお願いします!すいませーん!こっちの人に冷えたクリムゾンビアを一つ!」
冒険者ギルド裏手にある人気のない広場に移動し、お互いに簡単な自己紹介をする。盗賊の少女の名前はクリスで、クルセイダーの女騎士の名前はダクネスというらしい。
そうして自己紹介を終えたあと、さっそくスキルを教えてくれるというが。
「いや……ダクネス?これは彼のスキルの習得のためにしかたなくやってるんだからね?だから怒らなああああああああああああああああ!」
まずは潜伏と敵感知スキルからだと言い、クリスはダクネスに後ろを向かせ、その頭に石を投げつけ素早く樽の中に隠れた。当然すぐにバレて怒ったダクネスに樽を転がされて悲鳴を上げているが……え?これでスキル覚えられんの?
クリスが四人目のアレな女なのか、実はこの世界が相当適当に出来てるのか。だんだんと不安になってくる。
「うう……気持ち悪い……。き、気を取り直して、次はあたしの一押しの窃盗スキルを教えよう!これは使用した相手の持ち物を何でも一つランダムで奪い取るスキルだよ。手に持っている武器だろうが、鞄に仕舞ってあるサイフだろうが、身に着けた防具だろうがお構いなしに奪い取る。成功確率はステータスの幸運次第で、どんな強敵相手でも運さえよければ通用する使い勝手のいいスキルなんだ」
それは確かに便利そうだ。なにより俺の唯一の強みである幸運のステータスを活かせるっていうのがいい。
「じゃあキミに使ってみるよー。『スティール』!」
クリスが手を前に突き出しスキルを発動すると同時、その手に小さな袋が握られている。
「あっそれ俺のサイフ!」
「おっ当たりだね。じゃあ……そのまま返すってのもつまらないし、さっそく今教えたスティールを習得してあたしに使ってもらおうかな。冒険者たるもの、奪われた物は自分の力で取り返さなくっちゃね?」
「そうきたか……よし。俺も冒険者だ!その話乗った!」
正直こんないかにも冒険者!ってやりとりに憧れていたこともあってテンションが上がる。
冒険者カードを取り出し、確かにスキル欄に表示されていた潜伏、敵感知、窃盗の三つを習得する。どれも一ポイントで習得でき、性能は使ってみないとまだ分からないが、安いのは確かだった。
「よし習得できたぞ。じゃあ勝負だ!何を盗っても恨みっこ無しでよろしくな!」
「いいとも。なにより……キミはきちんと価値のある物を盗めるかな?」
そう言ったクリスが両方の手の平を上にしてぱっと開くと、そこにはたくさんの石ころがあった。
「あーなるほど。そんな対策もあるのか……」
「勉強になるでしょ?どんなスキルにも対抗策はあるもんさ。さあいってみよう!」
「よーしやってやる。俺のやたら高い運を舐めるなよ!『スティール』ッ!」
そしてスキルを発動し、突き出した手の中に何かが収まる。それを確かめてみると……
「ヒャッハー!大当たりだぜえええええええええええええええええ!!」
「いやああああああああ!ぱ、ぱんつ返してええええええええええ!!」
手の中にあったのは白いぱんつ。見事な大当たりだった。
「クックック……こりゃあそんな小さなサイフに入っているようなはした金では交換してやれないなあ?価値が釣り合ってないもんなぁあああ?」
「わ、わかったから!あたしのお金も渡すから!はやくぱんつ返してよお!」
まぁ実際ぱんつ貰っても仕方ないので素直に交渉に応じる。差し出された大きなサイフを受け取り、代わりにぱんつを返そうとしたその時。
「待 て い ! !」
!?
「なっ…」
路地裏から一人の男?が颯爽と現れる。鍔の大きな帽子に口元が縫われた白仮面、高級そうな鮮やかな青の長衣に黒い長手袋に黒ズボン。そして背中に波打つような形の大剣を背負っている。
もしかして今までのやり取りを見られていたのか?ぱんつ奪って脅迫してたのを怒られるのかもしれない。
「全く……見ていられんな」
そう呟くと俺の手からクリスのサイフを抜き取り彼女に返した。やはり仲裁か説教の為に割り込んできたようだ。
そして俺の手からクリスのぱんつを回収すると、はちきれそうなサイフ*1を代わりに俺に渡してくる。ん??????????
「カz……少年は良いことを言った。価値が釣り合っていないと。全くその通りだ……私の名はぱんつを狩る者、S!これが等価交換だ……!」
いや変態だったわ。
「いやいやいや!あたしのぱんつなんですけど!?普通に返してよ!?」
「物の価値の分からぬ輩め。美少女のぱんつには特別な価値があるのだ。古事記にもそう書いてあったろう?」
「コジキって何!?あとそれ本人に言う事じゃないでしょ!だったら力尽くで返して貰うよ!『スティール』ッ!」
関わりたくないのでこっそり後ずさりしていると、クリスが窃盗スキルを発動。そして突然がくんと前に倒れ込む。その突き出した手には……巨大なハルバードが握られていた。
「重っ!!え、なにこれ?どう見てもこんなの持ってなかったじゃん!!」
「ゴーレムの斧槍だな。そこそこのレアものだが……構わん!くれてやろう!」
そして謎の変態はぱんつを懐に仕舞いこもうとし……ぴたりと動きが止まる*2。なんだ……?
「あー……残念だが私は、これを手に入れる運命に無いようだ。無念なり」
「何が何だかもう分かんないけど……じゃあはやく返してよ」
「しかし、すでに払うものは払ったあと。よって……スパッツと交換だ!」
「くぅ……正直すっごく嫌だけど……こんな得体の知れない変態にいつまでも関わりたくない……!」
ハルバードを置いて物陰に行き、「『敵感知』!」そしてスパッツを手に戻ってくる。
「確かに。ではさらばだ少年少女たちよ。あとノーパンショートパンツすっごいえっち」
「死ね!!二度とその顔見せないで!」
散々場をかき乱した変態がフワーッと光って消えていく。立ち去り方までおかしいとは異世界の変態は恐ろしいな。
「あー……じゃあ、俺はギルドに戻るんで……色々おつかれっした」
「うん……ほんとにね……なんか変な魔法使ってて全然正体分からなかったし……」
挨拶も済ませたので冒険者ギルドに戻ることにする。なんだか疲れたな……
ちなみにダクネスはずっとハアハア言いながら興奮して見てただけだった。お前騎士として盾になるとか言ってなかったっけ?
Tips:クリスのスパッツ
シンプルな黒のスパッツ
盗賊の少女、クリスの物
まだほのかにぬくもりが残っている
また、不思議と僅かに神聖な力を感じる
これは間違いなく確実に一切特別でないただの衣服であり、足甲に分類し収納している
貴重品に収納しなかったので、とりあえず許されたようだ
ぱんつを狩る者、S……一体何者なんだ……(すっとぼけ)
まぁ別に狭間の地でもぱんつ狩って回ったりしてないんですけど。
貴重品欄には小さなラニが収納されています。つまり言動ではなくインベントリだけ見張られている訳ですね。
兄Dさんは極めて全うな黄金樹教徒で、特にネタ要素のない人なので双子防具は使いませんでした。普通に正気で、割と親切な人の装備をぱんつトレジャーに使ってはいけない。なお弟D
カズマが前クエでカエル二匹分の止めさしてないから経験値足りなくない?と思った人へ。許して
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第7話 キャベェェェツ フェスティボーウ!!
誤字と勘違いを無くす祈祷を下さい。赤ペン先生の遺灰でも可。
お蔭さまでお気に入りが遂に千人を超えました。これはランキング上位勢のすんごい人たちと比べると大したこと無いように思えますが、実際千人という数はスゴイ数です。イナバの物置だって余裕で破壊できます。
今回はちょっと長めです。
何故か全財産を失い、いつの間にか新たな装備を手に入れた爽やかな風の吹く午後。
何故か装備が変わっていたのでいつもの装備に着替え、裏路地の祝福から冒険者ギルドに移動する。
ギルドの中に入ると、何故か宴会芸をしているアクア、食事を終えたっぽいめぐみん、全然知らないスパッツを履いていない女盗賊と知らない女騎士の二人組と一緒にいるカズマとすでに全員揃っている。
「やあカズマ殿。拙者で最後のようでござるな」
「ああ、ハザマか。そうだ、昨日のクエストの報告がちょっと残ってるから来てくれよ」
どうも討伐証明が一部不明ということで拙者の冒険者カードの討伐記録を受付に見せる必要があるらしい。カズマと一緒に受付に行き、カードを見せ、カズマから報酬の四分の一を受け取る。
「これでよし。大した金額じゃないけど初心者PTがリスク無く稼げるなら十分だと思うぜ」
「堅実なのはいいことでござる。せっかくの異世界冒険者生活だし、のんびり楽しめるくらいが丁度いいでござろう」
報告を終わらせ酒場に戻ると、宴会芸を止めたアクアとめぐみんがこちらを待っていた。
「ハザマも来たのね。それでカズマ!ちゃんと芸を見てないとダメじゃない!これはあんたに教えてあげようとやってるんだからね!……それでさっき一緒に入ってきたこの人はどうしたの?なんかすごい落ち込んでるけど」
「それは私が説明しよう。クリスはカズマにぱんつを剥ぎ取られた上にあり金を要求され、さらにそこに謎の男が乱入してきて、色々あってスパッツまで取られたのだ」
「いやあんた!間違ってないけど、ちょっと前半は待て!大体あってるけど、俺のほうは待て!」
どうやら拙者が知らないうちにカズマが女の子に非道な行いを働いたようだ。引くわー。酒場のみんなでカズマに冷たい目を向ける。
しかし落ち込んでいたクリスという少女はすぐに顔を上げた。
「公の場でいきなりぱんつ脱がされた挙句変態にスパッツ奪われたけど、いつまでも凹んでてもしょうがないね。結果的にお金は取られなかったし、気分転換になにか臨時でダンジョン探索でもしてくるよ。じゃあダクネス、なにか適当に遊んでいてね。私は行ってくるよ!」
そういって冒険者募集の掲示板に行ってしまった。女性冒険者たちがカズマにさらに冷たい目を向けている。
「ダクネスさんはついて行かないのか?」
「……私は前衛職だからな。前衛職なんてどこのパーティーにも居て有り余っている。クリスはダンジョン探索に必須の盗賊で、しかも盗賊は有能な割に地味で数が少ないからどこにでも需要があるのだ」
なるほど。確かにダンジョンで罠と敵が探知できるなら心強いことこの上ない。
突然の火炎放射や角待ち畜生共の場所が分かるならかなりストレスフリーだ。めっちゃいて欲しかった人材である。
正確には盗賊自体は掃いて捨てた程いたけど全員敵だった。話になるのはパッチくらいだったが、絶対裏切るあいつと一緒に探索なんてとても考えられなかった。
「なるほどなー。俺も敵と罠を探知できるようになったし、ダンジョンなら結構役に立てそうだな」
「おや?カズマは何かスキルを習得できたんですか?」
「ふふん。見てろよめぐみん。『スティール』ッ!」
カズマがめぐみんに向かって手を突き出しスキルを発動すると、その手に黒い布が握られる。
ぱんつだ。即座に見抜くが流石に今は何も出来ることが無い。
運命とは何時だって残酷で、いたずらに人を傷つける。かつてはそんな運命に逆らい、神さえ斬ったものであるが、流石にここでカズマからめぐみんぱんつを奪いとるなんてキ○ガイムーブするわけにいかない。どうせぱんつ奪っても凍死するからインベントリに保存できないし。
「なるほど。レベルが上がって冒険者から変態にジョブチェンジしたんですね。……スース―するので早くぱんつ返してください……」
「あれっ!?おかしいな!?これランダムで相手の何かを奪い取るスキルのはずなのにっ」
素早く魔術『内から見える兜』を使用し、もじもじとスカートの裾を抑えるめぐみんを後方ベガ立ち騎士面で顔を向けずにガン見する。
恥じらうノーパンミニスカ美少女は歴史的に極めて重要な資料なので、視界に映る映像をメモリ・ストーン*1に記憶する。元々記憶してあった映像は、拙者のアンチでありやたらと悪評をばらまく失地騎士の顔だ。半年程粘着して殺しまくったら大人しくなったのでもうこの映像は消していいだろう。
ダクネスが今のやり取りに突如興奮して盛りながらパーティーへの加入を希望し、上級職のクルセイダ―であることを理由にアクアとめぐみんが彼女の加入を肯定する。しかしこれ以上パーティーにアレな女を増やしたくないカズマはそれをなんとか取り下げようと必死だ。
拙者としては、金髪巨乳変態女騎士とか世界の運命的に加入しないはずがないと確信しているので特に口は出さない。それに味方を守る戦いとか今までほとんどやったことないので、盾専の加入は普通に歓迎だし。
カズマがこのパーティーは魔王を討伐するための集まりであり、危険で険しい道のりを行くのだとダクネスに脅しをかけるが、むしろ魔王にエロい目に遭わされたいと逆効果だ。
しかし昨今は魔王が実は美少女でヒロイン化するパターンもよく見る。複数転生者モノでクズ勇者なんかが現れると高確率でそうなるが、その場合は女魔王とエッチなことするのだろうか?それだと最高でござるな。
魔王というワードに反応しためぐみんが勢いよくマントを翻し、あ、ポーズを取ったから手がスカートの裾がひら
は??????????突然目の前にクソデカメッセージが表示され視界がガッツリ奪われる。なんじゃこれ?この世界の大いなる意志の干渉を感じる。
しかも明らかに今は全くスカートの中が見える感じでは無かった。一瞬見えそうでもまだまだ絶対見えないと言い切れるタイミングでさえ妨害入るとか、希望を抱くことさえ許さないという強い意志表示を感じた。
こっちは検証*2の結果、能動的に女性に直接エロいことしようとすると不思議な力で即死するのが分かっている(いや浮気になるからどのみちしないけどね?)から、こちらの意志の介在しないエッチなToLoveるを待つだけの身なのになんて仕打ちだ。今なら憎しみで神だって殺せるだろう。
見たいものも見えないこんな世の中に内心毒づいていると、突然街中に大音量のアナウンスが響きだした。
「緊急クエスト!緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まって下さい!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まって下さい!」
緊急クエスト?ハンターランクが上がるヤツか?周りの窺うがどうも不安気なのはカズマだけのようで、他の人たちはむしろ嬉しそうな表情だ。どうやら緊急クエストの内容に察しがついているようだ。
カズマが他の人に問いかけると、ダクネスがそろそろ時期なのでキャベツの収穫だろうと教えてくれた。
……キャベツ?
「なんでキャベツ?もしかしてそういう名前のモンスターなのか?」
「カズマはキャベツも知らないのですか?緑色の丸い、しゃきしゃきして美味しい野菜ですよ」
「そんな事知っとるわ!つまりあれか?緊急クエストだーつって、冒険者に農家に手伝いさせようってのか?」
「あー……カズマと多分ハザマも知らないんでしょうけどね?この世界のキャベツは………」
アクア曰く、この世界のキャベツは収穫の時期が近づくと食われてたまるかとばかりに空を飛んで逃亡するらしい。街越え草原越え、やがて大陸を越え海を渡り、人知れぬ秘境の地で朽ち果てるのだという。
いや次代を残せよ。生存本能が種の保存を放棄させるとか本末転倒では?いや秘境で繁殖するのか?それなら他の生き物と遭遇しにくいから逃げる生態なんか身につかないだろう。こんな訳の分からない生命体を食べていればそりゃあレベルも上がろうというものである。
巨乳受付嬢さんがクエストについて冒険者たちに大声で説明を始める。内容はキャベツ収穫で合っていたようで、今年のキャベツは特に出来が良く一玉一万エリスと引き換えで、設置された檻に納めればいいらしい。親切隊長はキャベツ三十玉分の金しか持っていなかったと考えると少し面白かった。
馬鹿みたいなクエスト内容にテンションの下がったカズマ率いるパーティーで街壁の外、門の前まで移動する。バリエーション豊かな装備の冒険者たちも一緒だ。
「あの空の向こうからカッ飛んでくる緑の
「イナゴみたいで普通にキモいよな。俺この世界少し嫌いになったもん」
押し寄せるキャベツの群れ。フレッシュで栄養豊富な緑の奔流が街に向かって流れてくる。
だが見てくれがアレな敵なんぞ今までうんざりするほど戦ってきたので、今更外見がどうなどという理由で刃が鈍ったりはしない。腐敗毒とか呪いのゲロとか吐いたりしないんでしょ?
空を飛ぶ奴が相手なら、重力魔術を使わざるをえない。ゲロビで薙ぎ払うこともできるがキャベツが消し飛んでは勿体ないし。
いつもの武器を収納し、輝くルーンから2本の特大剣を取り出し両手に持つ。
「おお……なんかすげーごつくてカッコイイな。それはなんか伝説の武器だったりするのか?」
「うむ。これは"星砕き"の異名を持ち重力を自在に操る剛毅なる将軍、ラダーンというデミゴッドが使っていた双剣でござる。降り注ぐ隕石を重力魔法でとっ捕まえて斬り砕き、遂には隕石側がびびって降ってこれなくなったという伝説の持ち主でござった。死ぬほど強かったでござるよ」
「思ったより遥かにやべー伝説だったわ!ナチュラルにゴッドとかでてるし、しかも戦ったのか……やっぱ怖いな、ファンタジー世界」
「くっ……かなりカッコイイじゃないですか!しかし!この私も爆裂魔法がありますからね!隕石だって砕けるに違いありません!負けませんからね!」
瞳を紅くぎらつかせためぐみんが伝説トークに素早く反応しぴょんぴょんしている。反応そのものは可愛いけど目が赤いと気が狂ってそうですげー怖い。葦名だと不死化の人体実験の失敗作が赤目になってたけど、もしかして紅魔族もそんな感じの由来なのだろうか?頭おかしいと評判みたいだし。
「まぁ詳しい話は、興味があるならまた時間がある時にでも聞いてくれれば話すでござる。今はその伝説の一端、隕石を捕えた重力魔法をお見せしよう!」
いよいよ街まで近づいてきた飛翔するキャベツの波、その群れの先頭に向かって複数の重力弾を飛ばす。何十ものキャベツを捕えたのを確認し一気に引き寄せ、破壊すると値段が落ちそうなのでそのまま冒険者ギルドの用意した檻の中に投げ込んだ。どーだ!?
「いや…………ごめん、やっぱキャベツだと絵面がダメだわ。凄い事やってるんだろうけど、キャベツだから……」
「…………あーあー!隕石でも降ってこないかなー!!!宇宙の悪意さーん!!!こっちですよーーーー!!!!」
「いやごめんて!でも仕方ないだろ!キャベツだぞ!!盛り上がろうにもキャベツなんだよ!!」
畜生。もう隕石も自分で降らせてマッチポンプしてやろうか?星出し砕きしてやろうか?でももういい大人だからムキになんてならないからな!
心無い言葉に傷つけられたので、無言でせっせと重力を操作しキャベツを次から次へと捕まえ檻に放り込んでいく。よく考えたら星砕きの大剣も別に使わないので仕舞って杖に持ち変える。オラッ重力ッ!
「ああっいじけて無言で金策モードに入っちゃったよ。俺もキャベツ捕まえるか……」
「フフフ。どうやら次は私の出番のようですね!爆裂魔法は見栄えも威力も人類最強。いざ必殺の……『エクスプロージョン』ッ!」
足元にドでかい魔法陣を描き、頭おかしい量の魔力を杖の先にぎゅんぎゅん圧縮すると上空のキャベツの群れに向かって一閃。着弾地点から百m近い爆発が巻き起こり数百玉のキャベツを消し飛ばした。
いや捕まえよ?でもまぁ金にはならないけど経験値稼ぎとしてなら悪くはないのか……?
「フッ……やはり爆裂魔法しか勝ちません。異界の神話恐るるに足らずです!」
「神話に居て欲しくないタイプの魔法使いなのは確かでござる。しかし拙者のせいで狭間の地が侮られる訳にはいかん。現役の神話勢として、後で名誉挽回してしんぜよう!」
ぶっ倒れためぐみんを回収し、比較的安全な冒険者ギルドの職員たちがいるスペースまで移動。インベントリから取り出したゲーミングチェアに座らせる。
周りを見渡すと、カズマは気配を消しながらキャベツの動きを読みスティールで捕まえている。早速手に入れたスキルを有効に活用できているようだ。
アクアはなぜか少数紛れ込んでいたレタスばかりを追いかけまわしている。レア物狙いなのかな?実は価値が高いとか。
ダクネスはキャベツに負けそうな冒険者たちの盾として仁王立ちし、降り注ぐキャベツをその身に受け止め続けている。服が破れていくのを男たちに見られているのに興奮しているが、男たちは素直に庇われていることに感動しているので温度差が凄い。個人的には服ビリ自体はエロいけど恥じらいが無いのは大きくマイナスだ。服が破れていやーんてなっても内臓までポロリしたらエロくなくなるように、ただ服が破れて肌が見えればいいってもんじゃないのだ。
とりあえず全員大丈夫そうだ。気を取り直し、杖を仕舞い両手に竜餐の印を宿す。赤黒い光を放つ紋章に周囲からの注目度が上がる。
「なんですかそれ!?めっちゃかっこいいじゃないですか!破壊神でも封印してたりするんですか!?」
「これは竜餐の印と言って、竜を討伐しその心臓を捧げ食らうことで竜の力を体に宿さんとする竜餐教の紋章でござる。拙者も数多くの名の有る竜を屠り、その心臓を食らい力を宿して只人を超えた、ドラゴン・ハーティドと呼ばれる者の一人!」
ビシっとカッコイイポーズを取りつつ説明をすると、ノリの良い冒険者やギルドの職員たちが拍手してくれる。ゲーミングめぐみんの瞳もピカピカだ。
「狭間の地の神秘、己の存在をも塗り替えるドラゴニック・パゥワーを見よ!『竜体化』!デュワッ」
赤黒い竜血の輝きが全身を覆い尽くし、そのまま一気に膨れ上がり燃え爆ぜる。そして炎の中から紅い雷を纏い、全身に輝石を生やした青黒い飛竜が現れた。
GRRRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!!
突如鳴り響く竜の咆哮に、キャベツと事情を知らない冒険者たちがパニックに陥る中、力強く羽ばたき飛翔。空を飛び交うキャベツたちを凍てつく冷気のブレスによって蹂躙していく。
僅かな時間で戦いの流れを決定づけ、キャベツが逃げ去る者と強者に屈服し食べられるのを待つ者に分かれたあたりで地上に降り変身を解いた。
「さぁ勝鬨を上げるでござる。収穫の時間だ!!」
びっくりするくらい誰ものってこなかった。
Tips:祈祷『竜体化』
竜餐の祈祷のひとつ、その極致といえるもの
己が姿を僅かな時間完全な竜となし、取り込んだ全ての竜の力を使用できる
数えきれないほどの竜餐を行い、その上で人の器を保ち続けたことで可能になった秘儀
新たな世紀、一人の竜騎士が竜血に呑まれ竜と化し*3、けれど不死の祝福を失わなかった
後はお察しである
色々悩んで時間がかかったけど私は元気です。
原作にムダ毛を生やすタイプの2次創作なのでネタ切れだけはほぼないのが救い。
ハザマエルドラゴンのイメージは輝石とか色々生やした青黒いアギール(汚)。青黒いのは各色混ぜた結果のドブみたいな濁った感じ。サイズは普通です。
資格取得のため次はさらに遅くなるかもです。更新してたら勉強サボってると思って下さい。
目次 感想へのリンク しおりを挟む
しおりを挟む
第8話 ホーム画面でもポジションを確保しにいく
検定が終わったのでモンハンの合間に初投稿です。
不定期更新なので遅くなっても更新さえすれば失踪していないと言えるはず……
キャベツ祭りを終えた次の日の朝、歴代ぶっちぎり最大数のキャベツを収穫してほくほくな冒険者ギルドにてカズマと食事をしている。
突然ドラゴン化して暴れまわった件に関しては、変身する前に冒険者ギルドの職員も説明を聞いていたこともあり、日本人あるあるなチートスキルでござるとごり押した結果なんとか理解してもらえた。
カズマにはゲーミングチェアについて聞かれたので、ちょくちょく魔法で現代日本に行って買い物をしていたと説明した。今は使えないと言ったら残念そうにしていたが、パソコンのハードディスクでも破壊してほしかったのかな?
「レベルが12まで上がっている……キャベツ狩りだけでこんなに上がるとか、効率よすぎでは?しかもブレスも手加減(口加減?)してそんなに死なせてないのにここまでレベル上がるとか、魂云々の説明がつかないのでは?」
「俺も2レベあがって6になったぜ。経験値に関しては……キャベツが空飛ぶ世界で真面目に考える方が無駄なんじゃねぇかな……」
「鉄の塊を空に飛ばす世界も、他の世界から見ればおかしいと言えなくもないでござるがな。葦名ではNINJAが凧で空を飛び*1、狭間の地では気球が空に浮いてたでござる。たんぽぽの綿毛みたいなものだと考えればキャベツだって飛ぶやもしれん。いやないわ」
「ないよな。そういやさ、ハザマってスキルとかどうしてるんだ?俺は今回の分でキャベツ狩りで知り合った人たちに教えてもらった片手剣スキルと初級魔法スキル覚えたけど」
「スキルなぁ……一応カードに色々書かれてるのは見たけど、拙者はほら、強くて別ゲーム状態でござろう?正直あんまり必要なスキルとか思いつかないのでござる。攻撃は多分全力だせば防げる生き物とかいないし、防御も別に何されても(生き返るから)死なないし。元の世界に戻れる頃には、研究用に色々な魔法を覚えて帰ろうかなってぐらいでござる」
「すげー自信だ。まぁ頼もしいのはありがたいけど。じゃあ装備とかは?別ゲームっていうなら別の凄い装備とかあるじゃん?」
「確かに昔は片っ端から持ってない装備を際限なく収集してたでござるが、鍛冶技術を習得した結果、大体の物は自分で作れるようになってしまってな。伝説の武器なんてのもあるなら惹かれるでござるが、my最強武器が既にあるでござるから、空気を読んでいきたいと思ってるでござる」
「なるほど……マジでやることなくなったエンディング後の主人公みたいな感じなんだな。レベルカンストは……ゲームじゃないから延々と生き物を殺して回るやべー奴になっちまうか」
ゲームじゃないのに延々と生き物を殺して回った結果やべー奴だと狭間の地で陰口を叩かれまくった拙者に対する嫌味かな?
この世界では挨拶感覚でバクスタ決めるとか許されないだろうし、世界観が葦名と狭間の地と現代地球という、ある種偏った知識しかないからうかつに動きたくないのだ。他の世界に迷惑かけたらラニ殿に怒られそうだし。
「まぁ拙者の事は超便利なお助けNPCくらいに思っておけばいいでござる。今更野心とかもない*2のでな。カズマ殿はこれからどうするでござるか?キャベツでまとまった金が手に入ったでござろう?」
「ああうん。百万くらい稼げたから、いい加減装備を揃えようと思ってる。いつまでも布の服にショートソード装備じゃ流石にな。ダクネスは壊れた鎧を直して、めぐみんは杖を新調するらしいし、俺も一新だ。アクアは知らん」
「アクア殿は既に全身神器装備だから不要でござろう。あれで装備は超ガチでござる。カズマ殿の装備に関してなら、試しにこんな物を用意してみたでござる」
ルーンから一枚の小さな紙を取り出して渡す。それは長方形をしていて……まぁ率直に言えばチケットだ。
「なになに……"初回限定無料10連ガチャSR以上確定チケット"なにこれ?いや分からんでもないけど、その上でナニコレ!?」
「うむ。カズマ殿のスティールを見て思いついたのだが、拙者はこう見えて超大量の余った武器防具アイテムを持ち歩いているでござる。ならばスティールを使えば実質ガチャになるのでは?と思ったのでござるよ。幸運もお互い高いゆえ、同意の下なら双方納得いく形に収まるようなスティールをできると思った次第」
「えぇ……理屈は分かるけどさぁ……なんか世界観違わない?ファンタジーだけど、ファンタジーじゃないっていうか……スティールの練習にもなるし装備貰えるのも助かるけどさぁ……」
「物は試しでござるよ。チケットは雰囲気作りのオマケなのでどうでもいいとして、スティールを10回するだけでござる。ぱんつ以外も盗れるか確かめてみる意味でもやってみるでござるよ」
なおあらかじめ触れただけでもヤバイ物や、色々とアレな物*3なんかは細かくデカい箱にいれて封印してある。うっかり朱い腐敗*4なんてばらまくハメになったらえらいこっちゃだからだ。
狭間の地ピックアップガチャは安心安全。ウンコも毒も入っていない。レアリティなんか考えてないからSRとか無いけど。
そういうわけで冒険者ギルド裏の広場に移動した。
「まぁ別にスティールするからって同意があって返せるんだから気楽にやればいいか。正直面白そうではあるし、じゃーやってみるぜ!」
そうして10回スティールしてもらった結果。
チェインメイル
鍛石【1】
失地騎士の大剣
剣士の足甲
葦の地の手甲
ゆでエビ
鍛石【1】
緋琥珀のメダリオン
重力刀
打刀
「ほー。中々面白い結果になったでござるな。初心者向けスターターパックみたいになりつつも1品ロマン武器を引く。幸運高いと気の利く結果になるもんでござるね」
「高級でもなさそうな防具揃えつつ武器とアイテム?が少しか。これはかなり上々の結果なんじゃないか?刀があるのはめっちゃ嬉しいな。この謎の柄が重力刀でいいのか?あとぱんつ引かなくてマジでよかった。呪われてるわけじゃなかったんだな……」
「これは拙者が宇宙怪獣*5の椎骨を加工して作った、重力を集め刀身と成すロマン武器でござる。柄にある小さな窪みに指を入れると魔力が吸われて刀身ができるのでやってみるでござる」
「へぇ!重力の刃とかめっちゃかっこいいじゃん!どれどれ……」
カズマが柄を握り魔力が流れると、ぶおんと黒く揺らぐ刀身が現れる。完全に黒いライトセーバー(光ってはいない)なのでかっこいい。我ながらいい出来だ。
「おおおおお!!……すげー疲れる!終わり!……で、これって切れ味?威力?はどんな感じなの?」
「切れ味はうん……竹刀以上木刀未満って感じでござるかな……」
「それって切れないって言ってるのと同じだよね!?え?なに?こんなにかっこよくてすげー消耗激しいのに木の棒以下なの!?実用性ゼロ!?」
「いやまぁ……触れた一瞬で物が引き裂けるくらいの重力強度だと、起動した瞬間柄がぶっ壊れるのでな。ギリギリまで耐久と威力のバランスを取った結果でござる。使い道がないわけではないのでござるよ?ゲーム的に言うならガード無視の物理持続ダメージ系刀身でござるから、岩とか鎧とかはビクともしないけど生き物相手なら刀身を当て続ければそのうち内臓やられて死ぬでござるよ!」
「それ普通の刃刺した方が早くね?それで普通の刀や大剣も引けたんじゃない?幸運流石!やっぱ世の中運だわ!」
「ロマン武器だし、オンリーワンな使い道あるだけでも良しとして欲しいでござる。軽いし小さいから邪魔にならんし」
「まぁかっこいいのは確かか……大剣のほうは、いかにも大剣!って感じだな。使いこなせればかっこいいけど、今の俺には重すぎて無理だわ」
「カズマ殿はめぐみん殿より筋力ステ低かったでござるからな。レベルアップで超えたかもしれんが、まぁ鍛えてないと無理でござろう。この大剣を振り回せるくらい強くなるって努力目標でござるな。邪魔なら預かっておくでござる」
「頼むわ。防具はちょっとサイズ調整必要かな?見た目バラバラなのもちょっと気になるけどまぁいいか。他のアイテムの説明してもらっていい?」
「このメダリオンは身に着けておけば所有者の生命力が少し増えるお守りでござる。ポケットにでも入れておけばよかろう。ゆでエビは、美味いだけでなく一分程防御力が上がるでござるよ。しかも腐ったりしないでござる」
「……お守りは普通に嬉しい。ゆでエビはすっげぇ怖いんだけど?エビ食って一分防御上がるとかさらっと言われても、ゲームなら疑問に思わなくてもリアルで差し出されると恐怖しかねぇんだわ!腐らないとか何!?ほんとに俺の知ってるエビか!?一分の間肉体に何が起こってるんだよ!消化したらとかじゃなく一分て時間なのも分からんわ!」
確かに改めて言われてみると分からんでもない。葦名では舐めるとなぜか体が勝手にポーズを取ってしまう飴*6とかあったため、狭間の地でも謎食べ物に疑問を抱くことは無かった。
「ファンタジー慣れしてないでござるなぁ……漢方みたいなものでござろう。ポーションとかの回復薬だって普通に考えれば意味不明なのに、エビだけ批判するとか全世界のエビ好きを敵に回すでござるぞ」
「エビだと思えないから怖いんだよなぁ……」
まぁ実際このゆでエビはザリガニなのでエビじゃない*7のだが。狭間の地産のエビは明らかに命を狩りとるために進化してる大型モンスターで、普通の熊ではおやつにしかならないくらいの生態ピラミッドのエリートなので常食できる生き物ではないのだ*8。
「まぁ害は無いのでお昼にでも食べるとよかろう。冷めたりもしないのでな。そして最後に鍛石でござるが……ごほん。わぁ!(裏声)武器の強化素材を手に入れたんだね!(裏声)さっそく武器を強化してみよう!(裏声)」
「えっえっ何急に!?どんなノリ!?」
「さっき手に入れた打刀を強化しよう!(裏声)最初はサービスで無料で強化してあげるね!(裏声)」
「めっちゃチュートリアルじゃん……!分かりやすいけど、絶対なんか違うだろ……しかも声めっちゃそれっぽいのが逆に違和感でけぇよ。妙な特技を……色々できるの範疇が広すぎるだろ」
「武器と素材を渡してね!(裏声)」
「分かった!分かったから!!そのノリやめてくれよ!ファンタジー世界からリアル感が抜け出てくる!!」
作業台を取り出し、受け取った打刀を鍛石で打刀+1に強化する。実際に武器を作ってみると実感するが、このなんでも強化できる石の得体の知れなさがパない。純粋に硬くなるわけでも無いし、属性なんかも強化されるのが意味不明だ。鍛石そのものを武器にしてみてもただの石器と変わらなかったのも不思議。
「これでこの刀は+1でござる。大体一割強くなったと思ってもらえればいいでござるよ。」
「ゲーム的だなぁ……!強くなるならいいけどさ……」
「素材は拙者の地元の特産品なのでこの世界には存在しないので注意でござる。デイリーボーナスなんかも考えているでござるから期待していてくだされ」
「いいよ別にゲーム的にしなくて!リアルファンタジーを楽しもうぜ!……いやファンタジー住民からすればゲーム的な方がリアルファンタジーなのか?よく分からなくなってきた……!それよりさ、重力刀の方は強化できないの?ガー不なら鍛えれば強くなるんじゃねぇの?」
「もうフル強化済みだよ!!!!!!(裏声)」
Tips:重力刀
宇宙からの悪意の流星、アステールの椎骨を加工した武器
柄に魔力を流すことで重力の刀身を形成する
無理のある造りのため、実用性に欠ける暗黒娯楽品
これ自体は重力魔術の触媒でしかなく
刀というよりは短杖と呼ぶ方が適切であろう
サンブレイクのチャアク気持ちよすぎだろ!
毎日1万文字とか投稿している人は本当に凄いですよね。駄文です~とか内容が~とかありますが、量をこなせるというのはそれだけで凄いこと。ぼくにはとてもできない。
少しでもエルデン成分を出したくてガチャを実装しました。エルデ王だけど隻狼アイテムも持ってるので自由度高い。カズマの幸運が超高いので都合の良いアイテムを渡しても問題ないのが助かる。アクアが近くにいると幸運が相殺される(公式)なのでいつでもとはいかないけど。
ちなみに初期カズマは筋力12でめぐみんの17より低いけど、6レベカズマは筋力25あります(アニメ版)。ステータス自体は満遍なく全部伸びてるので、本編でもそうだけど育てば普通に戦えるタイプ。
目次 感想へのリンク しおりを挟む