禁書厨な俺氏、チート勘違い系オリキャラになる。(木原) -とある科学の物質誘導- (村ショウ)
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00.プロローグ

2018年くらいから書いて放置していたものを、今更投稿しました()


 

 

 ハイテク機器で埋め尽くされた研究所。その機器は普通のものではなく、現代とは30年程の技術格差があるだろう科学で作られたものがところ狭しと並んでいた。

 

「これはなんの真似だね…? 誘導君」

 

 目まぐるしい早さで才能開花させ、そして反逆してきた若い木原に対して、同じく木原の姓を持つ科学狂い(マッドサイエンティスト)な老人がとぼけたように口にする。

 

 

 ─────

 

 ところ変わって、そこは薄暗い路地裏。夜空には地面を照らす微かな光として、星が輝いている。そして、風すら吹いていない静寂に似つかわしくない、ドス黒い真っ赤な情景が周囲に広がっていた。

 

「また、クソみてェな手品をやるんじゃねェーよな?」

 

 学園都市最強は嘲笑うかのように、その科学者に問いかける。

 

 ──────

 

 そこは大きく半壊したビル。

 無機質な壁の隙間から、何らかの実験に使用されていたと思われる壊れた機材が、建物を支える支柱と共に崩れて穴だらけになっているのが見え、その場所で起きた凄まじい破壊を物語っていた。

 

「クッソ、またテメェの仕込みか」

 

 学園都市第二位は嫌気が差しつつも、諦めた様相で呟く。

 

 ───────

 

 どこかの一室。僅かながらに犬と葉巻の匂いが混ざった煙が立ち込めている。というよりも、白衣の女の隣にいる犬から匂いが出ていると言うべきだが。

 

「誘導君の経過は良好、ホワイトタグ」

 

 唯一となり得る木原は、楽しげに資料を確認する。

 

 ────────

 

 崩れ去った日常。

 ヒーローの資格無く、ある男が悲劇を回避しようとした末路。そこに皮肉にも平凡な高校生が現れてしまった。

 

「木原、テメェ。それ本気で言ってんのか?」

 

 拳1つで世界を救ってきた主人公(ヒーロー)は、豹変した友人に問い掛ける。

 

 ─────────

 

 何故か感情を揺さぶられてしまう場所。

 確かに、そこには薄暗い闇があっても日常と呼べる何かの一部があった筈の場所。しかし、この私は…僕は…俺は…知らない…。

 

「誘導お兄ちゃん、やっぱり変じゃない…?」

 

 何らの変化を感じた風紀委員のサイボーグ少女(・・・・・・・)は違和感を覚えながらも、その男の後を追う。

 

 ──────────

 

 

 その男…いや、その少年の話をしよう。

 この学園都市で彼の噂はまことしやかに話されている。

 夜な夜なロリ少女を連れ回す不審者の噂、それは裏の部分もある治安の悪い学園都市なら気にも止まらない話。確かに、この噂だけなら唯の不審者か犯罪者の目撃情報でしかない。しかし、そんな噂とは裏腹に影から誘導(手を回)し、学園都市統括理事会すら手球に取るその噂からついた学園都市の操作人(コントローラー)という相反するような異名すら流れた存在。2つの噂が奇妙に合わさり二面性のある都市伝説となった不審者(ロリコン男)

 その行動目的は統括理事会が考えるプラン遂行の為か、はたまた私利私欲の為か、知るものは本人以外いない。もしかしたら、本人すら気付いていないのかもしれない。

 

 これは未来(原作)を知り、良くも悪くも世界を誘導する1人の木原の物語。その結末は破滅か…それとも…。

 





書き溜め分は2018年時点の設定のままだったりする所があるので、間違いがあればご指摘お願いします!


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01.現実と経緯

 
この1話の現実世界側は正直、茶番なので飛ばし読みでも大丈夫です()



 

 

 皆さん、どうもこんにちは俺です。

 

 いや、誰だよ。オレオレ詐欺か何かかよ!? 

 

 もちろん、こんな謎テンションでお送りしているのは理由が有るんです。

 

 そう、それは簡単な話しである。俺の欲しい物が手に入ったからだ。誰だって欲しいものが手に入れば喜ぶだろう。

 例えば、後輩のアイスティーに睡眠薬(汚いのでその喩えはNG)それじゃあ、FG〇とかで狙いの星5鯖当たったら嬉しいだろ。それと同じだ。

 

『せめて禁書で例えろよks』とか言うなよ。絶対にだぞ。

 

 すみません、型月も好きなんです。調子に乗ってました。

 

 

 そうそう、話を戻すと俺が幻想殺しを手に入れたフィアンマさん並に喜んでるのは、今日が欲しかったとあるゲーム(・・・・・・)の発売日なのだ。

 予約特典を貰うために店舗予約をしていたが為に、仕事以外は家から殆ど出ない俺がわざわざ店舗まで買いに行って、帰路についた所だ。

 

 そのゲームこそが面倒くさがりの俺が予約開始すぐに、予約してしまうほど欲しかった謎の最新技術によって、開発された話題の体感型VRゲームなのだ。(しらねぇ)

 

 え? 知らないだと・・・。

 

 簡単に言えば、某VR系デスゲームの奴の劣化版だ。(直球)

 あのナ〇ヴギア程では無いが、少し前のVRゲームなどとは違い身体とリンクされているので、リアリティの高いゲームが作れるらしい。同じ電○文庫のSA〇を例にしたがあまり詳しくはない。(作者並感)

 

 但し、開発費がとんでもない事になりかねないとか。ソフト開発自体は簡単に制作出来る開発ソフトが有るのだが、テクスチャやサウンドや感覚データやらに金が掛かるとの事。

 

 流石に温度とか匂いとか痛みとかの感覚はないようだけど、ホラーゲームはやばいらしい。心臓の弱い人やお年寄りのプレイは制限されているくらいには。

 まぁ、何はともあれVRゲームの発展系といえるものだ。

 とはいえ、こんな話は正直どうでも良い。

 

 今回、購入したのは電撃〇庫の作品の世界を体感できる事を売りにしたゲームだ。

 

 発売前からかなり注目を集めているらしく、予約時点で増産がかけられているらしい。

 このVRハード自体も品薄状態が続いて、転売屋が出てきている始末。入手できたのは運が良かったとしか言えない。

 

 もちろん、禁書厨な俺は最初に禁書をプレイする予定だ。

 

 

 

 そんなこんなで、巫山戯(ふざけ)ているうちに家に着いていた。

 

 鍵を取り出し、一人暮らしに相応しいワンルームのアパートのドアを開けて、狭い玄関に靴を脱ぎ捨てる。

 

 予約限定のポスターを机の上において、ソフトの煩わしいビニール袋を剥がす。

 

 そしてすぐにハードに挿入する。(エロい意味じゃない)

 

 この最新ゲームハードはこの手のゲームにお決まりの頭に被るタイプで、なんとも分かりやすい。

 

 べットに腰掛けて、電源ボタンをいれる。

 起動したら頭に被って、横になりもう一度ボタンを押す。

 そうするとロードが始まり、奇妙な感覚とともに意識が離れる。

 

 タイトルロゴが表示され、チュートリアルとともに映像が流れはじめる。

 

 こういう時は結構ワクワクする。

 

 最初はキャラの設定画面が表示され、あらかた説明を受ける。因みに俺は説明書を読まず、わからない時のみ後で読む派だ。最も、最近は薄い紙1枚と電子説明書のゲームが多くて、ゲーム機を起動しないと読めないので読まないことも多いが。

 

 どうやらいろいろな作品で一つのキャラを使うことも出来るようで、キャラ設定も作品ごとに別れているみたいだ。

 つまり、作品に応じてキャラの能力を選択していく感じのようだ。意外に説明が分かりやすいので、説明書は読まなくて済みそうだ。

 

 最初から決めていた『とある魔術の禁書目録・超電磁砲』の設定画面を選ぶ。

 

 

 キャラ設定画面に入るといろいろなパロメーターを選択できる画面に入る。

 キャラの身長や体格なども自由自在だが、リアルと同程度に設定することが推奨されている。

 住んでいる場所や能力の種類(超能力なら強度(レベル))など好きなように設定できるようだ。

 

 意外に自由度が高くて驚いた。

 

 まずは名前か…。

 なんかいくつかの設定はストーリ変更行われるようになってて原作キャラとの関連付けもできるようだし、『上条』とかそういうのも言うのもいいかもしれないな。

 リアルネームでも言いらしいが、まぁここはVRゲームなんだし別の名前がいいよな。

 

 だが、いくつかのステータスやストーリに違いが出る特殊ネームの中であえて、ここは『木原』にしようと思う。

 

 なぜ木原かと言うとですね。強そうだから(小並感)

 オリキャラにした時、木原なら名前が考えやすいから仕方がないね。

 

 次の項目へスクロールする。

 

 すると、1番大切とも言える項目が目に付いた。能力か・・・このゲームの非公式wikiによると魔術師の方が応用性はあるらしいが木原だしなぁ。科学だよなぁ。加群さんみたいな例もあるが。

 

 強度(レベル)と能力の設定ができるらしく、能力はエフェクトや効果などを組み合わせて、予め設定されているコストにあえば、組み合わせ次第でいろんな能力が作れて手に入るらしい。

 

 これTRPGのキャラシート作りに似てる気がする。TRPGを知らない方には伝わらないかもしれないが、そうとしか言えないから仕方がない。

 

 ここでコストを多めに使えるレベル5も悪くないが、レベル4くらいにしておくか。

 

 この時、俺は興奮のあまり厨二的思考に支配されていたのかもしれない。あんな設定にするとは…。

 

 ステータスをあらかた入力し、確認する

 

 名前:木原 誘導(ゆうどう)

 性別︰男

 年齢︰16(高一)

 住所︰学園都市第七学区学生寮

 通っている学校︰上条 当麻と同じ高校

 能力︰『木原』『レベル4(能力設定画面を参照)』

 

 フレーバーテキストも付けられるようなので付けたが、厨二病的思考炸裂につき公開NG。

 

 と言うか公開処刑なんですが。それは。

 

 よし、ゲーム始めるぞ。(適当)

 

 

 

 あぁ^~意識がぴょんぴょんするんじゃぁ^~

 

 

 やべぇよ……やべぇよ……

 

 心じゃなくて、意識が飛びそう。(小並感)

 

 あれ、目の前が真っ暗に…。

 

 ポ〇モンかよ。

 

 そして、俺の視界はブラックアウトした。

 



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02.とある世界

 
勘違い要素は次話から(タイトル詐欺)


 

 

「知らない、天井だ」

 

【悲報】俺氏、目が覚めたら知らない天井だった。

 

 辺りを見回すと2人部屋で、ベッドが二つあり、テレビが置いてある。

 しかし、隣のベッドは布団がしっかりと畳まれていて、どうやら空いているようだ。

 

 内装から察するに病院のようだが、ゲームのスタートは病院という事だろうか。

 

 カーテンが揺れて光が差し、窓が空いている事が分かる。直射日光が当たるためか少し暑い。

 カーテンから漏れる光が眩しいので、窓を閉めようとベッド端の柵をつかみ起き上がる。

 金属で出来ている柵はひんやりとしていて(・・・・・・・・・)、体の()を取り除いてくれる。暑いという感覚が緩和される。

 

 まて、『ひんやり』や『暑い』だと・・・!? 

 

 このゲームに感覚まで再現する機能はない。そうなるとここはゲームではなく、現実世界という事になる。

 

 ゲームを始めたらリアルに病院送りだった件。

 

 まてまて、落ち着くんだ。というか、医者早くこい。

 

「おや、目覚めたようだね」

 

 ファッ!? 

 

 そこに居たのはカエル顔の医者(・・・・・・・)だった。

 確かに俺は医者を求めたが、コレジャナイ。

 

 

 いや、考えるべきはそこじゃない。

 考えるべきはここがゲームの中、禁書の世界だと言うことだ。

 

 アレですか、最近流行りのゲームの姿のまま、異世界転移しちゃう例のアレですか。

 

【速報】禁書厨な俺氏、禁書世界の住人になる。

 

 脳内にスレが立ちそう。スレ乱立し過ぎて、これは荒らしですわ…。

 

 あ、そうだ。せっかくカエル顔とはいえ、医者が来たんだ。何か聞かないと。

 

「えぇ、まぁ。今、いつですかね?」

 

 原作を知っている俺としては、時間よりも何月何日か知りたい。そのせいか『何時か』ではなく『いつか』を聞いてしまう。

 

「7月15日 8時30分ってとこだね。君は昨日の夜、ここに運ばれてきたから、そう時間はたっていないね」

 

 カエル顔の医者は腕時計を確認して、時間まで告げる。普通、時間を聞いているのだと思うし当たり前の事ではあるが。

 7月15日という事は、年がズレていなければ禁書の原作スタートが20日なので、5日前という事になる。

 てか、15日ってなんかあったけ。超電磁砲で言えば『幻想御手(レベルアッパー)編』が始まるあたりだよな。それは、16日からだっけ。

 

「あの記憶が曖昧なんですが、俺はどこで倒れていたんですか?」

 

「脳への異常はないようだったけど、記憶混乱があるようだね。僕は学生寮の近くで倒れているのをツンツン頭の少年(・・・・・・・・)が発見して、ここに運び込まれたという事くらいしか知らないね」

 

 上やんと既に出会い果たしてたよ。クソが!! 

 え、何いきなり主人公と知り合いになってんの。某名探偵のコ〇ンと同じで、出会ったら嫌な予感するんだが。上やんの場合、不幸は上やんの身に降りかかるからコナ〇よりマシだが。

 

 

「それじゃ、問題ないなら今日の夕方には退院だね。見た所、財布なんかは持っていないようだし、お金は後でいいよ」

 

「ありがとうございます」

 

 少し頭を下げて、お礼を言う。

 多分、この人にはストーリーや上やんに関わった場合、お世話になるからしっかりと礼をすべきだ。

 

 というか、折角禁書世界に来たのに何もやらず、何も起きないとかないだろう。

 

 取り敢えずは状況整理でもすべきか。

 まだ、只の夢とかの可能性も微レ存している。

 

 なんか頭がこんがらかってきたし、顔でも洗って見ようかな。

 100%、洗面台があるだろうトイレまで歩いていく。トイレまでの道のりは看板があったので直ぐに分かったが、何とも不思議な感覚だ。まるで、自分の体なのに自分のモノじゃないような…。

 

 トイレに入りすぐさま、洗面台の鏡で自分の顔を確認する。そこに映し出されていたのは、幾つかのパーツから作り出した『木原 誘導』というアバターの顔だった。

 何となく予想は着いていたが、ここまで来ると逆に冷静になっていた。しかし、まだ明晰夢の可能性も無くはない。

 所謂、寝落ち説だ。まぁ、ゲーム起動時に永遠の寝落ちをしていて転生パターンもあるが。

 というか、テンパってトイレまで来たが、これが夢の場合、その中で顔洗っても意味あるのか? 

 

 ふと、そんな疑問を抱いたが、明晰夢でも意識の切り替えが出来るし、本当に禁書世界なら寝ぼけている頭をスッキリさせるには丁度いいだろうと思い顔を洗う。

 

 センサー付きの自動で水が出るタイプの蛇口に手をかざすと、冷たく暑さを忘れさせてくれる様な水が出てきた。夏なのに冷たい水が出るのは学園都市の技術だろうか。

 

 それと、一つ疑問が頭に浮かんだ。

「水道の蛇口から水が出る仕組みって、意外とどんな仕組み知らないよなぁ。どうなっているのだろうか?」と言うどうでもいい疑問である。

 

 まぁ、水道の仕組みすら詳しくは良く知らないけど。そういうインフラ系エンジニアとかなら詳しいのだろうが。

 

 ………

 

 あれ、なんか頭の中から浮き上がってきた。

 やばい、頭の片隅にあった方程式から重力定数やら位置エネルギーやらそんな感じの物が浮かび上がり、一つの(答え)が出来上がっていた。まともな教育を受けていない木原円周がえげつない科学を発揮する様に、専門知識のない俺でも木原であるだけでこうなってしまうとは。

 説明が出来るかと言われれば微妙だが、少し考えただけで水道の仕組みが分かってしまったのだ。

 

 そして、そこから応用したい・実験したいという気持ちが湧き上がる。幾つもの法則が浮かび上がり、さらにそこから別の法則が浮かぶ。それも幾人もの犠牲が出かねない方法論がである。

 

 そして、抑えきれないほどの全てを壊してでも実験したいと言う気持ちが湧き上がる。

 

 これが『木原』の力なのか。

 落ち着くために、思考をずらす様に誘導する(・・・・・・・・・)。いや、変えると言うべきか。

 なぜか、誘導するという言葉が先に出てしまう。アニメや漫画でありがちな口癖とか決めゼリフみたいなものだろうか。

 

 そして、無理やり思考をずらしたせいか、頭が少し痛む。

 

 取り敢えず、ベッドに戻るとするか。

 

 顔を洗い終わり、来た道を引き返す。

 

 戻ってベッドで楽な姿勢になっていたが、ベッドに寝ているだけというのも暇だ。せめて、ネットがあればとも思う。

 

 忘れていたが、設定画面で選んだ能力はどうなっているのだろうか。

 厨二設定でなので、あまり使いたくはないが試さないと、命の危機が迫った環境での一発本場は怖い。

 確か、能力設定ページのフレーバーテキストにはこんな風に書いてた希ガス。(一部抜粋)

 

 

物質誘導(サブスタンスインダクション)

 念動力(テレキネシス)系の能力

 レベル4ながらレベル5と変わらない出力を持つ。但し、能力診断時はレベル4になる様に誘導(・・)されている。

 超電磁砲が『書庫(バンク)』のデータベースでは、使うコインの問題で射程が50mになるように、物質誘導も同様に意図的にだが、能力を制限している。

 仮にレベル5になった場合の科学的な有用性を含めた順位は第4位となる。

物質誘導(サブスタンスインダクション)』は『超電磁砲(レールガン)』同様、象徴的・印象的な事柄からつけられた別称であり、『超電磁砲(レールガン)』が『電撃使い(エレクトロマスター)』である事と同様に、『物質誘導(サブスタンスインダクション)』も『念動使い(サイコキネシスト)』である。

物質誘導(サブスタンスインダクション)』と言われる一番の理由は、物体を誘導させる所からきている。

 例えば、物体Aを物体Bに誘導する様に設定すると、物体Aは磁石が近づいた磁性体(鉄など)がくっつく様に物体Bに引き寄せられる様になる。さらに、設定次第で磁石の同極同士の様に物体同士を反発させ引き離すことも可能である。

 この能力では、電子顕微鏡クラスでの物体操作と観測が可能。

 ちなみに、いくつかの条件はあるものの生物を対象にすることも可能である。体の一部だけを対象に引き離すように設定すると悲惨な事になるのは言うまでもない。(バラバラ的な意味で)

 この誘導の仕方によっては、一方通行(アクセラレータ)のように有害なものだけを弾くことが可能。但し、この場合は付近の物質の掌握に演算能力をフルで使わなければならず、常用不可である。

 

 科学的応用性を含め『木原』としての力も合わさり、その可能性は無数に広がる。

 

 

 

 

 

 念動力は汎用性が高いという理由で選んだけど、なぜ厨二地味たレベルで設定を盛り込んだのか。今になると恥ずかしくなってくる。しかし、そのお陰で能力は役に立ちそうだ。

 

 まぁ、キャラ自体のフレーバーテキストはもっとひどいけれど…。

 

 能力の話に戻るが実際問題、念動力は有用で海原(本物)は偽物から逃れるために体を固めて魔術を防いだりしてたし、同系統の力を持つ『スクール』のゴーグルの人こと誉望君も汎用性の高そうな事をしてたから選んだんだげどな。

 

 何度も言うが能力は汎用性から選んだだけだ。俺はもう厨二病じゃない…筈。

 今更だけど、こんな事になるなら王の財宝や無限の剣製とかチートが欲しかった。

 

 とりあえず、使ってみてるか・・・。(カッコつけながら)

 

「案外、普通にできるんだな」

 

 能力を布団にかけると、布団は無重力空間に置かれたように浮いた。もっと難しい演算が必要かと思っていたが、何故か容易にできてしまった。単なる念動力でなく、ベッドと布団の両方を反発の対象にした形だが。

 それにしても、念動力と言えば物を浮かすイメージだから、反発が重力に釣り合うように浮かしてはみた訳だが…。案外、シュールで地味だ。

 

 

 そして、いくつか能力を試しているうちに時間が過ぎていく。時計を見ると退院する時間となっていた。

 

 持ち物は殆ど無かったようなので、直ぐに支度を終え退院する。

 

 

 

 病院の自動ドアが開き、足を踏み出す──

 

 

 

 しかし、足を踏み出したは良いが、俺は自分の家の場所が分からない。というか、そもそも設定段階で決めていない以上、知らない。

 

 携帯は持っているようなのでポケットから取り出し、マップアプリを開く。携帯はゲームの初期アイテムだと思われる。

 

 マップアプリにはよくある機能だが、自宅が登録されていないかを確認する。

 その携帯で自宅らしきアイコンをマップで見た瞬間、思い出すように家の場所や間取り・その他、色々な情報が頭の隅から出てきた。それは最初からは記憶していたように自然に頭に入っていた。

 

 それからはまるで、知った道を歩くような感覚だった。さっき、記憶が入ってきたからだろうか。

 

 

 そして、体が赴くままそのまま歩くと、学生寮の部屋の前についていた。

 表札には『木原』と書いているので自分の家で間違いないだろう。表札だけなら他の木原一族の家の可能性も考えられるが、マップの位置からすればここのはずだ。

 

 鍵は開いているようで、ドアノブを回すと開いた。

 

「おかえり、誘導お兄ちゃん」

 

 そこには、金髪ツインテールランドセル少女(ロリ)の木原那由他がいた。(可愛い)

 

 え、なんで。どういうことなんだ。

 

 あ、厨二炸裂フレーバーテキストに木原那由他と知り合いと書いてたわ…。

 

 木原那由他──『とある自販機の存在証明』で出てきたキャラだった筈だ。超電磁砲(レールガン)で出てきた枝先絆理ら『置き去り(チャイルドエラー)』と関係がある人物で、木山先生と戦った御坂美琴の強さや人間性を確かめるために『とある自販機の存在証明』では戦ってた筈だ。ちなみにサイボーグである。(属性多すぎぃ…)

 さらに、AIM拡散力場の流れを読める能力も持っている。

 一応、原作にも木原の可能性として名前は出てきている。

 

 しかし、どうしたものか。

 こういう時には、『Yes,ロリ No,タッチ』だ。(絶対、違う)

 ロリに優しくするのは真理だよなぁ。

 

 記憶に追加(・・)される様に、木原 那由他や家についての記憶が呼び起こされる。

 本来あるべき記憶が呼び戻されたというべきか。

 

「ただいま、那由他ちゃん。今日は何か用があって来たのかな」

 

 俺は初対面にも関わらず、自然に『那由他ちゃん』と呼んでいる上に、声色すら変わっている事に気づく。追加された記憶がそうさせているのだろうか。

 

「いや、用事があってきたのはそうなんだけどね。誘導お兄ちゃんこそ、今日遅かったけど何かあったの?」

 

 やばい。誘導お兄ちゃん呼びはナニか来るものがある。

 

 土御門の気持ちが分かった気がした()

 

「昨日、倒れたみたいでさ。ちょっと入院してたんだ」

 

「大丈夫? 誘導お兄ちゃん」

 

 倒れるというのがトラウマなのかも知れないな…。ほら、状況はかなり違うけど『置き去り(チャイルドエラー)』の子達は実験で寝たきりだった筈だし。

 

「ああ、何も無かったから大丈夫だよ。あのカエル顔の医者がそう言ってたし」

 

 そう言えば、那由他ちゃんもカエル顔の医者とはサイボーグ化の時に関係があった筈だ。

 

「それなら、大丈夫そうだね」

 

「で、那由他ちゃんの用はなにかな?」

 

「それは…ね……」

 

 何だか言いづらそうだな。原作知識をフル動員して先に言うべきか。

 ゲームで選択肢を選んでいる気になるな。これ。

 

「いや、言いづらそうだな。木山春生の件かな」

 

 これしかないだろう。『幻想御手(レベルアッパー)』事件も近々起こるし。

 

「誘導お兄ちゃん知ってたんだ。じゃあ、どうするべきかな」

 

 え? 俺に聞くの? 

 多分、それ間違ってますよ。『木原』の皮被った一般人ですよ。

 ゲームしようとしただけで、何の努力もせずに力を手に入れただけの一般人なんです。

 それに、学園都市の闇とか知らないから答えようがない。

 

 そして、小説を読んでいようが体験した訳では無いのだから、悲しみや辛さを知らない自分ではアドバイス出来ない。

 が、せめて原作を壊さずに事件を解決させて、『置き去り(チャイルドエラー)』の子達の意識を回復させたい。下手に原作に関わると大変なことになる可能性がある。

 

「難しい質問だね。月並みだけどそういう事は自分で決めるべきだと言いたい。が、今回は関わらなくて良さそうだよ」

 

 関わらなくて良い本当の理由は言えない。なぜなら、アニメや漫画で知っているとは言えるわけないし、それに下手にこれから起きる事を言うわけにはいかない。

 なぜなら、『滞空回線(アンダーライン)』で監視されているのだから。

 

「えっ…!?」

 

 驚いた顔の那由他ちゃん。

 そりゃ、驚くよな。いきなり、関わらない方がいいと言われてもな。

 

「誘導お兄ちゃんを見くびってもらっちゃ困りますよ。能力者でありながら実験体ではなく、『木原』でありながら『木原』らしくないのに病理おばさんに諦めさせなかった誘導力(・・・)をなめてもらっては困る。今回の件については誘導お兄ちゃんに言わせて貰えば、失敗するだろうからね。だけど、どんな誘導(・・)をしてでもあの子達(・・・・)の意識は取り戻して見せるよ」

 

 頭に出てきた記憶と木原 誘導のフレーバーテキストに書いた内容の一部を言いつつ、置き去りの子達を助けると言ってしまった。

 

 原作通りならば絶対に回復すると言いきれるが、俺という異物が存在する世界で言えるのか? 

 

 普段、巫山戯(ふざけ)ている俺だが、俺がこの世界にいたせいで他人が傷つくなんてあって欲しくない。それがエゴだとしても。

 そもそも、この感情が偽善で独善であったとしても、身の回りの悲劇くらいは回避したいのが、人の情というものだろう。

 

 だから、俺はどうにかして原作の様に『置き去り(チャイルドエラー)』の子達を助けてみせる。

 

 そんな決心を含めて言ってしまった。

 

「誘導お兄ちゃんは私が欠陥品と言われても、視点を誘導すれば(変えれば)、それが実験体(モルモット)だったとしても紛れもない成功・優れた者とする事が出来ると言ってたけど。その『誘導』がどう関わるの?」

 

「木山先生が失敗して、それに関わらなくていいってどういう事?」

 

 動揺しているのか、那由他ちゃんは続けて質問をしてきた。

 

「今回の件はじきに解決するさ。それに木山先生の方法では遠回りで成功しない。いや、成功してはならない。見通しだと、あの子達を助けるのは次の機会にするべきだ。理由は情報源的に厳しいから言えないけど。情報と『()()』で導き出した答えだと思ってくれると嬉しいよ」

 

幻想御手(レベルアッパー)』使用者の脳を使って、『樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)』に近いコンピューターを作るなんて遠回り過ぎだろ。

 もし、それで作れたら『妹達(シスターズ)』編を改変してしまう可能性だってあるし。

 妹達を使えば、1万人もの脳を使ったコンピューターが即座に出来て、樹形図の設計者(ツリーダイヤグラム)の代用として使用されてしまう可能性も微レ存している。いや、一方通行の能力の代用を考えれば、かなり可能性は高い。

 アレイスターのプラン的には確率は低い(というか殆どありえない)が再演算の結果、実験再開なんて笑えない事が起きるかも知れない。

 

 適当に那由他ちゃんへの理由を付けたけど、(アレイスター)に目をつけられないよな。

 

 それと今回何度も口にしたが、『誘導』という言葉が頭によぎるんだよな。

 

「誘導お兄ちゃんが言うから信じるけど」

 

「信じてくれて嬉しいよ。そうだ、那由他ちゃん。何か食べていく?」

 

 実は一人暮らししていたから、料理は出来る方だと思う。

 不思議な事に冷蔵庫にある食材の記憶がちゃんとある。

 最近の男として、モテる為には料理くらいは出来ないと駄目だと思うのだ。

 

 で、モテたかと聞かれたら、やっぱり顔には勝てなかったよ。(諦め)

 

「いや、いいよ。完全下校時刻が近いし。でも、誘導お兄ちゃん何か隠してる事ない? 変だよ」

 

 異世界転移風な現状や原作を知ってる事などありありです。

 

「まぁ、ないと言えば嘘になるけど、心配しなくても大丈夫だよ」

 

 あえて、本当の事をいう事で言えない事だと思わせる誘導(・・)をする。闇を知る那由他ちゃんだからこそ、納得はしなくとも理解するだろう。

 

「分かったよ、誘導お兄ちゃん。聞かないよ」

 

 那由他ちゃん、聞かないでくれてありがとうな。

 

「それじゃ、またな。学園都市第一位とかには気をつけろよ」

 

「なんで、学園都市第一位がそこで出てくるの?」

 

「なんとなくだ」

 

 何となく頭に一通さん=ロリコンが出てきたなんて言えない。まるで誘導(・・)された様に。

 

 やっぱり、誘導(・・)が決めゼリフとか口癖? 

 

「ふーん、またね。誘導お兄ちゃん」

 

 靴を履いて、ドアを開け那由他ちゃんは帰っていった。そして、この時の俺はある勘違いをしていた。

 

 

 



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03.学園都市最強との遭遇 - 那由他side-


那由他ちゃん視点になります。


 

 

 

 誘導お兄ちゃんは私の先を行っている人間だと思う。なぜなら、同じ『木原』で能力者であり、『木原』らしくないにも関わらず『欠陥品』でもないのだから。

 病理おばさんに諦めさせられなかった様に、他の『木原』ですら退ける力も持っている。

 

 本質を誘導(・・・・・)すれば、『欠陥品』と言われていた者でも成功・優れた者とする事ができる。誘導お兄ちゃんが言った言葉だ。

 

 その誘導により、誘導お兄ちゃんは『欠陥品』にもならず、病理おばさんによって諦めさせられることも無かった。

 

 誘導お兄ちゃんに今回の件を相談したのは、気まぐれだった。何かしらの解決策を出してくれるのではと思ったからだ。

 

 だけど、返事は答えではなく、自分で考えなくてはいけないとの事だった。

 

 それに理由は分からないけど、今回は関わらなく良いと言われてしまった。

 

 そして、今日の誘導お兄ちゃんは変だった。何かを隠しているような……。

 私に何か出来るとは思わないけれど、近い内に誘導お兄ちゃんにもう一度会った方がいいかも知れない。

 

 

 

 

 ──木原 那由他は完全下校時間に合わせて出ているバスに乗るため、近道として裏道(・・)を通る。

 

 ──本来(原作)なら、那由他は木原 誘導という存在に合わず、起きなかった筈の事が起きる。

 

 

 

 

 

 

 

 暗い裏道、ここが誘導お兄ちゃんの寮からバス停に向かう近道だが夜は薄暗い。

 しかも、ここの地面は砂利道であり、すれ違うのがギリギリの道幅でほとんど人は来ない。

 

 そして、私はやっと道が交差していて多少広い所に出る。そこは十字路状になっていて、右に行くと小さな広場で行き止まりなっている。ここは道幅も横に二人並んでも余裕があるくらいはある。

 

「──これより、────回実験を行います。宜しいですか? とミサカは対象、一方通行(アクセラレータ)に確認を取ります」

 

(え…常盤台の超電磁砲?)

 

 交差点の物陰から見たその小さな広場には、常盤台中学の制服を着た超電磁砲と瓜二つの少女がいた。そして、数多おじさんの資料で盗み見た学園都市第一位の一方通行(アクセラレータ)も。

 誘導お兄ちゃんは第一位に気をつけろと言っていたがこの事だったのだろうか…。

 誘導お兄ちゃんがどこでそんな情報を入手したのか気になるが今は状況確認が先だ。後にしよう。

 

 誘導お兄ちゃんが気をつける場所を指定しなかった事から未確定な情報だと思うが、それでも誘導お兄ちゃんが関わっているなら知りたい。

 

「俺が絶対能力(レベル6)になる為に、お前ら『欠陥品』が潰れてくれんのはありがてェけどよォ。こっちとしては楽過ぎて張合いがねェーつか、弱すぎるんだよなァ」

 

 ──『欠陥品』

 私が聞いた言葉は、私に過去の出来事を思い出させるには十分だった。

 それに絶対能力(レベル6)という単語。そんな大それた事が見つからずに行われているという事は学園都市の暗部が関係している事は確かだが、絶対能力(レベル6)となると木原や統括理事会が関係してくる可能性が高い。

 考えているうちに、圧倒的威圧感からか私は自分の体が緊張でまともに動かなくなっているのを感じた。

 

「既に実験開始時刻より、30秒が経過しています。とミサカは確認します」

 

「そういう所が張合いがねェーつてんだろうがよォ! 」

 

 そう第一位(化物)が言うと、超電磁砲と瓜二つの少女は吹き飛んだ。

 

 その少女が『置き去り(チャイルドエラー)』の子供達に重なって見えた。

 

置き去り(チャイルドエラー)』の子達とは状況も姿形も全然似ていないが、『欠陥品』という言葉を聞いて過去の事を思い出した性なのかも知れない。

 

 状況なんかは全然違う。だが、それでも欠陥品と蔑まれ、痛めつけられる少女を見て、何も思わない訳がなかった。

 

 彼女を放って置けないと思った。そして、何も出来ないのに助けたいとも思った。

 

 だが、学園都市第一位の前に自分が出ていって何が変わるのだろうか。学園の闇を知る身として助けられる気がしなかった。

 私がそう考えている内に、超電磁砲に瓜二つの少女は罵倒されながら、傷つけられていく。

 

 

 ──足が1歩前にでる。

 

 パキパキ

 

 砂利を踏み、足音が鳴る。私は何も出来ないのに前に出てしまっていた。

 

「おい、一般人が来てるじゃねェーか。こういう場合は口封じが基本だよなァ 」

 

 見つかってしまった。一方通行の能力について、調べたことがあった。

 そう、ベクトル操作という脅威的な能力について。

 

 だからこそ、勝てないと悟った。

 

 自らの好奇心と木原には相応しくない正義感が招いた事態だが、それでも私は助けを求めてしまう。

 

 誘導お兄ちゃんが助けにくる都合の良い幻想(・・)を抱く。

 学園都市の闇を見た者の最後は決まっている。ヒーローが現れるなんて事はまずありえない──

 

 筈だった。

 

 

「おい、ロリぺドリョナ野郎。 …いや、学園都市第一位さん。そこで何をしているのかな?」

 

 誘導お兄ちゃんの声が後から聴こえてきた。

 振り向くと、そこにはさっき別れたばかりの誘導お兄ちゃんがいた。

 さらに、誘導お兄ちゃんは注目や標的が全て自身に向く様に学園都市第一位を誘導(ちょうはつ)している。

 

「あァん? この俺、一方通行(アクセラレータ)に向かって何言ってやんがだァ。あまりにもぶっ飛び過ぎて笑えねェなァ。ヤクでも決めてんのかァ」

 

 誘導お兄ちゃんに殺意をむき出しにする第一位(化物)

 私はその眼光に何も出来ずに立ちすくんでしまう。

 

(誘導お兄ちゃん、何するつもり?)

 

「君と戦いたい訳じゃないんだ。安心してくれていい俺は木原 誘導。ある意味、『絶対能力進化(レベル6シフト)計画』の関係者さ。数多おじさんは君の能力開発の担当だった筈だけど覚えてるかな?」

 

 誘導お兄ちゃんから放たれた意外な言葉(・・・・・)に、私は息を飲んだ。

 

「それで? オマエが関係者だとして、俺がこのガキを殺しちゃいけない理由にはならねェーよな」

 

 誘導お兄ちゃんは意外な反応された様に肩を落とし、少し呆れた様に説明する。

 

「そうだね。だけど、その子も木原一族の1人なんだ。それに特殊な力を持った能力者でもある。ついでに俺自身も出力的にはレベル5とそう変わらない力を振るうことができる。そして、君がそんな特異な力を持った者と戦えば、戦闘経験に誤差が生じて『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』での再演算が必要となり、その演算結果に応じて『妹達(シスターズ)』も調整が必要になるんだ。つまり、実験が長引くことになる訳だ。そんなにこんな実験を長引かせたいなら攻撃すればいいさ」

 

(なんで、誘導お兄ちゃんは『実験台(モルモット)』の私を見捨てないで助けるの?)

 

 私の力はそこまで特異な力ではない。物自体は珍しくはあるが、意図的に量産する(作る)ことが出来るだろう。

 

 普通の『木原』なら切り捨てる筈の事。

 

 だが、あえて特異と言う誘導お兄ちゃんには困惑するしかない。しかも、数多おじさんの名前まで出してまで助ける事に意味があるのか。

 

 幾ら誘導お兄ちゃんと言えど、勝ち目のない第一位を前にしてまで私を助けるなんて事をする意味は無い。

 

 第一位(化物)を敵に回せば確実に殺されるだろう。

 

 

「チッ、そうかよ。ならさっさと目の前から失せろ」

 

 一方通行は舌打ちをして、諦めたように誘導お兄ちゃんと私を解放する。

 

 

 その行動によって私は気がついた。この行動全てが誘導お兄ちゃんの『誘導』だという事に。

 

 

 

「いくぞ。那由他」

 

 誘導お兄ちゃんは目線を私の方に写した。

 

(いつもの誘導お兄ちゃんじゃない?)

 

 いつもの優しい言い方では無く呼び捨てだという事に戸惑う。まるで、人格が変わった(・・・・・・・)ように強い言い方だった。

 

 

 …………

 

「救えなくてすまない」

 

 横に倒れているもう助かりそうにない凄惨な少女の姿を見て、誘導お兄ちゃんは顔を落として呟いた。やるせなさそうに悲しそうな顔をしていた。

 

「え?」

 

 どう見ても、この状況では超電磁砲に似た少女に対しての言葉で、誘導お兄ちゃんが優しいのは分かっていたが、それは木原としての違和感があった。

 この場でその言葉を口にするのはデメリットしかないからだ。

 実験の関係者と言うならば、その言葉が相手に聞こえてたら怪しまれてしまう。小さく呟いた程度なので聞こえていないみたいだったけど。

 はっきり言って、らしくない発言だった(・・・・・・・・・・)

 

「何でもない…。一度、家に戻るよ」

 

 そう言った誘導お兄ちゃんはいつもの顔に戻っていた。




 因みに、那由他ちゃんが一方通行の能力を知ってる理由は、木原君が自販機SSのセリフで第1位を殺れる自慢したりしてる事から知っててもおかしくないかなぁという想定になります。


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04.学園都市最強との遭遇② -誘導side-

 
勘違い要素は徐々に増えていきます(予定)
 



 

 

 あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! (何やってんだ俺)

 

 那由他ちゃんが帰ったから、学園都市を見て周りたいと外に散歩に出たわけだ…。

 そしたら、表通りへの近道が記憶にあったので通っていると、物音がした。

 それで、振り向くと一方通行(ロリコン)が那由他ちゃんと対峙していた。

 

 な… 何を言っているのか わからねーと思うが 

 おれも 何をされたのか わからなかった…

 頭がどうにかなりそうだった…

 催眠術だとか超スピードだとか(超能力だとか)

 そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ

 もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…(学園都市最強のロリコンを舐めていた!!)

 

 それよりも、那由他ちゃんを助けるべきだな。(こんなネタに走るべきじゃなかった)

 

 そして、俺は奥の光景を目の当たりにする。

 

 傷付けられた『妹達(シスターズ)』を…。

 

 血を垂らし辛うじて生きている妹達を見て、グロ耐性ZEROな俺は目を逸らす。普通なら助かりそうにないが、カエル医者ならなんとかできるかも知れないというレベルだ。

 

 そして、俺は初めてここが小説などの創作の世界ではなく、彼女達が生きているという事を理解した。

 

 そして、俺は咄嗟にこの気分を晴らそうとネタに走る。

 

 ──一方通行(アクセラレータ)に『ロリぺドリョナ野郎』と言うことで。(シリアスが崩壊しないか淡い期待を込めながら)

 リョナを付けたのは『妹達』によくこんな事が出来るなと心の中で思った為だが…。

 

 めちゃ、見てるよ。(某サーバルキャットのフレンズ感)

 

 やばい睨まれた。ちゃんと学園都市第一位と呼べばいいんだろ。『いや』とどもりながらも訂正する。

 

 それでも、『ロリぺドリョナ野郎』と言ったことに切れているようで、那由他ちゃんや妹達そっちのけで殺意を出しつつ睨みつけてきている。

 

 これは殺されますわ…。はい、死んだ。

 

 いや、まだだ。偶然、通りかかった一般人なら殺されるが関係者ならどうだ? 

 

 俺の頭が今まで以上に回転し、起死回生の一手としてそれを打つ。

 信憑性を上げるために数多おじさんの名前を出せば完璧だろう。

 そう考え、俺は実験の関係者である事を伝える。如何に初期の一方通行と言えど、積極的に人殺しがしたい訳では無い。妹達を殺す事ですら、人ではないと人形だと自分に言い聞かせて実験をしているくらいだ。上手くすれば、戦闘を回避出来る。人は自分に都合の良い情報を信じ込むものだ。

 

 一方通行から返ってきた答えは意外だった。那由他ちゃんを殺してはいけない理由を聞いていきたのだ。

 

 え? 殺しちゃいけない理由? 

 だから関係者だって言ってんだろ。

 逆に、なんで関係者なのに那由他ちゃんを殺しちゃうのかな。

 

 

 

 ………

 もしかして、伝わってないんじゃないか? 

 

 ここでやっちまったよ。コミュ障ですみませんでした。こんな、自分自身に呆れ果ててしまう。

 

 つまり、俺だけが関係者で那由他ちゃんを一般人だと、一方通行は勘違いしているわけだ。那由他ちゃんの名前も知らないだろうし、普通に考えればランドセル姿の小学生を関係者だとは思わないだろう。

 

 まぁ、那由他ちゃんを関係者としなくても、他の人間との戦闘禁止は、『妹達(シスターズ)』が御坂 美琴を殺させないようにする為に使っていた戦闘経験の誤差の話をパクってアレンジすれば、理由の説明としては十分だろう。(適当)

 そう思って、その理由も肩を落としながら説明したが、一方通行に睨まれたままだった。

 

 何でもしますから許してください。(何でもするとは言ってない)

 

 本気で、怖いから睨まないで欲しい。この間が怖すぎる。

 

 間は空いたが舌打ちされたけど普通に言い訳を信じて貰えて、開放されたわ。(チョロいぞ、一方通行)

 今更だけど、一方通行(アクセラレータ)と関係が出来たけど、(アレイスター)に目をつけられないよな。(気にしないことにしよう)

 

 那由他ちゃんの腕を掴み、その場からそそくさと離脱する。

 

 そして、俺は念の為に後ろを確認する。

 その時、傷ついた『妹達』が目に入り、俺は生きている人間を見殺しにする罪悪感に苛まれた。まだ、助かるかもしれないのに…。

 

 なぜ、だろうか。

 俺なら救えたのではないか。原作改変を恐れ、自己保身の為に見殺しにしている俺は『傍観者』ではなく『加害者』と変わらないのではないか。そんなどうしようもない事を考えてしまう。

 

「救えなくてすまない」

 

 その罪悪感からか、謝罪を口にしてしまった。今の俺には偽善でしか無い、その言葉しか思いつかなかった。

 

 自己満足と言うべきか、自分の為だけの軽い言葉を口にすることしか出来なかった。ただ、罪悪感を紛らわす為のなんのメリットもない行動だ。

 

 俺は主人公の様に人の為に命を貼ることはできず、自己保身の為に人を見殺しにする。

 

 

 ──これが俺と本物の『ヒーロー』との決定的な差であろう。

 

 

 罪悪感から変に『救えなくてすまない』なんてキザなセリフを妄想した性か那由他ちゃんに不審がられたので、気持ちを誘導(・・)して、その罪悪感を押し込める。一瞬、良くないものが溜まる気がしたが、それを気にせずに。

 

 そして…

 

「何でもない…。一度、家に戻るよ」

 

 俺は那由他ちゃんに心配させないように那由他ちゃんの手を引いて家まで戻る。

 

 それに、ここまで関わらせたのだから那由他ちゃんには状況くらいは説明するべきだろう。

 

 今更ながら、那由他ちゃんと繋いでいる手と反対側の固く閉じた拳が、力が入りすぎた事により傷つき血が滲み出ている事に、痛みによって気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 家に戻り、那由他ちゃんとテーブルを挟んで向き合って座る。

 

「今回の件は学園都市の暗部に関係する話だ…。それでも聞きたい?」

 

 那由他ちゃんは口を動かさず、首を縦に振った。

 こうなると話すしか無いだろう。断じて、俺はどこぞの幻想殺しのように何も話さず1人で突っ込む輩ではない。他人を巻き込まない方が正解なのかもしれないが。

 

 そして、俺は『絶対能力進化(レベルシックスシフト)計画』について話す。

 

 もうヤケだ。

 (TS変態クソ野郎)なんて気にしない事にしよう。

 

「そ、そんな事が…」

 

 若干、引かれてないか。那由他ちゃんはショックからか顔を落としている。那由他ちゃん自身はそこまで暗部の深いところにいた訳では無いだろうし、話し過ぎたかも知れない。

 巻き込んでしまった俺が言うのもアレだが、変に動いたら消される可能性もあるし、釘を指しておこう。

 

「こちらについては『統括理事会』が深く関係している。迂闊に手を出すわけにはいかないんだ」

 

「だから、誘導お兄ちゃんはあの時あんな事を…」

 

 あの言葉聞かれていたのか…。

『救えなくてすまない』という身勝手な言葉を。

 

「何かあったら連絡してくれ。誘導お兄ちゃんは協力する。巻き込んでしまったからには那由他ちゃんは(・・・・・・・)守ってみせるよ」

 

 俺がいたせいで那由他ちゃんが傷つくなんて事は起きて欲しくない。だからこそ、那由他ちゃんを守る責任がある。

 それが、原作介入を避けるために自殺をするという道を選べない自分自身の存在を肯定する為の言い訳だとしてもだ。半ば、俺はヒーローでないのだからそれでも良いと、開き直ってもいた。

 

「分かったよ。誘導お兄ちゃん。また、今度ね…」

 

 那由他ちゃんは落ち込み気味に返事をして出ていく。

 

 暗部に関わったが学園都市に消されるなんてことないよな? 

 

 明日、会う約束しといた方がいいか。

 

「那由他ちゃん、明日少し話をしたい。必要無いだろうけど暗部も警戒もした方がいい。警戒する分には問題ないし」

 

「誘導お兄ちゃん、明日会うのはいいけど何時から?」

 

「そうだね。学校が終わったら迎えにいくよ」

 

「了解、誘導お兄ちゃん」

 

 ドアを開け、今度こそ帰る那由他ちゃん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、俺は何をするか。(ナニをする訳じゃない)

 

 取り敢えず、明日話せる場所が必要だな。

 木原だし、使えそうな研究所とかないだろうか。

 

 そんな事を考えると頭の隅から思い出す様に研究所に関する記憶が蘇る。

 

『AIM拡散力場誘導(・・)研究所』『特殊能力工学誘導(・・)研究センター』『先進教育局 研究員』

 

『AIM拡散力場誘導研究所』と『特殊能力工学誘導研究センター』は併設されているようで名前にもある様に俺の研究所らしい。

 ちなみに原作にはないオリジナルの研究所だと思われる。

『先進教育局』は置き去りの子達や那由他ちゃんや幻生おじさんに関係する施設だな。そこの研究員のようだ。

 

 というか、置き去りの子達と関係があったのか…。

 だからあの時、置き去りの子達に対して、あの子達という言葉が出たのか。

 

 

 そう言えば、俺も明日は学校に行かなければならないよな。

 しかも、土御門や主人公の上条がいる学校にだ。

 今日はどうすることも出来ないし、あの子達や諸々について幾つかの方法論が浮かんだが、下手に動いて原作崩壊は避けたい。

 精神的に疲れたし、今日は寝よう。

 



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05.始まりの日①


 設定が間違えていないかビクビクしながら投稿してます()
 上条さんがやっと出てきました。


 

 

 目が覚めると、セミが騒がしく鳴いていた。

 

 記憶が呼び覚まされるように、そして慣れた手つきで朝の支度を済ませる。

 

 朝食はトーストとベーコンエッグと牛乳という簡素なメニューで済ませる。

 

 まるで、いつも通っているようにバスを使い、日常を過ごすかの様に学校まで行く。

 

「よう、木原。この前は大丈夫だったか?」

 

 校門まで適当に歩いていると、この物語の主人公である上条 当麻が話しかけてきた。

 

「あぁ、大丈夫だったよ。助けてくれてありがとうな」

 

 昨日の事さえなければ、主人公である上条 当麻に会えた事に歓喜しただろうが、今はそれどころじゃなかった。だが、礼は言うべきだ。

 あと、上条さんとは同じ学年でクラスメイトだった。恋愛には鈍感だが、洞察力的には侮れないのでボロを出さないようにしなくては。

 

「そう言えば、なんで寮の前で倒れていたんだ?」

 

 続けて、上条は一昨日の件について訪ねてきた。

 

「俺にもわからなくてな。外傷や病気でもなかったし、疲れてただけかも知れないな」

 

 実際に原因不明だから困る。大体、異世界転移的なアレが理解不能な原理だし。何があっても可笑しくない。

 

「木原っち、何かあったぜよ?」

 

 後から金髪グラサンが声をかけてきた。魔術と科学の多角スパイの土御門 元春だ。土御門は上条さんよりも気をつけなくてはならない。雲川先輩にも容赦なかったし、普通に敵対したらまずい相手だ。

 

「いやー、何か倒れたみたいでな。それで上条に助けられたんだ」

 

「上やん、女の子以外も助けるんやな〜」

 

 そして、それに同調するように青髪ピアスが話に乗る。

 

「上条さんは男女平等主義ですよー。そんな、校内の男子全員を敵に回す様なことを言うんじゃありません」

 

 周りの男子に睨まれた上条は、慌てて弁明する。

 

「本当に、上やんの周りは女の子ばかりだからにゃー」

 

 そのまま、俺たちは男子高校生らしい会話をしながら教室へ向かう。

 というか、今思うと高校生として生活しないといけないんだよな。

 勉強なんかの記憶は勝手に思い浮かぶから、問題ないようだが。

 

 個人的にはリアルではまともに味わえなかった青春を味わいたい。

 ハーレムとは言わないがモテたい。今の所、会った女の子は那由他ちゃんしかいない…。

 断じて俺はロリコンではない。ロリは愛でる者なのだよ。

 

 さぁ、オリ主系のあるあるのオリキャラでも良いからヒロインこいよ。(メタ)

 そんなアホな考えをしている内に、今日は午前上がりの身体検査(システムスキャン)だったため、終業のチャイムがなり、学校が終わってしまった。

 

 俺はそそくさと帰り、約束をしていた那由他ちゃんを迎えにいく。「これ、青春逃してね?」と気づくが、後の祭りである。

 

 

 

 -先進教育局 特殊学校法人RFO-

 

 

 持っている研究所員としてのIDを使い、研究所に入る。中は近未来的な研究施設で、とても後暗い実験なんかが行われた場所とは思えない。

 

「那由他ちゃん、来たよ」

 

 那由他ちゃんに声をかける俺。(事案発生)

 

「誘導お兄ちゃん、話せる場所に移動しよう」

 

 那由他ちゃんがそう言うのも無理はない。実験自体が終わっている現状、ここにはほとんど人は残ってはいないが、まだ多少は研究員がいる為だ。

 

「誘導君、君がここに来るのは珍しいなぁ」

 

 後ろから声をかけてきたのは、一見温厚な老人だった。気づいているかもしれないが、あのマッドサイエンティストの木原 幻生である。いきなりボス戦とか、やめてくれよ……(絶望)

 

「那由他ちゃん、先に外で待っていてくれ」

 

 那由他ちゃんに外に出るように言って、幻生との会話に戻る。

 

「幻生先生、お久しぶりです。先生もこちらに来られてるとは、珍しいですね」

 

 形式的な挨拶を終えると、本題に入る。

 

「昨日、誘導君は実験に立ち入ったそうじゃないか。君には期待していたのだがね」

 

 聞かれたくない質問を最初から飛ばしてくるマッドサイエンティスト。木原幻生は俺に期待していた。『いた』という事は過去系だ。

 つまり、自分が実験の邪魔をしていると思われているという事。何とか言い逃れなければ、不味い事になりそうだ。

 

「いえ、こちらの実験体が関係ない所で壊されては用意するのが大変なので仲裁に入っただけですよ。それでですね、実は実験について折り入って相談が…」

 

 話が逸れるように、誘導する。木原幻生に通用すれば良いのだが。

 

「何かね?」

 

「これは、先生が進めているもう一つの『絶対能力進化計画』にも使える話なんですがね。

 と、その前にこの話の見返りに未元物質のサンプルを頂ければと考えています。私が今から話すこの計画自体にも未元物質を使いますが、こちらの実験でも使いたいので」

 

 未元物質をくれるなら、有益な情報と実験に協力する的な感じの話でごまかす。微妙にオタク特有の早口になりながら。

 

「ふむ。君がその計画を知っているとは思わなかったが。君ほど優秀な『木原』が言うのなら『絶対能力進化計画』に未元物質が使える事は真実なのだろう。だが、君なら態々私に協力しなくとも未元物質程度なら交渉する事も奪う事も出来ただろうに。なぜかね?」

 

 え? まじで? 

 幻生先生、俺に対する評価高くないですか? 

 

「確かに私ならそうすることも難しくありません。ですが、幻生先生。貴方は研究になると危険でも止めない。これは木原として当然なので、悪いとは思いません。ですが、先生の場合はそれが顕著で未知があると没頭しすぎて、そのまま実験自体をぶち壊しかねない。

 だからこそ、先生の代わりに私が保険となるプランを作ろうと思いましてね。保険をかける理由は先生の実験の成功が私の実験への道、つまり役に立つ為ですが。

 もちろん、未元物質との直接交渉もする予定です。しかし、それまでの間、私としては研究する素体が欲しい。

 さらに、先生の実験が成功すれば、私の研究に一部に代用できる。つまり、何度も言いますが、先生の実験の成果次第では私の実験も短縮できる訳ですよ。それに先生の実験成果による利益を享受するには、最初から先生に協力するのが一番でしょう? 

 それに、先生のお力なら今私が必要な未元物質を用意出来るでしょ?

 つまり、先生と私はWin-Winな関係なんですよ」

 

 一様、長ったらしく訳の分からない厨二病な説明をすれば、禁書世界では通じて納得してくれる説を推してみる。説明は思い出せる限りの誘導のキャラとしての意味記憶を元にした適当なものではあるが、筋は通っている筈だ。

 要約すれば、こちらも多少成果が欲しいから協力しますよ。というシンプルで中身がない話に過ぎない。

 実際は、ていとくんとの直接交渉は怖すぎるし、原作ブレイクだ。

 よく良く考えれてみれば、直接交渉してもいいかも知れないが、それは原作ブレイクに対する幾らかの対策を立ててから行わないといけない。

 木原 幻生との交流と協力自体が原作ブレイクだと思うが、出会ったのは故意ではないし仕方がない。

 さらに、わざわざ原作ブレイクの可能性があるのに幻生に関わったのは、木原として疑われずに力を手に入れる為で、原作の木原達がやった事や原作に出てきた科学技術を先行して研究し使えれば、この世界で確実に力を手に入れられるのではないかという安易な発想が浮かんだからだ。魔神なんかには対抗できなくても、自分の周りを守れるくらいの力が欲しい。

 それを実行するためには、幻生などの本物の木原が必要だったのである。さらには、幻生に近づく事で闇の情報を知っていても疑われなくなるし。

 

 因みに、幻生先生は熟考しているようだ。めちゃくちゃ、緊張する。相手は何をするか分からないマッドサイエンティストだし。

 

「なるほど。君は研究を短縮して、私は保険を得るという事か。して、未元物質をどう使うのかね?」

 

「詳しい方法論については契約後といたしますが、未元物質を使えば、出力の強化と避雷針のような効果を持たせられると考えています。

 この避雷針としての効果では強すぎる出力を受けた場合にエネルギーを一時的に退避させることが可能です。退避後の再起動時も蓄電池やコンデンサーの様な役割にして、徐々に出力を戻すシステムを作れるので、レベル6になる前に壊れてしまうのを防げるかと。これはあくまでブレイカーに近い安全システムにしか過ぎませんが、この点は問題ありません。

 私の見解では邪魔が入らなければ、この実験は成功するでしょうから。その為、私自身がこの保険のシステム以外に実験自体に何かをする訳じゃありません。多少実験データなどは収集しますがね。

 さらに、今なら私も実験が成功するように邪魔者の露払いを請け負いますよ」

 

 木原としての脳と原作知識が作り出した案に、テレビショッピングのように露払いという特典をつける。

 

「ふむ、誘導君。君が直接的に働いてくれるとなれば悪くは無い提案だ。こちらでも防衛設備はあるが心もとないからね。だが、あまり数を増やすと心理掌握にやられかねないが。どう考えるかね?」

 

「そちらについては少数精鋭であたり、さらに加えて超電磁砲相手には厳しいですがAI式の駆動鎧を使えばいいだけです。心理掌握の身体能力は高くないですからね。ですが、この程度のことは幻生先生なら分らないはずはない。幻生先生が仰りたいのはそこではない。外装代脳(エクステリア)に攻め入るときも含めてですよね?」

 

 あえて、聞かれてもいない情報を出し、一方通行との件を完全に頭から消す。

 

「誘導君、君はそっちについても知っているのかね。まぁ、そちらについては君に任せなくても問題はないと思っていたが、使える手は多いに越したことはない。君に案があるなら聞かせてもらえるかね?」

 

 幻生先生もこれには多少だが、驚いているようだ。

 

「いえいえ、私はそちらの研究所の設備は知らないので、まだ具体的な案は立っていませんよ」

 

 ここで何かしら言うと原作崩壊の可能性が高まるので、これ以上情報は与えない。

 

「それでは、またお会いしましょう」

 

 これ以上聞かれたくないので、話を切り上げる。

 

「誘導君、では後で詳細を送っておこう」

 

 俺は研究所を後にして、那由他ちゃんの方へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────

 

 

「いいんですか幻生先生、彼を野放しにして」

 

 一人の研究員が木原 幻生に尋ねる。

 

「彼は使えるから問題ないよ。それに駒はあったほうがいいだろう?」

 

 マッドサイエンティストは不気味な笑みを浮かべていた。

 

 





本作の原作崩壊の火種、木原のやべーおじいちゃんの一人、幻生先生です。

追記
日間ランキング入り出来ました!
ありがとうございます!


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06.始まりの日②

 
お陰様で日間ランキング入り出来ました!
ありがとうございます!!



 

 木原 幻生みたいなやべーやつに原作開始前に目をつけられた訳だが、どうする? 

 

もしかして︰詰み

 

 その可能性は否定出来ないが、今はあのマッドサイエンティストから那由他ちゃんを守ることが最優先事項だ。早く那由他ちゃんを連れて、記憶上は俺のらしい研究所に行こう。

 

 これって、お持ち帰りじゃね? (唐突な下ネタ)

 

「誘導お兄ちゃん!!」

 

 外で待っていた那由他ちゃんに呼び止められた。やばいやばい、下ネタに走ってしまう所だった。というか、走ってたが。

 

「那由他ちゃん、俺が戻るまでの間に何も無かったか?」

 

 とりあえず、あのマッド爺が何もしていないか確認する。

 

「なかったけど…。誘導お兄ちゃんの方こそ大丈夫?」

 

「今の所は問題ない。だが、多少目をつけられた」

 

 少しカッコつけているが、こうでもしないと気が抜けて色々やらかして仕舞いそうで怖い。

 

 とにかく監視されている可能性もあるし、ここから離れたいのでバス停へと歩く。

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 それからバスに乗って少し歩くと、これまた近未来的な外観の研究所についた。ここに来るまで那由他ちゃんは無言だったが何かあったのだろうか。

 

 それを聞くにも、研究所の中の方が良いだろう。入構手順に従いパスワードを入力し、さらに虹彩・指紋認証を行い研究所内部へと入る。

 

「誘導、来たか。おっ、那由他ちゃんも一緒に来ているのか」

 

 今、挨拶をしてきたのは記憶によると『木原 発火』という人物らしい。外見は名前の割に炎感が一切ない茶髪でその辺にいそうな好青年である。

 

 ここに来て、オリキャラでオリ木原である。少し寒いな、何故だろう。

 

「あらあら、発火君。那由他ちゃんに声を掛けないでくれるかしら? 貴方が声を掛けると純粋な那由他ちゃんが穢れるじゃない」

 

 と発火に辛辣な言葉をかけるのは毒々しい紫にワンポイント黄色が混ざった髪を持つ女、『木原 硫化』である。こちらは見た目の警戒色同様に毒を吐く。

 これまた、オリ木原である。ちなみに、両刀(バイ)である。大切な事なのでもう一度言うが両刀である。那由他ちゃんに興味があるのはサイボーグである事も一因になっている様だ。彼女はロリコンではなく、ロリもいけるという青ピスタイルらしい。

 

 そう、ここはオリ木原のたまり場だったのだ。(な、なんだってー)

 

 実は木原のたまり場という解釈はあながち間違いではない。うちの研究所は多数の木原を有する事で、いくつもの成果を出している。そのお陰で、予算も豊富らしい。

 しかも、今の2人以外にも多くの木原がいるので、色んな科学分野に幅広く対応できるオールマイティな研究所でもあるのだ。(なにそのチート)

 あと、今の俺の感覚からするとオールマイティという言葉に違和感を覚えてしまう。ネイティブではオールマイティという言葉は神的な全能の意味なので、殆ど使われないからだろうか。科学サイド的違和感からかも知れないが。

 木原になるとネイティブ英語も話せるようになるとかチートだな。(地味)

 まぁ、上条さん曰く魔術師はみんな日本語に合わせてくれてるみたいなので、禁書で英語の必要性はないのかもしれないが。

 

 そして、このチート研究所はもう1人のある木原によって、(アレイスター)の滞空回線クラスや情報特化の奴でなければ、盗聴が難しいレベルの対策がされている…多分。

 大袈裟だが対暗部クラスと思っていただければ結構だ。まぁ、産業スパイとかあるし、多少はね? 

 

 そして、本題に移る。そう、ここにいる研究員全員への説明である。この研究所を巻き込む以上、木原幻生と会い協力体制になったことや絶対能力進化計画のことについての説明をしなければならないだろう。説明責任と言うやつだ。ちょっと違うけど。

 そんなこんなで、俺はタブレット端末を手に取り、スクリーンの画面を見せながら説明を始めた。

 

「ふーん、そんなことがあったのね」

 

 紫の髪をクルクルと指で巻きながら話を聞いていた硫化姉さんは素っ気なく反応する。

 

「意外とあっさりしてますね。硫化姉さん」

 

 やっぱり、誘導というキャラに引っ張られるようで、木原 硫化を硫化姉さんと呼んでしまう。というか硫化姉さん、さっきの話に対して、どうでも良さそうに涼しげに言い放ってるが、幻生に敵対する可能性があるのによく平常心でいられるな。

 

「だって誘導君、幻生に協力する気ないんでしょう? その上で、幻生の研究だけを奪い取る気なわけでしょ?

 この話を私達に話したのはその研究をさらに昇華させるため。幻生を出し抜くためでもあるかしら?」

 

 硫化姉さん、深読みしすぎじゃないですかね。確かにこの研究所で原作に登場した科学技術を研究させようと思っていたが、木原 幻生の研究成果まで奪う気はない。正直、研究自体をぶち壊してやりたいし。本音を言えば、色々便利な外装代脳(エクステリア)は欲しいけど。

 

「まぁ、元より幻生の研究を成功させる予定はないが、今回関わったからには硫化姉さんの言う通り、こちらが潰される前に幻生を潰さなければならないだろう」

 

 話を切り上げるために、俺は両手をテーブルにつけて、前のめりになりながらカッコをつける。ここのトップなのだから多少なりとも雰囲気を出しとかないとまずいだろう。決して、中二病ではない…筈。この体になってからオーバリアクション気味な気はするが、木原はぶっ飛んでる奴が多いし変には見られないだろう。

 

「あと、伝導の奴に情報収集、光学君と色彩ちゃんにある技術の開発を頼む事にする。書類はメールで転送する」

 

 一応、忘れないうちに最低限必要なことは言っておく。

 ちなみに、伝導、『木原 伝導』は禁書世界での弟らしい。研究以外にもコンピューター関係にも強い科学者で、情報収集はお手の物とのこと。さっきも言ったようなここのセキュリティも担当してもらっている。

 光学君と色彩ちゃんは名前の通り光学系に強い。二人には原作開始前に存在する技術だけでも、可能なある技術の開発をしてもらう。

 

「わかった。二人には俺から話を通しとく。

 伝導の奴はいつも通りカメラを通して聞いているだろうから、必要ないだろうしな」

 

 発火はそう言うと携帯を取り出し、二人に連絡を取る。記憶によれば、伝導は研究所にいるものの中々顔を出さないらしい。

 

 

「今日はここまでにしておいて、後日、話を詰めようか」

 

 話すことがなくなったので、ボロが出ないうちに俺は話を切り上げる。

 

「そうね、誘導くんも那由他ちゃんに説明してあげなきゃだしね?」

 

 硫化姉さんは戸惑っている那由他ちゃんの方を見ながら言った。

 

「確かに那由他ちゃんへの説明は不足していたかもしれません…。硫化姉さんありがとう」

 

 やばい、やばい。上やんよろしく、周りに話さずにヒロインを置いてけぼりするとこだった。やっぱり、那由他ちゃんはヒロインだった?

 というか、上やんは『インなんとかさん』や『みこっちゃん』とかを置いて自分だけ突っ込んでいくからな。その性でインなんとかさんという悲しい呼び名までついてるんだぞ……上やんは自覚すべき。いや、危険な場所に巻き込みたくないのは分かるけど。

 流石に、既に巻き込んでしまった以上、上やんの真似するつもりはなかったが、意図せず同じ状況になるところだった。さすが硫化姉さん、感謝だ。

 

 だが、那由他ちゃんにどういう意図から幻生に協力し、さらにその研究を潰すという結論に云ったか説明できない。

 シンプルに置き去りの子供達の件だけでも良いのかもしれないが、幻生の非道さのある研究成果の奪取については、別の理由が必要だろう。奪取に木原としてなら理解してくれるかも知れないが、那由他ちゃんとして納得してくれるかは別だ。

 理由については、帰ってから説明することにして、ここは一旦考える時間を得よう。

 

 そして、那由他ちゃんと共に研究所を後にした。

 

 外に出れば、機密は話せないのでこれで家までは話を先延ばしに出来た。この行動は先延ばしにするのでは無く、タイミングを逃しただけだったのかもしれないが。

 

 

 

 

 




 
 オリキャラであり、オリ木原を登場させました。(オヤジギャグ)
『木原 発火』
 元々は幼少期に経験した研究所などの火災から着想を得て、そんな火災が二度と起きないように不燃物質の研究を行っていた。
 だが、生物由来の天然素材の不燃物質を研究しているうちに、生物の自然発火現象の研究へと変わってしまった。
 変質後の発火の研究の具体例として、特殊に調合した薬品により体内の細胞の代謝を飛躍的にあげ、人体と薬品によりリンなどの可燃性物質生成し、一定時間経過後に自然発火を起こす人体発火現象の再現に成功している。
 成功した人体発火の原理は人体の代謝をマウスの様な高代謝にすることで、体温を急激に上げ、可燃物の発火点まで上げている為である。特に発火しやすい黄リンなどは44℃程度であり、十分に可能な温度である。また、このリンは人体のエネルギー代謝で重要なATPの構成物質でもある。

『木原 硫化』
 硫化物を得意とする木原。主に毒物の生成などに長けているが、元々は硫黄化合物による学園都市などで行う室内型農業プラントの肥料開発や硫黄元素を持つ抗菌物質が始まりだった。実際、硫黄元素はワサビや抗生物質であるサルファ剤においても重要な役割を持つ。
 逆に、硫化物は少量でも毒となる物質が多く、有名な硫化水素はATPの生成などを阻害する毒としても知られている。他にも、二硫化炭素なども上げられる。

 他の木原は別の機会に紹介しますが、基本的に木原相似や他の木原と同様に善い研究でも破滅的なものへと変質していっています。
 


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07.始まりの日③


因みに、始まりの日は超電磁砲原作のスタートの意です。


 

 

 那由他ちゃんと俺は、研究所を出るとバス停まで歩く。既に時刻は研究所を出た時にはお昼はとうに過ぎており、携帯の時計は15時を回っていた。

 木原となった為か、何かを思考していないと落ち着かいないので、歩いている間にあることを試してみる事にした。

 

 そう、それは奇襲対策である。

 現状、いつ暗部なんかに襲われるかわからない上に、木原 幻生に関わっている以上、主人公組やその仲間たちに捕まる危険性まで有るのだ。警戒するに越したことはない。食蜂操祈とも一時的に敵対する可能性になるのだから能力への対策は必須だろう。才人工房の件を考えるに、ただの科学的な装置だけでは対策しきれない可能性が高い。

 

 本題に入るが、前者の対策は能力によるレーダー的な物の構築だ。俺の能力は精密作業を得意とするが、精神系の心理掌握が十徳ナイフと言われ精神系全般が使えるように、物質誘導はそれその物が汎用性の高い念動系を行使できる。

 念動力を利用して周りの空気や物質を支配下におき、その動きを読み取ることで、視界外や背後からの奇襲や視界の悪い状態でも対応可能になる筈だ。電子の動きをレーダーにしている超電磁砲と同じ原理である。イメージとしてはハンターハンターの円的な感じでもある。

 ただ、能力射程のカタログ値的には、常用となると有効範囲は50mが限界になるだろう。そうなると、スナイパーライフルなんかの銃器は弱点となってしまう。

 逆に、この理論通りにいけば、レーダーの範囲内なら持ち物や隠し武器までわかる精度にはなると思われる。

 範囲は狭くても、近接戦闘や市街地戦であるのと無いのでは段違いなので試してみる。

 

 まだ慣れないが、歩きながらも演算に集中する。

 すると、世界が変わったように壁を隔てた先まで感じるようになった。感じ取ったデータを脳内で立体に変換してゆく。そうすることで、壁を隔てた先が透視をしているかのように見えるようになった。だが、情報量の多さからか、同時に頭痛が伴う。

 さすがに、これを常用するのは思考の妨げになりそうだ。鎮痛剤などを服用すれば、長期間の使用にも耐えられるかもしれないが、負荷は当然かかってる訳なのでその後が怖い。

 そして、能力に没頭していたせいか、今までよく見ていなかった風景をみると、何故か嫌な予感と既視感に襲われた。

 その既視感は追加された記憶の性ではなく、今見えている風景が、この世界に来る前に画面越しに見たことがある風景だったからだ。

 

 そして、今日の日付がふと頭に浮かんだ。思い出して欲しい。俺が病院で目覚めた日が超電磁砲の始まる前の日だったことを。今日が7月16日で、その始まりの日であることを。

 そして、俺はこの場所を思い出した。

 この場所は、超電磁砲で主人公4人組がクレープを買っていた公園に面した道だったということも。

 さらに、俺はそこで何があったかも思い出す。咄嗟に、俺は歩道の左側を見た。すると、何度も見たことがある何故か昼間であるにも関わらず、シャッターが閉まった銀行があった。

 先程の能力によるレーダーには、シャッター越しに炎を使う男を捉えた。

 不味い────。 

 

 副作用の頭痛でワンテンポ対応が遅れたが、咄嗟に、俺は銀行に背を向けて那由他ちゃんを庇うようにして、倒れて伏せた。

 那由他ちゃんを庇う時は、まるで体が勝手に動いたかのようだった。

 

 次の瞬間、爆音とともに熱風と破片が飛び散る。

 爆発の衝撃は能力を使って和らげる事が出来たが、ワンテンポ遅れたこともあり、細かい破片をどうにかするには時間が足りなかった。

 ある意味、演算能力の限界とも言える。いや、能力を使い慣れていないが為に、演算して発動までのレスポンスタイムが長かっただけなのかも知れないが、どちらにせよ、今はこんなことを考えている暇はない。

 

 そして、爆発による煙が晴れると、俺が那由他ちゃんを押し倒しているような体制になっている事に気づく。床ドンというやつだろうか。後、状況が飲み込めてなくて困惑している那由他ちゃんかわいい。マジ天使。

 

 おっと、危ない危ない理性が蒸発するところだった。一応言っておくが、俺は決してロリコンではない。

 

 じゃあ、なぜ理性が蒸発するんですかね? (名推理)

 

 それはそれとして、那由他ちゃんに怪我はないどろうか。(話をそらす)

 

「那由他ちゃん、大丈夫?」

 

「誘導お兄ちゃんのおかげで大丈夫だけど、背中が……」

 

 那由他ちゃんは俺の背中を見て、口を濁した。

 さっきまで気にしていなかった性か、全く傷まなかった背中から液体のような物が流れ、痛みを感じる。

 というか、かなり痛いんだが。破片とかそのまま刺さってそう。

 

「これくらいなんともないさ。那由他ちゃんが無事でよかったよ」

 

 那由他ちゃんの前だし、カッコつけて強がってしまった。というか、生ぬるい液体の感覚もあるし、割とガチで洒落にならないほど痛いんだが。

 

「誘導お兄ちゃん、なんで体の大半がサイボーグである私を庇ったの?」

 

 那由他ちゃんの顔は真剣だった。やっぱり、痛みになれていない性もあってか、オレが痛みを我慢していたことを誤魔化しきれなかったようだ。それで困惑と自責の念を感じている様だ。

 しかも、シリアスなムードになってしまった。こういう時は最大限カッコつけるしかない。というかシリアスなムードの性で余計に背中痛い。ヘラヘラとするためにも、もうちょっとギャグ展開の方が好ましい。

 

「そりゃ、女の子の顔を傷つけるわけにはいかないし。それに巻き込んだからには守るって言ったろ」 

 

 俺は痛みを我慢して、渾身の笑顔で言った。守ると決めた那由他ちゃんに少しでも責任を感じさせない為に。

 

 痛みもあり一瞬、ぼーっとしてしまったが原作の展開を思い出した。入り口から犯人が出るはずなので、体を動かして横に倒れるように体制を変え、那由他ちゃんにも常時携帯しているだろう風紀委員の腕章をはめるように言う。このシリアスな空気にも耐えられない。

 

 

「誘導お兄ちゃん、ほんとに立って大丈夫?」

 

 横になっていたら、那由他ちゃんに心配されるから立ち上がったが、それでも心配してくれる那由他ちゃんも、マジ天使です。

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 これ言ったら、死亡フラグになりそうだな。そして土煙がはれて、銀行強盗の犯人達が出てくる。

 

「邪魔だ、どけ」

 

 3人の強盗犯の中の太った男は、怒声を上げながらこちらに向かって走ってくる。

 

風紀委員(ジャッチメント)として、ここは通さない」

 

 そして、いとも簡単に那由他ちゃんに投げられる太った男。

 うわ、幼女強い。那由他ちゃん、サイボーグだから見た目に反して力があるのは当たり前か…。

 

風紀委員(ジャッチメント)のガキが、いきがってんじゃーねぇーよ」

 

 発火能力を持った男が、手に炎を纏い襲いかかる。

 

風紀委員(ジャッチメント)ですの。加勢いたしますわ」

 

 そう言った彼女を俺は知っていた。彼女が原作キャラの白井黒子である事を。登場するタイミングが遅い気がするのは、俺達がいたからだろうか。そう言えば、原作では太った男も白井 黒子が倒したんだっけ。見せ場を奪ってる気がするが気にしない気にしない。

 

「その必要は無いよ、お姉さん」

 

 そう言うと那由他ちゃんの回し蹴りが、炎を使う犯人の腹部に炸裂した。

 

「能力者のスキをつけばこのくらいなら私にもできるよ。それに、私にこれを教えてくれた数多おじさんは『これを極めれば学園都市第一位の奴も怖くない、少なくとも俺は勝てる』なんて言ってたけど、どうなのかなあ?」

 

 やっぱ、白井 黒子の見せ場が潰れてますやん。原作最初のレールガンの解説とかどうすんのこれ。

 発火能力の男はそのまま体術で那由他ちゃんに取り押さえられてるし。と言うか、那由他ちゃんに体術掛けられるとか羨ましい。

 いやいや、これは紳士としてあるまじき発想だな。反省、反省。 

 

 ひとまず目の前の強盗が制圧されて安心してしまっていたが、佐天さんと犯人の一人が見えた。

 助けに入ろうとも思ったが、怪我のせいで演算が上手くできず、その間に佐天さんは原作通り子供を守ることに成功するものの振り払われ、その隙に犯人は車に乗った。

 

 まぁ、その後犯人は原作通り超電磁砲でやられたんですけど。 インフレするとはいえ、実物の超電磁砲は大迫力だ。

 という訳で、俺の出番などなく事件は終わった。俺はただ怪我をしただけである。事件解決のなんの役にも立っていない。やっぱり、超電磁砲の初期ですらこんなダメージを負っているようでは駄目だ。遠いが、もっと強い力を手に入れなければ…。

 

「そこの貴方、事情聴取に協力していただけませんでしょうか?」

 

 白井 黒子がテレポートをして、こちらに駆け寄ってきて事情を聞きに来た。

 

「構いませんよ」

 

 いくらこちらの研究所が暗部よりとはいえ、面倒ごとは避けたい。取り敢えず、了承しておこう。身分的にはただの学生だし。

 

「あら、貴方怪我をしてますわね? 救急車ももうすぐ来るでしょうし、事情聴取は後にしても構いませんが」

 

「そうさせてもらいます」

 

 俺は救急車に乗ると分かり気が抜けたためか、意識を手放してしまった。

 

 

 

 

 

 

 ーとある病院ー

 

 目を覚ますと、目の前にはカエル顔の医者がいた。

 

「僕はお金は後でいいとは言ったけど、態々怪我をしてから来なくてもいいんだがね? もしかして、君ナース属性(フェチ)だったりする?」

 

 カエル医者が目の前で、同族ではないかと聞いてくる。俺は両生類じゃないぞと言いたい。

 

「俺としては那由他ちゃんがナース服を着たら可愛いだろうなーとは思いますけど、(別にナース属性じゃ)ないです」

 

「流石の僕でも、ぺドフィリアの治療は専門外だね…」

 

 カエル顔の医者は若干引いた顔をしながら、冗談めいた口調で話す。

 

「いえ、別に俺はぺドフィリアという訳ではないのですが」

 

 俺の何処がぺドフィリアなんですかね…。某アニメ(漫画)で分かる心療内科で言ったけど13以下と性行為をしたいと思わなければ、小学五年生のランドセル少女とキスしたり、手を繋いでもぺドフィリアじゃないって知ってるんだぞ。(曲解)

 社会倫理的にはアウトだけども(ボソッ

 まずもって、Yes ロリ,No タッチだ。それが出来ない奴はロリを愛でる資格などないのだよ。お風呂に入った一方通行さんは保護者だから、ギリセーフという事にして置こう。(謎の上から目線)

 

 

「そうかね。あまり患者と長話も良くないし、僕は退散させて貰おうかね? それと君に見舞いに来た子がいるみたいだよ」

 

 見舞い? 誰だろうか。

 一方通行や幻生が別の意味の見舞いしに来たら、笑えない。ハハワロス

 

「誘導お兄ちゃん。大丈夫?」

 

 可愛い声とともに、ドアからちょこんと顔を出す那由他ちゃん。流石に那由他ちゃんか。本当に那由他ちゃんで良かった。というか、那由他ちゃんの心配顔でも全回復しそう。

 

「あぁ、大丈夫だよ」

 

 見とれてしまったが、とりあえず返事をする。

 

 そうして、ダメージを負ってしまったが原作初日を何とか乗り切ることに成功した。おかしい、まだ比較的事件規模が小さい超電磁砲の筈なのに…。

 





主人公は中身一般人なので、禁書世界でもよくある負傷状態による戦闘は厳しいです。
連続で事件にあって、怪我をしても次には回復してる上条さんは化け物すぎる。


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08.始まりの日④


 再び日間に入れました!ありがとうございます!!
 昨日投稿出来なかったので、既に落ちてますが()
 書いていると、キャラの口調が分からなくなってくる…。黄泉川先生とかジャンジャン言うイメージが先行してしまう。

 最初は那由他ちゃん視点からになります。

 


 

 

 私が気づいたときには誘導お兄ちゃんは私に覆いかぶさるように身を呈して守ってくれていた。大半がサイボーグであるこの体ならある程度は治せるし、破片程度なら殆ど傷つくことはないのに。顔が傷つくのは確かだけど…。

 誘導お兄ちゃんが少し斜めを向いたとき、背中が見えた。そこから流れるのは大量の血だった。

 いつの間にか、私は誘導お兄ちゃんに何で私を守ったのか聞いていた。

 答えは木原らしくない優しい理由だったが、そんな木原としては間違っている理由を聞いて、あんな状況ではあったけど、何故か私は嬉しく思っていた。

 

 風紀委員としての後始末をした後、誘導お兄ちゃんのお見舞いにいくと、カエル顔の医者がいて状態を教えてもらうことが出来た。火傷や破片による傷はあるものの後遺症はなく、学園都市の医療技術もあり、安静にすることが条件だけど明日には退院も可能という話だった。

 

「誘導お兄ちゃん。大丈夫?」

 

「あぁ、大丈夫だよ」

 

 誘導お兄ちゃんはいつものような優しい笑顔で、答える。本当はまだ痛いはずなのに。

 そして、ドアを閉めて誘導お兄ちゃんが寝ているベッドの横まで歩く。

 

「那由他ちゃん、重要な話があるんだ。幻生先生の件や様々な危険に那由他ちゃんを巻き込んでしまった。これ以上踏み込んだら、よりリスクが伴ってしまう。だから…」

 

 私が横の椅子に座ると、誘導お兄ちゃんは辛そうな表情で言葉を紡ぐ。それは私をより深い学園都市の闇、地獄から遠ざける為の優しい言葉なのかもしれない。それでも…。

 

「まって、誘導お兄ちゃん…。それ以上は言わないで欲しいかな」

 

 私は誘導お兄ちゃんの言葉を遮る。

 きっと、私の為に言っているその言葉の続きを聞いてしまったら、これ以上は暗部に関われなくなってしまうと思う。もう、誘導お兄ちゃんが悲しむ顔は見たくない。これは木原らしくない理由だ。我儘なのかもしれない。

 だけど、出来れば誘導お兄ちゃんの傍に立っていたかった。

 

「ねぇ、誘導お兄ちゃん。私は実験台として失格かな?」

 

 次に口にしてしまったのは、酷く狡い言葉だった。

 だけど、戦力にならないかもしれないけれど、一度関わったからには一緒に戦いたかった。

 

「そんなことは…」

 

 誘導お兄ちゃんは言葉に詰まる。やっぱり、これは聞くべきではなかったものだった。

 

「いや、違うな。那由他ちゃんは実験台としては失格だな」

 

 誘導お兄ちゃんから出たのは予想外の言葉だった。

 

「那由他ちゃんは実験台でなく、成功例、完成体になるべきだ。単なる実験でなく、技術の発展に合わせて常にアップデートを続ける最強の個体に。それじゃあ、駄目かな? 」

 

 話し方はいつものままだったが、誘導お兄ちゃんは覚悟を決めたかのように言葉を続ける。私の我儘がその覚悟をさせてしまったのは間違いない。

 

「もちろんだよ、誘導お兄ちゃん。その為なら私は何だって手伝うし、地獄だろうがついて行くつもりだよ」

 

 我儘でも良い、学園都市の闇(地獄)でも何でもついて行く覚悟で、私はそういった。

 

「なら、これからは那由他ちゃんと一緒に計画(プラン)を実行していかなきゃな」

 

 覚悟を決めた声を聞いて、久々に誘導お兄ちゃんの本音を聞いた気がした。

 だけど、誘導お兄ちゃんの『計画(プラン)』とはなんなんだろうか。

 誘導お兄ちゃんは私のサイボーグ化にも関わってはくれていたけれども、それがメインではなかった筈だ。

 

 だって、誘導お兄ちゃんの()()()()()は ──

 

 そんなことを考えていると、病室のドアの方からコンコンとノックが聞こえた。

 

「木原、入るじゃんよ」

 

 そして、病室のスライド式のドアが勢いよく開いた。

 

「黄泉川先生!?」

 

 誘導お兄ちゃんは驚いたようなリアクションを取る。

 どうやら、誘導お兄ちゃんの学校の先生で警備員(アンチスキル)らしかった。

 

「まさか、木原に妹がいたとは、驚いたじゃん」

 

「いえ、妹ではないんですが…」

 

「確かに顔も似てないじゃんよ。まさか、学校で浮いた話がなかったのは…」

 

「黄泉川先生、それは冗談になってないです。ただの親戚ですよ」

 

 誘導お兄ちゃんは苦笑いしながら答える。学校ではこんな感じなのだろうか。

 

「特殊学校法人RFO所属の風紀委員、木原 那由他です。誘導お兄ちゃんがお世話になってます」

 

 誘導お兄ちゃんの学校の先生と合うのは初めてだったので、挨拶をする。

 

「お世話してやってるじゃん。上条達とつるんでるあの木原の親戚にしてはしっかりもので良いじゃんよ」

 

 誘導お兄ちゃんはどうやら、問題児だったらしい。

 

「それじゃあ、そろそろ事情聴取を始めるじゃんよ」

 

 そんな話をしていていていると、そろそろ事情聴取始めるみたいだったので私は病室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 ── 誘導 side ──

 

 

 とりあえず、黄泉川先生からの事情聴取は終わった。どうやら、風紀委員から警備員に引き継がれたようだった。

 

 問題は巻き込まれた事件の聴取より、病室での那由他ちゃんとの会話の方だ。

 今回の一件で力を手に入れることが急務だということが分かった以上、安全な手段での研究では間に合わない。

 それこそ最悪、原作ブレイクになるような事を行わなければならないかもしれなかった。あの子達の意識を取り戻すためにも何かが変わっている可能性がある以上、万全の力・環境を整える必要があるからだ。

 原作で知っていた強盗犯ですら、那由他ちゃんを上手く守れなかったのだ。原作にない行動をするのに、那由他ちゃんを巻き込むわけにはいかなかった。そこだけは守ると決めたのだから。

 そんな気持ちをもって那由他ちゃんに理解してもらう為に、説明をしようとしていた。だが、その言葉は那由他ちゃんに遮られてしまった。

 

 俺は原作知識という意味で、木原那由他という存在を知っていた。その力は第三位の御坂美琴や第七位の削板軍覇には勝てないようなものであることも。

 だからこそ、暗部の深くにあるような力を手に入れる為に遠ざけるべきだと考えていた。だが、原作を思い出してみて欲しい。遠ざけた筈の存在でも危険に晒されていなかったか。

 

 インデックスや打ち止めなどは特にそうだ。もちろん、彼女らに価値があり、それが目的という場合もあった。たが、一方通行ですら打ち止めやその周りの生活を守るためには、暗部での暮らしを余儀なくされていた。

 

 俺は主人公(ヒーロー)ではない。

 だが、もはや単なる一般人でも無くなっている。俺たちは木原だ。逆に考えればよかったのだ。那由他ちゃんが弱点となってしまうのなら、那由他ちゃんを強化して狙われなくすれば良い。これは他の周りの人間でも同様だ。

 だからこそ、このインフレ環境に適時対応できるような『計画(プラン)』を立てて、実行する覚悟を決めた。

 実際には魔神まではいかないまでも、学園都市崩壊規模の事件でも耐えうるほどの力を。暗部連中だろうが、統括理事会連中だろうが消し飛ばせるだけの力を手に入れるために。

 まぁ、心持ち的に那由他ちゃんには『最強の個体』と言ってしまったが、やれるだけやってみるしかない。

 

 流石に、那由他ちゃんの事ばかり考える訳にはいかない。これから、原作が開始されてしまうのだから。

 

 しかし、白井黒子などの超電磁砲組に関わりを持ってしまった訳だが、暗部的な研究や仕事中で出会わなかっただけましと考えるしかないか。

 第一印象だけなら親戚の子を庇う善人より見えているはずだろうし。流石に、原作ブレイクに一歩近づいた気がするが、あまり神経質になり過ぎるのも良くないだろう。

 しかし、どう考えても原作乖離が避けられないなら、逆に先手を打っていたほうが良いのかもしれない。

 

 それを判断するのは禁書目録原作の開始の7月20~21辺りが山だ。上条当麻の一度目の死、そこに介入してしまって良いのかどうか。

 個人的な観点や感情だけなら上条さんの記憶は無くならない方が良いに決まっている。だが、物語的な齟齬が発生するのは間違いない。そうなれば、知識との乖離が必ず起きる。

 俺という存在がいる以上、既にバタフライエフェクトの様な原作崩壊は始まっているのかも知れないが。

 上条さんの記憶喪失の回避はともかくとして、そもそも介入すべきかどうかと言う問題もある。

 これに関しては、現状は介入するべきだと感じる。アレイスターが施した原型制御による科学と魔術の分離、単なる木原という枠組みから抜ける意味でも、このタイミングが一番だ。

 早い話、土御門のように科学と魔術の両知識を持っている存在になっておく為には必要だ。

『とある科学の一方通行』に登場した菱形はローゼンタール式の死霊術を利用していたし、表にバレなければある程度は見逃されるのは間違いない。それに最悪、魔術知識がそこまで得られなくて、上条さんの記憶が消えようとも禁書目録に恩が売れる。

 アレイスターに脅威と思われない範囲でだが、僅かでも魔術との関わりの有無は大きい。滞空回線を気にする部分が確実に減る。

 

 とはいえ、介入するにしても命がなくてはどうにもならない。

 今後の脅威に備えた戦力と保険を、アレイスターよろしく複数同時並行で進めなければならない。

 そうなれば、まずは着実に科学での地盤固めだ。そんな決意を元に、とあるサイトに隠された音楽ファイルのダウンロードが終わったことを確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 ── 学園都市某所 ──

 

「誘導君が動き出したようですよ、先生」

 

 白衣の女は機械的な装置がついたゴールデンレトリバーに話しかける。

 

「誘導君はある意味ロマンだ。とはいえ、危うさの方が大きい。今後次第といった所だね。研究対象が似通っていた唯一君が興味を示すのも分かるが…」

 

 喋るゴールデンレトリバーこと、木原脳幹は誘導が木原としての性質に飲み込まれるのか、木原加群のような例外的な木原となるのか、また別の可能性を取れるのかを期待しながら様子を見守る。

 

「先生、誘導君に嫉妬ですか?」

 

「そういったものでは無いよ、唯一君。さて、その誘導君から教えて貰ったご当地土佐犬アイドルの動画とやらを見るとしよう」

 

 キッチンで調理をしていた木原唯一の問い掛けに、葉巻を吸いながらも答える。

 

「唯一君。君は何故、今用意してくれていた私のご飯用の皿を片付けているのかね?」

 

 そこには余計な事を言ってしまったと、後悔するゴールデンレトリバーの姿があった。

 

 






感想、誤字報告ありがとうございます!!

木原唯一の口調、円周のシミュレーションと上里編で違う感じが強いんですよね…。


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09.暗躍開始①


 お待たせしました。感想、誤字報告ありがとうございます!!
 そろそろ本編キャラと絡ませていきたい…。

 


 

 それは()()()()()の出来事だった。

 学園都市第2位、垣根帝督は不自然なほど静寂な夜道を歩いていた。いかに、垣根であれどこの時はまだ学校には通っている。帰宅途中の何気ない時間だった。

 前方から来た()()()()()()()()()()と中学生くらいの()()()()()()()()()()()()()()とすれ違う。

 事が起きたのは、垣根帝督がそんな少女達など気にせず通り過ぎたすぐ後だった。

 

「うんうん、誘導お兄ちゃんならこうするんだよね!」

 

 そんなお団子ヘアの少女の声と共に猛烈な閃光が発生した。

 咄嗟に、それに反応して未元物質による防御を行う。

 伊達に学園都市第2位をやっている訳では無い。第1位ほどではないとしても、その地位に目が眩んだ馬鹿どもは「1位より弱い2位ならやれんじゃね」と言う浅はかな思考で襲ってくる。垣根帝督はいつもの様にあしらえば良い、とそんな風には考えていた。

 

「どこの馬鹿か知らねぇが、一般人に手を出すつもりはねぇが、俺はガキだろうが敵には容赦しねぇーぞ」

 

 しかし、それは能力を展開したすぐの事だった。

 激しい頭痛と目眩が発生し、未元物質が本来ありえない方向に現出し、暴発した。

 

「指向性スピーカー。高出力が必要な対能力者用音波を低出力で実現したコレはどうだろうか」

 

 今までいなかった筈の男が突如として出現する。透明化能力か空間移動系能力かは分からないが、垣根帝督はその男が纏う雰囲気から闇側の人間であることを理解した。

 

「そんなもんで俺の未元物質を潰せるとでも思ってやがんのか、気取りクソ野郎」

 

 普通の能力者なら暴走による自滅をしたかも知れない。だが、学園都市第2位の頭脳は瞬時にその()()()()()()()を考慮し、調整した演算を行うことが出来た。そして、6翼3対の翼が展開される──

 そのはずだった。再び能力が暴発しそうになる。2度目であることもあり、今度は演算を中止することで暴発を回避した。 

 

「流石に音だけでは無理だと思っていますよ。だからこその指向性を持たせた強化版AIMジャマーな訳ですが。これには第2位はどう対応します?」

 

 男がそんな台詞を言っている間に、その隙をついて金髪ランドセル少女の回し蹴りが、明らかに人体の速さを超えて飛んでくる。

 

「たったその程度で勝った気になってやがるのか。教えてやるよ、俺の未元物質には常識が通用しないって事をな」

 

 今度は6翼3対の翼の展開に成功する。暴発はしない。未元物質の圧倒的威圧感がその場を支配した。

 さらに、垣根は目の前の男がいった『指向性』という言葉から、逆算を行い音とAIMジャマーの発生源を探り当てた。そして、未元物質の翼を発生源の方角に展開し、あっさりと破壊する。

 それと同時に、金髪ランドセル少女の蹴りも翼でガードし、防ごうとした。

 しかし、少女の足は未元物質で出来た翼に当たることはなかった。

 

「ッッッ!!」

 

 垣根は思わず声を零す。

 蹴りに対して未元物質は磁力の反発にあったかのようにねじ曲がり、歪んだ。そして、蹴りが垣根帝督の顔面に直撃する。

 咄嗟に跳躍し、反対側に飛んだことで蹴りの衝撃を抑えることに成功したが、口の中は血の味になっていた。

 

「うんうん、垣根帝督ならそうするんだよね」

 

 お団子ヘアの少女がそんな言葉を呟くと、再び猛烈な閃光と共に2人の少女が消失した。

 だが、それで諦める垣根では無い。男の方に翼を槍のようにし、真っ直ぐ伸ばして攻撃する。

 

「誘導お兄ちゃん、危ない!!」

 

 垣根帝督には姿は見えないが、金髪の少女の声だけが聞こえた。

 そして、そのままに誘導という男の体に未元物質の翼が突き刺さると思われた。

 だが、翼は僅かではあるがグニャリと曲がり、男は回避することに成功する。

 

「チッ、またAIMジャマーの類か」

 

 垣根は思わずそんな言葉を口にしたが、腑に落ちないところがあった。明らかに先程までのノイズによる暴発を狙うAIMジャマーとは違い、もっと能力の根幹に触り暴発させてくるような何かがあったように感じたからだ。

 それを解析するために翼をもう一度伸ばす。

 

「チェックメイト、おしまいといった所かな」

 

 予め定められたかのように男がそういった瞬間、垣根帝督の視界は暗転した。

 

「酸欠。もっとも警戒される可能性があったので、賭けでしたが。後、先程の那由他ちゃんの蹴りの時にも、微量でも効果を発揮する筋弛緩薬を入れさせて貰いました。よし、これで未元物質確保完了っと」

 

 男は垣根帝督にヘッドフォンと手錠をつけ、偽装したものと思われる救急車に運び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 ──誘導 side──

 

 垣根帝督襲撃計画などという大それたものを行ったわけだが、正直目の前まで未元物質の翼が来た時は死ぬかと思った。普通に二度とやりたくない。

 

 こんな事になったのも元々いえば、あの科学狂いの爺の性だ。

 那由他ちゃんがいた研究所で木原幻生とあった時のことを覚えているだろうか。そう、あの俺が未元物質くれれば協力すると言った時の事だ。

 未元物質のサンプルはちゃんと送られてきた。送られてはきてはいたのだが、余りにも極小だった。元々、それくらいしか保管されていなかったのが、幻生が出し渋ったのかは分からない。

 だが、避雷針や安全装置を作ると言ったり、未元物質を利用すると公言した以上は何らかの行動を取らなければ怪しまれてしまう。いずれは敵対するつもりでも、今あの木原幻生とやり合うのは分が悪い。というよりも、奪ってこいという揶揄している様に思える。

 

 それにどうせやるならチマチマした行動よりも派手に、それでいて最大限の利益を得られるものにしたかった。

 武装無能力集団(スキルアウト)ではないが、未元物質を組み伏せれば裏の方でも箔が付くのは間違いない。

 

 そうと決まれば早かった。今出来るだけの最大限の準備をして、学園都市第2位に挑むだけなのだから。

 まずは、簡易版ではあるが光学くんと色彩ちゃんに作ってもらった()()の準備をした。というよりも、アレを完全再現するには時間が足りなかったので、物質誘導で一部を代用していたが。

 

 加えて、第二の手札として指向性を持たせて複数方向からの束ねることで誘導し、効果を高めたキャパシティダウンとAIMジャマーだ。指向性の為、自分を含めて那由他ちゃんにも影響が起きないようにもしている。

 もちろん、これだけでは垣根帝督を止められないのは分かりきっていたが、これ自体は見せ札に過ぎない。

 これの対処を垣根帝督が行っているうちに、那由他ちゃんによる筋弛緩薬と物質誘導で酸素を奪うのが本命だ。逆にこれを分かりやすい位置に置くことで、装置の破壊を優先するように誘導していた。

 

 さらに、今回はバックアップ要因としてゲストを呼んでいた。木原円周、新約4巻で登場した様々な木原や人間のエミュレートを得意とする木原だ。

 彼女は隔離されて育てられたが故に、善悪や人間の機微には疎いが、木原唯一や病理の頼みも聞いていたし、木原かつそれなりに友好的な関係なら協力してくれると踏んでいた。木原一族の何人かが写った写真なんてものを持ち歩いてた訳だし。

 その彼女に垣根帝督をエミュレートとして貰い、戦う前に取りうる行動を予測していた。

 

「ふんふんふーん、何に使うか分からないけど、誘導お兄ちゃん未元物質の確保成功だね」

 

 そんな事を考えていると、鼻歌交じりに意気揚々と円周ちゃんが話しかけてきた。

 

「円周ちゃんもありがとう。『木原』が協力すれば解決で出来ない問題はないからね。出来れば、今後も頼むよ」

 

 加群の評価では()()()()木原らしくない思考を持っているらしいが、しっかりと木原としての性質は持ち合わせている。逆に那由他ちゃんが木原の可能性であることもこの巻で示唆されていたが。

 

 しかし、今回の襲撃でも課題はいくつもあった。

 まずもって、那由他ちゃんを全面に出している点だ。これは他にもやりようがあったが、上層部や他の暗部から那由他ちゃんを庇護対処(弱点)として見られないために、このアピールが手っ取り早かった。だが、これをこのまま続けるのもリスキーだ。早急にそういったしがらみを解消できる戦力を用意する必要がある。

 

 加えて、問題点は未元物質を解析しきる程には時間も演算能力も無かった点だ。極小のサンプルから他の物質と混ざりあっていない純粋な未元物質に対しては、物質誘導が機能するようには出来ていた。それが出来たが為に、那由他ちゃんの脚を起点にして、未元物質が反発するように設定していた。

 

 他にも、垣根の最後の一撃がとある科学の未元物質に登場した装備を無視して人体のみに害を加えるような攻撃になっていたのかは分からないが、純粋な未元物質ではなかった。

 当たっていればかなり不味かっただろう。というよりも、円周ちゃんのエミュレートで、本来はそれが出る前に決着が着くはずだった。やはり、学園都市第2位は侮れない。

 

 そういう意味では那由他ちゃんはMVPだ。アレがあったとは言え、咄嗟にAIM拡散力場を触れて暴発させることに成功したのだから。木山先生のアレを改良した甲斐があった。

 急ごしらえではあったが、那由他ちゃんに施した実験も成功といっても良いだろう。

 帰ったら、施した実験のデータの確認や姿を隠しの為に利用した()()の調整もしなければならないな。

 

 だが、まずは確保した垣根帝督との交渉といこう。

 

 

 

 





 少女達に戦わせて後ろにいる鬼畜系主人公…。
円周ちゃんのエミュレートと誘導はかなり相性が良い感じですね。
 次回は今回訳あって喋っていない那由他ちゃん視点からいきたいと思います。

 因みに、垣根帝督が暗部活動を本格化したのは学校に行かなくなったと思われる夏休み後だとは思いますが、本作では夏休み前も弓箭の様に学校に通いながら暗部ではあった扱いです。

 ここで木原誘導の能力である物質誘導(ザブスタンスインダクション)についての説明を少々。
 物質という意味だけなら、未元物質(ダークマター)に代表されるようにMatter(マター)が使われることもありますが、態々この単語を当てたのには少し意味があったりします。

 Substance(サブスタンス)…物質(物を構成する実質的内容の質)、本質、実体、正体の意味を持つ。substance abuse 物質乱用と書いて薬物乱用、substance diffusionで物質拡散の意味で使われていたりする。

 Induction(インダクション)…誘導、帰納法、導入の意味を持つ。因みに、帰納法は『今までずっと太陽が東から昇り西へ沈んでいるのなら、明日も同じだろう』といった考え方で、法則性を見出す科学における根底にあるものである。

 もちろん、単純にこのふたつを合わせて本質や実体を誘導する様な意味も込められています。




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10.暗躍開始②


 感想、誤字報告ありがとうございます!
 ロリ木原sは那由他ちゃんがランドセル少女で、円周ちゃんは中学生くらいと表現されているので、精神年齢はともかく円周ちゃんの方が年上ぽいんですよね…。
 閉じ込められてた性か、円周ちゃんは言動がだいぶ幼い感じですが。

では、那由他ちゃんsideからです。



 

 

 円周お姉ちゃんと解散した後、学園都市第2位 垣根帝督を救急車に乗せて移送した。

 垣根帝督が輸送中に暴れた場合を考慮してか直接研究所には運ばずに、誘導お兄ちゃんの研究所名義で借りている倉庫に運び込んでいる。

 そして、垣根帝督の頭にはヘッドセットや脳波を観測するための機器が繋がれていて、手足も精神病棟用のストレッチャーで拘束されていた。

 でも、誘導お兄ちゃんが垣根帝督の強襲作戦を決行するとは思ってもいなかった。円周お姉ちゃんのシュミレーションや()()()()()()()()という装置による誘導は確かに凄かったけど、確実ではなかったからだ。

 

「よし、『横紙破り(ULエクスプローダー)』。これで滞空回線は一時的に無力化出来ただろう。これくらいなら君の未元物質でも似たような事が出来たとも思うが」

 

 誘導お兄ちゃんが持っていたおもちゃの様な銃の引き金を引くと、突如として空間が爆発を起こした。それは粉塵爆発のそれと似ていた気がした。何を爆発させたか分からないが、そこに何かがあったのは間違いない。

 

「正直、唯一姉さんのものだからあまり使う気はしなかったが、まぁ仕方ないかな。流石に、第2位さんも目は覚めているのだろう?」

 

「クソ野郎が俺に何の用だ。殺るならこんなチンケなベットに括り付ける前に殺っておくべきだったな」

 

 誘導お兄ちゃんは脳波観測装置のモニターを見て問い掛けるように呟くと、以前に出会った第1位と近いレベルの殺気を垣根帝督は出しながら反応した。

 その瞬間、垣根帝督の近くAIM拡散力場が歪んだように感じた。だが、能力は発現しない。

 もしかしたら、私の改造時に脳波制御の為として、誘導お兄ちゃんが導入したものと似たような仕組みなのかもしれない。

 私の改造時の装置の方は脳波を変換することで複数人間の脳で演算・通信を可能にするものらしく、私の能力での空間への演算能力を誘導お兄ちゃんの能力で高めるための物らしい。

 たしか、どこかで研究されている幻想御手(レベルアッパー)という物の応用らしい。垣根帝督のAIM拡散力場の歪みをよく観察すると、最初に出会った時よりノイズや不釣り合いな振れ幅があり、実際に無理やり脳波を捻じ曲げて能力を防いでいる様にも考えられる痕跡は残っていた

 

「あぁ、もちろん能力は制限させてもらっているよ。それにクソ野郎は酷いなぁ。私の名前は木原 誘導、単なる科学者ですよ」

 

 誘導お兄ちゃんは交渉のためか、科学者らしい口調で垣根帝督に話しかける。

 

「その唯の科学者が何の用だ?」

 

 誘導お兄ちゃんを睨みながら、怪訝そうな表情で垣根帝督が質問する。

 

「垣根帝督君、わざわざ君を襲撃したのはこうでもしないと協力しては貰えないと思ったからに過ぎない。そこは理解して欲しい」

 

 当然といえば当然だけど、垣根帝督は誘導お兄ちゃんの言葉を聞いても怪訝な顔のままだった。

 

「誘導お兄ちゃん、さっきの爆発は何をしたの?」

 

 数秒の沈黙の後、私は耐えかねずにさっき起きた粉塵爆発らしきものについて尋ねる。

 

「学園都市統括理事長、アレイスター=クロウリーは滞空回線(アンダーライン)と言われるミクロな機械で学園都市中を監視している。先程の『横紙破り』はそれを破壊するためのもだ」

 

「テメェ、アレイスターの野郎の監視を振り切って何をするつもりだ?」

 

 そんなものが存在することすら私は知らなかったけど、誘導お兄ちゃんがそんな事をする以上はそれなりの目的があるはずだ。

 

「単なる内緒話ですよ。先程も言ったでしょう? 協力したいと」

 

「協力だぁ? 襲ってきておいて何寝ぼけた事を言ってやがる」

 

 同調する訳では無いけど、私も誘導お兄ちゃんがいきなり強硬策をとった理由が、未だに分からなかった。

 もちろん、パフォーマンス的な意味合いもあるのかもしれない。しかし、一切の交渉をせず、叩き潰すようなやり方は本来の誘導お兄ちゃんのやり方ではない。そこには誘導お兄ちゃんらしい理由がある筈だ。

 

「まぁ、そう言われるのも想定はしていたが。我々と君の目的は一致していると思っている。それでも襲ったのは下手に勧誘しても、君は話に乗ってこないと思っていたからに過ぎない。

 そして、私から問おう。このクソな街の常識とやらをぶち壊したくはないか?」

 

 誘導お兄ちゃんの真意は分からない。口調なども研究者らしいそれに変えているから、何か誘導をしているのだと思うけど。でも、常識の破壊という言葉には何か引っかかる気がした。

 

「ハッ、テメェにそんな力があるとでも言うつもりか」

 

 誘導お兄ちゃんの言葉に、垣根帝督は小馬鹿にした態度で返す。

 

「やはり、君を一度打ち破った程度では力を認めてはくれないか。実際問題、それほどの出力は今の私たちにはないが、その手立てはあると言っておこう。

 そもそも、なぜ君が学園都市第2位で、一方通行が第1位か理解しているか?」

 

 垣根帝督も聞くだけ聞いて、反撃のチャンスを狙っているのだろうけど、誘導お兄ちゃんはそうはさせない。興味を引くであろう言葉で誘導する。

 

「気に食わねぇが、単なるアレイスターの野郎の優先順位の問題じゃねぇのか」

 

 いかに学園都市第2位と言えどコンプレックスの様なものがあるのか、誘導お兄ちゃんの言葉に垣根帝督は機嫌が悪そうに答えた。

 

「確かにそうだが、アレイスターはどうやってその優先順位をつけたのか、その基準を考えたことはあるかい?」

 

 誘導お兄ちゃんはニヤリと笑みを浮かべ、話しの中で垣根帝督の心理を掴みっとたかのように次なる誘導の手を打つ。

 

「こんなことは知っているか。アレイスターの目的が科学の外にある力の殲滅だということを」

 

「科学の外にある力だと……?」

 

「それは学園都市の超能力とはまったく別の法則で働く、非科学的な能力だ」

 

 誘導お兄ちゃんが垣根帝督に説明しているそんな力に、私は心当たりがあるような気がした。

 

「アレイスターの野郎は何故そんなことを目的にしてやがるんだ。単純なその勢力との利権争いか?」

 

「そうだな。理由と言うならば、学園都市統括理事会はともかく、理事長はその外の力に娘が殺された復讐という俗物的なものだ」

 

 捕えられているのに、余裕がありそうな顔をしていた垣根帝督の表情が明らかに変わった。誘導お兄ちゃんがなぜ学園都市統括理事長の目的を知っているかは謎だけど、誘導お兄ちゃんがこの空間と主導権を完全に掌握し、誘導に成功した雰囲気が伝わってきた。

 

「そんなに不思議かな。学園都市統括理事長が復讐という『人間』らしい理由で動いているのが」

 

「テメェは何故アレイスターの野郎の『計画(プラン)』への反逆を企ててやがる? 外の力を扱う側の人間か」

 

「いや、『木原』というものはこちら側の科学の産物だし、木原を管理する上でもこの学園都市はなくてはならないものだ。そうでもしないと、世界はしっちゃかめっちゃかになるしな」

 

 誘導お兄ちゃんの言葉の雰囲気が少しずつだが、垣根帝督との距離を詰めるように柔らかくなっているを感じた。

 

「だが、アレイスターの野郎の目的がそうだとして、何故外の力とやらを利用出来るものが学園都市には出てこない?」

 

 垣根帝督も気になる話題だったのか、誘導お兄ちゃんの話に耳を傾ける形となっていた。

 

「学園都市に表立ってそういった能力者がいないのにも勿論理由がある。そもそも、学園都市の能力者が外部の力を使うと、異なる力であるためか反発し、内部から破裂してしまう為だ。過去にはそういった実験が行われている。

 そこにいる那由他ちゃんにも似たような実験が行われてしまった訳だが……。この話はよそう。

 後は魔術と科学の間にもある程度の取り決めがあるのも大きいだろう」

 

 やはり、私に埋め込まれたアレは外部由来の力だったようだ。誘導お兄ちゃんは私の方少し見て、一瞬だが辛そうな表情をしていた。

 

「しかしだ。娘を失った筈のアレイスターが作った学園都市は、何故こんなにも子供を使った実験や悲劇に溢れていると思う?」

 

 誘導お兄ちゃんは続けて言葉を紡ぐ。私は不意に木山先生の実験の性で寝たきりなった置き去り(チャイルドエラー)の子達の顔を思い出す。

 

「それは1人のある少年の為だ。私の目的はそんな悲劇を消し去りたい」

 

「1人の少年? 学園都市第1位の野郎か」

 

「そんなものでは無いよ。確かにアレはメインプランの中にあるものだが、所詮は表に出した第1位だろう? 

 まさか、第1位になればアレイスターと対等に交渉出来ると思っていないかね? 

 所詮は第1位も第2位という第二候補が存在しているものでしかない。わざわざ本命のプランの中核を表に出す必要は無い」

 

「そんな物が存在しやがるのか?」

 

 垣根帝督の表情は更に驚きの表情に変わっていた。私にもまったく検討がつかない。逆に、垣根帝督と同じで誘導お兄ちゃんの話であってもそんなものが存在するのか疑ってしまう。

 

「その少年は単なる『無能力者』に位置付けられている存在だが、あらゆる異能を打ち消す右手を持った少年だよ。だからこそ、その右手故に無能力者と判定されてしまう訳だが。

 学園都市第1位のベクトル操作だろうが、未元物質だろうが、学園都市の外の力だろうが、関係なくその右手はあるべき形の基準点として壊す。正直、闇を持つ我々のような存在に対する天敵といえるまでの善性、真正面から挑めば勝ち目はない。

 言うなれば、悲劇や闇に対する特攻兵器だ。まだ、対戦相手を任意にぶつけて、善性をもった無能力者と戦わせた方が勝算がある。そんな彼を活躍させる為だけに作り上げた舞台装置がこの学園都市だ。能力者がいなければ彼は彼自身の能力にも気づくことは出来ないのだがら、必要なものではあったのだろうがな」

 

「そんなもんが存在するって言うなら、テメェが言う第1位と第2位の差はなんだ?」

 

「あぁ、それか。単純な話だよ」

 

 誘導お兄ちゃんは忘れていたことを思い出すかのように呟いた。

 

「それは相性とも言うべき、能力の性質の違いだ。第1位の理由はベクトル操作とその演算能力によるものがもっとも大きい。アレにAIM拡散力場の値を代入させ、虚数学区五行機関の制御を行わさせることが、アレイスターのプランの一部だ」

 

「虚数学区五行機関だと……? 単なる都市伝説じゃねぇのか」

 

「確かに、始まりの学区・研究所なんて話は都市伝説に過ぎない。だが、虚数学区・五行機関は実在している。

 その本質は、能力者のAIM拡散力場が作り上げた陽炎の街というへぎものだが 」

 

「能力者が作り上げた陽炎の街…? どういう意味で言ってやがる」

 

 学園都市第2位の頭脳でも完全な答えに至っていないのか、誘導お兄ちゃんに問いただす。

 

「例えば、電波塔から出した電波は障害物を避けて通る訳だが、レーダーの様にその電波の形を見えるようにすれば、障害物となった街の形が分かる。つまり、街がデータ化されている訳だ」

 

「では、炎や電気、挙句の果てには未元物質など多種多様な学園都市の能力者から発せられるAIM拡散力場を電波塔として、学園都市中を覆ったらどうなると思う?」

 

 誘導お兄ちゃんの言わんとすることが何となくだが分かった気がした。今私に見えているAIM拡散力場が形作っている世界の意味が。垣根帝督も何らかの考えに至ったのか、熟考している。

 

「それによって産まれるのはもう1つの学園都市。それが虚数学区・五行機関の正体だ。電波によレーダーでは形のデータにしか分からないが、あらゆる能力により形づくられた街は本物と遜色ないものとなるだろう。いや、能力の性質を持ったもう1つの異なる世界、異世界と言うべきものに。

 そこに産まれた物質やエネルギー、法則をこの世界に展開・適応することが出来るとすれば、こちら側にも能力由来の力で満たされた虚数学区・五行機関を顕現させることが出来る。そして、外の力と学園都市の能力は相反する物であることを思い出して欲しい。当然、外部の力を使うものはそんな法則で満たされたら自滅する訳だ。

 さらに、これが全世界に行える様になったのなら、外の力を殲滅するアレイスターの目的は達せられるだろう。

 これが私の今の考えだ。もしかしたら、何か間違えている可能性もあるが」

 

 誘導お兄ちゃんの考えを聞いて、今まで見ていたAIM拡散力場が別物のように感じてしまった。そこには、無限へと繋がる成長の可能性が広がっているような──。

 

「さて、後は君の頭脳ならある事に気づいたんじゃないかな」

 

 誘導お兄ちゃんは熟考を続けていた垣根帝督に質問を投げかける。

 

「まさか、未元物質の正体はその虚数学区・五行機関由来とでも言うつもりか」

 

「さぁ、そこまでは何とも言えない。私としても未元物質の研究はまだまだなものでね。

 しかし、未元物質は純粋な物質でもあるが故に、私の計算では逆に外の力との相性が良いとは思われる。未元物質の科学的性質を限りなく除去していけば、外の力の利用も可能かもしれない。流石の未元物質でも、加工無しで外の力をそのまま使うことは出来ないだろうが。

 もし、これが成功すればある種の壁を破ることが出来るだろう。学園都市第1位しか安定して到達出来ないとされている『絶対能力(レベル6)』だが、これは樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の計算によるものでしかない。

 アレには外の力を利用した場合の計画(プラン)は入っていない。私の『計画』に参加してくれるのなら、君にその可能性を与えよう。

 学園都市統括理事長の『計画(プラン)』を都合よく誘導出来るほどの力を」

 

「それで俺が力を手に入れたとして、テメェは何を手に入れようとしてやがるんだ」

 

「そうだな。それは理不尽な世界に対する最低限度の防衛力といったところだ。いかに絶対能力と言えども、この世界に絶対はない。外の力にはそれを凌駕するような『何か』があるかも知れない。

 そういった物に対する対抗手段を予め用意しておきたいというのと、単純に科学者として未知を解き明かしたいという気持ち、それによって得られる達成感が欲しいだけだよ」

 

「本気で絶対能力以上の『何か』が存在すると考えてやがるのか」

 

 誘導お兄ちゃんの言葉が嘘ではないように感じたのか、垣根帝督は少し驚いた表情をしていた。

 

「あぁ、あり得ると私は考えている。230万人から1人生まれる可能性がある絶対能力と、世界人口80億人から生まれるものでどちらがより希少かを考えればね。それで、どうだろうか協力してくれるかな? 

 少なくとも、ここで非協力的な態度を取るよりも、力をつけてからこちらに反逆した方が、まともな結果を得られるとは思うけど」

 

「チッ、協力してやる。で、第1位の野郎みたいに人形潰しでもさせるつもりか 」

 

 第1位の実験、それは誘導お兄ちゃんから聞いた超電磁砲のクローンを2万体虐殺する非道な実験。あんなものを誘導お兄ちゃんが主導するようには思えないけど、垣根帝督に協力してもらい何をするつもりなのかは気になっていた。

 

「いや、あんなものは必要ない。必要なのは外部の力を利用する為の最適化。垣根帝督君、君には未元物質のサンプルを提供して欲しい。そうしてくれれば、君に成果物を渡そう。

 とはいえ、妹達といったDNAなどを付随した価値を含めたアレイスターの『計画』への重要度でいえば、今のところは未元物質より君が言った人形の元である超電磁砲の方が上かもしれないがな。だが、私に協力してくれれば、いずれはアレイスターが無視できないレベルの力へと至れるだろう」

 

 そして、誘導お兄ちゃんは不敵な笑みを浮かべながら、垣根帝督に契約書のサインを促す。

 

 

 

 

 





 そろそろ色々と考えている原作本編の時系列までいきたいところ。


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11.夏休み初日①


感想ありがとうございます!!
やっと原作開始になります。ここから色々とプロットを考えているのでドンドン書いていきたいです。
筆がのってサクサクと書いてしまった分、誤字とかあったらすみません()



 

 

 上条さんの様に小萌先生からのラブコールもなく、夏休み初日の朝を迎えた。

 

 昨日は垣根帝督を解放した後、那由他ちゃんの体のパーツを弄って調整していた。もちろん、変な意味ではない。

 実は昨日の垣根帝督との戦闘では那由他ちゃんに幻想御手(レベルアッパー)と一方通行の演算補助チョーカーの技術を応用した脳波変換装置を取り付けていた。そのデータの回収も出来たので、早く解析してさらなる調整も加えたいところだ。

 

 因みに、この脳波関連である幻想御手(レベルアッパー)の応用技術は木原誘導としての脳波関連の知識と、木山先生が用意したサイトからダウンロードした音楽ファイルの解析から得られたものである。

 この応用技術で何か出来るかというと、昏睡を起こさずに使える幻想御手(レベルアッパー)の開発といったところだ。ネットワーク内の人間を昏睡状態にするのは流石に使いづらい。

 だが、幻想御手の使用者が何故昏睡状態になるのか考えたことがあるだろうか。

 

 それは幻想御手による異なる脳波に無理やり合わせることにより、脳に負荷が生じている為だ。

 逆に、一方通行は妹達に演算を任せているが昏睡していないし、実際に同様の負荷は発生していない。それは何故か。

 

 あの演算補助チョーカーで送受信する脳波を変換しているからに他ならない。

 それなら、同じ方法論を取れば昏睡しない幻想御手(レベルアッパー)も作れる。

 那由他ちゃんに脳波を変換する装置をつけて、幻想御手の要領で那由他ちゃんを核としてネットワークを構築すれば良い。那由他ちゃんの場合はサイボーグなので、電源となるバッテリーも大きく、変換装置の処理性能もより良いものを使うことが可能だ。

 それでも変換するために能力者の脳波を登録しなければならない関係上、幻想御手ほど簡単にネットワークを作れる訳では無いが。

 

 昨日の垣根帝督戦では俺の能力と接続されており、那由他ちゃんの空間演算能力や物理的干渉力を高めることで、より簡単にAIM拡散力場への干渉を可能としていた。また、ネットワークへの接続時に限られるが、俺もAIM拡散力場の視認という能力を獲得することが出来た。

 ただ、常時そんな接続を行う能力使用モードとなると、一方通行の演算補助のチョーカーがそうであったように、電池消費が激しく、今の技術では不可能に近いのが欠点だ。

 一方通行のチョーカーの場合、通常モードは48時間、能力使用モードが15分~30分という効率の悪さだ。いくら那由他ちゃんのバッテリーが生命維持に必要なパーツと兵装部分の電源回路を別にしているとはいえ、そんなものを常時稼働させる余裕はない。

 それでも脳波データさえあれば、一時的に他人の能力を扱えるのは大きい。

 

 この脳波変換式幻想御手(レベルアッパー)に加えて、おあつらえ向きに垣根帝督との交渉に成功し、協力を得られた。

 つまり、これにより未元物質を利用した様々なことが可能になった訳だ。

 しかし、これは実を言うと垣根帝督を一度捕縛出来てさえいれば、交渉に失敗しても何とかなっていた可能性が高い。

 そもそも、搬送中に垣根帝督の脳波データ、DNA情報、AIM拡散力場の観測などを行っていた。そして、この脳波データを那由他ちゃんに取り付けた脳波変換装置に入力することで、幻想御手(レベルアッパー)に近い形で未元物質を利用可能に出来るからだ。

 それでも垣根帝督との協力を行ったのは、変換装置利用のカモフラージュや気づかれた場合に、垣根帝督やその他組織に叩かれる可能性を消したかったが大きい。

 また、円周ちゃんあたりを使っても円周ちゃんの癖が混じる関係上、垣根帝督の思考や戦い方までは完全にトレース出来る訳では無いので、垣根帝督自身による進化や理論をこちらで得やすくする為でもあった。

 

 もし、あの場で幻想御手(レベルアッパー)の仕組みを利用した能力制限など失敗して、垣根帝督に暴れられた場合は光学君や色彩ちゃんに作ってもらった磁性制御モニターによっての逃走か、俺が無様に負けるような形に誘導して那由他ちゃんだけでも逃がして上で、倉庫に設置した爆発物による死んだフリや誘導による命乞いに掛けるしか無かったが。最悪はゲス野郎を演じて、一方通行の時とは逆に那由他ちゃんや円周ちゃんは無関係だと装うつもりだった。

 垣根帝督は取るに足らない存在を見逃す傾向にある、誘導次第ではどうにかなると考えた。

 

 垣根帝督の話はこの辺りしよう。今日は原作の始まりの日なのだ。そろそろ準備をしなくてはならない。

 とはいえ、徹夜での作業が祟ってか睡魔が襲ってきているので、対魔術師への準備をして一眠りしたいところだ。

 那由他ちゃんメインで垣根帝督に勝利することで箔付けをしたとはいえ、何処からか情報が漏れた場合、あれだけの重要装置を付けた那由他ちゃんが暗部に襲われないとは限らない。そこで戦闘能力強化として、物質誘導で加工したアレの試作品を1日で作って取り付けたが、流石に無理があった。

 脳や体だけでなく交渉による疲れでメンタルもそれなりに限界だ。

 つい、気絶する様に部屋のベッドで倒れ混んでしまった。

 

 本来するはずだった準備が出来ずに、意識が飛んだ──

 

 

 次に目を覚ました時には、俺の視覚に違和感があった。というより、この奇妙な感覚により目覚めたと言っても良い。

 それは昨日確かめた那由他ちゃんの能力による、AIM拡散力場の視認の状態である。これは俺がネットワークに接続されている事を意味し、俺が寝ぼけて接続をしていなければ、那由他ちゃんがフルで演算能力を使わなければならない状態になっている事が推測できる。

 今になって、那由他ちゃんが能力を使用した場合にでもなる警報装置でも付けておくべきだったと後悔した。

 正直、昨日の今日で襲撃者が現れるなど考えもしていなかった。

 昨日のうちに那由他ちゃんに()()を取り付けたのは、俺が原作の事件に巻き込まれて入院などの状態になった場合に那由他ちゃんの改造が長期間出来なくなる可能性を危惧してのものだったが、アレだけで何とか対処出来ていることを祈るしかない。

 とりあえず、俺は研究用端末を開いて那由他ちゃんに取り付していた発信機の位置を探す。

 その位置は俺が今いる学生寮だった。とてつもなく、嫌な予感がした。研究用端末の角に表示されている時計は夕刻を表している。

 

 慌ててドアを開ける。流石にドアの前には誰もいなかったが、上条さんの部屋がある1つ上のフロアの共用廊下から、空気を切るような物音が聞こえた。

 俺は咄嗟に物質誘導を自身に掛けて、浮遊を行い柵から飛び出した。そして、上の階へと急行する。

 

 そこで見たのは聖人の神裂火織と那由他ちゃん、そして切り伏せられた魔導書図書館のインデックスだった──。

 

 俺は何かを見逃していたのだろうか──。

 

 

 

 

 

 

 

 ──那由他 side──

 

 

 私になりに幻想御手(レベルアッパー)を調べた結果、とあるサイトに辿り着いた。あれは誘導お兄ちゃんがバラ巻いたものなのだろうか。

 もし、そうなら私は誘導お兄ちゃんを止めなければならない。話を聞くために誘導お兄ちゃんの学生寮まで向かう。

 学生寮の前まで着いたそんな時だった。AIM拡散力場の歪みを感じたのは──

 私はその歪みに似たような感覚を以前に経験した事があった。それは誘導お兄ちゃんが昨日言っていた学園都市の外の力だ。

 歪みの正体を探るように、その中心のほうを見る。中心となっていたのは誘導お兄ちゃんの部屋の真上の部屋がある場所だった。

 誘導お兄ちゃんが関わっている可能性も高い。だからこそ、気になった。7階ではあるけど音などで気づかれないように、エレベーターを使わずに階段を出来るだけ高速に駆け上がった。

 

「な、なぜ歩く教会が…」

 

 刀を携えた痴女の様な格好をした女の人が、横たわり切られたであろう少女の前に棒立ちしていた。

 

風紀委員(ジャッジメント)だよ。そこのお姉さん」

 

 咄嗟に私は刀を携え呆然としてたお姉さんの前に立つ。このような現場を見て、黙っていられる訳がなかった。

 

「そこの女の子の怪我はお姉さんがやったって事で良いのかな」

 

 私が目の前に立っても焦燥している様子で反応がなかったので、事情を聞こうと話しかける。

 

「確かにこの子は私が傷つけてしまいました。ですが、学園都市の治安維持機関には捕まる訳にはいきませんので、失礼します」

 

 お姉さんは私が声を掛けた事で冷静さを取り戻したのか、自白のような供述をした。しかし、その後直ぐに人間のものとは思えない程の速さで迫ってきた。

 AIM拡散力場の微かな歪みを見逃していれば、サイボーグの体である筈の私ですら反応出来ていなっかただろう。

 そして、お姉さんが刀の鞘の部分を使って的確に気絶するような場所に攻撃しようとする。殺してしまわないように手加減しているのか、刀を振るう速度は突っ込んできた速度に比べれば遅かった。

 

「そうはさせないよ。お姉さん」

 

 振り下ろす速度が遅かったお陰で、昨日誘導お兄ちゃんに追加してもらった兵装の展開に成功した。

 私の肩口に取り付けられた兵装の本体部分の『Equ.DarkMatter』という文字が怪しげに光る。

 そして、白く伸びたきしめんの様な翼がお姉さんの刀の鞘を防ぐ事に成功した。

 

「っ、流石は学園都市といったところでしょうか。あまり傷つけたくはないのですが、『七閃』」

 

 お姉さんがそう呟いた瞬間、空間に広がるAIM拡散力場を押しのける7本のワイヤーの様な物が見えた。しかも、回避が難しい速度で迫ってくる。

 

 だけど、この『Equ.DarkMatter』であれば問題ない。極細に翼を伸ばして刀のような形状でワイヤーを切断するように、可能な限りの高速で振りかざす。あの未元物質が利用されているらしいこれなら、既存の物質の範囲内の硬度なら切断する事も容易い。

 しかし、切断には至らなかった。ワイヤーにかかる力の流れを寸分たがわず調整して受け流されたように感じた。だけど、未元物質で出来た『Equ.DarkMatter』にもまだ傷はついていない。

 

「これでも防がれてしまいますか。仕方ありません。『救われぬ者に救いの手を(Salvare000)』」

 

 向こうのお姉さんも急いでいるようだった。こちらも女の子を早く病院に運びたいのは同じだ。勝負をそろそろ決めなければ不味い。

 私は誘導お兄ちゃんから緊急用に教えられていた脳波変換装置を起動する。誘導お兄ちゃんの能力である『物質誘導』を発動するために。

 空間を掌握し、お姉さんの体を地面に誘導、更にワイヤーも一箇所に絡むように誘導する。

 

「その程度の力では私には勝てませんよ」

 

 ワイヤーが何かオカルトの様な幾何学的な形を作り出す。信じられないけど、単純な腕力で物質誘導に抗っているようだった。お姉さんの体を押さえつけている誘導は出力全開ではないけど、全開にしても勝てない様な気さえする。

 そして、何かは分からないけどワイヤーで形作られた幾何学模様を中心に、空間のAIM拡散力場が再び歪む。第六感が確実な敗北を伝えるような気がした。

 

 しかし、突如として小規模な粉塵爆発が起きる──

 

 

「『横紙破り(ULエクスプローダー)』、うちの那由他ちゃんに何をしているのかなぁ。戦争でも起こすつもりかな、魔術師さん」

 

 

 

 





 一応、滝壺なんかも魔術的なものに反応していたりするので、魔術も学園都市を漂うAIM拡散力場を歪めたりしている想定です。
 というよりも、空間にもAIM拡散力場は漂っているので、それが遮られたりすることで反応している形が近いかもです。実際、人払いの術式で御坂美琴の能力の制御が乱れたりしてますし。
 後、タイミングを誘導、見計らったかの様に現れる誘導君です。じゃんじゃん幼女のピンチを助けるスタイル。


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12.夏休み初日②

誤字報告、感想ありがとうございます!!
投稿間隔が空いてしまいましたが、何とか書けました。



 

「『横紙破り(ULエクスプローダー)』、うちの那由他ちゃんに何をしているのかなぁ。戦争でも起こすつもりかな、魔術師さん」

 

 つい、俺は神裂火織に対して啖呵を切ってしまった。正直、宇宙空間でも活動可能な聖人に勝てる気はしないが、殺しを覚悟しているステイルよりは聖人の神裂の方が幾分かマシだ。

 粉塵爆発で注意を引くことで、鋼糸(ワイヤー)で作られた魔術的記号を形づくろうとしていたのであろう模様を崩し、那由他ちゃんに向けられていた魔術をキャンセルした。

 しかし、その崩れた鋼糸は那由他ちゃんの頬を掠める。

 

 これもそれも全て俺の性だ。那由他がなぜ今日ここに来たのか分からないが、俺という存在が無ければここに居るはずもないのだから。那由他ちゃんの頬から滴る血を見ながら俺は再び決意を決める。あらゆる手段を使ってでも那由他ちゃんを守ると。

 俺は物質誘導による浮遊を辞めて、那由他ちゃんの前に立つ。

 

「我々も彼女を回収出来れば、そちら側と争うつもりはありません」

 

 そんなことを言う神裂火織だが、聖人の彼女はその性格からしても、きっとこの場で引けば見逃してくれるだろう。しかし、ここで一戦交えることで魔術の知識を得たという既成事実が欲しかった。学園都市はいずれ崩壊に向かうし、科学と魔術の境界も曖昧になっていくのだから、魔術との邂逅は早い方が良い。

 それに、自分でも意外だが那由他ちゃんを傷つけられている事実に、八つ当たり的ではあるが実際に傷つけている神裂火織と自分への怒りが胸の底に湧いていたのもあるかもしれない。

 

「ほぅ…、回収ですか。俺達をあなたが口封じしないという保障はない。現にそこの那由他ちゃんやシスター服の少女を害している以上はね」

 

 俺は『物質誘導(サブスタンスインダクション)』を使い、学生寮へと繋がる電線を切断する。

 そして、それを輪っか状にすることである現象を引き起こすように仕掛ける。

 

「では、仕方ありません。強制的に引いてもらいます」

 

 神裂火織もこちらに対して仕掛けてきそうだが、こちらの仕掛けの方が早い。

 

「なっ!?」

 

 突如として、神裂火織が持つ七天七刀とその鞘の鯉口の鋼糸(ワイヤー)が熱を持つ。それは先程の仕掛けによるものに他ならない。

 誘導加熱──英語ではInduction Heatingと言われるものであり、日本では略称であるIHの方が馴染み深い。

 一般的には電磁誘導を利用して、ジュール熱を起こすことで金属などに加熱することを指す。主な利用例としてはIHクッキングヒーターなどのIH調理器であろうか。

 だが、これは家庭用での用途の話であり、工業用途ではさらに高出力な物が存在する。工業レベルになれば、溶接や溶解炉といった金属を溶かせるほどの熱を生み出すことが出来る。

 誘導加熱によってジュール熱が生み出される仕組みなどは省略させてもらうが、得意の誘導を利用すれば、この誘導加熱の範囲を神裂火織が持つ刀や鋼糸にピンポイントで集中させることも出来る。

 実際の工業的応用でも電流を高周波にするなど周波数を弄ることでピンポイントな加熱を実現している。今回の場合、対象までの距離はあるが、その程度の問題なら物質誘導を利用すればなんとかなる。

 

 付け加えるなら、この誘導加熱は基本的に透磁率というものが高いほど影響を受けやすくなる。透磁率とは物質の磁化されやすさを表すものであり、簡単に言えば磁石へのくっつきやすさだと考えてもらっても良い。小学生の時、磁石で砂鉄をくっつけたりしなかっただろうか。そして、金属でもアルミなど磁石にくっつかないものがあっただろう。それが透磁率の違いだ。

 これが大きければ大きいほど磁化されやすい。そして、日本刀に使われる鉄は磁石にくっつくほど透磁率が高い。実際、磁石をくっつければ模造刀か真剣か簡易的に判断することが出来たりもする。

 それを示すように、七天七刀やワイヤーは既に僅かに赤くなるほど加熱が進んでいる。衣服に熱が伝わり発火点まで到達すれば、人体発火現象の様なことが起きるのもすぐだろう。

 布に可燃物を染み込ませている訳じゃないので火の粉や焦げ付く程度にはなるかもしれないが。

 

「どうでしょうか。金属を高温に加熱する誘導加熱の威力は。発火君のような趣味はありませんし、降参するなら人体発火現象の様になる前に助けますが」

 

「この程度で私が倒せるとでもお思いですか」

 

 神裂火織は加熱されている筈のワイヤーを操った。アツアツなワイヤー程度ではビクともしないとは流石は聖人だ。そして、何らかの魔術を利用したのか、刀やワイヤーの温度が常温に近い温度で一定になる。

 ステイルと組んでいる以上、耐火や耐熱の魔術や霊装を持っていることは想定済みだったが、殆ど焦ることなく対処されるとは想定外だ。心理的な揺さぶりをかけたいものだが。

 

「学園都市外部の力がこれ程とは…ね。道理で那由他ちゃんのEqu.Darkmatterで対処出来ない訳です。

 しかし、訂正するならば別にあなたを倒す必要はないと考えています。あなたはそこに倒れている少女を回収すると言った。そう、抹殺ではなくです」

 

 勿論、こちらは原作知識として事情を知っているが、推測するように言い当てて神裂火織のメンタルを誘導する為の言葉を紡ぐ。

 

「彼女の怪我は致命傷に近いですが、その外部の力、魔術があれば何とかなるのではないでしょうか。あなたの力なら一撃で確実に命を奪うことが出来た筈です。そうとなれば、あなたは彼女に何を求めるのか。物品であれば、殺して奪えばよい。

 生かす意味があるとすれば、彼女が持つ記憶と言った所でしょうかね」

 

「だとしたら何ですか。あなたに勝機があるとでも」

 

 これだけではそこまで精神が揺れないようで、勇ましく返されてしまった。だが──

 

「いえ、彼女の衣服にはどうやらシスター服には似合わない異物、安全ピンがあるようですね。安全ピンには金属が含まれているのは見れば分かると思いますが、先程の誘導加熱と合わせればどうなるかはもうお分かりでしょう。

 それに、ヒラヒラしたシスター服自体もよく燃えそうですね。これは発火君の分野ですが、人体発火現象なんて称されるものの多くを解き明かせば、衣服の発火から起きていたりしますし」

 

 こんなことは言ったものの、ニッケルメッキなどがされたスチール製の安全ピンは、透磁率が低いものが多い。周波数を弄れば加熱がまったく不可能という訳でもないのだが。科学音痴な神裂ではそこまでの考えには至らないだろう。

 そして、わざわざ神裂に対してインデックスに害を与えるようなブラフを入れたのは、俺へのヘイトを高める為だ。あくまで治安維持の行為を行う那由他ちゃんと、守りたい存在を傷つけようとする外道な俺。

 どちらを優先的に対処するかは明白だ。それに神裂火織なら元々那由他ちゃんを見逃す可能性は高い。

 負けそうになったら、より那由他ちゃんの善性を際立たせるような誘導を行えば良い。対垣根帝督戦でも考えていた方法論だが、神裂火織ならばより有効だろう。

 

「貴方はそこの少女を守る為に現れたのでは無いですか」

 

 神裂火織は那由他ちゃんの方に視線を一瞬だけ移して、問いかけてくる。

 

「確かにそうです。実験体を無事に確保するのは当然ですからね。ですが、そこの少女は別ですよ。君らにとっては何らかのターゲットかもしれないが、こちらにとっては価値がないものです」

 

 俺を見ていた神裂火織の目付きが変わる。確実にヘイトを溜めているし、メンタルの誘導もしっかりと働いている。

 

「しかし、そうですね。半端に殺して脳だけでも生かしてしまえば、学園都市の精神系能力者にでも記憶を読ませるみたいなことが可能かも知れませんね…。誘電加熱、いわゆる電子レンジの原理の方で脳の水分を飛ばすとしましょう。

 後、知っているでしょうか? 学園都市が科学の街だということを」

 

 追い討ちをかける為に更なる言葉を投げかける。

 

「なにを今さら…」

 

 神裂火織はインデックスに向けられた脅威に警戒しながらも、こちらに対して呆れた様な言葉を吐き出す。

 

「数十年進んだ技術であらゆるインフラが整備された学園都市の建物には多くの電線が存在します。そして、『木原』にとっては誘電加熱や誘導加熱を行う装置を組み上げるなどの朝飯前だということですよ。地中、空中どこの電線でもね。

 そして、俺の能力が有効な間はそのスイッチがOFFになるような状況を作ることも」

 

「っ、貴方の目的はなんですか」

 

 神裂火織は依然として警戒態勢は変わらないが、こちらに有利な交渉に誘導することに成功した。

 

「俺の目的は──」

 

 俺が目的を話そうとした瞬間、その声は聞こえた。

 

我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)炎よ―(Kenaz)巨人に苦痛の贈り物を(PurisazNaupizGebo)

 

「ステイル、待って下さい!!」

 

 手すりのある横側から炎の剣が突如として襲いかかる。

 

「簡易版Equ.Darkmatter、起動」

 

 後ろに未元物質で作り上げた半球状のシールドを展開する。本来はこのような用途をしたかった訳では無いが、仕方がない。火炎は起動が間に合い、防ぐことに成功した。

 そして、未元物質のシールドを解除すると炎に乗じて飛び込んできたのか、神裂の後ろに男が立っていた。そう、ステイル=マグヌスという魔術師が。

 神裂火織もステイルが乱入してきた以上、仕方なしとヤケになっているのか、刀に手をかけており、いつでも避けられないレベルの速度の斬撃がこちらにきそうだ。

 

「仲間がいましたか、仕方がないですね。それじゃあ、こちらも殺るしかなさそうです」

 

 俺がそう言うと、今まで出来事の衝撃からか後ろで棒立ち状態になっていた那由他ちゃんが、インデックスの方に駆け寄ろうとする。

 神裂は先程の脅しもあってか那由他ちゃんを攻撃対象にしようとしていないし、ステイルの炎くらいなら那由他ちゃんに渡しているEqu.Darkmatterで対処可能だろう。

 しかし、これはまずいかも知れない。実際にインデックスを燃やす外道な仕掛けを作ってはいないが、金属パーツ満載の那由他ちゃんがいることで先程のブラフが無効になるかもしれない。物質誘導ならば那由他ちゃんを対象外にすることも不可能ではないが、神裂やステイルに使用できないと思われた時点でアウトなのだ。

 どこで誘導を間違えた? 

 いや、俺が見落としていたのかも知れない。何故、那由他ちゃんがインデックスを助けるために動かないと思っていたのだろうか。

 

「そこの少女はあなたにとって大切なのではないですか。それとも、あの子だけを的確に攻撃できるのでしょうか」

 

 俺の動揺や駆け寄ろうとしている那由他ちゃんの表情から読み取られたのか、一気にこちらが物理的にも心理的にも不利な体制に立たされた。ステイルの方は那由他に攻撃する様子がない。これは神裂火織の目配せによるものだろう。流石はプロ、状況判断能力が高い。

 

「答えが無いということは、どうやらそちらに手はなさそうですね。『唯閃(ゆいせん)』」

 

 那由他ちゃんがインデックスの近づいた瞬間、こちらに向けて刀を抜く動作を開始した神裂火織。ステイルの方は那由他ちゃんの方を警戒しているようだ。

 正面から不可視レベルの斬撃がくるのはもはや避けようが無い。唯閃を使われるのは想定外だったが、那由他ちゃんもEqu.Darkmatterを使っていたことを考えるに、通常の斬撃では防がれる可能性を考慮したか。

 だが、こちらも無策ではない。斬撃は物質誘導によるセンサーで捉えられないレベルだが、一つだけ切り抜ける策があった。

 

瞬間移動(テレポート)って知っているかな?」

 

 目の前にシスター服を来た少女、そうインデックスを出す。さらに、斬撃の調整を難しくするために物質誘導と電線を利用し、激しい閃光も発生させる。

 

「なっ!?」

 

 神裂火織の目にも血だらけの少女、インデックスが写ったのだろう。人体構造的に無理な体勢になりながらも斬撃を中断しようとする。だが、こちらから物質誘導を利用してインデックスの首を刀の方を近づける。

 唯閃は元々体への負担が大きいが故に、抜刀術という形を取っていた。これ以上の中断動作は難しいだろうし、中断に成功してもその体への負担は大きくなるはずだ。

 

 物質誘導による操作もあり、斬撃はインデックスの首に命中した。そして、絶望的なほどの血飛沫が上がる。神裂火織もその返り血で濡れる。

 

「私はなんてことを……」

 

 インデックスを切ってしまった絶望からか刀を落として、膝をつける神裂火織。さらに、次の手の為に俺はすぐに物質誘導を利用して、那由他ちゃんへある電気信号を発生させる。

 

「神裂、それは幻だ」

 

 ステイル=マグヌスがそんなことを叫ぶ。

 ステイルが言っているそれは正解だ。Equ.Darkmatterによって展開した半球状の磁性制御モニターにより血まみれのインデックスを表示したに過ぎない。

 実際問題、神裂火織の視点に調整しているので、視点がズレているステイルからは単なる映像である。

 血しぶきの方も電線と共に切断した水道管の水と磁性制御モニターにも利用した原色系の色をつけた微細な粒子を使ったものだ。元々、磁性制御モニターは超薄型の水槽にこの粒子を混ぜて磁力によって操ったものに過ぎないし、そう難しいものでもない。。

 

「確かにそうですね。そこの赤髪の方が言う通り、あれは単なる映像です。ですが、そちらの彼女は相当肉体に負担がかかったのではないでしょう。あえて付け加えなら、私が瞬間移動を利用していたなら同様の光景が広がっていた事でしょう。

 貴方にどのような目的があるかは知りませんが、存外にそこの少女の安否は貴方に精神的な動揺を与えるものらしいですね」

 

 俺は精神的優位を取り直す、ステイルの横をすり抜けた那由他ちゃんは既にインデックスの前に立っていた。那由他ちゃんは応急処置をしようと、風紀委員用の止血剤などが入った対外傷キットを取り出している。

 

「神裂、君は一旦下がった方が良い。あれとは相性が良くないようだ」

 

 交代と言わんばかりに、神裂の前にステイルが立つ。

 そして、それと同時に待ちわびいていた階段を登ってくる1人分の足音も聞こえてくる。

 物質誘導で貼っていたセンサーの一部を打ち消けす存在。

 

「木原、これはどう言う状況なんだ」

 

 





今回は自分への苛立ちから八つ当たり気味に行動する誘導君でした。

誘導についての補足
 科学的用語での『誘導』は電磁気学だけでなく生物学・発生学にも存在しており、元は同じ細胞を利用しているのに目や耳などが特定の位置に出来、更に目の中にズレることなく水晶体などが神経作用で出来るための仕組みでもある。
 細胞分裂や発生において細胞自身も自律的に分化する能力も持っているが、他の細胞や組織からある種の作用を受けることで異なった方向へ分化することがある。この細胞間の()()()()()誘導と呼ぶ。
 誘導は特定の細胞から特定の細胞への働きかけであり、不特定の細胞間に成立するものではない。誘導する側の能力を誘導能、誘導を受ける側の能力を応答能という。有名な例として、眼杯が接近すると表皮から水晶体が形成されるなどがある。眼の場合、水晶体は表皮からさらに角膜を誘導する。この例では形成体による神経管の誘導が一次誘導、眼杯による水晶体の誘導が二次誘導、角膜の誘導は三次誘導と呼ぶことがあり、この様な連鎖を誘導連鎖と言う。
 ちなみに、本作の誘導君の性質として個性が強い木原一族をまとめた研究所のように、誘導能として形作る役割も持っている。
 そして、生物学の誘導(induction)の語源は電磁気学の電磁誘導から来ているとも言われている。この電磁誘導は、発電機、誘導電動機、変圧器など多くの電気機器の動作原理となるものである。
 因みに、本作の誘導研究所のオリ木原達は生物学や電磁気学及びその派生に関連した研究も行っている設定になってます。
 例えば、磁性制御モニターの先行研究をした色彩と光学も、色彩が人や生物の色の認識、光学がその名の通り電磁光学の分野での研究を行っていたり、伝導は電磁気学の電気伝導などからきてます。
 また、今回は割愛しますが(電磁)誘導と伝導という関連項目で言えば、一方通行の名前の由来の元ネタである加速器の分野などもあります。
 誘導が個性の強い木原をまとめるポジションにあるのは分野が近いことに加え、生物学の誘導にも似た形で研究所を1つの肉体として、木原同士の相互作用やその連鎖を意識の有無に関わらず発生させているためです。これが木原誘導の誘導になります。



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13.夏休み初日③

投稿間隔が空いてしまいました。お久しぶりです。
 


 誘導お兄ちゃんが私の前に立って放ったことを思い出す。魔術師と名乗る人達に言い放ったシスター服の少女を軽視するような発言に、私は驚きを隠せなかった。

 前に一方通行と対峙した時と同じか、それ以上のレベルで誘導お兄ちゃんの行動は変質しているように感じた。

 それは木原としては正しいが、誘導お兄ちゃんにはやって欲しくなかったものだ。誘導お兄ちゃんだけは違うと心のどこかで信じていたのかもしれない。

 そうなると、やっぱりあの幻想御手の配布も誘導お兄ちゃんがやったものなのかもしれないと思ってしまう。

 それでも、あの木原らしくない誘導お兄ちゃんが真実であると信じたかった。そうでなくとも、木原らしくない誘導お兄ちゃんも本当の誘導お兄ちゃんの一部だと信じたかった。

 だからこそ、それを確認するために私はシスター服の少女へと咄嗟に駆け寄ってしまった。金属を多く含む私が傍にいることで、木原らしくない誘導お兄ちゃんのままなら止められるかも知れない。一部でも本当の部分があるなら何かしらのリアクションくらいはしてくれるかも知れないという淡い期待を込めた行動だった。

 ここまでしても、誘導お兄ちゃんの物質誘導なら私を対象外にして、シスター服の少女だけを誘導加熱することが出来る可能性も高い。

 だけど、私が前に出たのはシスター服の少女をただ守るためじゃなく、誘導お兄ちゃんが本当にそんな仕掛けをしているかどうかも知りたかった。だけど、なんの役にも立ててない私がこんな事を試すべきではなかった。

 

 そう、実際に駆け寄って分かったことは、誘導加熱を利用して人体発火を起こすようなそんな装置は能力を利用していたとしても一切存在しないということだった。私の体に取り付けたセンサーや能力を発動していれば起きるはずのAIM拡散力場の流れも感じられなかったからだ。

 つまり、誘導お兄ちゃんが言っていた事はブラフであり、私の考えるようなことはしていなかったのだろう。

 そして、誘導お兄ちゃんを信じきれなかったばかりにブラフがバレて、また私が誘導お兄ちゃんの足を引っ張ってしまう。そんな考えが頭を過ぎる。

 しかし、その思考と同時に備え付けられたセンサーが誘導お兄ちゃんからの電気信号を捉えた。急いで変換すると『問題ない。そこの少女手当を頼む』という簡単な内容だった。

 それは誘導お兄ちゃんの私が動くことをまるで予想していたような、今の私に対して的確すぎるメッセージだった。

 

 私はランドセルの収納スペースから応急手当用の用具を準備する。

 そんな私の方を見ている誘導お兄ちゃんと赤髪の男は対峙したまま膠着状態になっている。もしかしたら、これすらも誘導お兄ちゃんの誘導なのかもしれない。だけど、疑うくらいなら、私は誘導お兄ちゃんを絶対に信じたいと強く心に決めた。

 

「木原、これはどう言う状況なんだ」

 

 赤髪の男と誘導お兄ちゃんがお互いに牽制しあっているそんな時だった。階段の方から声が聞こえたのは。

 会ったことは無かったけど、誘導お兄ちゃんの友人がこの階に住んでいることは知っていた。最悪の状態かもしれない。私を含めて、誘導お兄ちゃんの弱点となりえる存在が増えたのだから。

 だけど、誘導お兄ちゃんは他の人は気づかないくらいの僅かな笑みを顔に浮かべていた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「上条、来るな!!」

 

 誘導お兄ちゃんは私が見たことがない、友人だけに見せているだろう強い口調の1面で叫んだ。

 だけど、上条という友人は呆然とその場に立ち尽くす。私が手当をしているとはいえ、血まみれ少女が倒れていたらそうなってしまっても仕方ない。しかし──

 

「おい、テメェらがインデックスや木原にこんなことしやがったのか」

 

「確かに、その子を殺ったのは僕達魔術師だ。だけど、その男に関してはそちらが先に手を出したと思うけどね」

 

「チッ、こうなったら上条、お前だけでも逃げろ」

 

 誘導お兄ちゃんは物質誘導を利用して、そこらに散らばっていたプラスチック片を赤髪の男にぶつける。そう、何故か散らばっている金属やガラス片などでなく、投げたのは熱に弱いプラスチック片だった。

 たが、それに対応して赤髪の男は炎で燃やし尽くす。

 

「君は何をやっているのかな。こうなることは分かりきっていただろうに。灰は灰に塵は塵に、吸血殺しの紅十字!!」

 

 誘導お兄ちゃんに科学的にはありえない超高温の炎が襲いかかろうとした瞬間、何故か炎は幻だったように消えさった。

 目の前に残されたのは、右手を掲げた上条というお兄ちゃんの友人だった。そして、その右手の周りだけAIM拡散力場消失しているという異様さだけが残っていた。

 

「上条、助かった!! その右手は魔術とやらにも通用するんだな……」

 

「一体、何が…」

 

 赤髪の男は動揺しているが、誘導お兄ちゃんはそれを待ちわびていたかのようにわずかに笑みを浮かべているようだった。一見そうは見えないが確認作業のように感謝を伝えているようにも感じた。誘導お兄ちゃんと普段から接しているからこそ、違和感から何となくそう思ってしまった。

 

「話は後から聞いてやる。歯を食いしばれよ、魔術師」

 

 そして、構えられている右手を引いて赤髪の男に一撃を食えようと殴り掛かる。

 

「そうさせるとでも思っているのかい。魔女狩りの王(イノケンティウス)!!」

 

 何か幾何学的な模様が書かれた紙が辺りにばら撒かれた後、炎の巨人が現れた。

 

「なんだよ…これ」

 

 当然現れた炎の巨人に驚く誘導お兄ちゃんの友人、人型を整形している理由が不明だけど、熱量の凄まじさが義体に搭載されているサーモグラフィーカメラを通さずとも分かる。

 

「ルーン。神秘、秘密を指し示す24の文字にして、ゲルマン民族により2世紀頃から使われる魔術言語で、古代英語のルーツとされます。魔女狩りの王(イノケンティウス)を攻撃しても意味はありません。壁、床、天井あたりに刻まれたルーンの刻印を消さない限り、何度でも蘇ります」

 

「お前、インデックスだよな?」

 

「はい、私はイギリス清教第零聖堂区 必要悪の教会所属の魔導書図書館、Index-Librorum-Prohibitorumです」

 

 血まみれになって倒れていた少女は怪我の状態も悪いはずなのに、機械的に淡々と話す。

 

「神裂さんと言いましたか、上条に不意打ちとか卑怯なことをするつもりじゃないですよねぇ? そこのインデックスという少女にしたように」

 

 誘導お兄ちゃんは態々、ただ見ていたお姉さんを牽制するような言葉をなげかける。上条という友人にシスター服の少女をより強く意識させるように。

 

「木原、インデックスを頼む」

 

 誘導お兄ちゃんの友人もそれに反応する。

 

「任せとけ。そこの魔術師とやらからシスター服の少女を連れて退避するくらいはしてやるさ。で、上条。お前はどうするんだ…? まさか、お前だけ突っ込むなんて言わないよな?」

 

「いやいや、上条さんもそこまで馬鹿じゃありませんって。ちゃんと、逃げますよっと」

 

「そうか、分かった。囮は任せた!!」

 

 予め動きを決めていたように、誘導お兄ちゃんは友人の背中を押しだした。

 

「木原さん、いくら上条さんだからといってそれはあんまりじゃありませんこと? って、あの野郎もう飛び出しやがった。なんていうか、不幸だよな」

 

 その言葉が発せられたと同時に誘導お兄ちゃんは剣を構えたお姉さんと私がいる方に飛び出していた。

 

「あなたに物質誘導が通用しないなら使わなければ良い。そう、あなたにはね」

 

 こちらに向かってきている誘導お兄ちゃんが注目を集めるためか話始めると、突如として私たちがいた地面が崩れた。さらに、その地面の破片はお姉さんの方に向かって壁を形成する。

 このままだと地面が無くなった私たちが下の階に自由落下することになるが、そうはならなかった。私が物質誘導を使っている訳では無い。なら、誘導お兄ちゃんが私達を物資誘導で浮かせている事は瞬時に理解出来た。

 そして、お姉さんがそれに対応しようと動いた瞬間、連動したかのように予期せぬ落下感覚に襲われた。下を見ると地面の穴は1階まで穴が貫通しており、早めの滑り台くらいの速度で降下している。落下速度は物資誘導で調整されているようだった。

 仮に今の状況で誘導お兄ちゃんがお姉さんに気絶させられると、演算が乱れることがあれば自由落下することになる。

 私の体なら自由落下してもサイボーグ部分で衝撃吸収も可能だろうし、Equ.Darkmatterの展開も間に合う可能性もある。実質的に怪我をしているシスター服の少女を人質に取るようなものだ。

 

「彼女たちを追ったらどうなるか分かりませんよ。私にもそれくらいの覚悟はある。何やら大切そうなその少女の手当はこちらでするから安心して欲しい。

 心配というならその武器を収めた上で、ある程度の距離を離れてついてきて貰っても構いませんが。それが守れないなら…」

 

 誘導お兄ちゃんは上条という友人にも聞こえるような大きさの声で話す。

 そして、殺意のような何かを感じるレベルで、誘導お兄ちゃんは最後の言葉に感情を込めていた。

 

 

 

 

 ──誘導side──

 

 神裂火織andステイル=マグヌスのコンビを別々に離なす事に成功した。上条さんと相性が悪い神裂を一緒にするような原作改変は避けておきたかった。

 逃げている途中だが、先程インデックスの映像に使った血糊がEqu.Darkmatterを通り越して頭に掛かったせいで、ベタついて気持ち悪い。

 しかも、神裂は依然として距離を離してこちらを追いかけているので、原作のあの場面では本来いなかった筈の神裂とステイルを分断が確実となった。これで上条さんが原作通りステイルに勝利してくれれば、それで良い。もし、原作通りの流れにならないなら、無理やり同じ状態にすれば良い。

 プラスチック片を投げる時にどさくさに紛れにスプリンクラーに仕掛けた発火装置もある。那由他ちゃんのサイボーグパーツにある送信機から、電波を発信して貰えれば起動して発火するだろう。

 あの学生寮には複数の小型カメラと、俺の部屋に滞空回線ほどではないが遠隔操作可能な1cm角の浮遊型カメラも用意してある。部屋から飛ばす必要があるので、部屋の窓を開けっ放しにしておいて良かった。勝負の行方はそれで確認するとしよう。

 上条さんの敗北の心配は杞憂だったようで、インデックスの怪我を物質誘導で応急処置をしながらしばらくカメラの様子を見ていると、そこには上条さんが魔女狩りの王を倒して、ステイルの顔面へと拳をクリーンヒットする姿が映っていた。流石は上条さんである。

 

 

「炎を使っていた彼が負けたようだけど、こちらを監視していて大丈夫なのかな?」

 

 追ってきていた神裂にサプライズ情報を伝える。

 

「まさか、ステイルが…。あの少年は何者なのですか」

 

「それをバカ正直に教えるとでも? ですが、あれは学園都市の裏などではないとだけは言っておきましょうか」

 

 学園都市の裏と言うよりは学園都市の存在意義レベルの代物だし、ある意味間違ってはいないはずだ。

 

「後、シスター服の少女についてはこちらで安全確保をさせて頂もらいますよ。貴方にも事情とやらはありそうですが、シスター服の少女は彼に頼まれたのでね。貴方達、魔術師の存在が表の治安維持組織に捕まったら少々面倒でしょうし、迎えにいっては?」

 

 気絶しているステイルを使って、さっさと帰るように促す。京都人ネタのぶぶ漬けでもどうですかと言いたいレベルで帰って欲しい。ただ、科学知識を利用したせいか、ノリノリでヘイトが溜まるような方法論を取りすぎた気がする。

 はっきり言って、ここでインデックスをこちら側に任せて貰えるかは掛けだ。だが、神裂も先程のインデックスを盾にする映像を見せられた以上、下手に動けないだろう。

 

「分かりました。一旦、貴方に預けます」

 

 何とか神裂火織を退けることに成功した。本来は今後のことを考えてもう少し穏便に動くべきだった。このまま挽回出来ないなら、那由他ちゃんを単なる実験体にするゲス野郎を演じる必要もあるかもしれない。

 

 

 携帯電話を取りだして電話しようとするが、ふと思い出した。上条さんの携帯は原作開始の今日の朝時点で破壊されている筈なので、浮遊型カメラから音声を出す形で連絡を取る必要がありそうだ。

 

 

「おい、誘導。あいつらは何なんだ?」

 

「それはこっちの台詞なんだが…。明らかにそのシスター服の少女は上条の部屋の前で倒れていた訳だし。まぁ、推測レベルではあの非科学的な力に思い当たる部分はあるが」

 

 全く知らないフリをすると逆に不信感を与えかねない。案外、こういう事には鋭かったりするのが上条さんなのだ。そもそも、インデックスとの関わりが原作通りなら半信半疑でも魔術の話を聞いているし、上条さんがこちらに聞くのも少し違和感がある。多分だが、意識的かはともかく魔術との関わりがないかの探りも含まれている気がする。

 

「それもそうだな。誘導、巻き込んで分かったな」

 

 いつも通りといったら可笑しいのかも知れないが、木原誘導として、同級生としての顔でこれ以上巻き込まないとしているのか、上条さんが返してきた。

 

「待て待て、上条さんよ。親友を巻き込んでおいて、はいそこで解散とか言うのは可笑しくないかなぁ。シスター服の少女はこちらで応急処置をしている訳だし、事情くらい話してくれても良いんじゃないか」

 

 既に原作通介入をしてしまった以上、魔術に関わるためにここでの解散は愚策でしかない。

 

 あと能力で止血をしているが、負傷の治療が出来るわけじゃない。カエル医者に連れていくというのもなくはないが、魔術を近場で確認しておきたい。

 

「事情は後で話しますから、その親友である木原さんは見逃してはくれませんかね」

 

「分かった。見逃そうじゃないか。だが、上条。そこのシスター服の少女が助かるまで同行するぞ」

 

「とうま…、どうかした…?」

 

「インデックス、人の心配している場合か、その怪我何とかしないと」

 

 どうやらインデックスさんのお目覚めらしい。上条さんが目覚めたインデックスに話しかけている。こちらも魔術拝見のチャンス獲得といかないとな。

 

「初めまして、インデックスさん。上条の友人の木原というものだ。治療だが非科学…魔術による回復とかは出来ないかな」

 

「おい、木原。魔術じゃなくて科学的な手段での回復方法はないのか。それだとIDの方で問題があるのか…?」

 

 流れが多少変わっても原作通りにIDによる諸問題には上条さんは気づいているか。

 

「IDに関しては知り合いに腕の良い医者が居るし、那由他ちゃんに使われているサイボーグ技術も役に立つだろうが、その少女の知識である魔術という非科学的現象と化学技術の反発が怖いな。魔術でどうにかなると言うのなら、それを利用してからでも良いかもしれない。幸い少しの間なら能力での止血は可能だ」

 

「そうか。インデックス、お前の持っている10万3000冊の中に傷を治す魔術はないのか?」

 

「ある…けど、君たちには無理」

 

「またかよ、またこの右手が邪魔をするのかよ」

 

「誘導お兄ちゃんの友人さん、その右手じゃなくて能力者が駄目なんじゃないかな」

 

 魔術と超能力の掛け合わせを、身をもって知っている那由他ちゃんが口を挟む。

 

「うん、超能力って言うのが駄目なの。才能のない人間が才能のある人間と同じことがしたいと言うのが魔術だから」

 

「学園都市は学生の街なんだぞ…。才能のない能力開発を受けていない人間なんて…。いや、待てよ。学生じゃなければ」

 

「上条も気づいたか。学園都市には能力開発を受けていない人間がいる」

 

 原作通り小萌先生のうちに突撃する形になりそうだ。

 

 




そういえば、創約8巻読んでたらほんの少し本作に活かせそうなネタがありました…。というより、結構本作のソレに近い表現…?
(厳密にはP.286~287あたりとか …)
なので、プラスで創約9巻表紙公開で創作熱が再燃した形になります。

追伸:更新休止期間の間に評価・お気に入り・感想を下さった方、ありがとうございます!!


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14.夏休み初日④

久々に小説を書いているので書くペースが遅い…。



 

 小萌先生の家の前、原作に近い形で上条さんがインデックスを背負っている。違うのはわざわざ片手で上条さんがチャイムを鳴らさずとも俺がいるくらいか。上条さんに色んな意味で背負わせるだけ背負わせて、俺はこれくらいしかしてないが本当に大丈夫か心配になってくる。

 インデックスからしたら、俺は本当に何もこれまた何も知らない男である。好感度とか恩を売る以前に、一応は上条さんの知り合いぽい素性の知れない不審者である。

 基本的に自動書記時の記憶は曖昧だったはずだし、どうにか魔術を見られるような特等席には居たい。

 

 ちなみに、那由多ちゃんには魔術的要素にあまり関わり過ぎて欲しくないため、風紀委員御用達の止血剤などが入った医療キットを取りに行って貰っている。今はまだだが。というか、普通に自動書記相手などはリスクが大きすぎる。

 

「はいはいはーい、今開けますよー」

 

 うん、こんな時とはいえ中身はともかく小萌先生は可愛いな…。ロリコンでは無いからYesロリNOタッチだが。そもそも、成人しているなら合法では? 

 いや、許可なくはアウトなのだが…。ダメだ、授業中はなんとも思わなかったが、リアル小萌先生の家に突撃とかいうイベントの性で変な思考に誘導されてしまった。

 

「上条ちゃんと木原ちゃん、新聞配達のバイトでも始めたのです?」

 

「流石にバイトでも2人で一緒に回るなんて非効率な事しないとは思いますが…。特に上条なんかシスター抱えているんですよ。とりあえず、入れて貰えないですか」

 

 少しでもインデックスからの覚えを良くしてもらう為に積極的に会話を進める。覚えてもらうだけなら完全記憶能力なので既に覚えられている筈だが。

 

 

「はわわ、こんな状況で言うのもなんですけど、上条ちゃんは煙草を吸う女の人って嫌いなんです?」

 

 お構い無しに入り込んでいく上条、流石だ。小萌先生にそこまで思われているのは羨ましいが…。

 

 

 ここは原作改変して小萌先生の魔術使用の失敗などあってはいけないので、小萌先生に宗教やなんだのでインデックスのことを誤魔化しながら説明して、原作通りにインデックスの指示に従って上条さんと一緒に外に出るとしよう。

 恩を売る…? 正直、今は魔術関連では厳しいから一緒にいたという状況を作るだけで十分だ。自動書記中はあやふやだろうし。

 

 

 

 上条さんの右手がインデックスの魔術に影響しない程度に建物から離れて、何も無いことを祈って夜空を眺める。

 

「なぁ、誘導。魔術に関して何か知っているんじゃないか」

 

 外で待機していると上条さんが話しかけきた。

 

「あぁ、魔術というか非科学に関して多少は知っている。さっきあの場にいた親戚の那由他ちゃんという子の関連でちょっとな…」

 

「ちょっと…? それって何なんだよ」

 

 普段の上条さんならここまでズケズケとは来なかったかも知れないが、今はインデックスや魔術に関する情報はいくらでも欲しいのだろう。

 

「かつて、学園都市では魔術と言われる非科学と超能力を組み合わせる実験をいくらか行っていた。そのひとつの被験者が那由他ちゃんだっただけさ」

 

 口では軽く話せているが、何故か俺の握り拳には力がこもっていた。

 

「誘導、インデックスが超能力者は魔術を使えないと言っていたが、その実験はどうなったんだ?」

 

「厳密には超能力者であっても魔術は使える。ただ、異なる力により、神経や血管にダメージを受ける。最悪、運が悪ければ1度使うだけで死ぬ可能性さえある。那由他ちゃんもその実験の性で7割が義体になっている」

 

「お前はそれを知っていたのかよ」

 

「知っていたら、そんな実験に参加させると思うか」

 

 上条さんも流石に聞きすぎたと思ったのか口を噤んだ。上条さんから敵に思われるのは、今はまだ不味い。那由他ちゃんを託すような状況なら吝かでもないが。

 

「おっ、どうやら治療の方は終わったようだぞ。上条」

 

 那由他ちゃんのAIM拡散力場を見る力を使って、魔術による力場の歪みを観測していたので、話を切りあげるために歪みが戻ったことを告げる。そして、2人で急いで小萌先生の家に帰る。

 

 とはいえ、これからは原作通りの進んで貰えた方が都合が良い。上条さんからしてもこちらを巻き込みたくないと思っているであろうし、回復するまでの寝ることになるインデックスの看病は上条さんに任せてトンズラするとしよう。

 

「上条、俺は再び非科学に関わった那由他ちゃんが心配だし一度帰ろうと思う。お前や小萌先生が巻き込まれないか、カメラで追跡はさせてもらうけどな」

 

「そうか、ありがとうな」

 

「そっちはこれからどうするんだ? 入り用なものがあれば持ってくるが」

 

「誘導、お前に頼り過ぎるのも悪いし、特にねぇーよ」

 

 俺は風紀委員の医療キッドを持ってきてもらっていた那由他ちゃんと一旦合流して、上条さん&インデックスのペアがいる小萌先生の家から出る。那由他ちゃんは神裂さんとも戦闘した訳だし、義体の調整を行った方が良いのは間違いない。

 

「誘導お兄ちゃん、あれは何だったの?」

 

 おっと、いきなり那由他ちゃんから答えづらい質問が飛んできた。アレがどこまでを指すのか。どう答えるのが正解か。

 

「非科学、魔術でインデックスという少女はかなりの重要な者であることは間違いない。相手もそれを取り扱う組織で、こちらでいう所の暗部だろうね。だが、アレに関わりすぎると科学と魔術の双方で問題になりそうだし、どうするべきか迷うかな」

 

 那由他ちゃんの反応を伺いながら、魔術に関する知識を推測として話す。

 

「あの子たちみたいに巻き込まれたのなら、助けられないのかな。勿論、それが難しいことだってことは私も分かっているけど…」

 

 那由他ちゃんは顔を曇らせながらも、淡い期待を込めたようにこちらに問いかけてくる。

 

「もちろん救いたいけど、同じような境遇だったとしてもそれを全員救い上げられる程の力はウチ(・・)にはない」

 

 より一層、項垂れたように那由他ちゃんの顔が下に向く。

 

「だけど、なにも方法は自分達で救い上げるだけじゃない。そもそも、何故学園都市にそんな向こうの暗部レベルの存在がいるのか。情報次第ではいくらでも覆せる」

 

 那由他ちゃんの顔が少し上がったのを確認して、俺自身も少しほっとする。

 

「まずは情報収集、メンテナンス、そして向こうが持っている主導権奪取といこうか」

 

 那由他ちゃんの前なのでちょっと格好をつけて道を示すようにオーバーに話す。まずは、対神裂をどうにか出来る位を目指さないとな。

 

 対魔術に関する思考を巡らせていると、ピリリとポケットから音が鳴る。すぐに携帯を取り出して、那由他ちゃんから少し離れて電話を取ると、ある男の声が聞こえてきた。

 

「誘導くん。やってくれますねー。まさか、先に未元物質に手を出されちゃうなんて」

 

「相似さん、お久しぶりです。この前の研究交流会の時以来ですかね。相似さんもまさか未元物質を狙っているとは知りませんでした。こっちでサンプルを手配しましょうか」

 

 木原相似、とある科学の未元物質に登場する木原であり、タイトルにあるように学園都市第二位の垣根帝督のスピンオフで色々とやっていた人だ。

 とは言え、木原らしく負の方法性で落ちていく前は元々医療用サイボーグによる身体の代替などを目指していたし、今はヤバい感じの代替を主としていているが、技術的にはこちらも仲良しておきたい存在ではある。まだ、那由他ちゃんの強化に使える可能性もある。

 

「それについては、今回は別にいいんですけどー。ただですね、君が急に動き出した理由の方が気になってます。数多さんも不思議がっていましたよ。まだ、君のあの研究と研究所はどう見ても準備段階だったはずなのに、何故今動いたのかとね。自分も同じ考えなんですよね。君が医療用サイボーグ技術研究に協力してくれた時の方法論からしても」

 

 未元物質を要求されるなら色々と手立てはあるが、そちらではなく研究に関する疑問を投げかけられるとは解答は慎重にしなければならない。今から木原数多や相似と敵対するのはかなりキツイ。

 

「そこで考えたんですよ。今まで足りなかったパーツを代替できる何かが見つかったんじゃないかなーと、どうです?」

 

「流石は相似さんですね。見つけましたよ。代替出来るような素晴らしい実験とその対象を」

 

「未元物質を囮に使うほどの実験体ですかぁ。それは興味深いですねぇ。解析したくてたまりませんよ」

 

 最初に未元物質を見せ札にした時点で、それを超える何かがあると考えるのは想定内ではある。

 

「それじゃあ、以前のお礼に君の研究所に入ってあげましょうか。誘導君」

 

「相似さんにお手伝い頂く程の事でもありませんよ。それに、今行っているのは相似さんの考えているそれとはまた別の実験ですし」

 

「へぇ、益々気になってきますねぇ。じゃあ、今度の集まりにでも何か手土産(サプライズ)でも持って来てくれる感じですかぁ」

 

「それまでのお時間を頂ければ、面白いものをお見せ出来るかと」

 

 何とか次の機会までは襲いかかってきたり、横入りされたりするようなことは無さそうだ。

 とはいえ、何も監視がないとは限らない。昨日の今日で未現物質の一件の情報が入っているのだから。いや、情報源は先ほど名前が出た学園都市統括理事長アレイスター・クロウリー直属の部隊 猟犬部隊を率いていた木原数多あたりの可能性が高い。スピンオフでもそこそこ仲が良さそうな描写もあったはずだ。

 

 話を切り上げて、木原相似との電話を切る。

 というか、那由他ちゃんから少し離れていたとはいえ、サイボーグ部分の集音機能なら聞き取れるし、こんな話をしてしまったが大丈夫だろうか。だが、暗部や研究所で話した木原幻生の話もあるし、これくらいなら大丈夫と思っておくことにするしかない。まずは那由他ちゃんの生存性を高めなければ──

 

 

 

 

 

 ー必要悪の協会 sideー

 

「アレがただの喧嘩早い学生とされているのも妙だが、やつの方はどうだった神裂」

 

「そちらについてはいくらか情報が出てきました。木原 誘導、彼は科学側では有名な一族の1人のようで、研究所をいくつか持っている高位の能力者のようです」

 

 魔女狩りの王を倒した少年に対して、こちらはあっさりと情報が出てきて拍子抜けしてしまうが、がっつりと科学側に入り込んでいる人間に対しての行動は慎重にならざるを追えない。

 

「そっちの方はちゃんと情報が出てくるか。ただ、彼を殺してしまったりするのは不味そうだね。手を引いてくれれば良いんだけど」

 

 そうもいかないだろうと確信めいた思いを胸に、どうやってインデックスを奪還するか考えていた。

 

「ステイル。ただ、不可解な事がひとつありました。昨日の少女のように彼の周りの人物との不意な遭遇を避けるために、身辺についても調べて貰っていたのですが、周りについては上辺程度でほんとど情報が取れなかったようです。研究所の所長よりそのメンバーの方がセキュリティが高いのは不自然過ぎる。そちらについても警戒すべきでしょう」

 

「どっちにせよ、僕たちのやる事は変わらない。彼女を救うにはこうするしか無いわけだからね」

 

 

 

 

 





前話での誤字報告、感想ありがとうございます!
更新を望んでいる方がいると思うだけでモチベーションが上がりました。


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