女嫌いのあべこべ幻想郷入り (回忌)
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何故かこれが多かったので


ある男が路地裏で煙草を吸っていた

大通りは赤の光が覆っている

その男が大人しく出てくるように叫ぶ声もある

しかし、男は気にせず煙草を吹かす

 

なぜなら、まだ見つかっていないから

 

男は太腿のホルスターから愛銃のM500 ロングバレルを抜く

スナイパースコープとレーザーポインターが付いている

グリップは握りやすく滑りにくい材質だ

そのリボルバーをくるくると回す

 

男の服装は奇天烈だった

今で言う奇天烈だ

 

ミリタリージャケットを着込み、迷彩柄のジーパンを履いている

手には人差し指と中指に親指の先がない手袋をしている

背中には黒の鞘に入った刀、柄の先にある包帯が風に揺れる

 

その顔は眉間に皺が寄せ、怒っているかのようだった

口を一文字に噛み締めている

目は獲物を睨む鋭い目をたたえている

 

男の名は、気桐 霊覇(きぎり れいは)

 

全てを気力と底力で解決する、いわば脳筋である

 

「…そろそろだな」

 

弄んでいたリボルバーを戻し、歩を進める

女達の声がどんどんと遠くなっていった

 

 

 

 

 

1つ、話をしよう

 

この世界は終わっている

 

とある病原菌が流行り出し、問答無用で男だけを殺したのだ

 

それに対して免疫を持つものだけが生き延びた

 

政府、国は彼らを厳重に保護した

 

…一部にとって、それは気に入らなかったのだろう

 

あるものは言論で、あるものは武力で

 

それらを抑えながら管理をしていた

 

ある時爆発事故が起こり、男達は逃げ出した

 

女達は必死で追いかける

 

これが、今の世界だ

 

 

霊覇は山を登っていた

状況確認もあるが、ただ単に景色を見たいというのもある

 

「…ここらでいいかな」

 

かなり登った所で腰を下ろそうとする

その時に後ろを見た

 

「…階段?」

 

そこには石造りの階段があった

それを視線で追うと、1番上に鳥居が見えた

 

「行ってみるか」

 

霊覇はM500を抜くと、階段を登り始めた

後ろからは相変わらず小さな音のサイレンが聞こえる

それを気にせず、彼は登り始めた

 

 

いつまで登ったか、俺には分からない

まだ汗が出る程登ってはいない

 

「…そろそろか」

 

サイレンが聞こえない程小さくなった頃、先は見えた

その鳥居には「博麗神社」と掠れた字で書かれていた

階段の1番上で俺は座る

 

そして、煙草を咥えて火を付けた

 

「格別だな」

 

左手でM500を弄びながら俺は呟く

ハードな事の後はこれに限る

 

それを数秒続けたのち立ち上がる

 

「さて、逃げるか」

 

横道に入り、山をまた歩く

深い森の中に俺の姿は消えていくだろう

明かりを付けていないので辺りは真っ暗なままだ

月明かりのみが命綱だ

そうやって、引き返さなかったのが運の尽きだ

 

俺は、この見た事のない月を全く気にしなかった

 

この時点で、俺は幻想入りを果たしていたのだ

 

 

「…」

 

私は月を見ていた

お酒の入った杯を傾けて飲もうとする

しかし、その水面にを写った素顔のせいでそれは阻まれる

 

スっとしたその醜い顔のライン

 

全てがつまらなさそうな目

 

出来物の無い、不完全な顔

 

私の名前は博麗霊夢

 

この神社の巫女だ

 

「はぁ」

 

私はその酷い顔を見てため息をつく

母も同じような顔だった

そのせいで周りから遠ざけられた

私の友人にも、金髪の醜い同年代が居る

 

それどころか全ての友人が醜い

 

これも、この職に生まれた性だろうか

 

「こんにちわ、霊夢」

 

「う、突然出てこないでよ」

 

目の前の空間が裂け、女が現れる

その女も酷いものだった

 

その体は黄金律から完全に外れている

 

真珠の様に醜い色の肌

 

そして見た者に吐き気を催す顔

 

幻想郷の管理者、八雲紫

 

「今日の異変、お疲れ様」

 

「いつもの事よ」

 

地底の連中がおこした異変

あの八咫烏が面倒事を起こしたのを懲らしめたのだ

地底にいる奴らは軒並み醜い

 

「…あら」

 

と、紫が何かに気づいたようだ

 

「私は先にお暇するわ」

 

「どうぞ、次は賽銭を入れるのね」

 

霊夢はそう言うとまた酒を飲む

そしてその夢見心地な気持ちで呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、誰か私"達"に優しくしてくれる男は居ないかしら」



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焚き木

また歩き始める

夜の森は深い霧が覆っていた

 

「んん…」

 

流石に暗すぎる

そんな不満を入れた声を口から漏らす

カサカサと音を立てて草が揺れる

そこを見るが、何も無い

己は予想以上に疲れているようだった

 

気配を感じた

 

「!?」

 

振り返るが、何もいない

一瞬おぞましい裂けた空間が見えたが幻覚だろう

 

「…疲れているのか」

 

俺は頭を摩る

そしてまた俺は歩き始めた

しばらく歩くと、火が消えた焚き木を見つけた

誰か先客が居たのだろう丸太に猪の皮が置いてある

 

その消えた焚き木にZIPPOで火をつける

 

「はー暖かいな」

 

手を火に向けて広げる

その暖かい温度を久しぶりに感じた

 

そんな風に黄昏ていると目の前に人影が見えた

 

「誰だ」

 

M500をそいつに構える

理由は単純その人影が女の形をしていたからだ

 

「わー男なのかー」

 

そいつは少しため息を付いていた

 

「なんだ、男なら不満なのか?」

 

「…ねぇ、なんで怖くないの?」

 

「は?」

 

思わず言葉を返す

この目の前に居る少女の意図が分からなかった

 

月明かりが彼女を照らす

 

そいつの目は赤い

 

金髪の頭に赤いリボンが結ばれている

 

「…なんだお前」

 

「不細工って言わないの?」

 

「はい?」

 

また聞き返してしまった

この女は何を言っているんだ

 

「なんだなんだ…」

 

困惑した声を出す

 

「ねぇねぇ」

 

「分かった言わねぇよ、だから帰った帰った」

 

「えー…仕方ないなぁ」

 

そう言うと彼女は闇に消えていった

終始おかしい奴だった

見逃していたが手と口に血が付いていた

その匂いはよく嗅いだ匂いだ

 

…人が傷つけられた時によく臭う

 

「…変な世界に来たらしいな」

 

俺はそうやってため息を吐く

空を見上げる

相変わらず月は妖艶な光を照らしていた

 

 

朝が来た

私は起き上がる

背中がゴキゴキと音を立てる

 

「ふぁ…」

 

首を回し、止めて立ち上がる

またいつもの光景だった

朝の冷たい空気が体に当たる

 

「…」

 

食事を作り、食べる

 

そして箒で境内を掃く

 

「よぉーす!霊夢!」

 

「…魔理沙」

 

空から現れるは酷い顔の魔法少女

その霊夢と同じような不細工な顔に吐き気がする

 

「近いうちに宴会があるんだぜ!」

 

「ここでかしら」

 

「そうだ、鬼もくるんだってよ」

 

魔理沙は笑いながら言う

その笑い顔でさえ気持ち悪い

 

「私は縁側で座らせてもらうわ」

 

そう言うと彼女は縁側に座った

 

「…元気無いな」

 

魔理沙はぽつりと呟く

おそらく人里からの扱いやらでストレスが溜まっているのだろう

あそこの半妖も苦労していたのを覚えている

 

「…私達に優しい男は、居ないのか」

 

叶うわけの無いことを魔理沙は呟いた



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焚き木でウトウトしているうちに朝が来たようだ

朝日が己と日の消えた焚き木を照らす

 

「…家を探さないとな」

 

流石にこのままホームレスになる訳にはいかない

 

「どこかに…廃屋でもいいから無いものか」

 

大抵はボロボロだろうが、ないよりかマシだ

雨風しのげれば俺は寝れる人間だから

また外で寝るのもああいうのが来るかもしれないから却下

この…おそらく別世界にそういのがあるのか

 

丸太から立ち上がり体を包んでいた猪の皮を投げる

そして眠気覚ましに一本のタバコを吸う

 

数秒間それを続けた後立ち上がる

 

空を見ると、大きな山が見える

岩肌が見えるそれは日本であまり見たことが無い

取り敢えず現在地を確認する為にそこに行こう

 

火のついたタバコを咥えて俺は歩き始めた

 

道の無い森をただひたすらに歩き続ける

 

感じる匂いはタバコと、森の匂いのみ

 

というよりこの森の終わりが見えないのだ

霧があるのもそうだが、如何せん深い

 

「…はぁ」

 

俺はM500のグリップに手を添える

そして間を置かずに後ろに照準を向けた

 

「ギ!?」

 

そいつはバレたのに驚いたようだ

見た目は肉を継ぎ足したようなおぞましいバケモノ

爪は限界まで鋭く生え、鈍く光る

 

「There you are」

 

まるで大きな風船が破裂したかの様な音が3回響く

そのバケモノ…"妖怪"は気にする事も無く走る

 

「アホが」

 

「――!?」

 

腰と思われるあたりからずるりと倒れる

俺が撃ったのは腰の部分だった

 

「さて、逃げるか」

 

「ギャア!」

 

そのバケモノの後ろを見てみれば同じような奴らが迫っていた

おそらく同族意識があるのだろう

殺気が思い切りこちらに向かってきている

 

「走る事なんて何回もしたぜ」

 

時たま後ろにM500を放ちながら逃げる

発砲音と共にバケモノの悲鳴が聞こえた

 

そうして何回もリロードを挟みながら走る

 

「…はあっ…はあっ…」

 

どれだけ足を動かしたか覚えていない

覚えているのはまだ建物が見えていない事のみだ

何回撃ったなんて覚える暇も無い

 

「しつ…こいぞ!」

 

3発の弾丸を放つ

それは正確に三びきのバケモノの頭に当たる

 

「HAHA!yippee-ki-yay!」

 

俺は笑ってリロードする

といってもそんな暇は無くなりそうだが

 

「どんだけいるんだよ!」

 

振り返ってみれば全く減らないバケモノ

こちらを殺す事にしか興味が無いらしい

 

「…!」

 

視線を前に戻すと廃屋が見えた

それだけで嬉しい

しかも損傷も少ない家だ

 

「yippee-ki-yay!」

 

扉を飛ばす様に開け、入ると直ぐに鍵を掛ける

ドンドンと扉が音をたてる

 

「…しばらくは安泰だな」

 

そう言って室内を見やる

 

「…なんてこった」

 

そこは廃屋では無かった

キチンと掃除が行き届いた家だ

囲炉裏や箪笥などがある

 

「少し昔の家か」

 

世界観は未だに掴め無い

だがそれでもなお生きているという感覚はあった

 

「へへ…疲れたなぁ」

 

そんな時、脳裏にアイツの姿が浮かぶ

路地裏で俺と同じく孤児だったアイツ

 

「…笑われちまうな」

 

あの興味の無さそうな目で「弱い」って言われちまう

室内には気の利く事に布団が敷かれていた

布団で寝るのはいつぶりだろう

 

「あぁ…」

 

布団の傍に座る

そして口に煙草を咥えた

 

「…火を付けるか」

 

いや、それだと奴らを刺激するだろう

囲炉裏に近づけたZIPPOを戻す

俺は煙草に火を付ける

 

「疲れたな」

 

「お酒は如何?」

 

「有難いね、ここの所酒なんて飲めた試しが無い」

 

横に座っていた女から杯を受け取り傾ける

 

吹く

 

「だ、誰だお前」

 

即座にM500と刀を抜いて

 

「あら、物騒ね」

 

「…な」

 

手に持っていた傘が首元に添えられていた

こちらはM500をソイツの眉間に向けていて、刀は抜けていない

つまりこれは早業だ

早く引き金を引かないと

 

「人差し指に力を入れたら切るわよ」

 

「…っ」

 

首に感じる小さな痛み

それは傘の刃だろうか

 

いや、この傘に刃なんて無い

 

「気になる?まぁ気にならないでしょうけど、ブスのことなんて」

 

「…?」

 

少し悲しそうな顔をする

 

「はん、お前さんがブスなんてな(信じられねぇ)」

 

「皆(貴方を除いて)私が醜いって言うわよ」

 

「ほーん、酷い奴らも居たもんだ(女はそれ以上に信用出来ねぇ)」

 

俺は軽口を叩きながらM500を握り直す

 

「でも、貴方は違う感じがするわ」

 

「人は全員同じさ、怪物さん」

 

「私は妖怪よ」

 

ソイツが不満そうに言う

 

「同じものだ」

 

俺は溜息を吐く

ソイツは傘を己の肩に当て開き、クルクルと回す

その姿は見惚れそうな程優雅だった

 

「ほら、その瞳」

 

「俺の目は死んでるさ」

 

「顔かしら?まぁいいわ」

 

そいつは顔を近づける

吐息が顔に掛かる

 

「これだけ近づいても気持ち悪く思わないようだし」

 

「どうかな?」

 

「私の顔を直視した者は即座に顔を背けるわよ?」

 

「…なんだお前さんは」

 

俺は1歩下がる

少し危険な香りがする

 

「そうね…私は八雲紫、此処、幻想郷の管理者よ」

 

「幻想郷?そんな郷は無いぞ」

 

「当たり前よ、後は藍に聞いてみなさい」

 

その言葉と同時に額にいつの間にか持っていた扇子がぶち当たる

結果俺は意識を失い布団に倒れた

 

「…革命が起きそうね」

 

「主に、恋愛の」

 

紫は扇子を仰ぎながら呟く




主人公はyippee-ki-yayを嬉しい時に使います

勝った時とか、上手くいった時とか


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勘違い勃発

「お、おーい、起きてるかー?」

 

私は彼に声を掛ける

彼は固く目を瞑ったまま起きない

 

「…完全に寝てるな」

 

いつも通り橙を起こしに行こうとしたら、居た

和室の一角で仰向けで寝ていたのだ

最初はびっくりして弾幕を放ちかけた

男なんてココ最近見ることが無かったからだ

 

「…男とはどう接すればいいんだ」

 

私は…八雲藍は頭を悩ませる

彼女にとって男というのはあまり好きなものでは無い

己を殺生石に入れたのも人間の男だからだ

こちらに来てからは不細工と罵られる

このスタイルに生まれた事を最大に後悔している

彼も起きて私を見れば再度眠りに(失神)つくのだろう

 

「…う、ん」

 

「ひ!?」

 

彼が目をゆっくり開ける

 

「お、起きたか?」

 

「…ここは天国か?」

 

「へ?」

 

私から惚けた声が出る

その男は眠そうな顔でこちらに再度聞く

 

「何、目の前に九尾のべっぴんさんがいるもんでな」

 

「べっ…べべべべべべべっぴんさん!?ベッピンサン!?」

 

私は思わず聞き返す

 

「ははは…俺も現世でいい事したもんだな…」

 

「私が…べっぴんさん…ふへへへ…」

 

どこか遠い目をして彼は言う

赤らめた顔で私は呟く

 

「…痛い」

 

「え?」

 

彼を見ると頬を抓っていた

その真意が最初はよく分からなかった

 

なぜなら、それが古典的すぎたからだ

 

「…なるほど、まだ"地獄"か」

 

「…!」

 

雰囲気が変わる

その眠そうな顔は一瞬にして変わっていた

 

その顔をよく知っている

 

戦士の顔だ

 

口を一文字に噛み締めている

 

目は獲物を捉える鋭い目

 

「さて、ここは何処だ?」

 

「へ」

 

一瞬で構えられる…銃

 

「あ、いや…待て待てな」

 

「阿呆ぅ待ったら手玉に取られるやろがい」

 

カチリとハンマーを上げる

 

「…そこまでよ、霊覇」

 

「お前さぁ…」

 

彼はつまらなさそうな声で銃を下げる

そして私に向けて手を差し伸べた

 

「え…?」

 

「ほら、立ちな」

 

「あ…あぁ」

 

私は彼の手を掴む

その手はゴツゴツとしているものの、暖かった

これが…男の手の感触

 

「…何を惚けてるんだ?」

 

「…すまないね」

 

「礼は結構、さぁ紫、説明してもらおうか」

 

霊覇は睨むように紫を見る

紫は相変わらず真意の読めない笑顔していた

 

 

夢を見ていた

 

アイツとの夢だ

 

彼女が突然居なくなるまでの幸せな日常

 

それが俺にとって心地いいものだった

 

…物音がしてそれは直ぐに切り替わってけど

ただ夢見心地は晴れなかった

 

「…う、ん」

 

俺は瞳を開けた

見えたのは人型の九尾

その9つの尻尾に触りたいと言う欲求が一瞬で芽生えた

べっぴんさんだ、とても美しい

思わず言ったことの無い言葉が口から漏れる

 

「…ここは天国か?」

 

「へ?」

 

驚いたアホズラをそいつは晒す

それがなおも可愛いものだった

 

「何、目の前に九尾のべっぴんさんがいるもんでな」

 

「べっ…べべべべべべべっぴんさん!?ベッピンサン!?」

 

そいつからおかしな声が出た

主に最後のベッピンサン!?だ、お前はゲゲゲー!かよ

 

「ははは…俺も現世でいい事したもんだな…」

 

「私が…べっぴんさん…ふへへへ…」

 

そいつは酷く赤面していた

流石にこれはやりすぎじゃないかい?神さんよ

俺は真実を確かめるために頬を抓る

 

…そして心は地獄に戻った

 

「…痛い」

 

「え?」

 

全てを察した

夢見心地のお陰で変な事をしていたようだ

…でも現実にこんなべっぴんさんなんて居るのか信じきれなかった

それはどうでもいい

 

「…なるほど、まだ"地獄"か」

 

「…!」

 

雰囲気を変える

いつもの通りの雰囲気へと全てを変える

夢見心地な感情を戦場の感情へ

全て女を信じない心へ

 

 

「さて、ここは何処だ?」

 

「へ」

 

一瞬でM500を眉間に定める

こんなべっぴんさんであっても女であるなら殺るしかない

 

「あ、いや…待て待てな」

 

「阿呆ぅ待ったら手玉に取られるやろがい」

 

俺は当たり前な事を言う

これ、戦場の鉄則、古事記にも書いてある

カチリとハンマーを上げる

 

「…そこまでよ、霊覇」

 

「お前さぁ…」

 

瞬間俺はかなり脱力した

この瞬間を止められたのもある

1番はこいつが嫌いなのもある

俺は仕方なく手をそいつに差し伸べる

 

「え…?」

 

「ほら、立ちな」

 

「あ…あぁ」

 

彼女は俺の手を掴む

その手はツルツルとしていて触るだけで胸がドキりとする

これが…女の手の感触

 

「…何を惚けてるんだ?」

 

「…すまないね」

 

「礼は結構、さぁ紫、説明してもらおうか」

 

霊覇は睨むように紫を見る

紫は相変わらず真意の読めない笑顔していた

 

 

「まず、幻想郷には忘られた存在が来るわ」

 

「俺は忘れられたか、有難いね」

 

俺は自嘲気味に言う

おそらく資料が燃えたのなんだのしたんだろう

 

まぁ、どうでもいい

 

「となると神さんやら妖怪やらなんやらいる訳か」

 

「貴方もその仲間入りよ、阿呆みたいな能力を持ったね」

 

「能力?」

 

俺は質問する

 

「各々が持つものよ、生きる者は確実に持っている」

 

「はん、お前さんのは?」

 

紫は傘を回す

 

「私は"境界を操る程度の能力"よ」

 

藍はお辞儀をして言う

 

「私は'式神を使う程度の能力"だ」

 

「面白そうだな」

 

俺はタバコを咥え、火を付ける

 

「そんでもって、俺のは?」

 

「いつも使ってるでしょ、自分で見つけなさい」

 

「ケチが」

 

「倹約よ」

 

紫は減らず口を叩く

 

「…まぁいい、俺は帰る」

 

「あらそう、さようなら」

 

そう紫が言うと浮遊感が俺を襲う

その降下中に聞こえた巫山戯た物があった

 

「近いうちに宴会が開かれるから、来てもらうわよー」

 

「はぁ?」

 

と言う頃には着地していた

空間の裂け目…スキマと言ったか、それはひとりでに閉じた

 

「…マジかよ」

 

この感じ、実力者は女しか居ないのだろうな

 

俺はため息とタバコの煙を交えて吐いた



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周辺調査

タバコの煙を吐く

何とも面倒な奴に会ったものだ

今度から紫ではなくスキマ妖怪と呼ぼう

 

「面倒だな」

 

俺はため息を吐く

宴会となると人は沢山居るだろう

この世界が元の世界とは違うとはいえ警戒はしてしまう

 

何処の女も同じものだからだ

 

どいつもこいつも私利私欲の為に生きている

 

本当の愛なんて"アイツ"以外には…

 

「…全く」

 

俺の"友人"も今は政府から必死に逃げていることだろう

アイツとはいいコンビだったんだが

 

「少し外に出てみるか」

 

気分変えとして外に出ることにする

まだ日は差しているだろう

ウエストバッグを腰に身につけ戸を開ける

コイツは外の世界に忘れたのをスキマが渡してくれたのだ

 

「昼か」

 

俺はどれだけ寝ていたのだろう

もう太陽が真上に来ている

 

「日が落ちるまで探索するか」

 

やる事はそれしかない

どれだけ有意義に時間を潰すかだ

何もしないよりか周囲を把握した方が良いだろう

 

家の周りは森で囲われている

ここは見た通りだ

 

「さて、あの山に行くか」

 

と、その前に偵察だ

この世界だと番人の様な奴が居そうに思う

ウエストバッグから双眼鏡を取り出す

そしてそれを覗き込む

 

「…oh」

 

見えたのは背中に翼のある人間

妖怪が幻想郷に居るならばあれは天狗だろう

…鼻が長くないじゃないか

ここからその山は10分程で着くくらいだ

 

「捕捉されるとまずいな…」

 

ここが安全とは限らない

もしかすればこの廃屋は奴らの住処である可能性もある

 

「…行くしかないか」

 

見つからなければいい

俺な体制を腹ばいにして、匍匐する

そのままゆっくりと目的地に前進していった

 

 

「…人間を捕捉」

 

さて、まあそんな人間の浅はかが通じる訳もない

哨戒天狗 犬走椛の目に彼はしっかり映っていた

 

「おと…男か…男…」

 

「男男、発情でもしましたか?」

 

「うひゃあ!?驚かすな!」

 

大剣を思い切り振る

ソレは突然現れた奴の頬を斬る

 

「酷いですね…上司である私が直々に来たというのに」

 

「出口はあちらです」

 

「帰りません!全く…」

 

そしてそいつ…射命丸文は椛と同じ方向を見る

 

「あの人間ですか?緑過ぎて一瞬分かりませんでした…」

 

「ええ、最初は匍匐だったので私でも気づきませんでした」

 

あの人間は途中から歩きに変えたのだ

どうやら攻撃されなかった事に安堵したらしい

それでもなお武器を手放さないのは評価出来る

ただ、あれは天狗のナワバリだ

 

仕事はちゃんとしなければならないのだ

 

「…行ってきますよ」

 

「私も行きマース!」

 

「帰れ」

 

「そんなに言わないでくださいよー」

 

2人は喧嘩するかのように飛んでいく

勿論向かう先はあの男の居る場所以外、他ならないのだ

 



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遭遇

「そろそろか」

 

目の前に山が見える

それは近くで見ると更に高いことが分かる

ここまで来るのに少し時間が掛かった

予想より五分くらいか

 

「全く、疲れるね」

 

俺は近くの石に腰を下げ、煙草を咥えた

何処にも禁煙の文字は見えない

ZIPPOで火を付けた

 

「変な所に来たものだ」

 

俺はぽつりと呟く

山に入って少し進んだら俺はここに居た

そこからは信じられないような出来事ばかりだった

 

「はぁ、面倒な」

 

俺は太腿に手を移動させる

少し、音がしたのだ

 

…いや、視線だ

 

「…」

 

カチャリとM500を構える

スラリと黒刀を抜く

右手にリボルバー、左手に黒刀だ

 

この黒刀はまるで焼き焦げたかの様に黒い

 

刀の長さは大体腕くらい、結構短い

 

辺りに視線を彷徨わせる

舐めつけるような視線は一向に消えない

刀を逆手に握る

 

「…気味が悪い」

 

身体中を舐めつける視線は止まらない

むしろ、それは近づいている気がするのだ

視線の方向には空が見えるだけだ

 

「…!」

 

俺は即座に草むらに飛び込んだ

そして匍匐し、じっと動かない

 

それが幸をなした

 

「…あれ?あの男の人間はどこへ?」

 

「居なくなってますね」

 

2つの女の声がした

 

1つは楽観的な…しかしどこか油断出来ない女の声

 

1つは戦いに身を置き、油断後無い女の声だ

 

俺は息を静かに潜める

呼吸はほぼ意味をなさない程小さい

 

「…んー帰りません?」

 

「いや、気配はする」

 

それを聞くと俺はもう動くことさえ出来なくなった

少しでも、それこそ震えでもすれば殺られる

 

「…居ない…か」

 

俺は油断はしない

ここで安堵の息をすることは死を意味する

 

「帰ります」

 

「そうですかーじゃあ私もー」

 

ばさり、と聞こえて2人の気配が消える

少し遅れて風がビュンと吹いた

 

数秒待つ

 

何も起こらない

 

膝立ちになる

 

俺は念の為M500を構える

そして何の異常も無いことを確認し、茂みから出る

 

「…はぁぁぁぁぁぁ」

 

潜めていた息を全て吐き出した

 

「生きた心地がしないな、全く」

 

煙草を咥え、ZIPPOで火を付ける

 

「さて、戻るか」

 

取り敢えずここには来る必要が無い

山方面には川がある…と思う

その下流で魚を採れば生きてはいける

 

「…スキマから釣竿を貰おうか」

 

煙を口から吐き出す

煙草を地面に投げ、足で踏み潰す

マナーが悪いとは分かっているが、これが治らない

あちらでのストレス解消方法だったのがいけなかったのだろうか

まぁ、そんなことはいい

 

「見つかっていないのは不幸中の幸い、か」

 

俺は振り返ることをせず、歩いてそこを離れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、隠れてたか」

 

「あそこも天狗の領域ですからねー」

 

「言っていないで追うぞ」

 

「はいはいわかりましたー」

 

 

…追跡する2つの影に気づかずに




椛の口調テスト

優しめに戻すつもりでいる

…いや、文と言う時にこの口調にするか


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敵…?

「…ふむ、こんなところか」

 

あれから山の反対側を探った

山から流れる川がやはりある

だが、嬉しくないこともある

それが湖に繋がったのは良しとしよう

 

その向こう側の湖畔に不気味な紅い屋敷があったのだ

 

湖自体に問題はない、問題はアレだ

 

その館から不気味な視線を感じて、引き返した

 

他は特に無い

上記が1番デカい情報と言おうか

俺は家に向かった

 

「さて、何事も無ければいいんだが」

 

ここでまた捕捉されればシャレにならない

M500のグリップを強く握った

そこからは拍子抜けというか、特に無かった

 

 

「完全に撒いたらしいな」

 

俺は背伸びをする

あれから舐めつけるなような視線も感じない

これなら安心し…

 

「There you are!」

 

視線を感じた方向に迷わず発砲する

それは森の木を縫うように進み、何かに当たる

 

それが女の悲鳴と分かると直ぐに走り出す

…犬みたいな悲鳴だな、おい

 

「くそっ!」

 

捕捉された

恐らく妖怪だろう、用の無い者はここに来ない

 

…そしてあんな可愛い声の持ち主がここに来る訳が無い

 

それが理解出来たので俺はスピードを早めた

草むらを掻き分け、靴を泥まみれにしながら走る

大きな木の根っこを乗り越え、そこに身を潜める

M500を1発リロードする

大きな薬莢が1つ地面に落ちた

 

「…ふぅ」

 

少し顔を出し、辺りを見る

先程の視線も無いいつもの森に戻っていた

 

「全く、なんだったんだ――」

 

振り返ると、何かを突きつけられていた

目の前に刀の切っ先がある

 

「動かないで」

 

そいつは厳しめな口調で言う

銀髪、赤い目、獣耳、尻尾

俺の知る人間とは思えない可愛い顔

盾と刀を持った、女

先程の弾丸だろうか、右頬に赤い線が見える

 

だが、それが女だったのがいけなかったのかもしれない

 

…いや、女に制止される、という事だろうか

 

俺は電撃的に彼女の刀を掴む

この行動を予測していなかったのか、目を見開く

 

「な――」

 

「せい!」

 

そのまま右肩を引っ張り刀を奪う

刀を奪われると彼女は盾で応戦する

 

…しかし

 

「きゃ」

 

刀の峰で足を払う

足を取られた彼女はパタリと地面に仰向けになる

その衝撃で盾を手放した

すかさず手放した盾を掴み、刀をそいつの首筋にあてる

 

「よくこれで今まで生きていけたもんだ、えぇ?」

 

「油断しすぎましたか…」

 

俺は油断すること無く構えを続ける

…また気配を感じた

 

「はっ」

 

「おっとぉー、野蛮ですねぇ」

 

後ろを斬る

おどけた様子でそいつは避けた

 

黒い翼

 

「成程、お前さんらは天狗と言ったところか」

 

「じゃあ、どうします?」

 

「口封じだ、生かしてロクな事は無い」

 

俺は即答する

敵軍の女を生かしては裏切られる

少しの同情に奴らは漬け込むのだ

 

「むぅ…簡単に殺せませんよ?私は」

 

「1人持っていけるならそれでいい」

 

俺は盾を構える

今まで感じたことの無い殺意が体に刺さる

銃弾で蜂の巣にされた時でもこんな痛みは感じなかった

 

 

「…分かりました、わーかーりーまーしーたーよー」

 

そいつはやれやれと首を振ると獣耳っ娘に、近づく

 

「ほら、帰りますよ」

 

「…それ、返してください」

 

彼女はこちらに手を差し出す

 

「断る、じゃあな」

 

差し出して睡眠薬を投入された回数はもはや覚えていない

油断した所で殺られる可能性を否めない

 

「あ!ちょっと――」

 

「There you are」

 

腰からスタングレネードを取り出し、ピンを抜いて投げる

俺は振り返らずに走り出した

 

直後響く爆音と光

 

「HAHA!yippee-ki-yay!」

 

俺は笑いながら家に向かって行った

 

 

「…逃げられた」

 

椛は悔しそうに言った

 

「まぁまぁ、これは私達の秘密ですから」

 

「貴様と共有なんてしたくもないね」

 

そう言いながら椛は右頬を触る

そこには肉を抉った線があった

 

思い出すと身震いがする

 

あれに当ると"また"失明すると感じた

 

本能で避けた…

 

「また…?」

 

椛は困惑した

文は少し驚いた顔で椛を見た

 

「どうしま――!?」

 

風景がフラッシュバックする

 

ボロボロな椛が大剣に縋って寝ている

辺りは真っ暗で見えずらい

 

ただ、地面に文自身が倒れているのは分かった

 

文は彼女の顔を覗き込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは黒い眼帯をした、白狼だった

 

 

「ひ…!?」

 

「どうかしたか?」

 

椛が不思議な顔で文を見る

 

「…いえ、なんでもありません」

 

そういうと文はとんだ

 

「…変な奴」

 

椛はぽつりと呟くと同じようにとんだ




最後のは"この"作品には登場しません


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守谷の巫女

「ヒィヒィ…」

 

家の中で膝立ちで息を正す

あそこからノンストップで走り続けてきた

むしろこうならない方がおかしい

追いつかれれば捕まるのは確定している

白い方は何とかなりそうだが、黒い方は…

 

「考えたくも無い」

 

俺は煙草を咥え、火をつけた

 

「まぁ、妥当な成果か」

 

周辺の情報が手に入った

それに加え哨戒天狗程度なら相手に出来る

 

「yippee-ki-yay、今日はもう寝よう」

 

俺は布団を取り出すと、床に敷いた

 

「全く、女は信じられないな」

 

と言っても信じられる女はこの世に2人存在する

もう顔しか覚えていない、アイツと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

教室で、浮世離れしていた、緑髪の彼女

 

名前は…確か、東風谷早苗

 

 

 

 

俺の貴重な同胞だ

 

 

 

「はぁ…」

 

私は男が嫌いです

男というのは己の事しか考えていません

私のような…外の世界でいう美しい人はオカズにしか見えないのです

 

…もっともここに来てから全てが変わりましたが

 

最初は困惑でした

己が不細工と呼ばれる不思議

 

次は…理解でした

何度も試してようやく分かりました

 

この幻想郷、醜美が逆転していると

 

それからは私は幻想郷"の"住民として振る舞いました

 

ここなら外の世界にある政策に絡まれることは無い

私は箒で境内をぱさぱさと掃いていました

 

「…」

 

境内には数十人の人が居ます

お参りに来てくれた信者さん達です

彼らからの贈り物…貢物?を貰うのもささやかな楽しみでしょうか

 

「はぁ…」

 

"彼"が私を見れば変わったな、というでしょう

そのご友人も同じ事を言うでしょう

 

既に政府に捕まっているかもしれませんが

 

ここに来るまで、貴方が捕まったという話は聞いていません

 

それだけで、安心です

 

「早苗?」

 

「あ、諏訪子様」

 

声の方向に向くと、子供がいました

カエルの目の様な飾りがついた帽子を被る子供

こんな姿であっても神様です

 

「ちょっと考え事をしていただけです」

 

「…彼かい?」

 

「…そうですね」

 

私は正直に答える

彼の事は忘れられない

 

私の貴重な同胞ですから

 

初めてであった時の事はよく覚えています

まだウイルスが流行っていない頃、ですね

あの頃に転校しました

 

クラスの奇怪な視線は今でも覚えています

 

でも、そんな目で見なかったのが、彼とそのご友人

 

『人は誰も同じさ』

 

『楽くて面白けりゃいいんだよ!HAHA!』

 

思慮深い性格の霊覇

 

豪快な性格のご友人

 

その2人の言葉が今でも刺さります

 

「こんにちはー!清く正しい射命丸文でーす!」

 

「帰れドグされ」

 

諏訪子が文に怒鳴る

後ろから追従した椛が謝る

 

「ごめんなさいこんな上司が居て…」

 

「後できっちり伝えておくよ」

 

「いやー!こっちも面白いものがあったものですよ!」

 

文はニヤニヤと笑う

何が面白いのだろうか

 

「んー?何かな?」

 

「男ですよ!外の世界のおと――」

 

「服装は?どんな感じですか?」

 

早苗は思い切り文を掴む

その様子に辺りが騒ぐ

神社から赤い服装の女が現れる

彼女は八坂神奈子、軍神だ

この守矢神社の二柱の内1つである、片方は諏訪子

 

「なんだ?…早苗?」

 

「早く!言え!」

 

早苗の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた

 

「お、落ち着け!早苗!」

 

「えーと!緑の軍っぽい服に迷彩柄のズボンを――」

 

「…そうですか、ありがとうございます」

 

早苗はいきなり力を弱める

そしてどこか遠くを見る

 

「…あの、彼女どうしたんです?」

 

椛はヒソヒソと諏訪子に聞く

諏訪子は少し悩んだ後、にっこりと笑う

 

「何、思春期さ、気にする事はない…おめでとう、早苗」

 

「彼がここに…忘れられた?」

 

二柱は双方別のことを考えていた

だが、早苗が幸せなら、そんなことどうでもいいだろう



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宴会とか嫌なんだが?

あれから警戒は解かない

山方面に行くことは無くなった

彼女らの警戒が高まったのは確かだ

下手に刺激したくはない

 

殺られるのはこちらだ

 

見た限り仲間意識が高いと思われる

 

「はぁ」

 

政府からの追跡が終わったかと思えばこれだ

今もなお戦闘をしている男達には分からないだろう

何をするにしても面倒事が絡む

 

「まぁいいか」

 

それだけでこの生活を送れるなら嬉しいものだ

面倒な制約もないので自由に暮らせる

個人的平和に過ごしたいとも思っているのだ

 

「ハロー、こんにちは」

 

と、思っていればこれである

すぐ横にスキマが展開され、中から紫の顔が覗く

 

「帰れ」

 

「あらやだ平和に暮らせているのは誰のお陰で?」

 

俺は頭を抱えた

確かにこいつがいるおかげで生活は出来ている

足りない物はこいつから貰っているのだ

スタングレネード、釣竿、M500の弾薬

それを考えると悪く思う訳にはいかない

 

…だが女というのがなぁ

 

「はあ…何用だ」

 

俺は煙草を咥えて火をつけ――

 

「宴会に来て欲しいのよ」

 

「ヴォエ!ヴェ…!?」

 

思わず噎せる

 

「どういうことだ」

 

思わず紫を睨んだ

何処吹く風だ、紫は

 

「私の貴重な友人…しかも男よ、呼ばない訳がないでしょ」

 

「却下、これ以上女とは関わりたくねぇ」

 

「あら?天狗と関わってたじゃありませんか」

 

「見てたのかこの野郎」

 

こいつの能力だろう

変な視線や雰囲気を時たま感じるのだ

 

「あれも報告済みでしょう?」

 

「だろうな、組織故の性か」

 

「あ、私も既に言ってありますわ」

 

「しね阿呆」

 

なんということをしてくれたのでしょう

こいつはここで万死にしても文句は言われまい

 

「俺は参加しない、いいか?参加しないからな!」

 

これ以上は御免だ

流石に俺の精神が持たないだろう

主にトラウマが蘇る

 

…あぁ身震いしてきた

 

「そう、じゃあ来てもらうから…今夜」

 

「よし逃げてやらぁ」

 

死ぬ気で逃げてやろう

これでもかくれんぼは得意なんだ

 

「まぁまぁ、楽しみにしてなさいな」

 

そういうと紫はスキマの中に消えていった

俺はため息を吐いた

 

「…ブービートラップを作るか」

 

俺はそう言うとグレネードを数個と紐を持って外に出た

ブービートラップとは有名所で言えばベトナム軍が使ったものだ

ジャングルの地面を掘って落とし穴を作ったりする

 

無論ただの落とし穴のはずがない

 

そこには無数の釘や竹槍が待っているのだ

落ちれば即死もしくは地獄の苦しみを味わう事となる

ウチでもよく使ったものだ

 

今回のものはグレネードのブービートラップだ

 

手頃で何かが通りそうな場所を探す

そこに2つの木があれば最高だ

その木に杭を刺し、それを糸で巻く

そしてその糸をグレネードのピンに括り付けるのだ

 

この貼った糸を気づかずに足で蹴ると、爆発する

 

妖怪にどんなダメージが通りか知らない

まぁやらないよりかマシだろう

 

「…あ」

 

今気づいたが奴はスキマで簡単に探してくるんだった

 

…これ自分の首を絞めいているだけでは?

 

 

「こんにちは幽々子」

 

「あら、いらっしゃい紫」

 

その頃紫は友人の元へと向かっていた

その名は西行寺幽々子、亡霊である

何故亡霊になったかの経緯は省くことにする

 

「紫様、お茶です」

 

「ありがとう」

 

「それで、何しに来たのかしら」

 

幽々子が聞いた

暇では無いだろう、地底の後片付けもある

 

「宴会かしら?」

 

「そうよ、私、友人を呼ぼうと思うの」

 

それを聞いて幽々子が驚いた

 

「貴方、まだ友人が居たの?」

 

「失礼ね…最近会ったばかりよ」

 

「あぁ、なるほどね」

 

幽々子は納得した

たが、それを伝えるほどでもあるのか――

 

「実は男性なのよ」

 

「男――!?」

 

「あらまあ、冗談は大概にしてよ紫」

 

妖夢が声にならない声で叫ぶ

幽々子が茶化すように言う

だが、紫の目は変わらなかった

それで幽々子は察した

 

「…本当かしら」

 

「ちょっと面倒な性格…もといものだけどね」

 

「何か訳あり?」

 

「トラウマ、調べてみたら女へのね」

 

「…今日の宴会、荒れそうね」

 

紫は早めに言った

 

「殺害は起こらないでしょうけど…怪我はするでしょうね」

 

「トラウマなら仕方ないわ、まぁ婿にするけど」

 

「大概なのはどっちかしら」

 

あはは、と笑い声が響いた

 

 



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大惨事宴会

「弾丸、良し」

 

装備を確認していく

 

「ナイフ良し、黒刀、良し」

 

刃に刃こぼれが無いか確認しておく

もしあちらで戦闘が起きれば不利なのは自分だからだ

何が起こってもいいように装備を確認していく

 

「グレネード類、全て良し」

 

不良品が無いことを確認する

まだ昼間だ、だがやらないよりかマシだろう

 

「大体大丈夫だな」

 

備品に不良品は無かった

あとはあちらでの運だけだ

…戦闘が起こらないのが1番なのだが

 

「無理だよなぁ」

 

己が女に対してトラウマ持ちというのは承知だ

紫、そしてあの天狗達…文と椛だったか

ちなみに彼女達とは普通の関係を築いた

 

3人までなら普通に出来る

 

5人とかだと相手の動きに反応する

 

10人は…分からない

ただその10人が死体になっているのは見たのだ

己が戦闘状態に移行したのだろう

 

友人によれば俺はトランス状態だったらしい

 

「…恐ろしいね」

 

それが自分の友人とは信じられなかったらしい

血まみれの友人が自分を見て「どうかしたか?」というのは…

 

考えるまでもなく恐ろしい

 

「まぁ、アイツはこっちに来てないから関係ないか」

 

あの丸サングラを掛けて上裸のユニークな奴が来れば即伝わるだろう

あの黒バンダナももはや懐かしいものだ

 

武器も釣竿の針みたいな独特なものだった

 

「…はは」

 

もう死んでいるかもしれないのに、何を考えているのだろう

捕まる位なら死を選ぶなんて男たちの常識だった

俺はタバコを取り出し咥え、ZIPPOで火をつけた

 

「はぁ」

 

タバコを初めて吸ったのはいつだったか

結構若い頃だった気がする

 

「…ふぅ」

 

高校を何時卒業したかすら覚えていない

寧ろ卒業したか?途中でウイルスが流行ったような

 

「…?ああ」

 

思いに耽っているとタバコが落ちる

どうやら長いこと吸っていたらしい

外はすっかり暗く――

 

地面が、無くなった

 

「おおおおーっ!?」

 

突然の出来事に驚く

そのままスキマの中に落ちていった

 

 

「ふぅ…机はこんなところね」

 

私は机を並べ終えた

時を止めればこんなの一瞬で終わる

 

「ありがとうね咲夜、わざわざ」

 

「この位簡単よ」

 

箒で掃いていた霊夢がこちらに顔を向けずに礼をする

やはり、彼女も疲れているのだろうか

 

青春はもう来ないことに絶望しているのか

 

「こんにちはー!咲夜さん!霊夢さん!」

 

「よーすっ!来てやったぜ!」

 

そう思っていると風祝と魔法使いがやって来た

 

「今机を並び終えたところよ」

 

「あとは食材ね」

 

既に日は暮れていた

今から鬼やらなんやらがここに来るだろう

 

「お疲れ様咲夜、休んでいていいわよ」

 

「承知しました」

 

そして咲夜は厨房に向かった

その後ろ姿を見てレミリアは苦笑した

レミリア・スカーレット、吸血鬼だ

 

「休んでいいのに…」

 

「お!フランじゃないか!」

 

「魔理沙久しぶり!」

 

フランドール・スカーレットが魔理沙に抱きつく

彼女はレミリアの妹だ、狂気持ちのやべーやつ

 

「来てやったぞ!」

 

「勇儀と萃香か!」

 

「飲むぞー!」

 

2人の鬼が来る

続々と役者達が集まってきたのだ

 

 

「皆集まったかしら?」

 

「集まってるぞー!」

 

幽々子やら妖夢やら沢山の人物が居た

紫はそいつらに呼びかける

 

「ちょっと私の友人を紹介したいのよ」

 

「誰かしら?」

 

「男」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冗談も大概にしたら?」

 

霊夢から呆れた声が出る

 

「でもね、霊夢、本当なのよ」

 

「本当なのかしら?幽々子」

 

「心を読んだ感じでは本当でしょうね」

 

永琳が彼女に尋ねた

幽々子はこくこくと頷く

ついでにさとりもぽつりと呟いた

 

「ちょっと難ありのようだけどね」

 

「ふーん…じゃあ呼んでよ」

 

「分かったわ」

 

そう言うと彼女はスキマを開いた

その中から何かが落ちる音がする

 

 

「あー、これはいつまで落ちるんだ?」

 

俺は腕を組みながらポツリと呟いた

あれから10分くらいここで落ちている

不気味な視線にはもう慣れた、うん

 

煙草を咥え、ZIPPOで火をつけ――

 

「ぐっがぁ!?」

 

「嘘ぉ!?」

 

「本当に男だ…」

 

思い切り地面にめり込んだ

しかも感覚からして石だ

咥えていた煙草が地面に落ちた

 

「あーくそ、なんなんだ――」

 

瞬間、思考が真っ白に固まる

 

沢山の、女

 

そいつらがこちらを見ていた

 

 

「――ひ」

 

恐怖か心を煽る

 

自分を裏切ったあの女…殺した女の顔が蘇る

 

早苗が居る

だが、それは何の意味もなさない

頭が揺れる、頭痛が酷い

上下が反転したような感覚が体を襲う

酷い吐き気もついてきた

 

「――!?」

 

下にした顔を上げると面子が変わっていた

そいつらは外の世界で殺していた女兵士と変わりない顔だ

服装はどいつも奇天烈だが、顔は同じ

 

「――殺す」

 

酷い殺意か心を覆う

歯を食いしばって立ち上がる

右手をM500のグリップに添えた

 

誰かが逃げて、といった気がした

 

逃がす気にはなれなかった

 

 

 

 

 

 

 

今から死ぬ相手に、逃がす気なんて起きるか?



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来るな

「大丈夫です――!?」

 

最初の犠牲者は妖夢だった

酷い様子だった彼に手を貸そうとした

 

瞬間手を捕まれ、首の辺りも掴まれる

 

「な…!」

 

それを振りほどこうとするが

既に後ろに倒されていた

 

「く!――は!?」

 

後ろに飛び退く

己が居た場所が斬られて驚く

彼はいつの間にか白楼剣を握っていたのだ

先程腕を掴まれた時に捻られ、思わず手を離したのを思い出した

 

「せいやーっ!」

 

魔理沙が後ろから箒で突く

彼は刀を上に投げ、その滞空時間の合間に箒を掴む

そして無理やり引き取り、後ろから来ていた美鈴を突いた

 

「嘘!?」

 

気配を消していたのに気づかれた事に驚く

箒を放り投げ丁度落ちてきた白楼剣を掴もうとする

しかし、それは弾幕によって飛ばされた

 

「させないよ人間」

 

勇儀が突っ込む

鈴仙が手を銃の様にしていた

霊覇はそれが弾幕を撃ったと認識する

 

「はっ」

 

「…」

 

勇儀がしなる様に殴る

瞬間のそれは直ぐに避けられ、足払いで勇儀はよろける

 

「強――」

 

「死ね」

 

ナイフを即座に抜いて勇儀の胸に突き立て――

 

「はぁ!」

 

「――早苗」

 

早苗が霊覇の腕を掴む

そのまま地面に叩きつける様に動く

だが、霊覇は手で地面に突いてそれを回避する

 

「早苗?それは…」

 

「…CQCです、彼から教わりました」

 

早苗の近接格闘術に違和感を抱いた神奈子が質問した

早苗からの答えに少し諏訪子は驚いた

 

「驚いた、そんなの教わっているなんて」

 

「痴漢対策したいって言ったら教えてくれまし――た!」

 

霊覇の拳を掴み、その腕に打撃を加える

彼は少し苦痛で顔を歪ませた後後ろに退く

 

「捕らえろ!」

 

勇儀の声に咲夜が応答する

ナイフを霊覇の足元に刺す

彼は少しだけ目を見開いた

 

「そこ!」

 

「甘い」

 

掴みかけた早苗の手を霊覇を掴み、地面に叩きつける

 

「きゃあ!?」

 

「おいおい、CQCなら俺の方が上だ」

 

冷笑を霊覇は浮かべる

その顔を早苗は見た事は無かった

 

「戻って来てください!霊覇君!」

 

「お前もそっちに堕ちたか?」

 

霊覇は嗤う

瞬間彼の顔が真っ青になった

彼は一瞬で刀を抜いて腹を刺す

 

「ぐ…!」

 

「霊覇さん!?」

 

「え!?目が消えた!?」

 

1番驚いていたのはフランだった

うるさかったのでドカーンとしようとしたら目が消えたのだ

 

「畜生面倒な事を――」

 

「いてっ!?」

 

M500を足にぶち込む

それはフランの足の骨を粉々にした筈だが、そんなに痛がってない

まぁ動けなくするだけでも儲けものだ

 

「化け物め」

 

その言葉は心を深く切り裂く

 

「止まってください!霊覇君!」

 

「燦莉も居ないじゃないか、お前に殺られたか?」

 

「ちがいますよ!」

 

「まぁいい」

 

そう言うと霊覇は飛んだ

そしてある人物に着地する

 

「ひゅい!?人のカバンを勝手に漁らないでよ!?」

 

それはにとりだった

霊覇はあるものを見つけ、左手に装着する

 

「それは…!」

 

左腕に付けられたのはウェアラブルコンピュータの様なものだった

画面もついている、良いものだ

 

「行くぞ」

 

そういうとカチャカチャと弄る

瞬間霊覇の姿が消えた

 

「透明化…」

 

「面倒な物を積んでるなにとり!」

 

「ロマンだよ!」

 

「ぶべら!?」

 

透明化を活かして攻撃を加える

その目に見えない攻撃はどうしようも無かった

 

「そこね」

 

ただし、感の鋭い博麗霊夢はある場所に針を投げる

それは正確に霊覇の左腕の装置を貫通した

解ける透明化

 

「ぐぐぐっ!?」

 

装置から散る青い火花

霊覇はそれから出る電流に感電していた

 

「ああああああああぁぁぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、彼は浮いた

 

「へ…?」

 

そこに立っているのに、気配が無い

 

目の前に居るのに、居ない

 

「そ、それは…」

 

「…アンタ」

 

それは博麗霊夢を思わせた

 

「…ぐ」

 

数秒後彼は戻ってきた

そして、今度は閃光手榴弾を手に取る

 

「させない――?」

 

それは彼の手から自然に落ちた

彼も限界が来ている、その足はプルプルと震えている

 

「…っ、はぁ、はぁっ」

 

「…眠れ」

 

幽々子は立ち上がり、扇子をあおる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、蝶の濁流が霊覇を襲った

 

「幽々子さん!?」

 

早苗は叫んだ

 

「なんて事を…」

 

「大丈夫でしょう」

 

霊夢の呆れた声に笑顔て幽々子は返した

霊覇はうつ伏せで倒れていた

 

早苗は嘘とぽつりと呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――じゃなあああああああああぁぁぁい!」

 

バネの様に霊覇は飛び起きた

 

「…え」

 

それに驚いたのは幽々子以外、誰でも無かった

 

「反魂蝶が効かない…?」

 

霊夢は信じられない顔で呟いた

早苗も同じだった

死へ誘う蝶が、効かない

 

だが、それとは裏腹に足の震えは強くなっていた

 

「…残念…ながらそうはいかない」

 

少し苦しそうだ

何が彼をここまで支えている?一体何が…

 

「あ…」

 

気力だ

女に屈服しないという気力が彼を支えている

それは死さえ受け付けない、無茶苦茶なものだった

 

「…少し眠りなさい」

 

それを理解した幽々子は一匹だけ反魂蝶を飛ばした

ひらひらと舞い、霊覇の肩に留まる

 

「っあ」

 

彼の顔が苦痛に歪む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

怒号

地獄からの咆哮が響く

それはどこか狼を思わせる声だった

先程もこうやって叫んでいたのだ

それが反魂蝶にかき消されていただけで

 

声が枯れた後、彼は仰向けに倒れる

 

その胸板が小さく動いていることから、生きているのが分かる

 

「…終わったぁ」

 

へなへなと彼女達は膝をついた

 

 



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やぁ

「…ぐ…すぅ」

 

「霊覇君…」

 

あの後霊覇は早苗の膝で眠っていた

その表情は穏やかな顔から一瞬苦痛へと変わる

 

そしてまた、憎悪と怒りにも変わる

 

「…アンタの友人?」

 

「ええ、外の世界で同級生…同い年だったんです」

 

そう言う早苗の顔は少し悲しそうだった

 

「お前友人は選んだ方がいいぞ…」

 

「霊覇君だって最初からこうじゃなかったんですよ」

 

魔理沙の青ざめた顔に早苗はポツリと言う

それに興味を持ったのは勇儀だった

 

「へぇ?確かに"殺す"と言ってた割には嘘が入ってたが」

 

「あれがなければ今頃普通に暮らせていたかもしれませんね」

 

「あれ?」

 

霊夢は首を傾げた

その反応に思わず守矢神社勢は驚いた

 

「知らないのか?」

 

神奈子が聞く

 

「まさかここにそれは伝わってないのかい?」

 

諏訪子がお酒を飲みながら言った

 

「何を言っているのかしら?」

 

「外で戦争でも起きたのかぜ?」

 

「死人は多くないですよ?」

 

「知らないわね」

 

霊夢、魔理沙、妖夢、咲夜は同じように言う

それに早苗はある事実を突きつけた

 

「病気が流行って男性の九割は死亡してますよ?」

 

「――はっ?」

 

場の空気が凍った

この少女は何を言っているのだろう

その内容が全く頭に入ってこなかった

 

「…おいおい、冗談キツイぜ」

 

「…本当だ、今や男の世界人口は1000にも及ばない」

 

「あ!霊覇君起きました?」

 

目と口が開き、言葉を繋ぐ

早苗が嬉しそうに声を弾ませる

皆が武器を構えた

 

「…何警戒してんだお前――」

 

膝枕から飛び起きて低く構える

瞬間また霊覇の目の色が消え――

 

「気を確かに!霊覇君!」

 

「――っあ」

 

霊覇はその場に座り込んだ

 

「あぁ、燦莉の言ってたヤツか、これが」

 

本人は自覚していないようだ

その間に何があったなんて

 

「推測すりゃ俺が迷惑かけたようだなぁ、まぁ悪いのはスキマのほうだが」

 

霊覇は視線を気にすることなく煙草を咥えて火をつける

その行為が早苗にとって違和感しか無かった

 

「…煙草、吸うんですか?」

 

「当たり前さ、もうコイツが無いとやってけなぇ」

 

煙を吐く

 

「…アンタ、名前は」

 

「俺は気桐 霊覇…俺と話す時には1体1にするんだな」

 

「トラウマ持ちかしら?」

 

霊夢と霊覇が会話を続ける

 

「あぁ、基本的に俺は(お前らみたいな)美人を信用してないのさ」

 

「…何が繋がるのかしら」

 

「美人程嘘をつくんだよ(お前もそうか?)」

 

「(確かに)そうね」

 

「不細工の方が信用できる気はするがね…」

 

「本当に!?(私達を信用してくれるの!?)」

 

「ああ、そうだよ(お前らは無理そう…か?)」

 

「ありがとう(信用してくれて)」

 

「あぁ、こちらこそ(信用できねぇ)」

 

言葉のすれ違い通信中である

早苗がわくわくしながら聞く

 

「私は信用出来ますか?」

 

「美人…まあ幼なじみの友情よな」

 

「友人として見ているのかしら?」

 

「そうだろ、普通」

 

そういうと霊覇は手を杯に伸ばす

 

「気分変えに酒を飲ませてもらう、異議ないよな?」

 

「まぁ宴会なら普通でしょう」

 

幽々子がそう言った

 

「…あー、何かあんたと話すと変な感じがする」

 

「あら、何故かしら」

 

「スキマと同じ雰囲気というのもあるが…何だか」

 

釈然としない顔で酒を飲む

 

「…ただアンタに心を許したくない、いや他の連中もそうだが」

 

「本心を話してくれないのかしら」

 

「会ったばかり、女、話す要素が何処にある?」

 

また杯を煽った

 

「――あ」

 

「どうかしたか…あー」

 

「霊夢、博麗霊夢よ…その」

 

「歯切れ悪いな」

 

「…アンタ何処に住んでいるのよ」

 

…その杯私が飲んでいたのだけど

その言葉を抑える

赤面している霊夢を不思議に思いながら霊覇は言葉を繋げる

 

「妖怪の山辺りだ、気をつけな、ブービートラップがあるからな」

 

「関節キス…私は飛べるからいいわよ」

 

直では無いが、何かを失った気がした

 

「はん、お前を見ているとアイツを思い出す」

 

「誰よ」

 

「孤児だった時かね、路地裏で出会ったんだが…はぁ」

 

変な空気に場が変わった

それを変える様に美鈴が話しかける

 

「私、紅美鈴と言います…ちょっと質問があるのですが」

 

「何だ」

 

「先程の近接格闘術は一体…?」

 

霊覇は首を傾げた

それを使った記憶が無いのか

 

「CQC?…あー」

 

大体を察したらしい

霊覇は言葉を選ぶ

 

「そうだな、独学で近接格闘術をやっていたらこうなった、としか」

 

「実演出来ますか」

 

「早苗、1戦やるか」

 

「ナイフは?」

 

「ナシで」

 

「…ナイフ?」

 

思わず呟く

その近接格闘術にはナイフが必要なのだろうか

 

「一種の武器さ、有る方がいいならそれでやる」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「さて…」

 

そのするりとした会話に嫉妬を霊夢は覚える

どうしてあんなに仲がいいのだろう

私は彼の事をもっと知れる気がする…

 

そんな嫉妬を蓄積する霊夢を尻目に構える

左手を長く、右手は少し曲げるポーズで構える

 

一方早苗は両腕を曲げ、縦に並行して構える

ぐっと拳を握る

 

「早苗…」

 

そのポーズは早苗には似合ってない、というとした諏訪子

たが、それは意外と彼女とマッチしている

 

「行くぞ!」

 

「いつでも」

 

先制は霊覇だった

構えの下側…腹の辺りに拳を入れる

それを掴み、捻って拘束するような姿勢になる

霊覇はそれを解いてまた同じような事を早苗にする

そして早苗の気が緩んだ瞬間、地面に投げ飛ばそうとする

 

しかし、流石は教え子とでも言おう、手を地面に突く勢いでそれを回避する

 

お返しとして足を霊覇の足に引っ掛けて地面に叩きつけようとする

それを前回り受け身で回避し、また距離を離す

 

「…凄い」

 

そのスタイルに美鈴が感嘆の声を出す

こんな戦闘を見たことがない

 

「あんな事も出来るんだね、早苗は」

 

「彼には感謝…か?」

 

二柱は少しの会話をした

 

その間に早苗は叩きつけられ、決着はついていた

 

「良し、あれから成長はしているらしいな」

 

早苗に手を伸ばす

彼女はそれを握って立ち上がった

…なんか嫉妬の視線を感じたような

 

「明日辺りに守矢神社に来てください!

 色々とお話をしたいです!」

 

「へへ、思い出話は尽きなさそうだ」

 

…なんで早苗と霊覇があんなに仲が良いのよ

私だって、彼と仲良くしたのに

 

霊夢は嫉妬をまた蓄積していった

 



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燦莉

「――ぐあ」

 

「はぁ、これで10人か」

 

ばたりと女兵士が倒れる

その釣り針のような武器についた血を払う

 

男は黒いバンダナを頭に付けていた

その下には僅かに見える包帯

丸サングラスを付け、上裸の男

その上半身の筋肉は鍛え抜かれた凄物だった

 

左手にはSOCOMピストル

 

右手には釣り針の様な独特な武器

持ち手に糸が巻かれていて投げて引き取る事が出来る

 

男の名は霧秋 燦莉(きりあき さんり)

 

「…はぁ」

 

何もかもがつまらない

アイツがいつの間にか消えてからつまらない

 

「…何処に行ったんだ、霊覇」

 

友人の名前を呟く

それは路地裏の何処かに消えていった

 

 

「帰ったか、燦莉」

 

「今帰った、次に備える」

 

ここはとある基地

男達の唯一安息の得られる場所だ

 

「怪我や追跡装置を付けられてないか」

 

「無いぜ、全員殺った」

 

「仕事がまだある、眠れないぞ?」

 

燦莉はガックリとした

彼は書類を渡す

 

「簡単な探索任務だ」

 

その書類には写真がのっていた

ドアカバーの様な帽子にリボンがついている

その女は口元を扇子で覆って撮った者を見ている

そのゴスロリ傘持ち胡散臭い女に首を傾げる

 

「なんだこいつ」

 

「我々もよく分かっていない、敵なら退ける必要がある」

 

「あいつらも変なことをするもんだ」

 

燦莉はカチャリとSOCOMのスライドを引く

サプレッサーに四角いライトがついたものだ

レーザポインタを点ける事も出来る

 

「行かせてもらうぜ」

 

「派手にやるなよ、面倒な事になるからな」

 

「アイツが居なくなってからは派手に出来ねぇんだ」

 

そういうと燦莉は基地から出ていった

 

「…誘導はこんな感じか、後は紫様次第だな」

 

「――!」

 

彼…彼女は変装を解く

それと共にロッカーから小さな声が聞こえる

 

「あぁ、起きたか…という事は私を見たな」

 

「――!――!」

 

金色の狐人はロッカーに視線を向ける

 

「他言は無用だ、分かったな?」

 

「――」

 

そういうと彼は大人しくなった

それをニコリと笑い、藍はスキマに消えた

 

 

「U"g"h"…本当にダルいぜ」

 

唸り声を上げながらヘリで移動する

本当なら霊覇がやっていたが、居ない

なのでこのパイロットは知らない奴である

 

『間もなく到着します』

 

それと同時にヘリがホバリングする

背中のパラシュートが使えるのを確認して飛ぶ

 

『霊覇によろしくな、燦莉』

 

「――!?」

 

思わずパイロットを見た

そいつは金色の狐人の姿をしていた

反射でSOCOMを抜き取り、引き金を引く

それは強化ガラスにヒビを入れる程度だった

 

「コノヤローっ!」

 

そうやって罵倒を叫び、反転する

地面との距離を図り、紐を引く

瞬時にパラシュートが展開された

バレにくい黒色のパラシュートである

 

「…どういうことだ」

 

霊覇によろしくとはどういうことだろう

だが、任務にそういうものを持っていく訳にはいかない

 

「…っと」

 

木の中に突撃する

腕をバツ型にして木が目に入らないようにする

そしてパラシュートが木に引っかかる

その引力で自然にパラシュートが外れる

地面に着地する

 

「いてて…」

 

近くの木に体を隠す

数秒待ち、何も起きなかったので通信を始めた

 

「こちらサンフォード、到着した」

 

『予定通りだな、作戦を開始してくれ』

 

「霊覇が居ればスムーズにいきそうだがな」

 

燦莉はそうボヤくと立ち上がる

写真からしてこの先にある広場にいるはずだ

…出来れば居ないでほしい

 

「…」

 

森はひっそりとしていた

夜行性の動物が動く音も聞こえず、ただただ静かだった

その静けさが不気味だった

 

「!」

 

人影を見て草むらに隠れる

葉の感覚が胸板を刺激した

 

「…」

 

それは写真で見た通りの女だった

ただ、その顔は写真よりも艶めかしく、美しい

認めたくない事だが、認めるしかない

 

「おい、お前」

 

「…!何でしょうか」

 

そいつはピクリと肩を震わせる

 

「この先に行かせることはできねぇ、さっさと戻るんだな」

 

「無理な話ですわ」

 

そいつがくるりと一回転する

思わずSOCOMを向ける

 

「…何を言っている?」

 

「言った通りですわ」

 

「…後悔すんなよ」

 

「貴方が、ね?」

 

引き金を引こうとした刹那、地面の感覚が無くなる

思わず変な声が出た

 

「へはぁ?」

 

「それじゃあ、霊覇の安定剤になってね、燦莉」

 

「霊覇の安定剤だと――!?」

 

その頃には気味の悪い空間に落ちていた

目玉がこちらをギョロりと見ている

それが大量にあるのだ

しかも上下の感覚もおかしくなってきた

 

「――ぁっ」

 

気絶しそうになりかけたその時、背中に衝撃

 

「いって…」

 

背中を摩り、立ち上がる

そこは広大な自然だった

 

「…はっ?」

 

意味がわからない

ビルは?摩天楼は?何処に行ったのだ?

 

「…まぁいいか」

 

燦莉は足を上げる

そのまま幻想郷の土を踏んでいくのだった

 




コードネームはこの話のみです

さて、裏主人公…もとい友人ですね

どんな感じですかね?
期待外れじゃ無ければいいのですが




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不気味な屋敷

しばらく歩いていると湖を見つけた

 

「WOW…こんな綺麗な湖は見たことねぇ…」

 

どこもかしかも政府が占領している

毎日の飲水を確保するのも大変だった

雨は本当に天の恵みだった

湧き水も枯れるまで使うこともあった

 

その水面に手をつける

 

水の冷たさが手を伝う

 

「…ずるっ」

 

手をお椀の様にして水を飲む

細菌だのなんだの気にしていられない

そんなの気にしていたら政府にやられちまう

…それにこの程度なら腹を壊さないし

 

「…あー、生き返るぜ」

 

久しぶりにこんな美味しく冷たい水を飲んだことが無い

どれも泥が混じってたりぬるかったり、酷い

我ながら過酷な環境で過ごしていたと思う

 

「よし、行くか」

 

釣針型武器を左手に、SOCOMを右手に持つ

 

「霧の濃い湖だ」

 

先程から思っていたことだった

ここの湖は不思議な程霧が濃いのだ

それこそ一寸先も見えない程に

霧とはこんなに深かったものだろうか

それとも幻想郷はこれが当たり前なのか

不意にその霧が晴れていった

その向こう岸に見えたものがあった

 

「…あっか」

 

最初に見えたのは赤

それが屋敷だと分かるのに少し時間が掛かった

何せ全てが赤い

屋根が黒いとか時計塔の時計が黒いとか、それしかない

不気味な屋敷だ、行くか

 

「さーて」

 

辺りを見回す

先程から魚がちらほら見える

ここに人がいるならボートくらいある筈だ

 

「…あれか」

 

桟橋が遠くに見える

そこに足を進める

 

「…穴は無いな」

 

桟橋には3隻のボートがあった

どれもあまり使われていないようだ

 

「…これにしよう」

 

それのうち比較的新しいボートに武器を収め乗る

 

「…んあ?」

 

よく見ると船底に鎌が置いてあった

オールを持ちながら首を傾げる

変にひしゃげている、武器としては使えない

 

「変な物もあるもんだ」

 

オールを漕ぎ始める

1人乗りでは無いのでかなりオールが重い

だが、漕ぐのには十分なくらいに速力はあった

 

「ほ…は…せいっ…とぅ…」

 

一定のリズムで漕ぐ

その度船が揺れる

 

「…だいぶ近づいたな」

 

燦莉は船を止める

そして懐から双眼鏡を取り出した

 

建物は無数の窓がある

見た限り羽の生えた少女メイドが沢山いる

 

それに混じって銀髪のメイドも居る

 

「…人はいるみたいだな」

 

まともには見えない、と付け足す

こんなアニメみたいなことがあるか

 

「…?」

 

双眼鏡はあるものを捉えた

それは背中に羽の生えた少女だ

 

コウモリのような羽、赤い目、ロリ

 

ピンクの服装にドアカバー帽

よく分からない奴がこの幻想郷にいるらしい

 

「…」

 

そいつがこちらを見た気がした

ボートの船底に隠れ、じっと息を潜める

 

「…すぅ」

 

ちらりと見る

そいつは煙の如く消えていた

 

「…なんなんだ」

 

意味がわからない

だが補足されたのは確かだ

燦莉はボートを捨て湖に飛び込む

上半身に冷たい水の感覚が舞い込んできた

 

「…ぶくぶく」

 

小さな気泡が水面で弾ける

出来る限り出る息の量を少なくする

平泳ぎで手をしならせる

時たま息を吸いに水面で出て、水中に潜る

そうやって、対岸まで泳ぐ

 

…対岸にたどり着いた

 

「…よし」

 

SOCOMと釣針型武器を取り出して館に向かった

 

 

「来るわね」

 

館の主、レミリア・スカーレットは呟く

そして自分の従者の名前を呼んだ

 

「咲夜、客が来るわ」

 

「承知しました」

 

声だけが聞こえた

時間を止め、ここに現れ、また行ったのだろう

 

「さて…」

 

彼の影響…それは幻想郷に全てに及ぶ

しかし彼はトラウマ持ちだ、面倒な事に

 

安定剤が要る、彼の友人のような

 

「さて、燦莉、早く来なさい」

 

レミリアは楽しそうに言う

背中の羽がふらふらと動いた




※年末、年初めのクソ寒い時期に彼は湖に入っています


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潜入

赤い塀を乗り越えて敷地に入る

敷地内は意外と目に良い花が咲いていた

石畳や草木の剪定もされている

それ見事なもので、感嘆の息が出る

 

「…!」

 

何かが聞こえ、身を潜める

 

「…子供?」

 

それは女の子の声に違いなかった

この屋敷の娘だろうか、楽しそうだ

 

…見つかった場合、慈悲は無いのだが

 

草木の間から声のした方向を見る

そこには赤髪の女と金髪ロリが遊んでいるのが見えた

恐らくこの館の娘と…召使い的な?

でもメイドが居たから門番だろうか

 

…お宅の門番仕事サボってますヨ

 

そこを迂回し、屋敷への侵入口を探す

すると屋敷の壁近くに地下への道が見えた

見た限り観音開きの鉄扉がある

 

「…静かに行くか」

 

子供の行動範囲はよく分からない

あのロリはどのような動きをするか分からない

 

そもそも子供がどういう動きをするか分からない

霊覇は勝手に動く子供をあまり快く思ってなかった

彼曰く「手を焼くのは嫌いだ」らしい

つまるところ面倒ごとは嫌いということだろう

…いつも首を突っ込む癖によく言う

 

「…今だな」

 

2人が遠のいたのを見て移動する

移動先は窓のある壁以外無い

何の異常もなく到達すると、SOCOMの引き金を窓に一発放つ

それは窓の鍵の部分を直撃した

盛大に割れることなく、そこだけ手のひらくらいの穴が空く

銃弾は鍵を破壊しきれていなかった、鍵を開ける

そして窓を開けて中に入った

 

「…」

 

少し引いた

何故なら目の前にあるのは赤のみだからだ

恐ろしい程に他色が存在しない

この糞みたいな館はなんなんだ

 

…何故俺はここに来た

 

「…まぁいい、尋問で情報を集めればいい」

 

羽の生えた奴らを尋問すればいい

燦莉はそう思って廊下をナイフを構えて進む

 

…ここの妖精メイドに尋問は意味があるのか?

 

という野暮な事は置いておこう

 

「ふぅ…」

 

息を吐いて吸って、進む

廊下が長く、途中で誰かしら来れば見つかる

部屋のドアがいくつもあるが、開いているとは限らない

というよりここの住民が人間かも怪しい

 

「誰も居ないな…ん?」

 

と、思っていると階段があった

どうやら地下がこの屋敷にあるらしい

まぁあるのが妥当だろうか

 

「行ってみるか」

 

何か情報源があればいい

それこそ図書館の様なものだ

 

 

「…?」

 

紅美鈴は変な事に気づいた

何か風の音がするのだ

 

「…行ってみますか」

 

これで侵入者だったら不味い

何がって侵入させた事は勿論だが…

あるメイドからのお仕置がヤバい

針のむしろになってしまう

 

そして美鈴の予想は悪い方で当たっていた

 

「…窓が」

 

窓ガラスの鍵部分が開けられている

というか窓が開け放たれている

 

「…侵入者?」

 

美鈴は呟くと屋敷の中に入っていった

この瞬間、紅魔館は警戒態勢に突入した

 

 

「…こりゃ」

 

目の前にあるのは図書館だった

ただの図書館では無く、凄い(言語力皆無)

照明が天井から吊り下げられたり、宙に浮いている

本棚が飛べなければ取れない場所にあったりしている

世界的な図書館も今は見る影はない

こんな図書館に来たのは初めてだ

 

「さて…」

 

幻想郷に関する資料があればいい

そう思い、階段を降りる

螺旋階段をグルグルと回りながら降りる

 

「ここは…違う」

 

足で蹴り崩され様な本を乗り越えながら目的の本を探す

ここはなんなのか、という本だ

それは無事に見つけることが出来た

ぺらりと開く

 

「…はぁ」

 

そこには信じられない事が書いてあった

神、妖怪、忘れ去られたもの達の楽園

ここは最後の妖怪達の楽園とある

 

「信じられんな」

 

ポツリと呟きながらページをめくる

そこには地図があった

 

「これが幻想郷か」

 

大体の場所だ、航空写真じゃない

にしてもえらい正確な地図だ

左下に名前がある…かすれて読めなかった

ただ、白狼大天狗という肩書きだけは読めた

一体誰なのだろうか

本を戻す

 

「さて、そろそろ出るか」

 

SOCOMを構え、棚の間から出る

そして、槍を突きつけられた

 

「…oh」

 

振り返るとそこにも羽の生えた奴らだ

こいつら、いつの間に居たんだ

 

「チェックメイトね」

 

モーセの如く羽人の海を進み出てきた奴が居た

それはあの時見た銀髪のメイドだった

 

「おー、俺は…あー、迷ったんだ、迷った」

 

「窓ガラスを割って侵入した癖に?」

 

「…ち」

 

俺は後ろを撃つ

槍を突こうとした羽人の腕に当たり、蹲る

その上を飛び越えて走る

目指すはあの鉄扉だ

 

「あ!そこは…待ちなさい!」

 

「誰も待たんわ!」

 

乱暴にドアを開けて入る

そして中から鍵を閉めた

 

「…ふぅ」

 

息はそんなに荒くない

それよりも視界が真っ暗だ

懐中電灯を取り出すとボタンを押して点ける

 

そこは階段だった

 

「…う」

 

何だかこの先に進みたくない

何か得体の知れないものがある可能性がある

とちうか絶対に居る

 

「…ち」

 

鉄扉の隙間から見るとあのメイドが仁王立ちしていた

恐らく動かないだろう

…あ?あのロリドアカバーが来た?

何故ここに来るのだろう?

 

まるで催促するようにこちらを見る2人

 

「…くそ」

 

燦莉は視線に耐えきれずに階段を下った

 

 

「…本当によろしいので?」

 

「大丈夫よ、霊覇の友人ならきっとうまくやる」

 

そういう運命が見えるのだ

 

「…霊覇さんの友人ですか」

 

今度年初めの宴会がある

そこで彼との親交を深めておきたい

…なんて咲夜は考えているのだ

彼は友人として振る舞うだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

それが思わぬ誤解を生むとも知らずに



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狂気

タグをヤンデレに変更しました

ハッキリしないのも嫌だと思うので


「Ughhhhhhhhhhh…」

 

不満を全開に階段を下る

変な気配は高まるばかりだ

階段を一段一段下る事に不快感が増してくる

これ以上行きたくないが、出れない

というよりこの先に何があるか気になってしまった

人間というのは罪な生き物である

気になれば気になるほど調べる

 

それがどんな禁断もものであろうとだ

 

「どうせロクなものじゃない…」

 

燦莉はブツブツと呟きながら降りていった

やがて、最底辺まで来た

そこは廊下だった

 

「…」

 

ドアが立ち並ぶ廊下

照明が薄く照らされている

それが不気味さを一層ましていた

 

…ある部屋が更に不気味に見える

 

それは1番角にある部屋だった

 

「…ふぅ」

 

SOCOMを仕舞い、ドアノブに手をかける

そして間髪入れずにドアを開けた

 

「…だあれ?」

 

聞こえてきたのは幼い声

燦莉はドアを少しだけ開けて返答する

 

「何、迷い人さ…邪魔なら出ていく―――」

 

「あ、あの庭にいた人かなぁ?」

 

暗闇に目が慣れる

そこに居たのは庭で遊んでいた女の子だった

可愛らしい顔、背中から生える黒い骨のような翼

そこから垂れる数々の宝石

 

部屋の内装は子供部屋だった

カーテンのあるダブルベッドには1つの人形が寝ていた

タンスの上にぬいぐるみがある

壁に血が飛び散っていた

 

ベッドの人形は人間と酷似していた

その顔は"貴方"にそっくりだった

余程大事にされているらしい、傷1つ無い

近くの椅子にウエストバックが置かれている

壁には刀が二本立てかけられていた

 

「や、多分違うだろ」

 

「いや、だって気配が同じだもん」

 

「…お前、名前は?」

 

「私?フランドール、フランって呼んでよ」

 

「俺は霧秋燦莉だ」

 

彼女は嬉しそうにしている

燦莉はため息をついた

 

「…で、何がだ?」

 

「あなたの心、狂気に満ちて私と同じ」

 

からからと彼女は笑った

不思議と恐怖は感じず、言葉はスっと入ってくる

それも共感出来るからだろうか

 

「同じだから、居場所が分かる、気持ちが分かる」

 

「分かった様な事を…俺は―――」

 

燦莉は苛立ったように言う

俺"達"の気持ちは理解できない

特に女には絶対に、理解できない

霊覇だって同じことを言うだろう

 

俺達は常に同じ思想の元戦ってきた

 

「分かるよ、私だって同じ」

 

「何が…」

 

「私だって、望まれたのにこの能力のせいで幽閉された」

 

彼女は手を伸ばし、キュッと握る

それはその先にあったぬいぐるみを弾け飛ばした

綿が顔にかかる

 

「ねぇ?分かる?必要とされていながら私自身は必要とされてない」

 

彼女は燦莉にずいと近づいた

燦莉は仰け反ることはしなかった

これが腐ったいつもの女ならしていた

 

だが、こいつは違う

 

こいつは俺"達"と同類だ

 

「分かるぞ、俺達の意思は反映されない」

 

「私は嬉しい、同類が居るのだもの、今日は楽しそう」

 

「あぁ、今日は本当に…」

 

針型の武器と捻れた針のような武器がぶつかった

 

「「楽しくなりそう」」

 

2人は狂気に陥っていた

これはレミリアの見た本当の運命なのだろうか

 

それは違うだろう

 

彼女はもっとスムーズに行くと思っていたはずだ

 

 

「…?」

 

振動

最初に感じたのはそれだった

 

「もしかして」

 

私は図書館の扉に向かった

大図書館は揺れに揺れ本がドタドタ落ちてくる

それを躱しながら扉に近づいた

やはり、ここが1番揺れが大きい

 

「…お嬢様」

 

「何?咲夜」

 

主は友人と共に本を読みながら紅茶を飲んでいた

私は尋ねた

 

「本当にこれでいいのですか?」

 

「ええ、思ったより運命通りでビックリしたわ」

 

そういう彼女は思ったよりもビックリせず、本を読んでいる

これのどこが運命通りなのだろうか

私は少しだけ怒った

 

「ですから、その友人殿が死亡しないか―――」

 

「咲夜、行くわよ」

 

ふと、お嬢様が立ち上がった

その顔は焦りでも無い、嬉しそうな顔だった

 

気づけば既に振動は止まっていた

 

「終わった…?」

 

「そうでしょうね」

 

鉄扉を開けて中に入る

そこからいつもの気配は感じない

階段を降りて行った

 

「…ふぅ」

 

廊下を歩いてフランの部屋の前に行く

ノックを数回する、返事は無い

 

「…入るわよ」

 

扉を開けて入った

そこにあったのは…

 

「すー…すー…」

 

「…静かにしろよ」

 

燦莉が寝ているフランを撫でているところだった

 

「…どうしたのかしら?」

 

「戦闘で疲れて寝てるんだ、そういうことだよ」

 

燦莉をよく見て見ると傷だらけだ

上半身の筋肉にも大量にある

 

…おい咲夜、顔をあからめるな

 

「…お嬢様もですよ」

 

「で?これから俺をどうする?殺すのか?」

 

燦莉はつまらなさそうに言う

レミリアは否定するように首を振る

 

「いいえ、霊覇に会わせたいから殺さないわ」

 

「…本当にあいつは居るんだな?」

 

燦莉は探るような視線を浴びせる

レミリアは頷いた

 

「殺す意味も無いし、嘘も言う意味が無いわ」

 

「…燦莉、霧秋燦莉だ」

 

フランを撫でながら燦莉は言う

 

「レミリア・スカーレット、こっちは従者の咲夜よ」

 

「十六夜咲夜です、これからよろしくお願いします」

 

咲夜はぺこりと頭を下げる

 

「はぁ、今日は疲れたぜ…」

 

燦莉は目を閉じた

 

 




次は…霊覇回にしよう


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各々

「よっと」

 

斬った野菜を囲炉裏の鍋に入れる

そこに調味料なんかも入れていく

今から昼飯を作る

 

コードネーム・デイモスこと霊覇は料理をしていた

 

刃物を扱うのは慣れている

料理をするのも初めてでは無い

自炊はサバイバルの基本だ

 

「…?」

 

ふと、霊覇はタンスを見た

そこには紫色の傘が置かれていた

霊覇は箸を置いて近づく

 

それはなんの変哲のない傘だった

 

目の模様が描かれているのは気になるが…

 

それを手に取った

 

「ふむ…」

 

持ち心地も良い、良い品物だ

と、持ち手に力を込めると線が生まれた

 

「まさか」

 

そのまま引く

すると隠れた刃か出てきた

 

仕込み刀だ

 

「いいもの手に入れたな」

 

霊覇は口笛を吹く

そして己の近くに置き、料理に戻る

 

…傘が嬉しそうに振動した

 

 

「はぁー、疲れました」

 

早苗は箒を元の場所に戻す

境内は葉っぱ一つ無い綺麗な状態だ

 

「お疲れ様ですー早苗さん!」

 

「こんにちは、東風谷さん」

 

「あ、文さんに椛さん、どうしました?」

 

背伸びをする彼女に舞い降りた文と椛が挨拶する

 

「いえ、霊覇さんについてお話を…」

 

文はペンと手帳を取り出す

その目は何も聞き逃さない目だった

 

「今から霊覇君の所に買い物ついでに行こうと思ってたんですよ!

 ちょうどいいですね!」

 

早苗は嬉しそうに言った

だが、ある事を思い出して叫ぶ

 

「あ!私霊覇君の家を知りません…」

 

「あぁ、それなら私が案内しますよ」

 

椛が尻尾を振りながら言う

物凄く嬉しそうだ

 

「時たま一緒に将棋をするので、ささ」

 

そういうと彼女は早苗に催促する

 

「そうですね、えーと…袋を持って…」

 

「さーて、突撃取材です!」

 

3人は霊覇の家へ向かって行った

 

 

「ここ…ですか?」

 

「この森の中です」

 

そこは妖怪の山の麓だった

木が鬱蒼と生えている様は人がいるとは思えない

文は最初そう感じていた

 

「彼なら選びそうなところですね」

 

早苗は臆することなく進んでいく

まるで家がどこにあるか分かっているみたいだ

 

「文様、着いてきてください」

 

「は、はーい」

 

椛の目が赤く光る

どうやら千里眼を使用しているようだ

 

「…あっちですね、行きましょう」

 

草むらをかき分け、椛は進む

早苗はその横に並んで行く

文は後ろからついて行く流れだった

 

「ふー、歩くというのはしんどいですね…」

 

そうやって、愚痴りながら歩く

何故か早苗と椛は足を高くあげて歩いていた

どうして高く上げているのだろう…

 

「あのーお二人方…」

 

「「何です?」」

 

「いえー…その――」

 

文が1歩踏み出した瞬間―――

 

「伏せろ!」

 

椛が叫んで地面に飛び込む

早苗も遅れて伏せた

 

ぷゅんと何かが外れる音

音がした方向を見ると、木に何か括り付けられている

よく見ようとしたその瞬間――

 

「うぎゃぁぁぁぁああああ!?」

 

目の前が閃光に包まれた

そして激しい痛み

 

「な、何が…」

 

「…ブービートラップですか、彼も物好きですね」

 

椛はため息をついた

 

「椛さんは引っかかっらなかったんですか?」

 

「空から来ていたもので」

 

「さ、先に言ってよ…」

 

文が恨めしそうに見る

椛は首を振った

そして文を担ぐ

 

「さて、彼のところで簡易治療してもらいましょう」

 

「そうしましょう」

 

彼の家は物凄く近くだ

というより目の前にある

 

コンコンと戸を叩いた

 

「…」

 

少しだけ戸が開いたあと、全開される

 

「空を飛んでこなかったのか?馬鹿だな」

 

文を見て鼻で笑うと中に招く

早苗達は中に入った

 

「食事中でしたか?」

 

「そうだな、問題は無い」

 

霊覇はそういうと鍋から皿に具を移す

それを3人に配った

囲炉裏の周りには山賊焼きが刺さっている

 

「手作りだ、有難く食えよ」

 

霊覇はそういうと頂きますと小さな声で言って食べる

早苗も皿に置かれた箸を取って食べ始めた

 

「やっぱり霊覇君は料理が得意ですね」

 

「軍人としての基本―――いや、もう一般人か」

 

霊覇はため息をついた

 

「これからも戦いから身を引いた方がいいですよ」

 

「は、無理に決まってんだろ」

 

霊覇は薄く笑う

戦いを1度でも経験すればそれからは逃れられない

戦場のテンポは己に絡まって離れない

 

「俺は平和に居たいけどな、はは」

 

山賊焼きにガブリとかぶりつく

その美味さが身にしみた

 

「その命、戦い以外使っては?」

 

椛が皿から腹に食べ物を流し込みながら言う

 

「此処なら出来るかもな…はぁ」

 

霊覇はまたため息をつく

 

「…そうだ、一緒に人里で買い物しましょうよ」

 

「あー…俺も俺で用があるんだ…後でな」

 

霊覇がそういうと早苗はえー、と不満を露わにする

まるで駄々っ子だ…

 

「人里で会えればな、うん」

 

霊覇は鍋に何も残ってない事を確認すると

台所に鍋を投げる

 

その後に文に近づいた

 

「あー…確か医療は…」

 

足に顔を寄せる

右足の太ももから足首が重症だ

霊覇は手を這わせる

 

「ひゃ…ん…」

 

「感触は…あー、包帯だな、これは」

 

霊覇は立ち上がると棚から包帯を持ってくる

そして文に包帯を巻き始めた

 

「これでオーケー、後は自分でしろよ」

 

霊覇はそういうと傘を持つ

早苗は首を傾げた

 

「雨は降りませ―――」

 

瞬間、雨がざぁざぁと降り始めた

 

「俺は生粋の雨男でな、外に出ようとすると雨が高確率で降るんだ」

 

何故かな、と霊覇は付け足した

まるで雨乞いをしたみたいだと椛が呟く

 

「違いねぇ…今度将棋をするか」

 

「そうですね、それでは」

 

文を担ぐと椛は飛んで行った

 

「じゃ、会えればな」

 

早苗にそういうと霊覇は足を踏み出した




燦莉と霊覇、元ネタがあります

それがMadness combatのデイモスとサンフォード

見た目や口癖を寄せている感じです

…それ以外も、ですが

それと何かもう変な感じになってるのでヤンデレ入れます


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博麗神社

「よっと」

 

霊覇は傘を開く

雨の当たる音が心地よいものだ

森を抜けた先は原っぱだ

獣道が所々にあり、冒険心を擽られる

 

…今は博麗神社に向かう事が先決だ

 

といっても深い用がある訳では無い

やることがないから行こうと思ったのだ

 

「さてさて、行きますか」

 

一応のお土産程度に作った料理を持っている

山賊焼き等々だ、美味そう…

 

「食う前に早く行くか」

 

霊覇は低い山に向かう

その山に霊夢がいると聞いている

確かにまぁ、居そうな感じだ

あの神社にあまり"人間"は来ていなさそうだったし

 

「失礼か?」

 

失礼だろ、普通…と自問自答する

当たり前の事だな

 

と、思っているとその山の麓に来た

見たことの無いくらい長い階段がある

 

「…行くか」

 

 

「…暇」

 

私は縁側で日向ぼっこをしていた

やる事が無いから、である

いつもの依頼も今日は来なかった

 

…霊覇が来てくれないかなぁ

 

私はとっさに首を振る

多分、来ないだろう

用が無いのに来るバカが居るだろうか

 

…それだといつも来る奴ら馬鹿だな

 

クスリと笑いが零れる

あぁ、笑ったのは何時ぶりだろうか

彼が来てから色々と変わったものだ

 

主に、私の心が

 

あれから小さな事で笑うようになった

魔理沙からも「楽しそうだな」と言われるくらいだ

多分、今も私は笑顔なのだろう

 

博麗霊夢は嬉しそうに微笑んだ

 

そして、階段から近づいてくる気配に気づく

 

「いや、そんな事…」

 

霊夢は少し驚いた感じで言う

まさか、本当に来るとは思っていなかった―――

 

「あー疲れた…」

 

霊覇は軽く背伸びをするとこちらに近づく

そして持っていた料理を差し出した

 

「ほら、迷惑料だ」

 

「あ、ありがとう」

 

霊夢は少し顔を赤らめた

霊覇は気にすることなく

 

「感謝は要らん、じゃあ―――」

 

な、と言おうとした

手を振って言おうしとした

その手を掴んだ

 

「…少し、お茶飲んでいかない?」

 

霊夢はじっと霊覇を見た

少し視線を這わせた後霊覇はため息をついた

 

「少しだけ…な」

 

「ありがとう」

 

霊夢は微笑んだ

その後に霊夢と霊覇は神社の中に入っていった

 

 

「さ、どうぞ」

 

中に入ったといっても縁側だ

外に近いと言える

霊夢がお茶を出してくれた

オマケで和菓子もついている

 

「和菓子なんていつぶりだか」

 

その餅のようなお菓子を食べる

甘さも今まで感じたことの無いくらい甘い

 

「ここに煙草が来るからいいんだよな…」

 

カチンと火をつける

霊夢が目を細めた

 

「霊覇、煙草吸うの?」

 

「当たり前さ、これが俺のアイデンティティ…」

 

ふぅーと煙を吐き出す

霊夢が顔を顰めた

 

「出来ればして欲しくないわ」

 

「賛成が多ければやってやるよ」

 

鼻で笑い、お茶を飲む

その風味も感じたことがない

 

「いつもの紅茶よりも美味い…」

 

「紅茶が飲める環境って中々…」

 

「泥水の有害性を中和してくれるからな」

 

「ああ、そういうことね」

 

霊夢は遠い目でどこかを見た

 

「あー、ここは平和で良い」

 

少しトロンとした瞳で霊覇は言う

それはどうやら本音だったらしい

 

「戦いから身を引けたのはいいがねぇ…」

 

「が?」

 

霊夢は好機と見て質問する

いまなら何でも答えてくれそうだ

 

「はは、困るもんだよ、平和過ぎるのも…」

 

霊覇は付け足す

 

「お前さんみたいな、可愛い奴が居るのも」

 

「からかいは止めてよ」

 

霊夢はむっとした様子で言う

だが、赤面しているあたり本気じゃないらしい

 

「そういうのも可愛いもん…だ…」

 

ふらりと霊覇が揺れる

 

「早苗と人里で合流すってのに…眠い…」

 

「少し眠っていったら?まだ夜には遠いわ」

 

「そう…だな、膝を借りる」

 

すとんと霊覇は霊夢の膝に落ちた

 

「少し…眠る…」

 

彼はそういうと目を閉じた

 

 

私は彼の頭を撫でた

その顔は安堵に満ちているのが分かる

 

「…やっぱり」

 

私はある事を確信した

その髪を撫でる

洗っていないはずの髪はかなりサラサラだった

もしかして秘密裏に洗っているのだろうか

 

「…かわいい」

 

その寝顔は安らかで、安心の顔だ

それが嬉しくて、幸せな気持ちだ

 

「けけけ、青いねぇ…お前は」

 

「萃香…寝ときなさいよ」

 

左側に現れた鬼を睨む

 

伊吹萃香、鬼だ

 

勇儀と同じような鬼で四天王の1人

その頭の両側から生えた角は猛々しい

酒をラッパ飲みしながら嗤う

 

「やっぱり良い人間だ、欲しくなるね」

 

「止めといたら?私が抑えられなくなる」

 

「けけ、やっぱりお前は青い」

 

笑いながら言う

それが 霊夢にとって不満だった

 

「こいつは面白い博麗の心を動かすなんて」

 

「彼は大切な物よ、渡さない」

 

「言っとけ言っとけ、こいつの心がどうなるか…ははは!」

 

最後に豪快に笑うと萃香は煙となって消えた

いや、粒子と言うべきだろうか

 

「…死ね」

 

その残余に暴言を吐き、霊覇の頭を撫でる

やっぱり、良い人だ

トラウマがあっても、礼は返す

 

「…ああ」

 

欲しい、彼が欲しい

 

こただ話す為だけに睡眠薬を入れたのに

こんな事になるなら、儲かり物か

 

私は小さく笑いながら頭を撫でた

 

 

「可愛い…かわいい…ふふふ」

 

口を三日月にして、目を細めながら



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人里

東方版バイオ描きたくなってきた…

どうしよう、アンケートとるか

10以上あれば書こう、そうしよう


「…あ、起きた」

 

霊夢の声が聞こえた

目を開けると、霊夢の顔が視界いっぱいに広がっている

太陽の光に俺は目を細める

 

「…どのくらい寝ていた」

 

「ざっと3時間よ、寝坊助さん」

 

「お前の方がそうだろうに」

 

俺は霊夢の膝元から起きると、背伸びをする

3時間、まだ人里で買い物は出来る時間帯だ

早苗は多分帰っているだろうな

 

「じゃあな、俺は買い物をしてくる」

 

「あ、じゃあ私も行かせてもらうわ」

 

霊夢がそう言った

 

「食材が無いのよ」

 

「そういうことか」

 

霊覇は頷くと鳥居に向かう

霊夢が首を傾げた

 

「飛ばないの?」

 

「飛ぶ?人間の俺には無理な相談だな」

 

「私飛べるわよ?」

 

「…そら凄いな」

 

霊覇はため息をついた

彼女が飛べるからといって己が飛べる訳では無い

 

「少し練習すれば飛べるわよ、ほら」

 

すっと霊夢の体が浮く

練習の問題なのだろうか

 

「…飛ぶ、ねぇ」

 

「軽い感じよ、空を飛んでいると思うって感じで」

 

霊覇は軽く目を瞑る

そして心を空にした

 

―――霊覇の足が地面から離れる

 

「…予想以上、かしら」

 

そんな霊覇を見て霊夢は冷静に観察する

彼は既に2m程浮いている

 

「霊覇、目を開けて」

 

「―――」

 

彼は軽く口を開ける

 

「…霊覇」

 

「…あ?霊夢…ん?」

 

霊覇は己の状態を見た

そして、まるで子供のように笑う

 

「おお、こりゃ…いいねぇ!」

 

その場でグルグルと旋回する

ピタッと止まったり、スーッと横移動したりして遊んでいる

 

「1回降りてみたら?」

 

「初回限定なんて洒落にならんからな」

 

霊覇はそういうと落ち着いて着地した

特に体に異常は無いらしい

 

「さて…」

 

また、力を込めた

先程のように体が浮く

 

「…これが霊力か?薄い膜みたいだ」

 

目を瞑りながら霊覇は言う

霊夢は頷く

 

「えぇ、強ければ強いほど薄く、固くなるの」

 

「はぁ、そうか」

 

彼は目を開けてこちらを見た

その目は歓喜に揺れている

 

「さて…対決と行こうか」

 

ニヤリと霊覇が笑う

霊夢が軽く鼻で笑う

 

「新参者が私に勝てるとでも?」

 

「それじゃあ遠慮なく―――」

 

瞬間霊覇の姿が消えた

予想外のスピードに霊夢は遅れて出る

 

「何そのスピード―――!文を軽く越えてるじゃない!」

 

既に彼は人里にたどり着いていた

早すぎて、視認できなかった

文でさえ残像くらいは見えるというのに

 

「…全く」

 

「お、遅かったな」

 

「たかが数秒よ…さ、行きましょう」

 

霊覇の笑顔に苦笑いで答えながら人里を歩いた

その視線は怪奇なものであって、心地よくはない

ここ"も"女性は嫌われているのだなと霊覇は思ったのだった

 

 

「で?霊夢さんと来たと?」

 

「そうだが?何か問題が?」

 

「いや、問題しかありませんよ」

 

「1人増えたところで変わりないだろ、アホか?」

 

「そういう問題ではありません!」

 

早苗と霊覇が口論しているのを少し離れて霊夢は見ていた

確かに友人が女を連れていたらこうなるだろう

だがまぁ、それがこうなるとは

 

醜悪な顔の女と出来のいい顔の男が言い争っている

 

その光景が珍しいのか、人里の人は奇怪な目で見ている

…そんな目で見るなよ私たちは化け物じゃない

陰口にイライラしながら霊夢は早苗の肩に手を置いた

 

「まぁまぁ、今日くらいは許してあげたら?」

 

「…むぅ、分かりました」

 

早苗はため息をついた

本来なら2人っきりで買い物する気だったのだろう

いい気味だ、霊夢は心の中で嗤う

 

「さ、行きましょう」

 

「そうだな、ここでグチグチ言っても意味が無い」

 

霊夢は静かに彼の手を握る

対抗するように早苗も逆の手を握った

 

「…お前ら」

 

もの凄く嫌そうな顔だ

多分今手がピリピリしているのだろう

ま、そんなこと知ったこっちゃ無いけど

霊夢はそう思いながら手を強く握る

 

「…はぁ、分かった」

 

そのまま歩き出す

なお、霊覇が面倒になって手を離したのは別の話だ

ただし霊夢はギュッと握って離さなかった

 

「俺は俺で買うものがあるからな」

 

そういうと彼は八百屋に入った

霊夢も手を引かれて行く

早苗は少し黒くなって入ってきた

 

「よぉ…あんちゃん、(そんな女連れて)厄日か?」

 

「(野菜が足りなくて自分の分が無かったから)厄日だな」

 

「そら(そんな女に囲まれて)可哀想に…安くするよ」

 

「(よし!これでミルヒィーユ作れる!)気遣い、恩に着る」

 

「(可哀想な)あんちゃんの為さ」

 

霊覇は貼ってある値段より安く食材を買う

霊夢はいくつかの野菜やらを買った

早苗も同じくだ

 

「さて、俺は帰るわ」

 

ふわりと空中に浮き、飛んだ

早苗は少し驚いたようだった

 

「霊覇君って飛べたんですか?」

 

「やらせたら出来たわ

 …恐らく弾幕ごっこも可能よ」

 

霊夢は少し顎に手を当てた

少し思考しているらしい

早苗が首を傾げる

 

「どうかしましたか?」

 

「いえ…彼は…」

 

霊夢は首を振ると袋を握り直す

そして何も言わずに飛んで行った

 

「あ、霊夢さん…」

 

その後ろ姿を追いかけようとするが、途中で止める

追いかけられるスピードではなかったらだ

 

「…どうしちゃったんだろう」

 

早苗はその場に立ちすくしたままだった



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パルクール

「deimosu on station」

 

空を飛ぶ

今までHALO降下しかした事の無い身には新鮮だ

己が思った通りに飛んでいくのだ、とても面白い

特にこの風を切り裂いて進む感じだ

 

「yippee-ki-yayyyyyyyyyyyyy!!!!」

 

叫びながら飛ぶ

ギュンと風が斬られていく

この感覚に身を任せていたい

 

気づけば、空は暗くなり、星が光っていた

 

「夜空にー光る明星ー!」

 

急降下し、山の木々の間を抜ける

その技術は始めて飛んだものとは思えない

快感に身を任せた

 

…ここがどこか、思い出させる

 

「おい人―――」

 

「?まぁいいか」

 

音速を超えるスピードで制止の声が過ぎ去って行く

というよりこの山を旋回している時から言われていた

 

「千分の一秒でかーけーぬーけーろー!」

 

スピードを上げる

辛うじて追いつけていた鴉天狗の姿が見えなくなった

霊覇は麓に着地する

 

「お…い…に、人間…人間だよな?」

 

「なんだお前ら」

 

「アンタが何なのよ!」

 

「あ、霊覇じゃない」

 

服装が違う奴と文か現れた

ケータイを手放さない、依存症だろうか

まぁ、そんなことはどうでもいい

 

「ははー、俺は少し運動してるんや」

 

「妖怪の山で運動だとぉ…?」

 

「巫山戯てんのか!帰れ」

 

「ヤダ」

 

霊覇は速攻で拒否した

そして、暫し顎に手を当てる

何秒かすると、笑った

 

「よし、じゃあゲームをしよう」

 

「げ、げーむ?」

 

「簡単な遊びさ」

 

霊覇は"初めて"弾幕を放つ

それが哨戒天狗の1人に当たって落ちた

霊覇がからからと笑った

他の哨戒天狗が槍を構え直す

 

「お前達がやられれば終了

 鬼ごっこさ、俺を捕まえてみろ

 山頂まで俺は逃げてやる

 

 ほら、簡単なゲームだろ?」

 

「…いいだろう、地獄を見せてやる!」

 

哨戒天狗は怒るような口調で太刀を構え直した

文とはたては少し構える

霊覇は興奮した様子で笑う

 

「さぁ!始めましょう!始めるよ?

 楽しいゲームの始まりだ!」

 

霊覇は笑いながら飛んでゆく

その後を天狗達は追って行った

 

 

「ははは!カオスだよ!カオスだねぇ!」

 

放たれる弾幕の嵐をいとも簡単に避ける

当たった玉はひとつも無く、それが苛々を募らせる

 

「な、なんなんだアイツは!」

 

「分からん!死なない程度に撃ちまくれ!」

 

「YEAHhhhhhhhhhhhhhhh!!!」

 

その弾幕の隙間を通るのが余程好きなのだろう

先程からスリルの大きく、リスクの高いことをしている

 

「撃て!」

 

「甘い甘い!There you are!!!」

 

M500をそいつに向けて撃つ

そいつは胸から血を出して落ちる

 

「凄いですねー霊覇さんは」

 

「おぉー!追いついてくるか!これは楽しみがいがありそうだ!」

 

そういうと霊覇はスピードを上げる

手を広げてフレアのように大量の弾幕を放つ

その穴を縫うように文は進む

 

(く…!何なのよ!この厚さ!)

 

その弾幕の厚さ、初心者らしいとらしいと言えるか

加減を知らない初心者の様だ

 

「喰らえ」

 

「っ!」

 

散弾を3回放つ

それらを体を捻って躱すとこちらも報復の弾幕を放つ

霊覇が放った散弾のように避けられてしまった

 

そして谷に入り込む

 

そこには橋があり、人間では到底出来ないような建築がある

 

それを針で縫うように進んでいく

 

霊覇と文は楽々と、他は着いてこれていない

 

「ははは、ゼロに乗った気分だ」

 

霊覇はあの時を思い出していた

乗り物の操縦方法を頭に叩き込んでいたあの時の事を

博物館から奪ったゼロで空を飛んだことを

 

「嬉しそうですね」

 

「そうさ、嬉しいさ」

 

谷の景色を尻目に飛んでいく

管の合間を通ったり面倒なルートを進んでいる筈だ

だが、文は確実に追ってきた

 

「まだまだ行くぞ」

 

「了解」

 

ゴウとスピードを増やす

体に掛かるGは霊力が相殺している

まだまだ行けるだろう

 

と、目の前で哨戒天狗の軍団が見えた

 

どうやら無理やりにでも止めるらしい

霊覇はスピードを止めず、手をボタンを握る様にする

 

「目標物確認、ミサイル発射」

 

霊力のミサイルが計18個軍団に向かう

止める為の盾を持っていたのが彼らを幸いした

たが、それでも威力を相殺することは出来なかった

 

「ぎゃあ!?」

 

Move quickly Speed is life(早く動け、スピードが命だ)

 

「言われなくても!」

 

霊覇はそう吐き捨てると一気に頂上を目指す

それに追従するように文が追いかけていく

 

「霊覇さん、待ってください」

 

椛も遅れないように飛ぶスピードを早めた

文の後ろ姿が見えるくらいの速さを維持する

 

そして、ゲームが終わる

 

彼は頂上に着いたのだ

 

「俺の勝ち、ははは!いい気分だ」

 

彼はそういうと胡座をかき、酒を取り出す

そしてフタを取って飲み始めた

 

「くぅー…でもいい記事が出来そうですね」

 

「は、感謝してくれよ…うぃ」

 

そういうと霊覇は立ち上がる

そして軽く浮く

 

追いついて来た天狗共に霊覇はニヤリと笑う

 

そして言った

 

「じゃ、地上の覇権は譲ってやる

 

 

 

 

 

 

 空は俺のものだ」

 

そういうと土煙を上げながら上昇する

彼の姿は一気に見えなくなり、どこかに消えた

 

「…言ってくれますね」

 

文が面白そうに言う

 

「男にここまで言われたのは初めてです」

 

その顔は挑戦された側の笑顔で染まっている

 

「私も頑張りますかー」

 

こきゃりと首を回した

 




Move quickly
Speed is life


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幸運SUKEBE

「機長がシートベルト着用サインを消灯しました

 幻想郷をお楽しみ下さい」

 

先程のパルクールの光景、録画してある

というより家に帰るまで録画するつもりだ

既に真っ暗だ、光は無いに等しい

 

雨が月明かりに輝く

 

月が妖艶に輝いた

 

天狗達に勝ったのはいい

貸一だ、やったね

ともかく、家に早く帰ろうではないか

 

「…?」

 

ふと、雲の合間に何かが見えた気がした

それは黒くてよく分からない、だが大きい

 

「…帆船?」

 

だが、大きな帆が見えたのはわかる

だとすれば艦底から生えている棒は…オール?

 

「古いな…ま、気にしないでいいか」

 

霊覇はそう思うと急降下した

さっさと自分の家に帰宅したいのだ

妖怪の山が見える

あの時把握出来たのは高度な技術がある事だ

あの…透明装置を譲ってくれた奴に感謝だ

絶賛修理中、とても複雑な回路だ

かなり時間が掛かるだろうな…

 

「…」

 

霊覇はもう一度後ろを見た

先程の黒い影は既に居なくなっていた

どうやらあの雲に隠れたようだった

 

「…面倒そうだ」

 

にしても妖忌の山に居た時、よく殺さなかったものだ

軽く狂気に陥りかけたが何とか制御した

完全に落ちなかっただけマシだ

ちなみに堕ちると例の宴会の様な事になる

 

まぁ、あれで死人が出なかったのはいい

作者がそういうタグを付けていないおかげか?

 

まぁ、いいか

 

「はっ」

 

俺は家の前に着地する

そこには何ら変わり無い借り物の家がある

主人が居なくなっていたから随分たっているように見える

霊覇は外見を綺麗にする気が無い

中身は綺麗で新品同様なのだから、ね?

 

それと外見は偽装として使える

 

こんな廃屋に来るのは余程の物好きだろう

 

霊覇はそう思うと中に入った

 

そして、雨が降っていたことに気づく

 

「あ…傘忘れた」

 

 

主人?主人は何処に?

 

細い足を無理やり動かしながらわきちは進む

あの神社に置かれて、忘れられた

あの巫女も気づかないままだった

 

口からくぐもった声が漏れる

 

どうして、皆わきちを捨てるのだろう

 

どうして、忘れるのだろう

 

どうして、どうして

 

どうしてどうしてどうしてどうして…

 

わきちは呪詛のように言葉を漏らす

そうやって、歩いていると主人の家をようやく見つけた

傘はあまり壊れていない、これくらいなら直せる―――

 

「…?傘?」

 

「!」

 

わきちは思わず傘に戻る

バレたら退治されてしまう…!

 

 

「少し妖力…霊覇の物も混じっているわね、物好きな…」

 

少し傘を舐めまわした後持つ

それは神社にあったけど…途中で落としたのか?

まぁいいか、霊夢はそれを振る

飛沫が辺りに散った

 

「今居る―――」

 

「さて行く―――」

 

戸から勢い良く現れた霊覇が霊夢にぶつかる

思い切り絡み合った後地面に倒れた

 

霊覇が霊夢の上に乗っている状態だ

 

「…んぐぅ…もう全く何―――」

 

先に起き上がったのは霊夢だった

顔を上げると目の前に霊覇の顔があった

 

「ちょ、ちょっと―――!?」

 

声を掛けようとした瞬間、ある事に気づく

 

―――胸に何か乗っている

 

恐る恐るそれを見ると、霊覇の手がそっと乗っていた

 

「ん?あぁ…?」

 

霊覇が顔を上げた

そしてこちらを見た

 

互いの息が顔に当たる

 

これは…この光景は…

 

「なんだ?…退くぞ―――」

 

「へ、変態!」

 

「ぶべら!?」

 

恐らく、今まで言うことのなかった言葉を霊夢は叫んだ

顔は赤面し、俯いて表情はよく分からない

霊覇は何事かと立ち上がった

 

「な…何だお前…?」

 

「こ、ここここっちのセリフよ!

 アンタ…アンタ…私の…!」

 

「何だ?覆いかぶさった事は謝るが…」

 

「そうじゃない!」

 

霊覇は相変わらず首を傾げていた

そんな霊覇に霊夢は叫んだ

 

「私の胸触ったじゃない!」

 

「あれ腹だろ?」

 

「アンタデリカシーって知ってる?」

 

そのキョトンとした顔にキレそうだった

何が腹だろって阿呆、思い切り胸だわ

 

「…あ、やけに柔らかいと思ったが…」

 

霊覇もようやく事情を理解したらしい

 

「はー、女のソレなんていつぶりだか」

 

「は?アンタ女侍らせてたの?」

 

「彼女は居たさ…初めてはまだ持っているがね」

 

つまりとこまだ童貞ということである

それが霊夢を安心させ、落ち着きを取り戻した

彼がまだ持っているなら、私の初めても―――

 

「どうした」

 

「…なんでもないわ、ほら、傘」

 

「あぁ、それか…ありがとよ」

 

霊覇はそれを受け取ると部屋の中に入れた

 

「それと、少し休んでけ」

 

「汚れたわ、色々と」

 

「それも加味してな」

 

そういうと霊覇と霊夢は中に入っていった

 

 

「ふぅ…」

 

「…お前さん、結構際どい格好だな」

 

服は脱いで上半身は全裸に近い

胸を隠しているのはサラシのみだ

霊覇の迷彩ズボンを履いているおかげで軍人の様だ

なおそれは霊覇のズボンだ、本人は履かせたくなかったらしい

その証拠に無心でタバコを吸っている

 

「霊覇は全く気にしないじゃない」

 

「男だぞ、お前」

 

「別に良いわ、もしかして襲いたい?」

 

挑発的にサラシに人差し指を入れる

霊覇は少し目を伏せた後鼻で笑った

 

「は、なるかよ」

 

「ちぇっ…そうねぇ」

 

手を囲炉裏に当てる

 

「少し医者に行かないかしら?

 精神状態の確認がしたいし」

 

「ま、そうだな

 俺もそろそろ医者にあたりたいところだ」

 

そういうと霊覇は立ち上がる

霊夢はその挑発的な服装のまま外に出た

既に雨は晴れていた



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検査

要らない…だと…

まぁ次作でネタが無ければするかもしれませんが…

余程ネタが無ければ、ですね


「で、精神状態だけか?」

 

夜の幻想郷を駆けながら霊覇は質問する

 

「いえ、体調とかその辺よ」

 

どうやらこちらを気にかけているらしい

何故だろうか、何か変なところでもあったか?

 

「おかしな事でも?」

 

「勘よ、それだけ」

 

そういうと彼女は地上に向かった

目を凝らして見るとそこには竹林があった

 

「よっと」

 

「この竹林はなんだ?」

 

霊夢は竹林の中を進みながら答える

 

「侵入者を阻む為の結界、かしら」

 

「そうか、そんな所か」

 

「―――あ」

 

そこで霊夢は致命的な事に気づいた

というより何よりも致命的だ

 

―――この先に顔面の破壊神が居る

 

恐らく見れば死んでしまう程の破壊神が…

 

まぁ、会わなければ大丈夫だろう

霊夢はそう思うと霊覇の手を握る

少し霊覇の体が震えたが、小さな力で握ってくれた

 

「いい?離したらダメよ

 一瞬で離れ離れになるからね?」

 

「そうか、そりゃ離したらダメだな」

 

霊覇がそういうと共に霊夢は歩き出した

カサカサと竹林をかき分けながら進んでいく

あまりにも暗く、暗闇に慣れた目でも見えにくい

 

「…ライトを付けるか」

 

そういうと霊覇は懐中電灯を灯した

いきなりの光に霊夢が驚くが、止まらずに進んでいく

 

「確かこっちのはず…」

 

そうやってまた進んでいく

そんな2人に声が掛かった

 

「おいおい、ここで逢い引きか―――って霊夢?」

 

「あ、妹紅じゃない、丁度いいわね」

 

出てきたのは長髪銀髪のモンペ女だった

情報量が多いのはここの住民の基本なのだろうか

霊夢はどうやら彼女の事を知っているらしい

 

「そんな格好しているから分からなかったよ…お前は?」

 

最後に警戒の色が滲んだ

霊覇はM500のグリップを握ったまま答える

 

「霊覇、気桐霊覇だ」

 

「あぁ、あの霊覇ね、よろしく気桐

 私は藤原妹紅だ」

 

「霊覇でいいぞ妹紅、お前が案内人か?」

 

「ま、迷っているようだったしねぇ、案内してやるよ」

 

そういうと彼女は先頭に立って歩き始める

どうやら彼女もその亭の場所を知っているらしい

まぁ、そんなことはどうでもいいのだけれど

 

「お前、変わっているなぁ」

 

妹紅が歩きながら言う

霊覇はM500で辺りを警戒しながら聞く

 

「なんの事だ」

 

「何、私たちを見ても泡を吹かないってね」

 

「変な話だ、何をどうしたら吹くんだか」

 

「…」

 

妹紅は何も言わずに歩く

どうやら歩きながら思案しているようだった

 

「じゃあ、お前は?」

 

「私たちゃ…被害者かね?」

 

「知らねーよ、俺に聞くな」

 

霊覇はぶっきらぼうに答える

だが、その反応が妹紅にとっては嬉しかったようだ

 

「はは、いい反応だ

 いつもは逃げられるんでね」

 

「可哀想な奴だ」

 

霊覇はそういうとM500の引き金を引いた

派手な音を立てて竹に命中する

 

「…どうした?」

 

「何、さっきからちょこまかしている奴がいるんでね」

 

「…あぁ、あいつか」

 

妹紅は察した様だ

霊覇はそいつの怯えた顔をむんずと掴む

バタバタと暴れ始めた

 

「や、止めろー!食うなー!」

 

「今日は兎鍋か、美味そうだ」

 

「ひ、ひゃあああぁあああ!?」

 

嬉しさと恐怖の混じった叫び声がする

妹紅は面白そうに言う

 

「なんだてゐか食っていいぞ」

 

「よろこんで」

 

「ま、待て!話し合おう!」

 

「ほう」

 

霊覇は少しだけ力を緩める

代わりにM500を喉元に突きつけた

 

「言え」

 

「わ、私が案内してやるよ」

 

「案内人は2人も要らない、案内人は1人でいい」

 

そういうと引き金に掛けた人差し指の力を強める

妹紅がそれを止めた

 

「そいつを殺ったら後々面倒になる

 こいつは医者の仲間だからな」

 

「…はぁ」

 

霊覇はため息をつくとそいつを離した

瞬間そいつは一瞬でどこかに消えた

 

「頭脳で生きたタイプか、面倒な…」

 

「あいつ製の落とし穴もある、気をつけよう」

 

妹紅はそういうと先に歩き始める

霊覇は辺りを警戒しながら追従する、霊夢も同じだ

といっても霊夢はいつも通りの様子だったけど

 

「お前、よく襲われなかったな?」

 

霊夢に顔を向けずに妹紅が言う

彼女はあまり気にしていないようだ

興味無さげに答える

 

「ま、そんなバカは居ないものよ」

 

「そうか?そんな格好していたら襲いたくなる気がするが…」

 

霊夢はつまらなさそうに言う

 

「魅力が無いものねぇ…」

 

(挿絵追加予定)

 

霊覇は少しだけ顔を背ける

それを霊夢が見逃す筈が無かった

 

「どうしたのかしら」

 

上目遣いで霊覇を見る

霊覇は顔を背ける、さらに近づく

 

「ねぇ」

 

「どうした」

 

「なんで顔を背けるの?」

 

顔が息の触れ合うくらいに近づく

その息がお互い熱っぽかった

 

妹紅が申し訳なさそうに言う

 

「なぁ…着いたぞ」

 

「ほら、霊夢」

 

「…後は神社でね」

 

そういうと霊夢は歩いた

顔を上げるとそこには日本屋敷があった

木造の、外の世界では見たことがないくらい豪華だ

外の物は大体保護されているか焼けたかだ

 

「さて…入るか」

 

そういうと霊覇は2人に続いて入って行った

 




ちょっとこの霊夢の姿描いてみるか
画像を投稿するのが先になる気がしますが…


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医者

「豪華な旅館みたいだ」

 

山荘にある大きな旅館を思わせる内装

純和風で生成された本物の旅館と言うべきだろう

床と壁の感触もプラスチックではなく本物の木だ

恐らく、松とかの重厚な木を使っているのだろう

 

まぁ、どうでもいいけど

 

「いつも思うけど、こんな所に住みたいわねぇ」

 

霊夢がしげしげと内装を見る

いつも衣食住をしている神社よりずっと良い

出来るならばここに住みたくなるだほうが…

霊覇的には不安になるので神社の方を選ぶだろう

こんな所に招かれれば睡眠薬が食事に混じっていること間違い無し

 

「で、そいつは何処に居るんだ」

 

「永琳は…こっちだ」

 

永琳と言うのか、聞いたことの無い名前だ

にしてもこちらの女は名前と見た目中身が見合っている

外の奴らのように名前だけという事はあまり無さそうだ

妹紅について行くと、戸の前にたどり着いた

 

「ここか」

 

他と変わりない扉だ、本当に永琳が居るのだろうか

まぁ、居なければ居なけれで別にいい

 

ガチャりと扉を開けて中に入る

 

そこには銀髪の奇天烈な服装の女が居た

赤と青が強調されすぎな気がする、なんだあれ

 

「あら、お客さんかしら…」

 

こちらを見た

その顔は見た事がないくらいの美人

切れ目を見るに性格と外側が合っている感じがする

 

「妹紅?男を連れてきたのかしら?」

 

「いや、霊夢のだ…私は帰らせてもらう」

 

そういうと妹紅は部屋から出ていった

残されたのは霊覇と霊夢、永琳と呼ばれる人物だった

 

「…自己紹介を済ませよう」

 

「そうね、私は八意永琳、どうとでも呼んで」

 

 「気桐霊覇、霊覇と呼んでくれよ、ドクター」

 

霊覇はそういうと永琳と握手を交わした

…その、何かかなり力が強い気がしたが

 

「で、何かしら」

 

「彼をレントゲンやらの…まぁ健康診断ね」

 

「はいはい、分かったわ」

 

そういうと永琳は霊覇を見たままベッドを指す

 

「寝て頂戴」

 

「分かった、ドクター」

 

霊覇は言われた通りにベッドに寝る

永琳は点滴をベッドの隣に置く

 

―――そして間を置かずに首に注射器を突き刺した

 

霊覇は目を見開いた

暴れようとする頃には注射は完了し、抜かれていた

 

「何をする!?ドクター!?」

 

「貴方の振る舞いからして"こういうこと"に警戒心が高いと思ってね

 こうでもしないと注射はやらないでしょ?」

 

「―――謀ったな」

 

霊覇の意識は闇に消える

 

 

注射されたのは睡眠薬だ、害は無い

そんな永琳は注射器をゴミ箱に投げ捨て霊覇に向き直った

 

「で、レントゲンかしら」

 

「それだけよ、本当にそれだけ」

 

霊夢はそういう

永琳は再度質問する

 

「それだけでいいのね?」

 

「ええ、私はここに居るから…よろしくね」

 

そういうと彼女は霊覇の顔を眺め始めた

どうやら良くない夢を見ているようだ、顔が歪んでいる

眠りへの過程が良くなかったのだろうか…

 

「…」

 

永琳は黙々と作業を進める

霊覇を抱えると、レントゲン装置に寝かせる

 

「これで大丈夫ね」

 

そういうとポチリとボタンを押した

レントゲンはほぼ一瞬で終わり、永琳はまたベッドの上に霊覇を寝かせる

また、霊夢は霊覇の顔を見始めた

 

「…」

 

椅子に座り、PCに向き直る

カタカタと作業を続け、表示していく

透けた黒画像がプリントアウトされる

 

「これね…」

 

それを見た瞬間永琳が凍った

本当にぴしりと動かなくなったのだ

霊夢が不審に思って近づいた

 

「どうしたの」

 

「見てみて」

 

永琳が震える手でこちらに画像を渡す

それを受け取るとじっくり見る

 

「これは…」

 

その霊覇のレントゲン写真はおかしいものだった

人間のレントゲンは骨や皮などが映る

だが、ここでは霊力や妖力の血管のような物が映るのだ

付け足せばそこから溢れた物が霊力として使える

 

霊覇も同じように霊力の血管がある

 

それは良い、いいのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…何、これ」

 

上半身の喉から股間辺りまである"七支刀"は何なんだ

 

彼の体に刀がある

霊夢はその事に気づき、永琳に顔を向ける

 

「彼は刀を飲み込んだの?」

 

「いえ、それなら生活に支障が出てしまうわ」

 

それもそのはずだろう

こんな物が体内に"形として"あれば激痛を伴う

それに体を捻るなどの事も出来ないはずだ

 

彼はまるで体内に異物が無いかのように行動している

 

恐らく、これは今霊力になっている

 

その力が強すぎてこんなにくっきりと写っているのだ

霊覇の霊力のと似ているような感じはする

だが、彼は刀を持っていた、それとは違うのか

 

「…謎だらけの人間ね、貰っていいかしら?」

 

「ダメね、面倒になるし」

 

そういうと霊夢は霊覇を持ち上げ、歩き始める

永琳は少し残念そうにしていたが直ぐにPCに向き直った

 

「また来るわ」

 

「霊覇と一緒によろしくね」

 

霊夢は何も返さずに部屋を出た

木材の匂いが鼻に入ってくる

先程の部屋の空気が綺麗にされていたのか、いつも以上に入る

少し顔を顰めたのち霊夢は出口を目指した

 

 

「…はぁ」

 

"やはり"辿り着けない

いつまで歩いても、何処まで行っても出口に行けない

先程から景色が変わっていない気がする

なんだろう、物凄く面倒なんですがそれは

 

思っていた通り―――

 

「邪魔、しないでくれる?」

 

「嫌ね、私は帰す気ないわよ」

 

そこに居るのは…最凶の女

その顔は全てを失禁させ、昏倒する程の破壊力を持つ

彼女の命は薬によって永遠となり、死ぬ事は無い

 

―――蓬莱山輝夜

 

霊夢はそれに歯ぎしりしながら耐える

 

「面倒ね、退きなさいよ」

 

「男なんて何時ぶりだか…だからこそ帰す気はないわ」

 

輝夜は笑いながらそう言う

どうやら帰す気は本当に無いらしい

 

ならば―――

 

「押し通る」

 

「来なさい」



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「―――」

 

酷く頭が痛い

肌寒い空気が肌を撫でる

ドクターに薬を打たれてから記憶が無い

どれほど強力な麻酔だったんだ

視界には草木が映っていた

体を起こし、辺りを確認する

 

「起きた?」

 

そこにはサラシ姿の霊夢が居た

焚き木に木をくべている

 

「…何があった?」

 

「何?」

 

「体をよく見てみろよ」

 

彼女の体は傷だらけだった

殴打されたと思われる傷が多くても5個くらいある

何に襲われたのだろうか

 

「問題無いわ、少し手こずっただけよ」

 

「どんな妖怪だったんだよ、それ」

 

霊夢をここまで追い込めるなんて、凄い奴も居たもんだ

個人的、ここまでやれる妖怪が居るとはあまり思えないが

 

「ま、いいさ」

 

ホルスターからM500を取り出す

 

「十分に寝た、行くぞ」

 

「何処に」

 

「家だ、借家だがな」

 

腰を上げ、黒い影となっている妖怪の山を見る

あそこの麓に己の借家はある

 

「危ないわよ」

 

「このくらいいつもの事だ」

 

「私が、心配なの」

 

霊夢は頭のリボンを弄りながらそういった

霊覇は少しも気にする事は無かった

シリンダーをスリングアウトし、弾丸を込める

五十口径の人差し指くらいの太さもある弾丸

この破壊力は結構好きだ、オートマチックは好きじゃない

 

ロマンが無いのだ

 

「俺は大丈夫だ」

 

そう言って立ち上がる

だが、ドクターの麻酔が余程強力だったのだろう

立ちくらみが起こり、倒れそうになる

 

「ほら、言ったでしょ」

 

霊夢が肩を支え、倒れるのを防ぐ

精神的な嫌悪と突き飛ばしそうになる衝動を抑えながら口を開く

 

「ありがとよ、借りが出来ちまったな」

 

「今夜は私の所に来なさい」

 

「迷惑かけるぞ」

 

霊夢は頷くと霊覇を背負って飛ぶ

そのまま、2人は帰路についたのだった

 

 

奇妙な感覚だ

女に背負われるという感覚は、奇妙だ

仲間の男を抱えたり持ち上げて移動させた事は多々ある

だが、逆に移動させられたことは無い

 

特に言えば、女にだ

 

奴らは基本担架等で運ぶ

何度も俺たちが脱走したのを反省したからだろう

 

ここでは、俺は抵抗する意味が無い

 

「ねぇ、どんな感じよ、今」

 

霊夢がふとそんなことを聞いてきた

俺は上記と同じことを言う

 

「奇妙だな、俺は奇妙に思っている」

 

「奇遇ね、私もよ」

 

霊夢は男に触れたくても触れることの出来なかった女

外の女は捕まえれば幾らでも触れることが出来る

 

…何が違う?

 

心だ、汚さだ

 

子孫を繁栄させるという目的の為に動く

 

種の保存のためにその生を使う

 

霊夢は、純粋な男の愛情が欲しいのだろう

 

今の今まで、そんな感情に当てられた事が無いのだろう

 

「俺達は似た者同士か?」

 

「そうかもね、そうであって欲しいわね」

 

そういう彼女なスンとした顔だ

…多分そう、声がそんな感じだったから

 

「…綺麗だな」

 

「そうね、あなたにとっては新鮮かしら」

 

見下ろすと、幻想郷の夜景が広がっている

こういった電気の無い夜景もかなり良いものだ

妖怪の山も、どこかしら明るく感じる

そこの麓…主に川の辺りから、だがな

 

「俺はいい所に来たみたいだ」

 

「それは良かったわね」

 

昔のような"仕事"をしなくていいのはとてもいい

血が服に着くのはいつもの事、切り傷ですめばマシ

部下も死んだか捕まったかのどっちかだ

 

まぁ、死んだ方がマシか

 

 

「ほら、着いたわよ」

 

「ありがとよ」

 

俺は彼女の背中から降りる

少し足を捻りそうになった

痛みを抑えながら歩き出す

 

「靴は脱いで、揃えときなさい」

 

「当たり前だろ」

 

霊夢と霊覇は本殿の中に入る

といっても生活スペースのある方だが

これといって変化は無い

釜戸のある台所以外は普通の和室だ

いつの間にやら、1つの布団が敷かれていた

 

「…そうだった」

 

霊夢はそこで何かに気づいたようだ

 

「私、布団1つしか持ってなかったわ」

 

「そうか、じゃあ俺は畳で寝よう」

 

「ちょっと待って」

 

霊夢は横になろうとしている霊覇を止める

霊覇は胡座をかく

 

「一緒に入りましょう?そしたら暖かいでしょう?」

 

「この寒さじゃ寝たら風邪を引く…か」

 

このまま頑固に寝て、風邪をひいて看病されるか

それとも一緒に寝て凄まじい地獄の空気を味わうか

 

「…分かった」

 

霊夢はその答えにニッコリと笑うと布団に入る

霊覇は横から潜るように入った

 

「…暑いな」

 

「これだけ近いとね」

 

霊夢の吐息が顔に当たる

距離が如何せん近い、顔が目の前だ

どこかしら、赤く見えるのは気の所為だろうか

 

「…眠くなってくるな」

 

あれだけ寝たのに、寝足りない

どうやら思った以上に疲れているようだ

 

「…おやすみ」

 

霊夢はそう呟く

それをトリガーのようにして、意識は溶けた

 

 

「…可愛い」

 

目の前で、穏やかに眠る顔

それが何よりも嬉しかった

彼の家でよく見るのは魘される顔

ここはやっぱり、幻想郷の要だから

 

少しは良い夢が見れるのかもしれない

 

「…ふふ」

 

その頭は少し撫でる

ビクッと震えたが、起きることは無かった

 

「このままでいたいわね」

 

その寝顔を見ながらそう思った



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思い

遅れてすまぬす


「…」

 

目を開けると知らない天井があった

あの本部の白い病室ではない

それよりももっと古い木目が視界にあった

 

「あ、起きた」

 

「…あぁ」

 

その声で目が覚める

ここは博麗神社、幻想郷の要…らしい

視界を動かすと霊夢がすぐ側に膝立ちになっていた

 

「寝坊か?お前よりは早起きだと思うが」

 

「そうね、今は昼前位よ」

 

「…は」

 

嘘だと思って視線を外に向ける

お天道様は既にほぼ真上に移動しているらしい

 

かなり、長く寝ていたようだった

 

「こりゃ情けないねぇ」

 

俺は体を起こす

霊夢が面白そうに笑う

 

「あなたでも寝坊する事があるのね」

 

「意外か?」

 

霊覇はそんな事か、と言う感じで尋ねる

霊夢は少し笑って言う

 

「あなたなら、きっちり起きると思ったのだけど」

 

「俺とて万能では無いさ、寝坊くらいする」

 

「結構、可愛い顔するのね」

 

霊覇は軽く笑うと立ち上がる

そしてグイっと背伸びをした

 

「少し朝の散歩でもするかね」

 

「その前に朝食でしょ」

 

霊夢が呆れたように言うと、障子に向かう

そして開けて、こちらを見た後歩いて行った

 

どうやら、着いてこいと言うことらしい

 

「…はぁ」

 

軽くため息をついて歩き始める

何処で手に入れたか忘れた黒刀とM500を取る

寝る時に脱いでいたミリタリージャケットもだ

 

ちなみに彼女は既にいつもの服装になっていた

 

霊覇のズボンも綺麗に布団の横に畳まれている

ジャケットを着て、ズボンを履き替える

脱いだズボンを持って彼女について行く

 

「幻想郷には慣れたかしら」

 

「ぼちぼち、天狗とかやらの面倒事はあっても、快適だな」

 

以前の暮らしよりは断然マシ、と付け加える

 

「天狗との面倒事?」

 

「いやなに自分の住処が天狗の縄張りを若干犯しているとかで…」

 

「まぁ彼処は保守的だからねぇ、分からないことは無いわ」

 

霊夢はしみじみと言う

 

「何だかんだ技術は提供してもらってるがな」

 

「それは良かったわね、それとご飯は出来ているわ」

 

霊夢は一室に入る

そこにはちゃぶ台が置かれてある

その上には鮭の塩焼きと味噌汁、ご飯が二人前あった

湯気を立ててとても美味しそうだ

 

見ているだけで腹が減る

 

「見てないで食べたら?」

 

霊夢が座る

霊覇も向かい合うように座る

正座で食べるというのもキツいものだ

 

手を合わして2人で合掌する

 

「「頂きます」」

 

そこからはご飯が美味しかった事しか覚えていない

途中正座がキツくなって足を崩した

特に何も言われなかったので何も問題無い

 

「こいつは美味い、お前さん練習でもしてたか?」

 

「いえ?そんな事はしてないわ、私本来の力よ」

 

「そら…家事が出来る奴はいいな」

 

霊覇はポツリと呟く

霊夢は嬉しそうに笑う

 

「…ありがとう」

 

「…?どうも」

 

そう言い終わると同時に2人は食べ終わっていた

 

「ごちそうさん」

 

「ご馳走様、これからどうするの」

 

霊夢の質問に霊覇は少し考える素振りをする

 

「帰らせてもらう、長居をする気は無い」

 

霊覇はそう言うと立ち上がる

荷物を持って出ていこうとする霊覇を霊夢は止める

 

「ちょっと待って」

 

霊夢はそういうと棚から御守りを取り出し、こちらに投げた

それを手で掴み取る

 

「これは…」

 

「せめてもの気遣いよ、持っておきなさい」

 

「ありがとよ」

 

そういうと霊覇は境内の靴を履き直して、飛ぶ

行先は己の家だ、結構開けていた気がする

 

そうでもないか

 

 

「…行っちゃった、あーあ、行っちゃった」

 

私はため息をつくかのように言う

実際、自分は行って欲しくなかった

 

もっと

 

もっと此処にいてほしかった

 

彼の言葉のあたかかみが好きだ

 

彼のその澄んだ瞳が好きだ

 

私は本当に彼が好きだ

 

私は彼が好き…すきすきすきすきすき、他の事が考えられないくらい

こんな感情、今まで出たことも無い!

 

外の世界の路地裏で兄といた時もこんな感情は無かった

 

いや、少しはあったのだろうが生きるので精一杯で分からなかった

あのまだ希望を持っていた瞳を見て、諦めた方が良いと笑った

ダサいと何回も言った

 

でも、兄は諦めなかった

 

そしてあのスキマに連れられてここに居る

 

また、兄に会いたいな

 

あぁ、また心が疼いてきた

 

体も、興奮してきた

 

少し、落ち着かないと

 

私は自分の部屋に行って、布団を敷く

そのまま、布団の中に潜り込んだ

 

 

霊夢の赤いスカートが宙に舞う

 

更に暑いと思ったのか、着ている物全て脱ぎ捨てられた

布団はモゾモゾと止まることを知らずに動く

 

嗅げば顔をムッとさせるような匂いを外に出しながら

 

永遠に



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変な落し物

家についた後、武器の整備を始める

シリンダーにOILをさしながら刀を抜く

その刀身は焼き焦げた様に黒い、というか焦げている

いつの間にやら手に入れた代物だ

 

いつかの博物館に展示されていた物を盗んだ

 

その見た目に相反してかなりの切れ味に目をつけたのだ

なお、それが幻想郷由来と気づいたのはつい最近のことである

どこで気づいたか、それは刃の根元に刻まれた名

 

そこに、博麗凛と書かれていたのだ

 

その後、刀を死に物狂いで洗った

その黒い汚れは意外と簡単に落ちた

 

そこには、ダマスカス鋼の様な模様があったのだ

 

しかも、蠢いていて、気持ち悪い

 

思わず鞘に納刀したのを覚えている

次の日、刃を確認すると、焼き焦げていた

 

焼いた覚えは無い

 

焼かれた覚えも無い

 

何か、怨念でも憑いているのか

 

まぁ、使えれば何でもいい

 

黒刀を鞘に戻す

そして横に置いた

M500の状態はかなり良い

良好なのを確認してホルスターに戻す

 

「あぁー…」

 

くいと背伸びをする

結構、寒い、痛い

冬とは行かないが、かなり寒い

刺すような寒さから逃げるように囲炉裏に火をつける

 

「温まるねぇ…」

 

コキリと首を動かす

なんつったて、体が硬い

このままだと柔軟運動もろくに出来やしないだろう

そう思い、散歩くらいはしようと立ち上がる

 

 

森は今日もささやかだ

鳥は歌い、花は咲き誇った、綺麗な森

 

だが、命の危険が外の世界より高い

 

そんな危険な所を歩いていた時だった

 

「…?」

 

視界の隅に光る物があった

石の反射か、と思えばそういう訳でも無いようだ

近づいて目を凝らして見ると…それは

 

「…これは」

 

透明な丸水晶に数珠の様な土台

上には屋根のような物が着いている

それだけならただの高そうな置物だ

 

だが…そうは思えない

 

丸水晶はただ透明なだけでは無く、光り輝いている

かなり神々しい光だ、平服しそうになる…

 

「訳が無いがな、HAHAHA」

 

それを手で掴み、持ち上げる

特に、手が痺れるとか灰となるとかは無かった

 

人を選ぶとかそういう訳でも無いらしい

 

「…帰ろう」

 

そう思い、歩き始めた

少し、嫌な予感がしたのだ、こういう物があるのは

個人的にこんな物が道端に落ちているはずが無いのだ

左手で持ちながら、辺りを警戒する

 

「…」

 

空に気配

何やら長い棒を2本持っている様だ

友好的かはどうかとして、降りてきたソレに銃を構える

 

「何だ、お前」

 

そいつはミッのような耳がある

腰からは細い尻尾が伸びている

白のスカート、灰色の服

 

そいつは左手のソレを指指す

 

「ソレを返してくれないか?」

 

 

「まぁぁぁーた無くしたってぇぇぇー!?」

 

「えぇ、そう…ナンデス」

 

ある虎柄の少女がミッネズミ少女に怒鳴られていた

虎柄の少女の名は寅丸星

毘沙門天の弟子である妖怪だ

 

その偉大な弟子をゲンコツと共に説教しているネズミ少女

彼女の名はナズーリン、妖怪だ

毘沙門天の弟子である星の目付き役をしている

 

ちなみに怒鳴っている理由は星が宝塔を無くしたからである

 

「あれが無いと聖が…!あぁぁぁー!何でこんな時に!」

 

「と、兎も角探さないと!」

 

「…どうせ私任せでしょう、ご主人」

 

「ど、どうか…!」

 

ナズーリンははぁと溜息をつくと、ダウジングロッドを持つ面倒だが、探しに行くしかない

 

…もう、面倒だ…

 

私は星蓮船…この空飛ぶ船の中で思った

 

 

「…ここら辺かね?」

 

ダウジングロッドを平行にして、飛んで探す

今いる真下から、ビリビリと伝わる

ロッドがかなり揺れているのが見てわかる

 

「誰かが拾ってなきゃいいけどねぇ…」

 

そう思って、森に降りる

ちなみにこう願った場合、なるのが世の摂理である

 

そこには、ミリタリージャケットを着た 男が居た

いち早くこちらに気づいたのか、鉄の筒を向けている

確かあれは銃だったか、そう簡単には渡してくれないらしい

 

「何だ、お前」

 

その目はかなり冷たいものだった

…なによりその人間が男なのが驚いた

 

この幻想郷にこんな男が居たのか

 

…それより

 

「ソレを返してくれないか?」

 

私は彼の左手にある宝塔を指差して言った

 

 

「暇ねー」

 

空を見ながらそう言う

今日の空はどうやら雲がかなり多いらしい

その隙間から青い空がよく見えている

 

「分かりますよーそれ」

 

「アンタは何でここに居るのよ…」

 

私の横には私の2Pカラーが居た

まぁ原作絵が色と見た目若干変えただけだからこう言われるのも仕方ない

いきなり喧嘩をふっかけてきた守矢の巫女である

 

「ここに居たら霊覇に会える気がしてですねぇー

 …居ないっぽいですけど」

 

「帰ったんでしょ」

 

そうたべっていると、空が暗くなった

 

「うん?」

 

上を見ると、雲の隙間が埋まっていた

そこにあるは木船の船底だろうか

 

「…面倒な事になったわねぇ…」

 

そういうと、3人は飛ぶ

ちなみに1人は魔理沙だ、寝てた

霊夢に大幣で叩かれた後起きたのだ



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戦闘

「返して欲しい?何故」

 

「それは私達の物だからだよ」

 

「…成程、味方が居るのか」

 

俺は背中から刀を抜き、構える

宝塔とやらはポッケに仕舞った

相変わらず便利なポッケだ、何でも入る

 

「さてまぁ、返す義理もないからな

 俺はお前を知らない、それだけで戦闘の理由は十分だ」

 

カチリ、とM500のハンマーを起こす

そいつはあからさまに嫌そうな顔している

 

「私ゃ戦いは得意じゃないんだ…」

 

「んじゃあトットコ帰るんだな」

 

空を飛びし帆船を刀で指しながら言う

だが、彼女は目をぱちくりさせるだけだ

 

「何だい、私があれに乗ってたとでも」

 

「お前を今日に至るまで見たことが無いんで…な!」

 

刀を振る

だが、それは避けるのが簡単だったのか当たらない

ネズミ女はへらへらとしている

 

…頭が良く、ずる賢い奴の特徴だ

 

常に笑顔を作り、相手から情報を聞き出そうとする

因みにこのタイプの1番の被害者は善良な性格である

 

竹林に居たてゐと同じ感じか

 

「…っと、来たみたいだ」

 

「…チっ」

 

上から虎柄の女が降りてきた

尻尾も虎のそれ、右手に槍を持ってる

それを見るだけで、手に力が入る

 

「こんにちは」

 

「よぉ、随分と忙しそうだな、お前さん」

 

ゆったりと、しかし力強い声が聞こえる

なるべく余裕を保って返事をする

ちなみに適当では無くちゃんと相手の顔でそう言おうと判断した

その目が俺のポッケから動かないからである

 

「何だ、俺のジョークでも欲しいのか?」

 

「貴方のポケットにある宝塔…返して頂きたい」

 

「これか?」

 

俺はポケットから素直に宝塔を取り出す

代わりに左のM500をホルスターに仕舞った

それを見た瞬間、虎柄が固まった

 

「な…ありえ…ない」

 

「ご、ご主人?」

 

ネズミ少女も困惑している

俺は特に動じる事は無い

 

「確かに悪意が無いならば持つ事は出来る…だが…!」

 

虎柄はどうやら想定外の事に面食らっているらしい

何に面食らっているのか…

俺は右の黒刀をクルクルと回した

 

「その光は…!宝塔の力が使える者が持たなければ!出ない!」

 

「!?」

 

ナズーリンは俺を見る

どういう事かは分からない

だが、今の発言で分かったことは…

 

 

俺は、この宝塔を扱える

 

 

それが、何故か分かった

 

初めて触った

 

初めて見た

 

それなのに、扱う事が出来るという自信がある

 

「ヘッヘッヘッ…」

 

不思議と、笑いが込み上げてくる

そして俺は宝塔を大きく掲げた

 

「行くぞ!」

 

瞬間、宝塔から激しい光が辺りを包む

眩しくない、逆に心地の良い光だ

 

その光がようやく収まった

 

「どうして…!どうして貴方が宝塔の力を…!」

 

「さてな、使えるもんは使うだけだ」

 

そのまま、言葉を続ける

 

「光よ」

 

辺りを淡い光が包み込む

そして俺は、刀を振りかぶる

 

 

その、法力で覆われた黒刀を

 

 

「…何これ」

 

「UFOですよ!UFO!未確認飛行物体!」

 

霊夢はとある物体を手にしていた

それは円盤型の飛行物…つまりUFOだった

色は銀では無く、赤

 

…なんか違う気がする

 

「変な物ねぇ」

 

それを下から、上から視線で舐め回す

金にはならなさそうだ

 

「…?あれもじゃない?」

 

「ほ、本当だ!全部取っちゃいましょう!」

 

そのまま、UFOを取り続ける

動きが変則的だが、追いつけない訳では無い

次々と未確認飛行物体を捕まえていく

 

「こりゃ面白いな、コレクションに加えるか」

 

「魔力の欠片も感じないわ…何これ」

 

魔理沙が指先でUFOを弄る

霊夢は霊力とも妖力とも違う何かを不思議に思っている

 

「大体集めましたけどぉ…何なんでしょう、これ」

 

今の今までこんな物が幻想郷を飛び回った所を見ていない

見たならば好奇心旺盛な天狗が新聞にしているはずだ

 

「むぅ…」

 

 

 

 

 

 

 

そうやって、首を傾げていると…

 

 

「よう」

 

声が聞こえた

霊夢はその声が誰のものか直ぐに分かった

 

「霊覇?何で…」

 

殺気

 

大幣を振り向きざまに振る

それは霊覇が振った刀とぶつかり、火花を発した

 

霊夢は彼の目をよく見る

 

狂気にも、殺意にも支配されてないいつもの目

 

「…どういうことかしら」

 

「ソイツを渡してもらいたくてね」

 

魔理沙が持っているUFOに目を向ける

 

「何か用でも?」

 

「へへ、少しな」

 

魔理沙はUFOを魔法で宙に括る

早苗も持っていたそれを魔理沙に渡し、括った

 

「実を言えばそれを欲しがっている奴からの依頼でな」

 

「アンタが素直に人のいうことを聞くとはね」

 

霊夢は少し意外そうに言う

彼が他人に影響されるとは思わなかった

いや、命令に従うというか

 

「何、価値があっただけだよ」

 

「戦わないといけないのですか…?」

 

「邪魔をするなら、容赦はしない」

 

霊覇は擦りあったままの刀を思い切り振り払う

ホルスターからM500を抜き、左手で構える

 

余裕そうに、煙を吹かしながら

 

「いいねぇ、やってやろうじゃないか」

 

魔理沙か八卦炉を構える

霊夢は少し面倒くさいようだ

 

「あまり戦いたくないけど、仕方ないわ」

 

彼の強さはよく知っている

彼も殺すまではいかないだろう

 

そうおもいながら攻撃を始めたも




もレもレ!


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GAN FIGHT

※ただしきんせつ


まず後ろ側に居る魔理沙を撃つ

それを避けられたのを見た後霊夢に攻撃を仕掛ける

 

(…さて、弾薬は持つかね)

 

霊夢は弾幕を放ち、近づけないようにする

それを掻い潜りながら接近する

 

作戦を立てなければならない

 

霊夢を攻撃しながら霊覇は考える

 

現在の敵は霊夢と魔理沙

早苗はオロオロしているので、気にしなくてもいいだろう

最初にダウンさせるべきなのは霊夢

魔理沙はその次だ

 

霊夢がどれだけ脅威なのか分かっているつもりだ

エイム、勘、頭の回転、強さ、どれも常識では無い

この幻想郷を守るような存在だからか?

 

まぁ、今は敵な訳だが

 

「余所見と考え事は厳禁って知らないかしら」

 

「さぁ?俺のところでは厳禁だったな」

 

刀を振る

霊夢も大幣を刀のように扱う

それってそんな振るものとは思えないけどな、うん

 

それに、当たる訳が無い

 

火花を散らしながら弾く、弾く

 

「…」

「じゃ、邪魔をしないでくれ!撃てない!」

 

魔理沙に時々発砲するのも忘れない

というか、あの弾幕だと霊夢を巻き込む危険もある

多分よけれるだろうが…分からないな

 

霊夢は針を飛ばしてきた

 

退魔の力が宿された針、あの時腕に刺さったのもこれだ

人間にはあれだが、妖怪なら刺さった部位が動かなくなる

霊力か、封力かなんかで神経やらを止めているのだろうか

 

妖怪の構造なんて知ったことではないが

 

俺は、刀をふりながらここまでの事を思い出した

 

 

「ふん」

 

「ぐっ…重い…ッ!」

 

振り下ろされた刀は思い切り槍にぶち当たる

虎っぽいから虎の妖怪だろうか

それなりの力で押し返される

 

少し後ろに下がる

 

「ッ…貴方本当に人ですか?

 人化しているだけの仏とかでは無いでしょうね…」

 

「俺が神だった事は無いな

 人、何回も外で殺める必要があったし」

 

殺した、という決定的な言葉は避ける

今外の世界の現状を知るものは多いとは思う

 

だが、こいつらは新参…と思う

 

知っていれば、記憶に残るだろう

この世界、記憶に残らない奴の方が少ない

 

「…違うようですね」

 

「アンタも人を1人くらい殺めた事はあるだろ

 見たところ妖怪…いや、違うな…なんなんだ、アンタ」

 

よくよく見ると、そいつは妖怪では無いように感じる

妖力では無い、何か違う力を宿しているような

 

「…元、妖怪ってところか」

 

「…そんなところですね」

 

…これ、俺に危害を加える奴じゃないんじゃないか?

俺が変に誤解して、攻撃しただけじゃないか?

 

…はぁー

 

俺は構えを解いた

そして、刀を鞘に納刀する

 

「まぁ、返してやるよ」

 

「…貴方は不器用ですね」

 

どうやら察してくれたようだ

俺はへへと笑いながら宝塔を投げる

 

「目的だけ聞くぜ」

 

虎柄はそれを手でキャッチする

 

「そうですね、恩人を解放する、という感じです」

 

「そうかい…アンタ名前は」

 

俺は少し、罪滅ぼしをしてやるかと思った

そいつは少し間を開けて言う

 

「私は寅丸星、毘沙門天の弟子です」

 

「へぇ、毘沙門天の…そうだな

 迷惑料だ、何か手伝うよ」

 

俺はそういうと、彼女は少し喜んだ様子だった

 

「ご厚意、感謝します…そうですね

 とある物を集めて欲しいのですが」

 

そういうと、横のナズーリンが木の破片を取り出した

それはどうやら帆船の…木造船のものらしい

 

「これだよ、地上に出る時破損してね」

 

「これが色んなところに飛んでるってか

 分かった、集めてこよう…どこで集合する」

 

ナズーリンは空を指さした

そこには、大きな木造船が浮遊していた

 

「あれだね、船長には話を通しておくよ」

 

「頼む、部外者呼ばわりは勘弁だからな」

 

俺はそういうと、空を飛んだ

少し迷惑をかけてしまったが、そのくらい簡単な話だ

 

直ぐに集めてやる

 

 

と、意気込んだ結果がこれであります

 

確かに浮遊する木造船なんて異変…異変か、これ

俺からしたら恩人を解放させようとしてる邪魔をしてるようにしか…

 

そう思っていると、いつの間にやら船が近くに来ていた

 

俺は破片に目を移す

 

ナズーリンがそっ〜と盗っている途中だ

どうやら、魔理沙の魔法が面倒な様だ

 

少し、手伝うか

 

こちらに八卦炉を向けようとする魔理沙のついでに照準を定める

まず、魔理沙の頬に1発を掠らせる

その後に括りつけてある魔法をもう1発でぶち壊した

 

「…魔理沙にゾッコンでもしてるのかしら」

 

「動かれると面倒なのさ」

 

俺はそういうと、場所を変える

ナズーリンは目で感謝を伝えると、船に飛ぶ

これで、俺の仕事は終わった

 

そこで、霊夢は船に気付く

 

「あら、元凶から来てくれるなんて…」

 

「…今だ」

 

俺は静かに呟いた

瞬間、緑色の弾幕が霊夢を包み込む

 

 

 

 

 

 

弾幕を放ったのは、早苗だった

 

「あ…えっーと…えぇ…」

 

「…俺そっちに言ったんじゃ無いんだよな」

 

俺は少し溜息をつきながら言う

本当はあの船から砲撃を放つ予定だったのだ

 

だがまぁ、良い誤算だろう

 

「行くぞ!」

 

「ええっ!?ちょ、あ、あの!?」

 

早苗の腕を引っ張って船に向かう

乗りかかった船だ、最後まで乗ってもらおう

それに、今残ったら霊夢に殺される

 

俺はそう思いながら、刀を仕舞う

そして、M500をリロードした



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貴方は

甲板に着地する

デッキは思ったよりも綺麗に磨かれている

大航海時代の海賊船…とは少し違う

船底の横辺りにオールが突き出ている

この船はどうやら不思議な力で動いているらしい

 

「やぁ、ありがとう」

 

「ナズーリン」

 

俺は声のした方向に目を移す

どうやら修理は完了したらしい、少し埃が付いている

 

「これで何時でも行けるよ」

 

「早めに行った方がいい、直ぐに来るぞ」

 

俺はそう言った

だが、どうやら紹介したい人が居るらしい

彼女の後ろから、水兵の服を着た女が出た

 

「こんにちは、どうやら助けてもらったご様子で」

 

「俺は迷惑料を払ってるだけだ、気にしなくていい」

 

「そうですか…私は村紗水蜜、キャプテン村紗とでも」

 

村紗は海軍式の敬礼をする

俺は村紗に陸軍式の敬礼を返しながら

 

「気桐霊覇、軍曹だ…よろしくなキャプテン」

 

「よろしくお願いします、軍曹」

 

そういうと、彼女は舵を取り始めた

いや、舵を取り始めたというより、その場に立った?

どうやら彼女はこの船を操れるらしい

 

「私は船幽霊なので、船幽霊はご存知でしょう?」

 

「ああ、柄杓を今度投げ入れてやるよ、底が無いやつをな」

 

船幽霊というのは大体海で死んだ奴である

戦争か嵐で船と運命を共にした奴らが大概だ

海に出ると、引きずり込まれたりする

船に乗っている人に柄杓を強請るのも恒例だ

 

因みに与えると船に水を入れまくる

 

俺が言ったのはそれの対処方だ

…それって船に水が溜まった時用のもあるのか?

 

面倒だな

 

にしても慣れたもんだ

 

「それで今から何処に行くんだ?」

 

「法界って所です」

 

「何処ですか?それ」

 

「何か…法力で包まれた空間です」

 

…成程、取り敢えず分からないのは分かった

恐らくその法界に恩人が居るのだろう

 

「その通りですね」

 

「ああ、そうだった、聞いていないことがあったんだった」

 

俺はふと思い出した事を口にした

村紗は不思議な顔をしていた

 

「何でしょう?」

 

「アンタ達の恩人の名前、挨拶しないといけないからな」

 

「ああ、彼女の名前ですか」

 

船の先端に金色の輪っかが出現する

それは段々と大きくなり、船が通れるくらいの大きさになる

村紗は行け!という風に輪に向けて指を指す

 

そして、そのまま言う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「聖白蓮、妖怪と人間の調和を夢見る恩人です」

 

 

 

「痛いわねぇ…もう」

 

早苗の攻撃を食らった霊夢は無傷だった

霊覇が今だと言った時に結界を貼ったのだ

それにより、弾幕はほぼ全て無効化された

ほぼ、なので数発被弾した

 

だが、本当の攻撃だったら結界が破壊されていた危険がある

 

あの船から異様な力を感じたからだ

恐らく、元は弾幕で吹っ飛ばすつもりだったのだろう

 

それでなくて良かったか

 

「ちくしょー先を越されちまったか…」

 

「今のところは仕方ないわね」

 

渡航手段は無い訳では無い

紫をぶっ飛ばしてスキマを使えば良い

 

といえど、行ったとして意味があるか

 

このまま追撃すれば、敵が増える可能性がある

 

となれば、後はアレだけだ

 

「待ち伏せか?待つの嫌いなんだが…」

 

「しょうが無いわ、諦めなさい」

 

ブーブー魔理沙は言ってる

全く、この火力バカは…

 

仕方ない、少し待つことにするかしら

 

 

船は飛んだ

幻想郷という現世から法界へ

 

辺りが真っ白になったかと思えば真っ暗に

 

けばけばしいネオンに包まれたかと思えば暖かい緑に

 

どうやらコイツは落ち着きが無いらしい

見てわかる、どうせ暇な時貧乏ゆすりしてる奴だ

これを見ていると落ち着かない

M500を無意識にホルスターから取り出す

 

「…」

 

「わぁー…何だか、凄いですね」

 

確か、何かの映画でこんなのがあった気がする

パイロットがエイリアンに機体ごと乗っ取られた…

なんだっけ、近い日に完結していたような

 

…アニメだっけ

 

まぁ、どうでもいいか

休暇中に見ただけだ、ハッキリとは覚えていない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、思っていると到着したらしい

 

 

そこは、荒野だった

 

下に見える大地は荒れ果て、腐っている

法界と聞いて、神聖なイメージがあったが違うらしい

どうやら幻想郷の法界はダクソ寄りのようだ

 

「…目的地に着いたが?」

 

「聖を封印している陣がある筈」

 

星は端的にそう言った

成程、だったらとっとこ探すか

俺はM500のスナイパースコープを望遠鏡代わりに使う

 

「…」

 

そもそも、ここはこんな荒野だ

 

故に、その魔法陣を探す事は容易である

 

「あれだな」

 

1つ、光を放っている物体があった

 

それは、異様な輝きをこの法界で放っている

見間違えようがない、あれだ

 

「聖…」

 

甲板の上にそれが浮く

見たところ、結晶の中に女が閉じ込められている

黒と白の服装に金色の髪…毛先から紫色になっている

なんとも表現しにくい人だ、人?

 

俺としては、人とは思えないが

 

「で、こいつをどうやって解放するんだ」

 

「この宝塔を…」

 

星が宝塔を掲げた

すると、その水晶玉の様なものから七色の光が溢れる

 

「わぁ…」

 

七色の、7個の玉が飛び出る

それは人魂のように結晶の回りをグルグルとした後、ぶつかる

強い衝撃のお陰か、結晶が思い切り砕けた

 

…これ力技でいけたんじゃね?

 

そして、その恩人とやらが舞い降りる

 

「…ここは」

 

そいつは、甲板に降り立ち目を開けて言う

 

「聖ッ!」

 

俺は星や村紗達の熱い抱擁を予想して、出来る限りの優しい笑みをする

…聖は目を見開いて、抱きついた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「命蓮…ッ!」

 

俺に




作者「どういうこっちゃねん」

現在進行形で物語が変わってくぜ()
なんで?


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生まれ変わり

暗闇

 

暗闇

 

暗闇

 

見えるのはそれだけで、他は何も無い

やる事が無くて、ずっと何かを書いていた

見れば、法力のナニか

 

私は、何を考えていたのだろう

 

あの封印された日からずっと、何を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ、命蓮だ

 

死に別れた彼の事を考えていた

私に、人と妖怪が一緒に暮らす未来を想像させた、弟

どんなに心配しても旅に出て、傷が増えて帰ってくる

 

『大丈夫だよ、僕は大丈夫だから』

 

そう言いながら、何度も旅に出た

戻ってきた時に法力を教えて貰ったりして

いつの時にか、飛ぶ船、星蓮船を作ったり

誇りに思う、弟だった

 

でも、死んだ

 

突然、死んだ

 

若くて、まだ長く生きれたのに

いくら揺らしても動かない体

 

それから、死が怖くなった

 

その全てに平等に降りかかる死が

 

だから、"こうした"

 

鍛錬を積んで、魔女になった

命は不死に変わった

 

…あぁ、懐かしい光

 

これは、確か…星の宝塔だった…

 

そう思っていると、不意に浮遊感が無くなる

 

「ここは…」

 

心の中で聞く声が口から出る

そこは、法界だった

いつのときにか、封印された時の

 

「聖ッ!」

 

いや、星蓮船の甲板だ

そこには、あの時の地獄を生き延びた妖怪達が居た

待てよ、人間も居る、今を生きる人間だろうか

 

そして、その内の1人を見た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記憶に残り続ける優しい笑い顔

 

それは、誰もの物でも無い

 

それの笑顔をよく知っている

 

髪色が全く違うけど、絶対間違ってない

 

彼は、彼は…!

 

 

 

 

「命蓮…ッ!」

 

 

 

「ぐはっ!?」

 

何か思い切り抱きつかれた

しかもかなりの力だ、何だこれ…

骨がミシミシ言ってる痛い痛い痛い痛い!?

 

「命蓮…ッ!命蓮…ッ!」

 

「命蓮ッて誰だよ!」

 

そう叫んでも、彼女は涙を流しながら抱きついてくる

多分、彼女は誰かに俺が似ていたのだろう

恐らく家族か、兄弟か

というかあちらの星組が惚けてる

ポカーンとしてこちらを見て…助けろよッ!?

 

「離れッ…ろッ!?」

 

俺は何とか拘束を解いた

ゼェゼェと息が荒い

本当に何なんだ、この人

 

「みょ、命蓮…?」

 

「お、おい、アンタ…俺は命蓮とか言うやつじゃねぇ

 俺は気桐霊覇、アンタとは何の血縁も…」

 

「違う…ッ貴方命蓮の生まれ変わりよ…!」

 

「この目はアカン奴や」

 

目が凄い…凄い()

もうなんか逃がさないという目付きしてるよこの人

 

「貴方から彼と同じ法力を感じる…

 絶対、違う筈が無い…!」

 

「お、落ち着こうぜ?一旦ここから出よう」

 

「…仕方ないですね」

 

そういうと、ぎゅっと俺の手を掴んだ

 

「絶対、離さないですよ」

 

「アンタの勘違いだろ、俺はソイツの生まれ変わりじゃ…」

 

「いえ、絶対そうです」

 

「いやいや…!」

 

「いえいえ…!」

 

現世に帰るまで、こんなやり取りが続いた

すまんな星、村紗、ナズーリンに一輪

なんか感動を盛大にぶち壊してしまった気がするぜ

 

 

「…聖」

 

「村紗、一輪、星、ナズーリン、ごめんなさい…

 少し、待たせてしまったわ」

 

「聖ッ!」

 

そして、現世に戻っての熱い抱擁である

見ていて本当に笑みが出そうだ…

尚出た場合また聖が吹っ飛んで来る

 

「なんか感慨深いですね」

 

「ああ、当事者じゃ無いのにな」

 

無論早苗と霊覇は部外者である

だが、それでもこの光景は感慨深い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、彼女はそれを許さない

 

 

 

 

 

 

「ようやっと現れたわね、元凶」

 

「…これは、あなたは誰でしょうか?」

 

現れたのは、博麗霊夢

この幻想郷で素敵な巫女をやっている、妖怪退治屋

元はと言えば彼女自身、コレを異変と認識していた

 

「幻想郷に来たからには、1回倒されときなさい

 そうしたら、晴れて幻想入りよ」

 

「そうですか、ココはそういう所なのですね」

 

そう言うと、彼女は構えた…拳を

ちょっと待てやアンタ尼さんやろ

何処からどう見ても美鈴と同じ武闘派なんだが?

 

「いざ!南無三!」

 

「行くわよ」

 

 

「おい、星?あれは本当に尼さんか?」

 

「ええ?そうですが?」

 

そんな簡単に返されても困る

あんな拳を使う尼さんなんて見たこと…

 

あ?なんか巻物取り出したぞ?

 

…と思ったからスペルカード宣言を始めた

 

「どういう事だか…」

 

「取り敢えず…」

 

 

 

 

 

「「幻想郷に常識は通じないのな」」

 

早苗と霊夢は呆れ気味にそう言った

 

 

その後、勝敗が付いて聖が負けた

これで彼女は正式に幻想入りしたと言える

星蓮船は命蓮寺という寺に変わり、墓場の近くにある

寺だからまぁ墓の近くにあるのもありかもしれない

 

「…でだ、なんで」

 

「いえ、少し風を浴びません?」

 

霊夢達が帰る時、俺は止められた

そして、今に至るのだ

 

ちなみに目の前にあるのはバイクだ

ハーレーとは中々良い趣味をしてる

 

そして、ソレにライダースーツを着た聖が跨っている

 

いやそれ星蓮船に載せてたん?

2つともアンタの封印されてた時代には無い代物だろ?

 

「早く行きましょう?久しぶりに飛ばしたいんですよ」

 

「…仕方ない」

 

俺は聖からヘルメットを受け取ると被る

おお、久しぶりにこれ被ったな…

カチャンとガラス部を降ろす

 

「行きますよっ!」

 

ぶるると派手にエンジン音を上げると一瞬前輪を持ち上げる

そして、地面に叩きつけると全速力で走り出した

 

霊覇は振り落とされないように聖の腰に全力で捕まった

 

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

「ここか…?」

 

そこは、人の来る事の無い崖だった

聖が倒れないように棒で固定すると、バイクから降りる

霊覇はヘルメットを脱いだ

聖も既に脱いでいた

 

「ここに一体何しに…」

 

「星から聞きました、宝塔が使えると」

 

彼女がなんの脈絡も無く言った

 

「本来ならば、ありえないことです」

 

「そうか、だがそれは起こったぞ」

 

「えぇ、それは貴方が命蓮の生まれ変わりだから」

 

「またそんな…」

 

「冗談じゃありませんよ

 あれ、元はと言えば命蓮が授かった物ですし」

 

 

「んな!?星が毘沙門天の使いとなった時じゃ…!」

 

霊覇は驚愕した

聖からさらりと放った事実に

 

「星に器があっただけ、あれば命蓮が授かって寺にあっただけ」

 

「そんなアホな…」

 

「それを使えるのは、星か、命蓮か、私か」

 

霊覇はそれのどれでもない

そして、命蓮は既に故人である

 

従って霊覇は…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方は命蓮の生まれ変わり、転生…記憶は失ったようですけどね、命蓮」

 

「んな…俺は霊覇だ…命蓮は過去の…」

 

「私にとって、それは変わりません」

 

聖は腕を霊覇に絡ませた

不思議と、抵抗出来なかった

鬼の様な力では無い…少女の様なか細い力

 

「印を付けないと、直ぐに分からなくなりますね」

 

「イッ…ッ!?」

 

首元に感じる痛み

一瞬の痛みの後、ジンとした痛みが広がった

 

「…ふふふ、美味しい」

 

「つぅ…!アンタ吸血鬼だな…!?」

 

彼女の口端から血が流れていた

いや、染っていた

今まるで血を吸ったかのように…

 

「やだなぁ…私はただの魔女

 死を恐れて不死に手を出した尼さんですよ?命蓮」

 

「その名で俺を呼ぶ…うぅ、…、ぅ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?眠ってしまいましたか?

 丁度良い、コレはあなたに抵抗されそうなので…」

 

それから、何かが俺に覆いかぶさったのは分かっている

いや、眠りそうな頭を振り起こして抵抗したよ

 

…駄目だったよ…俺の初めてェ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから、朝日が出るまでそこに居た

 

事後となると、気持ちはスンとしていて、分からない

 

俺は何も思わずに帰宅した




呪☆ひじりんヤンデレ化
死に別れた弟の生まれ変われが居たら病むってそれ1

次回は忘れられた燦莉君をピックアップしていきます


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簡単な事

「最近異変があったらしいが?」

 

「誰に聞いたのかしら」

 

「フランだ、楽しそうに語ってたよ」

 

タンクトップ姿で本を読む燦莉は咲夜に言った

少し微笑みながら咲夜は言った

 

「えぇ、聖とかいう尼を助けるとかいう異変よ」

 

「異変か?ソレ」

 

「そうらしいわよ」

 

「はっー、取り敢えず退治って奴か」

 

ちなみにタンクトップなのは咲夜の意向だ

男の裸を見た事も無い初心な女にこれは駄目か

 

…それはそれで

 

「サングラス外したら?」

 

「嫌だ、断る」

 

そう言って、本から目を離さそうとしない

咲夜はため息をついた

 

「全く貴方は…」

 

「へ、別に良いだろ」

 

「仲良さそうね、2人とも」

 

「よう、起きてたのか」

 

レミリアが手を振って会話に入ってくる

因みに今は朝、吸血鬼は寝る時間である

 

「いえ、少し頼み事をね」

 

「なんだ、面倒事は嫌いだぞ」

 

「和菓子か何か、甘い物を買ってきてほしいのよ」

 

「咲夜に言え」

 

燦莉は興味無さげに本に視線を戻した

レミリアは指を指す

 

「主人の命令よ、居候さん?」

 

「…けっ、分かったよ」

 

燦莉は本を閉じると針型武器を腰に携え、SOCOMを仕舞う

彼にレミリアは金の入った袋を投げて寄こした

 

「甘い物だったら何でも良いんだろ」

 

「プリンなんて、ないでしょう?」

 

「そうだな」

 

そう言うと、彼は大図書館から出て行った

咲夜は彼が完全に見えなくなると、レミリアに聞く

 

「貯蔵庫に大量のプリンがあったと思いますが」

 

「霊覇と会わせたいのよ、そろそろ」

 

「不機嫌の理由、大概それですしね…」

 

そう、全く会えないのが燦莉のイライラ態度の原因である

まぁ原因は全く何も言わないこいつらでもある

 

「ま、いいわ…プリン食べるわ」

 

「無駄足にならない事を祈りますわ」

 

「ならないわよ、きっと」

 

 

「飛べるってのは中々変な事だ…」

 

外の世界では飛ぶことなんて無かった

そもそも、飛べるとも思っていなかったものだ

 

美鈴との修行によって何とか飛べるようになった

今のところ不自由のある飛びでは無い

かなり自由な飛びだ

 

こんな簡単に飛べるのもどうかと思うが…

 

そう思っていると、里に着いた

 

「江戸?…いや、大正くらいか…?」

 

それくらい、古い町並みだった

しかも、所々最新だったり室町だったりと統一感が無い

恐らく忘れ去られた物が雑に組み合わさったのだろう

こんな歪なものは単純には出来ないからな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、燦莉か?」

 

「ッ…!お前は…」

 

その久しぶりに聞いた声の方向に顔を向ける

そこに居たのは、少し、明るくなったような…霊覇

 

 

「お前ッー!居るなら居るっていえよォー!」

 

「こっちのセリフだ馬鹿、何処にいやがった…」

 

と、そこで燦莉はある事に気付いた

霊覇を見ながら、ソレを指さして…

 

 

 

 

 

 

 

「お前、いつの間に彼女出来たんだ?」

 

「霊夢が彼女になるとか無いだろ」

 

「アンタら、表出ろ」

 

奇抜な巫女服から鉄骨を貰うまでに時間はかからなかった

 

…めっちゃ痛い

 

 

「で、アンタが親友の燦莉?」

 

「霊覇が世話になってるな

 そうだ、霧秋燦莉、どうとでも呼べ」

 

「美味いな、ここの団子」

 

あれから近くの団子屋に腰を下ろした

食う時の会話程弾むものは無い、いやある(反語)

 

「お前、何処に居たんだ?」

 

「吸血鬼の所だ、あのレミリアとかいう」

 

「あそこか、行けば良かったか…」

 

「…どち道、今日の宴会で会うでしょう?」

 

「異変とか言う奴か?」

 

「あぁ、つい先日終わったんだ」

 

霊覇が団子をほおばりながら言った

みたらしの甘みが口の中を駆ける

 

「異変ねぇ、どんなのがあるんだ」

 

「そうだなぁ…春が来なかったりか?」

 

「…非常識なところだ…」

 

「常識は捨てろ、その方がいい」

 

霊覇は呆気なくそう言う

外の常識は最早通用するところでは無い

憲法がどうのこうの言っても意味の無いところだ

まぁ外の世界でも法律はろくに作動してないが

 

「…あぁ、これを持って帰るか」

 

「なに、使いでも頼まれたの」

 

「あぁ、甘いもんが食べたいとか」

 

「甘党かよ、ソイツ」

 

「おっちゃーん、みたらし3個持って帰るよ」

 

「はいよー」

 

霊覇は三色団子を食べる

中の餡子が潰れ、甘みが溢れる

 

食べていると、持ち帰り用の団子が来た

燦莉はソレを受け取る

 

「良し、帰るわ」

 

「じゃ、また後で」

 

そういうと、燦莉は飛ぶ

彼に手を振りながら霊夢に話を振った

 

「俺たちも帰るか」

 

「そうね、買うものは買ったし」

 

そういうと、歩き始める

片方は、機嫌が良さそうに口笛を吹いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…彼の親友、ね

会ってから会話を聞いて思ったけど、仲良いわね

それも1年や2年のソレじゃない、もっと長い…

 

あった途端にあんな冗談言えるなんて…

 

…冗談じゃ無ければいいのに

 

にしても、良い人だったわ

 

確かに、彼の親友って感じがする

 

早苗の友達でもあるんだっけ?

 

何にせよ、今日の宴会はとても楽しくなりそうね…



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宴会

「さて、帰るか」

 

太陽が赤くなってきた

そろそろ、主人の時間帯だろう

とはいえ今日は宴会がある

時間帯もクソもないだろうな、うん

 

そうして、空を飛んで帰っていた時のことである

 

視界の端に、何かが居たような気がした

 

「?」

 

そこを見ても、誰もいない

 

「なんだよ」

 

おぶりながら燦莉はため息をついた

こういう時はろくな事は無い

早く帰るのが吉だ

 

 

「美鈴はいつも通りか」

 

「起きてますよ」

 

「おっと、失礼」

 

美鈴が壁に背を持たれていたので、寝ていたかと思った

燦莉は意味ありげにサングラスをちょいとする

 

「そうやっていつも働けばいいものを」

 

「えー、だって疲れるじゃないですかぁ…」

 

と、美鈴がこちらをチラチラと見始めた

なんだ、何かついているのか?

 

「何か…変な気があなたに付いてます」

 

「怨霊でもついたかね?」

 

どうやら彼女の能力で俺に変な気がついているのがわかった

とはいえ、よく分からないものだ

 

「先に入らせてもらう」

 

「はーい」

 

燦莉はズレた帽子を直しながら門をくぐって行った

迎えるのは庭園だ

ど真ん中にレミリアの像がある

 

…ナルシストな…

 

まぁ、どうでもいいだろう

屋敷の扉を開け、閉める

 

目に刺さる赤が燦莉を迎えた

咲夜が目の前に現れる

 

「お帰りなさいませ、それで…」

 

「ああ、これだ」

 

団子を渡す

咲夜はそれをしっかりと受け取った

 

「霊覇には?」

 

「出会えた、少し心配事が減った」

 

「心配事?」

 

「死なれるよりかはマシって事さ

 …何を堪えてるんだアンタ」

 

霊覇はそう言うと、大図書館に向けて歩き始めた

彼の姿が見えなくなると、咲夜は笑いを零す

 

「ふふふ…そんな"帽子"被ってたら誰でも笑うわ

 どこからどう見ても、貴方に似合ってないもの」

 

そう言って、その姿を消した

 

 

「よっこらせ」

 

おぶってたソレをソファーに置く

そして軽く背を伸ばした

 

「帰ってきたの?」

 

「ああ、今な」

 

「貴方、それ似合ってないわよ」

 

「あ?」

 

燦莉は首を傾げた

本から目を離さず、パチュリーは言う

 

「その黒にリボンが巻かれた帽子、ダサいわよ」

 

「…は?俺こんなの被ってたか?」

 

燦莉はいつの間にか被ってたソレを取る

いや、待てよ

 

俺はさっきソファーにナニを置いた?

 

ソファーに目を移す

そこに居たのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちはー!初めまして?古明地こいしちゃんだよ!」

 

「…U"g"h"」

 

緑髪の、ふわふわとした女の子

1番不機嫌な声が口から漏れた

 

 

「何?お前は地底から抜け出してきたと?」

 

「そこでお兄さんが見えてね?

 面白そうだったから抱っこしてもらったの!」

 

燦莉は無意識にタンクトップの端を引っ張っていた

子供一人の気配に気付かないとは、未熟だ

べっと帽子を乱暴に被せる

 

「きゃっ」

 

「彼女、警戒するだけ無駄よ

 無意識を操る彼女を見つける術は無いに等しい」

 

パチュリーがずぞぞと紅茶を飲む

それお茶じゃないから下品なんじゃないか…?

 

「んな無茶な能力な…」

 

燦莉はため息をついた

 

「こいつ置いて宴会にさっさと行こう」

 

「…既に居なくなってるじゃない」

 

彼女の居たところを見ると、何も居なかった

その能力とやらを使用したらしい

 

もしくは、勝手に消えたか

 

「どうだっていいか」

 

「はぁい、準備できてるかしら?」

 

レミリアが髪先を弄りながら入ってきた

燦莉はグッとサムズアップする

 

「もとより」

 

「私はここに居させてもらうわ」

 

「どこに行くの?」

 

「宴会、きっと楽しいさ」

 

そうして、紅魔館5人、宴会場に向かった

 

 

さて、最近博麗神社に泊まることの多い事多い事

家に帰るのがかなり遅い気がする

 

ま、知ったこっちゃないが

 

「わきち、これを運べばいいんですか?」

 

「そうだぜ!酒樽をそこに…」

 

あの水色の服を着た妖怪は傘の付喪神

誰のかというと俺が拾った奴である

 

…知らなかったよ、あんなん居るなんて

 

いつの間にやら同居人が増えていた訳だ

 

「さて、今回の宴会はどうなるか…」

 

首筋を擦りながら呟く

 

「霊覇?」

 

「お?霊夢、どうした」

 

声が後ろから聞こえた

霊覇は振り返る

 

…んえ?

 

「ち、近いぞアンタ…」

 

目の前に目があった

黒い、深淵の様な深い黒の目が

 

まて、俺なんかしたか

 

お互いの鼻が擦れる

 

「その、首…」

 

「ん、あぁ?いや何でも…」

 

「包帯なんて巻いて、どうしたのかしら」

 

目の色変えず、声色変えずに言う

ハッキリと言おう、とても怖い

 

それ以前に近過ぎる

 

「いや、妖怪相手に少し手を焼いてな」

 

「そ、油断でもしたの?」

 

「そうだな」

 

「…嘘つき」

 

霊夢はポツリと呟いた

言葉が出なかった

 

何故?嘘が簡単にバレたからだ

 

霊夢が手を霊覇の顎に添える

 

「貴方みたいな用心深い人が油断?

 そいつ、どんな奴だったのかしら」

 

「い、いや…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉーい!霊夢ー!霊覇ー!何処だー!」

 

魔理沙が叫ぶ声がした

 

「宴会ぃー!宴会始まってるぞー!」

 

「…はぁ」

 

霊夢が深くため息をついた

そして、くるりと背を向ける

 

「ほら、早く行きましょ」

 

「あ、あぁ…」

 

霊覇は、少しまごつきながらも霊夢について行った



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助け

わーい


「酒を飲むなんて…そんな…」

 

「聖!ここは無礼講だよ!」

 

「少しくらい羽目を外しても許されるよ、君」

 

星がアホみたいに酒飲んでいる

アイツ、仏に仕えてなかったのか…

ま、どうでもいい事だろう

 

「あ、霊覇君」

 

「聖…俺は飲んでるぞ、見たまんま」

 

杯を呷る

宴会というものは良い

そうやってハメを外しすぎないようにするのもアホである

目の前に快楽があればとってしまうのがソレである

 

逃げ道があって、そこに向かいたくなるのを抑えるようなものだ

そんなの、アホに決まってる

 

「よお」

 

「お、来たか

 さっさと飲もうぜ」

 

燦莉が手を振った

俺は杯ももう1つ既に用意してある

酒も既に入れてある

 

「日本酒か、久しぶりだ」

 

「美味いぞ、飲め」

 

「おう」

 

2人で一緒に飲む

コンと軽い音がした後、酒を呷った

 

燦莉がくぅっー!と味を堪能する

 

「こりゃ美味い…!」

 

「俺たちろくなもん飲んでなかったからな」

 

「あぁ…あの紅茶は最悪だった…」

 

霊覇は酒を追加する

燦莉はオマケに枝豆や焼き鳥を机の上に置いた

 

酒とツマミが合わさり、最高の味だ

 

「こんなの外じゃ絶対出来なかったぞ…」

 

「へへへ、気分乗ってきたか?」

 

「…アレ、やりやたくなってきた」

 

「あれか、いいな」

 

俺は鳥居の前を見た

どデカい長方形スピーカーが置かれてある

そして、2人の手元にマイクがポトリと落ちてきた

紫がいる方向を見る

 

扇子をパタパタと、口の前で振っていた

 

「やるか」

 

「やろうぜ」

 

俺達は、スピーカーの両脇に立った

 

 

 

外の世界で暇な時にした遊戯

 

 

 

 

 

───────ラップバトル

 

 

「よし、何からやるか」

 

「最初はSacrificeでいいだろ」

 

俺達が急に立ち上がってスピーカーを弄り出したのが気になるらしい

少し声が大きくなった

 

「何をするんだ?」

 

「ま、見とけって」

 

「…」

 

「…別に退いても」

 

「や」

 

スピーカーの上にいつの間にか霊夢が乗っていた

ま、どうでもいいだろう

振動で凄い揺れそうだ

 

「さて、やるか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィンとZIPPOが火を噴く

 

ジュウとタバコに火がつく

 

かチャリとM500を取り出した

 

 

 

 

────────3

 

 

 

 

────────2

 

 

 

 

────────1

 

 

 

 

 

────────GO!

 

 

 

 

 

重低音がリズム良くなる

 

小さかったそれはどんどんと大きくなり、観客がリズムに乗る

そして…

 

燦莉に正確に3回の銃撃が放たれる

 

間を置かずに霊覇がリズム良く、鳴く

まず、連続、下から上に音程を変えながら

最後を締めくくると

 

「ohYEAH!」

 

ハンマーを起こし、銃撃

 

それを避け、燦莉がリズムを刻む

同じように、連続、下から上に音程を変えながら

 

霊覇がそれの後に鳴く

横へ、右へ、左へ

軽く最初に準備かのように言い

 

「There you are」

 

銃撃

 

燦莉が補佐するように伸ばす

 

「HA、HA、HA YEAH!」

 

今度は燦莉の番だ

準備の様に歌い、銃撃の代わりに歌で返す

 

決して、引き金は引かなかった

 

 

「うわぁ…」

 

それは一種の音楽だった

ポルターガイストの幽霊達が出す音楽とは違う

己の声帯を、楽器として使う

曲はあくまで裏方

 

自分達が、主音を奏でるのだ

 

片方がメインに歌い、片方が支える

 

そして、片方が片方を妨害するのだ

 

「盛り上がってきたな…」

 

銃声でさえ、音楽の1部だ

彼らは外の世界でこれを遊戯にしていたのか

 

…でもまぁ、スペルカード・ルールの方がいいかもな

 

パチュリーとか、無理そうだし

げっほげっほ言ってそうだ

 

「ウェウゲベッ!」

 

あ、むせた

歌いながらタバコ吸うからそうなるだよ

と思っていると、曲が終わった

 

かなり、戦闘的な曲だったな…

 

「おぉー!」

「すげぇ!」

「多才だなぁ!」

 

辺りから歓声が上がる

燦莉はスピーカーを蹴っ飛ばすと席についた

 

「疲れた」

 

「楽しかったぜ、ふぅ」

 

煙を吐く

むせたのにタバコを吸うとは、どうやら阿呆らしい

ニコチン中毒者とは恐れ入った

 

「よっしゃぁ!飲むぞ飲むぞぉ!」

 

「魔理沙、あんたは少し落ち着きなさい」

 

顔を赤くした魔理沙を見てため息を霊夢はついた

 

 

「…寝静まったか」

 

瞳を開けると、皆が寝ていた

どうやらほぼ酔い潰れたらしい

起きているものは多くなかった

というか、居ない

 

「…?霊夢は…」

 

その中に霊夢は居なかった

妖夢、魔理沙、鈴仙は居ても、霊夢は居なかった

俺は立ち上がると、本殿の中に入った

 

「霊夢ー?どこに───────」

 

襖を開け、閉めた時に、口が止まった

いや、体が体幹を無くしたような…

 

脱力し、畳に倒れる

 

「…酷いわね」

 

それはこっちのセリフだ

というとしたが、口が動かない

 

「私、こんなに貴方のことを思ってるのに」

 

目の前に、足が見えた

2つの白い、見覚えのある足が

 

誰の足か?

 

強いて言うならばここの家主

 

今代の博麗巫女

 

御巫(カンナギ)の名前は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────博麗霊夢

 

「ね、どうして聖と交わったの」

 

深淵の如く、黒い瞳が俺を貫いた

俺は動くことも出来ず、反応も出来なかった




今のところ、50話くらいで終わります

…多分、100は行かないと思います


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愛?知らない物だ

博麗巫女

 

俺は当初霊夢の事を浮いて居ると思った

基本、怠惰で、自分に害が来るまで動かない

 

彼女は仕事の為に生きていると思った

 

素っ気な態度、興味なさげな顔

博麗巫女として他人と絡むのは良くない事だったのだろう

 

人に曰く、外からの来訪者

 

妖怪の賢者が、素質ある者として連れてきたのだと

 

外の世界は戦闘が多く、素質ある者は多いだろう

その中で、1番優秀だったのが霊夢だっただけだ

 

式神と賢者に育てられ、妖怪を倒す事を習った

妖怪と人の間に立ち、平行を保つ

 

いつまでも、そうなるべきだった

 

ただ、彼女は人間だった

 

故に、人との繋がりを完全に捨てれなかった

 

夢に見た

 

己を良く思う、男人が現れないか

それは此処には絶対に居ない

 

外から、同じように来るもの達

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────外来人

 

その1人が、俺だった訳だ

力を持ち、価値観も良い

 

醜いと言われ続けた巫女の心を動かすのは時間の問題だった

とはいえただの外来人ならここの価値観に染まる

 

価値観に囚われない、意志の強き外来人が要る

 

それが、霊覇と、燦莉

 

2人は誰の意思に寄ることも、強要されることも無い

 

ただ、相手が悪かったか

 

「…霊、む…」

 

「ね、お兄ちゃん、こうやって会うのは久しぶりだよね」

 

"あの頃"のような笑顔を俺に向けてくる

だが、目は笑ってなく、相変わらず深淵のように深い

 

やはり、変わっていない

 

「この程度でこれなんて…やっぱり貴方は弱いんだから」

 

クスクスと笑い、近くにしゃがみ込んだ

何をされたか、多分神経系等を弄る何かだ

そう思っているのも、あまり芳しくない

 

「ふふふ、初めて見た時はすぐ分かったけど…

 まさかお兄ちゃんが分からないなんてね

 

 

 

 

 でも、検討はついてたでしょ?」

 

そう、最初から分かっていた

見た時にあの妹だと、分かってしまった

 

彼女は女らしく育ち、変わっていた

 

でも、変わっていなかったかもしれない

 

こうやって、兄に対して無邪気なのも

 

その、笑い顔も

 

「でも、お兄ちゃんも変わっちゃったなぁ」

 

ホルスターにあるリボルバーと顔を見比べながら言った

確かに、俺は変わった

 

ウイルスが蔓延して

生き残る為、と俺は嘯いて組織に入った

 

友人も居た、それと手柄で俺と燦莉はかなりの座についた

 

色んな任務をこなした

 

人質、誘拐、狙撃、暗殺

 

どれもこれも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妹を探すため

 

悪く言えば、組織、燦莉も利用していた

全ては居なくなった妹の為に

 

だが、見つからなかった

 

それもそのはず、俺は忘れられていなかったから

 

高校生活をして、普通に暮らしていたのだ

路地裏の記憶なんて、真っ赤な嘘

 

あれは己の妄想、自己暗示に過ぎなかったのだろう

 

家に帰ると、妹が居なくなっていた

手紙が置かれてある訳でも無かった

部屋中をひっくり返しても、何処にも居なかった

 

あのころはまだ、幼かった

 

全て叔父がやっていたような、そんな感じがする

 

自分はあの頃から自分を偽るようになった

陽気な、気さくな、イイヤツみたいな

 

元々、若干いい加減だったけど

 

「気に入らない」

 

霊夢が首元の包帯を解いていく

そこに、多分歯型がついてるのだろう

 

仰向けにされる

 

「気に入らない」

 

憎悪

 

ソレを見た時そう感じた

思ったのでは無い、瞬間的に感じたのだ

 

瞳の奥、深淵の中

その中で燃え上がる怒りを見た

酸の如く、全てを溶かしてしまいそうな、怒り

 

奪われた、怒り?

多分それだろうか

 

「貴方はあいつの物じゃない、私のもの」

 

兄弟愛は時に友のソレを超えるという

だが、当時にそれは禁忌の愛でもある

なんたって、許されたものでは無いから

 

「貴方が拒否しても、意味ないから」

 

「拒否の言葉も出ないでしょうけど」

 

意識は、鮮明に

 

身体は、曖昧な

 

過去級に不味い状況である

だが、俺は、俺の心は

女を前にしてこの状態でも何も変わりない

 

それどころか、リラックスしている雰囲気まであった

 

妹と、久しぶりに呼べたことか?

それとも、こうやって跨って来ていることか

 

こっちにきて、新しい事が多い

 

もうなんというべきか

 

はは、疲れるなぁ

 

「拒否したって、私は止めないから」

 

手を頬に当てながら言う

 

笑顔

 

能面のような顔は既に無く、笑っていた

口角を上げて、目を細めながら

 

だが、その目の奥にあるは深淵

 

深い、この夜の闇より深い

 

抵抗も満足に出来ぬ

 

いや、しなくいいのかもしれない

 

最初から気付いていて、何も言わなかった己への罰かもしれない

神のイタズラか、神隠しか

 

何にせよ、己が許される訳が無いのだ

 

ならば、煎じて飲もう

 

この快楽(苦痛)も全て

 

彼女を、全て受け入れてやろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ね、貴方?幸せ?」

 

彼女は快楽に顔を染め機動しながら言った

 

俺は、なんと答えたのか

 

 

 

 

 

「────、──」

 

 

 



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過去―崩れるその時―

過去回イクゾー

妹霊夢?もう幻想入りしたよ

音速でイクゾー


「は、学校ダルいな」

 

「分かるぜ、それ」

 

燦莉の溜息に霊覇も賛同する

現在高校3年の1番高い人達である

学校というのは基本ダルい

 

数学とかどこで使うよあんなもん

 

それはそうと、とある人物が走ってきた

 

ここからでも視認出来る緑髪

 

ここらでは珍しい神職の女の子

 

「や、お前急ぎすぎだよ」

 

「燦莉さん!霊覇さん!おはようございます!」

 

「おはやう、元気過ぎるぞ」

 

この東風谷早苗という女、元気過ぎる

いつしか転校してきた奴で結構浮いていた

少し声をかけたら凄い勢いで神を語り出した

 

取り敢えず、その時は場を変えたものだ

 

それから何かと意気投合して今に至る

 

今日も見慣れた光景だった

 

早苗が走って、元気すぎると嗤って

そこから学校まで談笑して

つまらない授業を寝ながら聞く

 

それが、今日もあるはずだった

 

今日で、それが終わるとも知らず

 

 

『斬―斬―斬――』

 

「それで…ここがこうなるど、わかったど?」

 

『kill―kill―kill――』

 

「よし、分かってるぽいど」

 

『今宵も報われぬ怨念が――』

 

絶賛、無線イヤホンで音楽を楽しみ中である

数学?んなもん知るか

3年聞いてて全くバレないなら続けるしか無いだろ

 

…それはそうとあの先生語尾すげぇな

 

ど、ってなんやねん

 

「それじゃ燦莉、やってみるど」

 

「分かりました」

 

燦莉が立ち上がり、黒板に向かう

俺は頬杖を着きながらそれを見ていた

 

そう、いつもなら、ここで燦莉がチョークで答えを書いていた

 

 

 

 

それは、底から来たような呻き声で阻害された

 

「うぶが」

 

変な声がしたかと思えば、先生が血を吐いて倒れた

それだけでなく、教室内の"男子だけ"が血を吐きはじめる

 

「燦莉!」

 

「何だコレ」

 

その異様な様子に、無線イヤホンを仕舞って燦莉に寄る

早苗も慌てながらコチラに走ってきた

 

「な、なんなんですかこれは!」

 

「逃げるぞ」

 

「俺の家に一旦退避だ」

 

俺はそういうと、階段に向かった

各教室から男子が出てきたかと思えば、血を吐き倒れる

 

1.2人がキョロキョロと辺りを見渡していた

 

階段をかけ下りる

燦莉も慣れた手つきで降りる

下駄箱がすぐそこにあった

 

「まっ、待ってくださいぃー!」

 

早苗が息を切らしながら走ってくる

靴を履き替えるとそのままグラウンドに出た

 

止まらない

 

校門を出る

そして、近くの茂みに寄った

 

そこには、ガレージがあった

 

「入れ!」

 

「よっと」

 

3人が入ったのを確認すると、扉を閉める

 

はぁはぁと荒い息がガレージに響いた

 

 

 

 

 

 

 

……

 

「…あれは」

 

「分からん」

 

目の前で何が起きた?

それが今の疑問だった

 

目の前で男達が血を吐き、死んだ

 

何だ?何が起こっている――

 

「ウイルス、か」

 

「可能性は高いな」

 

こんなウイルス、人為的な物だろう

もしかしたら突然変異かもしれないが

 

――戦争?

 

「こんなとこには居られないな」

 

サイドカー付きのハーレーがガレージの真ん中にあった

見た限り綺麗で、ガソリンも入っている

 

「まず服装を整えよう」

 

「そうだな、お前ん家に服置いていた気がする」

 

「燦莉さんが?どうして」

 

「少し遊びのな…」

 

倉庫に遊びで使う服やなんやらがあった筈だ

…それと、アレも

 

俺の後ろに燦莉が乗り、サイドカーに早苗が乗り込む

 

「…あれを使うかもしれんな」

 

「ありゃ非常時だろ」

 

「今がそうだ」

 

ガレージのシャッターが開く

バイクは原付のそれしか無い

 

ま、やり方は同じだろ

 

威勢よくエンジンが鳴り、回転する

勢いをそのままにガレージから飛び出した

 

 

ここの立地は良くは無い

学校から電車等を除いて1番離れている

 

と、いうのも父の1人暮しであるから

 

家が広すぎるからと物を置かせてもらったりした

 

その、父は血溜まりの中に倒れていた

 

それを窓から確認すると、バイクを止める

そしてそれをガレージに入れた

 

車は無かった

 

「早苗、玄関で待ってろ」

 

皆が入った後、早苗に言う

既に鉄の匂い、あの匂いがした

 

ハッキリ言って、慣れた

 

早苗ははいと言って、窓の外を見始めた

 

「燦莉」

 

「早めに片付けよう」

 

そう言って扉を開けた

 

血の匂いが直に鼻に刺さる

俺は少し顔を顰めた後、それに向かう

 

「どうする」

 

「ロッカーにでも入れとけ

 俺は血を拭く」

 

「あい」

 

燦莉が動かぬそれを抱えあげると、ロッカーに押し入れる

父の衣類がぶち込まれたそれに同じように立てかけた

 

霊覇はアルコールや洗浄剤を使用する

 

そうして、時間を忘れる程擦っていれば血は消える

犬のように嗅覚が優れてなければ分からない

 

「早苗、良いぞ」

 

「お、お邪魔します」

 

俺は台所にナフキンを投げると、二階に進む

そこには2つのトビラがあった

片方は鉄を使われたものだった

 

片方は、壁にあった木製

 

鍵を取り出し、鉄扉を開く

 

「よし、着替えるぞ」

 

「了解」

 

部屋の中にはエアガンが大量にあった

棚の中から2人は服を取り出し、着替える

 

慣れた手つきでそれに手を通す

 

「おし」

 

「燦莉」

 

「おっと…マガジンは?」

 

「予備3個」

 

もうひとつの小さな棚からSOCOMを取り出す

エアガンでは無い、実銃だ

 

引き金を引いたら人を殺せる、道具

 

「…」

 

M500を持つ

その重さはそんなに感じなかった

 

にわかに、外が騒がしくなってきた

 

「早苗の家は神社だったな

 かなりの秘所にあったはずだ」

 

「そこなら隠れれるだろう」

 

「に、逃げましょうか」

 

そしてまた、ガレージに向かった



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風祝

ブロロロとバイクが進む

3人はヘルメットを被り、辺りを見ていた

 

言うなれば、世界の終わり

 

家が燃え、人々が狂乱し、走り回る

その合間を避けながら、バイクは進んで行った

障害物は少なくなかった

 

 

 

 

 

 

どれもこれも、人が多かった

道路で立ち尽くす、口を半開きにした奴らが

クラクションで現実に引き戻すこともした

 

やがて、市街地を抜けた

 

まるでそこだけ、江戸時代のような景色だった

 

広がるは大量の畑、田、田、畑

 

農作地

 

「この先か」

 

その奥に、階段が見えた

寂れた、大きな鳥居も

燦莉が後ろを振り返った

 

その目には、太陽が沈む姿

 

それに、都市が遠くなっていくのが写った

 

「…ケッ、まだ声が聞こえる」

 

霊覇がヘルメット越しにでも聞こえるそれに悪態を示す

愛人が死んだのを嘆く悲しみの声

夫が死んだ、長年の愛人

 

 

ソイツが本当に愛してるか、分からないくせに

 

「どうせ静かになるぜ」

 

「その為に走らせてんだよ」

 

フルスロットル

ハーレーが更にスピードを上げた

更に風が強くなる

 

「もう少しで着く」

 

「あい」

 

そうして、その守矢神社前に止まった

ハーレーから2人が降りる

 

「2人は先に行け」

 

「了解」

 

「分かりました」

 

2人は素直に階段を上がって行った

霊覇は近くの茂みにハーレーを隠すと、当たりを見る

 

特に、何も居ない

 

「…っ」

 

気味が悪くなり、2人に追いつくレベルで駆け上がる

ダダダと走って2人に追いついた

鳥居の3歩くらい前だった

 

「どうしたんです?」

 

「んなもん取り出して…なんか居たか?」

 

霊覇は首を振る

そして、3人は鳥居をくぐった

 

瞬間、変な気がしてM500を構えた

 

「…」

 

何か居る

何だ、何が居るんだ───

 

「これはこれは、驚いたね」

 

現れたるは、女の子

カエルの目を帽子に付けた、金髪の子

 

それがサイトの真ん中でカエル座りしていた

 

「諏訪子様!?どうして霊覇君は見えてるんですか!?」

 

「…信仰」

 

燦莉が呟く

その言葉に諏訪子と呼ばれた女が頷く

 

「いきなり助けを求める人が増えた、か」

 

それをいまさっき聞いた筈だ

都市の外まで聞こえた助けの声

 

それは、神に助けを乞う声もあったはずだ

人は死に伏した時、人外に助けを求める

 

今回は、それが大量に居た

 

消えかけた、こいつも出てきたのだろう

 

「と、言っても一時的なものだ」

 

「…神奈子、と呼ばれた奴か」

 

「これでも神だよ、少しは敬いたまえ」

 

次に現れたのは背中に大きな輪がある女

赤服で、胸に鏡がある

 

「神、ねぇ

 もう少し気がしっかりしてれば良いんだが」

 

信仰が増えた

そんな事だが、浮いた泡が水面に3mmくらい戻される事である

そんなに意味がある事でもないのだ

 

「最近は引越し先が見つかったんだ

 直ぐにでもそこに行く気だったんだけど…」

 

「あぁ、早苗が転校するってそういう…」

 

「はい、そういう事です」

 

これから3日後くらいに早苗は転校する

が、それはただの偽装だったわけだ

 

「ま、運が良かったか」

 

「だ、な」

 

燦莉がため息をついた

どうやら、何やら悩み事があるようだ

 

「これ、男だけ死んでるだろ」

 

「成程、ねぇ…そりゃこれから苦しくなりそうだね」

 

「え?」

 

神奈子はどういう事か分かったらしい

早苗は何かも分からないらしい

 

「ケロケロ、人間はつがいじゃないと生き残れないだろぅ?」

 

「…あ」

 

つまるところこれから2人は追い回されるのが確定した

ここにくるまで、目撃情報は大量である

ハーレーを隠しているとはいえ、いつかバレる

 

「私たちは直ぐに出るからね、ここはただの寂れた神社になる」

 

「その時は私達に変わって有意義に使ってくれ

 ま、追っ手がくるまでだね」

 

つまり長くは居られないということだ

長くても半年くらいだろう

 

無意識に、銃を握る手が力む

 

「やれ、少し重い話をしてしまったね

 夕食にしようじゃないか」

 

「カレー?」

 

「カレー」

 

諏訪子がそういう

今回は人数が増えている

それに関して、早苗に聞くと

 

「多分、"奇跡的"に二つ余りますよ」

 

なんて、適当なことを言ってきた

神が実際に居たとはいえ、奇跡なんて

というかこいつら飯食うのか

 

信仰はウマウマ食っているのかと思ってた

 

そう思っていたのだが、違うようだった

本当に"奇跡的"に二つ余ったカレーを食べながら話をする

 

「信仰で生きてけれるんだろ

 んだったら食事なんて要らないだろ」

 

「いやね、昔からの癖だよ

 早苗と同じような風祝と家族みたいに食べてたんだ」

 

「同じような、か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――早苗の先祖だったりしてな」

 

台所でご飯を追加している早苗を見る

あんな緑髪が普通に生まれるなんて、考えられない

 

「…私の古い旧い子供みたいなものさ」

 

「あんたに恋焦がれる男が居たなんてなぁ」

 

神がヒトを好きになる

それは一種の縛りつけか

ある人が言うには、神には人の個別は分からない

神職や霊媒師などの特別な力を持つ者は別、らしい

それ故に神は人よりも愛する者を近くに置く

 

気づいたら、その者が死んでいるかもしれないから――

 

「怖いねぇ」

 

燦莉が、抑揚もなくそういうのだった



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眠い

「……、…、……ハッ!」

 

危ない、寝るところだった

傾いたサングラスを直し、パンパンと頬を叩く

夜の冷たい風が上裸の体を嬲る

 

あの二柱から止めてくれと言われたが、知らん

 

これが1番いいんだよ

鳥居の真下で胡座をかきながら都市を見る

明日、あの3人はここからいなくなる

 

異世界、とでも言うべきところだろうか

 

妖怪、人間、神に幽霊が共存するという郷

 

その名を「幻想郷」と呼ぶ

 

そこでは妖怪と人間が対等な世界らしい

忘れられし達の、最後の楽園

 

とはいえ、怪しいものだ

 

力が強い者が弱いものを制す

弱肉強食の理論が強くなっているのではないか

 

ま、自分達がそこに行くとは思えないが

 

「…、……。」

 

 

この数日、何も起きない

都市の方で派手な光が出ていたのはよく覚えている

オレンジ色の、明るい炎

 

その楽しませてくれる存在でさえ、もう消えた

 

そうして、眠い目を擦った

 

「12時過ぎだ、交代」

 

「寝る」

 

後ろから聞こえた声で、腰を上げる

最近、ヘリやなんやらが動きまくっている

変に捕まると後が無いと考えている

 

家畜みたいな扱いは御免だ

 

「よっこらせ」

 

「これ使え」

 

「どうも」

 

霊覇は燦莉から双眼鏡を受け取る

それで、都市の様子を見た

 

特に、変わった様子は無い

 

差し入れ、と言わんばかりに置かれた干し肉を食う

食う、というより歯で噛み締めると言った方がいい

硬い肉を噛み、味をシミ出す

 

その味は美味いこと美味いこと

 

それを、2人はこの日まで、続けた

 

 

「…?」

 

何かが、欠けた気がした

太陽が出たその時、ナニか、何かが

霊覇は立ち上がると、本殿に向かう

 

酷く寂れた、神社

 

そこに人は住まうはずも無いので、少し貸してもらっている

 

本当に、そうだったか

 

本当は、ここに誰か居たような…

 

「あぁ、早苗だ、早苗が住んでたんだ…」

 

そう思い、本殿に入った

 

「よ、転校して誰も居なくなった本殿」

 

「ほんの数日前だろ、気にすんな」

 

先に起きた燦莉が軽く料理を作っていた

食料が長く続くはずがないので軽い物を作る

干し肉用や、ただの焼いた肉等

 

ま、腹を満たせりゃなんでもいい

 

「食料は何時までもつよ」

 

「あと1ヶ月…も無いな、これ」

 

消費、賞味期限を考えればそこまで長くない

缶詰めのようなものも無い

保存食がないと言うのが1番痛かった

 

しかも冷蔵庫が無いというおまけ付きである

 

なんだこの物件、クソじゃねーか

まぁ食料があっただけでも儲けものである

 

 

 

それはそれとして

 

 

 

 

「最近は派手な動きが無いな」

 

「ほんの数日だぞ、ある訳ねぇ」

 

「そこテレビ付けてみな」

 

燦莉が食事を食卓に置きながら言う

霊覇はリモコンを使い、テレビを付けた

 

そこには、有り得ぬことが報道されていた

 

『まさか男性の世界人口が一割になっているなんて』

 

『故に、男性を保護して人類の滅亡を防ぐ訳です』

 

アナウンサーと思わしき女が解説者と思しき女に聞いていた

いや、人口が減ったとかはどうでもいい

 

保護って、なんだ

 

その映像が切り替わる

 

ベッドの上に横たわる男

各々の部屋に入っていく男達

その景色は、拘留所や牢屋を想起させる

 

これは保護じゃない

 

収容じゃないか…

 

テロップとかで誤魔化しているだけで、実態は酷そうだ

今なら生活費は全て無料、とでかでかと書かれている

安全も保証され、将来も明るい、なんて

 

そんな、つまらないものなんて

 

「…ッ」

 

「まだ、見つかってない」

 

燦莉が食事しながら言う

つまらなさそうな瞳が、微かにサングラスの合間から見えた

 

「見つかればああなる、ということだ」

 

「クソッタレ…どうすれば…」

 

霊覇は策を探す

頭を抱えながら、どうにかしないと、と

 

その一方で燦莉は冷静に物事を捉えていた

どうにかするにも協力者が必要である、と

 

それもどこも、情報が必要である

 

「…兎も角、情報を集めてみたらどうだ」

 

「そ、そうだな」

 

かなり焦っていたのか、オドオドしながら情報を探す

今のところ、インターネットが1番良い

 

だが、自分達が使えば男性と即分かってしまうだろう

確か、男で登録していたし

 

「何か…何か」

 

テレビはさっきからどうでもいいニュースばかりを流している

有益な情報なんてこれっぽっちも無い

 

「あ、スマホ置いてあるやん」

 

「お前女子のスマホ見るとか最低…早っ!?見るの早ッ!」

 

スマホが置いてあるのを見るとニュースを探る

ほとんど予備動作がない動きで

 

なお、それは早苗のスマホである

 

彼女が何処かに行く時に忘れてしまったらしい

にしても固定画面がマジンガーなのはどうなのだろうか

 

「…、………」

 

霊覇は様々な単語をならべ、調べる

これがダメならアレを、あれがダメならソレを

 

己の脳内書斎にある単語を使い尽くす

 

「…うえ」

 

その指の速さに少し、燦莉は引いた

これほどに、集中するのか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、1時間

 

 

 

「…こ、れ?」

 

とある記事で指が止まる

 

「なんだ、頭おかしくなったのか」

 

「ようやっと見つけた…」

 

はぁと深いため息をつき、カタンと携帯を置く

 

燦莉は肩越しにそれを見た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…男性の反乱軍?」



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戦闘

「良し…行くぞ…」

 

「何を盗むって?」

 

2人はとある施設に侵入していた

天井のダクトの中で2人は静かに話す

 

「聞いてなかったか?薬だ、特効薬」

 

「あんのかんなもん」

 

「ある訳ねぇだろ」

 

「来た意味ねーじゃん」

 

燦莉がはぁとため息をついた

だが、その目はつまらないものでは無かった

少し、面白そうなものを見る目

 

「やる意味はある、殺してでもやるしかない」

 

「ま、国家機密でも無いしな」

 

「伝わるのが1番だ、派手にやろう」

 

そして、ダクトから降りる

降りたところは研究室で、人は居なかった

どうやら今は仮眠をとっているらしい、ソファで寝ていた

 

「さて、サンプルを頼む」

 

「これ途中でおとしていいよな」

 

「知らね、多分良いと思うが」

 

燦莉はサンプルを数本回収する

霊覇は研究者に近づいた

 

「おやすみ」

 

「――」

 

喉を掻っ切る

彼は悲鳴を上げることなく死んで行った

この作業を3回ほど繰り返した

 

そして、最後に背中に背負ったポリタンク

 

「おら」

 

「あい」

 

それを燦莉に投げ渡す

燦莉は受け取ると、机に中身をぶちまける

 

独特の匂い

 

少し、ヌメヌメした液体

 

――ガソリン

 

それが広がるのを見ながら、煙草に火をつける

 

「爆弾は?」

 

「あの壁、あの先は出口に近い」

 

「出口も吹き飛ばすんだろ?」

 

「違いない」

 

霊覇は笑いながらタバコを投げ、燃やす

あっという間に部屋は炎に包まれる

 

瞬間の爆破音

 

もうもうと煙を上げながら壁に穴が空いた

 

「出るぞ」

 

「りょーかい」

 

そして、ささっと研究所から脱出したのだった

 

 

「ハァァァァwwww見ろよこれ!面白過ぎるだろ!」

 

「いや笑い方よ、声掠れてるわ」

 

霊覇は新聞を見ながら大爆笑していた

内容は昨日の研究所襲撃事件である

貴重なサンプルが失われ、大変遺憾であると追記されている

監視カメラでは敵は確認され無かったが、確実に人為的とも

 

ちなみにこの新聞は適当な家から借りたものである

 

特に他意は無い

 

「さて、今日も頑張るか」

 

「立派な国家反逆罪である」

 

「何時の時代だ」

 

燦莉の言う通り、国家反逆罪である

ま、こちらは作戦の為にしているから仕方ないね

 

それに、こうでもしないと意味が無い

 

「こんな歳で殺人に手を染めるか」

 

「世界にゃ俺たちより若くて手を染める奴もいるがね」

 

多分、死んでる者が多いだろうが

このウイルスはどうやら若さ関係無く襲ってくる

そのため少子高齢化の進んだ日本は大打撃を受けた

 

政治家はガラガラ、自衛隊も少ない

 

ま、性別の偏見してるからこうなるんだとでも言おう

そんな日本をどうにかしようと男達を拘束している訳だ

死んでもらっちゃ困るらしいからな

 

…そこで、見つけたのがこの記事

 

あのスマホで出てきた記事

 

そこには、男の反乱軍が出来つつあるとあった

どうやら政府に反抗するものを呼び寄せているらしい

自ら勧誘にしに行ったり、健気なことである

 

それはそれとして、ある動きがわかっていた

 

反抗する者を勧誘する

 

それが本当ならば、こうすれば来るはずなのだ

こうやって、政府の研究所を燃やしたりすれば

 

「来る、ハズなんだがなぁ」

 

「あれから3日、情報統制でもされてんじゃねーのか」

 

来ない

現状来る様子も無く、多分来ない

恐らく爆破事件が隠蔽やらなんかされてんだろう

 

恐らく、の話だ

 

それ故に

 

「そろそろ、潮時じゃないか?」

 

「食料も尽きてきたしなぁ」

 

この神社とも、お別れである

食料も無くなってきてそろそろ移動しなければならない

都心なんかでテロでも起こしたら確実に勧誘来るだろ、うん

 

持ち物は僅かな食料、銃

他はキャンプ用品だ、倉庫になんかあった

 

キンッとZIPPOで煙草に火をつける

 

「よし、行くか」

 

鳥居をくぐり抜け、階段を降りる

 

その階段は思いの他、短く感じた

 

隠していたハーレーを出し、乗る

燦莉は横のサイドカーに乗り込んだ

 

「…」

 

エンジンをかける

ブルルルと派手な音を立ててマフラーが振動する

 

後輪が早く回り、ハーレーは発進した

 

 

高速道路

その道路には車は走っておらず、ECにも人は居なかった

おかげで気軽に走る事が出来る

 

「新鮮だな、人も何も無い道路なんて」

 

「まるで世界の終わりみたいだ」

 

実際、世界は終わっているようなものである

少し年月が経てばここは草と蔦まみれになるに違いない

 

そうやって、走らせていた時だった

 

「…!?」

 

発砲音

それはハーレーの前輪の横に突き刺さった

道路横、そこに誰かが居た

 

「燦莉!」

 

「あいよ」

 

ダンとSOCOMを撃つ

それは間違うこと無く胸に当たり、そいつは倒れる

 

後ろから、濃厚な車の音が聞こえた

 

「なんじゃ…機動砲システムかよッ!?」

 

後ろに見えるのは装甲車

その上に大きな主砲が乗っている

 

「アホかッ!?俺達吹き飛ぶぞ!」

 

「スピード上げるぞ!」

 

「上げろ!上げんと死ぬわ!」

 

フルスロットル

思い切りスピードを上げ、ハーレーを走らせる

 

閃光

 

「右ィ!」

 

GREAT!

 

ハンドルを左に切る

ハーレーは斜め左を目指す

過去位置の所に砲弾が炸裂した

 

「殺す気じゃないかよッ!?」

 

男性保護はどこへやら

まぁこんな危険人物は処分に限るよね

燦莉の脳内は自己完結をしてしまった

 

燦莉は前に居た敵の脳を撃ち抜く

そいつは倒れ、段々とこちらに近づいてきた

 

「頂き!」

 

そいつの持っていたM4とマガジンを奪う

軽いコッキング、弾は入っている

 

「よっしゃ、反撃開始だッ」

 

燦莉はニヤリと笑うのだった



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39話

 

ダダダンと銃弾を発射する

その全てが装甲車に命中する

 

まぁアサルトライフルのチンケな弾が装甲を貫通する筈が無い

出来たのは1つのタイヤをパンクさせることだけだった

 

「かった!銃意味無っ!」

 

悠々と走ってくるストライカーにそう叫ぶ

ストライカーはお返しと言わんばかりに主砲を発射した

 

「左ィ!」

 

GREAT!

 

ハンドルを右へ

先程と同じくハーレーに命中することは無かった

こんなヒットアンドアウェイしても意味が無い

 

というかこちらの攻撃イミがないし

 

ともかく、逃げなければ

高速道路の分岐地点

そこから県に逃げる

 

今のところその様な案しか思い浮かばない

 

やるからには全力で

 

「RPGGGGGGGGGGGGG!!!」

 

と、思っていると前からロケット弾が飛んできた

真っ直ぐに飛ぶ物程避けやすいものは無い

 

軽くそれを避ける

燦莉はRPG兵を撃ち殺した

 

「霊覇!アレに寄せてくれ!」

 

「了解」

 

ハンドルを強く握る

奴は装填して撃ち殺された

それを取って当てれば――

 

「左ィ!」

 

yippee-ki-yay(YO-HO-HO!)

 

「パイレーツやってる場合かッ!」

 

軽々とハンドルを切ってそれを避ける

砲弾を避け、ハーレーはRPG兵の死体へ向かった

 

そして、それがサイドカーの真横に来た時――

 

「取ったァ!」

 

燦莉はRPG――もといスティンガーを構える

 

「バックブラストで俺死ぬんじゃないかな」

 

「死んでまえ」

 

「HAHAHAこのバイクスリップさせるぞ」

 

バイクを走らせる

燦莉はストライカーを狙う

こちらと変わらない速度

 

その追跡者にロケット弾を発射した

 

それは避けられることなく、命中する

 

「ドカーン、ざまぁみろぉ!」

 

ストライカーは派手に爆発四散

残骸を散らしながら横転する

用の亡くなったスティンガーを放り投げ、前を見る

もう少しでトンネルに入るようだ

 

「ヘリだ」

 

霊覇がポツリと呟いた

ガードレール、その向こうからふわりとヘリが現れる

 

「メインローターを狙え」

 

「俺は狙撃手じゃ無いんだわ

 ホロサイトM4でどう狙えと…」

 

ぶつくさ言いながらM4を構える

敵ヘリコプターはバルカン砲を放つ

 

アスファルトの水柱

それは確実にバイクを追いかけていた

 

「バルカンでもいい!早くあれを落とせ!」

 

「わかってるよ!」

 

M4を撃つ

数発、メインローターに命中する

だが、それだけでは足りなかった様だ

 

「当てろや!ネイキッドさんの様に当てろや!」

 

「当ててんだわ!あの方は13発くらいで落としてんだわ!

 俺に同じことが出来るかッ!」

 

トンネルに入る

瞬間の爆音

 

ミサイルが発射され、入口を崩される

 

「クソッタレ、絶対に待ち伏せされてる…!」

 

霊覇の予測は当たってしまった

トンネルの出口、そこに車が大量に横付けされていた

 

「突っ込め!」

 

「はぁ!?」

 

「突っ込めつってんだよ!」

 

「あぁあああああああもぉやだあああああああああ!!」

 

そして、勢い良く突っ込んでいき――

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

バイクはボンネットを坂変わりに、飛んだ

そして、落ちていく

 

ちなみにここは山にある高速道路だ

支柱で支えた、高速道路

 

つまり、今は地上に落下中である

 

だが、有難いことに――

 

「川だ!」

 

「うぉおおおああああああああぁぁぁ!」

 

川、しかもかなり水深のありそうな、大川

叫び声を残して、2人は川に落ちる

 

派手な水柱がたった

 

 

「…、………、…Ugh」

 

「…、……いてて」

 

2人は起き上がる

水の冷たさが体を侵食していた

川辺に流れ着いたらしい

 

「怪我、どうだ?」

 

「俺は無い、水深が思ったより深かった」

 

川は思いの他深かった

日本の川というのは基本浅く、流れが強い

 

ここは、流れは強く、しかも深い所だった

 

「運が良かった」

 

「だが早く移動しないと」

 

M4を構え直し、燦莉は言う

M500のシリンダーを回し、カチャリとハンマーを上げた

 

何にせよ、移動しなければ

 

「ローター音が近い、恐らく兵でも下ろしてんじゃないか?」

 

「なら奪っちまおう、やるなら派手にな」

 

そして、2人はローター音のする方向へ進む

 

そして、思っていた通りにヘリが降りていた

どうやら兵員を下ろした後だったらしい

だが既にその兵士は何処かに行ったようだ

 

ヘリにはパイロットが1人居るだけだった

 

音を立てずに茂みから抜き出し、ヘリの中に素早く入る

見張りも偵察に向かったのか誰もヘリの周りに居なかった

本当にこいつ1人だったらしい

 

「ByeBye」

 

「あがっ」

 

バンと銃を撃つ

その動かなくなったパイロットからヘルメットと無線機を奪い、死体を捨てる

そのまま操縦桿を握る

 

「お前操縦出来んのか?」

 

「安心しろ、俺はこういうのに詳しいんだ」

 

「ならいいんだが」

 

言っている間にヘリは離陸する

そして、危険区域から簡単に離脱する事が出来たのだった

 

移動中に対空砲火をされるでもなく、簡単に逃げれた

だがこのヘリは長くは使えない

 

政府の乗り物には基本GPSが付けられているだろうから



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男の軍勢

「…なぁ」

 

「分かってるぜ」

 

ヘリは何故か追撃されなかったので、現在空の旅である

それの疑問を燦莉は霊覇にぶつけたが、彼はそうでもないらしい

 

それどころか、嬉しそうだった

燦莉には理解できなかった

そんな彼に霊覇があるものを見せる

 

「これ、コレ見てみろよ」

 

「あん?…お前いつの間にそんな端末を」

 

霊覇が見せたのは改造されたタブレットだった

そんなものを彼が元々持っている訳でもない

画面には何やら文字が書かれてある

 

…確かこれは

 

「…インダス文字?」

 

「そうだ、あの解読されてない奴」

 

そこには人を象った物やパンケーキのようなもの

果てにはよく分からない称号のようなものまであった

今に至るまでこの文字は解読された事がない

だが、のメッセージの送り主はそれを知っている

 

…男の軍勢か、それとも政府か

 

分からない、分からない

 

「ところでそれは政府のか?」

 

「いや、男の軍勢だ、ほらこのマーク」

 

タブレットの右上を指さす

そこには剣と翼の紋章が刻まれていた

画面上では無く、タブレットのカバーに

 

それはあのニュースで見たものだった

 

「…でもこれ分かんねぇよ」

 

燦莉の言ったことは間違いなかった

インダス文字、世界の脳が分からなければ自分達が分かるはずがない

そう言って、燦莉は項垂れる

 

だが、霊覇は違うようだった

 

「いや、分かったね、意味が」

 

「…は?」

 

燦莉は霊覇を見る

彼は前を見ずにタブレットに視線を注いでいた

 

「なるほど座標…この位置か」

 

「おい待て、なんの話を」

 

「サイファーだよ」

 

燦莉は絶句した

まさか、そんなことは無いだろう

 

「この一角一角を変えていくんだ」

 

あ、という文字の一文字、それを別のものにする

例えれば、か、と言う文字の斜線にすればいい

最初の文書をバラバラにして、意味のない物に構築しなおす

 

インダス文字なのは、最高峰に面倒なものなのだろう

 

「本当にだるかった、面倒、面倒!」

 

「で、何処だ」

 

「ここだ」

 

タブレットの地図情報を出す

そして、ここから少し遠い所を指さした

県境、いかも内陸で山脈がある

 

「身を隠すにはいい場所だ」

 

「そうだな」

 

霊覇はタブレットを戻し、操縦桿を握った

そしてにやりと笑う

 

「超特急で行くぜ」

 

「落ちんなよ」

 

「カプコン製じゃあるまいし」

 

「最近は物騒だ、飛ぶだけで落ちてやがる」

 

ははは、と笑い合いながらヘリを飛ばす

その機影は赤と緑のランプが光っていた

 

 

それは

 

ヘリのスピードは早い

もうすぐにでもその座標につきそうだった

だが、直接着陸することは出来ないだろう

 

「あれじゃないか?」

 

「あれだろうな」

 

少し見えたのは廃工場だった

ツタに覆われ半ば半壊した基地としては使えなさそうな場所

だが壁などは比較的新しく見える

というよりツタがあまり生えていない

 

ヘリはドンドンと降下していく

 

「衝撃に注意しとけ」

 

それと同時に大きく機体が揺れる

森に無理矢理着地したのだ

木に機体が引っかかり、多分もう飛ぶ事は出来ないだろう

見てみればブレードが曲がっている

 

「行くか」

 

燦莉はM4を背負い、地面に飛び降りる

 

「…」

 

霊覇はカーゴからいくつかの武器を持ち出すと、同じように飛び降りた

 

 

森は鬱蒼としていた

夜なのもありろくに前も見えない

夜目を効かしてなんとか前を見ているだけである

燦莉も流石にサングラスを上げていた

 

「見えてきたな」

 

僅かなタイヤ痕

そこの先を見るとヘリから見た廃工場が確かに合った

歩く速度を早め、どんどんと進む

 

「閉まってるじゃないか」

 

その門は閉まっていた

5メートル程の高さがあり、ツタが絡まっている

 

「おーい!誰か居ないか!」

 

叫ぶが、応答は無い

どうやら人が居ないらしい、ただの廃工場だったか

霊覇はその固く閉じられた門のツタを見る

そのツタはあまりに細く、人の体重には耐えられないだろう

霊覇はそう思い、壁をうろつく

 

(廃工場なら穴の一つくらいある筈)

 

そう思い、辺りを見ていた

すると、川と直通している水路がある

工場としての名残か、だが今は何も流れていない

 

侵入するには丁度良かった

 

「ここだ」

 

「汚水か?」

 

「多分水銀、もしくは産業廃棄物か」

 

饐えた匂いはそんなにしない

多分、下水では無く鉱物に関わるものだ

 

水路内は暗い

両端に鉄の足場があり、それから移動できる

そもそもとして少し屈むくらいの狭さだった

ここでの戦闘は不利となるだろう

 

「これ、何処に繋がるんだ」

 

「分からない、人が居ない以上、変な事は無いはずだが」

 

すると、水路が半壊している場所に辿り着いた

そこから上に行ける、行き止まりでは無い

 

そこから上に這い上がる

 

「跡地ってか?戦闘があったらしい」

 

門から入ってすぐの広場に出たらしい

そこには何故廃工場が半壊していたかの理由が分かるものがあった

 

地面に突き刺さり、爆発しなかった爆弾があったからだ

他にも壁に弾痕が大量にあり、爆発痕も多い

火災も発生したらしく、火災痕も見受けられた

 

「全滅か」

 

「――誰だ、お前ら」

 

不意に声がした

声がした方向を見ると、廃工場の入口から誰かが顔を覗かせていた

その顔はやつれ、傷まみれだった

 

「生き残りか?」

 

「そうだ、俺を含め20数名しか居ない」

 

ソイツはハンドガン…1911コンパクトをこちらに向ける

 

「アンタら、本当に何しに来た」

 

「政府からヘリを強奪して、この端末を奪った

 それでこの暗号を解いた訳だ」

 

「…総司令のか」

 

彼の目付きが変わる

 

「ああ、インダス文字のな」

 

「あんたのはそれか…分かった、少し助けてくれないか」

 

ソイツはそういうと、廃工場の中に入った

他に特に選択肢がある訳でもない

ここに留まる訳には行かないので、彼に着いて行ったのだった




自分の作品ってスターシステムとかクロスオーバー多いですね


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追撃

「…なんて事だ」

 

そこはさながら、野戦病院の様だった

この廃工場にベットは少なく、大半が草のベッドに寝かされていた

寝込んでいるのは10人程

この男によれば見張りなどは10人程らしい

 

「あんたが指揮官?」

 

「そうだ、これでも准尉なんだよ」

 

「こりゃ失礼」

 

思いの外偉い人だった

今から参戦する自分は弁えなければ

だが彼はそうでも無いらしい

 

「いいって、今は准尉ってだけで指揮してるだけだから」

 

「分かった、俺たちも戦闘班に行った方がいいか?」

 

「おう、本部に俺たちは帰投するつもりだからな」

 

20人程でここを占領していたのか?

確かに占領は出来るが、30人程がいい気がする

そう呟くと、彼は乾いた笑いを零す

 

「いやね、俺たちは取り残されてんだよ

 元は40だが、18人は帰投出来た、俺たちは無理だった」

 

「今日、帰るって事か」

 

「いや出来ないだろう」

 

辺りを見回す

死傷者は1人も居らず、足やら腕やらを撃たれた奴が多い

酷い奴に限っては両足が無いやつも居るのだ

 

その"種"さえ入手出来れば、本人は要らないと言うのか

霊覇の思っている事が分かったらしい彼は言う

 

「そうだ、だからこそ俺たちは抵抗してるんだ」

 

「楽にしてやったらどうだ」

 

「そうもいかない、本部にはすげー奴も居るんだ」

 

「と、いうと」

 

彼は目を輝かせる

まるで自慢したいかのように、キラキラと

その子供のような顔を見ながら霊覇は先を促す

 

「英雄だよ、修羅場をくぐり抜けてきた英雄達

 発明や医療で最も貢献し、今も尚戦っている方々だ」

 

「成程ねぇ、その英雄様が直してくれるって事か」

 

「そうさ、どんな傷でも治すスーパードクター」

 

「俺たちも無駄死には止めないとな」

 

「最悪、決死の特攻とかをする奴も居る」

 

決死という言葉の通り、生きて帰った奴はあまり居ないがね

そんな言葉を彼は最後に付け足した

 

…矛盾してね?

 

「生きて帰ってきた奴が居るのか?」

 

「英雄の中に帰還者ってのが居て…なんでも死んでも帰ってくるらしい」

 

「…帰ってくる?」

 

彼は頷く

その目は少し、怯えが混じっているように感じる

 

「確実に1ヶ月以内、絶対に帰ってくる」

 

「死に損ないか」

 

「ま、そうとも言えるだろう」

 

彼いわく、どんな致命傷でも生き返る

その期間は確実に1ヶ月以内で、普通に動ける

頭をぶち抜かれても、胸を撃たれても、刺されても

その全ては奇跡的に心臓等を回避するのだ

 

まるで奇跡の様に

 

「帰還者というより、奇跡、だな」

 

「帰還者の方がいい、意識不明の重体の時もある」

 

「そうか」

 

霊覇は燦莉に目配せをする

サングラスでよく見えないが、その視線は話を引き出せ、と言っていた

霊覇は男にさらに質問をぶつける

 

「英雄ってのはどんなのが居るんだ?」

 

「そうだな、忍者とか」

 

「最初っからNRSを発症しそうなモノぶち込むな」

 

忍者って何だよ、忍者って

英雄に相応しい名前なのか審議が必要だよ

その様子じゃ英雄にはろくな奴が居なさそうだ

 

「他には」

 

「他にゃ潜入者、暗殺者、偵察兵、コマンダー…色々だな」

 

能力が特出している者が言われる英雄という名

それは恐らく、総司令から言われるものでは無いのだろう

 

その戦場に居る戦士達から、畏敬の念を込められて、言われるのだ

ただ単に運が良いだけか、はたまた実力があるか

 

それでも、生きて帰ることは変わらないだろう

 

「運が良いだけの似非異能生存体か」

 

「いや…噂によれば程度の能力というものを持っているらしい」

 

なんだそれ

程度の能力って、何かのゲームか?

それとも科学的に解明できなくて、そういうことになっているのか?

霊覇が首を傾げると、彼は当たり前だ、と呟く

 

「それは科学的に解明出来ないから言われてるんだ」

 

「不思議な物って事か?」

 

「物じゃない、能力だ、本当に、能力としか言いようがないんだ」

 

よく分からないものだ

にしてもどこかで聞いたことのあるような気がする

自分の妹も、不思議な奴だった

 

「やれやれ、ま、帰還しなけりゃ意味がないか」

 

「それもそうだ」

 

見上げると、蒼い月が見えた

何時もの黄金色の真ん丸とした月ではなかった

 

蒼い、蒼い、蒼い

 

その月は青く、青い月光を工場に向けていた

ブルームーンという現象が有る訳では無い

ブラッドムーンでも無い、別のモノ

 

「なんだってんだ…」

 

「…?」

 

カン、カンと鉄を踏みしめる音がした

それはこの部屋の暗がりから響いているようだった

その暗がりは違う部屋に繋がっている門のようなものらしい

霊覇は目を凝らし、それを見た

 

 

 

 

 

 

鈍く輝く鉄の銃身を

 

「くそっ」

 

M500を照準、引き金を引く

バカンと派手な音を立て、ソイツは死に倒れた

 

「奇襲か、早いな」

 

「一気に潰す作戦なんだろうか」

 

燦莉がM4の引き金を引く

窓の外に向けられたそれは景気良くマズルフラッシュを放つ

悲鳴と嗚咽はその後から聞こえ始めた

 

「囲まれてる」

 

「味方を集めるぞ」

 

その数秒後、銃撃が始まった

今から味方をここに集結されるまで、銃を手放す事は出来ない



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耐久戦

この戦いは総司令部から早く応援が来る事にかかっている

廃工場は政府の攻撃に耐え切れる状態では無い

敵がなだれ込んでしまえば敗北は確実な物と化すだろう

 

ここで倒れる訳にはいかない

 

しかしまぁ、敵も本気なものである

この廃工場に居ても微かに聞こえる駆動音

それは1つ2つなんてものでは無い

いつしかの火力演習で耳にしたものである

 

―――恐らく、戦車

 

75だったか74だったか忘れたが、どっちにしろ脅威だ

辺りを見回すが、有効兵器が無いのかアサルトで対抗している

ここには運良くRPGが有る訳では無いらしい

この500口径もあんな装甲に敵うはずがない

 

とはいえそれは装甲の話である

 

弾を発射する為の砲口、そこを狙い撃つ

ただこんなアイアンサイトでは狙いにくい

出来ないとは言えないが距離が遠い

 

微かに聞こえる程度だ、遠すぎる

そう思い、廃工場の屋上に上がる

 

そこからは辺りの景色がよく見えた

戦車はマメくらいの大きさの物が三両程見えた

 

スナイパーライフルがは必要だ

それもとびきり威力が高いもの

政府から奪った武器類を確認する

彼らが使っているものよりハイテクなものばかりだ

こちらが使っているものには古きAKもあった

 

がさりと探しているとバカでかいライフルを発見する

一際大きく、一際太いバレル

人が持つには大き過ぎて、さらに重すぎる

バレットという対物スナイパーが普通のサイズに見えてしまう程の大きさ

 

アンツィオ200mmライフル

 

弾薬はおおよそビール瓶程の大きさ

見るに弾薬は2マガジンしか無いようだ

とはいえ十分である

使用痕がどこにも無く、新品とよく分かる

変に改造されている訳でもない対物ライフルだ

 

屋上に戻り、伏せ撃ちの体制に移る

 

こんな大砲の様なライフルを腰撃ちなぞ出来るはずが無い

そんなバカみたいな奴はアイツだけでいいのだ

 

バレットを撃ったことは無い

500口径のM500以上の反動が肩に来るだろう

ただそれに見合う威力はある

本来ならば装甲の薄い所を撃つが、正面からでは砲口以外無い

 

もしくはキャタピラーを打ち壊すか…

 

だが破壊が1番だ

この場にはあの戦車は要らない

ぶっ飛んでもらおう

 

引き金を引く

耳は塞いで無いのでその爆音を受け止める

鼓膜を貫通するかのような衝撃が痛みと共に突入してくる

 

ただそれに似合う威力は確かにあった

弾丸は砲口にするりと入り、そのまま火薬庫を攻撃する

戦車のハッチや覗き窓から火を吹き、戦車は弾け飛ぶ

見事な火柱だ、森を照らすほどの光が吹き荒れる

 

引き金を3回引く

 

それぞれが綺麗に爆発する

大きな薬莢を排莢し、立ち上がる

戦車が進む音はせず、変わりにローター音が聞こえてきた

仲間たちは森に潜む敵に集中砲火をしている

時間稼ぎである為、バカスカ撃っている訳では無い

馬鹿でかい対物ライフルを放置し、移動する

 

横に立て掛けてあるFA-MAS G2を使用する

某玉葱国の軍が使用するアサルトライフルだ

プルバック方式のライフルで機関部はストックにある

その形が似ている為、「トランペット」とも言われる

 

性能はピカイチとは言えない

だが、それは十分信頼に達するものである

 

かチャリとコッキング、味方の元に走り出す

戦場はかなりシンプルなもので無事な者と負傷した者に分かれていた

燦莉は後者には居らず、反撃を続けていた

 

壁にもたれ掛け、音を聞く

発砲音と銃弾が飛来して、壁に命中する

 

その音で位置を特定、引き金を引き、確実に仕留める

 

かなり長く感じる

本隊が来るのがかなり遅い

 

森にはマズルフラッシュがどんどんと増えていく

その数はこちらを圧倒し最早顔を出す事も出来なくなってきた

 

その時

 

「本隊が来た!引くぞぉー!」

 

あの男が叫んだ

瞬間に皆が戦線を離脱する

怪我人は背負い、中央の工場に走り出す

 

その中には既に完全武装の味方が居た

 

燦莉と霊覇は中に飛び込む

 

「ようやっと来たか」

 

FA-MASのストックを支えにして起き上がる

そこには野戦病院のような所で、ベッドには兵士が寄り添っている

至る所に兵装の違う兵士が何人も居た

 

「こいつらは」

 

「味方、本隊だよ」

 

そう誰かが後ろから言った

 

その声の主を見ようと後ろを見る――

 

 

 

衝撃

 

後ろから恐らくストックで首を殴られた

キィンと酷い耳鳴りがして地に伏す

赤い視界で見ていると、燦莉もまた地面に倒れた

目の前に2本の足が見えた

 

僅かに顔を上げると、それはガスマスクだった

いや、ガスマスクを付けた男の顔だ

 

「どうしてこうするのか?こうするしか無いからだよ」

 

そいつはくぐもった声でそういうと、仲間たちに連れて行けという

こんな耳鳴りがした時であっても、発砲音は耳から離れなかった

 

むしろ、それは耳にこびりついてしまっていた

 

 



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リズム

不思議な事に戦争のリズムというのは体から離れる事は無い

 

一定の心拍数に一定の緊張感

 

それは他のどれにも変えられることは無い

なぜなら戦闘、戦争には引き剥がせない物があるからだ

 

死、という概念は絶対に引っ付きまわるのだ

 

その絶対的な物は人をがらんじめにしてしまう

ある者はそれに魅了され、ある者は恐怖する

ある者はそれを克服し、永遠の苦痛を味わう

 

果たして不死というのは憧れなのか

 

その目指した場所にあるのは孤独だけではないか

 

それをこんなところで思っている

 

「デイモス、配置についた」

 

『こちらサンフォード、同じく』

 

扉の横につく

耳のヘッドホンから聞こえるのは親友の声だ

現在の作戦はこの建物に監禁されたとある「女」の確保だ

この任務が失敗すれば2人の価値が無くなり、殺される

 

もしくはただ外に放り出されるだけだ

 

保護下に無いペットが食物連鎖の最下層に居るかのようになってしまう

補給も無く戦い続けるのはただの無謀である

 

そう思いながら静かに扉を押したのだった

 

 

「…」

 

目が覚めるとそこは暗い部屋だった

地面は自分のいる所が鉄で、他がコンクリだった

鈍い痛みが少し残っている

自分の左に燦莉が居るのは呼吸で分かった

服装は上半身裸になっていた

 

自分たちに光が当たっている

目の前から照らされたソレは眩しく、目を思わず細める

 

「…」

 

横で静かに燦莉が起きた音が聞こえた

布が少し擦れる音がした

 

今の体制は両腕をロープで上に吊り上げられている

そしてつま先立ちくらいの高さに調節されている

 

少しキツい、早く担当者は来てくれないか

 

「お目覚めのようだな」

 

誰かの声がした

光でよく見えないが男は確実に居た

あのガスマスクのようなくぐもった声では無い

口から出て、空気を伝い、鼓膜を震わせる音だ

 

「誰だ、誰とは言え歓迎されていないようだが」

 

「何を、私は歓迎しているよ」

 

男の声は不自然な程耳に入る

指揮を得意とする者の特徴だ

というか歓迎されていないだろう、こんなの

 

「俺としては早く横になりたいがね」

 

「で、あるならば少し質問をしよう」

 

カタン、と革靴の音が響いた

何かが光の奥で歩いているらしい

 

「君達は"special man's file"というものを知っているか?」

 

「あ?何だそりゃ――あああああああああああぁぁぁ!?」

 

「うぉぉおおおおああああああああぁぁぁ!!!」

 

痛み

 

青白い電流が鉄を走ったかと思えば体に走り、全身をのたうち回る

その痛みは銃で撃たれるよりも辛く、長い

身構える余裕すら無いほど、身構える意味が無いほどの電撃

四肢が引きちぎられ、意識が焼かれるような痛みが襲ってくる

全身の神経が切り裂かれ、細胞、体が一瞬で沸騰したかのような痛み

 

撃たれるような、斬られる様な痛みとは違う

 

そしてまた、致死量に達しない事も明らかだった

 

その男の声が移動していることから革靴を履いているのは彼と分かった

電撃は燦莉にも与えられたらしい

 

悲痛の叫びが室内に響く

 

不意に、電撃が止まった

 

「がァ…はぁ…」

 

体からバチバチと電気が散る

痛みは肌寒さなどを凌駕し、襲ってくる

感覚と神経が麻痺し、口から涎がダラダラ出てくる

 

涙で光や影が歪んでみえる

声なんて出たもんじゃ無い、呻きすらあげられない

 

「ほう、気絶しないとは

 流石は数々の施設を襲っただけはある」

 

感心したような口調でそいつが言う

顔は見えないが、多分ほくそ笑んでいるのだろう

 

「この情報を知らないとは、余程機密なものなのだろうな」

 

何がspecial man's fileだ

そんなの聞いた事すらないし、見てもない

 

また、電撃が走った

先程の全身くまなくという奴では無い、局地的だ

主に爪、歯や目と言ったところだ

 

爪を全て剥がされたかのような痛み

 

歯を全て強引に抜かれたかのような痛み

 

目を数千の針で刺されたかのような痛み

 

床から放たれた物とは思えないほど強力で、局地的

涙と涎が止まらず溢れ、目、指から目が出るかと思えるものだ

ヌメヌメした液体が体を流れる

 

その苦痛がいきなり止まった

 

「…合格、と言いたいところだが」

 

不意にそいつが言った

何、どういう事だ、勿体ぶらずに言えよ

俯きながら心の中で叫ぶ

 

「まだまだ、信用は出来てないのでな、任務を与えよう」

 

瞬間、拘束が解けた

天井から吊るされていた腕が解放される

それを失い、支えることも出来ない足は体と共に崩れ落ちる

膝立ちでは無い、四つん這いになり、息を荒らげる

 

燦莉も同じらしく、荒い息が聞こえてきた

 

…アイツ、サングラスだけは持ってたんだな

 

「ゆっくり休むといい、最初から激務だからな」

 

革靴が去り、変わりに数人が歩いてくる音がする

体が持ち上げられたところで、自分は意識を失った

 



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重要な任務

「ねぇ、お兄ちゃん」

 

何処だここは

辺りは真っ赤な空間で、浮島ばかりが見える

自分が居るのはその内比較的小さなものだと理解する

とはいえ、本当に何処だここは

 

うつ伏せから体を上げ、なんとか四つん這いになる

かなり体が痛い、腕が破裂しそうだ

 

"ぼたり"

 

ナニかが垂れた

それは自分の口から垂れていた

 

 

 

クロ

 

漆黒の液体が、何も反射しない液体が垂れていた

 

「お兄ちゃん」

 

ごぼり

その声で、口から液体を吐き出す

 

そいつからの影が見えていた

いや、影でなくても、声で分かった

 

 霊夢、なんでお前が…

 

「うふふ、気になる?気になっちゃう?」

 

顔を上げることが出来ない

喉を焼かんばかりの痛みと四肢の痛みが激しい

声を出すのがやっとで、絞り出したかの様な声

 

 ごぼ、ごぼぼ、ごは

 

また、口から液体を吐き出す

気持ち悪い、なんなんだこれは

 

「罰だよ、ば、つ」

 

彼女が面白そうに嗤う

それが

 

ソレが妹と同じ声、形で、吐き気がする

 

 違う、お前は霊夢じゃない、誰だ、誰だお前は

 

「そんな事、言っていいの?」

 

いつの間にか、目の前に足があった

いつもの靴を履いた、彼女の足

 

いや、違う

 

ブーツにハートがついて、そこからコードが伸びているような

少なくとも己の知っている妹はそんなもの履いていなかった

 

 誰だ、誰だ…

 

「ふーん、仕方ないな」

 

衝撃

 

頭が砕けるかのような衝撃か走る

それが頭を踏まれたと分かるまで数秒を要した

グリグリと、足が苦痛を与えてくる

 

 ぐぼぁ

 

また、液体が口から溢れる

 

「ふふ、いい気味、いい気味…いい気味…」

 

それは嗤いから笑いに変わっていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふ、へへへ、ひひひ、ひゃはははははは!」

 

 

 

 

 

 

脳は見たくなかったからか、分からない

多分見たくなかったのだろう

 

自然と、目を閉じてしまった

 

 

 

目を開けるとそこは何処かの部屋だった

そこまで広い部屋ではなく、ただの倉庫という感じがする

倉庫のように箱が積まれていた

 

起き上がる

 

「いつつつ…」

 

痛みが足に走った

あの拷問の傷は思った通り深い

服装は変わっておらず、上裸のままだ

 

横には燦莉が横たわっていた

 

「おい、起きろ」

 

「…」

 

余程電撃が堪えたのか、身動ぎすらしない

その胸板が動いている事から、生きていると思える

呼吸が無ければ死んだのと同じだ

 

「やめろ…それ以上は…」

 

「うわ、悪夢を見てやがる」

 

どうやら電撃の影響で悪夢を見ているらしい

こいつも俺と同じでロリに踏まれる夢でも見てるのか

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やめ…アッー♂…アアアァァァァー!!!??」

 

「だらしねぇな!?」

 

思い切り蹴ってしまった

なんだコイツ普通にヤベー夢を見てやがった

 

いや、逆に考えれば悪夢だろうか

 

普通に悪夢だった

 

「う、くぐぉ…デカいのが中に…」

 

「それもっかい言ってみろ、二度と作品に出れんぞ」

 

「ああぁ…」

 

燦莉が起き上がる

寝言から分かるレベルのヒドイ夢を見ていたらしい

人生でそんな夢を見たことない…想像したら吐き気がしてきた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お目覚めのようだね」

 

いつの間にか、男が室内に居た

 

2人は飛び起きる

気配、足音、匂い、それのどれもが無かったからだ

男はフッと笑う

 

「まぁまぁ、落ち着きたまえ、任務を与えるだけだ」

 

こいつは誰だ、脳内が問いかける

燦莉はサングラスを調整し、聞く

 

「誰だ」

 

「私か?君たちで言う総司令だよ、求めていただろう」

 

「親玉自ら来るのか?」

 

「ホログラムだよ、さ、装備を確認したまえ」

 

男は箱を指さした

その箱をよく見ると、各々の名前が書かれてあった

左は霊覇、右は燦莉と言った感じだ

 

蓋を開け、中身を確認する

 

「…こりゃ」

 

「君たちの武器はロンダリングした、装備と服は…まぁ、慣れてくれ」

 

武器は押収された時のものだった

どうやら装置が付けられてないか確認したらしい

だが、服は違うものに…変えられてない

実質変わったのは装備のみだろう

 

確認した限り、帽子onヘッドホンとクソデカ通信機だ

とても大きく背中に背負うタイプだ

M500はカスタムされ、ロングバレルにスナイパースコープが付いていた

 

燦莉は頭を覆うバンダナに変わらないサングラス

釣り針型武器にSOCOMピストル

SOCOMは四角ライトが付けられていた

 

「君たちに依頼する任務は1つ、とある"女"の救出だ」

 

「女ァ?あんたら女が敵じゃ無かったのか」

 

そういうと、彼は笑いながら

 

「そうだ、彼女は私の娘だからな」

 

「…は」

 

思わず総司令を見る

見た目的35程の男だが、結婚しているようには思えなかった

その顔の眼光は鋭く世帯が居るとは思えなかったのだ

 

「意外かね、皆そんな反応をするよ」

 

「で、そいつを連れ帰ればいいのか」

 

燦莉がSOCOMの動作確認をしながら言う

総司令は頷き、1つ付け足した

 

 

 

 

 

 

「これに失敗した場合、明日は無いからな、慎重にやり給えよ」

 

「…面白いね、やってやるよ」

 

 

1つ挑発とも思えるそれに一笑し、任務に出撃する

移動方法は単純で、バイクで目的地まで爆走だった

 

手っ取り早く、終わらせてしまおう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目標―宇佐見蓮子―

 

  総司令の娘

  要注意、謎の力を使う模様



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さてまぁ、こうして任務を受けたものだが奇妙である

任務と思われる紙には必要最低限の事しか書いてなかった

 

場所、人物、注意事項、それのみ

 

というか謎の力ってなんだよ

そんな抽象的な事言われても俺には理解しかねる

もうちょい具体的な事は書けなかったのか

 

それ以外には彼女の友人は既に行方不明とのこと

マヌベリーだか、マユリーだか知らんが…ま、いいだろ

特に記憶する事でも無いはずだ

 

静かに入った扉は静かに閉まる

拘置所のような役割を果たしているその建物は賑やかでは無い

どちらかと言うと様々な怨嗟の声が聞こえてくる

その声に耳を貸すこともない看守はただ腕を後ろに組み、佇む

 

今日もそうして佇む筈だった

 

「――」

 

口を塞がれ、喉を掻き切られる

そのまま体は制御を失い倒れてしまう

血が出る前に近くのロッカーにぶち込み、GPSを立っていた場所に置く

 

「こんな所でも警備は居るんだな」

 

『ああ、監視カメラもあるが…心配ないさ』

 

ぐちゅり、という音ともに嗚咽が無線から聞こえた

それは何か鼓動する物を握りつぶした音だろうか

霊覇は相変わらずヤベー奴だなと思いながらすすむ

とはいえ場所はよく分かっていない

 

不思議な力を使う事から厳重な所にいると思うのだが…

そもそもその力を本人が人前で見せたか、である

 

恐らく父親が気付いただけであり、周りに知らせもしなかったのだろう

今現在政府は知らないのだろう

 

知られるのも時間の問題だ、早めに終わらせてしまおう

 

 

 

 

看守を殺し、進んだ先にあったのは独房だった

廊下の両側に一定距離ずつ独房がある

 

「何処にいるんだ?」

 

『1番奥だ、突き当たりの階段先に居る』

 

そう言う燦莉の声のトーンは少し落ちていた

監視室のカメラから、見てはいけないものでも見たのか

独房の扉は鉄で出来ていて、手が出せる程度の小窓がある

そこから本やら飯やらなんやら入れるのだろう

 

ちらりと覗くと横たわっている誰かが見える

もはや注視しないと見えないレベルの呼吸だ

 

他の部屋も同じようなものだった

 

「みずを、く…れ」

 

「は、ら…が…」

 

「ぐるじぃ、ぐるじぃいいぃ…」

 

嗚咽が、苦しみが

奥に行けば行くほど深くなる

 

ここは餓死房か?

やっていることがナチス・ドイツと同じだ

男も居れば女もいる

もう、何が何だか分からない

 

『見たか?それが政府のやっている事だ』

 

「…司令」

 

不意にヘッドホンからしたのは司令の声だった

目の前の惨状は目を背けるほどのものだった

 

だが、背ける事は出来なかった

 

出てきたのは、怒り

己が住んでいた国の政府が、こんな事をしていたなんて

それだけが、頭の中を埋めつくしていた

 

『表は生存を願い、裏では反乱因子を消す

 それが今の政府だ』

 

 

――それでいいと思うか?

 

 

 

 

頭に司令の声が響く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい筈が無い、そんなはずが無い」

 

霊覇は力強く言う

こんな過ち、許してたまるか

 

こんな政府、ぶち壊してやる

 

 

『よく言った…それでこそこの組織の仲間だ

 

 

 

 早く任務を終わらせてしまい給え、待っているぞ、同士よ』

 

 

 

「了解」

 

 

俺はそういうと、いつの間にかたどり着いた階段を降りていった

 

 

階段の壁には意味不明の文字が乱雑に書かれていた

いや、もはや意味の無いような記号もあった

それら全て血文字で、身体を削って書いたものも多かった

 

文字は降りれば降りるほど比例するように増加していく

そして目標が居る扉の周りは真っ赤に染まる程文字があった

 

「なんだこれ…!」

 

『気を付けろ、資料によればそこは封印房だ』

 

封印房?ならこれらは封印?

どこが封印だ、ただの呪いだ、こんなの

 

「…、札…」

 

よく見ると、赤い扉には札が恐ろしい程貼り付けられていた

血文字にかき消されたかのような

 

手を伸ばし、扉に触れる

 

「っ!?」

 

瞬間、札がバラバラも剥がれ、床に落ちる

それと共に扉がゆっくりと開いた

 

M500を室内に向ける

 

中は暗く、何も見えない

ただ扉の真上にあった光が、少し中を照らしていた

それでも目標の姿は見えなかった

 

壁を探る

電気のひとつくらい、あるはずだ…

 

そう思い、探す

 

微かな凸凹が指に当たり、押す

瞬間に光が部屋を満たした

 

「…っ」

 

「…」

 

彼女は居た

壁から鎖が伸び、腕を拘束している

既に意識が薄いのか膝立ちだ

高校のカッターシャツを着た女の子

メガネをしているが片側が割れている

 

これが、司令の娘?

 

「うう…?」

 

と、彼女が目を薄く開いた

霊覇は彼女の目の前で顔の高さを同じにし、頬に手を当てる

 

「意識はあるか」

 

「貴方は…誰…私は…」

 

「お前を助けに来た、父親が待ってるぞ」

 

「父さんが…?」

 

「ああ」

 

霊覇はピッキングで鉄輪を外す

いきなりの自由に思考が追いついてないのか、自由になった腕を見ていた

 

「助けて、くれるの…?」

 

「そうだ、行くぞ」

 

「…歩けないよ」

 

余程衰弱しているのか、足が動かない様だ

霊覇は仕方ないと割り切り、彼女を姫様抱っこする

背中には通信機がある、これ以外ない

 

文句を言われる思いきや、彼女は既に眠っていた

 

「…こりゃ、早く帰らないとな」

 

その、安心しきった寝顔見ると、そんな言葉がたれてしまうのだった



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帰還

階段は来た時と打って変わって普通だった

血文字も、落ちていた札も、何処にも無かった

最初から厳重な独房、みたいな所だったのか

 

不思議な事もあるものだ

 

「不思議な事だらけだ」

 

階段を上り、そう呟く

何か、物語のように進んでいる気がする

確かに修羅場は通った

 

だがまぁ、普通あんなの死んでしまうだろう

 

銃で撃たれたり、砲で吹き飛ばされたり

 

なんならあの拷問、耐えなければ死んでいただろう

 

ここまで生きれてるのは豪運故か

それは分からないが、まぁ、生かしている者に感謝しよう

 

階段を登りきる

雰囲気は相変わらずどんよりとしている

地獄のような雰囲気は絶えず続いている

 

覗き窓から見てみると、殆どが首を掻っ切られたりして死んでいた

頭がぐちゃぐちゃになってたり、滅多刺しにされているのもあった

 

と、異音が頭上からした

 

『 今この場所にいる人に伝えるねー 』

 

それは真上のスピーカーからしたもので、監視室にいる燦莉のもののはずだった

だが、声は似ても似つかない幼女のもの

 

…燦莉は、どうした?

 

『 不法侵入者が2人も居るの! 』

 

大胆にバラシやがった

恐ろしいな、声に反してとても恐ろしいことしやがる

とはいえここに居るものは殆ど死んでいる

 

ここ独房の奴らのみだが、バレる事は無いだろう

 

 

『 みなさーん!侵入者はここにいますよー! 』

 

俺は聞こえないという安心と嘲笑を込め、スピーカーに言った

 

 

「他人任せにしてないで、自分で来たらどうだ」

 

 

『 も し も し 』

 

「は――!?」

 

不意に、"自分"のヘッドホンから声がした

ヘッドホン越しなのに、妙に甘ったるい、吐息が暖かい声が…

 

いや、それ以前に何故ヘッドホンから聞こえる

周波数は極秘である為、無線部隊や味方しか知らないはずだ

 

それにしては、聞いたことのあるような

 

 

 

 

 

 

 

――この声は…あの地獄の様な悪夢で――

 

「うぐっ…」

 

「あがああああ…!」

 

頭が割れる程の痛み

それに加え、脳味噌をぐちゃぐちゃにかき混ぜられたかのような痛み

 

「 わたし、メリーさん 」

 

不意に、背中に何かが抱きつく

耳元で、そいつが囁いてくる

 

やめろ、くるな、近寄るな

 

それ以上、それ以上言葉を放つな…!

 

「 今 貴方の 後ろ に 」

 

「ああああああああぁぁぁ!!!!!!」

 

"振り返り"、M500を早撃ちする

あっという間に5発使い切り、カチリカチリと鉄音を鳴らす

叫びながら狙いもろくに定めなかったそれはあらぬ方向に飛ぶ

 

だが、そこには誰も、何もいなかった

 

虚無感と疲労がどっと押し寄せる

 

なんだ、ただの幻覚、幻聴だったか

緊張感が体を襲っていたんだろう

 

帰って、休まなきゃ――

 

「 ばぁ! 」

 

「あが!?いやがぁぁああああ!?!!」

 

目の前から、あの女からナイフで刺される

ドス、ドシュ、ザクッ、グシャッ

酷い音が自分かは発せられる

 

彼女は無垢な笑顔で笑っていた

深い緑の瞳を爛々と輝かせながら

 

酷い痛みが、痛みがぁ

 

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたいああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!!!!!

 

奴を蹴り飛ばす

 

蹴った感覚は無く、足は空を蹴るだけ

そこには誰も居らず、それどころか自分に刺傷は1つも無かった

 

「…、なんだったんだ…」

 

「おい、デイモス!」

 

燦莉の声が後ろから聞こえた

いつの間にかへたりこんでいたらしい

腰を上げ、M500をリロードする

 

「何かあったのか?」

 

「いや…多分疲れてるだけだ」

 

「…何だ」

 

「イカれた野郎に滅多刺しにされる幻覚を見た」

 

燦莉の少し口端が少し引き攣った

多分、自分がそうされたのを想像したのだろう

彼は少し考えた後、蓮子を指差した

 

「考えても仕方ない、運ぶぞ」

 

「ラジャー」

 

彼女を脇に抱えると、移動する

鉄格子のはめ込まれた通路を抜け、外に通ずる扉に向かう

 

そこまで、敵は一人もいなかった

 

代わりに独房に居たような死体がそこらにあった

多分、兵士全員だと思われる

首を掻き切られたり、ぐちゃぐちゃに四肢がされていたり

 

見てるだけで、おぞましい

 

 

 

 

 

 

ただ、ひとつ思ったことがある

 

先程の幻覚はこのような死体を見た後に起こった

幻覚で、それでいて現実のように鮮明

この緊張感だと、へたりこんで気絶していたことは無い

 

それに、あの女の子の声

 

未だに耳にこびり付く甘い声

 

彼女も幻覚には見えず、現実に居るかのように思えた

 

刺された時の痛みも鮮明に思い出せる

それを思うと、ズキリと痛みが現れる

 

 

本当に、本当に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきのは、幻覚だったのだろうか

 

 



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終わりの始まり

長い悪夢のような現実だった

 

この"宇佐見蓮子"という女を救ってから、全てが始まった

彼女を救ってから組織の1人として戦った

気が遠くなるほど遠く、嫌になる事の連続だった

そして、酷く血に塗れた戦いだった

 

時に人質を救う為、敵を狙撃した

 

時に敵基地に乗り込み、敵を血に染めた

 

時に戦友と呼べる者が死に、復讐に燃えた

 

時に戦友が裏切り、相応の罰を与えた

 

時に――

 

 

 

 

 

もはや、覚えていないほど、戦った

数え切れないほど銃で撃ち、数えられない程喉を捌いた

常に女と戦い、女を殺し、そいつらに仲間を殺された

戦友達は仲間が倒れるのに比例して強くなっていった

いつまでも殺される訳では無い、そう言うかのように

 

俺たちは飼われる家畜じゃないんだぞ、と言わんばかりに

 

自分は戦い抜いたわけではない

もし、外で戦いが終わっていたのなら、自分は思う

 

途中で戦いから逃げた、ただの卑怯者に過ぎないのだろう

 

そして、続いているなら、こう思う

 

戦線から逃げた、裏切り者、もしくは、意気地無し

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、戦いがどうなったのか検討もつかない

 

和平が結ばれたのか、掃討されたのか

もしくは反乱軍が勝ったのか、定かでは無い

そもそも戦いがまだ続いている可能性もあるのだ

紫に頼み、今度外の世界に連れて行ってもらおうか

 

 

 

ただ、そんな中でも

 

 

ただ、確実なのは

 

 

今、自分は妹に改めて再開できた事だ

 

目を開け、現在の状態を確認する

ここは博麗神社の一室、霊夢の私室

 

真ん中の布団の中で、霊夢と身を重ねていた

既に事が終わったのか、スヤスヤと寝息をたてて寝ていた

霊覇は自分に重なっている霊夢を横に退け、立ち上がる

余程眠りが深いのか、起きることは無かった

捲られた布団からは青臭い匂いが立ち上る

霊夢は臍辺りを軽く抑えて、目を瞑り軽く笑っていた

 

とても、嬉しそうな目だった

 

障子を開け、空を見上げる

 

夜は全く明けておらず、丸々の月がよく見える時間だった

 

 

「――」

 

手を広げ、体を全てに任せる

服は白色で統一された和服で、死装束にも見える

この日、"気桐霊覇"という男は死んだ

 

この日から、この男は"博麗霊覇"となる

 

名前というのは、人と人を分ける為に必要なものである

顔が同姓同名というのは殆どある事は無い

人が己を己として認める、1番の手段であるのだ

 

だが、それが変われば、人は変わる

 

己が変われば、全てが変わるのだ

 

"気桐"という名前を捨て、霊覇は"博麗"という名前を受け入れる

霊覇は己を博麗に馴染ませていった

 

自分が他の者に成り変わる瞬間

 

それは一種の恐怖を呼び寄せる

自分が自分出無くなってしまうかもしれないという恐怖

 

霊覇はその恐怖を妹を支えにして、耐える事ができた

 

永遠とも思える時間が過ぎた後、霊覇は突然、くぐもった声を出す

 

「ぐぐぅ、ぐぎがあぁぁ…ッ」

 

決して小さく無いその声は、霊夢の耳にするりと入っていく

霊覇はその事実に気づかず、体を反らした

 

まるで、体から異物を取り出すかのように

 

 

「うあ、…ああう…あ、ああ…」

 

胸の辺りから、何かが飛び出る

それは意思があるのかクルクルと辺りを飛び回り、最終的に霊覇の目の前に浮かぶ

 

それは、青緑色の結晶でできた"七支刀"だった

 

結晶のように角張っていないそれの柄を掴む

柄は別のもので出来ているらしく、皮の感触がした

 

体が、暖かい

 

この感じ、安心する

 

七支刀を胸の前で構える

 

「…お兄ちゃん?」

 

後ろから、声が聞こえた

どうやら、起こしてしまったらしい

霊覇は振り向いた

 

そして、座って首を傾ける彼女に、言う

 

少し、笑って

 

「霊夢」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからも、よろしくな」

 

「お兄ちゃん…」

 

 

 

気付かぬうちに白装束に新しい模様が入っていた

主に青緑を基調とした和服に変わっている

袴は青緑色の雷が走ったかの様な模様が刻まれている

それは上着の腹筋辺りまで刺繍されていた

上着の変わっところはみられず、代わりにハチマキをいつの間にか巻いていた

額の辺りに薄い鉄板が仕込まれた、ハチマキ

 

ふと、頭に能力が浮かんでくる

 

 

 

 

 

 

 

『八百万の神の神主(巫女)となる程度の能力』

 

 

その時この能力は強力なのか、よく分からなかった

 

ただ、その辺の雑魚よりかいい能力を得られたと思った

 

七支刀はするりと手から抜けると、霊覇の胸の中に消えていく

それと同時に、服の模様も消えてしまい、ただの白装束となってしまった

 

もう、銃を握る事も無いのだろうか

 

いや、なくていいだろう

 

自分が握るのは妹を、人々を守る刀だけでいいのだ

 

 

そう、もう引き金を引かなくていいんだ

 

なんの意味も無い殺しをするのはここで終わりなんだ

 

この力を、人々を為に使う

 

 

何故かある腰のホルスターがずり落ち、床に落ちる

M500のグリップが握ってほしいかのようにこちらを向いていた

 

だが、霊覇はそれを無視し、部屋に入る

 

銃を残したまま、襖はスパンと閉じられた

 

グリップのエングレーブが悲しそうに、模様に涙を流したかのように光が流れた




簡単言うてしまえば神々の触媒になる程度の能力です
八百万の神をその身に降ろし、その力を使う

依姫と違うのは完全にその神の力を使うことが出来ること
そしてその能力に限界は無く、拒否される事は殆ど無いこと

例えば天照を降ろし、その太陽の力を使う、とか
制限が無い為永遠に太陽の光を発してきます
もしくは太陽の光を槍として投げてきたり

そうそう地面から生えた奴が投げた奴に追従して行くあれ




ようやっと幻想郷だよ!


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その日は平和だった

特に大きな異変が起きるでもなく、ただ鳥が鳴く、平和な日だった

 

「お前、変わったな」

 

燦莉がポツリと呟く

自分の服装が変わった事か、それとも名前か

 

そう言うと、燦莉は首を振る

 

「いやな、丸くなった」

 

「丸くなった?」

 

俺は思わず聞き返す

なおこの服装について知ってるのは霊夢と燦莉くらいだ

にしても、丸くなったか

 

「外に居た時だよ、あの血塗れた戦闘」

 

ああ、確かにそうかもしれない

それを考えればここに来てから手を汚した回数は圧倒的に少ない

記憶に無いだけかもしれないが、それでもだ

 

「なんでだろうな」

 

「そりゃ…あー、幻想郷だからじゃないか?」

 

この幻想郷において人を襲う事は死を意味している

とはいえそれは"人里の人間"である

里の外に居る人間は襲われても仕方ないのだが、ここに来てから襲われた記憶は少ない

 

ルーミアに襲われた訳でもない

 

そこらの雑魚妖怪に襲われた記憶も少ない

最初の戦闘は、椛と文だったような記憶がある

 

もし、違う理由があるとすれば

 

「俺たちみたいな霊夢みたいな奴らが好きってだけで生かされてるだけかもな」

 

「流石に、ここまで来たら気付くよなぁ」

 

この世界は美醜の感覚が逆転している

幻想郷に来てから何かと会話が噛み合わないことがよくあった

それ故に少し調べたりもしたのだ

 

分かったのは、美醜感覚がひっくり返っていた事のみ

簡単に言えば絶世の美女が糞の方がマシという存在になっている

しかもそれは女のみという意味のわからない現状

 

言ってまえば歴史的美人

 

自分達も本来なら人里の奴らと同化し、同じ価値観になったかもしれない

だがまぁ、2人とも人里では無い所で暮らしていたので言う程被害は無かった

 

「だったらもう用済みか?」

 

「さぁ、まだ生かされるかもしれん」

 

燦莉は立ち上がる

霊覇が視線を辿ると、そこには日傘が見えた

日傘と青のメイド服、それだけで誰かすぐに分かる

 

「迎えらしい」

 

「お前何しに来たんだったか」

 

「暇だったから来た」

 

「阿呆」

 

燦莉は軽く笑うと、彼女の元に歩いていく

そのまま、何かを話すと会話をしながら、3人は帰って行った

 

燦莉は楽しそうだった

肩に緑の服を着た女の子を乗せて

外の世界より楽しそうで、幸せに俺の目には見えた

 

「はあ」

 

俺は立ち上がる

そんな姿を見ると自然と妬いてしまうものだ

 

多分、心は妬いていたのだろう

あの様な"家族"の一人と数えられる事に

本当の家族が近くにいても、何故だか肌寒さは止まらない

 

ポツリと、俺は呟く

 

 

 

 

 

 

 

「俺も少しだけ、頑張ってみるかな…」

 

この、"神霊が湧き出る異変"を

神の触媒となりえる者として動くのはあれだが…

 

――それに霊夢は冥界に行ったし…

何やら幽々子にこの神霊は何か聞く為に行ったらしい

 

ちょいと、やってみるか

 

霊覇は冥界に向け、飛んで行った

 

 

「…にしても神霊がうじゃうじゃいらぁ」

 

いつの間にやら神霊が大量に寄り添っていた

が、消えたり現れたりと何ともまぁ忙しい奴らである

 

それが飛行中であろうと寄ってくるので面倒な事である

 

「どっかいけ、ほらほら」

 

手を振ろうともこいつらは離れない

それどころか変な意思が見えてきてしまう

 

ドロドロとしたものからサラサラのもの

 

多種多様なネガイ

 

それは、欲望だった

 

「…いや、俺は聖徳太子じゃないんだよ」

 

それがまぁ大量に向かってくる訳で

神霊が大量にいるからそれは当たり前と言いたいところたか…

 

こんなの、前までいなかったしな…

 

「冥界の主に聞くのが1番良さそうだ…」

 

冥界の主の姿は数回見たことがある

宴会で食事を湯水の様に食い果たす化け物

 

あれを見るとやはり自分は人外魔境に居ると再認識させられる

あんなの外の大食いでも見なかった

 

本当に、食べ物が消える

 

「怖い怖い」

 

そう言っていると、いつの間にやら雲の上に到達していた

太陽がこの身に当たり、とても暖かい

 

「嗚呼、天照様――」

 

ふと、口からそんな言葉が漏れた

神主…まぁ、巫女になったおかげか神への敬いがあった

今までろくに神さんにお祈りしたことは無い

 

ま、戦場じゃ死ぬ程したけど

 

それはそうとこの能力、八百万の神だけでは無いらしい

 

北欧神話、ギリシア神話、インド神話

 

もはやこの能力は"全ての神の触媒になる程度の能力"に変えた方が良いだろう

だが、欠点が普通にあった

 

それは"神話が違う神同士は使えない"

つまるところ日本神話の神から北欧神話、というのは出来ないのだ

 

何故か?

 

不倫みたいなものだからだよ

 

これだけに限る

どいつもこいつもに尻尾を振ることは出来ないのだ

一応巫女…神主ですし…

 

まぁ、無理を言えば出来ないことも無いのだ

天照→シヴァ、とかゼウス→オーディン

それなりの代償も高く、霊力が取ってかれる

 

なお、人型でない場合その神の姿に変わるとか

フェンリルの場合青い狼となるだろう

 

一応代償はそれだけならいい方だと思う

怖くて1回しかやってないのだ

 

…何度もやれば

 

 

 

 

 

 

 

霊覇は首を振り、その考えを振り払う

 

そんな事考えていても意味はあまりない

 

だからこそ、目の前の問題を見よう

 

真実を

 

そして、俺は冥界への入口に足を踏み入れたのだった




まぁ、チートですな…

ですがまぁ言ってた通り欠点はあります
霊力とか盗られて反動が凄まじくて動けなくなるとか、そんな感じ?

ま、意味はないと思いますがね、これ以降


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ボーダーオフライフ

現れたのは階段

石畳のそれはとても長く、霞のように門が見える

飛ぶのが楽そうだ

 

うん、それがいいだろう

 

「…志那都比古神様、力を」

 

服に緑の刺繍、色が刻まれて体を風の鎧が覆う

体は綿のように軽く、直ぐに飛べそうだ

 

そう思うと、体は正直に動く

 

飛ぶ

 

早く、速く、夙く

 

石の階段はサーッと移動していき

気付く頃にはもう門の前に立っていた

 

「…あぁ、やるか」

 

こきりと首を回し、門に両手を添える

そして、ぐっと、力を入れた

 

酷く悲しい音を立てながら門は開く

 

その先にあるのは桜と、御屋敷

見てわかる豪勢なそれは冥界の主の物に相応しいだろう

 

さて、その主さんは何処にいるのやら

 

霊覇は散策する事にした

 

「眠いな、寒いからかね」

 

冥界の温度は低い

何故かと言えばそこらでふわふわしている幽霊共だ

こいつらは神霊と違いちゃんとしている…実体はないよな

魂だけの彼らはその冷たさを周りに振り撒いている

 

故に、寒い

 

それが神霊に寄せられてからかかなり近付いてくる

 

「人気者ねぇ」

 

主が来るのも、必然か

顔をあげればそのにいるのはいつしかの宴会で俺を殺した奴だった

何故、俺が死んでいないのか、よく分からない

 

そもそも、生きているのか

 

「よぅ、いつも通りヒマそうだな」

 

「そうでも?妖夢がでかけたから心配なの」

 

水色の着物、ふわふわとした雰囲気

母性豊かな感じの、冥界の主

心配をしている上でヒマなのだろうか

 

西行寺幽々子だったか?そんな名前だった

 

「それで、貴方もこの神霊達の事かしら」

 

「ま、そうだ…ここのじゃ無さそうだし、意味無さそうだ」

 

肩を竦め、縁側に座った

幽々子も、同じように隣に座る

水のような動きで、自然に

どすんと座った自分とは大違いだ

そこから見えたのは、手入れされた庭だった

 

はて、いつの間に庭まで来たんだか

 

だがそんなのは直ぐに夢のように消えた

左腕に感じた、冷たいナニカの感触

それを見てみると、幽々子が大事そうに左腕を抱いていた

 

幽々子の胸が当たって、柔らかく形を変える

 

それは何故か、暖かった

 

少し、冗談の様に言った

 

「人の腕を勝手に抱くなって教わらなかったか?」

 

「2人も致すなんて、節操が無いわね」

 

ドキ、と心臓が跳ねた

何故?何故彼女がその事を知ってる?

このことは他言無用の事である

 

いや、おかしいだろ何でだよ

 

その視線を彼女に向ける

 

「紫から、まぁ、後は匂いかしら」

 

紫は潰す

とはいえ、匂いか

何だろう、確かに、匂いを染み込ませるかの様なプレイはされたが…

そんな、嗅げる程のものとは思えない

 

耳元で荒い息が聞こえた

 

幽々子の顔は、赤く染まっていた

生暖かい息が顔や、耳に当たる

 

「こんなにしたの、責任とってくださる?」

 

いつの間にか、押し倒された

彼女から、ひとつ大きな神霊が出た

 

欲望

 

ドロドロとした、欲望

 

博麗の兄と交わる

 

そんな、背徳感の凄まじい欲

 

「どいつもこいつも節操がねぇ…」

 

「覚悟してほしいわぁ」

 

霊夢に吐くほど犯されるんだろうな、明日

 

俺はそう思いながら服を脱ぐ、ぬがしてくる彼女を見つめたのだった

 

 

「…少彦名神様、つまらない事ですが力を」

 

手のひらに薬が生成される

 

口に放り込み、飲む

 

ほんのり甘い酒の味が口の中に広がる

 

ガクガク震える足がマシになった

何ともまぁ激しい人だ…俺は彼女に目を向ける

布団でスヤスヤ眠ってるだけなのに絵になる

はだけた姿は見ていてとても…

 

いかん、ラウンド2は死んでしまう…

 

俺は立ち上がると妖怪の山を目指すことにした

射命丸なら何か知っているかもしれない

 

それと、厄神というのも人目見たかった

 

――

 

妖怪の山へ到着

風の神の力は凄まじい

本当に一瞬で移動が出来る

 

射命丸といい勝負が出来そうだ

 

「着地ー」

 

妖怪の山に着陸、そして神を探すことにする

神の触媒となり得る者、神と親交を深めるのは大事だと思う

 

そして、山を散策する

冥界と違い、そこらの木がかなり邪魔だ

だが切り倒せば天狗がはっ倒しにくるので出来ない

 

そうグチグチ思っていると何かが見えた

 

赤色の、回転する何か

 

それは神だと直ぐに分かった

緑髪の女はクルクルと回る

 

グルグル回る

 

「おい、アンタ」

 

「くるくる、くるくる…何かしら」

 

こちらに気付くと回転を止め、顔を向けてきた

俺は見た感想を告げた

 

「いや、回る女なんて不思議なものでな」

 

「厄を振りまくからねぇ…貴方も相当だけど」

 

彼女は俺の胸に手を置く

厄神の、厄吸いだ

 

こうして人の厄を吸い、自らの糧にする

 

厄を糧にするからこそ、自らが厄になる

 

だから、誰も近寄らない

 

「どうも、わざわざありがとう」

 

「いいのよ、神の触媒となる人にはこれくらいしないと

 鍵山雛っていうの、覚えておいて」

 

彼女はそう言うと笑った

その笑い顔に釣られて、俺も笑う

とてもいい笑顔で、気付かなかった

 

「で、お前らは」

 

「私達?」

 

「私達は秋姉妹よ」

 

「秋の神様よ」

 

雛はそういった

こいつらは秋の…収穫とかなのかいな

多分触媒となれば秋の味覚がボンボン湧き出てくるだろう

食べ物には困らなくなるだろうな

 

「名前は」

 

「秋静葉、姉よ、紅葉の神って言われるわ」

 

「秋穣子、妹で、豊穣の神様」

 

帽子を付けている方が妹で、無い方が姉か

にしても似た奴らだ

帽子を除けば違うのは服の色くらいじゃないかね

 

まぁ、そんな事はどうでもいい

 

「ありがとよ、また会おう」

 

俺はそう言うと、空を飛んだ

射命丸の家は知らない

 

なら、守矢神社に行く事にしよう

 

元外来人である早苗を、取材しているかもしれないから

 

 



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神は死んだ

ここはどこだ?

 

冷や汗が垂れる

今まで林で偵察行動をしていたのにこんな所に来てしまった

 

鬱蒼とした山で、霧がかかっている

樹海と言えるそれはもはや死に場所としか言えなかった

 

食料も尽きた、水は川のものだけ

 

畜生、こんなことなら…

 

特進とか考えずに、大人しくしておけばよかった

指名手配犯を見つけ、軍に突き出して手柄を得る

そんなのを考えなければ良かった

 

気桐霊覇、霧秋燦莉

 

その2人の目撃情報はある時から一切消えた

煙のような彼らはもはや空気と化した

 

私達の中では既に蒸発したのでは?と呟かれていた

事実彼らの事は捕虜達も知らないのだ

行動は、どうした、知らない

 

何を言おうとも分からないと返す

 

知らないから

 

どれだけ拷問しようと、言う口は変わらない

 

ベトナム戦時のM16の動作確認をする

私のような下っ端にはこんな化石が多い

使えるには使える、荒っぽい使用にも大体耐える

 

酷い話にはまだレバーアクションライフルを使う奴も居るらしい

気に入っているわけでは無く、"それしか無いから"

 

聞いた時は本当に哀れだと思った

 

化石も化石、いつのだよ

 

それなのに、ハンドガンは最新だ

ベレッタ、グロック、サムライエッジ、ソーコム

 

殆どがメインウェポンより時代が進歩している

だだ、稀にマカロフ等のオールドガンもある

 

SAAとか

 

そう思えば私はまだマシかもしれない

ベトナムで使っていた時そのまんまなM16

ストックに包帯が巻き付けられた、誰かの品

バレルが三角状なのも特徴の1部だろう

 

サブウェポンはM1911

恐らくこれもベトナム時の物と思われる

グリップに包帯が巻き付けられたまたもや誰かの物

それ以外特にカスタムがされてない

 

私は空飛ぶ人影を見ながら、ため息をついた

なぜ故にこんなガラクタを…

 

「…???」

 

あれ?私はなんて言った?

空飛ぶ人影?

 

人は空を飛ばないぞ?

 

視線を戻すとそこには空飛ぶ人がいた

 

空飛ぶ人、が居た

 

「!!!!」

 

気付けば引き金を引いていた

訓練で鍛えられた反射能力で、撃つ

 

三発程、命中した

 

ソイツはクルクルと回りながら落下していく

私は全力でそいつの元に走っていた

 

その顔が、どこかで見たことある顔だったから

 

マガジンを交換し、走る

 

 

「えぇ、霊覇さんは外じゃそんな感じです」

 

「ちょっと信じられませんねぇ…それ」

 

「事実ですよ」

 

早苗は射命丸から取材をうけていた

 

内容は霊覇について

 

彼の事は知っているようで知ってない事が多い

それは特に人間関係や性格のことだろう

 

外での人間関係は普通だった

基本人と普通に接する

友と呼べる者は気安く、楽しく

 

だが、戦争で何かが変わったのだろう

 

あんなになるとは思わなかったらしい

 

「ふむふむ、では早苗さんは?」

 

「私は…宗教のヤバい人と他人に思われてたらしいんですよ」

 

「ああ…外には神という確信は無いですからねぇ…」

 

外の世界での神はあくまで想像である

化学より神は居ないと証明されている

 

それに、「神は死んだ」という言葉もある

 

それから沢山の宗教が生まれ、消えた

 

もとより、居ないもの

それを居るとする者は、異端とされるだろう

 

早苗もそれに含まれていた

 

「えぇ、そうなんで――」

 

答えようとした瞬間、久しく聞かなかった音がした

 

銃声

 

10数発の発砲音

それは、何故だか嫌な予感がした

 

とても、良くない予感が

 

「…!」

 

私は駆け出した

 

大切な、何かが死ぬんじゃ無いかと

 

その、銃声の地点に駆け出していた

 

 

「が、ああ…いてぇなぁ…」

 

脇腹のそれと足のソレを見る

久しぶりに銃で撃たれた

 

この痛み、どれだけ味わった事か

 

だが、忘れた痛みを直ぐに慣れる程自分の体は慣れていない

 

こうして木に背をもたれ掛けている訳だ

 

やれやれ、どうしてこうなった

 

猟師か?

いや違うな、普通飛ぶ人を撃ったりしないし、単発だろう

今回のソレは10数発聞こえた、アサルトライフルだ

 

…まさかな

 

「ここまで来るか…?」

 

その思いは、見事当たる事になる

 

「はぁ――ッ」

 

現れた、タンクトップの女を見たことで

それは確か政府軍の装備だった筈だ

 

そう思っていると、彼女のライフルが火を噴いた

一瞬だった、空薬莢が地面にぶちまけられる

 

どうして?

 

頭に浮かんだのはそれだけだった

普通奴らはここまでやらず、数発撃って戦闘不可能にする

だが、目の前の奴は明らかに殺そうとしている

 

マガジンを捨て、リロード

 

それ(銃口)が、顔に向けられた

 

「ま――」

 

待て、という言葉は銃声と赤い血に消えた

 

 

「は、ははは…」

 

ぐちゃぐちゃになって判別のつかない顔を見て笑う

体も、銃弾で滅茶苦茶にされ、腸が溢れ出ていた

 

何故だか、笑いが出た

 

あの指名手配

 

あの気桐霊覇を殺すことが出来た

 

こんな所で

 

こんな僻地で

 

「はははは…っ!」

 

これは吉報だ、本部に連絡しないと

無線機を取り出し、死体を確認し――

 

「霊覇さんになんてことぉぉおおおおおお!!!」

 

視界にあったのは、緑の光だった

 

それらは質量を持ち、私をすり潰した

 

 

「ああああああああああああああッッッ!!!!!」

 

ミンチになったそれを確認せず霊覇だった物に駆け寄る

それは赤黒く、生きてないのは確実だった

私は彼の胸に頭を置き、鼓動を確認する

 

「早苗さーん、そんないきな――」

 

文の声が聞こえた

気にしてられない、鼓動がなかったら、なかったら

 

トクン…トクン…トクン…

 

ある、鼓動がある

 

「まだ生きてる…!」

 

「あ、え…?霊覇さん…?ええ…?」

 

私はそれを抱き抱えると、永遠亭を目指す

この人を死なせてはならない

 

まだ、死んで欲しくない

 

 

「お兄ちゃん…?」

 

「霊夢?どうした…?」

 

「嫌っ…そんなの…嫌ぁ…!」

 

「れ、霊夢!どうした!?何があった!?」

 

「お兄ちゃああああああああぁぁぁん!!!」

 

 




それはそうとあべこべ要素少ない気がする

ダメか


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何の為に

レバーをコッキングし、弾薬を送り込む

そしてそれを敵に向けて撃つ

 

「アァ!」

 

敵は変な声をあげて死んでいく

それをこの暗闇の中繰り返していた

 

何処か、今だ何処か分からない

 

死んだと思った

 

自分は体を穴だらけにされた

それだけは良く覚えている

 

ただ、ここは?

この空間は何なんだ?

 

死んだのなら魂は三途の川を渡る

そしてその先で閻魔に裁かれるのだ

 

だが、ここは違う

 

地獄とも、違う遠い場所

分からない、分からない

 

ただ、目の前の敵を殺すことだけを考えている

そうでもしないとこんな真っ黒い空間に居られない

 

誰か、出してくれ

 

いきなり、空間が生まれた

バシリと、雷が落ちたように。

地面から上へ裂けるように展開された空間

その空間から鎖が伸びている

覗き込むと、それは地面に伸びているのが分かった

 

ウィンチェスターを滑車代わりに滑り落ちる

 

そこは赤い世界だった

灰色の浮島が大量に配置された、味のない空間

 

地面に降り立った時、地面がえぐれた

 

後ろから撃たれたらしい

ウィンチェスターを即座に向け、発砲

散弾は簡単に敵の顔面を破壊していく

 

打ち切ったと認識するともに近くのレバーを思い切り倒す

 

すると、世界が"逆さま"になった

 

あらゆる物が逆転した

地面に落ちていたものは全て奈落に落ちていく

 

空薬莢、死体、銃

 

そして、己

 

飛行能力も今の自分には無かったらしく、法則に従い落ちる

そこに、長方形の浮島があった

 

黒い深淵、暗い穴から、先程の大地に鎖が伸びている

 

そこに手を伸ばす

幸か不幸か、そこに手は届いたのだ

ぐっと、掴むことは出来た

 

だが、直ぐにそれを離してしまった

 

上手く、掴めなかったからかもしれない

 

霊覇は、妙な視線を感じながら奈落へと落ちていった

 

 

「霊覇さんは!霊覇さんは助かるんですか!?」

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん…」

 

「分からないわ、生きてるには生きているけど

 生きているとは思えないけどね」

 

ベッドの上

そこには包帯でぐるぐる巻きされた人型があった

シーツは零れた血で大きなシミが出来ている

全身、包帯だらけで包帯が無いのは足くらいだった

 

確かに、それは生きているとは思えなかった

 

包帯の僅かな隙間から色の無い瞳が見えるだけ

機材からは定期的に心拍の機械的な音が響く

 

まるで深呼吸のようにゆっくりなそれは今にも消えそうだった

 

「…生きて、生きて…お願い…」

 

「…霊覇が霊夢の兄だったなんてな」

 

魔理沙が、ポツリと呟いた

この異変が解決した時、霊夢が誰のことを叫んでいるのか分からなかった

音速で飛ぶ彼女について行き、辿り着いたのがここ

 

永遠亭に霊夢と魔理沙は入り込んだ

 

そして、あるモノを見つけた

 

滅茶苦茶にされた霊覇を

 

もはや人間とは思えないソレは兄とは思えないだろう

 

ただの肉の塊、ひとでなし

なんてったって、顔の残っているのは後頭部と左目だけだから

一時取り乱した霊夢だが、彼が生きていると伝えられ安心した

 

こうして、彼の再起を祈っている

 

彼が戦っていることも知らずに

 

霊夢が腰に巻いてるホルスター

そこに入っているM500のグリップが、妖しく光った

 

 

長く落下しながら思う

 

ここはどこだ?

俺は何故ここに居る?

意味がわからない

 

様々な疑問が頭を過ぎり、走り去る

ただ、風が帽子を嬲る

 

服装が、戻っていた

 

ヘッドホンに黒い帽子(頭が無く、ツバと縦だけの物)

それで服装も開いた軍服にポケットの多い迷彩ズボン

背中には大きな通信装置があった

 

全て、戻っていた

武器は無いものの、服装、全てが戻っていた

 

かつての姿

 

自分にはもはや懐かしく

 

そして忌まわしい物だった

 

何故なら、もう決めたから

こんな姿をして、戦わないと

人を殺める為にこうした訳では無いと

 

だからこそ、あの時銃を捨てたんだ

 

あの、銃を

 

M500を捨てたんだ

 

今思い出すと分かるが、あれはどうなったんだろう

誰が回収したのか、覚えてすらない

だが、考えている意味も無いだろう

 

というか、いつまでも落ちていくんだ、これは

 

あまりに暇すぎるが故に俺は煙草を咥える

そして、ZIPPOを取り出し、着火する

少し空気抵抗で体が逸れたが、なんとか着火した

 

そして、それを一服しようとした時

 

 

 

 

 

地面に埋まった

 

どうやら浮島のひとつに墜落したらしい

タバコは衝撃で地面に落ちた

ハマった体をなんとか引き起こし、窪みから脱出する

 

長方形の薄い壁があった

 

ただの壁だ、特筆することは無い

それに背を向け、辺りを見回す

 

先程の窪みは黒い液体が大量に染み出ていた

それは自分の体にも言えることであった

顔も若干その黒い染みが付着してしまっている

 

ハッキリ言って不快なのだが、拭き取れ無いのだ、これが

どれだけ袖で拭き取ろうともそれは袖に付くばかりだ

一行に拭き取る事が出来やしない

 

そんなことはどうでも――

 

「うがっ!?俺の顎が!?」

 

唐突な痛み

それは自分の顎から生えている刃からだった

いきなりだった、気配があった訳じゃ無かった

 

本当に、唐突だった

 

そして、そのまま後ろに引き摺り込まれる

宙に浮きながらだったせいか、抵抗なぞろくに出来なかった

 

俺は、ドス黒い深淵にまた浸かった




あ、ども、お疲れ様です


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辺獄と呼ばれし場所

男が壁に頭を打ち付ける

 

その部屋は机がひとつ置かれた質素な物だった

壁には何かの広告がある、扉は上下に動く近未来の物

とはいえそもそも部屋の材質がコンクリなおかげで言うほど近未来では無い

 

ガンガンと、男は壁に頭を打ち付ける

 

打ち付ける度に黒い液体が中を舞う

何度か、いや何回も打ち付けた男は、壁を突き破った

 

黒い深淵

 

そこから鎖が伸びる

その鎖に引っ付いてきた男は部屋に放り出された

 

――

 

酷い目にあった

まだ椅子にされてケツを体に置かれる方がマシだった

ゲボりと、口から黒い液体が出る

 

「…、……?」

 

何か、変わっていた

さっきと何かが確実に違った

 

声が、出ない?

 

下顎を触った

 

無かった

 

下顎その物が無かった

首の部分を触ると、声帯が無かった

どういう事だ?普通ショック死するレベルだろう

 

だがまぁ、どうでもいいか

 

それほど問題でもない

 

立ち上がり、ドアに向かう

 

と、そのドアが開き、中から女が現れる

兵士がガバメントをこちらに向けて撃ってきた

 

ガバメントを持つ手を上に向けさせ、拳を胸にめり込ませる

体勢が崩れた女からガバメントを奪い、顔面を殴る

女は後頭部を壁にぶつけ、死んだ

 

スライドを引き、弾丸を挿入

 

扉に入る

 

そこにも敵は居た

長い廊下のような所だ、敵は数人

それ程強そうな奴もいない

 

武器もアサルトが数人、ナイフが一部程度だ

 

ガバメントを敵に撃つ

亜音速の弾丸は簡単に敵を殺していく

ナイフを刺そうとしてきた的の手を捻り、ナイフを奪う

そしてそれを持ち主に突き返してやった

 

アサルトが連射してくる

それを横に避けながらバレルを掴む

ガバメントをホルスターに仕舞い、敵のマガジンを掴んだ

そしてそのボタンを押し、マガジンは自重で落下する

ついでにコッキングもして相手に攻撃する能力を失わせる

 

もはやそれは鉄の塊だ

相手はリロードより殴打を選んだ

ストックでこちらを気絶させようとするが、させない

がら空きの脇腹を殴り、アサルトライフルを奪う

 

アサルト――FA-MASのマガジンを拾い、挿入。

コッキングをし、敵に発射

 

敵は理不尽を嘆きながら倒れる

 

そんなこんなで、敵は簡単に殺せた

突き当たりにあるドアから外に出る

 

外は、変わらなかった

赤い空間に浮島があるくらい

出てきた建物の横には看板があった

ただエクスクラメーションマークのあるそれはただの看板だった

特に力を秘めている訳でもない、看板

 

敵がわんさか湧いてきた

どうやら銃声を聞きつけてきたらしい

 

やることは変わらない、こいつらを始末するだけだ

 

力を振りまく時は心は人では無いと言われてる

何故なら確実に命を奪う事であるから。

防衛、攻撃、報復、どれもそうだ

無傷で攻撃とはなんともしずらいのだ

 

敵を撃ち殺す

頭やら体を弾丸が抉りとっていく

 

 

敵を全員殺した後、辺りを見回す

荒野だ、雑草も、もはや枯れ草すらない大地

それは世界が終わってしまった時のそれに近い

 

ふと、何かが降ってきた

 

それを避ける

 

それは人だった

ウエストバックを腰に付けた男

そいつは地面にめり込んだ

顔が地面にめり込み、黒い液体が広がる

どんな顔がよく分からなかった

 

装備は太ももにソーコムを装備している

 

誰だ、この男は誰だ

 

疑問が頭を駆け巡り、取り敢えず頭に手を置いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「 好きだよ、ずっと 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――!!!!!」

 

情報の嵐が襲ってきた

 

恐らく、この男の記憶

博麗巫女の兄として生きてきた男の記憶

それはなんとも言えぬ歪んだ愛だった

恐しいソレは何故か愛として成立していた

 

この男は?一体?

刀を振るう映像が頭の中で再生される

2振りの―男は二刀流だったらしい―刀を自由自在に振るう

それはあらゆる障害を退けていた

 

死を操る亡霊

 

判決を絶対とする閻魔

 

心を読み心を糧とする覚

 

風を操り最速を名乗る天狗

 

鬼神もかくやという怪力の鬼

 

核エネルギーを扱う地獄鴉

 

それと戦う記憶が一気になだれ込んでくる

勿論の事神経系等は情報の多さに焼き切れそうになっていた

とっくの昔にオーバーヒートした頭にこれ以上の情報は毒でしか無かった

そんなことより頭が暑い頭が暑い暑い暑いあついあついアツイタイイタイタイタイタイイタイタイ頭頭頭頭あままあたたまままああたままあたまあたまあたまあたまああああああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ…!!!

 

霊覇は情報量に耐えきれず、地面に仰向けに倒れる

それにトドメを刺すかのように、大量の鎖刃が霊覇を突き刺した

 

どこから来たかも分からないそれに、霊覇は飲まれて言った



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やめてくれ

壁に埋まっていた

感覚だけでわかった

背中がスースーする、風に当たっているのだ

とは言え建物の中だ、風なんぞどこにあると言うのだ

 

とも思えば激痛が走り、壁から引きずり出される

床に転がる、下顎の無い口から黒い液体を吐瀉する

本当に真っ黒で何か食物がある訳でもない

吐き出した何かとは思いたくないほど不気味な物

 

不気味な、何か

 

ただそれも自分を構成する一つだと、感じれた

そこは先程出た部屋と似たような部屋だった

違うのは机が無く、代わりにあるのは覗き窓

 

敵が現れるのも、似ていた

ソイツが持っているSMGが連射される

UZIともMAC10と同じグリップにマガジンが刺さるタイプだ

刻印を確認…MP7A1とはっきり刻印されている

敵をストックでしばき倒して、窓を確認する

 

そこにはドアが2つあった

奥にはレバーが付いた装置があり、何か記憶を刺激した

それよりも、気になったが

 

今奥のドアから入ってきたサンフォードだ

 

「燦莉…サンフォード!」

 

こちらを一瞥することも無く彼はレバー引き倒す

おそらくそれに頭が行っていたのだろう

彼はこちらの扉から入ってきた敵兵にショットガンでぶち抜かれてしまった

 

「クソッタレ!死ねコノヤロウ!」

 

敵に発砲

死亡した後窓からドアに向かう

 

だが、ドアは開かなかった

後ろから異音がしたかと思えば、刃がまた霊覇を穿つ

そして壁に引きずり込む

 

出たのは今の部屋だ

 

ただ、何かが違う

自分が最初出てきた所も変わってないが、何かが違う

グリップを握りしめ、ドアを開ける

中の哨戒と思われる敵に発砲

空薬莢が重力に従い下に落ちていく

二名の敵を壁を駆けながら抹殺

 

先程の部屋、敵が出てきたドアから入る

おそらく敵が来る。

先程見た事が、今起こっていた

これはゲームか何かか?

 

さっきと同じように燦莉が入ってくる

こちらを見ずにやはりレバーに向かう

 

「…この…覚えとけ」

 

敵が先程と同じように入ってくる

顔面に銃口を突き刺し、引き金を引き切る

玉が無くなるまで撃つと、ショットガンを奪う

 

そして、丁度レバーを倒した燦莉に話しかける

 

「おいおい、無視は無い――!?」

 

振り返ったソレは見知ったそれでは無い

深淵の様に黒く、光がない穴

それが燦莉の顔面にぽっかりと開いていたのだ

 

酷く苦しそうな様子になる

頭を抱え、その痛みに耐えるかのように

 

かと思えば壁に移動して拳を振るう

壁は簡単にへこみ、黒い穴を作っていく

 

かと思えばぼーっと立ちすくみ、動かなくなる

先程の激情が嘘かのように動かなくなった

 

そう思えば、今度は地面に突き刺さっていた

頭を下にして黒い液体を手から垂らしながら

 

「…!しまっ――」

 

自分の周りに黒い四角形の線が見えた瞬間、呟く

それはよく見れば溝と言うのがハッキリ分かる

 

予測出来るのは、下か、上か

どちらに上昇するか下降するかである

 

結果は前者だった

 

地面がせりあがり、霊覇を天井とサンドイッチさせようとする

どうにかして逃げようとするが早すぎて無理だ

 

どうする事も出来ず、霊覇はミンチと化す痛みを味わった

 

 

「彼は私の弟ですよ、看病する義務はある」

 

「はっ、それは過去の事でしょう…今の兄妹は私よ、聖」

 

その頃永遠亭では一触即発の空気が漂っていた

なんでかと言えば聖が霊覇の重症を知って殴り込んで来たのもある

そこから色々霊夢と言い合い果てには彼と身を重ねたのは私の方が早いだの言う始末

 

まぁアイツが帰ってきたら修羅場なのは確定したな

燦莉はそう思いながら2人を宥める

 

「お前らあいつを思ってるのなら争うな、見守ってやれ」

 

「「それは私が」」

 

「大切な"家族"だろ、気持ちは同じの筈だ」

 

こうやって、なんとか2人を抑えている

永琳も献血のような作業をしているが、意味が無いと言ったのは彼女だ

彼女も何もしていないのは嫌なのだろう

 

とはいえ採血はあまりいい気持ちでは無いが

 

「…やれやれ、アイツは早く帰ってきてくれんかな」

 

また一触即発の雰囲気になる2人を見てため息をつく

視線は包帯だらけの親友に向き、それを捉える

 

「少し検査をするわ、待ってて」

 

永琳は試験管を揺らした後、どこかに行く

多分自分の検査室だと思う

好奇心がそそられたのだろう

 

彼の血は黒かった

 

それこそ深淵のように光を通さない色だった

人間の血とは思えない色だった

このサングラス越しでもわかる程の、おぞましい物

 

それが恐ろしくて、出てきた冷や汗を俺は拭った

 

それでも、冷や汗は止まらなかった



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平行線の組合

ミンチと化した痛みの後、俺は何処かに飛び出た

感覚的に恐らく二階に飛び出たのだろうか

体が重いが、それほどでも無い

 

俺は立ち上がると、後ろを見た

 

そこには、他の奴らとは違う女が居た

 

獣耳と尻尾、それに大剣と盾を持っている

そいつは俺を…俺の顔を見て息を飲んだ

自分の顔がどうなっているかなんて知っている

どうせ下顎が無い凄惨な顔だろう

言うてこういうのは慣れなのだから、慣れるしかない

 

…して、どこかで見たような

 

「…、……、、……」

 

それで文句のひとつでも言おうとした

お前は誰だ、どうしてそんな綺麗何だ、と

だがそれは言葉にはならず、ただ骨を打ち合わせるだけ

 

それを見て、女は顔を強ばらせる

妖怪のくせにこんな物も見たことがないのか?

それとも、現世には無いものだったか

 

まぁいい、やれることをやるだけだ

 

ナイフを拾い、奴に飛び掛かる

奴は俺を蹴ろうとするがそんなの丸見えだ

軽く避けてナイフを首に走らせる

奴が体勢を変えたため、ナイフは頬に傷を作っただけだ

 

奴は大剣を振り下ろす

ただ振り下ろすだけなら避けやすい

縦から下への攻撃なんて横にスライドすればいい

 

そこをついてナイフを使うのだ

切っ先を思い切り奴に突く

盾が火花を上げて防ぐ

 

奴は大剣を構えた

不味いと思い後ろに下がる

 

大剣が音速のスピードで突きを放つ

それは簡単に俺に切り傷を発生させた

流石人外、こんなのは簡単ってか

俺は人間だぞ、こんなの出来るわけないだろ

 

「…、……」

 

クソ野郎、と罵倒した

だが言葉には出ず骨を打ち合わせるだけ

舌が無いと発音できないのはかなり不便だ

 

俺はナイフを捨てる

先程の突きで切っ先が曲がっていた

拳をパンパンと打ち鳴らし、格闘戦に移行する

 

パンチ

 

まずは懐に放ち、肋骨に当てる

妖怪なら骨の一本程度同意ということは無いだろう

それでも動く度の痛みは動きを時たま止めるかもしれない

 

だが、腕で防がれた

鈍い痛みが拳に伝わる

奴は近過ぎて大剣が使えないと思ったのか盾で叩き潰そうとする

こちらは素直に叩き潰される性格では無い

 

それを避けて奴の足を掴む

 

「しまっ――」

 

隙を作った自分を恨め

俺は奴を思い切り振りかぶって投げた

綺麗な軌道を描いてケツから壁に激突する

 

奴は壁に埋まった

穴の空いた壁からドロドロと黒い液体が広がる

彼女はもがいていた

どうやらケツがハマって出れないらしい

 

チェックメイトだ

 

ナイフを拾い、構える

 

そして、投げようした

 

「ッ!」

 

奴の胸から刃が生えた

それは俺を地面に引きずり込む時に出る奴と同じだ

つまり、今から起こることは…

 

奴は悲鳴をあげる暇もなく、壁に吸い込まれていった

 

俺はナイフをしまうと歩き始める

行き場所は分からない、どこに行けば良いか分からないから

 

とはいえ、進めばどうにかなる

 

そう思い、進んだ時だった

 

「ぐはっ!?」

 

痛み

奴を貫いた刃とは違う何かが腹を貫通していた

それは、赤い昆虫の腕のような物

黒い爪が俺の腹を貫いていた

 

それを掴み、何とか抜けようとする

 

だが、深く刺さっていて抜けない

 

俺はそいつに、よって、壁に叩きつけられた

壁を貫通して、また別のどこかに移動させられた

腕が力強く振り、俺を飛ばす

 

俺は顔を上げた

 

 

 

 

 

 

 

そこは外だった

 

崖から先程の昆虫の腕が生えている

ゲボりとドロドロの黒い液体を吐き出す

 

痛みに苦しんだ

 

俺が苦しんでいる頃、現世では巫女に動きがあった

 

 

「彼のところに行かないと…」

 

「どうやって行く気だ」

 

燦莉は動揺しすぎている霊夢を落ち着かせる

今は待つしかないというのを認識させるしかない

 

だが、歪んでいる程の感情はそれを受け入れない

 

「どうやってでも言ってやるわ…!」

 

彼女は頭を抱える

恐らく、彼女の中で何か考えているのだろう

どうやって兄を助けるか

 

実は先程からうめき声がしているのだ

霊覇の口から、悪夢を見ているかのように

 

同じ場所に行って、助けたい

 

それが霊夢の気持ちだった

 

「…嫌な予感がする、永琳――」

 

 

燦莉が、永琳を呼ぼうとしたときだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ああ、いい方法があるじゃない」

 

 

凛とした、無機質な声が聞こえたのが

それが一瞬誰の物か分からず俺は硬直した

 

いや、声だけじゃない

 

霊夢の、顔

 

あの、無機質な、黒曜石の様な透き通った黒の瞳

 

「れ、霊夢、待て、早まるな…」

 

「これしかないわ、それじゃあ」

 

そういうと、彼女は針を取り出した

退魔の術が施された腕の長さ程ある針

 

それを己の喉元に突き刺した

 

「霊夢…!」

 

俺は急いで針を引き抜く

だが既にやられたらしい、パタリと倒れた

 

直ぐに耳を胸に寄せる

 

これで鼓動がなければ最悪だ

今も未来も無くなってしまう

 

「…良しッ!永琳!永琳を呼んでこいッ!早く!」

 

「わ、わわわかりました!」

 

鼓動はあった

過去形では無いが今すぐにでも過去形になりそうなくらいの鼓動

早めに措置をしないと不味い

このまま放置すれば死んでしまう

 

「…ご丁寧に骨を」

 

針の位置は骨を貫いていた

背骨の神経を切断していた

 

「…だが」

 

燦莉はフッと笑った

こうしなければ霊覇は救えないという現実

 

ただ、何処かで期待している

 

彼女が、友を救ってくれると

 

 

信じている



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辺獄の巫女

「――…ッ」

 

起き上がったそこはどことも言えぬ場所だった

少なくとも永遠亭のベッドの上じゃない、床が硬すぎる

建物の中らしいが、シンプル過ぎて逆に見たことがない

 

ガラスの無い窓を見ると、そこは赤い世界だった

 

「…成功した、のかしら」

 

現世では無いことは確実だ

後は、兄を探すだけである

霊夢はそう思い立ち上がった

 

「…それで、ここは何処かしら」

 

辺りを見回せばそれは牢屋だとすぐに分かった

鉄格子が嵌められて、簡素なベッドのような布がある

トイレは…タッパーのようななにか

これは酷い、すぐに脱出しなければ

 

「こんな辛気臭い場所は嫌いよ」

 

大幣を肩に当て、鉄格子を蹴り飛ばす

霊力の籠ったそれは簡単に鉄格子を吹き飛ばす

牢屋から出ると看守らしき女が現れた

女、というのは顔がのっぺりとしている

多分人とは違うナニかなのだろう

 

兵士はこちらを視認するなり発砲してきた

銃というのは弾丸が曲がる訳でもない

そういうことでは弾幕ごっこより簡単である

 

「しかも飛行も出来るし…ねぇぇ!!」

 

御札を兵士に投げる

それが相手に貼り付き、動きが止まるのを確認する

後は簡単だ、針で突き刺せば良い

相手を見ずに針を投げ、部屋を後にする

敵に刺さる音が聞こえた後、何も聞こえなくなる

 

次の部屋には敵兵が大量に居た

少し広い部屋だ、長方形で縦に長い

そこらにある足場から狙撃手がこちらを狙っている

近くにあったコンテナに飛び込む

霊夢のいた所を弾丸が撃ち抜いた

 

狙撃手は1人

その他の兵士はかなりの数がいる

こうもたもたしていても奴らの餌食

先行してきた1人の顔面をコンテナに叩きつけながら思考した

 

「…だったら」

 

見様見真似でやるしかない

殺した兵士から銃を盗る

女が持つには少し重い、M4を持ちながら霊夢は悪態を着いた

弾丸を確認、弾は十分ある

 

 

コンテナの上に能力を使って上昇

狙撃手はまさか飛ぶとは思っていなかったのか照準が遅れる

その隙にM4で撃ち殺す

他の敵はコンテナの上に上がれないため下から銃を撃ってくる

遮蔽物にすら隠れていない奴らなんて簡単に撃ち殺せる

 

とはいえ、こんな形で人を殺すことになるとは

 

人を、人を踏み外した者を殺したことはある

だがこいつらはそれとは違うはずだ

ただ、本能で動いているのか…?

 

「…ッ!?」

 

天井から何かが落ちてきた

 

…鬼だ

二本角の屈強そうな鬼だ

幻想郷では地底に住んでいそうな…

霊夢はコンテナから降り、大幣を構えた

 

「妖怪退治は私の本職よ!道を阻んだことを後悔なさい!」

 

「――!!!」

 

鬼が唸りを上げる

霊夢は飛んでくる拳を避けていく

 

 

その頃、霊覇は拳を地面に叩きつけていた

ただこの苦しみに怒りを、それを地面に叩きつけていた

どうして俺がこんなに苦しまなければならない

 

両手を地面に叩きつける

 

「…くっ」

 

息を吐き、その場に腰を下ろした

手は黒くなっていた

 

「…らしくない」

 

そう呟いた

こんな苦しみ如きにもがき苦しむ訳にはいかない

そう思って立ち上がった

目の前にはあの昆虫のような腕があった

少し動いているだけ、呼吸しているかのように動いているだけ

 

後ろを見ると、そこには柱に背中がめり込んだ兵士がいた

そいつはライフルを持ったまま死んでいた

 

そして、もう1人、兵士がいた

 

横顔が見える、兵士

 

その兵士の顔はのっぺりとしたものでは無い

それどころかかなり鮮明で自分たちと同じ人間としての顔だ

 

「お前は…!」

 

怒りが、拳がまた震えた

強く握りすぎて、血が零れる

 

ソイツは

 

お前は

 

 

 

 

 

その顔は、霊覇を撃ち殺した女のものだった

いや、実際その女なのだろう

装備しているものも、殺された時と同じだ

 

「……、!!!…、…!!!」

 

怒りは抑えきれなかった

柱にめり込んだ兵士からライフルを奪い、引き金を引く

 

背中からの銃撃

 

奴は簡単に倒れた

奴は仰向けになり、ハンドガンを取り出す

何かを言っているようだが銃弾のひとつが喉を貫いたらしい

喉と口端から血をこぼしていた

 

奴の頭に照準を向け発砲

ソイツは簡単に頭から脳漿をぶちまけた

恐らく俺が殺られた時も同じ感じだったのだろう

 

「因果応報だな、にしてもお前も死んだのか」

 

ここにこいつが居るということは死んだ、ということだろう

俺はこいつに殺されてここに来た

誰に殺されたか検討は大体つく、苦しんで死んだのかね?

それだったら万々歳だが

 

「ぐっ…」

 

そう思っていると地面からあの腕が生えた

そこには俺が居たから、腹を昆虫のような腕が貫いた

 

そのまま地面に引きずり込まれる

 

 

 

 

 

 

くらい、真っ暗だ

 

ジッポーで火をつけ、タバコにも火をつける

だが、一寸も先が見えない

 

「…お」

 

すると視界が暗転した

そこはどこかの空中だった

あの地獄であることであるのは確かだ、赤いし

 

「…ふーむ」

 

さて、どうしようか

 

「どうもこうも、貴女に選択肢はありませんよ」

 

「ッ」

 

声がした方向に顔を向ける

そこには身長が低い女が、緑髪の女が板を手に立っていた

見たことも無いヤツだ、強いて言うなら幻想郷に居そうな…

 

「…お前、誰だ」

 

「神の力を使う貴方なら知ってそうですが…

 いや、そうか、今のあなたは殺害願望に満たされている

 そんな邪な状態では神聖な力を使うことなんて出来る筈が無い

 外の世界でのような殺戮本能、獣のようだ

 獣に人の道具が扱えぬように…

 …失念していましたよ」

 

「おうおう言ってくれるなお前」

 

凄いボロクソに言ってくれる

というか、神の力か、懐かしい物を

こんな地獄でも助けてくれる神が…

とかそういうのでなく普通に忘れていた

こっちでは昔の癖が出てしまい神の力なぞ忘れていた

 

だが、それが獣に堕ちたというのを証明している

 

「皆獣だ、死ぬまでに堕ちるか堕ちないか、それだけだ」

 

「確かにそうかもしれない

 だが貴方は生まれた時に獣になる運命は無かった

 あのウイルスが流行らなければ貴方は普通の人間だった

 いや、そもそもあれが無ければ貴方は妹に会うことも無かったでしょうな

 本当にあのウイルスはどこから来たのか…

 人間はとても恐ろしい物を作るクセにそれに対処出来ない

 いやはやこっちの事情も考えてもらいたい

 こっちにあのウイルスが入った時は大変だった…」

 

「…話を戻せ」

 

「おっと失礼」

 

何やらウイルスがどうのこうのの苦労話になる所だった

この女、面倒くさい雰囲気がある

 

「顔に出てます、私は閻魔ですよ?全く…もっと敬いなさいよ」

 

「…はぁ」

 

これはこれは面倒くさい閻魔殿

閻魔については時折霊夢から愚痴で聞いた

何やらその説教は日が沈み、日が出てくるくらい長いそうだ

恐ろしいね、そしてとても面倒くさい

 

「全く…それだから獣に身を堕とすのですよ

 貴方の戦いぶりは外のものも見ていましたよ

 仲間を殺された時の激情

 それに流され敵の頭をフックで抉りとる

 見ていて恐ろしい」

 

「殺すぞ」

 

奴はクスリと笑うと板を口を隠すように持った

 

「その恐れ知らずも…

 まぁ、貴方はまだ生きている

 生者はここにいるべきでは無い」

 

岩が数個、無い下顎と胸に突き刺さった

一瞬の事だった、霊覇は赤い光に包まれ、消えた

 

「…はぁ、疲れたわ、後は霊夢か…」

 

既に1人を結晶化させた映姫は疲れのあまりため息をついた

だが、ここで止まっていては辺獄から出られない

やるしかないな、とだるい体を動かした

 

 



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結晶化

とある室内

 

辺獄にある特に大きな建物の1つ

 

ここには先程の兵士達が蠢いていた

 

 

 

あるものは酒を飲み

あるものは賭事をし

あるものは殴り合い

 

 

そんな所に、2つの赤い雷が降った

 

 

 

 

 

 

雷は天井を貫通し、床に突き刺さる

そこに墓標のように岩が生成された

 

そしてその岩は中からこじ開けられる

 

岩のような手

岩石で補強された下顎

岩片が張り付いた左腕

 

辺りを見る、灰色の建物だ

どうやら比較的大きい建物に飛ばされたらしい

 

…スケールが、だ

 

扉が身長の2倍程ある

なんだあれ、ここには巨人でも住んでるとでも?

壁の隅にあるパイプもこれまた太い、胴体くらいある

 

「…」

 

ガチャンとドアが開く

そこから霊覇と同じくらいの身長の兵士が顔を覗かせた

霊覇の姿を視認すると飛び出して銃を抜こうとする

 

「…嘘だろ」

 

瞬間そいつが巨大化した

大きさは丁度そこのドアと同じスケール

霊覇が巨人の世界に迷い込んだ小人のようだ

 

ソイツは直ぐに撃ってきた

元がデザートイーグルだったからか凄い襲撃音だ

耳はヘッドホンで覆ってあるのにそれを貫いてくる

 

「うる…せぇ…よ!」

 

ナイフを抜き、そいつの喉元に一閃

エイムが酷すぎて避けるのが簡単すぎる

どちらかと言えば幻想郷の弾幕ごっこに慣れすぎた

あれに比べると銃撃はほんのお遊びに過ぎない

真っ直ぐ進む亜音速の玉なんて避けやすい

 

ナイフを突き刺して殺す

そしてデザートイーグルを奪おうとした

 

「でっか…掴めねぇ…!」

 

それはグリップで腕ほどの大きさがあった

その引き金を引くのも不可能で、というのりあの反動だと吹っ飛んで行くだろう

ナイフなどの刃物や鈍器なら使えるかもしれない

だが、こいつらのスケールの銃は確実に使えないだろう

早く警棒くらい持ってこないか

 

だが敵は警棒のような鈍器を持ってこない

銃口に吸い込まれそうな感覚を覚える

 

「くそっ」

 

銃を蹴り上げ敵に拳を振る

握力が上昇しているようで簡単に敵を吹っ飛ばせる

その吹き飛ばした敵が壁にめり込む程だ

何とも凄まじい、石化した拳を握り直す

空中で回転、サマーソルトキック

顎を蹴り砕き、血を辺りに散らす

 

奇妙な連中だ、巨大化しても構造は変わらないらしい

唸るような声を上げて攻撃してくる

携行しているナイフも奴らには小さすぎる

奴らの持っている武器が一番だが…

 

敵を殴り殺しながら次の部屋に入る

そこも敵が居た、撃たれる

さっさっと躱して攻撃をぶつける

そうして敵を倒していた時のことだった

 

「…?」

 

ガチャり、とドアが開いた

そこから姿を現したのは一人の女だった

大剣と盾、右腕が石化した白狼天狗

 

だが、その顔には覚えがあった

 

「お前はさっきの…」

 

先程戦った女

この世界ではこいつ以外に妖怪というのを視認していない

そういえば現実世界じゃ将棋の相手だったような

そんな覚えもあったが、敵が現れた瞬間に興味を失った

現れた敵の顔面に回し蹴り

歯が折れた感触が靴越しに伝わる

 

敵を転がして踏み潰したり削り殺したりする

あらかた殺し終えた後女を見た

女は盾を少し握り直していた

 

「アンタ、椛だろ

 なんでこんな所にいるんだ」

 

「何故私の名前を?何処かで会いましたか?」

 

彼女はまるで面識が無いかのような発言をする

俺からすればよく分からなかった

彼女と知り合ったのはかなり初期で、仲は良かった

それなのに面識が無い?

 

「いや、頻繁に将棋を…

 …そうか、ここは"そういうところか"」

 

一つ、思いあたることがある

ある時稗田とかいう名家の書斎を漁っ…拝見したことがある

あの頃は最初の頃でもあるから仕方ない

幻想郷というのを知る為の行動だった、としている

そこの本を読みふけっていると平行世界という記述があったのだ

なんでもこことは少しだったり大幅に違う世界らしい

強い人妖が居たり反転していたりと多種多様

その世界が交わることは滅多に無いらしい

 

…目の前の"椛"は別世界の人物

 

「…成程、貴方は違う所から来た者か」

 

どうやら、彼女も同じ結論に達したらしい

 

「やれ、面倒な

 取り敢えず邪魔をするな、俺は用がある」

 

そう言うと近くの窓から飛び降りた

何かを奴は言おうとしていたが知った事では無い

外は崖だった、断崖絶壁の

もしかして奴はそれを警告しようと?

 

まぁ、そんな問題では無いが

 

よく下を見れば足場が見える

そこに着地すればいいだけなのだ

 

――着地

 

そこに居た敵兵に思い切り乗っかり、持っている銃に手を伸ばす

正確にはその引き金だ

 

ドゥラララララと凄まじい音を立てる

マズルフラッシュもいつもより何倍も眩しい

反対側には足場があり、そこにも兵士がいた

そいつらを弾丸がぶち抜いていく

やはり口径がおかしいのだろう

 

「そしてお前は用済みだっ!」

 

弾丸を撃ち尽くしたのを確認した後兵士からジャンプする

倒れるそいつから離れて壁から突き出た鎖に着地

その鎖は倒れかけたそいつを突き抜けた

宙ぶらりんだ、鎖を掴んで移動しようとしている

 

そいつの前に立ち、サングラスを奪った

かなりでかいが付けれないわけじゃ無い

 

「ら、ららーらら〜」

 

そいつの前でクルクルと踊る

厄神の踊り、というには少し不格好だが…

あらかた踊り終えると敵の顔面を蹴飛ばす

あちらを壁に埋まる

 

「…ふー」

 

ふと思いふけっているといつの間にか両側から兵士が現れる

流石にこの量で集中砲火は不味い

霊覇はそう思い、鎖から下へ飛び降りた

 

そこには、自然の足場のような物があった

 

幸運だと思った、霊覇は顔を拭った



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クロスロード

「やっほー」

 

構える

声がした方向に顔を向けるとワンピースを着た女が居た

人参のネックレス、うさ耳、記憶にある物があった

 

「永遠亭のウサギか」

 

「あんたに50口径を向けられたんだがね、覚えてる?」

 

「なんの事だか、それに俺はお前を知らない」

 

「…はぁ、物忘れが激しい奴は嫌われるよ」

 

どこからがタブレットを出すとカチカチと何かを打ち込む

誰かと会話しているらしい

それを覗き見る気にはなれなかった

というより見なくても、ドクターというのは直ぐに分かった

頭で生きてきた奴、だった筈だ

 

「ほい、それじゃ取り付けるよ」

 

会話し終えるや否や何かの装置を取り出した

何かを取り付ける装置らしい

 

「おい待て」

 

「えい」

 

ガンと平面の部分を取り付ける

それが無理やり体に付けられる

皮膚が抉り取られる感覚

 

「ぐがかがががががッ!?」

 

「この…!落ち着け!」

 

体が自然に暴れる

グワングワンと大きい何かの音がする

 

頭が痛い

 

 

「ふー、やっと落ち着いたよ、手間をかけさせる」

 

いきなり永琳に弓で打たれた時はびっくりした

なんの前置きもなく「ちょっと死んで」は酷いと思う

やはりあの人はどこかおかしい

タブレットに取り付けが完了したことを簡潔に伝える

返信はかなり早かった

 

『分かった、こっちに戻ってきて

 こっちの貴方はまだ生きているから』

 

「…酷いこと言うねぇ」

 

まだって、死ぬかもしれないという事じゃないか

とはいえここを出るのは簡単だ

 

この能力はその点便利だろうか

とはいえ死んだ感触はあまりなかったなぁ…

てゐははぁ、とため息をついた

一瞬すぎてその感触を味わえなかったのか

もしくは酷すぎて"幸運"にも感じなかったのか

 

まぁ、なんでもいい

 

「…ぐ、うう」

 

「おっと、今度は本当に殺されちまうな」

 

さっと、その場から飛び降りる

ここで死んだら本当に死んでしまう

二回死ぬことは許されていないのだ

 

そう思いながら、てゐは現世に戻って行った

 

幸運にも、彼女は簡単に戻ることが出来た

 

 

「ほら!手も足も出ないでしょう!」

 

「――!!!」

 

その頃霊夢は鬼に御札をぶん投げていた

退魔針や御札のおかげで鬼はかなりボロボロである

頭の角も片方がへし折れている

これは霊夢が大幣でやつの顔面をぶっ叩いたからである

霊夢が言う通り、鬼は手も足も出なかった

手を振り回そうにも建物の狭さがソレを邪魔する

霊夢からすれば好都合だった

 

「ここは私の独壇場よ!」

 

あの兵士たちは入ってこない

先程入ってきたのだが鬼にぶっ飛ばされていた

勝ち目がないと判断したのか何もしてこなくなった

 

「――――!!!!」

 

鬼が吠えた

その咆哮と同時に体が岩に侵食される

顔が、腕が、岩に侵食される

侵食は顔の半分以上を覆った

左目ごと顔を覆った、恐らく視力は無くなった

完全に石化すると同時に霊夢を鬼は掴む

 

(見えなかった!?)

 

鬼の掴みは見えない程早かった

霊夢は腹を鷲掴みにされた

 

「……ッ!?」

 

ギシギシ、と骨の軋む音がする

激痛も同時に襲ってくる

掴む力を強めているのだ

こちらを握り潰すつもりなのだ

 

「させない…!」

 

ひとつの針を取り出し、掴んでいる手…右手首に突き刺す

 

「ッ…!!!」

 

鬼は激痛に耐えかね、霊夢を離す

それと同時に霊夢は後ろに下がり不敵に笑った

笑った理由は簡単なことである

 

ニッと、勝ち誇ったように

 

 

 

 

 

 

 

 

「…起爆ッ!」

 

「――――!!!!」

 

爆炎が辺りを包む

先程突き刺した針に起爆の札を貼り付けていたのだ

それ故に、彼女は不敵に笑った

角がへし折れ、治らない時点で再生能力がほぼ無いのは分かっていた

これも、致命傷になるだろう

 

「…やったかしら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アアアアア、アアアアアアアア!!!!」

 

「ぐふっ!?」

 

煙の中から何かが飛び出した

いや、違う

 

あの鬼の右手だ

 

ちぎれた右手が飛んできたのだ

岩と同じ質量を持つソレは簡単に霊夢を吹き飛ばす

そのまま霊夢は壁を突き破った

 

「…くぅ!?」

 

そして、その先に地面は無かった

隣の部屋も無かった

 

あったのは、赤一色

 

外の景色

 

ここの、赤

 

 

 

「(う…脳が揺れて浮遊出来ない…)」

 

霊夢は真っ逆さまに落ちていった

壁に衝突した時に起きた脳の揺れで浮遊することは直ぐに出来なかった

意識はハッキリしていても体は追いつかなかった

 

体が動かせるようになったのは、その浮島の下の面が見えるほどの所だった

 

「畜生ッ…あんなのに…」

 

頭に手を当てながら己の油断を呪った

勝てると確信した己のミスだ

霊夢はため息をついた

この癖は恐らく抜けないと思う

 

「…貴女は本当にそういう所を直した方がいいと思いますよ」

 

突然の声

だが、それは聞いたことのある…いや、聞き馴染みのある声だった

なんならあんまり聞きたくない声

後ろをむくと、そこには緑髪の小さな女の子

懺悔の棒を持った一人の裁判官

 

「…アンタは…閻魔?」

 

「人のことをアンタと呼ぶなと…

 私は四季映姫・ヤマザナドゥ、せめて映姫と呼びなさい

 人のことをそんなので呼ぶと後々ろくなことになりませんよ

 そういう経験はしたことがあるでしょう

 えぇ?したことあるでしょうねぇ?

 というか貴女は神への敬い…畏敬の念が無さすぎる

 巫女(カンナギ)としてどうなのですか、そこ

 神に使える巫女(カンナギ)としてそういうのは良くないと思いますよ

 博麗神社が何を祀っているか分からないとしても、ですよ

 それに貴女は…」

 

「あーこれは本人だわ

 会話が十行とか本当に閻魔してるわ」

 

「そんな面倒くさそうな、そこがダメだと…」

 

「分かった、分かったわ、もういいわ」

 

はぁ、と映姫はため息をついた

彼女は霊夢の性格を知っている

映姫に限らず、彼女が面倒臭がりというのはよく知られている

 

「貴女は彼に依存しすぎている

 兄である彼を溺愛し、体を交合った

 もうそれで彼は博麗に変わりは無い体になった

 博麗の者と交合うというのはそういうことであるから。

 彼は貴女のように元の名前を捨てた…貴女の為に

 この世に最早■■霊覇という男は存在しない

 存在するのは博麗霊覇という男である

 彼は偶然が交わりあってできた男でもあり、不幸でもある

 …命蓮の未練か何か知りませんが兄妹に生まれるのは必然なのか…」

 

「…何が言いたい」

 

声に色が無い

自分でも、それが分かった

霊夢自身でも分かるほど今無情になれている

 

「罪深き男、彼は周りに片棒を担がす存在」

 

映姫は己の胸に拳を置く

 

「この痛みも」

 

霊夢にその人差し指を向ける

 

「その痛みも」

 

そして、ぐっと握りしめる

 

 

「彼の痛みの一部」

 

 

握りしめた瞬間霊夢の左足と右手に岩が突き刺さる

積み重なる痛みに霊夢の心は悲鳴を上げていた

こんな所から逃げ出したいと

 

その一心で、上に、浮島に向かって飛行能力を使う

音速で、全力で、誰にも追いつかれぬように

 

後ろから、おぞましい声が聞こえた

 

恐らく、映姫の声が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    INNOCENCE

        DOESN'T

        GET

           YOU

               FAR

 

 

       お前を遠くまで逃がすものか

 

 

 

 

 

身体中が、冷え固まった

 



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由縁のしれぬ

「…」

 

目を開けると灰色の大地が見えた

視線を動かせば己がいたと思われる建物が見える

かなり下まで言ったハズだが、どういうことだろうか

体を起こし、辺りを確認する

建物から兵士がわらわらと現れる

 

「はぁ…」

 

ナイフを抜く

はっきり言ってコイツらは雑魚だ

持っている武器は当たれば致命傷になるものの使えてない

エイムが酷すぎて逆にわざとなのか疑ってしまう

霊覇はポツリと呟く

 

「お前も、お前もお前も…お呼びじゃねぇ!」

 

敵に飛びかかる

突然の攻撃に相手は発砲出来なかった

簡単に敵の首を斬ることが出来る

雑兵に出来ることは一切無かった

霊覇の姿が"あった"場所に弾丸を打ち込むことくらいしか出来ない

兵士の銃を奪い、頭を吹っ飛ばす

 

そして、最後の兵士と思われる奴が倒れた

倒れた兵士からデザートイーグルを拝借する

 

「…!?」

 

瞬間、ガゴンと建物の壁が吹っ飛び何かが体にぶつかった

そいつは見覚えがある顔だった

 

というより、さっき会ったことがある

 

「…おいおい、なんだってんだ」

 

椛だ

強大な何かに吹っ飛ばされたらしい

彼女はこちらの聞きたい事がよく分かったらしい

 

大剣を支えに立ち上がると乾いた笑いを零す

本人はその乾いた笑いに気付いていないようだった

 

 

「はは…ちょいと投げられましてね」

 

「何にだ――」

 

ドシャン、と地面がへこむ

建物の中から二人の前にソイツがジャンプしてきたのだ

角は片方がへし折れ、顔は岩に侵食され左目が潰れている

右手がちぎれ飛んでいて片腕が使えないようだった

 

…何故だか、その右手の部分から懐かしい気配がした気がした

 

だがそれも、鬼の咆哮によって霧散する

 

「面倒事を…」

 

霊覇は恨みの籠った声を椛にぶつけた

だが彼女は飄々とした顔で武器を構える

 

「マシな部類でしょうよ」

 

「面倒事を押し付けたくせによく言う」

 

椛はもはや霊覇を敵としていなかった

そして霊覇もまた、椛を敵としていなかった

彼女は脅威では無く一時的な味方として、認識していた

鬼と呼ばれる種族は強めの妖怪でも手に余る存在である

それこそ団体でヤンチャされると八雲紫が困る程に

あの胡散臭BBA…もとい永遠の17歳でも手に余るのだ

人間と白狼天狗じゃ確実に持て余す

 

鬼の拳が振るわれる

グォンと風と衝撃波を巻き起こす

こんなのはハッキリ言って障害にもならない

この意思の前にそんな遊びのようなものは効かない

 

だが、そんな意思反して足はよろめく

霊覇は悪態をつく

 

「クソッタレ、やはり鬼ってのは出鱈目だ」

 

霊覇はデザートイーグルを鬼に撃ち込む

五十口径の弾丸は近距離ならスイカを粉砕出来る威力がある

人間なら致命傷になる傷が生まれる

 

だが、この鬼は簡単に腕で弾いた

その腕が石化しているのもあるが、石を砕く五十口径だ

単純にこの鬼の肌が固いのだ

 

「五十口径を防ぎやがる、銃は悪手か」

 

霊覇はナイフを構える

遠距離がダメなら直接攻撃しかない

主題は他にない

狙うのはその頭…細かく言えばその口

 

内側が柔らかいのはどの敵にも言えることだ

体内からの攻撃を想定した生き物なんていない

 

「鬼に近接戦闘はほぼ自殺行為と言っておきますよ」

 

「ほぼ、だろ…ならその少しの希望でやってやる」

 

椛に警告されるが、霊覇からすれば知ったことでは無い

というか、どうでもいい

これ以外手段は無いのだから

 

ナイフで突く

狙うのは腋や股間といった怯みやすい場所

ちゃんとそういうのは効くのか鬼が少し怯む

そこに椛が大剣を上から下に叩き込む

小さな得物より大きな得物に怯みやすいのは世の摂理だ

 

鬼が大きく怯んだ

 

「今!」

 

「言われなくても」

 

デザートイーグルの銃口を口にねじ込む

鬼に口はちゃんとあった

石化で無くなっているかと思いきやちゃんとあった

しかも普通に開く、どういうことだろうか

 

引き金を正確に三回引く

五十口径が口内を貫通し、後頭部をぶち抜いた

手応えアリ、だが鬼はこの程度で死にはしない

 

「――!!!」

 

「おいおい、まだ死なないってか」

 

「鬼ですからねぇ…四肢切断くらいしないと」

 

マガジンを変えている霊覇に椛が言う

椛の言う通り鬼の生命力はそのくらいしないと消えない

鬼が妖怪の中で最強と言われるのはその生命力と力である

 

リロードが終わると同時に鬼の姿が歪む

性格には鬼の右肩と顔だ

 

「…っ」

 

生々しい音が辺りに響く

骨を砕き、再生し、肉が生える

 

グチャり、バキ、グシャ、ゴリッ

 

それを何度も繰り返し、終わる頃にはソレは鬼とは思えない物になっていた

 

頭は五十口径で吹っ飛ばされた後遺症か花が咲いたかのように再生していた

そして真ん中…鼻のあった所に大きな目玉が一つ

それを囲うように小さな目が大量に忙しなく動いていた

後頭部はデザートイーグルでぶち抜かれた穴を中心に昆虫の足のような物が生えていた

右肩から、無くなった手を補うように三本の腕が生える

ソレは何ともやせ細った物で、不気味だった

 

「…うわ」

 

「やめてね」

 

視界の暴力

気持ち悪いの一言に尽きるそれは空に向けて咆哮する

その咆哮は人間の古くからある感情であるそれを刺激する

久しく感じることのなかったそれは何故だか懐かしさを覚える

 

恐怖

 

「へへ…おもしれぇ」

 

口からポツリと小さな声でそれが漏れる

久しぶりにこの感情を思い出させたコイツは派手に死なせてやらないと

 

ナイフは使えない

 

拳を構える

 

次にあったのは左腕だった

 

 



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Danger

振るわれた腕を避ける

全てがスローモーションになり、散る土片がよく見える

全能の世界とでも言ってしまおうか

ただ自分もスローモーションで動きも遅かった

ただ見ているスピードが遅くなっただけだった

 

その中で見えたのは火花

 

椛の大剣が腕を紙のように切断する

その刃が進む度に火花が散る

 

そして世界は元のスピードに戻る

 

「――――!!!」

 

絶叫

 

己の片腕が切り裂かれたなら当たり前だろうか

反撃の為か右腕の一つで攻撃してくる

攻撃は鬼らしく幼稚なものだ

 

ただ、見た目がおぞましい

その鬼とは思えない老人の腕の様なものが迫ってくる

 

「気持ち悪い!」

 

罵倒を飛ばし、足を蹴り上げる

見た目通りの脆さだったようで簡単に蹴りで引きちぎれた

鬼が怯みその巨躯が…その腹が顕になる

 

「最後のトドメじゃオラァ!」

 

構え

拳を地面と水平に、突き飛ばす

皮膚を貫通し簡単に鬼の内部に入り込む

感覚でわかる…あとは探っていく

腹の中を掻き回すように探す

 

そして、それは思ったよりも早く見つかる

見つけたそれを鷲掴みにしてやる

ソレは激しく振動する

 

心臓だ

 

「――――!――!!」

 

鬼が叫ぶ

流石にこれ以上はマズいと直感したのだろう

その巨躯に力がみなぎるのを傍で感じた

 

「黙って…死ね!」

 

椛が大剣で鬼の頭を切り飛ばした

注意が霊覇に向いていたため、簡単に斬首することが出来た

みなぎっていた力が一気に抜けるのを感じる

 

それを感じながら、俺は心臓を引き抜いた

幾つも血管が繋がったそれを握り潰す

肉の感触は肌に比べれば圧倒的に柔らかく、簡単にすり潰せた

飛び散った血が、顔を服を汚した

 

元より血濡れなのだ、気にする程でも無い

 

土煙を上げて、鬼の巨体が倒れた

 

「いっちょ上がりー」

 

パンパンと手の汚れを軽く取り、ZIPPOを点火する

そしてその火をタバコに移す

ZIPPOの火を消し、俺は苦い煙を吐き出した

 

「…貴方は」

 

大剣を持ったままの彼女が聞いてきた

カチャリとZIPPOにフタをすると俺は彼女に言う

所属?いや、違うなそんなご大層なものでは無い

彼女が聞きたいのはまだ言っていない俺の名前だろう

 

元の、名前か

 

「気桐霊覇、コードネーム・デイモス

 アンタとは奇妙な縁があるようだな」

 

「犬走椛、コードネーム…狼、ですかね

 本当に奇妙な縁があるようで」

 

そう言って、彼女が少し笑った時だった

形容し難い腕が地中から現れ、椛を掴む

彼女が驚いた顔をするが俺は特に何もしてやらない

 

ただ、羨ましそうに

 

「おお、先に脱出とは運の良い奴め」

 

それを言い終わる頃には彼女は既に腕に攫われており――

最後に見えたのは彼女の赤い瞳だった

 

やけに静かになった荒野を見渡す

見渡しても目立つのは殺した鬼の死骸だけだ

その死骸も、もはや岩のようになってしまってるけど

 

「…さて」

 

これからどうするか

俺は少し考えた後、あの建物に戻ることにした

外で暇を持て余すより探索する方がいいだろう

待ってたら退屈で干からびてしまう

 

そう思いながら霊覇は建物に向かった

 

 

「はいはいそんな無駄弾撃たなくていいわよ」

 

「アグッ!?」

 

霊夢は当たらない弾を撃つ敵に向けて面倒くさそうに言う

地面を突き抜けて建物に戻ってきたのは良いものの、ここがどこから分からなくなってしまった

それなので適当に掃討しながら移動しているのである

あと運が良ければ霊覇に会えれば、というのがある

 

「ふん」

 

「アギャッ」「フガァ」「イグァッ」

 

三方向に針を投げる

正確に敵の心臓を貫く

肋骨等の隙間を通り抜け、的確に心臓のみを貫いた

 

「面倒ね」

 

ポツリと呟く

部屋を移動する度羽虫のように現れる

こいつら、居なくならないのだろうか

ここが辺獄という性質上、死なない…死にきれないのは分かる

だがこんなワラワラ現れていいものでは無いだろう

 

「もういいわ、私は先に行かせてもらう」

 

現れる敵を無視し、先に行く

視界の下には敵兵がかなりの数居る

だが、そんなのは関係ない

なぜなら撃たれても意味が無いから

当たらない弾なんて撃っても意味が無い

 

「…あそこね」

 

一つだけテープが張られた鉄扉を発見する

霊夢は扉の前に陣取っていた敵兵を的確にヘッドショットする

他に道を妨げるものは居ない

 

霊夢は鉄扉の中に入った

 

「閉めとくか」

 

霊夢は扉を閉める

重い音を伴ってそれは閉まる

ドンドンと扉を叩く音が聞こえるが意味は無いだろう

この扉、外で言う金庫のような分厚さだ

 

そして、霊夢がため息をついた時だった

 

「…霊夢?」

 

「…お兄ちゃん?」

 

後ろから声がした

そちらを向くと、強化ガラスがあり、その先に霊覇が居た

霊夢は強化ガラスに張り付く

部屋の構造は刑務所にある面会室のような構造だ

 

「霊夢、お前…後を追ったのか」

 

「まだ、生きてるわ…ここは閻魔の前でも、白玉楼でもない

 

霊覇も強化ガラスに近寄り、ぶん殴る

だが、少し汚れただけで割れることは無かった

 

「くそ…こりゃC4でも無いと無理だぞ…」

 

「…お兄ちゃん」

 

「何だ?」

 

霊覇が霊夢を見ると、霊夢は壁を指さしていた

霊夢から見て右、霊覇から見て左だ

そちらを見るとそこの壁は透明になっていた

そして、そこには

 

少年とも言える年齢の、霊覇と霊夢が

 

「…これは」

 

「…嘘」

 

そこにあるものが信じられなかった

あるのはとある家族だ

 

霊夢と霊覇の家族

 

ただ、信じられないものが

 

父は懐かしい顔を、笑顔をして霊覇の頭を撫でていた

若い霊覇はキリッとした顔をして気を付けの姿勢だ

それはまだ、いや、良くないかもしれない

 

「…嘘だ」

 

その横、母の方に問題がある

"彼女"は真面目そうな顔を緩ませてスカートを掴む霊夢を抱き寄せていた

それは至って普通なのだ、普通の家族なら…

 

化けの皮が剥がれるように、"彼女"の服が変わる

 

それは、霊夢の膝をつかせる事を…

そして、霊覇が透明な壁を殴らせる物だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い服

 

白い袖

 

黄色のネクタイ

 

白の模様

 

頭の大きなリボン

 

 

 

"彼女"の服装は、博麗のソレへと変わっていた

それが示すのはただ一つの史実であった

 

 

霊夢…いや、俺たちの母さんは

 

 

「…お母さん…先代、だったの?」

 

 

霊夢は、泣きそうな声で、呟いた

 



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母と父の真実

霊夢は先代の背中を追っていた、と思う

先代巫女はかつて最強と呼ばれた巫女である

彼女は様々な妖怪を討ち滅ぼきてきた生きる伝説だった

それを確立させたのが吸血鬼達の侵攻…いわゆる吸血鬼異変である

故に霊夢と先代は比べられることもある

 

しかし、大半は娘より"醜い"事で結果がつく

 

そう、霊夢の母は人ならざる美しさ…こちらで言う醜さを持っていたのだ

それ故に恐れられ、忌み物として、腫れ物のようにあ使われた

 

彼女は困惑したのだろう

 

なぜなら外の世界では少なからず視線を集めたのだから

それがこちらでは全く反対の視線が集まってきた

元々優しい彼女は妥協したのだろう

 

仕方ないと

 

このような視線を受けても生きていくと

 

そもそもその道しか無かったのだろう

巫女としての役目があった彼女は選べなかったのだろう

父と母がどう出会ったか分からないが、恐らく父は幻想郷の人間だ

その二人がどうやって外で暮らしていたかよく分からない

 

そもそも親の記憶が既に曖昧だ

 

…予測だが、恋をした2人は休める場所を探したかったのだろう

結婚したのは間違いなく吸血鬼異変の後

その後には大きな異変も無い平和な時代だったらしい

それどころかスペルカードルールが制定され、彼女は無用の長物と化した

 

故に彼女は恋した男と外に出たのだろう

 

そこで俺と…霊夢が生まれたに違いない

 

そして霊夢は天才的な才能があった

恐らく紫はソレを知り、次代の博麗巫女としたいと彼女に言ったのだ

 

無論彼女は抵抗したに違いない

最終的に彼女は折れて幻想郷に帰ることにしたのだ

 

だが、もう1人の子が、それを止めかけた

 

俺が、母さんの足を引っ張った

俺は誰が育てる?母さんは霊夢でていっぱいだろう

 

白羽の矢が立ったのは父だった

 

愛した妻と別れるのは辛かったに違いない

何か、言葉を残したのだろう

永遠に会えないから、何か――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    『…あなた』

 

 

            『――また会おう』

 

 

 

 

 

しかし、その言葉が叶うことは無かった

なぜなら彼はウイルスに感染し、死んだからだ

いま思い返せば、彼は何かを握り締めていた

ソレは、恐らく…いや、絶対に彼女との写真だろう

天狗から貰った写真機で撮った、2人の写真

 

俺は1回それを見た事がある

 

男女が晴れ着―今思えば博麗巫女の模様があった―を着て笑顔でこちらを見ている

女の方はとても美して、写真で惚れる程の物だった

 

俺がそれを見ていると、父はいきなりそれを取り上げ、棚に隠した

何か文句のひとつでも言おうとしたけど、止めたのをよく覚えている

 

その父の顔がとても悲しそうだったから

まるで永遠の別れを告げられた(実際そうだ)ような…

その頃はまだ若かったから父から母について何も言わなかったのだろう

今くらいの年なら何かひとつ、教えてくれたんじゃないか

 

だがそれが叶うことは無い

 

彼は死んだ

 

死人に口なし、何聞いたって答えてくれない

なら状況証拠を整理し、考察するしかないのだ

それをしようとも、頭は追いついては来ない

 

なぜなら否定しているからだ

 

死んだ、そして秘密は失われた

それ自体を忘れようとしているのだ

 

…忘れることは出来ない

 

この真実は目を背けることは出来ない

 

真実は意外と単純なものであることが大半である

霊夢は先代が母と認識していたのか

恐らく変な誤解を招かな為霊夢から彼女が母であるという記憶は消された

俺ですら母を思い出そうとすると砂嵐が思考を覆うのだ

霊夢は俺が兄弟ということだけはしっかり覚えている

 

それだけが、救いに思えた

 

術を施したのは確実に紫である

今思い出せば彼女はまるで俺を知っているかのように接していた

かく言う俺は彼女が何故だか全否定できない…何故か妙な感覚だった

まぁ彼女に文句は言わない、俺も同じ事をするだろう

 

「…そうか、そういうこと…だったのか」

 

父について、母についての謎がハッキリした

俺がその結論にたどり着くなら、妹である霊夢も同じだった

 

いや、霊夢とってそれは残酷としか言いようがない

 

「うぅ、…あぁ、か、お母さん…!あああああぁ……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故なら、彼女は既に死んでいるから

 

先代博麗巫女は行方不明の後、死亡が確認されている

とある場所で何かに思い耽っている途中、後ろから切り裂かれた

その後は逃げることも出来ず、食い殺されたらしい

 

 

その事実を、俺はまた後程聞くことになる

 

霊夢はそれを知っているから、泣いている

俺は、まだそれを知らなかった

 

仕切りが、突然シュンと消える

 

霊夢は兄を探し、腕を彷徨わせる

その姿は酷く頼りなくて、幻想郷の最強とは思えない姿

どちからかと言えば泣きながら助けを呼んでいる女だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、その腕を、手を掴む

 

彼女は俺に抱きついた

 

「悪かったな、1人にして」

 

彼女は鼻を啜り、泣く

嗚咽の交じったソレを、俺は背中を撫でながら最後まで聞いてやった

 

不思議と思い出した、寝る時に母さんが歌っていた子守唄を口ずさみながら。

 

心は、深層からどんどん浮いていく

 

 

 

死せし者たちの世界から体は"浮いていく"

 

 

 

 

俺は自分の体重が無くなったかのような軽快さを覚えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ありがとう、思い出さしてくれて

 

 

 

 

 

 

 

 

「母さん」

 

俺と霊夢を更に抱く女

瞳には、鏡には俺に抱きつく霊夢…更に俺と霊夢を抱く母さんの姿

 

母さんは、ちゃんと居た

 

成仏出来ずに此処に居たんだ

 

心配させたね

 

ごめんね

 

 

 

 

 

 

そして、ありがとう、母さん

 

この言葉が、俺は伝わって欲しかった

多分伝わったと思う

 

 

 

 

何故なら――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――母さんの顔が、笑顔に変わったから



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おかえり

「霊覇…」

 

目の前で眠っている男に手を伸ばす

親友と呼べる男が死にかけてから早くも半日

苛立っている奴もいるんだ、早く目を覚ましても良いじゃないか

俺は肩に重みを感じながら、ため息をついた

 

「体調は変わりない、特に気にする事はないわ」

 

永琳は点滴を変えながらそう言う

彼女にとって彼は今の所患者andモルモットである

その点滴にナニが混じっているかなんて考えたくもない

 

だがまぁ、これだけの医療機器があるのもココだけ

 

それ故に大目に見ている、という感じである

なおこれはほぼ頭の中での考察な為、本当は違うかもしれない

研究者としてのソレが垣間見える時があるので確実にそうだとおもうが…

永琳もこちらが言えないのを知っていてやっている筈だ

 

「全く…」

 

俺は背中の存在を肩を揺らしてあやす

それはキャッキャっと歓声を上げる

 

…ん?

 

「こいしか、通りで違和感を感じたわけだ」

 

「んふふー、やっぱり気付いてくれた」

 

「古明地こいしか、地霊殿ぶりだ」

 

「地霊殿?」

 

「あぁ、知らないんだったな――」

 

魔理沙が地霊殿についての説明を始める

聞く話によれば間欠泉が吹き出す異変の時に元凶が居た建物らしい

妖怪の山に入口があるその地下世界を…制御?する妖怪が住んでいる

こいしの姉であり、正真正銘のさとり妖怪

 

古明地さとり、というらしいが会ったことは無い

 

まぁ妹がさとり妖怪なら姉がさとり妖怪なのは当たり前か

燦莉は頭の片隅にそれを置いておく

 

「この人が霊覇さんねぇー」

 

こいしは相変わらず笑顔のままだ

霊覇の姿を見ても、それは特に変わらなかった

 

それどころか、その笑みが深まった気がした

 

燦莉からはその顔は見えない

ただ、少し背筋が凍ったような感覚が走った

タンクトップのせいだと責任を擦り付け、こいしを下ろす

 

「お前はじっとしとけ…」

 

燦莉は霊夢の方を確認する

こちらは霊覇に比べ、スースーと寝息のような呼吸をしている

これでも意識不明の重体である、これでも

なんせ喉を貫く荒業をしやがったから、普通に即死だと思った

 

ただ、運が良かったのか、何か仕組んでいたのか彼女は死ななかった

 

燦莉からすれば、人間とは思えなかった

とはいえ外の世界なら二度とその目は開くことは無いだろう

この幻想郷、強いて言うなら永遠亭には現代科学を超える超科学が存在する

 

というか、それのお陰で2人は生きている

 

「ふー、生き返った生き返った」

 

ふと、そんな声が後ろからしたので振り返る

そこにはうさ耳に人参のネックレスを付けた幼女

ただその顔が胡散臭くて凄く信用出来ない

 

「お、死んでたか」

 

「うん死んでたよ」

 

「そうかそうか…は?」

 

一瞬凄まじいこと言わなかったかコイツ

なに?死んだ?dead?今生きてんじゃんコイツ

多分俺が凄まじく怪訝な顔をしていたんだろう

彼女は普通に説明を始める

 

「いやいや、ちょっと用事があって永琳に殺された」

 

「用事があってじゃすまんと思うぞソレ」

 

恐らく地獄に行った二人に用事があったんだろう

だからといってこいつを殺すとか躊躇が無いな

多分この兎が何か能力を有しているのだろう

そうでないと今ここにいる意味がわからない

 

「幻想郷の奴らってのは意味がわからん…」

 

「そんなもんだよ、ここの住民は」

 

兎はそう笑う

こんなからから笑ってても年齢は100を超えるというのだから恐ろしい

永琳と輝夜に至っては億を超えるとかなんとか

 

まぁ、人は見かけによらないと言うやつである

 

ただし、ほぼ幻想郷限定である

 

「気狂いなのか変人なのか…」

 

「どっちもだと私は思うよ、そもそもお前さんが言えたことじゃない」

 

手をヒラヒラと振る彼女にぐうの音も出ない

常識的な他人から見れば俺達は異常だ

自由のために命を投げ捨て、仲間のために仲間を売る

結局は敵を殺すため、自分の存在意義を確立するため

 

なんなら殺戮を楽しんでいる側面が俺と霊覇にはある

 

あの爽快感は他に変えられることは確実にないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!?霊覇!?霊夢!?」

 

「な、なんだ!?」

 

機器が悲鳴のような音を上げる

心拍計だ、狂ったように変化している

 

なんだ、何が…

 

「――!!」

 

二人に目を移すと、絶句する

何故なら岩のような物が2人を侵食しているからだ

霊覇は顎と左頬が岩に覆われ、腕も石化した

霊夢は頬に染みのように石化が広がる、腕も石化する

 

――瞬間

 

「――お兄ちゃん!!!」

 

「――霊夢!!!」

 

ふたりが飛び起きる

腕に着いていた点滴の線を引きちぎり、霊夢は霊覇に飛びつく

それを霊覇は優しく受け止めた

 

「お兄ちゃん、お兄ちゃん…」

 

「俺は此処に居る、どこにも行かない…」

 

2人は永琳が入ってくるまで、ずっとその身を寄せ続けた

俺と、こいしと、魔理沙は彼女が来るまでそっと、何もせずに

見守り続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人とも、幸せに

 




誤字報告ありがたい

終わりっすね、元々短めで終わるつもりだったんで


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