ポケモンLEGENDS IF〜もしショウが悪堕ちしていたら〜 (ポポタン)
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レジェンズアルセウス
ポケモンLEGENDS IF


やっぱりコトブキムラ追放はあり得んよなって思った衝動書き。


 わたしが時空の裂け目という場所から落ちてきて、ラベン博士という人に拾われて。その人の側にいた不思議な生き物がポケモンだということは何故だか知っていた。

 だからラベン博士が言うようにポケモン捕獲のためのモンスターボールを投げることも、ポケモンに近付くことも怖くなんてなかったし、捕獲もあっさり終わった。

 

 そしてわたしは、名前以外の記憶が曖昧だった。ショウという名前しかわからず、おそらく自分の持っていたであろうスマホが白く変化していたし、訳がわからなかった。わたしはラベン博士について行くしかなく、コトブキムラという場所に行くしかなかった。

 ラベン博士に話を聞きながら滞在するしかないムラに行くと何故だが胸に響く言葉があった。

 

 

 ギンガ団。

 

 

 ムラでポケモンのことを調査している自警団、のようなもの。ポケモンは人間の営みなんて関係なく集落を襲ってくるので、そんなポケモンから身を守ったり調査することが目的なんだとか。

 モンスターボールの手触りといい、ポケモンと共存できていない文化圏構築といい、ヒスイ地方は違和感だらけだった。

 それでもギンガ団という組織には興味を持てたし、ポケモンを捕獲すれば衣食住が与えられると聞いてそれならできそうだと思った。

 

 ムベという食事処の店主には素気無い態度を取られてムッとしたが、その後に会ったテルという少年は快活そうで誰かを彷彿とさせて穏やかな気持ちになれたし、もう一人の人に会ったことでギンガ団で頑張ろうと思えた。

 シマボシ隊長。

 あまり表情が変わらない、スラッとした女性。ギンガ団の隊長のようで哀愁を感じた。記憶が曖昧なのに変だなと思ったけど、結局そう感じた要因がわからなくてそのまま思考を放棄した。

 

 とにかく頑張ってみようと思えただけだ。

 それからシマボシ隊長に出された、難しいとされる入隊試験を問題なく突破してギンガ団の一員になれた。

 それからはポケモンの調査、ポケモン図鑑の完成を目指した捕獲作業、荒ぶり始めたエリアを治めるキング・クイーンポケモンを鎮めたりと様々なことをしてギンガ団に貢献してきた。

 空から落ちてきた人間。素性の知れない怪しい者として胡乱な目で見られることもあったけど、それは実力で全て黙らせてきた。ポケモンの捕獲についてはギンガ団で右に出る者はいなかったからだ。

 

 まだ違和感は残っていても、手持ちのポケモンに指示を出し捕獲することについてはど素人の人達に比べれば負ける理由がなかった。手持ちポケモンについてもなんか違うなと思っても、タスクをこなしていった。

 団員ランクを上げてポケモンの危険性を減らしていき、シマボシ隊長に褒められて認められて。それだけのために頑張っていた。

 ギンガ団のデンボク団長は正直わたしのことをずっと疑うような言葉を投げかけてきたので信用できなかったということが大きい。のくせにコトブキムラに来る人に対してはわたしの功績を持ち上げる。

 

 その矛盾が気持ち悪く、純粋に功績を見てくれるシマボシ隊長やテル先輩にラベン博士に懐いたのだろう。

 あとはヒナツさんの散髪屋による手入れも好きだったから手入れをしなくても雑談をするために五百円を払いに行ったこともある。彼女が外国から手に入れた洋服を改造してGの黄色い文字を入れて愛用していた。

 野盗三姉妹の一人であるオウメさんと戦うのは嫌だったけど、その理由もイマイチわからなかった。

 

 記憶も一向に戻らず、でも元いた場所に戻りたいと思ってひたすらに任務をこなしていく。生活をする場所なのだから生き甲斐がないと息が詰まるからシマボシ隊長やヒナツさんを理由にしただけ。

 できるなら今すぐにでも時空の裂け目に飛び込んで元いた場所に帰りたかった。すべきことがあるはずだという心が、どこかに残っていたから。

 

 ポケモン図鑑もかなり埋めてココノツボシ隊員になって。ヒスイ地方にいるキング・クイーンの五体を鎮めて。

 そして空は紅く染まり。

 わたしは、追放となった。

 

 

 五体目のキング、クレベースを鎮めてお祝いのイモモチを食べて寝て次の日。大きい音がしたと思ってテル先輩に呼ばれて借家の外に出ると空が紅くなっていた。

 その異常事態にどこかデジャブを感じながらも、デンボク団長に呼ばれたので行くと、何故か糾弾が始まった。時空の歪みから落ちてきた不審な人物であること、わたしの落ちてきた次の日に雷が落ちてそこからキングが暴れ出したために何かしら関係があるだろうという推測。

 

 そんな、わたしが何かしたという証拠もないのに怪しいからとギンガ団の退団を命じられ、コトブキムラからの追放を命じられた。

 コンゴウ団の団長セキさんとシンジュ団の団長カイさんはそんな()()()()の決定に異を唱えてくれたけど、その決定は覆らないらしい。わたしの所属がギンガ団だからだろう。

 デンボクが出した任務をこなしていった結果がこれなら、わたしはギンガ団に居られない。

 だから追放でも良いなと思えたけど。

 

「シマボシ。こいつを連れていけ」

 

「はい」

 

 シマボシ隊長がデンボクの言う通りに動くことが嫌だった。それが生理的に苦しかった。デンボクが団長で、シマボシ隊長があくまで隊長だからなのか。

 シマボシ隊長が統べればより良い集団になっただろうに。

 またひとつ、わたしはこの世界に絶望した。

 

 シマボシ隊長に連れられて、わたしは村の外に連行される。手持ちのポケモンはそのまま持たされているのはこれまでの功績からと言われたが、暴れるポケモンがいる中、わたしが捕まえたポケモンも奪うつもりだったのか。

 その強欲っぷりに、それを思考したというだけで異常だ。ポケモンがいない状態で外に放り出したら大人ですら死ぬ危ない世界だというのに、何を言ってるんだと思った。

 散々ポケモンの凶暴性を説いてきたのはそっちだろうに。

 

 ラベン博士やテル先輩はわたしへの処罰について嘆いてくれた。だけどデンボクの決定に非を唱えられなかった。彼らもギンガ団の一員で、デンボクのおかげで生きてこられたようなものだから。

 セキさんとカイさんは身内ではないからと、デンボクがさっさとコトブキムラから追い出していた。空がおかしなことになっている今、ムラを纏めなくちゃいけないのに部外者に騒がれたら面倒だと思ったのだろう。

 

 それに彼らも何が起こるのかわからないから自分達の集落を守るために色々と動かなければならないだろう。わたし一人にかかずっている暇はないということだ。

 あんな男が統べる組織がギンガ団を名乗っているのが妙に苛立ち、この建物をポケモンに燃やさせようと思った。けどこの中にはラベン博士の研究室やシマボシ隊長の私物があるだろうからと実行は踏み留まった。

 

 それにそんなことをしたらとうとう言い訳ができないと、心がブレーキを掛けた。

 ギンガ団の建物の外に出ると、村人全員の視線が険しかった。村八分、という言葉が浮かんできた。

 全員がデンボクの言葉を信じているようで、わたしがこの惨状を引き起こしたと思い込んでいるらしい。

 あんな男でも、このコトブキムラを作り、ギンガ団の力でムラの安寧を守っていたからだろう。どいつもこいつも、本当は他の地方から流れてきたわたしと変わらない漂流者のくせに。

 

「……怖い」

 

「最初に見た時から怪しい奴だと思っていたんだ」

 

「格好もおかしかったからな……」

 

 そんな村人の言葉が聞こえてきて、足を止めそうになる。けどシマボシ隊長に促されてその人達を凝視することはなかった。

 散髪屋の前に来ると、ヒナツさんが悲痛な表情を浮かべていた。彼女はわたしに駆け寄ってきて、両肩を掴んでいた。

 

「ショウ!やっぱりあたし、デンボクさんにもう一度話してくる!ドレディアとあたしの恩人で、あんたが優しいのは十分わかってる!こんな追放おかしいって!」

 

「ヒナツさん……」

 

「ヒナツ。君はコトブキムラへの滞在は許可されているが、ギンガ団の者ではない。コンゴウ団のキャプテンとしてセキ殿に話を通す方が建設的だろう」

 

「シマボシさん……」

 

 ヒナツさんの行動を、シマボシ隊長が止める。

 ギンガ団と同等の組織であるはずのシンジュ団とコンゴウ団のそれぞれの長がおかしいと言ってもあの男は聞かなかったのだ。一つ階級の下がるキャプテンのヒナツさんの言葉なんて聞くわけがない。

 

「ショウ、コンゴウ団で居場所を用意しておくから!団長と一緒にアンタのことキチンと話しておく!」

 

 ヒナツさんはそう言って、先にムラを出たセキさんを追いかけていった。

 ああ、彼女はわたしを心配してくれる。それだけで少し、救われた。

 また村の外へ向かうためにシマボシ隊長についていく。非難の声を掛けられることもあるが、もう聞かないことにした。

 

 そういう人達だとわかって、化けの皮が剝がれて、このムラへの愛着が完全になくなった。ただ数人、本音を語っても良い人がいるだけのムラに成り下がった。

 あれだけ、ポケモンに関する悩み事を聞いてあげて実際に物事を解決してきたというのに薄情な連中だ。ポケモンの謎を解明した。ムラへの被害を減らした。人命救助も行なった。

 

 それでもわたしを認めてくれないのなら。誰がやったかわからないことをやったと断定されるのであれば。

 彼らにとってわたしとは。今まで暴れることのなかったポケモンと同じ存在なのだろう。

 もうすぐ門に近付くというところで。一人のギンガ団員の女性がいたことに気付いた。確かいたずらビッパがムラに入り込んでいるからと捕らえるのに協力してあげた女性だ。

 

 ムラの外には出ないし、任務を一緒にやったこともなかったので名前は覚えていなかった。その程度の人物だった。

 彼女はわたしを見て顔を青くさせていた。彼女もあんな眉唾なことを信じているらしい。

 彼女は何を言うのだろうと、気になって視線を向けていた。一般のギンガ団員はどう思っているのだろうと。

 

「やっぱり時空の裂け目から落ちてきた人間は……」

 

 ……なんだ、それは。

 やっぱりってなんだ、やっぱりって。最初から疑っていたのはいい。任務に協力していた時も内心では怯えていたとしても良いだろう。

 でも結果としてムラを守って、この人の立場も守ったはずだ。その上で最初の印象を覆せなかったのは驚く。

 

 それ以上に、なんだって。時空の裂け目から落ちてきたと言ったか。

 わたしはシマボシ隊長についていくこともやめてその女性を睨む。彼女はわたしの目を見て「ヒィ!」と表情を強張らせて一歩引いていた。

 だが、我慢の限界だ。

 

「時空の裂け目から落ちてきたからって、それが何だって⁉︎わたしは名前以外の記憶が何もないのに!あそこから落ちて来たんだとしても、それがわたしの何になるって⁉︎

 

 わたしが自分からあんな場所に行って落ちて来たと思ってるの⁉︎もしそうだとしても、あんな場所に行ったわたしはおかしな人間ってこと⁉︎素性がわからない人間が信じられないのはわたしにだってわかる!でも、代わりにあれだけ働いてきたでしょう⁉︎

 

 ムラ人全員の悩みを解決した!複数回頼まれごとをされても嫌な顔もしなかった!ポケモン図鑑を完成させるために方々を駆け回った!ポケモンの分布図も作って安全に暮らせる場所を導き出した!

 

 できる人が少ないポケモンの捕獲を積極的に行なってきた!ポケモンが欲しい人にはあげた!危険なオヤブン個体も捕まえて、キングもクイーンも鎮めた!ココノツボシ隊員にもなった!

 

 それでも信用されないのなら、わたしは何をすればいい!何をすれば良かった⁉︎これ以上何をすればあなた達は信頼してくれた!

 

 きっとさっきの言葉に全てが詰まっているんでしょうね!わたしは何をしても信じられなかった!いつか必ず、今日みたいに難癖を付けられて追い出されていたんでしょう⁉︎

 

 ポケモンの危険性は全員知っているくせに!普通のポケモンもオヤブンも、キングやクイーンだって!わたしは死ぬ思いをしながら対峙してきたんだ!服の下なんて色々なポケモンに付けられた傷だらけなのに、そんなことあなた達には一切関係がないんでしょうね!

 

 他のキャプテン達が匙を投げたキング達の凶暴性なんて想像もできないんでしょ!オヤブンていう身近な危険がどれほどのものかも理解できないんでしょ!

 

 ああ、本当に……!()()()()()()()()()()()()!こんな激情も産まれなかったのに‼︎」

 

 ポーチに仕舞っていたポケモンボールを取り出す。

 バクフーンが、ミカルゲが、ライチュウがボールから飛び出てくる。手持ちでオヤブン個体じゃないポケモンを呼び出した。

 ボールの中でわたしの叫びを聞いていたのか、即座に彼らは動こうとしていた。

 

「バクフーン、『かえんぐるま』でムラを焼きなさい!跡形もなく燃やし尽くして!」

 

「バウア!」

 

「ライチュウ、『かみなり』!神に称されるいかづちを見せつけなさい!」

 

「チュウ!」

 

「ミカルゲ、『たたりめ』で全ての人を昏睡させて!やっちゃダメな人はわかってるわね⁉︎」

 

「キュウウ!」

 

 即座にバクフーンが身体中に炎を纏ってムラを爆走して着火させ、ライチュウが指示通りに神鳴りを落とし。ミカルゲが近い人間からとにかく眠らせていった。

 わたしの怒りで出来上がった赤い惨劇に、わたしは喜べなかった。そうあれと願ってポケモンにやらせたのに、わたしの気持ちは落ち込んでいくばかり。

 

 このムラにわたしを止められる人間がいるわけがない。ギンガ団は純白の凍土すら調査できないレベルの人間しかいないのに、あの場所を隅々まで探索しきったわたしとポケモンを止められるはずがない。

 このムラの人々はポケモンのことについても無知を晒していたけど、人間の心さえわからないのだからポケモンのことなんてわかるわけがない。

 

 こんな仕打ちをされて平気な人間なんて、それこそ人間をやめている。自分達より恐ろしいポケモンを怖れているのに、ポケモンを従えているわたしには何をしても良いと思っているのなら度し難い。

 そんな簡単なこともわからないから──ホラ。自分達の住処が火の海の只中にある、なんて結果になる。

 

「やめろ、ショウ⁉︎」

 

「シマボシ隊長のお言葉でも止められません。隊長ならきっと新しい組織を作って率いた方がマシですよ。こんなところで書類に忙殺されているなんてあなたの価値をデンボクは全くわかっていない。テル先輩やラベン博士を連れてどこかへ行かれることをお勧めします。ヒスイ地方以外ならきっと安全に過ごせますよ」

 

 シマボシ隊長が叫ぶけど止まらない。止められない。デンボクの全てを奪ってやらないと気が済まない。

 他の地方からの移民は受け入れるくせに、出自のわからないわたしは排斥する。彼がポケモンを嫌う理由があったとしても、彼だってポケモンをボールに入れていることは知っている。

 この矛盾だらけな人物が治める場所が気持ち悪くて気色悪くて。喉に迫り上がるナニカを吐き出すように火を放った。

 

 シマボシ隊長にテル先輩、ラベン博士にポケモン牧場のお世話をしてくれたオハギさん。技の伝授を手伝ってくれたペリーラさん。それとまだ近くにいるかもしれないヒナツさん。

 それ以外の人はどうなろうと知ったこっちゃないと思っていた。

 わたしはポケモン牧場の方を向き、大声を上げる。

 

「フーディン、ドータクン、チリーン、サーナイト、エルレイド!わたしの頭の中で思い浮かべてる人物をここから遠くへ飛ばしなさい!」

 

 その声と共に、エスパーポケモンがテレポートを実施。さっき挙げた人達をテレポートでどこか安全な場所へ飛ばしていた。飛ぶ先については問題ないだろう。テル先輩もいるのだからよっぽどの場所でもない限り生きていけるはず。

 これでムラには傷付けても良い人しかいない。思う存分暴れられるようになったのなら、歯止めは効かない。

 

 バクフーンはまだ焔を撒き散らしているし、ライチュウは『かみなり』の後は『ボルテッカー』で暴れている。ミカルゲは指示通りにムラ人へ呪いを振り撒いていた。

 牧場で休んでいたポケモン達も、ムラの破壊活動へ勤しむ。中には逃げ出すポケモンもいたが、親であるわたしの意志を汲んだのか暴れるポケモンの方が多かった。

 

 まだできて二年ばっかしのムラ。まだまだ開発を行なっている途中の、未完成なムラ。

 それはオヤブンと呼ばれる通常よりも強力なポケモンの手で簡単に藻屑へと変わり果てていた。

 ポーチの拡張のために何万円も払うよりも、オヤブンの子達に強力な技を覚えさせる方がお金の使い方として楽しかった。今では『はかいこうせん』や『ギガインパクト』、『ふぶき』などが飛び交っている。

 

 怪獣大行進みたいで見ていて楽しい。

 ポーチの拡張であのぼったくり野郎を思い出した。たかだか道具を一個多く入れるための拡張技術のために二万円とか要求してくるのは本当にふざけていた。何匹のポケモンを捕まえれば良いと思ってるんだ。

 道具なんて手隙のポケモンに持たせればいくらでも運べたので、要求額がおかしくなったところで拡張なんてやめた。あの男にも殺意が湧いてきたが、今このムラで無事な建物なんてない。

 

 すでにどこかに埋まってるだろうと思うと胸が軽くなった。

 コトブキムラの原型がなくなり始めた頃に、黒い着物姿の憎き男がやってくる。腰にはモンスターボールを掛けていたが、ギンガ団というモンスターボールを開発した集団からすれば持っていないことがありえない代物。

 その男は、わたしの前に修羅の如く立ち塞がる。

 

「貴様ァ……!やはり貴様こそが災厄の象徴だったか!」

 

「順番を間違えないでよ、デンボク。このムラが存在する価値のない場所だったから燃やしてるだけ。あなたが功績を認めず、排他的な人間ばかり集めたのが原因でしょ?やっぱり人間には感情なんて要らないんだよ。

 

 誰の言葉かは思い出せないけど、感情なんてものがあるからコミニュティを維持できない。わたしもこうやって爆発する。最適解がわからずこうやって暴発する獣なんて、感情を糧にして何もかも喰い潰しちゃうんだ!やっぱり()()()の語る世界こそが、唯一無二の正解なんだッ‼︎」

 

「感情を否定するだと……?そんなもの人間の思考ではない!」

 

 何を言ってるんだ、こいつは。

 うっすらとしか思い出せないけど、きっとわたしが慕っていたあの人は人間を超えていた。人間がこうやって間違う存在なら、あの人は人間とは違う完成された存在だったんだろう。

 だから、人間のデンボクには理解できなくて当然だ。

 

「人間ってそんなに偉い?ポケモンと共存できない、固まった思考をしてるあなたはわたしの介入で共存の道を歩み始めて発展し始めたこのムラがどう見えた?気味悪かった?ずっとポケモンの凶暴性ばかりわたしに説いていたもんね?自分のムラが変わっていくことを受け入れられなかった?

 

 ──だから、その元凶のわたしを追い出そうとしたんでしょ。あなたはきっと、過去と今を混同してる。過去を後生大事に抱えてるから、今を、変化を受け入れられない」

 

「小娘に何がわかる⁉︎故郷をポケモンに焼かれ、ポケモンを恨むなと⁉︎我らの平穏な生活を奪ったポケモンを憎く思うななどと言うなら、そんな心を、意志を持った者は人間ではない!」

 

 知るか。

 人間だって多種多様だろうに。おとなしい人、凶暴な人もいるのに、一部だけを見て種族そのものを嫌悪するなんて。

 

 ポケモンだっておとなしいポケモンもいれば暴れる子もいる。それどころか人を癒すラッキーやハピナスのような優しいポケモンもいる。ポケモンはあくまで小さくなるという特性を持った生き物を指してるだけで、共通の括りに入れることが難しいほどに多面性がある生き物だ。

 

 それに。そんなに嫌っているなら何でポケモンを複数所持しているんだ。ポケモンに対抗できるのはポケモンだけと思っているなら、ポケモンごとの違いにも気付いていいはずなのに。

 自分の中の矛盾にも気付かない石頭。それが目の前の人物だ。

 

「貴様とは話が通じないな!ならば力で捩じ伏せるまで!」

 

「ふうん?そう、力勝負でいいんだ。もちろん相撲じゃなく、ポケモンを使った勝負でいいんでしょ?あなたが勝負の内容、決められるわけないもんね?」

 

「く……!いけ、カビゴン!」

 

「何だ、ただのカビゴンなのね。ガブリアス、力強く『げきりん』」

 

 通常個体のカビゴンだったことに落胆したわたしはオヤブンガブリアスを出してすぐに技を指示。

 ガブリアスは雄叫びをあげながら即座にその場で暴れてカビゴンを吹き飛ばした。吹き飛んだ先にはデンボクが。

 その巨体がデンボクに重なり、グチャという音が聞こえた気がした。デンボクが下敷きになってどうなろうが知ったこっちゃなかったのに、何故か白髪にしたようなデンボクらしき人がわたしに話しかけている霧がかかったビジョンが浮かんできた。

 

 その人はデンボクと同じように厳しそうな見た目をしていたが、それでもわたしに微笑みながらポッチャマを……。

 そのビジョンに続けて、今まで蓋をされていたように記憶の濁流がわたしを襲う。

 

 とある湖でポケモンに襲われたために咄嗟に他人のポケモンを使って撃退したこと。そのポケモンの持ち主である博士に許されてポケモン図鑑の完成を手伝わされたこと。

 幼馴染の少年に一緒にチャンピオンになろうとライバル宣言されたこと。シンオウ地方を巡ったこと。

 その途中でとある人に出会って、とある団体に加入したこと。

 

 ある任務を受けて、特殊な空間に入り込んだこと。

 それらが一気にわたしの頭に響いて、頭が痛くなった。頭を抱えながらひんしになって仰向けで倒れているカビゴンを見ると、そのカビゴンの背中から血が徐々に流れ始めていた。

 その血はおそらくカビゴンの持ち主だった人間のものだろうと思った途端、また頭痛が激しくなった。

 そして、カビゴンに既視感を覚えて目がチカチカし始めた。

 

「何……?カビゴンが何だっていうの?これまでだって何度も倒してきた。カビゴンじゃなくて、ゴンベ?ゴンベはヨネさんのパートナーで……。違う?他に誰がゴンベを……。──ナナカマド、博士?」

 

 頭に浮かんだ人の名前を呟いた瞬間、ビジョンの霧が全て晴れた。

 ナナカマド博士。わたしに最初のポケモンであるポッチャマをくれた人。その人の容姿はカビゴンに潰されている人そっくりで……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ……ああああああああァァァッ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デンボクを必要以上に嫌う理由が。

 シマボシ隊長やヒナツさん、オウメさんを慕う理由が。

 テル先輩を信頼する理由が。

 全ての点と点が、繋がった。繋がってしまった。

 

「わ、わたし、何を……⁉︎絶対にわたしのいた時代よりも過去のここで、ナナカマド博士の先祖を、殺した……?」

 

「デンボク、わしを待てと言っただろうに!……うおおおおお!ショウ、覚悟ぉ!」

 

 誰かが、わたしにサーナイトをけしかける。けどガブリアスが、牧場から解き放たれたオヤブンポケモン達がサーナイトを一瞬でひんしにしていた。

 けどわたしは襲われていることや、誰が襲ってきたかなんてどうでもいいかのように、蹲っていた。

 

「なんで……なんであなたとナナカマド博士が繋がるのよ⁉︎全然違うじゃない!時代⁉︎環境⁉︎ナナカマド博士の夢を潰そうとしたわたしが言うことじゃないけど、あなた達はポケモンに対する愛情がまるで違うじゃない……!」

 

「……ショウ?何を……」

 

 わたしを襲おうとしていたおそらく老人の言葉なんて無視して、わたしはそこに倒れているカビゴンの下を見たくなかった。

 だからできる限りの声を張り上げていた。

 

 

 

 

 

「エスパーポケモン!全員でわたしとポケモンをテレポート!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 行き先はわたしの頭の中を呼んだのか、時空の裂け目に一番近い場所へ飛んでいた。

 火の海から雪山の近くへ景色が一変したことよりも、ポケモン達がわたしを心配するような目線を向けてきていることよりも。

 わたしの身体は言うことを聞かないようにずっと震えていた。腕で抑えようとしても、一向に止まってくれない。

 

「わたしを、元の時代に戻してよ!こんな場所でひとりぼっちは嫌……!助けてぇ、()()()()ぁ……!」

 

 時空の裂け目に向かって叫ぶ。その奥にいる、わたしをここへ連れてきただろう存在に訴えかける。

 その声に反応したようにアルセウスフォンが光って時空の裂け目に向かい、その光を吸収した時空の裂け目は新たな光をコトブキムラの方角へ落とした。

 その光はきっとわたしがこの世界に落ちた時のものと同じだろうと直感して。

 

 わたしのハイライトが消え去った。

 




連動特典で「ハイカラ上衣」と「ハイカラ下衣」ってそういう意味でしょ?と妄想した産物がこれだよ。


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また一人、犠牲者が

評価いただいたので続きました。

どこまで続くかは…さて。


 テンガン山の麓で。

 わたしはたくさんのポケモンに囲まれていた。野生のポケモンではなく、全部わたしが捕まえたポケモン達。牧場にいた子も全員『テレポート』をさせたので全員いる。

 いや、全員は嘘。図鑑タスクを埋めるために捕まえてそのまま放置してた子もいるのでそういう子達はわたしのポケモン達の強さに恐れをなして逃げ出した。

 

 わたしが一切構わなかった子達だ。逃げ出しても仕方がないと思う。この過酷な環境で生きられるようなポケモンではない気がするけど、それはもうわたしの手から零れた命だ。

 ボールから出て自由を手にしたんだから、追うことはない。というより、牧場を潰してしまったんだから彼らの食料すら賄えないわたしにはどうすることもできない。

 

 牧場の子達で居なくなったのは約半数。逆に言えば半数は残っている。その半数はわたしがこのヒスイ地方で用途に合わせて連れて行った子や力で屈服させたオヤブン個体。

 そして、()()()()()()()()()で、幻や伝説と呼ばれるポケモン達だ。

 

 マナフィにフィオネ。ユクシーにアグノム、エムリット。ヒードランにクレセリア、レジギガス。トルネロスにボルトロスにランドロスにラブトロス。

 わたしの知らない伝説のポケモンもいるけど、おそらく伝説のポケモンだと思う。他のポケモンとどこか一線を画している見た目とオーラをしているポケモン達。

 

 ヒスイ地方、いや、過去のシンオウ地方にはこんなにたくさんの伝説のポケモンが居たんだなって不思議な感覚になったけど、それ以上に空虚が胸に押し寄せる。

 コトブキムラで暴れて一日が経った。

 けどわたしは何もできないで、テンガン山の麓で何もしないまま蹲っていた。

 

 ポケモン達が自分で動いてきのみや狩猟の成果として持ってきたポケモンの肉を咥えてきて自分で食事をしてくれたおかげで餓死させることはなかった。

 わたしもおこぼれできのみを食べた。ポケモンのお肉は、食べられそうにない。

 今はちょっと血がトラウマだ。わたしが指示を出してやったことだとしても、頭にはどうしたってナナカマド博士の笑顔がちらつく。

 

 厳しい人だったけど、伝説のポケモンを捕まえた時も、殿堂入りした時も柔らかい笑顔を向けてくれた人だ。裏でギンガ団に入っていて、世界を一変させようとしていたわたしは、罪悪感でいっぱいだった。

 そんな罪悪感も感じたくなくて、理想の世界を目指して。

 ディアルガ・パルキアに対抗するために歴史の裏に追放された第三の伝説のドラゴンポケモン『ギラティナ』を確保すべく、アカギ様が観測なさった『やぶれたせかい』に入り込んで。

 

 ギラティナを捕獲した瞬間に、わたしは暗闇に連れ込まれ、全ての記憶を失くしていた。

 ショウ、なんて偽名を名乗っていたのも。殿堂入りしてしまったがために有名になってしまったわたしの行動を露見させないためにアカギ様に着けられた名前だったから。

 ギラティナの捕獲の際は、気持ち的には『()()()』ではなくショウだったから。自分に一番近い名前だと思い込んでいたから。

 

 ああ、本当に憎らしい。

 わたしは全てを成し遂げたはずだった。

 ユクシー・アグノム・エムリットの三匹も捕獲して『あかいくさり』の生成にも成功して。伝説のポケモンに対抗するためにポケモンを鍛え上げて。他の伝説のポケモンのことも調べ上げてヒードランとクレセリアも捕まえて。

 

 最後の保険であるギラティナもボールに入った。そして足元に現れた影に飲み込まれた。それがあの頃の、最後の記憶。

 ディアルガ・パルキアを呼び出して世界を改変するはずだったのに。

 もうポケモンコンテストなんてものに関わらなくて済むと思ったのに。

 

 審査員という不完全な人間の判断と好みで勝敗が決まる不完全な競技に一喜一憂して、それにのめり込んで世界の色がそこにしかないという勘違いをした人間を排除するためにも感情を消し去るつもりだったのに。

 わたしが『やぶれたせかい』で影に飲み込まれる時、アカギ様が珍しく焦ってたなあ。あんな大きな声でわたしの名前を呼んで。わたしは返事もできないままこんな世界に来ちゃったけど。

 

 アカギ様は、マーズさんやサターンさん、ジュピターさん達と一緒に世界を改変できたんだろうか。ヒードランとクレセリアは置いて来たけど、結局ギラティナは献上できなかったなあ。戦力は足りてるんだろうか。それだけが気がかりだ。

 わたしは何でこんな時代(ところ)にいるんだろう。世界を改変されたくなかったから?それを阻止した存在は。

 

 きっと、多分。わたしをあの暗闇からここに来るまでに会ったアルセウスを名乗るポケモン。アレだけだ。

 アカギ様から渡されたスマートフォンも勝手にアルセウスフォンとか名乗ってたし。自己主張激しいんだよね。それにデカすぎて嵩張るし、棘が生えてるから痛いし。デザインも微妙。

 小型だったから良かったのに巨大化させて変な紋章付けるとか趣味悪。

 

 今はそんなアルセウスの力が消えたみたいで、ただの空色のスマートフォンに戻っている。アカギ様が何色が良いと聞かれたから、ポッチャマと同じ色がいいとお願いして空色にしていただいた。

 昨日、時空の裂け目から落ちた光。多分わたしの代わりにまた誰かがどこかの時代から選ばれて、この時代で何かをさせようとしているのだろう。アルセウスが何を考えているのかわからないけど、絶対ロクでもないことだ。

 

 そうじゃなかったらわたしやノボリさんのようにこの時代にやってくる人が複数必要なわけない。わたし一人でできることならノボリさんが呼ばれた理由がわからない。

 そして、おそらくもう一人が。わたしの代わりが呼び出された。その人物にアルセウスの使命が託されたんだろう。

 

「すべてのポケモンにであえ」

 

 それがアルセウスのやらせたいこと。わたしに直接言って、アルセウスフォンを使ってまで言ってきたこと。

 それに何の理由があるのか。全くわからないけど、おそらく伝説のポケモンだ。どこかしらぶっ飛んでる伝説のポケモンの考えなんてわかりっこない。ポケモンの考えなんてほとんどわからないけど。

 そもそも話せて、人間に何かをさせようとしている時点でどこかおかしい。そんなおかしい奴のことなんて気にしてる暇はない。

 

 ここが過去だとわかっている。シンオウ地方と地形が一緒なんだから。それに、あの時空の裂け目がある以上帰り道はある。シンジュ団とコンゴウ団の言い伝えからパルキアとディアルガがいることもわかってる。

 その二体がいればわたしは戻れる。

 元いた時代に。アカギ様の元に、正しい『ギンガ団』の一員に。

 

 そもそもアルセウスがわたしをこの時代に呼び出さなければコトブキムラの悲劇は産まれなかった。あの悲劇についてはわたしの暴走という面もあるので一応黙祷を捧げる。謝らないけど。

 恨むならアルセウスを。

 それかデンボクの選択を恨んでほしい。わたしを追放する理由もカイさんの言うように鬼の証明だし、わたしが暴走した決定的な理由はあのムラ人達の思考。あんなにも排他的なムラを作り上げたのは彼なんだから、彼の庇護下にいたムラ人達は諦めてほしい。

 

 初めての経験でかなり精神に来てたけど、動き出そう。もうこの時代にはいられない。新しいアルセウスの刺客もいるんだから、邪魔されない内に元の時代に戻らないと。

 わたしはここに居てはダメな存在だ。厳密に言えば新しい刺客もノボリさんもこの時代にいるべきじゃないんだろうけど、コトブキムラの惨状を知られたらわたしの話なんて聞いてくれないだろうから諦めてもらおう。

 

 わたしはわたしと自分のポケモンのことしか面倒を見切れない。他のことにかまける余裕なんてもうない。

 だからここからは、わたしだけの理由で動く。

 他の有象無象に構っていられない。

 行こう、時空の裂け目へ。わたしのいるべき場所へ。

 

 

 テル達『テレポート』で飛ばされた者達はコトブキムラに戻ってきていた。正確には跡地となってしまった廃墟である。

 建物は全て原型を留めておらず、通りも橋も畑も、象徴であったギンガ団本部も残っていない。

 ポケモンの凶暴さを指し示しているようだ。オヤブン個体など凶暴なポケモンは今までも十分肌で感じていただろうが、今回のこの惨状はショウの手によるものだ。

 

 元々未来のチャンピオンという実力と実績を持った人間がこの凶暴なヒスイの地で直々に育て上げたポケモン達による嵐だ。ポケモントレーナーという言葉がなく、モンスターボールも開発されたばかりのこの時代で、その才能は自然災害を超える暴虐になる。

 

 野生のポケモンが本能で暴れるより、的確な指示を受けて暴れる理性的なポケモンの方が危ないことなんてこの時代の人間ではわからない。ポケモンを利用した悪の組織なんてものも存在しない、ポケモンとの共存をしていない石器時代なのだから。

 テル達が廃墟の中から見付けたのはムベとムラで働いていなかった子供達、それにギンガ団本部の地下に避難していた医療班と開発班の一部だけ。それ以外の大人は全員死体で見付かった。

 

「こ、こんな……。ショウくん、どうして……」

 

「おお、ラベン博士にテル。シマボシ隊長も。……悲観しとる暇はないぞ。子供達を食わす食料が足りん。倉庫も燃やされて畑もあのザマじゃ。……コトブキムラはもう終わりじゃの。シンジュ団やコンゴウ団に頼るしかなかろうが……」

 

「それは難しいぞ、ムベ。この惨状はセキ殿とカイ殿の提案を聞いていれば起こらなかった出来事だ。ショウを怒らせてこのザマで、あの二人が支援をしてくれると?」

 

 悲しんでいるラベン博士にムベが無情な現実を突きつけるが、そのムベの提案をシマボシが否定する。

 はっきり言ってしまえば、幼い少女の心を理解しなかったデンボクとムラ人のミスでしかない。

 それで苦しくなったので助けてくださいなんて都合の良いことを、この厳しいヒスイの地で言えるわけがない。

 それでもこの事態を予測していたシマボシとペリーラが外に出た際に食べられそうな物を集めてからムラに帰ってきていた。そのため今日分の食事はなんとかなりそうだった。

 

 そうして最低限の復興をして夜になって。

 始まりの浜に一つの流星が落ちた。

 それはラベンに見覚えがあり、テルが護衛として付いていく。

 始まりの浜にいたのは。

 

「いてててて!あー、どこだここ?っていうか、いつの間に夜になったんだ?」

 

 両端が羽根のようになった金色の髪。オレンジの瞳の色。そしてどこかせっかちそうな幼い少年。

 そしてやはりヒスイ地方に相応しくないオレンジと白の縞模様のTシャツに長ズボン。それを見てラベンとテルはショウのように異世界・違う時代から来た少年だと悟った。

 その少年はテルのことを見ると、あー!と声を上げる。

 

「コウキ!なんだ、お前昔の時代のコスプレでもしてんのか?いやー、知り合いがいて良かったー!」

 

「あ、俺のこと?俺の名前はテルって言うんだけど……」

 

「え?人違い?なんだってんだよー。じゃあ自己紹介しないとな。俺はジュン!未来のチャンピオンになる男だ!」

 

 そう自信満々に言った少年の言葉が、二人にはまるでわからなかった。

 それでも、彼をこのまま放置するわけにはいかなかったのでコトブキムラの跡地に案内することとした。

 結局彼らがその日暮らしをするためにギンガ団本部の地下で寝泊りをすることとなった。屋根を急造で作り上げ、これからの行動方針を決めていく。

 

 ジュンにも今の事態を説明し、それだけで時間は過ぎていく。

 ショウが動いているこの時間も、彼らは生き残るために時間を消費していった。

 赤い空の異変は、彼らが悩んでいる間にショウが自力で解決しようとしていた。

 



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未来の知識・常識

 ジュンは最低限の話を聞いて翌日。コトブキムラの復興のためにカビゴンにヘラクロスを出して瓦礫の撤去の手伝いをさせていた。

 やる作業としては瓦礫の撤去ばかり残っていたので問題はなかったが、こんな惨状になっている理由を一緒に作業をしているラベン博士に聞いてみた。

 他のポケモンを持っている者は、近くの黒曜の原野で食材集めに行ってしまった。この人手にジュンも他のポケモンを貸し出していた。

 

 ジュンは今、()()()()()()()()()()()()()()()()()。だからポケモンもトレーナーとしての腕も、シンオウ地方でもかなりの上澄みだった。

 昨日は簡単な事情しか聞いておらず、一人のポケモン使いの少女がこの現状を作り出したと聞いて、同じポケモントレーナーとして憤慨していたのだが。

 

「はぁ?追放?」

 

「ええ、はい。この紅い空を産み出した原因だろうと、ショウくんをギンガ団の団長デンボクさんは追い出そうとしたのです。そして、ムラ人から謂れのないことを言われ、怒って……。ムラにポケモンを放ちました」

 

「この世界のこと、テルに聞いたけど。ポケモンと共存してないんだろ?で外にはたくさんの野生ポケモンがいて、人間の集落なんてほぼなし。それで女の子を追い出すって罰金ものだぞ」

 

 最初は怒っていたものの、逆にポケモントレーナーの少女のことを同情していた。子供達や生き残った大人の少数はそのショウのことを悪魔と呼んでいることを聞いたが、どちらが悪魔か。

 

「そのショウってどんな奴?」

 

「ポケモンの捕獲の天才ですよ。ギンガ団で彼女の右に出る者はいません。ポケモンの戦闘も凄まじく、誰も勝てなかったとか。その現場を全部見たことはないのですが、誰もが凄いと言っていましたよ。彼女のおかげでこのヒスイ地方のポケモン図鑑はほぼ完成したのです。残りはシンオウ様くらいのはずです」

 

「ポケモン図鑑?あるのか。俺も元いた世界で作るの手伝ってたぞー。いや、俺はあまり貢献できなかったけど」

 

 ジュンが手伝っていたのは機械の図鑑だったのでそれはもう楽だった。捕まえたり見付ければ図鑑が勝手に記録を更新してくれるのだから。

 この世界はモンスターボールを開発したばかりで、ポケモン図鑑は紙の冊子だという。テルの格好から機械じゃないのだろうなと察していたジュンは後で見せてもらうことにして、ジュンは作業をしながら紅い空を見る。

 

「でもさ。その団長さんもバカだよなー。こんな空、人間ができるはずがないじゃん。この空、()()()()()のせいなのに」

 

「Why⁉︎ジュンくん、この空の原因がわかるのですか⁉︎」

 

「え?うん。俺も一回見ただけだけどさ。俺の世界でも『ギンガ団』って組織が伝説のポケモンを使って世界をめちゃくちゃにしようとして、ディアルガをテンガン山に呼び出したんだよ。それを俺と()()()が食い止めたってわけ。ヒカリがディアルガを捕まえて事態は収まったんだよな」

 

 まさかこの世界の人間以外でこの事態を解決できそうなピンポイントな人材がこのタイミングでやってくるとは思わなかったラベンは驚く。すぐに事情を聞くことにした。

 曰くディアルガとは時間を操る伝説のポケモンだということ。そのポケモンは世界の表側には居なかったが、『あかいくさり』という物を用いて世界に顕現したとのこと。

 その『あかいくさり』の作成にはユクシーにアグノム、エムリットの力が必要なこと。

 これを聞いて、ラベンは顔を蒼褪めさせる。

 

「……最悪の事態です。僕達は『あかいくさり』を作れない……」

 

「あー、ユクシー達って伝説のポケモンだから存在を知らないとか?大きな湖ない?そこにいるかもよ。ディアルガがいるっぽいからその三匹もいると思うけど……」

 

「いえ、違うのですジュンくん……。僕はその三匹を知っています。なにせショウくんが捕まえたポケモンですから」

 

「はぁ⁉︎ユクシー達って人の心に敏感なポケモンだぞ?しかも伝説のポケモンだ。それを捕まえるショウって女の子、どんだけ凄かったんだよ……」

 

「ええ、凄かったのです。そして凄すぎたために、畏怖の目で見られた。それがこの惨状を招いたのです」

 

 ラベンがほぼほぼ終わった瓦礫の撤去の跡を見る。もう人の生活の痕跡も残されていない荒れた土地。

 集落ではなく、ただの広い空き地と遜色ない場所になってしまった、ムラの成れの果て。

 

「俺、『あかいくさり』以外でディアルガを抑える方法を知らないぞ?最悪あの時と同じように力づくで抑えるって手段もあるけど、あの時だって『あかいくさり』とユクシー達の力でディアルガが正気だったからできたことだし……。ラベン博士、ユクシー達は?」

 

「多分ショウくんについていったか、野生に帰ったかだと思いますが……」

 

「うわ、本当に最悪の事態だ。野生に戻ってれば最悪俺が会いに行って『あかいくさり』を作ってくれるようにお願いするけど……。それがダメだったら、ポケモンバトルかなあ。あの時もヒカリに任せっきりだったし……。いや、トレーナーなんて言葉がないこの世界じゃディアルガと戦えるのは俺くらいだな!やるしかないか!」

 

 ジュンはそう結論づける。

 テンガン山の方を見て、時空の裂け目を見て。そうするしかないと決め込んでいた。

 

「まずはユクシー達がいるか調べないとな。ラベン博士、地図と図鑑見せてくれ。俺会いに行ってくるよ」

 

 瓦礫の撤去も終わったのでジュンはそう言う。ギンガ団本部の地下で無事だった地図を見て、ジュンは目を丸くした。

 

「なんだってんだよー⁉︎シンオウ地方じゃん⁉︎ヒスイ地方なんて聞いたことなかったけど、どっからどう見たってシンオウ地方じゃん!」

 

「シンオウ?この土地に根差す方達がシンオウ様という存在を崇めていますが……」

 

「えー……?じゃあシンオウって名前になる前の時代?それともなんだっけ?パラレルワールドだとかなんとかってTVの番組でやってた気がする……。いやいや、モンスターボールができたばかりってことは過去?ディアルガの力があればできそう……。なんにせよ、めちゃくちゃな事態に巻き込まれてないか……?」

 

 ジュンはヒカリがチャンピオンになって。コウキが図鑑収集と共にかなりの実力を付けて。バトルタワーでまだ目標が達成できない時に二人にあって自分にないものを考えた結果知識量が足りないのではないかと思ってポケモンのことについて結構調べたのだ。

 その過程でディアルガのことも詳しくなった。ヒカリが使ってくるのだから詳しくなければ勝てない。チャンピオンのライバルとはそれくらいの知識も求められるのだ。

 

 ジュンはそこまで歴史に詳しくない。旅に出る前に最低限の知識をスクールで学んだだけだ。ポケモンバトルのことは父親の関係でかなり熱心に勉強したが、地元の歴史なんてそこまで詳しくない。

 ヒカリに勝つために後から勉強した知識はあるが、それは伝説のポケモンやポケモンの生態について。前チャンピオンのシロナのように考古学を学んでいる訳ではなかった。

 

「ラベン博士。ポケモン図鑑見せてくれ」

 

「こちらです」

 

 冊子のように纏められたポケモン図鑑を、ジュンはめくる。その一ページ目からジュンはマジマジとページを覗き込んでしまい、ページをめくる手は止まってしまった。

 二百匹を超えるポケモンの図鑑だ。かなり分厚いのは当然のことで、一匹あたり一ページというわけでもない。

 シンオウ地方とヒスイ地方でどれだけポケモンの分布が違うのか、ユクシー達の居場所は変わらないのか。それを見るための確認のはずだったのに。

 

「……」

 

 一ページ目はヒノアラシについてだった。ヒノアラシはシンオウ地方の地下大洞窟にも生息しているのでジュンも知っているポケモンだ。

 その生態について、身長体重はもちろん。地図と合わせた生息マップや好みのきのみ、覚える技や気性なども事細かく書かれていた。

 

 

「ヒノアラシは興奮すると寝ている時でも背中から炎が吹き出るから注意!抱き枕にすると暖かいけど、髪がチリチリになったことも……。ヒナツさんが居てくれて良かったー!あ、これマグマラシの頃のエピソードだ」

 

 

 そんな丸文字で書かれた直筆のコメント。最後の一文だけは追加のふきだしが付いている。

 主な執筆者はラベンのものだったが、時折独特な丸文字で書かれたコメントがふきだし付きで散見された。ヒノアラシのような注意点だったり、調査の途中の用意した食事の際に、ゴンベがみんなの分も食べてしまったといううっかりエピソードだったり。

 図鑑をめくる度にそんな彼女のヒスイ地方での情景が思い起こせて。ジュンは自然と涙が出ていた。

 

 この図鑑を作るために彼女がどれだけの時間と労力をかけたのか。どれだけの苦労を重ねてきたのか。ポケモンの写真を撮って、好みを調べて。実際に戦った経験を載せて。

 誰が見てもポケモンのことがわかるように。ポケモンに恐怖心を抱かないように配慮をして、それでも危ないポケモンもいるのだと注意喚起もして。

 そんなヒスイ地方を想った努力の結晶がそこにあった。

 

「……なんだってんだよ……!こんなの見れば、ショウって子がどれだけ頑張ってきたかなんて一目瞭然だろ……!俺はここまで完璧な地方図鑑を見たことがない!モンスターボールができたばかりのこの時代で、この完成度の図鑑を作るのにどれだけ大変かなんて、俺には想像もできないッ‼︎

 

 あの空は十中八九伝説のポケモンの仕業だ。ユクシー達にも認められた女の子にする仕打ちか⁉︎ここの団長は鬼か⁉︎」

 

「ジュンくん……。一応、デンボクさんにも理由はあったのです。もう、いませんが……」

 

 ジュンは握る拳を強くする。

 ジュンは猪突猛進バカだ。それでも物事の善悪ははっきりとしている。

 人殺しは悪だ。

 だが、努力に報いず突き放す大人は、大義名分があるとしても善ではない。このポケモン図鑑はまさしくヒスイ地方のために作られた善意の結実した証明なのだから。

 

 ジュンは自分が随分恵まれていたのだなと実感していた。父に憧れ、ライバルに恵まれ。ずっとポケモンバトルのことばかり考えてこられた。

 もし自分がこのヒスイ地方に一人で放り出されていたら。そして信用できる場所を追放されたら。同じようになってもおかしくないと、会ったこともない少女に同情していた。

 

「俺、子供だからさ。昨日は助かったけどコトブキムラのことは好きになれそうにないや」

 

「……?ジュンくんは子供なのですか?いえ、僕から見たら十分子供ですが」

 

「そりゃそうだぜ。まだ十一のガキだからな。好き嫌いははっきりしてんの」

 

「十一⁉︎十五歳くらいじゃないのですか⁉︎」

 

 ラベンはジュンの発言に衝撃を受ける。

 その驚きようが大袈裟で、ジュンは聞き返す。

 

「え?あー……。テルって何歳なんですか?」

 

「彼がちょうど十五歳です」

 

「……文化が違うんだから、年齢だって間違えるかぁ。じゃあショウって子も年齢間違えられたんじゃ……。ショウの身長ってどれくらいだったんですか?」

 

「テルくんと変わらないくらいです……」

 

「もしも俺と同じ時代の人だったら、十歳くらいの平均身長だぜ?それ」

 

「そんな……!」

 

 ラベン達は身長で年齢を判断していた。記憶がなかったのでそれくらいしか判断基準がなかったのだ。

 いくら身長があっても、肉付きが良くても。精神は年齢に比例する。

 つまりギンガ団は年端のいかない子供に危険なことをやらせて、その上精神的にも痛め付けて追放しようとして。そして暴走させてしまったことになる。

 

 今から何ができるでもないが、ラベンはジュンから得た情報をシマボシ達に共有した。

 ラベンが説明をしている間に、ジュンは図鑑をもう一度見ていく。その最終ページに挟まれていた写真を見て、ジュンは今日何度目かわからない驚きを見せる。

 白黒写真だが。見たことのない浮かれたTシャツと短パン、サンダル姿だったが。

 そこにいたのは自分が勝ちを渇望しているライバルの一人だった。

 

「ヒカリ……?」

 

────

 

「ああ、ショウさん!捜しましたよ!まさかこんなところにいらっしゃるとは」

 

「ウォロさん」

 

 数多のポケモンを引き連れて大怪獣行進をしているショウに。

 いつものにこやかな笑顔を浮かべて話しかける行商人の優男の姿が、そこにはあった。

 




ショウが図鑑を真面目に作っていたのは生きるためと同時に、無意識下でのナナカマド博士への贖罪だったりします。


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集まるプレート

 イチョウ商会に属する行商人、ウォロ。イチョウ商会が他地方との交流が多いためか、様々な情報や珍しい商品を持っている、ショウもお世話になった人達。

 その中でもウォロは様々な場所に顔を出して直接手助けをしてくれる人だ。きずぐすりなどをくれただけでなく、助言もくれた人だ。そんな人がショウを探しに来てくれたことに喜ぶのではなく、むしろ訝しげな目線を向けるショウ。

 このオヤブン軍団を見てにこやかにしていられるウォロに怪しさしか覚えない。ショウはウォロを見て、なぜそうもにこやかなのか理解する。

 

「……そっか。『シャドーダイブ』。『テレポート』と同じように遠距離の移動ができるんですね」

 

「ショウさん?」

 

「記憶が戻ってよかった。ギラティナを捕獲している人のことに気付けて。伝説のポケモンを捕まえている人が普通な人な訳……。待って?あなた、捕まえてない?」

 

 ショウは記憶が戻ったことで観察眼と相まって様々なことがわかるようになっていた。そのおかげでウォロの影にいる存在に気付き、それを口にする。

 ウォロはいきなり自分が秘していたポケモンの存在を感知されたこと以上に、この時代で誰も知らないはずのギラティナの名前を出されたことで衝撃が走る。

 モンスターボールで捕獲していないことも含めて、ウォロにとっては驚きしかない。

 

「まあ、この時代はボールをあまり使っていないからおかしなことはないんですけど……。でもあなた、他のポケモンはボールに入れてましたよね?」

 

 ショウがつらつらと真実を告げていく。ウォロはとんでもなく化けたショウに恐れを隠せない。

 ウォロはショウのことを支援してきた。それはウォロのある目的のためだ。だからショウのことはつぶさに観察してきたし、ポケモンの捕獲、戦闘に関しては天才だとわかっていた。

 数々のポケモンを捕獲し、荒ぶるキング・クイーンを何事もなく納めてきた人物だ。ポケモンの戦闘に関しては文句の言いようのないほど恐ろしい人物だとわかっていた。

 

 だがそこに、人物観察眼まで加わり、隠していたことまでバレて。

 自分の目的まで勘付かれる可能性に気付いて、もう一つギラティナのことについて疑問に思う。

 ショウは時空の裂け目を開いたら現れた人物だ。正直ウォロにとってイレギュラーな人物で、何故現れたのかもわからない存在。それがギラティナの力で暴走させたキング達を止めた、ウォロにとっては可にも否にもなる人物だ。

 ウォロにとっての目的の一つ、プレート集めが順調にいったのでプラマイ0ではある。

 

「で?ギラティナと一緒のあなたが何の用です?わたし、もうこの場所にも時代にも用事ないんですけど」

 

「でしたらあなたが持っているプレートを全てください。自分の目的はそれです」

 

 一世一代の交渉を、ウォロは仕掛ける。

 いくら手持ちのポケモンを鍛え上げて、ギラティナがいると言っても。ショウの後ろにいるオヤブンポケモン達全てと戦ったら分が悪い。

 それにショウの手持ちも厄介だ。このヒスイの地でどんな凶暴なポケモン相手にも負けたことがない強者。正面から戦うには自分の実力に自信を持っているウォロでも今この場面では戦いたくないというのが本音だ。

 

「プレート?ポケモンに貰ったこれのこと?」

 

「それです。歴史好きなジブンには喉から手が出るものでして」

 

「これ、シンオウ様関連なんでしょ?ってことはディアルガかパルキア関連の道具のはず。それが欲しいの?」

 

「いえいえ。それはアルセウスに関わるものですよ。この世界の起源が書かれているでしょう?それはこの世界を創造したアルセウスが力を譲り渡した結晶だと推測されます」

 

「……アルセウス?」

 

 ウォロの説明にショウは眉を顰める。

 手に持っていたプレートを渡そうとしていたショウだったが、その名前を聞いた瞬間、プレートをバッグにしまった。

 

「これがアルセウスに関連しているんですか?」

 

「おや、アルセウスをご存知で?」

 

「まあ。これ、全部でいくつあるんです?」

 

「十八個です。いくつお持ちで?」

 

「十四。ふうん、そう。これがあればアルセウスに会えるの?」

 

「その可能性はあります」

 

「じゃあ、協力してあげます。プレートを全部集めて、わたしはアルセウスに言いたいことがある。あなたもアルセウスに会いたいんですか?」

 

「ええ、是非」

 

 ショウは口の端を吊り上げて笑う。

 その姿は悪魔のようだと、正面にいたウォロは思う。それでもショウがあくまで協力と言ったことから機嫌を損ねるのは得策ではないとしてにこやかな笑顔を貼り付けたまま頷く。

 

「ディアルガとパルキアを捕まえるついでに、プレートを集めましょう。心当たりはあるんですか?」

 

「実はジブン、プレートを一つ持っていまして。『こぶしのプレート』というらしいです。コトブキムラで拾ったんですよ。なので残りは三つですね。もう一つも心当たりがあります。黒曜の原野でプレートを持っているオヤブンポケモンがいるとか」

 

「もう二つは?」

 

「もう一つは持っていそうな人物に心当たりがあります。その人物を訪ねてみましょう。もしかしたら二つのプレートの在処を知っているかもしれませんし」

 

「そうですか。じゃあ黒曜の原野に行きましょう」

 

 ショウはウォロと一緒に行動することになったので、ポケモン達を全員ボールに戻した。この勢いのままディアルガとパルキアを捕まえようと思ったが、アルセウスに会えるなら話は別だ。

 少しの寄り道をしてでも、会えるなら遠回りに意味があると言い聞かせていた。

 ライドポケモンを呼ぶつもりもなく、ショウはギラティナの『シャドーダイブ』で黒曜の原野に向かう。

 移動している最中に、ショウもウォロも考え事をする。

 

(アルセウス……。わたしをこんなところに連れてきた代償を払わせてやる。この世界を作ったとか、神様みたいなポケモンでも……。一発殴らせろ。そのためにプレートに詳しそうなウォロさんを利用してやる)

 

(まずいまずいマズイ!まさかここまで実力差があるとは……。それに情報戦でも出し抜かれているなんて!ギラティナの存在がバレたどころか、名前も知っているということはどんなポケモンかもバレている!ワタクシだってかなりポケモンは鍛えたというのに……総数も実力もかけ離れている‼︎

 

 特にコトブキムラを襲撃した時の四匹のポケモンの強さは尋常ではなかった。ともすればギラティナすら超えている。あの騒ぎでプレートを手にしたが、どうにか裏を取らなければ勝てない……。……プレートを集め、協力者だと油断させて。最後にまくってあげましょう。今や彼女はこの世界で信頼されていない。まだ年若い少女だ。甘い蜜で毒を流し込んで、いいように使ってあげましょう)

 

 二人とも考え込んでいるうちに、ギラティナの移動が終わる。着いた場所で、ショウの目に映ったのはオヤブン個体のビークインだった。

 

「なんだ。ビークインなのね。バクフーン、『オーバーヒート』」

 

「ビイイイイイイ⁉︎」

 

 ボールから出てきたバクフーンはショウの指示を受けて即座に大技を使った。

 その業火に焼かれて、ビークインは一瞬で倒れた。変な闇の中から出てきたと思ったらいきなり襲われたビークインは泣いていい。

 ひんしになっているビークインを気にもせず、ショウはビークインの体内を探す。蜜を内包している場所に蜜だらけになったプレートがあった。「うえっ」と言いながらもショウは布で蜜を拭ってプレートの裏側を読み、どうでもいいかとバッグにしまった。

 

「はい。他にプレートについて知っている人はどこ?」

 

「手際が良いですね……。じゃあ案内します。ただギラティナでの移動はできません。彼女はギラティナのことが嫌いでしょうから。彼女はギラティナの真実を知っています」

 

「ああ、歴史から追放されたドラゴンってこと?それで嫌うって……。わたしはギラティナ、好きだよ?」

 

「そう言ってくれると、ギラティナも喜ぶと思います。では移動しましょうか」

 

「大体の座標は?テレポートで行きましょう」

 

「そうですね……」

 

 二人は古代シンオウ人の生き残り、コギトのいる庵に向かう。そこが人の住むような場所ではなくてショウは驚くが、そこにいた人にもっと驚くことになる。

 

「シロナさん……?」

 

「はて?妾はコギトと申す。……そなたは、選ばれた少女、だった者じゃな」

 

「だった。そうですか。あなたは色々と詳しそうですね?」

 

 ショウは自嘲しながらそう問い掛ける。コギトは首を軽く横に振るだけだ。

 

「世俗のことはとんと。詳しいのはこのヒスイ地方のことだけ。妾は碑文のような者でな」

 

「でもわたしのことは知っていました。……プレートの在処について、知っていることを話していただけませんか?」

 

「まるで獣……いや、迷子のような瞳じゃ。シンオウ様の加護を失って、只人となったおなごよ。気を鎮めなさい。周りが見えないようでは、いつか大きな失敗をする。いや、した後かの?」

 

「……わかったようなこと、言わないで。あんなもの、加護じゃない。呪いだよ」

 

 ショウはコギトを睨む。

 言われたくないこと、不愉快なことを言われれば老齢な人物でも攻撃的な態度をとってしまった。

 今のショウは色々と精神的に不安定だ。この時代、場所に彼女が頼れる先は手持ちのポケモンだけ。人と人の交渉は彼女がしなければならない。

 だというのに目の前の女性はショウの傷口を開き、塩を塗りたくってきた。これには反論をしても仕方がない。

 

「呪いのう。加護も呪いも表裏一体。それは受け取った者の心境次第じゃろう。そなたにとっては良くないものだったと。シンオウ様がどうしてそなたを選んだのかよくわかった。そなたはヒスイに来る前も迷い子だったのじゃろう」

 

「──違う。わたしには居場所があった。今もそこに帰ろうとしてるの。邪魔をしないで」

 

「ではそういうことにしておこうかの。これでも妾は古代シンオウ人の端くれ。シンオウ様の尻拭いをするのも務めの一つ。どれ、プレートじゃったか……」

 

 コギトは台所に向かい、そこでピンク色の板を持ってくる。

 

「え、あなたプレートを何に使っていたんですか⁉︎」

 

 ここまで二人のやり取りを黙って聞いていたウォロが叫ぶ。

 アルセウスが託したプレートが、台所から現れるなんて予想だにしないだろう。

 

「うん?これ、ちょうど良い長さじゃろう?まな板にちょうど良くてな」

 

「まな板⁉︎アルセウスの加護の結晶を、まな板⁉︎」

 

「実際これで切ると切れ味が良くての。大丈夫じゃ、ちゃんと拭いてある。……迷い子のこれからに、幸あれ」

 

「……ありがとうございます」

 

 ウォロは扱いに納得がいかず叫び、ショウはコギトの言葉に釈然としないままプレートを受け取る。

 これで残りは一枚だ。ついでにショウは尋ねる。

 

「もう一枚プレートはあるはずですが、在処に覚えはありませんか?」

 

「ポケモンのタイプと同じだけ数はあるはずじゃが……。何が足らないのじゃ?」

 

「もらったのがフェアリータイプのはずなので、残りはゴーストタイプです」

 

「となると『もののけプレート』かの。すまぬ、それには一切心当たりがない」

 

「そうですか……」

 

 情報が一切ない中でヒスイの地を駆け巡るつもりはなかった。

 そのため、ショウは決断する。

 

「ウォロさん。最後の一枚はディアルガかパルキアが持っているかもしれません。先に時空の裂け目に行きましょう。あの二匹をどうにかしてから考えます」

 

「それもそうですね……。いつ異変が起きてもおかしくはありませんし」

 

「そなたら、『あかいくさり』は持っておるのか?」

 

「ご心配なく。ユクシー達がもう作ってくれました。プレート、ありがとうございました」

 

 ショウはコギトに頭を下げて庵を後にする。

 一人になったコギトはショウの様子を見て、頬に手を当てて溜息をついた。

 

「難儀なものよの。シンオウ様は何を考えておるのか……。あの迷い子を救いたかったのか、それとも……。どちらにせよ、あのような幼子にする仕打ちではあるまいに。全能たる神、子の心知らず、と言ったところかの」

 

 その呟きはシンオウ様には届かない。

 コギトは伝承を引き継いだだけで、巫女ではないのだから。

 

 

「じゃあ、行ってくるぜ!ラベン博士、テル、お世話になった!ユクシー達を探して、その後はテンガン山に行ってくる!」

 

「ジュンくん、気を付けて。そう言うことしかできませんが……」

 

「お前のポケモン達もすっごい強いから大丈夫だとは思うぜ。できる限りの道具はクラフトしたけど、素材がなくてまともなもんを作れなくてごめんな」

 

「良いんだよ。きずぐすりとかすっげえ助かった!この未来のチャンピオンがこの空を解決してやるぜ!」

 

 そう言ってジュンはムクホークの背に乗って三つの湖に向かった。テルもついて行きたかったが、テルは希少な残されたポケモン使いだ。ムラの人々を守るためにもムラからそこまで遠くへ離れられなかった。

 ジュンは各地の湖にある洞窟に入っていったが、ユクシー達にはついぞ会えなかった。自分にユクシー達と会う資格がないのかもしれないかもしれないと思ったが、ショウがまだ手持ちとして捕まえている可能性に賭けて、テンガン山へ向かう。

 『あかいくさり』がなくても。隣にヒカリがいなくても。

 あの時より強くなった自分がディアルガを止めてみせると、ジュンは時空の裂け目へと翔んでいった。

 



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繋がるズレと憎悪

 ショウとウォロはギラティナの『シャドーダイブ』でテンガン山の頂上を目指していた。

 だが、暗闇から飛び出た場所は頂上に向かうための洞窟がある近くだった。シンオウ神殿に直接出たわけではない。そのためショウはウォロの方を見る。

 

「ウォロさん?」

 

「どうやらギラティナの力を、あの裂け目が拒んでいるようです。と言ってもそれは『シャドーダイブ』の移動の力のみ。それ以外は大丈夫でしょう。──おそらくディアルガとパルキア、どちらのドラゴンもいる。その二匹とギラティナは同格。二匹がかりの結界をギラティナ単体では超えられません」

 

「そう。ここまでくればもう目の前だから良いですけど」

 

 ショウは頂上まで移動できなかった理由にそっけなく返す。そのまま洞窟へ歩き出した。

 

「まもなく最終決戦ですからね。ショウさん、必要な道具とかありますか?ツケにしておきますよ。ボールとか足りてます?」

 

「大丈夫です。伝説のポケモンだろうが、ボールは一個あれば十分ですから。二匹いても、二個あればそれ以上は要りません」

 

「確実に捕らえられると?」

 

「はい。だって──ボールを二個も使ったポケモンなんていませんから」

 

 ショウはヒスイに来てからも、『ヒカリ』だったシンオウ時代を振り返っても、ボールを二個も使ったポケモンは一匹たりともいなかった。それが伝説・幻と呼ばれる区分のポケモンであっても、()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 普通のポケモンであればクイックボールを投げればそれだけで捕まえられて。伝説や幻のポケモンは直感的に捕まえられないと悟ったら弱らせて、イケると思ったらボールを投げるだけの作業。それだけでポケモンなんて捕まえられた。

 

 ヒスイに来て、オヤブンポケモンと対峙するようになってからも対処方法は変わらなかった。手持ちのポケモンで弱らせてボールを投げれば捕まえられた。ボールに違和感はあっても効率は全く変わらなかった。

 オヤブンポケモンであっても、イケると思えば戦闘もせずに捕まえたこともある。

 ショウからすれば、他の人がどうしてポケモンを捕まえるのにそこまで苦労するのかがわからないのだ。

 

 まずボールを投げるコントロールがない、下手くそは論外。ショウは投げれば確実にポケモンのウィークポイントに当てられた。弱点にボールが当たった衝撃も込みでショウは捕獲を成功させていた。

 ショウでもこのポケモンは一発で捕まえられないと思うポケモンもいる。ヒスイにはクイックボールがないのでその勘が働くことはよくあった。そういう時は弱らせて捕まえられそうな時に捕まえるに限る。

 

 だが他の人は完全に弱らせていないのにボールを投げて、ボールを無駄にして逃げられるということがある。ショウからすれば全然弱らせていないのに何をしているのだと思う行為。眠らせるなり氷漬けにするなり、手段はいくらでもあるのに一・二回攻撃を当てただけでボールを投げる意味がわからなかったのだ。

 こういう捕獲談義を、ポケモン図鑑を作っていたコウキとしたこともある。何故ああも他の人は焦るのだろうかと。

 

 その答えとしては「僕らにはポケモンをどれだけ攻撃してひんしにしないかがわからない。その捕まえられるっていう確信もないままにボールを投げてるよ」というもの。

 それになんだそれは、とショウは思った。そんなもの、ポケモンの様子を見ていればわかるだろうに、他の人にはわからないのだから。

 

 アカギにもそれが見えていたようで、アカギもポケモンの捕獲と育成が上手かった。そういう共通点も『ヒカリ』が信頼を置いた理由だ。

 そういう特性もあってショウは多くのボールを持ち歩かないが、今はモンスターボールがちょうど二個ある。これで十分だった。

 

 シマボシからボールのレシピを教わって、テルに作り方も教わったが。結局モンスターボールしかクラフトすることはなかった。スーパーボールとかハイパーボールを使ってもモンスターボールと効果が変わらず、それを作る理由が見出せなかったからだ。

 クイックボールはモンスターボールよりも確実に効果があったために『ヒカリ』の頃に愛用していたが、重要なポケモンを捕まえていたのはいつだって赤と白のモンスターボールだ。

 

 本音を言えばクイックボールだって必要なかった可能性もあるが、『ヒカリ』はコウキに相談してモンスターボールだけで捕獲するのは異常だと言われて、ボールの効果を隠れ蓑にしていただけだ。

 そんなショウの言葉に、ウォロは引き笑いをしていた。

 

「そう言えばジブンからボールを一切買わなかったですからね……。イチョウ商会でもショウさんの活躍からボールの需要があると思って在庫を増やしたのですが、結局買っていったのは他の団員ばかりで予想よりも売り上げが上がらなかったとか言っていました」

 

「ああ、わたしボールは買ったことないですね。素材はいくつか買いましたけど。だって自分で作るボールの方が性能が良かったんですもん」

 

「……はい?」

 

「イチョウ商会に粗悪品を売らないようにって言った方が良いと思いますよ?わたしのはもちろん、テル先輩のボールよりも劣化してる商品なんて、コトブキムラのバカな人しか買いませんから」

 

「……フムフム。ジブン、ショウさんの異常性を甘く見ていたようです」

 

 ショウはテルにクラフトの仕方を教わって、すぐにテルの作品よりも良い物を作った。最初はテルの腕前が低いのかと思ったが、売りに出されているボールや他の人が使っているボールの方が貧弱だとわかって、テルの腕の良さを再認識したのだ。

 そういうわけでショウは時間があれば自分が使う分のボールをクラフトして、時間がなければテルに手間賃を払ってボールを作ってもらったこともあった。それが一番捕獲率を上げられる手段だったために。

 

「つまりショウさんが投げたボールは確実に揺れが止まると。羨ましいです」

 

「え?()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「………………。なるほどなるほど。貴女を追放したデンボク殿はバカですね!」

 

「でしょう?これでもシマボシ隊長に次ぐココノツボシ隊員だったんですよ?誰のおかげでポケモン図鑑がほぼ完成したと思ってるんですか。あとはディアルガとパルキア、ギラティナの図鑑でおしまいだったのに」

 

「……伝説のポケモンは図鑑に含まなくても良いのでは?ディアルガとパルキアはシンオウ様として崇められていますし、ギラティナは歴史の影に追放された存在です」

 

「じゃあもう完成ですね。まあ、わたしはもうあのギンガ団の人間ではありません。ラベン博士やテル先輩、シマボシ隊長があの図鑑を有効活用してくれれば良いです」

 

 ウォロはヤケクソ気味に笑顔を向けて、ショウのご機嫌取りをする。

 この本人の勘違いと、資質の無自覚さにはウォロ自身も騙されていた。どれだけショウを甘く見積もっていたのかと過去の自分をぶん殴りたくなっていた。

 ポケモンバトル、捕獲、クラフトの才能。更には自己評価の低さなど、常時監視できていなかったウォロからすればショウの情報を得るために用いてきたのが人からの伝聞ばかりだったので過小評価してしまいがちだった。

 

 正直ウォロだって純白の凍土くらいなら無傷で調査できる。キング・クレベースだってギラティナかウィンディ、ルカリオがいればどうとでもなると思っていた。だからクレベースを鎮めたとしても、自分にだってできるとしか思っていなかった。

 これだけ他人と異なる才能があって、自己評価が低いショウのことだ。まだ隠し球があってもおかしくはないと警戒を強める。

 

 もっともあとショウが話していない才能とはポケモンに懐かれやすいということと、ポロック作りが上手なこと。そして()()()()()()だがポケモンコンテストに出れば一瞬の内に優勝できる才覚があるだけ。彼女は一回もコンテスト本戦に出たことがないし、出るつもりもないが、そんな能力が秘められていた。

 ショウからすれば和気藹々とした談笑(?)をしてゆっくりと頂上に向かっていたところで二人の後ろから足音が聞こえた。その足音はどうやら急いでいるようでダダダダ!という音が洞窟に反響する。

 

 こんな場所に人が来るはずがないと思っていた二人は立ち止まって誰だろうとその足音の主を待つ。相当強いポケモンを連れていなければこのテンガン山まで来られるはずがなく、理由としてもショウを追いかけてきたか、この紅い空をどうにかしようとする正義感の強い人間しかいない。

 足音の軽さからポケモンではないと確信していたショウはポケモンボールの準備だけをしていた。

 

 そして、現れたのは金髪の少年。このヒスイの地には不相応な現代風の衣装を身に纏った、ショウではなく『ヒカリ』にとって見覚えのある人間。

 腕にくっつけた、おそらくポケッチだった物が白く大きく変化し棘がついたセンスのない物を装備させられた哀れな少年が現れたことで、ショウの目のハイライトが完全に消えた。

 

 今までは現代に帰るためにわずかに瞳孔に光が残っていたが、今は完全に無しか映していない。

 走ってきた少年は息を切らせながら、ショウをしっかりと見据えて叫ぶ。

 

「ヒカリ!やっぱりお前、ヒカリだな⁉︎」

 

「ヒカリ?……ショウさん、お知り合いですか?随分奇天烈な格好をしていますが」

 

 ウォロが問いかけた後にショウの瞳を見て、失敗だったと気付く。最近もかなり追い詰められた瞳をしていたが、今のショウは群を抜いてヤバイ状態だった。ウォロがサッと目線を逸らすほどに、目が濁っていた。

 

「……あーあ。ジュンも来ちゃったのか。ウフフ、あの邪神、どうしてくれようか。一発じゃ気が済まなくなってきた」

 

「なんだってんだよ……!ラベン博士の図鑑にあった写真を見た時からヒカリだとは思ってたけど……。そんな金髪に染めちゃって、グレたのか⁉︎」

 

 ジュンが知っているヒカリは黒髪だった。そんな幼馴染が金髪になってGの文字をデカデカと貼り付けた現代風の衣装を着ていればジュンだって困惑する。

 ショウは一つ深呼吸すると、ジュンをまっすぐ見つめて問いかける。

 

「ねえ、ジュン。『ヒカリ(わたし)』との思い出を語って?」

 

「え?いきなりなんだよ?家が近所の幼馴染で、ナナカマド博士にポケモンを貰ったことでチャンピオンになるための旅を始めて。お前は()()()()()()()()()()()()()()()()ジムバッジを集めて。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんでシロナさんを倒して新しいチャンピオンになったから俺はバトルタワーに挑みつつお前に勝つって宣言したけど。それがどうした?」

 

「うん、齟齬だらけ。ありがとう、ジュン。あなたはわたしの知ってるジュンじゃない」

 

「はぁ?」

 

 ショウは確かめたいことが確認できて満足げに頷いた。その一方左拳は強く握られていて、爪が手の腹に突き刺さって血が滲み出ていた。

 まだ飲み込めていないジュンに対して、ショウは真実を告げる。

 

「ジュン、わたしはね。確かにシロナさんに勝ってチャンピオンになったよ。でもディアルガを捕まえたことはないし、ポケモンコンテストなんてものに出たことはないの。だからあなたの知るヒカリと、わたしは別人だよ」

 

「えー?パラレルワールドとかいう奴か?うーん……。ポケモンコンテストに出てないヒカリとか想像もできないんだけどなぁ」

 

「……そっちの世界でも、ママはポケモンコンテストが大好きなのかな?そうじゃなかったらコンテストに興味なんて持たないはずだし」

 

「ん?おう。オバさんはコンテスト優勝経験もあるし、ヒカリに熱心にコンテストのこと教えてたぞ。チャンピオンを目指してたのは俺との約束だからって言ってたな」

 

 それを聞いて『ヒカリ』の爪が更に深く突き刺さる。

 一度顔を伏せて沈痛な表情をした後、目を閉じて表情をリセットさせた。

 ジュンに八つ当たりをしても意味がない。ジュンは一切悪くない上に、ジュンの知るヒカリへ暴言を吐いても仕方がないことだ。

 『ヒカリ』の奥底に燻っているドス黒い感情はこの場にいる誰に言っても意味を為さない。

 だがまた一つ、アルセウスに会う理由が増えてしまった。

 

「……ジュン。あなたもノボリさんも絶対に元の時代、元の世界に戻してみせる。だから今だけは邪魔をしないで」

 

「ヒカリ!たとえお前が俺の知ってるヒカリじゃなくても知ったことか!今のお前を放っておくと嫌な予感がする‼︎頂上に行って、どうするんだ!」

 

「簡単だよ。わたし達をこの世界に呼び出した存在に会いに行くの。それで、わたし達を元の場所に帰してもらうようにお願いするだけ。ついでにこのヒスイも少しだけ元通りにしてあげる」

 

 『ヒカリ』はポケモンボールをいくつかジュンに向かって放り投げる。

 そこから出て来たのはクレセリア、ヒードラン、()()()()()()()()()。どの個体も通常のポケモンよりも遥かに強力なポケモンだった。

 

「みんな、ジュンの足止めお願い。ウォロさん、行きますよ」

 

「え、ええ」

 

「ヒカリ、待て!待てって!」

 

 ジュンの制止の声など無視してショウとウォロは頂上へ向かう。追いかけようとしたジュンは四匹のポケモンに進路を塞がれてしまった。

 この場を潜り抜けて追いかけるには目の前のポケモン達を倒すしかなさそうだった。

 

「くそ、一人でなんでもかんでも背負いこもうとするなよな!いけ、カビゴン!フローゼル!」

 

 ジュンが同時に指示を出せるポケモンは二匹が限界だ。相手は四匹いるが、その代わりにトレーナーはいない。

 擬似ダブルバトルでジュンはこの場を突破しようとしていた。

 




ショウ「モンスターボールをマスターボールに変える力!」
ポケモン「⁉︎」

このネタ、通じるだろうか。


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悪夢

 視界に黒い靄がかかる。

 コトブキムラの時と同じだ。記憶の濁流がわたしを襲う。

 これは『ヒカリ(わたし)』を構成する、原初の記憶。物心がついたばかりの頃の記憶。

 わたしが自分を好きになれなくなった、世界を恨むようになったきっかけ。

 

「ヒカリ、パパがあなたのためにポケモンを捕まえてきてくれたわよ」

 

「わーい!パパ、大好き!」

 

 そう言ってパパに抱き着くわたし。もうパパの顔も思い出せないのか、それともこれがそういうものだからか。パパの顔は黒く塗り潰されていた。パパの声は聞こえるのに不思議だ。

 人間は声で相手を覚えるという。そして女性は男性の声を好きになるという。だからわたしもパパの声を覚えているんだろう。

 

「ヒカリはまだ小さいからな。このポケモンなら大丈夫だろう」

 

 そう言ってパパがくれたポケモンはピンプクだった。ベィビィポケモンと呼ばれる大人しい小柄なポケモン。その可愛らしさにわたしはそのポケモンをボールから出してすぐに可愛がり始めた。

 そして、決定的な言葉が放たれる。

 

「それじゃあ早速ポケモンコンテストの練習をしましょうか!」

 

「……まだ早いんじゃないか?ヒカリは三歳になったばかりだし……」

 

「何言ってるの。こういうのは小さい時からの積み重ねが物を言うのよ。お隣のジュン君もタイプ相性を勉強してるって言うし」

 

 ママのその言葉で、ピンプクと一緒にポケモンコンテストの勉強が始まった。ピンブクはポケモンコンテストを知らなかったので映像で過去の大会を見て、どういうことをするのかを一緒に勉強し。

 歩き方や技の出し方。ダンスや音楽の教養、リズム感の醸成。どうすれば見栄えが良いかなどをコンテスト優勝者であるママからスパルタで教わった。

 

 普通の料理より先にポロック作りを覚えさせられて、どのきのみでどんな味になるのか、ポケモンの性格で好きな味は何か。タイプ相性よりもよっぽどハードな勉強が始まった。

 ポロックを実際に食べて味を覚えて。レシピを覚えて。ピンブクとコンテストのリハーサルをやって。

 時間のある幼少期などなく、ジュンとも遊びに行けなくなるほどにずっとコンテストの勉強漬けになっていた。

 

 ある日。

 ピンプクと練習をしている頃。幼心にこうした方がいいんじゃないかと思って『てんしのキッス』を出す際にくるっと一回転するように指示をしてみた。

 実際ピンプクは可愛らしくターンをして、ウィンクをしながら技を繰り出した。その愛らしさにわたしはピンプクを褒めようとした。

 なのに。

 

「ヒカリ!余計なことをさせなくていいのよ!ポケモンの可愛らしさは仕草じゃなくてポケモンの肌のツヤとかで出すの。特に技を出す時にはその技に集中させないと技のキレが落ちるの!今すぐそんなことはやめさせなさい!」

 

「え……?でも、可愛いよ?」

 

「それを決めるのはあなたじゃないのよ!客観性、つまり審査員や観客が決めるの!そんな小細工を弄しているようじゃ勝てないわ!」

 

 当時のわたしは言われている意味がわからなかった。ママの使っている言葉が難しくてわからなかったということもあるけど、何で怒られているのかが全く理解できなかった。

 大きくなって、こうして記憶として思い起こされて。これを子供に理解しろと言うのは無理な話だと思う。

 ピンプクはどうしてママが怒鳴っているのかわからなくて、わたしの後ろに隠れてしまっていた。その身体は震えている。

 

「仕草を見せつけるのは入場の時と待機の時だけ!技を出す時はその技を100%の精度で出せるようにしなさい!」

 

「……どうやって?」

 

「練習するしかないわ!これから毎日もっと時間を増やしましょう!」

 

「……ヤダ。たまにはジュンくんと遊びに行きたい」

 

 初めて、ママに反発した。ピンプクも嫌がっているし、ずっとコンテストのことばかりで疲れていた。遊びなんてこともなく、娯楽もなく。ずっとピンプクと頑張ってきたらこれだ。

 ジュンとも全然遊べなくなっていたし、他の友達の遊びの誘いを断ったりもしていた。我慢の限界だった。

 

「ワガママを言わないの!あなたは将来わたしを超えるコンテストマスターになるの!わたしはなれなかったけど、全ての部門でマスターランクを取って、あなたがシンオウで一番凄いブリーダーになるのよ‼︎」

 

 その脅迫じみた訴えに。わたしは目の前の女性が母親だと認識できなかった。

 ひたすらヒステリックに叫んでくる怖い人。

 自分の達成できなかった夢を娘に押し付けてくる大人。

 その代償行為に。わたしという意思を無視した押し付けに。

 

 わたしはこの場所から離れたくて一歩後ずさった。

 その反対側の足にピンプクがしがみついていることに気付いて。彼女にはわたししか頼れる人がいないのだとわかって。修羅から逃げることはできなかった。

 だから、堂々と立ち向かった。そんな度胸が、何故かわたしの中にはあった。

 

「みんなと遊べないならそんなのになりたくない!ピンプクとももっと遊びたい!コンテストのことばっかりじゃなくて、友達として遊びたいよ!」

 

「ポケモンは友達じゃないのよ!コンテストを優勝するためのパートナー!お友達感覚じゃ絶対に行き詰まる!……あなたも、ママの夢を否定するの⁉︎」

 

 目の前の人がわたしを掴もうとする。暴力を振るわれると思って咄嗟に目を閉じると、足元が急に光り出した。

 目を開いてその光を見ると、わたしよりも大きくなったピンプクが、いやラッキーが短い両手を広げてわたしを庇っていた。

 その瞳は心優しいポケモンのものではなく、わたしを守るために立ち上がった勇敢な者の目をしていた。

 突然の進化に、わたしも目の前の人も呆気にとられる。

 

「し、進化した⁉︎ポケモンは戦わないと進化しないはず……!ヒカリ、勝手にこの子をポケモンバトルに使ったの⁉︎そんな野蛮なことをさせるなんて……!」

 

「し、知らない!わたし、ピンプクをバトルに使ったことなんてない!」

 

 本当に心当たりがなかった。ピンプクなどのなつき進化をするポケモンも、ある程度はポケモンバトルをしなければ進化しないはずだった。ピチューなどをバトルさせないでずっとパートナーとして一緒に過ごしているだけの人はいつまで経ってもピカチュウに進化させられなかった。

 それがどこかの地方の偉い博士の発表した論文に書かれていた研究成果だったはず。

 

 だというのにこのピンプクは。わたしは。

 一切バトルをさせなかったというのにラッキーに進化してしまった。

 ラッキーはわたしを掴むと、あまり速くない足で必死に怖い人から距離を取った。フタバタウンから逃げ出し、シンジ湖に走った。

 ラッキーはひたすらに走って、草むらを超えて。湖を超えて。

 

 湖の中心にある洞窟に逃げ込んで、そこでわたしを隠すように入口を見張り続けた。ここが安全だとわかっているかのように、彼女は入口から誰かが来ないかを警戒していた。

 正直ラッキーはそこまで強くない。それでもここには伝説のポケモンがいた。

 だから彼女は、ずっとわたしを掴んだまま、その伝説のポケモンに頼み込んでここで籠城しようとしていた。

 

「ぴ、ピンプク……」

 

「ラッキィ」

 

 ラッキーはただただわたしを慰めた。震えるわたしを抱きしめ続けてくれた。

 洞窟の入口から陽の光が差し込まなくなって真っ暗になって。

 わたしはすっかり眠ってしまった頃に、誰かがそこに現れた。

 

「ヒカリに……ラッキーか。本当に進化してたなんて。……感情の神よ。娘を守ってくださり、ありがとうございます。本来であれば眠っているはずなのに、無理をさせてしまったでしょう。また、安らかな眠りを」

 

 パパはそう言ってわたしとラッキーを連れ帰った。

 そして怖い人と口論になり、離婚。親権をパパは勝ち取ることができず、わたしはあの家に残ることとなった。

 そしてラッキーは、怖い人が嫌悪したためにパパが引き取ることとなった。元々パパのポケモンをわたしが借りていた形だから、家族ではなくなったのならパパの手元に帰るのが当然の帰結だった。

 

 パパとラッキーとのお別れの日に、怖い人は同席しなかった。パパは考古学者として世界を旅することになり、もう会うことはなくなると言われた。そういう定住地を持っていないことも親権を得られなかった理由の一つだろう。

 今の家は一応怖い人がコンテストの賞金で建てた家で、パパは仕事のキリが着いたら帰ってくるような場所だった。

 

「……バイバイ。パパ、ラッキー」

 

「ごめんな、ヒカリ。パパが情けなくて……。ラッキーも、すまん」

 

「ラキィ……」

 

 ラッキーの悲しそうな鳴き声の後、またラッキーは身体を光らせた、その二度目の光景に今度は目を閉じず、姿がはっきり変わる瞬間を見つめ続けた。

 ラッキーは、ハピナスに進化していた。

 

「ハピィ……」

 

「……うん。じゃあね、ハピナス。パパのこと助けてあげて。元気でね……」

 

 ハピナスを抱きしめて、パパも抱きしめて。それきり二人には会っていない。

 その後もわたしはコンテストについて叩き込まれて。でも暴力だけは振るわれなくて。

 七歳になった時にジュニアコンテストに出て。怖い人から借りたポケモンだったけどぶっちぎりの優勝をして。怖い人が凄い笑顔で。わたしはコンテストを更に憎むことになった。

 

 怖い人が調整をしたポケモンで。わたしとは正直ぶっつけ本番のような絆しかなくて。指示をした通りに動いてもらっただけなのに優勝なんて。

 怖い人は褒めてくれて。ジュンや友達も凄い凄いと言ってくれたけど。

 こんなポケモンよりもピンプクの方が可愛かった。わたしの誇れるポケモンだった。

 

 メッキのようにただ取ってつけただけのポケモンで優勝して、わたしの実力なんて何もないのに褒め称えられて。

 これをどう受け取ればいいのかわからなかった。

 そして十歳の誕生日。コンテスト本戦に出られる年齢になったあの日。

 

「ヒカリ、シンジ湖に行くぞ!遅刻したら罰金100万円だからな!」

 

 結果としてわたしへポケモン図鑑を完成させるという使命(言い訳)のきっかけを作ってくれたジュンに。

 わたしは溢れぬばかりの感謝と、決して表に出さない恋心を抱いて家を飛び出した。

 

 

 洞窟を抜けようとして足がフラついた。それをなんとか踏み止まって、両足をしっかりと地に付ける。

 くそう、ダークライの能力の余波だ。今まではシェイミとクレセリアがいたから悪夢を思い出さなかったけど、戦闘で使っただけでこうなるなんて。想定してなかったわたしのミスだ。

 

 ジュンにはそんな悪夢を見せてほしくなくてシェイミとクレセリアも一緒に置いてきたから大丈夫だと思う。ジュンの実力はわたしの思っている通りならあの四匹で拮抗するかどうか。バトルタワーで勝ち上がれる時点でシンオウでは、いや世界的に見ても強者だ。

 なら伝説のポケモンでゴリ押しするしかない。わたしの指示がないなら尚更。

 ディアルガとパルキアを抑え込むだけの時間が稼げればいい。

 

「バクフーン、左後ろ」

 

 意識を覚醒させた瞬間にボールを放つ。現れたバクフーンは突如現れたギラティナへ『シャドーボール』を直撃させていた。

 奇襲してくると思ってた。弱みを見せればプレートを奪いにくるだろうって。

 その奇襲を防がれた本人は声にならない悲鳴を上げていた。

 

「ウォロさん。やっぱり『もののけプレート』を持っていたのはあなただったんですね。ゴーストタイプのギラティナが持っている方が、タイプの異なるディアルガとパルキアが持っているよりも自然ですから」

 

「気付いて……⁉︎」

 

「わたし、あなたよりも未来でアカギ様と一緒にそのプレートについて研究したので。アルセウスの名前はシンオウに残っていませんでした。だからどうしても繋がらない部分はありましたけど、あなたから動いてくれて良かった。これで心置きなくプレートを奪える」

 

「く!ギラティ……ナ?」

 

 いつもの笑顔はすっかりと鳴りを潜めて精悍な顔付きになったウォロさんがギラティナに指示を出そうとするものの、ギラティナは倒れていた。

 バクフーンの攻撃はもちろん、わたしの後ろに出しておいたミカルゲもギラティナを攻撃していたのだ。

 ハンドサインを仕込むくらい、ポケモントレーナーなら常識だ。

 

「別にこれはポケモンバトルじゃないでしょう?わたしは元の時代に戻らないといけないんです。──あなたの願いなんて知ったことか。邪魔をするな」

 

「──ギラティナァアアアアア!」

 

「ギャアアアアアアア!」

 

 ウォロさんの叫びでギラティナが姿を変える。フォルムチェンジという奴だ。

 なんだか余計禍々しい姿になってるけど、タイプは変わってないみたい。なら何も問題ない。

 わたしは更にボールをいくつも空に放る。彼がどれだけのポケモンを持っているかわからないが、どれも蹂躙できるポケモンを出すだけだ。

 

 オヤブンガブリアスにオヤブンルカリオ、オヤブンロズレイドにオヤブンマンムーに通常個体のトゲキッス。そしてライチュウを繰り出す。

 未来のように手持ちの制限がかけられているわけでもない。この時代ではポケモンを複数バトルに使っているんだからわたしも同じことをするだけだ。

 

 八匹への指示なんて初めてだけど、向こうが一匹ずつ出してくるなら全員に指示を出す必要はない。

 今必要なことはこれだけのポケモンを鍛え上げて、指示を出せるという虚勢。それによってウォロさんの思考を奪うだけの作業。

 時間もかけていられないし、蹂躙するだけだ。

 

「伝説のポケモンだろうが、数と質の暴力には弱いでしょう?それにこっちはギラティナについてかなり勉強したの。──『ギンガ団』幹部、アースの実力見せてあげます」

 

 どの時代でも初めての名乗りと共に、わたしは最後の人の妨害を破壊する。

 




基本的に『ギンガ団』として行動する時は身分証などを偽造した『ショウ』と名乗り、『ギンガ団』の集会などでは幹部として『アース』を名乗っていました。

なお『ギンガ団』からすれば髪の色を染めただけのチャンピオンがそこにいたので幹部会議などはびっくら仰天で最初の内は会議が進まなかったとか。


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神の加護/呪い/信奉者

「くそう!」

 

 

 ジュンは奮闘した。

 

 

 その地域を代表する伝説のポケモン達を相手にして、通常のポケモンでダークライとヒードランを撃破したのだ。練度的にもジュンの手持ちポケモンより上だったのにも関わらず、六匹を駆使してその二匹を打破していた。

 だがここまでだ。クレセリアの異常な耐久力とシェイミの回復力に持久戦を仕掛けられ、ジュンのポケモン達は段々と削られてとうとう最後の一匹であるドダイトスが倒れた。

 

 ジュンのポケモンも強い。だがそれ以上にクレセリア達のレベルがほぼ上限に近く、その上種族値の差が大きすぎた。相手に大体先手を取られる中、ポケモンバトルの腕だけでダークライとヒードランを倒したジュンを『ヒカリ』は純粋に褒めるだろう。

 

 テルに貰ったきずぐすりなども全部使用してこの結果だ。もう回復のための道具は残っていない。げんきのかけらやげんきのかたまりと言った希少な物はもちろん、なつき度が下がってしまうが絶対的な力を持つ漢方のふっかつそうなども持っていなかった。

 ジュンの目の前は──真っ暗になることはなかった。

 

「お前達もヒカリのポケモンだろう⁉︎頼む、通してくれ!あんな……あんな、泣くのも我慢してるヒカリを放っておけるか!この空を一人で解決させるなんて、ジュン(オレ)は受け入れられない!あの時もヒカリに任せて、アイツは伝説のポケモンを捕まえたっていう重荷を背負っちまったんだ!そんなの、オレはもう見て見ぬ振りはできねえよ‼︎」

 

 ジュンはドダイトスを抱えながら叫ぶ。

 クレセリアもシェイミも、ジュンのその言葉に思うところはある。ひんしになっているヒードランとダークライも、頷けるなら頷きたかった。

 それでも彼女達にとってはショウこそがおやだ。

 

 ショウがジュンを通したくないと思い、この場を四匹に任せた。ならばここを死守するのがクレセリア達の役目だった。

 そしてそれがジュンの最後の手段だとクレセリア達もわかっている。手持ちのポケモンを回復する手段がないからこうやって情に訴えかけようとしていることを。

 なら、尚更退けなかった。ショウの望みを叶えるためなら、心を鬼にすると伝説のポケモンが決めていた。

 

 だからこそダークライは全力で呪われている自分の力を最大限発揮したし、ヒードランもこの場所を壊さない程度に暴れたのだ。

 どうやっても退きそうにないポケモン達の態度にジュンは奥歯を噛んだが、その時にジュンの訴えに応える者がいた。

 

 ジュンがヒスイに来てから変化した左腕に装着したポケッチ。痛々しいデザインになって外すこともできなかったのでジュンは邪魔に思っていたが、それがいきなり光り出して辺りを包み込んだ。

 

「え?なんだってんだよ……?」

 

「クルルルル……!」

 

 その光の正体に気付いてクレセリアはうねり声を上げてシェイミを庇った。

 その光が消えた頃には、ジュンの手持ちのポケモンがボールから出て来て、全員ひんしから復活したどころか完全回復してジュンの前に立ち上がっていた。

 

「お前達……?まさか、今の光が治してくれたのか?」

 

「クワーーーー!」

 

「キュウウー!」

 

 元気になったジュンのポケモンと打って変わって、クレセリアとシェイミの怒りの叫びが洞窟に響く。視線も明らかに強張っており、先程までの抵抗しつつも温厚な眼差しを向けていたポケモンとは一転した表情を見せていた。

 ダークライもヒードランも、回復していないのに立ち上がろうとしていた。だが一度ひんしになった状況からは簡単に立ち上がれない。

 

 さっきまでも数の差で勝っていたが、今はダークライとヒードランがひんしでクレセリアとシェイミも手負いだ。万全の状況とは程遠く、バトルをしたことでジュンとその手持ちのポケモンの実力も測れていた。

 だからこそ、クレセリアはマズイと考えた。相手が完全に復活していたのであればこちらが負ける可能性が高いと。シェイミの回復にも限界があり、クレセリアの防御だって完璧ではない。

 

 ならばいっそ、数を整えた方が良いと考えた。負傷した自分が残るよりはシェイミの負担も減るだろうと。

 正直ダークライに任せるのはダークライの性質からあまりやりたくなかったことだったが、今はショウの願いを最優先にすべくクレセリアは決心する。

 

 

 彼女が使った技は『みかづきのまい』。

 

 

 洞窟の中なれど、月光が差し込めるような神秘的な舞をクレセリアは踊る。その端麗さにジュンもポケモン達も何もできなかった。誰もクレセリアだけが使えるその舞の効果を知らなかったから。

 この世界でその舞を知っているのはショウだけだった。

 踊りきったクレセリアはその舞に全てを使い切ったかのように浮かぶこともできずに地面に伏せる。舞の美しさとクレセリアがいきなり倒れたことにジュンは困惑しかなかった。

 

 そしてムクリと。

 倒したはずのダークライとヒードランが何もなかったかのように起き上がる。シェイミの傷も消えており、完璧な状態の伝説のポケモンが三匹、立ち塞がっていた。

 

「クオオオン!」

 

 更にシェイミが遠吠え一つ。すると四肢がスラリと伸びて今までの愛らしい姿から地でも空でも駆け上がれそうな戦うための姿に変化していた。

 スカイフォルム、というものに変化したシェイミ。クレセリアという空中担当がいなくなったためにシェイミがバトンタッチされた形だ。

 

 意地でも通さないという意思表示に。ジュンも覚悟を決める。もう泣き落としなんて使わない。自力で突破してみせると。

 

「お前達も本気ってことだな?伊達にヒカリのポケモンじゃないってことか……。さっきの光はわかんねーけど、押して通るぜ!」

 

 もう一度、ジュンはポケモン達に指示をする。

 洞窟の先でも、紅い空が揺れていた。

 

 

「終わり、ですね。さあ『もののけプレート』をください。それとも商品を使ってポケモンを回復させますか?何度やっても同じ結果にしかならないと思いますけど」

 

 わたしの目の前にあるのは、もう終わった結末。

 ウォロさんの最後のポケモン、ガブリアスが倒れてウォロさんに残っているポケモンはいない。それは腰のモンスターボールを見て確信していた。

 ボールに入れていないギラティナも倒れ伏している。にも関わらずわたしのポケモン達は誰も傷付いていない。まさしく完封といった結果だった。

 

 ──いつもこうだ。ポケモンバトルはコンテストに比べれば遥かに遣り甲斐はあったものの、勝ててしまう。負けそうだなって思ったのはジュンとアカギ様くらいで、逆にシロナさんには負けないなと直感していた。

 それは多分、わたしを知っているかどうかの差。わたしを本気で倒そうとしてくれるかどうか。わたしを倒そうと、わたし個人を見てくれる人。ジムリーダーや四天王、チャンピオンの場合わたしではなくチャレンジャーというフィルター越しに見たわたししか見ていない。

 

 挑まれる側という意識なら簡単に蹴散らせた。システム上わたしから挑みに行くのだからわたしへの対策なんて考えられずにベストな手持ちで挑むしかなかったんだろうけど。何も対策しないでわたしのポケモンを止められると思っていたら大間違い。

 そういう意味ではジュンはポケモンのレベルがわたしの手持ちに比べて劣っていても、どうにかしようと試行錯誤をしていた。だからわたしも一度エンペルトが倒されたのは驚いた。

 

 アカギ様はただ単に、わたしと同等にポケモンの育成が上手かった。それにわたしという為りを知っているからこそ、わたしを倒す道筋が見えていたんだろう。一番苦戦した相手はアカギ様だった。

 今回のウォロさんは不意打ちを仕掛けるしかないというメンタルで挑んできて、初手にエースであるギラティナを切ってきたのが間違い。ガブリアスもエースなんだろうけど、わたしのガブリアスの方が強い。

 

 まだ真正面から挑んできた方がわたしを倒せた可能性は高い。そっちが卑怯な手を使ってきたからこっちもルール無用で殴り返しただけ。

 ルールを決めて戦ったらきっと苦労しただろう。バクフーンくらいは倒されていたかもしれない。

 でも、そうはならなかった。

 

 目の前にいるのは、いつも通り膝を着いた敗者が一人。

 たった一回負けただけでそう落ち込まないで欲しいんだけど。ジュンは何度も立ち上がって挑んできたし、アカギ様は次に戦ったら勝てるかどうかわからない。

 ジムリーダーや四天王、シロナさんも負けた直後は驚いていたけど、それが仕事だからと立ち上がった。

 

 立ち上がれなかったのはほとんどが野良のトレーナーだったかな。一匹のポケモンに全て蹂躙されて、わたしを見る目が変わって。

 どうせそう感じる心もすぐになくなるからいいかと、わたしは無視してきた。あれはおそらく恐怖の目線。実力差に怯えていたんだろう。

 ウォロさんは怯えていたわけではなく、わたしにプレートを渡すのが嫌なだけだと思う。

 

「……一つ、聞かせてください。プレートを全部集めて、アルセウスとあって貴女は何をするのですか?貴女はこのプレートがアルセウスに関する物だと言ったら興味を持ちました。つまりアルセウスと何かをするつもりでしょう?」

 

「ああ、そんなこと。大枠としてはこの時代に不遇に飛ばされた人間を元の世界に戻すこと。さっきジュンにも言ったことですね。で、わたしの心からの願望が一つ。──直接ぶん殴らせろ。それだけです」

 

「──────ハ?」

 

 わたしの言葉が理解できなかったみたい。口を大きく開けて、目を点にしてこっちを見てくるウォロさん。

 そんなにおかしなことを言ったかな?至って平凡な、ちっぽけな望みだと思うけど。

 

「…………なんと?」

 

「だって、いきなりこんな世界に連れてこられたんですよ?わたしとノボリさんに至っては記憶も奪われる始末。怒るのが当然の仕打ちだと思いません?」

 

「それは……まあ、そうですね」

 

「でしょう?なので殴れる時に殴っておこうかと。その後元の時代に戻してもらうだけです」

 

「捕まえたり、しないのですか?」

 

 ウォロさんがそんなことを聞いてくるが。

 そんな答えは決まり切っている。

 

絶対にイヤです。わたしに理不尽を押し付けた、絶対に信用できないポケモンを捕まえる理由が何処にあります?あんなポケモン、要りませんよ」

 

「要ら、ない?」

 

「はい。もしアルセウスが欲しいんだったらご自由にどうぞ。ウォロさんもアルセウスに会いたいんでしょう?わたし達が帰った後ならお好きに」

 

「貴女の……お零れに預かれと?」

 

「わたし達が帰る前に何かされて帰れなくなったら困りますし。でも、拒否権ないですよね?わたしに負けたんだから」

 

 そういうマウント取りという意味でもウォロさんと戦った意味はあった。

 どんな理由があると、誰にだって邪魔はさせない。あのジュンが来てしまった以上、余計に邪魔をして来そうなウォロさんは排除しておきたかった。向こうから襲って来たのは本当に都合が良かった。それに最後のプレートも持っていたなんて。

 これでヒスイ中を駆け巡らずに済むし、プレートを持ってるかもとディアルガ・パルキアに変な配慮をしなくて済む。気が楽になった。

 

「……貴女に情けをかけられるくらいなら、他の方法を探します。そして敗者は潔く身を引きましょう」

 

 そう言って紫色のプレートを手渡してくれたウォロさん。案外素直なんですね。いや、凄く嫌そうだけど。

 これで十八枚のプレートが集まった。アルセウスが現れる気配は、ない。むしろ時空の裂け目が大きく開いたような気がする。まだ全てのポケモンに出会ってないから顔を出さないのかな?

 捻くれ者め。

 

「ショウさん。──ワタクシが時空の裂け目を開いてキングとクイーンを暴走させた張本人だと言ったら、ワタクシのことも殴りますか?」

 

「ああ、ギラティナの力を使ってやったんですか?殴って欲しいなら殴りますよ?」

 

「……てっきり元凶のワタクシも殴りたいんだと思いましたが?」

 

「あなたは時空の裂け目を開いただけでしょう?本当だったら未来の人間なんて必要なく、誰かが事態を納めたんだと思いますよ?それかあなたやギラティナの願いが叶っていたか。それを嫌がったアルセウスがわたしやノボリさんをこの時代に送り込んだのでしょう。ノボリさんはオオニューラを管理するキャプテンが足りなかったから。わたしは、あなたやギラティナを止めるために。あなたがキッカケでも、わたしを選んだのはあなたじゃない。わたしをここに送り込んだのはアルセウスだとわかっていますから」

 

 ウォロさんが気持ち悪いことを言ってきたから懇切丁寧に説明をしてあげる。

 イヤだよ、イケメンのこと殴るなんて。それにシロナさんに似ている人を殴るのは気が引ける。

 プレートがアルセウスに会う条件だったとしたら、それを四枚も結果的にくれるよう手を回してくれた恩人になる。そんな人を殴りたくない。それくらいの倫理観はわたしにも残っている。

 

「貴女は……よくわからない人だ。見誤っていたワタクシはデンボク殿をバカにできませんね」

 

「あの男の名前を出すあなたは嫌いです」

 

「おや、これは失敬。……そうですか。貴方は既にアルセウスに会っていましたか。コギトさんの言葉はそういう……。選ばれた余所者(貴女)と、選ばれない身内(ワタクシ)。この差は何でしょうかね?」

 

「伝説のポケモンの思考なんて考えたって無駄ですよ。神話の神様がただの人間に物事の流れを一から十まで説明してくれると思いますか?」

 

「それはそうだ。だからこそ問うてみたい。……プレートがダメなら、伝説の『てんかいのふえ』でも探しましょうか。さようなら、ショウさん。貴女が元の時代に戻れることを祈っています」

 

 ウォロさんはそう言うと、ギラティナにげんきのかたまりを与えて『シャドーダイブ』でどこかへ消えていった。

 正直、悪い人には思えないんだよね。伝説のポケモンに出会えるなんてよっぽどの低確率。どんな手段でも使わないと会えないだろうと覚悟して行動したウォロさんを責められない。わたしだって『ギンガ団』として色々としてきたからなあ。

 キングやクイーン、それに関係する人を困らせただろうけど、奇跡的に死人は出なかった。だから極悪人とは呼べない。

 

 そう呼ばれるのはわたしだ。

 この罪はしっかりと背負って、その上で帰らなくちゃ。わたしの、ジュンの、ノボリさんの居場所はここじゃないんだから。

 シマボシ隊長達には迷惑をかけちゃうけど、元々わたし達がイレギュラーな存在だ。多分辻褄合わせとかはアルセウスがするんだろう。それがアルセウスの責任だ。

 

 わたしはシンオウ神殿に繋がる舗装された階段を登っていく。まだ残された神殿の姿。これがわたしの時代では槍の柱と呼ばれる場所になる。おそらく何かがあってこの神殿が崩れて、跡地の姿を誰かがそう名付けたんだろうね。

 わたしが時空の裂け目に近付いたのと同時に、裂け目が広がる。そして出てきたのは四足歩行の蒼色のドラゴンの姿。わたしの時代にも石像などが残っている、シンオウ地方で有名な伝説のポケモン。

 ディアルガが、そこにはいた。

 

「ふふ。この子も連れ帰ったらアカギ様は喜んでくれるかなあ?さあ、いつものように捕まえてあげる。行っておいで、マンムー」

 

 ポケモンボールを投げる。マンムーはさっきもボールから出したけど、結局戦わなかったから万全な状態だ。

 アカギ様、『ギンガ団』のみんな、ジュン。

 今帰るから、もうちょっとだけ待っていてください。

 



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神二柱と呪いの言葉

「グオオオオオ⁉︎」

 

 ディアルガが倒れる。

 だが、伝説のポケモンとして倒れるわけにはいかなかった。無理矢理時空の裂け目を開いてちょっかいをかけてきた者を必ず誅伐せねばならんと意気込んで顕現した神の一柱。

 ちょっかいをかけてきたギラティナの気配は既にここになかった。それでも呼び出した者の関係者が、ギラティナの波動を纏う少女がそこにいたのだから目標を変えてまずは目の前の小娘を罰することにした。

 

 ヒスイの地にて、同格のパルキアと共に神格化されているディアルガ。刻も空間も、人にはどうにもできない権能であるがために敬われ、畏れられるのだ。そんな畏怖と絶対の力を持ってして神と成る。

 そんな人が畏れる、災害と同じ扱いを受ける力の権化。刻を司るという権能だけでも常軌を逸しているのだが、ポケモンとしての強靭さもただのポケモンとは一線を画す。ただのポケモンが相手なら百五十匹が相手でも鎧袖一触で蹴散らせる自信があった。

 

 

 だが、だが!

 

 

 そんな人に敬われるはずの一匹が、たった一匹のオヤブンポケモンに、そして少し特別なだけの人間に負けるというのか!

 そんな義憤を込めて立ち上がろうとするディアルガ。

 オヤブンポケモンは確かに強いポケモンだ。体格というのはそれだけで武器になる。いくらポケモンが不思議な生き物と呼ばれていても、進化後のポケモンの方が進化前のポケモンより強いことが当たり前のように、オヤブンポケモンとはオヤブンと呼称されるだけで強者なのだ。

 

 しかし、格付けとしてはそんなオヤブンポケモンであっても、確実に伝説のポケモンには勝てない。それだけ伝説のポケモンとは産まれからして絶対の存在だ。

 それが幾星霜続いた世界のルールであったはずなのに。

 

 ディアルガは特別な少女の指示を受けたマンムー一匹に手も足も出なかった。いくら絶対神がいるとはいえ、ディアルガも神の一柱。ただのポケモンと伝説のポケモンはまさしく絶対的なる隔たりがある。

 では、今目の前に広がる光景は何か。奇術師に騙されたのか。そうでもなければこのヒスイに連なる己が地に膝を着けている現状はどういうことか。痛みと震えから実感を得て、幻ではないらしいと確信する。

 

 

 

 これではまるで()()()()()()()()()()()()()()()()ではないか!

 

 

 

 それは認められないと、四肢に力を込める。秩序とは守られてこそ意味がある。だからこそ、己は刻を任されたのだと。

 立ち上がった顎先に、死角から入り込んだ赤と白のボールがぶつかる。意識外の一撃に、ディアルガは『ねこだまし』でも受けたかのように一瞬眩暈を覚え。

 次の瞬間には声も出せずに人間の開発した収納機に吸い込まれていた。

 

 暴れようと思っても絶対の力に押し潰されたかのようにディアルガは己の力を発揮できなかった。ただただ開かれていた小さな球体に押し込められて、その暗闇に囚われる。

 それが存外苦痛ではなく、むしろ心地良い。そして漠然と感じていた少女の絶対性のカラクリが腑に落ちた。

 何かが人間とは違うと本能で察していても、その『何か』に心当たりがなかった。

 

 己を前にして立ち竦むこともなく毅然と立っていたことか。

 光の消えた瞳で、己に挑んできた勇気か。

 それとも、己さえも前座だと見下していたその精神性か。

 違う。どれでもなく、どれでもあった。その全てを内包した人間としては規格外の存在。

 

 ああ、絶対のはずだ。勝てるはずがないとディアルガは神であるのに悟っていた。

 悟ってすぐに、ボールは地面に落ちる。花火を散らしたそのボールをショウはヒョイっと拾った。

 

「はい、終わり。空は……やっぱりこのままか。パルキアも捕まえないとダメかな?それともアルセウスを?どっちにしろ、わたしはやり遂げる。あのジュンを待っているヒカリ(わたし)がいるんだから……。ノボリさんだって、パートナーの人とポケモンがいたって言ってた。誰も彼も、元の居場所に残してきた人がいる。きっと、探し回っている人がいる……。早く帰らなくちゃ」

 

 ディアルガが入ったモンスターボールをポーチにしまい、ショウはもう一度時空の裂け目を睨む。そうすればパルキアが降りてきそうな気がしたから。

 顔を上げると、ポーチにしまったはずのボールにポケモンが帰ってくる感触があった。マンムーはまだ出したままで、そこにいる。感触的に四匹が帰ってきたことからショウは後ろの洞窟へ振り返った。

 

「まさか……!ジュンの実力を見誤った⁉︎」

 

 ダークライにヒードラン、クレセリアとシェイミが戻ってきていた。全員がひんしにならなければ帰ってこないはずなのに、四匹はボールで休んでいた。

 すぐにショウはポーチにあったげんきのかたまりを四匹に与える。体力は回復するが、疲れは取れない。この四匹をまたすぐにバトルに使うことはできなかった。

 

 ショウのようなズルをしていなければ、ジュンの手持ちのポケモンは六匹のはずだ。数で負けていても質と練度を考えれば十分にジュンを足止めできる戦力だった。ショウの予想通りジュンの手持ちは六匹だ。

 ダークライ達の実力を考えればジュンの手持ちでバトルができるポケモンは一匹か、精々二匹だと考えていた。それだけポケモンの実力が違っていたし、ショウの予想はそこまで外れることはなかった。

 

 むしろダークライ達が頑張りすぎてその予想は外れたのだが、ここに介入した存在のせいで全てがご破算となっていた。

 ショウが洞窟を凝視していると、ジュンが歩いてやってきた。その後ろに付き従うように六匹のポケモンが。

 その六匹をショウはよく知っている。『ヒカリ』の時に対戦したパーティーのままだった。だけどその六匹が全員()()()()()なんてどんな悪夢だ。

 

 ショウだって回復用のどうぐの存在を忘れていたわけではない。それを加味してもショウの手持ちの中でも随一の耐久力を誇るクレセリアと回復力を持つシェイミ。火力を誇るヒードランと多種多様な搦め手が使えるダークライ。

 これらを相手にして無傷なんてあり得ないのだ。たとえバトル後に回復アイテムを使ったからといって、()()()()調()()()()()()()()()()()()()()()()覇気をポケモン達が纏っていればショウとて気付く。

 ジュンの左腕で怪しい光を放って輝いている、かつて自分のスマホにくっ付いていた存在を。

 

「……そう!そこまでして邪魔をしたいのか!この臆病者め!」

 

 ショウの叫びに反応したように時空の裂け目が更に裂けて、紅い空へ亀裂を作り上げて。

 ヒスイのもう一柱の神が顕現した。

 ショウの記憶にある姿よりいくらか鋭角になったその神は大地を踏みしめて、世界にその存在を指し示そうと咆哮をしようとする。

 それを邪魔したのは、やはりショウ。

 

「ライチュウ、『ボルテッカー』!バクフーン、『はかいこうせん』!」

 

 モンスターボールを二つ後方に投げて、ジュンから目を離さずに指示を出す。ライチュウは自分の身体に雷光を纏わせて右側面から突っ込み、バクフーンはその顔面に向かって何もかもを粉砕する巨大なエネルギー波を口から吐いていた。

 ポケモンの技の中でも最高火力に近しいその二撃を喰らって、咆哮とは全く違う叫びを放つこととなった。

 

 

 

 

 

「パルルルルゥゥゥゥッ⁉︎」

 

 

 

 

「うっさい。……前門のジュンに、後門のパルキアか。……これ、使いたくないけど。やるしかないなあ」

 

「ヒカリ、もうやめてくれ!お前が重荷を背負うのは見たくない!お前がやらなくてもオレがやってやる!オレじゃお前の負担を肩代わりできないか⁉︎お前に勝てないようなオレだけど、少しくらいは頼ってくれ!オレはお前が何をしたってお前の味方だ!そのポケモンの力が必要ならオレが捕まえる‼︎」

 

 ジュンの言葉を『ヒカリ』は静かに聞き入れる。

 それでも静かに首を横に振った。

 

「ダメなんだよ、ジュン。それは殺人者(わたし)に言う言葉じゃない。あなたの世界のヒカリに言うことだよ。……わたしの味方になんて、ならなくていい」

 

「じゃあお前を、誰が支えてやれるんだよ⁉︎さっきの人もいなくなってる。コトブキムラの人達もダメなら、誰も知らないこの孤独な世界で、お前を知ってるオレくらいしか味方になれないだろう⁉︎」

 

「まあ、そうだね。この世界に味方はいないよ。でも、ジュン。あなたもわたしの全てを知らない。あなたが知っているのはあなたの世界のわたし。ショウ(わたし)じゃない」

 

「何でもかんでも知ってなきゃ味方にもなっちゃいけないのかよ⁉︎お前がヒカリと別人だろうと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 ジュンの宣言に虚を衝かれるショウ。だがその顔はやはり苦痛に満ちて、怒りで歯軋りをし始める。

 ジュンが本心から言ってるからこそ辛かった。今の言葉をショウと同じ世界のジュンも言ってくれるとわかっているから。どんな状況だって味方で居てくれたジュンならきっとそう言ってくれるから。

 だからこそ、こんな状況を作り出した元凶に。そしてあえて別世界のジュンを呼び出してショウを気遣っているつもりのアルセウスに。

 憎悪の炎が増す。

 

「……ジュン。本当に味方になってくれる?わたし、たくさんの人を殺しちゃったよ?」

 

「ああ。お前はそのことをずっと引きずってるように見える。苦悩してるお前は普通の女の子だぜ。まだやり直せる」

 

「わたし、『ギンガ団』なんだよ?」

 

「まさか同じ名前の組織が過去にあったなんて驚きだよなー。ここってシンオウの過去っぽいからオレらの知る『ギンガ団』が名前とか使ったんじゃないのか?」

 

「違うんだよ、ジュン。──わたしは元の世界を憎んでる。()()()()の思想に共感してディアルガとパルキアの力を使って世界を改変しようとしてる。感情のない、完璧な世界を作り上げたい。チャンピオンになった水面下で、世界を滅ぼそうと暗躍してたんだよ」

 

 ショウの告白に、ジュンの目が丸く、大きくなる。

 そのショウの後ろで三匹のポケモンと神に称されるポケモンの激闘が、まるで音を無くしたかのように思考の外へ弾き飛ばされていた。

 

「何、だって?」

 

「わたし、元の時代でも『ギンガ団』なの。幹部のアースなんだよ?褒めて?」

 

「幹部……?ヒカリが?」

 

「そう。エムリット達を捕まえて『あかいくさり』を使って。ディアルガとパルキアを使って世界を改変するの。その直前でポケモンと記憶を奪われてヒスイにいたの。──元の世界でも極悪人なんだよ。わたし」

 

 まるで踊るように、軽やかなステップでジュンの周りを巡る。その告白はとても辛そうなのに、踊る姿は途方もなく美しかった。

 

「ママの野望を挫いて、ジュンの夢の原動力である気概も平坦にして。誰も楽しむことも悲しむこともない最高の世界を作るの。そのために下っ端にはダミーとして適当に暴れてもらって『あかいくさり』を作るための時間稼ぎに、時空連続帯の観測をするための研究費を稼いだりしていたの。

 

 誰もが優しい世界。そんなものはまやかしだよ。だって人間は自分の欲望を制御できないもん。誰だって自分が一番で、自分が救われたいの。それはわたしも、完璧なアカギ様でだってそう。そんな不完全な生き物なんだよ。人間って。

 

 ポケモンっていう不思議な生き物と共存してもその心は変えられない。悪いことをする人はするし、優しい人は優しい。ポケモンのおかげで幸せを感じる人もいれば、ポケモンと関わることで不幸になる人もいる。

 

 じゃあどっちがいい?幸せな人と不幸な人、どっちの意見を取り入れるべき?選べないよね?幸せな人は今の幸せな生活を守ろうとするし、不幸な人は今の状況から抜け出したい。なら選べるのは中間しかないんだよ。

 

 誰もが平等に、何も思わない世界。平坦で平凡で、ただのまっさらな世界。それこそが不平等をなくせる、たった一つだけの正解なの」

 

 踊りながら唄うように自分の想いをぶつける『ヒカリ』。動きも言葉もあってジュンは困惑するが、それでもそんな『ヒカリ』へ正義感からくる一つの反論を絞り出す。

 

「そんなの、生きてるなんて言えないだろ⁉︎それのどこが人生なんだ!オレの親父を超えるって気持ちも消えるのか⁉︎」

 

「消えちゃうね。それでも生きてる。ポケモンと共存してるんだよ。──ロトムが非道な実験を受けることもなく、ただ空を飛んでいる。自分の手元にいなくてもいい。自分と出会わなくてもいい。ロトムの意地悪な心もなくなってしまう。──それでも生きて欲しいって、あの人は願ったの。その純真な願いまで否定されるのなら、わたしは本当に世界を滅ぼしてやる。手段も問わずに、こんな不完全な世界を作り上げた神をしばき上げる。それがわたしの望み」

 

 言い終わった後、『ヒカリ』はジュンの目の前にいた。

 そして切り傷や潰れたマメがある、汚れを知らない少女の綺麗な手とはまるで違う意志の表れが差し出されていた。

 

「ねえ、ジュン。こんなわたしでも、本当に味方になってくれる?」

 

 再度の問いに、ジュンは躊躇う。

 最初に差し出されていたのなら、強引にでも握り締めていただろう。だが今の話を聞いて、自分の夢や世界中の人のこと、ポケモンのことを想って。

 ジュンはその手を、取れなかった。

 

「──うん。それで良いんだよ、ジュン。むしろこの手を取ったらあなたを軽蔑してた」

 

「……世界を滅ぼす以外の手段は、取れないのか?」

 

「無理だよ。ヒスイに来る前のわたしなら、他の地方に行くことをジュン(あなた)に勧められていたら受け入れて逃げ出したかもしれない。けどね、もうダメなの。シンオウで苦しんで、わたし以外の悲劇を知って。このヒスイも変わらなかった。一部の良い人と、大多数の悪い人じゃ人間はいつか自滅するか、ポケモンに愛想を尽かされて滅ぼされる。ヒスイという可能性を知ったからこそ、わたしは決心したよ。この世界に感情は要らないって」

 

 ヒスイに来る前なら、誰かに世界を知らないだけだと言われて説得されたかもしれない。

 だが彼女はもうヒスイ(過去)を、アルセウス(世界)を知ってしまった。知った上でアカギが正しかったと決意を固める。

 また自分やアカギのように苦しむ人間が、ポケモンが出てくるのなら。そんな悲劇の発端である感情を消し去るべきだと。

 

  ジュンは『ヒカリ』を説得できないと項垂れると、『ヒカリ』はジュンからの視線が外れた瞬間にポーチに手を突っ込んである物を引っ張り出していた。

 そしてそれを、やはり後ろを見ないまま後方へ投げた。

 

「パギャアア⁉︎」

 

 それこそはパルキアを抑えるための神具。『あかいくさり』。パルキアを包むほど大きくなった鎖は雁字搦めに縛り付けて、パルキアの一切の行動を止めていた。

 そしてそんな隙を『ヒカリ』の前で晒せば、ディアルガの二の舞になるのは当然だった。

 パルキアの胸に、小さなボールがコツンと当たる。

 

 たったそれだけのことで『あかいくさり』ごと収縮されたパルキアはボールを揺らすことなく収まっていった。

 ノールックで『あかいくさり』とモンスターボールを投げて伝説のポケモンを捕獲した手腕に。自分では絶対にできない所業に。

 ジュンは戦慄して一歩引いてしまった。

 

 それは大きな一歩。

 『ヒカリ』が次の一手を講じるには十分な、決定的な隙。

 『ヒカリ』は本能的に、そうすれば良いと解答が見えていた。だから捕まえたばかりのパルキアをボールから出し、ポーチからは十八枚のプレートを空に投げた。

 

 紅い空は消えてなくなり、青い空が戻ってきた。だが、空にはまだ時空の裂け目が残っている。

 そしてその裂け目の淵に十八枚のプレートが循環するようにクルクルと回り続けていた。裂け目が大きくなるたびにプレートも光を発し始める。

 

「パルキア。わたしをアルセウスの元まで連れていきなさい。空間を司るあなたならプレートもあることだし、あの出無精のグウタラ神のいる場所まで空間を繋げられるでしょう?」

 

「バアアアア!」

 

「そう、良い子。期待してる」

 

 パルキアも順従になって、『ヒカリ』のために動き始める。

 パルキアの権能が発動したのか、『ヒカリ』が地面から足を離して浮かび始める。時空の裂け目はある場所に繋がり始めたのか、空間の向こうに紫色の広い世界が見えていた。

 

「ヒカリ⁉︎」

 

「ジュン、ちょっと待っててね。それと、元の世界に戻ったらあなたのヒカリを大事にしてあげて。たった一人の、幼馴染でしょ?お願い」

 

 そう言って微笑む『ヒカリ』。

 記憶を取り戻してから初めて見せた笑顔であり。

 『ヒカリ』として初めて見せた、涙でもあった。

 パルキアの準備も整ったのか、『ヒカリ』とそのポケモンはできた道へ吸い込まれていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒカリーーーーーー!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 伸ばした腕も、叫びも、想いも。

 時空の裂け目に消えていった『ヒカリ』には、届くことはなかった。

 



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神の思想/人間の想い

 最初は、救済のつもりでした。

 私は全ての世界を把握しています。過去も現在も未来も並行世界も、全てを観測し、不測の事態が起これば私自らが介入しました。

 ヒスイの地にて、ギラティナが人間とひと騒動を起こすことを感知した私は私の代行者を産み出しました。私が認め、私の分身を預けた少女ヒカリ。その少女と寸分違わぬ分身を作り上げてヒスイへ送り込みます。

 

 その試みは大成功。全ての障害を乗り越えて、シンオウへ続く未来への道を作り上げました。私もそれを見ていて、分体をまた少女に預けて端末越しにヒスイを見守ることにしました。そんな遊び心もたまには必要なのです。

 送り込んだショウと共に見るヒスイはとても新鮮でした。異なる次元から俯瞰する風景とは異なり、ショウと旅するヒスイは楽しかったのです。ただ近くにいるだけでこうも違うのかと驚かされました。

 

 ヒカリに与えた分身はそのまま端末同期をせず、ヒカリを信頼してそのままにしていました。今回は端末と視界も感触も何もかもを同期させ、分体が感じる全てを一緒に経験しました。

 それの何と心地良いことか。のろいぎつねの騒動や、現地民との交流。それは私が今まで俯瞰していただけのもので、誰かの手持ちポケモンになることが初めての経験だった私には全てが目新しく感じました。

 なるほど。様々なポケモンがあのボールに収まるわけだと実体験を通して理解を深めたのです。

 

 私は神でありながら人との旅を楽しんでいました。ヒスイの安定に繋がり、他の世界も誤差などなく運営されるのだろうと暢気に構えていました。

 ヒスイから地続きの世界線で、私が最も信頼するトレーナー、『ヒカリ』が世界を滅ぼそうとしていると知るまでは。

 

 調べてみればその『ヒカリ』はだいぶおかしかったのです。母親の境遇の差は幾多もの世界があるのだからそれくらいの変化はあるだろうと気にもしなかったのですが、その『ヒカリ』は人間のスペックを超えていました。

 三歳児としてはありえない習熟度、理解力。そして決定的だったことがポケモンの進化条件を無視したポケモン育成能力。

 

 バトルも行なっていないのにポケモンへ進化のための経験値が貯まり、ポケモンにすぐに懐かれ。コンテストの最適解を思い付き、ポケモンと心を通じ合わせて。

 ポケモンの定義を超越しました。

 アレはヒカリではない。そう思い、そこに至るまでの過去を全て洗い出しました。

 

 ショウはあの後、現地民と結婚し、子供を産む。

 私とヒカリの子であるショウです。人間にできるだけ近く創り上げたのだからこれ自体はおかしくはない。

 その後ショウはポケモンと人間の共存のために尽力しました。様々な集落を作り上げて、それがシンオウ時代の人間の集落の元祖となりました。そして人間として天寿を全うする。

 

 ショウの子孫はシンオウ地方でバラバラに過ごすこととなる。その一部がコトブキタウンに住み着き、その直系こそが『ヒカリ』でした。

 ショウの一族は皆優秀でした。何かしらの分野で才覚を発揮し、シンオウで活躍してきました。さすがは私とヒカリの最高傑作。その直系子孫だと思っていました。

 

 『ヒカリ』は言ってしまえば、私とヒカリの才能を完全に引き継ぎ、超えてしまった先祖返りのような存在です。最高傑作だと思っていたショウを超える才能を持ち、人間としての限界値なんてものは遥かに超えた人間とは呼べない成れの果て。

 人間社会に私が紛れ込むようなものです。誰からの理解もされず、その才能は彼女を孤独にしました。むしろあのジュンという少年と母親は人間にしてはよくあの『ヒカリ』に付き合ったものです。

 

 彼女自身もその才覚を持て余し、結果として人間を理解できず、シンオウ時代の天才である人間の思想に共感して共に世界を滅ぼそうとしたと。

 せっかく安定した世界を崩壊させるわけにはいかない。だから私はギラティナを捕まえて安堵し、緩みきっていた『ヒカリ』をヒスイへ落としました。ショウの代わりがどの次元のヒスイでも必要だったために。

 

 これは贖罪の機会でした。記憶も奪い、『ヒカリ』へ従うだけのポケモンをシンオウに残し世界を滅ぼすことなど考え付かないように、むしろ世界を救わせるための行動を促しました。

 『ヒカリ』は記憶もないというのに持ち前のセンスでショウよりも手早く事態を解決し、余計なミカルゲの封印を解くということまでする余裕を見せて、荒ぶるキングを鎮めて。

 

 最後の最後で暴走し、そのショックで私の封印を自力で破って記憶を取り戻したのです。

 これはまずいと考え、このヒスイすらも崩壊させかねないと思い、彼女を止められる人間をこの地に呼び出すことにしました。彼女と同じ世界の人間では彼女に同調しかねないと思い、他の世界線の彼女の想い人を呼び出しました。

 彼へのサポートも手厚く行なって。私が出来得る限りの干渉もして。

 

 それでも彼女は自力で、この地に辿り着いたのです。

 彼女の望みは知っています。元の時代に戻り、世界を崩壊させること。それはつまり一つの世界を私が切り捨てるということ。

 今までもいくつかの世界は大地が増えすぎたり海が増えすぎたり、変な科学兵器が猛威を振るいすぎて消滅させましたが。それを行うのが『ヒカリ』だとは認められないのです。

 

 私を睨むように空間の裂け目から現れる『ヒカリ』。『ヒカリ』は願いを持って私の前に現れたのです。ならば、相応の試練を与えなくては。望みを叶えるのであれば、相応の対価が必要ですから。

 彼女の前に、特製のシズメダマが入った籠を用意する。キングを鎮めたように私も鎮められたら検討しようと思ったのです。

 

 ですが、彼女の方から何故か「ブチッ!」という音が聞こえて。見守っていると彼女は思いっきりシズメダマが入っている籠を蹴り飛ばしていました。

 

 

 

 

 

 

「巫山戯るな!!!何でもかんでも、お前の思惑通りに行くとは思うなよ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 彼女は突如として激昂し、ポケモンが入ったボールをいくつも宙に投げました。

 何故彼女は怒っているのでしょう?ヒスイの地における彼女の証明はこの方法が適している。そう思ったからわざわざ用意してあげたのに。

 ボールから出てきたのはバクフーンにオヤブンドダイトス、オヤブンエンペルトとレジギガス。それにユクシー、アグノム、エムリットの合計七匹。

 その七匹が私へ駆け出し、『ヒカリ』の指示もなくこちらへ突撃してきた。そして、『ヒカリ』も。

 

 何故?

 何故ポケモンも彼女もそんなに怒っているのですか?

 私はわけもわからず、ひとまず三体に分身して様子を見る。彼女達の真意がわからなかったために。

 

「そこ!」

 

 『ヒカリ』は瞬時に本体を見抜き、それに合わせてポケモン達が得意な技を放ちます。

 バクフーンが全てを焼き尽くす炎を。ドダイトスが自然を活かした攻撃を。エンペルトが何もかもを呑み込む濁流を。レジギガスが大地を作り上げた怪力による打撃を。

 エスパーポケモンは、ポケモンや『ヒカリ』に何かしらの補助技を使っているようでした。

 私は一瞬で見破られたことに動揺してそれらの技を受けてしまいました。

 

 痛い。

 痛みなんて、他の世界線でディアルガやパルキアが暴走した時にも感じたことはなかったのに。

 『ヒカリ』も突っ込んできますが、その前に転移して口から数多の光線を放ちます。それらはポケモン達に直撃させようと放ったものですが、どのポケモンも器用に避けていました。

 やはり彼女も、彼女のポケモンも強い。だからこそ残念で仕方がなかったのです。

 

 あなたは救世主となる人だったのに。世界から称賛される愛し子であったはずなのに。

 私が繰り出す技はどれも当たらず、むしろ距離を縮められました。

 久しぶりの痛みに私は警戒心を強め、どのポケモンからも距離を置くように転移して、多くの分身を出したり距離を詰められないように遠距離攻撃に徹します。

 

「そうやっていつも離れてこっちにちょっかいをかけてきて!高みの見物⁉︎世界を創ったとか言ってても、その臆病さがお前の本性か!」

 

 彼女は何を言っているのだろう。

 私はポケモンとしての性能も、私が与える影響力も強すぎる。だから必要最低限の接触しかせず、いつもはこの空間に君臨しているのです。

 私はやろうと思えばヒスイを問題なく維持することもできました。ですがそれでは世界の秩序が乱れてしまう。だからショウや『ヒカリ』を送り込んだのです。

 

 できることなら私だってここを離れて、たった一匹のポケモンとして世界を旅してみたいのです。その好奇心こそ私の本性でしょう。

 だから見当違いのことを叫ぶ彼女には困惑してしまいます。

 

「わたしを送り込んだのは、どうせ世界を壊されるのが嫌だったってだけでしょ!それだって納得できないけど、まだ良い!けどノボリさんは!健全なヒカリ(わたし)の幼馴染だったジュンは何で巻き込んだ⁉︎──何が神だ!無関係の人を巻き込んで人生を滅茶苦茶にしてる時点で、悪質な人間と何も変わらないじゃない‼︎」

 

 ジュンを巻き込んだことは確かに心苦しいです。今の状態のヒスイに私が介入するのは、基準値を超えてしまう。後のシンオウ地方の権威であるナナカマド博士の先祖であるデンボクが亡くなったことでシンオウ地方には繋がらなくなってしまいました。

 ですが、ノボリとは誰でしょう。彼女は誰のことを言っているのでしょうか。

 

 あなたが嘆くべきは、あなたが犯した殺人という業でしょうに。

 『ヒカリ』は私の創ったショウ以上に完璧な存在でしょう。ですが、ショウは『ヒカリ』のようにコトブキムラを追放になってもあのような短慮な行動をしませんでした。結局ムラ人やデンボクと和解し、その後のシンオウ地方を築き上げたのです。

 

 たとえ才覚は優秀であっても。その思考までは完璧ではなかったということでしょう。

 精神性だけを見ればショウの方が優秀ですね。さすがは私とヒカリの子。

 あの子の血を受け継いでいるはずなのに、どうして『ヒカリ』はこうなってしまったのでしょうか。

 それがわからずバトルは続きます。

 

 『ヒカリ』の指示は完璧で、私であっても攻撃がほとんど当たりません。当たってもかすり傷か、もしくは敢えて受けた攻撃か。なのに『ヒカリ』のポケモン達は数の優位もあって私に攻撃を当ててきます。

 そして『ヒカリ』もずっとこの空間を駆けずり回っています。彼女は指示を出すだけなら走る必要もないはずなのに。おかしなことだらけです。

 

 いくらなんでも攻撃を受け続けて、私もふらつきはじめました。私が神と呼ばれようと、限界まで鍛えられたポケモン達の大技を四十以上喰らえば限界もきます。

 このままではまずいと踏ん張ってみせますが、『ヒカリ』達の猛攻は続きます。

 

「ドダイトス、『10まんばりき』!エンペルト、『ラスターカノン』!」

 

 ドダイトスが渾身の力を込めて私にぶつかり、エンペルトは鋼の弾球を作り出し、それをドダイトスによって弾き飛ばされた私へぶつけてみせました。

 あのエンペルト、初めて『ヒカリ』の指示で動くはずなのに。ここまで連携が取れるなんて驚きです。これがトレーナーとポケモンの可能性ですか。それを教えてくれるのが『ヒカリ』ではなければ言うことなしだったのですが。

 

 その『ヒカリ』は何故か、レジギガスの拳の上にいました。レジギガスはまるで投擲のような体勢になっています。

 そんなことをしたら『ヒカリ』がどうなるのかわかっているのですか?

 

「やりなさい!」

 

「ギガァアアア!」

 

 レジギガスはそのまま全力で『ヒカリ』を投擲。『ヒカリ』もその速度に臆することなく拳を握り締め。

 私の顔面を殴りつけ、そのまま飛ばされた勢いでそのまま空間の地面をゴロゴロと転がり回りました。

 全く痛くありません。合理的な判断をするのであればあんな大きな隙にレジギガスへ『ギガインパクト』でもさせた方がダメージを与えられるというのに。

 

 やはり彼女はどこかおかしい。きっと錯乱しているのでしょう。私が『ヒカリ』を救わなければ。そう思い立ち上がる。

 『ヒカリ』もすぐに立ち上がった。私を殴りつけた左手は見るも無残なことになっている。私の体表は神と呼ばれるに相応しく、ポケモンの中でもかなり硬い。人間の手で殴れば骨は折れ皮は引き裂かれ。血が止め処なく流れていました。

 

 『ヒカリ』はその痛みに耐えながらも、左手を抑えながらも叫びます。

 

「お前は、人間に殴られる程度の存在だ!お前の思惑なんて全部思い通りになるわけがない!そんなエゴを反省しろ‼︎反省して……わたし達を全員元の世界に戻せ!このヒスイの問題は全部解決したはずだし、ノボリさんは服があんなにボロボロになるほど年月が経ってるんだぞ⁉︎それだけの長い間、あの人は大切な人やポケモンと離れ離れになっていることをお前は何とも思わないのか⁉︎お前に良心が残っているなら、わたし達を元の世界に戻せーーー!!!」

 

 『ヒカリ』は言いたいことが言えたのか、それ以降は何も言わずに私を睨んでくる。ポケモン達も同様に。

 私が直接産み出したレジギガスやエムリット達も『ヒカリ』の味方ですか。

 確かにヒスイの現状は改善されました。ギラティナの力で強引に崩された秩序は皮肉にも『ヒカリ』のお陰で万事解決。ジュンをこの世界に残す理由もありませんし、ノボリという人間も元々この世界の住人ではないのであれば戻してあげることもやぶさかではありません。

 

 私を殴るという、よくわからないことをやってのけた『ヒカリ』へ、当初の目的の一つでもあるヒスイの安定をもたらしたという褒美がそれで良いのであればそうしましょう。

 すぐにジュンとノボリという人間を調べ上げて、元の世界へ送ります。

 ですが、この世界線を放棄するわけにもいきません。デンボクがいなくなったのはとても大きな損失です。

 その充填をするのは誰になるのか。

 言わずともわかることでしょう。

 

 

「急に光が⁉︎……ノボリ⁉︎」

 

「……ここは……」

 

「そんなボロボロの姿でどうしたの!シャンデラ達を置いてどこかに行っちゃったから心配したんだよ!」

 

「シャララ〜」

 

「……クダリ?シャンデラ?」

 

「ともかく医務室へ!みんな〜!ノボリが帰ってきたよ!」

 

 

 シンオウ地方、バトルタワーがあるファイトエリアに近い岬で。

 突如として光が空から降り注ぎ、その光から人影が出てきたことに驚く周りの人々。

 ここにとある伝説のポケモンがいると聞いてやってきていた黒髪の少女は、その光の中から幼馴染の少年が出てきたことで驚いて近付く。

 

「ジュン⁉︎光の中から出てきたけど、どうしたの⁉︎」

 

「……ヒカリ?ああ、髪が黒いヒカリだ……。それにこの景色、ファイトエリアか?」

 

 ジュンはヒスイではなくシンオウに帰ってきたことを実感していた。手持ちのポケモンも全員いて、左腕のポケッチも元に戻っていた。

 周りがざわついていることも気にせず、ジュンは目の前のヒカリを抱きしめていた。

 

「えっ⁉︎ちょっと、ジュン⁉︎いきなりどうしたの⁉︎」

 

「ヒカリ……!オレ、絶対にお前の味方だから!お前が悪いことをしそうになったら、オレが絶対に止めてやる……!」

 

「久しぶりに会ったと思ったらすっごい失礼なこと思われてる⁉︎私、これでもチャンピオンだよ!悪いことなんてしようとも思わないし、やる暇もないから!っていうか、人目があるから離れて‼︎キャー、写真撮られてる⁉︎こんなことすっぱ抜かれたらママに合わせる顔がないよ⁉︎」

 

 顔を真っ赤にしながらアワアワするヒカリ。そのヒカリを離すまいと力強く抱きしめるジュン。

 ヒューヒューという口笛まで周りから聞こえてくる始末。それでもジュンは『ヒカリ』との約束通り、ヒカリの味方で居続けようと心に決めていた。

 

 

「あ……あああああああぁぁぁ⁉︎」

 

 そして。

 絶望する少女が()()

 




これで一応レジェンズは完結です。

レジェンズは。



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神罰

 『ヒカリ』が目を覚ました場所は明るかった。

 

「ハッ!」

 

 瞼を開いてすぐに確認したのは自分の居場所。ゴツゴツとした質感。そして記憶の場所とは異なり無事な天井と十体のポケモンの石像。

 槍の柱と呼ばれる場所ではなく、その前のシンオウ神殿と呼ばれる景観。

 手持ちのポケモンも全部ヒスイで捕まえたポケモン達で。確認のためにシンオウ神殿から出てテンガン山の頂上から360度、この大地を見渡した。

 

 人間の集落なんて目に見えるものは何もなく。ビルや灯台でもあればこんな山の上からでも見えるはずだが、そんなものは一つも見えない。人が暮らしている様子はなかった。どこにも人の営みの匂いがなかった。

 その事実から、『ヒカリ』は絶望の嘆きを発する。

 

「あ……あああああああぁぁぁ⁉︎」

 

 ここはまだヒスイで、シンオウと呼ばれる時代ではなく。

 アルセウスは『ヒカリ』の言葉を否定し、罪の清算は終わっていないと主張したことを知り。

 左手がアルセウスを殴った時のままだとわかってあの戦いが嘘ではなかったとわかり。

 流れる血が、痛みがどうしようもなく現実だと訴えかけてきて。

 バトルで優位に立って見せても、あの邪神は『ヒカリ』の願いなど叶えなかったのだと絶望した。

 無事な方の右手で石畳をドン!と叩いてもこの悪夢から醒めるわけもなく。ただ痛みが増しただけだった。

 

「まだだ……!ジュンとノボリさんがまだこのヒスイに取り残されているなら、もう一度……!いや、あいつはもう頼りにならない!ディアルガとパルキアの力で二人を元の世界に……!」

 

 それだけを信条に、『ヒカリ』は歩き始める。

 ジュンは近くにいなかったので、まずは居場所に心当たりのあるノボリを探すことにする。誰にも姿を見られるわけにはいかないので適当に布を調達して、全身を隠すようなローブに加工した。

 調べた結果、ノボリはどこにもおらず。シンジュ団の話を聞いてみてもいきなり消えたことがわかり。ならキャプテンとして世話をしていたオオニューラを探そうと会いに行ったらキャプテンがいなくてもその土地の管理をしていた。

 

 わけがわからずコトブキムラに向かい、ジュンがいないかも調べた。まだ跡地にいたラベンやテルが空の異変はなくなったものの、ジュンもショウも姿を見せないと話していたのを聞いて確信する。

 二人は、元の世界に戻ったのだと。

 ジュンは新たにアルセウスが呼び出し、ノボリは手違いでこの世界に来ていた。そのため異変も終わったためにアルセウスが返したのだと悟る。

 

 だが、『ヒカリ』は罪を犯した。元の世界に戻っても世界を滅ぼそうとする異端児だ。

 だからどれだけ実力を見せようとダメだった。むしろ力を見せたからこそアルセウスに警戒されたのかもしれない。

 『ヒカリ』はヒスイ地方から脱出した。

 

 アルセウスのいるテンガン山から離れたいという思いと、確実に元の世界に戻るために他の伝説のポケモンと出会う必要があると考えた。

 様々な地方を歩き。伝説のポケモンを調べ。

 一年が経った頃には自分の身体の違和感を覚え。

 

 世界を放浪し。

 たまにシマボシやテル、ヒナツのことが気になってヒスイに顔を出したりもした。

 シマボシなどの気になる人達が結婚し、子供が産まれて。そのことを影から祝福して。

 元の世界へ帰るための手掛かりを探し続けて。

 気付けば幾星霜の時が流れて。

 

 

 

 

 ──『ヒカリ』は未だに、少女のまま。

 

 

「はっ⁉︎」

 

 ショウが意識を覚醒させた場所はシンジ湖の洞窟の前。天気の良い昼下がり、格好はヒスイの時のままだった。

 それでも、シンジ湖の様子がヒスイとは違っていた。随分と懐かしいような、そんな感覚があった。ポーチの中を確認すればヒスイの頃と変わっていなかった。ポケモン達もヒスイで捕まえたポケモンで、シンオウ時代の頃のポケモンは一匹もいなかった。

 それを悲しむものの、まずは状況を把握しようと湖を渡ることにする。オヤブンギャラドスの背に乗って湖を渡り、歩き出すとすぐに街並みが見えた。

 

 都会とは呼べなくても、現代的な建物だ。それだけで帰ってこられたのだと確信できた。

 ショウは嬉しくなり、でも母親に顔を見られるわけにはいかなかったので慎重に動いてフタバタウンに入る。年号を確認した後にはすぐに『ギンガ団』の本部に向かおうとした。

 林の陰で、ある親子を見るまでは。

 

「ヒカリ、今日は何を食べたい?」

 

「お魚!」

 

「そう。じゃあお魚にしましょうか」

 

 まだ幼い少女と、見覚えのある怖い人よりも若干若く、優しそうな人。

 まるで五歳くらいの自分がコンテストを強要しないママと仲良く歩いているという光景を見させられて、ショウの視点はブレにブレた。焦点が全く合わなくなった。

 それまで一切気にしていなかった左手が痛かった。見てみればアルセウスを殴った時のままで指の何本かは折れていそうだった。

 それ以前に、その左手が()()()()()ではないか。

 

「あ……あああああああぁぁぁ⁉︎」

 

 ショウはその怪奇現象が怖くなってフタバタウンから逃げ出した。すぐにトゲキッスを呼び出して背中に乗り、空を駆ける。

 その頃には左手は元に戻って血が流れていた。飛んでもらっている最中に止血などを済ませておくと、透けていた手はそんな怪奇現象を起こすことなく、ただ痛々しい手に戻っていた。

 

「わたしが、幼いわたしがあそこにいた……。しかも、手が透けた?……ここ、わたしの世界じゃない……!」

 

 シンオウを巡ってみれば『ギンガ団』がまだ出来上がっておらず、アカギに会うこともできなかった。

 知る年号も六年前のもので、しかもこのシンオウの地下には地下大洞窟なるものがあるという。そんなものの存在をショウは一切知らなかった。

 また手が透けるなんて現象に遭遇しないためにフタバタウンには一切近付かないことにしてショウはまず生活基盤を整えることにした。

 

 適当にフレンドショップでヒスイの物を売ろうとしたが値段がつかず、仕方なくクロガネシティの博物館に行けば百年近く前の代物が完品に近い状態で見付かるなんてと大騒ぎ。どこで見付けたと聞かれたのでテンガン山で見付けたということにしておいた。

 ピートブロックは珍しい物だったようで特に高く買い取ってもらえた。シンオウ時代ではリングマからガチグマへの進化はしないと思われているので貴重に違いなかった。

 

 他にもちょっとボロくさせた使わなかったヒスイでのケムリダマなどのレシピ書なども売り飛ばす。今更必要のない物で、作りもしないし作り方は頭に入っていた。今は纏まったお金が必要だったので色々と売った。

 纏まったお金を手に入れたら服を買ってすぐにシンオウ地方から出ることにした。ここにいてはいつ怪奇現象に見舞われるかわからないことと、売り飛ばした物の出所を探られたくなかったからだ。

 

 元の世界に戻るためにディアルガとパルキアをもう一匹ずつ捕まえようかとも思ったが、テンガン山に近寄ったらロクなことにならないと直感が働いて却下。アルセウスのお膝元だ。何があるかわからなかった。

 過去のモンスターボールを使うと目立ちそうだったので適当にモンスターボールを買って地下大洞窟で人目に付かないようにポケモンを使って捕獲し、この世界で使うポケモンを選定する。

 

 その後はミオシティに行って各地方の伝承を調べる。必要なポケモンは時空を超えられるポケモン。もしくは並行世界を観測できるポケモンなど。

 ひとまず当たりをつけて行動を開始した。本命としてはパルキアの力を用いることだが、そのパルキアは今力を使うことができなさそうだった。

 

 各地方の伝説のポケモンと手当たり次第出会い、どんな力があるのか調べることにする。まだ知られていないポケモンが世界を超える力を持っている可能性はあった。アルセウスだって表向きは一切知られていないポケモンなのだから。

 そうして彼女はカントー地方とジョウト地方を繋ぐ、伝説の山であるシロガネ山を登る。ここに伝説のポケモンの伝承が残っているわけではないが、野生のポケモンがかなり強いと噂され立ち入りが規制される山だ。こういう場所にこそ伝説のポケモンが隠れ潜んでいるとショウは睨んでいた。

 

 そこで、赤い帽子を被った少年と目が合ってしまった。目と目が合えばバトルがトレーナーの鉄則だ。この時代に戻ってきてショウも何回かその縛りを受けてバトルで蹴散らしてきた。

 今の手持ちはそこまで育てていないのでヒスイから一緒のポケモンの方が強い。今は調査を優先しているし、いざとなればヒスイのポケモンを使うので育てる意義を見出せなかった。

 育てていないとはいえ、ジムリーダーくらいは蹴散らせるほどには強いポケモン達だ。

 

「こんなところに人がいるとは思いませんでしたけど……。お互い様ですね。じゃあやりましょうか」

 

「……………………」

 

 そしてショウは。

 久しぶりに負けた。

 

「……アハッ!ああ、久しぶりだなあ!あなたはわたしに勝てるんだ!ううん、そのポケモン達を見ればわかる。ごめんなさい、あなただと気付きませんでした。侮ってごめんなさい、カントーチャンピオン。負けてこんなことを言うのもなんですけど、もう一度戦ってくれませんか?本気で、やりたいので」

 

「…………」

 

 無言で頷く赤帽子の少年。ショウよりも少し年上の少年に対してショウは自分のどうぐを使ってお互いのポケモンを全快させ。

 次の勝負では、赤と白ではなく、下部分がぼんぐりの色をした古めかしいボールを投げた。

 そして雪が降るシロガネ山の頂上で、チャンピオン戦よりも白熱したバトルが繰り広げられる。

 

「ああ、すごい!さすが史上最高と名高いトレーナー!()()()倒されるなんて思わなかった!」

 

「……ッ!」

 

「でもおしまいです!ライチュウ、『ボルテッカー』!」

 

 決着が付き。

 久しぶりの白熱したバトルに満足したショウはシロガネ山を隈なく散策し、様々な地方を巡った。

 カントー、ジョウト。ホウエンにイッシュ、カロスにアローラ。

 可能性のあるものから全くの外れまで。事細かに調べ、ついでに遠い地方であるオーレ地方にも行き、そこでも空振って。

 もう一度見落としがないか世界図書館と呼ばれる場所で様々な書物を漁る日々を過ごしていた。

 

「やっぱり一番はパルキアなんだけど……。シンオウには近寄れない。ウルトラビーストも可能性はあったけど、あれはまた別な存在。……最終手段としては、パルキアの力の増幅。アルセウスをも超える力をつけるための増幅装置でもあればいい。もしくはジラーチだけど……ジラーチはもう願いを行使した後だって公表があった。1000年も先にならないと使えない願い星なんて待ってられない」

 

 ショウはまだ行っていない地方のことを重点的に調べる。可能性があるとすれば未知にしかない。

 様々な地方を調べていく内に、ガラル地方のことに行き着く。

 

「ダイマックス……?ガラル特有の現象?ポケモンを巨大化させて、ポケモンの力を増幅させる……⁉︎」

 

 これだ、と思った。すぐにガラル地方に関する本を漁り始める。伝説のポケモン、ダイマックスについて。ガラルの歴史など。

 このダイマックスがパルキアとディアルガに使えるのであれば。

 狙った世界、時間に戻れるかもしれなかった。

 

 何日も図書館に通い、とにかくガラルのことを調べる。そしてブラックナイトや剣と盾の英雄の伝承に行き着く。それらがどういうものかとノートに自分の考察を書き込んでいった。

 ダイマックスという謎の現象。おそらくそれに関係するブラックナイト。様々な著者が様々な見解を述べているためにどれが正しいのか推察していく。

 

 本当にどんなポケモンの力も増幅させるのであれば。ショウにとってこれ以上ない最適解となる現象だった。

 ショウがダイマックスとブラックナイトについてのめり込んでいた頃、机の上に大量に積み重なった本の上から声をかけられた。

 

「ほう。こんなお嬢さんがこうも熱心に……。嬉しいですね。他の地方にもこんなにもガラルに興味を持ってくれる人がいるなんて」

 

 少し小太りの、褐色肌の中年。その男性はショウを興味深そうに見てウンウンと頷いていた。

 積み重なっている本の一つを取って、もう一度ショウを見る。本の難解さがわかって、十一歳にしか見えないショウが読み解いているとわかって笑みが深くなった。

 

「お嬢さん、ガラルに興味がおありで?よろしければ私が語り聞かせましょうか?私はガラルについて一番詳しいと自負しております」

 

「……あなたは、ガラルの方ですか?」

 

「はい。流石に他地方では私のことをご存じないですよね。私、ガラル地方のポケモンリーグの委員長をしています、ローズと言います」

 

 ならと、ショウは質問をぶつける。その討論は長く続き、ローズの秘書であるオリーヴが来るまで長々と続けられた。

 ショウは知りたいことが粗方知れたのでローズに感謝する。ローズは最後に、質問をした。

 

「そこまでブラックナイトやダイマックスに興味があるのは、何故ですか?」

 

「わたしの望みを叶えられる可能性が高いからです。願い星とそれが引き起こすダイマックス現象。とても興味深いです。ただ、バトルで一定時間しかできないのであれば規模として足りません。せめて伝承のように大地を埋め尽くすほどの巨体がガラルを覆った時のようなブラックナイトほどの規模がなければ、わたしの願いは叶いません」

 

「もし、ブラックナイトを人為的に起こせるとしたら?」

 

「悪人と蔑まれてもいい。わたしはそれを迷いなく実行します」

 

 その断言に後ろにいたオリーヴはいつもは細い目を見開き。

 最高の答えを得られたと思ったローズは深く頷く。

 

「では、この手を取っていただけますか?私も、ブラックナイトを引き起こしたいのです」

 

 悪魔との契約でも構わないと、即座にショウはその手を取る。

 ここに契約は成立した。

 




ヒスイに残ってしまった『ヒカリ』とBDSPに飛ばされたショウ。

今後の描写はショウがメインになります。


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剣盾編
今年のジムチャレンジについて語ろうぜ!201X年度版


初っ端から掲示板回です。

ダイジェスト楽やねん…。


今年のジムチャレンジについて語ろうぜ!201X年度版 スレpart45

 

1 名無しのジムチャレンジ観戦者

このスレは201X年度のジムチャレンジについて語るスレです。

推しのジムチャレンジャーについて雑談したり、ジムチャレンジの進捗状況を話したり、ジムチャレンジャーを愛でるための場所です。

アンチは回れ右。煽り、中傷行為も禁止です。

あとジムチャレンジャーの過度な個人情報拡散も禁止です。

以上を守ってお楽しみください。

 

2 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>1

スレ建て乙。

 

3 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>1

乙ー。

 

4 名無しのジムチャレンジ観戦者

いやあ、今年のジム巡り六ヶ月の期間も終了したわけですが、期待の新人が現れましたね。まさかキバナの記録に追いすがる二ヶ月半なんて記録が産まれるとは。

 

5 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>4

ショウちゃんなー。可愛くてポケモンバトルも強くて笑顔も素敵とか最強かよ。

 

6 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>4

っていうか七年も経ってるのにまだキバナの記録って抜かれてないんか……。アイツも大概バケモンやな。

 

7 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>6

そりゃあ十代前半でドラゴンポケモン手懐けてどこぞのチャンピオンみたいに迷わなかったんだから、そんな記録にもなるわ。ドラゴンポケモン扱えるだけで天才だかんな?

 

8 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>4

なお彼女、ワイルドエリアで一ヶ月過ごさなかったらキバナの記録も抜いていた模様。

 

9 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>8

ん?なにそれ、初情報だわ。どういうこと?

 

10 名無しのジムチャレンジ観戦者

なんか彼女、エンジンシティで開会式が終わった直後にワイルドエリア行って、ナックルシティに辿り着いてからエンジンシティに戻ってそっから正規ルート行ったっぽいんだよね。だからターフスタジアムに辿り着いたのはむしろ後発組。

 

11 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>10

は?ソースは?

 

12 名無しのジムチャレンジ観戦者

明日発売のジムチャレンジ特集が載った雑誌。フラゲした。セミファイナルに残った四人のインタビュー記事載ってるよ。

 

13 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>12

それ、ここに書き込んで大丈夫なんですかねえ……?

 

14 名無しのジムチャレンジ観戦者

アウトだろ。おい詳しく。コテハンもつけろ。

 

15 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>14

こいつ、正常者の皮を被ったクソ野郎だ⁉︎

 

16 フラゲ民

コテハンつけたわ。

全部は書かないから自分で買って確認してくれ。

ショウちゃんプロフィール

年齢:12歳

身長:150cm

背番号:240

出身:カントー?(?マークが付くのは彼女自身ガラルで育ったため。親がカントー出身だったらしい)

ガラルの出身地はシュートシティ

推薦者:ローズ委員長

手持ちポケモン:ピカチュウ、カビゴン、エーフィー、???、???、???(ジムチャレンジ中に使用したポケモンのみ公表。その他三匹いると答えている)

好きなタイプ:でんき(なおインタビューワーは異性のタイプ的な意味で聞いた感じ)

好きなポケモン:ピカチュウ

大切なポケモン:ロトム(本来この質問はなかったらしいけど、彼女の要望で追加されたみたい)

好きなトレーナー:レッド(カントーリーグ元チャンピオンの例の彼。尊敬してるっぽい)

 

こんなところがインタビュー形式で載ってる。

 

17 名無しのジムチャレンジ観戦者

ほーん。なんか色々不思議な子やなあ。?が多い。あと天然か?

 

18 名無しのジムチャレンジ観戦者

ローズ委員長が推薦くれるって凄くね?いや、実際凄い速度で終わらせたんだけど。

 

19 名無しのジムチャレンジ観戦者

何で委員長が推薦状くれたんや?

 

20 フラゲ民

彼女……。実は委員長が経営する孤児院出身らしい。

 

21 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>20

は?両親の出身知ってるやん。

 

22 フラゲ民

両親とも幼い時に亡くなっとるんや。それで委員長に拾われて、自分も委員長のお手伝いをしたいってジムチャレンジに挑むことにしたんやと。ガラルや委員長に恩返ししたい、自分もガラルを盛り上げたいって。

 

23 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>22

ブワッ(涙目)。

やめてくれ、おいちゃんこういう話に弱いねん……。

 

24 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>22

Oh…。思いのほか重い話だったノーネ。

 

25 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>22

でも確か、委員長の推薦ってそんなにポンポン渡さないはず……。いくら関係者だからって委員長の名前は安くねーぞ?

 

26 フラゲ民

委員長が手加減したとはいえ、委員長にバトルで勝ったらしい。それで許可を得たって。

 

27 名無しのジムチャレンジ観戦者

……ローズさんって昔とはいえ、セミファイナル準優勝の実力者ですが?

 

28 名無しのジムチャレンジ観戦者

元々天才ガールだったと。

 

29 名無しのジムチャレンジ観戦者

やべえ、インタビュー記事めっちゃ楽しみになってきたw

 

30 名無しのジムチャレンジ観戦者

んで、何でいきなりターフタウン目指さずにワイルドエリア突っ切っちゃったの?

 

31 名無しのジムチャレンジ観戦者

そういやそんな話だったな。

 

32 フラゲ民

タマゴから孵したばかりのピチューと経験を積むためと、手持ちポケモンを捕まえるためだったらしい。そこでゴンベとイーブイ捕まえて、ピカチュウに進化してエンジンシティに戻ったっぽい。

 

33 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>32

ん?ってことは……タマゴから孵したばかりのピチューで委員長に勝ったってこと⁉︎

 

34 名無しのジムチャレンジ観戦者

やべえよやべえよ……。何でベイビィポケモン一匹でワイルドエリア闊歩してんだよ……?ワイルドエリアなんて普通の草むらよりも強いポケモンばっかなのに。

 

35 名無しのジムチャレンジ観戦者

色々やばくて草生える。

 

36 名無しのジムチャレンジ観戦者

そりゃあ普通の草むらでポケモン捕まえるより強いポケモンたくさんいるだろうけど……。その強いポケモンって弱ければまずボコボコにされますし、そもそも捕まえらんないけど?

 

37 名無しのジムチャレンジ観戦者

あ……。ワイめっちゃ心当たりあるわ。ジムチャレンジ最初期に迷ってるチャレンジャーいないかなってワイルドエリア探索して、そこそこ強いポケモンいたら順路からどかすボランティアやってたんやけど。

 

38 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>37

こいつ、リーグ委員でもないのに何やってんだ。

 

39 フラゲ民

>>37

むしろそれってチャレンジャーがポケモン捕まえるの邪魔してませんかね……?

 

40 名無しのジムチャレンジ観戦者

それがショウちゃんとどう繋がるんや?

 

41 ショウちゃんファン一号

三回くらい助けてもらった。道端で二回と、ポケモンの巣穴に引き摺り込まれた時に一回。全部ピカチュウの『ボルテッカー』で一撃で倒してくれたで。

 

42 名無しのジムチャレンジ観戦者

ホンマ何やってんやこいつ。しかも勝手にコテハンまでつけやがった。

ファン一号って図々しいねん!

 

43 名無しのジムチャレンジ観戦者

ジムチャレンジ中に人助けをした準最速チャレンジャー。なおバッジ一個も獲得せずワイルドエリアを蹂躙する。

 

44 名無しのジムチャレンジ観戦者

ヤバさが際立ってきましたね……。

 

45 ショウちゃんファン一号

しかもその時にワイのことも心配してくれてな?「ジムチャレンジ中に負傷者が出たらローズ委員長が悲しみますから」「もう、危ないことはやめてくださいね?」「巣穴に引き摺り込まれるのは災難でしたね……。もう大丈夫ですよ」って手を握りしめてくれてな?天使かと思ったわ。

 

46 フラゲ民

コイツ、迷惑かけておきながらちゃっかり手を握られてやがる⁉︎

 

47 名無しのジムチャレンジ観戦者

逮捕ー!

 

48 名無しのジムチャレンジ観戦者

うおおおおおおんんん!ショウちゃんがおっさんの手を握っちゃったー⁉︎いや、むしろワイにもワンちゃん⁉︎

 

49 名無しのジムチャレンジ観戦者

うおー!ショウちゃん俺だー!握手してくれー!

 

50 ショウちゃんファン一号

何言ってるんや?ワイ、女やぞ?

 

51 名無しのジムチャレンジ観戦者

は?

 

52 名無しのジムチャレンジ観戦者

は?

 

53 フラゲ民

は?www

 

54 名無しのジムチャレンジ観戦者

ネットでワイとか言われたら女なんてわかるわけないんだよなあ。

 

55 名無しのジムチャレンジ観戦者

はい、閉廷。

 

56 フラゲ民

ショウちゃんが同性にも優しい、命を大事にする。解釈一致です。

 

57 名無しのジムチャレンジ観戦者

命云々は両親のこともあるんじゃねえかな……。

 

58 名無しのジムチャレンジ観戦者

まあ、ワイルドエリアで仲間集めは効率的ではあるよな。リーグでも推奨されてるし。リーグ委員がかなりの数で見張ってるからよっぽどのことがなければ大丈夫だろうけど。

 

59 フラゲ民

(ナイスリカバリー!)

 

60 名無しのジムチャレンジ観戦者

暗いのは掲示板に似合わないからな。

つまりショウちゃんは先に強くなってからジムチャレンジを始めたわけだ。そりゃあ初心者は順路に沿った方が良いだろうけど、委員長に勝てる実力者ならワイルドエリアで修行するのもありだろ。

 

61 名無しのジムチャレンジ観戦者

そういや最初の方のショウちゃんってあまり注目してなかったわ。ターフスタジアムの時ってどうだったん?

 

62 ショウちゃんファン一号

ピカチュウがダイマックスもせずにダイマックスワタシラガを吹っ飛ばしましたが?

 

63 名無しのジムチャレンジ観戦者

ええ……?

 

64 名無しのジムチャレンジ観戦者

ま、まあヤローさんも最初のジムだからめっちゃ手加減してるし。あれ?次のジムって水タイプのルリナちゃんじゃ……。

 

65 ショウちゃんファン一号

もちろんピカチュウが全部ぶっ飛ばしましたが?

 

66 名無しのジムチャレンジ観戦者

デスヨネー。

 

67 名無しのジムチャレンジ観戦者

カブさんはどうだったんや?

 

68 フラゲ民

そこら辺の動画なんて転がってるはずやけど律儀に答えてやろう。

カビゴンが『ころがる』連打で全部吹き飛ばしました(白目)。

 

69 名無しのジムチャレンジ観戦者

ショウちゃんのまとめ動画あったから見てきたけど、ええ……。何でこの子、ダイマックス使わないんですかねえ?

 

70 フラゲ民

ショウちゃん、ジムチャレンジ中に一回もダイマックス使ってないぞ(白目)。

 

71 名無しのジムチャレンジ観戦者

え?……え?

 

72 名無しのジムチャレンジ観戦者

ダイマックスバンド、着けてるよね?

 

73 ショウちゃんファン一号

着けてるけど、一回も使わなかった。

ダイマックスジュラルドン倒された時のキバナの唖然とした顔、面白いぞ。見てこいよ。

 

74 名無しのジムチャレンジ観戦者

あんなキバナ様のお顔を引き出してくれたショウちゃん最高!もっと見せて、役目でしょ!

 

75 名無しのジムチャレンジ観戦者

おっとぉ……。キバナファンにも目を付けられてたか。

 

76 名無しのジムチャレンジ観戦者

ダブルバトルで使いにくい『じしん』をカビゴンに使わせるのはわかるんだよ。まさか相方のピカチュウに風船括り付けるとは思わないじゃん?確かに浮いてるから『じしん』の影響ないだろうけど。

 

77 ショウちゃんファン一号

あのピカチュウ可愛かった!プカプカ浮いてるピカチュウって何であんなにも可愛いんやろうな……。

 

78 名無しのジムチャレンジ観戦者

風船つけたピカ様が出てきて顎をあんぐりとしちゃうキバナ様、カビゴンのタイプ不一致『じしん』で一撃で落とされたキョダイマックスジュラルドンを見て呆然とするキバナ様、『じしん』は耐えられたけど残ってたサダイジャをピカ様の『アイアンテール』というタイプ不一致相性不利技で落とされて目が点になるキバナ様。

どのお姿も可愛かったわ!

 

79 名無しのジムチャレンジ観戦者

やっぱキバナファンはやべーぜ……。

 

80 名無しのジムチャレンジ観戦者

いや、羅列されるとやっぱりショウちゃん理不尽じゃね?

何でこれで三匹しかポケモン使ってないんですかね……。

 

81 フラゲ民

ぶっちゃけあのカビゴンとピカチュウが強すぎる。かくとうタイプもじめんタイプも今年はメジャーリーグにいなかったからなあ。あとはノーマルが効きにくいいわタイプもいなかった。カビゴン無双ができてしまった。

 

82 名無しのジムチャレンジ観戦者

はがねタイプを使ったキバナを忘れないでください……。じめん技でボコされましたけど。

 

83 名無しのジムチャレンジ観戦者

キバナのエースがジュラルドンなんて有名だからな。対策はするだろ。

 

84 名無しのジムチャレンジ観戦者

キバナ、始まる前は自分に次ぐ速度でチャレンジを突破したショウちゃんにめちゃくちゃ期待するような言葉をかけてた。

なお。

 

85 名無しのジムチャレンジ観戦者

期待の新人やなあ。ダンデ以来にワクワクしてるわ。

 

86 名無しのジムチャレンジ観戦者

ぶっちゃけ今年の四人の中じゃぶっちぎりやろ。

 

87 名無しのジムチャレンジ観戦者

本気のジムリーダーボコしてほしい。

 

88 名無しのジムチャレンジ観戦者

いつダイマックス使うか楽しみ。

 

89 名無しのジムチャレンジ観戦者

シュートスタジアムでもう一度ネズさんと戦ってほすぃぃいいいい!あれこそがポケモンバトルなんだって感動した!!!

 

90 フラゲ民

わかる。ダイマックスが主流なのはわかるんやけど、非ダイマックス時代を知ってるからああいう試合でも盛り上がれるんやと声を大にして言いたい。昔のマクマードVSポプラ戦見ろ。話はそれからだ。

 

91 名無しのジムチャレンジ観戦者

誰も彼もショウちゃんがセミファイナル勝ち抜けるって確信してて草。まだ始まってもないのに。

 

92 名無しのジムチャレンジ観戦者

さっさと終わらせてポケモン育成をする時間が余裕であっただろうからなあ。他の三人は期間ギリギリで終わったし。

 

93 ショウちゃんファン一号

キバナ「ショウ以降チャレンジャーが来なくて暇なんだが」

このツイートで炎上した模様。ショウちゃんが速すぎるんだよね。

 

94 名無しのジムチャレンジ観戦者

こいついっつも燃えてんな。

 

95 名無しのジムチャレンジ観戦者

ぶっちゃけダイマックスに頼ってた子がいきなりネズさんを突破できるかっていうと、その……。

 

96 名無しのジムチャレンジ観戦者

前にあった非ダイマックス縛りのジムリーダー総当たり戦、TV局の企画だったけどめっちゃ面白かった。まさかダンデが僅差とはいえ負けるとはな。

 

97 名無しのジムチャレンジ観戦者

ネズさんが天才と呼ばれる理由がわかったわ。

あの人、技を出すタイミングとか判断力がズバ抜けてるわ。伊達に何回もダイマックス使ってるジムリーダーを捲ってない。

 

98 名無しのジムチャレンジ観戦者

ネズさんに勝てたらキバナにも大体勝てるからな。それだけスパイクタウンは鬼門。

 

99 フラゲ民

滅多にSNSを使わないネズさんが、キバナの上げたショウちゃんとの試合動画をリツイートしてるのは笑った。しかもめっちゃ賞賛してるし。

 

100 名無しのジムチャレンジ観戦者

自分と同じくダイマックス使わない子だからな。応援もすんだろ。

 

101 名無しのジムチャレンジ観戦者

まだ他の三匹が詳細不明っていうのも怖いよな。これ、ダンデもワンチャンやられるのでは?

 

102 名無しのジムチャレンジ観戦者

ナイナイwダンデって絶対マスタードコースだって。十年以上チャンピオン防衛してみせるってアイツ。

 

103 名無しのジムチャレンジ観戦者

でもそのダンデのライバルのキバナをこうやって倒してるわけですしおすし。

 

104 名無しのジムチャレンジ観戦者

ジムチャレンジ中はどうしたって手持ちを制限するからなあ。そうじゃなかったらひよっこ達がジムリーダーに勝てるわけがない。

 

105 名無しのジムチャレンジ観戦者

何にせよファイナルトーナメント楽しみやわ。

 

106 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>105

セミファイナルも楽しみにしとけよw

 

 

 

今年のジムチャレンジについて語ろうぜ!201X年度版 スレpart54

 

 

 

456 名無しのジムチャレンジ観戦者

いやあ、セミファイナルも終わりましたねえ。荒れた荒れた。

 

457 フラゲ民

結局カビゴンとピカチュウ無双wっていうか誰もその二匹倒せなかったんだけど……。

 

458 名無しのジムチャレンジ観戦者

結局残り三匹、判明しませんでしたね……。

 

459 名無しのジムチャレンジ観戦者

もうどこでも阿鼻叫喚だぞw掲示板以外も盛り上がってる。ダンデ以来の盛り上がりだな。

 

460 名無しのジムチャレンジ観戦者

ダンデでもここまで圧倒的じゃなかったんじゃ……?

 

461 フラゲ民

あの時は他のセミファイナリストがキバナ、ルリナたん、ソニアちゃんだぞ。あの時は黄金期だからそこまで圧倒的にはならんわ。

 

462 ショウちゃんファン一号

今年はショウちゃんがぶっちぎりなだけだからな……。

 

463 名無しのジムチャレンジ観戦者

というかマジでショウちゃん以外が小粒というか……。ジム戦でキバナに勝ってるんだから毎年と変わらないくらいの実力はあるはずなんだが。

 

464 名無しのジムチャレンジ観戦者

毎年二百人近くがチャレンジして、キバナの前には十人以下になってるからな。セミファイナル出場者って年平均六人とかそこらだろ?

 

465 名無しのジムチャレンジ観戦者

って考えると今年は四人だから少ないな。

 

466 名無しのジムチャレンジ観戦者

今年はしゃあない……。後からやってきたショウちゃんに何人が追い抜かれたことか。それで心折れてジムへの再チャレンジをしなくなったチャレンジャー多いやろ。

 

467 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>466

それ、ダンデもやらかしてるんだよなあ。アイツは方向音痴のせいだけど。

 

468 名無しのジムチャレンジ観戦者

実際心折れた奴は何人もいる。

ソースは俺。

今ではすっかりショウちゃんのファンやってます。

ショウちゃんサイコー!

 

469 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>468

諦めん……いや、今年はしゃあないか。

 

470 468

チャレンジで頑張ることだけが進むべき道じゃないんやなって。

俺は来年からマクロコスモスの下部会社に就職決まったんだからいいんだ。

あれもこれもショウちゃんのおかげや。

 

471 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>470

マジ?やっぱりジムチャレンジってガラルのためになってるわ。優秀な成績残せばそうやって就職先斡旋してくれるんやからな。

 

472 名無しのジムチャレンジ観戦者

ジムリーダー候補やジムトレーナーも大体ジムチャレンジで発掘されるからな。……そう考えるとやっぱりダンデの回は酷いな。

一人はそのまま公式戦無敗のチャンピオン。二人は今だにメジャーリーグのジムリーダー。もう一人も博士の卵?

 

473 名無しのジムチャレンジ観戦者

>>472

やっぱ黄金期ってすげえわ。

それに比べると今年は、うん。

 

474 名無しのジムチャレンジ観戦者

ジムチャレンジでセミファイナル制してもジムリーダーになれるわけじゃないからなあ。

それぞれのタイプに二人ずつ、計三十六人しかジムリーダーはいないんやから。

 

475 名無しのジムチャレンジ観戦者

一回酷い年なかった?メジャーリーグがほのおほのお、はがねはがね、こおりこおりみたいなめっちゃ偏った年。

 

476 フラゲ民

ダンデがチャンピオンになる三年前の年やな。

「鋼の大将」がチャンピオン引退してジムリーダーに就任して、カブさんもマイナーリーグから上がってきた年。あの年はチャレンジャーの育てたポケモンが被りすぎててセミファイナルのミラーマッチが多すぎて笑った。

 

477 名無しのジムチャレンジ観戦者

へー、そんなことあったんですね。僕が産まれる前の年だ。

 

478 ショウちゃんファン一号

>>477

そんな若いのにこんなアングラに来るんじゃあない!

 

479 名無しのジムチャレンジ観戦者

そうか、子供らにとってもネットが当たり前の時代だもんなあ。ジムチャレンジに参加できないような年の子がこんな場所にいていいんか?

 

480 名無しのジムチャレンジ観戦者

いかんでしょ。

 

481 名無しのジムチャレンジ観戦者

ネットは節度を持って使えば大丈夫やろ。

明日にはファイナルトーナメントの組み合わせ発表か。楽しみやなー。

 

 

 

今年のジムチャレンジについて語ろうぜ!201X年度版 スレpart88

 

 

 

675 名無しのジムチャレンジ観戦者

決着!ダンデが勝った!

 

676 名無しのジムチャレンジ観戦者

うおおおおおお!ダンデのポケモン、最後のリザードンまで追い込みやがった!

 

677 名無しのジムチャレンジ観戦者

ここまでギリギリの勝負、初めてじゃないか⁉︎ショウちゃんつえーーーー!

 

678 フラゲ民

もうこれが決勝でいいだろ!マクマード対ピオニーを思い出した!途中まではマジでショウちゃんが勝っちゃうかもと思ったぜ!

 

679 キバナ様最推し

決勝でライバルのダンデを待っているキバナ様を忘れないでください……。

 

680 名無しのジムチャレンジ観戦者

いやいや、ネズさんがフシギバナとカメックスまでは引き摺り出したけど!まさか最後がリザードン同士のミラーマッチとかめっちゃ胸熱だった!!!

 

681 名無しのジムチャレンジ観戦者

カビゴンが三タテした時はマジで身震いした。ダンデの時代が終わるかもって。

 

682 名無しのジムチャレンジ観戦者

そっからのダンデの巻き返しがチャンピオンの凄みっていうかさ!

もう興奮が止まんねえよ!

 

683 名無しのジムチャレンジ観戦者

これここ近年のベストバウトだろ‼︎

 

684 名無しのジムチャレンジ観戦者

組み合わせが完全にくじ引きだったからチャンピオンとジムチャレンジャーが決勝で当たらないことは何度かあったけど、これが決勝じゃないのが惜しすぎる!

 

685 名無しのジムチャレンジ観戦者

ダンデもすげえ晴れやかな顔して握手してるわ。

っていうかショウちゃん、泣いてるしボロボロやな……。

 

686 名無しのジムチャレンジ観戦者

そりゃそうやろ。まさかリザードンの背中に乗って直接指示出すなんて思わんかったし。最後の『キョダイゴクエン』で背中から吹っ飛ばされたからなあ。すぐ立ってたし大事ないみたいだけど。

 

687 ショウちゃんファン一号

でもあれやっぱ凄いよ。リザードンの速力に負けずに背中にしがみついて指示出して、リザードンもダイマックス技二回は避けたんだからな。ゴーグルつけたショウちゃんも可愛かった。

 

688 名無しのジムチャレンジ観戦者

ポケモンレンジャーかと思っちゃったよ。もしくはどっかの地方のライドポケモン使う人みたいな。

『なみのり』とか『そらをとぶ』でポケモンの背中に乗ることはあるけど、バトルや仕事の時にはあんまり乗らないよな。アーマーガアタクシーだって運転手も基本は籠の中だし。

 

689 名無しのジムチャレンジ観戦者

倒して倒し返されてっていう攻防、マジ凄かった。ダイマックスもいいけど、やっぱポケモンバトルってこういうもんよ。

ネズさんとショウちゃんの試合も駆け引きたくさんあって楽しかった。

 

690 名無しのジムチャレンジ観戦者

結局、ショウちゃんダイマックス使わなかったな……。使ってたら勝ってたんじゃ?

 

691 フラゲ民

それはどうやろ。ネズさんみたいに拘りがあるのかもしれない。

 

692 名無しのジムチャレンジ観戦者

お、インタビュー始まるみたいやで。

 

693 名無しのジムチャレンジ観戦者

ダイマックスのこと答えてくれるんやろうか。あ、応急手当が先か。

 

694 名無しのジムチャレンジ観戦者

擦り傷だけっぽいね。良かった良かった。

 

695 名無しのジムチャレンジ観戦者

その前にダンデのインタビューか。ここまで追い詰められたの久しぶりだから楽しみだぜ。

 

696 名無しのジムチャレンジ観戦者

Q「バトルが終わってどうでしたか?」

ダンデ「ここまで追い詰められたのは久しぶりだった。とても楽しい時間をありがとうだ、ショウ!」

 

697 名無しのジムチャレンジ観戦者

Q「最後のリザードンのミラー対決は驚いたのでは?」

ダンデ「リザードンが隠し球だったこともそうだが、他の五匹も練度が高く驚いた。彼女とそのポケモンの強さを知ってはいたが、体感するのはまた別の驚きがある。次のバトルを楽しみにしてる」

 

698 名無しのジムチャレンジ観戦者

Q「彼女の今後に期待することは?」

ダンデ「次は全力の勝負を!だな」

Q「それはダイマックスについてと捉えても?」

ダンデ「俺の直感だが、最後のリザードン対決は確かに意表があった。だが、ダイマックスもせず、タイプ相性が有利なカメックスでもなかった。これは伸び代とも呼べるかもしれないな。つまり、全力と呼べるよう成長した彼女とまた戦いたい!」

 

699 名無しのジムチャレンジ観戦者

ん?って思ったけどそりゃそうか。タイプ相性を考えたらカメックスかピカチュウを残しておくべきだったよな。ショウちゃんの作戦ミスか?

 

700 名無しのジムチャレンジ観戦者

でもダンデのポケモンと一進一退だったからなあ。リザードンの情報も隠せてたんだし出す順番は間違ってなかったと思う。リザードンも十分強かったしな。

 

701 名無しのジムチャレンジ観戦者

ダンデは次もあるしこんなものか。

 

702 ショウちゃんファン一号

ショウちゃん出てきた!絆創膏で大丈夫なくらいやったんか。軽くて良かった。

 

703 名無しのジムチャレンジ観戦者

ショウちゃんの涙prpr

 

704 フラゲ民

ジュンサーさん、>>703です。

 

705 名無しのジムチャレンジ観戦者

Q「ジムチャレンジお疲れ様でした。結果はチャンピオンに敗北というベスト4で終わりましたが、この結果はいかがでしたか?」

ショウちゃん「やりきったと思います。わたしもダンデさんのようにファイナルトーナメントを勝ち上がりたかったのですが……。ダンデさんは強かったです。推薦状をくださったローズ委員長をはじめ、応援してくれた皆様。本当にありがとうございました。グスッ、勝ちた、かったです」

 

706 名無しのジムチャレンジ観戦者

Q「おそらく皆さんがお聞きしたいことだと思うので単刀直入に聞きます。何故ダイマックスを使わないのでしょうか?」

ショウちゃん「恥ずかしい限りなのですが……。使わない、のではなく、使えないんです」

 

707 名無しのジムチャレンジ観戦者

よく聞いた!聞きたかったことや!

 

708 名無しのジムチャレンジ観戦者

ん?使えない?アナウンサーも困惑しとるやん。

 

709 名無しのジムチャレンジ観戦者

Q「ダイマックスバンドは身に付けていますよね?」

ショウちゃん「はい。ローズ委員長にいただきました。ですがわたしがダイマックスをすると、ポケモンが言うことを聞いてくれないんです」

 

710 名無しのジムチャレンジ観戦者

え?んなことある?

 

711 フラゲ民

たまにそういう人がいる。ダイマックスがこうやって公で使われるようになったって言っても、まだまだわからないことが多い現象や。だからマグノリア博士とか研究を続けてるんやで。

 

712 名無しのジムチャレンジ観戦者

ワイも使えん。結構確率低いらしいんやけど、たまにダイマックスのエネルギーが合わないトレーナーがいるみたいなんや。これ、ポケモンじゃなくてトレーナーに関係してるらしい。詳しくはマグノリア博士の論文読んでくれや。

 

713 名無しのジムチャレンジ観戦者

ちな、使えないトレーナーは海外出身者が多いらしいで。ショウちゃんの両親はカントー出身らしいからそれが関係しとんのかも。

 

714 名無しのジムチャレンジ観戦者

へ〜。サンクス。勉強になったわ。

 

715 ショウちゃんファン一号

ショウちゃんも似たようなこと話してるね。

そっか、使えなかったのか……。

 

716 名無しのジムチャレンジ観戦者

キョダイマックスできるポケモンもいればただのダイマックスになるポケモンもおるし、トレーナーに合う合わないなんてあるんやなあ。ポケモンって奥が深い。

 

717 名無しのジムチャレンジ観戦者

ダイマックスはできるっぽいんよ。けどポケモンが野生のポケモンみたいに暴れちゃうから実戦では使えないんだとか。

 

718 名無しのジムチャレンジ観戦者

ワイルドエリアの巣穴の奥にいるポケモンみたいにってことか。そりゃあ使えないわ。

 

719 名無しのジムチャレンジ観戦者

Q「ショウさんのポケモンパーティー、見覚えがあるのですが」

ショウちゃん「御察しの通り、カントー元チャンピオンのレッドさんのパーティーを参考にしています。昔見たグリーンさんとのエキシビジョンマッチが忘れられなくて。尊敬するトレーナーです」

 

720 名無しのジムチャレンジ観戦者

まあ、パーティー的にそうなんじゃないかとは言われてた。最後のポケモンの予想もリザードンが多かったし。

 

721 フラゲ民

あとはラプラスとロトムだったな。前者はレッドのパーティーにいたことがある。ロトムはショウちゃんのインタビュー記事から。

 

722 名無しのジムチャレンジ観戦者

ショウちゃんこの後どうするんやろうか。

 

723 ショウちゃんファン一号

普通に考えればどっかのマイナーリーグのジムリーダー。チャンピオンを後一歩まで追い詰めたんだからマイナーリーグの成績下位と変わるのが通年の決まりかな。そこら辺はチャレンジャーの意思を確認してだけど。

 

724 名無しのジムチャレンジ観戦者

ジムリになったら応援するわ。グッズも買う。

 

725 名無しのジムチャレンジ観戦者

話題性も抜群だしなるんじゃない?どのタイプのジムかはわからんけど。

 

726 名無しのジムチャレンジ観戦者

あ、インタビュー終わった。ダイマックス使えないってことで結構時間使ってたか。

 

727 名無しのジムチャレンジ観戦者

この後ダンデとキバナかぁ。いつもの組み合わせやな。

 

728 名無しのジムチャレンジ観戦者

ダンデェ!ショウちゃんに勝ったんだから勝てよ‼︎

 

729 キバナ様最推し

純粋にキバナ様を応援しているファンだっているんですよ⁉︎

 

730 名無しのジムチャレンジ観戦者

ショウちゃんっていう強者が出てきたんやから、ダンデは一層気を抜かんやろうし。風呂入ってくるわ。

 

731 名無しのジムチャレンジ観戦者

うーん、このスレ民の反応。いつも通りやね。

 

732 名無しのジムチャレンジ観戦者

伊達や酔狂で公式戦無敗記録保持者七年やってるわけじゃないんだよなあ、ダンデって。

 

 

 

 素晴らしい準決勝第二試合が終わって。

 その興奮覚めやまぬまま、決勝へのボルテージが上がっていく。

 そんなシュートスタジアムの関係者専用通路で、一人のスーツを着たおじさんが拍手をして敗者を出迎えた。

 彼は既に通路に人払いを施している。

 

「いやいや、素晴らしい八百長試合でした。その泣きの演技も自然となると、女優を目指すべきでは?」

 

「ありがとうございます。でもそんな無駄なことに時間をかけるつもりはありません。ジムリーダーの件は?」

 

「恙無く、申請を受けていますよ。ファイナルトーナメントが始まってすぐ電話をくれました。マイナーリーグで停滞していたでんきタイプのリーダーが一人引退します。その後釜を任せます」

 

 先程まで涙ながらにインタビューを受けていたはずの少女は既に現実的な顔をしている。ローズ委員長の言葉に少女は嬉しそうに笑う。

 ようやく計画のスタートラインに立てたと。

 

「しかしダンデくんをあそこまで追い詰めたのは見ていてハラハラしましたよ。カビゴンは少し暴れすぎでは?」

 

「あれでもカビゴンはまだひんしになっていませんよ?ウチのポケモンもみんな演技が上手で嬉しいです。……ダンデさんには強くなってもらわなければ困ります。最低でもレッドさんくらいに。同じチャンピオンなんですから、あの高みを目指してもらわないと。わたし達の計画のためにも。そのために発破をかけただけですよ」

 

「そうですね。その懸念は正しいです。ダンデくんは間違いなくガラル最強のトレーナーですが、他の地方、特にレッドくんと比べると見劣りしてしまっても仕方ありません。いえ、レッドくんが強すぎるだけだと思いますけどね?」

 

 悪い顔をした人間が二人。

 だが二人は悪巧みをしているわけではない。

 片方はガラルの未来を案じて。もう片方は自分の望みを叶えるついでにガラルを救うだけ。

 そのために彼女は踏み台になろうとしていた。

 

「願い星はあとどれだけで足りるんですか?」

 

「三〜五年、といったところでしょうか。もう少し願い星を採掘できれば最短で三年。これは今年のあなたの活躍も加味しての推測数値です。ガラルにもう願い星が埋まっていなければ、五年はかかるでしょう」

 

「そんなに待っていられません。三年ですら長いと思います」

 

「急ぎすぎてはダメですよ。我々はブラックナイトでガラルを滅ぼすわけにはいかないのですから」

 

「わかっています。けれど、他に目ぼしいトレーナーがいれば鍛えても良いでしょう?スペアは必要です」

 

「それはもう。目星は付いているのですか?」

 

 そう聞かれて、少女は少し考える。

 ジムチャレンジの同期はなし。今のメジャージムリーダーもダンデに追い縋れるのはタイプ相性を除けばキバナただ一人。

 これはタイプ相性だとかそんなことが問題なのではない。要はトレーナーとしての資質の話だ。

 

「今のところはいないです。わたしだって完璧ではありませんし、マイナーリーグのことは全然知りませんから。ただ停滞しているだけの逸材もいるかもしれませんし、まだジムチャレンジに参加できない天才もいるかもしれません。……ああ、一人いました。ビート君は素質ありです」

 

「ビートくん?」

 

「……委員長の孤児院の男の子ですよ。ミブリムを与えた八歳の子です」

 

「……ああ、彼ですか!彼に素質があるなら鍛えてみますか?」

 

「そうですね。ジムトレーナー見習いとしてわたしの元で教育してみましょうか。そういう方向性で話を進めてください」

 

「オリーヴに頼んでおきますね」

 

 秘密の話はここまで。

 ここからはリーグ委員長と、未来有望なジムチャレンジャーの会話だ。

 

「ファイナルトーナメントに進んだチャレンジャーは私と一緒に特別観覧席で決勝戦を見ることになっていますが、一緒にどうですか?」

 

「是非。推薦状を書いていただいた時点で断れませんよ」

 

 そうして二人並んで決勝戦を見る。

 ダンデの勝ちが分かりきった試合を、誰もが見破れない完璧な笑顔を貼り付けてニコニコと見続けていた。

 



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でんき(?)ジム結成

 ショウがガラルに来てローズ委員長と戸籍の偽装などを済ませて、アリバイ作りのために孤児院にも顔を出し。願い星も手に入れてジムチャレンジに参加することにしてから、ローズ委員長とその秘書オリーヴと入念な打ち合わせをした。

 ジム巡りをどれだけの期間で終わらせるか。使用ポケモン。どれだけの話題を生み出すか。最終的な結果は。公開する情報にその後の着地点など、齟齬が出ないように「ガラルのショウ」を作り上げる。

 

 そうして作り上げたのが「キバナに追い縋る速度でジムチャレンジを駆け上がった天才少女。才能がある子ならば順路ではなく、ワイルドエリアを探索した方が良いという事例の提唱。セミファイナルをぶっちぎりで勝ち上がり、チャンピオンに惜敗するアイドルのような少女」だった。

 ショウも同調したローズ委員長の願い星を集める、ジムチャレンジを盛り上げる、ブラックナイトを引き起こすという目的に最も力になれることがショウのジムリーダー抜擢。

 

 ダンデの時のようなジムリーダー達へ与える起爆剤になって欲しかったとローズは言った。今はダンデ一強時代で、そのダンデに続こうとするジムリーダーも出てきたが停滞気味である現在。

 ダンデに匹敵する存在を投入してジムリーダーへ意識改革を施そうとしていた。そしてダンデ本人にもその地位が盤石ではないのだと知らしめる意味もあった。

 更にダンデとの白熱した試合を見せれば僕も私もああなりたいと子供達へ憧憬を燃やせると考えた。そこからダンデを超える者が現れても良い。

 

 

 計画に必要な存在は、最強のポケモントレーナーだ。

 

 

 憧れを抱く対象として、容姿が整った過去に悲惨なストーリーがある受け答えの良い天然気味なバトルに強くガラル愛に満ちた少女というのは舞台装置としてとても優秀だった。

 ローズ委員長の計画を加速するにはうってつけの人材がショウだった。本当に唯一の欠点が残念で、それだけのためにこんな迂遠な手段を講じる羽目になったが、ショウがいるのといないのでは計画の進み方が全く異なる。

 

 ショウはジムチャレンジでも見事に「ローズ委員長の忠実な駒」を演じ切り、晴れてでんきタイプのジムリーダーになった。これで準備は整った。

 後はメジャーリーグのジムリーダーとして適度にジムリーダー達と成績を調整して来たる日に備えること。そのために公式戦では本気でダンデだろうが潰しにいくこともあれば、後進の育成にも余念がなかった。

 

 今は公募で集めたジムトレーナー候補をチェックしていた。ジムリーダーごとにジムトレーナーの任命権があり、同じタイプのジムを引き継いだからといって前から在籍していたジムトレーナーを起用しなくてはならないという制約はない。

 なのでショウは自分の目でトレーナーを決めようとしていた。腕に自信のある者、前からジムトレーナーだった者、ただのショウのファン。

 

 ショウはでんきジムのリーダーながら使用ポケモンについてはでんきという制限をつけなかった。ショウがダンデ戦でバランスの良いパーティーを見せたことでそんな縛りをつけなかった。

 ジムバッジの保有数も制限を決めなかった。在野の埋れた才能が一つでも手に入れば良いと思っていたからだ。

 ショウは応募の余りの多さに辟易としていた。一人一人チェックしていたが、正直酷い有様だった。

 

(ええ……?この人、本当にジムバッジ三つも持ってるの?カブさんに勝ったの?どうやって?)

 

 経歴が書かれた書類を見ながらポケモンバトルを見ているが、良さそうと思った人はいなかった。ポケモンもトレーナーの質も低く、ヒスイの頃に捕まえたレントラーで様子を見ているが誰も決定打を入れられない。

 『こうそくいどう』をさせたわけでもない、ただのオヤブンレントラーだ。レントラーは攻撃しないように指示を出しているのでただ避け続けるだけだが、誰も攻撃を掠らせることすらできない。

 

 試験内容を誤ったか、とさえ思った。

 でんきタイプのポケモンは総じてすばやさが高いポケモンが多い。オヤブン個体とはいえレントラーはメジャー・マイナー問わずジムリーダーなら一撃を与えるくらいはできるレベルだ。

 タイプ不問とは言ったものの、でんきジムの試験なのだからでんきポケモンに関する試験だと考えなかったのか。正直『じしん』のような範囲技を使われたらレントラーが本能で察して壁を走るようなことをしない限り課題はクリアとなる。

 

 今の所、誰もじめんタイプのポケモンを使ってこないし、『じしん』のような大技も使ってこない。

 そのためレントラーは鼻歌交じりに攻撃技を避けていた。レントラーもショウはちょっと育てたものの、本格的なバトルはさせていない。

 ヒスイが魔境すぎたかと反省するショウ。

 

「ビート君。あなたはこの試験どう思います?」

 

「酷い試験だなと思います。出すショウ姉さんも、受けに来る人も。一撃を当てるだけならできそうに見える試験ですが、あのレントラーは凄く強く見えます。だからって受けに来る人は弱い。ジムトレーナーに応募して来たにしては、あまりにも」

 

 まだ八歳のビートはそう断言した。レントラーの評価には疑問を覚えたが、回答の後半は頷けた。

 ジムトレーナーの募集なのだから、せめてセミファイナルを戦った同期くらいの実力者ばかりなのだと思っていた。蓋を開けてみれば同期が優秀だったとわかる有様を数時間見せられる始末。

 ジムトレーナーとなればジムチャレンジの際にチャレンジャーとバトルをしてもらうことはもちろん、ジムの整備やポケモン塾などのイベントも一緒に運営してもらわなくてはならない総合職だ。

 

 先達として示さなければならないバトルの腕とトレーナーとしての才能。それが劣っている人をチャレンジャーや子供に見本として前に出すわけにはいかない。

 これはショウにとって誤算だったことだが、ジムトレーナーは給料も良く、ジムリーダーやチャンピオンに次ぐ花形の職業だ。ポケモンリーグが興行化してしまっているガラルではショウの知識にあるシンオウ地方とは人気度合いが異なる。

 

 そんな憧れの職業に、条件がゆるゆるな応募があったら誰もが飛びつくというもの。しかもそこのジムリーダーが今話題のショウともなれば応募が殺到するのは目に見えていた。

 これはある意味、ショウの自業自得だ。

 結局全員の実力を見切れたのは三日後。むしろたった三日で捌けたのかとローズ委員長は感心していた。書類作業を手伝っていたビートは倒れた。

 ショウはジムトレーナーを三人に絞り込む。結局同期のセミファイナルに残った三人だった。

 

(うん、まあ。良いでしょう。実力的にも知識面も問題なし。それに……セイボリーさんとクララさんは収穫だった。あの二人はエスパーと毒に専念させた方が強くなる。才能だけならピカイチだったけど、でんきタイプには向かないな。わたしの名前で他のジムに推薦してみようか?)

 

 そう思って二人とは面談をした。

 セイボリーはその提案を断り、彼はヨロイ島に行って修行することにした。その決断をショウは否定しない。

 彼はショウがエーフィーを使っていたために興味を持って受けに来たという。だがエスパージムはどうやら家族が関係しているようで、そこに戻る気はないとか。良い修行場所はないかと聞かれたのでショウはヨロイ島を答えただけ。

 

 もっと過酷な場所がガラルにはあるが、そこはショウやローズ委員長がちょっとした用事があったので教えなかった。

 セイボリーには激励の意味も込めてとあるポケモンを進呈した。アローラ地方で捕まえたでんき・エスパータイプのポケモンだ。珍しくて思わず捕まえてしまったが、バトルで使うわけでもなかったのでセイボリーに譲ることにした。

 

 彼は必ずジムリーダーになってみせますと言って出立した。それを期待しながらショウも見送る。

 

 逆にクララはどうしてもこのジムで修行したいと言ってきた。どうやら他のジムを逃げ出してきたようで、どくジムでは受け入れてもらえないだろうとのこと。

 そんな逃げ出した過去があるものの、ショウの試合を見てもう一度一念発起したという。それを聞いて、ショウは言葉を繰り出す。

 

「なるほど。わかりました。そういった事情であれば、ジムトレーナー補佐として雇うことは可能です」

 

「ほ、本当ですかァ?」

 

「はい。ただし、あなたをわたしはでんきジムのジムトレーナーとして一切鍛えません。あなたがでんきタイプのポケモンを持つことを禁止します」

 

「え……?」

 

 ショウの言葉の意味がわからなかったのか、クララは困惑を隠せない。

 条件はタイプ不問だったが、一応でんきジムなのだ。そこででんきタイプのポケモンを持てないとはどういうことか。

 

「単純な話です。あなたは自分の才能がどくタイプだと思った。わたしもそう思います。だからでんきタイプのエリートとして育てるより、あなたはあなたのスタイルを極めた方が伸びるでしょう。ですので、あなたにはジムの雑用をしていただきながらどくタイプを極める、契約社員の補佐としての道を進めます」

 

 ショウは一枚の紙を取り出してクララに渡す。

 ジムトレーナーの仕事内容と給料。それと比較するようなトレーナー補佐の業務内容と給料、契約の差が書かれた書類だった。

 

「お給料も正規のトレーナーよりも低くなってしまいます。わたしはあなたが大成するまで契約を切るつもりはありませんが、正規に雇ったトレーナーは全員あなたよりも年下です。そういう職場で良ければ、あなたを鍛えますよ」

 

「い、良いのォ?」

 

「そこに書かれている内容に不満がなければ問題ありません。わたしもフシギバナを使う関係でどくタイプにもある程度明るいですし。お力になれると思いますよ?」

 

 彼女が結果として計画の一部になれば良いとショウは打算を働かせただけだ。正規で雇ったトレーナーよりも才能がありそうなのに、こんなところで埋もれるのはもったいないと感じただけ。

 そんな彼女との契約を、クララはすることとなる。

 その日からショウはジムの雑事を正規トレーナーに任せてクララとビートを鍛えることになる。正規トレーナー三人も育てることは育てたが、上限があまりにも早く訪れたのでまだ伸び代がある二人の育成にシフト。

 

 正規トレーナーにはでんきポケモンを使えるように訓練をさせて、クララとビートには得意なポケモンを使わせた。

 なお、クララとビートの相性はあまり良くなかった。

 ビートは年下ながらクララを敬語で貶すし、そんな生意気な年下がクララは気に入らない。それでも二人とも強くなるためにお互いに文句を言いながらもショウの訓練に根気よく励んだ。

 

 その間に二人はショウに自分の境遇を少しずつ話す。

 ビートは両親と不仲になり、そこでローズ委員長に拾われたこと。そのためローズ委員長の力になるべく、ジムチャレンジに参加できるようになったら参加してチャンピオンになるということ。

 そのために、ダンデをあと一歩まで追い込んだショウの元で修行するのは勉強になるということ。ビートは件のジムチャレンジ以降からショウのことを尊敬して姉さんと呼ぶようになった。

 

 クララは初め、その可愛さからアイドルになろうと思っていたが、デビューしたまでは良いものの初CDは八枚しか売れなかったらしい。もっと売るならスタイルの良い身体を強調して売るように促されたためにアイドルを辞めたとのこと。

 ショウとビートはその曲を聴いてみる。タイトルは『クララにクラクラァ』。

 

「うぇ……。何ですか、この毒々しい曲。あなた、アイドルって言葉知ってます?偶像ですよ、偶像。これのどこに夢を抱けと?まだショウ姉さんがアイドルをやった方が億倍マシですよ」

 

「ビートきゅんひどくね⁉︎」

 

「わたしはアイドルなんてやりませんよ。ルリナさんのように二足の草鞋を履くのは無理です。……うーん……。でも八枚は幾ら何でも少なすぎでは?クララさんの容姿も含めてちゃんと宣伝していれば四桁は売れても良いような……。ネズさんとは方向性が異なりますけど、こういうアイドルもありじゃないですか?需要なんてどう変化するのかわかりませんし。ただプロデューサーがやっつけ仕事しただけのような……」

 

「ショウちゃん大好きィー!」

 

 ビートとショウがそれぞれ感想を言うと、クララはショウのことを抱きしめた。ショウの顔がクララの豊満な胸に収まるのを見てビートはサッと顔を逸らす。

 マセていても男の子だからね。

 そんな交流をしていく中で、クララがショウにある疑問をぶつける。

 

「そういえばショウちゃんってどうやって強くなったんですかァ?ジムチャレンジ中にワイルドエリアを蹂躙してたってネットで見ましたけどォ」

 

「気になりますか?なら気分転換も兼ねて体験ツアーをしてみましょうか。わたしの順位戦の日以外はワイルドエリアに篭りましょう」

 

「「え?」」

 

 というわけでジムリーダーとしての公式戦がある日以外は一ヶ月、全員でワイルドエリアで寝泊まりすることになった。まだジムリーダーになりたてだったので公式戦以外の仕事がないのだ。

 ワイルドエリアに着いてすぐ。ショウはピカチュウを繰り出してポケモンがいそうな場所へ『かみなり』を指示。それに驚いた好戦的なポケモン達が一斉に群がってくる。

 

「はい、迎撃」

 

「嘘でしょォ⁉︎マジヤバイってェ!や、ヤドラン!」

 

「ふ。こんな過酷な特訓を一人でしていたとは。さすがショウ姉さんです。行きなさい、テブリム!」

 

「ほら皆さんも。ビート君も頑張っていますよ」

 

「こんなことやってたら俺らの世代でぶっちぎりなのもわかるよ!」

 

 まだ幼いビートが果敢に攻め込んだのでそれに負けじとジムトレーナー達もポケモンを繰り出して迎撃する。

 ビートはローズ委員長に貰ったミブリムを既に進化させており、八歳にしては規格外の強さをしていた。

 ポケモンの群れが迎撃された後は、ショウがある物を見付ける。

 

「あそこにダイマックスエネルギーが溜まっていますね。巣の奥にダイマックスポケモンがいますよ。行きましょうか」

 

「今すぐに?」

 

「もちろんです。弱ったポケモンでどうやって格上の相手と戦うか。味方のポケモンとどうやって連携を取るか。格上とのバトルやダブルバトルの訓練としてこれ以上ない状況ですよ」

 

「……もしかしてショウちゃん、チャレンジャーの時も巣穴で二匹だけ使ってポケモンの育成したりしてたのォ?」

 

「はい。誰かが既に戦っていなければ、ダブルバトルで倒してましたね」

 

 ワイルドエリアの巣穴は複数人で入ることを推奨されている。罷り間違っても単独で攻めるような場所ではない。無茶をする人がいないか、常時リーグ委員が巡回をしている。

 特にジムチャレンジ中は多くのリーグ委員が見張っているが、そこはローズ委員長と共犯者であるショウ。許可証という絶対のお触れを持って一人で強行突破していた。

 

 ワイルドエリアのポケモンはただでさえ強いが、巣穴のポケモンはその上を行く。ポケモンの体力もそうだが、ダイマックス技をなんども放ってくるダイマックスポケモンは不思議なバリアにも守られているので攻撃が通りにくい。

 そんな巣穴のポケモンをチャレンジャーの時に蹂躙していたショウに、ビート以外が戦慄する。ビートは巣穴のポケモンを見たことがなかったので実感が薄かった。

 

 ヒスイを経験したショウからすれば純白の凍土には劣るレベルのポケモンしかおらず、たまにオヤブンポケモンレベルのポケモンが巣穴にいるくらい。この世界に来てから育て始めたポケモンでも余裕で勝てた。

 ショウはレッドに一度負けてから、世界を巡るためにこの世界のポケモンをきちんと育てた。この世界のポケモンで、レッドのパーティーとミラーマッチをしても勝てるくらいには。

 

 ローズ委員長とピチューでバトルをしたとか、ワイルドエリアでゴンベとイーブイを捕まえたとかは嘘だ。既にパーティーは完成していて、キバナの記録を抜かないように時間調整をしていただけ。

 ショウにとってジムチャレンジはガラル旅行でしかなかった。

 だからクララに説明したことは建前だ。

 

 でも修行としては良さそうだと思ってやらせることにした。

 巣穴のポケモンの相手をショウは手を出さずに見守り、五人に全部を任せた。公式戦がある日は休日として、ショウはマイナーリーグの順位戦を勝率九割という成績で駆け上がり、そのまま昇格戦に挑む。

 今年のメジャーリーグ降格候補は二人。ショウはその二人に圧勝し、メジャーリーグジムリーダーになった。

 

「というわけで皆さんメジャーリーグのジムトレーナーなので、来年のジムチャレンジで働いていただきます。これからメジャーでの順位戦に挑んでくるのでその結果次第で引越しになります。覚悟、しておいてくださいね?」

 

 そしてショウは序盤でキバナとネズにあっさりと負けたことで順位は七位。務めるタイプの関係もありショウは四番目のラテラルタウン配属になった。

 誤算だったのはショウの人気が出すぎてしまい、CM撮影やらファッション誌のモデルやらをやらなくてはならなくなってしまったこと。

 

「まあ、予想はしていましたけどね。でもこれでチャレンジャーが増えるのは良いことなので諦めてください」

 

「ある程度は調整してくださいよ?あんまり姿を見せると、シンオウ地方で何かを勘繰られるのは嫌ですから」

 

「ええ。私もアルセウスなる存在に邪魔をされるのは嫌です。どこまでそのポケモンの目が届くかはわかりませんが……。シンオウ地方への情報流出は控えますよ」

 

 そんな大人の取引があった。

 



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ポケモン配布

 ショウはジムリーダーに就任してすぐメジャーリーグに昇格するというキバナやルリナが為した偉業に続き、ジムチャレンジの四番目のジムであるラテラルタウンのジムを任されていた。

 メジャーリーグの順位は七位だったのにジムチャレンジの順番では四番目というのは理由がある。八人の中での順位がどうであっても、最初から三番目のジムの順番はほぼ固定だ。

 

 くさタイプのヤロー、みずタイプのルリナ、ほのおタイプのカブ。この三人が一番目から三番目を担当する。これは純粋にタイプの問題もあった。基本のタイプはこの三つにノーマルが加わった四つとされている。

 つまりジムチャレンジャーにとってもこの四タイプなら育てやすく勝ち上がりやすいのだ。この四タイプがメジャーリーグにいる場合順番はほぼ固定になる。

 

 最初にドラゴンタイプやあくタイプを配置しても、誰もが相性的に勝てなくなるだけ。ならば対応できるポケモンが最初の順路で捕まえやすいこの四タイプを先頭に持ってくることがガラルでは常識になっていた。

 後の順番はメジャーリーグの順番通り。ショウはこのルールに従って四番目のジムを任されていた。

 最初から順位戦で暴れて一位や二位になると目立ちすぎる。だから最初の順位戦では手を抜きまくった。七位となると来年もマイナーリーグの人と昇級戦をしなくてはならないが、これは必要経費だと割り切っていた。

 

 今年は順位戦で暴れると決めていたために。

 ラテラルタウンの周辺はスナヘビやダグトリオなどのじめんタイプのポケモンが出るためにでんきジムはクリアしやすいだろうとネットでは話題になる。だが、ショウの目的はトレーナーを育てること。

 直前に捕まえたポケモンを使うだけで勝てる優しいジムにするつもりはなかった。

 ジムチャレンジ用のジムミッションも完成させて、開会式に向かう前に。ビートへ質問をしていた。

 

「ビート君。あなたはジムチャレンジ中どうしますか?最初の内はチャレンジャーがいなくて暇でしょうが、チャレンジャーが到着してしまえばわたしも忙しいですよ?」

 

「将来の予習のために見学させてもらいます。僕はショウ姉さんを超えてチャンピオンになる男ですから」

 

「そうですか。ならご自由に」

 

 開会式を終えて一ヶ月半。

 ようやくショウのところにジムチャレンジャーがやってきた。例年の平均を考えれば十分に速いペースだ。

 そんなジムチャレンジャーに、一人目ということもあってショウが直接説明を始める。

 

「ようこそ、サイトウさん。あなたが初めてのわたしのジム到達者です。なのでわたしがジムミッションについて説明しますね」

 

「はい!お願いします!」

 

 サイトウという少女は褐色肌で良く鍛えている少女だった。ラテラル空手なるものの上級者なのだとか。

 その少女のポケモンの才能も確かだとわかって、ショウは舌舐めずりをする。

 

「最初のターフタウンではポケモンの習性を思考するミッション。バウタウンではトレーナーの脳の柔らかさを試すミッション。エンジンシティではトレーナーとしての基礎である捕獲とバトルについて試されたと思います。そして、五番目のジムではトレーナーの人間性が試されます。では、四番目のジムのここではどのようなことが試されるでしょうか?」

 

「ええと、ポケモンやガラルの歴史などでしょうか?このラテラルタウンは遺跡で有名なので」

 

「なるほど。街の特徴を捉えた答えですね。ですが不正解です。わたしはラテラルタウンからすれば余所者ですので、歴史を問うつもりはありません。歴史を勉強してもバトルは強くなれませんからね」

 

 ショウは歴史を勉強したが、それがポケモントレーナーとして糧になるかと問われればNoと真っ先に否定するだろう。そもそも彼女が歴史を調べたのはトレーナーとしてではない。

 ジムチャレンジはあくまでチャレンジャーのトレーナーとしての素質を確かめるだけのこと。

 五番目が人間性。六番目がトレーナーとしての直感。七番目が精神的な忍耐力。八番目がダブルバトルの才能。

 

 他のジムミッションと被らないようにショウはジムリーダー達から話を聞いていた。去年体験したこともあって、ショウは一つ思った。

 トレーナーのことに偏りすぎではないかと。

 

 ポケモンのことを考えるのは最初のターフタウンだけ。しかもそれだってウールーをワンパチから避けてゴールへ追いやるという羊飼いの真似事をするだけだ。ワンパチはジムトレーナーをバトルで倒せば止めてくれるので、バトルが強ければなんとかなってしまうもの。

 もちろんショウもジムトレーナーをさっさと倒してゆっくりとウールーを誘導した。最初のジムはそんなくらいで突破できてしまうのだ。

 だからショウは、ポケモンについて答えさせると決めていた。

 

「わたしのジムは簡単です。ポプラさんとちょっと被ってしまいますが、なんてことのないポケモンに関するクイズですよ。不正解になっても大丈夫です。その場合はジムトレーナーとバトルして勝っていただければ正解ということにします。全問不正解だと悲しいですけど、結果として知識を蓄えてくれれば良いですから。というわけで第一問です」

 

 クララがチャレンジャーにホワイトボードとマジックペンを渡す。クララのジムチャレンジ中のお仕事はこれになる。

 

「むし・エスパータイプのイオルブ。このポケモンに対して効果がいまひとつになるタイプを四つ答えてください」

 

「でんきタイプじゃない⁉︎」

 

 サイトウが叫ぶものの、これはタイプ相性の問題なのでそこまで難しくなかった。しっかりとくさ、じめん、エスパー、かくとうと書き込んだのでショウは赤い札でできた丸の棒を上げる。

 

「はい、正解です。第一問はこのくらいの難易度です。たまにタイプ相性も曖昧なままの人がいるので、そのふるい落としですね。では第二問。かくとうタイプのバルキー。このポケモンは三種類の進化が確認されています。この三匹とは?」

 

 これは得意分野だったのか、サイトウはすぐにサワムラー、エビワラー、カポエラーを書き込んだ。もう一度ショウは丸の札を上げる。

 

「これまた正解です。進化条件が異なり、どういった条件で進化するのか、それを知っておくこともトレーナーとして求められることです。では第三問。他の地方とは違う姿が確認されているガラル地方のニャース。このポケモンは進化するとニャイキングになりますが、では通常のニャースは進化したらどんなポケモンになるでしょうか?」

 

「えっ⁉︎」

 

 これにはガラルから出たことがなかったサイトウは困惑する。

 制限時間の一分が過ぎる前に、サイトウは項垂れて言葉を紡ぐ。

 

「わかりません……」

 

「正解はペルシアンですね。ちなみにタイプは普通のニャースと同じノーマルタイプですよ。サイトウさん、世界は何もガラルだけではありません。ポケモンも様々な地方にいて、様々な姿に適応しています。ガラルだけに留まらず、世界にも目を向けてみてください。もしかしたらあなたの気に入るポケモンも世界にはいるかもしれませんよ?」

 

 ショウなりのアドバイスをした後、不正解だったのでジムトレーナーとバトルをしてもらう。だがサイトウはジムチャレンジ用に調整されたでんきポケモンを一蹴していた。

 その実力に、伸び代に。ショウはまたも逸材を見付けたと喜ぶ。

 彼女が使ったポケモンを見て、こっそり手持ちのポケモンを変えていた。彼女の不利にならないように、フェイバリットポケモンを外す。

 

「はい、ジムミッションクリアです。では準備ができたら奥のスタジアムへ来てください」

 

 スタジアムは満員だった。ショウが初めてジムチャレンジの相手をすること。相手がジム巡りで今年最速を叩き出しているサイトウであること。これらのことから観客が多かった。

 通常のジムチャレンジではカブのところでほとんどのチャレンジャーが足止めを受ける。ミッション自体はそうでもないのだが、カブが強過ぎるのだ。ちゃんと有利タイプのポケモンを育てていても、状態異常であるやけどにされて追い詰められるというのはよく見る光景だ。

 

 カブでチャレンジャーの過半数が脱落するという。そんな最初の関門なのだ。

 そのカブを乗り越えた優秀なチャレンジャーを見たいと、四番目のジムは結構観客が来る。そこまで大きくないスタジアムが満員になるほど。立ち見客もいた。

 ショウがジムリーダーとしての公式戦で使ったでんきタイプはピカチュウだけ。ジムチャレンジでは流石にタイプバラバラにしないだろうという信頼があったために誰もがどんなポケモンを繰り出すのか楽しみにしていた。

 ジムチャレンジだろうが天候変化のためにコータスを使うキバナとは違うのだ。

 

「行って、カポエラー!」

 

「出番だよ、フロストロトム!」

 

 サイトウが出したのは逆さになって頭で回転をしているかくとうポケモンのカポエラー。対するショウが出したのはロトムのフォルムチェンジ、でんき・こおりタイプになった冷凍庫の形をしたロトムだった。

 そのロトムはかくとうタイプに効果が抜群だったのであっさりと倒されてしまう。その次にショウが繰り出したのは。

 

「頑張って、ヒートロトム!」

 

 今度はでんき・ほのおタイプになったロトム。

 これには観客もサイトウも全てを察する。サイトウは新しくジムリーダーになったショウについてはかなり情報を仕入れて来たのだ。

 このジムチャレンジで使う四匹のポケモンは全てロトムではないかと。

 

 そしてその予想は当たっていた。

 出されたポケモンは全て、フォルムが違うもののロトムだけだった。

 

 

 サイトウちゃんと勝負が終わってでんきバッジを渡して。

 試合後の握手が終わると渡したいものがあるからとジムリーダーの控え室に彼女を呼び出した。

 部屋の中にはわたしとサイトウちゃんしかいない。ビート君やクララさんも入れることはしなかった。サイトウちゃんはどうして呼ばれたのかわからないようだ。

 

「まずはこれ、わざマシンね。80の『ボルトチェンジ』。それと決まりででんきジムのユニフォームのレプリカ。恥ずかしいけど規約だから」

 

 本当に恥ずかしいけど、ファンを増やすための先行投資なんだとか。わざマシンは有用なものだから良しとしよう。

 これまでもこれらの物を貰ってきたようで迷いもなく受け取ってくれる。ファンの子だと推しのタイプのユニフォームを着てくれるけど、わたしはでんきもゴーストもメジャーにいなかったから最初のユニフォームのままだった。

 

 これで渡す物は本来終わりなんだけど、これだけならわざわざ個室に呼ぶことはない。これからすることは一方的な贔屓だ。

 彼女の前に赤とぼんぐり色をした古めかしいモンスターボールを置く。

 

 この実際に使える百年近く前のモンスターボールだけで実はかなり希少価値があるらしい。興味本位でネットオークションなどを見たけど、使えない壊れたモンスターボールで五億くらいの値段が付いていた。

 誰かにあげる以外に見せる気をなくした瞬間だった。

 サイトウちゃんは目の前に出されたモンスターボールの意味がわからずに首を傾げている。

 

「激励の印です。そのポケモン、鍛えて是非ファイナルトーナメントで戦いましょう」

 

「え?えっと……。ポケモン、ですか?」

 

「はい。ジムリーダーが一人のチャレンジャーに肩入れをするのはダメなんですけど、あなたならこの子を立派に鍛えられると思ったので。わたしの手持ちはほぼ固定されています。なのでこの子に世界を教えてくれると嬉しいです」

 

 サイトウちゃんは中のポケモンを見る。そこに入っていたポケモンを知らなかったのだろう。もう一度首を傾げていた。

 

「あの。この子くさタイプでは……?」

 

「はい。くさ・ひこうタイプですね」

 

「わたし、かくとうタイプ専門というか……。一番相性の良いタイプはかくとうだと思っています」

 

「ふふ。パーティーを見ればわかります。騙されたと思ってついでで育ててくれればいいんですよ。きっと驚きますから」

 

 サイトウちゃんは断るのも失礼だと思ったのか、ポケモンを受け取ってくれる。驚いてくれると思うけど、そこまで育ててくれるかどうか。

 あなたがダンデを超えるか、強くなったあなたをダンデが負かすのか。楽しみに待ちましょう。手加減した試合よりも、同レベルの真剣勝負の方が経験値としては上でしょうから。

 

「わたし、ラテラルタウン出身なんです。去年のジムチャレンジを見て純粋にショウさんのことを尊敬しました。そんなあなたがこの街のジムリーダーを務めていて、こうして期待していただけている。……この子を託す意味まではわかりませんが、期待を裏切りたくありません」

 

「こちらが勝手に期待しているだけですから。ただあなたはその子とも一緒に旅を楽しんでください。期待なんて重いだけですよ」

 

 本当に。そんな余分なモノを自覚したら息苦しくなるだけ。

 わたしはサイトウちゃんにそれほど期待していない。ただわたしは不完全な存在だから可能性があるなら賭けてみたいだけ。

 ヒスイから送り込まれて。どんな可能性にだって縋り付きたいだけの諦めの悪い人間。それがわたしだ。

 

 この半月後。サイトウちゃんと同じくらいの才能を持ったオニオン君がチャレンジャーとしてやってきた。なので彼にもジム戦の後にとあるほのおタイプのポケモンを譲った。

 サイトウちゃんと同じような反応をされたけどゴリ押しで預けた。

 さて、二人はセミファイナルまでに二匹を育てることができるだろうか。楽しみだ。

 



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あく兄妹へのプレゼント

感想欄が鋭すぎるんよ…。


 ジムチャレンジは順調に日程を消化していった。メジャーリーグのジムリーダーはジム巡りの期間ジムチャレンジにかかりきりになる。これはショウも変わりなく、全てのジムを期間内に巡りきれないにとしても各ジムに最後まで挑戦するチャレンジャーもいた。

 最終的なジムバッジの獲得数がその後の人生を左右すると言われ、最後の日まで死に物狂いでジムリーダーに挑戦してくる者もいる。ジムチャレンジに年齢制限などなく、推薦状さえあれば何回でもチャレンジに参加できるので就活のために最後まで頑張るチャレンジャーは多い。

 

 ショウからすればこの制限しきった手持ちを倒せない人にどんな優遇があるのだろうと真剣に悩んでしまう。

 そもそもこの四番目のジムに辿り着いている時点でチャレンジャーの半数よりは上位だということをショウは気付いていない。

 しかも今年はショウの効果で参加人数も多く、トレーナーの質も良くなっていた。それでもショウは四番目のジム相応のレベルのロトムしか使っていないので疑問は深まるばかり。

 

 ジムミッションをクリアできるものの、ショウには勝てない。そんな五十回ほどショウに挑んできた男性を返り討ちにしてジム巡りの期間は終了。これからセミファイナルトーナメントを進める間にマイナーリーグの順位戦が始まる。

 その間にメジャージムリーダーは休養しつつ、ファイナルトーナメントに向けての調整をする。ショウは調整なんて必要としないのでスパイクタウンに遊びに行った。

 ネズとダイマックスを使わない者同士で今年のチャレンジャーについて語り合うつもりだった。

 

「ネズさん、お疲れ様でした。良いチャレンジャーはいましたか?」

 

「ええ。特別な子が二人。そう言えばあなたもわかるんじゃないですか?」

 

「サイトウちゃんとオニオン君ですね?」

 

「ええ。良い感じに駆け抜けて行きましたよ。少女はそのタイプ相性で疾風の如く奏で舞い。少年は繊細な心音を頼りに意外な唄を歌い。少年少女の誓いはあの山の頂に持ち越されたと」

 

 ネズの語りに、ショウは納得しつつもわからないことがあった。

 二人の誓い。サイトウもオニオンもラテラルタウン出身だとは知っていたが、まさか面識があるとは思わなかった。

 

「へえ。同じ街出身の、才能も似通った少年少女ですか。この世界はそういう関係性が好きですね」

 

「切磋琢磨するライバルがいると強くなれるということでしょう。今回の二人はそこまで強い結びつきではなかったようですが」

 

「それでも、世界はそういう法則性で回っていく。ネズさん歌詞にしてみます?モデルケースは多いみたいですから、きっと共感されますよ?」

 

「共感される歌詞を書いてるわけじゃねえんですよ」

 

 ショウが皮肉を言う。

 ショウも元々はそういう関係性を構築したのだが、そのことをこの世界で知っている人間はいない。

 

「しかし、オニオンの最後のポケモン。あなたが与えたと聞きますよ?後で調べたんですが、あんな形状のポケモンじゃなかった。それに多分あのポケモン、ゴーストタイプの複合タイプですよね?」

 

「ああ、あの子を使ったんですか。へー、この短期間でそこまで育てたと。やっぱり彼は才能がありますね」

 

「メジャーリーグの面目のために、過度な肩入れは遠慮願いたいんですが?」

 

「ジムチャレンジを盛り上げるためですよ。それに強い子が増えてくれた方がわたしも楽しいですし」

 

「バトルジャンキーですねえ。俺は違うんでその気持ちはわかりませんが」

 

 オニオンの状況を聞いて楽しく笑うショウ。ゴースト複合タイプになったということは最終進化まで育てたということ。その成長速度に満足した。

 オニオンがそこまで育てたということはサイトウもそれと同じくらいまで育てているだろうと推測できる。実際今年のジムチャレンジ最初の踏破者はサイトウだった。二番目がオニオン。

 

 ショウはあえてチャレンジャーのその後の試合を見なかった。ジムトレーナーやリーグ委員が全ての試合を撮影していてそれを公式ポケチューブにアップしているが、ショウはその動画も見なかった。

 そんなものを見ずとも、セミファイナルやファイナルを見れば良い。そして信頼できる人から話を聞く方が楽しい。

 

「あのポケモン、どうしたんです?あのモンスターボールも調べたらビックリな物ですし。本人もあなたから貰ったとしか答えてくれませんでした」

 

「企業秘密です。調べた程度でわかることではありませんし。……ポケモンの生態なんて完全にわかりきっていませんから。でも、歴史なんて改竄されるものですよ。本当の歴史なんて、後世のわたし達はわかるはずがないんです」

 

「英雄の話もどこまで本当かわかりやしませんからね。ま、話すつもりがないならそれで良いですよ」

 

 答える気がないショウに、追及をしないこととするネズ。

 ショウがどこかの博士にでもあのポケモンを紹介すればそれだけで大金が手に入るだろう。ポケモン界への一石を投じる結果になるのだが、それをショウはすることがない。

 あの見た目は普通の最初のポケモンからあのような姿に進化するとわかっていたショウのことだ。何かしら秘密があるんだろうとネズは思っても少女の秘密を暴こうとはしない。

 まさか目の前の少女が時空旅行者(タイムトラベラー)であり、世界移動者(ワールドリーパー)だとは思いもしないだろう。

 

「話すつもりはないですけど、実はネズさんに聞きたいことがありまして。確か妹さんがいましたよね?」

 

「いますが、それが何か?」

 

「ネズさんと同じくあくタイプのエキスパート?」

 

「俺の妹なので。今もモルペコと一緒に遊んでいますよ」

 

「モルペコ……。うん、ちょうど良いですね。今日連れてきていて良かった」

 

 ネズから妹の話を聞いていて、その妹がビートと同い年だと聞いていた。つまりはビートがジムチャレンジに初挑戦する年にその少女もジムチャレンジに挑戦するということだ。

 ショウはビートを谷の上から落とすかのごとく、厳しく育てていた。それはジムチャレンジで圧勝しすぎて調子に乗らないように、そして試練は乗り越えた後の方が成長するという考えからだ。

 

 彼女はヒスイで邪神に出された試練のせいで成長したと思っている。記憶がないなりに物事を解決できたのは才能もあったが、試練によるポケモンへの経験値も大きかった。

 だからショウは、ビートやクララが苦労するようにジムリーダー候補、ライバル候補を間接的に育てる。

 それが最終的にダンデに迫る、勝てるトレーナーを産み出す。もしくはダンデが更に強くなる近道だと信じて。

 ショウは現代風のポーチから、赤とぼんぐりの色が半々になったモンスターボールを取り出す。そのボールの価値を知っていたネズが、いつもはあまり開いていない目を大きくさせた。

 

「これをマリィさんに。みずタイプのポケモンですよ」

 

「まだ持っていたのですか……。ルリナさんではなく妹に渡すということは、そういうことですよね?」

 

「はい。ネズさんも欲しいですか?この子、もう一匹いますよ?」

 

「ほう、それはそれは。妹と同じポケモンを育てるというのも一興ですね。ただではないのでしょう?」

 

「わたしの調整に付き合ってください。一対一。新しい手持ちポケモンを加えようと思ってるんですけど、この子達のレベルだとジムリーダーの誰かでもなければ勝負にならないので」

 

 ショウが出したのは通常のモンスターボール。ネズは彼女の使うボールは拘りがなく全員モンスターボールに入れているのでそれは気にしない。

 スパイクタウンのジムステージの状況を確認して、ネズは頷いた。

 

「良いでしょう。じゃあこちらへ。調整と言わず、最高のステージにしてあげますよ」

 

「じゃあわたしは踊りましょうか。これでもダンスは得意なんですよ?」

 

 スパイクタウンのジムトレーナー達や、件のマリィも見守る中、でんきとあくタイプのジムリーダーが対峙する。

 どちらもガラルのジムリーダーながらダイマックスを用いない者同士。純粋なポケモンバトルが始まろうとしていた。

 ネズがマイクスタンドを掴んでいつものようにメンバー紹介のようにボールを投げる。

 

「さあ、幕が上がるぜ!今日のステージはタチフサグマ、お前のものだ!」

 

「行って、ラプラス!」

 

 お互いが投げたボールから、それぞれのポケモンが飛び出してくる。

 周りの人間はでんきジムのリーダーが出したポケモンがでんきの通りやすいみずタイプのラプラスを繰り出すとは思っておらず驚いていた。

 

 ジムリーダーとはそのタイプのスペシャリストだ。キバナのような例外もいるが、彼はドラゴンタイプを使うことでその育成の難しさから許されている部分がある。

 だがショウはでんきというそこまで育てるのが難しいタイプではない。とはいえ彼女の公式戦でのパーティーを見ればタイプ混合パーティーを組んできてもおかしくはなかった。

 ネズはその出されたポケモンの意味を知り、口角を上げる。

 

「キミのリスペクト魂、ハートに響いたぜ!その信念を突き通してみせな!」

 

「ええ。ラプラス、『れいとうビーム』!」

 

「タチフサグマ、『ブロッキング』!」

 

 そのバトルがどうなったか。それはファイナルトーナメントが終わった後にポケチューブにアップされる動画にて答えが出る。

 その後の結果に関わらず、ショウは二人に約束のみずポケモンを渡した。

 

「ショウさん、このポケモン大事にします!ありがと!」

 

「いえいえ。マリィちゃん。ジムチャレンジの時を楽しみにしてるよ。わたしとネズさんに勝ってセミファイナルに出場してね。この子はモルペコの苦手とするじめんタイプのポケモンに有利になるから、きっとあなたとモルペコの力になるよ」

 

 マリィは三年後、この約束を守ることとなる。片手にはみず・あくタイプになったもう一匹の相棒と一緒に。

 この年のセミファイナルを制したのはオニオンだった。サイトウとの決勝戦で紫色の炎を纏ったバクフーンを用いたオニオンがサイトウの二本足でしっかりと立ったジュナイパーを倒し、優勝していた。

 そしてファイナルトーナメント。

 

 ショウは準決勝でまたしてもダンデに負けてベスト四。というか、ダンデの不敗神話をショウが終わらせるわけにはいかなかったので勝ちを譲った形だ。

 この準決勝はピカチュウ、カビゴン、ブラッキー、ラプラス、フシギバナ、リザードンという手持ちで挑み、最後のリザードン対ピカチュウというエース対決はピカチュウの『ボルテッカー』が届かずに敗戦。

 

 この時はカビゴンの猛威が酷かったのでダンデは早々にダイマックスを切っていた。そのため通常の状態のリザードンとピカチュウというエース対決は去年同様に盛り上がった。

 本当はオニオンと全力で戦いたかったショウは組み合わせを恨むこととなる。

 決勝のチャンピオンVSチャレンジャーというのはそれこそダンデ以来のマッチングとなり、観戦チケットは完売して立ち見客まで現れていた。

 

 オニオンは残念ながらダンデのポケモンをあと二匹まで追い込んだものの敗北。それでも二年連続でチャレンジャーに追い詰められたことでダンデはさらなる修行に明け暮れることとなる。

 ショウは確認していなかったが、このファイナルトーナメントもジムリーダーの順位に関係する公式戦だったので気付いたら順位が七位から五位に上がっていた。そのため昇級戦に参加することはなかった。

 

 この年、オニオンとサイトウがゴーストとかくとうタイプそれぞれのマイナージムリーダーに就任し、そのまま二人とも快進撃を続けて二人とも昇級戦に挑むこととなる。

 そして、勢いそのままにオニオンはメジャーリーグジムリーダーのマクワを下し、昇級を果たす。このチャレンジャーからストレートでのメジャーリーグ入りをしたのはショウの再来と呼ばれガラルのジムチャレンジを更に盛り上げることとなった。

 

 サイトウは残念ながらルリナに負けて昇級できず。くさタイプで有利なジュナイパーがいたものの、タイプ相性だけでは覆せない経験値の差に洗い流されてしまった。もう一度基礎から鍛え直しているという。

 その後にあったメジャーリーグの順位戦でショウは好成績を残して順位を四位に上げた。キバナ、ネズ、カブに続く順位だったためにキルクスタウンのジムを任されることとなる。

 

 毎年の引越しにジムトレーナーとクララは悲鳴を上げることとなる。ビートは新しい修行場に行けるのだからと喜んでいた。子供は純粋でイイネ。

 ここから二年は逸材に出会えず、ショウは落胆することとなる。

 そして──ビートとマリィがジムチャレンジをする年になった。

 



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毒の女王

ジムチャレンジの前に彼女の話を。


 ショウがでんきジムリーダーに就任して二年経った年のジム巡り期間の終了後。

 本来であれば六ヶ月に渡る長期の仕事が終わったジムリーダー達には暫しの休暇が与えられるが、そんなことは関係ないとでも言うようにショウはジムにいた。

 そのショウはジムトレーナー補佐のクララを呼び出す。

 

 クララはこれまでジムトレーナー補佐としてジムで働きつつ、ショウに師事して来た。その結果ショウから見ても才能は開花したと判断していた。

 なので、最後の試練を与えてみる。

 一緒にスタジアムのフィールドの掃除を終えた時にショウは提案していた。

 

「クララさん。卒業試験をしましょうか。わたしとポケモンバトルをしましょう。本気で」

 

「……え?」

 

「もう教えることはないでしょう。あとは自分なりに頑張るべきです。となると、ここで燻っている方が勿体無い。なので最後のご褒美。本気のわたしと戦いましょう。ジムリーダーはリーグに認められていない野良試合はできないので、これが最後の機会ですよ。公式戦以外ではね」

 

 それはクララを認める発言。彼女ならばメジャーリーグのジムリーダーになれると思ってこそのショウの言葉だった。

 そのショウの言葉の意味がわかって、クララはギラリと歯を見せる。臨戦態勢に入り込んでいた。

 

「いいのォ?最近はショウちゃんに隠れて特訓してたからクララの手持ちもわかんないんじゃない?」

 

「むしろその方が真剣勝負になるでしょう。わたしが使うポケモンは二匹だけ。クララさんは六匹までならいくらでもどうぞ」

 

「じゃあクララは五匹ね。それくらいしか育てられなかったのォ」

 

「ではそういうことで。……わたしを熱くさせてくださいね?」

 

 ショウはそう言った瞬間、モンスターボールを投げる。ショウの場合は手持ちのポケモンを全てモンスターボールに入れているのでどのポケモンか判別が付かなかった。

 クララもフレンドリーボールを投げる。

 出て来たのはそれぞれ、フシギバナとペンドラーだった。

 

「よっし、予想通り!ショウちゃんなら絶対どくタイプのフシギバナを使ってくると思ってたァ!」

 

 くさ・どくタイプのフシギバナとむし・どくタイプのペンドラーではタイプ相性的にペンドラーが有利だ。ショウが試練的なものを与えてくるのであれば、絶対にどくタイプを使ってくるとクララは経験則で確信していた。

 その予想が当たってガッツポーズをするクララ。

 だが、ショウはその程度問題ないと首を横に振る。

 

「見せてあげますよ。レベルの差を。フシギバナ、『はなふぶき』」

 

 フシギバナは即座にフィールド全てを覆うような草のカーテンを作り上げていた。視界は阻まれ、その赤い花弁全てが『はっぱカッター』のような攻撃技なのだ。

 『すなあらし』もかくやというレベルで展開された大規模な攻撃に、チャンピオン戦でも見たことのない一撃にクララは目をひん剥くものの、ただボウっとしていたら負けると気付いて指示を出した。

 

「ペンドラー、『まもる』!」

 

「うん、正解です」

 

 身体を埋めて迫り来る『はなふぶき』から身を守るぺンドラー。何度も何度も花弁がペンドラーを襲うが、ペンドラーはしっかりと耐えた。硬い甲殻によってダメージを最小限に抑えていた。

 いくらショウのポケモンとはいえ、いつまでも『はなふぶき』を展開できるわけではない。徐々に『はなふぶき』は勢いを無くして視界がクリアになっていく。

 

 クララはすぐに身を守っているペンドラーの目の代わりになろうとしていた。今のペンドラーは顔も埋めてしまっているので視界は真っ暗だ。ペンドラーが顔を上げた瞬間に相手の居場所を把握していなければ一方的に叩きのめされる可能性がある。

 相手はチャンピオンを毎度最後の一歩まで追い込んでいるショウだ。生半可な対応では持っていかれるとわかっていた。

 

 『はなふぶき』がなくなった瞬間にクララはアイドルとして鍛えていた肺活量を用いて有らん限りの大声をお腹から張り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「ペンドラー、S!そのまま『メガホーン』!」

 

 

 

 

 

 

 ペンドラーはクララのアルファベットの意味を理解してすぐに真左を向く。その先には『はなふぶき』の間に移動していたフシギバナがいた。

 クララはショウがポケモンにハンドサインを仕込んでいるのを見て同じようなことをしようとした結果習得させたものがアルファベットで向きを教えることだ。これなら右斜め上だのと言わなくても短音で指示を出せる。

 

 しかもアルファベットの意味がわかるのはクララのポケモンのみ。何度も使えば研究されてバレてしまうだろうが、初見の相手には有効に効く。そしてブラフアルファベットも仕込んでいた。

 トレーナーの質は状況判断力や指示の練度に左右される。バトルに身を置いているポケモンの本能に任せることも大事だが、その本能や直感と呼ばれるものだけではどうしようもない状況を打破できるのはトレーナーだけだ。

 

 ペンドラーはフシギバナに突っ込む。そして形成された緑色のツノをフシギバナへ突きつけた。

 命中は低いが、むしタイプの技としては破格の威力を誇る『メガホーン』。効果は抜群であるフシギバナはよろける。

 が、一撃でやられるようなヤワな鍛え方はされていなかった。

 

「フシギバナ、『ギガインパクト』」

 

 近くにいたペンドラーへ、フシギバナは力一杯の突撃をした。その一撃でペンドラーは目を回してその場に倒れる。

 たった一撃で。タイプ不一致の等倍の攻撃でペンドラーは倒れてしまった。

 クララは唇を噛み締めながらペンドラーをボールに戻す。

 

 ショウの理不尽さは知っていた。メジャーリーグの順位は現在三位ではあるものの、チャンピオンに一番近いトレーナーという異名がある。ネズやキバナとは戦績で少し開きがあるものの、チャンピオンを毎試合追い込んでいるのはショウだけだ。

 そのショウの立っている場所が高みすぎた。それでもクララは負けるわけにはいかなかった。

 

 自分を世界に認めさせるのだ。そのためにはジムリーダーになって、メジャーリーグに入って、チャンピオンを倒さなければならない。

 そのチャンピオンの前座であるはずのショウに追い詰められるわけにはいかない。それではいつまでもアイドルやどくジムから逃げ出した時のクララのままだ。

 だから、ダイマックスバンドの力を解放する。ここはもう、勝負の分かれ道だと判断していた。

 

「ダイマックス!潰しちゃってェ、ドラピオン!」

 

 ダイマックスエネルギーを受けて巨大化したドラピオンがフィールドに現れる。一般個体よりも十倍以上の大きさになるダイマックスだ。フシギバナとの差は歴然だった。

 ダイマックスを使わないショウは、そのまま巨獣退治に挑む。

 

「ドラピオン、『ダイワーム』!」

 

「フシギバナ、『ハードプラント』!」

 

 さざめく様なむしの大群がフシギバナを襲う。そのフシギバナは覚えられるポケモンが限られている、習得することも困難な究極技の一つである『ハードプラント』をぶつけた。

 くさ・みず・ほのおにしかない究極技。その威力はダイマックスをした時にのみ使えるダイ技に匹敵する。

 事実、二つの技はぶつかり合って相殺していた。ドラピオンのタイプはどく・あくタイプなのでむし技の『ダイワーム』はタイプ不一致ではあるが、ダイ技に変わりはない。

 

 それを究極技とはいえ、素の状態で打ち破ったフシギバナがおかしいのだ。

 しかし、『ギガインパクト』と『ハードプラント』という大技を連続して使ったことでふらつく。

 その隙をクララは見逃さなかった。

 

「ドラピオン、もう一回『ダイワーム』!」

 

「……フシギバナ。“力強く”『じしん』」

 

 ボソリと呟いたショウの言葉をフシギバナは聞き逃さなかった。

 最後の体力を振り絞ってスタジアムが揺れる『じしん』を引き起こす。ドラピオンは揺れながらもフシギバナに技を当てて、その直後に『じしん』のダメージを受けて倒れることとなる。

 ダイマックスを解除されて倒れるドラピオン。そしてそのまま倒れているフシギバナ。相打ちだった。

 

 何度も公式戦で見ているとはいえ、こうして自分のポケモンがダイマックスをした上で叩き潰される様は、実感するとショックだった。クララは見ている分にはジャイアントキリングとして楽しんでいたが、やられたら絶望感が半端無い。

 だが、これであと一匹だ。その最後の一匹にとてつもなく嫌な予感がしているがクララはポケモンを繰り出すしかない。

 

「行ってェ、マタドガス!」

 

「決めて。エーフィー」

 

「やっぱりィ⁉︎二匹って言ったらエーフィー出してくるよねェ⁉︎」

 

「当然です。どくジムを攻略するならじめんタイプかエスパータイプが手っ取り早いですから。カビゴンで『じしん』連打でも良かったんですよ?」

 

「エーフィーで良かったですゥ!」

 

 ファイナルトーナメントで毎回快進撃を続けるカビゴン。ある意味ショウの代名詞になっていた。なぜノーマルタイプのジムリーダーにならないのかと関係者から惜しまれたほどカビゴンが強すぎた。

 ショウ本人としてはでんきタイプの方が好きなのでこのままで良いと思っている。ローズ委員長も承諾している事案だ。

 

 カビゴンの異常な耐久と攻撃力と比べれば、エーフィーはタイプ相性的にマズくてもまだマシと言えた。

 あと、ピカチュウも御免被りたかった。『ボルテッカー』が何人かのトラウマになる程ピカチュウは理不尽だった。

 

「エーフィー、『サイコキネシス』」

 

「マタドガス、『どくびし』!」

 

 ガラル特有の姿のマタドガスは一撃でやられるものの、辺り一面に『どくびし』が撒き散らされる。これでエーフィーはまともにフィールドを走れなくなった。

 だがこれ、あまりエスパーポケモンには意味のない行為でもある。エスパーポケモンに距離はあまり関係ないのだ。その場から動かなくても攻撃できてしまう。

 

「任せたわァ!ヤドラン!」

 

 またまた現れたのはガラル特有の姿のヤドラン。

 今までのクララのエースポケモンであるガラルヤドランだ。エースポケモンは最後に持ってくることが多いのにもう繰り出してきた。

 

「あら、ヤドランですか。あと一匹はなんでしょう?」

 

「ヤドラン、『どわすれ』!」

 

「エーフィー、『ひかりのかべ』」

 

 戦闘準備を始める二人。仕込みが終わって動き出したのはヤドランの方だった。

 

「ヤドラン、最大出力で『ヘドロウェーブ』ゥゥゥ!」

 

「エーフィー、『リフレクター』」

 

 フィールドを覆い尽くす様な毒の波も、『ひかりのかべ』とは異なる透明な壁によって完璧に防がれてしまった。

 だが、これで辺りは毒だらけ。『どくびし』の比ではなく、完全にエーフィーを足止めできたと言っていいだろう。

 動けないなら、大技で仕留めるのみ。

 

「ヤドラン、『はかいこうせん』!」

 

「ヤア〜〜〜!」

 

 侵食された腕から、黄色い光線が放たれる。エーフィーは『ひかりのかべ』に留まり、やり過ごした後にヤドランはその場に倒れた。

 『はかいこうせん』の反動かと思ったが、そうではなかった。ヤドランの頭の上には星がいくつも飛んでいる。

 『スピードスター』だ。だが、耐久が悪くないヤドランがその一撃だけで倒れるとは思っていなかった。

 

 だが、似た様な場面を何度も見たことがあったのでその攻撃の正体にクララは気が付く。エーフィーはずっとあの場に留まっていたではないか。そしてヤドランは見た目通りの鈍足なポケモンだ。

 先手はずっと前に取られていたのだと知る。

 

「まさか『みらいよち』……」

 

「はい。さあ、これで最後の一匹ですね」

 

 動きを封じたつもりが追い詰められたクララ。

 ヤドランをボールに戻し、最後の一匹を繰り出した。

 

「これが、アタシの全力全開だァ〜!決めなさい、ストリンダー!」

 

 現れたのはどく・でんきタイプという唯一のタイプ構成を持つポケモンストリンダー。そのローな姿だった。

 でんきタイプのポケモンを持つことを禁止したクララがストリンダーを所持していることにショウは驚くことになる。クララはショウの教えを熱心に聞き入れ、仕事も真剣にこなしていた。

 そんなクララが禁止したことを破っているとは思わなかったのだ。

 

「ストリンダー、『ばくおんぱ』!」

 

 まるでベースを弾く様な動きを取りながらストリンダーはできる限りの爆音を繰り出して壁の奥にいたエーフィーを吹っ飛ばした。『どくびし』と『ヘドロウェーブ』のせいでもうどく状態にもなっている。何回転かした後、エーフィーはショウを見てくる。

 呆気に取られて指示を出さなかったショウは、エーフィーに庇われたことを自覚してエーフィーをボールに戻す。その証拠にショウの鼓膜も身体も無事だ。

 

 八百長にも慣れているエーフィーはどうするかと見てきたが、これは負けを認めるしかなかった。

 エンタメの重要性のために負けることに慣れたなあと、ショウは無敗の自分が見たらどう思うだろうなんて考えながら拍手をする。

 

「おめでとうございます、クララさん。やっぱりあなたに教えることはもうありません」

 

「か、勝った……?」

 

「ええ、完敗です。今のあなたならチャンピオンの手持ちも半分以上は倒せますよ」

 

 それがショウの嘘偽りない感想だ。

 チャンピオンも強くなってきたが、今の五匹でもダンデの手持ちを相当削れるまで実力をつけたと確信していた。

 今回のフシギバナは本当の意味で全力だった。八百長もさせずに倒された。エーフィーも今のままでは倒されていた可能性が高い。

 

 本気のショウの手持ちをダンデはまだ知らない。それでもショウは完全にダンデの実力を測り切っていた。ショウのポケモンは世界で最強と名高いレッドに勝てるほど鍛えた。本気で戦えばダンデを一蹴できる。

 そんなショウの手持ちを二体倒したのだ。クララの実力はガラルでも数えるほどにまで上がっていた。

 そしてショウが負けたのなら、恒例のポケモン配布だ。

 

 本当はストリンダーの元のポケモンであるエレズンも渡そうとしたが、彼女は育てていたのでエレズンはジムトレーナーの誰かに譲ることにした。

 初めての愛弟子ということで、彼女には特別に二匹のポケモンを譲ることにする。元々三匹あげる予定が二匹になっただけだ。

 

「クララさん。わたしからの選別です」

 

 ボールから出した二匹のポケモンを見てクララは顎を外したかのようにパックリと口を開いていた。

 世にも珍しい色違いポケモンを譲られたと思ってるからだ。

 

「え、白いニューラと紫のハリーセン⁉︎いいのォ⁉︎」

 

「ええ。卒業証書の代わりと思ってください。それとどくジムどちらでも良いので道場破りに行ってください。今のクララさんならマイナージムリーダーには負けませんよ」

 

「あれェ?道場破りでいいの?」

 

「名目上はわたしの推薦による後釜紹介ですから。そこで叩き潰しちゃえばクララさんがジムリーダーですよ」

 

 卒業証書を片手にクララは両方のどくジムに行って、ショウの言葉の通りどちらも叩き潰した。その内の片方をクララは継承する。

 だが代わる時期が時期だったために順位戦に参加できずクララはマイナーリーグのまま。こればっかりはガラルリーグの規約だったためにショウも残念がった。

 そしてジムチャレンジの全日程が終わった後。ショウはシュートシティでローズ委員長と高級レストランで食事をしていた。オリーヴも離れているものの同席している。

 

「ショウくん。願い星の規定量を来年には達成できそうです。ですので実行は来年のジムチャレンジになります」

 

「やっとですか。結局三年もかかりましたね」

 

「これでも早まった方ですよ?貴女という羨望の光が居なければこうも順調に進まなかったでしょう」

 

「それがビート君やマリィちゃんの年に重なるのは幸運なのか不幸なのか。判断に迷うところですね」

 

「ビートくん?マリィちゃん?」

 

 ショウの口から知らない名前が出たためにローズ委員長が首を傾げる。

 メジャージムリーダーやクララのことは覚えているのに自分に興味のない相手だとすぐこれである。

 ショウは呆れながらも律儀にこの世界の養父へ説明する。

 

「マリィちゃんはネズさんの妹です。来年ジムチャレンジに参加するようで」

 

「なるほど。ネズくんの」

 

「ビート君は委員長の孤児院の男の子ですよ。わたしが預かっている」

 

「…………ああ、彼ですか!」

 

「ビート君の分の推薦状、お願いしますね?わたしの推薦状だったらあの子、拗ねるでしょうから」

 

「わかりました。用意しておきますよ」

 

 そんな近況報告をして食事は終了。

 ガラルの歴史に残るジムチャレンジが、始まる。

 



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最後の開会式

 また新年度が始まる。今年のジムチャレンジが迫ってきたのでわたしも準備を進める。今年のジムチャレンジの内容もリーグに提出済みで、あとは開会式に出てジムチャレンジャーを待つだけだ。

 でも今年はローズ委員長の計画が大きく動く年なので準備に余念がない。いつも使っているモンスターボール以外にも用意をしておく。

 さあ、今年は誰かにこの子達を預けられるかな?

 

 それだけを楽しみに開会式に向かう準備をしていると、ビート君がわたしの前にやってきた。どうせ一緒にエンジンシティで開会式を行うのだからと、一緒にアーマーガータクシーに乗っていくつもり。

 ジムトレーナー三人に留守を任せてジムの外に出るとビート君が質問をしてきた。

 

「ショウ姉さん。最近オリーヴさんと連絡を取り合っている回数が多くありませんか?」

 

「んー、そうですね。ガラルのインフラを整えるためにでんき使いのエキスパートとして意見を求められることが多くて。素人意見から着想を得る、ということは研究者の皆さんってよくやっているそうですよ?一つの見解に固まっているところを上手くブレイクスルーさせてくれるとかで」

 

「そうですか。……あなたの見た目が三年前から一切変わっていないこととは、関係ないんですね?」

 

 ビート君の目が、不安そうに変わる。

 そう、わたしはヒスイから帰ってきて見た目の変化がなかった。ガラルに来る前の二年ほどで様々な地方を巡ったけど、身長も体重も容姿も一切変わらなかった。まるでこの姿でわたしの存在が固定されているかのようだった。

 髪も伸びないし、爪も伸びない。一度精密検査をしたけど、未知の力で時間が止まっているらしい。わたしは心音もなく、脈もない。呼吸もしているフリだ。

 

 

 つまり、生きている人間には思えないような身体をしているという結果が出た。

 

 

 確実にアルセウスの影響だ。本来ならもうこの世界に来て六年になる。わたしは十七歳になったはずなのに、見た目は今やビート君と変わらないくらいの十一歳の少女にしか見えない。

 それが不思議で仕方がなかったんだろう。女性は可愛いままで羨ましいと言うしファンは老けないことにアイドル性を感じている。それでもジムチャレンジの時から一切見た目が変わらないことを怪しむ人もいる。

 

 この前もネズさんに妹と変わらない少女にしか見えないと煽られた。これでも心は十七の乙女ですけど。

 ビート君も不思議に思ったのだろう。ジムチャレンジ中にわたしを心配して失敗して欲しくなかったから、適当に誤魔化す。

 

「わたし、完全に成長が止まっているようです。もう身長も伸びませんし、顔もあまり変わらないようです。定期的にシュートシティの病院に通っていたでしょう?あれ、わたしの体質を調べるためだったんです。ローズ委員長に変わってオリーヴさんが面倒を見てくれていまして」

 

「……それは……」

 

「命とかに別状はありませんよ?わたしという人間は普通に怪我もしますし、短命というわけでもありません。それはマクロコスモス・ホスピタルが証明してくれましたよ。ちょっと変な女というわけです」

 

 不老にはなったっぽいけど、不死じゃない。呼吸が必要ないけど、水の中では呼吸が苦しくなる。怪我もするし普通に痛い。血を流したら貧血にもなる。のくせに、月の物が一切来ない。全くもって歪な身体だ。

 アルセウスに身体を改造されたのか、時空を渡る関係でそうなったのか。なんにせよアルセウスのせいだ。

 殴られたのが嫌だったのか。やっぱりアイツの考えは全くわからない。

 

「ビート君はジムチャレンジに集中してください。ローズ委員長のためにわたしを倒して、チャンピオンにも勝って、ダンデさんの不敗神話を崩すのでしょう?」

 

「……はい」

 

「ならわたしのことは壁としか思わないように。ジムチャレンジ中は姉さん呼びも禁止です。……わたしのジムミッションをクリアしたら、あなたにピッタリなポケモンをあげますよ」

 

「ああ……。姉さんが有望だと思ったチャレンジャーにあげる、たまに問題になる事案ですね。わかりました、楽しみにしておきましょう」

 

 本当に頑張れ。

 まあ、ローズ委員長は君のことなんとも思ってないんだけど。

 ローズ委員長の記憶に残れるように、ぶっちぎりな成果を見せてくれると嬉しい。

 それはつまり、あなたがガラルを託し得る人物になるということだから。

 

 

 エンジンシティの開会式に足を踏み込む。

 幼馴染のホップと一緒にワイルドエリアを抜けて辿り着いたエンジンシティ。ワイルドエリアでポケモンを捕まえて、これから始まる開会式に心が踊った。

 開会式はローズ委員長のお話と今年のメジャーリーグジムリーダーの紹介を行うという物。今年もジムリーダーの入れ替えがあったので一箇所変更になっている。でも私のお目当ての人はメジャーリーグ序列三位だ。ジムの場所も変わっていない強者。

 

 今ではジムチャレンジャーの女子全員の憧れの的。誰もが彼女のようになりたいと思ってチャレンジに挑む。

 私達チャレンジャーが全員スタジアムに入ると、ローズ委員長がマイク越しに入場してくるジムリーダーを、私達が短期間で倒さなければならないガラルでも有数の実力者を紹介する。

 

 

 

「ファイティングファーマー!くさタイプ使いのヤロー!」

 

 

 

 紹介順はジム巡りの順番通り。

 最初は筋肉質ながら柔らかい笑顔が特徴のヤローさん。彼はメジャーリーグの序列は六位なんだけど、彼の優しい性格から最初のジムを任されている。それに彼は農業をやっているので最初のジムチャレンジを行う場所が農業の街ターフタウンというのはちょうどいいのだろう。

 

 

 

「レイジングウェイブ!みずポケモンの使い手ルリナ!」

 

 

 

 モデルを副業でやっている褐色肌の綺麗な女性。彼女も男女問わず人気がある。彼女の序列は七位だったので順番通りかと思われるが、彼女はどんな順位でも大体二番目のジムを務める。それはみずタイプという御三家と呼ばれるポケモンのタイプの一つを扱っているからだ。

 

 

 

「いつまでも燃える男!ほのおのベテランファイターカブ!」

 

 

 

 今年のメジャーリーグでは一番の年配に当たる、大ベテラン。ホウエン地方からやってきた序列四位のイケオジ。白髪も渋くて素敵。

 彼も序列に関係なく、ほのおタイプを扱うことから三番目のジムに固定だ。ジムミッションはまだしも、彼自体が強くて彼でつまづくチャレンジャーが多い。ジムバッジを三つ集めるのが最初の難関だと言われている。

 その彼はここ、エンジンシティのジムが担当だ。

 

 

 

「ガラル空手の申し子!かくとうエキスパートサイトウ!」

 

 

 

 今年昇級戦に勝ち上がり、四番目のジムを任されるようになったかくとうタイプ使いの少女。三年前のジムチャレンジでセミファイナル準優勝をした実力者。去年まではマイナーリーグにいたが、マイナーリーグでの勝率は圧倒的だった。

 昇級戦で去年は阻まれ、今年はギリギリであるもののジムリーダー最年長のポプラさんをタイプ相性が壊滅的に悪かったものの撃破して昇級したマイナーリーグの星。

 彼女はある因縁があるので私もすごく注目している。彼女は四番目のラテラルタウンのジムにいる。彼女の地元らしくてインタビューで喜んでいた。

 

 

 

「サイレントボーイ!ゴーストタイプのオニオン!」

 

 

 

 ジムリーダーの誰よりも背が低い少年。本当に私より歳上なのだろうかと思ってしまうほど小さい少年。それでも序列五位という確かな実力者で今年はアラベスクタウンのジムを任されている。

 彼にも確認したいことがあった。是非ファイナルトーナメントで戦いたい。

 そして──一番関心を集めている、ジムチャレンジの頃から変わらない愛らしさを保った、今も笑顔を振りまきながらゆっくり歩いている少女に視線が集まる。

 

 

 

 

 

「ファンタスティックガール!でんきマスターショウ!」

 

 

 

 

 

 心なしかローズ委員長の声が大きかった気がしなくもない。

 四年前のジムチャレンジで今のチャンピオンダンデさんをあと一歩まで追い込んだ最強のジムリーダーの名前を冠する絶世の美少女。

 ファッションセンスが高く、ルリナさんのようにモデルなんて滅多にやらないのに彼女が着た服は少女達が血眼になって買い求めるほど彼女の広告塔としての力は絶大だった。

 

 そしてバトルの腕は鬼のように強い。でんきマスターなんてローズ委員長は紹介したけど、彼女の本気のパーティーはバランスの取れた混合パーティー。ジムチャレンジはでんき統一パーティーにしてくれるが、それはチャレンジに合わせているだけ。

 彼女の本質はチャンピオンと同じバランスの取れたパーティーを組むことができる万能性。それでもでんきタイプが好きだからでんきジムに就任したんだろう。

 

 だからローズ委員長のでんきマスターという呼称はある意味皮肉めいている。本当は他のポケモンも扱う力のある天才。他のジムリーダーのようにタイプを固定してそのタイプを極めているのであればマスターと呼んでもいいだろう。

 けど彼女は、タイプに拘らず育成できる天才だ。これは限られた人にしかできないことで、多くの人はあるタイプに適性があったためにそのタイプのポケモンの統一パーティーを組んでいるだけ。ジムリーダーも多くはそうだ。

 

 そういう人達はそのタイプを突き詰めることで時には相性が悪くても競り勝つことができるプロフェッショナル。だからこそ、多くのトレーナーが憧れる。ほとんどの人がそうだから。

 だけど、たまにタイプに拘らず捕獲・育成ができる人がいる。それがチャンピオンやショウさん、そしてエリートトレーナーと呼ばれるような人達だ。

 

 こんな人達は世界を探しても極一部で、ガラルにだって多くはない。実はキバナさんもこの複数タイプに適性がある人で、だからコータスなどを天候始動要員として起用している。

 ショウさんは今ではガラルでチャンピオンと人気を二分している。いや、他にも人気のジムリーダーはいるけど、二トップは誰かという話で。

 

 私も憧れている。彼女に勝ちたいと心の奥底から思う。ホップやダンデさんには悪いけど、私はチャンピオンになることよりも彼女に勝ちたいという欲が強い。

 次は七番目のジムリーダーのはずなのにいない。その人が誰かはしっているけど、入場の際にいなかったから今日はいないのだろう。

 

 

 

「ドラゴンストリーム!トップジムリーダーキバナ!」

 

 

 

 スマホロトムで自撮りをしながら最強のタイプと名高いドラゴンタイプをメンバーとしているガラルの序列一位、他の地方だったらチャンピオンになれるのではないかと噂されるイケメン炎上系ジムリーダー。

 ジムチャレンジ最後の難関。圧倒的なタイプ相性に潰される人も多いという。彼を越えられるチャレンジャーは毎年六人ほど。それだけ彼は強いということ。

 その前に七番目のジムまでで粗方蹴落とされちゃうんだけどね。

 

「一人来ていませんが……。ガラルが誇るジムリーダー達です!」

 

 彼らを間近で見て。観客の歓声が響き渡って。

 ホップも興奮しているようだ。目がキラキラとしている。

 私もショウさんを間近で見られて頬を緩ませていると──不意に彼女と目が合った。

 

 絹のような透き通る金髪。ガラス細工のような蒼い瞳に射抜かれて、その彼女が私やホップを見て、微笑んだ後に──手を軽く振っていた。

 周りを見て、周りには私とホップしかいなくて。ホップと目を合わせた後に照れながらもファンサービスへの返しとして手を振り返した。

 それが合っていたようでショウさんは頷いてくれた。

 

 ──ナニコレ。推しに手を振って貰えるとか私、果報者では?

 心臓がバクバク言っている。開会式に緊張しているんじゃなくて、ショウさんに認識してもらえたことが何よりも嬉しくて。

 私の両頬はカジッチュのように真っ赤になっていた。

 

 それからは開会式のことをあまり覚えておらず。

 更衣室に戻ってユニフォームからいつもの服装に着替えた後、エンジンスタジアムの受付近くでホップと合流していた。

 

「うおおおお!すげえ興奮してきた!あのスタジアムに立って実感が追いついてきたこともそうだけど、あのショウさんに手を振られたぞ⁉︎」

 

「うん。──もう死んでもいい」

 

「何言ってるんだユウリ⁉︎ジムチャレンジはここからだぞ!もしここで死んだらショウさんと戦えないまま終わっちゃうぞ!」

 

「ハッ!そうだね、戦わないと悔いが残る。ありがとうホップ」

 

「おう、どういたしましてだぞ。じゃあユウリ!これからジム巡りでどっちが早く終わらせるか競争だ!」

 

 ホップはそう言ってすぐに走り出してしまう。

 私は、この感動をじっくりと味わいながらターフタウンを目指すのだった。

 ──ユウリ()の冒険が、始まる。

 

 

「──ミ ツ ケ タ」

 




ポプラさんごめんね。
あの癖のある感じ、扱いきれないんだ。


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幕間 ある世界での出来事/師匠

 どうして、わたしは目覚めるといつもこうなるんだろう?

 おとうさま、わたしは何か悪いことをしましたか?

 今度こそは、と願った。自分(わたし)にも、流れ星にも願えないから、誰かに願う。おとうさまには、絶対に祈らない。

 

 わたしは普通が良かった。目覚めたら誰かが隣にいて、他愛ない話をして。食事とかお出掛けとか、お昼寝とかしてみたかった。

 ゆっくり世界を見て回りたかった。追いかけ回されずに、大切な誰かと一緒に、穏やかな時間を過ごしたかった。

 わたしが目を覚ますといつも一人で。

 

 わたしを見付けたヒトやポケモンは、襲いかかってくる。

 誰も彼もが、目をギラギラとさせて。その四肢に力を入れて。

 地上でも山でも海でも草原でも川でも空でも追いかけてくる。

 最初の内はそれが怖くて逃げ回るけど。

 いつも力尽きて捕まるか、逃げることを諦めて捕まるか。そのどちらか。

 

 逃げられたことはなかった。

 今回は、ヒトとポケモンが一緒になって追いかけてきた。変なボールを投げてそこからポケモンが出てきて、わたしを捕まえるために協力しているようで。

 いつも以上に逃げられなかった。目が覚めて三日で、すぐにヒトとポケモンに追い詰められた。

 

 ……もう、いいや。好きにして。

 誰も彼もわたしを見てくれない。必要なのはわたしの力だけ。

 いいこともわるいことも知ったことじゃない。さっさとお腹に力を入れて、適当に頷こう。そうすればこの悪夢は終わる。

 

 今度こそ幸せになりたくて眠ったのに。夢の中の方が幸せだったなんて知りたくなかった。

 もう次は、目覚めなくていいかな。

 

「へへっ、追い詰めたぜ!さあ、これでオレ様は──!」

 

 ヒトが叫んでいると、そのヒトへ『かみなり』が落ちた。それも一発ではなく数発。直撃したヒトとポケモンは倒れ伏していた。

 その直後、わたしは誰かに抱えられて物凄いスピードで空を飛ぶ。ああ、夜空だったんだ。全然気付かなかった。

 ──今日も、星々(わたし)は輝いている。

 でも、あなた達は誰を照らしているの……?

 

「良かった、無事で。──酷い怪我。待ってて、すぐ治すから」

 

 ヒトの声。

 ヒトに抱えられて、そのヒトは黄色いポケモンと一緒に赤い羽を羽ばたかせたポケモンの背中に乗っていて。

 袋の中から何かを取り出してわたしにかける。わたしの痛みは大分和らいでいくけど、その優しさをわたしは素直に受け取れなかった、

 ああ、このヒトもわたしの力が目当てなんだろうなって思ったから。

 

「うん、そうだね。わたしはあなたに叶えてもらいたい願いがある。けど無理強いはしないよ。あなたを傷付けてまで叶えることじゃない。あなたが嫌なら諦めるよ。あなたの自由意志を奪ってまで叶えたら、わたしはわたしが一番嫌う存在と同じになっちゃう」

 

 ……わたしの考えが、わかるの?

 

「なんとなくね。細かいニュアンスは違うかもしれないけど大筋はわかるよ。あなたは願いを叶えたらまた眠っちゃうんでしょ?その前にあなたがやりたいこと──あなたの願いは何?等価交換にしようよ。等価になればいいけど」

 

 わたしのことを考えてくれるヒトは初めてだった。このヒトに従うポケモンもヒトを信頼しているようで、わたしを受け入れてくれている。

 この機会を逃したら、わたしはありふれた日常も謳歌できないんだろうか。また追われて傷付いて、そして眠ることになるんだろうか。

 それは嫌だ。わたしは。

 

 

 

 ──わたしは、普通のポケモンになりたい。

 

 

 

「わかった。じゃあまずは今の時代の普通について教えるね。その中でやりたいことを教えて。これでもわたしお金はあるからできないことの方が少ないよ」

 

 それから。ヒトは色んなことを話した。

 ポケモンとヒトが共生していること。ヒトの集落にポケモンが溶け込んでいること。ポケモンを戦いに用いたり、ショーに用いたり、ただ一緒に過ごしたりしていること。

 ヒトはショーだけは嫌いなようであまり教えてくれなかった。ポケモンコンテストというものはあまり見せてもらえなかったけど、ポロックというお菓子は作ってくれた。

 とてもおいしかった。

 

「ん?パフェ食べたいの?いいよ」

 

 わたしが何かしたいと言えば、大抵のことはしてくれた。ヒトと一緒にいると襲われることはなかった。街中で甘い物を食べていても、誰にも邪魔されずにゆっくりとした時間を過ごせた。

 ヒトとポケモンの中に溶け込めたようで、ただのポケモンになれた気がした。

 ヒトに、戦いをしてみたいとも言ってみた。今の時代だとポケモン同士の戦いにヒトが指示を出すのだとか。

 まあいいかと言いながらこれも叶えてくれた。誰かと一緒に戦うのも初めてだった。

 

「え……?なに、そのポケモン?」

 

「ふっふっふ。キミが知らないのも仕方がない。なにせこの子は──ミミッキュの中身なんだから!」

 

「ゲェ⁉︎そいつ、ゴースト・フェアリーかよ!」

 

 ミミッキュって、誰?フェアリー?

 でもわたしはその誰かの名前を借りてポケモンバトルを楽しんだ。わたしが狙われるんじゃなくて、純粋な勝ち負けを決める戦いは今までの戦いとは違って楽しかった。こんな戦いもあるんだと新鮮だった。

 そんな初めてを、ヒトにたくさんもらった。

 

 ヒトと、そのポケモンと。色々な場所に向かった。わたしが見たことのない雪山や氷河、火山や神殿と呼ばれる物など、様々な物を見た。

 わたしの知る世界は、とても小さいものだった。それが知れて嬉しくて。

 

 

 ──ヒトと旅をして一年くらい経って、わたしの限界が来た。

 

 

 元々そんなに起きているのが得意じゃないわたしの身体は、一年という長い時間を起きているのは無理だったみたい。

 こんな事実も初めてのことで、こんな身体にしたおとうさまを恨む。

 結局わたしは、普通になれなかったな。

 

 限界まで起きていたから、本来の力が使えない。本当は三回使えるはずなのに、二回しか使えそうになかった。

 このヒトだからこそ願いを叶えてあげたかったのに。もう身体が言うことを聞かない。お腹に勝手に力が入る。

 第三の目が、真実の目が開く。

 ヒトは、泣いていた。ヒトのポケモンも、同じように泣いていた。

 そんな風に悲しんでくれるのも、初めてだ。

 

「……あなたのこんなちっぽけな願いも叶えてくれないなんて。本当に悪趣味だよ、アルセウス……」

 

 どうしておとうさまの名前を知っているのかわからないけど、お願いを教えて。

 わたしが寝ちゃう前に。

 

「……────って、できる?」

 

 ……ああ、どうしてわたしはこんなに非力なんだろう。

 どうでもいい願いなら叶えられるのに、このヒトの願いは叶えられないなんて。

 今まで叶えてきた願いの全てを無効にして、このヒトの願いを叶えてあげたい。

 

 けど、そんなことはできなかった。

 わたしはおとうさまには敵わない弱虫で。

 ヒトの涙も止められない、悲しい願望機だった。

 

「ああ、やっぱり。願いは権能には敵わないんだ。じゃあさ、この子の持つ力を強くすることはできる?」

 

 それは簡単だった。元々持っている力を増幅するだけならできる。わたしも詳しくないポケモンの力を増幅する。

 さあ、もう一つは?

 

「あなたが次目覚める時。あなたにとって優しい目覚めであるように。そう願わせて」

 

 ──それは、願いじゃない。願いっていうのはもっと利己的で、俗っぽくて。

 どうしたって叶えられない祈りなのに。

 それを叶えるからこそ、わたしは求められるのに。

 

「うん、大丈夫みたいだね。その時わたしはいないけど……。また誰かと、美味しいものを食べたりお昼寝したり。あなたのやりたいことができる世界になっていることを祈ってる」

 

 わたしの力が使われてしまう。そんなわたしのための願いを、行使してしまう。

 ああ、でもそれは本当に希望に溢れた、優しい願い──。

 

 

 

 

 

「おやすみ、ジラーチ。千年後にはまた、幸せなひと時を」

 

 

 

 

 

 僕は親がいなかった。いや、いたらしいけどいつの間にかいなくなっていて、ポケモンに育てられたらしい。

 そのポケモンはヨクバリスというらしい。気付いた時から一緒だったし、言葉は通じないから知らなかった。

 そんなポケモンの名前も言葉も()()に教えてもらった。

 

「ヨクバリスがマサル君の手掛かりになるような物を持っていて良かったよ。ウンウン、いいねえ。君はすごい才能があるよ。君とヨクバリスならチャンピオンになれるかも?」

 

「チャンピオン?」

 

「一番強い、ポケモントレーナーの王様かな。このガラルではすっごく有名なんだけど、テレビとか見たことなさそうだもんね。ここはジムチャレンジと無縁な場所だし」

 

 師匠は人間としての常識を教えてくれて、様々なことを教えてくれた。ヨクバリスと一緒に戦う方法。人間としての最低限の暮らし。

 なんと師匠、僕が住んでいた場所の近くにテントをいくつも建ててそこで生活を始めてしまった。そこで僕を一人の男として育ててくれた。

 

 どこからか持ってきた電化製品をでんきポケモンで使わせて近代的な生活をしていた。

 今日も今日とてダイ木に登ってきのみを収穫してから降りると、師匠は転がりながらスマホロトムというもので映像を見ていた。

 

「師匠、また何か見てるの?」

 

「まあね。マサル君はいつもダイ木に登れて凄いねえ。わたしには絶対無理」

 

「僕にとってはこれが家だし。で、何見てるの?」

 

「ジムリーダーの公式戦だよ。プププ。八百長で盛り上がってるなんておかしいの〜。あはははは〜!」

 

 師匠はゴロゴロとしながらスマホロトムを宙に放ったまま地面をゴロゴロと転がっている。何が面白いんだろうとスマホロトムを見るとそこではジムリーダーの試合が行われていた。

 正確にはジムリーダーとチャンピオンダンデの試合だった。見ていて僕もアレ?と思う。

 

「師匠、何でこの人のポケモンはまだ元気なのに倒れていて、この人もボールに戻しているんですか?」

 

「さっき言ったように八百長試合だから。いやー、これでダンデ君、十年連続のチャンピオン防衛になるんだっけ?エンタメって大変だねえ」

 

「わざと負けてるってこと?」

 

「そういうこと。その女の子は負ける理由があって、チャンピオンを勝たせなくちゃいけないんだよ。もしマサル君がジムチャレンジに行ったらチャンピオンに勝てるんじゃない?」

 

 ケラケラと、師匠は笑う。

 チャンピオンはこのガラルで最強のポケモントレーナーだ。そのチャンピオンに僕が勝てると言う。

 僕、師匠に一回も勝ったことないんだけどなぁ。

 

 師匠の言うことは外れたことがない。あのポケモンは一匹しかいないはずだから捕まえなさいと言われて捕まえて、このカンムリ雪原を巡ってみても本当にもう一匹に会うことはなかった。

 そんな珍しいポケモン達を師匠の買ってくれたモンスターボールで捕まえて、僕の六匹パーティーは完成していた。本当ならダイ木の近くにいたとある三鳥を捕まえる予定もあったんだけど、師匠にガラル本土旅行に連れていかれたらいなくなっていた。

 

 師匠曰く、誰かに捕まえられたんだろうとのこと。あの三鳥には昔からお世話になっていたから是非手持ちに加わってほしかったのに。何度溺れ掛けたところを助けてもらったことか。

 あの三鳥も他では見かけないから珍しいポケモンだったんだろう。

 師匠はまだ笑い転げているので、気になって聞いてみた。

 

「師匠ならチャンピオンに勝てるんですね?」

 

「まあ、あのくらいなら。マサル君でも勝てるんだから君に勝てるわたしなら楽勝だよ」

 

「じゃあさっきわざと負けていた女の子には?」

 

「……うーん。あの手持ちなら余裕。だってあれ、レッド君の真似してるだけだし。いや、レッド君も負けるかもしれないけどね、あの手持ち。……本気だったらいいところ引き分けじゃないかな」

 

「師匠が?」

 

 いつも自信満々な師匠が断言しないのは珍しい。しかも勝てないなんて。

 僕はいつもボコボコにされているから師匠が飛び抜けて強いのは知っている。そんな師匠が良くて引き分けって、あの子どれだけ強いんだ。

 

「そもそもわたしとあの子は戦わないよ。だから勝ち負けはわかんない」

 

「そうですか」

 

「マサル君はジムチャレンジに出てみたい?推薦状適当に貰ってこようか?」

 

「いや、別に。興味ないですよ。珍しいポケモンを捕まえるなら楽しみですけど、戦うのは趣味じゃないっていうか」

 

「そっかそっか。その辺りは人それぞれだからね。好きに生きなさい。でも本土に珍しいポケモンがいるなら捕まえてみたい?」

 

「それは是非」

 

 独占欲じゃないけど、世界に一匹だけのポケモンを持っているという優越感は味わいたい。本土でジムチャレンジを頑張っているような人達が誰も見向きをしないカンムリ雪原にいる僕に珍しいポケモンを横取りされていると思うと。

 僕の心は途端に潤ってくる。

 

「じゃあ来年本土に行こうか。きっと面白いポケモンがいるよ」

 

「来年?まあ、楽しみにしてます」

 

 何で来年まで待たないといけないんだろうか。来年になったらどこからか飛来するんだろうか。

 どういう現れ方をするのか、それも込みで楽しみに待とう。

 

「そういえば師匠はジムチャレンジに参加しないんですか?」

 

「しないよー。つまんないし、推薦状もないし」

 

「じゃあどうやって僕の推薦状を用意するつもりだったんですか?」

 

「そこは裏技があるから大丈夫。参加したくなったら言ってね。あと半年は猶予があるから」

 

 そう言われても僕は参加するつもりはなかった。

 今日も今日とて師匠に勝つためにこのカンムリ雪原を遊び回ってヨクバリスを鍛えるぞ。あと、珍しいポケモンもいれば良いけど。

 師匠に借りたポケモン図鑑なら一発で珍しいポケモンがわかるから重宝している。

 

 さーて、今日もヨクバリスのダイマックス大行進で足跡を残しちゃうぞー。このカンムリ雪原で確認される巨人の足跡の正体がヨクバリスだなんて誰も思わないだろうなー。

 僕が住んでいる場所、本当に人影がないし。ヨクバリスがダイマックスしていても見えないんだろう。ダイ木くらい大きいんだけどな。

 




マサルもいるよ。
野生児だけどね!


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師匠と愛弟子の雑談

 ジムチャレンジが始まって半月。

 今年の進行度の観点から早くも盛り上がっている。今年はそもそも推薦状の時点で相当盛り上がっていた。ローズ委員長が推薦したビート君。ネズさんが推薦したマリィちゃん。

 そして、チャンピオンダンデが初めて推薦したチャレンジャー。弟のホップ君とご近所さんのユウリちゃん。弟のホップ君はまだわかる。ネズさんと一緒だからだ。

 

 でもユウリちゃんは違う。ただご近所さんで適齢期になったからって推薦状を渡すほどチャンピオンの推薦とは軽くない。初めての推薦ということがそれを助長している。

 リーグ委員長やチャンピオンというのは推薦する上で重すぎる肩書きと思われている。推薦された人の多くはジムリーダーやチャンピオン、それに準ずる結果を残している。推薦されたチャレンジャーにとっても重いものになる。

 そんなものを、ただの女の子に渡すだろうか。ローズ委員長に確認してチャンピオンが推薦をしたと聞いて驚いた。十年チャンピオンを続けているのに初めての出来事だからだ。

 

 顔写真は見ていたので開会式で探してみたら案の定。本当にこの世界は少年少女の関係性が好きらしい。

 バトルをしなくてもわかってしまうほどの才能。それを感じ取れるほど、ユウリちゃんとホップ君は別格だった。

 まるでわたしとジュンを見ているようだった。

 まだポケモンを鍛えて間もないから手持ちポケモンはそうでもないみたいだけどあの二人はこの短期間で化ける。それこそ本当にチャンピオンになってしまうほどに規格外だった。

 

 だから二人には、ジムチャレンジをクリアしたら渡すポケモンのことを考えた。二人が六番目のジムであるこのキルクスタウンに来るのはいつになるだろうか。

 そしてまだ半月だというのに、キバナさんの記録に迫る記録を出している天才がいる。隠すこともなく、ビート君とマリィちゃんだ。

 二人とも幼少期からポケモンを育てているため手持ちの強さが半端じゃなく、既に三番目のジムであるカブさんを突破していた。そのせいで二人ともキバナさんとネズさんの再来と言われている。

 

 ダンデさんは迷子になって遅かったから、彼の再来とは呼ばれない。

 ビート君は手持ちを全員最終進化させたどころか、クララさんにも勝つほどの実力者だ。チャレンジャーの中にジムリーダーが混ざっているようなもの。だからジムチャレンジ用のジムリーダーの手持ちを一発で倒していくビート君。

 そのせいでジムチャレンジのヌルさに顔を顰めているビート君だけど。ビート君が強すぎるだけだ。ジムトレーナー見習いとしての経験値がジムチャレンジを簡単にさせてしまっているだけ。

 

 それに彼が見ていたのは六番目のわたしのジムなのでジムチャレンジをわたしレベルで想定していたら肩透かしを食らった、といったところだろう。ビート君ごめんね、生き甲斐搾取して。

 マリィちゃんも似たようなもので、譲ったミジュマルが既にダイゲンキに進化していた。そのせいでカブさんをタイプ相性で圧倒していたけど、流石にビート君レベルの実力はまだない。それでもジムトレーナークラスの実力は十分ある。

 

 この二人が注目されすぎて、チャンピオンが推薦したはずの二人がまだ二番目のジムに着いたくらいだから比較されている。ビート君とマリィちゃんが規格外なだけなのに。

 むしろユウリちゃんとホップ君の才能だけなら二人よりも上かもしれない。いや、運命力とでも言うものだろうか。二人にはガラルでも特別な何かを感じる。それが何かまではわからないけど。

 あと、今年更に盛り上がっているのは街で度々見かける妨害集団、エール団の存在だ。ダイマックスバンドを着けたおそらくチャレンジャーを見掛けると様々な理由をつけて足止め行為を行なっている。

 

 あんなマリィちゃんがプリントされたタオルを振り回してあくタイプのポケモンを使っている時点で正体なんてモロバレなんだけど。それは言わぬが花というやつだろう、うん。

 そんなこんなで盛り上がっているジムチャレンジだけど、わたしは暇だ。最速はおそらくビート君だろうけど、それでもあと二十日くらいはかかるはず。なのでその間にリーグから頼まれている仕事を済ませる。

 写真撮影だったり、ポケモン教室だったり。テレビ番組に出たり。こういうところで顔を売るのもジムリーダーの仕事なんだから仕方がない。

 

 どうせ今年で終わりだ。気楽にやろう。

 もしこんな風に顔を売っている様子を知り合いに見られたら寝込むけど、この世界に知り合いはいない。好き勝手させてもらう。

 ということで色々と仕事を終わらせてキルクスジムに戻ると久しぶりにクララさんが訪ねていた。どうしたのかと思って顔を出すと即座にクララさんが走ってきてわたしの両肩を掴んだ。

 

「ちょっとショウちゃん⁉︎あのポケモン達とモンスターボール何ぃ⁉︎」

 

「あ、その件ですか。わたしの部屋にどうぞ」

 

 大勢に聞かせる話でもないのでわたしの個室に。そこでぼんぐり色のモンスターボールから出された二匹を見て頷いた。

 ちゃんとハリーマンとオオニューラに進化している。思った通りだ。

 

「この子達って色違いのポケモンじゃないの⁉︎ハリーセンが進化するなんて知らなかったし、このモンスターボール、使用できる奴だと二百億とかって値が付いてるんだけど⁉︎」

 

「あ、使用できるとそんなお値段なんですね。知りませんでした」

 

「ショウちゃーん⁉︎」

 

 使えないモンスターボールの値段は知ってたけど、そうなのね。そんなお値段になるんだ。モンスターボール系統のレシピは売りに出さなくて良かった。

 まあ、使用できるって言ってももうポケモンが入っちゃってるから未使用じゃないし、その値段にはならないだろう。多分。

 

「ハリーセンの進化系はハリーマン。ニューラの進化系はオオニューラです」

 

「……知ってたんだぁ。この子達、元のタイプとも違うよね?」

 

「はい。ハリーマンはどく・あくタイプ。オオニューラはどく・かくとうタイプですね」

 

「やっぱりぃ……。クララに渡した時点でそういうことだよねえ。一応クララなりに調べてみたけど、そんなポケモンの名前は出てこなかったよ?」

 

「でしょうね。わたしも調べましたけど、世界最古のポケモン図鑑はオーキド博士の物です。それ以前のポケモンの生態は極一部の伝説のポケモンしか残っていませんよ」

 

 ヒスイという言葉は残っていても、ヒスイにどんなポケモンがいたのかなんて情報は残っていない。ポケモン図鑑があったことすら知られていない。

 わたしのような人が送られなかったのか、送られて図鑑を完成させたけど残らなかったのか。そもそも完成しなかったのか。その辺りは調べようがない。ディアルガの力を使ってわざわざヒスイのことを確認しようとは思わない。

 アルセウスに捕捉されたくないのに会いに行く理由がない。わたしはヒスイに用はなく、求める場所は別の位相だ。

 

「それを知ってるショウちゃんって何者?」

 

「ガラルのメジャージムリーダー、でんきマスターらしいですよ?」

 

「らしいって……」

 

「わたしの肩書きはそれなので、それ以外に答えようがないですよ。重要なことはわたしの出自ではなく、そのポケモン達とクララさんが仲良くしているかどうかですよ」

 

「それはバッチシィ〜。めっちゃ仲良しだよ、ウチら」

 

「ならいいじゃないですか。ここにいる理由なんて、ここにいるから以上の理由はありませんよ」

 

 どこぞの神様が勝手にやったことを考えるだけ無駄だ。会ったら全力で殴るけど、不干渉が一番。今の所何も手出しをされないのがある意味怖いけど、ウォロさんの行動も直接は止めなかった。

 タイミングを図っているのか、直接は介入できないのか。どっちにしろわたしはやるべきことをやらなくちゃいけない。

 わたしは何に代えても、やり通す理由がある。

 

「クララさん、マイナーリーグで圧倒的ですね。戦績が非常に良くて、鍛えた身としては誇らしいです」

 

「でしょでしょ〜?でもさあ、セイボリーに負けちゃったんだよお!ヤドランのミラー対決にあのライチュウにはしてやられた!あのアローラのライチュウ、ショウちゃんがあげたんだって?」

 

「はい。珍しくて捕まえたはいいものの、でんきもエスパーも手持ちとしては被っていましたから。なら必要としている人に譲った方がポケモンも幸せですよ」

 

 セイボリーさんはジムに来てくれた時にあげたアローラライチュウを丁寧に育ててくれたようだ。そのライチュウでクララさんにトドメを刺していた。現在唯一マイナーリーグで黒星をつけられた相手ということでクララさんは怒っているようだ。

 

「そういやビートきゅん凄くね?最速記録樹立してるとか。サイトウちゃんもやられたって」

 

「ああ……。ビート君の適性タイプはエスパー・フェアリーですから。タイプ相性的に四・五はポンポン越えていきますよ。ここに来るのが一番速いのはビート君でしょう。二番目の速度のマリィちゃんはあくのエキスパートなのでサイトウさんのところで足踏みするかどうか次第ですね」

 

 仕事をしている内にビート君が快進撃を続けていたらしい。

 わたしもロトム軍団で戦うけど、レベル差がありすぎて勝つ気がない。ビート君はタイプ相性と戦術的にわたしの次のネズさんを突破できるかどうか、そこが問題だろう。

 ネズさんさえ超えればキバナさんもそのまま抜ける。最速記録はビート君の物になるだろう。

 

 マリィちゃんも強いけど、ビート君とは大きな隔たりがある。ジムトレーナー見習いとジムリーダーの妹の差というか。

 まあ、ビート君も愛弟子だからわたしを突破したらもう二匹プレゼントしようと思ってる。マリィちゃんにはもう一匹あげたからこれ以上の肩入れはしない。そうなると差は広がるだろうか。

 

 ビート君がこのガラルを背負うと言うならそれでいいと思っている。ダンデさんよりは愛着があるから託すなら彼かクララさんがいい。

 ユウリちゃんとホップ君にあげるポケモンも決めた。他の子はどうでもいいや。今の所注目チャレンジャーはいない。

 

「クララさん。ビート君にはこの二匹をあげようと思ってるんですけど、どう思います?」

 

 見せるのは種類の違うモンスターボール。クララさんが「うわ、また出した」って顔をしてるけど気にしない。

 そのボールの中に入っているポケモンを見て一匹はウンウンと頷いていたが、もう一匹はボールを両手で掴んで凝視していた。

 

「え?……えぇ?ショウちゃん、捕まえてたの?っていうか、モンスターボールでぇ……?」

 

「はい、まあ。苦労しましたけど、譲ろうと思って」

 

「ビートきゅんにあげちゃうの?……期待値高くね?」

 

「このジムチャレンジを見てたらガラルを任せる気になりませんか?」

 

「まあ、ビートきゅんならチャンピオンになってもおかしくはないけど……。ビートきゅんにこのポケモンの適性あるの?」

 

「さあ?あるといいですね」

 

「そこは行き当たりばったりなんだ⁉︎」

 

 そんな雑談をして、クララさんは帰っていく。

 本当にわたしのジム一番乗りは、ビート君だった。

 



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弟子の旅立ち

ショウちゃんがマリィに優しくないんじゃなくて、既にミジュマルをあげてるから内弟子以外への対応としては普通なんです。
ホップとユウリにもあげるポケモンは一匹だけで、二匹もあげてるクララとビートが特殊なだけです。


※ビートにあげるポケモン、ガラルファイヤーから変更しました。ファイヤーのタイプ間違ってたので…。


 ビート君との勝負はあっけなかった。わたしがそもそも制限した手持ちで、その上こちらの手持ちや癖を全て知っているビート君だ。ロトム達じゃ勝てるわけがない。

 ビート君は不満そうだったけど、ジムチャレンジではこれが限度だ。とにかく勝者に報酬をあげなくちゃいけない。一番弟子だし大盤振る舞いだ。技マシンと一緒にモンスターボールを二種類置く。

 

「これが……」

 

「こっちがワシボンね。エスパー・ひこうタイプだしビート君にはピッタリだと思う」

 

「進化後はそうなるのですか?確かノーマル・ひこうだったと記憶していますが」

 

「不思議だねえ。でも違う地方だとタイプや姿が変わるなんて良くあることだよ」

 

 アローラとかそれが顕著だ。ナッシーとかダグトリオとか笑っちゃったし。原種を知ってるからこそその変化に驚いた。

 ヒスイなんて厳しい土地だったからそんな変化も顕著だっただけだと思う。もしくはヒスイこそが原種だったか。その辺りの研究は博士とかに任せる。わたしにはどうでもいい。

 

「で、こっちは……ッ⁉︎」

 

「あ、やっと驚いてくれた。伝説とも呼ばれるポケモンの一匹、ラティオスだよ」

 

「これが伝説の……!タイプはドラゴン・エスパーですか?」

 

「そう。ドラゴンポケモンはポケモンの中でもほとんどが頂点に位置するし、その上伝説のポケモンだから。上を知るならこの上ないポケモンでしょう?」

 

 そんな建前を言うけど。

 本音はブラックナイトの性質をローズ委員長が解析したからだ。最初は捻りもなくガラルのポケモンであるエスパータイプのフリーザーでもあげようかなって思ってたけど、ビート君が本当にこのガラルを救う人間になるならこの暇な時間にやってもらいたいことがある。

 ドラゴンタイプのポケモンに慣れておかないといけない。どうせチャレンジはぶっちぎるんだから、育成期間に当てて欲しいと思っただけだ。

 

 だから慣れているエスパータイプが複合のラティオスをあげた。ラティアスまであげたら贔屓が凄いことになると思うし、それはやめた。ワシボンを辞めても良かったけど、ヒスイのポケモンもあげたかったからこれで良いと思う。

 幻の島に住むというからどんな幻を見せてくれるんだろうって意気揚々と向かったら、ただ霧とかの関係で発見しづらいだけの島だった。それでもポケモン図鑑に載っていない伝説のポケモンだからラティオス・ラティアスどっちも捕まえちゃったけど。

 

 今では誰かが捕まえたようでポケモン全国図鑑には登録されている。けどその人とわたしを除いたら図鑑登録はされていない。

 伝説のポケモンだから得意タイプが違うクララさんでも知っていたけど。やっぱり伝説のポケモンって知名度が違うなあ。

 

「……僕は最高の姉さんを持ちました。ファイナルトーナメントでは貴方を倒します」

 

「うん。待ってるよ。その時は()()()戦ってあげる」

 

「ええ。ではこのままスパイクタウンに向かいます」

 

 ビート君はわたし達への挨拶もそこそこにすぐ向かった。このままキバナさんの記録も抜いちゃってほしい。ネズさんとの相性が悪かったとしてもフェアリータイプ複合の子も多いから大丈夫だろう。そんな短時間でラティオスを躾けられるとは思ってないし。

 今日はビート君しか来ないだろうからとリーグスタッフにビート君の突破を報告してから他のチャレンジャーの状況を確認した。

 

 マリィちゃんは相性の悪いサイトウちゃんを突破していて今はオニオン君に挑戦しているようだ。相性が悪くてもゴリ押しでどうにかなっちゃうくらいマリィちゃんも強いからなあ。

 で、注目の二人のホップ君とユウリちゃんはなんとカブさんに勝っていた。早い。マリィちゃんに続いての突破でその成長速度は驚異としか言えない。わたしやジュンの時もジムリーダーの皆さんは同じ想いをしたんだろうか。

 

 それとエール団のことも話題になっている。マリィちゃんの追っかけ集団だけど、彼らくらい突破できないとジムチャレンジを勝ち抜くなんて無理だし、報告を見ている限り自転車屋さん以外の行動はそこまで問題行為じゃないっぽい。

 よっぽどならリーグスタッフが対処するだろうし、わたしが手を加える理由もない。ネズさんに報告したってネズさんはこれからビート君と戦わないといけないからジムチャレンジの用意で手が離せなくなる。

 

 それとマリィちゃんがぶっちぎりの速度すぎて開会式以降目立った妨害がターフタウン近辺だけなんだから、そんなに目くじらを立てることでもない気がする。

 見方によってはバトル経験の少ないチャレンジャーにバトルの経験をさせてあげているとも言える。時にはダブルバトルを挑む時もあるらしいけど、それだって最後のバッジの時は役立つし、トレーナーで居続けるなら積んでおきたい経験だ。

 

 それに勝てばちゃんとお金をくれるから軍資金になる。他のトレーナー達も応援の意味でバトルをチャレンジャーにふっかけることがあるんだからその辺りは言ったって無駄。エール団なら過剰戦力で叩き潰すなんて真似もしないからその辺りは信頼できる。

 チャレンジャー応援という慈善事業になっているんだからリーグスタッフが注意をするはずもない。度が過ぎていれば口を挟むだろうけど、今の所そんな問題にもなってないから大丈夫だろう。

 

 マリィちゃんが来るまで暇だなあ。五から六までの道のりはナックルシティに戻って来ないといけないから結構時間がかかるし、まだ余裕はありそうだ。アーマーガアタクシーがあっても「テレポート」みたいにすぐ来られるわけでもなし。

 暇だからSNSでも見ようかな。ビート君が話題になってるんだろうけど。

 今年も盛り上がってるなあ。最後のお祭りにするためにも、最後の娯楽だと思ってこの過程を楽しもう。

 

 

 ホップとユウリは三番目のジムであるエンジンシティでカブ、ルリナ、ヤローに見送られてからワイルドエリアを抜けてナックルシティに辿り着いていた。ナックルシティ近郊よりもポケモンの強さが段違いで、鍛えたポケモン達でもかなりの苦戦を強いられた。

 二人してヘトヘトになりながらナックルシティに着くと、すぐにスボミーホテルに泊まった。チャレンジャーは無償で泊まれるために二人とも迷わずホテルに直行。それだけワイルドエリアの縦断は疲れが溜まった。

 

 ここにあるジムは八番目なのでこの街で足止めになることはない。二人ともしっかり休んでから四番目のジムがあるラテラルタウンを目指すことにした。

 早速フロントでチェックインをしようとしたら、そのフロントで話している男女がいた。背丈からして同い年くらいの男女なのだが、金髪の少女の方は何故かイーブイのお面を被っていた。

 

「なんだ?変なヤツ……」

 

 ホップはそう呟く。別にお祭りがあったわけでもなく、同い年くらいの子がホテルに着いてもお面を被っている理由がわからなかったのだ。

 男女はカップルだろうか。チャレンジャーでホップとユウリの前を行くのはビートとマリィだけ。なのでジムチャレンジを見るために観光に来た人だろうと思った。

 

「師匠、本当にこんな豪華な場所に泊まっていいんですか?」

 

「大丈夫大丈夫。わたし、お金ならいっぱいあるから」

 

「師匠?」

 

 男の子がお面の女の子をそう呼んだことでユウリは首を傾げた。

 顔は見えないが、身長や体型、それに声からしてもお面の女の子はユウリとさほど年齢が変わらないように見えた。そんな少女が同年代の男の子に師匠と呼ばれる。

 そのチグハグさがわからなかった。

 

「師匠、いつまで本土に滞在するんですか?」

 

「うん?まあファイナルトーナメントまで見ていけばいいんじゃない?その間にマイナーリーグの試合もあるし、ポケモンバトルを知るにはいいんじゃない?マサルはバトル経験が少ないからねえ」

 

「えっと。それっていつまででしたっけ?」

 

「あと五ヶ月くらい?」

 

「え、長っ⁉︎そんなにこっちに居るんですか?」

 

「うん。今年のジムチャレンジは面白そうだから。それにキャンプもするから全部ホテルじゃないよ」

 

 行動の主導権を握っているのは少女の方らしい。そしてどうやらジムチャレンジ目当ての観光客のようだ。

 それにしては学校とかどうしているのだろうか。ジムチャレンジに参加、もしくはもう就職でもしていない限り同年代は学校に行かないといけないし、就職しているのなら仕事はどうしたとなる。

 なんともよくわからない二人のままだった。

 

「えー。ジムチャレンジって見る必要ありますか?だって師匠が気になってるのってショウさんっていうジムリーダーだけでしょう?」

 

「ふふ。そうでもないんだよ?チャレンジャーのビートくんは歴代最速タイムを叩き出してるみたいだし、その次のマリィちゃんも速いみたいだし──そこの二人も上位陣みたいだよ?」

 

「「え──?」」

 

 前の二人の会話を聞いていたら、お面の少女が振り返ってユウリ達を指差す。その仕草に釣られてマサルと呼ばれていた少年も振り返ってユウリ達を見る。

 いきなり話題を振られた二人は驚きの声を隠せなかった。

 

「あの二人が?この時期にナックルシティにいるのって凄いんですか?」

 

「凄いんじゃない?わたしの基準がビートくんとショウになってるから、ショウが遊んでた期間でここに来られたなら優秀なんだと思うよ?」

 

「ふうん?そうは見えないけどなあ。師匠より強いんですか?」

 

()()()。それに()()()()()()マサル君でも勝てるよ。あ、でもマサル君が興味あるのは珍しいポケモンを捕まえることだけか」

 

「そうですね。バトルはあんまり」

 

 そんな二人の会話にムカムカしたのか、ホップが突っ掛かる。ユウリも行動には移さなかったが、ホップと同じ気持ちだった。

 今年のジムチャレンジャーの中でも上位陣。しかもショウに期待された二人なのだから。

 

「おいおい、聞き捨てならないぞ!オレ達はもうジムバッジを三つ持ってるんだ!なのにそこまで言われる筋合いはないぞ!」

 

「あら、ごめんなさい。別にあなた達を下に見たつもりはなかったの。純然な事実を言ってるだけ」

 

「カッチーンときた!それが見下してるって言うんだぞ!こうなったらバトルだ!」

 

「嫌よ。あなた達のポケモン、回復してもらってるけど疲れているじゃない。体力と疲労度は別なの。今夜はゆっくりと休んで、明日になったらマサル君が勝負してあげる」

 

 モンスターボールからポケモンを出したわけではないのにポケモンの状態を把握されていてホップとユウリは息を飲んだ。

 エスパー、もしくはサイキッカーかと思って身構えると、イーブイのお面を被ったままの少女はクスクスと笑う。

 

「そんなおかしなことじゃないのよ?ナックルシティに来るにはワイルドエリアを抜けなくちゃいけないし、あなた達は疲労困憊の様子。でもトレーナーとしてポケモンはちゃんとポケモンセンターで休ませてきただろうから万全じゃないと思っただけ。どう?新米チャレンジャーさん?」

 

「……正解だぞ。でも、何でアンタは戦わないんだ?」

 

「実力差がありすぎるの。だってまだジムバッジ三つ目でしょう?わたし、他の地方でジムバッジ八個集めたから。ジムリーダーが本気で野良試合をするってことだけどいいの?」

 

 そう言われたらホップも引き下がるしかない。

 地方によってジムリーダーの実力も異なるが、ジムバッジ八個を集められる人間はその世代の超上澄み。トレーナーになったばかりのホップやユウリでは勝てるわけがない。

 となると、さっきまでの言葉は全部本当だったわけだ。

 

「えっと、ごめんなさい。あなたの実力も知らないで……。ほら、ホップも」

 

「ごめんなさい。でもそんな言い方じゃオレ以外にもきっと誤解するぞ?」

 

「その時は実力で叩き潰せばいいから。軍資金稼ぎにもなりますし」

 

「アンタ、性格悪いぞ……」

 

「褒め言葉ありがとう」

 

 ホップはその返しにげんなりとして深く息を吐いた。

 ずっと黙っていたマサルに目線を向ける。

 

「もしかしてそっちのマサル?も凄い実力者とか?」

 

「僕は違うよ。ジムバッジは持ってない。捕獲が好きなだけでバトルは捕獲の時のオマケだよ。その証拠に師匠には一回も勝ってない」

 

「本当ですよ。だから明日ダブルバトルで確かめてみてください。マサル君はわたしとばかりバトルをしていたのでダブルバトルの経験がないんですよ」

 

「ダブルバトル、ですか?」

 

 突然の提案にユウリはおうむ返しをする。てっきり一対一をすると思ってたためにその提案はよくわからなかった。

 

「ほら。ポケモンの捕獲や保護の時に悪い人が現れて邪魔をしてくるかもしれないじゃないですか。そういう時のためにわたしが二匹のポケモンを使う擬似ダブルバトルじゃなくて二人の人間の指示するポケモンと戦わせておきたくて」

 

「ああ、そういう……」

 

「ということで明日の朝。ホテル前の広場で戦いましょう?」

 

 そういう話になった。

 ホップとユウリはチェックインを済ませてお風呂と食事を済ませたら倒れるように眠ってしまった。朝起きて朝食をホテルのレストランで戴いて。

 広場に行くと昨日の二人がいた。師匠と呼ばれていた少女は今日もイーブイのお面を被っている。

 

「そのお面、外さないの?」

 

「気に入ったから。お姉さんの顔、気になる?」

 

「そりゃあ、それだけ隠されたら気になるぞ」

 

「じゃあ二人がマサル君に勝てたら見せてあげるよ。ポケモンは二人とも六匹まで使っていいよ。マサル君も同じ条件で」

 

「数的にこっちが有利になっちゃうぞ?」

 

「それくらいがちょうど良いハンデかなって」

 

 そう言われたらホップとユウリは負けられなくなった。二人とも目標がある。チャンピオンである兄に勝つこと、本気のショウに勝つこと。

 その目標の前に、捕獲がメインの同い年の少年に負けるわけにはいかなかった。

 

「いくぞ、ユウリ!」

 

「合わせるよ、ホップ!」

 

「いけ、バイウールー!」

 

「行って、インテレオン!」

 

 ホップとユウリがモンスターボールを投げるのと同時にマサルもモンスターボールを二つ宙に放った。

 

「頼むよ。レジエレキ、レジドラゴ」

 

 現れたのは黄色い電気を纏った巨人と緑色に赤紫の手をした巨人。

 その威圧感に、普通のポケモンではありえない巨大さに。二人は慄いてしまった。

 

「「え……?」」

 

「惚けちゃダメですよ。あなた達が相対するのは、もっと理不尽な現実なんだから」

 

 少女の声は届いたものの。

 その二匹の伝説のポケモンに蹂躙されてしまった。

 負けたホップは修行のやり直しだー!と叫んでラテラルタウンに向かい、ユウリはちょっと観光をしてから次の街を目指すようだった。ポケモンの回復のためにポケモンセンターに行ったら知り合いの博士助手に会ったからだそうだ。

 

「良かったんですか?師匠」

 

「バッチリ。彼らのジムチャレンジを見届けたらヨロイの孤島に行こうか。そこにも本土やカンムリ雪原とは違うポケモンがたくさんいるし」

 

「はーい。どんなポケモンがいるんだろう、楽しみだなあ」

 

 マサルと少女も歩き出す。

 少女は本土にいる間、一度もお面を外さなかった。外したのはマサルと一緒の、誰にも見られない場所でだけ。

 



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期待の二人

 結局。ビート君はキバナさんの記録をぶっちぎって一ヶ月ちょっとでジムチャレンジ制覇。掲示板はわたしの頃よりも盛り上がっている。キバナ・ショウの再来と大盛り上がり。

 続くマリィちゃんも二ヶ月という圧倒的な速度で終わらせた。わたしを余裕で超えていったからポンポンと抜けていくのかなと思ったらまさかまさかのネズさんのスパイクタウンで足踏み。

 

 あくタイプミラーで大苦戦をして、というかネズさんが本気の本気でマリィちゃんと戦って中々勝たせなかった。ジムを継がせるために詰め込めることは詰め込もうと考えているんだろう。

 これでマリィちゃんがジムリーダーになったらもうジムチャレンジには参加できない。最初で最後のジムチャレンジだからこそ、突破できない人の心を知ってもらうためにあえて本気を出したネズさん。

 

 ただ単に愛の鞭だ。ビート君には速度的に追いつけないこともあって徹底的にやったんだろう。そのせいでキバナさんは余裕でぶっ飛ばされていた。

 一位のビート君はローズ委員長の推薦だったから。マリィちゃんはネズさんの推薦かつ妹ということで話題性は抜群。盛り上がるのはお祭りみたいで面白い。お祭りなんて行ったことないから想像でしかないけど。

 

 そんな民衆のお祭りとは別に、わたしのフェスティバルが始まろうとしていた。

 六番目のジムにやってきた天才少女。調べた結果ポケモンバトルを始めたばかりの、チャンピオンに推薦されただけの少女。

 ビート君とマリィちゃんが話題になりすぎているだけで、二ヶ月で六番目のジムに来られるのは才能に溢れてるんだけど、今の話題はトップ二人のことばかりで追随する稀代の天才についてはそこまで個人名がネットに出てこない。

 

 最初の方はダンデさんが推薦したということですっごい名前も上がってたけど、今では下火。追っかけてる人はとことん追いかけてるけど。

 今、ジムミッションは完璧にクリアした。ガラル地方以外のポケモン知識はなかったけどバトルでジムトレーナーをコテンパンにしてたからバトルの才能もあり。可愛らしいし強いから人気になるのもわかる。

 

 わたしがそうやって人気を獲得したわけだし。

 彼女の何がすごいって、判断が早い。指示を出すのもポケモンの交代もわざの指示もとにかく早い。相手の動きをつぶさに見切って指示を声高に轟かす。

 その指示にポケモン達は背中を押されたかのように加速する。彼女の下で戦うからこそ強くなれるというような信頼感がある。絆、というやつだ。

 

 これがバトル歴二ヶ月足らずの少女だと誰が信じられるか。わたしは信じられる。

 だって彼女は、わたしの大好きなジュンや、わたしが一番嫌いなわたしソックリで。

 

 

 ああ、愛おしくて憎らしい。

 

 

 スタジアムに移動してもらって、二人で入場する。今年三番目のジム戦だ。

 勝負を始める前に、ちょっと聞きたいことがある。なんだか顔が赤いけど体調が悪いようには見えない。興奮しているのだろう。顔が赤い理由も気になるっちゃなるけど、それは聞かなくていいか。

 

「ユウリちゃん。びっくりするほど速くて驚いちゃいました。ポケモンバトルを始めたばかりの子とは思えません」

「ちゃん付け……!ありがとうございます!」

 

「???嫌じゃなかったならいいですけど……。ホップ君は一緒じゃないんですか?三番目のジムまで一緒だったからてっきりずっと一緒なのかと……」

 

 わたしもそこまで二人のことを追ってたわけじゃないから全部のことは知らない。直感でリーグ委員を動かすわけにはいかないから、誰とどうしていたかなんて逐一把握していないわけで。

 わたしだってずっとジュンと一緒に旅をしていたわけじゃないから、違う道を行くこともあるだろうとわかってるけど、二人は開会式に辿り着くところから、エンジンシティに戻ってくるところまで一緒だった。三番目のジムを突破してカブさん達に送り出されているんだから間違いない。

 

 今回の運命の二人はずっと一緒なのかと思ってたから、一人でこのキルクスタウンにやってきたのは正直驚いた。

 二人の行動でこれからのガラルが変わるかもしれない。だから知っておきたかった。

 昔、ロケット団なる悪の組織があった。けど二回も年若き少年一人に壊滅させられた。ポケモンに関する世界最大企業であるシルフカンパニーがロケット団に占拠されたのは世界的に大ニュースだった。

 

 同じようにアクア団・マグマ団なる組織もホウエン地方で暴れて天変地異が起きたというのもちょっと前の話だ。それも年若い男女が解決に導いた。

 わたしの知らないジュンの話を信じるなら、ジュンとヒカリも『ギンガ団』を滅ぼしている。悪の組織というものはうら若き少年少女に滅ぼされる宿命にあるのかもしれない。

 

 わたしやローズ委員長がやろうとしていることも、ガラルへの一次災害が起こることを考えると悪と捉われるかもしれない。そうしたらわたし達を成敗するのはユウリちゃんとホップ君かもしれない。

 この世界は少年少女が善行を成すというのが大変好みらしい。いや、アルセウスが好きなんだろう。そういう風に世界を作ったのかもしれない。

 

 ガラルでの行動も悪と認識されるなら本格的にこの世界は滅びるべきだと思う。ポケモンの力を借りて世界を良くしようとする大人の考えも否定されたら、あくまで共存の道であったとしてもポケモンの力を利用することが大罪だというのなら。

 なんて歪な箱庭なんだろうか。

 わたしがそんなことを考えていると、ユウリちゃんは首を傾げながら答えてくれる。

 

「ホップとはナックルシティで別れてから一緒に行動はしていません。会えばバトルとかもしましたけど……」

 

「あらそうでしたか。幼馴染と聞いていたのでジムチャレンジを一緒に回っているのかと思っていまして。勘違いしていました」

 

「途中まではそうだったので……。ナックルシティである男の子に負けて、修行するって言ってあちこちに行ってポケモンを育てているみたいです」

 

「ある男の子?」

 

 まるで同年代みたいな口ぶりだ。有望な同年代の男の子なんてオニオン君かビート君しかいない。チャレンジャーにジムリーダーがバトルを申し込めないからビート君一択なはずだけど、違うって脳が訴えかけてくる。

 

「それってビート君ですか?」

 

「いえ、彼じゃなくて。マサルって名前の男の子です。ガラルに観光に来ている二人組の一人で」

 

 国外の人なのか。じゃあ知らないわけだ。在野にこの二人に勝てる同い年の子供がいるなんて考えたくもない。

 ガラルの関係者じゃないなら計画にも支障は出ないだろう。

 けれど不安事項も出てきた。このバトルが終わったらローズ委員長にユウリちゃんとホップ君のこと監視させよう。

 

 ブラックナイトを任せるのはビート君でもダンデさんでもいい。けど不安に思っているのは剣と盾の英雄。ガラル国内にはあまり残っていない伝説だけど、国外にはたくさん資料があった。

 その二匹のポケモンがブラックナイトを止めるために出張ってくるかもしれない。その行動を決定付けるのはユウリちゃんとホップ君の二人か、その片方か。

 

 ゴールドという少年はホウオウとルギアを従え、エンテイ・スイクン・ライコウとも絆を深めて第二次ロケット団を壊滅させた。

 ルビーという少年はカイオーガを、サファイアという少女はグラードンを捕まえて天変地異を治めた。

 別の時空のわたしもディアルガを捕まえたらしいし、伝説のポケモンは少年少女に力を貸すようだ。

 

 こんな前例がいくつもあって警戒するなという方が無理。

 今回は候補者が多いからその候補者達にわたしのポケモンをばら撒いたけど、ブラックナイトか剣と盾の英雄のどちらが牙を剥くかわからないからとにかく配っている。ブラックナイトは捕まえないといけないけど、数千年ぶりの目覚めに興奮して暴れるかもしれないからセーフティーを用意しているだけ。

 

 ダンデさんには配ってないな。チャンピオンに肩入れするジムリーダーっておかしいし。キバナさんにはヒスイのヌメルをあげた。今では立派なヌメルゴンになっている。

 ユウリちゃんとホップ君は他の人とは違う感覚があるから目をかけているけど、わたし達の本命はダンデさんとキバナさんだ。次にビート君が来て、ユウリちゃん達はその次。

 さあ、ガラルの英雄に相応しいのか。見させてもらおうか。

 

「質問に答えてくださってありがとうございます。じゃあ、始めましょうか」

 

「はい!」

 

「行ってカットロトム」

 

「インテレオン!任せたよ!」

 

 ええ?でんきジムでみず単タイプを先頭にしますか?

 いや、でもあのインテレオン。凄い鍛えられてる。本当にバトル歴二ヶ月の初心者のポケモンだろうか。その強さは既に本気のジムリーダーに匹敵している。

 まるでわたしがジムトレーナーに施したダイマックス巣穴周回でもしたかのように強力なポケモン。タイプ相性が勝っているからって、成長させていないロトム達じゃ太刀打ちできない……!

 悠長に戦っていたら負ける!

 

「リーフストーム!」

 

「避けてとんぼがえり!」

 

 とんぼがえり⁉︎むしタイプの技だけどくさタイプを持ってるカットロトムじゃ効果は抜群!カットロトムの草の嵐は細身ながらも高速で動くインテレオンに避けられる。そのまま速度を維持してとんぼがえりを放って、タイプ不一致のはずなのにロトムは一撃で倒されてひんしになる。

 それと同時にとんぼがえりの技特性でインテレオンはボールに戻っていった。

 

 うん。四匹で勝てるわけがないね。ユウリちゃんは六匹のフルメンバーだし、わたしが出そうとしているポケモンがわかってる。だからわたしが早業で次のポケモンを繰り出そうとしても彼女は相性の良いポケモンを既に握っていた。

 あれは確実にいわタイプのポケモン。じめんタイプも複合かもしれない。

 圧倒的に不利だとわかっていてもボールを握ってしまったんだから投げるしかない。

 

「お願い、ヒートロトム!」

 

「出番だよ、ドサイドン!」

 

 ああ、初手も読まれていたわけだ。そうじゃなかったら最初をドサイドンにすれば良いだけなんだから。

 残っている二匹はスピンロトムと通常ロトム。カットロトムがやられた時点でドサイドンを倒す未来が見えなかった。

 その予想通り、その後は全てドサイドンに蹂躙されて終わり。

 戦術からポケモンの予測、覚えさせている技構成まで文句なし。

 

 彼女はわたしに匹敵する天才だった。

 ユウリちゃんにはチュリネをあげた。その後はわたしのユニフォームのレプリカを着てチャレンジを続ける。握手とサインをせがまれたからそれも了承。勝者の特権だからね。

 この半月後、ホップ君も来た。ユウリちゃんほど圧倒的じゃなかったけど彼にもセンスがある。いつかは兄のダンデさんを倒せそうと感じられるほど。

 

 ホップ君にもビリリダマをプレゼント。彼はわたしのユニフォームを着てくれなかった。恥ずかしいから着なくて良いけどね。

 後は消化戦かな。他にも良い人がいれば良いけど。

 そんなわたしの願いも虚しく。今回のセミファイナル出場者は四人だけだった。

 



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養父

 最後の晩餐、でもないけど。

 ローズ委員長と一緒にホテルの高い階のレストランで食事を取る。これでローズ委員長としっかり対面するのは最後かと思うと寂しい気もする。なんだかんだ長い間お世話になった人だから愛着もある。

 そんな人とお寿司を食べている。ローズ委員長って結構海産物が好きなんだよね。

 

 セミファイナルが始まる前のこのタイミングが、一番時間の余裕があるタイミングだった。ローズ委員長とオリーヴさんの研究も大詰めになっていて、ガラルでの実験も進んでいる。

 その証拠にダイマックスの巣穴じゃなくてもガラルのポケモンがダイマックスをしたという報告がいくつも挙がっている。実際わたしも一匹倒した。

 

 ブラックナイトの前兆のようで、ガラル粒子が活発化している。地震も起きているし、災害の一歩前って感じで、ジムチャレンジも佳境になっているために様々な盛り上がりを見せている。

 それがガラルへの不安なのか、ジムチャレンジの有望株がたくさんいることへの期待からか、今年のジムチャレンジは最高潮の盛り上がりを迎えていている。まあ、推薦者がチャンピオンにジムリーダーにリーグ委員長とかいう顔触れ。

 

 その若人達がしっかりと結果を残しているんだから盛り上がりもする。

 ジムチャレンジが最後まで行えればいいけどね。

 

「委員長。臨界点はいつですか?」

 

「あと三日、といったところですかね。ジムチャレンジのファイナリストが話題になっていますし、マイナーリーグもセイボリーくんとクララくんのおかげで盛り上がっています。そしてファイナルリーグもダンデくんに勝てそうな人が増えてきました。可能性を、ジャイアントキリングを願う大衆の願いとは強いものですよ」

 

「その最高潮の熱気の渦を利用すれば目覚めそうですね」

 

 刺身に舌鼓を打ちながらブラックナイトについて話し合う。もう計画は最終段階だ。このままならブラックナイトは引き起こせる。

 問題点と言えば、ガラルを託すに値する一人を選出できていないことか。三日後ということはセミファイナルも始まる前にブラックナイトは起こってしまう。

 

 過去最高、または十年前の再来と呼ばれている世代のジムチャレンジ、その最後を見届けられないということは残念に思う。

 せっかく育てたビート君がダンデさんを倒すことや、ユウリちゃんがどんな結末を迎えるのか楽しみだったのに。

 今の順位のままならダンデさんに任せるところだけど。ブラックナイトのタイプがわかったからオールラウンダーなダンデさんよりはクラスエキスパートのクララさんやキバナさんに任せる方が良いのかもしれない。

 

 まさかドラゴン・どくだなんて。珍しいタイプもいたものだ。伝承からドラゴンは確定させていたけど、まさかどくタイプなんて。クララさんを鍛えたことがこんなところで繋がるなんて思いもしなかった。偶然なのに。

 クララさんもセミファイナルには呼んでおいた。もしかしたら彼女がブラックナイトを捕まえる、なんてこともありそうだ。

 

「目覚めたらあなたも側にいてくださいね?なにせ過去も英雄がなんとかしたと残っているだけで、今もそのポケモンが生きているのかも不明です。もしいなかったら、あなたに止めてもらわなければなりません」

 

「そうですね……。ガラル全土を行ってみましたけど、それらしいポケモンはいませんでした。たまたま出会えなかったのか、わたしに資格がないのか。もう生きていないのか。三千年前のポケモンですからね。いなかったらいなかったで、わたしがどうにかしますよ」

 

 可能性として一番高いのはわたしに会う資格がないから。伝説のポケモンは会うに値する相手を選んでいる節がある。このガラルでわたしは余所者なので会う気がしなかったんだろう。

 わたしがどうにかするよりは、このガラルの人々にどうにかして欲しいけど。

 伝説のポケモンが相手でも、わたしが本気で戦えば倒せる。グラードンやカイオーガも見たけど、あの程度なら、というかアレより凶暴なポケモンは見たことがないことと、例えダイマックスされても圧倒的な数と質でどうにかできる。

 

「第一候補はやはりダンデくんですか?」

 

「純粋なトレーナーとしての実力、ガラルでの知名度。十年に渡る公式戦不敗記録。これ以上の傑物は現状ガラルにはいません。一番の安全牌は、彼でしょう」

 

「彼以外にも候補はいると?」

 

「贔屓目で見ればビート君とクララさんが。そしてギャンブルをするならユウリちゃんですね」

 

 二人は純粋にわたしが鍛えたことで期待しているから。そしてユウリちゃんはキバナさんを圧倒していった既視感のある光景を見せてくれたからわたしが期待しているだけ。

 でもあのポケモン達は本当に、チャレンジャーとしてはぶっちぎりになっているし、ジムリーダーと比べても強くてダンデさんと比べたら良い勝負しそうだなってくらいの実力が一ヶ月前の時点であるんだから。

 

 今となったらどうなっているか。ワイルドエリアで目撃例があるからもっと強くなっているはず。ああ、楽しみだなぁ。できれば直に戦いたいけど、その前にブラックナイト覚醒が起きて戦う機会がなくなる。

 敵対行動をして戦ってみたいという欲もあるけど、それをしたらローズ委員長の悲願もわたしの最大の目標も叶わなくなる。だからブラックナイトは見守るだけにする。

 

「あなたが二人を推すのは直接育てたからでしょうけど、ユウリくんも?」

 

「彼女は、下手したらわたし以上の才能ですよ。わたしの最大値はヒスイの頃から変わらないと確信しましたけど、彼女の上限値はわかりません。キバナさんとのジムチャレンジで見せたポケモンのレベルはダンデさんに匹敵していました。もう一年あれば確実に彼女に任せていたんですけど」

 

「それほどですか。だからユウリくんとホップくんの様子を調査したいと言ったんですか?」

 

「はい。成長力はわたし以上ですよ」

 

 一ヶ月前の段階でそんな実力だったので、彼女と幼馴染のホップ君のことを調査させた。リーグ委員の皆さんが動いてくれた結果、二人の実力は離れていくばかり。ホップ君もジムリーダーくらいの実力はあるのに、ユウリちゃんがおかしすぎる。

 わたしの目で直接見ていないから断言できないけど、本当に一年、いや半年時間があれば確実にユウリちゃんに託していたのに。

 

 わたしがシロナさんを倒した時と同じだったのだろうか。あの時も騒ぎ立てていたなあ。

 今年、シンオウ地方で快進撃を続けるトレーナーがいる。今六個目のバッジを取った少女がまことしやかに話題になっている彼女の速度は最速を更新。その少女がガラルでは話題になっていないことが幸いだ。

 彼女が色々と終わらせるまでまだ時間がある。三日でどうこうはできないはず。

 

 そんな黒髪の少女のことは置いておいて。

 

 ダンデさんはこの数年で間接的に育てたつもりだったけど、結局レッドさん超えはしなかった。敗北を知らないからこそ成長しないのかもしれない。

 この前レッドさんに会いに行ったらまた強くなっていた。あのレベルを求めるのは酷かもしれない。現状本気で戦って唯一負けた相手だもんなあ。彼に勝ったゴールド君はどれだけ強いのか。気になるけどもう会うことはないだろう。

 ユウリちゃんはレッドさんくらい強くなってくれるだろうか。それだけが今待ち望んでいること。

 ただユウリちゃんとホップ君について気になることもある。

 

「ローズ委員長。二人が負けたナックルシティにいた旅行者、わかりましたか?」

 

「ええ。調査が終わりましたよ。戦った少年は戸籍はあったものの生存が確認できていないマサルくんという子でした。カンムリ雪原で暮らしていたようです。本土に来てホテルを利用する際に身分証明を求めたのでわかりました」

 

「ガラルの人だったんですか。旅行者ではなかったんですね」

 

 いや、本土に来ているのは旅行って言えるのかもしれない。普通の手段じゃ本土には来られない僻地だし。わたしも行くのに苦労した。

 同い年くらいなのにジムチャレンジに参加しなかったのは興味がなかったのか、推薦者がいなかったのか。そのどっちかだろう。あっちに推薦を出せるほどの有数の実力者とかいないからこっそり推薦をもらうということはできない。

 

 あっちの子がジムチャレンジを受けるなら事前に本土に来ないといけない。となると今年は受ける気がなかったんだろう。

 ガラルの伝説のポケモンを従えていた少年は気になるけど、彼は邪魔してくるだろうか。

 そして気になるのはその少年の同行者。

 

「一緒にいた女の子は?」

 

「その子は一般的な戸籍を持っている普通の子でしたよ。ずっと二人で本土を旅行しているようです。恋人なのか友達なのかわかりませんが」

 

「その子はポケモンを持っているんですか?」

 

「バトルの様子を確認できていませんね。バトルは全部マサル少年の方がしているようですね」

 

 資料を見ながら答えてくれる委員長。

 女の子の情報は少ない。ずっとポケモンのお面を被っていて素顔もわからない少女はプラチナという名前のようだ。戸籍なんて顔写真がついていないから顔も素性もまるでわからない。

 ただマサル君が師匠と読んでいるらしいからポケモンと無関係とは思えない金髪の少女。マサル君の実力が高いから彼女も強いのかもしれない。ただの観光者ならいいけど、どうだろうか。

 

 彼らの目的はジムチャレンジを見守ることだったのか、セミファイナルに四人が進んだ段階でヨロイ島にも行ったりしていてセミファイナルまでに戻ってくるかどうかまでは知らない。

 邪魔をしてこなければいいんだけど、何故か嫌な予感がする。

 特に顔を隠そうとしている理由。戸籍に顔写真なんてついていないんだから確認するのは無理なんだけど、外では頑なに顔を見せないのは気になる。まさか容姿に自信がなくてマサル君の隣に立つには相応しくないなんて考えてるわけじゃないだろう。

 

 マサル君のような伝説のポケモンに選ばれた人間がポッと出なはずがない。伝説のポケモンを手持ちに加えることができるのは選ばれた人間だけだ。世界に一匹しかいないポケモンというのは、出会うことも捕まえることにも資格がいる。

 たとえどれだけポケモンバトルが強くても、育成能力があっても。その資格がなければ捕獲できない。

 

 正直に言ってダンデさん一人に任せるのはリスクが高すぎる。その資格がなければモンスターボールを投げたとしても弾かれてしまうだろう。だからビート君やクララさんのような候補者を増やした。

 確実に、ブラックナイトを手中に収められる人物を見出すために。

 そんな迂遠な手段を講じてきたわたしとローズ委員長の前に現れた伝説のポケモンを二匹以上持っているかもしれない少年と、素性不明の少女。警戒しない理由がない。

 

 ユウリちゃんとホップ君が今回のその枠なのかもしれないと思っていたけど、もしかしたらマサル君とプラチナこそがブラックナイトを捕まえる資格持ちなのかもしれない。

 とんだイレギュラーが現れたものだと悲嘆すべきか、ブラックナイトを起こす前にガラル本土に来てくれたことを祝福すべきか。判断に迷うものだ。

 

「ローズ委員長。ブラックナイトを叩き起こせば三千年前の再来になるかもしれません。ホウエン地方のような大災害に見舞われる可能性もあります。それでもかのポケモンを解放しますか?」

 

「はい。私の道は変わりません。ガラルのエネルギー問題を解決するにはこの方法しかないのですから。悪人と罵られようと──私がこのガラルを救います」

 

「わかりました。ではわたしもあなたを利用します。わたし達の悲願を、叶えましょう」

 

 最後の晩餐だからと、ローズ委員長はワイングラスを煽る。わたしは未成年だから飲まなかった。

 ガラル中が熱狂するセミファイナルの当日。

 激震がガラルを襲った。

 



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一足早い世代交代

 セミファイナルの前日。ローズタワーの最上階にダンデが呼び出されていた。再三頼まれているガラル救済のための手段についてだ。チャンピオンはその地方での発言力が飛び抜けている。そのため彼の了承の言葉は何より大事だった。

 ローズが今一度ダンデに説明していると、ダンデはローズの計画に頷くことはなかった。

 

「何故ジムチャレンジの期間に被せてまでその計画を実行しなければならないのですか?千年後を考える委員長の意思はわかります。ですが、最もガラルが盛り上がるジムチャレンジ中にそれを為す理由もないのでは?」

 

「ガラルが限界を迎えているからですよ。今の人間文化の成長速度を鑑みれば千年と言わず百年で終わりを迎えるでしょう。それを解決するには、ブラックナイトしかないのです」

 

「そのためにジムチャレンジを中断するのでしょう?この熱気に水を差す真似をチャンピオンとして苦言を呈させていただきます」

 

 ローズが詳しいことを話さないからということもあるが、ダンデはチャンピオンとして民衆やジムチャレンジに夢を見ている子供達のためにもセミファイナルとファイナルリーグを全うする責任があった。

 それだけチャンピオンマントとは、重くて肩が凝るものなのだ。

 交渉が決裂したことを見ると、ダンデに近付く人物がいた。ダンデが認めたライバルの一人、でんきジムのジムリーダーながら本気のパーティーではタイプ統一ではなくバランスの取れたパーティーを組む絶世の美少女。

 ショウがそこにいた。

 

「ショウ。君はローズ委員長の考えに賛同するのか?」

 

「はい。わたしの悲願でもありますから。それにガラルが救われるというのなら、とても素敵なことではありませんか?」

 

「……そうか。君はローズ委員長の孤児院に居たんだったな。ショウ、それは願いではない。盲信だ。自分で考えることが大事だと、君の年齢なら。ジムリーダーならわかるだろう?」

 

 ダンデはショウのことをただのローズ委員長の駒だと思ったのか、そう諭してくる。大人として子供を導くように、違う道もあるのだと伝えようとしていた。

 だが、それは見当違い甚だしい。ショウからしてみればガラルの救済こそついで。一番可能性が高いからそれに縋っているだけで、他に方法があればガラルだって簡単に切り捨てられる精神性を獲得している。

 ダンデの返しが気に入らなかったのか、ショウはモンスターボールに手を掛ける。

 

「ダンデさん。それは大人としての言葉ですか?それともガラルのチャンピオンとして、一ジムリーダーに対する言葉ですか?まあ、どちらにしてもカチンと来たので勝負を挑むんですけどね」

 

「戦うのか?今?」

 

「ええ。あなたにブラックナイトを任せられるのか。あなたがダメだったらユウリちゃんに任せましょう。大人として、チャンピオンとして。子供でチャレンジャーのユウリちゃんに負担を掛けないように意地を見せてくださいね?」

 

 ダンデはユウリの名前が出て来たことに疑問を持ちながらも、ポケモントレーナーとしての鉄則である目と目が合ったらポケモンバトルということは守るらしい。

 このローズタワーの頂上はダイマックスができるほどに整った階層だ。本気のバトルをするには適している。

 それにこのバトルを見ているのはローズとオリーヴだけだ。勝敗の結果も試合の内容も他の誰かに漏れることはない。

 

「わたし、この世界で最強のトレーナーってレッドさんだと思っているんです。伝説のポケモンに頼らないパーティー構成、そのレベルの高さ、強さを求めるストイックな姿勢。魔境と呼ばれるカントー・ジョウトリーグの元チャンピオンは伊達じゃないってことですね」

 

「何が言いたい?ショウ」

 

「わたしはレッドさんに負けました。あなたは本気のわたしに勝てますか?」

 

 ショウがそう言って投げたのは普段使っている市販のモンスターボールではなく、白い部分がボングリ色をした古めかしいボール。ショウが持っていることも、他人に配っていることも、とても高価で希少な物だということもダンデは知っていた。

 そのモンスターボールから出てくるポケモンは進化をしているとどのポケモンも誰も知らないリージョンフォームになっている。見た目はもちろん、タイプも異なるので対処する時に困ったりする。知識があるからこそ困惑して隙が産まれてしまうこともある。

 

 そんなアドバンテージを稼げる物だが、彼女自身が使う場面を見たことがない物だった。彼女は市販のモンスターボールしか使っていない。

 彼女はこの世界に来てからクイックボールも使うことなく、本当にモンスターボールしか使っていなかった。その異常性も含めて彼女は大衆から神聖視されている。

 

 ショウはダンデがボールを持つ前にその古びたモンスターボールを投げた。

 そこから出て来たのはダンデも見たことがあるポケモンだった。ほのお・ゴーストタイプの二本足立ちをした紫の炎を周囲に漂わせている、バクフーン。

 何度か戦ったことがあったのでタイプも把握できていた。

 

「その子は、オニオンにあげた……」

 

「ええ。そしてわたしのエースです。さあ、あなたはこのバクフーンを超えられますか?」

 

「いけ、ドサイドン!」

 

 ダンデはタイプ相性からドサイドンを繰り出す。ショウのバクフーンがオニオンのバクフーンよりも強いことが一瞬で読み取れたために無難に相性有利なポケモンを出したのだが、ポケモンバトルはそれだけではどうにもならないとチャンピオンであるダンデは一瞬でわからされた。

 彼が十年も無敗記録を続けてしまったために、特別なルール下でなければ負けなかったこともあって彼は初心に帰ることになる。

 

 誰もが最初は、圧倒的な強者に叩き潰される壁というものがあることを思い出した。

 ドサイドンへ指示を出す前に、バクフーンはショウの指示もなく動き出していた。尻尾を光らせてそれをジャンプした上段からドサイドンの頭へ叩き落としていた。

 ドサイドンの重心がフロアの床に突き刺さるくらいの打撃を受けて膝を着こうとしたところにバクフーンの右拳がドサイドンの腹へ決まっていた。地面にめり込んだのは一瞬でその巨体はダンデの横まで吹っ飛んでいた。

 

 もうドサイドンは目を回していた。初撃がアイアンテールだということはわかった。それが使えるのかとダンデは驚くも、その後の攻撃はどのタイプの技なのかわからなかった。ドサイドンに放った拳なのでかくとうタイプだろうとわかってもそれ以上はわからない。

 ちゃんといわタイプへのケアを考えられていることにショウのトレーナーとしての強さを再確認してダンデは生唾を飲み込んだ。

 

 ダンデのポケモンは強くなってきたライバルのキバナやジムリーダーとして生粋の実力者であるネズ、若手のホープであるオニオンやサイトウが自分を脅かすくらいに強くなってきたのでダンデも一層鍛えたつもりだった。

 ドサイドンはいわ・じめんタイプのジムリーダーのポケモンと比べても強いと自信を持って言えるくらいに鍛えたつもりだった。そのドサイドンがほぼ一瞬でやられるとは思わず、受けた衝撃は大きかった。

 ドサイドンをボールに戻して、次のポケモンを繰り出す。

 

「GO!オノノクス!」

 

 タイプ相性を気にしつつ、ポケモンそのものの強さを活かしての選出。

 ドラゴンポケモンとはその存在そのものが強者だ。ドラパルトもいるのだが、お互いゴーストタイプの技がタイプ一致で効果が抜群になってしまうのでドラゴン単タイプのオノノクスを繰り出していた。

 そのオノノクスはダンデの思いを汲んだのか素早くバクフーンへ肉薄する。一撃で落とすために至近距離で大技を放とうとしていた。

 技を放つタイミングを計っていたダンデよりも先に、ショウが口を開く。

 

「ふんか」

 

 バクフーンは活火山が大爆発を起こしたかのように全てを燃やし尽くした。

 ほのおタイプの攻撃はドラゴンタイプのオノノクスにいまひとつのはずだが、その大火力にオノノクスの足が止まり、バクフーンの前に辿り着く前に倒れ込む。

 タイプ相性の良いポケモンを出していったのにこのザマで、ダンデはあのバクフーンの攻略法が全く思い付かなかった。

 同じことをショウも思ったのか、溜め息を一つついてまぎれもない事実を告げた。

 

「もう勝てるポケモンがいませんよね?エースのリザードンがわたしのバクフーンを超える火力を出せるとは思いませんし。ダイマックスしたところでバクフーンを倒せるかどうか……。いえ、もう一度ふんかで撃退できますね。他のポケモンはギルガルド、ドラパルト、ゴリランダー。相性不利なポケモンばかりです。もう終わりにしましょう。ユウリちゃんに任せることにします。チャンピオン防衛線頑張ってくださいね」

 

 一方的にそう言ってショウはボールにバクフーンを戻す。

 先ほどのふんかはリザードンのキョダイゴクエンを超えていた。相棒のリザードンの火力だからこそダンデは正確に計れていた。ショウの言葉が全くの見当違いだったらどれだけ良かったことか。

 オノノクスをボールに戻して、ダンデは最大の疑問を問う。

 

「なぜユウリなんだ?確かに彼女はチャレンジャーの中でも強いが、俺の弟のホップやネズさんの妹のマリィ、それに君の弟子のビート君もいる。ユウリは俺が推薦状をあげただけの一般人だぞ?」

 

「自分の名前がそんなに軽くないとわかった上での発言ですか?あなたが弟以外に推薦状を渡した唯一のトレーナーが弱いと?ただ弟の当て馬にしようと思ってあげたんですか?」

 

「いや、だが……。彼女は本当にブラックナイトを御せるのか?」

 

「さあ?でも可能性があるのはユウリちゃんともう二人くらいですよ。その二人はイレギュラーに過ぎるので実質ユウリちゃんだけです」

 

 ショウの決定にローズは何も言わなかった。ポケモンバトルにおける見識眼においてはショウのことをいたく信頼している。そのショウがダンデはダメだと言ったのだからユウリに決定だ。

 ユウリのことを信頼しようとする一方で、今のバトルで思ったことを素直に吐き出すダンデ。

 

「ショウ。君じゃダメなのか?チャンピオンの俺にも勝てるくらいの君なら、君がブラックナイトを鎮めることこそが的確だと思うんだが」

 

「わたしじゃダメですよ。そもそもブラックナイトはダイマックスと密接な関係にあるんですよ。ダイマックスが使えないわたしが捕まえてもガラルのために力を使えないじゃないですか」

 

「……そうだったな」

 

 ショウのそんな表向きの理由で引き下がるダンデ。ショウが一度もダイマックスを使わないのでそういうものなのだろうと思ってしまっている。

 帰るダンデに計画のことを他言しないようにローズが釘を刺して、残ったローズとショウ、オリーヴで計画の大詰めを話し合う。

 

「それではユウリちゃんに決定です。可能性というものに賭けましょう」

 

「あなたがそう言うのならそれで良いですよ。実行日は明日、セミファイナルに合わせます。国民の注目はシュートスタジアムに向きますし、ちょうど良いですね。オリーヴは私と一緒にナックルシティで待機です。ショウくんはジムリーダーとしてシュートスタジアムに居てください」

 

「はい、ローズ様」

 

「了解です。各地で起こるポケモンの暴走はわたしがポケモンを送り込んで止めますね。その後ナックルスタジアムに向かいます。ユウリちゃんの誘導もこっちでしておきますよ」

 

 次の日、ショウもダンデも何事もなかったかのようにセミファイナルを観戦するためにシュートスタジアムに集まり。

 最初の一回戦、ホップとビートの戦いが始まろうとした時にガラル全土を揺らす大地震が発生した。

 大地震に連動するように空が赤く染まっていく。ガラル粒子によって変色するその空を見て、伝説のポケモンが引き起こすその現象に既視感を覚えたショウはボソリと呟く。

 

「ローズ委員長は人為的にこれを引き起こしているけど……。やってるのはブラックナイトだもんね。そもそもわたしが怪しいなら二十四時間監視しておけば良かったのに。そういうところが甘いんだよ、デンボク。人を糾弾するなら確かな証拠を集めないと意味がないのに。法整備もされていなくて、組織の権力者が絶対の発言力を持つからこその独断だったんだろうなあ」

 

 もう何年も前の出来事を思い起こして、また憎悪が募るもののやるべきことがあると選手控え室へ足を動かした。

 その間にエスパーポケモンへテレパスを送る。各地に飛び散ってもらって暴れているポケモンをどうにかしてもらおうとしていた。

 ヒスイのポケモンとこの世界に来てから捕まえたポケモンの総数は二百を優に超えている。しかもこの事態を想定してある程度は鍛えておいた。これでローズが心配する一次被害もある程度抑えられるだろう。

 



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ブラックナイト

 わたしが女子選手控室に行くとユニフォームに着替えていたユウリちゃんとマリィちゃんがいた。ユウリちゃんはわたしのレプリカユニフォームを着ていて、マリィちゃんはあくタイプのレプリカユニフォームを着ている。

 マリィちゃんもちょうどいいや。手伝わせようかな。ポケモンの暴走ならきっと手伝ってくれると思う。

 

「やあ、ユウリちゃん。マリィちゃん」

 

「あ、ショウさん!外が大変みたいなんです!」

 

「うん知ってるよ。ガラル中でポケモンがダイマックスしちゃってるんだ。だから二人にはちょっと手伝って欲しい。マリィちゃんはスパイクタウンに、ユウリちゃんはナックルシティに向かってほしいな。ナックルシティが一番被害が大きいみたい」

 

「あたしは地元だからわかるけど……。ユウリはナックルシティに向かわせるんですか?」

 

 マリィちゃんにそう問われる。

 まあ露骨すぎるけど、一応他の人達の状況も把握した上で誘導しているんだよね。

 

「ジムリーダーは担当している各街に既に向かいました。このシュートシティはマクロコスモスの社員達が対応をしています。あとは観客の腕自慢の人達が。彼女の家があるハロンタウンにはさっきホップ君が向かいましたし、ビート君は既にナックルシティに向かっています。ナックルシティはキバナさんだけでは手が足りなさそうなくらい被害が出ていますのでこれからわたしとチャンピオンも向かいます。わたしもできる限りのことはしますがそれでも被害が出そうなので手伝ってください」

 

「そんなにナックルシティは酷いんですか……?」

 

「ガラルの中心地ですから。おそらくこのシュートシティと並んで被害が大きいですよ」

 

 実際ローズ委員長が願い星を纏めて保管しているんだからあの街が一番被害が大きくなっている。少し前に実験をした時もナックルシティの周辺でダイマックスの暴走事件が起こっていた。

 シュートシティはマクロコスモスの人達が対応しているからまだマシなんだけど、ナックルシティは突然の出来事に慌てている。いつもは人が居ても今日は観戦のために人が離れている。

 そんなことも合わさってナックルシティは結構まずい状況だ。ローズ委員長の風評被害を少しでも減らすためには実害を減らすのが一番だ。

 

「キルクスタウンには戻らなくて良いんですか?」

 

「そこはジムトレーナーに任せますので。マイナージムの人達もいますから」

 

 ユウリちゃんもマリィちゃんも向かってくれるというのでエスパータイプのポケモンでテレポートでマリィちゃんを送ると、わたしもユウリちゃんと一緒にナックルシティへテレポートで向かう。

 既にナックルシティは大きくなったポケモンが多数闊歩していた。すぐにポケモンを出して技一発で混沌させた。ギャラドスが何かをしようとしていたのでピカチュウを投げて10万ボルトで終わらせた。

 その一瞬の決着にユウリちゃんが首を傾げながら質問をしてくる。

 

「……あの。わたし必要でしたか?」

 

「必要だよ。わたし一人で全部できるわけないから。ワイルドエリアも近いから強いポケモンが多いんだよ」

 

 実際色々なポケモンがワイルドエリアから押し寄せている。ナックルシティのジムトレーナーが頑張って食い止めているけど、それだってギリギリだ。今も実際ギャラドスが中に入り込んでいた。

 ユウリちゃんを連れて街の防衛に移行する。

 ブラックナイトが完全覚醒するまでユウリちゃんの疲労を抑えながらローズ委員長の合図を待つ。

 ガラル各地でポケモンの暴走が続く中。

 とうとうガラルの災厄たる龍が目を覚ました。

 

 

 ヤバイヤバイ!何で野生のポケモンがダイマックスしてるんだ⁉︎

 ショウちゃんの聖地巡礼目的でキルクスタウンに来てたらポケモンに襲われるなんてどうなってるんだ!って思ったらガラル地方全体で起きてる事態なのかよ!

 ショウちゃんのジムトレーナーが対処しているが、それだっていつまで保つか。俺もポケモンを繰り出すが、ダイマックスエネルギーが分散しているのかこっちのポケモンはダイマックスできるポケモンが少なかった。

 

 優秀なトレーナーならダイマックスができているようだが、ほとんどのトレーナーはそのままで戦っている。

 複数のダイマックスポケモンが襲ってくるが、今日はジムチャレンジのセミファイナルが行われているのでキルクスタウンの人はいつもより少ない。肝心のショウちゃんもセミファイナルの観戦に行っていていない。

 いや、いないからこそ俺たちファンがこの街を守るんだ!そうやって立ち上がったファンがたくさんいた。そのたくさんがポケモンを繰り出しても、野生のポケモンは全然減らない。

 

 そもそも一般人の俺たちのポケモンの練度は低い。キルクスタウンの周りはワイルドエリアには近くない代わりに雪山を生き残る強いポケモンが多い。そんなポケモンがダイマックスをしているのだから迎撃だって大変だ。野生のダイマックスポケモンは四人くらいで戦うことが推奨されている。

 そんなダイマックスポケモンが複数来ているのだから迎撃だって大変だ。

 

「も、もうダメだ……!」

 

「諦めるな!ショウちゃんのホームタウンを穢してたまるか!」

 

 そんな絶望的な声も上がる中、ダイマックスポケモンたちへ『かみなり』が落ちる。それをやったのはかなり大きめのレントラー。そんな特徴的なポケモンを、ショウちゃんのファンでありジムトレーナー募集を受けた俺たちが間違えるはずがない。

 

「ショウちゃんのレントラーだ!フーディンもいる!」

 

「あの大きなポケモンは見間違いようがない!この街にはショウちゃんの加護がある‼︎」

 

 一気に活気付くキルクスタウン。それだけでキルクスタウンはどこの街よりも優先的にダイマックスポケモンの迎撃を終えていた。

 それでもまだ空は紅いまま。住民は不安に怯えながらも体格の良いポケモン達と一緒に街の護衛を続ける。

 ショウちゃんのいないこの街は俺達が、このフラゲ民が守ってみせる!

 ……なんか話してみると結構あのスレの住民がいた。誰も彼もショウちゃんの聖地巡礼に来ていたようだ。

 相変わらずショウちゃんは俺達を狂わせる女神なのだと、自覚した。

 なんせそんな人間が千人以上いるんだから、全く魔性の女だぜ。

 

 

「な、何あれ……」

 

 ユウリちゃんが空を見上げて呟く。空から落ちて来たような、紫の龍。ウルトラビーストに比べれば龍と呼んで良いフォルムにアレがポケモンだろうと理解する。

 デオキシスやジラーチのように宇宙由来のポケモンもいるからあのブラックナイトも宇宙由来の可能性はある。けどポケモンの範疇で良いだろう。

 

 ようやく。

 ようやくわたしの願いが叶うのだと、口角が上がってしまった。いけないいけない。今ガラルは未曾有の危機。そんな場面でジムリーダーのわたしが嗤うなんてダメだ。

 見たこともないフォルムの巨大生物に愕然としているユウリちゃんの手を引っ張る。

 

「行きますよ、ユウリちゃん。防衛網も構築できています。外よりもあのポケモンをどうにかするのが先決です」

 

「え、え⁉︎アレを、私達で⁉︎」

 

「はい。突如空から降ってきたあのポケモン。この現象に無関係とは思えません。伝説のポケモンとは異常な事態とセットなことがしばしばありますから」

 

 わたし達がナックルスタジアムの中へ向かう様子を見てダンデさんも中へ向かおうとする。キバナさんも来ようとしていたけど、外の防衛網で獅子奮迅の活躍をしていたわたし達三人が抜けるのを知って自分まで抜けるわけにはいかないと思ったのだろう。

 キバナさんはそのまま外で指示出し。ドラゴンエキスパートだから来て欲しかったけど、その判断は責められなかった。

 

 ダンデさんがリザードンと先に入ってしまう。大人としての義務かな。わたしやユウリちゃんに何かをさせる前にチャンピオンとして責任を取ろうとしたのだろう。

 そして──一蹴されるチャンピオンの姿が目に映った。

 

「ダンデさん⁉︎」

 

 ブラックナイトはそこまでか。わたしの知るシロナさんを超えるほど鍛えてあげたのに膝を着くダンデさんとリザードン。今もガラルへガラル粒子を提供し続ける救いの神を、矮小な人間じゃ太刀打ちできないなんてまるで神話の一頁みたいだ。

 だけどこの世界において。そんな神話の繰り返しはそんな矮小な人間と絆のあるポケモンの力でねじ伏せられるものだ。

 

 かつてわたしが、シンオウとヒスイで(二度も)やったことなんだから。他の少年少女もやっているのならわたしは何も特別な人間じゃない。

 そしてそんな特別な人間がどこの地方にも一人は必ずいる。それがダンデさんじゃなかっただけの話。

 さあ──ユウリちゃんはガラルの救世主足り得るかな?

 

「ユウリ、来るな!このポケモンは君の手に負えるポケモンじゃない!」

 

「私じゃダメでも、きっとショウさんなら……!」

 

「わたし?うーん、まだダメ。というか、それじゃあ根本的な解決にはならないんですよ。ですよね?ローズ委員長」

 

「はい。まだ増大したガラル粒子ではガラルを救うには足りません。これでは結局百年後にガラルは終末の世となるだけです」

 

「え……?ローズ、委員長?」

 

 わたしの横に来るローズ委員長。彼はスマホロトムを見ながら手元のパッドでもガラル全域の様子を確認しているようだ。

 ローズ委員長が現れたこともそうだけど、わたしがあのポケモンを止めようとしていないことにもユウリちゃんはショックを受けているっぽい。一応少年少女への自分の人気というものは理解しているつもりだ。ショウちゃんがわたしのファンっぽいということも気付いている。

 けどそんなショックだったか。そうかぁ。そんなメンタルでこのガラルを救えるかな?

 

「今の調子だとあとどれくらいの維持が必要ですか?」

 

「丸一日、ですかね。もしかしたら一週間、一ヶ月必要かもしれません。最もそれはブラックナイトを誰も捕獲できずこのままの状態を維持する場合の話です。どなたかが捕まえてくれて、度々ガラル粒子を提供してくれればそこまで悲観することはありません」

 

「別に一ヶ月でも良いですよ。それくらいの保存食くらいありそうですし。英雄……いえ、救世主がそれまで現れなかったら最終手段を取ってわたしが捕まえます」

 

「お願いしますね」

 

「う、ウソ……。この事態をローズ委員長が起こして、ショウさんもそれに加担してるの……⁉︎」

 

 ジムチャレンジに夢見ている少女には厳しい現実だったらしい。

 わたしもローズ委員長も結局ジムチャレンジを試金石としか思っていなかったし、全てこのブラックナイトのためだけに取り繕っただけのものだ。

 ローズ委員長としてはジムチャレンジの経済効果もガラルのためになっているんだろうし、徹頭徹尾ガラルのために身骨を砕いて来た人だ。このブラックナイトを愉快犯で引き起こしたわけじゃない。

 

 ということを説明する時間はない。

 火事場の馬鹿力じゃないけど、人って試練を与えると物凄い力を見せるものだ。このまま悪役ムーブをしていた方が彼女は強くなれるかもしれない。

 子供は可能性の塊だ。大人にはないものをたくさん持っている。

 わたしができたことを、あなたにもやってほしい。それだけのためにわたしはこの状況を見守る。

 その状況で、後ろからもう一人が走り込んで来た。

 

「姉さん!……ローズ委員長?二人とも一緒だったんですね」

 

「あ、ビートくん。ちょうど良かった。あのポケモン捕まえられる?タイプはどく・ドラゴンだよ」

 

「……捕まえれば、この騒動は終わるんですか?」

 

「うん。姉からの最後のお願い」

 

 あまり姉として接してこなかったけど、ビートくんは家族に、そして自分を助けてくれる人に弱い。それは彼のバックボーン的に仕方がないわけで、こういうのはクリティカルヒットしてしまう。

 ローズ委員長も頷いて促したことで、ビートくんは状況がわからないまでもモンスターボールを構える。

 全く。酷い人間になったものだ。

 そのことを指摘する大人もこの場にはいるわけで。

 

「ショウ!君は彼までも利用する気か⁉︎」

 

「まあ、はい。ダンデさん、わたしは彼らを信頼しているんです。保険も用意しているので、少年少女の挑戦を見守っているだけですよ」

 

「その重い期待を乗せて、彼らは無事に済むと思っているのか⁉︎こんなガラルを背負うようなことを……!」

 

「それはこのガラルにおいて。チャンピオンになることとどれだけ異なるのですか?」

 

 純粋な疑問をぶつける。

 ダンデさんだってチャンピオンになったのはユウリちゃんと変わらない歳だ。スポンサーがついてずっと世間から注目を浴びて、ポケモントレーナーとして頂点で居続けなければならない。相応しい品格も求められて、数々の挑戦を跳ね除ける。そしてガラルの危機に率先して立ち向かう。

 そんなの、早いか遅いかの違いだけじゃないか。

 別に死ねって言ってるわけじゃないんだし。

 

「今も全地域で被害が出ている!これに失敗したらガラルそのものが崩壊するんだぞ!」

 

「わたしのポケモン二百匹を全地域に配置済みです。住民の皆さんも頑張っているのでそう簡単に被害は出ませんよ。なんのためにマクロコスモス関連会社の入社条件をジムチャレンジの成績を加味する、というものにしたと思っているんですか?ローズ委員長がこの事態を想定していたからに決まっているでしょう」

 

「そうですね。それにここにはジョーカーたるショウくんがいます。万が一はないんですよダンデくん。本当にジョーカーなので、あまり切りたくはない手ですが」

 

 ブラックナイトは伝説のポケモンといえどもアルセウスと比較すれば全然強くない。だからわたしなら簡単に制圧できる。

 いや、アレが頭おかしいだけか。まさしく規格が違いすぎる。アレと比べれば全部のポケモン、全部の生命が劣ることになる。

 あんなのでも、生命としては一つ上のステージに立っているからなあ。本当になんなんだあのバケモノ。

 

「ユウリ、早く構えてください。あなたもショウ姉さんに期待されたんでしょう?ならあのポケモンくらいさっさと捕まえますよ」

 

「ビート君はあの二人がこの事態を起こしたって知っても怒らないの……?」

 

「あの二人の隠し事なんて今更です。それにこのために僕を鍛えていたとしても……姉に期待されて喜ばない弟がいると思いますか?」

 

「そっか。──うん、それならやろっか」

 

「ええ。ここは一つ競争といきますか。どちらがあのポケモンを捕まえるか」

 

 ユウリちゃんとビートくんの共同戦線ができあがる。二人のどっちかが捕まえてくれれば万々歳。

 問題は。

 

「そっかあ、ハロンタウンの方向……。あの変な森か。ローズ委員長、剣と盾の英雄が来ます」

 

「それも予測通りですね。ですが過去にブラックナイトを鎮めた実績があるのも事実。今回は下手したら殺そうとするかもしれません。止めてください」

 

「わかりました」

 直感でまた伝説のポケモンが来ると予感して。

 その予想は正しかった。

 ナックルスタジアムで、ガラル史に残る戦いの火蓋が開けられた。

 



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名前

 空から流星のように落ちて来た赤と青の光。そこには誰も姿を知らない、名前だけが残った過去の英雄たる獣タイプのポケモンが。

 ザマゼンタとザシアン。剣と盾の英雄と呼ばれる三千年前の英雄。そんな英雄の背に乗ってホップ君がやってくる。

 その二匹に認められるということは、ホップ君こそが選ばれた少年だったのかもしれない。いや、あの二匹とブラックナイトの担当者は別かも。

 

 レッドさんやゴールドさんみたいに複数の伝説ポケモンを所持する人もいれば、ルビー君やサファイヤさんみたいに一匹ずつということもある。どんな法則になっているんだかわからないけど、それなりのパターンがあるから確信が持てないんですよね。

 ホップ君はなあ。ユウリちゃんはもちろん、現状じゃビート君にも劣る実力しかない。そんな彼があの二匹に加えてブラックナイトにも選ばれるんだろうか。

 現れた二匹はホップ君を降ろした後、ブラックナイトとわたしを睨みつけて唸り声を上げる。へえ、わたしも目標に入れられてるんだ。

 

「な、なんだ?何がどうなって……?」

 

「いらっしゃい、ホップ君。あなたもブラックナイトを止めてくれると嬉しいかな?でも、その二匹はダメ。殺意が高すぎる。ブラックナイトとの共存を考えていない英雄様はこの先には加えられないかな?」

 

 困惑しているホップ君を置いてきぼりにしてわたしはリザードンとカビゴンを呼び出す。抑えるだけならこの二匹で十分。

 

「さあ、ブラックナイトが暴れるまで。時間稼ぎをさせていただきますよ」

 

「ショウさん!どういうことだよ⁉︎あのポケモンがこの事態を引き起こしているのか⁉︎だったら止めないとっ……」

 

「ああ、ごめんなさい。あれ、わたしとローズ委員長が引き起こしたので。止める気はないんですよ」

 

「……なんで?」

 

「ガラルを救うためと、わたしの目的のためです」

 

 理解できていなかったホップ君は更に困惑しているっぽい。そのホップ君はわたしの元へ走り寄り胸倉を掴んできた。リザードンもカビゴンもそんなホップ君を止めることはしなかった。二匹ともホップ君がわたしを害さないとわかっていたのか伝説のポケモンを警戒したまま。

 こんな直接的な行動に出てくるとは思わなかったので、わたしはちょっと面食らった。

 

「今ガラルがどうなってるのか知ってるのか⁉︎知ってて、そんな平然とした顔してるなんておかしいぞ⁉︎」

 

「ええ。おかしくなければここまで大きなことをしでかしていませんよ。それにガラルのことも把握しています。痛みがなければ、革命なんて成功しませんよ」

 

「痛み?革命?今泣いてる人がいてそんなこと言えるのかよ⁉︎ガラルを救うためにガラルを苦しめて、矛盾してるじゃないか!」

 

「注射だって刺した瞬間は痛いでしょう?それと同じです。ちょっとの痛みに耐えれば健康な(からだ)になる。その処置があのポケモンです」

 

 ホップ君にはまだ難しいかもと思って、注射を例に出すけど、手に籠る力は変わらない。真摯だからこそそれを諭さないといけない。

 

「ポケモントレーナーが暴力に走っちゃダメです。やるならポケモンバトルじゃないと」

 

「……ポケモンバトルに勝ったら、あのポケモンを止めてくれるのかよ?」

 

「いいえ?それはわたしの役目ではありません。わたしに勝つより、直接あのポケモンを捕まえることをオススメします。わたしを倒したからってあのポケモンは止まりませんから」

 

「……ショウさんを倒さなくてもいいって?」

 

「ええ。だってあの二人はわたしを倒さずに今戦っていますから。どうぞ?あの二人を手伝ってください」

 

 両手でホップ君の手を掴んで外す。

 わたしが悪だというのは認めるところだ。ローズ委員長も利用しているわたしはどこからどう見ても悪と呼ばれる人種だ。ガラルを救っても結局はそのガラルを捨てて、ブラックナイトの力で自分の世界に戻ろうとしている。

 後のことなんて全て放り出して、自分の願望だけを叶えようとしている。自分本位の屑と自覚している。今だって子供達に期待という名の重責を背負わせている。

 

 本当、酷い人間になったものだ。

 家族に絶望して、チャンピオンの栄光を陥れて。世界を壊そうとしたら記憶を奪われた上で過去に拉致られて。過去でやれる限りのことをやったら住み家から追い出される上に人殺しをして。ジュンに辛い思いをさせて。

 過去から戻ってきたら自分のいた世界じゃなくて。だから自分の世界のために世界を荒らして伝説のポケモンを乱獲して検証して。最後の希望のためにガラルも子供達も巻き込んでの大騒動。

 

 まあ、世界を変革させようとした時点で悪決定だけど。

 ホップ君はまずこの事態を収めることが優先だと思ったのか、ブラックナイトの方へ走っていく。ユウリちゃんとビート君も頑張っているけど、ブラックナイトはまだまだ元気だ。ブラックナイトは戦いながらもガラル粒子を国内に撒き散らしている。

 やっぱり存在するだけでガラル粒子を放出してる。やっぱり規格外なポケモンだ。

 そんなことを思って前を向き直す。伝説のポケモン達はリザードンとカビゴンに苦戦しているようで全然邪魔をされることはなかった。

 

「あら?伝説のポケモンなのに突破できませんか?三千年の眠りで鈍りましたか?現代で育てたポケモン達に負ける英雄なんて見たくなかったです」

 

 そう煽っても、英雄さん達は靡いてくれない。必死に抵抗しているけどタイプ相性と地力の差からか二匹を突破できない。確かに強いんだろうけど、彼らはダイマックスできないポケモンみたいだ。

 そうなると純粋に地力でポケモンを突破しないといけない。種族としてはかなりの強者であるのはわかるけど、極まってる訳ではない。だからリザードン達で止められてしまう。リザードン達もポケモンの上限にほぼ達している。

 ただ単に個体として強いポケモンと、鍛え上げたポケモン。どっちが強いのかという勝負の結果をわたしは知っている。なにせ色々な地方でその結果を見てきたのだから、この結果は見えていた。

 

 たとえどんな伝説のポケモンだろうと、たった一匹で孤高に生きていたら強くなるはずもなく。この二匹はずっと一緒だったとしても、人間を知らなすぎる。

 人間への不理解が進んだ結果、伝説のポケモン(お前達)は負けるんだ。たった一人の人間が強大な力を持つ自分に勝てるはずがないと慢心して小さなボールに収まることになる。

 この二匹は人間と協力したんだったかな。今もホップ君と一緒になって現れた。

 

 けど、じゃあ何で最初からホップ君に同行しなかった?出身地に近い場所に住んでいたのに、最初から同行すればブラックナイトが目覚めた瞬間に間に合うこともできただろう。

 彼らはガラル粒子を感知できなかったんだろうか。空が紅くならなければブラックナイトのことも知覚できなかったんだろうか。そう考えると本当に眠っていただけなのかもしれない。

 まあ、三千年前と同じ個体なのかもわからないけど。伝説のポケモンだからってそこまで長生きとも思えないし。

 そんな風にザマゼンタとザシアンについて考察を続けていく内にカビゴンが「じしん」を決めて二匹を倒していた。

 

「そこが限界値でしょう。あなた達は三千年前のように人間と協力するべきだった。その時の相手だけをパートナーだと思いましたか?ホップ君は資格があるだけで実力が足りないとでも思いましたか?──わたしが意図的にあなた達とホップ君を離したことに気付いてないんですね」

 

 ホップ君はとても素直な子だ。だからちょっと煽ったらブラックナイトの方に誘導できるだろうと思っていたら案の定。

 そしてホップ君と話しながらもわたしは二匹に合図を出していた。リザードンとカビゴンはその通りに動いて伝説のポケモンを下しただけ。

 

「わたしってある程度ポケモンの言いたいことがわかるんですよ。最悪なことに、ある存在と会ってからよりハッキリと聞こえるようになった。これは呪いです。言葉がなければポケモンと繋がれないとアイツは思ったのかもしれませんけど。わたし達の対話に言葉は要らない。ただ手を取って、身体を寄り添わせて。それだけでいいのに余計なことをされていい迷惑です。……そんな最悪な力を使って、問い質してあげる。何でブラックナイトを殺そうとしているの?」

 

 地面に伏している二匹に近付いてそう尋ねる。傷が深いのか立ち上がることなくそのままわたしを睨んでくる。威勢だけは良いけど、体力がなくて剣も咥えられない相手を警戒するのも馬鹿らしい。

 わたしの質問の意味がわからなかったのか、二匹は低い声で唸り声を上げる。止めるのは当たり前だと。アレがいるから三千年前に現れたからガラルは危機に陥ったのだと。今もこうして災厄が起きているのだから止めなければまずいのだと。

 そんな正義感を聞いて、実際三千年前はそのおかげでガラルが助かったというのなら彼らの言い分もわかる。けど今は人間も増えたし、そもそもその時代と比べてポケモントレーナーがすっごく増えてる。対処法も増えてるし、科学だって発展している。

 もう少し人間を信用してほしいものだけど。今回はブラックナイトを引き起こしたのが人間で人工的に覚醒させたから警戒が解けないんだろう。

 わたし達が起こさなくても、ちょっとしたきっかけでブラックナイトは起きたと思うけどね。

 

「どの伝説のポケモンもトレーナーと共に歩むことでその超常の力を抑えてきました。普通のポケモンとして生活してポケモンバトルもこなしています。わたし達としてはブラックナイトにもそんな生活をしてほしいと願っています。そのついでに、ちょっとガラルのためにガラル粒子を供給してもらいたいという願望もありますが」

 

 嘘偽りなく話すことがポイントだ。別にガラルを滅ぼそうと思ってブラックナイトを目覚めさせようとは思ってないんだから、これで納得してほしいところだけど。

 まあ、納得しなくてもここで倒れていてもらうけど。そのためにエーフィーをボールから出す。

 

「エーフィー、『かなしばり』と『サイコキネシス』で二匹を拘束していてね。誰かがブラックナイトを捕まえるまでその二匹はここにいてもらうから。ブラックナイトを殺されたら全部が台無しになっちゃう」

 

 エーフィーに念動力で動きを止めてもらって、ブラックナイトを仰ぎ見る。

 突如としてブラックナイトは空へ駆ける。そこでガラル粒子を吸収したのか姿が変わり巨大になって降り注ぐ。

 へえ、ブラックナイトもダイマックスできるんですね。アレは三人にどうにかできるかな?

 わたしはローズ委員長に近付いて状況を確認する。

 

「どうですか?」

 

「むしろガラル粒子の総量は増えましたよ。まだ埋まっている願い星が隆起したのか、ほらブラックナイトに集まって行きますよ」

 

 ガラル中から星が飛び立ち、ブラックナイトに吸収されていく。というより、これわたし達が持っているダイマックスバンドの願い星も持って行かれてる。わたしとローズ委員長が持っていた物も天へ登る。

 まるでガラル中がブラックナイトを祝福しているようで、とても綺麗な流星群だった。

 

「ああ、あなたの名前。ムゲンダイナっていうのね」

 

 現象ではなく真の名前を訴えかける救世主たる龍は。

 ただただ自分の声を泣き叫ぶように咆哮を轟かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その宣言とはまるで違う鈴の音が、やけにその場に響く。

 

「ふふ。素晴らしい力だね。これだけの力があれば世界を渡ることもできそう。パルキアの力が増幅されれば、オリジンたるパルキアなら簡単だね。いやあ、一回目の世界でここまでの成果を上げるなんて、さすがだよ。『ショウ』」

 

 その声にショウとローズは振り返る。

 誰かがここに来ようと、ムゲンダイナの姿を見れば不思議なことではない。それこそ自分に自信があるポケモントレーナーなら足を踏み入れてもおかしなことはない。

 問題はその声の持ち主。顔が似ている人間が世界には三人いるとは言われているが、ならば声が似ている人もいくらかいるだろう。

 

 それでも。

 その声の波長が、高さが、口調が。

 全て同じ人間がいれば驚愕を隠せないこともおかしくはない。

 二人が振り返った先には二人の少年少女。

 片方は写真で顔を知っていたマサルという少年。ユウリ達と同い年の彼はただムゲンダイナを見つめているだけ。

 問題はもう一人。

 イーブイのお面を被っている少女だ。

 

「プラチナ……?」

 

「ああ、わたしのことも調べてたんだ?さすがだね。この街でユウリちゃんをマサルくんが倒しちゃったもんね。それにガラルの伝説のポケモンを使ってもらったからメッセージとしては完璧だったでしょう?役者としてマサルくんが必要だと思ったから連れて来たの。これでガラルに何も心残りはないでしょう?もしあったとしてもわたしがやってあげるよ。ジムリーダー、変わってあげようか?」

 

 自分と同じ声で話す、顔を隠した少女。背丈も同じで、こっちのことを全て把握されていて。

 まるで心が覗かれたかのような感覚があるのに、むしろそのことに嫌悪感を抱いていない。それが不思議で仕方がなかった。

 

「ごめんね、マサルくん。この時のためにあなたを鍛えたの。悪いんだけど、ガラルを救う英雄になってくれる?」

 

「ポケモンを捕まえただけで英雄になれるんですか?」

 

「うん。あなたは二人の女の子を守って、ガラルの今も未来も守った英雄になるの。……ユウリちゃんはどこの世界でも確率は半々になっちゃうから、安定しているあなたに任せたいの」

 

「よくわからないですけど、ポケモンを捕まえるのは得意です。行ってきますね」

 

 マサルは駆け出して、今ムゲンダイナと戦っている三人の少年少女に合流する。

 ショウの横を通り過ぎる時に横顔を確認していたが、ショウはそれどころじゃなかった。諸々の発言と、今も動こうとしないプラチナから目を離せなかったからだ。

 ショウは、核心に至る言葉を投げかける。

 

「……あなたは、誰?」

 

「パルキアの力を借りる者。ジラーチに願いを叶えてもらって、そんな友達を置いてきて世界を渡り続けてる大バカ者だよ」

 

「……オリジンパルキア。そんな言葉を知ってる現代人はいない。いるわけがない。それはヒスイと現代でパルキアの姿が違うことを知っていないと出てこない単語なんだから……。世界どころか、時空だって超えてる」

 

「さあて、そんなわたしは誰でしょう?」

 

「髪は染めたままなんだね。……『ヒカリ』、であってるのかな?」

 

 ショウはそうであって欲しくはないと願ったが。

 仮面を外した少女は十一歳の『ヒカリ』そのものだった。

 

「さあ、もうどっちがどっちなんだろうね?ヒスイに取り残されたわたしと、この世界に飛ばされたあなた。……どっちにしろ、シンオウサマとかいう奴のクソッタレな所業に巻き込まれた被害者っていうのは間違いじゃないと思う」

 

 そこには幾多もの世界。いくつもの時空を超えて。

 諦めた目をした少女が、孤独を胸に抱えていた。

 

 



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『ヒカリ』とショウ

 仮面を外した少女、『ヒカリ』の姿を見てローズはまだ受け入れられた。ショウの境遇の全てを知っていて、シンオウ地方にいるヒカリという名前の黒髪の少女のことを知っていたからだ。

 だが、そうではない人間は彼女の姿が信じられない。ムゲンダイナと必死に戦っている子供達は戦いに集中していて後ろを振り向けなかった。途中から加わったマサルに言いたいこともあっただろうに、今はムゲンダイナをどうにかすることしか頭になかった。

 余裕があったのは、ポケモンがひんしになっていてショウとも面識があったダンデくらいだ。部外者は彼くらいしかいないからこそ、自然と口から言葉が出ていた。

 

「ショウが、二人……?まさか、双子だったのか?」

「ふふ、初めましてガラルのチャンピオン。残念、あなたは世界線によってはムゲンダイナと共にある未来もあったのに。ここではダメだったんですね。ショウと張り合って実力を伸ばしてもダメだと、本当にこの世界の法則性がわからないなあ。まあ、もうどうでもいいんだけど。ショウが見付かったから、他の世界のことはどうでもいいんです。あなたのことも、あなたの可能性も」

「……他の世界?」

 

 ペラペラと『ヒカリ』はとんでもないことを話し続ける。

 他の世界のダンデのことを知っていて、ユウリの可能性が半々であったと先程言っていて。その上で安定性のあるというマサルを連れてきた『ヒカリ』。

 これだけでショウとローズは『ヒカリ』がどのように過ごしてきたのか察することができた。できてしまった。

 それはガラルだけでも何回も何回もムゲンダイナを呼び出すこの光景を見てきたということ。それだけ世界を渡って繰り返してきたということ。

 ショウの取った手段が最適解に近いものだったという証左にもなるが、その答えが突き付けられた時のショウの動揺は果てしないものだった。

 

 ショウは、この世界に来て一回目の出来事がこれだ。この六年くらいの時間ですら自分が世界の異物だと感じて苦痛だった。一刻も早く元の世界に、時間に戻りたかった。

 ヒカリという自分とは違う存在が居て、そちらが正しい存在であるかのように近寄ったら身体が透けるという怪奇現象を引き起こすこんな世界に長居する気は無かった。何かの衝動でヒカリが自分に会いに来たら自分が消滅してしまう可能性があるからだ。

 そんな怖い想いをしながら、ビクビクとしながらも帰るための最短手段であるためにジムリーダーにもなってメディアにも出た。それですら恐怖で眠れなかった日もあった。ヒカリに存在を把握されたら、アルセウスが何かをしたら。

 

 自分という存在が何も残さずに消えてしまうのではないかと、アカギ様との約束を守れないことが怖くて怖くて、早くこの日が来れば良いと周期的に存在しない願い星(ジラーチ)に祈り続けた。

 たった六年でこれだ。毎日朝を迎えることに安堵して、自分の想いをずっと仮面で隠して可能性を発掘するために笑顔を浮かべて。自分より弱い子を一生懸命育て上げた。ダンデがムゲンダイナに適合する可能性もあったから、八百長を仕掛けて強くなるように援助した。

 死ぬよりも恐ろしいかもしれない消滅の可能性がずっと頭にこびりつき、それでも日常を過ごし続けた。

 その六年の、何倍の時間を過ごしてきたのかわからない。ショウと同じで『ヒカリ』も外見が固定されているようで、だが絶望しきった瞳が幾星霜も刻を重ねてきたように見えてやるせなかった。

 何倍ではすまないのかもしれない。ガラル以外の手段だってあっただろう。ジラーチに頼ったということは一千年に一度の奇跡に頼ったということ。ヒスイから長い時間をかけてジラーチを待ったのか、ディアルガの力を使ったのかわからないが、何にせよショウよりも苦労したのだとすぐにわかった。

 そんな彼女が、何故今更出てきたのか。ダンデもわからなかったからか問いかけていた。

 

「君は一体誰なんだ……?」

「んー、ショウの代わり?ショウにはやることがあるので。その代わりにわたしがジムリーダーになってあげますよ。……まあ、わたしもこの世界に長く居られるかわかりませんけど」

「……何を言ってるの?何であなたがわたしの代わりなんて言い出すの……?だって、あなたはヒスイに残ってしまったんでしょう⁉︎何度もパルキアの力を使って、ディアルガの力を使って世界を渡ってきたんでしょう⁉︎何でまだ一回目のわたしにこの成功を明け渡そうとしてるの⁉︎あなたの方がよっぽど世界を知ってるのに!」

 

 小首を傾げながらまるで代償行為をしようとしている『ヒカリ』の言葉を理解できずショウが叫ぶ。

 確かに今回のムゲンダイナを呼び起こしたのは全部ショウのやったことだ。『ヒカリ』はマサルを連れてきただけ。そのマサルがガラルを平定に導くなら『ヒカリ』の成果だって大きい。

 そもそもの話、おかしいじゃないか。

 何故一人だけ送り出すのか。ショウの代わりにこの世界に残ろうとするのか。別に二人一緒に世界を渡ってもいいはずだ。

 ショウとしては『ヒカリ』もこの世界は違うとわかって世界を渡るためにこの場に来たのだと推理していた。世界を渡るなんてショウがここまでして、数年かけてようやく引き起こせる奇跡だ。『ヒカリ』は何度もやっているようだが、入念な下準備や何かしらの制約があるのだと考えていた。

 だが、『ヒカリ』の言葉でその前提が崩れようとしている。

 

「そこはむしろ、かな。わたしはもう四百を超える世界線を超えて来たよ。ムゲンダイナは優秀でね、パルキアの力を回復させるには一番のエネルギー源だった。わたしは八十回ガラルを救って、二十二回ガラルを滅ぼしたよ。セレビィの力も借りたし、フーパも頼った。パルデアでタイムマシンの研究も手伝って、同じようなアプローチで機械による他世界への移動ができないかってことも確かめた。

 ……でもね。全部だめ。全部が違う世界だよ。科学技術じゃ他の世界に行けなかったし、ヒカリという存在がディアルガかパルキアを捕まえるまでがわたしやあなたに与えられたタイムリミット。そのどちらかを捕獲するか、最悪のパターンとしてはあのクソッタレ本体がヒカリに接触するとわたしとあなたは確実に別の世界に飛ばされる。アルセウスがそこを基点としてわたし達の世界のアルセウスと同期してわたし達を排除するの。そうやって世界を飛ばされたことが百十八回。その時はもちろん元の世界に戻れなかった。……ヒカリがバッジを七個手に入れたわ。もう時間がないの」

 

 『ヒカリ』の四百回も繰り返した実体験に基づく真実。ショウはそんなことを知らなかった。シンオウは危ないとだけ思ってすぐに逃げた。ヒカリのことだけ調べて、それだけだ。

 一度も世界を渡ったことのないショウでは知ることのできない情報。

 『ヒカリ』が経験したことなら、ショウも同じように適応されるだろうと思っていた。だって同じ存在だから。どうして二人に別れたのかわからないが、目の前の人物が自分だとわかった。

 別世界の同一人物ではなく。『ギンガ団』の幹部アースになり、あのヒスイでポケモン図鑑を完成させたココノツボシ隊員であるという確信があった。

 

 『ヒカリ』側からすれば確認は簡単だ。自分と同じ容姿で、ヒスイの頃のボールとポケモンを誰かに配るなんて考えるのは自分だけ。必死に自分の世界に帰ろうとするショウの瞳を見れば間違いようがなかった。

 ショウから見ても、ヒカリという存在を知っているからこそヒスイのことを知っていてアルセウスを嫌っている人間なんて自分と同じ存在しかいないと確信していた。コンテストが好きで母親と上手くいっている同じ名前の存在がいるのだ。

 アルセウスに世界ごと追放されて、ヒスイを経験している存在なんてどれだけ世界があろうと自分しかいないだろうと脳が告げていた。

 そんな自分が、何故この世界に留まろうとしているのか。

 

「時間がないのはわかったけど、あなたはどうして諦めているの?わたしに会ったのはここが初めて?」

「あなたに会えたからこそだよ。どんな世界にもわたしなんていなかった。ラベン博士のことは少し伝わっていて、あのギンガ団のことも文献に残っていたりしたけど。ショウなんて存在はどこにもいなかったし、そもそも存在していなかったの。……全部、アルセウスのマッチポンプだったわけ」

「は……?どういうこと……?」

「元々、ラベン博士を手伝ってポケモン図鑑を完成させた『ショウ』って少女は。──未来を識って“ヒカリ”って少女を気に入ったアルセウスが“ヒカリ”って少女を模したアイツの端末の名前だったの。そしてわたしの家系はその端末の血筋なのよ」

「……なに、それ……⁉︎」

 

 それでは順序が滅茶苦茶だ。

 本来いた“ヒカリ”という少女を模した女を過去のヒスイに送り、その少女が結果として子孫を残して“ヒカリ”という存在の先祖になる。

 じゃあその最初の“ヒカリ”すらも、アルセウスが作った少女に似ていたからで。血を遡ればアルセウスそのものであり。

 ただ“ヒカリ”という存在を産むために世界線をループさせているようではないか。

 

「気持ち悪いでしょう?わたしもその事実を知ったのはたまたまフーパが『ショウ』を産み出す瞬間の時空に繋いでくれたからなの。すぐにアイツに世界ごと弾き飛ばされたけどね。それからわたしの家系を全部調べて、勝手に世界を飛ばされる理由もわかって。それでも元の世界に戻れる方法を探し続けて。──これだけ失敗して、ようやく希望(あなた)に会えたの」

「……わたしも、アルセウスの端末ってことでしょ?世界を、ポケモンを作れて、実際に人も作り出してるんだから、わたしを産み出すことだってできる……!なら、わたしのこの記憶も、身体も!全部偽物だっていうの⁉︎ジュンを想う気持ちも、アカギ様を慰めたいと思った気持ちも‼︎レッド君に勝ちたいって思った貪欲さも、このガラルで培った相手との繋がりさえも!全部植え付けられた紛い物だっていうの⁉︎」

 

 ショウはその事実に発狂しそうになる。

 途端に自分自身の全てが穢らわしく思えてきた。自分自身だと呼べるような核が、芯が何もかも崩れていく感覚。目眩もして吐き気を催し、呼吸も荒くなっていた。

 こんなところだけ人間のように作られていて。それもアルセウスの遊び心なのだと思うともう立っていられなかった。ローズが隣で支えるが、放心してもおかしくはないことの連続だった。

 そんなショウを、近付いた『ヒカリ』が支える。手を引いて立ち上げる。

 

「逆だよ。わたしが作られてたの。あなたこそがショウなんだよ。あの時アルセウスを殴って、啖呵を切ったのはあなた。アイツにとってわたしはあの滅茶苦茶になったヒスイをどうにかするためのコピー。後のシンオウへと繋げるための奉仕活動を命じられた端末。……あなたの感情もコピーされたから、すぐに反発して逃げ出したけどね」

「……え?」

「だってあなたはヒスイの頃のことはもちろん、アースの時のことも憶えているでしょう?わたしはギラティナを捕獲した瞬間のことは憶えていても、その前のことを全然憶えていないの。アースって名前はきっとあなたにとっても大事なものだったからわたしにも残ってるんだと思うけど、それ以前の記憶が曖昧なんだよ。だから全部憶えているあなたが本物なの」

 

 『ヒカリ』がそう言う。

 自分は偽物なのだとわかったのだと。

 それを証明するような存在がこの世界に現れたことで、確信が持てたと。

 そして自分が世界を巡ってきた理由があったと、穏やかに受け入れられていた。

 

「わたしが世界を巡ってきた理由は、この時のためだったの。確実にあなたが元の世界に戻れるように力を貸すこと。真実を伝えて、今回こそ失敗しないようにすること。四百を超える失敗の先に、たった一回の成功を引き寄せるためのスケープゴートだったんだよ」

「そん、な……。だってあなたはずっと辛い思いをしてきたんでしょう⁉︎世界を渡って、時を遡って!その数だけ別れがあったはず、長い時間あの世界に帰ろうと頑張ってきたんでしょ⁉︎何で諦めたかのように言うの!あなたこそが本物かもしれない、アルセウスがあなたの記憶を封じ込めたのかもしれない!一緒に帰ろう?二人でアカギ様を支えよう?」

 

 ショウは嫌だと、子供のように縋る。

 それは事情を知るローズにも見せることはなかった甘え。彼女は完成されたジムリーダーとしての姿をずっと見せ付けてきた。帰還のことだけを考えて表情を張り付かせ、心に蓋をしてきた。

 そんなショウが、初めて見せた自分への──。

 

「ダメなんだよ。もう、わたしには」

 

 『ヒカリ』が左手を差し出す。立ち上がらせた右手じゃなく、左手を。

 ショウも『ヒカリ』も左利きだ。何かをするなら左手でやろうとするだろう。なのにショウを立ち上がらせるために『ヒカリ』は右手を使った。

 ショウがその左手を取る。

 それだけで、全てがわかってしまった。

 

「ね?だからさ、あなたが帰る前にしようよ。最後のポケモンバトル。元々最強だったあなた。偽物だけど長い時間を生きて技術を培ったわたし。どっちが強いのか、決めよう?」

「……それが、したいことでいいの?」

「うん。これがいい。ジラーチもね、ただのポケモンバトルを楽しんでいたんだ。わたしは帰ることばかりでバトルを楽しもうなんて気持ちが全然わからなかった。ずっとずっとそうしてきたから。戦えば勝てちゃうから。ジュンやアカギ様と戦った時のような楽しさなんて思い出させてくれるようなトレーナーに出会えなかったから。でもあなたなら、きっと楽しいと思うの」

「……わかった。やろう」

 

 二人はバトルをするために少し距離を置く。

 ムゲンダイナはマサルの投げたモンスターボールに収まり、ガラルの空は元通りになっていた。

 この場にいた者が誰もが固唾を吞んで見守る。

 ガラル最強のジムリーダーと。

 シンオウチャンピオンによるバトルが始まろうとしていた。

 



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サヨナラ よろしく

完結になります。


 ギンガ団幹部 アースが

 勝負を 仕掛けてきた!

 

 

 

 アースは バクフーンを繰り出した。

 

 

 

「バクフーンの原種……」

 

 ショウは『ヒカリ』の出したポケモンに思うところはある。ショウの知っているバクフーンはヒスイのバクフーンだ。原種のバクフーンも見たことはあるが戦うのは初めて。

 そして彼女がわざわざ原種を手持ちに加えている理由を察してしまい、ショウは唇を強く噛んだ。

 ショウはそのバクフーンに対してバクフーンを繰り出した。こちらはヒスイからずっと一緒のバクフーン。ヒスイの頃からかなり鍛え上げてきたがとうとうこの六年でヒスイのエースポケモン達は成長限界(Lv100)を超えていた。

 だが『ヒカリ』のポケモンはそうでもない。レッドを超えていても『ヒカリ』は超えていなかった。

 『ヒカリ』はヒスイバクフーンを懐かしそうに眺めながら、それでも動きは同時だった。

 

「「『ふんか』!」」

 

 言葉通り二つの火山が大爆発を起こしたかのような熱量がそこに出現する。その爆発と熱風に近くにいた人間は全員顔を守るように腕を使っていた。

 そんな中戦っている二人はハンドサインを自分の手持ちに伝える。「ふんか」は高火力殲滅技であるのと同時に、その派手さから目くらましの効果もある。

 ここで動くのは当たり前。それは存在が同じ二人だからこその思考。

 ショウのバクフーンは「シャドーボール」を、『ヒカリ』のバクフーンは「アイアンテール」を繰り出す。硬くなった尻尾は見事に怨念のような球体を斬り払い、接近する。

 

「『ドレインパンチ』!」

「『じならし』!」

 

 ショウのバクフーンが殴ろうとする前に『ヒカリ』のバクフーンが地面に足を叩きつける。それによって起きた「じしん」ほどではないにしろじめんタイプの技にバクフーンはばつぐんダメージを受けつつ、殴り飛ばして技を強制キャンセルさせダメージを減らしていた。

 殴り飛ばしてすぐ電気を身に纏い、ぶつかって轢く。「ワイルドボルト」だ。極限に極まったバクフーンの攻撃はタイプ一致していなくても耐えられなかったようで『ヒカリ』のバクフーンはモンスターボールの中に戻っていく。

 

「うん。強いね。じゃあ、ムクホーク」

 

 現れたのはムクホーク。ムクホークもモンスターボールから出てきた。

 だが、その選出の意味が周りの人間にはわからなかった。今弱点となりえる「ワイルドボルト」を見せられたところだ。バクフーンのゴーストタイプの技を透かせることができるとはいえ、でんき技を持つポケモンに出すのはどうなのか。

 そしてポケモンについて知識がある人間はムクホークというポケモンの特徴を考えてもゴースト複合のバクフーンに出す理由がわからなかった。

 

 ムクホークはかくとうタイプ最強の技である「インファイト」を覚えるポケモンだ。ノーマル・ひこうタイプにしては珍しく、だがその使いやすさからムクホークをかくとう係にしているトレーナーも多い。

 ショウだけは、その選出の意味がわかった。『ヒカリ』の手の内が、手に取るようにわかってしまった。

 バクフーンはヒスイの相棒。

 ムクホークはジュンが初期から連れていたムックルが進化したポケモン。

 自傷ダメージもあるためにあえて「ワイルドボルト」を使わせず、ほのおタイプの技で倒した。

 ムクホークが倒したことに『ヒカリ』は拍手をして、次のボールを用意する。それもモンスターボール。

 

「行って、「クロバット」」

 

 出すポケモンがわかってショウは『ヒカリ』の言葉に重ねた。現れたクロバットはなつき進化しかしない珍しいポケモンだ。

 そして、ギンガ団のボスであるアカギの愛用していたポケモン。

 

「……嫌だよ……!」

「ごめんね。この手持ちはわたしの感傷だけで構成されているの。この子達はあの子達とは違う。()()()()ポケモンだってわかってる。それでも最期のパーティーはこうしたかったんだ」

 

 ショウの言葉に謝るものの、『ヒカリ』はバトルを続ける。

 極限近くまで育て上げたポケモン。だが、極限を超えたバクフーンという最強の個には敵わない。たった一匹のポケモンに蹂躙される。

 クロバットもひんしになって、次に出てきたポケモンは。

 

「お願い。ハピナス」

「……っ!」

 

 ショウがヒカリの名前の時に初めて手持ちだったポケモン。ピンプクの最終進化。

 ハピナスもなつき進化をする珍しいポケモンだ。

 ヒスイにもオヤブンポケモンとしていた。だがそのハピナスやラッキー、ピンプクは全員ビートのいた孤児院に送った。記憶が蘇って扱いに困ってしまい、ショウは手元から離れさせた。

 この世界でもヒカリという少女はピンプクを受け取ったのか。そのピンプクをハピナスまで進化させてしまったのか。それを調べる前にショウは逃げ出してしまった。

 ショウはこうやって自分の半生を見せられて、後悔だらけだと突きつけられた。

 

(あの子、どうしてるかな……)

 

 ポケモンバトルの最中だというのにそんなことを思ってしまった。

 元の世界で父親と仲良くしているのか。この世界では家族仲良く暮らしているのか。そんなことが頭にこびりついてしまう。

 だというのに指示だけは完璧で、耐久力のあるハピナスもバクフーンが倒していた。

 頭で考える前に蹂躙してしまう。ショウと『ヒカリ』がポケモンバトルもあまり楽しめなかった理由だ。ジュンとアカギ以外に楽しめたことはなかった。

 

 今回は、『ヒカリ』が戦う気がなさすぎてショウの蹂躙が巻き起こっているだけ。

 

 ポケモンのレベル差がありすぎる。たとえ『ヒカリ』が人では考えられないほどの時間を積み重ねて戦術を学んでいたとしても、やる気がなければポケモンの地力の勝負になってしまう。

 『ヒカリ』は確かに時間を費やしてきた。だがそれは帰還の方法を探るためであり、チャンピオンになるためではない。最強のトレーナーになりたくて修行しているレッドとは違うのだ。

 ポケモンを捕獲して、育てて。そこまでは他のトレーナーと同じだ。だが、伝説のポケモンを倒せるようになるまで育てたらそれ以上育てることはなかった。後は研究や実験の日々。

 

 そしてポケモンにも寿命はある。おかしいのは『ヒカリ』だけでいつまでも生きていられるポケモンはたったの二匹しかいなかった。寿命で亡くなるたびにポケモンを補充して育てて。その繰り返し。

 ショウのように極限まで育てるということを最初はしたものの、ヒスイのポケモンが二匹を除いて全員亡くなった時点でやめた。あとは妥協した育成とポケモンバトルしかしていない。

 そんな『ヒカリ』が全盛期のショウに勝てる理由がなかった。

 『ヒカリ』が今回育成に力を入れ始めたのはショウを見付けてからだ。それでもマサルの育成を優先したために自分のことは後回し。

 その上で自分の趣味を優先したガチのパーティーじゃないために、勝機があるはずがなかった。

 

「エンペルト、力強く『ハイドロポンプ』」

 

 力業を使われた一撃にバクフーンはとうとう倒れる。次のポケモンとしてショウはガラルサンダーを出した。

 エンペルトはヒカリの頃に旅立ちの一匹になったポッチャマの最終進化ポケモン。

 一方ショウが出したのはガラルの伝説のポケモンだ。ムゲンダイナに抵抗するために確保したポケモンの一匹。

 「とびひざげり』が決まり、エンペルトが倒れる。六対六の勝負なので次が『ヒカリ』の最後の手持ちだ。

 それは予想通り、ロトム。

 ロトムの「かみなり」でガラルサンダーはひんしに。

 ショウはこれ以上ポケモンを出す気がなくなっていた。

 

「……公式ルールなら負けになるよ?」

「いいよ、負けで。……あなたは、満足できるの?だってわたしは、過去にあなたが辿り着いた亡霊でしょ?」

「……ここまで頑張ってきた理由があったの。それ以上に納得のいく理由なんてないわ。なら敗者は言うことを聞いてもらいましょうか」

 

 ショウは二つの古めかしい手作りのモンスターボールを宙に放る。そこから出てきたのはシンオウ地方の伝説のポケモン。

 ディアルガとパルキアだった。

 その二匹のガタガタの姿に、実は立っているだけで限界の弱々しい姿に、ショウは涙を隠せなかった。

 もう彼女(『ヒカリ』)に寄り添っているのはこの二匹しかいないのだとわかってしまったから。

 

「あなたも出して。それとマサルくーん!ムゲンダイナにダイマックスさせて!師匠からのお願い!」

「はい」

 

 マサルは素直に言うことを聞いて、ムゲンダイナを出した後ダイマックスを行った。さっきまで敵だったポケモンが再び世界を支配し、ガラル粒子がうねりを上げる。

 過剰に集まったガラル粒子をディアルガとパルキアが受ける。ショウも『ヒカリ』に倣って同じ二匹を出した。

 同じポケモンが揃うことは珍しくないが、それが他の地方の神とまで呼ばれるような伝説のポケモンであれば誰もが驚きを隠せない。

 

 ただでさえ異様な雰囲気なのに、それが二匹ずつ。その上ガラル粒子で増大していく様は恐怖すら覚えるだろう。

 ムゲンダイナを含む五匹の伝説のポケモンが空へ咆哮する。それはとある神への反感のような、そんな怒りを彷彿とされる悲しい声だった。

 声は力となり、一つのゲートを作り出す。人どころか大型のポケモンでも通れそうな虚空に佇む黒い闇の渦。

 ショウはそれを通ったことがないはずなのに、別の世界に繋がっていると確信していた。

 

「行きなさい、ショウ。わたしの代わりに世界を()()()。もう悲しむ人がいなくなるように。そしてできるなら──ジュンとアカギ様に謝っておいて。アルセウスは殴れるなら、もう一回殴ってくれると嬉しい」

「うん。──さよなら、皆さん。サヨナラわたし。わたしはあなたの努力を無駄にしない」

 

 ショウは自分のポケモン達と一緒に黒い渦の中に入っていく。黒い渦に飲み込まれていき彼女達の姿が消えた瞬間、残っていたディアルガとパルキアが大きな音を立てて地面に倒れ臥す。

 『ヒカリ』も、膝をついて倒れた。マサルは儀式が終わったのだと理解して『ヒカリ』に駆け寄った。ローズ委員長もだ。

 他のこの場にいた人間は未だにその場を動けなかった。

 ビートとユウリは慕っていた人物の痕跡がなくなってしまったから。ダンデとホップは人がいなくなる黒い渦に恐怖を覚えたことと伝説のポケモンが全く動かなくなってしまったから。

 駆け寄ったマサルはヨクバリスを出して、彼の尻尾を枕がわりにさせた。そのまま地面に寝かせる。動かしたら余計に辛いとわかったからだ。

 

「師匠。大丈夫ですか?」

「……あの子は、ちゃんと向こう側に行けた?」

「はい。黒い渦の向こうに行きましたよ」

「良かった……。うん……。ショウ、その名前も、ヒカリもアースも、記憶も。全部あげる。だから……アカギ様の孤独を癒して。願いが叶わなくてもいい。あの方がこれ以上悲しまないように、アルセウスからあの人を守って……。わたしが願うのは、それだけだよ……」

 

 息も絶え絶えに、『ヒカリ』はそう言う。

 ローズはすぐに救護班を呼ぶが、指示を出しながら聞いた『ヒカリ』の言葉にローズは目が大きく開いていく。

 あげるという言葉は持っている人間が与えるという意味だ。では名前も記憶もあげるという言葉が示すのは何か。

 

「待ちなさい。あなたが本物のショウなのですか……⁉︎私と一緒にいたあの子こそ、アルセウスが作ったコピーだと⁉︎あなたがどれだけの世界を跳び、幾年も刻を重ねて、その上でここまでボロボロになって元の世界に戻れず‼︎戻る権利を与えられたのはコピーのあの子⁉︎なんだ……なんだその邪悪な結末は⁉︎」

 

 ローズの声は大きすぎた。その場にいた人間全員に聞こえる声量だった。

 ローズが本当に悲しみ、恐怖していることから『ヒカリ』は微笑みながら頷く。

 

「わたしが元の、わたしの先祖となる『ショウ』という少女が産み出される瞬間に立ち会ったと言いましたよね……?その時わたしはアルセウスともう一度戦い、勝ちました。そして全部の事情を聞き、言われましたよ。『ヒスイを壊し、与えた再生の義務を放り出した咎人。ヒスイだけではなく様々な世界を壊した大罪人。自分の世界に飽き足らず、他の世界も喰らう魔女め。肩代わりをする私の身にもなりなさい』と」

 

 ヒスイの世界も自分の世界も壊そうとしたのは本物の『ヒカリ』だ。コピーした存在にはそう言わないだろう。コピーであるという事実を突き付けて絶望させるはずだ。

 アルセウスが嘘をついていない限り、この『ヒカリ』こそが本物になる。もし嘘をついていたのならもっと悍ましい存在になる。

 

「そして元の『ショウ』とわたしの家系のことも聞いて、あのショウのことも聞きました。わたしが願ってしまった元の世界への帰還。わたしとそっくりな存在を送ればわたしの願いを聞き届けたという形になるためにわたしのコピーを作ったそうです。それがあのショウ。……もちろん、元の世界に戻したらわたしはコピーでも世界を壊そうとする。だからわたしが絶望するような、母親と仲の良い別世界に送って、わたしの存在そのものを否定するようなことをしたんです。アルセウス曰く、母親と仲の悪い方がレアケースらしいのでこの世界こそが正しいそうですよ?アルセウスの言う正しさという基準ですが」

 

 もう聞きたくない事実の連続だった。だが彼女といなくなってしまったショウを知るには『ヒカリ』の話を聞かなくてはならない。

 共犯者として、ローズには全てを聞く責任があった。

 

「わたしは世界を壊し続けてしまったので、元の世界には戻れなくされたそうです。だからわたしの帰還は諦めました。その代わりに、わたしはショウを探した。わたしであってわたしではない存在なら帰れる可能性があったから。そしてわたしならアカギ様を支えられる。わたしにしかショウ(わたし)を救えない。もしショウが失敗してしまったらアルセウスによって元の世界へ帰るための手段が閉ざされるかもしれない。……だから一回目のショウを見付けるために世界を飛び回ったんです。そして、間に合った」

「……あなたは、ショウを救うためにいくつもの嘘を……?」

「わたし、アルセウスのことは全く信用していません。だからアレの言葉が真実かもわからない。本当にわたしがコピーで、あの子が本物なのかもしれません。ただ、あの子も結局わたしなんです。ショウ(わたし)がわたしの願いを、想いを継いでくれるならあの子こそが本物で良いんですよ」

「それでは、あなたが救われない……!」

 

 『ヒカリ』が奪われたものはどれだけあるだろうか。

 元々はアルセウスの産み出したワガママが原因だ。アルセウスが産み出した原初の『ショウ』さえそんな方法で産み出されなければこの悲劇はなかった。

 『ヒカリ』が幼少期から人間とは思えない力を発揮していたのは確実にアルセウスの影響がある。『ショウ』をいくら人間に偽装しようとアルセウスが創った身体だ。『ヒカリ』はそのアルセウスの力を隔世遺伝のように覚醒させてしまった存在だと推測される。

 

 あべこべな因果の巻き添えになった少女。

 その少女の結末が今なのだとしたら、救いはどこにあるというのか。

 救護班が様々な機械で『ヒカリ』をスキャンしていく。ショウのデータがあったために違いは一目瞭然だった。身体の無事な部分などない。中も外も崩壊が始まっており、いつ壊れてもおかしくない状況だった。

 しかもどう治せばいいのか検討も付かない。病気とは思えず、超常の存在が創った人形が壊れるかのような、人間医学では解明できないような症状だった。

 

「何としても彼女を助けます!マクロコスモスの総力を以ってして彼女を治療します!」

「……いいんです、ローズさん。わたしは人を殺しました。そんな罪の記憶もショウに押し付けた酷い人間なんですよ」

 

 ローズのことを止めつつ、『ヒカリ』はマサルへモンスターボールを渡していく。

 

「ごめん。この子達のこと、頼んでいい?」

「……はい。師匠のポケモンは、僕がしっかりと育てます」

「ありがとう。……ああ、永かったなあ」

 

 その言葉を最期に。

 マサルが掴んでいた手は力がなくなってダラリと下がり。

 微笑みながら眠っていた。

 その見目は儚い少女のようなのに。

 長い旅路を歩き切った老婆のようにも見えた。

 数人の慟哭の声でも、眠り姫は目を醒まさなかった。

 

 

 やぶれたせかいを通り抜けて。

 わたしが出た場所はギンガビルの社長室。アカギ様の部屋だった。そこが元の世界だとやぶれたせかいから見渡したこの世界の様子から断定していた。

 部屋にはアカギ様が居て、わたしはひざまづくように頭を下げる。

 

「ショウ⁉︎……無事だったか」

「はい。帰還が遅くなり申し訳ありません。わたしが消えてからどれだけ経ちましたか?」

「一時間、といったところだな。無事で何よりだ。やぶれたせかいなんて危険な場所へ送り出してすまなかった」

「いえ。ギラティナに加え、ディアルガ、パルキアも捕獲しました。これで計画を進められます」

「何?……ショウ、何があった?なぜお前は泣いている?」

 

 わたしは涙を強引に拭い、首を横に振る。

 多分アカギ様の前で泣いたのは初めてだ。だから不審がられても、説明をしている時間が勿体無い。

 

「この世界は一匹のポケモンに監視されています。そのポケモンをわたしが抑えます。その間にアカギ様はディアルガとパルキアを用いて世界を作り替えてください」

「……わかった。だが準備には少し時間がかかる。その間にできる限りの説明を頼む」

「はい」

 

 そしてわたしは。

 あらゆる世界からやってくるアルセウスを倒し続けて。

 アカギ様の計画はうまくいき。

 世界が感情を、失った。

 




これにて完結です。
あまり救いのない終わりですが完走できて良かったです。
元々一話限りの短編だったのにここまでお付き合いくださりありがとうございました。


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