灰の魔女と鉄拳の魔術師の旅々 (気まぐれな富士山)
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平和国ロベッタと六人目の師
5/18 内容を変更しました。
イレイナの最初の一月を入れるとややこしいので、その後ということにしました。
魔法使い。
この世界に存在する奇跡、魔法を使う人々のこと。
毎年多くの人々が魔法使いになるために学園に試験を受け、厳しい試験を合格した者は魔法使い見習いとなる。
魔法使い見習いは、魔女、魔術師のところへ弟子入りして、師に認めてもらえば、晴れて魔術師となれる。
はずなんだけど。
「ぬおぉぉぉ助けてぇぇぇぇ!」
後ろから岩が転がってくる。
「ハイハイー、サッサと逃げるないト潰れるヨー。」
「嫌だァァァ!!」
俺、ミシマ・リュウは今、魔術師たちの元をタライ回しにされている。
しかも、魔術師といっても武闘派の魔術師たちの元をだ。
「ぜェ、ぜェ………」
「やっぱチミ凄いネー。もーチョイで免許皆伝ヨー。」
「お、押忍……………」
今のは5番目の師匠………というか老師。
東国の拳法家で、口調がカタコトだが、腕は本物。
噂では御年95歳だという化け物じみたジジイ。
16歳の時、魔法使いの試験に見事1発合格してはや3年。
何故か最初に弟子入りした師匠から、
『お前をまだ魔術師として認める訳にはいかん。こいつに認めてもらえば一人前だな。』
と言われ、2番目の師匠………師範の元に師匠の紹介の元、弟子入りした。
そして、全ての師匠たちに『ここに行け』『あっちに行け』と言われたのだ。
お陰で魔術に関してはほとんど学べていない上に、19歳でまだ魔術師に慣れていないのだ。
「このままじゃ魔術師じゃなくて武闘家になっちまうぞ…………」
そう言いつつも日課の筋トレをする。
老師の元では、かなりスピリチュアルな事を学んだ。
氣の練り方、人体の秘孔、疲れない呼吸等…………。
「東の大国には4000年程の歴史があるというが……こりゃ侮れんな。」
思えば色んなことを学んだ。
師匠からは『武術の心得と魔力の拳』を。
師範からは『カタナを使った近接魔術』を。
教授からは『拳に乗せる魔力』を。
博士からは『怒りを込めた魔神化』を。
そして老師からは『氣の使い方と呼吸法』を。
これだけのことを学べた。
結構簡単、とはいかない。
努力をするのは得意だが、まだまだ荒削りなのだろう。
でなければたった3年でここまでになれるはずない。
「今日は6月下旬…………。明日には、明日の風が吹くか………」
今日の修行もキツかった。
明日の修行も頑張ろう。
「まだ認めるないネ。ここんトコ行きなサイ。」
「はぁ…………免許皆伝間近だったのに…………」
また回された。
一体なにが足らなかったのか。
「考えても仕方ねぇか………老師が言うなら信じよ。」
仮にも尊敬する師匠(5人目)の紹介なのだ。
断れば半殺しにされる。
「えーっと、この山奥か…………?」
ちなみに、移動は箒ではなく走りだ。
その方が速い。
「おっ、抜けた。」
どこかだだっ広い所へ出た。
「ここであってんだよな…………?」
「すみませーん。」
上空から声をかけられる。
見上げると、銀髪の美少女が降りてきた。
「なにか御用ですか?」
「星屑の魔女に用があって来たんだ。あんたが星屑の魔女フランか?」
「いいえ。フラン先生の弟子、魔女見習いイレイナといいます。」
「魔術師見習い、リュウだ。しかし、当の本人がいないな。今日来ると手紙を送っているはずだけどなぁ…………」
2人で話していると、黒い蝶が飛んでくる。
「おやおや、もう着きましたか。ミシマ君でしたっけ?話は聞いていますよ。」
「押忍!弟子入りは、可能ですか?」
「構いませんよ。弟子が2人になるだけですから。」
リュウは、これから世話になる師に礼をしておこうと、
掌と拳を合わせ、礼をする。
「よろしくお願いします。フラン先生!」
今までも色々なことをやってきたが、ここからがスタートだったのだ。
俺の、魔術師としての人生の!
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旅立ちと3年後
久々の更新!
「フンッ!ハァッ!」
「くっ!?はぁっ!」
「そこまで!勝者はリュウ!」
あれから1年後。
弟子入り後の訓練は苛烈を極めた。
根性はあったが、才能面の高い魔法は扱いが難しかった。
特に、杖を使うのが面倒くさかった。
さらには、先生から課せられた卒業試験は、『先に合格したイレイナから1本とる』という武闘家中々にアウェーなものだった。
しかし、こうしてやり遂げたのだ。
「よっしゃぁぁ!初めて勝った!」
「1勝1敗46分けです!これでイーブンですからね!勝ったなんて思わないでください!全く!」
「うるせー!俺は武術無しのハンデ付きなんだから、殆ど俺の勝ちだろ!」
「私だって箒なしに魔法制限が掛かってます!あなた相手にそれだけやってるんですよ!?むしろ、私の方がハンデかけてるんだから、殆ど私の勝ちでしょ!」
「はいはい二人とも。ケンカはいけませんよ。仲良くしないと…………」ゴゴゴ
「「すみませんフラン先生………………」」
「よろしい♪二人で仲良く、ね?」
フラン先生に仲介を入れられたが、決して仲が悪いという訳ではなく、むしろコンビネーションには自信があった。
そんな2人も、もう間もなく卒業する。
「明日には魔女、魔術師としてのブローチが届くはずですよ。」
そう言われ、午後は休みとなった。
「卒業…………卒業か。」
自分は、明日から魔術師。
そう思うと、どこかにやけてきて、今までの全てが報われた気がした。
初めて魔術師という存在を知ったのは5歳の時。
実家は東の大国ルーロンで、父は鍛治職人、母は農業を営んでいた。
春は梅が咲き、鉄の匂いがする。
夏は青葉の上で銅を焼く音を聞く。
秋は稲穂が走り、武器を売り出す父を見て。
冬は雪の上ではしゃぎながら、父の作る剣に触った。
裕福という程でもなかったが、本を買うくらいの余裕はあった。
まぁ、元々両親が読書好きというのもあったが。
誕生日プレゼントとして送られた本。
それは、俺の世界を一転させたんだ。
「俺があの魔術師…………なんか感慨深いな…………ここを出たら、まずは師匠に会いにいく、その後師範、博士、教授、老師、それで、親父とお袋。旅に出るのは、その後かな。」
宛もなくブラブラと旅をするのが夢だった。
向かった所々で行き先を決めて、進路を変えて、たまに遊んで、困って、戦って。
そんな夢のような世界があるとは思えないが、今の自分は世界の広さを知りたい。
「あ、そうだ。」
リュウは、何かを思い出したように立ち上がった。
気づけばすっかり夜。
星が綺麗に輝き、風が心地よく頬を撫でる。
彼女、イレイナは、庭で寝転びながら色々なことを考えていた。
すると、後ろからリュウがやってくる。
「あ、リュウですか。」
「隣、失礼していいか。」
「どうぞ………………なんだか、あっという間でしたね。私も、あなたも。」
「そうだな…………俺は17、お前は15か。まだまだ若いし、これから色々できる。やっと魔術師っつう資格を手に入れたんだ。俺よりも強い奴を探しに行く。イレイナは?」
「私も…………そうですね。旅に出ます。大切なものとか、やりたいことも、旅以外ないので。」
「お前、あった頃からそう言ってたな。旅をしたいって。ニケの冒険譚に触発されたとしても、かなりのファンだな。」
「あれは、私の人生の教科書のようなものです。…………きっと、会うのも最後になるかも知れませんね。」
「……………かもな。」
「………………リュウ。最後かもしれないので、伝えておきます。」
イレイナは立ち上がり、自分の口で伝え始めた。
「あなたと過ごした1年間、とても楽しかったです!あなたとの勉強も、あなたとの試合も、全部全部、私の大切な思い出です。」
「イレイナ…………俺もだイレイナ。俺、お前のこと尊敬してたし、憧れてた。そんなおまえを、追いかけた日々は、本当に楽しかった。」
イレイナが手を差し伸べる。
「ありがとう、ございました。また、どこか旅の途中で出会えたら。」
「その時は、お互いに懐かしい話でもしよう。沢山土産話を作っておくからよ。」
「その言葉、そっくりそのまま返します。覚悟しててくださいね。」
お互いに笑い合う。
青春の、最も濃い一時を過ごした仲間として。
「それじゃ、私ももう寝ます。」
「あぁ。おやすみ、イレイナ。」
「おやすみなさい、リュウ。」
イレイナが去った後、項垂れながら草に寝転ぶ。
「こういうことが言いたいんじゃ無かったのになぁ…………コレも渡し忘れたし。いや、流石に恥ずかしすぎるか…………でも、好きだったなぁ。」
17歳が感じてもおかしくない感情。
彼は恋をしていたのだ。
それでも、自我を押し通さず、彼女の意思を尊重した。
「初めての失恋がこんなのとは…………なんか、寝れねぇな。鍛錬するか。」
自分の部屋に戻ったイレイナは、枕に顔を突っ伏した。
「はぁ〜…………もう、バレバレなんですよ。そんなの。」
彼女は気づいていた。
リュウが自分に気があることも、自分が満更でもないことも。
「気持ちに答えてあげたい…………でも、でもでも…………うぅ〜!」
そんなの関係ない、と言わんばかりに、唸りながら足をバタバタとさせる。
「私が美少女なのはわかりますが、あっちも自分がイケメンだと気づくべきです!私のように!」
しかし、彼は自意識過剰ではないし、自慢もしない。
それが問題だった。
「全く、男の子なんだからハッキリとして欲しいです!彼の方から言ってくれれば…………そうすれば…………」
途端に顔が熱くなる。
耳先まで赤く染まり、今にも爆発しそうだ。
「私は何を……!?まさか、私が恋してるとでも!?いやいや、そんなまさか………………」
ふと、窓と外に意識が向く。
「あ………また鍛錬ですか。もう、こんな夜だというのに………………」
自分のイメージと戦っているのだろうか。
シャドーボクシングのような動きをしている。
「…………本当に、仕方の無い人。いっつも鍛錬ばかり。でも、近くの人のことを決して忘れない。魔法の勉強も欠かさず、師を慕い、私のような女も信じて…………」
独り言を呟きながらも、彼から目が離せない。
胸の鼓動は高鳴り、安らかな気持ちになる。
「あぁ…………私、彼のこと好きなんですね。」
その気持ちは、きっと今までも、そしてこれからも。
しかし、これから自分は旅に出る。
今ここで彼の誘いに乗ってしまえば、自分の夢は叶わない。
かといって自分が誘えば、彼の目的も果たせない。
「とにかく今は寝ましょう…………はぁ〜、まだドキドキしてる…………本当にあの人は………………」
2人は、そのときめきを噛み締めながら、夜を過ごしていた。
「イレイナ、リュウ。星屑の魔女が、あなたたち二人を正式な魔女、魔術師として認めます。……本当に、1年間よく頑張りましたね。二人とも。」
「「ありがとうございます。フラン先生。」」
「ところで、2人の別名なのですが…………」
「別名…………あぁ、星屑の〜とかですか。あれ決めるものなんですか?」
「いえ?カッコイイからつけるだけですよ?」
「な、なるほど…………」
「それで別名の件ですが、かなりいいものが思いついたんですよ〜!聞きたいですか?聞きたいでしょ?」
「わ〜。聞きたーい(棒)」
「よろしい!では……イレイナ。あなたは灰の魔女。リュウ。あなたは鉄拳の魔術師、なんてどうでしょう。」
思ったよりいいセンスをしていた。
「おぉー。思ったよりカッコイイ。」
「由来は何ですか?」
「イレイナは髪が灰色だから。リュウは武闘家だからですよ。」
「そのまんま…………てか、それならフラン先生の星屑の魔女っつうのは何故なんすか。」
「もちろん、カッコイイからですよ。それ以外あります?」
カッコイイ、カッコ悪いも価値基準の1つかもしれない。と2人は感じた。
かくして、灰の魔女イレイナと鉄拳の魔術師リュウが誕生した。
「それでは、私は行きますね。祖国に私を待ってる人がいます。」
「1年間、本当にお世話になりました。またどこかで会えたら!」
「はい。2人の成長を楽しみにしてますね♪」
フラン先生は直ぐに国を発たなければならないらしく、そそくさと祖国に向かって行った。
「それじゃ、俺達もここでお別れだな。俺は一旦実家に帰るけど、イレイナは?」
「私は家も近いので、お父さんとお母さんに挨拶をしてから、旅に出ます。きっと、またどこかで会えるはずです。」
「ああ。その時は……ってこれ昨日も言ったな。」
「フフフ、締まらないですね。…………それでは、私も行きます。」
フワッと箒で浮いた瞬間、リュウは声を出した。
「イレイナ!」
「は、はい?」
「その…………コレ。」
渡しそびれたと言わんばかりにポケットから何かを取り出す。
「持ってけ。祖国のお守りだ。」
「これは…………ネックレスですか。」
銀の鎖と、三日月形の輝く石が埋め込まれている。
「俺も同じものを持っている。またどこかで会ったら、これを目印にしよう。」
「それは良いですね。では、私からもお返しをします。目を瞑って貰えますか?」
「え、あぁ………………」
思ってたのとは若干違う反応だったが、リュウはイレイナの言う通りにする。
ふと、イレイナの体温を感じた。
「イレイ…………んむっ……!?」
口と口を合わせる、恋人同士の愛情表現。
そう、キスである。
最初は驚いたリュウだったが、徐々にイレイナを受け入れ、抱きしめた。
「ぷはっ…………かなり、刺激的ですね。」
「お、お前…………どうして…………」
「気づいてましたよ。ずっと前から。」
「ッ!?」
「この続きは、またどこかで出会った時にしましょう。それでは、また………………」
「ま、待ってくれ!」
ここで言わなければ、次に会う保証は無い。
そう確信したリュウは…………
「好きだ。イレイナ。」
飛び立つ前に伝えた。
不器用ながらにちゃんと、彼女に届くように。
「…………私もです。リュウ。あなたが好きですよ。」
それだけ言い残すと、彼女は箒で飛んで行った。
「…………行っちまった、か。」
その場にしゃがみこみ、現実を実感する。
ファーストキスは奪われた。
しかし、今の彼の脳内はそんなことを考えてはいなかった。
「舌…………入れてきた………………」
ただただ、初めてのディープキスに浸っていた。
「それはマズイわよイレイナ。」
「そ、それは恥ずかしいですけど…………そんなになんですか?」
「それをする時は、今晩セックスしていいよっていう意味でするものよ。」
「せっ……!?」
途端に顔を赤らめ、手で顔を覆う
「私はなんてことを…………!?」
「でも、満更でもなかったの?」
「……………………」コクリ
「キャー!今日はお祝いしないと!」
「待ってください!お父さんが聞いたら倒れちゃいます!」
1人で喜ぶ母を抑えるイレイナ。
「それに、彼にだってまたいつ会えるか分からないし…………」
「それは違うわよイレイナ。」
急に真剣な声色になる母。
イレイナも背筋がピンとなる。
「あなたが会いたいと思えば、いつでも会えるのよ。いつ会えるか分からないなんて悲しい事を言わないの。」
「お母さん…………」
「その彼にも会ってみたいしね♪さ、明日は旅立ちですから、今日は最後の晩餐としましょう?」
「っ!うん!」
そして月日は流れ3年後。
「ここが魔法使いの国…………魔法使いしか入れないんだよな。しかし、門が上にあるっつうことは、箒で入る前提か。」
1人の男が、魔法使いの国に訪れた。
「はえー、城壁は立派なもんだな。よっと。」
魔法使い用の門は、一般人では決して入れないように高い位置に設置されているが、男は一蹴りで軽々超えてしまいました。
「ようこそ、魔法使いの国へ。」
「お入り下さいませ、魔術師様。」
「あれ、入国検査は要らないのか?」
「この国は魔法使いしか入れない国ですし、そのブローチは、魔術師様の象徴でありますから、必要ありません。」
「なるほどね。それじゃ、失礼しますよーっと。」
城壁の中は壮観な景色だった。
ほぼ全員が箒に乗っているので店が高い位置に多い。
「こいつはすげぇな。ん?あれは…………」
黒髪ショートの魔法使いだろうか。
何か意を決したように飛んでいく。
「んー……?なんか妙だな。」
空を飛びまわっている魔法使いたちの中からさっき飛び立った魔法使いを目で追いかける。
すると、先程の魔法使いは銀髪の魔女にぶつかった。
「危ねぇなぁ。あんなこともあるのか…………って、どっかで見たことあるぞアイツ。」
よーく目を凝らして見てみると、やはり見覚えのある顔だ。
というか、自分が最も忘れられない顔だ。
「イレイナ!?あいつもこの国に…………あぁやべぇ、緊張してきた…………」
3年たっても忘れられないディープキス。
また会った時は土産話を、と言ったと思うが、今はそんなことより、イレイナが言っていた『続きはまた今度』と言ったのが頭の中を巡っていた。
「臭い大丈夫だよな…………毛も剃ってある。フケも無いし、肌も…………大丈夫。」
鏡を身だしなみを整え、いつ会っても良いようにする。
彼ももう20歳。 一人前の大人だ。
そして、イレイナも18歳。淑女と呼んで相応しいだろう。
「よし…………ん?アイツ………………」
イレイナと話していた魔法使いはイレイナが去ると、何かを隠すように離れて行った。
「なんだろ…………まぁいっか。」
見なかったことにして先へ進むことにした。
3年越しの再会は、もう間もなく。
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