大天使の戦女神 (Scorcher)
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Phase1

機動戦士ガンダムSEEDの二次創作作品となります。ガンダムシリーズの2作品目となります。

基本は原作通りに話を進めますが、キラとマリューの少しだけアダルトな関係がベースとなっております。本当に少しだけなので全年齢作品となります。SEED本編と同じくらいには健全です。

始めはヘリオポリス脱出直後のパートです。キラマリュがメインなので戦闘シーンも少なめです。それではお付き合いの程をよろしくお願いします。


「はぁ……」

 

マリュー・ラミアスは一人、艦長室で項垂れていた。そして、本来彼女はこの部屋を使うべき人間ではなかった。

 

「確かにこの艦に一番詳しいのは私だけど、それと艦長の仕事は別の問題じゃないの……」

 

辛くも崩壊するヘリオポリスから脱出を果たしたアークエンジェル。上級士官を含めた多くの正規クルーが死亡した中、生き残った士官の中で最も適任とされ艦の指揮を任されたのはマリューであった。

 

「私なんかより、ナタルのほうが絶対に向いているでしょ。コロニー内で発艦させたのもあの子だったんだし。」

 

自身よりも適任であったはずの後輩士官に対する恨み節。決して他者に言うことが出来ない独り言。しかし、彼女は誰かとこの思いを分かち合いたい。そう考えながら、部屋を後にするのであった。

 

 

 

 

最寄りの基地までへ航路。僅かでも与えられた平穏な時間の中、マリューは艦内のモビルスーツドッグへと足を踏み入れる。

 

「あれは……?」

 

艦内に鎮座する一機のモビルスーツ。ザフト軍の強奪を唯一免れたその機体、ストライクのコックピットは開いており、その中では一人の少年が作業をしていた。

 

おもむろにストライクへと近付き、内部で作業をしていた彼の下へと向かうマリュー。そして、コックピットの外から声を掛ける。

 

「機械を弄るのは、好きだったのかしら?」

「ええ。一応は工業系の学校に通っていましたから。でも、人殺しの道具を作っているつもりはありませんでした。」

 

『通っていた』という過去の出来事と語る少年。彼、キラ・ヤマトの通っていた学び舎はヘリオポリスの崩壊で消滅していた。

 

そして、コーディネイターである彼がストライクを操縦したことで、マリューは生き残ること出来ていた。

 

「本当にごめんなさい。あなたのような子を、巻き込んでしまって……」

「気にしないでください。僕もあの時、あなたに止められていなければきっと……」

 

成り行きとはいえ、ストライクの中で死地を共にしていたマリューとキラ。さらに彼は民間人でありながら、この機体でザフトのモビルスーツを撃破していた。

 

「この艦の艦長だったんですね。ストライクの近くにいて軍服も着ていなかったから、開発や整備の人だと思っていました。」

「艦長にはさっき就任したばかりよ。本当はあなたの言う通り、ただの技術士官。生き残った中で階級が高くて、この艦に詳しいから押し付けられただけ。」

 

コックピット内のキラに対し、思わず本音を漏らしてしまうマリュー。民間人の少年であり、コーディネイターという立場の違いを理解しつつも、彼女は死線を共にした彼に必要以上に物事を語る。

 

「ストライクのOSはどうかしら?フラガ大尉や私でも動かせるようになりそう?」

「今は……難しいですね。僕の書き換えたコードでどうにか動かせている状態ですから。もう少し、時間と落ち着いた場所があれば出来そうですけど……」

「出来そうなの……ね。」

 

戦闘中にOSを書き換えるという技量に加え、その上でマリューたちナチュラルが使用可能なOSも作れると言うキラ。彼女は改めて、彼がコーディネイターであることを実感するのであった。

 

「あの……まだ何か僕に用事が?」

「えっ……?あ、いえ……そういうわけじゃなかったのだけど、ちょうどキラくんがいたを見つけたから。」

「そう……ですか。」

 

戦闘に関すること、あるいはモビルスーツや機材に関することであると饒舌な一方、キラはマリューとそれ以外のことで話をせず、むしろ避けている様子であった。

 

「僕の方こそ、ラミアス艦長にその……謝らないといけないかなと思って。」

「私に謝る?ストライクの操縦のことなら、もう問題にはならないわよ。ああでもしなかったら、私も死んでいたのだし。」

「いえ、そうじゃなくて……」

 

キラは作業の手を止め、申し訳なさそうにマリューのほうへ顔を向ける。しかし、その視線は彼女の豊満な胸元に向けられていた。

 

「ど、どうしたのかしら?」

 

些か上ずった声を上げるマリュー。彼女自身、周囲の同性に比べて胸がふくよかであることは自覚しており、異性から好奇の眼差しを向けられることにある程度は慣れていた。

 

しかし、年下である民間人、それも本来は敵対しているコーディネイターの少年に視線を向けられることには戸惑ってしまう。

 

「本当にすいませんでした……僕、あんなに女の人とくっ付いたりしたの、初めてだったから……!」

「あっ……ええっと……それも気にしなくていいのよ。ほら、あの時には戦闘中でそんなことを気にしている場合じゃなかったんだし……」

「でも……すごく柔らかかった感触が忘れられなくて……」

 

自分たちナチュラルよりも才能に恵まれ、ストライクを乗りこなすコーディネイター。しかし、マリューの前で彼女の肉感を思い起こし赤面するキラは、彼女の目に等身大で多感な少年として映るのであった。



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Phase2

キラマリュSSの第2話となります。原作時系列ではラクスを保護した辺りです。

二次創作を書く上で気を付けているのは、出来るだけ原作のキャラクター造形からかけ離れた性格などにはしないことであったりも。でもストーリーを変えてみたりすると、確実に性格は変化するものなんですよね。

次回はフレイの一件で傷心のキラをマリューさんが癒してしまう回です。まぁ半分はピンク髪みたいな(ry


ザフト軍クルーゼ隊の追撃を退けながら、アークエンジェルは本来の所属部隊である第8艦隊との合流を目指していた。

 

「キラくんも、とんでもないものを拾ってくれたわね。」

 

道中、艦内の物資が不足し始めていたため、マリューを含む乗員の判断でユニウスセブンが漂うデブリ帯へと立ち寄る。

 

「人助けをしたのはいいのだけれど、乗っていたのがプラントのお姫様だなんて……」

 

その補給のために立ち寄ったデブリ帯で、ストライクに搭乗していたキラは救命ポッドを発見。その中にいた人物を巡り、アークエンジェルは新たな問題を抱えていた。

 

「助けずにはいられないのでしょうね。きっと彼は優しい……いえ、優しすぎるのだから。」

 

マリュー自身も救われたキラの優しさ。それが起こした問題に直面し、マリューは再び悩むのであった。

 

 

 

 

「僕なんかに聞いても、何の意味もないんじゃないんですか?」

 

密かに艦長室にて、保護したザフトの要人、ラクス・クラインの処遇についてマリューはキラに相談していた。

 

「それは……そうなのだけど。助けたあなた自身の意見も聞いておきたくて……ね。」

「僕は……すぐにかえしてあげるべきだと思います。」

 

キラの答えにマリューは安堵する。自らと近い考え方を持つ彼に、彼女は親しみと安心感を得ていた。

 

「そうね……いくらプラント代表の娘とはいえ、まだ彼女も子供。出来ることなら戦いになんか巻き込みたくはないわ。」

「僕だって……そう思います。あんな女の子を、戦争に巻き込むなんて……!」

 

 

マリューのような考えは、ザフトとは敵対しつつもコーディネイターに対する憎悪を抱くことがない軍人であればこその考えであった。

 

「艦隊に合流出来たら、ラクスさんのことも出来るだけ便宜を図るわ。あなたと同じコーディネイターなのだし。でも……」

「でも?何か問題あるんですか?」

 

一方で連合軍にはザフトだけではなく、コーディネイターそのものに憎悪を向ける者を少なくはなかった。マリューは自らの懸念をキラへと伝える。

 

「保護という名目の人質……戦局を有利にする道具にはなってしまうかもしれないわ。」

「っ……!どうしてそんなことを……!やっぱりすぐにザフトの艦に……!」

「こちらで保護をしてしまった以上、私たちだけでザフト側に引き渡すことは出来ないわ。少なくとも、正規の手続きを踏んで民間人の返還という形式を取らないと、あなたを含めたこの艦全体の問題になってしまうのだから。」

 

保護したキラを責めることは出来なかった。だからこそ彼女は、自らの無力感を前に正論を並べることしか出来ないのであった。

 

「これ以上の追撃がなければ、第8艦隊との合流もあと少しで出来るわ。あなたがストライクに乗ることも、もうないと思うから。」

「ええ……僕も、もうアスランとは戦いたくないですから。」

「アスラン……?」

 

キラの口から出た名前。マリューはその名に聞き覚えがあり、堪らず言葉を口にする。

 

「アスランって……確か、ヘリオポリスで私とキラくんが最初に会った時もその名前を……」

「………」

 

怪訝な顔のマリューを前に沈黙するキラ。しかし彼は、彼女の不安げな表情を目の当たりにして重い口を開く。

 

「僕の友達で……あの時ラミアス艦長をナイフで殺そうとしたザフト軍の兵士です。」

「……っ!?」

「今は奪われた赤いモビルスーツ……イージスのパイロットです。」

 

マリューにとっては自身の多くの部下の命を奪ったザフトの兵士でしかなかった人間。しかしキラにとってはかつての親友であり、彼はその親友と戦っているという事実を彼女は知るのであった。

 

「そんな……!どうしてそんな大切なことを……」

「言えるわけないじゃないですか!?誰かに言ったって、何も変わるわけじゃない。」

 

ストライクで戦い続け、一人苦悩し続けていたキラ。彼にとって戦うことは同じコーディネイターと殺し合うだけでなく、かつて親友と殺し合いをすることでもあった。

 

アークエンジェルを守るために、キラは自らの感情を押し殺して戦い続けていた。マリューはただ、彼の言葉に対し罪悪感をさらに募らせていく。

 

「本当に……ごめんなさい。」

「謝らないでください。ラミアス艦長が大変なのは、僕も分かっています。それに、僕がストライクに乗らないとこの艦を守れないことも分かっていますから。」

 

それでもマリューは謝ることしか出来なかった。自らが軍人という立場でなければ、キラに対してストライクに乗るな、と言えたかもしれない。

 

しかし、彼女もまたキラと同じく、自らの感情を押し殺して彼を戦いに向かわせる軍人として振舞おうとしていた。

 

「キラくん……ありがとう、私に全てを打ち明けてくれて。」

「別に、僕はただ……何を言ってもどうせ変わらないと思って……」

 

マリューは椅子から立ち上がると、デスクを挟んで立っていたキラへ近づく。そして、胸の内を明かした彼を優しく抱きしめるのであった。

 

「えっ……!ラミアス艦長……!?」

「本当に……ごめんなさい。あなたを戦わせることしか出来なくて……本当に……!」

 

一人の人間と、軍人としての狭間で揺れ動き続けるマリュー。本来はこのような行為も、決して許されるものではなかった。

 

だが、例え軍人であったとしても人に対する情だけは忘れたくはない。マリューはキラに対して、自らが持つ人の心を曝け出すのであった。



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Phase3

フレイのお父さんが死んでしまい、キラが本気で戦っていなかったあの時の話となります。

本来はラクスが現れてキラを慰めますが、マリューさんが憤慨したまま号泣するキラを落ち着かせるという感じです。こんなにブリッジを離れていて大丈夫なのだろうか。

キラとマリューの関係にスポットを当てていますので、それ以外の人物に関してはかなり端折っている感じです。これは二次創作だから許されるというか、二次創作ならやるべきことだと思うものです。


事態は最悪な状況へと陥っていた。アークエンジェルと合流を試みた第8艦隊の先遣部隊は、ザフトの攻撃を受けて全滅した。

 

アークエンジェルもまた窮地に立たされたものの。艦内で保護していたラクス・クラインの存在をザフト側へ伝え、人質同然の扱いをして追撃から逃れたのであった。

 

手段を選ばずに生き延びたマリューたち。その過程に彼女の意思は介在していなかったものの、前線でザフト軍と交戦していたキラは憤慨した様子で帰還を果たす。

 

「ラミアス艦長、言いましたよね。子供を……ラクスさんを戦争になんか巻き込みたくはないって。」

「………」

 

艦内の通路で顔を合わせてしまったキラとマリュー。彼はすぐに彼女を糾弾し始める。

 

「どういうつもりですか?僕が戦っていた間に、あんなことをして……!」

「あの状況では、ザフトに向けてそう伝える以外に助かる方法がなかったわ。アークエンジェルが沈めば、ラクスさんの命もないと……」

「だからマリューさんも彼女を人質にしていいと……そう思ったんですか!?女の子を盾にして戦争に勝ちたいんですか!?」

 

激したキラは矢継ぎ早にマリューを問い詰める。明らかに冷静さを欠いていた彼の言葉を彼女は黙って聞き容れていく。

 

「僕だって命懸けで戦っているんだ……!本気で戦って……それでも守ることが出来なくて……!」

「キラくん……」

 

声を荒げるキラの目に浮かぶ涙。その姿を目の当たりにしたマリューは声を掛けずにはいられなかった。

 

「キラくん……大丈夫?」

「大丈夫なわけないでしょ!?僕が……僕が守れなかったから……フレイが悲しんで……アスランにも……!うぅっ……うっ、うぅっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」

 

渦巻く感情が声となり漏れ出し、涙となって流れ出す。マリューは彼を落ち着かせるため、共に休憩所のある場所へと向かうのであった。

 

 

 

 

「フレイさんが、そんなことを?いくらお父様を助けることが出来なかったからって、そんな……」

 

若干の落ち着きを取り戻したキラは、マリューに対して話を切り出す。彼の話を聞き、彼女は憤りを覚えるものの、冷静にキラの言葉を聞き続ける。

 

「でも、僕自身が『違う』なんて言えないんです。フレイの言ったことも正しかったから。戦場にアスランがいたから、僕は迷って……彼女のお父さんが乗った艦が沈むのを……!」

 

コーディネイターであるから、同じコーディネイターとは本気で戦っていない。そう言われたことに対し、キラは否定をすることが出来なかった。理由に差異はあっても、彼は相手の命を奪う戦いを拒み続けているのであった。

 

「僕がアスランと本気で戦って……殺し合うなんて……!でも、アスランも僕のことを……!」

 

敵対してしまった親友から浴びせられた『卑怯者』という誹り。ラクスを人質としたアークエンジェルの行為に憤慨したキラの友人は、彼に対して怒りをぶつけるしかなかった。

 

「だからあなたも、私に向かってあんなこと言うしかなかったのね。」

「分かってます。ラミアス艦長がそんなことをする人じゃないって……そういうことに怒ってくれる人だって……でも、僕は……!」

 

そしてキラもまた、やり場のない怒りをマリューへと向けるしかなかった。そしてそれは同時に、彼にとって彼女が感情を露わに出来るほどの相手であることを意味していた。

 

腰を掛けたまま蹲り、再び嗚咽を漏らし始めるキラ。そんな彼の背中を擦りながら、マリューは口を開く。

 

「あなたは守ってくれているわ。私たちを、この艦のことを。私のような不甲斐ない艦長でも、アークエンジェルが沈まないでいるのはキラくん、あなたのおかげなんだから。」

「うぅっ……ぐすっ……!」

 

何も守れてないわけではない、そうキラに語り掛けるマリュー。自らを否定しようとする彼に対し、彼女はキラを肯定する言葉で慰めるのであった。

 

「フレイさんのお父さんを守れなかったのは、あなただけのせいじゃないわ。私たちにも力が無かったから、彼女を悲しませることになった。一人で背負うことなんてないんだから。」

 

マリューもまた、キラと同じく自らの無力感に怒りを感じていた。一人の少女を盾として生き延びるしかなかった己の無力さに、彼女は軍人としてキラ以上に打ちひしがれていた。

 

「今もう休みなさい。そうすれば、もっと落ち着くから……ね?」

 

幼子をあやすように頭を撫で、背中を擦ってキラに寄り添おうとするマリュー。彼を傷つけた罪悪感を抱えたまま、彼女は年上としての振る舞いを続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

しかし、それでも事態が好転することはなかった。キラはストライクを使い、ラクスを無断でザフトへと引き渡してしまう。

 

好機と見てアークエンジェルへと襲い掛かるザフト軍。しかし、ラクスの取り計らいにより追撃は中断され、艦は再び窮地を脱すことが出来た。

 

「被告、キラ・ヤマトを銃殺刑とします。」

「っ……!?」

 

軍法に照らし合わせれば、帰還したキラを処刑するのは当然の判断であった。しかし、現在は軍属とはいえ、本来は民間人である彼を軍法で裁く必要はなく、マリューの下した裁定は形式上のものに留まる。

 

「もっとも、いまキラくんを失ってしまえば、今度こそのこの艦は沈むことになるでしょうからね。」

「自分で自分の艦を撃つ真似をするバカがどこにいるって話だからねぇ。」

 

キラに顔を向けながら、マリューとパイロットのムゥ・ラ・フラガ大尉は軽口を叩きながら、唖然とする彼に声を掛ける。その一方で

 

「今回は見逃される形になりましたが、今後はこのように都合の良い状況が来るとは考えられません。本部に戻り次第、ラミアス艦長の判断についてを……」

「そんなこと言ったって、少尉だって坊主を処刑するつもりなんてなかったんでしょ?」

「そ、そういうことを言っているのでは……!」

 

艦内で最も軍人らしい女性士官、ナタル・バジルール少尉はムゥの軽口に些か狼狽える様子を見せる。そしてまた、彼女がラクスを人質として扱いザフトの足止めをした張本人でもあった。

 

「ナタル、あなたの判断を責めるつもりはないわ。私が出来なかった判断を、あなたがしてくれた。結果的にそれで助かったのだから、それでいいじゃない。」

「艦長は……甘すぎるのです。」

 

職業軍人の血筋なためか、正規クルーの中でも堅物という言葉が相応しいナタル。そして彼女もまた、キラに顔と身体を向けて口を開く。

 

「本当にすまなかった。私の判断で君が誹りを受けたことに関しては、申し訳なく思っている。」

「いえ……僕はもう、大丈夫です……から。」

 

マリューはもちろんのこと、ムゥや他の正規クルーに対してよりも、キラはナタルに対して苦手意識を持っていた。しかし、彼女の厳格さを目の当たりにして、マリューたちが異質であることは薄々理解することが出来た。

 

 

 

 

艦内の簡易的な軍法会議は閉廷。ナタルとムゥが退出し、キラとマリューは2人きりとなる。

 

「どうして、戻ってきてくれたのかしら?」

「どうしてだなんて……そんなの……」

 

キラがラクスを連れてストライクで出撃したと判明した時、マリューは死を覚悟していた。貴重な戦力と人質を同時に失う以上、アークエンジェルにはザフトへの投降か轟沈の選択しか残されていなかった。

 

「お友達がいたから、ラクスさんを連れて行ったのよね。そうじゃなきゃ、あんな無茶はしないでしょうし。」

「………」

 

マリューはキラの胸の内を理解していた。だからこそ、こうして彼が帰ってきたことに安堵ともに違和感を抱えていた。

 

「放っておけるわけないじゃないですか。この艦には友達がいて、ヘリオポリスから逃げた人もいて、ラミアス艦長のことだって……」

 

言葉を続けながら、問いかけてきたマリューを見て沈黙するキラ。彼女は彼が何を言いたいのかも分かっていた。

 

「わかりませんよ、そんなこと。でも、この艦にはまだ……僕の大切な人たちがいるから。」

 

キラが口にした『大切な人たち』という言葉。その中には彼の友人だけでなく、知らずのうちにマリューも入っているのであった。

 

「キラくん、本当にありがとう。私たちのために戻ってきてくれて、本当に……」

「………」

 

決して軍人の顔とはいえない表情で、キラに感謝を伝えるマリュー。彼女にとっても彼は、生き延びるための戦力として以上の存在となっていることを、まだ彼女自身も気付こうとはしていなかった。



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Phase4

宇宙での終盤辺りの回となります。原作だとこの辺りでキラとマリューの信頼が伺えるシーンがあったものなので、そこら辺をアレンジした展開となっております。

一応はフレイが志願したことで学友たちが残る展開ですが、本作のキラはそこまでフレイと泥沼な関係とはなりません。お父さんを失くした可愛そうな女の子というポジションに留まります。

次回からは地上編。とはいってもキラマリュが題材ですので、大幅にカットをしていきます。大規模な戦闘描写は、アラスカに到達するまで書いていないんですよね……(MSが不得手な物書き)。


キラの奮戦とマリューたちの活躍により、アークエンジェルは第8艦隊の本隊と合流することに成功する。

 

軍属となっていたキラと彼の友人たちもまた、任務を終えたことで除隊申請の許可が下りることとなった。しかし

 

「えっ!?フレイが軍に……!?」

「ああ。そういうわけだからさ、俺たちも彼女を放っておけなくて残ることにしたんだ。」

「まぁそうはいっても、あとは地球に降りてアラスカ入りするだけだろうからな。」

 

キラの想い人であった少女、フレイ・アルスターが軍に志願したことで、彼の友人たちは残ることを決意していた。

 

「大丈夫だって、ストライクが出る機会なんてもうないだろうし。」

「キラは先にオーブに戻って。すぐには無理かもしれないけど、私たちもいずれ帰ること出来ると思うから。」

 

戦場で最も命を張っていたキラを労う友人たち。だが、キラもまた自らに心残りがあることを振りきれずにいるのであった。

 

 

 

 

「本当に、いいんでしょうか?」

「なぁに?まだ迷っているの?」

 

ドックで鎮座するストライクの前に立つマリュー、機体の整備を終えたキラ。2人は互いに出会った時の頃から、共に戦い抜いたことを振り返す。

 

「あなたはこれまで十分に戦ってくれたわ。戦い抜いて、私たちを守ってくれた。もうこれ以上、戦う必要なんてないわ。」

 

キラを戦いから解放しようとするマリューの本心。だがそう言う彼女に対し、キラは不安を拭い去ることが出来ずにいた。

 

「アークエンジェルは、すぐにアラスカへ降りるんですか?」

「ええ。準備が出来次第すぐに降下をするわ。それで私たちの任務も一旦は終了ね。」

「でも、その前にザフト軍が来てしまえば……」

 

執拗に追撃してきたザフトの部隊を退けたキラであったが、彼らがアークエンジェルを諦めているとは考えていなかった。

 

想いを寄せていた少女と友人たち。そして、共に死線をくぐり抜けてきたマリュー。彼ら、そして彼女の身を案じながらキラは戦場から離れようとしていた。

 

「私たちのことは心配しないで。彼らも第8艦隊全てを相手することはないでしょうし。」

「でも……」

「戦場に出れば、あなたはまた友達と戦うことになる。そしてまた、苦しむことになる。私はもう……キラくんにはそうなってほしくないわ。」

「マリューさん……」

 

自らの命よりも、キラを気に掛ける言葉を口に出すマリュー。その姿にキラは思わず、彼女を名前で呼んでいるのであった。

 

「キラくん、今まで本当にありがとう。後のことはもう、全部私たちに任せてちょうだい。」

 

艦を任された身として、彼女は改めてキラに礼を述べて深々と頭を下げる。それは一人の少年を戦いへと巻き込んだ軍人が示すことの出来る、唯一にして最大限の誠意であった。

 

「マリューさん……僕は……!」

 

あくまでも一人の軍人としてキラに別れを告げようとしていたマリュー。しかし、そんな彼女に対して、キラは思わず自分から抱き着いてしまう。

 

「えっ!?ちょっ、ちょっとキラくんっ……!」

 

人は多くなかったものの、ストライクの前という些か目立つ場所で大胆な行為へと及んだキラ。一方のマリューは困惑の色を浮かべながらも、彼を拒むことはなかった。

 

「絶対に……死なないでください。僕が守れなくても……絶対に……!」

「……ありがとう。とても嬉しいわ。キラくんも気を付けてね。」

 

出来ぬ約束だとしても、キラの気持ちだけは受け取るマリュー。そして彼女は、自らを抱きしめる彼らの身体を優しく包み込むのであった。

 

 

 

 

「第8艦隊、損耗率60%を突破!」

「敵艦、敵MS、最終防衛ラインに到達。メネラオスと交戦を開始。」

 

アークエンジェルがアラスカへと降下する直前、ザフト軍クルーゼ隊は最後の攻勢を仕掛けてきていた。

 

連合から強奪した4機に加え、多数の機体と複数の母艦で構成された部隊を前に、第8艦隊は苦戦どころか甚大な被害を受け続ける。

 

「このまま降下シークエンスに入ってしまえば、敵機から狙い撃ちにされますっ!」

「分かっているわ。でも本艦が降下を中断して迎撃しようとすれば、それこそ敵の思う壺よ。」

 

劣勢となり窮地へと陥るアークエンジェル。副官のナタルは降下の中断をマリューに促すが、マリュー自身は難色を示す。

 

「それにこの状況では、戻ったところで出来ることは……!」

 

降下準備が整う中、マリューは上官と友軍に背を向け、自分たちだけ生き延びることに躊躇いを感じる。しかし、そう悩んでいる最中に通信が入る

 

『何をしているのだ。早く降下をするんだ。ザフト艦の一隻や二隻、我々だけで食い止めて見せる。』

「ハルバートン提督……!」

『君たちは連合の……いや、我々の未来に必要な種なのだ。近い将来、その種が実るために私たちは命を惜しみなどしない。』

 

多くを守るために生き延びろ。それがマリューたちの上官から下された最後の命令であった。

 

「耐熱ジェル展開。アークエンジェルはこれより、地球への降下シークエンスに移行する。」

 

後ろめたさを拭いきれずとも、生きるためにマリューは艦を戦闘宙域から離脱させ、大気圏へ向かう。

 

「敵部隊、防衛線を突破!」

「デュエル、バスター、本艦に接近!」

「艦長!迎撃命令を!」

 

逃がしはしないという意思を見せ、肉迫してくる敵機。低軌道上であるがために、艦の制御は限られ迎撃は困難な状況であった。

 

「………」

「艦長っ!」

「えっ……第1デッキカタパルトが……!?」

 

進退窮まった直後、驚きの声を上げる管制官。そして次の瞬間、ストライクの名を冠する機体は地球と宇宙の狭間に飛び出していく。

 

「そんな……どうして……!?」

 

驚きの声を上げるマリュー。しかし、発進したストライクはスラスターを全開にして接近する敵機へと向かう。

 

『僕が敵を引き離します。アークエンジェルは、そのまま降下を進めてください!』

 

ブリッジに響くストライクからの通信音声。その声は紛れもなく、艦を降りたはずのキラの声であった。

 

「キラくん、どうしてまだ……!」

「ラミアス艦長!降下シークエンスの継続を!」

「え、ええ……!総員に告ぐ、本艦はこれより大気圏への突入を開始する。」

 

ストライクの迎撃により、本来の降下作業へと戻ることが出来たアークエンジェル。艦底部に耐熱ジェルが展開され、艦内の温度は大気圏熱により急激に上昇していく。

 

「うぅっ……!メビウスとストライクの収容は!?」

 

マリューは滲み出る汗を拭う間もなく、出撃していた2機の所在を確認する。

 

「メビウス・ゼロ、フラガ機の着艦を確認しました。」

「ストライクの居場所は!?」

「ダメです!デュエル、バスターとなおも交戦中!キラ、早く戻ってきてっ!」

 

このまま予定軌道のまま降下を続ければ、ストライクの回収は困難となる。それはマリューを含めた艦内の乗員が理解している事であった。

 

「ノイマン少尉、艦をストライクに近付けて。」

「なっ……!?しかし、それでは予定の降下軌道から……!」

 

操舵手に命を下したマリューに、ナタルが驚きの声を上げて意見する。しかし、マリューもまた彼女に対して言い返す。

 

「本艦とストライクは不可分の存在よ。あの機体を失ってしまえば、この艦の存在意義だってないも同然なのだから。」

 

任務を遂行する軍人としては一見真っ当ともいえる言葉。しかし、マリューはストライクに乗るキラこそが何よりも失うことの出来ないものであった。

 

彼女の言葉に、安堵の表情を浮かべるキラの友人たち。一方でナタルは不服そうな顔をしつつも、キラの身を案じるマリューに理解を示し、それ以上何も言うことはないのであった。

 

「確かに私は……甘いのかもね。そう……艦長失格と言えるくらいには。」

 

大気圏の熱と降下の衝撃、轟音に晒される艦内で、マリューは一人小さな声で呟いていた。



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Phase5

砂漠に降りての地上編となります。原作ではこの辺りでBPOに取り上げられるなど、ある意味SEEDの最盛期を迎えましたが、本作のキラマリュではまだそこまでは至りません。

あと冒頭でシャワーシーンがあります。本編でなかったことによる筆者の思念が文章化しました。

マリューと軍医の会話は終盤への伏線となります。SEED、そして続編の種死までを視聴していると、ナチュラルとコーディネイターの差異が曖昧になってくるんですよね。特にマリューさんが白兵戦の化け物スペックですから。

次回は一気にオーブへと舞台を移します。砂漠の虎、モラシム?そんな人たちもいた気がしますね……


大気圏を突破し、地球へと降下したアークエンジェル。しかし、迎撃に出たストライクを回収するために予定降下軌道からは大幅に逸れてしまい、艦はザフト勢力圏内の砂漠地帯へと着艦してしまった。

 

「………」

 

船室に備え付けられたシャワー室で汗を流すマリュー。降下時の熱量に晒され、クルーたちは交代をしながら休息を取っていた。

 

「命令違反……じゃないわよね。」

 

温水に打たれながら、自らの肉感に溢れた身体を抱いて思い詰める彼女。所属していた第8艦隊は全滅し、部隊で残っていたのは地球に降下をしたアークエンジェルだけであった。

 

「あの子のためなんかじゃない。これは私の……軍人としての……!」

 

自らの胸に手を当て、一人の少年に抱き締められた時のことをマリューは思い起こす。彼女は彼に情が芽生えたことで、艦長として間違った判断をしたのではないかと煩悶を繰り返す。

 

「ストライクとキラくんは……この艦に欠かせないもの。あの子が私たちを守ってくれたから、私もあの子を……」

 

ストライクのパイロットであるため、貴重な戦力であるため、彼女は彼を選んだのだと自らに言い聞かせる。そして、軍人として非情になることが出来ない自らを雪ぐように、一糸纏わぬ身体を清めようとしていた。

 

 

 

 

アークエンジェルと共に地球へと降下したストライク。機体と共にパイロットであるキラも収容出来たものの、彼は艦内の乗員たち以上に体調を崩していた。

 

「うぅぅっ……あっ、あぁぁっ……!」

 

ベッドの横たわり、うなされ続けるキラ。医師や彼の友人たちが看病しても、その容体は中々快方へ向かうとはしなかった。

 

「これでも熱は下がったほうです。整備班が機体のコックピットを開いた時は、蒸し風呂を遥かに上回る温度だったようですから。」

 

医師からの報告をベッドの傍で聞くマリュー。艦橋で指揮を執っていた彼女にとって、その摩擦熱がいかに凄まじい物かは身を以て理解していた。

 

「おそらく、我々では気を失っているか、あるいは命を落としていたでしょう。彼がコーディネイターであるからこそ、これで済んだというものです。」

「私たちのため……こんなになるまで……」

 

熱にうなされる彼を前に、感謝よりも先に罪悪感に囚われる。しかし、彼が出撃して敵機の迎撃をしていなければ、自分たちの命もなかったと思い、情けなさを感じる。

 

「本当に……ごめんなさい。」

 

なぜ艦を降りなかったのか。目覚めないキラに対し、そう問うことも出来なかった。マリューはただ、苦しむ彼に対し、やはり一人の人間として謝ることしか出来ないのであった。

 

「それから艦長、もう少しよろしいでしょうか?」

「まだ、何か?」

 

マリュー共にキラを見ていた医師は小さく頷く。そして、艦の責任者であるマリューに対してのみ伝えるよう、静かに口を開き始める。

 

「彼の治療をする上で、勝手なことを承知なうえで少し検査をさせていただきました。」

「検査?」

「身体検査や、汗や血液、毛髪といった検体の採取です。申し訳ありません、些か勝手だとは思ったのですが……」

「いえ、それくらいのことなら別に……それで、キラくんに何か?」

 

遺伝子改良を行っていない人間、ナチュラルが大半を占める連合にとって、遺伝子改良を加えられたコーディネイターの存在は貴重な存在であった。

 

マリューは治療の一環として行った医師の行為を咎めることなく、彼女はさらに医師へと問う。

 

「彼は、明らかに普通ではありません。」

「それは……コーディネイターなのだから私たちと違うのは普通で……」

「いえ、コーディネイターとしても普通ではないんです。」

 

マリューの言葉を遮るように放った医師の言葉に、彼女は思わず閉口する。

 

「軍医という職業柄、コーディネイター検体はそれなり見ています。体細胞、血液、毛髪……研究対象として得られたデータは大体覚えています。」

 

医師の言葉を深く詮索しないまま、マリューはさらに彼が放つ次の言葉に耳を傾けながら問いかける。

 

「キラくんが、普通のコーディネイターではないということ?」

「これほど完璧な遺伝子情報を持った人間など、現在の技術では到底不可能……いえ、母体という不確定要素が存在する限りは未来永劫出来ないはずです。」

「そこまでの……!?」

 

マリュー自身、コーディネイターと出会ったのはキラが初めてであった。そして、戦闘中に彼がストライクのOSを書き換える姿を目の当たりにし、自分たちと同じナチュラルではないとも察することが出来ていた。

 

しかし、それ以上に彼を奇異や異端の目で見ることはなかった。彼女と接したキラは年相応の少年であり、優れた才能を持っていることは理解しても一人の子供であると認識していたのであった。

 

「私としてもこれ以上深く関わるつもりはありません。ですが、彼には我々もザフトにも、多くの人間の理解が及ばない秘密があることだけは確かです。」

「………」

 

医療に携わる者としての倫理観、あるいは人間としての本能的な恐怖感情から、判明した事実を述べるに留まる医師。

 

そしてマリューもまた、その事実を知ってもなお、キラを一人の人間として見ようとしていた。

 

 

 

 

 

 

地球へと降下してほぼ丸一日が経過した頃、キラはようやく快方へと向かっていた。

 

「また、あなたに助けられてしまったわね。」

「放っておけるわけないじゃないですか。友達のことも、マリューさんのことも。」

 

ベッドの上で体を起こし、傍にいるマリューへそう返すキラ。しかし、体調が回復したはずの彼の顔は曇り続けていた。

 

「でも、どうして僕のためにこんな……!アークエンジェルがこんなところに降りてしまったのは……」

「それは全て私の判断よ。キラくんが気にする必要はないわ。」

 

艦が孤立無援となったことにキラの責任はないと言い切るマリュー。しかし、それでもキラは自らを追い込もうとする。

 

「僕が戻ってこなければ、あの時にストライクで出なければ……僕のことなんか助けようとしなければ……!」

「……っ!?」

 

誰を守るために自らを犠牲にする。自己の生命を軽視するようなキラの言葉に、マリューは怒りと悲しみに言葉を失う。

 

「やっぱり僕が守らないと……僕だけしかみんなを守れないから……なのに……!」

 

軍人ではなく、正規の訓練を受けていなかったキラに背負うものの重さ。それは彼の心身を兵士として作り変えようとしていた。しかし、本来は戦いを好まず拒もうする彼の心は、その責務と剥離していることで精神に支障を来そうとする。

 

それをマリューが見過ごせるはずもなく、彼女は咄嗟にベッドにいた彼を押し倒してしまう。

 

「なっ……!?ら、ラミアス艦長……!?」

 

突然の事に驚き戸惑うキラ。彼とマリューはベッドの上で身体を重ね、密着させたまま寸刻の間無言となる。

 

「ダメ……絶対にダメよ……!あなたがそんなことを言うのは……絶対に……!」

「で、でも……僕がみんなを守らないと……」

「自分の命と守りたい人の命を、秤に掛ける必要なんてないの。私にとっては、あなたの命もこの艦に乗る人間の命も、みんな同じなのだから……!」

 

戦場で人命を奪う軍人が、人の命の尊さについて語る滑稽さに苛まれつつも、マリューはキラを抱き締め、そして窘める。

 

「もうあなたに、戦わないでなんて言わない。でも、これだけは忘れないで。あなたには帰ってくる場所がある。そして私も、キラくんのために戦い続けるから。」

「マリューさん……」

 

ただ守られるわけではなく、自分たちも戦うことが出来る。キラの孤独感を少しでも取り除こうと、マリューはキラと密かな抱擁を交わし続けるのであった。



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Phase6

前半はオーブ近海における戦闘。本作にしては珍しい戦闘パートです。とはいっても大半がマリューの心理描写という感じです。

キラマリュを題材としていますが、作中の大半はマリュー視点で話が進みます。終盤の戦闘シーンなどでは、キラも活躍をしたりもします。ローエングリンゲーになっている感じが(ry

そして後半は丁寧なフラグ建築となっています。2人の距離が大幅に縮まりますが、次回はオーブ出国後の戦闘回です。お察しくださればと思います。


ストライクとアークエンジェルの不戦により、砂漠での激戦を制し、海上での攻撃を退け、アークエンジェルはザフト勢力圏からアラスカへの航路を進んでいた。

 

「バリアント1番、沈黙!艦稼働率、70%に低下!」

「バリアント2番も砲身熱量が限界を超えています!」

 

しかし、艦はついに地上へと降下したクルーゼ隊の分隊、ザラ隊に捕捉され苦戦を強いられていた。

 

「7時の方向よりブリッツ接近。」

「フラガ少佐のスカイグラスパーは!?」

「ダメです、艦後方でバスターと交戦中!」

 

多勢に無勢。僚機は敵機に釘付けとなり、アークエンジェルは次第にその艦体の被害を拡げていく。

 

「ブリッツを取り付かせるな!ストライクに迎撃を……!」

「ストライクもデュエル、イージスへの攻撃で……!」

「撃破など考えなくていい!グゥルを狙って無力化しろと伝えるんだ!」

 

ストライクの兄弟機である4機のモビルスーツ。コーディネイターが搭乗することで、艦隊を全滅に追い込めるほどの力を有した機体たちに対し、アークエンジェルは善戦していた。

 

「ん?4時方向に艦隊?これは……オーブ軍!?」

「えっ……!?」

 

ザラ隊との激戦が続く中、艦はザフト勢力圏でも中立国オーブの領海へと接近していた。

 

「領海線から離れて!近付けばオーブ艦隊からの砲撃に晒されるわ!」

「しかし……このままでは進路を変更することも……!」

 

地球連合軍の所属艦であるアークエンジェルが、連合非加盟国であるオーブの領海へ侵入することは、領土侵犯による攻撃を受けることに繋がる。

 

マリューは眼前のザフト軍を相手としつつも、連合軍の軍人として国際法を尊種する義務と、この危機を脱する双方の事態に苛まれていた。

 

「ストライクの現在地は!?」

「本艦上空でイージスと交戦していますっ!」

「イージス……キラくん……!」

 

キラの友人が搭乗している赤いモビルスーツ。他の敵機は割り切って撃破していたものの、キラがイージスを墜とせるのかは疑問であった。

 

彼が友人と本気で殺し合いをすることは出来ない。マリューはそれを理解して上で、キラを戦場へと送ってはいた。しかし

 

「後方よりバスター接近っ!」

「っ……!?」

「艦長っ!」

 

戦場においては余計な思索が命取りとなる。マリューはその基本を忘れ、指示に寸分の遅れを生み出していた。

 

「バリアント、撃てっ……」

 

そう命令を下そうとした矢先、艦全体に強い衝撃が走る。艦の背後を取った敵機の砲撃により、アークエンジェルは航行が不可能となる被害を受ける。

 

「メインエンジン被弾!艦の航行制御不能!」

「くぅっ……!」

 

制御を失ったアークエンジェルは、速度を落としながらも意図せぬ方向へと降下していく。そして、連合、ザフトの双方の侵入が許されないオーブの領海へと着水したのであった。

 

 

 

 

 

 

マリューたちとオーブ首脳陣が交渉した結果、アークエンジェルはオーブ国内、モルゲンレーテ社の修繕作業を受けることに成功する。

 

「では、艦の修繕をよろしくお願いします。」

「うむ。そちらもよろしく頼みますぞ。」

 

交渉の部屋から退席するマリューとナタル。ナタルは独断でオーブと交渉したマリューに苦言を呈す。

 

「本当によろしいのですか。オーブに対する技術供与など、司令部の耳に入れば……!」

「だったら、あなたはあのボロボロの状態のまま、アラスカへ向かうつもりなのかしら?途中でザフトと戦闘になることも想定してね。」

「くぅっ……!」

 

軍の機密情報を意図的に漏洩させるという観点で、ナタルの言葉は正論を述べていた。一方でマリューは艦と乗員の命を預かる身として、現実的な妥協点を見ているのであった。

 

「ま、技術供与とはいっても、アークエンジェルはオーブが作った船だからね。欲しい技術なんてのはどうせ、ストライクに乗っていたキラが持っているものだろう。」

 

2人と共に歩くムゥが、マリューを擁護するように楽観論を口にする。

 

「それも問題……いえ、艦よりもストライクのほうが大きな問題です。大体彼は正規の軍人でもなく、本来はストライクに乗ることも許されない民間人なんですよ!」

「そう……ね。言い方は悪いかもしれないけど、キラくんに戦争の道具を作らせることなるのは間違いないわね……」

 

ナタルの言葉にマリューは妙な納得をしてしまう。キラをより戦争の深い部分に関与させることに、彼女は些かの躊躇いを持つのであった。

 

「とはいっても、直接自分で誰か撃つわけじゃないんだ。人殺しの機械を作ると考えれば抵抗を感じるかもしれないが、モビルスーツは誰かの命を守るための兵器でもあるんだからな。」

「その辺りは……あの子なら割り切ってくれるでしょうね。それに、オーブという自分の国の為であるなら尚更……」

 

マリューは確信していた。キラが艦のために自分たちの思惑通りに動くことを。それと同時に、そう考えてしまう自身への嫌悪を漏らす。

 

「本当に……軍人である自分が嫌になるわ。あの子を利用することで生きようとする自分のことも……」

 

 

 

 

オーブへと入港したアークエンジェルのクルーは地球へと降下して以来、初めてともいえる安息を手にすることが出来ていた。

 

オーブ出身で軍属となっていたキラの友人たちは、図らずも実家へと戻ることとなったために両親たちとの面会が許可される。

 

技術供与のためモルゲンレーテへと出向していたキラにもまた、両親が面会のために行政府へと訪れていた。しかし

 

「やっぱり、会うつもりはないのかしら。」

「………」

 

ストライクのコックピット内で整備された機体の調整に勤しむキラ。傍で訪ねてくるマリューの問いにも答えないまま、彼は黙々と作業に従事していた。

 

「時間は十分にあるのだから、そんなに張り詰めなくていいのよ?」

「いえ……こうしているほうが、落ち着きますから。」

 

頑なに両親とは会おうとしないキラ。マリューは親を顔を会わせない以上に、彼が軍の作業に従事していることへ不安を抱いていた。

 

「オーブを離れたら、次はいつ会えるのか分からないのよ。ご両親だって心配しているだろうし、少し顔を見せるくらいでも……」

「……ダメですよ。今は……絶対に会っちゃダメなんです。」

「ダメって……どうしてそこまで……」

 

自らを戒めるような言葉を返してくるキラ。そして彼は、気心の知れた中であるマリューに対して本音を吐露する。

 

「いま会えば、絶対に聞いてしまうから。『どうして僕をコーディネイターにしたのか』って。」

「あっ……!」

 

その一言でマリューはすべてを理解した。自らがコーディネイターであることを理由に苦しみ続けた彼にとって、両親に対する感情は複雑さを極めているのであった。

 

「ごめんなさい……私、その……キラくんのこと……!」

 

彼女は半ば忘れていた。彼がコーディネイターであることを。マリューにとってのキラは頼れる戦友、あるいは年下の子供であり、異なる人種であるということを気にすることなどなくなっていた。

 

「マリューさんはコーディネイターのこと、どう思っているんですか?」

「ど、どうって……?」

「軍人だから敵を撃つのは当然なのは分かっています、それでも……一人の人間としてコーディネイターを、僕たちのことをどう思っているか気になるんです。」

 

マリューは困惑するしかなかった。地球でもとりわけコーディネイターの少ない大西洋連邦出身の彼女にとって、彼と接触する機会は皆無だったからである。

 

「ずるい言い方になるかもしれないけど、私たちが戦っているのはコーディネイターという存在ではなく、ザフト軍という組織。人種や理念、主張といったものを深く考えたことはないわ。」

 

少なくとも彼女にとって、コーディネイターは憎悪や差別の対象ではなかった。確かに自身の部下を殺したのはコーディネイターではあったものの、それはザフトという括りの中にいる者たちの行いであると割り切ることが出来ていた。

 

「軍に入ったことは後悔していないけど、入る前にもっとあなたたちことをよく知るべきだったとは思っている。考えてみれば、自分が戦うことになる相手のことなんて、全くわからなかったのよね。」

「全然知らなかった……ってことですか?」

「恥ずかしいけど、そうなっちゃうわね。でも、下手に知ってしまえば銃を手に取ることが出来なくなる。キラくん、あなたがそうであるように。」

 

敵となる相手のことを知るべきではない。しかし、知っていれば違う道を選べたかもしれない。マリューはキラを見て、そう思うのであった。

 

「私はまだ、あなたの以外のコーディネイターのことをよく知らないわ。でもね……キラくんのことは好きよ。」

「えっ……!?」

「あっ……!その……好きっていうのは、恋人とかそういう関係じゃなくて、嫌いじゃないっていう意味のことだから……!」

 

驚きを見せるキラに対し、不用意な発言であったことに気付いて釈明するマリュー。だが、そんな様子の彼女に対し、キラは作業の手を止めて言葉を返す。

 

「僕も……マリューさんのことは好きですよ。僕が同じコーディネイターと、アスランと戦うことになっても、気持ちを分かってくれてましたから。」

「え、ええ……そうね。私に出来たことなんて、そんな大したことじゃないと思うけど……」

 

互いの内に秘めた思いを露わにして、気まずい空気だけが残る瞬間。マリューは年上として、この空気を変えるべく再び話を切り出す。

 

「ねぇ、ご両親とは会わなくても、オーブに残りたいとは思わないのかしら。」

「え?残るって……?」

 

マリューの問いにキラは困惑の表情となり問い返す。彼女は彼に改めて、戦士としての覚悟を問いかけていた。

 

「ここで艦を降りれば、もうあなたは戦わなくて済むわ。イージスに乗っている彼とも……ね。」

「………」

 

ほぼ叶うことがない、困難な話であったとしても、マリューの言葉はキラにとって魅力的なものであった。

 

このまま艦に残り、オーブを離れれば再びザフトとの戦闘になる。そして、それは友人と再び銃を向け合うことを意味していた。

 

「でも、僕が艦を降りたらマリューさんたちが……」

「そうね。アークエンジェルだけで、彼を退けることは無理だわ。だからいっその事、私もキラくんと一緒に艦を降りちゃうかしら。」

「えぇっ!?」

 

驚きしかなくなったキラの反応。艦長を務める者とは思えぬ発言に、彼は言葉を失っていた。

 

「ふふっ……!冗談よ。私一人が、そんな身勝手ことは出来ないもの。」

「はぁ……驚かさないでください。アークエンジェルは、僕が最後まで守りますから。」

 

キラは呆れながらも、マリューたちを守り抜くと誓う。彼にとって彼女の存在は、友人と同じかそれ以上の存在となっていた。

 

「ありがとう、キラくん。でもね……私、本当に……」

「マリュー……さん?」

 

軍人として、あるいは戦場で命を預け合う仲としての信頼を確認した2人。しかし、マリューは一人の人間として、キラに対しての想いを打ち明けようとする。

 

「この戦争が終わったら、その……キラくんと……」

「………」

 

叶わぬ願いと分かっていた。それでもマリューは秘めた思いを口に出そうとしてしまう。

 

「やっぱりやめておくわ。今はとにかく、無事にアラスカへ辿り着くことだけを考えましょう。」

「……はい。」

 

マリューの心情を察し、キラもまたそれ以上彼女に何も言うことはなかった。2人は互いに特別な感情を抱きつつも、それが越えてはいけない一線なのだと感じているのであった。



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Phase7

オーブ近海での戦闘です。既にほぼ終わっている時点から始まりますので、キラは行方不明、トールは死亡した状態です。トールの名前が初めて出てきましたね……

後半はアラスカ寄港後の上官によるお小言タイム。そしてテコ入れ的な感じでマリューさん2度目のシャワーシーンです。今回はちょっとだけエッチな感じになっています。

言うほどマリューさんの胸に関する描写が書けていないというもの。まぁ全年齢作品なので、そこまで魔乳要素を放り込むことも出来なかった、というのが正直な話だったりします。

次回はいよいよアラスカ戦。マリューさんがブチギレで盛大にやらかします。その前に日付が変わった頃に閑話を投稿する予定です。出来れば読んでいただければ思います。


「キラ!トール!お願い返事をしてっ!」

 

艦橋に響くミリアリアの声。恋人と友人の名を呼ぶ彼女の声には悲壮感が滲み出ており、彼女自身も二度と応答がないことは察していた。

 

「キラくん……!」

 

艦長席に座りマリューもまた、彼らからの信号が途絶えたことに憔悴していた。しかし、艦長として悲嘆に暮れている余裕はないのであった。

 

「バスターの収容、完了しました。」

「6時の方向、海上より敵機接近!ディン3機です!」

「艦が動けるようになっても、現状使える火器で出来るような数では……艦長!」

 

ザラ隊の猛攻により、アークエンジェルもまた満身創痍といえる状態であった。オーブ近海の群島に不時着した艦は応急処置が済み次第、連合が勢力圏を維持する海域まで早急な撤退を余儀なくされていた。

 

「………」

 

艦の戦闘能力の半数を喪失、さらにはキラとストライクを失い、最大の窮地を迎えるマリュー。そして、彼女は苦渋の決断を下す直前、出撃前に交わしたキラとの会話を思い出していた。

 

 

 

 

「どうかしたの?もしかして、怪我とか……」

「放っておいてください。僕は……大丈夫ですから。」

 

オーブから出国した直後の戦闘で、キラはついに強奪された機体の内1機の撃破に成功していた。

 

「ブリッツは……友達が乗っている機体じゃないわよね。」

「でも……アスランの仲間が、友達が乗っている機体だったから……!」

「あっ……!」

 

マリューはキラの心情を察しており、それは彼の友人であるアスランも同じ心境であると推測すること出来た。

 

しかし、キラに仲間を撃たれた彼はおそらく、キラを憎み撃とうとする。それが避けることの出来ない状況へとなっているのであった。

 

「もう、僕は……アスランと……!」

「で、でもキラくんだって、戦わないと撃たれてしまうのだから……」

「誰かを殺してでも生きていたい!マリューさんはそう思っているんですか!?」

「……っ!?」

 

殺したくないと思いながら、敵を撃ち、殺し続けていたキラ。声を荒げて放ったその言葉は、彼の心を蝕み続けた果てに出た悲鳴であった。

 

「戦わないと守れないから……でも、戦って誰かを殺すことになるなんて……こんなことが……!」

「………」

 

守るために戦う。そう自ら言い聞かせて戦い続けていたキラ。だが、その自己暗示の上に成立していた彼の心身は、友人の仲間を討ち果たしたことで崩れ去ろうとしていた。

 

「ごめんなさいキラくん……私が、あなたを戦わせていたから……!」

 

キラの心を少しでも落ち着かせるべく、彼を抱き締めて慰めようとするマリュー。しかし、彼女が伸ばした手をキラは払い除けてしまうのであった。

 

「……っ!!!?」

「やめてくださいっ!マリューさんが僕を戦わせていたのも、生きるために当然なんですからっ!」

「そ、そんなことは……!」

 

彼女がその言葉を否定することは出来なかった。しかし、キラが放った言葉は、彼女が秘めていた罪悪感を噴出させ、目から込み上げてくるものを抑えることが出来なくさせていた。

 

「すいません……マリューさんも、艦長として戦っているんですから。僕だけが辛いわけじゃないって……分かっていますから……!」

 

涙を零しそうになっていたマリューを前に、声を荒げていたキラもさすがにばつの悪さを感じ詫びの言葉を漏らす。だが、寄り添い合っていた2人の心は確実にすれ違っているのであった。

 

「大丈夫です。僕はまだ……戦えますから。もう少しだけ、みんなを守るために戦いますから。」

「き、キラくん……待って……!」

 

マリューが制止する言葉も聞かず、キラはその場を後にする。そして彼女は一人、彼に言おうとしていた言葉をつぶやく。

 

「あなたを本気で戦わせたいなんて、一度も思ったことなんてない。キラくんだって……その気持ちを分かってくれたんでしょ……!?」

 

伝えたくても伝えられない言葉。そして、伝えたところで何も変わらない言葉。そしてこれが、キラとマリューが艦内で交わした最後に会話となるのであった。

 

 

 

 

『修理完了、いつでも動けますぜ!』

「艦長、すぐに発進を!」

 

ブリッジに整備班からの連絡が入り、ナタルがマリューに発進を促す。しかしそれは、未だに帰還しないストライクとスカイグラスパーの回収を断念することを意味していた。

 

「このままで本艦も危険です!それでもいいんですか!?」

「くぅっ……!」

 

艦と乗員の命を預かる身として、決断を強いられたマリュー。そして彼女は、声を振り絞って命令を下す。

 

「機関出力最大、本戦闘空域を……離脱する……!」

 

不時着していた艦が浮上し、暗雲と落雷に乱れた戦場から飛び去ろうとする。マリューは小さくなっていく群島を見ながら、通信士に向けて口を開く。

 

「オーブへの救難信号を。ストライクとスカイグラスパーの信号が途絶した座標を送って。」

「艦長!いくら捜索が困難とはいえ、オーブへ救助を要請するなど……!」

「責任は私が取ります!乗員の安否を最優先とする艦長としての義務よ!」

「………」

 

目に涙を浮かべたマリューの言葉に、ナタルがそれ以上何も言うことはなかった。副官として、ナタルはマリューの心情を理解していた。そして、自らに欠けている者をマリューに見出そうともしていた。

 

 

 

 

 

 

「しかし、よくここまで無事に……いや、無事でもないか。ずいぶんと酷くやられたようだな。」

 

嫌味を存分に含んだ物言いで、マリューたちを詰りながら話を続ける男。彼、ウィリアム・サザーランド大佐はアラスカに辿り着いたアークエンジェルを歓迎してはいなかった。

 

「オーブに寄港したことは百歩譲って多めに見よう。しかし、その後にストライクはともかく、スカイグラスパーの片方までは失うとは。これでは戦闘データも揃わんかもな。」

「我が軍は未だに、戦闘機乗りが多くを占めますからな。実戦を積んだ機体のデータは、少しでも多いほうがよかったのに。」

「しかも、なぜ砂漠ではソードなどを装着して出撃させたのだ。わざと機体を壊そうとでもしたのかね。」

 

ほぼ母艦単体で辿り着いたアークエンジェルに何ら価値があるのか。厄介者だという雰囲気を隠そうともしないサザーランド大佐。それに対して、マリューは弁解の余地もなくただ謝るだけであった。

 

「大変申し訳ありません。僚機の損失は、私の指揮官としての技量が不足していたばかりに……」

「まぁ、君はよくやっていたよ、ラミアス艦長。コーディネイターが乗ったストライクがいたという前提があってもね。」

「………っ!?」

 

十分に小言を吐いた後、彼は彼女たちの最たる咎となる事案へと言及し始める。

 

「キラ・ヤマト。ヘリオポリスにいた民間人のコーディネイター……民間人、そしてコーディネイター。どちらもいただけない要素だが、それが両方揃っているとはね。ストライクのパイロットにしては、些か過ぎた冗談だよ。」

 

大西洋連邦の高官でありながら、反コーディネイター組織、ブルーコスモスの一員でもあるサザーランド大佐。彼が最も不満を持っていたのは、コーディネイターの力を借りたアークエンジェルが健在という事実であった。

 

「しかし、彼の力がなければ本艦は間違いなく……」

「それが問題だというのだよ。我が地球連合軍において、とりわけ我々大西洋連邦に属するキミたちがコーディネイターの力を用いて生き残るなど以ての外。」

 

コーディネイターの力を借りて生き延びるくらいであれば潔く死ね。それがブルーコスモスに傾倒する彼らの価値観であった。

 

「ま、キミたちともにアラスカへ辿り着かなかったのは、ある意味でも惜しいといえるか。」

「最近はあの『化物共』のサンプルも少なくなっていましたからね。実戦経験があったのなら、いくらかの利用価値はあったでしょうが。」

「……っ!?」

 

マリューは必死に自らの感情を押し殺していた。自らの想い人を『化物』と誹り、実験材料として扱うと憚ることなく口にする上官たち。

 

己が恥辱に塗れることは十二分に覚悟していた。しかし、コーティネイターだからという理由だけでキラを愚弄する彼らの言葉に、マリューの中では得体の知れない何かが芽生えているのであった。

 

「そう明け透けに物を言うべきではないぞ。我ら大西洋連邦は西暦時代からの人権先進国なのだからな。」

「これは失礼しました。彼らコーディネイターも一応人間と呼べるものでしたな。」

 

敵であるから撃つのではなく、自らが好まざる存在であるから撃つべき敵である。マリューは自らとは前提が異なる上官たちを前に、自らの軍人としての在り方を改めて問うのであった。

 

 

 

 

 

 

基地内で修繕を受けるアークエンジェル。乗員たちは新たな辞令が下るまでの時間を、不安なまま過ごし続けていた。

 

「………」

 

室内のシャワールームで一人、温水に打たれるマリュー。孤独を感じ、否応なく思い出すキラの顔。彼女の中に後悔の念だけが絶え間なく沸き続ける。

 

「キラ……くん。」

 

艦長として彼を戦場へと出し続けていた自らの所業。艦を守るため、敵を撃てと命じ、戦い拒んでいた彼を戦わせていた現実。

 

「私は……私が、あの子を……」

 

同胞と戦い、友人と撃ち合う苦悩を吐露した彼に対し、理解者として振る舞い寄り添っていた軍人として自分。

 

彼女は自らを顧みて、キラを殺したのは自分なのだと思い悩む。軍人として、一人の人間として、そして女として彼を死に追いやったのはないかと苦悩する。

 

「やっぱり……軍にいて恋なんてするものじゃないわね。」

 

一糸纏わぬ身体に伝う水滴。若さと女らしさに溢れる一方、軍人として鍛え抜かれた肉体。異性の目を惹きつけ、軍務には些か煩わしい豊満な乳房を有した身体は、果たして誰の為ものか。

 

「ねぇキラくん……私ね……」

 

最早言葉の届かぬ相手に、自らの思いを口にしようとするマリュー。シャワーの温水が滴る彼女の頬からは、水滴ではないものが静かに零れ落ちているのであった。

 

 

 

 

アラスカへと入港してから1週間後。アークエンジェルに対し新たな辞令が下される。一部乗員の転属後、艦はそのままアラスカ守備隊として編成されるというものであった。

 

「宇宙用母艦であるはずの本艦が……アラスカに留まる?」

「艦長、何か気がかりなことが?」

「いえ……ザフトが大規模な降下侵攻作戦をパナマへ行うと聞いているから、こちらの防備を私たちで固めてほしい……ということなんでしょうけど。」

 

ブリッジの艦長席に座りマリューは、新たな命令に違和感を抱くものの、最前線へ向かう必要がないことに安堵を覚える。

 

「艦の修繕状況は?」

「既に完了しています。全機関、武装、共に万全です。」

「ありがとう。ただ……もう使わないのが一番いいのだけど……ね。」

 

大小に関わらず、二度と戦いたくない。それがマリューの本音であった。本来は技術士官であった彼女は既に、軍の中でも相当数の実戦経験を積んだ指揮官となってしまっていた。

 

「やっぱり、軍人には向いていないのよね。」

 

未だに傷が癒えぬまま、彼女はアークエンジェルの艦長席に座り続けていた。戦いから離れればキラを失った悲しみも消える、そう思いながら。

 

しかし、戦争は彼女を逃がそうとはしなかった。偽りの安寧を打ち砕くべく、絶望の波はすぐ傍へと押し寄せているのであった。



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Intermission

閑話です。話が後半へ進む前にご挨拶を兼ねたキャラ設定となります。あとがきではありませんので、執筆経緯などは書いていません。

ただし今後のネタバレ的な何かは含まれております。二次創作のネタバレってなんだ、という気もしますが。

本編後半はいつも通りの時間に投稿する予定です。キラマリュのためにここまで大掛かりな作品を書く必要があったのかな……


この度は「大天使の女神」を読んでいただきありがとうございます。初めまして、あるいはお久しぶりです。筆者のレイヴンです。

 

本作は機動戦士ガンダムSEEDのSS、二次創作となります。本編では序盤、あるいは続編でしか関わることがなかった主人公のキラ・ヤマト、そしてアークエンジェルの艦長マリュー・ラミアスの2人にスポットを当てた内容です。

 

二次創作のウェブ投稿は鉄血のオルフェンズ以来の2度目となります。なんかスクールアイドル的な何かの作品を投稿した覚えがありますが、おそらく気のせいだと思います。

 

閑話として本文を投稿しておりますが、筆者の身の上は程々にして、以降では本作品における登場人物の紹介、というよりは変更点などを主だった人物に限って書いていこうと思います。

 

 

 

◇キラ・ヤマト

 

本作の主人公。ヘリオポリスに住んでいたコーディネイター学生。ザフト軍の襲撃に遭遇し、なし崩し的にストライクのパイロットとなり戦場へ赴くこととなる。

 

原作と同じく本作でも主人公となっております。フレイからボロクソに言われ傷心となりますが、本作では初回からマリューへの好意を持っていたことでダメージは軽微。本作ではアークエンジェルを守る、と言いながらマリューを守るために奮戦する形となります。

 

そこまで大きな変更はありませんが、もしかすると原作よりもネガティブな面が強調されているかもしれません。本来であればラクス、フレイ、カガリといった3人のヒロイン勢が入れ替わり接近をしますが、そのほとんどをマリューさんに統合した形な面がありますので。パーフェクトストライクと化したキラマリュ。キラ本人は難色を示しそうです。

 

戦闘面でも原作通りですが、種割れ描写は全編を通してなかったりも。でもたぶん覚醒はしていると思います。原作でも登場人物の大半は種割れには気付いていませんし、言及したのはエリカ・シモンズとマルキオ導師だけですから。基本がマリュー視点なので、割れた瞬間が書けなかったのだと思う。

 

 

◇マリュー・ラミアス

 

本作のヒロインにしてもう一人の主人公。ザフト軍のヘリオポリス襲撃によって上官の多くが戦死したため、急遽アークエンジェルの艦長となった技術士官。

 

こちらも基本設定は変わりません。大きな変更点はキラを戦場へと出すことに対する罪悪感、そしてキラから異性として見られていることに気付き、マリュー自身もキラを兵士ではなく一人の少年として気にかけている点です。

 

キラに対しては特別な感情を持っている一方で、艦長として、あるいは軍人としてキラと懇意になることを意図的に避けている、そんな状態かと。ケアのフリをしてアプローチを掛けている気がしないでもない。

 

本作後半では少しずつ変化が始まります。タイトルの『戦女神(Valkyrie)』に相応しい、苛烈な側面が出てくる予定です。こうして解釈違いは始まるのだ。

 

 

◇ナタル・バジルール

 

アークエンジェルの副官。お堅い軍人。でも胸はマリューほどじゃないにしてもあるし、揺れもする。筆者の学生時代の友人が推していたSEEDキャラの一人。

 

こちらもほとんど原作本編通りの設定です。キラに対しては悪印象を持ってはいませんが、当のキラからは微妙に距離を置かれた状態。マリューさんの胸が緩衝材になっているんです。

 

本作終盤では彼女の行動によって物語が大きく動きます。そのため、当キャラ設定の解説で3番手となりました。ほとんどセクハラ紛いのことしか書いていない気がする。

 

 

◇軍医

 

アークエンジェルに乗艦する医者。キラの治療を担当し、コーディネイターに関する知識も豊富。地球に降りた際のマリューとの会話は後半でのフラグです。

 

原作でもモブとして軍医が登場したので、そちらを活用した形です。ちなみに性別は設定しないので、男かもしないですが、女かもしれません。設定しなくても話が成立したので何も言及しませんでした。

 

 

キャラクター解説は以上となります。あとはみんな上記のキャラ以上に原作通りです。書くことがありません。フレイはサイと不仲になりませんし、アラスカで艦を降りますし、ザフト軍に捕まりもしません。(ただの赤髪ポニテ美少女巨乳モブになって)すまん。

 

まぁそのせいでキラとラスボスの因縁が薄れた感じもするんですけどね。この辺りが物書きとして、そして二次創作を書こうする者の本領なのだと思います。それでは、本作後半もよろしくお願いします。



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Phase8

アラスカ戦、オペレーション・スピットブレイクの回となります。主に活躍するのはマリューさんとアークエンジェルです。今回ようやくオリジナル要素が出てくるというもの。

原作ではラクスが艦橋で種割れを起こしていましたが、特に何かが強化されるわけでもなかったので、ブチ切れて判断力強化というゼロシステム的なマリュー覚醒となりました。

というか基本、コズミックイラの戦闘ってローエングリンを撃ちまくれば大体勝負はつくし、モビルスーツもそこまで必要が(自主規制)

終盤でキラ復帰します。戦況は変更しても、舞い降りる剣は改変してはいけないと思ったものです。


「ゴットフリート照準!前方モビルスーツ部隊!」

 

絶え間なく弾幕による対空砲火を展開しつつ、主砲を放ち敵機を撃破するアークエンジェル。迫りくるザフトの部隊は、艦の砲撃により次々と撃ち落されていく。

 

「まさか……スピットブレイクの目標がアラスカだったなんて……!」

「パナマからの援軍は間に合うんですよね……!?」

「さぁな。下手に増援を送っても、今度はパナマの防備が手薄になるだろうから……」

「そんなっ……!」

 

ザフト軍が発令した大規模侵攻作戦、オペレーション・スピットブレイク。その攻撃目標は南米パナマ基地であると想定されていたが、ザフトの部隊は突如として攻撃目標をアークエンジェルが駐屯するアラスカへと変更したのであった。

 

「マスドライバーを抑えるのが目的じゃなかったのかよ。」

「俺ら連合の大将首を獲れば、戦争が終わると思ったんだろ。」

「そんなのシミュレーションゲームでの話だろ!?」

 

作戦の都合上、連合の主戦力はパナマへと割かれており、アラスカの防衛部隊だけでザフトの攻勢を防ぐことは困難な状況となる。

 

「無駄口を叩かないで!バリアントの排熱が終わり次第、僚艦への援護を再開して。」

 

自軍から強奪された4機に比べれば、多数のザフト量産機を相手にすることは容易であった。主砲がジンを吹き飛ばし、誘導兵器と対空砲火がディンを蜂の巣に、側部電磁砲はグーンを海の藻屑へと変えていく。

 

しかし、それを遥かに上回る数の暴力により、艦は次第に苦戦を強いられようとしていた。

 

「メインゲートに敵モビルスーツ接近!」

「艦長、僚艦から複数の援護要請が!」

 

多勢に無勢であることに変わりはなく、僚艦は次々と沈められ、防衛すべき基地の門にはアークエンジェルの砲火を突破した敵機が殺到する。

 

「うっ……くぅっ……!」

「きゃぁぁぁっ!!!!」

「イーゲルシュテルン3番、沈黙!」

「艦稼働率、80%に低下……!」

 

被弾を繰り返し、沈黙していく兵装。火器砲塔を満載した最新鋭艦とはいえ、圧倒的な物量の敵を凌ぐことは困難であった。

 

「2時の方向よりモビルスーツ部隊接近。」

「僚艦オレーグとの通信、途絶しました!」

「9時の方からも敵機が……艦長!」

「敵をこれ以上メインゲートに近付けさせるわけにはいかないわ。接近する敵機の撃破を優先してっ!」

 

窮地に陥る友軍と、陥落寸前の防衛対象。マリューは致し方なく基地へと向かう敵機の攻撃を指示し、僅かでも敵の侵攻を遅らせるため敵部隊に砲火を集中させる。

 

「んぅぅっ……!」

「イーゲルシュテルン1番2番に被弾!左舷に弾幕が張れません!」

「イェルマーク通信途絶、ヤロスラフ、轟沈!」

「艦長、このままでは本艦も……!」

 

沈みゆく僚艦たち、ブリッジに走る衝撃と共に破壊されていく自らが指揮をする艦。軍人としての責務を果たすことなく斃れるという現実が、マリューに突き付けられる。

 

「敵を一機でも撃たなければ……!」

 

敵とは何か。眼前に押し寄せるコーディネイターが駆るモビルスーツのことか。あるいは連合に仇なすザフト、あるいはプラントに住み人々のことか。

 

なぜ敵を撃ち、軍の命令に従う必要があるのか。想い人を化物と誹り、嘲笑い、好まざる存在と排そうとする者たちのために命を捧げる意味とは。

 

キラを失ったマリューは、生きる意味と同時に戦う意義を失っていた。しかし、自らが死を迎えようとするこの戦場において、彼女は生きる意味を見出そうとする。

 

「艦稼働率……60%まで低下……!このままでは航行にも影響が……!」

「うわぁぁぁぁっ!!!も、もうイヤだぁぁぁぁっ!!!!」

「落ち着けっ!パナマからの援軍を信じるんだよ!」

 

艦橋の部下たちが絶望に塗れ、恐慌状態に陥ろうとする中。マリューはただ一人、前方から押し寄せるザフトの大軍を見据える。

 

そして、彼女の中に芽生えた生存本能。『種』を残すという人としての絶対的な力が下腹部に疼きを与え、全身に熱を伝えながら何かを弾けさせる。

 

「左30度回頭、ローエングリン1番2番起動。」

「えっ……!」

「まだあれは使えるでしょう。早くしなさい。」

「は、はっ!」

 

その『何か』が弾けた後、マリューは普段よりも遥かに冷静な声音で操舵手、及び火器管制官に命令を下す。

 

「前線にいる全ての味方艦に一時後退するように伝えて。死にたくなければ命令に従えとも。」

 

通信士を担っていたミリアリアは、思わずマリューのほうへ顔を向ける。そこにはいつも通り、艦長席に座る彼女の姿があった。しかし、その目、その瞳には生気を失ったかのような、尋常ではない何かを感じるのであった。

 

「ローエングリン1番2番充填完了。」

「発射と同時に右へ60度回頭。前方に存在する全てを薙ぎ払う。」

 

『敵』という言葉を使わずに命を下すマリュー。その豹変ともいえる彼女の音声と命令に、艦橋には死地ということを忘れるほどの緊張感が走っていた。そして

 

「―――――!!!」

 

敵を撃つ、そう言葉を放っていた彼女の口から、発射の号令が下される。次の瞬間、騎士の名を冠する破城砲は、艦の前方に存在する全てを禍々しい光で吹き飛ばすのであった。

 

 

 

 

アークエンジェルが防衛するメインゲートへと殺到していたザフト軍。その多くは陽電子破城砲の一撃で爆散し、空には僅かばかりの静粛が広がる。

 

「敵前線部隊、7割の消滅を確認。」

「後方展開していた敵の潜水空母は?」

「全て健在です。」

「相手が立て直す前に打って出るわ。各艦に対潜戦闘の用意をするよう指示を出して。」

 

多くの敵機を撃墜した余韻などに浸る間もなくマリューは艦橋で次の指示を下していく。

 

「しかし、それではメインゲートの防衛が……!」

「基地の防衛はもういいわ。本艦はこれより、敵部隊を突破して戦闘空域を離脱します。」

「えぇっ……!?」

 

唐突に下された指示に対し、艦橋の乗員たちは困惑する。そんな彼らに対し、マリューは優しさに溢れる声で言葉を続ける。

 

「大丈夫よ。あなたたちには一切の責任がないから。これは艦長である私の判断。この艦と乗員の命を優先するための……」

 

彼女は内心、凄まじいまでの激情に駆られていた。しかし、その感情の渦を生きる術を見出すことに注ぎ込み、苛烈な命令を冷静に下すのであった。

 

「各艦にも伝えて。生き残りたければ、本艦に付き従えと。」

「は……はいっ!」

「本艦はこれより敵本隊を中央突破します。ローエングリンは起動状態のまま待機。その他全火器を展開し、僚艦と共に離脱を最優先とする。」

 

何かを守るためではなく、自ら生き長らえるための戦い。軍人としては不適格、それどころか軍法に照らせば銃殺刑は当然ともいえる行為であった。

 

しかし、その判断に至って戦いへ望むマリューに後悔はなかった。想い人が守ろうとした艦を、決して戦いで沈めさせはしないとい確固たる意志の基、彼女は生きるための戦いに臨もうとしていた。

 

 

 

 

「バリアント2番、沈黙!ゴットフリートを除く左舷の全火器が使用不能です!」

「スラスター損傷。艦の速度、維持出来ません!」

「敵モビルスーツ接近、数12!」

 

だが、脱出すらも許さぬというザフトの強い殺意を感じるように、アークエンジェルと僚艦に対する攻撃は苛烈なものであった。

 

「メインゲートに向かう敵は無視して!本艦と味方に接近する敵機を最優先に!」

 

僚艦と共にあらん限りの火力を展開しつつ、ザフト軍本隊の戦線を突破しようとする。破城砲の一撃を目の当たりにした敵は、その銃口をアークエンジェルに集めつつあった。

 

「友軍の損害状況は!?」

「本艦の離脱に追随した艦は、全て健在です。」

「敵軍の砲火がこちらに向いている分、意外と生き残ってはくれているのね。」

 

複数の友軍艦がアークエンジェルの弾幕が薄くなった箇所へと位置取り、敵機の迎撃行動を継続。艦の損害は増えながらも、一行は戦闘空域から確実に離れようとしていた。

 

「っ……!メインゲート突破された模様です!」

「ゲートを攻撃していた一部の部隊が転進、本艦へと向かってきています!」

「くぅっ……!」

 

正面突破を試みた艦にとって、転進して向かってくる敵部隊からは背後を撃たれる格好となってしまう。無論、後方に構うことなど出来るわけもなく、マリューは出来る限りの正面に砲火を集中させようとする。

 

「急いでっ!後ろから撃たれてしまえばお終いよ!」

 

そう言えども、離脱と突破を試みる部隊への攻撃は凄まじく。防戦することが手一杯となっていく。そして、次第に敵軍による包囲は狭まり始め、アークエンジェルは進退窮まろうとしていた。

 

「後方よりモビルスーツ。ジン4機……さらにデュエル!」

「ちぃっ……逃げ出そうとする敵は見逃さないっていうのかよ……!」

「ジンは僚艦に任せて!本艦の火力はデュエルへ!バリアント1番、ヘルダート照準!」

 

割くことが可能な最大の火力を難敵へと向け、迎撃を試みる。しかし、僚機が不在のアークエンジェルを前に、デュエルはその本領を発揮しようとしていた。

 

「クソっ!バスターよりも重武装のクセに上手く避けやがって!」

「艦長、友軍艦より支援要請が!」

 

見知った相手だと言わんばかりにアークエンジェルを翻弄するデュエル。そして、その僚機として共に訪れたジンが一斉に襲い掛かる。

 

「ジン相手とはいえ、取り付かれでもしたら……!」

「死角に回り込まれないよう艦を転回させて。ゴットフリートの射線を確保して撃ち落すのよ。」

 

辛酸舐めさせられ、この戦場においても多数のザフト軍機を撃破してきたアークエンジェルに対し、彼らの猛攻はさらに激しさを増していく。

 

「ヘルダート、装弾数20を切りました!」

「バリアントの排熱、間に合いません!」

「くぅぅっ……!」

 

手負いの敵艦を沈めるべく、包囲するモビルスーツ部隊が肉迫する。そして遂に、一機のジンがアークエンジェルの艦橋前へと位置取り、その右手に携行する突撃銃の銃口をマリューたちへと向ける。

 

「っ……!?」

 

その瞬間、艦橋にいる誰もが死を覚悟した。戦いを制するのは個の力ではなく数の暴力。それを体現する形のまま、アークエンジェルはその一撃で指揮官を失い、アラスカの海へ沈もうとしていた。

 

マリューは死の直前、敵の銃口を見据えてその一点を睨み続ける。最後まで生きる意志を示すことが、想い人に対するせめてもの贖罪であるかのように。

 

そして、ジンが構えた銃口から一発の弾丸が放たれる。その一撃が、マリューと共に大天使の名を冠する艦の最後をもたらすのであった。

 

 

 

だが、そのジンが引き金を引こうとした直前、遥か上空から一発の光弾が突撃銃を射抜く。火器を破壊された機体は、光弾が飛んできたであろう空へと目を向ける。

 

その次の瞬間、上空から急速に接近する機影は一閃と共にジンを切り伏せ、頭部を破壊して戦闘能力を奪い取る。

 

「えっ……なに……?」

 

死を覚悟していたマリューであったが、自らがまだ生きていることに戸惑いを覚えつつ、艦橋から見える光景を見つめる。

 

そこにはただ一機でアークエンジェルの前へと立ち塞がり、青い翼を備え、ストライクの意匠を感じさせるモビルスーツが舞い降りる。

 

『こちらキラ・ヤマト。アークエンジェル、援護します。』

 

そして、艦橋にはその単独飛行を続ける機体から、マリューが聞き知った声が響き渡るのであった。



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Phase9

キラとの再会パート。そしてオーブへと再寄港をする回となります。戦闘はありません。ウズミさんが折れてギナ家が主導権を握ります。MSVの有効活用かと。

ただそこら辺はおまけというもの。メインは再会を果たしたマリューとキラが一線を越えるシーンとなっています。セックスです。とはいってもエロゲーのコンシュマー化した時みたいな暗転演出っぽいものですが。

これでもSEED基準なら18禁にはならないかと。だって原作本編でもキラとフレイが(ry

ぶっちゃけSEEDって原作でのやらかしが異常ですから、エロ方面の免罪符が非常に有効なんです(暴論)。

次回は宇宙へと戻ります。メンデル内部でキラとマリューがキラの秘密を知ることとなります。誰かを出し忘れている気がしますが、たぶん大丈夫だと思います。


「き、キラくん……?」

 

マリューにとって、そしてアークエンジェルの全てのクルーが驚きを隠せずにいた。戦場で命を落としたと思っていたキラが、艦の窮地に颯爽と現れたことを信じられずにいた。

 

『僕がザフト軍の包囲網を破ります!マリューさんたちはその間に離脱を!』

「え、ええ……!」

 

戦闘中であるが故に、最低限の通信のみを行ったキラ。彼はそのまま自らが搭乗する機体を駆り、大挙して押し寄せてくるザフト軍へと突撃する。

 

「そんな……単機でこの数を相手になんて……!」

 

脱出を再開するアークエンジェルと僚艦たち。その一方でキラが乗る機体はただの一機でザフト軍の大部隊と交戦を始める。

 

マリューはその無謀ともいえる行為を目の当たりにし、キラに下がるよう指示を出そうとする。しかし、彼が操縦するストライクと似た機体は、アークエンジェルをも上回るような大火力を展開し、包囲していた敵機を瞬く間に無力化していく。

 

「何なの……これ。」

 

戦争は変わった。そう言わんばかりの大立ち回りで敵機を破壊していくキラ。その光景に呆然とするマリュー。そして、彼の言葉通りアークエンジェルはザフト軍の包囲を突破し、戦闘空域から離脱するのであった。

 

 

 

 

「アラスカ基地の消滅を確認しました。」

「………」

 

辛くも戦闘空域を離脱したアークエンジェル。しかし、その直後にアラスカ基地から高エネルギー反応が発生し、艦が守ろうとしていた基地は跡形もなく消滅をしていた。

 

「自爆した……ってことかしら?」

「まさか、自分たちをアラスカの守備に就かせたのは……」

 

アークエンジェルと共に脱出に成功した僚艦は、全てユーラシア連邦の所属艦であった。その一方で、大西洋連邦に所属をしていたのは、アークエンジェルをおいて他にはいないのであった。

 

「ユーラシアの部隊と我々を囮にして、急襲してきたザフトを……」

「本当……大した人権先進国だったわね。」

 

基地内で聞いた上官たちの言葉を思い出すマリュー。憤りを越え、呆れだけが残った彼女の中に、ようやく安堵の心が芽生えようとするのであった。

 

 

「あの機体は?」

「ZGMF-X10Aフリーダム。ザフト軍が開発した核動力を搭載した最新鋭機です。」

「核動力!?」

 

再会を果たしたアークエンジェルのクルーとマリューたち。しかし、救援に駆け付けた彼が搭乗する機体が曰くつきのもであったために、俄かに騒然となる。

 

「どうしてキラくんが、あの機体に?」

「プラントでラクスが僕に託したんです。」

「ラクスさんって……あの、私たちがユニウスセブンで助けた?」

 

マリューの言葉にキラは頷き、彼はさらに言葉を続ける。

 

「正確には、彼女のファンを名乗る誰かが彼女へと機体を渡し、それが僕へと託されたんです。」

 

連合軍に所属していたマリューたちでは把握出来ない、プラントとザフトの内情。しかし、地球上がニュートロンジャマーによって核動力を使えない中で、核動力による圧倒的な性能を誇る機体に、確かな恐ろしさを感じるのであった。

 

「僕はあの機体で、連合のために戦うつもりはありません。そして、ザフトのために戦うつもりありません。」

「それじゃあ、キラくんはこれから一体どうするの?」

「僕は、僕の守りたいもののために戦います。アークエンジェルが……マリューさんたちが連合に戻るというのなら、僕はすぐにここを立ち去るつもりです。」

 

キラの言葉にマリューは複雑な心境となる。再会を喜ぶ間もなく自分たちのもとを離れるという以上に、彼が進んで戦おうとすることに戸惑いを感じていた。

 

「私たちは……もう戻ることは出来ないわ。脱走艦である以上、戻ってしまえば厳しい処分を受けることになるのだから。」

 

少なくとも、大西洋連邦に属するマリューたちが元鞘へと収まることなど有り得ない話であった。彼女たちが選べる道は、そう多くは残されていなかった。

 

「それを聞いて、少し安心しました。僕もアークエンジェルを見捨てることなんて出来ませんでしたから。」

「キラくん……」

 

マリューの言葉に安堵の表情を浮かべるキラ。託された意思の重さに険しさを滲ませていた彼が、ようやくかつての表情を取り戻す。

 

「おかえりなさい、キラくん。」

 

そして、マリューは艦長として、一人の人間としてキラを温かく迎える。彼女の言葉にキラは小さく頷き、再びマリューたちと行動を共にする決心するのであった。

 

 

マリューを中心に協議した結果。アークエンジェルは再びオーブへと向かうこととなる。また、ユーラシア連邦所属であった僚艦の乗員は帰還、あるいはアークエンジェルへと移乗し、不必要と判断した艦船はオーブへの手土産として随伴することとなった。

 

「中立だからといって、連合の艦船を本当に受け容れてくれるでしょうかね。」

「まぁ、そうね……海に浮かぶ鉄くずだって言い張れば、国際法上も問題はないんじゃないかしら?」

「いや、どう見ても鉄くずには見えませんよね。被弾箇所が多いですけど、どの船も航行出来ちゃいますからね。」

 

世界情勢の変化に伴い、オーブは脱走艦全ての寄港を容易に許可する。そして、アークエンジェルを修繕し、その他僚艦の速やかな解体処分を約束するのであった。

 

 

 

 

 

 

寄港した後、久方ぶりに艦長室で2人きりとなるキラとマリュー。彼女はキラの身に何があったのかを気にかけていた。

 

「目の前でトールがアスランに殺された時、初めて思ったんです。アスランが……敵が憎い、殺してやりたいと。」

 

それがかつての友人であったとしても。仲間を撃たれた憎しみに囚われ、キラはアスランと本気の殺し合いをしてしまったと話す。

 

「でも、それでも本当は撃ちたいと思わなかった。そうでしょ?」

 

マリューの言葉に小さく頷くキラ。例え憎しみに駆られようとも、本来の彼が戦いを望むことはなかった。それでも友人と憎み合った末に殺し合ったことに激しい後悔を抱いている。それを彼女は理解していた。

 

「でも……それじゃあどうして再び戦場に?私たちを助けるために?」

「僕はもう……誰も失いたくないから。誰も撃ちたくないけど、失いたくもないから……!」

 

キラ自身、それが矛盾、あるいは傲慢といえる考えであることを実感していた。それはフリーダムに搭乗する彼の戦い方を見れば、一目瞭然であった。

 

「だから私たちを助けてくれた時も、あんな急所を外すような戦い方をしていたのね。」

「撃ちたくても、撃つことが出来ないんです。誰かが死ぬのが嫌だから……ただ僕は、誰も殺したくないだけで……」

 

既にキラは戦うことが出来ない状態であった。自らが相手を撃ち、それによって死に追いやること。敵を殺すという行為を本能的に拒絶したまま戦場に戻っていた。

 

戦場において、そのような甘い考えを抱いていれば自らが死ぬこととなる。しかし、キラのパイロットとしての実力とフリーダムの性能が、それを可能としてしまっていた。

 

「やっぱり、あなたはもう戦いに関わるべきではないわ。例えあの機体をラクスさんが託されていたとしても、もう二度と戦場には行かないで。」

「それは……!無理ですよ。僕にはまだ出来ることがあって、戦うことで守れるものがある、守らないといけないものがある。だから……」

 

それでも戦場に立つと言うキラ。戦いの場において、敵を討ち果たすことが出来ないという重篤な状態である彼に対し、マリューは言葉よりも先に身体が動く。

 

「えっ……ちょっ……マリューさん、うわっ!?」

 

キラが驚きの声を上げた時、すでに彼の身体はベッドへと押し倒されていた。そしてマリューはキラを抱き締めたまま、振り絞るように声を上げて言葉を紡ぐ。

 

「もういいの……あなたはもう十分に戦ったわ。私たちを守ってくれた。もう戦わなくて……傷つかなくていいのよ……!」

「マリューさん……僕は……」

 

キラと見つめ合う格好となるマリュー。その目からは大粒の涙が流れ、頬を伝い、彼の顔へと零れ落ちるのであった。

 

「でもキラくんが……あなたが戦うのなら、私も一緒に戦うから。キラくんだけが傷つくのはもう……私だって……!」

 

軍人としてマリューは、初めて人前で涙を流していた。それと同時に、自らもキラと共に戦い、苦しみを分かち合うと誓う。

 

叶うのであれば、彼女はキラと共に戦いから離れることを望んでいた。しかし、彼を一人の男として見ている彼女には、キラの決意を妨げることが出来ないのであった。

 

「お願いキラくん。私を……慰めて。」

「えっ……な、慰める?」

「身体がずっと熱いの。アラスカで戦っていた時から、ずっと昂っていて……全然収まらないの。」

 

戦いの興奮によって帯びた軍人としての熱気、キラと生きて再会することが出来た人としての温もり。そして、キラを一人の男として捉えて生まれた女としての火照り。

 

彼の身体を抱き締めることで、自ら身体が帯びる熱さを伝えようする。

 

「もっと私を感じて。私も、キラくんの想いを感じたいの。」

「ぼ、僕は……!」

 

マリューを拒むことなく、肉感に溢れる彼女の身体に包み込まれるキラ。そして、互いの想いを確かめ合うように、2人は静かに唇を重ねるのであった。

 

「んっ……ちゅっ……んちゅ……」

「んんっ……はぁっ……!あ、あの……僕、こういうこと……」

「大丈夫、心配しないで。私に全部任せていいから……ね。」

 

涙の跡が残りつつも、慈愛に満ちた母性に溢れる表情を浮かべるマリュー。そのまま彼女は丁寧な手付きでキラが着ている制服を脱がしていく。

 

「艦の中でこんなことをしちゃうなんて、やっぱり私、艦長失格ね。」

「そんなことないですよ。マリューさんはもう……立派な艦長ですから。」

「ふふっ……ありがとう。でも、今だけは……艦長でもなんでもないわ。」

 

キラの制服を脱がし、マリューは自らの軍服へと手をかける。そして彼女は、想い人の前で艦長ではなく軍人でもない、全てを脱ぎ捨てた一人の女となる。

 

「ま、マリューさんっ……!あうぅっ……!」

「そんなに緊張しなくていいのよ。ほら……全部私に任せて。」

「そんな……あっ……!」

 

キラとマリューは一糸纏わぬ姿のまま、ベッドの上で身体を重ね合わせる。出会ってから戦いに明け暮れていた2人はしばしの間、戦いを忘れて互いを求め合うのであった。

 

 

 

 

 

 

背を向けたまま一枚のシーツに包まり、事後の心地よい余韻に浸るキラとマリュー。

 

「キラくん、凄かったわ。」

「マリューさんこそ、あんなに激しくて……」

 

全てを曝け出した行為を終え、恥じらいを見せたまま言葉を交わす2人。どちらかといえば、その最中はマリューが積極的であったものの、現在では彼女の方が羞恥に襲われているようであった。

 

「あの、僕……どこか変だったりしました?」

「えっ……!?そ、それはどういう意味で……」

 

キラの言葉に過剰な反応を示すマリュー。それを意に介そうとはせずキラは事後特有の平静を維持したまま言葉を続ける。

 

「いえ、その……こういうことは初めてで……マリューさんとは違うから……」

「違うって……あっ……!?」

 

マリューはまたしても忘れていた。彼が年下の異性というだけではなく、本来は関係を持つことはおろか、接触の機会すらも稀であったコーディネイターであるということを。

 

ここまでのことをしていながら、遺伝子操作の有無を気にする必要があるのか。彼女はそう思いながらも、キラの言葉に答えていく。

 

「私も経験が多いわけじゃないから何とも言えないけど、別に変わったことなんてないと思うのだけど……」

「でも、僕のこと……凄かったって……」

「あ、あれはその……別にコーディネイターだから凄いなんて意味ではなくて……!」

 

自らの最中を振り返り、さらなる羞恥に頬を染めるマリュー。決してキラがコーディネイターだからでない、彼に対する想いの強さが自身を狂わせていた。そう本音を吐露することも出来るわけがなかった。

 

「でも、ありがとうございます。僕、マリューさんが初めての人でよかったです。」

「うぅっ……!お、お礼なんて、別にいいのよ。」

 

キラの律儀な言葉に困惑するマリュー。彼を戦いへと駆り立てた対価が、男女の関係を持つことで支払えてしまった形となり、彼女は心身が満たされながらも複雑な心境となる。そして彼女は改めて彼と向き合い、互いに顔を見つめ合ったまま口を開く。

 

「でも、一つだけお願いしてもいいかしら。」

「はい。なんですか?」

「これから何があったとしても、絶対に私の前からいなくならないこと。」

「それって、一体どういう……」

「難しく考えなくていいわ。ただ、いつも無事で帰ってきてほしい……それだけのことだから。」

 

しかし戦場においては、それが何よりも難しいことであった。戦い場に出ることとなれば、キラもマリューもいつ命を落とすかは定かではない。だからこそ、彼女がキラにそう願うことは、彼に対する想いが溢れている証でもあった。

 

「……わかりました。マリューさんの言葉、絶対に忘れません。」

「ええ……ありがとう、キラくん。」

 

願いを聞き容れたくれたキラに感謝するマリュー。そして、事後と余韻に別れを告げ、想いを確かめ合うための口付けを交わす。

 

かつては軍人と民間、少し前までは上官と部下、そして決して崩すことは出来ないナチュラルとコーディネイターという関係。2人はその全てを越えて、互いに心を通わせるのであった。

 

 

 

 

 

 

「代表の心中はお察しします。しかし、彼らと敵対する道を選ぶということは、この地球上に住む者全てを敵に回すのですぞ。」

「ぐぅぅぅ……そこまでして世界を2つに分けたいのか……連合も、ザフトも……!」

 

オーブ近海へと大挙して押し寄せてきた地球連合艦隊。最新鋭のモビルスーツを備えた艦隊を誇り、彼らはオーブに対して協力要請という名で政治、軍事双方の圧力を加えに来ていた。

 

オーブの実質的な代表であったウズミ・ナラ・アスハは要請を拒否。しかし、ウズミを除く国内の氏族名家はサハク家を中心として、連合への協力に前向きな姿勢となっていた。

 

「もし中立を堅持して連合と戦火を交えても、それによって利するのはザフトです。とりわけ、我が国の技術が無秩序に流れ出るようなことがあれば……」

「わかっておる。それ故に、あの艦とクサナギだけは……」

「ええ、わかっております。もし連合が手を出そうとすれば、その時はギナとミナに行動を起こしてもらいますので。」

 

サハク家主導による連合との同盟交渉が決まり、ウズミは政界から完全に引退。弟のホムラに大西洋連邦を始めとする連合各国との交渉を任せ、実権は他の氏族へと譲るのであった。

 

 

「えっ?私たちを宇宙へ?」

「追い出すような形になって申し訳ない。しかし、連合の艦隊が間近に迫っている以上、この本土に脱走艦である君たちを置いておくわけにもいかないのだ。」

 

秘密裏に修繕を受けていたアークエンジェルのもとを訪れたウズミ。艦長であるマリューに己の不肖を詫びつつ、最大限の誠意を見せようとする。

 

「連合との同盟までにはしばしの猶予がある。その間に君たちとクサナギは宇宙へと向かい、この世界の行く末を見届けてもらいたい。」

 

オーブの理念を継承するものとして、あるいは真に戦うべきものを見極めるものとして。ウズミはマリューたちと自らの娘に、未来への『種』として宇宙へ向かうことを求めていた。

 

「わかりました。アスハ代表の意思、そしてオーブの理念、確かに受け取りました。」

「うむ、頼んだぞ。しかしラミアス艦長、以前にオーブへ訪れた時よりも良い目をしている。」

「そ、そうでしょうか……?」

 

連合の軍人であった頃のマリューと、軍を離れたマリュー。かつての現在の顔つきを見比べ、ウズミはその違いに喜びを示す。

 

「迷いが消え、真っ直ぐと未来を見据えている。今のあなたになら、アークエンジェルを任せても良いと心から思えるよ。」

 

自らが戦うことに対し、一切の迷いがなくなっていたマリュー。身命を賭して戦う覚悟と生き抜く意志を持った彼女は、多くのものを背負って宇宙へと戻るのであった。



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Phase10

宇宙へと戻り、メンデル内部の探索を行う回となります。舞台は原作と同じですが、やっていることは大幅に異なっている状態です。

若干生々しい描写がありますが、キラの出生に関わる話ですので、ご容赦していただければと思います。

明らかに仮面要素が不足しているのですが、キラマリュがメインのため登場機会はまだありません。

そして激怒することにより、さらにミ○トさんが出てくるメインヒロイン。閲覧中の作品は機動戦士ガンダムSEEDの二次創作です。


オーブ、そしてウズミの願いを聞き容れ、オーブの新造船艦クサナギと共に宇宙へと戻ってきたアークエンジェル。

 

装備、物資は共に当面は問題とならなかったものの、拠って立つ場所があったわけではないため、2隻の艦は孤立状態へと陥っていた。

 

「世界の行く末といっても、具体的にどう行動をすればいいのかしらね。」

 

無闇に戦場へ赴くわけでもなく、戦いから目を背けるわけでもない。マリューは改めて、オーブが掲げていた中立という概念に苦慮していた。

 

「地球にいても、連合や大西洋連邦、ブルーコスモスのやり方にはついていけない。プラントにいても、ザフトとしては戦いたくない。そういった人達を集めるところから始めればいいんじゃないでしょうか。」

 

ブリッジでの会議に立ち会うキラからの提案。彼はさらに自分の考えを交えながら言葉を続ける。

 

「マリューさんが……アークエンジェルが軍から抜けたように、プラントでもラクスが僕に力を貸してくれたように、連合とザフトの双方に、あるいはそうじゃない場所でも、本当に戦争を望んでいない人が絶対にいると思うんです。」

 

たとえ小さくとも、自分たちの考えに共感を持ってくれる人々を集めたいと語るキラ。そんな彼にブリッジに集まった乗員たちも頷き、朧気でありながらも未来に目標と希望を見出す。

 

「キサカ一佐の話では、この辺りに廃棄された無人コロニーがあるとのこと。まずはそこへ立ち寄り、キラくんの言った賛同者を集めることにしましょう。」

 

キラの意を汲み取りつつ、当面の目的と活動の拠り所を目指すマリュー。一方で彼女は、自分から率先して意見を述べた彼の顔を呆然とした様子で見つめていた。

 

「……マリューさん?どうかしました?」

「えっ?あっ……!いえ、その……な、なんでもないわ!」

 

艦長として成長したとウズミに言われたことを思い出し、マリューもまたキラが人として成長していることを感じていた。

 

しかし、そのどことなく浮世から離れ、達観をした彼の様子は彼女に一抹の寂しさも感じさせる。彼と結ばれたマリューにとって、それは些細でありながらも不安を抱かせる変化でもあった。

 

 

 

 

「空気も抜けていなくて、バイオハザードの痕跡も見当たらない……と。」

「本当に廃棄されているのでしょうか?」

 

廃棄されたコロニー、メンデルへと寄港したアークエンジェルとクサナギ。2隻は外殻となるドッグへと艦を止め、内部の探索を始めようとしていた。

 

「内部は無人でしょうけど、警備システムが作動している可能性はゼロではない。フリーダムで内部を探索してもらうとしても、キラくんの他に護衛を……」

 

白兵戦の経験がないキラを守る人員、その選定をしようとしていたマリューであったが、周囲の目は彼女自身へと向けられていた。

 

「どうしたのかしら、みんなで私を見て……」

「いえ、ラミアス艦長以上に適任がいるとは思えなくて。」

「白兵戦だったらこの艦どころか、軍内でもトップだったじゃないですか。」

「というか、なんであんなに強いのに技術士官になったんですか?」

 

マリュー以上の適任は存在しない。それが乗員の総意であった。キラとの関係を持ったマリューは狼狽え、彼らに対して言い返す。

 

「わ、私は艦長よ!そんな簡単に艦を空けるわけには……うぅっ……!」

 

彼女自身の甘さが部下へと広がった結果であった。追い込まれた彼女は信頼の出来る部下たちに艦を任せ、キラと共にフリーダムで内部の調査へと向かうこととなった。

 

 

フリーダムのコックピット内。操縦するキラの傍で機体の内部に興味津々のマリューが周囲を見渡す。

 

「すごいわね……見た目もストライクと似ていたけど、内装もかなり似ているわ。」

「それだけじゃなくて、これ……見てください。」

 

キラに促され、彼女は操縦端末に設置されたモニターへ目を向ける。そこにはストライクに搭載されたOSと同じ頭文字の略称が表示されていた。

 

「ガン……ダム?」

「核動力を使用できる……Nジャマーキャンセラーを搭載した機体のために、ザフトが新しく作り上げたOSみたいなんです。偶然なんでしょうけど、ストライクと略称が同じになったのかと。」

「うーん……本当に偶然かしら?どちらかと言えば、外装の作りから逆算してOSに名前を付与した気もするのだけど……」

「そ、そうでしょうか……?」

 

ザフト製モビルスーツに対し、技術士官としての血が騒いでいる様子のマリュー。彼女はコックピットに座るキラと密着することを厭わず、内装を丹念に確かめていく。

 

「あ、あの……マリューさん。色々なところがその……くっ付いていて……」

「もう……そんなの、別に気にすることじゃないでしょ。それ以上のことなんて、もういっぱいしているのだから。」

「そ、それは……あうぅっ……!」

 

マリューと一夜を共にした時の記憶、その感触。それらを思い起こしキラは赤面して声を詰まらせる。さらには、軍服よりも身体の線が際立つノーマルスーツを着用した彼女を前に、彼はマリューに女を意識してしまう。

 

「に、任務中なんですからやめてください!」

「ふ、ふふっ……!ごめんなさい。わたし、なんだかキラくん少し変わっていて、心配しちゃっていたから。」

「僕が……変わった?」

 

マリューの指摘に疑問に満ちた表情となるキラ。自らに無頓着ともいえる彼に対し、彼女はさらに言葉を続ける。

 

「また、色々なものを背負っているような気がしたから。前みたいに私たちのことを守るだけじゃなくて、ラクスさんの思いや、願いも考えているみたいだったから……ね。」

「………」

 

率先して自らの考えを述べ、行動を起こそうとしたキラ。その姿にマリューは、彼がより大きな存在に追い込まれそうなことへ気掛かりとなっていた。

 

「この期に及んで、もう戦うな、とは言わないわ。でも……背負い過ぎたりはしないでね。」

「……はい。」

 

誰よりもキラの心に寄り添おうとしていたマリュー。だからこそ彼女は、彼の些細な変化にも敏感となっていく。そして、心も身体も通わせた2人に対し、さらなる試練が訪れようとしていた。

 

 

コロニー内部を探索するフリーダム。モニター越しにキラとマリューが確認をしていくものの、とりわけ気になるような場所は見つけられずにいた。

 

「居住区が少し壊れていたりしたけど、あとは特に変わった様子が無いわね。」

「ええ。空気に関しても滅菌処理がされた効果で、普通に生活も出来るような……」

 

無機質な構造物であるにも関わらず、人の気配を感じさせるようなメンデル。しかし、人間そのものいるわけではなかった。

 

「でも、なんだかこの場所。どこかで……」

「どうかしたの?」

「いえ、気のせいだとは思うんですけど……」

 

2人が話を続けていた矢先、前方に巨大な建造物が姿を現す。その建物に2人は共に目を奪われ、フリーダムは導かれるように近付いていくのであった。

 

「何かの研究施設かしら。周辺に警備装置らしくものは見当たらないけど……」

「……っ!」

 

警戒を怠ることなく、思索しながら周囲を確認しようとしたマリュー。しかし、彼女の意に反してキラは機体を急速に建造物の近くへと降下させる。

 

「ちょっとキラくん!?」

 

機体を着陸させると、キラはコックピットのハッチを開いて勢いよく飛び降りてしまう。それを追うようにマリューはワイヤーに捕まり急ぎ地表へと降り立とうとする。

 

「待ちなさいっ!ああもうっ……平気であんな無茶をするんだから……!」

 

2人が初めて出会った時、平然と高所から飛び降りたキラの姿を思い出してぼやきを口にするマリュー。それでも彼女は警戒を怠らず、携行していた拳銃を持ち、安全装置を外して彼の跡を追っていくのであった。

 

 

周囲を警戒しつつ、建造物の内部へと入りキラを追っていくマリュー。研究施設らしき建物の内部を慎重に進みながら、彼女はその奥へと足を踏み入れていく。

 

「病院のようにも見えるけど、何かが違う。確か……遺伝子改良を施すための設備がこんな感じの場所だったような……」

 

専門外の知識を手繰り寄せるように、この場所が何なのであるのかを思索する。そして、キラが進んでいったであろう方向の新たな区画へ足を踏み入れた時、マリューは言葉を失うのであった。

 

「これは……!?」

 

開かれた空間に鎮座する無数のシリンダー。人ひとりが入るか否か程度のガラス張りの容器の中には、人間の胎児と思われる何かが培養液に漬けられているのであった。

 

「なに……これは……」

 

人権、人道、世に溢れた命を尊ぶような言葉の数々。それらの対極に位置するような研究の残骸が、彼女の目に映っていた。

 

それら『研究材料』を確かめることで、専門知識に乏しいマリューでもここが何の施設なのかを理解することは容易であった。

 

「遺伝子の研究……コーディネイターの実験施設……っ!?キラくんっ……!」

 

次の瞬間、マリューは以前地球へと降下した直後、キラの治療と診断をした自身と軍医の会話を思い出す。

 

『キラくんが、普通のコーディネイターではないということ?』

 

『これほど完璧な遺伝子情報を持った人間など、現在の技術では到底不可能……いえ、母体という不確定要素が存在する限りは未来永劫出来ないはずです。』

 

『彼には我々もザフトにも、多くの人間の理解が及ばない秘密があることだけは確かです。』

 

その時の疑問、そして疑念が解かれようとしていた。しかし、それは決してキラ自身に突き付けてはならない事実。そう思うしかないマリューは、急ぎ彼のもとへと向かうのであった。

 

 

研究施設の最奥。それほど広くない室内に、稼働していないドーム状の機械が置かれた部屋。マリューが室内へ入った時、キラはその機械の傍で立ちつくしていた。

 

「キラ……くん。」

 

彼女は恐る恐る彼のもとへと歩み寄る。そして、その機器の一点を彼の視線を追っていく。

 

「このナンバーは?」

「僕は……この中で生まれたんです。この機械の中で……」

 

番号が記されたドーム状の機器。それは研究、製造した胎児を育てるための設備、人工子宮であった。

 

「ど、どうしてそんなことが分かるの?」

 

キラは彼女の問いに答えることなく、室内の一角に置かれていた写真立てのもとへと歩いていく。

 

「これは……キラくんとカガリさんの……!」

「はい。カガリがウズミさんから預かった写真と同じものです。そして、カガリのお母さんも映っているこの写真が……」

「お母さんって……でもこの人は、カガリさんだけじゃなくて、キラくんのお母さんでも……」

 

果たして本当にそう呼べるものなのか。キラは自らが生まれた機械と、母性に溢れた笑みを浮かべ、幼い自らを抱き締める写真の女性を交互に見つめる。

 

「この人はあなたのお母さんよ!だって、こんなに優しい顔であなたのことを……」

「でも、僕を産んでくれたわけじゃない……!僕が生まれたのは、そこにある……その機械が僕を……!」

 

否応なく突きつけられる事実。母体という最大の不確定要素を排除して誕生したキラは、遺伝子上最高のコーディネイターとして生を受けていたのであった。

 

「どうして……僕はこんな……!どうして生まれてきて……生み出されて……!」

「落ち着きなさい!あなたが生まれたことは決して悪いことじゃない……多くの人が、キラくんが生まれてくることを願って……」

「本当にそう思うんですか?僕が生まれてほしいと……本当にそう思っていたんですか……!?」

「えっ……?」

 

キラが放つ言葉の意図が理解出来ずにいるマリュー。そして彼は彼女に、この部屋とは区切られたもう一つの部屋へ向かうよう促す。

 

「ここは……」

 

本来ついていた施錠は破壊され、扉を開くことは容易となっていた。マリューは全身に悪寒を感じつつも、その扉をおもむろに開く。

 

「うぅっ……!」

 

狭く薄暗い、奥行きもない小さな部屋。旧世紀の貸金庫を彷彿とさせるような、無機質な引き出しが大量に壁のように広がる室内。だが、その一つ一つにキラが生まれた機械に記された同様の番号が刻まれているのであった。

 

「全部、お墓……なの?」

 

墓所と呼べるか怪しい場所。この研究施設で繰り返された実験によって発生した生命の残骸といえる存在。それらを保管する場所を目の当たりにし、キラは自らの存在を知り、マリューはその事実を前に呆然していた。

 

「僕が……どうして僕が……僕みたいな存在が……!」

 

夥しい犠牲の上に成立した自分という存在。人から産まれたのではなく、人が生み出した欲望の化身、怪物という自分。自らをそう捉えたキラは、携行していた拳銃の安全装置を外し、その銃口を自らの頭部へと突きつけるのであった。

 

「……っ!?」

 

生命の残骸を見ていたマリューがキラへほうへと振り返り、引き金を引こうとしていた彼に駆け寄る。

 

鳴り響く銃声。放たれた弾丸は室内の天井へと当たり、躊躇なく引き金を引いたキラはマリューに押し倒されていた。

 

「何を考えているの!?」

「だって……僕が……僕が生きていることなんて……!」

「死ぬ意味だってないでしょ!?生きていたらいけないことが、死ぬ理由になんてならないのよ!?」

 

キラの行為に対して激昂するマリュー。だが、彼の心情を察してしまうが故に、彼女はすぐに優しい声で彼を窘める。

 

「あなた自身が負う責任なんて、何もないんだから。自分を責めたりなんかしたらダメよ……!」

「マリューさん……僕は……」

 

キラを抱き締め、彼が選ぼうとした道を懸命に阻もうとするマリュー。その最中、彼女が所持していた端末にアークエンジェルから通信が入る。

 

「どうしたの?」

『艦長、こちらのコロニーに向かって連合の艦船と思わしき部隊が接近しています!』

「私たちを捜索しているのかしら……?分かったわ、すぐに帰投します。」

 

通信を手早く終え、キラの手を取り艦へ戻ろうとするマリュー。しかし、彼は憔悴した様子のまましばし立ち上がることが出来ずにいた。

 

「連合の艦が向かってきているわ。おそらく、戦闘になるでしょう。あなたは……戦えるかしら?」

「………」

 

マリューの問いかけに対して小さく頷くキラ。彼女の手を力なく握り返して立ち上がると、2人は急ぎキラの生まれた場所を後にするのであった。



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Phase11-1

戦闘パートがメインの前半部分となります。アスランが実質初登場、クライン親子が合流、ラジオを使ったプロパガンダ合戦なんてやりません。さっさと親を連れて逃げてきます。

キラマリュがメインとはいえ、ある程度プラント側の情勢描写をしておかないと、文字通り何と戦っているのか分からなくなりますからね。

本話後半はアスランとマリューさんがメインとなります。投稿は日付が変わる頃を予定しております。


メンデル外殻ドックに停留した艦へと帰投したフリーダム。キラは機体に残ったまま再度の出撃に備え、マリューは彼を残して本来の持ち場である艦橋へと向かう。

 

「キラくん……」

 

マリューは艦橋へと戻りながら、自らの存在意義に疑問を持ってしまったキラを心配するのであった。

 

 

「状況は?」

「母艦と思わしき艦が一隻、メンデル周辺で待機しています。」

「識別信号から地球軍の艦船だとは思うのですが、本艦のデータベースには載っていませんでした。」

「アークエンジェル以降に作られた新造艦ね。でも、そんな新型なんて作るなんて情報は……」

 

連合の艦船であることは間違いない一方、アークエンジェルを建造した技術士官でもあるマリューが把握出来ない新型艦。その存在に不吉さを感じていた。

 

「それでも、まずは出撃をしないと。アークエンジェル発進。組み立て中のクサナギを守るためにも、先行して地球軍艦船と接触します。」

 

艦を進発させ、接近する部隊の確認を試みるマリュー。そしてアークエンジェルの艦橋モニターに、迫りくる地球軍の艦船の姿が映し出されるのであった。

 

「なぁっ!?」

「あ、あの艦は……!」

 

モニターに映し出された艦の姿に、アークエンジェルの乗員は驚きの声を上げる。そこにはアークエンジェルに瓜二つの戦艦が対峙しているのであった。

 

「アークエンジェル……いえ、アークエンジェル級の2番艦ね。」

 

敵対せずとも、艦の性能を熟知しているマリューは同型艦の脅威に感じていた。そして、その同型艦から突如として通信が入る。

 

「艦長……あの艦から通信が……!」

「えっ?」

 

瓜二つの戦艦が映し出されていたモニターに内部の乗員と思われる人間の姿が映し出される。

 

「お久しぶりです、ラミアス艦長。」

「ナタル……!」

 

アークエンジェル級2番艦、ドミニオン。アークエンジェルと同じ天使の名を冠する艦であり、大天使を上回る主天使の名を冠した艦は、かつての戦友であるナタルを艦長として、マリューたちと対峙するのであった。

 

 

 

 

「ミサイル、来ますっ!」

「迎撃。下げ舵20!」

 

飛来する無数のミサイルを機銃で撃ち落としていくアークエンジェル。見知った姿形の艦から放たれる見知った兵器。敵艦、ドミニオンの艦底に狙いを定め砲撃を仕掛ける。

 

「バリアント照準、てぇぇぇぇっ!!!!」

 

火力、機動性、装甲全てが同等のアークエンジェルとドミニオン。両者の勝敗を分かつのは艦長の指揮と乗員の練度、そして艦載機の差であった。

 

「フリーダムとバスターは?」

「敵MS部隊と交戦中。っ……フリーダム、被弾箇所増大!」

「キラくんが……!?」

 

かつて投降してきたバスターは、パイロット共に艦の護衛をしており、敵機とミサイル迎撃をしていた一方、キラが搭乗するフリーダムは敵機に苦戦を強いられていた。

 

「ぐぅぅっ!!!このぉっ……!」

 

キラを弄ぶように飛び回る3機のモビルスーツ。フリーダムやストライクと同様に、V字型アンテナとツインカメラが特徴的な3機の新型は、ザフトの量産機や強奪された4機の試作機を遥かに上回る性能であった。

 

「鎌とかハンマーとか……あんなメチャクチャな武装なのにどうして……!」

 

凡そモビルスーツに装備させるものではない代物を運用する連合の新型機。不正規戦闘を想起するような武装と運動性、そして数の優劣にキラは次第に追い詰められていく。

 

「はぁっ……はぁっ……僕が……僕がやられたら……マリューさんも、アークエンジェルも……!」

 

敵の攻撃を躱しながら、反撃を試みようとするキラ。しかし、これほどの苦境に立たされてもなお、彼は敵機の急所を狙うことが出来ずにいた。

 

大切なものを守るために敵を撃つ。その葛藤を戦場へと持ち込んでいた彼の苦戦は必然であった。そして、フリーダムを翻弄していた3機のうちの1機、砲撃戦に特化されたカラミティが痺れを切らしたようにアークエンジェルへと向かう。

 

「敵モビルスーツさらに接近!」

「っ……!ヘルダートで迎撃、バスターは!?」

「ダメです、依然として他のモビルスーツ部隊と交戦中!」

 

艦の砲火はドミニオンへ集中し、迫りくる敵機へ割く余裕はなかった。そしてアークエンジェルはカラミティの接近を許し、敵モビルスーツの有効射程に捉えられていく。

 

「アークエンジェル……!あがぁっ……!このぉっ……!」

 

艦の援護に向かうとするフリーダムを残る2機、フォビドゥンとレイダーが行く手を阻む。それに留まらず、2機はフリーダムを撃破する寸前まで追い込んでいた。

 

「くぅぅぅぅっ……!」

 

砲塔を収納した青い翼が損壊し、脚部が切断され、満身創痍のフリーダム。艦を守ることはおろか、自身が撃墜されることが必然という状況へ追い込まれ、キラは絶望の淵へと追い込まれる。

 

「………!?」

 

だが、敵機レイダーが放った最後の一撃は、突如として割って入ってきた1機のモビルスーツによって阻まれる。さらにその赤を基調とした機体は、間髪を入れずにフォビドゥンとレイダーを瞬く間に撃退していくのであった

 

時を同じくして、カラミティの砲撃に晒されることとなったアークエンジェル。しかし、その砲火に餌食となる寸前に、青を基調とした敵機に向かって無数のミサイルが襲い掛かりアークエンジェルへの攻撃を中断する。

 

「敵モビルスーツ部隊、後退していきます。」

「今のミサイルは……一体どこから?」

 

艦の窮地を救った攻撃に呆然とするマリュー。僚機を襲った第三者による攻撃を確認したドミニオンは撤退。それと同時に、アークエンジェルに対し通信が入る。

 

『ラミアス艦長、ご無事でしたか。』

「あなたは……ラクス・クライン……!?」

 

艦橋モニターに映し出されたのは、かつてアークエンジェルが救助したプラントの要人、ラクス・クラインが。彼女の乗船する鮮やかなピンクの塗装が際立つ艦、エターナルがマリューたちの前に現れる。その一方で

 

『こちらザフト軍特務隊所属、アスラン・ザラ。フリーダムのパイロット、応答しろ。』

「あ、アスラン……!?」

 

フリーダムとアークエンジェルの窮地を救った1隻の艦と1機のモビルスーツ。その援軍にキラとマリューは驚きを隠せないのであった。

 

 

 

 

オペレーション・スピットブレイクの失敗後。プラント最高評議会の議長、パトリック・ザラは地球連合軍に対する態度をさらに強硬なものとしていた。

 

「それで、ラクスさんもシーゲルさんもプラントからの脱出を?」

「はい。わたくしも父も、ザラ議長から討つべき政敵と見做され、プラントを離れるしかありませんでした。」

 

パトリックは地球軍に対する苛烈な攻撃、ナチュラルに対する虐殺行為を容認するだけに留まらず、プラント内に残っていた自身に対する抵抗勢力の排除に乗り出していた。

 

「でも、お二人ともよく無事で……」

「ザラ議長……いえ、お父様から離反をしたアスランに助けていただきました。エターナル単独では、とてもここまでたどり着くことは叶いませんでしたわ。」

 

父親であり、最高指揮官であったパトリックの元を離れた彼の息子、アスランはラクスたちと共にフリーダムの行方を追い、このメンデルへと辿り着いたのであった。

 

「あの男とはいずれ、こうして袂を分かつのだと思っていた。しかし、あそこまで周りが見えなくなってしまうとは……」

「プラントの内情は理解しかねますが、こちらへ来たからには可能な限りの対応はさせていただきます。」

「本当にあなた方にも申し訳が立たない。私の力が及ばなかったばかりに、この戦争をさらなる混沌に陥れることになってしまった。」

 

ただひたすらに悔恨の言葉を述べる初老の男。マリューは俄かに信じることが出来ずにいた。目の前にいるコーディネイターの男が、ザフトの総司令官であったことを。

 

「ラミアス艦長、いかがされました?」

「あっ……いえ。まだ、少し戸惑いがあったりするもので。」

「戸惑い?」

「ええ。つい先日まで、私は地球軍の軍人として、ザフト軍と戦っていました。それなのに今は、こうしてお二人と会話をしていることが不思議に思えて……」

 

キラと共に過ごしたマリューは改めて感じていた。ナチュラルとコーディネイター、その間に大きな違いなど無いことを。悩み、悔やみ、悲しむ、同じ人間なのだと実感するのであった。

 

「戦争によって苦しむのは誰も同じ。だからこそ、わたくしたちは同じ人として、誰とでも手を取り合えると思うのです。」

「そう……ですね。私たちはまだ、より多くのことを知る必要があるのでしょうね。」

 

マリューをラクスと手を握り合い、憎しみに満ちた世界を終わらせることを誓う。誰とでも手を取り合う、その言葉をマリューは決して忘れないのであった。



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Phase11-2

マリューさんとアスランがキラについて語る回。同担?というものでしょうか。何かが違うとは思いますけど。

この辺りのやり取りは原作であってもいいような気がしたりも。もしかすると、ドラマCDなどでこのような補完がされていた可能性もあるかと。やっぱりないか。

なお、本作でアスラン・ザラが登場するのは以上となります。キラマリュがメインなので。修羅場に放り込んでおけば裏切ったりしないはず。


戦闘を終えたキラは、ラクスに同行していたかつての友人、アスラン・ザラと対面する。顔を合わせての再会はオーブ本島以来であり、その後2人は互いの仲間を失って以来3度目の再会となっていた。

 

「………」

「………」

 

当然のごとく、気まずく張り詰めた空気が2人の間には流れる。しかし、互いに敵意が無いことは理解しており、会話を始めるきっかけが欲しいだけであった。

 

「き、キラ……」

 

アスランが名を呼び、話を切り出そうとする。しかし、その矢先に2人きりであった空間に騒がしさを抱えた第三者が突入する。

 

「キラくん大丈夫!怪我は……あっ……!?」

「あっ……!」

「マリュー……さん。」

 

相対していたキラとアスラン、その2人と顔を見つめ合わせる格好となってしまうマリュー。キラを心配して駆け付けた彼女は、思わぬ場面に遭遇してしまう。

 

「ごめんなさい。お邪魔だった……みたいね。」

「いやっ、そんなことは……」

 

戦場以外で顔を合わせるのは初めて、実質初対面であったマリューとアスランは、互いに戸惑うこととなる。その矢先

 

「さっきは助けてくれて、ありがとう。」

「キラっ……!そんなんじゃない。俺はただ、ラクスの護衛のために来ただけだ。」

「でも、ラクスが僕たちのところに行くってことは知っていたんでしょ?だから……」

 

互いに銃を突き付け、撃ち合ってしまった間柄。かつて親友であったがために、2人はより深く後悔に沈もうとしていた。

 

「本当はお前に合わせる顔なんてないって……俺は本気でお前のことを、討とうとしていたから……」

「うん……分かってる。でも、それは僕も同じだから……」

 

互いに仲間の討たれた記憶を蘇らせ、その後の感情を露わとした殺し合いを振り返る。しかし、アスランはキラに対して言い返す。

 

「いや、本気で殺してやろうと思っていたのは俺だけだ。キラ、お前はあの時でも……俺のことを……!」

「アスラン……」

 

互いに機体を失い、痛み分けという結果で終わっていた戦い。しかし、その戦いを思い出す度にアスランは、キラが本当に自らを殺そうとしていなかったと感じていた。

 

「ニコルを殺された復讐の心だけで……俺はお前だけじゃなく、お前の仲間もみんな……お前の全てを奪おうと……!」

 

憎しみの連鎖に囚われ、兵士として理想ともいえる力を手にしていたアスラン。憎悪を糧に得た力を振るったことに、彼はキラ以上の後悔に襲われているのであった。

 

「それでも……僕たちところに来たってことは、そう考えていた自分が嫌だったんだよね。」

「当たり前だろ……あの後、目覚めた時……自分が生きていることを恨みさえした。あんな自分になるくらいなら、いっそ死んだほうがマシだったって……」

「それは……ダメだよ。だって……死んじゃったら、僕がこうして、キミとまた……話すことも出来ない……から……」

 

自虐的となるアスランを窘めるキラ。しかし、その言葉は次第に拙くなり始め、彼は意識が朦朧とした様子で、遂にはその場に倒れ込んでしまうのであった。

 

「……っ!キラっ!?」

「キラくんっ!?」

 

アスランとマリューが咄嗟に声を上げ呼びかけるもの、キラが返事をすることはなかった。そして2人は急ぎ、倒れたキラを医務室へと運び込むのであった。

 

 

 

 

容体が安定したキラをベッドに寝かせ、マリューとアスランは改めて対面する。

 

「初めまして……というのも、なんだかおかしい気がするわね。」

「そう……ですね。これまで何度も会ってはいましたから。」

 

素性を知らぬまま、戦場で幾度となくマリューと出会っていたアスラン。一方のマリューは、彼の人物像をキラから聞いているのであった。

 

「さっきもキラに言いましたが……俺はあなたたちのことを……」

「気にしたらダメよ。それを言ってしまえば、私もどれほどあなたの仲間を、コーディネイターを撃ったか分からないもの。」

 

年齢差、性別、あるいはナチュラルとコーディネイターという違い。それらの差があったとしても、マリューは同じ軍人としてアスランの心情を理解することが出来ていた。

 

「でも……どうしてラクスさんと一緒に?」

 

その一方で、彼のイージスを駆っての前線での働き、あるいは白兵戦においてもマリューとは互角、コーディネイターの中でも最上位といえる軍人が、ザフトを離反した理由を彼女は問いかける。

 

「ストライクを……キラを撃った俺は、一体自分が何をしているのかと思いました。友を討ち果たした自分が、その後なにをして生きていけばいいのか分からなくなっていたんです。」

 

友人であったキラを討ち、復讐を遂げたアスランは、生きる意味と同時に戦う意義を失っていた。

 

なぜ敵を撃ち、軍の命令に従う必要があるのか。そもそも敵とは何か。プラントの総意、あるいはザフトの意思を代表する一人として引き金を引くことに彼は疑問を持ち続けていた。

 

「ご存じかとは思いますが、俺の父は最高評議会議長パトリック・ザラです。」

「ええ。お母様のこともキラくんから。」

 

マリューが気になっていたアスランの親子関係。ラクスの父であるシーゲルの後任とはいえ、長年に渉り軍事部門を統括していたアスランと彼の父の関係が、今回の離反とどのように影響していたのかを彼自身が語り始める。

 

「ストライクを討った俺にザフトは……父は俺に勲章と栄誉を与えたんです。キラを討った俺に勲章と栄誉を……!」

「………」

 

同じ軍人でありながら、マリューとアスランは真逆の待遇を受け、そして同じ答えに辿り着こうとしていた。

 

「俺が戦っていたのは、こんなもののためじゃない。俺が憎んでいたのは戦争だったのに、父が憎んでいたのは敵という名のナチュラルだったと分かってしまった。」

「それで……お父さん、ザラ議長の元から離反を?」

 

改めて問いかけたマリューに対し、アスランは小さく頷き肯定する。キラを手に掛けた後悔と相反する形で得た名声。それが実の父からもたらされたことに、彼は怒りを越えて虚しさに襲われていたのであった。

 

「軍の命令に従い敵を討つ。友を討って英雄と呼ばれ、より多くの敵を討てと求められる。ラクスを捕らえろと命令された時、俺はザフトから抜ける決心を固めることが出来ました。」

 

エターナルの追撃指令を受けた彼は自身の新たな機体、ジャスティスを受領し、他の追撃部隊ともにエターナルに接触。そして、全ての僚機を撃破してエターナルと共にフリーダムのもとへと向かうこととなった。

 

「俺はずっと、キラがザフトに投降すれば済む話だと思っていました。でも、それでキラが救われるわけでもなく、俺自身が何も変えられないのだと分かったんです。」

「突然の離反に、不意打ち、核搭載モビルスーツの持ち逃げ。軍人としては、到底有り得ない行動かしらね」

「………」

 

神妙な面持ちでアスランの所業を語るマリューに彼は沈黙する。しかし、彼女はすぐに柔らかな笑みを浮かべ、彼に対して改めて口を開く。

 

「でも、キラくんの言った通りの子で安心したわ。」

「え?キラの?」

「何でも出来て、いつも自分を助けてくれて、仲良くもしてくれて……全部自分で解決しようしていたって。」

「なっ……!」

 

かつてアスランはキラのことを気にかけており、彼の多くのことを知っていた。一方のキラもまた、常に彼に助けられながらも、友人としてアスランを見続けており、それをマリューに語っているのであった。

 

「キラくんを戦わせていたのはアークエンジェルの艦長である全て私の命令よ。彼がイージスと戦うことも、あなたが乗っていると知りながらも戦わせていた。」

「ラミアス艦長……あなたは……」

 

軍人として敵を討つことに躊躇いは持っていなかった。しかし、キラを戦場へと立たせたこと、そして友と戦わせていたことに彼女は後悔し続けていた。

 

「本当に……ごめんなさい。キラくんにもあなたにも……私はずっと、苦しむことを強いていたのだから。」

 

マリューの人間として苦悩を垣間見たアスラン。彼はまだ彼女について多くを知らずにいた。しかし、彼女のキラに対する想いだけは十分に理解することが出来た。

 

「キラと一緒にいてくれたのが、あなたでよかった。こいつのことを大切に思ってくれている……そういう人がいて、本当によかった。」

「アスランくん……!私はそんな……感謝をされるような人間じゃ……!」

 

悩める軍人としてだけではなく、キラを大切に思う者として、マリューとアスランは過去のわだかまりを払拭していく。そしてマリューは、キラの親友である彼に対してお願いをする。

 

「目が覚めたら、もう一度よく話し合ってもらえるかしら。」

「もちろん、そのつもりです。でも、今のキラにはラミアス艦長が傍にいたほうがいいような気も……」

「え、私が……」

 

アスランの言葉にマリューは目を丸くして問い返す。それに対して彼は何食わぬ顔で言葉を続ける。

 

「いえ……その、キラとはずいぶんと仲が良いというか、かなり特別な関係を築いているようですから、俺の方が邪魔かな……と思ったんで。」

「なぁっ……!ち、違うわ!全然そういう関係ではないから!き、キラくんはただ……私の……その……私の……あうぅ……!」

 

頬を赤く染め、言葉を詰まらせるマリュー。既に一線を越えていたキラとの関係をアスランに指摘され、彼女はひたすらに狼狽えるのであった。

 

「別に何かを言いたいというわけじゃありません。むしろ、キラとそういう関係になるのもラミアス艦長でよかったと思ってますから。」

「でも、そういうあなたもラクスさんとは婚約者同士と聞いたけど、それ以外にも……」

「えっ……?ああ、いや……ラクスとは親同士の縁があっただけで、別にそれ以上のことは……」

 

マリューの言葉に今度はアスランが言葉を詰まらせる。そうした最中に、医務室には2人の少女が流れ込むように入ってくる。

 

「キラっ!アスランっ!」

「アスラン、キラも無事ですか?」

「なぁっ……カガリ、ラクスも……!」

 

ウズミの義理の娘であり、キラとは双子であったカガリ、そしてアスランの婚約者であるラクスが現れる。

 

「キラは大丈夫だ。ラミアス艦長が見てくれているよ。」

「そ、そうか……艦長がいるなら安心……か。」

「ラミアス艦長、キラをお願いしますね。」

「え、ええ……」

 

マリューに全幅の信頼を置いた2人の少女。そして彼女たちは、マリューと話をしていたアスランへと顔を向ける。

 

「カガリさんからお話は伺いました。遭難をした際、共に一夜を過ごしたと。」

「はぁっ……!?」

「お前……ラクスと結婚する予定だったらしいな。それなのに、お前は私を……!」

「ち、ちがっ……俺はカガリとはまだ何も……!」

「まだ、何も?」

 

底冷えするような声音でアスランの言動を反復するラクス。それと同時にカガリもまた、彼に向けて抗議の眼差しを向けていた。

 

「アスラン、少しお話があります。よろしいですね。」

「ラミアス艦長、騒いでしまって申し訳ない。キラのことはよろしく頼む。」

「それでは、失礼します。さぁアスラン、こちらへ。」

 

こうして2人の少女に連行されていくアスラン。マリューはただ一人、ベッドで横となるキラの傍で呆然としているのであった。

 

「あの子たち……大丈夫かしら?」

 

マリューとキラの心情を理解することには長けていたアスラン。しかし自らに対する好意を察することを疎かにしていたのであろうと、マリューは感じるのであった。



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Phase12-1

マリューさんがキラを慰めるだけの回となります。エッチな要素はありません。マリューさんの母性が最大値となるだけです。これを書きたいがために、わざわざ原作再構成などという長編を書いたような気がしたりも。

後半部分では一気に時間が経過し、原作通りにエルビス作戦が開始される展開となります。あの辺りって時間経過の描写がなかったから、急にボアズ攻防が始まったという印象を持ってしまうんですよね。

次回が原作再構成としては最後のパートとなる予定です。以降は完全なIF展開となります。物書きのやりたい放題パートとも言えるかもしれません。


「体調の方は、もう大丈夫かしら?」

「はい。すいません……ずっとマリューさんにいてもらっていたみたいで。僕も……戦うことが出来なくて。」

 

艦長としての仕事の傍ら、マリューは空いた時間を見つけてキラの看病をしていた。ラクスやカガリ、そしてアスランも手伝ってはいたが、彼や彼女たちはマリューに対しキラの傍にいるよう促してもいた。

 

「別にいいのよ。あれから連合が……ナタルたちが来ることもないし、周辺の警戒はアスランくんやクサナギの部隊で足りていたから。」

 

憔悴状態にあったとはいえ、かつてないほどに苦戦を強いられ意気消沈といった様子のキラ。体調自体は回復していたものの、彼の心は沈んだままであった。

 

「アスランくんもずっと、キラくんと話がしたいと言っていたわ。彼もあなたと戦ったことを後悔しているようだし、話をすればすぐに仲直りは出来ると思うわ。」

「ええ……また話すことが出来て、本当に……よかったです。」

 

アスランという友人と再会し、カガリという家族も傍におり、ラクスという恩人、そして多くの仲間と友人が囲まれていたキラ。しかし、それでも彼は孤独を感じていた。

 

「本当にすみませんでした。あの研究施設の中で、僕は……自分のことを……」

「言ったわよね。私の前からいなくならないで、って。」

 

自らの命を断とうとしたキラ。マリューによって寸でのところで避けることは出来たものの、2人の間には些か気まずい空気が再び流れていた。

 

「僕はコーディネイターです。マリューさんとは違う。でも、同じコーディネイターのアスランやラクスとも違う。」

 

キラは自らを特別な存在と考えたことはなった。例えヘリオポリスでナチュラルの友人に囲まれていたとしても、自らがコーディネイターであることに優越感を感じることなどなく、一人の人間であることに疑問を抱くこともなかった。

 

「カガリとは血の繋がった家族だった……でも、血が繋がっているだけだったんです。僕とカガリは双子でも……それはただ遺伝子が……」

 

遺伝子上の繋がりはあったとしても、彼に明確に家族といえる人間は存在しなかった。無機質な人工子宮の内部で、受精卵の段階から成長した彼にとって、家族と呼べるものは存在しないも同然であった。

 

彼にとって家族、兄弟と呼べるのは、研究施設の中で培養されていた胎児らしき生命、あるいは処分されていた生命の残骸以外にはいなかった。

 

「そ……そんなことないわよ!カガリさんはあなたのことを家族だと思っているわ。あなただって、彼女のことは大切に思っているんでしょ!?それをただ血や遺伝子の繋がりだけだなんて……彼女を悲しませるだけよ。」

「でも違うんですよ!?僕は……誰とも、誰とも違っていた……!僕はもう、コーディネイターと、自分が人間と呼べる存在なのかだって……」

 

人の夢、人の望み、人の業、その全てを注ぎ込まれて生を受けたキラは、自らを人の子とすら考えることが出来ずにいた。傲慢を極めた考え方であるかもしれないが、その根源に存在するのは彼の深い絶望の心であった。

 

「そうね……きっと、この世界にあなたの思いを理解出来る人は誰もいないのでしょう。私も……キラくんの心が分からないもの。」

「マリューさん……」

「でもね、私はあなたが生まれてくれてよかったと思っている。あの研究施設を見た後でも、あなたの言葉を聞いた後でも。」

 

マリューはそう言葉を口にしながら、キラの頭を優しく撫でる。そして、彼の顔を見つめる彼女の顔は、母性と慈愛に満ちていた。

 

「そんな……マリューさんが僕なんかのことを……!」

「これはあなたの心を理解出来ない、私の身勝手な考えよ。でも、これだけは忘れないで。互いの気持ちが分からなくても、私はずっとキラくんの傍にいるから。」

 

他者の心を理解するなど烏滸がましいこと。マリューはそう思いつつも、キラに寄り添い続けると誓う。

 

「マリューさん……僕は……僕はっ……!」

 

目に浮かべた大粒の涙を零し、マリューの顔を見つめるキラ。彼は押し寄せる感情の波を吐き出す場所を、彼女へと求めていた。

 

「いいのよ。泣きたいと思った時は、思いきり泣いていいの。声を出して、たくさん泣いていいのだから。」

「マリュー……さん。うっ、うぅっ、あっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」

 

出会って間もない頃も、キラはマリューの前で大粒の涙を零して泣いていた。その時の彼女は、泣き叫ぶキラを前に困惑するしかなった。しかし、今のマリューには彼の悲しみを受け止めるだけの覚悟と想いが備わっていた。

 

「辛いのはあなただけじゃない。でも、キラくんが辛い時は、いつも私が傍にいてあげる。ただ、傍にいることしか出来ないから。」

「えぐっ、ひっぐっ、うぅっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

マリューの身体に抱き着き、顔を埋めてひたすらに泣きじゃくるキラ。彼女のそんな彼の背中を優しく擦り、傷ついた身体と心に安らぎを与える。アークエンジェルの医務室にはしばらく間、マリューが包み込むキラの慟哭が響き続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

マリューたちとラクスが合流してから3か月後。連合、ザフトの双方に与さないジャンク屋組合などの支援を得て、アークエンジェル、エターナル、クサナギの3隻は整備を終えようとしていた。

 

「地球軍はいよいよ、プラント本国を落とすつもりでいるみたいね。」

『はい、既に大規模な艦隊が月基地へと集結し、ボアズへの攻撃準備を整えているようです。』

 

マリュー、ラクス、元オーブ軍レドニル・キサカ一佐の3人による会議。3隻の艦長級の人間が各艦の艦橋モニターを通し、戦況の確認をする。

 

『地球からの情報によれば、既にザフトは地球上の戦力の大半を喪失しており、最大の要衝であるカーペンタリアで防戦を続けているという状況とのこと。地上でも連合の優勢は揺るぎない。』

『このまま状況が進めば、近いうちにプラントは大西洋連邦を主体とした地球軍に制圧されるでしょう。』

 

険しい顔のまま、故郷であるプラントが陥落しようする事実を語るラクス。マリューにとっては古巣となる大西洋連邦がプラントを蹂躙するという事態に複雑な心境となる。

 

プラントを拠点とするザフト軍にとって、宇宙での戦闘は地の利を得て優位に進めることが出来るものであった。しかし、その質ともかく数は地球軍に遠く及ばず、物量差による蹂躙が目に見える状況でもあった。

 

「完全に個人的な意見になってしまうけれど、プラントが現在の大西洋連邦に制圧される事態だけは避けたいわね。」

 

コーディネイターを人とも思わぬような軍人が蔓延る組織。ブルーコスモスの傀儡となった古巣に対し、マリューは不信と憎悪を向けざるを得ないのであった。

 

『それでも、ザラ議長はおそらく最後の一人となるまで戦い続けるでしょう。』

 

ラクスの言葉に、彼女の傍にいたアスランが苦々しい表情となる。父親を止めることが出来なったことへの後悔、それが彼を苦しめていた。

 

「やはり私たちは、双方の軍に介入をしないといけない状況のようね。」

『エターナルに搭載された火力支援ユニットを使用すれば、数的不利はある程度緩和されるでしょう。』

「キラくんたち……フリーダムとジャスティスを頼みにするしかないようね。」

 

再びキラを戦場に向かわせることとなるマリュー。この戦いにどれほどの意味があるのか、彼女はそれを理解出来ずにいた。

 

『ラミアス艦長?』

「あっ……いえ、なんでもないわ。それでは全ての準備が整い次第、我々は連合、ザフトの交戦が予測されるボアズへと向かいます。」

 

双方の陣営へ停戦を呼びかけ、敵機を無力化しているという無謀極まりない行為。しかし、それに賛同する者が少しでも現れればと、彼女たちには一縷の望みをかけて戦場へと向かおうとしていた。



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Phase12-2

戦闘前におけるキラとマリューの最後のやり取りです。この辺りは未だに本作に出てこない仮面キャラ要素を含んだ内容となっております。

明らかにフラグ立てみたいなことをやっていますが、退場するようなことはありません。たぶん。

後半はみんな大好きジェネシスの登場です。とりあえず終盤にデカくてバカみたいな威力の兵器を出せばガンダムっぽくなる説。仮面キャラと巨大レーザー砲を出せばガンダムになるんだと思う。


メンデルを出発する直前。フリーダムが本来の搭載艦であるエターナル収納されるため、アークエンジェルから離艦することなったキラとマリューは最後の会話をしていた。

 

「あなたは、本当にこれでよかったの?」

「例え無茶だとしても、他に方法が無いのであれば、こうするしかないんだと思います。」

 

双方の軍を制圧し、停戦を呼びかけ無力化させる。マリューはもちろんのこと、キラもまたその方針へ懐疑的な見方をしているのであった。

 

「大西洋連邦はおそらく、プラントへの直接攻撃も躊躇いなく行うでしょうね。」

「はい。もしそうなってしまえば、これまでよりも多くの人が犠牲になってしまう。血のバレンタインよりも、もっと多くのコーディネイターが……!」

 

ブルーコスモスが示した、プラントを拠り所とするコーディネイターへの敵意。その意思の代弁者として、マリューの古巣である大西洋連邦は、地球に生きる者の総意であると喧伝してプラントを攻撃しようとしていた。

 

「ねぇキラくん、一つ聞いてもいいかしら?」

「はい、なんですか?」

 

マリューはこれまで、キラに対して彼自身の明確な信念や理想、価値観というものを問わずにいた。しかし、彼女はそれを聞いておく必要があると感じていた。

 

「あなた自身、コーディネイターという存在をどう思っているの?」

 

誰かを守るためではなく、自らの意思で戦場へと赴き、引き金に指を掛けることとなる今後を考え、マリューは彼に覚悟と考えを問おうとしていた。

 

「僕は……僕という存在を作った人たちのことが今でも許せません。このコロニーの中で、どれほどの命が犠牲となり、僕が作り出されたのか。それを考えれば……」

 

未だに自らの生に対して疑問を持ち続けるキラ。人類の理想を体現した自身の存在を、彼自身は否定していた。

 

「やっぱりコーディネイターなんて存在は、この世界にあってはいけないんだと思います。もう二度と、僕たちのような存在を生み出さないためにも。」

 

『僕』ではなく『僕たち』。メンデルの内部に保管されていたキラの兄弟たちと呼べる生命の残骸。キラは永遠に、生を受けることがなかった者たちに贖罪をする運命を与えられていた。

 

「それはつまり、ブルーコスモスの考えに近いってことじゃ……」

「でも、コーディネイターの存在を否定したとしても、今この世界に生きる人々の命を奪うのは間違っているとも思うんです。ナチュラルでもコーディネイターでも、いまを生きている同じ人間なんですから。」

 

キラはブルーコスモスの思想に理解を示しつつも、彼ら行動を容認しようとはしなかった。そして彼のコーディネイター技術に対する憎しみは、兄弟たちへ贖罪と共に永遠に消えることがないものとなる。

 

「僕は戦います。人と人が憎み合う世界が続くというのであれば、僕はその世界と戦う。コーディネイターという存在が生まれてしまったこの世界で、僕は……」

 

最高のコーディネイターとして生を受けながら、自らを含めたコーディネイターの存在を否定したキラ。自らの相反するような考えに、彼はマリューを前に自嘲の笑みを浮かべる。

 

「おかしな話ですよね。自分の存在まで否定しようとするなんて。でも、僕は僕自身の存在を決して……」

「……いいえ、おかしいとは思わないわ。どんな形で生まれたとしても、あなたには人を思いやる心がある。ナチュラルもコーディネイターも関係ない、多くの人を思いやる気持ちが……」

 

夥しい憎悪と贖罪を抱えながらも、世界と人々の未来を守りたいというキラ。そんな自嘲の笑みを浮かべる彼の顔に、マリューは優しく手を添える。

 

「マリューさん……」

「あなたに背負う罪を降ろしてほしいとは言わないわ。でも、なんでも一人で背負おうとしたらダメよ。」

 

今までも、そしてこれからも、彼の傍にいることしか出来ないと自覚するマリュー。しかし、それでもキラを守りたいという意思だけは、より強固なものとなる。

 

「マリューさん……ありがとう。」

 

敬語を使わずマリューに対して感謝の言葉を口にするキラ。眼前で微笑み、全てを包み込むように受け容れてくれる年上の女性艦長。そして彼はマリューの身体を抱き寄せると、互いの思いを確かめ合うように口付けを交わすのであった。

 

 

 

 

「地球軍艦隊、ボアズの制圧を完了した模様です。」

「思っていた以上に早いわね。やはり、ドミニオンとあの3機以外にも多くのモビルスーツを備えているから……」

 

地球連合軍は月基地を拠点として、簡易量産機ストライクダガーを中心とした大規模なモビルスーツ艦隊を編成してザフトの防衛線を瞬く間に突破していた。

 

『ですが、ザフト軍のボアズからの撤退も些か早すぎる気もします。』

 

エターナルからの通信で懸念を示すラクス。彼女の言葉通り、宇宙要塞ボアズから撤退するザフトの判断は迅速を越えた作為的なものをマリューも感じるのであった。

 

「地球軍の戦線を伸ばすため?でも、ボアズを拠点として明け渡してしまえば、補給線は確保されてしまうけど。」

『何か……とても不吉で怖ろしい意思を感じます。ザラ議長の意思に支配された、プラントの……』

 

ラクス・クラインという少女の政治家としてのセンスが、彼女の本能に恐怖と警告を教えようとしていた。そして、アークエンジェルを始めとした3隻の艦が戦場となる宙域へ向かうこの最中、ラクスの感じた意思が形となって現れる。

 

「プラント周辺に高エネルギー反応!」

「っ……!どうしたの!?」

「わかりません!でも、これは……この反応は指向性もって……地球軍艦隊とボアズに向かって……!」

 

それは、艦に搭載されたレーダーを確認するよりも、人間の肉眼で漆黒の宇宙を視認したほうが鮮明に見えるのであった。

 

「なに……あの光は……!?」

 

プラント群の周辺から放たれた禍々しい光。その輝きの直後、無数の爆発が遥か遠方にいたアークエンジェルからでも確認出来るのであった。

 

『ラミ……長……いまの……は……!?』

「キサカ一佐、そちらとの通信状況が良くないため聞き取れません。」

「ダメです、クサナギだけではなく、エターナルとの通信も障害が発生しています。」

 

あらゆる電子機器に障害が発生し、高速艦であった3隻はその進行速度を大きく落とすこととなる。それでも各艦がこれから向かう戦場が尋常ではない事態であることを確信していた。

 

 

 

 

「確認出来た形状から推察するに、あれは巨大なレーザー砲というよりは超大型のガンマ線照射装置と捉えるべきかと。」

 

通信障害から回復した3隻の代表は、オーブの技術者であったエリカ・シモンズからザフトが使用した戦略兵器『ジェネシス』についての説明を受けていた。

 

「シーゲルさんは、あの兵器のことをご存じで?」

 

3隻の乗員の多くは、ラクスの父であるシーゲルへと疑いの目を向けていた。ニュートロンジャマー、及びキャンセラーだけではなく、あの憎しみを体現したかのような兵器すらも作り上げたのかとマリューが問い質す。

 

『あれを作ろうとしたのは紛れもなく、この私だ。ラクスも、そしてプラントにいる多くの者が周知しているだろう。』

「そんな……!」

『元々はあのような兵器として作り上げたものではなかった。本来の用途は大気圏外の船舶を加速させる装置、宇宙におけるマスドライバーとして作られていたのだ。』

 

人類がより広い宇宙へと飛び立つ「創世記」の名を冠した建造物。しかし、それがプラントに住まうコーディネイターの憎悪を具現した象徴として世界に産み落とされているのであった。

 

『それがまさか……あそこまで悍ましいものへと作り変えられてしまったとは……』

 

シーゲルの顔には絶望感が滲み出ており、傍にいたラクスも沈痛な面持ちで父の姿を見つめていた。

 

『連合艦隊の被害状況が判明してきた。前線部隊は約60%を損失、ボアズに駐留していた部隊は指揮官を含めて全滅。旗艦ドゥーリットルは消滅。艦長のウィリアム・サザーランド大佐も戦死したとのことだ。』

「………」

 

呆気なく散ったマリューの元上官。憎みこそしていた一方で、このような最期を遂げたことに、彼女の心境は複雑なものとなる。

 

『残存艦隊はドミニオンを中心として一時後退をしている模様。それ以降、明確な動きはないようだ。』

 

クサナギの艦長、キサカからの報告に呆然とする各艦の乗員たち。その中で、マリューはドミニオンが健在であったことに安堵の色を浮かべる。

 

「ナタルたちは……まだ無事だったのね。変な話、これで地球軍がプラントへの直接攻撃を断念してくれればいいのだけど……」

 

そう語ることが希望的観測であることは、マリュー自身も理解していた。そして状況は、地球軍艦隊の被害を心配するほど余裕はないのであった。

 

「ジェネシスは前方のミラーブロックを換装することで、再度照射が可能となっている設計のようです。仕様上連射は不可能ですが、あと2回も発射をすれば戦いは終わるでしょう。」

 

エリカが淡々と放った言葉に、それを聞いた人間は言葉を失う。次の発射で月、そして三度目の発射で地球、それにより大半の人類は死滅し、戦争は終わりを告げるというのであった。

 

「とにかく、戦争を止める前にジェネシスを止めないと全てが終わりだわ。」

『しかし、我々3隻だけでザフト防衛線を突破することはいくらなんでも……』

 

マリューの言葉通り、この場にいる誰もがジェネシスの再発射の阻止と破壊は最優先であると理解していた。しかし、それを達成するだけの実力があるかは不透明であった。

 

『ラミアス艦長、ドミニオンのバジルール艦長と接触することは可能でしょうか?』

「ナタルと?ええ……艦隊指揮を代理で執っているのであれば、向かうことは出来ますが……っ!?まさか……!」

『あの憎しみの光を消し去るためには、少しでも多くの力が必要です。それが、わたくしたちに出来る唯一のことでしょうから。』

 

ラクスはマリューに対し、ある提案と望みを託そうとする。そしてそれは、マリュー・ラミアスという軍人にしか出来ないことでもあった。



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Phase13-1

最終決戦です。ヤキン・ドゥーエ攻防戦というよりは、種死におけるメサイア攻防戦のような状況となっています。

前半はほぼ全編に渡りナタルさんが主役です。もう少し作品前半で出番を多くすべきだったと少し後悔していたりも。

終盤に泣きそうとなっていたマリューさんの前に、主人公が颯爽と現れます。次回が実質最終回、そしてエピローグへと続きます。ただキラマリュ要素がエピローグ後半まで希薄なんですよね……


「一度軍門に降ることを断っておきながら、共闘を提案とは……なんと恥知らずな。」

「ですが、我々も彼女たちと交戦する余裕などはありません。」

 

地球連合艦隊旗艦代理、ドミニオンの艦橋でブルーコスモスの盟主、ムルタ・アズラエルと艦長のナタルは、アークエンジェルから送信されてきたメッセージを確認していた。

 

「あいつらの手を借りずとも、月からの援軍が来ればプラントは落とせる!それまでに君は部隊の再編成を急がせるんだよ!」

「その月基地が、あの兵器の次の目標である可能性がありますが。」

「プラントを落とせばあんなものを撃つ奴らだっていなくなる。それくらい君ら軍人だって分かるだろ!?」

 

指揮官の如き振る舞いを見せるアズラエルと、その態度に呆れた様子のナタル。現状、一民間人の意向によりプラントの住むコーディネイターの殲滅を受けているという状況であった。

 

一方で、ナタルはプラントへの直接攻撃に対しては不本意であった。むしろこの民間人が軍艦の艦橋で指図をすること自体、彼女にとっては不快の極みといえた。

 

「私たち軍人が好き好んでコーディネイターの絶滅を行うとでも?」

「それを決めるのは君たちではなく僕らだ!僕たち市民が君たちを統制して、敵を撃つように命じているんだからな!」

 

文民統制の原則を声高に叫び、ナタルたちを従わせようとするアズラエル。だが、少なくともナタルは彼を文民としては見ていなかった。

 

「それは市民ではなくあなた個人の意思でしょう。我々は私兵ではなく軍人です。この前線において、自ら生死を個人になど委ねたりはしない。」

 

毅然としてアズラエルの要求を退けるナタル。苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた彼は怒りを露わとし、自身の懐から拳銃を取り出し安全装置を外すと、それをナタルへと突きつけるのであった。

 

「あんたたちの生死など関係ない!これはプラントを討ち、地球を守るための命令だ!その命令が聞けないというのか!?」

「軍人ではないあなたの命に、我らが従うことはありません。」

「っ……!お前ぇぇぇぇっ!!!!!」

 

ナタルの言葉に激昂したアズラエルが拳銃の引き金を引こうとした矢先、彼の懐に潜り込んだナタルは銃を持った彼の腕を抑え込む。そして、瞬く間に彼の身体を拘束するのであった。

 

「民間人がふざけた真似をするな!この艦の艦長は私だ!貴様のような人間が武器を持つことはおろか、指図すること自体が間違っているのだ!」

「ぐぅっ……!お、お前……自分が何をしているのか分かっているのか!?僕はブルーコスの盟主で……ごがぁっ!?」

 

自身の肩書を改めて言い放とうとする彼の顔を、ナタルは拳で盛大に殴打する。鼻を強打し、大量の鮮血が飛び散り、その多くが無重力空間であるためにナタルの顔が身体へと付着する。

 

「保安要員を呼べ。この民間人を営倉へと放り込んでおけ。抵抗するようであれば多少手荒でも構わん。」

「し、しかし艦長……アズラエル理事は我が軍のオブザーバーとして……」

「出来ないとでも?」

「は、はっ!直ちに保安要員をこちらに!」

 

厳格な軍人であるナタルが返り血を浴びた姿は、目にする者へ威圧感を与えるに十分な出で立ちであった。彼女から十二分な訓練を受けていたドミニオンのクルーは、信頼する上官の命令を忠実に実行するのであった。

 

「それから、その男に随行していた研究者たちも拘束しろ。あの3機の運用は引き続き本艦の指揮下で行う。3体の生体CPU……いや、3人のパイロットたちもこちらの指揮で動いてもらう。」

 

ナタルは厳格な軍人であろうとした。しかし、かつて戦場を共にした友人の姿を見て、彼女の考えにも変化が生じているのであった。

 

「ば、バジルール艦長。本当にこれでよかったのでしょうか?」

「構わん。責任を問われるのも艦長である私だけだ。命令に従ったお前たちに一切の責任はない。」

「し、しかし……」

「それよりも、各艦に対して再攻撃の準備を急がせろ。月基地が撃たれる前に、あの大型兵器を制圧する。アークエンジェルへ協力要請の受諾の返答を伝えろ。」

 

厳格な軍人である態度をそのままに、柔軟かつ合理的な判断を下すに至ったナタル。ドミニオン率いる連合艦隊の残存勢力は、アークエンジェルに合流してジェネシスの破壊へ赴くのであった。

 

 

 

 

エターナル、クサナギ、そしてアークエンジェルはナタルが代理指揮を務める連合艦隊と合流、共同でジェネシスの破壊作戦を決行することとなる。

 

「それでは、エターナルとフリーダム、ジャスティスが先行してザフトの防衛線を突破、本艦とクサナギ、及びドミニオンと連合艦隊が体勢を崩したザフト軍を迎撃していく方針で行きます。」

『はい、ザフト軍の中には、あのような兵器を使用することに抵抗がある者いるでしょう。わたくしの言葉で、少しでも撤退をする兵がいればよいのですが……』

 

艦隊の中で最も機動力が高いエターナルにはラクスが乗船しており、ザフト軍を心理的に撹乱する狙いもあった。作戦の目標はあくまでもジェネシスであり、多くの敵を討つことを目的とはしていなかった。

 

『破壊が遅れるようであれば、最悪換装されるミラーブロックの破壊に回ることも検討しなければならないでしょう。』

「そちらへ割ける戦力を確保出来れば、という話ですね。作戦の鍵を握るのはアスランくんのジャスティス、そして……キラくんのフリーダム。」

 

ジェネシス本体の破壊にはアスランが志願をしていた。父の暴挙を今度こそ止める、彼はその確固たる意志を持って、戦いに臨もうとしていた。

 

『残された時間は多くありません。コーディネイターの憎しみが込められたあの光がもう一度放たれる前に、わたしくたちは……!』

「ええ……!各艦発進!これよりジェネシスの破壊作戦を開始します。」

 

人が憎み合う世界を終わらせるため、アークエンジェルは志を同じくする者たちと戦場へと向かう。武器を手に取るマリューに迷いはなかった。愛しき者と共に明日を迎えるために、彼女は生きるために戦うのであった。

 

 

 

 

「敵モビルスーツ接近、数12!」

「ヘルダート照準、目標敵モビルスーツ部隊っ!」

 

プラントの意思、そしてザラ議長の意思を代弁するザフト軍がアークエンジェル率いる艦隊へと殺到する。その数はアラスカの時を上回り、戦いの終末期を表しているようでもあった。

 

「アーガイル少尉のストライクには、あまり艦を離れように伝えて。そのためのランチャーなのだから。エネルギーが少なくなれば、すぐに換装するようにとも。」

 

しかし、以前のようにアークエンジェルもまた単独で戦闘をするような状況ではなく、キラの友人が乗るストライクと、バスターによる支援攻撃も展開しているのであった。

 

「エターナル、まもなくジェネシス最終ラインを突破します。」

「本艦も早急にエターナルの元へ。ドミニオンと地球軍艦隊は?」

「本艦後方で敵部隊と交戦中。全艦健在です。」

 

エターナルの中央突破、及び火力支援ユニット、ミーティアを搭載したフリーダム、ジャスティスの攻撃により、ザフト軍の指揮系統は混乱し、数では劣りながらも互角以上の戦局を維持していた。

 

「右舷前方よりナスカ級2隻。モビルスーツも多数!」

「くぅっ……!さすがに2隻同時は……!」

『クサナギの艦砲射撃で頭数を減らすとしよう。それから、こちらのじゃじゃ馬ルーキーが突貫をしたがっている。アークエンジェルと共に進行をするとのことだ。』

「じゃじゃ馬……カガリさんが?」

 

アークエンジェルの右舷へと護衛につく、鮮やかな緋色のストライク。そのさらに前方へとクサナギが全砲門を開いてザフト軍と対峙する。

 

「連射は出来んから外すなよ。ローエングリン、てぇぇぇぇぇっ!!!!!」

 

アークエンジェルを遥かに上回る大火力、4門の破城砲が禍々しい光を放ち、迫ろうとしていた敵部隊を消滅させる。

 

『ラミアス艦長、今のうちにカガリと共にジェネシスへ!』

「え、ええ……」

 

戦闘中でありながら、クサナギの火力を前に唖然とするマリュー。眼前で放たれた破城砲と同等のものを放った自らの所業に、彼女は些か恐怖を感じるのであった。

 

「ストライクルージュの援護を!先行してエターナルに合流してもらいます。」

「左舷後方より急速接近する熱源を確認。これはモビルスーツ……?」

「数は?」

「一機です。しかし、これは……」

 

激戦が続く最中、ザフト軍の防衛網を突破するアークエンジェルとドミニオン率いる連合艦隊の前に、新型機と思わしきモビルスーツが現れる。

 

「連合艦隊、敵モビルスーツの攻撃を受けています!」

「それがどうしたというの!?ザフトのモビルスーツなんて、この宙域を見渡す限りにいくらでも……」

「いえっ……艦長、連合艦が当該の敵機により撃破されています!」

「なんですって……!?」

 

管制官からの報告のマリューは驚愕する。それに続いて艦橋のモニターにはドミニオンからの通信が入る。

 

『ラミアス艦長!』

「ナタル、ドミニオンは大丈夫なの!?」

『現在のところ、本艦搭載のカラミティ、レイダー、フォビドゥンによる迎撃で対処しています。しかし……僚艦の被害は広がる一方です。』

「あの3機が相手でも……たったの1機で……!」

 

中衛で迎撃に当たっていた連合艦隊が撃破されることで、アークエンジェルとクサナギに対する攻撃は激しさを増そうとしていた。しかし

 

『アークエンジェルは予定通り、エターナルとの合流を最優先してください。』

「そんな……それだとあなたたちが……!」

『我々の任務はあくまでもジェネシスの破壊です。ここでザフト軍を少しでも足止めしなければ、地球が……この世界の未来がなくなってしまうのですから……!』

「ナタル……!」

 

苦渋の選択を強いられるマリュー。ドミニオンを殿として残すことで、アークエンジェルがエターナルへと合流出来る可能性は高まる。しかし、それはナタルたちを捨て石にするも同然の行為であった。

 

「やっぱりダメよ!出来る限り多くの艦がエターナルと合流しなければ、本作戦の成功は望めないわ!」

『何をそんな甘いことを言っているのです!あなたのその甘さが全てを無駄にするようなこの戦場で!』

『ゴッドフリート2番沈黙!艦長!このままでは戦闘の継続も困難に……!』

『ローエングリンを起動させろ!あの新型を落とせずとも、可能な限り先行する部隊への敵部隊の接近を阻止するんだ!』

 

通信中にもドミニオンの艦橋から聞こえてくる劣勢の報告。マリューはそれを聞き、悲痛な表情となってモニター越しのナタルと顔を合わせる。

 

『行けっ!マリュー・ラミアス!あなたにしか出来ない使命を全うしろ!』

 

死地にありながら、かつての同僚を叱咤するナタル。彼女の言葉にマリューは涙を流すことなく、艦を前進させるのであった。

 

「本艦はエターナルと合流し、ジャスティスが突入したジェネシス侵入口を防衛に回ります!」

 

機関を最大として、ドミニオンが苦戦する戦闘宙域から離れるアークエンジェル。マリューは再び大切な者を見捨てる選択した自らに無力感を感じるのであった。

 

「ナタル……ごめんなさい……ごめんなさいっ……!」

 

悔恨の言葉を繰り返しながら前へと進むアークエンジェル。その進行方向から一機のモビルスーツが向かってくる。

 

「フリーダム……!キラくんっ……!?」

『アークエンジェルは早くカガリとエターナルの元へ!僕はドミニオンの救援に向かいます!』

 

アークエンジェルの付近を通過する際に、フリーダムに搭乗するキラは急ぎジェネシスへ向かうようマリューに促す。そして彼は、ミーティアを装備したフリーダムをドミニオンの元へと向かわせるのであった。



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Phase13-2

最終決戦後半です。フリーダムVSプロヴィデンス、そしてアークエンジェルのローエングリンが再び放たれます。まぁクサナギのほうが強いんですけどね。

ぶっちゃけCEの世界は、イズモ級で構成された艦隊を配備すれば、宇宙空間の戦闘で負ける要素は皆無な気がしたりも。特に陽電子リフレクターが存在しない、CE71の場合は尚更。

そんなことを考えながら本作の着地点へと到達しました。次回は戦後。キラの周辺以外の情勢を書いた後、キラマリュというカップリングの一つの答えをお見せできればと思います。


「メインスラスター被弾!航行不能!」

「動けなくともまだ使える武装はあるだろう!退艦するのは残弾を全て使い切ってからだ!」

「しかし、これではただの的がに……ぐあぁっ!?」

 

警報音が鳴り響き、被弾と爆発の衝撃が絶え間なく襲うドミニオンの艦橋。艦長のナタルは戦友であるマリューに未来を託し、自らの身命を賭してザフトの新型機を食い止めようとしていた。

 

「フォビドゥンとレイダーは!?」

「ダメです!カラミティも敵モビルスーツ部隊と交戦中!」

「くっ……もはやここまでか……!」

 

艦の方向転換すらもままならず、戦闘能力を完全に喪失しようとするドミニオン。ナタルは乗員に退艦命令を出そうする。しかし

 

「敵モビルスーツ急速接近!」

「なっ……!?」

 

それすらも許されぬ速度で、艦隊に甚大な被害もたらした新型機は肉迫する。背中に無数の遠隔兵器を搭載し、機体の意匠は連合のG兵器に酷似した、ツインアイとV字型アンテナが特徴のモビルスーツ。核動力を搭載し、高い制圧火力と機動力を両立させた一機のモビルスーツに、ドミニオンもまた餌食になろうとしていた。

 

「前方より友軍機接近!フリーダムです!」

「フリーダム……キラ・ヤマトか……!?」

 

その迫りくる機体に向け放たれる無数のミサイルとビーム砲。ドミニオンから距離を置いた敵機と艦の間に割って入ったのは、火力支援ユニット、ミーティアを搭載したフリーダムであった。

 

『あの敵は僕に任せて!ナタルさんたちは退艦を!』

「あ、ああ……了解した。総員退艦!残存部隊はアークエンジェルに合流するように伝達!」

 

マリューと同じく袂を分かったコーディネイターの少年、キラ・ヤマト。その彼が今、かつて戦火を交えたナタルや彼女の部下を助けるべく駆け付けたのであった。

 

 

「ナタルさん……!くぅっ……!」

 

沈みゆくドミニオンを目にして、苦々しい表情を浮かべるキラ。しかし、彼女たちの身を案じる前に、彼もまた眼前の敵機に集中をすることとなる。

 

ミーティアのブースターを全開とし、ザフトの新型機、フリーダムとジャスティスの兄弟機であるプロヴィデンスに向かい攻撃を開始する。

 

「っ……!?」

 

だが、その接近を阻むようにプロヴィデンスが放った遠隔兵器、ドラグーンが多方向からビームを放ち、フリーダムの行く手を遮ってしまう。

 

「これは……フラガ少佐の機体に使われていた……!」

 

キラは敵機の兵装に既視感を覚える。かつて共に戦地へと赴いたパイロット、ムゥ・ラ・フラガの登場するメビウス・ゼロと同様の武器であると見抜き警戒する。

 

「くぅっ……この大きさじゃ……!」

 

多方向から間断なく放たれるビーム。ミーティアと接続したフリーダムでは圧倒的に不利であり、キラは分離する機会を窺う。

 

多数の敵機を制圧するミサイルを放つものの、その全てはドラグーンのビームにより撃墜され、攻撃は無駄に終わる。

 

「うっぐぅぅっ……!」

 

それどころかドラグーンによる攻撃はミーティアの巨体に命中し、フリーダムにとっては死荷重となり始める。

 

「クソっ……!こうなったら……」

 

ブースターを噴射し、一時的にプロヴィデンスとの距離を置くキラ。そして転進した後、先程と同じように敵機に向かって迫ろうとする。

 

「同じ手だと思うなぁっ!」

 

光学ロックをしないまま、ミーティアに搭載されたミサイルの全弾を射出する。目標の一点を狙わず、面に向かって攻撃するようなミサイルの嵐に、プロヴィデンスは射出したドラグーンを急ぎ戻そうとする。

 

ミサイルの発射と同時にミーティアから分離するフリーダム。そして、ミーティア本体をプロヴィデンス本体に対し、大質量の兵器としてぶつけようとするのであった。

 

無軌道に飛翔したミサイルにより複数のドラグーンが堕とされ、プロヴィデンスは残るドラクーンでキラが放ったミーティアに向け射出する。それがキラの狙いであった。

 

「そこだっ!」

 

高機動を維持したままの精密射撃により、ミーティアを狙ったドラグーンを撃ち落としていくフリーダム。それでもなお、自機に向けて飛来し攻撃をしかける敵兵器を、彼は冷静に撃ち落していく。

 

「そんなものでっ!」

 

キラは無人兵器であるドラグーンを撃ち落とすことに躊躇いはなかった。遠隔操作、人間が搭乗していないものに対しては、一切の抵抗なく攻撃を仕掛けることが出来るのであった。

 

それでもなお、残る兵装をフリーダムへと向けて抵抗の意思を示すプロヴィデンス。しかし、火力の大半をドラグーンに依存していた機体の戦闘能力はキラとフリーダムの相手ではなく、ついに敵機の接近を許すのであった。

 

「っ……!」

 

フリーダムが放った蹴りによって体勢を崩すプロヴィデンス。なおも戦闘を継続する構えの機体は大型のビームサーベルを展開してフリーダムに斬りかかるものの、キラはそれを容易く捌き、逆に左右の手で展開したビームサーベルでプロヴィデンスの両腕を切り落とす。

 

「もうやめろ!これ以上の戦いは……!」

 

コックピット内で一人、プロヴィデンスのパイロットへ叫ぶキラ。その直後、その眼前の機体からフリーダムのコックピットに向けて通信が入る。

 

「えっ……!この機体から……?」

 

突然の出来事に困惑の色を浮かべるキラ。しかし、その背後からは残されていた一基のドラグーンが、フリーダムに銃口を向けているのであった。

 

 

 

 

ジェネシス周辺の宙域。アークエンジェルはザフト軍の防衛部隊と交戦していたエターナルと合流し、ジャスティスとストライクルージュが突入したジェネシス侵入口の前に陣取り、迎撃を続けていた。

 

「ジャスティスとの連絡は!?」

『まだです。後から突入したカガリさんからもまだ……』

 

ジェネシス内部からの連絡がないことをラクスから確認するマリュー。前方には少数ながらも、2隻の艦を排除しようとする迫るザフトの部隊が展開していた。

 

「このままじゃ……ジェネシスを破壊する前に本艦とエターナルが……!」

 

周辺宙域に漂う無数のモビルスーツや艦船の残骸。その多くはエターナルと共に先行していたフリーダムとジャスティスが破壊したものであった。

 

「左舷より敵部隊接近!数14。」

「エターナルに向けてもモビルスーツ複数機が……!」

「迎撃!バリアント、ゴットフリート照準!」

 

やむなく接近するザフト軍に応戦するアークエンジェル。目標はあくまでもジェネシスであり、ザフトの防衛部隊を撃破することはマリューにとって不本意であった。

 

しかし、エターナルの残弾数にも限りが見えてきており、敵側もそれを理解しているかのように攻め手を緩めようとはせずにいた。

 

「正面よりローラシア級4隻。」

「4隻!?」

「さらにその後方よりナスカ級2隻接近!艦長、このままでは包囲されます!」

「くぅぅぅっ……!」

 

ラクスの意思を尊重するのであれば、この戦いにおける犠牲は限りなく少ないものであることが理想であった。

 

しかし、眼前に迫るザフトの軍勢はパトリック・ザラのナチュラルに対する憎悪を代弁するように、ジェネシス破壊を目指すマリューたちを討とうとしていた。

 

ジェネシスを背後にしたアークエンジェルとエターナルを囲い始めるザフト艦隊。だがその矢先、無数の砲撃がザフト艦へと命中し、形成しつつあった包囲を崩していく。

 

「クサナギ……!?」

『ラミアス艦長、無事か!?』

「ええ……そちらは?」

『後方からの追手は、フリーダムと連合艦隊が抑えてくれた。あとはジェネシスを破壊するだけだ。』

 

多勢に無勢であった中、クサナギとアストレイ部隊が合流し窮地を脱するマリューたち。そして、再び合流を果たした3隻はこの戦いに決着をつけようとしていた。

 

「ラクスさん、私たちでザフト艦隊を撃破します。よろしいですね。」

『はい。私たちは、まだ倒れるわけにはいきません。この世界に未だ残る、憎しみの連鎖を断ち切るために。』

 

ラクスからの言質を得たマリュー。そして彼女はクサナギと艦首を並べると、乗員に号令を出す。

 

「ローエングリン、1番2番起動。目標、前方ザフト艦隊!」

 

彼女の声と共に露わとなる艦首の備わった二門の破城砲。それと同時にクサナギの搭載された四門の破城砲もまた、眼前に展開するザフト軍へと向けられるのであった。

 

「ローエングリン1番2番、充填完了。いつでも撃てます。」

 

火器管制官による発射準備完了の報告。それを聞いたマリューは、自らの意思によってその引き金を引くのであった。

 

「―――――!!!!!」

 

艦橋に響き渡るマリューの叫び。それと同時に、アークエンジェルとクサナギの破城砲六門から、禍々しい6本の光が放たれる。そしてそれらは、彼女たちを討つべく迫っていた者たち全てを、漆黒の宇宙へと葬り去るのであった。



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Final Phase-1

エピローグ前半です。キラが出てきません。大戦を生き残ったナタルさんと三馬鹿、そしてノイマンのノロケがメインです。キラマリュではなかったのですが、なんとなく書きたかったので書きました。

後半はオーブに亡命した女性技術士官と元代表の密談。CEの世界を平和することは不可能でしょう。現実世界並みに無理ゲーかと。

後半はほとんどキラマリュ。そしてキラが戦いの中で最後に聞いたことを振り返ります。ついでに複数のゲストキャラも。オリキャラではないと思います、たぶん。


ジャスティスの自爆によりジェネシスは崩壊。パイロットのアスランは無事に脱出し、マリューたちによるジェネシス破壊作戦は完了した。

 

その後、地球連合艦隊の月基地から増援が到着。ジェネシス発射を主導していたパトリック・ザラ議長は拘束され、反ザラ派、及び旧クライン派によって大西洋連邦との停戦、および講和協議が始まるのであった。

 

 

 

 

終戦から数か月後。ジェネシスの破壊に関与した地球軍艦隊の軍人は、戦後の混乱に乗じて行方を晦ましていた。

 

ドミニオンの元艦長、ナタル・バジルールはオーブ国内の港で、3人の若者たちに身分証明書を手渡す。

 

「ん?なんだこれ?」

「お前たちの新たな個人データだ。連合内ではパーソナルデータが存在していなかったから、新たにオーブで作ったものだ。」

 

ドミニオン艦載機のパイロットであった3人の若者。彼らは停戦後、アークエンジェルへと帰還し、退艦して生き残っていたオーブに身を寄せていた。

 

「俺たちってパーツ扱いだったのか?」

「なんか酷くないですか、それ。」

「あの薬、もう飲まなくていいの?」

 

軍内では生体CPUとして認識されていた3人。しかしナタルは一人の人間として、彼らを人として見ており、戦争を生き残ることが出来た若者たちとして扱おうとしていた。

 

「他の連中がどう考えていたかはもう分からん。ほとんどいなくなってしまったからな。お前たち自身に関しても、オーブ国内の手術でどうにか普通の人間に戻っている状態だ。」

 

ナタルや彼らを含め、生き残ったドミニオンの乗員はオーブへと亡命していた。一方で連合軍内では乗艦の轟沈による実質的な戦死となっているのであった。

 

「それからこれを。アズラエル理事から頂いたロドニア研究所の所在地だ。サブナック少尉、君に預けておく。」

「ロドニアって……どうしてこんなものを俺たちに?」

「まだ見知った顔も残っているだろう。そこで何が行われているのかは分からん。そして、お前たちがそこで何をするかも私は関知しない。」

 

3人に対して勝手にするべき言わんばかりな態度のナタル。しかしそれは、彼らに自由を与えたことへの裏返しでもあった。

 

「そういえばあの理事のオジサン、どうしたんですか?」

「アズラエル理事は……生きてはいるさ。だが、お前たちと会うことはないだろう。」

「ウソくせ。あんたが殺したとか?」

「なっ……こ、殺してなどはいない!一発殴りはしたが死なせてはいないぞ!」

 

ナタルに対して疑いの目を向ける3人。しかし、彼女に対しての信頼が揺らぐことはなく、彼らはそれ以上、アズラエルの安否を気にすることはなかった。

 

「他に何か必要なものはあるか?」

「小説。」

「ゲーム機。」

「MDプレイヤー。」

「ぐぅっ……!」

 

彼らの私物はドミニオンと共に宇宙の塵となっていた。そしてそれらの補填をナタルに要求しているのであった。

 

「あんたが艦を沈められっから、俺の本もなくなったし。」

「弁償してくださいよね、艦長さん。」

「もっと新しいやつが欲しい。」

「お、お前たちは……!」

 

軍人ではないために、年相応かそれ以上に礼を失した態度の3人。そんな彼らに呆れと怒りを覚えつつも、人間らしさを取り戻しつつあったことに彼女は安堵もするのであった。

 

「バジルール中尉。」

「ん?ああ、ノイマン少尉……って、私は昇進して大尉……じゃなかった。私たちはもう軍人ではないだろうが。」

「あっ!すいません……以前の癖で……つい。」

 

ナタルたちのもとへと近寄ってきた一人の男。アークエンジェルのクルーであったアーノルド・ノイマンは、彼女の姿を見かけて話しかけてくる。

 

「その3人は?」

「ドミニオンの艦載機に搭乗していたパイロットだ。パイロットとしては存在していなかったがな。」

「ああ……彼らがあの新型の。キラくんとそれほど変わらない年頃みたいですね。」

「キラ・ヤマト……か。」

 

その名を聞いたナタルの顔が僅かに曇りを見せる。そんな彼女に向けて、3人は彼女とノイマンの関係を問い質す。

 

「その人、あんたの何なの?」

「もしかして、恋人とか?」

「似合ってんじゃん。」

「えぇっ!自分とバジルール中尉が!?」

「なっ……お、お前たちは何を言って……!」

 

困惑するノイマンと、顔を赤面させるナタル。厳格な軍人であったはずの彼女は、軍を離れた者たちに囃し立てられ、年相応な女らしさを露わとしてしまう。

 

「ノイマン少尉、この後……空いているか?」

「えっ……?あっ……は、はいっ!中尉のためであれば、いくらでも!」

 

軍人としての関係しか築けずにいた2人。階級でしか呼び合うことのなかった男女が、それ以外の呼び方をするには、しばしの時間を要するのであった。

 

 

 

 

連合、プラント間による大戦はオーブに多くのものを失わせ、そしてもたらしてもいた。

 

「では、あのアークエンジェルとあの機体は我々に譲っていただける、そういうことですな。」

「はい。少なくとも今の私たちにとっては無用なものですから。」

 

地球連合軍の元軍人、女性技術士官と話をするのは、オーブ連合首長国の元代表であるウズミ・ナラ・アスハ。彼は彼女に対してさらに問う。

 

「あなたはともかく、彼や彼女の了承したのですかな。」

「もちろんです。2人の許可を得た上で、あの機体はオーブに渡すこととしています。」

「なるほど。それなら安心出来ますな。彼らの意思に反して、我らがあのようなものを手にするのには抵抗ありましたからね。」

 

大戦終盤の戦闘において、核動力搭載のザフト製モビルスーツ3機が実戦へと投入された。そのうち2機は損失した一方、残る1機はアークエンジェルと共にオーブへと入港していたのであった。

 

「つかぬことをお伺いしますが、アスハ元代表はあの機体……Nジャマーキャンセラーをどうするおつもりでしょうか。」

 

些か不安な表情となりつつ、女性士官は元代表に問う。それに対してウズミは険しい表情のまま口を開く。

 

「当面の間は、我々の下で秘匿させていただくことにします。大西洋連邦の権力失墜した現状において、我々が独立を回復することは容易ですからな。あれほどの力なくとも。」

 

地球連合、特に大西洋連邦はジェネシスによる攻撃で軍勢の多く喪失し、さらにはウィリアム・サザーランド以下、ブルーコスモスに与する人員の多くが死亡していた。それによりオーブは図らずも、大西洋連邦の支配から脱すことが叶うのであった。

 

「とはいえ、核の力は多くの人々にとって生きる術となる。今後の地球連合、大西洋連邦の姿勢次第では、Nジャマーキャンセラーの技術を公開することもやぶさかではないでしょう。」

「オーブの判断は、連合とプラントの関係に掛かっている。そういうことでしょうか。」

 

女性士官の言葉にウズミは深く頷き、顔を綻ばせる。そして彼女に対して感謝とねぎらいの言葉を述べる。

 

「我らがあなた方に託し、守り通してくれた意思。決して疎かには出来ようはずがない。何よりも娘を……カガリに世界を見せてくれたあなた方に、我々は報いなければならない。」

「いえ……そんな、カガリさんはよくやってくれました。アスランくんを助けたもの彼女でしたし、助けられたのは私たちのほうですから。」

 

謙遜する彼女にウズミは一国の元代表、そして一人の父親として頭を下げて謝意を示すのであった。

 

「それで、あなた方は今後、オーブ国内でどのように生活を?何か出来ることがあれば、融通は効かせますので。」

「ありがとうございます。ただ、今はもう少し……彼との時間を大切にしたいとも思っています。」

「……そうでしたな。我が娘と同い年にしては、彼が背負う業はあまりにも重すぎる。」

 

彼女が口にした『彼』という言葉に、ウズミは複雑な面持ちとなって言葉を口にする。彼女が共に過ごそうとする一人の少年に対し、彼もまた罪に意識を抱いているのであった。

 

「彼が進むべき次第で、私の進むべき方向も決まります。今はまだ、傍にいてあげたいんです。」

「わかりました。あなたに任せておけば、私としても安心が出来る。彼のことを頼みましたぞ、ラミアス元艦長。」

 

ウズミの言葉に女性士官は一礼をすると、踵を返して部屋を後にする。その一人の少年と未来を共にすることを決めた彼女の目に、一切の迷いはないのであった。



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Final Phase-2

最終回です。エピローグの後半となります。オーブに亡命、移住したキラとマリューの日常となります。

最終的にピンク色な感じとなりますが、本作は全年齢作品のため寸止めというところで完結となります。

ゲストキャラは無印SEEDには登場しませんので、あえて名前は伏せてあります。キラマリュ作品における、おまけ要素だと思っていただければ幸いです。

本編は以上となります。残すはあとがきのみとなります。それでは、ここまで本作にお付き合いしていただきありがとうございました。


月日が流れ、マリューはキラ共に海沿いの小さな家で過ごす日々を送っていた。

 

「私たちを……プラントに?」

 

椅子に座りアスランからの連絡に目を通すキラ。彼に飲み物を渡しつつ、マリューは向かいの椅子へと座り話を聞く。

 

「はい。ラクスの声にそっくりな歌手の子がデビューするらしいんです。そのデビューの場にアスランや僕とマリューさんにも立ち会ってほしいとか。」

「ラクスさんに似た声って……一体どれくらいに……」

 

メッセージと共に添付された映像を端末で確認するキラとマリュー。そこにはラクスと同じ歌声を響かせる、一人の女性がステージに立っているのであった。

 

「思って以上に似ている……というよりは、本人といってもいいくらいね。」

「ええ。声だけを聴いていれば、ラクスだと間違えるくらいにはそっくりです。」

 

しかし、映像を確認した2人がその女性をラクスと間違えることはなかった。髪は黒く、顔つきが冴えているとは言えず、衣装の上からでもラクス自身より豊満といえる身体をラクスと間違えることはないのであった。

 

「歌姫……という雰囲気ではないわね。」

「はい。それでも、身体はマリューさんにも負けないくらい……」

「ん?何かしら?」

「いや、なんでもない……です。」

 

言い掛けた言葉を取り下げるキラ。その言葉を放った先に何が待ち受けるかを、彼は恐れているのであった。

 

「プラントの人々は、みんなラクスさんの歌声を求めているのかしら。」

「そう……かもしれません。それでも、彼女はプラントへと戻らずに……」

「ラクスさんのファンは、きっと悲しんでいるのでしょうね。」

「ラクスの……ファン。」

「キラくん?」

 

マリューが不意に放った『ラクスのファン』という言葉に、キラはかつての記憶を瞬く間に蘇らせるのであった。

 

 

 

 

 

 

ドミニオンと地球軍艦隊の救援に向かい、ザフト軍の新型モビルスーツと対峙していたキラ。眼前の機体、プロヴィデンスは両腕を切断され、その戦闘能力のほぼ全てを奪われていた。

 

「もうやめろ!これ以上の戦いは……!」

 

そうキラがコックピット内で叫んだ直後、プロヴィデンスからキラに向けて通信が入る。

 

「えっ……!この機体から……?」

 

キラは驚きを隠すことが出来ず、その通信に集中してしまう。

 

『ふっ……ふふふっ……!キミたちのような者がいても、いずれ世界は……』

「っ……!あなたは……一体……!?」

 

年齢は定かではないものの、コックピット内に響いた男の声。その声の主は、フリーダムに搭乗しているのがキラであると分かったかのように言葉を発していた。

 

「くぅっ……!しまった……!?」

 

その僅かな隙を見せたキラに対し、プロヴィデンスは残されていた脚部でフリーダムを蹴り飛ばす。そして、体勢を崩した機体の周辺へドラグーンが飛来する。それを確認したキラは、自らの油断を悔いる。しかし

 

「えっ?」

 

1基のドラグーンが放ったビームはフリーダムではなく、その本体であるプロヴィデンスの胴体へと着弾する。プロヴィデンスのパイロットは、自らの機体を自身で撃ち抜いているのであった。

 

「どうして……こんな……!」

『手にした自由を抱きながら……世界の憎しみに抗うといい。』

「自由と、世界の憎しみ……?」

 

抽象的な言葉を前に、キラは困惑していた。しかし彼にはその男の意志を感じる取ることは出来た。

 

『キミが思うほどに世界は甘くないのだよ……キラ・ヤマトくん……!』

「……っ!?」

 

自らの名前を呼ばれたキラは驚嘆する。眼前の機体に乗る男は、自らの多くを知っている。それを理解したキラは堪らず声を上げる。

 

「待ってください、あなたは僕の……!」

『ふふふっ……!だが、そんな甘さも抱いて戦うのも、悪くないだろうな……』

 

しかし、キラがフリーダムを近寄らせる前にプロヴィデンスは爆炎へと包まれる。核動力を搭載していた機体の爆破威力は凄まじく、フリーダムは爆風によって吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐぅぅぅっ……!」

 

各部位に損傷を受けながらも、敵機の撃破を果たしたフリーダム。しかし、キラの胸に残ったのはプロヴィデンスのパイロットが放った言葉の数々であった。

 

「どうして、あなたは僕のことを……。僕が本当に欲しいものは、自由でも世界でもないのに……」

 

男が何者であるか定かではなかった。しかし、キラは彼が自らの理解者であったのではないかと考える。だが、その疑問に答える者は既にいないのであった。

 

 

 

 

 

 

「キラくん、大丈夫?」

「えっ……あっ、はい。少し、考え事をしてて……」

「やっぱり、宇宙へ上がることには抵抗があるのかしら?」

「……そう、ですね。あのコロニーには、もう一度行かないといけないですから。」

 

コロニー・メンデルで目にした自らの故郷、そして出生の秘密。キラはそれと向き合う覚悟が出来るまで、宇宙へと向かうことに迷いを持ち続けていた。

 

「もう、一人で悩んだりしたらダメよ?それじゃあ、私が傍にいる意味がなくなっちゃうんだから。」

「すみません……どうしても、空のことを考えると思い出すことが多くなって。」

 

自らが生まれるまでに犠牲となった『兄弟』たちの魂が漂っているであろう漆黒の世界に、彼は恐れを抱いているのであった。

 

「僕一人で世界を変えるとか、守ることなんて出来ないんです。僕はただの結果ですから。」

「キラくん……」

 

遺伝子上、コーディネイターという存在の頂点となったキラ・ヤマトという存在。しかし、彼自身は自らを至高至上の存在などと思うことなく、一人の人間として生を望んでいるのであった。

 

「それでも、世界を変えようと足掻かなくちゃいけない。憎しみが残り続ける世界で、僕は戦い続けないと……!」

 

キラが見つめる先に広がる、窓から覗く青い空。どこまでも大地を果てしなく繋げ、地球と宇宙の境界を曖昧にする終わりなく世界に向け、彼は一人の人間として対峙しようとしていた。

 

「僕じゃなくて、僕たち……でしょ。あなたはもう、一人で戦う必要なんてないのだから。」

 

キラが背負うものを理解しつつ、彼を背後から包み込むように抱き締めるマリュー。そんな自らの身体と触れ合う彼女の手を、キラは優しく握るのであった。

 

 

 

 

「本当にいいんですか?会社の仕事ってずっとやってないといけないんじゃ……」

 

マリューとキラ、そしてアークエンジェルのクルーの多くは、オーブ国内へと移住、就業をしており、中でも主だった人員は、国内最大の企業モルゲンレーテへの斡旋を受けて就職していた。

 

「平気よ。私たちが入った技術部門は、毎日のように仕事があるわけじゃないし。何か問題が起きたりしたら、社のほうから呼ばれるのが普通よ。」

 

キラは改良中のOSの確認を、マリューはフェイズシフト装甲の実験を視察するため、モルゲンレーテへと出向いていた。そして業務を手早く終えた2人は、帰宅する前に街中を散策しているのであった。

 

「特にあなたは、学生生活のほとんどを戦いに使ってしまったのだから、少しは自由を謳歌してもいいじゃないかしら。」

「自由……ですか。」

 

自らが意図せずに得た『自由』という概念。しかしキラ自身は、その自由という言葉に囚われてもいた。

 

「本当にいいんでしょうか。僕だけが……こんなことをしているなんて。」

「あなただけっていうのは、プラントに戻ったアスランくんや、行政府でウズミさんの手伝いをしているカガリさんたちと比べてってこと?」

 

マリューの問いに小さく頷くキラ。ヘリオポリスで共に過ごしていた学友たちとは離れ離れとなったものの、キラの傍にはマリューが寄り添い、不安定な情勢が続く世界から縁遠い場所にいることに不安を抱いていた。

 

「もう……私が一緒にいるだけじゃ不満かしら。私より、友達やお姉さんと一緒のほうがいいの?」

「い、いやっ……そういうわけじゃないですから!僕はマリューさんと一緒にいるのが、その……」

 

自身の居場所に悩むキラに、マリューは不満を露わとする。意地悪な問いに狼狽える彼を見て、マリューは笑みを零していた。

 

「何もする必要はない、とは言えないわ。ただ、いずれ世界にはあなたの力が必要になる時が来るかもしれない。でも私は、そんな時が来ないことをずっと願っている。」

「マリュー……さん。」

 

キラの力が必要とされる時。それはおそらく戦う力、キラの戦士としての力が求められる時であるとマリューは考えていた。彼女の中には少なからず、その日が来ることへの恐れが残っているのであった。

 

「それじゃあ、もし僕が間違った方向に進もうとした時は、マリューさんが止めてくれますか?」

「私が……キラくんを?」

「僕だって、ずっとマリューさんには傍にいてほしい。でも、ただ一緒にいるだけじゃなくて、僕のことをその……もっと……ええっと……」

 

言葉で表すことが出来なくとも、伝えることが出来る想い。些か頬を赤くしながら口ごもるキラの気持ちをマリューは理解して笑みを浮かべる。

 

「そうね……ただ一緒にいるというだけじゃ、何も得られないものね。」

 

そうしてキラと向き合うマリュー。彼女はその時、以前感じた下腹部への疼きを感じる。しかしそれは、かつてのように全身に熱を感じるような感覚ではなく、想い人が傍にいることで感じる温もりなのであった。

 

「ねぇキラくん、私ね……」

「どうしたんですか?」

 

街中であるにも関わらず、マリューはキラに対して異性を感じてしまう。雑踏でひしめく最中に、彼女は自身の腹部に手を当てながら感情を吐露しようとしていた。

 

「あぁっ!?マユのケータイ!」

 

しかし、マリューが口を開こうとした矢先、人混みの中から少女の声が聞こえたかと思うと、キラとマリューの足元にピンク色の携帯電話が転がってくる。

 

「この携帯電話……」

「なんだか今、女の子の声がしてたわよね?」

 

キラがその電話を拾い、マリューと共に見つめる。そうした中、一人の少年が愚痴を呟きながら2人の下へと近寄ってくる。

 

「もう……マユのやつ、あんなにはしゃいだりするから……」

 

明らかに探し物をしていると分かる少年。彼に向けてキラは声を上げながら、手も上げつつピンク色の携帯電話を振りかざす。

 

「ねぇ、キミっ!」

「んっ……?あっ!?」

 

手を振り上げるキラを見て、少年はすぐに駆け寄ってくる。そしてキラは彼に拾った携帯電話を差し出すのであった。

 

「ありがとうございますっ!妹がはしゃいでいたら、落としちゃって……」

「うん……僕たちのほうにも声が聞こえたと思ったら、すぐに足元に転がってきたから……」

 

携帯電話を受け取りながら頭を下げ、キラに対して礼をする少年。そんな彼の顔を、キラは些か不思議そうに見つめるのであった。

 

「あの……なにか?」

 

赤い瞳が美しく際立つ、あどけなさが残る少年。その特徴を見たキラは、少年が自らと同じ存在であると理解することが出来た。

 

「いや、なんでもないよ。それより、妹さんが心配しているんじゃないかな。」

「あっ……!」

 

キラが少年をはぐらかしていると、彼を追うように少年の妹らしき少女が歩み寄ってくる。

 

「お兄ちゃん……マユのケータイは……」

「大丈夫だ。この人たちが拾っててくれた。ほら、お前もちゃんとお礼をするんだ。」

「はぁぁぁ……よかったぁ……!あっ、本当にありがとうございました!」

 

安堵しながら兄から携帯を受け取る妹。少年と同様に、キラとマリューに礼を述べた彼女は、2人を見ながら問いかけてくる。

 

「えーっと……お兄さんとお姉さんは姉弟?それともカップル?」

「えっ……!?」

「なぁっ……!?」

 

少女の無垢な問いに対し、キラとマリューは堪らず驚きの声を漏らす。それを見た少女の兄は、好奇心が旺盛過ぎた妹を叱りつける。

 

「こらマユっ!そんなことを聞くんじゃないっ!すいません…ヘンなことを聞いてしまって。」

「えっ……いや、その……」

 

頭を下げて謝る少年に対し、言葉を詰まらせるマリュー。そして彼はもう一度謝礼を述べながら、妹の手を引いてその場を後にするのであった。

 

「本当にすいませんでした。ほら、行くぞマユ。母さんと父さんも待っているんだから。」

「やーん!私は恋人同士だと思ったのにぃ。」

 

雑踏の中においても、とりわけ騒がしい兄妹が立ち去り。キラとマリューは再び2人となる。喧騒が過ぎ去った2人の間には、些か気まずい空気が流れているのであった。

 

「きょ、姉弟と……間違われちゃったわね。」

「え、ええ……そ、そうです……ね。」

 

少女が推定した一方の関係を否定する2人。しかし、もう一方の彼女が推定した関係については、互いに言及を避けようとしていた。

 

「あ、あの……マリューさん……!」

「えっ……ええっ!あ、なんでもないわよ!別になんでも……!」

 

既に一度、身体の関係を持ってしまっていたキラとマリュー。しかしそれは、あくまでも互いを慰め合うだけの行為であり、それ以降2人は繋がりを求めようとしていなかった。

 

「僕……その、マリューさんと……」

「うぅぅっ……!」

 

人前で口にすることが憚れるような思いを打ち明けようとするキラ。しかしマリューは彼の求めを察して、年上の女らしくキラをエスコートする。

 

「きょ、今日はもう……帰りましょうか。」

 

改めてキラを導こうとするマリューの声は上擦っていた。彼女は小さく頷いた彼の手を握り締め、思いを確かめ合うため家路につく。マリューが握ったキラの手は、彼女以上に熱を帯びており、2人が互いに激しく求めていることを感じているのであった。



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Afterword

あとがきです。タイトルもそのまま『あとがき』にしてもよかったのですが、英語表記を続けたかったので、それっぽくしました。作品は雰囲気が大事かと。

作品の執筆経緯、変更したキャラクター設定、紹介、そして怪文書といった構成です。エピローグを読んでいただいた方には一度目を通していただければ思います。通さなくてもいいかもしれません。

本作の投稿は以上を持って終了となります。ハーメルンのほうには何か投稿出来ればとも思います。それでは。


この度は機動戦士ガンダムSEEDの二次創作SS「大天使の戦女神」を最後まで読んでいただきありがとうございます。筆者のレイヴンです。『レイヴン』と名乗っておりますが、ハーメルンでは登録名がScorcherだったことを忘れていたり、前回の閑話でタイトルを間違えていたりと、誤字以外もガバガバで本当に申し訳ございません。

 

普段は主に一次捜索の18禁作品を書いていますが、今回はガンダムSEEDの二次創作を書かせていただきました。以下ではあとがきらしき何かと本作のキャラ紹介、設定を記述しております。本作品を読み終えた方であれば、一度は目を通していただければと思います。

 

 

 

・本作の執筆経緯

 

端的に書いてしまえば、マリュー・ラミアスというキャラクターが好きだったから。それに集約されるというものです。2021年にSEEDの再放送がBS11で行われており、そちらを序盤から見返す中で、主人公のキラ・ヤマトとアークエンジェルの艦長であるマリューが頻繁に関わる描写があり、そこを基本として本作のような作品を書ければ、などと考えるようになりました。

 

というのも、原作オープニングでマリューさんの乳揺れ全裸カットや、それと一緒にキラが憂いた表情で映っていたりと、実はキラとマリューさんがファースト(小説版含む)におけるアムロとセイラさんみたいな関係になる、といった没シナリオがあったからOPであんなカットがあった……という妄想が以前からありました。

 

そんなわけですので、本作は当初18禁の短編作品を想定していました。しかし元々は二次創作の18禁には食指が動かない性格でして、そもそも二次創作を書くときに原作設定へ準拠したがる性質もあったりと、スケベなシーンを書くまでにあれこれと経緯、導入の執筆を考えているうちに長編となり、挙句の果てには

 

「18禁要素が邪魔だな」

 

などという本末転倒な状況へと陥り、結局は原作再構成のキラマリュ一般向け作品という形で執筆を始めたというものです。エロ描写とかオリジナル18禁作品で半ば書き飽きていますからね……仕事にしたいとは思っているんですけど。

 

後半のベッドシーンやエピローグにおける導入的な描写は、その名残となります。ただ本作のカップリングを書く上で、性的な関係は必須とも考えていましたので、最低限の描写だけは書いた、というのが実情でもあります。

 

しかし、複数の意味で下品な話となってしまいますが、本作の需要、キラマリュというカップリングの受け、具体的に書いてしまえば数字が芳しいものであれば、本作をベースとした18禁シーンを別途書くことも検討しているもの。おそらく世の創作者であれば、誰でも到達する思考だと思いますけどね。

 

具体的な数字は考えていませんので、筆者の気分次第では上記の作品を投稿するかもしれません。それがいつになるかは不明というもの。ネタの鮮度を気にしないタイプです。そうでなければ機動戦士ガンダムSEEDという20年前の作品の二次創作など書きません。

 

 

・登場人物紹介

 

主要キャラ、及び設定変更があったキャラを中心に紹介していきたいと思います。雑感、筆者の感想なども入っていますが、目を通していただければとも思います。

 

 

◇キラ・ヤマト

 

本作の主人公。オーブ沖の戦闘においてストライクと共に行方不明となったものの、アラスカ防衛線においてアークエンジェルの危機に合わせて復帰。以降は宇宙へと上がり終戦までを戦い抜きました。

 

やっていることは原作と大差がない感じです。大きな違いはマリューと肉体関係を持ったこと。ヒロインが定期的に入れ替わることがなかったので、精神状態が安定しているキャラとなった気がします。

 

それでも終盤では出生の秘密を知りショックを受け、自分の頭を撃ち抜こうとしたり、三馬鹿にはフルボッコにされ、マリューさんに甘えるなど、年相応に多感な面を持ち合わせた少年でもありました。

 

全編を通して見てみると、原作よりは後ろ向きなキャラ付け、ある種の破滅願望も持ち合わせた性格になっていたのかもしれません。というのも本作のキラは、名前が出てこなかったラスボスが持つ、負の側面も備えていたので、思想がブルーコスモスに近い、反コーディネイターという立場になっていた感じです。

 

後付け設定らしいですが、実際コーディネイターの中には自らの出生に疑問や悩みを持って、ブルーコスモスになるという人間もいるとか。もしかするとキラもより極端な思想を持った人間となっていた可能性も……という要素が含まれていました。

 

 

◇マリュー・ラミアス

 

本作のヒロインにしてもう一人の主人公。キラを失ったことで戦意を失いかけたものの、アラスカ戦において死の危機に直面したことでSEEDが発現。ローエングリンを平然とぶっ放す激ヤバ艦長となりました。

 

SEED(種割れ)持ち要素は完全なオリジナル設定です。せっかくメインヒロインにしたので、これくらいの設定は付けようかと考え、本作のタイトルである戦女神(Valkyrie)を体現するキャラクターとなりました。

 

非戦闘時は基本的に温厚、世話焼き、おっぱいが大きい美人なお姉さんという原作通りの性格です。それはキラに対しても同様でしたが、アラスカ戦後に一線を越えてしまい、出生の秘密を知ったことで母性へと変容。恋人関係へと変わることとなりました。

 

 

◇ナタル・バジルール

 

おっぱいはマリューさん並みに柔らかいけどお堅い軍人さん。ブチギレのタイミング早かったので生き残りました。

 

終盤のジェネシス破壊作戦においては、実質主役のようなものでした。ザフト軍を相手に奮戦、プロヴィデンスの足止め、間一髪のところでキラに救援され脱出。ついでにノイマンと王道カプ。やれるだけのことはやった。

 

ただ性格面はそこまで変わりはなかったかと。三馬鹿に対する気遣いは子供に懐かれやすい描写を活かしてみたり。あんなんでもキラよりかは接しやすいとか考えていそうなものです。

 

 

◇三馬鹿

 

オルガ・サブナック、クロト・プエル、シャニ・アンドラスの3人。士気がタダ下がりだったとはいえ、キラを圧倒したり、プロヴィデンスと交戦して生還するなど、無駄に強い3人。被撃破描写を書くのが手間だったので生還させました。

 

もちろんそれだけでなく、ナタルが渡した研究所の場所へと向かい、新三馬鹿を含めた仲間を助けに行けたかも……という含みを持たせた結末にしたというもの。この辺りは読んでいただいた方の想像にお任せという感じです。

 

 

◇ラクス・クライン、カガリ・ユラ・アスハ

 

父親が生きているので大幅なIFルートへと入った2人。カガリはウズミの下で政治を、ラクスは父シーゲルと共にプラントを脱出。オーブ国内か、スカンジナビア王国にでも亡命したのだと思います。

 

アスランに対しては同盟を組んで釈明を求めていましたが、当人がプラントへと逃亡したので有耶無耶なったものかと。クサナギとエターナルで乗り込んだりはしないと思います。

 

 

◇盟主王

 

ムルタ・アズラエルさん。ナタルさんにワンパンで伸されて退場。たぶんオーブで客人(人質)扱いをされている。なんか生き残ってしまったオジサン(20代)。

 

原作同様に正論を述べているのですが、そもそも民間人が軍艦内で指揮系統に介入していることが違法でしょうから、バジルール中尉の宇宙CQCにより拘束され、鉄拳制裁を受けることとなりました。

 

 

◇サイ・アーガイル

 

キラの友人。オーブで再受領したストライクのパイロット。メンデル寄港後の3か月で訓練をこなし、最終決戦でアークエンジェルの周辺でバスターと一緒にアグニを連射していただけ。たぶんこれが一番強いと思います。

 

原作では「やめてよね」からの「orz」で一躍人気者となりましたが、本作ではムウさんが離艦したことで空いたストライクに乗ってもらいました。アヘッドに乗るよりかは戦果を挙げていそうなものです。

 

 

◇アスラン・ザラ

 

ラクスとカガリが怖かったので、プラントへと逃亡したザフト軍の元エース。戦後にデビューした新人歌手にアプローチを受け、付き合うこととなりました(拡大解釈)。

 

地味に父親が生き残っているので、和解の可能性もあったりと、出番の割には救われた面のあるキャラクターかもしれません。もう女とモビルスーツを乗り換えたりはしないと思います。

 

 

◇ムウ・ラ・フラガ

 

おそらく本作で一番割を食った人。アラスカにおいて完全にフェードアウトをしてしまったので、生存はしています。

 

マリューの良き同僚というイメージのまま離艦したという感じでした。話の性質上、存在を消すことは不可能でしたからね。中盤までの良き兄分を貫けたとも。

 

そして地味に主要人物の中では唯一、連合に残った人間でもありますので、大西洋連邦の軍人として戦後処理に請け負うポジション、という扱いすべきだったと後悔していたりも。

 

さらには三馬鹿とは別ルートから、新三馬鹿の3人を救い出すという展開も有り得そうな感じが。ネオではなくて、ムウさんのままステラたちの面倒を見る姿とか見たいと思いませんか?

 

 

◇フレイ・アルスター

 

割を食った人その2。まず台詞がありませんでした。序盤でキラのメンタルをフルボッコにして、軍に志願をしただけというキャラに。本当に(ただの赤髪ポニテ美少女巨乳モブになって)すまん。

 

戦後はオーブに帰国して、サイと付き合うことになったんだと思います。というかフレイの周囲にあるブルーコスモス人脈って、原作本編でも全く活かされませんでしたね。もしアラスカで予定通り転属をしていたら、果たしてどのように扱いを受けていたのか。薄い本が熱くなりそうな(誤字につき自主規制)

 

 

◇ラクスのファン

 

本作のラスボス。フリーダムをラクスへと渡し、間接的にキラの復帰を促した人間。本当はNジャマーキャンセラーを流出させたかったのかも。

 

最終的にはプロヴィデンスに搭乗し、ジェネシス破壊へと向かう連合艦隊を襲撃。その過程で交戦したキラに敗北。キラを知っていながら何も語らずに散った謎の男となりました。

 

もちろん正体は原作同様にあの仮面の男。しかし本作では人類を悲観視する一方で、直接手を下すような行動は起こしませんでした。「放っておいても世界は滅びるだろう。」と考えていたのだと思います。

 

唯一それに抗えそうなキラとラクスを気にかけており、「ラクスのファン」を名乗りフリーダムの流出、そして戦場へと戻ったキラたち覚悟と実力を確かめるため、自らプロヴィデンスで戦いに臨んだ、というオチ。

 

キラは彼の存在を知らないままでしたが、彼の意思を継いでいるのが本作のキラ・ヤマトという人間でもあります。キラの悲観的な一面は、彼の意思を無意識に受け継いでいるからです。

 

 

◇ラクスに声が似た新人歌手

 

歌声だけならほぼラクス。しかし髪は黒く、顔は地味。それでもスタイルはラクスを遥かに上回る巨乳。整形なんかしなくてもやっていけると思う。

 

もちろんその正体は続編に出ていたミーア・キャンベル。この文章を書きながら確認したんですけど、このラクスより年下17歳なんですよ。17歳であのおっぱいなの!?

 

真面目な考察をすると、本人はもちろん、彼女の親もラクスのようになりたいなどと考えることは有り得ないですから、純粋に歌の才能に恵まれた子として、コーディネイターにしたと考えることが出来るというもの。容姿に重点を置かなかったのは、金銭の問題か、あるいは親と似ることを求めて、手を加えなかったのか。

 

本作ではラクスの影武者ではなく、ラクスがいなくなったプラント市民に寄り添う、ミーア・キャンベルとしてデビューすることに。アスランと一番くっ付いてほしいキャラ最有力候補です。アスミアで18禁作品が書きたいくらいには。「ラクスの声でヤってよw」とかアスランに言わせてやりた(自主規制)

 

 

◇マユ

 

エピローグで仕事帰りのキラとマリューさんの前に携帯電話を落とした少女。中々のおませさん。本作におけるキラマリュを完成形へと導いた重要モブです。モブなのに重要とは。

 

ピンク色の携帯電話を持っているだけのオーブ市民です。後述する兄が同じくらい目立っているのは気のせいかと。普通の家庭で普通に暮らしているだけですからね。

 

 

◇マユのお兄ちゃん

 

マユが落とした携帯を探し、それを拾ったキラから携帯を受け取った少年。紅い瞳が特徴的であり、キラは一目見てコーディネイターであると判断した模様。妹も同じコーディネイターだと思います。

 

キラとマリューとは面識がなく、この先も出会うことはないと思われます。それでもキラにとっては、この兄妹も自らが守るべきものの中の一部となってはいるのでしょう。

 

 

 

・キラマリュはおねショタか?

 

一回り弱という年齢差は、歳の差カップルとしては黄金比といえるでしょう。一方で判断が分かれるところなのですが、このキラマリュというカップリングを「おねショタ」というカテゴリーに入れるか否か、Pixivで関連のメッセージを頂いた際にも悩み、本作を投稿する際にも判断を困る要素となっていました。

 

そして筆者の見解では、キラマリュはおねショタではないという結論へと至りました。確かにキラ・ヤマトという主人公は本編序盤では精神的にも幼く、一方でマリュー・ラミアス艦長は初めこそ軍人らしさを見せたものの、艦を任されてからは比較的包容力のあるキャラへと変わっていたというもの。

 

最大の問題はキラをショタというカテゴリに該当するかという点でした。15歳という年齢は、多感でありながらも幼さ、という観点から見ると大人っぽさが見えてくる年頃だったりもします。マリューさん視点では紛れもなく子供なのですが、当人たちが子供という扱いを受け容れるかは別問題ということになってくる感じです。

 

そして原作本編のキラに関しても、子供だから戦いに出ることを拒む、というシーンはほとんどありませんでした。むしろ自らが軍人ではないことを理由に戦いを拒むことのほうが圧倒的に多かったと思います。

 

こういった複数の視点から考えた結果、キラを子供、あるいはショタと捉えることは適当ではないと考え、キラマリュはおねショタではない、という結論を導き出しました。おねショタ学会に提出したいと思います。

 

 

まぁぶっちゃけ、ひ○ま屋とかだと15歳は絶対ショタにならないでしょうし。マリューさんがお姉さんであることは確定事項ですけどね。同じ声のミサトさん(新劇Q以降を除く)もお姉さんキャラの代名詞でしょうし。シンジくんは年齢的に、ギリでショタと呼べるでしょうけど……そもそもエヴァがおねショタを求める作品じゃないでしょうからね。

 

 

 

・最後に

 

マリューさんのお姉さん属性、母性要素を、キラマリュというカップリングをベースに書き上げた本作ですが、無事に完結して何よりというもの。これも読んでいただける皆様がいてのこと。投稿に際して最大のモチベーションでありました。

 

前述通り、本作を起点とした続編、スピンオフの可能性もゼロではありませんが、筆者が基本18禁オリジナル作品を領分としておりますので、待つにしても気長に待っていただければと思います。

 

現時点で執筆中の作品がほぼおねショタというカテゴリの作品だったりも。義母ショタでもあるのですが、やっぱおねショタでいいんじゃないかなぁ、という作品を書いています。

 

二次創作に関してはSEED以外の作品で書く予定は一切ありません。そこまで推せるような作品を抱えていないものです。ただ本作を読んで、有償で一次、二次問わず、あるいは全年齢、18禁を問わず、書いてほしいというご依頼があれば、引き受けさせていただきます。基本NGジャンルはございません。でもやっぱり二次創作は作品次第になると思います。

 

改めまして、この度は本作を最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。またいずれ会おう出来ることを願いながら、締めの言葉とさせていただきます。それでは。

 

 

 

2022年5月28日 『大天使の戦女神』作者 レイヴン



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