MHT/Apocrypha (綴れば名無し)
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作者が思い出せる用に書いた主要人物紹介・帝国編

 最初に書いておきます。
本文に掲載されているイラストは作者が描いたものではなく、MicrosoftEdgeのImageCreatorに出力させたものです。ぶっちゃけAIイラストです。そこに作者がほんの少し目の色を変えたり黒子を付け足したりしただけのもので、作者自身は何も描いてません。
というかこんな画力あったらとっくにリンネさん書ききってる…


 

八重樫雫 17歳

 MHT/Apocryphaに於ける主要人物の一人。異世界トータスへ召喚された神の使徒の一人で、幼馴染の天之河光輝率いる勇者パーティーの副リーダー的な役割を果たしていた。召喚される以前はクラスの纏め役として頼られていたが、神の使徒と活動してからは持て囃されて暴走気味の光輝が馬鹿やらないように監視したり、こんな状況下でも南雲ハジメに御執心な親友の白崎香織や他生徒の相談相手になっている事ばかりでハジメが檜山大介率いる子悪党の4人組に虐められていた事を知りながら止めることが出来ず、結果ハジメは彼女らの前から居なくなった。

 

 オルクス大迷宮での初の実戦は予期せぬ魔獣ベヒーモスとの戦いにより、引率と護衛の名目で同行していたハイリヒ王国の騎士団長メルド・ロギンスが重傷を負い、多くの騎士が命を落とした。その後治療を受けて復帰したメルドの口からハジメが居なくなった理由を知ってショックを受け、未だに事の重大さを理解していない光輝や檜山達に憤りを感じた。

 

 王宮で訓練に没頭する光輝達の面倒と、ハジメ探しに専念する香織の付き添い、オルクスでの一件で精神的ショックを負ったクラスメイトのケア等に奔走した結果、檜山達の次なる虐めの標的が清水幸利へと移り、虐めらていた状況にまた気づくことが出来ず、彼は姿を消す直前雫にハジメが自分と同じように苦しんでいたことを告げて居なくなってしまう。

 

 それから再びオルクス大迷宮へと向かう事になったのだが、勝手にいなくなった子悪党4人組を探している間に光輝達が巨大な蜘蛛の姿をしたモンスター・ネルスキュラに襲われて重傷を負い、撤退の最中に香織と永山パーティーの治癒師・綾子も深手を負う。また仲間を失ったというのに騒動の元凶である子悪党の生き残りと他の神の使徒達が喧嘩を始める状況に怒りを募らせた。

 

 そこへ救出の為に現れたハンター達に混じっていたハジメと思わぬ形で再会する。運悪く意識を取り戻した光輝が彼を批判し、ここぞとばかりに子悪党の二人も悪態をつく。雫はいままで堪えてきたものが決壊して感情を剥き出しにして光輝達や意識を失った状態の香織に向かって怒鳴り散らし、その場に持っていた剣を叩きつけようとしたが、ハンターのルゥムにそれを止められて、心労を察した彼女の慰めで辛かった思いを吐き出すように泣き崩れた。

 

 その後ハジメとルゥムの二人がモンスターの追撃を防ぎ、雫達はオルクス大迷宮から帰還。光輝と龍太郎、香織、子悪党の二人組の五は治癒院へと運ばれて、残りは王城で待機を命じられた。

 

 雫は何の成果もあげられず、いたずらに騎士と使徒を犬死にさせたのは勇者である光輝の責任であるとしたうえで、身動きの取れない彼に代わって罰を受けるのは自分であると名乗り出た。しかし、神山へ至る山道は通行止めになっており、仕方なく彼女は王城で開かれる三国会議の神の使徒代表として出席する事となった。

 

 そこで雫が出会ったのはヘルシャー帝国の皇女トレイシー・D・ヘルシャーだった。彼女は雫の思い描いた理想の女性像であり、トレイシーも雫に思う所があったのか挨拶を交わした直後から気にかけていた。その後、三国会議は皇帝ガハルド達の策により中断。王国に対する革命が始まり、雫は一時囚われの身となるがトレイシーの従者になる事を条件に、他の神の使徒を建前上の捕虜として帝国の辺境にあるゲブルト村で働かせることで衣食住を提供する約束を交わした。

 

 ゲブルト村でハジメと再会したのも束の間、翌日にはトレイシーと共に帝都グラディーウスへと戻った。一部のクラスメイトと彼が上手くやっていけない状況を察して責任を感じてしまう面倒な性格は直っていないものの、ハジメが村に連れてこられた神の使徒の中に光輝や子悪党の生き残りがいないと知って喜ぶ様子を笑ったりと色々吹っ切れた様子ではあるらしい。

 

 原作では世話焼きの雫が、本作に於いては過去の経験が原作以上の心の傷となっており「揉め事や問題が起きないように自分がしっかりしなきゃいけない」という思考回路が働くようになっている。結果ハジメや幸利が神の使徒を辞めた事や大迷宮の敗北から始まった光輝の失言まで自分に責任の一端があると自責の念に駆られていた。その反動で多大なストレスが蓄積し続け、結果二回目の大迷宮攻略で怒り狂ってしまった。可愛いもの好きは原作のままだが、年相応の繊細さというものが上記の一件が原因でかなり失われている。

 

 実家が武術道場で剣術を修めていたこともあり、天職・剣士としての実力は十分高い。本人は自覚していないがトータスに召喚されて以降、対人に限らず対モンスターを想定した動きも大まかなイメージを掴みつつある。体が頑強であったなら、訓練無しでもハンターの素質がある。

 

 好きなものは可愛いもの(女子高生感覚)色に好みはないが強いて挙げるなら黒。暇な時間があれば(作中では殆どなかった)剣術の鍛錬と散歩が趣味になっている。

 嫌いなものは考え無しに相手の嫌がることをするようなヒト。原作では手のかかる弟のように思っていた光輝だが、本作に於いては「大学に進学するか就職したら速攻で縁を切りたい」くらいには嫌悪感を抱いている。

 

 初恋がきっかけで酷い目にあったことから異性に好意を抱くこと自体に苦手意識を持っている。理想の相手に自分を守ってくれるくらい頼もしい男性を描きながらも、自分を鍛えて無意識に理想が現実にならないようにしていた。トレイシーを一目見た時に自分が思い描く理想の姿を重ねており、彼女と深い関係になってからは身も心も捧げる相手として同性も悪くないと思い始めている。

 

 作中で絡みは少ないが、園部優花の強過ぎる責任感に似たものがある。両者に共通して言えることは「過去に衝撃を受けるほどの出来事があって、その結果として生じた考え方」である。雫は小学生の頃に虐められたことが、優花はオルクス大迷宮での敗北以降の愛子や友人たちがトリガーとなっていた。その後、雫にとって救いとなったのがルゥムやトレイシーとの出会いであり、好意の対象が年上の女性に移った理由でもある。逆に優花は大勢の人に励まされて、中でも救いになったのがハジメであり、彼女が彼に好意を抱くきっかけになった。

↓トレイシーの部下になってスーパークソつよ剣士と化した雫さん(仮)

 

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トレイシー・D・ヘルシャー 25歳

 ヘルシャー帝国陣営の主要人物の一人。戦姫の呼び名で知られ、帝国民からは多大な支持を受ける一方で、王国民や聖教教会の信者からは戦狂いと忌み嫌われている。夜鳥ホロロホルル(イルシオン)をペットとして飼っている。

 

 神の使徒を辞めてハンターの道を歩み始めた錬成師・南雲ハジメの噂を聞きつけて彼を利用しようと考え、言葉巧みに金銭や身分の保証を条件に異世界(現代地球)のあらゆる知識を彼から聞きだした。彼女が主に必要としたの地球の歴史で繰り広げられた戦争によって生み出された近代兵器の概念や戦術論などであるが、同時に学問やインフラ整備などの内政に必要な事も収集している。

 

 古龍ラオシャンロンがライセン大峡谷に出現した時は母親違いの兄弟であるバイアス・D・ヘルシャーと共に軍を率いてブルックの町に現れており、そこでハジメと行動を共にしていたリンネと数年ぶりの再会を果たす。ハルツィナ樹海での一件から魔人族に与したとされる狐人族の少女エタノ・ママモと顔を合わせた際には少なからず警戒していたが、彼女の目的と内に抱える意中の相手に対する思いを知って帝国内での活動を許可した。

 

 ある目的の為に商業都市フューレンまでハジメ達と行動を共にした。フューレンに着いてまず彼女が行ったのは犯罪組織フリートホーフと癒着関係にあった王国貴族ミン家の御曹司プーム・ミンとその家族、従者含めた全員の暗殺である。その後は協力者であるリリアーナ・S・B・ハイリヒと情報交換を行い、フリートホーフ殲滅の為に冒険者アレックスやレガニドらを雇い、フリートホーフの隠れ家を襲撃して頭目のハンセンを殺害する。

 

 同日フューレン内で真・神の使徒ノイントを殺そうと竜化し暴走した結果ハジメに倒された竜人族の姫ティオ・クラルスが、同じ竜人族のハンター・カルトゥスに伴われてトレイシーの下を訪ねた。カルトゥスは帝国内の情報を探って竜人の里に情報を送る間諜をしていたことを自白し、ティオの暴走を含めて罪を償おうとした。しかしトレイシーは帝国の繁栄は竜人族が齎してくれた技術のお陰だと言い、数百年前の人間族が竜人族にした迫害を愚かな行為と罵ったうえで、帝国は竜人族と友好関係を結びたいという胸の内を明かした。ティオの罪は結果的に死人も出なかった事から不慮の事故として内々に処理される。

 

 三国会議に参加する為、トレイシーは一度帝都へと戻り皇帝ガハルド、皇子バイアスらと合流して再び街道を通って王都を目指した。ところが三国会議に参加するというのは建前で、実は王国と教会に対する宣戦布告の準備として破壊工作を進めていた。会議の中でトレイシーは神の使徒を代表して出席した雫に「綺麗」と素直に褒められたことで彼女を気に入り、会議後すぐに彼女と深い仲になって部下に誘った。神の使徒を脅威と見做さず、捕虜という体裁で生かしたのは雫からお願いされたというのもあるが、作農師である畑山愛子の利用価値と協力者であるハジメの存在が他の神の使徒を殺さなかった理由の一つでもある。

 

 会議は中断され、国王エリヒド・S・B・ハイリヒと聖教教会の代理出席者だったフォルビン司祭、帝国の降伏勧告に従わなかった王国貴族ら数名が処刑された。王国の内政はリリアーナに王位を継がせて傀儡にさせようとトレイシーは目論んでいたが、アンカジ公国の次期当主レイネルク・フォウワード・ゼンゲンが帝国と協力していた自分達の見返りとしてリリアーナの身柄を要求し、彼の真意に気づいたトレイシーはそれを承諾し、王位をリリアーナの弟であるランデルに継がせて実務を母親のルルアリアに一任する形へと変更した。

 

 その後は雫と共に合流した神の使徒達を連れて帝都グラディーウスへ移動し、彼女らをゲブルト村へと送り届けた。その際にオルクス大迷宮に潜ってから行方不明となっていたハジメ達と再会し、内心協力者である彼が生きて帰ってこれた事にホッとしている。数百年前に姿を消した吸血鬼族の姫であるアレーティアと会ってお互いに姫と呼ばれる立場である事から早々に打ち解け、敬称をつけず名前で呼び合う仲になった。現在はある計画を実行に移す為、雫を連れて帝都グラディーウスの北にある軍区画へと足を運んでいる。

 

 原作ではアフターストーリーで本格的に登場するお方。筆者がそこまで読んでいないため、容姿も性格も多分オリジナルになっている…筈。優しさと冷たさが両立しているところはアレーティアに通ずるものがある。クール&ビューティーだがちょっとだけ狂ってる。

 

 極めればハンターになれるほど高い戦闘力を有しているが、あくまでそれは彼女の一側面であり、彼女が戦姫と呼ばれる所以は自ら選び抜いた精鋭の騎兵隊による集団戦闘が強力で、その気になれば死人を出さずに上司個体の飛竜種程度を狩れるという。イルシオンに騎乗している間は特製の馬上槍を振るい、単身で戦う時は腰に差したレイピアを使う。

 

 好きなものは特にない(強いて言えばイルシオン)赤色を好む(明るいよりは暗めの赤)趣味は珍しい武具の蒐集とイルシオンに乗って散歩。昔は母の手料理が好きだった。

 嫌いなものは自分に流れる蛮族の血(皇帝、皇子も嫌い)何かに縋るだけで自分で何も変えようとはしない無責任な人間、物事になんでも優劣の関係をつけたがる者。

 

 以前は蝶よ花よと育てられ、ちょっと我儘で高飛車なお転婆姫だった。血の惨劇の前後から人が変わったように戦いに執念を燃やし、いつからか恋愛感情というものが薄れていった。しかし性欲はあるようで、同性の部下で同意を得た者とは褥を共にしている。男性が嫌いという訳ではないが、周りに碌な男がいなかったため理想の男性像というものが未だに無いのである。…本当はある男に密かな恋心を抱いていたが、既にその者はこの世になくある人物にとって心の傷であり、彼女は不用意にその名前を口にしない。

 

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サー・ミッドガル 33歳

 ヘルシャー帝国陣営の主要人物の一人。例外と呼ばれるハンター達の頂点に立つ男。見た目は至って普通の何処にでもいる中年男性で、クエスト以外では昼間からギルドの集会所で酒を飲んでいる姿がしばしば目撃されている。マリアンナ・ベスタとは数年前からコンビを組んでおり、二人で受けたクエストは一つも失敗していない。大剣を好んで使っているが、近接系の武器ならある程度は使える(遠距離だけは生まれながらの性か狙っても当たった試しがないという)

 

 ある古龍の情報を追ってハイリヒ王国の宿場町ホルアドの集会所を拠点にしており、初登場時はハジメがいなくなった翌日にオルクス大迷宮へと潜る神の使徒一行を見て意味深な言葉を吐きながら酒の肴代わりに彼らの健闘に期待していた(なお、すぐに酒で酔い潰れてしまい結果を知ったのは神の使徒がオルクス大迷宮から戻ってきて数日後の事だったらしい)

 

 その後マリアンナと王都を訪れていた際、ハジメを探していた香織と雫の二人に出くわし、アプトノスを凶暴な魔物と勘違いして斬りかかろうとした雫の剣を指で止めている。ハジメのことを二人から尋ねられた際は知らないと答えたが、実はギルドが発表した新人ハンターの中に彼の名前があり、それを覚えていたマリアンナに二人が去った後で指摘されたが笑って誤魔化していた。

 

 ホルアドに戻ってから暫くのんびり過ごしていたが、ハジメが集会所を訪れた際にルゥムと話しているところを見かけて「あの他人と付き合いが殆どない剣鬼の嬢ちゃんに男が出来たか!?」と興味を抱き、彼女が去った後ハジメを兄弟と呼びダル絡みした所をマリアンナに止められる。オルクス大迷宮から命からがら脱出した神の使徒・遠藤浩介が助けを求めに来たのは直後の事であった。複雑な事情を抱えるハジメの様子を見守り、深くは追及せずミッドガル、マリアンナ、ルゥムの三人は神の使徒救出に協力する。

 

 結果的にオルクス大迷宮から生き残った神の使徒を救出する事は成功した。しかしモンスターの追撃を食い止めようと残ったハジメ、ルゥムの二人は消息を絶ってしまった。ミッドガルは事前にハジメから知らされていた宿屋へ向かい、そこでハジメの帰りを待っていたリンネに大迷宮で起きた事を伝えた。ミッドガルは誰にも打ち明けなかったが、自分のミスで彼に余計な負担を強いてしまった事を深く後悔していた。

 

 それから何度もオルクス大迷宮へと潜って二人を捜索していたミッドガル達だったが、ギルドから緊急の依頼を命じられる事になった。それは王国革命を終えた皇女トレイシーからの指名で、湖の町ウルにいる神の使徒を帝都グラディーウスまで護衛するという内容だった。

 

 現在は依頼を無事に終えて帝都グラディーウスに滞在しているが、再びトレイシーからの命令で二人は急遽ハンターを引退する事となった。

 

 常にお気楽な様子で飄々としているが、その目は対象の一挙手一投足を瞬時に把握して思考よりも先に体が動く事に慣れている強者の風格を漂わせている。それが癖になっているのが災いして、偶にうっかりミスを犯したりする。

 

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マリアンナ・ベスタ 25歳

 ヘルシャー帝国陣営の主要人物の一人。例外と呼ばれるハンター達の一人で、最強の編纂者にして英雄の盾と称される女性。帝国宰相アルベルト・ベスタの一人娘であり、上流階級の生まれでありながら家督を継がずハンターの道を自らの意志で選んだ。

 

 ハンターになった当初は各地を転々としながら着実にクエストをこなして実積を上げ、編纂者の仕事を始めた直後にミッドガルから誘われてコンビを結成している。

 

 片手剣以外の武器を使うことはないがボウガン、ランス等も使える。片手剣に固執しているのは「攻守のバランスがよく、武器を持ったままアイテムを使える利便性に優れているから」らしい。ミッドガルとコンビを組んだのも自分に足りない攻撃面を補い、かつ彼女が支援しなくても生存率が高かったからだという。

 

 狩りの時以外は眼鏡を着用しており本人曰く「編纂者の仕事中に視力が低下したかもしれない」とのこと。余談だがミッドガルは彼女の眼鏡姿をそれなりに気に入っているらしい。

 

 常に冷静沈着で頭の回転が速い。通りすがりの人からはムッとしているような印象を受けるが、彼女はただ考え事に集中しているだけである。ミッドガルの前では特に感情の起伏が激しい。

 

 作中では基本的にミッドガルと行動を共にしている。彼の引退に伴い彼女も引退を決意し彼の後を追う。トレイシーとは同じ年の生まれでプライベートでは友人のように接している。

 

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 思い入れのあるオリキャラがリンネさんとアゥータ兄貴なので、せめて二人くらいは自分の手で描こうかなと(何年かかるやら…)
現状AIイラストのお陰でまだ出番少ないアベル、リリアーナ、レイまでは準備が整ってます。
これをモチベーションアップにして本編が…うん…書きたいなって…書けたらいいなって…



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ヘルシャー帝国の足跡

 ハジメ(主人公)がほぼ関わらない物語です。
俺TUEEE!!するのが原作モブだったりオリキャラだったりするので、あまり面白くないかもしれませんがお付き合い頂ければ幸いです。
※かなりのオリ設定が盛り込まれるので、原作キャラの年齢が変わっている場合がありますのでご注意下さい。


帝国歴元年

 複数の好戦的な西の部族の争いに始まり、勝利を収めた部族の族長が初代皇帝の地位につく。

彼は生身で竜を倒す強さからミドルネームに竜(Dragon)の D を名乗る。

後にこれは他国から実力主義の蛮族と嫌悪される事で悪魔(Demon)のDと揶揄された。

 

帝国歴25年

 初代皇帝が流行病で死去。遺言により彼の本妻と側室の子供達が殺し合い、生き残った者が次世代の皇帝となる。ヘルシャー帝国の王族が悪魔の忌み名で呼ばれるきっかけとなった争う血の悲劇の始まりである。

選ばれたのは側室の子であり、敗れた本妻とその他の家族は皆殺しにされた。

 

帝国歴53年

 二代目皇帝が二十代の若さで暗殺される。暗殺者は捕まり死刑となったが、彼は最期まで誰の指示で皇帝を殺したのか話さなかったという。

同年友好国となったハイリヒ王国より要請を受け、ヘルシャー帝国軍は王国南方にあるシュネー雪原に布陣する魔人族の国ガーランドの軍隊と交戦。

多大な犠牲を出しながらも戦線を押し上げ、以降魔人族の侵攻を食い止める。

 

帝国歴61年

三代目皇帝にはまだ幼かった本妻の長男が選ばれた。

同年帝国内で魔物(モンスター)を狩る者達(ハンター)の先祖が現れる。

 

帝国歴85年

 三代目皇帝の子ガハルド・D・ヘルシャー誕生。

幼い頃より武芸に優れた彼は10歳で帝国軍士官学校を首席で卒業。

同年帝国内で奴隷身分ではない非人間族(後の竜人族)が帝国籍を取得。

流浪の民と名乗る彼らが齎した技術は帝国の生活水準を王国より豊かにした。

 

帝国歴102年

 ガーランド軍の侵攻が激化、当時士官だったガハルド・D・ヘルシャーがシュネー雪原の戦場で魔人族の将軍を複数人討ち取って一躍有名となる。

その時から彼の隣に寡黙な竜人族の男が居て、これが後のハンター達を纏めるハンターズギルドの初代ギルドマスターであった。

 

帝国歴105年

 老山龍の初出現と帝都侵攻。

多大な犠牲者を出しながらもガハルド率いる竜人族とハンターの寄せ集め混成部隊による投石戦法で撃退に成功する。この時ガハルドは帝国軍の将軍にまで二十代の若さでスピード昇進していた。

彼は三代目皇帝にハンターという職業を正式に作らせて、ハンターズギルドの設立と初代ギルドマスターに親友である竜人族の男を抜擢する。

 

帝国歴108年

 三代目皇帝、実の息子ガハルド・D・ヘルシャーに殺され死去。同時に彼は三代目皇帝の側室と家族を皆殺しにして、四代目皇帝の座を手に入れる。

同年ガハルドの部下だった軍情報部のアルフレド・ベスタが宰相に選ばれる。

 

帝国歴110年

 ガハルド・D・ヘルシャーの側室の子バイアス・D・ヘルシャー誕生。

ハンターが帝国の外でも活動するようになるが、王国では野蛮だと嫌悪される。

ハルツィナ樹海に足を踏み入れたハンターが戻ってこない事件が多発。ギルドは対策として対人戦を想定したハンターの育成を考慮するも、掟に反するという結論に至り樹海へのハンター立ち入りに際してギルドからの注意喚起のみに収まった。

 

帝国歴115年

 ガハルド・D・ヘルシャーの側室の子トレイシー・D・ヘルシャー誕生。

再び老山龍の侵攻が始まるも、ハンター達の活躍によりライセン大峡谷で撃退に成功。

同年老山龍と同じ侵攻ルートで砦蟹が出現するもハンター達はこれを討伐。

国内でのハンターが注目を浴びる二度目の年となった。

 

帝国歴120~130年

 この十年間はガーランド軍の侵攻が収まり、ハンター躍進の十年でもあった。

HR999を達成する者、後の例外と呼ばれる初代ハンターが単独古龍討伐に成功する。

また彼を始めとする後の例外ハンターになる者達が老山龍の初討伐に成功。

ところが古龍討伐の翌年、魔人族の工作員が仕組んだ罠で初代ハンター死亡。

これにより白紙になっていた対人戦を想定したハンターの育成が再び話し合われた。

 

帝国歴135年

 バイアス・D・ヘルシャー、トレイシー・D・ヘルシャーの両名が最後の血の悲劇を起こす。

バイアスは皇子になると同時に帝国軍歩兵部隊大隊長の地位が与えられ、トレイシーは皇女でありながら騎兵隊の中隊長に抜擢される。

同年ガーランド軍の侵攻が行われるも、皇女トレイシーが操る騎馬隊の策に翻弄され敗走。

人間と魔人の戦争に於ける初の勝利と呼べる戦いでもあった。

皇女トレイシーは戦姫の二つ名で敵に恐れられ、国民から圧倒的支持を受ける。

 

老山龍の亜種が侵攻するも、剣聖辺境最優雷光剣鬼の三人により討伐される。

同年帝国内で増加傾向にあった辿異種モンスターの討伐に成功した女ハンターがいた。

彼女に続き4人のハンターが辿異種討伐と古龍撃退に貢献。

剣聖がHR999を達成し初代の意志を継ぐ。

剣聖を含む例外の八人衆として知られるようになる。

 

帝国歴138年

 バイアス・D・ヘルシャー、国民からの支持もあり帝国軍将軍の地位に就く。

どんな心境の変化があったか知らないが、以前より大人しくなったとは宰相の言。

アンカジ公国で疫病が蔓延、手を差し伸べることを躊躇ったハイリヒ王国に代わり皇帝ガハルド・D・ヘルシャーは軍隊とハンター、亜人族を派遣。

同年亜人の奴隷制度を撤廃し、亜人国家フェアベルゲンとの講和に乗り出す。

 

ウルの町で歴史上初の大寒波が巻き起こり、古龍2体の同時出現が観測された。

剣聖がこれを単独で撃退するも片腕を失い、ハンター業引退を余儀なくされる。

同年、雷光剣鬼ともう一人のハンターがHR999を達成。

剣聖に続く3人目、4人目の最強と呼ばれるハンターになった。

英雄の盾がハルツィナ樹海、シュネー雪原、グリューエン火山の完璧な調査に成功。これによりハンター達の活動領域が広がり、数年でモンスターの記録が大幅に増えた。

 

帝国歴140年

 ハイリヒ王国に異世界から神の使徒が現れる。

かねてより進行中だったフェアベルゲンとの講和?が実現。亜人族は人間と魔人族両陣営に対して中立の立場を貫くことを公文書に記した。

皇帝ガハルドと皇子バイアス、皇女トレイシーにより王国の革命が行われた。

 

同年10年おきに現れる筈の老山龍が出現するも、4人のハンターがこれを討伐。

ハンター史上初亜人族のハンターが誕生。現在ゲブルト村で活動中とのこと。

対人・対ハンター・対モンスターの戦闘を想定した特殊組織ギルドナイト設立計画始動。

 




ハジメの方の物語が進む毎にこの年表も更新される……かも!
余談ですが王国の方が歴史は倍以上あります(聖教教会にあれこれ指示されて空白だらけの歴史の教科書になりますが…)

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。


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神の使徒、帝国に立つ

 とりあえず今後出てくるクラスメイトと出てこないクラスメイトの発表です。
あとはやっぱりというべきか、優花さんがハジメに起きた事を知ってしまいました。
先生に続いてまた優花さんが曇ってる… ※曇らせた張本人


 

 ヘルシャー帝国の首都グラディーウスにガハルド皇帝が戻ってきたのは三国会議から2日後。

彼はハイリヒ王国に数名の部下を派遣し、帝国兵を陥落させた関所へ配置した。

皇子バイアスはウルから飛んできた伝書鳥の報せでガーランド軍に動き有と知るや否や将軍としての責務を全うする為、副官と着いて来れる護衛だけを率いて出ていった。

 

 そして、ハジメのクラスメイト…神の使徒達の姿も帝都にあった。

ウルに居た作農師・畑山愛子と園部優花率いる愛子の護衛パーティー全員。

彼らは英雄狩人サー・ミッドガルが護衛して、ライセンの荒野で王都の治癒院を出て雫と同じ決断をした神の使徒達と合流した。

 

 王都に留まったのは小悪党組の生き残り2人と勇者・天之河光輝。そして彼の世話係を自ら申し出た降霊術師・中村恵理も残った。

 

 当初は坂上龍太郎、谷口鈴の2人も龍太郎は光輝が心配だから、鈴はそんな龍太郎の世話をするつもりで残る筈だったが、恵理に「坂上君達が傍に居たら、光輝君が無理しちゃうかもしれないから。距離を置いた方がいいよ」と説得されて雫に付いていく事にした。

 

 

「さて、お前達の住む場所だが…生憎と城に十数人が満足に生活を送れるような空き部屋はない。―――よって暫くは私の屋敷を好きに使うといい。雫よ、鍵はお前に預けておくぞ」

 

「は、はいっ頂戴します!皇女殿下ッ」

 

 町中を走る馬車の中で、トレイシーと向かい合う形で座る雫が背筋をピンと伸ばし、緊張した面持ちで差し出された鍵を震える両手で受け取った。

そんな彼女の様子を見てクスクスと笑い、トレイシーはスッと目を細める。

 

「そんなに緊張せずともよい。言葉遣い・礼儀作法など自分に適した振舞いをすればよいのだ。…まぁ、あの皇子(バカ)のように粗野で品性を疑う振舞いはして欲しくないと思ってはいるがな」

 

「…そのような事は…」

 

「フフッ!追々慣れていけばいいさ。…そら、見えて来たぞ」

 

 トレイシーの指さす馬車の窓へと雫は「失礼します」と言って身を乗り出した。

石造りの立派な城が建つ中央と西側の商業区を抜けて、普通の人は立ち入れない北へ入る。

先頭を走る2人が乗った馬車を追いかけて後ろから3台の馬車が続く。

永山パーティー、勇者パーティーと畑山先生、護衛パーティーで分かれていた。

 

「…あんな立派なお屋敷…!?本当に使って良―――宜しいのですか?」

 

「構わぬ。普段私は城に泊まり込みだからな、屋敷には使用人すら置いていない」

 

「…ありがとう御座います。何から何まで…」

 

「フッ、()()()()()()()お前は兎も角…他の奴らは数日の間だけだ。最後になるかもしれないこの世界での贅沢を満喫するが良いさ…それを伝えるかはお前次第だがな」

 

「…皇女…殿下…」

 

 不意に席を立ったトレイシーが雫との距離を詰めて体を密着させる。

驚き目を見開いた雫だが、嫌そうにはせず寧ろ嬉しそうに顔を赤らめて目を閉じた。

 

「これから私の部下として、良い働きを期待しているぞ雫」

「…はいっ…」

 

 

 雫達と合流した愛子は、生徒2名が死んだことを知って絶望に打ちひしがれた。

自分の怠惰が、無力が、弱さが2人の死を招いたのだと自らを攻めようとする。

しかし生徒達は必死に彼女を説得して「あれは先生のせいじゃない」と言い続けた。

 

 元はと言えば光輝が始めた事であり、生徒達は愛子の制止を無視してそれに便乗した。

結果、檜山大介も中野信治も自分勝手な行いをして命を落としたのだ。

非があるのは生徒達全員と、扇動した光輝である。

その彼も両足を失い、不慮の事故で視力を著しく低下させる報いを受けた。

 

 戦争をさせるつもりだった聖教教会の残党は神山に立て篭もって出て来ない。

王国騎士団長メルド・ロギンスは断罪された亡き王の忘れ形見である王妃ルルアリアと、暫定的に王位を継ぐことになった王子ランデルの補佐に回って神の使徒の面倒が見切れない。

 

 結局愛子は流される形で作農師の力を利用されるために帝国へ来た。

馬車の中で生徒達に励まされる内に徐々に元気を取り戻しつつある愛子だったが、それでもかつてのような明朗快活は失われている。

だが彼女は知らなかった…自分よりも、精神的に取り乱している生徒が居るなんて…

 

(……南雲……)

 

 揺れる馬車の隅で、前向きにこれからの事を話す奈々達から視線を外した投術師・園部優花。

彼女はライセンの荒野で再会した雫達からオルクス大迷宮で起きた話を聞いてしまった。

そしてハジメの伝言が嘘であることを知り、行方知れずと知ってしまったのだ。

 

(どうして、あんな嘘をついたのよ……)

 

 心の中でそう呟いたが答えは既に出ている。

ノイント達、そして優花達に心配されないようにするためだ。

だがその嘘は結果的にバレてしまい、こうして優花は不安に苛まれていた。

 

(ちゃんとまた私の―――いえ、ノイント達の所に帰ってきて…南雲)

 

 きっとこの事を知ったらミュウは号泣するだろう。

ノイントやティオも冷静には聞くけれど、助けに行こうと動くかもしれない。

だから伝書鳥で伝える事も出来たが、優花はそうしなかった。

静かにそっと窓の外に移る青空を見上げ、彼の生還を信じるしかない。

 

(お願いよ南雲…でないと、私――――――)

 

「優花っちどうしたの?」

「なんだか顔色悪そうだけど…」

 

「っ!?へ、平気よ!ちょっと馬車酔いしただけだから」

 

 今、優花に出来ることは奈々達に余計な心配をかけさせないこと。

彼と同じように、自分に出来る精一杯の普段通りを心がけるしかない。

懸命にざわつく心を抑え、自分に向かって言い聞かせる。

 

(大丈夫よ…きっと南雲なら…大丈夫に決まってる…)

 




 次はミッドガル兄貴たちの話になるかもです(ハンター辞める云々)

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。


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英雄譚の終わり、新世代の歩み

 ミッドガル兄貴とマリアンナ姉貴、ハンターとしての出番が後一回になってしまった…
後半でハジメ同期をチラ見せします。


 

 帝都グラディーウス東側、ハンター達の活動拠点ギルド本部はいつも以上に賑わっていた。

ハンターになって日の浅い者達は噂の英雄サー・ミッドガルの姿を一目見ようと押し寄せて、長年ハンターを続けて英雄譚の傍観者だった者達は突然の幕引きに戸惑いを隠せず事の真偽を確かめよとギルド職員に詰め寄っている。

 

「いやぁ~しっかし急な報せだったのに、面倒な手続き全部やって貰って悪いねえ!」

 

「構いませんサー。貴方に任せたら全てベスタ嬢に押し付けるのが目に見えてますから」

 

「ハッハッハッ!やっぱり俺ぁ信頼されてねえなぁ!どう思うよマリアンナ?」

 

「…貴方の日頃の行いを思い出してみてはどうです?サー」

 

「わははははっ!確かに!書類とか手続きとか数えるくらいしかやった事ねえな!」

 

「「………ハァ」」

 

 騒ぎの中心にいる当の本人サー・ミッドガルは外の喧騒を気にする様子もなく、目の前の机に置かれた茶菓子を暢気にボリボリ貪っている。

それを横目に見て呆れた声を出すマリアンナ・ベスタとギルド職員は顔を見合わせて、お互い苦労が絶えないものだとシンパシーを感じていた。

 

「―――改めてサー・ミッドガル、マリアンナ・ベスタ。貴方達がハンターを辞めるにあたって、これまで収集してきた素材の一部と強力な武器・防具をギルド側で預からせて頂きます。それについて異議申し立てはありませんね?」

 

「あぁ、好きに持っていってくれ」

「私達が再びハンターに戻れるかは分かりませんので…そちらで有効活用してください」

 

「それでは次に、ギルドカードの返還について。こちらは身分証明書としてステータスプレートの代わりに持ち歩いて頂いて構いません。既に皇帝陛下からも許可は下りていますので」

 

「あいよ」

「分かりました」

 

「最後にお二人は後日開かれる闘技場の狩猟祭に参加して頂きます。これは我々ギルドの要望として、貴方達の後を継ぐであろうハンター達に、英雄狩人としての幕引きに相応しい相手をご用意致しますので、お覚悟を」

 

「へいへい、最後くらい真面目にやらせて貰いますよっと…」

 

 話を終えたミッドガルが席を立つと、マリアンナはギルド職員に頭を下げてから後に続く。

彼は扉を開けて外に出ようとして―――扉の前に人の気配を感じて立ち止まる。

 

「…よお其処で出待ち奴、扉開けっから退いて貰えるかねえ」

 

「………」

 

 扉越しに人の気配が後ろに下がったのを確認してからミッドガルは扉を開けた。

外の通路に立っていたのはミッドガルと面識のないハンターだった。

全身を鋭角的なデザインの濃い緑色をした防具で身を包み、太刀を装備している。

 

「おっかねえ雰囲気漂わせてる割には物分かりが良いじゃねえか?」

 

「言ってろ…英雄ミッドガル、アンタの時代は終わりだ。これからは―――」

 

 兜越しに顔を近づけてミッドガルを見上げる形で太刀使いの男は笑う。

 

「―――俺の時代だ。さっさと荷物纏めて後進に道を譲るんだな」

 

「――――――ッ!」

「マリアンナ、気にしなくていい」

 

 あまりに自分勝手な物言いにマリアンナが怒気を露わに詰め寄ろうとしたのを横目にミッドガルは怒る様子もなく飄々とした様子で彼女を手で制して、太刀使いに言い返す。

 

「そりゃ御立派な事で。()()()()()()()()呼ばわりされないよう頑張るんだな新顔(ルーキー)

 

「…ハッ!言われるまでもねえ。過去の人(ロートル)の記録なんざ()()()()()()()()()()()

 

 そう吐き捨てて太刀使いの男は2人に背を向けて通路の奥へ歩き去っていく。

マリアンナがその背中を睨んでいると、ミッドガルが微笑んで彼女の頭に手を置いた。

 

「血気盛んな後輩の熱烈な挨拶なんて今更珍しいものじゃないだろ?俺にもああいう時期はあったから気持ちは分かる。だから…お前はそんな風に怒らなくていいんだぜ、マリアンナ」

 

「―――申し訳ありませんサー。少し…取り乱しました…引退だというのに、私も未熟ですね」

 

「クハハッ!どんだけ歳重ねて成長しても、まだ未熟だと自分を戒めるくらいが丁度いいんだよ。それにな…お前の怒った顔なんてレアなもの見れたのは俺的に一番の収穫だよ」

 

「…揶揄わないで下さい…サー・ミッドガル」

 

 

 ミッドガルとの会話を終えてギルド本部から出た太刀使いの男を仲間の2人が出迎える。

白を基調として袖と裾が赤色と桃色に染まった和風の防具と薙刀のような操虫棍を持つ男。

 

「遅かったなシグ。英雄とは話せたのか?」

 

 ”シグ”と呼ばれた太刀使いは肩越しに振り返り、まだ騒がしい本部を見ながら答えた。

噂の男サー・ミッドガルについて彼が聞いたのは、その実績と釣り合わない人柄についてだ。実績を楯に威張り散らす訳でもなく、言葉や仕草から謙虚とは程遠い…掴みどころのない男である。

 

「あぁ。噂通り見た目だけじゃ判断出来ねえ…気に入らねえ野郎だった」

 

「やっぱり喧嘩売ったの?いい加減その子供っぽい癖やめなさいよ…」

 

 シグの言葉に呆れた様子で首を振るのは北方民族の衣装のような防具を身に着ける小柄な少女。

その小柄な体躯とは釣り合わない巨大なモンスターの鼻を模した剣斧を背負っていた。

剣斧使いの少女の言葉に操虫棍使いの男もウンウンと頷く。対してシグは不満そうに鼻を鳴らすだけで言い返しはせずに歩みを再開する。

 

「もう動くのか?」

 

「終わる奴のことを気にかける時間も惜しい。次のクエスト行くぞ」

 

「はいはい…次はえ~っと…ハルツィナ樹海の深層シメジ集めだね」

 

「…おい…なんでそんなカスみてえなクエスト受けやがったんだ」

 

「しょーがないでしょお!?本部のクエストなんて争奪戦が激しくて、チビのアタシじゃ受付さんに声かけにいくのも一苦労だったんだから!っていうか本来なら今日の受注当番はシグ、アンタなのよ!?代わってあげたアタシに感謝の一つくらいしなさいよ!」

 

「へいへい、よー頑張ったなラウラ(チビ助)次はもっと頑張ろうな~」

 

「むっかー!!ちょっと”グランツ”からもなんか言ってやってよ!」

 

「…お前ら頼むから往来で喧嘩するなよ…ホントすいませんね、市民の皆さん…」

 




 あくまでハンターネームだけなのでフルネームはまだ考え中。
神の使徒っぽく○○パーティみたいな名前つけるならこの3人は「ごり押しトリオ」といったところでしょうか…

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。


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部下の独り言

 今回は魔人族側(清水君)のお話になります。最初は魔人族のオリキャラの過去に軽く触れて、その後がモンスターハンター・トータス2の「沼地の蟹にはご用心!」直後の出来事という流れ。


 

 フラウ・フォン・ニーベルは代々続く軍人一家ニーベル家の長女として生を受けた。

幼い頃から努力家で物覚えの早かった彼女は、本来なら十代後半になってようやく手に入れられる技能”魔力操作”を五歳で習得。周囲からニーベル家の才女として褒め称えられるも、彼女自身は心の内でまだ努力が足りないと自らを戒めた。

それから十歳という異例の若さで士官学校へと入学。

 

 この頃から彼女の才能に目を付けていたガーランド軍の将軍フリード・バグアーによって剣術の指導を受け、卒業時には現役の軍人相手にも引けを取らない強さで小隊長の任に就いた。

家柄、才能、努力、幸運…様々なものに恵まれた彼女が、絵にかいたような傲慢で高飛車な少女に育ったかというとそんなことは一切なく、自分には厳しい一方で周りとの関係は常に良好だった。年齢とは不釣り合いな落ち着きと優しさを持ち合わせている。

 

 そんな彼女は現在、人生で初めて見る人間の副官として初任務にあたっている。

清水幸利と名乗った青年。副官として彼の補佐をするにあたってフラウは様々な人物に彼のことを聞いて回り、二分化した評価に困惑していた。

 

 彼女が敬愛するフリード将軍曰く「魔王様が気まぐれで拾った人間族の裏切者」

以前は人間達の信仰する神エヒトが異世界から召喚した神の使徒の一人だったらしい。

詳しい話は聞けなかったが、色々あって幸利は魔人族の側へ寝返ったという。

嫌そうな顔で彼の事を語ったフリード将軍の表情から察するにあまり良い評価ではなかった。

…まぁ裏切者なんていうのはどっちの側から見ても不誠実な人間と見て取られるだろう。

 

 バルバルスの町中で偶々フラウと出会った魔王様の従者の一人アインス・アルサーク曰く「あの方と同じ、心根がとても優しい人」

彼女の指すあの方とは魔王様の事だ。驚くべき事に幸利は魔王様の屋敷に住んでいるという。

 

 フラウは彼が人間族の裏切者であるという点から、彼が再び裏切る可能性を視野に入れて逃げ出さないように魔王様直々に目の届く範囲に置かれたのだろうと考えたが、それだと任務でわざわざ外に出す危険性(リスク)を冒す理由に説明がつかない。

 

 また偶然、軍施設で出会った諜報部の書記長ミハイル・シェーリング曰く「愛しの妻カトレアが窮地を救った可哀想な子供であり、今は我が軍の心強い味方」フラウは惚気だけしれっとスルー。

 

 フリード将軍からは聞けなかった幸利の過去。どうやら彼は人間族の中で酷い扱いを受けていたようで、そもそも神の使徒自体がエヒト神が無理やり異世界から連れてきた只の子供に過ぎず、当初は戦う意思もなかったという。

様々な苦悩を経て、カトレアに勧誘を受けた幸利は魔人族の軍門に下ったのだ。

 

 三者からの話を聞いてフラウがぼんやりと幸利に抱いた印象は「よく分からない人」だった。

良い面で見れば、戦局が有利な魔人族の側へ移り、自らの生存を確立させた強かさ。その後は魔人族の中でも稀有な支配種の使い手となっている事は賞賛に値する。

 

 だが悪く言えばあっさりと嘗ての仲間を、人間を裏切って彼の良心は痛まないのか。他人を憎悪するという感情とはまだ無縁なフラウにとって、彼の考えている事や一連の行動には理解出来ないことが多かった。

 

 だから、この任務を通じて彼という人物を見極めようとフラウは心に決めた。

善人であれ悪人であれ、彼が彼女の仕える上官である事には変わりないのだから。

 

 

「のわ!?おい、ヤック!!テメェ人の食い物を勝手に取るんじゃねえ怒るぞ!」

 

―――ギャアギャアッ!

 

「あぁ、飯が足りねえって?んなもん自分でなんとかしろよ、お前モンスターだろ」

 

―――グエエェ

 

「なんだその不満そうな顔は!あ、おい止めろ背中突っつくな痛い痛い痛い!!」

 

(…やっぱり変な人だ…)

 

 目の前で繰り広げられる低レベルな喧嘩を見て、フラウは苦笑を浮かべた。

此処はガーランドを遠く離れ人間族との境界線。ヘルシャー帝国領辺境の村ゲブルトから数キロ離れた湿地帯の丘に、ダヴァロスとセレッカの捜索任務に来ていた魔人族は仮拠点を設置していた。

 

 闇を除く属性全て(火、水、風、雷、氷、土、光)に適性を持つフラウが光魔法の応用で外からは自分達の姿が見えないように偽装を施し、風魔法で音を遮断している。周囲に()()()()()()()()()()()()()か、()()()()()()()()()でも居ない限りこの仮拠点が見つかることはないだろう。

 

 彼女の眼前で、食事中だった幸利の背後に忍び寄ったクルルヤックが彼の持つ器の中に嘴を突っ込んで、それに怒った幸利がクルルヤックの下顎にアッパーを食らわせたら、逆に背中をクルルヤックに突かれ、悲鳴を上げて背中を丸める防御の姿勢に入っていた。

 

 他の支配種を操る同朋には見られない、幸利のモンスターと良好的な関係は意外だった。

支配種なぞ只の道具、使い捨ての兵器に過ぎない。フリード将軍はそう言っていた。

だから道具(もの)に対して当たり前のように日常的な会話をする幸利の姿はフラウにとって異質であり、また好奇心を擽られる新鮮なものだった。

 

「…ぁ」

 

 ようやく突っつき地獄から解放された幸利は、此方を見て笑みを浮かべるフラウに気づく。

傍から見て変な奴だと思われたかもしれない。彼は頬をポリポリ掻いて目を逸らす。

ふと彼女はこの瞬間が会話をして彼を知るチャンスだと思い、咄嗟に話しかける。

 

「清水様は()()が恐ろしくはないのですか?」

 

「え?…あぁ、ヤックのことか。そうだな――――――」

 

 ヤックと幸利は支配種のことを愛称で呼んでいる。

その時点で他の魔人族とは明らかに違う事が、フラウは気になって仕方ない。

少し間を置いてから、後ろで欠伸をするクルルヤックを見ながら彼は答えた。

 

「俺だって最初はモンスターが怖いって思ったけどさ。だからって命を道具扱いするのはなんだか違うような気がしてな。…いや、まぁ目的のために使い捨てることも、この先あるだろうけどよ…俺はこいつを、まぁペットか相棒…くらいには考えてるのかな」

 

「…最初はと言いましたね…今は違うのですか?」

 

「そうだな。今はそこまで怖いとは思わないよ」

 

「…そうですか」

 

 そんな会話をしていると、光魔法の偽装を跨いで上官のレイスが帰ってきた。

フラウがサッと立ちあがって敬礼するのを見て、幸利を見よう見まねで彼女に倣う。

 

「お疲れ様ですレイス隊長!」

 

「お、お疲れ様…です…」

 

「―――この近くで人間達の姿を見た」

 

「「ッ!」」

 

 レイスは水の適性が高く、自らの気配を消して周囲の探索をしていた。

彼が見つけたのは人間族のハンター達が使うベースキャンプと、そこから彼らの仮拠点近くにある洞窟まで点々と続く三人分の足跡だった。

レイスが気になったのはハンターの装備を身に着けていた亜人の少女の存在だ。

 

「ダヴァロスの報告にあった未来視の兎人…それらしき少女と不気味な双剣の狩人、それと武器を持たない小柄な金髪の少女がいる」

 

「…未来視の兎人?」

 

 聞き慣れない単語に首を傾げた幸利にフラウが掻い摘んで説明する。

湿地帯で消息を絶ったダヴァロス、セレッカは元々ハルツィナ樹海に住む亜人族を魔人族の傘下に加え、未来視と魔力操作を持つ兎人族の少女をガーランドへ連れ帰る為に動いていた。

 

 だが偶然そこに居合わせた人間、ハンター達の活躍によってフェアベルゲンは人間・魔人の両陣営どちらにも肩入れしない中立の立場となり、兎人族の少女はハンター達に付いていった。

 

 当然、任務を果たせなかった二人は叱責され相応の罰が下される筈だった。しかし報告を聞いて愉快痛快といった風に笑った魔王アダムの「これはこれで面白いから良し!」の一言で表向きお咎めなしとなった。流石にそれだと周囲の者へ示しがつかないという事で、人間族の地で新たな任務をフリード将軍が命じようとしたところ、定期連絡が途絶え今に至る。

 

「どうなさいますかレイス隊長」

 

「フム、ハンターが我々に手出し出来ぬことを考えれば脅威とは言い難い…が、もう一人の少女が少し気に掛かる…暫くは様子見を――――――」

 

―――グエエエェッ、グエエェゲゲゲッ!

 

「うおっ!?な、なんだどうしたヤック!いきなり叫ぶなよ!」

 

 レイスがそう言いかけた直後、クルルヤックが目を見開いて甲高い声を上げ始めた。

会話を中断させられてレイスが眉間に青筋を浮かべたのを見た幸利が慌ててクルルヤックを宥めようとするが、彼は何かを警戒している。

次の瞬間、仮拠点の近くにあった地面が爆ぜた。

 

「なっ…!?」

「これは…!!」

「―――各自、戦闘準備を」

 

 地面から突き出した青色の鋏と巨大な巻貝のヤド。

六本の脚と体の本体が割れた地面の中から遅れて姿を現した。

突然の襲撃に唖然とした幸利と、魔法の偽装が破られたことに僅かなショックを隠せないフラウ、そして瞬時に意識を戦闘モードへと切り替えたレイスが忌々しげにそのモンスターを睨みつける。

 

―――キシャアァァッ!!

 

 強めの雨が降り始めた湿地帯に、鎌蟹の叫び声が響き渡った。

 




 余談ですがレイスの見た目が想像の中で何故か転スラのソウエイになってしまった…(名前はAPEXの虚空から幻聴オバs…お姉さんなのに)転スラ映画暇があれば見に行きたいけど外に出ると人酔いで即トイレとかいうクソ仕様スペックの作者でした。

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ヘルシャー帝国従軍目録「ある帝国兵の日誌」

これは重要な歴史資料として帝国軍に保管されていた帝国兵の日誌で綴られる物語である。


 

帝国歴135年 梅雨の時期

 

 いつか戦争が終わって俺自身がこの日誌を嫁さんと子供に囲まれながら寝物語に読むか。

或いは俺が死んだ後に遺留品として実家に残してきた両親の下へ遺書の代わりに届けられるか…

先のことなんて分からないけど、俺は戦場へ赴く一兵士として日誌を書くことにした。

 

 正直、こんなもの何を書けばいいのか分からない。

兵卒として正式に帝国軍歩兵大隊第三連隊へと加入した。

配属初日から寝坊をやらかして古株の上官にぶん殴られ、前歯が一本折れちまった。

 

 自分が悪いのは分かっているが、前歯一本は酷すぎだろう!?

あのド畜生、戦闘が始まったら敵兵殺すより真っ先に俺が刺し殺してやる…!

 

(これ以降、配置先がウルディア防衛砦に決まるまで上官への愚痴が綴られていた為、割愛)

 

帝国歴136年 乾燥の時期

 

 寒い。息をするだけで口の中まで凍ってしまいそうなほどだ。

ウルディア防衛砦に配属されてから、一日の終わりが早く感じる。

帝都の酒場で仲間と飲んだくれていた記憶すら昨日だったと思うほどに…

 

 砦で俺達新兵がやらされるのは野ざらしにされた大砲と大型弩砲(バリスタ)の整備だ。

死亡率30%越えと言われる小隊での斥候や、この砦よりもクソ寒い見張り塔での見張りはそれなりに経験を積んだ兵士にしか任されないって着任した頃に先輩が教えてくれた。

 

…その人は斥候に出た夜、雷顎竜に殺されちまってもういないがな。

戦う前から恐怖を感じた。俺達の敵は魔人族だけじゃないと思い知らされたよ!

この過酷な雪山では、このくそったれな環境に適応したモンスター共が一番の脅威だ…

 

―――くそ、クソクソクソクソクソ!また見張り員から警笛が鳴らされた!

これを書いてる暇もない。またモンスターか何かが砦の仕掛けに悪さしに来やがったんだ!

いい加減にしてくれよもう…グラディーウスに帰りてえよ、あの平和だった日々を返してくれ。

 

 

 

―――結局悪さをしに来た奴は腹をすかせた鳥竜ドスギアノスと子分のギアノスの群れだった。

そいつらがどうなったかって?

罠に誘い込んだところをぶっ殺して俺達の夕食になってくれやがりましたよ

ただ…クソ不味かったけどな!神に誓うよ、あんなゲテモノ二度と食わねえ。

ここじゃ石より硬い麺麭ですらご馳走だ。

温かいスープに酒が出された日にゃ死を覚悟するね。

 

普段は大人しいポポやガウシカを食って飢えを凌いでるこいつ等がどうして砦に近付いたのか。

口うるせえ上官と神経質そうな連絡員が話してるのを飯時にこっそり聞いちまった…

どうにもこの山脈の食物連鎖を狂わせてる何かが動いてるとかどうとか。

勘弁してくれよ…吹雪になるだけでこっちは除雪作業と設備点検でクタクタなのに…

…もう、眠くなってきた。

今日はこのくらいで書くのを止める。

おやすみ同朋諸君、良い夢を見れたなら多分お前は死んでるよ。

 

 

 

 おはようクソッタレ!上官殿におかれましてはご機嫌斜めでしたよザマァミロ。

陽が昇ってるかなんてこの砦じゃ見えやしねえ、空が灰色か真っ黒かの違いだけだ。

朗報…というか、俺達にはあんまり関係ない珍しい客が砦に来た。

 

モンスター退治の専門家として名高いハンター様の御一行様だ。

赤髪の小生意気そうな重弩使いの優男はどうでもいいが、残り2人は上玉だ。

小柄で無口な太刀使いのボインちゃん…この雪山であんな軽装してなんで平気なんだアイツ…

 

そんでもう1人が上官殿は剣聖って呼んでた。あれが噂の剣聖様とはねぇ…

こいつもどえらい美人なんだが…ロリ巨乳ちゃんとは違う意味で近寄り難い。

抜き身のナイフなんて生易しい表現じゃ収まらねえ、目線で人を殺せるタイプだった。

アレが淡々と言葉を喋ってる時だけ、場の空気が冷たくなってるのを遠くからでも感じる。

 

実際にすれ違いざまに目を合わせただけでチビっちまいそうになった奴もいると後で聞いた。

剣聖よりも幽鬼と呼ぶべきじゃないかね。まるで死に場所を求めて彷徨う獣だよアレは…

 

 

 

 雪山を探索しにいったハンター共が戻ってきた。

3人とも血まみれだったが、剣聖だけはモンスターの返り血だと答えやがったらしい。

剣聖の後ろで2人がゼイゼイと息を切らしていると、優男が剣聖に胸倉を掴まれ殴り飛ばされる。

あんま大きな声で喋ってないから後で近くにいた奴にこっそり聞いたんだが…

 

どうにも狩りの最中に優男の援護が不十分だったと剣聖が八つ当たりしたらしい。

ハンターも所詮は俺らと同じ人間って訳だ。理不尽なことで怒りもすれば手も出すなんて…

…あの恐ろしい力で振り回される武器の切っ先が、俺らに向かないで欲しいと願うばかりだ。

 

帝国歴137年 収穫の時期

 

ハンター達が山と雪原の探索を一通り終えてウルの町へ戻ることになった。

短い間ではあったがアゥータと名乗った優男とは何度か酒を酌み交わして仲良くなった。

ロリ巨乳ちゃんは相変わらず話しかけても首を上下左右どちらかに振るか傾げるかしかしねえ。

剣聖に関しては終始ノータッチ。…というか向こうから一度も話しかけてはこなかった。

 

思わずアゥータに聞いた「どうしてあんな奴と一緒にハンターやってんだ」と。

彼は苦笑して困ったように笑って「色々あんだよ…俺達にも」としか答えなかった。

ただ剣聖がウルの町に居るよりこっちの砦の方が居心地が良さそうだったというのは納得した。

 

ここは王国領だが、砦の中には帝国兵しかいないからだろうな。

聖教教会のご大層な教えとやらを大事にしている王国からハンターは特に嫌われてる。

王国の恥知らず共め…誰のお陰で町で暢気に作物を収穫できると思ってるのやら…

この戦争が終わったら、次は連中を片付けちまった方がいいじゃないか?

そん時ぁハンターの奴らにも人をぶっ殺す権利くらい与えて欲しいもんだ。

だって楽出来るしな!そのデケェブツで連中を地面の肥やしに変えちまえばいい。

 

―――その冗談を酒の席で言ったら、偶々近くを通りかかった剣聖の野郎が不気味に笑いながら「いいねぇそれ。アタシもその意見に賛成だよ」とか言い出した時は一気に酔いが醒めた。

アゥータの野郎は妙に焦ってやがったが…まさか、本気…じゃないよな?

 

 

 

 豪雪の日が異様に増えてやがる…大砲に積もる雪を払っても払ってもキリがねえ!

あのムカつく上官が申し訳なさそうに俺達へ差し入れを持ってきたのを見た時、凍死して幻覚でも見てるんじゃないかと思っちまったよ。

連絡員のジョモが血相変えて町に駆け下りていきやがった。

何が起こるってんだ…魔人族の神アルヴとやらがお出ましなのか?

だったら話は早いんだがな。そいつぶっ殺せばこっちの勝ちなんだからよ。

 

帝国歴137年 乾燥の時期

 

 最悪だ…最悪…砦の食料庫が底を尽きかけてやがる。

ウルからの物資も、道中襲ってきた恐暴竜に小隊が襲われて物資含め全滅。

居座ってた野郎は前に砦に来た3人とは別の、偶々通りがかったハンターの2人組がぶっ殺してくれたけど…ウルの連中…次の物資が届けられないとか抜かしやがった…!

ふざけんな、ふざけんなよ!!テメェらの町を守ってるのは俺達だぞ!?

こっちが死ぬほど寒い思いして魔人族と戦ってるってのに、テメェらは農作物一つ満足に作れねえのかよ無能共!!なにがエヒトの試練だ、そんなものに祈る暇あったら魚でも釣ってろよ!

 

…あぁ畜生、腹減ったなぁ…文字に起こすだけでもひもじいなあ…

 

 

 

 俺らより後に来た新人の奴らの1人が自殺した。

王国の奴らに対する罵詈雑言だらけの遺書と、エヒトの絵画に自身の糞尿ぶっかけた遺留品の後始末をしていた時、俺も仲間達も…上官すら気が狂ったように笑い続けていた。

来た時から生意気に「魔人族も王国の奴らも皆殺しにしてやりますよ!」とか粋がってた癖によ…なに一人で勝手に満足して楽になってやがるんだ…クソ羨ましい。

 

魔人族をぶっ殺したら、その次は王国…あとは…公国か、亜人共も殺すのかなぁ…

その時は女だけ生かして男は殺そうぜ…女は若けりゃ使い物になるだろうからよ…

 

―――許してくれ。空腹でおかしくなってたんだ…こんなのは、俺の本心じゃないんだ神様…

 

帝国歴138年 梅雨の時期

 

 2年、この日誌を書き始めてから2年もの月日が経過していたらしい。

記憶を手繰り寄せながら空白のところに過去の出来事の時期を記した。

突然、砦に新たな将軍となったバイアス皇子が来て異動命令が下された。

 

第三連隊で俺と同期だった奴らは3割死んでいる。

クソ五月蠅かった上官も、前の年の終わりにあった魔人族との戦闘中に死んだ。

最期までムカつく奴だったが…遺品を整理していた時に俺達へ宛てた手紙と、砦じゃ滅多に呑めない酒瓶を置いていた事を知ってクソ泣いた…勝手に死んでんじゃねえよ。

 

上官の死と、2年もしぶとく生き残ったお陰か、俺は小隊長へと昇進。

次なる配属先は疫病で滅びかけたアンカジ公国だとさ…今度は砂漠ぅ?…勘弁してくれよ…

 

それと小耳に挟んだが、亜人族の奴隷制度が廃止になるらしい。

グラディーウスにあった奴隷専門の娼館…仲間達と一緒に行きたかったなぁ…

いったことある奴に聞いた話だと耳が敏感な亜人が多いとか…クッソ羨ましいなぁ

 

 

 

 こういうのを幸運と呼ぶべきか、或いは悪運が強いと言うべきか…

降り積もるのが真っ白でひんやりとした雪から黄ばんだジャリジャリの砂へと変わった新しい配置先でのある日、ウルで起きた事件をジョモから聞いた。

 

なんでも古龍っていうヤバいモンスターが2頭も山に現れて、大寒波が起こったとか…

それを偶々ウルに居たハンター…あの剣聖が1人で撃退…したんだが、あいつも相当の深手を負ってハンターを続けられなくなっちまったらしい。

あれほど王国の人間を嫌ってた奴が、王国の町を守る為に命張る…か。

しかし王国の奴らはハンターなんて下劣で野蛮人だと罵る。

どんだけ命張って守っても、報酬代わりに貰うのは罵声と嫌悪の目…やりきれんね。

 

帝国歴138年 収穫の時期

 

 若い連中が公国に来ていた教会の信者共と酒場で小競り合いを起こした。

仕事を増やすんじゃねえよ!…と此処に書いたところでもう過ぎた話だから虚しいだけなんだが…

俺がその報告を聞いて現場に駆け付けた時、事態を先に収めてくれた領主の息子がいなけりゃ今頃は俺が責任取って教会の連中から鞭打ちでも食らってたんじゃないかと思うとゾっとする。

 

 領主の息子…レイネルクは若いのに自警団の顔役なんてやってるらしい。

フューレンからやってきた有能なお医者先生のお陰で疫病も徐々に収まってきて、俺ら帝国軍は暇さえあれば自警団の奴らに稽古をつけてやった。

 

 こっちに来てから驚いたんだが、亜人族の元奴隷が働いていた。

どうやら故郷へ帰りたくても帰れない…というか色々あって帝国での暮らしに馴染んじまった奴らに、皇帝は市民権を贈呈する代わりに公国での労働を条件にしたとか…

ただこのクソ暑さは俺ら人間よりもキツいらしい…そりゃあそんな毛むくじゃらだとな…

 

後、公国の連中の一部が亜人を見るなり神様みたいに扱ったのにはビビった。

この土地に昔から伝わる神の御使いが亜人そっくりなんだとか…俺にはよく分からんね。

亜人の奴らもいきなりそんな扱いをされて困ってたが…気分は悪くないらしい。

 

 

 

 1年前に恐暴竜をぶっ殺した2人組と公国に新設されたギルドの近くで再会した。

この2人…特に男の方は巷を騒がせている英雄だと聞かされたが…全然それっぽくねえ!

2人はあれからシュネー雪原とグリューエン火山の完全な地図を書き上げたんだとさ。

俺でもそれがどれだけ凄い事なのかなんとなく理解出来る。

未知のモンスター共が巣食う場所に足を踏み入れて、なお調査まで行う…つくづく化け物だな。

 

 その話をレイネルクにしたら、あいつもいつかハンターになりたいんだとさ…

「だが領主の息子なら、父親の仕事を継ぐんじゃないのか?」と俺が尋ねたらアイツは「そういうのは俺に向いてねーよ。俺の弟のがよっぽど適してる」とか抜かしやがった。

カリスマ性とかなら断然お前のが良いと思うけどねえ俺は…

…まぁ決めるのはお前の自由だ。お前の人生だからな。好きに生きろよ若人!

 

帝国歴139年 梅雨の時期

 

 たった1年で防衛砦にとんぼ返りする事になった。

汗と砂にまみれるのと比べれば、砦での生活がマシだと思う。

だから異動命令が出た時に俺が率いる小隊含め、帝国軍の誰も不満を言わなかった。

 

 公国を出るとき、偶々小耳に挟んだ。

俺達以外にも王国と教会に不満を持つ者が日に日に増えているらしい。

そりゃあ重税課して意味があるか分からない教えを毎日聞かされたんじゃ嫌になるよ。

噂の域は出ないが、皇帝直属の部下が各地で諜報活動を行っているとか…

ま、俺達には関係ない話だがね。戦う順序が魔人族と王国、それが逆になるだけだ。

 

帝国歴140年 梅雨の時期

 

 おお懐かしの防衛砦よ、相変わらず病人みたいな白い肌してやがるなこの野郎!

こんがり日焼けした俺達を見るなり防衛砦に留まっていた同僚たちが「上手に焼けました~♪」とか笑いやがったんで、挨拶代わりにグリューエン火山から運ばれてきた燃石炭をぶん投げてやったら飯抜きにされた………畜生!

 

 公国で相手に来ていた砂竜や赤甲獣に比べれば、砦に近付く奴らは雑魚だと思う。

氷牙竜や巨獣も山に棲んでるって話だが、俺が此処に来てから一度も見ていない。

後で最古参の兵士だっていう爺さんに聞いたが、そこまでヤバい奴だと接近する前に見張りが救難要請をギルドに送って、緊急クエストとして依頼が張り出されるんだとさ。

なんでも緊急クエストを達成するとハンターランクってのが上がるらしい…詳しくは知らん。

 

―――見張り塔からの警笛が砦に鳴り響く。

今までなら緊急配備に就いたり砦の防衛兵器を動かしたりと大変だったが、この短期間でとんでもねえ兵器が設置されたお陰で施設運用が大分楽になった。

 

ドジャアァァン!と腹の奥まで震わせる轟音にビビってモンスターが逃げていく。

こんなもの何の役に立つのかと初めて見た時から疑問だったが、今のを見て納得した。

野生の獣ってのは本来、臆病な奴が多い。そういうのに一番効果的なのは音だ。

逆効果で興奮する奴も中にはいるが、これに関してはその心配がない。

近くで鳴らした奴が音の衝撃で吹っ飛んでたからな。

 

このとんでも兵器…元は銅鑼って言うらしいが、皇女様の提案で設置されたらしい。

他にも大砲、バリスタに改良が施されてる。

兵器に詳しい野郎が熱心に話しているのを横で聞いていたが、どうやら既存の竜人から伝えられた技術とは全くの別物らしい。…違いを聞かれても俺には分からんよ。

 

俺も一度だけグラディーウスで彼女を見かけた事があった。

国民的英雄として軍内部で将軍の次に人望が厚いのは彼女だった。

主に女性兵士からの人気が多いんだとさ。…噂じゃ男と女、どっちもいけるとか

 

俺は皇子と皇女、どっちに付くかと聞かれたら皇子と答えるね。

皇女は軍よりもハンター贔屓で有名だし、いざって時に捨て駒にされそうだ。

 

帝国歴140年 収穫の時期

 

 噂は本当だった!皇帝が王国に反旗を翻して、国王エリヒドを処刑したらしい!

以前の俺なら歓喜して連中にザマァミロ!と言ってやったが、今はそんな気分にもなれない。

一個大隊の指揮官なんて大役を押し付けられた俺がこれからやる事はウルの制圧。

兵器でモンスターや魔人を殺した事はあるが、人に剣を向けるのは初めてだった。

恐ろしい…どうか思いつく限りの最悪な事態に発展しない事を祈るばかりだ…

 

―――幸か不幸か、ウルの制圧は犠牲者を出さずに成功した。

水妖精の宿に突入した部下から報告を受けて驚いた。

あの剣聖が、ハンターを引退してから湖の町で暮らしているらしい。

実際に会って話したが以前とはまるで別人、話し方や仕草まで変わっている。

 

…ただ…ちょっと不気味だった。

あれだけ王国に対して悪感情を抱いていた彼女が、こんな風になってしまったのか…

 

ウルの住人達から慕われている彼女のお陰で、任務は順調に進んだ。

聖教教会の神殿騎士が「神への叛逆だ!」とか喚いていたので檻にぶち込んで黙らせた。

そもそも俺らはエヒト神を信仰してないっつーの!

 

一緒にいた神の使徒はグラディーウスに連行するらしい。

…あんな子供が神の使徒…ね…大して強そうには見えないが…あれでどうやって魔人族との戦争に勝つつもりだったのか、神殿騎士の尋問ついでに聞いておくようジョモに頼んでおくか。

 

 




 本編に詰まったから外伝に力を注ぐ作者の鑑()
こんな感じにモブ視点?でのお話がこれから先もちょいちょい出てきます。

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。


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清水君の一人語り

 例の如く清水君視点での一人語り。
最後ら辺はMHT2「新たな力の鼓動」の続きになります(向こうの続きが一部重複するかもしれません)


 

 俺とハジメは、まぁ所謂()()()()()()だったのさ。

あいつは神の使徒(クラス)の人気者に気に入られたから、周りの連中が嫉妬してさ。

何かある度に虐められて、ハジメは笑っていつも誤魔化してたんだ。

 

 俺にはすぐにあいつの笑顔が嘘だって分かったよ。

俺があいつと同類だから分かったんだ。

他人に無関心な奴特有の、当たり障りのない感情表現。

その裏で、悔しいとか苦しいとか辛いとか…色んなこと思ってたんだろうな、あいつも…

 

「ハジメさんとはその時からお友達…だったんですか?」

 

…いいや?あの頃は俺もあいつも、お互いに無関心だった。

トータスに来る前から自分の身を守るので精一杯でよ。

人間と魔人の戦争とか、神様がどうたらとか、そんなの訳分からねえって俺が一人で頭抱えてる間もハジメに対する嫌がらせは続いてさ…

あいつは神の使徒を辞めて逃げ出しちまった。

オルクス大迷宮でモンスター共にボコボコにされなかったのは運が良かったとしか言えないな。

 

「…1つ疑問。どうして神の使徒は大迷宮に挑んだの?」

 

「…確かに、それは私も気になります幸利様」

 

 どうしてって…そりゃあ俺達が戦争どころか人殺しもしたことない素人だったからだよ。

聖教教会の教皇様はエヒト様の遣わした神々なら何とかしてくれると思ってたんだろうけど、戦いのプロである王国騎士団の団長さんが見れば俺達がド素人だって一目で分かる。

 

 だから最初は訓練場で武器の扱いとか鎧の着方とか学んでたんだ。

それから人相手は抵抗感があるって思われたのか、モンスターを相手にする事になった。

街道や荒野のモンスターでも一匹連れて来て殺すのかと最初は思ったよ。

何をトチ狂ったのか、オルクス大迷宮で実戦形式にやろうとか言い出したのさ。

発案者がメルド団長なのか、教皇に脅された国王なのかは分からなかったけど…

 

「うわぁ…」

「無謀」

「それで成果はありましたか…?」

 

 ハッハッハッ…三人とも同じような反応してくれるとは思わなかったよ。

成果は何も得られず、騎士が犬死にして使徒はメンタルズタボロにされてハイお終い。

戦う事が嫌になった奴らは作農師だった先生に付いていったり、恐怖とストレスの捌け口を俺にぶつける奴らが現れたり…勇者も俺に大して当たりが強かったかな?

 

―――んで俺を魔人族の人がスカウトしてくれて、色々あって俺は魔人族の側に付いた。

それから王国の商業都市フューレンにこっそり忍び込んでハジメと再会したんだ。

 

 初めてアイツの姿を見た時は驚いたよ。

銀髪に赤目だぞ?あの俺と同レベルで平凡な見た目だったハジメがだ。

しかも背が高くなってムキムキになってやがるし…

 

「……えっ?ハジメってあれが素じゃないの?」

「は、初耳ですぅ…!」

 

 んあ?あいつは俺と同じ黒髪で童顔、目も黒寄りの濃いブラウンだぞ。

もし聞く機会があったなら聞いてみるのもいいんじゃないか?

なんであんな見た目になってるかは本人に聞いたことはないけど…

 

―――あぁ話が逸れたな悪い悪い。

俺はあいつを人気のないところに誘い出して魔人族側に来ないかと勧誘したんだ。

正直な事を言うなら、俺と一緒にクラスの奴らに復讐して欲しかった…

俺の復讐に付き合ってくれる、同士が欲しかったんだろうな。

 

「けど、ハジメは断った?」

「…ですよね?」

 

 そりゃあもう、丁寧にお断りされちまったよ。

そうなったら俺とあいつは敵対するしかないのかなぁって思ったんだが…

ここからが笑える話でさぁ…ハジメは断ったうえで俺と友達になろうとか言いやがった。

 

「ナニソレ」

「はえ~…ハジメさん、そんな事を…」

 

「…その方は本気、だったのですか?」

 

 あぁ、ありゃ本気と書いてマジと読む奴の顔だった。

俺も驚いて声が出せなかったし、あいつの正気を疑った。

だから俺も、あいつの酔狂に乗ってやることにしたってわけ。

 

…ふぅ、こうして他人に自分語りをするのなんて何年ぶりだろうなぁ…

思い返せば故郷に居た頃からこんな風に話せる友達なんていなかったし。

 

「…可哀想」

 

「うぅぅ、大変だったんですね。ハジメさんも清水さんも…!」

 

「…心中お察しします」

 

 オイ止めろ、その可哀想なものを見る目で俺を見るんじゃあない。

下手な優しさは悪意よりもダメージデカいんだぞ!?

間違ってもそちらのお嬢さん二人は絶対ハジメにそれをやるなよ?

 

 あいつも多分見た目は変わってても中身は俺と大差ない奴だから。

何気ない一言で傷つくし、自分を卑下したり、常に他人の顔色を窺う。

…俺が言えた義理じゃないんだが…その…あいつの事、よく見てやってくれ。

 

「言われなくても、そうするつもり」

「勿論ですぅ!ハジメさんは私の先輩ですから!」

 

 先輩…先輩かぁ…ハジメの奴もそんな良い仲間に恵まれたのかぁ…

…ん?なんだよフラウ、その貴方には私が居ますよみたいな目は。

 

「そんな目はしていません。貴方の勘違いです」

 

 うわ辛辣、ちょっと目の端っこから涙出てきそうになったわ。

 

――――――おっと、そんな話をしてる内にお前さん達のお迎えが来たみたいだな。

 

「シア、アレーティア無事か!?」

 

「ハジメ!」

「ハジメさん!私達は平気ですぅ!でも、その怪我―――」

 

 おうおうジャンプ系主人公みたいな登場の仕方しやがって、モテ男だなハジメ。

後お前そのカウボーイのパチモンみたいな恰好はなんだよ?前と随分様子が違うな?

 

「清水…!――――――そりゃハンターだからな、前より強くなってんだよ俺も」

 

 へぇ、前より強く…ねえ?

ならどうだい、俺の後ろにいるクルルヤックと戦ってみるってのは―――

 

「…悪いが、今は別のクエストやってる最中なんでな…予定が合わん」

 

………そうか、それじゃ仕方ないな。

ん?どうしたよフラウ。…なに「敵を前にして戦わないつもりですか?」だってぇ?

そりゃお前ここで戦うのは簡単だが、勝ち目ある訳?今の俺らに?

 

「っ…そ、そんなのやってみなければ…!」

 

 まー落ち着いて聞けってフラウ。

ハジメとシアさんはハンターだから俺達に攻撃できないというデメリットがある。

けどアレーティアさん…君はハンターじゃない…だから―――

 

「…ハジメ達を襲うつもりなら、戦う」

 

 ですよねー。

…んでフラウ、聡明なお前のことだ。俺が気づくよりも前に、アレーティアさんと戦ったらヤバい事になるなんて…お前ならもうとっくに分かってるんじゃないか?

更に言うならレイスさんとも合流しなきゃいけない訳だし?

俺達には俺達の仕事があるんだから、此処でこいつ等と殺し合うメリットないでしょ。

 

「…分かりました。貴方の判断に、従います」

 

 うん、物分かりが良くて大変宜しい。

てな訳で…ハジメ、こっちは戦うつもりはないんだが…あ、そっちも戦う気はない?

そりゃあ良かった!無駄に血を流す事ほど残酷なものはないからネ!

え?支配種はどうなんだって?アーアーアー聞こえない聞こえなーい。

 

「清水!」

 

―――なんだ?

 

「また、何処かでな」

 

…あぁ、また何処かで会おう。

 

「次はとっ捕まえる準備しておくから覚悟しておくんだな」

 

 抜かせ。こっちも万全の状態で襲ってやるよ。

 




 ライズに復帰して上位ジンオウガとタマミツネに2乙させられたハンターが居るらしい…
…ハイ正直に白状します。私です。得意の太刀まで使ってこのザマです()
閃光玉をアークスターとか言った時点でもう末期エペ患者

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シュネー雪原の戦い「出来過ぎた先制攻撃」

 ハジメ達が村でわちゃわちゃやってる間に起きてる話。
蛇足かもしれませんが人間・魔人陣営での軍隊の編成をちょいガバで紹介します。

ヘルシャー帝国軍
連隊(2000)→大隊(500)→中隊(100)→小隊(25)→分隊(5)
(初期で登場した帝国軍のグリッド以下4名は正確には第三連隊いずれかの大隊の下にある中隊の小隊第一分隊所属というややこしい表記になりますね…)

ガーランド魔国軍
旅団(2500)→大隊(500)→中隊(200)→小隊(50)→分隊(10)
(同じく初期登場のカトレアさんは「軍団長」と名乗っていましたが、正確には旅団長で特殊工作部隊の指揮官ですね。ダヴァロスやレイスも彼女と同じ旅団長クラス)

 余談ですが戦力的には少し前まで人間側が上回ってました。
戦争の長期化と兵士の損耗率が圧倒的に人間側は早いので現在は魔人族若干優勢です(支配種その他含め)



 

 ウルディア防衛砦、日の出から一時間が経過。

シュネー雪原へと続く正門前の広場には二個中隊(約400名)が作戦開始を待って整列している。

 

 ガーランド軍に動き有。一個大隊に支配種を数体引き連れてシュネー雪原に進軍中と見張りからの報告を受け、ウルディア防衛砦の司令官”ウィリアム・フォン・マスタング”は敵の狙いが前線基地の設置にあると読んで阻止攻撃を命じた。

 

 年中雪の降り積もるウルディア山脈を下ってシュネー雪原まで向かうのは危険だ。

そこで彼は二個中隊の内、一個中隊に砲兵(約100名)に大砲・バリスタ(各25門)を配備。

もう片方の中隊を歩兵と騎兵で固め、砲兵隊の守備に当たらせる。

 

 先行した偵察部隊の指定した発射位置にまで砲兵隊を向かわせて、敵基地へ攻撃を仕掛ける。

基地の破壊を達成した後、兵器をその場に破棄、二個中隊は砦まで撤退する作戦名は【ハチの巣駆除(ビーハイブ・エクスターミネーション)】魔人族と支配種がハチで、駆除業者が帝国兵という訳だ。

 

 第一中隊中隊長”ハリス”は葦毛の馬に跨り、騎兵を連れて真っ白な雪の斜面を降りていた。

後から対モンスター用に槍と盾を担いだ重装歩兵が、それを補助するように片手剣と盾持ちの軽装歩兵が後に続いて、彼らの移動中に周囲の警戒を弓兵が担当する。

 

 数体の鳥竜種…ギアノスやバギィに襲われても、彼らは落ち着いて隊列を組んで対処した。

一頭につき一分隊(10名)程度で戦い、重装歩兵が盾で惹きつけて弓兵が援護する。

最終的なトドメは軽装歩兵になるが、その際も多方向から同時に急所を一突きが原則だ。

逃げようとした場合は不用意に追撃をせず、出血や足跡の痕跡だけ消して進軍を続行。

 

(今のところは順調だ…今のところは…な)

 

 これまでの戦いは正面切っての物量戦で凌いできたが、それにも限界が来ていた。

故にこの時期での魔人族によるシュネー雪原前線基地の設置はなんとしても遅らせたい。

口から漏れる白い吐息を包み込むようにして、手で髭に付いた霜を払う。

そこへ後方との伝令役を任された彼の部下が戻ってきた。

 

「ハリス中隊長。後続の砲兵隊と我々の距離が離れています。少しペースを落とすべきかと」

 

「…報告ご苦労。この先に開けた場所がある。小隊長達に休息の要ありと伝えよ」

 

「はっ!」

 

 ハリス達の第一中隊が通った後、比較的積雪の浅くなったところを草食竜のポポが続く。

彼らの角に紐を巻きつけて、巨大な荷台に載せた大砲を運ぶのが第二中隊の砲兵隊だ。

第二中隊中隊長”バーナード”は馬に乗らず、荷台の上に腰掛けて地図をじっと見つめている。

 

「砲兵長、貴官なら真っ先に敵基地の何処を狙う?」

 

「ハッ。我が砲兵隊の練度と大砲の命中精度を考えて…初弾は此処が宜しいかと」

 

 声をかけられた砲兵長が覗き込むように地図を見て基地の南側(ガーランド寄り)を指す。

地図に記された敵基地の簡易見取り図は偵察隊が命懸けで手に入れてきた情報だ。

 

「理由は?」

 

「敵が支配種を肉の盾として守りを固めた場合、更に付け加えて敵に結界師が居れば司令塔と営舎の守りを固めるのは目に見えています。であれば先手を取った此方が狙うのは敵の物資…食料や兵器を保管する倉庫と思しき建造物に狙いを定めるのが定石でしょう」

 

「貴官は此処がその狙いの建物だと?」

 

「仮に違っていたとしても、敵の退路を塞ぐ…或いは敵本国からの増援を遅らせる為にと…」

 

「分かった。現場での砲撃目標の設定は貴官に一任する」

 

「了解であります」

 

 二人が会話を終えると、前の斜面を駆けあがってくる一人の兵士。

彼は第二中隊の伝令役として、第一中隊の伝令役と入れ替わりで戻ってきたのだ。

 

「バーナード中隊長殿!前方のハリス中隊長より、この先で休息を取るとのご連絡が―――」

 

「分かった。展開中の偵察部隊にも一時帰投するよう伝達を頼む」

 

「はいっ!」

 

 遠ざかっていく伝令役を眺めていた砲兵長がふとバーナードに尋ねた。

 

「…若いですね、彼…」

 

「…つい半月前まで農村で樹海の開拓をしていたと聞いているよ…情けない話だな」

 

 戦争で真っ先に死ぬのは若者だ。

バーナードや砲兵長のように体に老いを感じる兵士ばかりが、なぜか生き延びてしまう。

戦争を終わらせる為に、戦争が終わった後も先の長い人生が残っている若者を犠牲にする。

それが間違っている事だとしても、彼らにはどうする事も出来ない。

 

「…この戦争で死ぬのは、我々のような愚かな大人だけであって欲しいものだ」

 

「…はい」

 

 

 ウルディア防衛砦から二個中隊が行軍開始して一時間半が経過。

僅かな休息の時間に、彼らは日が昇り切る前に携行食を急いで食べ終えて行軍を再開する。

第二中隊の若き伝令役は、周りの空気が張り詰める中で妙な違和感を感じていた。

 

(…おかしい…こんなに簡単に砲撃される位置まで敵が僕達を見逃すものなのか?)

 

 彼はまだ従軍経験が浅い。

実戦がどういうものなのか、想像でしか口に出来ない。

 

 常に危険と隣りあわせだった樹海での開拓作業で彼が知らずの内に習得していたものがある。

本能的なもので生きている動物なら必ずしも有している自然の第六感。

 

 人間が猿から進化を遂げて、集団での生活と文明のレベルを上げた結果、失いつつあるものだ。

確たる証拠はない。だがそれでも…と彼の胸の内がざわついている。

 

 草食動物が肉食動物の群れに襲われる直前、空気が変わるのを肌で感じて警戒する。

縄張りを持つモンスターが侵入者に気づいた時、攻撃性を剥き出しにして威嚇する。

同じように魔人族側も自分達に危機が迫っていると気づいたら、何らかの行動をするだろう。

 

 しかし行軍開始から自然のモンスターに襲われる事はあっても、魔人族から奇襲を受けたという報告は一度もなかった。それが余計に彼の不安を駆り立てる。

 

(もし、敵が―――――――――)

 

 そこまで考えて、彼の思考は砲兵長の発する合図に中断させられた。

荷台を引いていたポポから縄を外し、雪を掻き分けた地面の上に大砲を設置する。

砲兵が掘削道具で土を掘り、大砲の左右に設置された車輪を半分埋めて固定。

大砲の玉が詰まった袋を並べた大砲からやや後方の斜面に掘った塹壕へと移動した。

 

 第一中隊が忙しなく周囲を警戒する中、着々と敵基地への砲撃準備は進んだ。

伝令役の青年は所属する第二中隊の第三小隊第五分隊長指揮の下、使い慣れない剣を片手に大砲陣地と司令陣地の中間に待機する。

 

「…あの、分隊長殿…」

 

「なんだ新兵。今更腰が引けたか?」

 

「いえ、そういう訳じゃ…ただ…」

 

「んん?」

 

「この作戦が―――「砲撃、用意!」―――ッ!」

 

「お喋りは中断だ新兵。耳を塞いで口を半開きにしておけよ」

 

 砲兵長の声に遮られて、伝令役の青年は言おうと思っていた事が言えなかった。

最新鋭の最大5発連続発射可能な大砲に黒々とした人の頭くらいの大きさがある大砲の弾が詰め込まれ、発射タイミングを握る砲兵が号令を今か今かと待ち侘びて頬に汗を浮かべている。

 

(もしも、この作戦が―――敵に全部読まれていたとしたら―――!?)

 

「待っ()ぇえーーっ!!」

 

 鼓膜を直接叩かれるような発射音と共に、砲弾が遠くの雪原に見える建物へと飛んでいく。

伝令役の青年が言いかけた最悪の予想は爆音に掻き消され、彼はそれを後悔する事になる。

真っ白なシュネー雪原の一角が、紅蓮の炎と黒煙に包まれたのは数秒経ってからの事だった。

 




 HR50解放すればMRにいけると思ったらHR100まで解放しなければならなかったでござる(バルファルクを数える作業に戻ろう)

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シュネー雪原の戦い「掌で踊らされるが如く」

 先ずは更新遅くなってしまい申し訳ございませんでした…
例の如く原作新キャラにちょい名前つけ足して登場して貰います。
作中に登場するガーランド軍の旅団長は5人となっており、既に登場しているカトレア、ダヴァロス、レイスと今回登場する一人+未登場のもう一人となっています。(余談ですが、旅団長クラスの人が単独で動いてたりする理由は何処かのタイミングで清水君の話に書こうと思ってます)


 

 帝国軍が魔人族の前線基地設置に気づく数日前のこと。

ガーランド軍第二旅団の最高責任者である”デイヴォフ・フォン・ファーレンハイト”はバルバルスにある将軍フリードの居城で彼と話をしていた。

 

「デイヴォフ旅団長。此度の作戦は広報官の働きでバルバルスの住民達に大きく喧伝されている。魔王様より直々に命令を下された我々にとって、作戦失敗は死を意味する…分かっているな?」

 

 (フリード)の金色の瞳がギラリと光る。

並の兵士であれば恐怖で身が竦む魔人族で二番目に権力を持つ男の視線と圧に対して、薄い水色の瞳のデイヴォフは落ち着きを払って毅然とした態度で言葉を返す。

 

「理解しておりますバグアー将軍」

 

「…そうか、それなら良い。俺はこの作戦に最適の人員を配置したと自負している。軍内部でお前に勝る知略の持ち主はいない…人間共に格の違いを見せつけてやれ」

 

「ハッ!」

 

 踵を合わせてフリードに対し最敬礼を送り、デイヴォフは居城を後にする。

彼が正門の前に来ると、見計らったかのように副官が馬を連れて現れた。

外套を頭から被って顔を隠した副官はデイヴォフにしか聞こえない声量で話しかける。

 

「旅団長。第一、第二大隊の準備は完了しました。()()()も間もなく完成します」

 

「…分かった。第三、第四大隊の隊長達に第一次攻撃地点へ移動の伝達を」

 

「了解です」

 

 言うや否や副官は雑踏の中に消えた。

デイヴォフは暫く彼の立っていた場所を見つめていたが、やがてゆっくりと歩き出す。

陽が沈んだ後もバルバルスは豊富な魔力資源の灯りに照らされている。

住民達の多くは戦時下にも関わらず事ある毎に宴を至る所で催していた。

 

 まだ勝敗も明らかになっていないというのに、国民の多くは戦勝ムードに沸いている。

暢気なものだ…とデイヴォフは内心彼らに呆れていた。勇猛さと清廉さを併せ持ち、智将として名高い彼や一部の慎重派な旅団長は人間族を侮ってはいない。

 

 土地の広さと魔法技術では確かに魔人族が遥かに上回っているが、これまでは兵士の質と数では僅かに人間族が優勢だったのだ。

虎の子と言われている支配種は個としての戦闘力は脅威だが、それ以上に制御出来る者が限られている。更に言ってしまえば食糧の消費が馬鹿にならなかった。

 

 飼い慣らしているとはいえ支配種にも最低限の食事や睡眠は必要であり、それをしなければ使役し続ける事は不可能だ。その為だけに食料や土地を確保するのは労力の無駄である。

 

 魔王アダム直属の神の使徒(エーアスト)達を動員すれば戦局は大きく動くかもしれないが、彼女達が魔人族の為に力を貸すという事は一切なく、アダムが命じなければ自分の身を守る事しかしない。

フリードや旅団長達が集まってどれだけ懇願しても、恐らく彼は首を縦に振らないだろう。

 

「この戦いは、魔人族が持てる力を以て勝利しなければ意味がない」

 

 かつてアダムが口にした言葉の真意を、デイヴォフは未だに掴めないでいた。

魔人族が持てる力とは具体的にどこまでを指すのだろうか?神代魔法によって得た支配種や、人間達から盗んできた技術もその中に含まれるのだとしたら…

 

(…私如きでは、あの方の真意を探るなど不可能か…)

 

 この世の誰にも…神エヒトルジュエやその眷属ですら魔王アダムの領域には辿り着けない。

平和が愛おしいと声高に謳いながら、生に焦がれる以上、種としての争いは世の常であると自らの手で争いの火種をばら撒いて燃え上がらせる。

命として根底から狂っている存在。それがあの男だ。

 

(やめよう。今の私に出来る事は、深淵を覗き込む事じゃない)

 

 煌びやかなに飾られた店の周りを行き交う人々を横目に歩き続ける。

幼い頃から、彼があの輪に入ろうと思った事は一度もない。今は亡きデイヴォフの両親に本の虫と笑われるくらい知識を貪る方が、彼にとって周りと群れるより有意義だったのだ。

 

 軍に入ったのは没落しかけた家の財政を立て直す為。

それが偶々、士官時代に戦術論で革新的な発見をした事が出世コースへの第一歩となった。

 

 彼個人としての強さは魔人族全体で見れば中の上程度である。

旅団長の中で強さ比べをしたら、恐らくダヴァロスが互角といったところ。

最前線で魔法の腕を振るう事もあるレイスや、人間の国で潜伏中のカトレアには遠く及ばない。

 

 だが、それでいいとデイヴォフは思っている。

敵であろうと味方であろうと、彼は自分が侮られる事を苦にも思わない。

個人の評価など、戦場に於いては無意味であると彼は知っているから。

 

 

―――デイヴォフが副官に命令を出してから半日が経過した。

夜明けまではまだ時間があり、モンスター達の大半も寝静まっている。

 

 王都バルバルスを囲む壁を抜け、少し緑が生い茂る草原を進むと景色は白一色に染まる。

シュネー雪原との境界線になっている小川は雪解け水が流れ、大陸の東側に流れる名もなき大河へと合流し、大河の向こう岸はアンカジの砂漠、河沿いに進めば海へ出るという。

 

 雪や泥の中での移動を妨げない力を持つ()()()()()を腕に巻きつけ、真っ白な外套に身を包んだデイヴォフは第一、第二大隊の集合地点に向かっていた。

 

 辺りは雪化粧を施した針葉樹に囲まれて、遠くからは視認出来ないようにしてあった。

デイヴォフと同じように雪原用の外套に身を包んだ大隊の兵士の一人が号令を発する。

 

「旅団長殿が到着したぞ!各員整列、傾聴!」

 

 サッと機敏な動きで整列を終えた兵士達は何割かが寒さに凍えている。

デイヴォフは前の方にいる兵士達の顔色を一人一人確認しながら手短に話す。

 

「第三、第四大隊は第一次攻撃地点へと向かった。我々は後詰めとして雪原中央を進軍し、残敵を追撃。その後は第三、第四大隊と合流し、敵要塞の前に陣を敷く。この作戦は、敵に先手を取らせたうえで此方は奇襲を仕掛け、敵の兵力を出来る限り削ることが作戦成功の鍵となる」

 

「旅団長。遠視のアーティファクトにて、敵要塞の開門を確認。…餌に食いつきました」

 

 見張りの声を聞いて兵士達の目に物騒な光が灯される。デイヴォフは報告に対して静かに頷き、ある方角へと視線を移した。

そこには()()()()()()()()()()()()()()()()張りぼてが設置されているのだ。

 

 デイヴォフが第一、第二大隊を先行させて行ったのは本物の前線基地の隠匿と、遠目から見てまったく同じ規模に見える張りぼての設置である。

 

 二十四時間監視している訳ではない帝国軍の目は、張りぼてに欺かれたのだ。

そこに食いついたところを第三、第四大隊が迂回路を通って敵に奇襲を仕掛け、同時にデイヴォフ率いる第一、第二大隊は雪原の中央を突っ切って山中の防衛砦手前まで進軍する。

 

―――数時間後、山の麓から轟くような大砲の音がシュネー雪原全域に響き渡る。

張りぼてが無残に吹き飛んで、爆風を横から受けながらデイヴォフは告げた。

薄い水色の瞳を細めて鋭利な刃物の切っ先を突きつけるように敵を見据えながら。

 

「―――進軍せよ」

 




 今更ですが、作者はこういうものを書くのは初めてなので、戦闘の流れとか個々の動き、会話で分かり辛い描写とか多々あるかもしれません…ご了承ください。

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。


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シュネー雪原の戦い「混沌の戦場」

 今回のお話、帝国軍vsガーランド軍vs????
登場する帝国軍の装備品や兵器について軽い解説

・重装歩兵が装備しているのはMHWで登場した防衛隊シリーズを模したもの(使っている素材等は同じ。ただハンターが用いる工房とは別の兵器工廠で作られたものなので性能はちょっと違う)※「モンスターハンター・トータス」幕間の物語「湖の町の用心棒・後編」にて中隊長ハリス率いる帝国兵が登場

・軽装歩兵の装備は明記されていないが、雪山の帝国兵に限りポッケシリーズをイメージ(こちらも見た目だけで中身はちょっと違う云々)基本的にはレザーシリーズもどき

・弓兵の使う弓は普通に対人用(現代で云うところの13世紀~16世紀の長弓)威力はそこそこなので結界師の結界くらいでも防ぐことが可。当然モンスターに使用してもアプトノス並みに柔らかい肉質じゃないと矢が通らない+刺さっても大したダメージにならない

・大砲、バリスタ等の兵器はハンター達が使ってるのと同じもの



 

 第一射が狙いの敵基地へ命中したことで一部の兵士達からは歓声が上がる。

だが一人の兵士が、それは敵の罠である可能性を考えたのと同じように、現場指揮の一翼を担っている第二中隊の中隊長バーナードも違和感を覚えていた。

 

 こんなあっさりと砲撃可能地点まで敵の進軍を許すのか?

魔法技術と数で勝る魔人族が、自分達の行動に気づかない筈はない。

 

(もし…もしこれが…()()()()()()()()()()()()()()()()?)

 

 そしてバーナードの嫌な予感は、着弾地点を観測していた兵士の叫び声で現実のものとなる。

 

「着弾を確認!しかしっ……あれは、目標の敵基地ではありません!!」

「―――何だと!?」

 

 歓声が一瞬にして静まり返る。バーナードは背中から這い上がってくる寒気が、雪山の寒さから来るものではないことに気づき始めた。

双眼鏡を除いていた観測手は弾着地点の状況を端的に告げる。

目標と思われていた地点に飛散した残骸の周りに、敵兵士の姿は一人も見当たらず、支配種らしきモンスターの姿も確認出来ない。

 

 いつからだ?いつから帝国軍(こちら)の動き魔人族(むこう)に読まれていた?

兵士達の間に広がる動揺の波に似たような思考が幾つも巡らされる。

そんな悠長な事を考えている時間を、魔人族が与える筈もなく――――――

 

「敵襲――――――っ!」

 

 第二中隊が混乱する最中、第一中隊の見張りが叫ぶ。

シュネー雪原と向き合う雪山に陣取った帝国軍から見て十時の方角。

風属性の魔法による飛翔能力を得た魔人族の部隊が空中から急接近してくる。

 

「弓兵隊、各個に迎撃っ!弓のない兵は盾で弓兵を守れぇっ!」

 

 怒号にも等しいハリスの指示で、動揺からいち早く復帰した第一中隊の兵士達が動く。

重装歩兵が体の殆どを隠せる重厚な盾を真正面に構える。

弓兵が矢筒から矢を取り出し、魔人族の部隊目掛けて放つ。

雲の隙間から顔を覗かせた太陽の光に照らされる中、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 シュネー雪原を真っ直ぐ進むガーランド軍の第一、第二大隊。

隊列の中央、馬上に跨る旅団長デイヴォフは技能”遠視”を片目で発動させて戦況を調べる。

帝国弓兵の攻撃を予想して第三大隊の結界師達が放たれる矢の大半を防いだ。結界を抜けた矢にも対応出来るよう、抜剣した兵士達は盾で直撃を免れている。

それでも矢が刺さり地表へと羽虫のように落ちていく兵士は運が無かったとしか言いようがない。

 

「我が軍の第三大隊が、敵軍第一中隊との交戦に入りました」

「此方からも見えている。……予想より敵軍の立て直しが早いな」

 

 敵の迎撃は想定の範囲内だが、それでも先制攻撃のチャンスをものに出来ると考えていた。

しかしガーランド軍の兵士達は全体的に練度が低く、対する帝国軍は最前線の兵だけあってかなり実戦慣れしている様子が伺えた。

支配種頼みで戦っていることが裏目に出たのか。或いは―――――

 

「指揮系統に恐らく有能な者が居るのでしょう。…旅団長殿には遠く及びませんが」

「世辞は不要だ。奴らを下等と侮ったところで、戦いに勝てねば全てが無意味になる」

 

 出撃前にフリードから念押しされたことを思い出し、デイヴォフは部下達の気を引き締めた。

大局を見極める者として、2500人の旅団兵士の命を預かる旅団長として、彼は常に冷静でいる。

それこそが他の旅団長にない、彼の持つ強みなのだから。

 

「はっ!………もうじき第四大隊が到着する筈です」

「あぁ。まだ作戦遂行に支障はない……後詰のアレも準備させろ」

「了解しました!」

 

 離れていく部下を横目に遠視を解除したデイヴォフは目を閉じ盤面を思い浮かべる。

白と黒で構成された盤面の上で、様々な役割を持った駒が時間の流れに沿って動く。

一手先、二手先を良い結果と悪い結果の両方で考え、その中で相手の駒がどう動くか予想し、自分にとって成立させ易い過程に駒を進める。

敵の駒を操る者が予想を超えた動きをしなければ、勝敗は決まったようなもの。

もし彼が頭の中に描いた数千通りの想定式(パターン)を乱すものがあるとすれば―――

 

「報告!三時の方角より雪兎獣出現!第二大隊の哨戒部隊が交戦中とのこと!」

「慌てるな。第一大隊の右翼、炎術師の分隊と支配種の鳥竜種を数体回せ」

 

 自然の中に生きる、モンスター達の予測不可能な活動がデイヴォフの脳裏を過ぎる。

両陣営が思い切った行動を出来ない理由の一つに、これらの存在があった。

不用意に大軍を動かせばモンスターに襲われ、戦う目に致命的な損失を負うことになる。

だから両軍とも戦う時は必ず第三勢力(モンスター)の対策を立てているのだ。

そして、ガーランド軍がシュネー雪原というモンスター達の縄張りに入るのと同じで……

 

(あちら側も似たような状況になっているか。…運が悪いのはお互い様ということだな)

 

 

「ハリス中隊長っ!六時の方向よりモンスター接近!ドドブランゴです!!」

「くっ…こんな時に…!!第二中隊に砲撃支援要請!すぐに追い払え!!」

 

―――グルオオオォォォッ!!

 

 帝国軍第一中隊の総勢200名とガーランド軍第三大隊の総勢500名の衝突。

圧倒的に数で勝る第三大隊に押されつつあった戦況を変えるものが現れた。

突如両軍の間に降ってきた雪の塊。

直後に降り立った雪獅子が雄叫びと共に子分のブランゴを連れて暴れ出す。

 

「ヒィッ!?た、助k――――――グェ―――!」

 

 手始めにドドブランゴは近くにいた弓兵の一人をむんずと掴み、ぐしゃと握り潰した。

直後、槍を構えた重装歩兵の集団目がけて弓兵の死体を投げつける。

盾で受け止めた彼らは、さっきまで生きていた肉塊の血飛沫を鎧に浴びた。

 

「く、そおおぉぉっ!!こいつッ――――――」

「落ち着け!陣形を崩さず、奴を砲撃可能地点にまで誘導するんだ!」

 

 憤る部下を抑えながら、重装歩兵の隊長格が叫んでバックステップを促す。

一糸乱れぬ重装歩兵隊のバックステップを見た雪獅子は、当然それに釣られて迫る。

この隙に空中で制止していたガーランド軍側の第三大隊兵士が叫ぶ。

 

「今だ!モンスターに怯んでる隙を逃さず畳み込めば――――――!」

「馬鹿者!!増援が到着するまで現状維持を忘れたか!?おい戻れ!!」

 

 上官の制止を振り切って、血気盛んな若い兵士が数名高度を下げて突撃を仕掛けようとする。

だが彼らの突撃は、手近の木に登って飛び掛かってきたブランゴによって阻まれた。

雪の地面に叩きつけられた彼らは抵抗も虚しく、鋭い爪や牙で切り裂かれて悲鳴を上げる。

 

「あ、いぎゃあぁぁぁっ!?や、め―――げえぇっ!?」

「ひぃいっ!は、離せぇ!!離せええええ!!」

「いだいぃ!?お、俺の指ぃ、俺の指がぁぁぁっ!?」

 

「………馬鹿共がっ」

 

 戦場は混沌を極めようとしている。

雪獅子とその子分による攻撃は、両軍を手当たり次第に襲っていた。

雪山の白化粧を、真っ赤な血の化粧が死体と共に彩を加えていく。

そして遂に――――――

 

「第一中隊を援護する!砲兵隊、()ぇぇぇ――――――!」

 

 バーナード中隊長の号令に合わせて、動揺が収まった第二中隊が戦線に復帰した。

大砲の向きを変え、第一中隊が交戦中の雪獅子目掛けて数十発の砲弾が放たれる。

味方への誤射の危険性もあるが、モンスターを放置するのはそれ以上のリスクを伴う。

多少の犠牲を払ってでも、雪獅子を仕留めるか追い払う必要があった。

 

 熱風を伴う衝撃波で辺り一面の粉雪が舞い上がり、空中の第三大隊は咄嗟に距離を取る。

すぐに晴れた視界の先。雪獅子と交戦中だった重装歩兵隊は煤だらけになりながらも、奇跡的に至近弾の一発も喰らわずに済んで、隊列を乱さず立ち続けていた。

雪獅子はというと、砲弾をまともに食らって地面に転倒して藻掻いていた。

しかも前足の後ろ脚の一部がそれぞれ損壊し血が噴き出し、辺りに肉片が転がっている。

 

「バリスタは空中の敵を各個撃破しつつ、第一中隊の後退を援護するんだ!」

「了解っ!」

 

 第二中隊の攻撃を防ぐ為に結界師達が慌てて結界を張り直すが、弓兵の矢と大型弩砲では威力が違い過ぎると彼らが気づいたのは、仲間の数人が極太の鏃で貫かれるのを横目で見た瞬間だった。

形勢はやや帝国軍が勢いを取り戻したかに思われた。だが――――――

 

「―――二時の方向ッ、敵増援です!!」

 

 絶望に満ちた声で真っ先にそれを報せたのは、第二中隊の第三小隊第五分隊に所属するゲブルト村出身の伝令役だった。

木々の間を縫うように、山の斜面を滑るようにガーランド軍第四大隊が現れる。

 

「第三大隊の負傷者に構うな。範囲魔法で敵の総数を減らすぞ」

 

「「「焼き尽くせ……”蒼天”!!」」」

 

 第四大隊の大隊長が下した残酷な指令に対し、部下達は了解の言葉も省いて淡々と両掌を前に翳し、火属性最高位の魔法”蒼天”を躊躇いなく帝国軍第二中隊のいる場所へ撃つ。

 

「ぎ、ぐああぁぁぁっ!」

「熱い、アツイィィィッ!!」

 

―――グオォォッ……

 

「な、なんで俺達を……っ!?」

「仲間じゃ、ないのかよぉっ!!」

 

 重装歩兵が逃げ遅れて炎に焼かれる中、ブランゴに襲われていた第三大隊の兵士達も巻き添えを食らう。瀕死の重傷を負っていたとはいえ、助けようとすれば助けられた筈だ。

 

(仲間も簡単に……見捨てた……っ!)

 

 愕然とした表情を浮かべ、目の前で行われる戦闘に伝令役の青年はへたり込んでしまう。

再び状況は一転して帝国軍は第一中隊が壊滅状態となりガーランド軍が優勢に立った。

更に追い打ちをかけるように、第二中隊長バーナードの下に報告が寄せられる。

 

「雪山の麓に動きあり!あ、あれはっ、また敵軍の増援です!数……1000以上っ!?」

 

「なん……だと……?」

 

 ヘルシャー帝国軍第一第二中隊動員総数400、ガーランド軍第二旅団動員総数2500。

戦いは始まる前から、圧倒的にガーランド軍が数で勝っていたのだ。

 




 普通に考えたらラオシャンロンも怯む大型弩砲で人狙うとか当たり所悪けりゃ上半身と下半身で真っ二つに分かれてもおかしくないなとか思ったり…
ドドブランゴは犠牲になったのだ…(縄張りでドンパチされたら普通キレる)

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新生勇者の物語「プロローグ」

 どのタイミングで始めようか迷ってたけど、モチベが上がってたので迷わず投稿。


 

 遥か古の時代、ヒトの国が出来てから間もないある年のこと。

国の北に広がる肥沃の大地に黄金色の小麦畑が広がっていた。

そこを統べる貴き身分の者、ベレジナの家に一人の男の子が生まれる。

ネイ・ベレジナは、碧眼に金色の髪を持って生まれた美男子であった。

 

 蝶よ花よと両親から溢れんばかりの愛を受けて育った彼は心優しい少年に育った。

ある日、小麦畑を耕す農民が領主ベレジナ家の屋敷を訪ねる。

何者かに作物を荒らされて困っている、何とかして欲しいと農民は頼んできたのです。

屋敷の中でその話を偶然耳にしたネイは強い正義感に駆られて、自分ならなんとか出来ると思い、こっそり一人で小麦畑へと調査に向かいました。

 

 彼が小麦畑に着くと、そこには大きな赤褐色の甲羅を背負った四足の魔物が居ました。ネイは剣を抜いて魔物を追い払おうと懸命に戦いましたが、鉄の剣は魔物の甲羅に弾かれてしまいます。

お返しと言わんばかりに魔物は棘のついた尻尾で彼を殴りつけ、恐ろしい唸り声を上げました。

普通の人なら、もうその声を聞くだけで恐ろしくて逃げ出してしまう魔物を前に、ネイは傷つきながらも懸命に立ち上がり、剣に光を纏わせながら三日三晩戦い続けました。

 

 悪足掻きに思われた彼の行動は、結果的に魔物を追い払う事に成功しました。

しかし彼はこの後に、魔物を普段から倒している人々に出会って驚きの事実を知るのです。

彼が追い払った魔物…名をアプケロスというそれは草食竜と呼ばれ、魔物の中では非常に弱い存在だったと魔物を狩る人達は言いました。

ネイは「あの魔物がてっきり世界に災いを招く存在だったんじゃないか」と呟き、それを聞いた彼らは大笑いしながらも、勇敢に戦った彼を気に入り、ある提案を持ち掛けたのです。

 

「俺達と一緒に、大陸中のモンスターを見て回り…やれそうなら一緒に戦ってみないか?」

 

 昔々のお話…ハイリヒ王国北方のベレジナ領にだけ伝わる勇者ネイ・ベレジナの御伽噺。

魔物との戦いを子供に読み聞かせるのは内容を少々柔らかな表現にする必要があった。

そして一切手を加えず子供に話せる話がこの「小麦畑の侵略者」である。

最後のオチを聞いて大人も子供もクスッと笑って物語の終わりを迎えられるのだ。

 

 

「―――――――――はい…お話はこれでお終い。みんな、もうお家に帰る時間よ?」

 

「えぇ~もっとお話し聞きたーい!」

「勇者はそれからどうしたの~?」

「魔物を狩る人達と一緒に旅に出たんでしょー」

「その後は~?」

 

 ベレジナ領の中心、屋敷から一番近いところにある村落にテレジア・フォン・ベレジナは居た。

無人となった教会を借りて、彼女は子供達に絵本の読み聞かせをしていた。

 

 取り潰しが決まったベレジナ家の人間は領地を駆け回り、王国が帝国の支配下に置かれたことを伝えて回った。

領民達は慌てふためく者こそいたが、領地から逃げようとするものは一人としていなかった。

ベレジナ家は代々明主が続く貴族として知られ、領民達からとても好かれているからだ。

 

 老いた父ギュスタヴに代わって長男ナルサスが人口の多い町や村々に赴き、町長らと話し合いながら今後について話し合いをする。次男のアベルが彼の補佐として動き、テレジアはまだ幼いという事もあって父ギュスタヴと共に近隣の村を訪れている。

 

 夕焼けの光が教会の窓から差し込む。

本来であれば教会の人間が日没に併せて鐘を鳴らすのだが、教会に神父や信者の姿はない。

聖教教会の神父達は事の真偽を確かめるべく、神山へ向かっているらしい。

 

 子供達が家に帰っていくのを、テレジアは手を振ってにこやかに笑いながら見届けていた。

それから静まり返った教会の扉を閉め、彼女はギュスタヴの待つ宿へ戻る。

 

「ただいま戻りました、お父様」

「あぁ…おかえりテレジア。子供達の遊び相手になってくれて、ありがとう…と村長から伝言を預かっているよ」

「そんな…私はただ、ベレジナ家の娘として当然の事をしただけです…」

 

 謙虚に振る舞う彼女の姿を見て、ギュスタヴは時々(厳しく躾けすぎたんじゃないか?)と不安になる。

テレジアくらいの歳の子は家のしがらみとかを深く考えず、もっと自由になってもいい筈だ。

申し訳なさそうに目を伏せる父親の姿を見て、彼女はその心の呟きに気づかず首を傾げた。

ギュスタヴは明るい話題に変えようと、和やかに彼女へと問いかける。

 

「…ところで、今日はいったいどんな遊びをしてあげたのかね?」

「はい。今日は絵本を読み聞かせたのです…勇者ネイ・ベレジナの話を」

「そうかそうか。あの御伽噺はアベルが幼い頃、よく私に読み聞かせを強請ったものだ」

 

 ギュスタヴの話を聞いたテレジアは目を丸くして驚いた。

冒険者になって家を出て行く前のアベルが、父親に対してそんな風にお願いをする姿など想像出来なかったからだ。

 

「アベル兄様が…。…では、ナルサス兄様は?」

「ナルサスは元々そういう物語にあまり関心がなかったようでな。読み書きを自分で出来るようになった頃から読み聞かせはしなかったよ」

 

 そう言われると、彼女は心の中で「確かに」と同意の声を呟いた。

テレジアの記憶にある長男が本を読む光景に、御伽噺や冒険譚らしいものは見当たらず、代わりに経済学や政治学と難しい内容の本の題名が思い出される。

 

 長男だから、いつかは家督を継ぐナルサスにとって、純粋な子供でいられる時期はあまりなかったのだろう。

貴族の子であるなら猶更だ。

 

「………」

「…ん、どうしたテレジア。何か気になることもであったのか?」

 

 思案顔をするテレジアを見てギュスタヴが聞いた。

彼女は手元にあった絵本の表紙に目を向けた。輝く鎧の上からボロボロの外套を纏い、血に濡れた剣を片手に、もう片方の腕に盾を巻きつけ、松明を持って魔物に立ち向かう青年の絵が描かれたそれを見つめながら問いに答えた。

 

「お父様。この物語に出てくる魔物狩りの人というのは、ひょっとして―――」

「あぁ。恐らくヘルシャー帝国のハンター…彼らの先祖に当たる者達だろう」

 

「ですがお父様、ヘルシャー帝国はトータスの歴史から見て比較的新しい…建国から140年しか経っていない国のはず。この本の話は古く、推定でも千年以上前と言われています……ハンターが大昔から存在していたと仮定しても……ネイ・ベレジナ様…私達のご先祖様は、一体どのような経緯で彼らと出会い、恐ろしい魔物と戦いながら生きて来られたのでしょう……」

 

「……それは私も易々と答えを出せない問いだな。もしかしたら、帝国の歴史を紐解けば……ちゃんとした答えも出てくるかもしれないがね」

 

 しかしテレジアが領地を出て、帝国の地に足を踏み入れる事が出来るようになるのはまだずっと先の話だろう。

それを分かっているギュスタヴはせめて自分が生き永らえている間くらい、テレジアに窮屈な思いをさせずに伸び伸びと健やかに成長して貰いたいと思った。

 

 

「ナルサス様。収穫した農作物の詳細を此方の羊皮紙に明記しておきましたので、お手が空き次第確認済の押印をお願いします」

「あぁ」

 

「ナルサス様。重い病に罹った者が、商業都市フューレンのアラン医師に診てもらいたいと騒いでおりまして……なんとか通行許可証を貰う事は出来ませんでしょうか?」

「…すまない。帝国には私から特例を出して貰えるよう掛け合ってはみるが、まだ許可は下りていないのだ…医師を派遣して貰えないかも聞いてみる」

 

 ベレジナ領で一番大きな町にある役人用の施設。ナルサスはこれまで父が座ってきた執務室の椅子に座りながら、堂々とした態度で集まった町長らと話し合いながらも書類に目を通し、手は印鑑とペンに向かって交互に動いていた。

 

 明らかに疲れの色が滲んでいるナルサスだが、決して泣き言を漏らさず仕事に没頭している。

アベルはそんな兄の姿を見て内心誇らしく思いながら、中々役に立つことが出来ずにいる自分を情けなく思い、歯痒さを感じていた。

そんな時だった。部屋の扉が開いて一人の男が駆け込んでくる。

 

「ナルサス様!帝国の奴らから伝書鳥が飛んできて、これが――――――」

 

 息を切らしながら男は手紙をナルサスと周りの町長達に見えるよう広げた。

内容は商業都市フューレンに来ている帝国の使者を、ベレジナ領の人間が迎えにいけというもの。

 

「こんな忙しい時に迎えの馬車を寄越せと言うのか!?」

「けど、どうする?断ったりなんてしたら後が怖いぜ……?」

「今は帝国との関係を良好に保つのが先決だが……むぅん……」

 

 ベレジナ領から商業都市フューレンまではそう遠くはない。

だが道中の街道には盗賊や、酷い時は狂暴な魔物が出てくる事もあるのだ。

護衛をつけたくても宿場町ホルアドの冒険者組合にまで足を運んで依頼をしにいくのは手間になるし、何より通行が許されない可能性がある。

幸い手紙にはベレジナ領からフューレンまでの関所に話は伝わっていると書いてあったが………

 

「兄上、此処は俺に任せて下さい」

「アベル?」

「俺がいけば帝国の使者も納得するでしょうし、道中の危険もある程度なら排除出来ます。…それとさっきの病人の件も、俺がアラン医師に来て貰うよう話をしてきます。護衛が足りなければ冒険者組合か、帝国のハンターズギルドを頼ろうかと思います」

 

 ベレジナ家の人間で、かつ冒険者…少しだがアベルにも人を雇うくらいの貯金はある。

ナルサスはじっと彼を見つめ、周りの町長達が同意を求めるように首を縦に振ったのを見て頷く。

 

「…そうだな。分かった、お前に頼むとしよう」

「はいっ!」

 

 こうしてアベル・ネイ・ベレジナは再び商業都市フューレンを目指すことになる。

奇しくも彼が進もうとしている道は、かつて勇者ネイが魔物を狩る者達と旅を始めた道であった。

 




 まだ主要人物が全然出てこないから後書きで書くことが思いつかない……!
強いていうなら勇者と呼ばれたネイ・ベレジナさんは初期ステータスだけで平均500くらいはあったんじゃないかなくらい(更に最初から限界突破と光属性持ち)

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戦姫の旗に集いし者

 ハジメ達が樹海で色々やってる時間軸から二日、三日先の出来事です。


 

 帝都グラディーウスの北側、一般人は立ち入る事が出来ない帝国軍が管轄する地域。

そんな地域の検問所を当たり前のように徒歩で通過できる者は限られていた。

陽が昇って間もない頃、検問所の見張りを任された兵士が欠伸を噛み殺そうとして…

 

「変わりないか」

「――――――こ、皇女殿下!!?は、はいっ本日も異常なしでありますっ!」

 

 トレイシーが突然現れたことで見張りの兵士は目ん玉を飛び出さんばかりに驚いた。

敬礼した兵士に彼女は頷いて検問所を通り過ぎようとし――――――

 

「うむ。……深夜の酒と賭け事は程々にしておけ」

「は…っ!?は、はひぃっ!」

 

 彼の口元から微かに漂う酒気と検問所の休憩室に置かれた賭けの道具を瞬きの間に視界の端で捉えたトレイシーは、微笑を浮かべて彼に聞こえる程度の声で囁いた。

心臓がキュッと締まるような悪寒を感じて見張りの兵士はガタガタ震えながら何度も頷く。

 

 それを少し離れたところから見ていた雫は、自分がこれから仕えるトレイシーの皇女という肩書だけでは測れない様々な能力の片鱗を感じていた。

 

「雫、遅れずについてこい」

「はいっ」

 

 トレイシーの方へと小走りで駆け寄っていく雫を、見張りの兵士は物珍しそうに見ていた。

本来であれば身分を確かめたり、様々な持ち物検査等を行う必要がある筈だが…

 

(皇女様の付き人みたいに思われてるのかしら…)

 

 警備体制が甘いんじゃないかと疑う一方で、万が一この検問所を抜けられた程度では問題にもならないのかもしれない。雫はこの先に待ち受けるものが何なのか興味を抱きつつトレイシーの後ろをついていった。

 

 

「これは――――――」

「右側手前の建物は正規兵の宿舎、左側手前は新兵の訓練所と運動場が併設されている」

 

 トレイシーの説明を聞きながら、雫は初めて見る軍隊という組織の拠点を目にした。

他の地域はまだ外を出歩く人の数も疎らで静まり返っていたのに対し、此処は活気に満ちている。

 

「ハァッ!セェア!!」

 

 ある者は自主訓練だろうか、的に向かって一心不乱に槍を突いて掛け声を出していた。

 

「装備確認!整備兵各隊報告!」

「剣、盾、鎧に鎖帷子、異常なーし!」

「弓、矢、矢筒、投石布、異常なーし!」

「戦車、騎馬、予備共に異常なーし!」

 

 またある者は複数人が集まって自分達の装備品のチェックや整備をしていた。

 

「新兵起床!!さっさと整列せんかーっ!!」

「「「サーイエッサーッ!!」」」

 

 左の運動場では新兵が教官に怒鳴られている様子が見える。

離れていても熱気と汗臭さに油臭さが伝わってきそうだ。

見慣れない光景に放心状態だった雫がハッと我に返って自分に言い聞かせる。

 

(これが軍隊の空気って奴なのね……早く慣れなきゃ…)

 

「雫、帝国軍の兵達の様子…お前にはどう見えた?率直な感想を言え」

「は、はいっ!その……もっと戦時中で空気が重々しいのかなと思っていましたが、そんな空気は微塵も感じられません。…私の故郷にあった道場みたいで…活力と熱に満ちています」

 

 只の剣術少女でしかない雫には分からない事だが、軍隊は人殺しの集団というイメージが先行して野蛮で、粗暴な振る舞いをする人間が多いと悪く捉えられがちだ。

帝国軍も十数年前はそういった者が度々問題を起こして民衆や他国から敬遠されていた。

 

 それを変えたのがトレイシーだった。彼女は兵士から士官に至るまで、待遇の改善を約束する代価として風紀と規律を重んじる教育を徹底させた。

 

「国家の存亡や戦の勝敗など、個々の兵士が考えてどうこうなるものでもなし。如何に国家を存続させるか、どのようにして戦に勝利するか、それを考えて決断するのは上に立つ者の仕事だ」

 

 五年という期間で彼女がそれを成し遂げられたのは、魔人族との戦争に於ける人間側の初勝利となった戦の功績が大きい。それも、彼女が率いていた騎兵隊がトータスの歴史に於いて初となる一つの性別で統一された部隊だった事が後押しとなっていた。

 

「―――――皇女殿下!」

 

 検問所から一直線に最奥の建物まで続く貨物運搬用の道、馬に跨った兵士が二人の方へと駆け寄ってくる。雫は馬上から聞こえてきた声が、同性のものである事に気づいて困惑した。

 

(女性の兵士……?)

 

「アマーリエ大隊長出迎えご苦労」

「はっ!――――――殿下、そちらの娘が?」

 

 アマーリエはトレイシーよりも背が高く、馬上から降りてきてもその大きさに雫は圧倒される。

片膝をついて敬礼を済ませた後、アマーリエの目が雫へと向けられた。

 

「あぁ、神の使徒の一人だ。使えるか確かめる為に連れてきた」

「や、八重樫雫と言います!」

「…帝国軍第一騎兵大隊の隊長をしている”アマーリエ・フォン・ハーゼ”だ。君について殿下からある程度の話は聞いている。今は()()として君をもてなそう」

 

 アマーリエは雫が神の使徒だからと嫌悪感を抱いている様子はないが、それでも彼女を此処へ連れてくることに少々思う所がある様子だった。

 しかしそれを言葉の端々に含ませるだけで、表情は一切微動だにしない無を貫いている。だから雫も彼女に態度で返すことはなく、彼女の言葉に対して頷きだけ返す。

 

「大隊長、他の者は集まっているか?」

「……いえ、まだ英雄と盾のお二人が……」

 

 英雄と盾―――その単語で呼ばれる二人組のハンターに、王国からの移動中守って貰った事を雫は思いだした。英雄サー・ミッドガル、英雄の盾マリアンナ・ベスタは例外と呼ばれるハンターの中でも最上位に位置する存在だった。

 

(ハンターと軍は無縁だって聞いてたけど…どうして二人が此処に呼ばれるのかしら?)

 

 雫が疑問符を浮かべている横で、トレイシーは行き先の変更をアマーリエに告げた。

 

「…では詰所の方に寄っていこうか」

「了解しました。殿下が来ると知れば部下達も喜ぶでしょう」

 

 

 トレイシーと雫が目を覚ます前、帝都グラディーウスから一番近いライセンの荒野にて…

 

「ハンターとして最後に受ける依頼の相手がコイツとは、なんと因果な…」

 

 そう呟きながら、サー・ミッドガルは炎王獄大剣【覇王】で猛攻を防ぐ。

暗緑色の鱗に包まれた獣竜種のモンスターは、唸り声をあげながら攻撃の手を緩めない。

下顎を覆う棘に見えるものは発達し過ぎて口外に飛び出した牙、このモンスターだけが持つ異常な食欲と凶暴性を象徴するもので()()級の危険生物とハンター達から恐れられている。

 

 だが彼にとっては既に何度も狩った相手であり、その生態を知り尽くした彼がこれを恐れることは絶対にない。

地面を抉りながら横薙ぎに襲ってくる尻尾も、太く強靭に発達した後ろ脚での踏みつけも、龍属性の状態異常を纏ったブレス攻撃でさえ、彼は欠伸をしながら防げる。

 

「サー・ミッドガル。そろそろ終わりにして下さい」

「へいへい。そんじゃ…ほらよっと」

 

 手に持った書類に記載されたクエストのターゲット一覧と、市場の鮮魚のように横並びで罠にかかって捕獲されたモンスターを照合していたマリアンナ。

腰に差した艶妃剣【仮初】を彼女はクエスト開始から一度も剣を構えることはなく、戦闘は全て背後で戯れているミッドガルに一任している。

加減をしても二人の武器で同時に攻撃を加えたら、うっかり捕獲対象を殺しかねないからだ。

 

―――グギャアァァァッ!?

 

 軽い掛け声と同時に、サー・ミッドガルは防御の構えを解いて横に斬りつける。

大剣の攻撃手段の中では弱いとされる横振りの一撃で、それは無様に吹っ飛んで横に倒れた。

決してそれが弱い訳ではない。彼の持つ大剣の力が、それの耐久力を大いに上回っているのだ。

 

 此処には居ないハジメが現在使っている双剣・オーダーレイピア。それを最終系まで進化させたものが持つ倍以上の力が、炎王獄大剣【覇王】の一振りにはある。

切れ味も属性値も桁違い、そしてこの性能を更に底上げするのが身に纏う防具であった。

何よりも…この武器を完成させるまで彼が戦ってきた相手は、目の前にいる()()()()()を容易く屠るほどの力を持った怪物達であり、彼はそんな怪物達を何度も狩っている。

 

「圧倒的な力の差で狩るってのは、思いの外すぐに飽きるもんだな…」

 

―――グ、オォォォッ…

 

 脚をバタつかせて起き上がろうとするそれを横目に、サー・ミッドガルは淡々と罠を仕掛ける。

それの足下に展開された罠が作動し、間髪入れずマリアンナが捕獲用麻酔玉を投擲した。

ライセンの荒野に現れた特級の危険生物ほか飛竜種、獣竜種、鳥竜種あわせて()()()()()()

クエスト開始から()()()でそれを終わらせた二人は捕らえた獲物と共に荷車で帝都へ向かう。

 




 古龍級生物でも上位個体なら瞬殺出来るとかいうフロンティアハンターの規格外な強さ。
因みに今後出番あるか分からないので二人の武器について軽く解説。

炎王獄大剣【覇王】
 ある古龍の素材を基に作られた大剣。朱色の刃は全てを飲み込み蹂躙する炎を纏い、これを持つ者は王者の器を持つ者であるという。現状ハンター達の所有する中で最大の攻撃力と攻撃範囲を誇る。やや反り返った刃の中腹に窪みのある特殊な造りと、鍔の素材に古龍の角を丸ごと使用し、結節点に青い一つ眼がついている。

艶妃剣【仮初】
 ある古龍の素材を基に作られた片手剣。所有者から心を奪う代わりに永遠の勝利をもたらす蒼き剣と言われている。他の近接上位武器を軽く凌駕する攻撃力と切れ味、火属性片手剣では歴代最強クラスの属性値を持っているらしい。剣の見た目は古風な鍵、盾は鍵穴の形をしている。

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。


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ありふれた与太話《プロローグ》

!!注意!!

 このお話はモンスターハンター・トータスのメインストーリー後の時系列から始まる物語です。まだ本編で書かれていないキャラクター達の関係性が進んでいるので、そういうのを見たくないという方はブラウザバックを推奨します。「私は一向に構わんっっ!!」という方だけ、リハビリ投稿がてら書いたIFのストーリーをどうぞご堪能下さい。


 

 南雲ハジメがハンターとして戦う物語は、大元の世界から数多のIFが積み重なり、分岐して生まれたパラレルワールドである。死ぬ筈だった人物が生き残りその逆もあって、また本来はその世界に存在し得ない生物が自然の中に息づいて生態系を構築している。

 

 言ってみれば大元の世界を知る者からすれば理解し難い混沌(カオス)である。

彼らの進む未来に待つものが大団円(ハッピーエンド)破局(バッドエンド)か、それを知るものはまだいない。

 

 故に、これから始まる物語は刹那の夢物語。

片や始まりの零からIFを積み重ねて終わりを迎えるであろう世界、片や大元の世界に最も近いようで流れの異なる世界。両者を繋ぐ鍵となるのは海人族の幼子と超越の存在だった。

 

 

「…297…298…299…300ッ!」

 

 マイハウスの外に併設されたトレーニングルームで、ハジメは久しぶりの狩りを終えた後の反省を兼ねて自己鍛錬に没頭していた。汗をかいて、呼吸を整えながら心の中で独り言を呟く。

 

(…怪鳥相手に一乙しかけるとは…)

 

 彼の狩りの相手は怪鳥の異名で知られる火の玉を吐くモンスター・鳥竜種イャンクック。

彼がハンターとして活動する為に入った訓練所の卒業試験で最初に狩猟したモンスターでもあり、単調な攻撃や倒しやすさから、モンスターでありながらハンターに狩りの基本を叩き込んでくれる先生として親しまれている。

 

 しかしハジメはその先生を相手に油断して危うくベースキャンプ送りにされるところだった。

幾ら鳥竜種の中でも弱い部類に入ると言っても、生身の人間なら歯が立たないモンスターだ。

鋼鉄の剣を弾き、矢では鱗の表面に罅すら入れられず、最上級魔法で多少傷をつけられるかという常識外れの相手に、挑む力を持つ者こそがハンターである。

 

(…弛んでる。幸福続きの人生で…甘えが出て来てるな)

 

 美人の彼女達に囲まれて、救世の英雄だ最強のハンターだと煽てられて、心の何処かで天狗になっている自分がいるのではないか?

そう思った彼は自分に腹を立てて、素手で地面を殴りつける。

 

「思い上がるな…俺はまだ未熟だ…!」

 

 世界を救うほどの活躍をした人物が他にも大勢いる事をハジメは知っている。守りたいものの為に自らの運命を躊躇いなく捧げた男を、そんな彼の隣に立って彼を支えようとした意志の強い少女を、生を呪って苦しみ藻掻きながら前を向いた女を、多くの犠牲と献身があって今に至った。

 

「……フーッ……(忘れるな、心に刻め)」

 

 何十匹、何百頭、何千体、那由他の彼方まで獲物を狩ろうと自分は未熟。

狩人の進化に終わりはなく、鍛錬と成長は一生続く。

汗を拭う時間すら惜しんで、一心不乱にハジメが次の鍛錬に移ろうとした時だ…

 

コンッコンッコンッ

 

 トレーニングルームの扉が外からノックされて、動きを止めた彼は扉の方を向く。

 

「ハジメさん。ご飯の準備が出来ました」

「ん、分かった。呼び来てくれてありがとな”シア”

 

 扉の外に居るのはシア・ハウリア。亜人族で最初にハンターとなった少女であり、ハジメの後輩兼彼女の一人でもある。自己鍛錬を中断して、彼は桶に張った水を頭から被る。

 

 濡れた銀色の髪の水気を手で絞り、壁に掛けてあるタオルで髪と体を拭く。

防具と武器をアイテムボックスへと収納し、普段着へと着替えてから外に出る。

シアはトレーニングルームの壁に寄り掛かり、出てくる彼に気づいて駆け寄った。

 

「悪いな、着替えまで待ってもらって…」

「大丈夫ですよ。行きましょう」

「あぁ」

 

 マイハウスまで続く木の廊下を二人は肩を並べて歩く。

以前であれば、こんな風に並んで歩くだけでもお互いに変なことを意識してどぎまぎしていたのだが、今となってはこれが彼女達の当たり前の光景である。

 

 シアに倣って空の様子を見て明日の天気を想像していたハジメ。

そんな彼を横目に見ていたシアは心配そうに話しかける。

 

「…今日の狩り、上手くいかなかったみたいですね」

「…分かるか」

「クエストから帰ってきた時、ハジメさんの防具がちょっと焦げ臭かったですし、それに…さっきの音が聞こえてしまったので、何となく察しちゃって…」

 

 さっきの音というのはハジメが地面を殴りつけた時の音だ。

亜人族の中で最も鋭敏な聴覚を持つ兎人族だからこそ、音の聞き分けがし易い。

見られていないからと油断して醜態を晒したことに彼は恥じらう。

 

「俺もまだまだ未熟だな」

「…ハジメさん自身がそう思うなら、きっとそうなのかもしれません。でも―――」

 

 本当は心の中で「そんな事はない」と否定して欲しい反面、甘やかさないで欲しいという彼の複雑な心境を察したシアは肯定したうえで言葉を続ける。

 

「自分が未熟だって思うなら、私を頼って下さい。私は…ハジメさんの彼女である前にハンターであるハジメさんの、最初の後輩なんですから。私が前で戦って…」

 

「…ガンナーの俺が援護する」

 

 かつて二人きりで高難易度クエストに挑んだ際、ハジメがシアに言った事だ。

 

 ボウガンを使う遠距離攻撃主体のハンターをガンナーと呼ぶ。ハジメの戦い方はライトボウガンによる機動力を生かした早撃ちだが、欠点としてそれ単体の攻撃力が足りない。

 

 一方で攻撃力に全振りしているハンマー使いのシアは、兎人族の能力を存分に発揮して機動力も補ってはいるが物理攻撃と打撃一点に集中している為、相手によっては苦戦を強いられる。

 

 お互いの戦い方を把握して足りないものを補う関係を最強と呼ばれた二人のハンターから学んで、ハジメとシアは初見の高難易度クエストを見事に達成した。

 

「次クエストに行くときは、誘ってくださいね?ハジメ先輩♪」

「…あぁ…そうだな、付き合ってくれ」

「はいっ!喜んで!」

「…ま、それはそれとして…」

 

 ハジメは意地悪い笑みを浮かべてシアの頭を軽くポンポンと叩いた。

 

「あうっ…」

「後輩の癖にちょっと生意気だ。…そんなに自信満々なら、次のクエストはライセンの荒野探索で発見した”ディアブロス亜種”の歴戦個体狩猟・制限時間15分で決まりだな」

 

 ディアブロス亜種、大型の飛竜種でも上位5本指に入る別名・黒角竜を聞いてシアのウサ耳ピンと直立し、見る見るうちに顔色が真っ青になる。

 

「ふひぇっ!?そ、それはちょっと厳しいですよぅ…」

「何言ってる、アンカジで戦った鏖魔に比べればマシだ。…油断したら死ぬけどな

「アレはもう角竜の皮を被った古龍級生物ですぅ~!」

 

 鏖魔ディアブロスと呼ばれる亜種とはまた別の特殊な個体。

それの初討伐をやり遂げた時はハジメ、シア、ハジメと同期のハンター二人で辛勝だった。

また同じ個体を狩れと言われても一人(ソロ)では到底敵わないだろう。

 

 懐かしい話に花を咲かせながらマイハウス脇の農場を通って中に入ろうとした二人。

そこへ農場の中から顔を出した竜人族の女が声をかける。

 

「何やら楽しそうに話しておるではないか」

「あっ、”ティオ”さん!お野菜の収穫ですか?」

「うむ!今朝がた目をつけておいた野菜が良い具合だったのでな。夕餉の副菜じゃ」

「いつも農場の世話を任せきりで悪いなティオ」

「気にすることはない。こういう事も、花嫁修業の一環になるからの」

 

 ティオ・クラルスは元々竜人族の姫であったが、ある少女との因縁で竜人族の掟を破って竜人族の暮らす仙境から追放される事になってしまい、現在は仮登録のハンターとしてシアに続くハジメの後輩兼彼女として同棲している。

 

 ティオの言葉に反応したシアが小声で「花嫁修業…」と呟いたのをハジメは聞き逃さなかった。

ハジメと交際関係にある少女達は誰が正妻かという争いを一切せず「唯一無二の特別な相手と寄り添う」というルールに当事者であるハジメ協力の下、将来を見据えた生活を送っている。

 

 彼自身も今付き合っている彼女達で「誰が一番特別か?」と聞かれたら「全員」と答える。

単に優柔不断という訳ではなく、付き合う相手に一番も二番もないという考え方だ。彼女達の前では言わないようにしているが、ハジメの自己評価はかなり低い。そのうえで「俺みたいな男に付き合ってくれる娘に失望されないよう全力を尽くす」というスタイルで付き合っていた。

 

 恋人の関係において、常々問題視される浮気やら二股やら。ハジメと彼女達の関係にそれが当てはまらないのは、共通して「日常の不平等を包み隠さない」という主義に基づいて生活しているからだった。完全な相互理解は難しいが、それに近いものなら当人たちの努力次第でどうとでもなる。それに付いてこられないのなら、とてもじゃないが特別な関係としてはいられない。

 

 ハジメと付き合っている9人の彼女全員が物理的キャットファイトを起こさないのがその答えである。彼が頭の中でそう思っていると、ふとティオのひとさし指がぷにっと彼の頬肉を突いた。

 

「んぅ…なんだ?」

「フフ……妾達との関係について何やら思案しているようだったのでな。あまり小うるさい事は言わぬが、全員集まって食事を摂る夕餉の前にそのような事を考えるのは無粋だと思わぬか?」

 

 彼女の言うとおりだなと思い、ハジメは謝って思考を切り替えた。

シアが不思議そうに首を傾げていたが彼は「なんでもない。行こう」言って歩みを再開する。右隣にシア、左隣にティオと両手に花状態だが、普段は両手に花どころか両手いっぱいの花束である。

 

「そういえば、ティオのギルドカードはまだ正式に交付されてないのか?」

「うむ、毎日集会所へ聞きに言っているのだが、仙境の方からまだ許可が降りていないのじゃ。…恐らく爺か従者あたりが首を縦に振っておらんのじゃろう…」

 

 仙境にいったことのあるハジメとシアは彼女の祖父である長や従者のことを思い出す。

二人がどんな顔をしてティオのハンター登録を聞かされて、今もなお許可を出していないのか。彼らの顔が目に浮かぶようで二人揃って「あぁ~…」と納得の声を漏らした。

 

 ハジメがマイハウスの扉を開けて中に入ると暖かい空気が三人を迎え入れる。

天井に吊るされたシャンデリアの煌々とした明かりに照らされて、床にはひし形模様の大理石の上から赤い絨毯が道のように敷かれている。

 

 二階の寝室に続く螺旋階段の壁には、ハジメ達がこれまでやり遂げてきた功績を称える皇帝・ギルドマスター直筆の感謝状やら、特別なモンスターを倒した際にギルドやクエスト依頼主から贈られる掛け軸やら絵画やらが飾られていた。

 

 一階の大広間は中央にテーブルが置かれ、上にはそこに所せましと料理が並べられていた。

正面玄関の右手前はアイテムボックスの他に狩りに欠かせない道具が所せましと並ぶ。

右奥はオトモ専用のエリアで、ハジメのオトモアイルー”ドンナー”とオトモガルク”シュラーク”が先にご飯を食べている。

左手前にはトイレや風呂に通じる通路の扉があり、左奥には天井まで伸びる煙突と繋がる暖炉と暖炉の前に置かれた横長の椅子に座って談笑する海人族、森人族、狐人族の姿があった。

 

「あっ!ハジメお兄ちゃんお帰りなのー!」

「お疲れ様ですわハジメ様」

「お帰りなさいませハジメ様」

 

”ミュウ”、”アルテナ”、”エタノ”皆ただいま」

 

 ミュウ・メロウは見た目こそハジメと同い年に見えるが中身は五歳の立派な幼女であり、現在は母”レミア・メロウ”と共にハジメの彼女として一緒に生活している。

彼の名誉のために言っておくが決して彼がロリコンという訳ではなく、また未亡人好きという訳でもない。

 

 ミュウとは初めて会った日のある事がきっかけで、レミアとは彼女の心の支えになると約束したことでお互いに歪な関係である事を理解したうえで付き合っているのだ。

 

「ミュウ、レミアは?」

「ママは優花お姉ちゃん達のお手伝い中なの~」

「そうか。…今日は何してたんだ?」

「ミュウ今日はアルテナお姉ちゃんに読み書き教えて貰ったの!ハジメお兄ちゃんの住んでるところの”にほんご”の”ひらがな”は全部書けるようになったの!」

「うん、ちゃんと勉強してて偉いぞミュウ」

「えへへ~」

 

 ハジメはミュウに、まだ異性として完全に接しきれていない。…というか接してはいけないと心の中で誓いを立てている。幾ら見た目は同世代でも中身が幼児で手を出そうとは思わない。

だからこうして一緒に暮らしている間は他の彼女達に協力して貰いながら一般教養を教えて精神が肉体に追いつくまでの期間…最低でも十三年以上は恋人らしい行為を絶つつもりでいる。

 

 それまでの間に彼女が心変わりするなら、それも構わないとハジメは思ってはいるが、母レミア曰く「あの子は私達が思っている以上に意志の強い娘よ。容姿や性格、家柄くらいじゃ他の雄に見向きもしません」とのこと。

雄という言い方が少々引っ掛かるものの、確かにミュウの意志は強いと彼も思う。好きな人が自分の母親とただならぬ関係にあると察しながら、嫉妬せず受け入れたうえで自分の好きを諦めないというのは中々に豪胆である。

 

「…??お兄ちゃん、どうしたの?」

「ん、いや…ちょっと考え事をしてたんだよ」

 

 そう言ってハジメは誤魔化すようにミュウの頭を優しく撫でた。

彼女が満足気に「えへへ~」と笑ったのを見て、すぐに彼はアルテナにも話しかけた。

 

「アルテナも今日はミュウの勉強に付き合ってくれて助かった。ありがとう」

「お礼の言葉など不要ですわ。何せ日本語の勉強は私もミュウちゃんと一緒になって首を傾げながら切磋琢磨する間柄ですので!まだちょっと”漢字”のマスターに時間が掛かりますわ!」

「そうか。何か分からない事があったら聞いてくれ、答えられる範囲でなら答えるよ」

「あっ…ハジメさん、アルテナさん。その時は私も一緒に教えて貰っていいですか?」

「えぇ勿論ですわシア様。その時は是非三人でご一緒に!」

 

 アルテナ・ハイピストは森人族の族長”アイリス・ハイピスト”の一人娘、訳あって亜人族の国フェアベルゲンから追放されることになってしまい、親友となったシアと一目惚れしたハジメの彼女として一緒に暮らしている。

現在は何も仕事をしていない為、主に隣に座るエタノからニート呼ばわりされているが、ハジメの傍に一秒でも長く居られるようにと”編纂者”になる為の勉強をしているという。

 

 以前はお淑やかなお嬢様のイメージの強かったアルテナだが、フェアベルゲンを出てから初体験の暮らしや文化に触れた結果、かなりテンション高めのお嬢様になっていた。ハジメは内心「これはこれで容姿とのギャップ萌えがいい…」と思っている。

 

 あまり公言しないが、異世界トータスにおいてハジメが一番出会って喜んだのは森人族だった。

絵に描いたようなエルフ耳と優れた弓の使い手というのが彼のオタク心を刺激したのである。

 

「ハジメ様。本日のクエストの報酬金と契約金の差額を家計簿に記入しておきましたヨ」

「ん…いつも助かってるよエタノ。どうにも俺はその手のものに疎くてな…」

「クココッ♪これくらいは狐人商会の長、未来の妻として当然のことです」

 

 エタノ・ママモは魔人族と密通していたことでフェアベルゲンを追われた狐人族の中で、人間族の生活圏で商売をする狐人商会を束ねる若き商人でありハジメの彼女でもある。

 

 ハジメはしっかりしているように見えて金銭管理が意外と杜撰な面があった。特にトータスでは簡単にお金が手に入る環境下だった事もあって付き合い始めた当初、彼女達から金遣いの荒さを咎められたことがある。

 

「いつかは経理の勉強とかもしないといけないのかもしれないな、俺も…」

「その時は私が手取り足取り、懇切丁寧に教えて差し上げますわ♪」

「お手柔らかに頼むよ」

 

 そう言ってハジメは四人に「そろそろ席につくか」と促す。さっきまで一緒にいたティオは会話の最中に抱えた野菜を持って奥の台所へと去っていたが、席につこうとしたタイミングで他の少女達と一緒に料理をのせた皿を抱えて戻ってくる。

 

「ハジメ、今日は何を飲みますか?」

「ん…そうだな…”狩人ビール”ジョッキで頼む」

 

 その内の一人”ノイント”は台所脇の冷蔵庫(家電ではなく地下に穴を掘って氷で覆われた食料の保管庫)から瓶の狩人ビールを取り出して、慣れた手つきでジョッキへと丸々一本分注いだ。

 

 彼女はかつて神”エヒト”によって作られた真・神の使徒(神の使徒という呼称はハジメ達、異世界トータスに召喚された者達に使われていたが真・神の使徒とは全くの別物)だった。ある男の力で今までなかった人格を与えられ、色々あってハジメの彼女として一緒に暮らしている。

体の造りが人間とは違う為、それを活かして現在は色々な仕事の手伝いをする傍らハンターとしての訓練を受けているらしい。

 

 彼女はかつて竜人族を滅ぼそうとしたことでティオに憎まれて殺されそうになっていたが、現在は和解してお互いに同じ少年を好きになった同志として見ている。

余談だがこのマイハウスにいるメンバー中、ダントツの年長者でもある。

 

「…ハジメ、今なにかとても失礼なことを考えませんでしたか?」

「気のせいだノイント。気のせいって事にしてくれ」

「…分かりました。今回は気のせい…という事にしておきます」

 

 ハジメは零れそうな泡に気を付けながら手渡されたジョッキを机の端っこに置いた。

そんな彼の前に山盛りの肉と野菜が載せられた皿を置く海人族の女性。

 

「レミア、足の調子は良いみたいだな」

「えぇ。ノイントちゃんがリハビリに付き合ってくれたお陰よ」

「…否定、あくまで足の調子はレミアの頑張りによるもので私は何も―――」

「転びそうになった時は支えてくれてたでしょう?助かったわ、ありがとう」

「…感謝…受けておきます。どういたしまして…今後もお困りでしたら…」

「ええ、お願いね」

 

 レミア・メロウはミュウの母親で、ハジメと出会った時は色々あって生きる気力を失っていた。それがこうして笑顔を浮かべられるようになったのはハジメや此処にいる少女達の支えがあったからだろう。足が少々不自由だが今はリハビリを受けて多少歩けるくらいには回復していた。

何か座っても出来る仕事をしようと考えたが、ハジメから「もう暫くは専業主婦でいて欲しい」と言われて現在は花嫁修業に燃える他の娘達のアドバイス等を行っている。

 

 今までの生活の何もかもを失って生きる屍も同然だった彼女に、人肌の熱と生きる気力を注いだのはハジメだった。ならば自分に出来ることは亡き夫に操を立てることではなく、死ぬまでハジメとミュウの為に一生懸命生き抜くことだと今は思っている。

男女の関係を持ったことに最初は娘に対して罪悪感を感じていたが、今は特に意識していない。

 

「レミアよ、今宵の酒はどうするかの?」

「ごめんなさいティオ。今日は疲れてるから遠慮しておくわ」

「む、そうか。…ノイントはどうじゃ?」

「飲酒に伴う体調管理に問題はありません。ご相伴に預からせて頂きます」

「うむ!では他に飲める者は――――――」

「ん、ティオ。今夜は私も飲む」

 

 そう言ってハジメの左隣へと着席する金髪赤目の吸血鬼族の少女。

彼女は”アレーティア”、フルネームは”アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタール”だが長すぎて大体みんな覚えられないのでアレーティアと呼んでいる。

ハジメとの出会いはハイリヒ王国の宿場町ホルアドにあるオルクス大迷宮の底、真のオルクス大迷宮で死にかけだったハジメを助けた事から始まる。それから暫く彼の傍にいる事を決意した訳だが、色々あってハジメの彼女になった。

 

 このハーレム状態を作り上げた張本人でもある。

トータスで唯一の吸血鬼族であり、一部の研究者から子孫を残して欲しいと懇願されていた。当然だが彼女もいずれはハジメとの間に子を儲けるつもりで、今はまだ生活を安定させる為にそこまで乗り気ではない。そっちよりもハジメの血を吸う方が好き。

 

「アレーティア、編纂書類の整理はもう終わったのか?」

「ん、問題ない。早ければ明日朝一でギルドに提出する」

 

「凄いですアレーティアさん…あの量を終わらせるなんて…」

「流石ですわアレーティア様!」

「こればかりは私も敵いませんわねェ…」

「アレーティアお姉ちゃん偉いの!」

「流石は吸血鬼族の姫。同じ姫として鼻が高いぞ!」

「アレーティアの仕事っぷりにはいつも驚かされてばかりね」

 

 普段はクール&ビューティーのアレーティアだが、こうして親しい者から褒められるのには慣れていない。小声で「ん…ありがと…」と言い、耳を赤くしながら照れ臭そうに笑っていた。

アレーティアお気に入りのブレスワインをゴブレットに注いでティオが彼女に手渡す。

 

「ごめんお待たせ」

”優花”、夕食作りお疲れさん。いつもありがとな」

「ありがと。それじゃ、食べよ食べよ」

 

 最後に台所からエプロンを脱いで現れた”園部優花”もハジメの彼女だ。

ハジメと同じ高校に通っていて、異世界召喚に巻き込まれたクラスメイトの女子…だったのだが色々あって優花の方からハジメに好意を抱き、アレーティアの提案に乗って今に至る。

マイハウスの家事全般を任されている他、アイルーキッチンの臨時コック長も務めていた。

 

 本来は獣人族の”アイルー”が”キッチンアイルー”としてハンターに料理を作るからアイルーキッチンと呼ばれている筈なのだが、ハジメのアイルーキッチンだけは優花が食材の管理と調理を行っている。

 

 よく言えば普通、悪く言えば平凡な優花だがハジメにとっては9人の彼女の中で一番平和的な日常の象徴みたいな少女であり、彼女が料理を作っているマイハウスに戻ってくる毎日が心の平穏を与えてくれるといっても過言ではない。

彼女に促されて全員手を合わせて食事の準備を始める。

全員から視線を向けられて、ハジメが合掌して最初に口を開いた。

 

「いただきます!」

 

「「「「「「「「いただきます!」」」」」」」」

 

 これが錬成師のハンターとして歴史に名を刻んだ南雲ハジメの平和な日常である。

 

 




 いわゆるアニメ「ありふれた職業で世界最強OVA」モンスターハンター・トータス版になります。舞台は変わりませんが登場人物にかなりの変更点がありますので話の流れとかも変わる予定。

 今回のお話は常に一覧の下で更新していこうかなと思います。(間に本編のサイドストーリーを挟むので分かりにくくなるかもしれませんが、何かしら対策を考えておきます)

感想、質問、ご指摘等お待ちしております。


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