卵王子と鶏令嬢 (ケツアゴ)
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卵王子と鶏令嬢

SINSOUさんの活動報告のネタです


 私はとある国の公爵家令嬢、そしてこの国の王子の許嫁。

 貴族としての教育を受け、家と国と民の為に生きると決めた私にとって王子との結婚は私にとって”やらなければならない事”でした。

 

 そう、実際にあの方に出会うまでは……。

 

 

「君が私の妻になる子か。……ああ、宜しく頼む」

 

 

 なのに王子は私との初めての顔合わせの時、少しも私に興味を示してくれず、悔しかった。

 私、自分で言うのもどうかと思いますが絶世の美女である母の神容姿を受け継いでいますし、気品だって教育によってちゃんと有りますのに……。

 

 

 それから何度お会いしても私には何も期待していないという顔ばかり向けて来て、私のプライドは傷付くばかり。

 他の女には優しいから男色の気があるとかは無い……ですわよね?

 

 

「なので絶対に振り向かせてみせますわ! 貴方も協力なさい!」

 

「……え~。僕、修行があるんですよ、お嬢様」

 

 だからもっと女を磨き、私に興味を向かせてみせる、そんな決意をした私に手を貸すべきなのに乳母兄弟であり、我が家の専属魔法使い見習いったら嫌そうな顔をするのだもの、失礼な奴ですわね。

 

 

「それで協力って言っても何をすれば良いんです?」

 

「勿論私を横から見て評価なさい! 貴方なら素直な意見が言えるでしょう?」

 

 体の弱い母に代わり私に母乳を与え、教育を施した乳母は私にとって本当の母同然、このお馬鹿だって弟同然、だからか私だって気を楽にして関われますし、向こうだって五月蠅いのが居ない今みたいな時は結構口が悪くなるんだけれど、私は心が広いから見逃してやってますの。

 

 

 

 

「じゃあ最初に言いますけれど……お嬢様って自分が美少女だとか気品があるって分かっている感が凄いんですよね。ぶっちゃけ鼻につくって奴です」

 

「ぐっ! 最初から飛ばしてくるわね。……それで他には?」

 

 正直腹がだったけれどこの子の言葉なら受け入れてやれる。

 だって父だって忙しいし、他の使用人は下の立場としか思えず、友達だと名乗る連中だって私が公爵家令嬢で王子の許嫁だからお友達なだけですもの。

 乳母と乳母兄弟だけが私の家族……心の底からそう思います。

 

 

「後は紅茶に砂糖を入れすぎなのと、独占欲があるのか王子に近寄る女性全員の文句を言っていますけれど、嫉妬深く誰にでもキツく当たっていませんか? ああ、それとこの前ですが……」

 

「ちょっとちょっとっ!?」

 

 此奴、本当に容赦が無いにも程がないわねっ!?

 

 私が止めようとしても次から次へと出て来る駄目出しに私が辟易し始めた頃、不意に雰囲気を変える。

 この子がこんな顔をする時って大体……。

 

 

 

「あと、もう僕とは親しく話さない方が良いかと。変な噂を立てられても困りますし」

 

「……はぁ」

 

 ほら、身分差とか考えての事でしょうけれど、正直言って飽きましたわ。

 私に何度同じ事を言って貰いたいのやら。

 

 

 

「貴方は私にとって可愛い弟程度の認識、異性として見る事は絶対にありませんわ! ほら、つまらない事は忘れて遊びますわよ!」

 

「いえ、お嬢様は今からダンスのレッスンのお時間です」

 

 本当に、本当にこの子はっ!

 

「……ああ、それと思ったのですが、お嬢様って王子の事を無意識下で王子としか見ていないんじゃないですか? 自分だって公爵家令嬢としか扱われないって文句を言う癖に」

 

「……」

 

 成る程、言われてみれば私は王子と出会うまで役目として結婚する相手としか彼を見ていませんでしたわ。

 それを王子が感じ取っていたならば……。

 

 

「頑張って下さいね。お嬢様は鳥頭になる時があるので僕は凄く心配ですが」

 

「今すぐ拳を使って身の安全を心配させてあげるわよ?」

 

 助言は感謝するけれど、親しき仲にも礼儀ありって知ってる?

 

 それから何かと理由を付けて私は王子様にお会いし、どの様な方なのかを知る日々が始まったのです。

 先ず噂通りに聡明であり、私と同じ年齢とは思えない大人びた所や未来を予知したみたいに数々の問題に対処する優秀さ、そして相変わらず私には冷たいのに他の貴族や使用人には優しく、特に幼い頃からの側仕えだというメイドとは随分と仲が宜しいらしく……。

 

 

「彼女と私は乳母兄弟でね。私にとっては姉同然の存在だ」

 

 そんな事を別の方に語っているのを目にした時、合点が行きました。

 王子も私があの子を家族と思っているのと同じで、あのメイドが家族なのですね。

 でも、メイドはメイドだから私が辛く当たっても庇える範囲には限りがあって、その警戒からきっと……。

 

 

 ……こうして私は王子様の事を少しずつ理解し、とある事にも気が付きました。

 それは私が王子様に心惹かれているという事。

 

「あの方と結婚出来るだなんて私は世界一の幸せ者ですわね」

 

「あー、はいはい。もう二十回は聞きましたよ、その言葉。それよりもメイドさんとは仲良くやれているんですか? そうすれば警戒が解けるって言ってましたが」

 

「うっ……」

 

 それを言われると何も言えませんわよ。

 私も仲良くしたいのですが、王子様が私をメイドに近付けたがらないと言うか、警戒が強まるばかりというか……。

 

 

「まっ、お嬢様なら大丈夫でしょう。問題点は直ってきていますし、ちゃんと魅力を分かってくれますから」

 

「貴方がそう言ってくれるなら安心ですわ。これからもお願いしますね」

 

 そう、何時かは王子様が誤解に気が付いて私を見て下さると、この口が悪いが頼りになる乳母兄弟との付き合いもずっと続くのだと、この時の私は信じて疑わなかった。

 

 

 

 そして月日は流れ、私と王子様との結婚が後一年にまで迫った頃、旅行から帰った私はとある現実を受け入れられずに立ち尽くす。

 

 

「……嘘。こんなの嘘ですわ」

 

 呆然としながら握り潰すのは王子様から送られた婚約破棄を告げる手紙、理由は乳母兄弟との不義密通。

 勿論そんな事実は無いにも関わらず、王様が公務で不在の内に一方的に決め付けられて言い渡された。

 

「そんな…そんな……」

 

 こんな時、私を慰めてくれるのは乳母と乳母兄弟のあの子、その二人はもう私を慰めてくれる事は無い。

 誤解を与えた責任を取って親子揃っての自害だったと聞かされた。

 お墓の場所は知らない、誤解を解く為にもと教えて貰えなかった。

 

 

 目の前が真っ暗になるとはこういう状態なのでしょうね。

 思い描いた初恋の相手との明るい未来も、私を私として扱ってくれた家族同然の二人も、私は全部失った。

 それも事実無根の誤解によって……。

 

 

 それからの日々は地獄同然、お友達だと名乗っていた人達も私から離れ、王子様が誤解を解く様子も無いままの毎日。

 何よりも辛かったのは二人が私を騙して公爵家を乗っ取ろうとしていたという噂が流れた事。

 

 止めて。私が死に追い込んだ二人をこれ以上傷付けないで……。

 

 

 王子の活躍の影響から此処数年で王家の力の急増が凄まじく、婚約破棄が王子様の意思が変わらないからと正式に決まった後に父が私の縁談話を探しても、王家に嫌われたからと誰も受けようとはしないけれど、私にはどうでも良い。

 

 部屋に閉じこもって思い出に浸り、夢に二人が出て来るのを願って寝るだけの毎日。

 

 

 そんなある日、私は父からとある話を聞かされた。

 

 

「王子様が結婚? それもあのメイドと……?」

 

「ああ、かなり強引に進め、我が家と敵対していた家に養子に出してから嫁に迎えたらしい」

 

「は、ははは、あははははは……」

 

 ああ、成る程、全てはこの為だったのね。 

 あのメイドと結婚する為に私を疑っている振りをして……そのせいで二人は……。

 

 

 

 あんな男に私が惚れなければ二人は死を選ぶ事無く私を慰めてくれていて、今でも側にいてくれたかも知れない。

 そう思った時、もう何もかが嫌になりましたわ。

 

「全部私の浅はかさが原因。もう私に生きている意味なんて……」

 

 今なら分かる、私は嫌われているのではなく憎まれていたのだと。

 私が生まれた年に作られ記念に仕舞われていたワインを取り出し、グラスに注ぐ。

 本来なら結婚式に開ける予定だった一本で、あの二人にも飲んで貰う筈だった。

 

「あの世で会えたら味の感想を言いますわ」

 

 王子様……いえ、王子の私に向ける憎しみは凄まじく、私が生きている限りは公爵家に未来は無いでしょう。

 毒薬をワインに混ぜ、香りを堪能すると一気に飲み干す。

 

 

「……甘い」

 

 そのまま私の意識は遠退いていき、苦しみが無い事に安堵したまま……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様、起きて下さい! 王子様との顔合わせに出発する時間ですよ」

 

 ……え?

 

 意識の混濁が収まり、目を覚ました私が居たのは屋敷の中庭で、目の前には幼い姿のあの子の姿。

 

「わっ!?」

 

 混乱よりも死んだはずの彼に会えた喜びが打ち勝って、気が付けば抱き付いて泣いていた。

 

「怖い夢でも見たんですか? お母さんにでも慰めて貰います?」

 

「……うん、後で。今はもうちょっとだけこうしていたいの……」

 

 此処が天国かと思ったけれど、何かが違う気がする。

 庭だって昔の風景で、彼も私も幼い姿。

 過去に戻った?

 

 そんな意味不明な現象に戸惑うけれど、先ほど耳にした言葉が頭の片隅に残っている。

 そう、今日はあの男……私の家族を死に追いやった奴と初めて会う日なのね。

 

 

「……そろそろ時間ね」

 

 もうあんな奴に何も期待しない、好きにもならない。

 好き勝手させてなるもんですか!

 

 

 

 

 身支度を整え、王子に対する態度を注意する声を聞き流しながら私は湧き上がる憎悪を抑え込む。

 ええ、体は幼くとも中身は違うのだから演じきってみせますわ。

 

 

 相手は将来私を裏切り、私の大切な人達を死に追いやる相手。

 前は王子としか見ていませんでしたが、今の私ならば違った目で見ているように感じさせる事が出来るでしょうね。

 

 

 そしていよいよ遭遇、恭しく頭を下げて挨拶をすれば返事が帰ってくる。

 そう、私には無関心だという……。

 

 

 

「君が僕のお嫁さんになる子なんだね。宜しくね!」

 

 ………向けられる態度が違う?

 いや、当然ですわ、私の態度も違うのですから。

 

 記憶に残る忌々しい初対面の態度は大人びた表情での無関心ですが、今の王子は子供っぽく友好的な笑みを私に向ける。

 私の態度が違うから別に対応をされた、ただそれだけ。

 

 

 この日、私は王子の相手をしながら今後の策を練り固めていた。

 あれだけ好き勝手が許されたのは不作や災害等の兆候を掴み予め対策を推し進めたから。

 

 あの頃、私は王子に好意を持っていたから功績について詳しく知っている。

 ……見ていろ、お前の功績は全て私の物だ。

 

 

 この日より憎悪を隠し、私は王子の功績を奪う日々を開始した。

 記憶が欠けていて防げなかった事も、王子が防げなかった事を防げもする中で高まっていく私の名声と我が家の発言力。

 土砂崩れや堤防の決壊による洪水、大規模な賊の拠点の発見等々を成し遂げたからか王子は子供らしい態度で凄い凄いと誉めながら私に寄って来る。

 無論、あのメイドも一緒に行動させて。

 

 隙を見せない為、メイドにも優しく接し、私が婚約破棄をされた日が近付いて来た。

 

 

 

「さて、今の私ならば前回みたいな事には……あれ?」

 

 このまま私は王子と結婚しますの?

 

 復讐に捕らわれ、一度失った恐怖から乳母と乳母兄弟と過ごす事が多くなった事で忘れていた事、あの憎い男と結婚しなければならない。

 

 ……嫌、嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ嫌よ、絶対に嫌!

 

 私が功績を奪い成長の機会を潰したからか好意を寄せる理由であった大人びた態度も有能さも感じない、その上憎い卵のままみたいな相手を支えて生きて行くだなんて冗談じゃありませんわ!

 

 

 

 

 

「あっ、逃げれば良いんですわね。適当な書き置きをして……そうですわ!」

 

 今の家の力なら大丈夫でしょうし、二人を連れ出して逃げてしまいましょう。

 前回の意趣返しに王子とメイドの仲を疑い、屈辱に耐えきれないっといった感じの手紙を残して。

 

 

 

「そんな風にすれば引き離されるでしょうね。ざまあみろ、ですわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……嘘だ」

 

 僕はこの国の王子であり、初恋の相手は許嫁である公爵家の令嬢だ。

 聡明で大人びていて、何よりも僕を王子としてでしか見ていない連中とは違う。

 

 彼女の活躍は詳しく調べ、何度も賞賛の手紙を送った。

 姉のように慕っている乳母兄弟のメイドにも相談して、少しでも彼女に好きになって貰いたかったんだ。

 

 そのメイドが首を吊って死んでいる、遺書には公爵家令嬢に僕との仲を疑わせた罪を償うって書いていて……。

 

 

 初恋の相手と姉同然の相手を失い、茫然自失な日々を送る中、数年経った頃に公爵家令嬢らしき女性が公爵家の専属魔法使い……彼女が弟同然と言っていた相手と結婚したらしいと耳にして、その時に全部理解したよ。

 

 

 全部、あの男と一緒になる為の嘘だったと、そのせいで僕の大切な人は……。

 

 

 

 

「絶対に許すものか。生まれ変わっても復讐してやる」

 

 

 この日、酒を飲み過ぎたせいで僕は階段から転げ落ちてしまい、目を覚ますと……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「王子、いよいよ明日は許嫁である公爵家令嬢との顔合わせの日ですね」

 




卵が先か鶏が先か


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