遊戯王-百合で霊使いが大好きな店員さん (霊使い好きなもやし)
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1話-上
「私のターン!ドロー!」
デュエルスペースで遊んでる人…主に年の近そうな女の子…を見ながら、私は顔に出ない様に笑みを浮かべる。
バイト中の唯一の癒しと言ってもいい。昔の誼みで始めたバイトだけど、やらなきゃよかったと後悔してる。
やっぱり趣味を仕事にするのは駄目だなぁ…なんて考えながら、私は前から来るお客さんの方を見ながら小さく笑みを浮かべた。
「すいませんこちらお願いしまーす」
可愛い女の子だ。見た事ないけど今日が初めてだろうか?
…そんなことを考えながらも、私は出された紙を見て心の中で驚いた。
このパックから何が出たっけ…なんて考えながらも、私は笑顔のまま対応した。
「幾つにしますか?」
「2箱で」
「わかりました。当店のメンバーカードはありますか?」
「持ってないです」
やっぱり一見さんだったらしい。
近くに住んでるなら此処に移住してくれないかなぁ…なんて考えつつお客様用のテンプレ構文をそのまま喋る。
「商品を取ってくる間にお作りしますか?」
「あ、お願いします」
「そしたら…こちらの紙にご記入してお待ちください」
「はい」
とりあえず時間は稼げたので奥の方にある箱の中から目的の物を探す。
えーっとえーっと……これか。本当に珍しいパックだなぁ。
「お待たせしました。鳥と月の踊り2箱ですね。7200円になります」
「ん。……所で此処って幾ら払えばデュエル出来るの?」
「デュエルスペースはフリーですね。唯大会が始まったらどいて頂く事になりますけど…」
「違う。貴女と対戦したいの」
おお、思ったよりも珍しい誘い文句だ。
今は店長もいるし私以外にも沢山店員さんがいる、カードの枚数に関しては機械に任せてるから大丈夫…な筈だ。
「一言そう言っていただければ大丈夫です。少しお待ちくださいね」
「先に行くからいい。戦う場所は何処?」
「そうですね。……ほんの少しだけお待ちくださいね」
そういいながら奥に走りつつ店長を探す。
確かこの時間の店長は一番奥でなんかカードを愛でてる筈。
「店長ー!」
私が呼びながら扉を開けると、店長が一枚のカードを撫でながらこちらに振り向いた。
本当に、顔はいいのに性格と趣味がねじ曲がってるんだよなぁ…この眼鏡っ娘。
「どうしたの?今僕
「思ったより業が深いですね店長…それよりも可愛い一見さんが私に勝負挑みたいらしくて、レジ打ちお願いしてもらってもいいですか?」
「勿論いいよ。今日3番フリーだし使っちゃいなー」
「ありがとうございます!後今日売ってる
「ころす」
自慢をしてから扉を閉めてレジの前に戻りつつ、先程のお客さんに向かって笑顔を浮かべながら口を開く。
「お待たせしましたー!メンバーカード作ってから行くので、レジ隣の廊下から入れる三号室にお入りください!」
「………?あっちじゃないの」
そういいながら指を差されたのはフリースペース。
確かに一見さんならあっちしかないと思うだろう。
「普通はあっちですね。
予約と決勝戦専用、後変則デュエル用のデュエルスペースがあって、今回はこっちでやるんです」
「……いいの?」
「店長が使っていいと言ってたので、メンバーカードは暫くかかるのでパックを開けながらお待ちくださいね」
「…わかった。ありがとう」
そういいながら去っていく彼女を見つつ、私は書かれた個人情報を打ち込んでメンバーカードを作成。
…このまま行ってもいいがパックを邪魔はしたくない。とりあえずどのデッキを持っていくか決めておこうかなぁ。
デスピアロックはまだ調整中だし、サブデッキの方がいいかな。
メインデッキはロック系だし、流石に一見さんに対してやったら来なくなっちゃいそうだし…うん。
「おっ、デッキ決まった?」
「はい。お気に入りのサブデッキで行こうと思います」
「魔法の里入りシャドール?」
「まだ作ってないですよ?」
私の一言を聞いて、店長の口が引き攣った。
まだ作ってないデッキの話でそんなに引き攣る事ある?
「あ、作る気はあったんだ…」
「ミドラーシュ立てて封じるのも楽しそうですしね。いつか作るので調整相手お願いしますね」
「…程々でお願いするね…」
何か小さく呟いてた店長を無視しつつ、私はデッキとデュエルディスクを持って三号室に入る。
其処には真剣な表情デッキを組んでる少女が見えたので、中身を見ない様に移動する。
「遅れました。今デュエルフィールドを設定しますね。初期ライフはどうしますか?」
「…とりあえず、4000で」
「わかりましたー」
LPと初期手札やルールを設定する。
此処だとアクションデュエルもっと広い所だとライディングデュエルやスピードデュエルとかも出来るらしい。
いつかやってみたいなぁ…なんて思いながらも設定をし終え、彼女がデッキを組み上げるまで待つ。
「……お待たせしました」
「いえいえ。新しいパックの方ですか?」
「…ううん。折角だし自分の持ってるデッキでやろうかなって」
「そうですか」
良かった。LLも月光もどっちも後攻ワンキルだからね。
私のデッキも後攻ロマン極振りだから後攻取りで勝負が決まる所だったよ。
「では始めましょうか」
『これより、《
『先攻は 《月読遥》さん、です。掛け声を、どうぞ』
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1話-中
ターン1 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
月読遥(先行) | 手札5枚 | LP:4000 | |||||
VS | |||||||
精行霊花(後攻) | 手札5枚 | LP:4000 |
「私のターン…!」
さてどうなるか。
さっき買ってたパックからして融合かエクシーズ使いっぽい気がする。
融合で有名所だと昔ならHEROとかサイバー、ちょっと尖っておジャマやサンダードラゴン。
今だとデスピアやアルバス、ファーニマルとかも安定かな。
エクシーズは…本当に千差万別だからなぁ。アーゼウスが出ない事を祈るしかない。
「私は手札から《天威龍-シュターナ》を特殊召喚。このカードは私のフィールドに何もいない時に特殊召喚できる。
そのまま《天威龍-シュターナ》一体でリンク召喚!《天威の拳僧》。」
予想全外れ。相剣かな。
結構強めのデッキだったよね…私これと戦わないといけないのか…
「更に《天威の拳僧》をリリースして速攻魔法、《天幻の龍輪》を発動。効果によってデッキから《相剣師-莫邪》をサーチ、そのまま通常召喚。
《相剣師-莫邪》の効果発動、手札の《相剣師-泰阿》を見せて《相剣トークン》を特殊召喚。
更に手札の《相剣師-泰阿》を墓地に捨てて《相剣軍師-龍淵》を特殊召喚し、《相剣トークン》を特殊召喚できる。
但し《相剣トークン》がフィールドに存在する
《相剣トークン》は攻守0のレベル4のチューナートークン。
手札残り一枚だけど《天幻の龍輪》で特殊召喚した《相剣師-莫邪》を素材にしてシンクロ召喚すればドローできる筈。
とするなら最後の一枚は相剣モンスターを蘇生出来る《大霊峰相剣門》とかだろうか?
「レベル4の《相剣師-莫邪》とチューナーのレベル4の《相剣トークン》でチューニング。シンクロ召喚。レベル8《相剣大師-赤霄》を特殊召喚。
そして《相剣大師-赤霄》、《相剣師-莫邪》の順番で効果処理。逆順で《相剣師-莫邪》の効果で一枚ドロー。そして《相剣大師-赤霄》の効果で……む、《大霊峰相剣門》を手札に加える」
…?サーチで手に入れたって事は、手札になかった?
てっきりあると思ったけど違ったらしい。
「手札の《大霊峰相剣門》を発動。自分の墓地の《相剣師-泰阿》を特殊召喚。《相剣師-泰阿》の効果で墓地の《相剣師-莫邪》を除外して《相剣トークン》を特殊召喚。
レベル6の《相剣軍師-龍淵》チューナーのレベル4の《相剣トークン》でチューニング。シンクロ召喚。レベル10、《相剣大公-称影》。
素材にした《相剣軍師-龍淵》の効果で霊花さんに1200ダメージを与える。
そしてレベル4の《相剣師-泰阿》とチューナーのレベル4の《相剣トークン》でチューニング。シンクロ召喚。レベル8《PSYフレームロード・Ω》」
うげ。面倒くさい奴出てきた。
《PSYフレームロード・Ω》の効果で自分/相手のメインフェイズに自分と私の手札一枚を“除外する”。
《相剣大師-赤霄》は自分の手札か墓地を“除外して”私のモンスターの効果を無効。
《相剣大公-称影》は“除外すると”私の場か墓地を一枚ずつ除外。破壊をしようと試みても墓地を“除外して”破壊を免れる。
だけどあいつら全部ターン1制限付いてるし、このままならまだ……
「私は手札から《フュージョン・デステニー》を発動」
なんで入ってるのそんなガチカード!
「効果でデッキから《D-HERO ディアボリックガイ》と《D-HERO ドローガイ》を墓地に送り、EXデッキから《D-HERO デストロイフェニックス》を特殊召喚。……ターンエンドです」
月読遥フィールドゾーン | |||||
---|---|---|---|---|---|
EXゾーン1 | 中央 | EXゾーン2 | |||
モンスターゾーン1:《PSYフレームロード・Ω》 | モンスターゾーン2 | モンスターゾーン3:《相剣大師-赤霄》 | モンスターゾーン4:《D-HERO デストロイフェニックス》 | モンスターゾーン5:《相剣大公-称影》 | |
魔法罠ゾーン1 | 魔法罠ゾーン2 | 魔法罠ゾーン3 | 魔法罠ゾーン4 | 魔法罠ゾーン5 | |
フィールド魔法:無し |
「…私のターンですね。ドロー」
手札は良い。良いけどこいつらまとめて殺して1ターンキル出来るかは半々だ。
さっきの奴に加えて《D-HERO デストロイフェニックス》が来たので次のターン渡しても死ぬ可能性しかない。
……だからまぁ、此処で殺しきるしかない。筈だ。
「スタンバイ」
「スタンバイフェイズに《D-HERO ドローガイ》の効果が発動。墓地から特殊召喚した後自身の効果でお互いに1ドローします」
「はい。…ではメイン行きます。……ふぅ……」
ターン2 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
月読遥(先行) | 手札2枚 | LP:4000 | |||||
VS | |||||||
精行霊花(後攻) | 手札7枚 | LP:2800 |
小さく息を吐いて、手札をもう一度眺めて確認してから笑みを浮かべる。
…今はもう負けてもいい。でも勝つ為に全力で。
「魔法発動!《サンダー・ボルト》!」
「《PSYフレームロード・Ω》、の効果発動。チェーン逆処理!
《PSYフレームロード・Ω》の効果で霊花さんの手札を一枚除外!」
「効果は甘んじて受けますが《サンダー・ボルト》の効果は残ります!フィールドのモンスターを全て破壊!」
「《相剣大公-称影》は自身の効果を発動し墓地の相剣カードを除外して破壊を防ぎ、《D-HERO デストロイフェニックス》は次のスタンバイフェイズに戻ってきます」
私の手札は残り5枚、だけど1枚で盤面返せたのは凄い大きい。
…本当に、もし駄目だったら死ぬところだった。でも残りは《相剣大公-称影》のみ。
「……よし。私は手札から《
「このカードは自分フィールドにモンスターがいない時、手札から特殊召喚が出来る…ですよね?」
「…はい。当たりましたか?」
「沢山」
流石ノーマルカード、思ったよりも当たってたらしい。
そんなことを考えながら気持ちを落ち着けつつ、私は思考を切り替える。
「更に私は手札から《精霊術の使い手》を発動。発動コストは《風霊使いウィン》を手札から捨てます。
効果によって私は《憑依覚醒》を手札に、《憑依連携》を自分フィールドにセットします。
そのまま手札の《憑依覚醒》をフィールドに置いてから《マジシャンズ・ソウル》を手札から特殊召喚!コストはデッキに入ってる《マジシャン・オブ・ブラック・イリュージョン》!」
次に何を手に入れるかをシミュレートしながら、私は必死に勝ち筋を探していく。
「手札から永続魔法《魔術師の再演》をフィールドにおいてから効果発動!
一度だけレベル3以下の魔法使いを墓地から特殊召喚できます!この効果によって蘇生するのは私の相棒《風霊使いウィン》!
そして《風霊使いウィン》と《
「憑依装着!現れろ《憑依装着-ウィン》!…あ、《憑依覚醒》の効果で攻撃力1850の魔法使い族がフィールドに現れたので1枚ドローします」
「…え?1850…?」
これで手札が残り1枚、思ったよりもきっつい。
相手の最後の手札がうららじゃなくて良かった…本当に。
後攻撃力は目の前の敵より弱いけど、こういうのは雰囲気だ。
詠唱言った方が格好いいんだってよく来るお兄さんが言ってたし。
「そして《マジシャンズ・ソウル》の効果発動!
フィールドの《憑依覚醒》と《憑依連携》を破壊して2ドロー!更に《憑依連携》の墓地の効果で《憑依覚醒》を墓地からフィールドに!
《マジシャンズ・ソウル》に装備魔法《ワンダー・ワンド》を装備して即効果発動!《ワンダー・ワンド》と《マジシャンズ・ソウル》を墓地に送って2ドロー!」
残り4枚。
「手札から永続魔法《王家の神殿》を発動!このターン一度だけ私は罠カードを伏せたターンに使う事が出来ます。なのでセットして発動《おジャマトリオ》!
《おジャマトリオ》は攻撃力0/守備力1000の《おジャマトークン》を3体、相手のフィールドに押し付けます!この《おジャマトークン》はアドバンス召喚の為にリリースすることはできません」
「アドバンス召喚出来なくてもシンクロすれば良いだけの話…一体何の意味が?」
小さく呟かれた一言に笑みを浮かべながら、私はゆっくりととあるカードを手札からフィールドに置く。
「《死者蘇生》発動!墓地の《風霊使いウィン》を墓地から特殊召喚して、アドバンス召喚!」
「…っ!」
「現れろ最後のパーツ!《
息を整えながら、私は目の前の盤面を見つめる。
月読遥 | |||||
---|---|---|---|---|---|
EXゾーン1 | 中央 | EXゾーン2 | |||
モンスターゾーン1 | モンスターゾーン2:《おジャマトークン》 | モンスターゾーン3:《おジャマトークン》 | モンスターゾーン4:《おジャマトークン》 | モンスターゾーン5:《相剣大公-称影》 | |
魔法罠ゾーン1 | 魔法罠ゾーン2 | 魔法罠ゾーン3 | 魔法罠ゾーン4 | 魔法罠ゾーン5 | |
フィールド魔法:無し |
精行霊花 | |||||
---|---|---|---|---|---|
EXゾーン1 | 中央 | EXゾーン2 | |||
モンスターゾーン1:《憑依装着-ウィン》 | モンスターゾーン2 | モンスターゾーン3 | モンスターゾーン4 | モンスターゾーン5:《 | |
魔法罠ゾーン1:《憑依覚醒》 | 魔法罠ゾーン2:《王家の神殿》 | 魔法罠ゾーン3 | 魔法罠ゾーン4:《魔術師の再演》 | 魔法罠ゾーン5 | |
フィールド魔法:無し |
「《
対象のカードはこのターン、相手フィールドの特殊召喚されたモンスターに一回ずつ攻撃することが出来ます!」
「特殊召喚…私が特殊召喚したのは《相剣大公-称影》だ…け…?…違う、まさか!」
彼女の悲鳴の様な声に思わず笑みがこぼれる。
そう、彼女“が”特殊召喚したのは《相剣大公-称影》一体、だけど今特殊召喚されたモンスターは…
「《おジャマトークン》は私が特殊召喚しましたが、今は貴女のモンスター!よって《憑依装着-ウィン》は《おジャマトークン》達に攻撃が出来る!」
「で、でもそんなことをしても、私が喰らうのは《おジャマトークン》の効果で喰らう300ダメージだけ。貴女のフィールドには私の《相剣大公-称影》の攻撃力を超えるモンスターは…」
「勿論いませんよ。必要ないですからね!《憑依装着-ウィン》の限られた場面でのみ使える効果!
《霊使いウィン》と風属性モンスターをリリースして特殊召喚した場合、守備表示のモンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えた分だけダメージを与える事が出来る!」
「…!でも《おジャマトークン》の守備力は1000!貴女の《憑依装着-ウィン》は1850だから突破なんて…」
「《憑依覚醒》の永続効果!私のモンスターの攻撃力は自分フィールドのモンスターの属性の種類×300!今回の場合《
驚いた彼女の顔を見つめながら、「アタックフェイズ」と叫ぶ。
「《憑依装着-ウィン》で《おジャマトークン》三体に攻撃!三連打ぁ!」
バトルフェイズ | ||||
---|---|---|---|---|
精行霊花 | 《憑依装着-ウィン》 | 攻撃力:2450 | WIN | 守備力貫通 |
VS | ||||
月読遥 | 《おジャマトークン》 | 守備力:1000 | LOSE | 破壊されると-300ダメージ |
{(2450-1000)+300}*3=5250。月読遥に5250のダメージ! |
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1話-下
「……ご馳走様」
「遥、ちゃんとよく噛んで…」
「…うん。わかってるから……でもちょっとだけ、デッキを弄らせて」
「……わかったわ」
お母さんに無理を言って、私は部屋に戻る。…悔しくて腸が煮えくり返りそうだった。
“あの人に負けた事が”じゃない。“あの人のデッキに負けてしまった自分”に、だ。
何度も何度もデッキを確認して、デュエルディスクの観戦機能を確認しては自分の浅いプレイングに苦悩する。
あの人のプレイングは超人的で“異常”だった。カードに愛されてるとかじゃない。欲しいカードが集まってる様な気さえしてしまう。
……見てた限り、あの試合で無駄なカードは一枚。それすらも私の《PSYフレームロード・Ω》の的となっていたのだから、無駄ですらなかったのかもしれない。
多分私が1000回デッキを扱っても一度も出ないだろう。そんな神懸かり的な事を、あの人はやってのけた。
恐ろしかった。
今彼女が回してるのは本当に趣味の範囲を超えない物だが、これが第一線で活躍してるデッキを回したら……どうなってしまうんだろうか。
「精行霊花……珍しい名前だし、検索すれば……」
小さく呟きながら、PCで名前を打ち込む。
…予測変換に“超凄腕ハッカー”とか“デュエルアイドル”とか色々書かれてたけど、一番気になったのはこれだ。
《あの超テンサイ小学生の精行霊花さんに聞いてみた!》
「先ず初めに、世界大会優勝おめでとうございます。今のお気持ちは?」
『今でも信じられません。決勝戦は兎も角として、準決勝はかなり熱い試合だったと思います。私も戦ってる途中何度も意識が飛びそうでした』
「やはりそうでしたか。あの時の精行さんはかなり辛そうでしたからね…一方で決勝戦は楽そう…と言っては何ですが、楽しそうに
『……そうですね。やっぱり準決勝まで戦ってた人達が直々に応援して頂けたのが心に来た…のかもしれません。初めての声援は彼女達でしたからね』
「成程……さ、最後にこの感謝を誰に伝えたいですか?」
『初めてできた友達の、準決勝の彼女に。もう知ってるとは思いますけどね』
「そうですね!以上、精行霊花さんでしたー!」
…あの人小学生の時に世界大会優勝してるんだ…なんて思いながら、私は彼女が作ったデッキを探す。
検索エンジンに掛けたらすぐヒット…はしたが、そもそもなんで回るかがわからない様なデッキだ。
一応環境のモンスターも入れてるが、本当に一応。デッキの考察動画とかも見てるが皆が皆“なんで回ってるかがわからない”ようだ。
あの子が持ってるデュエルディスクは市販品、世界大会に参加する度に不正が行われてないかチェックされる始末。
……そして勿論不正はされてない。単純に“運”でグランドスラムをした人間らしい。
「…じゃあなんであんなカードショップに……ってそっか。ゲームにならないから…」
7年間、世界大会を優勝して彼女は“受験勉強に集中したいから”という理由で大会から足を洗った。
其処にはKCの圧力がかかってやめたとか、彼女は本当はやめたがってたが大会運営が離さなかったとか色々憶測だけが飛んでいて、詳しい事がわからない。
兎に角わかるのは、あの子の対戦動画が上がる度に死ぬ程アクセスされるという事。そして世界にはあの子を待ってる人達がいるという事ぐらいだ。
「…ますますわからない。本当になんであんな普通のカードショップでアルバイトしてるんだろう」
…今度会ったら聞いてみようかな。なんて考えながら、私はゆっくりと自分のデッキを撫でた。
最後に持ってたのは《白の聖女エクレシア》と《大霊峰相剣門》。私だって運はまだある筈だ。
次こそは負けない。そんな事を考えながら……私の意識は闇へと消えていった。
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