諸君、私はドーベンウルフが好きだ!なので量産します! (プリズ魔X)
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なんの光!? からの なんで学園!?

君達はドーベンウルフというモビルスーツを知っているかな?サイコガンダムのような武装デザイン、明らかに量産機じゃない性能、圧倒的な量を誇る武装、ロマン溢れるインコム、ジオン機体の中でもかなり異質なシルエット、ジオンの機体だけどベースは実はガンダムMk-V、あと、なんの光!?etc…………とにかく素晴らしいモビルスーツなのだ!

 

俺はHGUCのドーベンウルフを30体程並べて眺めていると、突然何かが光って、気がついたら赤ん坊に。

 

まぁアレだ。よくなろうで見かける転生ってやつなのだろう。多分時代的に現代なのでもう一度ドーベンウルフを探して組み立てればいいと思っていた。だが、いざ模型屋に行ってもガンプラが何処にも売っていなかった。最初は住んでるのが田舎だから品揃えが悪くてかつ、この世界ではガンプラの人気が低いのかな程度に思っていた。だが、秋葉原に行ってもガンプラのガの字すらないではないか!

 

それどころかこの世界にはガンダムすら存在しないのだ。人類は人生の1%は損を間違いなくしているはず!

 

ついでに、インフィニット・ストラトス、通称ISというマルチフォームスーツなるものがあるそうだ。だが世にガンプラを広める事が最重要事項である俺には関係ない。

どうせ女性しか扱えない、存在する数が1000にも満たない。なのに世間では最強扱いされている完成された()兵器だ。俺に使えなきゃ意味無いんだよ!ISをドーベンウルフに出来ないじゃないか!

どう考えても誰にでも作れて扱える核ミサイルとかモビルスーツの方が強くね?戦争の大局を決めるのはエースじゃない。大量にいるモブ一般兵だ。仮にエースがいないと成功しなかった作戦があったとしても、その下にある沢山の一般兵の屍があるのだ。見られていないだけで。

……いや、そもそも俺がガンダム脳に侵されすぎたか。あんな20何mもある兵器をホイホイ量産できるガンダム世界がおかしいのだ。うん。

 

さて、プラ板でドーベンウルフの足を形成しないとな……結構大変だけど、これがまた楽しい………………ん?

 

つけっぱなしにしていたニュースのキャスターが大慌てで何か原稿用紙を掴んで震えて喋っていた。

 

『速報です! なんと世界初の男性IS操縦者が発見されました!』

 

「ほーん……さて、男の操縦者が出たところでどうせラノベにあるようなイレギュラーなだけでしょ……」

 

『これにより、世界中で男性のIS適正検査が行われるとの事で……』

 

「うわ、めんどくさいなぁ……ドーベンウルフを布教する為の時間が減るじゃないか……でもバックれたらそれはそれで面倒だしなぁ……」

 

 

俺はそんな事を考えながらドーベンウルフの2号機に使う脚のコピーをしてその日を終えた。

 

 


 

「真島 瀬呂! 貴様の番だ! 前に出てこのISを触れ!」

 

 

「はい、ポンと触ってはい終りょ……ん?」

 

IS適正検査の日、厳格そうな美人の人に呼び出されて俺はドーベンウルフとの類似点ゼロのつまらないIS、打鉄に触れてさっさと帰ろうとした。

だが、何か視点がやたら高いような……?

 

「ふむ……おめでとう、と言うべきか? 真島 瀬呂。貴様にはIS適正があるようだ。これから貴様はIS学園に入学する。これは覆せない事だし、脱走するのもおすすめしない」

 

「えー……あ、ひとつ聞きたい事が」

 

「なんだ?」

 

「IS学園にプラ板とか塗装する器具って売ってますかね?」

 

「………………は?」

 

真島が打鉄を纏ったのを見ていた当事者、織斑 千冬は後にこう語った。

「奴にプラ板とドーベンウルフを持たせるな。持たせたら最後、誰も勝てない悪魔になる」



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君達、こいつ(ドーベンウルフ)を見てどう思う?

女尊男卑当たり前な女の子達が集う学園のとある一室、1-1と書かれた表札がつけられた教室で、一人の『男子生徒』がだらだら汗をかきながら迫りくるプレッシャーを最前列の机にてひたすら耐え忍んでいた。

 

(こ、これは………想像以上に、きつい……)

 

男子生徒の名前は織斑一夏。

 

そしてプレッシャーの正体は『視線』

 

(覚悟はしてたけど…やっぱりこうなるよなぁ……)

 

自分の席が一番前なことに見えない悪意的なものを感じながらも、一夏はなんとなくこうなることを予想していた。

 

数か月前、彼は間違えて辿り着いた『IS学園』の受験会場で、偶然ISを動かしてしまった。女性にしか動かせないISを男性が動かした、という今の社会の根本を覆すような一大事をやらかした一夏は、様々なところから文字通り引っ張りだこだった。

それこそテレビや雑誌の取材から研究機関、あげくは一夏を連れ去ろうとする他国の暗部組織的なのに狙われたりと、夜もおちおち眠れない生活が続いていた。

 

この前代未聞な事態に政府も対策が追い付かず、とりあえずの一夏の身柄安全確保としてこのIS学園への入学が決定されたのである

 

(し…視線が!背中に刺さる視線が痛い!自意識過剰とか抜きに本気で誰か変わってくれぇ……)

 

全国の男子達が聞けばすぐさまぶっ飛ばされそうだが、女子高同然の学校に男子が一人だけというのは想像以上に精神を削られてしまいヤバいようである

 

「……ら君!織斑君!織斑一夏君!!」

 

「っ!?は、はい!」

 

と、物思いにふけってしまっていた一夏はいきなり名前を呼ばれて思い切り立ちあがってしまった

 

目の前には、今日から1クラスの副担任である山田真耶先生が出席簿を自己主張の激しい胸に抱えていた

 

「え、えぇと…ごめんね?次は『お』から始まる織斑君なんだけど…自己紹介、してくれますか?」

 

「あ、あぁ、はい…」

 

恐らく元々押しの弱い性格なのだろう、前かがみになって上目遣いでこちらを覗いてくる。そのせいで、ただでさえ出席簿で押さえつけられている豊満な胸がより強調されてしまっている。一夏としては非常に目のやり場に困るので、さっさと自分の自己紹介に入ってしまおうと無理やり視線を前に向けた。

 

「えーと…織斑一夏です、よろしくお願いします!」

 

「……………………?」

 

(な、なんだ!?この『え?それだけ?』的な感じの視線は!?)

 

どうやらたった一人の男子生徒の自己紹介に相当期待しているらしい

 

一夏はチラリと助けを求めるように、窓際の列に座っている幼馴染の篠ノ之箒へと視線を向ける

 

(ほ、箒っ!へーるぷ!)

 

が、なぜかプイッと顔を背けられてしまう……

 

(ぐっ…なんだ!?6年ぶりで忘れられてんのか!?)

 

なんにせよこのままだと自分に『暗いやつ』のレッテルを張られてしまう

 

(だァァああ!何まごついてんだよ織斑一夏!ここで決めなきゃ、男じゃねぇ!!)

 

すうっ!と大きく息を吸い込む。

皆の視線がより強くなったの見計らい―――!

 

「以上です!!」

 

ガタタタッ!!と視線を投げかけていた女子生徒が全員綺麗にずっこける

 

これ以上ないくらい気合いを入れた割には新喜劇よろしくな皆の反応に、え?これで正解じゃないの?的な顔ではてなマークを浮かべる一夏。と、周りの反応に置いてかれている彼に……

 

スパァン!!

 

「ふげぇ!!」

 

謎の強烈な衝撃が頭のてっぺんに叩き込まれた。

情けない声をあげならがら一夏は恐る恐る後ろを振り返ると……

 

「げっ! ハマーン・カーン! がはぁっ!?」

 

「誰がミンキーモモだ!まったく、自己紹介もまともに出来んのか馬鹿者め。それとここでは織斑『先生』と呼べ」

 

さらにとどめと言わんばかりの出席簿をもう一度くらわせたのは、一夏の姉であり全世界の女性の憧れでもある織斑千冬だった。

 

「は、はい…織斑せ「キャアア千冬様ァァァアアアアアア!!!!」耳がああああああああ!!」

 

出席簿2連撃を受けた直後、今度は彼女が現れると同時に巻き起こった耳をつんざかんばかりの歓声が今度こそ一夏にとどめをさした

 

女子たちの黄色い歓声に、千冬はハァ…と、本気で呆れているような顔でため息をつく

 

「全く……毎年毎年よくもまあここまで集まるものだ。それとも私のクラスだけ馬鹿者を集中させているのか?」

 

確かに歓声の中には「叱って罵って!!」だの、「お姉様のためになら死ねます!!」など、16歳の女子高生の発言としてはいささか不味い物まで混じっている。

 

「さて、もう1人生徒を紹介せねばな……」

 

そう言って千冬はつづら巻きにされた真島を廊下から引っ張り出した。

 

「んぐんぐ……いでぇ!?」

 

千冬は真島の口に引っ付けていたガムテープをひっぺがし、ぐるぐる巻きにしてあったロープを解いて引っ張って起こした。

 

「あー、私の自己紹介をする前に……君達にこのプラモデルを見て欲しい。……こいつを見てどう思う?」

 

「趣味から話す奴がいるか馬鹿者!……!?」

 

何事も無かったかのように自己紹介に移った真島は千冬の会心必中をガン無視してドーベンウルフを教壇に置く。真島の姿は、まるで愛の前にはバイオレンスなど無意味と言っているかのようだった

 

 

「「「「「?」」」」」

 

大半の女子達は首を傾げるが、一夏とのんびりしてそうな女子と山田先生が反応した。

 

「おぉ……すげぇかっこいいぜ!」

 

「このフォルム……控えめに言って最高です! もしかしてプラ板で1から作ったんですか?」

 

「武器全部載せって感じ〜!」

 

「一夏君57点、山田先生100点、布仏さん60点。皆、素晴らしい理解度だ。特に山田先生とはいいドーベンウルフ談義が出来そうだ……」

 

「なんで私の名前知ってるの〜?」

 

「織斑先生の出席簿を覗き見したから全員の名前は覚えている。この程度の事、ドーベンウルフ教を布教する為には序の口に過ぎない……」

 

「「「「「???」」」」」

 

「さて、ドーベンウルフの素晴らしさを植え付けた所で自己紹介といこう。真島 瀬呂だ。ドーベンウルフをこよなく愛するただのプラモデラーさ。そして世界で唯一ドーベンウルフのプラモデルを食べられる人物でもある。夢は全ての量産機のISをドーベンウルフに変えることだ。よろしく頼む」

 

「「「「「」」」」」

 

最後の言葉の意味が分からなさすぎて殆どの生徒の思考がパンクしてしまった。篠ノ乃 箒も、大半の女子生徒も、かの織斑 千冬でさえ脳内宇宙猫しそうになってしまった。目の前にいるのは男に非ず。男っぽい見た目をした人外である。

 

正気なのは本音(ドーベンウルフに言い知れぬロマンを感じたから耐えられた)、一夏(なんかよく分からないけどドーベンウルフがかっこいいと思っていたから耐えられた)、山田先生(ドーベンウルフを理解したから耐えられた)、そして真島(ドーベンウルフ)の4人だけである。

 

「しょ、SHRを始めますね? 織斑先生、そろそろ号令を……!?」

 

「千冬姉が……立ったまま気絶している!?」

 

「わー!みんな座ったまま気絶しているー!」

 

「ふむ、ドーベンウルフ分を摂取しすぎて気絶してしまったか。だが、ドーベンウルフを布教する為には致し方ない犠牲だな……」

 

「み、皆さんしっかりしてください〜!!」



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打鉄?そんな事よりドーベンウルフだ!

あの後何故か織斑先生にぶっ叩かれたが、あそこで頭を撃ち落とされていたらドーベンウルフに傷がついてしまっただろう。耐えれてよかった。

 

そんな織斑先生と同志山田先生に教室に呼ばれた。

 

「真島、貴様の部屋の鍵だ。貴様の部屋は1026、1025である織斑の隣の部屋だ。くれぐれも騒ぎは起こさないように。いいな?」

 

「いえ、そこは問題ありません。基本的にドーベンウルフ作ってるんで」

 

「はぁ……特別にプラモデルの器具の持ち込みを許可したが、なんだあの数は!? もっとこう……持ち出す器具を減らせなかったのか?」

 

「何言ってるんですか?俺はドーベンウルフ専門のプラモデラーなんであれでも少ない方ですよ?ねぇ山田先生」

 

「はい! あれでも少ない方ですよ織斑先生! 私なんて数えるのも億劫な程塗料持ってますから!」

 

「はぁ……」

 

「ため息ついてるとドーベンウルフにフラれますよ?」

 

「無機物に恋愛するような程私は落ちぶれていない……」

 

なんか聞き捨てならない言葉が聞こえたが、ここは水に流そう……

 

 

 

 

 

 

 

「さて、俺の部屋はどんな感じに……んん?」

 

あの後軽く山田先生とプラモ談義をし、───いつの間にか織斑先生はいなくなっていた───1036室の前に真島は立ち、カードキーを使いロックを解除してドアを開け……開けれなかった。

真島はカードキーをもう一度使い、今度こそロック解除して入ると……

 

「お帰りなさい♡ ご飯にします? お風呂にします? それとも……わ・た・し?」

 

見知らぬ女性が裸エプロンで居た……でもちょっと待って欲しい。

 

何故ドーベンウルフの選択肢が無い?

 

「ドーベンウルフ」

 

「へ?」

 

「だから、ドーベンウルフだって。 ド ー ベ ン ウ ル フ !」

 

「ごめんなさい、お姉さん、ちょっと何言ってるか分からないわ…………そもそもドーベンウルフって何かしら?」

 

「説明しよう!ドーベンウルフとは準サイコミュをコンピュータ等のメカニックで代用することにより、量産機への搭載に視野を入れ!またバックパックに大型の高出力スラスターや脚部のラウンドスラスターの他、機体全体に当時の標準設置数を大きく超える17基のサブスラスターを搭載し、22メートル級の大型MSながら機動性も非常に高い水準を保っている!

 

機体の汎用性を武装の豊富さで際立たせるといった面はラファール系統の機体にも通ずるが、マシュマー博士独自の思想により、本機の場合はそれらのほとんどが専用/固定装備となっており、その結果本機は単独で対艦・対IS・オールレンジ攻撃をこなし、戦略兵器級の固定火器を内蔵する!しかも!」

 

 

 

 

「宇宙で活動できる!」

 

「」

 

 

後に生徒会長の更識 楯無はこう語った。

「彼がもっと早く生まれていたら、ISは間違いなく宇宙を飛んでいた」と……

 

 

 

 

 

 

 

翌日、1時間目の授業の真っただ中、前日始業式後のHR同様一人の男子生徒がだらだら汗をかいていた。もちろん織斑 一夏である。というか一夏しかいない。(真島はドーベンウルフ狂なのでノーカウント)

 

「ぜ…全部分かりません……」

 

「ぜ、全部ですか!?」

 

ただし今回迫っているプレッシャーの正体は、黒板の横で仁王立ちしている千冬からのものであるようだ。

 

「ええと……今の段階で全く分からないという人は他にいますか?」

 

戸惑いながらも何とか教師としての責務を果たそうとする真耶だったが、誰も手を上げない状況を自分で作り出してしまい結局涙目になってしまった

 

「織斑…入学証と一緒に同封された案内書は読んだか?必読と書いてあったはずだが」

 

「あ、あの電話帳みたいなやつですか?間違えて古本と一緒にすてまし ダッ!?」

 

鉄拳制裁を食らわした千冬は、とても面倒そうにため息をついた。

 

「仕方ない。新しいものを発行してやるから、一週間で覚えてこい」

 

「一週間!?いや、さすがにあの電話帳サイズで一週間は……」

 

「あ゛?」

 

「やります!!」

 

抵抗むなしくさっさと言いくるめられた一夏であったが、1つ気になる事があった。

そういえば真島はどうなのだろうか。

 

「なぁ瀬呂! これやっぱり分かんな「全部1週で覚えた」……えぇ!?」

 

「何を言っているんだ一夏よ。ドーベンウルフを量産機シェア1位を目指す私にとってこの程度なんの障壁にもならない。新しい戦車を作るには戦車について知らねば作れないだろう?そういう事だ。あ、別に独自解釈とかはしてないぞ? それで意見の食い違いが発生したらまずいからな。1字1句正確に覚えているのだ!」

 

「……覚え方は兎も角、全部覚えているのだな? それなら織斑に教えてやれ」

 

「問題ありません! 休み時間を使ってでも教えてみせます!」

 

 

 

 

 

 

休み時間、真島はドーベンウルフのプラモデルを置いてドーベンウルフで例えながらIS知識を説明していた。

 

「いいか?ISのPICは、いわばロケットのブースター、ドーベンウルフのスラスターと同じような役割があるんだ。ドーベンウルフの背中にあるこれとかだな!」

 

「おぉ……実物があるとすげぇ分かりやすいぜ! すまねぇな瀬呂!」

 

「次に代表候補生だな。例えるなら代表候補生はドーベンウルフの武装をほぼ全て扱えるよう「ちょっとよろしくて?」…………俺は構わない。だがドーベンウルフが許すかな!? ……あ、許すって」

 

真島のドーベンウルフ式解説は鮮やかな金髪をもつ女子によって遮られた。毛先に軽くかかったロールが『いかにも』な感じを漂わせていて、白人特有のブルーな瞳をやや吊り上がらせて一夏と真島を見下ろしていた。

 

「……んっん! 訊いてます?お返事は?」

 

「あ、あぁ…聞いてるけど、どんな用件だ?」

 

真島の言葉を──理解に苦しむ為──無視し、一夏が用件を聞くと、目の前の女子生徒はかなりわざとらしく声をあげた。

 

「まぁ!なんですの、そのお返事!代表候補生であるこのセシリア・オルコットに話しかけられるだけでも光栄なことなのですから、それ相応の態度というものがあるのではないですか?」

 

「…………」

 

正直、一夏にとってこの手の相手は苦手だった。しかし、特に大した理由もなく優先順位が下に回ってしまうのが今の世の中、ということになっている。この女子生徒の一夏達への態度もまぁ、一般的といえば一般的だった。

だが、世界にドーベンウルフを広めるのが目標の真島は関係ない。

 

「丁度いい、君にもドーベンウルフの素晴らしさを「お、お断りしますわ!」……(´・ω・`)」

 

「あ、なぁ質問いいか?」

 

「なんですの!?今はこのプラモ狂いに話しているのであって、あなたの様な凡人に付き合っているような事態では──「代表候補生ってなんだ?」」

 

ガタタタタタッ!と音がするので真島が見回すと、聞き耳を立てていた女子達がまたもずっこけていた。

 

「あ、あ、あ……」

 

「あ?」

 

「貴方、本気でおっしゃっていますの!?」

 

「おう。知らん」

 

「…………」

 

どうやら怒りが一周して逆に冷静になったらしいセシリアは、頭痛が痛む人のようにこめかみを人差し指でおさえながらぶつぶつ言いだした。

 

「信じられない、信じられませんわ。極東の島国というのは、ここまで未開の地なのかしら。片や意味不明なプラモ狂、片やテレビもないと言わんばかりの常識知らずなんて……」

 

「失礼な、テレビくらいあるぞ。あと、瀬呂の代表候補生の説明が聞ききれなかっただけだぞ?」

 

「ふむ。タイミングが悪かったしもう一度説明しよう。さて一夏、いきなりドーベンウルフに乗って全ての武装を使いこなせと言われたらできるか?」

 

「……いや、流石に無理だろ。できてもせいぜい2、3種類で、かなり時間をかけないと無理だと思う」

 

「代表候補生はドーベンウルフの武装のほぼ全てを扱える実力と才能を持つ、いわばエースパイロットの卵みたいなものなんだ。つまりエリート。ちなみに織斑先生なら1度乗っただけで全ての武装を同時に複数使える」

 

 

 

 

「はっくしゅん! ……真島が私の事で何か話しているな……大方ドーベンウルフとやらと私で何かを例えているのだろう……」

 

 

 

 

「おぉ……千冬姉はもちろん、セシリアもすげぇんだな!!」

 

「そう!エリートなのですわ!」

 

エリートの響きで完全にドーベンウルフの例え方を──脳が理解を拒んだ為──スルーした事実で実物なエリート、セシリア・オルコットは、一夏の鼻先まで人差し指をビシッと突き立てる。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間と同じクラスで同じ時間を過ごせること自体、それはそれは奇跡…幸運な事なんですわよ。その現実をもう少し理解していただける?」

 

「つまりセシリアはドーベンウルフの武装をほぼ全て扱えるってことだな?」

 

「…………貴方、それは本当に冗談ですわよね?」

 

「大体、ISの知識もないのによくこのIS学園に入れましたね……。男でISを扱えると聞いてみたからどんなものかと思ってみれば……実態はプラモ狂に教えてもらう有様! やはり男は男、期待外れですわね」

 

「俺に何かを期待されても困るんだが…」

 

「ふん、まあでも?わたくしは優秀ですから、ISのことについて分からないことがあれば、そうですわね……泣いて頼まれれば教えて差し上げてもよくってよ?」

 

「うーん、一夏、俺とオルコット、どっちの説明が分かりやすかった?」

 

「うーん、瀬呂かなぁ……ドーベンウルフで例える説明、結構分かりやすいし」

 

 

 

「なんであれで理解できるのか理解に苦しみますわ……あなたにはまず自分の立場を弁えるということを教えて差し上げたほうがいいようですわね。入試試験で唯一教員を倒した、といってもまだ同じセリフが言えまして?」

 

「? 俺も倒したぞ?」

 

「あ、俺は織斑先生が相手だったけどドーベンウルフじゃないからやる気が起きなかったなぁ……ラファール・リヴァイブをドーベンウルフと思い込んでやっても結局引き分けだった。いやー惜しかったなあれは。生身であれなんだからIS纏ったらもっとってことだろ?」

 

一夏がダイナマイトを起爆し、真島が水素爆弾を投下した事によりクラス全体の時が止まったかのように誰も動かなくなった。

 

「……え? それはどういう……」

 

「どうって、向こうが勝手に突っ込んできて壁に当たって自滅しただけだぞ?」

 

「そのままの意味。試験ではラファール・リヴァイブをドーベンウルフと思い込んでやって、織斑先生は素手でキャノン砲の弾掴んでた。いやー、やっぱり思い込みが足りなくてビーム出せなかったのがダメだったなぁ……」

 

「」

 



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やっぱ持つべきISはラファールよりもドーベンウルフだな!

 

「……っ!またあとで来ますわ!逃げないことね!よくって!?」

 

授業合間の十分休みで割と色々な経験───主に狂人とはまともに話せないという事───を積んだセシリアは、授業再開のチャイムが鳴ると同時に真島と一夏にそんな捨て台詞をのこして自分の席に戻っていった

 

結局あのお嬢様が自分達に何を言いたかったのかイマイチ分からなかったが、「次の授業は千冬様が担当教師なんだって、キャー!」という女子たちの雑談を聞いた一夏は顔を青くしてそそくさと戻っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、そういえば授業を始める前に、お前たちの中から一人、再来週に行われるクラス対抗戦に出場するクラス代表を選出しなければならなかったな」

 

千冬がふと思い出したように言った言葉に、教室はざわざわし始めた

 

「クラス代表とは、まあそのままの意味だ。クラス対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席なども行う。一度決まれば一年間変更は無いから責任を持ってのぞむように」

 

「はいっ!私は織斑君を推薦しますっ!」

 

「私もです!」

 

「私も!」

 

「では候補者一名、織斑一夏……他にはいないか?自他推薦は問わないぞ」

 

「お、俺!?」

 

いきなり白羽の矢が立ったどころか問答無用で候補者の一人になってしまったことに、一夏は思わず抗議の声をあげていた

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!クラス代表なんて面倒くさそうなこと俺はやらな──」

 

「自他推薦は問わないと言ったはずだ。選ばれた以上は責任を持ってやれ」

 

……が、全く取り合ってもらえず、一人がっくり肩を落とすだけの結果に終わった

 

(なんていうか、千冬姉が担任な時点で俺に拒否権なんて無いような気がするなぁ……ん?そうだ! 瀬呂をクラス代表にしよう!瀬呂は俺よりも知識も実力もあるだろうし、俺はめんどくさい事やらなくて済むし、何より瀬呂はドーベンウルフを布教?できるからwin-winだ!そうと決まれば早速……!)

 

「だったら俺は瀬呂を推薦するぜ!俺なんかよりも知識も実力も上なはずだ! だから瀬呂が相応しいと思う!」

 

「ん〜、私はまっしーを推薦しまーす!」

 

皆真島を敬遠していた中、本音と一夏が推薦する。

 

「ふむ……ドーベンウルフ教の教祖としてこれを受けない訳にはいかないな。だが、私の付け焼き刃の知識と実力よりも、代表候補生にまで上り詰めたオルコットさんが1番相応しいと考える。なので私はオルコットさんを推薦しよう」

 

真島は少し悩んだ末にセシリアを推薦。

 

「……たとえ狂人からの推薦だけだろうと推薦されたのならばやりますわ!ですが、ここで私達の実力差を明確にする必要があるのも事実。ここにクラス代表を決めるための試合の提案をしますわ!」

 

「……いいだろう。山田先生、アリーナが空いている時間帯は?」

 

セシリアが提案した試合の許可を出した千冬が山田先生にアリーナの使える時間帯を聞いて山田先生がパラパラと書類を捲る。

 

「えっと……丁度1週間後に空いてます!」

 

「では1週間後にこの三名で1週間後に試合だ。分かったな?」

 

 

 

 

職員室、真島は訓練用ISを借りる(ドーベンウルフに改造する)為に山田先生に許可を貰いに来た。

ちなみに織斑先生は近くのダンボールの陰に隠れているが、ドーベンウルフ2号機に侵入者対策で新しく取り付けた対人センサーでバレバレである。

だがドーベンウルフ教は来る者拒まず、去る者追わず、隠れる者を指摘せずの信条で活動しているので真島はそっとしておいている。

 

「ふふふ……山田先生、先生に渡したドーベンウルフ3号機、いいカラーリングですよ!」

 

「あ、分かりますか? 藤色も似合うと思って塗装してみたんですが、実は藤色をメインに塗るのは初めてでドーベンウルフに似合っているか心配だったんですよ〜!」

 

「いえ、ドーベンウルフは何色でも似合いますよ!12万色のゲーミングドーベンウルフもいつか作ってみたいですね〜……」

 

「12万色ですか……ISコアを作るよりも大変そうですね……」

 

「あ、所で訓練用ISって空いてますかね?ちょっとISに触りたくて……」

 

(絶対真島は訓練用ISを全てドーベンウルフに改造しかねない! 悔しいがあいつに頼るしかないか……)

 

「えっと、丁度一機空いてますよ!許可し「その必要は無い」 …? どうしたんですか織斑先生。急に出てきて……」

 

「あー、友人から真島の専用機を与えたいと連絡が来てな……訓練用ISは使わなくていい事になった」

 

「そうなんですか? でもドーベンウルフ以外の機体はちょっと……」

 

「本人曰く改造しても構わないそうだ。明後日までには届くそうだからそれまでISの訓練は我慢するように」

 

「本当にドーベンウルフに改造してもいいんですね? 分かりました。届くまでISに触れるのは我慢します!」

 

「という事だ山田先生。私は真島の専用機の詳しい情報を聞いてくる。……………………はぁ」

 

「「?」」

 

千冬はこれからの面倒事にため息をつきながらも立ち去る。それを2人は不思議そうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬は自室で──不本意ではあるが──頼みの綱である天災科学者、篠ノ之 束に連絡を入れる。

 

「……」

 

『もしもしちーちゃん?そっちから電話かけるなんて珍しいね!もしかして寂しくて束さんと話したくなっちゃった? それともいっくんの専用機に何か要望でもある?それともそれとも箒ちゃんの「真島 瀬呂という人物に専用機を作って欲しい」……はいはい真島 瀬呂 真島 瀬呂……あった。……って、こんなそこら辺にいるゴミクズに私が専用機を作んなきゃいけないの?』

 

束は平常運転だが、千冬は真剣だし、なんならちょっと手が震えている。

 

「お願いだ束……学園の訓練用ISが真島のドーベンウルフに乗っ取られる前に専用機を作ってくれ……あのバケモノを野放しにさせないでくれ……」

 

『……よし、このゴミクズを殺せばちーちゃんの悩みは無くなるんだね?なら早速学園に向けてゴーレムを「無駄だ」……いくらちーちゃんでも冗談が過ぎるんじゃない? というかちーちゃんが冗談言うなんて珍しいね』

 

「お前は真島を知らないからそんな事を言えるんだ……私を自己紹介で話しただけで立ったまま気絶させ、私の出席簿を受けても平然とし、口を開けばドーベンウルフという単語が2、3回は出る……普段はまともで一夏の役に立っている分、正直お前よりも厄介だよ……」

 

『なにそれこわい……まぁちーちゃんの頼みだし作ってあげる。どんな感じに作ればいいの?』

 

「とりあえず拡張性を極限まで高めてくれ。どうせ原型は留めないからな……」

 

『……あー、うん。分かった。……頑張ってね? バイバーイ!』

 

「ふふっ……私はこんな状態でもしっかりと頑張るさ……はぁ……」

 

そんなこんなで千冬は交渉を終えて今日何度目なのかも分からないため息をつくのだった……

 



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プロト・ドーベンウルフ、そして一次移行

『……ちーちゃん?なんで怒ってるの?』

 

2日後、整備室で千冬は電話越しでも分かるほどの怒気をはらんで青筋をたてまくっていた。目の前には骨組みの見た目をしたISかどうか怪しいナニカが置いてあった。どうやら話を聞く限り一応ISではあるようだ。

 

「当たり前だ……誰が最低限動くだけの骨組みしかないISを送ればいいと言った?装甲の「そ」の字もないぞ?しかも無駄にデカいじゃないか!」

 

『いや?束さんは大真面目に作ったよ?拡張性を極限まで高めてくれって要望が来たんだから、それに忠実に作ったらこうなっただけだけど?』

 

これは半分本当で半分嘘。ISコア、PIC装置、シールドバリアー発生装置等の重要部分は守りも何も無い剥き出し。拡張性を極限まで高めた結果、こうなったとの事。ここまでは本当。そしてここからは嘘の内容である。実は装甲は展開装甲の試作品──紅椿に合わないサイズの為放棄されたもの──を取り付けられたし、サイズも努力すればもっと小さくできた。

 

「もし真島がこれを拒否したらもう一度作ってもらうぞ? 絶対だ。いいな?」

 

『大丈夫だって!所詮ゴミクズはゴミクズ。これで十分だよ。一応拡張性は抜群だよ?』

 

「はぁ……切るぞ」

 

『え、それよりもちーちゃんとお話した』ブツッ! ツー、ツー、ツー……

 

千冬が電話を切るのと同時に山田先生と真島が整備室に入る。

 

「お、これが俺の専用機の卵ですか〜!いやぁ、これを送ってきた人は分かっていますね!ドーベンウルフに改造するのに相応しいサイズ、このRGのプラモデルを組み立てている途中であるかのような感じ、作り手へ与えられた高い自由度!どれをとっても素晴らしいィィィ!そう思うでしょう山田先生!」

 

「そうですね!早速取り掛かりましょう!そしてその勢いでプラモデル部の設立に向けて頑張りましょう!」

 

「……ん?プラモデル部だと?」

 

「はい!プラモデルの制作を通してISへの愛を深めるという目的の下活動し、ついでにプラモデルの素晴らしさを感じる為の部活……という感じになる予定です」

 

「」

 

千冬の苦労はまだまだ増え続けるようだ……

 

 

 

 

 

 

 

──そしてISの1組の代表を決める試合当日。

 

一夏とセシリア。

真島とセシリア。

真島と一夏という形で試合は行われることになった。

ちなみに真島は試合まで別室で待機だ。

 

後にクラスメイトに聞くと、試合の直前まで一夏のISは届かず、順番を前後する案が出た辺りでギリギリ間に合う形で試合は開始した。

 

一夏は善戦していたが、セシリアに追い詰められピンチになったところ、一次移行が間に合い一夏のISである『白式』の力が発揮され……たのだが、セシリアに切りかかる寸前の所で何故かエネルギーが切れてしまい一夏の負けという形で決着が着いた。

何とも締まらない終わり方ではあったが、結果として見れば初めての機体で、しかも射撃特化の機体相手にブレード一本での大健闘であった。

 

ピットに戻った一夏は箒と千冬に厳しい言葉を送られ、凹んでしまっている。

 

そして、補給や休憩の時間は終わり、真島とセシリアの試合が今、始まろうとしていた。

 

「───今度こそ勝つのは私ですわ!」

 

1人だけのピットでセシリアは静かに闘志を燃やし……

 

 

 

真島のピットには山田先生がいた。何処か落ち込んでいるようにも見える。

 

真島は目に隈ができていたが、眠気は無いようだ。

 

「流石に完徹しても3日と半日で完成は無理だったか……」

 

「ですね……有り合わせの装甲で作った本体は兎も角、まともに使えるのはビームサーベルとビームライフルとバックパックに2基搭載されているミサイルポッドのうち一基。それ以外の機能は全て未完成、機体スペックも本来の50%も出せません……申し訳ないです真島君……私がもっと時間を取れるようにしていれば……」

 

「大丈夫です山田先生!俺が乗るのはドーベンウルフですよ?たとえ50%未満の性能しか出せなくてもやってみせますから!」

 

「すみません……」

 

山田先生の頼みとそれによる織斑先生のお情けにより真島は3日連続でドーベンウルフを作り続け、なんと装甲は本来の硬さは引き出せないものの全身に取り付けられ、アポジモーターは何とか納得のいく性能のものが完成し、武装もドーベンウルフの互換性は低くなったものの最低限戦えるだけのものは作れた。

もし真島が作っていたのがドーベンウルフでなければ、きっと真島は骨組みのまま戦っていただろう。それによって引き起こされる真島とその対戦相手のストレスは計り知れない。

 

「さて、プロト・ドーベンウルフ……俺と戦おうぜ!」

 

真島は未完成のグレーカラーのドーベンウルフ、プロト・ドーベンウルフを纏い数秒で初期化を終える。

 

「ではカタパルトに乗ってください!」

 

山田先生の指示でプロト・ドーベンウルフはその巨体をホバーで動かしてカタパルトに乗る。

 

「真島 瀬呂、プロト・ドーベンウルフ、出る!」

 

 

真島がアリーナに射出されると、既にセシリアがアリーナの中央で浮遊して待っていた。

 

「それが貴方の専用機ですわね? 全身装甲ですか……ですが、たとえ第一世代が相手でも手加減しませんわ!」

 

 

『セシリア・オルコット 対 真島 瀬呂、試合開始!』

 

アナウンスが流れ、それと同時に試合開始を告げる電子音がアリーナ中に響き渡る。

 

その瞬間、互いに手持ちの武器──────セシリアは二メートルはあるであろう長大なレーザーライフルであるスターライトMk-III、真島は異質な形のプロト・ドーベンウルフ専用のビームライフル──────を構え、セシリアのスターライトMk-IIIから高出力のレーザーが放たれ、それを真島のプロト・ドーベンウルフはその巨躯に見合わない素早さで回避する。

 

「! 見た目以上に素早いですわね! ですが1発だけ避けたところで!」

 

「あのライフルは取り回しが悪いだろうから狙うなら中~近距離戦か……」

 

セシリアはスターライトMk-IIIを連射して真島を執拗に狙い、真島はそれを地上をホバーで移動しながら避けてじりじりとセシリアの死角───厳密にはハイパーセンサーの搭載によってISに死角は存在しないが、この場合は背後等の武器で狙えない方向を指す───を狙う。

 

「この距離だと不利ですわね……お行きなさい ブルー・ティアーズ!」

 

 

腰のフィン・アーマー、そこに備えられた四基の無線式遠隔操作端末が射出されて真島のプロト・ドーベンウルフを包囲してオールレンジ攻撃を始める。

 

「ビットか! インコムのデータ回収に役立たせてもらう!」

 

「ぐっ…中々当たらない……!」

 

プロト・ドーベンウルフの見た目以上の高い運動性にセシリアのビット、ブルー・ティアーズは逆に翻弄されて中々レーザーが当たらない。

 

「さぁ、データ回収も終わったし……ん?」

 

真島の目の前に一次移行の文字が映される。止まってしまった真島を狙ってセシリアのブルー・ティアーズのレーザーが炸裂。

 

「何の光ですの!?」

 

突如真島のプロト・ドーベンウルフが光り輝き、グレーカラーの装甲が深い緑色をベースに、所々に真紅の装甲が追加される。

 

「一次移行!? 貴方も最適化無しで戦っていたというのですの!?」

 

そして胸部の突貫工事で取り付けられた装甲板が消え去り拡散型メガ粒子砲が現れ、バックパックが更に巨大化して有線式の準サイコミュ兵器、インコムが飛び出して瞬く間にセシリアのビットを2基撃墜した。

 

「くっ!ブルー・ティアーズが2基も……!」

 

「さぁ……ドーベンウルフの全力、見せてやるよ!」

 

ドーベンウルフの青いモノアイが光り輝き、真島は巨大なドーベンウルフ専用ビームライフルを胸部拡散メガ粒子砲に接続する。

 

「尚更油断できませんわね……!」

 

セシリアは再び距離を取ってスターライトMk-IIIを構える。

 

両者のビームがぶつかり合い、決着は出力勝負に持ち込まれる。食らった方が負ける。ビームの威力の高さがそれを意味していた。

 

「負けるものか……!」

 

「負けませんわ……!」

 

やがてスターライトMk-IIIのレーザーが押し負けていき、あと少しでセシリアのブルー・ティアーズに直撃する。

 

「まだ……諦めませんわ! 生憎ティアーズはミサイル型がまだ2基ありまして!」

 

最後の足掻きと言わんばかりにセシリアの肩部からビット型のミサイルが射出される。

 

「ドーベンウルフの武装数は伊達じゃねぇ!行け、ミサイル!」

 

ドーベンウルフのバックパックからミサイルが射出され、ミサイル型ビットにぶつかって誘爆させてセシリアの足掻きを潰した。

もう巻き返す手段がないセシリアはドーベンウルフのビームに飲み込まれ……

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

『勝者、真島 瀬呂!』



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ドーベンウルフ改め、ドーベン・ルーツ

「……これは前代未聞の出来事だ」

 

千冬が目を見開いて語り始める。

 

「? どういうことなんだ千……織斑先生?」

 

一夏が疑問を発すると、千冬が説明を入れる。

 

「真島のプロト・ドーベンウルフはあくまでも見た目をドーベンウルフに近づけてそれっぽくした全く別の機体らしい。実際殆どの武装は機能していなかったし、装甲配置等も所々違う。言ってしまえば急造品のハリボテデチューン機体だな」

 

「つまり、試合の殆どの間の瀬呂は本調子で戦えてなかったって事か!?」

 

「……そうだ。それで代表候補生と途中まで互角に渡り合い、一次移行になってオルコットをほぼ圧倒した……断言しよう。奴に勝つには零落白夜を当てねばならないが、織斑、今のお前の実力では余程の事が無い限り当てられないだろう……」

 

「……それでもやらなきゃダメだよな! 試合前から負けるかもしれねぇなんて考えるとか俺らしくねぇ! 行ってくる!」

 

「…一夏、お前は私の癒しだ……」

 

「ん? 何か言ったか織斑先生?」

 

「んっん! なんでもない」

 

千冬の一夏の扱いが五感で感じる抗うつ剤みたいな扱いになっていく……これも全てドーベンウルフ狂が原因だ。

 

 

 

 

一夏がカタパルトでアリーナに射出されると、既に真島がドーベンウルフを纏い浮遊して腕を組みながら待っていた。

 

「ふっ……来たな一夏。お前も糧にして我がドーベンウルフの素晴らしさをここに見せつけてやろう!」

 

「おもしれぇ! だけど、勝つのは俺だ!」

 

『織斑 一夏 対 真島 瀬呂、試合開始!』

 

試合開始の電子音が響くと共に真島のドーベンウルフはビームサーベルを、一夏の白式は雪片弐型を携えて斬りかかり、鍔迫り合いに発展する。

 

「ぐぅ……だがドーベンウルフは武装の多彩さがウリなんだ!くらえ!」

 

密着状態の所にドーベンウルフの胸部拡散メガ粒子砲が轟き、白式のシールドエネルギーを大幅に削り取る。

 

堪らず一夏は1度引き下がるが、今度はドーベンウルフのインコムとビームライフルのブルー・ティアーズとはまた違う傾向である多方向からの攻撃に翻弄される。

 

「なんて威力なんだよ……! 近づいたらサーベルで止められて胸ビーム、距離を取ったらオールレンジ攻撃……厄介すぎだろ!?」

 

ここに来て一夏は千冬の言っていた事を完全に理解した。これでは零落白夜を当てる前に胸部拡散メガ粒子砲の餌になるだけだ。かと言ってこのままでもジリ貧で負けてしまう。

 

(だったら一撃離脱で戦うしかないよな……やるしかねぇ!)

 

一夏は瞬時加速、通称イグニッションブーストを使いドーベンウルフに肉薄する。やるなら真島にぶつかる程の勢いで。相手に思考させる時間を与えさせない。相手が思考している内に雪片弐型で突きを入れる。

 

間に合わない。そう真島が思った。

 

この時、せめて白式の雪片弐型にブーメランカッターのような飛び道具でも搭載されていれば結果は変わっていただろう。

 

P L E T W O

 

突如ドーベンウルフの青色のモノアイが真紅に輝き、ドーベンウルフは体を捻り雪片弐型による突きを回避し、返す刀でビームサーベルを白式のシールドバリアーに突き刺した!

 

『勝者、真島 瀬呂!』

 

「……今のは?」

 

落下する一夏を受け止めた真島は意図していない動きに困惑し、なにか原因が無いのかとドーベンウルフ内のデータの海に潜り込む。

すると、真島の頭の中に声が響く。

 

『アンタが真島 瀬呂だな? 私は人工知能、PLE TWOだ。最後のあの動きは私がやった事だ』

 

「……君の役割はなんだ?」

 

『私の役割は戦闘のサポート、授業中のデータ収集、そして『ドーベンウルフの自己進化』の3つだ』

 

「自己進化?」

 

『自己進化はそのままの意味で、必要に応じて性能が変化を起こす。今回起きた自己進化の内容はミノフスキー・イヨネスコ核融合反応炉と、私の搭載だ。先程までドーベンウルフは燃費が悪く、連続稼働時間は1時間も無かっただろう。だが、ジェネレーターの搭載により連絡稼働時間は23時間にまで延びた。出力はモビルスーツとしてのドーベンウルフと同等だ』

 

「つまり、最早この機体はドーベンウルフではないという事か……なら名前を変えよう。全てのドーベンウルフの始祖という意味を込めてドーベン・ルーツ。この機体の名前はドーベン・ルーツだ」

 

『安直ではあるが、良い名前だ』

 

「ふむ、AIからの評価も上々……っと」

 

真島はドーベンウルフ改め、ドーベン・ルーツのデータから反応炉とPLE TWOと自己進化機能を取り除いて、量産機としてのドーベンウルフの設計図を作った。

 

 

「うーん……あ、負けたんだな、俺……」

 

「おう一夏! 悪いが俺、クラス代表……辞退するわ!」

 

「……えぇ!?」

 

一夏は驚愕しすぎて顎が外れかけたが、無理やり戻した。

 

「な、なんでだよ!」

 

「あー、俺のドーベンウルフがちょっとな……あんまり大っぴらに広めたくない機能がついたんだ。だから狙われるのを考慮してクラス代表を辞退する。一夏なら織斑先生っていう強力な後ろ盾がいるから思う存分戦えるだろ?そういう事だ。それにプラモデル部の部長になる予定だから、ちょっと兼業できそうにないしな……」

 

「? いつの間に部活なんて立てようとしてるのか?」

 

「あぁ、せめてあと一人部員がいれば顧問に山田先生を呼べるんだがな……」

 

「まぁ……お互い頑張ろうぜ! 戦績的に多分クラス代表はセシリアだろうけどな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラス代表決定戦の夜、食堂で豪華な品揃えが一夏の前に並んでいた。

そこに真島の号令が入る。

 

「それでは、織斑 一夏君のクラス代表就任を祝って、乾杯〜!」

 

「「「「乾杯〜!!」」」」

 

「」

 

一夏は突然すぎる事態に宇宙猫してしまったのだった……



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パーティー、時々ドーベンウルフ

「…なぁ、もしかしてこれって……」

 

放心状態から脱出した一夏は、何となく展開が読めた。

 

「私も辞退したからですわ。私の場合はIS経験の浅い初心者である御二方に負け、どちらかと言うと、ドーベンウルフにさえ関わらなければ普通な真島さんが相応しいと思ったのですが……」

 

「瀬呂の奴、辞退しちゃったもんな……まぁ選ばれたからにはやるしかないか……って、瀬呂は何処だ?」

 

『もしもし……私ドーベンウルフ。いま、真島と一緒にあなたの後ろにいるの……』

 

「えっ? どわぁ!? ドーベンウルフが喋った!?」

 

一夏が振り返ると、MGプラモデルサイズのドーベンウルフが喋ったのを目撃してしまう。その後ろにゆらりと真島が出てくる。

 

「それは俺のドーベン・ルーツの待機形態だ……一夏、お前は次に───それ縮んだだけだろ───と言う!」

 

「それ縮んだだけだろ……はっ!」

 

「ふふふ……引っかかったな一夏よ。あ、さっきのはドーベン・ルーツの内部にあるAI、PLE TWOが喋ったんだ」

 

『PLE TWOだ。よろしく』

 

「よろしくな!PLE TWO!」

 

『あ、あぁ……』

 

一夏は平等に挨拶をするのだ。例え相手がAIでもフランクに接してくる。機械なのに心なしかPLE TWOは嬉しそうだ。

 

「さて、一夏のクラス代表就任祝いにおばちゃん達とこんなものを作ったんだ。見てくれないか?ちょっと待っててくれ」

 

そう言って真島は食堂のおばちゃん達に話して、カートでデカい箱を運んできた。

 

「HAPPY BIRTHDAY to You…… HAPPY BIRTHDAY to You……ハッピーバースデーディア一夏〜!ハッピーバースデーツーユー!」

 

「なんだよ……これ……」

 

一夏が食い入るように見ているものの正体は、ホールケーキ……の頂点にある、姿勢が低い順に真島、セシリア、そして一夏がそれぞれの専用機を装着して組体操(ナラティブポーズ)?をしているのを模した菓子細工であった。

 

「こいつを見てどう思う?」

 

「すごく……ハイクオリティです」

 

「だろう? まぁ時間の都合上、俺が作れたのは菓子細工だけなんだけどな……他は食堂のおばちゃん達に任せちまった」

 

一夏が振り向くと、おばちゃん達がやってみせたぜ……!みたいな感じで菓子細工と同じポーズをしていた。

 

「ありがとな瀬呂! みんな!真島達が作ってくれたケーキ食べようぜ」

 

「よし、みんな! 菓子細工は早い者勝ちだぞ!」

 

その瞬間、菓子細工目掛けて目を爛々とさせた女子が暴走列車の如く殺到。押し合い圧し合いで取り合いに発展する。その間を1人の生徒がかき分けながら真島達の所に来た。

 

「はいはーい、新聞部がちょっと通るねー! 今日は学園で話題が持ち切りの織斑 一夏くんと真島 瀬呂くんを取材させて貰いたくて来ました! インタビューするけどいいよね? 答えは聞いてない! 」

 

「ふむ……条件があります」

 

「ほほう……? っと、自己紹介してなかったね。私は(まゆずみ)薫子(かおるこ)。ここの新聞部の副部長だよ、よろしくー。あとこれ名刺、念のために持っといてね?」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

「はい。……まぁインタビューするなら先ずは条件についてですかね……」

 

小奇麗な名刺入れから真島と一夏は名刺を受け取り、一夏は胸のポケットに名刺を仕舞い、真島はドーベン・ルーツが胸ポケットにいる為ズボンのポケットに入れ、そのタイミングを見計らって黛先輩が颯爽とレコーダーを取り出し真島達に向けてきた。

 

「では一夏君にインタビュー!クラス代表としてなにか一言!」

 

「え!? えーっと、頑張ります?」

 

「うーん……インパクト足りないからがっつり捏造するね?」

 

「えぇ!? そりゃないですよ!?」

 

「まぁまぁ、悪いようには書かないから! 次は瀬呂君からの条件を聞こっかな!」

 

「はい。プラモデル部の部員募集の宣伝をしてくれればインタビューに答えます 」

 

「うん、いいよー。じゃあインタビューしようか!2人目の男性操縦者として何か一言!」

 

「えー、全ての量産型ISをドーベンウルフにして、ドーベンウルフをシェア1位にしてみせます!」

 

「……???」(これは……たっちゃんから聞いた通りブッ飛んでるわね……!でも薫子がやらねば誰がやる!幸いにも言ってる意味は辛うじて分かる!勝ったなこの取材!風呂入ってくる!)

 

「ではドーベンウルフの機体コンセプトはなんでしょうか?」

 

「全ての作戦をあらゆる環境で単独行動でもこなし、火力と多彩な武装選択をウリにしています! 俺の専用機、ドーベン・ルーツには、量産型として再設計したドーベンウルフのデータが入っていて、そのデータを既存のISにインストールして拡張領域に足りない分の素材を追加すればあら不思議! そのISはドーベンウルフになります!」

 

「」

 

薫子はあまりにもドーベンウルフ分を摂取したせいで気絶してしまった。

 

後に彼女は語った。「瀬呂君に資材を渡したら、周りの訓練機は全てドーベンウルフにすり替えられているだろう」と……



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プラモデル部設立!

早朝、掲示板の前で女子生徒が集まって新聞を読んでいた。皆が注目しているのは、大きく見出しに出されている一夏の写真と、その隣にあるポップなフォントで書かれた「プラモデル部員募集!」という文字であった。

 

「はぇ〜……プラモデル部かぁ〜……」

 

「どうする?真島君が部長らしいけど……」

 

「え!? ホント!?」

 

「でも、審査があるらしいよ?」

 

「何の審査だろうね?」

 

「まぁ行ってみればわかるでしょ! これは真島君に近づくためのチャンスよ! そんなのを逃すなんて大損だからね!」

 

「えっと、審査会場は……プラモデル部の仮部室かぁ……」

 

「整備室に近いんだね……」

 

邪な思惑もある中、放課後に何人かの女子生徒はプラモデル部の仮部室へと向かった……

 

 

 

 

◇◇プラモデル部 仮部室◇◇

 

放課後。クラス代表の一夏がしごかれている頃、プラモデル部の仮部室にて顧問(予定)の山田先生が真島の隣に立ち、部長(予定)の真島がパイプ椅子に座って真剣そうに女子生徒達を見定めていた。山田先生なんて、メガネのレンズが反射して瞳が全く見えない。

そこ、冬月とゲンドウみたいとか言わない

 

「諸君、時間が限られている中集まってくれてありがとう。これより審査を始める」

 

並べられたパイプ椅子に座っている女子生徒の間で緊張が走る。

これはマジだ。邪な思いで入部は出来ないと悟り、数人の女子生徒は思わず立ち上がり、申し訳ございませんでしたと言って去ってしまう。

残った何人かの女子生徒はプラモデル部自体に一応興味があるのか座ったままだ。

 

「ふむ。これで最初の篩はかけ終わったな。先ずは1年1組とそれ以外のクラスで分ける。これは1組のみこれから行う試験内容への耐性があるから、少し難易度を引き上げさせてもらう。異論は無いかな?」

 

「はぁ~い!」

 

1組唯一の入部希望者、布仏 本音がゆるゆると答える。

 

「では山田先生、布仏さんの試験は頼みました。私はこちらの方々の試験をやるので……」

 

「分かりました。布仏さんはこちらへどうぞ……」

 

「がんばるぞー!」

 

((((いつもの山田先生じゃない!?))))

 

隣の空き部屋に向かった山田先生が放ついつものイメージとはあまりにもかけ離れたプレッシャーに4人の女子生徒は恐怖で足がすくんでしまう。

 

「……行ったな。ではこれより君達にはこのプラモデルの感想を言ってもらう。思った事はどしどし言って構わない」

 

そう言って真島はいつものドーベンウルフを出す。しばらくしてポツポツと感想が女子生徒達の口から出てくる。

 

「なんて言うか……悪役が乗りそうなロボットのような……?」

 

「でもその中にある言い知れぬ正統派の雰囲気がなんとも……」

 

「武器がいっぱいある!」

 

「……正直武装ゴテゴテは好みじゃない」

 

「ふむ……………………

 

 

 

 

 

 

4人の女子生徒がゴクリと生唾を飲む。真島の出した答えは……

 

 

 

 

 

 

 

……決めた。全員合格だ!」

 

 

「「「「……えぇ!?」」」」

 

「どれも的を射る答えだったぞ! ここでただ褒めて媚びを売るような事をせずに、君たちは自分の価値観で答えてくれた! 己のプラモ観をしっかりと持っている証拠だ!」

 

「「「「あ、ありがとうございます……?」」」」

 

4人は少し困惑しながらも感謝する。

少しすると、いつもの感じの山田先生と本音が出てきて本音は何か白いプラモデルを持っている。

 

「ありがとうヤマヤ先生!」

 

「いえいえ……これは真島君のアイディアで作ったプラモデルですから、感謝するなら真島君にしてください!」

 

「山田先生、全員合格です。……プラモデル部、ここに誕生です!」

 

「はい! では皆さん、先ずは購買部に向かいましょう!」

 

「「「「はい!」」」」

「はーい!」

 

意気揚々と山田先生を先頭にプラモデル部は購買部へと向かった。

 

 

 

 

購買部には真島と、前々から山田先生が出していた要望で新しくプラモデルコーナーが設置されている。

 

「すごっ……E〇Aにマ〇ロス、ダン〇ール戦機まであるじゃん!」

 

「購買部に行ってもこういうの売ってないって聞いてたんだけどなぁ……?」

 

「んん?なにこれー!『ガンプラ』?」

 

部員達が目をキラキラさせてプラモの箱を手に取っていると、本音がガンプラコーナーと書かれた棚に注目する。

 

「あぁ、台バンって会社に俺が出したプラモデルの案を送ったら絶賛されてな!商品化されたんだ!」

 

そう、この男、なんと台バンという会社にプラモデルのアートと設計図を送り、それが台バン社内で大絶賛。商品化させてほしいとの要請が来たので快く真島は了承。記念すべき第1弾としてHGUCのプラモデルが数種類この購買部に先行販売として出された。

 

内容はザクII、ドムorリック・ドム、グフ、ジム、ジムII、ジムIII、ガンダム、ガンダムマークII(ティターンズ)、そしてZガンダムのラインナップだ。

 

「私はこのZガンダムかな〜!スラッとしたフォルムが素敵!」

 

「じゃあ私はガンダムマークII……この紺色がいい感じ……」

 

「ふっ……この無骨なドムにしよう」

 

「ジムIIIにしよっと!The・量産機って感じでビビッとくる!」

 

「ん〜……私はパスかなぁ……この子を完成させたいし」

 

それぞれ好みのガンプラを選ぶ中、本音は素組みの白いガンプラ、キュベレイをどこからか取り出して見つめる。

それを見た部員達が自分の買うガンプラの箱を抱えて集まる。

 

「あ、試験の時に貰ったやつ?なんだか狐みたいだね!」

 

「女性的なフォルムがいい感じ……」

 

「他のガンプラと違って背中にバックパックが無いね……」

 

「Zガンダムみたいに洗練されているね!素組みでこれだけの完成度なんだから凄いよ!」

 

「私に専用機が来るならこんな感じがいいな〜!」

 

本音がそんな事を話していると、部員の1人が真島に話しかける

 

「そういえば真島君……じゃなくて部長は何を買うの?」

 

「あ、そんなに気を遣わなくていいぞ。好きに呼んで構わない。 俺と山田先生はプラ板で大抵1から作る。さ、会計に行くぞ!今日は記念すべきガンプラ購入者第一号として俺と山田先生が奢って差し上げよう!」

 

「「「「「太っ腹〜!」」」」」

 

「塗料よし、筋彫り道具よし、スプレーよし……部費が早速半分消し飛んじゃいましたね……って、私は今月はカツカツなんで勘弁してください〜!」

 

「よーし!早速組み立てるぞ〜?」

 

「「「「おー!」」」」

 

山田先生のお財布の悲鳴と本音の号令でプラモデル部最初の活動が始まり、翌日部室に数体のガンプラが素組みで並べられた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後、生徒会長室の生徒会長専用の机に一体のプラモデル、キュベレイが凛々しいポーズをとりながら置かれていた。

 

「うんうん……本音ちゃんが組み立てたキュベレイ?はいいわね……あのドーベンウルフ狂指導の下とは考えられないわ……!」

 

 

楯無は感激のあまり扇子を開く。

扇子には センス◎! と書かれていた。

どうやら生徒会長には好評だったようだ。

 

「当主様、キュベレイを眺めるのは後にして仕事をしてください」

 

「えー!もう少し!もう少しだけだから!」

 

「それとこれとは別です。さっさと仕事に取り掛かってください」

 

「は〜い……」

 

本音の姉、虚によりちょっとぽんこつなところがある生徒会長は仕事に無理やり戻された……




部員の名前……(活動報告に)書いてもいいのよ?


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ゴーレムA、ゴーレムBがあらわれた!

IS学園では、当然座学だけでなくISの実習授業も組み込まれている。昼休みも終わった5限目。今日がその一発目の授業だ。

 

既に整列は済ませ、一夏達1組の前には織斑先生と山田先生が立っている。当然実習なので全員がISスーツを着用している。

 

「織斑、オルコット、真島。先ずはISを展開しろ」

 

「はい!」

 

「……む、まだまだドーベンウルフ愛が足りないか……」

 

織斑先生に言われてから1秒と掛からずセシリアがブルー・ティアーズを、2秒程で真島がドーベン・ルーツを展開した。

 

一夏は……何やら苦戦しているようだ。「うーん、うーん」と唸ってはいるが、白式が展開される気配は一向にない。これでどうやって白式を代表決定戦の時に展開したのだろうか。

 

「どうした織斑。この前は特に苦もなく展開してただろうが」

 

「いや、あの時は無我夢中だったし……」

 

「……ふむ、そうだったな。いいか、ISの展開はイメージする事が大事だ。自分が白式を纏っている姿を思い描け」

 

「な、なるほど。白式を纏っている俺の姿を……こうか?」

 

一夏の身体から光の粒子が解放されるように溢れて、そして再集結するようにまとまって、IS本体としての白式が形成される。少なくとも1秒より早いのは確かだ。

 

「よし、その感覚を忘れるなよ? では、3人とも飛んでみせろ」

 

「「はい!」」

 

「イエスマム!」

 

セシリアのブルー・ティアーズは槍のように飛び、一夏の白式は少々不安な所があるが、そこまで問題は無かった。

 

そして真島はバックパックのスラスターを───周りを巻き込まないように───吹かしてロケットの如く飛翔する。

 

セシリアが上空からスピードに乗って降りて地表ギリギリのところでピタっと止まってみせた。

 

 

「よし、次は織斑の番だ。目標は地表から30センチ。そのラインで急降下と完全停止をしてみろ」

 

「は、はい!」(えっと、確かイメージするのが大事なんだよな? 集中して…背中の翼状の突起からロケットファイアーが噴出してる感じで……それを傾けて、一気に地上へ…!)

 

「うぉぉぉぉッ!!」

 

「! 一夏、加速しすぎだ!」

 

真島が有線ビームハンドで一夏の白式を掴んで止めようとするが、白式の加速力が高すぎて間に合わず、ビームハンドは空を切る。

 

そのまま一夏は地面に突き刺さり、巨大なクレーターを作る。

 

「……………………はぁ……真島、悪いが授業は中止だ。こんな凹みがある中できるものか」

 

「あっ……はい……」

 

千冬は癒しですら問題を起こすのを思い出してまた溜息をつくのであった……

 

 

 

 

翌日、ドーベンウルフ7号機の完成に手間取ってしまい遅刻気味の真島は急いでかつ早歩きで教室に向かっていた。

 

「危ない危ない……到ちゃ「なにすんのよ!?」っとと……ぶつかる所だった……」

 

「もうSHRの時間だぞ」

 

「ちっ、千冬さん!?」

 

「ここでは織斑先生だ。さっさと戻れ、邪魔だ」

 

なにやら印象的なツインテールの女子が織斑先生からゲンコツもらっていて、その子に真島は危うくぶつかりそうになった。

 

「さぁ、SHRの時間だ……あと真島、ギリギリ遅刻だからな?」

 

直後、1周回って小気味いい音が炸裂した。

 

 

 

昼休み、真島は頭に冷却機能を取り付けたドーベンウルフ5号機を頭に涅槃(日曜日のテレビ視聴中の主婦の姿勢でもある)の状態で寝かせながら和定食をトレーで運んで空いている席を探していた。

 

「お! 瀬呂じゃねぇか! ここ空いてるぜ!」

 

「んじゃ失礼する。……隣の子は?」

 

「あぁ、幼馴染の(ファン・)鈴音(リンイン)だ!」

 

「む? 一夏、そういえば箒という子も幼馴染って言っていなかったか?」

 

「箒…?誰よそいつ。貴方、別に掃除道具なんかと友達になるほど悲しい人間じゃないでしょ?」

 

「あっ、箒は小五まで同じ学校だったんだけど引っ越して行っちゃってな。そのすぐ後に鈴が来たから丁度入れ違ってるんだった」

 

「ふーん…で、どんな子?」

 

「む……俺が見た限り、彼女は大和撫子と表現するべきかな……」

 

「あー、分かる! なんかこう……キリッとしてるんだよ! あ、箒!こっち来てくれ! こっちが鈴だ! ──うーん、そうだなぁ……例えるなら箒がファースト幼馴染で鈴がセカンド幼馴染って感じだな!」

 

「ファ、ファースト……!」

 

うどんを啜っていた箒がビクッとして、渋々とこちらに歩んできて、ファーストという言葉に強く反応する。

 

「へぇ……アンタが篠ノ之 箒?……初めまして、あたしも一夏の幼馴染なの。同じ立場同士、仲良くしましょうね」

 

「ふん……望むところだ。」

 

 

鈴が笑顔で差し出した手を箒が不機嫌そうな顔のまま握り返す。傍から見れば2人の少女が親交を深めているような微笑ましいシーンだが、その現場は殺伐とした雰囲気に包まれていた。

 

 

 

クラス対抗戦当日、1年生のアリーナはまさにすし詰め状態であった。

 

クラス対抗戦はそれぞれの学年毎に別れて開催されるのだが、やはり一年一組のクラス代表は織斑一夏という世界でも2人だけの男性IS操縦者の中の一人である為に自然と注目度は高くなった。

 

自分の学年の試合も見ずに二年生や三年生の生徒の姿も見える観客席の中、真島はプラモデル部の部員達と一緒に観戦していた。

 

「ああっ!それZガンダムだったら可変して逃げられたのに!」

 

「ジムIIIだったら盾で防いで安直にライフルで牽制かなぁ?」

 

「ドムならばあの程度の衝撃、簡単に吸収できるものを……!」

 

「ガンダムマークIIだったらまぁ……ライフルとバズーカで牽制しつつサーベルかなぁ?」

 

「がんばれおりむー!」

 

なんとこの部員達、自分の作ったガンプラと同じ性能の機体で戦う前提でああすれば、こうすればと議論を交わしていた。本音は真面目に応援しているが。

 

「真島部長だったら凰さんを相手するならどうするの?」

 

Zガンダムを買った2組の(かなで)(みなと)が真島に意見を聞いてくる。

 

「そうだな……ドーベンウルフで戦うならミサイルを偶に織り交ぜつつ、絶えずビームを乱射して近づけないようにするかな。あの甲龍って機体、白式程ではないにしろ近接重視で設計されている。そんで、スピード重視の白式と違ってタフさで強引に近づく感じじゃないかな……? あの空気砲、どうやら強みを活かせる射程が牽制目的ならせいぜい中距離、本命として使うなら近距離、それこそ役割りとしてはショットガンだな。空気砲を如何に撃たせないかがカギかなぁ……一夏はその逆で空気砲をバカスカ撃たれる中に突っ込んで零落白夜を当てないといけないから……」

 

「持久戦なら凰さん、速攻なら一夏君に分があるってことだね……得意な戦い方がまるで正反対だね……」

 

「……っと、そろそろ決着が着くんじゃないか? シールドエネルギーもお互い残り少ないみたいだし、勝つとしたらこの一撃で運命は別れる。一撃が決まれば一夏、外せば凰だな……」

 

 

「まさかここまで粘るとは思わなかったわよ、一夏」

 

「もう勝ったつもりかよ?」

 

「あんたの力量もわかったからね……ここからはさらにギア上げていくわよ!」

 

「なら俺も!もっと全力で行くぞ!」

 

鈴と一夏が武器を構える。

──決着は近い。

観客が固唾を呑んで見守る中、2人は同時に動き出し────────

 

 

─────────刹那、アリーナの上空に貼られていたシールドごと2機の所属不明のISによって吹き飛ばされた。

 

アリーナを貫く衝撃は、爆音と共に観客席を大きく揺るがした。

突然の出来事に生徒の殆どが困惑する中、真島がISによる連絡で千冬に連絡する。

 

「織斑先生! 俺にもしもの時の為にもISを展開して生徒の警護の許可を!」

 

『ぬぅ……今は隔壁のセキュリティを解除しようとしているが、時間がかかる。その間に限り……山田先生?……分かりました。真島、ドーベンウルフの最大火力で隔壁を吹きとばせ。その間の警護も任せた』

 

「了解です!みんな!俺を前に出させてくれ!俺のドーベン・ルーツでこの隔壁を壊す!』

 

「最大火力……発射!」

 

真島が許可を貰いドーベン・ルーツを纏い生徒をかき分けて先頭に立ち、胸部にビームライフルを接続。最大火力のビームで隔壁をビームでドロドロに溶かした!

 

「みんな! この穴を通って避難するんだ!」

 

真島の避難誘導により生徒は辛うじて避難を終えた。そこに……

 

「え……?」

 

1機のゴーレムが真島目掛けて突っ込んできた。

 

 

 


 

 

 

某所、うさ耳をつけた女性が2体の所属不明IS視点と思われるモニターを見ていた。

 

「さてさて……ゴーレムを2機出す事でいっくんの白式のデータ回収に加えて、この束さんにいらねぇ手間をかけさせやがったゴミクズの焼却処分もできる! 束さんったら天才!」

 

2体の所属不明ISの正体、ゴーレムにはそれぞれ与えられた役割が違っていた。片方のゴーレム……ここではゴーレムAと呼称しよう。ゴーレムAは一夏の白式の戦闘データの収集、ゴーレムBは真島 瀬呂の殺害の役割が与えられていた。

 

「さて……ガラクタ処分の時間だよ♪」

 

 


 

「こいつ……一夏!こっちに片方が来ちまった!そっちは何がなんでも抑えるんだぞ!」

 

『すまねぇ瀬呂! そいつ、俺たちに目もくれずに瀬呂の方に向かったんだ!』

 

「くっ……ここじゃ他の生徒がいるから不味いな……こっちだデカブツ!」

 

真島は避難中の生徒に射線が向かないように生徒達を守る壁になりながらゴーレムをホバーで滑りながら誘導し、ビームライフルで牽制射撃をする。

 

「! こいつ、反応でもしやと思ったが、やっぱりISなのか! 2号機からの生体反応は……無しか! 道理で無機質的な感じだった訳だ……なら手加減しなくても大丈夫だな! 頼んだぞPLE TWO! インコム!」

 

『任された。インコム挟撃モードに移る』

 

ドーベン・ルーツはその青いモノアイを真紅に染めてPLE TWOを戦闘モードに移行させてインコムを起動し、PLE TWOの的確な操作により不規則的な動きでゴーレムを翻弄する。

 

「でりゃぁぁぁぁ!!」

 

その間に真島のドーベン・ルーツの改良型ビームサーベルがゴーレムに深めの傷をつけるが、ゴーレムはまだ機敏に動いている。

 

「ちっ……硬いな……!」

 

 

再び視点は束に戻ると、束は呆然として一夏達と戦っているゴーレムの視点に目もくれず真島狙いのゴーレム視点を食い入るように見ていた。その表情にはまさに「驚愕と狼狽」の5文字がお似合いだろう。

 

「……はぁ!? 骨組みで送ったのになんでもう完成しているんだよ!」

 

「束さんが……天才束さんがこんなゴミクズに翻弄されるなんてあってはならない! 予想よりもいっくんが強かった時の為にとっておいたマニュアルモードを使って徹底的に潰してやる!」

 

肥大化した自尊心を傷つけられた束は己の手で真島を殺すことにした。

 

 

「くそっ! どんだけタフなんだよ……!」

 

真島が悪態をつくと、ゴーレムが突如機能を停止、瞬間、痙攣して動きが変わった。

 

「なんだなんだ!? まるで誰かが遠隔操縦してるみたいな動きじゃないか!」

 

『だが先程と違い、僅かにではあるが反応にラグがある。勝てない相手ではない』

 

「……そうみたいだな。なら!フルオープンアタック!」

 

ドーベン・ルーツのありとあらゆる武装ハッチが開き、胸部ミサイル、胸部にビームライフルを接続して放つ高出力ビーム、バックパックに搭載されているインコムとビームカノン、背部ミサイル、バルカンによる弾幕の嵐が吹き荒れる。

 

ゴーレムはマニュアルモードによるタイムラグの影響で回避が間に合わず、半身が消し飛びその機能を停止する。

 

「……熱っつ!? ドーベンが熱くなってる!?」

 

真島がフルオープンアタックをした後、ドーベン・ルーツが突然高熱を帯びはじめて真島があたふたとする中、PLE TWOが真面目に解説をする。

 

『一気に武装を回しすぎだ。本来想定されていない使い方をしたのだから各武装がオーバーヒートを起こしてその冷却の為に装甲すら熱されているんだ。熱いのは当たり前だ。私も熱を逃がす為にしばらく眠っておく』

 

そう言ってPLE TWOはスリープモードに移行する。

 

 

 

 

またまた束視点に移る。

 

「……このゴミクズが……! 天才束さんをここまで虚仮にするなんて許さない……!」

 

「でも、お前の天下ももうすぐ終わりだ……!箒ちゃんの紅椿が完成すればこんな時代遅れなガラクタなんて価値が無くなる!」

 

束は知らない。ドーベン・ルーツの自己進化機能は文字通り紅椿を凌駕するオーバーテクノロジーを追加しかねないという事を。

束は知らない。真島 瀬呂という人物が如何にイカレているかを。

 

束は知らない。いや、忘れてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬の警告を無視してしまったという事を

 

 

 



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ダブル転校生、ようやく来たルームメイトを添えて

「みんな、おはよう」

 

「「「「おはようございます! 」」」」

 

その声が聞こえた瞬間、生徒達はここは軍隊なのかと聞かれるほどのスピードと正確さで挨拶の言葉が出る。

我らが1組の担任、織斑 千冬先生の登場だ。よく見ると服装に変化がある。

 

色は黒でタイトスカートと、見た目は大して変化していないが少し生地が薄くなっていて涼しそうだ。学年別のトーナメントが今月下旬で、それが終わると生徒もそこから夏服に替わるらしい。

 

「うむ、いい返事だ。さっそく今日もホームルームを始めたいところだが、その前に重要な報せがある。山田先生、いいですか? 」

 

「はい。今日は転校生がなんと2人も来ています! 」

 

「「「えええええっ!?」」」

 

いきなりの転校生紹介にクラス中が一気にザワつく。そりゃそうだ。この三度の飯より噂好きの10代のうら若き乙女、そんな彼女達の情報網をかいくぐっていきなり転校生が現れたのだから驚きもする。しかもそれが2人ときたのだから、当然驚きも2倍、いやそれ以上だろう。

 

山田先生が入室を促すと、教室の扉が開いて二人の転校生が入ってくる。

一人は金髪を腰の辺りで結び、中性的な顔立ちの"男子"であった。

 

そして二人目はズボンを身に纏っているが、銀髪のロングヘアーが目を惹き、一瞬で女子だと判断できる。

何より左目に付けている眼帯が特徴的だ。

 

金髪の男子の方から自己紹介を始める。

 

「フランスから転入してきたシャルル・デュノアです。ここに僕と同じ境遇の方がいると聞いてやって来ました。よろしくお願いします」

 

「お、男……? しかも3人目……?」

 

彼が自己紹介を終えてお辞儀をすると、すかさず一夏と真島は耳を塞ぐ。

きっとこの後はクラス中の女子の歓声が響くはずである。

 

 

「「「きゃああああああーーーっ!!!」」」

 

「うわぁっ!? きゅう……」

 

真島と一夏はギリギリ耳を塞ぐのが間に合い、自身の鼓膜を死守する事ができたが、デュノアは突然の事に対応できずにモロに食らってしまい、クラクラとしている。

 

「男子!男子よ!しかもまともそうな男子!」

「「ああ〜母性本能をくすぐられる……!」」

「でも真島君がスイッチ入るとドーベンウルフだったからまだ油断できないわ!」

 

「「「「確かに!」」」」

 

お分かりいただけただろうか。今、女子生徒がドーベンウルフという単語を日常生活で使用したのだ。つまり、もう1組は無意識下にドーベンウルフに汚染されてしまっていて手遅れということである。

 

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

 

3人目であるデュノアのインパクトが強すぎて影に隠れているようだが、真島は確かにもう1人の転校生を目で捉えていた。

 

輝くような銀髪。ともすれば白に近いそれを、腰近くまで長く下ろしている。綺麗ではあるが整えている風はなく、ただ伸ばしっぱなしという印象のそれ。しかし何より目を引いたのが、左目の眼帯だった。医療用の物ではない、本物の黒眼帯だ。そして開いた方の右目は瞳に赤い色を宿しているが、その温度は限り無くゼロに近い。下手したらマイナスに突入している。

 

身長はデュノアと比べて明らかに小さく、離別や一夏の胸辺りぐらいの高さしか無い。小柄な体格をしてはいるが、その身に纏う雰囲気は、まさに『軍人』そのものだった。

 

「………………」

 

当の本人は未だに口を開かず、腕組みした状態で教室の女子達を至極下らなそうに見ている。しかしそれも僅かな事で、今はもう視点をある一点……織斑先生にだけ向けていた。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

いきなり佇まいを直して素直に返事をする彼女に、クラス一同がポカンとする。対して、異国の敬礼を向けられた織斑先生はさっきとはまた違った面倒くさそうな表情を浮かべた。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒の1人に過ぎん。私の事は織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

そう答えてピッと伸ばした手を体の真横につけ、足を踵で合わせて背筋を伸ばす少女。その佇まいはどう見ても軍人か軍関係者にしか見えない。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「「「………………」」」

 

クラスメイト達の沈黙。続く言葉を待っているのだが、名前を口にしたあと、ボーデヴィッヒは一言も話さない。……入学初日の一夏と同じく緊張で次の言葉が出ないのだろうか?

 

「あ、あの、以上……ですか?」

 

「以上だ」

 

空気にいたたまれなくなった山田先生ができる限りの笑顔でボーデヴィッヒに訊くが、返ってきたのは無慈悲な即答だけ。そんな彼女の冷たい反応に山田先生は今にも泣きそうな表情を浮かべた。

 

「──っ! 貴様が……!」

 

ふと、一夏と目が合ったボーデヴィッヒは目尻を吊り上げてツカツカと彼の元へと歩いて行き、右手を振り上げた。誰が見ても握手が目的などでは無いのが分かる。あれは……一夏の頬に平手打ちしようとしているのだ。

 

「っ!?」

 

遅れて気付いた一夏が慌てて身を引こうとしているが間に合わない。

一夏が痛みに備えて目を瞑るが、身構えていた衝撃は一向に来なかった。

 

「……貴様には関係の無い事だ。部外者は引っ込んでいろ」

 

ボーデヴィッヒの口から小柄な体格には似合わないほど低く、どこまでも冷たい声音が発される。

 

「あー……言葉だけにしておくのをおすすめする」

 

一夏が目を開けると、真島がドーベン・ルーツのビームハンドを射出してボーデヴィッヒの腕を掴んでいた。そこに千冬の注意が入る。

 

「初日から問題を起こすなボーデヴィッヒ。ルームメイトからの言葉なら尚更だ。それと真島、余程の事でない限りISを教室で展開するな」

 

「気をつけます。……あ、ようやくルームメイトが決まったんですね」

 

「……チッ。……織斑 一夏、貴様にこれだけは言っておく。貴様があの人の弟であるなど、私は断じて認めない。よく覚えておけ」

 

そう吐き捨てるように言い残し、スタスタと一夏の前から離れたボーデヴィッヒは真島の隣にある空席へと向かう。

真横を通過する際に一睨みしてきた彼女は席に座ると腕を組んで目を閉じ、微動だにしなくなった。

 

「あー……ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第2グラウンドに集合。今日は2組と合同でIS模擬戦闘を行う。以上だ。解散!」

 

パンパンと手を叩いて織斑先生が行動を促し、今のボーデヴィッヒとのやり取りについて行けず呆気にとられていたクラスメイト達が慌ただしく動き始める。

 

「君達が織斑くんと真島くん? 初めまして。僕は──」

 

「ああ、待った。今は移動が先だ。女子が着替え始めるからさ……」

 

「ふむ、デリカシーに欠ける行為をする訳にはいかないからな。急ごう」

 

 

「取り敢えず男子は空いてるアリーナ更衣室で着替える。これから実習のたびにこの移動だから、早めに慣れてくれよ?」

 

「そもそも男がこの学園で生活する事を考慮されていなかったからな。まぁ……すぐに慣れるさ。俺と一夏がそうだったからな」

 

「う、うん……」

 

 

 

 

 

「デュノア、いざと言う時は俺たちに構わず全力で逃げろ。捕まったら最後……待っているのは地獄だ」

 

「ああっ! 噂の転校生発見!」

 

「しかも織斑くんとついでに真島くんと一緒!」

 

早速各学年各クラスから情報先取のための尖兵が駆け出してきている。捕まったら最後、質問攻めの挙げ句授業に遅刻し、追加DLCで鬼神こと織斑先生の楽しい楽しい特別カリキュラムが待っているのだ。それだけはなんとしてでも回避しなくてはならない。そんな事が起きたらドーベンウルフを作る時間が無くなる。

 

「……よし、織斑先生にISで逃げる為の許可を取る。それまで耐えられるか?」

 

2人が静かに頷き、真島が携帯電話を取り出して千冬にかける。

 

『……どうした真島、何かトラブルでもあったか?』

 

「えー、このままだと質問攻めの嵐で授業放棄にされかねないのでIS使って女子を振り切ってもいいですか?」

 

『まだ懲りずにやっているのかあの馬鹿共は……仕方あるまい。真島だけこのような場合に限りISの使用による逃走を許可する。2人は……真島にでも掴まれ』

 

「……と、言う訳だ。あの窓に飛び降りるぞ! ドーベン・ルーツ!」

 

真島が1.8秒程でドーベン・ルーツを展開、一夏とデュノアを俵のように抱えて大きめの窓から飛び降りて飛翔する。

 

「くっ!空を飛ばれたら捕まえられないわ!」

 

「バンジー急須ね!」「それを言うなら万事休すだよ……」

 

 

 

「ふぅ……一夏、デュノア、そろそろ更衣室に到着するぞ。幸いにも待ち伏せはいないようだ」

 

いつも通り圧縮空気が抜ける音を響かせ、ドアが斜めにスライドして開く。第2アリーナ更衣室、無事到着というところだ。

 

 

「うわ! 時間ヤバイな! すぐに着替えちまおうぜ!」

 

「おっと、確かにギリギリだな。急いだ方が良さそうだ」

 

真島はいつの間にか制服を脱いでISスーツに着替えており、一夏もそれに続いて脱ぎ始める。

 

「わわわっ!」

 

「荷物でも忘れたのか? って、なんで着替えないんだ? 早く着替えないと遅れるぞ。シャルルは知らないかもしれないが、ウチの担任はそりゃあもう時間にうるさい人でなぁ……」

 

「それは一夏がちゃんと時間を守らないからだ。悪いが先に行っているぞ」

 

「ちょ、ちょっと待てよ瀬呂!置いてくなって!」

 

「悪いが好き好んでぶたれる趣味はないのでね。お先に!」

 

 

─────────────

 


 

「よし、全員いるな。これより2クラス合同のIS実習を行う。今回は専用機持ち含め、本格的な射撃訓練や格闘訓練といったカリキュラムだ。各自用意したISに並び、出現したバルーンを狙ってくれ。専用機持ちはその支援や手助けに回ってほしい」

 

「はい!」

 

「それと真島、間違ってもドーベンウルフに変えるなよ?」

 

「流石にそこまでデリカシーがない人間じゃないですよ俺は……」

 

配置された"打鉄"や"ラファール・リヴァイヴ"には1組と2組の女子が続々と並び始めている。

真島は要らぬ疑惑を持たれないために意図的に訓練機から離れた位置に立っている。

 

真島はドーベン・ルーツを纏い、他の生徒が来るのを待つ。最初に来たのは本音のようだ。

 

「教えてまっしー!」

 

「任された! では基礎からだな!とりあえず乗るんだ!そしてそのまま歩く!」

 

ラファール・リヴァイブを本音が纏い、ふわふわと飛翔する。飛行に問題は無いようだ。

 

「ふぅ〜!どうどう? よかった?」

 

本音に向かって真島がドーベン・ルーツのマニュピレーターでグッドのジェスチャーをする。

 

「ふむ。動きに違和感は無かったんだね? ならOKだ。次にISの降り方を教えよう。先ずは膝を折って屈むんだ。そうしないと次乗る時によじ登って乗らなきゃいけなくなる。そんな事になったら正直ダサいだろ?」

 

真島のドーベンウルフ系統の機体は、ただでさえ大型化している既存のISより一回り大きいため、真島は人一倍搭乗時の姿勢に注意している。

 

「他は……うん、3人だけ見れば綺麗に分かれているな……」

 

周囲を見渡すと、セシリアの所には弓道部、鈴の所には剣道部、ボーデヴィッヒの所には無所属、或いは同好会の状態である部活に属するの徒が多かった。どこも的確なアドバイスを施していて、見たところ好評そうだ。

 

一夏とデュノアの所は……誘蛾灯に集まる虫たちが可愛く見える程殺到しているとだけ記そう。

 

そうなると必然的に真島の優先度はとてつもなく低くなる。なので真島の所には本音と湊の2人しかいない。

 

「ふぅむ……よし、布仏さん、次は射撃を見てみようかな。とりあえずラファールのアサルトライフルを片腕で持ってみるんだ……」

 

「こんな感じ〜?」

 

「そうだ……流石にドーベン・ルーツのビームライフルは形状が異質だからこればっかりは他の専用機持ちの説明の方が分かりやすいと思うんだが……」

 

「ガンダムマークIIのビームライフルみたいに持てばいいのかなー?」

 

「……まぁその武器ならガンダムマークIIのライフルと同じ持ち方でいいと思うぞ? じゃあ早速バルーンを撃ってみるか!」

 

本音はライフルを構えてバルーンを次々とロックオンして撃墜していく。20個ほど撃墜してしばらくすると交代を告げる真島からの通信が本音の耳に届く。

 

「楽しかった〜!」

 

「じゃあ次は奏さんだな。やってみてくれ」

 

本音が屈んでラファールに降りて湊と交代する。

 

「Zガンダムみたいに大きなライフルは……あった!」

 

基本的な動きを一通り終えた奏は拡張領域をくまなく探して大型ライフルを取り出して構える。

 

「うーん、プラモ部に入ってよかった〜!お陰で武器の持ち方とかが分かるよ!」

 

「じゃあバルーンを狙ってみよう。そうだな……連射の低い狙撃タイプの武器だから少し減らして13個を目標にしよう」

 

「りょーかーい!」

 

奏は基本的な動きにキレがあり、奏の狙いは正確で目標の13個を超えて15個バルーンを撃墜した。

 

「ふむ……2人とも基礎がかなり固められているな。今の所問題はないようだ。まぁここまでの強さなら新しい技術の習得を視野に入れてもいいレベルだと思うぞ?」

 

「むふー! この前プラモ部のみんなで訓練機を借りれたからね! 基礎はだいぶ固めたんだ〜!」

 

本音がその豊満な胸を張ってドヤ顔になる。奏もそれに続いて胸を叩いて誇らしげにしていた。

 

「だが……油断大敵! 学年対抗トーナメントは精鋭にいきなりぶつかる事もある!相手は基礎はもちろん、応用もホイホイ使ってくる! 基礎も確かに大事だが、基礎だけに胡座をかいて満足していたらいつまで経っても追いつけないぞ! 精進あるのみだ!」

 

「「おー!」」

 

 

 

 

「よし、全員一旦集合してくれ! 」

 

 

 

 

実習ももう少しで終わりそうな時間になり、織斑先生がアリーナにいる全員に集合を呼びかけた。

やはりブリュンヒルデという世界最強の名が影響しているせいか即座に彼女の元へ集まってきている。

 

「これより、君たちにはIS戦闘の模擬戦を見学して貰いたい。操作を行なった後だと彼女らの操縦技術が如何に難しい事をしているか分かるからな……山田先生、宜しいですか? 」

 

「は、はい! 任せてください! 」

 

集合を呼びかけたのは模擬戦を実際に間近で見させる為らしく、生徒達は一旦アリーナの観覧席に移動した。

模擬戦と言えど実際にISを使用して戦うのだ、何かあってからでは遅い。

 

 

「凰、オルコット、お前達にはこれから山田先生と戦って貰うぞ」

「前からその話は伺っていましたけど……」

 

 

 

「本当に2対1でいいんですか? 何かすごい罪悪感なんですけど……」

 

「構わん。山田先生はお前達よりかは遥かに強いからな。あまり舐めてかかると……恥を晒すことになるぞ?」

 

 

 

 

織斑先生はアリーナの中にいる鈴、セシリアにISの展開を呼びかける。

確かに山田先生は普段ドジっ子で何かやらかしそうなイメージだが、実際に"ラファール・リヴァイヴ"を纏った姿を見ると様になっているのだ。

そう、まるでプラモの話をしている時のように。

 

そして織斑先生の一声によって模擬戦が始められる。

 

まずは鈴が二本の"双天牙月"を展開して一気に山田先生との距離を詰めるが、難なく避けられてアサルトライフルによるカウンターを受ける。

その隙を縫うようにセシリアが"スターライトmk-Ⅲ"を発射するが、上体を屈めることによってその攻撃を肉薄した。

 

 

レーザー系統の武装は発射、正確性と共に優れるが銃口の向きがそのまま左右され、途中で軌道が変わることも無いために一流の操縦者には予測されて避けられることが多い。

山田先生が二人より高い操縦技術を持っている事は明らかであった。

 

「早速だがデュノア、山田先生が搭乗しているISの説明を頼む」

 

「はい。先生の使用するISは"ラファール・リヴァイヴ"です。汎用性が高く、世界で最も配備されているISのひとつです。その性能は独自に開発された第三世代機をも凌ぎ、一流の技術を持った人間が使えば正に鬼に金棒と言われています。また、拡張領域も多く自分のカスタマイズも可能ですね」

 

(ドーベンウルフも拡張領域を大きくするか……?)

 

『拡張領域を予備のエネルギータンクとして使うのなら連続稼働時間を延長できるだろう。設計図の修正を提案する』

 

(うむ……悪すぎる燃費は課題だったし検討しようか)

 

「その通りだ」

 

鈴のウリは攻撃を相手に見せない"衝撃砲"、だが完全に射線がセシリアと山田先生の一直線上になって被っている為に撃つことが出来ない。ゲームならともかく、これは現実なのだ。フレンドリーファイアなんて論外だし、そもそも衝撃砲は味方ごと貫通したりもしない。

そういった位置へ持っていくことが既に難しいことなのだが、難なく山田先生はそれをやって見せた。

彼女はセシリアと鈴がぶつかる場所を予測し、山田先生は武装の1つである手榴弾を投げ込む。

 

山田先生の予測通り衝突した二人は手榴弾の爆破に巻き込まれ、2対1で山田先生に敗北を喫したのだった。

 

「う、うぇぇ……。山田先生がこんなにもお強かったなんて……」

 

「あたし達の完敗ね……」

 

「あ、あはは……。大丈夫ですか二人とも? 」

 

倒れ伏す2人に山田先生が優しく手を差し伸べる。

 

「この模擬戦と先程の訓練を行なって分かったと思うが、山田先生やオルコット達のように縦横無尽に飛び回りつつ攻撃を行うことは難しいことだ。以後、教員に敬意を払うと共に訓練に励んでくれ」

 

「はい! 」

 

 

 

 

 

 

 

織斑先生の言葉を合図に3,4時間目が終わるチャイムが鳴り、真島達は教室に戻っていく。

こうして、転校生の含んだIS実習は終わりを告げたのである。

 

 

 

放課後、ボーデヴィッヒは真島のいる1036室の鍵を織斑先生から受け取っていた。

 

「ラウラ、これがお前と真島の部屋の1036室の鍵だ。……真島が何かやらかしていたら止めても構わん」

 

「分かりました教官。……その1つ質問してよろしいでしょうか?」

 

「……構わん。言ってみろ」

 

「なぜ教官はあそこまで真島という生徒を敬遠するのでしょうか? 一見ただのよく居る生徒に見えましたが……」

 

ボーデヴィッヒは自分が世界で一番信頼している織斑 千冬が何故あそこまで真島に苦手意識を持っているのか気になっていた。実際鉄拳制裁や出席簿攻撃の回数が他の生徒と比べて真島にだけは控えているように見えた。

 

「ああいった頭のネジが外れた天才はどうも苦手でな……まぁ、とにかく暮らしていれば自ずと奴がどんな存在か分かるさ。……奴が如何に狂っているかをな……。 ……世界に迷惑をかけていないだけあいつよりはマシ……か……?」

 

「……では私が彼を修正してみせます!」

 

「いや、無理をしなくていいんだラウラ。とにかくお前が真島を刺激して問題さえ起こさなければそれでいいんだ……」

 

ボーデヴィッヒは酷く驚いた。あの最強無敵無敗の織斑 千冬がたった1人の生徒にここまで精神的に追い詰められている事を。

ボーデヴィッヒの中で真島に対する2つの思いが支配する。

 

1つ目は純粋な興味。自分の恩師がここまで追い詰められる程の人物を知ってみたいという好奇心。

 

2つ目は真島への敵意。自分の恩師をここまで心労で追い詰めた邪智暴虐な暴君を倒さねばという敵意。

 

知りたい。だが倒さねばという2つの相反する思いにボーデヴィッヒはどうするべきかと悩む。

 

(……だが、教官が真島 瀬呂を倒さなくていいと言っているのも事実。ここは様子見に留めるべきか……)

「……分かりました、ただ、真島 瀬呂という生徒がどんな人物なのか自分の目で確かめさせてください」

 

「あぁ。……頼むから問題を起こすなよ……?」

 

「ではおやすみなさい教官」

 

「もう教官で構わん……おやすみラウラ……」

 

 

 

 

 

 

 

「ここがあの男のハウスか……」

 

意を決してボーデヴィッヒは1036室に入る。すると、塗料の匂いが微かに残っており、奥にはプラ板を加工している真島がいて、こちらに気づいて振り返って挨拶をする。

 

「ふむ……よろしくと言うべきかな? 改めて自己紹介しよう。真島 瀬呂だ、3年間……かどうかは分からないが、ルームメイトとしていい関係を築こう」

 

「ふん……ラウラ・ボーデヴィッヒだ。好きに呼べ」

 

「ではラウラと呼ぼう。早速で悪いが、このプラモデルを見て欲しいんだ……」

 

やはり真島はドーベンウルフを机に置いてラウラに見せる。

 

「これは……貴様のISの模型か?」

 

「いや、このプラモデルが先でね。これをベースに1から作ったんだ」

 

「驚いた……貴様が入学してからもう作り上げたのか? 学生でオリジナルで1から作るのは相当な技術力が必要だぞ?」

 

ラウラが予想以上の才能に感心していると、真島はプラモデルが設計図の元になったのだから後は組み立てるだけだったと言うが、その組み上げるのが如何に時間がかかる事なのか理解しているラウラはそんな事は無いと返す。

 

「っと、話が脱線したな。このドーベンウルフを『量産機』として見て評価して欲しいんだ。最初は何処が気になった?」

 

「そうだな……貴様のISを見ていたが、殆ど内蔵武器なのが最初に気になったな」

 

「あぁ、これは呼び出しのタイムラグを無くす為だ。高速切替……ラピッドスイッチだったかな?その技術があるが、それを使えるのは1握りのパイロットだけだし、どれだけ早めてもやはり多少時間がかかってしまう。だが、ドーベンウルフなら内蔵武器ですぐさま使う武装を切り替えられる。それに拡張領域に入れるのは弾薬だけで済むから、スペースを圧迫しにくくなるのも利点の筈だ」

 

「……コストを考慮に入れなければ十分な性能だと思うぞ? 特に内蔵武器メインなのは参考になりそうだ。これは武器の選択肢が増えるぞ……今度本国に頼んでみるか……」

 

ラウラは、真島は恩師から聞いていたほど悪い奴では無いのではと思い始め、その日を終えた……



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ルームメイト

「だからこう、ズバーっとやってから、ガキンッ! ドカンッ! という感じだ」

 

「なんとなくわかるでしょ? 感覚よ感覚。……はあ!? なんで分かんないのよ、このバカ!」

 

「防御の時は右半身を斜め上前方へ5度傾けて、回避の時は後方へ20度反転ですわ!」

 

デュノアとラウラが転校してきてから5日経ち、今日は土曜日。

休日とはいえ、全開放されたアリーナは多くの生徒が実習に使う。それは真島達も例外ではなく、今日もこうして一夏にIS戦闘に関するレクチャーを行っていたのだが……。

 

「率直に言わせてもらう……。全っ然分からん!」

 

現在、非常に難航中であった。

 

 

「なぜ分からん!?」

 

「ちゃんと話聞きなさいよ、ちゃんと!」

 

「もう1度説明して差し上げますわ!」

 

「そんな事言われたって……瀬呂! 助けてくれ! 全っ然わからない!」

 

「そうだな……一夏、ちょっとゲームをしよう!」

 

「ゲーム?」

 

真島の提案に一夏が戸惑う。真面目に練習している中、いきなりゲームをしようと言われたのだ。そこに真島が分かりにくかったなと謝罪を入れる。

 

「ゲームって言ってもかなりキツいぞ? なんせ一夏はシールドエネルギーを低めに設定した白式で俺のドーベン・ルーツ本体に触れたら一夏の勝ちってルールだからな。あ、雪片弐型は使うなよ?どうせビームを雪片弐型で弾くだろうからな。んで、3回やって終わったら何処がダメだったか考えてみろ!」

 

「んー……まぁ分かんない今の状態よりはマシだな! やろうぜ!」

 

「言っておくがインコムもどしどし使うからな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそー!あともう少しだったっていうのに!」

 

「さて、どんな場面でよく被弾していた?」

 

「んー……あ! 瞬時加速の時によく被弾してたな……」

 

「ここで例え話をしよう。一夏、キャッチボールで互いにボールをどこまでも飛ばせてかつ、ちゃんと見ればキャッチできるとして、お互いの距離が近いのと遠いの、どっちが取るの難しいか分かるか?」

 

「そりゃ……じっくり見れる遠い方が……あっ!そういう事か!」

 

「そ。一夏は遠くで瞬時加速をよく使うせいで、攻撃が来るなって分かってから考えられる時間を相手に与えてしまっているんだ。瞬時加速は急には止まれないし曲がれない。そこに射撃武器で一夏が移動する場所へ…ズドン!ってわけだ……」

 

「ただ距離を離されたからって瞬時加速すればいいってもんじゃないんだな……どんな技もタイミングを考えないとダメってことか!」

 

「そういう事! そうだよな? デュノア」

 

「わぁっ!? 急に話を振らないでよ! ビックリしたじゃないか! ……まぁ真島くんの言っていることは合ってるね」

 

デュノアが唐突すぎる話の振り方に抗議するが、そういえばと別の話題に移る。

 

「そう言えば、一夏の【白式】って後付武装が無いんだよね?」

 

「ああ。何回か調べてもらったんだけど、拡張領域が空いてないらしい。だから、別の装備を新しく量子変換するのも無理だってさ」

 

「多分だけど、それってワンオフ・アビリティーの方に容量を使っているからだよ」

 

「ワンオフ・アビリティーっていうと、確かISと操縦者の相性が最高状態になった時に発生する能力……だったっけか?」

 

こういう言葉がちゃんと頭に浮かんでくるあたり、一夏がきちんと日々の勉学に取り組んでいる証拠だろう。

 

「うん。それで合ってるよ。ワンオフ・アビリティーはその言葉通り、唯一仕様の特殊才能。【白式】の場合は零落白夜がそれかな」

 

「ははあ。お前の説明って分かりやすいな。頭にすんなり入ってくるぜ」

 

同じ男であり、かつ物腰穏やかというのが後押ししているのか、一夏は水をよく吸う極限まで乾いたスポンジのように知識を吸収していた。

 

「……そう言えば、シャルルのISって【ラファール】なんだよな?」

 

「うん、そうだよ。まぁスポンサーがデュノア社だからね」

 

「で、そのISだけど、山田先生が操縦していたのとだいぶ違うように見えるんだが、本当に同じ機体なのか?」

 

「ああ、そいつは俺も気になっていたな。もしかしてかなりがっつりカスタムをしているのか?」

 

「真島くんが言ったので正解だよ。この子の正式な名前は【ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ】って言ってね。初期装備を幾つか外して、その上で拡張領域を倍にしてある」

 

「倍!? そりゃまたすごいな……。白式にちょっと分けて欲しいくらいだ」

 

「一夏の白式はもう拡張領域の余剰がゼロだもんな……」

 

「あはは。本当に分けてあげられたら良いんだけどね。そんなカスタム機だから今量子変換してある装備だけでも20くらいはあるよ」

 

「今って事はまだあるのか……」

 

「でも瀬呂のドーベン・ルーツもかなり武装ゴテゴテじゃないか?」

 

「いや、完全に別物だな。ドーベンウルフ系列の想定しているコンセプトは、『内蔵武器を中心に搭載して拡張領域に余裕を持たせ、拡張領域にエネルギーや弾薬を詰め込む事で継戦能力と火力と汎用性を両立する』だから、デュノアのラファール・リヴァイブ・カスタムIIよりも、凰の甲龍のコンセプトが近いな。あれも継戦能力高いし、それでいて火力をある程度両立できている」

 

「げぇ……あの火力出しておきながら長い間戦えるなんてどんなバケモンだよ……」

 

「うーん、でも内蔵武器って事は攻撃できる方向が限定されちゃってるから取り回しは少し悪そうだね」

 

「まぁ、デュノアの言う通り射角をとるのに本体ごと動かなきゃいけないのは弱点だな。その弱点を少しでも減らす為にインコムがあるが」

 

 

 

「ねえ、ちょっとアレ……」

 

「ウソっ、ドイツの第3世代型だ」

 

「まだ本国で試験段階だって聞いたけど……」

 

真島がドーベンウルフの機体コンセプトを話し終えると同時に急にアリーナ内の生徒達がざわつき始めて、真島達も注目の的に視線を移す。

 

 

「……………」

 

 

そこにいたのはもう1人の転校生、そして真島のルームメイトでもあるドイツ代表候補生 ラウラ・ボーデヴィッヒだった。

転校初日以来、クラスの誰ともつるもうとしない、それどころか会話さえしない孤高の女子。

……実は真島とだけ話しているのだが、教室では互いに話さないので周囲は全く知らない。

 

「おい、織斑 一夏」

 

ISのオープン・チャネルで声が響く。初対面があれだったのだから、一夏達はその声を忘れもしない。間違いなく彼女自身の声だ。

 

「……なんだよ」

 

話し掛けられた以上、流石に無視するわけにもいかず、一夏が気が進まなそうな声でそれに答えると、ラウラは言葉を続けた。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。ならば話が早い。私と戦え」

 

どうやら一夏が絡むとかなり好戦的な性格になるようだ。

 

「嫌だ。理由がねえよ」

 

「貴様には無くても私にはある!」

 

「貴様がいなければ教官が大会2連覇の偉業をなし得ただろう事は容易に想像できる。だから、私は貴様を──貴様の存在を認めない!」

 

「また今度な……」

 

「ふん。ならば……戦わざるを得ないようにしてやる!」

 

一夏が白式を解除して話を切り上げようとした瞬間、ラウラの纏う漆黒のISが戦闘状態へとシフトして右肩に装備された大型実弾砲が火を噴こうとする。

 

「待てラウラ。相手は乗り気じゃないのに撃ったらダメだ。ましてISも纏っていない奴にISを向ける奴がいるか! お前は今、一夏を殺そうとしたんだぞ? 人の命を奪う事と1人のもう覆せない出来事、どっちが大事なんだ!」

 

真島がいつにも増して真剣な顔でラウラに問うが、ラウラはレールカノンを一夏に向け続ける事で答える。

 

「……そうか、なら俺達を倒してから一夏と戦うんだな。ルームメイトとしては勿論、人としても見過ごせん!」

 

真島がドーベン・ルーツを纏うのを皮切りに専用機持ちが次々と自身のISを展開する。

 

互いに一触即発の空気。今まさに戦いの火蓋が切られそうになった瞬間

 

『そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』

 

突然アリーナのスピーカーから怒声が響いた。恐らく騒ぎを聞きつけてやって来た教師だろう。

 

「……ふん。今日は引こう」 

 

「……………後で理由は聞かせてもらうぞ」

 

思わぬ横槍を入れられて興が削がれたのか、ISの戦闘態勢を解除したラウラは真島の横を通ってアリーナゲートへと戻って行く。

 

 

 

 

夜、自室でドーベンウルフ7号機の塗装を終えた真島は夕食を食べようと席を立つと、抜け殻のようになっているラウラが入ってきた。

 

「……」

 

「……俺に話せ。話せば少しは楽になる」

 

真島の言葉によってラウラはポツポツと話し始める。

 

「……教官に否定された…」

 

「……何を否定された? そして何故否定された?」

 

「……ドイツに…戻って欲しいと言った……ここに教官がいるのは相応しくないと……思って……」

 

「……何故ここは相応しくないと思ったのだ?」

 

当時の事をラウラが話し始める。

織斑先生が現役の操縦者だった頃、第2回モンド・グロッソISの世界大会。その決勝戦の日に一夏が何者かの手によって誘拐・監禁されたのだそうだ。

その目的は未だ不明だが、拘束されて真っ暗の中に閉じ込められた一夏を助けたのが決勝戦を放り出して駆けつけた織斑先生らしい。

もちろん決勝戦は彼女の不戦敗。誰もが2連覇を確信してただけに決勝戦放棄は大きな騒ぎを呼び、それが巡り巡って真島の耳にも入ったってわけだな。

そして、一夏の監禁場所に関する情報を提供したドイツ軍に『借り』を返すために、約1年ほどドイツ軍IS部隊の教官を勤めた。その中にはラウラもいて……───これが事の成り行きだそうだ。

真島はこれでようやくラウラが一夏に対してあそこまで悪感情を向ける理由が分かった。

 

「……なら尚更勝って勝って勝ちまくって、織斑先生を振り向かせるしかないな」

 

「……そう…だな」

 

今のラウラには覇気も気力も空だ。ここは己がラウラを元に戻さねばと思った真島は、1つ提案をする。

 

「いいかラウラ……」

 

 

 

 

 

────────────


 

「そ、それは本当ですの!?」

 

 

 

「う、ウソついてないでしょうね!?」

 

月曜の朝、教室に向かっていた真島達は廊下にまで響く声に目をパチクリさせた。この声はセシリアと鈴のもので間違いないだろう。

 

 

「……何の騒ぎだ?」

 

「……さあ?」

 

「……俺もさっぱりだ」

 

真島の疑問に小首を傾げるデュノアと、肩を竦める一夏。

 

「本当だってば! この噂、学園中で持ちきりなのよ? 月末の学年別トーナメントで優勝したら織斑くんと交際でき――」

 

「俺がどうしたって?」

 

「「「きゃあああっ!?」」」

 

自分の名前が出た事で一夏が問い掛けるが、返って来たのは取り乱した悲鳴だった。不自然な行動に一夏とデュノアが揃って首を傾げるが、真島は最後に聞き取った『交際』という言葉に何となく察して頭を抱えてしまった。

 

後日、口止め料として大量のプラ板が山田先生経由で真島達の部屋に送られてきたそうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「あ」」

 

2人同時に間の抜けた声が出てしまう。時刻は放課後。場所は第3アリーナ。声の主は鈴とセシリアだった。

 

「奇遇ね。あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するんだけど」

 

「奇遇ですわね。わたくしもまったく同じですわ」

 

2人の間に不可視の火花が散る。どうやらどちらも狙っているのは優勝らしい。

 

「ちょうど良い機会だし、この前の実習の事も含めてどっちが上かはっきりさせておくのも悪くないわね」

 

「あら、珍しく意見が一致しましたわね。どちらの方がより強くより優雅であるか、この場ではっきりさせましょうか」

 

2人ともメインウェポンを呼び出すと、それを構えて対峙した。

 

「では───」

 

「待て、私と戦え」

 

2人は方向を見る。そこにはあの漆黒の機体がたたずんでいた。

機体名称【シュヴァルツェア・レーゲン】、登録操縦者――

 

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

 

「……どういうつもり? 昨日の発砲といい、いきなり模擬戦の邪魔するなんていい度胸してるじゃない」

 

セシリアは表情を苦く強張こわばらせ、鈴は連結した『双天牙月』を肩に預けながら、昨日の事を考慮して衝撃砲を戦闘状態へとシフトさせる。

 

 

「悪いね。オルコット、凰。 ……君達にはラウラと戦ってもらう。そう……2対1でね」

 

「真島さん……! 何故彼女の味方をするのですの!?」

 

「そうよ! こんなイカレ女に誑かされてんじゃないわよ!」

 

突然の真島の乱入に2人は抗議するが、真島はいつもと違い飄々とする。

 

「んー……済まないね。この事はあまり易々と話せない事なんだ。……ラウラは強いぞ。 そんでもっていざと言う時は俺が止める。安心しな!」

 

「いいじゃない……ここでこのイカレ女のプライドへし折ってやりましょ」

 

「……今日は随分貴女と話しが合いますわね……本当に同感ですわ」

 

「ふん……何処からでもかかってこい。纏めて蹴散らしてやる」



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交渉と裏切り?

 

「一夏、真島くんがいないけど、今日も放課後特訓するよね?」

 

「おう。トーナメントまであまり時間無いしな。瀬呂には悪いけど先にやろうぜ」

 

「確か今日は第3アリーナが───」

 

 

デュノアがそう言いかけると、件の第3アリーナの方角が随分と騒がしい事に気付いた。

 

「なんだ? もうアリーナが使用者で溢れてるのか?」

 

アリーナに近づくにつれ、何やら慌ただしい様子が伝わってくる。さっきから廊下を走っている生徒も多い。

 

「何かあったのかな? こっちで先に様子を見て行く?」

 

そう言ってデュノアは観客席へのゲートを指す。

 

 

「……怪しいな、様子を見に行こう」

 

一夏、デュノアは共に観客席のゲートをくぐり抜ける。

 

「ん? 箒――」

 

一夏が、既にアリーナに来ていた箒に気付いて声を掛けた刹那の出来事だった。

 

ドゴォォォン!!

 

突然の爆発に驚いて視線を向ける一夏達。そして、その煙が立ち込めていた場所を見て絶句した。

 

どうやら模擬戦を行っていたらしく形式はセシリア&鈴 対 ボーデヴィッヒのようだが、戦略的に有利なはずの2人のISは装甲が一部失われてボロボロ。対するボーデヴィッヒも無傷とはいかないが、それでも明らかに損傷は軽微であった。そして何よりも……

 

「ぐ……」

 

「……ふん、口程にもないな。他国の代表候補生と言えどもこの程度か」

 

「ラウラ、そこまでにしておいた方がいい。それ以上は妨害に等しいぞ」

 

「言われずとも分かっている」

 

 

「瀬呂……? 瀬呂!なんでそんな所にいるんだよ!?」

 

 

一夏は冷静でいられなかった。ボーデヴィッヒは鈴とセシリアをここまでボロボロになるまで痛めつけて、更に真島まで誑かした。そう考えざるを得なかった。

 

「このおぉぉぉぉぉ!!」

 

考えるよりも先に体が動いていた。一夏は白式を纏い、零落白夜を発動。アリーナのシールドを切り裂いて一直線にボーデヴィッヒへ雪片弐型を振り下ろす。

 

 

「ふん……感情的で直線的、絵に描いたような愚図だな。教官の弟がこれとは聞いて呆れる……」

 

 

「な、なんだ!? クソッ、動けねぇっ……!」

 

 

零落白夜の一撃がボーデヴィッヒに届く寸前で、ビタッと一夏の体が不自然に止まった。まるで全身を見えない固定具で拘束されたかのように、時を止められたかのように一夏は指1本動かすのを許されない。

 

「一夏、頭冷やしてオルコット達をよく見ろ」

 

「なんだよ! 瀬呂はこいつの味方をするのかよ!?」

 

真島が一夏を止めようとするが、一夏は構わずもがいて暴れる。

 

「ふん……そこまでして戦いたいのなら……いいだろう。お望み通り戦ってやる」

 

謎のカラクリを解除して両腕に薄紫色に発光する『プラズマ手刀』を展開したボーデヴィッヒと零落白夜を再び展開した一夏がぶつかり合う瞬間、金属がぶつかり合い軋む時に出る不快な音が響いた。

 

「……やれやれ、これだからガキの相手は疲れる」

 

 

 

「! ……教官、これは正当な模擬戦です。離してください。これは教官と言えども譲れません」

 

突然の乱入者の正体は予想外の人物だった。しかもその姿は普段と同じスーツ姿で、ISどころかISスーツさえ装着していない。しかしその手に持っているのはIS用近接ブレードであり、170センチはある長大なそれをISの補助無しで軽々と扱っている織斑千冬であった。

 

 

 

「模擬戦をやるのは構わん。──だが、アリーナのシールドを切り裂くような事態にまで発展されては教師として黙認しかねる。この戦いの決着は学年別トーナメントでつけてもらおうか」

 

「……ラウラ、決着は別に今つけなくてもすぐに来るものだ。今は忍耐して耐える時だ。……己を律するんだ」

 

「……」

 

真島の説得によりラウラが黙ってISを解除し、それを確認した一夏も白式を待機状態にする。

 

「織斑も異論は無いな?」

 

「は、はい!」

 

一夏の返事を聞いて、織斑先生は改めてアリーナ内の全ての生徒に向けて言った。

 

「では、学年別トーナメントまで私闘の一切を禁止する。解散!」

 

「……絶対に私と戦うまで勝ち上がれ。それ以外の奴に負ける事は許さん」

 

「そっちこそ、足元すくわれんなよ!」

 

 

 

 

2人が約束を交わしている中!織斑先生は パン!と手を叩いた後、アリーナから立ち去る直前に真島に話しかける。

 

「真島。…………ラウラの件、済まないな」

 

「さぁ、なんの事でしょうか? あ、伝言です」

 

そうとぼけて真島は1枚の紙を織斑先生に渡す。

 

「……ふっ、これは1本取られたな……」

 

その紙には、『弟だからと贔屓のし過ぎは良くないが、ラウラは任せてほしい』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

ラウラと少し話した後、真島は保健室に向かっていた。

 

「あ」

 

「「「「「「あ」」」」」」

 

「……とりあえず、保健室で騒ぐなよ?」

 

そう言って真島は保健室に入る。

 

「済まない、遅れた」

 

「!……瀬呂」

 

先に来ていた一夏がどの面下げて来たんだと睨む。

真島も申し訳ないと思っていたのか、ラウラとの模擬戦で怪我をしたオルコットと凰に深く頭を下げた。

 

「済まなかった。凰、オルコット。俺が不器用なせいで……君達をこんな目に遭わせてしまった……」

 

「……アンタなりにアイツを元気付けてやりたかったんでしょ?幸いにもISはそこまでやられてないし、怪我が治るまでには自己修復で治るレベルよ。そんな気負う必要は無いわ」

 

「そうですわ。元々私達の力不足もあります。真島さんが止めてくれなかったらボーデヴィッヒさんも暴走していたかもしれません」

 

「そうか……ありがとう……ん?」

 

そんな事を話していると、嫌な気配がして ドカーンッ!! と保健室のドアが吹き飛ぶ。比喩でも誇張でもなく、本当に吹き飛んだ。映画とかで主人公がドアを蹴り開けて突入するシーンは見た事があるが、その倍以上の威力だ。

 

 

「織斑くん!」

 

「真島くん!」

 

「デュノアくん!」

 

 

入って来たなんて生易しいものではない。文字通り雪崩込んで来たのは数十名の女子生徒だった。ベッドが5つもある広い保健室なのに、室内はあっという間に人で埋め尽くされ、しかも真島達を見つけるなり一斉に取り囲み、まるで明日の希望の取り合いがごとく手を伸ばしてきたのである。

 

 

「はぁ……」

 

「な、な、なんだなんだ!?」

 

「ど、どうしたの、みんな……ちょ、ちょっと落ち着いて」

 

「「「これ!」」」

 

状況が飲み込めない真島達に、バン! と女子生徒一同が出してきたのは学内の緊急告知文が書かれた申込書だった。 

 

「ここ読んで、ここ!」

 

「えーと、なになに? 『今月開催する学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、2人組での参加を必須とする』 ……いつの間に変更したんだ? ……『なお、ペアが決まらなかった者は当日抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは───」

 

「ああ、そこまででいいから! とにかくっ!」

 

 

 

「2人で優勝を目指そう、真島くん!」

 

「私と組もう、織斑くん!」

 

「私と組んで、デュノアくん!」

 

 

いきなりトーナメントの仕様変更があった理由は分からないが、学園側に何か考えがあるのだろう。ともかく今こうしてやって来ているのは全員1年生の女子だ(リボンの色で識別できる)。学園内で3人しかいない男子ととにかく組もうと、先手必勝、スピード勝負とばかりに迫って来ていた。

 

「……済まない、ちょっと候補が決まったんだ。そいつがダメだったらまた頼む」

 

そう言って真島は保健室を出る。

 

 

「……ぼ、僕は一夏と組もうかな! 男同士気が楽だし……あはは……」

 

「そ、そうだな! シャルルがそう言うならそうするぜ!……あ」

 

ぎこちないデュノアと一夏だが、一夏の顔が急に青ざめる。

 

「貴様ら……怪我人がいる中騒ぐとはいい度胸だな……」

 

スパァァァン!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」(パートナー……か。抽選でも構わないが、邪魔をされるのは嫌だな……ここは誰か選ぶべきか)

 

夕日が照らす中、ラウラは自室で物思いにふけっていた。

そこに真島がドアを開けて入り、ラウラの前に立つ。

 

「ただいま、ラウラ。……ちょっといいか?」

 

「構わん。どんな要件だ?」

 

「学年別トーナメントなんだが……ペアを組まないか?」

 

 

 

「…………抽選でそこらの有象無象と組まされるよりはいいか。それに、貴様はそこそこ信用できる。だが、織斑 一夏は私の獲物だ。それは譲らん」

 

「いや、元々そのつもりで来たんだ。俺としてはラファール・リヴァイブ・カスタムIIのデータを取りたいからな……組み合わせとしては一夏、デュノアペアだからお互いに狙いは分かれている。利害は一致していると思うぞ?」

 

「……交渉成立だな」

 

「じゃあお互い相手の連携を崩す為にも最低限の連携は取れるようにしよう。そうしないと組んだ意味が無くなるからな」

 

「ふん……足を引っ張るなよ?」

 

 

 

 

 

6月も最終週に入り、IS学園は月曜から学年別トーナメント一色に変わる。その慌ただしさは予想よりも遥かにすごく、今こうして第1回戦が始まる直前まで、全生徒が雑務やら会場の整理、来賓の誘導を行っていた。

それからやっと解放された生徒達は各アリーナの更衣室へと走る。ちなみに男子勢は例によってこのだだっ広い更衣室を3人占めである。

だったら仕切りをつければいい……と言えないのがここの女子達だ。100%誰かしらが覗きに来るだろうし、それでただでさえ狭くした更衣室で女子がすし詰めになる。そこから仕切りが倒れようものなら……

 

 

「しかし、すごいなこりゃ……」

 

 

一夏が更衣室のモニターから観客席の様子を見る。それに続いて真島とデュノアも視線をやると、そこには各国政府関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々の顔ぶれが一堂に会していた。

 

「……ドーベンウルフのチカラを見せつける良いチャンスだ」

 

「あはは……真島くんは平常運転だね……」

 

「当然だ。俺の夢はドーベンウルフを量産機シェアトップにする事だからな。そういう意味ではデュノアの会社もライバルという訳だ。ぶつかった時は容赦しないぞ」

 

「それにしても、なんでここまで集まるんだ?」

 

「3年にはスカウト、2年には1年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね。1年には今のところ関係ないみたいだけど、それでも上位入賞者にはさっそくチェックが入ると思うよ」

 

「そういえば真島はペアはどうなったんだ? まだ聞いてないんだが……」

 

「あぁ、結局まだ話してなかったよね?」

 

お偉方の話題から移り、真島のペアの正体について一夏が聞いてくるが、真島はモニターを見つめるだけだ。

 

「……ありゃ、これはサプライズ失敗だな。……悪いね御二方。お先に失礼!」

 

真島が更衣室を出た後に2人がモニターに映し出された対戦表を見ると、そこには信じ難い組み合わせが映されていた。

 

「1回戦、一夏・シャルルペア 対 ラウラ・真島ペア……!?」

 

 

 

 

 

「1回戦で当たるとはな……これで待つ手間が省けた」

 

「さて、容赦しねぇぜ?」

 

 

 

「まずは織斑 一夏、貴様からだ」

 

「悪いねデュノア。君の相手は俺さ。……おっと、ルームメイトと組むのは別に悪くないだろう?」

 

 

「……瀬呂」

 

「まさか真島くんが相手とはね……」

 

 

試合開始まで5秒、4、3、2、1────開始。

 

「「叩き潰す!」」

 

一夏とラウラの言葉は奇しくも同じであった。

 

すかさずデュノアが一夏の援護に向かいラウラを速攻で堕とそうとするが、真島のドーベン・ルーツのインコムによって遮られてしまう。

 

「言っただろう? デュノア、君の相手は俺だ。……どっちが素晴らしいISか、白黒決めようじゃあないか……」

 

「……ボーデヴィッヒさんと組んだ理由、本当は見捨てられなかったからでしょ?」

 

「まぁ、半分正解だ。もう片方は君のラファール・リヴァイブ・カスタムIIのデータ収集。特にその拡張領域の広さは参考になりそうだ……」

 

「君を倒さないと通れなそうだね……!」

 

デュノアはラファール・リヴァイブ・カスタムIIの武装の中で最もオールマイティに戦える組み合わせを展開して相対する。

 

「……なるほどね。だが、汎用性ならこちらの方が上だ!」

 

真島はドーベン・ルーツのビームライフルを乱射して中距離を維持しているデュノアを牽制し続けて反撃する暇を与えない。デュノアはもう少し距離を取れば撃ち合いに持ち込めるが、それをしたらお互い得意な土俵に立つことになり、速攻で仕留める事が出来ずに一夏の白式がラウラのシュヴァルツェア・レーゲンより先に息切れを起こしてしまう。

 

(本当は使いたくないけど、アレを使う事も考えないとね……)

 

真島とデュノアの戦いは膠着状態で始まった……



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