イナズマイレブンAnother (クレイЯ)
しおりを挟む

フットボールフロンティア編
帝国が来た!前編


概要にも記載しましたが、メイン投稿の傍らで投稿するので非常に更新がゆっくりです。それでも良ければ読んでいただければ嬉しいです。


 

No side

 

 

数か月前

 

 

『待ってよ~!お母さん、お父さ~ん!』

 

『っ!危ないわ!杏奈!』

 

『杏奈!』

 

 

『っ...間に合え!』

 

 

ファァァァァァァ!......ガシャーン....!

 

 

『いやああああああ!』

 

『杏奈!』

 

 

『お、おい!救急車だ!』

 

『子供が二人、トラックに轢かれたぞ!』

 

『い、いや....女の子の方は無事だ!』

 

『男の子の方も....だ、だが左足が...早く救急車だ!』

 

 

『お、お兄さん...』

 

『っ...無事...かい.....?』

 

『は、はい....』

 

『そうか....良かった.....っ....』

 

 

 

 

『くくく.....これで、天使の翼はもがれたか。雷門もこれで終わりだな。くくく....』

 

 

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

円堂 side

 

 

 

「さあ、みんな!サッカーやろうぜ!」

 

 

俺はサッカーボールを手に、部室で遊んでいるみんなに声をかける。

だけど、誰も俺の方を見てくれない。ゲームやってたり、お菓子を食べていたり、漫画を読んでいたり...全然やる気になってくれない。

 

 

「おい!みんな!サッカーやろうぜ!」

 

「....グラウンド、借りれたのかよ。」

 

「い、いや...それはまだ...でも、またラグビー部にお願いして!」

 

「どうせ、断られて馬鹿にされるのがオチだよ。嵐山がいなければ雑魚の寄せ集めの弱小サッカー部がグラウンドを使えると思うな、ってさ。」

 

「お前らな...!嵐山が戻ってくるまで、俺たちで頑張ろうって気概はないのかよ!」

 

「あいつがいないのに、練習したって意味ないだろ。」

 

「そうっスよ...嵐山さんがいないなら、意味ないっス...」

 

「俺たち、嵐山さんが抜けたらたった7人でやんすからね。」

 

「お前ら....いい加減にしろ!あいつが戻ってくるまでにもっとレベルアップしてないと、結局去年みたいにフットボールフロンティアに出られなくなるぞ!」

 

 

俺が壁に貼られたポスターを叩いて、みんなの注目を集めようとする。

だけど、誰もやる気になってくれず、自分がやってることに目を向けたままこっちを見向きもしない。

 

 

「くっ...もういい!俺は一人でも練習してくる!」

 

 

そう言って、俺は部室を出ていく。

後ろで、「円堂のやつ、何やる気になってんだ?」って聞こえた気がしたけど、気のせいだ。いつかきっと...あいつらだってやる気を出してくれるさ。だって、あいつらだってサッカーが好きで、サッカーをやるためにサッカー部に入ったんだから。

 

 

「あ、円堂君。今から練習?」

 

「木野。おう。一人でも練習はできるからな。」

 

「もう...私がみんなに言ってあげようか?」

 

「いや、いいよ。その内やる気になってくれるさ。あいつらだって、サッカーが好きなはずだから。」

 

「円堂君.....あ、そうだ。嵐山君、今日は病院に行ってからなら参加できるって。リハビリもだいぶ順調に進んでるから、多少ならサッカーしても大丈夫なんだって。」

 

「本当か!くぅ~!ようやくか!」

 

「うん。本当、あの事故さえなければ今頃...」

 

「まあ、仕方ないよ。それに、あいつが事故に合わなかったら、あいつが助けた女の子が轢かれて、最悪...ってことになってたかもしれないし。」

 

「そうだよね...困ってたり、危ない目に合ってる人を助けないなんて、嵐山君じゃないもの。」

 

「ああ。...よし!いいこと聞けたし、気合入ってきたぞ!俺、河川敷で練習してくる!」

 

「うん!私も後から行くね!」

 

 

 

よ~し...嵐山が戻ってくるなら、今年こそフットボールフロンティアに出場だ!

絶対にフットボールフロンティアに出て、嵐山との約束を果たすんだ!

 

 

『円堂がゴールを守って、俺がシュートを決める。俺たちがいれば、きっと最強のチームになれるよ。』

 

『じゃあ、中学に入ったらサッカー部に入って、絶対フットボールフロンティアに出場しようぜ!』

 

『ああ。俺たちで3年連続優勝を目指そうぜ!』

 

『おう!』

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

嵐山 side

 

 

 

俺の名前は嵐山 隼人。雷門中に通う中学2年生。サッカー部所属だ。

...って、俺は誰に自己紹介しているんだ。

 

俺は今、病院に来ていた。事故に合って左足に後遺症を負ってしまったけど、リハビリしてある程度は動かせるようになった。

 

事故に合うまでは、弱小サッカー部の天才フォワードなんて言われていたけど、今じゃまともにプレイできる体力も、スキルもないだろうな。

 

 

小さいころから続けていたサッカーを、何か月もできなくなるなんて思ってもみなかった。まさか、事故で利き足を変えることになるとは...

 

 

「うん、経過も順調だ。これならサッカーしても問題ないだろう。」

 

「本当ですか、豪炎寺先生!」

 

「ああ。だが、君の足は昔のようには動かせない。君は器用だからリハビリで利き足を変えることができたが、昔から使っていた足と、そうではない足では力の入り方や筋肉の質も変わってくる。」

 

「ええ...そこは仕方ないですよ。でも、俺はまだ中学生です。時間はいくらでもある。これからはこの右足で、今まで以上の力を手に入れるだけです。」

 

「ふっ...そうか。とにかく、これで完治というわけではないことは気を付けなさい。定期的に検診に来ること。過度な運動は禁止だ。いいね?」

 

「はい。ありがとうございました、豪炎寺先生。」

 

「うむ。」

 

 

 

俺は病室を出て、背伸びをする。晴れて、サッカーができる身になったわけだ。

ずっとフラストレーションがたまっていたんだ。先生には過度な運動はするなって言われたけど、これからフットボールフロンティアの予選だって始まるんだ。

 

これから先、時間はあると言ったけど大会までは時間が無い。

とにかくトレーニングあるのみだ。

 

 

「よし...そうと決まれば、さっそく河川敷に行くか。今日も円堂がまこたちと練習してるだろうし。」

 

 

まこたち稲妻KFCの子たちも筋は良いけど、さすがに練習相手としては力が足りない。円堂には熱血パンチだけでなく、もっといろんな技を覚えてもらいたいからな。

 

 

特に、円堂のお祖父さんが残した必殺技、ゴッドハンド。

あれを覚えることができたら、きっとフットボールフロンティアも勝ち抜ける。

そのためには、もっと円堂にまともな練習をさせてやりたいところだ。

 

 

 

何て、いろいろ考えながら歩いていると、河川敷に到着していた。

なんだか、円堂がやけに興奮しているな。何かあったのか?

 

 

「お~い、円堂!秋!」

 

「あっ!嵐山!」

 

「嵐山君!」

 

 

「聞いてくれよ、嵐山!さっき、ものすげえキックで不良を撃退した奴がいてさ!こう、ボールから炎がぶわーって!」

 

「お、おい...落ち着けよ、円堂。」

 

「あ、ご、ごめん。だけど、本当にすごくてさ!名前聞けなかったけど、このあたりじゃ見たことない奴だったな...」

 

「へえ。散歩で来てたとかじゃないなら、転校生かもな。」

 

「転校生か~....雷門中に来ないかな...あいつ、サッカー部に入ってくれたらいい戦力になるのに...」

 

「ま、そいつが転校生なら明日にはわかるだろ。それより、練習しようぜ。」

 

 

そう言って、俺はボールを取り出してリフティングを始める。

リハビリでもやってたし、利き足が変わってもこういった技術は衰えてないな。

 

 

「もう大丈夫なのか!?」

 

「おう。過度な運動は禁止だけど、フットボールフロンティアまで時間もないし、多少は無理することになるだろうな。」

 

「それ、本当に大丈夫なの?」

 

「大丈夫だ、秋。さあ、円堂!久しぶりにPK勝負といこうじゃないか。」

 

「お、いいね!勝負だ!」

 

「3本打って、ゴールを2本決めたら俺の勝ち。2本止めたらお前の勝ち。それでいいな?」

 

「おう!全部止めてやるぜ!」

 

「ふっ、言ったな?じゃあ、負けたやつは勝った奴に雷々軒でおごりだな。」

 

「乗った!」

 

「もう.....ふふ、何だかこの感じも久しぶりね。」

 

 

 

俺たちが勝負のためにフィールドに出る。

秋はそんな俺たちを笑いながら見ていた。確かに、この感じ懐かしいな。

たった数か月だと思ってたけど、数か月でこのなつかしさとはな。

 

 

「準備はいいか、円堂!」

 

「おう!いつでも来い!」

 

 

「....行くぞ!ハァァァァァァ!」

 

 

俺が勢いよくボールを蹴ると、ボールは唸りを上げてゴールへと突き進む。

 

 

「止める!.....っ!逆か!」

 

 

ボールが左に向かっていたため、円堂は左に飛んでボールを止めにかかったが、俺がかけていたスピンによって、ボールは反対側に曲がっていく。そして、それを円堂は止めることができず、ボールはゴールへと突き刺さる。

 

 

シュルルルルル....

 

 

 

「(すげえ回転だ....嵐山のやつ、利き足が左から右に変わったって言ってたけど、右でもすげえじゃん!)」

 

「さ、これで1vs0。俺がリードだな。」

 

「まだまだ!もう一本!」

 

 

そう言って、円堂が俺にボールを返してくる。

俺はそれを受け取り、足元にセットする。

 

 

「行くぞ、円堂!」

 

「来い!」

 

「ハァァァァァァ!」

 

 

今度は真正面に向かってシュートを放つ。

これを止められないようじゃ、やっぱり円堂にはもっと練習が必要ってことになるぜ...!

 

 

「止める!”熱血パンチ”!」

 

 

円堂の拳にオーラが集まり、まるで燃えているかのようになる。

そして円堂は迫りくるボールを殴りつけ、そのまま俺にはじき返す。

俺はそれを胸でトラップして、足元に止める。

 

 

「さすがに止めたか。」

 

「どんなもんだ!(...だけど、今のもギリギリだった。手にまだ痺れが残ってる...何て威力なんだ...)」

 

 

「これで1vs1。次で勝負が決まるな。」

 

「絶対に止めてやる!」

 

「ふっ...(復帰初日...さすがに軽めで行こうと思ったが....勝負には負けたくない!)行くぞ、円堂!」

 

 

俺はシュート態勢に入る。ボールを宙に浮かせ、背中から生えた白い翼でボールに回転をかけ、俺自身もボールを追って浮かび上がる。

 

 

「食らえ!”ウイングショット”!」

 

 

そして、空中で思い切りボールを蹴り、ゴールへと放つ。

俺が蹴ったボールは白い翼のようなオーラを纏いながら、ゴールへと突き進んでいく。

 

 

「負けるか!”熱血パンチ”!」

 

 

俺の”ウイングショット”と、円堂の”熱血パンチ”がぶつかりあう。

激しいオーラの衝突が発生していたが、徐々に円堂が後ろに押し込まれていく。

 

 

「ぐぐぐ...!....っ、うわあああああ!」

 

 

そして、そのまま円堂の拳を押しのけ、ボールは円堂と共にゴールへと突き刺さる。

これで勝負は俺の勝ちだな。

 

 

「くっそ~!負けた!」

 

「ふっ...でも良い勝負だったよ。俺がいない間にもちゃんとレベルアップしてたんだな。」

 

「おう!...ま、俺しか練習してないんだけどな...」

 

「そうか....あいつら、まだ折れたままか。」

 

 

やはり、"彼女"が言っていたあの試合...荒療治になるが受けた方が良いかもしれないな。とは言っても、俺が復帰しても人数は8人。あと3人集めないとな。

 

 

「(となると...去年みたく風丸に頼むか。あいつもサッカーでもやっていけるくらいには筋が良かったしな。)」

 

「さあ、もう暗くなってきたし帰ろ!」

 

「そうだな。...よし、円堂は秋を家まで送っていけ。」

 

「え、何でだ?」

 

「何でもだ。送っていけば、おごりは無しにしてやる。」

 

「マジ!わかった!よし、木野!帰ろうぜ!」

 

「う、うん....(嵐山君、ありがとう!)」

 

「(おう。いつものことだろ。)」

 

 

 

こうして、秋の恋のアシストもしつつ、俺は明日以降のことを考えるのであった。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

翌日

 

 

「では、試合は受けるということでよろしいのね?」

 

「ああ。と言っても、俺はあくまで副キャプテン。受けるって言うと思うけど、一応円堂にも聞いてくれるか?」

 

「ええ、わかったわ。...それにしても、相変わらずあなたほどの人がなぜうちに来たのかが不思議でならないわ。」

 

「そうか?俺は来るべくして、雷門に来たと思ってるけどな。それに、君も円堂と付き合うようになればわかるよ。あいつは不思議と、人を惹きつける。」

 

「そう...(それは貴方もだと思うのだけれど...ま、それは言わなくていいかしらね。)」

 

「じゃあ、よろしく頼むよ、雷門さん。」

 

「ええ。貴方も分の悪い賭けだけど...良い結果になることを祈っているわ。」

 

「ありがとう。じゃあね、雷門さん。」

 

「ええ。」

 

 

 

俺が今やっていたこと、それは練習試合の話だ。

俺は怪我で部活に参加できなかった間、雷門さんの頼みで生徒会の仕事を手伝っていたのだが、その時にいきなり雷門さんに話をもってこられた。

 

何でも、40年間無敗の帝国学園というところが、俺たち雷門中に練習試合を申し込んできたらしい。なぜ、部員数も試合するには足りない俺たちに、そんな強豪校が練習試合を申し込んできたのかはわからないが...試合ができるとわかれば、きっとあいつらも少しはやる気を出すだろう。

 

 

 

そんなこんなで放課後、俺は久しぶりに部室へと来ていた。

だけど、こいつらゲームやら漫画やらで全然トレーニングしていなかったのか、随分と能力が低くなってる気がするな。

 

 

なぜそんなことがわかるのかというと、なぜかはわからない。

ただ、昔から人の歩き方とか、体の動かし方でその人の体調とかがわかったし、体つきとか見れば何となく筋力とかが数値化されるというか...ま、難しい話は無しにして...とにかく、こいつらの能力がかなり落ちている。

 

 

特に1年だと壁山と栗松、2年だと染岡が体力落ちてるな。

染岡は俺とのツートップだと言うのに、これじゃ帝国のゴールは奪えないかもな。

壁山は元から太っていたが、俺の見ない間にさらに太ったな。

栗松もゲームばかりで体を動かしていないのか、まともに試合で動けないぞ。

 

少林はサッカーの技能は上達していないが、体力は多少ついてるな。

こいつは何をやっていたんだろうか。

 

宍戸と半田はさほど変化なしだが、若干下がってる。

これじゃあやる気出しても厳しいものがあるが...ま、それをどうにかするのがキャプテン、副キャプテンの役目か。監督も役に立たないしな。

 

 

色々考え事をしていると、話はまとまったみたいだ。

とりあえず、こいつらはまだやる気出てないけど、円堂は残りの部員を探しに出たようだ。俺も風丸には声をかけておくか。

 

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

 

そして、試合当日

 

 

結局あれから、風丸、影野、マックス、目金が参加してくれた。

俺は今回ベンチスタート。やる気を出したこいつらがどこまでやれるか、とりあえずベンチから見ていることにした。

 

それに、俺抜きでも戦えるようにならないとフットボールフロンティアは勝ち抜けない。俺がまともに動けない状況も想定しないといけないからな。

 

 

しばらくすると、帝国イレブンが到着したようだ。

随分といかつい車で来たな。...あれ、もしかして鬼道か?

それに源田に佐久間までいるのか。かなりのメンツだな。思ったよりやばいかもしれん。

 

 

 

「俺、円堂守!今日は試合を申し込んでくれてありがとう!よろしくな!」

 

「ふっ...慣れないグラウンドだ。少し練習させてもらうよ。」

 

「え、あ、うん。」

 

 

鬼道は円堂の握手に応じることなく、そのまま練習へ参加する。

あいつ、失礼な奴だな。ま、俺たちなんてその辺に落ちてる石ころみたいなものなんだろうな。

 

 

「あいつ、円堂が握手を求めてたのに無視しやがって!」

 

「落ち着け、染岡。」

 

「止めんなよ、嵐山!」

 

「落ち着け。...お前まで同レベルに落ちる必要はない。」

 

 

 

俺はあえて、帝国イレブンに聞こえるように大きな声で話す。

俺の言葉に、一部の帝国イレブンは動きを止めている。

 

 

「挨拶や握手なんかを無視する奴と同レベルに落ちたところで、お前に何のメリットがある。最低限の礼儀も弁えない人間だと思われたくなかったら、怒りを抑えろ。その怒りは、試合で、お前のシュートでぶつければいい。」

 

「嵐山...お前....」

 

「染岡。お前のシュートには期待してるぞ。」

 

「おう。任せておけ!」

 

 

染岡は落ち着き、先ほどまでの怒りを抑えて試合に向けた気合に変えている。

これで染岡は大丈夫だな。...帝国イレブンは気まずそうにしているな。

鬼道は表情は変えていないが、俺や円堂の方を見ているように見える。

 

 

これで帝国イレブンも多少はまともになるだろう...そう思っていたが、事件は起きた。

 

 

しばらく帝国の練習が続いていたが、鬼道がフォワード二人に何かを指示すると、いきなり俺たちの方にボールが二つ飛んできた。

 

一つは円堂の元へ。一つは俺の方へ...だが、俺の方に飛んできたボールは蹴り方が悪かったのか、それともわざとか...軌道を変えて秋や、誰か知らないが雷門中の女生徒の方へ向かっていく。

 

 

「あっ、やべ!」

 

 

「チッ...挑発のつもりなら、もっとしっかりやりやがれ!」

 

 

俺は秋たちの前に飛んでいき、一回転してボールを蹴り返す。

俺が蹴り返したボールはものすごい勢いで飛んでいき、源田の立っている横を通りすぎてゴールへと突き刺さった。

 

もう一つの方は円堂が何とか止めていた。

特に被害は出ていないようだが...まさか試合前にここまで無礼な行動をされるとは思っていなかったよ。

 

 

「お前たち...この試合、絶対勝つぞ!」

 

「嵐山....おう!」

 

「絶対勝つっス!」

 

 

 

 

鬼道、源田、佐久間...そして帝国イレブン。

お前たちがどういうつもりであんなことをしたかは知らん。

だが、こんな無礼なことをするというなら、俺も容赦はしない!

 

 

俺たちのサッカーで、必ず帝国に勝ってやる!

 

 

 

 

.




〇選手データ

嵐山 隼人
男。2年生。フォワード。背番号18。風属性。
円堂、秋と共にサッカー部を立ち上げた初代メンバーの一人。円堂とは幼馴染。
天性のサッカーセンスと努力で、少年サッカーリーグで大活躍した結果、天才フォワードと呼ばれている。事故に合い、怪我により戦線を離脱していた。

必殺技
ウイングショット    シュート 風 個人技(オリジナル)
?????????   シュート ? 個人技
????        シュート ? 個人技
??????????? シュート ? パートナー:???
風穴ドライブ      ドリブル 風 個人技
スピニングカット    ブロック 風 個人技

・もしも化身を持っていたら?
蒼天の覇者 玉竜 or 疾風の白虎 or 招雷の青竜

.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帝国が来た!後編

嵐山 side

 

 

「ではそろそろ始めます。両キャプテン、先攻後攻を決めるコイントスを...」

 

「不要だ。そちらの好きに始めるといい。」

 

「あ、君!....では、雷門はどうする?」

 

「円堂、先行で行こう。」

 

「そうだな。相手の動きを見てからだと、固くなっちゃうかもしれないし。」

 

 

「では、雷門の先行で始めます。全員、整列!」

 

 

審判の掛け声で、全員が整列する。

俺の目の前には鬼道が立っているのだが、ゴーグルをしているせいか表情がわかりにくい。

まあ、こいつは冷静なタイプだからさっきのことは気にしてないだろうが。

 

 

「それでは、雷門中と帝国学園の試合を開始します!」

 

 

審判の宣言後、礼をして各自ポジションにつく。

鬼道はずっと俺を見ていたが、俺がベンチに向かうとゴーグル越しでもわかるほど動揺していた。俺に話しかけようと動こうとしたが、試合が始まるからか考え直してポジションについていた。

 

 

「(あいつ...もしかして、俺が怪我してたこと知らないのか?)」

 

 

そんなことを考えていると、秋と、先ほどの女生徒が話しかけてきた。

 

 

「あ、あの...先ほどはありがとうございました!」

 

「私も。ありがとうね、嵐山くん。」

 

「いや、当たり前のことをしただけだよ。...ところで、君は?」

 

「あ、すみません。私、新聞部の音無です!今日は試合の様子をしっかりと記事にしたくて、近くから試合を見ようと思いまして!」

 

「そっか。記事にしてくれるのは嬉しいね。でも、さっきみたいにいつボールが跳んでくるかわからないし、気を付けるんだよ?」

 

「はい!」

 

 

 

ピィィィィィ!

 

 

話していると、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。

雷門中ボールで試合開始。ちなみにうちのフォーメーションは4:4:2のオーソドックスなフォーメーションだ。正直、実力が未知数の目金をフォワードには起きたくなかったが、目金がどうしてもというのと、円堂が許可したからこの形になった。

フォワードに染岡、目金。ミッドフィルダーに半田、マックス、少林、宍戸。ディフェンダーは風丸、壁山、影野、栗松。そしてキーパーに円堂だ。

 

 

 

「よし、俺が攻め込むぜ。」

 

「あ、ちょっと!エースストライカーは僕ですよ!」

 

「攻めていくぞ!」

 

「おう!」

 

 

染岡がボールをキープして、半田やマックスにパスを回しながらあがっていく。

やはり多少のブランクがあるとはいえ、去年まで俺と円堂で特訓させた甲斐があったのか、染岡と半田の動きは良い。マックスも器用を売りにするだけあって、二人についていけている。だが、目金は全くついていけてないな。まあ、言っちゃ悪いが運動をするような見た目ではなかったしな。

 

 

「ほら!こっちにもパスだ、パス!」

 

 

それと、宍戸と少林はまだ動きが硬い。壁山、栗松、影野もだな。

去年、俺たちと一緒に試合に参加したとはいえ、初心者の風丸の方が良く動けているし、声も出ている。

 

 

「(だが妙だな....鬼道たちの動き、まるで本気じゃない。何を企んでいる?)」

 

 

「こっちだ!半田!」

 

「よし!決めろ、染岡!」

 

 

半田のパスが染岡へ通り、染岡がシュート態勢に入る。

帝国のキーパー、源田は余裕そうに腕組しているが...さあ、見せてやれ染岡。お前の必殺技を!

 

 

「くらえ!”ドラゴンクラッシュ”!」

 

「何っ!?」

 

 

染岡の蹴ったボールから、青いドラゴンのオーラが見え、力強いボールが源田を襲う。

源田は染岡が必殺シュートを放ったことに驚いていたが、すぐさま対応に動き出す。

 

 

「ハッ!”パワーシールド”!」

 

 

源田が軽く跳び、拳を地面へと叩きつける。

すると、オレンジ色の障壁が出現し、染岡の”ドラゴンクラッシュ”をいとも容易く跳ね返した。

 

 

「何だと!?俺の”ドラゴンクラッシュ”が...」

 

「ふっ...必殺技を使うとは驚いたぞ。だが、その程度のシュート、このキング・オブ・ゴールキーパーである源田幸次郎には通用しない!」

 

「くっ!」

 

 

「鬼道!俺の出番はここまでだ。」

 

 

そう言って、源田は鬼道へとボールを渡す。

ボールを受け取った鬼道はにやりと笑みを浮かべ、静かに宣言する。

 

 

「デスゾーン開始。」

 

 

すると、ものすごい勢いで帝国イレブンが前線へと駆けていく。

対する雷門イレブンはその動きに全くついていけておらず、一瞬で円堂のいるゴール前までボールが運ばれてきた。

 

 

「決めろ!」

 

「「「”デスゾーン”!」」」

 

 

鬼道がセンタリングし、佐久間、寺門、洞面がボールを中心にして回転し、ボールにオーラをため込んで、3人で蹴りだす。紫色のオーラを纏ったボールが円堂に襲い掛かった。

 

 

「すごいシュートだ...だけど、ゴールは割らせない!”熱血パンチ”!」

 

 

ドガンッ!

 

 

円堂の拳がボールとぶつかり、激しいオーラのぶつかり合いが発生する。

円堂も何とか堪えているが、徐々に押し込まれていく。

 

 

「ぐっ....ぐぐぐ....!」

 

「ほう...少しはやるようだ。だが...」

 

「っ...うわああああああ!」

 

 

ピィィィィィ!

 

 

結局、デスゾーンの威力に耐えられず、円堂はボールと共にゴールへと押し込まれる。

これが帝国の力か...40年間無敗を誇るだけある。パワー、スピード、テクニック...どれをとっても一級品だな。

 

 

「大丈夫か、円堂!」

 

「大丈夫だ、風丸!」

 

「すごいシュートだったな...去年対戦した天河原中の必殺技と比べ物にならないな..」

 

「ああ...だけど、今度は止めてみせる!だから攻撃は頼んだぜ、みんな!」

 

「「おう!(はい!)」

 

 

円堂の言葉に、雷門イレブンは奮い立つ。だが、雷門イレブンを待っていたのは、辛い現実だった。雷門イレブンがボールを持てば、一瞬にしてボールは奪われ、雷門イレブンのディフェンスは一瞬で抜き去られる。さらには”デスゾーン”、”百烈ショット”などの必殺シュートによって、どんどんゴールを決められていた。

 

 

「ぐっ....くそ....」

 

「結局はこの程度か....(だが、奴が出てくれば状況は変わるかもしれん。奴...嵐山隼人は一人ですべてをこなす、まさにパーフェクトプレイヤー。今回の目的は嵐山ではないが、奴も警戒すべきだ。)」

 

「まだ....まだ....!」

 

 

「ふっ...その根性だけは認めてやろう。だが、これで終わりだ。」

 

「「「”デスゾーン”!」」」

 

「くっ....”熱血パンチ”!....っ...うわああああああ!」

 

 

何とか円堂も立ち向かおうとしたが、結局守り切れずこれで0vs10になった。

そして、前半終了のホイッスルが鳴り響く。帝国イレブンは息切れなどしておらず、逆に雷門イレブンは疲労困憊といった様子だ。

 

 

「ちくしょう....これが帝国学園...」

 

「後半もやるんスか...?」

 

「やるだけ無駄じゃないか...」

 

「何言ってるんだよ!やるに決まってるだろ!俺たちでサッカー部を守るんだよ!」

 

「でも...」

 

「俺たちの必殺技が通用しないんじゃ、どうしようも無いでやんすよ...」

 

「諦めるな、お前たち!」

 

「嵐山さん...」

 

「後半は俺も出る。それに、大切なのは諦めない気持ちだ。確かに、帝国学園は強い。お前たちとの実力差は歴然だ。」

 

「はっきり言うね~...」

 

「まあ、本当のことだからな...」

 

 

「勝てる確立は限りなく低いかもしれない。だけど、0%ではない。諦めない限り、勝率が0%になることはない!絶対に勝てない相手なんていないんだ。それに...お前たちは試合を諦めて、それでサッカー部が廃部になって...後悔しないのか?」

 

「「「「「それは...」」」」」

 

 

俺の言葉に、正式なサッカー部員は円堂以外、下を向いて沈黙する。

そうだ。その反応が既に答えになっている。諦めたらきっと後悔する。

だったらたとえ勝てる見込みがほとんど無くても、諦めてはダメなんだ。

 

 

「まずは1点。どうやって1点取るか考えてみよう。俺は楽しみだよ。久しぶりにみんなとサッカーできるんだ。」

 

「「「「嵐山さん...」」」」

「「嵐山...」」

 

 

「俺と一緒に、フィールドを駆けよう。俺についてこい!」

 

「「「おう!(はい!)」」」

 

 

「(さすが嵐山だ...よし、俺も今度こそシュートを止めてみせる!)」

 

 

 

何とかみんなのやる気を引き出すことができた。

そして、俺は目金と交代で出る。久しぶりの試合だ...この時を俺は待っていたんだ。

 

 

ピィィィィィ!

 

 

審判のホイッスルで、後半が開始した。

帝国ボールでのスタート。佐久間が鬼道にボールを託して、前線へとあがっていく。

俺はそれを追うように走っていく。

 

 

「なっ!?早い!」

 

「臆するな!そいつ以外は取るに足らない雑魚だ!後半...総帥の指示通り、徹底的に奴らを潰せ!」

 

「チッ...潰す、ね...俺の一番嫌いな言葉だ...!」

 

 

「決めろ、お前たち!」

 

 

鬼道のセンタリングに、佐久間、寺門、洞面が同時に跳び、再び”デスゾーン”の構えを取る。

俺はゴールラインまで戻ってきて、円堂の前に立つ。

 

 

「「「”デスゾーン”!」」」

 

 

三人によって放たれたシュートが、再び雷門ゴールを襲う。

だが、そう何度も決めさせはしない!止められはしないだろうが、威力を弱めることならできる!

 

 

「”スピニングカット”!」

 

 

俺は足にオーラをためて、それを放つ。

オーラは地面にあたり、そのまま地面から吹き出るようにシュートをさえぎる壁となる。

そして、”デスゾーン”がその壁にぶつかると、勢いが徐々に削がれていく。

 

 

「っ...円堂!」

 

 

だが、完全には勢いを殺しきれず、”スピニングカット”の壁をぶち破り、ボールはゴールへと再び向かっていく。

 

 

「任せろ!嵐山が威力を抑えてくれたんだ...絶対に止めてみせる!”熱血パンチ”!」

 

 

円堂が”熱血パンチ”を繰り出し、ボールを止めにかかる。

俺が威力を落としたのが功を奏したのか、先ほどまで止められていなかった”デスゾーン”を円堂は何とか防いだ。

 

 

「何だと!?」

 

「よし!どんどん攻めるぞ!まずは1点!」

 

「おう!...風丸!」

 

 

俺は円堂がシュートを止めたことを確認し、みんなを鼓舞しつつすぐさま前線へと駆ける。

円堂はそれを見て、速攻するために風丸へとボールを渡す。

 

 

「弱小サッカー部が...一度止めたくらいで調子に乗るなよ!」

 

「円堂と嵐山が繋いだこのボール...奪わせはしない!”疾風ダッシュ”!」

 

「何ぃ!?」

 

 

風丸が必殺技で辺見を抜き去る。やはり風丸はセンスがあるな。

この場面で必殺技を覚えるなんて。

 

 

「つなげ!マックス!」

 

「おう!」

 

 

その後もパスが繋がれていく。みんな疲れているはずなのに、必死になって前線へとボールを運んでいく。そして、ついに俺の元までボールが繋がった。

 

 

「決めろ、嵐山!」

 

 

半田のパスが俺へと通り、俺はゴール前で源田と対面する。

みんなが繋いでくれたこのボール...必ず決めてみせる!

 

 

「行くぞ、源田!」

 

「来い!」

 

「”ウイングショット”ォォォォォ!」

 

 

俺は今出せる最大の威力でボールを蹴る。ここで1点取って、みんなを鼓舞する!

それがストライカーの役目だ!

 

 

「(なんだ、この違和感...嵐山のシュート....この程度だったか...?)」

 

「止めてみせる!ハッ!”フルパワーシールド”!」

 

 

源田が両手にエネルギーを溜め、普通の”パワーシールド”より大きい衝撃波を発生させる。

俺のシュートと衝撃波がぶつかり、まるで機械がショートしているかのように激しくエネルギーがスパークしている。

そして、ボールの勢いはどんどん収まっていき、そのまま衝撃波によってボールは弾かれてしまった。

 

 

「くっ!(決められなかった...!)」

 

「よし!止めたぞ!(っ..だが、”フルパワーシールド”はもう打てん...)」

 

 

「(おかしい...確かに源田は良いキーパーだ。だが、嵐山のシュートを止めることができるほどかと言われれば、答えは否だ...一体どういうことだ...?まさか、弱小校のぬるま湯につかって、実力を落としたのか。俺の認めるライバルが、このざまとはな...)」

 

 

 

「そんな....嵐山さんのシュートでもゴールを奪えないなんて...」

 

「もう終わりっス...勝てっこないっスよ...!」

 

「くっ...ここまでか...」

 

 

 

マズイ...俺がシュートを決められなかったことで、やる気を出していたはずのみんなが折れかけている...

何とかボールを奪って、シュートを決めなければ!

 

 

「...総帥の指示通り、こいつらを潰す。やれ、お前たち!」

 

 

鬼道がボールを寺門へ回す。

俺はそれを見て、寺門の進行方向へと回り込む。

 

 

「止める!ボールを奪って、今度こそゴールを決めてやる!」

 

「へっ...そんなにボールが欲しいならくれてやるよ。」

 

「何っ?」

 

 

寺門はそう言うと、俺の胸元めがけてボールを蹴る。

こいつ、いったい何を...

 

 

 

「”ジャッジスルー”!」

 

「ガハッ...!」

 

 

俺がボールをトラップした瞬間、寺門の強烈な蹴りがボールへ繰り出され、トラップしようとしていた俺を吹き飛ばす。まさか、これが必殺技だと...!

 

 

「ゴホッ...!...くっ、てめえ...!」

 

「おらっ!」

 

「ぐあっ!」

 

「ナイスパスだ、寺門!おらっ!」

 

「ぐああ!」

 

 

帝国イレブンが俺を囲み、俺にボールをぶつけながらパス回しをしだした。

こいつら、俺を潰すためにこんなことを...!これが40年間無敗のチームのやることなのか!こんなの...サッカーじゃねえ...!

 

 

 

「食らえ!」

 

「ぐっ!」

 

「まだまだ!」

 

「ぐあああ!」

 

 

ものすごい勢いのパス回しに、俺以外の雷門イレブンは見ていることしかできない。

あいつらも必死に止めようとしているが、中に入ろうものなら自分たちもやられるかもしれないという恐怖心から、声を出すことでしか止めようとできないようだ。

 

 

「ぐっ...っ...!」

 

「ほう...どうやら、左足を気にしているようだな。」

 

「っ!」

 

「食らえ!」

 

「っ.......!!!!!!!!」

 

 

寺門の放ったボールが、俺の左足に直撃する。

声にならない痛みに、俺は左足を抑えて蹲ってしまう。

 

 

「ひどい...こんなの...こんなのサッカーじゃないわ...」

 

「嵐山先輩...」

 

「こ、これはひどい....嵐山、帝国の猛攻に立ち上がることができません...!」

 

 

「(あの痛がりよう...なんだ、この違和感...........っ、まさかっ!)」

 

「終わりだ!」

 

 

佐久間、寺門、洞面がボールをあげ、”デスゾーン”の構えに入る。

 

 

「やめろ!お前たち!そいつは!」

 

「「「”デスゾーン”!」」」

 

 

鬼道がなぜか佐久間たちを止めようとしていたが、既に必殺技を放とうとしていた三人を止めることはできず、”デスゾーン”は俺めがけて放たれた。

 

 

「っ.....うわあああああ!」

 

 

ドサッ....!

 

 

”デスゾーン”は俺の頭へと直撃し、俺はその勢いに目金や秋、音無が座っているベンチの近くへ吹き飛ばされる。

 

 

 

「ぐっ.....ぁ......っ.....」

 

 

そして、俺はそのまま意識を失った。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

円堂 side

 

 

 

「嵐山......嵐山ぁぁぁぁぁ!」

 

 

嘘だろ...嵐山...せっかく怪我から復帰して、また一緒にサッカーできると思って嬉しかったのに...何でこんなことになるんだよ!

 

 

「違う...こんなの...サッカーじゃない!狙うならゴールを狙え!」

 

「そうよ!どうして嵐山くんをこんな目に....せっかく怪我が治って、またサッカーができるはずだったのに...!」

 

 

 

「っ...(やはり、怪我をしていたのか....どうりであの頃と比べて威力の下がったシュートを打つはずだ...それに......奴は左足でシュートを打っていたのに、この試合は右足でシュートを打っていた...)」

 

 

 

 

「雷門、選手交代は?」

 

 

審判が選手交代を要求している。だけど、俺たちのベンチには目金しか...

 

 

「ヒッ!い、嫌だぁぁぁぁぁ!」

 

「あっ!目金さん!」

 

 

 

目金は自分に視線が集まっていることに気付き、悲鳴を上げて走っていってしまった。これじゃあ、10人で戦うしか...

 

 

 

「俺が出る!」

 

 

 

今の声は.......もしかして....

 

 

「豪炎寺!」

 

 

豪炎寺が、目金が脱ぎ捨てたユニフォームをもって、フィールドに出てきてくれた。

まさか、豪炎寺が来てくれるなんて...

 

 

「いいだろう。着替える時間をやる。....それと、嵐山のことはすまなかった。」

 

 

帝国のキャプテン...鬼道がそう言って、ボールを蹴ってラインから出す。

これで試合は一時中断。豪炎寺はさっそくユニフォームに着替え始めてる。

 

 

「っ、嵐山は!」

 

「気を失ってるわ....たぶん、左足の痛みが限界になっちゃったんだと思うわ...」

 

「嵐山先輩...」

 

 

「っ...そうか....」

 

 

「彼のことは私に任せてもらえるかしら?」

 

「夏未さん!」

 

「あ、理事長の...」

 

 

 

「私は知りたいことが知れたから、もう試合を見ている必要はなくなったわ。だから彼を病院に連れて行きます。」

 

「円堂。こいつのことは彼女に任せよう。」

 

「豪炎寺......わかった。嵐山のこと、頼むよ。」

 

「ええ。」

 

 

 

そう言って、雷門は嵐山を執事に抱えさせて、歩いていく。

嵐山、無事だといいんだけどな....

 

 

そして、雷門ボールで試合再開。だけど、また帝国にボールを奪われてしまう。

鬼道がセンタリングし、また”デスゾーン”の態勢に入った。

 

 

「これで終わりだ!」

 

「「「”デスゾーン”!」」」

 

 

 

「よし...!」

 

 

だけど、豪炎寺はそれを見てゴール前へと走り出した。

周りは豪炎寺が逃げたのか、って言っているけど...俺にはわかる。

あいつは信じているんだ。俺がシュートを止めて、あいつにボールを繋ぐって!

 

 

 

「止めてみせる.....嵐山の分も、俺が戦う!絶対にこの試合、勝ってサッカー部を廃部にはさせない!」

 

 

体の奥底から力が湧いてくる。今ならきっとできる!

じいちゃんが残してくれた特訓ノートに書かれていた...幻の必殺技!

 

 

「”ゴッドハンド”!」

 

 

手からオーラが出て、それは大きな手の形になり、シュートを受け止める。

凄い勢いだ...でも、このシュートは絶対に止める!止めて、豪炎寺に繋ぐんだ!

 

 

「うぉぉぉぉぉ!」

 

 

そして、”ゴッドハンド”が決まり、俺は”デスゾーン”を止めることができた。

これが”ゴッドハンド”...じいちゃんの残した必殺技!

 

 

「ば、馬鹿な...」

 

「っ、行けえええ!豪炎寺!」

 

 

俺は全力でボールを投げ飛ばし、豪炎寺へパスをつなぐ。

豪炎寺はそれを受け取った瞬間、ボールを空高くへと蹴りだし、自分も回転しながらボールを追いかける。

 

 

「っ!”ファイアトルネード”!」

 

 

そして、炎を纏った蹴りでシュートを放つ。

ボールは炎を宿し、嵐山のシュート以上の威力で帝国ゴールへと突き進む。

 

 

「うぉぉぉぉぉ!」

 

 

そして、そのまま帝国ゴールへと突き刺さった。

これで1vs10...ようやく1点を取ることができた!

 

 

 

『ふっ...全く衰えてはいないか。だが、翼が折れていることは確認できた。これで終わりだ。』

 

 

 

「....この試合、ここで我々は放棄する。」

 

「なっ!それでは帝国の敗北になるけど、いいのかい?」

 

「構わない。」

 

 

そう言って、鬼道たち帝国イレブンは去っていく。

帝国の負けになるってことは...俺たち、勝ったのか!?

勝ったってことは、サッカー部はつぶれない!

 

 

 

「やったあああああああああ!」

 

「サッカー部は存続だ!」

 

「やったっスぅぅぅぅ!」

 

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

鬼道 side

 

 

「嵐山....」

 

「鬼道、お前が気にすることではない。...と言っても、お前は気にしてしまうんだろうな。」

 

「源田...」

 

 

 

俺は帰りの車中、 嵐山のことを考えていた。

奴があそこまで弱っているとはな...怪我をしたと言っていたが、利き足が使えなくなるほどの怪我をしたとなると、ただ事ではない。

 

去年、雷門が練習試合でいくつかの学校に勝っていたとは聞いていた。

だから、フットボールフロンティア予選で当たるのを楽しみにしていたのに、雷門はフットボールフロンティアに出場しなかった。

 

問題を起こしたとかで出場停止になったと総帥に聞いたが...今日のあの様子、嵐山がいて出場停止になるほどの問題が起こるか...?

 

 

俺は総帥を信じ続けて、本当にいいのか...?

さっきも、総帥は『翼が折れていることは確認できた』と言っていた。

総帥は嵐山が怪我をしていたことを知っていた...?

 

 

「(考えがまとまらない...)」

 

 

直接、話をするしかないか。

明日、嵐山のところへ行くか。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

河川敷の出会い

円堂side

 

 

あの帝国学園との練習試合から1日経って、今度は尾刈斗中との練習試合が決まった。

嵐山は試合までの復帰は難しそうだけど、フットボールフロンティアには間に合うようにリハビリを続けている。俺たちも早く嵐山と一緒にサッカーできるのを楽しみにしてる。

 

 

「あの、キャプテン...」

 

「ん?どうしたんだ、少林。」

 

「この前の試合の...豪炎寺さんにはまた頼れないんですか?」

 

「そうですよ。豪炎寺さんがいれば、尾刈斗中にだってきっと勝てますよ!」

 

「あのシュート、かっこよかったでやんすよね。」

 

 

少林、宍戸、栗松がそう言うが、豪炎寺はもう...俺だって豪炎寺と一緒にサッカーしたいけど、これ以上無理に誘うのもな。あいつにだって事情があるだろうし。

 

 

「お前ら、豪炎寺に頼りすぎだ。」

 

「染岡さん...でも...」

 

「確かに、俺も嵐山もこの前の試合、シュートを決められなかった。お前らからしたら頼りない先輩に映ったかもしれねえ。だがよ、俺も嵐山もこのままじゃ絶対に終わらねえ。もっともっとレベルアップして、お前らが安心して任せられるようなストライカーになってやる。だから、いない奴に頼るのはもうやめろ。」

 

「染岡......そうだ、お前たち!確かに豪炎寺はすごい。だけど、帝国との試合は豪炎寺がいたから何とかなったわけじゃない!お前たちが諦めなかったから何とかなったんだ!それに、豪炎寺が入ってくれたとしても俺たちが今のままじゃ意味がない!サッカーは11人全員でプレイするものだ。俺たち全員がレベルアップしなきゃダメなんだよ!」

 

「「「染岡さん...キャプテン...」」」

 

「そうと決まれば練習だ!木野、今日からグラウンドを使えるんだよな?」

 

「ええ。夏未さんから許可を得ているわ。」

 

「よし!お前たち、早速練習に行くぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

 

「(そうだ...確かに豪炎寺はすげえ...だけど、俺だって雷門のストライカーなんだ。嵐山っていうすげえライバルがいるってのに、豪炎寺まで...負けてられねえ!)」

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「全く君は...あれほど無茶はするなと言ったのに。」

 

「ははは...すみません、豪炎寺先生。」

 

「まあ今回は仕方あるまい。いつもの痛み止めを出しておこう。だが、今回は軽傷で済んで良かったと思って、今度は無茶をするんじゃないぞ?もしまた無茶をしたら...今度こそサッカーが二度とできなくなると重いたまえ。」

 

「はい。ご忠告、胸に刻みます。」

 

「よろしい。」

 

「じゃあ先生、今日は失礼します。」

 

「うむ。」

 

 

俺は先生に挨拶して、診察室を出る。やっぱり、豪炎寺先生には怒られてしまったか。

ま、今回は無茶したというよりは痛めつけられたという感じだけど、医者からしたらそれは関係ないからな。

 

 

「さて、これからどうするか......って、あれは豪炎寺...?」

 

 

この前、雷門に転校してきた豪炎寺か。確か円堂が言うにはすごいストライカーらしいが。

俺はあまり他の学校やチームの選手には詳しくないからな...円堂も河川敷で見ただけだって言ってたけど。

 

 

「お前は...確か、嵐山だったか。」

 

「よう、豪炎寺。ちゃんと話すのは初めてだったな。」

 

「ああ。同じクラスだし、聞いているとは思うが...豪炎寺修也だ。」

 

「俺は嵐山隼人。雷門中サッカー部の副キャプテンだぜ。」

 

「知ってる。俺もこの前の帝国との試合に出たからな。」

 

「ん?じゃあ、お前が俺の代わりに出てくれた奴なのか。ありがとうな。」

 

「別に...礼を言われるほどのことじゃないさ。」

 

「そう。ならこの話は終わりだな。...ところで、何で病院に?この前の試合でどこか怪我でもしたのか?」

 

「それは...」

 

 

俺が普通に聞くと、豪炎寺は答えづらそうな表情をする。

別に怪我をしたって感じじゃなさそうだし、他人の俺がずかずか踏み込んでいい話じゃなさそうだな。

 

 

「悪い。言い辛いなら言わなくていいよ。とにかく、怪我とかじゃないなら良かったよ。」

 

「ああ...すまない。」

 

「いや、謝ることじゃないって。人には人の事情があるんだ。ところで、この前の試合に出たってことは、サッカー部に入ってくれるのか?」

 

「いや...俺はもうサッカーはやらないよ。」

 

「ふ~ん...ま、それにも事情がありそうだな。わかったよ。だけど、円堂があそこまで言うストライカーだ。一緒にプレイしてみたかったよ。...じゃ、俺もう行くよ。」

 

「ああ...」

 

 

暗い表情の豪炎寺を置いて、俺は病院を後にした。

さて、どうしたものか...痛みも違和感も特には感じないが、今日はさすがに軽いトレーニングにしておくか。ここで無理して悪化しても困るしな。

 

 

「とすれば...グラウンドはみんなの練習の邪魔になるし、河川敷にでも行くか。」

 

 

.....

....

...

..

.

 

鬼道 side

 

 

「嵐山...問題無いといいが...」

 

 

俺はあれから結局気になって、嵐山の様子を見に雷門中へと来ていた。

校門の陰からグラウンドを見ると、雷門イレブンが練習を行っていた。

 

 

「まだまだ!どんどん打ってこい!」

 

「おっしゃあ!くらえ、”ドラゴンクラッシュ”!」

 

「負けるかぁ!”ゴッドハンド”!」

 

 

相変わらず、誰よりも熱いな円堂は。

俺はそんな光景を見つつ、嵐山を探す。だが、嵐山はどこにも見当たらない。

まさか...あの試合の影響で入院などしたのでは...

 

 

「お兄ちゃん...」

 

「っ...!」

 

 

後ろを振り向くと、そこには俺の最愛の妹である春奈がいた。

春奈は俺に対して、怒りの表情を向けている。

まさか、春奈にこんな表情を向けられることになろうとはな....

 

 

「どうしてここにいるの。今度は何をしようと言うの!」

 

「別に...ただ、暇つぶしに来ただけさ。」

 

 

俺はそう言って、この場から去ろうとする。

俺と春奈は会っちゃいけないんだ。俺が帝国を3年連続優勝に導き、春奈を鬼道家に引き取るまでは...俺と春奈は会っては行けないんだ。

 

 

「待ちなさいよ!」

 

「っ...!」

 

 

この場を去ろうとする俺の腕を、春奈が掴んで止める。

その手には非常に強い怒りを含んでいるのか、かなり力が入っていた。

 

 

「逃げないで、嵐山先輩に謝りなさいよ!お兄ちゃんたちのせいで、先輩は!」

 

「っ...奴には何れ正式に謝罪する。」

 

「今!今謝りなさいよ!ようやく怪我が治って、みんなとサッカーできるって嬉しそうにしてたのに...どうしてあんなことしたのよ!」

 

「....それが総帥の意思だからだ。」

 

「何よそれ...お兄ちゃんは変わってしまった...いつも私を守ってくれた優しいお兄ちゃんはいなくなった...私を守ってくれた嵐山先輩を傷つけたお兄ちゃんなんて...大嫌いっ!」

 

「っ...」

 

 

春奈は俺に向かってそう叫ぶと、涙を流しながら走り去っていった。

大嫌い、か...ずいぶんと嫌われたものだな...だが、それも仕方ないのかもしれん。

すまない、春奈...だが、俺はお前を引き取ってもう一度家族として暮らすためにも、負けるわけには行かないんだ。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

「フッ!」

 

 

あれから河川敷でシュート練習をしていたが、やはり左足でシュートしていたころより威力が落ちているのを感じる。源田にも止められてしまったし、フットボールフロンティアを勝ち上がるためには、左足で蹴っていた時と同じくらいの威力を、右足で出す必要があるな。

 

 

「ふぅ........ん?」

 

「....」

 

 

水分補給のためベンチに飲み物を取りに行くと、土手から俺のことを見ている女の子がいるのに気付いた。青い髪なんて珍しいな。このあたりじゃ見たことない子だ。

 

 

「君、どうしたの?」

 

「っ...ご、ごめんなさい。とても綺麗なシュートだったから、つい見とれていたわ。気が散ってしまったかしら。」

 

「いや、大丈夫だよ。君もサッカーやるの?」

 

「いえ...私はやらないわ。うちの中学にサッカー部は無いし、私たちにサッカーをやっている余裕なんてないもの...」

 

 

そう言って、彼女はうつむく。

サッカーをやっている余裕が無い、か...豪炎寺もそうだが、この子にも何か事情があるのか。

俺の周りには、もっとサッカーができない子がたくさんいるみたいだな。

 

 

「余裕が無いってのは、時間が無いってこと?」

 

「いえ...私、親がいないの。だから孤児院に引き取ってここまで育ててくれたお父様のためにも、早く立派な大人になる必要があるのよ。」

 

「ふ~ん...立派な大人ね....でも、君はサッカーがやりたいんだよね?」

 

「っ...それは、そうだけど...」

 

「ここで会ったのも何かの縁だ。俺と二人でいる時くらいは、何もかも忘れて一緒にサッカーやらないか?ここには君を縛り付けるものは何も無い。ただ、ボールと、一緒にサッカーする相手がいるだけだ。」

 

「それは........ふふ、面白い人。ねえ、あなた何て名前なの?」

 

 

彼女は立ち上がり、俺の方に来ながらそう聞いてくる。

 

 

「俺は嵐山隼人。雷門中サッカー部の副キャプテンだよ。」

 

「隼人.....私は八神玲名よ。あなたの言う通りね。...あなたとサッカーするわ。」

 

「そうか。よろしくな、八神。」

 

「ええ。」

 

「...と、言っても今日は難しいな。」

 

 

俺は八神の服装を見ながら言う。

今の八神の服装はスカートで、とてもサッカーをやるような恰好ではない。

 

 

「うっ...すまない。今日は園のみんなと遠出で来ただけなんだ。」

 

「へえ。ちなみにどこから?」

 

「静岡よ。ちょっと遠いけど...このあたりには良く来るから、また今度会ったら一緒にサッカーしてくれる?」

 

「ああ。いつでも相手になるよ。...そうだ、連絡先を交換しないか?そうすれば予定も合わせられるし。」

 

「ええ。といっても、私携帯は持ってないから...悪いけど、あなたの連絡先だけ教えてもらえるかしら。園の電話か、保護者になっている姉さんの携帯から連絡してみるから。」

 

「了解。ちょっと待ってね。」

 

 

俺はカバンからノートとペンを取り出し、アドレスと電話番号をメモする。

 

 

「はい、これ。」

 

「ああ、ありがとう。」

 

 

 

 

「お~い、玲名~!」

 

「そろそろ行くわよ~!」

 

 

 

「あ、す、すまない!すぐ行く!...すまない。もう行かなくちゃ...」

 

「ああ。またな、八神。」

 

「ああ、また...隼人。」

 

 

そう言って、八神は走って一緒に来ていたであろう少女たちのところへ走っていった。俺も帰ろうかな。

 

 

雷門さんに聞いた話だと、今度の練習試合は尾刈斗中ってとこらしいな。

俺は出られないだろうけど、いつでも出られるように準備はしておかないとな。

それに新しいあの必殺技...イメージは出来ているがやはりまだパワーが足りない。

今はひとまず、右足で前まで左足で出せていた威力を出せるよう調整するが...

フットボールフロンティアまでには間に合わせたいな。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

玲名 side

 

 

 

「嵐山隼人...か...」

 

「ちょっと、玲名!あのイケメン誰!?」

 

「ずいぶんと楽しそうに話してたじゃん!」

 

「へえ、ついに玲名にも春が来たのかい?」

 

「この堅物が恋するとか、どんな男だよ。」

 

 

私が彼と話していたところを見ていたマキや杏に話を聞かれ、さらにそれをタツヤや晴矢に茶化される。別に彼とは何でもないのだけれど...でも、確かに彼のことは気になる。

 

あれほど美しいシュートは初めてみた。

威力はそこまで無かったけど、回転やコースなど、すべてが完璧だった。

あれほどのシュートを打てる人がいるなんて...素直にそう思った。

 

そして、彼の言ってくれた言葉は私の心を縛り付けていた鎖を解き放ってくれた。

彼と一緒なら、いつもの事情は忘れてサッカーができるかもしれない。

 

 

「彼とは...別に何でも無いわ。ただ、これから稲妻町へ行く用事があるときは、私が行くわ。」

 

「へぇ~...」

 

「ふぅ~ん...」

 

 

なんだかマキや杏がにやにやしているけど、本当にそんなんじゃない。

彼とは一緒にサッカーがしたい。ただそれだけよ。

 

 

でも、楽しみだわ。お日様園に帰ったら瞳子姉さんに携帯を借りて連絡してみよう。

あ、でも瞳子姉さんにも詳しく聞かれそうだわ...どうしようかしら。

 

 

 

.




永世学園の所在地は不明ですが、エイリアの本拠地が富士の樹海だったので、その繋がりで静岡にしておきました。とりあえず予選の組み合わせから考えて関東ではないと思われるので。

ちなみにアレオリ時空ベースなので玲名たちは砂木沼を除いて現在1年生です。
砂木沼は2年生で、アレオリでは出番の無かった数人が2年生のイメージです。

.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

vs尾刈斗中!

交代のルールとかはあまり気にしないでください。


嵐山 side

 

 

「それではよろしく、豪炎寺くん。」

 

 

そう言って去っていく、相手の監督を見ながら、俺は隣に立っている染岡を宥める。

事の発端は、尾刈斗中の監督が豪炎寺にしか興味が無いだの言っていたことが原因なんだが、あの態度には俺も腹が立っている。

 

俺や染岡は眼中に無いというなら、その目にしかと焼き付けてやろうじゃないか。

俺たち雷門中のサッカーを。豪炎寺だけが雷門サッカー部ではないと。

 

ま、俺は試合に出れないけどな....ハァ...試合に出たい...

 

 

「あ、ダメですよ、嵐山先輩!先輩は出場禁止です!」

 

「わかってるよ、音無さん。」

 

 

そういえば、あれから音無さんがサッカー部のマネージャーになってくれた。

それ以来、ものすごく俺に世話を焼いてくるというか...別に腕を骨折しているわけでもないのに、この前部活中にトイレに行こうとしたらついてきそうになり、秋に止められていた。

 

 

「ほら、先輩!ここに座って下さい!立ってるのも禁止!」

 

「(音無さんは過保護だな...)」

 

 

そんなこんなで試合開始。今回の雷門のフォーメーションは変わらず4:4:2のベーシックなスタイル。フォワードに染岡、豪炎寺。ミッドフィルダーに半田、宍戸、マックス、少林。ディフェンダーに風丸、影野、壁山、栗松。そしてゴールキーパーは円堂だ。

 

 

ピィィィィィ

 

 

「さあ!雷門ボールで試合開始!おおっと!染岡と豪炎寺、見事な連携で前線へあがっていきます!」

 

 

 

「ナイスだぜ、豪炎寺!」

 

「ふっ、お前もなかなかやるな染岡。」

 

 

二人がワンツーで尾刈斗中の選手たちを抜いていく。

最近チームに入った豪炎寺とあそこまで連携出来ているのを見ると、少し安心できる。

染岡はよくも悪くもストライカーだ。エースストライカーへの憧れやプライドは人一倍強いから、最初は俺にもよく突っかかってきたな。

 

だから、豪炎寺が入ってきて揉めるかもしれないと思っていたが、意外にも染岡は豪炎寺に対して最初から気軽に接していた。そして、最初の練習の際に二人で勝負したらしく、結果は豪炎寺が勝ったが二人には友情が芽生えたようだ。

 

 

「素晴らしいパス、そしてドリブルです!染岡と豪炎寺、二人でゴール前までボールを運んだぞ!」

 

「決めろ!染岡!」

 

「おう!まずは1点だ!”ドラゴンクラッシュ”!」

 

「なっ!?」

 

 

豪炎寺のパスを染岡が受け取り、染岡がそのままダイレクトに必殺シュートを放つ。

あまりに見事な連携に、尾刈斗中のキーパー、鉈は反応できずにシュートを決められていた。

 

 

ピィィィィィ

 

 

「ゴォォォォォル!まずは1点!雷門中が先制点を奪いました!」

 

 

「きゃー!すごいですよ!うちが先制点を取っちゃいました!」

 

「ああ。染岡と豪炎寺、二人の息のあった連携が生んだ1点だな。」

 

「そうね!二人ともすごいわ!」

 

 

 

「ナイスだ、お前たち!」

 

「おう!次はディフェンスだぜ、お前ら!」

 

「はいっス!俺たちが守って、また染岡さんたちに繋ぐっスよ!」

 

「ああ!俺たちで守ってどんどん前線に繋ぐぞ!」

 

「ふふ...ディフェンスで存在感を放ってやる...」

 

「おいらたちの出番でやんす!」

 

 

 

よしよし...早速点を取ったことで、みんな声が出てきてるな。

この調子でどんどん攻めていけば、問題無く勝てるはずだ。

 

 

ピィィィィィ

 

 

「さあ、尾刈斗中ボールで試合再開!どう攻めてくるか!」

 

 

「くくく...お前ら!アレやるぞ!」

 

「はい!」

 

 

 

「あれ...?(一体なにをするつもりだ...?)」

 

 

「マーレマーレトマレ...マーレマーレトマレ...マーレマーレトマレ!」

 

「くらえ!ゴーストロック!」

 

 

瞬間、雷門中イレブンの動きが止まる。みんな足を何かに掴まれているかのような動きをしながら、その場でとどまってしまっている。

 

 

「お前たち、どうした!」

 

 

「う、動けないでやんす!」

 

「何だこれ!?」

 

「足が動かないっス~!」

 

 

「何だと!?」

 

 

足が動かない!?一体何が起こっている!?

だが、その間にも尾刈斗中のフォワード、幽谷はボールを前線へと運び、シュート態勢に入ろうとしている。

 

 

「くらえ!”ファントムシュート”!」

 

「くっ!動けない!」

 

 

ピィィィィィ

 

 

動けない円堂にはなすすべなく、幽谷の放ったシュートはゴールへと突き刺さる。

だがその瞬間、雷門イレブンの足が動き出した。これは一体...

 

 

「これがゴーストロックだ!お前らはこの試合、一歩も動けずに敗北するのさ!ヒャハハハハハ!」

 

 

 

「っ...ゴーストロック...一体どうなっているんだ...」

 

 

訳もわからないまま、雷門ボールで試合再開。

再び染岡と豪炎寺が、半田やマックスと一緒に前線へとあがっていく。

こっちが攻めているときは、ちゃんと動けるんだな...

 

 

「よし、決めてやる!」

 

「ふふ...そう何度も点は取らせない。”歪む空間”!」

 

「ぐっ...決めてやる!」

 

「!?待て、染岡!」

 

「くらえ!”ドラゴンクラッシュ”!」

 

 

豪炎寺の制止を無視して、染岡がシュートを放つ。

だが、いつもの勢いは無く、どんどんとシュートは失速していき、鉈の手元へと吸い寄せられた。

 

 

「何だと!?」

 

「くっ...染岡、焦らずに攻めていくぞ!あのキーパー、何かおかしい!」

 

「お、おう!」

 

 

「くくく...もうお前らに勝ち目は無い!マーレマーレトマレ...マーレマーレトマレ!」

 

「ゴーストロック!」

 

 

「「「っ!?」」」

 

 

またしても、奴らがゴーストロックを発動させると、雷門イレブンの動きが止まる。

今回も足が動かなくなっているようだ。何なんだこれは...一体どういう仕組みで...

それに何故俺たちには何も影響が無い...試合に関係ないからか?

 

 

「もう1点!」

 

 

今度は月村のシュートが放たれ、動けない円堂はなすすべ無くシュートを決められた。

これで1vs2...あのゴーストロックを何とかしなければ、どんどん点差が開いてしまう。

それにキーパーの鉈もだ。シュートを打つ時の染岡、何か様子がおかしかったな。妙にぐらついていたし、あれじゃあ本来の威力は......っ、まさかっ!

 

 

「あ、先輩!ダメですよ、立っちゃ...」

 

「悪い、音無さん。奴らのからくりに気付いたんだ。」

 

「えっ!?それってあのゴーストロックのこと?」

 

「ああ。秋、俺がフォワードの二人に伝えるから、秋は円堂に伝えてやってくれないか?」

 

「う、うん...」

 

「恐らくな.............................」

 

 

俺は秋の耳元でゴーストロック、そして歪む空間の正体を伝える。

俺の推測が正しければ...簡単に突破できるはずだ。

 

 

「そういうことだったの....」

 

「恐らくな。じゃあ、頼んだぞ。」

 

「うん!」

 

 

「審判。選手交代をお願いします。...宍戸!すまないが俺と交代してくれ!」

 

「え、俺ですか!?わ、わかりました!」

 

 

そう言って、宍戸がこちらへ走ってくる。

宍戸には悪いが、俺がシュートを打てるかわからない以上、攻撃力を下げるわけにはいかない。

だからフォワードの二人を下げるわけにはいかないんだ。

 

 

「すまないな、宍戸。」

 

「いえ、交代はいいんですけど....大丈夫なんですか?」

 

「ああ。俺の足のことなら問題ない。俺はあくまであのゴーストロックと歪む空間を突破するために出るだけさ。後半はまたお前の出番だ。気を緩めずに準備しておいてくれ。」

 

「は、はい!」

 

「じゃあ行ってくる。」

 

 

そう言って、俺はフィールドへと駆けていく。

そして俺は染岡と豪炎寺を呼んで、二人にある指示を出す。

 

 

「ま、マジかよ...」

 

「そういうことだったのか...」

 

「恐らくな。確証は無いが、シュートを打つ時の染岡の様子や、あっちの監督の不気味な呪文とかを聞くとな...そして、もしも考えていることが合っているとすれば、簡単に突破できる。」

 

「で、俺たちはどうすればいいんだ?」

 

「話が早くて助かる。いいか?俺が.................................という感じで、お前たちにパスを出す。そしたら、お前たちは...............................って感じでシュートを打つんだ。そうすれば、あの歪む空間とやらは突破できるはずだ。」

 

「ふっ、簡単に言ってくれるじゃないか。」

 

「できるだろ?お前たちなら。」

 

「当たり前だぜ。なあ、豪炎寺!」

 

「ああ。俺たちで必ずゴールを奪ってみせる!」

 

「よし。じゃあ、試合再開だ!」

 

 

 

俺が二人に作戦を伝え、試合が再開する。

ディフェンスの際も、秋がしっかり伝えてくれていれば円堂が何とかするはずだ。

さあ、まずは1点...取り返していこうじゃないか。

 

 

ピィィィィィ

 

 

「さあ、雷門ボールで試合再開!果たして染岡と豪炎寺は、尾刈斗中からゴールを奪えるのか!?」

 

 

「よし、行くぜ豪炎寺。」

 

「おう。」

 

「嵐山!」

 

 

「おおっと、染岡!先ほどまで自分でボールを運んでいましたが、今回は先ほど交代で出てきた嵐山にボールを渡しました!」

 

 

「さて、攻めていきますか!」

 

「「止める!」」

 

 

すぐさま尾刈斗中の選手が俺を止めに入る。

だが、その程度じゃ俺は止められないな!

 

 

「「なっ!?」」

 

 

「おおっと!これはすごい!嵐山、見事なドリブルテクニックで霊幻、木乃伊を抜き去った!」

 

 

「今度は我々が!」

 

「止めてやる!」

 

「無駄だ!”風穴ドライブ”!」

 

 

俺は両手で竜巻を発生させ、その竜巻の中を潜り抜けてディフェンスを抜き去る。

これで前線までボールは運んでこれたな。後はあいつらがシュートを決められるようアシストするだけだ。

 

 

「何度シュートを打ってきても無駄だ。”歪む空間”!」

 

「ふっ...決めろ、染岡!」

 

「おう!”ドラゴン”!」

 

 

染岡は俺がまだパスを出す前にシュート体勢に入る。

その様子に尾刈斗イレブンのみならず、俺たちの作戦を知らない雷門イレブンまで驚いている。

 

 

「(タン...タン....よし!)ここだ!」

 

 

俺はタイミングを合わせて、染岡の足元にボールを転がす。

 

 

「”クラッシュ”!」

 

 

ドゴンッ

 

 

すると、染岡がシュートを放とうとして振りかざした足元に丁度ボールは転がっていき、見事に染岡は”ドラゴンクラッシュ”を放った。

 

 

「な、何っ!?だ、だが無駄だ!”歪む空間”の前ではすべてが無力......!?」

 

 

鉈が驚いたようなリアクションをする。仮面で表情は見えないが、先ほどとまるで威力の違う”ドラゴンクラッシュ”に驚いているようだ。あの様子、やはりそういうことだったか。

 

 

「な、何故これほどの威力が.......っ!?目をつぶっているだと!?」

 

「へっ...ドンピシャだぜ、嵐山!これが俺と嵐山の”ドラゴンクラッシュ”だ!」

 

「ぐっ....うおおおおおおお!」

 

 

ピィィィィィ

 

 

染岡の放った”ドラゴンクラッシュ”は、そのままキーパーの鉈ごとゴールへと突き刺さった。

これで2vs2、同点だ。やはり、あの歪む空間は一種の催眠。あのグルグル回る手を見続けることによって、平衡感覚を失い、まともにシュートが打てなくなるといった寸法か。

 

 

「ナイスシュートだ!この調子で逆転するぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

シュートが決められるとわかったみんなが元気になる。

さあ、あとはゴーストロックを破るだけだ。あれさえ破れば、円堂が必ずシュートを止めてくれる!

 

 

ピィィィィィ

 

 

「さあ、尾刈斗中ボールで試合再開!現在2vs2の同点!前半でリードを奪えるか!」

 

 

 

 

「くくく...歪む空間を打ち破ったのは驚いたが...ゴーストロックがある限り、お前らに勝利は無い!行くぞ!お前たち!」

 

「「「はい!」」」

 

 

「っ...来るぞ、円堂!」

 

 

「マーレマーレトマレ...マーレマーレトマレ!」

 

「させるか!ゴロゴロゴロゴロドッカーン!!!!!!!!!!!!!」

 

「なっ!?」

 

 

相手の監督が呪文を唱え始め、幽谷がゴーストロックの構えに入った瞬間、円堂がグラウンド全体に響くほどの大声で叫ぶ。すると、相手の監督が掛けていた催眠が解かれ、俺たちは動けるようになる。

 

 

「う、動けるっス!」

 

「動けるならこっちのものだ!」

 

「ぐっ!」

 

 

動けるようになった瞬間、風丸が幽谷からボールを奪う。

尾刈斗イレブンはゴーストロックが破られたことに動揺したのか、動き出した俺たちに反応することすらできていない。

 

 

「決めろ!嵐山!」

 

「ああ!”ウイングショット”!」

 

「く、くそ!”キラーブレード”!....ぐあっ!」

 

 

「ゴォォォォォル!嵐山、鉈からゴールを奪いました!これで3vs2!」

 

 

ピィィィィィ!

 

 

「おっと、ここで前半終了のホイッスル!雷門リードで前半を終了しました!」

 

 

 

よし、何とか尾刈斗の奴らのからくりを暴くことができたな。

これなら、後半も戦っていけるはずだ。後は任せるとしよう。

 

 

「はい、嵐山先輩!ドリンクとタオルです!」

 

「ああ、ありがとう音無さん。」

 

 

俺は音無さんからドリンクとタオルを受け取り、体を休める。

ちょっとプレイしただけでかなり汗が出てる...まだまだ体力は戻ってないか。

これはちょっと、走り込みが必要だな....

 

 

「すごかったですね、嵐山先輩!先輩がドリブルで相手を抜く姿、たくさん写真撮っちゃいました!」

 

「はは、ありがと。」

 

 

 

「音無さん、嵐山さんに付きっ切りっスね。」

 

「ありゃ惚れてるよ、多分。」

 

「違いないでやんす。」

 

「嵐山さんすげぇ...」

 

 

 

何だか1年が集まってこっちを見てるが、どうしたんだあいつら。

何を話しているかは聞こえないが、なんだか恨みのこもった目をしてる気がする。

それを俺以外の2年が苦笑いして見てるような...

 

 

「さて.......よし、お前ら!円堂のおかげでゴーストロックは打ち破った。後は後半、どれだけ点を取れるかだ。宍戸、俺と交代でもう一度出てくれ。」

 

「は、はい!」

 

「円堂、ゴールは任せて問題無いな?」

 

「おう!俺が全部止めてみせる!ゴールは割らせない!」

 

「ふっ...頼もしいな。さあみんな!守りは円堂に任せて、取れるだけ点を取ってこよう!」

 

「「「おう!」」」

 

 

そこからの試合は一方的だった。みんなのびのびとプレイしていて、終始楽しそうにしている。

守りを気にせず攻めていけているからか、相手キーパーは疲れてどんどんシュートを決められていた。控えのキーパーに交代してからもこちらのペースは変わらない。

 

 

「行くぜ!”ドラゴンクラッシュ”!」

 

「ふっ...”ファイアトルネード”!」

 

「ハイ!それっ!”グレネードショット”!」

 

「俺だって!”ローリングキック”!」

 

 

 

染岡、豪炎寺を中心にどんどん点を決めていく。

目立った活躍をしていたのは、フォワードと一緒に得点した半田、宍戸だな。

ディフェンス陣もなかなか良い動きをしている。壁山はまだちょっと雰囲気に飲まれて及び腰だが、風丸を中心に影野も存在感を示していた。

 

 

「おっしゃあ!決めるぜ、豪炎寺!」

 

「おう!」

 

「”ドラゴン”!」

「”トルネード”!」

 

 

そして、二人がひそかに特訓していた合わせ技で得点し、8vs2。

 

 

ピッピッピィィィ!

 

 

後半は俺たちが終始ボールをキープする形で試合が進み、そのまま終了。

終わってみれば圧勝と言っても良いくらいの結果となった。相手の監督は俺たちに負けたことがかなりショックだったようで、ベンチ前で項垂れていた。

これはフットボールフロンティアに向けて、みんなの自信に繋がるだろうな。

 

 

「やったやった!やりましたよ、先輩!」

 

「ああ。みんなナイスプレイだったな。」

 

「そうですね!それもこれも、嵐山先輩が相手の戦術を打ち破ったからですよ!」

 

「いや...さすがに持ち上げすぎだよ...みんなが頑張った結果さ。」

 

 

さあ、これで雷門さんとの約束通り、フットボールフロンティアへ出場が認められることになったな。本番はここからだ。俺たちと同じブロックにはあの帝国学園もいる。

 

だが、円堂と約束した...フットボールフロンティア3年連続制覇。

去年は残念な結果になってしまったが、今年と来年を制覇することで2年連続制覇は成し遂げたい!

待っていろ、帝国...そして、全国の強豪校!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

特訓ノートと兆し

嵐山 side

 

 

「フッ...フッ...!....」

 

 

尾刈斗中との練習試合の翌日...俺は早朝からランニングをしていた。

というのも、やはり昨日の試合で感じたのは体力低下。まさか前半途中からちょっと出ただけだというのに、あそこまで疲れるとは思っていなかった。暫くリハビリしかしておらず、全くトレーニング出来ていなかった影響があそこまで如実に現れるとは...

 

そんなわけで、俺は4時に起きてかれこれ2時間走っている。さすがに走り続けているわけではなく、休憩を挟みつつではあるが。

 

 

「フゥ.........よし、一旦休憩するか。」

 

 

俺はクールダウンのため、ゆっくりと歩きながら目的地である河川敷に向かい歩く。

すると、河川敷には数人の男女がいるのが見えた。あれは誰だ...?遠くてよく見えんが、あれは雷門さんか?残りは....知らない奴だな。

 

 

「だからよ、お嬢ちゃん。こんな朝っぱらから一人でふらついてるなんて、家出してんだろ?」

 

「俺たちが匿ってやるからよ~。」

 

「一緒に遊ぼうぜ~?」

 

「嫌よ!さっさと消えてくれるかしら!」

 

 

あちゃ~...何か変なのに絡まれてるみたいだな。ま、とりあえず助けますか。

それにしても、雷門さんは何で一人でこんなところにいるんだろう。

いつもは執事の人と一緒にいるのに。

 

 

「へへ、いいだろ~。」

 

「嫌!離して!」

 

「ハァッ!」

 

バゴンッ!

 

「ブベラッ!」

 

 

俺はドリブルして助走を付けつつ、雷門さんの腕を掴んでいる男の顔面にシュートを叩きつける。男の顔面にはサッカーボールの跡がついて、そのまま倒れこむ。

 

 

「「悪杉さん!」」

 

「えっ!?」

 

 

俺はそのまま跳ね返ってきたボールをトラップして、雷門さんの元へ近寄る。

雷門さんはいきなり跳んできたボールに驚いていたけど、俺の方を見て少し安心したようだ。

 

 

「嵐山くん!」

 

「大丈夫だった?」

 

「え、ええ...」

 

 

「てめえ!よくも悪杉さんを!」

「落とし前付けてやる!」

 

 

「何だ、まだやるのか。」

 

 

俺はやる気の不良たちを見ながら、リフティングし始める。

すると不良たちは少し怯えたような態度を取り始める。

さて、俺もことを荒げたく無いから、さっさと消えてくれるとありがたいのだが...

 

 

「くっ...お、覚えてろよ!」

 

「ちきしょおおおおおおおお!」

 

 

二人の不良は、リーダー格であろう男を担いで走っていった。

良かった。フットボールフロンティアも近いし、あまりもめ事は起こしたくなかったし。

かといって、雷門さんを放っておくわけにもいかなかったからな。

 

 

「大丈夫?雷門さん。」

 

「ええ、ありがとう...」

 

「ところで、何でここに?一人?」

 

「ええ。バトラーは急用でパ...お父様のところよ。」

 

「(パパ呼びでも別にいいのに。)」

 

「それで...あなたに用があったのよ。できるだけ誰にも聞かれたくなかったから...」

 

「それで俺の家に行ったけどいなくて、いそうなこの河川敷に来たってわけね。」

 

「そうよ。」

 

 

それにしても、俺に用か。何かあったのかな?

それにこんな早い時間から会いに来るなんて、よほどのことなのかもしれない。

 

 

「了解。とりあえず俺の家に行こう。うちは今誰もいないし、込み入った話をするならもってこいだろうし。それに汗も流したいからさ。」

 

「ええ、わかったわ。」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

夏未 side

 

 

「ここが俺の家だよ。」

 

 

そう言って案内されたのは、私の家よりは小さいけど、一般家庭と比べるとそこそこ豪華な家だった。嵐山くんの家庭って、結構お金持ちなのかしら。

 

 

「とりあえず、そこに座っててくれる?」

 

「ええ。」

 

 

私は案内されたソファに座る。このソファ、ふかふかだわ...うちにあるのと同じくらい。

それにカーペットや机も...私、嵐山くんのことあまり知らないのね。

部屋を見回すと、そこら中にサッカーに関係した写真やトロフィーなどが置いてある。

 

 

「はい、お茶。市販の麦茶だから口に合うかわからないけど...とりあえず、俺は汗を流してくるからちょっと待ってて。」

 

「ええ、ありがとう。」

 

「おう。」

 

 

嵐山くんは部屋から出て、汗を流しにいった。

私はソファから立ち上がり、部屋を見て回る。

 

 

「このトロフィー...嵐山くんが小学生の時に獲ったものね...少年サッカー大会優勝...最優秀選手....本当に彼はすごいのね..........あら?」

 

 

飾られたトロフィーを見ていると、途中から嵐山くんのものではないトロフィーになっていることに気付いた。

 

 

「嵐山宗吾....ワールドカップ準優勝.....MVP......これって、嵐山くんのお父様...?それに一緒に写ってるこの人、なんだか円堂くんに似てる...」

 

 

私は飾られた写真を手に取る。そこには円堂くんに似た男性と、嵐山くんに似た男性が肩を組んで笑っていて、二人でトロフィーを持っている姿が写っている。ずいぶんと古ぼけた写真だけど、すごく大切そうに飾られている。

 

ふと気になって裏を見ると、そこには『今度は必ず世界一に!』と綺麗な字で書かれていた。

世界一...ユニフォーム姿といい、場所がサッカーグラウンドであることといい、これは多分サッカーの世界大会の時の写真かしらね。

 

 

「あら?こっちの写真に写ってる女性...なんだかおばあ様の若いころに似ているような...」

 

 

私はさらに別の写真を手に取る。そこには雷門中のユニフォームを着た嵐山くんに似た男の子と、円堂くんに似た男の子、そして私に似た女の子が写っている。これ、やっぱりおばあ様の中学生の頃の写真ね...

 

 

「それは俺のじいちゃんと円堂のお祖父さんだよ。」

 

「っ!」

 

 

後ろを振り向くと、バスタオルを頭に巻いた嵐山くんが立っていた。

どうやらずいぶんと見入っていて、時間が経っていることに気付いてなかったようだ。

 

 

「ああ、ごめん。驚かせちゃったかな。」

 

「い、いえ...そ、それで、この方たちは二人のお祖父さんなの?」

 

「うん。俺のじいちゃんと円堂のお祖父さんは一緒にプレイしてたみたいでさ。」

 

「そう...じゃあ、嵐山くんのお父様もサッカーを?」

 

「いや、たぶんやってないよ。」

 

「たぶん...?」

 

「俺が物心ついたころにはもう死んでたから知らないんだ。何か、父さんと母さんが離婚して、父さんがダメになっちゃって、俺はじいちゃんとばあちゃんに引き取られたらしい。」

 

「っ...そう...ごめんなさい、言い辛いこと聞いてしまって...」

 

「いや、別に。正直、記憶に無いというか...じいちゃんもばあちゃんも父さんと母さんの話はしたがらないし...死んだって知ったのも、俺が小学生になりたての頃に円堂から聞かれて、じいちゃんに聞いたからだしね。」

 

 

そう言う嵐山くんの表情は、無....何も思っていないような表情だった。

本当にご両親のこと、何とも思っていないのね...少しだけ、嵐山くんが怖いと思ってしまった。

 

 

「ま、この話はいいだろ。それより雷門さんは俺にいったいどういった用があるの?」

 

「え、ええ...実は理事長室の金庫に変なノートがあったの。なんだか見たことがあるような気もしたんだけど、嵐山くんはわかるかしら?」

 

 

そう言って、私は嵐山くんにノートを見せる。変な暗号のような文字で書かれていて、正直私には読めなかった。でも、どこかで見た気がするのよね。私がそんなことを思うなんて、たぶん嵐山くんと一緒にいた時に見たのだと思うけど...

 

 

「あ、これ円堂のお祖父さんのノートだよ。」

 

「円堂くんの?」

 

「うん。円堂のお祖父さん...大介さんはものすごく字が汚くてさ。俺は慣れたから読めるけど...まあ初見じゃあ読めないだろうな。」

 

「そうだったの....」

 

「これ、円堂に渡すからもらっていいかな?」

 

「ええ。お願いするわ。私が持っていても意味のないものだし。」

 

 

私はノートを嵐山くんへ渡す。

それにしても、あれがただただ汚い文字だったとは...あれを読める嵐山くんはすごいわね...

 

 

「さて...そろそろ一旦家に戻った方が良いんじゃない?送ってくよ。」

 

「ええ...」

 

 

そうして、私は嵐山くんの自転車に一緒に乗って家まで送ってもらった。

嵐山くんのことが少し知れて、なんだか嬉しかったけど...

彼が自分の両親について話した時のあの無表情さ...とても怖かった。

 

 

「パパに聞いてみようかしら...おばあ様と繋がりがあったかもしれないようだし...」

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「俺、土門!よろしくな!」

 

「よろしく!土門!」

 

 

あの後普通に登校して、今は放課後だ。何と冬海先生が転校生を連れてきた。

サッカー部に入部希望らしいけど、豪炎寺といい最近多いな。

 

 

「土門くんじゃない!久しぶり!」

 

「あれ?秋!?久しぶりだな!」

 

「木野、知り合いなの?」

 

「うん。アメリカにいたころのね。...それにしても、本当に久しぶりね。」

 

「おう。秋も元気そうで良かったよ。」

 

 

ガラガラ

 

 

「ちょっといいかしら。」

 

みんなで話していると、雷門さんがやってきた。

手には何かの紙を持っているが、もしかしてあれはフットボールフロンティアの予選トーナメント表か?

 

 

「何だよ、夏未。」

 

「トーナメント表をもってきてあげたわ。あなたたちの初戦の相手は、野生中よ。」

 

「野生中...?」

 

「野生中は去年のこの地区の準優勝校だよ。つまり、去年の実力でいえばあの帝国に次ぐ実力というわけだ。」

 

「本当か!くぅ~!すっげぇわくわくするな!」

 

「わくわくって...そんな強いところといきなりあたるなんて、厳しいですよキャプテン...」

 

「何を言ってるんだ、少林!そんな強いところと戦えるからこそ、わくわくするんじゃないか!」

 

 

ふっ...円堂らしい感想だな。まあ、俺も同意するが。

強い奴と戦えば、その分レベルアップできる。それに何れはあたる相手だ。

ここでそんな強豪校を倒すことができれば、みんなの自信にも繋がるはずだ。

 

 

「円堂の言う通りだ。それに俺たちが目指すのはフットボールフロンティア優勝。誰とあたろうが関係ないさ。」

 

「そうだ!それに俺たちにはウイングショットにファイアトルネード、ドラゴンクラッシュ、ドラゴントルネードだってあるんだ。きっと勝てるさ!」

 

「それはどうかな...」

 

 

円堂の言葉に、土門が疑問を投げかける。

どうやら、土門は野生中のことを知っているようだな。

 

 

「どういうことだよ、土門。俺たちの必殺技が通用しないって言いたいのか?」

 

「いや、通用するかわからないってこと。俺はお前らのこと見てないからわからないけど、野生中の身体能力はすごいぜ?特に空中戦じゃ帝国にも負けてねえ。」

 

「何だと!?」

 

「あの帝国にでやんすか...それはすごいでやんす。」

 

「うぅ...俺、トイレ行ってきていいっスか...?」

 

 

「...............特訓だ!空中戦を制するために、新しい必殺技を覚えるぞ!」

 

「円堂...ああ、そうだな。みんな頑張って行こうぜ!」

 

「「「おう!」」」

 

「よっしゃあ!練習だ!」

 

 

円堂が部室を飛び出し、みんなもそれについて駆けだしていく。

そして、部室には俺と土門、秋、音無さん、雷門さんだけになった。

あいつら、元気だな。俺も右足で蹴るのに慣れるためのトレーニングでも始めるかね。

 

 

「あれ、嵐山はもう怪我は大丈夫なのか?」

 

「ん?....土門、俺の怪我のこと知ってるのか?」

 

「えっ!?あ、いや...ほら、お前って小学生の頃から有名だったから...前の学校で聞いたんだよ。」

 

「ふ~ん...まあ、怪我は大したことないよ。ただ体力も落ちてるし、利き足も変わってるからもっと特訓が必要だけど。」

 

「そっか!...さてと、俺は転校の手続きがまだ残ってるから、職員室に行ってくるわ~。」

 

 

そう言って、土門は部室から出ていく。

俺が小学生の頃、有名だったから知っていた...ね....ま、おかしなところは無いか。

あまり考えすぎるのも良くないし、秋の幼馴染みたいだし疑うのも悪いだろう。

 

「じゃ、俺も行くかな。」

 

「嵐山先輩、大丈夫なんですか?」

 

「うん。今朝も2時間走って違和感無かったし、特に問題は無いよ。」

 

「ええ!?2時間も走ったんですか!?」

 

 

俺の言葉に音無さんが大げさに驚く。

別に2時間くらい走る人だっているだろうに。

まあ、初日にいきなり飛ばしすぎた気もするけど。

 

 

「何かあったらどうするんですか!...まさか、明日も走るんですか!?」

 

「え、うん。これから毎日2時間走って体力を元に戻すつもりだよ。で、部活中は右足で蹴るための練習。」

 

「っ~~~!!!!!明日からは私もついていきます!!!!」

 

「お、おう...」

 

 

なんだか音無さんが憤慨している...何かしてしまっただろうか。

まあ、トレーニングに付き合ってくれるならやれることも増えるな。

ストレッチとか、誰かに手伝って貰えると助かるし。

 

 

「じゃあ、今から付き合ってくれる?」

 

「はい!行きましょう!」

 

 

俺は音無さんを連れて、部室を飛び出す。

俺たちが出て行った後の部室で、あんな会話があったとは知らず。

 

 

さて、早速特訓開始と行きますか!

 

 

 

 

「夏未さんは行かなくていいの?」

 

「えっ?なぜ私が?」

 

「ああ...(まだ自覚は無しか。)」

 

「ところで木野さんは円堂くんのところに行かなくて良いのかしら?」

 

「ええ!?」

 

「あら、私が知らないとでも思って?」

 

「もう...!」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

春奈 side

 

 

「フッ!ハッ!」

 

 

私は今、とても気になっている先輩の練習を見ていた。

初めて会ったのは去年の雷門中のグラウンドで。私がお父さんとお母さんと一緒に雷門の下見に来ていた時に、突然跳んできたボールを先輩が打ち返してくれた。

 

二度目も同じ、雷門中のグラウンド。今度は試合前にお兄ちゃんの率いる帝国学園の選手が蹴ったボールがこちらへ跳んできて、それをまた先輩が打ち返して助けてくれた。

 

あれ以来、私は先輩のことを何となく目で追ってしまうようになった。

新聞部の記事に貼る写真を撮るために持ってるこのカメラも、気付けば先輩ばかりが写るようになった。

 

 

 

「(う~ん...もう少しで掴めそうなんだけどな...どうしても左足が先に出てしまって、ステップがズレてしまう...)」

 

「(先輩、なんだか調子悪そうだな...大丈夫かな...)」

 

「よし...!」

 

 

先ほどから、先輩はゴール前に置いたボールに対して助走を付けて蹴ろうとしている。

右足で蹴ろうとしているんだけど、ちょうどベストなポジションの時に左足が後ろにあるから、どうしても振りかぶるのが左足のタイミングになって、結局右足で蹴ろうとしたタイミングだとベストなポジションを取れていなさそうだ。

 

 

「(何か私も手助けできたら.........あ、そうだ!)」

 

 

ふとひらめいた私は、先輩の練習風景を写真に撮る。

できるだけたくさん撮って、先輩にわかりやすく伝えられたら...

 

 

そうして私がたくさん写真を撮っていると、先輩が練習を中断してこちらへ向かってきた。

すごい汗...タオルとドリンクを渡してあげなきゃ!

 

 

「先輩!これ使って下さい!」

 

「おう、ありがとう。...さっきから写真撮ってたみたいだけど...」

 

「あ、はい。実は先輩の蹴るタイミングの取り方を見れるよう、コマ送りで見るためにたくさん写真を撮ってたんです!」

 

「なるほど...じゃあせっかくだし見せてもらえる?」

 

「はい!」

 

 

私は先輩に言われ、持っていたカメラのSDカードをパソコンに入れて写真を一覧で表示する。

 

 

「.........って、あああああああああああああ!」

 

 

そこに表示されたのは、先輩の練習風景だけでなく、先輩が教室で勉強している姿や朝の登校、夕方の下校の時の写真も映されてしまった。マズイ...これじゃあ私、ストーカーみたい!

 

 

「あ、えっと、これはですね...!」

 

「あ、この写真なんか良いかも。」

 

「...って、えっ?」

 

「ん?どうした?」

 

「い、いえ....こ、この写真ですね!」

 

 

私はすぐさま言われた写真を全画面表示する。

先輩、普段の姿を写真に撮られてること、何とも思わなかったのかな。

 

 

「なるほどね....(や、ヤバい...この子、何で俺の登下校の写真とか撮ってるんだ...触れない方が良いかと思って流したけど...えっ、何で!?)」

 

「あ~、えっと...ど、どうです?」

 

「あ、ああ...........っ、これは....そうか、そういうことか。」

 

「あ、何かわかったんですか?」

 

「ああ。俺、最後に右足で蹴ることを意識しすぎて、助走に踏み出す足が左足で蹴ろうとしていた時と同じになってる。そりゃ、今までと同じタイミングになるから左足がベストポジションになってしまうよ。」

 

「なるほど....!」

 

「ありがとう、音無さん!」

 

「っ!」

 

 

な、何てまぶしい笑顔!罪悪感がすごい!

でも、先輩の役に立てたなら嬉しい...

 

 

「よし....こっちの足から踏み出して........っ!」

 

「あっ!(ステップが合った!)」

 

 

「ハァッ!」

 

 

バゴンッ!

 

 

先輩の蹴ったボールが、勢いよくゴールへ吸い込まれていく。

すごい...先輩のシュートは元から綺麗でまさに完璧って印象だったけど、そこにさらに力強さが加わってものすごいシュートになってる!

 

 

「..........ふっ....音無さん、ありがとう。君のおかげで、元の感覚が取り戻せたかもしれない。これなら......とにかく、ありがとう!」

 

「いえ、先輩の役に立てて良かったです!」

 

「(これなら...フットボールフロンティアに間に合う...そして、あの必殺技を完成させられるかもしれない!)」

 

 

先輩は再び、練習へと戻っていった。それからはさっきと同じようにものすごい威力のシュートを連発していて、先輩は完全復活したかもしれない。

 

頑張って下さい、先輩。私、ずっとずーっと応援してますから!

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

身につけろ、イナズマ落とし!

アレス・オリオンに行く前もちょくちょく改変。
そのせいで円堂が割を食ってる気もするが、円堂の活躍はもっと後に考えてます。



嵐山 side

 

 

「なかなか難しいな~...」

 

「そうだな...やはり高さで勝負するのは難しいんじゃないか?」

 

「だが、高さで勝てなければ奴らは高さを使って圧倒してくるだろう。」

 

「ああ。そうすれば、高さで勝てない俺たちはどうしても遅れを取ってしまうだろうな。」

 

 

俺と円堂、豪炎寺と風丸は練習を終え、4人で歩いて帰っていた。

俺は一人で練習していたからよく知らないけど、みんなは高さが武器の必殺技を会得しようと頑張っているらしい。だがあまりうまくいっていないようで、こうして頭を悩ませている。

 

 

「俺、雷々軒で飯食ってくけど、お前らはどうする?」

 

「お、いいね。俺も付き合うよ。」

 

「じゃあ俺も行こうかな。」

 

「よし!じゃあラーメン食べながら作戦会議だ!」

 

 

俺の誘いにみんな乗ってきたので、俺たちは雷々軒へと入る。

中には店長である響木さんがいて、仕込みをしていた。

 

 

「いらっしゃい。...おお、また来たのか坊主。」

 

「こんにちは。いい加減、坊主はやめてよ響木さん。」

 

「ふっ...俺にとっちゃお前はいつまでも坊主さ。」

 

「全く....あ、俺いつもの。今日は味玉トッピングで。」

 

「あいよ。...お前らは?」

 

「あ、じゃあ俺は醤油ラーメンで。」

 

「俺は味噌で。」

 

「う~ん...俺も醤油かな。」

 

「あいよ。好きなところに座ってな。」

 

 

そう言って、響木さんは調理に取り掛かる。

俺たちはカウンターに座って、再び野生中との試合の作戦会議を始める。

 

 

「実際問題、高さで勝負されると厳しいだろうな。あっちがボールを持てばこっちは触れられなくなるわけだし。」

 

「だが、今からジャンプ力がいきなり良くなるわけではないしな。」

 

「う~ん...じゃあ試合まで錘を付けて過ごすとか?」

 

「いや、確かに外した直後は軽く感じるかもしれないけど、あくまで感じるだけだぞ。実際にそれで高く飛べるわけではないだろう。」

 

 

「あ、じゃあ二人で跳べば良いんじゃね?」

 

「「「........」」」

 

 

俺の言葉に、円堂も風丸も豪炎寺も黙ってしまう。

おいおい、確かに難しいことかもしれないけど、黙るのは酷くねえか?

 

 

「イナズマイレブンの秘伝書がある。」

 

「えっ?」

 

「「ええええええええええ!?」」

 

「秘伝書...」

 

「ああ。イナズマイレブンの技が書かれた特訓ノートだ。...お前、大介さんの孫だろ?」

 

「あ、うん...そうだけど。」

 

「だったら、雷門中の理事長にでも聞いてみるといい。恐らく理事長が保管しているはずだ。大介さんのノートをな。」

 

 

理事長が大介さんのノートを....?

あ、それってもしかしてあのノートのことか?

 

 

「あの、もしかしてそのノートってこれですか?」

 

「ほう...坊主、お前何故それを?」

 

「いや、雷門さん....えっと、理事長の娘が俺に渡してくれたんです。円堂に渡そうと思って、すっかり忘れてたよ。」

 

「お、おう。サンキュー。」

 

 

俺はノートを円堂に渡す。やはりこのノートが大介さんの残した特訓ノートのようだな。

イナズマイレブンの必殺技が記されているとのことだが...響木さんは何故そんなことを知っているんだ?

 

 

「すげえ...これが伝説のイナズマイレブンの必殺技...」

 

「え、円堂....これ何て書いてあるんだ?」

 

「俺にも読めん...」

 

 

風丸と豪炎寺はノートの字を見て、困惑している。

当の円堂は理解しているのかどんどんノートを読み進めていく。

まあ、俺も最初はそんな反応だったよ、二人とも...

 

 

「高さならこれだな!”イナズマ落とし”!」

 

「”イナズマ落とし”...」

 

「ほう...それに目を付けるとはな。大介さんの孫だけはある。ほら、ラーメン出来たぞ。」

 

 

そう言って、響木さんは俺たちにラーメンを出してくれた。

 

 

「「「「いただきます。」」」」

 

 

とりあえず俺たちはラーメンを食べ始める。

やはり、ここのラーメンはうまい。

 

 

「それで?その”イナズマ落とし”っていうのはどういう技なんだ?」

 

「ん~....えっと、一人がびょーんって跳ぶ。もう一人がその上でばーんとなって、くるっとなってずばーん!...だってさ。」

 

「........円堂、お前何を言ってるんだ?」

 

「いや、本当にそう書いてるんだって!」

 

「酷い語彙だな....じいちゃんから聞いたことあるけど、大介さんは国語の成績良くなかったってさ。」

 

「ズズッ.....へほ、ふぁんほふぁふふぁふぁるふぁほ?」

 

「おい、食べながら話すなよ。」

 

 

俺は円堂に注意しつつ考える。 

一人がびょーんと跳ぶ、もう一人がその上でばーんとなって、くるっとなってずばーん...か。

少なくとも、二人でやる技なのは理解できるな。もう一人がその上でってことは、最初に跳んだ一人は踏み台ってことだろうな。んで、ばーんってのはわからないが、くるっとなってずばーんは恐らくオーバーヘッドキックだろう。そう考えると、ばーんってのは踏み台として踏みつけてさらに高くジャンプしろってことか。

 

 

「つまり、こういうことじゃないか?一人が跳んで、もう一人がそいつを踏み台にしてさらに高く跳ぶ。最後にオーバーヘッドキック。」

 

「お、豪炎寺もそう思うか。」

 

 

豪炎寺が俺の考えていた通りのことを言う。やはり踏み台を活かして高く跳んで、オーバーヘッドか。とすれば、そんな不安定な状況でも強烈なキックをかませるであろう豪炎寺にやってもらうのがいいだろうな。

 

 

「この技...踏み台になれるくらいの大柄なやつは一人しかいない!」

 

「壁山か?」

 

「おう!あいつならきっとできる!」

 

「....あいつ、高所恐怖症だぞ。」

 

「「「........え?」」」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「む、む、む、無理っスよ~!」

 

「頼むよ、壁山!お前しかいないんだ!」

 

「で、でも...嵐山さんから聞いたっスよね?俺が高いところ苦手なの....」

 

 

翌日、円堂はノートのこと、”イナズマ落とし”のことをみんなに話して、何とか壁山に踏み台役をやってもらおうと説得していた。

 

だが、やはり高所恐怖症の壁山はそれを拒否している。

まあ当然の反応だろうな...高所恐怖症の人間に高く跳んでシュートを放つための踏み台になれって言ったって、了承するやつがどこにいるって話だ。

 

 

「壁山。ちょっといいか?」

 

「嵐山さん...」

 

「円堂。この件については俺に任せてくれるか?お前は自分の特訓と、豪炎寺のフォローを頼むよ。いくら俺たちが点を取れても、それ以上に失点してしまったら勝てる試合も勝てないだろ?」

 

「そうだな...よし、任せたぞ嵐山!」

 

 

そう言って、円堂は練習へ向かう。俺は壁山の方を向き、部室の床に座る。

壁山は”イナズマ落とし”を想像して怖がっているようで、ぶるぶる震えている。

 

 

「あ、あの...嵐山さん...いくら嵐山さんに頼まれたって、俺には無理っスよ...」

 

「なあ、壁山。俺は無理強いをするつもりはないよ。それでお前がサッカーを嫌いになったら悲しいしな。」

 

「嵐山さん...」

 

「だけど、円堂だってお前に無理強いをしているわけじゃないってのはわかってほしい。あいつは本当にお前ならできるって信じているから、お前に頼んでいるんだ。お前を信頼しているんだよ。」

 

「で、でも...無理なものは無理っス...」

 

「壁山...一度だけ、頑張ってみないか?」

 

「えっ...?」

 

「一度もやらずにできないって決めつけて、試しもせずに逃げるのはダサくないか?もしもお前がやってみて、それでもできないって言うならほかの方法を一緒に考えるよ。だけど、一度もやらずにただ逃げているだけなら...お前はただの臆病者だ。」

 

「嵐山さん......」

 

 

少し厳しく言いすぎたか...だが、円堂の言う通り豪炎寺の踏み台になれるような大柄な奴は壁山くらいしかいない。

壁山が頑張ってくれるのが、”イナズマ落とし”完成への近道だからな。それでダメなら、正直不安だが俺か半田、染岡辺りが土台になるしかないな。

 

 

「.....俺、やってみるっス!嵐山さんやキャプテンがそこまで俺を信頼してくれるなら...俺、頑張るっス!」

 

「壁山...ああ。一緒に特訓しよう。」

 

「ハイっス!」

 

 

それから俺と壁山は、円堂がやっているようにタイヤの中に入って体に縛り付けた状態で、ジャンプする練習をした。

さらに高所に慣れるために学校の屋上や鉄塔広場など、ランニングも兼ねていろんな場所へ連れていった。

壁山はやっぱり高所は怖がっていたけど、まだ何とか気力を振り絞って練習に取り組んでいる。

 

 

「フゥ...ちょっと休憩するか。」

 

「は、はいっス....」

 

 

壁山はその場に倒れこみ、体を休め始めた。

さて...俺も少し休んでくるか。

 

 

「壁山...俺、ちょっと離れるわ。すぐ戻るから。」

 

「はい....」

 

 

俺は壁山の返事を聞いてから、歩いて鉄塔広場の近くにある水飲み場へと向かう。

壁山には何とかバレなかったが.....全く、弱くなったものだな...

 

 

「っ...」

 

 

俺はシューズとソックスを脱ぎ、冷水を当てて冷やす。

長い間走ったりジャンプしたりして、普段やらない動きをしたからか足はかなり腫れあがっていた。

だが、ここで俺がリタイアしてしまったら、壁山は折れてしまうかもしれない。

少しでもあいつの手助けをしてやりたいし、ここで倒れるわけにはいかないな。

 

 

「どうして、そこまで頑張るのかしら。」

 

「....雷門さん。」

 

 

声がした方を振り向くと、雷門さんとバトラーさんがいた。

どうやら練習を見に来たようだな。なんだかんだ、雷門さんもサッカー部を気にかけているようだ。

 

 

「”イナズマ落とし”...貴方は関係ないのでしょう?それなのに、どうしてあなたまでこんな無茶な特訓に付き合うの?」

 

「無茶だからさ。」

 

「えっ?」

 

「俺や円堂が、後輩の壁山に無茶なお願いをしているからこそ、あいつ一人に辛い想いはさせない。あいつが頑張ってくれるなら、俺も一緒に頑張る。それが仲間だろ。」

 

「仲間...」

 

「楽しいことも、仲間がいれば倍楽しい。辛いことも、仲間がいれば半分になる。俺はそう思ってる。だから一緒に特訓するのさ。」

 

「.................そう。」

 

 

雷門さんは呆れたような表情をしつつ、俺の方に近寄ってくる。

すると、俺にハンカチを渡してくれた。

 

 

「これ、使いなさい。これを濡らして当てた方が体勢は楽でしょう?」

 

「雷門さん...ありがとう。」

 

「ふん...別に。ただ、馬鹿なことをやっている雷門中の生徒がいたから、気になっただけよ。」

 

「ふふ...そういうことにしておくよ。」

 

「ふん...行くわよ、バトラー。」

 

「はい、お嬢様。」

 

 

雷門さんはバトラーさんと一緒に去っていく。

バトラーさんが俺の方を見て、会釈したように見えたけど...一体何だったんだろう。

 

 

「ありがとう...雷門さん。.............よし、壁山のところに戻ろう。」

 

 

俺は雷門さんから受け取ったハンカチを濡らして足に巻き、ソックスとシューズを履き直して壁山の元へ戻った。

 

 

.....

....

...

..

.

 

夏未 side

 

 

「本当...馬鹿な人ね...」

 

「ですが、とてもお優しい方ですね。嵐山様は。」

 

「ええ...そうね....」

 

 

彼が優しいのは、私自身が良く知っている。

彼のことを近くで見ていたつもりだし、私自身、彼の優しさに触れることもあった。

 

 

「懐かしい想いでございます。彼を見ていると。」

 

「あら、バトラー。貴方、嵐山君を知っているの?」

 

「ええ。彼、というより彼のお祖父さんを、ですが。」

 

「嵐山宗吾を?」

 

「ええ。素晴らしい方でした。今でも私の中で、コー.....宗吾様は偉大なお方なのです。」

 

「それほどまでに...」

 

 

確かに、お父様から聞いた嵐山宗吾の話はとてもすごかった。

雷門中のエースストライカーとして活躍し、その後は高校、大学とサッカーを続け、ついにはプロへとなった。

円堂君のお祖父さん、円堂大介と共にプロで活躍し、さらには日本代表になり、日本のエースストライカーとなった。

 

そして、世界一まであと一歩まで迫ったけど、結果は接戦の末に敗北。惜しくも準優勝となったとのこと。

その後は円堂大介と共に雷門中へきて、コーチをしていたと聞いた。

そして、数十年の後、嵐山君を引き取り、さらに数年後に病気で亡くなったらしい。

 

お父様はお婆様に小さいころから嵐山宗吾の話を聞かされていたらしい。

何でも初恋の人だったとか。どうして結ばれなかったのかはずっと教えてくれなかったみたいだけど、お婆様が嵐山宗吾の話をするときの表情は、とても穏やかだったらしい。

 

 

「夏未お嬢様。彼のこと、気にかけてあげてください。」

 

「ええ...そうね...」

 

 

私も、マネージャーになってみようかしら。

そうすればもっと、彼の近くで見守っていられる。

そうね...やっぱり、マネージャーがいいかしらね。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「うぉぉぉぉぉっス!」

 

「いいぞ!壁山!」

 

 

あの後、壁山の元へ戻ると壁山は一人で練習を再開していた。

何だかさっきよりやる気が上がっている気もするが、どうしたんだろう。

何か良いことでもあったのかもしれないな。

 

 

「(嵐山さんが怪我をおして頑張ってくれてるのに、俺が諦めるわけにはいかないっス!)」

 

「よし、いいぞ壁山!さっきより高く飛べてる!」

 

「ハイっス!」

 

 

これなら”イナズマ落とし”も何とかなりそうな気がするな。

後は豪炎寺と合わせて、どうなるかだが...今の壁山ならきっと大丈夫だ。

 

 

「壁山!今日はそろそろ終わりにしよう。」

 

「ハイっス......嵐山さん、俺...本当に”イナズマ落とし”、できるっスかね...?」

 

「そうだな...俺は神様じゃないから、絶対にできるなんて断言はしないよ。」

 

「えっ...?」

 

「だけど、俺はお前を信じてる。お前が豪炎寺と一緒に、”イナズマ落とし”を完成させて野生中に勝つことを。」

 

「嵐山さん........俺、頑張るっス!」

 

「ああ!一緒に頑張ろう!」

 

「ハイ!」

 

 

.....

....

...

..

.

 

翌日

 

 

 

「行くぞ、壁山!」

 

「ハイっス!」

 

 

雷門中のグラウンドで俺たちは練習をしていた。

今は豪炎寺と壁山が”イナズマ落とし”習得のために合わせを行っている。

 

俺がセンタリングし、豪炎寺と壁山が飛ぶ。

だが、やはり壁山は高いところに到達してから下を見てしまい、その恐怖でうまく合わせられていない。

 

 

「うぅ...ごめんなさいっス...」

 

「壁山...どうして下を見るんだよ。下を見るなって言ってるじゃないか。」

 

「そうでやんすよ。」

 

「だ、だって...下を見ちゃいけないって思うと、逆にどうしても下を見てしまって...」

 

 

半田と栗松の言葉に、壁山が反論する。

確かに意識して視線をそらそうとすると、逆にそっちに意識が向いてしまうことはあるよな。苦手なものを逆に見ようとしたり。人間の好奇心...とはちょっと違うか。

 

 

「だったら、目を瞑ったら?」

 

「いや、それだと逆に怖いし、危ないだろ。」

 

「やっぱり...俺には無理だったんス...」

 

「壁山......すまない。」

 

「えっ?嵐山さん...?どうして謝るっスか?」

 

「結局、お前に無理強いをさせてしまったな。お前は頑張ったよ。できないって思っていても、それでもお前はここまで頑張ってくれた。....確かに”イナズマ落とし”は完成できなかったかもしれない。それでも俺たちはレベルアップしている!今の俺たちで、野生中を倒そうぜ!」

 

「嵐山さん........ダメっス!もう一回やらせてほしいっス!」

 

 

壁山が俺の両肩を掴み、必死にお願いしてくる。

だが、壁山の高所恐怖症を考えるとやはりここで終わりにした方が...

 

 

「嵐山。もう一度、やってみてもいいか?」

 

「豪炎寺......ああ、お前たちがやるというなら、やってみよう。」

 

「ああ。...壁山、今度こそ決めるぞ。」

 

「は、はいっス!(嵐山さんの期待を裏切りたくない...俺のために練習に付き合ってくれた嵐山さんの期待だけは...絶対に裏切りたくないっス!)」

 

 

「行くぞ、二人とも!」

 

 

俺がボールをセンタリングする。

それに合わせて、豪炎寺と壁山が走り出す。

 

 

「ハッ!」

 

「うぅ...!」

 

 

そして豪炎寺が飛び、壁山が踏み台になるために飛ぶ。

壁山はやはり、まだ高さに怯えているように見える。

 

 

「(俺が踏み台にさえなればいい...だったら、俺の肩じゃなくても踏み台にはなれるっス!)」

 

 

「「「「!!!!!」」」」

 

 

何と、壁山は上を向き、自分の腹を豪炎寺に向ける。

そうか...肩を踏み台にしようとするから、どうしても視線が下に行ってしまう。

だけど腹を踏み台にすることで視線が上を向くから、下を見ることはない!

 

 

「これが俺の!」

 

「「”イナズマ落とし”!」」

 

 

壁山の腹を踏み台にした豪炎寺が、空中でオーバーヘッドキックを決める。

放たれたボールは雷を纏ってゴールへと突き進んでいく。そして、ものすごい勢いでゴールへと突き刺さった。

 

 

ドスンッ!

 

 

「や、やったっス...やったっス~~~~~!!!!」

 

 

壁山が空から落下しつつ、”イナズマ落とし”の完成を喜ぶ。

そんな壁山に1年を中心にみんなが集まってくる。

 

 

「やったな!壁山!」

 

「お前、すごいぞ!」

 

「ナイスガッツでやんす!」

 

「み、みんな....俺、やったっス...!」

 

 

 

「壁山...ナイスファイトだ。お前が諦めなかったから完成した...お前の努力の技だな。」

 

「嵐山さん....ありがとうございましたっス!嵐山さんが一緒に特訓してくれたから...俺...俺...」

 

「わかったわかった。男ならそんな簡単に泣くな。....俺も嬉しいよ、壁山。」

 

 

 

「大盛り上がりね、みんな。」

 

「雷門さん。」

 

 

声がした方を向くと、また雷門さんだった。

今日はバトラーさんは一緒じゃないみたいだな。

 

 

「どうしたんだ、夏未。」

 

「円堂君。嵐山君。私、雷門夏未は本日からサッカー部のマネージャーとなりましたので、よろしく。」

 

 

「えっ?」

 

「「「「えええええええええええ!?」」」」」

 

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

開幕!フットボールフロンティア予選!

嵐山 side

 

 

 

「さあ、ついにフットボールフロンティア予選が開幕です!今回はここ、野生中のグラウンドで雷門中vs野生中の試合が行われようとしております!」

 

 

 

「さあお前たち!準備はいいな!」

 

「「「おう!」」」

 

 

 

「お前ら、この試合に勝ったら他山先生がお菓子買ってくれるってよ!」

 

「「「おっしゃー!」」」

 

 

 

ピィィィィ!

 

 

雷門中vs野生中の試合、雷門ボールで試合がスタートした。

今回の雷門中のスターティングメンバ―は、フォワードに豪炎寺、染岡。ミッドフィルダーに半田、少林、マックス、壁山。ディフェンダーに栗松、影野、風丸、土門。キーパーに円堂というメンバーとなっている。

 

壁山をミッドフィルダーに上げたのは、”イナズマ落とし”を決めるためだ。

ただ、いきなりフォワードに起用しては何か狙ってますと言っているようなものだから、さりげなく前線に参加できるようにした、というわけだ。

 

 

「へへ、俺がスタメンとはね。」

 

「頼んだぞ、土門!」

 

「おうよ。」

 

 

そして、今回は土門をスタメンで起用している。というのも、土門には早く俺たちとの連携に慣れてもらいたいという俺の意見と、土門の実力を見てみたいという豪炎寺の意見を円堂が了承したからだ。

 

さて...この試合、どうなるかな。この試合のキーマンは壁山と土門かもな。

 

 

 

「さあ染岡、ドリブルで前線に駆けあがっていく!」

 

 

「よし、決めろ豪炎寺!」

 

「おう!”ファイア....」

 

「低い低い!」

 

「何!?」

 

 

染岡のセンタリングで豪炎寺が”ファイアトルネード”を放とうとした瞬間、野生中の鶏井が軽々ジャンプしてボールを奪った。その驚異的なジャンプ力に、シュートを放とうとした豪炎寺はもちろん、雷門中の選手は全員驚いていた。

 

 

「速攻だコケ!」

 

「なっ!?速い!?」

 

「みんな、戻れ!」

 

 

雷門イレブンは一瞬の隙をつかれ、あっという間にボールを前線へと運ばれてしまう。

ディフェンダー陣も突然の出来事に土門以外、全く反応できていない。

唯一反応できている土門も、ボールの位置から離れすぎていてフォローには間に合いそうにない。

 

 

「くらえ!”コンドルダイブ”!」

 

「させるか!”ゴッド...」

 

「”ターザンキック”!」

 

「何!?」

 

 

何と、大鷲が放ったシュートを五利がシュートチェインして軌道を変えた。

円堂は”ゴッドハンド”の構えを取ろうとしていたが、軌道を変えられたことで 体勢を崩している。

 

 

「させるかあ!”熱血パンチ改”!」

 

 

大鷲と五利のシュートはそのままゴールへと突き刺さるかと思われたが、何と円堂は”熱血パンチ”を進化させて繰り出し、シュートを弾いた。弾かれたボールは土門へと渡り、土門は難なくボールをトラップする。

 

 

「みんな!焦る必要は無い!俺がゴールを守るから、安心して攻めていけ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

円堂の言葉に全員が活気を取り戻した。初めての公式戦でどこか緊張していたのかもしれない。

負けたら終わりのトーナメントというのもある。その点、円堂は試合を楽しんでいるから気にしてないんだろうな。

 

 

「おらよ!」

 

「よし!”疾風ダッシュ”!」

 

「くっ!?」

 

 

土門から風丸にパスが渡り、風丸は自らドリブルで前線へとあがっていく。

ゴールは円堂が守ってくれる。だからあいつらは安心して攻めあがれるんだ。

 

 

「決めろ!染岡!」

 

「よっしゃあ!”ドラゴン....」

 

「”スーパーアルマジロ”!」

 

 

ドゴーン!

 

 

「「染岡!!!!」」

 

 

何と、野生中の激しいタックルに染岡が吹き飛ばされてしまった。

あの当たり...染岡が怪我をしていなければいいが...

 

染岡が吹き飛ばされて激突した場所では、砂埃が舞っていて染岡の様子はまだ見えない。だが、徐々に砂埃は晴れていき、そこには足を抑えながら横たわる染岡の姿があった。

 

 

ピィィィィ!

 

 

ボールもラインを割っていて、審判の笛により試合が一時止まる。

俺と秋は染岡の元へと走り寄る。

 

 

「染岡、大丈夫か!?」

 

「っ...すまねえ.....痛っ...」

 

「すごい腫れ...折れてはいないと思うけど、この試合は無理ね...」

 

「くっ...嵐山、すまねえ...後は頼めるか...」

 

「ああ、任せておけ。お前の無念、俺が晴らしてくる!」

 

 

 

 

「おおっと、雷門。ここでメンバーチェンジです。負傷の染岡に変わって、どうやら嵐山が入るようです。さらにフォーメーションを大きく変えてきました。何と豪炎寺と嵐山と共に、壁山もフォワードに入っています!」

 

 

俺と染岡が交代し、さらに”イナズマ落とし”を決めるために壁山をフォワードへと起用した。警戒されるかもしれないが、それならそれで俺が決めるまでだ。

 

 

「さあ、雷門のスローインで試合再開!」

 

 

「嵐山!」

 

「おう!」

 

 

半田のスローインで、俺にボールが渡る。そんな俺の元にディフェンダーの獅子王、蛙田が寄ってきてボールを奪おうとする。

 

 

「(ディフェンダーが二人、ここにいる。残るディフェンダーは豪炎寺と壁山にはついてない、か。)」

 

「(くっ、こいつ...何てキープ力だ..)」

 

「(全然ボールが取れない!)」

 

 

俺は二人からボールを取られないよう、二人に背を向けてボールを守りつつ、フィールド全体の状況を確認する。どうやら鶏井が豪炎寺についているようだな。そして、鶏井がいる限り豪炎寺にはシュートが打てず、他はどうにでもなると思っているのか、全体的に攻撃に備えた陣形になっている。

 

 

「(これなら簡単に点が取れそうだな。)」

 

「「!?」」

 

 

俺は二人の頭上をまたぐようにボールを前方へ飛ばし、体を捻ってそのまま二人を躱してボールをトラップする。そしてそのままドリブルで駆けあがっていく。

それを見た豪炎寺と壁山は、すぐさま”イナズマ落とし”の準備を始めた。

 

 

「決めろ!」

 

 

俺が豪炎寺に合わせる形でセンタリングする。

それを見た鶏井がすぐさま豪炎寺と合わせてジャンプする。

 

 

「何度やっても同じコケ!空中じゃおいらたちには敵わない!」

 

「ふっ...それはどうかな。行くぞ、壁山!」

 

「はいっス!」

 

 

壁山がジャンプし、腹を豪炎寺に向ける。

豪炎寺は壁山の腹を踏み台にして、さらに高く飛び上がる。

 

 

「な、何だとコケ!?」

 

「くらえ!」

 

「「”イナズマ落とし”!」」

 

 

バゴンッ!

 

 

豪炎寺のオーバーヘッドキックによって、雷を帯びたボールは野生中ゴールへと突き進んでいく。野生中のキーパーはシュートが来ると思っていなかったのか、反応に遅れている。これは決まったな。

 

 

「わ、”ワイルド....ぐわあああああああああ!」

 

 

 

「ゴォォォォォォォル!豪炎寺と壁山、見事な連携で野生中から先制点を決めたぞ!」

 

 

「見ててくれたっスか!?嵐山さん!」

 

「ああ。ナイスシュートだ、壁山!」

 

「はいっス!俺、もっともっと豪炎寺さんとシュートを決めちゃうっスよ~!」

 

 

壁山はずいぶんとやる気になっているようだな。

よし、そろそろ前半も終わるが後半も壁山と豪炎寺を中心に攻めていこう。

 

 

ピィィィィ!

 

 

「さあ、野生中ボールで試合再開!1点リードされた野生中はどう攻めてくるのか!」

 

 

 

「くっ...おいらたちがここで負けるなんてあり得ないコケ!」

 

「ああ!俺たちが勝って、予選準優勝校の実力を見せつけてやる!」

 

 

「な、何と!野生中、素早いパス回しで雷門中を翻弄しているぞ!」

 

 

「くっ!速すぎる!」

 

「追いつけないでやんす!」

 

 

「っ...円堂!気を付けろ!」

 

「ああ!」

 

 

ものすごい勢いで攻めあがる野生中イレブン。

だが、その前に土門が立ちふさがった。

 

 

「へへ、いっちょやりますか!”キラースライド”!」

 

「うわっ!」

 

「「あれは帝国の!?」」

 

 

「ナイスだ、土門!」

 

「へへ。(こう見えても俺、帝国学園出身のディフェンダーだぜ!)」

 

 

 

俺と豪炎寺が驚いているが、円堂や他のみんなは知らないからなのか特に反応していない。土門の奴、まさか帝国学園出身なのか....まさか、嫌...たまたま帝国出身なだけかもしれん...

 

 

「つなげ!嵐山!」

 

 

そんなことを考えている間に、土門が俺にロングパスをしてきた。

俺は意識を試合に戻し、跳んできたボールをトラップしてそのまま駆けあがる。

ゴール前では豪炎寺と壁山が”イナズマ落とし”のために待機している。

 

 

「よし、これでもう1点!決めろ、豪炎寺、壁山!」

 

「おう!」「はいっス!」

 

 

豪炎寺と壁山が俺のセンタリングに合わせてジャンプする。

先ほどまでと違い、鶏井はそれを追うようにジャンプしていない。

 

 

「そう何度もやらせるかコケ!ライオン!ワシ!」

 

「「おう!」」

 

 

何と、獅子王の腕に掴まって、鶏井と大鷲が回転し始める。

一体何をしようとしている....!?

 

 

「な、なんスか!?....って、ヒィィィィ!」

 

「っ!?」

 

 

何と突然の出来事に壁山が下を見てしまい、恐怖で縮こまってしまった。

豪炎寺はさらに高く跳ぶことが出来ず、そのまま落下していく。

逆に鶏井、大鷲は獅子王によって空高く飛ばされる。

 

 

「くらえコケ!」

 

「「”イーグルバスター”!」」

 

 

バゴンッ!

 

 

「何だと!?」

 

 

何と、こちらがセンタリングしたボールを、逆にあいつらが打ち返した。

ものすごい勢いでボールが円堂の守る雷門ゴールへと突き進んでいく。

 

 

「ゴールは割らせない!”ゴッドハンド”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

勢い良く跳んできたボールを、円堂は”ゴッドハンド”で受け止める。

だが、徐々に後ろへ押し込まれていっていて、このままでは決められてしまう!

 

 

「負けるかぁぁぁぁぁ!っ、うわああああああああ!」

 

 

ピィィィィ!

 

 

 

「ゴォォォォォォォル!決まってしまったぁぁぁ!鶏井、大鷲、獅子王の連携必殺、”イーグルバスター”によって円堂、ゴールを許してしまった!」

 

 

「何て威力だ....まだ手がしびれてる...」

 

「大丈夫か、円堂!」

 

 

風丸が円堂を起こしながら、心配する。

確かにあの威力...俺たちの”イナズマ落とし”を凌ぐほどの威力だった。

あれを何度も打たれてはいくら円堂でも防ぎきれんな。

 

 

ピィィィィ!

 

 

「おっと、ここで前半終了のホイッスル。雷門中vs野生中は1vs1の同点で試合が進んでいます!」

 

 

 

 

俺たちはベンチの前に座り、体を休める。

それにしても、これが予選準優勝校の実力か。簡単には勝たせてもらえそうにないな。後半もできれば”イナズマ落とし”で点を稼いでいきたかったが...

 

 

「”イーグルバスター”、ものすごい威力だった...」

 

「確かに、あの技を連発されるといくら円堂といえども厳しい。どうする。」

 

「お、俺と豪炎寺さんに任せて欲しいっス!」

 

「壁山...」

 

 

何と、壁山が自ら名乗りを上げた。いつも消極的な壁山にしては珍しい。

”イナズマ落とし”を決めたことで、自信に繋がっているのかもしれないな。

 

 

「さっき、俺がちゃんと豪炎寺さんの踏み台になっていたら、失点することはなかったっス...キャプテンに迷惑かけることもなかったっス...だから!」

 

「ふっ...壁山。別に誰もお前を責めちゃいないよ。」

 

「そうだぜ、壁山!それに、ゴールを許したのは俺の責任だ。お前が気に病む必要はないぜ!」

 

「キャプテン...嵐山さん...」

 

「よし、後半も壁山と豪炎寺を中心に攻めよう。半田、少林、マックスはボールを持ったらすぐに前線に運んで、二人のシュートチャンスを作る。いいな?」

 

「「おう!」」「はい!」

 

「円堂、ゴールは任せたぞ。」

 

「ああ。今度こそ絶対にゴールは割らせない!」

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

 

そして、後半開始。野生中ボールで試合再開だ。

 

 

「一気に決めるコケ!」

 

 

鶏井、大鷲、五利が上がってくる。まさか、また”イーグルバスター”を狙ってくる気か!?

 

 

「そうはさせない!」

 

「ぐっ!」

 

「っ!」

 

「くっ...しつこいコケ!」

 

 

俺は鶏井に貼りつくようにマークする。

これには鶏井も思うように動けないようだ。

 

 

「風丸、影野は大鷲を!土門、栗松は五利をマークしろ!”イーグルバスター”以外なら円堂が必ず止めてくれる!」

 

「「「おう!」」」「はいでやんす!」

 

 

「ほう...言ってくれる!だったら止めて見ろ!」

 

 

鶏井はフリーになった蛇丸にボールを渡す。

蛇丸は完全にフリーのため、良いポジションでゴールを狙う。

 

 

「くらえ!”スネークショット”!」

 

「止める!嵐山が俺を信じてくれているんだ...俺はこのゴール、絶対に割らせない!”ゴッドハンド”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

蛇丸の”スネークショット”と円堂の”ゴッドハンド”がぶつかる。

すると徐々にシュートの勢いは収まっていき、円堂の手にボールが納まる。

 

 

「くっ!俺のシュートを止めただと!?」

 

「へへ、良いシュートだな!だけど俺はもうゴールは割らせない!」

 

 

 

それから試合は完全に停滞した。

俺は野生中から徹底マークされ、雷門が攻めれば”イナズマ落とし”へつなぐ前にボールを奪われる。逆に俺たちも”イーグルバスター”を完全に封じ込め、それ以外のシュートは円堂によって難なく防がれている。

 

 

 

「さあ、試合は1vs1のまま残り時間はあとわずか!果たして勝ち越しゴールを決め、勝利するのはどちらか!」

 

 

 

「ぐっ...(さすがに手が痺れて...)」

 

「(まずいな...円堂はさすがにもう限界か...!)」

 

 

このままでは、さすがの円堂もゴールを奪われてしまう。

何とか点を取って、円堂を楽にさせてやらなければ!

 

 

「ここは通さない!」

 

「お前さえ抑えておけば、雷門など取るに足らない!」

 

「くっ!」

 

 

何と野生中は俺に対して3人ものマークをつけてきた。

さすがに俺もこれでは前にボールを運べない...!

 

 

「くそっ...!」

 

 

「あなたたち!何をぼさっと見ているの!嵐山くんにばかり任せていないで、あなたたちも戦いなさい!」

 

 

「あっ...そうでやんす...!」

 

「俺たちが嵐山先輩を助ける!」

 

「そうだ、行くぞお前ら!」

 

 

 

雷門さんの言葉に、栗松、少林、風丸を中心に全員が俺の元へ集まる。

 

 

「(よし、これなら!)栗松!」

 

「はいでやんす!」

 

 

俺は栗松へパスを出し、それとは逆方向にターンして走り出す。

栗松からさらに俺へボールが戻されると思ったのか、野生中のディフェンダーは俺についてきて栗松たちから離れていく。

 

 

「栗松!半田がフリーだ!」

 

「「「っ!」」」

 

「(あ、この攻撃パターンは...!)」

 

 

俺の栗松への声かけに、野生中のディフェンダーの注意が半田へと逸れる。

その瞬間を見逃さず、俺は一気にディフェンダーと距離を取る。

 

 

「「「しまった!」」」

 

 

「嵐山先輩!」

 

 

栗松からのパスが見事に俺へと渡り、ディフェンダー陣は隙をつかれたせいか反応が遅れている。そして、豪炎寺、壁山が”イナズマ落とし”の構えに入る。

 

 

「いけ、お前ら!」

 

「行くぞ、壁山!」

 

「ハイっス!(今度こそ決める!俺と豪炎寺さんの”イナズマ落とし”!)」

 

「止めてやるコケ!」

 

 

俺がセンタリングしたボールめがけて、豪炎寺と壁山はジャンプする。

さらにその下では獅子王、鶏井、大鷲が”イーグルバスター”の構えに入る。

 

 

「豪炎寺さん!」

 

「おう!」

 

「「”イナズマ落とし”!!!!」」

 

 

壁山は見事、豪炎寺の踏み台となる。そして、豪炎寺はセンタリングされたボールをオーバーヘッドキックで蹴り、”イナズマ落とし”を放つ。

 

 

「くっ!打たれたコケ...でも、俺たちが体で止めるコケ!」

 

「そうだ!たとえ”イーグルバスター”が打てなくとも、俺たちが壁になれば問題ない!」

 

 

何と、鶏井と大鷲が”イナズマ落とし”の軌道へと割って入る。

たしかに、止められなくとも威力は抑えられるかもしれない...!

 

 

「わかっていたさ!お前たちが止めに入るとな!」

 

「だから、これが俺たちにできる精一杯っス!決めて下さい、嵐山さん!」

 

「「なんだと!?」」

 

 

何と、豪炎寺は無理やりボールの軌道を真下に変え、俺へとパスを出してきた。

そのまま豪炎寺は壁山の腹をクッションにしながら落ちてくる。

さすがにボールの軌道を変えられると思っていなかったのか、鶏井と大鷲は意表を突かれていた。

 

 

「お前たちがつないだこのボール...必ず決めてみせる!”ウイングショット”ォォォォォォォ!」

 

 

バゴンッ!

 

 

豪炎寺と壁山の”イナズマ落とし”に、俺の”ウイングショット”の威力が合わさる。雷を帯びた白い羽根とともに、ボールは野生中ゴールへと突き進む。

 

 

「止める!”ワイルドクロー”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

野生中キーパーの猪口の必殺技とぶつかり、猪口は何とかボールを抑えようとしているが....

 

 

「ぐっ..ぐわあああああああああ!」

 

 

俺たちのシュートは猪口の必殺技を打ち砕き、そのままゴールへと吸い込まれていく。

 

 

ピィィィィ!

 

 

 

「ゴォォォォォォォル!残り時間僅かで、ついに雷門中が1点を奪ったぞ~!」

 

 

 

ピッピッピィィィィ!

 

 

 

「ここで試合終了のホイッスル!試合は2vs1!雷門中が前回大会予選準優勝の野生中を破り、2回戦進出だ!」

 

 

 

 

「勝った....やったあああああああああ!」

 

「ナイスシュートだったぞ、嵐山。」

 

「ああ。豪炎寺もな。それに壁山。」

 

「は、はいっス....でも、結局最後は決められなかったっス...」

 

「何言ってるんだ。お前があそこで”イナズマ落とし”を決めなかったら、また”イーグルバスター”を打たれて負けていたかもしれないんだ。お前が頑張ったから勝てたんだよ。それを誇れ。」

 

「嵐山さん......はいっス!」

 

 

 

「ま、よく頑張ったと褒めてあげるわ。」

 

「すごかったですよ、嵐山先輩!」

 

「ありがとう、雷門さん、音無さん。」

 

 

 

「もう...円堂くんったら...無茶しすぎよ。はい、氷嚢。」

 

「サンキュー、木野。」

 

 

 

 

「お、俺も頑張ったから、マネージャーにちやほやされたかったっス...」

 

「「「アハハ!」」」

 

 

 

何はともあれ、これで初戦は突破だ。

この調子で勝ち上がって、決勝は帝国と、鬼道たちと再戦だ。

待っていろ、鬼道....帝国学園!

 

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

模倣の翼と炎

嵐山 side

 

 

「いいぞ!どんどん打ってこい!」

 

「行くぞ、円堂!」

 

 

あれから俺たちは、初戦を突破した勢いをキープするために必死に練習している。

今日は雷門中のグラウンドが他の部活が使う番なので、河川敷で練習している。

だが、あれはさすがにマズイな....俺は河川敷に面している橋の上を見ながら考える。

 

 

「どうしたんだよ、嵐山。」

 

「そうっスよ。橋の上なんて見て...って、何スかあれ?」

 

「も、もしかして俺たちのファンでやんすかね!?」

 

「いや、違うよ。あれは俺たちを偵察しに来てる他校の生徒だ。」

 

「「「て、偵察~!?」」」

 

 

俺の言葉に、壁山や栗松、それに円堂が驚く。

まあ当然の結果だよ。点数は圧倒されていたとはいえ帝国の棄権で帝国に勝利。

その後は尾刈斗、野生に打ち勝って負けなし。無名の弱小校がそんなことしてたら目立つに決まっているさ。

 

 

「だから、あまり必殺技の練習はするな。練習をした結果をデータで取られちゃ意味がない。」

 

「で、でも...」

 

「必殺技無しで勝てるでやんすか...?」

 

「何言ってるんだ、お前ら。必殺技だけがサッカーじゃないさ!」

 

「ああ。円堂の言う通りだ。パスにドリブル、連携だって練習していかなきゃならない。俺たちは残念ながら弱小チームだ。だからこそ、いろんなことを学んでいかなきゃいけないのさ。」

 

「キャプテン...嵐山さん...」

 

「さあ!練習を続けるぞ!」

 

「「おう!」」

 

 

円堂の言葉にみんなが練習に戻る。

だが、壁山や栗松の不安もわかる。何とかしなければ帝国には勝てないだろうな。いや、それはおろか次の御影専農にも勝てないだろうな。

 

 

「どうしたものか...」

 

「そうね...これは由々しき事態だわ。」

 

「雷門さん....」

 

 

俺がベンチで考えていると、雷門さんが話しかけてくる。

どうにか雷門中のグラウンドを使えたら良いんだけど、それでもどうにか偵察しようとする輩はいるだろうな。どうにか誰にも見られないような特訓場があれば良いんだけど...

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

翌日

 

 

 

偵察の数はまた一段と増えていた。これじゃあ練習にもならないな。

みんなもうっとおしく感じていたが、それでもフットボールフロンティアを勝ち上がるためにそれぞれ練習を続けていた。

 

 

ゴゴゴゴゴゴ

 

 

「何だ?」

 

「あっ!あれを見て下さい!」

 

 

大型の車の走行音が聞こえてくる。目金が指した方向を見るとテレビの中継車かと思うくらいの車が数台、河川敷の方へと向かってきていた。そして、車は河川敷の土手の上で停車し、そこから様々な機械を展開、俺たちを見ながら何かし始めた。

 

 

「あれも偵察か...?」

 

「あれは...次の対戦相手の御影専農中ですね。あそこで立っているのはキャプテンの杉森威とエースストライカーの下鶴改です。」

 

「次の対戦校...ずいぶんと大がかりな偵察だこった。」

 

「お前たち、とにかく練習を再開するぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

 

円堂の言葉に全員が練習に戻る。それにしてもキャプテンとエースストライカーが自ら偵察か。

ずいぶんと余裕そうだな、あっちは。まあ俺たちには関係ない。ただひたすら、目の前のボールを追いかけるだけだ。

 

 

その後、暫く練習を続けていたのだが、いきなり杉森と下鶴が土手を降りてフィールドへ入ってきた。あいつら、人が練習してるのに何普通に入ってきてんだ!?

 

 

「ちょ、ちょっとストップ!...困るよ!練習中に入ってきちゃ!」

 

「なぜ必殺技の練習をしない。」

 

「な、何故って...」

 

「隠しても無駄だ。我々は君たちのデータをすべて把握している。」

 

「お前たちが勝つ確率は0%だ。」

 

「何だと!?勝負はやってみないとわからないだろ!」

 

「勝負?これは単なる害虫駆除作業だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ?」

 

 

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

円堂 side

 

 

 

「はぁ?」

 

 

その声に、その雰囲気に、とてつもない怒りを感じる。

嵐山の奴、めちゃくちゃキレてる!俺もさっきのあいつらの発言は頭に来たけど、嵐山のあまりのキレっぷりに冷静になった!

 

 

「ちょ、まっ!お前ら、嵐山を止めるんだ!」

 

「「っ!」」

 

 

俺の言葉に、嵐山の近くにいた染岡と豪炎寺が反応して嵐山を止める。

だけど嵐山はそれくらいじゃ止まらなかった。

 

 

「ふざけるな!!!!!!こいつらは害虫じゃない!訂正しろ!!!!!!」

 

 

1年は嵐山のあまりの迫力に恐怖して、俺の後ろに隠れてる。

ヤバい...嵐山がキレるの何年ぶりだろう...俺と風丸は一度だけ嵐山がキレたのを見たことがある。その時は風丸が女みたいだといじめに近いことをされていた時だった。

 

あの時の嵐山の迫力...マジで怖かった。俺も正直ちびったくらい怖かった。

 

 

「何故だ?」

「我々は事実を言ったまでだ。」

 

「事実だと!?こいつらは害虫なんかじゃない!訂正しないというなら、俺が証明してやる!」

 

「証明?」

「それは不要だ。」

 

「不要じゃない!お前たちは良くても、俺が納得していないんだよ!」

 

「なるほど。気持ちの問題ということか。理解した。」

「そういうことなら、我々と試合形式のPK対決をすれば君たちも納得するだろう。」

 

「望むところだ!シュートは俺が打つ!円堂!ゴールは任せたぞ!」

 

「お、おう!」

 

 

 

嵐山のやつ、めちゃくちゃ気合入ってるな...でも、俺も嵐山と同じ気持ちだ。

仲間を馬鹿にされて黙っていられない!

 

 

そうして、あいつらが着替えるのを待ってから再び対峙する。

まずは俺とあっちのストライカー、下鶴の勝負だ。

 

 

 

「では、始める。」

 

「よし、来い!」

 

 

俺はどんなシュートが来ても止められるように気合を入れて構える。

だけど、下鶴が放ったシュートは俺たちを、嵐山でさえも驚かせた。

 

 

「ハッ!”ウイングショット”!」

 

「な、なんだと!?」

 

「嵐山さんの必殺シュート!?」

 

「完全にコピーしてやがる!」

 

 

「(だけど、威力は嵐山の方が上だ!)止める!”熱血パンチ改”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

下鶴の放った”ウイングショット”と、俺の”熱血パンチ改”がぶつかる。

やっぱり威力は大したことない。これなら止められる!

 

 

「おりゃあ!」

 

「っ!弾かれた!?」

 

「ほう...だが...改!あれも見せてやるといい!」

 

「了解。」

 

「な、何っ!?」

 

 

俺が弾いたボールを、今度は回転しながら足に炎を纏いシュートしようとしている。

あれはまさか!?

 

 

「”ファイアトルネード”!」

 

 

バゴンッ!

 

 

下鶴のシュートは、さっきの”ウイングショット”の勢いもまだ残っていたのか、羽根が炎を纏ったような状態で放たれた。”ウイングショット”と”ファイアトルネード”が合わさって、ものすごい勢いになっている。

 

 

 

「っ!(そうか...あの回転があの必殺技に足りなかった....)」

 

「「「円堂!」」」

「「「キャプテン!」」」

 

 

「止める!”熱血パンチ改”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

「っ、うわああああああああ!」

 

 

俺は”熱血パンチ改”で止めようとしたけど、全く歯が立たずにゴールを決められてしまった。

この威力...”ウイングショット”の力が残っていたとはいえ、豪炎寺以上の”ファイアトルネード”だったかもしれない...

 

 

「ふん...これで1vs0だな。」

 

「卑怯だぞ、お前!」

 

「そうだそうだ!一度シュートを止められたじゃないか!」

 

「その答えはナンセンスだ。試合形式といったはずだ。完全に止められなかった以上、勝負はまだ続いていた。」

 

「くっ...」

 

 

すまない、みんな...だけど、俺たちには嵐山が残っている。

嵐山が勝ってくれたら、1vs1で引き分けなんだ。

 

 

「次は私だな。」

 

「頼むぞ、嵐山。」

 

「....」

 

「嵐山?」

 

「っ、あ、ああ。わかってる。」

 

「?」

 

 

何だ?嵐山の様子がおかしい...いや、おかしいというかずっと考え事をしてる。

勝負に集中できていないなんて、嵐山らしくないな。

 

 

「いつでもシュートして構わない。」

 

「...おう。」

 

 

そう言って、嵐山が走り出す。そしてシュート体勢に入ったけど、いつもと違う...?

 

 

「うおおおおおおおおおおお!」

 

 

嵐山はボールを空高く打ち上げ、それを追うように大きくジャンプする。

ボールは空に発生した雷雲のような雲から落ちてきて、青い雷を纏っている。

そのボールを嵐山は回転しながら真下に向けて蹴り放った。

 

 

「いっけえええええええええ!」

 

 

嵐山の蹴ったボールは青い雷を纏いながらゴールへと突き進んでいった。

すげえぜ、嵐山!ここで新しい必殺技を出すなんて!

 

 

「データに無いシュートだ。だが、君の実力では私からゴールは奪えない!”シュートポケット”!」

 

 

 

バチバチバチバチ.....

 

 

 

嵐山のシュートと杉森の必殺技がぶつかり、激しくスパークしている。

だけど、どんどんシュートの勢いが弱まっていき、次第に雷も消えていく。

 

 

「ふっ...やはりこの程度か。」

 

「っ!」

 

「「「そんな!?」」」

 

 

そして、ついには完全に勢いが止まってしまい、ボールは杉森の手におさまってしまった。

嵐山のシュートが止められたことに、全員が驚いている。

 

 

 

「これで我々の勝ちが決まった。やはりデータ通り、君たちの勝率は0%だ。」

 

「くっ....」

 

「もうここにいる必要はなくなった。帰るぞ。」

 

「はい。」

 

 

そう言って、杉森と下鶴は去っていく。偵察に来ていた車も去っていき、さらには俺たちが御影専農の選手に負けたからか、他の学校の偵察もいなくなっていた。

 

 

 

「嵐山くん....」

 

「先輩...」

 

「っ...すまない、みんな...俺がもっと強かったら、みんなを害虫扱いしたことを謝らせることができたのに...!」

 

「気にすることないっスよ!」

 

「そうでやんす!次の試合までにレベルアップして、今度こそあいつらを見返すでやんす!」

 

「そうだな。嵐山、円堂。都合よく偵察も消えてくれたことだ。これからどんどんレベルアップしていこう。」

 

 

「壁山...栗松...豪炎寺....ああ!」

 

 

 

こうして、俺たちは練習を再開した。偵察がいなくなったから必殺技の練習も多少できるようになったのが救いかもな。とにかく試合までにもっとレベルアップしなきゃ!

 

 

 

「これは本当に由々しき事態ね....(パパならきっと、何か良い方法を知っているはず...)」

 

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「よし、ここまでにしよう!」

 

「ふぃ~...疲れた~...」

 

「今日はみんな一段と気合入ってたですね...」

 

「ま、それもそうだろ...嵐山でもシュートを決められなかった相手が次の相手なんだ。」

 

「ああ。だが、俺と豪炎寺もいるんだ。嵐山だけに負担は掛けねえぜ。」

 

「さ、みんな早く帰りましょう?もう真っ暗よ。」

 

「「「は~い。」」」

 

 

秋の言葉に、みんなが帰り支度を始める。

だが、俺はもう少し特訓したい。下鶴のあのシュートを見てヒントを得たあの必殺技をマスターするためにも、まだまだ特訓が必要だ。だが、”ファイアトルネード”のような回転を加えるのは良いが、なかなかうまくいかないな。

 

 

「嵐山、お前は帰らないのか?」

 

「豪炎寺...ああ。俺はもう少し、必殺技の特訓をしていくよ。暗いし、さすがに偵察もいないだろ。」

 

「そうか。...俺も付き合おう。」

 

「えっ?」

 

「お前が完成させようとしている必殺技。さっきの対決で見せたあの技だろう?俺も興味がある。」

 

「豪炎寺....ああ、頼むよ。」

 

 

 

「二人とも!帰らないの~?」

 

「すまない、秋!俺と豪炎寺はもう少し練習していくよ!」

 

「もう....あまり無茶しないでよ~!」

 

 

そう言って、秋はみんなと帰っていく。

ちなみに円堂は俺の言葉に、「負けてられないな!」と言って家とは反対の方へ走っていった。恐らく、鉄塔広場にでも行ったんだろうな。

 

 

「さて...さっきの対決である程度形になっていたということは、お前の中で必殺技のイメージは固まっているのか?」

 

「ああ。多少はね。だけど、どうしてもうまくいかない。回転を加えることで威力は増すはずなんだがな...」

 

「ああ。だが、お前は蹴る瞬間に力を込めるだけで、その後のことは考えていないな。」

 

「その後のこと?」

 

「確かに、蹴った時のインパクトは大事だ。だがシュートはキーパーとゼロ距離で打つわけじゃない。離れたら離れただけ威力は落ちる。そこをいかにキープするかが大事だと思わないか?」

 

「まあ、それができたら苦労はしないな。」

 

「方法はある。お前のあのシュートに限った話だがな。例えば.....」

 

 

そう言って、豪炎寺は俺に色々アドバイスをしてくれた。

それを参考に俺もあの必殺技を試してみたが、なかなかうまくいかない。

 

 

「何が足りないんだ...」

 

「今度は逆に、蹴る瞬間のインパクトが足りないように見える。この必殺技、かなり高難度の技のようだ。」

 

「ああ...だがこれをマスターできれば、きっと帝国に勝てるはずなんだ。」

 

「ふっ...ガラにもなく焦っているようだな。」

 

「っ...まあ、焦っていたかもな....さっき、シュートを決められなかった時、みんなが落胆したように見えたんだ。ま、あれだけイキって負けてちゃだせえよな...」

 

「ダサくなんかないさ。お前は仲間のために怒った。それができるだけで、俺はお前を誇りに思うよ。」

 

「豪炎寺...」

 

「...まずはもう少し簡単なものから練習してみないか?」

 

「簡単なもの...?」

 

「似たような技を覚える。さらにそこから難易度の高い似た技、さらに次...そうやって徐々にあのシュートに近付けていく。地道な練習にはなるが、それが何よりの近道だと俺は思う。」

 

 

地道な練習が、何よりの近道...か。

豪炎寺の言う通りだ。俺は少し、いや...かなり焦っていたようだな。

もっと地道に、コツコツ積み上げていこう。

 

 

「ありがとう、豪炎寺。俺目が覚めたよ。」

 

「ふっ...じゃあ早速やるぞ。」

 

「ああ。」

 

 

そうして、俺たちは夜遅くまで練習を行った。

気になって様子を見に来た音無さんと雷門さんに怒られるまで。

 

 

 

「もう!今何時だと思ってるんですか!」

 

「早く帰って、明日の練習に備えなさい!」

 

 

「「はい...」」

 

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

データを超えて

嵐山 side

 

 

「何で俺たちこんなところに...」

 

「ここって、雷門中七不思議の一つ、開かずの扉では...」

 

「ヒィィ!怖いっス!」

 

 

俺たちは今、雷門さんに呼び出されてグラウンド近くにある変な扉の前にいるんだが、呼び出した雷門さんがいない。早く練習したいんだが一体何の用なんだ?

 

 

ギギギギギ

 

 

「「ヒィィ!!!!」」

 

 

すると突然、目金曰く開かずの扉と呼ばれている扉が開きだした。

壁山と目金は悲鳴をあげている。

 

 

「あら、待たせてしまったかしら。」

 

「な、なんだ....夏未かよ...」

 

「?」

 

 

中から出てきたのは雷門さんだった。円堂も幽霊などではないとわかったからか安堵していた。

それにしても、ずいぶんと長そうな階段が見えたが...ここは何かの施設か?見た目のわりに中は結構近代的な階段だったな。

 

 

「ここはイナビカリ修練場。かつて伝説のイナズマイレブンが特訓にしようしていた場所だそうよ。」

 

「何だって!?本当か!?」

 

「ええ。お父様に聞いたのよ。そして、それを少しばかり改造させてもらったわ。使用許可ももらっている。...どう?使いたい?」

 

「ああ!使わせてくれるのか!?」

 

「ええ。その代わり、覚悟しておくことね。」

 

「おう!みんな行こうぜ!」

 

 

そう言って走って入っていく円堂に続いて、みんなも入っていく。

伝説のイナズマイレブンが使っていた修練場か...俺も楽しみだな。

こんなものを見つけてくれるなんて...雷門さんには感謝だな。

 

 

「嵐山くんは行かないのかしら?」

 

「いや、行くよ。でもその前に...ありがとう、雷門さん!じゃあ行ってくる!」

 

「ええ、行ってらっしゃい。」

 

 

俺は雷門さんに礼を言ってから中へと入っていく。

伝説のイナズマイレブンが使っていた修練場...ここでレベルアップして、御影専農に勝つ!

 

 

中に入るとそこには色々な設備があった。だが、どれもこれもサッカーの特訓とは関係なさそうな施設だが...伝説のイナズマイレブンはここでどうやって特訓していたんだ?

 

 

『この施設はタイマー式で、設定した時間が経過するまで出られないわ。とりあえず2時間で設定しておくから、頑張ることね。』

 

 

雷門さんのアナウンスがあり、それが終わると設備が急に動き出した。

そこからは地獄だった。走り続けなければ車に轢かれるものだったり、避けなければ最悪死ぬのでは?と思うようなビームが打たれたり、永遠に走り続けさせられるルーレットのようなものだったりと、おおよそサッカーには関係なさそうなトレーニングが続いた。

 

唯一、円堂の行ってるトレーニングについては、マシンガンからボールが連続して打たれてくるという、まあそれくらいなら...というような内容だったが。

 

 

.....

....

...

..

.

 

2時間後

 

 

 

ギギギギギ

 

 

「あら、終わったようね。」

 

「た、大変!」

 

「ドリンクとタオル持ってきます!」

 

 

何とかトレーニングをクリアし、外へ出る。

みんなぼろ雑巾のごとくボロボロになっており、それを見た秋と音無さんはドリンクとタオルを取りに走っていった。

 

 

「よし...明日からもこの練習を続けるぞ...!」

 

「「「お、おう....」」」

 

「ハァ...ハァ....こ、こんな練習、二度と御免だぜ...」

 

 

 

そうして俺たちは、この日からイナビカリ修練場で特訓を続けた。

最初はボロボロになっていた俺たちだが、慣れてくると何とかやっていけるようになっている。

そして、少し余裕が出てきたので俺は豪炎寺と共に必殺技の特訓を再開した。何度もぶっ倒れそうになったが、次の試合には必ず勝ちたい。いや、勝たなければならない。仲間を馬鹿にされたままでは終われない!俺は自分を奮い立たせて特訓を続けた。

 

 

 

そして、試合当日....

 

 

「さあ今回はここ、御影専修農業高校附属中学校のグラウンドで、我らが雷門中と御影専農中の試合が行われようとしています!」

 

 

 

「お前たち、疲れは残ってないな?」

 

「はい、大丈夫っス!」

 

「ああ、何とかな...」

 

「みんな。俺たちならきっと勝てる!だから思う存分、サッカーを楽しもうぜ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

 

「さあ!まずは雷門中ボールで試合開始だ!」

 

 

 

今回の俺たちのフォーメーションは攻撃重視のスタイルだ。今回は俺もスタメンに入っている。

フォワードに俺、豪炎寺、染岡。ミッドフィルダーに半田、マックス、少林、宍戸。ディフェンダーに風丸、影野、壁山。キーパーが円堂だ。

 

 

ピィィィィィ!

 

 

「行くぞ!」

 

「「おう!」」

 

 

俺と豪炎寺、染岡が駆けあがる。だが、御影専農の選手は動こうとしない。

まさか俺たちを舐めているのか?俺たちのシュートでは杉森からゴールは奪えないと。

だったら見せてやろうじゃないか。俺たちがあの時よりもレベルアップしているということを。

 

 

「決めろ、染岡!」

 

「おう!”ドラゴンクラッシュ”!」

 

 

染岡のシュートが杉森へと向かっていく。その瞬間、御影専農のディフェンダー陣が並んで防ぎにくる。彼らはボールに足を当てて効率よく勢いを削ぎ、最終的には全く勢いのないボールが杉森の手に渡った。

 

 

「何だと!?俺の”ドラゴンクラッシュ”が...」

 

「データ通り。行くぞ、お前たち。オフェンスフォーメーションα1だ!」

 

「「「了解。」」」

 

 

御影専農はシステマチックなフォーメーションで攻めあがってくる。

完璧に統制された、まるでロボットのような動きだ。俺たちのデータを参照して、俺たちがちょうど届かないギリギリのラインを狙っているのか。

 

 

「(だったら!)」

 

「何っ!?」

 

 

俺は先ほどよりもスピードを上げて、パスコースに割り込む。

すると丁度俺が間に入るタイミングでボールが俺の元へと跳んできた。

やはり、彼らは俺たちのデータを参照しているようだ。...."イナビカリ修練場での特訓前"のな。

 

 

「お前たち、攻めあがるぞ!ついてこい!」

 

「「おう!」」

 

 

 

「何故だ。彼のスピードがデータと合わない。」

 

「データデータって...サッカーはデータだけでやるスポーツじゃねえんだよ!行け、染岡!豪炎寺!」

 

 

俺は染岡にパスを出す。どんどん攻めていくんだ。

 

 

「”ドラゴン”!」

「”トルネード”!」

 

 

「そのシュートも想定済みだ。”シュートポケット”!」

 

 

バチバチバチバチ!

 

 

「っ、何っ!?」

 

 

”ドラゴントルネード”は”シュートポケット”に防がれるが、威力を落とし損ねたようでまだ勢いの残ったボールが杉森を襲った。杉森は両手でそれを防ぐが、ボールはゴール前の上空へと弾かれてしまう。

 

 

「壁山!」

 

「はいっス!」

 

 

そこに豪炎寺、壁山が合わせにいく。

 

 

「「”イナズマ落とし”!」」

 

 

今度は”イナズマ落とし”が杉森を襲う。

杉森も負けじと体勢を立て直し、シュートを防ぎにかかった。

 

 

「”シュートポケット”!」

 

 

バチバチバチバチ!

 

 

「ぐっ!」

 

 

再びボールは杉森によってゴールを防がれる。だが、これも完全に止めきれず杉森はボールを弾いてしまう。

 

 

「これならどうだ!”ウイングショット”!」

 

 

そのボールを俺がシュートする。この連打、どう止める!

 

 

「くっ、”ロケットこぶし”!」

 

 

今度はさっきとは違う必殺技を繰り出され、再び防がれてしまった。

これが杉森の実力か...何て奴だ。言うだけのことはあるってことか。

 

 

 

「何と杉森!染岡、豪炎寺、嵐山のシュートをすべて防ぎ切った!」

 

 

「(おかしい...シミュレーションでは”シュートポケット”で対応できていた。)」

 

 

杉森が首をかしげている。無理もないだろうな。データ通りなら”シュートポケット”だけで対応できていたとでも思っているだろうが、俺たちはイナビカリ修練場での特訓で一回りレベルアップしている。データがすべてじゃないってことをみせてやるんだ!

 

 

「オフェンスフォーメーションβ6!」

 

「「「了解。」」」

 

 

再び御影専農の選手が攻め始める。今度はさっきと攻撃パターンが違い、俺たちが絶対に触れられないであろうルートで攻めあがっている。どうやら今の俺たちのデータをインプットしたようだな。

 

 

「っ、速いでやんす!」

 

「円堂!」

 

 

見事なパス連携に栗松、風丸が抜かれてしまい、下鶴と円堂が1対1になってしまった。

 

 

「行くぞ。”パトリオットシュート”!」

 

「させるか!”熱血パンチ改”!」

 

 

下鶴のシュートと円堂の”熱血パンチ”がぶつかる。パワーは円堂の方が上のようだが、あの回転...マズイ方向に弾かれそうだ...!

 

 

 

「壁山、影野!フォローに...っ!」

 

「む、無理っス!」

 

「俺の存在感が...」

 

 

何と、二人ともピッタリと貼りつかれていて円堂のフォローに行かせてもらえていない。

他のみんなもフォローには間に合いそうにない。そして円堂が下鶴のシュートを弾いてしまう。

そこに別の御影専農の選手、山岸が走りこんでいる。

 

「何っ!?」

 

 

そのまま山岸がヘディングし、円堂はさすがに反応できずゴールを決められてしまった。

 

 

 

「ゴォォォォォォル!雷門、先制点を奪われてしまった!」

 

 

 

 

「くそっ!」

 

「ドンマイだ、円堂。俺たちが必ず点を取ってくる!」

 

「そうだ、円堂!俺たちに任せておけ!」

 

「嵐山...染岡...」

 

 

ピィィィィィ!

 

 

雷門ボールで試合が再開する。俺たちはまず1点取って同点に追いつこうとしたが、御影専農は思いもよらない戦術を仕掛けてきた。

 

 

「ディフェンスフォーメーションγ9!」

 

「「「了解。」」」

 

 

「っ、しまった!」

 

「みんな、ボールを奪う......何!?攻めてこない!?」

 

 

何と、御影専農の選手は半田からボールを奪った後、攻めには来ないでパスを回し始めた。

まさか、1点取って後は時間を稼ぐつもりか!?

 

 

「ちくしょう!ボールが奪えねえ!」

 

「こいつら!くそ!」

 

 

何とかボールを奪おうとするも、御影専農の選手は全員でボールを守り、俺たちはなかなかボールを奪えなかった。どんどん時間は減っていき、ついには前半終了の笛が鳴ってしまうのであった。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

 

そして後半が開始した。俺たちが先攻だったため御影専農ボールで試合が再開したのだが、やはり彼らは後半も逃げ切りを狙うようで、早々にボールを後ろに回して俺たちから遠ざけ始めた。

 

 

「くそ!これじゃあマズイぞ!」

 

「慌てるな、染岡!」

 

「だけど、嵐山!」

 

「俺に任せろ!」

 

 

俺はそう言って染岡を落ち着かせ、フィールド全体を見渡す。

そして前半と後半の御影専農の動きを確認する。

 

 

「なるほどな...行くぞ、お前たち!全員で俺に続け!」

 

「お、おい嵐山!一体何をしようとして...」

 

「いいからついてこい!"全員"だ!」

 

「お、おう...」

 

「よし!相手選手一人ひとりにマークにつけ!豪炎寺はいつでもシュートを打てる態勢に!」

 

 

俺の指示通り、全員がそれぞれのマークにつく。豪炎寺はシュートを打てるよう杉森の前へ。

 

 

『馬鹿め。一人ひとりについても、シュートを打つために一人減るから空いてるではないか。パスを回せ!』

 

「了解。」

 

 

 

「あっと!ボールをキープしていた藤丸、山なりのパスでディフェンスの上を行った!」

 

「くそ!」

 

 

 

「ボールは大きく弧を描いて、フリーになっている山岸のところへ!」

 

 

完全フリーになっている山岸にボールが渡る。誰もがそう思ったその時、一人の男によってそのボールはカットされる。

 

 

「「「「!?」」」」」

 

「いいぞ、円堂!」

 

「おう!」

 

 

円堂が俺の思惑通り、前線へと上がってきてボールをカットした。

ゴールキーパーがゴールを放って前線にあがってくるなど、普通は考えられないだろうからな。全員が驚き、円堂を見ている。

 

 

「行くぞ!杉森!」

 

「な、なぜ君が!」

 

 

円堂がシュートを打つ。全員の意表を突いたシュートだったけど、本職ではない円堂のシュートは杉森ががっちりと防いでしまった。

 

 

「くっそー!」

 

「なぜだ。キーパーである君が、なぜシュートを打つ!」

 

「何でって...楽しいからさ!」

 

「たのしい....?」

 

 

 

 

「惜しかったぞ、円堂!」

 

「円堂!早く戻れ!」

 

「へへ!久しぶりにシュート打ったな~!」

 

 

円堂は染岡に怒鳴られて、走ってゴール前へと戻っていく。

俺は杉森の方を見る。杉森は円堂から受けたシュートを思い出しているのか、手に持ったボールを見つめている。

 

 

「.....オフェンスフォーメーションα7!」

 

『何!?』

 

 

先ほどまで守りに入っていた御影専農の選手たちが、杉森の指示に従って攻めだした。あちらの監督は何やら驚いているが、試合を止めることはできない。

 

 

「下鶴。」

 

「ああ。」

 

 

目にもとまらぬ速攻で、ボールは一気にフォワードの下鶴へと渡る。

円堂は何とかゴール前に戻っていたが...

 

 

「食らえ!”パトリオットシュート”!」

 

「っ、豪炎寺!ついてこい!」

 

「円堂!?何を!?」

 

「いいから!」

 

 

円堂は豪炎寺と共に、ボールに向かって走って行く。

そして、円堂と豪炎寺はクロスしてボールを蹴り返す。

 

 

「なんだと!?」

 

 

円堂たちのまさかのプレーに、シュートを打った下鶴は驚いていた。

二人の放ったシュートは稲妻を帯びてゴールへと向かっていく。

 

 

 

「な、なんだこの数値は!?こんなもの、データにはない!ありえない!ありえるかあああ!!!!!」

 

 

杉森はシュートの威力がデータを上回っていたことに驚いたのか、必殺技も使わずに両手でボールを受け止める姿勢に入った。だが....

 

 

「ぐあああ!」

 

 

杉森の健闘むなしくシュートの勢いは止まらずにそのまま杉森と共にゴールへと突き刺さった。これで1vs1。逃げ切られる前に同点に追いつくことができた。

 

 

その後も豪炎寺、染岡の”ドラゴントルネード”により追加点を奪うと、途端に御影専農の動きが止まりだす。もう終わりだ、とつぶやいているのが聞こえたが...

 

 

「(この程度で終わるのか。いや、そんなはずはない。レベルアップした俺たちのシュートにも対応し、円堂からもゴールを奪ってみせたこいつらが...ここで終わるはずがない!)杉森!行くぞ!」

 

「っ!」

 

「”ウイングショット”!」

 

 

俺は渾身のシュートを杉森に放つ。ボールが勢いよく杉森に、ゴールに向かっていく。

 

 

「負ける...?嫌だ...俺は....負けたくない!」

 

 

杉森は”シュートポケット”で対応するがすぐにバリアは突破される。

杉森が両手でボールを抑え、後ずさりながらもなんとかシュートを止めた。

 

 

「「「キャプテン!」」」

 

「お前らもそうだろう!俺は勝ちたい!最後の瞬間まで諦めずに戦おうじゃないか!」

 

「「「...おう!!!」」」

 

 

「ふっ...(円堂の熱さが、杉森たちを変えたか。)」

 

 

そこからはお互いがボールを譲らず、白熱の展開が続いた。

円堂も杉森もゴールを許さず、2vs1のまま試合はロスタイムへと入ろうとしていた。

 

 

「決めろ!豪炎寺!」

 

「おう!」

 

 

円堂から豪炎寺にボールが渡る。そして、豪炎寺はボールを上空に蹴り、シュート体勢に入った。

 

 

「”ファイアトルネード”!」

 

「させるかあああああ!」

 

 

豪炎寺が”ファイアトルネード”を打った瞬間、下鶴がそれを阻止するようにボールを蹴って対抗する。豪炎寺と下鶴はそのまま地面へと落下していく。

 

 

「豪炎寺!」

 

「改!」

 

 

ドガーン....!

 

 

 

二人が落下し、砂埃が舞う。豪炎寺は動けそうになさそうだが、下鶴はボールを頭で転がし、杉森へとパスを出す。

 

 

「キャプテン....」

 

「改....っ!」

 

 

すると、杉森はドリブルで前線へと駆け上がっていく。

染岡を抜き、半田、マックスとどんどん抜いて、ゴールへと突き進んでいく。

 

 

「行くぞ、円堂ぉぉぉぉぉ!」

 

「来い、杉森!」

 

「うおおおおおおおお!!!」

 

「”ゴッドハンド”!」

 

 

杉森がシュートを放つ。フォワードも顔負けの勢いでボールが円堂へと向かっていく。そんな杉森の気持ちのこもったシュートに応えるためか、円堂は”ゴッドハンド”を繰り出し、がっちりとシュートを受け止めた。

 

 

 

ピッピッピィィィィ!

 

 

そして、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。

最後は円堂が杉森のシュートを受け止め、2vs1で俺たち雷門が勝った。

これで準決勝進出...あと一つ勝てば、帝国学園との決勝戦だ。

 

 

「「杉森!」」

 

「円堂...それに嵐山。」

 

「最後のシュート、良いシュートだったな。」

 

「ああ。気持ちのこもったすげえシュートだった!またサッカーやろうぜ!」

 

「ふっ...ああ、また。」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

翌日

 

 

「「「ええ!?」」」

 

「ドクターストップ!?」

 

「ああ...次の準決勝、出られそうにない。」

 

「そ、そんなぁ....」

 

 

 

次の準決勝、豪炎寺抜きでの試合になるのか...どうなることやら....

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目金、立つ 

嵐山 side

 

 

「ええ!?嵐山も出場できない!?」

 

「すまん、円堂...」

 

 

御影専農との試合から二日経ち、俺たちは部室にて次の試合への確認を行っていた。

俺はというと、昨日違和感を感じて朝、通院してから登校したのだが...まさかのドクターストップ。

別に怪我というわけではないが最近の無理が祟ったのか、休憩を挟みつつの短時間の練習なら良いが、長時間の試合はNGと言われてしまった。まあ最近は豪炎寺と一緒に夜遅くまで練習していたのもあり、さすがに頑張りすぎたようだ。

 

 

「マジか...豪炎寺だけじゃなくお前まで...」

 

「だが、次の試合を休めば決勝には出られる。だから...勝ってくれ。」

 

「嵐山...わかった!必ず勝って、決勝で帝国と再戦だ!」

 

 

こうして円堂たちは俺と豪炎寺を抜いて練習を開始した。

次の対戦相手は尾刈斗中か秋葉名戸中のどちらか勝った方だ。正直、秋葉名戸は聞いたことが無い学校だし、尾刈斗は俺たちに負けてからものすごく特訓しているらしいから、普通に考えれば尾刈斗があがってくるよな。

 

 

そんなこんなで練習を続けていたのだが、試合結果の確認をしに行っていた音無さんから、衝撃の結果が告げられた。

何と秋葉名戸が尾刈斗に勝利したという。あの尾刈斗が負けるとは、秋葉名戸って一体どんな学校なんだ...?

 

 

「えっと...それが...試合前日までメイド喫茶に入り浸っていたそうです...」

 

「メイド喫茶...?」

 

「何ですと!?」

 

「お、おう...目金、どうした急に。」

 

「ふふふ...これはどうやら偵察に行くしかないようですね。」

 

「は?」

 

「行きましょう!メイド喫茶へ!」

 

 

め、目金のやつ、わかりやすいくらい気合が入っているな。

そんなわけで、俺と豪炎寺、マネージャー以外のみんなは秋葉名戸が入り浸っているというメイド喫茶へと向かうことになった。

雷門さんはそんな彼らをくだらないと一蹴して、生徒会の仕事をしに去っていった。

俺と豪炎寺は足に負担がかからないようなトレーニングとリハビリを行い、秋と音無さんはその補助をしてくれている。

 

 

 

「よし...だいぶ形になってきたな。」

 

「ああ。ずいぶんと”ファイアトルネード”をマスターしたようだな。」

 

「豪炎寺の指導が上手なおかげさ。」

 

「これなら次のステップに行けそうだな。」

 

「ああ。」

 

 

俺はまずは簡単なところからということで、豪炎寺に”ファイアトルネード”を教えて貰っていた。

”ファイアトルネード”自体が簡単な技というわけではないが、本来の使用者である豪炎寺から直接教えてもらえることから、まずはこの技を覚えてみるという話になった。ここ数日練習していたが、だいぶものになった。次のステップへ進むとしよう。

 

 

 

「それにしても豪炎寺先輩は、嵐山先輩に”ファイアトルネード”を教えて良かったんですか?」

 

「ん?何故だ?」

 

「だって、”ファイアトルネード”といったら豪炎寺先輩の代名詞じゃないですか。」

 

「ふっ...”ファイアトルネード”は既に御影の下鶴にコピーされている。俺だけの必殺技じゃないさ。それに”ファイアトルネード”を習得することで嵐山がレベルアップするなら、俺としては問題ない。嵐山のレベルアップは、このチームには必須だからな。」

 

 

 

豪炎寺のやつ、ずいぶんと俺を評価してくれているようだな。

俺のレベルアップが、このチームには必須か...なら、その期待に応えるためにも頑張らないとな。

 

 

「次のステップ....ボールに力をためる方法かな。一度放った時はボールにうまく力がためられてなかったから、蹴った瞬間は威力が合ったけど徐々に落ちていった。」

 

「そうだな。イメージとしては、雷雲から雷の力を纏わせてる...といったところか?」

 

「ああ。...ボールとの距離が離れているから、うまくパワーを伝えられていないのか。」

 

「そうかもしれないな。」

 

「あの~...だったら、もっとボールに近付いてみるのはどうですか?」

 

「ボールに近付く...だが、雷の力を纏わせている以上、近付くには俺が空中に浮く必要がある。それはさすがに難しい。」

 

「じゃあ、地面を盛り上げて空に近付けばいいんですよ!」

 

「っ!」

 

 

そうか...何も俺が近付こうとする必要はない。"俺がボールに近付く"のではなく、"俺をボールに近付けさせれば"いい。

音無さんのアドバイスのおかげで、少しずつだが俺の中で必殺技のイメージが固まってきた。

 

 

「ありがとう、音無さん。君のおかげでかなりイメージが固まったよ!」

 

「いえ!お役に立てたなら良かったです!」

 

「うん!...よし、早速試してみるか。」

 

 

そう言って、俺は練習を再開した。まだなかなかうまくは行かないが、最初にやった時よりはうまくいってる。

豪炎寺や音無さんのおかげだな。この調子でこの必殺技を完成させて、帝国学園に、鬼道にリベンジするんだ。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

円堂 side

 

 

「うん...うん...わかったわ。」

 

「それで、どうだって?」

 

「うん...何でも会場に向かう電車が止まっちゃったらしくて...後半には間に合うって言ってたわ。」

 

「そっか...まあ、嵐山は今日の試合には出られないし、仕方ないか...」

 

 

今日は俺たち雷門中と秋葉名戸の試合なんだけど、嵐山がなかなか来なくて連絡したところだ。木野が言うには電車が止まっちゃったらしい。試合にも出られないし、とことんついてないな...

 

 

「今日はどうするんだ?俺のワントップで行くか?」

 

「待ってください。僕が出ます!」

 

「目金先輩が...?」

 

「染岡さんのワントップでいいんじゃ...」

 

「いいじゃないか!やる気がある奴が出るのが良いだろう。」

 

「そうだな、豪炎寺の言う通りだ!目金、頼んだぞ!」

 

 

 

こうして、試合が始まった。今回は嵐山と豪炎寺は出られない。

フォワードは染岡と目金、ミッドフィルダーは半田、マックス、少林、宍戸、ディフェンダーは風丸、壁山、栗松、影野、キーパーは俺だ。

 

 

雷門ボールで試合が開始。染岡を中心にみんなが攻めあがっていく。

 

 

 

「へっ、やっぱり大したことねえな。」

 

「そのまま決めちまえ、染岡!」

 

 

染岡はドリブルで相手を抜き去っていく。確かに秋葉名戸の選手の動きは、これまで戦ってきた奴らと比べるとそこまで良くない。というか、あんまり激しく動いてきてないような...

 

 

「行くぞ、みんな!」

 

「「おう!」

 

「「「”五里霧中”!」」」

 

「な、なんだ!?」

 

 

染岡がゴール前まで来ると、突然相手の選手3人が砂煙を巻き起こし始めた。

これも必殺技なのか!?

 

 

「目くらましか...だが、そんなの関係ねえ!くらえ、”ドラゴンクラッシュ”!」

 

 

染岡はそのままシュートを放った。ゴール正面から放ったため、そのままゴールに突き刺さったかと思われたが、砂埃が晴れるとなぜかボールはゴールには入らず、ラインから出ていた。

 

 

「なんだと!?」

 

「一体何が起こったんだ!?」

 

「ドンマイドンマイ!次は決めてくれ、染岡!」

 

「お、おう...」

 

 

俺は染岡に声をかけるが、染岡だけじゃなく半田たちも何が起こったのか分かっておらず動揺していた。そして、秋葉名戸ボールで試合が再開。だけど相手のよくわからない動きに本来の動きができず、そのまま相手がボールをキープする形で前半が終了してしまった。

 

 

 

 

「くそっ...調子狂うぜ...」

 

「でも相手の実力は大したことないし、後半はもっと攻めて点を奪おうよ。」

 

「マックスの言う通りだな。後半はディフェンダーも攻撃に参加してもいいんじゃないか?」

 

「そうだな...じゃあ、風丸と栗松は攻撃に参加してくれるか?」

 

「おう、任せておけ。」

 

「はいでやんす!」

 

 

 

 

そして後半が開始。秋葉名戸ボールで試合が再開したんだけど、前半と打って変わって秋葉名戸は全員で攻めあがってきた。

 

 

 

「こいつら、前半は手を抜いてたってことか!?」

 

「くそ!」

 

 

 

「僕たちは試合をフルで戦うだけの体力はない!」

 

「だから後半勝負!前半は体力を温存していたのさ!」

 

 

完全に油断していたみんなはどんどん抜かれていき、ついにはゴール前まで来てしまった。

 

 

「行くぞおおおおおお!”ど根性バット”!」

 

「な、何っ!?」

 

 

俺もシュートに反応できず、放たれたシュートはそのままゴールへと突き刺さってしまった。これで0vs1...先制点を取られてしまった。

 

 

「くそ...油断した...!」

 

 

 

何とか点を奪おうと染岡が果敢に攻めるが、さっきと同じでボールはゴールを通り抜けてしまう。一体どういうことなんだ...?

 

 

「っ、まさか...!」

 

「くそっ!もう一度だ!”ドラゴン”!」

 

「シュートを打ってはいけません!」

 

「っ!?目金!?」

 

 

再び染岡が必殺技を放とうとすると、目金がそれを制止した。

その隙を突かれて、染岡がキープしていたボールは秋葉名戸の選手によってクリアされてしまった。

 

だけど、砂煙が晴れるとそこには驚きの光景が広がっていた。

 

 

「き、貴様...離せ!」

 

「見破ってしまいましたよ!シュートが決まらなかったわけを!」

 

「ゴールをずらしている!?」

 

 

何と、秋葉名戸の選手が数人がかりでゴールをずらしていた。だからさっきからシュートが決まらなかったのか...!

 

 

「こんなことをしてまで勝ちたいんですか!」

 

「そうだ!僕らは絶対に優勝しなければならないんだ!」

 

「勝てば良いのだよ!勝てば!」

 

「っ...!」

 

 

 

 

半田のスローインで試合再開。半田は誰にボールを渡そうかときょろきょろしている。

 

 

「僕にボールをください!」

 

「半田!目金にボールを渡せ!」

 

「ええ!?....っ、わかった!頼んだぞ!」

 

 

半田のスローインで、目金にボールが渡る。目金はドリブルしながらかけていく。

 

 

「ここは通さん!」

 

「正々堂々、悪に挑む...それがヒーローでしょう!」

 

「っ!」

 

「スイカとボールをすり替えて相手を欺くなど、ヒーローのやることではありません!」

 

「うっ...うぅ...」

 

 

目金が相手に色々と言いながら、どんどん相手陣地に切り込んでいく。

何だかわからないけど、あいつすげえ...!

 

 

 

「染岡くん!”ドラゴンクラッシュ”を!」

 

「だ、だけどシュートを打っても...」

 

「僕に考えがあります!」

 

「...分かった!”ドラゴンクラッシュ”!」

 

 

染岡がゴールに向かって、シュートを放った。

 

 

「”ゴールずらし”!」

 

 

やっぱり、相手キーパーがゴールをずらしてシュートを外そうとした。

だけどその前に目金が間に入り、顔面でボールの軌道をずらした。

そして、ボールはそのままずらされたゴールへと突き刺さった。

 

 

『ゴーォォォォォォル!雷門中、土壇場で追いつきました!』

 

 

「こ、これぞ...メガネクラッシュ.....」

 

 

バタッ

 

 

「目金!」

 

 

目金が担架で運ばれていく。目金の行動で、秋葉名戸のみんなも考えを改めたみたいだ。そして目金の代わりに土門が入り、試合再開。

 

試合終了間近に染岡がシュートを決めて2vs1。そのまま試合終了で俺たちの勝利が決まったんだ。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

「すまん、試合に間に合わなかった....!」

 

 

俺が急いでみんなのところに走って行くと、そこには喜んでいるみんながいた。

どうやら試合には勝ったみたいだな....

 

 

「あら、嵐山くん。遅かったじゃない。」

 

「ああ、すまない雷門さん......ところで、どうしてメイド服?」

 

「っ!わ、忘れなさい!」

 

「え、あ、うん....(似合ってて可愛いと思ったんだけどな...)」

 

 

 

「さあ、次はいよいよ決勝...帝国学園との試合だ!」

 

「今度こそ、本当の意味であいつらに勝ってやるぜ!」

 

「リベンジでやんす!」

 

 

みんな気合入ってるな...だけど、土門だけ暗い顔をしているな。

やはりあいつは....

 

 

 

.




『嵐山は”ファイアトルネード”を習得した!』

豪炎寺や下鶴と違い、右足で放つのが嵐山の”ファイアトルネード”です。
前者は右半身を地面に向けて左回転しながら上空で蹴るのに対し、後者は左半身を地面に向けて右回転しながら上空で蹴ります。


Qそれって”バックトルネード”では?
A蹴り方が違います


嵐山の新たな個人技習得のためのものであり、察することがたやすいあの技への伏線でもあります。

.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帝国のスパイ

嵐山 side

 

 

「よし!今日の練習はここまでだ!」

 

 

円堂が練習終了を口にすると、1年生を中心にほとんどがその場にへたり込む。

帝国学園との試合に向けて練習もハードになっていることから、みんな疲れているんだろうな。

練習するのも良いが、少し休みを入れた方が良いかもしれん。

 

 

「嵐山先輩!これどうぞ!」

 

「お、ありがとう。」

 

「嵐山くん。これを受け取りなさい。」

 

「タオルか。助かるよ。」

 

 

 

「な、なんか嵐山さんだけ扱いが違うっス...」

 

「言うな、壁山...嵐山先輩と比べるとか...うぅ...」

 

「でも嵐山先輩って実際モテるよね。」

 

「そうでやんすね。俺もクラスの女子から嵐山先輩のことめっちゃ聞かれるでやんす。」

 

 

 

1年が何か集まって話してるが、何でこっち見てるんだ?

まあいいか...それにしても次は帝国学園か...

あの試合の時はまだ軸足を変えてから日が経ってなかったし、結局は豪炎寺に良いところ持ってかれたからな。ストライカーとして、俺にも思うところはあった。次の試合は必ず俺が先取点を取る。

 

 

「わりぃ、みんな。俺先に帰るな!」

 

「あ、おう。お疲れ、土門!」

 

「おう!お疲れ!」

 

 

俺が帝国学園との戦いについて考えていると、土門が突然先に帰った。

最近、ふらっといなくなることが多かったが...やはり少し話をしておいた方が良いかもしれない。

 

 

「土門先輩、最近一人でいること多いですよね。」

 

「そうだね.....音無さん。明日土門と少し話をしてくれないか?」

 

「えっ?話ですか?」

 

「ああ。俺たちには話しづらいことでも、マネージャーには話してくれるかもしれないし。それに後輩の音無さんの」

 

「なるほど....わかりました!嵐山先輩のためにも頑張ります!」

 

「え、いや...別に俺のためではないけど...まあ頼むよ。」

 

 

まあたぶん音無さんにも何も話さないだろうけど...

俺以外の誰かが土門がスパイ活動をしているところを目撃すれば、あとは何とかなるはずだ。

 

 

「(土門....その後はお前次第だからな。お前がただのスパイで終わるか...それとも...)」

 

 

.....

....

...

..

.

 

土門 side

 

 

 

「修練場のデータ........これか。」

 

 

俺は今、休憩と言って練習から抜け出し、部室を物色していた。

なぜかと言えば、俺が帝国学園からのスパイだからだ。

だけど、俺は今迷っていた。雷門中に来て、円堂や嵐山、雷門イレブンと一緒に過ごしている内に、いつの間にか俺はここでの生活が楽しくなっちまった。

 

 

「俺...何してんだろ...こんなことやって、あいつは...一之瀬は俺を軽蔑するだろうな....」

 

 

そんなことを思っていると、データを取る手が動かなくなっちまった。

俺にも多少の罪悪感はまだ残ってるみたいだな。

俺はデータを盗むのを辞めて、ランニングに行っていたと嘘を付けるように裏門から外に出ようとした。

 

 

「あれ...冬海先生....?」

 

「っ!!!!!な、何だ...君でしたか...」

 

「そんなところで何してるんですか?...それって、確か決勝の移動で使うバスですよね。」

 

「ええ、そうですよ。まあ、このバスが会場に向かうことはありませんがね。」

 

 

会場に向かうことは無い...?一体どういうことだ?

 

 

「ああ、そうだ。同じスパイのよしみで君には教えておきましょう。命が惜しいなら、君はこのバスに乗らない方が良い。」

 

「っ!ま、まさか...」

 

「くく...忠告はしましたよ。くくく....」

 

 

まさか、バスに細工したってのか!?

そこまでして、総帥は他の学校を潰したいっていうのかよ...!

そんなことが....まさか、今までも同じようなことがあったんじゃ...

 

 

「っ...鬼道さんはこのこと、知ってるのかよ....」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「それで...データは手に入ったのか?」

 

「いえ...」

 

「なら、何故呼び出した。」

 

 

俺は結局、データを盗む前に鬼道さんを呼び出した。

移動用のバスに細工をすることを、この人が知っているか知りたかったからだ。

 

それに俺はもうこれ以上、総帥のやり方にはついていけない...!

 

 

「鬼道さんは知ってたんですか....総帥が移動用のバスに細工させたこと...!」

 

「何だと!?」

 

「っ...やっぱり知らなかったのか...」

 

 

良かった...大人たちは汚い奴らばっかりだったけど、帝国イレブンのみんなは純粋にサッカーを楽しんでいる奴らばかりだ。

 

この人たちまで、総帥のやり方に賛同しているなんてことがなくて、本当によかった。

 

 

「俺これ以上、総帥のやり方にはついていけません...!」

 

「........確かに今回のことはわかる。だが総帥は俺たち帝国を勝ち続けさせている。」

 

「そのやり方がこれですか!こんな勝ち方、本当の勝ちじゃないでしょう!」

 

「それは...今回だけかもしれん...今まではまっとうなやり方で...」

 

 

「お兄ちゃん!!!!」

 

「「っ!?」」

 

 

俺と鬼道さんが隠れて話していると、俺が隠れている方とは反対の方で声が響いた。この声は音無か...それにしてもお兄ちゃんって、もしかして鬼道さんのことか!?

 

 

「春奈...」

 

「ここで何をしているの?今度は一体何を企んでいるの!?」

 

「っ...」

 

「待ちなさい!」

 

「放せ、春奈。俺たちは会ってはいけないんだ。」

 

「あっ...」

 

 

そう言って、鬼道さんはこの場を去っていった。

まさか鬼道さんと音無が兄妹とはな...偶然とはいえ、余計なことを知ってしまった。

 

だけど、それとは別に決心もついた。

俺は...もうスパイは辞める。もう総帥には従えない。

雷門イレブンを、円堂や嵐山を傷付けるのはもう嫌だ。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

「わりぃ!休みすぎちまった!」

 

「遅いぞ、土門!」

 

「へへ、わりぃわりぃ!行くぜ、染岡!」

 

「おっしゃ!来い!」

 

 

 

土門のやつ、随分とすっきりした顔つきだな。

どうやら吹っ切れたみたいだ。それならこれ以上、俺が何かする必要は無いかもな。

 

 

「音無さん、どうしたの?」

 

「.....」

 

「音無さん?」

 

「...あ、えっ!?」

 

「もう...どうしちゃったのよ。」

 

 

土門とは逆に、秋に頼まれて土門のメンタルケアに行った音無さんが元気無くなっているな。何かあったんだろうか。心配だ。

 

 

そんなこんなで練習を続けていると、珍しく冬海先生がグラウンドにやってきた。この人、監督とは名ばかりの置物だからな。事務連絡するくらいで、練習には来たことなかったのに。

 

 

「私のことは気にせず。どうぞ練習を続けて下さい。」

 

「よし!じゃあ練習再開だ!」

 

 

円堂の声とともに、みんな練習を再開しだした。

それにしても、冬海先生は何であんなににやけているんだろうな。

ちょっと不気味だ。

 

だが気にしすぎてもダメだな。

練習に身が入ってないのは問題だ。

そう思って、気合を入れ直して練習を再開しようとしたが、雷門さんがこちらに歩いてくるのが目に入り、動きを止めた。

 

普段だったら気にしないんだが、何やら怒り心頭といった様子だからな。

 

 

 

「冬海先生、ちょっとよろしくて?」

 

「おやおや、夏未お嬢様。私に何か御用でしょうか。お嬢様の言うことでしたら喜んでお聞きしますよ。」

 

「あら、そう。なら一つお願いをしてもいいかしら?」

 

「はい、もちろんでございます。何用でしょうか?」

 

「ええ。私も理事長の代理として仕事しなくてはならないの。だから...移動用のバスの状態を確認させて貰えるかしら?」

 

「なっ!?ば、バスですか!?」

 

 

冬海先生のあまりの反応に、みんなが練習を辞めて二人を見だした。

それにしてもあの反応...たかがバスの状態を確認するだけだというのに大げさな反応すぎやしないか?

 

 

「い、いえお嬢様...私は大型の免許はもっておりませんので...」

 

「大丈夫よ。ちょっと私有地の中で動かしてもらうだけ。誰も運転しろとは言っていないわ。」

 

「で、でもですね...」

 

「あら、私の言うことは聞いてくれるのではなくて?」

 

「う、うぐぐ...」

 

 

「(良かった...ちゃんとあの手紙を見てくれたみたいだな...)」

 

「...(土門が安心したような様子だな。なるほど...冬海先生もスパイだったってことか。)」

 

 

そしてあの反応...つまりはバスに何か細工したわけだな。

まさかそこまでやるとはな....

去年は雷門中を嵌め、今回はとうとう俺たちを害そうとするとは。

勝つためには何でもやる...とことん汚い奴だな、影山。

 

 

 

冬海先生は反論できないのか、雷門さんとともに駐車場へと向かった。

俺たちもあまりの状況に練習を再開できず、自然と駐車場へと向かいだした。

 

 

「さあ、エンジンをかけて、動かしてください。」

 

「は、はい.....」

 

 

そう言って、冬海先生は車のキーを差し込み、エンジンをかけようと回しだす。

 

 

「あ、あれ~?お、おかしいな...バッテリーがあがってるのかな...ハハハ...」

 

「寒い芝居は結構!!!!早くエンジンをかけなさい!」

 

「ヒィッ!」

 

 

雷門さんのあまりの迫力に、冬海先生は悲鳴を上げながらエンジンをかける。エンジンはかかったものの、冬海先生はバスを走らせようとしない。

 

 

「さあ、動かしてください。....早く!」

 

「っ...で、出来ません...」

 

「ちょっと動かして、すぐ止めるだけです!早くしなさい!」

 

「で、出来ません!出来ないものは出来ないんです!」

 

 

なるほどな...動かすことができない、いや...俺たちを害するつもりだというなら恐らく、動かすことができないのではなく、止めることができないんだろうな。

 

 

動かせないだけなら、最悪別の手段で移動すれば間に合う。

だが移動したあと、止めることができなければどうなる。

当然、信号や曲がり角で止めようとして止められなければ、事故を起こす。たとえその事故を生き残って、会場に辿り着いたとしても...事故で怪我をした状態では満足に戦うこともできないだろう。

 

 

 

「ハァ.....ここに、恐るべき犯行を告発する手紙があります。手紙には移動用のバスに対して、意図的に事故を起こさせるような細工がしてあると。そして、その犯人があなたであるとね。...どうなんです、冬海先生!」

 

「くっ..........くくく.....フハハハハハ!」

 

 

観念したかのように、冬海先生はハンドルに覆いかぶさった。

かと思いきや、突然高笑いしながらバスを降りだす。

 

 

「そうですよ。私はこのバスに細工をしました。ブレーキがかからず、事故を起こすようにね!」

 

「そ、そんな...冬海先生が...」

 

「なんでそんなことを...」

 

 

みんなが口々に動揺を言葉にしている。

さすがにこれほどのことを受け止めるのはきつい。

本当にこのバスに俺たちが乗っていれば、最悪誰かが死んでいたかもしれない。俺たちだけじゃない。もしかしたら誰かが事故に巻き込まれていたかもしれないんだ。

 

 

「何故?くく...簡単ですよ。あなたたちが決勝戦に出るのが不都合な人間がいるからです。」

 

「そんなことのために、俺たちに大怪我させようってのかよ!」

 

「君たちはあの人の怖さを知らないんだ!!!!!」

 

「「「っ!?」」」

 

「もう結構!こんなことをしでかしたあなたに、教師である資格はありません!即刻、この場から去りなさい!」

 

「くく...クビってことですか。まあいいでしょう。こんなくだらない生活には飽き飽きしていたところです。」

 

 

 

そう言って、冬海先生....いや、冬海は裏門から去っていく。

だが最後に振り返って、とんでもない爆弾を落としていった。

 

 

「ああ、そうだ。スパイが私だけと思わないことですね。.....ねえ、土門くん?」

 

「っ!」

 

「「「えっ!?」」」

 

「くくく.....アハハハハハハ!」

 

 

"土門がスパイである"...

その言葉にみんなが動揺を隠せずに土門を見ていた。

土門自身も突然の告発に動揺し、何も言葉を発せないでいる。

 

 

 

「土門さん....」

 

「そんな...嘘っスよね...」

 

「土門...お前...」

 

 

みんなが土門に対して、懐疑的な視線を送っている。

そんな視線を察してか、土門は溜息を吐いた。

 

 

「...そうだ。俺は帝国から来たスパイだったんだよ。」

 

「そんな....」

 

「土門!てめえ!」

 

「今まで悪かったな....っ...」

 

「あっ!土門くん!」

 

 

土門はみんなから責められ、耐えられなくなったのかこの場を去っていった。

 

 

「(やはりこうなったか...だが、円堂なら...)」

 

「お前ら、ちょっと待てよ!」

 

「円堂...だがよ!」

 

「わかってる。土門がスパイだったのは確かだ。だけど...あいつのサッカーは嘘じゃなかった!あいつが俺たちと一緒にいた時間は、嘘なんかじゃないだろ?」

 

「円堂の言う通りだ。」

 

 

円堂の言葉に、豪炎寺が賛同する。

だが二人の言葉をもってしても、まだ他のみんなは土門への不信感は拭えていないようだ。俺も力を貸すか。

 

 

「円堂、ここは俺に任せて土門を追ってくれ。」

 

「わかった。任せたぞ、嵐山!」

 

 

そう言って、円堂は土門が去っていった方へ走り出した。

豪炎寺もその後を追って、軽く走り出した。

 

 

「雷門さん、ちょっと手紙を借りるよ。」

 

「え、ええ...」

 

「みんな見てくれ。この手紙は冬海の犯行を告発した手紙だ。」

 

「それはさっき雷門が言ってたから知ってるぜ。」

 

「それがどうしたでやんすか?」

 

「手紙の文字だ。」

 

「文字........あっ!この文字、土門先輩の文字ですよ!」

 

「「「えっ!?」」」

 

 

俺の言葉に音無さんが手紙の文字を見ると、音無さんはすぐに察してくれた。

 

 

「そう。この手紙は土門が出したものだ。土門は確かにスパイだったかもしれない。だがきっと、俺たちと過ごす内にスパイを辞めたくなったんだ。そして、恐らく偶然知ってしまったんだろうな...冬海の所業を。」

 

「つまり、土門さんは俺たちを助けるために、帝国を裏切ったってことっスか?」

 

「そういうことだ。あいつは俺たちの仲間だ。これまでも....そして、これからも。誰にだって、良いところと悪いところがある。だがそれで喧嘩して、仲直りして...そうやってお互いを許し合うのが仲間ってものだと俺は思う。」

 

「嵐山さん...」

 

「だから...土門のことを許してやって欲しい。もしもあいつのことがまだ許せないというなら、これからのあいつを見てやって欲しい。」

 

「俺、土門さんがスパイだったのは悲しいっスけど、土門さんのことは嫌いじゃないっス...」

 

「俺も...あいつ良い奴だし、サッカーうまいからアドバイスとかくれるしさ。」

 

「「「僕(俺)も...」」」

 

「みんな.....じゃあ、きっと円堂が土門を連れてきてくれるはずだ。その時はあいつを迎え入れてやろう。」

 

「「「おう!」」」

 

 

こうして、土門は正式に俺たちの仲間になった。

冬海というスパイも消えたことで、俺たちを害そうとする奴は消えただろう。だが、それに伴ってあらたな問題も生まれてしまったがな...

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

翌日

 

 

 

「冬海先生がいなくなってせいせいしたっスね!」

 

「バレた時の冬海の顔ったら無かったよな!」

 

「さすが夏未さんね!」

 

「ふふ。」

 

「これで気持ちよく地区大会決勝だ!」

 

「あー...お前ら盛り上がってるところ悪いけど、ちょっといいか?」

 

「何だよ嵐山。」

 

 

みんなが盛り上がっているが、どうしても言っておかなければならないことがある。これを解決しないと、決勝には参加できない。

 

 

「.....フットボールフロンティア規約書を見てみろ。」

 

「「「「フットボールフロンティア規約書...?」」」」

 

 

おいおい、こいつら誰も知らねえのか。

まあ前回大会に出場している豪炎寺や土門、こういうのが得意な目金は知っているようだが。

 

 

「ハァ...規約書には、監督不在のチームは出場を認めない、と書いてある。」

 

「「「「えっ!?」」」」

 

「つまり、冬海がいなくなった以上、新しい監督を探さないとフットボールフロンティア本戦はおろか、帝国との決勝にも出場できないってことだ。」

 

 

俺の言葉に、全員が言葉を失う。

そして暫くの沈黙の後....

 

 

「「「えええええええええええ!?」」」

 

 

この規約を知らなかった全員が驚き声を上げた。

こいつら....ルールくらいしっかり読んでおかないとヤバいぞ。

これ以外にも結構有用なルールはあるのに。たとえば転校生の扱いとかな。大会期間中に転校してきた生徒も、転校の手続きさえ終わっていれば出場できるとか。

 

だから大会中に既に敗退している学校から、有力な選手をスカウトして出場されることもできるが...まあわざわざ転校してまで優勝しようとする奴はいないだろうな。

 

元々はやむを得ず転校する場合などに対応するための規約だしな。

 

 

「お、お前知ってたのかよ!?」

 

「し、知ってたわよ!だ、だからあなたたちはすぐに監督を探しなさい!これは理事長の言葉と思ってもらって結構です!」

 

「ええ....」

 

 

 

さて、新しい監督か....これから帝国と、影山と戦う以上は普通の監督じゃダメだよな...

 

 

「(どうしたもんかな...)」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

監督を探せ!

暫く更新してなかったので、連続更新してみました。


嵐山 side

 

 

「こうなったらみんなで監督を探すんだ!こんなことでフットボールフロンティアを諦められるか!」

 

「雷門夏未が頼めば誰かやってくれるんじゃねえか?そもそもあんたが冬海を追い出さなきゃこんなことにはならなかったんだ。責任取ってもらおうじゃねか!」

 

 

円堂が監督を探そうと提案する中、染岡が雷門さんに悪態をついていた。

確かにちょっと追い出すにも準備が必要ではあったけど、あのまま冬海を監督にしていても安心して戦えない。

 

 

「ふふ。冬海先生を顧問にしたままで、みんな試合なんてできて?」

 

「ぐっ...」

 

「とはいえ、いささか短絡的でしたねえ。せめて代わりの監督をたててから追放しても良かったんじゃないですか?」

 

「むぐぐ...」

 

 

目金が言っていることも正論だが、雷門さんの言っていることにも一理ある。

しかし、今は俺たちが言い争っている場合ではないな。

 

 

「お前らいい加減にしろ。」

 

「「「嵐山(くん)...」」」

 

「これ以上言い争っている暇があったら、とっとと監督をしてくれる人を探した方が賢明だ。」

 

「そうだぜ、みんな!それに夏未のおかげで助かったんだし、あんまり夏未を責めるなよ。」

 

「円堂.....そうだな。悪かった。」

 

「いえ...こっちも御免なさい。」

 

「僕も...すみませんでした...」

 

 

円堂のおかげで、染岡と雷門さん、目金は言い争いを辞めた。

しかし本当にどうしようか....雷門中にいる先生じゃ影山と戦うには心許ない。

かといってその辺にサッカーに詳しくて、影山と戦える人なんてそうはいないだろうし...

 

 

「円堂、嵐山。雷々軒の親父さんはどうだ。あの人は円堂のお祖父さんの特訓ノートのことを知っていた。」

 

「それだ!!!」

 

 

そう言って、円堂はすぐさま部室を飛び出していった。

あいつ、行動に移すのが早いのは良いことだけど、響木さんがそう簡単に監督になってくれるとは思えないな。

それにまともに話を聞いてくれるかも怪しい。

 

とりあえずみんなも円堂を追っていったので、俺は携帯と財布だけロッカーから取り出して後を追うことにした。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「「「監督になってください!!!」」」

 

「仕事の邪魔だ。」

 

 

全員で雷々軒について、円堂を筆頭に響木さんへお願いをした。

だが返ってきた返事はやはり良いものではなかった。

 

 

「す、すいません。あの...俺のじいちゃんを知ってるんですよね?秘伝書のことも知ってた。だったらサッカーも詳しいんじゃないですか?」

 

「あるいは...円堂のお祖父さんとサッカーをやってたんじゃないですか?」

 

「っ...」

 

「それ本当か!?」

 

「秘伝書のことを知ってたんだ。伝説のイナズマイレブンだったんじゃないかなって...」

 

 

土門の言葉に、響木さんは少しだけ反応を示した。

もしも本当に響木さんが円堂のお祖父さんとサッカーをやっていたのなら、恐らく俺の祖父とも...

いや、恐らくは本当なんだろうな。祖父は俺をよくこの店に連れてきていたし、響木さんと話す祖父はいつも楽しそうだった。

 

 

「あのな....注文しないならとっとと出ていけ!」

 

「ふん!だったらラーメン注文するもんね!醤油ラーメン!」

 

「あいよ。醤油ラーメン一丁。」

 

 

円堂の言葉に、響木さんはラーメンを作り始める。

しかし円堂...お前、財布持ってきてないだろう。

 

 

「あぁ!?さ、財布...部室だった...」

 

「大丈夫!部室ちゃんと鍵締めたから!」

 

「「「......」」」

 

「ら、ラーメンキャンセルで...」

 

「...........出てけええ!!!!!」

 

「「「うわあああああああ!」」」

 

 

ついにキレた響木さんは、円堂たちを無理やり店外へと放り投げた。

やはり一筋縄ではいかないか....

 

 

「....おい、坊主。お前も帰れ。」

 

「いやいや、響木さん。円堂が頼んだラーメン、捨てちゃうのもったいないでしょ。俺が食べるよ。」

 

 

そう言って、俺はラーメン代をカウンターの上に置いた。

とりあえず財布も持ってきておいて正解だったな。

 

 

「ふん....相変わらず達観した坊主だ。少しはガキらしくしろ。」

 

「あいにく、もう一人で生きていかなきゃならないからね。少しは大人びていくものだよ。」

 

「っ...そうか。宗吾さんも生意気なガキを残して逝っちまって、あの世でさぞ心配してるだろうな。」

 

「かもね。.....ねえ響木さん。あんた本当に伝説のイナズマイレブンなの?」

 

「....その話をするつもりは無い。」

 

「そっか..........」

 

 

何を話そうか考えていると、話が途切れてお互いに沈黙してしまう。

響木さんのラーメンを作る音だけが、店内に響いている。

 

 

「.....響木さんの過去に何があったかはわからない。だけど俺も、円堂も、そしてみんなも必死でフットボールフロンティア優勝を目指してるんだ。」

 

「...」

 

「円堂はすごいよ。あいつほどのサッカーバカは見たことが無い。」

 

「....ふっ...俺はあと3人ほど知っている。」

 

「えっ?」

 

「....円堂大介、奴の祖父であり、俺たちの監督だった。」

 

「っ!やっぱり、響木さんは伝説のイナズマイレブンなんだ。」

 

「もう40年も前の話だ...伝説なんて仰々しいもんじゃねえ。ただの負け犬さ。」

 

「......一体何があったんです?」

 

「.............あの頃の俺たちは負け知らずだった。監督である大介さん、そしてコーチであるお前の祖父、宗吾さんの指導でどんどん成長していくのがわかった。」

 

「っ!」

 

 

俺のじいちゃんも、伝説のイナズマイレブンの関係者だったのか。

じいちゃんの遺品はあまり触れないようにしていたから、リビングに飾ってあるトロフィーとか写真しか知らなかった。あそこにはじいちゃんの現役時代の写真しか無かったからな。

 

 

「だがフットボールフロンティア決勝へ向かっている時、事故が起きた。バスが横転したんだよ。」

 

「っ!それって....」

 

「だが俺たちは諦めなかった。地面を這い蹲ってでも会場へと向かっていたんだ。だが、会場に一本の電話が入った。雷門中の棄権を知らせる電話がな。」

 

「そんなっ!?」

 

「誰がそんな電話をしたのか、そんなことはどうでもいい。ただそれで俺たちは折れちまった。事故で大介さんは亡くなっちまったし、宗吾さんもまともに動ける体じゃなくなった。俺たちイナズマイレブンは終わっちまったのさ。」

 

「....」

 

「大介さんの孫、そして宗吾さんの孫だから忠告しておく。もう影山と戦おうとするな。お前らまで折れちまうことがあったら、俺は二人に顔向けできん。」

 

「........違うよ。」

 

「何っ?」

 

 

俺たちは違う。俺たちは絶対に折れたりしない。

たとえどんな困難があったとしても、たとえ過去のイナズマイレブンと同じ運命を辿ろうとも。

俺は地を這い蹲ってでも、影山を倒すために戦う。

 

 

「今の話を聞いて確信した。俺たちは戦わなきゃならない。伝説のイナズマイレブンの跡を継ぐものたちとして.....本当のイナズマイレブンになるために、影山を倒す!帝国に勝って、全国の強敵にも勝って...絶対にフットボールフロンティアで優勝する!」

 

「お前...」

 

「だってそれが俺や円堂にできる....俺たちをサッカーに導いてくれたじいちゃんたちにできる最高の恩返しだから!」

 

「っ!!!!」

 

 

「だから俺は戦うよ。....ごめんね、響木さん。」

 

「.....3本勝負だ。」

 

「えっ?」

 

「お前がシュートを打って、1本でもゴールを決めたらお前の勝ち。3本止められたらお前の負け。この老いぼれから1本もゴールを奪えない奴がエースストライカーじゃ、影山には勝てんからな。」

 

「いいよ。勝負しよう。それで....俺が勝ったら監督をやってくれるのか?」

 

「いいだろう。お前が勝ったら俺が監督になってやる。ただし、お前が負けたら...お前はサッカーを辞めろ。」

 

「っ!」

 

 

サッカーを辞める...か。考えたことも無かったな。

だが、だとしたら負けられないな。この勝負に勝って、響木さんに監督になってもらおう。

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「さあ、準備はいいか?」

 

 

響木さんがゴールの前でグローブをしながら言う。

なるほど...かなりの威圧感だな。どこに打っても止められるような錯覚に陥るくらいだ。

 

 

「いつでもいいよ。」

 

「ふっ...なら来い!」

 

 

響木さんがセーブする体勢に入った。

3本中1本でも決めたら勝ちだけど、俺は3本とも決めるつもりで行く。

そうじゃなきゃこれから先、戦っていけやしないからな。

 

 

「行くぞ!おらあああああああああああ!」

 

 

バゴンッ!

 

 

俺が蹴ったボールは勢いよく、ゴールの左側へと突き進んでいく。

響木さんもそれに反応して、ゴールの左側へと重心をずらしている。

 

 

ギュルルルルルッ!

 

 

しかしボールには鋭い回転がかかっており、急速に曲がり始め、当初とは反対の方へと進んでいく。

 

 

「くっ...!」

 

 

響木さんもゴールの左側へと重心をずらしていたから、ボールが反対にいったことで体勢を崩している。

これは決まったか...!

 

 

「舐めるな!”熱血パンチ”!」

 

 

バゴンッ!

 

 

「何っ!?」

 

 

響木さんの”熱血パンチ”によって、俺のシュートはいとも簡単に弾き飛ばされた。

ものすごい勢いで俺の元へと跳んできたので、俺はそれをトラップする。

 

 

「ふん...これで残り2本だ。」

 

「老いぼれとか自分で言っておいて、全然動けてるじゃん。....だったらこれはどうだ!”ウイングショット”!」

 

 

俺は自分の必殺技である”ウイングショット”を放つ。

白い翼の生えたボールが、ゴールへと向かって進んでいく。

 

 

「正面か。やはり俺を舐めているようだな!見せてやる。これが元祖ゴッドハンドだ!」

 

 

響木さんはそう言うと、右手にオーラをためて大きな手のひら型のオーラを発現させた。

すげえ迫力だ...これが元祖ゴッドハンド...円堂も負けちゃいないけど、すごいパワーだ...

 

 

俺の”ウイングショット”と響木さんの”ゴッドハンド”がぶつかり、激しいオーラのぶつかりあいが発生している。暫くそれが続いたが、徐々にボールの勢いは削がれていき、ついには響木さんの手にボールがおさまってしまった。

 

 

「これで残り1本だ。....残念だがこれまでだな、坊主。」

 

「すげえ...やっぱりすげえよ、響木さん。伝説のイナズマイレブンは実在したんだ...!」

 

「っ....最後のシュートだ。さっさと打ってこい。」

 

 

そう言って、響木さんは俺にボールを投げ渡してきた。

俺はそれを受け取り、最後のシュートの準備をする。

 

 

「(この人からゴールを奪うには、”ウイングショット”じゃダメだ。それに”ファイアトルネード”でも...今ここで”あの技”を完全に完成させなきゃ、この人には勝てない...!)」

 

「(何か仕掛けてくるな....面白い。全力で受けてたってやろう。)」

 

「(決める.....この勝負に勝って、俺たちは前に進む!)うおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

俺はボールを天高く蹴り上げ、さらに地面を盛り上げて自身も空高く上っていく。

雷雲から雷の力を得てボールに纏わせ、俺はさらに上空へとジャンプした。

 

 

「これが俺の新必殺技だああああああああああああ!」

 

 

そして回転しながら、ボールめがけて落ちていき、思い切りボールを蹴り落とす。

雷を纏ったボールは、盛り上がった地面を勢いよく破壊した後、ゴールへと向かって突き進んでいく。

 

 

「”天地雷鳴”!!!!!」

 

「(何てパワーだ.....だが、俺もキーパーとして負けられん!!!)止めてみせる!”ゴッドハンド”ぉぉぉぉ!!!!うおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

俺の”天地雷鳴”と、響木さんの”ゴッドハンド”がぶつかりあう。

辺り一面に激しくオーラが飛び交う中、徐々に徐々にボールは勢いを止めることなく響木さんを押し込んでいく。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおお!負けんぞぉぉぉぉ!」

 

「いけええええええええええええええ!」

 

「ぬおおおおおおおおおお!...ぐっ!ぐああああああああああ!」

 

 

ついに響木さんの”ゴッドハンド”は砕け散り、ボールはゴールへと突き刺さった。

 

 

「やった......やっと完成したんだ.....”天地雷鳴”....俺の新必殺技....!」

 

「.....坊主、お前サッカーは好きか。」

 

「っ!響木さん....」

 

 

俺が”天地雷鳴”を完成させたことに喜び、地面に寝転がっていると響木さんが俺の元へと来ていた。

それにしても、サッカーが好きか?...か。そんなの決まってるじゃん。

 

 

「大好きさ。サッカーは俺自身だ。サッカーがあったから、今の俺がいるんだ。」

 

「ふっ.....そうか。..........俺の負けだ。」

 

「響木さん....じゃあ!」

 

「ああ。監督になってやるよ。ただし覚悟しな。俺は宗吾さんと同じように厳しいぞ。」

 

「へへ...望むところだよ。」

 

「くくく....」

 

「「アハハハハハハ!」」

 

 

こうして、俺たちの監督問題は何とか解決することができた。

そしていよいよ、帝国学園との...鬼道との再戦が始まるんだ。

 

 

今度は絶対に勝ってやるからな、鬼道...!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦!帝国学園・前編

嵐山 side

 

 

「いよいよ決勝戦だ!燃えてきたぜ!」

 

「お、俺たちがあと1勝でフットボールフロンティア本戦に出場できるなんて...夢みたいっス。」

 

「何言ってるんだ、壁山!夢で終わらせない!俺たちは帝国に勝って、フットボールフロンティア本戦に勝ち上がる!そして、本戦でも勝ち上がって、絶対優勝しようぜ!」

 

「は、はいっス!」

 

 

「それにしても良かったですよね、監督が見つかって。」

 

「そうね。これも全部嵐山くんのおかげね。」

 

「ありがとう。」

 

 

いよいよ帝国との決戦当日となった。

俺たちはバス....ではなく電車で帝国学園へと向かっていた。

さすがにみんなバスが若干怖くなっているみたいで、安全を考慮して電車で行くことになった。

 

 

「嵐山先輩の活躍、期待してますからね!」

 

「あ、ああ...頑張るよ。」

 

 

音無さんから期待されてるけど、正直ちょっと緊張してる。

響木さんとの勝負の時はうまくいったけど、あれから何度やっても”天地雷鳴”が打てない。

イメージは掴めているんだけど、あの時はもう後が無い状況だったからか、火事場の馬鹿力という奴で成功しただけかもしれない。

 

 

「嵐山。」

 

「っ...どうした、豪炎寺。」

 

「何か悩みでもあるのか?少し暗いぞ。」

 

「あ、ああ...すまん。ちょっとな...」

 

「...そうか。お前のことだから大丈夫だとは思うが、プレーが始まったら集中しろよ。今回の相手は強敵だ。生半可な攻めでは勝てない。俺とお前、染岡で何としてもゴールを奪うぞ。」

 

「おう.....」

 

「....」

 

 

そうだよな...相手はあの帝国学園。鬼道を中心に佐久間、源田と良い選手が揃ってる。

特に源田はキング・オブ・ゴールキーパーという異名を持つほどの実力者だ。

あいつからゴールを奪うのは俺や豪炎寺でもきついだろうからな。

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「気を付けろ!バスに細工してきた奴らだ!落とし穴があるかもしれない!壁が迫ってくるかもしれない!」

 

 

響木監督の言葉に、みんなが周囲を警戒する。

いやいや...落とし穴はこのコンクリートの通路じゃまずないだろうし、壁が迫ってくるとかないでしょ。

....ないよな?

 

 

「全く....監督が選手をからかうなんて...」

 

「あはは...た、たぶん監督なりの緊張をほぐす方法なのかも...」

 

 

雷門さんも秋も呆れてるな...

その後は特に問題なく、ロッカールームまで来れた。

さすがの影山も、そんな露骨な妨害はしてこないか。

 

 

「ここが俺たちのロッカールームか。...あ、開けるぞ。」

 

ウィィィン

 

「うわあ!...って、鬼道!」

 

「(お兄ちゃん!?)」

 

 

円堂がドアを開けようとした瞬間、ドアが開いて鬼道が出てきた。

なぜ鬼道が雷門中側のロッカールームに...?

まさかあいつ、影山が何か仕掛けてないかチェックしてくれていたのか?

 

 

「無事に着いたみたいだな。」

 

「何だと!?まるで事故でもあった方がいいような言い方じゃねえか!この部屋にも何か仕掛けたんじゃねえのか!?何やってたのか白状しろよ!」

 

「染岡、辞めろ!鬼道はそんな奴じゃない!」

 

「止めるな円堂!」

 

「....勝手に入ってすまなかったな。」

 

 

疑心暗鬼になって鬼道に激昂する染岡だったが、円堂に止められた。

対する鬼道も訳は話さず、一言謝って去っていった。

 

 

「(お兄ちゃん....!)」

 

「....(音無さん...?)」

 

 

鬼道が去っていった方へ音無さんがこっそりと走っていった。

何しに行ったのか知らないけど、ここは敵地だし何が起こるかわからない。

さすがに危ないだろうから、連れ戻しに行くか。

 

 

「監督。音無さんが鬼道を追っかけて行っちゃったんで、ちょっと連れ戻してきます。」

 

「何?...わかった。お前も気を付けろよ。」

 

「はい。」

 

 

監督に断りを入れて、俺は音無さんを追いかけていった。

暫く走っていると、奥の方から声が聞こえてきた。

 

 

「一体何を企んでいるの!?」

 

「春奈...」

 

「信じないから!キャプテンは騙せても私は信じない!...あなたは変わってしまった!」

 

「っ....」

 

 

音無さんは鬼道に向かって叫んでいたが、鬼道は少しだけ悲しそうな顔をして去っていった。

あの二人、どういう関係なんだ...?

 

 

「気になるかね。」

 

「っ!」

 

 

背後から突然声をかけられ、驚き振り返るとそこには背の高い男がいた。

 

 

「初めまして。私は帝国学園サッカー部監督、影山だ。」

 

「っ...あなたが影山...」

 

「君に会いたかったんだ、嵐山隼人くん。」

 

「な、何故俺に...」

 

「才ある選手に目を付けるのは当然のことだ。鬼道しかり、豪炎寺修也しかり。そして...そんな彼らをしのぐほどの才を持つ者...それが君だ。」

 

 

っ...何を考えているんだ?

俺を褒めちぎって、何を企んでいる。

 

 

「...ずいぶんと警戒されているようだ。響木から色々聞いたようだね。」

 

「ええ。それにあなたが冬海に指示して、バスに細工しようとしたこともね。」

 

「ふっ...別に私はバスに細工しろなどという指示はしていない。ただ私は彼にこう言ったのだ。何としても雷門中を決勝に出場させるな、とね。まさか犯罪行為に手を染めるとは思わなかった。」

 

「っ...何とでも言い逃れができる。」

 

「くくく....ところで君はあの二人の関係を知っているかね。」

 

「...いや、知りませんよ。」

 

「そうか。ならば教えてあげよう。...あの二人は血の繋がった実の兄妹なのだよ。」

 

「っ!鬼道と音無さんが兄妹...」

 

 

だから、音無さんはあそこまで鬼道に....

逆に鬼道は音無さんを避けているように見えるが、それは一体何故なんだ...?

 

 

「幼くして両親を亡くした二人は施設で育ち、鬼道が6歳、音無春奈が5歳の時に別々の家に引き取られた。鬼道は妹と暮らすため、養父との条件を交わした。中学3年間、フットボールフロンティアで優勝し続けると。」

 

「っ!」

 

「鬼道は勝ち続けなければ妹を引き取ることができないのだ。地区大会レベルで負けたとなれば....鬼道自身も家から追い出されるかもな。」

 

「っ.....影山....っ!」

 

「くくく....忘れるな。雷門が勝てば鬼道たち兄妹は破滅する。」

 

 

「影山!?」

 

「ふっ...響木。久しぶりだな。...お互い良い試合をしようじゃないか。」

 

 

そう言って、影山は去っていった。

...俺たちが勝てば、鬼道と音無さんは....

 

 

「くっ.......大丈夫か、嵐山!影山と何を話していた!?」

 

「...それは.......その、道に迷ったのかと、心配してもらった...だけです....」

 

「そうか...........(本当に大丈夫なのか....いつも皆を支えてくれるような嵐山だが、今はそんな覇気を感じないが...)」

 

「(鬼道....音無さん.......俺は..............)」

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

ザバザバザバザバ

 

 

「....」

 

「嵐山くん。」

 

「あ、雷門さん...」

 

 

あの後、試合前の練習にも身が入っていなかった俺は、頭を冷やすために顔を洗っていた。

そんな俺のところに、雷門さんがあらわれた。手にはタオルを持っている。

 

 

「はいこれ。」

 

「ありがと....」

 

「...何かあった?」

 

 

俺が貰ったタオルで顔を拭いていると、雷門さんから心配した声色で聞かれた。

雷門さんにもわかるくらい、今の俺は悩んでいるのか....

 

 

「いや...別に...」

 

「顔を見ればわかるわよ。...私に話してくれないかしら。あなた言っていたでしょう?仲間がいるから、喜びは倍になるし、苦しみは半分になる、って。」

 

「雷門さん.........そうだね...実はさ...」

 

 

俺は影山に言われたことを雷門さんに話した。

鬼道と音無さんが兄妹であること、二人が両親を亡くして別々の家庭に引き取られたこと、鬼道がフットボールフロンティアで三年間優勝し続けなければ、音無さんを引き取ることができないこと。

 

 

「そういうことだったのね....」

 

「ああ....雷門が勝てば、二人は一緒に暮らせない...」

 

「.....しっかりしなさい!」

 

 

パチンッ!

 

 

「っ!」

 

「確かに音無さんと鬼道くんの話は可哀そうだと思うわ。でも、あなたはここに何をしに来たの!試合に勝つためにここに来たのでしょう!だったら試合に集中なさい!」

 

「雷門さん...」

 

「今のあなたには、私をサッカーへと引き込んだ輝きがなくってよ!」

 

「っ.......」

 

 

雷門さんはそう言うと、俺を置いて去っていった。

俺が今、ここにいる理由か....そうだな...円堂やみんなと誓ったもんな。

フットボールフロンティアで優勝しようって。それに響木さんとも話した。

影山を、帝国を倒してみせると。だったらこんなことしている場合じゃない...!

 

 

「待ってくれ、雷門さん....!」

 

「....何かしら。」

 

 

俺は雷門さんを追って走り、呼び止める。

もう迷ってる時間なんて無いんだ。それを思い出させてくれたのは、雷門さんだ。

 

 

「ありがとう。おかげで目が覚めた。」

 

「ふふ...なら良かったわ。」

 

「ああ.....全部君のおかげだ。だからこれからも、ずっと俺のことを見守っていてくれ。」

 

「なっ!?!?!?」

 

 

あ、あれ?

何か雷門さんが急に顔を真っ赤にして驚いているんだけど、どうしたんだろう...

 

 

「そ、そういうのはまだ早いのではなくて!?」

 

「え?....まあそうか。ちょっと気が早かったかな。」

 

「そ、そうよ....ま、まずはお互いを知るところから....」

 

「?」

 

「えっと...その....と、とりあえず私の名前を呼ぶことを許可します!これは理事長の言葉と思ってもらって結構!」

 

 

えっと....どうしていきなり名前呼び...?

まあ別にいいけど、そんなことのために理事長権限を使って良いのか...?

 

 

「えっと...分かったよ、夏未。」

 

「はぅ!」

 

「えっ?」

 

「と、とにかく早く練習に戻りなさい...!」

 

「あ、ああ...」

 

 

一体何だったんだろう...

まあとにかく今は試合に集中だ。絶対に勝って、みんなと全国に行くんだ。

 

 

「(り、理事長の言葉と思ってもらって結構...って、パパが結婚を許可したみたいじゃない...!私、何を言っているのよ..!)」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「(結局、総帥は何も仕掛けてはいなかったというのか...)」

 

「(鬼道の奴、ずっと上の空だな...)おい、鬼道。」

 

「っ!...どうした、嵐山。」

 

「お前、ずっと上の空だったな。俺たちは全力でお前たちを倒す。試合に集中していないお前を倒しても、リベンジにはならねえ。しっかりしやがれ。」

 

「す、すまない.........っ!(う、上の空!先ほど落ちてきたボルト...そして総帥の言っていた、天に唾すれば自分にかかる、という言葉....まさか...!)」

 

「鬼道...?」

 

「嵐山...................................」

 

 

鬼道は思いつめた顔をしながら俺に近寄り、耳打ちをしてきた。

その内容はとても信じられる内容では無かったが、相手はあの影山だ。

バスへの細工といい、もう手段を選ばないところまで来ているならやると思っていいだろう。

 

 

「頼めるか。」

 

「分かった。....ありがとうな、鬼道。」

 

「いや......すまない...」

 

 

握手を終え、俺たちはフィールドに散らばる。

その前に鬼道から言われたことはみんなに伝えておいた。

みんな半信半疑だったけど、ことがことなので従ってくれた。

 

 

「「「....」」」

 

 

全員がポジションをよく確認して立つ。

もしも少しでもズレていたら....俺たちに待っているのは無、だろうな。

 

 

「それでは雷門中vs帝国学園の試合を開始します!」

 

 

ピィィィィィ!

 

 

試合のホイッスルが響いた。

その瞬間、轟音とともに空から鉄骨が降り注ぐ。

それらは雷門イレブン側にだけ降り注ぎ、砂煙をまき散らす。

 

 

 

『な、なんということでしょう....鉄骨が......雷門イレブンの上に降り注いで......酷い...』 

 

「こ、ここまでやるか...影山....」

 

「ひ、酷い...」

 

「み、みんなは無事なの!?」

 

 

 

会場では悲鳴や心配の声があがっているが、フィールドにいる俺たちは冷や汗をかきながらも無事立っていた。

本当に危なかった....まさかこんな巨大鉄骨が大量に降ってくるなんてな...

 

 

『雷門イレブンは無事でしょうか.......おお!奇跡です!雷門イレブン、誰一人として鉄骨にぶつかっていません!』

 

「「「みんな!」」」

 

「無事だったか.....」

 

 

 

「マジか.....嵐山の言った通りだったな...」

 

「一歩でも動いていたら....俺たちぺちゃんこだったっス...」

 

「ち、ちょっとちびったでやんす...」

 

 

『どうやらあまりの惨状に試合が一時中断するようです!』

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「総帥!これがあなたのやり方ですか!!!」

 

「ふっ...何のことかね。」

 

 

試合が中断されている隙に、俺や円堂、鬼道たち帝国イレブン、響木さんは影山のところへと来ていた。

影山はあくまで白を切るつもりのようだな。だが、確かに証拠はない...

 

 

「天に唾すれば自分にかかる....あれもヒントになりました。あなたにしては軽率でしたね!」

 

「くく...言っている意味がわからんな。私が細工したとでも言うのかね。証拠も無かろう。」

 

「あるねえ!証拠なら!」

 

「け、刑事さん!?」

 

 

鬼道と影山が言い争っていると、俺たちの後ろから一人の男性があらわれた。

円堂曰く刑事のようだな。ずっと影山を追っていたってところか。

 

 

「こいつが白状した。お前に指示されてやったことだとな!」

 

「俺はもう....あなたの指示では戦いません!」

 

「俺たちも鬼道と同じ意見です!」

 

 

鬼道、源田の言葉を皮切りに、帝国イレブンが影山から離反する。

刑事さんもいるし、もう逃れることはできないだろうな。

 

 

「影山零治!一緒に来てもらおうか!」

 

「ふっ...」

 

「(あの笑み...まさか総帥は俺が罠に気付くか試して....だがなぜ...?)」

 

 

影山が逮捕され、これで一件落着だな...

あとは俺たちと帝国学園で試合をするだけだ。

この試合に勝って、絶対にリベンジしてやるんだ!

 

 

「響木監督、円堂...本当にすみませんでした。総帥がこんなことをしたんです。俺たちに試合をする資格はありません。俺たちの負けです。」

 

「えっ!?何言い出すんだよ!」

 

「責任は取らなければならない。」

 

「....円堂、嵐山。判断はお前らに任せる。提案を受け入れるのも、試合をするのもお前ら次第だ。」

 

「監督.......嵐山!」

 

「ああ。....鬼道、試合をしよう。俺たちはサッカーをしに来たんだ。お前たち帝国学園にリベンジするためにな。」

 

「っ.....感謝する!」

 

 

こうして、俺たち雷門イレブンと、鬼道たち帝国イレブンの戦いが幕を上げたんだ。

だけど俺は気付いていなかったんだ。切り替えたはずの気持ちにまだ靄がかかっていたことを。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦!帝国学園・後編

嵐山 side

 

 

『さあ!グラウンドを入れ替えて、試合を再開するようです!雷門中vs帝国学園!フットボールフロンティア予選大会決勝戦!ついに始まります!』

 

 

「勝負だ!鬼道!」

 

「俺たちが勝つ!」

 

「お前たちへの感謝を込めて...俺はお前たちに勝つ!勝負だ、円堂!嵐山!」

 

 

ピィィィィ!

 

 

『試合開始!』

 

 

「行くぞ、嵐山!染岡!」

 

「「おう!」」

 

 

ついに帝国学園との決勝戦が開始した。

今回のフォーメーションも攻撃を重視したスリートップのフォーメーション。

フォワードに俺、豪炎寺、染岡。ミッドフィルダーにマックス、半田、少林、宍戸、ディフェンダーに風丸、壁山、土門となっている。

 

 

「(この試合、俺を再びサッカーに誘ってくれた円堂や嵐山...雷門のみんなのために!そして何より、夕香のためにも勝ってみせる!)染岡!」

 

「おっしゃあ!」

 

 

俺、豪炎寺、染岡が試合開始早々、全速力でフィールドを駆け上がる。

帝国イレブンは俺たちの速度に遅れをとり、俺たちは一気にゴール前へと走り抜けていた。

 

 

「決めろ!染岡!」

 

「行くぜ!”ドラゴンクラッシュ”!」

 

「ふっ...その程度のシュートでは俺を破れんぞ!”パワーシールド”!」

 

 

染岡の”ドラゴンクラッシュ”がゴールへと放たれたが、源田がオーラを溜めた拳を地面に叩きつけ、オーラによるシールドを発生される。

 

シュートはシールドに阻まれてどんどん勢いをなくしていき、ついには弾かれてしまった。

 

 

「っ!俺のシュートが...!」

 

「まだだ!今度は俺が行く!”ファイアトルネード”!」

 

 

今度は豪炎寺が、弾かれたボールに対して”ファイアトルネード”を決める。

源田は逆立ちのような体勢で右手を地面に突き付けているので、まともに動ける状態ではない。これは決まったか...?

 

 

「甘い!”パワーシールド”!」

 

「何っ!?」

 

 

すると源田は、今度は左手を地面に突き付けてシールドを発生された。

”ファイアトルネード”も徐々に威力を落とされ、ついには弾かれてしまう。

 

 

「さすがですね...あの源田から点を取るのはかなり難しいですよ。」

 

「ふん....私は彼から点を取れる優秀な選手を知っているわ。」

 

 

 

なるほど....”パワーシールド”は連続して発動できるようだな。

しかも源田が実力者とはいえ、”ドラゴンクラッシュ”も”ファイアトルネード”も容易く弾かれるとは...

 

 

「だが、まだ俺が残っている!」

 

「くっ!嵐山か...!」

 

 

俺は弾かれたボールをトラップし、すぐにシュート体勢に入る。

事故にあって出場できなかった去年のフットボールフロンティア...色々あったが、ついにここまで来たんだ。絶対に勝って、本選に出場するんだ!

 

 

「行くぞ、源田!”ウイング”...!」

 

『雷門が勝てば、鬼道たち兄妹は破滅する!』

 

「っ....”ショット”っ...!」

 

「何っ!?」

 

 

ガシャン...!

 

 

俺が放ったシュートは完全に源田の隙を突いていたが、ボールはゴールへと向かっていかず、逸れてゴールポストに直撃した。こぼれ球をすぐさま帝国イレブンがキープし、俺たちの攻撃は止まってしまった。

 

 

「っ....(くそ...考えるな....今は試合中なんだ...影山の言葉なんて...気にする必要はない....!)」

 

「.....(嵐山....)」

 

「ドンマイだ、嵐山!次は頼むぞ!」

 

「あ、ああ...」

 

 

俺は円堂の言葉に応答しつつ、帝国の攻撃に備えて自陣へと戻っていく。

そんな俺を、豪炎寺が鋭く睨んでいたことには気付かなかった。

 

 

「(この試合、絶対に勝つ!春奈と暮らすためにも、影山総帥よりも俺を信じてついてきてくれた仲間たちのためにも...そして何より、試合続行を認めてくれた、雷門への感謝の証として...!)」

 

 

帝国学園はキープしたボールを、五条、辺見、そして鬼道へとつなげていく。

さらにそれを見たフォワード陣、佐久間と寺門がゴール前へと上がっていく。

 

 

「ここは通さないぞ、鬼道!」

 

「嵐山...!勝負だ!」

 

 

鬼道がドリブルで俺を抜こうとする。

俺も鬼道を抜かせないよう、鬼道の前に立って行く手を阻む。

 

 

『すごい!鬼道、巧みに嵐山を抜こうとしますが、嵐山はそれを阻んでいます!チームの中心である二人の戦い...どちらに軍配が上がるか!』

 

 

「くっ...(さすがは嵐山だ...これだけフェイントを入れてもまるで釣られる様子が無い...!小学生のころからこいつには勝てた覚えがなかった...だが、俺はこの試合に必ず勝つ!負けるわけにはいかないんだ!)」

 

「っ...(鬼道...さすがは帝国でずっと勝ち続けていただけはある...これだけのフェイントを入れられると、ついていくので精一杯だ...!)」

 

 

『忘れるな。雷門が勝てば、鬼道たち兄妹は破滅する。』

 

 

「っ....!」

 

「むっ!(嵐山に隙ができた...!?罠かもしれんが、ここは強引にでも突破するしかない...!)うおおおおおお!」

 

 

「「「何っ!?」」」

 

 

『抜いたあああああ!鬼道!執念で嵐山を抜き去りました!これには雷門イレブンも動揺が隠せない!』

 

 

「くっ....しまった....!」

 

「行け!寺門!」

 

 

俺を抜いた鬼道は、動揺で動きが鈍くなった雷門イレブンの隙を突いてフリーになった寺門にセンタリングを上げる。

 

 

「食らえ!”百烈ショット”!」

 

「させるか!”熱血パンチ”!」

 

 

バゴンッ!

 

 

寺門のシュートは、円堂が難なくセーブした。

弾かれたボールはすぐさま風丸がキープし、帝国イレブンから取られないように警戒している。

 

 

「お前ら!ゴールは俺が守る!だから気にせず全力でプレーしてくれ!」

 

「円堂!」

 

「キャプテン!」

 

 

「(さすがは円堂だ...奴からゴールを奪うには、やはりあの技しかないか。)」

 

 

 

その後も試合は続くが、どうしても俺の調子が上がらず、雷門イレブンは攻撃のリズムが作れずにいた。豪炎寺と染岡のシュートも源田には止められてしまい、俺のシュートは枠を捉えない。

 

攻撃のリズムが作れないと、今度は帝国に攻められ続ける状態となってしまう。

 

 

「”百烈ショット”」

 

「”熱血パンチ”!」

 

「”デスゾーン”!」

 

「”ゴッドハンド”!....くっ....!」

 

 

円堂は帝国のシュートをすべて止めているが、それでもかなり消耗してきている。

この展開が続けば、さすがの円堂も止めきれなくなってしまうだろう。

 

 

「くそ....(俺が何とかしないと....この流れは俺が作った...俺が何とかするんだ...!)」

 

「嵐山...!(嵐山の様子がおかしい...だが、今は試合中だ。本気のお前と戦いたかったが......今の俺は勝つことだけを考える!お前を倒す!)」

 

「通さねえ!俺が止めてみせる!」

 

 

俺は鬼道の前に立ち、鬼道の動きを注視する。

俺が何とかするんだ...俺が鬼道を止めなければ、この試合には勝てない...!

 

 

「ここだあああああ!」

 

「っ!」

 

 

鬼道は俺に向かって突撃....と見せかけてボールをかかとで上げ、俺の頭の上を抜かせていく。さらに鬼道自身は俺をターンで避けて、そのままボールをキープし、走って行く。

 

 

「っ...ヒールリフト...!」

 

「勝った...!(だがやはり....どうしたんだ嵐山。お前はこの程度なのか...!)」

 

 

「うおおおおおお!」

 

「っ!?」

 

 

俺が抜かれた瞬間、鬼道の正面から豪炎寺が激しいスライディングを行い、鬼道へと突撃する。その勢いに鬼道は吹き飛ばされ、ボールはラインを割ってフィールドから出ていく。

 

 

「っ...す、すまない豪炎寺...」

 

「....」

 

 

俺はフォローしてくれた豪炎寺に謝るが、豪炎寺はそんな俺を無視して自分のポジションへと戻っていった。

 

 

「ぐっ...(さすがは豪炎寺....激しいあたりだったな...)」

 

 

『おっと鬼道、足を痛めたか?』

 

 

豪炎寺のスライディングによって、鬼道は足を痛めたのかその場にうずくまっていた。帝国ベンチから数人が寄ってくるが、それより先に音無さんが駆け寄ってきていた。

 

 

「春奈...どうして....」

 

「わからない...気付いたら体が動いてたの...」

 

「春奈...」

 

 

音無さんが鬼道の足にテーピングをしている。

そんな様子を見て、治療に来た帝国イレブンはベンチへと戻っていった。

そして、治療が終わった鬼道はすぐさま立ち上がり、その場を離れる。

 

「あっ...(やっぱり、私が邪魔なんだ...)」

 

「......一度もなかった。」

 

「えっ...?」

 

「お前を忘れたことなど、一度も...」

 

「っ....お兄ちゃん...!」

 

 

前半も残りわずか。再び帝国ボールで試合再開し、鬼道を中心に帝国が攻めあがってくる。

 

 

「(この足に誓って必ず勝つ...!”ゴッドハンド”を破るために編み出した必殺技...!)」

 

 

ピィィィィ!

 

 

鬼道が口笛を吹くと、鬼道の周りに五匹のペンギンが現れる。

何なんだこれは...!?新しい必殺技なのか...!?

 

 

「”皇帝ペンギン”!」

「「”2号”!」」

 

 

鬼道から放たれたボールを、佐久間と寺門がさらにツインシュートする。

勢いを増したボールとペンギンがゴールへと突き進んでいく。

 

 

「勝負だ鬼道!”ゴッドハンド”!」

 

 

円堂も自身の最強の必殺技である”ゴッドハンド”で対抗する。

ボールは”ゴッドハンド”の中心へと突き刺さり、互いに拮抗した力を見せている。しかしそこに、先ほどのペンギンがやってきて”ゴッドハンド”のそれぞれの指に突き刺さった。

 

 

「ぐっ....!」

 

 

バチバチバチ......パキンッ!

 

 

「なっ!?ぐああああああ!」

 

 

ついに円堂の”ゴッドハンド”は打ち砕かれ、ボールは円堂ごとゴールへと突き刺さった。

 

 

『ゴーォォォォォォォル!ついに”ゴッドハンド”敗れる!先制点を決めたのは帝国学園だあああああああ!』

 

 

ピィィィィ!

 

 

 

ここで前半が終了した。俺たちは先制点が決められたことにショックを受けながらベンチへと戻ってきた。

 

 

「どうしたんだよ、嵐山...いつもと全然動きが違うぞ。」

 

「すまない....」

 

「嵐山くん...(まさか音無さんたちのことをまだ引きずって....)」

 

 

 

どうしてなんだ...夏未に叱咤されて、割り切ったはずなのに...

こんな状態で試合しても、俺はお荷物になる...代わるべき、なのか...

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

『さあ後半が開始します。先制点を取られ、なんとか反撃したい雷門イレブンですが...チームの中心である嵐山が不調、さらには豪炎寺や染岡のシュートは全く源田に通用していない状況...厳しい展開となっております!』

 

 

 

「くっ...(いつも通り...!)」

 

「(嵐山...今のこいつの状態なら、もう一点取れば勝てる...!)」

 

「鬼道さん!」

 

「ふっ...(気遣いは無用だと言うのに。)」

 

「っ!」

 

 

俺が鬼道を止めようと接近するが、それを読んでいた鬼道は佐久間へとパスを出し、俺を抜いてから佐久間からのパスを受け取る。

 

 

「くっ...!」

 

「何度も通すか!」

 

「そのボール、もらったあああ!」

 

「っ....くっ!」

 

 

そんな時だった。俺を抜いた鬼道の前に、風丸が現れて鬼道を止めた。

そして隙を突いた土門が鬼道の持つボールをカットし、ボールは帝国イレブンが確保したものの、帝国陣地へと押し戻された。

 

 

「風丸...土門...!」

 

「お前の調子が悪いときは、俺たちがフォローする!」

 

「だいたい、本来フォワードであるお前がそこまでディフェンスに尽力する必要はねえんだ。本職である俺たちディフェンダー陣に任せろ!」

 

「俺も二人に続くっスよ!」

 

 

それから帝国の猛攻は続いたが、ディフェンダー陣が何とか食らいついてシュートを打たれるような展開は無くなった。

 

だが、帝国の猛攻にディフェンダー陣はかなり消耗しているようだ。

これ以上は無理だ...やはり俺が鬼道を止めなければ...!

 

 

「っ!今だ!」

 

「っ、しまった...!」

 

 

俺が鬼道へと向かったせいで、寺門、佐久間、そして洞面がフリーとなり、”デスゾーン”を打てる状況を作ってしまった。

 

 

「決めろ、お前たち!」

 

「「「”デスゾーン”!」」」

 

 

鬼道のセンタリングに合わせて、寺門、佐久間、洞面が飛び上がり、”デスゾーン”を放った。勢いよくゴールへと向かうその瞬間、それを遮るように土門が飛び出す。

 

 

「ぐあっ!」

 

「土門!」

 

 

ボールは土門の顔面に当たり、ボールはそのまま大きく逸れてフィールド外へと飛んでいった。

 

 

「ぐっ...」

 

「大丈夫か、土門!」

 

「あ、ああ....っ....なあ、円堂....俺も、雷門イレブンになれたかな...」

 

「当たり前だ!お前はとっくに仲間だ!」

 

 

土門は円堂に見送られて、タンカで運ばれていった。

土門の代わりに、影野がフィールドへと入ってきた。

 

 

「っ...(土門...)」

 

「嵐山あああああ!」

 

「えっ?...っ、ぐあっ!」

 

 

突如、豪炎寺が俺を呼んだと思ったら、俺に向かって”ファイアトルネード”を放った。そのままボールは勢いよく俺めがけて飛んできて、俺の腹にぶち当たった。

 

 

「ぐっ.....豪炎寺....何を...!」

 

「俺がサッカーにかける情熱のすべてを懸けたボールだ!グラウンドの外で何があったかは関係ない!ホイッスルが鳴ったら、試合に集中しろ!」

 

「っ....豪炎寺.....」

 

 

 

俺は.......そうだな...豪炎寺のいう通りだ。

俺は鬼道や音無さんのことをずっと気にして、試合に集中しないで...

二人のことばかり気にして、俺にとって大切なものにまで嘘をついて...一番大事なものを失くすところだった。

 

 

ピィィィィ!

 

 

 

『帝国学園のコーナーキックで試合再開!ボールは.....鬼道のもとへ!』

 

 

「決める!行くぞ、佐久間!」

 

「はい!」

 

「”ツイン”!」

「”ブースト”!」

 

 

再び新たな必殺技が、円堂を襲った。

だけど、円堂なら止める。止めてくれる。

だったら、俺のやることは一つしかないだろう。

 

 

「何っ!?」

 

「へへ...嵐山のやつ、豪炎寺とそっくりだな!」

 

「ふっ....」

 

 

俺は円堂をフォローせず、そしてさっきまで執着していた鬼道を相手にすることもなく、一人で帝国陣内へと走り出す。

 

 

「待ってろ、嵐山!必ずボールを届けてやる!”爆裂パンチ”!」

 

 

円堂も新たな必殺技で対抗する。

猛烈なパンチを繰り出し、徐々にボールの勢いは削がれていく。

そしてついには円堂の渾身のアッパーパンチによって、ボールは勢いよく弾かれた。

 

 

「ふっ!」

 

「くっ!豪炎寺!」

 

 

弾かれたボールをキープしようとジャンプした鬼道の前に、豪炎寺が立ち塞がり、先に豪炎寺がボールを確保した。

 

 

「俺たちのエースの復活...邪魔しないでもらおうか!」

 

「ふっ!当然、邪魔させてもらう!」

 

 

凄まじいテクニックの応酬で、周りは見ていることしかできない。

その間に、俺は既にゴール前へと到達していた。

 

 

「豪炎寺!こっちだ!」

 

「っ!決めろ、嵐山!」

 

「くっ!」

 

 

豪炎寺は鬼道の隙を突き、俺へとボールを繋げる。

 

 

『おおっと!豪炎寺からのロングパスを受け、嵐山が一人、帝国ゴール前へと辿り着こうとしている!しかし、その前には万丈と大野の帝国ディフェンダー陣が立ち塞がっている!』

 

 

「ここは通さん!」

 

「残念だったな!ここで終わりだ!」

 

「円堂が止め、豪炎寺が繋いでくれたこのボール......絶対に決めてみせる!」

 

 

もう迷わない...!俺はこの試合に勝って、円堂や豪炎寺、みんなとフットボールフロンティア本選に行く!

 

 

「”風穴ドライブ”!」

 

「「なっ!ぐっ...!」」

 

 

大野と万丈を”風穴ドライブ”で抜き去り、これで残るは源田ただ一人!

このシュート、絶対に決めてみせる!

 

 

「行くぞ、源田ああああああああ!」

 

「ふっ...来い、嵐山!」

 

「これが俺の本当の力だ!”ウイングショットV2”!」

 

 

 

「嵐山くんの”ウイングショット”が...」

 

「進化した...!」

 

「行きなさい!嵐山くん!」

 

 

「負けん!”パワーシールド”!」

 

 

バチバチバチバチバチバチ!

 

 

俺の渾身の”ウイングショット”と、源田の”パワーシールド”が激しくぶつかっている。だが、ボールの勢いは止まることなく、”パワーシールド”にはヒビが入っている。

 

 

「くっ....馬鹿な....何という威力...!」

 

「行けええええええええ!」

 

「ぐっ....うおおおおおお!」

 

 

パリンッ!

 

 

「ぐっ!ぐああああああああ!」

 

 

『ゴーォォォォォォォル!嵐山、ついに源田を打ち破り、ゴールを決めました!これで1vs1!試合時間は残りわずかですが、この土壇場で追いつきました!』

 

 

「よっしゃあああああああああ!」

 

「ナイスだぜ、嵐山!」

 

「ふっ....やはりお前はこうでなくてはな。」

 

 

俺がシュートを決めたことで、みんなが盛り上がってくれている。

ありがとう、豪炎寺....お前のおかげで目が覚めた。

そして....この試合、絶対に勝つ...!

 

 

「くっ....さすがは嵐山だ...”パワーシールド”では歯が立たない...」

 

「大丈夫か、源田。」

 

「ああ...だが奴が相手では、やはりあの技を使うしかないぞ。」

 

「あの技はまだ未完成だ。辞めておけ。」

 

「しかし鬼道....嵐山のあのシュートの威力、恐らく”フルパワーシールド”をもってしても止められないぞ。」

 

「ああ....だが、奴以外なら止められる。嵐山にもうシュートを打たせなければいい。そして....”皇帝ペンギン2号”で点を決めれば、残り時間的に俺たちの勝ちだ。」

 

「鬼道....ああ。すまないが頼んだぞ。」

 

 

 

『さあ残り時間もあとわずか!果たして次の1点をもぎ取り、試合を制するのはどちらでしょうか!』

 

 

「行くぞ!お前たち!」

 

「「「おう!」」」

 

 

「次の1点を取って、俺たちが勝つぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

帝国ボールで試合再開。

帝国イレブンは鬼道にボールを集めて、前線にボールを運ぶつもりらしい。

 

 

「鬼道!今度こそ本気の勝負だ!」

 

「嵐山...!抜く!」

 

 

再び俺と鬼道が相まみえる。

鬼道はフェイントを交えて俺を抜こうとするが、俺も今度は本気でぶつかっている。そう簡単には抜かせはしない!

 

 

「くっ...(これが本気の嵐山か...さすがはパーフェクトプレイヤーと呼ばれるだけある...!だが...俺はこの足に誓った!必ず勝利することを!俺は今、嵐山を超える!)」

 

「っ!」

 

「”イリュージョンボール”!」

 

 

鬼道が新たな必殺技を繰り出した。

まるで分身したかのようにボールが増え、どれが本物かと混乱している間に鬼道は俺を抜き去り、ボールは最後に鬼道の足元で一つに戻った。

 

 

「くっ!」

 

「よし!(今度こそ本当に...嵐山を抜いたぞ...!)」

 

「鬼道!」

「鬼道さん!」

 

 

俺を抜くことを信じていたのか、寺門と佐久間は既に前線へと上がっていた。

逆に雷門イレブンは隙を突かれて全員が動けずにいた。

 

 

「しまった...!」

 

「これで終わりだ!行くぞ、円堂!」

 

ピィィィィ!

 

「”皇帝ペンギン”!」

「「”2号”!」」

 

 

再び”皇帝ペンギン2号”が放たれた。

今の円堂に、この技を防げるのか...?

 

 

「っ...!(違うだろ...何を言っているんだ、俺は...!)頼む!止めてくれ、円堂!」

 

「っ!(嵐山が俺を頼ってくれた...俺にシュートを止めてくれって...!だったら、俺は絶対にこのシュートを決めさせなしない!雷門のゴールは....俺が守る!)うおおおおおお!”ゴッドハンド”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

「ぐっ....ぐぐぐ....!」

 

 

”皇帝ペンギン2号”と”ゴッドハンド”がぶつかり合う。

だが”皇帝ペンギン2号”の威力は凄まじく、徐々に円堂がゴールへと押し込まれていく。

 

 

「ぐっ...止める...このボールだけは...!絶対に...絶対に...!止めるんだあああああああ!」

 

「何っ!?」

 

 

何と円堂は空いていた左手も添えた、両手での”ゴッドハンド”を繰り出し、ついには”皇帝ペンギン2号”を止めてみせた。

 

 

「行くぞっ!」

 

 

そして円堂はすぐさまボールを風丸へと送り出した。

ボールを受け取った風丸は、帝国イレブンを抜き去り、前線へとボールを送り出す。

 

 

「円堂が守り抜いたこのボール!」

 

「絶対に!」

 

「ゴール前まで、繋いでみせる!」

 

 

そしてボールはマックス、少林と繋がり、半田までつながった。

そして豪炎寺、染岡、壁山がゴール前まで上がっていることを確認した俺は、半田にサインを出しながら声をかける。

 

 

「半田!こっちだ!」

 

「っ!お前たち!嵐山にだけは絶対ボールを渡すな!」

 

「「「おう!」」」

 

 

俺がボールをキープしている半田に指示を出したことで、鬼道は帝国ディフェンス陣に俺をマークするように指示をする。

 

そして、指示を聞いた五条、大野、万丈が俺を囲むように対応してくる。

 

 

「ふっ...かかったようだな。」

 

「何っ!?」

 

 

「行け!豪炎寺!壁山!」

 

 

「おう!」

 

「ハイっス!」

 

 

俺が囮になることで、豪炎寺たちは完全にフリーとなっていた。

さらにボールが弾かれても、染岡がボールをキープできるようスタンバイしている。

 

 

「くっ!だが嵐山のシュートでないのなら、俺が完全に止めてみせる!」

 

 

そう言うと、源田は両手にオーラを溜めてからそれを右手に集中させ飛び上がる。

あれは、”パワーシールド”を進化させた”フルパワーシールド”!

 

 

「っ!あれは....円堂だと!?」

 

「行くぞ!円堂!」

 

「おう!」

 

「「”イナズマ1号落とし”!」」

 

 

何と意表をついて、円堂も”イナズマ落とし”に参加していた。

まさに”イナズマ1号落とし”だな...!

 

 

「くっ!だが俺が止めれば関係ない!”フルパワーシールド”!」

 

 

バチバチバチ!

 

 

「いっけええええ!」

 

「ぐっ!これは....うおおおおおお!」

 

 

パキパキパキ!

 

 

「ぐっ....ぐああああああああ!」

 

 

パリンッ!

 

 

『決まったあああああああああ!円堂、豪炎寺、そして壁山の渾身の”イナズマ1号落とし”は!源田の”フルパワーシールド”を打ち破り、ゴールへと突き刺さりました!』

 

 

 

ピッピッピィィィィ!

 

 

っ!試合終了のホイッスル....ってことは、俺たち...勝ったのか...!

 

 

『ここで試合終了...!激闘の末、雷門イレブン...ついに帝国学園に勝利!!!初めての帝国学園との試合...なすすべなく蹂躙されたあの試合から、ついに雷門イレブン!帝国学園にリベンジを果たしました!』

 

 

「やった...やったぞおおおおお!」

 

「「「「うおおおおお!」」」」

 

 

 

「負けた...か....」

 

「鬼道...また初めていけばいいさ。俺たちのサッカーを。」

 

「ふっ...そうだな。頼むぞ、お前たち。」

 

「「おう!」」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

鬼道 side

 

 

 

「待って!」

 

「....春奈?」

 

 

試合に敗れたが、良い試合だった。

そう思いつつ、少しその場を離れようとフィールド裏を歩いていた時、春奈に呼び止められた。

 

 

「私を...私を引き取るために、お父さんと約束したって....」

 

「っ!...ああ...」

 

「連絡くれなかったのも、私のためだったんだね...?」

 

「お前と暮らすためなら、どんなことも我慢できた。だが...すまなかった。」

 

 

最初から、ちゃんと話をするべきだったと、今なら思う。

そうすれば俺たちは仲違いすることもなく、俺は勝利へ執着することもなかったと思う。

 

 

「ううん...私、音無のお父さんとお母さんと暮らせて幸せよ。音無で...音無春奈でいいの。」

 

「そうか......良い父さんと母さんを持ったな。」

 

「うん...!」

 

「うおっ!」

 

 

いきなり春奈に抱き着かれて、俺は焦ってしまう。

だが...久しぶりに春奈とこうして兄妹らしいことをできた。

 

 

「ありがとう...お兄ちゃん!」

 

「ふっ...ああ...」

 

 

また二人で始めていこう。

俺たち兄妹の時間を、ゆっくりと...

 

 

「あのね、お兄ちゃん....お兄ちゃんのこと、教えてくれたのは嵐山先輩なの。」

 

「嵐山が.....そうか。奴には礼を言っておかなければならんな。」

 

「うん....それでね。私、嵐山先輩のことが好きで...」

 

「な、なんだと....!?」

 

 

ま、まさか春奈が嵐山のことを好きだとは....

い、いや、嵐山は確かに良い奴だが、まだそういうのは早いのではないか...!?

 

 

「それでね!お兄ちゃん...たまに相談に乗ってほしいの!」

 

 

ば、馬鹿な....くっ!春奈の頼みを断るわけにはいかない...

だが!俺の大事な春奈を嵐山に渡したくもない....!俺はいったいどうすればいいんだ...!

 

 

「お、お兄ちゃん...?」

 

「っ!あ、ああ....応援...くらいならしてやる。」

 

「っ!ありがとう!お兄ちゃん!」

 

 

くっ....春奈の笑顔のためだ...

だが、春奈を悲しませたら許さんぞ、嵐山...!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

伝説のイレブン

もう少しオリ主がいることによる改変を入れたいけど、フットボールフロンティア編は基本原作通りに進めていきたいという葛藤...全国大会前に少しオリジナルの話を挟む予定です。


嵐山 side

 

 

「監督!俺チャーシュー麺!」

 

「こっちは餃子追加で!」

 

「あいよ。」

 

 

俺たちは今、地区大会優勝の祝勝会を雷々軒で行っていた。

それにしても円堂は知らなかったみたいだが、帝国学園も全国大会に出場できる。

決勝まで進めば、もう一度あいつらと戦えるんだ。

今度は最初から全力で戦える...本当の決着はそこでつけるんだ。

 

 

「それにしても意外だな。夏未が祝勝会に参加するなんて。」

 

「あら。参加したらまずかったかしら?」

 

「いやいや...そんなことは言ってないですよ、夏未さん。」

 

「うふふ。」

 

 

「あれ?嵐山、お前いつの間に夏未のこと名前で呼ぶようになったんだ?」

 

「確かに。嵐山くんが女の子のこと名前で呼んでるの、結構珍しいよね。」

 

 

俺と夏未の会話を聞いていた円堂と秋が、俺にそう言ってきた。

まあ確かに、俺が女の子で名前呼びだったの秋くらいだからな。

あとは小学生の頃、円堂と一緒に少しだけ遊んだことのある冬花くらいか。

 

 

「帝国との試合前に少しね。」

 

「へえ、そうなんだ。(ねえねえ、夏未さん。嵐山くんのこと好きなの?)」

 

「んぐっ!(そ、それは...その...)」

 

「ふふ...(嵐山くんはモテるから大変よ~。)」

 

 

な、なんだか秋と夏未がこそこそ話しているが、何を話しているんだろう。

こっちをちらちら見ながら話しているから、気になるな。

 

 

「あの、嵐山先輩!」

 

「ん?どうした、音無さん。」

 

「むぅ~...私だけ苗字なんですね。」

 

「え、いや...別に差別してるわけではないよ...」

 

「じゃあ私も名前で呼んで下さい!ほら!」

 

「お、おう...じゃあ、春奈....これでいいか?」

 

「~~~~~!!!!!」

 

 

な、何か悶えてるんだけど、これ大丈夫か?

夏未といい、春奈といい、たまに良くわからないけど変になるよな。

 

 

「あ~、監督。俺コーヒー。ブラックで。」

 

「俺も。」

 

「僕も。」

 

「ふっ...すまんな。コーヒーは置いてない。」

 

 

 

そんなこんなで祝勝会は大いに盛り上がった。

俺と円堂は監督と一緒に後片付けを行っている。

 

 

「それにしても次は全国か...どんな奴らがいるかわくわくするなあ。」

 

「そうだな。これまで以上に強い奴らばかりだし、もっとレベルアップしなきゃな。」

 

「だな!....それでいつかは世界と戦ってみたいよな~。」

 

「世界か...地区大会でギリギリの俺たちじゃ、まだまだ世界は遠いだろうな。」

 

「ふっ...(こいつら、今のステージじゃ物足りなさそうだな。特に嵐山...今のこいつは帝国の源田ですら容易くねじ伏せる実力を持ってしまっている。嬉しいことだが、指導者としては困ることが多いな。)」

 

 

ガラガラ

 

 

円堂と話しながら片付けをしていると、お客さんが入ってきてしまった。

しまったな。店じまいの看板を出し忘れていたか。

 

 

「すみませんね。今日はもう店じまいなんですよ.....って、浮島!?」

 

「よう、響木...忘れられてなかったようだな。雷門中が帝国を倒したって聞いて、なんだかお前の顔を見たくなってな。」

 

「そうか.....こいつがそのサッカー部のキャプテン、円堂守だ。」

 

「円堂....お前、大介さんの...」

 

 

この人、円堂のお祖父さんを知っているってことは、イナズマイレブンの関係者か。

響木さんと親し気に話してるってことは、たぶんイナズマイレブンの一員なんだろうな。

 

 

「監督!この人もしかして...」

 

「ああ。イナズマイレブンの一員だ。」

 

「やっぱり!俺、ずっとイナズマイレブンに憧れていて...ものすごく強くて、無敵だったって!俺たちも同じくらい、いや、それよりももっともっと強くなりたいんです!」

 

「......あまり英雄視するな。」

 

「えっ...?」

 

「やっぱり来るんじゃなかったな。...イナズマイレブンはお前が思ってるようなすごいものじゃない。イナズマイレブンは諦めちまったのさ。」

 

 

そう語る浮島さんの顔は、髪の毛で隠れてはいたが酷く落ち込んだ様子なのがわかる。

諦めてしまった、か....まるで俺と対戦する前の響木監督と一緒だな。

だけど、監督は弱くなかった。それこそ俺が火事場の馬鹿力でようやく勝てるくらいには。

 

 

「たとえ表舞台にたてなかったとしても...草サッカーでだって続けることができた...なのにしなかったんだ。俺たちはもう...」

 

「おじさん...」

 

「これが伝説の正体だよ。イナズマイレブンはサッカーを捨てた、負け犬なんだよ。」

 

「っ...それは違う。」

 

「嵐山...」

 

 

俺は浮島さんの言葉を否定した。

この人は確かに諦めてしまっている。だけど、まだ心の奥底に炎は灯っている。

じゃなきゃ、雷門が帝国に勝ったって聞いて、ここに来るはずがない。

 

 

「あなたたちがどんな想いでこれまで過ごしてきたかなんて、俺にはわからない。だけど...そうやっていつまでも逃げてるのは違うんじゃないですか!?」

 

「っ...坊主...お前に何がわかる!」

 

「わかるよ!....俺は響木さんに監督になってもらうために、勝負した。対戦してわかった。イナズマイレブンの力は本物だって!響木監督の中にサッカーへの情熱が残っていたように...浮島さんにもまだ、サッカーへの情熱が残っているはずだ!」

 

「嵐山......そうだよ、おじさん!おじさんがサッカーを諦めたなら、何で今日ここに来たのさ!おじさんだって、心のどこかでもう一度サッカーしたいって思ってるはずだよ!」

 

「っ...お前ら...」

 

 

俺たちの言葉に、浮島さんは動揺していた。

だけど、動揺するってことは俺たちの言葉が届いている証拠だ。

浮島さんにもまだ、サッカーへの情熱は残っている!

 

 

「ふっ....やるぞ浮島。日曜の朝、イナズマイレブンは河川敷に集合だ。」

 

「響木...!やるって、お前一体何を...!」

 

「試合だよ。俺たちイナズマイレブンに憧れる子供たちに、夢を与えてやろうじゃないか。」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

日曜日...

 

 

 

ガヤガヤ...

 

 

「マジか...理髪店の髪村さんに、生活指導の菅田先生....雷門町で見たことある人ばっかりだな...」

 

「すげえ...これが伝説のイナズマイレブンか!」

 

 

俺や円堂だけでなく、みんなも見たことある人達が伝説の人物だったことに驚きを隠せないようだ。

まさかこの人たちがイナズマイレブンだったとはな...この人たちは俺や円堂のお祖父さんにサッカーを教わってたんだよな...

 

 

「お嬢様、本日は休暇を頂きます。」

 

「なっ!?ば、場寅...あなたまで!?」

 

 

「夢みたいだ...!イナズマイレブンとサッカーができるなんて...!」

 

 

「それじゃあ雷門中サッカー部と、イナズマイレブンの練習試合を開始するぞ。」

 

 

審判は刑事のおじさんが引き受けてくれることになった。

この人、本当にイナズマイレブンが好きだったんだな。

 

そしてついにイナズマイレブンとの試合が開始した....

が、彼らの動きは俺たちが想像していた伝説のイナズマイレブンとはまるで違っていた。

ボールを蹴ろうとすれば空振り、トラップはまともにできず逆に自チームのゴールにボールを押し込んでしまうという痛恨のミス...これがあの伝説のイナズマイレブンだって...?

 

 

「....これじゃあ練習にもならんな。」

 

「何も得るものがないわね、この試合...」

 

 

あまりの酷さに、審判をしてくれていた鬼瓦さんも、ベンチで観戦していた夏未も呆れていた。

 

 

「これでわかっただろ。伝説のイナズマイレブンは、もう存在しないんだ。」

 

「....伝説なんて関係ないよ...!」

 

 

浮島さんの言葉を、円堂は怒りをあらわにしながら否定した。

だが、俺も円堂と同じ意見だな。伝説だの何だの、そんなのは関係ない。

 

 

「どうしていい加減なプレーをするのさ!こんな魂の抜けたような試合をして...おじさんたちが大好きだったサッカーに対して、恥ずかしくないの!?」

 

「「「....」」」

 

 

円堂の言葉に、イナズマイレブンのみんなが俯いている。

誰一人として、闘志を燃やした様子はない。...ダメか。

 

 

「....お前たち!何だそのザマは!俺たちは伝説のイナズマイレブンなんだ!そして、ここにその伝説を夢に描いた子供たちがいる!その思いに応えてやろうじゃないか!本当のイナズマイレブンとして!」

 

「ほ、本当のイナズマイレブン........っ!」

 

 

響木監督の言葉に、イナズマイレブンの全員が顔を見合わせている。

そして、猫背になっていた姿勢はどんどんとまっすぐになっていき、次第にものすごいオーラを纏っているような雰囲気になってきた。

 

 

「(これは...目覚めたか、伝説が...!)」

 

「行くぞ、お前たち!」

 

「「「おう!!!!」」」

 

 

響木監督がボールを前線に送ると、さっきまでとはまるで別人のような動きで相手が迫ってきた。

どうやらマジになったみたいだな...勝負だ!イナズマイレブン!

 

 

「行くぞ、豪炎寺!」

 

「おう!」

 

「甘い!備流田!」

 

 

俺と豪炎寺はボールを持つ民山さんにスライディングをかけるが、民山さんはそれを軽々とジャンプして避け、空中でボールを備流田さんへとパスする。

 

 

「おうよ!もういっちょ!民山!」

 

「おう!」

 

 

さらにそのまま民山さんがゴール前へと走り出し、備流田さんは強烈なキックでパスを通す。

動きにキレが出てきた。マジでさっきとは別人になったようだな。

 

 

「行くぞ!”クロスドライブ”!」

 

「負けるか!”爆裂パンチ”!....なっ!?」

 

 

そのままボールを前線へと運んだ民山さんは、強烈な必殺シュートを放った。

円堂は対向して”爆裂パンチ”を繰り出したが、ボールと拳がぶつかった瞬間、円堂は耐えることができずにゴールへと吹き飛んでしまった。

 

 

「大丈夫か、円堂!」

 

「キャプテン!」

 

「痛っ~.......すげえ...すげえよ!これが本当のイナズマイレブンなんだよ!」

 

 

吹き飛ばされた円堂は痛がりながらも目を輝かせていた。

確かにあの威力....俺たちのシュートとはまるで比べ物にならないな。

あそこまでに至るまでに、どれだけの努力をしたんだろうな...

 

 

「今度はこっちが反撃するぞ!」

 

「おう!雷門の点取り屋であるこの俺がシュートを決めてやるぜ!」

 

「その意気だぜ、染岡!」

 

 

今度は俺たちのボールで試合再開。

だが先ほどまでとは違って、ディフェンスのプレッシャーが半端ない。

まるで巨大な壁を目の前にしているような...抜き去るイメージがまるで生まれてこない。

 

 

「っ...くそ、豪炎寺!」

 

「甘い!もらった!」

 

「なっ!?」

 

 

俺から豪炎寺へのパスは、ものすごいスピードであがってきた浮島さんによってカットされてしまった。

さらに浮島さんは備流田さんと一緒に前線へとあがっていく。

 

 

「行くぞ、備流田!」

 

「おう!」

 

 

今度は浮島さんがボールを上げ、そのボールを挟むように備流田さんと互いに向かって走り出した。

そして、二人はボールを挟みこむようにして蹴り上げ、ジャンプした。

 

 

「これは...!」

 

「「”炎の風見鶏”!!」」

 

「な、何だこの技!?」

 

 

浮島さんと備流田さんの必殺シュートに、円堂は全く反応できずにゴールを決められてしまった。

このシュート、帝国の”皇帝ペンギン2号”に匹敵する威力だぞ...

 

 

「すげえ...!タイム!ちょっとタイムお願いします!」

 

 

そう言って、円堂はお祖父さんの特訓ノートをめくりだした。

もしかして、特訓ノートに書いてある必殺技なのか...?

それだったら今日は見本もいることだし、練習して会得できるかもしれないぞ。

 

 

「あった!”炎の風見鶏”!」

 

「なるほどな...スピードとジャンプ力か...」

 

「スピードだったら、やっぱり風丸だな!」

 

「え、俺か?嵐山の方が良いんじゃないか?」

 

「いや、俺よりも風丸の方が良い。ジャンプ力となると豪炎寺の出番になるだろう。さっきのシュートを見る限り、互いに同じ足でボールを蹴り上げる必要があるだろうから、俺と豪炎寺じゃダメなんだ。」

 

「なるほどな...って、お前さっきの1回でよくそこまで見てたな。」

 

 

 

そんなやり取りをしていると、ふとベンチに目がいった。

ベンチでは影野がポツンと座っていて、それを心配したのか浮島さんが話しかけていた。

何を話しているのかは聞こえないが、影野が驚いたようなリアクションをしている。

 

 

「よし!じゃあこの技は豪炎寺と風丸にやってもらおう!頼んだぞ、二人とも!」

 

「ああ。」

 

「おう。」

 

 

そして再び試合が再開した。

豪炎寺と風丸は何度も”炎の風見鶏”を試したが、なかなかうまくいかないようだ。

...二人の動きが合っていないように見えるな。それが原因か...?

 

 

「ふっ...(やはり嵐山はある程度気付いているか。だがもう一人、気付き始めているやつがいるな。)浮島、備流田!もう一度見せてやれ!」

 

「ああ、たっぷりとな!」

 

 

そう言って、浮島さんと備流田さんはもう一度、”炎の風見鶏”を放った。

やはりすごい威力だ...円堂が”ゴッドハンド”で対抗したが、一瞬で”ゴッドハンド”が砕け散った。

 

 

「そうか!」

 

 

その時だった。ベンチで座っていた影野が、突然立ち上がって声を上げた。

もしかして、”炎の風見鶏”を放つのに必要なものが見えたのか...?

 

 

「二人の距離だよ...!ボールを中心に、二人が同じ距離、同じスピードで合わせないとダメなんだよ!」

 

「なるほど...そういうことか。」

 

「よし、影野の言う通りにやってみよう!」

 

 

「ふっ...気付いたか。」

 

 

再び試合が再開。今度は影野のアドバイス通り、豪炎寺と風丸が同じ距離、同じスピードでボールへと向かっている。

 

 

「行くぞ!」

「おう!」

 

「「”炎の風見鶏”!」」

 

 

バゴンッ!

 

 

「”ゴッドハンド”!....ぬぅ........見事...!」

 

 

ついに豪炎寺と風丸が、”炎の風見鶏”を完成させた。

二人から放たれたシュートは、響木監督の”ゴッドハンド”を打ち破り、ゴールへと突き刺さった。

あの響木さんの”ゴッドハンド”を打ち破ったんだ...これは大きな戦力になる...!

 

 

「あの子たちなら....伝説なんかじゃない、本当のイナズマイレブンになってくれるかもしれないな....」

 

「ふっ...そうだな。」

 

 

 

 

「よっしゃあ!次はいよいよ全国大会だ!」

 

「「「「「おおおおおおおお!」」」」」

 

 

伝説のイナズマイレブンとの試合、そしてあらたな必殺技の習得。

全国大会に向けて、俺たちの士気は大いに高まったのであった。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二つの出会い

嵐山 side

 

 

 

「よっしゃあ!どんどん打ってこい!」

 

「行くぜ、円堂!」

 

 

伝説のイナズマイレブンとの練習試合から1日経ち、俺たちは再び全国大会に向けて練習を続けていた。

まだ正式な発表はまだだけど、そのまま行けば初戦の相手は戦国伊賀島中という、何でも忍術を使うと噂されている学校が相手だ。それに忍者の末裔が監督であり、素早い身のこなしが得意という情報がある。

 

 

「行くぞ、風丸!」

「おう!」

 

「「”炎の風見鶏”」」

 

 

豪炎寺と風丸の”炎の風見鶏”は絶好調だな。

俺も負けてられない...もっとレベルアップするためにも、もう一度”天地雷鳴”を打てるようにならなくてはな。

 

 

「あっ、風丸先輩!!!」

 

「ん...宮坂か。」

 

 

どうやら風丸の陸上部の後輩みたいだな。

それにしても風丸の奴、なんだかんだでサッカー部にいてくれているけど、陸上部の方は大丈夫なのか..?

風丸は陸上部のエースだし、陸上部の奴らが黙ってないと思うんだが...

 

 

「嵐山先輩!ちょっといいですか?」

 

「ん?どうした、春奈。」

 

「えっと、校門に嵐山先輩に会いに来たって人がいて...綺麗な大人の女性の方なんですけど、知り合いですか?」

 

「大人の女性...いや、知らないな。まあとりあえず行ってくるよ。ありがとう、春奈。」

 

「はい!」

 

 

俺は春奈に言われた通り、校門へと向かった。

そこには春奈の言った通り、綺麗な大人の女性が一人立っていて、その近くには河川敷で一度会った八神がいた。

 

 

「あれ、八神...どうしたんだ?」

 

「あ、ああ...久しぶりだな。今日は私ではなくこの人がお前に用があって、ここに連れてきたんだ。私がいなくては、誰がお前かわからないだろうから、私も一緒に来た。」

 

「そうか。...あなたは?」

 

「初めまして。私は吉良瞳子。...まあ、この子の家族...みたいなものかしら。」

 

「瞳子姉さんは、私のいる施設を経営している人の娘で、いつも私たちの世話なんかをしてくれている姉のような人なんだ。だから私たちも、瞳子姉さんと呼んでいる。」

 

「へえ...それで、何でそんな人が俺に用なんて...?」

 

 

もしかして、得体のしれない奴は八神に関わるな、って警告しに来たのかな。

とは言っても、俺もまだ河川敷で一回しか会ったことないし、関わるなんてレベルで接してないけどな。

 

 

「お願いがあって来たの。あなたは今、快進撃を続けている雷門サッカー部の副キャプテン。そんなあなたに、お日さま園の子供たちにサッカーを教えてあげて欲しいの。」

 

「俺が、サッカーを教える...?」

 

「教える、と言っても既にある程度はサッカーが出来る子たちなんだけど、サッカーグラウンドでサッカーができるほど、お日さま園が広いわけではないの。だからドリブルとか、軽いシュートなんかはできるんだけど、もっとちゃんとサッカーをして欲しい...そう思っているわ。でも、この子たちだけでサッカーするのは危険だし、私が常に一緒にいれるわけでもない...」

 

「なるほど...それで八神から聞いた俺に白羽の矢が立ったと。」

 

「そういうことよ。....もちろん、大会の練習の邪魔はしないわ。暇な時でいいの。この子たちに付き合ってあげてもらえないかしら。」

 

 

なるほどね....俺としては、八神や施設の子にサッカーを教えるのは問題無い。

必殺技に固執して、個々のレベルアップを怠るわけにはいかないし、こういったコーチングってのは案外、自分を見つめ直す良い機会でもあるしな。

 

 

「構いませんよ。」

 

「っ!本当かしら!」

 

「ええ。ただ、チームでの練習もありますから、週に1回程度で良いですか。」

 

「ええ、もちろんよ。むしろ、そんなペースで良いのかしら?」

 

「問題無いですよ。俺としてもコーチングは自分を見つめ直す良い機会ですから。」

 

「ありがとう...!(この子がいれば、もしかしたらあの子も...!)」

 

「では、日程の調整は後ほどしましょう。連絡先を教えてもらっても良いですか?」

 

「ええ。........よ。」

 

「わかりました。まだ練習があるので、終わったら連絡します。」

 

「ええ。ありがとう、嵐山君。」

 

「いえ。それでは。吉良さん。それに八神も。」

 

「ええ。」

 

「ああ。」

 

 

そう言って、俺は二人と別れて練習に戻った。

この出会いが、俺のこれからを大きく変えていくことを、この時の俺はまだ知らなかった。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

数日後

 

 

俺は練習の支度をして、病院へと向かっていた。

自身の怪我の状態の確認と、見舞いを兼ねてだ。

 

俺の通っている病院には、俺が怪我を負うことになった事故で入院している子がいる。

俺が助けたことで身体的な怪我は無いのだが、自分を救って俺が大怪我をしたことで精神的なショックを受けたことで、たまに精神的に不安定になることがあるようだ。だから俺が無事に生きているってことを証明するために、何度か通い続けている。最近はかなり安定してきていて、もうすぐ退院できるんじゃないか、と彼女の両親から聞いた。

 

 

コンコンコン

 

 

「俺だよ。入っていいかな。」

 

「あ、隼人さん。どうぞ。」

 

 

ガラガラガラ

 

 

「こんにちは、杏奈ちゃん。」

 

「こんにちは、隼人さん。」

 

 

彼女は雷門中に通う1年生、神門杏奈ちゃん。

不運にもあの事故に巻き込まれてしまった子だ。

 

 

「今日はどれくらい居てくれるんですか...?」

 

「う~ん...悪いけどこの後用事があるから、お昼までかな。」

 

「そうですか.....でも、お昼までだったらたくさんお話しできますね。」

 

「うん。お昼までだけど、杏奈ちゃんが満足するまでお話ししようか。」

 

「はい!」

 

 

俺は杏奈ちゃんと話しながら、ベッドの近くにある椅子に腰を掛けた。

杏奈ちゃんはベッドを起こして、俺の方へと顔を向けている。

去年からずっと続いてたから、この光景もだいぶ慣れてきたな。

 

 

「それで...最近はサッカー部の活動はどうですか?」

 

「うん。最近はフットボールフロンティアの全国大会までコマを進めてね。」

 

「じゃあ、あの帝国学園に勝ったんですか?」

 

「うん。ギリギリだったけど、何とか勝てたんだ。」

 

「すごい!やっぱり、隼人さんがいたから勝てたんですよね?」

 

「いや~、みんなが力を合わせたからだよ。」

 

「ふふ、また謙遜するんですね。私知ってるんですよ?隼人さんがすごい選手だって。パパとママが言ってましたから。」

 

「はは...なんだか恥ずかしいな。」

 

「私、早く元気になって、隼人さんの活躍を見てみたいです....もっと近くで。」

 

「そうか。だったら元気になったら、サッカー部のマネージャーになったらいいよ。杏奈ちゃんは几帳面だし、結構向いてると思うな。それにマネージャーが増えたら、秋たちも喜ぶだろうし。」

 

「そうですか....?じゃあ、せっかくだしマネージャーになるの、考えてみます。...ハヤトサントモットイッショニイタイシ...」

 

「そっか。(後半、何て言ったか聞こえなかったな。まあいいか。)」

 

 

そんなこんなで杏奈ちゃんと話をしていたが、気付くともうお昼の時間だった。

この後は瞳子さんと約束した通り、八神たちにサッカーを教えるんだ。

...瞳子さん呼びになっているのは、電話で話した際にそう呼んでくれとお願いされたからだ。

 

 

「じゃあそろそろ行くよ。」

 

「あっ....もう行っちゃうんですね...」

 

「ごめんね。また来るから。」

 

「はい...わがまま言って、嫌われたくないですから。」

 

「はは...そんなことで嫌いになんてならないよ。でも、ありがと。」

 

「んっ...」

 

 

俺は杏奈ちゃんの頭を撫でながら、お礼を言った。

このやり取りももはや様式美となっている。

普通、女の子は髪を触られるの嫌だと思うんだけど、杏奈ちゃんはよく頭を撫でてくれとお願いしてくるんだよな。

 

 

「じゃあ行くよ。またね、杏奈ちゃん。」

 

「はい...また来てくださいね、隼人さん...」

 

 

俺は杏奈ちゃんの寂しそうな顔に背を向けて、病室から出て行った。

やはりあの顔を見ると、ちょっと罪悪感が芽生えるな...

 

 

ドンッ!

 

 

「っ...」

 

「おっと...すみません、大丈夫ですか。」

 

 

病室から出て歩き出すと、曲がり角で誰かとぶつかってしまった。

俺と同じ中学生くらいの男の子だが、かなり目が死んでいるな。一体どういう人生を送ったら、こんな目になるんだ?

 

 

「いえ、こちらこそすみません。」

 

「いや、こっちも不注意だったので....」

 

「そうですか...ではお互い様ということで。」

 

「ええ。....その、大丈夫ですか?」

 

「えっ?」

 

「いや、何か目が死んでるから.....」

 

「...ふふ、ずいぶんと失礼な人ですね。」

 

「あ、いやすみません...」

 

 

た、確かに目が死んでるとかいきなり知らない人に言われたら失礼だよな。

あまりにも特徴的だったから、つい聞いてしまった。

 

 

「いえ、大丈夫です。...特に問題ありませんよ。目は、ね...」

 

「....?」

 

「まあ気にしないでください。...ところであなたは、もしかして嵐山隼人さんですか?」

 

「え、あ、はい...そうですけど...どっかで会いました?」

 

「いえ、こちらが勝手に知っているだけですよ。それと僕は学校は違いますが、1年生なのであなたの後輩です。敬語は必要ないですよ。」

 

「あ、そう?なら楽に話させてもらおうかな。」

 

「ええ、そうしてください。...ところで病院に来ているということは、何か怪我でも?」

 

「いや、見舞いに来たんだよ。まあ怪我もしてはいたけど、もう回復している。経過観察に来ただけさ。」

 

「そうですか。それなら良かった。」

 

 

そんな話をしていると、ふと壁にかかっている時計に目が行く。

約束の時間までもうあまり時間も無くなっているな。

 

 

「すまない。この後の約束の時間に遅れそうだから、もう行くよ。」

 

「そうですか。引き留めてしまって、申し訳ない。」

 

「いや、大丈夫だよ。じゃあね。」

 

 

俺はそう言って、走り出した。

 

 

「ええ、さようなら。....またいずれフィールドで。」

 

 

彼の言葉は俺の耳には届いていなかった。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

??? side

 

 

 

「どうでした、彼は。」

 

「ああ...軽くぶつかっただけでもわかる。凄まじいフィジカルだ。彼を止めるには、三人...いや、四、五人で止めるしかないだろうね。」

 

「なるほど...ですが、たとえ強靭なフィジカルを持っていたとしても、シュートを決められなければ問題無いのでは?ゴールには俺もいますし。」

 

「いや、今の君では彼のシュートは止められないだろうね。」

 

「なっ!?...それほどまでですか。」

 

「ああ。...だがそれも今のままでは、だ。僕たちアレスクラスターに敗北は許されない。」

 

「わかっています。これまで以上に力を付けます。」

 

「ああ。...だが焦る必要はないよ西蔭。僕たちの戦いは来年からだからね。」

 

「はい......野坂さん。」

 

 

 

 

.




アレスに向けて、少しずつ種をまいていきますよ。
ちなみに杏奈ちゃんは学年が判明してないので、明日人や野坂と同じ学年にしました。
3年生ではないであろうことと、一応夏未が生徒会を託して去っていることを考えると、原作時点で2年生が妥当かな、と。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

初めてのコーチ

嵐山 side

 

 

「お待たせしました!」

 

「嵐山君...いいえ、こちらも先ほど来たところよ。」

 

 

俺は病院を出て、少し遅れて河川敷に到着した。

河川敷には既に瞳子さんが来ていて、他には八神と、知らない子たちが数人いた。

 

 

「嵐山君、改めて今日はありがとう。」

 

「いえ。俺もこういうの初めてだし、うまくできるかはわかりませんが精一杯務めさせてもらいます。」

 

「ええ、よろしくね。...まずはお互いに自己紹介をしましょうか。」

 

「そうですね。」

 

「みんな!集まってちょうだい!」

 

 

瞳子さんの呼びかけに、来ていた面々は集まりだした。

俺と瞳子さんが隣り合わせで立っていて、その正面にみんな集まっている。

 

 

「昨日話したと思うけど、これからあなたたちと一緒にサッカーをしてくれるコーチを紹介するわ。...嵐山君、お願い。」

 

「はい。....初めまして、雷門中サッカー部所属、2年の嵐山隼人です。今日は瞳子さんや八神のお願いで、みんなとサッカーしにきました。よろしくお願いします。」

 

「へえ...あんたが嵐山か。」

 

「玲名が言っていたのは君だったんだね。」

 

 

俺が挨拶すると、少し目つきの悪い赤髪と、白髪の子が話しかけてきた。

と言っても、他の子たちも興味津々といった感じだ。

 

 

「じゃあ次はあなたたちが挨拶しなさい。」

 

「はい。...もう知ってると思うけど、私は八神玲名。よろしくね。」

 

「俺様は南雲晴矢。炎のストライカーだぜ。よろしくな。」

 

「ふっ...何が炎のストライカーだ。君はまだ必殺シュートを会得していないだろ。」

 

「う、うるせえぞ!いずれはすげえ必殺シュートを会得するのさ!」

 

 

へえ、南雲は炎のストライカーを目指しているのか。

それだったら俺も少しは力になれるかもしれないな。

だが炎のストライカーか...そうなると俺の理想は高くなるな。

 

 

「つうか、お前も早く挨拶しろよ!」

 

「ふん....私は涼野風介。慣れ合いをするつもりはない。」

 

「へっ...何が慣れ合いをするつもりはない、だよ。おめえが一番楽しみにしてたじゃねえか。サッカーボール抱きしめてよ。」

 

「なっ...!は、晴矢!お前見ていたのか!?」

 

 

涼野はクールキャラって感じだけど、なんだかんだサッカーが好きなんだろうな。

それにしても南雲と涼野は仲が良いのか悪いのか、わかりづらいな。

どっちも本気で嫌がってないあたり、仲が良いんだろうけど。

 

 

「はいはい!次は俺ね!俺、緑川リュウジ!気軽にリュウジって呼んでよ。」

 

「そうか。...よろしくな、緑川。」

 

「あれ~...ま、俺としては魚心あれば水心、いつでもリュウジって呼んでくれていいからね!」

 

 

緑川は少々お調子者のようだな。

ことわざをわざわざ使うのは、キャラ付けか?

 

 

「俺は武藤隆一郎だぜ。よろしくな。」

 

「俺は本場激。よろしく。」

 

「俺は蟹目出郎。よろしく。」

 

「私は倉掛クララ。よろしく。」

 

 

それからも自己紹介は続いていき、残すはあと一人となった。

グローブをはめている辺り、彼はキーパーのようだな。

 

 

「ふふふ....フハハハハ!ついに俺の番か!」

 

「....(個性的な奴だな。)」

 

「俺は砂木沼 治!何れは世界最強のキーパーとなる男よ!」

 

「へえ...面白いね。」

 

 

世界最強のキーパーか。

応援してやりたいけど、俺の中で最強のキーパーはもう決まってるからな。

だけどガッツはありそうだな。叩けば光るかもしれない。

 

 

「以上、9名が今のところのメンバ―よ。」

 

「...少ないですね。」

 

「ええ....本当はもう二人、参加する予定なのだけど....」

 

「タツヤは今日、ヒロトさんを呼びに行ったんだけど...」

 

「ふん...あの男が素直に来るとは思えんな。」

 

「お、おい...瞳子姉さんの前だぞ。」

 

 

「そのタツヤって子と、ヒロトって子はどんな子なんですか?」

 

「ええ...タツヤは真面目で優しい子よ。早く大人になって、自分を拾ってくれた父...私のお父様に恩返しするなんていうくらいにはね。...ヒロトは私の実の弟よ。素行不良だけど...本当は優しい子なの。」

 

「...そうですか。今度はその二人も一緒にやりたいですね。」

 

「っ...そうね。」

 

 

さて、と。とにかく今日は俺を含めてこの10人でサッカーするわけだが...

 

 

「みんなはどれくらいサッカーできるんだ?」

 

「へへ、余裕だぜ!」

 

「君には負けない!」

 

「俺たちも行こうぜ!」

 

「うん!」

 

 

そう言って、南雲がボールを蹴りながらゴールへと向かっていく。

それを涼野や蟹目、倉掛たちが追っていく。

結構動けてるな。スピードもあるし、テクニックも十分ある。

 

 

「これならミニゲームはできそうだな。」

 

「ミニゲーム...?」

 

「ああ。俺たちは10人だし、ちょうど5vs5に分かれられるな。ちなみにキーパーは砂木沼だけか?」

 

「ああ。だが、武藤も一応キーパーができるぞ。」

 

 

なるほどな。なおさら丁度良いかもしれないな。

砂木沼と武藤を軸に、残りでチーム分けすれば良いか。

みんなの希望ポジションも聞いておかないといけないけど。

 

 

「オッケー。みんな集まってくれ。」

 

「何だよ。これからって感じであったまってきたのによ。」

 

「落ち着けよ、南雲。これからミニゲームをする。キーパーの砂木沼、武藤を中心にチーム分けするぞ。」

 

「なら俺と風介はチームを別にしろよ。武藤をキーパーにするなら、今日はフォワードは俺たちしかいねえ。」

 

「なるほど....」

 

「私と蟹目がディフェンダーです。」

 

「私とリュウジ、本場がミッドフィルダーね。」

 

「ふむふむ...じゃあ、チーム分けはこうだな。」

 

 

俺がそう言って、それぞれを左右に振り分けていく。

 

 

「お、おい...これじゃあ...」

 

「さあ、これが今回のチームだ。」

 

 

そう言って出来上がったチームは、

砂木沼チームが砂木沼、蟹目、八神、南雲、涼野。

武藤チームが武藤、倉掛、緑川、本場、俺、となっている。

 

こういうチーム分けにした理由は簡単だ。

まずフォワードの攻撃力を確かめるには、俺自身で相手をしたいから。

正キーパー相手に確かめさせたかったが、それだと俺自身でキーパーである砂木沼の力を試せないからな。

あとはガタイの良い蟹目と、何かとリーダー気質な八神を相手チームに入れたわけだ。

 

こっちのチームは言っちゃ悪いがあまりもの。

だけどこいつらも十分な実力は備わっている。

 

 

「そっちのチームのキャプテンは八神。こっちは俺がやる。5分後に試合形式のミニゲームするから、作戦会議しておけよ。」

 

「わかったわ。」

 

 

そう言って、八神たちは反対側のベンチへ向かった。

さて、俺たちも作戦会議するとしようか。

 

 

「あ、あの...さすがに俺は正式なキーパーじゃないから、南雲や涼野のシュートは止められないっすよ。」

 

「安心しろ。全部止めろ、とは言わないさ。だけど止めるっていうガッツは見せてくれよ。」

 

「あ、はい。」

 

「それと基本、攻めは俺が中心に動くけど、状況に応じて緑川にも出てもらうからな。」

 

「オッケー。」

 

「本場は基本ディフェンダー寄りの動きで良い。ただゴール前じゃなくて中間の守りの要として考えてるから、そのつもりで。」

 

「わかった。」

 

「倉掛も基本、ゴール前じゃなくて少し前線に出てくるくらいで待機。」

 

「はい。」

 

 

「さっき話したイメージではあるが、あっちにはチームの中心的なメンバ―を集めた。わざとな。...でも君らでもあいつらに勝てるってところを見せてやろう。」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

そして五分が経過し、試合の時間になった。

あっちは作戦会議をしたんだろうけど、八神が疲れたような表情をしてるな。

察するに南雲と涼野のどちらが攻めるか、でぶつかり合ったんだろうな。

 

だけど、あの様子だと簡単に勝てそうだな。

サッカーにおいて一番大切なものが、あっちのチームには無い。

 

 

「それではミニゲームを開始します。先行は八神チーム!」

 

「よっしゃあ。俺が一瞬で点を取ってやるぜ。」

 

「ふん...私が点を取る。」

 

「はぁ...不安だわ...」

 

 

南雲と涼野のキックオフから試合が開始した。

途端、ボールを受け取った南雲が走り出す。

 

 

「おらおらおら!俺を止められるもんなら止めてみな!」

 

「おい!晴矢!一人で行くな!」

 

「チッ...私を差し置いて、点を取れると思うな!」

 

 

あらら...まるでチームワークが無いね。

これなら簡単に止められる。

 

 

「緑川、倉掛!お前達は八神のマークに!本場!南雲を徹底マークだ!」

 

「オッケー!」

 

「はい!」

 

「おう!」

 

 

「くっ...司令塔の私を封じる作戦ね...」

 

「負けないよ、玲名!」

 

「動きを封じる!」

 

 

「チッ...本場!俺を止められるか!」

 

「くっ...!」

 

 

南雲はなかなかテクニックもあるようだな。

体格に差のある本場を軽々と避けて来た。だが...

 

 

「なっ!?」

 

「残念。そこは俺のゾーンだよ。」

 

 

本場の後ろには俺がいた。俺はスピードも自慢でね。

指示を出しながら、本場の後ろに隠れるように構えていた。

 

 

「チッ...抜く!」

 

「遅い!」

 

「なっ!?」

 

 

南雲がボールをキープしようとした瞬間の隙をつき、俺は南雲からボールを奪う。

南雲はずいぶんと自分のプレーに自信があるようだが、俺からしたら隙だらけだ。

 

 

「くっ...止めろ!お前ら!」

 

「自分で取られておいて何を...!」

 

「っ...退きなさい、クララ!」

 

「退かない...!」

 

 

涼野はボールを取り返そうと俺の元へやってくるが、八神は倉掛がマークしているのでうまく奪いにこれていない。

 

 

「私が取る!」

 

「甘いよ。緑川!」

 

「はいよっ!」

 

「何っ!?」

 

 

俺は八神についていたはずの緑川にパスを出す。

あらかじめ考えておいた作戦だ。司令塔の八神をマークすると見せかけて、攻撃的なシフトを引く。

南雲と涼野のやり取りを見ていてわかったが、彼らが協力してプレーすることはまず無い。

だからこそ、視野の広い八神を潰しておけば、簡単に事を運べると。

 

 

「案ずるより産むが易し。まさかここまで簡単に彼の策が決まるとはね!」

 

「ふっ...だがお前ではこの俺からゴールは奪えんぞ!」

 

「砂木沼さん!....油断大敵ですよ!」

 

「何っ!?」

 

 

緑川がキープしていたボールは、再び俺の元へと戻ってきた。

意表をついて緑川にパスを出し、前線へと運んでいる間に俺も前線にあがる。

基本的なカウンター戦術だが、ハーフコートのミニゲームなら簡単にできるうえに強力な戦術だ。

 

 

「くっ...だが俺がゴールを割らせん!」

 

「だったら止めてみろ!”ウイングショットV2”!」

 

「うおおおおおおおおお!」

 

 

俺の渾身のシュートが、砂木沼を襲った。

砂木沼は必殺技を出すことなく、雄たけびを上げながらシュートに立ち向かっていく。

 

 

「ぐおっ!」

 

 

だが、砂木沼の気迫はまるで無意味であるかのように、砂木沼はボールごとゴールへと押し込まれた。

なるほど...ガッツはあるけど、実力が伴っていないようだな。

でも、必殺シュートに恐れずに立ち向かっていく気力はある。こいつは鍛えれば強くなる。

 

 

それに指示通りに動いただけとはいえ、言った通りに動ける緑川や倉掛も良い。

本場も止められなかったとはいえ、良い動きをしていた。

 

 

だが...やはり問題となるのは南雲と涼野だな。

あいつらはプライドが高い、典型的なストライカーだ。

自分が決めてやるという気迫は素晴らしいが、それだけで勝てるほどサッカーは甘くないからな。

 

 

「(ま、それでもこれからが楽しみな奴らだな。)」

 

 

彼らが何れ、俺たち雷門と戦う時が来るのなら....楽しみだな。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

 

「今日はありがとう。彼らもすごく楽しそうだったわ。」

 

「いえ、こちらこそ。...誰かに教えるのって、結構楽しいものですね。」

 

 

あれから日が落ちてくるまで、俺たちはサッカーを楽しんだ。

といっても体力が続いたのは俺だけで、他は今その場に倒れこんでいるけどな。

それにしても、誰かに教えるのがこんなに楽しいなんて思わなかったな。

意外とコーチとか向いてるのかな、俺...祖父さんもコーチだったらしいし。

 

 

「ふふ...そうね。」

 

「瞳子さん。これからもあいつらとサッカーするんで、よろしくお願いしますね。」

 

「ええ。こちらこそ。」

 

 

 

 

「くそ~....結局一回も抜けなかったぜ...」

 

「あれが彼の力....私では足元にも及ばなかった...」

 

「でも、楽しかったわね....久しぶりにみんなでサッカーできて...」

 

「うん...タツヤも来れたらよかったのにね...」

 

「仕方あるまい....だが次は奴も必ず参加させるぞ...」

 

「そうね...タツヤならもしかしたら、彼に匹敵するかもしれない...」

 

 

 

「お前ら。いつまでも寝転がってないで、クールダウンしろよ~。」

 

 

「「「「は~い....」」」」

 

 

さて、もう少しでフットボールフロンティア全国大会だ。

初戦の戦国伊賀島を倒して、トーナメントを勝ち進み決勝で帝国と再戦する。

待ってろよ、鬼道...!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

対決!忍者サッカー

嵐山 side

 

 

 

ついに俺たちはフットボールフロンティア全国大会へとコマを進めた。

俺たちは今、開会式に参加するためにスタジアムへと来ていた。

ちなみに俺たちは1回戦の最初の試合のため、この後すぐ試合だ。

 

 

「決勝以来だな、円堂、嵐山。」

 

「鬼道!」

 

「久しぶりだな。足のケガは大丈夫か?」

 

「ああ。俺は何ともないと言ったんだが、こいつらはしっかり休めと。だから俺が出るとしたら、お前らとの決勝戦だろうな。」

 

「ふっ...決勝が楽しみだな。」

 

 

『最後に推薦招待校として、世宇子中の入場です!』

 

 

世宇子中...?聞いたことない学校だな。

推薦招待ということは、何かしら特殊な事情があるのか?

 

気になって視線を入場口の方に向けるが、なんとそこには世宇子中の選手は一人もおらず、恥ずかしそうにプラカードを持って歩く運営の少女しかいなかった。

 

 

「世宇子か...俺たち帝国の初戦の相手だな。」

 

「(気になるな...)気を抜くなよ、鬼道。」

 

「ふっ...当然だ。」

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

 

「よし!次来い!」

 

 

開会式を終え、俺たちは試合前のアップを始めていた。

反対側では対戦相手である、戦国伊賀島中の選手がアップをしている。

 

 

「豪炎寺!」

 

「おう!....っ!」

 

 

豪炎寺の番となり、パスを受け取ろうとジャンプした瞬間、何者かが豪炎寺へのパスをカットした。あのユニフォーム...戦国伊賀島の選手か。

 

 

「だ、誰だ!」

 

「お前に名乗る名はない!」

 

「何っ!?」

 

 

円堂の問いに、相手は名乗る名は無いと拒否する。

どうやら彼は円堂は眼中にないと言いたいようだな。

豪炎寺に割り込んだあたり、豪炎寺に執着しているようだな。

 

 

「豪炎寺修也!俺と勝負しろ!」

 

「...」

 

「噂は聞いているぞ。天才ストライカーなんだってな。俺は戦国伊賀島中の霧隠才次だ!」

 

「思いっきり名乗ってるっス..」

 

「俺は足に自信がある。どっちが上か決めようじゃないか。ここからフィールドをドリブルで往復して、速さを競うんだ!」

 

 

なるほどな...豪炎寺と勝負したいみたいだ。

だが、速さか...だったら風丸の方が適任のような気もするが。

まあ元陸上部で、別にサッカーで有名なわけでもないから知らないのか。

 

 

「断る。迷惑だ。」

 

「な、何!?」

 

 

だが、豪炎寺は軽く要求を断っていた。

確かに今はアップの時間...迷惑なのは確かだな。

 

 

「逃げるのか、腰抜けめ!」

 

「腰抜けだと!?」

 

「お、お前には言ってない!」

 

「仲間を馬鹿にされて黙ってられるか!その勝負、俺が受ける!」

 

「......一番足が速いのは俺だ。俺がやる!」

 

「風丸!?」

 

 

珍しいな。風丸がこういうのに首を突っ込んでいくなんて。

円堂や豪炎寺から軽く聞いてはいるが、陸上部の後輩に陸上部に戻るように説得されているらしいが...

 

 

「誰だお前は。」

 

「ふっ...お前に名乗る名はない。」

 

「なっ......面白い。叩きのめしてやる!」

 

 

そんなこんなで、風丸と霧隠のドリブル対決が始まった。

言うだけのことはあって、霧隠のスピードは確かなものだ。

それにドリブルしながらでもトップスピードを維持している。

だが、風丸も同じことができている。...本当に元陸上部なのか?

 

 

「言うだけのことはある!...だが、足が速いだけではダメだぜ、サッカーはな!」

 

「なっ!?」

 

 

何と霧隠は風丸からボールを奪い、そのままドリブルを再開した。

風丸も霧隠が使っていたボールをドリブルを再開したが、ボールを奪われた際に衝突したことで少し出遅れている。

 

 

勝負がつきそうだった次の瞬間、戦国伊賀島中の選手が二人からボールを奪い去った。彼らもなかなかの速さだ。

 

 

「勝手な行動は慎め、霧隠。」

 

「サッカーは個人技にあらず。チーム同士で競うものだ。」

 

「ちぇっ...わかったよ。....名前は覚えておくぜ。えーっと...藤丸くん?」

 

「...風丸だ!」

 

 

「行くぞ、霧隠。」

 

「待ちなよ。」

 

「「っ!?」」

 

 

俺は対決を遮った二人に声をかける。

二人は突然横から声をかけられたことに驚いているようだ。

 

 

「(ば、馬鹿な...我々が全く気付かなかっただと...!?)」

 

「(なんて速さ...なんて隠密....こやつ、かなりやる...!)」

 

「悪いけど、ボールは返してもらうよ。これはうちのボールだからさ。」

 

「「っ!」」

 

「い、いつの間に....」

 

「我々からボールを....」

 

 

俺はボールを二つ奪い、足元に置いておいた。

風丸と霧隠の勝負を見ていたら、滾ってしまった。

全国には強敵がたくさんいる...全員と戦ってみたい...!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

『さあ!ついにこの時が来ました!フットボールフロンティア全国大会1回戦!初戦は実に40年ぶりの出場!雷門中学!対するは全国大会の常連!忍術を操る戦国伊賀島中学!どちらが今大会の初勝利を飾るか!キックオフです!』

 

 

ピィィィィ!

 

 

ついに試合が開始した。

俺たち雷門中はいつものフォーメーションで、フォワードは俺、豪炎寺、染岡。ミッドフィルダーは半田、マックス、宍戸、少林。ディフェンダーは壁山、土門、風丸。キーパーは円堂だ。

 

 

俺たちのボールで試合が開始している。

どうやら先ほどのやり取りで警戒されたのか、俺へのマークがかなりキツイ。

だが、俺がいなくてもあいつらは十分戦える。俺だけをマークしていれば良いなんてのはありえないんだぜ。

 

 

「ナイスパスだ!」

 

「このままいくよ!」

 

 

中盤の半田、マックスを中心にパスを回していく。

豪炎寺と染岡はゴール前へと既に上がっている。

 

 

「豪炎寺!決めてくれ!」

 

「させるか!”伊賀島流忍法・四股踏み”!」

 

「なっ!?」

 

 

だが、半田がパスを通す前に戦国伊賀島の選手が必殺技で防いできた。

さすがにカバーが速いな。これが全国レベルか...!

 

 

「止めるぞ!」

 

「遅い!”伊賀島流忍法・残像の術”!」

 

「な、なんだ!?」

 

 

「”伊賀島流忍法・分身フェイント”!」

 

「う、うわっ!」

 

 

戦国伊賀島の選手の必殺技に、全員が翻弄されている。

それに初めての全国大会で、全員がまだ動きが固いな。

 

 

「もらった!”伊賀島流忍法・つちだるま”!」

 

「”熱血パンチ”!」

 

 

霧隠の必殺シュートと、円堂の”熱血パンチ”がぶつかる。

パワーは拮抗していたが、徐々に円堂が押され始め...

 

 

「ぐっ...ぐあっ!」

 

 

ピィィィィ!

 

 

『決まったああああああああ!先取点は戦国伊賀島中!エースの霧隠くんが、雷門からゴールを奪いました!』

 

 

これは重いな....できれば先取点を取って、みんなの緊張を解きたかった。

それに今、円堂は嫌な倒れ方をしたな。ダメージが無ければ良いが...

 

 

 

「こっちだ、風丸!」

 

「甘い!”伊賀島流忍法・蜘蛛の糸”!」

 

「くっ!」

 

 

「遅い!”伊賀島流忍法・分身フェイント”!」

 

「”伊賀島流忍法・残像の術”!」

 

 

 

なんとか点を取ろうと、俺たちも攻めてはいるがなかなか前線へとボールがつながらない。それに相手の独特な動きにうまく対応できず、ボールのキープもままならない状態となっていた。

 

それでも円堂を中心に必死で守り、追加点を取られずに時間が進んでいった。

結局、前半はみんなの緊張も解けず、終始相手のペースで試合が運ばれてしまった。俺もなんとか動きたかったが、先取点を取った余裕からか俺へのマークがさらに増え、なかなか動き出せなかった。

 

 

 

「思った以上に厄介な相手だな...何をしてくるか予測がつかない。」

 

「さすがに全国大会の相手は一筋縄ではいかないな。」

 

「絶対に突破口はあるさ!...っ...」

 

「円堂....お前、手を見せてみろ。」

 

「うっ...痛っ....!」

 

 

円堂の手を掴み、グローブを剥ぎ取る。

円堂の手は腫れていて、かなり重症に見える。

こんな手で、前半を戦っていたのか。

 

 

「はは..大丈夫!ゴールは俺が守るから、みんなは点を取ることに集中してくれ!」

 

「円堂.......みんな!俺たち全員で点を取りに行こう!」

 

「嵐山...」

 

「円堂はこんなになってまで、必死で守ってくれている。だから...俺たちは全力で点を取る!せっかくここまで来たんだ....俺は、お前らと全国優勝したい!」

 

「「「嵐山(さん)...!」」」

 

「行くぞ、おまえら!」

 

「「「おう!!!!」」」

 

 

 

そうして後半が開始した。戦国伊賀島ボールから試合が再開。

前半同様、独特な動きで攻めてくるが、もう俺たちの動きに迷いはない。

 

 

「”伊賀島流忍法・分身フェイント”!」

 

「っ!」

 

「甘い!」

 

「ぬっ!?」

 

 

甲賀が少林をドリブル技で抜いたが、フォローに入った半田が甲賀からボールを奪い去った。

 

そうだ!たとえ独特の動きに翻弄されようと、フォローが入ればボールを奪うことはできる!

 

 

「行け!嵐山!」

 

「おう!」

 

 

俺は半田からパスを受け取り、ドリブルで攻めあがる。

周りを確認すると、風丸が後方から走ってきているのが見えた。

だが豪炎寺のマークが厳しいな...”炎の風見鶏”と行きたいところだけど、まずは豪炎寺のマークを外すことが先決か。

 

 

「(染岡......にもそれなりのマークがついてる。だったら俺が自分で突っ込んで、俺にマークを集中させるのがベストだな..!)」

 

「止めろ!そいつは他とは別格だ!」

 

 

俺がドリブルで攻めあがると、霧隠はディフェンダー陣に指示を出す。

指示を受けた豪炎寺と染岡のマークについていた数人が、俺の方へと向かってきた。

 

 

 

「(よし!)」

 

「ここは通さん!」

 

「止める!」

 

「「”伊賀島流忍法・四股踏み”!」」

 

 

石川と児雷也が必殺技を発動するが、俺はそれをドリブルテクニックで回避する。

その技は前半見た。攻略法は既に見つけてある...!

 

 

『なんと!嵐山、石川と児雷也の必殺技をドリブルで華麗に回避!これはすごいドリブルテクニックです!』

 

 

「「バカな!?」」

 

「これならどうだ!」

 

 

今度は高坂が俺の前へと出てきた。

よし、これで豪炎寺のマークはかなり少なくなった。

そして、俺が時間稼ぎしたことで風丸が既に前線へと上がっている。

 

 

「遅い!」

 

「くっ!」

 

 

俺は豪炎寺と風丸の位置を確認しつつ、高坂をドリブルで躱す。

 

 

 

「まだだ!”伊賀島流忍法・影縫い”!」

 

 

だが高坂も負けじと必殺技を発動する。

高坂の影が伸び、俺へと迫ってくる....が、俺のスピードに影がついてこれず、俺はそのままドリブルで駆けていく。

 

 

「ば、馬鹿な!なんというスピードだ...!」

 

「決めろ!豪炎寺!風丸!」

 

「しまった!」

 

 

俺は豪炎寺と風丸、二人のいる位置からちょうど真ん中あたりになるようにボールを打ち上げる。二人はそれに合わせて駆けていく。

 

 

「(見ていてくれ、宮坂!これが今の俺の....雷門サッカー部、風丸一朗太の戦うフィールドだ!)行くぞ、豪炎寺!」

 

「おう!」

 

「「”炎の風見鶏”!」」

 

 

豪炎寺と風丸が同じスピード、同じ歩幅、同じタイミングでボールを中心に突っ込み、ボールをクロスして打ち上げ、上空でツインシュート....火の鳥を纏ったボールが戦国伊賀島ゴールへと襲い掛かった。

 

 

「”伊賀島流忍法・つむじの術”!」

 

 

戦国伊賀島のキーパー、百地が必殺技で止めにかかった。

竜巻のような風が発生して、”炎の風見鶏”とぶつかる....が、その勢いは全く衰えず、徐々にゴールへと押し込まれている。

 

 

「ぐっ.....何という威力.....ぐああああああああ!」

 

 

『ゴーォォォォォォォル!!!!豪炎寺と風丸、新たな必殺技で戦国伊賀島から得点!これで1vs1の同点です!まだ試合はわからなくなりました!』

 

 

 

「ナイスシュートだ!豪炎寺!風丸!」

 

「嵐山も、ナイスアシストだったぜ!」

 

 

 

「くそ...雷門にこんな必殺技があるとは...」

 

「それだけじゃねえ...あいつ、嵐山とかいうやつのスピードは桁違いだ。」

 

「まさかあんな奴がいるとは...」

 

 

 

これで1vs1の同点だ。あと1点取って、俺たちがこの試合に勝つ。

その後、今度は戦国伊賀島のボールで試合再開。俺たちは得点した勢いそのまま、ディフェンスに入ったが....

 

 

「行くぞ!伊賀島流蹴球戦術!円月の陣!」

 

 

「な、なんだ!?」

 

「ぐああああああああ!」

 

 

何と、戦国伊賀島の選手が全員で三角形の形を取り、こちらのゴールへと突き進んでくる。彼らの周りに砂嵐が巻き起こり、俺たちは近付けずにいた。

 

 

「くそ!近付けない...!」

 

「もらった!」

 

 

そのままゴール前まで進まれてしまい、彼らは陣形を解除する。

そして霧隠がボールを持ち、シュートを打つ体勢に移った。

 

 

「”伊賀島流忍法・つちだるま”!」

 

「さ、させないっス!キャプテンが苦しんでいるなら、雷門のゴールは俺が守るっス!」

 

「何っ!?」

 

「うおおおおおおおお!」

 

 

霧隠がシュートを放つが、円堂の前に壁山が飛び出てきた。

そして、なんと壁山が必殺技を放ち、大きな壁が出現...霧隠のシュートを受け止め、そのまま勢いを殺してシュートを防いだ。

 

 

「くそ...!」

 

「や、やったっス...!」

 

「すごいじゃないか、壁山!」

 

「立ち塞がる大きな壁....”ザ・ウォール”と名付けましょう!」

 

「”ザ・ウォール”....俺の必殺技...」

 

 

凄いな壁山のやつ...そうだ。みんな進化しているんだ。

ここにいる全員で勝ち上がってきた...だからこそ、俺はこいつらともっともっと上に行きたい!

 

 

「こっちだ、壁山!」

 

「ハイっス、嵐山さん!」

 

 

「っ!そいつにボールを渡すな!」

 

「止めろ!」

 

 

壁山が俺にパスを出すと、俺の周りに4人の戦国伊賀島の選手が集まってきた。

俺を止めるために随分とたくさん来たようだけど...俺ばかりに集中してちゃ、あいつが止まらないぜ!

 

 

「風丸!」

 

「何っ!?」

 

「空中で回転して、ダイレクトにパスを出しただと!?」

 

 

俺は壁山からのパスをそのままダイレクトに風丸へと回す。

風丸の前には誰もおらず、あいつのスピードならゴールまで突き進めるはずだ。

 

 

「させるかああ!」

 

「っ!霧隠か!」

 

「スピードで負けてたまるか!俺がお前を止める!」

 

「ふっ...スピードだけじゃサッカーは勝てないぜ!」

 

「何っ!?」

 

 

ボールを持っている風丸と、全力で走れる霧隠では霧隠にスピードの軍配は上がる...だけど、それだけじゃサッカーには勝てない。

 

風丸は柔らかなタッチで霧隠の頭上からボールを通し、そのまま走り抜けていく。

 

 

「しまった!」

 

「決めろ、嵐山!」

 

 

そして、風丸から俺へとボールが回ってくる。

俺もボールを持たずに走ったからな。戦国伊賀島の選手は俺に追いつけず、俺より遥か後方を走っている。

 

 

「”ウイングショットV2”!」

 

「くっ!”伊賀島流忍法・つむじの術”!」

 

 

俺のシュートと、百地の”つむじ”が激突する...が、俺のシュートの勢いはまるで衰えることなく、一瞬で”つむじ”が巻き起こしていた風を吹き飛ばした。

 

 

「がっ!」

 

 

『ゴーォォォォォォォル!雷門中、嵐山のシュートで追加点!これで2vs1、雷門がリードです!』

 

 

ピッピッピィィィィ!

 

 

『おおっと!ここで試合終了のホイッスル!激闘を制したのは雷門中!2回戦へコマを進めました!』

 

 

 

「よっしゃあああああああああ!勝ったぞおおおおお!...って、痛ってええええ!」

 

「ふっ....さっさと手当して病院に行くぞ、円堂。」

 

「痛つつつ....」

 

 

 

こうして俺たちは戦国伊賀島を倒し、フットボールフロンティア全国大会の2回戦へとコマを進めたんだ。

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

 

「やっ!夏未。」

 

「あら....嵐山くん。円堂君の付き添いかしら?」

 

「うん。それと理事長の見舞いと勝利の報告もね。」

 

 

試合後、俺は秋と一緒に円堂の付き添いで病院へと来ていた。

理事長が事故で入院しているから、それの見舞いと、夏未への勝利の報告も兼ねて。

 

 

「理事長、大丈夫?」

 

「ええ...心配ないわ。」

 

「そっか。俺たちもなんとか勝ったよ。」

 

「ふふ、円堂君と木野さんから聞いたわ。」

 

「あれ、先に会ってたのか。」

 

 

どうやら先に二人と会っていたみたいだ。

俺は少し杏奈ちゃんのところに寄っていたから、遅れたみたいだな。

 

 

「あなたも得点したそうね。さすがだわ。」

 

「ふふ、ありがとう。でもみんなで頑張った結果だよ。特に今日は風丸がすごかったな。」

 

「そうみたいね。ふふ...私も試合、見たかったわ。」

 

「大丈夫だよ。俺たちはこれからも勝ち続ける。決勝まで勝ち上がって、絶対に優勝してみせる。」

 

「ふふ...随分な自信ね。なら絶対に優勝しなさい。これは..........私の心からのお願いよ。」

 

「....ああ。約束する。必ず夏未...君に優勝トロフィーを届けるよ。」

 

「っ!....約束よ。」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嵐山と鬼道

円堂 side

 

 

「よっしゃー!2回戦に向けて特訓だ!」

 

「うおおおお!」

 

「次も勝つっスぅぅぅ!」

 

 

俺たちは今、イナビカリ修練場で猛特訓を重ねていた。

念願だったフットボールフロンティアへの出場、そして全国大会への進出。

さらにはその1回戦での勝利...俺たちは今、勢いに乗ってる!

 

 

「た、大変です!」

 

 

そんなとき、音無がいきなり修練場へと入ってきた。

随分と慌てているようだけど、どうしたんだろう。

今日は嵐山と一緒に、帝国学園の試合を見に行っていたはずだけど...

 

 

「て、帝国学園が....」

 

「初戦突破か!さすがだな!」

 

「10vs0で....」

 

「おお、随分な点差だな!」

 

「世宇子中に.....完敗しました....」

 

 

さすが鬼道たち帝国学園だな!....え?

 

 

「帝国が負けた!?う、嘘だろ音無!?」

 

「それも10vs0って...帝国が1点も取れていないなんて、ありえないっスよ!」

 

「あの帝国が初戦で負けるわけねえだろ!?」

 

 

音無の話に、みんな特訓を辞めて驚いていた。

だけど音無は暗い顔で俯いて、試合の悲惨さを語りだした。

 

 

「私も信じられませんでした....見たことない必殺技が次々決まって...佐久間さんたちの技は何も通用せず、逆に世宇子の必殺シュートで源田さんが怪我を...他の帝国イレブンもどんどん怪我で倒れて、お兄ちゃんが怪我をおして出ようとしたときにはもう....」

 

 

「あ、ありえねえ...あの帝国が...」

 

「鬼道は今、どうしてるんだ...?」

 

「わかりません....ほかの帝国イレブンはみんな、病院に運ばれて...私は嵐山先輩から、みんなに試合結果を報告するようにと...先に帰ってきました。」

 

 

嵐山が....もしかしたら、あいつは鬼道のところに行ってるのかもな。

俺も鬼道に会いに行きたいけど、今は嵐山に任せるか...

 

 

「わかった...伝えてくれてありがとうな、音無。」

 

「はい....」

 

「....みんな!このことは確かに驚きだ。俺も...正直未だに信じられない。だけど俺たちのやることは変わらない!次の試合に向けて、特訓再開だ!」

 

「「「お、おう...!」」」

 

 

鬼道....大丈夫かな....

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「鬼道...」

 

「ふっ....嵐山か.....笑いに来たのか....?」

 

「何言ってんだ。....大丈夫か。」

 

「大丈夫か、だと.......大丈夫なわけあるか....40年間無敗だった帝国学園...俺たちはその歴史を終わらせたんだ...!ただひたすら勝つことだけを考えて戦い続けてきた...それが、ボールを触る前に試合が終わったんだ...!」

 

「鬼道...」

 

「今までずっと、寝ても覚めてもサッカーのことを考えてきた....それが、こんな形で終わるなんてな...俺のサッカーは終わったんだ...」

 

 

随分と弱っているようだな....あの鬼道が、俺にあんな弱音を吐くとはな。

それにいつもの覇気を感じない。...だが気持ちはわかるかもしれない。

 

 

「鬼道...本当にお前のサッカーは終わったのか?」

 

「何...?」

 

「お前にはまだ、戦う手段が残っている。少し、俺と話をしないか?」

 

「.......いいだろう。ここではなんだ。俺の家に行こう。」

 

 

そんなこんなで、俺は鬼道の家へと来た。

さすが、鬼道の家はデカいな....夏未の家もすごかったけど、鬼道も負けてない。

俺もいつかはこんな家に住んでみたいとは思うけど、何だかんだで今の家みたいな方が落ち着くかもな。

 

 

「こんな広い部屋に住んでるんだな。」

 

「まあな...」

 

「...これ、随分と古いサッカー雑誌だな。」

 

「ふっ.......俺が何でサッカーを始めたか、知っているか?」

 

「いや、知らないけど...」

 

「まあそうだろうな。...俺の両親、飛行機事故で死んだんだ。父さんも母さんも海外勤務が多くてさ...俺と春奈は二人っきりだった。そしてあの事故で本当に二人っきりになっちまった。家族の写真は1枚も残ってない...小さかったから、父さんと母さんの記憶もほとんど残ってない。残ったのはこれだけで....これだけが俺と父さんを繋ぐ絆なんだ。だからサッカーを始めた。ボールを蹴っていれば、父さんと一緒にいるような気がしたんだ...」

 

 

そうか....このノートが、鬼道のサッカーのルーツなのか。

円堂とよく似ているな。俺とも少し、似ているかも。

 

 

「俺も...死んだじいちゃんがすごい選手でさ。じいちゃんにサッカーを教えてもらったんだよ。」

 

「そうか...やはりな。」

 

「やはり?」

 

「小学生のころ、お前に負けてからお前のことは調べさせてもらった。...嵐山宗吾...伝説のサッカー選手として、今もなお語り継がれている日本の宝。お前の動きは、嵐山宗吾のプレーとほとんど同じだった。」

 

「じいちゃんと同じ、か....まあ俺のプレーのすべては、じいちゃんから教えてもらったものだからな。”ウイングショット”も、じいちゃんの必殺シュートからヒントを得て、俺が初めて打った必殺技だから...」

 

「そうか......俺はお前が羨ましいよ、嵐山...俺にもお前と同じように、父とのサッカーの思い出があれば...」

 

「....そんな羨ましがられるようなものでもないさ。」

 

「嵐山...?」

 

 

じいちゃんとの思い出はいつも楽しいものだったけど...

じいちゃんとの特訓は今でもちょっとトラウマだからな。

 

 

「...なあ、鬼道。お前、円堂を正面からしか見たことないだろ。」

 

「...?何を当たり前のことを...」

 

「今度は円堂に、背中を預けてみないか?」

 

「っ!...お前、まさか...」

 

「世宇子と戦うために.....良い返事を待ってる。」

 

「嵐山...」

 

 

.....

....

...

..

.

 

夏未 side

 

 

『優勝トロフィーを君に届けるよ。約束する。』

 

 

「っ.....ハァ...」

 

 

また思い出してしまった。

あんなに真剣な表情で言われて、ドキッとしない女の子なんているのかしら。

嵐山くんも悪い人ね....

 

 

「夏未お嬢様、ずいぶんと溜息が多いですね。お疲れではございませんか?」

 

「あら、ごめんなさい...そんなに溜息をはいていたかしら...」

 

「はい。今ので本日50回目でございます。」

 

「....場寅、あなた何故回数を数えているのよ...」

 

「執事でございますから。」

 

 

全く、場寅は何を言っているのかしら....

それにしても、最近は嵐山くんのことばかり考えている気がするわね。

 

 

「ところで、お父様の具合はどうかしら。」

 

「はい、安定しております。...ああ、それから旦那様からのご伝言です。」

 

 

そう言って、場寅は懐から手紙を取り出し、私に渡してきた。

私は封を切って、手紙を確認した。

 

 

「何よ、これ....」

 

 

『...........というわけで、イナズマイレブンを乗せたバスは横転した。しかし彼らは這ってでも試合に出ようとした。だがその事態を見透かしていたかのように、大会会場に一本の電話がかかってきた....試合には参加しません、とね。それは影山からの電話だった。』

 

「(影山....一体どれほどの悪事を.......っ、これは....)」

 

『しかし、私は疑問に思っていることがある。調べた限り、当時電話したのは確かに影山だった。これは間違いない。だが...当時の彼は中学生。バスに細工したり、帝国学園に肩入れしたり....当時の彼にそんな権力があるはずが無い。裏で手を引いている者がいるのではないか....そう思っている。』 

 

「(裏で手を引いている人物.....確かに、今の影山はともかく、当時の影山にそんな力があったとは考えにくい...)」

 

『そして、私はいくつかの組織の存在を知った....そんな矢先だ。私は事故に会い、大怪我を負った。偶然とは思えない。夏未、もしも私がまた狙われた時、頼りになるのはお前だ。お前には私が調べた情報を与える。...大事な娘にこんな情報を与える父を許して欲しい。』 

 

 

「お父様.....」

 

 

手紙の最後には、お父様が言っていた組織についての情報が書かれていた。

オリオン財団、そしてオイルカンパニー....そしてミスターAという謎の人物...これがお父様の調べた情報...

オリオン財団もオイルカンパニーも、世界的に有名な組織ね...そんな組織が、何故影山に手を...?

 

 

「わからないことだらけね.....ハァ....」

 

「お嬢様....」

 

「あら、これで51回目ね....ふふ...」

 

「お休みになられますか?」

 

「そうね.....(オリオン財団にオイルカンパニー...ミスターA....わからないことばかりだけど、今は雷門サッカー部の一員として、彼らをサポートしなくてはね...)」

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

マズイことになったかもしれないな....

 

 

「宍戸、パス!」

 

「はい!(1...2...3!)」

 

「うわ!?」

 

「す、すみません!...いつもみたいにパスしたつもりなんですけど...」

 

 

半田と宍戸はパスがうまく噛み合ってないし...

 

 

「栗松っ!」

 

「どわああああ!」

 

「わ、わりぃ....もしかして俺のボール、スピード違反だった?」

 

 

土門のパスが早すぎて、栗松が取れてない。

 

 

「”ドラゴン”」

「”トルネード”!」

 

「....どうした!調子が悪いのか!」

 

 

豪炎寺と染岡に至っては、連携シュートが全くタイミングが合っておらず、威力がまるで出ていない。

この異常な状態に、円堂も困惑している。

 

 

「何よ、みんなたるんでいるわね。」

 

「みんな変だわ...いったいどうしたのかしら。」

 

「体がなまってるんじゃないかしら?」

 

「いえ、そんなことないですよ。みんな動きは格段に良くなってます。」

 

「じゃあ気持ちがなまっているんだわ!修練場で特訓かしら。」

 

「修練場のせいだ。」

 

「「「えっ?」」」

 

 

マネージャーたち三人が話していると、響木監督が原因を語り始めた。

俺も同じ意見だ。修練場での特訓で、俺たちの能力は格段にアップした。

だけどそれをみんなが感覚で捉えられていないから、今までと同じようにやろうとしてうまくいってない。

自分の実力だけじゃなく、相手の実力がどれだけ上昇したかを感覚で捉えられないから、タイミングが合わず、連携がうまくいってないんだ。

 

 

「そんな....能力の向上が裏目に出るなんて...」

 

「だが、能力が向上しなければ上にはあがれない。何れは誰もがぶち当たる壁さ。」

 

「嵐山くん、あなたは大丈夫なのかしら?」

 

「いや...さすがに俺も全員の状態を把握はできてないよ。今は俺が司令塔の役目も担ってるけど、あくまで俺はストライカーだからね。本物の司令塔みたく、みんなの能力をしっかりと把握はできてないさ。」

 

「そんな...嵐山君でもダメなんて...」

 

 

さて、どうしたものか...

もしもあいつが腹をくくって、俺の誘いに乗ってくれるのなら解決するんだけどな。

だが、今は無いものねだりをしたところで意味は無い。自分たちで出来ることをやっていくしかない。

 

 

「少なくとも、豪炎寺、染岡、風丸、壁山あたりは何とかしておかないと、攻撃力が大幅に落ちるな。」

 

「そうだな。嵐山、あいつらを頼めるか?」

 

「わかりました。....監督は頼んでおいた件、お願いしますよ。」

 

「ああ、わかっている。」

 

 

「頼んでいたこと....?」

 

「うん。...夏未にも力を借りることになるかもね。」

 

「...?」

 

 

さ、とにかく練習だ。

次の対戦相手は圧倒的な防御力を誇る、千羽山中だ。

連携を失って大幅に攻撃力が落ちた状態じゃ、決して勝てない。

 

 

 

「それにしても円堂....本当に”無限の壁”を正面から打ち破るつもりか?」

 

「ああ!正面からズバーンとな!」

 

「今の俺たちにできるのかね....」

 

 

連携がうまく行かない状況に、みんな気落ちしているようだ。

確かにここまでうまくいかない状態で、大会無失点の防御を正面から突破するなど不可能だろう。

だが、気持ちが折れたら本当に終わりだ。

 

 

「土門君、”トライペガサス”はどうかしら?」

 

「”トライペガサス”か...確かにあの必殺技なら”無限の壁”も打ち破れるかもな。」

 

「”トライペガサス”....?どんな技なんだ?」

 

「ああ。俺と、一之瀬って奴と、西垣って奴で打ってた必殺技さ。」

 

「へえ、三人技か。その一之瀬と西垣ってのはどんな奴なんだ?」

 

「私と土門君がアメリカに留学してた時の友達。サッカーがすっごく上手だったの。」

 

 

一之瀬に西垣か...秋や土門がそういうくらいなんだから、ずいぶんとサッカーがうまいんだろうな。

それに”トライペガサス”...俺たちは今まで”イナズマ1号落とし”を除けば、最高で二人での合体技しか打ってこなかった。”イナズマ1号落とし”も、キックしているのは二人だからな。

もしも三人での連携技が打てたら、それはかなりのレベルアップに繋がるんじゃないだろうか。

 

 

「一之瀬に限っていえば、俺たちのチームを優勝に導いた立役者でな。フィールドの魔術師なんて呼ばれてたよ。」

 

「フィールドの魔術師か~...会って見てえ!なあ、その一之瀬ってどこにいるんだ?」

 

「....」

 

「うん?」

 

 

土門が指をさしているのは、空だ。

そして、秋は俯いている。つまりは、そういうことなのだろう。

 

 

「...死んじまった。」

 

「えっ...」

 

「ねえ土門君...土門君ならあの技をみんなに教えられるんじゃないかしら。」

 

「どうだろうなぁ...あの技を考えたのだって、一之瀬だったし....言葉にするのムズイんだよな...」

 

 

「お前ら、そこまでにしとけ。」

 

「嵐山...どうしてだよ。絶対すげえ必殺技だぜ?”トライペガサス”を覚えたら、”無限の壁”だって...」

 

「落ち着け、円堂。別に”トライペガサス”を諦めろと言ったわけじゃない。俺が言いたいのは、必殺技に囚われすぎていないか、ってことだ。」

 

「必殺技に...?」

 

「御影専農の時も言ったろ。必殺技だけがサッカーじゃない。それに今の俺たちは、連携がまるでできていないんだ。三人技なんて、連携が完璧に出来てない奴がやったところで無駄だ。..だから今は”トライペガサス”の練習よりも、やるべきことがあるんじゃないのか?」

 

「嵐山............そうだな!悪い!」

 

「いや、別にいいんだ。....さ、練習を再開しようぜ。」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

 

こうして俺たちは残る時間も、ひたすら連携の練習に当てた。

多少は改善したものの、やはり全員が全員の状態を把握する必要がある以上、どうしてもうまく行かないときがある。こればかりは今はどうしようも無いな.....あとはあいつがどうにかしてくれることを期待するしかない。

 

 

そして、時は流れて2回戦前日....俺の元に2通のメッセージが届いた。

 

『頼まれていた件、承認された。』

 

『お前の言っていたこと、受けようと思う。お前の言う通り、俺は俺のサッカーを終わらせたくない。』

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

2回戦当日...

 

 

 

「そろそろ始めませんか?」

 

「いいや、まだだ。もう一人来る。」

 

「監督!いい加減にしてください!」

 

「もう一人もう一人って、全員揃ってるじゃないですか!」

 

 

俺たち雷門イレブンは、全員ベンチに揃っていた。

だが響木監督の指示で、まだフィールドへと出ていない。

千羽山イレブンも、俺たちが出てこないので今はベンチで休んでいる。

 

 

「いいですか?大会規定により、あと3分以内に試合をする意思を見せなければ、試合放棄とみなします。」

 

「ええ!?」

 

「監督!誰を待ってるっていうんです!」

 

「円堂君!キャプテンでしょ!監督に何か言ってよぉ!」

 

「よ、よくわかんないけど、監督がまだだって言ってるからまだじゃないか?」

 

「もう!」

 

 

秋が円堂に監督を説得するよう言ったが、円堂は監督を信頼しているからか待つようだ。

まあ俺も待ってはいるが...正直少し不安になってきたぞ。あいつ、本当に来るんだろうな?

 

 

「あと1分...」

 

「試合放棄なんて勘弁して下さいよ!」

 

「来る来るって、誰が来るんですか!」

 

「もう誰も来ませんよ!全員揃ってるんですから!」

 

「何で試合を始めないんですか、監督!」

 

 

全員のボルテージが高まり爆発しそうになる...が、どうやらようやく来たようだな。

どうにも時間にルーズらしい。それとも興奮して眠れなかったか...?

 

 

「来たようだな。」

 

「ふっ....待たせたな。」

 

 

そこには雷門中のユニフォームを来た鬼道の姿があった。

全員が唖然として、言葉を失っていたが.....

 

 

 

「「「「「えええええええええええええ!?」」」」」

 

 

 

「ふっ...遅いんだよ、鬼道。」

 

「悪いな。少し、遅れてしまったようだ。」

 

「審判、試合を始めてくれ。」

 

「....良いでしょう。これより雷門中vs千羽山中の試合を始めます!」

 

 

 

さて、見せてもらおうか鬼道。

天才ゲームメーカーの実力をな。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

無限の壁を超えろ

嵐山 side

 

 

『ええと...大会規定第64条第2項!プレイヤーは試合開始前に転入手続きを完了していれば、大会中でもチーム移籍は可能...!』

 

 

「すごい!あの鬼道さんがいれば、千羽山の守りも崩せるかも!」

 

「宍戸、お前はベンチだ。」

 

「えっ?」

 

「代わりに鬼道が入る。」

 

「え、あ...俺...ですか...」

 

 

...わかってはいたことだが、鬼道が入ることによって宍戸がベンチ入りか。

運動能力でいえば、ミッドフィルダーの中だと宍戸が今のところ出遅れているからな。

だけど宍戸にだって、出番が回ってくる。ここで気持ちを切らしてもらっては困るな。

 

 

「宍戸。今回はベンチだが...お前だって雷門イレブンの一員だ。必ず出番は来る。切れるなよ?」

 

「嵐山さん......はい!俺、いつでも出られるように準備しておきます!」

 

「ああ、頼んだぞ。」

 

 

何とか宍戸の気持ちを切らせずに済んだようだな。

だが、そんな俺たちや鬼道を見て、浮かない顔をしている奴が一人いたことに、俺は気付かなかった。

 

 

 

『さあ、雷門ボールでキックオフです!』

 

 

ピィィィィィ!

 

 

試合開始のホイッスルが鳴った。

今回のフォーメーションはいつもと同じだが、メンバ―が入れ替わっている。

フォワードに俺、豪炎寺、染岡。ミッドフィルダーに鬼道、半田、少林、マックス。ディフェンダーに土門、壁山、風丸。そしてキーパーに円堂だ。

 

 

対戦相手の千羽山は、噂通りの防御よりの陣形のようだな。

大会屈指の防御力...この壁をどう打ち破る、鬼道。

 

 

「染岡!」

 

「っ!弱い!もっと強く出せ、半田!」

 

 

「栗松!」

 

「ひぃ!大きすぎるでやんす!」

 

 

『おおっとどうしたことか!雷門イレブン、全くパスが通りません!連携ミスが多発しているぞ!』

 

 

やはりまだダメか...だがまだ鬼道は動いていない。

どうやら俺たちの動きを分析しているようだな。

だったら今は繋がらなくてもいい。俺たちの動きを鬼道にしっかり見せる!

 

 

「こっちだ、マックス!」

 

「おう!嵐山!」

 

「っ...!」

 

 

マックスのパスは俺のスピードと全く合わず、俺の後方を通りすぎていく。

だが幸運にもその先には染岡がいたので、何とか俺たちのボールで繋がっている。

 

 

「豪炎寺!」

 

「くっ!」

 

 

今度は染岡から豪炎寺へのパス。

だが、染岡のパスの威力が高く、豪炎寺のタイミングと合わずにボールが通りすぎていく。

 

 

「ラッキー!もらったっぺよ!」

 

 

しかも今度は千羽山の選手にボールが渡ってしまった。

まずいな...もう少し、鬼道に動きを見せておきたかったが....

 

 

「ふっ....(これで揃った!)」

 

「っ!」

 

 

いや、どうやら鬼道はもう答えを見出したようだな。いらぬ心配だったか。

だったらさっさとボールを奪って、その実力を見せてもらおうか!

 

 

「遅いっぺよ!」

 

「それはこちらのセリフだな!」

 

「何っ!?」

 

「”スピニングカット”!」

 

「ぐあ!」

 

 

千羽山の原野がドリブルで駆けあがってきたが、俺はその前に移動してボールを奪い去る。

そして俺は鬼道に視線を送る。

 

 

「ふっ....嵐山!豪炎寺にパスだ!3テンポ遅らせろ!」

 

「3テンポね!.........ここだ!豪炎寺!」

 

「っ!」

 

 

俺からのパスは勢いよく豪炎寺の元まで進んでいき、そのまま豪炎寺の足元に吸い込まれるようにおさまった。

この試合、ようやくまともにパスが通った瞬間だな。

 

 

「パスが....」

 

「通った...!」

 

 

「行け、豪炎寺!」

 

「っ!”ファイアトルネード”!」

 

 

すかさず豪炎寺は自身の必殺技、”ファイアトルネード”を放った。

だが千羽山のディフェンダー、牧野と塩谷がゴール前へとあらわれ、キーパーの綾野とともに必殺技を繰り出した。

 

 

「「「”無限の壁”!!!」」」

 

 

ドゴンッ!

 

 

豪炎寺の”ファイアトルネード”が”無限の壁”にぶち当たる。

しかし”無限の壁”はびくともせず、一瞬にして”ファイアトルネード”の勢いを削いでしまった。

 

 

「その程度のシュートじゃ、”無限の壁”はびくともしないっぺ!」

 

「くっ!」

 

「(これが”無限の壁”か...想像以上に手ごわいな。....”天地雷鳴”なら、もしかすれば...)」

 

「炭野!」

 

「育井!」

 

 

今度は千羽山のカウンターが始まった。

シュートを止めたキーパーの綾野から、炭野、育井へと繋がり、育井がドリブルで駆けあがる。

 

 

「戻れ!」

 

「甘いっぺよ!”モグラフェイント”!」

 

「くっ!」

 

 

ボールが地中を移動し、マックスが軽く躱されてしまう。

育井はそのままライン際をドリブルで駆けあがっている。

まずいな....攻撃的な陣形であるため、俺たちのフォーメーションはサイドを躱されると一気に攻めあがられてしまう。

 

 

「ここだっぺ!田主丸!」

 

「もらった!”シャインドライブ”!」

 

 

「ぐっ!目が...!」

 

 

田主丸の必殺シュート”シャインドライブ”により、円堂...いや、壁山たちディフェンダーも目くらましされている。このままじゃシュートが入っちまうぞ...!

 

 

「くそっ!ここだ!」

 

 

円堂は見えないながらも大きく手を振り、何とかシュートを防ごうとした。

だが円堂の拳はボールにはあたらず、ボールはそのままゴールへと突き刺さってしまった。

 

 

『ゴーォォォォォォォル!先制点は千羽山です!今大会未だに無失点を誇る千羽山中...この絶対的な防御力を誇る千羽山中に先制点を許してしまった雷門....かなり苦しい状況です...!』

 

 

「すまない、みんな!次は止めてみせる!」

 

「ドンマイだ円堂!俺たちもフォローする!」

 

「ああ、頼むぜ風丸!」

 

 

厄介なシュートだな...だが見たところ威力はそこまでなさそうだ。

目くらましさえ何とかなれば、円堂なら必ず止められる。

だから後は、あの”無限の壁”をどうにかする方法を考えなくちゃな。

 

 

そして雷門ボールで試合再開。

俺たちは鬼道の指揮のもと、果敢に攻めあがる。

ボールキープ率は俺たちが圧倒的なのだが、俺たちのシュートは”無限の壁”の前に悉く封じられている。

 

 

「”ドラゴン”」

「”トルネード”」

 

「「「”無限の壁”!!!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

「「”炎の風見鶏”!」」

 

「「「”無限の壁”!!!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

「”ウイングショットV2”!」

 

「「「”無限の壁”!!!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

「くそ...!(全然打ち破れる気がしない...!今の俺たちが打てる最強の技は”炎の風見鶏”だ...それが通じないのはかなりマズイぞ...!)」

 

 

ピィィィィィ!

 

 

っ...ここで前半終了か...

あれだけ攻めて、まだ1点も取れないとはな。

千羽山中...恐ろしい防御力だ。

 

 

「....後半は染岡のワントップで行こう。」

 

「えっ?ワントップ!?」

 

「確かに”無限の壁”は脅威だが、弱点はある。それは3人の連携技であるということだ。染岡、攻撃すると見せかけて、できるだけ5番のディフェンダーを4番から引き離すんだ。」

 

「なるほどな...その手があったか!」

 

 

「ちょ、ちょっと待てよ!嵐山と豪炎寺を下げるって、本当にそれでいいのかよ!そんなの俺たちのサッカーじゃない!嵐山と豪炎寺、そして染岡のスリートップ、それが俺たちのサッカーだろ!」

 

「半田...」

 

「....俺は鬼道に賛成だ。」

 

「っ、嵐山!どうしてだよ!」

 

 

俺が鬼道に賛成したことに、半田だけじゃなく他のみんなも驚いていた。

だが俺が賛成したのにも訳がある。

 

 

「半田...確かに今まで俺たちはスリートップで戦ってきた。だがそれだけが俺たちのサッカーか?」

 

「えっ...だって、そうだろ...?」

 

「いや、違う。俺たちのサッカーは、そんな形にこだわるところじゃない。俺たちのサッカーは、ここだ。」

 

 

俺はそう言って、拳を握って胸の中心を叩く。

いつだって俺たちのサッカーは、諦めないド根性だったはずだ。

帝国相手にボロボロになりながら戦ったり、すげえプレーを見て悔しくて泥だらけになりながら練習したり...いつだって俺たちは心で戦ってきた。

 

 

「俺たち雷門の魂があるなら....それは俺たちのサッカーだ。たとえ形が変わろうとな。」

 

「嵐山.......わかったよ。鬼道の言う通りに戦ってみる。....悪かったな、鬼道。」

 

「いや....(これが嵐山か...俺を奮い立たせてくれたように、こいつは俺たちのすぐ隣を歩いてくれる。常に寄り添い、そして導いてくれる存在....だからこそ、俺は嵐山に憧れ、勝ちたいと思うのだろうな。)」

 

 

「前半の動き、点は取れなかったけど悪くはなかった。この調子で後半もボールをキープして、攻めて攻めて攻めまくるぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

 

こうして後半が開始した。

千羽山ボールでの試合開始だが、俺と豪炎寺が中盤に入ったことで防御力が増したのか、一瞬で俺たちがボールを奪い去った。

 

 

「くっ...なかなかやるっぺよ!」

 

「んだけど、おらたちには”無限の壁”があるべさ!」

 

 

「染岡!」

 

「おう!」

 

「そうは行かないっぺ!」

 

 

半田から染岡へとパスが繋がった。

作戦通り、染岡は5番のディフェンダー、塩谷をゴール前から引き離すようにドリブルで突き進んでいく。

よし、これだけ離れたら行けるはず!

 

 

「かかった!」

 

「決めろ、豪炎寺!」

 

 

「行くぞ風丸!」

 

「おう!」

 

「「”炎の風見鶏”!!」」

 

 

作戦通り、”無限の壁”を発動させられない状況にして、シュートを放つことができた...!

 

 

「「「”無限の壁”!!!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

「何だと!?」

 

「”無限の壁”...だと...!?」

 

 

「ふい~...危なかったっぺ~...」

 

 

 

あのディフェンダー、いつの間に...!

何て速さだ...あれだけ染岡が引き離したというのに、一瞬でゴール前まで戻りやがった...!

 

 

その後も俺たちはボールをキープし、果敢に攻めていった。

だが”無限の壁”を攻略することができず、時間だけが過ぎ去っていく。

 

 

「「”炎の風見鶏”!」」

 

「「「”無限の壁”!!!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

「”イナズマ”!」

「”1号”!」

 

「「「”無限の壁”!!!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

 

「くそ....これでも無理なのかよ....」

 

「このまま、負けちゃうのかな...」

 

「っ...!」

 

 

マズイ...みんなの気持ちが切れかけている。

鬼道でさえ、眉間にしわを寄せて俯いている。

どうすればいい....この試合に勝つには....どうすれば...!

 

 

「負けるなあああああああああ!頑張れえええええええええ!」

 

「「「っ!」」」

 

「宍戸...」

 

「頑張れえええええええええ!雷門んんんんんん!」

 

 

みんなが諦めかけたその時だった。

ベンチから誰よりも大きな声で、宍戸の応援が響いた。

あいつはまだ諦めてないんだ。自分が出られなくて悔しいってのに、必死になって俺たちを応援している。

 

 

「お前ら、まさか諦めたなんて言うんじゃないだろうな!」

 

「円堂...」

 

「まだ試合は終わったわけじゃない!俺たちが今まで勝ち上がってこれたのは、最後まで諦めずに戦ったからだろ!諦めたらそこで終わりだ!それこそ.....俺たちのサッカーじゃない!」

 

「円堂....!」

 

「そうだ!まだ終わっちゃいねえ!」

 

「最後まで諦めずに戦うぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

 

「(そうか...これが円堂と共に戦うという意味か。ふっ....面白い。)」

 

「行くぞ、鬼道。」

 

「嵐山...」

 

「期待してるぜ。お前のゲームメイク。」

 

「ふっ...ならば俺もお前に期待させてもらおうか。パーフェクトプレイヤー、嵐山隼人のシュートを!」

 

 

 

再び試合再開。残り5分という短い時間だが、それでも俺たちは最後まで諦めずに戦う。

さて...今の俺ができる最高のプレーを見せてやろうか!

 

 

「こっちだ!半田!」

 

「っ!鬼道!」

 

 

ボールは半田から鬼道へと渡った。

最初は反発していた半田も、今では鬼道を信頼しているのかしっかりと指示に従っている。

そして鬼道も、それを理解しているのかしっかりと周りを把握して指示を行っている。

 

 

「ここは通さないっぺ!」

 

「っ!(まだか...嵐山...!)」

 

「せーの!」

 

「「「かごめ、かごめ、かーごめかごめ。」」」

 

 

『おっとこれは!千羽山中得意の必殺技!”かごめかごめ”の構えです!』

 

 

「っ...!」

 

「こっちだ!鬼道!」

 

「ふっ...遅いぞ、嵐山!」

 

「「「あっ!」」」

 

 

千羽山の”かごめかごめ”が決まる直前、俺は鬼道にパスを要求した。

鬼道は最初から俺があがるのを待っていたのか、俺から要求が来たと同時にパスを出す。

さすがの早さに、千羽山のディフェンダーは反応が出来ずに出遅れていた。

 

 

『嵐山にボールが渡ったぞ!今大会、大事な場面で得点しているこの男!千羽山の”無限の壁”を打ち崩せるか!』

 

 

この試合...俺たちが絶対に勝つ!

俺たちはここで終わるチームじゃない...もっともっと上に行ける...!

それに約束したんだ!絶対に優勝するって...!

 

 

「これが俺の全力だああああああああああああ!」

 

 

俺はボールを上空へと蹴り上げ、ボールは雲へと飲み込まれる。

さらに地面を盛り上げボールへと近付き、ボールへ雷のエネルギーを溜める。

 

 

「あの技は...!」

 

「やるのか、嵐山...!」

 

 

「うおおおおおおおおおお!”天地雷鳴”!」

 

 

盛り上がった地面から飛び上がり、右回りに超回転しながらボールを蹴り落とす!

これが俺の全力!俺の本気!俺の”天地雷鳴”!

 

 

「いっけえええええええ!」

 

「「「”無限の壁”!!!」」」

 

ドゴンッ.....!!!!!

 

 

俺の放ったシュートは”無限の壁”と激突するが、今までと異なり威力が落ちることは無く、さらに激しく回転して今にも壁をぶち抜かんとしている。

 

 

『な、なんだこのシュートは!大会最強と呼び声高い、”無限の壁”が押されているぞおおおおおお!』

 

 

「「「うぐぐぐぐ!」」」

 

「ぶち抜けええええええええええええ!」

 

 

ピシピシピシ........ドゴォォォォンッ.........!

 

 

「「「ぐあああああああああああああ!」」」

 

 

ボールの勢いはとどまることなく、ついに”無限の壁”はひび割れ始めた。

そしてついに、破ることなどできないと思われていた”無限の壁”を打ち砕き、絶対的な防御力を誇っていた千羽山中に、失点を与えることができたんだ。

 

 

『ゴーォォォォォォォル!決まりましたあああああああああ!雷門中、嵐山隼人!まるで吹きすさぶ嵐のように!まるで怒り狂う雷のように!凄まじいシュートを放ち、ついに無敵の要塞!”無限の壁”を打ち砕きましたああああああああああ!』

 

 

「「「うおおおおおおおおおお!」」」

 

「すげえぜ、嵐山!」

 

「ふっ...さすがだな奴は...」

 

「そうでなくてはな。」

 

 

「やった....やった....ぞ....」

 

 

ドサッ!

 

 

「「「嵐山(さん)!?」」」

 

 

 

あれ...力が入らねえ...何だこれ....

ははは...悪ぃ、円堂....少し先に...休ませて...もら.........

 

 

.....

....

...

..

.

 

円堂 side

 

 

「嵐山!おい!」

 

「担架です!急いでベンチまで!」

 

「嵐山!」

 

 

嘘だろ、嵐山...せっかくまた一緒にサッカーできてたのに、また...!

そんなの嫌だ...俺はお前と一緒に、フットボールフロンティアで優勝しようって...!

 

 

「落ち着け、円堂。」

 

「っ!...ひ、響木監督...」

 

「別に怪我でもないし、命に関わるようなものでもない。」

 

「で、でもいきなり倒れて...」

 

「無理もない...火事場の馬鹿力という奴だ。今のあいつに、あの必殺技を打って元気でいるだけの体力が無かっただけだ。休めばすぐに良くなる。」

 

「そ、そうですか.....」

 

 

良かった....俺、嵐山がまたいなくなっちゃったら、どうすればいいかわからないよ...

 

 

「円堂。嵐山が今出せる全力を使い果たしてでも取った点だ。」

 

「はい...!」

 

「お前たち....嵐山に勝利を届けようじゃないか。」

 

「「「はいっ!」」」

 

 

「宍戸!行けるな?」

 

「はい!行きます!」

 

「よし。なら行ってこい!お前たちでもう1点もぎ取って、この試合に勝て!」

 

「「「はい!!!」」」

 

 

嵐山....待っててくれよな。

絶対にこの試合に勝って、お前をびっくりさせてやるから!

 

 

 

ピィィィィィ!

 

 

残り時間2分...千羽山のボールで試合が再開した。

だけど、無敵の守りが敗れて焦ったのか、攻め方が雑になっている。

 

 

「そこだ!」

 

「な、何っ!?」

 

「ナイスだ、宍戸!」

 

「よし...!俺だってやればできるんだ...!」

 

 

「いいぞ、宍戸!こっちだ!」

 

「鬼道さん.......はい!」

 

 

ボールをカットした宍戸から、今度は鬼道へとパスが繋がった。

だがさすがは全国大会出場校、千羽山のディフェンスが3人、鬼道の周りをふさいだ。

 

 

「せーの!」

「「「かごめ、かごめ、かーごめかごめ!」」」

 

 

「くっ...!」

 

 

今までの俺たちのシュートは、嵐山のシュート以外防がれた。

だから今までのシュートじゃダメだ....あっちは三人...だったらこっちも三人でシュートを打てばいい!

 

 

「鬼道!豪炎寺!こっちだ!」

 

「っ!」

 

 

『何と!キーパーの円堂が飛び出している!残り時間は既に1分を切っている!捨て身の全力プレーだ!』

 

 

 

「「「そりゃああああ!」」」

 

「っ、はああああああ!」

 

 

千羽山のディフェンスが炸裂すると思われた次の瞬間、鬼道は俺と豪炎寺の方へボールを打ち上げた。

俺と豪炎寺は一緒に飛び上がり、空中で”イナズマ1号”を打つ構えを取った。

さらにそこに遅れて、鬼道が跳んできてボールを蹴る構えに入る。

 

 

「行くぞ!豪炎寺!鬼道!」

「おう!」

「しくじるなよ!」

 

バゴンッ!

 

 

俺たちが三人同時に蹴ったボールは、大きなイナズマとなってゴールへと突き進んでいく。

このパワー....今までのシュートよりもすごい!嵐山のシュートと同じくらいの威力だ!

これなら...!

 

 

「もう失点はできないっぺ!」

「「「”無限の壁”!!!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

ボールは”無限の壁”と激突した。

だけど、さっきの嵐山のシュートと激突した時と同じように、ボールの勢いは全然止まってない!

そして徐々に壁が凹んでいくのがわかる。

 

 

「「「ぐぐぐぐ....ぐあああああああああああああ!」」」

 

 

そしてついに、”無限の壁”を完璧に打ち砕いて、俺たちが放ったシュートはゴールへと突き刺さった。

 

 

『ゴーォォォォォォル!残り時間0分!雷門中がゴールを決めました!』

 

 

ピッピッピィィィィィ!

 

 

『そしてここで試合終了のホイッスル!残り時間5分から諦めず戦い、ついに逆転!雷門中が千羽山中を下し、準決勝へとコマを進めました!』

 

 

「やった....やったああああああああああああ!俺たちの勝ちだあああああああああ!」

 

「やったっス!俺たちが勝ったっス!」

 

 

これで準決勝進出....そして準決勝に勝てばいよいよ決勝か....!

見えてきたんだ...フットボールフロンティアの頂点が...!

 

 

.....

....

...

..

.

 

秋 side

 

 

「ふんふんふ~ん....」

 

 

今日の試合も、みんな頑張ってたな。

円堂くんと嵐山くんなんか、特に頑張ってたかも...なんて。

私が言うと、贔屓に聞こえちゃうかも。

でも嵐山くんはあの後、夏未さんと音無さんに詰め寄られてたから、笑っちゃったわ。

 

 

ピリリリ....

 

 

「電話...誰かしら。」

 

 

知らない番号だったけど、非通知ではないから一応出ておこうかしら。

誰がの親からかもしれないし。

 

 

ピッ

 

 

「はい.............えっ.......一之瀬君....?」

 

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

準決勝に向けて

円堂 side

 

 

「”ドラゴンクラッシュ”!」

 

「”熱血パンチ”!」

 

 

俺たちは今日も今日とて、準決勝に向けて練習を続けていた。

今日は木野と土門は用事があって来ていない。嵐山もこの前の試合で倒れたから、一応検査で病院に行っている。

残る俺たちは次の準決勝に向けて、自分の力を少しでも向上させようと頑張っている。

 

 

「わあ....!」

 

「.....(あれ誰だ?)」

 

 

集中して練習していると、見たことない奴が練習を見ていることに気付いた。

誰かわからないけど、偵察って感じではないな。

 

 

「おぉーい!ボール取ってくれるか!」

 

 

ちょうど弾いたボールがあいつの方に転がっていったので、ボールを取ってもらうよう声をかけた。

そしたらあいつはボールを蹴りながらこっちへ向かってきた。

 

 

「す、すげえ...!」

 

 

あいつはすげえドリブルテクニックで半田たちを抜き去り、どんどんとゴール前、俺の方へと向かってきている。

 

 

「よし....来い!」

 

「ふふ....行くよ!”スピニングシュート”!」

 

 

俺がシュートを要求すると、あいつはボールを逆立ちで回転しながら浮かせ、そのまま回転の勢いでボールを蹴りだした。

 

 

「負けるか!”ゴッドハンド”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

凄い勢いだ...!だけど負けねえぞ!

 

 

「うぐぐぐ......っ!止めたぞ!」

 

「はは!すごい!君の勝ちだ!」

 

「いや、ペナルティエリアの中からだったら、そっちの勝ちだった!」

 

 

なんとか止めることができたけど、その勢いにかなり押し込まれてしまった。

凄い威力だったし、ドリブルもすげえうまかった。こいつ何者だ?

 

 

「素晴らしい技だね。アメリカの仲間にも見せてやりたいな。」

 

「アメリカでサッカーやってるのか!?」

 

「ああ。この前、ジュニアチームの代表候補にも選ばれたんだ。」

 

「聞いたことがある。将来アメリカ代表入りが確実だろうと評価されている、天才日本人プレイヤーがいると...」

 

「「「へえ~...」」」

 

 

そんなすごい奴なのか、こいつ!

すげえな...世界か!いつかは世界を相手に戦ったりしたいよな!

そんな話をしていると、用事で遅れていた木野と土門がやってきた。

 

 

「何してるの?みんな。」

 

「おお木野!こっち来いよ!すごくサッカーの上手い奴が来ててさ!」

 

 

俺が木野にこいつを紹介しようとすると、突然木野に抱き着きだした。

全員が驚いているが、木野は突然のことに困惑していた。

逆に土門は突然のことに怒っている。

 

 

「お、お前何を......って、お前...!」

 

「久しぶりだね。」

 

「えっ....」

 

「俺だよ。ただいま、秋、土門。」

 

「い、一之瀬くん...!」

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

一方そのころ...

 

 

嵐山 side

 

 

「付き添いありがとうございます、響木監督。」

 

「気にするな。俺もお前の状態は気にかけねばならん。お前を戦力として数えて良いかどうかで、今後の戦い方は大きく変わってくるからな。」

 

「そこまでですか。」

 

「ああ。...正直、今の雷門が世宇子に勝てる確率は2割もないだろう。だが、お前が全力で挑めるのなら変わってくる。」

 

「...ちなみにどれくらいですか?」

 

「ふっ........4割だ。」

 

 

4割....五分五分でもないとは、響木監督も随分と弱気だな。

だがそれも無理はないか。俺と響木監督だけは、これまでの世宇子の試合を見ている。そのどれもが圧倒的で、破壊的で....おそらく、世宇子との試合は文字通り死闘になるだろう。

 

 

「だったら何が何でも俺は試合に出ますよ。...ま、次の試合に勝つことが先ですけどね。」

 

「ああ、そうだな。」

 

 

prrrrrrr

 

 

「む....すまんが俺は電話に出てくる。」

 

「あ、はい。」

 

 

響木監督に電話がかかって来て、監督は席を外してしまった。

さて、検査の後はどうしようかね。練習...はさすがに辞めておいた方がいいか。

 

 

「あら、嵐山くん。」

 

「....夏未。」

 

「検査かしら。」

 

「ああ、まだ呼ばれてないけどね。」

 

 

これからのことを考えていると、夏未がやってきた。

どうやら今日も理事長の見舞いに来ているようだな。

でも、お付きの執事さんは今日はいないようだ。

 

 

「....何かあった?」

 

「えっ?」

 

「随分と暗い顔をしてる。」

 

「....貴方にはわかるのね。少し、気になっていることがあって。」

 

「気になること?」

 

「ええ.........でも、あなたに話すことでもないわ。気にしないで。」

 

「そっか。......ねえ、この後時間はある?」

 

「えっ?まあ時間はあるけど....どうかしたのかしら?」

 

「少し付き合ってよ。俺の検査が終わったらさ。」

 

「え、ええ...いいわよ。」

 

「じゃあ理事長の病室で待ってて。終わったら行くから。」

 

「わかったわ。」

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

円堂 side

 

 

「15対15!もう一本!」

 

 

あれから俺たちは一之瀬と一緒に練習をしていた。

一之瀬のレベルがすごく高くて、すげえ楽しかった。

今は俺と一之瀬でPK対決をしているけど、今のところ15対15で互角の勝負をしている。

 

 

「もう1時間もやってますよ。」

 

「二人とも負けず嫌いだから。」

 

「ふふ、でも似てますね。外見は全然違うのに。」

 

「うん。初めて円堂くんに会ったときから、ずっと感じてた。」

 

 

「はっ!」

 

「させるか!」

 

 

何とか防いで、これで16vs15か!

まさかここまですごい奴がいるなんて...世界は広いんだな!

昔、嵐山に初めて出会った頃のことを思い出すよ。

 

 

あいつに初めて出会った時も、こんなにもサッカーが上手な奴がいるんだってわくわくしたもんなあ。

 

 

 

「円堂!仲良くなった記念に一緒にやりたいことがあるんだ!」

 

「ん?いいぜ、やろう!」

 

「土門も協力してくれ。」

 

「え?....まさか、あれか!?」

 

「そう、”トライペガサス”さ。」

 

 

”トライペガサス”....って、確か前に土門と木野が話してくれた必殺技だよな。

そっか、亡くなったと思ってた一之瀬が生きていたから、”トライペガサス”にも挑戦できるのか!

 

 

「よし!やってみようぜ!」

 

「ああ。俺と土門、そして円堂で完成させよう!かつての”トライペガサス”を!」

 

 

それから俺と一之瀬、土門は何度も”トライペガサス”に挑戦した。

一之瀬がいうには、三人がボールを中心に交わることで生まれるエネルギーをボールに注ぎ込み、そのボールを三人で蹴ることで放つことができる必殺技らしい。

 

俺たちは何度もボールを中心に交わるが、少しでも交わる位置がズレていると失敗してしまっている。

何て難易度の高い必殺技なんだ.....だけど諦めない!何としてもこの必殺技を完成させてみせる!

 

 

「全国大会で使う技でもないのに、ここまでしてやる意味って...」

 

「意味なんて関係ないよ。円堂くんたちは一緒にこの技を完成させたいだけ。ただそれだけなの。」

 

「男の子って、わけわからないですよね。」

 

「ふふ。だから応援してあげたくなるんじゃない。」

 

「...はい!」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

「お待たせ。遅くなっちゃってごめんね。」

 

「いえ、大丈夫よ。」

 

「じゃあ行こう。」

 

「え?どこへ?」

 

「とっておきの場所さ。」

 

 

俺は検査を終え、約束していた夏未を迎えに来た。

響木監督は検査結果を聞いて、そのまま帰っていった。

後は若い奴らで楽しめ、とか言っていたがどういう意味なんだろうか。

 

とにかく、元気なさげな夏未を元気づけるために、俺のとっておきの場所に連れていこうかな。

まあ俺も円堂から教えてもらっただけだけどね。

 

 

そんなこんなで俺たちは病院から出て歩き、鉄塔広場へと来ていた。

辺りは日が落ち始めて、夕日が辺りをオレンジ色に照らしている。

 

 

「ここって...」

 

「さ、こっち。」

 

「え、ええ...」

 

 

俺は夏未に手招きして、鉄塔を上り始める。

何回登っても、やっぱりちょっと怖いな。

 

 

「よいしょっと......夏未、大丈夫?」

 

「ええ.....ありがとう.....っ...!」

 

「おっと....」

 

 

俺は先に登り切り、後から登ってきていた夏未の手を掴んで引っ張り上げる。

勢いよく引っ張り上げたせいか、夏未がよろけて俺に抱き着く形で倒れこんできた。

 

 

「ご、ごめんなさい...!」

 

「いや、こっちこそ勢い良く引っ張りあげすぎたよ。」

 

「いえ...」

 

「...ま、とにかく見てみなよ。」

 

「ええ........わあ.....」

 

 

俺が指をさした方を夏未が見ると、そこには夕日に照らされる稲妻町が一面に広がっていた。

夏未はその光景に見惚れ、感嘆の声を上げていた。

 

 

「円堂に教えてもらったんだけど、俺にとってもとっておきの場所でさ。...この風景を見てると、自分の悩みなんかちっぽけに思えてきて、何となくだけど気持ちが軽くなるんだよ。」

 

「ええ...そうね...」

 

「...」

 

 

この風景を見て、夏未も少しは元気になったみたいだ。

でも、根本的な悩みが解決しない限り、本当の元気を取り戻すことは無いかもな。

でも....

 

 

「ひとりぼっちじゃない。」

 

「えっ?」

 

「夏未、君には俺が、俺たちがついている。みんな夏未の仲間だ。」

 

「嵐山くん...」

 

「もし一人で悩んでいることがあるんなら、俺を頼ってほしいな。解決するなんて大それたことは言えないけど、仲間がいれば悩みは半分こできるし、嬉しさは2倍だろ?」

 

「.....うん!」

 

 

夏未は今日一番の笑顔で頷いてくれた。

まだまだ悩みは晴れていないだろうけど、こうやって笑顔が見れただけでも良かった。

 

 

「ありがとう、嵐山くん.......あなたがいてくれて....本当によかったわ...」

 

「えっ?何か言った?」

 

「ううん、何でもないわ。....準決勝、そして決勝....勝利を期待しているわよ。」

 

「ふっ...必ず勝つよ。ここまで来たんだ....もう優勝しか見えてないさ。」

 

「ええ....あなたの活躍、期待しているわ。...これは理事長の...いえ、私自身の言葉よ。」

 

「....仰せのままに。」

 

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「あの飛行機かな...」

 

「うん...たぶん...」

 

 

 

あれから1日経ち、俺は午後からサッカー部の練習に顔を出していた。

昨日電話で聞いてはいたが、どうやら一之瀬という秋の幼馴染が来ていて、一緒にサッカーをしていたそうだ。

俺も是非、一之瀬と一緒にプレーしたかったが....残念だ。

 

 

「一之瀬ええええええええええ!また一緒にサッカーやろうぜええええええええええええ!」

 

 

円堂が空を行く飛行機に向かって、叫んだ。

その瞬間、俺たちの後ろから誰かが近づく音が聞こえ....

 

 

「うん、やろう!」

 

 

「「「!?!?」」」

 

「一之瀬!?どうして!?」

 

 

みんなが振り返ると、俺の知らない男がそこにはいた。

円堂がそう呼んでいるあたり、こいつが一之瀬なのか。

 

 

「あんなに胸がワクワクしたのは初めてだ!だから帰るに帰れない。もう少しここにいる!俺、一つのことに燃えるみんなとサッカーがしたい!円堂たちと一緒にサッカーがしたいんだ!」

 

「雷門に来てくれるのか!?」

 

「うん!よろしく!」

 

 

まさか...一之瀬が雷門に入ってくれるとはな。

アメリカで天才と呼ばれたその実力、世宇子と戦うのに必要な戦力だ。

それに俺自身、外国で天才と呼ばれるだけのプレイヤーと一緒にサッカーができるのが、楽しみで仕方ない。

 

 

 

「あ、君が嵐山か!円堂たちから話は聞いているよ。君のような素晴らしいプレイヤーと一緒にサッカーができるなんて、楽しみで仕方ないよ。」

 

「ああ、俺もだ。...これからよろしくな、一之瀬。」

 

「オーケー、嵐山!」

 

 

俺たちはお互い、握手を交わした。

さあ、準決勝に向けて練習を開始しようじゃないか。

 

 

 

「みなさああああああああん!」

 

「あ、音無さん?」

 

「はぁ...はぁ.....つ、次の対戦相手が決まりました!」

 

 

お、次の対戦相手か....どこが勝ち上がってきたのかな。

まあどこが相手だろうと、俺たちは絶対に勝つけどな。

 

 

「つ、次の対戦相手は.....木戸川清修です!」

 

「っ!」

 

「き、木戸川清修....!?」

 

 

 

.




久々の更新です。
2視点で書いたのでちょっと場面転換が多めなのが気になる...


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

激闘!木戸川清修

嵐山 side

 

 

「それで?喧嘩の末、サッカーで勝負を付けようって話になったと?」

 

「ああ...なぜか円堂がやる気になってな。」

 

「済まない...俺の事情だというのに。」

 

 

今俺たちは準決勝に向けて、河川敷で練習を行っていた。

円堂と豪炎寺、鬼道は戦い方などを考えるため、俺たちとは別行動だったんだが...

休憩のために立ち寄った駄菓子屋で、次の対戦相手である木戸川清修中のメンバ―である武方三兄弟に出会ったらしい。そこで三兄弟が豪炎寺を裏切者だの何だの色々言ったことに円堂がキレて、河川敷で勝負することになったんだとか。

 

 

「あいつは仲間のために熱くなれる奴だからな....お前をバカにされたのが悔しかったんだろ。」

 

「そうか....」

 

 

俺の言葉に、豪炎寺は照れているような、戸惑っているような反応を示した。

まあ他人にあそこまで熱くなれる奴、俺はまだ円堂くらいしか知らないな。

 

 

「一本勝負だ!シュートを打って、ゴールしたらお前らの勝ち!止めたら俺の勝ちだ!」

 

「オッケーっしょ。」

 

「ふふ...軽く決めてあげましょう。」

 

「僕たちの力に恐れおののくといい!」

 

 

三兄弟はそれぞれ強気な発言をしている。

確かに性格に難ありのようだけど、身体を見ればどれだけ努力を積み重ねてきたかはわかる。

あいつらの態度、驕りではなく本物だ。円堂、頭に血が上っていなければいいけど。

 

 

「くらえっ!」

 

 

勝負が始まった瞬間、三兄弟の一人がボールを中に浮かし、俺たちが良く知る技とは逆回転で回転しながらボールを追いかけ空を跳ぶ。

 

 

 

「「「あれは!?」」」

 

「っ!」

 

 

「”バックトルネード”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

三兄弟の一人が空中でかかと落としをするような要領で、青い炎を纏いながらボールを蹴りだした。

まるで豪炎寺の”ファイアトルネード”のような必殺技は、”ファイアトルネード”にも引けを取らない威力でゴールへと向かい進んでいる。

 

 

「負けるかっ!”爆裂パンチ”!」

 

 

負けじと円堂は”爆裂パンチ”を繰り出し、放たれたシュートに応戦した。

ボールの勢いは円堂の猛烈な連続パンチによって徐々におさまっていくが....

 

 

「ん?(あいつら....くだらないことを。)...鬼道。」

 

「む.....わかった。」

 

 

「とりゃあ!」

 

 

円堂は放たれたシュートを完全に止め、最後に渾身のアッパーでボールをはじき返した。

だが、その瞬間....

 

 

「「”バックトルネード”!」」

 

「な、何っ!?」

 

 

 

三兄弟の残りの二人が、円堂がボールを弾き返して無防備になったところを狙い、同じシュートを放った。

確かに三兄弟と円堂の勝負、1vs1とは言っていないが....不意打ちのような形で狙うなど言語道断!

 

 

「「”スピニングカット”!」」

 

「「「何っ!?」」」

 

 

俺と鬼道が必殺技を繰り出し、三兄弟が放ったシュートはすべてはじかれていった。

これでシュートは完全に防がれた。円堂の勝ちだな。

 

 

「ちょっとちょっと!何邪魔してくれちゃってるわけ!?」

 

「これは僕たちの勝負ですよ。」

 

「邪魔したお前らの負けってことで良い感じ?」

 

 

「はぁ...何を言っている。お前らが1vs1だと言っていなかったように、こっちも1vs3だとは言っていないぞ。それにサッカーは1on1ではない。フィールドにいるすべてのプレイヤーが一丸となって戦うスポーツだ。邪魔だなんて言われる筋合いは無いな。...俺からすれば、負けを認めたくなくて駄々をこねてるガキにしか見えん。」

 

「な、何だと!?」

 

「ぼ、僕たちを馬鹿にしているのですか!」

 

 

俺の反論に、三兄弟は怒りをあらわにしていた。

だが俺は自分の考えを曲げるつもりもないし、自分が間違っているとも思わない。

俺たちが卑怯だというなら、お前たちも同じく卑怯者というわけだ。

 

 

「どうしても俺たちを卑怯だと言いたいなら、勝負の前に明確なルールを決めておくべきだったな。」

 

「ぐっ...そ、それは...」

 

「....まあいい!3人が同時にシュートを打って止められないというなら、我々三人が一緒に打ったシュートは止められるということでしょう?」

 

「....三人で同時に打っても止めたがな。」

 

「う、うるさい!」

 

「いいぞ!そこまで言うなら、俺が三人のシュートを止めてやる!」

 

「円堂...」

 

 

三兄弟の発言に、円堂が三人のシュートを止めてみせると反論してみせた。

三兄弟の実力を計れるのは良い機会だけど、できれば円堂とは無関係のところで確認したかったところだな。

今まで目にしてきた三人技ってどれも強力で、正直今の円堂で止められるか微妙なところだ。

 

 

「(これでもし止められずにみんなの士気が下がったら.........いや、円堂が逃げた方が士気は下がるか。それにもし下がったとしても、今のこいつらなら....そして、円堂ならきっと....)わかった。後はお前に任せるよ、円堂。」

 

「嵐山....絶対止めてみせる!」

 

 

こうして再び、三兄弟と円堂の対決が始まった。

さて...三兄弟の連携必殺技はどれほどのものかな。

 

 

「行くっしょ!」

「これが僕たち兄弟の!」

「最強の必殺技!」

 

「「「”トライアングルZ”!」」」

 

バゴンッ!

 

 

 

これは....!

決めポーズはダサいが、三人が連続してボールを蹴ることで威力を蓄積している....今まで見た中でもかなりの威力を持つ必殺技だ...!

 

 

「(決めポーズはダサいけど...!)」

 

 

「負けない!止めてみせる!”爆裂パンチ”!.....ぐあっ!」

 

 

円堂が”爆裂パンチ”で応戦するが、ボールに触れた瞬間、円堂の拳は無残にも弾き返され、まともに応戦することもできずに円堂ごとゴールへと突き刺さってしまった。

 

 

「「「円堂!」」」

「「「キャプテン!」」」

 

 

みんなが円堂へ駆け寄り、心配の声を上げている。

まさかこれほどの威力とは....だが奴らは、世宇子はこれ以上の実力を誇っている。

ここで折れているようでは、結局は世宇子に勝てず終わる。

 

 

「(準決勝の相手が、こいつらで良かった。)」

 

 

「あれれ~?絶対に止めるとか言ってませんでしたっけ~?」

 

「うぐっ...くそ....」

 

 

 

「お前たち!何をやっている!」

 

 

対決が終わり、三兄弟が円堂を煽っているがそこに大人の男の人と、三兄弟と同じユニフォームを着ている少年があらわれた。三兄弟は大人の登場に少し焦っているようだが...恐らくは監督か?

 

 

「二階堂監督...!」

 

「ん?...おお、豪炎寺か。久しぶりだな!」

 

「西垣!?西垣じゃないか!」

 

「一之瀬!?それに土門、秋まで!」

 

 

どうやらやはり監督のようだな。

それにもう一人は一之瀬たちの言ってた、もう一人の幼馴染か。

まさかそんな相手まで木戸川にいるとはな。

 

 

「お前たち、サッカー選手なら試合で正々堂々と戦え!」

 

「「「は、はい!」」」

 

 

そんなこんなで木戸川清修の面々は帰っていった。

木戸川清修と戦うことで、世宇子と戦う前にもっとレベルアップできるはずだ。

 

 

...それにしても、”トライアングルZ”か。

面白い連携技だった。あんな技とは言わないが、俺たちにももっと連携必殺技があれば....

だが双子でも三つ子でもない俺たちが、息の合った連携をするには同じ必殺技を極めるしか....

 

 

「....っ、そうか。その手があったか。....豪炎寺!」

 

「嵐山...どうした?」

 

「お前に頼みがある。....俺とお前にしかできない、いや....お前と俺で完成させたい技がある。」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「じゃあ今日はこのくらいにして終わるか!」

 

「「「お疲れ様っした~!」」」

 

 

 

円堂が練習の終わりを告げたので、今日の練習は終わった。

さてと...俺は豪炎寺を誘って、連携技の特訓でもしますかね。

 

 

「豪炎寺、この後いいか?」

 

「さっき話していた必殺技のことか?」

 

「ああ。できれば木戸川清修との試合までには形にしたい。」

 

「もちろんそれはいいが...何故みんなとの練習の時には黙っていたんだ?俺にも誰にも話すなと言っていたし。」

 

「今俺たちに足りていないのは、個々人の力だ。それは日々の練習で努力しただけ、俺たちの血となり、肉となる。もう一つだが....正直連携に関しては鬼道が入ったことで機能しているし、一之瀬が入ったことで強力な連携技である”トライペガサス”も使えるようになった。それ以外にも、”イナズマブレイク”や”イナズマ1号落とし”と言った強力な三人技がある。」

 

「そうだな。」

 

「だが、それらの必殺技には致命的な弱点がある。」

 

「致命的な弱点...?」

 

「円堂がゴール前を空けてしまう、という点だ。」

 

「っ!」

 

 

今まではそのシュートによって、点を獲得してきたことで円堂がゴールに戻る時間があった。

だがもし、必殺技を放つ前に円堂や他の連携メンバ―が止められてしまい、シュートを放つことができなくなった場合はどうする?そうなってしまえばゴールはガラ空き、最悪の場合、軽くロングシュートするだけで得点されるかもしれない。

 

 

「そこでだ。”イナズマブレイク”や”トライペガサス”にも劣らない必殺技を身に着けるべきだと考えた。だが俺たちは武方三兄弟のような息の合った連携はできない。」

 

「確かに...どれだけ練習を重ねたとしても、俺たちはあくまで別の人間。あいつらのように双子や三つ子でも無い限りは、どうしても連携が難しくなってくるだろうな。」

 

「そこで考えたのは、同じ必殺技を極めた者同士なら、息の合った連携ができるんじゃないか....ってことだ。」

 

「っ!....つまり、俺の”ファイアトルネード”とお前の”ファイアトルネード”を掛け合わせる、というわけか。」

 

「さすがは豪炎寺だな。物分かりが早くて助かる。...俺は右足で”ファイアトルネード”を打っている。逆に、お前は左足で”ファイアトルネード”を打っている。...豪炎寺は帝国学園との試合で鬼道たちが放った”皇帝ペンギン2号”を覚えているか?」

 

「ああ。」

 

「あれは鬼道が放ったボールを、二人のフォワードがツインシュートする形で放っている。あれと同じ要領で、上空に打ち上げられたボールに対して俺たちが同時に”ファイアトルネード”を放ち、ツインシュートする。.....どうだ、イメージできるか?」

 

「....ああ、問題無い。だがツインシュートはお互いが完璧なタイミングでキックしなければ、横にぶれたり威力が落ちたりする。」

 

「そこがこの必殺技の難しいところだな。....だが俺とお前なら必ず完成させられる。俺はそう信じている。」

 

「嵐山......フッ....ならば挑戦あるのみだ。早速始めよう。」

 

「ああ。」

 

 

それから俺と豪炎寺は何度も”ファイアトルネード”を放った。

だが二人のタイミングが完璧に合わなければ、この必殺技は完成しない。

始めたころよりはだいぶマシにはなったが、どうしてもお互いのタイミングが合わない。

 

 

「ハァ...ハァ....思ったよりも難易度が高いな...」

 

「ハァ...ハァ...諦めるのか、嵐山...。」

 

「ハァ...ハァ...フッ....まさか....俺がそう簡単に、諦めると思うなよ...」

 

「フッ....ならば続けよう。俺たちの必殺技を完成させるために。」

 

「ああ...!」

 

 

 

「うおおおおおおおお!」

「はああああああああ!」

 

「「”ファイアトルネード”!」」

 

 

ドゴンッ!

 

 

「「っ!」」

 

 

今の感覚は...!

二人のキックタイミングが完璧に合ったことで、威力が倍増...いや、数十倍にも膨れ上がっている。

やはり俺の考えは間違っていなかった。俺と豪炎寺なら、必ず木戸川清修を、いや...世宇子でも倒せる!

 

 

「豪炎寺.....!.....って、豪炎寺?」

 

「ハァ....ハァ......悪い.....うまくいったと思ったら、気が抜けた。」

 

「フッ...豪炎寺でもそんな感じになるんだな.......だが確かに......」

 

 

ドサッ...

 

 

ただの一度とはいえ、あれだけ完璧なシュートが打てたんだ...

気が抜けてもおかしくはないな....

 

 

「......なあ、豪炎寺。」

 

「....何だ?」

 

「世宇子のこと、どう思う。」

 

「もう決勝の話か?」

 

「....茶化すなよ。」

 

「フッ.............そうだな。俺にとっては他の対戦相手と変わらない。だが...それでいて、他の対戦校には無い不気味さも感じる。あれはそう....影山が支配していたころの帝国学園のような。」

 

 

影山が支配していたころの帝国学園のような不気味さ、か...

確かに、俺も似たようなことは感じていた。世宇子の試合はどれも前半に対戦相手がボロボロになり、試合続行不可能で終わっている。あれだけの破壊力...人間に出せる威力とは思えない。

 

 

「もしも....もしも影山が世宇子に関わっていたら....どう思う。」

 

「.....倒すだけだ。俺は円堂や鬼道と違って、影山とは関係が無いからな。」

 

「まあ...豪炎寺はそうか.....」

 

「....その言い方、お前は影山と関係があるのか?」

 

「.....俺が去年、事故にあったのは知ってるよな?」

 

「ああ。確か少女をかばって轢かれたんだったな。」

 

「その事故が、影山によって仕組まれていたものだったかもしれない。」

 

「なっ!?」

 

「....俺は木戸川清修だけじゃない....世宇子も倒す。たとえ影山が関わっていなかったとしても、俺の目標は元から優勝だ。ずっと...そのことだけ考えてきたからな。」

 

「.....俺もだ。必ず優勝しよう。...一緒に。」

 

「ああ。....さ、練習の続きを始めようぜ。まだ1回成功しただけで、未完成だからな。」

 

「フッ...そうだな。」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

試合当日

 

 

 

『さあ!フットボールフロンティア全国大会もいよいよ準決勝!準決勝第一試合は実に40年ぶりに出場し、数多の強豪校を打ち破ってきた雷門中!対するは、昨年のフットボールフロンティア全国大会で準優勝となった名門、木戸川清修!果たして、この試合に勝ち決勝への切符を手にするのはどちらのチームか!』

 

 

 

「豪炎寺!逃げずに来たことだけはほめてやるじゃん!」

 

「ま、僕たちが君たちをサクッと倒して、決勝進出を決めてあげますよ。」

 

「無駄なあがきで俺たちに怪我とかさせるのは辞めてくれよ?」

 

 

本当にこいつらは....まあいい。

俺たちは正々堂々、本気でぶつかっていくだけだ。

 

結局、あれから豪炎寺との”ファイアトルネード”は安定しなかった。

円堂も”ゴッドハンド”を超える必殺技を模索していたみたいだが、なかなかうまくいっていなかったな。

 

正直、不安だらけの準決勝ではあるけど、俺たちにできるのは全力でサッカーを楽しむことだけだ。

 

 

「お前たち!この試合に勝てば、いよいよ決勝戦だ!....準備はいいか!」

 

「「「「おお!!!!!」」」」

 

 

円堂の掛け声に、俺たちは一斉に雄たけびを上げる。

決勝に進んで世宇子と戦うために、円堂と誓ったフットボールフロンティア制覇の夢をかなえるために、この試合...絶対に勝つ!

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

『さあ今、木戸川清修ボールでキックオフ!試合開始です!』

 

 

ついに俺たち雷門中と、木戸川清修の試合が開始した。

俺たちのスタメンだが、フォワードに俺、豪炎寺、染岡。ミッドフィルダーに鬼道、一之瀬、少林、マックス。ディフェンダーに壁山、風丸、土門。キーパーに円堂となっている。

 

 

 

「ま、サクッと点を取っちゃうじゃん!」

 

 

そう言うと、武方三兄弟は三人でボールを回し、ものすごいスピードでゴール前へとあがっていく。

このスピード...言うだけのことはある。だが、三兄弟は他の選手と連携を取るつもりがまるでないようだな。

三人だけで勝てる...そう思っているのなら、付け入る隙は大いにある。問題があるとすれば、一之瀬と土門の友人である西垣が、一体どれくらいの実力を持っているか...だな。

 

 

「見せてやる、俺たちの本当の力を!」

 

「少林!マックス!中央をふさげ!」

 

 

鬼道が的確に指示を出すが、肝心の少林とマックスは三兄弟の動きについていけず、あっさりと抜かれてしまう。

そのまま三兄弟はボールを繋いでいき、ついにはゴール前へ到達してしまった。

 

 

「くらえ!”バックトルネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「そいつは通用しないぜ!”爆裂パンチ”!」

 

「っ、円堂!油断するな!この前とは威力が違うぞ!」

 

「えっ?っ....ぐあああああ!」

 

 

俺は円堂に注意を促すが、円堂はそのまま武方のシュートに耐えきれずにゴールを許してしまった。

あの時のシュートは全力ではなかったということか...なかなか厄介な相手のようだな。

 

 

『ゴーォォォォォォォォル!先制点は木戸川清修!試合開始早々に、武方努くんが雷門からゴールを奪いました!』

 

 

「そんな...この前は完璧に止めてみせたのに...」

 

「ハハハハハハ!何驚いちゃってるの?」

 

「前回のは軽いデモンストレーション。本気でやるわけねえじゃん!」

 

「くっ....くそ...!」

 

 

武方三兄弟、思った以上の強敵だ。

だが点を取られたなら、こっちも取り返せばいい。

99点取られたって、100点取れば俺たちの勝ちなんだ。

 

 

雷門ボールで試合が再開した。俺から豪炎寺、豪炎寺から鬼道、鬼道からマックスへとボールが渡っていく。

 

 

「貰った!」

「そこっしょ!」

 

「う、うわあ!」

 

 

だが、マックスにボールが渡った瞬間、武方三兄弟は強引にスライディングして、マックスからボールを奪った。

 

 

「あ、危ないな!」

 

「ボケっとしてる方が悪いんだよ!」

 

 

そう言って、三兄弟は悪びれることなく再び攻撃へと転じてきた。

なるほどな...あいつらは攻めて攻めて攻めまくる、そんなことしか考えていない。

こちらがしっかりとディフェンスを続けていれば、あっちから簡単に崩れてくれそうだ。

 

 

「....(鬼道は...)」

 

「フッ...」

 

「(さすがに気付いているか。ならば俺はいつでも攻撃に行けるようにしておくか。恐らく、元チームメイトである豪炎寺はかなり警戒されているだろうからな。)」

 

 

 

「くらえ!”バックトルネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

再び、武方からシュートが放たれた。

だが今度はディフェンスが機能しているため、先ほどとはかなり距離が離れている。

それに油断していた円堂はもういない。あいつなら止められる。

 

 

「もう点はやらない!”爆裂パンチ”!」

 

 

再び円堂が”爆裂パンチ”で応戦、目にもとまらぬ連続パンチによって、武方のシュートは難なく弾かれた。

こぼれたボールは木戸川清修の選手がトラップするが、それを武方が強引に奪ってドリブルしていく。

 

 

「っ!ここだ!風丸!」

 

「うおおおおおおおお!」

 

「なっ!?」

 

 

鬼道の指示によって、全速力で走ってきた風丸が武方からボールを奪った。

三兄弟は自分たちがボールを奪われると思っていなかったのか、驚きのあまり固まってしまった。

 

 

「何をしている、お前ら!豪炎寺と嵐山をマークだ!」

 

「「「っ、はい!」」」

 

 

だがあちらの監督の言葉に、木戸川清修のディフェンダーはすぐさま反応。

俺と豪炎寺は完全にマークされ、染岡も良い位置に入れずにいる。

これが全国トップレベルの守備か....だが、俺ら雷門は特殊なチームでね。

 

 

「決めろ!円堂、一之瀬、土門!」

 

「「「おう!」」」

 

「「「なっ!?」」」

 

 

俺たちのチームは誰だってシュートを打つ、全員が全力でサッカーを楽しんでいるチームなのさ。

 

 

「「「うおおおおおおおお!」」」

 

「あれは”トライペガサス”!?一之瀬たちが言っていたことは本当だったのか!?」

 

 

 

「「「”トライペガサス”!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

「う、うわあああああああああ!」

 

 

円堂たちの放った”トライペガサス”は、木戸川清修のキーパーにはなすすべなくゴールへと突き刺さった。

これで1vs1...追いついたぞ!

 

 

『ゴーォォォォォォォォル!何とキーパーである円堂が参加した素晴らしいシュートによって、雷門が得点!試合を振りだしに戻したぞ!』

 

 

「驚いたよ、一之瀬、土門.....だが、その技は俺が封じてやる。」

 

 

 

同点に追いついたところで、前半は終了した。

何とか同点で前半を終えることができたが、彼らは前回大会準優勝チーム。

後半も思い通りに試合が動かせるとは思えないな。

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

後半、雷門ボールで試合が再開。しかしボールはすぐさま三兄弟に奪われてしまう。

さっきは三兄弟が焦っていたからうまくいったが、全国トップレベルのチームだ。

さすがにここから修正してくるだろう。それにあいつらはまだ、あの必殺技を見せていない。

 

 

「俺たちが苦戦するとか、有り得ないっしょ!」

 

「ここで僕たちの実力を見せてあげるのが良いでしょう!」

 

「そうだ!俺たちは最強!俺たちこそが最強のストライカーなんだ!」

 

 

っ、来る...!

 

 

 

「はっ!」

「とりゃ!」

「くらえっ!」

 

「「「”トライアングルZ”!!!!」」」

 

 

ドゴンッ!

 

 

ついに放たれたその必殺技は、恐るべき威力をもって円堂へと襲い掛かっていた。

円堂、頼む...!お前がそのシュートを止めなければ、俺たちの勝率はぐっと下がる...!

 

 

「負けない!今度こそ止めてみせる!”ゴッドハンド”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ぐっ....ぐぐぐぐぐ.......ぐあああああ!」

 

 

円堂の最強の必殺技、”ゴッドハンド”は無残にも砕け散り、ボールは円堂と共にゴールへと突き刺さった。

”ゴッドハンド”でも止められないか....これが武方三兄弟の最強の必殺技...どうする...どうすれば止められる....

 

 

そのまま試合は再開。鬼道の指示で何とか”トライアングルZ”を封じられてはいるが、それもずっと続くわけではない。何とか”トライアングルZ”を止めるすべを....

 

 

「行くぞ!”トライペガサス”だ!」

 

 

再び円堂が一之瀬、土門とともにゴール前まで駆けあがっていく。

だがその前に、西垣が立ちふさがるようにして構えていた。

 

 

「俺の前で、そう何度も決めさせてたまるか!くらえ!”スピニングカット”!」

 

 

「あれは!?」

 

「嵐山さんと同じ必殺技!」

 

 

「「「うわあああああああ!」」」

 

 

西垣の放った”スピニングカット”によって、三人は弾き飛ばされてしまった。

それにより”トライペガサス”発動に重要な、交差することで生まれるパワーが生まれず、そのままボールは西垣に奪われてしまう。

 

 

「フッ...ペガサスの羽は折れたな。」

 

「くっ...さすが西垣だ...」

 

 

まずいな...”トライペガサス”が通用しないとなると、何か他の方法で点を奪う必要がある。

西垣を何とか抑えて、俺や豪炎寺、染岡が点を取る必要があるな。

 

 

「焦るな、円堂。俺たちフォワードが必ず点を取る。」

 

「豪炎寺......ああ、任せたぜ!」

 

 

再び雷門ボールで試合が再開した。西垣のディフェンスによって、”トライペガサス”が封じられたことで、俺たちフォワードへのマークもまたきつくなったな。だがこれくらいのマークを何とかできないようじゃ、俺たちは世宇子には勝てない。

 

 

「っ、しまった!」

 

「こっちだ、鬼道!」

 

「っ、嵐山!」

 

 

俺はディフェンスをかいくぐり、鬼道にサインを出しながらパスを要求した。

鬼道はサインを確認しつつ、俺に向かってパスをする。

 

 

「「させるか!」」

 

 

だが、そんな俺と鬼道の出したボールの間に、豪炎寺や染岡にマークしていたディフェンダーたちが入ってきた。

さすがの反応速度だな....期待通りで良かったよ!

 

 

「「何っ!?」」

 

 

俺へと向かっていたボールは、途中で軌道を変えて豪炎寺と染岡の方へと流れていく。

あらかじめ鬼道にサインを出していた通り、俺がディフェンスを抜き、あえて囮になることで豪炎寺、染岡を完全にフリーにする作戦だ。

 

 

「行くぜ、豪炎寺!」

 

「ああ!」

 

「”ドラゴン”!」

「”トルネード”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

フリーとなった染岡、豪炎寺による連携必殺技が放たれ、木戸川清修のゴールへと突き進む。

だが、最後の砦である木戸川清修のキーパーが立ちふさがった。

 

 

「”タフネスブロック”!」

 

 

キーパーは腹でボールを受け止めると、腹にエネルギーをためてボールの勢いを抑え始めた。

マジでタフネスでブロックしてるだけ....だが、そんな見た目とは裏腹に”ドラゴントルネード”の威力は徐々に落ち始め、そのままキーパーが上空へと弾き飛ばした。

 

 

「まだだ!”ファイアトルネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「なっ!?」

 

 

だが、そんな弾かれたボールに対して、豪炎寺がそのまま”ファイアトルネード”を放った。

キーパーは”ドラゴントルネード”を弾いた余韻で動けず、そのままボールはゴールへと突き刺さった。

 

 

『ゴーォォォォォォォォル!雷門、再び同点に追いついた!試合時間は残りわずか...これは延長戦に突入するかあ!』

 

 

 

「延長戦とかあり得ないっしょ!」

 

「僕たちが何としても勝つのです!」

 

「俺たちが豪炎寺よりすげえって、証明してやるんだ!」

 

 

木戸川清修ボールで試合が再開したが、再開してすぐに武方三兄弟が再び強引に攻めてきた。

あまりに激しいドリブルやパスに、雷門メンバーは少し腰が引けてしまっていて、三兄弟はすぐにゴール前へと出てきてしまった。

 

 

「これで終わりだ!」

「僕たち三兄弟こそ最強!」

「豪炎寺など過去の存在なのだ!」

 

 

 

「っ、まずいわ!あのシュートを打たせてはいけない!」

「みんなしっかり!」

 

 

マネージャーたちの声援むなしく、誰も武方三兄弟を止められず、三兄弟は”トライアングルZ”の構えに移った。

円堂は負けるたびに強くなってきた....だが、ここで点を決められたら終わりだ。

だったら....だったら俺がやるべきことは....!

 

 

「はっ!」

「とりゃ!」

「くらえ!」

 

「「「”トライアングZ”!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

ついに武方三兄弟によって、”トライアングルZ”は放たれてしまった。

円堂はシュートを止めようと、”ゴッドハンド”の構えに移っている。

...頼むぞ、円堂!このシュート、絶対に止めてくれ!

 

 

「はあああああああああああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「「「なっ!?」」」

 

「「「嵐山!?」」」

「「「嵐山さん!?」」」

 

 

「ぐっ....っ....うおおおおおおおお!」

 

 

俺は三兄弟によって放たれた”トライアングルZ”を正面から蹴り、少しでも威力を落とそうとその場で持ちこたえる。

このチームでキック力が高いのは俺と豪炎寺....そのどちらかがこうやってボールを逆方向から蹴ることで、少しでも威力を落とすことができれば、円堂はこのシュートを止めてくれる!

 

 

「あ、嵐山くん!もう辞めなさい!」

 

「そうだよ嵐山くん!また怪我をしたら!」

 

 

「悪いな、夏未、秋....男ってのはどうしても、無茶しちまう生き物らしい!...っ....円...堂...!」

 

「嵐山...お前...!」

 

「必ずこのシュート....止めろおおおおおおおお....っ....ぐああああ!」

 

 

何とか耐えていた俺だったが、完全に勢いは殺しきれず...そのまま弾かれて盛大に宙を舞い、地面へと叩きつけられた。

 

 

「嵐山!っ....お前が魂を賭けて止めようとしたこのシュート!絶対に止めてみせる!”ゴッドハンド”!」

 

ドゴンッ!

 

 

円堂の”ゴッドハンド”と、威力が落ちた”トライアングルZ”がぶつかり合う。

先ほどとは違い、徐々にシュートの威力は落ちていき、そしてついには円堂の手へと収まったのであった。

 

 

「良かった....」

 

「っ、嵐山!」

 

「「「嵐山(さん)!」」」

 

 

『救護班!担架を!』

 

 

「悪いな...お前ら....後は...任せた....」

 

「馬鹿野郎!何であんな無茶したんだよ!」

 

「円...堂....泣くな.......勝利の報告....待ってるぞ....」

 

 

そこで俺の意識は途絶えた。

だが俺は信じている。お前らがこの試合に勝って、決勝までコマを進めることを。

 

 

.....

....

...

..

.

 

円堂 side

 

 

「嵐山.................みんな!この試合、絶対に勝とう!あんなになってまであいつは、俺たちの勝利を信じてくれたんだ!絶対、嵐山に勝利の報告を持っていくんだ!」

 

「「「おおお!!!!!」」」

 

 

「お前たち、試合時間は残り僅かだ。何としても点を取るぞ。」

 

「響木監督、私は嵐山くんの付き添いに行きます。」

 

「ああ、任せたぞ。」

 

 

夏未が嵐山が運ばれた方へと向かっていった。

嵐山....ありがとう。お前のおかげで、あのシュートを止めることができたんだ。

だから待っていてくれ。必ず勝利の報告を届けてやるからな。

 

 

「よし。嵐山に代わり栗松、お前が入れ。そしてフォーメーションを変え、豪炎寺と染岡のツートップ。4-4-2のフォーメーションだ。そしてこの試合の追加点...鍵はお前たちだ、円堂、一之瀬、土門!」

 

「えっ!?」

 

「俺たち...ですか?」

 

「でも俺たちの”トライペガサス”は、西垣に...」

 

「フッ...確かにお前たちのペガサスは翼をもがれた。だが...敗れても何度でも立ち上がればいい。お前たちはそうして戦ってきたはずだ。」

 

 

敗れたって、何度でも立ち上がればいい....

そうだ。俺たちは何度悔しい想いをしながらもこうして立ち上がってきた。

一度必殺技が破られたからってなんだ!何度だって挑戦して、勝利を掴めばいい!

 

 

「やろう、みんな!俺たちは何度だって立ち上がれる!みんなが一緒なら!」

 

「「「円堂...」」」

 

「「「キャプテン...」」」

 

 

「行くぞみんな!これがラストプレーだ!」

 

「「「おおおお!!!!」」」

 

 

俺がシュートを止めた後、ボールをラインから割らせたから木戸川清修ボールで試合が再開した。

再び武方三兄弟がシュートを打とうと、ゴール前へと迫ってきている。

 

 

「さっきは止められたけど!」

「もうあのうぜえ奴はいねえ!」

「僕たちのシュートを止めることはできない!」

 

 

「「「くらえ!”トライアングルZ”!!!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

「俺たちはずっと...嵐山に助けられてきた....今だってそうだ....だから!その想いに応えたい!」

 

 

何だこれ....嵐山の想いに応えたいって思ったら、胸のあたりから力が湧いてきて...

今なら...今の俺なら止められる!嵐山....俺に力を貸してくれ!

 

 

「うおおおおおおお!」

 

 

俺は胸の辺りに感じる力を拳に込めるため、腰を大きくひねって胸に右手をくっつける。

感じる....俺の右手にオーラが溜まっていくのがわかる....

 

 

 

「まさか...あれは...!(友との絆が、円堂をあらたなステージへと押し上げたか...!)」

 

 

「止めてみせる!」

 

 

オーラを溜め終わり、正面に向き直る。

そしてそのオーラの籠った右手を空に振り上げると、俺の後ろには巨大な魔神が出現した。

 

 

「これは....」

 

 

「素晴らしい...円堂!それは”マジン・ザ・ハンド”!大介さんの編み出した”ゴッドハンド”を超える必殺技だ!」

 

 

”マジン・ザ・ハンド”....力がみなぎってくる。

この必殺技なら、武方三兄弟の”トライアングルZ”も止められる!

 

 

「うおおおおおお!”マジン・ザ・ハンド”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「神だか魔神だか知らないけど!」

「僕たち兄弟の必殺技を止められるわけ無い!」

「このシュートが決まって、俺たちの勝ちだ!」

 

 

「うおおおおお!このシュートは絶対!止めるんだあああああああああ!」

 

 

ボールの勢いは徐々に収まっていき、そのまま俺の右手へと納まる。

止めた....”トライアングルZ”を....止めたぞおおおおおおおおおお!

 

 

 

「ば、バカな!?」

 

「僕たちの必殺技が...」

 

「完璧に止められた...?」

 

 

「行くぞ!一之瀬!土門!」

 

「「おう!」」

 

 

俺はシュートを止めた余韻を感じつつも、すぐさま一之瀬と土門と一緒にゴール前へと駆けあがる。

だけどやっぱり、俺たちの前には西垣が立ちふさがってきた。

 

 

「何度やっても同じだ!ペガサスはもう飛び立たない!”スピニングカット”!」

 

 

西垣から放たれたオーラの壁が、俺たち三人をさえぎる。

だけど俺たちはもう恐れない!どんな壁が立ちふさがろうとも、その壁をぶち破って行く!

 

 

「「「うおおおお!」」」

 

「な、何っ!?」

 

 

 

俺たちは”スピニングカット”の壁を通り抜け、”トライペガサス”の構えに移る。

だけど、ペガサスは青白い炎から真っ赤な炎へとなり、そして姿を不死鳥に変えた。

 

 

「こ、これは....まさしくフェニックス!」

 

 

「「「くらえ!”ザ・フェニックス”!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

「ひっ!ひぃぃぃ!」

 

 

俺たちの放ったシュートは、木戸川清修のキーパーが恐怖のあまり逃げ去ったため、誰にも邪魔されることなくゴールへと突き刺さった。

 

 

ピッピッピィィィィィィ!

 

 

 

『試合終了おおおおお!激闘の末、3vs2!雷門が前回大会準優勝の木戸川清修を打ち破り、40年ぶりの決勝進出を果たしました!』

 

 

 

やった....やったぞ....

 

 

「勝ったんだあああああああああああ!」

 

 

こうして俺たちは激闘の末、何とか木戸川清修に勝利を収めることができたんだ。

最後は豪炎寺が去年、決勝に出場できなかった理由を三兄弟が知ることとなり、三人と豪炎寺は仲直りした。

これで一件落着だ.....でも、嵐山...大丈夫なのかな...

 

 

 

.




『円堂は”マジン・ザ・ハンド”を使用した!(覚えたとは言っていない)』


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決勝への想い

円堂 side

 

 

結局あの準決勝の後、嵐山からすぐに連絡があった。

自分は何ともなかった、試合はどうなった?って。

試合に勝ったことを伝えたら喜んでいたし、嵐山も何ともなくて良かったぜ。

 

 

ガラガラ

 

 

「おはよう。」

 

「お、嵐山!おはよう!」

 

「よう、円堂。」

 

 

教室で嵐山が登校してくるのを待ってたけど、始業ギリギリで嵐山がやってきた。嵐山が遅刻ギリギリなんて珍しいな。

 

 

「お前が遅刻ギリギリなんて珍しいな。」

 

「あ、豪炎寺もそう思った?」

 

「いや、響木監督に状態の報告をしてたからさ。」

 

「そうなのか。....決勝、大丈夫か?」

 

「言っただろ、円堂。怪我もしてないんだし、問題無いって。」

 

「そっか....ならいいんだけどさ...」

 

 

何か変なんだよな...いつもの嵐山に見えるけど、どこか違和感がある。

豪炎寺もそう思っているのか、嵐山のことをすごくじろじろ見ていた。

嵐山、本当に怪我してないんだよな?...響木監督に聞いてみるか。

 

 

.....

....

...

..

.

 

登校する少し前...

 

 

嵐山 side

 

 

『折れてないことが奇跡だ。ヒビも入ってない。』

 

『それじゃあ!』

 

『でも試合には出られない。』

 

『なっ!?』

 

『当然だ。君の右足はもう限界を迎えている。これ以上無茶を続けたら、君は一生サッカーできなくなるんだぞ?』

 

『それは....』

 

『今我慢すれば、来年...そして高校、大学、社会人、果てはプロまで、君はサッカーを続けることができる。...私も息子とプレーしている君がここで抜けるのは残念だ。しかし...医者として、一人の親として、君の試合出場を認めるわけにはいかない。』

 

『先生.........』

 

『このことは私から、響木さんに話しておこう。』

 

『.......いえ、自分から話します......』

 

『....そうか。わかった。』

 

 

 

「諦められるかよ....」

 

 

 

ここまで来たんだ....後は決勝戦だけなんだ。

来年...高校...大学...社会人、そしてプロ...確かにこれからも俺のサッカー人生は続いていくかもしれない。それでも...俺にとっては今が一番なんだよ。円堂たちと一緒に、今を戦いたいんだ。

 

 

ガラガラ

 

 

「お客さん、まだ開店時間じゃ.....って、嵐山か。どうした。これから学校だろう。」

 

「ええ...病院での診察結果を報告しようと思って。」

 

「なんだ。別に練習の時でも良かったろうに。」

 

「早めの方が良いかなと。....少しリハビリは必要ですけど、問題無しでした。」

 

「.....本当か?」

 

「っ...本当です。なので少しの間、みんなとは別メニューでいいですか?」

 

「..............分かった。俺の方でメニューは考えておく。」

 

「ありがとうございます。...じゃあ、学校行ってきます。」

 

「ああ。」

 

 

そう言って、俺は雷雷軒を出て歩き出した。

良かった...何とか響木監督には納得してもらえた。

いくら豪炎寺先生でも、響木監督を差し置いて俺の出場を止めることはできないだろう。

 

 

あとは俺が、決勝戦までにコンディションを整えるだけだ。

たとえ決勝戦で俺の足が壊れようとも...あいつらと優勝することができるなら本望だ。

 

 

 

 

 

響木 side

 

 

「ええ。...やはりそうでしたか。...ええ、わかっています。ええ...失礼します。」

 

 

嵐山...やはり嘘をついていたか。

豪炎寺先生に電話で確認して良かった。

 

嵐山の気持ちもわかる。俺たちイナズマイレブンも、事故にあいながら這い蹲ってでも会場に向かおうとした。

 

試合にかける情熱は痛いほどわかるが...指導者として、あいつを試合に出すわけにはいかん。

 

 

だが現実として、あいつ抜きで世宇子と戦うのは分が悪すぎる。

それにあいつが戦えないと知った時、円堂たちのモチベーションが下がるだろう。それをどうケアする....

 

 

「ふぅ....まさかこんなことになるとはな...あなたたちならどうしますか...大介さん、宗吾さん...」

 

 

.....

....

...

..

.

 

円堂 side

 

 

 

「お前たち。決勝戦に向けて、気合を入れて練習に打ち込め。」

 

「「「はい!」」」

 

「それと嵐山だが、暫くの間は別メニューだ。昨日無茶をしたからな、暫く安静だ。」

 

「(なんだ...そういうことか....なら大丈夫なのかな。)」

 

 

今朝感じた違和感は、嵐山が足を休ませるためにしてたのが原因かな。

試合には問題なく出られるんだったら良かった。

 

 

 

「それでは練習を開始する。.....その前に円堂、豪炎寺、鬼道。お前たちは残れ。少し話しがある。」

 

「あ、はい。わかりました。」

 

「練習は風丸、一之瀬を中心に行え。」

 

「「はい!」」

 

 

響木監督の指示で、俺たち以外はみんな練習を開始した。

今ここに残っているのは、俺と豪炎寺、鬼道、響木監督の4人だけだ。

 

 

「さて...お前たちに残ってもらったのはほかでもない。」

 

「....嵐山のこと、ですね。」

 

「えっ?」

 

「ほう...気付いていたか、鬼道。」

 

「ええ、まあ。」

 

 

嵐山のことって、どういうことだ?

鬼道は理解してるみたいだけど...

 

 

「落ち着いてきけ。嵐山だが...決勝戦には出場できん。」

 

「そんな!...まさか、昨日のあれで怪我したんじゃ...」

 

「いや、怪我というよりは疲労が蓄積している状態だ。昨日の無茶で、あいつの右足は限界までダメージを食らってしまった。骨折やヒビが入ったなどではないが、あいつの足はいつ壊れてもおかしくない状態にある。」

 

「そんな.....」

 

 

嵐山がそんな状態だったなんて...だから違和感を感じたのか。

俺、キャプテンなのに全然嵐山のことわかってなかった。

 

 

「あいつはそれを隠して試合に出場しようとしているが、俺はあいつを出すつもりはない。お前たち三人には先に伝えておこうと思ってな。」

 

「そうですね。俺も嵐山がいない前提で作戦を考えなければならない。そしてエースストライカーとして、チームの支柱として豪炎寺、円堂には嵐山の分まで頑張ってもらわなければならない。」

 

「わかっている。俺が嵐山の分まで点を取るまでだ。」

 

「....」

 

 

嵐山がこんなことになったのも、俺が武方三兄弟の”トライアングルZ”をまともに止めることができなかったからだ。

 

たぶん、世宇子中のシュートはあれよりももっとすごいシュートだと思う。

そうしたら、俺はゴールを守ることができるのか?

 

今のままじゃ世宇子には勝てない...それに嵐山がいなくちゃ、勝ったって意味が無い...あいつと約束したのに、それを果たせないんだったら...

 

 

「円堂。....おい、円堂!」

 

「っ...あ、え....な、何だ?」

 

「.....円堂、お前が嵐山を頼りにしているのはわかる。だがこのチームの柱はお前だ。お前がそのような状態では、世宇子には勝てんぞ。」

 

「あ、ああ.......ごめん...」

 

 

鬼道の言う通り、だよな...でも何でだろう...

木戸川清修との試合終盤、”マジン・ザ・ハンド”を出した時のようなあの胸の奥から湧き上がってくるような力を感じない...

 

これまでずっと、どんな日でも感じていたサッカーへの熱さが...湧き上がってこない...

 

 

「....(円堂は相当マズイ状態かもしれんな。何とか立ち直ってもらいたいが......よし、あいつらに頼むとするか。)とにかく、嵐山のことは伝えた。お前たちも練習に戻れ。」

 

「「はい。」」

 

「はい...」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

「ハァ...ハァ....っ......少し走っただけでこれか...」

 

 

 

俺は今、河川敷グラウンドの土手で寝転がっていた。

別メニューとして渡されたメニューに書いていたのは、軽いウォーキングだったがそれでは世宇子との戦いまでにレベルアップできない。

 

今のままでは俺たちは世宇子に完敗するだろう。

だけど諦めない気持ちがあれば、きっと何とかなるはずなんだ。

 

 

「っ...くそ.....足が重い....」

 

 

まるで去年の怪我の時みたいだ。

あの時も足が重くて、自分のものじゃないみたいな感覚だったな。

今はこうして、左足から右足に利き足を変えることができたけど、その右足もこのザマじゃな...

 

 

「だけど...諦めるわけにはいかない....円堂との約束を果たすため....夏未との約束を果たすため....そして何より...」

 

 

自分自身が、世宇子に勝ちたい、優勝したいと本気で思っているから。

 

 

「おわっ!」

 

 

心の中で色々考えていたら、タオルが落ちてきて視界が暗くなった。

慌てて視界を覆っていたタオルを取ると、そこには俺を見下ろす秋がいた。

 

 

「秋....どうしてここに?」

 

「どうしてって...心配になって来たのよ。」

 

「心配って....別に俺は怪我人じゃ...」

 

「嘘。...私には隠さなくていいよ。」

 

「秋...」

 

 

秋はそう言いながら俺の足元まで来てしゃがみ、俺のジャージの裾をまくる。

そこには真っ赤に腫れた足があり、俺の足の状態が良くないことを示していた。

 

 

「全く...どうしてあなたたちはこう無茶をするのかな...」

 

「悪い...」

 

 

秋はそのまま、救急箱を取り出して俺の足をアイシングし始めた。

円堂と同じで、秋ともずいぶんと長い関係だもんな...鈍感な円堂ならともかく、秋に隠し事は無理か。

 

 

「....どうしてみんなには嘘をついたの?どうして無理して試合に出ようとするの?私たちがそんなに信用できない?」

 

「秋......違うよ。みんなのことは信じてる。でも、決勝の相手はこれまでとはまるでくらべものにならない奴らだ。もしかしたら.....いや、絶対に怪我人が出るくらいには、大変な試合になる。」

 

 

だからこそ、俺は見ているだけなんてできないんだ。

俺の大切な仲間が傷つくくらいなら、俺が戦う。

フットボールフロンティア優勝という夢に巻き込んだ俺が、責任を取るべきだから。

 

 

「....それでも、私は嵐山くんが試合に出るのは反対。」

 

「秋.......」

 

「だって、あなたが傷つくことで、あなたのことを思って傷つく人もいるのよ?」

 

 

そう言いながら、秋は俺の後ろの方を見る。

誰か来たのかと思い、俺も振り返るとそこには夏未と春奈が立っていた。

 

 

「夏未...それに春奈も...」

 

「嵐山くん......木野さんの言っていたことは本当だったのね。」

 

「先輩...私、先輩が無茶するのが怖いです...」

 

「ごめんね、嵐山くん。二人には私から話したわ。あなたがきっと、怪我を隠しているって。」

 

「そっか....」

 

 

「嵐山くん。私も理事長代理として......いえ、あなたの友人として、あなたが試合に出場することは望まないわ。これ以上、無茶をしないで。」

 

「私もです、先輩....先輩が試合で活躍する姿を見るのが好きです。でも、先輩が傷つく姿は...見たくないです!」

 

 

二人とも....俺が無茶をすることで、誰かを傷付けることになるのか...

俺が無茶をしなければ、二人はこうして泣かないで済むのか...?

 

 

「っ.....わかった..........試合には出ない.....」

 

「嵐山くん!」

「先輩!」

 

 

「でも........それでも、俺は....みんなが傷付けられるなら、きっと試合に出ると思う。それだけは...わかって欲しい。」

 

「ええ....それがあなただものね。」

 

「はい!そんな優しい先輩だから、私はサッカー惹かれたんです!」

 

 

「そっか.........秋、ありがとな。」

 

「ううん。....じゃあそろそろ戻ろ?」

 

「ああ。」

 

 

後で響木監督にも謝らなくちゃな...

それから円堂にも、みんなにも。

そしてあいつらに託す。俺の想いを。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

青春おにぎり

決勝までもうちょっとだけ日常回が続くんじゃ。


嵐山 side

 

 

『すみませんでした!』

 

『...やはりか。』

 

 

あれから俺はマネージャー三人に連れられて、響木監督に謝罪しにいった。

響木監督は気付いていたこと、豪炎寺先生から話を聞いたことを教えてくれて、元々俺を試合に出すつもりはなかったと話してくれた。

 

俺は響木監督に試合に出ないこと、ただし仲間が傷ついた時、その時は試合に出させて欲しいことを伝え、響木監督もそれに了承してくれた。

 

代わりにだが、様子のおかしい円堂のことを頼まれた。

どうやら先に俺が試合に出られる状態ではないことを伝えたらしいが、それからずっと上の空らしい。

 

 

「”ドラゴンクラッシュ”!」

 

「おわっ!...とと...」

 

「おいおい、どうしたよ円堂。」

 

「しっかり頼むぜ?」

 

「あ、ああ...はは...」

 

 

 

どうやらかなり深刻な状態みたいだな。

円堂の奴、俺が試合に出られなくなったのは自分のせいだとか思ってそうだな。

確かに俺が試合に出られなくなった原因は、俺が木戸川清修との試合で無茶をしたからで、そんな無茶をしたのは円堂が”トライアングルZ”を止められなかったから、と言われても間違いではない。

 

 

「(だがあれは俺自身が自分で考えて行動した結果だ。円堂が気にすることも、責められる必要もない。ならば俺がやるべきことは一つ。)」

 

「なあ、円堂。少しいいか。」

 

「っ、嵐山..」

 

「お前、俺が試合に出られなくなったことを気にしてるのか?」

 

「っ!.......だって、俺のせいじゃないか。俺が”トライアングルZ”を止められていたら、お前があんな無茶することだってなかったのに...!」

 

「馬鹿野郎!」

 

「っ!」

 

「あれは俺が考えて、俺自身で決めて動いたことだ!お前は関係ない!それに...試合に出られなくなったのは悔しい。それでも、俺はあの行動に後悔なんてしていない。俺自身で決めたことだ。お前が気に病む必要なんてないんだよ。」

 

 

俺は円堂の肩に手を置き、今にも泣き出しそうなその目を見ながら話を続ける。

 

 

「お前と俺で誓ったよな。フットボールフロンティアで優勝するって。...期待してるぞ、キャプテン。お前が優勝のトロフィーを俺に届けてくれるってさ。」

 

「嵐山....俺....」

 

「だからいつまでもくだらねえこと考えてないで、練習に集中しろ。馬鹿野郎。」

 

「っ.......嵐山........わかった...!俺、行ってくる!」

 

「おう。」

 

 

円堂は吹っ切れた表情になり、俺に笑顔を見せてから練習へと戻っていった。

...ま、これでメンタルは大丈夫だろうな。

 

 

「あとは....」

 

 

あいつらがどれだけ世宇子を相手に戦えるか、だな。

正直言って、世宇子の実力は圧倒的だ。

それでも俺たちは、これまでと同じように泥臭くても、必死で立ち上がってくらいついていくだけだ。

 

 

「...嵐山。」

 

「ん?どうしたんですか、響木監督。」

 

「少しくらいなら、練習しても構わんだろう。うずうずして、居ても立っても居られないような顔をしているからな。」

 

「えっ......いいんですか?」

 

「少しだけだ。けして本気で走ったり、シュートを打ったりするなよ。」

 

「っ....はい!」

 

 

俺は響木監督の言葉を聞き、そのままグラウンドへと走り出した。

 

 

.....

....

...

..

.

 

夏未 side

 

 

 

「あのバカ...本気で走るなと言ったばかりだろうに...」

 

 

響木監督はそうぼやいたけど、どこか嬉しそう。

やっぱり嵐山君と円堂君がいるだけで、このチームは何倍にも活気づく。

二人はそう...まるでサッカーバカと称すべき、天性のサッカー少年だものね。

 

 

「こっちだ!鬼道!」

 

「ふっ...負けんぞ、嵐山!」

 

「来い、豪炎寺!」

 

「ああ、止めてみろ円堂!」

 

 

「「おっしゃあ!」」

「負けないっス!」

「俺もやるでやんす!」

「俺もいるぞ...」

 

 

みんな気合が入ってる。弱小だったあのサッカー部が、全国大会の決勝まで勝ち進んでいる。

正直、私自身も彼らがここまで勝ち進むとは、最初は思っていなかった。

それでも、サッカー部のマネージャーとして彼らと接するうちに、私自身がサッカーを、彼らを大好きになってしまったのだから、驚きね。

 

 

「(それでも...今この時がもどかしい。私も、彼らのために何か役に立ちたい。こんな気持ちになるなんて...私もサッカー部に染まってきたのかしらね。)」

 

「...もどかしいですね。」

 

「音無さん...?」

 

「こうやって見てることしかできないなんて....私たちに何かできることはないでしょうか。」

 

「音無さん...」

 

 

音無さんも同じ考えだったのね。

そんな音無さんを見て、木野さんは一つの提案をしてきた。

 

 

「だったらできることがあるわ。夏未さんも、一緒に来て?」

 

「ええ。私も、彼らの力になりたいもの。」

 

 

そして、私たちは家庭科室へと向かった。

木野さんは家庭科の教師に許可をもらって、炊飯器を用意している。

もしかして、料理でもするのかしら。...私、料理なんてしたことないわ。

 

 

「あ、もしかして夏未さん、おにぎり作ったことない...?」

 

「え、ええ...」

 

「そっか。...じゃあ、男子たちに倣って....」

 

 

そう言って、木野さんはお茶碗にご飯をよそって、さらにもう一つのお茶碗をかぶせた。

 

 

「必殺、”ダブル茶碗”よ。」

 

「だ、”ダブル茶碗”...!」

 

 

そう言いながら、木野さんは二つのお茶碗を振り出す。

暫く振った後、かぶせていたお茶碗を取ると、そこには綺麗に固まったご飯があった。

 

 

「す、すごいわ!」

 

「これで後は水をつけて整えるだけだし、少しは冷めたから手で握れるわ。」

 

「ええ!やってみるわ!」

 

 

私は木野さんがやっていたように、お茶碗にご飯をよそい、もう一つのお茶碗をかぶせてからそれを振る。暫くしてかぶせていたお茶碗を取る。

 

 

「これで....水をつけて、お塩を付けて..........できた!できたわ!」

 

「ふふ...それじゃあこの調子でたくさん作りましょうか!」

 

「はい!」

 

「ええ!」

 

 

こうして私たちはサッカー部のため、たくさんのおにぎりを作った。

こんな私でも、彼らの力になれる....そう思うと張り切ってしまったわ。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

 

「いいぞお前ら!」

 

「よし!どんどん打ってこい!」

 

 

おにぎりを作り終わって、グラウンドへ戻るとみんなが泥だらけになりながら練習を続けていた。

みんなへとへとになってまで続けるなんて.....ま、それが我が校のサッカー部よね。

 

 

「みんなー!おにぎり作ったわよ!」

 

「たくさん作ったので、休憩にしましょう!」

 

 

「「「おおおおお!!!」」」

 

「いっちばーん!」

 

 

木野さんと音無さんの呼びかけに、みんなが一斉にこっちへ走ってきた。

嵐山君と鬼道君は手を洗いに行ったのか、部室の方へと向かっていった。

 

 

ペシッ!

 

 

「な、何するんだよ!」

 

「手を洗ってきなさい!」

 

 

私の言葉に、円堂君たちは足早に手を洗いに行った。

そして全員が揃うと、みんなが思い思いにおにぎりを手に取りだす。

 

 

「「「「いただきま~す!」」」」

 

「うめえ!」

 

「最高でやんす!」

 

「懐かしいなぁ。アメリカにいたころもこうやって秋がおにぎりを作ってくれてたっけ。」

 

「本当に懐かしいな。いつも一之瀬がたくさん頬張ってたよな。」

 

 

良かった。みんなおいしいって言って食べてるわ。

...と思ったけど、私が作ったのはまだ誰も食べてないわね。

 

 

「お、これ夏未が作ったでしょ。」

 

「あ、嵐山君...」

 

「食べてもいい?」

 

「ええ、食べてくれるかしら。」

 

「うん。頂きます。」

 

 

そう言って、嵐山君は私の作った、木野さんたちのおにぎりとは違って形のよくないおにぎりを頬張った。

 

 

「..........」

 

「ど、どうかしら。」

 

「.....おいしいよ。これならいくらでも食べられそうだ。」

 

「本当に!?良かった....」

 

「うん。俺が全部もらっちゃおうかな。」

 

 

そう言って、嵐山君は私の作ったおにぎりが入ったケースを、誰にも取られないようにテーブルの端っこに寄せた。それを見ていたみんなが嵐山君にブーイングしていた。

 

 

「嵐山、お前それは欲張りすぎだぞ。」

 

「ずるいっすよ、嵐山さん!」

 

「うるさいぞ、お前ら。夏未のおにぎりは俺のものだ。絶対に食うなよ。」

 

「「「ええ~!」」」

 

 

そんなブーイングをよそに、嵐山君は黙々と私の作ったおにぎりを食べていた。

5個くらい食べた辺りで、嵐山君は水を一気に飲んでから少し休憩、と言って休んでいた。

 

 

「残りは後で食べようかな。砂が付かないようにしておいてもらってもいいかな?」

 

「え、ええ。...本当に全部食べるつもり?」

 

「もちろん。せっかく夏未が初めて作ったおにぎりだし、独り占めさせてよ。」

 

「っ....わ、わかったわ...」

 

 

 

な、何よその理由....私、多分今顔が真っ赤だわ。

それに心臓の音がうるさい....

 

 

「さてと...よし、お前ら。腹も膨れたことだし、練習再開しようぜ。」

 

「「「おお~!!!」」」

 

 

嵐山君の掛け声に、みんなが練習を再開し始めた。

 

 

「ご馳走様。ありがとうね。」

 

 

嵐山君もそう言って、練習へと戻っていった。

本当...嵐山君といると心臓に悪いわね。

 

 

「(...今なら夏未さんの作ったおにぎりを食べても、誰も見てないっス....)そろり.....................ぎゃああああああああああああああ!」

 

「えっ!?」

 

「か、壁山君!?」

 

 

突然、私たちの後ろで壁山君が叫び声をあげた。

手に持ってるのは.....私の作ったおにぎり?

 

 

「し、塩辛いっすぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!み、水!水ぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 

「えっ....?」

 

 

う、嘘...だってさっき、嵐山君は平然と食べて....っ、まさか...!

私は自分の作ったおにぎりを一つ手に取り、少しだけちぎって口の中に入れる。

 

 

「うっ.....な、なにこれ.......」

 

 

ものすごくしょっぱくて、ほとんど塩の塊みたいな味じゃない!

嵐山君、どうしておいしいなんて....

 

 

『せっかく夏未が初めて作ったおにぎりだし、独り占めさせてよ。』

 

 

あれ...どうして嵐山君は、私が初めておにぎりを作ったってわかったのかしら。

確かに作ったことは無かったけど......

 

 

「夏未さん、落ち込まないで?次はうまく作れるわよ。」

 

「え、ええ......でも、嵐山君はどうして...」

 

「きっと、夏未さんが初めて作ったんだと思って、おいしくないなんて言って夏未さんに傷ついて欲しくなかったから、気を遣ったのよ。彼、そういうところあるでしょ?」

 

「っ...そうね.....本当にもう...しょうがない人ね...ふふ....」

 

「夏未さん、嬉しそう。」

 

「はっ!そ、そんなことないわ!」

 

 

でも....ありがとう、嵐山君。

今度作るときは、絶対においしいおにぎりを作ってみせるわ。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

合宿!

嵐山 side

 

 

「うおおおおおお!”マジン・ザ・ハンド”!」

 

「.........何も出てないぞ?」

 

「....そうなんだよなぁ....」

 

 

 

話を聞くと、木戸川清修との試合で円堂のお祖父さんが編み出した幻の必殺技を使うことができたそうなんだが、あれ以来使うことができないらしい。

 

 

「あの時は無我夢中って感じでさ....それに嵐山がいなくなって、俺がやらなきゃ、決勝に進むんだって気持ちで一杯で....胸の奥から力が湧いてくるような感じがあったんだけど...」

 

「今はそういう力を感じない...ということか?」

 

「ああ........ああもう!”マジン・ザ・ハンド”が無かったら、世宇子のシュートは止められないんじゃ...」

 

「焦るのはわかるけど、落ち着けよ。たとえその”マジン・ザ・ハンド”が完成したとして、正直あいつらのシュートを止められるかは未知数だ。試合を見た俺ならわかる。」

 

「そうだな...俺も奴らの試合を間近で見ていたが、今までの相手とは次元が違う。俺たちのものさしで測れるような相手ではないぞ。」

 

「そうは言ってもさ...」

 

 

円堂は随分と、その”マジン・ザ・ハンド”にこだわっているな。

まああの武方三兄弟の”トライアングルZ”を完璧に止めることができたみたいだし、その技が今の円堂の自信に繋がっていると考えれば、必殺技が使えなくて焦る気持ちも十分わかるな。

 

 

「ま、とにかく特訓あるのみ、じゃないか?」

 

「....そうだな。よし!みんな!俺に一斉にシュートを打ってくれ!」

 

 

そんなこんなで円堂の”マジン・ザ・ハンド”習得のための特訓が開始した。

染岡、豪炎寺、鬼道、一之瀬、風丸を中心に、全員が思い思いにシュートを放っていく。

円堂はそんなシュートの嵐にくらいついていく。

 

 

「「”ドラゴントルネード”!」」

「「”ツインブースト”!」」

 

ドゴンッ!

ドゴンッ!

 

 

豪炎寺と染岡、鬼道と一之瀬の必殺シュートが円堂に向かって飛んでいく。

だがその時だった。突然、その間に誰かが現れ、必殺シュートをそれぞれ片手で止めてみせた。

 

 

「(あのシュートを片手で.....っ、こいつは...!)」

 

「お前、すげえキーパーだな!」

 

「いいや、私はキーパーではない。最も、我がチームのキーパーはこの程度、指一本で止めてみせるだろうけどね。」

 

「そのチームってのは、世宇子中のことだろう....アフロディ!」

 

「....」

 

 

アフロディ....世宇子のキャプテンだ。

まさか雷門に宣戦布告にでも来たか?

いや...こいつからはまるで戦う意思を感じない。

一体何を考えているんだ...?

 

 

「宣戦布告に来やがったってことか。」

 

「宣戦布告?...ふふ、我々は戦うつもりはないよ。」

 

「何っ?」

 

「だって、君たちでは我々には絶対に勝てない。やるだけ無駄さ。」

 

「っ!試合はやってみなけりゃわからないぞ!」

 

「そうかな。リンゴが木から落ちるように、世の中には絶対に逆らえない事実というものがある。だから練習なんてやめたまえ。神と人間の間の溝は、練習ごときで埋まるものではない。無駄なことさ。」

 

 

少しだけ怒りをあらわにする円堂に対して、アフロディは飄々とした態度を崩さない。

あくまで自分たちが圧倒的に上の存在であると認識しているようだな。

 

 

「練習が無駄だなんて、誰にも言わせない!練習はおにぎりだ!俺たちの血となり、肉となるんだ!」

 

「ああ、なるほど。練習はおにぎり....ははは、うまいことを言うねえ。ふふ...」

 

「笑うとこじゃないぞ.....!」

 

「しょうがない....じゃあ、それが無駄なことだと、証明してあげよう!」

 

「っ!」

 

 

アフロディはそう言った瞬間、手に持っていたボールを一つ上空へと放り投げ、一瞬でそのボールの元へと飛び上がった。誰もそのスピードについていけず、アフロディが瞬間移動したかのような錯覚に陥っていた。

 

 

「っ、いつの間に...!」

 

「ふっ...」

 

 

トンッ...

 

 

そしてアフロディは、放り投げたボールを軽く触れるように、押し出すように蹴った。

ボールはまるで隕石でも落ちてきているかのような轟音をとどろかせながら、ゴール前にいる円堂へと迫っていく。

 

 

ドゴンッ!

 

 

「ぐっ!」

 

 

円堂はそれを真正面から受け止める。しかし、あれだけ軽く弾いたようなシュートだったのに、円堂は徐々に押され始めている。いや、もう既に耐えられていないような体勢になっていた。

 

 

「ぐっ....(あの時のように....止めてみせる...!)...ぐぐぐぐ....うおおおおおお!」

 

 

バシンッ!

 

 

しかし、円堂は何とかボールを弾いて、ゴールは守ってみせた。

その円堂自身は大きく弾き飛ばされ、ゴールへと押し込まれていた。

 

 

「円堂!?大丈夫か!」

 

「キャプテン!」

 

 

「うっ....ぐ....っ、退けよ!....来いよもう一発!今の本気じゃないだろ!本気でどんと来いよ!」

 

「(円堂....)」

 

「...面白い。神のボールをカットしたのは君が初めてだ。決勝が少し楽しみになったよ。」

 

 

そう言い残して、アフロディはまるで消えるようにこの場を去っていった。

アフロディ...あれだけ強烈なシュートを放ったあいつが、フォワードでは無い、なんて今のこいつらには言えないな。確かにキャプテンとして、世宇子の中でもトップクラスの実力を誇ってはいるが、あいつと同等か、それ以上のフォワードもいることは認識しておかなければならない。

 

 

「っ...」

 

「円堂!怪我は無いか!」

 

「しっかりして、円堂君!」

 

 

「あ、ああ...俺は大丈夫だよ。それより今ので、”マジン・ザ・ハンド”完成の道が見えた気がする...!」

 

 

「いや....今のお前には絶対不可能だ。」

 

「えっ?」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

 

「こらー!枕投げに来たんじゃないのよ!」

 

「宍戸、お前枕なんて持ってきたのか?」

 

「俺、これが無いと寝られないんですよ。ほら、触ってみて下さいよ、この低反発!」

 

「おお、何かいい感じじゃん!」

 

「これ、寝るとき用なんだ。」

 

「へぇ...」

 

 

 

こいつら...自由だな。

俺たちは響木監督の提案により、雷門中の校舎で合宿を行うことにした。

決勝は明後日だし、前日はそこまで追い込みをかける予定は無いから、こうやってみんなでちゃんと集まるのは今日がラストだ。

 

ま、今の雰囲気は合宿ってより、お泊り会みたいな感じだけどな。

でも俺もこういう雰囲気は嫌いじゃない。

 

 

その後もみんなでカレーを作ったりしていて、決勝に対する緊張がほぐれてきたのか、いつものみんなに戻ってきていた。だが、肝心の円堂だけがあの様子じゃあな...

 

 

「(くそ...”マジン・ザ・ハンド”が完成しないと、世宇子のシュートは止められない...どうすればいいんだ....あとちょっとで出来る気がするのに、もうちょっとなのに....!)」

 

「円堂!」

 

「っ!...嵐山.....って、備流田さん、髪村さん、それに会田さんまで!?」

 

「合宿をすると聞いてな。」

 

「だったらアレを持ってきて、驚かせてやろうってよ。」

 

「アレ...?」

 

 

そう言って、伝説のイナズマイレブンが見せてきたのは、まるでイナビカリ修練場にあるマシンのような大型のアスレチックのようなものだった。

 

 

「な、何ですかこれ!?」

 

「俺たちが40年前に作った、”マジン・ザ・ハンド”養成マシンさ!」

 

「そ、そんなものが...」

 

「”マジン・ザ・ハンド”を完成させるために、色々考えて作ったのさ。...ま、結局は惜しいところまでいってダメだったんだけどな。」

 

「でも、このマシンがあれば...!早速使わせて下さい!」

 

 

こうして、養成マシンを使った特訓が始まった。

さすが、40年前に中学生が手作りしたってだけあって、基本は人力で動くみたいだ。

俺たちは円堂のため、へとへとになりながらも特訓に付き合った。

果てはマネージャ―にまで手伝わせてしまったくらいだ。

 

 

「(みんな....何やってんだ俺は!こんな仲間がいたのに、”マジン・ザ・ハンド”ができないって一人で焦って....俺は世界一の大バカ者だ!)」

 

 

円堂は吹っ切れたような表情になり、徐々に養成マシンの動きに対応し始めた。

そして、繰り返すこと100回以上、ついに円堂は養成マシンを完璧にクリアしてみせた。

 

 

「や、やった!」

 

「やったっス、キャプテン!」

 

「こ、これで”マジン・ザ・ハンド”が完成...?」

 

「いや、まだだ。次のステップへ行くぞ、円堂。」

 

「はい!」

 

 

こうして、次のステップへと移っていく。

今度はゴール前に円堂が立ち、シュート役として響木監督、豪炎寺、鬼道がボールをもって立っている。

 

 

「さあ行くぞ、円堂!」

 

「はい!」

 

「「「”イナズマブレイク”!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

三人がシュートを放つ。大人の響木監督が加わったことで、かなりの威力となっている。

そんなシュートに対して、円堂は自身にオーラを溜め始める。

 

 

「はああああああああ.....”マジン・ザ・ハンド”!」

 

 

だが、確かにオーラは見えるほど溜まっているものの、まるで力を感じない。

あれでは”ゴッドハンド”の方が力がしっかりとまとまっているように見える。

 

 

「っ...ぐあっ!」

 

 

結局、”イナズマブレイク”を止められず、円堂は吹き飛ばされてしまう。

何かが足りていない...決定的な何かが....俺があの試合を、円堂が”マジン・ザ・ハンド”を繰り出す瞬間を見れていれば、何かアドバイスできたんだが...

今から試合の映像を持っている人を探しても、時間がかかって間に合わない。

 

 

「円堂、もう一度だ。」

 

「はい!」

 

 

それから何度か挑戦したが、結局円堂は”マジン・ザ・ハンド”を習得することはできなかった。

 

 

「くそ...」

 

「何かが足りん...決定的な何かが...」

 

「”マジン・ザ・ハンド”は...完成しない...」

 

「そんな...」

 

 

「っ、お前ら...」

 

「みんな何を諦めているの!」

 

 

みんなに諦めムードが漂った時、俺がみんなを叱咤しようとするとそれに被さるように秋が声を張り上げた。

 

 

「大事なのは”マジン・ザ・ハンド”じゃない...みんなで一緒に戦うことよ!100点取られたって、101点取れば勝てる!諦めちゃだめよ!」

 

「木野...」

 

「......秋のいう通りだ。お前たち、何故諦める。俺たちはいつだって、試合の中で進化してきたじゃないか。今が無理でも、試合で完成するかもしれない。いや、もしかしたら”マジン・ザ・ハンド”を超える必殺技だって、俺たちで生み出せるかもしれない。諦めなかったら、勝利の女神はいつだって俺たちを見守ってくれるはずだぜ?」

 

「嵐山.......そうだよな。諦めたら、そこで終わりだ。でも、俺たちはこれまでずっと諦めずに戦ってきたんだ。決勝だって、諦めない気持ちをもって戦えば...!」

 

「ああ、きっと....何とかなるさ!」

 

「「「嵐山....」」」

「「「嵐山さん....」」」

 

 

「さあ!そうと決まったら、最後まで特訓あるのみだ!行こうぜ、みんな!」

 

「「「「おう!!!」」」」

 

 

.....

....

...

..

.

 

響木 side

 

 

「どうやら、また一つ子供たちに教わったみたいだな。」

 

「ああ。あの子たちなら、俺たちのようにはならんさ。....きっと、世宇子を倒し、俺たちの成しえなかったフットボールフロンティア優勝を...」

 

「響木、あの子たちをしっかり見守ってやれよ。」

 

「ふっ...わかっている。それが俺の、役目だからな。」

 

 

影山....お前は言ったな。戦う前から円堂たちは敗北していると。

だが今のこの子たちを見て、俺はそうは思わない。

 

何故なら、こんなにも笑顔でサッカーを楽しんでいるじゃないか。

憎しみで、復讐心でサッカーを支配しようとするお前にはわからないだろう...憎しみや復讐心ではサッカーを支配することはできない。そこには希望が無いからだ。

 

勝利と敗北...驚くほどシビアで辛い現実もあるだろう。

だがそれでも、少年たちは希望をもって、戦い、競い合う。

それこそがサッカーの素晴らしさなのだ。

 

 

「(影山...お前もそのことに気付けたのなら、俺たちは....)」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

最後の決戦

円堂 side

 

 

「(じいちゃん...いよいよ決勝まで来たよ。嵐山やみんながいてくれたから、俺はここまで来れたんだ。...待っててよ、じいちゃん。優勝の報告、絶対するからさ!)」

 

 

ついに決勝戦の日を迎えた俺は、いつもの日課であるじいちゃんへの報告を行っていた。

こうやってじいちゃんの写真に話しかけると、本当にじいちゃんに話してるような気がして、なんだか心が軽くなるんだよな。

 

 

「あ、守!」

 

「え?.....これ、じいちゃんの...」

 

 

俺が報告を終えて、家を出ようとしたとき、母ちゃんがグローブを俺に渡してきた。

ずっと前に見たことのあった、じいちゃんのグローブだ。

 

 

「一緒に連れてってあげて。おじいちゃん、フットボールフロンティアの決勝戦行けなかったからさ....頑張るんだよ、守。応援してるからね!」

 

「母ちゃん......もちろんだぜ!それじゃあ行ってくる!」

 

 

母ちゃん!絶対に勝って、優勝の報告をするからさ!

たくさんお祝い作って待っててよ!

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「ふぅ...」

 

 

ついにこの日が来た。俺は試合に出ることはできないけど、待ちに待った日だ。

世宇子は影山の手が加わった、油断できないチームだ。

だがあいつらなら、きっと影山の野望を打ち砕き、フットボールフロンティアで優勝するはずだ。

 

 

「じいちゃん、ばあちゃん。俺、ついにここまで来たよ。...じいちゃんたちが成しえなかったフットボールフロンティア優勝...必ず俺が、俺たちが叶えてみせるから。だから...天国で見守っていてくれ。」

 

 

じいちゃんとばあちゃんへの報告を終え、俺は立ち上がる。

するとそこには、しまっておいたはずのじいちゃんの遺品が落ちていた。

 

 

「これって.......一緒に行きたいってことか。わかったよ、じいちゃん。」

 

 

俺は落ちていた遺品....リストバンドを腕に付けて、家を出た。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

 

「...って、閉鎖!?」

 

「誰もいないぞ!?どうなってんだ...?」

 

 

決勝のスタジアムへと来た俺たちだったが、なぜか辺りに人は全くおらず、さらには入口は閉鎖され、ご丁寧に閉鎖と書かれた紙まで貼ってあった。

 

 

prrrrrrrr

 

 

「はい。....はいそうです。....えっ?どういうことですか!?今更そんな...!」

 

「誰からだ?」

 

「それが...大会本部から、急遽決勝の会場が変わったって...」

 

「....影山の仕業か。」

 

「みたいですね。.....どうやら、思っている以上に影山はヤバいみたいですよ。」

 

 

俺は空を飛ぶ物体を見上げながら、響木監督の言葉に同意した。

そんな俺を見て、みんなも空を見上げる。そこには空を飛ぶサッカーグラウンドがあった。

 

 

「ま、まさか..」

 

「あれが...決勝戦のスタジアムだというのか...!?」

 

 

そのまま空を浮く物体は降下をはじめ、俺たちの前に降り立った。

全く影山には驚かされるな。一体どうやったらこんな施設を作れる。

あいつなら、戦闘機だの核兵器だの持っていても不思議じゃなくなってくるな。

 

 

そして俺たちは案内に従って、会場へと入っていく。

グラウンドに出てみたが、どうやら普通のフィールドみたいだな。

さすがの影山も、大々的には危ない真似はしないようだ。

 

 

「...円堂、嵐山。話がある。」

 

「何ですか?監督。」

 

「....」

 

「大介さん、そして宗吾さん...お前らの祖父さんの死には、影山が関わっているかもしれん。」

 

「えっ...!?じ、じいちゃんが影山に...!?」

 

「....ちょっと待って下さい。俺のじいちゃんは、病死です。さすがに影山が関わってるなんて...」

 

 

俺はじいちゃんの最期を看取っている。病気で苦しんでいたけど、最期は穏やかに病院で息を引き取ったんだ。俺はそれをちゃんと見ている。

 

 

「俺もまだ半信半疑だが...あの時、宗吾さんはまともに喋ることすらできなかったはずだ。だからこそ、最後の肉親であるお前が治療を辞めると言わなければ、延命治療が行われていたはずだった。」

 

「ええ....でも、それはされなかった。....っ、まさか...」

 

「ああ。お前ではない誰かが、延命治療を断った。もしもそんなことが出来る奴がいるとするなら...お前の両親か、警察内部や様々なところに圧力をかけられる影山くらいだ。そして、お前の両親は...」

 

「ええ....じいちゃんの前に現れるはずがない...」

 

 

 

まさか...影山のせいで、俺のじいちゃんは...それに円堂の祖父さんも....!

そんなことが....そんなことが許されていいのか....!

あいつは俺たちの家族を....サッカーを....全部汚すつもりか...!

 

 

「「ハァ...ハァ....!」」

 

「え、円堂くん...!」

 

「嵐山くん...!っ、監督!何故今なんです!今言わなくても...!」

 

「いや、今じゃなければならん。(決戦を前に選手たちの心を乱すなど、監督失格だろう。しかし、今でなければダメなんだ。恨み、憎しみに囚われたせいで、俺たちはサッカーという大事なものを失った。もしこいつらが影山への恨みでサッカーをしようというのなら、俺はこの場で監督を辞め、試合を棄権する。大好きなサッカーを、お前たちから奪わないために。)」

 

 

 

「ハァ....ハァ....っ....俺は.....!」

 

 

そんな時だった。俺の肩に二つの手が置かれる。

振り向くと、そこには豪炎寺、そして鬼道がいた。

 

 

「豪炎寺...鬼道...」

 

「嵐山...」

 

 

それだけじゃない。円堂にも、俺にも、みんながついていた。

ふっ...お前ら、心配そうな顔をするなよ。

 

 

「...監督、それにみんな....俺にはこんなにも思ってくれる仲間がいる。」

 

「みんなに出会えたのは、サッカーのおかげだ......影山は憎い...それでも、そんな気持ちでプレーなんてしたくない!」

 

「サッカーは楽しくて、面白くて、ワクワクして....一つのボールに熱い気持ちをぶつける、最高のスポーツなんだ...だから俺は...俺たちは、いつもの俺たちのサッカーをする!」

 

「俺たち、サッカーが大好きだから!」

 

 

「(円堂、嵐山....お前たちならそう言うと信じていた...!影山のように恨みや憎しみでサッカーを汚すのではなく、愛するからこそサッカーをする!辛い特訓に耐え、よくこの決勝の舞台までやってきた...きっと、その痣だらけの体が応えてくれるはずだ...!)」

 

 

さあ、行こう!俺たちのサッカーをしに!

大好きなサッカーで、俺たちのサッカーで、優勝しようぜ!みんな!

 

 

 

俺たちはロッカールームで着替え、再びグラウンドへと歩き出す。

もう迷いは無い...後は俺たちのサッカーで、全力でプレーするだけだ!

 

 

「嵐山くん!」

 

「....夏未。」

 

「....頑張って。」

 

「ふっ.....ああ、勝ってくる。」

 

 

 

 

『わあああああああああああああ!』

 

 

 

グラウンドへ出ると、さっきまでは誰もいなかった観客席に満員の客が座っていた。

これが決勝戦...全員の熱気が伝わってくる...!

 

 

『雷門中、40年ぶりの出場でついに決勝の舞台へと登り詰めた!果たしてフットボールフロンティアの優勝をもぎ取ることができるのでしょうか!さあ、まもなくキックオフです!』

 

 

 

「いいかみんな!全力でぶつかればなんとかなる!勝とうぜ!」

 

「「「おう!」」」

 

「円堂!」

 

「っ、嵐山、どうした?」

 

「....信じてるぜ。」

 

「.....おう!」

 

 

呼び止めた円堂もフィールドへと駆けていく。

ついにこの時がやってきたんだ。お前ら...絶対勝とうぜ。

 

俺たち雷門のテンションも最高潮に達していたその時、観客のざわめきが聞こえてきた。

ふと世宇子のベンチを見ると、何やら全員で水を飲んでいた。

 

 

「(あいつら、一体なにを.....)」

 

 

だがそんなことお構いなしに、試合開始の時間となった。

世宇子の選手たちもフィールドへと歩いていく。

 

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

『さあ!試合開始だああああああああああ!』

 

 

 

ついに決勝戦、世宇子との試合が開始した。

俺たちのスターティングメンバ―は、フォワードに豪炎寺、染岡。ミッドフィルダーに鬼道、一之瀬、少林、マックス。ディフェンダーに風丸、壁山、土門、栗松。キーパーに円堂というオーソドックスなスタイルだ。

 

対する世宇子はデメテルのワントップだが、恐らくはデメテルよりもアフロディの方が厄介だろうな。

 

 

「っ、あいつら...一体なにを...」

 

 

世宇子ボールで試合が開始したが、アフロディがボールを足元に置いたまま誰も動き出さない。

いったい何を考えているんだ...?

 

 

「チッ...ふざけやがって!行くぞ、豪炎寺!」

 

「ああ。」

 

 

そんなアフロディたちに痺れを切らした染岡は、豪炎寺と一緒にボールを奪いにアフロディの前へとやってくる。そんなとき、アフロディはついに動き出した。

 

「君たちの力はわかっている。僕には通用しないこともね。”ヘブンズタイム”。」

 

パチンッ!

 

 

アフロディが腕を上げ指を鳴らすと次の瞬間、染岡と豪炎寺の目の前にいたはずのアフロディが一瞬にして、二人の背後へと回っていた。

 

 

「き、消え...」

 

「馬鹿な、いつの間に....」

 

「「うわああああ!!!」」

 

 

そして突如として発生した風によって、二人は上空へと吹き飛ばされる。

まさか、瞬間移動してその移動で発生した風で吹き飛ばしているのか...!?

あんな速度で動かれたら、俺たちにはひとたまりもない...!

 

 

「み、見えなかった...」

 

「なんて速さだ...!」

 

「ふふ....”ヘブンズタイム”。」

 

 

「「っ!!うわああああ!!」」

 

 

またしても、アフロディは必殺技”ヘブンズタイム”を使用し、今度は鬼道、一之瀬までもが吹き飛ばされてしまう。

 

 

「くっ...!」

 

「う、うぅ....!」

 

「ふふ...」

 

 

パチンッ!

 

 

「「っ!」」

 

「何も恥じることは無い。神と人間ではその差は歴然。人が神に畏怖するのは当然のことなのだから。」

 

「「うわあああ!!」」

 

 

気力を振り絞ってアフロディの前に出てきた土門と壁山だったが、アフロディの圧倒的な力の前になすすべなく、二人も”ヘブンズタイム”によって吹き飛ばされてしまう。

 

ついにはアフロディは歩いてゴール前まで到達し、円堂と1対1の状態となってしまった。

 

 

「くっ...来い!全力でお前を止めてみせる!」

 

「ふっ...君は天使の羽ばたきを聞いたことがあるかい?」

 

 

そう言ってアフロディは背中から翼を生やし、ボールと共に上昇する。

ボールには凄まじいオーラが込められ、アフロディはそのオーラごとボールを蹴り飛ばす。

 

 

「”ゴッドノウズ”!」

 

ドゴンッ!

 

「止める!”ゴッドハンド”!」

 

ズドンッ!

 

 

アフロディの凄まじいシュートに、円堂も”ゴッドハンド”で対抗する。

激しいオーラのぶつかり合いが発生しているが、徐々に円堂は押され始める。

 

 

「本当の神は...どちらかな!」

 

「ぐっ....っ、ぐあああああああああ!」

 

 

円堂の”ゴッドハンド”は粉々に砕け散り、ボールと共に円堂はゴールへと突き刺さる。これが世宇子の力....円堂.....!

 

 

「ふふ...やはり君たちでは僕には敵わない。残念だったね...でも仕方のないことなんだ。君たちはただの人。神に抗うのは辞めたまえ。」

 

 

 

くそ...俺も戦いたい....あいつらを守るために、俺がアフロディとマッチアップすれば...!だが、今の俺ではあいつの足元にも及ばない...どうすれば....!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

諦めない心

最終決戦はどうしても長くなってしまう。
次回で世宇子戦はラスト...のはず。


嵐山 side

 

 

『試合早々、世宇子中の得点!果たして雷門中は世宇子中からゴールを奪うことが出来るのでしょうか!.....おや、どういうことでしょう!世宇子イレブン、全くディフェンスをしない!攻め込まれても動かない!』

 

 

世宇子の得点により、俺たち雷門から試合再開なのでが、アフロディたちはまともに動くことが無く、キーパ―のポセイドンだけが待ち構えていた。

 

 

「舐めやがって!行くぞ、豪炎寺!」

 

「おう!」

 

「”ドラゴン”!」

「”トルネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

ゴール前は当然ガラ空きとなっているため、染岡と豪炎寺の連携必殺技が簡単に繰り出される。

だがポセイドンは慌てることなく、シュートを止める構えに入った。

 

 

「”ツナミウォール”!」

 

 

ポセイドンの必殺技により地面から波が発生し、”ドラゴントルネード”の行く手を阻んだ。

”ドラゴントルネード”の勢いは一瞬で衰え、そのまま波によって弾かれ、ポセイドンの手へとボールは落ちてきた。

 

 

「”ドラゴントルネード”が...!」

 

「何て奴だ...!」

 

 

いとも簡単に”ドラゴントルネード”が防がれたことにより、雷門イレブンは激しく動揺していた。俺も多少は動揺しているが...これが世宇子のキーパーの実力か。

 

 

「ふん...」

 

「っ!?」

 

 

何とポセイドンは持っていたボールを鬼道に投げ捨てると、シュートを打ってこいとでも言うように挑発を行っていた。

 

 

「...ボールを渡したことが失敗だと思い知らせてやる。行くぞ!」

 

ピィィィィィィ!

 

「”皇帝ペンギン”!」

「「”2号”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

鬼道が帝国で使っていた技だが、俺たちでも使えるように特訓したかいがあった。

鬼道からボールが蹴りだされ、それを豪炎寺と一之瀬がツインシュートする。

だがポセイドンは再び余裕な態度でそれを待ち構え...

 

 

「”ツナミウォール”!」

 

 

”ドラゴントルネード”と同様に、”皇帝ペンギン2号”ですら容易く止めてしまった。

弾かれたボールを今度は飛び出してきていた円堂が拾い、共に上がってきていた土門、そしてシュートを打つために前線にいた一之瀬と合流する。

 

 

「これならどうだ!」

「「「”ザ・フェニックス”!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

今や俺たちの最強の必殺技の一つである、”ザ・フェニックス"。

これならポセイドンがいくら強いと言っても、多少は...

 

 

「ふん!”ギガントウォール”!」

 

 

ドォォォォォン!

 

 

何とポセイドンが巨大化し、そのまま拳を叩きつけるようにして”ザ・フェニックス”を完璧に止めてみせた。俺たちの必殺技が通じない...!?

 

 

「これじゃあウォーミングアップにもならないな!」

 

 

ポセイドンは軽くボールを投げるが、それは一気に前線へと飛ばされ、フォワードのデメテルへとボールが渡ってしまう。

 

 

「ゴールには近付けさせない!」

 

「ふっ...”ダッシュストーム”!」

 

「「「ぐあああああああ!!!」」」

 

 

デメテルの強烈な必殺技により、風丸、壁山、栗松が吹き飛ばされる。

風丸と壁山は何とか軽傷で済んだが、栗松は落ちた時の当たり所が悪かったのか起き上がれずにいた。

 

 

「くっ...選手交代だ!」

 

 

栗松に代わり、影野がディフェンダーとして試合に出場する。

だが世宇子の攻撃の勢いは止まらず、雷門イレブンはされるがままに必殺技の餌食となっていた。

 

 

「”ダッシュストーム”!」

 

「「「ぐあああああああ!」」」

 

 

「”メガクエイク”!」

 

「「「うわああああああ!」」」

 

 

一人、また一人と怪我をしていく...少林が倒れ、代わりに半田が入る。

だがその後すぐにマックスも怪我を負い、代わりに宍戸が投入される。

 

 

「くっ...これ以上好きにさせてたまるかよ!」

 

「ま、待て染岡!」

 

「”メガクエイク”!」

 

「っ、ぐああああああ!」

 

「染岡あああああああ!」

 

 

ついには染岡まで世宇子の必殺技に倒れてしまった。

俺たちの中で、もう試合に出られるのは目金しかいない...

 

 

「監督...交代は...」

 

「...僕が行きます!」

 

「目金...」

 

「目金さん...」

 

「僕だって、雷門サッカー部の一員です!嵐山くんは怪我で出られない...だったら、僕が行くしかないでしょう!」

 

「選手交代!」

 

 

染岡に代わり、目金が入る。目金の力では世宇子には立ち向かえない...だけど、もう俺たちの交代選手は目金しかいないんだ...頼むぞ、目金...!

 

 

「ぼ、僕だって...!」

 

「へっ...これは一段と弱そうな奴が出てきやがったぜ。」

 

「っ...僕を舐めるな!僕は雷門サッカー部の目金欠流!伝説のイナズマイレブンの一員になる男だあああ!」

 

 

目金は勇気を振り絞るかのように雄たけびを上げながら向かっていく。

だがそれを嘲笑うかのように、ディオは必殺技を繰り出した。

 

 

「”メガクエイク”!」

 

「うわああああああああああ!」

 

 

目金は吹き飛ばされ、そのまま地面へと叩きつけられる。

かけていたメガネが割れ、目金がこれ以上戦うことができないことを表していた。

 

 

「っ.....かんと.「嵐山くん!」..夏未...」

 

 

もう我慢なんてしている場合じゃない。そう思って俺は立ち上がり、監督に試合に出してもらうようお願いしようとした。だけどそれを遮るように、夏未が俺のユニフォームの裾を掴み、声を上げた。

 

 

「っ...お願い........っ....勝って....!」

 

「夏未......わかってる!監督!」

 

「...嵐山。覚悟はできているのか?」

 

「はい。」

 

「この試合で、お前はサッカーを続けられなくなるかもしれない。その覚悟もできているんだな?」

 

「.....はい。俺はこの試合でサッカーができなくなったとしても、今ここで仲間たちを見捨てるくらいなら...そんなもの、後悔なんてしません!」

 

「....ハァ。お前はどうしようも無いくらいの馬鹿だったようだ。だが...この試合の風向きを変えるのは、お前のような男なのかもしれんな。....審判!選手交代だ!」

 

 

 

「嵐山くん!...必ず、勝ってきなさい!」

「嵐山先輩!無事に戻ってきて下さいね!」

 

 

「ああ....絶対に勝って、戻ってくる...!」

 

 

そう言って、俺はフィールドへと駆けだす。

途中、目金を運ぶ担架とすれ違う。

 

 

「嵐山くん....僕では力になれませんでした....後は頼みます....」

 

「目金....さっきのお前、ものすごくかっこよかったよ。後は任せろ。」

 

「はい.....」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

夏未 side

 

 

「嵐山くん...」

 

 

結局、こういう試合展開になってしまったわね。

もし、もしも嵐山くんが試合に出ずに済んだら...ずっとそう思っていたのだけれど...

何となく、こうなるってわかっていたのかもしれない。だから、嵐山くんが試合に出ると監督に言おうとしたとき、止めることができなかった。

 

嵐山くんは優しいから、きっと私が止めたら試合に出ないでくれたかもしれない。

それでも私は、彼を止めることができなかった。

 

 

「夏未さん...今は嵐山君の無事を祈りましょう。そして、試合に勝って、みんなが無事に戻ってくることを...」

 

「木野さん....」

 

「そうですよ、夏未さん!私たちにできるのは、精一杯応援することです!」

 

「音無さん.....そうね、私たちはみんなを応援する...それだけよね。」

 

「ええ。」

 

「そうです!」

 

 

「「「フレー!フレー!雷門!」」」

 

 

もしも神様なんて存在するなら、どうかお願いします。

嵐山くんが、雷門のみんなが無事で戦い抜けますように...そして、勝利の栄光を彼らに...!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「お前が投入されるとはな...」

 

「ああ。もう交代要員もいないし、交代の人数も使い切った。後は俺たちで戦うしかない。」

 

「....大丈夫なのか。」

 

「えっ?」

 

「お前は戦力として考えて、大丈夫なのかと聞いている。」

 

 

鬼道の言葉からは、怪我の心配というよりも戦力として役に立つのかという方が強く感じるな。

まあこの状況だ、怪我人が出てきて少し棘がある言い方になるのもわかる。

 

 

「俺は俺の全力を尽くすだけだ。...戦力になるかならないかは、その目で見て判断するんだな。」

 

「ふっ...言ってくれるじゃないか。」

 

「とにかく!嵐山が来てくれて助かったぜ。....無理だけはするなよ?」

 

「ああ。...円堂。」

 

「ん?」

 

「勝とうぜ。」

 

「...おう!」

 

 

俺が差し出した拳に、円堂が応えるように拳を突き合わせる。

出てきた以上、言い訳も何もしない。俺は俺の全力をもって、プレーするだけだ。

 

 

「行くぞ、お前ら!前半残り数分....全力で行くぞ!」

 

「「「おおおお!!!!」」」

 

 

『さあ前半も残り僅か...フィールドには目金に代わり、10年に1人の天才とも言えるパーフェクトプレイヤー、嵐山隼人が入ります!スターティングメンバーではなかったことに疑問はありますが...彼ならば、雷門の苦しい状況を変えてくれる!そんな気がします!』

 

 

 

「ふっ...どれだけ選手を交代しようと無駄さ。僕たちに敵うわけがない。」

 

「それはやってみないとわからないぜ。勝利の女神ってのはな、諦めない奴が好きなんだよ。」

 

「くく...ならば見せてもらおうか。勝利の女神が微笑む先を!」

 

 

世宇子ボールで試合が再開。ボールは俺がマッチアップしているアフロディへと渡る。

確かにあんな瞬間移動されたら、誰もこいつを止められない。

だけど、止めなきゃ俺たちは負けちまうんだ...だったら何が何でも、気合で止めてやるよ!

 

 

「来い、アフロディ!」

 

「ふっ...では見せてあげよう。人間が神に抗う...その愚かしさを。”ヘブンズタイム”!」

 

 

パチンッ!

 

 

「っ!」

 

 

注視していたはずのアフロディが消えた...!?

っ、まさかこれだけ予備動作なく、一瞬で消えるなんて...

 

 

「これが、神の力だよ。」

 

「っ...ぐあああああ!」

 

 

「「嵐山くん(先輩)!」

 

 

俺はアフロディの”ヘブンズタイム”により、なすすべなく吹き飛ばされる。

何て速さなんだ...どれだけ注視していても、予備動作も無く本当に瞬間的に消えるなど、止めようが無いのか.....いや、まだだ...!

 

 

ドサッ...!

 

 

「ぐっ...まだだ....まだ終わってねえぞ!」

 

「何っ?」

 

 

俺は地面に叩きつけられるが、すぐさま立ち上がり、アフロディへと向かっていく。

アフロディはそんな俺に驚いたが、すぐさま俺のタックルを回避し、デメテルへとパスを繋げた。

 

 

「くっ...」

 

「....(この僕が、人に恐れをなしてパスを出しただと...?この男...一体...)」

 

 

デメテルはアフロディからのパスを受け取ると、すぐさまディフェンス陣を吹き飛ばしながらゴール前へと進んでいった。俺もデメテルを止めに戻るべきだが、アフロディをフリーにすることはできない...!

 

 

「はああ!”リフレクト・バスター”!」

 

ドゴンッ!

 

 

複数の岩を浮遊させ、デメテルはボールを蹴りだす。

ボールは岩にぶつかっては速度を上げ、オーラを溜めて突き進む。

 

 

「くっ、”ゴッドハンド”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ぐっ....ぐああああ!」

 

 

円堂は”ゴッドハンド”で対抗するが、やはり一瞬で砕け散り、ゴールを決められてしまう。

円堂は初めての帝国戦からどんどん成長していった....だが、今の力では、”ゴッドハンド”では世宇子には勝てない...そういうことなのか...!

 

 

 

俺たちのボールで試合が再開。俺はボールをキープしながら、世宇子ゴールへと駆けていく。

 

 

「ふん、少しは骨のあるやつが来たようだな!”メガ...「待て、ディオ。」...アフロディ?」

 

「彼は少しばかり面白い...僕が直々に相手をしてあげよう!」

 

 

なんだ...?ディフェンスが全員俺以外にマークしたと思ったら、アフロディが俺の方へ向かってきた?

 

 

「君のような人間は初めてだよ。だから僕が直々に相手をしてあげるのさ。」

 

「っ、だったらお前を抜けば、俺たちの勝ちも近付くってことだな!」

 

 

俺はドリブルしながらアフロディへと突っ込んでいく。

何度もフェイントをかけ、アフロディの動きを観察しながらどう抜こうか考える。

 

 

「(くっ...隙が無いな...)」

 

「(ふっ...やはり面白い。この僕がここまで苦戦を強いられるとは......もう少しで前半が終了する。今日は久しぶりに後半も戦うことになるかな...?)」

 

「っ!(一瞬だが、隙が...!)ここだ!”風穴ドライブ”!」

 

「なっ!?」

 

 

俺はアフロディの一瞬の隙をつき、必殺技でアフロディを抜き去った。

雷門イレブンがこの試合で世宇子の選手を抜き去ったのは初めてで、全員が歓喜の声を上げていた。

 

 

「馬鹿な...この僕が人間に敗北した...?」

 

「このまま、ゴールへ....っ!」

 

「甘い!”裁きの鉄槌”!」

 

「ぐっ...!」

 

 

アフロディを抜き去り、ゴール前まで一直線...と言ったところに、ヘパイスがあらわれ、俺は思い切り必殺技を食らってしまった。俺はボールもろとも吹き飛ばされ、再び地面へと叩きつけられる。

 

 

「ぐっ...」

 

 

 

「いや....もう辞めて....!嵐山くん!」

 

 

夏未....済まない...だけど俺は、ここで倒れるわけにはいかないんだ...!

俺が世宇子を倒す...怪我で倒れた仲間たちのために、そして何より円堂や夏未との約束を果たすために...!

 

 

「ぐっ...うおおおおおおおお!」

 

「何っ!?」

 

 

俺は再び立ち上がると、近くに転がっていたボールを蹴りだす。

そんな俺の姿に、俺を止めたヘパイスは驚きを隠せず固まり、俺はそんなヘパイスを抜き去る。

 

 

「何としても....ここで1点取る...!この1点が、俺たち雷門の希望になるんだ...!」

 

 

ついにゴール前まで辿り着いた俺は、一気にシュート体勢へと入る。

今の俺には”天地雷鳴”は打つことができない...だがこの技なら...!

 

 

「はああ!”ウイングショットV2”!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺は今出せるありったけの力でシュートを放った。

だがその瞬間、ボールとゴールの間にアフロディがあらわれた。

 

 

「この僕が...君ごとき...人間ごときに遅れを取るなどあり得ない!神の怒りを知るがいい!」

 

「っ、まさか...!」

 

「”ゴッドノウズ”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

アフロディは俺の放ったシュートを、自身の必殺技で打ち返してきた。

まさか、こんなことをしてくる奴がいるなんて...!

 

 

「っ、ぐあああああああああああ!」

 

 

アフロディの放ったシュートは、凄まじいオーラを纏い、俺へとぶつかる。

そして俺ごとフィールドを抉るように進んでいき、雷門ゴール前までやってきた。

 

 

「っ、嵐山...!(ど、どうすれば...!)」

 

 

円堂は俺が巻き込まれていることを気にして、必殺技を打とうとしない。

マズイ...何とか...軌道をずらさないと......!

 

 

「っ....ぐあああ!」

 

「う、うわあああああああああ!」

 

 

だが結局なすすべなく、俺は円堂も巻き込んでゴールへと突き刺さる。

そしてここで前半終了の笛がなった。今のシュートで俺だけじゃなく、円堂、そして他の雷門イレブンをも巻き込んでおり、全員がその場で倒れこんでいた。

 

 

「ふっ...これで試合続行不可能...審判。」

 

「....雷門中、試合続行不可能のため...「待てよ!」...っ!」

 

「何....?」

 

「俺たちは....まだやれる.....まだやれるぞ...!」

 

 

そう言いながら、円堂は立ち上がる。

その言葉を皮切りに、俺も、他の雷門イレブンも立ち上がり始める。

そうだ...まだ終わっちゃいない...俺たちは最後まで戦う...!

 

 

「理解できないね。前半で力の差は思い知ったはずだ。」

 

「言っただろ...アフロディ....勝利の女神は、諦めない奴に微笑むって...俺たちは最後まで諦めねえ...それが俺たちの、雷門魂だ!」

 

「っ....いいだろう。後半、再び神の力を人間に示してあげよう。」

 

 

そう言って、アフロディたちはベンチへと戻っていった。

俺たちも、満身創痍になりながらもベンチへ戻るのであった。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神を超えた魔神

嵐山 side

 

 

 

「っ...痛たた...」

 

「ふぅ...痛っ...」

 

 

 

まずいな...円堂の立ち上がる姿を見て、みんなも何とか気力で立ち上がりはしたが、体へのダメージはごまかせない。豪炎寺と鬼道、一之瀬、土門辺りはさすがと言うべきか、ダメージはあるもののまだ動けているが...

 

 

「大丈夫っスか、栗松、少林...」

 

「だ、大丈夫だよ...壁山こそ..」

 

「スタメンなのに、離脱しちゃって申し訳ないでやんす...」

 

「気にすんなよ二人とも!な、壁山!」

 

「そうっすよ!俺と宍戸の二人で、1年の力を見せてやるっス!....痛たたたた.....」

 

「お、おい壁山....っ...痛ってぇ~...」

 

 

1年も辛い思いをしながらも頑張ってくれている。

3年がいない以上、最年長である俺たちがあいつらの分まで頑張らないと...

 

 

「嵐山...少しいいか。」

 

「...豪炎寺、鬼道。」

 

「後半、恐らく奴らはさらに俺たちを潰しに来るはずだ。だがそれはチャンスでもある。」

 

「チャンス...?」

 

「ああ。奴らは俺たちを痛めつけるために、恐らくボールを俺たちにぶつけるような行動をするだろう。つまり、俺たちはボールに触れる機会が増えるということだ。」

 

「まあ、そう言えなくもないが...」

 

「危険なのは百も承知だ。...だが円堂の”ゴッドハンド”が通用しない以上、シュートを打たれる前にボールを奪う必要がある。」

 

「....分かった。その役目は俺がやる。」

 

「....すまない。」

 

「いや、わかってるよ。自画自賛みたいになるけど、前半であいつらと競り合えていたのは俺だけだからな。....必ず俺がボールを奪う。だから点を取ってくれ。」

 

「ああ。...任せたぞ、嵐山。」

 

「おう。」

 

 

この試合に勝つには、俺がアフロディに勝つしかない。

だが....もう一つの鍵はお前だ、円堂。

お前が止めるしかないんだよ、”マジン・ザ・ハンド”を完成させてな。

 

 

「(じいちゃん...力を貸してくれ...!)」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

『さあフットボールフロンティア決勝戦も後半戦に突入!雷門中vs世宇子中の試合は0vs3で世宇子中がリードしています!果たしてこの点差を乗り越え、40年ぶりの決勝進出を果たした雷門中が初の栄光を掴むか!それともこのリードを守り切り、同じく初出場のダークホース、世宇子中が栄光を掴むか!後半戦、キックオフです!』

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

 

「行くぞ、嵐山!」

 

「おう!」

 

 

雷門ボールで後半戦が開始した。

俺と豪炎寺はボールを鬼道に渡して、世宇子ゴールへと駆けていく。

そんな俺の前に、アフロディがあらわれる。

 

 

「ふっ...逃げずに後半戦も立ち向かってきたことだけは褒めてあげよう。だが君たち人間では、我々神に勝つことなど不可能だということを思い知らせてあげるよ!」

 

「っ...神神うるせえな!俺たちは負けねえ!鬼道!」

 

「ふっ...嵐山!」

 

 

鬼道からのパスで俺にボールが渡る。

俺はアフロディと対峙し、前半ラストのプレーと同様にアフロディを抜くためにフェイントをかけている。しかし、アフロディにつられる様子は無く、俺の動きをじっくりと観察しているようだ。

 

 

「もう君は僕を抜くことなどできない!神である僕の前に跪くが良い!」

 

「っ!ぐあっ!」

 

 

突如アフロディが俺へ強烈なタックルをかまし、俺は吹き飛ばされる。

ボールもアフロディへと渡ってしまった。

 

 

「くっ...」

 

「さあ終わりにしてあげよう!これが神の力だ!”ヘブンズタイム”!」

 

パチンッ!

 

 

まだだ....まだ終わっちゃいない...!

こいつのこの技...確かに一瞬で移動するが、必ずこいつは俺たちの真後ろにいる!

この技を使われても、アフロディがどう動くかさえわかっていれば、対処できる...!

 

 

「っ......うああああああああああああ!」

 

「な、何っ!?」

 

 

俺はアフロディが視界から消えた瞬間、全力で振り返り、突風が発生する前にアフロディにスライディングを仕掛ける。アフロディもまさか”ヘブンズタイム”を使った瞬間にそんなことをされるとは思っていなかったのか、俺のスライディングは成功しボールを奪った。

 

 

ドサッ!

 

 

「ぐっ...」

 

 

アフロディは俺のスライディングでボールを奪われ、体勢を崩してその場に倒れこむ。

 

 

「破った....嵐山が、”ヘブンズタイム”を破った...!」

 

「いいぞ、嵐山!」

 

 

「ば、馬鹿な...神であるこの僕が、地に倒れ伏しただと...!」

 

「これが...諦めねえド根性だ!」

 

 

俺はそのままドリブルで世宇子ゴールへと駆けあがっていく。

アフロディは未だに自分が倒されたことが受け入れられないのか、全く動こうとしない。

 

 

「.....りえない.......ありえない...あり得てたまるかあああああああ!」

 

 

だがアフロディは突如大声を出したかと思えば、とんでもないスピードで立ち上がり、俺の目の前へと移動した。俺はアフロディにぶつからないようボールを蹴るのを辞め、ボールをキープする体勢を取る。

 

 

「君たちごときに2度も遅れを取るなど、あってはならない!僕たちは神だ!人間ごときが調子に乗るなああああああ!」

 

「っ...負けねえ....約束したんだ....フットボールフロンティアで優勝するって....誓ったんだああああああああああああ!」

 

「ぐあっ!」

 

 

俺は強引にアフロディを抜き去る。再びアフロディは体勢を崩して、その場に倒れこんだ。

2度も俺に抜かれ、地に倒れ伏すアフロディを見て、世宇子イレブンは動揺を隠せないでいた。

 

 

「決める...この1点を!必ず決めて、希望を繋げる!はあああああああ!」

 

 

ゴール前まで駆けあがった俺は、上空へとボールを打ち上げ、シュート体勢に入る。

 

 

 

『これは!!!千羽山中との試合で見せた、あの大技かああああああ!?』

 

 

「絶対に勝つんだ!俺たちが....雷門が勝つんだああああああああ!」

 

「「「行け!嵐山!」」」

「「決めろ!」」

「「嵐山くん!」」

「「「嵐山さん!」」」

「嵐山先輩!」

 

 

「うおおおおおおおおお!”天地雷鳴”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

俺が放ったシュートは、地面を抉りながらゴールへと向かっていく。

だが前半と同じように、再びアフロディがゴールの前に立ちふさがった。

 

 

「ふざけるな!神の力を得た僕たちに、勝る力などありはしない!今度も打ち返して、君たちの希望とやらを打ち砕いてあげよう!”ゴッドノウズ”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

アフロディが”ゴッドノウズ”を放つモーションで、俺のシュートを打ち返そうとボールを蹴る。

だが、前半で”ウイングショット”を打ち返した時のようにはいかなかった。

 

 

「ぐっ...な、なんだこのパワーは...!」

 

「俺たちの想い...俺たちの希望が詰まったこのシュートは....お前なんかに止められるものかああああああ!」

 

「「「「「いっけええええええええええええ!!!!!」」」」」

 

「ぐっ......ば、馬鹿な..!ぐああああああああああ!」

 

「つ、”ツナミウォール”!」

 

 

ボールを蹴り返そうとしたアフロディは、蹴り返せずに弾き飛ばされる。

そんな状況に、ポセイドンは慌てて必殺技を放ち対抗してくるが....

 

 

「ぐ....な、何だこのパワー...!堪えきれん...!ぐああああああああああ!」

 

 

『ゴーォォォォォォォォォル!ついに.....ついに雷門中がゴールを決めました!決めたのはやはりこの男!一方的だった試合をひっくり返す、希望の1点!嵐山隼人ォォォォォォォォォ!』

 

 

 

「うおおおおおおおおおお!」

 

「「「「よっしゃああああああああ!」」」」

 

 

俺は雄たけびを上げながら、みんなの元に戻る。

みんなもこの1点の重さをわかっているからか、笑顔で俺のところに集まってくる。

対する世宇子イレブンは、あり得ないといった表情で立ち尽くし、アフロディは未だに膝をついて項垂れている。

 

 

「ナイスだぜ、嵐山!」

 

「さすがだ...やはりお前は真のエースストライカーだ。」

 

「お前と共に戦えて、俺は誇りに思う。」

 

「円堂、豪炎寺、鬼道........ふっ...試合はここからだ。あと3点取って、試合に勝とうぜ!」

 

「「「「おう!!」」」」

 

 

俺たちは笑顔で再びポジションにつく。

あと3点...最悪でも2点取れば、まだ負けじゃない。

勝利の女神が、俺たちに微笑んでくれるんだ。

 

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

世宇子ボールで試合が再開。だが、ボールを受け取ったアフロディは、俯いたまま動かない。

これには他の世宇子イレブンも動揺し、どうしたのかと戸惑っていた。

だがこれはチャンスだ。俺と豪炎寺がアフロディのマークにつく。

 

 

「アフロディ!今度も俺が止めてやる!」

 

「.....に乗るな....」

 

「...?」

 

「....調子に乗るなよ、人間!僕たち神が、人間に劣るなどあってはならない!」

 

 

これは...アフロディが怒りによって、力を増してるのか...!?

さっきまでのアフロディとは、まるで違うような...!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

影山 side

 

 

「ほう...神のアクアにはこのような力もあるのか。」

 

 

単純に身体能力を向上するだけでなく、感情の高ぶりによってリミッターを解除する...実に面白い実験結果ではないか。だがあの方がこの程度の結果で満足するとは思えんな。

 

 

「私だ。予定通り、奴らに高濃度の神のアクアを注入しろ。」

 

 

私の指示により、世宇子イレブンのスパイクに仕込まれている装置から、高濃度の神のアクアが注入される。これにより、彼らはさらに凄まじい力を手に入れるだろう。

 

力を欲したのは彼らだ。たとえ身体が壊れようとも、本望だろう。

 

 

「くくく.....だが皮肉なものだな。神のアクアを初めて打ち破ったのがお前だとは...嵐山隼人。やはりお前は素晴らしい。鬼道ともども、私の手中に収める方法を考えねば。」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

「ぐっ....ぐあああああああああ!」

 

「がっ....がああああああああああ!」

 

 

「な、何だ!?」

 

 

アフロディが怒りを爆発させたと思えば、突如世宇子イレブン全員が苦しみだした。

この異様な光景に、俺たち雷門イレブンは困惑して動けずにいた。

 

 

「あああああああああああああ!.......」

 

「あ、アフロディ...?」

 

「....これが神の真の力....僕たちは神となり、そして...その頂点に達したのだ!」

 

「っ!?」

 

 

瞬間、アフロディが視界から消える。

これは....!

 

 

「”真ヘブンズタイム”。」

 

 

パチンッ!

 

 

「「っ...ぐああああああああ!」」

 

 

進化した”ヘブンズタイム”によって、俺と豪炎寺は吹き飛ばされる。

だが、進化したにしても何だこのスピード、そしてパワーは...!

 

 

「君たちが僕を止めることなど、もう不可能だ。」

 

 

パチンッ!

 

 

「「ぐあああああああ!」」

 

 

パチンッ!

 

 

「「「うわああああああああ!」」」

 

 

アフロディが次々に”ヘブンズタイム”で雷門イレブンを吹き飛ばし、ゴールへと歩き出す。

進化した”ヘブンズタイム”はあまりに強烈で、食らった俺たちは誰も立ち上がれずにいた。

 

 

パチンッ!

 

 

「「うわあああああああ!」」

 

 

そしてついに、壁山と土門も吹き飛ばされ、残すはキーパーである円堂のみとなった。

 

 

「っ...円堂....!」

 

「くっ...!」

 

「さあ...神の裁きを受けるがいい!」

 

 

アフロディは再び、”ゴッドノウズ”の構えを取る。

マズイ...ここで追加点を取られたら、勝ち目がほぼ無くなる....!

 

 

「円堂....!頼む、止めてくれ...!」

 

「神の怒りを知るがいい!」

 

 

このオーラ...間違いなくこの試合で一番の威力を持つ、”ゴッドノウズ”が来る!

だがお前なら...お前なら止めてくれる...信じてるぞ、円堂...!

俺たちの約束、叶えよう...!

 

 

「「「「円堂....!」」」」

「「キャプテン...!」」

「「「円堂君...!」」」

 

「守...!」

 

 

 

「感じる...みんなの想い、サッカーへの熱い気持ち。それにこの感じ....あの時と同じだ...胸の奥底から、力がみなぎってくる...!」

 

 

何だ...?円堂の周りにオーラが集まってくような...

いや、周りというよりは、胸.......心臓...?

 

 

「っ、そうか...!円堂!左手だ!」

 

「左手?.......そうか!わかったぞ!」

 

 

俺の言葉を円堂はすぐさま理解してくれた。

あとはお前の努力の結晶を、お前の魂を見せるだけだ...!

 

 

「(じいちゃんは左手で”マジン・ザ・ハンド”を出していたんだ....それは体の左側にある心臓に気をためるため!俺があの試合で”マジン・ザ・ハンド”を無意識に使えたのは、溜まった気が心臓から離れた位置でも右手に伝わるほどあったからだ...だけど今はあの時ほどじゃない...それでも、その気を右手に100%伝えるには...!)」

 

「ふっ...諦めたか!だが今更遅いっ!」

 

 

円堂は体を捻り、ボールから目を背けたような体勢になる。

そんな円堂を見て、アフロディは逃げたと嘲笑う。

だが、円堂の右手にみんながわかるくらいのオーラが溜まっていくのが見えると、アフロディは焦り始めた。

 

 

「な、何だ....っ、だが神の力の前では無力!食らうがいい!”真ゴッドノウズ”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

ついに最大火力の”ゴッドノウズ”が放たれた。

凄まじい威力で地響きを上げながらボールは突き進むが、円堂は臆せず立ち向かう。

 

 

「これが俺の....”マジン・ザ・ハンド”だあああああああああ!」

 

ドォォォォォン!

 

 

円堂が放った”マジン・ザ・ハンド”は、あれだけ凄まじい威力だった”ゴッドノウズ”を容易く止めてみせた。これが...”マジン・ザ・ハンド”か...円堂...やっぱりお前は最高だ...!

 

 

「ば、馬鹿な...神を超えた、魔神だと...!?」

 

「っ、行け!嵐山!豪炎寺!」

 

「「っ........おう!」」

 

 

円堂によるロングスローで、ボールが俺たちの方へと飛んでくる。

円堂が”マジン・ザ・ハンド”を完成させて、アフロディのシュートを止めてみせたんだ...今度は俺たちが、あいつのために点を取る番だろ...!

 

 

「通すか!」

 

 

ボールを受け取り、俺と豪炎寺は二人でフィールドを駆けあがる。

だがその前に、ディオとヘパイスが立ちふさがった。

 

 

「行くぞ、豪炎寺!」

 

「ああ!」

 

「ぬあっ!?」

 

「馬鹿な...何故神の力を得た俺たちが...!」

 

 

 

だが俺たちは二手に分かれると、ワンツーでディオとヘパイスを抜き去る。

二人は簡単に俺たちに抜かれたことに驚いていたが、当然のことだ。

お前らがどんな方法で力を手に入れたかは知らないが、俺たちはずっと努力してきたんだ。

人間の底力、舐めんじゃねえ!

 

 

そのまま俺たち二人はゴール前へと駆けあがる。

世宇子イレブンの誰もが俺たちを止められず、もう俺たちを邪魔するものはいなかった。

 

 

「こっちだ、嵐山!」

 

「鬼道!」

 

 

俺は後ろからあがってきた鬼道にパスを出す。

そして俺と豪炎寺はシュート体勢に入った。

 

 

「決めろ!嵐山!豪炎寺!」

 

 

そして、鬼道によってボールがセンタリングされる。

 

 

.....

....

...

..

.

 

豪炎寺 side

 

 

思えばここまでの道のり、いつも嵐山と円堂がいた。

あいつら二人のおかげで、俺は今もこうしてサッカーを続けることが出来ている。

お前らがいたから、今俺はここにいる。

 

だがここで満足なんてできない...俺はお前たちと、もっと上に行きたいんだ。

お前たちとなら行ける...もっと高みへ。だから...

 

 

「勝つぞ、嵐山....隼人!」

 

「っ!...ああ、修也!」

 

 

俺たちは二人で同時にシュート体勢に入る。

あれ以来、練習も出来ておらず、結局一度しか成功しなかった俺たちの必殺技。

だが何故だろうな...今の俺たちなら、失敗するなんて考えられん!

 

 

『こ、これは...!嵐山と豪炎寺、二人が同時に”ファイアトルネード”を放とうとしているぞおおおおおおおお!?』

 

 

「「これが俺たちの...新必殺技!」」

 

 

二人の炎が交差する。

 

 

「「”ファイアトルネードDD”!!!」」

 

 

ドゴンッ!

 

 

同時に放たれた”ファイアトルネード”...いや、”ファイアトルネードDD”は、まるですべてを焼き尽くすような炎を纏いながらゴールへと向かっていった。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「「”ファイアトルネードDD”!!!」」

 

 

俺と豪炎寺の放ったシュートは、すべてを焼き尽くすかの如く、ゴールへと突き進む。

その威力は、先ほどの”ゴッドノウズ”にも引けを取らない威力だった。

 

 

「”ツナミウォールV2”!」

 

 

ポセイドンにより放たれた必殺技とぶつかり合う。

しかし俺たちの”ファイアトルネードDD”の勢いは止まることなく、一瞬で”ツナミウォール”に風穴を開け、ゴールへと突き刺さった。

 

 

『ゴーォォォォォォォォォル!!!雷門、追加点!嵐山と豪炎寺、二人のストライカーによる合体技!”ファイアトルネードDD”によって、追加点をもぎ取りました!』

 

 

「すげえぜ二人とも!いつの間にあんな技を練習してたんだ!?」

 

「ああ、木戸川戦前からな。」

 

「ほとんどぶっつけ本番だったが...うまく決まって良かった。」

 

「それに円堂、お前もついに完成させたな、”マジン・ザ・ハンド”!」

 

「ああ!...みんながいてくれたから、完成させられた。勝とうぜ!俺たちなら絶対勝てる!」

 

「「「おう!」」」

 

 

あと1点...あと1点で同点だ。そして、さらにもう1点決めて、俺たちが逆転勝利する!

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

「あり得ない...僕たちは確かに神の力を手に入れたはずだ!」

 

 

世宇子ボールで試合が再開し、再びアフロディがゴール前へと駆けあがる。

だがもう追加点は取られない。何故なら、俺たちには円堂という最強のゴールキーパーがいるからだ。

 

 

「”真ゴッドノウズ”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「”マジン・ザ・ハンド”!」

 

 

バシィィィン!

 

 

「そ、そんな...!」

 

 

アフロディのシュートは、円堂の”マジン・ザ・ハンド”によって容易く止められる。

アフロディはそのことに激しく動揺し、まるで動けずにいた。

 

 

「壁山!」

 

「はいっス!...一之瀬さん!」

 

「よし!」

 

 

「こっちだ!一之瀬!」

 

「ああ!嵐山!」

 

 

円堂から壁山、一之瀬と繋がり、ボールは最前線にいる俺へと渡る。

だが先ほどのシュートを見て、世宇子のディフェンダーは俺と豪炎寺を徹底的にマークしていた。

 

 

「っ...通さん!」

「我々は神の力を手に入れた!人間ごときに負けるわけにはいかないのだ!」

 

「神だの何だのどうでもいい!俺たちは俺たちのサッカーをするだけだ!そこに人間だの、神だの関係ない!」

 

「「っ!」」

 

 

俺はディフェンダー二人を突破し、ゴール前へと駆けあがる。

だが豪炎寺はまだ来ていない......いや、お前が来ていたか!

 

 

「鬼道!俺に合わせろ!」

 

「っ!」

 

 

.....

....

...

..

 

鬼道 side

 

 

こんな試合の真っ只中で、俺はお前に雷門へ誘われたあの日のことを思い出していた。

何もすることができずに世宇子に敗れ、失意のどん底にいた俺に光を...手を差し出してくれたのはお前だったな、嵐山。

 

お前がいたから、俺は今こうして世宇子にリベンジすることができている。

お前や円堂と共に戦うことで、帝国には無い新しいサッカーに出会えた。

 

 

こんなことを言うガラではないし、まだ早いかもしれんが...俺はお前に感謝しているんだ。

 

小学生の頃からのライバルであり、真の友であるお前となら...俺はどこまでも高みへ進むことができる!

 

 

「行くぞ、嵐山!」

「ああ!」

 

 

 

『今度は何だあああああ!?嵐山と鬼道の二人を中心に、ボールに光が集まっていく!』

 

 

「「”プライムレジェンド”!!!」」

 

ドゴンッ!

 

 

俺と嵐山...まさかライバルと一緒にシュートを打つことになるとはな。

だが...それも悪くはない。

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

「ぐっ...これ以上点はやらん!”真ギガントウォール”!」

 

 

俺と鬼道のシュートを止めようと、ポセイドンが進化した必殺技で対抗する。

 

 

「ぐっ...ぐああああああ!」

 

 

巨大化し拳でボールを叩き潰そうとするが、俺たちのシュートの勢いはまるで止まることなく、ポセイドンの拳を軽々と弾き飛ばし、ゴールへと突き刺さった。

 

 

『ゴーォォォォォォォォォル!ついに同点!同点です!絶望的な状況から、怒涛の新必殺技によりついに同点!だがしかし、残り時間はあとわずか!これは延長戦か...?』

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

「僕たちが....負ける....?」

 

 

 

世宇子ボールで試合が再開したが、既にアフロディたちは戦意喪失したのか動く気配がない。

だが俺たちは最後まで戦う!最後の1分1秒まで全力でサッカーを楽しむ!

 

 

「「「”ザ・フェニックス”!!!」」」

 

円堂、一之瀬、土門がクロスし、炎の不死鳥を宿しながらボールが打ちあがる。

 

 

「「”ファイアトルネードDD”!!」」

 

 

そしてそのボールを、俺と豪炎寺が”ファイアトルネードDD”で蹴り飛ばした。

すると不死鳥はさらに巨大化し、炎の塊となってゴールへと突き進む。

 

 

「う、うわあああああああああ!」

 

あまりにも強烈なシュートに、ポセイドンは悲鳴を上げてゴール前から逃げ出した。

そのままシュートはゴールへと突き刺さり、これで4vs3...勝ち越しのゴールが決まったのだった。

 

 

ピッピッピィィィィィィ!

 

 

『ここで試合終了ぉぉぉぉ!勝ったのは雷門!劇的な大逆転勝利です!』

 

 

「「「やったああああああ!!!」」」

 

「よくやった、みんな...!」

 

 

フィールドにいた者、ベンチにいた者、全員が集まり、喜びを分かち合う。

俺たちが勝ったんだ...ついに念願の、フットボールフロンティアで優勝を果たしたんだ...!

 

 

じいちゃん、ばあちゃん...見てるかい。

俺、みんなと一緒に日本一になれたんだ...!

 

 

.....

....

...

..

.

 

影山 side

 

 

 

「ふん...所詮は2流の選手だったか。神のアクアを使ってこの程度とは。」

 

 

だが良い研究データも取れた。あの方もさぞお喜びになるだろう。

...しかし足りんな。私の理想を叶えることができるのはやはり、鬼道...そして嵐山...お前たちなのかもしれん。

 

 

「くくく...」

 

 

バタンッ!

 

 

「そこまでだ、影山!」

 

「っ!」

 

 

あれは...鬼瓦か。こいつもしつこい奴だ。

だが私を捕らえられる証拠など...

 

 

「今度こそ逃げることはできんぞ。...神のアクア、調べさせてもらった!」

 

「何っ....」

 

 

まさかアレを調べられるとはな...こいつの力を少々侮っていたようだ。

仕方あるまい...暫くは身をひそめるとしよう。然るべき時に動けるようにな。

 

 

くくく....戦いは始まったばかりだぞ、雷門イレブン、いや...イナズマイレブン。

次に会う時は....貴様らに地獄を味わわせてやろう。くく...フハハハハハ!

 

 

 

.




世宇子戦、完。
フットボールフロンティア編はもう少し続きます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦いを終えて

嵐山 side

 

 

「勝ったぞおおおおおおおおおおおお!」

 

「ふっ...佐久間、源田、みんな...お前たちの仇は取ったぞ...!」

 

「夕香...兄ちゃん、勝ったぞ...!」

 

 

 

みんなが思い思いに喜んでいる...俺たち、とうとうやったんだな。

俺の事故から色々あった...帝国との試合、マックスや影野、目金、風丸の加入、そして修也の加入で俺たちサッカー部は再び活動できるようになった。

 

 

それから何度も苦難に遭遇してきたが、今こうして優勝することができて...本当によかった。

 

 

「嵐山くん...」

 

「夏未。....約束通り、優勝したよ。」

 

「ええ、そうね。....本当におめでとう。私、あなたをとても誇りに思うわ。」

 

「そっか....それは理事長代理としての言葉?」

 

「ふふ...いいえ。これは私自身の言葉よ。あなたが私をサッカーの世界に引き込んでくれた...とても感謝しているわ。」

 

 

そう言う夏未の目には涙が溜まっていた。でも笑っている。

優勝することができた、嬉し泣きってやつだな。

そんな俺の目にも、涙が溜まっているのか視界がぼやける。

 

 

「俺も...君がサッカー部のマネージャーとして、色々手助けしてくれたから本当に助かった。今までありがとう。そして、これからもよろ....し...く....」

 

 

あれ....力が抜けて....

 

 

「ちょ、ちょっと!?嵐山くん!?こ、こんなところで抱き着かなくても...!?」

 

「スゥ....スゥ....」

 

「っ!....もう.........おやすみなさい、嵐山くん。」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

あの激闘の決勝戦から数日が経った。

あの日かなり無茶をした俺は、響木監督と一緒に豪炎寺先生からこっぴどく怒られてしまった。

まあ先生が怒るのも無理はないけど。でも、優勝したことについては褒めてくれたし、修也ともこれからも仲良くして欲しいと頭を下げられた。俺は当然だと答え、これからも修也と仲良くしていくことを胸に誓った。

 

 

そういえば、あれから色々あった。

 

何でも影山が逮捕されたそうだ。取り調べにも素直に応じているらしく、それが逆に怪しいと鬼瓦さんは言っていた。正直、俺もそう思うけど....鬼瓦さんに頼まれたので、今度影山と面会する手筈となっている。

 

それからアフロディたち世宇子中の選手だが、ドーピングしていたらしい。許される行為ではなかったけど、あれから思うところがあったのか俺たちに謝罪しに来た。そんなアフロディたちに円堂は、

 

『またサッカーやろうぜ!』

 

といつもの調子で答え、俺たちもそんな円堂に続いて、アフロディたちを許すことにした。

そんな俺たちにアフロディたちはさらに泣いて謝ってきたが、最後は再戦を誓って別れた。

今度はドーピングとか、影山とか抜きにしてサッカーを楽しめればいいな。

 

 

そうそう、修也の妹さんだが目を覚ましたらしい。

修也が優勝した後に目覚めたらしいけど、まるで見計らったかのようなタイミングで本当に奇跡でも起きたのかと思ったよ。

 

 

 

さて、そんな俺が今何をしているかというと....

 

 

 

「「「「嵐山(くん/さん)、フットボールフロンティア優勝おめでとう!」」」」

 

パンッ!

 

「はは、ありがと。」

 

 

瞳子さんたち、お日さま園のみんなにお祝いされていた。

何でもあの試合を見ていたらしく、優勝が決まってすぐに俺を祝うべく準備をしてくれていたとのことだ。あれからも何度か一緒にサッカーはしていたけど、関わって日が浅い俺にもこんな風にしてくれるなんて、ここの人たちはみんな良い奴だと改めて思った。

 

 

「本当にあの試合はハラハラしたわ。その前の試合もそうだったけど、あなたは無茶しすぎなのよ。」

 

「はは、悪い悪い。」

 

「しっかしマジで優勝するとはな...」

 

「そうだね!俺めちゃくちゃ興奮したよ。まあ砂木沼さんが一番興奮してヤバかったけど。」

 

「当然だ。嵐山は俺の最も尊敬するストライカー...そんな男が憧れのフットボールフロンティアの舞台、それも決勝でハットトリックを決めたんだ。体の奥底から、熱いものがこみあげてくるのを堪えられんかったぞ!」

 

「砂木沼....」

 

 

相変わらず、思ったことをそのままストレートに伝えてくる奴だよな。

俺が最も尊敬するストライカーとか、初めて聞いたぞ。なんだか照れ臭い。

 

 

「あ、そういえば!嵐山さんに紹介したい人がいるんだ!」

 

「お、そういえばそうだったな。」

 

「ほら、タツヤ。こっちに来なさいよ。」

 

 

そう言って連れられてきたのは、少し大人びた雰囲気を持つ赤髪の男の子だった。

そういえばみんな、タツヤって奴が自分たちの中で一番サッカーがうまいって言っていたな。

 

 

「は、初めまして....基山タツヤ...です。お、俺...あなたのファンで...!」

 

「初めまして。...俺のファンだなんて、ちょっと照れるな。応援ありがと。」

 

「は、はい!あ、あの...握手してもらってもいいですか!」

 

「おう。俺で良ければ。」

 

「わぁ...!」

 

 

俺が基山の手を取ると、彼はものすごく表情が崩れた。

にやけ面が抑えられないというか....そんなに俺のことを好きでいてくれたのか。

何かマジで照れる...

 

 

「タツヤは俺たちがサッカーを教えてもらうようになって、俺たちが嵐山さんの昔の試合を見てる時にたまたま一緒に見たんだけど...」

 

「そこでこれだけのファンになったの。今じゃ毎日あなたの試合を見返しているのよ。」

 

 

緑川と八神が俺にそう説明してくれるが...いや、マジで照れる。

今まで確かに天才だのパーフェクトプレイヤーだの持て囃されてはいたが...ここまで嬉しそうにしてくれる子は案外初めてかもしれん。

 

 

「それじゃあ、今度一緒にサッカーしよう。俺の足が完治してからにはなるけどさ。」

 

「はい、是非!」

 

 

そんなこんなで、お日さま園でのパーティーは大いに盛り上がりを見せて終わった。

彼らが俺を慕ってくれるのはとても嬉しいし、もし彼らが何れサッカー部を結成したのなら、戦ってみたいものだな。

 

 

「今日は来てくれてありがとう。」

 

「いえ、こちらこそ祝ってもらったうえ、わざわざ車で送ってもらうなんて...ありがとうございます。」

 

 

パーティーも終え、俺は瞳子さんの運転で自宅へと帰っている途中だ。

祝ってもらったうえに送ってもらうのは悪いとも思ったけど、東京に戻るのは大変だからというのと、少し話したいことがあると言われたのでお言葉に甘えることにした。

 

 

 

「...それで、話したいこととは?」

 

「ええ。....あの子たちがサッカー部として活動するうえで、お父様に一つ条件を付けられたの。」

 

「お父様....確か吉良財閥の...」

 

「そうよ.....お父様が付けた条件は、息子...つまり私の弟のヒロトをサッカー部に入部させること。」

 

「へえ。...でもそれに何の問題が?」

 

 

別に弟さんをサッカー部に入部させるくらい、何の問題も無いと思うけど...

姉弟でやりづらいとか?瞳子さんが監督になるって話だもんな。

 

 

「ヒロトは、色々あって今は不良になってる。私は別に、不良であることが問題と思っているのではなくて、お父様はヒロトのことを何もわかっていないんだな、って思うとね...」

 

「....順風満帆そうな家庭でも、やっぱり色々あるもんですね。」

 

 

俺は円堂や鬼道のことを思い出しながら、瞳子さんの話を聞いていた。

円堂はあんなに明るくて、サッカー馬鹿って感じだけど、影山によってお祖父さんを亡くしていてるし、鬼道も鬼道財閥の御曹司という立場ではあるが、実の両親が亡くなって、妹とも離れ離れになっていた時期もあった。

 

 

「ヒロトを今のままにはしておけない。不良であることはこの際構わない...でも、ヒロトの気持ちを少しでも何とかしてあげたい........だから、もしあなたがヒロトと関わることがあったら、ヒロトのことを見てあげてほしいの。」

 

「そうですね....まあ、関わることがあるかはわかりませんので、必ずとはお約束できませんけど....瞳子さんには色々お世話になってますし、わかりました。」

 

「嵐山くん......ありがとう。」

 

「いえ。」

 

 

吉良ヒロトか...どんな奴なんだろうな。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

??? side

 

 

「Clario, ¿qué pasa?」

 

「Estaba viendo un juego antiguo」

 

「¿Jugarás contra el equipo japonés la próxima vez?」

 

「Sí, lo es」

 

「Japón es débil, así que no necesitas hacer eso, ¿verdad?」

 

「Creo que sí...」

 

「te importa」

 

「No...」

 

 

気になる、というよりも面白い、それが私の評価だ。

この日本のチーム....ライモンチュウ、と呼ぶらしいが、面白いチームだ。

前半、あれだけボロボロに負けていたのに、アラシヤマが得点したことで一気に勢いづき、果ては勝利をつかんだ。

 

実力では相手チームに大きく劣っていたはずなのに、だ。

つまり彼らは試合の中で、相手を上回る程に成長したということ。

確かに今は実力不足...だが、何れ彼らは私たちの脅威となるだろう。

 

 

「Estoy deseando que llegue el juego...De todos modos, reanudemos la práctica.」

 

「Estoy de acuerdo. no soy bueno sin ti.....Clario!」

 

「Hagamos nuestro mejor esfuerzo.」

 

 

試合は1か月後...

それまでにあの決勝戦の試合からどれだけ成長する、ライモンチュウ。

そして、君はどれだけ私を驚かせてくれる、アラシヤマ。楽しみにしているぞ。

 

 

 

.




これで『フットボールフロンティア編』は終了です。
ラストはグーグル先生に日本語をスペイン語に翻訳してもらいました。

次回からは少し幕間の話が続いてから、『強化委員編』に進みます。
どこの学校に派遣されるかはお楽しみに。
(まあどこに行くかほとんどまるわかりだと思いますが)

.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの旅立ち編
vs バルセロナ・オーブ 前編


嵐山 side

 

 

「お前たち、少しいいか。」

 

 

フットボールフロンティアも終わり、みんなのお祝いムードも落ち着いてきたころ、響木監督が神妙な面持ちでやってきた。

 

 

「どうしたんですか、響木監督。」

 

「うむ....実はお前たちに海外のサッカーチームとの試合に出て欲しいと依頼が来ていてな。俺としては正直、まだ早い挑戦だとは思っているんだが...」

 

「す、すげえ!世界!」

 

 

響木監督が試合に否定的な中、話を聞いた円堂は世界と戦えることに盛り上がっていた。

修也や鬼道も一見落ち着いているが、同じくワクワクしたような表情をしており、世界と戦えるのを楽しみにしているようだ。

 

 

「監督。とりあえず話だけでも聞いてみていいんじゃないですか?」

 

「嵐山...しかしだな...」

 

「...正直、俺も世界と戦うにはまだ早いと思います。でも、勝つことがすべてではない...世界と戦うことで、得られる何かもあるはずです。何より...こいつらはみんな、世界と戦うことにワクワクしています。」

 

「...そうだな。わかった。俺の方から話をしておこう。」

 

「やったああ!ありがとうございます、響木監督!」

 

「ふっ...ついに世界か。」

 

「ま、日本一になったんなら、次は世界だろうな。」

 

「お、俺、世界デビューっスか!?」

 

「体のでかさなら世界レベルでやんすよ、壁山は!」

 

 

みんな、世界と戦うのにワクワクしているのがわかる。

まあ俺もワクワクはしてるさ...だが、恐らく試合結果は残酷なものだろうな。

だがそれも経験。俺たちはいつだって、どん底から這い上がってきたんだから。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

 

『『『わあああああああ!』』』

 

 

『お聞きください、この歓声!本日ここフットボールフロンティアスタジアムは満員の観客で埋め尽くされています!それもそのはず!先月のフットボールフロンティアで見事40年ぶりの決勝進出を果たし、さらには優勝した伝説のチーム!雷門中サッカー部が世界の強豪、スペインの少年サッカーリーグチーム、バルセロナ・オーブと試合をすることになっています!』

 

 

「すげえ歓声だな...」

 

「お、俺、緊張してきたっス...」

 

「おい壁山...トイレなら先に行っておけよ?」

 

 

すごい注目度だな...まるでプロの試合みたいだ。

さすがにみんな緊張しているみたいだが、円堂は....いや、いつも通りか。

 

 

「みんな!こんな最高の舞台で、世界と戦えるんだ!楽しもうぜ!」

 

「円堂....ふっ、そうだな。」

 

「ああ、円堂の言う通りだ。」

 

「お前たち、これを腕につけておけ。」

 

「これ、何ですか?」

 

「イレブンバンドというものの試作品だ。設定でお前らは日本人となっているから、これを腕につけておけば、外国語はすべて日本語に自動で翻訳されて聞こえるようになる。」

 

「「「「す、すげえ...」」」」

 

 

何だそのハイテク機能。ってことは逆に、俺たちの言葉は相手からすると自分の国の言葉に聞こえるようになるってことか。まるでこれから外国にでも行くのが当たり前になるかのような機能がついているな。

 

 

「初めまして、日本のサッカーチーム、雷門中の皆さん。」

 

「ん?」

 

 

俺たちが話していると、反対側のベンチから大柄の男が歩いてきて、話しかけてきた。

ユニフォームを着ているから、恐らく相手の、バルセロナ・オーブの選手だろう。

 

 

「私はクラリオ・オーヴァン。今日試合するバルセロナ・オーブのキャプテンだ。」

 

「す、すげえ...マジで日本語に聞こえる。」

 

「おい、円堂!....初めまして、クラリオ。俺は嵐山隼人。このチームの副キャプテンを一応務めているよ。で、こっちがキャプテンの円堂守。」

 

「あ、え、えっと、俺、円堂守!よろしくな、クラリオ!」

 

「ああ、よろしく頼む。あなたたちとの試合を楽しみにしていた。今日はお互い、良いサッカーができると嬉しい。」

 

「うん!お互い、全力でプレーしようぜ!」

 

 

そう言って、円堂とクラリオは握手し、クラリオは自分たちのベンチへと戻っていった。

それにしても...かなり風格のある選手だな。クラリオ・オーヴァンか...自分たちのことで精一杯で、海外の選手やチーム事情には詳しくないんだよな。

 

 

「さあお前たち、試合が始まる。全力でプレーしてこい!」

 

「「「はいっ!」」」

 

 

監督の言葉に、俺たちはフィールドへと駆けていく。

その中には俺も含まれている。俺の足は無事完治し、今日も試合に出られることになった。

正直、世宇子との試合であれだけ無茶をしたから、1か月じゃ間に合わないと思っていたが、豪炎寺先生の薦めで色々試した結果、余裕で間に合わせることができたわけだ。

 

 

『さあ皆さんお待たせしました!ついに!雷門中vsバルセロナ・オーブ....試合開始です!』

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

「よし、いつも通り攻めていこう!」

 

 

そう言って、俺は鬼道にパスを出すと、修也と染岡とともにあがっていく。

さすがに試合が始まって緊張もとけたのか、みんないつも通りに動けているようだ。

 

 

「よし、行くぞ!」

 

 

『雷門、中盤の選手を中心にパスを繋げているぞ!』

 

 

「へえ、案外動けてるじゃないか。」

 

「だがそれでも、案外止まりだけどな。」

 

 

「こっちだ、鬼道!」

 

「よし...決めろ、豪炎寺!」

 

 

前線までボールが運ばれ、ついに鬼道からのセンタリングがあがった。

それに合わせて、修也がシュート体勢に入る。

 

 

「”ファイアトルネード改”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

修也の渾身のシュートが放たれた。だが相手のキーパーは自身の手のひらを見つめていて、修也のシュートをまるで見ていない。

 

 

「(あいつ、何を...手のひらを見ている...?いや、指...?)」

 

 

すると、相手のキーパーは右手の指を折り、指を1本だけ残した状態でシュートに向き合った。

まさか...指1本で止めるつもりか...!?

 

 

キュルキュルキュルキュル!

 

 

ボールとキーパーの指が触れると、ものすごい摩擦音を響かせながらボールが指に止められていた。勢いは徐々に落ちていき、ついにはキーパーの目の前にボールは転がる。

 

 

 

『な、何ということでしょう!豪炎寺の”ファイアトルネード”が指1本で止められてしまいました!恐るべき、バルセロナ・オーブのキーパー!』

 

 

「くっ...!」

 

「ふん...」

 

「何っ!?」

 

 

相手のキーパーはボールを拾ったかと思えば、再び豪炎寺へとボールを投げ渡した。

なるほど...シュートを打ってこいと挑発しているわけか。

 

 

「だったら....隼人!」

 

「おう!」

 

 

修也はサイドからあがっていた俺にパスを出す。

俺はボールを受け取ると、そのままキーパー近くまで駆けていく。

 

 

「むっ...(嵐山がシュートを打つか。今の彼の実力を見ておきたいところだな。)」

 

「あまり俺たちを舐めるなよ!”ウイングショットV2”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

俺は復活したこの右足で、渾身のシュートを放った。

相手のキーパーは今度は右手だけをボールに向けて差し出した。

ボールはキーパーの右手とぶつかり、少しだけキーパーをゴールの中に押し込んだが、ゴールとはならず、キーパーの手の中に収まってしまった。

 

 

「くっ...!」

 

「(なるほど...やはり彼は他のメンバ―とは少し格が違うようだ。だが...残念ながらまだ世界レベルではない。)」

 

「おい、クラリオ。もういいんじゃないのか?」

 

「格の違いってやつを見せてやろうぜ、ジャパンによ。」

 

「そうだな。...(日本の成長速度...私はそれを確かめたい。前半、ここからは本気で相手をしよう。)...アロンソ!」

 

 

クラリオの呼びかけに、キーパーは持っていたボールを軽く投げ飛ばす。

軽く投げ飛ばしたはずなのに、ボールは最前線にいるクラリオの元へと軽く届いてしまう。

これが世界レベル.....日本人は外国人と比べても身体能力で劣るというが、それがこれか。

 

 

「止めるぞ!」

 

「はいっス!」

 

 

みんなキーパーのロングスローには驚いていたものの、すぐさまボールを受け取ったクラリオにマークし詰め寄っていた。あの動きができているなら、心配はいらないな。

 

 

「ふっ...」

 

「「なっ!?」」

 

 

だがクラリオは、マークについていた風丸と壁山を軽く抜き去る。

遠くてよくは見えなかったが、何てドリブルテクニックだ...風丸も壁山もまるで対応できていなかった。

 

 

「行かせねえ!」

 

「...」

 

「なっ!?くっ...!」

 

 

二人が抜かれるが、すぐさま後方に控えていた土門がクラリオに詰め寄る。

しかし、クラリオはボールを前方に蹴りだしたかと思うと、ボールは強烈なスピンで跳ね返り、土門を抜き去ったクラリオの足元へと戻ってきた。

 

 

「ひとりワンツーか!すげえ...すげえぜ、クラリオ!」

 

「円堂!止めろ!」

 

「おう!...来い、クラリオ!」

 

「ふっ....」

 

 

パシュ...!

 

 

「...えっ?」

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

『ご、ゴーォォォォォォォォォル!何とバルセロナ・オーブのキャプテン、クラリオ・オーヴァン!目にもとまらぬシュートでゴールを奪いました!これには円堂も反応できず!』

 

 

 

マジか....何てスピードだよ。レベルが違うことはわかっていたが、これほどとは...

どうする...このレベルの相手、どうやって戦えばいい...

 

 

その後も俺たちはなすすべなく蹂躙され、前半だけで18vs0と圧倒的な差を見せつけられてしまった。キーパーの円堂は相手のシュートにまるで反応できず、ボールに触れることすらできていない。ディフェンス陣も相手の動きについていけず、一瞬で抜かれてしまっている。

 

そして俺たちオフェンス陣も、ボールを持った瞬間に奪われてしまい、最初の攻撃以外はシュートを打つどころかドリブルもパスもまともにできていなかった。

 

 

「これが世界....」

 

「俺たちは所詮、井の中の蛙だったということか...」

 

「お、俺、何もできなかったっス...」

 

「ちくしょう....まさか世界がこれほどレベルアップしてたなんてよ...」

 

「ああ...僕たちもアメリカでプレーしていたはずなのに、まるで相手にならなかった...」

 

 

 

あまりの圧倒的な差に、みんなのモチベーションが下がってきていた。

これはまずいな...まさか俺もここまでの差があるとは思っていなかったから試合を受けたけど...

 

 

「お前たち、何を下を向いているんだ!」

 

「「「円堂...」」」

「「「キャプテン...」」」

 

 

「俺、すっげえワクワクしてるんだ!世界はこんなにも広くて、強い奴らがゴロゴロしてるんだぜ?そいつらに勝つために、俺もっともっと強くなりたい!」

 

「円堂らしい感想だな。...みんな聞いてくれ。」

 

 

俺は後半の戦い方について、みんなに意見を出す。

 

 

「後半、全員で攻める。防御をすべて捨てて、円堂一人に守ってもらう。」

 

「そ、それじゃあシュートを打たれ放題じゃないでやんすか!」

 

「ああ。...この試合、はっきりいって勝つのは不可能だ。ならこの試合で俺たちがすべきこと...それは俺たちのサッカーを、この試合を見に来てくれている人たち、そしてバルセロナ・オーブの選手たちに示すことだ。」

 

「それは....」

 

「確かにそうだが...」

 

「...俺はシュートを簡単に止められて悔しかった。だから、何が何でも1点をもぎ取りたい。あの時の.....帝国との試合の時の修也のようにな。」

 

「「「「「っ!」」」」」

 

 

俺の言葉に、みんながハッとしたような表情になった。

俺の言葉の意味に気付いたのかな。

 

 

「あの試合から、俺たちの戦いは始まった。そして俺たちはフットボールフロンティアで優勝したんだ。...なら今度は、この試合の1点を始まりとして、世界のてっぺんを取るための糧にしようぜ。」

 

「ふっ...なるほどな。一見、無謀な挑戦だが...やる価値はありそうだ。」

 

「ああ。俺たちならきっとできるはずだ。」

 

「よ~し....みんな!絶対1点取って、俺たちのサッカーをしようぜ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

vs バルセロナ・オーブ 後編

クラリオ side

 

 

「おい、クラリオ。本当に後半もやるのか?」

 

「これだけの大差を付けても諦めないとか、ロマンチストかただの馬鹿だぜ?」

 

「.....たとえ勝つことができなくとも、彼らが可能性を示すこともある。」

 

「「可能性?」」

 

「私はデータに残っている彼らの試合をすべて確認した。彼らは常にビハインドの状態から這い上がり、ついには日本で一番のチームとなった。それはなぜか.....私はそれを知りたいのだ。」

 

「なるほどね...」

 

「だから前半、やたらと点を取りに行ってたのか。」

 

 

私の言葉に、ルーサーとベルガモは納得する。

前半あれだけの差を見せつけてもなお、彼らは私たちに向かってくるだろう。

そしてもし、1点でももぎ取ろうものなら...私たちは彼らを認め、来る世界大会の優勝を阻む国として警戒しなければならないだろう。

 

 

「(特に嵐山...もし彼がこの試合で覚醒したのなら....ふっ、考えるだけでも恐ろしいな。)」

 

 

だが恐れると同時に、とてもワクワクしている。

どちらにせよ彼は何れ、我々と同じステージに登り詰めるだろう。

それが早いか遅いかの違いだ。だが早ければ早いほど、さらなる成長が見込める。

 

 

「(それが楽しみで仕方ないのだ。君なら私のライバルとなってくれるだろう?嵐山。)」

 

 

だが私はこの時、まだ気付いていなかった。

私の本当のライバルが、まだ他にもいたことに。

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「よし....行くぞ、お前ら!」

 

「「「おう!」」」

 

 

「...円堂、お前にはきつい役目を任せるが...」

 

「大丈夫だよ、嵐山。確かに前半、まるでシュートについていけなかった。でも少しだけ、最後の数発はボールが見えてきてたんだ。あともう少しで、何かが掴めそうなんだよ。」

 

 

なるほどな...この試合、一番彼らの動きを見れているのは間違いなく円堂だ。

シュートだってもう18回も打たれてるから、目が慣れてきているんだ。

もしかしたら...円堂なら彼らのシュートを止めてくれるかもしれない。

 

 

「...任せたぜ、円堂。」

 

「おう!そっちも任せるぜ、嵐山!」

 

 

『さあエキシビションマッチも後半戦に突入します!18点差を付けられてしまっていますが、雷門イレブンは誰一人諦めていません!その目には闘志が宿っています!そしてご覧ください!日本のサポーターたちもそんな彼らを必死で応援しています!さあ雷門イレブン!スペインの強豪、バルセロナ・オーブに一矢報いることはできるか!』

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

『後半戦開始です!』

 

 

 

「さて...どう攻めるよ、クラリオ。」

 

「ああ、私が行こう。」

 

「オーケー。」

 

 

バルセロナ・オーブのボールで後半戦が開始した。

フォワードからクラリオへとボールが渡ると、クラリオは一人でドリブルしながらあがってくる。

 

 

「みんな!さっき言ったフォーメーションで行くぞ!」

 

「「「おう!!」」」

 

「むっ...?」

 

 

俺の言葉に雷門イレブンは俺を中心に、斜めに広がっていくような陣形を取る。

それによって、中心にいる俺が抜かれることで中央は実質ガラ空きになるような陣形だ。

それを瞬時に理解したのか、クラリオは俺に突撃するかの如く、ドリブルの速度をあげてきた。

 

 

「通すか!」

 

「っ!...君は一体何を考えている?」

 

「何?」

 

「何故こんな陣形を...こんなことをすれば、君が抜かれてしまえば我々は容易くゴールを決めてしまうぞ?」

 

「おいおい、俺たちが必死にディフェンスしても容易く点を取ってたくせに、今更何を言ってるんだよ。」

 

「ふっ、それもそうか。だが...こんなことをすれば何かを狙っているのだと声に出しているようなものだ。」

 

「そうかもね...だけど、これが俺たちのサッカーだ。俺たちは一分一秒を全力で戦う...!」

 

 

クラリオが俺を抜こうと巧みにフェイントを仕掛けてくる。

だが俺もそれに必死に食らいつき、みんなが前線にあがる時間を稼ぐ。

 

 

「くっ...!(さすがは世界の強豪...ついていくのに精一杯だ...!)」

 

「なるほど...(これが嵐山か。前半では我々の動きに付いてこれていなかったが、後半で既にこの動き...恐るべき対応力だ。我々のシュートも見えていなかったようだが、まさか今はもう見えているのか...?)」

 

「っ!(何か考え事をしているのか...?一瞬隙が...)」

 

「(だが...私は君に負けたくないと思っている!全力で相手しよう!)”スーパーエラシコ”!」

 

「なっ!?」

 

 

今まで必殺技を使ってこなかった彼らが、いきなり必殺技を...!?

しかもあの巨体で今の動き...これがクラリオ・オーヴァンか...!

 

 

『ああっと!クラリオ選手、この試合初めての必殺技で嵐山を抜き去りました!しかも雷門中、全員が前線にあがっているため、ゴール前までガラ空きだ!』

 

 

「っ、戻るか...!」

 

「俺たちがキャプテンを守らないと...!」

 

「待てお前たち!ゴールは俺に任せて、嵐山のフォーメーションを崩すな!」

 

「円堂...!」

「キャプテン...!」

 

 

「ふっ...面白い。君に私のシュートが止められるかな?」

 

 

クラリオがゴール前まで近付くと、再びシュート体勢に入った。

そしてクラリオがボールを蹴ると、ボールは一瞬で消えたかのような錯覚に陥る。

 

 

「っ...(右...!止めてみせる!)”マジン・ザ...」

 

 

円堂はボールの軌道が見えたのか、ゴールの端によって”マジン・ザ・ハンド”の構えに入る。

だがシュートの速さに間に合っていないのが、目に見えてわかる。

このままじゃダメだ...!

 

 

「円堂、間に合わない!もう必殺技を出せ!」

 

「っ!うおおおおおおお!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 

俺の声に驚きながらも、円堂は”マジン・ザ・ハンド”の構えから咄嗟に正面に振り向き、拳を正面に突き出した。すると、”マジン・ザ・ハンド”発動のために溜まっていた右手のオーラから、”ゴッドハンド”が指を閉じたかのような拳のオーラが伸び、ボールとぶつかる。

 

 

「ぐっ...ぐあっ!」

 

 

オーラは容易く砕け散ったが、ボールは反動で弾き返された。

つまり...この試合初めて、円堂がゴールを守ることに成功したのだ。

 

 

「ほう....(未完成、しかも咄嗟に出たもので私のシュートを止めたか。必殺技ではない普通のシュートとはいえ...なるほど、円堂守....彼も嵐山と同じ、可能性を秘めた男というわけか。)」

 

 

「っ、ボール...!」

 

「っ!こいつ、なかなか早い...!」

 

 

こぼれたボールを風丸がいち早く取りに行ったことで、俺たちがボールをキープすることに成功した。円堂がシュートを止めてからのこの流れ....今なら行ける...!

 

 

「行くぞ、お前たち!円堂が止めたこのボール...必ず繋いで点を取る!」

 

「「「おう!!!」」」

 

 

「させるかよ!」

 

「っ...俺たちだって...俺たちだってまだまだやれる!”疾風ダッシュ改”!」

 

「なっ!?」

 

 

風丸が”疾風ダッシュ”を進化させ、相手を抜き去った。

さすがは風丸だ。この速さ、彼らにも負けていない!

 

 

「鬼道!」

 

「よし...あがれ!」

 

 

風丸から鬼道へとパスが繋がる。

この試合、最初の攻撃以来の試合展開だ。

 

 

「おいおい、マジかよ。」

 

「俺たちの出番なんて無いと思ってたが...」

 

 

バルセロナ・オーブの中盤の選手たちが驚きながらも俺たちのマークに付き始めた。

彼らもクラリオがいれば俺たちなど取るに足らない相手だと思っていたんだろうが...その考えを改めてもらおうか...!

 

 

「ふっ....”イリュージョンボール改”。」

 

「ぐっ...!」

 

「行け、豪炎寺!」

 

 

鬼道から修也へとパスが繋がる。これまでずっと出来ていなかった動きが、円堂のおかげで繋がり始めた。見たかクラリオ、バルセロナ・オーブ...!これが俺たち雷門イレブンだ!

 

 

「通すかよ!」

「ここで終わりだ!」

 

 

バルセロナ・オーブのディフェンダーが、修也を取り囲む。

修也は巨体に囲まれて動きづらそうにしているが...

 

 

「っ、隼人!」

 

「「なっ!?」」

 

 

その巨体の足元を縫って、フリーになっていた俺へとパスを繰り出した。

普段なら足元を抜かせることなんてことさせないだろうが、俺たち日本を舐めていたこと、修也のキック力が高かったことでこの状況が作り出させた。

 

そして俺がフリーになっているのも、俺たちを舐めていてマークにつくのが遅れたせい...!

またとないチャンス...絶対にものにしてみせる!

 

 

「行け、嵐山!」

「決めて下さいっス!」

「決めろ、隼人!」

 

 

「任せておけ...!」

 

「っ!アロンソ!」

 

 

俺がシュート体勢に入ると、クラリオが突然キーパーに向かって叫んだ。

 

 

「わかっているよ、クラリオ!この選手だけは油断するな...君が言ったことを信じるよ!」

 

「っ...よくわからないが...俺はみんなが繋いだこのボールを、絶対に無駄にはしない...!」

 

「(嵐山....想いの力が、君の動力源ということか。前半にシュートを打った時とはまるで違う...凄まじいオーラを感じる...!)」

 

 

「この1点を俺たちの始まりにする...!”天地雷鳴”....!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

世宇子との試合以降、ついにしっかりとものにしたこの必殺技...!

俺の放つことのできる最大の必殺技で、みんなの想いをつないだこのボールをゴールに入れてみせる!

 

 

「これは...クラリオが言っていたことが理解できたよ。...でも僕はバルセロナ・オーブの正キーパー。スペインの少年リーグを優勝した誇りにかけて、止めてみせる!”ザ・ボヨン”!」

 

 

「な、何だあれ!?」

 

「あんな必殺技があるっスか!?」

 

 

みんなが驚くのも無理はない。相手のキーパーは何と液状に変化し、俺のシュートを腹で受け止める。ボールは水を貫通しようとものすごい勢いで彼の水に対抗している。

 

 

「ぐっ...(何て威力だ....でも、クラリオやルーサー、ベルガモの方が強い...!これなら止められる...!)」

 

「っ....決まれええええええええええ!」

 

 

俺のシュートと、キーパーの必殺技の激しいぶつかりあいは続くが...

 

 

「ぐぐぐ.....ぐっ....うおおおおおおお!」

 

 

最後はキーパーが意地を見せ、俺のシュートをがっちりと腕の中に抑え込んだ。

だがかなりの消耗だったのか、キーパーはその場に座り込む。

 

 

「と、止めた........あれ....?(な、何で僕、こんなゴールの内側に...っ!)」

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

『ご、ゴーォォォォォォォォォル!何と嵐山、キーパーにシュートを止められながらも必殺技の威力でキーパーをゴールに押し込みました!これで雷門中、ついに1点を奪いました!』

 

 

「ハァ...ハァ...何とか...1点...か...」

 

「(素晴らしい...止められつつも、意地でも1点は奪い取ったか。アロンソも自分が徐々にゴールに押し込まれているのも気付かないほどに、シュートを止めることに集中していた。つまり、それほどの集中を強いられるシュートだったということだ。)」

 

「ご、ごめんクラリオ。止めたと思ったんだけど...」

 

「いや、謝る必要は無い。これが彼の...いや、彼らの底力というわけだ。」

 

 

「っ...(あぁ...ちょっとヤバいかも...こりゃ体力がキレたな...)」

 

 

ふらふらとした足取りで、俺は自分のポジションへと戻っていく。

そして試合はバルセロナ・オーブのボールで再開するが、さっきの1点が俺たちの最後の力で、みんなもう彼らの動きにはついていけていなかった。

 

 

「さすがに限界のようだな。」

 

「ハァ...ハァ...そう、みたいだ...悪いな、クラリオ。」

 

「いや、謝る必要は無い。あなたたちは私に示してくれた...あなたたちの可能性を。」

 

「おい、クラリオ。あいつらに見せてやったらどうだ。お前の本当の力を。」

 

「ふっ、そうだな。...嵐山、そこで見ているがいい。私の本当の力を。」

 

「っ....来るぞ、円堂...!」

 

 

俺が円堂に声をかけると同時に、クラリオがシュート体勢に入る。

俺は既に体力がキレていて、クラリオを止めることすらできない。

 

 

「”ダイヤモンドレイ”。」

 

「っ、止め........えっ...」

 

 

ボフンッ...!

 

 

「なっ...!」

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

『ゴーォォォォォォォォォル!何という速さ、何という威力、何という精度!これがクラリオ・オーヴァンの必殺技!”ダイヤモンドレイ”!』

 

 

すげえ...これがお前の必殺技か、クラリオ。

ノーマルシュートは見えていたが、今のは全く見えなかった。

これが世界...まだ見ぬ先の世界か...!

 

 

ピッピッピィィィィィィ!

 

 

「っ...試合終了か...ま、この惨状じゃな...」

 

 

俺は倒れ伏す雷門イレブンを見て、そう感想を吐いた。

俺を含めて全員が息絶え絶えで、俺と円堂以外はフィールドに寝転がっていた。

ここが今の俺の限界点か。だが...何れは俺もそのレベルへ。待っていろ、クラリオ。

 

 

「これが世界か....!」

 

「まるで歯が立たなかった...!」

 

「いや、あなたたちは私たちに示してくれた。」

 

「クラリオ...」

 

「確かにあなたたちの実力は、私たちに遠く及ばない。だが後半、あなたたちは私のシュートを止め、ボールを奪い、私たちを抜いてゴールを決めてみせた。...何れまた、あなたたちと試合が出来るのを楽しみにしている。世界の頂点を賭けて。」

 

「じゃあな、ジャパン。」

 

「まあまあ楽しかったぜ。」

 

 

そう言って、クラリオたちは去っていく。

俺たちの可能性、か.....俺も楽しみにしているよ、クラリオ。

世界のてっぺんを賭けて、あんたとまた戦える日を...!

 

 

.....

....

...

..

.

 

クラリオ side

 

 

「で、どうだったよあいつら。」

 

「悪くはない。だが、やはり実力は遠く及ばないな。」

 

「だよな~。やっぱりあいつら、とんだ馬鹿だったってことか?」

 

 

私の感想に、ベルガモはそう言う。

確かに彼らは馬鹿だったな。そう...

 

 

「ああ、とんだサッカー馬鹿だった。」

 

「....ふっ、確かにな。」

 

 

 

嵐山だけだと思っていたが、私たちの脅威になる存在はまだいたのだ。

私はそれを発見することが出来て嬉しい。

 

 

次の世界大会は約1年後...その時を楽しみに待つとしよう。

嵐山、そして円堂...これからの1年で君たちがどれほど成長するか、本当に楽しみだ。

 

 

.




クラリオというか、全体的にアレス/オリオンはドリブル技が少ないので、イメージに合ったドリブル技を考えるのがとても苦労します。

今後もドリブル技だけでなく、いろんな必殺技を、いろんな選手に使わせるつもりですが、皆さんのイメージに合うか心配してます。ただそこらへんはどうかご了承下さい。

ちなみに”スーパーエラシコ”にした理由は、公式ではないですが某サイトに無敵のジャイアントの説明として、強力なフィジカルで猛進するが力押しじゃない芸術と言われ、息を呑むほどの華麗な戦術と個人技が特徴...みたいな説明があったので、これにしてみました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

強化委員制度

嵐山 side

 

 

「「「日本少年サッカー協会総括チェアマン....!?」」」

 

「...って何だ?」

 

ガシャーン!

 

 

え、円堂...いや、俺も詳しくは知らんが、少年サッカー協会のお偉いさんはさすがに覚えておかないと、フットボールフロンティア優勝校として恥ずかしいぞ...

 

 

「ははは、まあ我々大人の名前や役職など、子供たちからしたらよくわからないものだろう。」

 

「すみません。」

 

「いやいや、響木さんが気にすることじゃないですよ。...改めて、雷門中サッカー部の諸君、私は日本少年サッカー協会総括チェアマンの轟伝次郎だ!」

 

 

俺たちは今、日本サッカー協会の建物にお邪魔している。

なぜかというと、あの試合の後にお呼び出しがあったからだ。

呼び出したのはこの、轟伝次郎さんだ。

 

 

「それで...俺たちに一体何の用ですか?」

 

「ああ。まずは先日のバルセロナ・オーブとの試合、よく戦った。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「あの試合は実に有意義な試合だった。何故なら....日本の弱さを世界に知らしめたからだ!」

 

「ちょ、ちょっと!確かに俺たちはぼろ負けしたけど、日本が弱いだなんて...」

 

「いいや、日本は弱い。残念だがね。」

 

「っ...」

 

 

チェアマンの言葉に円堂は反論するが、正直なところ実際に俺たちは手も足も出ずにぼろ負けしてるから、チェアマンの評価は当然だろう。つい先日日本一になったチームが、世界を相手にぼろ負け...要するに日本のサッカーはその程度、ってことだからな。

 

 

「だがしかし、君たちのスピリッツは素晴らしかった。諦めずにもぎ取ったあの1点...私はあの1点に希望を見出した。」

 

「希望...ですか?」

 

「そうだ。君たちは前半、彼らに手も足もでなかったはずだ。」

 

「まあ...」

 

「そうだよな...」

 

「俺たち、ボールに触れてる時間がほとんどなかったっス...」

 

「だが後半はどうだ。嵐山君を中心に彼らと渡り合い、ついには円堂君がシュートを止めてみせ、嵐山君がゴールを奪った。前半、手も足も出なかったのにだ。...それはなぜか!」

 

 

ダンッ!

 

 

...この人、熱いな。ちょっとリアクションがオーバーな気もするけど。

 

 

「君たちが試合の中で成長したからだ!それも驚異的なスピードで!」

 

「「「「っ!」」」」

 

 

チェアマンの言葉に、みんなが何となく納得したような表情を見せた。

確かにあの試合、俺たちはまるで手も足も出なかったけど、後半は1点を取るために吹っ切れて動いていたからか、いつも以上に力を出せていたと思う。

 

 

「そこで私は思った。君たちが様々な学校で雷門の精神を伝えることで、日本をより強くできるのではないか、とね。」

 

「それはつまり、俺たちに全国の学校と試合をしろ、ということですか?」

 

「いや、そうではない。君たちにはそれぞれ別々の学校に行ってもらい、そこのチームに加わってもらう。そしてチームを導く存在として、雷門の精神を伝えていって欲しいのだ。」

 

「っ...それってつまり、俺たち雷門中サッカー部は...」

 

「うむ。解散してもらう。」

 

 

っ...あっさり言うな、この人は。

正直俺は反対だ...俺には円堂と誓った夢がある。

フットボールフロンティア三連覇...1年目は俺の怪我や影山の策のせいで出場できず、三連覇の夢は途絶えてしまったが、今年は優勝することができた。

来年のフットボールフロンティアの優勝に向けて、俺は円堂やみんなと一緒に戦いたい。

 

 

「....皆、それぞれ思うところもあるだろう。一週間待つ。それまでに全員の答えを聞かせてほしい。」

 

「「「「....」」」」

 

 

チェアマンはそう言うが、みんな重たい空気のままその場を後にするのであった。

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「どうするよ...」

 

「お、俺...誰かに何かを教えるなんてできないよ...」

 

「俺もだ...」

 

「おいらもでやんす...」

 

「そ、そもそも僕は誰かに教えられるほどの実力は持っていませんが...」

 

 

1年を中心に、目金や影野、半田たち2年もほとんどの奴らが無理だと感じていた。

やはりこの話は断った方が良い。それに俺たちだって、来年の優勝を目指して戦いたい。

だが、そんな空気を断ち切ったのは、鬼道だった。

 

 

「俺はこの話、受けてもいいと思っている。」

 

「なっ!?...鬼道、お前、来年のフットボールフロンティアで連覇を目指したくないのかよ!」

 

「嵐山、お前...」

 

 

珍しく声を荒げる俺に、鬼道は驚いたような表情をしていた。

俺自身も、今の俺の行動に少し驚いていた。

俺、案外みんなのことが大好きなんだな...もっとこいつらとサッカーしていたいんだと、心の底から思っているんだって、気付いた気がする。

 

 

「...嵐山の気持ちもわかる。だが、俺たちは少年サッカー日本一で満足していいのか?」

 

「っ...それは...」

 

「あの試合で感じたはずだ。特にお前はな....」

 

 

そうだ...俺はクラリオに勝ちたい、世界のレベルに追いつき、追い越したいと思った。

あの日決めたあの1点は、俺にとって誰よりも大きいものだった。

 

 

「俺も受けていいと思っている。」

 

「っ、修也まで...」

 

「...俺たちは強くなった。今度は世界と戦うために、もっと力を付けるべきだと思う。それに...」

 

「それに...?」

 

「俺はお前と戦いたいと思っている。お前を超えて、俺が雷門のエースストライカーとなるためにな。」

 

「っ!」

 

 

修也、お前....そんなことを思っていたのか。

正直、雷門のエースストライカーは誰だって話はよく聞いていた。

その度に俺と修也の名前がよく上がっていたのも知っている。

 

でも俺は、正直修也の方がエースストライカーだと思っていたんだ。

修也がフィールドにいるときの安心感はすごかったからな。

だがそれは修也も同じだったってことか...俺と同じ気持ちで、お前はフィールドに立っていたんだな。

 

 

「ふっ...俺もお前と戦うことを楽しみにしているぞ。」

 

「鬼道...お前まで....」

 

「小学生のころはお前に歯が立たなかったが、中学で一度お前に勝利し、結局はそのたった一度のみの勝利で終わってしまった。...俺はもっと強くなって、お前を超えるプレイヤーとなりたい。」

 

「っ....でも、それでも俺は....」

 

「まあ落ち着けよ、みんな。」

 

「円堂...」

 

「俺は難しい話はよくわからなかったけど、豪炎寺や鬼道の言うことはわかったぜ。俺も嵐山と戦ってみたい。いつもみたいな練習の試合じゃなくて、本気と本気のぶつかり合いで、全力で戦ってみたい。...嵐山はどうなんだ?」

 

「俺は..............俺だって、お前らと戦ってみたいさ!その気持ちがわかるからこそ、こうやって悩んでるんだ...!俺はお前らと戦いたい...でも!...お前らと一緒に、また優勝を味わいたいんだよ......」

 

 

俺はその場に座り込み、自分の想いを吐露した。

こうやって自分の感情のままに話すのは初めてかもしれない...それだけ、俺は悩んでいるんだ。

 

 

「嵐山....だったらこの話、受けようぜ!」

 

「えっ...?」

 

「フットボールフロンティアでの優勝は、一緒には味わえないかもしれないけど...世界と戦って勝つ喜びは一緒に味わえるかもしれないだろ?」

 

「っ!」

 

「だからさ...俺たちが世界と戦うために、この話を受けて一緒にてっぺんを目指そうぜ!」

 

「円堂...........そう、だな....それも、悪くない...かもしれん。」

 

 

「よし!...みんなもさ、難しく考えなくていいんだ。俺たちが今までやってきたことを、次のチームメイトに伝えるだけ!それだけだろ?」

 

「「「円堂...」」」

「「「キャプテン...」」」

 

 

「俺、すげえワクワクしてるぜ。強くなったお前たちと試合するのがさ!」

 

「ふっ...円堂らしいな。」

 

「ああ。円堂はこうでなくてはな。」

 

 

そう...だな。確かにみんなとフットボールフロンティアで優勝を味わうことは、もうできないかもしれないけど...何れ世界とまた戦う時に、彼らに勝利するために、俺たち自身も、日本も強くならないとダメ...だもんな。

 

 

「わかった.......だけど、来年のフットボールフロンティア優勝は、俺の行く学校が貰うぜ?」

 

「ふっ...俺が勝たせてもらうさ、今度はな。」

 

「決勝の舞台で隼人とストライカーの勝負ができれば...ふっ、楽しみになってきた。」

 

「おいおい、雷門のストライカーは俺だっているぜ!俺もお前ら二人に負けねえくらいのストライカーになってやるからよ!」

 

「お、俺もやってやるっスよ!」

 

「おお、壁山がすごいやる気になってるでやんす。」

 

 

こうして俺たちは、日本各地の学校に転校し、日本を強くするための計画を実施することになったんだ。

 

 

俺は負けないぜ、円堂、修也、鬼道、みんな。

来年のフットボールフロンティア優勝は、俺が貰う!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

数日後

 

 

 

「とは言ったものの....俺はどこの学校に行こうかな...」

 

 

そんなこんなで俺たちは各自で派遣先の学校を選ぶことになったのだが、早々に決まった修也や鬼道たちとは違い、なかなか派遣先が決まらなかった。

 

最初は世宇子に声をかけてみたんだが、アフロディに断られてしまった。

何でも最初は自分たちだけでやり直したいそうだ。まあそういう気持ちもわかるから、断られても仕方ないって思ったけど。

 

 

ちなみに、修也は古巣の木戸川清修に戻るらしい。一番やりやすいだろうって言ってた。

鬼道は帝国に戻るのかと思ったが、現在は無名である星章学園というところに行くと言っていた。何でも帝国に戻ってもいいが、もっといろんなサッカーを見てみたいとのことだ。

 

他に主だったところでいうと、染岡は北海道の白恋中、少林は京都の漫遊寺中、目金は秋葉名戸中、半田は傘美野中、影野は尾刈斗中...と言ったところか。

他の奴らもだいたい決まっていて、決まってないのは俺と円堂、風丸くらいだ。

 

ああ、そういえば一之瀬と土門はアメリカに行くとのことだ。

残念だが仕方ない。あいつらの決めたことだからな。

 

そして春奈は兄について星章に行くことにしたみたいだ。

せっかく雷門で一緒に学校に行けるようになったから、せめて兄の卒業までは一緒にいたいと言っていた。

 

 

秋と夏未はどうするか決めかねていると言っていたが、夏未はそもそも転校なんてできるのか...?

 

 

「それで私のところに相談に?」

 

「うん...そうなんだよ、杏奈ちゃん。」

 

 

俺は悩みに悩んだあげく、全く決まらないので杏奈ちゃんのところに来ていた。

といっても病院ではなく、生徒会室だ。あれから杏奈ちゃんは俺がフットボールフロンティアで優勝し、元気にサッカーが出来ていることが確認できたことで元気を取り戻し、今はしっかりと学校に通っている。

 

色々と遅れを取り戻すために頑張りたいと俺に相談してきたので、夏未に頼んで生徒会に入れさせたのだ。

 

 

「そうですね....あえて雷門に残るのはどうでしょう。」

 

「え~...それ俺一人でサッカーしろってこと?」

 

「い、いえ...そういうわけでは...ただ、皆さんが優勝したことでサッカー部への入部希望がたくさん出ていましたから、もし隼人さんだけでも残れば、その方たちで部を継続できるかな、って.....ホントウハワタシガハヤトサントハナレタクナイダケダケド...」

 

 

最後の方はよく聞こえなかったけど、まあ杏奈ちゃんの言っていることは理にかなってる。

このタイミングでサッカー部に入りたいってことは、言っちゃ悪いけど素人だろうし。

そういう奴らを鍛えて、円堂たちに挑むのも悪くないよな。

 

 

「あとはそうですね....知り合いがいる学校に行ってみるのはどうですか?たとえば対戦したことのある学校とか。豪炎寺さんなんて元いた木戸川清修に行くんですよね?」

 

「まあそうだね.....そうか...知り合いのいる学校........っ!」

 

 

そうだ、その手があったか!何か最近は結構なペースで練習に付き合っていたから、選択肢から除外していた!

 

 

「ありがと、杏奈ちゃん!君のおかげで派遣先が決まりそうだ!」

 

「そ、そうですか?なら良かったです。」

 

「うん、本当ありがと!じゃあ俺ちょっと行ってくる!」

 

 

そう言って、俺は生徒会室を飛び出した。

決めたぜ、派遣先!頼むから断らないでくれよ?....瞳子さん!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

杏奈 side

 

 

「行っちゃった...」

 

 

もう少しだけ、隼人さんと一緒にいたかったな。

退院してからも隼人さんはこうやって私に会いに来てくれるけど、その時はいつも他の生徒会メンバーもいるから、病室でしてもらってたみたいに頭を撫でてもらえない。

 

 

しかも今度は強化委員なんてもので、隼人さんは転校してしまうとか。

せっかく学校に復帰したのに、隼人さんがいなくなるなんてつまらない。

 

 

ガチャ

 

 

「あ、隼人さん、忘れ物ですか!....って、夏未さんでしたか。」

 

「あら、悪かったわね。彼じゃなくて。」

 

「い、いえ...」

 

 

な、なんだか怖い...私が隼人さんを名前で呼ぶと、夏未さんは少し怖くなる。

もしかして夏未さんも隼人さんが好きなのかな...

 

 

「今、少しいいかしら?」

 

「あ、はい。」

 

「...実はあなたにお願いがあってきたの。強化委員制度のことは聞いている?」

 

「はい、隼人さんから少し。それに生徒会で資料を見ました。」

 

「そう。...その強化委員制度だけど、マネージャーも実は対象でね。私も別の学校に行こうと思っているの。」

 

「そう、なんですか...」

 

 

それだったら私も今からサッカー部に入部して、マネージャーになろうかな。

そうしたら、隼人さんの行く学校に一緒に行けるのに。

 

 

「ああ、言っておくけど対象のマネージャーは優勝する前に入部している人限定よ。」

 

「う...そうですか。」

 

 

な、何で今釘を刺されたの?しかも心を読んで。

 

 

「...それで、私は理事長代理として生徒会長を務めていたのだけれど、さすがに引継ぎもせずに転校するのは困るだろうから、私の後任を探していたの。」

 

「はぁ...」

 

「神門杏奈さん。あなたの仕事っぷりは見ていてとても良かったわ。あなたになら、生徒会長を任せられる。私はそう思っています。」

 

「え、わ、私ですか!?」

 

「ええ。...お願いできないかしら。」

 

「で、でも...私1年生ですよ...?」

 

「あら。私も1年の頃から生徒会長をしていたわ。...それに、嵐山くんが言ってたなぁ...生徒会長を1年から続けているなんて、とてもすごいことだ、って。」

 

「やります!」

 

 

私は夏未さんの言葉に即答した。

隼人さんがそんなことを言ってくれるなんて、やるしかないじゃない!

 

 

「ふふ...(扱いやすいわ。)」

 

「私が夏未さんの代わりに、生徒会長をやらせて頂きます!」

 

「ええ、お願いね。(さて...後はパパを説得して、彼がどこの学校に行くか調べるだけね。)」

 

 

よーし...やる気が出てきた...!

生徒会長としてたくさん頑張って、隼人さんに褒めてもらうんだ..!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

始まりの日

嵐山 side

 

 

「というわけで、俺の転校先になってください!」

 

「ハァ....もう少し説明してちょうだい...」

 

 

杏奈ちゃんとの会話で、俺はいつもコーチをしているお日さま園のやつらが通っている永世学園に派遣させてもらえるよう、瞳子さんに話に来た。

 

 

「それで、その強化委員とやらで永世学園に転校したい、という話なのね?」

 

「はい。瞳子さんのお願いであいつらのコーチをやってましたけど、強化委員として派遣されることでこれまで通りコーチもできますし。」

 

「そうね....私としてはとても望ましいことだけど、私の一存で決められることではないわね。永世学園はお父様が理事長をしているから、お父様が許可をしたら大丈夫だと思うわ。」

 

「なるほど...では話を通してもらってもいいですか?」

 

「ええ。....ちょっと待って、今ちょうどこちらに来ているみたい。」

 

 

お、マジか。だったら直接話させてもらえると助かるな。

瞳子さんの父親がどんな人かは知らないが、もし転校を許可してもらえるならこれで俺の派遣先が決まる。

 

 

ガラガラ

 

 

「おや、お客さんですか瞳子。」

 

 

突然扉が開かれると、そこには小柄の男性とやせ細った男性が立っていた。

この小柄の人、どこかで見たことあるような...

 

 

「ええ、お父様。...この子は嵐山隼人君。雷門中の生徒です。」

 

「おや...君が嵐山君ですか。瞳子から話は聞いています。タツヤたちがお世話になっているようですね。」

 

 

ああ、この人が瞳子さんの父親なのか。

...そうか、この人どこかで見たことあると思ったら、エイリアン航空の宣伝で見たことあるのか。

 

 

「いえ、こっちこそお世話になってて...えっと、今ってお話しする時間ありますか?」

 

「ええ、大丈夫です。...研崎くん、君は少し外していなさい。」

 

「え、ですが旦那様...」

 

「君の話なら明日聞きましょう。急ぎではないのでしょう?」

 

「は、はい.....それでは今日のところは失礼します。...お嬢様も。」

 

「ええ。」

 

「....チッ....」

 

 

研崎と呼ばれた男は俺を睨んだ後、部屋から出ていった。

何かあんまり良い印象を持たないな、あの人は。

 

 

「それで、話とはなんでしょう。」

 

「えっとですね、実は少年サッカー協会のチェアマンから、雷門中のサッカー部にある指令が出されたんです。強化委員制度というものなんですが、俺たち雷門サッカー部がそれぞれ他校に転校して、その学校のサッカー部で指導者のような役目を担う...そして、いずれ世界と戦うために日本を強くする。そういう話になっているんです。」

 

「ほうほう...面白いことになっていますね。それで...もしかして君は我が永世学園を転校先に考えている、ということですか?」

 

「ええ、そういうことです。俺としても、彼らにはいつもコーチみたいなことしてますし、それの延長って考えれば気が楽です。それに彼らには光るものを感じる...できれば俺がもっと彼らの輝きを見てみたいんです。

 

「ふむ......」

 

 

俺の言葉に、吉良さんは手を顎に当てて考えるような状態になった。

悪い印象は与えてないと思うけど...許可してくれるだろうか。

 

 

「...瞳子、あなたはどう考えていますか?」

 

「え、私ですか?」

 

「そうです。永世学園サッカー部の顧問、監督はあなたです。あなたの率直な意見が聞きたい。」

 

「....私としてはとても魅力的な話だと思っています。あの子たちは嵐山君にとても懐いていますし、関係も良好です。それに嵐山君に出会ってから、あの子たちはずっと笑っているんです。...もし、嵐山君が結果を残せなかったとしても、あの子たちにとって良い思い出となるなら、私はこの話を受けるべきだと考えます。」

 

「なるほど..........わかりました。嵐山君、貴方の転校、そして強化委員としての活動、理事長の私が許可します。良ければ、我が永世学園を....いえ、あの子たちをよろしくお願いします。」

 

「あ、はい、こちらこそ。...ありがとうございます。」

 

 

吉良さんが頭を深々と下げてきたので、こちらも同じように頭を下げる。

良かった...これで俺の派遣先も決まったか。

さて、あいつらと一緒にサッカーできるのが楽しみになってきたな。

 

 

「さて、私はあの子たちと話してきます。...嵐山君、君は雷門中の先生に頼んで転校の書類を永世に送ってもらうよう手配してください。」

 

「はい、わかりました。」

 

「君の転校、楽しみにしていますよ。」

 

 

そう言って、吉良さんはこの場を去っていった。

何だか印象が違ったな。もっと厳格な人かと思っていたけど、自分の子供じゃないのに、お日さま園の子供たちを実の子供のように思ってる...そんなように感じた。

 

 

「ありがとう、嵐山君。」

 

「いえ、こちらこそ。派遣先が決まって一安心ですよ。」

 

「ふふ...あなたが来てくれたら、きっとあの子たちも喜ぶわ。転校の詳細が決まったら、私にも連絡してちょうだい。」

 

「ええ、わかりました。」

 

 

さあ、これから忙しくなるぞ。あいつらをどう鍛えていくか。

目標は来年のフットボールフロンティア優勝だからな。

まずはしっかりとした連携やフォーメーションとかを考えて、必殺技も覚えないとな。...すげえ楽しくなってきたぜ。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

それから数日が経ち、いよいよ俺は永世学園に転校することになった。

なんだかんだでみんな派遣先が決まり、決まってなかった風丸はなんと帝国学園へ、そして円堂に至ってはサッカー部の無い利根川東泉という学校を派遣先に選んだとのことだ。

 

 

円堂は一からサッカー部を作ると言っていて、秋もそれについていったみたいだ。

しかも監督として響木監督まで連れていくらしい。円堂は贅沢だな。

 

 

それにしても、夏未は結局どこに行くんだろうか。

聞いてみたけど、教えてくれなかった。

 

 

 

「さて....今日からこの制服だが...なかなかまだ違和感があるな。」

 

 

俺は新たに永世学園の制服を着て、永世学園の校門の前に立っていた。

なかなか新鮮な気分だけど、これからはこれが当たり前になるんだよな。

 

 

「さて...気合入れていくか...!」

 

「あら、随分と気合が入っていて良いじゃない。」

 

「っ...そ、その声は....!」

 

 

俺は聞きなれた声に思わず振り返る。

そこには"永世学園の制服を着た"夏未が立っていた。

執事のバトラーさんは一緒にはいないようだが....なぜ夏未がここに...!?

 

 

「な、夏未...何でここに。しかもそれって永世学園の制服じゃ...」

 

「あら、当然じゃない。私も永世学園に転校してきたのだから。」

 

「......ええええええええ!?」

 

「ああ、それと...私今日から一人暮らしなの。貴方の引っ越し先のお隣に住んでるから、そっちの方もよろしく頼むわね?」

 

「........ま、マジかよ。」

 

 

このお嬢さん、何でもありか....俺の転校先と、引っ越し先を調べて追っかけてきたってことか...?でも何で俺を追っかけて....

 

 

「さ、行きましょう?」

 

「お、おう...」

 

 

出鼻をくじかれたが、とにかくこれから俺の強化委員としての活動が始まるんだ。

楽しみだぜ....待ってろよ、円堂、修也、鬼道、みんな!俺はあいつらと一緒に最強のチームを作って、お前らに挑んでやるからよ!

 

 

 

こうして、俺の強化委員としての活動が始まる。

だが俺の強化委員としての活動は、最初から前途多難、山あり谷ありの壮絶な物語となることを、この時の俺はまだ知らなかった。

 

 

 

それは本来出会うはずだった出会い。

 

 

『あたし、あんたと勝負してみたかったんだ!』

 

『トゥントゥクトゥントゥク...君たちのリズム、既に見切っているよ。』

 

『オレ、円堂さんに憧れていて...それに嵐山さんと勝負がしたかったんです!』

 

『ウシシシ!何が強化委員だ!べろべろべー!』

 

『俺か...?俺は雪原のストライカー...またの名を熊殺し!』

 

『それはちょっとダサいんじゃないかい...?ねえ、染岡君。』

 

 

 

新たに紡がれる物語との出会い。

 

 

『俺はあいつに誓ったんだ...絶対にあいつらに復讐するってよ...!』

 

『貴方には理解できないでしょうね...僕たちの崇高なる考えを。』

 

『ここが東京....ここが雷門中....!』

 

 

 

そして、邪悪な陰謀との戦いの幕開け。

 

 

『強化委員制度....気に食わないですね....私のハイソルジャー計画の邪魔になる存在は排除しなくては....くくく....フハハハ!』

 

『あんたは俺を楽しませてくれるのかよ。この...ゴッドストライカーをよ!』

 

 

 

そう、俺はぜんぜん理解していなかったんだ。

この転校によって、あんなことが起こるなんて...知らなかったんだ。

 

 

 

.




短いですが、『それぞれの旅立ち編』はこれで終わりです。
次回からは『強化委員編(前編)』が始まります。

.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

永世学園内乱編
永世学園サッカー部、始動!


タツヤ side

 

 

ガラガラ

 

 

「おはよう。」

 

「お、タツヤ、おはよう!」

 

 

ガヤガヤ

 

 

何だかみんな盛り上がっているな。

教室について、いつものメンツのところに集まるが、今日は一段と教室がざわついていた。

 

 

「何かあったのかい?」

 

「いやそれがさ、何でも2年生に転校生が来るらしいんだよ。」

 

「へえ、転校生...それで盛り上がってるのか。」

 

「俺たち1年生にはほとんど関係ねえってのにな。」

 

「まあ転校生ってやっぱり目立つからね。後で砂木沼さんにどんな人が来たのか聞いてみようよ。」

 

「そうね。サッカーをする人なら私たちにも関係があることだし。」

 

「そうだね。なんてったって今日は、僕たち永世学園サッカー部の初めての部活動日だからね。」

 

 

そうだ。今日から永世学園にはサッカー部ができる。

僕たちはそのサッカー部に所属することになっているんだ。

部としては1か月くらい前からできてはいたんだけど、いろいろな事情で活動自体はできていなかった。

 

 

「楽しみだなぁ...嵐山さんに色々教えてもらったこと、活かせるといいけど。」

 

「はっ...お前らサッカー部に入るって?」

 

「っ...ヒロトさん。」

 

「俺もサッカー部に入ることになってるからよ。ま、俺様の足を引っ張るんじゃねえぞ。」

 

「ヒロト!あまりみんなに喧嘩を吹っ掛けるのは辞めろよ。」

 

「はん...うるせえよ、タツヤ。お前は多少うまいから使ってやるけどよ、役に立たねえ奴は退部させてやるから覚悟しとけよ。」

 

 

ヒロト...どうしてこんな風になってしまったんだ。

お前はもっと優しくて、俺たちとも友達だったのに...

 

 

.....

....

...

..

.

 

放課後

 

 

「わぁ...ここが部室か!」

 

「結構キレイだね。」

 

「一応、男女で仕切りがあるみたいね。...こっちが女子ってことでいいかしら?」

 

「うん、いいんじゃないかな。」

 

 

あれから普通に授業を受けて、今は放課後の時間だ。

昼休みに砂木沼と話したけど、転校生は別のクラスらしい。

瞳子姉さんにも聞いてみたんだけど、後のお楽しみって言ってはぐらかさせてしまった。

 

 

「それにしても、後のお楽しみってどういうことだろうな。」

 

「もしかして、サッカー部に入ってくれるとか?」

 

「ああ、それはあり得るだろうね。」

 

 

「みんな!着替えたらすぐに集合して!」

 

 

みんなで話しながら着替えていると、外から瞳子姉さんの呼び声が聞こえてきた。

その声に僕たちは急いで着替えて、外に飛び出る。

でも俺たちは外に出た瞬間、驚いて固まってしまった。

 

 

「や、久しぶりだね、みんな。」

 

「あ、あ、嵐山...さん...!?」

 

「ど、どうしてここに!?」

 

「そのユニフォームって...永世の練習用ユニフォームじゃ...」

 

 

部室の外で俺たちを待っていたのは、瞳子姉さんと、永世の練習用ユニフォームを着た嵐山さん、そして雷門中サッカー部のマネージャーの雷門夏未さんだった。

 

 

も、もしかして2年生の転校生って...!

 

 

「みんな揃ってる?.....ヒロトがまだのようね。」

 

「ま、彼には後で自己紹介しておきます。」

 

「そうね.....それじゃあみんな、紹介するわね。我が永世学園サッカー部に強化委員としてやってきてくれた、嵐山隼人君、そしてマネージャーの雷門夏未さんよ。」

 

「初めまして、の人も何人かいるみたいだけど、だいだいの人はあったことがあるね。俺は嵐山隼人。ポジションはフォワードだけど、キーパー以外ならある程度できるよ。来年のフットボールフロンティア優勝を目指して、みんなで頑張っていこうと思っているから、よろしく頼むよ。」

 

「初めまして、雷門夏未と申します。嵐山君と一緒に強化委員として永世学園にやってきました。これから皆さんのサポートをしていきますので、よろしく。」

 

 

「ほ、本当に嵐山さんが....俺たちのサッカー部に...?」

 

「おう。今日からチームメイトだ。よろしくな、基山。」

 

「は、はいっ!」

 

 

「あ、あの...強化委員って言うのはなんなんですか?」

 

「確かに...」

 

 

みんなが疑問に思っていたことを、玲名が聞いていた。

確かに強化委員って何なんだろう。意味は何となくわかるけど。

 

 

「...みんなはこの前の雷門中とバルセロナ・オーブのエキシビションマッチを見たかい?」

 

「え、ええ...」

 

「あの試合で、日本のサッカーのレベルが低いことが世界に知らしめられた。このままでは来る世界大会で結果を残せない...そう考えた少年サッカー協会は、同じようにどん底の状態から立ち上がり、フットボールフロンティア優勝を遂げた雷門中のサッカー部員たちに目を付けたんだ。」

 

「私たち雷門中サッカー部の部員が全国各地の学校へと渡り、その学校で雷門の精神を伝える。そうすることで、日本の底力をあげる...それが強化委員の役目なのよ。」

 

「なるほど....それで、嵐山さんと雷門さんが永世学園に...」

 

 

理由はわかった。でもそれよりも、嵐山さんが俺たちの学校を選んでくれたことが嬉しい...!これから嵐山さんとプレーできるなんて、夢のようだ。

 

そして来年、嵐山さんと一緒にフットボールフロンティアに出場して、優勝を目指す...これほど胸が熱くなる夢は無い..!

 

 

「へぇ...あんたが嵐山隼人か。」

 

「っ、ヒロト!」

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

俺と夏未が自己紹介していると、校舎の方の土手に一人の男が立っていて、こちらに話しかけてきていた。

 

 

「...彼が吉良ヒロト、ですか。」

 

「ええ......ヒロト、今日はサッカー部の初めての活動日。必ず参加するよう伝えておいたはずよ?」

 

「悪いな姉さん。俺は別にこいつらには微塵も興味がねえんだよ。...なあ、あんたは俺を楽しませてくれるのかよ。このゴッドストライカーをよ。」

 

「ゴッドストライカー....随分と自分に自信があるようだね。」

 

「当たり前だろ。俺様に敵うやつはいねえ。」

 

「そうか。....君が楽しめるかどうか、試してみるかい?」

 

 

俺がそう挑発すると、吉良ヒロトはにやりと笑って見せた。

うんうん、こういうやつは扱いやすくて助かる。

 

 

「いいぜ。俺と勝負しようじゃねえか。1vs1で、先にシュートを決めた方が勝ち...それでいいな?」

 

「ああ。...じゃあ着替えてきなよ。」

 

「ふん...このままでいいんだよ。」

 

「....着替えてこい。俺たちがやるのは喧嘩じゃない、サッカーだ。ユニフォームか体操服を着てこい。....それに制服じゃ動きづらいだろ。」

 

「はっ!これくらい余裕だっつうの。俺様に指図してんじゃねえよ。」

 

 

なるほどな...そういう態度なら、遠慮する必要はなさそうだ。

1年相手に大人げないかもしれないが...この態度はいずれチームの和を乱す。

少し本気で相手をしてやる必要があるな。

 

 

 

「いいだろう。....ただし、負けた言い訳はするなよ。」

 

「くくく...するかよ。だいたい、俺様が負けるわけねえんだからよ。」

 

 

そう言って、俺たちはグラウンドのなかへと入っていく。

ボールを中央を置き、ボールを挟んで俺たちは向かい合う。

 

 

「君から攻めていいよ。」

 

「おいおい、それじゃ一瞬で勝負がついちまうぜ?」

 

「そうかな。」

 

「くくく...まあいい。なら行かせてもらうぜ!」

 

 

そう言って、吉良がボールを蹴りだし、俺の方へとドリブルで突っ込んでくる。

うん、見た目通りの荒々しいドリブルだが、確かにテクニックも持っているみたいだな。思ったよりはうまい。現に、今の南雲や涼野たちよりも遥かに高いテクニックを持っている。

 

 

「一瞬で決めてやるぜ!」

 

 

そう言って、吉良はボールを右側に蹴りだすと、自身は左側に走り抜けようとする。

 

 

 

「ひとりワンツー!」

 

「ヒロトさんは確かにテクニックがある....でも...」

 

「この勝負、嵐山君の勝ちね。....ま、当然だけれど。」

 

 

 

「はっ!この程度かよ.....って、なんだと!?」

 

「その程度のひとりワンツーじゃ、俺は抜けないよ。」

 

 

俺は吉良よりも先回りしてボールをトラップする。

この程度なら、回転を視ればどのタイミングで曲がって、どのくらいの位置にボールが来るのか見える。俺たちが相手にしてきたのは、もっとすごい奴らだったんだからな。

 

 

「さて...俺について来れるかな?」

 

 

そう言って、俺はドリブルを始める。

そんな俺の後を追って、吉良は走り出す。

 

 

「なめんじゃねえ!ボールを奪ってやるよ!」

 

 

吉良はそう叫びながら俺を全力で追いかける。

だけど俺と吉良との距離は縮まらない。それどころか徐々に距離が離れていっていた。

 

 

「なっ...何でだ....!?」

 

 

 

 

 

「どういうことなんだ...?」

 

「タツヤ、何が疑問なんだ?」

 

「いや...嵐山さんはボールを蹴りながら走っているし、とても全力で走っているようには見えない。対して、ヒロトはボールを持っていないし、腕を大きく振って全力で走ってる。なのに、差は縮まるどころか広がる一方だ。」

 

「走り方の差ね。」

 

「走り方...ですか?」

 

「ええ。嵐山君は効率よく、そして自分の体にあった走り方をしている。対する吉良ヒロトくんはただ荒々しく、全力と言って無駄な力を使って走っているだけ。あれじゃあ体力を無駄に消費する分、彼の方が先に消耗して差を付けられるわよ。」

 

「そういうことですか...」

 

「それに......単純に嵐山君の方が高い実力を持っている、ただそれだけよ。」

 

 

 

 

「ハァ...ハァ...ちくしょう...何で追いつけねえ...!」

 

「悪いけど、これで終わりだよ。」

 

 

そのまま俺は、ゴールに向かってノーマルシュートを放った。

俺の放ったシュートは誰にも邪魔されることなくゴールへと突き刺さり、俺の勝利によってこの勝負は幕を閉じた。

 

 

「ぐっ....ゼェ...ハァ....何で俺様が....負けたんだよ....!」

 

「吉良...君は確かにセンスもあるし、動きも悪くなかった。だが...致命的な欠陥がある。」

 

「んだと...!」

 

「それがわからないままじゃ、君は俺には勝てないよ。」

 

「っ....偉そうにしやがって....くそっ!」

 

 

吉良は地面を蹴った後、そのままグラウンドから去っていった。

勿体ないな...吉良ヒロト、とてつもない才能を感じた。

もし真面目にサッカーに取り組んでいたら、負けていたのは俺だったと思う。

サッカーに懸けた年月の差が、ただ浮き彫りになっただけなんだ。

 

 

「...さ、トラブルはあったけど...これから永世学園サッカー部の始動だ!」

 

「「「「....はいっ!!!」」」」

 

 

 

こうして、俺たちの初めての活動が始まったのであった。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

ヒロト side

 

 

 

くそ...この俺様が負けただと...!?

しかもあの野郎、俺に致命的な欠陥があるとかぬかしやがって...!

 

 

「おや、お坊ちゃま。どうされたのですか?」

 

「っ...研崎か。」

 

「ええ。何やらひどくお怒りになっているようですが...もしかして、嵐山隼人に何かされたのですか?」

 

「っ...あいつを知っているのか。」

 

「ええ、まあ。....彼、私にとっても邪魔な存在なんですよ。お坊ちゃまさえ良ければ....私が彼を、そして彼に付き従う者たちを排除して差し上げますが...?」

 

 

 

何だと....?

はっ...悪くねえな....あいつに一泡吹かせてやれるなら、その計画に乗ってやるのも。

 

 

「いいぜ。あいつに一泡吹かせてやれるならな。」

 

「ええ、もちろん。私にお任せください。くくく...」

 

「任せたぜ、研崎。」

 

「ええ、ええ。...そうだ、それにあたってお坊ちゃまには一つやって頂きたいことがあるのです。」

 

「あ?」

 

「....旦那様の説得ですよ。旦那様は彼を大層気に入っておられるようです。なのでお坊ちゃまから旦那様に一言進言して頂きたいのです。もちろん、私の計画も一緒にお話ししますので、ご安心ください。」

 

 

親父と話すのか...ま、こいつが一緒ならほとんどこいつが話すだろ。

 

 

「いいぜ。」

 

「おお、ありがとうございます。...ではさっそく、私と一緒に行きましょう。」

 

「ああ。」

 

 

 

「くくく.....(扱いやすいガキだ。ガキは純粋で助かる。くくく...)」

 

 

 

 

待ってろよ、嵐山....!

ぜってえお前に一泡吹かせてやるからよ...!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「面倒なことになりそうだな....」

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

襲撃、そして旅立ち

No side

 

 

「なるほど...そういうことだったんですか。」

 

「すみませんね、変なこと頼んで。」

 

「いえ、こちらこそ、私の秘書が申し訳ありません。」

 

「ですがこれは由々しき事態です。早急に手を打つ必要が...」

 

「それだけど、俺に考えがあるんだ。」

 

 

永世学園のとある部屋で、二人の男性と一人の女性が話をしていた。

一人の男性と女性は重苦しい雰囲気を漂わせているが、もう一人の男性はどこか落ち着いた雰囲気を漂わせていた。

 

 

「考えって...私たちの活動が邪魔されるかもしれないのよ?」

 

「ああ。でも幸いに彼らの計画は既に把握している。それに俺の元々の計画では、いろんな学校と試合するつもりだったんだ。....確かこの学校、通信教育やリモート授業にも力を入れていましたよね。」

 

「ええ、まあそういう時代もありましたから。.....もしかして君は...」

 

「ええ。俺たちはこの学校を出て、修行の旅に出ようかと思います。」

 

 

.....

....

...

..

.

 

タツヤ side

 

 

あれから数日経ったけど、あの勝負の日以来、ヒロトはサッカー部に顔を出していなかった。それどころか、学校にも来なくなっていた。

 

 

俺たちは今、嵐山さんと夏未さんが考えてくれたメニューをこなしている。

二人が言うには普段の練習では基礎的な部分を磨いて、後は練習試合を多めに組んで連携や経験を磨いていくらしい。

 

確かに俺たちは昔からボールに触れてきたとはいえ、経験が圧倒的に足りていない。俺たちに必要なことが何なのか、二人はよくわかっているんだ。

 

 

「よーし...グラウンド10周終わり!」

 

「次はなんだっけ...?」

 

「次はダッシュ30本して、パス練習、その後は適宜休憩を取りつつ筋トレだね。」

 

「しっかし、マジで基礎練習しかしねえんだな。俺としては必殺技の一つや二つは教えてもらえるのかと思ってたぜ。」

 

「まあ、まだその段階じゃないってことだろうね。」

 

 

そんなこんなで練習を続けていたのだが、突然見たことない男たちがグラウンドへと入ってきた。...嵐山さんも瞳子姉さんもいないし、俺が何とかした方がいいかな。

 

 

「君たち、今はサッカー部が練習中なんだ。勝手に入ってこないでくれるかな。」

 

「ああ?お前たちがサッカー部?」

 

「おいおい、お前たちまだ何も聞いてねえのかよ。お前らはクビで、俺たちが新しいサッカー部の部員なんだよ。」

 

「なんだって!?」

 

「わかったらさっさとどきな!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ぐはっ!」

 

「タツヤ!?」

 

 

俺は彼らが放ったシュートを腹に食らい、吹き飛ばされる。

くっ...いきなりボールをぶつけてくるなんて...

それに俺たちがサッカー部をクビだなんて、父さんがそんなことするはずが...!

 

 

「くくく...この子たちの言っていることは本当ですよ。」

 

「っ...貴方は父さんの秘書の...」

 

「どうも、研崎です。君たちはサッカー部をクビになったのです。...ああ、もちろん旦那様には許可を頂いておりますよ。」

 

「くっ...父さんがそんなことするはずがない!」

 

「そうだ!理事長は俺たちにサッカー部を作ってくれた...居場所をくれたんだよ!」

 

 

 

「残念だが、こいつらの言っていることは本当だぜ。」

 

 

 

「なっ.....ヒロト...!?」

 

 

まさか....ヒロトがこんなことを...!?

どうしてなんだ...どうしてこんなことを....俺たちは友達じゃなかったのかよ...!

 

 

「これから永世学園のサッカー部はこの俺様をキャプテンとして、研崎が連れてきたこいつらをチームメイトとしてやっていく!お前らは全員クビだ!あの強化委員とかいう嵐山もな!」

 

 

「っ...そんな勝手は許されない!」

 

「何度も言わせないでもらいたいですねえ。これは旦那様が正式に認めたこと。...そんなに認めたくないのなら、この子たちにサッカーで勝つことですね。」

 

「だったらやってやるよ!なあ、お前ら!」

 

「そうだ。私たちが勝てば問題無い。」

 

「タツヤ...やりましょう。」

 

「っ...わかった。勝負だ!」

 

 

「くくく...お前らじゃ相手にならねえと思うけどなぁ。」

 

「お坊ちゃま、今回は我々にお任せください。お坊ちゃまはベンチへ。」

 

「おう。」

 

 

ヒロトは出ないのか...だがこちらも嵐山さんがいないし、監督の瞳子姉さんもいない。俺たちで戦うしかないんだ。

 

 

「...俺がキャプテンを務める。みんな、ついてきてくれるか。」

 

「もちろんだよ、タツヤ!」

 

「お前に任せたぜ!」

 

「君になら任せられる。」

 

「ゴールをこの俺に任せておけ、タツヤ!」

 

 

「よし...この試合、絶対に勝つぞ!」

 

「「「おう!!!」」」

 

 

 

そして俺たちはそれぞれポジションにつく。

フォワードに南雲と涼野、ミッドフィルダーに俺、玲名、熱波、緑川、本場、ディフェンダーに倉掛、蟹目、薔薇薗、キーパーに砂木沼となっている。

俺は本来フォワードだけど、今回はチームの中心として指揮するために、フォワードよりのミッドフィルダーとしてポジショニングしている。

 

 

ピィィィィィ!

 

 

 

「よし、行くぞ!」

 

 

俺たちのボールで試合が始まった。南雲から俺へとボールが渡り、俺たちは前線へと上がっていくが、相手は全く動くことなく、その場で仁王立ちしている。

 

 

「なんだ...?」

 

「舐めやがって...俺が決める!パスを寄こせ、タツヤ!」

 

 

「...(何か罠かもしれない...だが!)決めろ、南雲!」

 

 

まともに試合もしたことのない俺が、いくら考えたところで相手の策を見破れるわけがない。だったら罠かもしれなくても、仲間を信じて戦うしかないんだ!

 

 

「おし!決めてやるぜ!」

 

 

俺からのパスが南雲へと渡った。

だがその瞬間、先ほどまで最前線にいた相手の選手が、一瞬にして南雲の目の前へと移動していた。その移動で生まれた風に、俺たちは吹き飛ばされる。

 

 

「な、何てスピードだ...!」

 

 

「くっ...んだてめえ!邪魔すんじゃねえ!」

 

「ふっ...貴様らごとき、ワンプレーで潰してやるよ。」

 

「っ、俺をなめるなぁ!」

 

「必殺技も持たない雑魚が。”ゴー・トゥ・ヘル”!」

 

「なっ...ぐああああああ!」

 

 

相手の放った必殺技によって、南雲は吹き飛ばされ、ボールは相手に渡ってしまう。これが必殺技...それにしてもあいつ、何て身体能力だ...一番前に立っていたはずなのに、一瞬で俺たちの前に現れるなんて...

 

 

「これで終わりにしてやるよ。はああああああああああ!」

 

 

相手の選手は奪ったボールをそのまま上空へと蹴りだし、自身も一瞬でボールのところまで移動した。やっぱり...この身体能力は異常だ...一体何なんだ...こいつら!

 

 

「食らいな。これが俺の必殺シュート!”デススピアー”!」

 

 

キュィィィィィィン!

 

 

奴はボールを足でクロスするように挟み、それをひねり出すように発射した。

ボールは黒いドリルのようなオーラを纏いながら、俺たちを巻き込みながらゴールへと突き進んでいく。

 

 

「「「「「うわあああああああああ!!!!」」」」」

 

 

「ぐっ、止めてみせる!うおおおお!っ、ぐああああああ!」

 

 

砂木沼も必死で止めようとするが、まるで持ち堪えることができずにボールと一緒にゴールへと突き刺さってしまった。

 

 

何なんだこれは....これが...人の放つ必殺技だっていうのか...

 

 

俺たちは必殺技の威力にボロボロになり、地面に倒れ伏したまま立てずにいた。

 

 

 

「はっ...やっぱりワンプレーで終わったな。」

 

「闇川さん、さすがですね。」

 

「おう、俺たちは生まれ変わったのさ。研崎さんのおかげでな。」

 

「くくく...違いねえ!」

 

 

くそ....立てない.....俺たちじゃこいつらには...勝てない....

 

 

 

「そこまでだ!」

 

 

 

この声は.....

 

 

 

「あら...し....や...ま...さん....」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

俺は夏未と瞳子さんとの密談を終え、グラウンドへと向かっていた。

途中で何やらグラウンドの方が騒がしいことに気付き、嫌な予感がして走ってきたのだが...まさかこんなに早く動いてくるとはな。

 

 

「お前たち、大丈夫か!」

 

「す、すみません...嵐山さん...俺...」

 

「大丈夫だ、基山。よく頑張ったな。」

 

「っ...すみません....」

 

 

基山は泣きながら、俺の腕の中で気絶してしまった。

どうやら相当やられたようだな。

 

 

「これはどういうことだ。」

 

「おやおや、強化委員の君も旦那様から聞いていないとは。」

 

「...あんたは確か...」

 

「この間はどうも。私は旦那様の秘書を務めている研崎と申します。」

 

「それで、なぜこんなことをしている。」

 

「ふん...口の利き方を知らんガキだ。知らないのなら教えてあげましょう。私は以前から凄まじい力を持った選手の育成を手掛けてきた。そしてサッカーはビジネスとして大きな価値を持っている。...つまり金になるのです。だから私は旦那様に提案したのですよ。一から強いチームを作るのなら、既に私が強いチームを作っているから不要だと。だから君たちはクビ、新たに我がチーム.....カオスエンペラーズが永世学園のサッカー部となるのです!」

 

 

「ふざけた計画だな。金のためにサッカーをやるってことか。」

 

「別にふざけてなどいませんよ。世の中は金で回っている。金が無ければ生きていけないのですからね。それに言ったでしょう?旦那様は既に私の計画を認めていると。」

 

 

 

「その通りです。」

 

 

 

声のした方を向くと、そこには理事長が立っていた。

理事長はゆっくりと歩きながら、研崎の近くへと向かう。

 

 

「私が彼の計画を聞いて、それを承認しました。」

 

「なぜですか。なぜ、基山たちの居場所を奪うんですか。」

 

「研崎君が言っていたでしょう。金になるからです。....そうですね、どうしても認められないというなら、君が彼らに価値があると認めさせてください。」

 

「なんだって...?」

 

「研崎くん。君がこのチームを作るのにかかった時間はどれくらいですか。」

 

「そうですね....約半年、といったところでしょうね。」

 

「そうですか。....ならば嵐山君。が本年度中に彼らに価値があると私に認めさせられたら、研崎君ではなく君たちを認めましょう。」

 

「なっ、旦那様...!」

 

 

本年度中....つまり来年の3月までか。

この人も随分と甘いな。それだけの時間があれば、こいつらはもっともっと強くなれる。

 

 

「研崎君。異論は認めません。それに君の計画はどちらにせよ、来年度以降でないと始められない、そうでしょう?」

 

「それは....そうですが...」

 

「俺も問題ありません。本年度中に、彼らに価値があると認めさせます。」

 

「よろしい。...して、その方法はどうするつもりです。」

 

「....3月に再び、彼らと...カオスエンペラーズと戦い、勝つことです。」

 

「ほう....確かにそれはお互いの優劣がはっきりしますね。私としては特に異論はありません。...君はどうです、研崎君。」

 

「ふっ...もちろんですよ、旦那様。我がチームが敗北するなど、ありえませんから!」

 

「そうですか。...では3月に研崎君のチームと、瞳子のチームで試合をする。勝った方が永世学園のサッカー部として認められる。それで良いですね?」

 

 

「はい。」「ええ。」

 

 

これで決まりだな。俺たちのやることはもう決まっている。

あとは夏未と瞳子さんを待つだけだな。

 

 

「さて...ああ、嵐山君たちは今日中に部室の荷物を引き上げてください。現状は研崎君のチームがサッカー部です。今日のみ部室とグラウンドを使用することを許可しますが、明日からは使用できませんので。」

 

「はい。わかりました。」

 

 

理事長は俺の返事を聞くと、この場を去っていった。

 

 

 

「くくく...無謀な挑戦ですねえ。」

 

「...あんたがどう思おうと、3月の試合で勝つのは俺たちだ。」

 

「無駄だぜ。てめえらがどう努力しようが、俺様たちには勝てねえ。」

 

「...誰だ、あんた。」

 

「くくく...俺様は闇川剛輝。このチーム最強のストライカーさ。お前も俺様のシュートの餌食になりたくなかったら、しっぽ巻いて逃げるこったな。」

 

「ふっ...くだらないな。」

 

「あん...?」

 

「俺たちは逃げない。必ずお前たちを倒し、お前たちの悪事を暴いてやるよ。なあ、研崎さんよ!」

 

「な、何のことだか?(こ、こいつ...まさかこいつらの秘密を知っているというのか...!?あ、ありえない...と、とにかくぼろが出ないうちにここを立ち去るべきだ。)...とにかく、3月の試合を楽しみにしていますよ。」

 

 

そう言って、明らかに動揺しながら研崎は去っていった。

闇川たちも去っていき、グラウンドには俺たちのみが残されていた。

 

 

 

「お待たせ....って、みんな大丈夫なの!?」

 

「とにかく手当を!」

 

 

それから少しすると、瞳子さんと夏未がやってきた。

倒れ伏すみんなを見て、すぐさま手当を始めた。

一通りの手当を終え、俺は二人にお願いしていた内容がどうなったか確認した。

 

 

「一応、許可は取れたわ。準備をしておくから、明日雷門中に来てほしいと言っていたわ。」

 

「こちらも学校のカリキュラムのデータはもらってきたわ。これでどこでも授業が受けられる。」

 

「助かります。...それじゃあ明日、雷門中へ。」

 

「ええ。....転校早々、こんなことになるなんてね。」

 

「そうだね。....でも楽しみじゃないか、みんなで全国を旅するなんてさ。」

 

「もう...嵐山君ったら.......でもそうね。貴方と一緒なら、どこに行ったって楽しいでしょうね。」

 

「なんだそれ。」

 

 

「う、うぅ....」

 

 

そんなことを話していると、基山たちが目を覚ました。

幸い、手当をしてわかるレベルでは怪我はひどくなく、少し休めば回復するような怪我だった。今日一日休めば、明日からまた動けるようにはなるだろう。

 

 

「嵐山さん....俺たち...」

 

「安心しろ、お前たち。」

 

 

俺はまずそう言ってから、これからのこと、3月の試合のことを話した。

みんな真剣な面持ちで聞いてくれて、状況を理解できていないやつはいないようだ。

 

 

「つまり...雷門中にあるイナズマキャラバンってので全国を旅する...ってことですか?」

 

「ああ。元々、俺はお前たちの基礎スキルを向上させながら練習試合を多く組んで、全体的なレベルアップを図ろうとしていた。本当はグラウンドでじっくりと練習したかったんだが......ま、こんな事態になってしまったからには、武者修行

ということで、各地で練習しながら試合をしていくぞ。」

 

「ず、随分とアグレッシブというか...」

 

「....お前たち、さっきのやつらと戦ってどう思った?」

 

「それは...」

 

「....怖かったです。俺たちがやっているのは、本当にサッカーなのかなって...」

 

 

基山がそう答えた。他のみんなも基山の意見に賛成なのか、うつむいてしまう。

 

 

「怖かった、か。それは当然だ。何も知らず、経験もなく、ただサッカーが好きって気持ちだけで戦っていたんだから。....サッカーは怖い。サッカーはお前たちに牙をむく。...だけど、サッカーは楽しい。だろ?」

 

「....はい。」

 

「だからもっとサッカーを知ろう。いろんなサッカーに触れて、自分だけのサッカーを見つけるんだよ。そうして進んだ先に、きっとお前らの...永世学園のサッカーがあるはずだ。」

 

「「「俺たちのサッカー...」」」

 

 

「あいつらに見せつけてやろうぜ。俺たちのサッカーをさ。」

 

 

 

「「「「「......はいっ!」」」」」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

翌日

 

 

 

「よく来たね、嵐山君。それに夏未も。」

 

「お久しぶりです、理事長。」

 

「転校したばかりなのに...何だか恥ずかしいわね。」

 

「そんなことは無い。いつでも顔を見せに来てくれていいんだよ。夏未は私の愛する娘だし、嵐山君は雷門中の英雄!それにいずれ私の息子に...」

 

「んん!パパ!」

 

「おっと、失礼。一人で盛り上がってしまったよ。....そちらが永世学園の監督さんかな?」

 

 

「ええ。初めまして。吉良瞳子と申します。今回は突然のご相談、申し訳ございませんでした。」

 

「いやいや、気にすることは無いですよ。話は聞いています。私としても、サッカーを愛する少年たちが不当にサッカーを奪われるのは見ていられませんから。」

 

 

 

そんな話をしながら、俺たちはイナズマキャラバンのある倉庫へと来ていた。

俺たちがいつも試合の時に移動に使っていたバスより、少し大きめだな。

それにキャンプセットとかもあるみたいだし、これなら俺たち全員が乗っても問題なさそうだ。

 

 

「それで...運転なんですが...」

 

「ああ、心配無用ですよ。我が校の用務員である古株にお願いしましたので。」

 

「初めまして、古株と申します。キャラバンの運転はワシにお任せください。」

 

「古株さん、仕事は大丈夫なんですか?」

 

 

俺がそう聞くと、古株さんと瓜二つの男性がさらに二人現れた。

 

 

「大丈夫じゃい。ワシの兄弟に代わりを頼んでおいた。」

 

「「任せろい。」」

 

 

「はは...すげえ瓜二つ...」

 

 

 

そして俺たちは準備を終え、キャラバンへと乗り込んだ。

俺は一番前の席に座り、その隣には夏未が乗り込んできた。

八神がなぜか悔しそうな顔をしていたが....もしかして夏未に憧れていて、隣に座っている俺に嫉妬したのか...?

 

 

そして各々が着席すると、最後に瞳子さんが乗り込んできた。

 

 

「みんな!これから私たちは過酷な旅を強いられるわ。...それでも、サッカーを続けたいなら戦いなさい!いいわね?」

 

「「「はい!」」」

 

 

「よろしい。....それでは古株さん、発進お願いします。」

 

「行先はどちらへ?」

 

「ええ.....奈良へ。」

 

「了解じゃ。....イナズマキャラバン、発進!」

 

 

 

こうして、俺たちの旅は始まった。

これから先の出会いで、俺たちは大きく成長していく。

まだ俺も知らないたくさんのチームが、この先で待っているんだ。

 

 

ワクワクしてきたぜ...!

 

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

奈良への道

嵐山 side

 

 

あれから俺たちは約5時間の車移動で、目的地である奈良県と、三重県の県境近くまで来ていた。しかし出発した時間が放課後の時間であり、辺りは既に暗くなってきていたため、暗い山道を進むのは危険と判断し、今日はここで野宿することに決まった。

 

 

5時間という長い時間を車に座っていたので、みんな思い思いに体を動かしていた。俺はそれを見ながら、パソコンを弄っていた。

 

 

「なるほどな....さすがは修也だ。さっそく話題になっているとは。」

 

 

俺が見ているのは、雷門イレブンの派遣先の情報だった。

俺たちが派遣されてからまだ数日しか経っていないが、修也は既に大きな話題になっているようだ。

 

俺が永世学園に行ったことも話題になっていたが、どうやら追い出されていることまでは話題になっていないようだな。そこは理事長が情報を規制してくれているんだろう。

 

 

ピロンッ

 

 

「ん....鬼道からか。」

 

 

俺は届いたメールを開き、内容を確認する。

内容は俺が永世学園から追い出されたことへの心配と、春奈が寂しがっているから電話してやってほしい、という内容だった。

 

 

「あいつ、どこから情報を仕入れているんだか。」

 

 

カタカタカタ

 

 

「『今のところは計画通り進んでいるので問題無し。春奈には今度電話する。その内お前のところにも顔を出すかもしれない。』...と。」

 

「何をしてるの?」

 

「...八神か。」

 

 

俺が鬼道へメールを返信していると、後ろから八神がやってきた。

どうやらみんなで練習していたが、休憩のためにこちらに来たみたいだ。

 

 

「友達の情報を少し確認していたんだ。...八神は女の子だけど、この旅に抵抗はないのかい?」

 

「そうね...まあこのキャラバンにはシャワー設備もあるし、私たちは元々同じ屋根の下で暮らしていたから、特に抵抗はないわ。」

 

「そうか、ならいいんだけど。」

 

 

みんなには有無を言わせずにこの旅に連れ出したからな。

少し悪いことをしたと思っている。だがこの旅を通して、彼らは成長することができるだろう。俺はその先を見てみたいんだ。

 

 

「それにしても、貴方は一緒に練習しないのかしら?」

 

「そうだね...」

 

 

ピロンッ

 

 

「...悪い、八神。もう少ししたら俺も行くから、先に行っててくれるかい?」

 

「ええ、待ってるわね。」

 

 

そう言って、八神は再び練習へと戻っていった。

俺はそれを見送りつつ、届いたメールを確認する。

 

 

『君の要望を受け入れる。到着は明日と聞いているので、明日の午後1時、奈良シカ公園にて落ち合おう。』

 

 

「よし...何とかコンタクトできたか。さすがは吉良財閥のコネクションだ。....『ありがとうございます。時間、場所、承知致しました。明日はよろしくお願いします。』...と。よし、やることも終わったし...俺もあいつらと練習しますか!」

 

 

俺はパソコンをスリープさせてテーブルに置くと、上着を脱いで八神たちの元へと走って行った。

 

 

.....

....

...

..

.

 

??? side

 

 

『ありがとうございます。時間、場所、承知致しました。明日はよろしくお願いします。』

 

 

「ふっ...随分と大人びたメール内容だ。本当に彼は中学生なんだろうか。」

 

「パパ、どうしたの?」

 

「ああ、いや。ちょっと明日のことでね。」

 

 

私は私室に入ってきた娘の質問に答えた。

吉良の家から連絡が来たと思ったら、相手が中学生で驚いた。

しかもその内容も驚くべき内容だったから、さすがに子供のいたずらを疑ってしまったよ。

 

 

「明日かぁ...パパ、連絡してきたのって本当にあの嵐山隼人なの?」

 

「ああ、一応関係各所に確認を取ったし、間違いないと思うよ。....そういえば、〇〇は彼のファンだったね。」

 

「まあね。....ねえ、パパ。ちょっとお願いがあるんだけど...」

 

「なんだい?」

 

「あのね...」

 

 

私は娘のお願いに少し呆れてしまうが、確かに彼を本当に信用できるか、確かめる良い方法かもしれないと思った。若干、娘の私欲も入っている気がするが。

 

 

さて、彼には悪いが娘のわがままに付き合ってもらおうかな。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

あれからみんなでパス練習を中心に練習を行い、さすがに夜も更けてきたので晩御飯を食べて寝ることになった。

 

 

俺はみんなが寝静まったのを確認すると、ボールをもって少し離れた場所へ移動する。さすがに何も言わずにいなくなると騒ぎになるので、瞳子さんと古株さん、夏未には置手紙をしておいた。

 

 

 

「あいつらのレベルアップも大事だが....俺自身がレベルアップしなくちゃ、世界には勝てない。」

 

 

俺はボールを足元に置き、軽くストレッチを始める。

まずは突破力を鍛えるかな...せっかくこうやって木がたくさん無造作に生えているんだ。これを相手の選手だと見立てて、ドリブルテクニックを磨く!

 

 

「よし....!」

 

 

俺はストレッチを終え、さっそくドリブルを開始する。

最初はスピードを抑え気味にドリブルし、まっすぐ進むうちに現れる木をドリブルしながら避けていく。

 

 

「っし.....さすがにゆっくりやったら簡単だな...なら今度は、徐々にスピードアップだ...!」

 

 

俺は先ほどと同じことを、今度はさらにスピードアップして挑戦する。

最初の方、木が少ないエリアでは何とか木を避けられていたが、奥に進むにつれて木の間隔が狭くなっており、何度もこけそうになりながら木を避ける。

 

 

「ぐっ....くそ....この程度もできなくちゃ、あいつらには勝てねえ...!」

 

 

俺は勝ちたい...クラリオに、世界に...!

こんなところで躓いている場合じゃないんだよ..!

 

 

 

「すごい...」

 

「ん?...っ、おわっ!」

 

 

ドサッ!

 

 

突然、近くから声がして振り返ってしまい、足元の根っこに気付かずにその場にこけてしまった。気を取られてミスをするなんて、まだまだだな...

 

 

「ご、ごめんなさい、いきなり声をかけてしまったから...」

 

「い、いや.......って、緑川か。どうした。」

 

「あ、いや....何だか眠れなくて。嵐山さんこそ、こんな時間に練習ですか?」

 

 

 

俺に声をかけてきたのは、緑川だった。

会話の中にことわざを使う、ちょっと変わった奴という認識だ。

 

 

「まあ、お前らの練習に付き合ってばかりだと、俺の練習時間も減るしな。」

 

「ああ...なんかすみません。」

 

「いや、別に謝ってほしいとか、嫌味で言ってるとかじゃないよ。....俺が相手にした世界の強豪は、生半可な気持ちじゃ勝てない。それこそ、寝る時間すら削って練習に当てないときっと勝てない。」

 

「そんな、すごいレベルなんですか?」

 

「ああ。....でも、俺はそれが楽しくて、ワクワクしてるんだよ。」

 

「えっ?」

 

「俺はさ、子供のころからじいちゃんの影響でサッカーをやってきた。時にはつらいこともあったけど、初めて試合に出た時、初めてボールに触れて、ドリブルして、パスして、シュートして...そのどれもが俺にとっては大切で、楽しかった思い出なんだ。そして今度は、世界っていう考えられないほど大きな舞台が俺を待ってる。それが俺には楽しみで楽しみで仕方ないんだ。」

 

 

「.....その気持ち、何だかわかる気がします。俺も....こうやってみんなとサッカーできて楽しいですから。」

 

「その気持ちが大事だよ。....その気持ちをしっかりと持っている緑川なら、何か必殺技が習得できるかもね。」

 

「えっ!?必殺技ですか!?」

 

 

俺の言葉に、緑川は心底驚いた顔をしていた。

まだ必殺技だのなんだのを考えている余裕はなかったのか?

 

 

「必殺技で大事なのは心だ。シュートなら絶対に決めてやるって気持ちを込めるし、ドリブルだったら絶対に抜いてやる、ディフェンスなら絶対に止めてやる、キーパーなら絶対にゴールを守って見せる....そうやって心を、想いを込めるのが大事なんだ。」

 

「で、でも...俺は南雲や涼野、それからタツヤよりサッカー下手ですし、砂木沼さんにもよく怒られているというか...」

 

「...言ったろ?必殺技は心だって。お前の想いをボールに込める、ただそれだけだ。誰がうまいだの、下手だの...そんなのお前の必殺技には関係ねえだろ。」

 

 

俺はそう言って、持っていたボールを緑川の方へと軽く蹴りだす。

緑川は飛んできたボールを胸でトラップすると、そのままボールを腕の中に抱きしめた。

 

 

「お前の気持ち、ボールに込めてよ....お前がイメージした通りにやってみればいいんだよ。そこに他の誰かのことなんて、入り込む余地ねえだろ。」

 

「嵐山さん.......っ、俺...やってみます!」

 

「おう。元気が出たみたいで良かったわ。...ほら、もう遅いから今日は寝ろ。」

 

「はいっ!...おやすみなさい!」

 

 

そう言って、緑川は俺にボールを蹴り返すと、キャラバンへと戻っていった。

さてと...俺はもう少し練習を続けますかね。

 

俺はボールを足元に置くと、再び木へと向かってドリブルを始めた。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

翌日

 

 

バシュンッ!.....バシュンッ!

 

 

「ふわぁあ.......朝から随分と元気な奴がいるみたいだな。」

 

 

結局、俺はあの後3時くらいまで練習を続けていたので、さすがに頑張りすぎたとキャラバンへ戻り、俺用のテントの中に入って寝た。

 

そして目が覚めたのは朝6時。あまり寝られなかったが、昨日はみんなを起こすわけにはいかないからシャワーを浴びずに寝たことだし、さっさとシャワーを浴びたくてすぐに起きることにした。

 

すると朝から必死にシュート練習をしている緑川が見えた。

あの俺のアドバイスをさっそく実践しようとしているみたいだな。

 

 

「よう、おはよう緑川。」

 

「あ、嵐山さん....おはようございます!」

 

「早起きだな。」

 

「ええ。早起きは三文の徳、ですよ。」

 

 

相変わらずだな....それにしても随分とシュートを打っているようだな。

それになかなか精度も悪くない。だが、ものにはできていないようだ。

 

 

「まだイメージできていないようだな。」

 

「ええ....」

 

「ただがむしゃらに打ってないか?」

 

「っ!」

 

 

俺の言葉に、緑川は核心を突かれたような表情になった。

そうか....それじゃあ必殺技はできないし、生まれない。

ただがむしゃらにやってできるのは、それだけ練習を重ねたやつらだけだ。

今のこいつらには、まだそれだけの積み重ねはない。

 

 

「緑川...お前はどんな必殺技が欲しい?」

 

「どんな....って、どういうことですか?」

 

「まず、お前が身に着けようとしている必殺技はシュート...それでいいか?」

 

「えっと...はい。」

 

「なら、そのシュートはどんなシュートだ。相手を圧倒するパワーシュート、相手を翻弄するトリックシュート、ただの一瞬も逃さないスピードシュート...シュートってだけでもたくさんの種類がある。...君が求める理想のシュートはどれだ?」

 

 

「....パワーとスピード、だと思います。」

 

「なるほどな....なら、蹴り方を変えてみるのもいいかもな。後はパワーを込めるためにはどう込めてやるのがいいか。そういった点も考えてやらないと、必殺技は生まれない。...緑川の中で、必殺技のイメージは固まっているのか?」

 

 

「えっと...何となくは、こういう必殺シュートが打てたらいいな、っていうのがあります。」

 

「そうか。...だったら、その必殺シュートを打てるよう、イメージをしっかりと 形にするんだ。」

 

「イメージを形に......イメージを形に........」

 

 

俺のアドバイスを聞いて、緑川は集中した状態になった。

どうやら自分の必殺技のイメージを固めるために、自分だけの世界に入ったみたいだな。ここまでできるのなら、あとはもうその想い、イメージをボールに込めるだけだ。

 

 

「......っ.....はああああああああああ!」

 

 

ついに緑川が動き出した。

緑川は足元に置いてあったボールに回転を加え、さらにボールにオーラを込める。ボールには宇宙をイメージしたような強烈なパワーが溜め込まれる。

 

 

「うおおおお!”アストロブレイク”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

オーラのこもったボールを、緑川が全力で蹴り飛ばす。

ボールは凄まじいオーラを纏いながら進んでいき、道中の木々をなぎ倒していった。

 

 

「っ....できた....できました!嵐山さん!」

 

「ああ。おめでとう。」

 

「やった...これが俺の必殺技...!」

 

「まだ浮かれるのは早いぞ。今度はこの必殺技を極めていき、さらには新たな必殺技につなげたり、今は難しいが仲間との連携必殺技を考えたり...まだまだ必殺技の奥は深いからな。」

 

「は、はいっ!」

 

 

 

さて...さっそく頭角を現してきたな。

緑川だけじゃない、他のやつらも徐々に才能が開花していくだろう。

俺からしたら遅すぎるくらいだが....この調子でお前らが目覚めてくれたら、3月の試合で負ける可能性はほぼ0%となるんだからな。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

奈良シカ公園での決闘

嵐山 side

 

 

 

「ついたあああああああ!」

 

 

あれからまた数時間の車移動で、ついに目的地である奈良県、奈良シカ公園へと到着した。

あの後、緑川が必殺技を使えるようになったことで、南雲や涼野から自分にも必殺技を教えろと散々頼まれ、少々疲れていたところだ。

 

八神がそんな俺を気遣って、二人に拳骨をお見舞いしていたが...

正直今の彼らのレベルでは、俺が教えようとしたところで必殺技を習得することはできないだろう。まずは自分の意思で、自分のイメージを形にして、必殺技を習得してもらいたい。

 

 

「それにしても...どうして最初の目的地が奈良なんですか?」

 

「ああ、今日は奈良シカ公園で総理と大統領が落成式を行う予定だからね。それで奈良に来たってわけだ。」

 

「え?それが理由って...何でですか?」

 

「ん?もちろん総理に会うためさ。」

 

「「「「........えええええええええ!?」」」」

 

 

俺がさらっと目的を伝えると、目的を知っていた瞳子さんと夏未以外は全員驚いていた。

まあただの中学生がいきなり、自分の国のトップと話をしに来ただなんていったら驚くか。

 

 

「安心しろ。話をするのは俺と瞳子さんだけだから。その間はお前たちは練習をしてもらおうかなって思ってる。」

 

「そ、そうですか...」

 

「でも、どうして総理に会う必要があるんですか?」

 

「うん....まあちょっとね。お前たちが気にすることじゃないよ。」

 

 

みんなからの質問に、俺ははぐらかしながら答えた。

俺が総理に会う理由はもちろん、研崎について話すためだ。

奴が行っている研究...あれは非人道的な研究だ。必ず証拠を掴んで捕まえるためには、理事長の協力だけでは足りない。何としても国家権力レベルのコネクションを確立しておく必要がある。

 

 

「とにかく、奈良シカ公園に行くぞ。落成式が終わるまで待ってよう。」

 

「「「はーい。」」」

 

 

俺は話を打ち切り、奈良シカ公園の入口へと歩き出す。

だが公園に近づくにつれて、何やら騒がしくなってきていた。

ちらちらとSPっぽい人たちがあわただしく動いているが...何かあったのか?

 

 

「なんだか騒がしいですね。」

 

「それに...公園の入口のところに誰か立ってますね。」

 

「ああ。(あれは多分SPだな...確かに総理と大統領が参加している落成式だ。これだけ厳重な警戒態勢は普通かもしれんが...)」

 

 

何か違和感を感じるな。

少しわざとらしいというか、あからさまに警戒していますよ、と言った感じで。

まあとにかく話しかけてみるか。話はさすがに通っているだろう。

 

 

「すみません。」

 

「ん、何だい?」

 

「俺、嵐山隼人と申します。今日の午後から総理とお話しさせて頂くことになっているんですけど、通してもらってもいいですか?」

 

「何?......少し待て。」

 

 

そう言って、SPの人は通信機で通信を始めた。

何だ...?もしかして話が通ってないのか?

 

 

「.....ダメだ。ここを通すわけにはいかない。」

 

「なっ!?何でですか!」

 

「どこでその情報を聞いたか知らないが、残念だったな!嵐山君は既に奈良シカ公園にいる!」

 

「な、何だと...?」

 

 

一体どういうことだ?

俺が...もう一人いるとでも言うのか...?

 

 

「そもそも君、そのジャージは永世学園のジャージではないか。嵐山君は雷門中の生徒。全く...なりすますならもう少し頭を使いなさい。」

 

「なっ....俺は今、強化委員で永世学園に派遣されているだけです!とにかく通してください!もしかしたら俺の偽物が総理に危害を加えているかもしれない!」

 

「ははは、馬鹿なことを言うもんじゃないぞ。フットボールフロンティアで優勝した、あの嵐山君が総理に危害を加えるわけがない。.....それとも、君が危害を加えるつもりだったから、本物の登場が既にいることに焦っているのか...?」

 

「な、何を言って...」

 

 

 

「どうしたんだ!」

 

 

俺がSPの人と言い争っていると、階段の上から同じくスーツを着た女の子が降りてきた。

この子もSPなのか...?

 

 

「お嬢様...実は...」

 

「.....何?」

 

「.....なあ、とにかく俺たちを公園に入れてくれよ。約束の時間に間に合わないだろ。」

 

「....あんた、本当に自分が嵐山隼人だって証明できるのか?」

 

「当たり前だろ!俺が嵐山隼人だ!」

 

「ふぅん....でも、既に嵐山隼人は公園にいる。残念だけど、お前が偽物ってことになるんだよ。」

 

「お前...誰だか知らないが、さすがに俺も怒るぞ!」

 

「こっちは仕事でやってるんだ。...まああんたが本当にあの嵐山隼人だって言うなら、あたしたちのチームに勝てるかい?」

 

「はぁ....?」

 

 

こいつらのチーム...?

SPがサッカーチームを兼任してるってことか?

まあ今の総理はサッカー好きで有名だからな....

 

 

「さっきから黙って聞いていれば、嵐山さんを馬鹿にしやがって!」

 

「俺たちが嵐山さんが本物だって証明してやる!」

 

「お、おい...お前ら...」

 

 

「なら決まりだね!ついてきなよ。」

 

 

そう言って、女の子は階段を登っていく。

入口に立ったいたSPも女の子に続いて、階段を登っていく。

なんだ...結局公園には入れるのかよ....一体何だったんだ。

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

そんなこんなで、俺たちは公園の中にあるサッカーグラウンドへと来ていた。

何故公園にサッカーグラウンドが...まあこの公園、シカを放牧してるだけあって広いから、場所の有効活用ってことだろうけど....

 

 

「あたしたちはいつでも準備オーケーだよ!」

 

 

「やっぱり、SPがチームを組んでいるみたいだな...」

 

「...彼らは総理がサッカーが好きすぎるあまり、自身の護衛であるSPをサッカーチームにしてしまったという、SPフィクサーズというチームね。」

 

「SPフィクサーズ....」

 

「先ほどの女の子、彼女以外は大人で構成されたチーム....力の差はあるでしょうけど、あなたがいれば問題無く戦えるはずよ、嵐山君。」

 

「なるほど.....とりあえず、この試合はみんなの今の状態を知るために有効に活用させてもらう。...スタメンは俺、基山、八神、緑川、武藤、瀬形、本場、倉掛、蟹目、薔薇薗、砂木沼で行く。」

 

 

「ちぇっ...俺はベンチかよ。」

 

「僕もか。」

 

「悪いな、南雲、涼野。状況次第ではお前たちも使っていくから、しっかり試合を見ておけよ。」

 

 

 

さて...審判は古株さんにお願いしたし、とにかくこの試合に勝って、さっさと総理と話をしに行かなくちゃ。総理も時間に余裕があるわけじゃないだろうしな。

 

 

「それじゃ試合を始めるぞい。」

 

 

「覚悟しなよ、偽物。」

 

「そっちこそ.....俺が本物だって認めさせてやるよ!」

 

 

「それじゃあ....試合開始っ!」

 

ピィィィィィィ!

 

 

試合はSPフィクサーズのボールで始まった。

相手はボールを中盤にパスで回し、俺たちを翻弄し始めた。

さすがは大人の筋力、テクニック...しかも相手は人を守ることを生業としているSPだ。

ボールをキープするのもかなりうまいな。

 

 

「くっ...ボールが奪えない...!」

 

「隙が全く無い...!」

 

 

「お前たち、うろたえるな!今までやってきたことを忘れるな!」

 

「何っ!?」

 

 

八神や緑川が相手のキープ力に苦戦する中、俺はすぐさまフォローに入り、相手からボールを奪う。瞳子さんの言っていた通り、大人だとしても世宇子やバルセロナ・オーブよりは弱い!

 

 

 

「へえ...なかなかやるじゃん。さすがだなぁ...」

 

 

「お前たち、焦るな。この試合はお前たちにとって、初めてのまともな試合だ。緊張するのはわかるが、急いては事を仕損じる。落ち着いて、自分の出来ることをやるんだ!」

 

「「「はいっ!」」」

 

「まずは基本の動きからしていくぞ。俺が渡した作戦カードは覚えているか!」

 

「えっと、俺は大丈夫です!」

 

「私も大丈夫よ。」

 

「俺も!」

 

 

なるほどな。基山と八神、緑川は上達が早いし、覚えも良いみたいだ。

他の奴らも全くわからないって感じではないようだな。

 

 

「よし、なら覚えている奴を中心に動く。覚えていない奴はこの試合で体で覚えろ!」

 

「「「はい!」」」

 

「まずはフォーメーションジェミニ!」

 

 

俺の指示で、緑川が前線にあがっていく。

その後方で基山、八神が遅れながらもついていき、瀬形と武藤もついていく。

逆に俺は一人で反対サイドからあがっていく。

 

 

「何が狙いか知らないけど、あんたを止めたら終わりだよ!」

 

「来たか....悪いけど、君じゃ俺の相手にはならないぜ!」

 

 

俺は昨晩のドリブル練習を思い浮かべる。

彼女たちはそびえたつ木々...全速力を保ちつつ、その木々を避ける!

 

 

「なっ!?(は、速い...!)」

 

 

俺は彼女を抜くと、そのまま全速力でサイドを駆け上がっていく。

そのスピードにはSPフィクサーズの選手の誰もが追いつけず、俺は簡単に最奥まで辿り着いた。

 

 

「よし...決めろ、基山!」

 

 

俺はあがってきていた基山に向かってセンタリングする。

相手のディフェンダーは俺につられていたのと、最前線にいる緑川にマークがついていたため、基山は完全にフリーとなっていた。

 

 

「はあああああああ!」

 

 

バゴン!

 

 

基山は俺のセンタリングしたボールをそのまま空中でダイレクトボレーする。

ボールは良い角度でゴールへと向かっていくが、さすがに訓練されている。キーパーは冷静にそのボールの正面に入り、シュートを止める態勢になった。

 

 

「”セーフティプロテクト”!」

 

ドゴンッ!

 

 

基山の放ったシュートは、キーパーの必殺技によって簡単に止められてしまった。

さすがに簡単には決めさせてくれないか。だが今の動きが出来ているなら、何も心配はいらないな。むしろ心配すべきは....

 

 

「ワハハハ!いいぞ、タツヤ!その調子でどんどん打っていけ!」

 

 

あっちだよな....このレベルの試合なら俺が全部防いでもいいが、それじゃあこいつらの練習にはならない。ここからは少しペースを落として、砂木沼の練習に充てるか。

 

 

「こっちだ!」

 

「っ、お嬢様!」

 

 

キーパーからボールはさっきの女の子へと渡る。

なかなか良い動きをしている...このチームに所属している以上、恐らくはフットボールフロンティアには出場していないだろう。もったいないな。

 

 

「フォーメーションイプシロンだ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

俺の指示に全員がゴールから広がっていくようなポジショニングをして、中央がガラ空きになる。

 

 

「何が狙いだ...だけど中央を空けてくれたなら、中央から突破するのみ!行け、みんな!」

 

 

ボールは前線へと送り込まれ、SPフィクサーズのフォワードへとボールが渡った。

まさか中央をわざとらしく空けたのに、あえて中央から攻めてくるとはな。

だがそれでいい。そうすることでシュートチャンスが生まれる。

 

 

「(砂木沼...お前の力を覚醒させろ!)」

 

 

「ガラ空き!食らいなさい!”トカチェフボンバー”!」

 

ドゴンッ!

 

 

強烈なシュートが放たれ、砂木沼の守るゴールへと突き進む。

さあ砂木沼、お前の力を見せてみろ!

 

 

「ふん...その程度のシュート、嵐山のシュートに比べたら屁でもないわ!うおおおおおおお!」

 

 

砂木沼は正面からボールを抑え込みにかかり、両手でボールをわしづかみにして勢いを抑え込んでいる。だが、シュートの勢いはまるで衰えず、砂木沼は徐々にゴールへと押し込まれていき...

 

 

「ぬぐぐぐ....ぐおっ!」

 

 

そのまま抑え込んでいた手は弾かれ、ボールが腹に突き刺さり、ゴールへと押し込まれてしまった。これでSPフィクサーズが先制点か...

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

「ぐっ...す、すまん...」

 

「ドンマイです、砂木沼さん。」

 

「ああ....くっ....!」

 

 

 

「(まだ早かったか...?)」

 

 

砂木沼は他の奴らと比べて体が出来上がっていたし、年齢も上で精神的にも完成していると思っていたが...もう少しあいつとコミュニケーションを取っておくべきだったかもしれない。

 

 

「この程度かい、偽物さん。」

 

「ふっ...ここからさ、サッカーは。」

 

「そう...ま、あたしをがっかりさせないでよね。」

 

 

そう言って、女の子は自分のポジションへと戻っていく。

前半...もう少しだけ砂木沼をためしてみるか。

それでダメなら、後半は俺がディフェンスに入って、守りを固めるしかないだろうな。

 

 

その後、俺は本気は出さずに永世イレブンを中心にボール運びを行わせたが、やはり大人の体格や実践経験に及ばずなかなか攻め切ることができず、逆に何度も攻め込まれたことで全員が疲弊し、点こそ取られなかったものの、圧倒的な差を見せつけられていた。

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

「前半終了じゃ。」

 

 

「ハァ...ハァ....くそ...何もできなかった...」

 

「ハァ...ハァ....どうしてここまで差があるの...」

 

「俺たち...ハァ...そんなに...ハァ...弱かったか...?」

 

 

みんな、ベンチの前に倒れこみ、息絶え絶えといった状態だった。

俺はというと、多少の汗はかいているものの、ほとんど動いていなかったので体力は有り余っていた。少し抜きんでた実力を持つ基山ですら、倒れこんではいないものの、肩で息をしていた。

 

 

「嵐山さん...どうして前半、嵐山さんを中心に攻めなかったんですか...?」

 

「そうだな。...正直、君たちに足りていないものは何だと思う?」

 

「え...えっと、練習...ですか?」

 

「テクニック...スピード...それから必殺技も無いし...」

 

「そうだな。それら全部が足りていないのは確かだ。...だが一番足りていないものが一つある。それは経験だ。」

 

「「「「経験....」」」」

 

 

「練習すれば、その分だけ技術は向上するし、体力だってつくだろう。でもそれだけじゃサッカーは勝てない。いくら技術があろうが、体力があろうが...何も経験をしていない選手に価値はない。俺はそう思っている。」

 

 

あくまで持論だけどな、と俺は付け足す。

どんな技術を持っていても、それを生かす知識が無いと意味がない。

その知識はどう生まれるか....経験だ。もちろん、何かの資料とかを読めば多少は知識を深めることはできるが、実際にその場面に出くわしたことがあるやつと無い奴では、まるで動きが変わってくる。

 

 

「俺はこの旅で、お前たちの経験を増やしたい。そう思っている。」

 

「経験を...」

 

「増やす...」

 

 

「あの試合でこんなドリブルをして、こんなパスをした...あんなシュートを打った、カットした、ブロックした...色々あるだろう。そんな経験を積み重ねることで、お前たちはあらたな境地へと辿り着ける。」

 

 

あらゆる経験をした選手は、その場面に出くわすと体が本能で動く。

無意識のうちに、あるべき動きをしてくれる。その域まで行かなければ、世界と戦うまでには至れない。俺はそう考えている。

 

 

「後半は俺も守備に入る。だから攻撃の指揮は...」

 

「待ってくれ、嵐山!」

 

「....何だ、砂木沼。」

 

 

俺が後半の動きを説明しようとしたところ、砂木沼が叫び、話を中断させた。

俺を含め、全員が砂木沼の方を見る。

 

 

「...お前がディフェンスに入るのは、俺がゴールを守れると思っていないからか。」

 

「さ、砂木沼さん...」

 

「教えてくれ、嵐山。お前は俺を信頼していない、そうだろう。」

 

「.......そうだ。」

 

「っ...!」

 

「ちょ、嵐山さん!」

 

 

俺の正直な言葉に、砂木沼以外の全員が驚きを隠せずにいた。

当の砂木沼は、やはりか...と言いたげな表情をしていた。

本人に自覚がある以上、取り繕っても無駄だからな。それにこいつは、真剣に答えてやった方がいいタイプだと俺は思っている。

 

 

「今のお前に、俺が指揮するチームのゴールは任せられない。」

 

「そうか....くく.....フハハハハハ!」

 

「...(そこで笑えるのか、お前は。)」

 

「俺が力不足...それは認めよう!だが!俺は絶対にゴールを守って見せる!だから一度でいい...俺にチャンスをくれ、嵐山!」

 

「チャンスか...それで、その一度のチャンスでゴールを守れなかったら....お前はどうするんだ、砂木沼。」

 

「決まっている!ゴールを守れんキーパーなど不要!俺はサッカー部を辞めてやる!」

 

「さ、砂木沼さん!」

 

「勢いだけでそんなこと言わないでくださいよ!」

 

 

砂木沼の言葉に、全員が慌てふためいている。

止められないならサッカー部を辞める...か。

 

 

「なるほどな....お前の覚悟はわかった。いいぜ、後半...一度でもゴールを決められてみろ。お前はキーパーをクビだ。わかったな。」

 

「ふっ...わかっている!必ずゴールを守ってみせる!」

 

 

そう言って、砂木沼はいち早くゴール前へと走り出していった。

サッカー部を辞めるなんて、軽々しく口にするのは気に食わないが...ああいう熱い奴は嫌いじゃない。それにあれだけの想いがあるなら....お前はゴールを絶対に守ってくれるだろうな。

 

 

「嵐山さん、何であんなこと言ったんですか!砂木沼は本気でサッカー部を辞めますよ!?」

 

「基山...男と男の約束に口をはさむな。それに...お前は砂木沼を信じていないのか?」

 

「えっ?」

 

「俺は信じているよ。今のあいつなら、必ずゴールを守ってくれるってな。」

 

「それって...」

 

 

俺は基山の返事を聞かずに、自分のポジションへとつく。

さあ、砂木沼...お前の力を見せてくれよ。俺を驚かせてみせてくれ。

 

 

「それでは後半戦を開始する!」

 

ピィィィィィィ!

 

 

俺たちのボールで試合が再開した。

基山から俺へとボールが渡るが、俺はそのボールをあえて相手チームのフォワードへとパスする。

 

 

「「「なっ!?」」」

 

 

「お前の覚悟を見るなら、早い方がいいだろう。さあ、見せてみろ砂木沼!」

 

「ふっ...面白い...燃えてきたぞ、嵐山ああああああああああ!」

 

 

「何が何だかわからんが、シュートを打たせてくれるなら打ってやるよ!」

 

 

「あ、嵐山さん!一体何を!」

 

「いいから見てろ。」

 

 

 

「くらえ!”セキュリティショット”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

SPフィクサーズのフォワードがシュートを放った。

先ほどの”トカチェフボンバー”の方が威力は高そうだが....さあ、砂木沼。

お前はこのシュート、どう止める?

 

 

「(俺はまだ信頼に値する男ではない...嵐山がそう思っているのも仕方ない。俺はまだ一度もゴールを防げていない!前半、1点で済んだのも相手がゴールを外していたからだ。もしかしたら、もっと点を取られていたかもしれん.....だが!最強のキーパーとなるのはこの俺だ!この程度で躓いてなどいられん!)うおおおおおお!」

 

 

「っ!(来る...!)」

 

 

「ゴールは俺が守る!”ワームホール”!」

 

 

砂木沼が腕をクロスさせると、前方に緑色のネットのようなものが広がった。

相手のシュートがそこへ吸い込まれるとボールは消え、どこにいったかわからなくなった。

だが次の瞬間、砂木沼の真横に同じようなネットが出現すると、そこから地面に向かってボールがはじき出される。

 

 

「なるほどな...これがお前の必殺技か。」

 

「と、止めた...砂木沼さんが止めたぞ!」

 

 

「ふっ...フハハハハ!どうだ、嵐山!俺が止めてみせたぞ!」

 

 

ふっ...面白い奴だな。だが試合はまだ終わっていない。

ここからが本当の勝負だ。

 

 

「攻めるぞ!パスを回していけ !」

 

「「「おう!」」」

 

 

砂木沼がシュートを止めたことで、永世イレブンは勢いづいていた。

砂木沼から倉掛、そして武藤、八神へとボールが渡っていく。

 

 

「よし...フォーメーションストーム!」

 

「「「了解!」」」

 

 

俺が指示を出すと、基山、八神、緑川が高速でパス回しを行い始める。

SPフィクサーズがそれを止めようと割り込んでくるが、あまりの速さについていけていないようだった。

 

 

「ぐっ...何だこれは...」

 

「これがフォーメーションストーム!目にもとまらぬパス回しで相手を攪乱するのさ!」

 

「そして......嵐山さん!」

 

 

「「「しまった!」」」

 

 

そして、気を取られているうちにあがってきたもう一人のフォワードにボールが渡る。

それがフォーメーションストーム!まるで必殺タクティクスみたいだが、これはあくまでフォーメーションの話...必殺タクティクスはまだこいつらには早いからな。

 

 

 

「読んでいたよ!」

 

「おっと...やるね、君。」

 

 

だがあの女の子は俺の動きを読んでいたみたいで、先回りして俺の前へとあらわれた。

どうやら彼女はこのチームでもなかなかレベルが高いみたいだな。

だけど...!

 

 

「ここは通さない!”ザ・タワー”!」

 

 

彼女はレンガのような塔を作り出すと、その受けから無数の雷を振らせてきた。

だが俺はそれを軽く避けると、どんどん敵の陣内へと攻め込んでいく。

 

 

「くっ...あたらない...!」

 

「悪いけど、俺が見据えているのはもっと高みなんでね。ここで負けてなんていられないんだ!」

 

 

俺はそのまま電撃を躱し、ゴール前へと駆けあがる。

SPフィクサーズのディフェンダーが俺の前に立ちはだかるが、俺はそれをドリブルで軽く躱していく。

 

 

「ば、馬鹿な...」

 

「守りを主とする俺たちが....」

 

「こうもあっさり抜かれるなんて...!」

 

 

 

「すごい....すごいよ....さすがは嵐山隼人だ...!」

 

 

 

「まずは1点、もらおうか!」

 

「むっ....来い!」

 

「”ウイングショットV3”!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺はさらに進化した”ウイングショット”を放つ。

これまでとはさらに違う、俺のシュート....止められるかな!

 

 

「防いでみせる!”セーフティ....なっ!?速いっ!」

 

ズドンッ!

 

 

俺の放ったシュートを防ごうと、相手のキーパーは必殺技を繰り出そうとしたが間に合わず、ボールはキーパーの真横をすり抜けてゴールへと突き刺さった。

 

よし...これでまずは1点だ!

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

「さすが嵐山さん!」

 

「ナイスシュートね。」

 

「ああ、ありがとう。...次はお前が決めてこい、緑川。」

 

「は、はいっ!」

 

 

そして試合はそのまま俺たちがペースを握り、相手のシュートは砂木沼が完璧に止めてみせ、勢いづいた俺たちの攻撃を相手は止めることができず...

 

 

「くらえ!”アストロブレイク”!」

 

「”セーフティプロテクト”!....ぐあっ!」

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

 

ついには緑川がゴールを決めたことで2vs1と逆転。

ここで俺はベンチで控えていたメンバ―を投入し状態の確認を行ったが、ベンチメンバーも気合が入っていて相手を圧倒...結果、点は取れなかったが終始ボールを俺たちがキープする形となり、2vs1のまま試合終了、俺たちの勝利となった。

 

 

「試合終了!選手は整列を。」

 

 

古株さんの呼びかけに、俺たちはフィールドの中央に集まる。

 

 

「それでは、礼!」

 

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

 

俺たちは正面の選手と握手する。

俺の正面は先ほどの女の子だ。

 

 

「いや~負けたよ。さすがはあの嵐山隼人だね。」

 

「...なんだ、やっぱりわかっていたのか。」

 

「はは、悪かったね。あたしがあんたのファンでさ...あたし、あんたと勝負してみたかったんだ!」

 

「そうか...ま、今度からはこんなこと辞めてくれよ。」

 

「ははは...悪かったって。パパに頼んで仕組んでもらったんだ。」

 

「...パパ?」

 

「あ、自己紹介がまだだったね。あたし、財前塔子。パパは財前宗助...つまり総理だよ。」

 

「総理の娘さんだったのか....」

 

 

通りでこんなことができたわけだ。

その後は俺と財前は親睦を深めつつ、当初の予定であった総理との会談を行わせてもらった。

 

 

「なるほど...そういうことだったのか。」

 

「ええ...なのでできれば、調査にご協力いただければと思っています。」

 

「そうだな...それが本当なら、この国で密かに人体事件が行われていることになる。そんなこと、この国の総理として許してはおけない。」

 

「では、協力して頂けるんですか...?」

 

「ああ。必ず証拠を見つけると約束しよう!だから君たちも、そんな汚い連中に負けずに頑張ってくれ!」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

 

良かった...これで勝負に勝った後のことを任せられる。

それにしても正義感の強い、頼もしい総理だな。

 

 

「それにしても研崎竜一か...彼はあまり良い噂を聞かない男だった。」

 

「知ってるんですか?」

 

「ああ。彼は吉良星二郎の側近になる前は製薬会社に務めていたんだ。だがその会社で新薬の開発に関わる騒ぎを起こしてクビになっている。その後、キラスター製薬に再就職したんだが、それ以降、キラスター製薬では黒い噂が流れるようになってね。」

 

「それが...今回の騒動に関する怪しい噂...というわけですか。」

 

「ああ、私はそう睨んでいる。」

 

 

研崎竜一....何とかして奴の野望を食い止めないと、永世学園にも悪い噂が流れることになるだろうな。そうすれば、あいつらの居場所がどんどんなくなっていく。何としても、3月の試合に勝たなくちゃな。

 

 

「それではこちらも色々動いてみる。今日は有意義な時間をありがとう。」

 

「試合してくれてありがとうね。また今度、機会があったら試合しようよ!」

 

 

「いえ、こちらこそ。...財前も、元気でな。」

 

「塔子でいいよ。...また会えるよね?」

 

「サッカーやってればいつかまた会えるさ。だからサッカー、続けてくれよな。」

 

「うん!」

 

 

俺は塔子と握手する。

そのまま手を放そうとすると、いきなり塔子に抱き寄せられた。

 

 

「おわっ...!」

 

「今日はありがとう!あたし、あんたのファンで本当に良かったよ!これからも頑張ってね!」

 

「お、おう。」

 

「んん!嵐山くん....そろそろ離れたらどうかしら!」

 

「な、夏未...何故そんなに怒ってるんだ...それに俺は抱き着かれてる方で...」

 

「言い訳無用!」

 

「そんな...」

 

 

 

そんなこんなで、俺たちは総理と塔子たちと別れ、キャラバンへと戻るのであった。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

研崎 side

 

 

「くくく....素晴らしいデータだ。やはり私の研究は間違っていなかったのだ。」

 

 

忌々しい奴らめ...私の研究を危険だの、非人道的だの言ってくれおって。

人間の限界を超越する薬など、人類をさらに発展させるための至高の薬ではないか。

確かに人体に及ぼす影響はあるが、そんなもの人類の発展には些細なことだ。

 

 

「くくく...私を排除した忌々しい人間どもに復讐する...私が作ったハイソルジャーたちが、世界の頂点に君臨する...素晴らしい....素晴らしいぃぃぃぃぃ!アヒャヒャヒャヒャハ!」

 

 

そして何れ研究が完成した暁には、私もこの”エイリアンエナジー”で...人類の頂点へと登り詰めるのだ...!

 

 

「ヒャハハハハハハハハハ!」

 

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

円堂大介のノート

嵐山 side

 

 

奈良での総理との会談を終えた俺たちは、次の目的地を決めるまで奈良に滞在することにしていた。さすがに道場破りが如く、いきなり学校に突撃して試合を申し込むわけにもいかないからな。

 

 

カタカタカタ

 

 

「う~ん...どこも対戦相手としては微妙なんだよな...」

 

 

ここの近くだと京都の漫遊寺中があるが、あそこは少林が強化委員として出向いている。

まだ強化委員として入ったばかりの後輩に迷惑をかけるわけにもいかないし、それに漫遊寺中は試合をしないことで有名だ。いくら少林がいるとはいえ、すぐに試合をするのは難しいだろう。

 

一応、少林にメールはしておくが....試合ができるのは暫く後だろうな。

 

 

「う~ん.....後は近くだと美濃道山、戦国伊賀島中だが...ここも壁山が強化委員で入って間もないし、戦国伊賀島は全国レベル。あいつらが試合するにはまだ早すぎる。困ったな....」

 

 

伝手が無いから、もう強化委員が入っている学校に申し込んで、その学校で別の学校を紹介してもらうしかないか...?

 

 

ピロンッ

 

 

「ん......響木監督から?」

 

 

対戦相手の学校に悩んでいると、響木監督からメールが届いた。

 

 

「何々.......『全国を回っているお前に頼みがある。福岡の陽花戸中という学校を知っているか?実はその学校は大介さんが一時期通っていた学校でな。今の校長が大介さんの知り合いらしい。そしてその校長から俺宛に連絡があって、円堂大介のノートを孫である守くんに渡したい、と言っているんだ。だが俺も円堂も福岡まで行っている余裕が無い。悪いがお前にノートを届けてもらいたいんだ。郵送も考えたが、大介さんのノートはできれば丁重に、そして極秘に扱いたい。もしかしたら影山のような奴らがいて、そいつらの手に渡るかもしれないからな。...頼めるか。』....か。」

 

 

円堂のお祖父さんのノート、円堂が持っているの以外にもあったのか。

それに、福岡の陽花戸中...無名だが円堂のお祖父さんの出身校なら、何か面白い原石が見つかるかもしれない。

 

 

カタカタカタ

 

 

「『了解です。俺が陽花戸中に出向いてノートを受け取ります。ノートを受け取ったら連絡します。』...と。」

 

 

よし...これで次の目的地が決まったな。

瞳子さんにもお願いしておかないと。

 

 

.....

....

...

..

.

 

タツヤ side

 

 

「みんな揃ったわね。嵐山君と話し合って、次の目的地は福岡の陽花戸中に決まったわ。学校についたら合同練習、そして練習試合を行う予定よ。移動は10時間程度かかるから、適宜休憩と練習時間を入れながら移動するわ。」

 

 

瞳子姉さんはそう言うと、キャラバンの助手席に座った。

それにしても福岡か...俺たちは静岡、そして東京にしか行ったことが無い。

こうやっていろんな場所にみんなと行けるなんて、すごく楽しいな。

 

 

「スゥ....スゥ....zzzz....」

 

 

それもこれも、嵐山さんが俺たちに機会をくれたからだ。

嵐山さんがいなかったら、今もきっと俺たちはサッカーをするなんて選択肢、なかったと思う。

そう考えると、偶然とはいえ嵐山さんに出会ってくれた玲名には感謝するところだけど...

 

 

「ぐぐぐ...あの女....隼人の寝顔を見れるだけでなく、肩に頭を乗せられているだと...!」

 

「れ、玲名...ちょっと落ち着きなよ...」

 

「くっ...私が隼人の隣に座れていたら....!」

 

 

今、嵐山さんは仮眠を取っているんだけど、隣に座っている夏未さんの肩に頭を乗せている状態になっている。夏未さんは最初驚いていたけど、最終的にはまんざらでもない表情をしていた。

 

それを見た玲名がなぜか怒り狂っている。玲名は嵐山さんのことが好きなんだろうか。

 

 

 

「それにしてもよ、お前らはどうやって必殺技を習得したんだよ。」

 

「私もそれが気になっている。私たちは何度やっても習得できないんだ。」

 

「う~ん...嵐山さんが言ってたけど、自分の想いを形にするっていうか...」

 

「俺は絶対にゴールを守ってやるという気合で繰り出せた気がするぞ。」

 

 

想い、気合...か。結局は精神的なものだってことなんだろうけど、それじゃあ必殺技を出したい、必殺技を使ってみたいって気持ちはダメなんだろうか。

 

俺はそこまでだけど、南雲と涼野はそういう気持ちが人一倍あると思うんだけどな。

 

 

「あとはさ、必殺技のイメージを固めるのが大事なんだよ。俺も人に言えるほどじゃないけど...初めて必殺技を放った時、こんな必殺技を打ちたい、こんな必殺技が打てたら!みたいなイメージはあったから。」

 

「イメージか.....俺は紅蓮の炎ですべてを焼き尽くす!そんなイメージしてるぜ。」

 

「私も、凍てつく闇をイメージしはいる。」

 

「はっ、何だよ凍てつく闇って。中二病かよ。」

 

「な、う、うるさい!紅蓮の炎も大概だろう!」

 

「何だと!」

 

「だいたい私たちは中学1年生!別に問題無い!」

 

「そこじゃねえ!」

 

 

もう...この二人は相変わらずだな。

この調子じゃ、二人が嵐山さんと一緒にフォワードで出場するのはまだ先になりそうだな。

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

「んん~!...ふぅ...よく寝た...!」

 

 

あれから福岡に向けて出発したらしく、俺が寝ている間に随分と移動したようだ。

でも古株さんの体力や、ずっと座りっぱなしで体がなまることを考慮して、今日はここで野宿することになっている。ここはだいだい岡山と広島の県境付近だ。明日の夕方には福岡につくだろうな。

 

 

「ごめんね、夏未。肩重かったろ。」

 

「いえ、大丈夫よ。(とても有意義な時間だったわ。)」

 

「そう?ならいいけど。」

 

 

案外疲れていたみたいで、結構な熟睡だったんだけど、隣に座っていた夏未の肩に頭を乗せちゃっていたみたいで、悪いことをしたと思っていた。

 

 

 

「なあ、嵐山さん。」

 

「ん?どうした、南雲。」

 

「あんた....マネージャーと付き合ってんのか?」

 

「.....まずどうしてそう思ったのか、聞こうか。」

 

 

俺は突然の質問に思わずそう聞き返す。

俺と夏未は別に付き合ってるわけではないんだけど...結構いろんな人にそれ言われるんだよな。

これを機に何故そう思われるのか確認して、行動を改めた方が良いかもしれない。

 

 

「え、いや...だってよ...」

 

「なんだ、言い辛いのか?」

 

「いや、その......距離感が近い、というか....ああ!何か言葉にすんのも恥ずかしいわ!」

 

「えぇ~.....」

 

 

南雲は顔を真っ赤にしながらそう叫んだ。

言葉にするのも恥ずかしいって、俺は一体夏未とどんなことをしているというんだ...

逆にそれが気になってきたぞ。

 

 

「と、とにかく!あんたらは付き合ってんのか?」

 

「い、いや...付き合ってないけど...」

 

「そ、そうか.......なら今度、八神の相手もしてやってくれよ。」

 

「え?何でそこで八神?」

 

「いや...その.....あ、あいつ、俺たちくらいしか男の友達いねえから!」

 

 

それは多分、倉掛と薔薇薗もなんじゃないのか...?

まあ八神はこいつらの中で初めて出会った子だし、何となく接しやすさはあるけど。

 

 

「逆に聞くけど、南雲は誰かと付き合ったりしてないのか?」

 

「え、俺?....まあ気になってる奴はいるぜ?」

 

「へえ、誰?」

 

「いや、あんたは知らない奴だ。同じお日さま園にいるんだけど、あいつはサッカー部には入らなかったからな。」

 

「そうなんだ。どんな子?」

 

「...めっちゃ聞いてくるじゃねえか。」

 

 

いや、だって気になるし。それにもっとみんなのことを知りたいからな。

こうやって積極的に話しかけてくれる奴は、南雲と涼野くらいだ。

基山もまあ話しかけてはくるけど、公言してる通り俺のファンだ!って感じでプライベートな話を喋りにくいんだよな...

 

 

「あいつは勝気な奴だからな...俺がサッカーうまいのもあって、結構苦労するぜ。」

 

「ふ~ん....でも、好きなんだ。」

 

「う、うるせえ...何か放って置けねえんだよ。....あいつ、学校であいつらに噛みついてないといいけど。」

 

 

何か南雲にもこういう一面があるのを知れてよかったな。

やっぱりもっとみんなとちゃんと話をする機会を設けるべきか。

 

 

「なあ、嵐山さん。俺、まだ全然必殺技をものにできねえんだ。何かアドバイスはねえか?」

 

「そうだな.....南雲はどんな必殺技を習得したいんだ?」

 

「そりゃ、紅蓮の炎ですべてを焼き尽くすようなシュートだよ。」

 

「なるほどね....そうだなぁ.......」

 

「....(この人は笑わずに、真剣に考えてくれるんだよな....何だかんだでこの人を頼りにしちまってる。俺はこの人に勝ちたいってのによ...)」

 

「う~ん.........(そういえば、南雲の髪型って何か太陽?みたいな感じだよな。いや...チューリップ...?)」

 

 

い、いかん...変なことを考えてしまった。

だけど太陽か....紅蓮の炎ってイメージにもピッタリだし、何かそっち系でイメージできれば必殺技も習得できる気がするけどな。

 

 

「たとえば、炎って聞くと何をイメージする?」

 

「炎......そりゃ、コンロとか、焚火とか...」

 

「もっとスケールアップしよう。それこそ宇宙規模で考えてみなよ。」

 

「宇宙規模...........あ、太陽...か?」

 

「そうだね。そうやって連想できるなら大丈夫だ。太陽のような燃え盛る炎をイメージした必殺技とか、どうだ?」

 

「お、おう................っ、確かに....今までより何となくイメージが固まった気がするぜ!」

 

「そうか。....まああとはそのイメージをしっかり固めることと、そのイメージを実現できるような実力を身に着けることだな。」

 

「そうか....わかったぜ、嵐山さん!おっしゃあ!燃えてきたぜ!」

 

 

そう言って、南雲は走り去っていった。

どうやらアドバイスをしっかり受け取ってくれたようだな。

 

さて...元からわかっていたことだけど、このチームは攻撃に特化している。

俺が入る前からフォワードが多めで、ミッドフィルダーもどちらかというと攻撃タイプが多い。

中盤を支配するような指揮官はいないし、絶対的安心感のあるディフェンダーもいない。

 

だが基山、南雲、涼野が覚醒してくれたら、攻撃は安心できる。

現に今も攻撃力に関しては十分ある。シュート力が無いのが欠点だが。

 

砂木沼は必殺技を覚えたことで自信を持ったのか、どんどん動きも良くなっている。

年長という点もあるだろう。あいつにとって来年のフットボールフロンティアは最初で最後の念願の出場だからな。

 

指揮は俺が取ればいい。ならばこのチームで俺が次にやるべきこと、それは.....

 

 

「倉掛、蟹目、薔薇薗...少しいいか。」

 

 

ディフェンダー陣の強化だ。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

??? side

 

 

「お疲れ様です!すみません、日直の仕事が長引いちゃって......って、皆さんどうしたんですか?」

 

 

俺が日直の仕事が長引いてしまい、部活に遅れてきたところ、なぜか先輩たちが集まって練習もせずに何かを準備していた。

 

 

「おお、来たか立向居!お前もこっち来て手伝え!」

 

「て、手伝えって...これ、何ですか?飾り付け...?」

 

「聞いて驚け、立向居。何とな....明日、この学校に嵐山さんが来るそうだ!」

 

「嵐山さんって、あの....?」

 

 

雷門中のエースストライカーで、円堂さんと一緒に雷門中のサッカー部を立ち上げた初代メンバ―の一人で、あのフットボールフロンティアの決勝戦で世宇子中というダークホースでありながら圧倒的な実力を誇っていたチーム相手にハットトリックを決めて優勝を決めた、あの...!?

 

 

「そう!あの嵐山さんだ!」

 

「ほほほほほほほほほ本当ですか!?」

 

「本当だ!」

 

 

ほ、本当にあの嵐山さんが、この学校に...!?

で、でも雷門中の皆さんは強化委員として、いろんな学校に派遣されているんじゃ...

え、も、もしかしてこの学校に強化委員として来てくれるってことじゃ...!

 

 

「ああ、強化委員として来るわけではないぞ。」

 

「あ、そうなんですか...」

 

それは残念....せっかくだから俺のあの”必殺技”、嵐山さんに見てもらいたかったのに。

それに嵐山さんなら、もしかしたら”あれ”もできるよう、俺に指導してくれるんじゃないかって淡い期待を持ったりして...

 

 

「だがしかし、合同練習と練習試合を行うことになっている!」

 

「え.............ええええええええええええ!?」

 

 

そ、それじゃあもしかしたら、あの嵐山さんと勝負できるかもしれないんだ...!

早くためしてみたい....嵐山さんのシュートに、俺の”ゴッドハンド”がどこまで通用するか...!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

トレーニングとそれぞれの現在

嵐山 side

 

 

「いいぞー。その調子。」

 

 

俺は今何をしているかというと、声をかけた三人に対して特別メニューを与えてそれを見守っている。

 

 

「ゼェ...ハァ....こ、これめちゃくちゃきつい....」

 

「ハァ...ハァ.....これ.....本当に....意味....あるんですか....」

 

「ゲホッ...ハァ....ハァ....」

 

 

あらら...薔薇薗に至っては限界迎えて声も出てないや。

俺が彼らにやらせているのは、いわゆるラダーだ。

ラダーを床に置き、その隙間を走ったりするアレ。

 

 

「倉掛、意味があるかって言うが...このトレーニングはサッカーの基本中の基本のトレーニングだぞ。」

 

「えっ....そうなんですか...?」

 

「ああ。このトレーニングはプロでもやってる人がいるくらいだ。...まあただやってるだけじゃ、効果はわからんからな...」

 

「ウプッ....すみません....吐いてきても...?」

 

「そんなにきつかったか。よし、吐いてこい。」

 

 

俺がそう言うと、薔薇薗はすぐさま走り去っていった。

ちょっと可哀そうなことをしたかもしれんが...こういう地道なトレーニングの積み重ねが、一番重要だからな。

 

 

「お前らは大丈夫か?」

 

「ハァ...ハァ...何とか...俺はダイジョブ....です...」

 

「私...ちょっと限界....」

 

「そうか。...なら倉掛は休憩、蟹目は俺と一緒にもうひと頑張りしよう。」

 

「助かった....」

 

「うす...」

 

 

倉掛はその場に倒れこんだ。おいおい...クールダウンはしとけよ~。

さて...俺も蟹目の参考になれるよう頑張りますかね。

 

 

「よし、蟹目。俺の動きをよく見てろ。」

 

「うす。」

 

 

俺は自分用のラダーを準備すると、トレーニングを開始する。

動き自体は、蟹目たちとそこまで変わらないんだけどな。

 

 

「どうだ、蟹目。俺とお前たちの違いがわかるか?」

 

 

俺は動きを止めずに蟹目に問う。

 

 

「えっと...スピード、ですか?」

 

「ああ...まあそれもあるけど、そこは慣れだ。別に早いことが正しいわけじゃない。ラダートレーニングはな、正しい姿勢を身に着けるためにやるんだよ。」

 

「正しい姿勢......っ!嵐山さん、足元をほとんど見ていない。」

 

「そう、正解だ。サッカーにおいて、ボールを持ったプレイヤーはどうしても足元に目が行く。だがそうすると視野が狭まってしまうから、相手の接近や味方の状況の把握がどうしてもうまくいかない。ディフェンダーがボールを持っているってことは、ほとんど自分たちの陣地に押し込まれている状況だ。そんな状況で視野が狭まっていたら、簡単にボールを奪われてゴール前まで持っていかれるだろ?」

 

「確かに....」

 

「それにラダーは自分の歩幅を確認するのにも使える。正しい姿勢、正しい歩幅で走れば、無駄な体力を使わず、なおかつ早く走れる。この前の試合、攻め込まれていたとはいえかなり消耗したろ?」

 

 

俺の言葉に、蟹目と倉掛、いつの間にか戻ってきていた薔薇薗が激しく首を振った。

 

 

「最初は足元を見てもいい。だけど徐々に顔を上げていき、最後はほとんど足元を見ない。それができるようになれば、正しい姿勢が完成する。そしてそれをしっかりと体に覚えこませれば、試合でもその姿勢が維持できる。わかったか?」

 

「「はい!」」

「うす!」

 

 

「よし。じゃあラダーの続きだ。」

 

 

俺がそういうと、三人は再びラダートレーニングを再開した。

このチームはディフェンダーが少ない。数少ないディフェンダーの守備範囲が広がれば、人数が少ないという欠点も無くなってくる。パスに弱いのは仕方ないけどな。

 

 

「あとは....八神、熱波、武藤、本場あたりか。本場は体格もいいし、ディフェンス寄りの動きを任せたいところだな。」

 

 

あとは八神、あいつは基本的なIQも高いから、俺と二人で中盤を動かすことができるよう、色々詰め込む必要があるな。熱波、武藤はもう少しパスの精度を上げてくれたら文句はない。

あの二人はドリブルもうまいし、特に熱波は対応力がある。逆に武藤はキック力もあるし、フォワード寄りの動きがいいかもしれないな。

 

 

「やることが多くて困る。...だが楽しい。」

 

 

さてさて...次は誰が覚醒してくれるかな。

それに俺自身も、もっともっとレベルアップしなくちゃな。

”ウイングショット”、そして”天地雷鳴”...あれだけじゃ世界には通用しない。

もっと強力なシュートが打てるようになるには...俺自身がレベルアップしなくては!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

鬼道 side

 

 

「鬼道さん!アップ終わりました。」

 

「ああ。では次はパス禁止のミニゲームを行う。」

 

「パス禁止...ですか?」

 

「ああ。オフェンスにはドリブルによる突破力を、ディフェンスにはドリブルに対する対応力を鍛えてもらう。」

 

「なるほど....」

 

「水神矢、お前がキャプテンなんだ。指揮はお前に任せる。」

 

「は、はい!」

 

 

まだ1年の水神矢には重たいだろうが、俺以外が1年である以上、チームをまとめるのは1年がやるしかない。新設校だと聞いていたが、まさか1年しか所属していないとはな。

 

だが、彼らの動きには目を見張るものがある。特に水神矢、折尾の動きは悪くない。

後は誰もが認めるほどのストライカー....嵐山や豪炎寺ほどとは言わないが、これぞエースストライカー、というような活躍をしてくれるストライカーがいれば良いんだがな。

 

 

ピロンッ!

 

 

「ん.....嵐山か。....ふっ、あいつらしいな。」

 

 

嵐山から送られてきた、鹿と戯れる嵐山たちの姿に思わず笑みがこぼれる。

既に豪炎寺は実績を残し始めているし、染岡も面白い選手を見つけたと言っていた。風丸からも帝国の様子は何度か聞いているし、雰囲気も良さそうだ。

円堂は未だに部員を集めている途中らしいが....まあ、あいつなら何とかするだろう。

 

しかし、嵐山も苦労が絶えん男だ。影山の次は研崎とやらが邪魔をしてくるなど、トラブルに好かれているんじゃないだろうか。

 

 

「あ、お兄ちゃん!先輩から連絡来たの!?」

 

「ああ。...鹿と戯れているらしい。」

 

「あはは、楽しそうだなぁ。それにしても夏未さんが先輩を追いかけていくなんて....私も永世学園に行けばよかったかな...」

 

「ふっ...兄妹の時間を過ごしたいと言ったのはお前だろう。寂しいことを言うな。」

 

「もちろん、お兄ちゃんも大事だよ!」

 

 

そんなことを喋りながら、俺たちは嵐山の無事を祈っていた。

 

 

.....

....

...

..

.

 

豪炎寺 side

 

 

「豪炎寺!」

「今日こそは!」

「俺たちが勝つっしょ!」

 

「ふっ...今日も俺が勝たせてもらおう。」

 

 

俺は勝たちの相手をしながら、これからのことを考えていた。

今このチームは、連携を極めることを目標に団結している。

チーム力を上げることで、世界と渡り合う...それが俺の掲げる目標だ。

 

だがそれと同時に、俺には勝ちたい相手がいる。

俺の無二の親友であり、最高のライバルである嵐山隼人。

奴は今頃、さらにレベルアップしているだろう。

俺も負けてなどいられない。何れは雷門のエースストライカーの座を賭けて、勝負するために。

いや...世界と戦う日本代表のエースストライカーの座を賭けるのも悪くないな。

 

 

 

「そのためには...あらたな必殺技を身につけなければな。」

 

「お、豪炎寺が新しい必殺技にチャレンジか?」

 

「二階堂監督...」

 

「お前の”ファイアトルネード”、そして嵐山君との”ファイアトルネードDD”。あれは痺れたなぁ。今度はこのチームで、どんな技を完成させるつもりだ?」

 

「そうですね....俺自身の、サッカーに対する回答...そんな必殺技を生み出せたらと考えています。」

 

「ほお...随分とまた深いことを言うな。だが私はお前ならその技を完成させると信じている。頑張れよ?」

 

「はい!」

 

 

世界と戦うために、さらにレベルアップする。

待っていろ、隼人。今に追いついてやる。

そして二人で、世界を相手に戦える日を楽しみにしているぞ。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

「ついた...ここが陽花戸中か。」

 

 

「っ!あ、嵐山さんですよね!」

 

「ん...お、おう。そうだけど...」

 

「お待ちしておりました!俺、陽花戸中サッカー部のキャプテン、戸田雄一郎と申します!」

 

 

元気いっぱいだな...めちゃくちゃ歓迎されてるし。

何か校門に飾り付けされてるし、垂れ幕まであるし...一体何なんだこの学校...

 

 

「俺たち、雷門中のファンで....その初代メンバーである嵐山さんがうちに来てくれるなんて、感激です!」

 

「あ、ありがとう.....でいいのかな。」

 

「それに、紹介したい奴がいるんです!....ほら!立向居!」

 

 

戸田が手招きしながら呼ぶと、その立向居という奴はガッチガチに固まりながらこちらへ歩いてきた。さすがに緊張しすぎだろ....大丈夫かこいつ。

 

 

「え、えっと...お、俺、立向居勇気です!ぽ、ポジションはキーパー!憧れの人は円堂さん!対戦してみたい相手は嵐山さんと豪炎寺さんです!」

 

「お、おう....それは嬉しいな。良かったら勝負しよう。」

 

「ここここここここここ光栄ですっ!」

 

 

ほ、本当に大丈夫なのか...?

そんな心配をしていると、校内から歳の行った男性が歩いてきた。

手にノートを持っているし、あの人が校長かな...?

 

 

「初めまして、私が陽花戸中の校長です。響木さんから話は聞いています。」

 

「どうも、初めまして。嵐山隼人です。今日はお時間いただいて、ありがとうございます。」

 

「いえいえ、こちらこそわざわざ取りに来て頂いて...こちらがそのノートになります。」

 

「はい。確かに受け取りました。....必ず守くんに引き渡しますので。」

 

「ええ、ええ...よろしくお願い致します。ああ、それと、サッカー部と合同練習、練習試合をすると伺っております。是非ゆっくりしていって下さい。...後は頼みましたよ、戸田君。」

 

 

そう言って、校長は校舎の中へと戻っていった。

これが円堂大介のノート....円堂が持っていたノートとは別物だが、字の汚さは変わりないな。

 

 

「とりあえず、今日はもう遅いので合同練習は明日でよろしいでしょうか。」

 

「ええ。こちらとしても長旅の疲れを癒してからにしたいので...明日は何時にしましょう。」

 

「そうですね...私たちはいつも朝練は9時から初めてますので、それまでに来ていただければ大丈夫です。」

 

「わかりました。...嵐山君、それで良いかしら?」

 

「ええ、問題無いです。」

 

「それでは、明日はよろしくお願いします!」

 

「「「よろしくお願いします!!!」」」

 

 

さて...立向居勇気か。見た目からは想像できないが、彼からは円堂のような雰囲気を感じた。

円堂に憧れるキーパーか....ふふ、なんだか俺が嬉しくなってしまうな。

 

彼は俺と勝負したいと言っていたし、明日の合同練習が楽しみだ。

 

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの魔神

ちょっと短いです。


嵐山 side

 

 

「今日は合同練習という形でグラウンドを貸していただき、ありがとうございます!本日はよろしくお願いします!」

 

「「「よろしくお願いします!」」」

 

 

「い、いえこちらこそ!嵐山さんや、その指導を受けている永世学園の皆さんと一緒に練習ができて光栄です!こちらこそよろしくお願いします!」

 

 

陽花戸中についた翌日の朝、俺たちは陽花戸中のグラウンドに集まっていた。

今日は彼らと合同練習を行い、最後に練習試合をする予定だ。

 

 

「あ、あの...嵐山さん!」

 

「お、立向居か。どうしたんだ?」

 

「えっと...お、俺、嵐山さんに見てもらいたい必殺技があって.....俺と勝負してくれませんか!」

 

「へぇ...」

 

 

俺に見てもらいたい必殺技か。勝負を挑んでくるあたり、その必殺技に自信でもあるのか?

面白いな...俺も彼の実力を見ておきたかった。円堂と似たオーラを感じる、この男の力を。

 

 

「いいよ。立向居の必殺技、見せてもらおうか。」

 

「は、はいっ!」

 

 

そういうことで、俺と立向居の勝負が始まった。

さて...相手が本気で俺と勝負しようってんだ。俺も本気で行かせてもらおうか。

 

 

「本気で行くぜ、立向居!」

 

「望むところです!」

 

「はああああああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺はペナルティエリア内から思い切りシュートを放つ。

ノーマルシュートだが、威力はそこらへんの必殺技よりはあるぜ?

 

 

「(嵐山さんのシュート...何て迫力だ...!ただのノーマルシュートでこれなら、必殺技を打たれていたら俺は必殺技を出す余裕すらなかった!でも...!)これが俺の必殺技です!」

 

「っ!あれは...!」

 

 

立向居が右手を大きく突き上げると、青色の手のひらが出現した。

なるほどな...だから俺に、必殺技を見てもらいたいだなんて言ったんだな。

あれはまさしく.....

 

 

「”ゴッドハンド”!」

 

バシィィン!

 

 

俺の放ったシュートが、立向居が繰り出した”ゴッドハンド”とぶつかる。

シュートの勢いは徐々に収まっていき、ついには立向居の手に収まっていた。

 

 

「と、止めた....!」

 

「....すげえな、お前!まさか”ゴッドハンド”を使えるなんて、想いもしなかった!」

 

「嵐山さん...!」

 

 

俺が立向居を褒めると、立向居は嬉しそうにはにかんだ。

円堂が”ゴッドハンド”を習得するのに苦労していたのを見ていたから、俺にはわかる。

立向居は円堂と同じように、多くの努力をしたんだろう。

そしてそれが、俺が立向居に円堂と同じ雰囲気を感じた要因だろうな。

 

 

「俺、フットボールフロンティアでの雷門の試合を見て、すごく感動して....元々はミッドフィルダーだったんですけど、それからもうずっと円堂さんの真似をしてたんです!」

 

「マジか...(恐らく、立向居にはキーパーとしての才能があったんだろうな。面白い...もし、俺が立向居に”マジン・ザ・ハンド”の練習をさせたら....こいつは”マジン・ザ・ハンド”を習得できるのか...)」

 

「どうでしたか...?」

 

「ああ、素晴らしいと思う。円堂の”ゴッドハンド”と比べても負けないくらいにはすごいよ。」

 

「ありがとうございます!」

 

「....なあ、立向居。お前、”マジン・ザ・ハンド”を覚えてみないか?」

 

「”マジン・ザ・ハンド”を....ですか?」

 

「ああ。お前ならもしかしたら....そう思っている。お前の可能性、俺に見せてくれないか。」

 

「...やります!やらせて下さい!」

 

 

ふっ...お前ならそういうと思ったよ。

よし、俺たちのチームには正直何のプラスにもならないが、これも強化委員としての仕事だ。

日本を強くする...そのために、立向居を強くする!

 

 

それから俺は立向居に、俺の知りうる限りの”マジン・ザ・ハンド”の動き、特徴を教えた。

立向居の上達ぶりは俺の予想を遥かに超えていて、最初はまるでオーラが出ていなかったんだが、10回目を超えてくるとうっすらと魔神が見え始めるまでオーラを溜めることができていた。

 

 

「(これが才能か...面白い、面白いよ立向居!もっと俺を楽しませてくれ!)」

 

「くっ...(まだ足りない...!でも諦めたくない!せっかく嵐山さんが練習に付き合ってくれているんだ....”マジン・ザ・ハンド”を完成させたい...!)」

 

 

「立向居!お前の力、見せてみろ!」

 

「っ!(来る..!)」

 

「”ウイングショットV3”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

俺は本気でシュートを放った。正真正銘、今の俺が出しえる本気のシュートだ。

さあ見せてくれよ、立向居!お前の”マジン・ザ・ハンド”を!

 

 

「(嵐山さんが笑ってる...嵐山さんが俺との練習を楽しんでくれているんだ。)っ、止めてみせる!”マジン・ザ・ハンド”を完成させて..!」

 

「っ!(構えが違う...だが右手にオーラが溜まるのが早い...!)」

 

「うおおおおおおおおお!これが俺の、”マジン・ザ・ハンド”だああああああ!」

 

 

バシィィン!

 

 

ついに立向居からはっきりと青色の魔神が出現し、俺の放ったシュートを完璧に止めてみせた。

すごい....すごいぞ、立向居...!

 

 

「ハァ...ハァ....と、止めた....やったあああああああ!」

 

「立向居。」

 

 

俺はシュートを止めて喜んでいる立向居の元に歩み寄る。

俺がキーパーをこう呼ぶのは、円堂以外で初めてだ。

 

 

「お前を...俺のライバルとして認める。」

 

「っ!...お、俺が...嵐山さんの...ライ...バル...?」

 

「お前は俺の全力のシュートを止めてみせた。だから..お前は俺のライバルだ。次は負けない。」

 

「っ......俺も負けません!」

 

「ふっ...そうでなくてはな。」

 

 

きっと立向居はこれからも成長するだろう。

来年のフットボールフロンティアが楽しみだ。

必ずあがってこいよ、立向居、そして陽花戸中!

 

 

 

それから俺たちは練習試合を執り行い、俺は終始ベンチから指示を出し、試合には出場しなかった。試合は立向居がすべてのシュートをしっかりと止め、逆にこちらも砂木沼がわかりやすく感化されて張り切り無失点。決着は付かず0vs0のまま試合は終了した。

 

 

「今日はありがとうございました!」

 

「こちらこそありがとうございました。...来年のフットボールフロンティアでもう一度戦えることを期待してます。」

 

「は、はいっ!」

 

「嵐山さん!俺、絶対に来年のフットボールフロンティアで、嵐山さんと再戦しますから!約束です!」

 

「おう。楽しみにしてるぜ。」

 

 

 

こうして俺たちは陽花戸中イレブンと別れを告げ、福岡を発った。

次に目指すは円堂たちの待つ利根川東泉....茨城だ。

さほど日にちは経ってないけど...久しぶりに会うな、円堂...!

 

 

 

.




ややネタバレになりますが、立向居、ひいては陽花戸中にはまだまだ出番があります。試合を省略したのもそのためです。逆に明言しない学校、キャラについては....

また、利根川東泉の県が特に情報無かったので、実際に利根川があり、利根町というところもある茨城にしました。

.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

夏未の想い

嵐山 side

 

 

福岡から茨城への移動中...俺はこれからのことを考えていた。

現在は夜の真っ只中、みんなは寝静まっている。

バスでは女子が、外のテントでは男子が各々寝ているのだが....

 

 

「ぐお~!ぐお~!」

 

 

俺と同じテントを使っている砂木沼のいびきがうるさくて、少し外に出ているのだ。

それにしても、外まで聞こえてくるけど他の奴らは寝れているのかね。

 

 

カタカタカタ

 

 

「総理や塔子からの連絡は無し、か。」

 

 

まあ調査を依頼してすぐだし、総理たちもこの件に付きっ切りってわけにもいかないしな。

そんなことを考えながら、俺は他のメールを確認していく。ほとんどは雷門イレブンたちからの近況報告や、杏奈ちゃんからの最近の雷門中の様子なんかが来ているんだが。

 

 

『監督に聞いたけど、じいちゃんのノートが他にもあったんだって!?届けてくれるの、楽しみに待ってるぜ!』

 

『お前、学校を追い出されたらしいな。もしよかったら白恋中に来いよ。おもしれえストライカーとディフェンダーがいるんだ。お前にも紹介してえ。』

 

『嵐山さん!俺が派遣された先、みんな良い子たちで楽しいっス!今は俺が学んだディフェンスの心得を教えているところっス!』

 

『やあ嵐山。こっちはアメリカで特訓を開始したよ。元チームメイトも快く招き入れてくれたから何とかなってる。そっちの調子はどうだい?』

 

『一之瀬から聞いてると思うけど、こっちは順調だぜ。お前のことだから大丈夫だとは思うけど、何か困ったことがあったら俺にも相談しろよな。』

 

『エースストライカーの資質を持つ奴はなかなかいないものだな。お前や豪炎寺とつい比較してしまうから困っているよ。それから、落ち着いたら星章にも来てくれ。お互い良い練習になるだろう。』

 

『最近は勝たちも俺の指示に従ってくれるようになったよ。それから新しい必殺技を一つ習得できそうだが...この必殺技でも世界にはまだ届かなそうだ。』

 

『最近の雷門は、話題の中心だった皆さんがいなくなって少し寂しい雰囲気が漂っています。私も新生徒会の皆さんと活動していますが、皆さん隼人さんがいなくて寂しがっています。今は全国各地をめぐっていると聞きましたが、たまには雷門に、私に会いに来てくださいね。』

 

 

みんな思い思いのメッセージを送ってきているが...その中でも一つ、気になる内容があった。

 

 

『突然のことで済まないが、もし時間があったら帝国学園に来てくれないか。帝国に来るのに抵抗があるなら、どこかの店でも構わない。相談したいことがあるんだ。』

 

 

風丸からのメッセージだ。珍しくどこか弱弱しい雰囲気を漂わせているのが伝わってくる。

風丸は強化委員制度にも反対気味だったしな。帝国の奴らとはうまくやっているだろうが、指導とかはうまくいってないのかもな。

 

 

「『了解。今は別件で茨城に向かってるから、その後一旦東京に戻る。その時に話を聞くよ。』...と。」

 

 

風丸に返事を出し、俺はパソコンを閉じた。

帝国は既に完成しているチームでもあったからな...帝国を選んだのは風丸自身だから何とも言えないが、あいつは背負い込む節もあるし、吐き出す場所も必要だろう。

 

 

「眠れないの?」

 

「っ!...夏未か。」

 

 

俺が一息入れていると、突然後ろから声をかけられた。

振り向くと夏未が立っており、寝るためかジャージ姿だった。

 

 

「ごめんなさい、驚かせてしまったわね。」

 

「いや、大丈夫だよ。俺は色々考え事と、自分のトレーニングのために遅くまで起きてるだけだよ。夏未は?」

 

「私は目が覚めてしまって....少し外の空気を吸おうと思ったらあなたがいたのよ。」

 

「そっか。」

 

 

俺はそこで話を打ち切り、もう一度パソコンを開いた。

メッセージには風丸からの返信が来ていて、『済まないが頼む』とだけ書いてあった。

これは少し、メンタルケアが必要かもな。そんなことを考えていると、突如後ろから誰かに抱きしめられた。

 

 

「えっ!?」

 

「少しだけ...このままでいいかしら。」

 

「な、夏未か....急にどうしたんだよ。」

 

「色々思うところがあるのよ.........ねえ、もし...もしもよ?今回の事件にも、影山が関係しているとしたら、あなたはどう思うかしら...」

 

「....決まってるよ。戦うさ。誰が相手であろうとも。」

 

 

俺がそう言うと、夏未の抱きしめる力が強くなった。

一体どうしたというんだろうか....まさか、本当に影山が関わっている...?

そうなれば、俺たちだけじゃない...総理や塔子たちにも危険が及ぶかもしれない。

 

 

「夏未...何があったか話してくれないか。」

 

「.........さっき、パパから連絡があったのよ。」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

夏未 side

 

 

数時間前...

 

 

「あら、パパ。こんな時間にどうしたの?」

 

『夏未....今回の件でとんでもないことがわかった。』

 

「とんでもないこと....どういうことですか?」

 

『....影山の件で、私はオリオン財団、そしてオイルカンパニーが関わっている可能性があると君に伝えたね。』

 

「はい....ま、まさか今回の件も...!」

 

『うむ...どうやら研崎の研究にオリオン財団、そしてオイルカンパニーが投資しているらしい。キラスター製薬を見学したが、怪しい研究室などは無かった。それに研崎はキラスター製薬自体は1年前に辞めていて、個人の研究所を構えているらしい。』

 

「つまり本命はそちら...ということね。」

 

『ああ。その拠点は秘密となっていてまだ調べられていない。...だが、一つだけわかっていることがある。................』

 

「パパ...?」

 

 

パパは暫く黙り込んでしまった。

恐らく、私に言うべきか悩んでいるんだと思う。

それくらい今回の件は、かなり危険な話ということかしら。

 

 

「.....パパ、私は大丈夫。いざとなったら嵐山君も守ってくれるわ。」

 

『.....その彼が問題の根幹にいるとしたら?』

 

「えっ...?」

 

 

嵐山君が...問題の根幹...?一体どういうこと...?

嵐山君は誠実な人...スパイだったり、怪しい研究に従事したりなんてしないはず。

 

 

『研崎の研究所は研崎が責任者ではなかった。所在までは調べられなかったが、責任者の情報は既にある程度揃っているんだ。』

 

「それなら、何故嵐山君に連絡を...」

 

『責任者の名前は嵐山薫子。彼の.....母親だ。』

 

「なっ!?」

 

『私としても、知りえた情報は嵐山君に共有すべきだと思っている。だが....彼の家庭事情は色々聞いている。私としては、彼にこのことは伝えない方が良いと考えている。』

 

 

嵐山君のお母さまが、研崎の研究に加担している...ということ...?

でも一体どうして...こんな偶然があるのかしら...

 

 

『それから....まだ確定した情報ではないが、以前話したときに、ミスターAという人物についても伝えてね?』

 

「は、はい...」

 

『ミスターA....謎に包まれた人物だったが、最近になって活動が盛んになってきたのか、情報が見え始めた。性別は男性、年齢は30代後半、日本人......オリオン財団に所属していることが判明した。』

 

「日本人...なんですね。」

 

『ああ...........そしてその男は、最近になって日本の刑務所に訪れたそうだ。』

 

「日本の刑務所......っ、まさか...!」

 

『ああ、影山と面会したそうだ。その時にその男が名乗った名は.....嵐山修吾。』

 

 

嵐山......そんな、まさか....

 

 

『......彼の、父親だったよ。』

 

「嘘....」

 

 

ありえない...こんな偶然があるなんて....

すべてが繋がっていて、誰かの思惑が動いているとしか思えない。

 

 

『夏未....この話を彼にするかは、君に任せても良いかい?』

 

「私...ですか?」

 

『ああ...こんな話を我々からすれば、彼は壊れてしまうかもしれない。だが夏未、お前なら...彼を支えてあげられるかもしれない。』

 

 

嵐山君....こんな酷なことがあって良いのかしら...

これから先、戦う敵が母親かもしれない。そして、影山に協力して祖父を害した存在が、父親かもしれないなんて....

 

 

「....わかりました。私が彼に伝えます。」

 

 

でも、今はまだ言えない。

今はまだ、旅を始めたばかりだもの.....私だけじゃきっとダメ。

私だけじゃなくて、永世学園のみんなが彼を支えてあげる...そうすればきっと...

 

 

『こんなことを頼んで、本当にすまない。』

 

「いえ、気にしないでパパ。私は大丈夫よ。」

 

『....頼んだよ。』

 

 

そう言って、パパは電話を切った。

みんな寝静まっていてよかったわ....こんな話、まだ誰にも聞かせられないもの。

 

 

「...あら?あれは嵐山君.........」

 

 

私は外に嵐山君がいることに気付き、キャラバンから外に出た。

この時、私とパパの会話を聞いている人がいるとは、思っていなかった。

 

 

「(彼の両親が..........お父様に知らせるべき...かしら...)」

 

 

.....

....

...

..

.

 

そして現在へ戻り...

 

 

「パパは私たちがいなくて寂しいって。それを聞いて、私もなんだか寂しくなっちゃったのよ。」

 

「そっか....だったら気が済むまでそうしてていいよ。俺なんかでよければ、いつでも力になるから。」

 

「ええ....頼りにしているわ、嵐山君。」

 

 

だからあなたも、辛いときは私を頼りにして欲しい。

あなたが嬉しいなら私も嬉しいし、あなたが辛いなら私も辛い。

あなたが喜んでいたら私も喜ぶし、あなたが悲しんでいたら私も悲しい。

 

 

私をこんなふうにするのは、あなただけなのよ。

だから......もう少しだけ、このままでいさせて....

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

誓い

嵐山 side

 

 

「ここが利根川東泉......」

 

「随分と古風な学校ね。」

 

 

俺たちはあれからさらに移動を重ね、ようやく目的地である茨城県...利根川東泉中へと辿り着いた。

 

 

「よく来たな、お前たち。」

 

「「響木監督!」」

 

 

校門前でキャラバンを停車させて待っていた俺たちの前に、響木監督があらわれた。

俺と夏未は久しぶりに会った響木監督に駆け寄る。

 

 

「ほう...随分と力を付けたようだな。」

 

「はは、わかりますか。」

 

「ああ。(元々嵐山の実力は雷門サッカー部の中でも抜きんでていたが...円堂、これはうかうかしていられんぞ。)」

 

 

「初めまして。私は吉良瞳子。永世学園サッカー部の顧問を務めている者です。」

 

「ああ、あんたが。俺は元雷門サッカー部監督で、今は利根川東泉サッカー部の監督の響木正剛だ。」

 

「あなたがあの....嵐山君と雷門さんを快く送り出して頂いて、ありがとうございます。」

 

「いや、こちらこそ。こいつらの派遣先になってくれて助かります。」

 

 

 

「おーい!嵐山あああああああああ!」

 

「ちょっと、円堂君!待ってよ!」

 

 

 

大人たちが色々話していると、校舎の方から懐かしい声が聞こえてきた。

見慣れた制服、ジャージ姿とは少し違うけど、別れてからも特に変わりはないようだ。

俺がいなくなって秋の恋をサポートする奴がいなくなってしまったと思うが、秋はうまくやっているんだろうか。

 

 

「久しぶりだな、円堂!」

 

「おう!...それに夏未も!」

 

「え、ええ....木野さん、大丈夫?」

 

「う、うん...もう、円堂くん!みんなを置いて走り出して...まだ部員が集まってないんだから、円堂くんがみんなをまとめないとダメでしょ!」

 

「わ、悪い秋....」

 

「お....(いつの間に名前で呼ぶように....意外と進展してるのか...?)」

 

 

円堂が秋を名前で呼ぶようになっているとはな。

夏未のことは名前呼びだったし、円堂は特にそういうところを意識してないだろうけど。

奥手な秋にしては、随分と進展しているように思える。

 

 

「...それで、依頼していたものは持ってきてくれたか?」

 

「はい、響木監督。これです。」

 

「これが...」

 

 

俺はカバンにしまっていた円堂大介のノートを、響木監督に渡した。

響木監督も見たことが無かったらしいそのノートには、いろんな必殺技が記されていた。

俺は円堂と響木監督から許可を貰って、先にノートの中身を見せてもらっていたんだが....

 

 

「す、すげえ....究極奥義、”正義の鉄拳”...”ムゲン・ザ・ハンド”....それに、”ジ・アース”か....究極奥義って書いてるし、どれもすげえ技なんだろうな...!」

 

「そうだな。...特に”正義の鉄拳”...これはお前がバルセロナ・オーブとの試合で一度だけ見せたあの技に似ていると思わないか?」

 

「確かに!あの時円堂くんの手から拳みたいなオーラが飛び出してたもんね!」

 

「あれか....確かに、あの時は嵐山の声で咄嗟に”マジン・ザ・ハンド”を出すためのオーラを前に押し出してたからなぁ....」

 

「ふっ...とにかくノートは受け取った。円堂、お前がこの大介さんのノートに書いてある必殺技を極めるのも良し、自分だけの必殺技を見つけるのも良し。これからはお前次第だ。」

 

「監督.....はいっ!」

 

 

究極奥義か...円堂ならきっと習得できるだろうが、一つだけ気になっているものがある。

それは”ムゲン・ザ・ハンド”だ。『シュタタタタタタン、ドババババーン』...だったか。

あれは恐らく、凄まじい速度で”ゴッドハンド”のような手のオーラを出して、それを一気に出してボールを抑え込む...みたいな技だろう。

 

円堂は同じ質のオーラを複数作ったりとか、そういった細かい調整は苦手だった。

それこそ究極奥義なんて名づけられているくらいだ。普通の技の比ではないくらいの難易度だろう。この技の習得に時間をかけてしまえば、円堂は世界との戦いに向けてレベルアップできない。

 

 

むしろこの技に向いているのは....

 

 

「円堂、少しいいか?」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「俺はこの旅で、お前と同じ”ゴッドハンド”を使うやつに出会った。」

 

「えっ!?俺や響木監督以外にも、”ゴッドハンド”を使える奴がいるっていうのか!?」

 

「ああ。そいつは俺たち雷門に憧れて、ミッドフィルダーからキーパーに転向した。そして憧れの円堂の真似をして...”ゴッドハンド”を習得した。さらに俺が一緒に練習して、短時間で”マジン・ザ・ハンド”まで習得してみせた。」

 

「”マジン・ザ・ハンド”まで...」

 

「”マジン・ザ・ハンド”は、円堂くんがあれだけ苦労してようやく習得した技よね...それを短時間で習得するなんて、その子すごいわね。」

 

「......俺、そいつに会ってみたいな。」

 

「ふっ...そういうと思った。そこでだ。俺はこの究極奥義を一つ、そいつに授けたいと思っている。」

 

 

俺がそう言うと、円堂の顔はパーッと明るくなっていった。

多分、そいつが究極奥義を覚えることにワクワクしているんだろうな。

 

 

「はっきり言って、”ムゲン・ザ・ハンド”はお前には向いていない。」

 

「うっ...本当にはっきり言うなぁ...」

 

「ふっ...俺もそう思っていたところだ。円堂、お前は細かい力の制御はあまり得意では無いだろう。この”ムゲン・ザ・ハンド”という技...恐らくは想像以上に細かい力の制御を求められる。繊細なほどにな。」

 

 

響木監督は俺と全く同じ意見を円堂に述べていた。

響木監督の言葉に、円堂は納得する部分があったのか特に反論はせずに聞いていた。

 

 

「そして、俺が見つけたそいつははっきり言って天才だ。円堂が何年もかけて習得した”ゴッドハンド”を、あれだけ苦労した”マジン・ザ・ハンド”を、簡単に習得してしまった。」

 

「ああ...そう聞くだけでもすげえ奴だってわかるぜ。」

 

「だからこそ俺は、そいつを円堂と同じく俺のライバルだと認めた。」

 

「っ!」

 

「俺はあいつが進化することを望んでいる。だからこそ、あいつにはこの”ムゲン・ザ・ハンド”を習得してもらいたいんだ。」

 

 

立向居が”ムゲン・ザ・ハンド”を習得して、俺たちの前に立ちふさがる。

俺はそれを望んでいるし、きっと立向居ならそれが出来てしまうだろうな。

立向居が強くなればなるほど、俺は燃えるし、永世学園がフットボールフロンティアを優勝するうえで欠かせないライバルとなってくれるはずだ。

 

 

「...わかった!その代わり、俺にもそいつのこと紹介してくれよな!」

 

「ああ、もちろんだ。」

 

 

 

こうして、俺は円堂たちに立向居のことを紹介した。

丁度、陽花戸中の校長にノートを届けたことを報告する必要もあったので、その際に円堂と立向居の話す場も設けさせてもらった。

 

立向居は相変わらず緊張していたが、俺がライバルとして”ムゲン・ザ・ハンド”を習得したお前と戦えるのを楽しみにしている、と言ったら激しく頷いていた。

 

 

「これでまたお別れだな。」

 

「ああ。...円堂、俺は最高の舞台でお前と戦うことを望んでいる。」

 

「最高の舞台....」

 

「お前は俺の大切な友達で、俺が初めて認めたライバルだ。だからこそ...お前との決着は、フットボールフロンティアの決勝で。」

 

「っ!....おう!絶対に決勝で戦おうな!」

 

「ああ、約束だ。」

 

 

俺たちは拳を突き合わせ、約束を交わした。

あの日、雷門中に入学して、サッカー部を作った時...フットボールフロンティア三連覇を掲げたあの時のように。

 

 

.....

....

...

..

.

 

No side

 

 

ここはとある刑務所...

嵐山たち雷門イレブンが強化委員として派遣される数日前、この刑務所には一人の男が立ち寄っていた。

 

 

「ほう...貴様が私の面会に来るとはな。」

 

「ふん...相変わらず偉そうな奴だ。」

 

「くくく...私はあくまであの方に協力しているまで。貴様の下についた覚えはない。」

 

「口を慎むことを覚えろ。」

 

「それこそ無理な話だな。私は凡人には興味が無いのだよ。その点、君の息子は素晴らしいな。」

 

 

ダンッ!

 

 

「黙れ!私の前であいつの話はするな!」

 

 

面会に来ていた男は、刑務所の中にいる男の言葉に声を荒げる。

その様子に、記録員として一緒に面会室に入っていた男はびくりと体を震わせた。

 

 

「くくく...所詮君はその程度の男なのだ。...まあいい。今日は何の用で私に会いに来たのだね。私は暫く動くつもりはないが?」

 

「チッ....そのことで閣下より話がある。アレスの天秤を知っているか。」

 

「....確か、月光エレクトロニクスが開発した新世代教育システムだったか。」

 

「ああ。閣下はそのアレスシステムに興味を持っている。」

 

「ほう...あの方がアレに興味を持つとはな。で、それを私に言ってどうしろと?」

 

「現在、月光エレクトロニクスはアレスの天秤の被験者を探している。被験者の条件は様々だが、特殊な条件であればあるほど採用されやすいという話だ。そこで、貴様にはアレスの天秤の被験者となり、システムについての情報を閣下に報告せよとのことだ。」

 

「くくく....面白い。あのお方には了承したと伝えておくがいい。」

 

「ふん...」

 

 

話は終わりだと言わんばかりに、面会に来ていた男は席を立った。

そんな彼に対して、収監されている男は言葉を続けた。

 

 

「そうそう...嵐山隼人のことで一つ教えておいてやろう。」

 

「っ!奴の話はするなと...!」

 

「そう慌てるな。この話は君にも関係のあることだ。」

 

「.....何だ!」

 

「くくく...君の愛する妻、嵐山薫子は日本にいるぞ。」

 

「っ!......失礼する!!!!!」

 

 

バタンッ!

 

 

男は荒々しく扉を開け、面会室を出ていった。

残された男は口元を覆いながら、テーブルに両肘をつく。

その口元はまるで道化を見ているかのように、酷く歪んでいた。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

帝国との練習試合

豪炎寺 side

 

 

「ふっ!はあ!”爆熱ストーム”!」

 

 

俺が放ったシュートは、無人のゴールへと突き刺さった。

新たに習得したこの必殺技も、随分と精度が上がってきた。

今まで俺はみんなとの連携技ばかりがメインだったが、こうして一人でシュートを極めるというのも悪くはない。

 

 

「さすが豪炎寺っしよ。」

 

「勝...」

 

「だけど俺の方が強いってことを忘れてもらっちゃ困るぜ。」

 

「ふっ...お前たち兄弟は相変わらずだな。」

 

「う、うるせえ!」

 

 

こいつともこんな軽口を叩けるくらいには和解できて、正直良かったと思っている。

逃げ出した俺を受入てくれた木戸川のみんなには感謝している。

だからこそ俺は、このチームで日本一になるために強くならなければいけないんだ。

 

 

「それにしても、お前の元チームメイト...何か大変みたいじゃん。」

 

「ああ...俺も少し心配しているんだがな。」

 

「ま、でもあいつは俺たちの”トライアングルZ”を蹴り返そうとしたくらいの奴だし、何とかなるっしょ。」

 

「ああ、だといいがな。...もしあいつが俺たちのところにも来たら、練習試合をするのもいいかもしれんな。今の俺たちの実力がどれほどのものか、計ることもできる。」

 

「お、それいいじゃん。」

 

 

隼人...お前のことだから問題無いと思うが、俺たちはいつでもお前の力になるぞ。

 

 

「それはそうと勝、お前何をしに来たんだ?」

 

「おう。それだけどよ....俺たちの”トライアングルZ”とお前の.........」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

『いらっしゃいませ~!何名様でしょうか~?』

 

「あ、連れがもう来てるんで。」

 

『承知致しました~。ご注文はいかがなさいますか~?』

 

「じゃあアイスコーヒーで。」

 

『かしこまりました~。ごゆっくりどうぞ~。』

 

 

あれから円堂たちに別れを告げ、俺たちは東京で数日過ごすことにした。

というのも、俺は風丸との約束があること、夏未は理事長と話すことがあること、古株さんの用事、これらが重なったからである。

 

そんなこんなで、俺は基山たちに練習メニューを渡し、俺自身は風丸に会うために稲妻町の喫茶店へと来ていた。

 

 

「嵐山、こっちだ!」

 

「っと...待たせてすまなかったな、風丸。」

 

「いや...呼んだのはこっちだ。気にしてないよ。」

 

「それで?相談ってどうしたんだよ。」

 

「ふっ...いきなりその話か。」

 

「そりゃ、悩みがあるならすぐに解決した方がいいだろ?」

 

「まあ、そうだけどな.......どこから話したらいいかな....」

 

 

そう言って、風丸はポツリポツリと今の心境を話し出した。

帝国学園は既にある程度完成されたチームであるがゆえに、新たに雷門の精神を教え込むのに苦労していること、自分自身が世界と戦うためにレベルアップを目指しているがなかなかうまくいっていないこと...など、自分が強化委員として派遣された意味が無いんじゃないか、と風丸は悩んでいるようだ。

 

 

「なるほどな....」

 

「俺はやっぱり、強化委員なんて向いてなかったのかもしれない。豪炎寺や鬼道は既に結果を出し始めているし、お前は学校を追い出されてもめげずに旅をして強くなっている。他のみんなだってそうだ...うまくいっていないのは俺だけ....」

 

「...風丸、お前は卑屈になりすぎだ。」

 

「だが!....帝国に俺は不要だ。それはわかりきっている。」

 

「なら、辞めるか?」

 

「えっ...?」

 

「帝国を辞めて、雷門に戻るか?一人しか部員のいない今の雷門じゃ、サッカー部が再開できないのは目に見えている。そうするとお前はサッカーを続けることはなくなる....ま、お前の場合は元々陸上部からの助っ人だったんだ。元に戻るってだけかもな。」

 

「それは........」

 

「辞めたいなら辞めればいい。俺は別に、そういう奴を否定しないし、引き止めもしない。」

 

「っ.....」

 

 

風丸は俺の言葉に俯いて震えていた。

たぶん、力いっぱい拳を握っているんだろう。

...それがお前の答えなんじゃないのか、風丸。

俺の言葉に悔しさを、怒りを覚えたのなら...お前はサッカーを続けるべきだ。

 

 

「....風丸。明日は暇か?」

 

「明日....?......帝国で練習する予定だが...」

 

「なら、俺たちで練習試合をしよう。」

 

「練習...試合...?」

 

「ああ、そうだ。俺が鍛えた永世学園と、お前が入って力を増した帝国学園....今現在、どちらが上か確かめてみようじゃないか。」

 

「っ.....(嵐山は俺に、発破をかけてくれているんだ....ここで奮い立てなきゃ、俺はサッカーを続ける理由が無い...!)..わかった、明日...俺たちと勝負だ!嵐山!」

 

「ふっ...楽しみにしてるぞ、風丸。」

 

「ああ!俺たちが絶対に勝つ!」

 

 

そう言って、風丸は店を出ていった。

それにしてもあいつ、俺を待ってる間に何も注文しなかったんだな。

俺はそんなことを考えながら、注文したコーヒーを飲んでいた。

 

 

「相席良いかね。」

 

「あ、どうぞ......っ、影山!?」

 

「ふっ...ここは喫茶店だ。あまり声を荒げるな。」

 

「っ......何故ここに。あんたは刑務所に収監されているはずじゃ...」

 

「無論、私はまだ出所はしていない。今も監視がいる状況での外出だ。」

 

 

そう言いながら、影山はコーヒーを飲んでいる。

一体なぜ、俺の前に現れた...この際、こいつが外に出ていることはどうでもいい。

だが俺の前に現れた理由がわからない。一体何を考えている...

 

 

「くくく...そう身構える必要はない。」

 

「ふざけているのか?あんたは俺を事故に合わせた...それだけじゃない!修也の妹、円堂のお祖父さんを含めたイナズマイレブンの事故も!あんたが仕組んだことだろう!」

 

「ふっ...すべて私のせいだと思っているのなら、大きな間違いだな。」

 

「何っ!?」

 

「すべてはお前が原因だ、と言ったらどうだ?」

 

「俺が...原因だと...?」

 

「お前にその天性のサッカーセンスが無ければ...お前がサッカーをしていなければ...あんなことにはならなかっただろうな。少なくとも、お前は両親に愛され、私の尊敬する嵐山宗吾は亡くなることはなかった。」

 

「どういう...ことだ...」

 

 

何を言っているんだ...こいつは...

俺がサッカーをしていなければ、両親に愛されていた...?

じいちゃんが亡くなることはなかった...?

それに...影山が俺のじいちゃんを尊敬していただと...?

 

 

「くくく....嵐山宗吾、彼は私の憎しみを知っていてなお、私にサッカーをすることを勧めてきた。愚かな男だったが....彼は私を否定することはしなかった。」

 

「......」

 

「話は終わりだ。また会える日を楽しみにしているぞ。」

 

 

そう言って、影山は去っていった。

じいちゃんが死んだのも、両親が死んだのも、全部俺のせい....一体どういうことなんだ...

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

翌日

 

 

「今日はよろしく頼む、嵐山。」

 

「....」

 

「嵐山...?」

 

「え、あ、お、おう...こちらこそ、よろしく頼む。」

 

 

あれから俺は瞳子さんにお願いをして、帝国学園との練習試合を正式に組んでもらった。

そんなこんなで俺たちは帝国学園にお邪魔している。

 

 

「久しぶりだな、嵐山。」

 

「まさかチームを変え、またこうやってお前と試合できるとはな。」

 

「佐久間、源田.....お前ら、怪我は大丈夫なのか?」

 

「ああ、もう完治しているよ。」

 

「それに再び雷門と戦うために、俺たちもレベルアップしている。」

 

「今日の試合で今の俺たちを見せつけてやるさ。」

 

「ふっ...そうか。俺も楽しみにしている。」

 

 

佐久間と源田はそのままチームの元へと戻っていった。

風丸もどこか上の空な俺を心配していたが、すぐに二人を追っていった。

 

ダメだな...昨日の影山との会合が俺の心を惑わしている。

俺はチームの柱として、こいつらを導いていく役目があるのに。

 

 

「嵐山君、今日の試合だけどあなたはベンチスタートで良いかしら?」

 

「そうですか。瞳子さんに何か考えがあるんですよね?」

 

「ええ。帝国学園は全国屈指の実力を誇るチーム...今の永世イレブンがどこまで全国レベルに通用するか、はっきりと見ておきたいの。」

 

「それは一理ありますね。...了解です。監督である瞳子さんにお任せします。」

 

「ありがとう。....みんな、そういうことだからしっかりと戦いなさい。スターティングメンバーを発表するわ。」

 

 

そう言って、瞳子さんが発表したメンバ―は、フォワードに南雲、涼野。ミッドフィルダーに基山、八神、緑川、本場、熱波。ディフェンダーに蟹目、倉掛、薔薇薗。キーパーに砂木沼だ。

 

 

「(基山をミッドフィルダーに持ってきたか。確かに基山はこのチームの中で一番サッカーがうまいし、知識もある。信頼も厚いから、自ずと司令塔の立場になるよな。)」

 

 

対する帝国学園は、フォワードに佐久間、寺門。ミッドフィルダーに洞面、咲山、辺見、成神。ディフェンダーに風丸、五条、大野、万丈。キーパーに源田というオーソドックスなスタイルで来るようだな。

 

 

「(鬼道が抜けて司令塔がいなくなったが...今の帝国はどう戦うんだろうな。)」

 

 

「それじゃあ試合を開始するぞ。」

 

「「「お願いします!!!」」」

 

 

古株さんの審判で、試合が開始する。

さて...今の基山たちがどこまで戦えるか、俺も見極める必要があるな。

そして風丸...お前の加わった帝国学園の実力も、しっかりと見定めてやる。

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

試合開始のホイッスルが鳴った。

帝国ボールで試合が開始し、佐久間がボールをもってあがっていく。

 

 

「(この試合、嵐山さんの代わりに俺が指揮をとらないと....よし!)玲名と緑川は佐久間さんをマーク!本場と熱波は寺門さんをマークだ!ディフェンスはパスコースを封じつつ、ボールを奪取する!」

 

「「「了解!」」」

 

 

基山の指揮でみんなが動き出した。だが.....

 

 

「遅い!洞面!」

 

「はいよっと!」

 

「くっ...!」

 

「遅い遅い!決めちゃえ、寺門!」

 

 

帝国イレブンのパス回しは高速で、永世イレブンは翻弄されるだけの状態となっていた。

さらにパス精度もかなりのもので、永世イレブンが割って入ろうとしてもギリギリ触れられないような位置でパスを回している。なるほど...これだけのパスワーク、前の帝国でもまだできていなかったと思うが....

 

 

「おっと...風丸!」

 

「ああ!」

 

 

ボールは寺門に渡るが、寺門の周りを固めていたおかげで寺門はシュート体勢に入れずにいた。

だが後ろからあがってきていた風丸がフリーになっており、寺門はそれを見逃さず、風丸にパスを回した。

 

 

「くっ...止めるんだ!」

 

「遅い!”疾風ダッシュ改”!」

 

「「消えた!?」」

 

 

早い...以前よりも速度があがっている。

風丸の奴...自信が無いとか言っておいて、かなりレベルアップしてるじゃないか。

これは俺もうかうかしてられないぞ...!

 

 

「くそ....!追いつけない!」

 

「何て速さだ....風丸さん...!」

 

 

風丸はフリーの状態のまま、前線へと独走している。

あまりの速さに永世イレブンの誰もが追いつけず、風丸を止めることのできる者は誰もいなかった。

 

 

「決めろ、風丸!」

 

「ああ!(嵐山....俺はさらに進化する!お前が発破をかけてくれたんだ....負けるわけにはいかない!)はああああああ!”マッハウインド”!」

 

ドゴンッ!

 

 

何と、風丸は前線まで一人で走り抜けると、そのままの勢いでシュートまで放った。

風丸の全力疾走で生まれたエネルギーが加算され、ボールは凄まじい勢いでゴールへと突き進んでいく。

 

 

「(早い!間に合うか...!)”ワームホー...っ!」

 

 

砂木沼が必殺技で対抗しようとするが、ボールの恐るべき速度で砂木沼の真横を通りすぎていき、ゴールへと突き刺さった。

 

 

「マジか....(風丸...お前、やべえな...!)」

 

 

「ナイスシュート!風丸!」

 

「ああ。次はお前たちの番だ!」

 

「おう!任せておけ!」

 

 

「(それに随分と雰囲気も良さそうだ。...昨日のあれで吹っ切れたか?)」

 

 

 

「永世ボールで試合再開するぞ。」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

今度は永世ボールで試合が再開。

ボールは南雲から基山へと渡り、基山はボールをキープしながら周りを見渡して状況を確認している。だがその間に南雲、涼野は帝国イレブンが囲んでおり、パスコースもほとんど封じられていた。

 

 

「くっ....(ダメだ...パスを出せる場所が無い!俺が自分で運ぶしか...!)」

 

 

基山は自分でドリブルをはじめ、フィールドを駆けあがっていく。

だがその前に風丸があらわれ、基山の前に立ちふさがった。

 

 

「通さないぞ!」

 

「くっ!(嵐山さんと同じ強化委員の風丸さん...あのスピードで攻撃も守備もされたら、俺たちじゃひとたまりもないい!)」

 

 

基山は風丸とボールの距離を取るように振り返り、自身の体を壁にする。

だがそんな基山の正面に、寺門が走り寄ってきていた。

 

 

「なっ!?」

 

「おいおい、よそ見は厳禁だろ!」

 

「ぐっ!」

 

 

寺門のスライディングによって、基山はボールを奪われてしまう。

なるほどな...これが今の帝国学園か。鬼道という司令塔はいなくなってしまったが、風丸という攻守の要が増えたことで逆に厚みが増えたか。

 

 

「(このチームに、鬼道レベルの司令塔が加わったら....考えるだけで恐ろしいな。)」

 

 

恐らく今の帝国学園は、俺たち強化委員が派遣された学校の中でもトップクラスの完成度だな。

地力がある分、風丸というブースターが加わるだけでこれほどまで化けるとはな。

 

 

「”百烈ショット”!」

 

「”マッハウインド”!」

 

「「”ツインブースト”!」」

 

「「「”デスゾーン”!」」」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

そのまま前半は終了。圧倒的な差を帝国に見せつけられ、0vs5という大差を付けられていた。

永世イレブンはかなり消耗しており、ほとんどが肩で息をしていた。

 

 

「ハァ...ハァ....これが.....全国レベル....」

 

「強すぎる....ハァ....ハァ....」

 

「まともに...ハァ...ボールに....ハァ....ハァ....触れられなかった....」

 

「ゲホッ...ゲホッ......済まない...みんな.....俺がうまく...指揮をとれなかったから...」

 

「そんなことない....俺がゴールを守れていれば....くっ!」

 

 

みんな、全国レベルの強さについていけず、気落ちしているな。

だがこれが今の俺たちだ。俺たちの現在点。ここからフットボールフロンティア優勝に向けて、どこまで上げていけるか...

 

 

「みんな、前半よく戦ったわ。正直、もっと点を取られると思っていたくらいよ。」

 

「瞳子姉さん....」

 

「これが私たちの現在点。でも私たちはもっと強くなれる。....そうでしょう?嵐山君。」

 

 

瞳子さんの言葉に、永世イレブンの視線が俺に集まる。

そうだな...こいつらの目は死んでいない。これだけボロボロに負けてるってのに、誰一人として諦めてないんだ。そういうチームは強くなれる。

 

 

「もちろんです、瞳子さん。」

 

「ふふ....じゃああなたがその可能性を見せてくれるかしら。」

 

「ええ。任せて下さい。」

 

 

「後半、熱波に変わって嵐山君を投入するわ。嵐山君を中心に、死に物狂いで1点を取りなさい!」

 

「「「はいっ!」」」

 

 

 

こうして後半戦が開始した。後半戦は俺たち永世ボールで試合がスタート。

南雲から俺へとボールが渡る。

 

 

「南雲!涼野!お前たちは中央からあがれ!基山、八神は俺と共にあがる!緑川はサイドからいつでも攻められるようにあがるんだ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

 

「へっ...ようやくお出ましかよ、嵐山!」

 

「フットボールフロンティア予選の決勝では負けたが、今回は勝たせてもらうぞ!」

 

「佐久間、寺門か。だったら俺を止めてみな!」

 

 

俺は二人にフェイントをかけ、二人を抜こうとする。

だが二人はフェイントに釣られず、俺の動きをしっかりと見ている。

 

 

「(だけど...それじゃ俺は止められない!)八神!」

 

「「っ!!」」

 

 

俺は俺の近くに寄ってきていた八神にパスを出すと、そのまま俺自身は佐久間と寺門を抜き去る。

当然、二人は俺についてくる。二人は八神から俺にボールが戻ってくると思っているんだろうが...あまり俺ばかりを警戒していると痛い目を見るぜ?

 

 

「八神!基山へパスだ!」

 

「「しまった!」」

 

 

フリーになった基山へ、八神のパスが通る。

だがそれを読んでいたのか、風丸が基山の元へと迫っていた。

 

 

「嵐山とは長い付き合いだ!お前の考えることはお見通しだ!」

 

「ふっ...さすがだな、風丸...だが、基山を甘く見たら痛い目を見るぜ。」

 

「(嵐山さんは俺が風丸さんを抜くって信じてくれている....だったら、俺はその期待に応えるまでだ...!)うおおおおお!」

 

「っ!」

 

 

基山は気合で風丸を抜き去ると、そのままの勢いで前線へとあがっていく。

そんな基山を止めるため、帝国イレブンは基山へとブロックしに行くが...

 

 

「っ!ダメだお前たち!深追いはするな!」

 

「残念ながらもう遅いよ!基山!緑川へロングパスだ!」

 

「はいっ!」

 

 

基山は反対サイドからあがってきていた緑川へとロングパスを出す。

帝国イレブンはわらわらと基山に集まってきていたため、緑川は完全にフリーだ。

 

 

「うおおおおお!”アストロブレイク”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

「くっ...だがゴールにはまだ俺がいる!はあああああああ!”パワーシールド”!」

 

 

源田が緑川のシュートに反応し、”パワーシールド”を発動させた。

”アストロブレイク”のオーラと、”パワーシールド”のオーラがぶつかりあうが、徐々にボールの勢いは収まっていく。

 

 

バシィィン!

 

 

最終的には”パワーシールド”の方が威力が上だったのか、緑川のシュートは弾き返されてしまった。

 

 

「だが.....!」

 

「っ!嵐山か...!」

 

 

ボールが弾かれた先には俺があがってきていた。

源田、今の俺の力を計らせてもらうぞ!

 

 

「”ウイングショットV4”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

「くっ...!(体勢を崩されている...!奴のシュートは”パワーシールド”では防げない!)」

 

「うおおおおおおおおお!」

 

「っ!風丸!?」

 

 

俺の放ったシュートが源田の守るゴールへと差し迫る中、何と風丸がその真横から走りこんできた。

 

 

「決めさせるかああああああ!”マッハウインド”!」

 

ドゴンッ!

 

 

風丸は走りこんできた勢いそのままに、俺の放ったシュートを真横から蹴り飛ばした。

ボールはそのままラインを割って、フィールドの外へと吹っ飛んでいった。

まさか、そんな方法で俺のシュートを止めに来るとはな...

 

 

「助かったぞ、風丸。」

 

「いや、ああでもしないと嵐山のシュートは止められない。」

 

「ああ、本当に危なかった。」

 

 

 

良かったな、風丸。ちゃんと帝国がお前の新しい居場所になってるじゃないか。

お前は悩む必要なんてなかったんだよ。

 

 

「(だが...1点は必ず奪う。ストライカーのプライドを賭けて...!)」

 

 

永世のスローインで試合が再開した。

基山がスローインして、八神がボールを受け取ると、すぐさま俺の元へとボールが回ってくる。

 

 

「よし!今度こそ1点取るぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

再び俺を中心に、南雲、涼野、基山、緑川、八神が前線へとあがっていく。

だが帝国もしっかりと訓練されていて、今度は緑川までしっかりとマークされていた。

 

 

「(だが...俺たちだって馬鹿の一つ覚えみたいに攻めるわけじゃない!)」

 

「ここは通さないぞ、嵐山!」

 

「風丸...!」

 

 

俺がドリブルで前線にあがってくると、風丸が俺のマークについた。

意外となかった組み合わせの対決だな...!

 

 

「随分と張り切ってプレーしてるじゃないか。悩みは吹っ切れたか?」

 

「ああ。お前のおかげで目が覚めた!だからこそ全力で、お前を倒す!」

 

「ふっ....だったら俺を止めてみろ!」

 

 

俺は数多のフェイントをかけ、培ったテクニックを披露する。

風丸も何とかついてはこれているようだが、段々と俺の動きについてこれなくなっていた。

 

 

「(くっ...これが嵐山か...!いつも味方だったから、ちゃんと理解していなかった部分もあったのかもな....やっぱりお前はすごい奴だよ...!)」

 

「(っ!抜ける!)」

 

「っ....!(嵐山.......試合に勝って、勝負には負けた...か...)」

 

 

俺は風丸を抜き去り、源田の守るゴールへとかけていく。

それを見た大野と万丈が、慌てて俺の元へとかけてきた。

これで....基山がフリーになった!

 

 

「決めろ、基山!」

 

「っ!」

 

「しまった!」

 

 

フリーになった基山のもとに、俺の蹴ったボールが届く。

決めてやれ、基山!

 

 

「(嵐山さんが繋いでくれたこのボール...絶対に決めてみせる!)うおおおおおおおお!”流星ブレード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

基山が放ったシュートは、その名の通りまるで流星のごとく轟音を響かせながら、ゴールへと突き進んでいく。

 

 

「止める!”フルパワーシールド”!」

 

 

源田も本気で止めにかかり、”流星ブレード”と”フルパワーシールド”が激しくぶつかり合った。だが”流星ブレード”の勢いはまるで衰えることなく、徐々にシールドにはヒビが入っていき...

 

 

「ぐっ...ぐああああ!」

 

 

ついには完全に”フルパワーシールド”を打ち破り、源田ごとゴールへ突き刺さった。

 

 

「やった....!」

 

 

ピッピッピィィィィィィィ!

 

 

と、ここで試合終了のホイッスルが鳴り響いた。

結果は1vs5と大敗だったけど、俺たちの現在位置が見えた良い試合だった。

それに基山が必殺技を覚えることもできたしな。

 

 

「嵐山....今日はありがとう。」

 

「別に、俺はただ試合をしただけさ。風丸は自分で乗り越えた。全部お前自身の力だよ。」

 

「嵐山.........今度は負けない。」

 

「ふっ...こっちのセリフだ。」

 

 

俺と風丸は握手し、互いに次の戦いに向けて歩き出すのであった。

 

.




おまけ。徹夜の深夜テンションで書いた次回予告です。
-------------------------------------------------

旅を続ける俺たちの前に、新たな試練が立ちはだかる!


「嵐山くん、どっちが綺麗かしら?」

「私に決まっているだろ、隼人。」

「い、いや~....ははは....」


常夏の海での穏やかな時間の中で、俺たちを...
いや、俺を待ち受けていたのはとんでもない修羅場だった!?


「瞳子さん....俺.....瞳子さんのこと...」

「ああああああああ嵐山くん!?」


そして....


それは、もう一つのIFに繋がる出会い。


「怪我はないかい?少年。」

「お兄ちゃん...誰....?」

「俺?...俺はただの、サッカー少年さ。」

「サッカー.....」


次回、『嵐山、沖縄の海に散る。』
永世学園内乱編後半スタート!


.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嵐山、散る

嵐山 side

 

 

 

「「「「海だああああああああああああ!!!!」」」」

 

 

さてさて、俺たちが今どこにいるかわかるだろうか。

そう...俺たちは今、日本の最南端、沖縄県に来ているんだ。

何故、沖縄なんだと言われると....半分遊びに、半分トレーニングに来ている。

 

というのも、帝国との練習試合で永世イレブンには下半身のパワーが足りないことがわかった。

帝国のスピードについていけないのも、それで無駄に体力を使っているのも、下半身の使い方がなっていないからだと判断した俺は、瞳子さんに相談して砂浜でのトレーニングを提案した。

 

結果、夏未の伝手で沖縄に行くことが決まり、現在はまず長旅の疲れを取るために自由行動としたわけだ。

まあ自由行動といっても、見知らぬ土地だから遠くには行かないよう言ってあるけどな。

 

 

「嵐山さんは泳がないんですか?」

 

「ああ。俺はやることがあるから。」

 

 

 

「タツヤ~!早く来いよ!」

 

 

「ほら、呼んでるぞ。俺のことは気にせず、しっかり楽しんでこい。」」

 

「はい....(でも、少し嵐山さんと遊びたかったけどな...)」

 

 

基山は少し納得のいっていないような顔のまま、緑川たちの元へと走っていった。

さて...俺は俺でやることをやりますか。

 

 

俺はベンチから立ち上がると、上着を脱いで水着になった。

ちなみに水着は貸出されている水着で、普通の海パンだ。

女子は皆、レンタルの水着に可愛いのが無いとかで、瞳子さんに頼んで買い物に行っている。

 

 

「やはり、みんなにやらせる前に自分でやってみて、危険が無いか確認しなければな。」

 

 

俺は砂浜をゆっくりと歩き出す。最初はゆっくりと一歩ずつ確かめるように、そして慣れてきたら普通のコンクリートの上を歩くようなペースで、それにも慣れたら競歩のようにしっかりとした足取りで、且、少し早歩きで。

 

 

「ま、これくらいなら問題無いか.......ん?」

 

 

ふと顔を上げると、キャラバンを止めている駐車場の方から夏未たちが歩いてきていた。

水着を来ているようだし、どうやら近くの店で気に入った水着を買えたようだな。

 

 

「あら、嵐山君。もうトレーニングかしら。」

 

「ああ。明日みんなにさせるトレーニングを、まずは俺がやってみて問題無いか確認していたんだ。」

 

「相変わらず、隼人は真面目だな。」

 

「それにしても.....夏未はまさにお嬢様って感じで良いね。」

 

 

夏未の水着は、上はひらひらの付いたデザインに、下はスカートタイプ。

水着はよくわからないが、夏未にとても良く似合っていると思う。

 

 

「それから八神は...スポーツ選手って感じで似合ってるね。」

 

 

八神の水着は、上は普通のビキニで、下はショートパンツスタイルになっている。

やや男勝りな八神らしくて、とても良く似合っていると思う。

 

 

「あ、あら...そんなに褒めても何もでないわよ....ふふ...」

 

「ふっ...そうだろう。」

 

 

俺の言葉に、夏未は少し照れたような表情をしていた。

八神は逆に、当然だろうと言わんばかりに頷いていた。

 

 

 

「それで....どっちがいい?」

 

「えっ?」

 

「あら、八神さん。それは私と八神さん、どちらが綺麗か...ということかしら?」

 

「ああ。隼人はどっちが好みなのかと思ってな。」

 

「い、いや...あはは...」

 

 

別に二人とも似合ってて良いと思うけど....

それに優劣を付けるなんて、意味ないと思うんだけどなぁ...

 

 

「「どっち!?」」

 

「え、えっと.........ど、どっちも素敵じゃ...」

 

「「ダメ!!」」

 

「で、ですよね~....」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

あれから結局、二人は言い争いを続けてしまい、俺は隙を見て逃げ出してきた。

それにしても水着か....俺としてはこう、スラっとした高い身長に、ある程度肉付きが良い感じの方が....って、俺は一体何を考えているんだ...!

 

 

「あ、あら...嵐山くん...」

 

「っ!...瞳子さん....って、瞳子さんも水着なんですか。」

 

「え、ええ...みんなに勧められてね。」

 

「そうですか....(それにしても...)」

 

 

瞳子さんの水着はオーソドックスなビキニタイプなんだが....瞳子さんって俺からしたら結構身長高くてスラっとしてるし、大人の体というか何というか............っ!

 

 

「(やべ...鼻血が...!)」

 

「あ、嵐山くん!?」

 

 

瞳子さんの水着を見て、鼻血を吹き出すとか...俺は馬鹿か...!!!!

 

 

 

「す、すみません、ちょっと興奮してしまいました。」

 

「そ、そう....(な、何に興奮したのかしら....え、ま、まさか私の水着に...!?あの嵐山くんが!?)」

 

「す、すみません、失礼します!」

 

「あ、ちょっと!そっちは!」

 

 

俺はあまりの恥ずかしさに、キャラバンの方へ走り去っていった。

瞳子さんが何か叫んでいた気がするが、これ以上瞳子さんと一緒にいるのは危険だ!

 

 

「(今日はもう、水着から着替えてテントでゆっくりしよう...!)」

 

 

そう思い、キャラバン横に設置した更衣室のカーテンを開けると....

 

 

「えっ!?」

 

「えっ?」

「あら....?」

 

 

そこには着替え中の夏未と八神がいた。

 

 

「な、何で....!?(さっき水着に着替えてたじゃないか...!)」

 

「「...........」」

 

「っ!(ま、マズイ!)」

 

「「きゃああああああああああああああああああああああ!!!!!」」

 

 

バチンッ!

バチンッ!

 

 

俺は二人からそれぞれ、両頬にビンタを食らった。

先ほどの鼻血でくらくらとしていたせいか、二人のビンタの威力が強すぎたのか...俺の意識はそこで途絶えてしまった。

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「「ごめんなさい....」」

 

「い、いや....こっちこそごめん......全然覚えてないけど...」

 

 

あれから数十分ほど気絶していたのだが、ビンタされたことは覚えているものの、その直前の光景はすべて頭の中から消え去っていた。男としてはもったいない気もするが、忘れて良かった気がする。うん。

 

 

「それにしても....嵐山さんがこんなことになるなんて、珍しいですね。」

 

「いや~...ははは....面目ない...」

 

「へへ、おもしれえ。両方の頬に紅葉とか。」

 

「おい、あまり笑うなよ。..プッ....」

 

「お前も笑ってんじゃねえか!」

 

「恥じることは無いぞ、嵐山!男の勲章だ!」

 

 

基山を筆頭に、皆が思い思いの反応をしている。

南雲と涼野、緑川を筆頭に俺の珍しい姿に笑っている組と、基山を筆頭に純粋に心配している組、そしてよくわからないが俺を讃えている砂木沼。こいつらは全く....

 

 

「でも今日はリフレッシュできて良かったな。」

 

「私は暑くて死にそうだった。というか今も暑い。」

 

「それは確かにな。沖縄はさすがに暑い。」

 

「だけど、それが良いトレーニングになる。この暑さを乗り越えれば、大会を戦い抜く力になる。」

 

「そうですね....」

 

「みんな聞いてくれ。」

 

 

俺は立ち上がり、みんなに聞こえるように少し大きめの声で話し始めた。

 

 

 

「この前の帝国との練習試合で分かったと思うけど、みんな圧倒的に足りていないものがたくさんある。だけどその分、成長速度は目をに見張るものがある。だからこの数日間、徹底的に鍛えて、徹底的に休む...少々ハードになるけど、ついてきてくれるか?」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

俺の言葉に、全員が頷いてくれた。

よし...みんなもやる気があるし、これならしっかりと練習していけそうだ。

さて、あとは...この数日間の特訓の成果を試すことのできる相手がいればいいんだが...

このあたりにそこそこレベルの高い中学は無いだろうか。

 

 

「(ま、その辺りもおいおい考えるとして...)」

 

 

今日は一応休息日だし、みんなとの交流を深めるとしますかね。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

夏未 side

 

 

みんなが寝静まった夜...私は一人眠れずにいた。

最近はいつもそう...こうして一人、眠れずに過ごしている。

今はキャラバンから出て、砂浜で星空を見上げていた。

 

 

嵐山君のご両親のことを聞いて、私はどうするべきなのか迷っている。

 

このまま嵐山君には黙っていた方が良い...

でも、研崎と対立する以上、何れは彼の母親と対立することになってしまうだろう。

そうなったとき、事前に知っているのとその時に知るのでは、ショックのレベルが違ってくると思う。

 

 

もし、戦う前にそのことを知ったら、嵐山君は戦えなくなるかもしれない。

それで私たちが負けたら、世界はとんでもないことになるかもしれない。

そして、私たちは強化委員としての立場も失ってしまう。

 

雷門に戻れば、サッカーを続けられるかもしれないけど、嵐山君の心には深い傷を負わせることになるでしょうね。

 

 

「ハァ...どうすればいいのかしら....」

 

「どうしたの、夏未。」

 

「っ!...嵐山君...」

 

 

私が一人で悩んでいると、嵐山君があらわれた。

その手にはサッカーボールが抱えられているから、きっと今まで練習をしていたのでしょうね。

 

 

「何か悩みでもあるの?俺で良ければ聞くけど。」

 

「いいえ、悩んでいるわけではないわ。」

 

「....そう。ま、話したくなったら話してよ。」

 

「....ええ。」

 

 

ごまかしてみたけど、嵐山君にはわかってしまうわよね。

あなたのことを思うと、胸が張り裂けそうになる。

あなたに真実を話したい気持ちと、そうすることで嵐山君が壊れてしまう怖さ...相反する想いが私の中で渦巻いている。

 

 

「.....イナズママーク...」

 

「ん?ああ、これ?」

 

 

ふと隣に座った嵐山君の方を見ると、嵐山君のボールにイナズママークが書かれていることに気付いた。

他のボールにはこんなの書いてなかったと思うけれど...

 

 

「このボール、一つだけ雷門サッカー部の部室から持ってきたんだ。ダサいかもしれないけど、このボールがあるとみんなと一緒だって気になれてさ。」

 

「嵐山君....」

 

「俺、正直不安だったんだ。ずっと一緒だったみんなと別れて、それぞれの道を歩んでいく....そういうのって、もっと先の話だと思ってたから。...だからさ、このボールがあれば不思議と安心するんだ。このイナズママークが、みんなとの繋がりを思い出させてくれるから。」

 

「.....そうね。確かに、これを見てるとみんなを思い出すわ。ふふ...」

 

「...ようやく笑った。」

 

「えっ?」

 

「さっきから夏未、ずっと暗い顔してたからさ。...何があったか知らないけど、夏未は笑ってた方がいいよ。俺は夏未の笑ってるところ、好きだから。」

 

「っ!!!!」

 

 

すすすすすす好き!?

私の笑っているところが好きって、嵐山君いったい...!?

い、いや...その好きっていうのは、たぶんそういう意味ではないわよね...

ええ、わかっているわ....ええ....

 

 

「さ、そろそろ寝ようぜ。明日も朝早いからさ。」

 

「そ、そうね....」

 

「お休み、夏未。また明日。」

 

「え、ええ...おやすみなさい...」

 

 

嵐山君はそのままテントの方へと戻っていった。

全くあなたは....でも、確かに悩んでいて少し暗い雰囲気にはなっていたかも。

嵐山君が私の笑ったところが好きだっていうのなら....もう少し笑う努力をしてみようかしらね。

 

 

 

『好きだから。』

 

「っ....!」

 

『夏未の笑っているところ、好きだから。』

 

「うぅ......(今日は別の意味で眠れなさそうね....)」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

砂浜の特訓!

嵐山 side

 

 

 

「うぐぐ...これずっと続けると意外ときついな...!」

 

「そりゃ普段....こんな足場の悪いところ....歩かないからね....!」

 

「何だ何だお前ら!疲れるの早すぎだぞ!」

 

 

俺たちは今、水着に着替えて砂浜を早歩きしている。

本当は脛の少し下あたりが浸かるくらいの浅瀬でやりたかったけど、まだそのレベルの負荷はこいつらには早いだろう。

 

 

「歩くだけでこんなにきついなんて...」

 

「普段からサッカーで走ってるはずなのに、どうして...」

 

「足場、日光...まあ他にも色々あるが、条件が違うからな。...ほら、あと3週したら休憩だぞ。」

 

「「「はいっ!」」」

 

 

それから何度も休憩を挟みつつも、俺たちは砂浜を歩きまくった。

これでかなり足が疲れただろうな....ま、さらに追い込むんだけどね。

大会なんかにでたりすると、練習、練習、試合、練習、試合...って感じで、まともに足を休ませることができない場合もある。場合によっては一日に二度試合する可能性だってあるんだ。

 

こうやって足腰に負担がかかっている状態で、どれだけのパフォーマンスを発揮できるか...それが一番重要なことだ。この砂浜トレーニングはあくまで負担をかけるために行い、真のトレーニングはその後の基礎練習でする。

 

 

「よし、フォワード陣はシュート練習!...緑川と武藤、熱波はそっちに混ざってくれ!ディフェンダー陣は俺と八神を相手にブロック練習!本場はこっちに混ざってくれ。砂木沼はフォワード陣のシュートを相手に練習だ!」

 

「「「はいっ!」」」

 

 

「隼人、何故私は隼人と一緒に...?私ではまだ足手まといでは...」

 

「それは当然だ。この練習では基本、俺のサポートに回ってもらう。ディフェンダーの動きを良く見て、俺がパスを出しやすい位置を見つけてディフェンダーを振り切る。それ以外にも俺がディフェンダーを振り切るまでボールをキープすることだったり、八神には状況判断能力、ボールキープ力を鍛えてもらいたい。」

 

「なるほど....わかったわ。」

 

「それからディフェンダー陣はドリブル、パスに対する対応力を求める。俺からボールを奪ってみろ。」

 

「そ、それは...」

 

「きついんじゃ...」

 

「そうか?今のお前たちなら、俺はできると思っているけどな。...倉掛、蟹目、薔薇薗。お前たちはあれからラダートレーニングを続け、さらには毎日基山たちを相手にブロック練習をしている。そろそろ見えてくるはずだぞ....相手の動きってのがさ。」

 

 

経験が増えてきたことで、彼らには相手の動きを予測する余裕が生まれてきたはずだ。

確かに俺は彼らよりサッカーを続けているし、たくさんの経験をしてきた分、彼らよりサッカーがうまいと自覚している。だが俺だって何でもできるわけじゃない。動きを予測されてしまえば、ボールを奪われてしまうかもしれない。奪われないまでも、望んだ通りの展開ができないかもしれない。

 

 

俺が求めているのはそういうことだ。ボールを奪うことが出来ればベストだが、大事なのは相手にプレッシャーをかけること。プレッシャーを与えることのできないディフェンダーなんて、フォワードからしたら怖くもなんともないからな。

 

 

「それと基山、緑川!お前たちは必殺シュート禁止だ。お前たちは既に自分の必殺技のイメージが固まっている。それなら今は純粋なキック力、キーパーの動きの予測、駆け引き、そこらへんを意識して練習しろ。」

 

「「はいっ!」」

 

「逆に南雲、涼野は必殺技のイメージを固めるために、必殺技を意識して練習しろ。基山はフォワードだが、司令塔の立場を取る場面も増えてくる。そうなった場合、攻撃の要はお前たち二人になる。わかってるな?」

 

「おう!俺だってすげえ必殺技を身に着けてやるぜ!」

 

「私もだ!晴也たちに負けていられない!」

 

 

南雲も涼野もかなり気合が入っているな。

あの二人には俺や基山以上にフォワードとしての存在感を出してもらわないといけない。

俺はこいつらを導く司令塔として、そして基山は俺がいない場合の司令塔、そしてチームの精神的な支柱として、これからも頑張ってもらわなくちゃいけないからな。

 

 

「さあ!練習を再開するぞ!」

 

「「「「はいっ!!!」」」」

 

 

 

~~~ 1時間後 ~~~

 

 

「ハァ...ハァ....全然ボール取れない...」

 

「くそ...嵐山さん強すぎる...」

 

「それに玲名も....いつの間にあんなに上手に...」

 

 

あれから1時間続けたが、ディフェンダー陣は本場を含めて誰一人として、俺と八神からボールを奪えずにいた。

俺もまだまだ負けるつもりは無いが、それにしても八神はかなりうまくなったな。

ドリブルテクニックもそうだが、パスを出すタイミングやコース、精度...どれをとってもかなりのものだ。

 

 

「(ふっ...隼人のドリブルやパスを真似てみたが、なかなかしっくりくるな。)」

 

「(そろそろ限界か...?)...よし、休憩に...」

 

「待って下さい!」

 

「倉掛....まだ続けるつもりか?」

 

「はい....もう少しで...何かが掴めそうなので...!」

 

「俺も...!」

 

「私も...!」

 

「俺もだ...!」

 

 

どうやらまだ、続けられそうだな。

だが肩で息をしているし、ほどほどにさせないと体を壊すかもしれないな。

 

 

 

「わかった。ならラストワンプレーだ。全員がそのつもりでかかってこい!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

このラストプレーで、その掴みかけている何かを掴んでみせろ。

ここぞという時の集中力は、これから戦っていくうえでも重要になってくるしな。

 

 

「さあ...行くぞ!」

 

 

俺がドリブルであがり、八神はパスを受けやすい位置を探して走り出す。

そんな俺の前に、蟹目が突進してきた。

 

 

「ハァ...ハァ....このラストワンプレーで.....俺は嵐山さんを止める!」

 

「良い意気だ。やってみろ!」

 

 

俺はそのまま蟹目の方に走っていく。

 

 

 

「ハァ...ハァ....(俺の必殺技....!)ぬおおおおおおおおおおお!”グラビテイション”!」

 

 

蟹目が叫んだかと思えば、重量場のようなものを発生させた。

なるほど...これがお前の必殺技か...!

 

 

「ぐっ....なかなか良い技だ.....だが!俺はまだまだ止まらんぞ!」

 

「ぐっ!」

 

 

俺は蟹目の発生させた技を強引に突破する。悪いな、蟹目。

俺でなければ、止められていたかもしれないが...俺は止まらない!

 

 

「っ!今度は私が!」

 

「今度は薔薇薗か...どうくる!」

 

「”スーパースキャン”!」

 

「(へえ...頭の良さを活かして、コースやボール、俺の動きを予測しているのか...だが!)」

 

「っ!」

 

「まだまだ甘い!」

 

 

俺は予測してボールを奪いに来た薔薇薗を、スピンしながら回避する。

もっと工夫しなきゃ、俺からボールは奪えないぜ。

 

 

「ここだ!」

「行くわよ!」

 

「っ!」

 

 

だが次の瞬間、俺の正面には倉掛と本場が突っ込んできていた。

一人でダメなら二人で、っていうことか。悪くない!

 

 

「来な!」

 

「行くぞ!合わせろよ!」

 

「そっちこそ!」

 

「”イグナイト”!」

「”フローズン”!」

「「”スティール”!」」

 

 

本場が炎を、倉掛が氷を発生させるほどのスライディングをしてきた。

うまいな...この体勢、薔薇薗のブロックを回避するために崩されていて、二人のスライディングは避けられない。

 

 

「(....普通ならな!)」

 

「っ、何だと!?」

 

「飛んだ....」

 

 

俺はボールを両足で挟み込み、そのままその場でジャンプして二人のスライディングを躱した。

二人は俺が飛んでいる間にスライディングで俺の真下を通りすぎていく。

 

 

「っと...俺たちの勝ちだな。八神!」

 

「ええ。」

 

 

最後に俺が八神にパスを出して、ゲームセット。

結果としては俺たちの勝ちだったが....ディフェンダーたちの動きは決して悪くなかった。

それにこれだけ必殺技が使えれば、問題無いだろう。ある程度は防御も固まってきた。

 

 

「ハァ...ハァ...ここまでして勝てないなんて...」

 

「さすが...嵐山さんだ...」

 

「悪いな、お前ら。負けてやってもいいと思ったが....俺はサッカーで手を抜きたくなかったんでな。だが今の動きは良かったぞ。それを忘れずにこれからも練習に励んでくれ。」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

あれからさらに練習を続けたが、さすがに全員バテバテだったので今日の練習は終わりになった。

練習初日にしてはなかなかハードだったかもしれないが、これからのことを考えるとこれくらいはこなしてもらわなければな。

 

現在はみんな、疲れを取るために近くの銭湯に行っている。

俺はまだ練習を続けるつもりなので、みんなとは別行動だ。

 

 

「”ウイングショット”に”ファイアトルネード”、そして”天地雷鳴”...日本では通じてはいたが、バルセロナ・オーブには通じなかった。あれが世界標準だとは思わないが、世界の頂点を取るならもっと強力な必殺技が無ければ、俺はゴールを奪うことができないだろうな。」

 

 

”天地雷鳴”は正直、かなり自信のある技だったんだがな。

それよりも上の必殺技を習得しなければ、俺自身が世界と戦う機会を得られないだろう。

ならば俺がやるべきこと、それは...

 

 

「”天地雷鳴”を超える、新たな必殺技か....」

 

 

だがそんなに簡単に、あの技を超える必殺技が習得できるか...?

いやそもそも、あれを超えるだけの必殺技のイメージが湧かない。

 

 

そんなことを考えながら歩いていると、ふと一人の少年が目に入った。

少年は古ぼけた小屋の前に座っており、何かを触っているようだ。

 

 

「危ないな....あの子は何をしているんだ...?」

 

 

俺はそのままにするのは危ないと思い、少年に声をかけようと歩み寄ろうとした。

すると、少年は小屋から...いや、正確には小屋に立てかけられている板の隙間から、小さな犬を引きずりだした。

 

 

「(どうやら子犬が板に挟まって出られなくなっていたのを助けたみたいだな。....っ!)」

 

「っ!」

 

 

少年が引きずりだしたことで子犬は助かったが、その反動で立てかけられていた板が雪崩のように少年に降り注いだ。少年は驚きで動けずにいるのか、その場を離れようとしない。

 

 

「こうなったら....!はあああああああ!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

俺は持っていたボールを蹴り放った。

木の板だったので、”ファイアトルネード”の要領でボールを蹴り、俺が蹴ったボールは見事に木の板を砕いて燃やし、少年に板が降り注ぐことはなかった。

 

俺はすぐさま少年の元へと駆け寄っていく。

 

 

「大丈夫か!」

 

「う、うん....」

 

「そうか...良かった。怪我はないかい、少年。」

 

「うん.....お兄ちゃん、誰?」

 

 

この子はどうやら地元の少年みたいだな。

普段見かけない俺を見て、俺が誰か聞いてきた。

こんな目に合ってるっていうのに、そんなことを聞いてくるなんて...意外と肝は座っているのかな。

 

 

「俺は......ただのサッカー少年さ。」

 

「サッカー...」

 

「...気になるか?」

 

 

少年は俺が蹴ったボール...イナズママークが書かれたサッカーボールを凝視していた。

かなり幼そうな子供だし、まだサッカーには触れたことがなさそうだな。

 

 

「さっきの...かっこよかった!僕もやりたい!」

 

「ふっ...そうか。.....なら少年、君にこのサッカーボールをあげよう。」

 

「えっ、いいの!?」

 

「ああ。...だがそのボールは俺にとって、大切なものだ。」

 

「宝物...?」

 

「ああ。だから、いつの日か、少年がサッカーがうまくなったら...俺に会いに来て、君の手でこのボールを俺に返してくれ。」

 

「....うん!約束!」

 

「ああ、約束だ。」

 

 

俺は少年と指切りをする。

指切り後、少年は嬉しそうにサッカーボールを触りだした。

さっき助けていた、子犬と一緒に。

 

 

「少年、君の名前は?」

 

「僕、松風天馬!」

 

「天馬か。...俺は....『天馬ああああああああ!』...あれは...」

 

「あ、お母さん!」

 

 

何やら心配そうな顔をして、大人の女性が走ってきていた。

天馬が言うには、お母さんらしいな。ま、親が来たならもういいだろう。

そう思い、俺はその場を去っていった。

 

 

それにしても、松風天馬か....何となくだけど、あの子は他の子とは違う何かを感じたな。

いつか、いつの日か....彼がサッカーを続けて、活躍する姿を見てみたいと思った。

 

 

 

「天馬!怪我は無い!?」

 

「うん!お兄ちゃんが助けてくれた!」

 

「お兄ちゃん...?綱海君のこと?」

 

「ううん?綱海にーにじゃなくて....すごい人!これもらったんだ!」

 

「サッカーボール....これどうしたの?」

 

「お兄ちゃんから貰った!いつか返しに来てって!」

 

「そう......イナズママーク....雷門中かしら.....」

 

「お母さん!僕、サッカーやりたい!」

 

「ええ!?...まあいいけど....」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

これはもう一つのIF...そう遠くない未来の話。

 

 

「あなたですよね!?雷門中の炎のストライカー!10年前の沖縄で俺の命を救ってくれた、俺の命の恩人!」

 

「確かに俺は昔、雷門中で炎のストライカーと呼ばれていたが...」

 

「やっぱり!あの時はありがとうございました、豪炎寺さん!」

 

「いや、俺は...」

 

 

 

 

「あなただったんですね....あなたが、俺を救ってくれたあの人だったんだ...」

 

「....」

 

「答えて下さい!聖帝.....嵐山さん!」

 

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

紅蓮の炎

嵐山 side

 

 

 

「いや~、吉良さんのようなお美しい方が監督とは、選手たちが羨ましいですな~。」

 

「ははは...ありがとうございます...」

 

「それに雷門中の嵐山君までいるとは!今日はほんと、いい日ですな~!」

 

「ははは....」

 

 

俺たちが今どこにいるかというと、実は練習場所にしていた海の近くにある大海原中という学校に来ていた。

 

なぜかというと、俺が天馬のことを助けたところを見ていた喜屋武という少女が、そのことを学校で友達に話したところ、なぜか特に関係ない大海原中の校長が俺に感謝状を贈るという事態に発展したからだ。

 

さらに俺たちがサッカー部で、武者修行のような形で旅をしていることを知るや、練習試合を申し込んできた...という状況だ。何でも大海原中はフットボールフロンティア予選の決勝まで進んでいたんだが、トラブルで参加できず...という経歴を持つ学校らしい。

 

決勝もトラブルが無ければ勝ち抜いていたことはほぼ確実と言われているくらいだし、もしかしたら俺たち雷門中とも戦っていた可能性があった。

 

全国レベルに匹敵するチーム、という点では練習試合は賛成なんだが...

 

 

 

「ガハハ!緊張しているのかな、嵐山君!このグラウンドを、自分の家と思ってくつろいでくれていいだぞ!」

 

「え、いや...家はさすがに...はは...」

 

「それもそうか、ガハハ!」

 

「(め、めんどくさい....)」

 

 

大海原中の監督のノリについていけず、ちょっと疲れてしまった。

瞳子さんも最初、雷門中の監督と間違われていたし。

何て言うか、悪い人ではないんだけどな....

 

 

「初めまして、大海原中サッカー部キャプテンの音村です。」

 

「ど、どうも...永世学園サッカー部に強化委員として派遣されている、嵐山隼人です。」

 

「えっと、一応...キャプテンの基山タツヤです。」

 

「おいおい、一応ってなんだよ基山。」

 

「いや、キャプテンはやっぱり嵐山さんの方が...」

 

「何言ってるんだ。俺はあくまで強化委員。いずれは俺もいなくなるかもしれないんだから、キャプテンはお前がやるんだよ。」

 

 

相変わらず、基山はまだまだ自信がないというか、過剰に俺に期待している...そんな感じがするな。基山には、俺がいなくてもチームを引っ張っていくって覚悟をもってもらいたいんだが。

 

 

「なるほど....君が嵐山君か。君のことは色々噂で聞いている。」

 

「噂...?」

 

「曰く、とんでもないイケメンであるとか。曰く、常に女を侍らせているとか。曰く、彼女の数は既に3桁にまで昇る...とか。」

 

「な、なんだその噂....全部嘘だ。」

 

「ふっ...さすがにすべては信じていないさ。だが...すべてが嘘というわけではなさそうだ。」

 

「えっ?」

 

「喜屋武が珍しく興奮して話していたのが良くわかる。これほど顔の整った人は初めて見たよ。」

 

「え、いや...俺は別にそんな...」

 

 

「「「「「(いやいや、嵐山さんがイケメンじゃなかったら、俺たちはどうなるんだよ....)」」」」」

 

「(隼人はいわゆる朴念仁というやつだな。)」

 

「(嵐山君....ハァ....まあそういうところも貴方らしいわね。)」

 

「(嵐山君って案外ボケてるわね....)」

 

 

 

な、何だかみんなが残念な人を見るような目で俺を見ている気がする。

と、とにかく、今は練習試合のことを話すとしよう。

 

 

「練習試合だけど、これからすぐ始めるのか?」

 

「そうだね。僕たちとしてはいつでも問題無い。」

 

「そうか。...なら、さっそく始めますか、瞳子さん。」

 

「そうね。お願いしてもよろしいかしら?」

 

「そうですね!さっそく始めましょうか!」

 

 

双方の了承も取れたことで、永世学園サッカー部と大海原中サッカー部の練習試合が始まろうとしていた。

 

今回のスターティングメンバ―は、フォワードに基山、南雲。ミッドフィルダーに俺、八神、緑川、武藤。ディフェンダーに本場、蟹目、倉掛、薔薇薗。キーパーに砂木沼という布陣だ。

 

 

「それにしても...本当に大丈夫かよ、風介。」

 

「うぅ...暑い....」

 

「ほら、もっと日陰に行って休め。」

 

「はい....すみません、嵐山さん...」

 

 

何と、沖縄の暑さに涼野がダウンしてしまった。

まああいつは元々白くて、線が細いからな....少し無理をさせてしまって、俺の方が申し訳なく思っている。

 

 

 

「今回だが、基山を中心に攻めるつもりだ。だがそれぞれには課題をもって試合に取り組んでもらいたい。」

 

「課題...ですか?」

 

「ああ。課題は別に何でもいい。簡単なことでもな。例えばドリブルで相手を5回抜く...とか、自分のシュートで点を取る...とか。自分がこの試合、何を意識して試合に臨んでいるかってことが重要になってくるからな。」

 

「つまり、何も考えずただ試合をこなすだけでなく、何か目標や意志を持って戦えってことですね?」

 

「そういうことだ。目標は人それぞれ。弱点を克服するための目標設定でも良し、自分のこれまでの練習の成果を発揮するための目標でも良し。とにかく、何でもいいからなにか明確な目標、設定、意志...それを決めて試合をしてほしい。」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

こうして俺たち永世学園と、大海原中の試合が開始した。

さて、大海原中はいったいどういう戦い方をするのかな。

 

 

ピィィィィィ!

 

 

「よし、行くぞ!」

 

「おう!」

 

 

永世ボールで試合が開始。基山はボールを後方にいる俺に蹴ると、南雲と共に前線へと駆け上がっていく。

 

 

「よし....フォーメーションガイア!最初から上げていくぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

「八神!」

 

「ああ!」

 

 

俺は全員に指示を出すと、八神と共に駆けだした。

ちなみに俺が指示を出しているフォーメーションだが、全部で8個ある。

フォーメーションジェミニ、フォーメーションストーム、フォーメーションイプシロン、フォーメーションダイヤモンド、フォーメーションダスト、フォーメーションプロミネンス、フォーメーションガイア、フォーメーションジェネシスの8個だ。

 

 

それぞれのフォーメーションには中心となる人物がいて、その人物を中心に攻めあがっていく一種の暗号のようなものとなっている。

 

 

そしてフォーメーションガイアは、俺、八神が中心となってボールを運びつつ、基山がシュートを決めに行くものとなっている。

 

 

 

「ここは通さない!」

 

「悪いが通してもらうぜ。」

 

 

俺はブロックに来た大海原の選手を回転しながら回避する。

さらに回転報告とは逆の位置にいる八神に、ちょうど俺でボールが隠れるタイミングでパスを出し、俺はボールを持たずに大海原の選手を抜いていく。

 

 

「くっ!まだだ!」

 

「違うぞ、赤嶺!ボールは既に嵐山君の元を離れている!」

 

「なっ!?」

 

 

上手いこと引っかかってくれたが、さすがに遠目で見ている音村にはバレたか。

だが一瞬でも隙ができてしまえばこちらのものだ。

 

 

「通さないぞ!」

 

「ふっ、遅い!」

 

 

八神はブロックに来た大海原中の選手の頭上にボールを打ち上げると、自身もそのボールを追って上空へと飛んでいく。

 

 

「”メテオシャワー”!」

 

「ぐああああ!」

 

 

八神がボールを下に蹴り落とすと、それは隕石のごとく無数に分かれて降り注ぎ、大海原中の選手はたまらず吹き飛ばされてしまった。

 

その隙に八神は着地し、ドリブルでさらに駆け上がっていく。

 

 

「(いつの間にあんな必殺技を....すごいな、ちょっと怖いけど。)」

 

「決めろ、タツヤ!」

 

 

八神から前線へ上がっていた基山へとボールがセンタリングされる。

 

 

「うおおおおお!”流星ブレード”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

基山から放たれた”流星ブレード”は、轟音を立てながらゴールへと突き進んでいく。やはり基山のシュートは既に全国レベルだな....

 

 

「ゴールは死守する!”ちゃぶ台返し”!」

 

 

何と大海原中のキーパーは地面を盛り上げ、まるでちゃぶ台をひっくり返すかのように盛り上げた地面をひっくり返した。

 

基山の”流星ブレード”と盛り上がった地面はぶつかり、大きな音を響かせている....が、徐々に地面はひび割れていき...

 

 

「ぐっ.....何という威力.....ぐああああ!」

 

 

ピィィィィィ!

 

 

そのまま盛り上がった地面を突き破り、基山の放ったシュートはゴールへと突き刺さった。

 

 

「ナイスシュートだ、基山。」

 

「ありがとうございます、嵐山さん!」

 

「八神もナイスプレー!」

 

「ふふ、そうだろう。」

 

 

相変わらず、八神は自信たっぷりな返事だな。

ま、自信を持ってくれるのは良いことだし、八神はそれで驕らないからな。

こういうやつは伸びる。

 

 

「ドンマイドンマイ、切り替えていこう。」

 

「問題無い。今ので彼らのリズムはわかった。...この世のすべてはリズムでできている。それがわかってしまえば...僕らの勝ちだ。」

 

 

 

「へぇ...あちらさんも随分と自信たっぷりなタイプみたいだ。面白い。お前たち!全力でぶつかっていくぞ!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

 

ピィィィィィ!

 

 

大海原中のボールで試合が再開した。

ボールは音村に渡り、大海原中の選手は前線へと駆け上がってきている。

 

 

「トゥントゥクトゥントゥク....トゥクトゥク...」

 

「....?」

 

「トゥントゥクトゥントゥク....アップテンポ!8ビート!」

 

「っ!?」

 

 

な、なんだ今の...動きが一瞬スピードアップした...?

 

 

「トゥントゥクトゥントゥク...アンダンテ!2ビートダウン!」

 

「くっ....!」

 

 

今度はあえて少しだけスピードダウンして、ディフェンスのタイミングをずらした...そうか、あれはこちらの動きに合わせているチェンジ・オブ・ペースか!

 

 

「トゥントゥクトゥントゥク......16ビート!決めろ、宜保!」

 

「おっしゃあ!行くぞおおおお!」

 

「っ、止めろ、砂木沼!」

 

 

音村がセンタリングを上げると、大海原中の選手が三人上がって来て、一人の選手の両腕に二人がくっついたと思ったら、それを回転して上空に放り投げ、その二人がそのままボールをかかと落としで蹴り落とす。

 

 

「「”イーグルバスター”!」」

 

 

「(あれは...野生中のやつらが使っていた...!)」

 

 

「止めてみせる!”ワームホール”!....ぐっ、ぐああああ!」

 

 

ピィィィィィ!

 

 

砂木沼は必殺技で対抗するが、まるで止めることができずにゴールを許してしまった。なるほどな...これが大海原中の実力か。

 

 

「ナイスだ、三人とも。」

 

「おう。」

 

「さすが音村だぜ。」

 

「これで同点...すぐに逆転だぜ。」

 

 

 

音村を中心に、相手のリズムを見て動きを変える。

簡単に言っているが、なかなか難しい芸当だ。それをここまで動きに染み込ませているんだ。こりゃ本当にフットボールフロンティア全国大会に出場できていたら、いいところまで行ってたかもな。

 

 

 

「もうお前にシュートは打たせん!”ノーエスケープ”!」

 

「ぐああああ!」

 

「トゥントゥクトゥントゥク...8ビート!」

 

「くっ...!」

 

 

同点になってから試合は激化し、攻めあがる俺たちとシュートまではいかせない大海原中とでかなり激しい試合となっていた。

 

だがあれ以降、大海原中も攻めに転じられていないこの状況....チャンスはここだ。攻撃のリズムを変えることができれば....

 

 

「おっと、君には3人つかせてもらうよ。」

 

「っ...(俺には3人がかりか。)」

 

「トゥントゥクトゥクトゥク......もらった!」

 

「っ!....甘い!」

 

 

俺はボールを奪いに迫ってきた音村を躱すと、一瞬でスピードを上げて残りの二人も抜き去る。あまりの速さの音村を除いた二人は茫然としていた。

 

 

「ば、馬鹿な....この一瞬でリズムを変えた...!?」

 

「(大海原に隙ができた!)決めろ、南雲!」

 

「っ!うおおおおお!」

 

 

俺がセンタリングを上げると、南雲はそのボールに飛びつく。

だが次の瞬間、思いがけない事故が発生した。

 

 

「キィー!」

 

 

何と飛んでいた鳥がボールに直撃すると、ボールは弾き飛ばされ、海の方へと吹っ飛んでいった。

 

 

「な、なんだと!?」

 

「海の方に飛んでいくとは......って、海に誰かいる!」

 

「おーい!危ないぞ!」

 

 

「ん...あれは.....」

 

 

ボールが飛んでいった方向には、海でサーフィンを楽しむ俺たちくらいの年の男の子がいた。俺たちがそいつに呼びかける中、なぜか音村だけは冷静になっていた。

 

 

「んあ?....って、あぶねえ!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

 

だが、サーフィンをしていた男は俺たちが呼びかけたおかげか、飛んできたボールに気付き、サーフィンボードの上で回転しながら飛び上がると、ボールを思い切りオーバーヘッドキックし、こちらへ蹴り返してきた。

 

その勢いは、俺たちが狙うゴールとは反対側...つまり俺たちのゴールへとそのまま突き刺さった。

 

 

つまり、あんな遠く、さらには不安定な足場から蹴って、フィールド一つ分くらいの距離を飛んでもまるでパワーが衰えていないってことになる。

 

 

「すげえな、あいつ...」

 

「綱海条介...僕の幼馴染さ。」

 

 

「へえ....」

 

 

どうやら彼は綱海という男を知っているようだ。

あのキック力...サッカーをやっていたらかなり強力な選手になっていたんじゃないか...?

 

 

「おいおい、あぶねえじゃねえか。」

 

「すまない、まさか鳥がぶつかってくるとは思わなくて...」

 

 

綱海という男は、グラウンドに上がってきてそう言ってきた。

俺はボールを蹴った本人だったので、綱海に謝罪をした。

 

 

「なんだ、そういうことか。なら仕方ねえな。」

 

「あ、あれ...なんか簡単に許してくれたな。」

 

「へっ、別に俺は怪我もしてねえしな。あれくらいのこと、この海の広さに比べたらちっぽけなもんさ!」

 

「そうか.....でも、すまなかったな。」

 

「おう、謝罪は受け取っておくぜ。」

 

「僕も謝っておくよ、綱海。」

 

「音村じゃねえか。なんだ試合中だったか。」

 

「ああ。」

 

「じゃあ邪魔しちゃ悪いし、俺はもう行くぜ。」

 

 

そう言って、綱海はこの場を去ろうとした。

いや、綱海をサッカーに引き込むためにも、ここは引き留めるべきか。

 

 

「待ってくれ。」

 

「ん?」

 

「...サッカーに興味ないか?」

 

「....悪いな、興味ねえ。」

 

「俺たちは来年の世界大会に向けて、センスのあるやつを探しているんだ。さっきのキック力...あれは素晴らしいものだった。」

 

「来年、か。悪い、それこそ協力できねえぜ。」

 

「えっ?」

 

「嵐山君、綱海は3年生で今年卒業なんだ。」

 

 

何だと....3年生....

 

 

「それは....無理か....」

 

「はは、悪いな。世界と戦いてえってお前の気持ちに協力してやりたいと思ったけど、さすがに来年じゃ無理だ。」

 

「いや、仕方ないです。無理言ってすみません。」

 

「おいおい、いきなり敬語とか辞めてくれよ。別に気にすることねえって。こっちこそ悪いな、協力できなくて。」

 

「...いや、仕方ないことだから。」

 

「そうか。...じゃ、今度こそ俺は行くぜ。」

 

 

そう言って去っていく綱海を、俺たちは見送った。

残念だ...あれほどのキック力、そう見たことが無いからな。

たとえサッカー初心者だとしても、あれほど鍛えられたことがわかる筋肉...そうとう動けるだろう。本当に残念だ。

 

 

「それじゃ試合を再開しようか。」

 

「おう。」

 

 

音村の言葉に頷き、俺たちは再びフィールドへと戻っていく。

そんな時、南雲が何かをぶつぶつ言っていることに気付いた。

 

 

「そうか....あんな風にオーバーヘッドで蹴る感じで....」

 

「南雲?大丈夫か?」

 

「え、あ、はい。....嵐山さん、俺今ので必殺技のイメージが固まった気がするぜ!」

 

「へえ...じゃあ試してみるか。」

 

「おう!」

 

 

南雲はさっきの綱海のオーバーヘッドキックで、必殺技のイメージが固まってみたいだな。つまりオーバーヘッドキックの必殺技になるってことか?

 

 

「(ま、実際に見せてもらいましょうか。)」

 

 

アクシデントとはいえ、俺が蹴ったボールがフィールド外に出たため、大海原ボールで試合が再開した。大海原中の選手のスローインでボールが音村に渡るが、それを俺はすぐさま奪い取る。

 

 

「くっ...さすがだね、嵐山君。」

 

「悪いね。うちの選手がようやく必殺技をものにできそうなんだ。」

 

「そう簡単に通すわけにはいかないね!」

 

「いや...通してもらおうか。フォーメーションプロミネンス!」

 

「っ!よっしゃあああ!」

 

 

俺の言葉に、南雲が全力で前線へと駆け上がっていく。

全くあいつは...それじゃあお前がキーマンだとバレバレだろうに。

だが....そういう状況でもシュートを決めてもらわないと困るからな。

 

 

「っ、しまった!」

 

「悪いね、音村!...決めろ、南雲!」

 

 

俺は南雲に一瞬気を取られた音村を抜き去り、再び南雲にセンタリングをあげる。

さあ、お前のイメージした必殺技、俺にも見せてみろ!

 

 

「(感謝するぜ、綱海とかいうやつ....これで俺の必殺技が完成する!)紅蓮の炎で焼き尽くしてやるぜ!”アトミックフレア”!」

 

ドゴンッ!

 

 

ついに放たれた南雲の必殺シュートは、炎を纏いながらゴールへと突き進んでいく。

 

 

 

「決めさせん!”ちゃぶ台返し”!」

 

 

大海原中のキーパーが再び必殺技で対抗するが、その勢いはまるで収まることは無く....

 

 

「ぐっ...ぐああああ!」

 

 

一瞬で必殺技を打ち破り、キーパー諸共ゴールへと突き刺さった。

 

 

ピィィィィィ!

 

 

「よっしゃあああ!」

 

「ナイスシュートだ、南雲!」

 

「やったな、晴也!」

 

「おう!ようやく決められた....これで俺は今日から、炎のストライカーだぜ!」

 

 

こうして必殺技を会得した南雲と、基山を中心に攻めあがり、さらには前日にディフェンス技を習得していた面々のおかげで試合は俺たちが完全に支配し、最後まで俺たちが圧倒する形で試合は終了したのであった。

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

研崎 side

 

 

 

「ハァ...ハァ...」

 

「おや、お坊ちゃま。こんな時間までどうしたのですか?随分と泥だらけのようですが。」

 

 

 

私が研究室を出て、"グラウンドへの仕込み"を行うために永世学園のグラウンドへ立ち寄ると、そこにはお坊ちゃまがまだ残っていた。

 

何やら練習着を着て練習をしていたようだが...全く無駄なことを。

 

 

「俺様はあいつにまだ勝ってねえからな。あいつに勝つには俺様がレベルアップする必要があるんだよ。」

 

「(努力など無駄なことを....まあいい。このガキにも使い道はあるからな。)それはそれは...素晴らしいことですね。」

 

「はっ....とにかく俺はまだ練習を続ける。邪魔だから帰りな。」

 

「そうですか。それでは私は失礼しますよ。」

 

 

こうなっては仕方あるまい。

グラウンドへの仕込みはまた次の日にするとしましょう。

 

しかし、本当に努力などくだらない。

そんなもの、私の開発したエイリアンエナジーがあれば不要だというのに。

そんなこともわからない低能だから、彼らは私に歯向かうのでしょうねえ。

 

 

「(くくく...もう少しだ...もう少し我慢するだけで、私の研究は日の目を見ることになるのだ....!)」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

祖父ちゃんの特訓ノート

嵐山 side

 

 

沖縄での集中特訓を開始してから、実に1か月が経過しようとしていた。

あれから砂浜特訓とは別に、大海原中との合同練習や練習試合を行ったりとかなり充実した練習を行うことができたと思っている。特にこの1か月の南雲の成長は目を見張るものがある。

 

この沖縄の環境が、南雲にはかなり合っていたんだろうな。

逆に涼野は相変わらず暑さでダウンすることが多く、そろそろ涼野のメンタルにも影響が出るかもしれないと思い、俺たちは沖縄を後にしようと考えていた。

 

 

「やはり近いところから行く方が、楽ではないかしら?」

 

「そうですね。となると....少林からは是非と返事が来ていたので、京都でしょうか。」

 

「漫遊寺中ね....あの学校からよく試合の許可が出たわね。」

 

「ええ。少林が機転を利かせてくれましてね。試合ではなく手合わせをしようと言ったみたいです。競い合うのではなく、互いを高め合う...それなら良いと許可を貰えたみたいです。」

 

「ではまずは京都に向かいましょうか。漫遊寺の方々の気が変わる前に。」

 

「そうですね。」

 

「....それにしても、今年もそろそろ終わりね。」

 

 

そう...今年もそろそろ終わりで、俺たちに残された時間もあとわずかとなっていた。

永世学園に来てから色々あった...いや、雷門にいたころから色々あったのに変わりないが...

そろそろチームとしてある程度の完成形に持っていきたいところだが、もう一つ足りていないんだよな。

 

 

「嵐山君は、クリスマスは予定があるのかしら?」

 

「え、いや...無いですよ。まあ基山たちにはあるかもしれないので、練習は休みにするつもりですけど。」

 

「そう...(いつもだったらお日さま園のみんなでパーティーを開くところだけど...今年は無理そうね。)」

 

「(今年のクリスマス...嵐山君と過ごせたら.....)」

 

 

クリスマスか....去年はリハビリで忙しかったし、それ以前もじいちゃんとの特訓でクリスマスを楽しむ時間なんて無かったからな。今年は何かクリスマスらしいことをやってみようかな。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

??? side

 

 

「それで...雷門中の面々が派遣された学校はわかったかい?」

 

「はい。豪炎寺は古巣の木戸川清修に。鬼道は帝国ではなく新設校の星章学園、代わりに風丸が帝国学園に派遣されています。キャプテンの円堂はサッカー部の無い利根川東泉へ。彼は何を考えているのかわかりませんね。」

 

「はは...きっと、雷門の時みたいに一からチームを作りたいんじゃないかな。」

 

 

効率という点で考えれば、あり得ない選択肢だとは僕も思うけどね。

ただ、円堂守、そして嵐山隼人...彼らはデータでは計れない何かを持っている。

だからこそ、こうやって彼らの動向はくまなくチェックしているというわけさ。

 

 

「それから...嵐山は永世学園に派遣されていますが、現在は学校を離れて各地を旅しているようです。」

 

「へえ...詳しくわかるかい?」

 

「はい。どうやら内輪揉めのようでした。結果、嵐山とサッカー部は学校を出る選択をしたようです。」

 

「なるほどね....」

 

 

どうやら嵐山さんは面倒ごとに巻き込まれているようだね。

だがあの人のことだ、これを利用して何かを企てているに違いない。

一度会っただけだが、アレスクラスターでも無いのにあれほどの脅威を感じたのは初めてだ。

円堂守にも得体のしれない何かを感じたが....嵐山隼人はその比ではない。

 

 

「そういえば聞きましたか、スポンサー制度のこと。」

 

「ああ、そんな話を小耳にはさんだね。」

 

「高まりすぎたサッカー熱を管理するための制度みたいです。王帝は恐らく、月光エレクトロニクスがスポンサーになるでしょうから、関係ありませんが。」

 

「そうだね。今までと何も変わりはないだろう。」

 

 

スポンサーは正直どうでもいいけど、早く彼の実力を計っておきたい。

嵐山隼人....彼が指揮する永世学園の実力を。

 

 

「西蔭、永世学園の騒動が終わるまで、出来る限りでいいから嵐山隼人の動向を探って欲しい。」

 

「わかりました。しかし野坂さん...それほど気にするべきなのでしょうか。確かに実力は凄まじいですが、データは既に取れています。」

 

「残念だけど、彼にはデータなんて通じないだろうね。データにはない何かを持っている。」

 

「データにはない何か、ですか....」

 

「そういうのは、君が一番わかってるんじゃないかい?」

 

「それは........」

 

 

「まあとにかく、騒動が終われば練習試合を申し込んでも問題は無いだろう。練習試合で直接実力を計り、我々の計画に邪魔だと判断されたら.....グリッドオメガで潰すだけだ。」

 

「野坂さん........わかりました。」

 

 

 

この時の僕はわかっていなかった。

嵐山隼人が、そして彼に鍛えられた永世学園の底力を。

嵐山隼人がサッカーにかける情熱を。

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

嵐山 side

 

 

 

「うっしっしっし!引っかかった引っかかった!」

 

「こら~!小暮えええええ!」

 

 

 

あれから数日かけて、京都の漫遊寺中についたのだが....

何というか衝撃的な歓迎を受けてしまった。

というのも、俺たちが漫遊寺中の校舎内に入ろうとした瞬間、少し後方を歩いていた俺と瞳子さん、夏未以外が落とし穴に落ちたのだ。

 

 

犯人は小暮という1年生らしく、いつもこんな風にいたずらをしているらしい。

幸い落とし穴はそこまで深くなく、ちゃんと中にはクッションが入っていたので怪我はしていなさそうだが...

 

 

「大丈夫か、お前ら。」

 

「ええ...大丈夫...」

 

「痛たた....びっくりしたよ...」

 

 

俺は近くにいた八神や緑川を引っ張り上げる。

他の奴らも自力で脱出したり、そこから引っ張り上げてもらったりして脱出していた。

 

 

「嵐山さん、すみません...」

 

「いや、少林が気にすることじゃないよ。」

 

「そう言ってもらえると助かります......こら!小暮!」

 

「な、なんだよ...引っかかる方が悪いんだよ!」

 

「こら!小暮!お客様方に謝るんだ!」

 

 

犯人の小暮は首根っこを捕まれてこちらへ連れられてきた。

しかし、謝るどころか悪態を付く始末....とんだ問題児がいたもんだな。

だがあの足の速さ...それに小回りの利く動き、なかなか良い動きだった。

さすがは漫遊寺のサッカー部員なだけはある。

 

 

「もういいですよ。それより、少し聞きたいことがあるんですが...」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「...小暮、君はどうしてこんなことをするんだ?」

 

「へん...別に何だっていいだろ。」

 

「そうか....だが、今ので俺たちが怪我をしていたら、どう責任を取るつもりだったんだ?」

 

「別に、怪我した奴が悪いだけだろ。俺が責任取るとか、意味わかんねえし。」

 

「本当にそう思うか?」

 

「うっ.........う、うるさい!」

 

「あ、小暮!」

 

 

小暮は俺に向かって叫ぶと、捕まれていたにも関わらず簡単に手からすり抜け、この場を去っていった。

あの身のこなし...やっぱりあいつ...

 

 

「すみません、永世学園の皆さん。」

 

「いえ、大丈夫です。な、みんな?」

 

「ああ。驚いたが、クッションもあったし怪我はねえよ。」

 

「私もだ。」

 

 

「それなら良かった....小暮は色々ありまして、かなりの問題行動が目立っているんです。まさかお客様方にまで危害を加えるとは...もう部を追放するしか...」

 

「待って下さい。」

 

 

小暮を部から追放するなんてもったいない。

あれほどの動き、ただの才能だけでは無い。努力の跡が見える。

 

 

「俺たちは誰も怪我をしませんでした。だから問題ありません。彼を部から追放するのは辞めてあげて下さい。」

 

「何故....被害者であるあなたがあいつを庇うのです?」

 

「彼の表情を見て、何となくこいつらと同じ雰囲気を感じました。多分ですけど、あいつの両親は...」

 

「...ええ。小暮は昔、母親に連れられて出かけた先で、母親に捨てられたのです。それ以来、小暮は誰かを信じることなどなくなり、ああやっていたずらを繰り返すようになってしまった。」

 

「だったら、小暮を部から追放するのは辞めた方がいい。そんなことをすれば、これまで以上にあいつは人を信じられなくなってしまうと思います。誰かが見守ってあげるべきです。」

 

「....確かに、一理あります。」

 

 

 

「ほっほっほっほ...なかなか清らかな心をもっていらっしゃる。」

 

「監督!」

 

 

俺たちが話していると、奥から衣笠を被った仙人のような人があらわれた。

サッカー部のこの人が監督と言っているし、サッカー部の監督なんだろうか。

 

 

「安心しなさい、旅の方。小暮を部から追放することは無い。私が責任をもって育てる故。」

 

「そうですか...ならいいんですけど。」

 

「ほっほっほっほ。もしや...嵐山宗吾の孫では無いか?」

 

「っ!じいちゃんを知っているんですか?」

 

「ほっほっほっほ。知っているも何も、私は彼とは友人でしたから。.....なるほど、君が宗吾の孫....」

 

 

そう言って、何か懐かしむように俺のことを見ている。

じいちゃんの知り合いと、こんなところで出会うなんてな。

じいちゃんが亡くなってからというもの、じいちゃんに近しい人はめっきり姿を見せなくなっていた。

それがこうやって、旅をしている中で出会うことができるとは。

 

 

「ほっほっほっほ。君にこれを授けよう。」

 

「これは....?」

 

「宗吾が残した、必殺技の特訓ノートじゃ。」

 

「特訓ノート.....」

 

 

円堂の祖父さんだけじゃなく、俺のじいちゃんもこんなノートを残していたのか。

かなり汚れているけど、しっかり管理されていたのか問題無く読めそうだ。

それにしてもかなり分厚いな....そんなに必殺技を考案していたのか...?

 

 

「宗吾はいつもとんでもないことを突拍子もなく言う奴での....周りも振り回されておったが....ほっほっほっほ...懐かしいのお...」

 

「....ノート、ありがたく受け取らせて頂きます。今度、うちに来て下さい。じいちゃんも喜びます。」

 

「それはそれは...是非お邪魔させていただこう。」

 

 

こうして、俺はじいちゃんの残した特訓ノートを手に入れることができた。

じいちゃんが亡くなってから、俺はもう一人だと思っていたけど...こうやって繋がりを知ることができて嬉しく思う。

 

 

「ねえ嵐山君。早速ノートを見てみないかしら。」

 

「そうだね、夏未。どれどれ.....」

 

 

まず1ページめくってみると、そこには目次が書かれていた。

目次を見る限り、かなりの必殺技が書かれているみたいだが、一部はもう知っているような技だな。

基本編、応用編、実用編と、レベルで分けられているようだった。

基本編は俺も昔、じいちゃんに叩きこまれた内容が書かれているだけのようだし、応用編から見てみるか。

 

 

「へぇ...”竜巻落とし”、”サンダービースト”、”ザ・ハリケーン”....応用編は合体技が多いみたいだな。」

 

「これ、僕たちでも出来るんですかね?」

 

「う~ん...今はまだ早い気もするな。だけど何れはこのノートからいくつか必殺技を習得するのも悪くないかも。」

 

 

そんなことを話ながら、ノートをめくっていく。

いくつか気になる必殺技があった。

 

”コズミック・ブラスター”、”ビッグバン”、”スーパーノヴァ”....何だこれ、宇宙シリーズって。

それに”ペンギンカーニバル”、”ペンギン・ザ・ハンド”とかいうペンギンシリーズもあるし。

これが実用編ってどういうことだよ、じいちゃん....

 

 

「....(だけどこの実用編に書かれている必殺技...難易度はかなり高いが、確かに理論上は強力な必殺技になっている。それにいくつかはそこまで難易度が高くないものもある。......試してみる価値はあるかもしれない。)」

 

 

だが問題は誰と誰で連携するか、だな。

たとえばこの”ディープジャングル”....三人が協力して同じタイミングでボールに触れて圧力を加えることで、ボールの勢いを削ぐ...か。八神は周りを良く見ていて、状況判断に長けているから有りだな。

 

だが八神ではそれほど強力なディフェンス力は無い。となるとここに蟹目か本場が欲しいところだな。

あとはまとめ役として俺が参加すれば、形になるかもしれない。

 

”スーパーノヴァ”に関しても、キック力という点では俺と基山がいればそれなりのパワーが生まれるが....南雲と涼野ではパワーが足りない。もう一人、俺や基山に合わせられるほどのキッカーがいれば....

 

 

 

「......ま、何はともあれ、このノートのおかげでやれることが増えた。だが大事なのは基礎だ。3月まであと少し....しっかりと基礎を固めていくぞ!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

やるべきこと

嵐山 side

 

 

あれから俺たちは漫遊寺中との練習試合を行った。

さすがは裏のフットボールフロンティア優勝校と呼ばれるだけあって、前半は相手のいい様にやられていた。

だが後半、基山と八神が中心となって相手の動きに対応し、南雲のキック力が相手のキーパーを上回り、得点することができていた。ディフェンスも基山と八神の的確な指示のおかげで機能し始め、後半はかなり締まった試合になった。

 

 

「今日はありがとうございました、嵐山さん!」

 

「ああ、こちらこそありがとう、少林。雷門を出てからもしっかり練習に励んでいるみたいだな。」

 

「はい!雷門での日々も楽しかったですけど、憧れの漫遊寺に来られて楽しいんです!今日は嵐山さんと戦えなくて残念です...」

 

「はは、悪かったな。今の永世学園に足りていないのは圧倒的に経験だから、あいつらだけで試合をさせたかったんだ。」

 

「そうだったんですか。...もしまた試合ができたら、今度は戦いましょうね!」

 

「ああ。」

 

 

少林もこの強化委員制度には反対していたが、今は随分と自信をもって活動できているようだな。

雷門にいたころの後輩だし、1年組は気にかけていたが....どうやら問題なさそうだな。

 

 

「それじゃあそろそろ俺たちは行くよ。」

 

「はい!また来てくださいね!」

 

「ああ。じゃあな。」

 

 

こうして俺たちは、漫遊寺を、京都を後にした。

さて...次の目的地が恐らく、最後の目的地となるだろう。

この旅で、基山たちにはいろんな経験を積ませることができたと思う。

 

これまでの練習が力となり、きっとあいつらを倒すことができると俺は信じている。

 

 

ピロンッ

 

 

「....ふっ、楽しみだな。」

 

 

『嵐山、次は俺のところに来てくれるんだってな。もっと早くに来た方が安全だったかもしれねえが....ま、来てくれるんだったら楽しみに待ってるぜ。進化した俺とも勝負してくれよな。』

 

 

「待ってろ、染岡。そして北海道....!」

 

 

.....

....

...

..

.

 

夏未 side

 

 

 

「...というわけで、私たちはこれから北海道に向かいます。」

 

『そうか。この時期だともう雪が積もってるだろう。事故には気を付けるんだよ。』

 

「ええ、わかっています。」

 

『うむ。....ところで、嵐山君にはもう話したのかい?』

 

「いえ....」

 

 

まだ、彼には話すことができていない。

彼が母親の話を聞いて、心を病んでしまったら...

そう思うとやはりまだ決心がつかない。

 

 

『そうか....すまないね、夏未。お前には酷なことをお願いしてしまった。』

 

「いえ...私が必ず伝えます。」

 

『うむ......それと、少し小耳に入れておきたい情報がある。』

 

「...何でしょう。」

 

『影山についてだ。実は彼だが、アレス更生プログラムというものに参加を志願し、刑期を短くしたことがわかった。』

 

「何ですって...!?」

 

 

あれだけのことをした影山が....アレス更生プログラム、名前からして最近よく名前を聞くようになった、アレスの天秤システムに関係するものでしょうね。表の評判は良いみたいだけど、実は不穏な噂をよく耳にする。

 

 

『しかも影山は帝国学園に戻ってくるかもしれないと、少年サッカー協会で話題になっているんだ。』

 

「影山が、帝国に....」

 

『夏未、奴が再び大それたことを起こすとは思えないが....十分に気を付けて欲しい。』

 

「ええ、わかっています....。」

 

 

パパへの定時連絡を終え、私はあまりの心労にその場に座り込んでしまう。

永世学園の問題だけでも十分大変なのに、影山まで....全く、サッカーに関わるようになってからこんなことばかりね。

 

 

コンコンコンッ

 

 

「夏未、入っていいか?」

 

「嵐山君....ええ、どうぞ。」

 

 

私が返事をすると、キャラバンのドアを開けて嵐山君が入ってきた。

練習着を着てボールを持ち、汗をかいているようなので練習をしていたのだろう。

 

 

「良かった、理事長との通話は終わってたんだね。」

 

「ええ、ついさっきね。...ところでどうかしたのかしら?」

 

「いや、ちょっとノートを取りにね。試したい必殺技があったから、せっかくだし練習してみようと思ってさ。」

 

「そう.....」

 

「え~っと....どこに置いたっけな~。」

 

 

そう言いながら、嵐山君は私に背を向け自分のカバンを漁りだした。

そんな嵐山君の背中を見つめながら、私は彼の母親の話をいつすべきか考えていた。

 

 

「お、あったあった....」

 

「嵐山くん....」

 

「...どうした、夏未?」

 

 

私は無意識のうちに、嵐山君の服の裾を掴んでいた。

...もうこのタイミングしかない。嵐山君にはすべてを話そう。

 

 

「少し、時間をくれないかしら....とても重要な話があるの。」

 

「...わかった。それなら少し待っていてくれ。みんなには練習の指示を出して、着替えてくるから。」

 

「ええ、お願い..」

 

 

私の表情を見て、嵐山君はきっとかなり重い話だと理解していると思う。

もしかしたら、嵐山君のこれからの人生を大きく左右するかもしれない話。

でも私は信じている....嵐山君ならこの話を聞いても、きっと前を向いて歩いていくって。

 

 

「お待たせ。...それで、話って?」

 

「ええ、実は...」

 

 

練習の指示を終えて戻ってきた嵐山君に、私はパパから得た情報を話した。

研崎の一件に嵐山君のお母さまが絡んでいること、影山が刑期を短くして出所する予定のこと、影山が帝国の監督に返り咲く可能性が高いこと、そしてそんな影山に嵐山君のお父様が接触したこと....

 

嵐山君は私の話に口を出さず、私が全てを話すまで無言を貫いた。

時折、表情が歪んだようにも見えたけど、私の話を最後まで真剣に聞いてくれた。

 

 

「...というわけなの。」

 

「そうか........生きてたんだ、俺の父さんと母さん...」

 

「ええ....」

 

「......話してくれてありがとう、夏未。」

 

「えっ...」

 

「夏未が話してくれたから、俺は二人が生きていることを知れた。たとえ母さんが敵だったとしても...俺のやることは変わらないよ。永世学園を、基山たちを導いて再び日本一になる。そして世界へ...そうだろ、夏未。」

 

 

そう言って笑う嵐山君の顔は、どこかいつもより暗いように感じた。

きっと、私に心配かけないように隠しているのね。

 

 

「そう...ね....嵐山君がそう言うなら、そういうことにしておくわ。」

 

「はは、なんだそれ。....でも、本当にありがとう。君のおかげで、俺のやるべきことが見えた気がするよ。」

 

「やるべきこと...?」

 

「ああ。母さんが研崎の研究を手伝っているというなら、俺は責任をもってそれを止めなきゃいけない。今戦っていることが間違ってないってわかった。俺は....母さんを止めるよ。」

 

「......強いのね、嵐山君は。」

 

「そんなことないさ。...でも、誰にだって立ち止まってはいられない時がある。俺にとっては...今がその時なんだよ。」

 

 

そう言って、嵐山君は立ち上がり、キャラバンの外へと出ていく。

 

 

「本当にありがとう、夏未。君が一緒に永世学園に来てくれて、こうやって俺のことも心配してくれて....君がいてくれてよかった。」

 

「っ....嵐山君...」

 

「これからも頼むよ、夏未。」

 

「...ええ。」

 

「ふっ...じゃあ行ってくる!」

 

「ふふ...行ってらっしゃい。」

 

 

私は走り去っていく嵐山君に手を振る。

良かった...少し心配したけど、いつもの嵐山君ね。

それにしても....私がいて良かった、か....

 

 

「それはこっちのセリフよ、嵐山君....あなたが雷門中に来てくれたから、私はこうやってサッカーに関わっているのだから...」

 

 

さて...私もマネージャーとしてきちんと仕事をしなくてはね。

とりあえず木野さんと音無さんに学んだ、おにぎりでも作ってみようかしら。

 

 

.....

....

...

..

.

 

豪炎寺 side

 

 

「「「”トライアングルZ”!!!」」」

 

「はああああ!”爆熱ストーム”っ!!!!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

武方三兄弟の”トライアングルZ”に、俺の新必殺技である”爆熱ストーム”を組み合わせる。

言うだけなら簡単だが、なかなかうまくいっていないのが現状だ。

だがこの必殺技...いや、オーバーライドが完成すれば、木戸川はさらに強くなれる。

 

 

「ハァ...ハァ....もう一度だ。」

 

「ご、豪炎寺...さすがにそろそろ休憩するっしょ...」

 

「そうですよ、豪炎寺...もう50回も続けて打っています。」

 

「無理は禁物...みたいな...」

 

「....そうだな。」

 

 

勝たちの言葉に頷き、俺は休憩に入る。

勝たちはその場に座り込んでおり、どちらかというと自分たちが疲れていたからこその発言だったようだ。

 

しかし、このオーバーライド...予想以上に難しい技術だ。

必殺技と必殺技を掛け合わせるという、今までの連携技と同じようなものと捉えていては成功しない。

必殺技同士、選手同士、すべてが完璧に合わさることで発動できる、連携技の終着点のようなものだ。

 

 

「だが...このオーバーライドが完成すれば...いや、完成した時こそ俺たち木戸川清修のサッカーは完成する。」

 

 

そのためにも、ここで立ち止まっているわけにはいかない。

俺は自分に、そして夕香に誓った....来年のフットボールフロンティアで隼人に勝ち、真のエースストライカーの座を奪って見せると。

 

 

「さあ、練習を再開しよう。」

 

「「「えぇ~!もうかよ!」」」

 

 

待っていろ、隼人...いや、隼人だけではない。

円堂、鬼道、風丸、染岡...そして他の名だたる選手たち...!

次のフットボールフロンティアを制するのは、俺たち木戸川清修だ!

 

 

 

 

.




申し訳ないが大阪、愛媛には行きません。
大阪 : 一之瀬がいないので...
愛媛 : 真・帝国学園?なにそれ、なので...


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雪原の出会い

嵐山 side

 

 

バシュンッ!

ガコンッ!

ガコンッ!

ガコンッ!

ガコンッ!

 

 

「っ....まだまだ安定しないな...」

 

 

京都から北海道へ向かう道中、俺はいつのものように真夜中に練習をしていた。

今は祖父ちゃんの残したノートに書かれていた特訓内容について、練習に取り入れている。

この特訓を続けることで、俺はきっと世界に通用するシュートを身に着けることができる。

 

今までだってそうだ。祖父ちゃんに鍛えてもらったサッカーテクニックは、いろんな強敵に通用してきたんだから。

 

 

 

「随分と酷い結果ね。」

 

「.....八神か。」

 

 

誰かと思えば、八神が俺の後方に立っていた。

意外とかわいらしいパジャマを着ているな、珍しい。

 

 

「起こしたか?」

 

「いえ、少し眠れなくて。....それで、何の特訓なの?」

 

「シュートの威力を高めるための特訓さ。他にも回転を極める特訓、無回転を極める特訓、スピードを上げる特訓なんてのもある。」

 

「何というか、あなたのお祖父さんはすごい人なのね。」

 

「まあね............八神はさ、もし死んでると思っていた両親が生きていたって知ったら、どう思う?」

 

 

こんな質問、お日さま園で暮らしている人間に聞くべき質問ではないと思う。

それでも俺と似たような境遇の人にの意見も聞いておきたいからな。

 

 

「そう...ね......嬉しいと思う反面、憎い気持ちの方が勝ると思うわ。」

 

「憎い、か...」

 

「だって、生きていたのなら私に会いにだってこれたはずでしょう?私の場合は、瞳子姉さんが両親の知り合いだったから、両親が亡くなった時にお日さま園に引き取られた。それが実は生きていた、ってなると私の両親は知り合いだった瞳子姉さんに私を押し付けて消えたってことになる。...だから、私は家族が生きていたことが嬉しいと思う反面、憎いって感情が抑えられないと思う。」

 

「そうか....」

 

 

俺のこの気持ちも、恐らくはそういうことなんだろうな。

祖父ちゃんとばあちゃんが亡くなって、俺は一人になった。

大人にならざるをえなかった俺だからこそ、実は生きていただなんて抜かす両親に、強く言ったって悪くないだろう。

 

 

「.....隼人は、もしかしてそういう経験があるの?」

 

「え、いや.......まぁ、そう...だね...」

 

 

正直、夏未に話を聞くまで存在すら忘れていたくらいだった。

俺の記憶の中に、両親は存在しなかったから。

祖父ちゃんに教えられていたことくらいしか知らないのに、いきなり両親が生きてますって言われてもピンと来ないんだよな。でも逆に、何で今まで黙ってたとか、祖父ちゃんはどうして俺に嘘をついたとか、母さんは何でそんな研究をしているとか、父さんは何で影山に会ったんだとか...色々複雑な感情が心の中で渦巻いている。

 

 

「.....大丈夫よ、隼人。」

 

「えっ?」

 

「隼人には私たちがついていることを忘れないで。私たちは隼人にただサッカーを教えられているだけの存在じゃない....私たちはとっくに仲間よ。何かあれば助け合う...それが仲間でしょ?」

 

「八神......ふっ、そうだな。俺も大事なことを忘れていたみたいだ。」

 

 

いつの間にか、俺は八神たちの"先生"になったつもりでいた。

だから八神の言った"仲間"って言葉にハッとさせられてしまった。

俺自身が、彼らを仲間だと認めていなかったんだ。

雷門イレブンを仲間として考えていたのに、まだ短い時間だけど一緒に過ごしている彼らを仲間として考えていなかった。

 

 

「ありがとう、八神。これからはちゃんと、君たちにも相談する。何かあったら...助け合おう。」

 

「っ!....ええ。」

 

「さて、と....俺はもう少し練習していくけど、八神はどうする?」

 

「私は....あなたの練習を見ているわ。」

 

「そうか。」

 

 

俺は八神がその場に座ったのを見て、すぐに自分のカバンからあるものを取り出す。

 

 

「どうしたの?」

 

「もう冬にもなるってのに、パジャマじゃ外は寒いだろ。」

 

「わっ!.....上着...」

 

 

俺は八神にカバンにしまっていた上着を投げ渡す。

上しかないけど、気休めにはなるだろ。

 

 

「眠くなったり、体調崩す前に戻れよ?」

 

「うん.....(あったかい...それに...隼人の匂い....)」

 

 

さて、八神が練習を見ているのはいいが...俺は俺でしっかりと練習をしないとな。

世界に通用するシュートを身に着ける。それが世界に挑戦するための最終目標なのだから。

 

 

「はっ!」

 

 

ガコンッ!

ガコンッ!

バシュンッ!

バシュンッ!

ガコンッ!

 

 

「っ...だがさっきよりはマシになったな...」

 

 

ガコンッ!

バシュンッ!

バシュンッ!

ガコンッ!

ガコンッ!

 

 

そんな調子で続けていたが、ふと八神の方を見ると八神が寝ていることに気付いた。

全く...眠くなる前に戻れって言ったのにな。仕方ない。

俺は練習道具を片付けて汗を拭くと、八神を起こさないように近付いた。

 

 

「悪いが...我慢してくれ。」

 

 

そう言って、俺は体育座りの体勢で寝ている八神を持ち上げる。

そのまま八神をキャラバンへと連れていくため、俺は歩き出した。

 

 

.....

....

...

..

.

 

数日後

 

 

「寒っ...さすがは冬の北海道だな...」

 

「ふっ...快適だ...」

 

「お前、いかれてやがるぜ....」

 

 

数日を経て、俺たちはようやく北海道へと上陸した。

みんなわかってはいたけど、さすがの寒さに堪えている。

だが一人、涼野だけは平然としていた。

 

 

「涼野は寒くないのか?」

 

「はい。私は寒さには強いので。暑さには弱いですけど。」

 

「まあ...沖縄で死にかけてたもんな...」

 

 

南雲は炎のストライカーを名乗っているし、見た目からして暑さに強そうだったけど、確かに涼野は名前からして寒さには強そうだもんな。二人はまさに対極の存在ってわけか。

 

 

「うぅ....寒ぃ....」

 

「この程度で音を上げるなど...軟弱な男だ。」

 

「なっ!?てめえ!沖縄で死にかけてた奴が何言ってやがる!」

 

「(本当に対極だな...まあ仲は良いみたいだけど。)」

 

 

 

ガタンッ!

 

 

「「「うわあ!!!!」」」

 

 

そんなこんなでキャラバンで移動していたのだが、突然車体が揺れたと思ったら動かなくなってしまった。

 

 

「す、すまん!どうやら溝にハマっちまったらしい。」

 

「とりあえず一旦外に出て、俺たちで押してみましょう。」

 

「そうね。頼めるかしら。」

 

 

どうやらタイヤが溝にハマってしまったらしい。

俺が押し出してみることを提案し、瞳子さんが了承したので俺たちは防寒着を着こみ外に出た。

外は吹雪いてはいないが、雪が積もっていてかなりの寒さとなっている。

視界も悪いし、これは助けを求めるのも大変だろうな。

 

 

「よし...じゃあ押してみるぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

「せーの!」

 

 

俺たちで何とか推してはみたものの、タイヤが溝から出ることはなかった。

まさかこんなトラブルが発生するとはな....恐るべき、冬の北海道。

 

 

「君たち、大丈夫かい?」

 

「えっ!?」

 

「ひ、人!?」

 

「こんなところで何をしているんだい?」

 

 

俺たちがどうしようか困っていると、突然誰かに声をかけられた。

俺たちと同じくらいのイケメンがそこには立っていて、脇にはサッカーボールが抱えられていた。

 

 

「すまない。俺は嵐山隼人。実は移動してた車のタイヤが溝にハマってしまって、困っていたんだ。」

 

「嵐山隼人............そうか、大変だったね。僕で良ければ協力するよ。」

 

「本当か!」

 

「うん。こういうときは助け合いでしょ?」

 

「いや...ありがとう!」

 

「ううん。....あ、僕は吹雪士郎。よろしくね。」

 

「ああ、よろしくな吹雪。」

 

 

さて、そんなこんなで吹雪が手伝ってくれることになったが...あまり力があるようには見えないが、どうやって手伝ってくれるんだろう。地元民ならではの脱出方法でもあるのか?

 

 

「よし....みんな少し離れていて?」

 

「え、離れる?」

 

「うん。巻き込まれると危ないよ。」

 

「(どういうことだ...?)...とにかく、吹雪の指示に従おう。みんな離れてくれ。」

 

 

俺がそう言うと、吹雪以外はみんなキャラバンから離れていく。

吹雪はというと、みんなが離れたことを確認してから抱えていたボールを地面に置いた。

 

 

「さてと.........ふっ!」

 

「っ!」

 

「”エターナルブリザード”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

吹雪は足元のボールを回転させながら宙へ浮かせると、今度は自分が回転しながらボールを蹴りだす。

ボールは凍ったような状態となり、放たれたボールはキャラバン付近の雪を吹き飛ばしていく。

 

 

「(何て威力だ...しかも動作が早い。あれほどの速さ、そして威力でシュートを放たれたら、並みのキーパーじゃ反応すらできんぞ...)」

 

「よし....これで少しは動きやすくなったんじゃないかな?」

 

「....ありがとう、吹雪。」

 

「どういたしまして、嵐山君。」

 

 

その後は吹雪の言った通り、動かしやすくなったおかげかすぐに溝から脱出することができた。

どうやら溝よりもキャラバンと接していた雪の方が邪魔をしていたようだ。

何はともあれ、吹雪のおかげで何とかなったな。

 

 

「何とかなって良かったよ。」

 

「改めて、ありがとうな吹雪。」

 

「いえいえ。...ところで嵐山君たちはこれからどこへ行くんだい?」

 

「ああ。俺たちはこれからこの先にある白恋中に向かうんだ。」

 

「やっぱりそうだったんだね。僕も白恋中に向かっていたところなんだ。」

 

「へえ、じゃあ良かったら一緒に乗っていきなよ。...いいですよね、瞳子さん?」

 

「そうね。また今みたいなことになった時に君がいてくれると助かるわ。」

 

「わかりました。少しの間、よろしくお願いします。」

 

 

....吹雪は随分と礼儀正しくて、おっとりとした奴だ。

だが、あの”エターナルブリザード”という必殺技...修也の”ファイアトルネード”や俺の”ウイングショット”にも引けを取らない威力だった。

 

 

「(こいつ....もしかして...)」

 

「ふふ...よろしくね、嵐山君。」

 

 

もしかして、とんでもない奴なのではないか...?

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嵐山vsアツヤ

嵐山 side

 

 

「ふぅ....吹雪君のおかげで無事についたわい。」

 

「ありがとうございました、古株さん。」

 

「無事について良かったよ。」

 

 

あれから吹雪の案内のおかげで安全な道を通り、予定より早く白恋中につくことができた。

古株さんも最初は雪道で恐る恐るの運転だったけど、吹雪の案内で通った道は整備されていて安全だったので、古株さんも安心して運転できたことだろう。

 

 

「さあ行こうか、嵐山君。」

 

「おう。」

 

 

俺たちはキャラバンから降りて、白恋中の中へ歩き出した。

...それにしても何だか周りから注目されているな。

 

 

 

「士郎先輩、今日もかっこいい...」

 

「一緒にいる人、誰だろう...あの人もかっこいい...」

 

「アツヤ君なら知ってるかな?」

 

 

 

なんだか落ち着かないな...吹雪は慣れているのか、特に気にすることなく歩いている。

こいつ、会った時はもっとポヤポヤしている印象だったが...獲物を待ち構えている動物のごとく、油断させていただけなのか...?

 

 

「ついたよ。ここに君の会いたい人がいるはずだ。」

 

「お、おう。」

 

 

そう言って、吹雪は教室の中へと入っていく。

ちなみに今吹雪についていっているのは、俺だけだ。

瞳子さんは夏未と一緒に校長室へと向かっている。

 

 

「染岡君、お客さんだよ。」

 

「何だよ士郎。放課後になって急に出かけるなんて.....って、嵐山!?」

 

「...やっぱり染岡のところに案内してたのか。」

 

「お前、どうして士郎と一緒に?」

 

「雪原でキャラバンのタイヤが溝にハマってさ、吹雪に助けてもらったんだよ。」

 

「そういうことだったのか。」

 

 

それにしても...染岡の周りにはサッカー部が集まっているんだな。

染岡は顔がちょっと厳ついから、馴染めているか少し心配していたが...どうやら杞憂だったようだ。

 

 

「それにしても....随分と力を上げたようだな、染岡。」

 

「へへ、わかるか。」

 

「ああ、見ただけでわかる。だが...しっかりとその実力を知るなら、やはり勝負する他無いだろうな。」

 

「ああ、望むところだ。今の俺がお前にどこまで通用するか、楽しみだぜ。」

 

「盛り上がっているところ悪いけど、僕も嵐山君の実力は気になるな。」

 

「士郎...そうだな。俺も嵐山とお前、どっちが強いか気になる。それにアツヤの方もな。」

 

 

アツヤ...なんだか二人は知ってるように喋っているが、俺は誰か知らないな。

白恋中は今年のフットボールフロンティアに出場してなかったし。

染岡がそこまで気にかけているってことは、それなりの実力者か期待の新人なんだろうが。

 

 

ピンポンパンポーン!

 

 

「サッカー部の皆さん、グラウンドへ集合して下さい。繰り返します。サッカー部の皆さんはグラウンドへ集合して下さい。」

 

 

「お、何かお呼び出しか。」

 

「まあ俺たちが来たからだろうな。」

 

「とにかく行こうか。」

 

「そうだな。とりあえずグラウンドに行ったら勝負だ、嵐山!」

 

「ふっ....望むところだ。」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「ようやく来たかよ、兄貴。」

 

「アツヤ、どうしたんだい?」

 

 

俺たちがグラウンドに着くと、何やら一人の白恋中の生徒と永世学園の全員で揉めているようだった。

白恋中の生徒の方は、どことなく吹雪と似ているようだが.....

 

 

「聞いてくれよ兄貴。俺たち白恋中サッカー部のグラウンドを無断で使用する不審者がいるんだ。」

 

「だから!僕たちはそちらの校長から許可を得てここにいるんだって!」

 

「何度言ったらわかるのかしら。」

 

「はっ!そんな話、俺は聞いてねえな。嘘ついてるだけかもしれねえだろ。」

 

「ハァ....アツヤ、そこまでにしなよ。」

 

「だけどよ、兄貴!」

 

「彼らは僕たちに用事があるお客様だ。...永世学園の皆さん、弟が失礼な対応をしたこと、お詫びします。」

 

「い、いや...」

 

「わかってくれたらいいんですよ...」

 

 

吹雪の冷静な対応に、ヒートアップしていた永世学園の面々が静かになった。

それにしても弟か....冷静な吹雪とは違って、弟の方は荒々しいというか何というか....

これは染岡も相当苦労してそうだな。

 

 

「んだよ...俺が悪いってのかよ。」

 

「そうは言ってないだろう。だがお客様が来るのは染岡君から聞いていたはずだよ?」

 

「ああ、そんなことも言ってたな。」

 

「おいおい...いい加減そういう態度は辞めろよ、アツヤ。」

 

「そうは言いますけどね、染岡サン。俺はあんたのことをまだ認めてねえ。あんたはあくまでよそ者ってことを忘れないでもらいたいね。」

 

「ハァ...わかったわかった。」

 

「ふん.....ところで、そっちのなよなよしてる奴は誰だよ、兄貴。」

 

「おい、アツヤ!言ったそばから...」

 

「なよなよした奴ね...俺ってそんなに弱そうに見える?」

 

 

初めて言われたよ、なよなよしてるなんて。

これでも結構鍛えてる方だと思ったんだけどな。

壁山にだって当たり負けしないくらいには、それなりのパワーを持っているつもりだ。

 

 

「俺からしたら全員が雑魚さ。ま、兄貴は例外だけどよ。」

 

「へえ...随分と自信があるんだね。染岡も面白い奴を見つけたな。」

 

「まあな...気性が荒すぎるのが問題だが。」

 

「フォワードなら良いことじゃん。染岡だって昔は...」

 

「い、今は俺のことはどうでもいいだろ!」

 

「はは...で、自己紹介といこうか。俺は永世学園サッカー部、2年の嵐山隼人だ。よろしく。」

 

 

俺はアツヤと呼ばれていた少年に自己紹介をし、右手を差し出した。

 

 

「ふっ...俺は吹雪アツヤ。あんたとよろしくするつもりはねえな。」

 

「アツヤ!」

 

 

アツヤはそう言って、俺の差し出した手を叩いた。

そんなアツヤの態度に、染岡が叫ぶが俺はそんな染岡を制止した。

 

 

「なるほどね。これは染岡も手を焼くわけだ。」

 

「何だよ。悪いかよ。」

 

「いや、別に。だが...君がいるこのチーム、俺なら絶対に負けないね。」

 

「...んだと?」

 

「負ける気がしないって言ったんだよ。君じゃ相手にならないって。」

 

 

俺はアツヤを必要以上に煽る。これは未来に向けた投資のようなものだ。

今のアツヤなら、世界と戦う時には必要ない。だが見ただけでわかるそのポテンシャルは買っている。

だからこそ俺は、アツヤが変わることができれば世界と戦うために必要な戦力として考えるだろう。

 

 

「(ま、俺がチームを作るわけじゃないけどね。)」

 

「上等だ!だったら見せてもらおうじゃねえか!」

 

「いいよ、勝負しようか。」

 

「お、おい嵐山!」

 

「いいじゃないか染岡。せっかくだからこのチームのエースの力を見せて貰いたいからね。」

 

「.....へえ....」

 

 

俺は吹雪...士郎の方を見ながらそう言う。

そんな俺の目線に気付いてか、士郎は驚いたような、意外だというような表情をしていた。

俺の勘が正しければ、恐らく真のエースは士郎の方だろう。

 

 

「勝負はどうする。」

 

「だったらこうしよう。僕とアツヤがいつも競っているやり方でやろう。」

 

「はっ。兄貴、それじゃ俺が有利になっちまうぜ?」

 

「俺は別に構わないよ。その程度のハンデ、無いも同然だからね。」

 

「チッ...気に食わねえ野郎だぜ。」

 

「...それじゃやり方は決まりだ。嵐山君、説明するよ?」

 

「ああ、よろしく。」

 

 

そう言ってルール説明を始めた士郎の話を聞く。

ルールは簡単で1vs1でオールコートで戦い、先にゴールを決めた方が勝ちだ。

1点でも取れば勝ちの先行有利のルールだが....

 

 

「お先に攻めていいよ。」

 

「....こりゃ馬鹿が相手で助かるぜ。」

 

「ふっ...どうだろうね。」

 

 

俺はアツヤにボールを渡す。確かに先行有利なルールだが、俺には負けない自信がある。

いや、自信ではないな....負けない、負けられないって信念がある。俺は修也とエースストライカーの座を賭けて戦うと誓った。だからこそ、俺は修也以外のストライカーには負けられないんだ。

 

 

 

「それじゃあ始めるよ。」

 

「ああ。」

 

「いつでもいいぜ、兄貴。」

 

「じゃあ.....勝負開始!」

 

 

士郎の合図とともに、アツヤが動き出す。

なるほど....確かに自信家なだけあって速い。

 

 

「だが...」

 

「っ!」

 

 

俺はアツヤの移動した先に一瞬で回り込む。

そんな俺に驚いてアツヤは方向転換し、別の方向から切り込んでくる。

だがその先にも俺が先に回り込んでいて、アツヤはすぐに動けなくなっていた。

 

 

「すごい....あのアツヤを完璧に抑え込んでいる。」

 

「あのイケメンさん、すごい...」

 

「さすがだな、嵐山は。」

 

 

 

「くっ...しつけえんだよ!」

 

「(確かに実力はある。だが...この程度なら世界には通用しない。それどころか俺も抜けないようでは、来年のフットボールフロンティアの脅威にもならん。)」

 

 

 

「(すごい...アツヤは確かにワンマンなプレーをするけど、それでもディフェンス突破力はチーム一と言ってもいい。そんなアツヤをあそこまで完璧に抑え込むなんて....嵐山君、やはり君はすごい....!)」

 

 

「チッ....!」

 

 

アツヤは俺を抜けないと思ったのか、俺を抜こうとするのではなく俺から距離を取った。

今まで感じたことのない焦燥感に、思わず引いてしまったか。

だが逃げるのは恥ではない。敵わない相手に向かっていくのは、勇気ではなく無謀だからな。

 

 

「だが...」

 

「っ!」

 

「残念だが隙だらけだ。突破力はあるが、キープ力は無いってところか?」

 

「くっ、しまった....!」

 

 

俺は引いたアツヤに対して、逆に距離を積めてやった。

そうすると距離を取ったと思って安心していたアツヤは無防備になっており、俺は一瞬でアツヤからボールを奪い去る。

 

 

「っ...まだだあああああああああ!」

 

「(速い...さすがにやるな。)だったら止めてみろ!”ウイングショットV4”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

俺はコートの中央より少し前の位置からシュートを放った。

かなりのロングシュートになったため、ロングシュートではない”ウイングショット”の威力は見るからに下がっていく。だが邪魔が入らなければそのままゴールへと突き刺さるだろう。

 

 

「負けるかあああああああ!」

 

 

そんなボールとゴールの間に、アツヤが立ちふさがった。

俺がシュートを放つまでは俺のほとんど真横にいたっていうのに、まさかシュートをブロックできる位置に走りこむとは...想像以上の速さだな。

 

 

「”必殺クマゴロシ・縛”!」

 

 

アツヤの必殺技により、俺のシュートは止められてしまった。

面白い....これが吹雪アツヤの底力か。もっと試したくなってきた。

 

 

「攻めてこい、アツヤ。」

 

「っ、上等だ!」

 

 

ふたたびアツヤはドリブルでこちらの方へと攻めてくる。

先ほどよりもさらにスピードとキレが増しているな。

自分の感情をパワーに変えているというのか.....面白い!

 

 

「通してもらうぜ!”オーロラドリブル”!」

 

「っ!」

 

 

「抜いた!」

 

「まさか、嵐山が負けるのか...!?」

 

 

アツヤの必殺技が炸裂し、アツヤは俺を抜いてゴール前へと駆けていく。

すごいな...だが、やはり負ける気はしない...!

 

 

「(抜いた...!これでゴール前はガラ空き!)」

 

「っ、アツヤ!油断するな!」

 

「あっ?....っ、何っ!?」

 

「油断はダメだろ。」

 

「(嘘だろ...!?俺の”オーロラドリブル”をくらって、目が眩んでいたじゃねえか...なのに何で俺の目の前に...!)」

 

「悪いけど、負けるわけにはいかないからさ。...終わりにしようか。」

 

「っ!」

 

「”スピニングカット”!」

 

「があっ!」

 

 

俺はアツヤに必殺技を放つ。

俺の繰り出した衝撃波をアツヤはもろにくらってしまい、あえなく吹き飛ばされてしまう。

 

 

「ぐっ...くそ...」

 

「悪いね。」

 

 

そして俺はそのまま思い切りボールを蹴り、立ち上がれないアツヤはそれを止めることができず、ボールはゴールへと吸い込まれていった。

 

 

 

「勝負あり!勝者は嵐山君!」

 

「ま、当然だ。」

 

「くそ....何でだ!あんたは何であれだけ速く動けたんだ!」

 

 

アツヤは地面に倒れこんだまま、俺へ言葉を投げてきた。

確かにアツヤの必殺技は決まっていたが、俺には確かに効いていなかった。

それは単純に俺とアツヤのレベル差だが...一番の問題はアツヤが自分の力を信じすぎているところだ。

 

 

「お前の動きは単調すぎる。自分の力を信じているからこそ、自分の型にハマっている。そういう奴の対処は簡単だからな。」

 

「ぐっ....ちくしょう....!」

 

「...すごいね、嵐山君。まさかアツヤを簡単に倒しただけじゃなく、アドバイスまで送るなんて。」

 

「これくらいなら、染岡だって同じことを言っていたはずだ。」

 

「そうだね。染岡君も同じことを言っていたよ。」

 

「まあな...アツヤは自分の力が最強だと信じているから、上には上がいると理解してほしかったんだが...」

 

 

結果はこのざまだ、と染岡は続けた。

だがアツヤの気持ちもわからなくもない。俺だって自分には相当自信がある。

ストライカーとしての自信というか、エゴと言うか。それが無い奴はストライカーではないだろう。

 

 

「....嵐山君。良かったらこれから、僕たち白恋中と練習試合をしないかい?」

 

「練習試合か....いいね、悪くない。」

 

「ふふ...嵐山君ならそう言うと思ったよ。」

 

「それじゃあお前の実力は試合で見せてもらおうか、吹雪。」

 

「うん、望むところだよ。」

 

 

さて...士郎の方はどれだけやるのか、楽しみだな。

そしてこの勝負を経て、アツヤがどう変わるかだな。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雪原のプリンス

嵐山 side

 

 

「へぇ...あっちも女子選手が何人かいるみたいだな。」

 

「今年までのフットボールフロンティアは女子選手が参加できなかった。来年からは世界大会のルールに合わせて、女性も参加できるようになると聞いているわ。」

 

「俺もチェアマンからはそう聞いてます。女子だからって油断は禁物ですね。」

 

 

それにこちらの女子...特に八神は男どもにも負けず劣らずの実力を誇っている。

性別なんて関係ない。うまい奴は誰だってうまいんだ。

 

 

「試合を始めるぞい。」

 

「よし、行こう!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

俺の掛け声に全員が反応し、俺たちはフィールドへと散っていく。

今回は染岡もいるし、吹雪兄弟の実力をはっきりと見ておきたいので、ベストメンバーで戦うことにした。

フォワードに基山、南雲、涼野。ミッドフィルダーに俺、八神、緑川、本場、熱波。ディフェンダーに倉掛、蟹目。キーパーに砂木沼となっている。

 

対する白恋中だが....

 

 

「(フォワードはアツヤと染岡のツートップとシンプルなフォーメーションだ。...だがあれほどのキック力を持っている士郎がディフェンダー....?一体何を考えている、染岡。)」

 

 

「それじゃ始めるぞ。試合開始!」

 

ピィィィィィィ!

 

 

「(考えても仕方ないか。)攻めあがるぞ、お前たち!フォーメーションプロミネンス!」

 

「「「おう!」」」

 

 

永世ボールでキックオフ。基山が俺にボールを渡し、俺の指示によって南雲を中心に攻めあがる。

士郎の動きも気になるが、他にも良い選手がいれば気に掛ける必要があるだろう。

 

 

「ここは通さねえぜ、嵐山!」

 

「へえ、随分と速くなったな染岡。」

 

「ああ、士郎のおかげで俺は風になったのさ!」

 

「風に...ね。だったら俺は嵐!風よりも激しく舞ってやるさ!”風穴ドライブ”!」

 

「ぐっ...さすがだぜ、嵐山...!」

 

 

俺は必殺技によって染岡を抜き去る。

強化委員同士の対決、まずは俺が1本取ったな。

 

 

「八神!」

 

「ああ!」

 

 

俺は染岡を抜いたすぐ後に八神にパスを出す。

八神はパスを受け取ると、そのままドリブルで駆けあがっていく。

 

 

「ここは通しません!」

 

「悪いけど、同じ女性相手なら負けるわけにはいかないわ!」

 

 

八神は巧みなドリブルテクニックを披露して、白恋の女子選手を軽々と抜き去る。

八神の奴、ドリブルテクニックはかなり上達している。これならもっと難しい技にも挑戦させられるかもしれないな。

 

 

「(よし...私は完全にフリーになった。あとは晴也にパスを....っ!)」

 

「悪いけど、これ以上は通さないよ。」

 

「くっ、いつの間に...!」

 

 

「(速い...完全にフリーになって油断していたとはいえ、八神が気を抜いた一瞬の隙に詰め寄った。吹雪士郎...やはりこのチームのキーマンは奴か。)」

 

 

「”アイスグランド”!」

 

「きゃっ!」

 

 

「よっしゃあ!兄貴!」

 

「うん、決めなよアツヤ!」

 

 

士郎の必殺技によって、八神はボールを奪われてしまう。

さらに士郎がボールを奪うと確信していたのか、アツヤは既にゴール前へと駆けあがっていた。

こちらはディフェンダーが二人しかいない都合上、カウンターに極めて弱い。

それを士郎もアツヤも試合開始時点で理解していたか。

 

 

「勝負には負けたが、試合には勝たせてもらうぜ!」

 

「っ、通さない!」

 

「邪魔だ!」

 

「きゃあああ!」

 

 

士郎からのロングパスを受け取ったアツヤは、立ちふさがった倉掛を吹き飛ばしてゴール前へと突き進んでいく。

さっきの勝負で少しは変わるかと思ったが、相も変わらず強引に攻めているな...まあそれがアツヤの持ち味であることに違いは無いけどな。

 

 

「行くぜ!吹き荒れろ、”エターナルブリザード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ、速い!」

 

バシュンッ!

 

 

「ゴール!白恋中が先制じゃ。」

 

 

まるで一瞬の出来事のように、アツヤの放ったシュートに砂木沼は反応することができず、ゴールを決められてしまった。確かに速い...しかも目測だが威力も士郎と同レベルだった。これが吹雪兄弟か。

 

 

「(兄弟が揃えば無敵の力を発揮する....確かに脅威ではあるが、最後に勝つのは俺たち永世学園だ。)」

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

ふたたび永世ボールで試合が再開する。

基山が俺へとパスを出し、俺たちはゴールへと駆けあがっていく。

俺が特に指示を出さないということは、先ほどと同じパターンで攻めるということだ。

 

 

「(さて...今度は俺が士郎にあたってみますか。)八神!」

 

「ええ!」

 

 

俺は基山から受け取ったボールをすぐさま八神へと渡す。

そのまま俺は士郎のいる方向へわざと突き進んでいく。

 

 

「(お手並み拝見と行こうか、吹雪!)」

 

「(へえ...あえて僕の方に来たか。面白いね、嵐山君!)」

 

 

「はっ!”メテオシャワー”!」

 

「きゃあ!」

 

「ぐっ!」

 

 

八神が必殺技で中央をこじ開ける。

それに釣られた白恋のディフェンダー陣は中央へと寄っていく。

だがそれによって、サイドは俺と吹雪のマッチアップ以外はガラ空きだ。

 

 

「(ここはガラ空きのリュウジに...)」

 

「八神!こっちだ!」

 

「えっ!?」

 

 

俺がガラ空きの緑川ではなく、士郎と接近している俺へのパスを要求したことで、八神は混乱していた。

まあ普通に考えたら俺は囮で、ガラ空きの緑川を経由して攻めた方が良いんだけど...

 

 

「(吹雪の実力を見ておきたい。それに...この場面で俺が勝てば、白恋の士気を下げることができる!)」

 

「(僕が嵐山君に勝てば、永世学園の士気を下げられる!)」

 

「「(俺/僕が負けるはずがない!)」」

 

 

「....隼人!」

 

 

八神は迷いはしたが、最終的には俺にパスを出した。

俺はパスを受け取ると、そのまま正面にいる士郎へと突っ込んでいく。

さて、お前はどれほどの実力を持っているんだ...?

 

 

「っ.....っ!」

 

「!」

 

 

試しにフェイントで左右に振ってみるが、釣られるそぶりは見せるものの、本当に釣られる様子はまるでない。しっかりと俺の動きを捉えている。

 

 

「(なら...!)」

 

「っ!」

 

 

俺は自分自身を壁にしてボールを隠すようにしてボールをキープする。

さすがにこれは奪いに来れないようだが、ボールや俺の動きを見逃さないようしっかりと観察している。

キープは容易いが、これじゃあ抜くことはできないな。

 

 

「(すごいな....これほどのディフェンダー、正直まだ出会ったことがない。雷門にも、帝国にも...そして神のアクアを使っていた世宇子にも、これほどの選手はいなかった。)」

 

「(すごい...僕がボールの動きを追うだけで精一杯になるなんて。これほどのキープ力、今まで見たことが無い。染岡君にだって僕は勝ち越しているというのに....全国にはまだまだこれほどの選手がいるんだ...!)」

 

 

「「(負けたくない!)」」

 

「(抜いてみせる!)」

「(止めてみせる!)」

 

「「うおおおおおおおお!」」

 

 

俺はドリブルで士郎を強行突破しようとしたが、士郎はそんな俺を意地でも通さないというつもりか、ボールを蹴ることで俺を足止めしてきた。力と力のぶつかりあいに、俺たちを中心に嵐のように風が吹き荒んでいる。

 

 

「ぐっ...!」

 

「僕の...勝ちだ...!」

 

 

徐々に士郎の方が押してきている。想像を絶するほどの凄まじいパワーだ。

スピード、テクニック、パワー...士郎はそれを兼ね備えたスーパープレイヤーというわけか。

 

 

「(だが...!)俺は負けない!あいつと対戦するまで...負けるわけにはいかない...!」

 

「ぐっ...!(なんだこのパワー...!さっきまで僕が押していたのに、押し返させる...!?)」

 

「うおおおおおおおお!」

 

「っ、ぐあっ!」

 

 

「「「士郎!」」」

「「「吹雪君!」」」

「兄貴!」

 

 

俺と士郎の対決は、僅差で俺の勝利となった。

だが試合はまだ続いている!動揺している相手に打ち込んでやれ、お前のシュートを!

 

 

「決めろ、南雲!」

 

「おうよ!”アトミックフレア”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

「っ、しまった!」

 

 

バシュンッ!

 

 

「ゴール!永世学園が得点じゃ。」

 

 

士郎が抜かれたことで動揺した白恋のキーパーは、南雲のシュートに対応できずにゴールを決められていた。

これによって1vs1の同点。前半もまだまだ時間はある。このまま一気に逆転して、点差をつける!

 

 

「...まさか僕が抜かれるなんてね。」

 

「だが紙一重だった。」

 

「でも負けは負けさ。....審判、ポジションチェンジをお願いします。」

 

「(ここでポジションチェンジ...?)」

 

「僕がフォワードに入ります。....見せてあげるよ、嵐山君。僕たち白恋中の本当の恐ろしさを。」

 

 

なるほどな...士郎がディフェンダーに入っていたのは、アツヤと染岡という点を取れるフォワードがいたからこそ。そして士郎のディフェンス力によって守りを固めていたが、士郎だけでは俺たちを止めることはできないと踏んで、ノーガードの攻撃を仕掛けてくるつもりだ。

 

 

「白恋ボールで試合再開じゃ。」

 

ピィィィィィィ!

 

 

「兄貴!」

 

「ああ、行くよアツヤ!」

 

 

キックオフと同時に、吹雪兄弟が攻めあがってくる。

そのあまりの速さに永世イレブンはあっけなく抜かれていく。

 

 

「は、速い...!」

 

「止められない...!」

 

「何でこれだけの速さで走っているのに、正確にパス回しができるんだ...!?」

 

 

二人の速度はもちろん、パス回しの正確さが異常と言える。

士郎からアツヤに、アツヤから士郎に。二人のコンビネーションは他を寄せ付けない。

そうこうしているうちに、二人はゴール前へと到着していた。

 

 

「これが僕たち兄弟の力だよ!」

「俺と兄貴が力を合わせりゃ、誰にも負けねえのさ!」

 

「「”ホワイトダブルインパクト”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

二人の”エターナルブリザード”が混じり合ったかのように、吹き荒れる雪を纏ったシュートが永世ゴールに、砂木沼に襲い掛かる。この威力...俺と修也の”ファイアトルネードDD”と同じくらいはある...!

 

 

「砂木沼、気を付けろ!」

 

「任せておけ、嵐山!俺がこのシュートを止めてみせる!”ワームホール”!」

 

 

砂木沼は自身の必殺技”ワームホール”を展開するが、吹雪兄弟の”ホワイトダブルインパクト”はその”ワームホール”には納まりきらず、今なおその場に健在している。

 

 

「な、なんだこの威力は...!」

 

「「これが俺/僕たちの力だ!」」

 

「ぐっ.....ぐああああああ!」

 

 

砂木沼の”ワームホール”は砕け散り、そのままボールと共に砂木沼はゴールへと押し込まれた。

...なんて威力だ。こんな技まで隠し持っていたとは。白恋中...いや、吹雪兄弟。恐ろしい相手だ。

 

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

「ここで前半終了じゃ。」

 

 

「へっ。結局俺たちの方が強いってことが証明されそうだな。」

 

「油断するな、アツヤ。嵐山の実力はこんなもんじゃねえ。」

 

「へいへい、わかりましたよ染岡サン。」

 

「染岡君の言う通り...このままじゃ終わらないだろうね、彼は。」

 

 

 

 

「大丈夫か、砂木沼。」

 

「ああ...すまん、嵐山。」

 

「いや、今のシュートはさすがに予想外だ。何れは止められるようになってもらいたいが、今は無理だろうな。」

 

「1vs2...後半はどうするの、隼人。」

 

「ああ...(吹雪兄弟を止めるには俺が二人のどちらかをマークすればいいが、二人で連携されるとさすがに止められない。もう一人、俺と一緒に二人の速度についてこれる奴がいればいいが....)」

 

 

今の永世イレブンでは、あのスピードについてこいというのは酷か。

さて...後半、どう戦ったものかな。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

信頼、そして課題

嵐山 side

 

 

「後半戦開始じゃ。」

 

 

特に何も作戦を思いつかないまま、後半戦が開始してしまった。

しかもビハインド状態で白恋ボールでキックオフ。何とかボールを奪って、得点したいところだが...

 

 

「行くぜ、兄貴!」

 

「ああ、行こうかアツヤ!」

 

 

やはり吹雪兄弟の連携で攻めてきたか...あらかじめ深いところで守っていた俺は、とりあえず動きを見切れそうなアツヤの方へと走っていく。

 

 

「へっ、俺なら止められるってか?」

 

「ま、とりあえずはね。」

 

「甘いんだよ!兄貴!」

 

「っ!」

 

 

俺が正面に来た瞬間、アツヤは士郎の方へとパスを出す。

俺はその動きに反応して、足をアツヤと士郎の間へと差し出すが、僅かに距離が足りず士郎へとボールが渡ってしまう。さらに俺は無理な体勢でボールをカットしようとしたのですぐに動き出すことができず、アツヤも俺を抜き去っていってしまった。

 

 

「そんな...嵐山さんでも止められないなんて...」

 

「まだだ!俺たちも行くぞ!」

 

「そうだ!いつまでも嵐山さんにおんぶにだっこでいられるか!」

 

 

俺が抜かれたことに基山や永世イレブンは驚く。

だが自分たちもやるんだと、緑川や本場が吹雪兄弟に向かっていく。

でもそれは罠だ....!

 

 

「ふっ....染岡君!」

 

「「っ、しまった!」」

 

 

緑川と本場が士郎に近寄っていったことで、染岡がフリーになってしまった。

そしてそれを待っていたと言わんばかりに、士郎から染岡へのパスが綺麗に通る。

 

 

「へっ、ドンピシャだぜ!」

 

「止めろ、倉掛!蟹目!」

 

「遅え!見てろ、嵐山!進化した俺のシュートを!”ワイバーンクラッシュ”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

俺が倉掛と蟹目に指示を出すが、それより速く染岡がシュート体勢に入った。

そして放たれた新たなシュートが、ものすごい勢いで砂木沼の元へと迫っている。

 

 

「何度も何度も点を決められてたまるか!”ワームホール”!」

 

 

ふたたび、砂木沼が”ワームホール”を展開するが、染岡の”ワイバーンクラッシュ”の勢いはまるでとどまることなく、砂木沼は徐々にゴールへと押し込まれていく。

 

 

「ぐっ....くそおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

バシュンッ!

 

 

そして砂木沼は雄たけびを上げながら、ボールと共にゴールへと突き刺さった。

これで1vs3....これが白恋中の本当の力か。吹雪兄弟が両方フォワードについただけでこの力...俺たち永世学園もフォワードが多い攻撃的なチームだと思っていたが、白恋中は同等かそれ以上の攻撃的チームだな。

 

 

「....ポジションを変えよう。」

 

「で、でもこれ以上ポジションを変えようが無いんじゃ...?」

 

「いや、それは違うぞ緑川。誰にだって思いもしない適正があったりするものさ。....とりあえず、フォワードは南雲、涼野の二人で行く。中央は八神、緑川、熱波の三人に任せる。」

 

「えっと...つまり...」

 

「ああ。俺と基山、本場はディフェンスに回る。...ついてこれるな、基山、本場。」

 

「っ!....はいっ!」

 

「うっす!」

 

 

こうして俺たちはポジションを変え、ディフェンダー5人の超防御的フォーメーションを組んだ。

これで白恋中の攻撃を迎え撃つ。

 

 

「ディフェンスを増員したみたいだが、そんなんじゃ俺たち兄弟の攻撃は止められねえぜ?」

 

「まあ待て、アツヤ。嵐山はゲームメイクもできる。打ち合いじゃなくてディフェンスに力を入れたんだ...きっと何か策を考えているはずだ。」

 

「そんなの俺と兄貴でこじ開けてやりますよ、染岡サン!」

 

「あ、おい!...ハァ、全く...」

 

「ごめんね、染岡君。...でも、アツヤの言う通りこじ開けてあげればいいだけだよ。」

 

「士郎まで.....ハァ、じゃあ二人に任せる。俺は嵐山の策に備えて少し後ろにいるぞ。」

 

「うん、わかったよ。」

 

 

 

「それじゃあ永世ボールで試合再開じゃ。」

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

 

「玲名!」

 

「ああ!」

 

 

南雲から八神にボールが渡り、八神を中心に攻めあがっていく。

だが白恋中はさすがに鍛えられているのか、それとも攻めは安心して吹雪兄弟と染岡に任せられるからか、ディフェンスが思い切った動きをしてきて、八神たちは思うように攻められていない。

 

 

「くっ...!」

 

「っ!もらった!」

 

「っ!」

 

 

白恋の選手が八神の隙をついてボールを奪取した。

強いな、このチームは...大会ルールでフットボールフロンティアには出ていなかったが、出場していれば間違いなく雷門の前に立ちふさがっていただろう。

 

 

「基山!さっき伝えた通りだ!」

 

「は、はいっ!」

 

 

俺は先ほど、ポジションにつく前に基山だけに今回の作戦を伝えていた。

ま、それがうまく決まるかは基山次第だが...基山の実力なら行けるだろう。

俺はこのチームが出来た時から、基山の実力を買っている。基山がさらに成長すれば、俺がいなくてもフットボールフロンティアの予選くらいは勝ち抜けるだろう、とな。

 

 

「アツヤ君!」

 

「おし!行くぜ、兄貴!」

 

「うん、行こうかアツヤ。」

 

 

白恋の選手からアツヤへとボールが渡り、アツヤと士郎がふたたび連携で攻めあがってくる。

そんな二人の前に、俺と本場、倉掛、蟹目が走り寄る。

 

 

「っ!四人がかりか。」

 

「なるほどね...染岡君は嵐山君を警戒して前線にあがっていない。となると、この包囲網を抜かない限りは得点は難しそうだね。」

 

「へっ、俺と兄貴なら余裕だぜ!」

 

 

そう言って、アツヤは本場と倉掛の方から俺たちを抜き去ろうとする。

しかし、本場と倉掛は縦に並び、アツヤの行く方向をふさぐようにディフェンスする。

これにはアツヤもなかなか抜けずに苛立ってきていた。

 

 

「チッ...うぜえな!」

 

「アツヤ!こっちだ!」

 

 

そんなアツヤを見かねてか、士郎がうまいことパスを受け取ろうとポジショニングする。

だがアツヤは頭に血が上っていて、士郎の言葉が届いていないようだ。

 

 

「(チャンスだな。)本場、倉掛!仕掛けろ!」

 

「おう!」「はい!」

 

 

「”フローズン”」「”イグナイト”」

「「”スティール”!!」」

 

「なっ!?」

 

 

本場と倉掛の必殺技によって、ボールこそキープしているものの、アツヤは体勢を崩されてしまう。

ここでボールをキープする辺り、かなりの身体能力ではある。

 

 

「チッ...兄貴、頼む!」

 

「っ、ダメだアツヤ!」

 

 

苦し紛れに、アツヤは士郎へとヘディングでパスを出す。

だがそれはあらかじめ仕掛けておいた、誘導だ。

頭に血が上れば、冷静な判断はできないと思っていた。

 

 

「残念、そこには俺がいる。」

 

「っ!」

 

 

俺はアツヤと士郎の間に、念のため蟹目は染岡のマークに付けるように士郎に寄りつつ少し離れた位置に。

四人で囲んでいるように見せて視界を狭めさせ、パスコースを固定させる。

パスを出す位置がわかっていれば、あとはその間に入れば簡単にインターセプトできる!

 

 

「しまった!」

 

「簡易版、奇門遁甲の陣...てな。決めろ、お前たち!」

 

 

俺はインターセプトしたボールを中央にいる八神たちにロングパスする。

この攻守では基山を使った策は不要だったか。

 

 

「受けとったわ!」

 

「嵐山さんたちが止めたこのボール!」

 

「必ず決める!」

 

 

「っ、動きが変わった!?」

 

 

俺たちが初めて吹雪兄弟を止めたことで勢いづいたのか、八神と緑川、熱波は連携プレーで白恋のディフェンスを抜いていく。

 

 

「決めてくれ、晴也!」

 

「おう!」

 

 

「来い...!」

 

 

 

そして前半の最初の方でしかボールが渡らなかった、南雲の元へとボールが渡った。

今回はキーパーはしっかり待ち構えているが...決められるよな?南雲!

 

 

「紅蓮の炎で焼き尽くしてやる!”アトミックフレア”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「止める!”オーロラカーテン”!」

 

 

白恋のキーパーが必殺技を発動し、オーロラが南雲のシュートを阻む。

だが南雲の”アトミックフレア”の威力は凄まじく、徐々にオーロラの幕を焼き尽くしていき...

 

 

「ぐっ...止められん....ぐああああああ!」

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

南雲のシュートが決まり、これで2vs3となった。

まだ後半の時間も残っている。次もボールを奪って、同点に持ち込む。

いや...一気に逆転まで持っていく!

 

 

「くそっ!」

 

「落ち着け、アツヤ。」

 

「うるせえよ、染岡サン!...チッ、俺の方が強いのにどうして抜けねえ...!」

 

「それはお前が一人で...いや、士郎しか信じないでサッカーをしてるからだ。」

 

「あ?」

 

「あいつらを見てみろよ。お互いに信頼しあって、支え合ってプレーしてる。だからあいつらは強い。今のお前に無いものは、信頼だ。」

 

「信頼...」

 

「もう一度よく考えてプレーしてみろ。」

 

「染岡君、そろそろ...」

 

「おう、悪いな士郎。」

 

 

 

「(染岡がアツヤに道を示したか....さて、次のプレーはどうなるか。)」

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

白恋ボールで試合が再開した。ふたたび吹雪兄弟が連携で駆けあがってくるが、アツヤの勢いは先ほどと異なり、かなりおとなしいものになっていた。

 

 

「同じ攻め方で来るなら、もう一度奇門遁甲の陣だ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

俺の指示で先ほどと同じように吹雪兄弟を囲む。

これでもう一度、アツヤが冷静さを失えば俺がボールを奪う。

だが....果たしてそううまく行くかな?

 

 

「(信頼....そんなの、俺と兄貴がいれば関係ねえって思ってた...でも...初めて兄貴が負けたところを見た。嵐山隼人....兄貴と同じレベルの、いや...それ以上のプレイヤー....そいつを倒すには...!)」

 

 

「こっちだ、アツヤ!」

 

「っ!....染岡サン!」

 

 

先ほどの動きとは違い、冷静さを欠くことなくアツヤは周りを見て、声をかけてくれた染岡にパスを出す。

仲間を信じる...たったそれだけのことだが、アツヤは殻を破ったか。

だが...そう動くことも想定内だ!

 

 

「基山!」

 

「何っ!?」

 

 

アツヤから染岡へパスが通るかと思われたその瞬間、ボールと染岡の間に基山があらわれる。

基山は元からこのために一人だけ残しておいたんだ。そして...ボールを奪うことが基山の仕事ではない。

基山に指示した内容、それは....

 

 

「っ、パスカットさせるか!」

 

「染岡さん....僕の役目はパスカットじゃない!」

 

「何だと?」

 

「これが嵐山さんから受けた作戦!はあああああああああ!”流星ブレード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

そう、俺が指示したのはパスカットではなく、シュートを打つことだ。

アツヤから出されたふんわりとしたパスは、基山によって白恋ゴールへと轟音をたてて突き進んでいく。

だがさすがに距離があったからか失速していき.....

 

 

「ドンピシャさ。」

 

「「「っ!!!」」」

 

 

狙ったかのように、涼野の元へと辿り着いた。

まあ、狙ったわけだが。

 

 

これが今回の作戦だ。俺たちディフェンスが全力で吹雪兄弟を止める。

これにより、吹雪兄弟を止められなかった時以外はパスでボールが動くことになる。

あれだけ距離をつめてディフェンスしていれば、ふんわりとしたパスした出すことは難しいだろうから、それを基山が必殺技で打ち返し、パスを成功させる。

 

 

「(そして、最後のピースはお前だ、涼野!お前のイメージを見せてみろ!)」

 

「決める...!私だけが遅れをとってたまるか!......”ノーザンインパクト”...!」

 

ドゴンッ!

 

 

ついに涼野が必殺技を完成させ、白恋ゴールへ向かって放った。

氷を纏ったボールがまるで光速で移動するかのごとき速さで、ゴールへと向かっていく。

南雲とは反対に、パワーではなく速さを活かしたシュートのようだな。

 

 

「っ、止める!”オーロラ......ぐ、速い!ぐああああああ!」

 

 

ピィィィィィィ!

 

 

「同点!同点じゃ。」

 

 

「やったぞ!」

 

「ナイスシュートだぜ、風介!」

 

「ふっ...当然の結果だ。」

 

「よく言うぜ、全く。」

 

 

ピッピッピィィィィィィ!

 

 

「そこまで。試合終了じゃ。」

 

 

ここで試合終了か。引き分けという結果には終わったが、唯一必殺技を習得できていなかった涼野が必殺技を習得できたことや、色々な課題も見えてきた。とても有意義な時間を過ごせたと思う。

 

 

「(それに....吹雪士郎か。もし叶うなら....こいつとももう一度戦いたい。フットボールフロンティア全国大会という、大きな舞台で。)」

 

「(嵐山君...染岡君から聞いていた以上の実力者だった。でも勝てないほどじゃなかった。願うなら、フットボールフロンティア全国大会の舞台で....もう一度戦いたい。)」

 

 

 

 

「アツヤ、すまなかったな。」

 

「染岡サン.........本当っすよ。結局俺が一人でやった方が良かった。」

 

「....(ダメだったか...)」

 

「...ま、今度からは期待してますよ。多少はね。」

 

「っ!...ああ、任せておけ!」

 

 

 

こうして永世学園と白恋中の練習試合は、3vs3の引き分けで幕を閉じた。

引き分けではあったものの、正直なところ負けていた可能性がかなり高いのを自覚している。

砂木沼は頑張ってはいるが、全国レベルの相手となるとまだまだ実力が足りていないし、ディフェンスも俺がディフェンスまで下がるまであまり機能していなかった。

 

超攻撃型のチームとはいえ、ここまで防御力が低いと1点が命取りになる。

攻撃は最大の防御とも言うが....今の状態では全国と戦うには荷が重いだろうな。

 

だがこの弱点を鍛え上げることができれば、このチームはもっと上に行ける。

 

 

「(残り3か月...徹底的に鍛えて、必ず研崎のチームを倒す!)」

 

 

.





長き旅を終え、ついに決戦の日を明日に控える。
友のために、チームのために、夢のために...俺たちは戦う。

そんな俺の前に、一人の女性が現れる。


「あんたが...俺の母さん...」

「大きくなったわね...隼人....」


母さんが語る両親の話、そして祖父ちゃんの話に俺は....



次回、「決戦前夜~前編~」!


.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雷門邸での一夜

前回の予告で「決戦前夜」まで飛ぶような言い方をしたけど、あれは無しで。
12月のクリスマス前です、みたいな描写をしておいていきなり3月に飛ぶのは飛びすぎと思って、少々話を追加しました。


嵐山 side

 

 

白恋との練習試合の後、俺たちは1日だけ白恋との合同練習を行った。

吹雪兄弟がよくやっているという、スノボー練習を行ったり、雪合戦など行ったりと交流を深めた。

染岡や吹雪兄弟とフットボールフロンティアでの再戦を誓い、俺たちは北海道を後にしたんだ。

 

 

そして俺と夏未以外は静岡まで戻ってもらい、俺と夏未は古株さんと一緒に雷門へと戻ってきたんだ。

 

 

「帰ってきたな...」

 

「そうね。古株さん、ありがとうございました。」

 

「いや、こっちもいろんな場所に旅できて楽しかったよ。」

 

「はは...でも、本当にありがとうございました。」

 

「おうよ。」

 

 

俺たちは古株さんにお礼をして、キャラバンを降りた。

時刻は既に夕方となっていて、雷門中の生徒は部活帰りの生徒くらいしか残っていないようだ。

 

 

「グラウンドにサッカー部の声が響いてないのは、何だか寂しい気分になるなぁ...」

 

「あら、声を響かせていた本人はここにいるじゃない。」

 

「まあそうだけどね。...少しだけ、ここで練習していってもいいかな?」

 

「さすがに別の学校の生徒が使うのはマズイんじゃないかしら。」

 

「いや、君なら構わないよ嵐山君。」

 

「パパ!」

 

 

俺たちがグラウンドの近くで話していると、理事長が現れた。

どうやら俺たち...というより夏未を迎えに来たみたいだな。

 

 

「旅に出る時以来だね、二人とも。」

 

「ご無沙汰しております、理事長。」

 

「はは、まあ電話とかはしていたから、久しぶりって感じもしないか。」

 

「そうですね。...ところで、本当に練習に使ってもいいんですか?」

 

「ああ、もちろんだとも。最近はサッカー部のみんながいなくなって、学校全体が少し静かで寂しい気分だったんだ。君が練習している姿を見れば、残っている生徒だけでも活気づくだろう。」

 

「そ、そうですかね....まあ使っていいなら使わせてもらいます。」

 

「うむ。鍵は持ってきているよ。」

 

 

俺は理事長に許可を得たので、さっそく理事長から部室の鍵を受け取り、部室へと走って行く。久しぶりのサッカー部の部室....本当に懐かしいな。

 

 

.....

....

...

..

.

 

夏未 side

 

 

「...それで、嵐山君をこの場から遠ざけてまで、私に何の話ですか?」

 

「まあそう言うな、夏未。私は久しぶりの娘の姿を嬉しく思っているんだから。」

 

「もう...パパったら...」

 

 

私はパパからの抱擁を黙って受け止める。

確かにこれだけ長い間、パパと離れていたのは初めてかもしれない。

私は嵐山君と出会って、こうして親元を離れて...いろんな経験をしているわね。

 

 

「それで...嵐山君の様子はどうだい?」

 

「ええ、特に問題はなさそうよ。ただ...」

 

「ただ?」

 

「すこしだけ、無理をしているようにも見えるわ。普段の様子は変わらないけど、練習に熱が入りすぎているというか...世界への挑戦もそうだけど、今回の件、絶対に勝たないと、っていう気持ちが強すぎるというか...」

 

 

元々、彼は自分の怪我をおしてでも試合に出ようとするほどの男だ。

だからこそ、今回の件に自分の母親が関わっていると聞いて、自分の手で決着を付けなければならない、と責任を感じているのかもしれない。

 

 

「そうか...彼は責任感の強い男だ。今回の件に少なからず責任を感じているのかもしれない。」

 

「ええ...無茶をしなければいいんだけれど...」

 

「それを見守って、時に制してあげるのも夏未の役目なんじゃないかい?」

 

「私の役目....」

 

「彼が好きなんだろう?」

 

「なっ!?」

 

 

ぱ、パパったら...急に何を言い出すのかしら...!

た、確かに私は嵐山君のことは特別に思っているけれど...!

 

 

「夏未が嵐山君を好いているなら、彼に無茶をさせないように夏未が彼を支えてあげなさい。それに...夏未は永世学園サッカー部のマネージャーなのだろう?」

 

「っ!...はいっ!」

 

 

そうよね...私は永世学園サッカー部のマネージャー。

サッカー部の選手たちがサッカーに集中できるようにサポートするのが役目。

だから私は嵐山君がサッカーに集中できるよう、精一杯サポートするわ。

 

 

「よし、話は終わりだ。....ああ、今日は帰るのも遅くなるだろうし、うちに泊まっていきなさい。嵐山君も一緒にね。」

 

「ええ.......えっ?」

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「はあ!」

 

ドゴンッ!

 

ガコンッ!

 

 

「っ...ふぅ...」

 

 

あれから数時間ほど練習を続けている。

下校途中の生徒が何人か話しかけてきたけど、理事長の言っている通りマジで最近の雷門中は暗いみたいだな。囲まれて練習できなかったときは、夏未が制してくれて助かった。

 

 

「っ....はあ!」

 

ドゴンッ!

 

バシュンッ!

 

 

「....まだまだダメだな。」

 

 

最近はこのシュート練習を取り入れているけど、まだまだ精度が低すぎる。

10本打って、3本入ればいいレベルで決まらない。錘を付けた状態でのキックは重心の位置がずれてしまうから、普段のシュートの感覚ではまともなシュートが打てない。

 

 

「(だがこの状態でも普段通りの動きができるようになれば、今よりもっと強いシュートが打てるはずだ。じいちゃんのノートを信じて、練習あるのみ...!)」

 

「嵐山君!」

 

「っ、夏未。どうした?」

 

「もうさすがに帰りましょう?」

 

 

そう言って夏未が指さす時計を見ると、既に夜の8時を回っていた。

さすがに時間をかけすぎたか。これから急いで駅に向かって帰らないとな。

まあ急いでも、家に着くのは日が回った時間になりそうだが...

 

 

「ごめんな、夏未。こんな時間まで付き合ってもらって。」

 

「いえ、別にいいのよ。私が好きで付き合っているのだから。」

 

「そっか。...静岡に帰ったら、飯はどうするかな。日が回ってから飯を食べるのは良くないかもしれないけど、飯を食わないと消費したエネルギーがな...」

 

「あら、言ってなかったかしら。今日は私の実家に泊まるのよ。」

 

「はい?」

 

「だ、か、ら!今日は私の実家に泊まるの!いいわね!?」

 

「は、はい....」

 

 

ま、マジか...俺、女の子の家に行くのって実は初めてなんだが...

秋の家にも言ったことないしな...ちょっと緊張してきた。

 

 

「お、俺だけ静岡に帰っても...」

 

「ダメ!」

 

「は、はい...」

 

 

こうして、俺は夏未の実家へ泊ることになるのであった。

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

カポーン...

 

 

「ふぅ....」

 

 

そんなこんなで俺は夏未の実家へと来たのだが、俺が練習で泥だらけになっていたので夏未の家のメイドと執事に服を脱がされ、風呂へと放り込まれた。

 

 

「それにしても....めちゃくちゃデカい風呂だな....」

 

 

何というか写真でしか見たことないけど、高級ホテルの風呂って感じでめちゃくちゃ広い。こんなの一家庭にあっても広すぎて無駄だろう、ってくらい広い。

 

 

「湯加減はどうかしら、嵐山君。」

 

「えっ、夏未!?」

 

「そうよ。お風呂は二つあるの。男性用と女性用でね。」

 

「そ、そうなんだ....」

 

 

そ、それって本当にホテルみたいな作りだな。

雷門家、恐るべき財力というか....いや、本当に普通の家庭に風呂は二ついらんだろうに....

 

 

「...すごくリラックスできてるよ。」

 

「そう、それは良かったわ。昔、初めてお友達を家に招待した時は驚かれて、落ち着かないって言われたから気にしていたのよ。」

 

「そ、そうなんだ....(それはすごくわかる...一般家庭の人間がこんなところにいたら落ち着かないだろうな。)」

 

「....嵐山君、本当にリラックスできてる?」

 

「お、おう....」

 

「....怪しいわね。見に行ってもいいかしら。」

 

「な、何を言ってるんだ!?」

 

「ふふ、冗談よ。」

 

「....心臓に悪い冗談はやめてくれ...」

 

「(少しは意識しているってことかしらね...ふふ...)」

 

 

ザバーン....

 

 

「と、とりあえず俺は上がるよ。」

 

 

俺は空気に耐えられず、風呂から上がることにした。

これ以上風呂に入っていたら、のぼせてしまう気がする。

 

 

「ええ、わかったわ。部屋への案内は任せてあるから、先に行ってて頂戴。」

 

「うん、わかったよ。」

 

 

俺は風呂から上がり、体を拭いて服を着る。

どうやら俺用にお客様用の服を用意してくれていたようだ。

たぶん、理事長の昔の服とかだろうな。

 

 

「嵐山様、お部屋にご案内いたします。」

 

「あ、はい。お願いします。」

 

 

風呂場から出ると、すぐそこにメイドが立っていて俺に気付くとすぐに話しかけてきた。俺まで様付けなんて、何だか慣れないな...

 

 

「こちらでございます。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「はい。それでは失礼します。」

 

 

部屋への案内が終わると、メイドは俺に一礼してから去っていった。

俺は案内された以上、廊下に立っているのもおかしいと思い、思い切って部屋の扉を開けて中へと入った。

 

 

「.....え、この部屋って...」

 

 

俺が部屋に入ると、そこには女の子らしいといっていいのかわからないが、明らかに女性が使っているであろう部屋が広がっていた。

 

飾っている写真の中には、俺たち雷門中サッカー部の集合写真や、フットボールフロンティア優勝時の写真がある...ということはここはもしかして...

 

 

ガチャ

 

 

「.....え、あ、嵐山君....?」

 

「...夏未...」

 

 

やっぱり夏未の部屋だったか....夏未も驚いているということは、メイドたちの企みか、それとも理事長か...

 

 

「...と、とにかく座りましょう。(パパ...なんてことをしてるのよ...!)」

 

「お、おう。」

 

 

夏未は自分のベッドへと座り、俺はとりあえず床へと座る。

何でメイドは俺を夏未の部屋へと案内したんだ...めちゃくちゃ気まずいぞ。

な、何か話を振らないと....

 

 

「「あ、あの...」」

 

「(か、被った...)」

「(な、何で同じタイミングで...)」

 

「「さ、先にどうぞ....」」

 

 

ああああああああああああ!

何なんだこの時間はあああああああ!

 

 

「...プッ...ふふ...」

 

「夏未...?」

 

「男の子を部屋に呼ぶなんて初めてだったから、変に緊張していたけど...それは嵐山君も同じだったみたいね。」

 

「ま、まあ...女子の部屋なんて初めて入ったし、男友達とならゲームしたりとかするけど...女友達とは何をしたらいいかなんてわかんなくて...」

 

「ふふ...嵐山君の珍しい姿が見れただけでも良しとしましょうか。」

 

「な、なんだよそれ...」

 

 

でも、そうだな。俺も夏未があんなにてんぱっているのは初めて見た気がする。

俺も珍しいものが見れたし、それで良しとするか。それになんだか二人とも同じなんだって思ったら、緊張もほぐれてきた気がする。

 

 

「嵐山君、クリスマスはどう過ごすのかしら?」

 

「う~ん...特に予定は無いし、練習でもしてると思うけど。」

 

「あら、だったら私と一緒に出掛けないかしら?」

 

「出かける?どこに?」

 

「そうね...静岡に引っ越してから全然出かけていないし、町に出てみない?」

 

「そうだな...引っ越してすぐにあの騒動だったからな。」

 

 

俺は夏未の提案について考える。まだまだ知らないことが多い町について知るのは良いことだ。

でも世界との戦いや、研崎との戦いに向けて練習を重ねていきたいところ....さて、どうしようか。

 

 

「....少しくらい休みなさい。」

 

「えっ?」

 

「あなたは頑張りすぎよ。確かにあなたは世界と戦ううえで絶対に必要な選手だわ。...でも、あなただけが頑張る必要なんてないじゃない。」

 

「夏未....」

 

「それにがむしゃらに練習したって、世界には勝てないわ。しっかりと休むことだって大事よ。」

 

「そう...だね.........わかった。じゃあ今年のクリスマスは夏未と過ごそうかな。」

 

「っ!..ええ、よろしく。」

 

 

その後も俺たちは他愛もない話をして笑い合い、ヘラヘラと登場した理事長を二人で叩きのめしてから、別々の部屋で就寝したのであった。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

クリスマスデート

嵐山 side

 

 

あれから数日経ち、本日は12月25日、クリスマスだ。

学校は数日前に冬季休暇に入っており、サッカー部は俺と瞳子さんで相談し、練習するも遊ぶも自由、ただし宿題はしっかり忘れずやること、というルールを設けた。

 

俺は基山や八神から練習に誘われているが、今日はそれよりも前から夏未と出かける約束になっていたので、今日だけは練習の誘いを断った。

 

 

「さて...約束の時間の15分前か。少し早く来すぎたかな。」

 

 

ただばあちゃんからは、女性を待たせるような男にはなるなと言われていたので、普段から5分前行動は心がけている。守れないときもあるけどな。

 

というか夏未とは家が隣同士だから、家の前で待ち合わせで良かったと思うけど...何故か夏未は町の時計台を待ち合わせ場所にしてきたんだよな。

 

 

そんなことを考えながら夏未を待っていると、いつの間にか約束の時間の数分前になっていた。

 

 

「嵐山君!」

 

「おう、夏未。おはよう。」

 

「おはよう。待たせてしまったかしら?」

 

「いや、俺もついさっき来たところだよ。」

 

「......嘘ね。鼻が赤くなってる。」

 

「え、いや......まあ....」

 

「ごめんなさい、服を選んでいたら遅くなってしまったの。」

 

「別に気にすることないよ。約束の時間にはまだなっていないわけだし。....それに、良く似合っているよ、その服。」

 

「っ...あ、ありがとう....」

 

 

俺が夏未の服装を褒めると、夏未は少し照れたようにそっぽを向いた。

どうやら今のは正解だったみたいだな。

 

 

「じゃ、とりあえずどこ行く?」

 

「そうね。まだ知らないところばかりだし、当ても無く歩いてみるのも良いかしら。」

 

「オッケー。じゃあ行こうか。」

 

 

そう言って、俺は手を差し出す。

そんな俺の行動に、夏未は頭に疑問符を浮かべながら首を傾げた。

 

 

「...エスコートしますよ、お嬢様。」

 

「っ!...ふふ、お願いしようかしら。」

 

 

俺の意図に気付いた夏未は、俺の差し出した手を握った。

...俺がこんな風に夏未に接しているのには、とある理由がある。

 

 

.....

....

...

..

.

 

数日前

 

 

「すまんが25日は予定が入っていてな。一緒には練習できないんだ。」

 

「そうですか.......それって、やっぱり夏未さんとですか?」

 

「え、よくわかったな。」

 

 

俺は基山と八神から25日も練習を一緒にしないか、と誘われていたんだが、夏未との約束があったので断っていた。すると基山は俺が夏未と約束があることを見抜いたのだ。一体なぜわかったんだろうか。

 

 

「いや、だって25日はクリスマスですし、嵐山さんと夏未さんはその...」

 

「....(タツヤ....!)」

 

「俺と夏未が..?」

 

「い、いや...何でもないです...(れ、玲名が怖い...)」

 

「...よくわからないが、まあ基山の言う通り25日は夏未と出かける予定になっているんだ。」

 

「そ、それってデート...なの?」

 

「え?」

 

 

八神の言葉に、俺はフリーズしてしまう。

デート....確かに、クリスマスに二人で出かけるっていうのは、ごく一般的な考えで言うとデートに該当する。

なるほど...だから基山は俺と夏未が付き合っているのではないか、と思っているのか。

 

 

「た、確かに一般的な観点で言えばデートかもしれないが、俺と夏未は別に付き合っているわけではないぞ。」

 

「そ、そうなんですか...(あれで付き合ってないのか...)」

 

「そ、そうよね。(良かった...)」

 

「で、でもデートか.....確かにそうだよな.......なあ、デートってどうすればいいんだ?」

 

 

俺は正直な話、秋以外の女の子とは遊んだことが無い。

いや、正確にはもう一人いるんだが....それにしたって、まともに女の子と遊んだことも無いんだよな。

基山ならモテそうだし、そういう経験もあるだろう。それに八神は女の子だし、何か良いアドバイスが貰えるかもしれない。

 

 

「えっと...僕もよくわからないです。」

 

「そ、そっか。...八神は?」

 

「.....女はキザな男に憧れる。」

 

「き、キザ...?」

 

「そうだ。歯の浮いたようなセリフを吐けば、夏未も喜ぶと思う。」

 

 

歯の浮いたようなセリフ....い、一体どんなことを言えばいいんだ...?

 

 

「たとえば、どんな...?」

 

「そうだな...まずは服装を褒めた方が良い。それから相手のことは何かあるたびに褒める。そして一番大事なポイントだけど、必ず物理的に接触する。手をつなぐでも、腕を組むでもいい。とにかく体に触れる時間を長く持つ。」

 

「ゴクッ...な、なるほど....」

 

「(れ、玲名のやつ、テキトーなことを....嵐山さんも本気になっちゃってるし...)」

 

「それと...デートの最後には甘い言葉を耳元でささやいて、手の甲にキスをするんだ。」

 

「な、何だと....」

 

 

で、デートって奥が深いな...町を歩いているとカップルをよく見かけるもんだが、世界中のカップルはみんなこんなハイレベルなことを毎回やっているのか...

 

 

「さ、参考になったよ。ありがとう、八神。」

 

「ああ、どういたしまして。(くく...これで夏未が隼人のことを気持ち悪がれば良い。そしてその隙に私が隼人を慰めつつ、同じようにしてもらえば一石二鳥...!)」

 

「(う、う~ん....心配だし、当日はちょっと様子を見に行った方が良いかも...)」

 

 

.....

....

...

..

.

 

夏未 side

 

 

「それにしても、今日の夏未はいつにもまして綺麗だね。」

 

「え、ええ...あ、ありがとう。」

 

「今日は夏未と一緒に過ごせて嬉しいよ。」

 

「っ...それは光栄だわ。」

 

 

き、今日の嵐山君は何か変だわ...いつもならこんなこと言わないのに、なんだかキザったらしいわ。

一体何があったのかしら....もしかして、嵐山君は今日のことをデートだと思ってくれている...?

いや、だとしてもこんな風になるなんて想像もつかないわ....もしかして私をからかっている...?

 

 

「(で、でも嵐山君はそんな人を傷付けるようなことはしない....一体何がどうなっているの...!?)」

 

「(な、夏未が困惑しているような気がする....本当にこんなんでいいのか、八神...!)」

 

 

 

 

「くく....夏未は困惑しているようだな。上々の成果だ。」

 

「ハァ...あまりひどいことはするなよ、玲名。」

 

「ふん...私の恋敵だ。別に問題あるまい。」

 

「いやいや...」

 

 

私は基山君と八神さんにつけられているとはつゆ知らず、いつもとは違う嵐山君に戸惑いながらエスコートを受けるのであった。

 

 

 

「さて、このあたりには何があるのかな?」

 

「あら....あのお店...」

 

 

私の視線の先には、稲妻町にもあったスポーツ用品店があった。

そういえば最近、サッカー人気が高まった影響で備流田さんの経営するお店も系列店が増えたという話を聞いたわね。それから高まりすぎたサッカー人気を統制するために、スポンサー制度というものも導入するとか。

 

 

「嵐山君は今回の騒動が収まったとして、スポンサーはどう獲得するつもりかしら?」

 

「う~ん...まあキラスター製薬かエイリアン航空がスポンサーになってくれるのが一番楽だけど、それが無理なら今後はスポンサーを得るためにサッカー協会が大会なんかを開いてくれるだろうし、それに参加する感じかな。」

 

「意外と現実的なのね。」

 

「そりゃそうだよ。架空の会社を作ってスポンサーにするわけにもいかないし、そこは誠実に行かないとね。」

 

「でもそういう裏技を思いつくあたり、悪い人ね。」

 

「だ、誰だって思いつくさ。」

 

 

架空の会社なんて、それこそ影山がやりそうなことだけれど。

帝国から鞍替えするために、世宇子中なんて作っていたくらいだもの。

それにしても、確かに吉良財閥が関わっている2社のどちらかがスポンサーになってくれたら、一番楽なのは間違いないわね。

 

 

「...ふふ。」

 

「どうしたのかしら?」

 

「いや....デートだと思って色々考えていたけど、夏未はすっかりサッカー馬鹿になってるみたいだからさ。」

 

「なっ!?だ、誰がサッカー馬鹿よ!」

 

「くく...だってこんな時でもサッカーのことばっかり。最初はサッカー部を潰そうとしていたのに、いつの間にか夏未にとってサッカーは大切なものになっていたんだね。」

 

「もう.......そうさせたのはあなたじゃない。」

 

「えっ?」

 

「あなたが私をサッカーに引き込んだ...あなたがいなければ、私はサッカー部を潰していたと思うわ。」

 

「....いや、きっとそうはならなかったよ。」

 

「えっ...?」

 

「たとえ俺がいなくても、きっと夏未はサッカーを好きになってたと思う。だって今の夏未は....」

 

 

始めて出会った時より、ずっとずっと楽しそうだから。

嵐山君が言ったその言葉が、私の胸を駆け巡る。

確かに嵐山君に、サッカーに関わるようになってから私の毎日は充実していた。

いつの間にか1年が過ぎていたと感じるくらいに、私はサッカーに夢中になっていた。

 

 

「そうね...もしかしたら、ううん...きっと好きになっていたでしょうね。」

 

「ああ。」

 

 

心なしか、嵐山君の手の握る力が強くなった気がした。

...そういえば私、今嵐山君と手をつないでいるのね.......っ!

 

 

「な、夏未?なんだか顔が真っ赤だけど...」

 

「い、いえ...問題無いわ....」

 

 

い、意識しだしたら急に...もう...どうして嵐山君はいつも通りなのよ!

少しは私を意識しなさいよ...!

 

 

「(こうやって手をつないでいるけど....なんだか妙に落ち着かない....緊張するというか...夏未を見ているとなんだか鼓動が早くなっているような....どうしたんだろ、俺...)」

 

 

 

そんなこんなで私たちは町を周り、引っ越してきたばかりで知らないことを堪能したのであった。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

戦いを前に

嵐山 side

 

 

「こっちだこっち!」

 

「ナイスシュート!」

 

「おいおい、今のは防げただろ~。」

 

 

あれから数日経ち、冬季休暇も終わって既に学校が再開した。

といっても、俺たちは結局グラウンドを使えないままなので、現在は静岡にあるサッカー競技場を使用させて貰い、練習に励んでいる。

 

本当は雷門中のグラウンドを借りるという話も出ていただけど、さすがにこれ以上お世話になるわけにはいかないと、こちらから断らせてもらった。後はもう、俺たち永世学園の問題だ。他の誰かを必要以上に巻き込むことは無い。

 

 

「それにしても、彼らの動きもよくなったわよね。」

 

「ああ。正直な話、ここまで伸びるとは思ってなかった。想像以上の成長だよ。」

 

 

現在は俺を抜いたメンバーでミニゲームをやっている。

皆十分に動けているし、今なら全国レベルのチームとも戦えるくらいには力を付けた。

勝てる...とまでは行かないまでも、良い勝負ができるくらいにはな。

 

 

「嵐山君の指導が良かったのかしらね。」

 

「いや、それよりも彼らの潜在能力、そしてそれを引き出した彼らの努力...俺はほんの少しだけ背中を押してあげただけだよ。」

 

「ふふ...それでも彼らはあなたを信じてついてきた。」

 

「....そうだね。」

 

 

「嵐山さん!」

 

「ん、どうした基山。」

 

「その...ヒロトのことなんですけど...」

 

「吉良がどうかしたか?」

 

「えっと....やっぱり、勝負に勝ったらヒロトを呼び戻すなんて無理でしょうか。」

 

「吉良を、か...」

 

「確かに、あいつのやったことは許せません。でも...あいつは俺たちの友達なんです!だから...」

 

 

吉良ヒロトの話は、瞳子さんに聞いた。

それだけじゃない。この旅の中でそれとなく、サッカー部のみんなに聞いて回った。

すると見えてきたのは、吉良ヒロトと基山タツヤの関係性だ。

 

基山はいわゆる優等生タイプで、昔から自分を拾い育ててくれた吉良星二郎に感謝していた。

そしてそんな恩人に少しでも恩返しするために、基山は努力し、認められてきた。

 

そんな基山を見て、吉良は自分よりも基山が期待されている、基山が本当の息子だったら父も良かっただろう、とコンプレックスを抱くようになった。そこから吉良は父に認めてもらうために努力するのではなく、いかにして自分に振りむいてもらえるか、で行動するようになってしまった。

 

それが今の不良化に繋がっている。

だが、吉良星二郎が本当に愛しているのは、他の誰でもない吉良ヒロトであることは誰が見たって明らかだ。

それでも不器用すぎて、当の本人である吉良ヒロトにはそれが伝わっていない。

 

俺は吉良ヒロトが真に悪い奴では無いと、理解している。

だが手を差し伸べるのは俺の役目ではない。その役目は...

 

 

「わかっているよ、基山。」

 

「っ、じゃあ...!」

 

「だが決めるのは吉良自身だ。戻ってくるのも、そのまま悪い奴らと一緒にいるのも、あいつの選択だ。俺たちがとやかく言うことじゃない。」

 

「そんな.....」

 

「だがな基山。友達だって言うなら、お前が吉良を止めてみせろ。友達なら、そいつが間違った道を歩いているなら殴ってでも止めてやれ。」

 

「嵐山さん......はいっ!」

 

 

俺の言葉に頷いた基山は、そのまま走って練習へと戻っていった。

 

 

「...何だよ夏未。」

 

 

俺はさっきから微笑みながら俺を見てくる夏未に問いかける。

 

 

「いいえ。...間違った道を歩いているなら殴ってでも止めてやれ、か。何か心当たりでもあるような感じで話していたわね。」

 

「......予選大会での帝国との試合の時、俺は鬼道と春奈のことで影山から揺さぶられて、本気で試合に集中できてなかった。でもそんな俺に”ファイアトルネード”を食らわせてくれた奴がいたな、って思ってさ。」

 

「ふふ...そういえばそんなこともあったわね。」

 

「俺はあれで目が覚めた...だから基山も、同じように吉良に”流星ブレード”でもぶつけてやればいいんだよ。思いの籠ったボールがなら、きっと気持ちが伝わるはずさ。」

 

 

そうすればきっと吉良とも分かり合えるんじゃないかな。

吉良だってきっと、基山たちと仲たがいしたいわけじゃないだろうからさ。

 

 

 

 

それから俺たちの練習の日々は続いた。

必殺技の練習はあまりせず、基本的に連携の練習を中心に行った。

結局、俺と八神、蟹目で”ディープジャングル”の特訓を行ってみたが、どうしてもうまくいかなかった。俺と八神、蟹目のスピードが合わなかったのだ。

 

そのほかにも色々試そうと思ったが、結局うまくいかず...祖父ちゃんのノートから新たに必殺技を得ることはできなかった。ただし、個人個人が自分で編み出した必殺技はいくつかある。

 

と言っても、今後も使える技ばかりではなかったけど。

たとえば瀬方の”ガニメデプロトン”。最初見たときはハンドだろ...と思ったが。

あとは南雲の”フレイムベール”と涼野の”ウォーターベール”。フォワード陣に突破力が加わったのは喜ばしいところだな。

 

 

ガコンッ!

ガコンッ!

 

 

「ハァ...ハァ...」

 

 

俺の方も特訓は続けているが、やはりまだ新たな必殺技のイメージは湧いていない。

前の自分よりもうまくなっている自信はある。身体能力の向上は、サッカーにおいて重要な部分だと思う。だがそれだけではダメなんだ。

 

”ウイングショット”を、”天地雷鳴”を超えるシュートを編み出す必要がある。

そのためにはもっと高みへ...天を轟く雷鳴ではなく、宇宙に瞬く星々のごとく.....っ!

 

 

「そうだ...あの技だ...!」

 

 

俺はすぐさまノートを取り出し、ページをめくる。

祖父ちゃんが残したノートの最後の方に書かれている必殺技...祖父ちゃんの理想だけで書かれた実現不可能だった必殺技...!

 

 

「あった.........祖父ちゃん....祖父ちゃんが成しえなかったこの必殺技、俺が完成させる...!」

 

 

『星雲纏いて天地を穿つ、宇宙からの一撃....その名も”アストラルストーム”。』

 

 

.....

....

...

..

.

 

??? side

 

 

「あれが...私の息子...」

 

 

既にかなり時間も遅くなり、辺りは電灯が無いところは真っ暗となっている。

そんな時間にもかかわらず、あの子は今も必死になって練習している。

あれだけ努力できる子が、私やあの人の子供だなんて正直信じられない。

 

 

「隼人...あなたはまだ折れていないのね...」

 

 

あの人は折れてしまった。そして私の元から去っていった。

愛していたのに、大切にしていたのに、私の世界は壊れた。

だから、私の世界を取り戻すために、あの人には才能を超える力を手に入れてもらわなければいけない。

 

 

私の研究は既にほぼ完成している。

研崎の作ったエイリアンエナジー...あれは肉体を限界まで強化する代わりに、人体に深い影響を及ぼす不完全なものだ。だがその理論には目を見張るものがあった。

 

だからこそ私は彼の研究に投資し、その研究を後押しした。

そして研究施設も提供することで、容易くその研究内容を盗むこともできた。

 

研崎は今の時点で完成だと思っているようだが、それは違う。

私が改良を加え、実験を重ねることで到達した新たな領域...【オリオンの刻印】。

体内に薬などを注入するのではなく、人体に刻印することで人間の肉体を強化する。

まるで魔法のような研究が完成したのだ。接種することのないドーピングは検査にも引っかからないし、人体への影響は刻印を刻んだ瞬間にしか無い。

 

 

あとはこの研究を大きな舞台で試すことができたら...そう、世界大会のような大きな舞台で。

研崎のエイリアンエナジーを接種している改造人間たちで試すのもいいけど、より強力な相手でなければ成果を確認できない。

 

 

「そして...この刻印が完成した暁には、私とあの人、そして隼人の三人で幸せに暮らすのよ....うふふふふフフフふふふフふフふふふフ....」

 

 

まずは久しぶりに息子との再会とでもいきましょうか...待っていて、あなた。

私の研究は、愛するあなたを、我が子を、世界を救うのよ。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「少しいいかしら。」

 

「っ!.......誰ですか?」

 

 

俺が練習を続けていると、突然声をかけられた。

大人の女性のようだが、もしかして施設の管理者か...?

よく見れば、練習に没頭しすぎてそれなりの時間になっていた。

 

 

「ふふ....私は薫子。嵐山薫子よ。」

 

「嵐山......っ、まさか....!」

 

「そうよ、あなたの母親よ。」

 

「っ...」

 

 

まさか、母さんが自ら俺の前に現れるとはな...!

この人は研崎の研究を手伝っている敵、倒すべき悪だ...!

 

 

「そう警戒しないで...母さん、悲しいわ。」

 

「ふざけるな!あんたは研崎の研究を手伝っている、悪人じゃないか!」

 

「違うの.....私だって好きで手伝っているわけじゃないのよ?」

 

「何?」

 

「....お願い、話を聞いてくれないかしら...」

 

「.......聞くだけだ。」

 

「まあ!嬉しいわ!うふふふ...」

 

 

なんだか調子が狂う...母親だなんて言われたって、俺には両親とはどういうものなのかがわからない。

それにそもそも死んだと思っていたんだ。母親と名乗られても呑み込めない。

しかもこの人は敵なんだ....でも....

 

 

「ふふ...大きくなったわねぇ....母さん、小さかったあなたしか知らなかったから...でも、すぐにあなただってわかったわ。」

 

「っ....そんなことはどうでもいい。早く話を続けろ。」

 

「もう...でもそうね。いきなりあらわれて母親だなんて言われても、納得できないわよね。...義父さんには何て言われていたの?」

 

「....あんたらは死んだと言われていた。」

 

「そう...そうよね......でも違うの。私も、修吾さんも、ずっと隠れながら生きてきたの。」

 

「隠れながら...?」

 

「そうよ。...オイルカンパニーって聞いたことあるかしら。」

 

 

オイルカンパニー...確かガルシルド・ベイハンという人物が経営している石油の事業だったな。

 

 

「知ってる。」

 

「そのオイルカンパニーは、影山の後ろについている黒幕なのよ。」

 

「なっ...!」

 

「そして、ガルシルドの企みで義父さんと円堂さんが殺されかけ、私たちにも危害が及ぶかもしれないと修吾さんが考えて、私たちは海外を転々としていたの。まだ幼かったあなたを海外に連れていくのは難しかった....だから、断腸の思いであなたを置いていったのよ...」

 

「そんなことが...」

 

「だから、これだけは信じて欲しいの。私たちはあなたを愛していないから置いていったんじゃない....あなたを愛しているからこそ、あなたを置いていったのよ。」

 

「っ....」

 

 

結局、すべては影山に通じるということなのか...?

でも、それだと影山の言っていたことはどうなる?

父さんは俺のせいで....でも、それは影山の罠だったってことなのか...?

 

 

「...とりあえず、過去のことはわかった。それで、何で今更俺の前に現れた。」

 

「そうね......もう少し話をするけれど、あなたの父親...つまり私の夫である修吾さんは父である義父さんの背中を追って、プロのサッカー選手を目指していたの。でも修吾さんにはサッカーの才能が無かった。」

 

「....」

 

「それでも修吾さんは前向きに生きていたわ。そんなある日、あなたが生まれた。私たちは幸せだった....でも、あなたが2歳の時に、あなたはとんでもない才能を見せた。」

 

「(覚えていない...でも、祖父ちゃんは昔から俺には才能があるって言ってくれていた...)」

 

「そこから、修吾さんは狂っていったの。自分には父の才能は受け継がれなかったのに、自分の息子には才能が受け継がれている......修吾さんは荒れに荒れてしまった。」

 

「......」

 

「だから私は思ったのよ。修吾さんが隼人よりすごい力を持てば、きっと元の修吾さんに戻ってくれるって...!」

 

 

それは....少し違う気もするけど、この人たちからすれば俺が持っている存在で、俺が何か言ったところで持っている側の言い分にしかならないんだろう...

 

 

「だから私は研究を開始した...そしてもうすぐ、私の研究は完成するの!」

 

「研究...」

 

「だから、その時は隼人....私たちのところへ帰ってきてくれるかしら....母さんたちと一緒に、もう一度幸せな日々を過ごしましょう...?」

 

「.............ごめん、俺には無理だ。」

 

「っ、ど、どうして...?母さん、何かしちゃったかしら...?」

 

「違う....違うんだ........あんたらが....母さんたちが苦労していたのは理解したよ。それでも俺は、母さんたちを認めるわけにはいかない。」

 

 

母さんが研究しているのは、研崎が開発したドーピングアイテムから派生した研究だってことは、総理からの調査報告で知っている。だからこそ、俺はそんなものを認めるわけにはいかない。

 

俺には才能があったのかもしれない...それでも俺は、才能だけでここまで来たつもりはない。

俺が愛するサッカーで、汚い真似をするような人たちを俺は.....両親と認めるわけにはいかないんだ!

 

 

「俺は戦う。....母さん、会えて嬉しかった。それでも俺は、あなたの元には戻れない!」

 

「....して..........」

 

「....」

 

「どうして......どうしてなの!どうして私の言うことを聞かないの!あなたは私の望む通りに生きていればいいの!それが幸せなのよ!どうしてそれがわからないの!」

 

「っ......俺の幸せは俺が決める!俺の行く道は俺自身で決める!誰にも指図されるつもりは無い!」

 

「何故わからないの!.......違う.....私の隼人はこんな聞き分けの無いことを言わない.....コレは私の息子じゃナイ........」

 

 

母さんは急にぶつぶつと言いながら、この場を去っていった。

その姿はとても不気味で、普通の人間にはまるで見えなかった。

狂気に満ちていて、とてもじゃないが自分の母親であると信じたくないくらいに。

 

 

「母さん................何だろうな..ずっと一人だったから、今更会ったところで何も感じないと思ってたんだけどな....」

 

 

胸がギュって締め付けられるような、そんな感覚だ。

こんなの、祖父ちゃんとばあちゃんが亡くなった時くらいしか感じなかったのにな。

両親への思いなんて、まるで理解できないと思ってたのに、結局は俺も欲していたんだな....両親からの愛情を。

 

 

 

「............でも、俺は前に進む。立ち止まってなんていられないんだ。あいつらと約束したんだ....フットボールフロンティアで、最強の座をかけて戦うと。」

 

 

だから負けられない。俺は研崎を、母さんを倒す。

約束を果たすための、ただの通過点だ。

 

 

 

.




オリオンの刻印では刻印はオリオンの使徒であることを示すただの印でしたが、本作ではもう少し役割を持たせることにしました。
ちなみにどういう理屈、理論でドーピングされるかは超次元ということで。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦!カオスエンペラーズ - 前編

嵐山 side

 

 

今日の日付は3月10日...ついにこの日、俺たちの運命が決まろうとしていた。

俺たち永世学園サッカー部は、永世学園のグラウンドへと集結していた。

俺と夏未、瞳子さん以外の面々は、緊張した面持ちで立っている。

 

 

「(無理も無いか...この試合に負ければ、この子たちはサッカーを失うのだから。)」

 

 

だが、サッカーとは非情なスポーツだ。競い合えば必ず勝者と敗者が生まれる。

どれだけ努力しようが、負けるときは負ける。だが、それでも勝ちたいと這い上がれる奴だけが、本当の勝利を手にすることができるんだ。

 

 

「みんな聞いてくれ。」

 

「嵐山さん...」

 

「....緊張してるんだろう?わかっているよ。」

 

「ど、どうしても落ち着かねえんだ...」

 

「この試合に敗北すれば、私たちはサッカーを失う...」

 

「安心しろお前たち。俺たちは負けない。いや.....俺がお前たちを負けさせはしない。」

 

「「「「「っ!」」」」」

 

「俺がお前たちを支えてやる。だから、お前たちは思いっきり、サッカーを楽しんでこい!」

 

「サッカーを...」

「楽しむ...」

 

 

俺の言葉に、基山たちはお互いに目を合わせ頷きあう。

これまで厳しい練習に耐え、努力してきた。時にはその辛さに涙を流した日もあっただろう。

だが全員がこの場に揃っている。それだけでも誇るべきことだ。

 

この試合に負ければ、サッカーを失う。

だからこそ、試合の勝ち負けにこだわらず、サッカーを楽しむべきだ。

勝てばこれからもサッカーを楽しめるし、負けたとしても悔いの残らないよう楽しむ。

 

 

「くくく...サッカーを楽しむなど、くだらないですね。」

 

「....研崎。」

 

「くくく...目上の人間を呼び捨てとは、やはり生意気なガキだ。」

 

「俺はお前のような人間を敬いはしない。」

 

「ふん...まあいい。今日が貴様の命日になるだろう。我が最強のハイソルジャー軍団、カオスエンペラーズの手によってな!」

 

「くだらないな。ドーピングで強くなっても、それは本当の強さではない。俺たちが本当の強さとは何なのか、この試合で示してやる!」

 

「くっ..!」

 

 

研崎はイライラしたような表情で、自分チームのベンチへと歩いて行った。

あっちのベンチには既にカオスエンペラーズが待機しているようで、その中には吉良も入っていた。

だが吉良はドーピングをしていないことを確認している。

あいつだけは、正々堂々と努力で力を付けてきている。

 

 

「どうやらどちらのチームも準備はできているようですね。」

 

「ええ、問題無いですよ。」

 

「私も問題ありませんよ、旦那様。」

 

「では試合を始めましょうか。....審判はサッカー協会の方に頼んであります。」

 

 

吉良さんに呼ばれて、審判団の人たちがあらわれた。

さらにはなぜかチェアマンまで一緒に来ている。

 

 

「やあ久しぶりだね、嵐山君!」

 

「チェアマン、何故ここに?」

 

「何、君が育てたチームがどれほどの実力となったか見せてもらいに来たのだよ。....それと私も今回の件に協力している。」

 

「っ!...そうでしたか。」

 

 

最初は大きな声で、最後は俺だけに聞こえるように小声で話してくれた。

どうやら総理がチェアマンにも伝えてくれたみたいだな。

だがそれもこの試合に勝って、俺たちが正しいと認めさせなければいけない。

俺たちはドーピングなどには負けないと。

 

研崎は結局、勝とうが負けようが捕まるだろうが...

 

 

「それでは試合を開始します。」

 

 

審判の言葉に、俺たちはフィールドの中央へと集まる。

俺の正面にはカオスエンペラーズのリーダーである闇川が立っている。

そして基山の正面には吉良が。

 

 

「くくく...よく逃げなかったな。」

 

「逃げる必要など無いからな。」

 

「ふん...強がっていられるのも今のうちだ。俺様の力ですべてを壊してやるよ。」

 

 

 

「ヒロト....」

 

「お前もよく逃げなかったな、タツヤ。」

 

「....俺はお前を倒す!友として!」

 

「っ!....はっ、好きにしな。」

 

 

 

そして俺たちはフィールドへと散っていく。

今回は最初から本気で行くために、俺たちの本来のポジションでフォーメーションを組んだ。

フォワードに俺、基山、南雲、涼野。ミッドフィルダーに緑川、八神、本場、武藤。ディフェンダーに倉掛、蟹目。キーパーに砂木沼。超攻撃的フォーメーションだ。

 

対するカオスエンペラーズだが、どうやらフォワードに闇川と吉良、ミッドフィルダーに4人、ディフェンダーに4人とシンプルな4-4-2のフォーメーションのようだ。

 

 

「それでは試合を開始します!」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

審判の笛が鳴り、カオスエンペラーズのボールでキックオフ。

さて、相手さんは最初どう出るかな。

 

 

「おらよ。」

 

「くくく....蹴散らしてやる!」

 

 

吉良から闇川にボールが渡ると、闇川は一気にこちらへと突進してきた。

やはりドーピングされている以上、常軌を逸したスピードだな。

だが....

 

 

「ここは通さない!」

 

「私たちが相手だ!」

 

「何っ!?」

 

 

一瞬で前線へと駆けあがったと思われた闇川の前に、八神と武藤が立ちふさがった。

まさか自分のスピードについてこられると思っていなかったのか、闇川は自分の進路が塞がれたことに驚いていた。

 

 

「チッ...何やってやがる!こっちにボールをよこせ!」

 

「うるせえ!こんな雑魚どもに俺様が止められるわけがねえんだよ!」

 

「くっ!」

 

「きゃあ!」

 

 

驚いて動けていなかった闇川に、吉良が声をかけるがそんな吉良を闇川は無視して、強引に八神と武藤を吹き飛ばしながら突破してみせた。八神は軽い分、それなりに吹き飛ばされてしまったが、武藤は飛ばされても受け身を取ってすぐに立ち上がり、ふたたび闇川を止めようと動き出した。

 

 

「何っ!?(くっ...何だこいつら。半年前とは動きが違う...!)」

 

 

 

「ば、馬鹿な...ハイソルジャーの動きについていっているだと..!?」

 

 

そんな俺たちの動きに、闇川だけでなく研崎も酷く驚いていた。

だが俺たちからしたら当然のことだ。俺たちは必死で努力したんだ。

ドーピングなんかに頼る奴には負けるわけがない!

 

 

「通さん!”イグナイトスティール”!」

 

「なっ..ぐあっ!」

 

 

武藤の追撃に驚いている隙に、本場が必殺技によって闇川からボールを奪取した。

これにはカオスエンペラーズの面々も驚愕、といった雰囲気を漂わせていた。

その中で一人、吉良だけはイラついたような表情で前線からディフェンスへと戻っていっている。

 

 

「(あいつだけは俺たちを舐めずに来ているな。ああいう奴が一人いるだけで、勝率は変わってくる。)ナイスだ、本場!攻めていくぞ!」

 

「はい!...リュウジ!」

 

「オッケー!」

 

 

本場から緑川へとパスが通り、緑川はドリブルで前線へとあがっていく。

そんな緑川の前に、カオスエンペラーズの選手が寄ってくる。

動揺していたようだが、さすがに復帰が早い。

 

 

「闇川さんがボールを奪われるなど...ありえない!」

 

「俺たちは努力してきたんだ!お前らには負けない!」

 

「黙れ!俺たちが最強なのだ!」

 

「(サッカーを楽しむ....そして勝つ!)うおおおお!”ワープドライブ”!」

 

「なっ!?」

 

 

今度は緑川が新たなドリブル技によって、相手を抜き去った。

サッカーを楽しむという気持ちが、緑川に新たな必殺技を与えたな。

さあ、どんどん楽しんでいこう!

 

 

「よし....っ!」

 

 

「シュートは打たせん!」

 

「チッ...うぜえ...!」

 

「マンツーマンディフェンスか。」

 

 

緑川がフォワードにパスを出そうとしたが、俺だけでなく基山や南雲、涼野もマンツーマンでディフェンスに付かれていて、パスコースを塞がれていた。

 

ま、シュートを打てるのはフォワードだけじゃないけどな。

 

 

「そのまま持ち込んでいけ!緑川!」

 

「はいっ!」

 

 

緑川はドリブルでゴール前へとあがっていく。

ディフェンスは俺たちから離れるわけにはいかず、緑川は誰にも邪魔されずにゴール前へと躍り出た。

 

 

「チッ...まさか俺の出番があるとはな。」

 

「くらえ!”アストロブレイク”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

緑川が”アストロブレイク”を放った。

地面を抉りながらボールはゴールへと突き進んでいくが、相手のキーパーはあくびをしながらボールに向き合った。

 

 

「この程度のシュートで俺からゴールを奪えるとでも?.....”ビッグスパイダー”!」

 

 

キーパーの背後から蜘蛛のような足が出現すると、それらがボールを掴み取る。

ボールの勢いは一瞬で消失し、キーパーの手の中にボールが収まっていた。

なるほど...キーパーもそれなりの実力があるようだ。

 

 

「攻めていけ、お前たち!」

 

「ふん、指図するな。...おら!」

 

 

キーパーからディフェンダーにボールが渡り、そこからロングパスで前線へとボールが運ばれていく。

あのキーパーから点を取るには、やはりフォワード陣で攻めていかなければならないだろうな。

ディフェンダーの包囲網をかいくぐるには、緑川だけでなく八神にも頑張ってもらわなければ。

 

 

「こっちだ!」

 

「ふん....」

 

「なっ!?」

 

 

「(どうやら、吉良はチームに無視されているようだな。明らかにフリーだったのにパスを出さなかった。...罠の可能性も捨てきれないが、まだ試合は序盤。大胆に攻めていこうか。)」

 

 

俺は瞳子さんに視線を送ると、瞳子さんも同じ考えだったのか頷いてくれた。

 

 

「...蟹目、本場!闇川をマークだ!」

 

「「はい!」」

 

 

俺は吉良の動きを注視していた本場を闇川のマークにつかせる。

これで吉良は本当の意味で完全にフリーとなった。

だが...

 

 

「チッ...おい、こっちだって言ってるだろ!」

 

「....」

 

「おい!」

 

 

やはり吉良にはパスを出さないようだな。

なら吉良は完全に無視で問題なさそうだな。

 

 

 

「ふん...仕方ない。僕が行きましょうか。」

 

「行かせない!」

 

 

ボールをキープしていた相手の選手に、武藤がマークについた。

しかし相手は余裕の笑みを絶やさず、じっと武藤を見つめている。

 

 

「...っ....」

 

「くくく...さて、抜かせてもらいましょう。”デビルボール”!」

 

「な、何だ!?」

 

 

相手が蹴ったボールに翼としっぽが生え、ボールがまるで生き物のように武藤の周囲を浮遊する。

何なんだこの技は......そのまま武藤は抜かれてしまい、相手選手がゴール前へと駆けあがっていく。

 

 

「くくく...決めさせてもらいますよ!」

 

「っ、あの動きは...!」

 

 

相手の選手はボールを上空へと蹴り上げると、右回転しながら足に黒い炎を纏って上空へとあがっていく。これはまるで俺や修也の...!

 

 

「くらいなさい。”ダークトルネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

”ファイアトルネード”と酷似した”ダークトルネード”は、”ファイアトルネード”にも負けない勢いでゴールへと突き進んでいく。

 

 

「止める!”ワームホール”!」

 

 

砂木沼は”ワームホール”で対抗するが、”ダークトルネード”の勢いはまるで衰えない。

 

 

「ぐっ...くそおおおおおお!」

 

 

そして”ワームホール”の空間は砕け散り、砂木沼へとボールが迫っていく。

だが砂木沼はそのまま倒されるわけにはいかないと、拳を前に突き出した。

 

 

「ぐっ....ぐぐぐぐ.....ぐおあっ!」

 

 

砂木沼の拳には少しだけオーラが見えたものの、さすがにシュートを止めることはできず、少しだけ持ちこたえたがゴールへと押し込まれてしまった。

 

これで0vs1、先制点はあちらのチームが取ったか。

 

 

「くくく...残念でしたね。カオスエンペラーズは闇川君だけではありません。この黒渦もいることをお忘れなく。」

 

 

 

「くっ...すまない...止められなかった。」

 

「ドンマイだ、砂木沼!」

 

「嵐山....次は必ず止めてみせる!」

 

「ああ。だが、固くなりすぎだ。スマイルスマイル!」

 

「っ!...おう!」

 

 

点は取られたが時間はある。

それに俺たちの力はまだまだこんなものじゃない。

どんどん攻めていこうじゃないか!

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦!カオスエンペラーズ - 中編

嵐山 side

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「よし、攻めていくぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

「南雲と涼野はサイドから、基山は中央からあがれ!」

 

 

俺がボールを受け取り、フォワード陣に指示を出す。

三人は俺の指示通りにサイド、中央から駆けあがっていく。

さて、まずは1点取って同点にしておきたいね。

 

 

「ここは通さねえぜ!」

 

「吉良か。少し疑問に思っているんだが、どうして俺に突っかかる。」

 

「はっ!そんなのてめえが気に食わねえからだよ!」

 

「そうか。...ま、お前の相手は俺じゃない。遊んで欲しいなら基山にでも頼みな。」

 

「っ!くっ...!」

 

 

俺はボールを奪おうとする吉良を軽くいなして抜き去る。

センスはあるが、やはりまだまだだな。だけど正直、吉良は基山と同等の実力を持ってそうだ。

できれば基山が吉良を説得してくれたらいいんだが...

 

 

「(ま、その辺りは試合が終わったらにするか。)....南雲!」

 

「うっす!」

 

 

俺は吉良を抜き去った後もドリブルで進んでいたが、相手のディフェンダーが俺に近寄ってきたのを確認して南雲にパスをだした。

 

 

「止める!」

 

「いや、通してもらうぜ!”フレイムベール”!」

 

「っ、ぐあっ!」

 

 

南雲のドリブル技によって、相手のディフェンダーは吹き飛ばされる。

その隙に南雲はどんどんとゴール前へとあがっていくが、残りの相手ディフェンダーとキーパーは余裕そうに南雲を見ている。

 

 

「ふん...この真壁がいる限り、ゴールは割らせない。」

 

「おい、ゴールを守るのはこの剛力だ。余計なことはするな。」

 

 

「おいおい、随分と余裕そうじゃねえか!」

 

「貴様ごときのシュート、片手で止めてやろう。」

 

「ふっ...馬鹿が。決めろ、タツヤ!」

 

「「何っ!?」」

 

 

南雲は相手ディフェンダーとキーパーに近付くが、シュートを打つと見せかけて中央から駆けあがっていた基山にパスを出した。意表を突いたパスに、相手は驚いている。

 

 

「はっ!”流星ブレード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ぐっ...び、”ビッグスパイダー”!」

 

 

体勢を崩されたキーパーだったが、何とか必殺技で基山の”流星ブレード”に対抗する。

しかし、さすが基山というべきか、基山の”流星ブレード”は相手の”ビッグスパイダー”を容易く弾く。

 

 

「ぐっ...ぐああああああ!」

 

 

そのままボールは相手キーパーの腹部に直撃し、キーパーごとゴールへと突き刺さった。

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「よしっ!」

 

「ナイスだ基山!それに南雲も良い判断だったぞ!」

 

「はいっ!」

 

「おう!」

 

 

これで1vs1の同点、振りだしに戻ったわけだ。

これからどう出てくる、カオスエンペラーズ。

 

 

「ば、馬鹿な...エイリアンエナジーを接種している俺たちが押されているだと...!」

 

「くっ...次は止める...!」

 

 

「(チッ...まだ嵐山には届かねえってのか...しかもタツヤのやつ、昔からサッカーが得意だったが今のシュート...俺のシュートと比べ物にならねえくらいの威力を持ってやがる...!)」

 

 

「ありえん...何かの間違いだ!この俺が証明してやる!」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「いくぞ!」

 

 

今度はカオスエンペラーズのボールで試合が再会。

闇川がボールを持って駆けあがってくる。そのスピードは人間のレベルを遥かに超えている。

だが...

 

 

「通さない!」

 

「っ、何だと!?」

 

 

闇川の進路を倉掛がふさぐ。何故人間離れした動きについていけているのか...答えは簡単だ。

相手の動きについていっているのではなく、相手の動きを予測して動いているんだ。

これまでの旅の中で鍛えたのは試合の勘。相手の動きを予測し、ボールの動きを予測する。

それができれば身体能力で劣っていても、相手より先に動くことができ、有利に動ける。

 

 

「”フローズンスティール”!」

 

「ぐあっ!」

 

 

「ナイスディフェンスだ倉掛!みんな、無理せずパスでしっかり繋いでいけ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

「っ.....玲名!」

 

「ああ!」

 

 

倉掛は少しだけドリブルで進んだあと、相手が迫ってきているのを確認して八神にパスを出した。

パスを受け取った八神はそのままドリブルであがっていく。

 

 

「闇川も剛力も何をやっているんだか。この私があんたを止めてあげるよ。」

 

「っ、女子もいるのね。」

 

「ふふ...あんたみたいに顔が良い女は好きよ。その顔面を削いで上げたくなっちゃう!」

 

「ふん...くだらないな。私は今サッカーを楽しんでいるんだ。邪魔しないでもらう!」

 

「っ!」

 

 

八神はマークについていた相手をドリブルで躱し、そのまま駆けあがっていく。

抜かれた相手は自分が抜かれたことに心底驚いているようだ。

だが、すぐに気を取り直して、一瞬で八神の真正面へと戻ってくる。

 

 

「調子乗ってんじゃないわよ!止めてやる!」

 

「しつこい奴ね。でもそれなら何度でも抜くだけよ!はっ!”メテオシャワー”!」

 

「きゃあああああ!」

 

 

今度はドリブル技を使って、相手の選手を抜き去る。

正直誰が一番伸びたかで言えば、八神が一番うまくなっている気がするな。

あのドリブルテクニックにキープ力....鬼道と同等のレベルと言っても良いくらいだ。

 

 

「....っ、晴也!」

 

「おし、受け取ったぜ!」

 

「っ、そっちか..!」

 

 

基山を警戒して基山にディフェンスが集中していたことを察して、八神はほぼ反対サイドにいる南雲へとパスを出した。ふたたび意表を突かれる形となり、カオスエンペラーズのディフェンスはほとんど機能していない状態となった。

 

 

「紅蓮の炎で焼き尽くす!”アトミックフレア”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「舐めるな!”ビッグスパイダー”!」

 

 

南雲の”アトミックフレア”と剛力の”ビッグスパイダー”がぶつかり合う。

だが徐々に”ビッグスパイダー”の蜘蛛の足は焼け落ちていき...

 

 

「ぐっ...ば、馬鹿な....ぐああ!」

 

 

そのままふたたびキーパーとともに、ボールがゴールへと突き刺さった。

これで2点目。俺たちが逆転したことになる。

この怒涛の展開に、相手のベンチに座っている研崎はカオスエンペラーズにヒステリックに叫んでいる。

 

 

「お前たち!何をしている!この私が拾ってやらなければ貴様らなど価値の無い存在なのだ!私の研究を認めさせるために負けることなど許さん!」

 

「チッ...(何だよこれ...俺が望んでいたのは本当にコレなのか...?俺はただ親父に...)」

 

 

「ヒロト...」

 

「...基山、この前も話したと思うが、吉良を救いたいならお前からぶつかっていけ。」

 

「嵐山さん.....はい、俺がヒロトにぶつかっていきます。だから、俺にボールを集めて下さい!」

 

「基山...ああ、任せるぞ。」

 

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「俺が止められるはずが無いっ....!」

 

「あ、おい!」

 

 

カオスエンペラーズのボールで試合が再開してすぐ、闇川はふたたびドリブルでこちらへと駆けあがってきた。そんな闇川に吉良は叫ぶが、闇川は止まらずに走り抜ける。

 

 

「俺様が止められるわけねえ..!俺様は最強なんだ!もう...ヒョロヒョロのがりがりだった頃の俺とは違うんだあああああああああ!」

 

「きゃあ!」

 

「うわああ!」

 

 

闇川は叫びながら強引に八神と武藤を突破していく。

あまりの迫力に二人は悲鳴を上げながら吹き飛ばされてしまう。

だが冷静さを欠いている奴の動きなど、簡単に見抜ける。

 

 

「(そうだろ倉掛、蟹目。このチームは超攻撃型のチーム...ディフェンスのお前たちがこのチームを支えるんだ!)」

 

「何度来ても同じ!通さない!」

 

「黙れええええええ!」

 

「そこだっ!」

 

「っ!?」

 

 

闇川には倉掛しか見えていなかったようだが、突如として横から巨体の蟹目があらわれ、スライディングで闇川からボールを奪い去る。もしも冷静さを欠いていなければ、蟹目の体はでかいし、動きもそこまで早くないからボールを奪われることはなかったのにな。

 

 

「よし...リュウジ!」

 

「おう!」

 

 

ボールを奪った蟹目はすかさず緑川へとパスを出す。

ボールを受け取った緑川は迫りくるディフェンスを軽々と抜いていき、ドリブルで前線へと駆けあがっていく。

 

 

「くそ!ありえん!」

 

「俺たちが遅れを取るなど...!」

 

「そんな驕ってるからダメなんだよ!驕る平家は久しからず、君たちは僕たちに負けるんだ!」

 

「くっ!黙れ!」

 

「...緑川!」

 

「っ、嵐山さん!」

 

「「な、何っ!?」」

 

 

俺は緑川の近くに行くと、緑川とのワンツーで相手のディフェンスを二人抜き去る。

緑川はそのままどんどんと前線へとあがっていき...

 

 

「(基山と南雲...どちらで来る...!)」

 

「...風介!」

 

「なっ!?」

 

 

緑川は涼野にセンタリングをあげる。

基山か南雲で来ると考えていた相手のキーパー剛力は、想定外の相手へのセンタリングに反応が遅れる。

 

 

「ふっ....”ノーザンインパクト”...!」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ!」

 

バシュンッ..!

 

 

剛力は涼野の放った”ノーザンインパクト”の速度に反応できず、一歩も動けずにゴールを決められてしまった。これで3vs1...最初の1点は取られてしまったが、この状況だけ見ればやはり圧倒的だな。

 

 

「ナイスだ涼野!」

 

「はい、ありがとうございます!」

 

「それに緑川も。」

 

「ありがとうございます!ナイスアシストでした、嵐山さん!」

 

 

「嵐山さん、次は俺にお願いしますよ。」

 

「ああ、任せるぞ、基山。」

 

 

 

ピッピッピィィィィィィィ!

 

 

おっと、ここで前半終了か。良い流れで前半を終えることができた。

それにやはりこのチームは強い。たとえ相手がドーピングしていようとも、俺たちは正々堂々と全力で戦う。負けなどしない。

 

 

.....

....

...

..

.

 

夏未 side

 

 

「なかなか素晴らしい仕上がりだな。さすがはパーフェクトプレイヤーとまで言われた少年だ。」

 

 

チェアマンの言葉に、私は少しだけ口元を緩ませる。

やはり嵐山君はお祖父さんのコーチとしての才能も受け継いでいる。

そもそも雷門中にいたころから、彼は何かと人に教えるのがうまかった。

 

 

「だが...残念だ。このままでは彼は代表選考から漏れるだろうな。」

 

「な、何でですか!?」

 

 

私はチェアマンの言葉に、思わず疑問を投げかける。

嵐山君ほどの選手が、何故代表選考に漏れてしまうのか。

彼がいなければ、日本代表は完成しない。

 

 

「彼が教える側に徹しているからだ。それでは彼の実力は計れないし、彼はフォワードだ。我を通せないフォワードは私としては不要と考えている。」

 

「なるほど....そういうことですか。それなら安心です。」

 

「ほお、それはどうしてかな?」

 

「ふふ...だって、嵐山君はこの場の誰よりも強いですから。」

 

「なるほど。(絶対的な信頼...なるほど、面白い。)」

 

 

そうよね、嵐山君。あなたはこの場の誰よりも強い。

そして誰よりもサッカーを愛しているのだから。

 

 

「見ていて下さい、チェアマン。後半、きっと嵐山君はチェアマンを驚かせてくれると思いますよ。」

 

「ふむ....ならば期待しよう。」

 

 

さあ、行ってきなさい嵐山君。その背の翼で羽ばたきなさい。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

「後半は俺と基山を中心に攻める。南雲と涼野はいつでも攻められるよう、待機だけしておいてくれ。」

 

「おう。」

 

「わかりました。」

 

「それから本場、武藤は後半はディフェンス寄りであまり前線に出る必要はない。攻めは俺たちに任せておいてくれ。」

 

「「はい。」」

 

 

「よし...それじゃあ後半も楽しんでいくぞ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

 

俺たちはふたたびフィールドへと散っていく。

対するカオスエンペラーズはなぜかベンチで固まったまま動かない。

いや...何か揉めている...?

 

 

 

 

 

「ふざけるな!ドーピングだと!?」

 

「ええそうですよ、お坊ちゃま。」

 

「なんでそんなことを...俺は正々堂々とあいつを倒してえんだよ!」

 

「くくく....くだらない。まあ所詮は世間知らずのガキと言ったところですね。」

 

「な、何だと...!」

 

 

 

どうやら吉良はドーピングについて知らなかったようだな。

ま、あいつは不良だろうけど、そういうのは嫌いそうに見える。

根は真面目そうっていうか、雨降ってる時に捨てられた猫に傘を差しだす系の不良だろ。

 

 

「あなたは既に用済みです。後半はすべて私の作り上げたハイソルジャー軍団で行きます。」

 

「なっ!...チッ...!」

 

「くくく....さあお前たち。エイリアンエナジーの力を見せつけてやりなさい!濃度を100%にしてあります。後半は圧倒的な力の差を見せつけるのです!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

研崎が選手たちに檄を飛ばすと、吉良を除いたカオスエンペラーズの選手たちはドリンクを飲みだす。

なんだか以前見たような光景だな。

 

 

「ぐ....ぐぅ.....ガッ....!」

 

「うぅうぅぅぅぅ...!」

 

 

選手たちはドリンクを飲み干すと、急に苦しみだした。

あのドリンク...恐らくドーピング薬が大量に含まれているんだろう。

そんなことをすれば命にだって関わるかもしれないのに、あいつらは何故それがわからないんだ...

 

 

「さあ行きなさい!我がハイソルジャー軍団!」

 

「「「ウガアアアアアア!」」」

 

 

 

「な、何だあれ...」

 

「(もはや"ヒト"ではなくなったか....)」

 

 

さっさとこの試合を終わらせて、何とか彼らも救わなければな。

相手が戦意喪失してくれたらいいが...

 

 

 

「後半戦を開始します!」

 

 

審判の言葉に俺たちはポジションにつく。

せっかく基山を中心に攻めようと思ったが、吉良は交代か。

ま、とにかくこの試合に勝つことを優先するか。

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「基山。」

 

「はい!」

 

 

俺は基山にボールを渡すと、二人でフィールドを駆けあがる。

だが次の瞬間、俺たちの前に闇川があらわれた。

 

 

「っ!(速い!)」

 

「グゥ...”デーモンカット”!」

 

「ぐああ!」

 

 

俺と基山は闇川の発した衝撃波によって吹き飛ばされてしまう。

この威力...さすがにヤバいな...!

 

 

「グアアア!」

 

「っ!」

 

「きゃあ!」

 

「ぐああ!」

 

 

ボールを奪った闇川は、先ほどと同じようにドリブルで前線へと駆けあがっていく。

だが先ほどとは異なり、スピードもパワーもリミッターが外れたような動きをしている。

そんなスピードとパワーに、八神、武藤、本場が吹き飛ばされる。

 

 

「ジャマダアアア!」

 

「ぐあ!」

 

「きゃあ!」

 

 

そんな闇川を止めようと蟹目と倉掛が正面をふさぐが、闇川はそれを物ともせずに吹き飛ばしていく。

 

 

「クラエ!”デススピアー”!」

 

 

キュィィィィィィィン!

 

 

そしてついに闇川からシュートが放たれた。

赤黒いドリルのようなオーラを纏ったシュートは、ものすごい回転音をたてながらゴールへと進んでいく。

 

 

「くっ...止める!”ワームホール”!」

 

 

砂木沼は”ワームホール”を発動する。だが”ワームホール”ではまるで歯が立たず、一瞬にして砕け散り、”デススピアー”は砂木沼とゴールを襲った。

 

 

「ぐっ...ぐおおおお!」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

砂木沼はシュートを止めることができず、ボールと共にゴールへと押し込まれてしまう。

マズイな...あれほどの威力のシュートを受け止めようとして、怪我をしていないかが心配だ。

シュートを止められなかったのは良い。だが怪我はマズイ。

 

 

「砂木沼!」

 

 

俺は砂煙が舞う中、砂木沼の元へと駆け寄る。

だが砂埃が晴れると、砂木沼は俺に手のひらを向けていた。

どうやら問題なさそうだ。心配するな、ということだろう。

 

 

「(だがどうする...あれほどの力は少々想定外だな。)」

 

 

ドーピングに負けるつもりは無いが...

 

 

「ぐっ...痛っ...!」

 

「っ、武藤!大丈夫か!」

 

「す、すみません嵐山さん...足を捻ってしまって...」

 

 

呻き声が聞こえた方を向くと、武藤が足を抑えながら座り込んでいた。

まさか砂木沼ではなく武藤が怪我をするとはな...無理はさせられない。

今から療養すればフットボールフロンティアには十分間に合う。

 

 

「交代しよう、武藤。....交代は.....」

 

 

俺が誰と交代させようかとベンチを見た時、一人の男が目に入った。

断られるかもしれないが....基山のためにも声をかけるか。

 

 

「...吉良ヒロト!お前が武藤の代わりに出ろ!」

 

「な、何だと!?」

 

「......はっ、おもしれえ。」

 

「ふ、ふざけるな!お坊ちゃまはこっちのチームの選手だ!」

 

 

俺の言葉に、研崎はそう言う。

当の本人は意外とやる気っぽいけど、研崎はそれに気付いていないみたいだな。

これなら案外いけそうかもしれない。

 

 

「あんたは吉良を用済みだと言って排除しただろ。だったらこっちが吉良を拾うまでだ。」

 

「ぐっ...そ、それは...」

 

「...で、どうするよ吉良。」

 

「........いいぜ、俺が代わりに出てやるよ。」

 

「なっ!?」

 

「決まりだな。」

 

 

俺は武藤に肩を貸しながらベンチへと戻り、元々吉良用に余っていたユニフォームを吉良に渡す。

吉良はその場でカオスエンペラーズのユニフォームを脱ぎ去り、永世学園のユニフォームを着る。

 

 

「これからは俺が力を貸してやるよ!このゴッドス「さ、いくぞ~。」...って、おい!」

 

 

さて、これで戦力は揃った。吉良との連携が少し不安だが...これが俺の現時点での理想のメンバ―。

 

 

「ポジションチェンジだ。キーパーとディフェンダーはそのまま。俺と八神、緑川は中央を固める。本場はその後ろでディフェンダーとの連携。南雲と涼野は左サイドを固め、吉良は中央、基山は右サイドだ。」

 

「少し歪なフォーメーションですね。」

 

「まあな。だがパワーとスピードで左サイドを崩しつつ、基山も隙があれば狙えるよう逆サイドからゴールを狙う。さらには吉良の突破力で中央を粉砕する。これが永世学園の超攻撃的サッカーの完成形だと俺は思っている。」

 

「はっ。俺が入ったんだ。必ず点を取ってやるよ。」

 

「ヒロト....一緒に頑張ろうな!」

 

「お、おい!肩を組んでくるなよ気持ち悪い!」

 

「いいだろ、これくらい。」

 

「チッ...な、何だよ...」

 

「俺は嬉しいんだよ、ヒロト。お前とまた一緒にサッカーができて。」

 

「タツヤ......ふん、俺様の足を引っ張るんじゃねえぞ。」

 

「ああ!」

 

 

 

吉良は基山に任せたら大丈夫そうだな。

さて...後半戦もまだ始まったばかり。まだ俺たちが勝っているが、気を抜かずにいこうか...!

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決戦!カオスエンペラーズ - 後編

嵐山 side

 

 

ピィィィィィ!

 

 

「(さて、こっちのボールで試合再開だが....どう動くかね。)」

 

 

基山たちが上がって行っているけど、相手の選手がぴったりとマークしている。

さっきのパワーはかなりのものだったし、慎重に行くべきか。

 

 

「(...いや、あいつらならいける。この数か月で見違えるほど成長したあいつらなら、ドーピングなんかには負けない。)」

 

「ココハトオサン!」

 

「遅いよ。」

 

「ナッ!?」

 

 

俺はフェイントを混ぜつつ、相手をドリブルで抜き去る。

相手はまさかこうもあっさり抜かれるとは思っていなかったのか、驚いた表情を浮かべていた。

 

 

「基山!」

 

「はいっ!」

 

 

俺はすぐさま基山へとパスを出す。

かなり鋭いパスとなったが、目論見通り相手はボールに触れられず、基山の元へとボールが渡る。

 

 

「ヒロト!俺について来れるか!」

 

「はっ!当たり前だ!」

 

「トオスカ!」

 

 

基山と吉良が二人で上がっていくが、それを阻まんと相手のディフェンダーが正面に現れた。だがそんな状況に臆せず、二人はお互いを見合ってからまっすぐ進んでいく。

 

 

「ヒロト!」

 

「遅えよ!おらっ!」

 

「何ッ!?」

 

 

二人は息の合ったワンツーでディフェンダーを抜き去り、さらにドリブルで上がっていく。

 

 

「すごい...初めての連携なのに、ヒロトさんと息ぴったりね。」

 

「タツヤがすごいのは知ってたけど、ヒロトさんもそのタツヤとあんなに完璧に連携できるなんて...」

 

「(ヒロト.....まるで昔の二人を見ているみたい...初めてあの子たちがサッカーボールを父さんから受け取ったときのように...)」

 

 

 

「ヒロト!」

 

「はっ!俺様が決めてやるぜ!」

 

 

ゴール前へと上がったところで、基山は吉良へとパスを出した。

ボールを受け取った吉良は、ボールを上空へと打ち上げ、自身もそれを追うように飛び上がる。

 

 

「ウラ!ウラウラウラウラ!”ザ・エクスプロージョン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

何度も蹴ることでエネルギーを溜め、最後にゴールに向かって蹴る。

これが吉良の必殺技か。見た目が基山の”流星ブレード”と似ているな。

 

 

「コノ程度ノシュートナド、止メテヤル!”ビッグスパイダーV2”!」

 

 

吉良の”ザ・エクスプロージョン”と、相手の”ビッグスパイダー”がぶつかり合う。

吉良のシュートの威力は素晴らしいが、進化した”ビッグスパイダー”に徐々に威力を抑え込まれている。だが、それでも完璧には抑えきれないのか、相手のキーパーも徐々にゴールへと押し込まれている。

 

 

「グッ...グアッ!」

 

 

キーパーはボールを弾いてゴールを決めさせなかった。

だが弾かれたボールの先には走りこんでいた南雲と涼野がいる。

 

 

「グッ...シマッタ...!」

 

「「俺/私が決める!」」

 

ドゴンッ!

 

 

二人が自分で決めると言わんばかりに同時にボールを蹴った結果、それはツインシュートのような形となり、ものすごい勢いでゴールを襲った。しかも二人のフルパワーだったのか、炎と氷が混じり合い、まるで必殺技かのようなシュートとなっている。

 

 

「グッ....グゥ......グアアアアアアア!」

 

 

二人のツインシュートを一時は受け止めたが、吉良のシュートで体勢を崩されていた相手のキーパーは持ちこたえることができず、ボールもろともゴールへと突き刺さった。

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「よし!俺が決めてやったぜ!」 

 

「何を言う晴也!私が決めたのだ!」

 

「おいおい、見苦しいぜ風介。」

 

「何ぃ!?」

 

 

これで4vs2だ。

さらに1点を失ったことに、カオスエンペラーズの面々は動揺を隠しきれていない。

研崎も足をゆすりながらイライラしているのが良くわかる。

 

 

「さあ!この調子でどんどん攻めていくぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

 

「何をやっているのです!お前たちには最高の力を与えてやったのだ!エイリアンエナジーこそが至高の力!それを証明するのです!」

 

「「「「ハ、ハイ...」」」」

 

 

「(哀れだな...所詮は彼らも使い捨てのコマでしかないと言うのに、何故彼らはあそこまで研崎に尽くすことができるんだろうな。)」

 

 

ドーピングで強くなったって、それは本当の強さではないのに。

本当の強さとは、心だ。ドーピングに頼った時点で心の弱さに敗北した。

俺たちは様々な努力を重ねて、肉体的にも、精神的にも強くなった。

この試合でそれを証明するだけだ。

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「グッ...コレ以上、研崎サマノ顔に泥を塗るワケニハイカナイ!」

 

「僕ニモ任セテモライマショウカ!」

 

 

闇川と黒渦が二人で攻めてくる。

二人はこの試合で点を決めている、要注意の選手だ。

 

 

「(だが、こいつらはただ自分の力を誇示しようとしているだけで、連携なんて取れていない。俺たちが連携を取れば恐れるに足らん!)来い、八神!俺に合わせろ!」

 

「っ、ああ!」

 

 

俺と八神は二人でボールを持っている闇川の前に飛び出る。

今の八神のレベルなら、俺の動きに合わせて動けるはずだ。

 

 

「「”ウイニングロジック”!」」

 

 

俺と八神が交互に入れ替わり立ち替わりし、闇川からボールを奪う。

やはり八神は人の動きをしっかりと見れている。だからこそ俺の動きに合わせることができるんだ。

 

 

「(隼人との連携技...!良い気分だ!)」

 

「グッ...マタ奪ワレタダト!?」

 

「......(どうやらフォワード陣は徹底マークされているようだな。)」

 

 

ボールを奪ったはいいが、先ほどの得点で警戒されたのか、フォワード陣が全員徹底マークされている。

これではフォワード陣にパスを回すのは難しいだろうな。

 

 

「(ま、だったらこうするだけだけど。)」

 

「ッ!」

 

「ハ、速イ!」

 

 

俺は奪ったボールをそのままドリブルしてフィールドを駆けあがる。

どうせパスを出すことはないんだ。だったら俺の持てる全力で駆けあがる!

 

 

「ちょ、ちょっと隼人!速すぎるわ!」

 

「お、俺たち置いてけぼりだよ...!」

 

 

「(嵐山さん、一体何を...こんなプレーじゃ誰もついてこれない..!)」

 

「(はっ!あいつ、俺たちが動けねえとわかったから、自分で持ち込んで自分で決めるつもりか。案外エゴイストな奴なのかもな。)」

 

 

俺のスピードに誰もついてこれない。だがそれはカオスエンペラーズにも言えることで、俺以外のすべての選手が俺のスピードに翻弄されている。

 

 

「(久しぶりの全力....最高に気持ちいい!教えるのも楽しいけど、やっぱり俺はストライカーだ!俺がゴールを決めてやる!)」

 

「クッ....コイ...!」

 

「はああああああああああ!”天地雷鳴・改”!」

 

 

ドゴンッ!

 

 

「(ナ、何ダコノ威力ハ...!)クッ...”ビッグスパイダーV2”!」

 

 

俺の放ったシュートに相手のキーパーが必殺技で対抗する。

だがボールが出現した蜘蛛の足に触れた瞬間、その蜘蛛の足は跡形もなく砕け散り、そのままボールは相手キーパーの腹部に直撃、一瞬にしてゴールへと突き刺さった。

 

 

「グアアアアアアア!」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

これが今の俺の力か...世界にはまだまだ遠いが、着実に力を付けていることがわかった。

これならきっと、祖父ちゃんの残した必殺技だって習得できるはずだ。

 

 

「バ、馬鹿ナ...」

 

 

ピッピッピィィィィィィィ!

 

 

俺がシュートを決めた後に、審判による長いホイッスル。

それは試合終了の合図。そして得点は5vs2...つまり、俺たちの勝利ってことだ。

 

 

「勝った.....勝ったんだよな...?」

 

「俺たち、サッカー続けられるんだよな...!」

 

「ああ!私たちの勝利だ!」

 

「「「「やったああああああああああああ!」」」」

 

 

試合に勝利し、これからもサッカーを続けることができるということに全員が喜んでいる。

俺と吉良を除く全員が集まって、泣きながら笑い、抱き合っている。

...これで俺の一つの役目も終わったかな。でもこれからが忙しくなる。本当の戦いはこれからなんだから。

 

 

「あ、あり得ない....あり得ない!私の開発したエイリアンエナジーを接種した、究極のハイソルジャーが負けるなど...!」

 

「研崎竜一!貴様の悪事もここまでだ!」

 

「な、何だ貴様!」

 

 

「鬼瓦さん...!」

 

 

 

研崎がわめいていると、そこに鬼瓦さんが仲間と一緒に現れた。

しかもその後ろには財前総理と塔子も一緒にいる。

どうやら研崎の悪事の証拠を手に入れて、捕まえに来てくれたみたいだな。

 

 

「貴様には逮捕状が出ている。詳しい話は署でたっぷり聞かせてもらおうか!」

 

「くっ...ほ、本当に私を捕まえると言うのか!私が開発したエイリアンエナジーがあれば、日本をより良き国にできるのだ!世界を支配する日本を作れるのだぞ!私の研究こそが至高なのだ!なぜそれがわからない!」

 

 

「あんたこそ、何でわからないんだ。」

 

「っ!貴様...!」

 

「そんなもので力を手に入れたところで、何の価値もない!その力が本当に、誰かに誇れるものなのか!?それに世界を支配だと...?誰もそんなこと望んでなんかいない!そんなくだらないことで、俺たちのサッカーを汚すんじゃねえ!」

 

「ひぃっ!」

 

 

研崎は俺の怒鳴り声に尻もちをつき、後ずさる。

こんな奴にサッカーを汚されていたなんて、本当に悲しいよ。

でもこれでこいつは捕まる。まだ問題は残っているが...ひとまずは平和が戻ったな。

 

 

「さあ来い!洗いざらい吐いてもらうぞ!」

 

「くっ...くそおおおおおおおおお!」

 

 

鬼瓦さんによって、研崎は連れていかれた。

そしてドーピングしていたカオスエンペラーズの面々も、検査などがあると言って連れていかれた。

彼らは自ら望んでドーピングに手を出したかもしれないが、俺たちと同じ中学生だ。

これから立ち直ってくれたらいいな...

 

 

「...ま、これで俺も終わりだな。」

 

「ヒロト....」

 

「....悪かったな、タツヤ。」

 

「何言ってるんだよ...これからも一緒に、サッカーやろうよ。」

 

「はっ!今更戻れねえっての。自分から望んでやったことだ。けじめはつけねえとな。」

 

「だったら、サッカー部に戻ってこい。」

 

「何...?」

 

「けじめをつけたいと言うなら、サッカー部に戻ってこいと言っているんだ。...吉良ヒロト。俺たちと一緒に、フットボールフロンティア優勝を目指さないか?」

 

「っ....何、言ってるんだよ....今更...戻れるわけ...」

 

「いいから戻ってこい!ヒロト!」

 

「タツヤ....」

 

「そうだよ、ヒロトさん!」

 

「戻ってきて一緒にサッカーしましょう!」

 

「俺たち、友達じゃないですか!」

 

「お前ら......っ....すまねえ......すまなかった....!俺が馬鹿だったんだ!俺もお前らと一緒に、サッカーがしてえよ!」

 

「「「「「ヒロト(さん)!」」」」」

 

 

どうやら、問題は無事解決したようだな。

これで永世学園サッカー部は、全員揃った。

真の意味で、スタートラインに立つことができたんだ。

 

 

「....ヒロト。」

 

「っ...親父...」

 

「........すまなかった。」

 

「っ!?」

 

「私がお前にちゃんと向き合っていなかったから...寂しかったんだろう...悲しかったんだろう...でも、これからは私もちゃんとお前や瞳子と向き合う。だから....私を父と認めてほしい...!」

 

「親父.......っ....俺の方こそ、ごめん....俺ももっとちゃんと親父に言うよ。俺の気持ち、やりたいこと...全部さ...!」

 

「うん...うん...!」

 

「(お父さん....ヒロト....良かった....)」

 

 

 

 

 

「これで一件落着ね、嵐山君。」

 

「ああ.....親子は、仲が良い方がいい。」

 

「......そうね。」

 

 

 

 

こうして、俺たちの激動の半年間は幕を閉じた。

でも俺たちのサッカーはまだまだ続く。次はフットボールフロンティアだ。

円堂や修也、鬼道...それに新たなライバルである立向居や吹雪兄弟。

それ以外にもまだまだ見ぬ強敵たちがいるかもしれない。

 

ここがゴールじゃないんだ。

もっともっとレベルアップして、俺たち永世学園が今年のフットボールフロンティアを制する!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

影山 side

 

 

『そうか...研崎君は失敗したか。』 

 

「ええ、そのようです。ですが想定内かと。」

 

『そうだな。しかし嵐山薫子は作り話がうまいようだ。』 

 

「くくく....3割程度は本当のことでしょう。」

 

『そうだな。私が君に力を貸して、円堂大介と嵐山宗吾を亡き者にしたのは事実だ。』 

 

「.....」

 

『ああ、君は嵐山宗吾のことは嫌ってはいなかったな。』

 

「いえ、お構いなく。」

 

『くくく...しかし皮肉なものだな。世界平和を願っていたオリオン財団が、世界を支配しようというこの私と手を組むなど。』

 

「オリオン財団はトップが変わってから過激になりましたからね。」

 

『そうだな。....さて、影山君。君には引き続き日本でアレスの天秤のデータを集めてもらおう。世界大会が開かれるその日までな。』

 

「ええ、承知しました.....ガルシルド様。」

 

 

ピッ

 

 

ふん....かしこまるのも疲れるが、仕方あるまい。

あの方...ガルシルドは私の復讐のための重要な道具だ。

私がサッカー界の頂点に君臨するために、必要な...ね。

 

 

それにしてもオリオン財団...懐かしいものだ。

あの飄々とした男はまだサッカーを続けているのだろうか。

私が気まぐれでサッカーのすべてを教え込んだ、あの男は。

 

 

.....

....

...

..

.

 

No side

 

 

「おーほっほ!ここが雷門中ですか!面白いことが起きそうな予感がプンプンしますねえ~!」

 

 

 

桜が咲き、春が芽吹くころ...様々な場所でいくつもの物語が動き出そうとしていた。

復讐に燃えるもの、自らが頂点に立つと証明しようとするもの、そして太陽のような輝きでサッカーを愛するもの。

彼らの物語は、やがて嵐を巻き込み、世界へと旅立つ。

 

 

 

.




これにて「永世学園内乱編」は終了です。
次回からはいよいよ「アレスの天秤編」へと入っていきます。

なお、原作とは違う展開になると思います。
予選の対戦結果や、本選の組み合わせなどが特に変更点になります。

.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アレスの天秤編
新たな物語の始まり


嵐山 side

 

 

 

ピッピッピィィィィィィィ!

 

 

「試合終了!3vs2で永世学園の勝利です!」

 

 

「ハァ....ハァ....さすがだな、嵐山...」

 

「ふっ...風丸こそ、帝国はさらにレベルがあがったな。」

 

 

俺たちが永世学園サッカー部の立場を取り戻してから、暫くが経った。

俺も3年生へと進級し、フットボールフロンティアが開幕するまでもう少しのところまで来ている。

現在は最後の調整と言うことで、帝国学園や世宇子中などの強豪校との練習試合を何度か行っている。

 

 

「....ランキング1位も鬼道の率いる星章学園に奪われたし、ランキング3位の永世学園にも負けた。事実上のランキング2位は帝国ではなく永世学園になるだろう。」

 

「いやまだまだだな。結局3点決めたのは俺だし、そっちの連携にまんまと抜かれて2点決められている。実力的には帝国が上さ。」

 

「そうか....お前がそう言ってくれると気が楽になるよ。」

 

 

風丸の言う通り、俺たち永世学園は全国ランキングで3位まで浮上している。

フットボールフロンティアに未出場で、さらには去年にサッカー部ができたことことを考えるとかなりの出来だと思う。さすがに40年間無敗を誇っていた帝国学園には敵わなかったが、そんな帝国よりも上にいっている辺り、鬼道はさすがと言える。

 

ちなみにそんな鬼道だが、"ピッチの絶対指導者"だなんて言われている。

絶妙にダサいと思っているが、正直俺も人のことを言えないんだよな。

俺にいたっては、"風神"だってさ。何かテキトーじゃないか?

 

 

「...そういえば知ってるか?フィールドの悪魔の噂。」

 

「フィールドの悪魔?」

 

「ああ。星章学園にあらわれた1年生なんだけど、かなりの実力者らしい。今度俺たち帝国学園と星章学園で練習試合をするんだが、噂を聞いた源田が張り切ってるよ。」

 

「へえ...鬼道は良い選手を手に入れたみたいだな。」

 

「ああ。....それともう一つ噂を聞いたんだ。」

 

「ふ~ん...随分と噂が好きだな。」

 

「いやいや、こっちは俺たちにも関係ある話。...何でも雷門中に別の学校のサッカー部の生徒が丸ごと転校してくるらしいぞ。」

 

「雷門中に?どうしてわざわざ...」

 

「さあ...そこはわからないが...元雷門中のサッカー部員としては、見ず知らずの誰かが雷門中サッカー部を名乗るのは少し思うところがあるな。」

 

「まあ、な.....(今度、杏奈ちゃんに聞いてみるか。)」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

杏奈 side

 

 

「これは一体どういうことですか、火来校長!」

 

バンッ!

 

 

「ひぃっ!神門君、机を叩くのはよしなさい...!」

 

「それどころではありません!何故雷門中に、別の学校のサッカー部が丸ごと転校してくるんです!雷門中のサッカー部は活動を休止中とはいえ、何れは戻ってくるかもしれないんですよ!?」

 

「そ、それはそうなんだがね...遠い島の伊那国中では、スポンサーを獲得する機会も、大会に出る機会も無いということで、伊那国中の校長からどうしてもと頼まれたんですよ...」

 

「だからと言って...雷門中サッカー部の皆さんに許可は取ったんですか!?」

 

「い、いや...取ってないですけど...」

 

「それはおかしいです!とにかく、私はこんなもの認めませんから!」

 

「も、もう決まったことですので...」

 

「っ!...失礼します!」

 

 

ありえない...隼人さんたちに一言も相談なく、こんなことを決めるなんて!

今からでも隼人さんに連絡して、抗議した方が良いかしら....って、噂をすれば隼人さんからメールが...

 

 

『杏奈ちゃん、こんにちは。風丸から聞いたんだけど、雷門中に転校生が来るそうだね。いつ来るの?気になるから会いに行きたいんだ。』

 

 

「隼人さん......」

 

 

確か転校してくるのは、フットボールフロンティア開催の数日前だったはず。

私が知りうる限りの情報をメールに記載して、隼人さんへ返信する。

するとすぐに隼人さんから返信が来た。

 

 

『そっか、了解。転校初日には難しいけど、少ししたら見に行こうかな。それと俺は別に他の学校の生徒が雷門中でサッカーするのは問題無いよ。でも俺たちのために怒ってくれてありがとう。』

 

 

「もう...隼人さんったら...ふふ...」

 

 

そうやって私のフォローまでしてくれるんだから...

 

 

『そうそう、せっかくなら杏奈ちゃん、サッカー部のマネージャーにでもなれば?』

 

 

サッカー部のマネージャーか....隼人さんは世界大会に向けて頑張ってるのよね。

もし私が頑張ってマネージャーをやり遂げたら、日本代表のマネージャーにもなれるかしら...

 

 

「よし...転校生が雷門サッカー部を名乗るのは嫌だけど、何れ来る隼人さんとの海外旅行のために...!」

 

 

私がサッカー部のマネージャーになる...!

覚悟しなさい、名も知らない転校生たち!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

嵐山 side

 

 

 

あれからさらに数日が経ち、いよいよフットボールフロンティアが開催される時期となった。

今年のフットボールフロンティアは色々とルールやら何やらが変わっている。

 

まず、参加するにはスポンサーが必要だ。

このスポンサードだが、まああってないようなもんだ。

フットボールフロンティアに意欲的に参加するような学校は、基本的にスポンサーを獲得するのが容易い。それに今や世界的にサッカーの人気が高まっている以上、どの企業もたとえ弱小校でも去年の雷門のような活躍をするかもしれないと積極的に支援してくれている。

 

ちなみに俺たち永世学園のスポンサーは、理事長である吉良さんの会社の一つ、エイリアン航空がスポンサーとなっている。各学校はスポンサーとなった企業のCMに出演する義務があるのだが....まあその話は後にしよう。

 

 

それから、今までは各地区で予選が行われていたが、今回からは完全にランダムでグループを選出し、そこから各グループ2チームが勝ち上がる総当たり方式になった。これは今年開催が決定した、フットボールフロンティアインターナショナル、通称FFIのルールに則った形式とのことだ。

 

予選は総当たりで行い、本戦はトーナメント形式となるらしい。

すでにほとんどの学校がグループ割りされていて、俺たち永世学園はグループJとなっている。

同じグループの学校はほとんど聞いたことのない学校で、特に強化委員が派遣されているところでもない。なので予選は俺が出なくても、基山を中心に戦えば問題無く勝ち上がれるだろう。

 

むしろ、俺抜きで勝ち上がれなければ、本戦に出場したところで1回戦負けが濃厚だ。

それほど、今年のフットボールフロンティアのレベルは高いと考える。

理由としては、女子選手の参加が可能になったことだ。そのおかげで白恋中などの前回大会に出場してない強豪も出場できるようになっている。

 

 

 

「それで、急に呼び出して何の用だよ鬼道。」

 

「ああ。...まずは全員無事にフットボールフロンティアへの出場が決まって何よりだ。」

 

「はは、悪かったって鬼道。」

 

「まあ円堂はな....」

 

 

俺は今、鬼道に呼び出されて東京に来ている。

集められたのは俺、修也、円堂のようだ。

 

 

「俺たちは全員、別のグループとなったわけだが...お前たちは無事に本戦に勝ち進めそうか?」

 

「ああ、問題無い。俺たち木戸川清修はグループG。最近名を上げている海王学園が同じグループだが、今の木戸川なら問題無く勝てるだろう。」

 

「へえ、随分な自信だな修也。」

 

「ふっ...お前のところはどうなんだ、隼人。」

 

「まあ余裕だろうなぁ...どの学校もあんまり聞いたこと無いようなところだし、予選は俺抜きで戦ってもらって、俺は気になる学校の偵察をするつもり。」

 

「なるほどな。...円堂、お前はどうなんだ?」

 

「俺か?そうだな....確か同じグループに陽花戸中がいたぜ!」

 

 

陽花戸中か...ということは、円堂vs立向居が見られるってことか。

それはかなり興味をそそる試合だな...日程が合えば見に行きたいところだ。

 

 

「それで、鬼道はどうだ?」

 

「俺か....俺のところには帝国学園が入っているし、壁山が派遣された美濃道山がある。それと御影専農も同じグループだな。」

 

「うわ、激戦区じゃん。」

 

「ああ。あと1校空いているが、もしさらに強豪が入ってきた場合、かなり厳しい戦いになるだろう。」

 

「でも面白そうだな。」

 

「まあな。...今日お前たちを呼んだのは、改めて俺たちで誓っておきたかったからだ。」

 

「「「誓い...?」」」

 

「ああ。このフットボールフロンティアはあくまで、FFIに向けた最後の調整の舞台だ。だが...俺はお前たちを倒して、優勝したいと思っている。」

 

「ふっ...何を言うかと思えば。そんなの当たり前だ。俺たち永世学園が、お前ら全員倒して優勝してやるよ。」

 

「いいや!勝つのは俺たち利根川東泉さ!」

 

「今年の木戸川は強いぞ。俺たちが優勝させてもらおう。」

 

 

全員が顔を見合わせ、にやりと笑った。

全員が自分のチームに自信を持っている。

短い期間ではあったが、派遣先で確かな自信を得たな。

 

 

「俺たちがふたたび出会うのは、本戦だ。必ず...全員で勝ち上がろう!」

 

「「「おう!!!」」」

 

 

俺たちは手を重ね、誓い合った。

最強の座を賭けて....いざ、フットボールフロンティアの舞台へ!

 

 

.....

....

...

..

.

 

数日後

 

 

 

『さあついにこの時がやってきました!今年もフットボールフロンティアが開催です!今年は日本全国に散らばった雷門イレブンが、それぞれの派遣先で出場しております!果たして誰が派遣されたチームが優勝するのか!はたまた新たな伝説が生まれるのか!』

 

 

「盛り上がってるな....ま、無理もないか。まさか鬼道たちグループAに入るとはな...」

 

「でも中身はまるで違う、別のチームですよね?」

 

「まあ当然そうだな。嵐山はここにいるわけだし。」

 

「一体何を考えているのかしらね、雷門中は。」

 

 

『そしてフットボールフロンティア開幕の試合は、前回大会優勝校である雷門中!対するはピッチの絶対指導者である鬼道有人が派遣され、着実に力を付け全国ランキング1位となった星章学園です!』

 

 

会場はまるで全国大会決勝かのような盛り上がりを見せている。

まさか俺たちが雷門中を敵として見ることになるなんてな...まだ実感が湧かないが。

ま、誰が雷門を名乗ろうと、敵である以上は勝ちに行くだけだ。

この試合で見せてもらおうかな....新たな雷門の力をさ。

 

 

『さあフィールドに選手たちが散らばっていきます!....ここで各校のスターティングメンバ―を紹介しましょう!まずは雷門中!フォワードに稲森明日人、剛陣鉄之助、小僧丸サスケ!ミッドフィルダーにキャプテン、道成達巳、奥入祐、氷浦貴利名、服部半太!ディフェンダーに岩戸高志、日和正勝、万作雄一郎!そしてキーパーは紅一点、海腹のりか!』

 

 

「へえ...女の子がキーパーは珍しいね。」

 

「何か全体的にひょろくねえか?」

 

「ヒロト、あんまりそういうこと大声で言うなよ。」

 

 

まあ吉良の言うこともわからなくは無いな。

あんまり鍛えられてる感じが無いし、それこそテクニカルなチームでもない限り、星章が圧勝するんじゃないだろうか。

 

 

『続いて星章学園!フォワードにフィールドの悪魔、灰崎凌兵を置き、ミッドフィルダーに折緒冬輝、佐曽塚瑛士、早乙女聖也、魚島鮫治、双子玉川哲也!ディフェンダーに八木原克己、白鳥つむき、古都野富夫、キャプテン水神矢成龍!そしてキーパーに天野政道!どうやら今回は強化委員である鬼道有人はスタメンではないようです!』

 

 

鬼道は出ない、か。まあ出なくても勝てると踏んだんだろう。

さて...新たな雷門中もそうだが、鬼道が鍛えた星章学園、そして灰崎凌兵の実力、見せてもらおうか。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雷門中vs星章学園

活動報告を投稿してます。
軽くここで触れると、感想を書く際は「感想」の域を超えないでもらいたいです、という話です。

感想をもらえるのはとても嬉しいです。
感想通知のメールが来るといつもニヤッとしてます。


稲森 side

 

 

『さあ雷門中vs星章学園!ついにキックオフです!』

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

母ちゃん、見てるかい?

ついに俺たちもこんな大きな舞台でサッカーすることになったんだ。

絶対に勝って、これからもサッカーを続けられるように頑張るよ!

 

 

「小僧丸!」

 

「おう!」

 

 

俺たちのボールで試合が始まった。小僧丸は最近仲間になったばかりだけど、他のみんなは伊那国でずっと一緒にサッカーをやってきた仲だから、連携だってきっとうまくいく!

 

 

「八木原は9番をマーク、白鳥は10番をマークだ!」

 

「「おう!」」

 

 

「(こっちに寄ってきた...でもこれで小僧丸がフリーになったぞ!)」

 

「こっちだ、明日人!」

 

「うん!小僧丸!」

 

 

「っ、そちらか!」

 

 

小さい体を活かして、小僧丸がゴール前まで到着した。

そして俺からのパスが小僧丸に繋がる。

 

 

「(決める!見ていて下さい、豪炎寺さん!)」

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「っ!あれは...」

 

 

 

「”ファイアトルネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「な、何だと!?」

 

 

雷門のストライカー...確か小僧丸だったか。

彼が豪炎寺の代名詞とも言える”ファイアトルネード”を放ち、先制点を獲得した。

まさか俺や下鶴以外にも、”ファイアトルネード”を打てる奴がいるとはね。

 

 

「何だ、あのキーパー。棒立ちでシュート決められやがって。」

 

「ヒロト!...でも、確かに砂木沼さんならあのシュート、止めてましたね。」

 

「それはそうでしょ。砂木沼は毎日隼人のシュートを受けているもの。彼が放った”ファイアトルネード”よりも上の”ファイアトルネード”を。」

 

「おいおい、あんまり俺を持ち上げすぎるなよ?それに彼の”ファイアトルネード”は自分が打ちやすいよう改良してある。単純に比べることはできないさ。」

 

「ああ、確かにちょっと打ち方が違いましたね。」

 

 

それにしても、確かに今の得点はインパクトで取れた感じが強いな。

ここからさらに得点できれば、実力を証明することができるだろうが....

今のでスイッチの入っちゃった奴がいるし、それは難しいかもな。

 

俺の予想はあたっており、今ので星章学園の選手たちは気を引き締め直したらしい。

顔つきが変わったようだ。

 

 

 

「くくく...てめえらをぶっ潰してやるよ。”オーバーヘッドペンギン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「止める!...っ.....きゃああああ!」

 

 

早速、灰崎によって簡単に1点を奪い返されてしまっている。

それだけじゃない、雷門ボールで試合が再開するが、星章学園の選手にすぐにボールを奪われてしまう。

単純な実力差、そして経験不足....遠い島からやってきたばかりと聞いているが、やはり試合の経験が無いのは痛手だろうな。

 

 

「(あの旅をするまで、永世学園も似たようなものだったと考えると、他人事ではなく感じるな。それにしても雷門中.......面白いな。)」

 

 

 

試合は星章学園の圧倒的な強さを見せつけるだけの展開となっていた。

それでも雷門中の選手は全員諦めず、何度ボールを奪われても、何度ゴールを奪われても立ち上がり、星章学園に立ち向かっている。

 

 

「はっ...これじゃあ星章学園がどこまで強いかわかりもしねえな。」

 

「ヒロト、言い過ぎだよ。...でも確かに、これじゃあ偵察に来た意味が無かったですね。」

 

「そうかな?」

 

「...隼人は何か得るものがあったの?」

 

「ああ、今日は試合を見に来てよかったよ。」

 

 

 

 

「俺たちは絶対に諦めない!勝って、みんなでサッカーを続けるんだ!」

 

 

 

 

「(稲森明日人か....円堂、とまでは言わないが、あいつもなかなかのサッカー馬鹿みたいだな。ああいう奴らは嫌いじゃない。)」

 

 

 

新たに始動した雷門中サッカー部の初陣は、1vs10と悲惨なスコアとなった。

この試合を見に来ていたほとんどの人たちが、雷門サッカー部の名を汚すな、と思ったことだろう。

だが、彼らの頑張りを見ているものは少なからずいる。そしてそのほんの少しが何れ積もっていき、彼らの力となっていくだろう。

 

 

 

「ほんと、本戦が楽しみだ。....基山、予選は任せたからな。」

 

「は、はいっ!絶対に勝って、本戦に進んでみせます!」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「お疲れ、鬼道。」

 

「嵐山、見に来ていたのか。」

 

 

あれから俺は基山たちを先に帰らせ、鬼道に会いに星章学園のロッカー前へ来ていた。

鬼道に声をかけると、何とも微妙そうな顔をしていた。

 

 

「ま、お前らの実力が気になったからさ。結局、一緒に練習することも、練習試合することも無かったからさ。」

 

「まあ、な。それで、俺たちの実力は計れたか?」

 

「いや、さすがに今日の状態を本気だとは思わないよ。お前も出場していないしね。」

 

「ふっ、そうだな。」

 

 

ガチャ

 

 

そんな話をしていると、ロッカールームから一人の男が出てきた。

灰色の髪を無駄に伸ばしている....こいつが灰崎か。

 

 

「あ?何してんだ鬼道。」

 

「友と話していたんだ。」

 

「はぁ?友達?...あんたにも友達がいたんだな。」

 

「ふっ...当然だ。」

 

「....ま、俺には関係ねえ。今日は最後まで試合に出てたから疲れた。俺は先に帰らせてもらうぜ。」

 

 

そう言って、灰崎はカバンを持ってこの場を去ろうとした。

 

 

「...灰崎凌兵、フィールドの悪魔...か。」

 

「あ?」

 

「俺は永世学園サッカー部の嵐山隼人だ。残念ながら予選は別グループだが....君と戦えるのを楽しみにしているよ。」

 

「....ふん、知らねえな。俺は気分が乗らなかったら試合に出ねえ。」

 

「そうか。その時は君が逃げたってことにしておくよ。」

 

「あぁ!?...チッ....あばよ。」

 

 

俺の挑発にキレてこちらを向いたが、灰崎は結局そのままこの場を去っていった。

良い選手ではあるようだが、なかなか扱いが難しそうだな。

でも、鬼道は楽しそうに指示をだすだろう。そんな姿が目に浮かぶ。

 

 

「....嵐山、お前の目にはどう映った。」

 

「それは....灰崎と雷門、どっちの話をしている?」

 

「ふっ、どっちもだ。」

 

 

「そうだね......灰崎は自分のことでいっぱいいっぱいって感じだな。」

 

「ほう...」

 

「今は視野が狭くなっているけど、それが改善されたらきっと日本を代表するような選手になるんじゃないかな。」

 

 

1年生であれほどのレベルなんだ。しっかりとサッカーを学んでいけば、自ずと高みへ登っていくだろう。だが今のままでは届かない境地がある。鬼道なら彼をその境地へと導けるだろう。

だからあえて何も言わない。彼を導くのは鬼道の仕事だ。

 

 

「それで、雷門は?」

 

「ま、経験不足に尽きるな。動きは悪くない。なのにうまくいかない。それは試合勘が無いからだ。仲間内でやることしか無かったから、本気の争いをしたことが無いんだろうな。」

 

「やはりそう思うか。」

 

「うん。でも、面白いと思う。だから鬼道や風丸には悪いけど、俺は雷門に肩入れさせてもらおうかな。」

 

「ほう....では予選の間は雷門に師事すると?」

 

「ま、そんなところ。俺たちの役目は日本を強くすることだ。もちろん、自分たちのチームで勝ちたいから本戦は本気で戦うけど....今の雷門を強くするのも悪くない。」

 

「くく....さすがは嵐山だ。だが俺たち星章学園は負けん。必ず本戦に進んで見せるぞ。」

 

 

そう言って、鬼道はロッカールームへと入っていった。

ああ、俺もお前たちが本戦に出場するのを疑ってないさ。

予選はつまらない時間を過ごすことになりそうだと思っていたけど....存外、楽しめそうだ。

 

 

 

思い立ったが吉日、明日早速雷門に向かおうか。

さて、どんな奴らなのかな....サッカーやってる時と同じくらい、面白い奴だったら嬉しいな。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

伊那国・雷門との出会い

稲森 side

 

 

「いいぞ明日人!その調子だ!」

 

「はい!キャプテン!」

 

「おーい!こっちにもパスくれ!」

 

「わかりました。いきますよ、剛陣さん!」

 

 

結局俺たちの初めての公式戦、星章学園との試合は、1vs10でぼろ負けだった。

あれで俺たちのサッカーは終わってしまったんだ、そう思っていたんだけど、あの試合を見ていたアイランド観光の人がスポンサーになってくれたおかげで、俺たちはまたサッカーを続けることができるようになったんだ!

 

 

「おーほっほっほ。皆さーん、聞いて下さい。次の対戦相手が決まりました。」

 

 

この人は俺たちの監督である趙金雲さん。俺たちも雷門に来てから知り合ったから、まだどんな人かよくわかってないけど...ちょっと変わった人なのはみんなの共通認識だと思う。

 

 

「監督!次はどこが相手なんですか!」

 

「次の対戦校は.......美濃道山中に決定しました~!」

 

「美濃...」「道山....」

 

「美濃道山は、守備のチームですね。全国ランキングはさほど高くありません。」

 

「それってどうなんだ?この前の星章よりは弱えってことか?」

 

「そうですね...さすがに星章学園の方が強いと思います。」

 

「マジか!だったら楽勝なんじゃねえか!?」

 

 

マネージャーになってくれた大谷さんの言葉に、剛陣先輩が喜んでる。

でも、そんな簡単なことなのかな....俺たち、小僧丸しか必殺技を使えないし、守備のチームってことは小僧丸が必殺技を使う暇すらないかもしれないし。

 

 

「そんな簡単な話じゃないぞ!」

 

 

「っ!あなたは...!」

 

 

突然、俺たち以外の声がグラウンドの土手の上から聞こえてきた。

みんなが声の方を見上げると、大谷さんが驚いたような表情でその人を見ていた。

それにしてもあの人、誰だろう....

 

 

「おーほっほっほ。まさかあなたがここにあらわれるとは....どういった御用です?」

 

「初めまして、趙金雲監督。要件はただ一つ...彼らを鍛えるために来ました。」

 

「ええ!?嵐山君がですか!?」

 

「っ!こいつが嵐山....!」

 

 

だ、誰なんだ...?監督も笑ってはいるけど、少しだけ驚いたような感じだし、大谷さんも驚愕って感じ。小僧丸はなんだかこの人を睨んでいるけど...

 

 

「久しぶりだね、大谷さん。まさか君がサッカー部のマネージャーになっているとは。」

 

「はい!理事長から直々にサポートを頼まれたんです。」

 

「そうなんだ。」

 

「それにしても、嵐山君は試合大丈夫なんですか?」

 

「うん。俺がいなくても予選は簡単に勝ち上がってくれるさ。」

 

「はえ~...すごい自信ですね。」

 

 

「えっと...もしかして、雷門サッカー部のエースストライカー...風神、嵐山隼人さんご本人ですか...?」

 

 

え?ええええええええええ!?

この人が雷門サッカー部のエースストライカー!?

お、俺全然知らなかった...そんなすごい人なのか。

 

 

「...その呼ばれ方は好きじゃないけど...ま、そうだね。」

 

「ほ、本物...!えっと、俺、道成達巳と申します!このチームのキャプテンで、えっと...雷門中の名前をお借りしてます!」

 

「そっか、君がキャプテンか。よろしく。」

 

「は、はい!」

 

 

キャプテンは嵐山さんと握手して、感激してた。

それにしても、そんなすごい人なら何で小僧丸は嵐山さんを睨んでいるんだ?

昔、何か因縁でもあったのかな...?

 

 

「...君が、稲森明日人君かな?」

 

「え?あ、はい!」

 

 

小僧丸の方を見ていたら、突然嵐山さんに声をかけられた。

ど、どうして俺の名前を知っているんだろう...

 

 

「星章学園との試合、見せてもらった。」

 

「あ、あの試合ですか...」

 

「ああ。君たち...特に稲森君の最後まで諦めないって気持ち、とてもよかった。」

 

「あ、ありがとうございます。」

 

「だから俺、君たちを鍛えることにしたんだ。」

 

「「「「「「ええええええええええええええええええ!?」」」」」」

 

 

お、俺たちを鍛える!?どうしてそんなことに!?

この人だって、別の学校でフットボールフロンティアに参加しているんじゃ...

 

 

「おい!どういうつもりだ!」

 

「ん?」

 

「あんたは別の学校でフットボールフロンティアに出場しているはずだ!敵である俺たちを鍛えるだなんて....ふざけているのか!?」

 

「お、おい、小僧丸!」

 

「ふざけてないさ。確かに俺もこの大会に出場しているし、優勝するつもりだ。だが俺が見据えているのはもっと先だ。」

 

 

もっと先....?この大会に優勝することよりも先のことって何だろう?

 

 

「その先の未来のために、俺は君たちを強くしたい。それに....面白そうだしね。」

 

「?」

 

 

嵐山さんは俺の方を見ながら、そう答えた。

どうして俺の方を見てたんだ?俺、何か変かな...?

 

 

「チッ....俺はあんたの教えなんて必要ねえ!」

 

「そうか....残念だけど、無理強いはしない。あ、でも稲森君は参加してほしいな。」

 

「え、俺ですか!?」

 

「おーほっほっほ。それは良い考えですネ!ではこうしましょう。小僧丸君は一人で練習。氷浦君と岩戸君は私の指示した内容の練習をしてもらいましょう。それ以外の皆さんは嵐山君の指示に従って下さい。」

 

 

「え、あの...どうして俺とゴーレムだけ...」

 

「せ、戦力外でゴスか...?」

 

「いえいえ、やってもらいたいことがあるだけです。」

 

 

「よし、じゃあ俺と一緒に練習する奴はついてこい!」

 

「「「はいっ!」」」

 

 

嵐山さんはそう言って、グラウンドから走って出ていった。

どこに向かうんだろう...というか、嵐山さん足速っ!置いてかれちゃう!

 

 

「...って、のりか?行かないの?」

 

「..........っ!え、あ、明日人?な、何!?」

 

「い、いや...嵐山さん、行っちゃったから追いかけないと!」

 

「あ、う、うん!」

 

 

のりか、どうしたんだろ...なんだか顔を赤くしてたけど、風邪でも引いたのかな?

それに小僧丸も心配だな...どうして嵐山さんにあんなに敵意むき出しだったんだろう。

 

 

.....

....

...

..

.

 

小僧丸 side

 

 

 

「チッ...」

 

 

嵐山隼人....あいつにだけは負けたくねえ。

俺の憧れである豪炎寺さんがライバルと公言してる奴だ。

しかもあいつは俺と同じように、豪炎寺さんの代名詞ともいえる”ファイアトルネード”を打てる。

さらには豪炎寺さんとの合体技、”ファイアトルネードDD”も....

 

 

 

「っ!”ファイアトルネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

悔しい...豪炎寺さんと一緒にプレーできるあいつが、豪炎寺さんと一緒に必殺技を打てるあいつが羨ましい...!だからこそ俺は、あいつに何かを教えてもらうことなんてできねえ。

 

 

俺たち雷門はグループA、豪炎寺さんはグループG、そしてあいつはグループJ...対戦する機会は本戦でしかめぐってこない。豪炎寺さんは間違いなく本戦に進むだろうし、悔しいがあいつも本戦に出場するはずだ。

 

だから俺も、雷門で勝ち上がる必要があるんだ。

そして証明するんだ...俺があいつよりも強いって。そして豪炎寺さんと戦って、認めてもらうんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「おーほっほっほ。やはり彼を変えるにはもう少し時間ときっかけが必要そうですねえ...」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

「さて、ついたぞ。」

 

「ハァ...ハァ.....あ、嵐山さん、速すぎますよ...」

 

「ハァ...ハァ...な、なんでこの人息切れしてないんですか...」

 

 

「おいおい、そんなんじゃ1試合も体力持たないぞ?」

 

 

俺は普段永世学園の連中と一緒に走っているときのペースで、雷門中のグラウンドから河川敷のグラウンドまで走ろうとしていた。だが途中で誰もついてこられていないのに気付き、わざわざ来た道を戻ったところ、稲森と道成以外の全員が倒れそうになっているのを発見した。

 

稲森はまだまだ元気だったが、道成はキャプテンとしての意地か、みんなを頑張って励ましていた。

 

 

「ま、いきなり無茶はマズイな。...監督と相談にはなるけど、明日からもこの河川敷のグラウンドで練習することになる。雷門中からここまでをランニングで行き来することで、アップに必要な時間を短縮するんだ。」

 

「ま、マジですか...」

 

「これから毎日これって...僕たちどうなっちゃうの...?」

 

「...はっきり言って、お前たちがこのフットボールフロンティアを勝ち上がるのは相当難しい。」

 

「な、何だと!」

 

 

俺は倒れ伏している全員に向かって、厳しい現実を叩きつける。

俺の言葉に、確か...剛陣だったか?が反論してきた。

 

 

「お前たちが理解しているか知らないが、グループAは激戦区だ。お前たちがこの前戦った星章学園はもちろん、去年俺たちが倒すまでは40年間無敗だった帝国学園もいる。それに次の対戦校である美濃道山は、強化委員として壁山が派遣されている。...どうだ、今言った3校だけでも十分強力だろう?」

 

「た、確かに....」

 

「でも、他の学校に勝てば、何とかなるんじゃ...」

 

「....そんな甘いものでもない。今回の予選のルールだが、各グループ最大2組、最低1組の勝ち抜けが保証されている。総当たり戦で勝ち点は勝てば3、負ければ0、引き分けは1だ。今回、お前たちは負けて星章学園は勝っているから、現在は星章が勝ち点3、雷門は0だ。」

 

 

今の実力のままで考えるなら、雷門は帝国に敗北するだろうし、美濃道山は良くて引き分け。

御影専農は杉森が卒業してチームの柱が抜けたとはいえ、エースの下鶴は健在だ。

御影専農にも勝てないと想定すれば、この時点で良くて勝ち点1。

残りの3チームに勝ったとて、勝ち点は10だ。

 

帝国が勝ち点10以下になることはほぼ間違いなくないだろうから、星章と帝国が勝ち抜けだ。

 

 

「そんな...」

 

「でも...確かにそうだよね...」

 

「俺たちが勝ち抜けるには、残りの試合を全部勝たなきゃダメなんだ...」

 

 

俺の説明に、伊那国・雷門の面々は俯いていた。

どうやら現実が見えてきたようだな。

 

 

「今稲森が言ったように、残りの試合を全勝すれば勝ち抜けはほぼ確実だ。ただし、帝国が星章に勝った場合はわからん。」

 

「な、何でですか?」

 

「そうだな....星章は雷門に勝ってて、帝国に負けるが残りの試合は全部勝ったとする。そうすると勝ち点はいくつだと思う?」

 

「えっと、6勝になるから18ですね。」

 

「ああ。そして帝国は星章に勝ってて、雷門に負けるが残りの試合は全部勝つ。この場合は?」

 

「同じく6勝で18です。」

 

「そして...雷門は現在星章に負けているが、残りの試合をすべて勝ったとしたら?」

 

「っ!同じく6勝で勝ち点は18だ!」

 

 

俺が順序だてて説明すると、みんなも理解できたのか納得したような表情をしていた。

ただ一人、剛陣だけは頭を捻って考えているが。

 

 

「あ、あのよ...勝ち点が18で3チーム並ぶのはわかるけど、それだと何でわからなくなるんだ?」

 

「ああ、この場合は得失点差によって勝ち抜けが決まる。スコアがわかっている雷門と星章ので説明するが、スコアは1vs10だったろ?」

 

「お、おう。」

 

「その場合、得失点差は雷門が-9、星章が9となる。この2校だけで比べるなら、星章が得失点差で勝っているから、星章が勝ち抜けになるってことだ。」

 

「な、なるほどな.....」

 

「(本当にわかってるのか?...まあいいか。)」

 

 

「つまり、俺たちが残りの試合を全勝したとしても、最初の試合で貰った10失点が重くのしかかってくる...ということですね?」

 

「ああ、そういうことだ。もし星章と帝国がすべての試合で大量得点で勝った場合、雷門も大量得点で勝たないといけないことになるし、それができたとしても星章との得失点差が大きすぎる。」

 

 

正直、星章と帝国の実力はほぼ互角。

星章は灰崎がどこまで機能するかによると思うし、帝国はあの影山が監督に再就任したと聞く。

影山が策もなく負けるとは思えないから、どうなるか予想がつかない。

 

 

「ま、どちらにせよ残りの試合を全勝することが最低条件だな。だからこそ、これからの練習が重要になってくるんだ。」

 

「...わかりました!俺やります!」

 

 

俺の話をずっと黙って聞いていた稲森が、突然大声で手を挙げた。

どうやら俺の話を理解したうえで、これから勝つために俺についてくると決意したんだな。

 

 

「みんなもやろうよ!俺、この前の試合でサッカーが最後だと思ったら悔しかった。負けて終わりだなんて納得できないよ!だから俺...もっとサッカーがうまくなりたい!」

 

「そうだな...俺もやるぜ。」

 

「僕も!」

 

「おうよ!ここで乗らなきゃ男じゃねえ!」

 

 

稲森の言葉に、伊那国・雷門の面々がどんどん賛成の声をあげる。

どうやら全員、覚悟はできたようだな。ここにいない三人の意見も気になるところだが...

 

 

「では今日からお前たちを鍛えていく。だからこそ、雷門から河川敷までの間はランニングで移動できるよう心掛けてくれ。」

 

「「「はい!」」」

 

 

こうして伊那国・雷門のやつらとの特訓が始まった。

やはりまだまだ動きがなっていないが、センスはある。

全くの初心者ではなく、普通にサッカーを楽しんでいただけはある。

これなら少し鍛えただけでも、十分うまくなるだろう。

 

 

「(だが、必殺技が無いのは痛いな...フットボールフロンティアに出場するようなチームは、ほとんどが必殺技を持っているだろう。小僧丸...だったか。あいつの”ファイアトルネード”がどこまで通用するか、だな。)」

 

「あ、あの...」

 

「ん?どうした稲森。」

 

 

俺が考え事をしていると、稲森が俺に話しかけてきた。

 

 

「嵐山さんって、どんな必殺技を持ってるんですか?」

 

「俺の必殺技?どうしてそれが知りたいんだ?」

 

「えっと...小僧丸もそうですけど、灰崎とかみんな必殺技を持ってるじゃないですか。俺も必殺技が打てたら、フォワードとしてチームの役に立てますし。」

 

「そうだな。.....俺も小僧丸と同じく、”ファイアトルネード”を打てる。それ以外だとこんな感じかな。」

 

「えっ?」

 

 

俺は一瞬で稲森からボールを奪うと、ゴール前へと駆け上がっていく。

稲森はボールを奪われたことに驚きながら、俺の方を見ている。

 

 

「はっ!”ウイングショットV4”!」

 

ドゴンッ!......バシュンッ!

 

 

「す、すごい....これが嵐山さんの必殺技....」

 

「ま、こんな感じだな。他にもあるけど、稲森の参考になりそうなのは今のシュートかな。」

 

「はい!今のを参考にしてみます!」

 

 

稲森はすぐにボールをもってシュート練習を始めた。

本当、円堂みたいなサッカーにまっすぐな男だな。

稲森ならすぐに必殺技を身に着けることができるだろう。

 

 

「ハァ....」

 

「(ん...あれは...)大丈夫か?」

 

「っ!は、はい!だ、大丈夫です!」

 

「そうか。君は確か、キーパーの....」

 

「は、はい!海腹のりかです!」

 

 

海腹か。女の子がキーパーだなんて珍しいから、なんとなく覚えていたんだよな。

何だか悩んでいるようだったけど、大丈夫なんだろうか。

 

 

「何か悩みでもあるのか?ため息を吐いていたが。」

 

「い、いえ.........いや、実はその...私がたくさん点を取られちゃったから、得失点差が開いちゃったって思うと...」

 

「そうか...でもそうやって反省して次に生かそうとしているんだ。君はもっとうまくなれるよ。」

 

「あ、ありがとうございます!(や、やっぱりかっこいい....うぅ...私、うまく喋れてるかな...)」

 

「(何だか顔が赤いけど、大丈夫か...?)ま、これから点を奪われたくないなら、必殺技を使えるようになった方が良い。もちろんディフェンスへの的確な指示を覚える必要もあるけどね。」

 

「必殺技......どうやったら、必殺技を身に着けられますか!?」

 

「そうだな.....必殺技をイメージするのが大事だな。あとは練習あるのみ!」

 

「イメージ.....練習あるのみ......わかりました!がんばります!」

 

「ああ、頑張れよ海腹。」

 

「......えっと、私のことはのりかって呼んでください!」

 

「お、おう...わかったよ、のりか。」

 

「~~~~~~っ!!!!」

 

 

俺がのりかを名前で呼ぶと、のりかはなぜか俺の元から走り去っていった。

い、いったい何だったんだ....

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

難攻不落の要塞

嵐山 side

 

 

あれから俺は稲森とのりかには必殺技の特訓を、他のメンバーには基礎練習を叩き込んだ。

稲森とのりかはまだ必殺技を会得していないが、二人とも何となくのイメージは掴めているようだし、時間の問題だろう。

 

基礎練習組は、道成がさすがキャプテンに選ばれるだけあって器用にこなしている。

他の面々も動きは悪くないが、いかんせん体力が無い。点取り合戦になったら体力切れで負ける可能性が高いだろうな。

 

 

「さて...今日の試合はどうなることやら。...お前はどう思う、野坂。」

 

「おや、気付いていたんですね。」

 

「まあね。というかその変な座り方辞めろよ。辞めないなら俺には話しかけるなよ?同じ類の人間だとは思われたくない。」

 

「はは、随分と言いますね。」

 

 

そう笑いながら言うが、野坂は変な座り方を辞めない。

よし、こいつは無視しよう。それにしても、一緒に来てる奴は座らないのか?

立ち位置的にすごい俺を見下すように睨んでるけど、俺何かしたか?

 

 

「ああ、彼は西蔭。僕のチームメイトです。ほら西蔭、挨拶して。」

 

「はぁ、野坂さんが言うなら。...俺は西蔭政也だ。」

 

「そうか。俺は嵐山隼人。よろしくな。」

 

「ふん...よろしくするつもりは無い。」

 

「こらこら西蔭。すみません、嵐山さん。」

 

「別にいいよ。」

 

「それで...どう思う、とは雷門の彼らのことですか?」

 

「ああ、そうだよ。」

 

 

俺がそう言うと、野坂は考えるようなポーズを取った。

対する西蔭は鼻で笑い、雷門を...いや、俺も含めてか。見下したような態度を取っている。

結構自信家なんだな。ま、そういうのも悪くは無いと思うけど。

 

 

「前回の星章学園との試合から見違えるような姿ですね。特にあの10番...他の選手は試合を前に少し浮足立っているのに、彼は落ち着いているように見える。」

 

「10番...稲森か。お前も見る目があるな。」

 

「....雷門の10番、稲森明日人。必殺技は無し。身体能力は中の上程度。特に秀でた能力があるわけでもない、普通の選手だと思いますが?」

 

「西蔭、時に人はデータには映らない力を発揮するものだよ。」

 

「そういうものですか。」

 

「ああ。」

 

 

「ま、これからの雷門を見ていけば、その何かがわかるんじゃないかな。」

 

 

どうやらそろそろ試合が始まるようだ。

雷門イレブンの力、趙金雲監督の采配...見せてもらおうかな。

そして壁山...お前がこの1年でどれだけ成長したかもな。

 

 

『それでは雷門中vs美濃道山中の試合を始めます!』

 

 

審判の宣言により、選手たちがフィールドへと散らばっていく。

雷門はちょうど11人だから全員が出場しているが、美濃道山はどうやら壁山がスタメンではないようだな。ベンチでのんびりしている壁山が目に入る。

 

 

「どうやら壁山塀五郎は試合に出ないようですね。」

 

「そのようだ。この前の鬼道有人といい、ここにいるあなたといい、強化委員は試合に出ない方針なんですか?」

 

「いや、そんなことは無いよ。鬼道は初戦でチームの状態を確かめたかっただけだろうし、俺は俺抜きで本戦まで進んでもらわないと困るから出ないだけ。」

 

「随分とチームを信頼しているんですね。」

 

「信頼、というよりチームの特訓みたいなものだよ。まだまだ帝国みたいな歴戦の強豪には負けてるし、もっともっと力を付けてもらわないとさ。」

 

「そういうものですか。」

 

「ああ。」

 

 

俺はそこで話を終わらせ、試合に集中する。

雷門ボールで試合が始まったのだが、雷門イレブンはなぜか自陣でパス回しを行い、攻めにいこうとはしていなかった。それも戸惑いながらやっているので、恐らくは監督からイレブンバンドで指示が飛んでいるんだろうな。

 

 

「彼らは何故攻めないのでしょう。」

 

「そうだね.....嵐山さんはどうしてだと思いますか?」

 

「そんなの、攻める必要が無いからだろ。」

 

「はぁ?」

 

 

俺がそう答えると、西蔭は何を言っているんだと言わんばかりに睨んできた。

だが野坂の方は、興味深そうにこちらを見て笑っている。

どうやら野坂は俺と同じ考えのようだな。

 

 

「美濃道山は守備のチームだ。実際に見るのは初めてだが、あの重量級ディフェンス...恐らくは全国でも屈指の防御力を誇るだろうな。そんなチーム相手に最初から攻め一辺倒では勝てるわけがない。」

 

「そうですね。そして守備のチームと言っても、点を取らなければ引き分け以上になることは無い。」

 

「ああ。だからこそ、相手はあの強固なディフェンスのフォーメーションを崩してでも攻めてくる時がある。その時こそ、圧倒的な防御力を突破するチャンスとなる。」

 

「でも、雷門イレブンのみんなは混乱しながらプレーしている。恐らくは監督からの指示でしょうね。」

 

「そうだろうな。趙金雲....話した感じただの不思議なおっさんだったけど、その実力は計り知れないな。」

 

 

そんなことを話しながら試合を見ていたが、結局前半は雷門がボールをキープして終わってしまった。

次は美濃道山ボールで試合が再開するが...壁山はどう攻めていくんだろうな。

それに対して雷門は、どう守る。

 

 

「(のりかは結局、必殺技を会得していない。もしのりかにゴールを安心して任せられるのであれば、ディフェンスラインを極端に上げることで、相手の攻撃を防ぐこともできる。抜かれたとてのりかが止めれば良い話だしな。)」

 

「(嵐山隼人...恐らく頭の中で自分が雷門にいたらどう戦うか、ということを考えているはず。僕が頭脳勝負で負けるとは思わないが、この人の力は未知数だ。僕も雷門がどう戦うかを考えてみるか。)」

 

 

 

それから後半が開始した。やはり美濃道山は守備をある程度捨てて、攻めに転じてきた。

趙金雲監督も今がチャンスと思ったのだろう、雷門イレブンに新たな指示を出したようだ。

相手のフォワードの進行ルートが強制されている。相手は自分から進んでいるように感じているだろうが、徐々に趙金雲監督が望んでいる方向へと進まされている。

 

 

「うまいな....」

 

「どういうことです?」

 

「わからないのか、西蔭。」

 

「雷門は今、あえて相手に抜かれることで相手の進行ルートを強制している。このまま行けば恐らく、岩戸の目の前に出ていくことになるだろうな。」

 

「っ!...さすがは嵐山さんですね。」

 

「まさか...そんなことが...」

 

「まあ見てなよ。」

 

 

俺がそう言うと、野坂と西蔭は試合に目を向ける。

俺も彼らがどう動くのか、そして壁山がどう出るのかに期待して、試合に目を向ける。

 

 

「(よし...ここで左に抜かせれば、作戦成功だ!)」

 

「よしっ!」

 

「ゴス!」

 

「んなっ!?」

 

 

予想通り、相手のフォワードが奥入を抜いた瞬間、岩戸がフォワードの目の前にあらわれた。

いきなり岩壁のような存在が目の前に現れたことに、相手のフォワードは驚き戸惑っていた。

 

 

「ゴス...ゴス!...”ザ・ウォール”!」

 

「うわあああ!」

 

 

そんな中、岩戸はまさかの”ザ・ウォール”を発動させ、相手からボールを奪うことに成功した。

いや、まさか”ザ・ウォール”とはな...しかもそれを使う壁山がいるチームと戦っているときに発動させるなんて、これも狙っていたのか?監督は。

 

 

「ゴス...半ちゃん!」

 

「よし!いけえ!小僧丸!」

 

「っ!”ファイアトルネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ、ぐああああああ!」

 

 

見事なまでのカウンターによって、小僧丸の”ファイアトルネード”が炸裂した。

これで1vs0、雷門が先制したか。さあ、どうする壁山。

 

 

『おっと!ここで選手交代のようです!美濃道山、強化委員の壁山が入るようです!』

 

 

来たか、壁山。お前がどれだけレベルアップしたか、見せてもらおうか。

俺が壁山の方を見ていると、壁山がこちらに気付いて手を振ってきた。

どうやら性格とかは変わってないな。相変わらず人懐っこいというか、可愛がられ系だよな。

 

 

 

「さあみんな!張り切って行くっスよ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

壁山が出たことで、さらに厚みが出た気がするな。

さて...ここからが本番といったところか。

 

 

美濃道山中のボールで試合が再開した。

ふたたび雷門は進行ルートを強制するシフトを敷いてきている。

だが壁山はそれを見切っているようで、フォワード陣に的確に指示をしている。

 

 

「石壁君!そっちじゃないっス!」

 

「くっ!しまった...!」

 

 

「宇郷君!右斜めからディフェンスが来てるっスよ!」

 

「ゴス!?」

 

 

 

「すごいな、壁山....去年はすぐに逃げ出すような奴だったのに、しっかりとチームの柱になってるじゃないか。」

 

「確かに、あれだけどっしりと後ろに構えられると、攻める方はきついですね。」

 

「攻めだけじゃないな。守備を極めているからこそ、相手の守備の弱点がよくわかっているんだ。」

 

「っ!...なるほど、そういう視点からの考え方もあるんですね。」

 

 

壁山からの指示で、美濃道山のフォワード陣はどんどんゴール前へとあがっていく。

そしてついには雷門のディフェンスをすべて抜き去り、シュート体勢に入った。

 

 

「くらえ!”クロスドライブ”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ!止める!」

 

 

放たれたシュートを、のりかは正面からがっちりと掴む。

だがそれだけでは威力はまるで収まらず、のりかはどんどんとゴールへと押し込まれていく。

 

 

「くっ...うぅぅぅぅ....うああああああ!」

 

『ゴーォォォォォォル!美濃道山、すかさず追いつきました!これで1vs1!勝負は振りだしです!』

 

 

 

「ふん...必殺技も使えん女がキーパーか。」

 

「確かに女性のキーパーは珍しいね。嵐山さんはどう思います?」

 

「性別は関係ないさ。これまでは女性選手が公式試合に出られなかっただけで、男でも女でもうまい奴はうまいし、下手な奴は下手さ。」

 

「意外ですね。噂では女性を誑し込んでいると聞いていましたが...」

 

「おい、何だその噂は。」

 

 

そんな噂が流れていたとは、心外だな。

誑し込んでなどいないというのに...

 

それにしても、この試合は恐らく引き分けに終わるだろうな。

今の攻撃で壁山の指示力なども含めて、趙金雲監督はインプットしただろう。

彼はかなりのサッカー通と思うくらいには、サッカーに詳しい。

それに何となくだが、影山のように手段を選ばないような感じにも見える。

 

 

「嵐山さんはこの試合、どちらが勝つと思いますか?」

 

「いや、引き分けかな。」

 

「ふっ...」

 

「(西蔭は引き分けはありえないと思ってるのか。)」

 

「それはなぜです?壁山君が入ったことで、美濃道山は完全な状態となったのに、これ以上は点を取れないと?」

 

「ああ。おそらくはね。」

 

「興味深い考えですね。」

 

「ま、見てればわかることだ。」

 

 

そう言って俺は試合に目を向ける。

すると、壁山を中心に美濃道山の選手たちが一列に並び始めた。

 

 

「行くっスよみんな!」

 

「「「「おう!」」」」

 

「「「「”ザ・ウォール”!」」」」

 

 

壮観だな。壁山の合図で、4人のディフェンダーが”ザ・ウォール”を発動させた。

4つの壁がまるで連鎖するように横並びに立っている。

これは”ザ・ウォール”のオーバーライドか。

 

 

「これが俺たち美濃道山の最強必殺技!」

 

「「「「”レンサ・ザ・ウォール”!!!!」」」」

 

「おい、嘘だろ!?」

 

「う、うわああああああ!」

 

 

美濃道山の発動した”レンサ・ザ・ウォール”によって、雷門イレブンはどんどん吹き飛ばされていく。何とかボールはキープしているが、徐々に自陣へと攻め込まれていて、逃げ場が無くなってきていた。

 

 

「くっ...どうすれば...」

 

「おーほっほ!氷浦君、特訓を思い出してくださーい。」

 

「と、特訓!?俺、壁への水かけしか.......っ!まさか!」

 

 

壁への水かけが特訓、ね...やっぱり面白いこと考えるな、あの監督。

壁...つまり”ザ・ウォール”、”レンサ・ザ・ウォール”の対策として、そんなことを氷浦にやらせていたってことか。

 

俺は正攻法しか教えることができないが、あの監督は逆。

邪道なやり方で対策を取ってくる、本当に摩訶不思議って感じの人だ。

しかもそれをちゃんと説明しないあたり、気味の悪さもある。

 

 

「効率よく水をかけるように.......っ、ここだ!”氷の矢”!」

 

 

氷浦は”レンサ・ザ・ウォール”を発動させている4人が動くことで生まれる、壁と壁の隙間を狙ってロングパスを繰り出した。パスの必殺技か...なかなか興味深いな。今までありそうでなかった必殺技の使い方だ。

 

 

「よし、壁を通り抜けてパスが通った!」

 

「そのまま持ち込め!小僧丸!」

 

「おう!」

 

 

氷浦からのパスは小僧丸へと通った。

ディフェンダー4人を抜いたので、ゴール前はがら空き...と思いきや、壁山がしっかりとそこをフォローしていて、小僧丸の前に壁山が現れる。

 

 

「残念だけどここは通さないっスよ!」

 

「っ!お前を抜いて、ゴールを決める!」

 

「豪炎寺さんと同じ”ファイアトルネード”の使い手...油断はしないっス!”真ザ・ウォール”!」

 

 

壁山が”ザ・ウォール”を発動する。

この試合で”ザ・ウォール”を発動させたのは6人になるが、その誰よりも高く、そして分厚い壁だ。

これが今の壁山か....お前もしっかり成長しているんだな。

 

 

「っ、ぐああああ!」

 

「小僧丸!」

 

「ボールはもらったっス!」

 

 

ピッピッピィィィィィ!

 

 

「あっ...」

 

 

壁山がボールを奪い、反撃に出るか...というところでホイッスルが鳴る。

試合終了の合図...結果は1vs1の同点。今回のフットボールフロンティアは、予選に限り延長戦とPK戦は無い。これはFFIの予選ルールと同じだ。

 

よって、この雷門と美濃道山の試合は、引き分けということになる。

 

 

「まさか、貴方の予想通りになるとは...」

 

「引き分けは予想してなかったか?」

 

「ええ、まあ。...次は負けません。」

 

「そうか。(試合結果の予想で勝ち負けを競うのか...)」

 

「行こう、西蔭。」

 

「はい、野坂さん。」

 

 

野坂は西蔭と共に去っていく。

ふと他の席を見てみると、どうやら灰崎も試合を見に来ていたようだった。

あいつ、他の学校の試合を見に来るようなやつだったんだな。

明後日は確か、星章と帝国学園の試合のはずだが....ま、いいか。

 

 

「(しかし、雷門は残り全勝でも勝ち抜けが厳しかったが....ここで引き分けを引いてしまったか。これでさらに勝ち抜けは厳しくなっただろうな。ま、"雷門"として出場している以上、負けても本選に出場することはできるんだがな....あいつら、それ知ってるのかな。)」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「あ、嵐山さぁぁぁぁぁん!」

 

「よっ、壁山。久しぶりだな。」

 

「はいっス!ほんと、お久しぶりっス!」

 

 

試合後、俺は壁山に会いに来ていた。

雷門を出て以来ぶりだが、さらに大きくなったな。

もちろん悪い意味ではなく、良い意味でな。

 

 

「試合は惜しかったな。スタートから出ていたら、勝っていたのはお前たちだったかもしれん。」

 

「はい...でも、俺がいなくてもみんな十分戦えてたっス。まだまだ予選は始まったばかり!鬼道さんや風丸さんにも挑戦していくっスよ!」

 

「ふっ...本当に成長したな、壁山。」

 

「そ、そうっスかね?」

 

「ああ。試合の途中、何度かすぐに出場して、お前と戦いたくなったよ。」

 

「あ、嵐山さん.....お、俺感激っス!もっともっと強くなって、絶対に本選に進んで嵐山さんに挑戦しに行くっス!」

 

「ああ、楽しみにしているぞ壁山。」

 

 

こうして、俺は壁山を激励してから会場を去った。

今の壁山なら、鬼道や風丸とも良い勝負ができるだろうな。

もしかしたら、帝国でも星章でもなく案外、美濃道山が本選に進んでくるかもしれん。

どちらにせよ...楽しみだ。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

灰崎の闇

嵐山 side

 

 

雷門と美濃道山の試合を観戦した次の日、どうも風邪の引き始めのような体調だった俺は病院へと足を運んでいた。検査の結果は軽度の風邪症状だったわけで、薬を数日飲めば問題無いらしい。

 

 

「それではお大事に。」

 

「ありがとうございました。」

 

 

俺は受付で診療代を払い、外に出ようとした。

だがその時、見覚えのある奴が病院へと入ってきたのが見えた。

あの灰色のロングヘアに紺色の制服...恐らく灰崎だな。

あいつ、どこか傷めたりでもしたのか?

 

 

「よう、灰崎。」

 

「っ....あんたか。驚かせんな。」

 

「急に声かけて悪かったな。...それで、どこか怪我でもしたのか?」

 

「いや、違え。......何だっていいだろ。」

 

「まあそうだな。怪我じゃないなら良かった。」

 

 

俺がそう言うと、灰崎はぽかんとした表情を浮かべた。

俺が灰崎を心配したのはおかしかったか?

 

 

「何であんたが俺の心配をしてんだ?」

 

「いや、俺は結構お前に期待してるんだよ。1年でその実力...しっかりと鍛えれば、世界にだって通用すると思ってる。」

 

「世界...興味ねえな。俺は復讐のためにサッカーをするだけだ。」

 

「復讐、ね.....それを否定するつもりは無いけど、復讐が終わったらどうするつもりだ?」

 

「そんなの.....知らねえよ。」

 

「....だったら、復讐が終わったら一緒にサッカーしないか?」

 

「はぁ?」

 

「ただ楽しくサッカーやるのも悪くないぜ?ま、無理にとは言わないけど。」

 

「....くく.......フハハハハハ!」

 

 

俺がサッカーやろうと言うと、灰崎は急に大声で笑い出した。

周りに他の患者はいないからいいけど、急に笑い出したら不審者みたいだぞ....

 

 

「あんた、おもしれえな。いいぜ。俺の復讐が終わったら、あんたと一緒に世界を目指すのも悪くねえ。」

 

「そっか。なら期待して待ってるよ。」

 

「ああ。既に目標は捉えている。このまま本戦を1位通過すりゃ、奴らに当たるかもしれねえからな。」

 

「奴ら?」

 

「....口が滑っちまった。とにかく、あんたの言う楽しいサッカーも悪くはなさそうだが、今の俺には不要な考えだ。」

 

「そうか.....次の帝国との試合、楽しみにしている。」

 

「俺は出ねえよ。」

 

「何....?」

 

 

試合に出ない?エースストライカーである灰崎が試合に出ないなど、あり得ないだろう。

絶対的なエースのいないチームに、帝国学園が敗れるはずがない。たとえあの鬼道がいたとしてもな。

 

 

「気分が乗らねえ。帝国には一度勝っているしな。」

 

「...帝国を甘く見ない方が良い。」

 

「あん?」

 

「帝国は強い。今の灰崎では勝てない。」

 

「チッ....ふざけたことをぬかしやがる。...いいぜ、試合に出てやる。俺がいりゃ帝国なんてただの雑魚だってことを証明してやるよ!」

 

「そうか。それは楽しみだ。」

 

「ふん....俺はもう行く。」

 

「ああ、引き留めて悪かったな。」

 

 

灰崎はそのまま院内へと入っていった。

あっちは確か、入院患者の病棟だな。杏奈ちゃんも入院してたからよく知っている。

つまり灰崎は誰かのお見舞いに来てたんだな。

 

 

「(復讐、か....俺や円堂だって、あんな風になっていたかもしれないって思うと、簡単に辞めろとは言えねえよな。)」

 

 

きっと、この病院に入院している人物が入院することになったきっかけに復讐しようとしてるんだろう。

誰かのために、その原因に対して攻撃的になるのは、俺自身も理解できる。

だからこそ、俺は灰崎を止めずに、その先の道を示した。

 

 

「(あいつは俺の話をしっかりと聞いていた。ならきっと、復讐に囚われていたとしても、戻ってこれるはずだ。その時は一緒にサッカーしよう、灰崎。)」

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「あ、嵐山さん。」

 

「稲森、どうしてここに?」

 

「えっと、監督に頼まれてマネージャーの代わりに買いだしに来たんですけど、道に迷っちゃって...」

 

 

 

病院からの帰り道、きょろきょろと辺りを見渡す稲森を発見した。

どうやら買いだしに来させられたようだが、ここ迷うほどか?

まあこっちに来てまだ数日しか経ってないし、仕方ない部分もあるか。

 

 

「仕方ない。俺が送ってやるから、一緒に帰るぞ。」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「ほら、荷物も少し渡せ。重いだろ。」

 

「す、すみません...」

 

 

俺は稲森から半分だけ荷物を受け取る。

ドリンク類なども入っているから、かなりの重量だ。

確かにこれは大谷さんには頼めないな。

 

 

 

「そういえば、嵐山さんはどうしてこのあたりに来てたんですか?やっぱりゲームセンターってところに行ってたんですか?」

 

「いや、ちょっと風邪っぽかったから病院に行ってたんだよ。」

 

「そうだったんですか。ゲームセンターに灰崎がいたから、都会の人ってああいうところで遊ぶのかなって思ってました。」

 

「あ~、まあ間違ってはいない。俺は休みの日もサッカーばっかりだったから、あんまりゲーセンには行ったことないけどな。」

 

「そうなんですね。」

 

 

「...なあ稲森。」

 

「はい。」

 

「お前は何でサッカーやってるんだ?」

 

「サッカーをやる理由...ですか?」

 

「ああ。」

 

 

人にはそれぞれ、背負ってるものや目標がある。

俺は円堂や修也たちと一緒に、世界一になりたいって目標がある。

灰崎には復讐を成し遂げたいという思いがあるように。

稲森は一体どんな思いや目標を持っているんだろう。

 

 

「俺、ただサッカーが好きだからサッカーをやっていたんです。でも、母ちゃんが死んで一人になって...でも母ちゃんの遺した手紙で父ちゃんが生きてるって知って...それで俺、本気でサッカーに向き合おうって思ったんです!プロで活躍してるって父ちゃんに会うために...俺もプロになるって!」

 

「父親...か....」

 

「だから俺、まずはこの大会で優勝したいって思ってるんです!」

 

「ふっ...そうか。だがそう簡単には優勝なんてできないぞ。グループAにはまだ強敵が残っている。たとえば次に星章学園と当たる、帝国学園とかな。」

 

「はい。だからこそ俺、もっとうまくなりたいんです。」

 

「.....その気持ち、わかった。やっぱりお前は似てるよ、俺の一番の親友に。」

 

「一番の親友...?」

 

「ああ。(そして俺にも似てる。自分で言うのもなんだがな。)...決めた。俺はお前を徹底的に鍛えてやる。」

 

 

稲森はきっと、日本代表に選ばれるだろう。

日本を強くするために、今から稲森を鍛えておくのも悪く無い。

それに俺自身が稲森を気に入った。こいつを鍛えた先を見てみたくなった。

 

 

「いいんですか?」

 

「ああ、もちろんだ。ついてこられるか?」

 

「....はいっ!」

 

「だったら今からダッシュで雷門まで戻るぞ!」

 

「は、はいっ!...って、嵐山さん、風邪は大丈夫なんですか!?」

 

「そんなもん、サッカーやってれば治る!行くぞ!」

 

「ええ!?」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

風丸 side

 

 

「....以上が、星章学園のデータだ。」

 

「やはりキーになるのは鬼道、そして灰崎だな。」

 

「前回の練習試合では結局、1vs4と大差で負けている。しかもすべての点を灰崎が取っている。」

 

 

やはり鬼道はすごいな。俺なんて何とかやっているレベルだ。

しかも監督はあの影山...意外にも特に何も企んではいないのか、普通に俺たちに協力してくれている。

今回の星章学園のデータだって、監督が俺に渡してきたものだ。

撮っている角度的に、雷門ベンチから撮られているようだが一体誰が撮ったんだ?

 

 

「俺が灰崎を止める。」

 

「確かに、風丸の速さなら灰崎にも対抗できるだろうな。」

 

 

 

「それだけでは足りん。」

 

 

 

「「「「っ!」」」」

 

 

俺たちが話していると、監督が突然あらわれた。

俺が灰崎をマークするだけでは足りない...?

一体どういうことなんだろう。

 

 

「どういうことですか?」

 

「風丸一朗太。貴様のスピードは確かに灰崎よりも高い数値を誇っている。だが、鬼道はそのスピードも計算に入れているだろう。」

 

「っ...確かに...」

 

「スピードだけでは対抗できん。」

 

「だったら、灰崎には二人がかりでマークするってことかよ?」

 

 

俺と監督とのやり取りに、一人の男が横やりを入れる。

こいつは去年の年末ごろに帝国に転校してきた、不動明王という奴だ。

どうやら鬼道目当てで帝国に来たらしいが、とっくに鬼道は帝国からいなくなっているから会えずじまい。自分の頭脳に相当自信を持っているらしく、現キャプテンの佐久間にはよく突っかかっている。

 

 

 

「ふっ...二人がかり?だからお前は二流なのだ。」

 

「んだとこら!」

 

「辞めろ不動。....では監督。二人がかりでも無いなら、何が足りないというのです。」

 

「くくく...それを今から説明する。風丸、これを配れ。」

 

「資料?.....っ、これは....」

 

 

監督から渡されたのは、灰崎だけでなく星章学園の選手の身体能力を細かくデータ化したものだった。

体力や筋力、瞬発力など、ありとあらゆる身体能力のデータが記載されていた。

こんなデータ、いったいどうやって集めたんだこの人は。

 

 

「安心しろ。非合法な手段は使っていない。」

 

「信用ならねえな。あんたは神のアクアを使って、世宇子中を決勝まで進めていたんだからな。」

 

「くくく...怖いなら貴様はベンチでおとなしくしているのだな。」

 

「チッ...」

 

 

「では今から説明するのは、灰崎を、そして鬼道を封じる新タクティクス。その名も、インペリアルサイクルだ。」

 

「インペリアルサイクル....」

 

「このタクティクスは多対1の状況で発動するものだ。そうだな...相手がボールを持っているときに有効な戦術と思えばいい。インペリアルサイクルを発動するためには、相手を鳥かごのように囲む必要がある。」

 

「鳥かご...」

 

「そうすればすべてが完了する。囲んだ数人で不規則に、ただし激しく相手に突進を仕掛ける。相手はいつ来るかもわからない突撃に焦燥感を覚えるだろう。たとえばボールをキープできたとしても、激しいチャージに体力を奪われる。」

 

 

つまり、ボールを持った相手選手の体力を奪うだけでなく、下手すればボールを奪える技だ。

だが一体、何故これが灰崎と鬼道を封じる策になるんだ?

 

 

「データを見てみろ。」

 

「......っ、灰崎は突破力、ボールキープ力はありますが、パス成功率が0%です。」

 

「その通りだ。灰崎はチームプレーを行わず一人で戦う男だ。パスを封じるために動けば問題は無い。」

 

「では、鬼道は?」

 

「その逆だ。奴はチームの司令塔。奴の体力を削げばそぐほど、疲労によって正確な判断力を削げるだろう。」

 

「なるほど....」

 

 

影山にしては普通なタクティクスだ。

いや、いやらしいものではあるんだが。

だがインペリアルサイクルか...試してみる価値はある。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

星章学園vs帝国学園 前編

鬼道 side

 

 

「今日も最初から試合に出るようだな、灰崎。」

 

「ああ。」

 

「どういう風の吹き回しだ?帝国には勝ってるから出ないと言っていたと思うが。」

 

「くくく...あんたのライバルさんが俺を煽りやがったからよ。証明してやるのさ。俺がいりゃ帝国なんか楽勝だってな。」

 

 

なるほど...嵐山にどこかで会ったのか。

だがそのおかげで灰崎が試合にやる気になったのはありがたい。

感謝するぞ、嵐山。

 

 

だが今の状態では完全ではない。

今の灰崎では帝国には、総帥のサッカーには勝てないだろう。

だが灰崎は試合の中で着実に成長していっている。

悪いな風丸、佐久間、源田。この試合も灰崎の糧とさせてもらおう。

 

 

「久しぶりだな、鬼道。」

 

「以前の練習試合以来か。あれから俺たちもさらに力を上げた。」

 

「今回は俺たちが勝たせてもらうぞ、鬼道。」

 

 

「くくく....あんたら正気かよ。この前の練習試合、俺一人にボコられやがったのはどこのどいつだ?」

 

「灰崎、黙っていろ。」

 

「何だよ。元チームメイトを悪く言われて怒ったか?」

 

「違う。帝国は強い、お前よりもな。」

 

「っ...あんたもあいつと同じことを言うんだな。だったら証明してやるよ!俺が帝国よりも強いってな!」

 

 

そう言って、灰崎はこの場を去っていった。

やはり嵐山も俺と同じようなものを灰崎に感じているというわけか。

ヒントだけ与えた辺り、灰崎を導くのは俺の仕事だと言っているようだな。

 

 

「今日は良い試合にしよう。」

 

「ああ、負けないぞ鬼道。」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

灰崎 side

 

 

『さあ!フットボールフロンティア予選Aグループ!最大の注目カードが本日見られます!昨年、惜しくも予選で雷門中に敗退、本戦では準優勝を果たした世宇子中に敗北。40年間無敗だった伝説の記録は途絶えてしまいましたが、現在も衰えてはいないその実力!強化委員に風丸一朗太を迎え入れ、さらに強さを増した帝国学園!』

 

『対するは、新進気鋭の学校ながらも強化委員の鬼道有人を迎えたことで全国ランキング1位まで昇りつめた、今大会の優勝候補!星章学園!強化委員同士の対決が今、始まろうとしてます!』

 

 

くくく...鬼道、そして嵐山。あんたらが何と言おうと、俺は帝国をぶっ潰す。

帝国なんか通過点にすぎねえ。俺が見てんのは、アレスの天秤...王帝月ノ宮だけなんだからよ!

この試合に勝って証明してやる!俺が既に、奴らを捉えているってことをよぉ!

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「よこせ!」

 

「っ、灰崎っ!」

 

「何をしている灰崎!連携を崩すな!」

 

 

うるせえよ!雑魚は黙って見てやがれ!

俺がいりゃ、帝国なんぞ10点差でも付けて勝ってやるよ!

 

 

「お前たち!インペリアルサイクルを発動するぞ!」

 

「「「「「「おう!」」」」」」

 

「な、何だ!?」

 

 

帝国の奴らが、俺を囲みやがった?

くくく...そこまでして俺を止めようとすんのか。

だが俺は止まらねえ!復讐するまで止まるわけにはいかねんだよ!

 

 

「インペリアルサイクル発動!」

 

「っ....チッ、うぜえ...!」

 

 

こいつら、ピッタリとマークしやがって。うぜえ奴らだ!

いいから退きやがれ...!

 

 

「そこだ!」

 

「っ、やらせるかよ!」

 

 

へっ、馬鹿が。突っ込んできやがったから、そいつの場所が空いたぜ...って、何で埋まってやがる!

....ま、まさかこのインペリアルサイクルとかいう技は...!

 

 

 

「くくく...灰崎凌兵。まだ1年で体力も付いていない状態で私の考案したタクティクスにどこまで耐えられるかな。」

 

 

 

「次だ!」

 

「くっ...!」

 

「そこだ!」

 

「チッ...!」

 

 

 

 

「灰崎!こっち「させないよ。」...くっ...!」

 

 

ちくしょう...使えねえ連中だぜ...!

こうなったら、強引にでも正面から突破してやる...!

 

 

「ふっ....(かかったな。)」

 

「っ、待て灰崎!」

 

 

「うるせえ!退きやがれえええええええええ!」

 

「っ、うわあああああああ!」

 

 

 

『ああっと!灰崎、正面にいた成神を吹き飛ばして強引に突破してきたああああああああ!』

 

 

ピッピィィィィィィィ!

 

 

「10番、警告!」

 

「な、何ぃ!?」

 

 

イエローカードだと!?どこに目を付けてやがるんだ、くそ審判!

 

 

「やめろ灰崎。今のはお前が悪い。」

 

「何だと鬼道!あのくらいでイエローカードはおかしいだろ!」

 

「俺は妥当だと思っている。それに既に判定は下された。」

 

「っ...ふざけんじゃねえ!だいたいてめえらも帝国のディフェンスが少ねえ状態で何故ボールを取りにこれない!」

 

「周りに当たるのは辞めろと言っている、灰崎。」

 

「くっ....」

 

「言ったはずだ。今のお前では帝国には勝てないと。」

 

「黙れ!俺がいりゃ勝てる!」

 

「なら聞くが....何故、今お前はここに立っている。」

 

「な、何...?」

 

 

何故ここに立っているか、だと?

そんなもの、試合をしているからに決まっているだろ。

 

 

「違う、そういうことではない。」

 

「だったらどういう意味だ。」

 

「何故今タイムがかかっていて、お前は得点をしていないんだと聞いている。帝国に勝っているなら、ここに立っているのではなくゴール前でシュートを決めていたはずだ。」

 

「それは....!」

 

「もう一度よく考えろ。お前がすべきことが何なのかをな。」

 

 

くそ...俺がすべきことだと...?

そんなの、点を取ることに決まってるだろ...!

だから俺はボールを持ってゴールに走っていく。

なのにそれが間違いだっていうのか...!

 

 

「ポジションチェンジだ。灰崎をディフェンダーに、代わりに折尾、佐曽塚をフォワード、白鳥をミッドフィルダーに。」

 

「何だと!?俺がディフェンダーだと!?」

 

「おとなしく従え、灰崎。俺は勝つためのプロセスを踏んでいる。」

 

「勝つためだと!?だったら俺をフォワードに戻しやがれ!」

 

「....今のお前では無意味だ。」

 

 

くっ...鬼道ぉ...!ふざけんじゃねえぞ!

俺がディフェンダーをやることが、勝つためのプロセスだっていうのか!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「鬼道も結構思い切ったことをしてきたな。」

 

 

まさか灰崎をディフェンダーにするとは。

だが今の灰崎では、もう一度インペリアルサイクルを食らえばふたたびイエローカードを切られる。

そうなったら最後、灰崎はこの試合退場することになる。

灰崎というエースがいなくなったら、星章に勝ち目は無いだろうな。

 

 

「おや、また会いましたね嵐山さん。」

 

「やあ野坂、西蔭。」

 

「ふん...」

 

 

どうやらまた会ってしまったらしい。

野坂はフレンドリーだが、やはり西蔭は俺に対して睨みを効かせている。

....それにしても、西蔭の持っている赤黒い焼きそばみたいなのは何だ...?

 

 

「ああこれが気になるんですか?」

 

「あ、ああ...」

 

「これは激辛レッドホットマグマ唐辛子の紅蓮焼きそばです。」

 

「な、何だそれ....西蔭、お前それ食べるのか?」

 

「の、野坂さんが勝って下さったものだ...食べるに決まっている...だろ...」

 

 

いや、最後の方全然声出てなかったけど。

絶対食いたくないって思ってるだろ...食材を無駄にするのは良くないが、食えないものは食わない方が良い。というかフタが締まっているのに臭いがヤバい。臭いだけで喉がカラカラしてくるように感じる。

 

 

「まあこれは置いておいて...嵐山さんはこの試合、どう見ます?」

 

「(置いておくのか...)...試合は現状、帝国が圧しているだろう。」

 

「ええ。ですがあの鬼道有人がこのまま何の策も無く終わるとは思えません。」

 

「まあな....(お、西蔭がついに蓋を開けた....食う気か?)」

 

「恐らくは灰崎君の何かを待っている....だが何かとはなんだろう...」

 

「覚醒...だな。(あ、食った....)」

 

「覚醒..「ゴハッ!ゴホッ...ゲホッ...!オウエッ....!」....西蔭、汚いぞ。」

 

「す、すみませ...ゴホッ...!」

 

「全く.....それで嵐山さん。」

 

「いやいや、それはないだろ野坂!」

 

「え?」

 

 

こ、こいつマジか...さすがの俺でもドン引きのレベルだぞ。

西蔭の奴、死にかけてるじゃねえか。

 

 

「おい、西蔭。これを飲め!」

 

「す、すみません....ゴクッ...ゴクッ...」

 

「とりあえず飲み込んでないよな?飲み込んでたら絶対に腹をこわす。」

 

「の、飲み込んでないです...」

 

 

それは良かった....というか、たまたま俺が牛乳を持っていてよかったな。

なぜか会場の前でセールをやっていて、一本タダで貰えたから持っていたんだが...

ま、まさかこの激辛焼きそばを売っていたから、牛乳も売ってたのか...?

 

 

「ゲホッ...ゲホッ....あ、ありがとうございました....」

 

「い、いや...無事ならいいんだけどさ...」

 

「全く西蔭は...食べ物を粗末にしたらダメじゃないか。」

 

「す、すみません...」

 

「(えぇ.....)」

 

 

も、もうこいつらのことは放っておこう。

とにかく星章学園と帝国学園の試合を見よう。

うん、それがいい。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

灰崎 side

 

 

勝つためのプロセス...くだらねえ!

俺が点をとりゃ勝てんだよ!

 

 

「そっちに行ったぞ、灰崎!」

 

「うるせえ!俺に指図すんじゃねえ!」

 

 

「遅い!”烈風ダッシュ”!」

 

「なっ!?ぐああああああ!」

 

 

ば、馬鹿な...練習試合の時はそんな必殺技、使ってこなかったはずだ!

帝国のキャプテンの野郎...隠してやがったのか...!

 

 

「よし...風丸!」

 

「っ!....”皇帝ペンギン”...!」

「「”2号”!!!」」

 

ドゴンッ!

 

 

「させん!”もじゃキャッチ”!」

 

 

くそ...この程度のシュート、止めろ!

 

 

「ぐっ...ぐあああああ!」

 

 

『決まったあああああああああ!先制点は帝国学園です!』

 

 

 

くそ....くそぉ....くそがあああああああああああ!

俺がフォワードにいりゃ、こんなことにはならねえんだ!

 

 

「俺をフォワードに戻しやがれ、鬼道!」

 

「今はその時ではない。」

 

「ふざけるな!このまま意味わからねえことやって負けるつもりか!」

 

「さっきから言っているだろう。俺は勝つためのプロセスを踏んでいる。」

 

「っ....くそがっ!」

 

 

いいぜ、あんたがそのつもりなら俺は勝手にやるだけだ。

俺が点を取ってやらねえと勝てねえってことを証明してやる!

 

 

ピィィィィィ!

 

 

「よし!この調子でもう1点を取りに行くぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

 

「帝国は強くなったな、風丸。」

 

「当然さ。俺たちだってフットボールフロンティア優勝を目指しているからな!」

 

「ふっ...だがこの試合は俺たちが勝たせてもらおう。」

 

「さあどうかな!」

 

 

チッ...元仲間同士で仲良くお話しかよ。

俺の邪魔をする奴は全員ぶっ潰してやるよ!

 

 

「どけぇ!」

 

「っ、灰崎!」

 

 

俺は鬼道からボールを奪って、相手ゴール前へと駆け上がっていく。

くくく...どいつもこいつも雑魚ばかりだぜ。

 

 

「遅い!」

 

「な、何ぃ!?」

 

 

ば、馬鹿な...この野郎、鬼道と話していて俺への反応が遅れていたはずなのに、もう俺に追いついてきただと!?

 

 

「ここは通さない!はあ!」

 

「ぐっ!」

 

 

くそ...があああああああああああ!

 

 

 

「決めろ!佐久間!不動!」

 

「おう!」

 

「俺に指図すんじゃねえよ!」

 

 

「「”ツインブースト”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

「ぬっ!!!ぐああああ!」

 

 

『ゴーォォォォォォォル!帝国、追加点!ランキング1位の星章学園を圧倒しています!これが昨年まで、40年間無敗を誇っていた最強のチームの実力ということでしょうか!』

 

 

 

「くそ....何でだ...どうして俺の力が通用しねえ...!」

 

「灰崎....」

 

「っ....俺はこんなところで立ち止まっているわけにはいかねえ....行かねえんだよ....!」

 

「灰崎!」

 

「っ!」

 

「お前はなぜ、一人で戦う。」

 

「はぁ?何を言ってやがる。」

 

「お前には見えていないのか!ともに戦う、仲間たちが!」

 

「ともに戦う仲間だと...?」

 

 

そんなもの、何の役にも立たねえじゃねえか。

俺が一人いりゃ、勝てねえはずがねえんだ....

 

 

「...お前が一人で戦うというなら、今すぐこのチームを抜けろ!」

 

「な、何ぃ!?てめえ、キャプテンだからって偉そうにしやがって!」

 

「いい加減にしろ、灰崎!サッカーは11人でやるスポーツだ。それにフットボールフロンティアは俺たちの憧れ...この大会で優勝するために、俺たちはこの1年間頑張ってきたんだ。この大会も、この試合も...お前一人のためのものじゃない!」

 

「っ.....」

 

「お前がどんな理由でサッカーをやろうと、何を思ってサッカーをやろうと関係ない。一緒に戦う以上、一人ですべてをなそうとするな。」

 

 

っ....一人ですべてを成そうとするな、だと...?

そんなの、お前らが使い物にならねえから....

 

 

『ならなぜ、お前はここに立っている。』

 

「っ...!」

 

『この大会も、この試合も...お前一人のためのものじゃない!』

 

『帝国は強い。今の灰崎では勝てない。』

 

 

俺は....俺は....茜のために、茜をあんな風にしたアレスの天秤をぶっ潰すために...

 

 

 

『復讐が終わったら、一緒にサッカーしないか?』

 

「っ!」

 

『ただ楽しくサッカーやるのも悪くないぜ?』

 

 

楽しいサッカー....俺は最初から、復讐の道具としてサッカーをやってきた。

だがここにいるやつらは違う...星章のやつらも、帝国のやつらもただ純粋にサッカーを楽しんでやがる。

それが俺と奴らの差だとでもいうのか?俺がサッカーを楽しんでいないから、勝てねえとでも言いたいのかよ。

 

 

 

『もう一度よく考えろ。お前がすべきことが何なのかをな。』

 

 

「俺のすべきこと....わかんねえ...わかんねえよ....鬼道....嵐山....」

 

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

星章学園vs帝国学園 後編

嵐山 side

 

 

「”マキシマムサーカス”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「シュートチェイン!”マッハウィンド”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「くっ!”もじゃキャッチ”!....ぐああああ!」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『帝国学園、さらに追加点!恐るべし、帝国学園!ランキング1位の星章学園を圧倒しております!』

 

 

 

まさかここまでとはな...帝国学園、風丸の加入はもちろんだが、あの不動って奴もなかなかの切れ者だな。鬼道と同じくらいの頭の回転だ。そして純粋にサッカーをしている影山がここまで脅威だとは...

 

 

「この試合、帝国の勝ちで決まりですね。」

 

「野坂、帰るのか?」

 

「ええ。既にデータは取り終えています。これ以上、試合を見る必要はありません。」

 

「そうか。」

 

「....嵐山さんは、このまま試合は終わらないと考えているんですね。」

 

「まあな。鬼道がこのまま終わるはずが無い。それに....」

 

 

灰崎はきっとまた立ち上がる。

その時、灰崎の中にサッカーを楽しむ気持ちが生まれていたら、試合はまだわからない。

 

 

「俺は見てみたいんだよ。俺の見据える先へ行くための、新たな星をさ。」

 

「新たな星...」

 

「そういう意味では、お前にも期待しているんだぞ?」

 

「僕に...ですか?」

 

「ああ。.....王帝月ノ宮中キャプテン、野坂悠馬。」

 

「僕のことを知っていたんですね。病院で会っただけの存在だと思っていたのに。」

 

「知ってるさ、さすがに。まあ病院で会った時は知らなかったけど。」

 

 

アレスの天秤システムで話題の月光エレクトロニクスがスポンサーを務める、王帝月ノ宮中。

サッカー部に所属する彼らも、アレスの天秤システムの被験者だと聞く。

次世代の教育プログラムとのことだが、塔子に調べてもらった限り、あまり良い噂を聞かない。

あまりにも胡散臭いシステムだが、現状は表立って批判を受けてはいないらしい。

 

 

「僕たちはこのまま無敗で決勝トーナメントに進出します。決勝であなたたちと対戦するのを楽しみにしていますよ。」

 

「....失礼します。」

 

「ああ。俺も楽しみにしているよ。」

 

 

野坂と西蔭は去っていった。

さて、俺はこのまま試合を観戦しますかね。

それにしても灰崎のやつ、2点目を決められてからは随分とおとなしくしているが...

まさか、折れてないだろうな。ここで折れるような奴ではないと思うが、もし折れるようなら世界とは到底戦えないぞ。

 

 

.....

....

...

..

.

 

灰崎 side

 

 

 

「俺のすべきこと....」

 

 

 

「”疾風ダッシュ”!」

 

「くっ!」

 

 

「マズイ!風丸さんを止めるんだ!」

 

 

チッ...少しは考える時間が欲しいが...そうも言っていられねえ。

帝国学園...認めてやるよ。あんたらは強え。だが、俺だって負けられねえんだ。

 

 

「っ、どこ見てやがる!そっちじゃねえ!」

 

「っ!」

 

 

「ふっ...佐久間!」

 

「くっ!佐久間さんか!」

 

 

チッ...どいつもこいつも風丸に釣られやがって!

俺がいなけりゃ、やっぱりへぼの集まりじゃねえか!

 

 

「おらぁ!」

 

「くっ!」

 

 

「よし、いいぞ灰崎!」

 

 

俺が佐久間からボールを奪い、ドリブルで駆けあがる。

だが帝国の奴らがすぐさま俺の周りを囲み始めた。

やはりまた、”インペリアルサイクル”で来るつもりか...!

 

 

「くそっ...!」

 

「灰崎!こっちだ!」

 

「っ、鬼道.....受け取りやがれ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「なっ!?」

 

「何だこのパスは!?」

 

 

俺はシュートを打つ時のように、思い切り蹴って鬼道にパスを出す。

鬼道はそのパスを難なく受けてみせ、そのままドリブルで駆けあがる。

帝国の連中は、シュート並みの速さのパスに驚いていやがる。

 

 

「(なるほどな...これくらいの威力でパスを出せば、帝国の奴らはついてこれねえのか。)」

 

「(ふっ...気付き始めたか、灰崎。)」

 

 

「ここは通さんぞ、鬼道!」

 

「くくく...通しませんよ鬼道さん。」

 

 

「佐久間、五条か。悪いが通させてもらおう。”イリュージョンボール”!」

 

「「くっ!」」

 

 

よし...鬼道が抜いたことで、俺に集まっていた帝国の奴らが離れていっている。

しかもほとんどが俺と鬼道についていたせいで、他ががら空きじゃねえか。

 

 

『俺は勝つためのプロセスを踏んでいる。』

 

 

「っ!」

 

 

まさか鬼道の野郎、俺をディフェンダーに下げたのは俺がイエローカードを食らったからじゃねえ、俺に帝国の奴らの動きを把握させるため...?

 

 

「(くくく...これがあんたのサッカーか。おもしれえ。ノってやるよ鬼道ぉ)」

 

「(ふっ...)灰崎!」

 

 

「「「っ!」」」

 

「しまった...!」

 

「ここで灰崎かよ..!」

 

 

 

「くく...決めてやるぜ、鬼道!」

 

 

「来い、灰崎!今日は負けんぞ!」

 

 

右サイドから駆けあがった俺に合わせて、源田が俺の方を向く。

くくく...キング・オブ・ゴールキーパーがそんな簡単に釣られてどうするよ。

 

 

「おらよ。」

 

「なっ!?」

 

 

「っ!(灰崎が俺にパスを....このシュート、絶対に決める!)”スペクトルマグナ”!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺がパスをするのがよほど意外だったのか、源田は完全に体勢を崩している。

そしてキツネ(折緒)はその状況を逃さないと、すぐさまシュートを放った。

 

 

「くっ....うおおおおおおお!」

 

「なっ!あの体勢からシュートに手を合わせてきただと!?」

 

「くくく...これがキング・オブ・ゴールキーパーか。その執念は凄まじいが、それじゃあ止めることはできねえぜ。」

 

「くっ...ぐあああ!」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『ゴーォォォォォォル!星章学園、ついに1点を奪いました!フィールドの悪魔の異名を持つ灰崎選手が、まさかのパス!意表を突かれたキング・オブ・ゴールキーパー、源田幸次郎からゴールをもぎ取りました!』

 

 

 

くくく...これで1vs3。まだまだ射程圏内だぜ、帝国学園。

ここから一気に逆転してやるからよ。

 

 

「灰崎。」

 

「鬼道か。」

 

「...自分の成すべきことがわかったか?」

 

「とりあえずはな。あんたのおせっかいで相手の守備の穴は見えた。俺をフォワードに戻してくれたら、逆転してやるぜ?」

 

「ふっ...相変わらずの自信家だな。嵐山が気に入るわけだ。」

 

「あ?」

 

 

あの野郎が俺を気に入ってるだと?

あいつは俺を随分と過小評価してくれたが....いや、だがあいつの言っていることは本当だった。

帝国は強い。そしてあのままの俺じゃ勝てなかった。

 

 

「くくく...今度あいつに会ったら言っておけ。勝つのは俺だとな。」

 

「そうか...だが嵐山はさらに上の次元にいる。今の宣言は、お前がさらなる次元に辿り着くという宣言と捉えて良いのか?」

 

「何を言ってやがる。当然のことだ。」

 

「ふっ...そうか。だが俺も負けんぞ、灰崎。」

 

「あ?....くくく...いいぜ、面白くなってきやがった。」

 

 

待っていやがれ、嵐山。お前がどれだけ高みにいるか知らねえが、すぐに追いついてやる。

だがまずはこの試合だ。ここで負けちゃ本末転倒だからな。

 

 

「ポジションチェンジだ!」

 

「くくく....ここからが本番だぜ...帝国学園!」

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

「へぇ...」

 

 

まさか自分で気付くとはな。もう少し狂犬なイメージだったけど、案外お利口なんだな。

それにしても源田の意表を突くとは、なかなかやる。あの場面で決めた折緒もやる。

これが星章学園の強さか。一人一人がかなりのレベルだ。

 

 

「このまま行けば帝国が勝つが....やはり、こうなった灰崎は脅威だな。」

 

 

 

「くくく...”オーバーヘッドペンギン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「くっ...止めてみせる!”フルパワーシールド”!...っ、ぐああ!」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『ゴーォォォォォォル!2vs3!初得点から火がついたか!星章学園、脅威の追い上げです!』

 

 

 

なるほどな...灰崎のあの必殺技はかなりの威力があるようだ。

あの源田が止められないとは...だが、源田はまだ落ち着いている。

それに帝国イレブンも、影山も....まだ秘策があるということか?

 

 

「ここは通してもらうぜ!」

 

「させません!”ゾーン・オブ・ペンタグラム”!」

 

「くっ...なんだこれは...!」

 

 

へえ...面白い技だな。広げた空間を出ようとすると、ボールがあらぬ方向へ弾かれるのか。

あれはパス限定の挙動なのか?それともドリブルで出ようとしても同じなんだろうか。

面白い....水神矢成龍か。

 

 

 

「行け!灰崎!」

 

「ここは通さん!」

 

「くくく.......俺ばかりに注意してたら、最初の得点みたくなっちまうぜ?」

 

「っ!...その手には乗らん!」

 

 

さすがは風丸だ。だが....

 

 

「ならパスさせてもらうか。...行け、トゲトゲ!」

 

「任せトゲ!」

 

「の、のっかった!?」

 

「くっ...!」

 

 

そうだ。今の灰崎にはパスの選択肢もある。

いくら”インペリアルサイクル”を発動させようと、灰崎の強烈なパスを繰り出されては帝国に止める術はない。

 

 

「だったらお前を止める!」

 

「あら残念....灰崎!」

 

「っ!」

 

 

 

「くくく....”デスゾーン”開始。」

 

 

「「「「っ!」」」」

 

 

 

へえ...鬼道の奴、”デスゾーン”を継承していたか。

しかもそれを帝国相手に披露するなんて、かなりの性格の悪さだな。

 

 

「「「”デスゾーン”!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

「くっ....”フルパワーシールド”!っ....ぐああああああああああああ!」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『ゴーォォォォォォル!同点!同点です!帝国の十八番とも言ってもいい”デスゾーン”を発動し、まさかのゴールを決めました、星章学園!』

 

 

さて...残り時間もあとわずか。どっちが勝ち越し点を手に入れる。

はっきり言って、このまま引き分けでもこいつらは恐らく決勝トーナメントに進むだろう。

だがこの試合だけは負けたくない、そんな気持ちがはっきりと伝わってくる。

 

 

「勝つのは俺たちだ!」

 

「くくく...俺たちが勝つ!」

 

 

 

「「うおおおおおおお!!!!」」

 

「っ、ぐあああああああああああ!」

 

「チッ...ぐああああああああああ!」

 

 

佐久間と灰崎が空中でボールを蹴り合い、衝突する。

お互い一歩も譲らない攻防の末、二人とも弾き飛ばされ、ボールはその中央で打ちあがる。

全員がボールを奪いに行くが、誰よりも速く動いていたのは、風丸ではなく鬼道だった。

 

 

「なっ!?鬼道!?」

 

「悪いな、風丸。スピード勝負ではお前に勝てないが、判断の速さは俺の方が早かったようだ。」

 

「くっ...!(だが、鬼道に打てるシュートは今は無い...!)」

 

 

「ふっ...使わせてもらうぞ、灰崎!」

 

「あ?」

 

 

ほう...あの動き、まさか鬼道が一人でシュートを打つとはな。

灰崎とは違って、帝国カラーのペンギンか。

 

 

「”オーバーヘッドペンギン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「鬼道がシュート...!(俺の全身全霊を持って止めたい...!だが、今の俺では”あの技”は使えん...くそっ...!)”フルパワーシールド”!」

 

 

鬼道の”オーバーヘッドペンギン”と、源田の”フルパワーシールド”が激突する。

ボールがまず障壁へとぶつかり、そしてペンギンのくちばしがぶつかる。

すると障壁にヒビが入り、徐々にそれは広がっていき....

 

 

「くっ....(完敗だ、鬼道...そして灰崎....)...ぐああああああああああ!」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『ゴーォォォォォォル!ついに星章学園、勝ち越し!』

 

 

ピッピッピィィィィィィィ!

 

 

『そしてここで試合終了のホイッスル!前半、圧倒的な強さを見せつけた帝国でしたが、星章学園の後半の追い上げを止めることができず、無念の敗北!しかしまだまだ試合は続きます!果たして、グループAを勝ち上がるのはどの学校か!』

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

ガコンッ!

 

 

「....良い試合だったな、灰崎。」

 

「あんたか...言ってた通り、見に来てたんだな。」

 

 

俺は試合後の選手が通る道で、コーヒーを買っていた。

灰崎に用があったから、待ち伏せさせてもらった。

 

 

「ああ。...ほら、お疲れさん。」

 

「っと...何だ、コーヒーか。」

 

「ん?飲めないのか?」

 

「いや....」

 

 

灰崎は受け取ったコーヒーを空けて、その場にあったソファに座って コーヒーを飲み始めた。

俺も買ったコーヒーを飲みながら、壁にもたれかかる。

 

 

「....あんたのいう通りだったよ。」

 

「だろうな。帝国は強い。そんなの、俺たち元雷門が一番よく知っていることだからな。」

 

「ああ、そうなんだろうな。....話を聞いてくれるか。」

 

「...何だ?」

 

 

そこから灰崎はポツリポツリと、自分のことを話し始めた。

宮野茜という幼馴染がいて、彼女は月光エレクトロニクスが開発したアレスの天秤システムの被験者となった。そこまでは良かったのだが、何と彼女はシステムの影響で感情を失ってしまったのだ。

 

月光エレクトロニクスの会長である御堂院宗忠は、これを情報操作と圧力で隠蔽し、今もアレスの天秤システムを利用し続けているらしい。

 

灰崎はそんなアレスの天秤システムを許せず、次に彼らが推し進めている最高のサッカープレイヤーの育成を対抗の目標とし、サッカーを始めたのだ。

 

 

「...ってことさ。だから俺はアレスを、王帝月ノ宮を倒す。それが俺の復讐なのさ。」

 

「そうか....」

 

 

思っていた以上に重たい話だな。

正直、俺が何かしてやれることはなさそうだ。

 

 

「どうして、俺にそれを話す気になったんだ?」

 

「...さあな。あんたは何となく話しやすい雰囲気だったから...かもな。」

 

「......灰崎!」

 

 

俺はそのまま立ち去ろうとする灰崎を呼び止めた。

俺がこんなこと言ったって、灰崎には何も響かないだろうが...

 

 

「何だ?」

 

「....俺はお前を肯定も否定もしない。俺自身としては、復讐なんて何も生まないと思っているからな。」

 

「...それで?」

 

「だが、俺も誰よりも大切な存在が何者かによって害された時は...お前と同じ気持ちになるかもしれない。復讐に焦がれて、周りが見えなくなるかもしれない。」

 

「....」

 

「だからこそ、肯定も否定もしない。ただ一つだけ約束してくれ。」

 

「約束...?」

 

「ああ。....全部終わったら、一緒にサッカーをするって約束だ。あの時した約束、忘れんじゃねえぞ。」

 

「.....くく......フハハハハハハ!....ああ、約束してやるよ。」

 

 

そう言って、灰崎は笑ってくれた。

今の灰崎ならきっと大丈夫だ。復讐に囚われて、周りを傷付けるなんてことはないだろう。

 

 

「そうか。楽しみにしている。....じゃあな。」

 

「ああ。あばよ............嵐山、さん...」

 

 

 

くく...別に呼び捨てでも構わないのに、可愛いところもあるじゃないか。

ま、あれで去年まで小学生だったんだ。少しくらい可愛げがある方がらしいかもな。

 

 

 

それにしても、アレスの天秤システムの被験者が感情を失った、か。

他にも調査すれば色々出てくるかもしれんな。

 

 

prrrrrrrrrrrrr....ガチャ!

 

 

『もしもし。』

 

「よう、塔子。」

 

『あっ!嵐山!どうしたんだよ、急に。』

 

「悪いな。ちょっと今回の大会が終わるまでに調べて欲しいことがあってさ。」

 

『ふ~ん...あんたからの情報だし、それなりの信憑性もあるだろうね。』

 

「まあな。」

 

『了解。調べてみるから、情報をあたしとパパに送ってよ。』

 

「ああ。...ただ、今回の件は政府も関わっている内容だ。慎重に行きたい。」

 

『オッケー。それだったらスミスを送るから、データを受け渡す方式にしようか。』

 

「ああ、頼む。」

 

『大丈夫。...あたしに任せな。』

 

「ふっ...頼もしい限りだ。」

 

『へへ。..じゃあ時間と場所はあとで連絡するからな!』

 

「おう。またな。」

 

 

ピッ

 

 

さて...政府が関わっているプロジェクトで問題か。

これからどうなることやら....

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嵐山の導き

杏奈 side

 

 

「まだまだ!こんものか、稲森!」

 

「くっ....まだです!まだやれます!」

 

「だったらもっとぶつかってこい!」

 

「はい!」

 

 

隼人さん、稲森君のことをものすごく厳しく鍛えてる。

それだけ隼人さんは彼に期待してるってことよね。

でも確かに、彼の成長は凄まじいものを感じる。

 

 

この前の御影専農との試合、稲森君の新たな必殺技である”イナビカリダッシュ”によって相手を一瞬で抜き去ると、小僧丸君の”ファイアトルネード”で先制点をもぎ取った。

 

その後も稲森君が縦横無尽の活躍を繰り広げ、それに応えるかのようにのりかさんが”ウズマキ・ザ・ハンド”、日和君が”シューティングカット”を習得、そして最後は稲森君が隼人さんの”ウイングショット”もどきを放って追加点を加え、2vs0で勝利していた。

 

あの日、監督はある事情でベンチにいなかったんだけど、稲森君がみんなを鼓舞して、さらに自らも活躍することでみんなを引っ張っていた。まるで隼人さんのようだと思った。(もちろん、隼人さんの方が数倍....いえ、数億倍くらいすごいけど。)

 

 

そして今も監督は稲森君以外の選手は鍛えているけど、稲森君のことは完全に隼人さんに任せている。

確かに隼人さんのおかげで稲森君はどんどんうまくなってるけど...一応、隼人さんは別の学校の敵なんだから、少しは心配しないのかしら。

 

 

「みなさーん!休憩時間です!しっかり水分を補給して下さいね!」

 

「ぷはぁ...!最近の練習は普通にきついぜ....」

 

「確かに、最初の頃は監督の独特な練習をやってたけど、最近は普通に真面目なサッカー練習だよな。」

 

「キャプテンは何か聞いてないんですか?」

 

「いや、聞いてないな。」

 

 

確かに...ここ最近はずっと真面目にサッカーやってる印象よね。

そのおかげで、みんながレベルアップしているのはわかるけれど...最初が最初だっただけに、みんなも気になっているみたい。

 

 

「おーほっほっほ。皆さん、私を疑いすぎです。」

 

「あ、監督。だったら何で最近は普通の練習なんです?」

 

「それはですね...」

 

「「「それは....?」」」

 

「.....教えませーん。」

 

 

そんな監督の態度に、みんながコントみたいに崩れ落ちた。

全くもう...この監督はいったい何を考えているのかしら。

でも、最近は隼人さんと一緒にいられるし、そういう意味では悪くないわね。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「ふぅ...」

 

 

俺が稲森を鍛え始めて数日経ったが、稲森の潜在能力は想像以上だ。

元々センスはあると思っていたが、少し見せただけで俺の”ウイングショット”を真似ることができるとはな。だがキック力や蹴り方のコツなんかが違うから、ちゃんと形になった”ウイングショット”は打ててなかったが。あの感覚を参考にすれば、稲森だけの必殺技も完成するかもしれない。

 

 

そういえば、基山から連絡があったが永世学園は決勝トーナメント進出が決まったらしい。

永世学園は今のところ勝ち点が15だが、他のチームが残りの試合を勝っても、勝ち点が15に届くところは無いらしい。どうやら永世学園以外は接戦も接戦で、引き分けが多かったらしい。

 

 

「おーほっほっほ。嵐山君、少しいいですか?」

 

「どうしたんですか?」

 

「相談があります。あなたのチームと試合をさせてくれませんか?」

 

「永世学園と雷門中で練習試合をしたい...ということですか?」

 

「ハイ、そうなります。」

 

 

確かに、雷門を鍛えるには試合が一番だろう。彼らは既に基礎的な部分はしっかりとしている。

あとは経験を積むのが一番だが、現在は大会の真っ只中。普通は練習試合なんてやってられるわけがない。だが永世学園は既に決勝トーナメント進出を決めている。特に負担ではない。

 

 

「まあ俺としては問題無いですけど、監督に聞いてみないことには何とも...」

 

「そうですか。では今から聞いてもらってもいいですか?」

 

「い、今からですか?」

 

「ハイ。こういうのは早い方が良いでしょう。」

 

「まあそうですけど...(結構図々しいな。)」

 

 

俺は仕方なく、瞳子さんに連絡を入れてみる。

すると少ししてから連絡が返ってきた。どうやら試合を受けても良いとのことだ。

ただし、時期は予選が終わってから、と最もな意見を述べてきた。

 

 

「あの、一応許可はとりましたけど、予選が終わってからだそうですよ。」

 

「おーほっほっほ。問題ありません。」

 

「(なるほどな....この人は最初から優勝校の特権を使うつもりで予選に挑んでいたのか。そして予選は捨て、俺にある程度選手たちを本気で鍛えさせる。うまく利用されたか。)」

 

「おーほっほっほ。そんなに怖い顔をしないで下さい。」

 

「今回は許しますが、俺を利用しようと言うなら痛い目を見ますよ。」

 

「それは怖いですねえ。ですが安心して下さい。予選の間だけですから。」

 

「そう大胆に宣言されるとな....まあいいですけど。」

 

「おーほっほっほ。」

 

 

話は終わりだとでも言うように、監督は笑いながら去っていった。

全く...自由気ままというかわがままというか...振り回される側の気持ちも考えて欲しいものだが。

だが雷門と練習試合は面白そうだ。その日まで徹底的に稲森を鍛えて、永世学園をアッと驚かせよう。

そしてそれを倒すことで、永世学園はさらに高みへと登っていける。

 

 

「さて...そうと決まれば特訓再開だ。稲森!」

 

「は、はいっ!」

 

「すぐに特訓を再開するぞ!」

 

「わかりました!」

 

 

水分補給を行っていた稲森を呼び出し、ふたたび特訓を再開する。

さあもっと化けてくれよ、稲森。お前が強くなれば日本は強くなるし、それを永世学園が倒すことでさらに日本が強くなる。

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「頼む!俺の必殺技を完成させるために協力してくれ!」

 

「お、おい...とりあえず土下座は辞めろ!」

 

 

そんなこんなで稲森を相手に特訓を続けていたのだが、ここで体力的に稲森がギブアップ。

今日はこのくらいにしてクールダウンしておけ、という話をして俺は一人練習を続けていたのだが、いきなり剛陣が俺のところにやってきて、土下座をしたのだ。

 

 

「俺、みんなみたいに必殺技が打ちてえ!俺だって、ここぞって時に決められる男になりてえんだよ!」

 

「....まあお前の気持ちは良くわかる。ストライカーとして、決めなきゃいけない場面は何度もやってくる。その時に必ずシュートを決める...そんな奴が真のエースストライカーだと思っている。」

 

「うんうん...!」

 

 

俺の話に剛陣が激しく首を振って同意してくれる。

ちらっと見ると、なぜか小僧丸もわかると言いたげなくらい首を振っていた。

 

 

「それで?」

 

「え?」

 

「いや、必殺技。まさかどんな必殺技を打ちたいか、っていうイメージすら無いなんて言わないよな?」

 

「お、おう...えっとだな...」

 

「剛陣さん、”ファイアトルネード”!”トルネード”、ですよ!」

 

 

ん?こいつ、”ファイアトルネード”を打ちたいのか?

それだったら小僧丸に教えてもらえば良いのに。

あいつだって”ファイアトルネード”を教えるくらい、してくれるだろう。

 

 

「ち、違えよ!...えっと、俺のイメージしてる必殺技はな、炭酸が弾けるみたいに、打った瞬間じゃなくて相手が触れた瞬間に爆発するような感じなんだよ。名付けて、”ファイアレモネード”!」

 

「ふむ....何故”ファイア”なのかは置いておいて...そうだな。今の説明をそのまま解釈するなら、溜めたオーラを蹴った瞬間はそのまま、相手が触れた瞬間は爆発....こんな感じか?」

 

 

そう言って、俺はボールに軽く力を溜めて蹴る。ボールはオーラを保ったままゴールへと向かっていき、ゴールネットに触れた瞬間、オーラがはじけ飛んだ。

 

 

「お、おおおおおお!そうだよ!そんな感じだよ!」

 

「なるほどな......剛陣、お前に秘密の特訓ノートを授けてやる。」

 

「ひ、秘密の特訓ノート...?」

 

「ああ。だがそれは俺にとっても大切なものだ。本物を渡すことはできない。だからコピーをお前にやる。それで特訓し続けろ。....諦めなければ、きっとものにできるはずだ。」

 

「あ、嵐山.....ありがとよ!絶対”ファイアレモネード”を完成させるから、見ていてくれ!」

 

「ああ。楽しみにしてる。」

 

 

そうして俺は、剛陣に祖父ちゃんの特訓ノートのコピーを渡した。

はっきり言って、頭の中でイメージできている必殺技が打てないのは、技量が足りていないからだ。

だからこそ今は、必殺技を打とうとする練習ではなく、技量を上げる特訓をさせるべきだ。

 

それにあれだけイメージできているんだ。実際、あの特訓を続ければ自ずと必殺技が身につくはずだ。

それにしても剛陣か....あいつもなかなか面白い奴だ。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

灰崎 side

 

 

「おらあ!」

 

バシュン..!

 

 

「へえ...随分と練習熱心になったな、灰崎。」

 

「あ?....何だあんたか。」

 

「キャプテンと呼べと......まあいい。どういう心境の変化だ?」

 

 

俺が練習していると、キャプテンの水神矢があらわれた。

練習着を来ている辺り、こいつも練習をしに来たようだな。

それにしても、心境の変化か....

 

 

「今の俺じゃ、勝てるものも勝てねえ。目的を果たすにはまだ力が足りねえんだよ。」

 

「そうか....よし、なら俺と一緒に練習するぞ!」

 

「はぁ?何でそうなるんだよ。」

 

「一人でできることは限られている。俺たちはチームなんだ。お前が叶えたい目標、俺にも手伝わせてくれよ。」

 

「.....くくく、相変わらずのお人よしだな、あんたは。」

 

 

だが、そういう考え方も悪くはねえ。俺がもっと高みへ行くには、俺だけの力じゃ足りねえ。

使える奴はどんどん使っていく....それに、もう一つ目標もできたしな。

 

 

「(灰崎の奴、随分と楽しそうだな。灰崎を変えたきっかけ...できることなら俺もキャプテンとして知りたいが、詮索するのは野暮ってものか。)」

 

「おらおら!どうした!そんなもんか!」

 

「ふっ、後輩が調子に乗るな。.....なあ灰崎。お前の目標...それって王帝月ノ宮が関係しているか?」

 

「っ!....ああ。」

 

 

まさかこいつにもバレているとはな。鬼道が喋ったか?

いや、あいつはそんな無駄なことはしねえはずだ。

ってことはこいつが自力で辿り着いた答えってわけか。

 

 

「そうか...ならお前に良いことを教えてやる。」

 

「あ?」

 

「俺たちがもし、1位でグループAを通過した場合、ほぼ100%の確率で決勝トーナメントの初戦の相手は、王帝月ノ宮になる。」

 

「っ!」

 

 

マジかよ...確かにそんな噂は聞いていたが、本当に当たることになるかもしれねえとはな。

見えてきたぜ、奴らの背が。奴らを食らって、俺は復讐を遂げてやる...!

 

 

「高ぶってきたぜ!もっと本気で勝負だ!」

 

「ふっ....来い、灰崎!」

 

 

 

待っていろ、王帝月ノ宮...!お前らを倒したら俺の復讐は終わる..!

そしてもう一つの目標....嵐山サンに勝つ!そのために俺はサッカーを極めてやるぜ!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

激突!雷門vs帝国

嵐山 side

 

 

「よう、鬼道、灰崎。お前らも試合を見に来たんだな。」

 

「ああ。俺としても今の雷門と帝国がどのような試合をするか気になってな。」

 

「俺は鬼道に連れられてな。たまには息抜きも必要だとかぬかしやがる。」

 

「当然のことを言ったまでだ。最近のお前は少しオーバーワーク気味だ。」

 

「へえ...灰崎は最近頑張ってんだな。」

 

「お、おう....」

 

 

さて、俺が今どこにいるかというと、帝国学園のサッカーグラウンドに来ている。

理由はさっき鬼道が言った通り、雷門と帝国の試合が行われるからだ。

今のところ、グループAは星章学園が全勝でトップ。次点で1敗のみの帝国となっている。

雷門は1敗と1分なので、帝国に勝てばグループ2位に躍り出る。よって、この試合は雷門にとっても、帝国にとっても重要な試合となっている。

 

 

「鬼道はやっぱり帝国を応援してるのか?」

 

「まあな。俺が抜けた後の帝国がどうなっているか、風丸がどこまで帝国を強くしたか、どれも気になるさ。そういうお前は雷門を応援しているのか?」

 

「そうだなぁ....どっちも応援してるけど、俺が育てた稲森がどこまで戦えるかは楽しみかもな。」

 

「何...?あんた、あいつを鍛えてんのか?」

 

「ん?ああ。...そうだ、灰崎も一緒に練習するか?」

 

「な、何を言ってやがる。俺たちは敵同士だぞ。」

 

「いや、それもありだな。」

 

「なっ!?鬼道!?」

 

「お前は俺や水神矢の言うことには反抗するが、嵐山の言うことは素直に聞くところがあるからな。嵐山になら安心して預けられる。それに灰崎はお前を目標にしているようだしな。」

 

「き、鬼道!余計なことを言うな!」

 

 

へえ...灰崎が俺を目標に、ね...それは嬉しいことだ。

俺ももう3年だし、後輩をしっかりと育成していきたいしな。

俺たちが抜けた次の年からも、フットボールフロンティアを...いや、中学サッカーを盛り上げてもらいたいからな。

 

 

「なら決まりだな。予定はお前に合わせてやる。連絡先を交換しようか。」

 

「っ...くそ、調子が狂うぜ。」

 

 

そう言いながら、灰崎は携帯を取り出す。

どうやら一緒に練習する気になったみたいだな。

なんだかんだで素直な奴だ。鬼道もそれを見て笑っている。

 

 

「くっ...笑うな、鬼道!」

 

「ふっ...良い子で頑張るんだぞ。」

 

「プッ....」

 

「くっ....!」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

風丸 side

 

 

「は、離せこの野郎!僕を誰だと思っていやがる!僕のパパは鬼道重工の重役だぞ!この!離せ!ふざけんな!この鉄骨野郎!」

 

 

な、何だ...?変な奴が黒服に連れられていったが...

帝国サッカー部のユニフォームを来ていた気がするが...あんな奴いたか?

 

 

「失礼します。」

 

「...風丸か。どうした。」

 

「試合前のミーティングの準備ができたので監督を呼びに......それにしても、あれは何ですか?」

 

「ふっ...気にするな。ただのクズだ。」

 

「は、はぁ...」

 

 

ただのクズって....それはあんたも同じじゃ...いや、でも最近は普通にサッカーしかしてないしな。

それにしても、鉄骨野郎か...くく、言いえて妙だな。

 

 

そんなこんなで俺は監督と一緒に控室へと戻る。

正直、影山が監督に戻ってきたときは肝を冷やしたけど、最初の頃は特に指示もせずに見ているだけだったし、暫くしてからは俺たちのデータを元に効率の良い練習方法などを提案するなど、普通に良い監督をしている。今は警戒はしているが、信頼もしているという変な気持ちだ。

 

 

「来たか、風丸。」

 

「揃っているな。試合前のミーティングを始めるぞ。」

 

「ミーティングってもよ、今の雷門なんて余裕じゃねえのか?」

 

「ふっ...そうとも限らんぞ、不動。」

 

「へえ...あんたにはどう見えてるんだよ、影山零治。」

 

「おい、監督だぞ。」

 

 

相変わらず、俺以外は監督に敵意をむき出しだな。

新参の不動でさえこれだし、俺の方がおかしいのかもしれないな。

だが今の監督は大丈夫だと思いたい。

 

 

「今の雷門で注意しなければならないのは二つだ。」

 

「二つ...?」

 

「ああ。まずは監督の趙金雲だ。奴の策は我々の常識で考えていては対処できん。」

 

 

確かにあの新監督、変な人って印象の方が強いけど、指示は的確だよな。

あれのおかげで美濃道山に引き分けていたからな。

 

 

「そしてもう一つ....稲森明日人だ。」

 

「稲森....確か10番のフォワードでしたね。」

 

「そうだ。奴は今、嵐山隼人の特訓を受けている。雷門イレブンの中でも驚異的な速度で実力を付けている。」

 

「嵐山が...」

 

 

あいつが直々に特訓を付けるくらいだ、稲森の実力は相当なものなんだろう。

嵐山は自分にも他人にも厳しくできる奴だ。それがサッカーなら特に。

今回の試合、想像以上に厳しい戦いになるかもしれないな。

 

 

「ではインペリアルサイクルは稲森を中心に使うようにしますか?」

 

「いや、今回はインペリアルサイクルは不要だ。稲森は灰崎と性格や考え方がまるで異なる。恐らくは圧力をかけても無意味だろう。」

 

「だったら正々堂々、真正面からぶつかるってか?」

 

「ふっ...そういうことだ。」

 

「はぁ....?」

 

「私が収集した現在の雷門のデータだ。これを元に的確なパスルート、ディフェンス範囲、シュートタイミングを計算しろ。こういったことはお前が得意だろう、不動。」

 

「......へえ、言ってくれるね。いいぜやってやるよ。」

 

 

監督も不動を乗せるのがうまいな。だが今回は力と力のぶつかり合いになるか。

ここで勝てなければ、俺は嵐山に負けたも同然ってことになる。

俺は元々サッカー部の所属ではなかったけど、一人のアスリートとして、嵐山に勝ちたい。

 

 

「(嵐山....今日は俺が勝たせてもらうぞ...!)」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

『皆さんお待たせしました!本日はここ帝国学園サッカースタジアムで、雷門中vs帝国学園の試合をお届け致します!』

 

 

「そろそろ始まるか。」

 

 

『今大会でも注目の一戦です!メンバ―は変わっていますが、前回大会の雪辱を果たすことができるか帝国学園!そして、前回大会と同じように全国屈指の強豪である帝国学園を倒し、全国への道を勝ち取ることができるか雷門中!』

 

 

まあ確かにメンバーは違うけど、前回大会で雷門に負けている帝国からすれば、今回は勝ちたいと思うだろうな。しかもこの試合に勝った方が勝ち抜けの優位にたてる。

 

 

『さあキックオフです!』

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「行くぞ、小僧丸!」

 

「おう!」

 

 

雷門ボールで試合がスタートした。稲森が小僧丸にパスを出し、小僧丸は後方へとボールを蹴ってゴールへと駆けだしていく。ボールを受け取ったのはキャプテンの道成だ。

 

 

「みんな!相手はあの帝国学園...だが落ち着いて戦えば大丈夫だ!勝ちに行くぞ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

「よし。....万作!」

 

「はいっ!」

 

 

キャプテンの道成の指揮のもと、雷門イレブンは細かくパスを出しながら攻めていく。

対する帝国学園は、どの選手もそこまで深追いはせず、近い位置にいる相手に対してプレッシャーをかけに行くだけ。体力温存が狙いか...?確かに最初の頃はまるで体力は無かったが、最近はある程度は余裕だぞ。

 

 

「ここは通しませんよ!」

 

「抜く!....”スパークウィンド”!」

 

「くっ...!」

 

 

ボールをキープし、ドリブルで駆けあがっていく万作の前に五条があらわれた。

だが万作は必殺技、”スパークウィンド”を披露して五条を抜き去る。

星章相手にはボロボロだったり、美濃道山相手には戸惑いながらプレーしたりとどこか自信の無さげな印象だったが、しっかりと自分の意思を持ってプレーしている。成長したようだな。

 

 

「よし...決めろ、小僧丸!」

 

「っ!...”ファイアトルネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ふっ...”ファイアトルネード”か。貴様ごときの炎など、これで十分だ!”パワーシールドV3”!」

 

 

バシィン!

 

 

「何っ!?」

 

 

『おおっと!小僧丸選手の”ファイアトルネード”がいとも簡単に弾かれてしまった!さすがはキング・オブ・ゴールキーパー!源王!源田幸次郎!』

 

 

さすがだな、源田。星章学園との試合ではいいようにやられていたが、それ以降はしっかりと修正してきている。帝国イレブンも、源田ほどの男がゴールを守ってくれていれば安心して攻められるだろうな。

 

 

「ゴールは俺が必ず守る!お前たちは安心して攻めていけ!」

 

「「「おう!」」」

 

「よし...万丈!」

 

「おう!」

 

 

ゴールを守った源田は、万丈へボールを渡すとふたたびゴール前で腕組みをして仁王立ちする。

3年になって貫禄も付いたか、圧倒的な威圧感だな。うちの砂木沼も源田から色々倣ってもらいたいな。

ま、砂木沼にも砂木沼らしい、良いところがたくさんあるけどな。

 

 

「不動!」

 

「よし...お前らアレやんぞ!」

 

「「「「「っ!」」」」」」

 

 

不動が指示を出すと、不動と風丸を帝国イレブンが3人ずつ囲むようなフォーメーションとなった。

これから一体何をするのかな。不動明王の実力、見せてもらおうか。

 

 

「な、何だこのフォーメーション...!」

 

「おーほっほっほ。(実に面白い陣形です。さすがは影山零治。)」

 

 

 

「「行くぞ!必殺タクティクス、”デュアルタイフーン”!」」

 

 

不動と風丸がタクティクスを宣言すると、二人を囲っていた帝国イレブンが二人を中心に回転し始める。

そして二人が動くのに合わせて回転も動き、二人が中心からズレないように緩やかに進んでいく。

だが、不動と風丸の二人の間では、それなりの勢いでパス回しが行われている。

 

 

「なるほどな...回転している奴らによって相手を近付けさせず、緩やかにだがしっかりと前進する。」

 

「なかなか厄介なタクティクスだ。さすがは総帥...と言ったところだな。」

 

「鬼道ならどう攻略する?」

 

「そうだな...俺なら最後まで攻めさせたうえで最後に回転役が消えたタイミングを狙う。...お前はどうする?」

 

「う~ん...まあ鬼道の案が無難だが、進行方向を制御してフィールドラインのギリギリまで移動させるってのも悪くないんじゃないか?」

 

「さすがに難易度が高くないか?」

 

「......あんたら、仲良いな。」

 

 

さて、そんなことを話していると、不動と風丸がゴール前へと進んでしまった。

雷門イレブンは全員、初見の必殺タクティクスに戸惑い動きが固まってしまっている。

さすがにのりかはハッとして、しっかりボールを持っている風丸を見ているが...

 

 

「よし...決めろ、寺門!」

 

「っ!そっち...!」

 

 

風丸がシュートを打つかと思われたが、風丸は逆からあがってきていた寺門へとパスを出す。

虚を突かれたのりかは、何とか体勢を寺門の方へと変える。

 

 

「くらいやがれ!”百烈ショットV2”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ...”ウズマキ・ザ・ハンド”!」

 

 

のりかは何とか必殺技を繰り出したが、さすがは帝国のストライカーと言ったところか。

寺門の放ったシュートは徐々にのりかをゴールへと押し込んでいく。

だが、のりかもこの試合の重要性をわかっているのか、片手で受け止められないと判断するとすぐにもう片方の手もボールへと添える。

 

 

「っ...負けない....!今日の試合に勝てたら...まだ希望は繋がるんだ!はあああああああああ!」

 

 

のりかの気合の籠った迫真のキャッチにより、シュートの勢いは止まり、ボールはのりかの手に収まった。

 

 

 

「ほう...なかなかやるじゃないか。彼女もお前が鍛えたのか?」

 

「いや?最初はアドバイスしたけど、それ以降は特に何も。」

 

「そうか。」

 

 

帝国相手にしっかりと戦えているじゃないか。

星章学園との試合から、しっかりと成長している。

監督の目論見通りって感じだな。

 

 

「今度はこっちの番だよ!ゴーレム!」

 

「ゴス!半ちゃん!」

 

「オッケー!」

 

 

今度は雷門がボールを回し始めた。だがすぐさま帝国イレブンが守備につく。

先ほどの”デュアルタイフーン”の影響で、前線に帝国イレブンが集まっているな。

守備が手薄にやるかと思いきや、逆に前線で守りを固められてしまっている。

 

 

「くっ...」

 

「こっちだ!」

 

 

だがそんなときこそ、稲森が輝く。

あいつのフィジカル、帝国のディフェンスだって物ともしないはずだ。

 

 

「明日人!」

 

「よし...!」

 

 

「ここは通さない!」

 

「悪いけど、ボールは貰うよ!」

 

 

 

服部からボールを受け取った稲森は、そのままゴール前まで駆けあがろうとするが、帝国の成神と洞面があらわれ、稲森の行く手を阻んだ。

 

 

「っ...抜いてみせる!うおおおおおおおおおお!」

 

「「っ!」」

 

「”イナビカリダッシュ”!」

 

 

 

『抜いたあああああああ!稲森、”イナビカリダッシュ”で成神と洞面を抜き去り、そのままゴール前まで独走!....いや!まだです!稲森の前に疾風ディフェンダー、風丸一朗太があらわれました!』

 

 

「なかなかやるようだな。だが俺がお前を止める!」

 

「っ、風丸さん!...抜きます!」

 

 

ゴール前まで暫くがら空きだと思われたが、すぐさま風丸がフォローに入った。

風丸は全速力で稲森へと突撃しているが、稲森も全力でドリブルして駆けあがっていく。

どうやら二人とも、ぶつかりに行く気満々って感じのようだ。

 

 

「(面白い....だったら俺のスピードをお前にぶつけてやる!)」

 

「(速い...もうこんなに近くに...でも、負けていられない!気持ちでも負けられないんだ!)」

 

「「うおおおおおおおおおお!」」

 

 

ガンッ!

 

 

二人が勢いよく衝突....したように見えたが、風丸がうまく稲森の蹴るボールを蹴り、お互いに譲らずに力で勝負しているようだ。両方を知る俺からすれば、単純な力なら稲森に軍配があがるが、全速力で走っていた分を考えると、風丸の方がより高いパワーが出ているかもしれない...!

 

 

「っ!何っ!?」

 

 

「っ!(まさか、今の一瞬で俺のプレーを再現したのか...!)」

 

「今のは...嵐山が得意なターンを使ったドリブル技術....」

 

 

激突したように見えた二人だったが、何と稲森はボールと風丸の足を軸にして回転し、そのまま逆の足でボールを自らの進行方向へと弾き出すと、そのまま自身も風丸を抜き去ってボールに追いつき、ドリブルを再開した。

 

 

まさか、特訓で俺が見せたテクニックを使うとは...やはり面白いな、稲森。

 

 

 

「マジかよ、あいつ...」

 

「(灰崎も稲森の今のプレーに目を輝かせているな。...稲森と灰崎、なかなか良いライバルになれる気もするが....)」

 

 

 

 

「剛陣先輩!」

 

「おう!」

 

 

風丸すら抜いた稲森に帝国ディフェンダーが駆け寄るが、それを見ていた稲森はすかさずフリーとなった剛陣へとパスを出す。

 

 

「(よし...しっかりと周りも見えているみたいだな。)」

 

 

 

「決めてやる...俺の”ファイアレモネード”を...!」

 

「”ファイアレモネード”....?何のことか知らんが、来い!どんなシュートであろうと止めてやる!」

 

「うおおおおおおおおお!”ファイアレモネード”...!」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ!(マジか....オーラを保つところまでは成功している!)」

 

 

剛陣...ノートを渡してまだ少ししか経っていないのに、もうそのレベルまでは来たか。

恐らく、たゆまぬ努力をしたのだろう。ノートを渡した甲斐もある。

 

 

「(嵐山に貰ったノートを見て、朝も昼も夜も...ずっと練習してきたんだ!俺が決めてやる...!)」

 

「その程度のシュートで俺が破れると思うなよ!”パワーシールドV3”!」

 

 

剛陣の放ったシュートと、源田の発動した”パワーシールド”がぶつかる。

その瞬間、ボールが小刻みにゆれだし、剛陣が望んだ通りのオーラがあふれだしてくる。

 

 

「くっ...何だこれは...!」

 

「弾けろ!スプラッシュ!」

 

 

パキパキ......パリィン...!

バシィン!

 

 

「っ、ぐあああああああああ!」

 

 

何と剛陣の放ったシュートは源田の”パワーシールド”を粉々に砕いた。

だが肝心のゴールまでは奪えず、ボールは源田のいる地点の少し前辺りの上空へと弾かれた。

 

 

「まだだ!”ファイアトルネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ、しまった...!」

 

バシュン!

 

 

だが弾かれたボールを、何と小僧丸が奪い、”ファイアトルネード”を決めてみせた。

これで先制点は雷門中となった。

 

 

『ゴーォォォォォォル!チームの執念が生み出した1点!雷門、先制点です!』

 

 

 

「マジかよ。」

 

「見ただろう、灰崎。これが雷門だ。」

 

「ああ、ありえねえ。だが...おもしれえ。ただの雑魚って言ったのは撤回するぜ。」

 

 

 

そんなこと言ってたのか、灰崎。

雷門には稲森をはじめとした面白い奴らが何人かいるのに。

 

さて、先制された帝国はこの後どう動くかね。

面白くなってきたじゃないか。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

執念の差

嵐山 side

 

 

ピィィィィィ!

 

 

「不動!」

 

「このままで前半を終われるかよ!行くぞ、お前ら!」

 

 

先制点を取られたことで、火が付いたようだな。

中央から不動が上がると同時に、佐久間と寺門もサイドから駆け上がっている。

さらに後方から風丸も上がってきているな。

 

 

「またあのタクティクスが来たら厄介だ。発動される前にボールを奪うぞ!」

 

「ここは通しませんよ!」

 

「チッ...邪魔くせえ奴らだぜ。」

 

 

ドリブルで上がっていく不動の前に、道成と奥入が立ち塞がった。

だが立ち位置が何やら不自然というか...妙にお互いの距離を気にしているように見える。

 

 

「っ、こっちだ!」

 

「あっ!」

 

「くっ....」

 

 

何だ...?何で今の動きで諦める。今のは道成がもう少し奥入の方に詰めたら防げたかもしれないのに。よく見たら他のやつらも変な動きをしている。

 

 

「(無理に追いかけてない...いや、自分のエリアを持っている...?)」

 

「こっちだ、不動!」

 

「行け!佐久間!」

 

 

そんなことお構いなしに試合は進んでいく。

道成と奥入を抜いた不動は、先にゴール前へと駆け上がっている佐久間へとパスを出す。山なりのふんわりとしたパスだが、雷門のディフェンスはそれを無理にカットしようとはせず、結果、佐久間までボールが渡ってしまった。

 

 

「くそ...もう少しこっち側だったら...」

 

「なかなか難しいですね...」

 

 

 

「(この動き....そうか、そういうことか。)」

 

「さしずめ、サッカー盤戦法、と言ったところか。」

 

「...鬼道も気付いたのか。」

 

「ああ。サッカー盤はやったことないが...聞いたことはあった。」

 

「あ?お前ら何言ってるんだ?」

 

 

どうやら鬼道も今の雷門がやっていることに気付いたようだな。

灰崎はよくわかっていないみたいだし、教えてやるか。

 

 

「雷門はリアルサッカー盤をやってるってことだよ。」

 

「はぁ?....サッカー盤って、あのサッカー盤か?」

 

「ああ。各選手がそれぞれに同じサイズのエリアを持っていて、そのエリアの範囲外にはいかないようにしてるんだよ。」

 

「そんなことして何の意味があるんだ?」

 

「そうだな...無駄な体力を使わないことがまず挙げられるな。」

 

「エリア内でしか動かないんだ。当然体力は使わないだろうな。」

 

 

先制点を取ったことで、体力を温存するという戦略をとる余裕ができた。

これはなかなか大きいと思う。最後の最後で必要なのは、振り絞った一粒の体力だ。人はそれを執念と呼ぶ。

 

 

「サッカー盤戦法だか知らねえが、帝国のフォワードが全員ゴール前に来ちまったぜ。」

 

「ああ。今回はかなり不運だったとも言えるかもな。ま、のりか...雷門のキーパーがシュートを止めるかもしれないけどな。」

 

「さすがに無理だろ。」

 

 

灰崎...あまりのりかのことは評価していないようだな。

まあ今ののりかでは全国と戦うには物足りないのも事実だけど...

 

 

『雷門、守備が噛み合わずゴール前までボールを運ばれてしまっています!帝国学園は先制点を取られはしたものの、冷静に攻撃に転じております!』

 

 

「風丸!」

 

「ふっ!....行くぞお前たち!”デスゾーン”開始!」

 

「「「っ!」」」

 

 

ほう...鬼道の代わりに風丸が”デスゾーン”の指示をしていて、しかも”デスゾーン”のメンバーが佐久間、寺門、不動になっているのか。

 

 

「「「”デスゾーン”!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

「止めてみせる!”ウズマキ・ザ・ハンド”!」

 

 

三人が放った”デスゾーン”を、のりかは”ウズマキ・ザ・ハンド”で対抗する。

だがまるで”デスゾーン”の威力を抑えられておらず、どんどんゴールへと押し込まれていく。

 

 

「くっ....うぅぅぅ....うわああああああ!」

 

 

ピィィィィィ!

 

 

『ゴーォォォォォォォル!帝国学園、あっさり1点を奪い返しました!これで1vs1の同点!試合を振り出しに戻しました!』

 

 

さすがだな、帝国は。以前の”デスゾーン”より威力が上がっているように見える。あれではのりかが止められないのも無理はない。

 

 

「あっさり取り返したな。どう見る、鬼道。」

 

「そうだな...帝国の力はやはり強い。だが雷門もサッカー盤戦法で体力を温存していたという点を考えると、今の一連のプレーで試合の流れを決めつけるのは難しいだろう。」

 

「へえ...あんたはどうだ?」

 

「鬼道と同意見かな...雷門はまだ本領を発揮していないように見えるし、逆に帝国学園は最初の1点で火がついている。このままズルズルと点を取られ続けたら、そのまま負けるかもな。」

 

「そう考えるのか。なるほどな。」

 

 

俺と鬼道の意見を聞いて、灰崎は自分でこの後の展開を予想しているようだ。

あの監督がそのまま負けるとは思えないが、相手が相手だ。本当にこのままズルズルと点を取られ続けてしまうかもしれない。

 

 

「(さあどうする、雷門イレブン...稲森...!)」

 

 

ピィィィィィ!

 

 

「行くぞ、小僧丸!」

 

「おう。」

 

 

再び雷門ボールで試合が再開し、稲森が後方へとパスを出して小僧丸と共に上がっていく。剛陣も一緒に上がっていくが、先ほどのシュートを警戒されてか、他のフォワード二人よりもマークがきつくなっている。

 

 

「(やはり帝国は強い....監督の指示は普段通り戦え、か。くそ...俺にもっと力があれば...!)」

 

「っ!貰った!」

 

「くっ!しまった!」

 

 

攻めあぐねていた道成に対して、佐久間が強烈なスライディングを仕掛けたことでボールを奪うことができた。佐久間も良い状況判断だったな。どうしたのかわからんが、道成もぼーっとしていたからな。

 

 

「風丸!」

 

「ああ!」

 

 

ボールは佐久間から風丸へと渡り、その足の速さでどんどんとフィールドを駆け上がっていく。

その速さに雷門イレブンの誰も追いつけず、一瞬にしてゴール前へと攻めあがってしまった。

 

 

「う、嘘でしょ!?」

 

「決める!”マッハウィンド”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ!」

 

バシュン!

 

 

さらにドリブルの勢いそのままに、風丸は必殺シュートを放った。

そのあまりのスピードに雷門イレブンは反応すらできず、ゴールを決められてしまった。

これで1vs2か...今の雷門には、帝国の相手は早すぎたか...?

 

 

「ドンマイドンマイ!次は行けるよ!頑張ろうぜ、みんな!」

 

「明日人....うん!」

 

「そうだ...俺たちだってやれるんだ!」

 

「明日人.....よし、みんな!どんどん攻めていくぞ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

どうやら稲森がみんなの折れかけていた気持ちを保ったか。

ああいうことができる奴がいると、チームは強くなる。

円堂という存在が、俺たちの雷門中にいたように。

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「明日人!」

 

「うおおおおおおおお!”イナビカリダッシュ”!」

 

「くっ!」

 

 

雷門ボールで試合が再開してすぐ、稲森を中心に攻めあがっていく。

前半の残り時間はあとわずか...前半で同点にできれば、後半へのモチベーションもあがるだろう。

逆に帝国はこのままリードした状態で後半を迎えることができれば、余裕をもって立ち向かうことができる。ここがターニングポイントだな。

 

 

「(せっかく嵐山さんが俺を鍛えてくれているんだ...その期待に応えたい!)」

 

「くっ...こいつ、速い...!」

 

 

「明日人!こっちだ!」

 

「っ!剛陣先輩!」

 

 

稲森が爆速でゴール前まで走ったことで、帝国の守備が崩れた。

結果、マークがきつかった剛陣のマークも緩み、それを見逃さなかった稲森と、剛陣の呼びかけによってボールは剛陣へと渡った。

 

 

「もう一度やってやるぜ!お前のシールド、ぶち抜いてやる!」

 

「ふっ...来い!」

 

「うおおおおおおお!”ファイアレモネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

剛陣によって、ふたたび”ファイアレモネード”(未完成)が放たれた。

ボールにオーラが籠ったまま、源田の元へとボールが直進していく。

だが、先ほど”パワーシールド”を破られているというのに、源田は余裕の表情でボールを見ている。

 

 

「その技が完成していれば危うかったが....もうお前のその技は見切った!本当は決勝トーナメントまで取っておくつもりだったが...お前に敬意を表して見せてやろう!」

 

 

源田が剛陣に対して何か言ったと同時に、源田が必殺技の構えに入った。

胸を抑えた後に両腕をだらけさせる。まるで獲物を狙う獣のように。

 

 

「うおおおおおお!”ハイビーストファング”!」

 

ドガンッ!

 

 

そして源田は両腕をまるで獣の口のように開き、ボールに向かって前進。

その両腕でがっちりとボールを掴むと、そのままボールを地面に叩きつけるように着地した。

剛陣の放ったシュートはこうして、源田によって防がれてしまった。

 

 

 

「っ!あ、あの技は...!」

 

「知っているのか、鬼道。」

 

「ああ....帝国学園で開発された禁断の技、”ビーストファング”...恐らくそれを改良したものだろう。」

 

「禁断の技...?」

 

「ああ....俺たちは雷門に勝つために様々な特訓を行った。その中で編み出された技の中に、使用者の身体を壊すほどの力がある技があったんだ。」

 

「それが”ビーストファング”ってわけか。」

 

「ああ....もう一つは”皇帝ペンギン1号”。”皇帝ペンギン2号”は”皇帝ペンギン1号”を改良して作られた技というわけだ。」

 

「なるほどな....」

 

 

だから2号だったのか。1号を使ってないのに、いきなり2号だったから違和感はあったが。

それにしても、あの”ハイビーストファング”、なかなかの技だ。俺の”天地雷鳴”ももしかしたら止められるかもしれない。

 

 

ピッピッピィィィィィィィ!

 

 

『おおっと!ここで前半が終了!2vs1で帝国学園がリードしています!後半、雷門はリードを奪い返せるのか!それとも帝国学園がこのリードを守り切るか!』

 

 

 

ここで前半が終了か...雷門にとってはきつい状況になったな。

唯一、源田の”パワーシールド”を実質的でも打ち破ったのが剛陣だ。

だがその剛陣のシュートも、”ハイビーストファング”によって防がれてしまった。

今の雷門には恐らく、源田からゴールを奪うビジョンが見えていないだろうな。

対する帝国は、源田がいればゴールは大丈夫だという安心感が芽生えたはず。

 

 

「(この差はでかいな。俺たちが円堂を信頼して攻められるように、今の帝国は源田を信頼して攻めることができる。....風丸はしっかり、雷門魂を帝国に伝えられているじゃないか。)」

 

 

風丸はずっと自分に何ができるかと悩んでいたが...お前は十分にその役割を果たしているよ。

 

 

 

『さあ後半が開始します!帝国ボールで試合が再開!このまま帝国が勢いに乗って試合を制するか!』

 

 

「行くぞ、不動!」

 

「俺に指図するなっての。」

 

 

後半が開始し、帝国はふたたび不動を中心に攻めあがっていく。

対する雷門は前半までと違い、サッカー盤戦法を辞めたのか全員が守備に回るかのごとき動きをしている。体力を温存して、後半で一気に勝負をかけるつもりだったのか?

 

 

「こいつら、いきなりやる気出しやがって。寺門!」

 

「おう。くらえ!”ジャッジスルー”!」

 

「ガハッ!」

 

 

強烈な蹴りが氷浦を襲った。氷浦はそのまま吹き飛ばされ、寺門はドリブルで駆けあがっていく。

例え体力が有り余っていても、根本的な実力差がまだあるから帝国の動きを止められていないな。

だが、あの監督がそんなミスをするか...?たとえ予選をほぼ捨てていると言っても、負けても良いなんて考えにはならないと思うが....

 

 

「もういっちょ決めてやれ、不動!」

 

「はっ...偉そうに言いやがる。だったら見ていやがれ!”マキシマムサーカス”!」

 

ドゴンッ!

 

 

寺門からボールを受け取った不動が、必殺シュートを放った。

不動は口は悪いが、なんだかんだでチームの一員として頑張っているようだ。

 

 

「これ以上、点は取らせない!”ウズマキ・ザ・ハンド”!」

 

 

不動のシュートが雷門ゴールを襲った。のりかが必殺技で対抗するが、やはりまだまだ実力不足なのか徐々にゴールへと押し込まれていく。

 

 

「くっ....うぅぅぅぅぅ....っ!きゃあああああああああ!」

 

「「まだだ!」」

 

ドゴンッ!

 

 

のりかの必殺技が破られ、ゴールが決まったかと思われた次の瞬間、何とゴール前まで戻ってきていた稲森と小僧丸がツインシュートの体勢でボールを蹴って抑え込んだ。

 

 

「明日人!小僧丸!」

 

「のりか!このまま打ち返すから避けて!」

 

「巻き込まれんじゃねえぞ!」

 

「う、うん!」

 

 

二人がシュートを打ち返すつもりなのか、直線上にいるのりかはその場から離れていく。

それを見送った稲森と小僧丸は、お互いに目を合わせて頷きあった。

 

 

「行くぞ小僧丸!」

 

「おう!」

 

「「”カウンタードライブ”!」」

 

 

『何とぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!稲森と小僧丸、不動のシュートを打ち返しました!』

 

 

「なんだと!?」

 

 

予想外の展開に、帝国イレブンは微動だにせず立ち尽くしていた。

カウンターで打ち返されたボールはものすごい勢いで帝国ゴールへと突き進んでいく。

だがそんなボールの前に風丸が立ちふさがった。

 

 

「悪いがこのまま進ませるわけにもいかない。(源田は信じているが、万が一があり得る状況...俺が少しでも止めてやる!)フッ!...”スピニングフェンス”!」

 

 

風丸は突如として5人に分身し、それぞれが竜巻を起こす。

その竜巻が大きな壁となり、シュートは竜巻に飲み込まれて勢いを失った。

そしてその竜巻の中から風丸があらわれ、ボールをその足へと納めていた。

 

 

「くっ...これでもダメなのか...」

 

「そもそも源田さんまで届いてない...これが帝国学園の実力...」

 

「っ...まだだ!まだ戦える!」

 

「明日人....」

 

「最後まで諦めずに戦おう!俺たちならきっとできる!」

 

 

稲森の言葉に、折れかけた雷門イレブンはふたたび顔を上げる。

そうだ、稲森の言う通りだ。諦めなければ、何かが起こる。

そして、勝利の女神は諦めない奴に微笑むんだ。

 

 

「だったら突き放す!行くぞ、お前たち!」

 

「「おう!」」

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「”皇帝ペンギン”!」

「「”2号”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

今度は風丸が”皇帝ペンギン2号”を発動し、佐久間と寺門がツインシュートする。

俺たち旧雷門を苦しめた必殺技....お前らならどうする。

 

 

「今こそ特訓の成果を見せるとき!」

 

「行くよみんな!」

 

「準備はオッケーだよ!」

 

 

「何をする気だ....!?」

 

 

”皇帝ペンギン2号”の前に、奥入、服部、日和が立ちふさがり、三人が向かい合ってオーラを溜めている...もしかして、3人の合体技か...?

 

 

「「「”グラビティケージ”!」」」

 

「な、何っ!?」

 

 

突如現れた檻に、”皇帝ペンギン2号”は吸い込まれていく。

檻の中はブラックホールとなっていて、吸い込まれたボールは見えていない。

だが少しすると檻ははじけ飛び、ボールが飛び出て日和の足元へと落ちた。

 

 

「ば、馬鹿な...”皇帝ペンギン2号”が破られただと...!」

 

 

 

「おーほっほっほ!今ですよ、皆さーん!」

 

「「「「「「「っ!」」」」」」

 

 

「キャプテン!」

 

「おう!」

 

 

雷門イレブンが”皇帝ペンギン2号”を打ち破ったことで活気づいた。

そしてそのタイミングで監督からの指示が飛ぶ。もしかして、このタイミングを狙っていた...?

最後まで秘策を隠していたのは、雷門イレブンだったということか。

 

 

「みんな行くぞ!必殺タクティクス!”ルート・オブ・スカイ”!」

 

 

「な、何だこいつら!?」

 

「ぴょんぴょん飛んで、空でパス回ししてやがる!」

 

 

なるほど...空中を使ったパス回しか。

これでスライディングやタックルでのボール奪取の確率が格段に下がる。

しかもあくまでパス回しをするときだけ飛んでいるから、もし相手も空中戦を仕掛けてきたら飛ぶフリをすれば地上から抜いていける。

 

 

「剛陣先輩!」

 

「おっしゃあ!」

 

 

そしてこのタクティクスによって、ゴール前にいた剛陣へとボールが繋がった。

 

 

「(ここで決めろ...剛陣!お前が1点を取れば流れが変わるぞ!)」

 

 

 

「(父ちゃん....嵐山...!今がここぞって時だよな!)決めてやる!俺の全部をこのシュートに込めて!」

 

「っ!(先ほどまでとは違う...これはマズイ!)」

 

「うおおおおお!”ファイアレモネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

 

明らかにさっきまでとは完成度の違う、”ファイアレモネード”が放たれた。

まるで蓋を閉じられている缶やビンのようにオーラが包まれているが、包まれたオーラからはものすごいパワーを感じる。

 

 

 

「くっ....だが俺は止めてみせるぞ!勝負だ、剛陣鉄之助!”ハイビーストファング”!」

 

ガンッ!

 

 

負けじと源田も自身の持つ最強の技である”ハイビーストファング”で対抗してきた。

先ほどは完璧に止めてみせたが、今度はオーラを包んでいた膜が剥がれていくにつれて、源田も徐々に抑えきれなくなってきていた。

 

 

「くっ...馬鹿な....何だこの威力...!」

 

「この試合にかける俺たちの思いが詰まってんだ!負けるわけねえ!弾けろ、スプラッシュ!」

 

「ぐっ.....ぐああああああああ!」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『ご、ゴーォォォォォォル!何とあのキング・オブ・ゴールキーパーの源田から、単身でゴールを奪いました!ゴールを決めたのは剛陣鉄之助!これで両チームの得点は2vs2!まだまだ勝負はわかりません!』

 

 

 

「よっしゃあああああああ!」

 

「剛陣先輩!やりましたね!」

 

「ふっ...ま、今日のところは素直に褒めてやるよ。」

 

「やったぜお前ら!ついに俺も必殺技を完成させたんだ!」

 

 

あの源田を打ち破ってゴールを決めたことに、雷門イレブンはかなり活気づいている。

対照的に、帝国イレブンは源田が破られたことに動揺しているのがわかる。

だがまだ同点だ。ここで動揺したままなら、帝国は負けるだろうな。

 

 

「(なんだかんだで後半もあとわずかか。次に得点を決めた方が勝ちだな。)」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「くっ...不動!」

 

「っ!くっ...」

 

 

帝国ボールで試合が再開、だがやはり動揺が隠せず、佐久間からのパスを不動がファンブルし、ボールは雷門へと渡ってしまった。しかもボールを持ったのは先ほどゴールを決めた剛陣。

 

 

「おっしゃあ!もういっちょ決めてやるぜ!」

 

「くそっ!」

 

「何をやっているんだ、不動!」

 

「う、うるせえ!」

 

 

動揺から生まれたミスに、帝国イレブンの空気が最悪なものとなっている。

一方、雷門イレブンはもう一度剛陣がシュートを決めれば勝てるという状況に活気づいていた。

剛陣もうまく連携の取れていない帝国イレブンを軽々と躱していき、その表情からは余裕が感じられる。

だが....

 

 

「うおおおおおお!」

 

「っ!か、風丸!?」

 

「負けてたまるか!俺だって...俺だって元雷門の一員!去年のようにもう一度、優勝を味わいたいんだ!」

 

「くっ!速ええ!」

 

「ボールを渡せ!”スピニングフェンス”!」

 

「う、うわああああ!」

 

「剛陣先輩!」

 

 

風丸が猛スピードで剛陣へと迫り、必殺技でボールを奪い去った。

そしてそのまま全速力で駆けあがっていく風丸に、勝ちを確信していた雷門イレブンは慌てて風丸をマークしに走り出した。

 

 

「お前たちもそうじゃないのか!去年の雪辱を果たし、ふたたび王者に返り咲く!そんなことを考えていたんじゃないのか!」

 

「「「「「っ!」」」」」

 

「そうだ....俺たちは40年間無敗の帝国学園...!」

 

「このまま負けたままじゃいられねえ...!」

 

「そうじゃなきゃな....行こうぜ、お前ら!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

風丸の叱咤に、帝国イレブンの闘志がみなぎっている。

全員が前線へと駆けあがっていき、雷門イレブンはそれに対して慌てて対処する状況となってしまった。

 

 

 

「流れが変わったな。」

 

「ああ。完全に帝国ペースになった。」

 

「それを呼び込んだのは紛れもなく、風丸の存在だろうな。」

 

「ああ....元チームメートとして、誇らしいよ。」

 

 

 

 

「不動!」

 

「よし!」

 

「ここは通さないゴス!」

 

「ゴスって何だ、ゴスって!」

 

「ゴス!?」

 

 

風丸から不動へとパスが通り、その不動の前に岩戸が立ちふさがる。

だが不動の放った言葉に動揺したのか、岩戸はあっさりと抜かれてしまう。

 

 

「決める!”マキシマムサーカス”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「させません!”シューティングカット”!」

 

 

岩戸を抜いた不動がそのままシュートを放つが、すぐさまフォローに入った日和が必殺技を発動し、不動のシュートは阻まれる。そして”シューティングカット”によってボールは弾き出される。

 

 

『おおっと!雷門中、日和の必殺技で不動のシュートが弾かれた!このこぼれ球を制するのは誰か!』

 

 

 

「うおおおおおお!」

 

 

「なっ!?源田!?」

 

 

『何と!帝国最強のキーパー源田!ゴールをがら空きにして、雷門ゴール前まで駆けあがっているぅぅぅうぅぅぅ!』

 

 

”シューティングカット”によって弾かれたボールを制した方が勝つ、そのような空気を漂わせていたフィールドだったが、誰よりも先に最後方にいた源田がボールへと近付いた。

その姿にまるで円堂のようだと思ったのは俺だけじゃないだろうな。

 

 

「決めてくれ!風丸!佐久間!不動!」

 

 

源田は弾かれたボールに対して決死のダイビングを行い、ヘディングで風丸へとパスを出す。

そして風丸の真正面にボールが落ちると同時に、風丸、佐久間、不動はお互いの視線を合わせた。

 

 

「しまった!」

 

「”グラビティケージ”の準備を...!」

 

「ダメです!3人の位置が遠すぎます!」

 

 

先ほどの風丸の爆走、そして帝国イレブンの猛進によって陣形が崩れていた雷門は、対”皇帝ペンギン2号”の必殺技である”グラビティケージ”を発動する3人の位置がバラバラになっていることに気付く。

 

 

「これで終わりだ!」

 

ピィィィィィィィ!

 

 

そして風丸によって指笛が吹かれ、ペンギンが地中から姿を現す。

 

 

「”皇帝ペンギン”!」

「「”2号”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

そして放たれた帝国最強の技、”皇帝ペンギン2号”が雷門ゴールを襲う。

 

 

「負けない!絶対に止めてみせる!”ウズマキ・ザ・ハンド”!」

 

 

のりかも必殺技で対抗するが、”皇帝ペンギン2号”の勢いが止まることはない。

 

 

「頑張れのりか!」

「ここで止めて”あの技”で逆転だ!」

 

「明日人!小僧丸!」

 

 

そこに稲森と小僧丸も加わり、二人がのりかの背中を支えて対抗する。

 

 

「「「いっけえええええええええ!」」」

 

「うぅ....っ.....きゃあああああああああ!」

「「うわあああああああああああ!」」

 

バシュン!

 

 

そしてついには3人がかりで守っていた防御を打ち破り、帝国の放ったボールが雷門ゴールへと突き刺さった。

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『ゴーォォォォォォル!帝国学園、起死回生の勝ち越し弾!ここで3vs2!帝国がふたたびリードしましたああああああああああ!』

 

 

 

ピッピッピィィィィィィィ!

 

 

『そしてここで長いホイッスル!白熱を極めた雷門中vs帝国学園の試合は3vs2で帝国学園の勝利だああああああああああああ!』

 

 

「よっしゃあああああああ!」

 

「やったな、風丸!」

 

「ああ。源田、お前のおかげだ。」

 

「ふっ...これが最後のプレーだと思ったら、いつの間にか体が動いていた。」

 

「何だそれ....ま、今回ばかりはマジで助かったぜ。」

 

「お、不動が素直だと気持ち悪いな。」

 

「んだと!」

 

「おいおい佐久間。本当のことを言うなよ。」

 

「風丸まで....お前ら!覚えておけよ!」

 

 

帝国イレブンは勝利を喜び合っている。

風丸...お前もしっかり帝国の一員になれているようだな。

もしも本戦で戦うことになれば....楽しみだな。

 

 

 

「帝国が決めたか....」

 

「そうだな。鬼道としては嬉しい限りか?」

 

「まあな。だがこれでグループAは星章学園と帝国学園の勝ち抜けでほぼ決まりだ。」

 

「雷門はここで終わりか。ま、仕方ねえだろうな。」

 

「ん?何だ灰崎、お前1年だから知らないのか。」

 

「あ?」

 

「雷門は前回大会の優勝校だから、予選の結果に関係なく本戦に進めるんだ。」

 

「はぁ!?なんだそりゃ。」

 

「ま、そういうルールだからな。」

 

「だがあいつらがそのルールを使うか?」

 

 

鬼道の疑問は当然だな。正直、俺が同じ立場なら使うのにものすごくためらう。

結局は使うと思うけどな。どうしても本戦に出場したい、って気持ちがあるなら。

 

 

「あいつらは知らんが、あの監督なら絶対に使う。というかほとんど使うと自白しているような話をこの前聞いた。」

 

「そうか....趙金雲、何とも不気味な存在だ。」

 

「そうだな.....さて、灰崎。帰ったら予定を教えてくれよ?しっかり鍛えてやるからさ。」

 

「お、おう....」

 

 

グループAはほぼ決まったが...他のグループはどうなっているだろうな。

円堂や修也、それから染岡と吹雪兄弟、立向居辺りの調子が気になるところだ。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

本戦に向けて

嵐山 side

 

 

雷門と帝国の試合から数日が経った。

結局、グループAは星章学園の全勝で幕を閉じた。

グループAの1位通過は勝ち点21の星章学園で、次いで1敗の勝ち点18で帝国学園となった。

 

美濃道山も頑張ってはいたが、星章と帝国に敗北、雷門と御影専農に引き分けで2敗2分け。残りは勝ったが、それでも勝ち点は8だ。壁山と少し話したが、かなり悔しがっていた。

 

ちなみに永世学園は全勝の勝ち点21でグループ予選を突破した。

他にも修也率いる木戸川清修も全勝でグループを突破、海王学園との試合は修也抜きで戦い、木戸川清修の現在の実力を確認したらしいが、それでも圧勝したらしい。円堂も無事グループ予選を突破していた。

 

そして早くも大会運営からインターネットで本戦の対戦表が公開されている。

 

 

「随分と面白い組み合わせになったな。」

 

「そうですね...僕たちはAグループ。少し見ただけでも強豪がひしめいていますね。」

 

「一番は木戸川清修かな。当たるとしても先の話だが、修也がいるだけでもかなりの脅威だ。」

 

「はっ。望むところだぜ。このゴッドスト「本当に名前を聞いたことのある強豪ばかりですね。」...おい!」

 

 

 

久しぶりに永世のみんなと過ごしているのだが、みんな相変わらずだ。

でもこの予選を通して、それなりに成長したように見える。

 

 

「それにしても本当に....本戦が楽しみになる組み合わせだ。」

 

 

そう言って、俺はふたたび対戦表に目を落とした。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「結局権利を使ってきましたね、雷門。」

 

「ま、別に思うところは無いよ。それに面白い奴もチームにいるし、雷門のいるブロックは強敵もそこまでいない。案外いいところまで勝ち上がるんじゃないかな。」

 

 

だが順当に勝ち上がれば、準々決勝で世宇子と当たるな。

神のアクアが無くても、アフロディたちは強い。今の雷門であいつらを倒せるだろうか。

そして恐らくだが、もう片方の準々決勝は円堂が率いる利根川東泉と、風丸たち帝国学園になるだろう。ここも面白い組み合わせだ。

 

そして俺たちのブロックだが、俺たちは1回戦で染岡と吹雪兄弟の白恋中。

2回戦は野坂たち王帝月ノ宮か、鬼道たち星章学園。準々決勝は順当に行けば修也たち木戸川清修が相手になるだろう。そして準決勝には陽花戸中があがってきてくれたら最高だ。

 

 

「さて...行くかな。」

 

「もう行くんですか?」

 

「悪いな基山。だがお前たちは俺の期待通り、全勝で予選を勝ち抜いた。だからお前たちは今日は休め。さすがに試合に練習と頑張りすぎだ。」

 

「で、でも...」

 

「おいタツヤ。ここは嵐山サンの言う通りにするぞ。」

 

「え、ヒロト?」

 

「それに明日は雷門との練習試合を予定してるだろ。」

 

「そう..だね。わかったよ。」

 

 

...吉良もチームに馴染めてるようで良かった。

基山は頑張りすぎるところがあるし、吉良のようなストッパーがいてくれると助かる。

逆に吉良も熱くなりすぎるところがあるけど、基山がストッパーになってくれるしな。

 

 

「じゃあ言ってくる。明日の練習試合は俺も出る予定だから、よろしくな。」

 

「はい!」

 

「おう、楽しみにしとくぜ。」

 

 

 

そう言って、俺は基山たちと別れて別の場所へと向かい出した。

どこへ行くかというと、無事に全員が予選を通過したということで、円堂たちと集まることになっている。本戦では円堂だけが別ブロックだが、円堂というラスボスを倒すのに、鬼道と修也を倒すって考えると燃えてくるよ。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「お待たせ。」

 

「お、嵐山!久しぶりだな!」

 

「俺は何度か顔を合わせていたが...こうして集まるのはあの日以来か。」

 

「今日はお前が一番最後だったな。」

 

「悪い悪い。静岡から来てるんだ、少しは多めに見てくれよ。」

 

 

さて、俺がどこに来ているかというと、円堂、修也、鬼道と会うために稲妻町へと来ていた。

鬼道以外はそれなりに遠出となるが、やはり集まるなら稲妻町だろうということで、ここに集まっている。

 

 

「....というか円堂、お前何食ってんだ?」

 

「え?11段アイスだぜ!」

 

「11段って...欲張りすぎだろお前。」

 

「そんなことないって!それにうまいぜ....って、うわ!倒れる!」

 

「ば、馬鹿野郎!こっちに倒すな!うわああああ!」

 

ベチャッ...

 

 

「.......円堂.........お前.....」

 

「ご、ごめん嵐山!」

 

 

円堂が食べていた11段のアイスが倒れ、俺の服にクリーンヒットした。

幸い、顔面に落ちるなんてことはなかったが、チョコやらミントやらでめちゃくちゃ甘い匂いが漂っている。

 

 

「ったく...だから欲張りすぎって言ったろ。」

 

「わ、悪かったって...」

 

 

俺はハンカチで自分の服を拭きながら、円堂に文句を垂れる。

そんな俺に円堂は謝り、修也と鬼道は床やテーブルを拭いていた。

なんだか懐かしい気分になったよ。

 

 

「ま、別にいいよ。...それで、今日は何のために集まったんだ?みんな無事予選を通過しました、だけで集まったわけじゃないだろ?」

 

「ふっ...まあな。少し厄介な情報を手に入れた。」

 

「厄介な情報...鬼道がそこまで言うということは、それなりの情報なんだろう?」

 

「ああ。.....オリオン財団という組織を知っているか?」

 

「オリオン財団......サッカーを通して世界に平和を、ってやってる慈善事業団体だろ?」

 

「表向きは、な。」

 

「....というと?」

 

「奴らは各国に組織の人間を送り込み、徐々にチームを浸食...観客を盛り上げるために賭けを行わせ、試合の勝敗を操作して利益を得る、サッカービジネスを行おうとしているらしい。」

 

 

サッカービジネス....賭けはまあ、そこまで嫌悪感は無い。日本には競馬や競輪だったりと、スポーツなどで賭けをするものもある。だが、その対象である試合の勝敗を操作するなど、断じてあってはならないことだ。

 

1試合1試合を全力で戦う。勝敗に一喜一憂する。そしてまた勝つために、今度は負けないために、次の試合に向けて努力するその日々こそがサッカーだ。なのに勝敗が管理されているなんて、何も楽しくないし、何の意味もなくなってしまう。

 

 

「オリオン財団はロシアが本拠地となっている。そして今回の世界大会はロシアが主催だ。オリオン財団が絡んでこないとは言い切れん。」

 

「なるほどな....それで、どうしてその話を今したんだ?確かに世界大会はフットボールフロンティアが終わってから始まるけど、まだ先の話だろ。」

 

「ああ。だが知るのに早いに越したことはない。それに俺はお前たちが代表に選ばれると確信しているからな。」

 

「嬉しいことを言ってくれるね。...ま、怪しいやつがいたら気にかけろ、ってことだろ?」

 

「ああ、そういうことだ。」

 

「了解。俺は特に異論は無い。」

 

「俺もだ。」

 

「........」

 

「円堂、お前話を理解できたか?」

 

「えっと....とにかく、サッカーを悪いことに利用しようとしている奴らを倒す!...だろ?」

 

「.....まあ、円堂はそれでいいよ。」

 

 

全く理解していないわけでもなさそうだし、円堂が怪しい奴を見つけるだなんて難しいだろ。

円堂は純粋だ。もし悪い奴らがサッカーが大好きです、なんて言って円堂に近付いたら、円堂は気を許すだろうしな。

 

 

「助かる。....さて、暗い話は終わりにしよう。」

 

「そうだな。この話はまた、代表入りが決まったらだな。」

 

「ああ。....お前たちは本戦の対戦表を見たか?」

 

「見たぜ!予選の奴らも面白かったけど、全国大会となると、強そうな奴らがうじゃうじゃいるよな!」

 

「円堂は確か、初戦は戦国伊賀島だったか。お前のチームは変わったけど、去年と同じ組み合わせだな。」

 

「そうなんだよ。また面白い忍術サッカーが見れると思うとワクワクするぜ。」

 

「ふっ...円堂らしいな。豪炎寺は聖堂山か。」

 

「ああ。全国常連の古豪と聞く。楽しみだ。」

 

「嵐山は確か、染岡が行った白恋中だろ?」

 

「おう。練習試合もしたことがあるが、あいつらは強い。確実に代表にも選ばれると思ってる。」

 

「お前がそれほどまで評価するのか。それは面白そうだ。」

 

「俺としては鬼道、お前が心配なんだがな。」

 

「王帝月ノ宮か。確かにアレスクラスターと呼ばれる彼らがどんなサッカーをするのか楽しみではあるが....勝てばお前と当たる。俺はそれが楽しみで仕方ないのさ。」

 

「おいおい、俺たちが勝つこと前提かよ。」

 

「ふっ...勝つだろう?」

 

「....ああ。勝つさ。」

 

「待っていろ、嵐山。俺は必ず王帝月ノ宮を倒し、お前に挑む。終生のライバルと認めたお前を倒し、そして豪炎寺、円堂...お前たちも倒して星章学園が優勝する!」

 

 

いつになくテンションの高い鬼道が、俺たちを相手に宣戦布告してきた。

どうやら予選を全勝して、勢いに乗ってるようだな。だが予選を全勝したのは俺たちも一緒だ。

 

 

「鬼道、勝つのは俺たち永世学園さ。試合はお前の方が先....首を洗って待ってな。」

 

「ふっ...面白い。」

 

「おいおい、お前らだけで盛り上がるなよ!」

 

「そうだ。順当に勝ち上がれば準々決勝でお前たちのどちらかと当たる。俺も楽しみにしてるぞ。」

 

「いいなぁ、お前らは....でも、お前たちの誰かと決勝で当たるって考えると、めちゃくちゃワクワクしてきたぜ!」

 

 

「ふっ....俺が絶対に決勝まで進んでやるから待ってろよ、円堂。」

 

「いや、俺たち星章が勝つ。待っていろ、円堂。」

 

「ならば俺がすべてを焼き尽くしてやろう。」

 

「へへ!楽しみだな!」

 

 

こうして俺たちは情報共有と、本戦での試合を夢見て誓い合った。

だが本戦当日...まさかあんなことになるとは、この時の俺は思いもしなかった。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

野坂 side

 

 

 

「ぐっ....ハァ.....ハァ....」

 

 

またか....だが、この痛みもあと少し耐えれば終わる。

この痛みこそが、僕を...僕たちを解放するためのカギなのだから。

 

 

「野坂さん、今よろしいですか?」

 

「っ!....どうしたんだい、西蔭。」

 

「失礼します。.....大丈夫ですか、野坂さん。」

 

「何がだい?」

 

「いえ、顔色が優れないようですので....」

 

 

やはり西蔭は気付くか....だが誰かに知られるわけにはいかない。

ごめんね、西蔭...君を信用していないわけじゃない。でもどこから情報が漏れるかわからないからね。すべてを達成するまでは、この痛みとともに戦い続けるしかないんだ。

 

 

「少し根を詰めすぎたかな。休んだら良くなると思うから大丈夫だよ。...それで、何の用だい?」

 

「ならいいですが.........対戦表を印刷してきました。初戦の相手は鬼道率いる星章学園です。」

 

「星章学園か...」

 

 

鬼道さんの他に、灰崎君がいるところか。

彼はなぜか僕たちに突っかかってくるから、よく覚えている。

だが僕が気になっているのは、初戦の星章学園ではなく、次に当たるであろう永世学園だ。

僕たちが勝ち上がるための最大の障害....嵐山隼人。

 

彼のプレーは誰よりも完璧で、誰よりも美しかった。予選で彼の試合を見れなかったのは残念だが、彼と試合を観戦することで彼の考えを理解しようとした。だが無理だった。

 

 

彼は僕の見る未来よりも、もっと先を見ている。恐らくは僕のプレーはほとんど通じない。

だが彼を封じる策はある。あまり好ましい手段ではないけれど、僕はすべてを掴むために、あらゆる犠牲を払ってでも勝つと決めたんだ。

 

 

「西蔭。」

 

「はい、何でしょう。」

 

「みんなに伝えておいてくれ。....グリッドオメガの練習を怠るな、と。」

 

「っ!..はい、野坂さん。」

 

 

今のままでは嵐山さんを確実に排除できるとは限らない。

星章学園との試合を実験の場として、グリッドオメガをより強化する。

 

鬼道さんや灰崎君には申し訳ないが、僕は止まらない。

止まることなど....いや、止まっている時間など無いのだから。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

雷門に立ちはだかる壁

稲森 side

 

 

ザワザワ...ザワザワ...

 

 

「な、なぁ...何で今日は練習試合なのにこんなに良いところで試合するんだ?」

 

「さ、さあ...監督からここに集合と言われただけですし...」

 

「しかも観客までいるなんて....雷門中の生徒がほとんどみたいだけど...」

 

 

今日は監督が嵐山さんに話を付けてくれたらしく、嵐山さんが所属する永世学園との練習試合が行われるんだ。でも、指定された場所がグラウンドではなく、フットボールフロンティアスタジアム。しかも観客までいる状況に、俺たちは戸惑っていた。

 

 

「おーほっほっほ。皆さーん、揃っていますか~?」

 

「か、監督!これはどういうことですか!どうして観客までいるんです!」

 

「道成君、そんなに怒鳴らないで。観客がいるのは私も驚きましたが、このスタジアムを用意したのは神門杏奈さんですよ?」

 

「えっ?」

 

「....隼人さんを招き入れて試合をするんです。雷門中のグラウンドでも良かったですが、しっかりとしたスタジアムを用意したかったんです。」

 

「ああ、杏奈ちゃんは嵐山君のことが好きだもんね。」

 

「つ、つくしさん...あまり大声で言わないでください。」

 

「あはは、ごめんごめん。」

 

 

なるほど...神門さんが嵐山さんのために...それはそれですごい気がするけど。

とにかく今日は嵐山さんがわざわざ試合を受けてくれたんだ...良い試合にするぞ!

 

 

「よっ!待たせたかな。」

 

「嵐山さん!」「隼人さん!」

 

 

嵐山さんの登場に、俺と神門さんが同時に声をかける。

神門さん、本当に嵐山さんが好きなんだな。まあその気持ちわかるけど。

俺も嵐山さんには憧れるっていうか、こんな人になりたいって気持ちがすごく湧いてくるんだ。

 

 

「今日は試合をお受けいただき、ありがとうございます。」

 

「はは、あんまり固くなるなよ道成。今日は楽しくやろうぜ。」

 

「チッ...楽しくだと?実力で本戦出場を決めた奴らは余裕でいいよな!」

 

「こ、小僧丸....」

 

「......別に嫌味のつもりは無かったけど、気に入らなかったなら悪かったな。」

 

「チッ....」

 

 

こ、小僧丸....どうして嵐山さんに突っかかるんだよ。

嵐山さんが大人の対応をしてくれたから何もなかったけど....

 

 

「君、ちょっと失礼じゃないかい?」

 

「お、おい基山...」

 

「そうだよ。今のは無いんじゃないかい?」

 

「何だよ。文句でもあるのかよ!」

 

「だから文句を言ってるじゃないか。今の態度、試合をお願いした側の発言とは思えない。僕たちは別に君たちと試合をする謂れは無いんだよ。」

 

「落ち着けって、基山。それに緑川も。」

 

「チッ...いいか!俺はお前を絶対に認めねえ!....豪炎寺さんとパートナーを組むのはこの俺なんだ...!」

 

「小僧丸!」

 

 

小僧丸はそのまま、練習を始めるためにフィールドへと走っていった。

今の言葉、もしかして小僧丸は嵐山さんに嫉妬してるのかな...豪炎寺さんと言えば、嵐山さんの親友でライバルって言ってた人だもんな。

 

 

「全く....縁なき衆生は度し難し、だね。」

 

「あそこまで嵐山さんに突っかかるなんて、無礼が過ぎる。」

 

「基山、緑川。お前たちが俺のために怒ってくれるのは嬉しいが、あまり言いすぎるな。人には人の事情がある。お前らが俺のために怒ってくれたように、誰にだって譲れない部分があるんだよ。」

 

「嵐山さん.....そうですね。すみませんでした。」

 

「俺も...さすがに言い過ぎました。」

 

「いや、今度から気を付けてくれたらいいさ。」

 

「あ、あの...」

 

「お、稲森!今日の試合、お前の今を見せてみろ!俺はこの試合、お前の成長を確かめることを楽しみにしていたんだからな!」

 

「は、はい!」

 

 

嵐山さんはどうしてかわからないけど、俺に期待してくれている。

正直、期待されているのはすごく嬉しい。だから俺もその期待に応えるために頑張るぞ!

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「さてと...今日の試合は全力で雷門を叩き潰す。」

 

「え?それでいいんですか?」

 

「何だ基山。何か疑問があるのか?」

 

「えっと...さっきは稲森君の成長に期待してるって...」

 

「ああ。それは本心だ。だが試合をする以上、俺は誰が相手であろうと全力で行く。それが礼儀だろう。」

 

 

だからこそ、俺は常に本気でプレーする。そして誰よりもサッカーを楽しむ。

たとえ俺が鍛えた奴であろうと、俺を目の敵にする奴だろうと、俺は全力でぶつかっていく。それが本当のサッカーだからな。

 

 

「今日の試合、お前らの成長も確認したい。基本俺が攻めるが...適宜お前らにもボールを回していくから、集中を切らさずに行くぞ。」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

「よし....じゃあ基山、締めろ。」

 

「はい!......絶対勝つぞ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

 

基山が締め、俺たちはフィールドへと散らばっていく。

今回は本戦でもやる可能性のあるフォーメーション、俺と基山の位置を入れ替えたフォーメーションで戦うことにしている。俺も本来のポジションであるフォワードに戻り、気合が入る。

 

フォワードに俺、吉良、南雲、涼野。ミッドフィルダーに基山、八神、緑川、本場。ディフェンダーに倉掛、蟹目。キーパーに砂木沼となっている。

 

対する雷門はいつものフォーメーションのようだな。

さて....まずは挨拶代わりの1点を取っとこうかな。

 

 

『それでは永世学園vs雷門中の練習試合を開始します!』

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「嵐山サン。」

 

「おう。」

 

 

俺は吉良からボールを受け取り、その場に立って雷門の動きを確認する。

俺のボールを奪いに来ているのは、剛陣と小僧丸か。稲森は様子を伺っているようだな。

他の奴らも二人が抜かれても良いようにパスコースを封じようと動いたり、すぐに俺に近付けるようにしている奴もいる。

 

 

「(ま、全員抜くけどね。)」

 

「来たぞ、剛陣!」

 

「おう!行くぜ、小僧丸!」

 

 

まずは剛陣が俺にスライディングを仕掛けてきた。

チラッと確認したが、小僧丸は俺がスライディングを避けた瞬間に突っ込んでくるよう待機しているようだな。空中なら避けようがない、と考えているようだな。

 

 

「ふっ!」

 

「くそっ!(...なんてな!行け、小僧丸!)」

 

「かかったな!」

 

 

俺がボールとともにジャンプして剛陣を避ける。

それと同時に小僧丸が俺へと突っ込んでくる。やはり避けようがない空中で俺からボールを奪う作戦か。

だけど甘いな。その作戦をするなら身長の高い剛陣が2番手の方が良かった。

 

 

「ふっ!」

 

「んなっ!?」

 

「嘘だろ!?」

 

 

俺は空中で回転し、プレスをかけてきた小僧丸を上から抜いていく。

空中でムーンサルトのような動きで避けたことに、小僧丸も剛陣も驚きを隠せないようだった。

 

 

「よっと...」

 

 

俺はそのまま着地し、すぐさまドリブルで駆けあがっていく。

 

 

 

「は、速い...!」

 

「帝国の風丸さんよりも速い気がする...!」

 

「諦めるな!プレスをかけるんだ!」

 

 

俺がものすごいスピードで急接近してきたことに、雷門のディフェンダー陣は驚き戸惑っていた。

道成がすぐさま指示を出すが、俺からすればもう遅い。もっと先を見据えて行動しなければ、俺は止められない!

 

 

「なっ!?」

 

「くっ!」

 

 

俺はプレスに来た奥入と万作をターンで抜き去り、そのまま駆けていく。

全くスピードを落とさずにターンして躱したので、二人は俺に追いつくことができなかった。

そしてディフェンダーは残すところ岩戸と日和のみとなった。

 

 

「ゴ、ゴス...止める...ゴス!」

 

「い、行きますよ...!」

 

「残念だけど、そんな及び腰じゃ俺は止められないよ。....さあ、風になろうぜ。」

 

 

俺はさらにスピードを上げて、岩戸と日和に向かって突撃していく。

ぶつかるかもしれないのにまるでスピードを落とさない俺に、二人は咄嗟に目をつぶって腕でガードするような体勢を取ってしまう。それでまともに俺を止められるはずもなく、俺は二人の間を通って走り抜けた。

 

 

「あ、あれ....?」

「ゴス....?」

 

 

「さて、残すは君だけだ、のりか。」

 

「っ!....と、止めてみせます!」

 

「なら見せてもらおうか。」

 

 

俺はそのままシュート体勢に入り、ボールを軽く宙に浮かせる。

のりかは俺の動きを良く観察しつつ、シュートを止める体勢に入った。

ま、悪いけど1点もらうから、本気で行くよ。

 

 

「”ウイングショットV4”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ、”ウズマキ・ザ...”、きゃああああああああ!」

 

 

『ゴーォォォォォォル!永世学園、試合開始のホイッスルの後、一瞬にしてゴールを奪いました!これがパーフェクトプレイヤー、またの名を風神!嵐山隼人の実力か!』

 

 

俺の放った”ウイングショット”は、のりかが必殺技を出す間もなく襲い掛かり、のりかとともにゴールへと突き刺さった。試合開始1分も経たない間の出来事に、雷門イレブンは呆然と立ち尽くしていた。

 

 

「ナイスシュートです、嵐山さん!」

 

「おう。ま、今のは個人技も個人技。とりあえず1点取っておきたかったからやっただけだから、次からはパスを回していくぞ。」

 

「はい!」

 

 

俺は基山と一緒に自陣へと戻っていく。その際に雷門イレブンの表情を見たが、何とも言い難い表情の奴らが多かったな。圧倒的な力の前に絶望的な表情を浮かべる奴、自分の力が発揮できず悔しがる奴、そして...ワクワクしたような表情で俺を見つめ返す奴。

 

 

「(お前はまだついてこられるか、稲森。)」

 

「(もちろんです!俺は嵐山さんに勝つ!)」

 

 

 

さあ、なら見せてもらおうか。お前の力を。

そして、雷門イレブンの底力を。

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「明日人!」

 

 

今度は雷門ボールで試合が再開。小僧丸は稲森にボールを渡し、ゴール前へと駆けあがる。

稲森はミッドフィルダー陣と共にパスを出しあいながら、攻めあがってきていた。

 

 

「どうします、嵐山さん。」

 

「そうだな。ここは彼らの力を見るついでに、今のあいつがどこまでやれるか確かめるか。...フォーメーションイプシロン!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

「くくく....来たか嵐山!いいだろう、進化した俺の実力を見せてやる!」

 

 

砂木沼の奴、俺の意図を理解したのかテンションがあがってるな。

何か俺の知らないことをやってくれそうな予感がするよ。

 

 

「明日人、こっちだ!」

 

「頼む!」

 

「よし.....受け取れ、小僧丸!”氷の矢”!」

 

ドゴンッ!

 

 

稲森から氷浦へとボールが渡り、氷浦が必殺技で小僧丸へとパスを出した。

綺麗な弧を描いて、氷を纏ったボールは小僧丸の元へと渡る。

 

 

「よし...(決めてやる!俺の方が、豪炎寺のパートナーにふさわしいって証明してやるんだ!)」

 

「くくく...来い!我が力を証明するための生贄としてやろう!」

 

「やれるもんならやってみやがれ!っ!”ファイアトルネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

ついに、小僧丸から”ファイアトルネード”が放たれた。

さあ見せてみろ、砂木沼。進化したお前ってのを。

 

 

「くくく....ぬぅん!”ドリルスマッシャー”!」

 

「な、何だ!?」

 

 

何と砂木沼は右手にドリルのオーラを発現させ、それを使ってボールを受け止めた。

ドリルと衝突したボールはドリルを打ち砕かんと突き進むが、負けじとドリルは回転する。

そしてついにはボールの勢いを殺して、ボールを弾いた。

 

 

「ふっ...この程度か、雷門のストライカーは。」

 

 

弾かれたボールは砂木沼の手に収められていた。

なるほど....これが今の砂木沼か。悪くない。いや、むしろ良かったと褒めるべきだな。

 

 

「くっ....!」

 

「つまらん。嵐山の”ファイアトルネード”はもっと熱く、もっと激しかったぞ!」

 

「何だと!?俺の”ファイアトルネード”があいつより弱えって言うのか!」

 

「そうだ。幾度も奴のシュートを受けてきた俺だからこそわかる。嵐山のシュートにはあって、お前のシュートには無いものが!」

 

「あいつのシュートにあって、俺のシュートに無いものだと....ふざけんな!俺があいつに負けてるなんて....そんなことねえ!」

 

「ふん、ならば....受け取れ、嵐山!」

 

 

砂木沼を持っていたボールをロングスローで俺へと渡してくる。

遠くてそこまで聞こえなかったが、何やら小僧丸と言い争っていたみたいだな。

 

 

「嵐山!お前の”ファイアトルネード”を見せてやれ!」

 

「...なるほどね。了解。」

 

 

全く...俺は別に小僧丸が”ファイアトルネード”を使うことも、小僧丸が修也と一緒に”ファイアトルネードDD”を打つことも気にしてないというのに。だが、仲間からの期待には応えないと漢が廃るよな。

 

 

「っ...今度こそ止めるぞ!」

 

「まずは俺が行く!」

 

「そのやり取りが既に遅い。」

 

「「っ!」」

 

 

俺はふたたび、ドリブルでゴール前へと駆けあがっていく。

俺を止めようと道成と氷浦が動き出そうとするが、俺はもう動き出している。

単純にこれまでの経験の差だな。お前らはまだ俺たちの領域には来てないよ。

 

 

「ゴ、ゴス.....”ザ・ウォール”!」

 

「足りないな。」

 

「ゴス!?」

 

 

岩戸が発動した”ザ・ウォール”も、そのうえを軽く飛び越えていく。

あまりの動きに、ふたたび雷門には絶望といった表情が浮かび出した。

 

 

「(この程度か...過度に期待しすぎたか?ま、とりあえず言われたことはこなしますか。)」

 

「っ....こ、今度こそ...!」

 

 

「っ!」

 

 

俺はボールを上空へと打ち上げ、自身も回転しながらボールの後を追う。

砂木沼の要望だ、俺の本気の”ファイアトルネード”を見せてやるよ。

 

 

「”真ファイアトルネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「させません!今度こそ止めてみせる!”シューティングカット”!」

 

 

今度は日和が俺の必殺技止めようと動き出した。

自身の必殺技、”シューティングカット”を発動し、俺のシュートをシュートブロックしようとする。

だが、”ファイアトルネード”がシューティングカットの竜巻に衝突した瞬間、”シューティングカット”の竜巻ははじけ飛んだ。

 

 

「そ、そんな....うわああああ!」

 

「っ、止める!”ウズマキ・ザ・ハンド”!...え.....きゃあああああああ!」

 

 

今度はのりかが”ウズマキ・ザ・ハンド”で対抗してくる。

だが、”ファイアトルネード”が”ウズマキ・ザ・ハンド”に触れた瞬間、”ウズマキ・ザ・ハンド”は蒸発したかのようにはじけ飛び、まるで勢いの殺されていない”ファイアトルネード”がのりかの腹部を直撃、そのままゴールへと突き刺さった。

 

 

『ゴーォォォォォォル!何ということでしょう!これが嵐山隼人!誰がこの男を止めることができるのでしょうか!』

 

 

 

「見たか。これがお前と嵐山の差だ。」

 

「何だよ...あれ....」

 

「嵐山には絶対的な自信と、それに見合う実力がある。だがお前には自信しか無い。そしてお前にはお前自身が無い。」

 

「俺...自身...だと?」

 

「そうだ。お前のそれは所詮、豪炎寺修也の真似事にしか過ぎん!そんなお前では、本物を持つ嵐山には一生勝てん!」

 

「っ....くそ....っ!」

 

 

 

なんだかあっちは盛り上がってるみたいだが....

 

 

「のりか。大丈夫か?」

 

「は、はい....痛つつつ....」

 

「すまんな。試合となると手加減できないんだ。」

 

「いえ....手加減された方が辛いですから。」

 

「そうか....のりかは強いな。だが、もし怪我をしたと思ったのなら下がれよ?怪我をした選手は治療が終わるまで交代とは別枠でフィールド外に出て良い、ってルールが定められている。」

 

 

まあのりかや雷門の場合、のりかはキーパーだから交代は難しいだろうし、そもそも今の雷門には交代するための選手もいないしな。

 

 

去年は世宇子のせい...というのも酷いが、怪我人が続出したことで今年から新たにルールが追加された。怪我人は交代枠を使わずに交代でき、さらに治療を終えて問題無いと判断された場合は、交代枠を使っての交代が認められる、というものだ。

 

 

まあ試合中に怪我をして、その試合にすぐに復帰するなんてなかなか難しいけど。

 

 

「おーほっほっほ。審判、この試合、棄権します。」

 

「えっ?練習試合ですし、棄権しなくても良いのでは...」

 

「いえ、今の実力差を確認できたので問題ありません。」

 

「そ、そうですか.....永世学園の皆さんは、異議ありませんか?」

 

「俺は構いません。」

 

「...僕たちも問題ありません。」

 

「なっ...ま、待ってくれ!俺はまだ...!」

 

「おーほっほっほ。....無意味ですよ、小僧丸君。」

 

「なっ....!?」

 

 

棄権を申し入れた監督に、小僧丸が食ってかかった。

ま、あいつはまだ納得していないだろうな。

俺も試合を終わらせるのは構わないが、稲森の実力を計るためにもう少し続けたい気持ちもある。

 

 

「今の君では無意味です。けして、永世学園には....嵐山君には敵いません。」

 

「そんなことは...っ...!」

 

「無い、なんて言えないでしょう。試合が開始して僅か数分。ここまではっきりと実力差が見えた。なのに何故、彼には勝てると思うのです?」

 

「それは.....俺は....!」

 

「監督!もう少しだけ、試合を続けさせてもらえませんか!」

 

「明日人....」

 

 

監督が小僧丸を追い詰めていたが、そこに稲森が割って入った。

その時、監督が僅かに笑っていたのを見て、今の状況も監督の手のひらの上だってのがよくわかった。

どうやら監督はこの試合で、小僧丸を変えたいんだろうな。修也に執着する、その心を。

 

 

「どうしてあなたが反論するんです?」

 

「だって、まだ試合は始まったばかりです!俺たちは何もできてない!」

 

「それは当然です。彼らとはレベルが違いますから。」

 

「それでも俺は....小僧丸を、みんなを信じて戦いたい!それに、ここで逃げてちゃ、本戦では戦えません!」

 

「「「「明日人....」」」」

 

 

「.......おーほっほっほ!よろしい!では、前半だけです。前半で兆しが見えなければ、すぐにこの試合を棄権しますよ。」

 

「監督.....ありがとうございます!」

 

 

「おーほっほっほ。...では嵐山君、申し訳ありませんが続きをお願いしますね。」

 

 

そう言って、監督はベンチへと戻っていった。

全く...すべては計画通り、ってことだろうな。

まあ俺も試合を続けることに異論は無いし、別にいいけどさ。

 

 

「よし...お前ら、続きをやるぞ。」

 

「ちょ、嵐山さん!いいんですか!?」

 

「ああ。彼らにもう少し、チャンスを与えてやれ。それに....もしかしたら面白いものが見れるかもしれん。」

 

「面白いもの....ですか?」

 

「ああ。」

 

 

稲森っていうとびっきりの面白い奴もそうだけど、小僧丸がここで覚醒すればより面白くなるだろうな。

 

 

ああ...やっぱりサッカーは楽しい。予選、俺も出ればよかったかも。

 

 

 

.




小僧丸がヘイトキャラっぽい扱いになってますが、嫌いとかそういうのではないです。
単純に性格やオリ主関連の事情を考えていくと、こういう突っかかるキャラになりがちになっちゃうんですよね。小僧丸は割と好きな方のキャラです。

あと雷門が弱い、って扱いしてますがあくまでオリ主視点での話になります。元々天才プレイヤーが怪我で弱体化した、という設定なので、怪我から復帰して暫くしたら強くなるのは当たり前...と私の中では思ってます。

.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

俺自身のサッカー

嵐山 side

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「小僧丸!」

 

「おう!」

 

 

雷門ボールで試合が再開した。

さて...どう動くか。まずは様子見と行きたいところだな。

 

 

「とりあえずみんな自由に動いていいよ。」

 

「「「「了解!」」」」

 

 

「さて、僕が相手だ!」

 

「っ!」

 

 

俺の指示で全員が自由に動き出した。

ドリブルであがっていく小僧丸の前に、緑川が立ちふさがる。

他にも稲森や剛陣をしっかりとマークしているし、うまく動けているようだ。

 

 

「くそっ....!(ダメだ...隙がねえ!)」

 

「はぁ!」

 

「くっ!」

 

 

小僧丸は何度も緑川を抜こうとするがなかなか抜けず、緑川がぴったりとマークしていたことで動けなくなり、そのまま緑川にボールを奪われてしまう。

 

 

「まだだ!」

 

「おっと...危なかった。油断大敵、急がば回れってね。玲名!」

 

「そのパスは読んでいました!」

 

「なっ!?」

 

 

ボールを奪った緑川は、そのままドリブルで駆けあがろうとするがその前に道成が立ち塞がった。

だが緑川は慌てずに八神へとパスを出す...のはいいが、それは雷門の作戦通りで、緑川のパスしたボールは奥入がカットしてしまった。

 

 

「よし!みんな行くぞ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

「必殺タクティクス!”ルート・オブ・スカイ”!」

 

 

奥入がボールを奪ったことで、今度は道成の指示で必殺タクティクスを発動した。

帝国との試合で見せた、空中でのパス回しか...だがそうはさせない!

 

 

「必殺タクティクス!”ペンギンカーニバル”!」

 

「「「「っ!?」」」」

 

 

俺の宣言に、雷門イレブンは一斉にこちらを見だした。

俺は君らの試合をずっと見てきたからね...君らの策を封じる手段は何通りも浮かんでいる!

 

 

ピュィィィィィ!

 

 

俺が口笛を吹くと、無数のペンギンが宙を舞い、雷門ゴールの方へと向かっていく。

雷門イレブンはその状態で空中パス回しを行うと、ペンギンとぶつかって吹っ飛ばされるので動けずにいた。

 

 

「な、何なんですかこれ!?」

 

「ペンギンが空を飛んでる!?」

 

「ぺ、ペンギンって飛べるでゴスか!?」

 

「それより、これじゃあパス回しができない!」

 

 

「もらった!」

 

「うわああああ!」

 

 

雷門イレブンが俺たちのタクティクスに戸惑っているうちに、八神が奥入からボールを奪った。

そしてそのままドリブルで駆けあがる。ペンギンはまだ上空を飛んでおり、雷門イレブンは戸惑っている様子だ。

 

 

「くっ...何てタクティクスだ...」

 

「ふっ...隼人の力があれば、私たちはもっと強くなれる。ここは通してもらうぞ!」

 

「うおおおおおお!」

 

「っ!」

 

「”イナビカリダッシュ”!」

 

 

八神がそのままゴール前まで駆けあがると思われたその時、最前線にいたはずの稲森がゴール前まで戻っており、さらにドリブル技である”イナビカリダッシュ”を応用して八神からボールを奪って見せた。

 

 

「な、何だと!?」

 

「明日人!」

 

「まだまだ諦めないぞ!俺たちは戦える!」

 

「だったら見せてみな!」

 

 

ボールを奪った稲森は、ドリブルで進みだした。

だがその前に吉良が立ちふさがる.....さて、どっちに軍配があがるかな。

 

 

「っ...チッ...(こいつのドリブル、嵐山サンみたいな動きしやがる...!)」

 

「っ...っ...っ!(抜ける!ここでスピンをかけて...!)」

 

「んなっ!?(ここでスピンだと!?くそ...体の動きが追い付かねえ...!)」

 

 

稲森はボールをキープしつつ、フェイントで吉良を揺さぶる。

ああいう動き、俺もよくやるなと感心しつつ、稲森の動きを見続ける。

すると稲森は吉良の体勢が傾いたのを確認すると、反対方向にスピンをかけた。

吉良は体勢が傾いていたためスピンに対応できず、稲森に抜かれてしまった。

 

 

 

「ヒロトが抜かれた!?」

 

「基山、動揺してる場合じゃないぞ。」

 

「あ、は、はい!」

 

 

「っ!嵐山さん!」

 

 

吉良を抜いた稲森が駆けあがってきた先には、俺と基山が立っていた。

さて、俺たち相手にどう来る、稲森。俺は本気で相手するぞ。

 

 

「っ.....(だ、ダメだ...どうやっても抜けるイメージが湧いてこない!)ご、剛陣先輩!」

 

「え、俺か!?」

 

 

「(へえ...しっかり周りが見えてるじゃん。それに無理に突撃してこない辺り、割と冷静なのか。だが稲森はこういうとき、臆せず向かってくるタイプだと思ってたな。そこは少し残念だ。)」

 

 

 

稲森から剛陣へとパスが回る。超攻撃的フォーメーションで戦う俺たちにとって、カウンターや速攻といった攻撃はなかなか厄介だ。だが、だからこそそういう動きをされた時の練習は人一倍取り組んでいる。

 

 

「ここは通さないわよ!」

 

「げっ!マークに来るのが速え!」

 

 

すぐさま、倉掛が剛陣のマークにつく。

そして蟹目はしっかりと小僧丸のマークについているので、雷門イレブンは攻めあぐねるだろう。

この状況でチームを導ける奴がいれば、このチームも化けるんだろうが...やはり鬼道のような奴はなかなかあらわれないか。

 

 

「くっ...(やべえぜ...このままじゃ攻め切れねえ!)」

 

「くそ...!(俺の実力はここまでだってのかよ...俺はあいつ以下なのか...豪炎寺さんのパートナーにはなれねえってのか...!)」

 

 

「剛陣先輩!」

 

「っ、稲森...!」

 

 

しまったな。パスを出した稲森は減速していたのを見ていたから、攻め手から外していた。

だが俺たちが目を離した瞬間、ふたたび全速力でゴール前まで駆けあがったか。

あいつ、俺のことをよく見ているな。弟子にしたのは失敗だったかもしれん。

 

 

「っ、明日人!」

 

「うおおおおおお!」

 

 

剛陣から稲森に対してパスが出される。

完全にフリーとなっている稲森は、難なくそのボールを受け取り、シュート体勢に入った。

 

 

「”シャイニングバード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

稲森が放ったシュートは、光の鳥がボールへと集まり、巨大な鳥となってゴールへと突き進む。

何となく、俺の”ウイングショット”と似てるな。だがその性質はまるで異なる。

俺の”ウイングショット”はスピードを意識したシュートだが、稲森の”シャイニングバード”はスピードが遅くなっている分、パワーがある。

 

 

「くくく...そのシュートも止めてみせよう。”ドリルスマッシャー”!」

 

ガンッ!

 

 

「うおおおおおおおおおおお!...っ、このパワー....ぐあああああああ!」

 

バシュン...!

 

 

稲森の”シャイニングバード”は、砂木沼の”ドリルスマッシャー”を打ち砕きゴールを決めた。

うん...良いシュートだった。今のはシュートを放った稲森を褒めるしかない、というくらいのシュートだったな。

 

 

『ゴーォォォォォォル!雷門、稲森のシュートで1点を返しました!』

 

 

「あれが嵐山さんが期待しているっていう...」

 

「うん、面白い奴だよ。」

 

「稲森...明日人.....」

 

 

基山はどうやら、稲森が気になっているようだな。

同い年みたいだし、良いライバル関係になってくれたら来年のフットボールフロンティアも盛り上がるだろう。今後に期待だな。

 

 

.....

....

...

..

.

 

小僧丸 side

 

 

 

「ナイスだぜ、明日人!」

 

「縦横無尽の活躍だな。」

 

「ありがとうございます!」

 

 

どうしてだ...明日人は俺と違って、砂木沼からゴールを奪ってみせた。

俺と明日人で、何が違うってんだよ...俺だって、必死で努力してフォワードに転向して、豪炎寺さんと同じ”ファイアトルネード”を覚えて...

 

 

あの伝説の試合...雷門中vs世宇子中の試合で見た、豪炎寺さんと嵐山の”ファイアトルネードDD”を見て、俺は涙が出るほど感動したんだ。二人の息の合ったシュートで点を奪ったシーンを、俺は今でも頭の中で再生できるくらい覚えている。

 

 

悔しいんだ...憧れの豪炎寺さんが見ているのは、いつも嵐山だ。

公言するくらい、豪炎寺さんにとって嵐山は特別なライバルなんだ。

俺も豪炎寺さんのライバルになりたい...いつか豪炎寺さんに認められたい、一緒にプレーしたいって思ってた。

 

 

でも今日、この試合で突きつけられたのはどうしようもない現実だった。

俺じゃ豪炎寺さんの足元にも及ばない。嵐山の代わりになんてなれるわけがない。

そう思わせられるプレーの数々...俺とはまるで威力、練度の違う”ファイアトルネード”。

 

 

ここが俺の限界...俺はいつまで経っても、嵐山には勝てない...

嵐山がいる限り、俺が豪炎寺さんとプレーすることはできない...

 

 

『お前にはお前自身がない。』

 

「っ!」

 

『所詮、豪炎寺修也の真似事に過ぎん!』

 

 

豪炎寺さんの真似事....そういえば俺って、”ファイアトルネード”以外に何ができる...?

明日人たちとの連携技はある。だけど俺だけの必殺技はねえ。

俺の”ファイアトルネード”も結局は、豪炎寺さんの技だ。

 

それに比べて、嵐山はどうだ。”ウイングショット”に”天地雷鳴”、それだけじゃなくドリブル技やブロック技も使えたはずだ。

 

明日人だって、”シャイニングバード”や”イナビカリダッシュ”といった、自分だけの技を持っている。あの剛陣だって、”ファイアレモネード”を完成させてみせた。

 

 

自分自身の象徴ともいえる必殺技が無いのは、俺だけだ。

俺がさらに成長するには、俺自身の必殺技を習得するしかねえ...

だが、この前半でそれが示せるのか?それができなければ、この試合は終わっちまう。

 

 

「(この試合で見せなきゃならねえ...!俺の...俺自身のサッカーを...!)」

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「よし、攻めていくぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

試合が再開した。1点取られたことで、みんな火が点いたみたいだな。

今の状態なら俺が動けば簡単に点を取れるが、それじゃあつまらない。

チームの要である吉良と基山の動きを確認するのが良いかな。

 

 

「うおおおおお!」

 

「っ!...小僧丸か。」

 

「俺はあんたを倒す!」

 

 

ガンッ!

 

 

小僧丸がボールを持つ俺へとタックルを仕掛けてくる。

俺はあえてそれを受け止め、小僧丸と激突する。

 

 

「俺を倒すか....だが今のままでは無理だ。」

 

「ああそうだ!今日の試合で嫌ってほど気付かされた!それでも俺は、豪炎寺さんの隣を諦めたくねえんだよ!」

 

「ふっ...修也の隣、か。」

 

「俺はあんたに勝ちたい!だからこの試合で、俺自身のサッカーを見つけるんだ!」

 

「だったら俺を止めてみろ!」

 

「くっ...!」

 

 

俺は持ちうるすべてのテクニックを使って、小僧丸からのスティールを回避する。

やはり小僧丸は小柄な分、小回りが聞いて面倒だな。それに小柄ながら当たり負けしないフィジカルも持っている。既に自分自身のサッカーを見つけているんだが、まだそれに気付いていないようだ。

 

 

「(だが、譲れない思いってのは時に爆発的な力を発揮するもんだ。)」

 

「なっ!ここで...バックかよ...!」

 

 

俺は突っ込むと見せかけて、体勢をほとんど変えずに後方にバックした。

それに釣られた小僧丸は逆に体勢を崩し、俺の目の前で転んだ。

俺はそれを確認したので、そのままドリブルで小僧丸の横を通り過ぎる。

 

 

「(くそ...また負けた.............いや...まだだ...まだ終わっちゃいねえ!)」

 

「っ!」

 

「うおおおおおお!」

 

 

俺が横を通り過ぎた瞬間、小僧丸は最後の力を振り絞ったのか雄たけびを上げながらスライディングしてきた。その執念を目の当たりにして、俺は背筋がゾッとしたような感覚になった。これが恐怖...ってことなのか。

 

 

俺は何とかジャンプして躱そうとするが、小僧丸の足先が少しだけボールに触れ、俺の足元からボールが離れていく。そしてそのボールは、剛陣へと渡った。

 

 

「ナイスだぜ、小僧丸!」

 

「小僧丸が、嵐山さんからボールを奪った...!」

 

「いいぞ!小僧丸!」

 

「そのまま持ち込め!」

 

 

小僧丸が俺からボールを奪ったことで、雷門イレブンはかなり活気づいている。

だが、俺を止めたからといって油断しない方が良い。永世学園は、やわな鍛え方はしてないぞ。

 

 

「通さないわ。」

 

「ま、ここで快進撃は終わりだね。」

 

「っ!」

 

 

こぼれ球を拾った剛陣の前に、すぐさま八神と緑川が立ち塞がった。

剛陣が動けなくなったことで、盛り上がっていた雷門イレブンは息をのんだ。

だが一人だけ、ちゃんと動けている奴がいる。

 

 

「剛陣先輩!」

 

「っ、明日人!」

 

 

「くっ...また稲森君か!」

 

 

ふたたび稲森へとパスが回る。またしても同じパターンで稲森にボールが渡ったか。

これはしっかり鍛え直さないとダメかもなぁ...ま、ボール取られた俺が言っても説得力無いか。

 

 

「っ、嵐山さん...!」

 

「やっ、稲森。」

 

 

俺は全速力で稲森へと接近し、稲森の前に立ち塞がった。

あまりの速さに、稲森もさすがに動揺を隠せない様子だ。

 

 

「っ....(やっぱりダメだ...この人を抜くイメージが湧いてこない...!)」

 

「(さあどうする稲森。他の仲間はまだ来ない。俺相手に時間稼ぎできないのも理解しているはずだ。もうお前が俺を抜くしかない。俺を超えるしか方法はないぞ!)」

 

「....っ.......(もう一か八か!嵐山さんを抜くしかない!)」

 

「(来たか...!)」

 

 

稲森は覚悟を決めたのか、俺に向かってドリブルで突撃してきた。

そうだ...ここはもうお前が俺を抜くしかない。

お前の今のすべてを俺にぶつけてこい!

 

 

「(嵐山さん相手に小手先の技なんて通用しない....だったら、全力でぶつかって、そのままの勢いでスピンして躱す!).....うおおおおおお!」

 

「(そう来たか...だったら俺もお前に新しいテクニックを見せてやるとするかね。)」

 

「っ!?(嵐山さんが俺に向かってきた!ここは速めにスピンを....)」

 

「ふっ...」

 

「えっ!?(嵐山さんもスピンで俺を躱して........っ!)」

 

 

 

『おおっと!?ボールを奪いに行ったと思われた嵐山だが、稲森との衝突を避けてスピンで躱した!稲森もスピンで躱し、嵐山を抜いてそのままゴールへ駆けあがる!』

 

 

 

いや~、こんなにうまくいくとは思わなかった。

サッカーのテクニックじゃないから応用できるか怪しかったけど、案外できるもんだな。

 

 

「な、何で......ボールが...」

 

 

『んん!?稲森、ボールを持っていない!?これは一体どういうことだあ!?』

 

 

「稲森、これが全国大会前に見せる最後の技だ。」

 

 

相手が持つボールを引きずりだし、かっさらう。

アメフトのストリッピングという技術を応用したテクニックだ。

まあ、漫画を見てパクった技だけど。名付けるなら、”スクリューバイト”...てか?

 

 

『何とぉぉぉ!稲森が躱したと思われていましたが、実は嵐山がボールを奪っておりました!一瞬の出来事に、私も状況を把握することができませんでした!』

 

 

「すごい.....(これが嵐山さん...まだまだこんなテクニックを隠し持っていたなんて...!)」

 

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『おおっと!ここでホイッスル!前半が終了です!』

 

 

 

何だ、ここで前半が終わりか。楽しくなってきたところだったのに。

だが見たところ、雷門イレブンは後半を戦う気力が残ってなさそうだな。

小僧丸もその場に倒れこんでるし、稲森以外はかなり消耗している。

 

 

「おーほっほっほ。どうやらここまでのようですね!」

 

「っ....くそ....結局、俺は俺自身のサッカーを示せなかった...!」

 

「...そんなことないだろ。」

 

「っ...あんたに何がわかる!」

 

「お前のサッカー...そんなもの、とっくに見つかってる。小回りの利いた動きに、当たり負けしないパワー。それらで道を切り拓き、自分で点を取れるストライカーの中のストライカー。いわばスーパーストライカー...それがお前だ。」

 

「何だよ...それ......最初から、あんたはそれがわかっていたってのかよ...俺が一人で勝手に突っかかって....馬鹿みてえじゃねえか...」

 

「小僧丸....憧れを持つのは良い。だが、憧れで終わるな。」

 

「....」

 

「お前が修也と共にプレーしたいという気持ちは痛いほど伝わってくる。だが、それで終わろうとすればお前はそこまでだ。目標を高く持て。....修也に勝つ、それくらいの気持ちが無いと俺にも勝てねえぞ。」

 

「豪炎寺さんに...勝つ....」

 

 

俺が見据えているのは、世界一だ。

そういう意味では、修也に勝つという目標では俺には勝てないかもしれない。

だが、俺の言いたいことはそういうことじゃない。

 

憧れるだけなら誰でもできる。

だが、憧れの存在を超す...そこまでイメージできなければ、上にはいけない。

がむしゃらに頑張るのも美学だけど、目標はしっかり持った方が良いんだ。

 

円堂だって、フットボールフロンティア優勝って目標があったから、がむしゃらに頑張れたんだからな。

 

 

「フットボールフロンティア本戦、雷門の快進撃を期待してるぜ。...じゃあな。」

 

 

俺はそう言って、永世学園のベンチへと戻っていく。

もしも雷門が勝ち上がって、決勝まで来るのであれば...その時はちゃんと決着をつけよう。

本気と本気のぶつかり合いで、満足いくまできっちりとな。

 

 

「っ.....俺は!あんたに絶対勝つ!あんたに勝って、豪炎寺さんに認めてもらって.....そして!豪炎寺さんも倒す!俺が最強のストライカーになるために!」

 

「.......」

 

「っ....あ....ありがとう....ございました....っ!」

 

 

小僧丸の言葉に、俺は振り返らずに手を振って去っていく。

期待してるぞ、小僧丸。それに稲森....雷門イレブン。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

発動、グリッドオメガ

嵐山 side

 

 

「うわ...すごい人だな。」

 

「そりゃそうですよ。なんたって今日はフットボールフロンティア全国大会の1回戦なんですから。」

 

「しかも、ランキング1位の星章学園に、今話題のアレスの天秤システムを使用している王帝月ノ宮の試合だからな。」

 

 

そう、今日からフットボールフロンティア全国大会の本戦が開始する。

俺たちの1回戦は明日となっていて、今日はフリーなので基山と吉良を連れて星章と王帝月ノ宮の試合を見に来ている。明日の白恋中との試合に勝てば、次に当たるのはここのどちらかだからな。情報はしっかりと持っておきたい。

 

 

「どうやら今日は鬼道さんも灰崎君も最初から出るようですね。」

 

「まあ当然だろう。ここからは負ければ終わりのトーナメント戦だからな。特に俺たちのブロックは他と比べても激戦区だ。俺たちも明日、負けるかもしれないからな。」

 

「いつになく弱気っすね、嵐山サン。」

 

「弱気に見えたか。安心しろ、吉良。俺は負けるつもりはないから。」

 

「へっ...わかってますよ。」

 

 

俺たちは絶対に負けない。必ず勝ち上がって、優勝を掴み取る。

たとえ相手が鬼道であろうと、修也であろうと、円堂であろうと...全員倒して優勝する。

最強は俺たち永世学園だってことを、この大会で示してやる。

 

 

「お、そろそろ始まりそうですよ。」

 

「星章ボールでキックオフか....さて、ピッチの絶対指導者さんはどんなプレーを見せてくれるのかね。」

 

「フィールドの悪魔にも期待だな。」

 

 

 

『さあ皆さんお待たせしました!ついにフットボールフロンティア全国大会本戦が開始します!実況は私、角間王将がお送り致します!まずは第一試合!全国ランキング堂々の1位に座している、星章学園!対するは、月光エレクトロニクスが提供するアレスの天秤によって高度な育成を受けた天才たち、王帝月ノ宮中!どちらも予選を全勝で勝ち上がった猛者たち!果たして、この試合はどちらに勝利の女神がほほ笑むのか!』

 

 

アレスの天秤...か。塔子に調べてもらったが、やはり黒い噂が絶えないようだ。

幸い、総理は深く関わっておらず塔子たちにダメージが行くことは無いが、政府が携わっている研究でまさか感情を失った人間や、人格が壊れた人がいて、それらが闇に葬り去られているとはな。

 

日本は安全な国だと思っていたんだが、神のアクアだったりエイリアンエナジーだったり、そしてアレスの天秤だったり、裏ではいろんな思惑が蠢いているんだな。

 

 

.....

....

...

..

.

 

鬼道 side

 

 

「灰崎、調子はどうだ。」

 

「くくく...絶好調だ。嵐山サンのおかげでさらにパワーアップしたぜ。」

 

「ふっ...そうか。なら開幕から飛ばしていくぞ。」

 

「ああ。...ついに来たんだ、この時がな。はなから抑えられるわけがねえ。」

 

 

灰崎はどうやらかなり昂っているようだな。

こういう状態の奴を制御するのは難しいことだが、灰崎は周りが見えていないわけじゃない。

俺がかつて、雷門の一員として決勝の舞台に立った時のように、戦うべき相手を前に武者震いしているような状態なんだ。

 

 

『それでは試合を開始します。』

 

 

 

「よし、行くぞ!」

 

「「「「「「おう!」」」」」」

 

 

「さあ、行こうか。」

 

「「「「「「はい。」」」」」」

 

 

星章と王帝月ノ宮の選手がフィールドへと散らばっていく。

王帝月ノ宮...アレスクラスターで構成されたチームだが、果たしてその実力は本物か。

この試合で確かめさせてもらおう。

 

 

「....っ!」

 

 

ふと観客席を見上げると、嵐山と目が合った。

やはり観戦に来ていたか。お前たちが勝てば、次に当たるのは俺たちのどちらかだからな。

待っていろ、嵐山。この試合に勝ち、必ずお前に挑戦してみせる。

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『さあ今キックオフです!』

 

 

「鬼道!」

 

「ああ。」

 

 

灰崎からボールを受け取り、フィールドを見渡す。

王帝月ノ宮の選手はさほど大胆なポジショニングはしておらず、要所を守っている状態か。

ならばこちらから切り込んで、灰崎のフォローをする。

 

 

『鬼道!ボールを受け取り、ドリブルで駆けあがっていく!灰崎は鬼道にボールを渡して猛スピードでゴール前まで駆けあがっているぞ!王帝月ノ宮イレブン、誰も灰崎に追いつけない!』

 

 

 

「くっ...(馬鹿な...灰崎がデータよりも速い...!)」

 

「っ...(あり得ない...何故追いつけない。俺たちのスピードの方が、灰崎より上だったはずだ。)」

 

「(灰崎君と鬼道さん以外はデータ通りの動きだ。AIが導き出した展開通りに動いている。だがあの二人はまるで別の行動を取っている....厄介だな。)」

 

 

 

「先にボールを奪えばいい話だ!」

 

「ふっ...簡単には奪わせん。」

 

 

俺の前にディフェンスが一人あらわれるが、俺を一人で止められると思っているなら残念だな。

俺は嵐山に勝つために、あらゆる努力をしてきた....俺を止めたいなら、嵐山を連れてくることだな。

 

 

「”真イリュージョンボール”!」

 

「なっ!?」

 

 

『抜いたあああああああ!鬼道、草加を抜いて前線へ!』

 

 

「よし...決めろ、灰崎!」

 

 

俺は灰崎に少し大きめにパスを出した。

今の灰崎なら、問題無く取れる範囲だろう。

 

 

「くくく...おもしれえ。うおおおおおお!」

 

「なっ!?」

 

「まだスピードがあがるのか!?」

 

「はっ!てめえらが俺の実力を計れるかってんだよ!俺は常にパワーアップしてるのさ!」

 

 

ただでさえ差があった灰崎と王帝月ノ宮のディフェンスの距離が、今のでさらに離れる。

そして俺が出したボールを灰崎は難なく受け取り、実質のフリーの状態となった。

今ので余裕なら、もう少し難しいパスも出せそうだ。

 

 

「くくく...食らいな。”オーバーヘッドペンギン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ふん...貴様ごときのシュート、止めてやる!”王家の盾”!」

 

 

灰崎の”オーバーヘッドペンギン”と、西蔭の”王家の盾”がぶつかる。

”王家の盾”にペンギンが突き刺さり、盾には徐々にヒビが入っている。

 

 

「くっ...馬鹿な...この俺が押されているだと...!?」

 

「くくく...いったはずだ。てめえらは既に捉えている!俺がてめえらを倒して、アレスの天秤をぶっ壊すのさ!」

 

「くっ....まだだ....うおおおおおお!」

 

シュルルルルルルルル....!

 

 

 

『と、止めたああああああああああああ!西蔭、ゴールに押し込まれながらも渾身のセーブ!得点を許しません!』

 

 

「チッ...だがこれなら次で点を取れそうだ。鬼道!もっと俺にパスをよこせ!」

 

「ふっ...言われなくてもそのつもりだ。しっかり準備しておけ!」

 

 

どうやら灰崎を嵐山の元に送ったのは大正解だったようだ。

まさかこの短期間でここまでのパワーアップをするとはな。

だが同時に恐ろしくもなる...嵐山率いる永世学園は恐らく、全員が今の灰崎と同レベルの実力を最低限備えているはずだ。

 

 

「(それでこそ、俺の最高のライバルだ。)」

 

 

「(くっ...灰崎ごときのシュートで手が痺れただと...!?)」

 

「(灰崎君のシュート...シミュレーションでは”王家の盾”で容易く止めていたんだが...一体なにが彼をここまで成長させたんだ。.....やはり早々にやるべきだ。)」

 

 

 

何だ...?王帝月ノ宮の選手たちのフォーメーションが変わったように見える。

何かを狙っているうようだが....なにをしてくる...。

 

 

「(これで終わりだ。残念だが、僕たちはここで負けるわけにはいかないんだ。)」

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「惜しい...灰崎君、なかなかやりますね。」

 

「ああ、短期間でここまでレベルがあがるとはな...さすがは1年生、吸収力が段違いだ。」

 

「だがそのシュートを止めたあのキーパーも、なかなかやるんじゃねえか?」

 

「ああ。かなりギリギリの勝負だったが、止めた西蔭もなかなかやる。」

 

 

だが今のシュートで手が痺れたようだな。

もう一度シュートを打ち込まれたら決まるかもしれない。

 

 

「(...だが何だ、この感じ...ものすごく嫌な予感がする。)」

 

 

 

「っ........いくぞ。”グリッドオメガ”、フェーズ1!」

 

 

 

俺の嫌な予感は的中することになる。

ボールを持った野坂が”グリッドオメガ”とやらを宣言すると、王帝月ノ宮の選手たちが赤い突風を巻き起こしながら星章イレブンの周りを走り出す。

 

 

「フェーズ2!」

 

「な、何だこれは!?」

 

「体が...持ち上げられる...!?」

 

 

そして次に突風が竜巻となり、星章イレブンが竜巻に飲み込まれて空中へ浮かびあげられた。

 

 

「フェーズ3!」

 

「「「「「うわああああああああああああああああああああ!!!!!」」」」」

 

「ぐっ...これはタクティクスなのか....!?」

 

「ちくしょう...!王帝月ノ宮...アレスの天秤....!これがてめえらのやり方か!」

 

 

竜巻は激しさを増し、星章イレブンはそのまま空中から落下。

バタバタと選手たちが上から落ちていき、倒れ伏すその様に会場は沈黙していた。

星章イレブンはダメージが大きいのか、誰も立ち上がれずにいた。

そんな中、ボールを持っていた野坂はゆっくりと歩きながらゴールまで向かい、軽く蹴ってゴールを決める。その光景に、誰もが言葉を失っていた。

 

 

「く....そ.......野坂...ぁ!」

 

「これが僕たちの力だ。...僕たちはこの力で、世界を変える。」

 

「くっ....こんなもの...サッカーでは....無い...!」

 

「............どうしますか?続けますか?」

 

「ぐっ....」

 

 

 

「審判!星章学園は棄権する。」

 

 

『......ハッ!え、ええと、ただいま星章学園の監督より棄権が申し出られました!よってこの試合、王帝月ノ宮中の勝利となります!』

 

 

 

 

「っ...!」

 

「嵐山さん!」

 

「悪い、基山、吉良!俺あいつらのところに行ってくる!」

 

 

 

星章の棄権がアナウンスされたと同時に、俺は鬼道たちの元へと走り出した。

野坂...これがお前たちのサッカーなのか....俺はお前にも期待していたんだ。

なのに...これがお前のサッカーで、お前たちの答えだというのなら、俺は絶対にお前たちを許さない...!

 

 

 

「鬼道!灰崎!」

 

 

俺はフィールドまで走って入っていき、担架で運ばれる鬼道と灰崎に声をかけた。

二人とも意識を保っているが、空中から落下した衝撃は大きく、動けずにいるようだ。

 

 

「ぐっ....す、済まない嵐山....どうやらお前たちとは戦えない...ようだ...」

 

「鬼道...なにを言っている!そんなことはどうでもいい!大丈夫か!」

 

「そう...騒ぐな...体中が痛いが、重傷ではなさそうだ。」

 

「そうか.....っ、灰崎は!灰崎は大丈夫か!」

 

「くくく....あんたがここまで取り乱すなんてな...」

 

「灰崎!」

 

「俺は離れた位置にいたから、そこまでのダメージじゃねえ....だが今は動けねえ....悪ぃな...」

 

「謝ることじゃない!....大きな怪我が無くて、本当に良かった。」

 

「ああ..」

 

「....なあ、嵐山サン....頼みがある...」

 

「どうした、灰崎!」

 

「.....俺の代わりに....アレスを....王帝月ノ宮を...倒して...くれ....っ!」

 

 

そう言って、灰崎を俺の手を強く握った。

その瞳には、悔しさの涙があふれていた。

 

 

ああ、わかっているよ、灰崎。

俺は絶対に王帝月ノ宮を倒す....お前の無念を、必ず晴らしてやるからな。

だから今は、ゆっくり休め。怪我を治したら、もう一度一緒にサッカーをしよう。

 

 

「俺に任せておけ。」

 

「っ....ああ....頼んだ............」

 

「っ....意識を失ったか。すみません、こいつらをお願いします。」

 

「はい。...急いで治療室へ運ぶぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

俺は呼び止めてしまった救護班の方に星章イレブンを任せ、まだフィールドに残っていた野坂の方に顔を向けた。

 

 

「...そんなに怖い顔をしないでください。僕たちはルールに則って試合を行っただけだ。」

 

「あんなのはサッカーじゃねえ。」

 

「ルールに逸脱していなければ、問題無いでしょう。」

 

「そういう問題じゃない!あれを使えば、誰かが怪我をしたかもしれない!最悪の場合、頭から落ちれば死ぬかもしれないんだぞ!」

 

「関係ありませんね。」

 

「っ......野坂!俺はお前を許さん!必ずお前たちを倒して、お前たちの間違いを正す!」

 

「ふっ...傲慢な考え方ですね。でもあなたとの試合は楽しみにしています。」

 

 

そう言って、野坂は西蔭たちと一緒に去っていった。

野坂....待っていろ。必ずお前たちを倒す。誰かを傷付けるようなサッカーなんて、本当のサッカーじゃない。俺が...俺たちが本当のサッカーを見せてやる...!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

再戦!永世学園vs白恋中!

嵐山 side

 

 

昨日、あれから残りの試合は恙なく行われ、半分の1回戦が終了した。

概ね予想通りの学校が勝ち上がっていて、現在の対戦表はこうなっている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

そして今日は残り半分の1回戦が行われる。

俺たちの試合は一番最初になっていて、さらにはどちらも最近では強豪校と呼ばれるまでに成長していること、元雷門の強化委員が派遣されている同士であることを踏まえて、かなり注目を集めている対戦カードとなっている。

 

 

「みんな集まっているわね。」

 

「はい、監督。」

 

「ヒロトは....」

 

「お、おい姉さん...さすがに来てるぜ。」

 

「そう...良かったわ。予選じゃあやる気出なくて遅刻寸前だったもの。」

 

「へえ...それは初耳ですね。」

 

「げっ...何で言うんだよ、姉さん!」

 

「ふふ...どうやらみんな、特に緊張もしてなさそうね。」

 

 

どうやら今のは、みんなの緊張をほぐすためにやったことらしい。

それで俺に秘密にしていたことがバレる辺り、吉良の日頃の行いだろうな。

それにしても、既に戦う顔になっているなんて...随分と成長したな、こいつらも。

 

 

「私からは一言...まずは楽しんで来なさい。嵐山君と一緒にプレーできるのは、恐らくこの大会が最後。このチームからも世界大会の日本代表に選ばれるような選手がいるかもしれない...それでも、これが最後になる子たちも多い。」

 

「「「「「.....」」」」」

 

「だからこそ、嵐山君と一緒にプレーすることを楽しんで来なさい!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「はは...なんだか照れるな...」

 

「うふふ...あなたは胸を張って良いのよ。」

 

「夏未まで..」

 

「では嵐山君、今日の試合に向けて一言貰おうかしら。」

 

「ええ!?」

 

 

マジか...今までキャプテンの円堂がそういうのやってきたし、あんまり慣れてないんだよな。

確かにたまにみんなを激励するようなことはしてきたけど、う~ん....

 

 

「えっと....俺たちが今日ここに立っているのは、みんなが努力してきたからだ。はじめはまともにサッカーできてなかったけど、今じゃ全国ランキング3位まで登り詰めている。俺はみんなの努力を見てきた....俺たちなら絶対に勝てる!最後の1秒まで全力で戦って、予選も本戦も全勝で勝ち上がって優勝するぞ!」

 

「「「「「「「「「「おう!!!!!」」」」」」」」」」

 

 

さあ、まずはシロクマ退治とでもいこうじゃないか。

この時を待っていたよ、染岡、吹雪兄弟!

 

 

.....

....

...

..

.

 

染岡 side

 

 

「ええ~!うち、スタメンじゃないやっぺ!?」

 

「悪いな。今回ばかりは最初から全力でいかないとやべえ相手だからな。」

 

「だったらうちも入れるべき!」

 

「まあ待て。お前は最終兵器なんだ。」

 

「最終兵器...?」

 

「ああ。お前はここぞという時の切り札。だから最初から出すわけにはいかねえんだよ。」

 

「ふ~ん...まあ、それだけいうんだったら、納得やっぺ。」

 

 

ふぅ...何とか納得してくれたか。

確かにこいつは俺が見込んでこのチームに引き込んだが、今日の相手は嵐山だ。

初心者のこいつを使って勝てるほど、あいつは甘くねえ。

そもそも嵐山は初心者が相手だろうと、油断なんてするはずがねえからな。

 

 

「でも、あの人と競いたかったやっぺなぁ...」

 

 

何でこいつがここまで今日の試合に出たがってたかは、少しだけ話を聞いた。

陸上で活躍していた白兎屋は、同じく陸上で活躍していた風丸に感心を抱いていた。

だがそんな風丸が陸上を辞め、サッカーの道を歩き出した時、白兎屋は失望を感じたらしい。

そんなある日、父親に連れられて見に来た雷門中の試合で、風丸よりも、そして恐らくは自分よりも速い人間を見つけてしまった。

 

それが嵐山だった。確かにあいつはめちゃくちゃ速い。

それこそ陸上でも活躍できるんじゃないかってくらいにはな。

だからこそ、白兎屋は嵐山に興味を持ち、今日の試合を楽しみにしていたんだと。

 

 

「染岡君。今日は最初から全力でいこう。」

 

「俺と兄貴と染岡サン、三人で攻めていかなきゃあの人には勝てねえ。」

 

「ああ、わかってる。...ったく、嵐山だけでも厄介だってのに、永世学園はスターが多いぜ。」

 

 

永世の貴公子、ゴッドストライカー、獄炎のストライカー、ブリザードシューター...恐らく、今大会トップの攻撃力を誇ったチームだろうな。それでいて、予選はほとんど失点無し。失点した際も必殺技の練習をしていたような感じだったって報告もある。

 

これだけ攻撃に重きを置いているチームなのに、そのレベルの守備力も見せられちゃ、さすがに誰でもやべえと思うだろうよ。

 

 

「しっかし...まさかこんな早く当たるとはな。」

 

「うん。でも、万全の状態で戦えるのは嬉しいね。」

 

「確かにな。」

 

 

白恋で試合をしたときは、あいつらは日本中を旅しているような過酷な状況で、しかも俺たちのホームグラウンドだった。だが今回はお互い初戦で、しっかりと調整してきた状態。スタジアムもお互い、ホームではない。こういうフェアな状況だと、お互いの地力がものをいう。

 

 

「(嵐山は正直、段違いの実力を持っている。だがうちの吹雪も同じくらいレベルが高い。あとは俺たちがしっかりと動けたら、俺たちにだって勝ち目はある。俺たちが勝って、俺たちが優勝するんだ!)」

 

 

嵐山に勝ちたい...豪炎寺に勝ちたい...俺だって、雷門のエースストライカーになりてえんだ。

今だって、白恋のエースストライカーは吹雪たちだ。誰にも負けねえストライカーになるためにも、俺はここで負けていられねえ!

 

 

勝負だ、嵐山!ストライカーとしてのプライドを賭けた大一番だぜ!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

『さあ皆さんお待たせしました!フットボールフロンティア全国大会、本日が2日目となっております!昨日の激戦冷めやらぬ中、本日も最初から注目のカードが目白押しです!まずは全国ランキング3位!本大会の得点ランキング上位を総なめしている超攻撃的サッカーチーム!風神、嵐山隼人に導かれた彼らはどこまで高みへ登れるか!今大会初出場!永世学園!』

 

 

なんだかすごい紹介だな。それにしても、得点ランキングなんてのもあるのか。

永世学園の選手が上位を総なめにしてるみたいだが、こいつら一体どれだけ点を取ったんだか。

俺は予選に出てないから、ランク外なんですけどね。

 

 

『続きまして!同じく今大会が初出場!情熱のドラゴンストライカー、染岡竜吾を加えて進化した雪原のサッカー集団!白恋中!どちらも新進気鋭ながら、雷門中からの強化委員を加えて大幅にパワーアップしている学校です!果たしてどちらが、先に勝利して待っている王帝月ノ宮中と戦うのでしょうか!』

 

 

「染岡、それに吹雪兄弟、久しぶりだな。」

 

「よう。今日は負けねえぜ。」

 

「僕たちもあれからさらにパワーアップしてるんだ。今回は勝たせてもらうよ。」

 

「ま、言いたいことは兄貴たちが言った。俺はプレーで語るぜ。」

 

「ふっ...それは楽しみだ。俺たちも全力でぶつからせてもらおう。」

 

 

強化委員が派遣された学校同士の戦いは、本戦ではこれが初めてだ。

ここまで勝ち上がってきた者同士、良い勝負をしよう、染岡。

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『さあ、白恋ボールでキックオフ!白恋はフォワードに吹雪士郎、吹雪アツヤ、染岡竜吾の3人を置いた攻撃的フォーメーション!対する永世学園は嵐山隼人、吉良ヒロト、南雲晴也、涼野風介の4人がフォワードのさらに攻撃的なフォーメーションです!』

 

 

「いくよ、アツヤ、染岡君!」

 

「ああ、いつでも行けるぜ!」

 

「速攻で攻めていくぞ!」

 

 

「っ、速い!」

 

 

あいつら、以前戦った時よりも速くなっているな。

さっき言ってたのは本当ってことだな。だが進化しているのは俺たちも同じだ。

 

 

「ここは通さない!」

 

「っ!...まさか僕たちのスピードについてこられるとはね。」

 

「私たちは隼人と一緒に練習してるもの。スピードという点で彼に敵う人はそういないわ。」

 

「....なら、パワー勝負ならどうかな!」

 

「っ!」

 

 

士郎はそう言うと、強引に八神を抜き去ろうと突撃してきた。

士郎ほどのスピードで突撃されたら、本場や蟹目でもなかなか厳しい。

八神では相手にならんかもしれんな。

 

 

「くっ...!」

 

「ふっ...通らせてもらうよ。」

 

 

やはり、八神は強引に突破してきた士郎に吹き飛ばされ、そのまま突破を許してしまった。

だが八神もすぐさま立ち上がり、士郎を追っていく。

 

 

「へっ...俺のマークはお前か、嵐山。」

 

「まあな。染岡のことはこのチームじゃ俺が一番知ってるからな。」

 

「だが、それは俺も同じだぜ?」

 

 

そう言って、染岡は俺の視界の範囲外を見つけて抜け出そうとする。

だがお前がそういう動きをすることはわかっている。どうにかして、俺から離れようとすることもな。

 

 

「くっ...これでもダメか。」

 

「悪いな、染岡。この試合、お前には何もさせない。」

 

「ま、仕方ねえ。だがそれじゃ士郎とアツヤは止められないぜ?お前が二人をマークしないとな。」

 

「いや....あいつらだってレベルアップしてるんだ。そう簡単に破られはしないさ。」

 

 

 

「ここよ!”フローズンスティール”!」

 

「っ!」

 

 

倉掛が士郎に対して、必殺技でボールを奪いに行った。

だが士郎はそれを見てすぐさまジャンプし、ボールを足に挟んで倉掛が通りすぎるのを待つ。

 

 

「やはりジャンプしたか!”イグナイトスティール”!」

 

「なっ!?」

 

 

その瞬間、真横から本場が必殺技でボールを奪いに行く。

うちのチームじゃ良く見る十八番のプレーだな。

 

 

「っ...アツヤ!」

 

「何っ!?」

 

 

だがそれでもボールは奪えなかった。

士郎は空中でボールを蹴りだし、アツヤへとパスを出した。

士郎と本場は激突して動けなくなっているが、ボールはアツヤへと渡っている。

 

 

「まずは1点、取らせて貰うぜ!」

 

「そうはさせん!」

 

「チッ...まだディフェンスが残ってたか!」

 

 

ボールを受け取ったアツヤはすぐさまシュート体勢に入る。

だがそこに蟹目があらわれ、シュートコースをふさいだ。

よし...このままボールを奪えれば、勢いはこちらに傾くぞ。

 

 

「”グラビテイション”!」

 

「ぐっ....重てえ....!」

 

「もらった!」

 

「くそっ...!」

 

 

蟹目の”グラビテイション”でアツヤが動けなくなっているうちに、フォローに来ていた緑川がボールを奪った。

 

 

「今度はこっちの番だ!いくぞ!」

 

「通さないっぺ!」

 

「遅い!”ワープドライブ”!」

 

「なっ!?」

 

 

緑川がそのままドリブルであがっていくが、そこに荒谷があらわれる。

だが緑川は臆せず、必殺技で荒谷を抜き去り前線へとボールが運ばれていく。

 

 

「チッ...なかなかやるな、やっぱり。」

 

「そうだろ。うちのチームは最高のチームだからな。」

 

「へっ...お前が雷門以外でそんなこと言うなんてな。ま、その気持ちは痛いほどわかるが.....だが油断はしちゃいけないぜ?」

 

「なに...?」

 

「お前ら!”絶対障壁”だ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

何だ?”絶対障壁”....?

染岡の掛け声により、白恋のミッドフィルダーとディフェンダーが集結、三角形に並んで緑川の直線上に立ち塞がるように立っている。

 

 

「「「「必殺タクティクス、”絶対障壁”!」」」」

 

「くっ...何だこの圧力....!うおおおおおお!」

 

「待て、緑川!」

 

「「「「はあああ!」」」」

 

「くっ!うわああああああああああ!」

 

「緑川!」

 

 

緑川がドリブルで駆けあがったが、その行く手を阻むように6人の白恋の選手で作られた氷の障壁に、緑川は弾き飛ばされてしまった。ボールは何とか近くにいた基山がキープしたが、この圧力...突破するのはかなりの難易度だな。

 

 

「なるほどな...動く”ザ・ウォール”みたいなもんか。」

 

「ああ。俺たちは攻撃型のチームだ。士郎がディフェンダーとして出ても勝てる相手ならそれでいいが、お前らみたいな強豪が相手だと、俺とアツヤだけじゃ厳しい場面もある。だからこそ、俺とアツヤ、士郎以外には徹底的なディフェンスを極めさせた。」

 

「それがあの必殺タクティクス、”絶対障壁”か。」

 

「ああ。これはさすがのお前でも突破するのは厳しいだろうな。」

 

「........(確かに、6人でディフェンスしている分、圧力もあるし後方の奴が冷静に判断して移動している。だからパスで揺さぶろうともすぐに動き出せるんだ。緩やかなパスでは突破できない。かと言って強いパスを出せばうまくパスが繋がらない。よく考えられたタクティクスだ。)」

 

 

だがどんなものにも弱点となる穴はある。

”絶対障壁”....必ず打ち破ってみせる。

 

 

「っ...こんなのどうすれば...」

 

「隙ありだよ。”アイスグランド”!」

 

「っ、しまっ!」

 

 

”絶対障壁”に気を取られていた基山に、士郎が接近してボールを奪った。

まずいな...流れがこちらに傾くと思ったが、”絶対障壁”のせいで完全に白恋に流れが傾いている。

こういう展開は良くない。ズルズルと行く前に”絶対障壁”を打ち破る必要があるな。

 

 

「通さない!」

 

「今度も奪ってみせる!」

 

「悪いけど、もう君たちの技は食らわないよ。」

 

 

士郎の前に本場と倉掛が立ち塞がる。

だが士郎はキレの良いドリブルテクニックで二人を抜き去ると、すぐさまシュート体勢に入った。

 

 

「「くっ...速い!」」

 

「この流れを無駄にしない!」

 

「俺もいるぜ!」

 

 

さらにそこにアツヤまで加わり、以前の練習試合で見た二人の合体技の構えになる。

あのシュートは、今の砂木沼でもきついぞ...!

 

 

「「”ホワイトダブルインパクト”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

「くっ...このシュート、ふたたび相見える時は止めると誓った!必ず止めてみせる!”ドリルスマッシャー”!」

 

ガンッ!

 

 

「うおおおおおお!」

 

 

吹雪兄弟の”ホワイトダブルインパクト”と、砂木沼の”ドリルスマッシャー”がぶつかり合う。

砂木沼の気合によって、何とか持ちこたえてはいるものの、シュートの威力はまるで落ちていない。

そして、徐々に”ドリルスマッシャー”にヒビが入り始め....

 

 

「うおおおおおお!...っ....ぐおおおおおおおおお!」

 

バシュン....!

 

 

『ゴーォォォォォォル!先制は白恋中!吹雪兄弟が1点を奪いました!』

 

 

先制を許したか....だがまだ1点。焦るにはまだ早い。

まずは”絶対障壁”を攻略して、1点を奪い返す...!

 

 

「みんな!まだまだ時間はある!諦めずに攻めていくぞ!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

「お前ら!この調子で攻めて守って、勝つぞ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

 

士気は明らかにあちらの方が高い。だが俺はこいつらを信じている。

だから俺は”絶対障壁”を打ち破る策を考えるだけだ。

さあ、試合は始まったばかり...楽しんでいこうじゃないか。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

氷壁を破る翼

鬼道 side

 

 

「”絶対障壁”か...なかなか厄介なタクティクスだな。」

 

「ああ。だがどんなものにも弱点がある。無敵の必殺技なんて存在しない。」

 

 

俺は今、豪炎寺と灰崎とともに嵐山たちの試合を見守っていた。

やはり永世学園も白恋中もレベルが高い。嵐山もだが、染岡もしっかりと良いチームを作り上げているようだな。

 

 

「くくく...嵐山サンならすぐに対策するだろうよ。」

 

「...灰崎は随分と隼人のことを評価しているんだな。」

 

「ああ。あの人と一緒に練習をしてわかった。あの人の動きは俺たち何かじゃくらべものにならねえくらいやべえ。それにあの人の本気のシュートを一度だけ見せてもらったが....俺の”オーバーヘッドペンギン”の10倍はある威力だった。速さを売りにしているあの人がな。」

 

「ほう...ますます準々決勝が楽しみになった。」

 

「あ?あんたは準々決勝に勝ち上がってくるのが永世学園って思ってんのか?」

 

「ああ。身内びいきに聞こえるかもしれないが、俺には隼人が負けるところなど想像できん。それに、あいつを倒すのは俺だ。」

 

「くくく...炎のストライカー様は気持ちまで熱いみたいだな。」

 

 

そんなやり取りをしながら、ふたたび試合へと目を向ける。

永世ボールでふたたび試合が始まろうとしていた。

 

 

「(ふっ...豪炎寺が羨ましいな。俺も初戦を勝ち、嵐山と対戦したかった。)」

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

嵐山 side

 

 

 

「嵐山サン!」

 

「....」

 

 

「お前ら!”絶対障壁”だ!」

 

「「「「「「必殺タクティクス、”絶対障壁”!」」」」」」

 

 

吉良からボールを受け取り、どう動くか考えていたがやはりあちらは”絶対障壁”で守りを固めてきたか。それに悠長に考えていたら、フォワードとして前線に来ている士郎にボールを奪われる。

 

 

「(既に”絶対障壁”を破る方法は思いついているが....ぶっつけ本番で、今の永世イレブンでできるかどうか。)」

 

 

『おおっと!白恋の必殺タクティクスの前に、あの嵐山でさえも動けずにいるぞ!永世学園、万事休すか!』

 

 

「(ったく...あんまり士気の下がること言うなよな。ま、とりあえずあいつらの動きを見てみるか...)」

 

「っ!嵐山が動き出した!お前ら、気を抜くなよ!」

 

 

俺はまずあいつらの動きを見るために、ドリブルであがり始めた。

吉良と南雲、涼野も一緒にあがってきていて、試すには絶好の位置だな。

 

 

「俺たちに”絶対障壁”がある限り、あなただろうと通さない!」

 

「オラたちの力を見せてやるっぺ!」

 

「....南雲!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺は限りなく”絶対障壁”に近付いてから、南雲に向かって強烈なパスを繰り出した。

そのパスに対して、”絶対障壁”を発動している6人は反応が遅れていた。

 

 

「くっ....届かねえ...!」

 

 

だがそれは南雲も同じで、突然の鋭いパスに動きがついていかず、パスを受け取ることができていなかった。

 

 

「(なるほど... 今の距離なら反応できないか。もう少し手前ならどうだろうか。)」

 

「悪ぃ、嵐山さん。でも今のパスはちょっと鋭すぎじゃねえか?」

 

「ああ、わざとだから気にしなくていい。」

 

「わざと?」

 

「ああ。今は詳しく言えないが、これからも鋭いパスを出し続ける。取れなくても良いが、取れそうなのに取りに行かないような怠慢はしないでくれよ?」

 

「は、はい。」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

 

俺が最後に触れていたボールがフィールド外に出たので、白恋のスローインで試合が再開した。

ボールは染岡に渡り、染岡がそのままドリブルで攻めあがってくる。

 

 

「通さないよ。」

 

「っ、嵐山か。...さっきのミス、あれはなにを狙っていた?」

 

「別に。ただミスっただけさ。」

 

「お前があんなミスするわけねえだろ。...ま、とにかく俺はお前を警戒してるんだ。好きにはさせねえぜ?」

 

「全く...厄介な相手だ。だったら単純なパワーで勝負させてもらおうか!」

 

ガンッ!

 

 

「くっ...!」

 

 

俺は染岡を吹き飛ばす勢いでタックルし、染岡も譲らずボールをキープする。

さらに俺は足でボールを弾こうと絡めていき、染岡も動きづらそうにそれを回避する。

 

 

「っ、もらったぞ!」

 

「くそ...!」

 

 

そうして俺はボールを奪い返し、ふたたびドリブルで攻めあがる。

だが白恋のディフェンスは動揺せずにすぐに”絶対障壁”を発動させた。

もう完全に攻めは3人に任せて、自分たちはディフェンスに集中しているようだな。

 

 

「(もう少し遠目で....)吉良!」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ、そっちか!」

 

「(遠い...だが届く!)うらああああああ!」

 

 

今度は白恋の”絶対障壁”もボールの方向へとついていったが、先ほどとは違い吉良もボールを受け取ることに成功していた。

 

 

「(なるほど...今の距離だとダメか。だが俺のパスは受け取ることができていた......よし、これなら行ける。)」

 

 

「チッ...うぜえ壁だぜ。無理やりにでも突破してやるよ!”ジグザグストライク”!」

 

「通さない!」

「「「「「「”絶対障壁”!」」」」」」

 

「くっ...!うらああああああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「「「「「「はっ!」」」」」」

 

ガンッ!

 

 

吉良は必殺技によって壁を乗り越えようとするも、”絶対障壁”の壁は高く、動きを封じられてしまっていた。そして無理やりシュートを放ったが、”絶対障壁”によって弾かれ、ボールはフィールドの外へと吹っ飛んでいった。

 

 

「くそ!全然突破できねえ!」

 

「このまま突破できなかったら、俺たち点を取れないのか...」

 

「既に1点取られてるのに....このままじゃ負けちゃう...」

 

 

「....お前ら、諦めるのが早いぞ。」

 

「嵐山さん...でも、”絶対障壁”を破れないんじゃ、俺たちに勝ち目は...」

 

「”絶対障壁”を打ち破る方法ならある。」

 

「「「「「「ええ!?」」」」」」

 

 

俺の言葉に、永世イレブン全員が振り返った。

俺は全員を近くに集め、聞かれないように小声で作戦を伝える。

作戦はシンプルだ。だがこれがうまくいけば、もう俺たちに”絶対障壁”は通じない。

 

 

「いくぞ、お前ら!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

 

”絶対障壁”によって弾かれたので、俺たちのボールで試合が再開。

基山のスローインで俺へとボールが渡ると、さっき伝えた作戦通り、俺と吉良が少し離れて横並びに、それを囲むように俺の方に八神と南雲、吉良の方に緑川と涼野が付く。

 

 

「な、何だあのフォーメーション...」

 

「相手の動きに動揺するな!俺たちの”絶対障壁”は完璧だ!打ち破ることなど不可能!」

 

「その自信、今から砕いてやるよ。いくぞお前ら!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

「必殺タクティクス、”ダブルウィング”!」

 

 

俺がタクティクスを宣言すると、俺と吉良が周りについていたメンバ―とともに駆けあがる。

 

 

「何だ。ただ守るように他の選手がついているだけじゃないか。ボールは嵐山さんが持っている!こっちだ!」

 

 

俺がボールを持っているのはまるわかりなので、”絶対障壁”は俺の正面に移動してくる。

 

 

「吉良!」

 

ドゴンッ!

 

「しゃあ!」

 

 

だがそれを見た俺は、すぐさま強烈な蹴りで吉良にパスを出す。

吉良はそれを難なく受け取ると、そのままドリブルで駆けあがる。

突然のパスによって、”絶対障壁”を発動するメンバ―に動揺が走った。

 

 

「くっ....だが丸見えだ!今度は吉良の方にいくぞ!」

 

「おらっ!」

 

ドゴンッ!

 

「よっと。」

 

 

白恋イレブンはボールを持つのが吉良に変わったので、”絶対障壁”が吉良の正面に移動する。

だがすかさず吉良は強烈なキックで俺へとパスを出した。

これにより、ふたたびボールを持たない方に”絶対障壁”が発動している状態となる。

 

 

「くっ...今度はまた嵐山か!」

 

「俺たちの反応を見てパスを動いているなら、動かなければいい話だ!」

 

「だがその場合はパスを出さないだけなんじゃないか!?」

 

 

俺たちの動きに動揺しているようだな。

だがこのタクティクスはこれで終わらない。

その名の通り、二つの翼がお前らの壁を打ち砕いていくのさ。

 

 

「ふっ!」

 

「おら!」

 

「はっ!」

 

「うら!」

 

 

俺と吉良は走るスピードは落とさず、蹴る力も落とさずにパスを出しあいながら走る。

すると俺たちに翼のようなオーラが纏われ、さらにパスの勢いが早くどちらがボールを持っているのかわからない状態となってきた。その状態となった時点で、俺たちはパス回しをやめる。

 

 

「くっ!どっちだ...どっちがボールを持っている!?」

 

「じ、順番的に考えて今は嵐山が持っている!こっちだ!」

 

「残念。こっちは外れだ!」

 

ドカンッ!

 

 

「「「「「「うわあああああああああ!」」」」」」

 

 

ボールを持っていない俺たちとぶつかり合い、衝撃によって”絶対障壁”は解除される。

さらに勢いそのままに吉良がゴール前へとボールを持ち込んでいく。

 

 

『何とおおおおおおおお!素早いパス回しで翻弄し、”絶対障壁”を打ち破りました!永世学園、この試合初めてのチャンスです!』

 

 

「そのまま決めろ、吉良!」

 

「言われなくてもわかってるぜ!この1点は必ず決める!うらっ!うらっ!うらうらうらうら!”ザ・エクスプロージョン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

”絶対障壁”を打ち破り、そのままの勢いでゴール前まで進んだ吉良は、必殺技”ザ・エクスプロージョン”を放った。この試合初めてのチャンス....決めろ!

 

 

「”オーロラカーテン”!」

 

 

相手キーパーも必殺技で対抗する。

オーロラのカーテンがボールの行く手を阻むが、ボールの勢いは止まらず、カーテンにはヒビが入り始めている。

 

 

「ぐっ....ぐおおおおおおおおお!」

 

バシュン!

 

 

『ゴーォォォォォル!永世学園、白恋のタクティクスを打ち破り、見事に1点を奪い返しました!』

 

 

よし...!この1点は大きいぞ。それに”絶対障壁”を打ち破ったことで、これからの得点も期待できるようになった。下がっていた士気も戻るだろう。

 

 

「やったぜ!嵐山サン!」

 

「ああ、ナイスシュートだった、吉良。」

 

「この調子でどんどん決めていくぜ!」

 

 

 

 

「染岡君....」

 

「さすがだな、あいつ。こんなに短時間で”絶対障壁”を打ち破られるとは...」

 

「うん...でも、僕たちにはこれしかない。」

 

「ああ。”絶対障壁”は俺たちの最強の防御タクティクスだ。一度破られたくらいで 諦められるかって。」

 

「そうだね。まだ同点....先制だって僕たちなんだ。この試合に勝つのは僕たちだ。」

 

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『おっと!ここで前半終了!同点のまま前半が終わり、勝負は後半へと持ち込まれました!』

 

 

ここで前半終了か...さて、後半はどう戦うかな。

あっちも簡単には”絶対障壁”を諦めないだろうし、こっちは染岡に吹雪兄弟と警戒しなければいけない選手が多い。

 

 

 

「ええ!うちが出られるやっぺ!?」

 

 

 

「(あれは......)」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

染岡 side

 

 

「ああ。試合の流れを変えてえ。まさかここまで早く”絶対障壁”が破られるとは思わなかったぜ。」

 

「じゃあうちが主役ってことやっぺ?」

 

「おい調子に乗るんじゃねえぞ!」

 

「落ち着けよ、アツヤ。....白兎屋には嵐山のマークについてもらう。」

 

「「えっ!?」」

 

 

俺の言葉に、アツヤと白兎屋が驚き声を上げた。

士郎も声には出していないが、少し驚いたような表情をしている。

 

 

「嵐山のスピードに対抗するには、元々陸上で活躍していた白兎屋が適任だ。士郎でも対抗できるかもしれねえが、攻撃力は落としたくねえ。」

 

「そうだね。そういうことならお姫様に任せようか。」

 

「うんうん、うちに任せるやっぺ!」

 

「けっ...そううまくいくかね。」

 

 

確かにあいつ相手にうまくいくかはわからねえが...あいつ相手には何でも試してみねえとわからねえからな。なにがなんでも勝ちにいくなら、使える手は全部使わねえと勝てねえ。

 

ここからが勝負だ。後半は死に物狂いで点を取ってやる!

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

白恋の兎姫

嵐山 side

 

 

さて、後半が開始するが....どうやら白恋は攻撃の流れを変えるためにメンバ―を入れ替えてきたみたいだな。以前試合をしたときにはベンチにもいなかった子だ。1年だろうか。

 

 

『ああっと!後半からは白兎屋なえが入るようです!その可愛らしい見た目とは裏腹に、獲物を一瞬で狩るようなスピードには注目だ!』

 

 

「スピード...ね。」

 

「だったらうちの風介も負けてない。それに嵐山さんはこの場にいる誰よりも早い。」

 

「とりあえず様子見だけど、油断はするなよ。」

 

「はい。」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

俺たちのボールで後半が開始した。とりあえず”絶対障壁”をしてくるようであれば俺と吉良を中心に攻める。来ないならいつも通り攻めるだけだ。

 

 

「嵐山サン!」

 

「おう。」

 

「早速いくやっぺ!」

 

 

俺が吉良からボールを受け取ると、俺の方に白兎屋が走ってきた。

どこか陸上感のある走り方だが、実況が言うだけあってかなりのスピードだ。

もしかすると、風丸みたいに元陸上の選手とかか?

 

 

「だとしたら、俺のマークに初心者を当てるなんて、俺を甘くみたか。」

 

「うちをただの初心者と思ったら痛い目を見るやっぺ!」

 

「っ!」

 

 

俺がドリブルで白兎屋を抜こうとした瞬間、白兎屋は一気に加速して俺に近付いてきた。

この加速力...風丸以上の速さだ。だが動きが直線的すぎるな。

 

 

「(これなら避けられる!)」

 

 

俺は体を捻り、ボールを白兎屋に取られないよう距離を置かせて抜き去る。

やはり直線的な動きだったためか、簡単に白兎屋を抜くことができた。

 

 

「ぬ、抜かれたやっぺ....でも!」

 

「っ!」

 

 

俺に抜かれたことに白兎屋は驚いていたが、急ブレーキをかけるように止まったかと思えば、すぐさま振り向いて俺のことを追いかけだした。

 

 

「(小回りも聞くのか...しかもあの速さでいきなり停止できるのはすごい。膝に負担がかかってないか心配だが....この試合だけで考えれば士郎たちよりも厄介かもな。)」

 

「っ!(嘘...うちが追いつけない...!)」

 

「(走りの技術はあるようだが、俺も幼いころからフィールドを走り続けてきたんだ。フィールドでなら、誰にも負けない走りができる!)」

 

 

『これはああああああああああああ!何と、ボールをドリブルしながら走っているはずの嵐山の方が、どんどんと距離を取っていく!純粋な走りでは元陸上選手の白兎屋の方が上のはずですが、そんな白兎屋が追いつけない!一体どんな走りをしているんだ!』

 

 

「くっ...やっぱりダメか....お前ら!”絶対障壁”だ!(これで少しでもスピードが落ちれば、白兎屋も追いつけるはず...)」

 

 

”絶対障壁”か...だが、ここでスピードを落とせばさすがに追いつかれるか。

さて、どうしたものか.....いや、無理なら無理で諦めるしかないか。

 

 

「吉良!ついてこい!」

 

「はっ!言われるまでもねえぜ、嵐山サン!」

 

 

「「「「「「必殺タクティクス、”絶対障壁”!」」」」」」

 

「「必殺タクティクス、”ダブルウィング”!」」

 

 

俺はスピードを全く落とさずに、吉良と”ダブルウィング”を発動する。

吉良もさすがに余裕が無いのか必死に追いかけてきているが、形にはなっている。

 

 

「くっ...どっちだ....」

 

「吉良だ!こっちにいくぞ!」

 

「くくく...残念だったな!」

 

ドガンッ!

 

 

”絶対障壁”を発動している6人が吉良の方に動いたため、ボールを持っていない吉良と正面から衝突した。その衝撃で6人は動けない状態となっている。

 

 

「くそ...また外れた...!」

 

「2分の1で2回連続...運が無さすぎる...!」

 

「っ、お前ら!そんなこと言ってる場合じゃねえ!嵐山を止めろ!」

 

「「「「っ!」」」」

 

 

「いやはや、さすがに油断しすぎだぞ...っと。」

 

「くっ!」

 

 

俺は”ダブルウィング”の衝撃で動けなくなっている奴らを後目に、すぐさまゴールへと近付いてシュート体勢に入った。

 

 

「”天地雷鳴・改”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「(な、何だこの迫力は...!これが同じ人間の放つ必殺技だと言うのか!?)」

 

「と、止めろ!函田!」

 

 

「くっ...あ、”アイスブロック”!っ、ぐあっ!」

 

バシュン!

 

 

キーパーの函田が新たな必殺技で対抗するが、俺の放ったシュートの威力はまるで抑えられず、一瞬で函田の腕を弾いてゴールへと突き刺さった。

 

 

「(よし...これで2vs1だ!)」

 

「ナイスです、嵐山さん!」

 

「ああ、ありがとう基山。」

 

 

「くそ...マジかよ...」

 

「これが嵐山隼人の全力....僕とアツヤが束になっても敵わないかもしれないね。」

 

「なに言ってんだよ、兄貴!俺たち兄弟が力を合わせれば、完璧な存在になれる!親父だってそう言ってたじゃねえか!」

 

「アツヤ.......そうだね。僕たちが力を合わせれば完璧に....!」

 

「おいおい、俺たちを忘れんな。お前らだけで完璧になれるって言うんなら、俺たちも合わせればまさに無敵じゃねえか。」

 

「染岡くん...」

 

「へっ...わかってんじゃねえか、染岡サン!」

 

 

やはりあちらの士気はまだまだ高いな。

吹雪兄弟はもちろん、染岡もこのまま終わるような男ではない。

後半も始まったばかり...まだまだ油断はできない。

 

 

「お前たち!後半は始まったばかりだ。リードしたからといって、油断せずに行くぞ!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「いくぞ士郎、アツヤ、白兎屋!」

 

「うん!」「おう!」「はいやっぺ!」

 

 

これは....フォワードを4人にして攻めてきたか。

俺たち永世学園と同じ、超攻撃型のフォーメーションだ。

やはり永世学園と白恋中の試合は、点取り合戦になるか....だがこれ以上、点を取らせるわけにはいかないな。守り切って、この試合を勝つ!

 

 

「止めるぞ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

「簡単に止められてたまるかよ。俺たち白恋が勝って、優勝する!」

 

「(何だ?白恋の選手が全員、染岡たちの周りに集まった......っ、まさか...!)」

 

 

「必殺タクティクス、”雪崩攻撃”!」

 

 

ドドドドドドドドドドドドドッ!

 

 

「な、何だこれ!?」

 

「白恋の選手が、横並びになって...」

 

 

美濃道山の”レンサ・ザ・ウォール”と同じだ。

あっちとは違ってタクティクスだが、選手全員が横1列に並んで走ることで俺たちの逃げ場を無くす。

それを攻撃に転用しているんだろう、文字通り全員で雪崩れ込むことで俺たちの動きを封じ、さらには近くでパスを回すことで俺たちにパスカットをさせない。厄介なタクティクスだ。

 

 

「落ち着けお前ら!全員後方へ戻れ!」

 

「「「は、はい!」」」

 

「でも嵐山さん...これじゃあ相手の思うつぼなんじゃ...」

 

 

俺の指示で永世イレブンはゴール前まで戻っていく。

確かにこれじゃあ基山の言う通り、相手の思うつぼかもしれないが、現状はこれしか対策しようがない。

このタクティクス、最終的にはゴール前で解除する必要があるし、解除した後に誰がシュートを打つかなんてわかりきっている。

 

 

「南雲、涼野、緑川、本場は士郎を!吉良、基山、八神はアツヤを!そして俺が染岡をマークする!適度な距離を保ちつつ、その3人から目をそらすな!倉掛と蟹目はそれ以外の奴らから目を離すな!」

 

「へっ...やっぱりお前ならそう動くと思ったぜ、嵐山!」

 

「っ、染岡...なかなか厄介なタクティクスを習得しているじゃないか。」

 

「まあな。俺たちはお前たちと練習試合をしてから、死に物狂いで練習してきたんだ。お前に勝つために...そして、フットボールフロンティアで優勝するためにな!」

 

「だがもうこのタクティクスは対策できる!お前ら3人を封じ込めれば、砂木沼がシュートを止める!」

 

「悪いが....俺たち3人だけじゃねえってことを教えてやるよ!行け、白兎屋!」

 

「なっ!?」

 

 

ここであの女の子だと!?

あの子は俺へのスピード対策として投入した訳ではなかったのか!?

 

 

『ああっと!ここで完全にフリーとなっている白兎屋なえにボールが渡ったあああああああああああああ!』

 

 

「うちの出番が来たやっぺ!みんなが繋いでくれたこのボール、絶対ゴールする!」

 

「面白い.....来い!」

 

「決めるやっぺ!”シロウサギダッシュート”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「これ以上点はやらん!この俺が必ず止めてやる!”ドリルスマッシャー”!」

 

ガンッ!

 

 

白兎屋が放った”シロウサギダッシュート”と、砂木沼の”ドリルスマッシャー”がぶつかり合う。

その力はほぼ互角....そう思えたが、無数の兎たちによって徐々にドリルの回転が収まっていく。

それによって”ドリルスマッシャー”は徐々にヒビが入っていく。

 

 

「ぐっ...くぅ....!これ以上、点をやるわけには.....いかないんだあああああああああああ!ぐはあ!」

 

「なっ!?」

 

 

何と砂木沼は”ドリルスマッシャー”を打ち砕かれつつも、両手でシュートを受け止め、そのまま腕を天へと掲げてボールの軌道を上へとずらした。砂木沼自身は反動によって吹き飛ばされてしまったが、白兎屋のシュートを何とか防いだのだ。

 

 

「馬鹿な.....っ、お前ら!ボールを確保しろ!」

 

「残念だけど、もう私が確保した。」

 

「っ...!」

 

 

染岡が慌ててボールを確保するよう指示を出したが、ボールは既に倉掛が確保していた。

それを見た俺は染岡を抜いて走り出した。

 

 

「倉掛!こっちだ!」

 

「っ!嵐山さん!」

 

「くっ!しまった...!」

 

 

俺は倉掛からボールを受けとると、すぐさまドリブルで駆けあがる。

キーパーを除いた全員で攻めてきてくれたおかげで、オフサイドにならずに全員を抜く形でパスを通せた。あとは俺が全力で走っていけば、誰も追いつけないはず!

 

 

「(くそ...!嵐山のスピードに追いつけねえ...!)」

 

「速い...うちより速い人がいるなんて...思いもしなかったやっぺ...」

 

 

「(よし...このままのスピードでゴールに.....っ!)」

 

「うおおおおおお!」

 

 

「士郎!?」「兄貴!?」

 

 

誰も追いつけない、そう思っていても全力でドリブルしていたが、何と士郎が俺に追いついてきた。

しかもいつもクールな士郎とは違って、すごく必死な形相で追いかけてきている。

 

 

「諦めない....勝つのは僕たち白恋中だ!」

 

「っ....勝負だ、吹雪!」

 

「負けないぞ、嵐山君!」

 

 

士郎がついに俺に追いつき、俺にタックルしてくる。

俺も負けじとぶつかり合い、肩を突き合わせながら俺たちは走り続ける。

これが士郎...お前の執念か。だが俺たちも負けるわけにはいかない!

 

 

「勝って次に進むのは俺たちだ!」

 

「違う!僕たちだ!」

 

「「うおおおおおお!」」

 

ドガンッ!

 

 

「「くっ...!」」

 

 

俺たちはお互いのタックルで弾きあい、ボールを中央に残して倒れこむ。

だが互いにすぐさま立ち上がり、ボールを奪わんと走り出す。

 

 

「うちを忘れたらダメやっぺ!」

 

「っ!」

 

 

だがその瞬間、猛スピードで白兎屋が走りこんできて、ボールを奪い去った。

まさかの乱入者に俺と士郎は止まることができず、お互いに衝突してしまう。

 

 

「ぐあっ...!」

「くっ...!」

 

 

「っ...白兎屋!こっちにパスだ!」

 

「わかったやっぺ!」

 

 

俺と士郎が動けない状況で、染岡はいち早く白兎屋に指示を出してパスを要求した。

誰もが動けずにいた中での要求だったため、染岡は難なくボールを受け取ることに成功した。

 

 

「アツヤ!”アレ”で決めるぞ!」

 

「っ!おう!」

 

「”ワイバーン”!」

「”ブリザード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

そして染岡とアツヤの合体必殺技、”ワイバーンブリザード”が放たれた。

この威力...”ホワイトダブルインパクト”にも引けを取らない威力....!

 

 

「ハッ...!くっ...”ドリルスマッシャー”!」

 

ガンッ!

 

 

砂木沼は俺と士郎の衝突に気を取られていたのか反応に遅れるが、何とか必殺技で対抗する。

だが勢いは完全に染岡たちにあり、砂木沼は徐々に押し込まれていく。

 

 

「ぐっ....くそ.....ぐおおおおおおおおお!」

 

バシュン!

 

 

『ゴーォォォォォル!白恋中、執念の同点弾!染岡と吹雪アツヤの合体技で、永世学園からゴールを奪いました!これで2vs2!試合時間残り数分で、試合を振り出しに戻しました!』

 

 

「マジか...ここで同点...っ、嵐山サン!」

 

「嵐山さん!」

 

 

「士郎!」

 

「兄貴!」

 

 

全員が同点になったことに放心していたが、数人が俺と士郎のところへと駆け寄ってきた。

 

 

「僕は大丈夫だよ....」

 

「俺もだ...衝突した痛みはあるが、それ以上のものではない。」

 

「うん...嵐山君が咄嗟に庇ってくれたから、何ともなかったよ。」

 

 

「そうか...嵐山が.....良かったぜ、士郎。」

 

「うん。ありがとう、嵐山君。」

 

「いや....結局衝突してしまったしな。」

 

 

しかもその隙に点を取られてしまった。

これは俺がボールを取られたことによる失点、俺の責任だ。

残り数分...何としても点を取って、この試合に勝つ...!

 

 

 

.




どうしても対白恋中が長引いてしまう。でも士郎にアツヤ、なえに染岡、そして永世学園と描写したいキャラが多すぎるんですよねえ。たぶん次で終わらせます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ラスト数分の攻防

嵐山 side

 

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

 

『さあ2vs2の同点!残り時間はあと5分も無い!どちらが先に勝ち越して勝利を掴むか!それとも延長戦にもつれ込むか!運命のワンプレー!』

 

 

「(ふぅ...アイシングで痛みは引いたが、これでは本気で走れないな。もしかしたら白兎屋に追いつかれるかもしれない。)」

 

「(嵐山さん...もしかして....)...嵐山さん!俺が運びます!」

 

「基山.....ああ、任せたぞ!」

 

 

俺はボールを基山にパスして、先ほどよりもゆっくり目に走り出す。

俺のマークにはやはり、白兎屋が引き続き付くようだな。

だが何とか、チャンスを見つけて積極的にいきたいところだ。

 

 

「ヒロト!行けるな!」

 

「はっ!任せな!」

 

 

基山の指示で、吉良が全速力でフィールドを駆けあがっていく。

さらには南雲と涼野も互いにサイドから駆けあがっている。

白恋のディフェンスはそれぞれのマークにつこうとして、”絶対障壁”を発動する陣形が組めずにいる。

 

 

「よし...受け取れ!”スターループ”!」

 

ドゴンッ!

 

 

基山がボールを蹴り上げ、必殺パスを繰り出した。

星によって作られた橋が基山から吉良へと繋がり、その橋に沿ってボールが流れていく。

基山の奴、いつの間にあんな必殺技を....

 

 

「受け取ったぜ!」

 

 

ボールは吉良へと渡り、フィールドを駆けあがっていたスピードそのままにドリブルを始める。

あれだけのスピードを出しながらボールを受け取り、ドリブルまで...仲間のパスを信頼し、そして自分自身の力を信頼してこその動きだな。

 

 

「ここは通さない!」

 

「悪いが抜かせてもらうぜ!”ジグザグストライク”!」

 

「くっ...!」

 

 

吉良が”ジグザグストライク”で相手を抜き去った。

そのままシュートに行けるが、吉良は何故かシュートを打たずに周りを見回している。

 

 

「...チッ....」

 

「へえ、さすがに気付いたか。」

 

「ストライカー気質だと思っていたが、状況はしっかり見えているようだな。」

 

 

っ!どうやら士郎と染岡が隠れるようにゴール前に戻っていたようだな。

今のままシュートを放ったら、二人にボールを奪われていた可能性が高い。

そしてそのままカウンターでアツヤに......っ、アツヤはどこに......っ!

 

 

「吉良!後ろだ!」

 

「えっ?」

 

「もう遅い!”必殺クマ殺し・縛”!」

 

「なっ!?ぐああああああああ!」

 

 

何と士郎、染岡すら囮。本命は後ろから迫ってきていたアツヤだった。

あの3人は攻撃の要。残り時間も僅かな中、3人全員がディフェンスに戻っているとは思わなかった。

誰にも気付かれずに3人で綿密に計画されていたディフェンスだったってことだ。

 

 

「このまま決める!」

 

「多少距離はあるけど...僕たちなら行ける!」

 

「ちょーーーーーっと待った!」

 

「あん?」

 

「うちも混ぜるやっぺ!」

 

「けっ...だったら俺たちに合わせてみやがれ!」

 

「ふふ...じゃあいくよ!」

 

 

こ、これは....確かに距離はある..だがこの凄まじいパワー。

このフィールドに立っているだけでも感じることのできるこのパワー、今の砂木沼では抑えきれない!

 

 

「っ...!」

 

 

「これで終わりだ!」

「僕たちの勝ちを掴み取る!」

「うちらのシュートで!」

 

「「「”トリプルブリザード”!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

吹雪兄弟の”ホワイトダブルインパクト”に、白兎屋の”シロウサギダッシュート”が加わったオーバーライド技...!

 

 

『ななななななななな何だこのシュートはああああああああああああ!凄まじい勢いでフィールドを凍らせながら、永世学園のゴールへと突き進んでいくぅぅぅぅ!』

 

 

「ぬぅ...このシュート、止められるか.........否!なにを弱気になっている砂木沼治!このゴールを守るのが俺の役目!これ以上点を取られるなら、俺はキーパーとして失格!なにがなんでも止めてみせるわ!”ドリルスマッシャー”!」

 

 

”トリプルブリザード”と”ドリルスマッシャー”がぶつかり合う。

だが、”ドリルスマッシャー”は”トリプルブリザード”とぶつかった瞬間、一気に凍らされていきまるで勝負になっていない。

 

 

「ぐっ...くそ....俺は....永世のゴールを....ぐああああああああ!」

 

 

ついには”ドリルスマッシャー”を粉々に打ち砕き、ボールは勢いよくゴールへと突き進んでいく。

ダメだ....このシュートが決まればみんなの気持ちが折れる!このシュートだけは絶対に止めなければならない!

 

 

「うああああああああああああ!」

 

 

「「「嵐山さん!?」」」

 

 

「このシュートだけは絶対に....止めるんだあああああああああああ!」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

豪炎寺 side

 

 

 

「このシュートだけは絶対に....止めるんだああああああああああああ!」

 

 

『おっとこれは!砂木沼が打ち破られたが、嵐山がボールの前に立ち塞がる!』

 

 

「うおおおおおお!」

 

『グオオオオオオ!』

 

 

 

「っ!あれは....」

 

 

隼人がボールの前に立ち塞がり、胸でボールを受け止めた瞬間、隼人の後ろには緑色の、風を纏った魔神のようなオーラがあらわれた。あれはまるで、俺の”爆熱ストーム”や円堂の”マジン・ザ・ハンド”のような....

 

 

「おいおい、あれは何なんだよ鬼道!」

 

「俺にもわからん....だが似たようなものを俺は見たことがある。そうだろう、豪炎寺。」

 

「ああ。あれは円堂の”マジン・ザ・ハンド”と同じ.....恐らく、高まった気が具現化したと考えるべきだろう。」

 

「やはりか....」

 

「な、何だよそれ...気が具現化した?一体何を言ってやがる。」

 

「....あいつも足を踏み入れたということだ。さらなる高みへとな。」

 

 

そう言う鬼道に、灰崎はさらに理解不能という顔をする。

だが...さらなる高み、か。俺の”爆熱ストーム”も恐らくはその領域なんだろう。

隼人、やはりお前もそうなのか。面白い....やはりお前はそうでなくてはな。

 

 

 

「ハァ....ハァ....」

 

 

『と、止めたああああああああああああ!吹雪兄弟、そして白兎屋なえのオーバーライド技、”トリプルブリザード”を受け止めてみせました!これが風神!嵐山隼人!やはりこの男はなにかを持っています!』

 

 

「(さあ隼人...お前の力を見せてくれ。俺はさらにその上を行ってみせよう!)」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

「ば、馬鹿な....」

 

「俺と兄貴の最強のコンビ技が....」

 

「嘘やっぺ....」

 

 

 

な、何だ今の感覚は....気付いたら、ボールが俺の足元に....

俺は一体どうやってあのシュートを止めたんだ....?

 

 

 

『さあシュートを止めたことでまだ2vs2の同点!そして残り時間はあと1分を切りました!』

 

 

「っ!」

 

 

残り1分....!だったら考えている暇はない!

今の俺にできることをするまでだ!

 

 

「フォーメーションカオス!」

 

「「「「「っ!」」」」」

 

 

俺の叫び声に、永世イレブンが一斉に走り出した。

さらに白恋イレブンも正気に戻ったかのように、永世イレブンに釣られて動き出す。

 

 

「ハァ...ハァ....頼むぞ、八神!」

 

「ええ!」

 

 

俺は近くにいた八神にパスを出し、後を託す。

 

 

 

「(くそ...フォーメーションカオス...わからねえ!)」

 

「(彼らのフォーメーションは暗号によって決まっていた。これまでの試合を解析することでそれを理解することはできた。でも...)」

 

「(フォーメーションカオスは初めて聞く名前だ!一体誰が中心で攻めてくる...!)」

 

 

「いくわよ!最後のパス...受け取りなさい!」

 

ピュィィィィィィィィ!

 

 

「”キャリーペンギン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

八神によってペンギンが呼び出され、それと共にボールを蹴ってパスを出す。

ペンギンとともにボールがゴール前へと蹴りだされるが、白恋イレブンは誰にボールがいくのかわかっておらずあたふたしていた。

 

 

「くっ...(この状況...さっきまでミッドフィルダーだった基山が最前線にあがっている...だったら!)基山だ!基山をマークしろ!」

 

「っ!」

 

 

染岡の指示で、基山の周りに士郎、アツヤ、染岡が集まる。

 

 

「くっ....!」

 

「へっ!どうやら当たりみたいだぜ!」

 

「ここを抑えて、延長戦で勝つよ!」

 

「くっ....くくく...」

 

「....っ、まさか!」

 

 

だがペンギンとボールは基山の方へは向かわず、どんどんとゴール前へと進んでいく。

そしてゴール前には....

 

 

「私が決める!」

「俺が決める!」

 

 

南雲と涼野が走りこんでいた。

 

 

「くっ...基山は囮か...!」

 

「そうです。あなたたちが僕たちの作戦暗号を理解しているのはわかっていました。だからこそ、この試合で初めて使うフォーメーションを使った!それが....」

 

 

フォーメーションカオス....南雲と涼野、どちらでも良いので空いている方を使って攻めるフォーメーション。そして基山、八神、緑川が囮になるように普段とは違う動きで翻弄する。

 

 

「決めろ!南雲!涼野!」

 

「「うおおおおおお!」」

 

ドゴンッ!

 

 

「くっ!”アイスブロック”!」

 

ガンッ!

 

 

二人によるツインシュートが放たれた。度々見せている二人のツインシュートだが、いつもと同じように炎と氷が交差するようなシュートだ。まるで必殺技のように。

 

 

「ぐっ...ぐぅ....ぐああああああああ!」

 

バシュン!

 

 

『き、決まったああああああああああああ!永世学園、残り時間僅かの中での勝ち越し弾!3vs2!ふたたび勝ち越しました!さあ残り時間はあとわずかだったが!どうなる!』

 

 

「.....」

 

 

ピッピッピィィィィィィィ!

 

 

 

『ここで試合終了のホイッスル!激闘の末、勝利を手にしたのは永世学園!見事白恋中を下し、2回戦へとコマを進めました!』

 

 

 

「勝った...か....」

 

「勝った...んだよな...?」

 

「「「「やったあああああああああああああああ!」」」」

 

 

「ハァ...ハァ....何とか勝てたか...」

 

 

俺はさすがに疲れていたのか、その場に座り込んでしまった。

普段も同じくらい動いているつもりだったが、今日はやけに疲れたな。

特にさっきの、”トリプルブリザード”を止めた辺りから著しく体力が減った気がする。

 

 

「嵐山....」

 

「....染岡。」

 

「良い試合だった。勝ちたかったが....今はまだお前には届かなかったよ。」

 

「いや、そんなことなかったよ。正直、何度も負けたかと思う時があったし、最後のは止められたのが今でも信じられないくらいだ。」

 

「ふっ....俺もあれは驚いたぜ。だが勝ちは勝ちだ。......絶対優勝しろよ、嵐山。」

 

「........ああ、必ず。お前たちの分まで、残りの試合を戦うよ。」

 

 

俺はふらふらになりながら立ち上がり、染岡と握手した。

そして手を離し、俺はベンチへと戻っていく。後ろからは鼻を啜るような音が聞こえる。

だから俺は振り向かない。代わりに誓う。この先も勝つことを。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

クラリオ side

 

 

「なあクラリオ。さっきの嵐山のアレ、何だったんだ?」

 

「ああ、私にもわからない。だがもしもアレを彼が自由自在に操れるようになれば、我々は早々に日本を発ち、力を付けねばならないだろう。」

 

「お前がそこまで言うか.....まあ確かに、俺もアレを見た瞬間は鳥肌がヤバかった。」

 

 

嵐山隼人....やはり君は他の日本の選手と比べてレベルが違うようだ。

あの日、私たちが完膚なきまでに叩きのめした。だが君たちは折れずにこうして新たな試みで研鑽している。中でも君は、あの日とはまるで別人のような成長を遂げている。

 

 

「楽しみだ...」

 

「あん?何か言ったか、クラリオ。」

 

「いや、何でもないさ。それより今日はもういいだろう。帰るぞ。」

 

「おい、円堂守の試合は見なくて良いのか?」

 

「ふっ...それはフェアではない。彼はキーパーだ。それに彼は私を倒すために努力していると聞いているからな。彼の実力を見るのはまだ先だ。」

 

「へぇ...何か面倒くさいことしてんな。」

 

 

だが楽しみだよ、嵐山、円堂。

私は君たちが世界のフィールドに降り立つのを待っている。

 

 

 

.




オリジナル必殺技

・スターループ パス技
 美しい星のアーチで味方へのパスを通す。
 アーチの角度を調整することでパスの速度を変えられる。

・キャリーペンギン パス技
 ペンギンが盾となってボールを守り、安全にパスを出す。
 なお、ペンギンに触れると爆発する。

消費TPとかは考えてないです。パス技が氷の矢くらいしかなかったので追加。


.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それぞれの正義

嵐山 side

 

 

「うん、特に異常も見受けられないし、痛みも無いんなら大丈夫だろう。」

 

「そうですか...良かった。」

 

「だが無理はいかん。少しでも違和感を感じたら、すぐに通院しなさい。」

 

「はい、ありがとうございました、豪炎寺先生。」

 

「うむ。」

 

 

今日は昨日の試合で士郎と激突したため、痛みは引いていたが念のため通院しに来た。

レントゲンなども撮ったが、特に問題無いみたいで安心した。

昨日は酷く疲れて、気付いたら寝ていたからな....久しぶりに体のケアをせずに寝てしまったよ。

 

 

豪炎寺先生にお礼を言って診察室から出ると、見知った顔が視界に入ってきた。

 

 

「(あれは....野坂?どうして病院に....まさかあいつもどこか怪我を?)」

 

 

次の対戦相手でもある野坂が怪我をしているかもしれない。

心配になって俺は悪いと思いつつも、野坂のあとをつけることにした。

暫く歩いていくと、野坂はある科の診察室の前で止まり、備え付けのソファに座った。

 

 

「(どういうことだ......脳神経外科って.....)」

 

「っ!.....嵐山さん。」

 

「....どういうことだ。どうして脳神経外科に.....っ、まさか、アレスの天秤システムで何かあったのか!?」

 

「....まさかそこまで調べているとは、驚きです。」

 

「お前の症状は何だ!」

 

「脳腫瘍、ですよ。」

 

「っ....!」

 

 

馬鹿な...脳に腫瘍がある状態で、これまで戦ってきたということか?

そんなことしてないで、一刻も早く手術するべきだろう。

こいつは一体何を考えているんだ!?

 

 

「僕のこの腫瘍は大きな武器になる。だから手術するわけにはいかないんですよ。」

 

「馬鹿な....そんなことしなくても、アレスの天秤システムの欠陥の証拠は俺が持っている!お前はそんなことせずにさっさと手術を...!」

 

「ダメです。あなたが欠陥を指摘しても意味がない。内部の人間が指摘する必要があるんです。」

 

「だったら俺がお前に証拠を渡す!」

 

「.....ならこうしましょう。次の試合、勝った方がすべて正しいと。」

 

「っ!」

 

「僕が勝てば当初の予定通り、優勝後に欠陥を訴える。この身を使ってね。でもあなたたちが勝てば....僕はあなたを信じて、あなたの集めた証拠で欠陥を訴える。そして手術も受けましょう。」

 

「.....分かった。俺は必ずお前たちを倒す。たとえお前に脳腫瘍があろうと、俺は本気でお前たちを叩き潰す!」

 

 

もうこいつになにを言っても無駄なことはわかった。

だからこそ、こんな馬鹿なことをしているこいつを止めるためにも...俺は全力で戦う。

たとえ鬼道たちを傷付けた奴だとしても、事情を知ってしまった以上は見捨てるなんて選択肢はありえない。

 

 

「....また会おう。」

 

「ええ、また。」

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

「はあああああ!」

 

ドゴンッ!.....バシュン!

 

 

「隼人...随分と気合が入っているわね。」

 

「ああ....次の試合、絶対に負けられないからな。」

 

「そう...でも無理だけはしないで。あなたは人知れず努力して....その分だけ強くなってきたかもしれない。でもその分だけ怪我をする可能性だってあるんだから。」

 

「....ああ、ありがとな八神。」

 

 

でも俺は止まれない。鬼道たちの仇を取るために、そして野坂を救うために。

次の試合はなにがなんでも負けるわけにはいかないんだ。

 

 

「(全くわかってなさそうね...だったら私がとことん付き合って、隼人を見守るしかないわね。)」

 

「(王帝月ノ宮....アレスの天秤システムによって計算されたシステマチックなサッカーをする。選手は全体的に能力は高いが、俺の見立てでは永世イレブンの方が強い。だが野坂と西蔭...あいつらは他とは少し違う。)」

 

 

西蔭はあの灰崎のシュートを止めてみせた。

ギリギリだったとはいえ、結果的には止めている辺りなかなかやる。

それに野坂...あまり情報は無かったが鬼道にも負けず劣らずの頭脳の持ち主だ。

万全の状態ではないとはいえ、その実力は日本代表に選ばれてもおかしくは無いと思わせるほどの力がある。

 

 

そして何より....

 

 

「(”グリッドオメガ”....あれをどう攻略するか。キーパーを含めた選手全員を吹き飛ばしてリタイアされる技....そんなもの、どう攻略すれば....)」

 

「嵐山サン、何か悩んでるのか?」

 

「....吉良か。ああ、少しな。」

 

 

考え事をしていると、突然吉良に話しかけられた。

まあフィールドで考え事なんてしてたら邪魔だし、心配で声をかけてくれたみたいだな。

 

 

「....あのタクティクスのことだけどよ。」

 

「っ!」

 

「もしあのタクティクスを封じられないなら、タクティクス自体の対策じゃなくて、空から落ちた時の対策を考えればいいんじゃねえか?」

 

「空から落ちた時の対策か....確かに、そっちを考えた方が良いかもしれないな。」

 

「俺はあんたと比べたらサッカーの実力も、頭の良さも敵わないけどよ....たまには俺たちを頼ってくれよ。...その....仲間...だからよ。」

 

「........ああ、そうだな。仲間だもんな........」

 

「そ、そういうことだからよ!いつでも俺たちを呼んでくれよ!」

 

 

そう言って、顔を赤くしながら吉良は走り去っていく。

どうやら気を遣われたみたいだな...だがおかげで悩みも晴れた。

 

 

「ありがとう!.....ヒロト!」

 

「っ!....おう!」

 

 

空から落ちた時の対策...あのタクティクスは竜巻を発生させて相手を宙に浮かせ、身動きが取れない状態で空から落下することでダメージを与えるというものだ。

 

ならば落ちた時にダメージを軽減することができれば....だが範囲が広すぎる。

言い方は悪いが主力を温存してベンチメンバ―で戦い、あのタクティクスを避ける方法も考えられるがそれで勝てるほど彼らは弱くはないだろう。

 

何かあるはずだ....俺が何とかするしか無い。

みんなで優勝するために...必ず俺があのタクティクスを攻略する...!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

数日後

 

 

稲森 side

 

 

ピッピッピュィィィィィィィィ!

 

 

『試合終了!雷門中vs万能坂中の試合は、3vs0で雷門中が制しました!これで雷門中はベスト8に一番乗りです!』

 

 

「やったぞおおおお!」

 

「俺たち、意外とやれるもんだな!」

 

「ああ。この試合も明日人、剛陣、小僧丸が1点ずつ得点して調子もあがってきてる。このままいけばさらに上まで行けるかもしれないな。」

 

 

俺たちはフットボールフロンティアの予選大会を敗退した。

でもこの本戦に出場できているのは、雷門中が前回大会の優勝校だったからだ。

俺たちは本当はよそ者だけど、監督や大谷さん、神門さん、そして嵐山さんの話を聞いて、俺たちはその権利を使うことを決めたんだ。

 

 

「(永世学園は反対のブロック...戦えるのは決勝戦だけ....絶対に勝ちあがって、もう一度嵐山さんに挑戦するんだ!)」

 

「(豪炎寺さんは次の試合も勝つ....心配なのは嵐山...さんの方だ。次の王帝月ノ宮は強い。....って、俺は別に豪炎寺さんが勝ち上がってきてくれたらそれでいいんだ...!嵐山...さんは関係ねえ..!)」

 

 

 

「よっ!順調に勝ち上がってるみたいじゃないか。」

 

「「「「「嵐山さん!」」」」」

 

 

俺たちが勝利を喜んでいると、嵐山さんたち永世学園があらわれた。

そういえば、次にこのスタジアムで試合するのは嵐山さんたちだった。

 

 

「順当に行けば、次に当たるのは世宇子だな。あいつらは強い。心して戦えよ。」

 

「はいっ!俺、決勝まで進んで嵐山さんたちともう一度戦いたいです!」

 

「...はは、俺たちが勝ち上がること前提だな。」

 

「あ、えっと...俺、嵐山さんなら絶対決勝まで勝ち上がるって信じてますから!」

 

「そうか。ありがとな、稲森。」

 

「ふん....俺としては豪炎寺さんに勝ち上がってもらいたいもんだけどな。」

 

「小僧丸!」

 

「ま、豪炎寺さんはあんたとの試合を待ち望んでいるんだ。....ぜってえ勝てよ。」

 

「....ああ、必ず勝つ。それが俺の使命だ。」

 

 

小僧丸の言葉に、嵐山さんは真剣な表情でそう言った。

いつも笑っていて、優しい嵐山さんだけど、今日の嵐山さんは少し雰囲気が違った。

別に怖いとかそんなんじゃないけど....なんだか覚悟をした表情っていうか...

 

何事も無いといいんだけど.....

 

 

「じゃあ俺たちはアップがあるから。」

 

「ああ、応援してるぜ。」

 

「あ、あの...」

 

「ん?」

 

「えっと.........(いや、大丈夫だよな...)...が、頑張って下さい!」

 

「おう。」

 

 

どうしても不安感がぬぐえない....でも、嵐山さんなら大丈夫だよ。

嵐山さんが負けるわけない。負ける姿なんて想像がつかないから。

 

 

 

「やあ、稲森君。」

 

「っ!...野坂。」

 

 

今度は野坂と西蔭が俺たちの前に現れた。

二人以外の選手はみんな、反対側のベンチにいるのに。

一体何をしにきたんだろう。

 

 

「なにをしにきたんだ?」

 

「ちょっとね。.....あなたが吉良瞳子監督ですね?」

 

「....そうよ。試合前に、敵チームのキャプテンが一体何の用かしら?」

 

「忠告に来たんです。....この試合、棄権して下さい。」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

 

な、なにを言っているんだ、野坂は!?

いきなり棄権しろだなんて、何でそんなことを....

 

 

「...不要ね。私たち永世学園は絶対に棄権しません。」

 

「っ...それで選手たちが傷つくことになってもですか。」

 

 

「それって、この前の試合みたいに”グリッドオメガ”を使うってことですか!」

 

「君は....確か神門杏奈さん。そうか、君は確か嵐山さんのこと...」

 

「答えて!あんな卑劣なことをするなら...私は容赦しないわ!」

 

「あれはルールに則った行動だよ。別に卑劣でも何でもないさ。」

 

「っ...あんなの、サッカーじゃない!」

 

「いいや。あれこそが僕たち王帝月ノ宮のサッカーだ。」

 

 

「.....野坂君。」

 

「何でしょう、吉良さん。」

 

 

神門さんがヒートアップしていったけど、永世学園の監督が間に入って止めてくれた。

監督は真剣な表情で野坂を見下ろしている。

 

 

「悪いけど、あなたたちがなにを言おうと私たちの意思は変わらない。私たちは最後の1分1秒まで全力で戦う。それが私たちのサッカーよ。」

 

「.........どうやらなにを言っても無駄のようだ。だったら遠慮なく、すぐに終わらせてあげましょう。」

 

 

そう言って、野坂と西蔭は自分たちのベンチへと引き上げていった。

野坂....あんなのがお前のサッカーなのか....?

サッカーって、もっと楽しくて、キラキラしたものじゃないのか...?

 

 

「あなたたちも、試合が終わったのだから早く出なさい。」

 

「あ、す、すみません!」

 

「っ....あの....隼人さんに伝えて下さい。」

 

「......」

 

「無茶だけはしないで下さい、って。」

 

「.......ええ、わかったわ。」

 

「ありがとうございます...」

 

 

 

神門さん、嵐山さんが本当に心配なんだな。

俺も....嵐山さん、どうか無茶だけはしないで....決勝で会いましょうね。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もがれた翼

キリの良いところで終わらせたかったので、今回はやや短め。


嵐山 side

 

 

『フットボールフロンティア全国大会もベスト8が決まるところまできました!既に前回大会優勝校の雷門中がベスト8一番乗りを決めています!そして次にベスト8に名乗りを上げるのは、アレスの天秤システムで着実に成長を続ける王帝月ノ宮か!それとも、昨年雷門中を優勝に導いた立役者、嵐山隼人率いる永世学園か!果たしてどちらでしょう!』

 

 

「みんな....今日の試合、今まで以上に厳しい戦いになると思う。それでも勝つのは俺たちだ。俺がみんなを勝利に導く。だからみんなも俺を信じて、全力で戦って欲しい。」

 

「当たり前だぜ、嵐山サン。」

 

「そうですよ。俺たちはあなたのおかげでこうしてサッカーを続けることができているんです。」

 

「私たちは隼人を信じてる。だから...隼人も私たちを信じて欲しい。」

 

「ああ。.....絶対勝つぞ!」

 

「「「「「おう!」」」」

 

 

俺たちは円陣を行って、フィールドへと散らばっていく。

この試合...恐らく白恋中との試合よりも厳しい展開になるだろう。

だが、あいつらならきっと大丈夫だ。

 

 

「嵐山君!」

 

「っ!....どうしたんですか、監督。」

 

「.........無事に戻って来なさい。」

 

「.....はい。」

 

「っ....」

 

 

俺も何とも言えない表情で返事をした後、フィールドへと走っていった。

瞳子さんも何となくわかっているんだろうな。

でも、俺がやるしかないんだ。俺がみんなを守る。それがこの試合で勝利するための一手。

 

 

 

「嵐山さん....今日の試合で僕たちの運命が決まる。」

 

「そうだな。俺はお前を倒して、必ず救って見せる。」

 

「救い....そんなもの、僕たちは求めていない。僕は証明してみせる。僕たちが絶対だと。」

 

 

 

『さあ間もなく試合開始です!両チームがにらみ合っています!』

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『さあ!王帝月ノ宮ボールで試合開始です!....おおっと!これはあああああ!』

 

 

 

「(っ...やはり初っ端から来たか...!)」

 

「僕たちは手段を選ばない。”グリッドオメガ”!フェーズ1!」

 

「ぐっ!」

 

 

野坂の指示により、王帝月ノ宮イレブンが”グリッドオメガ”を発動する。

俺たちは発生した竜巻によって、宙へと浮かび上がっていく。

 

 

.....

....

...

..

.

 

野坂 side

 

 

「フェーズ2!」

 

「「「「「うわああああああああああああ!!!!」」」」」

 

 

僕たちのタクティクス、”グリッドオメガ”によって永世学園の選手たちが宙へ浮かび、竜巻によって吹き飛ばされる。確かに酷いタクティクスだ....それでも、これが僕たちの戦い方であることに変わりは無い。

 

 

「くっ....!うおおおおおおおおお!」

 

「(っ...あなたがなにをしようと無駄だ!星章との戦いで、このタクティクスがあなたたち伝説のイナズマイレブンにも通用することは証明されている!もうこれで終わりなんだ!)」

 

 

嵐山さんが吹き飛ばされている中でももがき、何かをしようとしている。

だがそんなもの関係ない。あなたたちはこれで終わりなんだ。

このタクティクスで、僕たちは頂点へと登り詰める!

 

 

「フェーズ3!」

 

「「「「「うわああああああああああああ!!!!」」」」」

 

ドサッ!...ドサッ!....ガッ!

 

 

竜巻が止み、永世イレブンが次々と落下してくる。

全員がその場にうずくまったまま動かず、かなりのダメージを与えられたことを理解した。

 

 

「(やはりこれで終わりだ。)僕たちはこの力で、天を掴む。」

 

「ぐっ....まだだ...!」

 

「なっ!?」

 

「まだ終わってねえぞ!」

 

「僕たちは...まだ戦える...!」

 

「まだ終わってはおらんぞ....王帝月ノ宮!」

 

 

ば、馬鹿な....どうして”グリッドオメガ”を食らって立ち上がれる!?

しかも全員が立ち上がった!?一人や二人なら、かなりタフな人間という理解もできる。

なのに全員が立ち上がるなんて、一体なにが...

 

 

「のさか.....おまえらの...たくてぃくす....うちやぶっ.....」

 

ドサッ!

 

 

「っ....」

 

「「「「嵐山さん....!!!!!」」」」

「隼人!?」

 

 

僕の目の前に落ちてきた嵐山さんは、立ち上がったあと虚ろな目をしながらそう言い、ふたたび倒れてしまった。

 

 

「嵐山さん!....っ、こ、これ....」

 

「う、嘘だろ....」

 

 

「っ!」

 

 

永世イレブンが青ざめた表情をしていたから気になって見てみたが、嵐山さんが頭から血を流しながら気絶していた。

 

 

「(ま、まさか頭から落下したのか....だが何故...この人ほどの選手が頭から...)」

 

 

 

「嵐山さん...っ...俺たちに嘘ついて...!」

 

「じゃなかったら、嵐山さんがこんなことになるはずねえ...!」

 

「こんなことになるなら、嵐山さんの指示に反対すれば...!」

 

 

「一体何が....」

 

「っ!野坂...てめえ!」

 

 

ピピピピ!

 

 

『ああっと!ここで審判が両チームを制止しました!....情報が入りました!永世学園の嵐山が頭部の負傷で一時退場!今年より新しく追加されたルールにより、この交代で交代枠を使うことはありません!』

 

 

「担架はやく!血を流しているから、慎重に運んで!」

 

「「「「嵐山さん!」」」」

 

 

「うっ....」

 

 

何だこの感覚....胸がざわつくこの感覚は....

吐き気がして気持ちが悪い....ぞわぞわする....一体何なんだ、これは....

 

 

 

「野坂さん、大丈夫ですか?」

 

「ああ、西蔭....大丈夫....大丈夫だ....」

 

 

僕はそう言いながら、ふらつく足取りでベンチへと引き上げていった。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

基山 side

 

 

『まさかの状況に、場内がざわついております!頭部からの落下...嵐山の状態が心配です。現在、試合は一時中断!嵐山の治療が終わってからの再開を見込んでおります!』

 

 

「っ....嵐山さん....」

 

「クソ!あんなことになるなら、反対すれば良かった...!」

 

「隼人....」

 

 

嵐山さんの負傷に、俺たち永世イレブンは酷く動揺していた。

俺たちは嵐山さんのおかげでこうして立っていられるのに、当の嵐山さんがあんな怪我をするなんて...

 

 

昨日、俺たちは嵐山さんに集められてこう告げられていた。

 

 

『恐らく、王帝月ノ宮は試合開始早々に”グリッドオメガ”を使ってくるはずだ。それで俺たちをKO...試合続行不可能にして勝つ、それが野坂の考えている策だと思う。』

 

『でもそれって防ぎようがないんじゃ...明日は王帝月ノ宮が先行ですし...』

 

『ああ。だから発動は防がない。俺が防ぐのは落下によるダメージだ。』

 

『落下によるダメージ....』

 

『俺が風圧によるクッションを作る。だからお前たちはそのまま落下すればいいだけだ。』

 

『で、でもそんなことできるんですか...?』

 

『そうだな........ふっ!』

 

ブオンッ!

 

『すごい...これだけの風をおこせるなら、もしかしたら....!』

 

『ああ。だからみんなは俺を信じて、そのまま落下してほしい。もちろん、受け身はちゃんと取るんだぞ?』

 

『『『『『はいっ!』』』』』

 

 

 

そうして、俺たちは嵐山さんによって救われたんだ。

でも嵐山さんは多分、最後まで俺たちを守るために風圧を作り続けていたんだ。

だから受け身が取れなくて、頭から落ちてしまった....

 

 

「.....みんな、顔を上げなさい。」

 

「っ...瞳子姉さん...」

 

「あなたたち、試合前に嵐山君が言ったことを思い出しなさい!」

 

「試合前に言っていたこと......」

 

「それって....」

 

 

『今日の試合、今まで以上に厳しい戦いになると思う。それでも勝つのは俺たちだ。俺がみんなを勝利に導く。だからみんなも俺を信じて、全力で戦って欲しい。』

 

 

「そうだ.....嵐山さんは俺たちを勝利に導くって...」

 

「自分を信じて、全力で戦って欲しいって...!」

 

 

そうだよ...俺たちが今やることは、嵐山さんを心配して俯くことじゃない!

俺たちが今やるべきこと...それは、嵐山さんが戻ってくることを信じて、全力で戦うことだ!

 

 

 

「....監督!」

 

「ええ。覚悟は決まったようね。......主審!試合の続行をお願いします。」

 

 

「よろしいんですね?」

 

「ええ。嵐山君はルール交代により、薔薇薗と交代します。」

 

「わかりました。」

 

 

審判が王帝月ノ宮ベンチへ走っていき、試合再開を告げる。

試合が再開することに、あちらのベンチは驚きを隠せないようだった。

 

 

「(きっと、俺たちが棄権すると思っていたんだろう。でも俺たちは負けない!たとえ嵐山さんがいなくても、俺たちの心の中には嵐山さんがいる!俺たちの中には、嵐山さんの教えが備わっている!だから嵐山さんを信じて、全力で戦うだけだ!)」

 

 

 

「まさか、試合を再開するとは思わなかった。」

 

「俺たちは絶対に勝つ!ただそれだけだ!」

 

「そうか....なら僕たちが全力でそれを叩き潰そう。」

 

「っ...野坂....悠馬...!」

 

 

絶対にお前たちを倒す!俺たちのサッカーで、王帝月ノ宮を倒すんだ!

 

 

「いくぞ、みんな!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

 

だからどうか....無事でいて下さい、嵐山さん...!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

風の吹かないフィールド

基山 side

 

 

『さあ、永世ボールで試合が再開します!チームの柱である嵐山隼人が抜けた永世学園!果たしてどのような試合展開になるのでしょうか!』

 

 

嵐山さんが抜けてしまって、みんな気合を入れ直したけどやはり動揺が隠しきれていない。

どうしても動きが固くなってしまっている。

 

 

「この程度なら、やはり嵐山さんを排除して正解だった。」

 

「っ!野坂...!」

 

「君たちでは僕たちに勝てない。潔く試合を棄権した方が身のためだよ。」

 

「ふざけるな!俺たちは絶対に勝つ!この試合を諦めているやつ何か、このチームに一人もいない!」

 

「なら見せてもらおうか。君たちの力を。」

 

 

そう言って、野坂が俺へとぶつかってくる。

押し負けてしまいそうだ.....でも、俺たちは負けない。

嵐山さんが言っていたんだ....俺たちが勝つって!

 

 

「うおおおおおおおおお!」

 

「っ!(くっ...頭が...!)」

 

 

俺は力を振り絞って、野坂を抜き去った。

途中で野坂の方の力が弱くなったように感じたが、今はそんなことを気にする必要はない。

このまま俺が前線へとボールを運ぶ!

 

 

「ここは通さない!」

 

「っ!押し通る!」

 

 

相手のディフェンダーがあらわれたけど、俺のスピードを落とさずにそのまま直進する。

それと一緒に相手のディフェンスの位置を確認する。どうやら俺がパスを出さずにドリブルで駆けあがっていることで、ディフェンスが俺に寄ってきているように見える。

 

 

「(だったら、こいつを抜いてできるだけ引き寄せてから、ヒロトにパスだ!)うおおおおおおおおお!”サザンクロスカット”!」

 

「くっ!うわあああああああああああ!」

 

 

『抜いたあああああああああ!基山、ドリブルで華麗に王帝月ノ宮の選手たちを抜き去っていきます!その姿、まさに永世の貴公子の名にふさわしい動きです!』

 

 

 

「あいつを止めろ!」

「これ以上進ませるか!」

 

 

よし!相手のディフェンスが俺に釣られた!

これで....よし、晴也がフリーになった!

 

 

「待てお前ら!そっちは囮だ!」

 

「もう遅い!受け取れ、晴也!”スターループ”!」

 

ドゴンッ!

 

「「しまった!!」」

 

 

俺のアーチのかかったパスにより、俺に寄ってきた相手ディフェンス二人の上を超えて晴也へとパスが渡った。

 

 

「よっしゃあ!受け取ったぜ!」

 

 

そのまま晴也はシュート体勢に入った。

完全にフリーになっていたので、誰も晴也を止めることはできない。

 

 

「くらえ!”アトミックフレア”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「チッ...だがゴールは割らせん!この俺がいる限り!”王家の盾”!」

 

ガンッ!

 

 

晴也の”アトミックフレア”と、相手の”王家の盾”がぶつかり合う。

晴也のシュートも負けてはいないが、相手の方が一枚上手なのかどんどん勢いがなくなっていく。

 

 

シュルルルルル!

 

 

「ふん。」

 

「くっ....止められた...!」

 

「この程度のシュートで俺を破れると思っていたか。」

 

「なにっ!?」

 

「熱くなりすぎるな、晴也!」

 

「くっ...!」

 

 

熱くなりすぎたら、余計相手の思うツボだ。

確かに彼はかなりの実力者のようだが、どんな相手にだって突破口はある。

いつも嵐山さんが言ってくれていた。完璧なんて存在しないって。

 

 

「ふん....香坂!」

 

「おう...「もらったぜ!」...んなっ!?」

 

 

相手のキーパー、西蔭が味方にボールを投げ渡すが、それをトラップした瞬間にヒロトがボールを奪い返した。完全に狙っていたな、あいつ。

 

 

「どんなに強固なキーパーでも、連続でシュートを打たれたらきついだろ!くらいやがれ!”ザ・エクスプロージョン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「甘い!俺がその程度でヘマするわけないだろ!”王家の盾”!」

 

ガンッ!

 

 

っ...ダメだ、このシュートも止められる!

虚を突いたヒロトのシュートでも、西蔭はしっかり正面で待ち構えていた。

ボールを奪った瞬間は西蔭も驚いていたけど、すぐにヒロトに対応しようとしていた。

だから正面でがっちりとシュートを受け止めることができているんだ。

 

 

シュルルルルル!

 

 

「ふん、この程度か。」

 

「チッ....だが、既に前線には俺たちが待ち構えている。お前が投げられる場所なんてねえ!」

 

「ふっ...この程度で俺たちを封じたとでも?」

 

「なに?」

 

「.....受け取って下さい、野坂さん!」

 

「なっ!?」

 

 

何と西蔭は近くにいた王帝月ノ宮の選手ではなく、ハーフラインギリギリの位置で待ち構えていた野坂にロングパスを出した。かなり前線に出ていた俺たちはすぐさま戻ろうとするけど、野坂は一人で駆けあがっていき、俺たちを突き放していく。

 

 

「くそ...!」

 

「誰でもいい!野坂を止めろ!」

 

 

 

「私が止める!」

「俺もいるぞ!」

「嵐山さんの代わりに出場してるんだから、結果を残すわ!」

 

 

「止めろ!クララ!蟹目!薔薇薗!」

 

 

「君たちでは僕は止められない。”スカイウォーク”。」

 

 

クララたちが野坂を止めに入ったけど、野坂は必殺技を発動。

空を歩くように三人を上空から抜き去った。

 

 

「くっ...止めてくれ!砂木沼!」

 

「来い!俺は今燃えている!嵐山が負傷させられ、怒りで魂が燃え上っている!」

 

「それで強くなれるのかい?」

 

「おうとも!この俺の力!貴様に見せてやろう!」

 

「なら見せてもらおうか。想いで強さが変わるかどうか。....”キングスランス”!ハアッ!」

 

ドゴンッ!

 

 

まるで砂木沼を試すように、ゴールの真正面からど真ん中へ向かって野坂のシュートが放たれた。

その威力は遠くにいてもわかるくらい伝わってくる。今の砂木沼で止められるか....いや、止めるんだ、砂木沼!

 

 

「うおおおおおおおお!”ドリルスマッシャーV2”!」

 

「っ!進化した!」

 

「なるほど....でも、それでは僕のシュートは止められない。」

 

「ぐっ!うぅぅぅぅぅぅ!」

 

ピシッ...ピシッピシッ...!

 

 

「終わりだ。」

 

パキンッ...!

 

 

「ぐおおおおおおおお!」

 

 

進化して強くなった砂木沼の”ドリルスマッシャー”...でも、野坂の放ったシュートの方が強く、”ドリルスマッシャー”を打ち砕いて砂木沼ごとゴールへと突き刺さった。

 

くそ....砂木沼だって頑張っている。それなのに止められないなんて...俺たちだけじゃ勝てない...そういうことなのか....!

 

 

「顔を上げろ!お前ら!」

 

「っ.....ヒロト....」

 

「そろいもそろって下向きやがって!てめえらなに諦めてやがる!まだ前半だ!まだ1点差だ!まだまだ試合は終わってねえんだぞ!」

 

「でも....俺たちのシュートは通じない!あっちのシュートは止められないんだ!どうやって戦えばいい!」

 

「そんなもん決まってんだろ!心だ!」

 

「っ!」

 

「諦めねえ気持ちで戦えば、勝利の女神はぜってえ俺たちを見放さねえ!つーか、ここで負けたら嵐山サンが無駄に怪我を負っただけになっちまうだろ!」

 

「「「「「「それは....」」」」」」

 

「俺は諦めねえ!嵐山サンの行いを無駄にしないためにも....俺をまたチームに迎え入れてくれたあの人の恩に報いるためにも!」

 

 

.....そうだ。俺たちはあの人に何も返せてない。

ずっと俺たちにサッカーを教えてくれた。俺たちを強くしてくれた。

いつだって俺たちのサッカーには、あの人がいてくれた。

 

 

「そうだ...諦めるわけにはいかない...!」

 

「私たちがここで折れたら...!」

 

「嵐山さんに顔向けできない...!」

 

 

失敗したっていい...それでも最後まで諦めちゃいけない。

最後まで諦めなければ、最後にそれが報われることもある。

かっこ悪くたっていい...それが最善だと思えるなら、なりふり構わず成し遂げる!

 

それが俺たちのサッカー!

 

 

「いくぞみんな!前半、まずは点を取って追いつくぞ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

夏未 side

 

 

ワーワー!

 

 

「嵐山君...聞こえる?みんな頑張っているわよ.....」

 

「.......」

 

「だからお願い...目を覚まして....!」

 

 

あなたが無茶をすることはわかっていた。

それでも私は止めなかった。だってあなたを信じているから。

だからお願い...今度は私の信頼に応えて...!

 

 

ピクッ...

 

 

「っ!」

 

「う......なつ...み.......?」

 

「嵐山君!」

 

 

目が覚めたのね!まだ意識ははっきりしていなさそうだけど、目が覚めただけでも良かったわ...

最悪、このまま目が覚めなかったかもしれないのだから....

 

 

「....しあいは....?」

 

「続行しているわ。みんな、あなたの想いを無駄にしないために、必死で戦ってる。」

 

「.....いかなきゃ......」

 

「っ!......ダメ。ダメよ。」

 

「なつみ.....」

 

「お願い....!もう無茶しないで!この試合、あの子たちに任せていいじゃない!あの子たちだって必死で戦ってる!あなたが無茶しなくても、あの子たちは十分戦えているじゃない!」

 

「.....違うよ、夏未。」

 

「えっ...?」

 

 

先ほどまでの意識が朦朧としてそうな受け答えと違い、今度ははっきりと答えた。

私の目を見て、しっかりと。

 

 

「無茶しにいくんじゃない。俺は約束を守りに行くだけだ。」

 

「約束...」

 

「あいつらと約束したんだ。今日の試合、俺が勝利に導くって。....それに、もう一つ。」

 

「もう...一つ...?」

 

「救ってあげたいんだ。がんじがらめの呪縛から....たとえそれが敵であっても。」

 

「それって.....」

 

「だから、いくよ。.....心配してくれてありがとう夏未。俺はそんな君が大好きだよ。」

 

「なっ!?」

 

「俺のために戦ってくれるあいつらも...みんなが大好きだから...俺は戦う。大好きなみんなを、大好きなサッカーを守るために。」

 

「っ.........嵐山君!」

 

「.......」

 

「........勝ってきなさい!」

 

「.......おう。」

 

 

そう頷いて、嵐山君は走っていった。

ダメね、私....マネージャーなら引き止めなさいよ.....

でも.....あんなの....

 

 

「止められるわけ....ないじゃない.....っ.......!」

 

 

だからせめて...もしいるならお願いします、神様。

どうか嵐山君が無事に戻ってきますように....!

 

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

電光石火、疾風迅雷!

基山 side

 

 

「”アストロブレイク”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「”王家の盾”!」

 

 

くそ...!またしても止められてしまった。

あれから俺たちがボールをキープして、何度も攻めている。

それでも西蔭からゴールを奪えない。必死でボールをキープしようとして、俺たちの体力がどんどん削られていっているのも原因かもしれない。

 

 

「ハァ....ハァ....くっ....まだまだ...!」

 

「うっ...」

 

バタッ...!

 

 

「玲名!」

 

 

何度も俺たちが攻めているうちに、ついに玲名の体力が底をつきてしまった。

いや、玲名だけじゃない。さっきシュートを打った緑川も限界が見えてきているし、晴也や風介も肩で息をしている。まだ体力が残っているのは、俺とヒロト、そしてディフェンス陣だけだ。

 

 

「そろそろ限界のようだね。」

 

「くっ....!」

 

「西蔭、よくゴールを奪わせなかったね。あとは僕たちの仕事だ。」

 

「はい、野坂さん。」

 

 

西蔭は嬉しそうに野坂にボールを渡す。

もう俺たちにそれを奪いにいく気力は残されていなかった。

 

 

「ここまでよく頑張ったと褒めてあげるよ。だが...嵐山隼人がいない永世学園など、取るに足らないチームだ。」

 

「くっ....くそおおおおおおおおおおお!」

 

 

俺たちは野坂がドリブルを始めるところを黙って見ていることしかできなかった。

だけど一人だけ、野坂に食らいついた奴がいた。

 

 

「うああああああああああああ!」

 

「っ!」

 

「私たちは負けない!隼人が言った言葉...私はずっと信じて戦う!」

 

「くっ...!」

 

 

『おおっと!八神、ナイススライディングです!野坂からボールを奪い返しました!』

 

 

「ハァ...ハァ....うぅ...」

 

 

玲名が決死のスライディングで野坂からボールを奪い返した。

でも倒れてしまうくらい体力が限界だった玲名は、その場から一歩も動けずにいた。

 

 

「ハァ...ハァ.......タツヤ....お前が決めろ......キャプテンとして.....隼人の想いに答えろ!」

 

「っ!玲名....」

 

 

「「「ボールを奪い返せ!」」」

 

「っ!うああああああああああああ!”キャリーペンギン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

玲名は本当に最後の力を振り絞り、俺へとパスを出した。

ペンギンたちによって守られたボールを、王帝月ノ宮の選手たちを退けて俺の元へとやってくる。

 

 

「っ!」

 

「「「「決めろ!タツヤ!」」」」

 

 

みんな....強い想いを感じる..!

ボールに込められた、みんなの想い!

その想いに応えるためにも....絶対にゴールを奪う...!

 

 

「勝負だ!西蔭!」

 

「ふん....来い!」

 

「うおおおおおおおおおお!”流星ブレードV2”!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺の渾身のシュートが、王帝月ノ宮ゴールへと突き進んでいく。

みんなの想いが詰まったこのボールが、俺に力をくれた。

前半残り数秒....このゴールが決まれば、俺たちはまだ戦える!

 

 

「止めてやる!”王家の盾”!」

 

ガンッ!

 

 

西蔭が”王家の盾”で対抗してきた。

ボールの勢いは収まらないが、西蔭も負けじと持ちこたえている。

ダメなのか...このまままた、止められてしまうのか...!

 

 

「いや!みんなの想いが詰まっているんだ....止められてたまるかああああああああ!」

 

「うおおおおおおおおおお!....っ....な、何故だ....何故止まらない...!」

 

 

ずっと持ちこたえているのに、一向に止まる気配の無いボールに西蔭は焦りだした。

そして徐々に西蔭はゴールへと押し込まれていく。

 

 

「行けえええええええええええええ!」

 

「うおおおおおおおおお!...っ!ぐああああああ!」

 

 

『ゴォォォォォォォォォール!鉄壁を誇っていた西蔭から、ついにゴールを奪いました!永世学園が見せた執念!チームの柱である嵐山が不在となりながら、諦めずに戦った永世学園!ついに1点を奪い、同点です!』

 

 

「やったあああああああああああああ!」

 

「うおおおおおおおおお!」

 

「さすがだぜ、タツヤ!」

 

 

みんなにもみくちゃにされながら、喜びを分かち合う。

良かった...これで後半もまだわからない!

諦めずに戦えば、勝利の女神はいつだって微笑んでくれるんだ。

 

ピッピッピィィィィィィィ!

 

 

審判のホイッスルが鳴り響き、前半が終了した。

前半だけでもかなり体力を使ったんだ...少しでも休んで、体力を回復させないと。

 

 

「ハァ....ハァ.......良かった.....うっ...」

 

「っ!玲名!」

 

 

ふらふらと玲名がベンチに戻ろうとするが、完全に体力が切れていたためまた倒れそうになった。

でも、今回はフィールドにそのまま倒れることはなく、誰かに受け止められていた。

 

 

「ハァ...ハァ......はや...と......」

 

「よく戦ったな、八神。それにみんなも。」

 

「嵐山さん.......!」

 

「「「「嵐山さん!」」」」

 

 

嵐山さんが戻ってきた...!

よかった....怪我も無く、無事だったんだ!

 

 

「途中から見ていたよ。俺がいなくても、お前たちは立派に戦っていた。俺はそれが嬉しい。」

 

「嵐山さん...!」

 

「最後まで諦めずに戦ったから、八神がボールを奪い返せた。最後まで諦めずにシュートを打ち続けたから、基山がゴールを奪えた。ここにいる全員が諦めずに戦ったから、同点のまま後半を迎えることができた。全部お前たちのおかげだ。」

 

「嵐山さん....俺....俺....!」

 

「よく頑張ったな、基山。俺はお前を....お前たちを誇りに思う。」

 

「「「「嵐山さん...!」」」」

 

 

気付けば俺たちは嵐山さんに抱き着くように集まっていた。

あのヒロトでさえ、目には涙を浮かべているように見えた。

ずっと恩返しがしたいって言ってたんだ....ヒロトも嵐山さんのことをずっと心配していたんだろう。

 

 

「後半は俺が中心になって戦う。体力もきついだろうが.....みんな、俺のサッカーについてこい!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

『さあ後半が開始します!....おおっと!永世学園、怪我で離脱していた嵐山が復帰するようです!今年から追加された新ルール!怪我での交代は一時的な交代とし、交代枠を使いません!さらに怪我をした選手は問題無いと審判団に判断された場合のみ、交代枠を使用してふたたびフィールドに戻ることができます!』

 

 

「....まさか、戻ってくるとは思いませんでした。」

 

「ま、約束したからね。」

 

「約束....?」

 

「この試合を勝利に導くこと、お前たちを止めること....そして、この大舞台で戦うことを。」

 

 

修也や円堂...それだけじゃない。

立向居や稲森たちとだって、俺は戦いたい。

俺たちが最強だと証明するために、こんなところで立ち止まっているわけにはいかないんだよ。

 

 

「さて....前半は随分といいようにやってくれたみたいだけど.......後半は気を引き締めて来いよ?」

 

「....?」

 

「じゃないと...勝負にならねえぜ。」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「嵐山サン!」

 

「ああ。....いくぞ!」

 

「っ!」

 

 

俺はヒロトからボールを受け取ると、全力で走り出した。

そのあまりの速さに、野坂は驚き戸惑っていた。

 

 

「(馬鹿な...何て速さだ。これが人間の速さだというのか...それにあれだけの速さで走れば、他の選手たちはついていけない!)」

 

「ハァ...ハァ.....嵐山さんが戻ってきたんだ....俺たちも続くぞ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

「(な、何だこれは...どうして体力が切れていた永世イレブンが、こんなにも動ける。一体何が起こっているんだ....)」

 

 

「止める!」

 

「遅えよ!」

 

 

俺はスピードを全く落とさず、ぶつかるすれすれで最小限の捻りを加えて相手を避けていく。

その光景に、王帝月ノ宮の選手たちはまるで自分を貫通して突破されたかのような感覚に陥っていた。

 

 

「どうしたどうした!まだまだこれからだぞ!俺についてこい!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

「「「止める!」」」

 

 

今度は3人がかりで俺を止めに来たか。

だがそれでも俺は止められねえ!今の俺は...無敵だ!

 

 

「「「いくぞ!”無影乱舞”!」」」

 

 

3人が同時に規則的な動きで俺へと迫ってくる。

だが俺の風は止まらない!穴をこじ開けて、前に進んでやるよ!

 

 

「”風穴ドライブ改”!」

 

「「「うわああああああああああ!」」」

 

 

俺は迫ってきている3人に向かって、”風穴ドライブ”を発動した。

俺が発生させた風にぶつかり、3人の必殺技は失敗に終わり、俺はそのまま風の穴を通って3人を突破する。

 

 

「まだだ!」

 

「アレスクラスターを舐めるな!」

 

 

だがまだ二人、ディフェンスが残っていた。

あちらも必死で守ってきているってことだな。

だが残念。こっちも二人でいかせてもらおうかな。

 

 

「よっと。」

 

「えっ?」

 

「はっ?」

 

 

俺はノールックで右側にパスを出す。

突然俺がパスを出したことに、王帝月ノ宮のディフェンスは拍子抜けしたような表情を浮かべている。

 

 

「おらあ!」

 

「なっ!?」

 

「吉良ヒロト!?」

 

 

そう、俺がパスを出した先にはヒロトがいた。

と言っても、俺がパスを出すまではもう少し後ろにいたので、パスを出した時点ではその場には誰もいなかったけどね。

 

 

「「っ、しまった!」」

 

「受け取りな!嵐山サン!」

 

「おう。」

 

 

俺はそのまま二人を抜き去り、そしてヒロトからのリターンを受け取る。

見事なワンツーでディフェンスを抜き去り、俺の前にはもう西蔭のみとなった。

 

 

「よっしゃあ!そのまま決めちまえ!嵐山サン!....って、あいつ!」

 

 

「まだだ!まだ僕が残っている!」

 

「っ!...野坂、お前か。」

 

 

残すは西蔭のみ...そう思っていたが、野坂が全速力で戻ってきて俺の前に立ちふさがった。

普段は無表情だが、割と必死の形相で俺に立ち向かっている。

なんだかんだ、こいつにも負けたくないって感情があるんだろうな。

 

 

「(だが...それはこちらも同じだ。負けたくない。勝ちたい。だからこそ俺たちは日々努力し、進化していく!)」

 

「勝つのは僕たちだ!」

 

「いや...俺たちだ!うおおおおおおおおお!」

 

「っ!」

 

 

俺はそのままスピードを落とさず、風に...いや、雷になるが如く、野坂へと突っ込んでいく。

”風穴ドライブ”も日本では通じていたが、世界にいけば通じないかもしれない。

まだ試してはいないが、今までの技はもう通じないと考えておいた方が良い。

だからこそ俺は、祖父ちゃんのノートに書いてあった必殺技を色々試してきた。そして、ドリブル技で一番しっくり来たのは、この技だった。

 

 

「(ありがとう、祖父ちゃん。)」

 

 

『こ、これはああああああああああああ!嵐山がまるで雷を纏ったかのように駆けあがっていく!何なんだこの必殺技はああああああああああ!』

 

 

「これが俺の新必殺技!」

 

「っ!」

 

「”疾風迅雷”!」

 

「ぐああああああ!」

 

 

俺は雷の軌道を描きながら、野坂へとぶつかる。

雷のパワーによって野坂は吹き飛ばされ、もう俺の進む道を阻むものはいなくなった。

 

 

「野坂さん!」

 

「野坂の心配をしている場合か?」

 

「っ!」

 

「受け止めてみろ、西蔭!俺の全力のシュートを!”ウイングショットS”!」

 

ドゴンッ!

 

 

”疾風迅雷”によって駆け抜けたスピードそのままに、俺は全力で”ウイングショット”を叩き込んだ。”疾風迅雷”によってさらに加速した俺のシュートは、まるで嵐のように風を巻き起こしながらゴールへと突き進んでいく。

 

 

「くっ...”王家の盾”!」

 

ガンッ!

 

 

「ぐっ...ば、馬鹿な......この俺が....ぐああああああ!」

 

 

俺のシュートは西蔭の”王家の盾”を容易く打ち砕き、そのまま西蔭もろともゴールへと突き刺さった。

 

 

『ご、ゴーォォォォォォォォォル!まさに電光石火!疾風迅雷!圧倒的なスピードでフィールドを駆けあがり、後半開始僅か数分でゴールを奪いました!その姿はまさしく風神!何者をも寄せ付けぬその嵐のような走りで、王帝月ノ宮の選手を蹂躙しました!』

 

 

 

「蹂躙って.....」

 

 

「馬鹿な....何故あなたはここまで動ける....頭から落ちて、どうしてそこまで戦える...!」

 

 

俺が実況に呆れていると、倒れていた野坂が立ち上がり、俺へ疑問を投げかけてきた。

何故戦うか、か。そんなもの決まっている。

 

 

「サッカーが大好きだからだ。」

 

「っ....」

 

「俺はサッカーが好きだから日本一を目指すし、その先....世界一を目指して戦っている。」

 

「世界...」

 

「日本一はあくまで通過点。俺は、世界のてっぺんを取るために戦うのさ。」

 

「っ...............だが、勝つのは僕たちだ。僕たちにも成すべきことがある!」

 

「だったら、正々堂々勝負だ、野坂!」

 

「っ....僕は...........僕は....あなたに勝つ!」

 

 

良い目だ。後半もまだ始まったばかり。

少しの油断が命取りになる.....全力で戦い抜く!

 

 

 

.




今回使った”疾風迅雷”は、「疾風の白虎」と「迅狼リュカオン」の化身技である”シップウジンライ”と同じと考えてもらって結構です。
見た目だけ少し違っていて、化身がおらず普通にドリブルしながら雷状態になって....というイメージです。

ちょっとした変更という意味合いで、本来のカナ表記ではなく漢字表記にしてます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ベスト8へ!

豪炎寺 side

 

 

「お前たち!僕たちはこのまま負けるわけにはいかない!アレスクラスターの力を見せつけるんだ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

「さあみんな!もっともっと楽しんでいこうぜ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

隼人抜きで奪ったあの1点から、試合の流れは完全に永世学園に傾いているな。

そしてそこに隼人が戻ったことで、その勢いは手を付けられないほどになっている。

なにより選手たちの心の差だ。王帝月ノ宮の選手たちは誰も笑っていないが、永世学園の選手たちはサッカーを心から楽しんでいる。

 

 

「確かに王帝は強い。アレスの天秤...AIによる高度な教育も相当なものなのだろう。だが、それだけでは辿り着けない境地がある。」

 

「隼人たちのサッカーには心がある。今の王帝月ノ宮の奴らには、それがわからないんだろうな。」

 

「っ.......!」

 

「灰崎....悔しいか。」

 

「ああ、悔しいな。今の俺にはわかるぜ....俺が何故奴らに勝てなかったのか。」

 

「....だが今のお前は違う。」

 

「ああ。くそっ....俺もあの場所で、嵐山サンと戦いたかったぜ。」

 

 

灰崎のつぶやきに、俺は激しく共感した。

俺も早く隼人と戦いたい...今の俺の力がどれだけ通用するか試したい。

最強のライバルであるお前を倒し、俺が真のエースストライカーとなるために...!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「野坂、こっち...「ここは通さない!」..っ...!」

 

「ならこっちだ...「それも通さないよ!」..くっ!」

 

 

「くっ...(どうしてだ....前半で彼らの体力は尽きていたはず。後半が始まるまでのたかが数分休憩しただけで、何故ここまで動けるようになっている...!)」

 

 

「君には二人がかりでマークさせてもらうよ!」

 

「俺とタツヤのゴールデンペアだぜ!」

 

 

パスコースを完全に封じられ、動きが固まっていた野坂に対して基山とヒロトがマークについた。

これにより野坂はさらに動きが封じられてしまい、無表情ではあるが焦っているように見えた。

 

 

「何故...」

 

「「?」」

 

「何故、ここまで戦える。君たちは前半で力尽きていたはずだ。なのに何故....」

 

「はっ!そんな当たり前のこと、聞かなきゃわかんねえのか?」

 

「俺たちが今ここに立っていられるのは、嵐山さんのおかげだ!」

 

「俺たちを庇ってくれた嵐山サンが戻ってきてくれたんだ....」

 

「「俺たちはこの試合、絶対に負けない!」」

 

「っ...(想いの強さ....そんなものが彼らを突き動かしているというのか....!ありえない...そんなこと、あっていいはずがない...!)」

 

 

野坂....お前はまだ気付いていないのか。

お前だって、俺たちと同じなんじゃないのか?

アレスの天秤の犠牲者を救うために、お前は戦っている。

それこそ、お前の想いの強さなんじゃないのか?

 

 

「(くっ....こうなったら、もう一度”グリッドオメガ”を...)」

 

「っ、もらった!」

 

「っ!」

 

 

動きが鈍くなった野坂から、基山がボールを奪い取った。

それを見た俺はすぐさまゴール前へと走り出す。

 

 

 

「っ、止めろ!絶対に嵐山隼人にボールを渡すな!」

 

「ヒロト!」

 

「おう!」

 

 

西蔭が俺に気を付けるよう指示を出す中、基山とヒロトはワンツーを決めながら連携して駆けあがっている。

 

 

「くっ...みんな焦るな!敵は嵐山さんだけではない!」

 

 

そう、俺だけをマークすれば勝てるわけじゃない。

サッカーはチームスポーツだ...フィールドの11人がハーモニーを奏でるように、息の合った連携をすればどんな強敵にだって立ち向かっていける!

 

 

「(ディフェンスが俺たちに寄ってきてる.....これなら...!)」

 

「(任せろ、タツヤ...!)」

 

 

二人は互いを見て頷き、動き始めた。

アイコンタクトでお互いの考えがわかるなんて、さすがにあの二人は通じ合うものがあるようだな。

二人の企み通り、二人に寄ってきていた王帝ディフェンスは二人のワンツーによって躱されていく。

 

 

「くそ...!」

 

「どうして俺たちアレスクラスターが...!」

 

 

「はっ!馬鹿が!サッカーは頭でやるスポーツじゃねえんだよ!」

 

「いくら優秀なAIから教育を受けたからって、それだけじゃ得られないものがサッカーにはある!」

 

 

「それを今から!」

「私たちが証明してやろう!」

 

 

ボールを運ぶ二人とは別に、王帝ディフェンスがノーマークだった二人..南雲と涼野が駆けあがっていく。まるでノーマークだった二人の出現に、王帝ディフェンスは慌てふためく。

 

 

「決めろ、晴也!風介!」

 

 

その隙に基山によって、二人の丁度真ん中辺りにセンタリングされる。

二人はそれに合わせてそれぞれ飛び上がり、お互いを見つめ合う。

 

 

「(なんだかんだこいつとは腐れ縁だが....)」

 

「(まさか私たち二人で協力するときが来るとはな...)」

 

「「いくぞ!風介(晴也)!」」

「”ファイア”!」

「”ブリザード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

南雲の右足に炎、涼野の左足に氷のオーラがまとわりつき、二人はそれをアッパースイングで蹴り上げる。炎と氷という相反する力が混ざりあうことで、ボールには凄まじいオーラが籠っていた。

 

 

「くっ...これ以上点はやらん!俺が止めてみせる!”王家の盾”!」

 

 

二人が放った”ファイアブリザード”に、西蔭がふたたび”王家の盾”で対抗する。

だが....

 

 

「ぐっ...なんだ、このパワーは....!この俺が...止めきれ....っ、ぐああああああああ!」

 

 

『ゴーォォォォォォォォォォル!永世学園、ふたたびゴールを決めました!決めたのは南雲と涼野の二人!炎と氷のミスマッチのような二人ですが、互いの力を結集して西蔭を粉砕!ゴールを奪いました!これで3vs1!永世学園がさらにリードを広げる展開となりました!』

 

 

「よっしゃあああああああ!」

 

「ナイスシュート、二人とも!」

 

「完璧だったぞ!」

 

 

二人の息の合った合体技に、緑川たちも大喜びで二人を称えている。

正直、俺も驚いた。今まで何度かその兆しはあったが、あれがここまで強力な必殺技になるとは思っていなかったからな。

 

 

 

「そんな....」

 

「俺たちが....負ける....」

 

「嘘だろ...」

 

 

喜び合う永世イレブンとは裏腹に、王帝イレブンは戦意喪失したかのように膝から崩れ落ち、現在の状況を嘆いていた。その中には今までチームの柱だった野坂も含まれており、既に勝敗は決したと言わざるを得ない状態だった。

 

 

「(ここで終わるか、野坂。ここがお前の終点か。)」

 

 

 

 

「僕は.......無力だ......あれだけ策を練って、どれだけの環境を整えても...あの人には勝てない..........王帝月ノ宮は........この試合を......」

 

 

「(終わったか....)」

 

 

野坂が絶望のあまり、試合を棄権しようとしたその時だった。

 

 

「ふざけるな!野坂悠馬!」

 

「っ........西蔭.....」

 

 

突然、先ほどのシュートでゴールへと押し込まれていた西蔭が立ち上がり、野坂に対して叫んだ。

いつもは野坂をさん付けし、付き人かのように振舞っていた西蔭がだ。

 

 

「あんたはここで終わるような男じゃない!あの日あんたの行動で俺はあんたについていくと決めた!あの時のあんたはどこにいった!野坂悠馬!」

 

「西蔭....僕は....」

 

「俺は....ただあんたの背中に憧れたんだ...だから....最後まで一緒に戦わせてくれ!野坂さん!」

 

「っ......................全く....無茶ばかり言うね、君は...!」

 

 

西蔭の叫びが届くまではフィールドに倒れ伏していた野坂だったが、叫びを聞いてふたたび立ち上がろうとしていた。ふらふらになりながらも、一歩、また一歩と歩みを進め、立ち上がる。

 

 

「君にそこまで言わせたのなら.....僕も諦めるわけにはいかなくなった。」

 

 

そして完全に立ち上がると、西蔭の方を向いて笑顔を見せた。

ずっと無表情で感情の見えなかった野坂が、初めて見せた笑顔だ。

そんな野坂に、西蔭は照れたように笑い、鼻の下を擦りながら立ち上がる。

 

 

「別に....俺はただ...」

 

「わかっているよ、西蔭。でも....ありがとう。」

 

「野坂さん.....」

 

「....みんな聞いてくれ!この試合、最後まで全力で戦おう!僕たちのサッカーで、最後の1分1秒まで全力で楽しもう!嵐山さんや基山くんたち...永世学園のサッカーに応えるために!」

 

「.....そうだ、俺たち...」

 

「いつの間に、忘れてしまっていたんだろう...」

 

「サッカーを楽しむ気持ち...」

 

「俺たちはただ、サッカーが好きだっただけなんだ...!」

 

 

野坂の言葉に、王帝イレブンが次々と立ち上がる。

その目には炎が宿っているのがわかる。死んだような目をしていた奴らが、ようやく本当のサッカーを思い出したんだ。

 

 

「いこう、みんな!まだ時間は残っている!最後まで全力でぶつかって、勝つんだ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

 

王帝ボールで試合が再開。今まで野坂を中心に攻めてきていたが、今度はほぼ全員が攻めに転じてくるという全員サッカーで勝負を仕掛けてきた。

 

 

「止める!」

 

「ここは通さない!」

 

 

「っ、葉音!」

 

「野坂!」

 

 

「「っ!」」

 

 

ボールを持った野坂をヒロトと基山が止めに入ったが、野坂は近くにいた葉音と息の合ったワンツーを披露し二人を抜き去る。そのまま野坂がボールを運んでいき、次々に永世イレブンを抜いていく。

 

 

「はっ!」

 

「くっ...!」

 

 

そして防衛ラインを突破し、ぐんぐんとゴール前へ駆けあがっていた。

これがお前たちの本当のサッカーか。やっと、お互いにサッカーを楽しめそうだな。

だが勝つのは俺たち永世学園だ!

 

 

「野坂!俺を抜いてみろ!」

 

「っ、嵐山さん...!」

 

 

俺は野坂の前に立ちふさがり、さらには近くの王帝イレブンにも圧力をかける。

たとえお前たちが息の合った連携を見せても、俺は止めてみせるぞ。

さあ、どうする....お前が俺を抜くしかないぞ、野坂...!

 

 

「(くっ...何て圧力だ....まるで殺気を浴びせられているかのような....でも、この人を抜かなければ僕たちに勝ち目は無い.......だが葉音たちは今の嵐山さんの圧力で固まってしまっている....)」

 

「(こ、怖ええ....この人を抜くイメージが湧かねえよ...!)」

 

「(だったら.....僕がこの人を抜くしか....この人を超えるしかない...!)」

 

「っ!」

 

 

野坂が覚悟を決めたように、俺へと向かって走り出した。

さあ来い、野坂!お前の全部を俺にぶつけてこい!

 

 

「っ......!」

 

「....ふっ....っ...!」

 

 

 

『ああっと!野坂、何とかボールをキープしていますが、嵐山の激しいチャージに動きを止められてしまったあああああああああ!』

 

 

「(くっ...何度フェイントをかけても釣られる気配がまるでない...!力で押そうにも、びくともしない...!これが嵐山隼人...出会った頃から、ずっと僕にとっての脅威だった...!)」

 

「(...動きが鈍った。これなら奪える!)」

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

 

野坂の動きが鈍り、ボールを奪えると確信した瞬間、王帝ゴールの方から雄たけびとともに西蔭が前線へと駆けあがってきた。それと同時に、野坂の口元が緩んだのが見えた。

 

 

「野坂さん!」

 

「西蔭!」

 

 

野坂はすぐさま西蔭にパスを出し、ターンで俺を抜いて駆けあがる。

西蔭はボールを受け取ると、俺たちを飛び越えて大きく山なりにパスを出した。

 

 

「抜いた!」

 

「決めろ、野坂!」

 

 

「っ、まだだ!」

 

 

俺はすぐさま方向転換し、野坂に向かって走り出す。

だが次の瞬間、俺は王帝月ノ宮の草加によって進路を塞がれ、野坂に近寄れなくなってしまう。

 

 

「なっ、いつの間に!?」

 

「行かせませんよ!野坂の邪魔はさせない!」

 

「草加...ありがとう。みんなが繋いでくれたこのボール....絶対にゴールを決めてみせる!」

 

 

西蔭が出したパスを受け取った野坂は、砂木沼が守るゴールへと正面から突き進んでいく。

 

 

「決める.....”キングスランス”!」

 

ドゴンッ!

 

 

そして放たれたシュートは、この試合で一番の輝きを放ちながら砂木沼へと向かっていく。

そんな砂木沼は、不敵に笑いながらゴールの中央に立っていた。

 

 

「くくく....貴様のそのシュートのおかげで、俺は新たな必殺技を習得することができた!」

 

「なに...!?」

 

「強い敵と戦うたびに、俺はさらに強くなる!感謝するぞ、王帝月ノ宮!野坂悠馬!」

 

 

そう宣言する砂木沼の右手には、紫色のオーラが溜まっているのが見える。

今までとは違う...一体何をしようとしている、砂木沼...!

 

 

「うおおおおおおおおおおお!これが俺の新必殺技!”グングニル”だあああああああああ!」

 

 

高らかに叫びながら、砂木沼は右手を天に掲げた。

すると大きな槍のようなオーラがあらわれ、砂木沼はそれを手に取ってボールへと突き刺すように前へ出した。”キングスランス”と”グングニル”、ぶつかり合う二つの槍だったが、徐々に”キングスランス”の....シュートの勢いが弱まっていく。

 

 

「うおおおおおおおおおおお!」

 

バキンッ...!

 

 

ついには、”キングスランス”の槍は砕け散り、”グングニル”の槍によってボールは弾かれたしまった。そう...砂木沼が野坂のシュートを完全に防いでみせたんだ。

 

 

 

「俺の勝ちだ!野坂!」

 

「くっ....まさか僕のシュートが止められるなんて....」

 

 

ピッピッピィィィィィィィ!

 

 

「「「「「っ!」」」」」

 

「(終わった.....試合終了か....)」

 

「(...もう少し、お前らと本当のサッカーを楽しみたかったが....ま、それはまた今度だな。)」

 

 

 

『試合終了!互いに一歩も譲らず、最後まで諦めない姿勢!魂と魂のぶつかり合いがそこにはありました!3vs1!試合を制したのは永世学園!雷門中に続き、ベスト8に進出です!』

 

 

 

「......嵐山さん。」

 

「野坂か。」

 

「今回は僕の負けです。でも....次は負けません。」

 

「っ!....ああ。だが次も俺が勝つ。だから、今はゆっくりソレを治せ。」

 

 

俺は野坂の頭を指さしながら言う。

野坂はそんな俺に微笑みながら、ゆっくりと頷いた。

 

 

「...それから、お前にあるデータを渡す。どう使うかはお前次第だ。」

 

「データ、ですか?」

 

「ああ。そのデータが、お前を自由にしてくれる。」

 

「っ!...........ありがとうございます、嵐山さん....」

 

 

「今度は最初から、正々堂々勝負だ。....楽しみにしているぞ、野坂。」

 

「はい。また会いましょう、嵐山さん。」

 

 

そう言って去っていく野坂を見送る。

あいつはもう大丈夫だ。そして稲森や灰崎と共に、これからの中学サッカーを支えてくれるだろう。

 

 

「嵐山さん....」

 

「西蔭か。どうした。」

 

「その.....野坂さんは、何か問題を抱えているんですか?」

 

「っ!......今はあいつを信じてやれ。そのうち、あいつの口からひょっこり出てくるかもしれないぞ?」

 

「そう...ですか..........あの、ありがとうございました。あなたと戦えて良かった。今までの俺は、ただ野坂さんについてサッカーをしていただけだった。でも...あなたと戦って、サッカーの本当の楽しさがわかったかもしれない。」

 

「ふっ...ならこれからが楽しみだな。お前の挑戦、いつでも受けてやるからな。」

 

「....ええ。よろしくお願いします。」

 

 

そう言って微笑む西蔭に、俺は手を振って別れを告げた。

そして永世ベンチに戻る中、ふと見た観客席にいた修也を見つけた。

そんな修也に向けて、俺は拳を修也に向けた。

 

 

「(修也....俺は先に勝ち上がったぞ。次はお前の番だ。勝ち上がって、俺たちの前に来い!)」

 

 

「(ああ、次は俺の番だ。待っていろ隼人。必ず勝って、お前に挑んでみせる!)」

 

 

修也もそんな俺に拳を向けてくる。

勝負だ、修也。真のエースストライカーの座を賭けて、本気で勝負しよう!

 

 

 

.




”グングニル”、正直悩みましたがオリジナル技としてキーパー技にしました。
今後の展開で砂木沼さんをキーパーから外すことはできるんですが、そこでいきなりシュートを打つのも違和感あるよな~と思い、この形にしました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ベスト8、それぞれの決意

嵐山 side

 

 

「”ファイア”!」

「”ブリザード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ぬぅん!”グングニル”!」

 

 

「”流星ブレードV2”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「”ザ・エクスプロージョン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

 

「あいつら、あんな試合の後だってのに八神以外は練習か。」

 

「はぁ...ふがいないわね、私は。」

 

「いや、普通は休むから。あいつらがおかしいだけ。」

 

「でも、隼人はこの後練習でしょ?」

 

「まあね。次は修也が相手なんだ....力抜けって方がきついぜ。」

 

「そうね....ベスト8、どこも強敵ばかりね。」

 

 

そう言って、八神は手元にあるトーナメント表

【挿絵表示】

に目を落とした。

 

俺たちAブロックは永世と木戸川清修、Bブロックが陽花戸と大海原、Cブロックが雷門と世宇子、Dブロックが帝国学園と利根川東泉、という組み合わせになった。

 

つまり、俺と修也、円堂と風丸がそれぞれぶつかることになるし、Cブロックはメンバ―こそ違うが、去年のフットボールフロンティア決勝の組み合わせだ。盛り上がらないはずがない。

 

 

「(俺ももっと力を付けないと....少しだけ試合を見たが、今の木戸川は去年よりも段違いに強い。特に3年になって完成度があがった修也や武方三兄弟に加え、守りには一之瀬たちと共にアメリカでプレーしていた西垣もいる。)」

 

 

幸いキーパーは今年1年らしいが、1年にしても勝てる自信があるということだろう。

これまでの試合は簡単に見てきたが、修也の実力は底がしれない。

これまでの試合、修也は基本的に中盤のサポートをしていて、攻撃は武方三兄弟が担っていた。

だが恐らく、次の俺たちとの試合では修也が攻めに回ってくるはずだ。

 

 

「(負けたくないな。ストライカーとして、修也には負けたくない。)」

 

 

今の俺にできること....やはり特訓しか無いだろう。

 

 

「ところで隼人、あなたなにを見ているの?」

 

「ん?.....ネットニュースだよ。」

 

 

そう言って、俺は八神に見ていたスマホの内容を見せる。

そこにはこう書かれていた。

 

=====================================================================

「アレスの天秤」に欠陥あり!

 

本日未明、アレスの天秤システムなどを手がける月光エレクトロニクスより

アレスの天秤システムには、システムの被験者に重大な障害を与える可能性

があることが発表された。本システムの被験者の中に脳や精神に強い障害を

与えていたケースがあると発表され、それらが隠蔽されていたことが明かさ

れました。

 

この隠蔽工作について、会長である御堂院宗忠氏は現在取り調べを受けてい

るとのことです。警察及び病院関係者は、本システムの欠陥による障害が見

受けられる可能性のある方の連絡を待っているそうです。

 

なお、月光エレクトロニクスは御堂院宗忠氏の会長職の辞任などを検討して

いると発表しています。

=====================================================================

 

 

「それって....」

 

「ああ。野坂が俺の渡したデータを使って、内部告発したんだよ。財前総理には感謝しないとな。」

 

「そうなのか....まさかここまでの大事になっているとはな。」

 

 

ま、これで野坂たちが気兼ねなくサッカーができるようになってくれたらいいな。

あとは野坂の脳腫瘍がしっかりと治ることだな。そうすればまた、一緒にサッカーができるんだから。

 

 

 

「よし....やるか。」

 

「隼人.....無茶だけはしないで。」

 

「ああ、わかってるさ。八神こそ、昨日の疲れをしっかりとって、試合に備えておいてくれよ?」

 

「ええ、わかっているわ。」

 

「なら良し。」

 

 

そう言って、俺はグラウンドへと走っていく。

次の試合、キーになるのは中盤の支配力。つまり基山がキーだ。

王帝との試合でも頑張ってもらったが、今回の試合でも活躍してもらう必要がありそうだ。

 

 

.....

....

...

..

.

 

基山 side

 

 

 

「なあタツヤ....」

 

「なんだい、ヒロト。」

 

「昨日の涼野と南雲のシュートを見て、俺は正直焦ってる。今の俺のシュートじゃ、この先は通用しないかもしれねえってな。」

 

「ヒロト....」

 

 

ヒロトが珍しく考え込むような態度を見せていた。

でもその気持ち、俺にも痛いほどよくわかる。

昨日の試合だって、何とか俺は1点を奪うことができたけど、それまでずっと西蔭に完封されていたんだ。

 

 

「それでよ、ずっと考えていたんだが....俺とお前で協力できねえか?」

 

「えっ?」

 

「なんつうかよ、俺とお前の必殺技を組み合わせるというか...何て言ったっけ、アレ...」

 

「もしかして、オーバーライド技か?」

 

「っ、それだ!そのオーバーライド技とかいう奴をマスターすれば、これからの試合にだって通用するかもしれねえだろ!」

 

 

確かに...それは一理あるかもしれない。

それにもっと必殺技への理解を高めていけば、さらに技が進化するかもしれないし。

 

 

「よし、やろう!俺たちのオーバーライド!」

 

「おう!そうこなくっちゃな!」

 

 

そう言って、俺とヒロトはオーバーライド技の特訓を開始した。

組み合わせるのは俺の”流星ブレード”と、ヒロトの”ザ・エクスプロージョン”だ。

絶対に完成されて、嵐山さんを優勝させるために戦うんだ!

 

 

.....

....

...

..

.

 

豪炎寺 side

 

 

「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」

 

ドゴンッ!.....バシュン!

 

 

 

「よっしゃあ!良い調子っしょ!」

 

「これならあの嵐山隼人にも勝てるかもしれませんね!」

 

「つうか、俺たちの勝ちは確実、みたいな?」

 

 

「お前たち、気を抜くな。」

 

「「「豪炎寺...」」」

 

 

確かに俺たちのオーバーライド技は完成し、チームとしてさらに成長できた。

だがこの前の白恋の試合でも、そして昨日の王帝との試合でも、隼人は本当の意味での本気ではなかったように見えた。まだまだ奥の手を隠していそうな、そんな感じだ。

 

あくまで俺の感じたもので、実際はどうだったかはわからないが....あいつのことだ、きっと俺たちが驚くようなことをしてくるに違いない。

 

 

「次の試合、俺も攻めに転じる。永世学園は攻撃主体のチーム....だが俺たちのチームサッカーで奴らを打ち砕く。俺はそれができると信じている。」

 

「ふん...当たり前っしょ。」

 

「我々が手を組んだのです。」

 

「負けるとかありえない、的な?」

 

「そうだな。....よし、もっと技を極めるぞ。俺に付き合え、勝、友、努。」

 

「「「よっしゃあ!」」」

 

 

ついにこの時が来たんだ。ずっとお前と戦いたかった。

隼人、俺の全力を持ってお前を倒す....真のエースストライカーの座、俺がもらう...!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

稲森 side

 

 

「ついにベスト8か~!」

 

「俺たち、なんだかんだでここまで進んでこれたんだな...」

 

「うん...まだ実感が湧かないよ。」

 

「俺も....でも、次の対戦相手は一筋縄ではいかない。嫌でも実感が湧くはずだよ。」

 

 

そう、次の対戦相手はあの世宇子中なんだ。

去年のフットボールフロンティア準優勝校、あの嵐山さんを苦しめた最強の敵。

そんな相手に、今の俺たちで勝てるのかな....

 

 

「おーほっほっほ。皆さん、あまり良い顔をしていませんねえ。」

 

「監督....あの、俺たちこのままで勝てるんですか...?」

 

「おーほっほっほ。稲森君、君は心配しすぎです。嵐山君が言ってましたよ?稲森君には期待していると。」

 

「あ、嵐山さんが.....」

 

「それに、今日は皆さんに良い知らせを持ってきましたよお。」

 

 

良い知らせ...ってなんだろう。

もしかして、何かすごい特訓ができるものでも買ったのかな!?

 

 

「おーほっほっほ。では入ってきてくださーい。」

 

 

そう言って、監督が部室の入口に目を向ける。

ドアが開いて入ってきたのは、何と....

 

 

「「「「え、えええええええええええええ!?」」」」

 

「よう。俺がてめえらに力を貸しに来てやったぜ。」

 

「は、灰崎!?何で!?」

 

「くくく...俺には戦いてえ奴がいる。そいつと戦うために、俺がするべき最善の手を打ったまでさ。」

 

「た、戦いたい奴って....」

 

「決まってるだろ。嵐山サンだ。」

 

「で、でも星章学園はもう負けてるし...」

 

「問題無い。」

 

 

そんなことを話していると、もう一人部室に入ってきた。

 

 

「鬼道さん!?」

 

「灰崎は次の試合までに転校手続きを完了し、サッカー部に入部している。つまり、既に雷門中サッカー部の一員ということだ。」

 

「ま、そういうこった。」

 

「え、ええええええええええ!?」

 

 

ど、どういうことだよ!灰崎が俺たちのチームに...!?

そんなことができるなんて、知らなかった....いや、でも確かに俺たちも雷門に転校してからすぐにフットボールフロンティアが始まってたよな。

 

 

「ま、俺がお前らに力を貸すのはこの大会の期間だけだ。大会が終わったら、星章に戻るつもりだからよ。」

 

「そ、そうなんだ...」

 

「お前、本当に信用していいのかよ。」

 

「あ?」

 

「お前は元々俺たちの敵だったんだ。それに...お前が入るってことは、俺たちの中から誰かがベンチになるってことだぞ!」

 

「あっ...」

 

 

そっか...別に俺たちは元々11人いるから、試合はできているんだ。

灰崎が入るってことは、俺たちの中から誰かが抜けることになるのか...

 

 

「なに甘いこと言ってんだ、このチビデブ。」

 

「んだと!?」

 

「てめえらは多少のズルはあったが、全国大会で勝ち進んでいる。もう既に、てめえらは全国のつわものたちの一人なんだよ。仲良しこよしでやっていけるほど、もう甘くないところまで進んでるってことだ。」

 

「それは....」

 

「ま、俺が入ったからって俺がスタメンとは限らねえ。互いに悔いが残らねえようやろうじゃねえか。」

 

「.....わかったよ!それでいい!」

 

「ふん...ま、よろしく頼むぜ。」

 

 

そんなこんなで、俺たち雷門中サッカー部に灰崎が加わった。

次の世宇子との試合もだけど、これから俺たちどうなっちゃうんだ...?

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

アフロディ side

 

 

「はっ!”天空の刃”!」

 

「DJ、守る。”ギガントウォール”!」

 

 

「いいぞ、その調子だ!」

 

 

去年の雷門との試合から、約1年...僕たちは過去の罪と向きあい、こうしてサッカーを続けている。

それも円堂君や嵐山君のおかげだし、彼らにリベンジすることを目標としてみんなで頑張ってきた。

 

 

今年の1年はできる奴も多い。特にペルセウスやハデス、DJの3人は卒業した3年の穴を良く埋めてくれている。そして今のところは難なく勝ち進んでいる。

 

 

「次に当たるのは雷門か....ま、メンバーは去年と違うけどな。」

 

「そうだね。でも雷門の名を背負っているんだ。一筋縄ではいかない相手だろうね。」

 

 

それに僕は嵐山君から聞いている。彼が期待している選手が一人いると。

稲森明日人....あの嵐山君がそこまで言う選手なんだ。僕も期待している。

 

 

「でも...勝つのは僕たちだ。地に落ちた神は、もういない。僕たち人間の力で、円堂君に、嵐山君にリベンジする!僕たちの力で...絶対に勝つ!」

 

「気合入ってるな、キャプテン。」

 

「俺たちも負けていられねえ!やろうぜ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

「先輩たち、気合入ってるな~。」

 

「DJ、兄から聞いた。リベンジ。」

 

「まあ俺たちも先輩の足を引っ張らないよう頑張らないとな。」

 

 

待っていてくれ、円堂君、嵐山君。

君たちと戦うために、まずは雷門を倒してみせるから。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

風丸 side

 

 

 

「ああ、そうだな...まさか俺も、帝国の一員としてお前と戦うことになるとは思っていなかったよ。」

 

『だな。でも楽しみだな!風丸としっかりと向き合って戦うことなんて、練習くらいでしかなかったもんな!』

 

「そうだな。俺も本格的にサッカーを始めたのは去年が初めてだし。....まさかここまでくるなんてな。」

 

 

はじめはただの助っ人だったんだけど、いつの間にかあれよこれよと全国制覇して、世界と戦って、こうして日本のためにサッカーに尽くしている。

 

戦国伊賀島との試合の時も思ったけど、俺はいつの間にかサッカーの虜になっていたんだな。

 

 

『俺、全力で戦うからさ!風丸も全力でぶつかってきてくれよな!』

 

「ああ、もちろんだ。チームメイトとして、親友として....そしてライバルとして、今の俺の全部をお前にぶつけるさ!」

 

『おう!勝負だ、風丸!』

 

「ああ!」

 

 

今から試合が楽しみで仕方ない。

円堂、悪いが俺はお前に勝たせてもらうぞ。

今年のフットボールフロンティアを制するのは、俺たち帝国学園だ!

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

因縁?の対決!雷門vs世宇子

稲森 side

 

 

「うぅ~...緊張する....」

 

「これに勝ったらベスト4....なんだかんだですごいところまで来ましたね、僕たち...」

 

「みんな、落ち着け!確かに今までの俺たちだったらここにいること自体おかしなことだった。でも今は違う。みんなが一丸となって戦ってきた結果だ....俺はそう思っている。」

 

「キャプテン...」

 

「今日の試合に勝てば準決勝!この勢いで決勝まで進んで、優勝しよう!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

そうだ...俺たちは最初は弱小サッカー部だった。

でも今は、いろんな学校と対戦して、どんどん強くなることができた。

今はもう、前までの俺たちじゃない。この試合だって、勝つことができるはずだ!

 

 

「やあ、初めまして。」

 

「っ!...えっと、確かあなたは...」

 

「アフロディ、そう呼んでくれたまえ。」

 

「アフロディさん....えっと、俺は稲森明日人って言います!」

 

「うん、彼から聞いているよ。」

 

 

そう言って、アフロディさんは観客席の方に視線を向ける。

そこには嵐山さんが座っていて、真剣な表情でこちらを見つめていた。

 

 

「今日は僕たち世宇子にとって、去年のリベンジになる試合....全力でぶつからせてもらおう。」

 

「っ!.....俺たちも負けません!勝って、準決勝に....決勝に進むのは俺たちだ!」

 

「ふふ....僕のライバルである嵐山君が認めた男、稲森君。君の実力、見せてもらおう!」

 

 

 

 

『さあ本日からベスト8同士の戦い!勝てばベスト4、つまり準決勝へコマを進めることができます!果たしてどのチームが勝ち上がるか!まずは第一試合!昨年の優勝校の名を背負い戦うは雷門中!そして対するは、昨年のリベンジなるか!昨年の準優勝校、世宇子中!メンバ―は変わっていますが、学校名だけみれば因縁の対決となります!』

 

 

いよいよ試合開始だ....俺たちはフィールドへと散らばっていく。

その中に半太の姿はない。半太は灰崎がフォワードに入る代わりに俺がミッドフィルダーに移動したせいで、ベンチスタートになってしまった。

 

みんなが納得したうえでの決定だけど、未だに俺は納得できていない。

 

 

「でも...仕方ないことなんだよな...」

 

「....明日人、切り替えろ。お前は選ばれたんだ。選ばれた以上、選ばれなかった奴の分まで戦うんだ。」

 

「キャプテン.....はい、わかってます。」

 

 

 

『さあいよいよキックオフです!』

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

 

「灰崎!」

 

「っ、稲森!」

 

 

俺たち雷門ボールで試合が開始。小僧丸から灰崎、そして灰崎から俺へとパスが繋がる。

そうだ...キャプテンのいう通り、選ばれなかった半太の分まで、俺が戦う!

 

 

「ここは通さない!」

 

「っ、うおおおおおおおおお!”イナビカリダッシュ”!」

 

「っ!」

 

 

俺はディフェンスに来た世宇子の選手を抜いて、さらにドリブルで駆けあがっていく。

俺たちはこの試合に勝ちに来たんだ!立ち止まってなんていられない!

 

 

「(なるほど...確かに嵐山君が目を付けるだけはある。なら...)アテナ、ヘルメス!ダブルチームだ!」

 

「「了解!」」

 

「っ!」

 

 

アフロディさんの指示で、今度はふたりがかりで俺を止めに来られた。

さすがは昨年の準優勝校...今までの圧とはまるで違う...!

 

 

「明日人!」

 

「っ!キャプテン!」

 

 

キャプテンから声がかかり、俺はすぐにキャプテンへとパスを出した。

 

 

「ふっ!もらった!」

 

「「なにっ!?」」

 

 

でも、そのパスはアフロディさんによってカットされてしまう。

かなり高めでパスを出したのに、まるで空を歩くように移動してパスカットされるなんて...

これが世宇子中の力....まるで嵐山さんと対戦しているようだ...!

 

 

『アフロディ、華麗にパスカット!これで攻撃が世宇子に移ります!』

 

 

「さて...まずは1点を確実にもらおうか。」

 

「そうはさせない!」

 

「ここは通さないぞ!」

 

 

ボールは奪われたけど、すぐさま氷浦と万作がアフロディさんのマークについた。

でもアフロディさんはそれを嘲笑うかのように、余裕の笑みを見せていた。

 

 

「君たち....」

 

パチンッ!

 

 

「「えっ?」」

 

「よそ見をしていると、すぐに終わってしまうよ。」

 

「「うわあああああああああ!」」

 

 

えっ!?今、なにが起こったんだ...!?

アフロディさんが指を鳴らしたかと思ったら、いつの間にかアフロディさんが二人の後ろに回っていた。それでいきなり突風が発生して、二人が吹き飛ばされて....

 

 

「い、一体何が...」

 

「と、とにかく彼を止めましょう!」

 

 

今度はキャプテンと日和がアフロディさんのマークについた。

でも、今のが何のかわからないままじゃ....

 

 

「ふふ...戸惑っているね。懐かしい反応だ。君たちは....」

 

パチンッ!

 

「「っ!」」

 

「一体いつ、これを攻略できるだろうね。」

 

「「うわあああああああああ!」」

 

 

ま、また...どうして指を鳴らすだけで、一瞬で移動しているんだ?

これがアフロディさんの力....昨年の準優勝校のキャプテン...!

 

 

「ご、ゴス....」

 

「ふふ...安心するといい。恐怖は恥ではない。」

 

パチンッ!

 

「僕にも恐怖はあった。だけど僕はそこから立ち上がった。それを証明するために、この試合に勝ち、円堂君に....そして嵐山君に挑戦するのさ。」

 

「ゴスゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 

ついには最後のディフェンスであるゴーレムまで吹き飛ばされてしまった。

これで残るはキーパーであるのりかだけ....一瞬でゴール前まで進んでしまうなんて、何て強さなんだ...!

 

 

「人として....僕は最強に挑む!そのために僕は進化した!食らうがいい!」

 

「っ、来る...!」

 

「”ゴッドノウズ・インパクト”!」

 

ドゴンッ!

 

 

アフロディさんから神々しい翼が生え、高速で回転しながら上空へと舞っていく。

そして、強大なオーラが込められたボールを蹴りだし、まるで天変地異でも起きているかの如く、ボールは激しいオーラとともにゴールへと突き進んでいく。

 

 

「と、止める!”マーメイドヴェール”!」

 

 

のりかが特訓で編み出した新しい必殺技を放つが、アフロディさんの”ゴッドノウズ・インパクト”の威力は絶大で、のりかの必殺技でも受け止めきれないほどのパワーだった。

 

 

「ぐっ....うぅ....うわああああああああ!」

 

バシュン!

 

 

『ゴーォォォォォォォォォォル!先制点は世宇子!キャプテンのアフロディが、昨年の試合を思い起こさせるような動きで雷門イレブンを圧倒!新必殺技でゴールを奪いました!』

 

 

「(これが今の僕だ!どうだい、嵐山君!)」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「”ゴッドノウズ・インパクト”.....神のアクア無しで”ゴッドノウズ”どころか、それ以上の必殺技を打ってくるとはな。去年の自分ではない、俺にそうアピールしたってことか?」

 

 

ゴールを決め、こちらに向かって拳を向けるアフロディに対して、俺はそう感じる。

今のシュート、去年のアフロディよりも何倍もすごいシュートだった。

去年のことを反省し、自らを戒めて努力を続けてきた...そんなアフロディだからこそ放てるシュートだった。

 

 

「試合開始からまだ5分程度とはいえ...雷門にとってはこの上なく最悪なスタートだな。」

 

 

しかもアフロディの”ヘブンズタイム”に、誰一人として反応できていなかった。

いや、あれを初見で対応しろというのは酷だが...やはりまずは”ヘブンズタイム”を攻略しないことには始まらない。

 

 

”ヘブンズタイム”を攻略するには、簡単な方法として2つある。

まず1つはけっしてアフロディにボールを渡さないこと。徹底してアフロディをマークすれば、”ヘブンズタイム”を使うことはできないだろう。

 

そして2つ目は去年の俺と同じように、アフロディと対面した瞬間、全力で後ろに振り向いてスライディングをかける。だがこれは、アフロディが去年体験したことだから対策をしているかもしれないし、”ヘブンズタイム”が使われなければただの馬鹿な行動だ。隙だらけで簡単に抜かれるだろう。

 

 

「さあ...どうする雷門。アフロディを何とかしないと、点差が開いていくぞ。」

 

 

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

ふたたび雷門ボールで試合が再開した。先ほどと同じように、小僧丸から灰崎、灰崎から稲森へとボールが渡る。それに対して、世宇子も先ほどと同じように動いている。

 

 

同じ動きではよほどのことが無い限り、同じ結果になると思うが...

さすがにそこまで猪突猛進って感じでもないだろう。どう動く、稲森。

 

 

 

「キャプテン!」

 

「まさか先ほどと同じ動きとは...舐められたものだ!」

 

 

稲森がふたたび道成へとパスを出した。だがやはりその間にアフロディがあらわれ、パスカットの体勢に入っていて、先ほどと同じような流れになっていた。

 

 

「俺たちだってここまで進んできたんだ!」

 

「そこまで馬鹿じゃ無いですよ!」

 

「っ!ボールが曲がって...!」

 

 

だが、稲森の蹴ったボールは曲がって軌道が変わり、道成ではなく氷浦の元へと向かっていく。

さすがのアフロディも、ボールを奪おうとジャンプしていた状態で、軌道の変わったボールに触れることはできず、ボールは無事、氷浦へと渡った。

 

 

「よし....受け取れ、小僧丸!”氷の矢”!」

 

ドゴンッ!

 

 

そしてすかさず氷浦のパス技によって、前線へと駆けこんでいた小僧丸にボールが渡る。

しっかりと連携を考えた良い動きだ。弱小だった時とはまるで違うな。

だが、ここからが問題だ。灰崎が加わったとはいえ、その攻撃力が世宇子を超えるかどうか....

 

 

「っ、決める!”ファイアトルネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

ボールを受け取った小僧丸は、すかさず”ファイアトルネード”を放った。

確かに世宇子のディフェンスは固いが、さすがにゴールから離れすぎていないか?

このシュートはさすがに決まらないんじゃ........っ、そうか!

 

 

「DJ、止める!」

 

「っ、違うDJ!それはシュートじゃない!」

 

「えっ?」

 

 

世宇子のキーパー、DJ...ポセイドン弟が小僧丸の”ファイアトルネード”を迎え撃とうとするが、アフロディのいった通り、”ファイアトルネード”はゴールではなく徐々に方向がズレていき...

 

 

「くくく...ナイスアシストだぜ。」

 

「チッ...俺を囮に使ったんだ....絶対決めやがれ!」

 

 

灰崎へとボールが渡った。そう、小僧丸は最初からゴールではなく、灰崎を狙っていたんだ。

”ファイアトルネード”をパスに使うか...面白い発想だな。

 

 

「食らいな!”パーフェクトペンギン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

”ファイアトルネード”を足でダイレクトにトラップし、そのまま流れるように”パーフェクトペンギン”を放つ。無駄のない動きにポセイドン弟は全く反応できず。

 

 

「くっ...!」

 

バシュン!

 

 

『ゴーォォォォォォォォォォル!今度は雷門が決めました!小僧丸の”ファイアトルネード”が放たれたかと思えばそれは囮!何とシュート技をパスで使い、流れるように灰崎がゴールを奪いました!』

 

 

「なるほど...これが今の雷門か。でも今ので彼らの動きはインプットした....今度は決めさせない。それに....(僕たちには新しい力がある。彼らの力を存分に発揮してもらおう。)」

 

 

なかなか良い策だったけど、アフロディの表情を見る限り、恐らくはもう通じないだろうな。

まだ試合は始まったばかりだが、これ以上の策が無ければ....

 

 

「(どうする雷門。お前はここで終わるような奴じゃないだろ、稲森。)」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

激突!神vs水の魔神!

嵐山 side

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『さあ前半もまだ始まったばかり!1vs1、世宇子ボールで試合再開です!』

 

 

「さあ見せてあげよう...僕たちの新たな力を!」

 

 

アフロディはそう言うと、右腕を天高く伸ばしてこう宣言した。

 

 

「必殺タクティクス!”セイントフラッシュ”!」

 

「な、何だ!?」

 

「まぶしい!」

 

 

その瞬間、アフロディを中心に神々しい光が放たれた。

観客席にいる俺ですら、これだけのまぶしさを感じているんだ。

フィールドで真正面から受けている稲森たちは、目を開けられないくらいまぶしいだろうな。

 

 

「よし...いくよ、みんな!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

光が収まると同時に、アフロディたち世宇子イレブンが動き出した。

アフロディたちの動きは特に変わったところが無いように見える。

今のは単なる目くらましといったところだろうか....

 

 

「くっ...止めろ!」

 

「ふふ...」

 

「っ、早い...!」

 

 

だが、対する雷門イレブンはなぜかアフロディたちの動きに対応できていない様子だ。

なぜかワンテンポ遅れて動き出している。そしてそれを相手の動きが早くなっていると錯覚している。

 

 

「(なるほど....”セイントフラッシュ”とはそういうタクティクスなのか。)」

 

 

目の錯覚によって、相手の動きが早くなっているかのように見せる。

こうして観客席で見ていると違和感がはっきりとわかるが、実際に試合中にこれをやられたら対応するのに時間がかかるだろうな。

 

 

『おおっとどうしたことか!雷門イレブン、世宇子イレブンの動きにまるでついていけておりません!その隙に世宇子イレブンがゴール前へと強襲!』

 

 

「くっ....!」

 

「ふっ.....決めろ、ペルセウス!」

 

「っ、しまった...!」

 

 

ゴールの斜め前から攻めてきていたアフロディだったが、のりかがアフロディの正面に立った瞬間、ペルセウスと呼ばれる恐らく1年の選手にパスを出した。これにより、のりかは慌ててペルセウスの方に視線を向けるが体勢を崩されてしまう。

 

 

「アフロディさん.....決めます!”天空の刃”!」

 

ドゴンッ!

 

 

ペルセウスが風を纏ったかと思うとその風が翼となり、翼がボールにオーラを与える。

それをペルセウスが蹴ることで大きな竜巻のような状態でボールが蹴りだされた。

 

 

「(へえ...あの技いいな。)」

 

 

「止める!”マーメイドヴェール”!」

 

 

体勢を崩されたのりかだったが、何とか必殺技を繰り出すことに成功した。

のりかもこれまでの戦いでレベルアップしている。いくつか修羅場だって切り抜けてきたはずだ。

ここでシュートを止められなければ、もう雷門の負けは決まったも同然...!

 

 

「うぅぅぅぅ...!はっ!」

 

「くっ...止められただと...!」

 

 

少し押し込まれたが、のりかはシュートを止めてみせた。

よし...これなら雷門にも勝機はある。あとはアフロディをどう止めて、雷門が得点するかだ。

 

 

「おーほっほっほ。」

 

 

カウンターのチャンス...そう思ったが、監督がなにやら指示を出していた。

イレブンバンドから指示を出しているようで、雷門イレブンはその指示に驚いていた。

あの監督のことだ...恐らくはかなり独特な指示でも出したんだろうな。

 

 

そう思っていると、のりかが岩戸にパスを出し、岩戸から稲森へとボールが渡った。

だが稲森は攻めようとせず、ボールをキープしながら相手をひきつけ、十分にひきつけると今度は日和へとパスを出す。

 

ボールを受け取った日和も、稲森と同じように世宇子イレブンを十分にひきつけてから、奥入へとパスを出す。そんな感じで前半の残り時間をパス回しで使い切り、1vs1のまま前半が終わるのであった。

 

 

 

「(時間を潰す作戦で来たか...後半、点を取るビジョンが監督の中にはあるってことか?出なければ、貴重な時間を無駄に潰したことになる。)」

 

 

確かにポセイドン弟は、兄と比べると実力が劣る。

だがそれでも正ゴールキーパーに選ばれているんだ。

それを攻略するのはなかなか厳しいものがあると思うがな。

 

 

「え!?俺と灰崎が!?」

 

「馬鹿!声がでけえ!」

 

 

色々考えていると、雷門ベンチから大きな声が聞こえてきた。

どうやら稲森と灰崎が何かを企んでいるようだが、提案したのは灰崎みたいだな。

だがそれが意外だったのか稲森が驚いて声を上げてしまったようだ。

 

 

「(稲森と灰崎の連携技...といったところか?これは楽しみだな。)」

 

 

それからハーフタイムが終了し、後半が開始。

今度は世宇子ボールからだ。アフロディにボールが渡ると、アフロディはふたたび右腕を天高く伸ばした。

 

 

「さあもう一度...君たちに見せてあげよう!」

 

「っ、来るぞ!」

 

「目を閉じてたら問題無い!」

 

 

「ふっ....それはどうかな?必殺タクティクス、”セイントフラッシュ”!」

 

 

その宣言とともに、アフロディを中心にまばゆい光が発せられた。

雷門イレブンは目を閉じて回避したようだが、アフロディたちはそれでも余裕な笑みを浮かべている。

 

 

「さあ行こうか。」

 

「っ!どうして...!」

 

「馬鹿な...目を閉じたのに、防げていない!?」

 

 

雷門イレブンは目を閉じたことで”セイントフラッシュ”を防いだかに見えたが、それでもあのタクティクスは防げていなかった。一体どういう原理なのか...先ほどと同じように世宇子と雷門で動きが合わずちぐはぐになり、雷門イレブンはまともにディフェンスが機能していなかった。

 

 

「アフロディさん!俺にボールを下さい!」

 

「ペルセウス...」

 

「さっきは決められなかったけど...先輩たちの想いに応えるために俺、絶対ゴールを決めます!」

 

「....よし、決めるんだ!ペルセウス!」

 

 

ペルセウスの言葉を信じたアフロディは、ふたたびペルセウスにボールを預けた。

仲間を信頼し、チームプレーに徹する...アフロディも変わったな、良い方向に。

だが実際問題、ペルセウスが決められるかは微妙なところだ。

彼は実力はあるが、のりかもそれなりに強敵とぶつかって鍛えられている。

 

 

「決める....先輩たちを決勝に....!うおおおおおおおお!”天空の刃”!」

 

ドゴンッ!

 

 

先ほどよりも少しだけ力の籠ったシュートが放たれた。

必殺技としても、選手レベルとしても強くなっているわけではない。

それでも、アフロディたちを勝たせたいという想いが上乗せされているんだ。

 

 

「止める!止めなきゃダメなんだ!”マーメイドヴェール”!」

 

 

のりかも負けじと必殺技で対抗する。

だがペルセウスの想いの強さが勝っているのか、先ほどよりも押され気味になっている。

 

 

「くっ...うぅぅぅぅ....!」

 

 

徐々に徐々に押し込まれていく中、のりかは必死に堪えていた。

そしてのりかは何とか軌道をずらすことができ...

 

 

「っ...きゃあ!」

 

バシンッ!

 

 

のりかはゴールの中に、ボールはゴールの正面に弾き飛ばされた。

何とかゴールを守ったのりかだったが、その安堵も束の間のものだった。

 

 

「よくやった、ペルセウス。後は僕に任せるがいい!」

 

「アフロディさん!」

 

「っ...だ、ダメ...!」

 

「このチャンス、決めさせてもらおう!”ゴッドノウズ・インパクト”!」

 

ドゴンッ!

 

ゴール真正面に弾かれたボールを、アフロディがダイレクトで蹴りだした。

前半開始早々、圧倒的な力でゴールを奪った時と同じシュートに、のりかは成すすべなく倒れ伏したままだ。

 

 

「のりか!」

「頭上げんなよ!」

 

 

そのままゴールに突き刺さるか、と思われたシュートだったが、その前に稲森と小僧丸が立ち塞がった。そして二人はボールに向かって走っていき、そのままツインシュートで対抗する。

 

 

「「”カウンタードライブ”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

「ぐっ...何てパワーだ...!」

 

「これが昨年の準優勝校キャプテンの実力....!」

 

 

だがそれでもアフロディのパワーの方が上なのか、二人は地面に足がめり込みながらもゴールへと押し込まれていく。

 

 

「くっ....ちくしょおおおおおおおおおお!」

 

「うわああああああああ!」

 

「きゃあ!」

 

バシュン!

 

 

そしてついに、稲森と小僧丸を巻き込みながらボールはゴールへと突き刺さった。

これがアフロディの今の力か....凄まじいな。もしも俺たちが世宇子と対戦することになったとして、アフロディのシュートを砂木沼が止められるか....

 

 

「おーほっほっほ。皆さーん!攻撃のリズムを変えますよ!」

 

 

雷門ボールで試合が再開。そんなタイミングで監督が動き出した。

「攻撃のリズムを変える」....か。灰崎が加わったことで、雷門は少し変わったからな。

 

 

『おっと雷門、ここでポジションを変えてきました。ミッドフィルダーに下がっていた稲森をフォワードに、剛陣に変わって服部が入り、服部はミッドフィルダーの位置に入ります。』

 

 

ここで稲森を上げて、剛陣を下げたか。

剛陣の攻撃力より、稲森の運動能力に重きを置いたか。

それに服部を入れることで小回りが利くようにして、”セイントフラッシュ”に対抗か。

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「よしいくぞ!」

 

「ふっ...足引っ張んなよ!」

 

「俺がぜってえゴール決めてやる!」

 

 

雷門ボールで試合が再開したと同時に、灰崎がボールを後方に蹴りだす。

そしてフォワードの3人は一斉にゴールを目指して走り出した。

そんな3人にマークにつく世宇子イレブンだが、3人の動きが不規則すぎてうまくついていけていないようだ。

 

 

「ならばこちらを止めるまで!」

 

「っ!」

 

 

そんな3人の動きを止めるよりも、とアフロディがボールを持つ道成の前に立ち塞がった。

さあどうする道成。キャプテンとしての意地を見せて、アフロディを抜くか。

 

 

「(何て圧力だ...俺なんかじゃこの人には勝てない.........でも...でも....逃げてばかりでいいのか!?俺はキャプテンだ...みんなの手本となるようなプレーをしなくちゃいけないのに...)」

 

「勝つのは僕たちだ!円堂君に、そして嵐山君にリベンジするために....君たちを倒す!」

 

「っ!(.....そうだ。俺たちだって、嵐山さんにリベンジするために負けられないんだ。 みんなが今まで以上に頑張っている。決勝で嵐山さんたちと戦うことをモチベーションにしている。だったら....ここで逃げてちゃ、嵐山さんの前に立つ資格なんてないだろ!)」

 

「(何だ....雰囲気が変わった...?)」

 

「俺は逃げない!俺は雷門中サッカー部の....キャプテンなんだ!」

 

「キャプテン!一緒に行きましょう!」

 

「氷浦...ああ!いくぞ!」

 

 

「「”ブリタニアクロス”!」」

 

「なっ!?ぐああああ!」

 

 

何と道成は、後方から合流した氷浦と協力してあのアフロディを抜き去った。

二人がかりとはいえ、あのアフロディを....なかなかやるじゃないか。

そしてそのままボールは氷浦に渡り、氷浦はフォワード3人に狙いを定めている。

 

 

「(この状況......よし!)決めろ!”氷の矢”!」

 

ドゴンッ!

 

 

氷浦のパス必殺技が放たれ、氷の矢と化したボールがフォワード3人の元へと飛んでいく。

さて...誰に渡るか......

 

 

「おらあああああ!」

 

「っ、灰崎が抜けてきたぞ!止めろ!」

 

「.....くくく!」

 

「っ!まさか!」

 

 

灰崎が勢いよく抜き出ると、世宇子のディフェンスはそれに反応してしまう。

その結果、小僧丸と稲森についていたディフェンダーが数人剥がれてしまい、結果...

 

 

「ナイスアシストだぜ!」

 

「しまった!」

 

 

ボールは小僧丸へと繋がることになった。

前半で見せた小僧丸を囮に使ったプレーとは逆に、今度は灰崎が囮になることで小僧丸にボールが渡ることになった。灰崎がチームに入ることになってからまだ日は経っていないが、なかなか良いチームワークじゃないか。

 

 

「決める!(あれからずっと考えていた...俺自身の必殺技!豪炎寺さんに憧れるだけじゃない...豪炎寺さんを超えるために!)うおおおおおおお!」

 

 

「(あの動き...”ファイアトルネード”に似ているが少し違う。そうか...見つけたか、お前だけの必殺技を。)」

 

 

「みやがれ、嵐山さん!これが俺の....俺自身の必殺技!”火だるまバクネツ弾”!」

 

ドゴンッ!

 

 

小僧丸は炎を足に纏わせながら、回転してそれをボールに移し、回転で炎の勢いを増してそのまま蹴り放つ。回転する炎を纏ったボールにはまるで達磨のような顔が映し出され、今まで小僧丸の代名詞だった”ファイアトルネード”とはくらべものにならないパワーでゴールへと突き進んでいる。

 

 

「DJ、負けない!”ツナミウォール”!」

 

 

ポセイドン弟も負けじと”ツナミウォール”で対抗するが、その熱量によって一瞬で蒸発してしまい、そのままポセイドン弟の両手にぶつかる。

 

 

「ぐっ!ぐおっ!」

 

 

その勢いは止まることなく、そのままポセイドン弟ごとボールはゴールへと突き刺さった。

 

 

『ゴーォォォォォォォォォォル!雷門、ふたたび同点に追いつきました!2vs2!お互いに一歩も譲りません!果たして次のゴールを奪い、勝ち越し点を上げるのはどちらのチームか!』

 

 

何だかんだで後半もかなり時間が進んでいる。

次の1点を奪った方が勝つ....そんな雰囲気だな。

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「君たち....なかなか楽しませてもらったよ。だけど、僕たちはここで終わるわけにはいかない!この試合に勝つのは僕たちだ!」

 

 

「「「「っ!」」」」

 

 

世宇子ボールで試合が再開。ふたたびアフロディにボールが渡り、アフロディは右腕を天高く伸ばす。

この試合中、雷門が一度も攻略できていない必殺タクティクス、”セイントフラッシュ”。

ここでもう一度あれが発動すれば、今度こそ雷門は終わりだ。

 

 

「させるかああああああああ!」

 

 

稲森がアフロディにスライディングを仕掛けた。

だが、それでも遅かったようだ。

 

 

「もう遅い!必殺タクティクス、”セイントフラッシュ”!」

 

 

ふたたびアフロディを中心にまばゆい光が放たれる。

スライディングを仕掛けた稲森も咄嗟に目を閉じてしまい、スライディングは不発に終わってしまう。

 

 

「....さあ、これがラストプレーだ!」

 

 

アフロディがそう宣言すると、世宇子イレブンはまるで宙を舞うように動き回る。

それでいて正確にパス回しをしているため、雷門イレブンはまるでついていけていない。

 

 

「くっ...ダメだ...パスカットすらできない!」

 

「動きが早すぎて...目が回るでゴス!」

 

 

「さあ....これで終わりにしよう!君たちに敬意を表して...この僕が最後の点を取る!」

 

「「「「っ!」」」」

 

 

いつの間にかゴール正面に移動していたアフロディにボールが渡り、雷門イレブンは息をのんだ。

 

 

「これで終わりだ!”ゴッドノウズ・インパクト”!」

 

ドゴンッ!

 

 

そして放たれた、この試合中一度も止められることができていないシュートが、雷門ゴールを襲う。

先ほどのようにカウンターを狙おうにも稲森も小僧丸も前線から戻っていない。

そう...もう君が止めるしかないんだ、のりか。

 

 

「(ここで止めなきゃ、君たちは終わりだ。....目覚めさせろ、君の中の魔神を!)」

 

 

「(このシュートを止めなきゃ、私たちはたぶん負ける....そんなの嫌だよ。ここまで来たんだ...だったら、優勝しか頭に無い!)止める!止めるんだああああああああああああああ!」

 

 

「「「「「っ!」」」」」

 

「これはっ!(あの時の円堂君と同じ....彼女の中の魔神が目を覚ましたというのか!)」

 

「はああああああああああああああああ!止めるんだああああああああああ!」

 

 

のりかが叫び声を上げると、そこには水の魔神があらわれた。

まるで円堂が”マジン・ザ・ハンド”を会得した時のように、その水の魔神はアフロディの”ゴッドノウズ・インパクト”を軽々と止めてみせた。

 

 

「ハァ...ハァ.....止まった....?」

 

「水の魔神....」

 

「名付けるならそう...”マジン・ザ・ウェイブ”といったところか。」

 

 

 

「こっちだ!海ブドウ女!」

 

「う、海ブドウ女って.....のりか!こっち!」

 

「っ!決めて!明日人!灰崎!」

 

 

灰崎と稲森の呼び声により正気を取り戻したのりかは、ロングスローによって二人にパスを出す。

完全に意表を突かれた世宇子イレブンは二人のマークにつくことができず、二人はパスを受け取るとゴール前へと突き進む。

 

 

「いきなりだが俺の足を引っ張るんじゃねえぞ稲森!」

 

「そっちこそ!俺にしっかり合わせてくれよ灰崎!」

 

「行くぜ!」

 

ピュィィィィィィィィ!

 

 

灰崎が空へ飛ぶとともに口笛を鳴らし、いつものペンギンを呼び出した。

それに続いて稲森が”シャイニングバード”の構えとなり、シュート体勢に入った。

 

 

「うおおおおおおおおおお!」

 

ドゴンッ!

 

 

光の鳥が天高く舞い上がる。

さらにそこに先ほど呼び出されたペンギンが現れ、光の鳥に吸収されていく。

 

 

「これが俺たちの合体技!」

 

「”シャイニングペンギン”!」「”ホーリー・ザ・ペンギン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

....今、二人違う技名を言ってなかったか?

ともかく、二人の”シャイニングバード”と”オーバーヘッド・ペンギン”のオーバーライド技が発動。

巨大な光のペンギンと化したボールが、世宇子ゴールへと襲い掛かった。

 

 

「DJ、止める!”ギガントウォール”!」

 

  

ポセイドン弟が”ギガントウォール”で対抗する。

だがその実力差は圧倒的なのか、ポセイドン弟は徐々にゴールへと押し込まれていく。

 

 

「止めてくれ、DJ!」

 

「うぅぅ...!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぐああああああああああああああああ!」

 

バシュンッ!

 

 

『ゴーォォォォォォォォォォォォル!後半残り僅か!このギリギリの時間で追加点を挙げたのは.....雷門中!これで3vs2!そして審判も時計を見つめています!このまま雷門中が逃げ切るか!』

 

 

「っ....まだだ...まだ時間は残っている!お前たち!最後まで全力で戦うぞ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「僕たちは負けられない!最後の1秒まで戦う!必殺タクティクス、”セイントフラッシュ”!」

 

 

アフロディの最後のあがきともいうべきか、三度”セイントフラッシュ”が発動した。

それによりふたたびアフロディたちがものすごい勢いでゴール前まで上がっていき、雷門イレブンはそれに対応できずにいた。

 

 

「うおおおおおおおおおお!僕たちは負けない!これが僕の ......最後のシュートだあああああああああ!」

 

 

アフロディはゴール前で黄金の翼を生やし、ボールとともに上空へと昇る。

そしてそのボールをかかと落としてけり落とす。

 

 

「”ゴッドブレイク”!」

 

ドゴンッ!

 

 

アフロディによる渾身のシュートが放たれた。

このシュート、先ほどの”ゴッドノウズ・インパクト”と比べてもかなり威力が上だ。

このシュートを止めて、準決勝まで登ってこれるか....雷門!

 

 

「止める!みんなが逆転してくれたんだ....私が止めて、終わりにするんだ!”マジン・ザ・ウェイブ”!」

 

「いけええええええええええええええええ!」

 

「はあああああああああああああああああ!」

 

 

”ゴッドブレイク”と”マジン・ザ・ウェイブ”がぶつかり合う。

どちらも一歩も譲らず、拮抗しているかのように見えた。だが...

 

 

「のりか!」

「このシュートを止めて、俺たちが勝つ!」

 

「っ、明日人!小僧丸!」

 

 

稲森と小僧丸がのりかを後ろから支える。

それによって、徐々にシュートの威力が落ちてきた。

そしてついに....

 

 

「はあああああああああああああああ!」

 

シュゥゥゥゥゥゥ!

 

 

『と、止めたあああああああああああああああ!世宇子キャプテン、アフロディの渾身のシュートを、海腹、稲森、小僧丸の3人がかりで止めました!』

 

 

ピッピッピィィィィィィィィ!

 

 

『そしてここで長いホイッスル!昨年の決勝の組み合わせ、雷門と世宇子の試合は昨年同様、雷門の勝利で幕を閉じました!』

 

 

「ハァ...ハァ...届かなかったか....」

 

「くそっ....俺たち勝ってたのに...!」

 

「ダメだったか....」

 

 

試合が終了したと同時に、アフロディたち世宇子イレブンがその場に座り込んだ。

口々に負けたことへのくやしさを発していたが、アフロディの顔はどこか晴れやかに見える。

 

 

「やった!俺たち勝ったんだ!」

 

「準決勝進出だ!」

 

 

「....稲森君。」

 

「っ、アフロディさん!」

 

「今回は僕たちの負けだ。でも....来年は僕たちの後輩が君たちにリベンジする。」

 

「はい!その時も俺たちが勝たせてもらいます!」

 

「ふふ....おめでとう。君たちが勝ちあがるのを楽しみにしているよ。」

 

 

アフロディは稲森と少し話してから、ベンチへと戻っていった。

....お前たちが勝ちあがってきたか、雷門中。そして次に相まみえるは円堂たち利根川東泉か、風丸たち帝国学園か。

 

そして俺たちも負けていられない。修也に勝てば、次はおそらくは立向居が勝ちあがってくるはず。

どっちにも負けたくない。ストライカーとして、エースストライカーの座をかけた勝負、そして俺が認めた円堂と同じくらいのキーパーとの勝負...絶対に勝って、決勝まで勝ち上がる!

 

 

 

.

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ストライカーとして

風丸 side

 

 

ピッピッピィィィィィィィ!

 

 

『試合終了!円堂守率いる利根川東泉中と、風丸一朗太率いる帝国学園!軍配があがったのは利根川東泉中です!3vs0...まさかの圧倒的な展開に私、驚きを隠せません!』

 

 

「ハァ...ハァ....まさかここまでとはな....円堂...」

 

「俺たちが1点も取れないなんて...」

 

「ちくしょお...去年よりもさらにレベルアップしてるってのかよ...」

 

 

俺や佐久間、寺門が息絶え絶えでその場に倒れこむ。

決して油断なんてしていなかった。いくら円堂以外が寄せ集めの弱小だったとしても、それは去年の雷門だって同じだった。だからこそ、最初から全力で攻めていった。

 

 

「お前ら、ナイスプレーだったぞ!」

 

「ありがとうございます、円堂さん!」

 

「円堂さんがゴールを守り切ってくれたおかげです!」

 

 

俺たちが何度シュートを打っても、最後まで円堂からゴールを奪うことができなかった。

珍しく影山にも少し焦りが見えていたようにも見えた。それくらいに、今の円堂は凄まじかった。

俺の”マッハウィンド”は”ゴッドハンド”で軽々と止められ、”皇帝ペンギン2号”も”マジン・ザ・ハンド”の前では赤子も同然だった。

 

最後に放った”ツインブースト”も、円堂の新必殺技、”正義の鉄拳”の前に弾き返された。

俺たちのすべてのシュートが、円堂の前に完膚なきまでに叩きのめされたのだ。

 

 

「(これが今の円堂のチームか.....嵐山や豪炎寺ですら、今の円堂なら難なく止めそうだな...)」

 

 

悔しいが、ここまで力の差を見せつけられては諦めるしかない。

次が無いからこそ、こうして諦めることができたのかもしれないが....

だけどもし俺たちが日本代表に選ばれたとしたら、これ以上ないくらい安心してゴールを任せられることになるだろうな。

 

 

「風丸!」

 

「円堂...完敗だ。」

 

「へへ...でも帝国はやっぱり強かったぜ!またやろうな!」

 

「ふっ......ああ、またやろう。」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

立向居 side

 

 

 

『試合終了!陽花戸中vs大海原中の試合は、1vs0!最後までゴールを許さなかった立向居君の活躍で陽花戸中が勝利を掴みました!まさに鉄壁!今大会未だ無失点!準決勝は今大会最高の得点率を誇る永世学園と、炎のエースストライカー豪炎寺修也を擁する木戸川清修のどちらかとなります!果たして期待の新星は最強のフォワード二人とどう戦いを繰り広げるか、今から楽しみです!』

 

 

「よ、よかった....今日も勝てた...」

 

 

俺が嵐山さんと出会い、そして円堂さんと出会ってから半年...念願だったフットボールフロンティア全国大会に出場できただけじゃない...嵐山さんと、そして円堂さんと試合できるかもしれない日が近付いてきたんだ。

 

 

「”ムゲン・ザ・ハンド”...この技があれば、俺は嵐山さんにだって食らいついていける!俺は先に準決勝まで勝ち上がりました....待ってますよ、嵐山さん...!」

 

 

「お!大きく出たな、立向居!」

 

「きゃ、キャプテン...!」

 

 

い、今の聞かれてたのか...!

俺ガラにもなくめちゃくちゃ大きなこと言ってたのに....は、恥ずかしい...!

 

 

「だがその意気込みなら、準優勝も大丈夫そうだな!期待しているぞ、立向居!」

 

「キャプテン.......はいっ!」

 

 

そうだ...いつだって緊張ばっかりでダメだった俺はもういない!

陽花戸のみんなと一緒に...去年の雷門みたいに、絶対優勝してみせる!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

ついに...この時が来たんだな。

俺は控室で一人、瞑想にふけっていた。

ずっと待ち望んでいた戦いの一つ...修也とのエースストライカーの座をかけた勝負。

今日この日、最強のストライカーがどちらか決まる。

 

 

「随分と集中しているわね。」

 

「っ!....夏未か。」

 

「私が入ってきても気付かないくらい集中してるなんて、今まであったかしら。」

 

 

どうやら本当に全く気付いていなかったようだ。

だがそれだけ集中できているのであれば、問題ない。

今日の試合、俺が勝つ。俺のすべてを注ぎ込んで、修也に勝利する。

 

 

「今日の試合、あなたはどう分析しているのかしら?」

 

「.......4:6だな。」

 

「それは....こちらが劣勢ということかしら。」

 

「ああ。確かに基山たちは成長している。だが木戸川はそもそも全国常連の強豪だ。そこに修也が戻り、チームサッカーという主体となる何かができたことで、チーム全員が同じ方向を見ている。そういうチームは強い。」

 

「そう....それでも、あなたは勝ちを確信している。」

 

「ふふ....当然さ。チームのエースが勝ちを確信していないチームなんて、勝てるはずがないんだからさ。」

 

「そうね......私も信じているわ。あなたが勝つってことを。」

 

「.....うん。見ててくれ、夏未。」

 

 

そして試合開始の時間が近付いてきたため、俺は夏未と一緒にフィールドへと向かう。

廊下からフィールドに出ると、ものすごい大歓声が耳に響いてきた。

この盛り上がり...俺が知っている中では今までで一番の盛り上がりだな。

 

 

 

『おおっと!ここで嵐山がフィールドに姿をあらわしました!昨年、数々の試練を乗り越え見事優勝した雷門中....チームを支えた二人のストライカーがいました!それが嵐山隼人、そして豪炎寺修也!そんな二人が、このフィールドで今度は敵として相まみえようとしております!』

 

 

おいおい...雷門には染岡だっているだろうに...

ま、今日ばかりは仕方ないか。俺ももうワクワクが止まらないんだ。

俺はベンチに座って集中している修也を見る。すると俺の視線に感付いたのか、修也が目を開いて俺の方を見つめ返した。

 

 

「(隼人...ついにこの時が来たな。)」

 

「(ああ...俺たちの誇りを賭けて、最高の勝負をしよう....修也!)」

 

「(俺は絶対に負けん!お前を倒して、俺が真のエースストライカーになる!)」

 

 

『試合を開始します!選手全員整列!』

 

 

「いくぞ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

「さあ...行こうか!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

俺と修也の掛け声によって、両ベンチから選手が走り出す。

全員が整列し、改めて俺と修也は顔を突き合わせる。

お互いに既に戦う顔になっていて、周りからすればピリピリとした雰囲気が放たれているように感じるのだろう。俺たち以外の全員が緊張した面持ちでいる。

 

 

『それでは試合を開始します。』

 

 

俺たちは正面の選手と握手し、フィールドに散らばっていく。

今回のフォーメーションは、対木戸川清修用の特別なフォーメーションだ。

フォワードに俺、ヒロト。ミッドフィルダーに基山、八神、緑川、武藤。ディフェンダーに本場、蟹目、倉掛、薔薇薗。そしてキーパーに砂木沼となっている。

 

 

『おっと永世学園、今大会ではフォワード4人の超攻撃型サッカーを繰り広げていましたが、この試合ではディフェンスを固めてきたようです!』

 

 

この程度で修也を防げるとは思っていないが、武方三兄弟へのけん制にはなるだろう。

修也に関しては、俺が止める他無いと思っている。あいつらには悪いが、修也はたぶん止められない。

それに俺でも止められるかわからない...この試合は間違いなく点取り合戦になる。

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『試合開始のホイッスルが鳴り響きました!永世ボールで試合が開始!さあお互いどんなサッカーを見せてくれるか楽しみです!』

 

 

「いくぞヒロト!」

 

「おう!」

 

 

俺はヒロトにボールを渡すと、二人で中央から駆けあがっていく。

 

 

「全員、気を引き締めてかかれ!連携を乱さず、チームで奴らを止めるぞ!」

 

「当然っしょ!」

 

「我々の”トライアングルZ”を身を挺して防いだ男...油断はしません!」

 

「つーか、これが決勝!みたいな?」

 

 

早速、修也と武方三兄弟が俺たちの前に立ちふさがった。

この試合、先制点がカギになる....先攻である以上、先制点を取れる確率は高い!

 

 

「まずはお前から倒すっしょ!」

 

「はっ!てめえらごときがこの俺を止められるかよ!」

 

「な、生意気な奴じゃん!」

 

「いきますよ!」

 

 

ボールを持っているヒロトに、武方三兄弟がマークについた。

修也は俺にピッタリ付くわけでもなく、俺とヒロトの間くらいにいる。

修也はヒロトのパスを潰す役割ってことか。

 

 

「はっ!悪いがあんたらに付き合ってる暇はねえ!とっとと抜かせてもらうぜ!」

 

 

そう言って、ヒロトはスピードを上げて3人を振り払う。

だがおかしい...3人は明らかに本気でマークしていない......っ、まさか!

 

 

「残念だがここは通さない!」

 

「なっ!?」

 

「かかったっしょ!」

 

「作戦通りですね!」

 

「つーか、余裕みたいな?」

 

 

ヒロトが躍り出た場所には、西垣が待ち構えていた。

武方三兄弟が取り囲み、ヒロトの進行方向を意識させずに誘導していたんだ。

それによって、三兄弟を抜いた瞬間、丁度良いタイミングで西垣が出てくることができた。

 

 

「(これが修也の鍛えた木戸川のチームサッカーか...!)」

 

「くらえ!”スピニングカットV3”!」

 

「ぐああああ!」

 

「っ!」

 

 

西垣の”スピニングカット”によって、ヒロトがボールをこぼしてしまう。

それにいち早く修也が反応し、ボールを奪い去る。

 

 

「っ!(マズイ...!)」

 

「おっと!豪炎寺の邪魔はさせないっしょ!」

 

「なっ!?」

 

 

俺がそれを見て修也のところにいこうとすると、先ほどまでヒロトのマークについていた武方三兄弟がいつの間にか俺のマークについていた。

 

 

「くっ!(これでは修也のマークに行けない...!)」

 

「悪いな隼人。これが俺たち木戸川清修のチームサッカーだ。」

 

 

そう言って、修也はドリブルで中央から駆けあがっていく。

俺も何とかそれを追いかけるが、武方三兄弟が3人で俺のマークについているため、思うように追いかけられない。

 

 

「嵐山さんが思うように動けていない....みんな!ここは俺たちが止めるぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

そんな俺を見た基山が、しっかりとみんなに指示を出して修也の動きを止めようとする。

だが修也の動きのキレは凄まじく、次々と永世イレブンを抜き去っていく。

 

 

「くっ...何て動きだ...!」

 

「これが嵐山さんのライバルの実力...!」

 

「まるで嵐山さんと戦っているみたいだ...!」

 

 

あっさりと中央を突破し、修也はついにゴール前へと躍り出る。

 

 

「これが嵐山のライバル、豪炎寺修也.....面白い!来るが良い!」

 

「ふっ........はああああ!」

 

 

『こ、これはああああああああああああああああ!』

 

 

何と修也は円堂と同じような炎の魔神を呼び出した。

そして魔神の手の上に乗った修也は、炎を纏いながら上空へと投げ飛ばされ、そのままボールを蹴り落とす。

 

 

「”爆熱ストーム”!」

 

ドゴンッ!

 

 

これが修也の魔神....そしてそのシュート...!

 

 

「うおおおおおお!”ドリルスマッシャーV2”!」

 

 

砂木沼が”ドリルスマッシャー”で対抗するが、そんな砂木沼に対して修也は背を向け、いつものようにポケットに手を入れて歩き出す。

 

 

「うおおおおお!.....っ、な、何だこのパワーは...!」

 

 

”ドリルスマッシャー”が徐々にひび割れていき、砂木沼はゴールへと押し込まれていく。

修也は確信していたんだ...このシュートが止められることはないと。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお..っ、ぐあああああああああああああああ!」

 

 

『ゴーォォォォォォォォォォル!先制点は木戸川清修!炎のエースストライカー、豪炎寺修也が強烈なシュートを永世学園にお見舞いしました!』

 

 

「マジかよ....」

 

「これが俺の力だ、隼人。」

 

「修也....」

 

「俺たちは全力のチームプレーでお前を倒す!...だがそれだけじゃない。俺はストライカーとして、お前の上を行く!」

 

「......俺も負けないさ。この試合、チームとしてだけじゃない.......俺もストライカーとして、お前に絶対勝つ!」

 

「ふっ....楽しみだ。」

 

 

修也....今度は俺の番だ。

先制点は奪われたが、今度は俺が点を奪ってやる!

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

炸裂!オーバーライド!

嵐山 side

 

 

「すみません、嵐山さん...」

 

「俺たち、あの人相手に何もできなくて....」

 

「気にすることはない。俺だってまんまと作戦通りに動かせてしまった。修也.....豪炎寺は俺が止める。だからみんなは武方三兄弟たちをマークしてくれ。」

 

「はいっ!」

 

 

まずは1点奪われてしまったが...まだ時間はたっぷりあるんだ。

それに俺たちの攻撃力なら必ず点を取れる。西垣のディフェンスは強力だが、チャンスはあるはずだ。

まずは1点....取り返していこう。

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「ヒロト。」

 

「おう。」

 

 

ふたたび俺たちの攻撃が始まる。

先ほどと同じようにヒロトにボールを渡し、中央から前線へと駆けあがる。

木戸川も同じように修也と武方三兄弟が俺たちへと迫ってきている。

 

だが、先ほどと同じようにしてやられるつもりはない!

 

 

「ヒロト!俺に任せろ!」

 

「っ!任せたぜ嵐山サン!」

 

 

修也たちが近付く前に、ヒロトからボールを受け取る。

そしてそのまま修也たちめがけてスピードを上げていく。

 

 

「(勝負だ、修也!)」

 

「(ふっ...真っ向勝負というわけか。いいだろう、受けて立つ!)」

 

「うおおおおお!”疾風迅雷”!」

 

「っ、ぐあああ!」

 

 

俺は雷を纏いながら、電光石火の如く修也たちに体当たりしていく。

さすがの修也もこの必殺技に対抗するのは難しかったのか、俺に吹き飛ばされていた。

武方三兄弟も俺に近付くことができず、俺は4人を抜き去った。

 

 

「豪炎寺が抜かれた!」

 

「嵐山を止めろ!」

 

「お、お前ら!連携を崩すな!」

 

 

俺が修也たちを抜いたことで、木戸川の連携が崩れ始めた。

やはり精神的支柱が倒れると、こういう連携に重きを置いたチームは崩れやすいな。

西垣だけ冷静に止めに入っていたが、その声も届かず木戸川の選手たちが俺に近寄ってきた。

 

 

「案外、あまあまなんだな。受け取れ、ヒロト!」

 

「「「なっ!?」」」

 

「はっ!俺様を忘れてもらっちゃ困るぜ!なんてったって俺様はゴッ「決めろ、ヒロト!」...って、おい!」

 

 

ヒロトへとボールが渡り、今度はヒロトがドリブルで駆けあがっていく。

俺に釣られてしまった木戸川の選手たちはすぐに方向転換するも、さすがにヒロトには追いつけない。

だが、一人冷静だった西垣はすぐにヒロトの元へと向かっていく。

 

 

「俺がいる限り、シュートは打たせん!」

 

「はっ!てめえら考えが甘いんだよ!」

 

「なに?」

 

「受け取りな!嵐山サン!」

 

 

「「「「「っ!」」」」」

 

 

俺は囮でヒロトが本命....そう思わせてからふたたび俺へとボールが戻る。

これにはさすがの西垣も釣られてしまい、完全に俺がフリーとなった。

ボールはヒロトのキック力もあいまって、勢いよく俺の元へと飛んできている。

 

 

「(もらった!これでシュートを打てば......っ!?)」

 

「うおおおおお!」

 

「「「「豪炎寺修也!?」」」」

「「「「豪炎寺!!」」」」」

 

 

どうして...どうして修也が俺とボールの間に...!

いや、そうじゃない!これは....マズイっ!

 

 

「っ、うおおおお!」

「うおおおおおお!」

 

 

俺は切り返して元々ボールを受け取ろうとしていた位置よりも前に移動する。

だけどその間に修也がいるため、良いポジショニングができないでいた。

 

 

「くっ...」

 

「貰った!」

 

 

そしてボールは修也がインターセプトし、すぐさま切り返して永世ゴールへと駆けていく。

俺も体勢を崩しながらも、すぐに切り返して修也を追っていく。

スピードでは俺の方が上、すぐに修也を追い抜き、修也の正面に立ち塞がる。

 

 

「まさか、俺にボールが戻ってくることを読んでいたのか?」

 

「いや....俺はただ、お前だけを見ていただけさ。」

 

「ふっ...まさかそんなことだとはな....だが、これ以上好きにやらせるわけにはいかない!お前を止める!」

 

「いや、俺が抜いてゴールを決める!勝つのは俺だ!」

 

 

修也の気迫を感じる...だが、俺だって負けるつもりはない!

修也を止められるのは....俺だけだ!

 

 

「来い、修也!」

 

「いくぞ、隼人!うおおおお!」

 

 

修也がそのまま俺に向かって突進してくる。

すると徐々に修也は炎を纏わせるようになってきた。

これは...!

 

 

「”バーニングライン”!」

 

「っ!ぐああああ!」

 

 

修也の新たな必殺技、”バーニングライン”によって俺は修也に吹き飛ばされてしまう。

炎を纏いながら突進をかます....シンプルだがパワーのある修也にはピッタリの必殺技だ。

 

 

「「「豪炎寺!」」」

 

「っ!」

 

 

俺を抜いた修也は、武方三兄弟と合流すると4人で陣形を組んでいた。

一体何をしようとしている...?

 

 

「いくっしょ!」

 

「決めてやりましょう!」

 

「つーか、ここが見せ場みたいな?」

 

「ふっ...いくぞお前たち!」

 

「「「おう!」」」

 

 

そしてゴール前まで辿り着くと、修也は武方三兄弟にボールを渡す。

 

 

 

『おっと!今度は武方三兄弟の必殺技、”トライアングルZ”が炸裂するかあああああ!?』

 

 

「ふっ...そんな簡単に予想できるものではありません。」

 

「俺たちの力を見せるみたいな?」

 

「俺たちと豪炎寺が力を合わせたら、最強じゃん!」

 

 

「まさか...!」

 

 

 

「努!」

 

ドゴンッ!

 

「友!」

 

ドゴンッ!

 

「豪炎寺!」

 

ドゴンッ!

 

 

武方三兄弟によって、”トライアングルZ”の要領で空中へとボールが打ち上げられていく。

そして打ち上げられていく中央から修也が魔神と共に飛び上がり、三兄弟によって打ち上げられていた際のトライアングルのオーラは炎を纏っていく。

 

 

「これが僕たち3人と!」

「豪炎寺の力を合わせた合体技!」

「その名も!」

 

 

「「「「”テトラストーム”!」」」」

『グオオオオオオオオオオオ!』

 

ドゴンッ!

 

 

最後に空中から蹴り落とすように、修也が魔神と共にボールを蹴る。

炎を纏った三角形は溶けて四角形となり、螺旋を描くようにボールと共にゴールへ放たれた。

これが修也と武方三兄弟のオーバーライド技....ただでさえ強烈な”爆熱ストーム”に、去年散々苦戦させられた”トライアングルZ”が合わせられるなんて...止められるのか...!?

 

 

「止めてみせる!我が誇りに賭けて!うおおおおおおおおおおおお!”グングニル”!」

 

 

砂木沼が”グングニル”で対抗する。現在の砂木沼が放てる最強の必殺技。

さすがに持ちこたえてはいるが、やはり”テトラストーム”の方がパワーが上だ...!

 

 

「ぐっ....止める.....もうこれ以上、点をやるわけには.....いかんのだああああああああああああああああ!」

 

 

砂木沼がついに両手を使って止めに入った。

もう既に意地だけで抑え込んでいるようなものだ。

だがこれ以上は危険だ!続けてしまえばたとえ止められたとしても無事ではすまない!

 

 

「もう辞めろ!砂木沼!」

 

「うおおおおおおおおおおおお!俺は諦めん!諦めんぞおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「砂木沼!」

 

「うおおおおおおおおおおっ...ぐああああああああああああああ!」

 

 

全力で持ちこたえていた砂木沼だったが、ついにゴールまで押し込まれてしまった。

激しいオーラのぶつかり合いに、ゴール前は爆発による煙が激しく舞っていて状況がわからない。

 

 

「砂木沼!」

 

「砂木沼さん!」

 

 

全員がゴール前まで寄ると、丁度煙が収まった。

砂木沼は無事なようだが....これほどの威力のシュート、もう受けられるわけがない。

だが砂木沼の代わりのキーパーなんていない...瀬方が多少、キーパーの心得があるがさすがに心許ない...

 

 

「俺なら大丈夫だ!」

 

「砂木沼...だが....」

 

「頼む、嵐山!俺に戦わせてくれ!」

 

「っ.........わかった。ただし、絶対無茶はするなよ。」

 

「ああ、わかっている!」

 

 

くそ....そもそも俺がしっかり修也を止めていれば、追加点を取られることはなかったんだ。

砂木沼に無茶をさせることも....俺がしっかり.....もっとしっかり....

 

 

「...と。....や...。はや....。...隼人!」

 

「っ!」

 

 

考え込んでいると、八神が俺を呼んでいることに気付いた。

よく見ると、みんなが心配そうに俺を見ていた。

 

 

「ど、どうした...」

 

「どうした、じゃないわ。....もし、豪炎寺修也を止められなかったことを悔やんでいるなら、お門違いだわ。」

 

「な、なにを言ってるんだ。あいつは俺じゃないと止められないだろ!」

 

「あなたは.....私たちを信じてないのね。」

 

「っ!」

 

「....私は、いえ.....私たちはあなたを信じている。だから.....だから、あなたも私たちを信じてほしい。」

 

「八神....」

 

「そうですよ、嵐山さん。」

 

「俺たちだって、みんなで戦ってきて色々できるようになってきたんです。」

 

「確かに最初は何もできずに抜かれちゃったけど...」

 

「今度は止めてみせます!俺たちで!」

 

「みんな...」

 

 

そうか....俺、修也を意識するあまり、いつの間にかみんなのことが見えていなかったんだ。

修也は木戸川のみんなと一緒になって俺を、俺たちを倒そうとしている。

なのに俺は、俺一人で修也を倒そうと躍起にやってた。そんなんじゃ勝てるわけないのに。

 

 

「.....みんな、すまない。」

 

「「「「「っ!」」」」」

 

「俺が間違っていた......頼む!俺に力を貸してくれ!」

 

「もちろんです!」

 

「一緒に勝とうぜ!」

 

「私たちが力を合わせれば、必ず勝てるわ。」

 

「雨降って地固まる。俺たちなら勝てますよ!」

 

「みんな....ああ、絶対に勝とう!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

ドクンッ...!

 

 

 

「っ...」

 

 

何だ...今、何かが全身を駆け巡ったような...

何故だかわからないけど、今なら何でもできそうな気がする。

...みんなと通じ合えたからかな。

 

 

 

「(修也.......もうさっきまでの俺じゃない。今度はみんなと一緒にお前を...木戸川清修を倒す!)」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

目覚めよ、魔神!

嵐山 side

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『さあふたたび永世学園の攻撃で試合が再開!現在は2vs0で木戸川清修がリードしております!あの嵐山隼人でも、さすがに全国常連の木戸川清修と、ライバルの豪炎寺修也が相手では分が悪いか!?』

 

 

 

「言ってくれるな...ま、確かに相手が強いが、俺たちだって負けてはいない。いくぞみんな!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

「いつも通り連携を意識しろ!隼人は俺が止める!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

この前半、俺は修也との戦いを意識しすぎていた。

周りの期待だけじゃない...俺自身が、修也を倒したいと意識しすぎていたんだ。

でも大事なのはそれじゃない。本当に大事なのは、こいつらとフットボールフロンティアで優勝することなんだ。

 

 

「(みんなでいくんだ!準決勝...そして、決勝へ!)基山!」

 

「はい!」

 

 

俺は基山へボールを託して、ヒロトと共に前線に駆けあがる。

あいつらを信じて、俺は点を取ることだけを考える。

ストライカーとしての使命を果たすために!

 

 

「嵐山がボールを持ってないなら、楽勝っしょ!」

 

「っ、待て!早まるな!」

 

 

「(よし!俺に釣られた!)」

 

「タツヤ!」

 

「今の私たちなら!」

 

「うん!」

 

 

基山がドリブルであがっているところに、武方...あれは確か勝だったか。

勝が基山のところに接近していく。それと同じように緑川と八神が基山と合流した。

 

 

「いくぞ緑川!玲名!」

「おう!」「ええ!」

 

「「「必殺タクティクス、”ギャラクティックタワー”!」」」

 

 

基山は上空へとボールを蹴り上げると、今度は緑川がそれをさらに上空へと蹴り上げる。

次に八神がそれを蹴り上げると、さらに基山が蹴り上げる。それをどんどんと繰り返していき、木戸川の選手たちが届かない遥か上空へと到達した。

 

 

「いっけええええええええ!」

 

ドゴンッ!

 

 

そして最後に基山が前線へと駆けあがっていた俺とヒロトの方にボールを蹴りだす。

天高くそびえたつ塔から、誰にも触れられずパスを出す...これこそが俺たち永世学園の必殺タクティクスが一つ、”ギャラクティックタワー”だ。

 

 

「おっしゃあ!」

 

 

ボールはヒロトに渡った。俺には修也がマークについているからな。

俺が修也をひきつけることで、修也は満足に動くことができなくなる。

ま、俺も動けなくなるけど、ちゃんとゴールは狙える位置にいるぞ。

 

 

「ここは通さないぞ!」

 

「チッ...さすがは全国大会常連、マークにつくのが早えじゃねえか。」

 

「嵐山には豪炎寺がついている。なら他の選手はこの俺が止める!」

 

「俺たちの邪魔するってんなら容赦はしねえ!」

 

 

ヒロトが西垣に向かって突っ込んでいく。

だが西垣のディフェンスはかなりのもので、なかなかヒロトも抜けずにいた。

 

 

「チッ....(こいつ、かなりやりやがる。)」

 

「(この程度のフェイントなら、嵐山や豪炎寺の足元にも及ばん!絶対にここは抜かせない!)」

 

「っ..........ふっ...」

 

「っ?(なにを笑って....)」

 

「....あがるのが遅えぞ!」

 

ドゴンッ!

 

 

突然、ヒロトが誰もいないはずの場所へとパスを出した。

だがこれも俺たちの作戦通り....そこにはこっそりと前線へとあがってきていたディフェンダーの倉掛がいた。

 

 

「誰にも気付かれずにここまでくるの大変だったのに...!」

 

「文句は後にしな!」

 

「もう...!」

 

 

ボールを受け取った倉掛はそのままドリブルで駆けあがっていき、ヒロトもボールを取られる心配が無くなったので強引に西垣を突破していく。

 

 

「くっ...しまった...!」

 

 

西垣は慌ててヒロトを追うものの、ヒロトのスピードについていけず徐々に距離を離されていく。

 

 

「「止める!」」

 

「ダブルチーム...!」

 

 

さすがは全国常連というべきか、倉掛に二人のディフェンダーがマークについた。

だが、判断が間違っているな。止めるなら...ヒロトの方だろうに。

 

 

「ヒロトさん!」

 

「「っ!」」

 

 

倉掛は完全に囲まれる前に、ヒロトにパスを出した。

ヒロトはもう既に完全に西垣を振り切っており、フリーとなってパスを受け取ることができている。

 

 

「はっ!俺たちが力を合わせれば、誰にだって負けねえんだよ!」

 

「決めろ!ヒロト!」

 

「任せな!オラッ!オラッ!オラオラオラオラ!”ザ・エクスプロージョン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

ついにこの試合初めて、永世学園がシュートを放った。

相手のキーパーは1年...ヒロトのシュートを止められるか...?

 

 

「うおおおお!”タフネスブロック”!」

 

 

木戸川のキーパーは腹に力を溜めて、踏ん張るようにシュートをブロックする。

だがその程度で止められるほど、ヒロトのシュートはやわじゃないぞ!

 

 

「うぐぐぐぐぐ.....ぐぐおおおおおおおおお!」

 

 

『ゴーォォォォォォォォォォル!永世学園、ついに1点を奪いました!ディフェンダーまでもが攻撃に加わり、チーム一丸となって1点をもぎ取りました!』

 

 

「ふっ...チーム一丸か。」

 

「修也...」

 

「俺たちもチームとしての連携力は負けていない。次の1点は防がせてもらおう。」

 

「それはこっちのセリフさ。もうお前たちの好き勝手にはさせない。」

 

「ふっ....」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「豪炎寺だけじゃない!」

 

「僕たち兄弟の力!」

 

「見せつけてやるみたいな!」

 

 

木戸川ボールで試合が再開し、武方三兄弟が3人でパス回しをしながらあがってきている。

俺は修也のマークにつきつつ、他の木戸川の選手の動きにも気を配る。

 

 

「中央を固めろ!奴らを突破させるな!」

 

「俺がいく!」

 

 

基山が指示を出し、緑川が三兄弟に向かっていく。

中央は基山、八神、武藤が固めていて、サイドは本場と薔薇薗がそれぞれ展開している。

とりあえず三兄弟を止めることができれば、攻撃の勢いは止められるだろう。

 

 

「つーか、俺たちを舐めすぎみたいな!」

 

「僕たちは去年からさらに進化したんです!」

 

「俺たちの最強タクティクスを見せてやるじゃん!」

 

「っ、何だ!?」

 

 

武方三兄弟は3人で集まると、ボールを持つ勝を基点に三角形の陣形を組んでいる。

この動き、一体なにを狙って....

 

 

「「「必殺タクティクス!”ゴッドトライアングル”!」」」

 

「くっ...そこだ!」

 

「残念!」

 

「こっちっしょ!」

 

「なっ!?」

 

 

緑川がスライディングを仕掛けるが、勝はすぐ横にパスを出し、それを努が受け取る。

すると今度は努を基点に三角形の陣形が組まれた。

 

 

「(これは....そういうことか。)」

 

 

「今度は俺が!」

 

「甘いっしょ!」

 

「こっちです!」

 

 

今度は武藤がスライディングを仕掛けるが、努はすぐに隣の友へとパスを出す。

さらにふたたび陣形がボールを持っている友を基点に入れ替わる。

やはりそうか...3人が陣形を組んで、相手がボールを奪いに来たタイミングで即座に細かいパスを出し回避する。三兄弟の息の合った連携があればこそのタクティクスだな。

 

 

「くっ...!」

 

「どうすればいい...!」

 

 

 

「(マズイな...武方三兄弟の動きに翻弄されて、本来の動きが出来ていない。)」

 

 

俺の危惧した通り、武方三兄弟は永世学園の守りを軽々と突破していき、もうゴール前まで辿り着いてしまった。修也だけで手一杯だと言うのに...武方三兄弟をどう止めるか考えないといけないのは厄介すぎるな。

 

 

「もう1点、追加点をもらうぜ!”バックトルネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「そう何度も決めさせてたまるか!”グングニル”!」

 

 

勝の放った”バックトルネード”に、砂木沼が”グングニル”で対抗する。

勝のシュートもなかなかの威力ではあったが、砂木沼もこれまでの激戦を制してきただけあって、”バックトルネード”を弾き返した。

 

 

「よし!」

 

「くっ!俺のシュートが通じないとか、あり得ないみたいな!」

 

「(あのキーパー、なかなかやるな。どうやら点は俺が取るしかなさそうだ。)」

 

「(修也の目つきが変わった...これ以上、修也の好きにさせるわけにはいかない!)」

 

 

「よし!ボールは貰った!」

 

 

弾かれたボールは蟹目が確保した。

これでふたたび俺たちの攻撃が始まる。

木戸川は攻撃を完全に武方三兄弟と修也に任せているから、ほとんどの選手が前線にはいない。

つまり、攻めてきている割には防御力が高い、厄介な状況だ。

 

 

「もう一度いくぞ!」

 

「おう!」「ええ!」

 

 

「よし...タツヤ!」

 

 

基山の指示により、ふたたび”ギャラクティックタワー”の陣形になる。

蟹目もそれを見て、基山へとパスを出した。だが...

 

 

「甘い!」

 

「なっ!?」

 

「っ!(修也!?いつの間に...!)」

 

 

いつの間にか俺のそばから離れていた修也が、蟹目と基山の間に割って入り、パスカットする。

マズイ...これ以上点差を付けられては、勝機が...!

 

 

「うおおおお!」

 

「っ、嵐山さん!」

 

 

俺はすぐさま全力で修也の元へと走り出した。

修也を見失ったのは俺のミスだ....俺のミスでこれ以上、点をやるわけにはいかない!

こいつらと勝って、フットボールフロンティアで優勝するためにも....ここで修也を止める!

 

 

「うおおおおおおおおおお!」

 

「っ!(隼人から凄まじいオーラを感じる!ここで打たないと止められる!)」

 

「修也ああああああああああああああああ!」

 

「っ!うおおおおおおおおお!”爆熱ストーム”!」

 

「はああああああああああああああああああああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺は修也へと追いつき追い越すと、修也に対抗するように右足でボールを蹴りだす。

俺と修也の足がクロスするようにぶつかり、辺りにはオーラがまるでイナズマのように激しく飛び散っていた。

 

 

「ぐっ!(何てパワーだ...!これが隼人の....!)」

 

「うおおおおおおおおお!(何だ...このみなぎるような力......負ける気がしない...!)」

 

 

 

『な、何だこれはあああああああああああ!豪炎寺修也の赤い炎の魔神と、嵐山隼人の緑の風を纏った魔神がぶつかり合っているぞおおおおおおおおおおおおお!』

 

 

 

魔神....?

そうか、俺の魔神も目覚めたってことか。

どうりで体の奥底から力がみなぎってくるわけだ。

 

 

「くっ...!(マズイ...押し負ける...!はや...と...!)うおおお!」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「っ、ぐああああああああああああ!」

 

 

俺は修也のシュートを弾き飛ばした。

ボールは修也の後方へと落ち、俺は着地してすぐさまそれを奪い取る。

そして全速力でフィールドを駆けあがっていく。

 

 

「止めろー!」

 

「ここを通すな!」

 

「っ、遅い!」

 

「「っ!!!!!」」

 

 

俺はディフェンスに来た二人の選手を、スピードを緩めず全速力で抜き去る。

あまりのスピードに突風が発生し、ディフェンス二人は吹き飛ばされていた

 

 

『早い、いや...速い!これが嵐山隼人の全速力!まるでイナズマが過ぎ去ったかのように、誰も止めることができません!』

 

 

「くっ!俺が止める!」

 

「っ!(西垣か!)」

 

「うおおお!”スピニングカットV4”!」

 

 

 

「進化した!?」

 

「嵐山さんっ!」

 

 

心配するな、基山。今の俺は誰にも負けない!

リードを許したまま前半を終わらせるわけにはいかない。

ここで俺がゴールを決める!

 

 

「なっ!?さらにスピードがあがっただと!?」

 

「さすがだ、隼人....」

 

「嘘だろ...」

 

「西垣の”スピニングカット”を...」

 

「唯々、スピードだけで乗り切りやがったみたいな...」

 

「止めろ!大御所!」

 

「くっ...!」

 

 

すべての選手を抜き去り、ついに俺はゴール前へと躍り出た。

木戸川のキーパーは俺に向かって構えを取るが.....悪いな。

お前じゃ俺のシュートは止められねえよ。円堂か、立向居でも連れてくるんだな。

 

 

「はああああああああああ!」

 

 

俺はふたたび魔神を出現させ、ボールを上空に蹴り上げる。

そして修也の”爆熱ストーム”と同じように魔神の手のひらに乗り、魔神によって上空へと打ち上げられる。そして風を纏いながら縦に回転し、オーバーヘッドでボールを蹴り落とす!

 

 

「これが俺の魔神!吹き荒れる嵐!”バイオレントストーム”!」

『グオオオオオオオオオオオ!』

 

ドゴンッ!

 

 

「う、うぅ....うおおおおおおおお!た、”タフネスブロッ....っ、ぐあああああああ!」

 

 

相手のキーパーが必殺技で対抗しようとするが、まるで台風でも発生しているかの如く吹きすさぶ風になすすべなく吹き飛ばされ、ボールはそのままゴールへと突き刺さった。

 

 

『ゴーォォォォォォォォォォル!な、何というシュートでしょう!凄まじい風の勢いに、大御所も立っていられず!未だかつて、これほどのシュートを日本で見たことがあったでしょうか!』

 

 

「ふっ...これがお前の魔神か、隼人....(大御所は1年だが、かなりの巨体だ。それを容易く吹き飛ばすとは....あれを止められるのは円堂、お前くらいだろうな...)」

 

 

ピッピッピィィィィィィィ!

 

 

『ここで前半終了!2vs2!嵐山と吉良、二人の活躍で同点のまま後半へ!まだまだ試合はわかりません!果たして、準決勝へコマを進めるのはどちらか!』

 

 

同点で後半か。ビハインドで後半じゃなくなって、ホッとしている。

だが今の俺なら、修也を止められる。後は武方三兄弟をどうにかできれば、俺たちの勝ちは揺るがない。

 

 

「後半もガチでいくぞ、修也!」

 

「ふっ...次は俺が勝つ、隼人!」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

必殺!奇門遁甲の陣!

鬼道 side

 

 

「前半はまさに点取り合戦って感じだったな。」

 

「ああ。やはりあの二人の攻撃力は他のフォワードとは一線を画すな。」

 

「”爆熱ストーム”に”バイオレントストーム”....観客席から見ていてもかなりのパワーを感じたけど、あれでも世界に通じるかどうか...」

 

「いや、通じはすると俺は思っている。」

 

 

あの二人は既に世界レベルまで迫っている。

二人がさらにレベルアップすれば、あのシュートも世界に通じるだろう。

だがあくまで世界標準レベル、ということだ。

 

 

「世界一になるには、まだ足りないものがあまりにも多い。」

 

「確かにな....だが、あの二人がいると安心感が違うんだよな。」

 

「ああ。だがあの二人にばかり頼っているわけにはいかない。.......。」

 

「どうした、鬼道。」

 

「いや..............(俺もあの場に立って戦いたい...嵐山との決着を付けたかった。)」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「ふぅ.....」

 

 

俺は一息つきながら、ベンチの近くに腰を下ろした。

さすがに修也たちとの戦いは精神が擦り切れるくらい集中力が必要になるな。

いつも以上に疲労が溜まっているな。

 

 

「嵐山君、少しいいかしら?」

 

「夏未....どうした?」

 

 

少しでも体力を回復させようと休んでいると、夏未がやってきた。

 

 

「これ、レモンの蜂蜜漬けよ。」

 

「お、ありがとう。夏未が作ったのか?」

 

「ええ、まあ。」

 

「そっか。頂きます。」

 

 

夏未の料理というと、少しばかり警戒してしまう俺がいる。

だがさすがにレモンの蜂蜜付けで失敗するはずは無いか。

そう思い、恐る恐る俺は物を口に運んだ。

 

 

「うん。うまいよ!」

 

「っ!....良かったわ。」

 

 

俺の反応を見て、夏未もホッとしたような表情を浮かべていた。

 

 

「それで...少し聞いて欲しいのだけれど。」

 

「うん。どうしたの?」

 

「前半の木戸川のフォーメーションを見て、私なりにまとめてみたの。」

 

 

そう言って、夏未はボードを取り出した。

そこには木戸川の選手一人ひとりの細かい動きが記載されていて、かなりの情報があった。

 

 

「すごいな...これ一人でやったのか?」

 

「え、ええ。....それで、ここなのだけれど...」

 

「うん...............っ!なるほどね。」

 

「やはりあなたなら見てわかるのね。」

 

「まあね。....なるほど、木戸川は一見バランス良く守っているように見えて、空いている穴がある。攻撃としてフォワードが4人出ている分、カバーしきれていない場所があるんだね。」

 

 

これは俺たち永世学園にも言えることだった。

俺たちはカウンターや守備の甘さで点を取られることが多い。

何度もカバーしようと練習をしたが、どうしても完璧な状態に仕上げることはできなかった。

そしてそれは木戸川も同じなようだ。

 

 

「よし。後半の攻め方は決まったな。後は俺たちの守備がうまくいけばいいけど....ま、そこは信じるしかないか。」

 

「...ふふ、信じる...ね。」

 

「ん?何か変だった?」

 

「いいえ。あなたもようやく、永世学園のみんなを雷門のみんなと同じくらい信頼するようになったんだと思ったのよ。」

 

「雷門のみんなと同じくらいの信頼.........確かにそうかも。...そっか、そういうことだったのか。」

 

 

俺は心の中で、永世学園のみんなのことを雷門のみんなと比べていたんだ。

円堂だったら、修也だったら、鬼道だったら....そんなんじゃ、本当の意味で信頼なんて生まれない。

でもこの試合で、初めて俺はみんなを信頼することができた。

 

 

「嵐山君。」

 

「ん?」

 

「後半、頑張って。」

 

「.....おう。」

 

 

『さあいよいよ後半戦が開始します!嵐山隼人率いる永世学園!豪炎寺修也率いる木戸川清修!どちらも一歩も譲らない前半戦でしたが、果たして後半戦をものにして勝利を手にするのはどちらか!』

 

 

「じゃあ行ってくる!」

 

「ええ!」

 

 

俺はフィールドへと駆けていく。

"永世学園のみんなを、雷門のみんなと同じように信頼している"...か。

今なら...今の俺たちならできるかもしれない。

 

 

「(勝負だ、修也!俺たち永世学園が...絶対に勝つ!)」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『さあ後半戦開始!木戸川清修、武方三兄弟を中心に攻めあがる!』

 

 

「木戸川は豪炎寺だけのチームじゃない!」

 

「僕たちだって、チームの中心なんです!」

 

「俺たちが活躍すれば、チームが勝てるみたいな!」

 

 

前半の最後の方と同じように、ふたたび武方三兄弟が三角形の陣形となって攻めあがってくる。

だがこの必殺タクティクス...打ち破る方法は既に考え付いている!

 

 

「「「必殺タクティクス、”ゴッドトライアングル”!」」」

 

 

「来たか...だが、そのタクティクスはもう見切っている!基山、八神、緑川!3人を囲んで右回転だ!」

 

「えっ!?」

 

「一体何を...」

 

「と、とにかく嵐山さんの指示に従うんだ!」

 

 

「武藤、本場、薔薇薗はその外側を左回転!」

 

「は、はい!」

 

「ひ、左回転。」

 

「やるわよ!」

 

 

「そしてヒロト、蟹目、倉掛でその外側を右回転だ!」

 

「よくわからねえが...やるぜ!」

 

「やるぞ!」

 

「いくわ!」

 

 

 

「な、何なんだこれ...みたいな。」

 

「僕たち、完全に囲まれた!?」

 

「くっ...動けないみたいな.......っ!いや、違うじゃん!」

 

 

俺の指示により、9人が武方三兄弟を取り囲んで回転を行っている。

それによって三兄弟はドリブルで進むことも、パスを出すこともできなくなっている。

木戸川の選手も三兄弟に近付くことができず、戸惑っている様子だ。

 

 

「よくみたら一か所だけ穴が空いてるじゃん!」

 

「そこをめがけてパスを出せば...!」

 

「こんな防御で俺たちは防げないみたいな!」

 

 

「(なにかおかしい.....っ、まさか!)待て!勝、友、努!」

 

 

「おらっ!」

 

ドゴンッ!

 

 

ボールを持っていた勝が、そのボールを蹴りだした。

ボールは綺麗に回転の間を縫って通っていき....

 

 

「よっと。」

 

「「「なっ!?」」」

 

 

俺の元へと渡った。

いや、俺の元へ渡らせた....というのが正解だけどな。

これぞ必殺タクティクス、”奇門遁甲の陣”!

 

 

「す、すごい!」

 

「ドンピシャで嵐山さんのところに...」

 

「でも一体どうして?」

 

「説明は後だ!攻めるぞ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

 

「監督...今のは...」

 

「ええ、恐らくは”奇門遁甲”でしょうね。」

 

「攻めてくる3人を閉じ込めることで逃げ場を無くした、そう思わせてわざと一か所だけ抜け道を作ることでパスを出させた。」

 

「そういうことでしょうね。...ぶっつけ本番でこんなことするなんて、一体彼の頭の中はどうなってるのかしらね。」

 

「ふふ....どうせサッカーのことしか頭に無いですよ。」

 

 

俺はボールを受け取ると、そのままドリブルで駆けあがっていく。

修也も俺を追いかけてくるが、俺と修也のスピードでは俺の方が上。

修也が限界突破でもしない限り、俺には追いつけない!

 

 

「くっ...!(やはり足の速さでは隼人には敵わん...!)」

 

「(修也が追いつくことはもうない!あとは...残るディフェンスをこっちにひきつける!)」

 

 

「嵐山を止めろ!全員で止めるぞ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

西垣を中心に、武方三兄弟と修也以外の木戸川イレブンが俺に走り寄ってくる。

これも俺の狙い通り...俺ばかりに気を取られていたら、俺以外の怖い奴らが点を取りに来るぜ!

 

 

「受け取れ!基山!」

 

「っ、しまった!」

 

 

俺はディフェンスを十分にひきつけてから、基山にパスを出した。

俺に釣られていたディフェンスは慌てて戻るが、もう遅い。

 

 

「うおおおおおおおお!”流星ブレードV2”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「うおおお!”カウンタードライブ”!」

 

 

基山の”流星ブレード”が放たれ、木戸川のキーパーは”カウンタードライブ”で対抗した。

反回転をかけるように殴りつけるが、それで基山の”流星ブレード”が止まるはずもなく...

 

 

「ぐあああああああ!」

 

 

『ゴーォォォォォォォォォォル!後半開始早々、嵐山の華麗なタクティクスによってボールを奪取!そして基山の強烈なシュートで、勝ち越し点を奪いました!』

 

 

「やったっ!」

 

「ナイスだ、基山!」

 

「はい!嵐山さん!」

 

 

よし、これで武方三兄弟の動きは完全に封じたも同然。

だが修也がこのまま終わらせてくれるとは思えないな...どう出てくる、修也。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

豪炎寺 side

 

 

 

”奇門遁甲の陣”か、さすがは隼人だな。

あんなタクティクスを思いつくとは。

 

 

「くそ...!」

 

「僕たちの完璧なタクティクスが破られるとは...」

 

「あり得ないみたいな。」

 

 

 

「お前たち、落ち着け。」

 

「でもよ!豪炎寺!」

 

「俺に考えがある。」

 

「「「なにっ!?」」」

 

 

俺が勝たちにあのタクティクスの攻略方法について説明する。

確かにあのタクティクスは強力だ。だが、突破口はある。

 

 

「なるほど...」

 

「それを思いつくとは、豪炎寺....なかなかやりますね。」

 

「それに、その攻略方法は俺たちの得意分野みたいな。」

 

「ああ。”奇門遁甲の陣”を打ち破るのは俺とお前たち3人、そして西垣に任せよう。」

 

「「「おう!」」」

 

 

後半開始早々、隼人にいいようにやられてしまったが...今度はそうはいかないぞ!

 

 

 

.




これまでの試合は長くても4話くらいだったけど、木戸川戦..というよりvs豪炎寺はしっかり書きたいので長めです。その後の2試合(準決勝、決勝)もしっかりと書きたいのでさらに長めになると想定しています。お付き合いいただければと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

止まらぬ勢い

嵐山 side

 

 

『さあ、後半開始早々に勝ち越し点を得た永世学園!木戸川の猛攻を防いで、このまま勝利できるでしょうか!』

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『木戸川ボールで試合再開です!』

 

 

「俺たちが負けるとかあり得ないみたいな!」

 

「僕たちの力はこんなものではありません!」

 

「俺たちの力、見せてやるみたいな!」

 

「「「必殺タクティクス、”ゴッドトライアングル”!」」」

 

 

懲りずにもう一度来たか。修也がそんなこと許すとは思えないが...もう一度来るというなら、何度でも止めてやるまでだ!

 

 

「こっちもいくぞ!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

「必殺タクティクス、”奇門遁甲の陣”!」

 

 

俺たちも対抗すべく、ふたたび”奇門遁甲の陣”を発動した。

これにより、俺と砂木沼を除く9人が武方三兄弟を取り囲んだ。

 

 

「「「くっ...........くっくっく。」」」

 

「?」

 

「この状況で笑ってる?」

 

「残念だがこのタクティクスはもう見切ってる!」

「「みたいな!」」

 

 

「いくぞお前たち!」

 

「っ、修也!」

 

 

「「「必殺タクティクス、”フライングルートパス”!」」」

 

 

囲まれて身動きが取れなかった武方三兄弟だったが、ボールを持っていた勝が突然その場で飛び上がった。

 

 

「受け取れ!豪炎寺!」

 

「おう!」

 

「っ!」

 

 

すると勝はそのまま上空で修也のいる方向へとパスを出した。

今度は修也がそのボールを上空で受け止めるべく、その場で飛び上がった。

まさか、このままダイレクトで空中パスを繋げるつもりか...!

 

 

「お前たち!”奇門遁甲”は中止だ!すぐに元のフォーメーションに戻れ!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

「もう遅い!」

「「みたいな!」」

 

 

「西垣!」

 

「おう!...友!」

 

「受け取りました!....努!」

 

「おっしゃあ!」

 

 

くっ...完全にディフェンスを武方三兄弟に傾けていたから、動きに対応できていない。

”ゴッドトライアングル”も囮だったか....これは恐らく修也の策だな。

まんまとしてやられてしまったか。

 

 

「豪炎寺!決めろ!」

 

「うおおおおおおおお!」

 

 

最後に修也へとボールが渡り、修也はすぐさまシュート体勢へと入った。

 

 

「”爆熱ストーム”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「くっ!止めてみせる!”グングニル”!」

 

 

修也の”爆熱ストーム”に、砂木沼は自身の持てる最強の技、”グングニル”で対抗する。

互いの力は拮抗しているかのように見えた。だが...

 

 

「ぐっ...ば、馬鹿な...俺の最強の必殺技ですら...届かんだと...!ぐわああああああああああ!」

 

 

『ゴーォォォォォォォォォォル!!!同点!同点です!木戸川清修、エースストライカー豪炎寺修也がゴールを奪いました!取られては取り返す、どちらも一歩も譲りません!』

 

 

くそっ...!まさか上から突破してくるとは...確かに、”奇門遁甲”に限らず様々なタクティクスは空中に弱い。だが普通、空中でパスを繋げるなんてしないからな...

 

 

「(見るからにぶっつけ本番...あっちもやりやがる。)」

 

 

これで3vs3か....後半、まだ時間はあるがむしろ時間があることが怖いな。

残り時間が僅かなら、ギリギリの時間で決めて逃げ切ることができるかもしれない。

だが、こうも時間があるとそれも難しいうえ、逃げ切りのプレッシャーが大きい。

 

 

「(どうする...”ゴッドトライアングル”は”奇門遁甲の陣”で防げるが、”フライングルートパス”で突破される。一応、”ペンギンカーニバル”で”フライングルートパス”は潰せるが、それでは”ゴッドトライアングル”は止められない。)」

 

 

完全にじゃんけんみたいな状態になったな。

修也め...かなり永世学園を研究してきたな。

 

 

「嵐山さん...」

 

「....そんな不安そうな顔をするな、基山。」

 

「で、でも...」

 

「俺たちは俺たちのサッカーをすればいい。そうすればきっと勝てるはずさ。」

 

「俺たちのサッカー...」

 

「ああ。大丈夫、何とかなるさ!」

 

 

そう言って、俺は基山の肩に手を置く。

不安そうにしていた基山だったが、少しは安心してくれたみたいだ。

何とかなる...とはいったものの、さてどう攻めていこうか。

 

 

「(ま、今まで通りいくしかないか。)」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「攻めていくぞ、ヒロト!」

 

「はい、嵐山サン!」

 

「よし。...基山!いつも通りだ!」

 

「はいっ!」

 

 

俺は基山にいつも通り、と指示を出しながらパスを出す。

そして俺とヒロトは前線へと駆けあがっていく。

 

 

「(嵐山さんが俺を信じてボールを渡してくれているんだ....俺が何とかするんだ!)」

 

「(タツヤ....なんだか気負っているようにみえるわね。)」

 

「いくぞ、みんな!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

基山が緑川、八神と共にボールを運んでいく。

近くには武藤や本場もいるが、サイドからあがれるようにやや離れている。

 

 

「ここで止めるみたいな!」

 

「玲名!」

 

「タツヤ!」

 

「んなっ!?」

 

 

勝が止めに入るが、基山と八神のノールックでの息の合ったワンツーで突破される。

あの二人、なかなか良い連携じゃないか。あれだけ息が合うなら、何かできそうだな。

...っと、今は試合に集中しなければ。

 

 

『おおっと!基山と八神の華麗な連携の前に、木戸川イレブンは手も足も出ない!どんどん敵陣深くへと切り込んでいくぞ!』

 

 

「ここまで来れば.....っ!」

 

「悪いが俺が相手をしよう。」

 

「ご、豪炎寺修也...!」

 

 

どんどんと前線に切り込んでいく基山たちの前に、修也があらわれた。

あいつ、俺のこと追ってこないと思ったら、良いところで待ち構えてやがった。

 

 

「くっ....(何てプレッシャーだ。嵐山さんはこんな人を相手にプレーしてたのか...!)」

 

「....」

 

「っ.....」

 

「タツヤ!」

 

「....っ.....」

 

「タツヤ....?どうしたの、タツヤ!」

 

 

八神がパスを呼びかけているが、基山は一向に動こうとしない。

基山のやつ、修也のかけるプレッシャーに飲まれてるな。

今の基山には、八神の声は届いていない。

 

 

「来ないなら俺からいく!」

 

「っ!」

 

「はあ!」

 

 

修也が基山に対してタックルを仕掛けていく。

パワーのある修也のタックルに、基山は何とか持ちこたえてはいるものの、それも長くは続かないだろうというような状態だ。

 

 

「(俺がフォローにいくか..........いや、違うだろ。俺はあいつらを信じると決めたんだ。だったら俺はあいつらが俺とヒロトの元までボールを運んでくれると信じる...!)」

 

 

「(くっ....!)」

 

「(このままボールを奪えそうだな。悪いが負けるわけにはいかないんだ。勝たせてもらおう!)はあ!」

 

「ぐっ.....(ダメだ...かてない....!)」

 

「っ!....はああああ!」

 

「「っ!」」

 

 

修也のタックルに基山が完全によろめいた時、近くで様子を伺っていた八神が動き出した。

修也へとタックルするかと思いきや、何と基山へとタックルして逆にボールを奪っていた。

 

 

「ぐあっ!....な、なにをするんだ、玲名!仲間にタックルだなんて、どうかしたのか!」

 

「どうかしてるのはあなたの方よ!」

 

「えっ...?」

 

「隼人が私たちを信じてボールを預けてくれている...だったら私たちは、隼人の想いに応えるだけ!違うの!?」

 

「それは.....」

 

「緊張して、プレッシャーに飲まれて....いつものあなたじゃあり得ないわ!しっかりしなさい、タツヤ!」

 

「お、俺は.........」

 

 

「ふっ....ボールは貰うぞ!」

 

 

八神が話している隙に、修也が八神からボールを奪おうとする。

だがその前に、八神がふたたび基山へとボールを渡した。

 

 

「私たちをここまで導いてくれた隼人のためにも...この試合に勝つのよ!」

 

「っ!........そうだ、俺は嵐山さんと一緒にフットボールフロンティアで優勝する....そう願ってここまで来たんだ!今更立ち止まっていられるか!」

 

「っ!」

 

「”サザンクロスカット”!」

 

「ぐっ!」

 

 

基山から恐れが消えた。覚悟を持った男は強い。

基山は見事に修也を抜き、八神とともにふたたび前線へと駆けあがっていく。

さらにそこに緑川も合流してきた。

 

 

「抜かせるか!ここで俺が止める!”スピニングカットV4”!」

 

 

そんな3人の前に、最後の関門として西垣があらわれた。

だが今のあいつらなら、西垣すらも飛び越えていける!

 

 

「いくよ、玲名、緑川!」

 

「ええ!」「いつでも!」

 

「「「必殺タクティクス、”ギャラクティックタワー”!」」」

 

 

ふたたび3人がどんどん連続してボールを上空へと打ち上げていく。

西垣の放った”スピニングカット”も、地上で発生している衝撃波。

その遥か上空へといった3人には届くはずもない。

 

 

「くっ!」

 

 

「受け取ってください!嵐山さん!」

 

ドゴンッ!

 

 

そして遥か上空から放たれた流星のようなパスは、誰にも邪魔されることなく俺へと届いた。

 

 

「受け取ったぞ、基山!」

 

 

ボールを受け取り、俺はそのままゴール前へと躍り出る。

このチャンス、必ず決めてみせる!この試合に勝つのは俺たち永世学園だ!

 

 

「はあああああああ!”バイオレントストーム”!」

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 

ドゴンッ!

 

 

魔神と共に放たれた俺のシュートが、木戸川のゴールへと向かっていく。

 

 

「う、うぅ....と、止める!」

 

「っ!(ダメだ、大御所は完全に隼人のシュートに恐怖している...!)」

 

「か、”カウンタードライ”...ぐわああああああああああ!」

 

 

キーパーは何とか止めようとするが、完全に腰が引けており必殺技を繰り出す前にゴールへと押し込まれていた。

 

 

『ご、ゴーォォォォォォォォォォル!ふたたび永世学園が勝ち越し!もはや木戸川も!永世も!フォワードの勢いが止まりません!まさに点取り合戦!果たして誰が彼らを止めることができるんだああああああああああ!』

 

 

「ナイスプレーだったぞ、基山!」

 

「ありがとうございます!」

 

「この調子で攻めて攻めて攻めまくる!この試合、1点でも多く取った方が勝つ!」

 

「はい!もう1点取って、逃げ切りましょう!」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

円堂 side

 

 

「すげえ....”爆熱ストーム”に”バイオレントストーム”か....やっぱりあいつらすげえぜ!」

 

「すごいですね!」

 

「ああ!早く試合がしたくなった!くぅ~!あいつらのシュート、止めるの楽しみだぜ!」

 

「ハハハ...まだ準決勝が残ってますよ。」

 

「あ、そうだった!雷門の奴らも楽しみなんだよな~!」

 

 

あ~!今すぐフィールドに立ちたくてうずうずしてくる!

豪炎寺とも、嵐山とも戦いたい!どっちかとしか戦えないなんてもったいないぜ!

全員と戦えたら良かったのにな。

 

 

「よし!帰ったら特訓だ!」

 

「え、円堂さん...今日試合したばっかりですよ...」

 

「え~!ちょっとくらいいいじゃん!」

 

「コラ!円堂君!坂野上君を困らせない!」

 

「う、あ、秋....」

 

「全く....今日は練習禁止!しっかり体を休めるのも特訓なのよ!」

 

「は~い...」

 

 

ちぇっ....ま、でも秋のいう通りかもな。

今日はしっかり体を休めて、明日から猛特訓だ!

まずは雷門!それから豪炎寺か嵐山!今から楽しみだ!

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

激闘の行方

嵐山 side

 

 

 

「くっ...!」

 

「ここは通さない!」

 

 

「嵐山さん...っ!」

 

「あいつにはボールを渡さん!」

 

 

あの1点から、試合は膠着状態となった。

永世学園はタクティクスを駆使して、修也や武方三兄弟を止める。

木戸川清修は連携を駆使して、俺へとボールが渡らないようにする。

こうして、お互いが完全に攻め込むことができないまま試合時間が進んでいく。

 

 

「ま、このままいけば俺たちの勝ち.....なんだけど、そううまくはいかないだろうな。」

 

「ふっ....当然、勝ち逃げはさせん。」

 

「なら攻めて来いよ、修也。」

 

「そうだな。」

 

 

とはいうものの、修也は無理に動こうとしない。

だが何かを狙っているのもわかる。

あまりにも動かなすぎるっていうのは、嵐の前の静けさのようなものだ。

 

 

「(修也からは目が離せないな。)」

 

「(勝負はラスト数分...何としても1点を奪い、延長を戦い抜く!それしかない!)」

 

 

「(嵐山さんは動けない....だったら俺たちが決めるしかない!)ヒロト!」

 

「はっ!任せな!」

 

 

ボールを持っていた基山から、ヒロトへとボールが渡る。

ヒロトは待ってましたと言わんばかりに全力で駆けあがっていく。

だが木戸川もさすがは全国常連なだけあって、一瞬でヒロトにマークがついた。

 

 

「チッ...」

 

「俺たちを舐めるな!」

 

「止める!」

 

「めんどくせえ.........なんてな。決めろ!」

 

ドゴンッ!

 

「「なっ!?」」

 

 

二人のマークを前に、強引に突破する...と見せかけて、ヒロトは基山へと出した。

ふたたびボールを持った基山は、そのままシュート体勢に入る。

 

 

「はあ!”流星ブレードV2”!」

 

ドゴンッ!

 

 

轟音を響かせながら、基山の放った”流星ブレード”がゴールへと突き進んでいく。

だがそのシュートの前に、西垣が立ち塞がった。

 

 

「それで虚を突いたつもりなら甘い!そう何度も俺のディフェンスを突破されてたまるか!」

 

「っ!」

 

「”スピニングカットA”!」

 

 

さらに進化した西垣の”スピニングカット”は、基山の”流星ブレード”の勢いを完全に止めてしまった。さすがはアメリカでプレーしていただけはある。

 

 

「くっ...!」

 

「まだ時間はある!あと1点を奪って、まずは同点だ!」

 

「俺に任せるみたいな!」

 

「よし!行け、勝!」

 

ドゴンッ!

 

 

ボールをカットした西垣は、前線へと走りこんでいた勝に力強くパスを出した。

そしてそのパスを受け取った勝は、そこに合流した友、努とともに駆けあがっていく。

 

 

「止める!」

 

「ここは通さない!」

 

 

そんな3人の前に、本場と薔薇薗が立ち塞がった。

だが、それに臆することなく3人はそのまま駆けあがる。

 

 

「友!」

 

「よし!努!」

 

「おう!...兄貴!」

 

 

「「くっ!」」

 

 

見事な連携で2人を抜くと、3人はそのままシュート体勢に入った。

 

 

「俺たちが木戸川を勝利へ導く!みたいな!」

 

「僕たちが力を合わせれば!」

 

「負けるなんてありえない!」

 

 

「「「くらえ!”トライアングルZ改”!」

 

ドゴンッ!

 

 

そして放たれた”トライアングルZ”は、まっすぐゴールへと突き進んでいく。

 

 

「ここで点を許せば俺は自分を許せん!必ず止める!”グングニルV2”!」

 

 

だが砂木沼も負けじと”グングニル”を進化させ、武方三兄弟の”トライアングルZ”を完全に防いでみせた。もう1点...もう1点あれば確実に勝てる!

 

 

「っ!(隼人が動いた...!)」

 

「俺にパスを回してくれ!」

 

「嵐山....任せたぞ!」

 

 

シュートを止めた砂木沼のロングスローによって、俺にボールが渡る。

ここで点を取れば、俺たちがこの試合の勝者になれる!

 

 

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 

「修也..っ...!」

 

「勝つのは俺たちだ!隼人!」

 

「ぐっ...!」

 

 

普段の修也からは考えられないほど必死な表情で、修也は俺へとタックルしてくる。

そのパワーに俺はよろめきながらも、必死にボールをキープする。

だがこうなってはシュートが打てない...!

 

 

「ボールをよこせ!隼人!」

 

「くっ...!負けねえ!勝つのは俺たちだ!」

 

「ぐっ...!」

 

 

互いに一歩も譲らずに、ぶつかり合いながら前へと進んでいく。

 

 

「嵐山サン!俺にボールを!」

 

「っ、ヒロト!」

 

「そこだああああああああ!」

 

「なっ!?」

 

 

俺がヒロトの呼び声に反応した一瞬の隙をついて、修也は俺に全力でぶつかってきた。

それによって俺は完全にバランスを崩し、蹴っていたボールはあらぬ方向へと吹っ飛んでいった。

 

 

「くっ...!」

 

「ボールを確保しろ!」

 

 

『さあ!残り時間もあと僅か!果たしてどちらがボールを獲得できるか!永世学園がボールを獲得して逃げ切るか!それとも木戸川清修がボールを獲得し、最後の希望を見出すか!』

 

 

「俺たちがボールを確保する!」

 

「ヒロトさんはゴールまで突き進んで!」

 

「タツヤ、玲名...任せたぞ!」

 

 

弾かれたボールの近くにいた基山と八神が、ボールへと駆け寄っていく。

だがその二人の横を突っ切っていく影が3つあった。

 

 

「ボールは俺たちが確保するみたいな!」

 

「ボールを確保して、豪炎寺に回せば...!」

 

「豪炎寺なら絶対ゴールを決めてくれる!みたいな!」

 

「勝!友!努!」

 

 

何と前線にいたはずの武方三兄弟が全速力で戻ってきており、近くにいた基山と八神を抜いてボールへと一直線に向かっていく。

 

それを見ていた修也はすぐさまゴール前へと駆けあがり始めた。

俺もすぐに立ち上がり、修也を追いかける。

 

 

「木戸川の真のエースは...」

 

「認めたくないけど...」

 

「豪炎寺しかありえない...みたいな!」

 

「「「決めろおおおおおおおお!豪炎寺ぃぃぃぃぃぃぃ!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

そしてボールに追いついた武方三兄弟は、3人でありったけの勢いを込めて修也へとパスを出した。

パスは修也へと通り、修也はすぐさまシュート体勢に入る。

 

 

「うおおおおおおおおおおおおお!止められるものなら止めてみろ!”爆熱ストームG2”」

 

ドゴンッ!

 

 

「進化した!?」

 

「マズイ...!」

 

「砂木沼さんじゃ、豪炎寺さんのシュートは...!」

 

「くっ....と、止めてみせる!必ず!」

 

 

放たれたシュートは砂木沼の守るゴールへと突き進んでいく。

この執念の籠ったシュートは、恐らく今の砂木沼では止められない...!

 

 

「(だったら俺が....打ち返すしかない!)うおおおおおおおおおおおお!」

 

「っ!隼人!」

 

「”真・天地雷鳴”!」

 

 

俺は全速力で修也の放ったシュートとゴールの間に入り込み、”天地雷鳴”でシュートを打ち返そうとする。俺と修也のシュートのぶつかり合いは、激しいイナズマを発生させ誰も近寄れない状態となっていた。

 

 

「うおおおおおおおおおおお!修也あああああああああああ!」

 

「っ!(馬鹿な!俺の”爆熱ストーム”を....!)」

 

「うおおおおおおおおおおらあああああああああああああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

『打ち返したああああああああああああああああああああああああああ!』

 

 

俺は何とか修也の”爆熱ストーム”を打ち返す。

”爆熱ストーム”に”天地雷鳴”の威力が加わり、地面を抉りながら木戸川清修のゴールへと突き進んでいく。

 

 

「(さすがだ....さすがだよ、隼人。シュートをシュートで打ち返す........お前にはいつも驚かされてばかりだ。)だが....!」

 

「っ!(修也....まさか...っ...!)」

 

「それでも俺は....お前に勝ちたいっ!」

 

 

修也の目に炎は灯ったままだった。

俺の打ち返したシュートの真正面に立つと、修也はシュートの構えをとった。

だがこの構え...今までの修也のシュートとは違う...!?

 

 

「まだ完成していないこの必殺技を完成させ.....俺はお前を超える!」

 

「(来る...!とてつもない威力の必殺技が...!)」

 

「うおおおおおおおおお!これが俺のすべてだ!”マキシマム.....ファイア”ああああああああああああ!」

 

 

修也の足はまるで炎の剣が宿ったかのような状態となり、それを思い切り振りかぶる。

そしてボールを下から斬り付けるように蹴り上げると、先ほどと同じように俺のシュートと修也のシュートがぶつかり合い、激しいイナズマを発生させる。

 

 

「うおおおおおおおおおお!」

 

ドゴンッ!

 

 

『ななななななななななな何ということだあああああああああああああ!嵐山が豪炎寺のシュートを打ち返したかと思えば!今度はそのシュートを豪炎寺が打ち返したああああああああああああ!我々は一体なにを目撃しているんだああああああああ!』

 

 

「くっ....!」

 

 

修也が打ち返したシュートは、すべてのものを破壊するかのごとき力を持って、永世ゴールへと突き進んでいく。それも当然だ。”爆熱ストーム”に”天地雷鳴”、そして”マキシマムファイア”の威力が加わっているんだ。

 

 

「っ....(お前までシュートを打ち返すなんてな....でも、それでこそ俺が認めた最強のライバル....お前はそうでなくちゃな...!)」

 

「これで終わりだ!隼人!」

 

「それはこっちのセリフさ!修也!俺はお前に勝つ!これで決着だ!」

 

 

そう言って、俺はふたたびシュート体勢に入る。

もうこうなったら意地と意地のぶつかり合いさ。

俺はこのシュートを打ち返して、修也に勝つ!

 

 

「ここで証明してやる!俺が最強の.....ストライカーだ!”バイオレントストームG2”!」

 

 

ふたたび修也の放ったシュートを打ち返す。

だがやはり3度シュートが重ね掛けされただけあって、恐ろしいほど重い。

だけどそれ以上に重いものを俺は背負ってるんだ。

 

雷門のストライカーとして、永世のストライカーとして....俺はお前に勝ちたいんだよ、修也!

誰かに背負わされたんじゃない...自分で背負ったんだ。だったらしっかり決めないと、恰好が付かないだろうがよ!

 

 

「俺の........勝ちだあああああああああああああああああああああああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ!」

 

「「「嘘だろみたいな!?」」」

 

「嵐山さん!」

 

「隼人!」

 

 

『ふたたび打ち返したああああああああああああああ!こんな光景、あり得るんでしょうか!豪炎寺が放ったシュートを嵐山が打ち返し、さらにそれを豪炎寺が打ち返す!それだけでも驚くべき光景!しかし!それすらも嵐山が打ち返しました!』

 

 

「これで終わりだあああああああああああ!」

 

「くっ...まだだっ......っ!」

 

「「「豪炎寺!!!」」」

 

 

再度、俺の打ち返したシュートを打ち返そうと修也が立ち上がるが、すぐに膝をついてしまった。

そう...もう修也に立ち上がるだけの体力は残っていないんだ。

 

 

「う、う、うわああああああああああああああああ!」

 

バシュンッ...!

 

 

『ゴーォォォォォォォォォォル!豪炎寺修也、執念でシュートを打ち返しましたが、その執念すらも上回り、嵐山隼人がゴールを決めました!これほどの激しく荒々しいシュート...逃げてしまった大御所を攻めることはできないでしょう!』

 

 

ピッピッピィィィィィィィ!

 

 

「ハァ...ハァ.....終わった....か...」

 

「ハァ...ハァ....どうやら...そのようだな....」

 

 

『ここで試合終了!雷門が誇る二人のエースストライカー!勝負の軍配は嵐山隼人にあがりました!』

 

 

ドサッ

 

 

「ハァ...ハァ....さすがに....もう立てねえや....」

 

「ハァ...ハァ....お互いに...全力を出し切った...からな...」

 

 

俺と修也はその場に倒れこむ。

これ以上ないくらい、今日は疲れた。

だけどそれ以上に......

 

 

「「楽しかった!」」

 

「....フッ...あはは...!」

 

「今日は俺の負けだ....だが、次は勝つ。」

 

「んなわけあるかよ。俺が勝つさ、次もな。」

 

 

俺はそう言い、よろめきながらも立ち上がる。

そして修也の元へ歩み寄り、手を差し伸べる。

 

 

「立てるか?」

 

「フッ....ああ。」

 

 

修也は俺の手を取り、これまたよろめきながらも立ち上がる。

お互いに満身創痍だが、どちらも晴れ晴れとした顔をしていると思う。

 

 

「俺たちに勝ったんだ....このまま勝ち上がれよ。」

 

「任せておけ。この先どんな奴が立ち塞がってきても、俺は必ずそいつらを倒して優勝するさ。」

 

「フッ....」

 

 

俺と修也はそのまま握手する。

そんな俺たちの様子に、観客は盛大な拍手をしてくれた。

 

 

『御覧ください!熱き男たちが友情を分かち合っています!今日この試合を実況できたこと、私は誇りに思います!』

 

 

「じゃあ...いくよ。」

 

「ああ。お前の仲間が待っているぞ。」

 

「おう。.....次は、日本代表として会おうぜ。」

 

「っ!....ああ、当然だ。」

 

 

そう言って、修也は木戸川のベンチへと戻っていく。

俺も笑顔で待つあいつらの元へ。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

豪炎寺 side

 

 

「うぅ...ちくしょう...!」

 

「僕たちが....負けるなんて...」

 

「ありえない...みたいな...!」

 

 

勝たちが人目をはばからず泣いている。

みんながこの大会にかける想い、情熱は確かなものだった。

それだけにここで敗退するということに、涙を流しているんだろう。

 

 

「みんな、顔を上げろ。」

 

「豪炎寺...!」

 

「お前は泣かない...の....って...」

 

「豪炎寺...お前....」

 

「俺は.....っ........悔しい...さ。」

 

 

気付けば俺も涙を流していた。

目指していた目標に届かず、隼人には負けてしまったんだ。

悔しくて悔しくてたまらない。いや、悔しいなんて言葉じゃ足りないくらいだ。

 

 

「だけど...俺たちのゴールはここじゃない。まだまだ戦いは続くんだ。これから先も。」

 

 

俺は涙を拭って、イレブンのみんなをしっかりと見る。

 

 

「俺は...お前たちと共に戦えて、本当に良かった。ありがとう。」

 

「ご、豪炎寺....」

 

「それはずるいです...」

 

「泣かせに来るのは卑怯...みたいな..っ...!」

 

 

こうして俺たちのフットボールフロンティアは幕を閉じた。

だが何故だろうか。悔しい気持ちとは裏腹に、心はなぜか晴れやかなんだ。

隼人と決着を付けられたことで、俺の中で一つの区切りを迎えたんだろうな。

 

 

だがまだ終わってはいない。

日本代表となって、今度は隼人と一緒に世界一を目指す。

そのためにも、俺はまだ立ち止まるわけにはいかないんだ。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

激闘を終えて

嵐山 side

 

 

「だぁあぁぁぁあ....」

 

「ちょっと!はしたなくてよ!」

 

「今日くらい許してくれよ、夏未....」

 

 

俺は今、上半身裸に半ズボンというかなりラフな恰好でグラウンドのベンチに寝転がっている。

まあ、上半身裸なのはさっき夏未に湿布を貼ってもらったり、氷嚢を当ててもらっていたからだが。

 

修也たち木戸川清修との試合の翌日、俺の体はさすがに筋肉痛でバキバキとなっていた。

動けはするがかなりしんどかったので、学校には来たものの練習は見学となった。

というか、あいつらはよく練習なんてできるよな。

 

 

「いくぞ!ヒロト!」

 

「足引っ張るなよ!タツヤ!」

 

「ぬううう!”グングニルV2”!」

 

「ここはこう攻めた方が良いんじゃないかしら。」

 

「でもそうするとここが手薄に...」

 

 

全く...頼もしい奴らだよ、本当。

俺がいなくても、このチームならきっと大丈夫だ。

 

 

「しかし.....夏未。」

 

「どうしたのかしら?」

 

「どうして俺は膝枕されてるんだ?」

 

「あら、嫌かしら?」

 

「嫌ではないけど......逆に聞くけど、嫌じゃないのか?」

 

「うふふ...嫌ならとっくに払いのけているわ。そもそも私の方からやってあげたのよ?」

 

「まあ、そうだけど.....」

 

 

そのせいでさっき、八神にキレられた。何故だ...

結局八神は基山が引っ張っていってくれたおかげで何もなかったが。

 

 

「しっかし...準決勝は明後日、決勝はそのさらに3日後か。」

 

「それだけ準備期間があれば、合宿なんかできそうね。」

 

「ああ、雷門中に泊まったみたいに?」

 

「ええ。ああいうのも悪くないのではなくて?」

 

「そうだな。最後にみんなで集まって、ゆっくりするのも悪くないかも。」

 

 

あれがあったから、あの時円堂はしっかりリラックスできたと思うし。

最後までみんなで諦めずに戦う、そう思えるようにもなった気がする。

俺たちは雷門ではなく永世学園だけど、そういうのを真似るのは悪くないはず。

 

 

「それじゃ瞳子さんにもお願いしてみるかな。」

 

「ええ、そうしましょう。」

 

 

.....

....

...

..

.

 

円堂 side

 

 

「はああ!”正義の鉄拳”!」

 

バコンッ!

 

 

「ナイスです!円堂さん!」

 

「おう!次頼む!」

 

「はいっ!」

 

 

「もう...やっぱりここで特訓してた。」

 

「はっはっは。あんな試合見て、黙って休んでいられるほど出来た奴じゃないだろ、円堂は。」

 

「そうですけど....監督からも何か言って下さいよ。」

 

「まああいつは練習で疲れて試合でのパフォーマンスを落とす奴じゃないだろ。心配するな。」

 

「もう...監督まで...」

 

 

 

「うおおおおお!”真ゴッドハンド”!」

 

 

嵐山と豪炎寺のシュートの打ち合い...本当にすごかった。

今すぐにでも二人のシュートを止めてみたい、全力でぶつかってみたい、そう思うほどだった。

嵐山はきっと、準決勝も勝ち上がってくるはずなんだ。

 

 

「(勝負したい...嵐山と本気で!)」

 

 

ずっとあいつは、俺の仲間でいてくれた大切な友達だった。

でも、あの試合を見て初めて...俺は嵐山に勝ちたいって思ったんだ。

俺の中のすげえ奴と戦いたいって気持ち....嵐山は近くにいすぎて、戦いたい相手として見れていなかったんだ。

でも今は違う。ずっとそばにいた、一番すげえ奴と戦いたい。嵐山に勝って、優勝したい!

 

 

「まだまだ!坂野上!もっと打ってこい!」

 

「はいっ!いきますよ!」

 

「おう!」

 

 

待ってろ、嵐山!俺たちも準決勝、雷門を倒して決勝に進む!

だからお前らも、立向居に勝って決勝にあがってこいよ!

 

 

「うおおおおお!”正義の鉄拳”!」

 

 

.....

....

...

..

.

 

稲森 side

 

 

「はあ!”シャイニングバード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「”マジン・ザ・ウェイブ”!」

 

バシンッ!

 

 

「くそ~!止められた!」

 

「ふっふ~ん!どうだ、明日人!」

 

「うん!これならきっと、円堂さんたちにも勝てるはずだよ!」

 

「はっ!そう簡単にいけばいいけどな。」

 

「もう...灰崎はそうやってすぐ否定する~。」

 

「お前らは逆に考えが甘すぎるんだよ。」

 

「でもさ!でもさ!なんだかんだで俺たちベスト4だよ!次の利根川東泉に勝ったら、ついに嵐山さんともう一度戦えるんだ!」

 

 

あの練習試合の日から、俺は嵐山さんともう一度試合することを目標に頑張ってきたんだ。

嵐山さんは俺を鍛えてくれた...あの人に勝つことが、恩返しになる気がするんだ。

 

 

「ああ、もう既にあの人は捉えた。後は利根川を倒すだけだ。」

 

「あれ?灰崎が雷門に来たのって、そういうことだったの?」

 

「....ま、別に隠すことじゃねえしな。」

 

「へ~!」

 

「な、何だよ。わりぃかよ!」

 

「いや、別に~。」

 

「チッ...」

 

 

灰崎って結構悪ぶってるけど、嵐山さんを尊敬してたり、鬼道さんや監督の指示には従ったり、やっぱり面白い奴だな。

 

 

「...んだよ。なに笑ってみてやがる。」

 

「別に~。」

 

「くそっ...うざってえ...」

 

「そんなこと言うなよ!俺たち一緒に必殺技打った仲じゃん!」

 

「ふん...あれはてめえが一番使えそうだったから合わせてやっただけだ。」

 

「はいはい、わかってるって。」

 

「てめえ...本当にわかってやがるのか!」

 

 

全く灰崎は....でも、あの必殺技をもっとうまく打てたら、あの円堂さんからも点を取れるはず!

よ~し!もっともっと特訓するぞ!

 

 

「灰崎!あの必殺技の特訓しよう!」

 

「あ?....まあいいぜ。完成させるか。」

 

「完成させるんだよ!」

 

「「あの...」」

 

「”シャイニングペンギン”!をさ!」「”ホーリー・ザ・ペンギン”をな!」

 

「「......」」

 

「てめえ、何度言ったらわかりやがる!あれは”ホーリー・ザ・ペンギン”だ!」

 

「違うだろ灰崎!あれは”シャイニングペンギン”だ!」

 

「もう...二人とも、どっちでもいいじゃないそんなの...」

 

「良くない!」「良くねえ!」

 

「全く....仲良しなんだから。」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

二つの密会

嵐山 side

 

 

「はあ!」

 

ドゴンッ.....バシュン...!

 

 

「....まだまだ足りんな。」

 

「おいおい、いつまで練習してるんだ?不良少年。」

 

「っ!.....隼人か。」

 

 

既に空も真っ暗となった時間帯、俺は稲妻町にある公園のサッカー練習場へと来ていた。少し話をしておきたい奴がいたからだ。

 

 

「....あの試合以来だな、修也。」

 

「ああ、そうだな。」

 

「大会は敗退したのに、まだ練習とは....既に世界を見据えてのことか?」

 

「まあな。俺は日本代表に選ばれるつもりで日々を過ごしている。当然優勝は目指していたが、今回のフットボールフロンティアもあくまで通過点だった。」

 

「ま、それもそうだな。」

 

「......何か用があって来たんじゃないのか?フクさんからお前が訪ねてきて、この場所を教えたと連絡があった。」

 

「なんだ、聞いてたのか。」

 

 

連絡も無し家に行くのは悪いと思ったが、確認しておきたいことがあったから急いで修也の家に行ったんだ。まあ修也は最後だったけど。

 

 

「一応、修也も関係者だったからな....何か聞いていないかと思って来たんだ。」

 

「関係者...?」

 

「.....影山が姿を眩ましたらしい。」

 

「なっ!?」

 

 

風丸からその話を聞いて、俺は今日鬼道や円堂、そしてこうして修也に会いに来たんだ。鬼道は事前に佐久間や源田から聞いていたらしいが、鬼道自身は何も情報が無いと言っていた。

 

円堂の方も、響木監督が色々調べてくれているらしく、お前たちは大会に集中しろと言われたらしい。

 

 

「その様子だと初耳って感じか。....影山は警察に常に監視されていた。逃げ出すことなんて容易いことじゃない。」

 

「隼人...」

 

「黒幕がいるはずなんだ...確かに今の影山は絶大な影響力を持っているが、最初はただの中学生だった。一人であんな大それたことできるはずが...」

 

「隼人!」

 

「っ!」

 

「....落ち着け。お前の気持ちはわかる。だが響木監督も言っていたんだろう?今は大会に集中するんだ。」

 

「修也........いや、すまん....俺はただ、誰かに話を聞いてほしくて、こうして押しかけたんだろうな。」

 

 

影山は俺にとっても因縁深い相手だ。

円堂の祖父さんだけでなく、俺の祖父ちゃんとも関わりがあった。

そしてなぜか俺の両親についても何か知っているようだったし...

 

 

「風丸も念のため伝えてくれたんだろう。他意は無いはずだ、あまり責めるなよ?」

 

「元からそんなつもりないよ.......でも確かに冷静じゃなくなってたかもな。」

 

「ふっ...そんなときはいつでも俺たちを頼ればいいさ。」

 

「ああ......すまな...いや、ありがとう。」

 

「ああ。」

 

 

俺たちは近くにあるベンチに腰を掛けた。

修也が買ってきた飲み物を飲みながら、心を落ち着かせる。

影山が姿を眩ましたのは確かに気になるが、響木監督や修也の言う通り、今は大会に集中するべきだ。

 

修也を倒し、準決勝まで来たんだ。

戦いたかった立向居とも戦える。

決勝までいけば、円堂か...それとも稲森か。

どちらにせよ、準決勝も決勝も戦いたかった奴らが相手なんだ。

 

 

「すまない、修也。おかげで落ち着けたよ。」

 

「いや、気にするな。....準々決勝でお前たちと戦って、改めて思った。俺はお前に憧れていたんだ、とな。」

 

「え?」

 

「お前と戦いたい、お前に勝ちたい...日に日にその気持ちは大きくなっていた。その気持ちをあの試合で、全力でぶつけたつもりだ。」

 

「.....ああ、俺も同じ気持ちだった。」

 

 

全力の修也とぶつかれて、俺は最高に楽しかった。

修也こそが、俺の最高のライバルだと感じるほどに俺は全力だった。

 

 

「そして今は、お前に負けたことでまた別の気持ちを抱いているんだ。」

 

「別の気持ち...?」

 

「ああ。...こんな最高の友と一緒に、世界を制覇したい...とな。」

 

「っ!」

 

「隼人。俺はお前と一緒に世界と戦いたい。だからこそ、今は影山のことなど忘れて、この大会で結果を残せ。そして代表に選ばれてみせろ。」

 

「修也...........ああ、わかってる。絶対に二人で世界と戦おう。俺たちが力を合わせたら...今度こそ世界に届くはずさ。そして必ずあいつら....クラリオたちにリベンジしよう!」

 

「ふっ...いつものお前に戻ったな。」

 

「お前のおかげだよ、修也。」

 

「ふっ....そうか。」

 

 

さあ、そうと決まったら明日の準決勝に向けてしっかり寝よう!

久しぶりに実家に帰って、祖父ちゃんとばあちゃんにパワー貰ってくるか。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

No side

 

 

とある建物の一室にて、二人の男が向かい合って座っていた。

一人はこの部屋の所有者である、少年サッカー協会統括チェアマンである、轟伝次郎。そしてもう一人は雷門中サッカー部監督の趙金雲だ。

 

 

「ほう...これが君の選んだ、現時点での日本代表かね。」

 

「ええ、そうでス。」

 

「ふむ...」

 

 

轟は渡された資料を1ページずつ、じっくりと見ていく。

最後までめくり終えた轟は、ある事実に気付き驚く。

 

 

「彼は...何故代表に選ばれていないんだね?」

 

「彼は確かに代表入り確実と言われていまス。そして私自身、彼がいれば優勝を目指せるだろうと思っていまス。」

 

「ならば何故....」

 

「だからこそ、でスよ。彼がいれば勝てる...逆を言えば、彼がいなければ勝てない....そんな状態で優勝を目指せば、彼一人に頼ることになってしまう。」

 

 

いつもは飄々としている趙金雲だが、今は普段見せないような真面目な表情で轟と話している。そんな趙金雲に、轟も緊張を感じていた。

 

 

「彼一人に頼る...それではダメなのでス。次の世界大会、開催地がロシアになった時点で私はあなたに接触した。」

 

「うむ。」

 

「それはなぜか。答えは簡単でス。次の世界大会がただのサッカー大会で終わらないからでス。」

 

「君の言っていた、オリオン財団のことだね。」

 

「ええ。それだけではありません。オリオン財団は今、とある企業と手を組んで世界を支配しようともくろんでいる。」

 

「世界を.....して、その企業とは一体...」

 

「オイルカンパニー。」

 

「なっ!?つ、つまり奴らは...!」

 

「ええ、あなたの予想する通りでス。オイルカンパニーには、兵器を開発しているという黒い噂がある。そしてオイルカンパニーによる石油資源は世界で7割にシェアを誇っている。」

 

「オイルカンパニーが資源を独占すれば、限られた資源をめぐって戦争が起こる....そしてそこに開発している兵器を売ってさらに儲けを得る...」

 

「それだけではありません。オリオン財団は戦争や紛争によって生まれた孤児を支援する活動を行っている。」

 

「うむぅ....完全なマッチポンプというわけか。」

 

「今回の世界大会、我々は示さなければならないのでス。彼らと戦うという意思を。そのためには皆が彼らと戦えるほどに強くならなければならないのでス。」

 

「そのために....彼を代表から外した、というわけか。」

 

「ええ。.....彼には申し訳ありませんが。」

 

「ふむ....だが、こんな話になった以上は彼には納得してもらうしかなかろう。」

 

「お願いできまスか?」

 

「ああ。もしも彼や彼に関わりのある人物が選考理由について問い合わせてきた場合は、私が対処しよう。しかし、代表の人間が君に直接聞く可能性もある。」

 

「ええ、その時は私が対処しまスよ。」

 

「うむ。....では今日の話は以上だ。」

 

「ええ、失礼しまス。」

 

 

そう言って、趙金雲は部屋から出ていった。

残された轟は椅子から立ち上がり、窓の外を眺めながら考え事をしていた。

 

 

「(彼には申し訳ないことをする...だが、奴らと戦うには必要なことなのだ。わかってほしい....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嵐山君。)」

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

激突!陽花戸中!

嵐山 side

 

 

『さあいよいよこの日がやってまいりました!並みいる強敵を打ち倒し、ベスト4へと登り詰めた4校が、最後の戦いの舞台への切符を賭けて激突します!まずは準決勝第一試合!Aブロックの覇者、永世学園!』

 

 

大きな歓声とともに、俺たちはフィールドへと入っていく。

ついに準決勝だ。楽しみにしていた立向居との試合....全力でぶつかっていく。

 

 

『続いてBブロックの覇者!鉄壁の防御力を誇る今大会初出場のダークホース!陽花戸中!』

 

 

ふたたび歓声があがり、それと同時に立向居たちがフィールドへと歩いてくる。

前にあった時は緊張でおどおどしていた立向居だが、今日は戦う男の顔をしている。どうやら仕上がっているようだな。

 

 

『第一試合はこの2校が試合を行います!勝った方が決勝に一番乗り!果たして勝利の栄光を掴み取るのはどちらか!』

 

 

俺たちはそれぞれのポジションへと散っていく。

立向居とは言葉は交わさなかった。いや、言葉など不要だった。

立向居の目がまっすぐに俺を捉え、こう伝えてきたのだ。

"俺たちが勝つ!"とな。だから俺も立向居を見て心の中で告げた。

 

 

「俺たちが勝つ!いくぞ、お前ら!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

「全力でぶつかって、嵐山さんに勝つぞ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

ピィィィィィィィィィ!

 

 

『さあキックオフです!』

 

 

「最初から全力でいくぞ!南雲、涼野、ヒロト!」

 

「了解だぜ!」

 

「私たちの力、見せてやる!」

 

「俺様に任せておきな!」

 

 

俺たち永世ボールでキックオフ。

今回の俺たちのスタメンはフォワードに俺、ヒロト、南雲、涼野。ミッドフィルダーに基山、緑川、八神。ディフェンダーに倉掛、本場、蟹目。キーパーに砂木沼といったメンバーとなっている。

 

 

「基山!いつも通り頼んだぞ!」

 

「はいっ!」

 

 

俺は基山にボールを渡すと、先にあがっていった3人を追いかけるようにあがっていく。ここまで勝ち上がってきた以上、陽花戸も強いチームなんだろう。

 

だが、全国常連の木戸川清修を倒したことで勢いづいている今の永世学園を止めることができるチームなんて、数えるほどしかいない!

 

 

「くっ...誰をマークすれば...」

 

「落ち着け、お前たち!それぞれがしっかりとマークを...」

 

「遅えよ!」

 

「なっ!?」

 

 

開始早々に一気に全員で攻めあがったことで、陽花戸イレブンは誰につけばいいかわからずに混乱していた。キャプテンである戸田が何とかしようとするが、ヒロトが混乱しているディフェンダーたちを抜き去っていく。

 

 

「よし!受け取れ、ヒロト!”スターループ”!」

 

ドゴンッ!

 

 

ディフェンダーを突破してゴール前に躍り出たヒロトに、基山はすぐさまパスを出した。ボールは綺麗なアーチを描いて、ヒロトの元へと渡る。

 

 

「受け取ったぜ!」

 

「っ!(来る...!)」

 

「くらいな!”ザ・エクスプロージョン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

そして、早速ヒロトによってシュートが放たれた。

さあ立向居、お前の力を見せてみろ!

 

 

「止める!うおおおお!”真マジン・ザ・ハンド”!」

 

バシィン..!

 

 

『と、止めたああああああ!永世学園の速攻を物ともせず、冷静に、そしてしっかりと止めてみせました!』

 

 

「チッ...なかなかやるみたいじゃねえか。」

 

「(すごいシュートだ。手がビリビリしてる...でも、これなら止められる!)筑紫さん!」

 

「おう!」

 

 

ヒロトのシュートを完璧に止めてみせた立向居は、すぐさま陽花戸のディフェンダーにボールを渡す。

 

 

「甘い!私たちの速攻はこの程度では終わらん!」

 

「なっ!?」

 

「はあ!」

 

「ぐっ...!」

 

 

だが、ボールを受け取った筑紫に対して涼野がスライディングし、ボールを奪い去った。涼野はすぐさま立ち上がり、奪ったボールでドリブルを始める。

 

 

「今度は私がいく!受けるがいい...凍てつく闇の冷たさを!”ノーザンインパクト”!」

 

ドゴンッ!

 

 

今度はヒロトとは逆方向から、凄まじい速さでシュートが突き進んでいく。

だが立向居は落ち着いており、冷静にシュートに対して正面を向くと必殺技の構えをとる。

 

 

「はあ!”真ゴッドハンド”!」

 

バシィン..!

 

 

「くっ...!」

 

 

またしても、立向居はこちらのシュートを完璧に止めてみせた。

なるほど...これが立向居の実力か。これは想像以上に苦戦しそうだ。

 

 

「っ...(さっきは筑紫さんの方にボールを渡して、すぐに取られてしまった。今度は石山さんの方が空いているけど、不自然な空き方だ。つまり...)筑紫さん!」

 

「え、俺!?」

 

 

なるほど...こちらが罠を仕掛けていることにいち早く気付いたか。

去年とは比べ物にならないほどに成長している。だが、まだまだ甘いな。

 

 

「残念だったな!」

 

「なっ!?(どうして!?罠は石山さんの方じゃ...!)」

 

「(まだお前は俺の手のひらの上だぞ、立向居。相手の動きを読み、さらにその上を行く戦術を繰り出す...理解しない限りは抜け出すことができない!)」

 

 

「おらあ!もう一発くらいな!”アトミックフレア”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「くっ...それでも!うおおお!”真マジン・ザ・ハンド”!」

 

バシィン..!

 

 

「んだと!?」

 

「よし...!」

 

 

これも止めたか...!立向居の力がこれほどとは...少し想定外だな。

だがどんなにすごい奴でも、突破口は必ずある! 

 

 

「(くっ..今度は...)玄界さん!」

 

「お「もらった!」う...っ!」

 

「そんな!(今度は嵐山さんが...!)」

 

「勝負だ、立向居!お前の全力を見せてみろ!」

 

「っ!」

 

「”ウイングショットS”!」

 

ドゴンッ!

 

 

今度は俺の放ったシュートが立向居を襲う。

まずは挨拶替わりの一発だ。これを止められないようじゃ、勝負にならないぜ?

 

 

「(嵐山さんは俺を試しているんだ。どれだけ俺が成長したのかを....だったら!)見せてあげます、嵐山さんに!今の俺の本気を!はあああ!」

 

「っ!(これは...立向居の周りに無数の手が見える...まさかこれが...!)」

 

「”ムゲン・ザ・ハンド”!」

 

 

立向居が自分の周りに手のオーラを発現させ、まるで祈るように両手を合わせた後、押し出すようにその手のオーラをボールへと向かわせる。オーラはボールを掴み、発現させたうちの4本の手がボールを抑える。

 

 

「はあ!」

 

バシィン!

 

 

そして俺の放ったシュートを、立向居は完璧に止めてみせた。

なるほどな...これが円堂の祖父さんが残した究極奥義の一つ、”ムゲン・ザ・ハンド”か。だが思ったよりは...といった印象だな。

 

 

「(これなら突破できる。陽花戸は1点を守り切る戦いで勝ち上がってきたようだし、逆にこちらが1点でも取れたらほぼ確実に勝てるはずだ。)」

 

「今度こそ.....筑紫さん!」

 

「おう!...志賀!」

 

 

さすがに連続でのボール奪取はここまでで、立向居から筑紫へとボールが渡り、筑紫はすぐさま前線へとパスを出した。

 

 

「おっしゃあ!今度はこっちの番たい!松林!」

 

「よかよ!」

 

 

ボールを受け取った志賀は、前線へとあがっていく松林と合流し、なぜか横並びになった。一体何をしようというのか。

 

 

「「”ニニンサンキャク”!」」

 

「な、何だ!?」

 

「ドリブルじゃなくて....足に挟んで走ってる!?」

 

 

何と二人は肩を組むと、お互いの右足と左足でボールを挟んでドリブルではなくそのままボールを二人三脚の足を縛る紐のように扱って走り出した。

 

そのスピードは当然、普通にドリブルするよりも早く、基山と緑川は簡単に抜かれてしまった。

 

 

「止める!」

 

「通さないわ!」

 

「「よっと。」」

 

「道端!」

 

 

蟹目と倉掛が二人の前に立ち塞がる。

だが二人はすぐさま今の状態を解除すると、パスを出した。

 

 

「よし!キャプテン!黒田!嵐山さんに”アレ”、見せてやろうぜ!」

 

「「おう!」」

 

 

アレ...だと?一体何をするつもりだ...?

戸田と黒田は道端の言葉に頷くと、道端の両隣を走り抜ける。

道端は腕を組んでボールに片足を置いている....っ、まさか!

 

 

「うおおおお!」

 

ドゴンッ!

 

 

道端は上空へとボールを蹴り上げると、ボールには稲妻のようなオーラが溜まる。

そしてそれは上空のある一定の場所で止まると、雷雲から雷が落ちるようにボールがあらわれる。

 

 

「いくぞ!」

 

「これが!」

 

「俺たちの!」

 

 

そして3人はそれぞれボールの上、右、左から思い切りシュートを放つ。

そう...これはまさに...

 

 

「「「”イナズマブレイク”!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

『ななななななな何とおおおおおおおおおおお!陽花戸中がまさかの”イナズマブレイク”!立向居の”ゴッドハンド”や”マジン・ザ・ハンド”といい、我々は雷門の試合を見ているのか!?』

 

 

「な、何という威力....だが、我が槍で受け止めてみせよう!”グングニルV2”!」

 

 

”イナズマブレイク”と”グングニル”がぶつかり合う。

激しいスパークを発生させながら、お互いが押し合うが...

 

 

「ぐっ...何のこれしきぃ...!」

 

 

徐々に砂木沼が押され始めた。

だが砂木沼も気合で耐えている。

 

 

「ぐぐ....うおおおおおおおおおおお!」

 

バシィン!

 

 

「くっ...!」

 

「ダメか...!」

 

 

そして何とか押し返し、ボールは弾かれた。

弾かれたボールは本場がキープし、陽花戸の攻撃を止めることができた。

 

 

「本場!こっちだ!」

 

「おう!任せたぞ、タツヤ!」

 

 

ボールは基山へと渡り、基山を中心に緑川、八神が集まってくる。

もう一度、速攻を仕掛けて立向居から点を奪う!

 

 

「いくぞ!」

 

「「「必殺タクティクス、”ギャラクティックタワー”!」」」

 

「受け取ってください!嵐山さん!」

 

ドゴンッ!

 

 

基山たちは天高く舞い上がり、陽花戸イレブンの届かない遥か上空からパスを繰り出す。当然邪魔できる者はいないので、俺は容易くパスを受け取る。

 

 

「さあ立向居!今度はちょっと本気でいくぞ!」

 

「っ!(来る...嵐山さんの本気...!さっきのはやっぱり小手調べだったんだ。)」

 

 

「はああああああ!”真・天地雷鳴”!」

 

ドゴンッ!

 

 

雷鳴を纏ったシュートは、天地に轟音を響かせながらゴールへと突き進む。

さあ立向居!このシュートは止められるか!

 

 

「止める!”ムゲン・ザ・ハンド”!」

 

 

ふたたび無数の手のオーラが、俺の放ったシュートにまとわりつく。

だが今度はボールを掴もうとした手がことごとくひび割れていく。

 

 

「ぐっ...!(くそ...ダメなのか...!)」

 

「どうした立向居!お前の力はその程度か!」

 

「っ.......まだまだああああああああ!」

 

 

俺の煽りに応えるかのように、立向居はもう一度無数の手のオーラを発現させた。

今度はボールを掴んだ手がひび割れる前に、さらにその上に手のオーラを被せる。

 

 

「うおおおおおおおおおおお!」

 

バシィン....!

 

 

「っ!(進化...なのか。ボールを止める手のオーラが増えたことで、打ち破られそうだった状況を打破したか。)」

 

「ハァ...ハァ....ゴールは割らせませんよ!嵐山さん!」

 

「.....ふっ...面白い。絶対お前からゴールを奪って、俺たちが勝ってやるよ。」

 

 

これは想像以上の我慢比べになりそうだな。

だが必ずお前を打ち破り、ゴールを奪ってみせよう。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

成長する若者

嵐山 side

 

 

「よし...筑紫さん!」

 

「おう!」

 

「みんな!こっちも負けずに攻めるぞ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

陽花戸イレブンはふたたび、パスを中心にボールを回し始めた。

だがそのボール、こちらが貰うぞ。

 

 

「基山!」

 

「はいっ!....必殺タクティクス、”アウトバースト”!」

 

「な、何だ!?」

 

 

基山がタクティクス発動を宣言すると、基山を中心に八神、倉掛、本場の4人が強烈な光を発して、あたり一面が真っ白に染まる。

 

 

「もらったよ!」

 

「えっ?....っ、ボールが...!」

 

「へへ、こっちさ。」

 

 

そしてその間に、控えていた緑川が相手からボールを奪い去った。

タクティクスだの、”アウトバースト”だのかっこよく言ってるが...ま、端的に言うと目くらましだな。

 

 

「速攻を仕掛けるぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

「くっ...止める!」

 

「遅い!”ワープドライブ”!」

 

 

タクティクスの範囲から離れていた陽花戸ディフェンダーが、すぐさま緑川のマークにつく。だが緑川も必殺技によって相手を抜き去っていく。

 

 

「よし!晴也!」

 

 

そして前線にあがっている南雲にセンタリングを上げる。

南雲はそれを見て勢いよく飛び上がった。

 

 

「今度こそ決めてやるよ!”アトミックフレアV2”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「進化した...!でも俺は負けない!」

 

「はっ!それだけじゃねえぜ!」

 

「えっ?」

 

 

南雲が言ったように、シュートは立向居の方ではなく下方向へと落ちていく。

だがそこに、一人の男が走りこんできていた。

 

 

「紅蓮の炎をも凍らせる...凍てつく闇の力をみよ!”ノーザンインパクトV2”!」

 

ドゴンッ!

 

 

『シュートチェイン!南雲の”アトミックフレア”と涼野の”ノーザンインパクト”!炎と氷の相反する力が混ざりあう、強烈なシュートが立向居を襲う!』

 

 

「っ...それでも俺は!このゴールを割らせない!”ムゲン・ザ・ハンドG3”!」

 

「っ!(さらに進化しただと...!?)」

 

 

立向居は無数の手のオーラを発現させ、今度は俺の”天地雷鳴”を止めた6本の時より多い8本の手でボールを抑え込む。

 

 

「うおおおお!」

 

バシィン..!

 

 

そしてそのまま南雲と涼野のシュートを完全に止めてしまった。

さっきまでの立向居だったら、今のでゴールできていた想定だった。

だが立向居はそれを上回る進化を、今この場で遂げてみせた...

 

 

「ゴールは割らせない!」

 

「っ!」

 

 

何だ...今のゾクッとした間隔...立向居の急速な成長に恐怖してる...のか。

面白い...ライバルってのはそうでなくちゃな。

 

 

「(お前からゴールを奪うのは俺だ...立向居...!)」

 

「石山さん!」

 

「オッケー!」

 

 

立向居から石山へとボールが渡る。

俺はそんな石山に全速力で近付き、立ち塞がる。

 

 

「なっ!?」

 

「ボール...渡してもらうかな。」

 

「っ....(ど、どうやって抜く...?)」

 

 

石山は俺を抜くビジョンが見えないのか、完全に固まってしまっていた。

悪いが、これなら簡単にボールを奪える。

 

 

「はあ!」

 

「っ!」

 

 

俺はステップを踏むように、回転しながらかかとでボールを蹴って奪い取る。

祖父ちゃんの遺品の中にあったビデオテープに映っていた、昔の日本代表選手のテクニックだ。

 

 

「くっ...立向居、すまん!頼む!」

 

「任せて下さい!」

 

「大した自信だな、立向居!だったら俺の本気のシュート、止めてみろ!」

 

「っ!」

 

「はああああああああ!”バイオレントストームG2”!」

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 

ドゴンッ!

 

 

今の俺が放てる最強の必殺技だ。

もしもお前がさらに進化するというなら、このシュートを止めてみせろ!

俺をもっと楽しませてくれ!

 

 

「(な、何て迫力なんだ...立っているだけで精一杯だ....っ...でも...!)俺は陽花戸中のゴールキーパー!ここに立っている以上、ゴールは絶対に割らせない!”ムゲン・ザ・ハンドG3”!」

 

 

立向居の発現させた8本の手のオーラが、俺の放った”バイオレントストーム”を抑え込んでいく。だがそれでもシュートの威力は収まらず、抑え込まれている手を押しのけようと暴れていた。

 

 

「ぐっ....く....何て威力なんだ...!」

 

 

さすがの立向居も、俺の渾身のシュートを受け止めきれずに徐々にゴールへと押し込まれていた。

 

 

「っ...うぐ....ぐっ.......っ!まだだあああああああああ!」

 

「なっ!?」

 

 

ついに立向居も折れたか、そう思った瞬間だった。

立向居は吠えるとさらに手のオーラを増やし、さっきよりもガッチリとボールを掴む。

 

 

 

「うおおおおおおおおお!」

 

バシィン..!

 

 

そして、ついには俺の最強の必殺技である”バイオレントストーム”すらも、立向居は止めてしまった。

 

 

「ば、馬鹿な...」

 

「嵐山さんのシュートが、止められた...?」

 

「あの必殺技を止めるなんて...」

 

「どうやってあのキーパーからゴールを奪えば...」

 

 

俺の最強シュートが止められたことで、永世イレブンは動揺してしまっていた。

このままではマズイな...何とか立向居を打ち崩さなければ。

1点も取れなければ、試合には勝てない。立向居がゴールをこうして守り続ける限り、俺たちに勝ち目はない。

 

 

「玄界さん!」

 

「よし!」

 

「こっちだ!玄界!」

 

「任せた!キャプテン!」

 

ドゴンッ!

 

 

今度は陽花戸中の反撃が始まった。

立向居からボールを受け取った玄界は、戸田の声に従って戸田へとロングパスを出す。

 

 

「受け取ったぞ!」

 

「ここは通さない!」

 

「っ、俺たちだってここまで来たんだ!こうなったら優勝するしかないだろ!いくぞ、松林!」

 

「おう!」

 

「「”ニニンサンキャク”!」」

 

「くっ...!」

 

 

戸田と松林による”ニニンサンキャク”によって、止めに入った八神が抜かれてしまった。二人はそのまま”ニニンサンキャク”を継続して進み続ける。

 

 

「くそ!ボールを奪う隙が...!」

 

「どうやって奪えば...!」

 

 

そのままの勢いで、戸田と松林はゴール前へと一直線に駆けていく。

蟹目と倉掛も止めに入ろうとするも、二人の間に挟まれたボールへの手出しができず止められないでいた。

 

 

「よし...ここだ!決めてくれ、キャプテン!」

 

「おう!....はあああああ!”レインボーループ”!」

 

ドゴンッ!

 

 

戸田によって、シュートが放たれた。

シュートはゴールを正面から見て左へと流れていったため、砂木沼もそれに合わせて左に寄った。

 

 

「ふん...止めてやろう。”ドリル...」

 

「甘いたい!」

 

「ぬっ!?」

 

 

するとそこに、黒田が走りこんできた。

 

 

「俺たち陽花戸中の絆、見せるたい!”ダブルグレネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

走りこんできた黒田は、戸田の放った”レインボーループ”にシュートチェインして軌道を変えてきた。

 

 

「くっ...!」

 

 

砂木沼は完全に逆を突かれてしまい、体勢を崩しながらも方向転換する。

 

 

「ゴールは割らせん!うおおおおおおおおお!」

 

 

砂木沼は横っ飛びのように右手を突き出しながら、反対側へと飛び込んだ。

砂木沼の気迫に応えたかのように、砂木沼の右手とボールがぶつかる。

 

 

「ぐっ!....うおおおおおおおおお!」

 

「まさか逆を突かれても追いつくなんて...」

 

「でも必殺技無しで俺たちのシュートを止められるわけがないたい!」

 

 

「くっ...な、舐めるなああああああああ!」

 

「「っ!?」」

 

 

砂木沼はその場に倒れこみながらも、ボールとぶつかり合う右手だけは力を抜かなかった。

勢いはまるで止まっていないが、なぜか砂木沼の右手とボールは磁石でくっついているかのように動かない。

 

 

「うおおおおおおおおお!」

 

バシィン...!

 

 

「なっ!?」

 

「そんな馬鹿な!?」

 

 

ついには、砂木沼は右手を裏拳のように振りぬき、シュートを弾いてみせた。

そして砂木沼は何事も無かったかのように立ち上がり、いつものように腕組みしてみせる。

 

 

「ふはははは!この砂木沼がいる限り、永世学園のゴールは割らせんぞ!」

 

「(あいつ...たくましくなったな。)」

 

「よし!こっちだ!」

 

 

弾かれたボールは緑川が確保し、今度はふたたびこちらの攻撃となった。

だが....今の立向居はまさに鉄壁だ。どうやってゴールを奪う...

 

 

「嵐山さん、ちょっといいか?」

 

「南雲、涼野...どうした?」

 

「私たちに策があります。」

 

「策...?」

 

 

俺が立向居からどうゴールを奪うか考えていると、南雲と涼野が近寄ってきた。

涼野が言うには策があるとのことだが....一体なにをするつもりだ?

 

 

「俺と風介に任せてくれねえか。」

 

「私たちで必ず1点を奪います。だから...!」

 

「.........わかった。」

 

「「っ!」」

 

「お前らの目を見ればわかる。相当な覚悟を持った目だ。それほどまでなら、お前らに賭けてみるのも悪くない。」

 

「じゃあ!」

 

「ああ。お前らに任せる。必ず決めてこい、晴也、風介。」

 

「っ!...はいっ!」

 

「おう!任せてくれ!」

 

 

さあ、もう一度攻めていこうか。

二人を信じて、俺たちのサッカーで!

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

先輩の意地

嵐山 side

 

 

「緑川!こっちにボールを回してくれ!」

 

「嵐山さん...わかりました!」

 

「そうはさせない!」

 

「嵐山さんにボールが渡ったらヤバいからな!」

 

 

俺の指示により、緑川は俺へとボールを渡すよう動き出した。

だがそれを聞いた陽花戸イレブンは、すぐさま緑川と俺の守備についた。

 

 

「っ....タツヤ!」

 

「任せろ!」

 

 

それを見た緑川は、すぐに基山へとパスを出した。

基山は俺の方をチラッと見てから、すぐに前を向いてドリブルで駆けあがり始める。

 

 

「止めろ!」

 

「っ!」

 

 

だが今度は基山にマークがついた。

しかも3人ものディフェンスがついており、基山を中心に三角形の陣形で囲んでいる。

 

 

「彼もこのチームの主要人物....警戒は十分にしなければならないからね。」

 

「(かなり研究してきたようだな。...ま、基山は確かにこのチームの要。逆に言えば、基山さえ止まらなければこのチームは止まらない。)」

 

 

「この程度...!はあ!”サザンクロスカット”!」

 

「「「うわあああああ!」」」

 

 

『基山が抜いたあああああ!3人のディフェンスをものともしない、圧倒的なパワーだ!さあ、このまま基山が持ち込むか!?それとも陽花戸が守るか!』

 

 

 

「ヒロト!受け取れ!”スターループ”!」

 

ドゴンッ!

 

 

基山から星のアーチによってボールが運ばれ、ヒロトへとボールが渡る。

これで一気に前線までボールが運ばれたことになった。

 

 

「はっ!任せな!オラオラ!俺様が通るんだ!道を空けな!」

 

「っ!うわああ!」

 

「な、何て強引な突破なんだ!」

 

 

ボールを受け取ったヒロトは、持ち前の身体能力を活かして強引に中央を突破していく。

残る陽花戸のディフェンダーは2人だ。それも抜いてしまえば、後はゴールを守る立向居のみ!

 

 

「行かせない!」

 

「立向居ばかりに負担はかけられねえ!」

 

「くくく!その程度のディフェンスじゃ俺は止められねえよ!”ジグザグストライク”!」

 

「くっ!」

 

「は、早い...!」

 

 

ヒロトは”ジグザグストライク”によって不規則な動きでディフェンスを翻弄、そのまま高速で抜き去っていく。

 

 

「っ!(来るか...!)」

 

「オラ!...何てな!受け取れ!嵐山サン!」

 

ドゴンッ!

 

 

ヒロトはそのままシュートを打つ、と見せかけて体を捻り、俺へとシュート並みの威力でボールを蹴る。シュートと同じレベルのパスのため、ものすごい勢いで俺の足元へと飛び込んできた。

 

 

「よっと....」

 

 

俺はそれを足でトラップし、そのまま前に落としてドリブルを始める。

俺にもディフェンダーはついているが、俺の速さについてくるのがやっとなのか、必死についてきているだけでディフェンスはされていない。

 

 

「(これなら楽にやれそうだな。)」

 

 

俺はドリブルであがりながら、本来の目的を達成するための確認を行う。

俺が反対サイドを見ると、晴也と風介が駆けあがっているのが見えた。

どうやらしっかりあがってきているようだし、このまま仕掛けるか。

 

 

「(嵐山さんが走ってきてる...!)」

 

「いくぞ、立向居!」

 

「っ!」

 

 

俺は大きく足を振りかぶり、シュートを打つような体勢に入る。

それを見た立向居も、すぐに対応できるよう構えに入った。

 

 

「...何てな。」

 

「えっ?」

 

「悪いが今回は俺じゃなくてあいつらが決めてくれるみたいだからよ。」

 

 

そう言って、俺はボールを蹴るふりをして空振りをし、立向居の虚を突いて反対サイドへとセンタリングを上げる。

 

 

「さあ決めろ!晴也!風介!」

 

「おう!」

 

「私たちが決める!」

 

 

そして俺が上げたセンタリングに飛びつくように、晴也と風介がほぼ同時にジャンプする。

 

 

「しくじるなよ、風介!」

 

「そちらこそ、晴也!」

 

「”ファイア”!」

「”ブリザード”!」

「「”改”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

王帝月ノ宮との試合でも放った、炎と氷の合体技が放たれた。

さらに進化した”ファイアブリザード”は、炎と氷の螺旋を描きながらゴールへと突き進んでいく。

 

 

「くっ...止めてみせる!はあああ!”ムゲン・ザ・ハンドG4”!」

 

 

立向居は体勢を崩しながらも、二人の正面を向き、”ムゲン・ザ・ハンド”を繰り出した。

12本の腕がボールを抑え込み、完全にボールは見えない状態となった。

炎と氷のオーラも見えなくなっており、これも止められたか...と思ったその時だった。

 

 

「くっ...な、なんだ...このパワー...!」

 

「俺たちの試合にかける想いが詰まってるんだ!」

 

「無限の手に阻まれようとも、私の氷がそれを凍てつかせ...」

 

「俺の炎でそれを打ち砕く!」

 

 

二人が言うように、完全に抑え込んでいると思われていた”ムゲン・ザ・ハンド”は、内側から徐々に凍りはじめ、漏れだした炎の熱気によってひび割れ始めた。

 

 

「くっ...俺は...ゴールを守る...!絶対に...!」

 

「はっ!だったら俺たちは絶対にゴールを奪ってやるよ!」

 

「私たちの力、思い知るがいい!」

 

「くっ...うぅ...うおおおおおおおおお!...っ、ぐあああああああ!」

 

バシュン...!

 

 

『ゴーォォォォォォォル!鉄壁を誇っていた立向居勇気!しかしながら、南雲と涼野の合体技によってついに打ち砕かれました!1vs0!これは大きな1点です!』

 

 

「よっしゃああああ!」

 

「ふっ...」

 

「ナイスシュートだぞお前ら!」

 

「決めてやったぜ、嵐山さん!」

 

「私たちの力、見てくれましたか。」

 

「ああ!お前ら最高だぜ!」

 

 

俺はゴールを決めた二人をほめたたえる。

欲を言えば、俺がゴールを決めたかったが...まだ前半だ。

前半の残り時間は僅かだから難しいかもしれないが、後半で必ず立向居からゴールを奪ってみせる!

 

 

「くっ...」

 

「大丈夫か、立向居。」

 

「すみません、キャプテン...ゴールを守れませんでした...」

 

「気にするな、立向居。」

 

「そうたい。お前は頑張ってるんだ。それに簡単に抜かれちまった俺たちディフェンスの方が悪いさ。」

 

「でも...」

 

「立向居、俺たちを信じてないのか?」

 

「えっ...?」

 

「俺たちが点を取れないから、自分が守り切って戦うしかない...お前はそう思っているってことか?」

 

「ち、違います!俺は皆さんを信じてます!」

 

「だったら謝るのは辞めろ。俺たちが必ず点を取ってくる。だからお前は次の1点を守ることだけ考えろ。」

 

「キャプテン............はいっ!」

 

「よし。....いくぞ、お前ら!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

どうやら1点を取られたことで、チームの団結力がさらにあがったみたいだな。

俺は立向居から点を取るつもりではいるが、そう何度も簡単に取れるほど、立向居は甘くない。

この1点をどう守り抜くか.....いや、そんな保守的な考えで勝てる相手か?

 

確かにはっきり言って、個々の力、チーム力など、俺たち永世学園の方が上だ。

だが陽花戸が弱いかと言えば、そういうわけではない。彼らは間違いなく全国レベルのチームだ。

そんなチーム相手に1点を守り切る戦いを仕掛けたところで、覆されるのがオチだろう。

 

 

「(だったら俺たちはいつものように、攻めて攻めて攻めまくるだけだ。)」

 

「(キャプテンや皆さんが俺を支えてくれる....もう1点も取らせない!俺がこのゴールを守る!)」

 

「(勝負だ!立向居!)」「(勝負だ!嵐山さん!)」

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

『さあ!陽花戸ボールで試合が再開!1点を取られた陽花戸、果たしてどう攻めていくか!』

 

 

「道端!」

 

「任せるたい!」

 

 

戸田はボールを中盤に渡して、前線へと駆けあがっていく。

そして中盤の選手たちは近くに寄って固まると、なにやら特殊な陣形を組みだした。

 

 

「いくたい!」

 

「「「「「必殺タクティクス、”玉せせり”!」」」」」

 

「な、何だありゃ!」

 

「味方同士で、ボールを奪い合っている!?」

 

 

何と陽花戸イレブンは攻めあがっているフォワードの3人と、キーパーの立向居を除いた全員で一か所に集まり、味方同士でボールを奪い合いながら攻めあがってきた。

 

 

「意味わからねえタクティクスだが...俺たちもボールを奪えばいいんだろ!」

 

「待て、ヒロト!」

 

 

ヒロトが突っ込んでいくが、策も無く突っ込むのはマズイ!

俺はそう思ってヒロトを止めるが、ヒロトはそのまま突っ込んでいってしまった。

 

 

「うおおおおおおお!退きやがれ!...っ、くそ、何だこのパワー...!全然中に入り込んでいけねえ...!」

 

「これが俺たちの必殺タクティクス、”玉せせり”たい!」

 

「俺たちが密集することでおしくらまんじゅう状態となり、簡単にはボールのある内側には行けない仕組みたい!」

 

「くそ...が...あああ!ぐわあああ!」

 

 

ついにはヒロトが弾き出されてしまった。

密集して動くことで、その中央にあるボールに触れさせない...シンプルだが強力なタクティクスだ。あの密集の中に入り込むことができる人物か、あの密集をものともしないパワーが必要になってくる。

 

 

「進め進めえええええええええええ!」

 

「俺たちが必ず1点を奪うんだ!」

 

「くっそ...近付けねえ...!」

 

「何て”タクティクス”なんだ...!」

 

 

こちらが動揺している間に、陽花戸イレブンはどんどんと俺たちの陣地へと攻めてくる。

こちらも何とかボールを奪おうとしているのだが、密集したパワーがかなり強力なのかボールが奪えない。

 

 

「よし...ここまで来たら行ける!」

 

「もう前半の時間も無い!」

 

「一気に決めよう!」

 

 

ゴール前まで完全に押し込まれてしまい、こちらのディフェンス陣形も崩されてしまっている。

砂木沼がここで止められなければ、また同点...今日の立向居からそう何度も点を取れるとは思えない。頼む、砂木沼...!止めてくれ!

 

 

「キャプテン、頼むたい!」

 

「おう!任せておけ!黒田、松林!アレやるぞ!」

 

「「おう!」」

 

「っ!(この動きは...!)」

 

「いくぞ!」

 

ピュィィィィィィィ!

 

 

戸田が指笛を吹くと、地面から5匹の水色のペンギンが顔を出した。

まさしくこれは、”皇帝ペンギン2号”....さっきの”イナズマブレイク”といい、立向居といい、まるで俺たちの頃の雷門中と戦っているみたいだ。

 

 

「”皇帝ペンギン”!」

「「”2号V2”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

あらわれたペンギンと共に、放たれたシュートがゴールへと突き進んでいく。

この威力、鬼道たちで放った”皇帝ペンギン2号”とも引けを取らないぞ。

 

 

「くくく...止めてやろう!そして貴様らを絶望の淵へ沈めてくれるわ!”ドリルスマッシャーV3”!」

 

 

砂木沼も進化した”ドリルスマッシャー”で対抗する。

火属性の”ドリルスマッシャー”なら、林属性の”皇帝ペンギン2号”には相性が良い。

だが...なんだ、この違和感は.........っ、まさか...!

 

 

「俺たちは確かに、雷門イレブンの必殺技を真似している。だけど...!」

 

「ただ真似してるだけじゃないたい!」

 

「俺たちに合った必殺技になるように、改良してるんだ!」

 

 

「ぐっ...!何だこの風圧は...!」

 

「(陽花戸中の”皇帝ペンギン2号”は林属性じゃない..!恐らくは風属性...!)」

 

 

「見とけ立向居!」

 

「これが俺たち先輩の本気たい!」

 

「陽花戸中を舐めたらダメだぜ!」

 

「戸田さん!松林さん!黒田さん!」

 

 

「ぐっ....うおおおおおおお..っ、ぐあああああああ!」

 

バシュン...!

 

 

『ゴーォォォォォォォル!陽花戸中、キャプテンを中心に全員で力を合わせて1点をもぎ取りました!これで1vs1!同点です!まだまだ試合はわかりません!』

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

『おっと、ここで前半終了のホイッスル!鉄壁を誇っていた立向居から1点を奪ったものの、すかさず陽花戸中が1点を奪い返し、試合の主導権を渡しませんでした!果たして後半、どちらが試合の流れを掴むのでしょうか!』

 

 

 

まさか1点取られるとはな....奥の手を隠していたか。

それにしても”イナズマブレイク”に”皇帝ペンギン2号”...かなり雷門中を研究したようだな。

嬉しいような複雑なような....だがそれならこっちにも情報というアドバンテージがある。

 

雷門の必殺技なら俺がこのフィールドの中で誰よりも知っている。

陽花戸の攻撃を防いで、何としても立向居から1点をもぎ取ってやる。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

無限の進化

嵐山 side

 

 

「みんな、前半は良く戦った。1点奪えただけでも御の字だと思ってる。」

 

「だがすまん...俺のせいで同点に...」

 

「いや、砂木沼だけの責任じゃないさ。あの失点は確かに防げた1点だったかもしれない。だが今は過去のことよりも先のことを語ろう。」

 

「嵐山...」

 

「まず恐らく、後半で立向居から取れる点は1点が限界だと思う。」

 

 

立向居はこの試合だけでも急速に成長している。

元々あいつの成長速度は異常だと思っていたが、まさか試合の中でここまで成長するとは思っていなかった。

 

 

「1点...」

 

「つまり、その1点を何としても取って...」

 

「その1点を死に物狂いで守り切る....」

 

「ああ、そういうことだ。」

 

 

立向居勇気...俺が初めて恐怖すら感じた相手かもな。

だが俺は、俺たちはここで立ち止まるわけにはいかない。

俺たちはこの試合に勝って、決勝にコマを進めるんだ。

 

 

「さあ行こう。この試合に勝って、決勝に行こう!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

俺の言葉と共に、永世イレブンがフィールドへと散らばっていく。

俺も同じように一歩を踏み出したその時だった。

 

 

ガクンッ...!

 

 

「っ....」

 

 

な、何だ....急に足に力が....

 

 

「嵐山君?」

 

「っ....」

 

「どうしたの、嵐山君?」

 

「............な、何でもないよ夏未。」

 

 

俺はすぐに夏未の方に振り向き、笑顔を向けた。

夏未は不安そうな顔をしていたが、そんな俺の様子を見てホッとした様子を見せた。

 

 

「心配かけてごめん。ちょっと勢いよく飛び出そうとしすぎたみたい。」

 

「そう...本当に大丈夫なのよね?」

 

「ああ、大丈夫だよ。この試合に勝って、また君を決勝の舞台に連れていくから。」

 

「もう........無茶だけはしないでね。」

 

「......ああ。」

 

 

俺は軽く頷いてから、もう一度フィールドへの一歩を踏み出した。

そして自分のポジションに着いてから、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

 

 

「フゥ......(大丈夫....問題ない....俺はまだ戦える....こんなところで立ち止まれるか...)」

 

 

俺は最後に両足をバシッと叩き、気合を入れる。

先ほど感じた足の重みはもう感じない。きっとさっきのは前半で全力を出していたのに、ハーフタイムで休んでしまったから感覚が変になっていただけさ。

 

 

「(よし......!)」

 

 

『さあ両チームがふたたびフィールドに散らばりました!1vs1の同点、果たして均衡を破るのはどちらか.....後半戦、キックオフです!』

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「道端!」

 

「おう!」

 

 

陽花戸ボールで後半戦が開始した。

戸田はすぐさま道端へとボールを渡すと、前半最後の動きと同じようにフォワード3人で駆けあがり始める。さらには道端を中心に陽花戸イレブンが集まりだした。

 

 

「俺たちのタクティクス、止められるものなら止めてみろ!」

 

「「「「「必殺タクティクス、”玉せせり”!」」」」」

 

 

ふたたび陽花戸イレブンが密集し、ボールを取られないような陣形を組んで攻めてきた。

このタクティクス、確かにこちらからボールを奪うにはこの密集を何とかしなければ、と思うかもしれないが....存外、簡単な方法でこのタクティクスを打ち破ることができる。

 

 

「くっ...どうすれば...」

 

「また点を取られたら...」

 

「お前たち!臆することは無い!俺の指示に従って動け!」

 

「嵐山さん...」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

「なにをしようと無駄たい!」

 

「俺たちのタクティクスは最強!」

 

 

「果たして本当にそうかな?」

 

「「「なにっ!?」」」

 

 

「基山、緑川は俺と一緒にあの密集に触れないよう、ギリギリで奴らを囲め!」

 

「「了解!」」

 

「倉掛、本場、蟹目はフォワード3人をマークだ!」

 

「「「はいっ!」」」

 

 

「そして八神はパスを中継できるような位置で待機!ヒロト、風介と晴也は攻め込む準備だ!」

 

「「「了解!」」」

 

 

俺の指示によって、全員が指示された動きを行う。

フォワード3人はこれにより、思うように動けなくなっていた。

 

 

「くっ...俺たちが封じられるとは...!」

 

「だけど、”玉せせり”が発動している限り、ボールは奪えない!」

 

 

戸田たちの言葉が正しいと言わんばかりに、”玉せせり”を発動した陽花戸イレブンはどんどんとゴール前へと攻めあがっていく。

 

 

「くっ...嵐山さん!これじゃ止められませんよ!」

 

「大丈夫だ、基山!俺を信じろ!」

 

「でも!」

 

「俺の動きに合わせて動け!」

 

 

 

俺は少しずつ、ポジションを変えていく。

陽花戸イレブンも、基山と緑川も気付かないように、徐々に徐々にだ。

そして気付いた時には....

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「えっ!?」

 

「な、なにが起こって...」

 

 

『おおっとこれは!陽花戸イレブン、いつの間にかラインを超えていました!』

 

 

「な、何だと!?」

 

「一体なにが...!」

 

 

 

「すごい...相手に気付かせずに進む先を誘導するなんて...」

 

「でも一体どうして、誘導されていることに気付かなかったんだ?」

 

「簡単な話だ。こいつらはボールを奪わせないためにできるだけ密集している。そんな状態で周りが見えるわけないだろ。」

 

 

ボールをキープするために密集し、さらには足元を見続ける。

そんな状態で周りを見ながら、俺たちの動きに対応するなんて...俺にだってなかなか難しいことだ。

 

 

「くっ...してやられた...」

 

 

『さあ、今度は永世学園の反撃です!緑川のスローインで試合が再開します!』

 

 

ラインを割ったので、スローインで試合が再開する。

緑川は辺りを見渡し、スローイン先を考える。

 

 

「緑川!こっちだ!」

 

「よし..タツヤ!」

 

 

緑川のスローインで、基山へとボールが渡る。

だがそれを予想していたのか、陽花戸イレブンはすぐさま基山を取り囲んだ。

 

 

「ボールを奪うたい!」

 

「ここは通さないぞ!」

 

「くっ...」

 

 

一瞬で取り囲まれたことに動揺した基山は、動きが鈍くなってしまっていた。

それを陽花戸イレブンは見逃さなかった。

 

 

「ボールをよこすたい!」

 

「「”ブロックサーカス”!」」

 

「うわっ!」

 

 

まるでサーカスでも見ていたかのように、華麗な動きで基山からボールを奪う。

せっかくこっちがボールを奪ったのだが、やはり陽花戸イレブン...なかなか侮れんな。

 

 

「志賀!」

 

「任せろ!」

 

「「”ニニンサンキャク”!」」

 

 

今度はドリブル技でフィールドを駆けあがっていく。

走る二人の間にボールが挟まっていることで、これまたボールを奪い辛い状況となっている。

 

 

「くそ...!」

 

「厄介な必殺技だ!」

 

 

「よっしゃあ!」

 

「キャプテン、頼むたい!」

 

「おう!」

 

 

そしてついにはゴール前へと駆けあがっていた戸田へとボールが渡った。

いつの間にか、黒田と松林も合流している。

 

 

「いくぞ!」

 

ピュィィィィィィィ!

 

「”皇帝ペンギン”!」

「「”2号V2”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

ふたたび、3人から”皇帝ペンギン2号”が放たれた。

だがそのシュートの前に、蟹目が立ち塞がった。

 

 

「砂木沼さんをフォローする!”グラビテイション”!」

 

 

蟹目が発動した”グラビテイション”により、”皇帝ペンギン2号”は勢いを削がれていく。

完全には止められなかったものの、かなり威力を落とすことに成功している。

 

 

「助かったぞ、蟹目!後は俺に任せろ!”グングニルV3”!」

 

 

そして砂木沼は慢心せず、自身の持てる最強の必殺技で対抗した。

”皇帝ペンギン2号”と”グングニル”がぶつかり合い、結果は砂木沼の勝利。

”皇帝ペンギン2号”は消滅し、”グングニル”によってボールは大きく弾かれた。

 

 

「もらった!」

 

 

そしてボールは、本場がキープした。

これで今度こそこちらの攻撃だ。

 

 

「頼んだぞ、タツヤ!」

 

ドゴンッ!

 

 

本場から強烈なキックによって基山へとボールが運ばれる。

基山はそれを受け取ると、ドリブルで前線へと駆けあがっていく。

 

 

「よし...もう一度いくぞ!今度は必ずゴールまで運んでみせる!」

 

「させるか!」

 

「もう一度、ボールを奪ってやる!」

 

 

ボールを受け取った基山の前に、先ほどと同じ石山と筑紫が立ち塞がる。

もう一度、”ブロックサーカス”でボールを奪うつもりか。

 

 

「同じ技はもう通用しない!”サザンクロスカット”!」

 

「「うわああああ!」」

 

 

だが二人が”ブロックサーカス”を発動する前に、基山は”サザンクロスカット”を発動して二人を抜き去った。その勢いを止めることなく、基山は走り抜けていく。

 

 

「(嵐山さんは.....マークが厳しい。あの人なら何とかしそうだけど、今はたぶんその時じゃないんだ。だったら....)」

 

 

基山は前方を見渡し、俺たちフォワードの状態を確認する。

今の俺はかなり厳しくマークにつかれているし、ヒロトもしつこくマークされていて思うように動けていない。だったらもう決まっているだろう。

 

 

「(もう一度点を取ってくれ!)風介!晴也!」

 

ドゴンッ!

 

 

基山から大きく上空へとパスが出される。

そんなボールに風介と晴也が飛びついた。

 

 

「もう一度決めて、試合の流れをこちらに!」

 

「わかってるぜ!」

 

「「俺/私たちの力で、この試合に勝つ!」」

 

 

ふたたび、二人の足に炎と氷が纏われる。

先ほどよりも大きく激しいオーラに、フィールドの全員が二人を見上げていた。

 

 

「「”真ファイアブリザード”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

放たれた炎と氷の螺旋が、立向居に襲い掛かった。

先ほど立向居からゴールを奪ってみせた”ファイアブリザード”。

それがさらに進化したのだ。もう一度点が取れる。

 

 

そう、みんなが思っていた。

 

 

「俺は陽花戸中の守護神なんだ....憧れの嵐山さんに勝って、そして決勝で円堂さんと戦う!そのためにも...もうこれ以上、ゴールは割らせない!うおおおおおおおお!”ムゲン・ザ・ハンドG5”!」

 

 

立向居の背後にはまるで本当に無限にあるかのように、無数の手のオーラがあらわれた。

そしてその手のオーラは、勢いよく”ファイアブリザード”を包み込んでいく。

掴んだ手のオーラを凍らせ、炎で砕くがその次の瞬間には新しい手のオーラが増えていく。

炎と氷のオーラが手を砕くその倍以上の速度で、手のオーラが増えていく様はまさに圧巻だった。

 

 

バシィン...!

 

 

「そ、そんな...」

 

「俺たちの必殺技が...」

 

 

『と、止めたああああああああああああ!立向居勇気、前半で苦汁をなめさせられたシュートを、完璧に止めてみせました!』

 

 

「ゴールは俺が守ります!だから先輩たちは安心して攻めてください!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 

 

「っ!」

 

 

『ゴールは俺が守る!だからお前たちは安心して攻めていけ!』

 

『『『『『おう!』』』』』

 

 

今...立向居が一瞬、円堂に見えた...

そうか...お前はもうそのレベルまで来ているんだな。

ゾクゾクするよ、立向居...!絶対に俺がお前からゴールを奪ってみせる!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

激闘の決着

嵐山 side

 

 

「筑紫さん!」

 

「おう!...大濠!」

 

「任せろ!」

 

 

陽花戸は細かくパスを繋いで、俺たちに的を絞らせない戦法で来るようだ。

既に陽花戸の必殺タクティクス、”玉せせり”は封じている。

陽花戸イレブンもそれを理解しているからこそ、こうして細かくパスを繋いで少しでも前に進もうとしているわけだ。

 

 

「ディフェンスはフォワードを徹底的にマーク!基山たちは中盤を固めろ!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

「う、うわっ!き、来た!」

 

「ボールは俺がもらう!」

 

 

俺は基山たちに指示をしつつ、ボールを持つ大濠に向かって走り寄る。

 

 

「え、えっと...頼む、石山!」

 

「っ!」

 

 

俺が近寄ったことで、大濠はすぐさま石山へとパスを出した。

俺はそれをカットしようと足に力を入れる。

 

 

「なっ!?(また...足が重く...っ!)」

 

「おわっ!?」

 

「す、すまん...勢いよく踏み込みすぎた。」

 

「い、いえ...」

 

 

足がうまく動かず、そのまま突進するように大濠へとぶつかりに行ってしまった。

そのままパスは通り、ボールは石山へと渡った。石山はそのままドリブルであがっていく。

 

 

「(くそ...どうしたってんだよ、俺....)」

 

「(嵐山さん、何か様子がおかしい....一体どうしたんだろう。)」

 

「(嵐山サン、何か変じゃねえか....?)」

 

 

俺はすぐさま大濠から離れ、足の感覚を確かめるように走り出す。

やはり今はもう何ともない...これなら多分大丈夫だろうけど...

 

 

「笠山!」

 

「おう!」

 

 

石山がある程度ドリブルで運ぶと、今度は笠山へとパスが通った。

笠山もドリブルであがっていく。だがその前に基山が立ち塞がった。

 

 

「ここは通さない!」

 

「くっ........っ!志賀!」

 

「おう!」

 

「「”ニニンサンキャク”!」」

 

 

プレッシャーをかけていた基山だったが、笠山の元に志賀が合流し、”ニニンサンキャク”によって基山を抜き去ってしまった。

 

 

「くそ..!」

 

「(中盤が崩されたか...)フォワードの動きに警戒しろ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

基山が抜かれたことで中盤が崩れ、陽花戸イレブンが攻めあがってきた。

フォワードは徹底してマークしているが...まずいな。

 

 

「(マークが厳しいが....)ここだ!」

 

「なっ!」

 

「こっちだ、笠山!」

 

「任せた!キャプテン!」

 

 

マークについていた本場を振り切って、戸田がゴール前へと躍り出た。

そして笠山から戸田へとパスが渡り、戸田と砂木沼の一騎打ちとなった。

 

 

「俺はキャプテンとして、立向居の想いに応える義務がある!立向居を決勝の舞台へ連れていく義務があるんだ!」

 

「それは俺とて同じ!幼いころより憧れていたこのフットボールフロンティアの舞台で、俺は勝利の栄光を手に入れるのだ!仲間たちとともに!」

 

「だったら勝負だ!どっちの想いが強いか!うおおおおおおお!」

 

「っ!(あの動きは...まさかこいつまで研究しているとはな...)」

 

「”ウイングショットV3”!」

 

ドゴンッ!

 

 

戸田が放ったのは俺の十八番、”ウイングショット”だった。

翼の生えたボールが砂木沼の守るゴールへと突き進んでいく。

俺のスピードを重視した”ウイングショット”よりも、重みを重視した重厚感のある”ウイングショット”だ。

 

 

「貴様たちがどれだけ努力したかは知らん...だが俺はそのシュートを何度も何度も受けてきた!研究しものにしてきたのだろうが...俺以上にそのシュートを知っている者はいない!貴様のシュート、見切ったぞ!”グングニルV4”!」

 

 

「さらに進化しただと!?っ、だが俺のシュートだって負けちゃいないんだ!」

 

「無駄だ!我が”グングニル”で、偽りの翼を打ち砕く!」

 

 

戸田の”ウイングショット”と、砂木沼の”グングニル”がぶつかり合う。

両者一歩も譲らない攻防が続いていたが、徐々に”ウイングショット”の勢いが削がれてきた。

 

 

「そ、そんな...!」

 

「決勝への想い...仲間との絆....俺とて、同じものを持っている!だからこそ負けるわけにはいかんのだ!俺たちをここまで導いてくれた嵐山に報いるためにも、俺がこのゴールを守ってみせる!うおおおおおお!」

 

バシィン...!

 

 

『弾いたあああああああ!砂木沼の渾身の”グングニル”が、戸田の”ウイングショット”を完全に弾き返しました!』

 

 

「ボールは確保した!」

 

 

戸田と砂木沼の戦いは、砂木沼の勝利となった。

弾かれたボールは倉掛がキープし、辺りを見渡す。

 

 

「こっちよ、クララ!」

 

「っ、お願い!玲名!」

 

 

そして八神の呼びかけで、倉掛は八神へとパスを出す。

八神はパスを受け取り、ドリブルで駆けあがる。そんな八神の元に基山と緑川が合流する。

 

 

「一気に攻めるわよ!」

 

「「おう!」」

 

「「「必殺タクティクス、”ギャラクティックタワー”!」」」

 

 

3人の必殺タクティクス、”ギャラクティックタワー”により、3人は上空へとボールを打ち上げていく。それと同時に俺、ヒロト、風介、晴也はゴール前へと走りこむ。

 

 

「っ!(誰でくる....いや、誰が来ても止めてみせる!俺が!)」

 

「(やっぱりあなたが決めるしかないわ....お願い!)隼人!」

 

ドゴンッ!

 

 

上空から流星のように俺へとボールが落ちてくる。

俺はそれをトラップすると、すぐさまドリブルで前進し始める。

 

 

「通すか!」

 

「立向居と一緒にゴールを守るんだ!」

 

「悪いが...俺と立向居の勝負の邪魔、しないでもらおうか!”疾風迅雷”!」

 

「「ぐああああああ!」」

 

 

俺はディフェンスに来た筑紫と玄界を吹き飛ばし、ゴール前へと走りこんでいく。

俺の近くにはもう、陽花戸の選手はいない。俺と立向居の一騎打ちだ。

 

 

「勝負だ、立向居!今度こそ俺がお前からゴールを奪ってやる!」

 

「負けません!ゴールは俺が守る!」

 

「うおおおおおお!”バイオレントストームG3”!」

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 

ドゴンッ!

 

 

「ぐっ...!」

 

「っ!(進化した...!試合の中でも進化し続ける、これが嵐山さんか...でも!)俺だって、負けるわけにはいかないんだ!うおおおおお!”ムゲン・ザ・ハンドG5”!」

 

 

俺の放った”バイオレントストーム”に、立向居の”ムゲン・ザ・ハンド”が群がってくる。

だが風の刃を纏っているボールに、手のオーラは近付けずにいた。

 

 

「くっ...!(”ムゲン・ザ・ハンド”が...オーラがことごとく切り刻まれて...これじゃあ...!)」

 

「諦めるな!立向居!」

 

「お前ならできる!止められる!」

 

「いけええええええ!」

 

 

「キャプテン...皆さん...!(そうだ...俺は負けない!先輩たちとこの大会で優勝するためにも...!)うおおおおおお!」

 

「っ!」

 

 

まるで止められそうになかったシュートだが、立向居はそれでもオーラを伸ばし続けた。

するとオーラとオーラが重なり合い、さらに巨大なオーラへと変貌を遂げていく。

 

 

「嘘だろ....」

 

「これが俺の......”ムゲン・ザ・ハンドGX”だあああああああ!」

 

「っ.....まだだ....いけえええええええええ!」

 

「ぐっ...くっ....!」

 

「っ....ぐっ...!」

 

「「うわあああああああああああ!」」

 

 

お互いに一歩も譲らず、”バイオレントストーム”と”ムゲン・ザ・ハンド”のエネルギーが爆発し、俺と立向居は吹き飛ばされてしまった。

 

 

「ぐはっ...」

 

「ぐあっ....痛っ...」

 

 

俺は爆発によって吹き飛ばされて、背中から地面に叩きつけられた。

立向居はゴールネット側に吹き飛ばされたおかげか、ゴールネットに叩きつけられ、そのまま地面に座り込むように倒れた。

 

 

ガコンッ..!

 

 

そしてボールはゴールポストに直撃し、そのままフィールド外へと転がっていく。

 

 

ピッ!

 

 

『な、何と凄まじいパワーだったでしょうか!お互いに一歩も譲らず!しかしゴールは奪えませんでした!弾かれたボールはゴールポストに直撃!ラインを割ったため、コーナーキックで試合が再開します!』

 

 

「ゲホッ...ゲホッ....」

 

「だ、大丈夫ですか、嵐山さん!」

 

「あ、ああ...ちょっと強く叩きつけられて、咳き込んだだけだよ。」

 

「良かった...」

 

 

まさかこの土壇場でさらに進化するとは...まさに天才というべき存在だな。

これでも決められないとなると、いよいよ”あの技”を使うしか...いや、だが未完成の状態で使ったところで決められるかは...

 

 

「嵐山さん....あの...」

 

「どうした、基山。」

 

「俺...えっと...っ..............嵐山さんを信じてます!嵐山さんが立向居君から点を取るって、信じてますから!」

 

「基山....」

 

「俺だって信じてるぜ。」

 

「当然、俺もだ。」

 

「私も...彼を打ち破るのはあなたしかいないと思っています。」

 

「俺も」「私も」

 

「みんな.........ああ、もちろんだ。俺が....俺が立向居を倒して、お前たちを決勝の舞台に連れていく!約束だ!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

みんなの想いが、俺の力になる。

みんなが俺を信じてくれているんだ...ここで決めなきゃ、ダサすぎだろ!

 

 

 

「立向居、大丈夫か!?」

 

「は、はい...ゴールネットが衝撃を抑えてくれたので...」

 

「そうか...でも無茶はするなよ?」

 

「はい。...勝ちましょうね、キャプテン。」

 

「おう。ゴールは任せたぜ、立向居!陽花戸のゴールを守れるのは、お前しかいない!」

 

「はい!(そうだ...陽花戸のゴールを守れるのは俺だけ...俺がここでリタイヤするわけにはいかない...!)」

 

 

 

『さあ両チームポジションにつきました!残り時間もあとわずかとなってきました。現在の得点は1vs1の同点!この時間では、次の1点を取ったチームが勝つと言っても過言ではないでしょう!泣いても笑っても残り数分!果たして、どちらが先にゴールを決めるでしょうか!』

 

 

ピッ!

 

 

『さあ!永世学園、基山のコーナーキックで試合再開です!』

 

 

泣いても笑ってもこれで最後だ。

これで決着をつけようぜ、立向居...!

 

 

「っ.......嵐山さん!」

 

ドゴンッ!

 

 

基山のキックは大きく上空へと打ち上げられた。

そしてそのボールに俺は飛び上がり、すぐさまシュート体勢に入る。

 

 

「早い...!」

 

「それに...高すぎる!」

 

 

基山は予定通り、陽花戸イレブンの届きそうにないかなり上空へとボールを打ち上げてくれた。

当然、そんな高さに届く選手は限られてくるが.....空は俺の領域だ。

 

 

「うおおおおおおおおおおおお!」

『グオオオオオオオオオオオオ!』

 

 

「なっ!?」

 

「魔神が嵐山さんを...」

 

「吹き飛ばした!?」

 

 

俺は魔神の手のひらの上に乗り、魔神によって上空へと打ち上げられる。

もう俺以外には誰もボールを追ってくることはできない。

 

 

「これで決着を付けるぞ!立向居!」

 

「っ...勝負です、嵐山さん!」

 

 

「うおおおお!”バイオレントストームG4”!」

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 

ドゴンッ!

 

 

「さらに進化した!?」

 

「立向居!」

 

 

「(予想していた...嵐山さんならさらに進化してくるって...!それでも俺は...!)うおおおおおおおおおおおお!」

 

 

立向居は”ムゲン・ザ・ハンド”の構えに入った。

先ほどまでとはさらにサイズの異なる、かなり大きな手のオーラが無数に発現する。

 

 

「(究極奥義に完成無し...常に進化し続ける、それこそがこの”ムゲン・ザ・ハンド”!)これが俺の、”ムゲン・ザ・ハンドGO”だあああああああああ!」

 

ドドドドドドドドドドドドッ!

 

 

立向居の”ムゲン・ザ・ハンド”が、俺の放った”バイオレントストーム”を包み込んでいく。

そして完全にボールが覆いつくされ、後はその勢いを止めるだけだった。

 

 

「っ...勝った............っ!」

 

「まだだ!っ...勝つのは俺たちだ!」

 

「そ、そんな...完全に、抑え込んでいるのに....!どうして...止まらないんだ...!」

 

 

ボールを覆いつくしていた無数の手が震え始めた。

徐々にその振動は大きくなっていき、ついには外側の手が剥がれ始める。

 

 

「俺は....陽花戸のゴールを守って...決勝に...!」

 

「俺たちも負けられねえ!俺たちは、こんなところで立ち止まるわけにはいかねえんだ!」

 

「ぐっ...くっ.....うおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

立向居は何とかシュートを抑えようと、さらに手のオーラを発現させる。

そのオーラは1つだけだったが、必死に押し込まれるのを堪えながら、ボールを掴もうとする。

 

 

「痛っ....!(こんな...ところで......)ぐあああああああああああああ!」

 

 

だが、それは叶わず”ムゲン・ザ・ハンド”のオーラは完全に砕け散った。

そしてそのまま解放された”バイオレントストーム”が、立向居ごとゴールへと突き刺さる。

 

 

『ご、ご、ゴーォォォォォォォル!残り時間あとわずか!前半から後半まで、何度も何度もゴールを守ってきた立向居勇気から!待望の追加点を決めました!風神、嵐山隼人!荒れ狂う暴風を纏い、無限に進化し続ける鉄壁から!ゴールを奪いました!』

 

 

「っ...ハァ....ハァ.....決まった....のか....」

 

「「「「嵐山さん!」」」」

 

「はは....みんな.....決めたぞ....約束通り....ゴール....」

 

「はい!」

 

「俺、感動しちまって...」

 

「なに泣いてる、晴也。」

 

「そうだぜ。まだ試合は終わって...」

 

 

「「「「立向居!」」」」

 

 

「あ?」

 

 

俺たちがゴールの喜びを分かち合っていると、陽花戸ゴールの近くに選手や審判が集まっているのが見えた。

 

 

「だ、大丈夫です....痛っ....」

 

「なに言ってるんだ、立向居!」

 

「そうたい!こんなに腫れてるぞ!」

 

「っ......さっきの、ネットで倒れこんだときか?」

 

「っ......すみません、キャプテン....俺....」

 

 

そうか...立向居、お前あの時怪我を...それでも俺との勝負に挑んできたのか。

立向居勇気....俺はお前を誇りに思う。お前と戦えて、本当に良かった。

 

 

「もういい、謝るな。お前はよくやってくれたよ。」

 

「っ...すみません.....すみません....っ...っ!」

 

「さあ、医務室へ。」

 

「はい...っ....」

 

 

立向居は審判団に連れられて、医務室へと向かって歩き出した。

 

 

「立向居!」

 

「っ....嵐山...さん.....っ...すみません...俺...っ...」

 

「......俺はお前と戦えてよかった。」

 

「っ...」

 

「お前は俺の最高のライバルだ。俺はお前に円堂を見た....それほどまでに、俺の中でお前という存在が大きくなったんだ。」

 

「嵐山さん....っ...!」

 

「だから...また勝負しよう。しっかり治して、もう一度。」

 

「っ....はい...っ...!」

 

 

そのまま立向居は歩いていく。

そんな時だった。会場から大きな拍手が聞こえてきた。

観客席を見ると、観客が皆立って立向居に拍手を送っていたのだ。

 

 

『すごかったぞ!立向居!』

 

『ナイスファイト!立向居君!』

 

『来年も頑張れよ!立向居!』

 

 

「っ!........はい!俺、頑張ります!来年も絶対、ここに帰ってきます!」

 

 

『『『わああああああああああ!』』』

 

 

立向居の宣言に応えるように、会場は大いに沸き立った。

そして立向居は今度こそ、フィールドを去っていくのであった。

 

 

「最後まで...本当に強敵でしたね...」

 

「ああ。...来年、お前たちの前にふたたびあいつが立ち塞がるだろう。」

 

「はい。でも....俺たちは来年、嵐山さん抜きで彼を倒します。絶対に。」

 

「ふっ...そうか。」

 

 

 

「嵐山さん。」

 

「戸田.....」

 

「すみません。俺たち、ここで棄権させてもらいます。」

 

「.......そうか。」

 

「情けないけど、今の俺たちじゃあなたたちを止めることはできません。だから...」

 

「いいんだ。その代わり....立向居についていてやってくれ。」

 

「立向居に...」

 

「今一番悔しいのは、あいつだからな。」

 

「.....そうですね。ありがとうございました!」

 

 

 

『おっとここで情報が。陽花戸中がここで試合を棄権!よって、2vs1で永世学園が勝利!決勝へコマを進めました!お互いに一歩も譲らない激闘!最後まで試合を見ていたかった気持ちもありますが、ここまで戦い抜いた両チームに、今一度盛大な拍手をお願いします!』

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

稲森 side

 

 

「すげえ試合だったな...」

 

「ああ...この後に俺たちの試合って、めちゃくちゃ緊張するんだが...」

 

「なに言ってるんですか、キャプテン!」

 

「明日人...」

 

「俺、めちゃくちゃ燃えてきましたよ!」

 

 

今の試合を見て、燃えてこないわけがない!

待っていてください、嵐山さん!

俺、円堂さんを倒して絶対に決勝に進んでみせます!

 

 

「ああ、ゾクゾクしてきたぜ。」

 

「この試合、絶対に勝ちましょう!勝って、決勝の大舞台で嵐山さんに...永世学園にリベンジしましょう!」

 

「「「「「おう!!!!」」」」」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

円堂 side

 

 

「決まったか。」

 

「そうね。さすがは嵐山君....」

 

「やっぱすげえよな、あいつ。」

 

「円堂君...?」

 

 

ずっと待っていたんだ、この日を。雷門中を倒して、決勝に進む!

最強のライバルが、俺を待っているんだ...絶対に勝って、嵐山と戦うんだ。

 

 

「みんな!今日の試合、勝とうぜ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「坂野上!今日の試合で”アレ”、試すぜ!」

 

「”アレ”ですか!?」

 

「ああ!決勝までに”アレ”を完成させるには、この試合で試す他ない!」

 

「わ、わかりました!」

 

 

見てろよ、嵐山!俺たちもすぐにそこまで辿り着いてみせるからな!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

伝説のゴールキーパー

嵐山 side

 

 

『さあ熱狂収まらぬ中、準決勝第二試合が行われようとしています!準決勝第二試合は、昨年の優勝校である雷門中と、その雷門中の絶対的守護神であった円堂守が強化委員として派遣されている、利根川東泉中の組み合わせとなっております!』

 

 

「はい、ドリンクよ。」

 

「ああ、ありがと夏未。」

 

「全く...試合は私が撮っておくから帰って休めば良いのに。」

 

「ダメだ。この試合はこの目で見ておかないと。」

 

 

俺の親友でこの大会で最後に倒すべき相手である円堂。

そして、俺が目を付けた未来ある若者である稲森と灰崎。

果たしてどちらが勝利し、決勝に進んでくるのか...俺はこの目でしっかりと見届けたいんだ。

幸い、アドレナリンがドバドバなのか、足の重みも今は感じない。

 

 

「もう.........でも、円堂君と今の雷門中、どちらが勝つかは私も気になるわ。」

 

「正直、円堂の利根川東泉がどこまでやるのか知らないからな。円堂という絶対的な守護神がいても、どんな拍子に点を取られるかなんてわからないわけだし。」

 

「それに点を取れなければ、最悪PK勝負だものね。」

 

「ああ。この試合、どんな試合展開になるか楽しみだな。」

 

 

『さあ、選手たちが入場してきます!』

 

 

実況の宣言と同時に、両チームが整列して出てくる。

どいつもこいつも、早く試合したくてたまらないって表情だ。

そしてそのままフィールド中央に整列して、両チーム向かい合っている。

どちらのチームも人数ギリギリだから少なく見えるな。

 

 

「今日は良い試合にしような!」

 

「はい。円堂さんの胸を借りるつもりでぶつかっていきます!」

 

「おいおい、胸を借りるつもりじゃ俺たちには勝てないぜ!」

 

「そ、それは...」

 

「俺たちは決勝に進んで、嵐山と戦う。...負けるつもりはないぜ!」

 

「......俺たちもです!キャプテンとして、円堂さんに宣言します!勝つのは俺たちです!」

 

「くくく...あんたらをぶっ潰して、俺たちが嵐山サンに挑戦するぜ。」

 

「俺たち、嵐山さんたち永世学園にリベンジするんです!」

 

「はは、気合ばっちりだな!楽しみだぜ!」

 

 

『さあ選手たちが各ポジションに散らばっていきます!果たして、決勝への最後の切符をもぎ取るのはどちらのチームか!利根川東泉ボールでキックオフです!』

 

 

いよいよ試合が始まる。円堂と稲森、灰崎...どちらが決勝へコマを進めるか。

俺たちと決勝の舞台で戦うことになるか、楽しみだ。

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

『試合開始ぃぃぃぃ!』

 

 

「要!」

 

「おう!」

 

 

利根川東泉のフォワードが二人、キックオフと同時にドリブルで駆けあがり始めた。

中盤のミッドフィルダー4人もフォローできる位置で走っている。

 

 

「利根川東泉のフォワード...要瑞保、下町駆。今大会で利根川東泉が得点したゴール全てに絡んでいるわね。」

 

「へえ...じゃあ彼らがこのチームの攻撃の要ってことか。」

 

 

そんな要と下町の前に、灰崎があらわれた。

灰崎はボールを持っている要に対して、強引なスライディングを仕掛けたが、要は冷静に下町にパスを出してそれを回避する。

 

 

「チッ...」

 

「甘い甘い。」

 

「そんな雑なスライディングじゃ、俺たちからボールは奪えないぜ。」

 

「だったらこれはどうだ!」

 

「「なにっ!?」」

 

 

灰崎を躱した二人だったが、今度は小僧丸がスライディングを仕掛けた。

油断していたのか、二人は小僧丸があらわれたことに驚いている様子だ。

 

 

「うわっ!」

 

「っし!」

 

 

そのままスライディングは成功し、小僧丸が下町からボールを奪う。

小僧丸はすぐさま立ち上がり、そのままドリブルであがり始めた。

 

 

「なかなかやるじゃねえか。」

 

「だけどここは通さない!」

 

 

「チッ...」

 

 

だがすぐに、利根川東泉のミッドフィルダーが小僧丸を囲んだ。

フォワードがブロックされた時のフォローがしっかりできているみたいだな。

 

 

「彼らは玄場幸治、金城光成ね。パワータイプに長身を活かした攻守が特徴よ。」

 

「パワー、長身タイプね...(うちのチームはそんなにパワーがあるチームでもないし、結構厄介かもな。)」

 

 

「小僧丸!」

 

「っ、明日人!」

 

 

玄場と金城に行く手を塞がれた小僧丸だったが、稲森がすぐさま駆け寄ってパスを要求したことで、小僧丸も稲森へとパスを出してそのままディフェンス2人を抜き去った。

 

稲森も2人とは離れた位置でパスを受け取ったので、そのままドリブルであがっていく。

 

 

「通さない。」

 

「ボールをもらいますよ!」

 

 

 

「彼らは六豹条、田植郁人ね。どちらも小柄で小回りの聞くタイプだわ。」

 

「(あの子、めっちゃ無表情だな....六豹条...無表情....え、そういうこと?)」

 

 

 

「通してもらうよ!”イナビカリダッシュ”!」

 

「...。」

 

「っ!」

 

 

稲森はそんな2人を”イナビカリダッシュ”で抜き去った。

なるほど....あれからあまり練習に付き合ってやれてなかったが、稲森もかなりパワーアップしているようだな。

 

 

「よし...小僧丸!」

 

ドゴンッ!

 

 

ゴール付近まで攻め込んできた稲森は、ゴール前にいる小僧丸へとセンタリングを上げた。

絶好のシュートチャンスだな。

 

 

「させるか!」

 

「なっ!?」

 

 

だが稲森が上げたセンタリングを、ジャンプしてヘディングで叩き落す奴があらわれた。

かなりのジャンプ力だな...完全に小僧丸の上をいっていたぞ。

 

 

「あれは簑島俊哉ね。見ての通りとげとげの頭が特徴よ。」

 

「え、それが特徴...?」

 

「じ、冗談よ。ジャンプ力が特徴ね。」

 

「(....メモに頭が特徴って書いてるけど....)」

 

 

「簡単にはシュートは打たせないぜ!」

 

「はっ!だったらヘディングじゃなくてトラップするべきだったな!」

 

「なにっ!?」

 

「灰崎!」

 

 

簑島によって、稲森が上げたセンタリングは叩き落された。

だがその落下地点に灰崎が回り込んでおり、灰崎がそのボールをキープしてみせた。

 

 

「このまま俺がシュートを...」

 

「させない!」

 

「っ!」

 

「うおおおお!”天牢雪獄”!」

 

 

灰崎がボールをトラップしてシュート体勢に入ろうとした瞬間、別の利根川東泉のディフェンダーが灰崎の前に立ち塞がり、必殺技を発動した。

 

それによって灰崎の周りに激しい吹雪が発生し、みるみるうちに灰崎が雪に埋もれていく。

そして完全に雪に埋もれると、その隙にディフェンダーがボールを奪ってしまった。

 

 

「彼は橋屋耕作。壁山君のような巨漢ディフェンダーね。」

 

「今の必殺技、かなり強力な技だったな。」

 

 

「金城!」

 

ドゴンッ!

 

 

「オーライ!」

 

「させるか!」

 

「なっ!?」

 

 

ボールを奪った橋屋は、ボールを押し返そうと中盤の金城へとパスを出した。

だが金城にボールが渡る前に、氷浦がパスをカットし、すぐにボールをクリアした。

クリアされたボールは山なりに利根川ゴールの方へと飛んでいく。

 

 

「俺が取る!」

 

「させるかよ!」

 

 

そのボールを確保するため、小僧丸と利根川のディフェンダーが1人、飛び上がった。

二人のジャンプ力は互角だったが、やはり小僧丸は背が小さく、その分だけ負けていた。

 

 

「くっ...!」

 

「おっしゃあ!ボールはもらったぜ!」

 

 

「彼は段哲夫。かなり荒々しいプレーをすると言われているけど、見掛けだけでそこまでラフプレーってわけでもないそうよ。」

 

「へえ...(誰情報なんだろ。)」

 

 

「もっかい頼んだぜ、金城!」

 

ドゴンッ!

 

 

ボールを確保した段は、すぐさま金城へとパスを出す。

氷浦はもう一度パスカットをしようとしているが、さすがに同じ手は食らわないと金城が氷浦を抑えながらパスを受け取ろうとしていた。

 

 

「さすがに二度は同じ手を食らわないぜ。」

 

「くっ...」

 

「オーライ!」

 

「油断大敵!」

 

「んなっ!?」

 

 

だが今度は奥入が飛び出してきて、ボールをヘディングで吹き飛ばした。

さすがに2人も来るとは思っていなかったのか、またしても金城は驚いたような反応をしている。

 

 

「もらった!」

 

 

そしてボールは道成が確保し、道成は辺りを見渡す。

 

 

「...よし、決めろ明日人!」

 

ドゴンッ!

 

 

「なにっ!?」

 

「いつの間に!?」

 

「ナイスパスです、キャプテン!」

 

 

道成はいつの間にかサイドからあがっていた稲森へとパスを出した。

利根川イレブンは稲森は頭になかったのか、稲森は完全にフリーとなっていた。

 

 

「うおおおお!”シャイニングバード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

そしてついに雷門がシュートを打った。

さあ、円堂の今の実力がわかるぞ......って、あれは...

 

 

「”流星火”!」

 

ドガンッ...!

 

 

突如として、上空から炎を纏った1人の男が落下してきた。

そしてそれは稲森の放った”シャイニングバード”に激突すると爆発し、ボールはゴールラインを割って観客席の壁に激突した。

 

 

「なっ!?」

 

 

ピッ!

 

 

『おおっと!激しい攻防の中、ついに雷門中、稲森がシュートを打ちましたがここはゴールまでは届かずに阻まれてしまいました!』

 

 

「彼は坂野上昇。円堂君一押しの選手ね。何でもどこでも守れるオールラウンドプレイヤーで、ミラクルリベロと呼ばれているらしいわ。」

 

「ミラクルリベロね....(俺が稲森に何かを見出したように、円堂も坂野上に何かを見出したってことか。)」

 

 

なるほどな...これが円堂の率いる利根川東泉か。

なんだか昔の雷門を見ているみたいで懐かしい気持ちになるな。

 

 

「それにしても...これだけ攻めても円堂君を引き出せない辺り、かなり守備力の高いチームね。」

 

「ああ。全体的にまとまっていて、チーム力の高さが伺えるよ。」

 

「彼らがサッカーを始めたのは、つい最近だと聞いているのだけれど...」

 

「ま、円堂が引っ張ってるんだ。強いよ、このチーム。」

 

「あなたのその円堂君への信頼は何なのかしら...私もちょっとだけ理解してしまっているけど...」

 

 

さあ、どうする稲森、雷門中。

これだけ攻めても円堂は全く動いていない。

円堂を動かすにはもっともっと攻めるしかないぜ。

 

 

『さあ、雷門のスローインで試合が再開します!』

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「.....明日人!」

 

 

氷浦のスローインで、稲森へとボールが投げられた。

 

 

「よし....って、ええ!?」

 

 

だが、そのボールを華麗にカットする男がいた。

 

 

「へへ、ボールはもらうぜ!」

 

「え、え、円堂さん!?」

 

 

そう、円堂だ。

あいつ、相変わらずゴールから飛び出すから、利根川の奴らはハラハラするだろうな。

 

 

「な、何でキーパーの円堂さんが...!」

 

「あの人なに考えてるんだ!?」

 

「はっ!ゴールはがら空きだ!お前らボールを奪って俺によこせ!」

 

 

灰崎の言葉を皮切りに、雷門イレブンが円堂へと群がっていく。

だが円堂はそれをうまく躱しながらドリブルで駆けあがっていく。

 

 

「くっ...何てテクニックだ!」

 

「この人、キーパーだよね!?」

 

 

華麗に躱していく円堂を目の当たりにして、雷門イレブンは戸惑っている様子だ。

まあ普通、キーパーがあんなに前線に出て攻め込んでくるとは思わないもんな...

俺も雷門を離れてから暫く経ったから、結構懐かしい気持ちだわ。

 

 

「と、止めるゴス!”ザ・ウォール”!」

 

「お!”ザ・ウォール”か!懐かしいなぁ...壁山を思い出すぜ!」

 

「ご、ゴス!?めちゃくちゃ余裕そうでゴス!」

 

「へへ!でもその技は後ろから見ていた俺がよくわかってるぜ!」

 

 

そう言って、円堂はかなり高く山なりにボールを蹴り上げた。

蹴り上げられたボールはゆったりとした速度で”ザ・ウォール”を超えていく。

 

 

「ご、ゴス!?」

 

「悪いな!」

 

 

そして円堂はそのまま岩戸の横を通り抜け、落ちてきたボールをトラップしてそのままさらに駆けあがっていく。ついにはゴール前まで辿り着いてしまった。

 

 

「う、嘘でしょ....でも、キーパーのシュートなら止められるはず!」

 

「へへ....(嵐山、見てるか?これが今の俺だぜ!)」

 

 

円堂はゴール前で立ち止まると、ボールを軽く打ち上げて頭にオーラを溜めていく。

まさかお前...いや、お前ならあり得るけど....

 

 

「たあああああ!”メガトンヘッド”!」

 

ドゴンッ!

 

 

まるで”ゴッドハンド”を握りこぶしにしたかのようなオーラを頭...いや、額に溜め、ヘディングでシュートを繰り出した。今までも”イナズマ1号”や”ザ・フェニックス”だったりと円堂がシュートに絡むことはあったが、まさか単独でシュートを放つとはな...

 

 

「う、嘘...必殺技!?」

 

「のりか!止めろ!」

 

「はっ!...ま、”マーメイドヴェール”!」

 

 

のりかは一瞬反応が遅れたが、すぐさま”マーメイドヴェール”でシュートを止めにいった。

だが”メガトンヘッド”の威力は凄まじく、まるで勢いが収まらない。

 

 

「くっ...うぅ...な、何でキーパーの円堂さんが...こんな強烈なシュートを.....っ、きゃああああああああ!」

 

バシュン...!

 

 

『ゴーォォォォォォォル!利根川東泉が先制!決めたのは何とキーパーの円堂です!ですが私、何とも懐かしい気持ちで一杯でございます!円堂は昨年も幾度も雷門の得点に絡んでいたキーマン!今大会ではキーパーに専念しておりましたが、それはこの大一番で奇襲を仕掛けるための布石だったのか!』

 

 

「う、嘘でしょ...」

 

「これが伝説のゴールキーパー、円堂守....」

 

 

「ナイスです、円堂さん!」

 

「おう!この調子でガンガン攻めていこうぜ!」

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

この得点劇に、雷門イレブンは呆然と立ち尽くしていた。

逆に利根川東泉は先制点に喜んでいた。

 

 

「っ!」

 

 

ふと、円堂がこちらを見た。

円堂は俺に気付いたようで、俺の方に向かってピースした。

 

 

「ふっ...(やっぱりお前はそうでなくてはな。)」

 

 

利根川東泉が先制したが、まだ試合も始まったばかり。

さあ雷門イレブン...この流れを断ち切って、まずは同点に追いつくことができるか。

 

 

.




イナズマイレブンSD、実は触れたことが無いんですが利根川東泉には2つ必殺技が追加されているとか。何れも和をイメージした必殺技ですので、オリジナルの必殺技も和をイメージしています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

銀河からの一撃

嵐山 side

 

 

さて、円堂が先制点を奪ったことで、試合の流れは利根川東泉へと傾いている。

このままやられっぱなしではいられない、そうだろう稲森、灰崎。

お前らも見せてくれよ、円堂みたいにさ。

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「灰崎!」

 

「さっきは油断しちまったが...今度こそ決めさせてもらうぜ!」

 

 

雷門中ボールで試合が再開した。

小僧丸と灰崎が中央からフィールドを駆けあがっていく。

そんな2人の前に玄場と田植が立ち塞がる。

 

 

「ここは通さねえ!」

 

「ボールを奪って、追加点をもらいます!」

 

「はっ!甘いんだよ!」

 

ピュィィィィィ!

 

 

灰崎はそう言いながら指笛を吹き、少し大型のペンギンを1匹呼び出した。

そしてそのままジャンプしてペンギンの背中に乗ると、まるでサーフィンでもしているかのようにペンギンは腹でフィールドを滑り始めた。

 

 

「くくく...これが”ペンギンサーフィン”だぜ!」

 

「そ、そのままなのか灰崎...」

 

「こういうのは普通でいいんだよ、普通で!」

 

 

「くっ...」

 

「近付けない...!」

 

 

灰崎はそのまま2人を抜いて中央を突破していく。

先ほどの稲森の動きを警戒してか、サイドに寄った守備位置を敷いていた利根川東泉は、一気に中央を進まれる形となってしまった。

 

 

「くくく...ちょろいな。」

 

「油断するなよ、灰崎。」

 

「誰にものいってやがる。」

 

 

「みんな!中央を固めて円堂さんを手助けするぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

中央を突破してきた灰崎たちに対応するため、坂野上たち利根川ディフェンダーが灰崎たちを取り囲むように走っていく。だが灰崎たちはそれを意に介さずに進んでいく。

 

 

「くく...おい、稲森!アレやるぞ!」

 

「お、アレだな!」

 

 

「っ、灰崎たちが何かしようとしている!」

 

「止めるぞ!」

 

 

灰崎と稲森が何かしようとしていたのを察知しのたか、利根川ディフェンダーは灰崎たちの方に寄っていく。稲森と合流したタイミングで、1人いなくなっていることに気付かずに。

 

 

「くく...案外簡単に引っかかるんだな。」

 

「えっ!?」

 

「決めろ、小僧丸!」

 

ドゴンッ!

 

 

「言われなくても!」

 

「しまった!こっちは囮か!」

 

 

灰崎と稲森が十分に利根川ディフェンダーをひきつけてから、近くを離れていた小僧丸へとパスを出す。いや、パスというよりはセンタリングか。小僧丸はそのボールへと飛び上がり、完全に”ファイアトルネード”の体勢へと移った。

 

 

「くらえ!”ファイアトルネード改!」

 

ドゴンッ!

 

 

 

「来たか!それがお前の”ファイアトルネード”....止めてみせる!」

 

「円堂さん!」

 

「任せろ、坂野上!....はああああああ!”真ゴッドハンド”!」

 

バシィン..!

 

 

「なっ!?俺の”ファイアトルネード”が....」

 

 

小僧丸が放った”ファイアトルネード”に対して、円堂は”ゴッドハンド”で対抗した。

結果は円堂の圧勝...小僧丸の”ファイアトルネード”もそれなりの威力があるはずだが、円堂はそれを容易く止めてしまった。

 

 

「良いシュートだ!豪炎寺や嵐山にも負けてねえぜ!」

 

ドゴンッ!

 

 

円堂は小僧丸を褒めつつ、前線へとボールを大きくクリアした。

ボールは中盤まで戻され、岩戸がボールを確保した。

 

 

「ご、ゴス...どうしたら...」

 

「こっちだ、ゴーレム!」

 

「ゴス、キャプテン!」

 

 

「甘い!」

 

 

「なっ!?」「ゴス!?」

 

 

ボールをもって立ち尽くしていた岩戸だったが、道成の呼びかけですぐさま道成へとパスを出した。

だがそれを金城がカットし、そのままドリブルであがり始めた。

 

 

「よおし...頼んだぞ!下町!」

 

ドゴンッ!

 

 

「おう!」

 

 

そしてフリーになっている下町にパスを出した。

下町は完全にフリーとなっており、ボールを受け取った下町は要と合流するとシュート体勢に入った。

 

 

「いくぞ、要!」

 

「おう!」

 

「「”天竜”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

2人による必殺技が放たれた。

黒いオーラを纏ったシュートが、雷門ゴールを襲い掛かる。

 

 

「止める!はあああああ!”マジン・ザ・ウェイブ”!」

 

バシィン..!

 

 

のりかも負けじと”マジン・ザ・ウェイブ”で対抗した。

黒いオーラは一瞬で洗い流され、ボールはそのままのりかの手の中へと吸い込まれていった。

 

 

「くっ...!」

 

「俺たちのシュートが止められるなんて...!」

 

「私だって負けないんだから!」

 

 

「すげえ!あれが”マジン・ザ・ウェイブ”かあ!」

 

 

下町と要はシュートを止められて悔しそうにしているが、ふと円堂を見るとすごく目をキラキラさせているように見えた。もしかして、のりかの魔神...”マジン・ザ・ウェイブ”が気になるのか?

 

 

「日和!」

 

「任せて!」

 

 

ボールをキャッチしたのりかは、日和へとパスを出した。

日和はドリブルで駆けあがりながら、前線の動きを確認している。

 

 

「(明日人の周りに利根川の選手が集まってる....多分、明日人は警戒されているんだ。だったら...)キャプテン!」

 

「おう!」

 

 

今度は道成へとパスが通る。結構なマークがついている稲森とは反対側の方にパスを出したか。

良い判断だが....最後の問題がある限り、誰で攻めていこうと変わらない。

 

 

「(明日人がかなり警戒されているな...次点で灰崎か。だったら小僧丸を中心に攻めていく!)小僧丸!」

 

 

まあそういう判断になるよな、普通。

だがマークが厳しいってことは、その選手が怖いって言っているようなものだ。

だったらその選手をうまく使うことこそが、勝利への鍵...と俺は思うんだがな。

ま、俺だって咄嗟にそういうこと判断するの無理だし、仕方ないか。

 

 

「今度こそ決めてやる!”火だるまバクネツ弾”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「今度も止める!利根川のゴールは俺が守る!”真マジン・ザ・ハンド”!」

 

バシィン..!

 

 

「な、何だと!?」

 

 

小僧丸の”火だるまバクネツ弾”は、円堂の”マジン・ザ・ハンド”の前になすすべなく止められた。小僧丸の力は決して低くない。だが円堂とは相性があまりにも良くないんだ。

 

 

「くそ!俺によこせ!俺が決める!」

 

「ま、待て灰崎!連携を崩しちゃ...!」

 

「へへ...坂野上!あれやるぞ!」

 

「は、はい!」

 

 

なかなかゴールが決まらない状況に灰崎が苛立ち、雷門の連携が乱れ始めた。

円堂はこれを好機ととらえたのか、坂野上に何か指示をしていた。

さらに前線にいた下町が呼び戻され、ゴール前へと戻ってきていた。

 

 

「お前らチャンスだ!あれを決めるぜ!」

 

「「はい!」」

 

「うおおおおお!」

 

 

何をするかと思えば円堂の前に2人が立ち、円堂は”ゴッドハンド”を発動させた。

そしてその手を地面に叩きつけると、”ゴッドハンド”の手のオーラは2人を包み込んで遥か上空へと打ち上げる。上空で手が開くと2人がボールを蹴り落とす。

 

 

「「「”ザ・ギャラクシー”!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

何とゴール前からシュートが放たれた。

シュートを打たれた雷門イレブンも、なにが起きているのかわからずに呆然としていた。

 

 

「っ!こ、これってシュート!?止めなくちゃ!」

 

「のりか!」

 

「のりかさん!」

 

「っ、はあああああああ!”マジン・ザ・ウェイブ”!」

 

 

シュートを放たれたことに気付いたのりかは、すぐさま”マジン・ザ・ウェイブ”で対抗しようとした。だが”ザ・ギャラクシー”の威力は凄まじく、まるで勢いを殺すことができていなかった。

 

 

「くっ...何てパワーなの...!」

 

「のりか!止めてくれ!」

 

「っ...止め....うぅ...っ...きゃあああああああああ!」

 

バシュン...!

 

 

『ゴーォォォォォォォル!利根川東泉、追加点!何とゴール前からシュートを放つという、おきて破りのシュートで追加点を奪いました!これは利根川がかなり優勢となったとみて良いでしょう!』

 

 

ここで利根川に追加点か...雷門はかなり厳しくなったな。

相性の問題から、小僧丸では円堂からの得点は期待できない。

かと言って、稲森や灰崎でも円堂から点を奪えるとは、正直ビジョンが浮かんでこない。

しかも2点取られたことで、勝つには最低でも3点必要になった。

1点を奪うのも厳しい状況で、3点を奪う必要があるとなると気力が持つかどうかだな。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

稲森 side

 

 

 

「てめえが陣形を崩すから、追加点を取られちまったじゃねえか!」

 

「あ!?俺のせいだと!?元はと言えばてめえが点を取れねえからだろ!」

 

「何だと!」

 

「辞めろ2人とも!」

 

「うるせえ!だいたいディフェンス陣はなにしてやがる!もっと積極的にボールを奪いにいけよ!」

 

「な、何ですかその言いぐさは!」

 

「俺たちだって必死でやってるんだぞ!」

 

「ふん...必死でやってその程度なら、期待外れもいいところだな。」

 

「何だと!もう一度いってみろ!」

 

 

何でだよ...どうしてこんなことに...

俺たちみんなで決勝に行こうって、そう誓い合ったじゃないか。

なのに何で、こんな仲間割れなんて....

 

 

「辞めろって言ってるだろ!」

 

「っ...道成.....」

 

「...チッ...」

 

 

キャプテンが珍しく怒鳴ったおかげで、灰崎と小僧丸の喧嘩は一旦収まった。

でもどっちも納得したような表情ではなくて、仲直りではなくて本当にただ喧嘩を辞めただけって感じだ。

 

 

「.....俺たちが力を合わせなければ、円堂さんには勝てない!」

 

「それは....」

 

「そうだけどよ...」

 

「とにかく、前半もあと数分だ。ここで1点取っておかないと後半がきつい。何としても1点を取ろう!」

 

 

キャプテンの言葉に、みんなバラバラに返事をした。

やっぱり今の喧嘩でみんなの心がバラバラになっているんだ...

この調子じゃ勝てない...どうすればいいんだ....

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

鉄壁の守護神

嵐山 side

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「......剛陣!」

 

「なっ!?」

 

「え、俺!?」

 

 

雷門ボールで試合が再開したが、キックオフ早々に連携の乱れが起きた。

本来なら小僧丸から灰崎へとボールを渡してキックオフが雷門の流れなのだが、小僧丸は灰崎ではなく剛陣へとボールを渡した。それにより灰崎は驚き歩みを止め、ボールを受け取った剛陣もまた、自分にボールが来ると思っていなかったのか慌ててトラップしていた。

 

 

「何故俺に渡さない!」

 

「....ふん...」

 

「チッ...そういうことかよ....!」

 

 

灰崎がなにやら小僧丸に喚いていたが、小僧丸はそれを無視して走り出した。

それを見た灰崎は一瞬その場に立ち止まったが、すぐさま同じように走り出した。

 

 

「(なにをやっているんだ、雷門は...そんなことでは、円堂には、利根川東泉には勝てないぞ。)」

 

 

サッカーは11人のチームで戦うスポーツだ。

仲間割れなんてしていたら、どんなに強力なサッカープレイヤーでも勝てはしない。

仲間とともに勝利を分かち合うために、同じチームの名のもとに戦うんだ。

それなのに、今の雷門はバラバラだ。各々が自分で考えて動くのは良いことだ。

だがそれはお互いの信頼があってこそ。いがみ合っている状態では、ただの独りよがりだ。

 

 

「明日人!」

 

「はい!」

 

 

「ここは通さない!」

 

「っ....!小僧丸!」

 

ドゴンッ!

 

 

稲森が剛陣からボールを受け取るが、すぐさま玄場に止められてしまう。

だが稲森もすぐに小僧丸がフリーであることに気付き、パスを出した。

 

 

「っし....っ!」

 

「そのボールは俺が頂くぜ!」

 

 

「なっ!?灰崎!?」

 

「なにをしているんだ、灰崎!」

 

 

「この雑魚じゃ点は取れねえ!俺が点を取ってやるって言ってるんだよ!」

 

「んだと!?俺が雑魚だ!?」

 

 

小僧丸にパスを出した稲森だったが、そんなパスを灰崎がカットした。

明らかに連携を崩している...灰崎、お前は一体なにを鬼道から学んだんだ。

それがお前の答えなら、俺はお前に失望したぞ....

 

 

「雑魚は黙ってな!俺がいないと点を取れねえってこと、証明してやるぜ!」

 

「............来い!」

 

「おらああああああ!”パーフェクトペンギン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

灰崎の呼び出したペンギンたちが合体していき、巨大な金色のペンギンとなって円堂に襲い掛かった。だが円堂は冷静にシュートに待ち構えている。

 

 

「はああ!”正義の鉄拳G2”!」

 

 

そして繰り出されたのは俺が円堂に届けた、円堂の祖父さんである円堂大介が残したノートに記された究極奥義だった。パッと開かずグッと握ってダン!ギューン!ドカーン!...だったか。

 

それを体現したかのように、円堂は大きく拳を振りかぶり、体をひねりながらその拳を突き出した。

すると拳のオーラが飛び出し、灰崎の放った”パーフェクトペンギン”とぶつかる。

 

パワーは拮抗しているかのように見えたが、すぐに”正義の鉄拳”が押し返し、ボールはそのままハーフラインにいる下町のところまで吹き飛ばされた。

 

 

「ば、馬鹿な...俺のシュートが通じねえだと...」

 

「チッ...なにが俺が点を取ってやる、だ!簡単に防がれやがって!」

 

「何だと!?」

 

「辞めろ、お前ら!」

 

 

灰崎のシュートが完璧に止められたことで、ふたたび灰崎と小僧丸が言い争い始めた。

それを剛陣が止めようとするが、二人は剛陣を完全に無視して言い争っている。

 

 

「(残念だ...残念だよ、灰崎。まだ笛が鳴っていないのに試合に集中していないなど...残念で仕方ない。)」

 

「嵐山くん....?」

 

 

俺は椅子から立ち上がり、観客席の前の方へと歩き出す。

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

『おっと、ここで前半終了のホイッスル!2vs0と、雷門には少々厳しい展開となっております!果たして後半、追い上げていくことができるでしょうか!』

 

 

雷門イレブンが未だに言い争いながら、ベンチへと戻っていく。

雰囲気はかなり最悪なもので、喧嘩をするもの、喧嘩を仲裁するもの、喧嘩におびえるものとで分かれていた。監督は何も言わずにベンチに座っており、杏奈ちゃんと大谷さんが監督に何とかするようお願いしているようだった。

 

 

「スゥ..........雷門イレブン!!!!!!!」

 

 

「「「「「っ!」」」」」」

 

 

 

俺は大きく息を吸い込み、そして大きな声で彼らを呼んだ。

そんな大声に彼らはこちらに振り向き、観客席も静まり返った。

 

 

「何だその体たらくは!仲間同士でいがみ合い、笛が鳴ってもいないのにプレーを止めて喧嘩....ふざけるな!!!!」

 

「あ、嵐山さん...」

 

「嵐山.....さん....」

 

 

「今のお前たちに雷門イレブンを名乗る資格は無い!その名を背負って戦うつもりなら....チームとは何か、チームメイトとはなにかを今一度考えろ!!!!」

 

 

俺はそう言って、また席に戻る。

随分と注目を集めてしまったが.....だがあいつらが雷門を名乗るというのなら、俺は言っておかなければならなかったんだ。

 

俺たちの代わりに、雷門を名乗るならな。

 

 

「.......嵐山さんの言う通りだ。」

 

「キャプテン...」

 

「道成...」

 

「俺たちは雷門の名を背負って戦っている。たとえそれが偶然であっても、あの人たちの代わりに雷門を名乗っている以上、あの人たちの分まで責任を持たなきゃいけないんだ。」

 

「........責任とか、誇りとか、俺にはわかんねえ。」

 

「灰崎....」

 

「だが、嵐山サンには借りもあるし、恩もある。だから.....だからあの人の言うことには逆らえねえ。」

 

「俺も、あいつには借りがある。......................悪かった、灰崎。」

 

「...............俺も、悪かった......小僧丸、それに、お前らも。」

 

「いや、俺も言い過ぎた。すまない、灰崎。」

 

「僕も...すみませんでした。」

 

 

 

「おーほっほっほ。」

 

 

「「「「っ!」」」」

 

「皆さーん、ようやく目が覚めたようですネ。」

 

「監督....」

 

「皆さんへの叱咤は嵐山君がしてくれましたので、私からは後半の作戦だけ。」

 

「作戦....?」

 

「一体何を...」

 

「円堂さんは鉄壁だ。簡単には突破できませんよ。」

 

「おーほっほっほ。完璧なものなんてありません。だからこそ、サッカーは面白いのでス。」

 

「完璧なものなんてない....」

 

 

どうやら、監督が動いたようだな。

ここからだとさすがに聞こえないが、監督がなにやら指示を出している。

あの監督のことだ、恐らくは円堂からゴールを奪うための秘策だろう。

 

 

だが、今の円堂は正直強い。立向居と戦った俺ならわかる。

円堂はあの立向居と同等の強さを手に入れている。

果たして、奇策程度で円堂から点を取れるんだろうか。

 

 

『さあハーフタイムも終わり、間もなく後半戦がキックオフです!2vs0という点差、そして円堂守という鉄壁の守護神を前に、雷門中は一体どんな戦いを見せてくれるか!』

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

『後半戦、キックオフ!』

 

 

「灰崎!」

 

「っ!...おう!」

 

 

小僧丸から灰崎へとボールが渡され、灰崎は一瞬驚きつつもそのままドリブルで駆けあがっていく。

どうやら、喧嘩は終わったみたいだな。

 

 

「止める!」

 

「円堂ばかりに負担は掛けられねえからな!」

 

 

そんな灰崎の前に、田植と玄場が立ち塞がった。

円堂という鉄壁の守護神はいるが、他の選手がディフェンスを軽視していては勝てない。

利根川東泉の選手はしっかりとチームでの意識を持っているな。

 

 

「くくく...甘えな!」

 

「なにっ!」

 

「バックパス!?」

 

 

灰崎は後ろに誰がいるか確認せず、そのままバックパスして走り出す。

誰がボールを取れるかわからない、完全に無謀なプレーだ。

だが灰崎はわかっているんだろう、後ろに誰がいるか....見なくても。

 

 

「任せろ!灰崎!」

 

「くく...しくじるなよ、稲森ぃ!」

 

「くっ...」

 

「だが、あいつを止めれば問題無い!」

 

「絶対抜いてみせる!うおおおおおおおお!”イナビカリダッシュ”!」

 

 

灰崎に突破を許した二人は、今度はボールを持った稲森に向かっていく。

だが稲森は”イナビカリダッシュ”で二人を抜き去り、さらにドリブルで進んでいく。

 

 

「おーほっほっほ。」

 

 

監督がふと立ち上がると、なにやらイレブンバンドを弄りながら踊っている。

あれは一体何を...そう考えていると、それに気付いた利根川東泉の選手がなにやら気にし始めた。

 

 

「何か指示を送っている...?」

 

「何か来るかもしれない、注意しよう!」

 

 

利根川の動きが乱れ始めた....?

っ、まさか....いや、そんなことするか...?

監督が出てきて、イレブンバンドを弄れば何か作戦かもしれないと思う。

だがそれはブラフで、相手の動きを乱す...そんな作戦とか。

 

 

「「.....よし!」」

 

「っ!」

 

「9番と11番が動き出したぞ!」

 

 

小僧丸と剛陣が手元を確認した後、それぞれ両サイドに駆けあがり始めた。

それを見た利根川イレブンは、二人が何かすると判断して追いかけ始める。

 

 

「くくく...いくぜ、稲森!」

 

「おう!」

 

 

「「「な、なにっ!?」」」

 

 

だがそんな利根川イレブンを無視して、稲森と灰崎はそのまま中央を駆けあがっている。

当然、両サイドにディフェンスが寄ってしまったため、中央はがら空きだ。

 

 

「ま、まさか!」

 

「監督の動きはブラフ...!」

 

 

「くくく...全員で釣られやがって、ちょろい奴らだぜ。」

 

「いくよ、灰崎!」

 

「足引っ張るんじゃねえぞ、稲森!」

 

ピュィィィィィ!

 

 

稲森と灰崎は、世宇子戦で見せた二人のオーバーライド技....えっと、”シャイニングペンギン”?”ホーリー・ザ・ペンギン”?を発動した。

 

 

灰崎の呼び出したペンギンたちが、稲森の放った光に飲み込まれていく。

 

 

「くらえ!」

 

「これでゴールを奪う!」

 

「「”シャイニング・ザ・ペンギン”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

おお!ついに技名が決まったか!

二人のオーバーライド技、”シャイニング・ザ・ペンギン”が円堂の守るゴールへと突き進んでいく。

 

 

「ははっ!そのシュート、世宇子との試合を見たときから受けてみたかった!」

 

 

対する円堂は、そんなシュートを前に笑顔を見せていた。

 

 

「本当はクラリオともう一度戦う時まで取っておくつもりだったけど....見せてやるぜ!はあああああああああ!」

 

 

円堂は”マジン・ザ・ハンド”の構えに入った。

....いや、あれは....

 

 

「っ!な、何だあれは!?」

 

「え、円堂さんの新必殺技!?」

 

 

円堂が心臓から右手にオーラを溜めると正面を向き、地面に突き立てるように右手をおろす。

すると右手からⅤマークのようなオーラが発生する。

 

 

「これが俺の、”ゴッドハンドⅤ”だ!」

 

 

そして放たれた”ゴッドハンド”には、同じようにⅤマークがついている。

見た目は同じ”ゴッドハンド”だが、今までとは桁違いのパワーを感じる。

 

稲森たちの”シャイニング・ザ・ペンギン”とぶつかり合うが、シュートの勢いは一瞬で落ちていき...

 

 

『と、止めたああああああああああああ!稲森と灰崎のオーバーライド技、”シャイニング・ザ・ペンギン”を完璧に止めました!まさに鉄壁!最強の守護神!雷門にとって果てしなく大きな壁がそびえ立っています!』

 

 

「う、嘘だろ...」

 

「俺たちの最強必殺技が...」

 

「通用しねえ...だと...」

 

 

絶望的だな...今の”シャイニング・ザ・ペンギン”が雷門の最強必殺技だとするなら、あれほど簡単に止められた以上、円堂から点を取るのは不可能だ。

 

 

「..............まだまだ!諦めるにはまだ早いよ!」

 

「明日人...」

 

「稲森...」

 

「俺たちはまだやれる!全力を出しきってない!まだまだ試合は終わってない!」

 

「っ...だが、実際問題あの鉄壁をどう崩す。」

 

「点が取れない以上、俺たちに勝ち目は...」

 

「まだあります!俺たちには必殺技が!」

 

「っ!だがあの必殺技は...」

 

「未完成でも、やるしかないんです!やりましょう、キャプテン!」

 

「道成.......」

 

「道成さん...」

 

「キャプテン...」

 

 

稲森がみんなを励まし、そしてキャプテンである道成に注目が集まる。

 

 

「っ.................やろう。」

 

「「「「「っ!」」」」」

 

「確かにあの必殺技は未完成だ。でも、完成すれば”シャイニング・ザ・ペンギン”よりもさらに強い必殺技になるはずだ。.....どうせ負けているんだ。だったら俺たちのすべてを見せよう!」

 

「キャプテン!」

 

「.....ま、雷門のキャプテンはあんただ。あんたの決めたことに逆らうつもりはねえよ。」

 

「灰崎.....」

 

「ただし、やるからには決めろ。いいな?」

 

「.......ああ、任せておけ。」

 

 

どうやら、なにかを決意したみたいだな。

後半戦も始まったばかりだ、まだまだ追い上げはできる。

円堂を攻略して、俺たちの元まであがってこられるか、稲森。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

勝利の道

嵐山 side

 

 

「さあ攻めていくぞ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「「「「はいっ!」」」」

 

 

円堂が持っていたボールを大きくクリアし、ボールはふたたびセンターラインの下町のところまで運ばれた。ボールを受け取った下町は、合流した要とともに駆けあがっていく。

 

 

「ここは通しませんよ!」

 

「要!」

 

「おう!」

 

 

ドリブルで駆けあがる二人の前に、奥入が立ち塞がった。

だが2vs1のこの状況、奥入には悪いが止めるのは難しいだろうな。

 

 

「くっ...!」

 

 

予想した通り、下町と要はワンツーで奥入を軽々と抜いていった。

攻めあがっていたことで、雷門はかなり前線にあがっていることが原因でディフェンスが追いついていないように見える。

 

 

「っ...止めるんだ!」

 

「のりかの負担を減らすよ!」

 

「みんな....!」

 

 

万作、日和が少し離れた位置から下町と要に近寄っていく。

それによって二人の進行方向がかなり狭まっていき、のりかもコースの予測がしやすくなっていた。

 

 

「追いついたぞ!」

 

「くっ...!」

 

 

ついに万作が要に追いつき、正面をふさいだ。

 

 

「こっちだ、要!」

 

「させませんよ!」

 

「なにっ!?」

 

 

さらに日和が下町に追いつき、パスコースをふさぐ。

これで万作と要の1vs1だな。さて、どちらに軍配があがるか。

 

 

「(こうなったら抜くしかないか!)はあ!”激華”!」

 

「っ....させるか!”スパークルカッター”!」

 

「なにっ!?」

 

 

要が必殺技を発動して万作を抜こうとしたが、万作も必殺技を発動した。

要の周りに雷を帯びた風が発生し、万作がそれを蹴ると風の刃が要を襲う。

 

 

「くっ...!」

 

「ボールは貰った!」

 

「く...そ....おおお!ぐあああ!」

 

 

何とか耐えていた要だったが、何度も押し寄せてくる風の刃についに吹き飛ばされてしまい、ボールは万作が奪ってみせた。

 

 

「よし!氷浦!」

 

「ああ!」

 

 

万作は奪ったボールをすぐに氷浦へとパスする。

氷浦はボールを受け取ると、周囲を見渡しながらドリブルであがり始める。

 

 

「(明日人たちはあがり始めているな.....よし、これなら行けるかもしれない!)」

 

「ここで止める!」

 

「......」

 

 

そんな氷浦の前に、金城と六豹があらわれた。

だが氷浦は冷静に前線にあがっている稲森たちを確認すると、すぐさまパスの体勢に入った。

 

 

「頼んだぞ、明日人!小僧丸!キャプテン!”氷の矢”!」

 

ドゴンッ!

 

 

氷を纏ったボールが、まるで矢のように稲森たちの元へと運ばれていく。

さっき稲森たちは何か作戦をたてていたようだし、あの3人が何かをするのか?

 

 

「よし!ナイスパス....って、ええ!?」

 

「させるか!」

 

「え、円堂さん!?」

 

 

稲森へとパスが通った...と思われたその瞬間、円堂が飛び出してきており、円堂はそのままヘディングでボールをカットした。弾かれたボールはまたセンターラインの方へと吹き飛んでいき...

 

 

「ナイスカットだぜ、円堂!」

 

「任せたぞ、玄場!」

 

「おう!」

 

 

玄場がボールを確保した。これでふたたび利根川東泉の攻撃だ。

後半が始まってからも目まぐるしく状況が動くな。点差はあるが、お互い一歩も譲らないって気迫を感じる。

 

 

「くそ...!明日人とキャプテンが攻撃に回ってるから...」

 

「ディフェンスが足りないよぉ...!」

 

「へへ!全然ディフェンスが来ねえじゃねえか。」

 

 

どうやら雷門は稲森と道成が攻撃に回っているせいで、ディフェンスがおろそかになっているようだな。俺たちのように普段から攻撃に重点を置いているチームなら慣れているが、雷門はオーソドックスなフォーメーションだからな。

 

 

「よし...下町...っ!」

 

「ちんたらしてんじゃねえよ!」

 

「「「灰崎!?」」」

 

 

余裕綽々であがっていき、下町へパスを出そうとした瞬間、玄場の後ろから灰崎がスライディングを仕掛けていった。玄場は完全に油断しており、もろに灰崎のスライディングを食らってしまった。

 

 

「くそ...!」

 

「はっ!ボールは貰ったぜ!」

 

「こっちです!灰崎君!」

 

「っ!ふん、もうボールは取られるなよ!」

 

ドゴンッ!

 

 

灰崎は奥入の声を聞き、すぐに立ち上がってパスを出した。

 

 

「僕を舐めないでください!」

 

 

奥入はボールを受け取ると、ドリブルで駆けあがっていく。

今のは灰崎のファインプレーだな。恐らくはもうあの3人が決めることに期待して、灰崎はディフェンスまで戻ってくることができたんだろう。

 

 

 

「奪われたら奪い返す!」

 

「っ!」

 

 

ドリブルで駆けあがる奥入の前に、橋屋があらわれた。

橋屋はかなりの巨体だからな...力づくでの突破は厳しいが、どうする。

 

 

「ボール、返してもらうぞ!」

 

「させません!”ザ・ラビリンス”!」

 

パチンッ!

 

 

「な、何だ!?」

 

 

奥入はその場に迷路を出現させると、壁で遮られて動けない橋屋を抜き去っていく。

なかなか面白い必殺技だな。橋屋も混乱して全く動けていない。

 

 

「待て!」

 

「ボールを取り戻す!」

 

 

「(よし...ここまでひきつければ....!)」

 

 

奥入はそのままサイドを駆け上がり、利根川のディフェンスもそれにつられてサイドへと寄っていっている。どうやら3人でやろうとしていることは、ディフェンスがいたら難しいことのようだな。

 

 

「っ、キャプテン!」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ!」

 

 

ディフェンスを十分にひきつけた奥入は、ゴール前にいる道成へと大きくパスを出した。

それを受け取った道成と、稲森、小僧丸は三角形のような陣形を作っている。

 

 

「いくぞ!」

 

「はいっ!」

 

「おう!」

 

 

そして道成は稲森へとボールを蹴ると、稲森はそれをダイレクトに小僧丸へと蹴る。

さらに小僧丸もそれをダイレクトに道成に蹴る。それを繰り返していると3人の中心に竜巻が発生し、3人を覆い隠した。

 

 

「「「はああああああああ!」」」

 

 

中は見えないが、恐らく3人でボールを蹴っているはずだ。

これが今の雷門の最後の必殺技....

 

 

 

「くっ....パワーが....!」

 

「やっぱりまだ未完成だから...!」

 

 

だがなかなかシュートが放たれない。

まだ未完成のシュートなのだろうか....まさか失敗しかけている...?

 

 

「くそ....!」

 

「ぶれて、力が...!」

 

「っ!そのまま続けろ!」

 

「小僧丸!?」

 

「ブレは俺が修正する!だから...!」

 

「で、でも!」

 

「いいからやるぞ!俺は.....俺は決勝に行きてえんだよ!豪炎寺さんを倒して、決勝で待ってる嵐山を超えるためにも...!」

 

「小僧丸........やるぞ、明日人!」

 

「は、はい!」

 

「っ.....(ちくしょう....嵐山隼人、円堂守....それに明日人や灰崎たちだってそうだ。すげえ奴が俺の周りにはたくさんいやがる!それでも!....それでも、俺はそいつらを超えて、豪炎寺さんも超えて.....俺が最強のストライカーになるんだ!)負けてらんねえんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「っ!ブレが....」

 

「これなら行ける!」

 

「うぐっ.....いく....ぞおおおおおおおおおお!」

 

 

 

「っ!」

 

 

竜巻の中から、凄まじいオーラを感じる。

さっきまでは感じなかったのに...いきなりどうしたんだ。

だがこのパワー.....もしかしたら....!

 

 

「「「”ビクトリーライン”!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

突如、竜巻の中から3本のオーラが放たれた。

赤、黄、緑の3本のオーラからは凄まじいパワーを感じる。

それぞれのオーラがそのまま円堂へと襲い掛かった。

 

 

「すげえ...すげえぜ!だけど俺も負けられない!決勝で待っている、俺の一番の親友がいるから!はああああああああ!”ゴッドハンドⅤ”!」

 

 

円堂も”ゴッドハンドⅤ”で対抗する。

稲森たちの”ビクトリーライン”と、円堂の”ゴッドハンドⅤ”がぶつかり合い、ゴール前ではオーラが激しく稲妻のように弾けていた。

 

 

「ぐっ....!」

 

 

そして円堂は徐々にゴールへと押し込まれていく。

雷門が最後の希望のように思っていた技だけに、円堂も苦戦を強いられている。

 

 

「ぐっ...負け...ねえ...!」

 

 

円堂は空いていた右手を左手に沿え、ゴールに押し込まれないように踏ん張る。

それでも”ビクトリーライン”の威力は絶大なのか、円堂はどんどんとゴールへ押し込まれていく。

だがそれと同時に”ビクトリーライン”の勢いも徐々に落ち始めていた。

 

 

「っ....いけえええええええええええ!」

 

「っ....負けるかあああああああああ!」

 

ドガンッ.....!

 

 

稲森たちも円堂も気合を叫んだ瞬間、二つのオーラは限界を迎えたのか大爆発を起こした。

煙が舞う中、徐々にその煙は晴れていく。

 

 

『こ、これは!』

 

 

円堂はボールを両手で抑えて、その場に立っていた。

雷門の決死のシュートも、最後は止めてしまったんだ。

だが....

 

 

『と、止めている!止めています!雷門の3人が放った強烈なシュートを、円堂は止めて!.....い、いや!これは!』

 

 

「へへ....すげえシュートだったぜ!今度は負けねえ!」

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

『な、何と!止めたかと思われましたが、円堂!ギリギリゴールに押し込まれてしまっていました!しかし、あと数センチ!僅か及びませんでした!』

 

 

本当にギリギリで押し負けたみたいだな。

これで2vs1....だが....

 

 

ピッピッピィィィィィィィィ!

 

 

「「「「「え.....?」」」」」

 

 

『ああああああああああああ!何と!ここで無情にも試合終了のホイッスル!雷門中、最後に鉄壁の守護神、円堂からゴールを奪いましたが!あと一歩及びませんでした!2vs1!利根川東泉中と雷門中の試合は、たった1点差で利根川東泉が勝利しました!』

 

 

「ま、マジかよ...」

 

「俺たち、せっかく1点取ったのに...」

 

「.....................みんな!顔を上げろ!」

 

「キャプテン...」

 

「俺たちは負けてしまった。でも、こんな大舞台で円堂さん相手にこれほどの試合ができたんだ。俺は.....それがすごく嬉しい!」

 

「確かに...」

 

「僕たちがここまで来れるなんて、伊那国島にいたころはそんなこと考えもしなかったですからね。」

 

「.....はっ!決勝に行けないんじゃ、このチームに入った意味はねえ。」

 

「灰崎....」

 

「だが....まあ、悪くはなかったぜ。お前らとのサッカー。」

 

「「「灰崎....!」」」

 

 

なんだかんだで、稲森たちは大きく成長したな。

来年以降、中学サッカーを引っ張っていく存在...それはきっと、立向居や稲森、灰崎、そして野坂のような存在なんだろうな。もちろん、ヒロトや基山たちもな。

 

 

試合の余韻に浸りながらフィールドを見ていると、円堂が観客席の前まで走り寄ってきた。

 

 

「嵐山!!!!!」

 

 

どうやら、俺に用があるみたいだな。

俺は席から立ち上がり、円堂の見える位置まで行く。

 

 

「どうした、円堂。」

 

「俺、来たぞ!決勝まで!」

 

「ああ。」

 

「.....今まで嵐山は、ずっと俺の前にいてくれた。俺に背中を見せてくれていた。だから、ずっと気付けなかったんだよ。」

 

「....」

 

「俺はお前に勝ちたい!だから......最高の勝負をしようぜ、嵐山!」

 

「ふっ......俺も、ずっと後ろを守っていたお前が気になっていた。俺自身が一番信頼しているキーパーはお前しかいない。そんなお前を倒す....これ以上ない、最高の戦いになるはずだ!」

 

「へへ....決勝、楽しみだな!」

 

「ああ!」

 

「決勝の舞台で....またサッカーやろうぜ!」

 

 

そう言って、円堂は利根川ベンチへと去っていった。

ああ、円堂...本当にお前のいう通りだよ。楽しみで楽しみで仕方ないんだ。

お前との試合、最初から全力で行かせてもらうからな。

 

 

 

.




正直、そんなに試合時間進んでるの!?ってなることが自分で書いてても多々あり、どうやって描写しようか色々考えてます。なかなか難しい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

不穏な決断

嵐山 side

 

 

『さあ!今日は世界の頂点を賭けた大一番だ!準備はいいな、みんな!』

 

『ついにこの時が来た!』

 

『長い旅路だったが...ついに来たな。』

 

 

円堂が、鬼道が、そして修也が笑いながら話している。

俺もそのすぐ近くにいる。それなのに声が出ない。何故だ...?

俺たちはこれから世界一を賭けた最後の戦いに挑む...そのはずなのに...

 

 

『嵐山...見ていてくれよ...俺たち、絶対に世界一になるからな!』

 

 

待ってくれ...

 

 

『嵐山の想いを受け継いで、俺たちは優勝する!』

 

 

俺もここにいる...

 

 

『隼人、俺はお前の想いもこの足に乗せて、世界一のストライカーになるぞ。』

 

 

どうしてだよ、修也まで...

 

 

 

どうしてだ....どうしてみんなが遠ざかっていく...

俺も世界の舞台に......っ、鏡....?これは...俺....?

 

 

『あ....あ.....ああああああああああああ!』

 

 

鏡に移る俺は、足から砂のように消えていく。

怖い...嫌だ....消えたくない....!

 

 

 

 

 

 

 

「うわあああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

そこで俺はベッドから飛び起きた。

そして今のが夢であることを認識することができた。

時間はまだ深夜だ。悪夢で目が覚めるなんて、本当にあるんだな。

 

 

「ハァ...ハァ.....っ.....何て酷い夢だ.....笑えないな........っ....ぐあっ...!」

 

 

嫌な夢だったと思っていたが、すぐさま現実へと戻される。

強烈な痛みが俺の足を襲い、俺はすぐに自分の足を抑える。

 

 

「ぐっ....な、何だこの痛み...っ....ぐぅ...!」

 

 

昨日は何ともなかったのに...一体なんだこれは....!

ダメだ...痛みで意識が....

 

 

俺は立ち上がることもできず、ベッドから転がり落ちた。

何とか這いずってテーブルにあるスマホのところまで行こうとしたが、あと一歩のところで力尽き、そのまま気を失ってしまった。

 

 

次に目が覚めたのは、夜が明けてすぐの時間だった。

もう痛みは消えていたが、あの想像を絶するような痛み...2年前に事故にあった時と同じくらいの痛みだった。俺の足...一体どうしたっていうんだ....

 

 

「こんなこと、夏未はもちろん、基山たちにも言えない......それに.....」

 

 

あと数日で決勝が控えているんだ。

円堂との試合、楽しみにしているんだ。

こんなところで立ち止まるわけにはいかない。

 

 

.....

....

...

..

.

 

夏未 side

 

 

ガラガラ...

 

 

「あ、夏未さん!おはよう!」

 

「ええ、おはよう。」

 

「この前のサッカー部の試合、すごかったね!」

 

「あら、見てくれたのね。」

 

「うん!決勝戦は学園全体で応援に行くから、頑張ってね!」

 

「ふふ、ありがとう。」

 

 

サッカー部の活躍は、全校生徒に知れ渡っているのね。

マネージャーとして鼻が高いわ。嵐山君が人気になって、彼に話しかける女の子が増えたのは気に食わないけれど。

 

 

「....あら?嵐山君はまだ来ていないのかしら?」

 

「そうだね。いつも早く来てるのに、珍しい。」

 

 

キーンコーンカーンコーン

 

 

「はい、皆さん着席してください。」

 

 

嵐山君がまだ来ていないけど、チャイムが鳴って先生が来てしまった。

もしかして、何かあったのだろうか。

 

 

「あの、先生。」

 

「はい、どうしましたか雷門さん。」

 

「嵐山君が来ていないようですけど、欠席ですか?」

 

「ああ、嵐山君なら体調不良で休むと連絡が来ましたよ。少し熱があると言っていました。まあ、あれだけの試合の後です。仕方ないでしょう。」

 

「そう...ですか.......ありがとうございます。」

 

「はい。....ではホームルームを始めますよ。」

 

 

嵐山君が熱....大丈夫かしら。

彼、熱があろうと怪我をしていようと無理してしまうくせがあるから。

心配だし、学校が終わったらお見舞いに行きましょう。

そもそも部屋は隣なのだから問題無いわね。

 

 

「(そうだわ。風邪の時はおかゆを食べると聞いたし、おかゆを作っていきましょう。)」

 

 

今日は練習休みにしているし、丁度良いわね。

ふふ、帰りに買い物して帰らなきゃいけないわね。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

「それで、先生.....俺の足、どうなってるんですか....?」

 

「うむ....まあ、恐らく疲労骨折だね。」

 

「疲労骨折....」

 

「サッカーの試合中、急に足に違和感を覚えた。明らかに外傷は無いのに、痛みが発生する。そう考えるとやはり、疲労骨折と考えるのが普通だね。」

 

 

疲労骨折....確かに、事故にあってそれが完治してから今日まで、ずっと足を酷使してきたと思う。

そのせいで、いつの間にか俺の足はボロボロだったってことか...こんな大事な時期に...

 

 

「今はそれほど重傷でもないし、1~2か月くらい安静にしておけば、スッと治るよ。」

 

「っ....それじゃ....」

 

「ん?」

 

「それじゃ、ダメ...なんです...」

 

「ダメ?」

 

「俺、数日後に大会の決勝戦があるんです。親友と戦う最後の決勝戦なんです....それに、決勝戦まであいつらを連れてきた以上、俺は責任をもってあいつらに優勝を経験させてやる必要があるんです....!」

 

 

円堂と戦うことだけじゃない。

基山たちに夢を見せた以上、俺にはあいつらの夢に最後まで付き合う必要があるんだ。

疲労骨折なんかでリタイアするわけにはいかないんだよ。

 

 

「先生!お願いします!何とか....何とかならないんですか!」

 

「うむ.............医者として、正しい行為ではないが.......痛み止めを出すことはできる。」

 

「っ!本当ですか!」

 

「ああ。だが、痛み止めは打つごとに効果が弱まる。そもそも、今はヒビが入っている状態だが無茶をし続けると完全にひび割れることだってあるし、最悪もっと酷いことになる。それに慢性的な症状になることだってあるんだ。もう一生、サッカーができない可能性だってあるんだぞ?」

 

「っ.......それでも、俺はやります。あいつらと一緒に、叶えたい夢があるんです。」

 

「....................ハァ....わかった。ただし、君は未成年だ。痛み止めを打つなら、保護者の同意が必要になる。それだけは絶対だ。」

 

「............わかりました。」

 

 

保護者....もう、俺に保護者なんて....

でも、痛み止めを打つには必要なことだ。

とりあえず実家に戻って、祖父ちゃんかばあちゃんのハンコを探すか。

サインはな....自分で書いても筆跡でバレる。....どうしようかな。

 

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

結局あれから実家に戻り、色々考えているんだが解決案が思いつかない。

瞳子さん.....は多分、ダメっていうだろうな。だったら吉良理事長....も無理だろうな。

夏未の親父さんも無理だな....絶対止めてくる。響木監督にも言えない。

 

 

「どうすればいいんだ....」

 

 

ガチャ...ガチャガチャ....

 

 

「っ!?」

 

 

ああでもないこうでもないと考えていると、突然玄関から鍵を開ける音が聞こえてきた。

この家の鍵は俺しか持っていないはずなのに、一体だれが...!?

俺は音を立てないように、玄関へと向かう。それと同時に玄関のドアが開き、一人の女性が入ってきた。

 

 

「良かった。鍵は変わってないのね。」

 

「っ!(どうして....母さん...!?)」

 

「うふふ...いるのはわかっているわよ、隼人。」

 

「っ!」

 

 

背筋がぞわっとした。もしかして俺、監視されていたのか!?

以前会った時はかなり精神的におかしい状態に見えたが、今もずっと笑顔のままだ。

でも笑っているようには感じない。狂気を感じるような笑みだ。

 

 

「お母さん、あなたのことを助けに来たのよ。」

 

「......」

 

「痛み止め、打ちたいんでしょう?」

 

「っ.......」

 

 

やはり、俺がなにをしているのか理解しているのか。

一体いつから、俺のことを監視していたんだ。

一体何が目的で、俺のことを監視しているんだ。

 

 

「どうして....」

 

「ああ!やっと顔を見せてくれたのね!」

 

「っ!」

 

 

母さんは俺の姿を確認すると、靴を履いたまま駆け寄ってきて、俺を抱きしめた。

白衣からは薬品のような、研究者チックな匂いがしてくる。

 

 

「ああ、大きくなったわね....母さん、嬉しいわ。」

 

「っ...なにを...言って...」

 

「久しぶりに息子に会えたのだもの。もう少し、こうやって抱きしめさせて?」

 

「久しぶり....だと....?」

 

 

一体なにを言ってるんだ、この人は...俺たちはつい最近会ったじゃないか。

何なんだ...一体何なんだよ、この人は...!

 

 

「うふふ....隼人のこと抱きしめられてよかったわ。」

 

「っ.....」

 

「さて、じゃあ本題を話しましょうか。...痛み止めを打つために、保護者のサインが必要なんでしょう?」

 

「っ....ああ、そうだ。」

 

「私がサインしてあげるわ。だって、可愛い息子のためだもの!」

 

「どうして......どうして今更....」

 

「うふふ...でもね母さん、隼人が無茶するのは悲しいわ。だから.....サインする代わりに、いつか私のお願い、聞いてもらえないかしら?」

 

 

っ...やはり、何か対価を要求してきたか。

いつか母さんの願いを聞く....今すぐじゃないってことか。

だが、母さんは研崎と一緒に色々企んでいた人だ。信用できない。

 

 

「(でも...........)」

 

「ふふ。何も難しいことを頼むつもりはないわ。大丈夫....母さんは隼人の味方よ。」

 

「っ......俺.........は..........」

 

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

翌日

 

 

夏未 side

 

 

「あ、嵐山君。おはよう。」

 

「......ああ、夏未か。おはよう。」

 

 

朝、登校しようと家を出ると、嵐山君とばったり鉢合わせた。

どうやら嵐山君もこれから登校するようね。

 

 

「昨日はどこか行っていたの?」

 

「えっ?....ああ、うん。どうして?」

 

「熱が出たって聞いて、お見舞いに行ったけどいなかったから。」

 

「そっか....ごめん、病院に行ってたんだ。」

 

「そう.....無茶はしないでね?」

 

「っ.......ああ、もちろん....」

 

「あ、待ちなさいよ。一緒に登校しましょう!」

 

 

そう言って、先に行こうとする嵐山君の隣まで駆け寄った。

さっきから随分と暗いけど、嵐山君ならきっと大丈夫よね。

不安を感じながらも、私は自分にそう言い聞かせて、嵐山君の隣を歩いた。

 

 

この時、嵐山君の異変に気付いていれば....あんなことにはならなかったのかしら...

私は気付いていなかったの。嵐山君が思いつめていたことに。嵐山君が苦しんでいたことに。

 

 

 

.




一応、嵐山自身、嵐山父、嵐山母のイメージはまとまっていて。
私は絵を描ける人じゃないので、AIイラスト使ってそれっぽいの作ってはいるんですが、AIイラストってやっぱり受け付けられない人はいると思うので、公開するか迷ってます。

簡単に説明すると、
・嵐山本人 → 緑髪のウルフヘア、優し気な顔つき、そこそこ筋肉質なイケメン
・嵐山父  → 緑髪のウルフヘア(抑えめ)、さえない顔つき、一般的な30~40代の中年サラリーマン風、サングラス着用
・嵐山母  → 白髪のロング(腰辺りまでの長さ)、美魔女、スーツに白衣、10~20代でも通じるほどの若さ

ってイメージです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決勝を前に

基山 side

 

 

「はあああああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ハァ...ハァ....もう1本!」

 

「ちょっとタツヤ!そろそろ辞めなさい!」

 

「玲名....もう少しだけやらせてくれ。」

 

「でも...」

 

「決勝まで来たんだ...俺はもっともっと活躍したい!それにはもっと力が必要なんだ。」

 

 

そう言って、俺はふたたびシュート練習を再開した。

焦ってるのはわかってる...それでも、今は練習あるのみなんだ。

ヒロトとのオーバーライド技だけじゃない、俺の新しい必殺技を完成させることで、俺はもっとチームに貢献できるはずなんだ。

 

 

「みんな!集合して!」

 

「っ、監督....どうしたんだろ。」

 

「隼人と夏未も一緒ね。」

 

 

俺たちは練習を中断して、監督たちのところに集まった。

珍しく、嵐山さんは練習着ではなくジャージ姿だ。

そういえば昨日は体調不良で学校も休んでいたって言ってたな。

 

 

「みんな集まっているわね?.....まずはみんな、決勝までよく頑張ったわね。」

 

「それは...嵐山さんが俺たちを導いてくれたからだよ。」

 

「ええ。隼人がいたから、私たちはここまで来れた。」

 

「ああ。嵐山サンには感謝してもしきれねえ。」

 

「ええ、そうね。.....そして、3日後の決勝戦、恐らくはこれまで以上に厳しい試合になるでしょう。特にキーパーは嵐山君と一緒に弱小だった雷門中を全国制覇へ導いた立役者、円堂守。」

 

 

円堂守...嵐山さんが絶対的なエースストライカーなら、円堂さんは絶対的な守護神。

自らが先頭に立ってチームを引っ張る嵐山さんと、ゴールを守って味方に安心感を与え、攻める勇気をもたらす円堂さん...雷門はきっと最高のチームだったんだって、そう思える。

 

 

「それでも私は、あなたたちが勝つことを信じています。」

 

「監督......瞳子姉さん...」

 

「この3日間、勝っても負けても悔いのないよう、最後まで戦い抜きましょう。」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

瞳子姉さんの言葉に、さらに強く勝ちたいという気持ちが高まった。

俺たちを導いてくれた嵐山さんと一緒に、そして...ずっと俺たちを見ていてくれた瞳子姉さんと一緒に、憧れのフットボールフロンティアで優勝する。最高の仲間たちと一緒に。

 

 

「監督の言葉の通り、もう泣いても笑っても決勝を戦い抜くだけだ。だからこそ...本当に悔いの残らないよう、最後に合宿をしないか?」

 

「合宿...ですか?」

 

「ああ。俺たち雷門も前回の決勝戦前、みんなで学校に泊まって合宿したんだ。最後にそうやってみんなで気持ちを一つにしたからこそ、俺たちは決勝を戦い抜くことができた。俺はそう思っている。」

 

「へえ、面白そうだな。」

 

「合宿か...普段からみんなお日さま園で暮らしているし、お泊り会なんてやったことないもんね。」

 

「確かに。」

 

「それに合宿なら、普段はいないヒロトさんもそうだけど、嵐山さんたちも一緒ってことですよね?」

 

「ああ。俺も夏未も、もちろんヒロトと監督も一緒だ。」

 

「最っ高ですね!やりましょう!」

 

「ああ!俺と嵐山は3年...一緒に戦えるのは次が最後だ。最後に同じ釜の飯を食って、夜を共にしようではないか!」

 

 

あ、そっか....砂木沼もだけど、嵐山さんは3年生。

同じチームでサッカーできるのは、今日で最後なんだ。

 

 

「いつの間にか、嵐山さんが一緒にいるのが当たり前になってた。」

 

「そうね...寂しいことだけど、隼人とは次の試合が最後かもしれない。」

 

「ふっ....なに言ってるんだ。」

 

「えっ?」

 

「俺たちがサッカーを続ける限り、いつの日かまた一緒にサッカーできる日がくるさ。俺はこれからもサッカーを続けていく。それに.....近いうち、世界大会があるんだ。俺たちが日本代表に選ばれたら、もう一度同じチームで戦うことができるんだ。」

 

 

世界大会....前までは正直、無縁のものだったけど....

嵐山さんと出会い、こうして決勝まで戦うことができた今なら思える。

俺たちはきっと、日本代表に選ばれるだけの力を持っているはずだ。

 

 

「嵐山さんと一緒に世界と戦う....俺、楽しみです!」

 

「はっ!もう選ばれたつもりかよ、タツヤ。」

 

「ヒロト....何だ、選ばれる自信が無いのかい?」

 

「んだと?....ふっ、おもしれえ。どっちが選ばれるか勝負だな!」

 

「ふふ....ははは!」

 

 

何だろう...さっきまで焦っていたけど、気持ちが落ち着いてきた。

今の俺なら....いや、俺たちならきっと、うまくいく。そんな気がするんだ。

 

 

「よし!じゃあ今日から合宿だ!最後までしっかり特訓して、優勝を目指すぞ!」

 

「「「「「はいっ!!!!」」」」」

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

嵐山 side

 

 

合宿...とは言いつつも、俺は稲妻町へと足を運んでいた。

本戦開始前にもやった、円堂たちとの集会が目的だ。

 

 

「よっ、待たせたな。」

 

「いや、俺たちも今来たところだ。」

 

「俺たちと比べると、隼人は少し離れているからな。」

 

「まあな。...ところで円堂は?」

 

「ああ、円堂ならあそこでアイスを買っている。」

 

「ああ...あいつ、アイス好きだな。...あ、店員さん。アイスコーヒー、お願いします。」

 

「かしこまりました。」

 

 

とりあえず注文しながら、俺は修也たちが待っていた席に座る。

ついこの間、試合をしたばかりだし修也とはさほど久しぶりでもないな。

鬼道はなんだかんだで久しぶりか?

 

 

「お、嵐山!来てたのか!」

 

「おう。」

 

 

この前、あれだけ格好つけて別れた手前、少し気恥ずかしさを感じるな。

円堂はそんなこと気にしてなさそうだけど。

 

 

「ついに決勝戦だな。」

 

「ああ。なんだかんだでここまで来た。」

 

「へへ。今からすげえ楽しみだぜ。嵐山とガチで勝負する機会なんて、これくらいしかないからさ!」

 

「そうだな。俺たちずっと一緒にいたから、別のチームで試合なんて考えたことなかったもんな。」

 

 

円堂と...いや、雷門と別のチームになるなんて、最初は想いもしなかったな。

それでもこうしてここまで来れたのは、円堂や修也、鬼道たちと戦いたい...そんな想いがあったからだ。

 

 

「決勝戦、俺は絶対にお前からゴールを奪ってみせる。」

 

「へへ...だったら俺は絶対、ゴールを守り切ってみせるさ!」

 

「ふっ...楽しみだな。」

 

 

俺は自分の足を気にしながら、そう言った。

円堂...本当は万全の状態で試合がしたかった。

じゃなきゃ、お前にも失礼だって思った。でも、それを言い訳にするつもりはない。

たとえ俺の足が壊れようとも、決勝戦は全力を出し切る。

 

 

「嵐山、お前....」

 

「ん?どうした、鬼道。」

 

「...........いや、何でもない。」

 

「な、何だよ...気になるな。」

 

「いや、なに。少し気負いすぎているように見えてな。」

 

「そうか?...まあ、決勝戦前だしな。昂ってるのかもしれない。」

 

「そうか...ならいい。」

 

 

鬼道の奴、考え込むように黙ってしまったけどどうしたんだろう。

ま、鬼道はたまにこういう状態になるし、いつものだろう。

 

 

「それで....今日は日本代表候補についての意見交換会って聞いてたけど....」

 

「そうだな。...実は数日前、少年サッカー協会のチェアマンから呼び出されてな。日本国外から選出される予定の人物について、説明を受けてきた。」

 

「へえ....日本国外...」

 

「ああ。何でも次の世界大会では、世界平和をテーマとして国家友好親善大使という肩書の人物をチームに入れる必要があるらしい。」

 

「何だそれ....その人がサッカーやってなかったら不利じゃん。」

 

「いや、その肩書は世界で活躍するサッカープレイヤーに与えられる肩書らしい。」

 

「へえ...」

 

 

何だそれ。まあ細かいことはいいけど、とにかくはその国家友好親善大使とやらをチームに入れなきゃ、世界平和を乱しているとして大会には参加できないと。

 

 

「それで、日本にはこの男がチーム入りすると聞いている。」

 

 

そう言って鬼道は、タブレットを俺たちの前に出した。

タブレットには鬼道がいう国家友好親善大使の肩書を持つ、日本人のプロフィールが表示されていた。

 

 

「名前は一星充。ロシアのクラブチームでプレイしていたらしい。それ以外の経歴はほぼ不明だ。」

 

「ほぼ不明、ね....随分と怪しいけど。」

 

「ああ。気になって調べてみたが、現状参加を表明している国の国家友好親善大使は全員、経歴不明だった。はっきり言ってこれは異常だ。」

 

「何らかの思惑があって、大会運営が国家友好親善大使を送り込んでいる....」

 

「ああ、そう考えるのが妥当だろう。」

 

「だがそうすると、一体なにが目的だ?得体のしれない選手がたった一人紛れ込んでいたとして、なにができる?」

 

「そうだな....もし彼らの役目がスパイだとしたら、練習などで選手データは盗まれるだろう。他にも偶然を装って怪我をさせられるかもしれない。」

 

「つまり運営はどこかの国の操り人形である可能性が高い...ということか。」

 

「まあ、あくまで彼らがスパイであると断定した場合だけどな。」

 

 

もしかしたら他に目的があるのかもしれない。

それこそ本当に国家間の友好のため、そういった人物が選ばれている可能性も捨てきれない。

 

 

「それで鬼道。お前はこの話を俺たちにして、なにを聞きたいんだ?」

 

「ああ....もし、俺たちが代表に選ばれたとすれば注意が必要だ。自分で言うことではないが、俺たちはチームの中心になるだろう。絶対的な守護神であり、恐らくはチームのキャプテンに選ばれるであろう円堂。チームの頭脳である司令塔の立場になるであろう俺。そして日本を代表する絶対的なストライカーとなった嵐山と豪炎寺。もしも彼らがスパイだったらすれば、真っ先に狙われるのは俺たちだ。」

 

「なるほどな.....確かに選ばれる前提での話となるが、可能性はある。特に隼人は狙われるだろうな。」

 

「え、何でだ?」

 

「お前は既に世界レベルだ。はっきり言って、日本トップの実力を持っているのはお前だと、日本のサッカープレイヤーは思っているってことだ。」

 

「それは.......何か面と向かって言われると恥ずかしいな。」

 

 

修也や鬼道はこういうとき、茶化すようなことは言わない。

つまり二人とも本当にそう思ってくれているってことだ。

嬉しい反面、めちゃくちゃ照れ臭い。

 

 

「とにかく、もし代表に選ばれたとしたら注意するんだ、という話がしたかったんだが......円堂!お前話を聞いていたか!?」

 

「んあ?....悪い、聞いてなかった!」

 

「え・ん・ど・う!」

 

「ははは、悪い悪い.......って、ああ!」

 

「っ、隼人!」

 

「えっ?......って、ぬわあああああああああああああ!」

 

 

俺が一星のデータを見ていると、突然修也が俺の名前を叫んだ。

俺が顔を上げると、俺の正面に座っていた円堂の方からアイスのタワーが倒れてくるのが見えた。

そしてそれはそのまま俺の顔面にクリーンヒットしたのであった。

 

 

「え、円堂ぉぉおぉぉお!!!!またかお前はああああああああああ!!!」

 

「ご、ごめええええええん!!!」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

??? side

 

 

「お待ちしておりました、閣下。」

 

「ええ。それで...実験は成功と聞いているけど。」

 

「はい。ご覧ください。」

 

 

『”バイソンホーン”!』

 

『『『うわああああああああ!!!』』』

 

『”タイムトランス”!』

 

『『『な、何だよこれ!?』』』

 

『”レクイエムダスト”!』

 

『『『ぐわあああああああああ!!!』』』

 

『”バーニング・火の鳥”!』

 

『『『もう辞めてくれえええええ!!!』』』

 

 

真っ暗な部屋の中、映し出される映像に私は歓喜した。

私の配下である彼女が作り出した人間の強化方法、"オリオンの刻印"。

これほどまでのものとは、私も思っていなかった。

 

 

「素晴らしいわ、さすがね。」

 

「有りがたきお言葉です。」

 

「ふふ...それで、この刻印はどれだけ準備ができているのかしら?」

 

「ひとまず5チーム分です。」

 

「そう。なら日本代表に潜り込ませるあの子にも刻印を刻みなさい。」

 

「承知致しました、閣下。」

 

「頼むわよ。...それから約束通り、あなたの大切な人にも機会を与えてあげるわ。」

 

「っ!...ありがとうございます、閣下。」

 

「ええ。あなたの頼みですもの。でも...あなたが結果を残せなくなったら、彼と一緒に捨てるわ。」

 

「はい、わかっています。」

 

「じゃあよろしくね。」

 

 

私はそう言って、隠し部屋から出ていく。

計画は順調...パーフェクトワールドが実行されれば、私の理想の世界が叶うのよ。

 

 

待っていなさい....腐敗した世界の王たち。

私が全てを破壊し、世界を統べる本当の王になるのを!

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

約束のミサンガ

嵐山 side

 

 

「もう1本!」

 

「おらっ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ふんっ!」

 

バシィン..!

 

 

「ナイスセーブ!」

 

 

いよいよ合宿が始まった。俺が永世学園の一員として戦う最後の試合。

それが円堂という最高の親友との試合なんだから、これ以上のものはない。

現在は基礎練習を行っていて、最初に彼らを見た時からは比べ物にならないほど上達しているのを感じている。

 

 

「こうしてみると、随分と上達したものよね。」

 

「ああ。頼もしくなったよ、本当。」

 

「少し寂しそうね。」

 

「まあね...でもそれ以上に、嬉しいかな。」

 

 

自分がサッカーを教えていた子たちが、こうして独り立ちする。

自分の元を離れていくのが少し寂しいけど、日本のサッカーのレベルが高くなっていくのを感じると嬉しい。なんて、複雑な感情だ。

 

 

「それで、あなたは練習に参加しなくて良いの?」

 

「うん....まあ病み上がりだから、一緒には練習しないでおこうかなって。」

 

「そう。」

 

「(深く聞いてこなくて良かった...ま、この足じゃまともに練習もできないからな...痛み止めで何とかなってはいるけど....ハァ....)」

 

 

結局俺は、母さんに頼んで痛み止めを打つための同意書にサインしてもらった。

母さんが俺に何を頼んでくるかはわからない...でも、それでも俺は試合に出たかった。

最高の舞台で、円堂と戦いたかったんだ。万全の状態では無いかもしれないけど、それを言い訳にはしない。誰だって傷を隠して戦っているんだ。俺も....これくらい隠し通す。

 

 

「......ねえ、嵐山君。」

 

「ん?」

 

「何か私に言うべきことはなくて?」

 

「えっ?」

 

 

夏未に言うべきこと....?

ま、まさか俺の怪我に気付いている...?

それだとマズイかもしれない。夏未はきっと俺を止めると思う。

それにきっと怒るだろうな....だからこそ、今ここで正直に話せってことか...?

 

 

「えっと....その....」

 

「.....」

 

「.....」

 

「.....ハァ。まあいいわ。あなたって結構鈍いものね。」

 

「え....?」

 

「もういいわ。私、監督のところに行くわ。」

 

「お、おう...」

 

 

何だ、怪我のことじゃなさそうだな。

良かった...いや、良かっただなんて思っちゃいけないけど。

でも何だろう、この胸のしこりというか...夏未が俺の怪我に気付いたわけじゃないって思ったら、なんだかもやもやした気持ちになった。

 

 

「....」

 

「....?」

 

 

監督のところに行くと言った夏未だが、俺に背を向けてから動こうとしない。

どうしたんだろ....そう思っていると、急に夏未が振り向いた。

 

 

「おわ!..ど、どうした?」

 

「....嵐山君、利き足はどちらだったかしら?」

 

「えっと、今は右足...になるのかな。」

 

「そう。.....じゃあちょっと右足を出してもらえるかしら?」

 

「う、うん。」

 

 

俺は言われた通り、右足を少し前に出す。

すると夏未はそのまましゃがみ、俺の右足を触りだした。

 

 

「え、な、なに!?」

 

「ちょっと!動かさないで!」

 

「お、おう....」

 

 

言われた通りおとなしくしていると、夏未はポケットから何かを取り出して俺の右足首に巻いていた。

 

 

「これって....ミサンガ?」

 

「ええ。私にも何かできないかと思って、作ってみたの。」

 

「夏未....」

 

「あなたは私やみんながなにを言っても無茶するんだから......でも、それがあなたなのよね。そんなあなただから私は................はい、おしまい。」

 

 

そう言って、夏未は俺の足にミサンガを巻きつけてから立ち上がった。

赤とオレンジ2色のミサンガが俺の足には巻きつけられていた。

 

 

「私なりに調べてみたのだけれど、利き足に付けるミサンガには友情、勝負といった意味があるそうよ。だからこのミサンガは私からのおまじない。次の決勝戦、あなたが勝つっていうね。」

 

「そっか........ありがとう、夏未。大事にするよ。」

 

「あら、大事にはしなくていいわ。切れるまで付けてくれれば良いの。」

 

「え?......あ、そっか。ミサンガって切れるまで付けたら願いが叶うんだっけ。」

 

「ええ。そう言われているわ。くだらない迷信...それでも私は信じてるわ。だって、その方が素敵じゃない。」

 

「ふふ...そうだね。」

 

「ふふ.......それじゃあ、私は本当に行くわ。監督一人にまかせっきりは良くないもの。」

 

 

夏未はそう言って、校舎の方へと走り出した。

 

 

「........夏未!」

 

「っ!...何かしら?」

 

「ありがとう!約束するよ!決勝戦...絶対に勝って、もう一度君に優勝をプレゼントするって!」

 

「....ええ!期待しているわ!」

 

 

そう言って、夏未はとびっきりの笑顔を見せてから校舎に消えていった。

何だろう....思い切り大声を出したせいか、心臓がバクバク言ってる。

それに天気が良いせいかな....顔が熱いや。

 

 

.....

....

...

..

.

 

夏未 side

 

 

嵐山君と分かれてから、私は猛ダッシュで家庭科室へと駆けこんだ。

嵐山君にミサンガを渡すときから、私の心臓は激しく鼓動していた。

もしかしたら、顔も真っ赤かもしれない。

 

 

「あら、夏未さん。そんなに慌ててどうしたの?」

 

「い、いえ....その...」

 

 

家庭科室にはエプロンをした瞳子監督がいて、料理をしていた。

私が駆け込んできたことに驚いたのか、ぽかんとした表情でこちらを見ている。

 

 

「...ああ、ちゃんと渡せたのね。」

 

「っ!!!!...その、はい...」

 

「ふふ、良かったじゃない。それで、恥ずかしくなって逃げ出してきたといったところかしら?」

 

「う....はい...」

 

 

さすがは大人の女性ね、瞳子監督.....でも、本当に渡せてよかった。

嵐山君に説明した通り、利き足につけるミサンガには友情、勝負という意味がある。

そして、ミサンガには色にも意味がある。私が使った色は赤とオレンジ。

赤とオレンジの組み合わせには、勝負運を引き上げるといった効果があるらしい。

 

 

本当は気付いている。嵐山君は足を怪我しているかもしれないって。

それでも私は止めなかった。いえ、止められなかった。

だってきっと、嵐山君は決勝戦を....円堂君との試合を待ち望んでいたから。

 

 

だから少しでも、嵐山君の力になりたかった。

私らしくないけど、ミサンガの迷信にまで縋って....

でも、嵐山君は喜んでくれた。私に約束してくれた。

だからきっと大丈夫。嵐山君はきっと、私に優勝を届けてくれる。

だって彼は、約束を破ったことなんて無いのだから。

 

 

「ふふ.....じゃあせっかくだから夏未さんにも手伝ってもらおうかしら。」

 

「は、はい!」

 

「せっかくだし、嵐山君の分のご飯を作ってもらおうかな?」

 

「が、頑張ります!」

 

 

その日の夜、嵐山君の悲鳴が校舎に響いたのは内緒の話。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

円堂 side

 

 

「やっぱり!ここにいたのね、円堂君。」

 

「秋....」

 

 

俺は決勝戦を前に、稲妻町の鉄塔広場へと来ていた。

何となく、ここに来なきゃって思ったんだ。

ここは俺にとって特別な場所だから、決勝戦を前に思うところがあったのかな。

 

 

「ねえ円堂君....去年と同じように、円堂君はみんなを引っ張って決勝まで来たけど...勝てるかな?」

 

「違うよ、秋。」

 

「えっ?」

 

「去年は嵐山がいた。嵐山がいてくれたから、俺はみんなと一緒に決勝まで行けたんだ。でも今年は違う。メンバーだけじゃない、俺の気持ちが...俺の覚悟が違うんだよ。」

 

「円堂君の覚悟...」

 

「嵐山に勝ちたい、そう思って戦ってきた。キャプテンとしてどうかと思ったけど...それでも自分の気持ちに嘘はつきたくなかったんだ。」

 

 

嵐山やみんなが俺を支えてくれたから、去年の決勝戦...俺は”マジン・ザ・ハンド”を発動することができた。でも今回は違う。全員が俺の後ろをついてきてくれる奴らだ。俺の隣を走るんじゃない。だからこそ...俺は示したいんだ。

 

 

「嵐山に勝って、俺の成長した姿を嵐山に見せる!それが俺と嵐山の友情さ!」

 

「ふふ、円堂君らしいね。.....はい、これ。」

 

「ん?何だこれ?」

 

「ミサンガ、作ってみたの。みんなにはもう渡したけど、円堂君だけ見当たらなかったから。」

 

「へえ!秋が作ったんだ!」

 

「うん。円堂君やチームをイメージして、オレンジと緑で作ってみたの。」

 

「サンキュー!早速付けてみるよ!」

 

「ふふ、ありがと。」

 

 

俺は秋から受け取ったミサンガを、右手に付けた。

秋も右手に付けていて、チームって感じがして良いな。

 

 

「試合は明後日か...楽しみだね、円堂君!」

 

「ああ!もうワクワクして仕方ない!...よし!帰って練習だ!」

 

「うん!」

 

 

早く嵐山と戦いたい!

全力でぶつかり合って、勝って、優勝するんだ!

 

 

.




『嵐山は"約束のミサンガ"を手に入れた!』
『円堂は"友情のミサンガ"を手に入れた!』
といったところです。イナズマイレブンは、ゲームにおいてはミサンガって結構主張強いイメージ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

激突!嵐山vs円堂

嵐山 side

 

 

「いよいよ明日か...」

 

 

最後の合宿日を終え、俺は一人屋上で空を見上げていた。

といっても俺は今日、練習には参加していないけど。

 

この足のことを隠すのは、チームのみんなと円堂たちだけでいい。

俺はそう思って、少年サッカー協会へと足を運んでいた。

 

 

『ふむ...そうか、怪我を....』

 

『はい。決勝は出ます。でも...その後は治療に専念したいんです。』

 

『わかった。....実を言うとだな、君は代表から外すつもりだったんだ。』

 

『.....そうだったんですか。』

 

『監督である趙金雲氏が、君がいると他の成長を妨げる可能性がある...とね。』

 

『あの人が......まあ、代表に選ばれる予定が無かったのは悲しいですけど、丁度良かったです。』

 

『うむ、すまない。』

 

『いえ....それに、日本代表になる道が閉ざされたわけではありませんから。』

 

 

心残りは無い。後は明日の試合に全力を尽くすだけだ。

たとえその身が燃え尽きようとも...俺は円堂を倒す。

ただそれだけだ。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

『さあいよいよこの日がやってまいりました!フットボールフロンティア全国大会!本年度は昨年の優勝校である雷門中のメンバーが散り散りとなり、様々な学校へと派遣!大きな結果を残してきました!そして本年度の決勝戦は何と!どちらも雷門からの強化委員が派遣されている学校となっています!それもただの強化委員ではありません!雷門サッカー部の中心人物であり、攻守どちらの要でもあり、圧倒的な存在感を放っていた、風神!嵐山隼人!』

 

 

恥ずかしい紹介だ...それに俺がいたから勝てたわけじゃないしな。

みんながいて、みんなが一つになって力を合わせることが出来たから勝てたんだ。

 

 

『そして雷門のゴールを守った絶対的な守護神!円堂守!この二人が派遣された、永世学園と利根川東泉中が、決勝の舞台で激突します!幼いころより共に過ごしてきた親友同士!二人の熱いぶつかり合いが期待されております!』

 

 

「ついにこの日が来ましたね。」

 

「ああ。......」

 

「嵐山さん...?」

 

「....いや、何でもない。さあ試合前のミーティングだ。」

 

「はい。(嵐山さん...最近何か変だよな。何かあったのかな。)」

 

 

足の調子は悪くない。痛みも感じないし、違和感もない。

あとは試合中、この状態がもってくれたら問題無しだ。

 

 

「みんな揃ってるわね?」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「よろしい。...では今回の試合のスターティングメンバーを発表するわ。」

 

 

そう言って、瞳子監督はメンバーを読み上げていく。

 

 

「フォワード、嵐山、ヒロト、南雲、涼野。」

 

「はい。」

 

「おう。」

 

「やってやるぜ!」

 

「私たちの手で必ず勝利を...!」

 

 

「ミッドフィルダー、基山、八神、緑川。」

 

「(この試合、絶対に勝つ...!)」

 

「隼人との最後の試合...!」

 

「勝負は時の運...でも、きっと俺たちなら勝てる!」

 

 

「ディフェンダー、本場、蟹目、倉掛。」

 

「絶対に勝つ!」

 

「俺たちの力を見せてやる!」

 

「この試合、勝つ!」

 

 

「最後にゴールキーパー、砂木沼。」

 

「任せておけ!」

 

 

「控えのみんなも、気持ちを切らさずにいてちょうだい。」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

「最後に.......嵐山君、あなたが締めてくれるかしら。」

 

 

瞳子監督の言葉に、全員の視線が俺に集まる。

全く...そんな予定、元々は無かったってのに。

 

 

「......俺が永世学園に来て、もうかなりの時間が経ったんだなって思ってる。最初は敵対していたり、初心者レベルの奴らばかりで本当に次のフットボールフロンティアで優勝できるのか、何て考えたこともあった。」

 

「うっ...」

 

「ふふ、そうだったわね...私が隼人と出会わなかったら、きっと今でも私たちはまともにサッカーなんてできていなかった。」

 

「それでもみんなは俺についてきてくれた。一緒に優勝の夢を追いかけてくれた。だからこそ今、俺たちはこの場に立っている。後は優勝するだけだ。」

 

 

そう言って、俺は右手を前に差し出す。

それを見た全員が、誰に何を言われずとも円となって同じく右手を差し出して重ねる。

もちろん、スタメンだけじゃなく、ベンチ、瞳子監督、夏未、全員が輪になっている。

 

 

「これで最後だ。......................勝つぞ!」

 

「「「「「おう!!!!」」」」」

 

 

『さあ!両チームが一斉に飛び出していきます!間もなく試合が開始します!....おおっと!これは!嵐山の左腕に、キャプテンマークがついております!今までは基山タツヤが付けていたキャプテンマークですが、今回は嵐山が付けているようです!』

 

 

「嵐山....ついにこの時が来たな!」

 

「円堂....ああ、負けないぞ。」

 

 

俺たちは互いに向かい合い、闘志をみなぎらせる。

最高のライバルで、最高の親友で.....俺の中学サッカーの集大成を見せるにふさわしい相手はお前しかいないよ、円堂。

 

 

『さあ!両チームの選手がポジションに散らばっていきます!先攻は永世学園!果たして雷門のキャプテンと副キャプテン、そして守護神とエースストライカー!軍配があがるのはどちらか!』

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

『キックオフです!!!!』

 

 

「ヒロト!」

 

「おう!」

 

 

俺はヒロトにボールを渡し、駆けあがる。

それと同時に晴也、風介もあがっていく。

 

 

「は、早い!」

 

「止めるぞ!」

 

 

「遅えよ!嵐山サン!」

 

「任せろ!」

 

 

「「くっ!」」

 

 

俺たちが駆けあがり始めると、すぐに田植と金城がブロックに来た。

だが俺たちの速攻についてこれておらず、ヒロトは抜けだした俺へとパスを出した。

 

 

「あの人にはシュートを打たせるな!」

 

「....止める。」

 

 

今度はボールを持った俺の前に、六豹と玄場があらわれた。

だがこの試合、俺は円堂以外眼中にない!

 

 

「邪魔するなら抜くだけだ!”疾風迅雷”!」

 

「っ!」

 

「ぐああ!」

 

 

俺は”疾風迅雷”で二人を抜き去る。

そんな俺を見て、利根川のディフェンダーたちは俺を止めようと俺に寄ってきている。

だったら挨拶代わりの一発は、あいつらに任せるとするか。

 

 

「決めろ!晴也!風介!」

 

「「っ!」」

 

 

俺は二人へとセンタリングを上げる。

二人はそれに反応して飛び上がった。

 

 

「まずは1点!」

 

「決めさせてもらおうか!」

 

「「”真ファイアブリザード”!!」

 

ドゴンッ!

 

 

「へへ!そのシュート、受けるのを楽しみにしていたんだ!....はああああ!”真マジン・ザ・ハンド”!」

 

バシィン..!

 

 

「「なっ!?」」

 

 

『止めたああああああああああ!円堂、南雲と涼野の合体技である”ファイアブリザード”をいとも簡単に止めてしまいました!』

 

 

「へへ、良いシュートだぜ!」

 

ドゴンッ!

 

 

固いな...さすがは円堂だ。

だが絶対に攻略できないキーパーなんて存在しない。

稲森たちだって、最後の最後で1点を奪っているんだ。

俺たちにだってできるはずだ。

 

 

「ナイスクリアだ、円堂....っ!」

 

「ボールは貰った!」

 

「くっ...!」

 

 

玄場がクリアされたボールをトラップしようとした瞬間、緑川がそのボールをカットして奪い去った。これでまだ永世学園の攻撃は終わらない。

 

 

「止める。」

 

「悪いけど、ここで止められるわけには行かない!”ワープドライブ”!」

 

「っ!」

 

 

ボールを奪った緑川は、そのままドリブルで駆けあがっていく。

止めに入った六豹を”ワープドライブ”で抜き去ると、そのままぐんぐんと前に進んでいく。

 

 

「(利根川の守備がまだ機能していない....狙うなら今か!)」

 

 

俺は利根川のディフェンダー陣の動きを確認し、空いている位置へと移動する。

基山はその動きを見ていたのか、俺と目線があい、基山は頷く。

 

 

「よし...タツヤ!」

 

「おう!」

 

 

かなり進んでから、緑川は基山へとパスを出した。

緑川の突破力に、利根川東泉イレブンはついていくのがやっと、といった状態。

さらにそこで基山へとボールが渡ったことで、ディフェンスラインは完全に崩れ去った。

 

 

「こっちだ、基山!」

 

「はい!受け取ってください!”スターループ”!」

 

ドゴンッ!

 

 

基山のパス技により、綺麗な星のアーチを描きながら俺の元へとボールが届く。

俺はそれを受け取ると、円堂と真正面から向き合う形となった。

 

 

「嵐山.......来い!」

 

「円堂......勝負だ!」

 

 

俺はボールを天高く蹴り上げ、シュート体勢に入る。

”バイオレントストーム”は足への負担が大きい...だが、他の技だって俺は磨いてきたんだ。

俺の本気のシュート、受けてみろ!円堂!

 

 

「はああああああああ!”真・天地雷鳴”!」

 

ドゴンッ!

 

 

回転しながらボールを蹴り落とし、雷を纏ったボールは地面を抉りながらゴールへと突き進んでいく。

 

 

「やっぱりすげえぜ、嵐山!だからこそ、俺はお前に勝ちたい!はああああああ!”正義の鉄拳G4”!」

 

「っ!(雷門との試合の時より進化している!?)」

 

 

俺の”天地雷鳴”と、円堂の”正義の鉄拳”がぶつかり合う。

開始早々、激しいオーラのぶつかり合いが発生していた。

 

 

「はあああ!」

 

バシィン!

 

 

「っ!」

 

 

だが軍配は円堂へとあがった。

俺の放った”天地雷鳴”の勢いは徐々に衰えていき、ついには円堂の”正義の鉄拳”によって弾かれてしまった。弾かれたボールは勢いよくフィールド外へと出ていく。

 

 

ピッ!

 

 

『おおっと!嵐山と円堂の対決は、円堂へと軍配が上がりました!』

 

 

「っ...ふぅ....さすがだな、円堂。」

 

「へへ...嵐山こそ!」

 

 

”天地雷鳴”を止められたか...だったらやはり、”バイオレントストーム”しかないか。

さすがは円堂だよ、本当。だが負けない。勝って、優勝するのは俺たちだ!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

くじけぬ心がもたらす1点

嵐山 side

 

 

「今度はこっちの番だ!攻めていこうぜ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

円堂がふたたびボールをクリアし、今度はそれを金城がトラップ。

そのままドリブルであがり始めた。

 

 

「通さないわ!」

 

「おっと!」

 

 

ドリブルであがる金城の前に、八神が立ち塞がった。

金城はすぐにその場で止まり、パスを出せる味方を探したが、他の利根川イレブンも密着マークされており、パスを出せる相手がいない状況であった。

 

 

「さすが、やるね....だったら君を抜く!」

 

「簡単には通さないわ!」

 

「よっと....!」

 

「っ...!」

 

 

金城はフェイントを何度もかけるが、八神は俺相手に何度も練習してきたから並大抵のフェイントには引っかからんぞ。

 

 

「っ...なかなかやるね...!」

 

「....っ!そこよ!」

 

「ぐっ...!」

 

 

『おっと!八神が金城からボールを奪った!ふたたび永世学園の攻撃です!』

 

 

八神がボールを奪うと、そのままドリブルであがり始めた。

はっきり言って、円堂からそう何度もゴールを奪えるとは思えない。

だからこそ、何度もチャンスを作って、少しでもゴールを奪えるよう機会を作る!

 

 

「攻めるぞ、お前たち!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

ふたたび俺たちはゴールを狙うため、シュートを狙える位置を目指す。

利根川東泉のディフェンス陣は、俺たちの速攻についてくるのがやっとのようだ。

だがそれでも決勝まであがってきただけはある。俺には複数のマークがついていて、なかなかシュートに行くのは厳しそうだ。

 

 

「(隼人は囲まれている...だったら....)」

 

「止める!」

 

「ボールは渡さないわ!ふっ!....”メテオシャワーV3”!」

 

「ぐっ...!」

 

 

八神の前に橋屋が立ち塞がったが、八神は冷静に必殺技で切り抜けた。

随分と頼れるようになったな....そのまま前線へ運んでいけば、ディフェンス陣が俺をマークしている以上、他のフォワードはがら空きになる。

 

 

「こっちだ!」

 

「っ、ヒロトさん!」

 

ドゴンッ!

 

 

八神はヒロトの呼びかけに反応し、ヒロトへとパスを出す。

利根川東泉の残りのディフェンダーは全員俺にマークしているので、当然ヒロトはフリーだ。

容易くボールを受け取り、ヒロトはゴール前で円堂と一騎打ちとなる。

 

 

「へへ、今度はお前か!」

 

「はっ!余裕ぶりやがって。俺が決めてやるぜ!この...ゴッドス「よし、来い!!!」が...って、おい!」

 

 

「決めろ!ヒロト!」

 

「任せな!オラッ!オラッ!オラオラオラオラ!”ザ・エクスプロージョン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

ヒロトは十八番である”ザ・エクスプロージョン”を放った。

轟音をたてながら、円堂の守るゴールへとボールが突き進んでいく。

 

 

「はあああああああ!”真マジン・ザ・ハンド”!」

 

バシィン...!

 

 

だがそのシュートは、円堂の”マジン・ザ・ハンド”によって容易く止められてしまった。

固い...いつも俺たちを後ろから支えてくれた円堂。その重さが今になってのしかかってくるとはな。

 

 

「まだまだ!俺のシュートはこんなもんじゃねえぜ!」

 

「っ!」

 

「へへ!それは楽しみだな!」

 

 

ヒロト...圧倒的な実力を見せつけられても、お前は折れないよな。

初めて会った時からそうだった。俺との実力差を感じても、折れずに自分の力を着実に伸ばしていった。そんなお前なら、円堂を超えられる.....いや、超えてもらわないとな。

 

 

「ゴールは俺が守る!だから安心して攻めていけ!」

 

「「「「はいっ!!!!」」」」

 

 

円堂は再度、ボールを大きく蹴ってクリアする。

ボールはもう一度、金城の元へと渡り、そんな金城からボールを奪おうと緑川が近寄っていく。

 

 

「もう一度ボールを奪って、俺たちの攻撃を続ける!」

 

「ゴールは円堂さんが守ってくれる....だったら!」

 

「っ!」

 

 

動きが変わった....?

いや、動きから固さや恐れがなくなった。

初出場で決勝という大舞台、緊張しないわけがない。

だからこそ、利根川東泉の奴らは俺たちの動きについてこれていなかった。

だが円堂という存在が、彼らの心を前に向かせた。

 

 

「(やはりお前は根っからのキャプテンなんだな....だが、俺たちだって負けてはいない!)」

 

 

「ここは通させてもらうよ!”激華”!」

 

「っ...!」

 

 

金城の必殺技によって、緑川が抜かれてしまった。

 

 

「よし...!」

 

「「甘い!」」

 

「なにっ!?」

 

 

だがそんな金城の前に、本場と倉掛が走り寄ってきた。

 

 

「”真イグナイトスティール”!」

「”真フローズンスティール”!」

 

「なっ!?う、うわああ!」

 

 

うまい。抜かれた直後の隙がある時に、しかも二人が交差するように必殺技を発動することで、完全に逃げ道をふさいだな。

 

 

『ふたたび永世学園がボールを奪いました!この前半、圧倒的な運動量で常にボールを支配しております!しかし未だ得点ならず!果たしてこの連続攻撃で円堂からゴールを奪うことはできるのでしょうか!』

 

 

「こっちだ!」

 

「よし、任せたぞタツヤ!」

 

 

ボールを奪った本場が、基山へとパスを出した。

基山はボールを受け取り、冷静に状況を確認しながらドリブルであがりだす。

 

 

「(相変わらず嵐山さんはマークがきつい....そしてヒロトたちでは円堂さんからゴールを奪える確率は極めて低い....どうする、無理にでも嵐山さんにボールを渡すか...)」

 

「おい、タツヤ!」

 

「っ!...ヒロト。」

 

 

いつの間にか、ヒロトが基山の横まで走ってきていた。

二人は並走しながら何かを話している。

 

 

「アレ、やるぞ。」

 

「アレって....結局まだ未完成だったろ!」

 

「だが、嵐山サンがあそこまでマークされている以上、俺たちでも点を取れるってところを見せないときついぜ。」

 

「それは....確かにそうだけど...」

 

「...やるしかねえんだよ。もう俺たちは一人前のサッカープレイヤーだ。もう嵐山サンに頼ってばっかりじゃ、ダメなんだよ。」

 

「ヒロト.........わかった、やろう!」

 

「はっ!そうこなくちゃな!」

 

 

二人は何かを決心したのか、そのまま並んでゴール前へと駆けあがっていく。

もしかして、練習していたあの技を試すつもりか。

まだ一度も成功していないが.....だが、確かにこの状況なら試す価値はありそうだ。

 

 

「何かやろうとしているようだが、そもそもやらせなければ問題無い!」

 

「っ!...玲名!」

 

「っ、タツヤ!」

 

「なにっ!?」

 

 

基山の前に橋屋が立ち塞がろうとしたが、基山はノールックで八神へとパスを出し、それを受け取った八神は基山が橋屋を抜いた瞬間、基山へとボールを戻す。綺麗にワンツーが決まり、橋屋を抜き去ってゴール前へと突き進んでいく。

 

 

「へへ!良い連携だ!」

 

「余裕ぶってられるのも今の内だぜ!」

 

「行くよ、ヒロト!」

 

「ああ!」

 

「はあああああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

ゴール前まで進んだ二人がシュート体勢に入った。

まずヒロトが飛び上がり、それに合わせて基山がボールを蹴り上げる。

そしてそのまま基山も飛び上がり、二人は空中で高速移動しながらボールを蹴り合っている。

 

 

「オラッ!」

 

「はっ!」

 

「オラオラ!」

 

「はあああああ!」

 

 

二人が蹴り合うボールの軌道が線となり、その中心にまるで宇宙のようなオーラがあらわれる。

そして巨大なオーラとなった中心にボールが蹴りこまれると、二人はその上空から突き落とすようにボールを蹴る。

 

 

「行くぜ、タツヤ!」

 

「ああ!決めよう、ヒロト!」

 

「(来る...!ものすごいシュートが....!)」

 

「「”コズミックブラスター”あああああああああ!!!!!」」

 

ドゴンッ!

 

 

蹴られたボールはまるで全てを破壊するかの勢いで光線となってゴールへと突き進んでいく。

すごい...あいつらはこの試合を通して、さらに成長している。

俺だって、負けていられない...!

 

 

「すげえ....だけど、俺だって負けないぜ!」

 

「だったら止めてみな!」

 

「俺たちのシュートで、あなたを倒す!」

 

 

「へへ!負けねえ!はあああああああ!”正義の鉄拳G4”!」

 

 

円堂は大きく振りかぶり、”正義の鉄拳”で迎え撃った。

巨大な拳が光線とぶつかり、互いに押して押されてを繰り返している。

 

 

「ぐっ....すげえ....パワーだ....!」

 

「いけええええええええ!」

 

「ぶち破れええええええ!」

 

「っ.....ぐっ......ぐああああああああ!」

 

バシュン...!

 

 

『ご、ゴーォォォォォォォォル!永世学園、怒涛の連続攻撃によってついに先制点を奪いました!得点したのは吉良と基山!二人の放った超絶シュートによって、鉄壁の守護神、円堂からゴールを奪いました!今大会、準決勝での1点しか失点していなかった円堂から、待望の1点をもぎ取りました!これは貴重な1点です!』

 

 

「おっしゃあああああああ!」

 

「やったな、ヒロト!」

 

「お前ら...最高だぜ!」

 

 

 

 

「円堂さん、大丈夫ですか!」

 

「ああ、大丈夫だ!すまない、ゴールを奪われた。」

 

「いえ!...俺たち、ずっと攻め込まれてしまいましたね。」

 

「ああ、さすがは嵐山だ。超攻撃的なチームだけど、守備もすごい。負けてられないな!」

 

「はい!」

 

 

 

1点...得点できたが、ここで手を緩めるつもりはない。

前半は俺たちがボールを支配して、円堂を休ませはしない!

攻めて攻めて攻めまくって、少しでも円堂からゴールを奪うチャンスを作る!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一進一退の攻防

稲森 side

 

 

「すごいな...俺たちがあれだけ苦労して一度だけ破った円堂さんを前半で攻略するなんて...」

 

「でもまだ分かりませんよ。円堂君なら多分、次は止めますから。」

 

「つくしさんの言う通りかもしれない。円堂さんからはそんなオーラを感じるし。」

 

 

決勝戦、俺たちが最後まで勝てなかった嵐山さんと円堂さんの試合を見に来ていた。

正直、あの二人は次元が違うと思った。俺たちが山を登り始めた時点で、あの二人は山頂まで登り終えてるくらいには、違いがあるように感じたんだ。でも....

 

 

「(何でだろう...嵐山さんの様子がおかしいように感じる...円堂さんはいつも通りに見えるけど....)」

 

「どうしたんだ、明日人?」

 

「え?あ、いや、何でもないよ。」

 

「そうか?人混みで具合でも悪くなったのかと...」

 

「ははは、大丈夫だよ、本当。」

 

「そうか?ならいいけど。」

 

 

大丈夫かな、嵐山さん。

この試合、嵐山さんと円堂さんの攻防がキーになると思うんだけどな。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「円堂さんのためにも...!」

 

「1点を奪う!」

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「要!」

 

「おう、六豹!」

 

「....」

 

 

利根川ボールで試合が再開、フォワードの二人はすぐに六豹へとパスを出して、前線へと駆けあがっていく。六豹はボールを受け取ると、そのままドリブルであがり始めた。

 

 

「俺が止めてやるぜ!」

 

「.....抜く。」

 

 

そんな六豹に、ヒロトが走り寄っていく。

相変わらず無表情でなにを考えているか分かりづらいな。

だがここはヒロトを信じて任せるか。

 

 

「ここだ!」

 

「甘い。”激華”。」

 

「なにっ!?」

 

 

ヒロトがスライディングを仕掛けるが、六豹は冷静に必殺技で対処し、ヒロトを抜いていく。

さすがに鍛えられているな....1点取れたが、一筋縄では行かないか。

 

 

「玄場さん。」

 

「おう!」

 

 

今度は六豹から玄場へとパスが出された。

ボールを受け取った玄場は、辺りを警戒しながらドリブルであがり始める。

 

 

「止める!」

 

「任せろ!」

 

「チッ...二人か...」

 

 

そんな玄場の前には、緑川と本場があらわれた。

二人はすぐさま玄場との距離を詰めると、ドリブルとパスのコースを塞いでボールを奪おうとする。

 

 

「くっ...!」

 

「そこだ!」

 

「っ!」

 

 

緑川が隙をついてスライディングするが、玄場はそれに反応してジャンプして避けた。

だがそれは悪手だな。ジャンプして逃げ場がなくなれば....

 

 

「貰った!”真イグナイトスティール”!」

 

「ぐっ...くそおおお!」

 

 

本場の”イグナイトスティール”が炸裂し、玄場はボールを弾き飛ばされてその場に転んでしまった。ボールは本場の強烈なタックルによって吹き飛ばされており、利根川東泉のゴール方向へと大きくクリアされていた。

 

 

「「「ボールを確保しろ!」」」

 

 

俺と、利根川イレブン数人の声が重なった。

ボールの近くにいた風介と晴也が走り寄っていくが、それより先にボールへと近付く影が一つあった。

 

 

「なっ!?」

 

「円堂守!?」

 

 

『おおっと!円堂が飛び出している!もはや見慣れた光景です!』

 

 

「ボールは貰ったぜ!」

 

「ナイスです!円堂さん!」

 

「このまま攻めて....っ!」

 

「ほんと、見慣れた光景だよ。お前がボールを取りに来ると思っていた!」

 

「嵐山...!」

 

 

『これは!ボールを持った円堂の前に、嵐山が猛烈なスピードで走り寄り、目の前に立ち塞がりました!円堂vs嵐山、第二幕が切って落とされたかああああ!?』

 

 

俺は円堂を睨め付けるように視線を送る。

1点リードのこの状況、円堂が動けば簡単にひっくり返る。

修也を相手にしているときと同じくらい、警戒しなくちゃな。

 

 

「(すげえ圧力だ...これが嵐山のディフェンス....いつも頼りになってたはずだ。)」

 

 

『両者にらみ合ったまま動きません!いや、動けません!これには周りもフォローに入れずにいます!果たして軍配はどちらにあがるか!』

 

 

「っ.............!」

 

「(動いたか!)」

 

「(こっちだ...!)」

 

 

円堂はフェイントをかけて、その場でスピンするように俺を避けようとする。

だがそのフェイント、俺には見えている!俺には通用しない!

 

 

「くっ...!(フェイントが通じてない...!)」

 

「(貰ったぞ、円堂!)」

 

 

時計回りに回転しながら、俺の右から抜けようとした円堂に対して、俺もそれについていって右斜め後ろにバックする。それによって、ふたたび円堂の正面に俺が立ち塞がることになった。

 

 

「はああ!」

 

「っ!負けるかあああああ!」

 

 

俺がぶつかりながらも円堂からボールを奪おうとすると、円堂は俺を吹き飛ばす勢いでぶつかってきた。お互いに正面衝突しながら、その場で踏ん張り合っている。

 

 

「くっ!(さすがは円堂だ....毎日タイヤで特訓してるだけあって、パワーがある...!)」

 

「っ!(嵐山を抜くには、パワーで対抗するしかない!俺には嵐山を騙すフェイントも、ドリブルテクニックもない!だったら気合と根性!それで対抗だ!)うおおおおおおおおおおおおお!」

 

「ぐっ....!」

 

 

ま、マズイ...!押し切られる!

 

 

「たあああああ!」

 

「ぐあっ!」

 

 

『抜いたああああああああああああ!円堂、執念で嵐山を抜きました!』

 

 

「ぐっ...!」

 

「嵐山くん!!!!!!」

 

 

俺は円堂に引き飛ばされ、フィールドを転げまわる。

円堂のやつ、本気でぶつかってきやがった。

ったく...怪我が怖くないってのか、あいつは。

 

あまりに見事に吹き飛ばされたせいか、ベンチから夏未が心配そうに大声を上げていた。

大丈夫、俺は何ともない...そういう意味を込めて、俺はベンチに向かって親指をたてる。

 

 

「嵐山くん....」

 

「信じましょう、彼を。いえ、彼らを。」

 

「監督.......はい。」

 

 

 

『さあ円堂、嵐山を抜いた勢いでぐんぐんとフィールドを駆けあがります!永世イレブンはこの進撃を止められるか!』

 

 

 

「止めるぞ!」

 

「よくも隼人を!絶対に止める!」

 

 

「金城!」

 

「はい、円堂さん!」

 

 

「「しまった!」」

 

 

ドリブルであがっていく円堂の前に、基山と八神が立ち塞がった。

だが円堂は冷静に、近くにいた金城へパスを出し、金城もそれに応えてワンツーでパスを出す。

基山と八神は円堂にあっさりと抜かれてしまい、一瞬間を置いてから円堂を追いかけていく。

 

 

「止めるわ!」

 

「ここで止めれば問題ない!」

 

 

さらにあがっていく円堂の前に、蟹目と倉掛が突っ込んでくる。

だがそれはまずいな...円堂ばかり見ていて、フォワードの二人のことが頭から抜け落ちている!

 

 

「任せたぜ!下町!要!」

 

「「なっ!?」」

 

 

円堂は蟹目と倉掛を十分にひきつけてから、下町と要にパスを出した。

あの二人は今、完全にフリーになってしまっている。

 

 

「まずは同点!」

 

「頂きますか!」

 

「ふん!貴様らのシュート、この俺が止めてみせよう!」

 

 

「だったら止めてみな!」

 

「行くぞ、下町!」

 

「「”天竜”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

ゴールの目の前で放たれた、利根川東泉のシュート”天竜”。

その勢いは、進化はしていないものの準決勝で見たときよりも強化されていることがわかる。

 

 

「負けん!円堂は確かに強敵だが、俺が1点も取らせなければ負けんのだ!」

 

「止めろ!砂木沼!」

 

「任せておけ、嵐山!うおおおおおおおおおおお!”グングニルV4”!」

 

 

砂木沼は紫色の槍のようなオーラを発生させ、”天竜”に対抗する。

”天竜”のパワーも相当なものだが、砂木沼の”グングニル”はそれを上回っているのか、みるみるうちに”天竜”の勢いが落ちていく。

 

 

「な、なんだと!?」

 

「俺たちのシュートが....!」

 

「フハハハハ!言ったはずだ!1点もやらなければ負けん!これが俺の力だ!」

 

 

そのまま勢いの落ちたボールは、”グングニル”によって弾かれて飛んでいく。

だが油断は禁物だぞ、砂木沼!弾かれたボールの先には....!

 

 

「たああああ!」

 

「っ!なにっ!?」

 

「”メガトンヘッド”!ちぇあああああああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

弾かれたボールの先には、パスを出したことで砂木沼の頭の中から除外されていた円堂がいた。

円堂は弾かれたボールに対して、ダイレクトに”メガトンヘッド”を放った。

 

 

「ぐっ....くそ!”グングニ....ぐああああああああ!」

 

 

『ゴーォォォォォォォォル!利根川東泉、キーパーである円堂が単独でゴールを決め、同点に持ち込みました!これで試合は振り出し!まだまだ試合の行方は分かりません!』

 

 

”天竜”に対抗していた砂木沼では、咄嗟の円堂のシュートに対応することはできずそのままゴールを決められてしまった。これで同点....やはり円堂は一筋縄ではいかないな。

 

 

「へへ、負けないぜ!嵐山!」

 

「ふっ....そうこなくちゃな。」

 

 

 

前半残り僅か....何とかもう一度、点を取るチャンスを掴みたいところだが。

やはりヒロトと基山の”コズミックブラスター”に賭けるほかないか。

 

 

 

.




ゲームが出ていなくて進化がわからないので、アレオリで出た技については進化しません。これ書いてる間にゲーム出たら、進化するかも?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

激闘の前半戦

嵐山 side

 

 

『さあ前半も残り僅か。このまま同点で前半を終えるか、はたまたどちらかが1点をもぎ取るか!』

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「嵐山サン!」

 

「おう。」

 

 

『永世ボールでふたたびキックオフです!』

 

 

俺はヒロトからボールを受け取ると、ヒロトと基山があがっていく時間を稼ぐため、自分でドリブルしながらあがっていく。パスを回して時間を稼ぐ方法も考えたが、カットされる危険性やヒロトと基山のマークを薄くするためにも、俺自身が運んだ方が良さそうという結論だ。

 

 

「嵐山さんを止めるぞ!」

 

「行くぜ!」

 

 

そうこうかんがえていると、俺の想定通り金城と玄場が俺からボールを奪うために突撃してきた。

さて、ボールを取られるわけにはいかないし、全力で抜かせてもらおうか。

 

 

「ぐっ...!」

 

「くそ!2vs1だぞ!?」

 

「ふっ...っ...!」

 

 

『嵐山、華麗なテクニックでボールを死守します!金城、玄場の二人がかりでも嵐山からボールを奪えません!』

 

 

「僕も。」

 

「何としてもボールを奪うぞ!」

 

 

『おおっと!さらに六豹、田植まで嵐山に突っ込んでいった!.....だがそれでもボールは奪えない!しかしこれはさすがの嵐山でも、ボールをキープするのに精一杯かあ!?』

 

 

「くそ...!」

 

「4人がかりでダメって何だよ...!」

 

「すごい...」

 

「まだまだ!」

 

 

いや、さすがに4人はきついな。だがまあ、十分にひきつけることはできたな。

ヒロトと基山もそれなりにあがることができているみたいだし、この4人を突破して次はディフェンスをひきつけさせてもらいますか。

 

 

「「「「なっ!?」」」」

 

「悪いね。」

 

 

『抜いたあああああああああ!ボールをキープするのに精一杯と見えた嵐山!しかしそんなことはなく、いとも簡単に4人を抜き去りました!これぞ神業!嵐山の成せるドリブルテクニック!』

 

 

俺はボールをかかとで蹴り上げて4人の頭上を通すと、そのまま俺自身も走り去り、前方に落としたボールをトラップしてふたたびドリブルであがっていく。

 

 

「すげえ...さすがだぜ、嵐山!」

 

「円堂さん!俺たち、嵐山さんを止めてきます!」

 

「おう!任せたぜ、坂ノ上!」

 

「はい!」

 

 

俺がドリブルで駆けあがっていくと、ゴール近くに布陣していた坂ノ上と橋屋が俺へと走り寄ってきていた。俺は気取られないよう他のディフェンダーの位置、動きを確認する。

 

 

「(どうやら、段と簑島はヒロトをマークしているようだな。やはり点を取ったヒロトはしっかりマークしているみたいだが...これだけディフェンスを減らせば、あいつらなら決められるはずだ。)」

 

「止めさせてもらいますよ、嵐山さん!」

 

「止める!」

 

「(あいつらを頼りにさせてもらいますか。)君らじゃ俺を止めることはできない!」

 

「何の!」

 

「止めてみせる!」

 

「だったら止めてみな!はああああ!”疾風迅雷”!」

 

 

俺は走る勢いそのままに、雷を纏って二人へと突っ込んでいく。

この二人を抜いて、基山にパスを出してシュート...”コズミックブラスター”を放つことができれば、点を取れる!

 

 

「はああああ!」

 

「うわああああ!」

 

「ぐっ!」

 

 

『嵐山、今度は坂ノ上と橋屋を抜き去ったああああああ!誰もこの男を止めることができません!圧倒的な運動量で、中央からゴール前まで一人で持ち込んだぞ!』

 

 

「よし....来い、嵐山!」

 

「ふっ...悪いな、円堂。決めるのは俺じゃなくて...あいつらさ!」

 

「っ!」

 

 

「受け取れ、基山!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺は円堂の視線、重心の動きまでこちらにひきつけたうえで、基山へと鋭いパスを出した。

円堂の体勢は完全に俺の方に向いている。確かに円堂の対応力はすごいが、この状況ならあいつらが決めてくれるはずだ!

 

 

「嵐山さん.....決めるぞ!ヒロト!」

 

「ああ!もう一度、俺たちがゴールを奪ってやるよ!」

 

 

「くっ!止めろ!」

 

「打たせるな!」

 

「遅い!」

 

ドゴンッ!

 

 

段と簑島が基山を止めに行こうとするが、一歩及ばず。

基山は上空へとボールを打ち上げると、ヒロトもそれに続くように飛び上がる。

そして二人は空中でボールを蹴り合い、ふたたびパワーを溜めていき...。

 

 

「くらえ!」「追加点は頂くぜ!」

「「”コズミックブラスター”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

放たれた”コズミックブラスター”は、激しい光線となってゴールへと突き進んでいく。

このシュートで、永世学園の追加点だ....!

 

 

「そのシュート、もう決めさせはしない!絶対に止めてみせる!たあああああああああああああああああああああ!」

 

「「「「「円堂さん!!!!」」」」」

 

「円堂!」

 

「円堂くん!」

 

 

な、何だ...円堂の右手に凄まじいパワーが....

円堂は準決勝でも見せた、”ゴッドハンドⅤ”の構えを取っている。

だがその右手に集まるパワーは、準決勝の時とは比べ物にならないほどのパワーだ。

 

 

「(まさか、この決勝にかける想いが円堂をさらに強くしているとでも言うのか....!)」

 

「勝つのは俺たちだ!”ゴッドハンドⅤ”!」

 

 

そして繰り出された”ゴッドハンドⅤ”が、”コズミックブラスター”とぶつかりあって激しいオーラを発生させていた。だが、”ゴッドハンドⅤ”から発せられるオーラの方が大きく、”コズミックブラスター”の勢いは徐々に失われていっている。

 

 

「「っ....いけえええええええ!」」

 

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

二つの激突が起こる中、突如カッとまばゆい光が放たれた。

その光が収まると、円堂の右手にはボールが収まっている光景が映し出された。

ボールはすごい勢いで回転していたが、すぐに回転は収まってしまう。

 

 

「ま、マジか...」

 

「俺たちの”コズミックブラスター”が...」

 

「止められた....」

 

 

『と、止めました!円堂、吉良と基山の渾身のシュートを、十八番である”ゴッドハンド”で完璧に止めてみせました!先ほどのリベンジ!2度もゴールは許さないという、円堂の執念!』

 

 

ピッピィィィィィィィィ!

 

 

「っ!」

 

「前半終了....」

 

「同点か....だが...」

 

 

何とか同点で終わることはできた。ビハインドじゃないだけ、マシだが....

唯一得点することができた”コズミックブラスター”を、完全に止められてしまったことで永世イレブンの空気は重くなっていた。

 

 

「ナイスセーブです、円堂さん!」

 

「さすがだぜ、円堂!」

 

「おう!後半もゴールは俺が守る!攻撃は任せたぜ!」

 

「「「「はい!!!!」」」」

 

 

対照的に、円堂という最強の守護神がいることで利根川イレブンには活気があふれていた。

同点は同点だが、このムード....後半はかなりきつい展開になるかもしれないな。

 

 

「「「「「....」」」」」

 

「....みんな、顔を上げなさい!」

 

「「「「「っ!」」」」」

 

 

俺たちが俯いたままベンチに戻ると、瞳子監督が俺たちを叱咤した。

その声に、俺たち全員の顔があがり、瞳子監督を見る。

 

 

「前半の攻防、素晴らしかったわ。」

 

「だけど...」

 

「頼みの綱の”コズミックブラスター”が完全に止められちまって...」

 

「そうね。でも、あなたたちのサッカーって、それだけかしら?」

 

「「「「えっ?」」」」

 

「”コズミックブラスター”だけが、あなたたちのサッカーなの?....違うでしょう?あなたたちの、永世学園のサッカーはそれだけじゃない。今まで積み上げてきた全てを出しきって、全力で戦いなさい。そうするには、俯いている暇なんてないわよ。」

 

「「「「監督.....」」」」

 

 

瞳子監督の言葉で、全員の目に火が灯ったのを感じる。

そうだ...まだ終わりじゃない。確かに”コズミックブラスター”は止められたが、それだけが俺たちのサッカーじゃないんだ。

 

 

「そうだな....俺たちのサッカー、出し切るしかねえよな!」

 

「ふっ...私たちのサッカーで、円堂守を倒す!」

 

「七転び八起き、何度失敗しても、俺たちは何度だって立ち上がっていける!」

 

「.........みんな、聞いてほしい。」

 

「「「「?」」」」

 

 

俺の言葉に、全員が俺の方を見た。

確かに円堂は強い。”ゴッドハンドⅤ”....まるで円堂の”ゴッドハンド”と”マジン・ザ・ハンド”を合わせたかのような強力な技だ。

 

だからこそ、原点回帰するのも良いかもしれない。

 

 

「”ゴッドハンドⅤ”を打ち破る秘策を思いついた。」

 

「本当ですか!」

 

「だったら後半、それを早速....」

 

「だが、はっきり言って成功するかはわからん。」

 

「「「っ!」」」

 

 

俺は自分のカバンからノートを取り出した。

祖父ちゃんが残してくれた、必殺技のノートだ。

 

 

「俺は昔、ある男が円堂の”ゴッドハンド”を打ち破るために編み出した必殺技を目にしたことがある。」

 

「それって帝国の...」

 

「ああ。”皇帝ペンギン2号”...あれは”ゴッドハンド”を破るために編み出された必殺技だ。そして今、俺たちの前に立ちはだかっているのは、”ゴッドハンド”がさらに進化した”ゴッドハンドⅤ”。」

 

「つ、つまり俺たちも”皇帝ペンギン2号”を打つ...ってことですか?」

 

「いや、少し違う。」

 

 

そう言いながら、ノートのあるページを開いて全員に見えるように見せる。

そこに書かれている必殺技....これこそが、”ゴッドハンドⅤ”を打ち破る秘策となる。

 

 

「「「「”スペースペンギン”......???」」」」

 

「ああ。原点回帰....”ゴッドハンド”を打ち破るための”皇帝ペンギン2号”。ならば”ゴッドハンドⅤ”を打ち破るのは、俺たち永世学園にも馴染みの深い宇宙....そしてペンギン。」

 

「は、隼人....なにを言って....」

 

「この必殺技を、ぶっつけ本番で打つ。それが”ゴッドハンドⅤ”を打ち破る秘策だ!!!!」

 

 

俺がそう言うと、みんながポカーンとした表情のまま固まってしまった。

やはり無茶だったか...ぶっつけ本番で必殺技を試すなんて....

 

 

「プッ......アハハハハハ!」

 

「お、おいタツヤ!」

 

「くく.....ハハハハハハ!」

 

「ひ、ヒロトさんまで....」

 

 

少しして、基山が笑い始めると、続けてヒロトまで笑い出した。

な、何で笑っているんだ....俺は結構真面目に....

 

 

「嵐山さん、結構真面目にボケるよね。」

 

「ああ、そうだな。」

 

「ぼ、ボケてるつもりは....「でも、面白いです!」....面白い...か?」

 

「はい。やってみましょう!”スペースペンギン”!」

 

「ああ。俺たちならできる...俺はそう思ってるぜ。」

 

「基山....ヒロト....」

 

「いきなりぶっつけ本番、もう後がないって言ってるようなものだけど....」

 

「”コズミックブラスター”だって、さっき決めるまでは成功してなかったしな。」

 

「それと同じって考えたら、案外行けるような気がしませんか?」

 

「......ふっ.....ハハハハ!」

 

 

お前ら、いつの間にかこんなにも頼もしくなったんだな。

俺のファンだって言って、俺に意見することも無かった基山。

最初は俺を敵視して反発していたヒロト。

そんな二人が、いつの間にかこうして.....

 

 

「決まりだ。後半、”スペースペンギン”を打つ。」

 

「はい!」「おう!」

 

「.......もう、三人ともそこまでやる気なら止めないわ。」

 

「ま、人生なるようになるさ...ってね。」

 

「チームの中心である3人が決めたことなら、俺たちは依存はないぜ。」

 

「みんな....」

 

「へへ、任せときな。」

 

 

どうやらチームの想いが一つになったようだな。

無謀な賭け、意味のない行為...そうなるかもしれない。

だけどそれでも、俺たちはやる。がむしゃらでも前に進んでいくんだ。

 

 

「よし。ならこの”スペースペンギン”だが....八神、お前に基点を任せたい。」

 

「私が?」

 

「ああ。八神は”キャリーペンギン”を使えるし、適任だと思ってる。....どうだ?」

 

「....ええ、私に任せてちょうだい。必ず成功させてみせるわ。」

 

「よし。....そしてシュートだが、このシュートは基点となる一人がボールを宇宙へと打ち上げ、それを二人でツインシュートして撃ち落とす....って必殺技になる。一人は俺がやる。もう一人は....」

 

「俺にやらせて下さい!」

 

「基山.....」

 

「俺、来年からキャプテンとして永世学園を引っ張っていく必要がある...嵐山さんがいなくなった、この永世学園を。だからこそ、最後に嵐山さんと一緒に思い出を残したいんです!それが俺の力になる...そんな気がするんです!」

 

「......よし、ならやるぞ。俺と一緒に、シュート。」

 

「っ!....はいっ!」

 

 

『さあハーフタイムを終え、後半戦が始まります!今大会で許した得点は未だ2点!鉄壁の守護神、円堂から果たして追加点を奪えるか!それともゴールを守りきり、追加点を奪って勝利するか、利根川東泉!』

 

 

「(円堂....俺はお前を倒す!必ず!)」

 

「(嵐山....負けないぜ!俺たちが勝つ!)」

 

 

 

『後半戦、キックオフ!!!!』

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

信じるという言葉

嵐山 side

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「要!」

 

「おう、玄場さん!」

 

「おう!」

 

 

後半戦開始のホイッスルが鳴り、下町が要へボールを蹴り、要はそのまま玄場へとパスを出してあがり始めた。前半はボールを支配できていたが、後半になると疲れも出てくる。前半のようにうまくは行かないだろうな。

 

 

「(だが、”スペースペンギン”を試すにはボールを奪う必要がある。点を取られてからでは遅い!)」

 

 

『おっと!ボールを持っている玄場に、嵐山が迫る!』

 

 

「うお!マジか!」

 

「ボール、奪わせてもらおうか!」

 

 

『早い!これは圧倒的スピードです!一瞬にして両者の距離が詰められました!』

 

 

「くっ....何て圧力だよ...!」

 

「(仕掛けるなら速攻!時間に余裕がある内に!)」

 

 

俺はすぐにボールを奪うために、スライディングを仕掛ける。

だが次の瞬間、玄場のもとに金城がやってきた。

 

 

「こっちです、玄場さん!」

 

「っ、任せた!」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ...避けられたか。」

 

 

玄場は金城にパスを出して、俺のスライディングを避ける。

俺の攻撃は避けられたが、ボールを受け取った金城に基山と八神がマークについた。

 

 

「っ、さすがにマークが早いね。」

 

「ボールは貰うよ!」

 

「私たちが勝つ!」

 

「....悪いけど、俺たちだって勝ちに来てるんだ!負けない!」

 

「「っ!」」

 

 

金城は基山と八神の頭上を通すようにボールを蹴り上げ、二人の視線がボールに向かったと同時に横から二人を抜き去った。そのままボールをトラップして、ドリブルであがる。

 

 

「くっ...うまいこと抜かれた!」

 

「よし....下町、要!受け取れ!”青龍”!」

 

ドゴンッ!

 

 

金城がボールを蹴ると、ボールの周りに青いオーラが発生し、その形がまるで竜のようになると地面を這うように進みだした。

 

 

「ボールを奪う!」

 

「なんだか良くわからないけど...これを止める!」

 

 

そんなボールの前に、本場と緑川が立ち塞がった。

だが地を這う青い竜は、二人をまるで寄せ付けずに打ち砕き、進み続ける。

 

 

「ぐああああああああ!」

 

「うわあああああああ!」

 

 

『止まらない!金城が放った”青龍”が、永世イレブンを吹き飛ばしながらゴール前まで突き進んでいく!』

 

 

「くっ...近付けない...!」

 

「ダメ...!」

 

 

残された蟹目と倉掛もボールに近付くことができず、その場で立ち尽くすしかなかった。

そのままボールはゴール前で止まり、オーラが解除された瞬間、下町と要がボールをトラップした。

 

 

「ナイスパス!」

 

「前半はいいようにやられたけど、後半はそうは行かないぜ!」

 

 

そして二人はボールを同時に蹴り上げ上空へ打ち上げると、それを追うように飛び上がった。

この動き...まるで”炎の風見鶏”だな....

 

 

「俺たちのシュート、止められるなら止めてみな!」

 

「行くぜ、下町!」

 

「「”朱雀”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

二人は”天竜”と似たような動きで、ボールを蹴る。

だが”天竜”と違う点を上げるとすれば、同時に蹴るのではなく足を互いにクロスさせていること、そして回転を増やして摩擦によって炎のオーラが発生しているところだ。

 

炎はまるで燃え上がる鳥のように翼をはためかせながらゴールへと突き進んでいく。

 

 

「面白い!貴様らのシュート、もう一度止めてやろう!”グングニルV4”!」

 

 

砂木沼はそれに対抗するように、紫の槍のオーラを発現させ、シュートに突き刺す。

オーラがぶつかり合い、激しい力を発生させている。

 

 

「ぬぅ...!」

 

「へへ!どうやら正解みたいだな!」

 

「その槍、俺たちの炎で燃やしつくしてやるぜ!」

 

「ぐっ....調子に....乗るなあああああああああ!」

 

「「なにっ!?」」

 

 

必殺技の属性のせいか押され気味だった砂木沼だったが、叫び声を上げながら逆にシュートを押し返していく。その光景に、下町と要は驚いていた。

 

 

「嘘だろ!?」

 

「俺たちのシュートが押してたはずなのに...!」

 

「前半...あの時、俺がシュートを止めていれば...!」

 

「「っ!」」

 

「だからこそ俺は!このゴールを守るために、さらに強く覚悟を決めたのだ!貴様らにゴールを決めさせるわけにはいかん!」

 

 

 

砂木沼....点を取られたことを気にしていたんだな。

確かに円堂から何点も取るのは難しい...準決勝でも、立向居の怪我で何とか勝ち越し点を取れたものの、あれが無ければ点を取れなかったかもしれない。だからこそ、1点の重みを砂木沼自身が一番わかっているんだろうな。

 

 

「ぬおおおおおおおおおおおお!」

 

 

『弾いたああああああああああ!砂木沼、ふたたび下町と要のシュートを打ち破り「たああああああああああ!」...い、いや!これは!円堂がふたたび飛び出してきている!!!!』

 

 

「”メガトンヘッド”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ぐっ....!」

 

 

前半で得点を許した時と同じように、弾かれたボールは円堂がダイレクトでシュートを放ってきた。

同じように砂木沼の体勢は崩れていて、前半の再現になる....誰もがそう思った。

 

 

「っ....舐めるなああああああああああ!男、砂木沼!同じ手は二度と食らわん!うおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

だが砂木沼は気合で円堂の放ったシュートの方に振り向くと、”グングニル”を発動していた右手とは逆、左手にオーラを溜めだした。

 

 

「円堂!貴様が雷門の....利根川の鉄壁の守護神なら!この俺が!永世学園の鉄壁の守護神だ!”Wグングニル”!うおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「これは.....(右手だけでなく、左手でも”グングニル”を.....左手の”グングニル”で一度ボールを抑え、体勢をたてなおして右手の”グングニル”も使って....!)」

 

 

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 

バシィン!

 

 

『は、弾いたああああああああああああ!砂木沼、前半と同じようにゴールを奪われるかと思われましたが、執念で新たな必殺技、”Wグングニル”を発動!円堂の”メガトンヘッド”を弾いて、ゴールを守りました!』

 

 

ピッ!

 

 

『弾かれたボールはそのままラインを割って外へ!しかし、砂木沼の執念でゴールは奪わせませんでした!』

 

 

 

「ナイスだ、砂木沼!」

 

「フハハハハ!ゴールはこの俺に任せておけ!」

 

「ああ!絶対に俺たちが追加点を取ってくる!」

 

「おう!」

 

 

 

 

「くそ...止められたか...」

 

「俺たちの必殺技が通じないなんて...」

 

「お前たち、焦ることはない!」

 

「円堂さん...」

 

「でも...」

 

「大丈夫だ!お前たちの努力は俺が一番よく知ってる!ゴールは俺が守るから、お前たちは安心して攻めていけ!」

 

「「......はい!!!」」

 

 

『さあ、利根川東泉のコーナーキックから再開します!未だに利根川のチャンス!果たしてこのチャンスをものにするか!それともピンチを切り抜け、自分たちのペースに持ち込めるか!』

 

 

 

「ふぅ.......行け、下町、要!」

 

ドゴンッ!

 

 

金城のコーナーキックで試合が再開。

金城はゴール真正面に向かってボールを蹴り上げ、そのボールに食らいつくように下町と要が飛び上がった。

 

 

「今度こそゴールを奪って見せる!」

 

「俺たちに任せてくれた、円堂さんの期待に応えるために!」

 

「「”天竜”!!」」

 

ドゴンッ!

 

 

そのまま二人によって”天竜”が放たれた。二人の想いが乗っているのか、先ほどからさらに威力というか、勢いが増したように見える。だが、うちの砂木沼も負けていないぞ。

 

 

「もはやこの俺に貴様らのシュートは通用せん!”Wグングニル”!」

 

 

砂木沼は両手で”グングニル”を発動し、槍のオーラでシュートを連続突きするように止めに入る。その力は凄まじく、”天竜”の勢いはどんどんなくなっていく。そして砂木沼は最後のトドメと言わんばかりに上空へと飛び上がり、2本の槍でボールを挟み込むとそのまま叩きつけるように地面へと落ちていく。

 

 

『と、止めたああああああああああああああ!砂木沼、下町と要の強烈なシュートを完膚なきまでに叩きのめしました!これはまさに永世の鉄壁の守護神!この試合、果たしてどちらが追加点を得られるのでしょうか!』

 

 

「くそ...!」

 

「まだだ!まだチャンスはある!」

 

 

「くくく...ゴールは俺に任せろ!嵐山、攻めていけ!」

 

ドゴンッ!

 

 

砂木沼は俺めがけて大きくボールを蹴り、俺はそのボールをトラップして受け取る。

ああ、今の砂木沼は頼もしくて仕方ないよ。これなら安心してゴールを狙えそうだ。

 

 

「行くぞ、基山!八神!」

 

「はい!」

 

「ええ!」

 

「ヒロト、風介、晴也も!全員で攻める!」

 

「「おう!」」

 

「ああ!」

 

「緑川は俺たちのサポート、本場、蟹目、倉掛は防衛ラインを整えつつ、攻めに転じれるときは攻めていくぞ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

「さあ行くぞ!俺についてこい!」

 

 

俺はそう言って、ドリブルで駆けあがっていく。

俺のスピードにみんなついてくるのに精一杯だが、その顔には笑顔があった。

 

 

 

「みんな楽しそう...」

 

「そうね。彼らは皆、サッカーがやりたくてもできなかった。それが今、こうしてサッカーをして、全国という大きな舞台で戦うことができている。彼らはサッカーを楽しんでいる。」

 

「そうですね....(嵐山君も、怪我でサッカーができなかった時があった。そんな嵐山君だからこそ、永世学園のみんなの想いに応えることができているのかもしれない。)」

 

 

 

「止める!」

 

「遅い!」

 

「っ!」

 

 

坂ノ上が俺を止めに来たが、俺はすぐさまスピンして坂ノ上を躱すと、そのままドリブルを続けて走り続ける。

 

 

『速い!圧倒的な速さ!これぞ嵐山隼人です!誰も追いつけません!』

 

 

っと...さすがに前に出すぎたか。

基山と八神も早い方だから、一応ついては来れてるな。

利根川のディフェンスもヒロトたちにもついてるから疎らだ。

 

 

「(試すチャンスだな。)受け取れ、八神!」

 

「っ!(やるのね、隼人。)」

 

「(嵐山さん、早速やるつもりだ!)」

 

 

俺は八神にパスを出した後、八神と基山の近くまで走り寄る。

そしてスピードを調整して、八神を中心に俺と基山で三角形を作るようなフォーメーションで駆けあがる。

 

 

『おおっと?これは珍しく、八神を中心に攻めあがっているぞ?一体何を狙っているのか。』

 

「(嵐山は無駄なことするわけがない。俺の頭で考えてもわからないけど...でも、油断はしない!どんなシュートを打ってこようと、俺の”ゴッドハンドⅤ”で止めてみせる!)」

 

 

「行くわよ、タツヤ!隼人!」

 

「ああ!」「うん!」

 

「はああああああああああああ!」

 

 

八神がゴール前で立ち止まると、地面からペンギンを生やすように呼び出した。

そのままボールを真上に打ち上げると、ペンギンも一緒に上空へと飛び上がる。

それに合わせて、俺と基山も同時に飛び上がってボールを追いかける。

 

 

『こ、これはあああああああああああああ!』

 

 

「決める!」

 

「はああああああ!」

 

「「「”スペースペンギン”!」」」

 

「っ!(ダメだ、蹴るタイミングとパワーが合っていない...!)」

 

ドゴンッ!

 

 

俺と基山によって放たれたシュートは、勢いこそあるものの軌道はゴールからどんどんと離れていく。俺の方が蹴るタイミングが早く、さらに蹴る力も強かったせいか右回転が強く、ゴールの右側に逸れていってしまった。

 

 

『おっと!嵐山と基山のシュートはゴールから大きく逸れていきました!残念ながら利根川東泉のゴールキックから試合が再開となります!』

 

 

「くっ...!」

 

「(やはりそううまくは行かないか.....俺が基山に合わせるか?だがそうすれば威力が落ちる...それでは意味がない。自分で言うのも何だが、俺と基山では俺の方が実力は上だ。上に合わせろってのは、上側のエゴだからな....)」

 

「仕方ないわ。次決めましょう。」

 

「ああ。...基山、次は決めよう。」

 

「はい....」

 

 

基山のやつ、少し気落ちしているか?

最初からうまく行くとは思ってないだろうが、やはりプレッシャーは感じているだろうからな。

だがこの必殺技がうまくいけば、きっと点を取れるはずなんだ。

酷だが、基山を信じてやるしかないな。

 

 

ピッ!

 

 

「行けええええ!」

 

ドゴンッ!

 

 

円堂のゴールキックで、ボールは大きくクリアされてしまう。

だがボールの落下地点にいち早く緑川が辿り着き、そのままトラップしてボールを確保できた。

 

 

「よし、このまま俺が運ぶよ!」

 

「ああ、任せる!行くぞ、八神!基山!」

 

「ええ!」 

 

「....」

 

「基山!」

 

「っ!あ、は、はい!」

 

 

....まずいな。基山の集中力が切れたか?

だがあいつ自身が自分でやりたいと言ったんだ。それなら俺はあいつを信じてやるしかない。

 

 

「何かやろうとしてるみたいだが...」

 

「そもそもやらせなければ問題ない!」

 

「っ!」

 

 

ドリブルでボールを運ぶ緑川の前に、玄場と金城が立ち塞がった。

確かに奴らの言う通り、俺、八神、基山にボールが渡らなければ、今やろうとしていることは始まらない。意味がなくなる。

 

 

「だったら意地でも届けるさ!あの3人なら必ず成功する...そう信じてね!」

 

 

そう言いながら、緑川は二人に向かって突撃していく。

 

 

「はあああ!”ライトニングアクセル”!」

 

「なっ!?」

 

「き、消えた!?」

 

「いや、違う!もう抜かれている!」

 

「「なにっ!?」」

 

 

緑川はまるで電光石火の如く、玄場と金城を抜き去った。

まるで稲妻が走ったかのような走りだったな。

 

 

「よし...もう一度いくぞ!」

 

「ええ!」「は、はい...!」

 

 

「よおし...玲名!」

 

ドゴンッ!

 

 

緑川から八神へとパスが出され、八神はそれを難なく受け取る。

そしてふたたび八神を中心に、俺、基山が並んで走る。

 

 

「いくわよ!」

 

「ああ!」「う、うん...!」

 

 

「はああああああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

ふたたび八神がペンギンを呼び出し、ボールを上空へと蹴り上げる。

俺と基山がそれを追うように飛び上がるが....

 

 

「っ!(今度は飛び上がるタイミングまで....!)」

 

「くっ...」

 

「「「”スペースペンギン”!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ、うわああああああ!」

 

 

今度は飛び上がるタイミングがズレたせいか、さらに状況が悪化した。

ボールはあらぬ方向へ飛んでいき、さらにタイミングがズレた影響か基山がバランスを崩して落下してしまった。

 

 

『おおっと...これも大きく逸れていきました!永世学園、何かを狙っているようですが嵐山と基山の呼吸が合いません!』

 

 

「お、おいタツヤ!大丈夫か!」

 

「ヒロト.............ごめん、ヒロト。やっぱりお前が俺の代わりにシュートしてくれないか...」

 

「は、はあ!?」

 

「っ!」

 

 

「お前、なに言ってんだよ!お前が自分でやりたいって言ったんじゃねえか!嵐山さんだって、お前と一緒に打てるって信じて...」

 

「ダメなんだよ!」

 

「た、タツヤ....?」

 

「俺の力が、足りないから....嵐山さんの足を引っ張ってるから、うまく決まらないんだ....だったら、俺よりすごいお前が....」

 

「......ふざけんな!」

 

「っ!」

 

「俺がお前よりすげえだと....?てめえ、ふざけんのもいい加減にしやがれ!」

 

「でも!それが事実だ!」

 

「事実じゃねえ!お前は俺とは違う!期待されず、見放されていた俺とは違って、お前はいつだって親父に期待されていたじゃねえか!......俺はお前が羨ましかったんだ.......お前みたいになりたいって、思ってたんだよ!そんなお前が!そんなふざけたこと抜かしてるんじゃねえ!」

 

「ヒロト.....」

 

 

 

 

「基山っ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「えっ.....ガハッ...!.......っ.....あ、嵐山さん....な、なにを.....」

 

「今のは、俺の想いを全部乗せたボールだ。....男が一度決めた以上、途中で諦めるな!」

 

「っ....」

 

「俺は....いや、俺たちは信じてる。お前が俺と八神と一緒に、”スペースペンギン”を完成させるって。」

 

「っ....嵐山さん....みんな.....」

 

「....いくぞ。この後半、何としても”スペースペンギン”を完成させて、円堂を、利根川東泉を倒す!」

 

 

俺はそれだけ言って、ポジションに戻っていく。

後は基山次第だ。俺は信じるだけ.....そうやって、俺たち雷門は優勝したんだ。

なあ、そうだろ?円堂、修也、みんな。

 

 

.....

....

...

..

.

 

基山 side

 

 

 

信じる....両親に捨てられた俺たちにとって、その言葉がどういう意味を持つのか、嵐山さんはきっとわかっていない。それでも、嵐山さんは俺の目を見て、はっきりとそう告げた。

 

 

「タツヤ....」

 

「....ごめん、ヒロト。さっきのはやっぱり無しだ。」

 

「あ?」

 

「”スペースペンギン”は俺が決める。嵐山さんの信頼に応えるために。」

 

「....はっ!だったらうじうじしてねえでさっさと決めてこい!」

 

「ああ!」

 

 

もう迷わない。俺は嵐山さんと一緒に勝つ!

嵐山さんの信頼を裏切らないために、そして...永世イレブンみんなの信頼に応えるために!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

譲らぬ戦い

嵐山 side

 

 

「八神、基山、次の攻め方だが....俺に少し考えがある。」

 

「考え...ですか?」

 

「ああ。......................という感じだ。」

 

「なるほど....確かに、それは悪くないですね。」

 

「でもそうすると、ディフェンダーが邪魔ね。」

 

「ああ。だからあるタクティクスを使う。さっき見せた必殺技ノートに書いてあったタクティクスだ。」

 

「タクティクスでディフェンダーの動きを封じるんですね。」

 

「そうだ。...ぶっつけ本番だが、さほど難しいタクティクスでもない。やり方も簡単だし、やってみる価値はある。ま、その分、効果は薄いだろうけどな。」

 

「でも、やってみる価値があるならやるしかないですね。」

 

「この試合に勝つために、できることは全てやりましょう。」

 

「おう。」

 

 

 

 

『さあふたたび円堂のゴールキックから試合が再開!果たして永世学園は今やろうとしていることが成功するのか!利根川東泉も追加点をもぎ取ることができるか!』

 

 

ピッ!

 

 

「いけえ!」

 

ドゴンッ!

 

 

『円堂、大きくボールをクリア!ボールの落下地点には既に金城、玄場が回り込んでいる!しかし、対する永世学園も緑川、本場、蟹目、倉掛と中盤、終盤の選手が二人を囲むように待機している!』

 

 

「くっ...!」

 

「これだけ囲まれたら...!」

 

「よしっ!」

 

 

4人が囲むような陣形を取っていたおかげで、金城と玄場はボールを取りに行くことができず、ボールは緑川が確保することとなった。このままもう一度攻めて、”スペースペンギン”を完成させる!

 

 

「いくぞ!緑川はそのまま前線までボールを持ち込め!」

 

「はい!」

 

「基山、八神は俺についてこい!ヒロト、風介、晴也はいつでもゴールを狙えるよう集中!」

 

「はい!」

 

「ええ!」

 

「「おう!」」

 

「了解!」

 

 

緑川がボールを確保したのを確認すると、俺はそれぞれに指示を出す。

指示を受けた全員が、それぞれ動き出した。

 

 

「止める。」

 

「悪いけど、止められるわけにはいかないよ!”ライトニングアクセル”!」

 

「っ!」

 

 

緑川を止めようと六豹が立ち塞がったが、緑川は”ライトニングアクセル”によって目にもとまらぬ速さで六豹を抜き去った。そしてそのままどんどん前線へとボールを運んでいく。

 

 

「っ、どうすれば...明らかに嵐山さんたちが何かを狙ってる。それを止めれば問題無い....でも...」

 

「それすら、嵐山さんの策かもしれないしな....」

 

「やっぱりマンツーマンでマークした方が良いか...」

 

 

「お前たち!」

 

「「「っ!」」」

 

 

利根川のディフェンダーたちがあたふたとしていたが、円堂が突然大声を上げた。

 

 

「ゴールは俺に任せろ!お前たちはお前たちが思った通りにプレーして、思いっきりサッカーを楽しんでこい!」

 

「え、円堂さん....」

 

「心配するな!たとえお前たちが失敗したとしても、俺がカバーする!ゴールは俺に任せて、お前たちはサッカーを楽しもうぜ!」

 

「「「......はいっ!」」」

 

 

「(円堂らしいな....サッカーを楽しむ、か。決勝の舞台まで来たんだ、確かにあとはサッカーを楽しむだけだ!)いくぞ、八神、基山!」

 

「受け取ってください、嵐山さん!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺は一人飛び出し、八神と基山に声をかける。

そして緑川からのパスを受け取ると、先ほどまでとは大きく陣形を変えて、俺と基山と八神が大きな三角形を作るような配置となる。

 

 

「な、なんだこれは...」

 

「ディフェンダーの俺たちが囲まれた!?」

 

「いくぞ!」

 

「はい!」「ええ!」

 

「「「必殺タクティクス、”バミューダウェーブ”!」」」

 

 

俺、八神、基山は利根川のディフェンダーたちを取り囲むと、高速でパス回しを開始した。

それによって俺たちを頂点とした三角形のオーラが生み出され、それは徐々に濃くなっていく。

 

 

「な、なんだこれ...」

 

「うぅ...動きが....」

 

「体が...重たい....」

 

 

よし、成功のようだな。このタクティクスは高速なパス回しによって生まれるエネルギーによって、その中に捉えた相手の動きを封じるタクティクスだ。

 

これで邪魔なディフェンダーは消えた!あとは”スペースペンギン”を決めるだけ!

 

 

 

「いくぞ、円堂!」

 

「っ!...来い、嵐山!」

 

「はあああ!”ウイングショットS”!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺はタクティクスの流れのままシュートの体勢となり、基山からのパスをダイレクトに蹴ってシュートを放った。

 

 

「(っ、早い!”ゴッドハンドV”じゃ間に合わない!)はあああああああ!”正義の鉄拳G4”!」

 

 

やはり円堂は”正義の鉄拳”で対抗してきたか。

俺の”ウイングショット”はスピード重視のシュートだ。

”ゴッドハンド”や”マジン・ザ・ハンド”は強力な必殺技だが、必殺技を繰り出すまでに時間がかかるという弱点がある!

 

 

「はあああああああ!」

 

バゴンッ!

 

 

『弾いたあああああああああ!円堂、嵐山のシュートを完璧に弾き返しました!三度目の勝負も円堂に軍配があがったああああああああああああ!』

 

 

ああ、そうだな。今の勝負も円堂、お前の勝ちだ。

だが、次は俺の勝ちだ....!

 

 

「はっ!受け取れ!玲名!」

 

ドゴンッ!

 

 

弾かれたボールを、ヒロトが空中で蹴り落として八神へとパスを出す。

そして八神はそのままシュート体勢に入った。

 

 

「決める!いくわよ、タツヤ!隼人!」

 

「ああ!」

 

「うん!」

 

 

「っ!(しまった!嵐山の狙いはこれか...!)」

 

 

 

俺はすぐさま基山と合流し、”スペースペンギン”を放つための体勢に移る。

円堂は”正義の鉄拳”を放った体勢になっていて、まだ俺たちのシュートを待ち構える体勢にはなっていない。

 

 

「はああああああああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

八神が先ほどと同じように、ペンギンを呼び出して真上にボールを蹴り上げる。

先ほどまでと違い、普通のペンギンではなく宇宙服を来たペンギンになっている。

 

 

「いくぞ、基山....いや、タツヤ!」

 

「っ!....はい!」

 

 

俺とタツヤはそれを追いかけるように飛び上がる。

今度はお互いのタイミングが完璧にあったジャンプだ。

 

 

「(俺の実力は、嵐山さんには到底及ばない....それでも俺が嵐山さんと一緒にシュートを打つには....気持ちでぶつかっていくしかない!この試合にかける想い!嵐山さんへの憧れ!全てをこの左足に込める!)」

 

「っ!(蹴るタイミングもばっちり.....あとは蹴る威力だけ...!)」

 

「「はあああああああああああ!」」

 

ドゴンッ!

 

 

「「「”スペースペンギン”!!!!」」」

 

 

俺とタツヤによって蹴られたボールは、ペンギンとともに不規則に乱れながらもまっすぐとゴールへ向かっていく。全てのタイミングが完璧に一致した、完璧なシュートだ。

 

 

「っ!(これが嵐山の狙ってたシュート...!”ゴッドハンドV”を打ち破るために、鬼道たちと同じように....!止めるために”マジン・ザ・ハンド”を.............いや!それじゃダメだ!ここで逃げたら、俺は世界で戦えない!)はああああああああああああ!」

 

「(円堂...分かっていてなお、それで対抗してくるか!いや...それでこそ円堂だ!)」

 

「(勝負だ、嵐山!)”ゴッドハンドV”!」

 

 

俺たちの放ったシュートが、円堂の繰り出した”ゴッドハンドV”とぶつかり合う。

ボール自体はその手のひらに、そして五本の指それぞれにペンギンが1匹ずつぶつかっていく。

 

 

「ぐっ....!(何てパワーだ....!初めて”皇帝ペンギン2号”を”ゴッドハンド”で受け止めた時みたいな....っ....それでも.....!止めてみせる!)」

 

「「「いけえええええええええええええええええ!」」」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

互いに一歩も譲らず、押して押されてを繰り返していた。

だが徐々に”ゴッドハンドV”にヒビが入っていく。

 

 

「っ....負けるかあああああああああああああああああ!」

 

「これで終わりだ!円堂おおおおおおおおおおおおおお!」

 

「ぐっ...っ...」

 

バキィン....!

 

 

「うわああああああああああああああ!」

 

 

ついに”ゴッドハンドV”のオーラは粉々に砕け散り、円堂もろともボールがゴールへと突き刺さった。その光景に、フィールドだけでなく会場の全ての人間が静まり返り、静寂が訪れていた。

 

 

「..........き、決まった.....」

 

「ああ.....決まったんだ....」

 

 

『ご........ゴーォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォル!!!!!!後半開始からここまで、何度も繰り返してきた嵐山、基山、八神の3人による必殺技、”スペースペンギン”!ついに完成し、鉄壁を誇る円堂の”ゴッドハンドV”を打ち破り、ゴールをもぎ取りましたあああああああああああ!』

 

 

「「「「よっしゃあああああああああああああああああ!!!!!」」」」

 

 

実況の声を皮切りに、ヒロトたちが喜び出した。

そしてそれと同じく、観客席からも大きな声が鳴り響き、会場全体が揺れているのを感じる。

 

 

「やりましたね!嵐山さん!」

 

「ああ!最高のシュートだった!」

 

 

 

「う、嘘だろ....円堂さんが、二度も破られるなんて....」

 

「2vs1....後半も残り時間がそんなに残ってない...」

 

「ここから逆転なんて....」

 

 

利根川イレブンは、円堂という絶対的な存在が打ち破られたことで折れかけているようだ。

無理もないが....だがそれでも、円堂自身は折れていない。

残り時間が少ないと言っても、同点になれば延長戦になる。そこまでもつれ込めば、なにが起こるかわからない。

 

 

「はは....すげえ....すげえよ、嵐山....!」

 

「え、円堂さん...」

 

「みんな、悪い!止められなかった!でもまだ時間はある!諦めずに、最後まで全力で戦うぞ!」

 

「.........はいっ!」

 

「そうだな!」

 

「まだ時間はあるんだ!」

 

「諦めなければ、きっと勝利の女神は微笑んでくれる!」

 

 

円堂の言葉に、折れかけていた利根川イレブンがふたたび奮い立った。

やはり円堂は味方を後ろから見守り、支えてくれる安心感があるな。

常に隣に立って、一緒に歩んでくれる....そんな円堂だから、俺は一緒にサッカーがやりたかったんだ。

 

 

「さあお前たち!勝ち越したが勝負はまだ決まっていない!最後の1分1秒まで全力で戦うぞ!」

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

ピッ!

 

 

「要!」

 

「おう!」

 

 

利根川ボールで試合が再開、下町から要にボールが渡り、要はドリブルであがっていく。

そんな要に対して、ヒロトが突っ込んでいっている。

 

 

「ボールを寄越しな!もう1点取って、勝利を確実にしてやるぜ!」

 

「そうはさせない!」

 

「俺たちは諦めない!最後の1分1秒まで戦い抜く!」

 

 

下町と要が一列に並ぶと、そのまま二人でヒロトに向かって走っていく。

二人の周りにはまるで寅のようなオーラが出来上がっていく。

 

 

「「うおおおおおおおお!”白虎”!」」

 

「なっ!?ぐあああああああああ!」

 

 

そしてそのままヒロトへと突っ込んでいった二人は、ヒロトを吹き飛ばしながら突き進んでいく。

ここに来て、また新しい必殺技か...利根川もなかなかやりやがる。だが...!

 

 

「このまま一気に....っ!」

 

「ここは!」「通さない!」

 

 

必殺技で一気に突き進んだ下町と要だったが、勢いが止まった直後にタツヤと八神が正面に立ち塞がった。さっきの必殺技、突破力はあるが勢いが止まったタイミングは弱い!

 

 

「貰った!」

 

「くっ...!」

 

 

タツヤがボールを持っている要に突撃するが、要は何とかそれを避けた。

だが完全にバランスを崩しており、無防備な状態となっている。

 

 

「そこ!」

 

「ぐっ...!」

 

 

そんな要に八神がすかさず突撃し、要はそれを躱すことができず八神がボールを奪うことに成功した。

 

 

「ナイスだ、二人とも!」

 

「攻めろ!」

 

「ええ!受け取って!”キャリーペンギン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

八神はボールを奪ってすぐに、必殺技で前線へとパスを出した。

八神が蹴りだしたボールは、まっすぐ晴也と風介の元へと向かって言っている。

だが、その前に坂ノ上、橋屋、段、簑島のディフェンダー4人が立ち塞がった。

 

 

「(横一列に並んで...一体何を...)」

 

 

「いくよ、みんな!」

 

「「「おう!」」」

 

 

坂ノ上の掛け声に全員が反応した。すると4人の前には亀の甲羅のようなオーラがあらわれ、それらが重なり合って徐々に大きくなっていっているのがわかる。

 

 

「これが俺たちの最強のブロック技!」

 

「「「「”玄武”!!!!」」」」

 

 

そしてついには亀の甲羅から俺や円堂、修也の繰り出す魔神のようなものが出現し、”キャリーペンギン”を完全に止めてしまった。ボールは一瞬で勢いを失くして、坂ノ上の目の前に落ちる。

 

 

「くっ...私のパスが...」

 

「ドンマイだ、八神!切り替えてディフェンス!」

 

「隼人.....ええ、わかってるわ!」

 

 

 

「いけえええええ!」

 

ドゴンッ!

 

 

ボールを奪った坂ノ上は、そのままロングパスで下町、要の元へとパスを出した。

残り時間は.......あと3分程度か!このまま守り切って、俺たちが勝つ...!

 

 

「受け取ったぜ、坂ノ上!」

 

「俺たちの最強のシュート技....これで発動できる!」

 

「(最強のシュート技...?まだ何か隠しているのか...!だが、打たせなければ関係ない!)」

 

「「っ!!!」」

 

 

『おおっと!坂ノ上からのパスを受け取った下町、要の前に嵐山が立ち塞がったああああああああ!下町、要、これは絶体絶命かあああああああああ!?』

 

 

「残り3分....守り切らせてもらうぞ!」

 

「っ...ここで嵐山さんかよ.....」

 

「すげえプレッシャー....」

 

「「.....だけど!」」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ!」

 

 

『おっとこれは!?下町、まだゴールまで距離はありますがボールを上空へ打ち上げた!かなり大きく打ち上げています!』

 

 

ここからシュートを打つつもりか...?

だがシュートは打たせない!その前に俺がボールを奪ってやる!

 

 

「「はっ!」」

 

 

『下町、要が飛び上がった!......何とおおおおおおおお!嵐山も飛び上がり、二人のさらに上を行っています!』

 

 

下町と要が飛び上がったので、俺もそれに対抗して飛び上がる。

ボールはかなり上空へと飛ばされたので、まだ落ちてくる気配はない。

だがジャンプ力では俺が二人より勝っているようで、俺の方が高く飛んでいる。

これなら俺が先にボールに触れることができる。

 

 

「さすがですね、嵐山さん。」

 

「このままじゃ、俺たちより先にあなたがボールに触れてしまう。」

 

「....その割には随分と余裕だな。」

 

「ええ。だって...」

 

「俺たちの本当の役割は、シュートを打つことじゃありませんから!」

 

「なに.......っ!」

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

『円堂だ!円堂が遅れて飛び上がっている!大胆不敵!点を奪われてもなお、円堂はアグレッシブにフィールドを駆けまわります!』

 

 

「マジか、円堂...!」

 

「嵐山!勝つのは俺たちだ!」

 

 

「円堂さん!」

 

「お願いします!」

 

「おう!」

 

 

円堂は脅威のジャンプ力で下町、要より少し高い位置まで飛ぶと足を折り曲げて下町、要の足の上に乗った。そして下町と要は、そんな円堂を上空にあるボールに向かって蹴り上げる。

 

 

「(そういうことか....!下町と要はあくまで円堂をより高く打ち上げるための空中発射台...!これじゃあいくら俺のジャンプ力が高くても、距離でもスピードでも勝ち目がない...!)」

 

 

「これが俺たち利根川東泉の最強の必殺シュート...!」

 

「止められるものなら止めてみろ!」

 

 

「(何だこれ...フィールドの4か所からオーラが上に.........っ!)」

 

 

 

 

「まさかこれは....初代イナズマジャパンが放ったという伝説の必殺技...!」

 

「か、監督、知ってるんですか!?」

 

「ええ....”朱雀”、”青龍”、”白虎”、”玄武”....聞いたことはあるでしょう?」

 

「ええ、四神....ですよね。」

 

「そう。四神は東西南北をそれぞれ守護する神...日本ではそれまでだけど、中国ではさらにもう一体の神が存在する。」

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおお!」

 

「っ!」

 

 

円堂は二人に蹴り上げられてボールを追い越して高く飛び上がり、そのままボールめがけて頭突きの要領で向かっていく。円堂の頭には”メガトンヘッド”の時のように、”ゴッドハンド”を握りこぶしにしたようなオーラが発現している。

 

 

「”黄龍”!!!」

 

ドゴンッ!

 

 

そして放たれたシュートは、最初は”メガトンヘッド”のような状態だったが、徐々に姿かたちを変え、ドラゴンへと変貌していく。

 

 

「っ!ぐあああああああああああ!」

 

「「「「嵐山さん!!!」」」」

 

 

俺はドラゴンに巻き込まれ、そのまま吹き飛ばされてしまう。

ドラゴン....いや、ボールはそのままとてつもない勢いでゴールへと向かっていく。

 

 

「止める!このシュートを止めれば俺たちの勝ちだ!」

 

「砂木沼ああああああ!止めろおおおお!」

 

「砂木沼さん!」

 

「ぬおおおおおおおおおおお!”Wグングニル”!」

 

 

砂木沼は今の自分が誇れる最強の必殺技である”Wグングニル”で対抗する。

両手に持った槍のオーラをボールに突き刺していくが、ボールの勢いはまるで衰えない。

それどころか、砂木沼の”Wグングニル”には徐々にヒビが入っていっているのがわかる。

 

 

「ぬおおおおおおおおおおお!負けるものかああああああああ!」

 

「いけえええええええええええ!」

 

「ぬおおおおおおおおおお!っ....ぐっ!」

 

バキィン....!

 

 

「っ...ぐあああああああああああ!」

 

 

ついに”Wグングニル”は粉々に砕け散り、砂木沼もろともボールがゴールへと突き刺さった。

これが利根川東泉の最強の必殺シュート....ここで同点....マジかよ....

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「えっ...」

 

「ホイッスル.....?」

 

 

『何ということでしょう!!!利根川東泉、渾身のシュートで同点に追いつき、2vs2!そして後半終了のホイッスル!つまり!試合は延長戦に持ち越されることとなります!!!』

 

 

実況の言葉に、観客が大いに沸き立っていた。

延長戦....そう簡単には勝たせてくれないか、円堂...!

 

 

 

「ハァ...ハァ.....まだまだ終わらせないぜ、嵐山!」

 

「円堂....ああ、ここまで来たら、延長戦もとことん楽しもうじゃないか!」

 

 

円堂のあの様子...それに、あれほどのシュートを何故決勝という舞台で隠していたのか。

恐らく、あのシュートは打てて後1回と言ったところか。

何れにせよ、勝つにはもう一度点を取る必要がある。

 

 

「(結局、俺一人ではシュートは決められていない....やはり、決着を付けるには俺が決める....!)」

 

「(何とか”黄龍”を打てたけど、もう一回打つにはもう一度”朱雀”、”青龍”、”白虎”、玄武”を発動しないとダメだ。俺たちが勝つには....俺がもう一度もゴールを奪われないことが絶対...!)」

 

 

「「(勝つのは俺たちだ!!!)」」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ぽん子、出陣

嵐山 side

 

 

 

「みんな、延長戦が始まるまでしっかり休んでおけよ。」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

サッカー協会も延長戦になることを想定していなかったのか、少し準備に手間取っているようだった。なので普通に延長戦が始まるよりも長く休憩できているが、それは利根川東泉も同じ。

 

 

「(できれば早く試合を始めたかったが...ま、焦りは禁物だな。)」

 

「はい、嵐山君。」

 

「ありがと、夏未。」

 

 

俺は夏未からドリンクを受け取り、それを飲む。

しかし延長戦か....痛み止めの効果は試合終了まで持つだろうか。

 

 

「ねえ、嵐山君。」

 

「ん?」

 

「.........信じてるわよ。あなたが勝つって。」

 

「夏未......ああ、勝つよ。」

 

 

『どうやら試合再開の準備ができたようです!フットボールフロンティア史上初、決勝戦での延長戦!点を取られたら取り返す、一進一退の攻防を見せている円堂と嵐山!果たしてこの激闘を制するのはどちらか!』

 

 

「じゃあ行ってくる。」

 

「ええ。.........(お願い、神様....嵐山君が無事にこの試合を終えられるようにして...!)」

 

 

 

『さあふたたびフィールドに両チームが散らばっていきます!ここで会場の皆さまにルールを改めてお知らせしておきます!この延長戦は前後半に分かれており、それぞれ10分間の試合時間となっています!現在の得点は2vs2!果たしてこの延長戦でゴールを決め、優勝するのはどちらのチームか!』

 

 

「嵐山さん、どう攻めますか?」

 

「ああ。ここはやはり”スペースペンギン”でいくべきだ。もう一度、”スペースペンギン”を決めるぞ。」

 

「はい!」「ええ!」

 

 

「ヒロト、晴也、風介もチャンスがあればどんどんシュートしていけ。」

 

「「おう!」」「了解した。」

 

「.....円堂は俺の知る限り、最強のキーパーだ。だが俺たちは最強の攻撃型チーム。俺たちなら円堂という壁をぶち破ることができる!だから...........勝つぞ!」

 

「「「「「はいっ!!!!」」」」」

 

 

『さあ両チーム、ポジションについて......』

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

『延長戦開始ぃ!』

 

 

「いくぞ、ヒロト!」

 

「おう!」

 

 

俺はヒロトからボールを受け取ると、そのままドリブルで駆けあがる。

この試合に勝つためには、全身全霊でぶつかっていくしかない!

 

 

「行かせるか!」

 

「止める!」

 

 

そんな俺の前に、下町と要が立ち塞がった。

俺はすぐさまフィールドを見渡し、利根川の守備位置を確認する。

どうやら中央を固めてきているようで、両サイドが空いているように見える。

 

 

「(だったら...)風介!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺は右サイドからあがっていく風介へとパスを出す。

地を這うような鋭いパスに、下町と要は触れることができずパスが通った。

 

 

「そっちか...!」

 

「(目の前はがら空き...嵐山さんは良く見ている。)」

 

 

風介の近くに玄場がいたが、中央寄りのディフェンスラインを敷いていたため、風介にボールが渡ると慌てて追いかけ始めた。だが、風介のスピードにはついてこれないだろう。

 

 

『速い!速いぞ、涼野!がら空きのサイドを駆けあがっていきます!....しかし!さすがは決勝まで勝ち上がったチーム!段が涼野に向かって走っていっています!』

 

 

「さすがにこのまま進ませるわけにはいかないでしょ!」

 

「ふっ...ならば押し通る!」

 

「うおおおおおおおおおおお!」

 

「はっ!”ウォーターベールV3”!」

 

「ぐっ!」

 

 

風介は走り寄ってくる段に対して、”ウォーターベール”を発動。

これにより段は水圧で吹き飛ばされ、風介はさらにサイドを駆けあがっていく。

 

 

『涼野が止まりません!圧倒的な速さでゴール前まで突き進みました!』

 

 

「へへ、来い!」

 

「ふっ...円堂守、私の手で打ち破りたかったが....任せた!」

 

ドゴンッ!

 

 

「いくわよ!」

 

「「おう!」」

 

「っ!嵐山たちか!」

 

 

サイドからゴール前まで走り抜けた風介は、可能な限りディフェンスを引き付けた上で、中央から走ってきていた八神へとパスを出した。そして俺とタツヤは同時に飛び上がり、ふたたび”スペースペンギン”の構えを取る。

 

 

「はあああああああああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「「「”スペースペンギン”!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

『ふたたび永世学園が”スペースペンギン”を放った!後半で円堂を打ち破ったこのシュート!円堂、大ピンチかあああああああああああ!?』

 

 

「円堂さん!」

 

「円堂!」

 

「キャプテン!」

 

 

「(感じる....みんなの想いを。みんなが俺を信頼して、俺がゴールを守るって信じてくれている!だったら俺はこのシュート、決めさせるわけにはいかない!)はあああああああああ!」

 

 

円堂の周囲にオーラが集まっていくのが見える。

円堂はいつだって、仲間の声で奮い立ち、さらなる高みへ登っていく。

今度はなにを見せてくれるんだ?円堂。

 

 

『グオオオオオオオオオオ!』

 

「こ、これは...」

 

「”マジン・ザ・ハンド”.....いや、違う!?」

 

 

円堂はいつものように魔神を呼び出したかと思えば、そのまま右手を差し出すのではなくその場で魔神と共に飛び上がった。そして大きく右手を振りかぶると、そのまま振り落としながら落下してくる。

 

 

「砂木沼の”Wグングニル”を見て、俺なりに自分の必殺技に落とし込んだんだ!これが俺の........”怒りの鉄槌”!」

 

 

そのまま円堂はボールを地面に叩きつけるように拳を振り落とした。

ボールは地面へと押し込まれ、周囲を漂っていたペンギンたちも弾き飛ばされてしまった。

 

 

『と、止めたああああああああああああ!円堂、新たな必殺技で”スペースペンギン”を攻略!まさに鉄壁の守護神!一度破れた必殺技を攻略し、ふたたびゴールを守ります!』

 

 

「くっ...!」

 

「私たちの”スペースペンギン”が通じない...!?」

 

「まだだ!まだ時間はある!諦めずに攻めていくぞ!」

 

「は、はい!」

 

 

「(さすがは嵐山だな。俺がシュートを止めて折れかけていた仲間の心を奮い立たせた。)」

 

「(さすがは円堂だ。試合の中で急速に成長している。対抗するには......俺たちがさらに進化するしかない!)」

 

 

「いけ!お前ら!ゴールは俺に任せろ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

円堂はボールを大きくクリアすると、そのボールは中央にいた下町が受け取った。

利根川イレブンは円堂がゴールを守ったことで、ゴールを心配する必要がなくなったと言わんばかりに攻めてきた。

 

 

「頼む、金城!」

 

「おう!」

 

 

「くっ...!」

 

「パス回しが速くて、ボールを奪えない!」

 

 

中盤にいた緑川や本場が止めに入るが、素早いパス回しで翻弄されてどんどんゴールへと近付けてしまっていた。

 

 

「ハァ...ハァ...」

 

「お、おい大丈夫か!?」

 

「(だが延長戦まで来て、しかもこのハイペースな戦い....体力が切れてきた選手もいるようだな。)」

 

 

俺が見るに、利根川イレブンは六豹の動きが鈍ってきたな。

永世イレブンはまだ大丈夫そうだが、さすがに八神とタツヤには疲れが見えている。

”スペースペンギン”完成のために無茶をしたからな....何とか持ってほしいが...

 

 

「うっ...」

 

バタッ...!

 

 

「六豹!...っ!」

 

 

ピッ!

 

 

『おっと!六豹が倒れてしまいました!金城、ここはボールをフィールドから出してプレイを止めます!この試合、互いにハイペースで動き回っています。体力の限界が近い選手も多いでしょう....倒れた六豹が心配です。』

 

 

 

「ハァ....ハァ....」

 

「大丈夫か、六豹!」

 

「だ、大丈夫です....試合....続き...」

 

「ダメだよ。軽いとはいえ熱中症になっている。回復するまでは試合には出せないよ。」

 

「そんな.....」

 

「交代はいるかい?」

 

「......それは.....」

 

「お、俺たちのチーム、11人だし....」

 

「じゃあ、10人で試合を続行してもらうしかないね。」

 

 

 

どうやら利根川東泉は11人チームのようだな。

この状況で10人になるとは....いくら円堂が鉄壁だろうと、人数が少なければその分勝ち目が薄くなっていくだろうな。

 

 

「待つっちゃ!」

 

 

そんなときだった。利根川東泉のベンチの方から大きな声が響いた。

全員が驚きベンチの方を見ると、そこには利根川東泉のユニフォームを来た女の子が立っていた。

 

 

「円堂!助けに来たっちゃ!」

 

「あああああああああ!ぽん子!」

 

「「「「ぽ、ぽん子.....????」」」」

 

「審判さん!選手交代!六豹に変わって、ぽん子が出ます!」

 

「「「「「え、ええええええええ!?」」」」」

 

「っちゃ!」

 

 

な、なんだかよくわからないが、彼女も利根川東泉の選手みたいだな。

ずっとベンチにはいなかったみたいだが....果たしてどれほどの実力を持っているのか。

.....狸の尻尾のようなものが見えるのは、スルーした方が良いんだろうか。

 

 

利根川イレブンも少し戸惑っていたようだが、結局彼女が交代で入ることになったのか全員ポジションに散らばっていった。

 

 

『おっと情報が入りました。どうやら六豹はドクターストップがかかったということです。交代で狸ヶ原ぽん子!狸ヶ原ぽん子がポジションについています!今大会中、初めての出場!一切が謎に包まれている少女!しかし元気は十分!活躍に期待したいところです!』

 

 

「さあもうひと踏ん張り!頑張ろうぜ!」

 

「「「「「おう!」」」」」「っちゃ!」

 

 

「まだまだ時間はある!全力で戦い抜くぞ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

『さあ、嵐山のスローインで試合再開です!』

 

 

「(さて、一応ボールは返しておくか。)」

 

 

俺はわざと利根川イレブンの固まっている方へボールを入れる。

暗黙の了解というか、特にみんな何も言わずに受け入れている。

 

 

「よし...早速見せてくれ、お前の実力!ぽん子!」

 

「任せるっちゃ!」

 

 

ボールを受け取った金城は、すぐさまぽん子へとパスを出した。

 

 

「ついてこられるなら....ついてくるっちゃ!」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

 

ボールを持ったぽん子は、勢いよくドリブルで飛び出した。

その速さに、永世イレブンだけでなく利根川イレブン、そして観客までもが度肝を抜かれていた。

 

 

「は、速い...!」

 

「くそ!追いつけない!」

 

 

一瞬にして風介、晴也を抜くと、どんどんとフィールドを駆けあがっていく。

さすがにこれはマズイ...そう思い、俺も全速力で追いかけていた。だが....

 

 

「っ...!(速い...!まるで差が縮まらない!)」

 

「すごいっちゃ...(これが円堂が言ってた、嵐山隼人....人間でこのレベルの速さを出せるなんて、こいつすごいっちゃ。でも、ぽん子には敵わない!)」

 

 

 

『は、速い!狸ヶ原ぽん子!日本の中学サッカー最速と名高い嵐山すら置き去りにして走り抜けます!このスピード、もはや誰も追いつけません!』

 

 

「っ....倉掛、蟹目!止めてくれ!」

 

「「はい!」」

 

 

「止める!”真フローズンスティール”!」

 

「甘いっちゃ!」

 

「なっ!?」

 

 

倉掛が正面から”フローズンスティール”を仕掛けるが、ぽん子はそれを軽く飛んで躱していく。

あのスピードで飛んで、そのまま着地してまた走り出すなんて、並外れた運動能力が無ければ不可能だ。何故彼女をここまで隠していたかはわからないが....彼女は危険だ。

 

 

「ぬおおおおおお!”アステロイドベルト”!」

 

「無駄っちゃ!”狐狸変化”!」

 

「な、何だこれは!?」

 

 

蟹目が新たな必殺技を繰り出すが、ぽん子はまるで夢幻のようにその必殺技を躱しながら進んでいく。必殺技まで使えるのか....彼女一人にゴール前まで一気に持っていかれるとは....

 

 

「よ~し、あとは任せ....って、誰もいないっちゃ!?」

 

 

だがどうやら彼女のスピードが早すぎたようで、利根川イレブンはまだ誰もゴール前まで辿り着いていなかった。もし彼女がシュートも打てるような選手だったらヤバかったが、あの反応からすると大丈夫そうだな。

 

 

「う~...こうなったら....!てい!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ぬおっ!?」

 

 

ゴール前で考え込むような素振りを見せていたぽん子だったが、突然何かを覚悟すると思い切りボールをゴールに向かって蹴りだした。突然のことに砂木沼も反応が遅れてしまい、慌てて飛び込むも間に合わない。

 

 

ガコンッ..!

 

 

「ああああああああああああ!外したっちゃ....」

 

「あ、危なかった.....」

 

 

しかし、ボールは僅かに外れてゴールポストにぶつかり、ラインを割ってフィールドの外へと転がっていった。まさか意表をついていきなりシュートを打つなんて...狙ったわけではなさそうだが、ああいうタイプが一番ミラクルを起こしそうで怖いな。

 

 

「(徹底的にボールに触らせないようにしたい。だが、あのスピードがあると無理やりにでもボールを奪いに来る可能性もある.....くっ....厄介すぎる...!俺の一番苦手なタイプだ!)]

 

「嵐山サン!」

 

「っ...ヒロト、どうした。」

 

「あの...色々考えてるみたいですけど、俺たちなら勝てます!最後まで、このチームでサッカーを楽しみましょう!」

 

「っ!.......ああ、そうだな。最後の1分1秒まで、笑顔でサッカーしよう!」

 

「はい!」

 

 

そうだ。ここまで来たらとことんサッカーを楽しむ、そう決めたじゃないか。

だったら変に作戦だのなんだの考えるのではなく、その時その時で最善のプレーをするまで!

 

 

『さあ、砂木沼のゴールキックで試合再開です!』

 

 

「いけ!」

 

ドゴンッ!

 

 

砂木沼が蹴ったボールは大きく弧を描き、俺の元へと飛んでくる。

俺はそのボールをトラップし、そのままドリブルであがり始める。

 

 

「いくぞ、利根川イレブン!勝負だ!」

 

「嵐山さんがあがってくるぞ!」

 

「止めろ!」

 

 

俺が全速力で中央を駆けあがっているため、利根川イレブンも慌てて中央を固めてきた。

そんな中、俺の前に玄場とぽん子が立ち塞がった。

 

 

「ここは行かせねえ!」

 

「止めるっちゃ!」

 

「ふっ....悪いが通させてもらう。....俺だけな!」

 

ドゴンッ!

 

 

「なっ!?」

 

「っちゃ!?」

 

 

俺はかかとでボールを後方へと蹴り飛ばしながら、そのままの勢いで二人へと突撃していく。

二人は完全に意表を突かれた形となり、俺が走り抜けるのを止めることはできなかった。

そして、俺がかかとで蹴り飛ばしたボールは....

 

 

「ナイスパスです、嵐山さん!」

 

 

タツヤへと渡った。というか、元々タツヤへのパスだったわけだが。

そして、確かにぽん子のスピードは驚異的だったが、俺より速いというわけではない。

あの時、差が縮まりはしなかったが、広がりもしなかった。つまり、スピードは互角。

 

 

「っ!しまったっちゃ!」

 

「(俺がぽん子と少しでも差を付けた状態にしておけば、追いつかれることはない!)」

 

「受け取ってください、嵐山さん!”スターループ”!」

 

ドゴンッ!

 

 

タツヤによって、ゴール前付近までボールが運ばれていく。

俺はその地点まで全速力で走り寄っていく。

 

 

「うおおおおおおおおおお!」

 

「(来るか、嵐山!)」

 

 

『これはああああああああああ!超ロングパスが通った!嵐山と円堂、この試合で幾度もぶつかりあいましたが、全て円堂に軍配があがっております!果たして今回はどちらに軍配があがるか!』

 

 

「(この試合で、俺はかけがえのないものを手に入れた。永世学園での思い出...それを胸に、俺は世界へ羽ばたく!)うおおおおおおおおお!」

 

「っ!(嵐山の魔神!)....いいぜ、嵐山!勝負だ!」

 

 

俺は魔神と共に飛び上がる。それに合わせて、円堂も魔神を呼び出し、飛び上がった。

 

 

「勝負だ、円堂!”バイオレント....」

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「「っ!」」

 

 

『あああああああ!ここで延長戦前半終了のホイッスル!まさかの展開です!』

 

 

「っと...」

 

 

俺はシュートを打つのを辞め、着地する。

まさかこのタイミングで前半終了とはな....だが、後半で必ずゴールを決める。

円堂に勝って、永世イレブンのみんなと優勝を分かち合う!

 

 

「嵐山!」

 

「円堂、どうした。」

 

「後半、決着を付けようぜ!」

 

「...ああ!絶対にお前からゴールを奪ってみせる!」

 

「負けないぜ!勝つのは俺だ!...へへ!」

 

 

そう言って、俺たちはお互いにポジションに戻っていく。

泣いても笑っても残り10分...この10分で、本当の決着がつく。

 

最後に勝つのは....俺たち永世学園だ!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

優勝をその手に

嵐山 side

 

 

 

『さあ延長戦も後半戦へと突入します!残された時間は10分!果たして追加点を取り、優勝の栄光を手にするのはどちらか!』

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

『今、延長後半戦がキックオフです!』

 

 

「要!」

 

「おう!」

 

 

運命の延長後半戦が開始した。

まずは下町が要へとボールを渡して、2人で駆けあがっていく。

そんな二人にヒロトが駆け寄っていく。

 

 

「オラオラ!ボールを寄こしな!」

 

「そう簡単に渡すかよ!」

 

「金城!」

 

ドゴンッ!

 

 

そんなヒロトを見た要は、すぐさま後方の金城へとパスを出した。

パスを出した要は、そのまま下町と共にヒロトを通りすぎていく。

だが、ヒロトもそんな2人を追いかけていく。

 

 

「おいおい、ボールを持ってるのは俺たちじゃないぜ?」

 

「はっ!だからどうした!どうせお前らにボールを渡そうとするだろうよ!」

 

「案外冷静ですね。でも...」

 

 

 

「このパスを防ぐことはできまい!”青龍”!」

 

ドゴンッ!

 

 

金城はパスを受け取ると、そのまますぐにパス必殺技である”青龍”を発動した。

ボールに青い竜のオーラが纏われ、地を這うように突き進んでいく。

 

 

「チッ...(この必殺技、激しく吹き出るオーラのせいで近付けねえ...どうしたらいい....)」

 

「ヒロト!どんなものにも終わりはある!」

 

「(どんなもにも終わりはある...........)っ!そうか!」

 

 

俺の言葉の意味にヒロトは気付いたのか、ボールには近付かずに下町と要のマークを続けている。

そんなヒロトの動きに焦ったのか、下町と要が動揺し始めていた。

 

 

「(くっ...こいつ、俺たちのマークについたまま...!)」

 

「(これじゃあパスを受け取れない...!)」

 

 

そんなことをしているうちに、ボールは地を這いながら3人へと向かって近づいていた。

青い竜の形状のオーラは、徐々に勢いを失いながらも3人を目指して進んでいる。

 

 

「くっ...仕方ない...!」

 

「あ、待て下町!」

 

「はっ!耐えきれずに自分からいきやがったな。」

 

「(問題無い!もうすぐ切れる!)」

 

 

下町が耐えきれずにボールの方へ向かうと、丁度そのタイミングで”青龍”のオーラは消え去り、下町がボールを何とか確保する形となった。

 

 

「ふぅ...」

 

「はっ!甘いぜ!」

 

「くっ...!」

 

「隙あり!もらった!」

 

 

だがそんな下町に、ヒロトが追撃を仕掛けた。

さらにこっそりと近付いていたタツヤも参加し、ヒロトとタツヤによるスライディングが下町を襲った。

 

 

「ぐっ...!」

 

「しゃあ!」

 

「ナイス、ヒロト!」

 

 

2人のスライディングにより、ヒロトが下町からボールを奪い取った。

そして起き上がると2人はそのままドリブルで駆けあがる。

 

 

「まさか”青龍”を攻略するとはな!」

 

「だけど、ここは通さないぜ!」

 

「チッ...(せっかくボールを奪ったんだ、慎重に..)....っ!(俺がこいつらを抜いたら、俺は完全にフリーになれる...!)」

 

 

「いけ、ヒロト!お前の望む方へ!」

 

 

「....しゃあ!いくぜ!」

 

「っ、来い!」

 

「止める!」

 

 

ヒロトは止めに来た金城と玄場へと突っ込んでいく。

黄金のオーラを身にまとい、ジグザグとスピーディに動き回りながら二人を抜き去ろうとしている。

 

 

「オラオラ!”ジグザグストライク”!」

 

「くっ...!」

 

「速い...!」

 

 

そのスピードでヒロトは金城と玄場を抜き去った。

そしてそのまま駆け抜けるかと思いきや、フリーになった誰もいない正面に向かって思い切りボールを蹴り飛ばした。

 

 

「おらっ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ひ、ヒロト!?」

 

「そっちは誰も.....」

 

「.....ふっ....なるほどな。」

 

 

誰もが混乱する中、俺はヒロトの考えを察して走り出した。

それを見たヒロトはニヤッと笑った後、すぐさまボールを追いかけるように走りだした。

 

 

「っ、ボールを確保するんだ!」

 

「なんだかわからないけど、ミスキック!チャンスだ!」

 

 

ボールがフィールドの無人の場所に転がっているのを見た利根川イレブンは、すぐさまボールを奪うために駆けだしていく。もちろん、近くにいるディフェンス陣がな。

 

 

「っ、待てお前たち!」

 

「はっ!遅いな!」

 

「このままボールを確保する!俺の後ろについてこい、ヒロト!」

 

「おうよ!」

 

 

円堂はいち早くこれが罠であると気付いたが、その叫びは利根川イレブンには届かず、利根川イレブンはボール確保へと走り出してしまう。

 

俺はヒロトの前で、ヒロトの風よけになりながら走る。

これにより、ヒロトのスピードが各段にあがっている。

 

 

「ここまで来たらいいだろう。....いくぞ、ヒロト!」

 

「おう!」

 

 

俺はヒロトの風よけを辞め、ヒロトがボールへと直進できるよう徐々に逸れていく。

ヒロトはそのままさらにスピードを上げて、ボールへと駆け寄る。

先に走り出していた利根川イレブンよりも速く、ボールへと辿り着いた。

 

 

「な、何だと!?」

 

「ミスキックではなく....自分から自分へのロングパス...!?」

 

「はっ!それだけじゃねえぜ?」

 

 

『これはあああああああああ!サイドにばらけていたディフェンスが、中央へとおびき寄せられています!これはいけません!』

 

 

「「「っ、しまった!!!」」」

 

 

「受け取れ!涼野!南雲!」

 

ドゴンッ!

 

 

ヒロトから風介、晴也へと鋭いパスが送られた。

利根川イレブンがボールを確保しに行ったことで、二人は完全にフリーとなっており、絶好のシュートチャンスがめぐってきていた。

 

 

「え、円堂さん!」

 

「円堂さん!」

 

 

「「決める!”真ファイアブリザード”!!!」」

 

ドゴンッ!

 

 

 

ふたたび放たれた”ファイアブリザード”が、炎と氷の螺旋を描きながらゴールへと突き進んでいく。延長戦後半で初めて放たれたこの必殺技....円堂、止められるか!?

 

 

「負けない!ゴールは俺が守る!はあああああああ!”正義の鉄拳G5”!」

 

ドゴンッ!

 

 

 

『と、止めたあああああああああああああ!円堂、意表を突かれた形になりましたが、南雲と涼野の”ファイアブリザード”を難なく止めてみせました!やはり固い!鉄壁の守りでゴールを譲りません!』

 

 

「チッ...決まらなかったか。」

 

「だがまだだ。最後に勝つのは私たちだ。」

 

 

円堂の”正義の鉄拳”によって弾かれたボールは、元々利根川イレブンがいた位置へと転がっていく。だがそこには利根川イレブンはおらず、ボールだけが転がっている。

 

 

「っ!(くっ...みんなさっきのボールを確保しにいった影響で、ゴール前に誰もいない...!)」

 

「円堂!これが運の尽きだ!ここで勝負を決めさせてもらう!」

 

「嵐山...!」

 

 

『ここで嵐山だ!嵐山が弾かれたボールへと走りこんでいる!さあ、ボールを確保した嵐山、どう出るか!』

 

 

 

「もちろん、勝負しかないだろ!円堂!」

 

「......へへ、もちろんだぜ!嵐山!」

 

 

『ここは勝負に出るようです!嵐山がボールとともに、円堂の待ち構えるゴール前へと駆けていく!ここまでの勝負は円堂に軍配があがっているが、この延長戦後半で最後の最後に最高の勝利を勝ち取るか!?』

 

 

 

「いくぞ、円堂おおおおおおおおおおお!」

 

「来い、嵐山!!!!!」

 

 

フィールド内に突如として激しい風が吹き荒れる。

その風は俺を中心に発生しており、傍から見れば俺が嵐を発生させているように見えるだろう。

いや、その通りなんだろうけどな。

 

 

『グオオオオオオオオオオ!』

 

「うおおおおおおおおお!」

 

 

俺は魔神の手に乗り、上空へと投げ飛ばされる。

そして、風を纏いながら蹴り落とすようにボールに足をたたきつける。

 

 

「うおおおおおおおおお!”バイオレントストームG5”!」

 

ドゴンッ!

 

 

蹴り放たれたボールは、吹き荒れる風を纏いながら円堂の待ち構えるゴールへと突き進んでいく。圧倒的な風量を前に、俺と円堂以外の選手はその場に立ち尽くしていた。

 

 

「へへ....やっぱりすげえ。でも俺だって負けてないぜ!」

 

「だったら止めてみな、円堂!」

 

「おう!....はああああああああああ!”怒りの鉄槌”!」

 

 

円堂は臆せず”怒りの鉄槌”を放ち、俺のシュートを止めようとしてきた。

竜巻と魔神の拳がぶつかり、オーラが激しくぶつかり合っている。

先ほどまでは軽々とシュートを止めてきた”怒りの鉄槌”だが、”バイオレントストーム”はすぐには止めきれないのか押しては押し返されを繰り返していた。

 

 

「ぐっ....(やっぱりすげえ...すげえよ、嵐山!最後のフットボールフロンティア、それも決勝って舞台でお前と戦えて....本当に嬉しかった。だからこそ....この試合には負けたくないんだ!)うおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「っ!(円堂が気合で押し返し始めた....!お前はそうでなくちゃな.....だが、勝つのは俺たちだ!)いけええええええええええええええ!」

 

 

「「「「「円堂(さん)!!!」」」」」

 

「「「「「嵐山さん(隼人)!!!」」」」」

 

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」

 

「おおおおおおおおおおおおおお!...っ....ぐああああああああ!」

 

 

最後まで互いに譲らない戦いが続いたが、ついに俺のシュートは円堂の拳を吹き飛ばした。

だがそれと同時に、俺のシュートも勢いを失いゴールへは突き進まず、弾き返された。

大きく上空へと打ち上げられたボールは俺と円堂の丁度真ん中くらいに落ちてきた。

 

 

「「っ!うおおおおおおおおおおおおおお!」」

 

ガンッ!

 

 

「勝つのは俺たちだ!」

 

「違う!俺たち永世学園だ!」

 

 

俺と円堂は体をぶつけ合いながら、ボールを奪おうと激突する。

正直言って、もう俺に体力は残されていない。そしてぶつかり合っているからこそわかる。

円堂も既に体力が限界のようだ。だからこそ、このボールを確保した方が勝つ。

 

 

「負けるもんか!」

 

「俺だって...!」

 

「っ!」

 

「もらった...!」

 

 

ザザッ...!

 

 

俺がボールを確保し、俺と円堂は互いに少し距離を置く。

お互いににらみ合ったまま、動けずにいた。

他の選手たちも先ほどのぶつかり合い、そして俺と円堂の気迫に完全に立ち尽くしていた。

 

 

「.........っ.....」

 

「..............っ!」

 

 

ポタっと汗がフィールドに零れ落ちたその瞬間、俺と円堂は互いに走り出した。

俺はドリブルをしながら、そして円堂はそのボールを奪うために走り出し、俺の右足がボールを蹴った瞬間に、円堂も右足でそのボールを蹴る。

 

 

「っ...うおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 

 

互いにボールを蹴り合い、その場で押しては押し返されを繰り返す。

もう俺たちを突き動かしているのは、勝利への渇望のみだった。

体力は底をつき、体中が悲鳴を上げている。それでも俺たちは止まれない。

 

 

俺も円堂も、自分の夢を叶えるためにチームメイトを巻き込んだんだ。

だからこそ叶えてやりたい。見せてやりたいんだ。優勝という最高の風景を。

 

 

「負けるかああああああ!」

 

「俺だってええええええ!」

 

「「うおおおおおおおおおおおお!!!...っ、ぐあっ!」」

 

 

俺と円堂のキック力が互角だったのか、俺も円堂も後方へと吹き飛ばされる。

ボールはふたたび上空へと大きく打ち上げられ、そして落ちてくる。

大きくバウンドしているボールを見て、俺と円堂はふたたび立ち上がる。

 

 

「ハァ....ハァ.....」

 

「ハァ....ハァ.....勝つのは....俺たちだ....!」

 

「ハァ...ハァ...俺たち....だ....!」

 

 

もう既に走ることもできないが、それでもボールへと足を踏み出す。

 

 

「っ...うわっ!」

 

ドサッ!

 

 

「おわっ!」

 

ドサッ!

 

 

だが足がもつれ、俺はその場に倒れこんでしまった。

円堂も同じだったようで、お互いにボールを挟んで倒れこみ、仰向けになって動けなくなっていた。そして....

 

 

ピッピッピィィィィィィィィ!

 

 

審判により、ホイッスルが会場に鳴り響いた。

そのホイッスルに、会場がシンと静まり返った。

 

 

『し、し、試合終了.....!合計80分もの激闘を終え、両校の得点は2vs2!私も長らくフットボールフロンティアの実況に携わってきましたが、この結果は大会史上初でしょう!大会規定により、フットボールフロンティア全国大会決勝戦は延長戦でも決着が付かなかった場合、両校の健闘を称え.......両校同時優勝と扱います!』

 

 

 

「両校....」

「同時優勝....」

 

 

実況のその言葉に観客の理解が追いついたのか、会場が沸き立っていた。

フィールドにいる俺たちはまだ、疲れもあるのか理解が追いついていないがな。

 

 

「.....はは.....ハハハハハハ!」

 

「あ、嵐山....?」

 

「同時優勝...か。不完全燃焼ではあるけど、でも....それも悪くないかもな。」

 

「嵐山.......へへ、そうだな。」

 

「それに....」

 

「....それに?」

 

「これでお前との約束、果たせたな。」

 

「え?」

 

「二人でフットボールフロンティアを三連覇しよう....そう言っただろ。1年目は結局俺が怪我してダメだったけど、2年の時は雷門で、そして今年はこうして同時優勝で....俺たち二人で優勝したんだ。」

 

「.......そっか.....そうだよな!へへ....」

 

「円堂....今回は同時優勝だが、今度は俺が勝つ!」

 

「っ!......俺だって負けないぜ、嵐山!」

 

 

俺たちはその場に寝転がりながら、お互いを称え合い、優勝を喜んだ。

その時だった。俺たちのもとに永世イレブン、そして利根川イレブンが走り寄ってきた。

 

 

「「「「「嵐山さん!!!」」」」」

 

「「「「「円堂さん!!!」」」」」

 

「おわっ!」

 

「うわああ!」

 

 

俺には永世イレブンが、円堂には利根川イレブンが抱き着くように俺たちに覆いかぶさった。

みんな、涙を流しながら笑顔を浮かべている。

 

 

「最高です、嵐山さん!俺たち優勝したんですよ!」

 

「同時優勝...だけど優勝ではある。」

 

「最後の年、最後の部活動でお前と共に戦い、優勝できたこと...この砂木沼治、一生忘れん!」

 

「あなたとの出会いが、私たちをここまで導いてくれた。」

 

「あんたがいなかったら...俺は今ここにはいなかった。だから....」

 

「「「「「ありがとうございました!!!」」」」」

 

「お前ら................こっちこそありがとう。雷門サッカー部が解散することになって、正直言えば不安で仕方なかった。それでもここまでやってこれたのは、お前らがいたからだ。だから俺からも言わせてくれ。.....本当にありがとう。」

 

 

パチパチパチパチ

 

 

『お聞きください!この大舞台で最後まで正々堂々戦った両校を称える拍手が、会場に鳴り響いております!円堂守と嵐山隼人!雷門中を全国優勝まで導いた二人が率いた利根川東泉と永世学園の試合!決勝の舞台にふさわしい対戦でした!皆さま、今一度彼らの健闘を称え、拍手をお送りください!』

 

 

パチパチパチパチ

 

 

「ふっ......じゃあ行こうか。閉会式。」

 

「そうですね!」

 

「いこうぜ!」

 

 

そう言って、俺たちは歩き出す。

俺は疲れでまともに歩けず、みんなの後ろを歩く。

タツヤやヒロトたちの背中を見て、思う。

 

 

「(お前らなら、もう俺がいなくても大丈夫だな....来年のフットボールフロンティア、期待しているぞ。)」

 

 

 

こうして、雷門中サッカー部の皆が強化委員として各学校に派遣され、日本のサッカーのレベルを引き上げるという計画は終了した。

 

 

次の舞台は世界だ。だがその前に俺にはやるべきことがある。

円堂、修也、鬼道、みんな....すまないが俺は一旦ここまでだ。

それでも、お前らならきっと....きっと大丈夫だって、俺は信じてるからな。

 

 

.....

....

...

..

.

 

クラリオ side

 

 

「ぬぅん!」

 

ドゴンッ!

 

 

「クラリオ、気合入ってるな。」

 

「新技の開発か?」

 

「...ああ。日本のレベルは我々が想像するよりも遥かに高くなっている。私もうかうかしてはいられないと思ってな。」

 

「確かにな。特にあの嵐山と円堂、豪炎寺ってのはやべえな。」

 

「だが楽しみでもある。我々が完膚なきまでに叩きのめした彼らが、一体どこまで我々と戦えるレベルになったか。」

 

「ああ。ま、今回も俺たちが叩きのめすさ。」

 

「ふっ...当然だ。世界一になるのは我々スペイン代表、無敵のジャイアントなのだからな。」

 

 

待っているぞ、円堂、嵐山。

君たちが私たちと同じステージへ登ってくることを。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

オリオンの刻印編
集結!日本代表イナズマジャパン!


円堂 side

 

 

『お聞き下さい、この大歓声!つい先日、大熱戦が行われたこのフットボールフロンティアスタジアムに、ふたたび大勢の観客が集まっております!それもそのはず!本日ここで、少年サッカー世界一を決める大会、フットボールフロンティアインターナショナルに出場する日本代表選手が発表されるのです!』

 

 

「へへ、すげえ盛り上がりだな。」

 

「そうだな。いよいよこの時が来たんだ。」

 

「まずは代表に選ばれなければな。....ところで、隼人はどうしたんだ?」

 

「そういえば来てないな。どうしたんだろう。」

 

 

俺は今、フットボールフロンティアインターナショナル、通称FFIという世界大会に出場する日本代表を発表するイベントに参加していた。利根川東泉のみんなで来たんだけど、あいつらは外の屋台で楽しんでる。俺は豪炎寺や鬼道と約束していたから、二人に合流して席に座ってる。

 

 

嵐山も誘ったんだけど、今日まで返事は無かった。

いつもならそんなことないんだけど、嵐山とはあの決勝以来会えてないんだよな。

 

 

「あれは....永世学園の奴らか。あいつらなら何か知ってるんじゃないか?」

 

「そうだな。少し聞いてみるか?」

 

「そうだな。おーい!」

 

 

「っ!円堂さん、それに豪炎寺さんに鬼道さんも。どうしたんですか?」

 

「久しぶりだな、基山!永世学園は全員で来たのか?」

 

「はい。」

 

「そうか。なら嵐山は来ているか?声をかけたんだが返信が来なくてな。」

 

「っ!........嵐山さんは来てないですよ。」

 

「えっ?そうなのか?」

 

「はい...」

 

「隼人なら代表に選ばれてもおかしくないのに不参加とはな。」

 

「そう...ですね...」

 

「ま、とにかく不参加なら仕方ない。...急にすまなかったな。」

 

「いえ。....」

 

 

そっか、嵐山は不参加か。でも大丈夫なのかな?

代表に選ばれた選手はすぐにユニフォームに着替えて、フィールドに出ていくっていうのがあるのに。あいつが代表に選ばれないなんてあり得ないだろうしな。

 

 

『さあ皆さん、お待たせしました!ついに日本代表の発表が行われます!』

 

『おーほっほっほ。皆さーん。私が代表監督の趙金雲でス。早速ですが私が選考した世界と戦う日本代表.....イナズマジャパンのメンバーを紹介しまス。』

 

 

趙金雲監督の言葉と同時に、会場の大型モニターに映像が流れ始めた。

あのモニターで選手を発表していくみたいだな。

 

 

『それではいきますよ~。まずはディフェンダー。帝国学園、風丸一朗太君。』

 

 

まずは風丸か!最初は俺たちサッカー部の助っ人として参加してくれていた風丸だったけど、いつの間にか一緒にサッカーするのが当たり前になっていたんだよな。昔からずっと一緒だった風丸と日本代表としてもう一度サッカーできるなんて、すげえ楽しみだぜ。

 

 

「まずは風丸か。」

 

「帝国でさらに実力を上げたみたいだからな。何度か試合したが、風丸の実力は全国でもトップレベルと言ってもいい。」

 

「それにリーダーシップもあるからな。風丸がいてくれると助かる。」

 

 

『美濃道山中、壁山塀吾郎君。』

 

 

「おお!壁山もか!」

 

「壁山も強化委員として派遣されてからは、見違えるほど成長したからな。」

 

 

『白恋中、吹雪士郎君。』

 

 

「ほう...雪原のプリンス、吹雪士郎か。」

 

「確か隼人と全国大会で互角に戦っていた奴だったな。」

 

「あ、俺もそれ見たぜ!すげえ奴だったけど、ディフェンダーなんだな。」

 

 

『そして、星章学園、水神矢成龍君。』

 

 

「ほう、水神矢が選ばれたか。」

 

「鬼道のところの奴だな!」

 

「ああ。奴はチームをまとめるリーダーシップを持っている。1年で代表に選ばれる奴はそういないだろうが、俺たちでは目の届かない場所を見ていてくれる安心感はある。」

 

 

『続きまして~、ミッドフィルダーいきま~ス。星章学園、鬼道有人君。』 

 

 

「お、鬼道が呼ばれたぜ!」

 

「ふっ、当然だ。」

 

「まずは代表に選ばれなくては意味がないからな。」

 

「またお前と一緒に戦えるの、楽しみだぜ!」

 

「お前はまだ発表されてないだろう、円堂...」

 

「まあ、円堂は選ばれるだろうな。」

 

 

 

『次―、帝国学園、不動明王君。』

 

 

「あっきーか。」

 

「あっきー...?」

 

「知り合いか?豪炎寺。」

 

「ああ、少しな。鬼道の代わりに帝国の参謀をやってるみたいだぞ。」

 

「ほう...それは面白いな。」

 

 

『永世学園、基山タツヤ君。』

 

 

「おお!やったぜ、タツヤ!」

 

「ああ!頑張るよ!」

 

「さすがね、タツヤ!」

 

 

基山も選ばれたか。あいつのすごさは試合した俺がよくわかってる。

嵐山も基山のことをよく話してたし、すげえ印象に残ってるぜ。

 

 

『永世学園、八神玲名さん。』

 

 

「え、私!?」

 

「すげえじゃねえか、玲名!」

 

「一緒に頑張ろう、玲名!」

 

「え、ええ。」

 

 

 

「永世学園からはあの二人が選ばれたか。」

 

「確かにあの二人は永世学園の中心的な存在だったからな。」

 

 

 

『最後~。ロシアサッカーチーム、一星充君。』

 

 

「っ!一星充....」

 

「本当に代表に入っているとはな。だがこれで以前話していた内容が現実味を帯びてきたということだな。」

 

「ああ。警戒しておいた方が良いだろうな。」

 

 

 

『続いてフォワードに行きますよ~。....木戸川清修中、豪炎寺修也君。』

 

 

「ふっ、やはりお前は選ばれたか。」

 

「ああ、安心したよ。」

 

「へへ。じゃあ後は俺と嵐山か!」

 

「ま、お前らは選ばれて当然だと思うけどな。」

 

 

 

『星章学園、灰崎凌兵君。』

 

 

「くく....やはり俺様は選ばれたか。」

 

「灰崎、いたのか。」

 

「なっ!?あんたらが俺のいた前に座っただけだろ!俺は最初からいたわ!」

 

「ふっ...よろしくな、灰崎。」

 

「チッ....ま、あんたとサッカーするのは楽しみでもあるな、豪炎寺さんよ。」

 

 

『雷門中、稲森明日人君。』

 

 

「お、稲森か!あいつも選ばれたんだな!」

 

「確か嵐山が気にかけていた選手だったな。」

 

「けっ...あいつが代表とは、人材不足ってことだろうな。」

 

「灰崎、あまり稲森を軽視するな。....嫉妬は醜いぞ。」

 

「なっ!?べ、別に嫉妬してなんていねえよ!だいたい、俺だって嵐山サンの弟子だからな!」

 

「ふっ...別に俺は嵐山のことで、とは言ってないが。」

 

「ぐっ....!」

 

 

『白恋中、染岡竜吾君。』

 

 

「お、染岡か!」

 

「なんだかんだで旧雷門中は何人か選ばれているようだな。」

 

 

『最後~。永世学園........』

 

 

「最後は嵐山か。」

 

「ま、当然だろ。あの人がいない日本代表なんて、日本人がいない日本代表みたいなもんだぜ。」

 

「なんだその例え....若干間違っている気がするぞ、灰崎。」

 

「伝わるだろ、別に。」

 

 

『.....吉良ヒロト君。』

 

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

 

監督のその言葉に、会場にいる誰もが驚いていた。

ここまででディフェンダー、ミッドフィルダーは発表されていた。

そして今、最後のフォワードが宣言された以上、残りはキーパーだけだ。

嵐山は唯一キーパーだけはできないと言っていたし、日本代表としてキーパーで選出される理由はない。つまり....

 

 

「う、嘘だろ....嵐山が代表に選ばれていない...?」

 

「そんな馬鹿な...」

 

「あのじじい....!何故嵐山サンを代表から外していやがる!」

 

 

嵐山が代表じゃない....じゃあもう、俺たちが一緒にサッカーできるチャンスはないってことか...?一緒に世界一になろうって約束、果たせないってことか...?

 

 

『おーほっほっほ。最後にキーパーを2人。雷門中、海腹のりかさん。そして利根川東泉中、キャプテン、円堂守君。以上が日本代表イナズマジャパンで~ス。』

 

『趙金雲監督、ありがとうございます!それでは選ばれた選手の皆さんは、ロッカールームにお集まりください!』

 

 

「嵐山....どうして....」

 

「......円堂、いくぞ。」

 

「っ...豪炎寺はどうしてそんなに冷静なんだよ!俺たち全員で世界一になろうって、約束しただろ!」

 

「落ち着け、円堂。」

 

「鬼道、でも!」

 

「動揺しているのは俺たちも一緒だ。だがあいつのことだ。ひょっこりあらわれて、俺たちに合流するだろうさ。」

 

「......」

 

「とにかく今はそうなることを信じて、この世界大会を勝ち進むことだ。それに今大会のルールを軽く確認したが、選手の登録入れ替えは可能だそうだ。登録は最大20人まで。今選ばれたのは16人。最大でもあと4人ほど選出できるんだ。」

 

「確かに、嵐山サンだけじゃねえ。野坂とか選ばれてもおかしくなかった連中がいる。」

 

「ああ。だからこそ、負けなければ希望はあるということだ。」

 

 

負けなければ、もう一度嵐山と一緒に....みんなで世界一を目指せる...

 

 

「いいな?円堂。」

 

「.....ああ。俺も嵐山が日本代表に合流するって信じるぜ!」

 

 

待ってるぜ、嵐山!俺たちは先に日本代表として戦う!

だからお前も絶対、日本代表に合流してくれよな!

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

『まさか嵐山君が代表落選とは....趙金雲監督も思い切った選考を行いましたね。』

 

『信じられませんね....他にも選ばれていてもおかしくない選手もいました。』

 

ピッ

 

 

「聞いててあまり面白くないだろ。それにそろそろ支度しろ。飛行機に乗り遅れるぞ。」

 

「ええ、そうですね。」

 

「ったく....お前からも何か言ってやれよ。」

 

「いえ、別に....」

 

「ハァ...お前はそういう奴だったな...」

 

 

「まあ待ってください、嵐山さん。僕の準備は昨日のうちに終わらせていますから。」

 

「それをやったのは西蔭だろうが。.............とにかくいくぞ、野坂。」

 

「はい。行きましょうか......アメリカへ。」

 

「ああ。....西蔭、野坂のことは俺に任せてくれ。だから...」

 

「はい。頼まれた件、俺の方でまとめておきます。」

 

「おう。頼んだぜ。」

 

 

日本代表....きっと今のままでは勝ち上がれないだろう。

だが今の俺はただの怪我人...だからこそ、できることをやっていくだけだ。

 

 

「それにしても、あんな試合をしておいて怪我をしていたとは....あなたの胆力には驚きを隠せませんね。」

 

「無表情でそう言われてもな。....頭に腫瘍抱えてサッカーやってた奴には言われたくないけどな。」

 

「はは、それを言うのは無しですよ。」

 

「ハァ........ま、サクッと治して代表に合流するぞ。」

 

「ええ。そのためのアメリカ遠征ですからね。あなたには感謝しています。旅費だけでなく、治療費まで...」

 

「ほとんどはお前が御堂院からむしり取った慰謝料だろ。気にすんな。」

 

「それだけでは少し足りませんでしたから。」

 

「ならさっさと治して、また一緒にサッカーするぞ。いいな?」

 

「はい、約束...しましたから。」

 

 

さあ、いざアメリカへ。

アメリカといえば、一之瀬たちにも会えるかもしれないな。

あいつら、案外アメリカ代表になってたりしてな。....はは、それはないか。

 

 

.




はい、これが私の選んだ"初期"日本代表です。

・GK
円堂 守
海腹 のりか

・FW
豪炎寺 修也
灰崎 凌兵
吉良 ヒロト
稲森 明日人
染岡 竜吾

・MF
鬼道 有人
不動 明王
基山 タツヤ
八神 玲名
一星 充

・DF
風丸 一朗太
壁山 塀吾郎
吹雪 士郎
水神矢 成龍


劇中でも説明しましたが、ルールとして20人まで登録可能としました。
ゲームだと16人ですが....ここから入れ替えや追加などがあるとだけ。
もちろん、オリ主も帰ってきますのでご安心を。

西蔭とか砂木沼とか、その他本来なら選ばれていた選手諸々には申し訳ないが、色々考えた結果という感じです。(玲名は好きだからぶち込みましたが。)

今後の日本代表にご期待ください。

.


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

顔合わせ、そして夏未の旅立ち

鬼道 side

 

 

「はい皆さん、集まりましたね。ここが我々、日本代表イナズマジャパンの合宿所でーす。」

 

「すげー...広いな。」

 

「スタジアムまであるのか。」

 

 

俺たちはバスに揺られること数時間、日本代表の合宿所へとやってきていた。

結局あの後、嵐山へ電話したのだが奴はでなかった。

代わりにどうやって俺の連絡先を知ったのかわからないが、王帝月ノ宮の西蔭から連絡があり、嵐山が野坂とともにアメリカへ渡ったことを知った。

 

 

「嵐山、大丈夫かな...」

 

「円堂、あまり考え込むな。あいつは俺たちを心配させないために、黙ってアメリカに行ったんだから。」

 

「そうかもしれないけど、あいつが怪我してただなんて...俺、決勝で嵐山と戦えるって一人で盛り上がってさ...」

 

「円堂、それはあいつも同じだ。」

 

「えっ?」

 

「怪我をしていたのに、奴は決勝にフル出場していたんだ。恐らくは痛み止めを服用したんだろう。それほどまでに、お前との決勝戦に出たかったんだ。」

 

「鬼道.......そうだよな....嵐山だって、俺と同じ気持ちだよな....」

 

「その分、嵐山が一番辛いだろうな。日本代表に選出されることがなくなってしまったんだから。」

 

「で、でも俺たちが選ばれた以上、嵐山さんの分まで頑張るっスよ!」

 

「おう!俺がこの日本代表のエースストライカーになってやるよ!」

 

「風丸、壁山、染岡........そうだな!俺たちが嵐山の分まで頑張らないと、嵐山に顔向けできないよな!」

 

 

どうやら円堂はいつもの調子に戻ったようだな。

しかし、なかなかそうそうたる顔ぶれだな。

俺としては、佐久間と源田がいないのが不満だが....灰崎や水神矢が選ばれているんだ、贅沢は言えんな。

それに、奴が不動明王か。俺の代わりに帝国学園の司令塔をやっていると言うが、その実力を見るのが楽しみだな。

 

 

「おーほっほっほ。それでは皆さん、まずは初めての顔合わせということで....自己紹介でもして下さーい。まずはキャプテン、円堂君から。」

 

「あ、はい!....利根川東泉中の円堂守!みんなよろしくな!サッカーやろうぜ!」

 

 

パチパチパチパチ

 

 

「じゃあとりあえず時計周りで行くか。....帝国学園所属、風丸一朗太だ。ポジションはディフェンダー。よろしく頼む。」

 

「次は俺っスね。美濃道山中の壁山塀吾郎っス!ディフェンダーとして、円堂さんやのりかさんと協力してゴールを守るっス!」

 

「次は俺か。白恋中の染岡竜吾だ。このチームのエースストライカーになるつもりだから、フォワードの奴らはよろしく頼むぜ。」

 

「じゃあ次は僕だね。同じく白恋中の吹雪士郎だよ。今回はディフェンダーとして招集されたけど、フォワードもできるからチームの役に立てると思うよ。よろしくね。」

 

「次は俺ですね。星章学園の水神矢成龍です。名だたる皆さんと一緒に日本代表に選ばれて光栄です。よろしくお願いします。.....ほら、次はお前だ、灰崎。」

 

「ふん....同じく星章学園、灰崎凌兵だ。」

 

「おい、それだけか。皆さんにしっかり挨拶しろ。」

 

「あんたは俺の母ちゃんか!.....チッ....一番年下だが関係ねえ。俺がエースストライカーだ。」

 

「おもしれえ。後で勝負しようぜ、灰崎。」

 

「くくく....あんたも蹴散らしてやるぜ、染岡さん。」

 

「野蛮な男が多いわね.....永世学園、八神玲名よ。ポジションはミッドフィルダー。代表に選ばれるほどの実力があるとは思っていないけれど...選ばれた以上は真剣に取り組むつもりよ。よろしく。」

 

「同じく、永世学園所属の基山タツヤです。嵐山さんの分まで頑張るつもりなので、よろしくお願いします!」

 

「同じく、永世学園、吉良ヒロトだ。日本代表のエースストライカーはこのゴッ「ハクシュン!」...おい、今くしゃみするところじゃねえだろ!」

 

「ご、ごめんヒロト。」

 

「ったく....」

 

「ふっ....帝国学園、不動明王だ。馴れ合うつもりはねえが、ま、よろしく頼むわ。」

 

「えっと、雷門中の海腹のりかです!え、円堂さんっていう絶対的なキーパーがいるので出番はないと思うけど、足を引っ張らないよう全力で頑張ります!よろしくお願いします!」

 

「同じく雷門中の稲森明日人です!俺も全力で頑張ります!」

 

「木戸川清修中、豪炎寺修也だ。チームのエースはもちろんだが....俺の目標はあくまで世界一。ここにいる全員で全力を尽くそう。」

 

「ふっ...星章学園、鬼道有人だ。目指すは世界一のみ。俺たちは世界の力を知っている。今のままでは勝つことは厳しい。だが俺たちならそれすら超えていけると思っている。必ず世界一になろう。よろしく頼む。」

 

 

これで一周したが....一星がいないな。

いや、いない方が俺としては良いのだが、どうしたのだろうか。

 

 

「す、すみませーん!」

 

「おーほっほっほ。どうやら最後の一人が来たようですね。」

 

「す、すみません!飛行機が遅れてしまって、到着が遅れました!」

 

「連絡は貰っていたので大丈夫ですよ、一星君。では早速、自己紹介をお願いします。」

 

「はい!....えっと、一星充です。ロシアのサッカーチームでプレーしていました!皆さんのようなすごい人たちと一緒にプレーできるなんて光栄です!よろしくお願いします!」

 

 

なるほど、これが一星か。随分と好青年に見えるが、油断は禁物だな。

嵐山がいない以上、俺や豪炎寺がこのチームを守らなければならない。

円堂にも話してはいるが、あいつはこういうことには向かないだろうからな。

 

 

「おーほっほっほ。それと、私と一緒にチームを指揮してくれる方を呼んでいますよ~。」

 

「コーチとしてこの日本代表に帯同することになった、久遠道也だ。よろしく頼む。」

 

「スーパーバイザーの響木正剛だ。ま、俺は基本そこまで指示したりはしないが、よろしく頼む。」

 

 

ほう、まさか久遠監督と響木監督がついてきてくれるとはな。

趙金雲監督を信用していないわけではないが、あの人の情報は鬼道家の力をもってしても集められなかった。

監督としての手腕は素人同然だった伊那国中の実力を底上げした以上、疑う必要はないが...

 

 

「それから合宿所でのサポートをしていただく皆さんもご紹介~。」

 

「秋風ヨネだよ。みんなのごはんはあたしが作るから期待しておきなよ。」

 

「ヨネさん!」

 

「知り合いなの?」

 

「うん!私たちがお世話になってるアパートの管理人さんなの!」

 

「それからマネージャーの皆さんで~す。」

 

「木野秋です、よろしくお願いします!」

 

「音無春奈です!皆さんをしっかりサポートしますよ!」

 

 

ほう...春奈も参加なのか。春奈からは特に聞いていなかったが、一緒に来てくれるのは心強いな。

木野も参加しているようだが、雷門の姿は見えんな。

 

 

「秋も来てたんだな!」

 

「うん。これからもよろしくね、円堂くん。」

 

「おう!....そういえば、音無も参加してるけど、夏未はいないんだな。」

 

「ええ。夏未さん、やることがあるからって不参加になったの。詳しくは教えてもらえなかったけど、一人で海外に行くって...」

 

「そうなのか...嵐山だけじゃなく、夏未まで...」

 

 

やるべきこと、か....雷門が何をしようとしているかわからんが、おそらくは嵐山のためになることだろう。

彼女がそこまで動くとなれば、そういうことだろうからな。

 

 

「これで全員ですね~。それでは選手の皆さんは各自部屋に荷物を置いたら、練習着に着替えてスタジアムに来てくださーい。」

 

「スタジアムにですか?」

 

「おーほっほっほ。長旅でお疲れでしょうが、皆さんには時間は残されていませんよ~。これから早速練習を行います。...そうそう、それから先に言っておきますが私はこの大会、本気で優勝するつもりでいきますので、皆さん頑張ってくださいね~。」

 

 

そう言って、監督は合宿所の方へと歩いて行った。

雷門で監督をしていたころに見た、飄々とした態度とは違いどこか真剣な雰囲気を感じる表情だった。

あの人については本当に謎が多い...だが優勝を目指していることがわかった以上、俺たちのやることは一つだ。

 

 

「みんな、行こうぜ!世界一を目指して、サッカーやろうぜ!」

 

「「「「「おう!!!」」」」」

 

 

.....

....

...

..

.

 

夏未 side

 

 

「本当に行くのかい、夏未。」

 

「ええ、パパ。」

 

「そうか...だがどうか、無事で帰ってきてくれ。」

 

「当然よ。危険を感じたらすぐに帰るわ。」

 

 

私はこれから、一人ロシアへと向かう。

パパからもたらされた二つの情報...一つは円堂くん。

そしてもう一つは嵐山くんについての情報。

 

もしこの情報が正しければ、二人の運命は変わってくる。

 

 

「夏未...」

 

「ごめんなさい、パパ...でも行かせてほしいの。誰かのために何かをしてあげたい....これほどまでにそう思ったのは初めてなの!」

 

「.....決意は固いようだね。しっかり成し遂げてきなさい。」

 

「パパ...!」

 

 

ありがとう、パパ。

私は大丈夫だから、安心して日本で待っていて。

必ず情報の真偽を確かめてくるわ。

 

 

飛行機に乗り、私はファーストクラスの席に座りながら資料を確認する。

 

 

『40年前の事故の真実』

 

『ロシアで日本人夫妻が殺害された事件について』

 

 

「(この事故の真実が本当なら円堂君のおじいさんは....それにこの資料、新聞記事....これが本当なら、嵐山くんは....)」

 

 

今はまだ何もわからない。何が本当で、何が嘘なのかも。

それでも私は、この資料に書かれた真実を探し出す。

嵐山くんのために、そして嵐山くんが一番大切にしている親友、円堂くんのためにも。

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

練習開始

鬼道 side

 

 

「皆さんそろったようですね。では早速、ミニゲームを行いまーす。」

 

「「「「「ミニゲーム?」」」」」

 

「ここからは私が説明しよう。5人のチームに分かれて、5vs5の試合をしてもらう。ただしキーパーがいなければ試合にならないので円堂、海腹は必ず試合に出てもらう。」

 

「「はい!」」

 

 

なるほど。4人のチームを組んで、連携力を確認するということか。

多少は同じチームの人間がいるとはいえ、俺たちはバラバラのイレブン。

まずはチームとしての力を合わせるという合理的な練習だな。

 

 

「チーム分けはこちらで用意してある。まずは第一ゲーム、円堂チームは灰崎、基山、風丸、吹雪。」

 

「「「はい!」」」

「おう。」

 

 

「海腹チームは染岡、不動、一星、壁山。」

 

「おう!」

「はい。」

「はいっス!」

「へいへい。」

 

 

俺は選ばれなかったが、一星が選ばれたか。

ちょうどいい。やつの動きを見ておく必要がある。

 

 

「おーほっほっほ。鬼道くん、しっかり見ておいてくださいね?」

 

 

っ!?監督が近づいてきたと思ったら、俺の耳元で小声でそう呟いてきた。

一体何を言っている...監督は俺や豪炎寺が一星を警戒していることに気付いているということか?

 

 

「....それはどういう....」

 

「それは自分で考えてください。おーほっほっほ!」

 

 

そのまま、監督は俺のもとを去っていく。

やはりあの監督のことは理解できん。だが、言われた通り俺は一星をしっかりとみておくだけだ。

 

 

「(鬼道くん、あなたにはもっといろんなものを見てほしいんですがね。まあ今はそれで良いでしょう。アジア予選、日本はそれほど苦も無く勝ち上がれるはず。....問題は本選からですからね。おーほっほっほ。)」

 

 

 

「それではミニゲームを開始する。双方、準備は良いか?」

 

「いつでもいけるぜ!」

 

「くくく...早速あんたを倒して、俺がエースストライカーになってやるよ。」

 

 

「よし。それではゲーム開始だ。」

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「行くぜ!」

 

「はい!」

 

 

先行は染岡たちか。染岡が一星へボールを渡すと、そのまま前線へ駆け上がっていく。ボールを受け取った一星はドリブルで上がっていくが、そこに灰崎と基山が立ちふさがった。

 

 

「ここは通さねえぜ!」

 

「海外でプレーしていた君の実力、見せてもらうよ!」

 

「っ、さすがのプレーだ...でも!不動さん!」

 

ドゴンッ!

 

 

「「っ!」」

 

「ふっ...ナイスアシストだぜ、一星。おら!上がれ染岡!」

 

ドゴンッ!

 

 

「おう!」

 

 

ダブルチームで完全に囲んだと思われたが、一星はノールックで不動へとパスを出した。どうやら周囲をしっかりと見渡す視野はあるようだな。

 

そして不動は駆け上がっていく染岡の少し先にボールを蹴り上げた。

 

 

「速攻で行くぜ!円堂!」

 

「へへ、久しぶりの勝負だ!染岡!」

 

「行くぜ!”ワイバーン...」

 

「悪いけど、その勝負は僕が預かるよ。”アイスグランド”!」

 

「なっ!?」

 

 

シュート体勢に入った染岡だったが、割って入ってきた吹雪によって止められてしまった。吹雪のあのスピード、風丸や嵐山と同等の速さを持っている。あのスピードはかなり貴重な戦力になるな。

 

 

「くっ...読まれていたか。」

 

「ふふ。染岡くんならきっとそうするだろうと思ってね。」

 

「やるじゃねえか、士郎。」

 

「日本代表に選ばれているんだ。このくらい当然さ。....頼んだよ、基山くん!」

 

ドゴンッ!

 

 

今度は円堂チームの反撃が始まった。吹雪から基山へとパスが通り、基山はそのままドリブルで駆け上がっていく。

 

 

「今度は俺が守らせてもらいますよ!」

 

「っ!」

 

 

そんな基山の前に、一星が立ちふさがった。

基山はいったんその場で立ち止まったが、ちらっと周りを見てからすぐに一星へと突っ込んでいく。

 

 

「っ!」

 

「よし!」

 

 

「(ほう...今の動き、嵐山がよくやっていたプレーだな。最小限の動きで相手の脇のすれすれを避けていく、まるで自分をすり抜けていったかのような感覚に陥るテクニックだ。あいつの後進はしっかり育っているようだな。)」

 

 

「頼んだよ、灰崎くん!」

 

ドゴンッ!

 

 

「任せな!はああああ!」

 

 

基山から灰崎へとボールが渡り、灰崎はシュート体勢に入る。

絶好のチャンスだが...一人忘れているようだな、灰崎。

 

 

「させないっスよ!」

 

「っ!」

 

「壁山くん!」

 

「俺に任せるっスよ、のりかさん!」

 

「やれるもんならやってみな!”パーフェクトペンギン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「止めるっス!”超ザ・ウォール”!」

 

 

灰崎の放った”パーフェクトペンギン”がゴールへと突き進むが、壁山が繰り出した”ザ・ウォール”はゴールを覆い隠すほどの大きさであり、”パーフェクトペンギン”はその壁にぶつかった瞬間、一瞬で勢いをなくして壁山の足元へと転がり落ちた。

 

 

「ば、馬鹿な!?」

 

「ふふん!どうっスか、俺の進化した”ザ・ウォール”は!」

 

「くっ...なかなかやるようじゃねえか、マリモ!」

 

「ま、マリモじゃないっス!つないでいくっスよ、一星くん!」

 

ドゴンッ!

 

 

「はい!」

 

 

再び一星へとボールがわたる。

人数が少なく、フィールドもハーフだから展開が激しいな。

だがやはり日本代表に選ばれているだけあって、それなりの実力はしっかりとあるようだ。

 

 

それからお互いに攻めて、攻められてを繰り返しミニゲームは進んだ。

ゲームを見ていて思ったが、このチームのディフェンスはかなりレベルが高いな。

壁山の硬さはさることながら、吹雪、風丸とスピードがあってすぐに相手の動きに対応できる強みもある。

 

水神矢は星章で一緒だったからわかるが、戦局をしっかりと見極め、冷静に動くことができる判断力も持っている。

 

あとは中盤、俺たちがどうフォワードまでつなぐかどうかだな。

ディフェンスがしっかりしているうえ、円堂の実力は疑うことのないレベルだ。

海腹も日本ではそれなりの実力をもっている。

 

 

問題があるとすれば、攻撃面ということか。

 

 

『しっかりとみておいてくださいね。』

 

 

「(あれはそういうことを言いたかったということか。このチームで司令塔となるのは俺か不動だろう。不動がどういうやつかはまだわからんが、風丸と話している姿を見るに悪い奴ではないだろう。だがおそらくは一人を好むタイプ...だからこそ、監督は俺にああいったのだろう。)」

 

 

 

「次、5分の休憩の後、円堂チームに稲森、鬼道、八神、吹雪。海腹チームに豪炎寺、吉良、不動、水神矢で行くぞ。」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

 

課題点は見つかった。

まずはこのミニゲームを通して、俺のやるべきことをやるまでだ。

 

 

.....

....

...

..

.

 

その夜

 

 

 

「ふぅ...疲れた...」

 

「初日からきついっスね...」

 

「皆さーん、今日はお疲れ様でした。明日からは今回のミニゲームでとったデータをもとに個別の特訓メニューを渡しますので、楽しみにしておいてくださいね~。」

 

 

個別メニューか。確かに今日のこのミニゲームである程度の連携を見ることはできた。あの監督も案外しっかり考えているんだな。

 

 

「みんな、明日に備えてしっかりストレッチして休もう!」

 

「「「「「は~い。」」」」」

 

 

「久遠監督。」

 

「鬼道か。今は俺は監督ではない。呼び方は気をつけろ。」

 

「すみません。....久遠コーチ。この後、練習を続けても問題ありませんか?」

 

「問題ないが無茶はするなよ。」

 

「はい。ありがとうございます。」

 

 

「鬼道、お前も特訓か?」

 

「豪炎寺....ああ。今のままでは世界に勝てるとは思えん。優勝を目指す以上、今まで以上に頑張る必要がある。」

 

「当然だな。....俺も残る。一緒に頑張ろう。」

 

「ああ。」

 

 

 

その後も俺と豪炎寺は二人で残って練習を続けてた。

やはり豪炎寺のレベルはすでに世界の標準レベルに到達している。

この動き、キレ...あの日初めて見たクラリオの動きと同等だ。

 

 

「(この動きについていけてはいるが....今はついていくので精一杯だ...!)」

 

「ふっ!」

 

「っ!」

 

「はああああ!”超ファイアトルネード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

 

豪炎寺のシュートがゴールへと突き刺さった。

一瞬の隙をつかれて抜かれたか。

 

 

「そろそろ終わりにしよう。」

 

「ああ.....」

 

「俺は先に戻っている。あまり無茶はするなよ。」

 

「わかっているさ。」

 

「......お前はお前だ。隼人の分まで何とかしようとする必要はない。」

 

「っ!」

 

 

豪炎寺はわかっているようだな、俺が焦っていたこと。

嵐山がいない以上、このチームをまとめていくのは必然と俺や豪炎寺になる。

だが豪炎寺はチームを指揮するようなイメージではない以上、俺がやるべきことだと思っていた。

 

 

「(少し気負いすぎていたか....豪炎寺にも見抜かれていたようだし。)」

 

 

少し夜風にあたって、頭を冷やしてから行くか。

そう思い、俺はスタジアムのベンチに座り、頭にタオルをかける。

嵐山は俺のライバルであり、目標でもあった。だからこそ一緒にプレーすることであいつに近づける、そう思っていたが...

 

 

「(俺は俺、か....ふっ...当たり前のことだが、いつの間にかそんなことも忘れていたか。)」

 

 

そんなことを考えていると、だれかが歩いてくる音が聞こえた。

誰かはわからないが、その足音は俺の横に立ち止まり、そして俺の隣に座った。

 

 

「久しぶりだな、鬼道。」

 

「なっ!?」

 

「どうした。師である私の顔を忘れたか?」

 

「か、影山!?なぜここに!どうやってこの合宿所に侵入した!」

 

「侵入とは人聞きの悪い。私は頼まれてここに来ただけだ。こんな場所、すぐに去るさ。」

 

「頼まれた...だと!?」

 

「くくく...鬼道、お前が思っている以上にこの大会は陰謀が渦巻いている。私もその渦中の一人だ。当然、お前たち日本代表もな。」

 

 

大会に渦巻く陰謀、だと....影山だけでなく、俺たち日本代表も、その陰謀に巻き込まれるということか。

 

 

「お前には一つだけ忠告しておこうと思ってな。」

 

「忠告...だと?」

 

「ああ。オリオンの星はすでに輝いている。その星は日本を...いや、世界をむしばんでいくだろうな。」

 

「オリオンの星....一体どういうことだ!答えろ、影山!」

 

「くくく....答えとは自らの手で導きだすものだ。誰かから得た答えになど、何の価値もない。」

 

「っ...」

 

「鬼道。私は必ず日本代表をつぶす。私の最高傑作であるお前を、私の手で叩き潰すためにな。」

 

「俺が....最高傑作...」

 

「楽しみにしておくがいい。...さらばだ、鬼道。」

 

 

そう残して去っていく影山を、俺は見ていることしかできなかった。

影山は俺をつぶすといっていた。だが一つ気になるのは、自分の手でつぶすといったということは、影山は確実に自分の手で俺をつぶそうとするはず。

 

 

つまり、オリオンの星はもう輝いている、というのはヒントなのか。

オリオンの星...一体何のことなんだ....

 

 

.....

....

...

..

.

 

豪炎寺 side

 

 

「ああ、わかっているよ。夕香もフクさんの言うことをちゃんと聞いて、良い子にしてるんだぞ。」

 

『うん!わかった!』

 

「それじゃあもう切るよ。」

 

『うん!おやすみなさい、お兄ちゃん!』

 

「ああ、お休み夕香。」

 

 

ピッ

 

 

こうして合宿所に来ることになって、夕香を一人にするのは心配だったが...

父さんがしっかりフクさんにお願いしていたようで良かった。

父さんからも、隼人の分まで頑張って優勝してこいと言われたからな。

 

 

「.....っ、誰だ!」

 

『おっと、すみません。』

 

「....怪しい奴だな。お前は一体誰だ。仮面をはずせ。」

 

『それは断らせていただきます。...何、日本代表のエースストライカーである豪炎寺修也に一つ、忠告をしに来ただけです。』

 

「忠告だと...?」

 

『ええ。あなた方はこの大会がただの世界大会だと思っているようですが、それは違います。数多の陰謀が渦巻く、この世の闇を体現したかのような大会なのです。』

 

「.....そんなことは関係ない。俺たちは世界一を目指す。ただそれだけだ。」

 

『ふふ...そういうと思いましたよ。ですが気を付けて下さい。あなた方の初戦の相手は韓国代表レッドバイソンに決まりました。彼らの中には潜んでいますから...オリオンの使徒が。』

 

「オリオンの使徒...?」

 

『ふふ...それでは頑張ってください。』

 

「っ、待て!」

 

チャリンチャリン!

 

 

俺は怪しい奴を追いかけようとしたが、奴はものすごいスピードで逃げていった。

あの速さ、只者ではないな。何やら鈴のような音が聞こえたが...あれはいったいなんだったんだろう。

 

 

「オリオンの使徒....鬼道に共有しておいた方が良いだろうな。」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

??? side

 

 

「ふぅ....」

 

「何とか撒けたようですね。」

 

「はい。とりあえず豪炎寺修也には警告しておきました。ですが、こんな不審な装いではなく普通に警告した方がよかったのでは?」

 

「いえ、あれでいいんです。」

 

「そうですか....」

 

「おーほっほっほ。心配することはありません。彼らならきっと、この情報を役立ててくれるはずですから。」

 

「彼ら...?」

 

「おっと、口が滑ってしまいましたね。あなたは気にしなくて結構ですよ。おーほっほっほ。」

 

「?」

 

 

さて、日本代表の初戦まであと数日。

まずは彼らにオリオンの使徒がどんな存在なのか理解してもらう必要がありますね。

やることが多くて私、困ってしまいそうです。おーほっほっほ。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アメリカでの再会

嵐山 side

 

 

「ふぅ...さすがは最先端の医療技術だな。」

 

 

数日前に野坂とともにアメリカに来てから、俺は酸素カプセルによる治療でヒビが入った骨の治療を実施。骨折していたわけではなかったのでそこまで時間はかからなかったが、あまりの回復スピードに医者も驚いていた。

 

 

『ヘイ、隼人。リハビリの調子はどうだい?』

 

「ああ、問題ないよ。」

 

『ハハ、君は本当にすごいね。病は気からというが、根性で治すなんて!』

 

「どうしても早く治す必要があったからね。」

 

『そうかい。でも無理は禁物だよ。骨ってのは結構ケガしやすいし、癖になりやすいんだ。』

 

「うん。気を付けながら頑張るよ。」

 

『ああ。それじゃ頑張って。』

 

 

そう言って、担当医は去っていった。

とにかく今の俺にできるのは、頑張ってリハビリすることだけだ。

野坂は明日手術と聞いたし、俺も俺のやるべきことをこなさないと。

 

 

「あれ....もしかして、嵐山!?」

 

「えっ?」

 

 

そんなことを考えながらリハビリを続けていると、聞いたことのある声で名前を呼ばれた。

 

 

「い、一之瀬!?」

 

「久しぶり!まさかアメリカで嵐山に会うなんて、すごい偶然だ!」

 

「ああ、驚いた。」

 

 

振り返ると、なんと一之瀬がそこに立っていた。

まさか一之瀬とこんなところで会うなんてな....だが、一之瀬はなぜ病院に...

 

 

「それで、どうして嵐山がアメリカの病院に?」

 

「ああ。今年のフットボールフロンティアでちょっとな。....それより一之瀬こそ、どうして病院へ?」

 

「ああ...実は昔の事故の古傷が痛んでね。土門が病院に行けってうるさいから...」

 

「おいおい、そう言うなよな。」

 

「土門!」

 

「よっ!久しぶりだな、嵐山!」

 

 

一之瀬と話していると、その後ろから土門も現れた。

二人とも同じジャージを着ていて、胸のところには星条旗が縫われている。

まさかとは思うが、こいつら....

 

 

「お、もしかしてその顔、気づいちゃった?」

 

「まさか、お前らアメリカ代表に...?」

 

「うん。俺と土門はアメリカ代表スターユニコーンの一員だよ。それから...」

 

「俺もいるぞ。」

 

「お前は確か...木戸川の西垣か!?」

 

「ああ。俺もアメリカ代表の一員なのさ。」

 

 

まさか一之瀬と土門だけでなく、西垣までアメリカ代表とはな。

日本人が3人もアメリカ代表とは、それで良いのかと思ってしまうが...

だがアメリカ代表に選ばれるほどに、3人の実力は高くなっているということか。

 

 

「それにしても、俺は日本代表の選考には参加しなかったけど、嵐山は日本代表じゃないのか?」

 

「ああ。怪我もあったし、いろいろとな。」

 

「そうなのか...お前ほどの選手が代表じゃないなんて、もったいないな。」

 

「西垣から聞いたけど、お前や豪炎寺の実力は相当やばいみたいだな。」

 

「俺も話を聞いてるだけで嵐山たちとサッカーしたくてたまらなくなったよ。」

 

「おいおい、お前はしっかり治療してからな?」

 

「わかっているさ。でも仕方ないだろ?」

 

 

ふっ...こいつらは相変わらず仲が良いみたいだな。

それにしても...西垣はフットボールフロンティアで戦ったが、一之瀬と土門は強化委員の話が出てからすぐアメリカに渡ってしまったから、どれくらい実力が伸びたのかわからんな。

 

 

「なあ嵐山。お前怪我はどんな感じなんだ?」

 

「ああ。ほとんど治ってるよ。もともと軽症だったからね。」

 

「そうか。だったらリハビリがてら俺たちとサッカーしないか?」

 

「土門!ナイスアイデアだ!」

 

「だろ?」

 

「そうか...確かに日本に戻る前に、お前たちの実力を見ておくのも悪くないかもしれないな。」

 

「ヘヘ。俺たち結構レベルアップしてるぜ?」

 

「へえ...それは楽しみだ。」

 

「それじゃあ明日、この住所のスタジアムまで来てくれ!せっかくだからアメリカ代表のみんなを紹介するよ!」

 

「嵐山のことも紹介したいしな。」

 

「ああ、わかった。」

 

 

こうして俺は、一之瀬たちと偶然にも再会することになった。

それにしてもまさか本当にアメリカ代表になっているとはな。

俺たちはまだ、クラリオたちしか世界の実力を知らない。

ここでアメリカ代表の実力、見せてもらえるのはありがたい。

 

 

.....

....

...

..

.

 

翌日

 

 

「オーライ!」

 

「ナイスプレー!」

 

 

約束通り、指定されたスタジアムに来たのだが設備がすごいな。

それにかなり広いし、日本ではなかなかお目にかかれないようなスタジアムだな。

 

 

「よっ、嵐山!来てくれたか!」

 

「おう、土門。」

 

「ヘイ、アスカ!彼が君らの言っていたサッカープレイヤーかい?」

 

「ああ、ディラン。...嵐山、こいつはうちのエースストライカー、ディラン・キースだ。」

 

「ハイ!ミーはディラン・キース。ユーがハヤト・アラシヤマだね?」

 

「ああ。よろしく、ディラン。」

 

「よろしく、ハヤト!」

 

 

サングラスかけてるのか。なんだか鬼道に見えた。

でも鬼道とはだいぶキャラが違うな。

 

 

「おーい、アスカ!ディラン!」

 

「ヘイ、マーク!噂のハヤトが来てるぜ!」

 

「なんだって!?」

 

 

俺がディランと話していると、遠くから一之瀬と西垣、そしてえらいイケメンが走ってきた。

 

 

「やあハヤト・アラシヤマ!俺はアメリカ代表スターユニコーンのキャプテン、マーク・クルーガーだ!」

 

「ああ。俺は嵐山隼人。よろしく。」

 

 

俺はマークから差し出された手を握り、握手をした。

それからも続々とアメリカ代表のメンバーとあいさつを交わし、俺はアメリカ代表に交じって練習を開始した。

 

 

「ヘイ、ハヤト!ユーのシュートを見せてくれ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ナイスパス、ディラン!行くぞビリー!」

 

「カモン!」

 

「はああああああ!”爆・天地雷鳴”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「”フラッシュアッパー”!」

 

 

俺の放ったシュートと、アメリカ代表のキーパーであるビリーの必殺技がぶつかり合う。円堂の”正義の鉄拳”のようなこぶしのオーラをまとった右手でアッパーしてボールを打ち上げようとしたようだが、俺のシュートの威力の方が強かったのか一瞬でゴールへと突き刺さった。

 

 

「ぐあああ!」

 

 

「ワオ!これがハヤトのシュートか!」

 

「なるほど。荒れ狂う雷...これが君の実力か。」

 

「ありがとう。...俺としては君らの実力も見せてほしいんだけど。」

 

「ハハ、オーケー!だったら俺たちのとっておきを...」

 

「待てディラン。アレはさすがに見せない方が良いだろう。」

 

「だけどハヤトはすごいシュートを見せてくれたぜ、マーク?」

 

「まあ待ちなよ二人とも。....嵐山、あれが君の全力ってわけじゃないんだろ?」

 

「へえ...」

 

 

一之瀬には見破られたか。まあ今の俺が放てる最強のシュートは、”バイオレントストーム”だからな。隠したままアメリカ代表のデータを取れたらよかったんだけど...さすがにそううまくはいかないか。

 

 

「なんだ、あれが全力じゃなかったのか。」

 

「だったら俺たちが見せるのも、それ相応のもので良いだろう?」

 

「オーケー。なかなかの策士だね、ユーは。」

 

 

なんてことを話していると、突如スタジアムの上空にプロペラ音が響きだした。

全員が上空を見上げると、そこには1台のヘリが飛んでおり、ヘリの扉が開いたと思ったら数人の男が飛び降りてきた。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「何かのショーか!?」

 

 

そして俺たちと同じくらいの少年11人と、大柄の大人1人がフィールドに飛び降りてくると、キレイに俺たちの前に整列していた。

 

 

「お前たち何者だ!神聖なこのアメリカ代表のスタジアムに突然上がり込んできて、無礼だぞ!」

 

「ふん...貴様らがアメリカ代表?笑わせる。」

 

「なんだと!?」

 

「私はバハート・デスコム。そして彼らは真なるアメリカ代表、ネイビー・インベーダーズだ。」

 

「真なるアメリカ代表だと...!?」

 

 

なんだこいつら...俺たちと同じくらいの少年だってのに、まるで軍人みたいな雰囲気だ。全員が無表情で、まるで駒みたいな....嫌な雰囲気だ。

 

 

「君たちの監督であるマック・スクライドはチームの資産を私的に流用した疑いがかけられている。よって、彼はアメリカ代表監督の肩書は没収とし、私が代わりにアメリカ代表に選出されたというわけだ。」

 

「ふざけるな!」

 

「アメリカ代表は俺たちスターユニコーンだ!」

 

「監督をどこにやった!」

 

「くくく...聞き分けの悪い連中だ。だがその態度も想定通りよ。...ここに大統領の書状がある!」

 

 

そう言って、バハートと名乗った男はマークたちに一枚の紙きれを見せつけた。

どうやらそれがアメリカの大統領からの書状らしいが...

 

 

「な、なんだと...」

 

「オーマイガー....」

 

「くくく...その書状に書いてある通り、この決定に異議申し立てする場合はサッカーで力を示してみせろ。我々ネイビー・インベーダーズと試合をし、貴様らが勝てたら貴様らはそのままアメリカ代表だ。しかし、負けた場合はアメリカ代表を除籍し、さらには悪逆の徒であるマック・スクライドに加担したとして、貴様らも投獄する!」

 

 

なんだそれ...そんな横暴がまかり通るのかよ。

それが大統領の書状だなんて、ありえないだろ。

 

 

「なあ、さすがに冗談だろ?」

 

「ハヤト....いや、この印鑑は本物だよ。彼が何者かはわからないけど、さすがに公的な文書を偽造するのは難しい...」

 

「まじかよ...ってことは、本当に大統領がこんなバカげたことを...」

 

 

「くくく...試合まで3日の猶予を与えてやろう。それまでにチームを離れたものは反逆の意思なしとして見逃してやる。」

 

「っ....!」

 

「くくく....では3日後、楽しみにしているぞ。」

 

 

そう言って、ネイビー・インベーダーズと名乗る連中は去っていった。

まさかこんな場面に出くわすとはな...だが、見てしまった以上は見捨てるわけにはいかない。俺としては、せっかく仲良くなったマークたちや、日本からの友人である一之瀬たちがアメリカ代表であってほしいからな。

 

 

「すまない、嵐山...変なことに巻き込んでしまったな。」

 

「いや、大丈夫だ一之瀬。....この試合、俺に助っ人として参加させてもらえないかな。」

 

「「「「「えっ!?」」」」」

 

「俺、今日初めて会っただけの奴だけど、それでもみんな良い奴だし、もし俺が日本代表に後から選ばれたとして、本選で戦うアメリカ代表はあいつらじゃなくてお前らが良い。」

 

「嵐山....」

 

「だから、俺に力を貸させてほしい。」

 

「....頼む、ハヤト!君の力、俺たちに貸してくれ!」

 

「マーク....ああ!任せておけ!」

 

 

こうして俺は、ひょんなことからアメリカ代表に力を貸すこととなった。

試合は3日後...奴らネイビー・インベーダーズがどれほどの力を持っているか知らないが、一之瀬たちのためにも何とかしなければな。

 

 

「(....それにしてもあの書状...本当に本物なんだろうか。とは言っても、俺に大統領にアポを取れるほどのコネクションは........っ!あるじゃないか...よし!)」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

No side

 

 

「日本代表か....うちの学校からは一人も選ばれなかったな。」

 

「ああ。先輩たち、あんまり気にしてなかったけど...」

 

「俺としては悔しいよ!...やっぱり、去年のことが影響してるのかな...」

 

 

「お前たち、日本代表に興味があるのか。」

 

 

「「っ!」」

 

 

「だったら俺と一緒に来ないか?」

 

「お前は....どうして俺たちを勧誘するんだ?」

 

「何を考えている?」

 

 

「簡単なことだ。俺たちの手で、真の日本代表の座を勝ち取るのさ。」

 

 

「「真の日本代表....」」

 

 

「俺もある人の依頼でメンバーを集めていてな。...どうだ、興味はないか?」

 

 

「....(もしこの誘いに乗ったら、先輩たちも認められるのかな...)」

 

「....(俺たちが頑張ることで、去年のことを払拭できるなら....)」

 

 

「「やります!!」」

 

 

「よし。じゃあお前らは今日から俺たちの仲間だ。」

 

 

「えっと、チーム名は....?」

 

 

「そうだな。チーム名は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネオジャパン、がいいだろうな。」

 

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

開幕!アジア予選!

鬼道 side

 

 

「ついにこの日が来たな、豪炎寺!鬼道!」

 

「ああ。世界一を目指す第一歩。」

 

「まずはこのアジア予選を突破し、本選に名乗り出る必要がある。」

 

「おう!絶対に勝って、世界一になろうぜ!」

 

 

ついにこの日がやってきたんだ。

クラリオたちに敗北したあの日から、俺たちは一度たりとも忘れたことはなかった。

世界一を目指し、ただひたすらに己を、そして日本の実力を引き上げることに注力してきた。その成果が今、この場で試されるのだ。

 

 

「おーほっほっほ。皆さーん、集まっていますね?」

 

「はい!全員揃っています!」

 

「それでは今日のスタメンを発表します。まずはキーパー、円堂くん。」

 

「はい!」

 

「ディフェンダー、風丸くん、壁山くん、水神矢くん、吹雪くん。」

 

「「「「はい!」」」」

 

「ミッドフィルダー、鬼道くん、不動くん、基山くん、八神さん。」

 

「「「はい。」」」「ふん...」

 

「(俺がスタメンじゃないだと...?)」

 

「最後にフォワード、豪炎寺くん、染岡くん。」

 

「はい。」「おう!」

 

 

「韓国代表レッドバイソンは、赤い突撃獣の異名を持つ強力な突破力が売りのチームだ。キャプテンのソク・ミンウはあまり特徴のない選手だが、堅実なプレーでチームの主軸を担っている。」

 

 

監督からスタメンが発表されると、続いて久遠コーチから韓国代表の情報が話される。突破力が売りのチームか...だがこちらには壁山という強力なディフェンスもいるし、スピードで翻弄できる風丸と吹雪もいる。強引に突破してきても、水神矢が冷静に対処できるだろう。

 

 

「このチームで一番気を付けるべきはフォワードのペク・シウだ。彼の得点力が、韓国代表筆頭であったファイアードラゴンを押しのけて代表になった一因と言われている。」

 

「確かに、韓国の少年サッカーといえばファイアードラゴンが一強でしたね。希代のゲームメーカーと評されるチェ・チャンスウを擁するチームだったと記憶しています。」

 

「へえ...あのチェ・チャンスウのいるチームを倒したのか。」

 

「不動、お前も知っているのか。」

 

「ああ、まあな。」

 

「鬼道の言う通り、今回代表となっているレッドバイソンは、韓国で敵なしと言われているほどのチーム、ファイアードラゴンを倒している猛者だ。決して油断できないチームといえる。」

 

「おーほっほっほ。ですがどんなチームにも穴があります。決して、それを見逃さないことです。」

 

 

チームの穴、か。監督にはそれが見えているということだろうが、この言いぐさ...おそらくは俺にそのチームの穴とやらを見つけ出せ、と言いたいんだろう。

 

 

「おーほっほっほ。それでは円堂くん。キャプテンとして初戦を迎える今、チームをまとめる一言をお願いしますよ。」

 

「え、あ、はい!....えっと、俺たちは今日この日のために、この1年を過ごしてきたと思う。だから全力でこの試合を戦おう!サッカーを楽しもうぜ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

「いくぞ!」

 

 

そうして俺たちはフィールドへと散らばっていく。

韓国代表レッドバイソン....まずはその実力をじっくりと見定めさせてもらおう。

 

 

『皆さんお聞きください、この大歓声!今日この日、フットボールフロンティアインターナショナルのアジア予選が開幕します!ここ、フットボールフロンティアスタジアムでは、アジア予選の第一試合、日本代表イナズマジャパンと韓国代表レッドバイソンの試合が行われようとしています!』

 

 

「(俺と不動を中心に、基山と八神をサイドに配置...必殺技でサイドからパスをつなげるようにしたオーソドックスなフォーメーションだな。)」

 

「おい鬼道。一応チームの指揮は俺たちに委ねられているようだが...」

 

「ああ。お互いに状況判断しながら、自分で判断して指示を出していく。」

 

「それだと俺たちが別のことを言ったときに混乱するんじゃねえか?」

 

「ふっ...俺はお前のゲームメイクを今日までに確認させてもらった。99%、俺たちの作戦がずれることはない。」

 

「へえ...しっかり見てくれてるみてえだな。」

 

「ふっ...お前こそ、俺のゲームメイクをしっかり学んでくれたようで何よりだ。」

 

「ふん....んじゃ、お互いに状況判断しつつでいくか。」

 

「ああ、期待しているぞ。孤高の反逆児。」

 

「チッ...その呼び方は好きじゃねえ。」

 

 

『さあ各チームがそれぞれポジションにつきました!先行は韓国代表!いよいよキックオフです!』

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「行くぞ、ドンヒョク。」

 

「ああ。」

 

 

『さあ韓国代表のキックオフで試合開始!フォワードのペク、ドンヒョクがボールを運んでいきます!』

 

 

 

「ふん...日本など取るに足らない存在!一気に攻めて、格の違いを見せつけるぞ!」

 

「こっちだ、ドンヒョク!」

 

「いけ、パク!」

 

 

ボールはドンヒョクからパクへと渡った。

パクはボールを受け取ると、そのままドリブルで駆け上がっていく。

 

 

「私が止める!」

 

「へっ...止められるかよ!」

 

 

パクの近くにいた八神が止めに入るが、パクの動きは荒々しく、八神は思うように近づけずにいた。

 

 

「っ...危ないわね...!」

 

「ふん.....受け取れ、ソク!」

 

ドゴンッ!

 

 

そのまま八神を躱すと、パクはソクへと大きくパスを出した。

そんなソクの周りには、フォワードのドンヒョクとペクが走っている。

 

 

「行くぞ!」

 

「「おう。」」

 

 

「止めろ!壁山!風丸!」

 

「はいっス!」

 

「任せろ!」

 

 

「ふっ...遅い!」

 

「「「”特攻バッファロートレイン”!」」」

 

 

ボールを持ったソクを止めるため、壁山と風丸が止めに入った。

だがソクは近くにいたドンヒョクとペクとともに、必殺技を発動。

その名の通りバッファローのオーラを身にまとい、暴れ牛のごとくフィールドを突き進んでいく。

 

 

「くっ...なんて荒々しいドリブルなんだ...!」

 

「これじゃ近づけないっス!」

 

 

そのまま二人が抜かれてしまうと、ボールはソクからペクへと渡る。

今の必殺技でゴール前まで運ばれてしまった。

 

 

「ふん...まずは1点!」

 

「っ、来い!」

 

「俺様のシュート、受けてみな!”レッドブレイク”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「はああああああああ!”怒りの鉄槌”!」

 

バゴン!

 

 

『と、止めたああああああああああ!円堂、ペクのシュートを完璧に止めてみせました!』

 

 

「ほう...日本にも案外やる奴はいるようだな。」

 

「よし!ゴールは俺に任せて、攻めていけ!」

 

 

円堂はボールを大きく放り投げると、ボールは不動へと渡った。

俺はそれを見てボールを不動に預け、前線の状況を確認する。

豪炎寺と染岡は俺たちにディフェンスを任せて、それなりに前線に進んでくれたようだな。韓国のディフェンスは普通...豪炎寺にも染岡にも一人ずつついているくらいのレベルか。ならば...

 

 

「ふっ...風丸!基山!吹雪!俺と一緒に来な!」

 

「はい!」

 

「何かやるつもりだな、不動。任せておけ!」

 

「僕たちまで使うなんて、大胆だね。」

 

 

 

「よし。八神、水神矢、壁山!お前たちは俺についてきてくれ!」

 

「了解よ!」

 

「わかりました!」

 

「はいっス!」

 

 

『おっとこれは!不動と鬼道の周りにフォワードとキーパー以外の選手が集まり、円を描いています!』

 

 

「行くぜ!」

 

「しくじるなよ、不動!」

 

「「必殺タクティクス、”デュアルタイフーン”!」」

 

 

 

『これはああああああ!帝国学園の必殺タクティクス、”デュアルタイフーン”です!日本代表、早速見せてきました!』

 

 

「くっ...ボールが奪えない....!」

 

「なんだ、こいつらの動き!」

 

 

俺たちの巧みな戦術に、韓国代表の選手たちは困惑していた。

不動がボールを持つと不動の方に集まるが、すぐさま俺たちへとボールが渡る。

さらに俺の方へと集まってくると、俺は不動へパスを出す。

この繰り返しに韓国代表は翻弄され、俺たちは着実に前線へとボールを運んでいた。

 

 

「よし、ここまでくればもういいだろう。...さあ、決めろ豪炎寺!」

 

ドゴンッ!

 

 

ほぼゴール前までボールを運び、俺は豪炎寺へと大きくセンタリングを上げる。

さあ豪炎寺!お前のその実力、世界に轟かせてみせろ!

 

 

「(ついにこの時が来た!これが俺の...答えだ!)うおおおおおおおおおお!”マキシマムファイア”ああああああああああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

豪炎寺によって放たれたシュートは、炎でフィールドを焦がし、そして地面をえぐりながらゴールへ突き進んでいく。

 

 

「止めろ!シン!」

 

「(なんだこのシュート...なんなんだ、この男...!日本にはこれほどの力を持つ奴が存在するとでもいうのか...!)」

 

 

「っ、”ファイアウォール”!」

 

 

韓国のキーパー、シンが炎の壁を作り出して対抗する。

だがその熱量は豪炎寺の”マキシマムファイア”の方が桁違いであり、ぶつかった瞬間にその壁をぶち破り、シンもろともゴールへと突き刺した。

 

 

「ぐああああああああ!」

 

 

『ご、ゴーォォォォォォォォォォォォル!日本代表、先制!決めたのは豪炎寺修也!その圧倒的なパワーで!韓国代表のゴールに風穴を開けました!日本代表先制!1vs0!今大会初得点は豪炎寺修也です!』

 

 

ふっ...さすがは豪炎寺だ。このチームのエースストライカーはお前だ。

この調子で攻めて、この試合に勝つ!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

ペク side

 

 

「あいつ、やべえな。」

 

「ああ。しかも日本代表のレベルもそれなりときた。」

 

「ふん...問題ない。俺が...このペク様がいる限り、負けはない。オリオンの刻印を賜ったペク様がいる限りな。」

 

 

そういいながら、俺は右肩に触れる。

この刻印を刻まれたときから、俺の力は人間の限界を超えた。

この刻印が、この力がある限り、俺様は最強なんだ。

 

 

日本の"刻印を持つ者"はまだ動く気配はないようだし、このペク様が直々に日本をつぶしてやる。まずは目障りなあのフォワードからだ!

 

 

 

 

 

「やりましたね!日本代表、先制です!」

 

「さすがは豪炎寺くんね!」

 

「ふっ....残念だけど、日本代表はこの試合....負ける。」

 

 

「えっ?何か言った?一星くん。」

 

「いえ、なんでもないですよ。」

 

 

.




”ラストリゾート”にも出番はありますが、安売りはしません。
そのうち出てきます。もちろん、その名にふさわしい最終兵器として。
”ラストリゾート”自体は必殺技の中でも結構好きな部類なので。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

超速の赤き猛牛

鬼道 side

 

 

まずは1点奪うことができたが、あちらも代表に選ばれている強者たち。

このまま勝ち逃げはさせてくれないだろうな。

だからこそ、もう1点を取っておきたいところだが...おそらく豪炎寺のマークはきつくなるだろうな。

 

 

ピッ!

 

 

「ドンヒョク。」

 

「おう。」

 

 

再び韓国代表のボールで試合が再開した。

ペクがドンヒョクにパスを出し、自らは前線へと走り出した。

さらにドンヒョクは後方へパスを出すと、ペクとは別方向へと走り出す。

 

 

「止める!」

 

「へへ...」

 

 

豪炎寺がボールを持ったパクへとマークにつくと、パクを助けるためかジフンとスンジンが豪炎寺を囲むように走り寄っていく。

 

 

「(なんだ...この猛烈な違和感...胸騒ぎは...)豪炎寺!無理はするなよ!」

 

「ああ!」

 

「くく...行くぜ!」

 

「っ!」

 

「くらいな!”奈落落とし”!」

 

「なっ!?ぐあっ!」

 

「豪炎寺!」

 

 

豪炎寺はパクの放った必殺技により吹き飛ばされてしまった。

パクはそのまま豪炎寺を抜き去り、前線へと上がっていく。

 

 

「よくも豪炎寺さんを!」

 

「へへ...ソア!」

 

ドゴンッ!

 

 

「バックパス!?」

 

 

パクに対して、基山がマークについたのだが、途端に後方へとパスを出してパク自身も後ろへと戻っていく。なんだ...一体何をしようとしている。

 

 

「ジフン!」

 

ドゴンッ!

 

 

「よっと。」

 

「っ...止める!」

 

「(わざわざ豪炎寺の近くにいる選手にパス...?ほかにもパスルートはあったはず...っ、まさか!)豪炎寺!そいつらから離れろ!」

 

 

「遅い!”マッドジャグラー”!」

 

「っ!ぐあああああああああ!」

 

 

『ああああああ!豪炎寺、韓国代表の必殺技にまたしても吹き飛ばされてしまったああああああ!豪炎寺、立てるでしょうか...!』

 

 

こいつら、豪炎寺の力を見て豪炎寺を潰そうとしているのか...!

このままではまずい!豪炎寺を助けなければ...!

 

 

「基山!八神!豪炎寺を助けるぞ!」

 

「はい!」「ええ!」

 

「おい、待て鬼道!」

 

 

俺は叫ぶ不動を無視して、基山と八神とともに豪炎寺の近くへと駆け寄っていく。

豪炎寺という貴重な戦力を...いや、それ以前に友として助けないわけにはいかない!

 

 

「くく...まんまとつられたな!」

 

「何っ!?」

 

「いけ!パク!」

 

ドゴンッ!

 

 

「なっ!しまった!」

 

 

ボールを持つジフンは、俺たちが詰め寄ったことで空いた場所にパスを出し、それをいつの間にか前に走りこんでいたパクが受け取った。

 

 

「くく...こいつを潰せれば最高、つぶせなくてもラッキー!」

 

「くっ...止めろ!」

 

 

「これ以上、好きにさせるか!」

 

 

パクがボールを受け取ると、そのままがら空きのフィールドを駆け上がっていく。

だがそんなパクに、風丸が猛スピードで近寄っていく。

 

 

「なっ!?早い!?」

 

「ここで止める!”スピニングフェンス”!」

 

 

風丸が5人に分身すると、それぞれが竜巻を発生させる。

それらがパクを包み込むと、風丸が竜巻の中からボールを奪い去って現れた。

 

 

「ナイス!風丸!」

 

「ああ。(豪炎寺が立ち上がっていない...ここはいったんクリアする!)」

 

ドゴンッ!

 

 

ピッ!

 

 

『おっと風丸、ここで一度ボールを外に出しました。豪炎寺が倒れているので、それを心配しての行動でしょう。』

 

 

 

「豪炎寺!」

 

「大丈夫か!豪炎寺!」

 

「っ...ああ、なんとかな....」

 

「無理はするな。...少し足首が腫れているな。倒れた時に捻ったか?」

 

「っ...はい、少し。」

 

 

「ふむ...ここで豪炎寺君に無理はさせられません。灰崎くん、準備はできていますか?」

 

「ああ、もちろんだぜ!あいつらをぶっ潰したくてうずうずしていたところだ。」

 

「おーほっほっほ。やる気十分のようですし、灰崎君に任せましょう。」

 

「豪炎寺、肩につかまれ。」

 

「すみません、響木監督。」

 

「俺が病院に連れていく。あとは頼んだぞ、お前たち。」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

『豪炎寺、やはり負傷していたか!そのままフィールドを去ります!交代で灰崎が入るようです!悪い流れを断ち切り、このまま1点を守り切れるか日本代表!韓国代表のスローインで試合再開です!』

 

 

豪炎寺...まさか嵐山に続いて、豪炎寺まで....

いや、豪炎寺ならきっと戻ってくる。それに嵐山もだ。

だからこそ、それまで俺たちは負けられない。負けるわけにはいかないんだ!

 

 

「....ドンヒョク!」

 

「よし!」

 

「っ!」

 

 

スローインされたボールはドンヒョクへと渡ったが、俺はすぐさまそれを奪い取る。

一瞬の出来事に、韓国代表は何が起こったのか理解できていない様子だ。

 

 

「この試合、決して負けるわけにはいかない!豪炎寺の分まで、俺たちが全身全霊をかけて戦い抜くぞ!」

 

「「「「「おう!!!!」」」」」

 

 

「不動!」

 

ドゴンッ!

 

 

「へっ...仲間をやられて、天才ゲームメーカー様も頭に血が上ってるってか?....だったら俺がしっかりサポートしてやらねえとな!基山!八神!お前らはサイドを駆け上がれ!」

 

「「了解!」」

 

 

「染岡!灰崎!お前らは中央をこじ開けろ!」

 

「おう!」「任せな!」

 

 

「鬼道!俺についてこれるか!?」

 

「当然だ!」

 

 

俺は不動と少し距離を開けて横並びとなりながら走っていく。

そんな俺たちのことはお構いなしに、ボールを持った不動へと韓国代表のディフェンスは駆け寄っていく。

 

 

「止める!」

 

「遅え!受け取りな、鬼道!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ふっ!」

 

 

「今度はお前か!」

 

「ふっ...不動!」

 

ドゴンッ!

 

 

「「「なっ!?」」」

 

 

 

俺たちはお互いに相手が近寄ってきたらもう一方へとパスを出し、減速せずにフィールドを駆け上がっていく。シンプルな戦術だが、韓国代表のディフェンスは淡泊で逆にこの動きの方が御しやすい。

 

 

「だったら二人をマークだ!」

 

「これでパスは出せまい!」

 

「はっ...馬鹿が。基山!」

 

「「しまった!!!」」

 

 

韓国代表は俺と不動の両方にディフェンスがつくが、それはつまり両サイドががら空きになるということだ。不動はそのまま基山へとパスを出し、基山はがら空きのフィールドをかけていく。

 

 

「よし...染岡さん!」

 

ドゴンッ!

 

 

サイドの端まで駆け上がった基山は、中央を突き進む染岡へとセンタリングを上げる。染岡もそれに合わせて飛び上がったが、その後ろから猛スピードで何者かが走り寄っていた。

 

 

「決める!”ワイバーン....」

 

「染岡!後ろだ!」

 

「...何っ!?」

 

「調子に乗るなよ、雑魚どもが!」

 

 

なんと、前線に上がっていたはずのペクがゴール前まで戻ってきており、染岡よりも後に飛び上がったのに先にボールを確保して着地していた。

 

 

「お前らごときが調子に乗るな。このペク様が、格の違いってものを教えてやるよ!」

 

「「ぐああああ!!!」」

 

「染岡!灰崎!」

 

 

ペクはそのまま着地した染岡と、近くにいた灰崎を吹き飛ばしながらドリブルを始めた。荒々しいドリブルでどんどんとフィールドを駆け上がっているが、中盤の俺たちが前線へと上がっていたため、ペクの速さに追いつけずにいた。

 

 

「くっ...なんて速さだ!」

 

「おいおい、まじかよ!」

 

 

この速さ、まるで嵐山を見ているかのようだ!

この速さに対抗できるのは、風丸と吹雪しかいない!

 

 

「止めろ!風丸!吹雪!」

 

「ああ!”スピニング....」

 

「どけええ!”烈風ダッシュ”!」

 

「っ!ぐあっ!」

 

 

「くっ...!”アイスグランド”!」

 

「効くかあ!」

 

「なっ!?」

 

 

だがペクは風丸を必殺技で抜いていくと、吹雪が放った”アイスグランド”を気迫で跳ね返し、そのまま突き進んでいく。

 

 

「円堂守とか言ったな...さっきは俺様のシュートを止めてくれたが...こいつはどうだ!」

 

「っ!(来る....!)」

 

「”バイソンホーン”!」

 

 

ペクはまるで闘牛のように地面を踏み鳴らし、猛スピードでかけながらボールを頭突きをしてシュートを放った。このシュート、先ほどの必殺技とはくらべものにならない...!

 

 

「気をつけろ、円堂!」

 

「(早い!)”正義の鉄拳GX”!」

 

 

円堂はシュートの速さに対抗するため、”正義の鉄拳”を繰り出した。

こぶしのオーラがボールとぶつかり合うが、こぶしのオーラは徐々に押されているのがわかる。

 

 

「ぐっ...なんて威力だ...!さっきとはまるで違う...!」

 

「このペク様が最初から本気でやるかよ!」

 

「くっ....っ...ぐあああああああああ!」

 

バシュンッ...!

 

 

『ご、ゴーォォォォォォォォォォォォル!韓国代表、エースのペクがゴールを決めて同点に追いつきました!恐るべし、超速の赤き猛牛、ペク・シウ!その実力をいかんなく発揮してくれました!』

 

 

「円堂!大丈夫か!」

 

「あ、ああ....なんてシュートだ。まだ手が痺れてる。」

 

「まさかこれほどとはな。」

 

「でも、次は止めてみせる!だから鬼道は安心して試合を指揮してくれよ。」

 

「ああ。必ず追加点を奪ってみせる。...ゴールは頼んだぞ、円堂。」

 

「おう!」

 

 

しかし、あのペク・シウという選手。

あまりに実力が他と違いすぎるのが気になるな。

 

豪炎寺の前に現れた謎の人物が言っていたオリオンの使徒...

影山が言っていた、オリオンの星はすでに輝いているという言葉。

 

まさか奴が、オリオンの使徒...なのか。

一体オリオンの使徒とは、何者なんだ....

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

前半の攻防

鬼道 side

 

 

 

「染岡さん!」

 

ドゴンッ!

 

 

「甘い!」

 

「チッ...またかよ!」

 

 

あれから前半を戦っているが、こちらの攻撃は完全に沈黙してしまっている。

こちらがフォワードまでパスを通そうとすると、韓国代表のディフェンダーが対応してボールを奪われてしまう。

 

だが韓国代表もパスがなかなか決まらず、攻めに転じれてはいないのが幸いだった。

円堂に追加点を取ると言った以上、何とか追加点を奪いたいところだが...

 

 

「頼んだわよ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「甘い甘い!」

 

「くっ...!」

 

 

 

「またか...確かにこちらのフォワード2人に対して、韓国代表のディフェンスは4人。単純計算で1vs2である以上、こちらの攻撃が防がれやすいのは当然だが...いくら何でもこちらの攻撃が読まれすぎている。)」

 

 

まさかとは思うが、日本のデータが韓国に漏れているのか。

この前行ったミニゲームで、俺たちの攻め方がデータ化されていて、それを誰かが韓国代表に漏らしていたとしたら...

 

 

「おい、鬼道。」

 

「...なんだ、不動。」

 

「お前も感づいてんだろ。俺たちの動きが読まれているって。」

 

「ああ。....(不動にも話をするべきか。一星が怪しいこと...そしてオリオンの使徒とやらのことを。)」

 

「どこからデータが漏れたかは知らねえが、何とかしねえとやべえぞ。」

 

「わかっている。だが作戦会議をした場合、それがすぐに相手にばれる可能性もある。公に作戦を指示しながらも難しいだろう。」

 

「だったら、俺とお前だけが知る作戦で攻めるっきゃねえだろ。」

 

「...ほう。」

 

 

面白いことを言うな、不動は。

俺たち司令塔だけが作戦内容を知り、その作戦を遂行するためにチームを指揮する...そういうことか。

 

 

「ま、俺たちの仕事が増えるが....」

 

「悪くない。勝つためにはやるしかないだろう。」

 

「へっ...ヘマすんじゃねえぞ?」

 

「ふっ...お前こそな。」

 

「まずは前半、残りは韓国代表の動きを確認する。相手選手全員の動きを確認し、選手それぞれの動き、特徴によって戦略を変更する。」

 

「ああ、それがいいだろう。」

 

 

勝負は後半だ。前半の残り時間も少ないが、その時間すべてを相手の動きの観察に使う。そして後半、相手チームも知らない動きでゴールを狙う。

 

 

「スンジン!」

 

「よっと。...ジフン!」

 

「おら!ソク!」

 

 

くっ...一気に前線までボールを運ばれたか。

やはりかなりの攻撃力を持ったチームだ。

だがこのチームの守護神は円堂だ。やつがこれ以上失点するとは思えん!

 

 

「行くぞ!”特攻バッファロートレイン”!」

 

「くっ...!」

 

「近づけないっス!」

 

 

必殺技で中央をこじ開けられ、再びペク・シウへとボールが渡る。

先ほどはゴールを奪われたが...円堂、頼むぞ!

 

 

「もう1点、もらったぜ!”バイソンホーン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「今度は止める!”怒りの鉄槌”!」

 

バゴン!

 

 

円堂は先ほどよりも早く動き出し、ペクのシュートに対応してみせた。

先ほどは押し負けてしまったが、今度は完璧にシュートを止めてみせた。

 

 

「なんだと!?」

 

 

『円堂、再びピンチでしたが今度は完璧にシュートを止めてみせました!シュートを打たれたときはひやりとしましたが、さすがは円堂!見事な対応力です!』

 

 

「よし!今度はこっちの番だ!頼んだぞ、みんな!」

 

ドゴンッ!

 

 

円堂はボールを大きくクリアすると、中央にいた不動へとボールが渡った。

それを見た俺たちは再び攻めに入るため、前線へと上がっていく。

 

 

「ここは通さん!」

 

「チッ...マークが早えな。......鬼道!」

 

ドゴンッ!

 

 

不動から俺へとボールが飛んでくる。だがその間に韓国のディフェンダーが飛んで入ってきて、そのボールをカットしてしまった。

 

 

「くっ...!」

 

「ハハハ!お前らの動きなんてお見通しだぜ!」

 

「こっちだ!ドユン!」

 

「おう!受け取れ、スンジン!」

 

ドゴンッ!

 

 

「甘い!」

 

「「何っ!?」」

 

 

再び韓国代表の攻撃...と思われたが、ドユンからスンジンへのパスは基山によってカットされた。カットされたことが想定外だったのか、韓国代表の動きが鈍くなっている。

 

 

「(どうやらこちらの攻めには対応できても、ディフェンスには対応できていないようだな。おそらくはディフェンス...いや、中盤の選手のデータ不足といったところか。)」

 

「(あの様子だと、鬼道も気づいたか。)」

 

「基山!そのまま自ら持ち込め!」

 

「はい!」

 

 

俺の指示により、基山は自らドリブルで駆け上がり始めた。

それを止めるため、韓国代表のディフェンダーが基山へと走り寄ろうとするが、染岡や灰崎の様子を見て躊躇しているようだ。

 

 

「(どういうことだ...?どうして俺を止めに来ないんだ?)」

 

「(チッ...あいつらには徹底的にフォワードと、チームのキーマンである鬼道をマークするよう伝えているからな...)基山さん、すごいですね!」

 

「どうしてかわからないけど、韓国代表の選手は基山くんに寄ってこないね。」

 

「見りゃわかるだろうが、韓国は完全にフォワードをマークしてるからな。」

 

「そっか!だから基山くんには寄っていけないんだ!」

 

 

 

「くっ....これ以上好き勝手やらせるか!」

 

 

ドリブルで駆け上がる基山に、ついにしびれを切らしたのかディフェンダーのソン・ソアが基山へと駆け寄っていく。

 

 

「食らいなさい!”地走り...」

 

「遅い!”サザンクロスカット”!」

 

「ぐっ...!」

 

 

ソン・ソアが必殺技で基山を止めようとするが、基山はそれ以上に早く必殺技を繰り出して切り抜けていく。やはり基山のレベルはかなり高いな。嵐山の元でかなり経験を積んだようだな。

 

 

「(染岡さんも灰崎くんも完全にマークされている...だったら!)俺が決める!”流星ブレードV3”!」

 

ドゴンッ!

 

 

基山は若干ゴールから離れた位置ではあるが、時間もそれほどないためシュートを放った。するとシュートブロックを狙っているのか、染岡、灰崎についていたディフェンダーたちがゴール前へと走り出していく。

 

 

「残念だけどここで止めさせてもらうぜ!」

 

「行くぞ、ユファン!」

 

「おう、ヨンウ!」

 

 

”流星ブレード”の正面に立った二人だったが、ヨンウがユファンの腕に乗るとそれを上空へと打ち上げる。そして十分に飛んだヨンウが、そのままボールめがけて急降下してくる。

 

 

「「”シューティングスター”!!」」

 

ドゴンッ!

 

 

「なっ!?俺の”流星ブレード”が...!」

 

 

『弾いたああああああ!基山の渾身のシュート、ヨンウとユファンの必殺技、”シューティングスター”によって完璧に止められてしまいました!』

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

『おっと、ここで前半終了!お互いにシュートチャンスは作るものの追加点は奪えず!互角の勝負を繰り広げております!後半戦、追加点を手にして勝利するのは果たしてどちらのチームになるでしょうか!』

 

 

 

「おい、鬼道。」

 

「ああ、わかっている。韓国チームはフォワードと俺を徹底マークしている。そしてたとえフォワード以外がシュートを打っても、強力な必殺技でシュートを防ぐ。」

 

「俺や基山はシュート技を持っているが、やはりフォワードほど威力はねえ。基山はまあ、元がフォワードだしそれなりにあるみたいだが...」

 

「ああ。あのディフェンスを突破しない限りは基山でもゴールを奪うのは無理だろうな。」

 

「....で、どうするよ。」

 

「俺に考えがある。....監督。」

 

「おーほっほっほ。わかっていますよ。....皆さーん、後半はメンバーとフォーメーションを変えますよ。八神さんに代わって稲森くん。染岡くんに代わって吉良くん。」

 

「は、はい!」

 

「っし!俺の出番か!」

 

「それからフォーメーションですが、壁山くんと風丸くん、吹雪くん、水神矢くん。君たちにはフォワードになってもらいます。」

 

 

「え、えええええ!?」

 

「どういうことですか、監督。」

 

「まあ、僕はフォワードもできるから良いけど...」

 

「俺たちディフェンダーですよ!?」

 

 

 

やはり監督は俺の考えを理解しているようだな。

いや、監督は初めからわかっていたように思える。

この監督、やはり考えが読めないな。

 

 

「安心しろ、お前たち。何もお前たちにシュートを打てと言っているわけではない。」

 

「どういうことっスか、鬼道さん。」

 

「何やら考えがあるようだが...」

 

「ああ。前半を戦ってみてわかったが、韓国チームは日本代表のフォワード、そして俺のデータが特に知られているようだ。だから前半、徹底したマークに抑え込まれてしまっていた。」

 

「おーほっほっほ。ですが、鬼道くんを除く中盤、そしてディフェンダーの動きまではインプットされていない。」

 

「...つまり、前線にディフェンダーを押し上げることで相手の攻撃を抑えつつ、データのない選手が攻めに加わることで相手のマークを突破する...ということか。」

 

「そういうことだ、風丸。それに壁山と風丸は雷門時代に攻撃に加わるフォーメーションには慣れているだろう。吹雪もフォワードができる以上、心配はしていない。」

 

「ですが、俺は...」

 

「水神矢。俺はお前が冷静な判断をできる人間だと思っている。だからこそ、お前も攻撃に加わるんだ。」

 

「冷静な判断...ですか?」

 

「ああ。前線で状況を瞬時に判断し、ボールの行方をコントロールする。それがお前の役割だ。」

 

「そんな大役.......わかりました!俺が攻撃の主軸になります!」

 

「ああ、任せたぞ。」

 

 

「そして鬼道くんはそのまま中盤でチームを指揮、不動くんはディフェンスまで下がって状況に応じた対応をしてください。」

 

「はい。」

 

「了解。」

 

 

「灰崎くん、吉良くんは中盤でチャンスをうかがい、機を見てゴールを狙ってください。」

 

「くくく...追加点は俺が決めてやるよ。」

 

「はっ!俺が決めるに決まってるだろ。」

 

 

「そして稲森くん、基山くんは不動くんと一緒に相手のフォワードの動きを封じてください。」

 

「は、はい!」

 

「頑張ろうね、稲森くん。」

 

「うん!」

 

 

「円堂くんはいつも通り、チームを鼓舞するようにお願いしますね。」

 

「はい!」

 

 

「おーほっほっほ。それでは鬼道くん、あとは頼みましたよ?」

 

「はい。」

 

 

さあ、韓国代表レッドバイソン。勝負はここからだ。

必ずや後半、追加点を取ってこの試合に勝利してみせよう。

 

 

「(チッ...この調子だとやばそうだが...ペクの奴、しっかり対処しろよ...?)」

 

「(この男が気がかりだが...監督はこの試合に出す気はないようだ。今は放っておいて問題ないだろう。)」

 

 

.....

....

...

..

.

 

??? side

 

 

「ふぅ...アジア予選も結構盛り上がってるんだね。」

 

「ああ。」

 

「それで、君の言う何かを学ばせてくれる凄いやつってのは見つかったかい?」

 

「そうだな...まだ粗削りだが、素晴らしい才能を持っているものがいる。彼ならきっと...」

 

「ふ~ん...そんなすごい選手、アジアにはいないと思うけどね。」

 

「そうでもないさ。世界は広い。それに君は俺をすごい奴だというけど、俺だってアジア人だぞ?」

 

「そうだけどさ。君ほどのプレイヤー、そうそう出てこないよ。」

 

「どうかな。」

 

 

日本...特に円堂守に嵐山隼人。彼らのスピリッツは素晴らしいものだけどね。

嵐山が日本代表に選ばれなかったのは残念だが...彼ならきっと這い上がってくるだろうな。

 

 

「それはそうと、頼んでいた件はどうなった?」

 

「ああ、それなら心配しなくていいよ。コンタクトは取れたからさ。」

 

「そうか。ではこの試合が終わったら会いに行くとしよう。」

 

「僕は今すぐでもいいんだけど....ま、君に付き合うとするよ。」

 

「すまないね、ルカ。」

 

 

さあ、日本代表。後半はどんな戦いを見せてくれるのかな。

楽しみにしているよ。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着!vs韓国!

鬼道 side

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『さあ後半戦が開始しました!しかし日本代表、大きくポジションチェンジしてきました!ディフェンダー4人がフォワードに配置されるという大胆起用!果たしてこのフォーメーションが吉と出るか凶と出るか!日本代表ボールでキックオフです!』

 

 

「いくよ、風丸くん。」

 

「ああ。」

 

 

吹雪と風丸によってキックオフした後半戦。

このフォーメーションによって、俺たちは韓国代表を打ち破る。

 

 

「ふん...勝負を諦めたようだな!」

 

「ボールを奪う!」

 

 

早速、ペクとドンヒョクが風丸、吹雪へとプレスを仕掛けていった。

だが果たして、二人のスピードについていけるかな。

 

 

「行くぞ!”超疾風ダッシュ”!」

 

「なっ!?」

 

「消えた!?」

 

 

風丸は十八番である”疾風ダッシュ”によって、二人を抜き去っていく。

抜かれた二人は風丸がまるで瞬間移動でもしたかのように感じているだろう。

あれほどのスピード、世界でも数えるほどしかいないだろう。

 

 

「くっ...!」

 

「止める!」

 

「...吹雪!」

 

「任せて!」

 

 

今度はジウォンとソクが風丸を止めに行ったが、風丸はすぐさま吹雪へとパスを出し、ボールを持たない状態で二人を横を抜き去っていく。

 

 

「馬鹿な!」

 

「ディフェンダーごときに俺たちが抜かれるだと!?」

 

「悪いけど、僕たちは普通のディフェンダーじゃないから。...風丸くん!」

 

「ふっ!そういうことだ!」

 

 

 

『何ということでしょう!風丸と吹雪、圧倒的な速さでフィールドを駆けあがっていきます!これには韓国代表の防御ラインもボロボロです!』

 

 

二人の圧倒的な速さでボールはどんどんと前線へと運ばれていき、何とか二人を止めるために韓国代表もそれを追っていく。そしてその影響か韓国代表の防御ラインは押しあがっていき、全員が韓国代表ゴール前付近にいるかのようなレベルとなっていた。

 

 

「くそ!何なんだこいつら!」

 

「止めろ!止めるんだ!」

 

 

「(よし、風丸と吹雪が中央を突破したことで、韓国の両サイドが空いた。これなら!)灰崎、吉良は両サイドからあがれ!」

 

「「おう!」」

 

 

俺は二人に指示を出すと、少し後方へと下がる。

不動もそれに合わせて、稲森、基山と共に俺と同じ位置まであがってきていた。

 

 

「おっと...」

 

「囲まれたか。」

 

 

「くくく...こうして囲んでしまえば、お前たちがいくら早くても関係ない!」

 

「散々ひっかきまわしやがって...ぶっ潰してやるよ!」

 

 

「ふっ....」

 

「なにがおかしい!」

 

「どうやら作戦がうまくいったようで、思わず笑ったのさ!」

 

「「「「なに!?」」」」

 

 

「受け取れ、鬼道!」

 

ドゴンッ!

 

 

風丸と吹雪は完全に囲まれてしまっていたが、風丸が大きく山なりにバックパスを出し、俺はそれを受け取る。

ゴール目の前でバックパスをするとは思っていなかったのか、韓国代表はその動きに呆気に取られていて、反応が遅れている。

 

 

「行くぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

俺は不動、基山、稲森と共にふたたび前線へとあがっていく。

韓国代表の動きを錯乱するとともに、これは灰崎と吉良があがるための時間稼ぎでもある。

 

 

「くっ...ちょこまかと!」

 

「奴らを止めろ!」

 

 

ふたたびペク、ドンヒョクが先頭となって俺たちへと攻めてくる。

分析した通りの動きをしてくれて安心した。これで心置きなく攻めることができる!

 

 

ペクたちを中心に、韓国代表が数人のディフェンダーを残して怒涛の勢いで俺たちへと迫ってきていた。

この人数、勢いなら最初は避けられても、途中で捕まるだろうな。

 

 

「ふっ...かかったか。行くぞ、お前たち!必殺タクティクス、”柔と剛”!」

 

 

俺、基山、不動が横並びとなり、俺に韓国代表の選手が迫ってきたタイミングで基山へと山なりにパスを出す。

今度は基山へ向かっていくので、十分にひきつけてから不動へと山なりにパスを出す。

そして同じように不動へと向かっていく韓国代表をひきつけてから俺たちの中央後方へと山なりにパスを出し、それを稲森が渾身の蹴りで前線へとシュートのごとき勢いでパスを出す。

 

俺たちの動きに韓国代表は翻弄され、まんまと前線へのパスに成功したんだ。

 

 

『な、何と!前線までボールを運ぶも囲まれた風丸、吹雪!しかし一度後方へパスを出したと思えばそれも作戦!パスに釣られた韓国代表がゴール前をがら空きにしてしまい、ふたたびボールをゴール前まで持ち込まれてしまいました!』

 

 

「ば、馬鹿な!」

 

「いつの間にフォワードが!」

 

 

「くくく...てめえらなんて通過点に過ぎねえ!」

 

「俺たちは嵐山サンの分まで、優勝目指すって決めてんだよ!」

 

 

「止めろ!シン!」

 

 

「俺合わせな!灰崎!」

 

「はっ!てめえが俺に合わせんだよ!」

 

 

灰崎と吉良はお互いに言い争いながら、ボールを交互に蹴り上げていく。

そして上空へとボールを蹴り上げ終わると、そのまま二人で叩き落すようにボールを蹴り落とした。

 

 

「おらああああ!」

「食らいやがれ!」

 

ドゴンッ!

 

 

青紫のオーラを纏ったボールが、勢いよく韓国ゴールへと迫っていく。

あいつら、なんだかんだで息が合っているな。嵐山という共通の師がいるうえ、見た目や性格も似ているしな。

 

 

「止める!”大爆発張り手”!ハイハイハイハイ!」

 

 

対する韓国代表のキーパーは、何度も張り手を繰り返してボールを弾き返そうとしている。

だが二人の放ったシュートの威力は高く、一向に勢いが収まる気配が無い。

 

 

「ぐっ...!負けるか!アジア最強は韓国...っ!ぐあああああああ!」

 

 

『ゴーォォォォォォォォォル!日本代表追加点!決めたのは日本の若き戦士、灰崎凌兵とゴッドストライカー、吉良ヒロトだあああああああああああ!』

 

 

「良いシュートだ、灰崎。それに吉良もな。」

 

「ふっ...当然だ。俺一人でも決められたが、こいつに見せ場をやっただけだぜ。」

 

「けっ。調子に乗りやがって。...ま、今度は俺様が一人で決めてやるからよ。」

 

「ふっ...頼もしい限りだな。」

 

 

これで2vs1。円堂も相手のシュートに対応できているし、このまま順調に進めば問題無い。

だが油断は禁物だ。ここはもう1点取って、確実に勝ちを取りに行く!

 

 

「てめえらなにやってやがる!」

 

「落ち着け、ペク!」

 

「うるせえ!この俺がいて、あんな雑魚に負けるはずがねえ!」

 

「いい加減にしないか、ペク!」

 

 

 

なんだ...?韓国代表が言い争っている...いや、フォワードのペクが当たり散らしているようだな。

奴は一人ずば抜けた能力を持っているようだからな。だがサッカーはチームで戦うものだ。

たとえ一人がずば抜けてうまくても、チームで戦わなければ勝てるものも勝てない。

 

 

「俺様が負けるわけない....刻印を得たこの俺様が...!」

 

「っ!お前、まさか...!」

 

「っ.....」

 

「どうしてだ、ペク!どうしてオリオンの使徒に...!」

 

 

「っ!(オリオンの使徒だと!?)」

 

 

豪炎寺が言っていた名前と同じだ。

まさか奴がそのオリオンの使徒だというのか。

一体何をもってオリオンの使徒と呼ばれている...あちらのキャプテンは何か詳しいようだが。

 

 

「うるせえ。俺の勝手だ!」

 

「ふざけるな!その刻印を身に刻めば、確かに力を得られるかもしれない!だがそれが本当のサッカーだと胸を張って言えるのか!」

 

「チッ.....」

 

「ペク...キャプテンとして命じる。お前は頭を冷やせ。」

 

「.........わかったよ、ソク。」

 

「そうか。わかってくれて嬉しいよ、ペク。」

 

「ああ。(....そんなわけないだろ、馬鹿が。)」

 

 

なにやら言い争いは解決したようだが...オリオンの使徒と呼ばれていたペクのあの表情。

恐らくは腹に一物抱えているようだな。こちらへ何も仕掛けてこなければ良いが。

 

 

『さあ後半もまだ開始したばかり!日本代表がこのまま逃げ切るか、それとも韓国代表が意地を見せるか!』

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「行くぞ、ペク!」

 

「ああ。」

 

 

韓国ボールで試合が再開したが...攻め方は変わらず、強引に中央を突破してくるか。

ならば日本のディフェンダーの力を見せつけてやろうではないか。

 

 

「ここは通さないよ。」

 

「チッ...ドンヒョク!」

 

ドゴンッ!

 

 

「よっと。」

 

「こっちもマークしてるっスよ!」

 

「くっ...!」

 

 

「こっちだ、ドンヒョク!」

 

「っ、ジウォン!」

 

ドゴンッ!

 

 

「それも通さない!”ゾーン・オブ・ペンタグラム”!」

 

「なっ!?」

 

 

ペクには吹雪、ドンヒョクには壁山がマークについたことで、韓国は攻めに転じれずパスを回していたが、水神矢がそれに対応し、必殺技によってパスコースをずらすことに成功した。

 

 

大きく逸れたボールは俺の方へと飛んできたので、俺はそれをトラップしてから周囲を見渡す。

 

 

「(どうやら韓国代表の動き...連携が乱れてきたようだな。ならばこちらはより一層、連携プレーで行く!)攻めるぞ、不動!」

 

「ふっ...どうやら俺の出番みたいだな。」

 

「またアレですね!」

 

「さあ行こう!」

 

 

ふたたび俺と不動を中心に、稲森、基山が横並びになりながら進んでいく。

韓国代表はその様子を見て、またあのタクティクスが来ると思っているのかゴール前から動けずにいるようだ。

 

 

「(ふっ...やはりな。)このままボールを持ち運ぶ!連携を意識して、陣形を崩さず行くぞ!」

 

「「はい!」」「ふん。」

 

 

「チッ....てめえら!アレやるぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

「なっ!?ペク!お前たち!なにを勝手に動いて...」

 

「黙りな!役に立たないキャプテンなんていらねえ!オリオンの使徒の力、見せてやる!」

 

「(何か来る...!)」

 

 

ペクの指示により、韓国代表のフォワード、ミッドフィルダー4人が横並びになってスライディングを仕掛けてきた。

 

 

「食らいな!」

 

「「「「”ボルカニックスライダー”!!!」」」」

 

「なっ!?ぐあああああああああ!」

 

「うわああああ!」

 

「チッ...ぐあああああああ!」

 

「な、何て荒々しいスライディングなんだ...!」

 

 

俺たち4人は必殺技をもろに食らってしまい、吹き飛ばされてしまった。

ボールは4人の中心にいたペクが奪い取り、そのまま4人でゴール前へと駆けあがっていく。

 

 

「マズイ!ゴール前はがら空きだ!」

 

「円堂!」

 

 

「ペク様の本当の力を見せてやる!”バイシクルファイア”!」

 

ドゴンッ!

 

 

ペクはボールを回転させながら宙に浮かせると、自身も回転しながら叩きつけるようにシュートを放った。

回転による摩擦で生み出された炎が燃え広がり、蹴った反動でさらに大きく燃え上りながらゴールへと向かっていく。

先ほどまでのシュートとは比べ物にならないほどの威力だ。

 

 

「「円堂!」」

 

「「キャプテン!」」

 

 

「(止める!ここでゴールを決められたら、チーム全体に影響が出てしまう!だからこそ絶対に、このシュートは止めてみせる!)はあああああああ!”怒りの鉄槌V2”!」

 

バゴンッ!

 

 

円堂の”怒りの鉄槌”が進化した...!

さらに強力になった必殺技でボールを叩きつけるが、なかなかシュートの勢いも収まらない。

 

 

「ぐっ....!」

 

「無駄だ!オリオンの刻印を得たこのペク様の本気のシュート、止められるはずがない!」

 

「くっ....止める....!止めてみせる!ゴールを背負っている以上、どんなシュートも止めてみせる!チームの想いを背負っているんだ!負けるもんか!」

 

 

押され気味になっていたが、円堂がそう答えると徐々にボールの勢いが収まっていく。

そうだ、これが円堂だ。どんなに苦しい状況でも、決してあきらめずに立ち向かう。

だからこそ俺は、背中を預けたいと思ったんだ。

 

 

「止めろ!円堂!」

 

「任せろ!たああああああああああああ!」

 

バゴンッ!

 

 

『と、と、止めたあああああああああああああああああああ!円堂、ペクの強烈なシュートを止めました!』

 

 

「ば、馬鹿な!このペク様の本気のシュートが...止められただと...!?」

 

 

「円堂!速攻だ!」

 

「っ!おう!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺は韓国代表が動揺しているのを見て、すぐさま速攻を仕掛ける。

円堂からボールを受け取ると、ドリブルで駆けあがっていく。

 

 

「基山!吹雪まで運んでくれ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「了解です!はあああ!”スターループ”!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺が基山に指示を出しながらパスを出すと、基山はすぐに指示通りに吹雪へとパスを繋ぐ。

韓国のディフェンスは動揺していて、こちらの動きに対応できていなかった。

 

 

「決めろ、吹雪!」

 

「わかったよ、鬼道くん!」

 

 

「っ!シン!止めろ!これ以上追加点をやるな!」

 

「吹き荒れろ!”エターナルブリザードV3”!」

 

ドゴンッ!

 

 

吹雪によって必殺シュートが放たれる。まっすぐとゴールへ向かっていき、韓国のキーパーもそれに対応するために構えているが、その間に風丸が入っていく。

 

 

「な、なに!?」

 

「シュートチェイン!”超マッハウインド”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ディフェンダーにゴールを決められてたまるかよ!”ファイアウォール”!」

 

 

韓国のキーパー、シンが必殺技でシュートに対抗する。

しかし、吹雪と風丸の二人がかりでのシュートの威力は、灰崎や吉良のシュートにも匹敵する威力を誇っていて、まるでシュートの勢いは衰えない。

 

 

「ぐっ....うぅぅぅ...!なんで...なんでだ...!ディフェンダーごときのシュートに...!この俺が...!」

 

「ふふ...悪いね。」

 

「俺たちは攻撃もできるディフェンダーだ。」

 

「僕に至っては、フォワードも本職の一つだからね。」

 

「くっ...日本なんかに...ぐあああああああああああ!」

 

 

『ゴーォォォォォォォォォル!!!日本代表、追加点!3vs1と突き放しました!これが日本の実力!韓国有数のチームであるファイアードラゴンを倒したレッドバイソンに苦戦を予想されていましたが、逆に圧倒しております!』

 

 

よし、これで日本の勝利はほぼ決まった。

油断は禁物だが、円堂もゴールをきっちりと守ってくれている。

このままの試合運びができれば、この試合を落とすことはない。

 

 

「くそ!くそ!くそ!あり得ない!このペク様が!二度もシュートを止められるだと!?」

 

「落ち着け、ペク。」

 

「うるさい!このペク様が...オリオンの刻印を得たペク様が負けるはずがない!」

 

「いいから落ち着け、ペク!!!」

 

「っ!」

 

「.....どうして、オリオンの使徒になんかなったんだ。そんなことしなくても、俺たちは十分戦えていたじゃないか。」

 

「っ....俺は誰よりも強くなりたかった....最強のストライカーとして、俺たちが母国を盛り上げたい、そう思って何が悪い!」

 

「それがオリオンの使徒になることだったのか!そんなことしなくても、俺たちが頑張れば良いだけだろ!こんな刻印なんかに頼らなくても!俺たちには俺たちのサッカーがあったはずだ!」

 

 

っ!あの右肩にある痣...一体なんだ?

水色に発光しているように見えるが、あれがオリオンの使徒である証...?

韓国代表のキャプテンはあれが何なのか知っているようだが...

 

 

「っ...強くならなくちゃ、俺たちは結局ファイアードラゴンに負けていた!違うか!」

 

「それでも!そんな刻印なんかに頼った時点で、彼らに負けたようなものだというのがわからないのか!」

 

「くっ...」

 

「.....後半ももう時間は無い。恐らく次の攻撃が最後のチャンスだ。だからこそ....最後は俺たちのサッカーをしよう。」

 

「それは...」

 

「俺がお前をアシストする。だから最後に日本に一泡吹かせてやろうぜ。」

 

「......ああ。」

 

 

「(痣から光が消えていく....痣自体は残っているようだが、一体どういう仕組みで...いや、今は試合に集中するべきか。)」

 

 

なにやらひと悶着あったようだが、あの様子を見るに和解したようだな。

それに心なしか、韓国代表の顔つきが変わったように見える。

残り時間僅かだが、最後は激戦になりそうだな。

 

 

「おーほっほっほ。皆さーん、フォーメーションを元に戻してくださーい。」

 

「っ!」

 

 

ここでフォーメーションを元に戻すか。

最後はしっかりとディフェンダー陣に後方で控えてもらうようにということだろう。

 

 

『ここで日本代表、フォーメーションを元に戻してきました!フォワードに灰崎、吉良!ミッドフィルダーに鬼道、不動、基山、稲森!ディフェンダーに風丸、吹雪、壁山、水神矢!オーソドックスな陣形となっています!』

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「行くぞ、ペク!」

 

「ああ。」

 

 

『さあ韓国代表のキックオフで試合再開!残り時間はもう僅か!韓国代表、最後の意地を見せられるか!』

 

 

「(このペク様をアシストする...か。ずっと、このチームは俺がいないと勝てないって思っていた。俺一人いれば勝てると思っていた。でも違った。本当のサッカーは.....)....ジウォン!」

 

「よっと!...へへ、ペクの奴、なんだかやる気だな。」

 

「だったら俺らも乗りますか!」

 

「ペク!ドンヒョク!ジウォン!積極的にパスを回していくぞ!」

 

「「「おう!」」」

 

 

 

くっ...先ほどまでは選手一人ひとりが個人で攻めてくるチームだったが、今は細かくパスを繋いできて厄介だ。

先ほどのやり取りでチームの、選手同士の何かが変わったようだな。

 

 

「(だが、簡単には通さん!俺たちが目指すは世界一!アジア予選で躓いてなどいられん!)稲森!基山!お前たちは10番をマーク!不動!俺たちは11番につくぞ!」

 

「「了解!」」

 

「ふん!俺に指図すんじゃねえ!」

 

 

稲森と基山はすぐさま10番のマークにつき、不動も悪態をつきながらも俺とともに11番のマークにつく。

これにより、パス回しの主軸であった2人が動けなくなり、パスの通りが悪くなってきた。

 

 

「風丸!吹雪!ボールをもっている選手にプレスをかけろ!」

 

「わかった!」

 

「行くよ、風丸くん!」

 

「おう!」

 

 

「くっ...!」

 

 

「こっちだ!ペク!」

 

「っ!頼む!ソク!」

 

ドゴンッ!

 

 

囲まれたペクだったが、ソクがすぐさまフォローしたことでボールを奪われることなくパスを出した。

 

 

「(ようやく、俺を頼ってくれたか。)みんな!俺たちの最後の攻撃チャンスだ!絶対にペクまで繋ぐ!」

 

「「おう!!!!」」

 

 

「っ、来るぞ!」

 

 

「「「”特攻バッファロートレイン”!」」」

 

 

ソクともう二人が並んで、ドリブルをしながら突撃してくる。

この必殺技には結局対抗できず、ゴール前までボールを運ばれてしまっている。

 

 

「そう何度も通すと思ったか!”ゾーン・オブ・ペンタグラム”!」

 

「ぐっ!」

 

 

だが水神矢が意を決してその突撃へと立ち向かい、必殺技で動きを鈍らせる。

これなら奴らからボールを奪うことは可能だ。

 

 

「ぐっ....負けるか!受け取れ!ペク!」

 

ドゴンッ!

 

 

「なにっ!?」

 

 

だがソクは水神矢の放った”ゾーン・オブ・ペンタグラム”に対抗して、ペクへとパスを出した。

”ゾーン・オブ・ペンタグラム”によって、ボールの軌道はめちゃくちゃになっているが、それでもペクはそのボールを必死に追いかけて、ボールを受け取る。

 

 

「受け取ったぞ、お前の想い!このペク様が、本当のシュートを見せてやる!」

 

「来い....!」

 

「食らいやがれ!”ランペイジホーン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

ここに来て新たな必殺技だと!?

前半で見せた”バイソンホーン”と同じように、自身をバイソンに見せかけてボールに突進するようなシュート。

だがその”バイソンホーン”よりもさらに狂暴に、そして強烈な突進を仕掛けてシュートを放っている。

 

 

「すげえ...!(やっぱりワクワクするぜ!世界!)だけど止めてみせる!はああああああ!”絶ゴッドハンドⅤ”!」

 

 

円堂が”ゴッドハンドⅤ”を繰り出し、”ランペイジホーン”に対抗する。

発せられた”ゴッドハンドⅤ”のオーラに、まるで何度も角を突き立てるようにボールがぶつかっていく。

その激しい攻撃に、さすがの円堂も徐々にゴールへと押し込まれてしまっている。

 

 

「ぐっ....すげえシュートだ...!」

 

「俺だけじゃない!ソクやみんなの想いも籠っているんだ!貫け!」

 

「へへ....それは俺も一緒さ!ここにいるチームみんなの想い、そして日本代表を応援してくれるみんなのためにも、俺はこのゴールを守るんだ!」

 

「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」

 

シュルルルルルルルルル...!

 

 

お互いに一歩も譲らぬ攻防を見せていたが、徐々にボールの勢いが収まってきたのかものすごい回転の音が聞こえていた。そしてその回転は緩やかなものとなっていき....

 

 

「ふっ...これが日本代表か....」

 

 

『と、止めたああああああああああああああ!円堂、ペクの強烈なシュートをなんとか止めました!』

 

 

ピッピッピィィィィィィィ!

 

 

『そしてここで試合終了のホイッスル!日本代表、3vs1で逃げ切りました!韓国代表、無念のタイムアップです!』

 

 

 

「ペク....」

 

「.....俺たちはこれからだ。もうこんな刻印に頼らなくても、お前やみんながいれば、俺はもっともっと強くなれる。」

 

「....ああ!」

 

「(すまない、ソク....本当はもう、お前たちと一緒にサッカーできないけど....最後にお前たちと一緒にプレーできてよかったぜ。)」

 

 

 

 

「おーほっほっほ。ナイスゲームでしたよ、皆さん。」

 

「まずは1勝だな。」

 

「っ!豪炎寺!」

 

 

俺たちがベンチに戻ると、豪炎寺が戻ってきていた。

特にギプスなどしていないようだし、怪我は軽いようだな。

 

 

「怪我は大丈夫だったか?」

 

「ああ。軽い捻挫だそうだ。暫く安静にしていれば問題無いと言われた。」

 

「そうか。良かった。」

 

 

まずは1勝...アジア予選、試合は残り4試合。

全て勝たなければ本選には出場できない。必ず全ての試合に勝利し、本選に出場してみせる!

 

 

.....

....

...

..

.

 

??? side

 

 

「チッ...日本代表が勝ったか。」

 

 

ペクのやつ、最後は刻印の力を放棄したか。

だがそうすれば待っているのは闇だ。

 

 

「次はオーストラリア代表か。あいつらはあまり好きではないが....まあいい。豪炎寺は軽傷だが試合には出られなくした。次はやはりチームの中心である鬼道を潰す....!」

 

 

そうすることで、あいつは救われるんだ。

そうしなくちゃ....俺たちは幸せにはなれないんだ。

 

 

「ああ...わかってるよ、光....俺がお前を救ってやるからな....」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

ペク side

 

 

 

「ふぅ...」

 

 

試合を終え、宿泊先の部屋で一人息を吐く。

恐らくもうすぐ、俺を始末するための刺客がやってくるはずだ。

まさかこんなことになるなんて、刻印を刻んだときは想いもしなかった。

 

 

「今更後悔したって、遅いよな...」

 

 

俺が刻印を刻んだあの日から、俺はいろんなプレーを教え込まれた。

中には人を意図的に傷付けるような行為だって、平気でやってきた。

だからこそ、これは俺への罰だ。

 

逃げようなんて思わない。

 

 

ドタバタドタバタ!

 

 

今はただ、もう少しだけ...

 

 

ガチャガチャガチャガチャ!

 

 

あいつらとサッカー、していたかった。

 

 

ガチャ...バタン!

 

 

そう思っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『本日のニュースです。少年サッカー世界一を決めるフットボールフロンティアインターナショナルに参加していた韓国代表レッドバイソンのペク・シウ選手が行方不明となる事件が発生しました。事件が発覚したのは、本日早朝。ペク選手を起こしに来た同チームの選手が、部屋が荒らされており、ペク選手がいなくなっていることに気付いたとのことでした。警察によると、ドアの鍵が壊されており、窓ガラスも割られていたことから何らかの犯罪に巻き込まれたとみて調査を進めているとのことです。現場からは血痕も見つかっており、ペク選手の安否が心配されています。』

 

 

.




次の話に進めたくて、少し強引に詰め込みました。
短いよりは読みやすいかな、とは思っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

アメリカでの出会い

鬼道 side

 

 

「監督、本当にこの件については何も知らないんですね?」

 

「おーほっほっほ。さっきから言ってるじゃありませんか。この件については何も知らない、と。」

 

「そうですか...」

 

 

俺たちが韓国代表に勝利した翌日に流れたニュース。

それは俺に衝撃をもたらした。韓国代表の中にいたオリオンの使徒と呼ばれていた者が、行方不明となる事件が発生した。

たまたまだったかもしれないが、これがもしオリオンの使徒を消した...ということなら、裏に潜んでいる存在はそれほど強大な存在ということになる。

 

 

「(そして恐らくは影山...奴も...)」

 

「鬼道くん。」

 

「...なんでしょう。」

 

「今あなたが気にすることはそれですか?」

 

「えっ?」

 

「あなたがこの日本代表に選ばれた理由、それを理解して下さい。」

 

「俺が日本代表に選ばれた理由...」

 

「おーほっほっほ。話が終わりなら、練習に行ってもらって結構ですよ。」

 

「...........失礼します。」

 

 

俺は監督に頭を下げてから、監督室から出ていこうとドアノブに手をかける。

 

 

「鬼道くん。あなたは他の雷門イレブンとは決定的に違うところがあります。豪炎寺くんも同じですが....あなたが一番適任だと私は思っていますよ。」

 

「....」

 

 

ガチャ....バタン

 

 

 

俺は監督の言葉に返事はせず、そのまま部屋を出ていく。

俺が円堂たちとは違う...?豪炎寺も同じだが俺の方が適任...?

監督は一体俺になにをさせたい。考えがまとまらん....

 

 

「こんな時、お前だったらどうするだろうな...嵐山。」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

一方そのころアメリカでは...

 

 

嵐山 side

 

 

 

「行け、マーク!ディラン!」

 

「オーケイ!行くよ、マーク!」

 

「ああ!」

 

「「”ユニコーンブースト”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

マークとディランの二人が空中へと飛び上がり、ツインシュートを放った。

放たれたシュートはまっすぐ綺麗にゴールへと突き刺さった。

これがアメリカの力か。なかなか強烈な技を持っているようだな。

 

 

「よし、今日はここまでにしよう。」

 

「明日は奴らとの試合だからね。」

 

 

そう、一之瀬たちアメリカ代表は明日、代表の座を賭けてネイビーインベーダーズと名乗るチームと試合をするのだ。

彼らからはまるで軍人のような雰囲気を感じたが、サッカーの実力はどうなんだろうか。

わざわざ代表の座を奪い取ろうとする辺り、やはり実力はそれなりにあるんだろうか。

 

 

「この調子になら、ユーの出番は無いかもね。」

 

「だが、アラシヤマの手助けがあると考えると、少し気が楽になるよ。」

 

「まあ俺の出番が無いのは良いことだよ。」

 

「でもあいつら、一体何者なんだろうな。」

 

「見たことない奴らだったな。どっかのクラブチームでもなさそうだし。」

 

 

ネイビーインベーダーズだが、一之瀬や土門、西垣はともかく、マークやディランたちも知らないらしい。

アメリカのクラブチームでも無いらしく、詳細が一切不明の謎のチーム...データが無い存在ってのは恐怖ではある。

だが、必要以上に恐れることは無い。マークたちだってアメリカ代表に選ばれるほどの実力者たちだ。

それを簡単に上回る存在なんて、11人も簡単に集められるわけがない。

 

 

「とにかく、明日はみんな頑張ろう!俺たちが勝って、監督を取り戻す!そしてアメリカ代表の座を守るんだ!」

 

「「「「「おう!!!!」」」」」

 

 

こうして、アメリカ代表の選手たちは帰っていった。

俺も、一之瀬、土門と一緒にスタジアムから帰路へとついていた。

 

 

「それにしても、アメリカに来てお前らと再会して、変なことに巻き込まれて....退屈しないな、この国は。」

 

「ははは...まさかこんなことになるなんてね。」

 

「悪いな、嵐山。」

 

「いや、気にすることないよ。それに俺は日本代表を諦めてない。だからこそ、本選でお前らと戦えるかもしれないなら、お前らに手を貸すのは当たり前だろ?」

 

「へへ、相変わらず仲間思いというか。」

 

「ああ、円堂もだけど君も大概だね。」

 

「おいおい、それ褒めてるのか?」

 

「褒めてるって。」

 

「あはは。」

 

 

全く...でも、アメリカに来てよかったと本当に思っている。

一之瀬たちと再会できたのは本当に嬉しい。なんだかんだで1年は会ってなかったからな。

こうして雷門の仲間たちと久しぶりに会えて、ホッとしてるってのが本音だな。

 

 

「さてと...俺と土門はこっちだけど....」

 

「嵐山は?」

 

「俺はこっち。」

 

「そっか。じゃあここまでだな。明日は頼むな。」

 

「君が控えていてくれるなら安心だからね。」

 

「ああ。お前らの力になるって約束する。」

 

「じゃあまた明日!」

 

 

そう言って、一之瀬と土門は別の道へと帰っていった。

俺はというと、泊っているホテルへは戻らずにストリートサッカーのコートへと足を運んでいた。

さすがに日本代表になるための特訓を、ライバルであるアメリカ代表の選手たちに見せるわけにはいかないからな。

 

 

俺はまず体を温めるためにランニングから始める。

まだ日は登っているが、そろそろ暗くなりそうな時間。

あまり人は残っていなくて、練習しやすい。

 

 

「ふぅ...よし。次はストレッチだな。」

 

 

何週か走り終えると、だいぶ体があったまってきた。

ストレッチを行い、体を良くほぐして怪我を防止する。

骨折とかヒビとかはもうどうしようも無いけど、捻挫とかそういうのはこうやって防止していかないとな。

もう怪我でチームを離脱とか考えたくないし。

 

 

「よし。.....とりあえず普通にシュート練習でもするか。」

 

 

俺はまず、体がなまっていないか確認するため、普通のシュート練習を始めた。

キーパーの動き、ディフェンダーの動きを想定しながら、コースを使い分ける。

フリーの状況から混戦した際のケアまで考え、俺はしっかりと練習を行う。

 

 

「ふっ!はあ!」

 

ドゴンッ!

 

 

う~ん...少し狙った場所からズレるな。

リハビリは順調だけど、間隔がズレてしまっているのかもしれないな。

 

 

「はっ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ほうほう。」

 

「ふっ!」

 

「ほう。」

 

「.....はっ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ふむ...」

 

 

「.....あの。」

 

「おや、練習の邪魔をしてしまったかな。申し訳ない。」

 

 

俺がシュート練習を続けていると、いつの間にか俺の背後に男性が一人立っていた。

どこかで見たことがあるような気がするけど....誰だったっけ。

 

 

「えっと、何か用ですか?」

 

「いや、なに。素晴らしいサッカープレイヤーがいるなと思ってね。」

 

「それほどでもないですけど...まあ、ありがとうございます。」

 

「気にしなくて良いよ。ふむ....でも、もう少し足の角度を変えてみた方が良いかもね。」

 

「足の角度...?」

 

「そう。君にはこの角度の方が合っている気がするよ。」

 

 

そう言いながら、男性は自分の足でボールを蹴るように足を振っている。

角度か....確かに怪我をする前と比べて、蹴る角度が変わっているような気がする。

この人の蹴っている角度、俺が自分のプレーを見返すときに自分の蹴りを見ているときと同じように見える。

 

 

「....やってみます。」

 

「ああ。」

 

「...はあ!」

 

バゴンッ!

 

 

「っ!」

 

 

先ほどまでと違い、格段にシュートの威力があがったと感じる。

それに蹴った際の違和感が無く、それに体の動きもスムーズだった。

 

 

「素晴らしい!一度でここまで修正するなんて、そんな選手私も見たことが無いよ!」

 

「ありがとうございます。あなたのおかげでうまくいきました。」

 

「いや、君の実力だよ。」

 

「(この人だったら、あのシュートの完成を手助けしてくれるかもしれない。)....あの、ちょっといいですか?」

 

「ん?どうしたんだい?」

 

「えっと...このノートに書かれているシュートなんですけど...」

 

 

俺はそう言って、祖父ちゃんの必殺技ノートを見せる。

ノートを見せた瞬間、男性の目は輝き、まるで少年のようにノートに見入っていた。

 

 

「すごい!このノートを書いたのは一体誰だい!?こんな必殺技の数々...どれも良く考えられた必殺技だ!」

 

「えっと、俺の祖父ちゃんで....嵐山宗吾って言うんですけど...」

 

「何だって!?君は嵐山宗吾のお孫さんなのかい!?」

 

 

俺が祖父ちゃんの話をすると、男性はものすごい勢いで顔を上げ、俺の両肩を掴んだ。

その表情はとても驚いていると同時に、何か嬉しそうな表情をしているように見える。

 

 

「えっと...そうです。」

 

「なんてことだ....まさかこんなところであの人のお孫さんに出会うなんて...」

 

「....祖父ちゃんと知り合いなんですか?」

 

「いや、知り合いって程ではないんだ。....あれはまだ、あの人が現役のサッカープレイヤーだったころの話だよ。私は当時プロになりたいと夢を抱いていた少年だった。初めて生で見た試合で、あの人は圧倒的な実力を見せつけていたんだ。」

 

「祖父ちゃんの現役時代...」

 

「私は一瞬で彼の虜になった。彼のようなサッカー選手になりたい。そう思ったんだ。そして偶然、彼と出会うことがあって、サインを貰った。その時に、彼と少しだけサッカーをしたんだ。あの時のことが今でも忘れられない思い出なんだ。」

 

「そうなんですか....」

 

 

祖父ちゃんとサッカーした人...か。

現役時代の祖父ちゃんを知る人なんて、出会ったことがなかったからな。

でもやっぱり、祖父ちゃんはすげえ選手だったんだな。

 

 

「それにこのシュート....確か彼が試合でうっていた必殺技だよ。私の家に映像データが残っているけど、欲しいかい?」

 

「本当ですか!?欲しいです!」

 

「わかったよ。今日は帰ってデータを探しておく。どうやって届けたら良い?明日もここに来るのかい?」

 

「あー...えっと、ちょっと待ってくださいね。.....このホテルに暫く滞在しています。明日は用事があるので無理ですけど....あと1週間はいると思います。」

 

 

俺はそう言って、紙にホテルの名前と部屋番号、そして連絡先をを書いて男性に渡す。

 

 

「了解した。.....そうだ、名前を聞いてなかったね。」

 

「そうでしたね。えっと、嵐山隼人です。」

 

「隼人か。私はレビン・マードックだ。では、準備ができたら連絡するよ。」

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

 

俺はレビンさんが去っていくのを見守る。

それにしてもあの人、本当に見たことあるけど誰だっけな....

 

 

「レビン・マードック.....レビン・マードック.........あ!!!」

 

 

レビン・マードックって、ヨーロッパリーグの元プロでMVPストライカーじゃん!

嘘だろ...こんなところであんなすげえ人に会うなんて....サイン貰っとけばよかった。

 

 

「.....よし!俄然、やる気が出てきた!やってやるぞ!」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

??? side

 

 

 

「はああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「くっ...!」

 

「ふん...今日も俺の勝ちだな、〇〇〇。」

 

「さすがだね。必殺技無しじゃ君には勝てない。」

 

「おいおい、必殺技ありでも俺には勝てねえだろ。」

 

「そんなことないさ。ダイスケに教わったあの必殺技なら、君のシュートも止められる。」

 

「へえ、試してみるか?」

 

「馬鹿もん!!!!」

 

「「っ!」」

 

 

相変わらず喧嘩が始まりそうになったので、儂は二人を止めに入る。

全く...負けず嫌いが過ぎて、毎回喧嘩になるのは困ったもんだ。

しかし、〇〇〇には儂の全てを注ぎ込んだ。始めたころとは比べ物にならんほどのキーパーとなった。

そして△△△△。こいつは初めから才能あふれる男じゃったが、宗吾の技術を叩き込んでさらに化けおった。

 

 

「お前ら、必殺技の使用は禁止と言っただろう。」

 

「ご、ごめんダイスケ。」

 

「ふん...俺は悪くねえ。悪いのは〇〇〇だ。」

 

「何だと!」

 

「こらっ!」

 

「うっ...ご、ごめんよダイスケ。」

 

「ふん...俺は謝らねえからな。」

 

「そうかそうか。だったら△△△△の大事にしていたアレ、儂が食べてやる。」

 

「な、何だと!?くっ...卑怯だぞ、ダイスケ...!」

 

「はっはっは!儂に逆らうなど百年早いわ!」

 

「くそ...!」

 

 

はっはっは!△△△△が憎らし気に儂を見とるわ。

 

 

「とにかく、予選を突破するまで必殺技の使用は禁止じゃ。わかったな?」

 

「はーい。」

 

「ふん...わかってるよ。」

 

「それにしても、ダイスケが言うすごい奴って、本当に予選を突破してくるの?」

 

「当たり前じゃ。あいつは絶対に来る。」

 

「ふ~ん...マモル...だっけ?勝負するの楽しみだな~。」

 

「ふん...マモルだかなんだか知らねえが、どんな奴が来ようが俺の嵐が吹き飛ばしてみせるぜ。」

 

「なんだよ、俺の嵐って。ダサいよ。」

 

「んだとコラ!!!」

 

「(ハァ....全く困った奴らじゃ。....守、そして隼人。お前らが世界のてっぺんまで登ってくるのを楽しみにしておるぞ。)」

 

 

 

.




〇〇〇...誰でしょうね。(すっとぼけ)
△△△△はオリキャラです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

スターユニコーンvsネイビーインベーダーズ

嵐山 side

 

 

ついにこの日が来たか。

今日はアメリカ代表の座を賭けて、一之瀬たちスターユニコーンと、謎の集団ネイビーインベーダーズの試合が行われる。俺も一之瀬たちと一緒に戦うため、スターユニコーン側のベンチに座っている。

 

 

「いやはや、嵐山さんがこんなことに巻き込まれているとは。僕が寝ている間に面白いことになっていますね。」

 

「お前、病み上がりなんだから無理するなよ?」

 

「ええ、さすがに試合に出ようなんて考えてないですよ。」

 

 

そして俺の隣には、手術に成功して少し前まで寝ていた野坂もいる。

手術後も暫くは安静にしている必要があるんだが、野坂は驚異の回復力を見せているという。

これなら野坂も予選には間に合うだろうな。

 

というのも昨日、響木監督から野坂の様子を伺う連絡があった。

どうやら趙金雲監督が、野坂の状態次第では日本代表への招集を考えているとのことだった。

野坂の状態は非常に良く、ついこの前に頭を開いたとは思えないほどだ。

 

 

「くくく...今日はよろしく頼むよ。」

 

「っ、貴様っ!」

 

 

俺たちが話していると、ネイビーインベーダーズの...えっと、名前は忘れたが監督が俺たちのベンチまで歩いてきた。

マークはそんな敵監督に威嚇するように睨みつけている。

 

 

「そう睨む必要は無い。....監督もいない子供だけのチームで、我々に勝てるとは思えないが...せいぜい足掻くことだな。」

 

「元はと言えばお前が...!」

 

「ふふ...面白いことを言いますね。」

 

「....何だね、君は。」

 

 

敵監督とマークが睨み合っていると、野坂が俺の隣に座ったまま煽るようなことを言い出した。

 

 

「僕のことはどうでもいいでしょう。しかし、あなたたちは勝てませんよ。」

 

「ほう、言ってくれる。」

 

「当然のことを言ったまでだ。」

 

「くくく...見たところジャパニーズのようだが、関係ない人間相手にどうしてそこまで言える。」

 

「ふふ...だってこのチームには今、戦術の皇帝と呼ばれるこの僕と、パーフェクトプレイヤーである嵐山隼人がいますからね。」

 

「お、おい....」

 

「くくく...面白い。エンペラーとパーフェクトプレイヤーか。大きく出たものだ。ならばこの試合、大いに楽しませてもらおうではないか。」

 

 

そう言って、敵監督は自分たちのベンチへと戻っていった。

しかし野坂よ...俺は一応ベンチスタートだぞ。お前も試合に出るわけではないのに、あまり煽るようなことはしないで欲しいが...

 

 

「安心してください、嵐山さん。これは戦術の一つですよ。」

 

「戦術の一つ...?」

 

「ええ。試合はホイッスルが鳴る前から始まっているんです。」

 

「はぁ...」

 

 

野坂の言葉に、俺は何とも気の抜けた返事をする。

いや、言いたいことはわかるんだけどね。

 

 

 

「それでは各チーム、ポジションについて下さい!」

 

 

「よし、行くぞみんな!」

 

「「「「「おう!!!」」」」」

 

 

「任務開始。」

 

「「「「「サーイエッサー。」」」」」

 

 

審判の呼びかけにより、スターユニコーンとネイビーインベーダーズの選手が散らばっていく。

それにしても、任務...か。無表情で不気味だし、完全に軍隊ってイメージだな。

 

スターユニコーンのスタメンは、フォワードにディランとミケーレ。ミッドフィルダーにマーク、一之瀬、ショーン、スティーブ。ディフェンダーに土門、西垣、テッド、トニー。キーパーにビリーとなっている。

 

 

「それでは試合開始します。」

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「...」

 

「...」

 

 

ネイビーインベーダーズのボールで試合が始まったが....奴ら、誰も言葉を発さずに淡々とパスを回している。

そんなことで連携なんて取れるんだろうか。

 

 

「不気味な奴らだ。」

 

「ユーたちのサッカー、まるでエキサイトしないね!」

 

 

そんな中、ディランとミケーレがボールを奪おうと近寄っていく。

それでも奴らは無表情のまま、パスでそれを躱していく。

機械的な動きだけど、それだけにしっかりと計算されつくした動きだ。

スターユニコーンの選手がギリギリでボールに触れられないくらいの距離までひきつけてからパスを出している。

 

 

「くっ...!」

 

「こいつら、結構やるな!」

 

「.....」

 

「.....」

 

 

 

「ん...?(あれは一体...何か手を動かしている?)」

 

「っ、嵐山さん...アレってもしかして、ハンドサインでは...?」

 

「ハンドサインか。....なるほど、彼らはハンドサインで連携を取っていたのか。」

 

 

しかし、ハンドサインで連携を取るなんてかなり難しいだろうに。

それを淡々とやっている辺り、かなり訓練されたチームであることは間違いないだろうな。

 

 

「決めろ、ライオン。」

 

ドゴンッ!

 

 

ついにフォワードへとボールが渡った。

フォワードもボールを受け取ってから無表情のままゴール前へと攻め込んでいく。

 

 

「”古代の牙”。」

 

ドゴンッ!

 

 

「止めろ!キッド!」

 

「オーケイ!ふっ!ふっ!”フラッシュアッパー”!」

 

 

相手のフォワード、ライオンから放たれたシュートにビリーが対抗する。

あのシュート、ビリーなら止められるはずだ。

 

 

「はあ!」

 

バシンッ!

 

 

「よし!」

 

「ナイスだ、キッド!」

 

 

予想通り、ビリーは何の問題も無く容易くシュートを弾いてみせた。

弾かれたボールは土門が拾い、それを見たスターユニコーンのオフェンス陣は前線へと駆けあがっていく。

 

 

「速攻で決めるぞ!」

 

「まずは1点てな!」

 

 

土門はマークとともに前線へとドリブルで駆けあがっていく。

そんな二人の前に、ネイビーインベーダーズの選手が駆け寄っていく。

 

 

「敵さんのお出ましだぜ、マーク。」

 

「俺が飛ぶ!頼むぞ、飛鳥!」

 

「オーケイ!」

 

 

走り寄ってくるディフェンスに対して、土門がマークの腕を掴んで回転し始める。

いつの間にかボールはマークが持っており、土門はそのままマークを上空へと放り投げる。

 

 

「「”ジ・イカロス”!!」」

 

「っ...」

 

 

そのまま上空で羽ばたきながら、ディフェンスを通り抜けていった。

ディフェンダーを横から抜くのではなく、上から抜くか。面白いな。

 

 

「ディラン、ミケーレ.......っ!」

 

「オーマイ...コースが塞がれてるよ!」

 

「こっちは無理だ!」

 

 

そのまま走り抜けていくマークだったが、フォワードにパスを出そうとするもディランもミケーレも完全にマークされており、パスを出しても通らないことが容易にわかる状況だ。

 

 

「(ま、頼れる奴が他にもいるけどな。)」

 

 

「だったら仕方ない。....一哉!」

 

ドゴンッ!

 

 

マークはフォワードへのパスを諦めると、サイドから駆けあがっていた一之瀬へとパスを出す。

ネイビーインベーダーズの選手たちもこれは予想していなかったのか、一之瀬は完全にフリーでボールを受け取ることになった。

 

 

「お前たちが何者かは知らないが、アメリカ代表は俺たちスターユニコーンだ!それを証明する!食らえ!”ペガサスショット”!」

 

ドゴンッ!

 

 

完全にフリーの状態での一之瀬の必殺シュート、これは決まったはずだ...!

 

 

「くくく...やれ。」

 

「”軍事衛生フォボス”!」

 

 

相手のキーパーが天に向かって右手を挙げた瞬間、天から一筋の光が照射された。

それはボールへとぶつかり、そのまま地面へと押し込んで一之瀬のシュートを完璧に止めてしまった。

 

 

「な、何だ今のは!?」

 

「”軍事衛生フォボス”......っ、まさか...衛生からレーザーを発射したのか....!」

 

「何だって!?」

 

 

「くくく...貴様らとは格が違うのだよ、格がな。」

 

 

「くっ...俺のシュートが止められるなんて...!」

 

「ふん...その程度のシュートで我々を打ち破れると思ったか。」

 

「くくく...所詮はこの程度よ。お前たち、終わらせろ。」

 

「「「「「イエッサー。」」」」」

 

 

相手の監督が指示を出すと、キーパーはボールを大きくクリアする。

だがネイビーインベーダーズの選手はそのボールを追おうとはせず、キーパー以外はフィールドの中央に集まっていく。

 

 

「なにを考えているかわからないが、ボールを追わないならこっちのものだ!」

 

「ボールを確保して、徹底的に攻めるぞ!」

 

 

そしてそのまま、ボールは土門が確保することとなった。

しかしかなり大きくクリアしたせいか、前線にいた一之瀬たちもフィールド中央まで戻っており、ネイビーインベーダーズの選手が全員、スターユニコーンの前に立ちはだかる状態となった。

 

 

「相変わらず不気味な奴らだぜ。マーク!」

 

ドゴンッ!

 

 

「確かに不気味だが...攻めるしかあるまい。」

 

 

「くくく...」

 

「...(不気味...というよりはあからさまに何かを狙っているように見える。一体何を...)」

 

 

そう考えていた次の瞬間、キーパー以外のネイビーインベーダーズの選手たちが一か所に集まると、全員が走り回ったり転がったりして入り乱れるようにフィールドを駆けまわりだした。

 

あまりの光景にスターユニコーンの選手は誰一人動けず、俺と野坂も呆然とその様子を見ていることしかできなかった。

そしてひとしきり駆けまわったかと思うと、5人ずつ左右に分かれ、中央を完全に空けた状態となった。

 

 

「必殺タクティクス、”地雷原”。」

 

「(必殺タクティクスだと...?今の動きが...?)」

 

 

「なにが何だかわからんが、これ見よがしに中央を空けているなら!」

 

「ま、待てミケーレ!」

 

 

「(地雷原...........っ、まさか!)待てミケーレ!中央に突っ込んじゃ...!」

 

 

俺は”地雷原”の意味に気付き、慌ててミケーレを止めようと叫ぶ。

だが走り出したミケーレは止まらず、地雷原へと突っ込んでいく。その次の瞬間...

 

 

ドガンッ!

 

 

「うわああああああああああああ!」

 

 

ミケーレの足元が爆発し、ミケーレは大きく吹き飛ばされてしまう。

その様子に、スターユニコーンの選手全員が驚きを隠せずにいた。

 

 

「くっ...やはりか...!」

 

「嵐山さん、まさか地雷原って...」

 

「ああ...今走り回った時に何かを仕込んだんだろう。さすがに本物の地雷を仕掛けたわけではないと思うが...」

 

 

「うぐ....」

 

「ミケーレ!大丈夫か!」

 

「一体何が起こったんだ!?」

 

「ぐっ...わからない....でも...あの時...何かふわっとしたものを....踏んだ感じが....っ...ぐぅ...」

 

「とにかく今は休んでくれ!」

 

 

マークはキープしていたボールを外に蹴りだすと、ミケーレを抱えてベンチへと戻ってくる。

ミケーレはまだ意識があったが、体中傷だらけとなっていて、本当に爆発に巻き込まれたように少しやけどの痕もある。

 

 

「まさか直接危害を加えてくるなんて...」

 

「奴ら、一体何をしやがったんだ...!」

 

「こんなのミーたちの信じるサッカーじゃないね!」

 

 

「....マーク、ミケーレの代わりに俺を出してくれないか。」

 

「アラシヤマ!でも!」

 

「あの地雷原、攻略の糸口はあるはずだ。それを俺が試合の中で見つけ出す。」

 

「だが君は怪我から復帰したばかりなんだろ!?それなのにあれを食らってしまったら...」

 

「安心しろ、マーク。俺は....いや、俺たちは絶対に負けない。俺たちが本当のサッカーで勝つんだ!」

 

「アラシヤマ......わかった。君に頼む!俺たちと一緒に戦ってくれ!」

 

「ああ!」

 

 

「う......だったら....俺のユニフォームを....君に...」

 

「ミケーレ....ああ、お前の想い、俺が引き継ぐ!」

 

「頼んだよ....」

 

「「「「ミケーレ!!!!」」」」

 

 

ミケーレは最後の力を振り絞って、俺にユニフォームを託して倒れた。

久々だな....これほど怒りが湧いたのは。

 

 

「勝負だ、ネイビーインベーダーズ!俺たちが必ず、貴様らを打ち倒す!」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

地雷原を突破せよ!

選手の名前や背番号を確認するためにデータを確認していたんですけど、ネイビーインベーダーが正式名称なんですね。ズがいらなかった。本作では「ネイビーインベーダーズ」という名前ということにします。(もう出番ないし)


嵐山 side

 

 

 

「まずはあの地雷原をどうにかすることからだな。」

 

 

俺はフィールドに出て、相手チームを見ながらそうつぶやく。

奴らがあのタクティクスを使う限り、俺たちは攻めるに攻められない。

何故なら無理に攻めようとすると突如爆発が発生し、怪我をするからだ。

 

試合に勝てたとしても、怪我を理由に強制的に代表を降ろされてしまうかもしれない。

この試合の勝利条件は、試合に勝つことだけではない。

 

 

「(なかなか厳しいな。....だが、負けられないことに代わりはない。)」

 

 

サッカーで人を傷付けるような連中に、俺は負けるわけにはいかない。

 

 

「(まずは安全な方法で地雷原を調べるか。だが仕掛けがわからない限りは、多少の無茶もやむなしだな。)」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

ネイビーインベーダーズのスローインで試合が再開した。

あちらのボールで始まったからか、今回は普通に攻め込んできている。

システマチックな動きで、まるで機械でも相手にしているかのような気がしてくる。

 

 

「(だが、そういう動きなら読みやすくて楽だね。)ショーン、スティーブはもうあと10歩下がってくれ!土門、テッドはあと5歩前進!西垣とトニーはその後ろ7歩分空けて待機!」

 

「オッケー!」

 

「お、おい、土門!マークじゃなくてあの日本人の指示を聞いて大丈夫なのか!?」

 

「心配すんなよ、テッド。マークもすごいが、あいつはさらにすげえぜ。あれで司令塔じゃなくてストライカーってんだから怖えよな。」

 

「お前がそういうならいいけどよ...」

 

 

「一之瀬、マーク!二人は両サイドに大きく広がって待機!ディランはいつでもシュートを打てるようゴールが狙える位置で待機!」

 

「了解!」

 

「分かった!」

 

「オーケイ!」

 

 

 

 

「ふん...なにを狙っているか知らんが、我々の敵ではない。所詮は極東の猿の浅知恵よ。やれ!格の違いを見せつけるのだ!」

 

「「「「「イエッサー。」」」」」

 

 

 

さて、やはり予想通り中央から攻めてきたか。

サイドはがら空きだが能力の高い一之瀬、マークを置いている。

この中央に守りを固め、ボールを奪取する!

 

 

「俺に続いて、連鎖的にディフェンスをするんだ!相手の進路をふさぐようなポジショニングを意識しろ!」

 

 

そう言いながら、俺はボールを持つ相手にタックルを仕掛けていく。

ボールを持つ相手はそばにいる別の相手にパスを出してそのまま走り抜けていく。

だが今度はボールが渡った相手に違う選手がディフェンスを仕掛ける。

 

当然、ボールを受け取った相手はすぐに違う味方にパスを出す。

だがさらに別の選手が、さっきよりも短い間隔でディフェンスを仕掛けてくる。

それが連鎖的に続いていくことで、相手に動く時間を与えずボールを奪う。

 

 

「よし!」

 

「ぐっ...!」

 

 

「何だと!?一体なにが...!?」

 

 

土門のディフェンスによって、相手からボールを奪うことに成功した。

簡単にボールを奪われてしまったことに、相手の監督も驚きの声を挙げていた。

俺がやったのは何てことない、普通のディフェンスだ。

 

特に今回みたいなシステマチックな動きをする連中、行動が読めすぎて簡単に事が運ぶ。

 

 

「こっちだ、土門!」

 

「おう!受け取れ、嵐山!」

 

 

俺は土門からボールを受け取ると、がら空きの中央を突破していく。

数人のディフェンダーは残っているが、攻撃に人数を割きすぎたようだな。

 

 

「は、速い!」

 

「はは、あいつ前より速くなってねえか?」

 

 

「くっ...なにをしている!作戦パターンβ5だ!」

 

「「「「イエッサー。」」」」

 

 

相手の監督から指示が飛ぶと、残っていたディフェンダーが俺を取り囲むようにして走り寄ってきた。

監督の指示から対応までの時間が短い...これは相当訓練されているようだけど、それはサッカーの訓練ではなさそうだ。

悪いけど、俺を止めるならもっとサッカーができるやつを呼んでもらいたいね。

 

 

「遅いんだよ!”疾風迅雷”!」

 

「「「「っ!!!!」」」」

 

 

俺は電光石火の如く、一瞬にして相手ディフェンダー全員を抜き去っていく。

チラッと後ろを見たが、どうやら攻撃を仕掛けていた連中もまだ追いつけそうにないみたいだな。

だったらこのまま一気に決めさせてもらおうか。

 

 

 

「食らいな!”バイオレントストームGX”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「(な、何だこのシュート....!)」

 

「っ!馬鹿者め!早くシュートを止めろ!」

 

「っ!..”軍事衛生フォボス”!」

 

 

俺の放ったシュートに対して、先ほども見たような光が照射される。

だがボールの周りで吹き荒れる風がそれを邪魔して、シュートの勢いはまるで衰えない。

 

 

「ぐっ...!(勢いが....止まらない....!)」

 

「ば、馬鹿な....止めろ!何としても止めるのだ!」

 

「い、イエッサー.....!」

 

 

監督の指示を聞いたキーパーは、片手で抑えていたのを両手に変え、必死にゴールを守ろうとする。

だが徐々にゴールへと押し込まれていき、先ほどまで無表情だった時と一変して必死の形相となっている。

 

 

「う....ぐっ.....うわあああああああああああ!」

 

 

そしてついには抑えきれなくなり、キーパーの腕をはじいてキーパーごとボールがゴールへと突き刺さった。

 

 

 

「ば、馬鹿な....我が軍が先制を許しただと...」

 

「(あらら。普通に1点取っちゃった。)」

 

 

「ナイス!ユーは最高だね!」

 

「すごいよ、嵐山!まだあれほどのシュートを隠していたなんて!」

 

「はは、ありがとう。」

 

 

俺はディランと一之瀬と会話しながら、相手の監督の様子を伺っていた。

ものすごい形相で俺を睨んでいるが、怖くはない。

しかしあの様子....恐らく俺を潰そうと動いてくるな。

 

 

「お前たち!作戦パターンΩ0だ!」

 

「「「「「っ!」」」」」

 

「し、しかし監督....」

 

「口答えするな!貴様らは私の命令に従っていれば良いのだ!またスラム街に戻りたいか、愚民め!」

 

「っ....」

 

「貴様らを拾ってやった私への恩を忘れたか!」

 

「い、いえ...監督への御恩を忘れたことはありません。」

 

「ならば貴様らは私の指令を全うすれば良いのだ!分かったらさっさと終わらせて来い!」

 

 

そう言って、相手の監督は話していた選手にビンタをした。

 

 

「(あいつ....)」

 

「ああいうの、気持ちよくないな。」

 

「ミーも気分がダウンしたよ。」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

気分を害されたが、試合はまだ続いている。

ネイビーインベーダーズのキックオフで試合が再開したのだが、動きがなにやらぎこちない。

いくら軍隊のような扱いをされていようと、結局人間は感情を捨てられはしない。

先ほどの行いや、恐らくは監督から指示された作戦とやらに動揺しているんだろう。

 

 

「......っ.....任務を遂行する!」

 

「「「「「っ!......イエッサー!」」」」」

 

 

だが、キャプテンマークを付けているディフェンダー...先ほど監督にビンタされていた選手がそう叫ぶと、他の選手たちも若干遅れながらも返事をする。

 

 

「っ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「な、なに!?」

 

「ボールをクリアした....?」

 

 

相手のフォワードは突然、持っていたボールを大きくクリアした。

それにより、ボールはこちら側へ渡ってしまったのだが、何故そんなことを....

 

 

「...っ.....必殺タクティクス、”地雷原”!」

 

 

っ!そう来たか....恐らく先ほどのシュートを見て、普通にサッカーしていたら勝てないと思ったんだ。

だからこそ、攻めるのではなく攻め込ませて地雷原で負傷させる...それが奴ら、いや、相手の監督の狙いだ。

 

 

「くくく....(あれほどの化け物が紛れ込んでいたとはな。だがわざわざ相手をしてやる道理もない。”地雷原”によって負傷させられたら良し、あわよくばそのまま交代してくれれば御の字よ。)」

 

 

「またあのタクティクスか!」

 

「しかし、俺たちは既にアラシヤマのおかげで勝ち越している!わざわざ攻め込む必要は無い!」

 

「このままボールを俺たちの陣地でキープして、時間を稼ぐぞ!」

 

「(いや、そんなこと相手もわかっているはず....何を仕掛けてくる....?)」

 

 

「くくく....やれ。」

 

「っ....」

 

 

ふたたび相手の監督の指示が出ると、相手の選手が俺を囲むようなポジショニングをしてきた。

まさかとは思うが、俺の動きを誘導して地雷原に突撃させるつもりか?

 

 

「っ...我々は任務を遂行する!」

 

「そうか。なら俺を潰してみな。」

 

「っ...!」

 

 

俺は相手の選手からタックルを受けるが微動だにせず、逆に相手の選手が吹き飛ばされていた。

 

 

「悪いが...俺も結構鍛えているんでね。」

 

「くっ...!」

 

「だったら...!」

 

 

 

ん?何か体に巻き付いた...?これってワイヤーか何かか?

なるほど。ワイヤーで俺を引っ張るつもりのようだが...

 

 

「はああああああああああああ!」

 

「ぐっ!」

 

「な、なんなんだこいつ!?」

 

 

俺はオーラを体に纏うようにすることで体に張り付いていたワイヤーをちぎる。

俺に一切の小細工が効かないことを察したネイビーインベーダーズの選手たちに動揺が走っていた。

 

 

「マーク!ボールを俺に!」

 

「あ、ああ!」

 

「よっと.......そこだ!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺はマークからボールを受け取ると、狙いを定めて相手のフィールドへとボールを蹴りだす。当然、誰もいないフィールドへとボールは進んでいくが、地面にぶつかるギリギリまで進んだ瞬間、突如フィールドで爆発が発生した。

 

 

「な、なんだ!?」

 

「爆発が起きて、ボールが弾かれた...?」

 

「...(対策はわかったが...仕組みがわからないな。だが対策できる以上、こうするのが一番だろうな。)マーク!それからみんなも!ちょっといいか?」

 

 

俺は今考えた地雷原の対策を話すべく、みんなを集める。

俺の周りにスターユニコーンの選手が集まると、相手に聞こえないよう円陣を組むように小さくなる。

 

 

「今ので地雷原の対策を思いついた。」

 

「なんだって!?」

 

「はは、さすがは嵐山だな。」

 

「それで...どうやってアレを突破するんだ?」

 

「まず、さっきのを見てわかったと思うが地雷原は何かにぶつかると爆発する。当然、俺たちが踏めば俺たちが爆発に巻き込まれるが...」

 

「ボールであれば問題ない...?」

 

「そういうことだ。」

 

「でも、さっきみたいにボールが弾かれてフィールド外に出てしまったら、もう一度プレーが再開したときに、また地雷原を発動してくるんじゃないか?」

 

「ああ、そこが問題なんだが....俺に考えがある。これにはかなりのキック力が必要となるし、かなり負担がかかるんだが....」

 

「それだったら、ミーが手伝うよ。」

 

「ディラン....だがエースストライカーである君がやって怪我でもしたら...」

 

「そんな心配、ノープロブレムさ!チームのために全力を尽くす、当たり前のことじゃないか!」

 

「ディラン....」

 

「そうだ!俺たちはアメリカ代表なんだ!」

 

「本来はチームの一員でもないお前が俺たちに力を貸してくれているんだ!」

 

「我らアメリカ代表の力を見せるとき!」

 

 

ディランに続くように、アメリカ代表の選手が盛り上がっている。

これがアメリカ代表か...一之瀬たちも良いチームに恵まれたな。

 

 

「わかった。だったらみんなにすべてを任せる。俺が考えた策、それは...」

 

 

こうして俺はみんなに策を話して、再びフィールドに散らばっていく。

ネイビーインベーダーズの選手たちも散らばっていき、スローインの準備をしている。だがおそらく、スローインは俺たちがボールを取ることになるだろうな。

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「...!」

 

 

「おっと。」

 

 

やはり、予想していた通りスローインはネイビーインベーダーズの選手がいる方ではなく、スターユニコーンの選手がいる方へと投げ入れられた。

 

さらにネイビーインベーダーズの選手は中央に集まり、再び地雷原を発動させようとしている。

 

 

「来たようだね!」

 

「ああ。」

 

 

「「「「「必殺タクティクス、”地雷原”。」」」」」

 

 

ネイビーインベーダーズの選手が自陣を走り回り、そして中央をがら空きにしてサイドに集まる。さて...いい加減、このタクティクスを突破させてもらおうか!

 

 

「やるよ、みんな!」

 

「いつでもオーケイだ!」

 

 

ボールを受け取った一之瀬は、ドリブルで中央後方へと戻っていく。

それに合わせるように、ディランも一緒に走っていく。

 

 

「さあ、始めるぞ!土門!」

 

ドゴンッ!

 

 

そして一之瀬から土門に対して、シュートを打つような威力でパスを出す。

 

 

「西垣!」

 

ドゴンッ!

 

 

今度は土門がそれをダイレクトに蹴り、西垣へとパスを出す。

ボールには雷のようなオーラが纏われており、一之瀬が蹴ったときよりもさらにパワーを感じるようになっている。

 

 

「ああ!テッド!」

 

ドゴンッ!

 

 

そして西垣がさらにダイレクトで蹴り、テッドへとパスを出す。

 

 

「よし、行くぞディラン!」

 

ドゴンッ!

 

 

そして最後にテッドがダイレクトでボールを蹴り、中央から走ってきていたディランへとパスを出す。

 

 

「行くよ!これがミーたちの新たなタクティクス!」

 

ドゴンッ!

 

 

激しい雷のオーラを纏ったボールが相手陣地へと蹴りだされた。

何度もシュート並みの威力で蹴ることでパワーを蓄積し、最後にそれを相手陣地で爆発される、それがこの...

 

 

「「「「「必殺タクティクス、”アルティメットサンダー”!」」」」」

 

 

ボールが地面に触れると、まるでスパークするように、爆発するように激しいイナズマが周囲に広がる。それに呼応するように、フィールドに仕掛けられた地雷原が連鎖的に爆発していく。

 

 

「ば、馬鹿な!?何が起こっている!?」

 

「どういう仕組みかは知らないが....地雷原はボールをぶつけるだけでも爆発する。だがただぶつけるだけでは簡単にボールがフィールド外に出てしまう。だからこそ、ボールが弾かれないほどの威力で地雷原にぶつければいい!」

 

「ぐっ...!馬鹿な...極東の猿ごときに我がタクティクスが破られるだと...!?」

 

「人を...サッカーを馬鹿にするな!お前たちのやっていることはサッカーを侮辱している!」

 

「だ、黙れ!サッカーなどという下らん玉遊びに興じる軟弱な者に何がわかる!」

 

「サッカーには人を笑顔にする力がある!人を傷つけることしか考えていないお前には一生わからない!」

 

 

俺は地雷原がすべて爆発したことを確認してから、ボールを取るためにフィールドを駆けていく。ネイビーインベーダーズの選手たちは地雷原の爆発と、アルティメットサンダーのイナズマにひるんで動けずにいた。

 

 

「ぐっ....止めろ!点を取られたら貴様らの今後は保証せんぞ!」

 

「「「「「っ!う、うわあああああああああ!!!!」」」」」

 

 

相手の監督の言葉に、先ほどまで感情を全く出していなかったネイビーインベーダーズの選手たちが必死の形相で俺へと迫ってくる。

 

 

「お、俺たちは負けるわけにはいかない!」

 

「もう今日を必死に生きるような、明日に希望を見出すことのできない日々に戻ることはできないんだ!」

 

「っ...(囲まれたか。さすがにきついな。)」

 

 

 

「こっちだ、アラシヤマ!」

 

「っ!任せたぞ、マーク!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺は後方から走りこんできていたマークへとパスを出す。

そしてマークとともに、一之瀬、そしてディランが一緒に走ってきていた。

 

 

「これがアメリカ代表の本気だ!」

 

「ミーたちの力、君にもしっかり見せてあげるネ!」

 

「行くよ、マーク、ディラン!」

 

「はあああああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

マークがボールを蹴り、それを一之瀬とディランがツインシュートの要領で上空へと打ち上げる。そして、打ち上げた先にはマークがジャンプして待機していた。

 

 

「これがアメリカ代表スターユニコーンの最強の必殺技!」

 

「「「”グランフェンリル”!!!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

その名の通り、フェンリルのオーラが見えるシュートが放たれた。

ネイビーインベーダーズの選手は全員、俺にマークしていたため完全にフリー。

ものすごいパワー、勢いでゴールへと突き進んでいく。

 

 

「くっ...”軍事衛星フォボス”!っ....ぐあああああ!」

 

 

キーパーが必殺技で対抗しようとしたが、まるで相手にならずキーパーごとゴールへボールが突き刺さった。

 

 

「ば、馬鹿な....2vs0だと...?我が軍が....オリオンの使徒として、軍人として鍛え上げた我が軍が...戦いを知らぬ軟弱な者どもなどに....」

 

「サッカーは鍛えた身体だけがものをいうんじゃない。心で、魂でするんだ!サッカーを楽しむ心もないチームに、俺たちは負けない!」

 

「ぐっ...!」

 

「その通りだ!」

 

 

「「「「「っ!」」」」」

 

「監督!」

 

 

突如響いた声の方を見ると、バンダナをしたアメリカ人が立っていた。

さらにその後ろには、俺の良く知る人物が二人。

 

 

「(ふふ...頼んでいたこと、しっかり何とかしてくれたみたいだな。)」

 

 

俺は手を振っている彼女に手を振り返す。

もう一人の男性も、その様子を微笑みながら見つつ、自分も手を振っている。

 

 

「(あの後ろにいるのが...)」

 

「おいおい、なんで大統領がここに...」

 

「それにあれって、日本の総理じゃねえか?」

 

 

「バハート・デスコム!よくも私を罠に嵌めてくれたものだ!」

 

「くくく...なぜ貴様がここにいるか知らんが、罠などとは失礼な。」

 

「ふん...ずいぶんと強気なものだな。私にかけられていた嫌疑ならすでに晴れている!」

 

「何っ!?」

 

「そしてバハート・デスコム!貴様には公的文書偽造の罪が問われている!」

 

「ぐっ...!」

 

 

やはり、あの文書は偽造されたものだったか。

財前総理はしっかりと頼んだことをやってくれたみたいで良かった。

突然のお願いだったし、総理にそこまでする義務はなかったからな。

 

 

「バハート・デスコムだったな。」

 

「くっ...大統領がなぜ...!」

 

「私の友人である財前総理から面白い話を聞いてね。我が国の代表に不正があったなど、私には報告もなかった。」

 

「ぐっ...!」

 

「バハート・デスコム!貴様の余罪はすでに確認済みだ!おとなしくついてきてもらおうか!」

 

「ぐっ....くそおおおおおおおおおおおお!」

 

 

こうして、ネイビーインベーダーズの監督は大統領が連れてきていた警察に捕まっていった。その様子を戸惑ったような表情で、選手たちは見ていた。

 

 

「(彼らがどうなるか....ま、そこは俺の知ったことではないが...)」

 

「...君たちの処遇については、大統領がお決めになる。おとなしくついていくんだ。」

 

「「「「「.....」」」」」

 

 

ネイビーインベーダーズの選手たちも同じように連れていかれている。

だが、監督と違って拘束などはされていないし、扱いは悪くないだろう。

 

 

「......お前たち、また一緒にサッカーやろうぜ!」

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

「お前たちがやったことは許されないけど!お前らがもし、真っ当にサッカーをやるってなら俺は歓迎するからさ!だから...またサッカーやろうぜ!」

 

 

「........変な奴だな、お前。」

 

「変で結構!」

 

「ふっ........コブラだ。」

 

「えっ?」

 

「俺の名前はコブラ。お前ともう一度サッカーするために....罪を償ってくる。」

 

「.....ああ、待ってるからな。」

 

 

俺はコブラたちを見送ってから、総理のもとへと駆け寄っていく。

たかが一人の国民のために、国家をまたいで動いてくれたんだ。

さすがにちゃんとお礼しないとな。

 

 

「財前総理、今回はありがとうございました。」

 

「いや、気にしなくて良いよ。」

 

「久しぶりだな、嵐山!」

 

「ああ、久しぶり塔子。」

 

「それにしても、君がアメリカに来ていたとはね。代表に選ばれなかったようで私もだが、塔子がとても心配していたんだよ。」

 

「ちょっと、パパ!」

 

「ははは。それで、怪我とかかい?」

 

「あ、はい。でももう大丈夫です。それに俺、代表を諦めてませんから。」

 

「ふふ。あんたならきっと代表になれるよ!」

 

「そうだね。嵐山くん、君が代表になれると私も塔子も信じているよ。」

 

「ありがとうございます!」

 

「それから.......いや、これは言わない方が良いか...」

 

「...?」

 

「......いや、すまない忘れてくれ。大したことではないんだ。」

 

「あ、はい。」

 

 

総理、少し深刻そうな表情をしていたけど、本当に大丈夫だろうか。

でも大したことではないって言ってるしな。

 

 

「(嵐山君とその友達、円堂守君について....彼に話してもよかったかもしれないが、彼に余計な心配をかける必要もない。雷門夏未さんが今、情報を集めてくれている。今は世界大会に集中させてあげた方が良いだろうな。)」

 

 

こうして、アメリカ代表の危機は去った。

試合は前半だけだったが、アメリカ代表の動きを見ることもできたが...

今の日本の実力では、おそらくアメリカ代表には勝てないだろう。

 

 

「(やっぱり西蔭にいろいろ頼んでおいてよかったな。瞳子さんも動いてくれているみたいだし....俺もそろそろ日本に戻るか。)」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

??? side

 

 

 

「監督、全員揃いました。」

 

「ご苦労様。....さて、今日ここに集まってもらったのは顔合わせが目的。」

 

 

監督がそういいながら見つめる先には、9人の男女が立っていた。

全員がいろんな中学から集められたサッカープレイヤーで、俺もその仲間だ。

 

 

「あの...俺たち、日本代表を目指すって名目で連れられてきたんですけど...」

 

「ええ、そうよ。ここにいる彼を含めて、あなたたちはネオジャパン。今の日本代表を倒して、真の日本代表になるのよ。」

 

「えっと...具体的にはどうするやっぺ?」

 

「まずはチームとしての実力を鍛えるわ。」

 

「それはいいんですけど...」

 

「ここにいるのが全員ですか?」

 

「ここには10人しかいないでゴス...」

 

「心配しなくても良いわ。このチーム最後の一人...それは嵐山君なのだから。」

 

 

「あ、嵐山さんが!?」

 

「嵐山さんが味方なら、鬼に金棒、虎に翼、だね。」

 

 

確かに、あの人がチームにいると考えると、たとえ野坂さんが相手でも戦えると思えてしまう。なんて、そんなこと考えていると野坂さんに失礼か。

 

 

「私たちの目標は日本代表撃破。死ぬ気で努力することになるわ。」

 

「お、俺が円堂さんを相手に...」

 

「明日人とも戦うことになるのか...」

 

「ここに来た以上、あなたたちにはそれなりの力がある。私も西蔭君も、そう思ってあなたたちに声を掛けました。」

 

 

まあ、そうだけど俺は嵐山さんに言われた覚悟のある人を集めただけだけどな。

正直目利きには自信があるけど、結局は日本代表に選ばれていない奴らではある。

 

 

「あなたたちも、日本代表に選ばれたいと思うなら私についてきなさい!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

 

.




PV3を見ましたが、何気にユリカが出ていたのでオリオンのキャラもしっかり全員出そうですね。ただ正直心配な面も多くあったので、実際どうなのか....

動画のコメントとかでもあったのですが、必殺技は大事に使うのではなく雑でもいいからたくさん使いたいと思っています。必殺技が使えないなら普通のサッカーゲームをやればいいだけで...イナズマイレブンって超次元サッカーだから面白いんですよね。

「必殺技が使えなくなったキャラは交代、というのを何とかしたい」というような内容がブログにもあったのですが、別にそこは何とかしてほしいと思ってないんだよなぁ...と。

愚痴みたくなりましたが、一応発売は楽しみにしています。
早くプレーしたいですね。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

次の試合に向けて

豪炎寺 side

 

 

 

「おーほっほっほ。皆さーん。韓国戦は見事に勝利を収め、順調なスタートを切りましたね。ですが残念なことに、チームのエースである豪炎寺君が怪我をしてしまいました。」

 

「みんな、すまない。怪我は大したことは無いが、暫くは安静にしている必要があるんだ。」

 

「はい、説明ありがとうございまーす。今豪炎寺君が言ったように、暫くは豪炎寺君抜きで戦う必要があります。これはかなり痛手ですが....灰崎君、稲森君、吉良君、染岡君、あなたたちの活躍を期待していますよ。」

 

「はい!」

 

「おう!」

 

「はっ!任せな!」

 

「くくく...俺がエースとして活躍してやるよ。」

 

 

「おーほっほっほ。元気一杯ですね。次の対戦相手はオーストラリア代表、シャイニングサタンズです。」

 

「データがあまり無いが、かなりトリッキーな戦術を使ってくるという。相手の動きに飲まれず、普段通りプレーすれば問題無いはずだ。」

 

「久遠コーチ、ありがとうございまーす。相手のデータについてはこれからまとめていきますので、データがそろい次第、鬼道君と不動君は戦術を考えて下さいね。」

 

「....」

 

「うっす。」

 

 

その後は今後の練習の確認、各自のコンディションチェックなどを行ってミーティングは終了した。

終始、鬼道が黙っていたのが気になったが...

 

 

「あ、あの!豪炎寺さん!」

 

「...稲森か。どうした?」

 

「えっと...俺、この前の試合何もできなくて、このままじゃダメだって思って....だから!俺に特訓を付けてくれませんか!」

 

「ほう...」

 

 

稲森がものすごい勢いで俺へと特訓のお願いをしてきた。

稲森は隼人が期待していた後輩だったな。確かに韓国戦では目立った活躍は無かった。

だが隼人が目を付けているんだ、きっと良い選手なんだろう。

それにこうやって熱意をもって誰かに頭を下げられる奴、なかなかいない。

 

 

「いいだろう。俺がお前に特訓を付ける。」

 

「本当ですか!?」

 

「ああ。ただし、俺の特訓はハードだ。ついてこられるか?」

 

「はい!俺、絶対最後まで諦めません!」

 

「ふっ...よし、じゃあ早速始めるぞ。」

 

「はい!!」

 

 

 

こうして、俺は稲森を弟子に取ることとなった。

隼人が目を付けた原石...俺の目でしっかりと見極めさせてもらおう。

 

 

 

「おい、鬼道。」

 

「.....何だ、灰崎。」

 

「俺の特訓に付き合え。」

 

 

俺が稲森とそんな話をしていると、その近くで灰崎が鬼道へ声をかけていた。

どうやら灰崎は稲森が俺に特訓を依頼したように、鬼道に特訓を依頼するようだな。

だが、鬼道はそんな灰崎をまっすぐ見つめた後、目をそらした。

 

 

「悪いが他を当たってくれ。」

 

「何だと!?あんたは俺の先輩だろ!ちょっとくらい付き合ってくれたっていいじゃねえか!」

 

「ふっ....お前の言葉には一理あるが、俺がいつまでもお前を指導できるとは限らん。俺がいなくなる可能性も考えておけ。」

 

「なっ!?一体どういうことだ、鬼道!」

 

「.....何でもないさ。」

 

「っ、待ちやがれ鬼道!おい!!」

 

 

鬼道は灰崎の呼びかけに全く応えず、そのままフィールドを去っていった。

鬼道の奴、かなり思いつめた表情をしていたが....本当に大丈夫だろうか。

いつまでも指導できるとは限らない、自分がいなくなる可能性も考えておけ...か。

 

 

「(鬼道...一人で無茶だけはするなよ。)」

 

 

.....

....

...

..

.

 

灰崎 side

 

 

「くそっ...!」

 

 

ちくしょう...イライラするぜ。

鬼道の野郎、自分がいつまでも指導できるとは限らないだと...?

自分がいなくなる可能性を考えろだと...?

 

 

「あいつ....一体何を抱え込んでやがる。俺は所詮、ただのチームメイトってことかよ!」

 

ガタンッ!

 

 

俺はイライラを隠せず、その場にあったゴミ箱を思い切り蹴り上げる。

ゴミはほとんど入ってなかったが、ゴミ箱はその場に倒れ、無残にも中身が散乱していた。

 

 

俺は嵐山サンには感謝している。あの人がいたから、今の俺はこうしてサッカーを楽しむことができている。

だがそれだけじゃねえ。鬼道にだって、言いたかねえが感謝はしている。あいつが俺に道を示してくれたんだ。

 

それなのにあいつは俺に何も言ってくれねえ。

所詮、俺はあいつのゲームメイクのためのコマの一つってことか?

 

 

「はっ!荒れてんな。」

 

「っ....吉良ヒロト...!」

 

「おいおい、一応お前の方が後輩だぜ?あんまり調子乗るなよ?」

 

「ふん...年齢や学年なんて関係ねえ。力がある奴がえらいんだよ。」

 

「くくく...ならどっちにしろ、お前は俺の下だ。」

 

「んだと!?」

 

 

こいつ、喧嘩売りに来たのか!?

俺は苛立ちを抑えられず、吉良の胸倉を掴んで捻り上げる。

だが吉良は全く動揺せず、俺を睨み返しながら笑っていやがる。

 

 

「おいおい、手が早えな。.....今日は喧嘩しに来たわけじゃねえ。」

 

「だったら何の用だ!」

 

「韓国戦でやったアレ、完成させるぞ。」

 

「....あ?」

 

「チッ....気に食わねえが、今の俺じゃ世界にはまだまだ通用しねえ。だがお前と合わせて放ったあのシュートは通用していた。だからこそ、あのシュートを完成させることが世界一になるための一歩になるんだよ。」

 

「....お前、結構真面目に世界一目指してんだな。」

 

「ったりめえだろ!俺様にはな!選ばれなかった永世学園の奴らや、俺の尊敬する嵐山サンの分まで戦い抜くっていう信念があんだよ!」

 

「っ!」

 

 

嵐山サン....そうだ...俺はあの人を目標にしてる。

あの人のサッカーは、俺の最終目標だ。あの人を超えることが!

未だにあの人が代表に選ばれなかったことには憤りを感じているが、吉良の言う通りだ。

 

あの人の分まで俺が活躍して、日本を世界一にする。

あの人が目指していたものを俺が代わりに成し遂げてみせる!

 

 

「チッ...てめえに思い出させられるとはな。」

 

「あ?」

 

「いいぜ、手を貸してやるよ。俺とお前で世界のてっぺんを取る!」

 

「....はっ!ついてこられるか?」

 

「当たり前のこと聞いてんじゃねえ。」

 

「くくく....じゃあ決まりだな。行くぜ!」

 

「おう!」

 

 

今はまだあの人には遠く及ばねえ。だが必ず手にしてみせるぜ。

あの人と同じ境地を....あの人と同じ景色を見るためにな!

 

 

鬼道、あんたがなにを考えているかは知らねえ。

だがいつか、あんたが俺に打ち明けてくれんのを待ってるぜ。

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

タツヤ side

 

 

「ヒロトも自分なりに頑張ってる。それにチームも....俺にできることって何だろう...」

 

「タツヤ、どうしたの?」

 

「玲名...いや、チームは今どんどん成長していっている。でも俺自身がどうかと言えば、フットボールフロンティアの時から何か変わっていない。」

 

「そうかしら...」

 

「確実にそうさ。この前の韓国戦、俺は自分の力不足を感じた。このままじゃダメだってわかってるけど、これから何をすればいいかわからなんだ。」

 

 

今までは嵐山さんが俺を、俺たちを導いてくれていた。

でも今は違う。日本代表として、自ら成長していかないといけないんだ。

誰かに手を引っ張ってもらうだけじゃダメだ。自らが一歩を踏み出さないといけないんだ。

 

 

「でも、その一歩を踏み出すための力が足りない...」

 

「.....少し気分転換でもしてみたら良いんじゃないかしら?」

 

「気分転換...?」

 

「ええ。悩みって案外、その悩みに関係ないことをしているうちに、自然と解決することも多いわ。」

 

「まあ確かに....」

 

「....良かったらこれをあげるわ。」

 

「これって...」

 

 

玲名から渡されたのは、最近出来たばかりのプラネタリウムのチケットだった。

結構人気でなかなか手に入らないらしいけど、玲名はよく手に入れたな。

 

 

「少し前に瞳子姉さんからもらったのよ。でも代表に選ばれちゃって、行く機会がなかなかなかったから。」

 

「そうなんだ。....じゃあ、一緒に行かないか?」

 

「えっ?」

 

「一人で行くのもなんだしこのチケット、ペアチケットみたいだからさ。」

 

「あっ....(これってもしかして、瞳子姉さんが隼人と行けるよう気を利かせてくれた...)」

 

「....その、嵐山さんじゃなくて悪いけど...」

 

「.....いえ、別にいいのよ。.......わかったわ。一緒に行きましょう。」

 

「本当かい!?」

 

「ええ。その代わり、しっかり気分転換すること。いいわね?」

 

「ああ!」

 

 

こうして俺は玲名とプラネタリウムを見る約束をした。

次の試合までこんなことしていて良いのかって思うけど...でも玲名の言う通り気分転換も大事だよな。

 

 

「行くのは明日で良いかしら?」

 

「そうだね。明日は丁度練習も休みだし...明日にしようか。」

 

「ええ、わかったわ。」

 

「それじゃあ、明日!」

 

 

俺はなんだか気恥ずかしくなって、玲名から逃げるようにその場を後にした。

ヒロトと少し目が合ったけど、にやにやしていてさらに恥ずかしさが増した気がした。

 

そのまま急いで自分の部屋に戻って、深呼吸して落ち着こうとする。

 

 

「....ふぅ.....」

 

 

何度か深呼吸をしているうちに、何とか落ち着いた気がする。

 

 

「....明日か。」

 

 

一応、少しはちゃんとした服装でいった方が良いのかな。

考えがうまくまとまらない...やっぱり落ち着いてないかも。

ヒロトは頼りにならないし、嵐山さんはアメリカだし...リュウジに相談してみよう。

 

 

「...............」

 

 

俺はリュウジに明日のことを相談するため、電話をかける。

でも、いつもならすぐ出てくれるリュウジがなかなか出ない。

そしてそのまま最後まで応答は無く、電話は切れてしまった。

 

 

「リュウジが出ないなんて、珍しいな....仕方ない、メッセージだけ入れて練習に戻ろう。」

 

 

.....

....

...

..

.

 

瞳子 side

 

 

「まだまだ甘いわ!次!」

 

「はい!」

 

 

嵐山君を除く、ネオジャパンが揃ってからチームとして練習を開始している。

でもまだ代表と戦うだけの力はやはりない。日本ではそれなりの実力、将来性を持っている子たちだけど、世界と戦うにはまだまだ力が足りていない。

 

 

「ハァ...ハァ....」

 

「き、きついでゴス...」

 

「これはなかなかハードだ....」

 

「休憩している暇はないわよ!次!」

 

「「「「は、はい!」」」」

 

 

みんなには苦労をかけてしまうけど、それでも彼らは自らの意思でこの場に立っている。

覚悟を決めてここに来ている以上、私のスパルタにはついてきてもらわなければいけない。

 

 

「行くぞ!”天空の刃”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ふっ!”王家の盾”!」

 

 

「(...西蔭君はよく鍛えられているわね。でも代表レベルのフォワード...特に豪炎寺君辺りが相手となると差を感じてしまう。そしてこのチームのフォワードがあの円堂君から点を取れるビジョンがまだ見えない。)」

 

 

やはりもっと大幅な強化が必要ね。ポテンシャルはある...

あとは強力な必殺技と、タクティクス、チームの連携力。

 

 

そんなことを考えていると、私の携帯に着信が入る。相手はお父様ね。

 

 

「はい、瞳子です。」

 

『突然悪かったね、瞳子。』

 

「いえ...それで、何かありましたか?」

 

『ええ。実は先ほど嵐山君から連絡がありましてね。あるものを送ったから瞳子監督によろしく伝えてほしい、とね。』

 

「あるもの..?」

 

『さっき受け取ったので、使いを送りました。それを先に伝えておこうと思いましてね。』

 

「そうでしたか。ありがとうございます、お父様。」

 

『いえいえ。...今は大変な時期だろうけど、落ち着いたら一度帰って来なさい。一緒にFFIを観戦しようじゃないか。』

 

「ええ、そうですね。」

 

『ふふ...じゃあこれで切ります。頑張りなさい、瞳子。』

 

「はい。...失礼します。」

 

 

私は電話を切りながら、嵐山君が送ってくれたというものについて考える。

一体何を送ってくれたのかしら....

 

 

「失礼します、お嬢様。」

 

「あら....お父様からの使いかしら?」

 

「はい。こちらをお届けに。」

 

「ありがとう。」

 

「はい。それでは失礼します。」

 

 

使いの黒服はすぐにこの場を去っていった。

お父様は私とヒロト、どちらかに加担しないよう今やっていることには関わらないようにしてくれている。

 

 

「(だから黒服もすぐに帰ったのね。)....これが嵐山君からの贈り物......っ!」

 

 

受け取ったものを確認すると、そこには嵐山君のおじい様が遺したという必殺技ノートが入っていた。

そしてそれと一緒に、嵐山君からであろう手紙が添えてあった。

 

 

『瞳子監督、今回の話を引き受けてくれてありがとうございます。とりあえず怪我も完治したので、もう少ししたら戻ります。それまでの間、一緒に送ったノートを使って貰ってオッケーです。あと、せっかくいろんな学校がごちゃ混ぜになってるチームだし、各校の必殺技とか学んだりしてみるのも面白そうだと思います。帰ったらまた一緒にサッカーできるの楽しみにしています。 嵐山隼人』

 

 

「ふふ....相変わらず、色々考えているのね彼は。」

 

 

そうね...せっかくだから各校の必殺技を別の学校の選手に覚えさせるなんてのもありね。

永世学園で監督をしていた時は、ほとんど嵐山君だよりだった。今でもそう...

 

このネオジャパンでは、彼らのことをもっと監督として導けるよう頑張りたいわね。

 

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一星の謎

鬼道 side

 

 

「.....」

 

 

『あなたが日本代表に選ばれた理由、それを理解してください。』

 

 

監督に言われたあの言葉....あれからずっと考えているが、俺の中で一つしか答えが見つからなかった。

俺が代表に選ばれた理由...それは、チームの司令塔としてオリオンの使徒からチームを守ることだ。

嵐山がいない以上、チームをまとめあげるのは俺しかいないだろう。

 

 

「(だからこそ...俺が一星を何とかしなければならない...!)」

 

 

世界と戦っていくためには、オリオンの使徒を排除しなければならない。

そして一星は間違いなく、オリオンの使徒だ。

 

 

「(一星を排除する....だがどうやって....)」

 

 

「行きますよ、円堂さん!」

 

「よし!来い、一星!」

 

「っ!」

 

 

あれは、円堂と一星...!二人だけで練習だと!?

円堂...あれほど警戒しろと言っておいたのに....だが、それも円堂らしいか。

 

 

「お前たち、練習か。」

 

「お、鬼道!」

 

「っ!........奇遇ですね、鬼道さん。」

 

「(今、何かをしまったようなしぐさをしたな。どうやら声をかけて正解だったようだ。)...ちょうどお前を探していたんだ、円堂。」

 

「え、俺?」

 

「ああ。少し次の試合のことで相談したくてな。」

 

「そっか、わかった!一星、悪いけど...」

 

「大丈夫ですよ、円堂さん!また今度、練習に付き合って下さいね!」

 

「おう!..よし、着替えてくるから待っててくれ鬼道!」

 

「ああ。」

 

 

俺は走っていく円堂を見送りながら、一星を横眼で見る。

どうやら俺が来たことで計画は失敗に終わり、今度は俺を標的にしようとしているようだな。

 

 

「すまなかったな、一星。」

 

「いえ。じゃあ俺も戻ります。.........俺のことを嗅ぎまわってるみたいだけど、無駄なことは辞めときな。」

 

「っ!」

 

「どうしてもって言うなら...あんたから潰してやるからさ。」

 

 

一星は俺の耳元でそうつぶやいてから、この場を去っていった。

どうやら俺が一星を警戒していることには気付いていたようだ。

そして忠告とも、脅迫とも取れる言葉を俺投げかけていった。

 

 

「(一星....やはりこのまま野放しにしていられない。何とか奴の正体を暴き、チームから排除する...!)」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

春奈 side

 

 

「ふんふんふ~ん....♪」

 

「ふふ、音無さんなんだか楽しそうね。」

 

「はい!実はさっき、嵐山先輩から連絡があったんです!」

 

「嵐山君から?」

 

「そうなんです!先輩、アメリカに行ってるみたいで、何でも土門先輩たちと会ったみたいですよ!」

 

「土門君たちと!?すごい偶然ね!」

 

 

本当、すごい偶然もあったものだと私は思った。

そして先輩から連絡が来たのは本当に久しぶりで、私たちが雷門中を離れてからは先輩はいつも忙しそうにしていて、メールの1通もなかなか送れない状態だった。

 

 

でもさっき、突然電話がかかってきたと思ったら先輩は私に1つお願いをしてきた。

 

 

『突然悪いね、春奈。』

 

『いえ!それで...何かあったんですか?』

 

『ああ。君に少し頼みたいことがあるんだ。』

 

『先輩が私に頼み事なんて...何でも聞きます!』

 

『はは、相変わらず元気だな。.....春奈には少し調べて欲しいことがあるんだ。』

 

『調べて欲しいこと...?』

 

『ああ。一星光....という人物について調べて欲しい。特に現在なにをしているか、が知りたいんだ。』

 

『一星光.....一星って言うと、日本代表に選ばれた一星充君のことですよね。何か関係あるんですか?』

 

『ああ。彼にとってとてもとても重要なことなんだ。まだ詳しい事情は話せないけど。』

 

『そうなんですか.....わかりました!元新聞部のエース、音無春奈にお任せください!必ずや有力な情報を集めてみせましょう!』

 

『ふっ...ありがとうな。それとこのことは他の人には内緒で頼む。』

 

『えっ?何でですか?』

 

『まだ確証が無いことだから、あまり大事にはしたくないんだ。』

 

『わかりました!何か情報を掴んだら、連絡すればいいですか?』

 

『ああ。ここ数日は連絡付かないかもしれないけど....もう少ししたら日本に帰る予定だから。』

 

『はい!わかりました!帰国楽しみにしてますね!』

 

 

そんなこんなで、久しぶりに先輩と話をした嬉しさでテンションがあがっていた。

それにしても一星光か....一星君と同じ苗字ってことは兄弟とかなのかな。

先輩は何か知ってそうだったけど、まだ確信が無いって言ってた。

 

 

「(よ~し!少しでも先輩の役に立てるように頑張るぞ!)」

 

 

まずは一星光って名前で調べてみよう。

それから一星充君の方も調べた方が良いかも。

 

 

「よし、夕食の仕込みはこれでおしまいだね。二人ともお疲れさん。」

 

「ヨネさんも、いつもありがとうございます。」

 

「本当ですよね。ヨネさんの作るごはん、おいしいですから!」

 

「その言葉、ありがたく受け取っておくよ。さ!二人ともゆっくりしておいで。」

 

「「は~い。」」

 

 

さて...自由時間もできたし、早速調べてみようかな。

 

 

「じゃあ私、少し調べものするので部屋に戻ります!」

 

「そう?じゃあ私は邪魔しないように散歩でもしてるわね。」

 

「あ、すみません...」

 

「ううん、気にしないで?でも少ししたら部屋には戻ると思うから。」

 

「はい!わかりました!」

 

 

そんな話をして、木野先輩と分かれて私は部屋へと戻った。

そしてすぐさまパソコンを起動し、検索画面を開く。

 

 

「さてと....まずは、『一星 光』..っと。」

 

 

検索する文字を入力して、検索を行う。

検索結果が表示されたけど、姓名判断だったりしか出ず、特に情報はなさそう。

でも一応、検索結果を上から順番に確認していく。

 

 

「(先輩に頼まれたことだもん...失敗したくない!)」

 

 

スクロールしながらどんどん情報を見ていく。

ほとんどが姓名判断や占いなどのサイトだったけど、一つだけ気になる内容があった。

 

 

「オリオン財団、子供を救出......」

 

 

サイトはニュース記事となっていて、数年前のニュースが取り上げられていた。

 

 

「日本に住む家族を襲った悲劇...暴走したトラックとの衝突で2名が死亡、1名が重傷....傷ついた少年にオリオン財団が手を差し伸べる....少年....一星光はこの事故で父と兄を失い、身体のみならず精神的にも不安定な時期が続いた.....オリオン財団の支援によってロシアに留学....ロシアのサッカーチームに所属し、今では兄と同じように友達とサッカーをしている....オリオン財団のギリカナン氏は世界平和のために尽力したまでに過ぎないと語る............これって....」

 

 

先輩が調べている一星光という人物は、数年前に事故で父と兄を亡くしている。

そしてその後、オリオン財団という団体の支援によって、”兄と同じようにロシアで友達とサッカーしている”...

 

 

「(一星君は確か、ロシアの少年サッカーチームでプレーしていたんだよね....)」

 

 

こんな偶然の一致なんて、あり得る....?

一星という珍しい苗字、ロシア、そしてサッカーという共通点...

 

これ以上は踏み込んではいけない...両親を亡くし、兄と離れ離れになった経験のある私。

そんな経験をしているからこそ、私の心がこの先へ踏み込んではいけないと警告している気がする。

 

 

「っ.......ハァ......ハァ..............と、とにかく先輩にはこのことを伝えないと。」

 

 

でも、電話で話せる気がしない...私はそう思い、メールにURLのリンクと簡単な内容を記載して送信する。

もし私の考えていることが正しかったら、一星君は.......

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

ピロンッ!

 

 

「...........やっぱりそうだったか。」

 

「どうしたんですか?」

 

「ああ.......野坂、悪いが俺やることができた。日本に帰っても付き添いは無理だ。」

 

「いえ、大丈夫ですよ。既にある程度は回復していますから、日本でしっかりリハビリします。」

 

「ああ、頑張れよ。」

 

「はい。....嵐山さんも気を付けて下さいね。」

 

「ふっ...お前に心配されるとはな。」

 

 

そんな冗談を言いながら、俺は日本に帰った後のことを考える。暫くは忙しくなりそうだ。

ネオジャパンの奴らには悪いが、もう少し特訓していてもらおう。

 

 

「一星充....そして一星光....日本が優勝するためにも....解決しなくちゃいけないよな....」

 

「一星君ですか。」

 

「ああ...」

 

「なにやら事情があるみたいですね。僕も力になりますよ。」

 

「おう、サンキューな。....ちょっと飲み物買ってくるわ。野坂も何か飲むか?」

 

「ではお汁粉を。」

 

「アメリカにはねえだろ...多分...」

 

 

そう言いながら席を立ち、近くに売店か自動販売機があるか見渡す。

どうやら売店はあるようだが、自動販売機は無いみたいだな。

少し散歩がてら、歩いてきますか。

 

 

「地図的にはあっちに....」

 

ドカッ!

 

 

「「おわっ!」」

 

 

地図を見ながら歩いていると、前から近付いてきていた人に気付かずにぶつかってしまった。

どうやら俺と同い年くらいの男の人みたいだ。とりあえず俺の不注意だし、謝らないとな。

 

 

「すみません、ぶつかってしまって。」

 

「ふん...気を付けな。」

 

「おい、デザスト!」

 

「チッ....うるせえぞ、ウィンディ。」

 

 

こいつ、結構態度悪いな。悪いのは俺だが、さすがにその態度は頭にくるぞ。

後ろにいた髪の長い奴もこいつの知り合いみたいだが、そっちはこいつを叱ろうとするくらいには礼儀があるみたいだな。

 

 

「今のはお互い様だったろ。お前も謝れ。」

 

「ふん...その必要性を感じないな。そんなに言うならお前が代わりに謝っておけよ、ウィンディ。」

 

「なっ!?お前!幼馴染だからってそこまでしてやる義理は無いぞ!」

 

「ふん...別に俺はお前とロココを幼馴染だなんて思ってねえよ。」

 

「くっ....!」

 

 

「お前ら!なにやってるんじゃ!」

 

 

俺を忘れて二人が喧嘩になっていると、奥からオレンジ色のキャップを被った爺さんが走ってきた。

何かこの人、円堂が爺さんになったみたいな雰囲気を感じるな...

 

 

「ごめん、ダイスケ。デザストが...」

 

「あ!?俺は悪くねえって言ってんだろ!」

 

「ったくお前らは.......おい、あんた。二人が悪かったの。」

 

「い、いえ...」

 

 

なんだか拍子抜けしてしまった。

というかこの人と話していると、まるで祖父ちゃん祖母ちゃんと話してるみたいで落ち着くんだよな。

 

 

「ん....お前さん、もしかして嵐山隼人か?」

 

「え?あ、はい、そうですけど....どこかでお会いしたことありましたっけ?」

 

「.......そうか、お前が.......」

 

「.....?」

 

「活躍は耳にしていたが、姿は知らんかったのでな。お前さん、サッカーは好きか?」

 

「....はい、好きです。サッカーは祖父ちゃんが俺に遺してくれた大切なものだから。それに俺、サッカーのおかげで友達もできて、今が楽しいから。」

 

「.....ふっ、そうか。その大切なもの、これからも大事にするんじゃぞ。」

 

「は、はい.....(この人、本当誰なんだ...?)」

 

「ところでお前さん、何でこんなところにおるんじゃ?日本代表はまだアジア予選中じゃろ?」

 

「え?あー、俺日本代表じゃないんで。」

 

「........何じゃと!?」

 

 

俺の言葉に、爺さんは心底驚いていた。

この爺さんは俺のこと知っていて、俺が日本代表だと思っていたのか。

 

 

「(隼人が日本代表じゃないとは....これは驚いたわい。そうなると守のことも心配じゃが....まああ奴のことじゃ、心配いらんじゃろ。)」

 

「でも俺、日本代表を諦めたわけじゃないです。」

 

「っ!(全く...宗吾と同じように目を輝かせて....いつだってサッカーに全力だったあいつが懐かしいわい。)そうか、それなら儂たちはてっぺんで待っておるぞ。」

 

「えっ?」

 

 

爺さんは俺の疑問に応えることなく、この場を去っていく。

それに釣られるように、ウィンディと呼ばれていた少年も俺に一礼してから去っていく。

 

 

「あ、あの!あなたの名前は?」

 

「.......ダイスケ。荒谷ダイスケじゃ。」

 

「ダイスケ......」

 

「ほれ、行くぞ。」

 

「はい。...デザスト、行くぞ!」

 

 

 

二人が歩いていくけど、なぜかデザストと呼ばれていた男はじっと俺を見ていて動かない。

さすがにそんなにじっと見つめられると気恥ずかしいんだが...

 

 

「ふん...お前がダイスケの言っていた嵐山隼人か。」

 

「はぁ...」

 

「....俺の名はデザスト・サンダーゲート!コトアール代表リトルギガントの最強ストライカーだ!俺はこの世界大会で、必ずお前を倒す!だから必ず勝ち進んでこい!いいな!」

 

「お、おう。」

 

「ふん....じゃあな。」

 

 

そう言って、デザストもこの場を去っていく。

何だが嵐みたいな奴だったな....

 

 

「嵐山さん!」

 

「っ!野坂、どうした?」

 

「どうしたって....なかなか帰ってこないからどうしたのかと。」

 

「あ、すまん。少し人と話していてな。」

 

「そうでしたか。それより、そろそろ搭乗の時間ですよ。」

 

「お、マジか!じゃあ飲み物は諦めてもう行くか!」

 

「お汁粉は無しですか...残念です。」

 

 

いや、それは絶対ないって....

それにしても、デザスト・サンダーゲートか。

コトアール代表って言ってたけど、コトアールなんて聞いたことも無かったな。

でも見ただけでわかる。あいつはヤバい。どんなサッカーするのか、ワクワクするぜ。

 

 

 

 

.




デザスト・サンダーゲート

がっつりオリキャラです。コトアールは各キャラがそれぞれモチーフとなるキャラがいますがこの子は当然、オリ主(嵐山)がモチーフです。

名前の由来は、嵐っぽい名前にしたくて考えた結果です。
後半はまあ...そのままです。匂わせです。

活躍はもっともっと先ですが、嵐山との接点を作っておくという意味合いで出ています。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

驚異のヒプノシス

豪炎寺 side

 

 

『さあフットボールフロンティアインターナショナル、アジア予選!本日は日本の第二試合が行われます!日本代表イナズマジャパン!対するはオーストラリア代表シャイニングサタンズ!日本代表はエースストライカー豪炎寺修也を欠いた状態で試合に臨みます!果たして試合の結果がどう転ぶか!間もなくキックオフです!』

 

 

「あれがオーストラリア代表、シャイニングサタンズか。」

 

「な、なんだか不気味な雰囲気っス...お、俺トイレに行きたくなってきたっス...」

 

「大丈夫だよ、壁山君!一緒に頑張ろ?」

 

「の、のりかさん.....は、はいっス...!」

 

 

確かにあれは不気味だな...どことなく、尾刈斗中と似た雰囲気を感じる。

 

 

「オーストラリア代表シャイニングサタンズ。キャプテンのサタン・ゴールが実質のエースストライカーのようだ。彼らと対戦したチームは皆、それ以降に調子を崩すと言われている。」

 

「な、なんだそれ...」

 

「正直確証は無いが、彼らはヒプノシスと呼ばれる技術を使っているという情報がある。」

 

「ヒプノシス....?」

 

「まあ端的に言うと催眠術だ。」

 

 

催眠術...か。ますます尾刈斗中を思い出すな。

あの時は嵐山がキーパーの動きに惑わされないよう対策したり、円堂が大声で催眠術を解いたりして勝った。

あれはトリックが分かりやすかったから何とかなったが...彼らは一体どんなトリックを使うのだろうな。

 

 

「催眠術とは思い込みだ。脳が思い込みして錯覚を引き起こす。」

 

「つまり、相手がやっているのは催眠術だ!...って考えていれば問題無いってこと?」

 

「いや、それもダメだろうな。あれは催眠術だ、と思い込んで錯覚を引き起こすこともあるだろう。」

 

「そ、それって対策のしようがないんじゃ...」

 

「ああ。だから対策を考える必要はさほどない。俺たちがいつも通りのプレーをすれば問題無い。」

 

「き、鬼道さん...簡単に言うっスけど、俺たち雷門中は尾刈斗中との試合も結構苦労したっスよ?」

 

「ふっ...それはお前たちがまだ弱かったころの話だ。今のお前なら大丈夫だ、壁山。」

 

「鬼道さん...」

 

 

鬼道の奴、ミーティングの時はかなり思いつめていた様子だったが、今はいつもと変わらないな。

どうやら何か吹っ切れたようだが、鬼道は一人で抱え込むタイプだから心配だな。

 

 

「皆さーん、今日のスタメンを発表しますよ~。」

 

 

監督のその言葉に、全員が監督の方に向き直る。

さて、今回はどんなメンバーが選ばれているだろうか。

 

 

「それでは発表しま~す。フォワード、吉良君、灰崎君。」

 

「おう。」

 

「ふん。」

 

「ミッドフィルダー、鬼道君、不動君、基山君、一星君。」

 

「っ!...はい。」

 

「ふっ...」

 

「「はい!」」

 

「やったな、一星!」

 

「はい、ありがとうございます円堂さん!」

 

 

ここで一星が選ばれたか。鬼道はかなり警戒しているようだが、果たしてどうなるか。

 

 

「ディフェンダー、壁山君、風丸君、吹雪君、水神矢君。」

 

「は、はいっス!」

 

「「「はい。」」」」

 

 

「そしてキーパー、円堂君。」

 

「はい!」

 

「以上のメンバーで戦っていきますよ~。」

 

「最初に言ったように、相手はかなりトリッキーな戦術を使ってくる。しかしいつも通りのプレーを徹底すれば問題無く戦えるはずだ。鬼道や不動の指示はもちろん、自分で状況を判断して動くことを意識しろ。」

 

「コーチの言う通り、ポジションに縛られることはありません。皆さんが思ったようにプレーして下さい。」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

『さあ選手たちがフィールドに散らばっていきます!...おっと!日本代表、豪炎寺が怪我で離脱した影響かスターティングメンバーを変更してきました!この変更がどう試合に影響してくるでしょうか!』

 

 

「ふっ...日本代表か。お手並み拝見といこうじゃないか。」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『さあ試合開始です!先攻はオーストラリア代表!サタンのキックオフで試合が開始です!』

 

 

「行くぞ、アスモ。」

 

「はい。」

 

 

相手ボールで試合が始まった。

まずはチームの中心であるというサタンがドリブルで上がっている。

相手は催眠術を扱うチーム...選手だけでなく、ベンチにいる監督や控え選手にも注意しなくてはな。

 

 

「よし...灰崎、吉良!9番をマークだ!」

 

「おう!」

 

「はっ!任せな!」

 

「くくく...俺相手に二人か。」

 

「ふん...お前ごとき、一人でも十分だぜ。」

 

「くくく...どうやらこの俺の力を甘くみているようだ。」

 

 

灰崎と吉良がサタンのマークについた。

なにやら話しているようだが声は聞こえない。

すると突如、サタンが両手を大きく広げるような動きをしだした。

 

 

「っ、なにしようと...」

 

「おい灰崎!気を付けろ!こいつらは催眠術を使うんだぞ!」

 

「っ!まさかこれが!」

 

「くくく...少しは俺たちのことを調べているようだが....俺たちは何もヒプノシスだけで戦ってきたわけではない!食らうが良い!”ライアーアイ”!」

 

「「っ!?」」

 

 

「.....なにも起きねえ?」

 

「何だったんだ..?」

 

 

な、なにをしているんだ灰崎、吉良!?

何故サタンが二人の真ん中を突っ切っているのに動かない!?

 

 

 

『おおっとどうしたことか!?吉良、灰崎!サタンがど真ん中を突っ切っているのに動かない!』

 

 

「「なにっ!?」」

 

「一体何が....っ、不動!」

 

「わかってる!」

 

 

サタンが両手を大きく広げた後、右手を右目の位置に持っていった後だ。

その後は普通にサタンがドリブルで灰崎と吉良の真ん中を突っ切っていっているのに、灰崎と吉良はまるでサタンが動いていないと思っているかのように振舞っていた。

 

 

「(まさか、今のがヒプノシス...!)」

 

 

「止める!」

 

「ヒプノシスだか催眠術だか知らねえが、オカルトはそこまでだぜ!」

 

「くくく....これは紛れもなく俺の必殺技なのさ。”ライアーアイ”!」

 

「「っ!」

 

 

ふたたびサタンが同じ行動を起こした。

すると今度は鬼道と不動の動きが固まり、二人を悠々とサタンが抜き去っていく。

完全に抜き去ってから、鬼道と不動はその異変に気付いた。

 

 

「なっ!?瞬間移動...だと...!?」

 

「んだそりゃ!?確かに今そこに...!」

 

 

一体何なんだ、あの必殺技は...いや、必殺技なのか...?

直接対峙していない奴らや、ベンチから見ている俺たちから見るとサタンが普通にドリブルしているようにしか見えない。

とすると、やはりあれはヒプノシスの類.....

 

 

「あ、あれ!?いないっス!?」

 

「ば、馬鹿な...!」

 

 

ついには壁山と風丸も抜かれてしまい、サタンが円堂と1対1の状況となった。

全員がこの状況に戸惑っているが、円堂はサタンを見据えてしっかりと構えている。

 

 

「さあ、来い!」

 

「くくく...いいね、その熱さ。でも俺の前では全てが無力さ。はああああああああ!”タイムトランス”!」

 

「させるか!”怒りの鉄槌”!」

 

 

「っ!?円堂!まだだ!」

 

「えっ?」

 

 

バシュン!

 

 

『ご、ゴーォォォォォォォル!先制点はオーストラリア代表、シャイニングサタンズ!円堂、まだサタンがシュートを放っていない状況で必殺技を発動!一体どうした日本代表!今日はまるで動きが噛み合っていません!』

 

 

 

今のは...なにが起こったんだ...?

サタンがシュート体勢に入った瞬間、円堂は”怒りの鉄槌”を発動した。

だが当然、サタンはまだシュートを放っていないから、円堂は何もない場所を空ぶった。

そしてその隙に、サタンがシュートを放ってゴールを決めた....

 

 

「ど、どうして円堂さんはあんなに早く必殺技を...」

 

「これもヒプノシスだというの...?」

 

「嘘だろ...尾刈斗中の比じゃねえぞ、これ..」

 

 

試合開始早々のこの状況に、ベンチにも動揺が走っていた。

俺もさすがにこれには動揺を隠せないでいた。

奴らに対面しているみんなにしかわからないんだろうが、はたから見れば何のおかしさもない。

むしろ、おかしいのは日本代表の方に見える。

 

 

「っ....みんな!まだ試合は始まったばかりだ!まずは1点取り返すぞ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

「(ふっ...相変わらず気持ち悪いやり方だぜ。だがこの調子なら日本代表はここで敗北する。これで光が助かるんだ...!)」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

 

『ご、ゴーォォォォォォォル!先制点はオーストラリア代表、シャイニングサタンズ!円堂、まだサタンがシュートを放っていない状況で必殺技を発動!一体どうした日本代表!今日はまるで動きが噛み合っていません!』

 

 

おいおい...いきなり先制点を取られてるじゃねえか。

それにしても今の動き、ちょっとおかしくないか?

サタンの動き、実際にボールを蹴っているような動きをしているのに、ボールが蹴られていない。

こうやって試合中継の俯瞰的な視線で見ると、明らかにおかしな動きをしている。

 

 

「これは....目の錯覚という奴ですか?」

 

「ああ、だろうな。最初に本当にボールを浮かせることで、シュートを打ってくると脳は思う。そしてそこにボールを蹴ったフリという挙動を挟み込むことで、完全にシュートが飛んできたと錯覚している。」

 

「なるほど...これが”タイムトランス”の正体ですか。」

 

「これはベンチからでもなかなか気付けないかもな。」

 

 

こういうからめ手を使ってくる奴、円堂は苦手だろうな。

何とか対応してほしいとは思うが....監督が気付きそうなもんだけど、あの人は動かないだろうな。

 

 

「運転手さん、会場まではあとどれくらいでつきそうですか?」

 

「う~ん...この渋滞だからねえ....あと30分はかかるんじゃないかな。」

 

「どうします?僕は無理ですけど、嵐山さんならここから走った方が速いのでは?」

 

「まあそうだな....もう少し様子を見てから判断する。」

 

 

俺がこの情報を持っていけば、確かにあいつらは対策できるだろう。

だけど、本当にそれでいいのか?チェアマンが言っていたじゃないか。

俺がいることで、あいつらの成長を妨げていると。世界で戦うためには、俺を頼るのを辞めなければいけないと。

 

 

「(でも...それでもしここで負けたら.........どうすればいいんだ....)」

 

 

円堂、みんな...頼む。

何とかトリックに気付いてくれ....!

 

 

.




タイムトランスの解釈は本作のオリジナル設定です。
(だって原理とか解説されてないし....)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

嘘と真実

豪炎寺 side

 

 

皆戸惑いを隠せないまま、日本ボールで試合が再開した。

灰崎はボールを鬼道へ渡してから、吉良と共に前線へとあがっていく。

攻撃であれほどの動きを見せたが、守備は一体どう仕掛けてくる...?

 

 

「中央突破を計る!相手がなにを仕掛けてくるかわからない!全員気を付けて行け!」

 

「くくく...行きますよ。」

 

 

ボールをキープしながら指示を出す鬼道の前に、相手フォワードのサルが走り寄ってきた。

特に変な動きはしていなさそうだが、尾刈斗中のように声や音で催眠術をかけてくる可能性もある。

鬼道、気を付けろよ...!

 

 

「俺が止められるかな?」

 

「ほう、では止めて御覧に入れましょう。」

 

「ふっ....甘い!」

 

「っ!」

 

 

サルが密着するように鬼道のマークに付くが、鬼道はサルに背中を向けてボールを守るようにキープする。

さらにその状態で相手の逆を突いて回転し、そのままうまく抜き去っていった。

 

 

「甘いのはお前だ!」

 

「残念でしたね。」

 

「っ!」

 

 

だが鬼道が抜いていった先には、サタンとアスモが立ち塞がっていた。

どうやらサルが抜かれたのは誘導だったようだ。

オーストラリア代表、ヒプノシスが無くともかなりやるようだ。

 

 

「(だが...鬼道、お前なら抜ける!)」

 

 

「悪いが、何も甘くはないさ!俺は突き進む!自分が信じた道を!”真イリュージョンボール”!」

 

「「っ!」」

 

 

『鬼道、さらにサタンとアスモも抜き去った!華麗なドリブルで3人抜きです!このまま攻めていけるか、日本代表!』

 

 

「ベリアル、アムドゥ!止めろ!」

 

「「了解!」」

 

 

「ふっ....基山!」

 

 

サタンの指示により、ベリアルとアムドゥが鬼道へと走り寄っていく。

だが鬼道はそれを読んでいたのか、二人が寄ってきたことによってできた隙間にパスを出す。

そしてそれを基山が受け取り、がら空きのフィールドを駆けあがっていく。

 

 

「しまった!」

 

「くっ...!」

 

 

基山は完全にフリーとなっており、そのままゴール前へと駆けあがっていく。

だがその前に、最後の砦であるディフェンダーのベルフェゴールが立ち塞がった。

 

 

「これ以上は進ません!”デーモンカット”!」

 

「ぐっ...!」

 

 

『おっと、残念!基山がゴール前まで突き進みましたが、ベルフェゴールの”デーモンカット”によってボールが吹き飛ばされてしまいました!.......いや!これは!』

 

 

「ふっ...」

 

「なにっ!?」

 

「っ、いつの間に!?」

 

 

ベルフェゴールの”デーモンカット”に遮られ、ボールはオーラによって少し後方へ弾き飛ばされた。

だがそれを予測していた鬼道がボールをダイレクトに受け取り、基山を止めて油断していたベルフェゴールを悠々と抜き去っていく。

 

 

「行くぞ!」

 

ピュィィィィィィィ!

 

 

「あ、あれは!」

 

「っ!鬼道の野郎...!」

 

 

「ふっ!”オーバーヘッドペンギン”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「くっ、させるか!”太陽のギロチン”!」

 

 

鬼道が完全にフリーの状態で”オーバーヘッドペンギン”を放った。

灰崎とはペンギンの色が異なり、俺たちのよく知る色で放たれている。

シュートはキーパーのパズズが発動した”太陽のギロチン”にぶつかり、そのオーラの壁をぶち破ろうと激しく揺れていた。

 

 

「ぐっ...!(馬鹿な...何て威力だ!こんなシュートを打てる選手が日本なんかに...)ぐあああああああああ!」

 

 

『ゴーォォォォォォォル!日本代表、1点を奪い返しました!これで1vs1の同点!試合が振り出しに戻りました!』

 

 

 

「ふっ...鬼道の奴、さらに進化しているようだな。(...まるで隼人を見ているかのような気持ちだ。)」

 

「ナイスです、鬼道さん!」

 

「チッ...俺のシュートをパクりやがって。」

 

「ふっ...弟子のシュートを打てない師匠はいないだろう。」

 

「っ、誰が弟子だ、誰が!」

 

「さあ、これで同点だ!まだ試合は始まったばかり!この調子で攻めていくぞ!」

 

「「「「「おう!!!」」」」」

 

「(チッ....今ので日本が勢いづいたか....くそ、あいつら役に立たない連中だ...!やはり日本代表を潰すには、チームの中心である鬼道を潰すしかない!)」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「サタン様。」

 

 

日本が同点に追いつき、オーストラリア代表ボールで試合が再開した。

サルがサタンへとボールを渡すと、サタンはその場に立ち止まり動かない。

何故立ち止まっている...?なにかしようとしているのか?

 

 

「くくく.....カカカ......」

 

 

な、何だ...?サタンが突然、不気味な動きをし始めた。

首がカタカタと揺れ始め、先ほどまではなぜか左側に頭が傾いていたが、今は右側に傾いている...?

それにどういう原理か、髪の色が変わった...?

 

 

「ふっ....僕の出番だね。さあ、君たちに恐怖と絶望を与えてあげよう。」

 

「な、何だこいつ...」

 

「口調が変わった...?」

 

「ふふ...さあ、僕の力を思い知るが良い。”トゥルーアイ”。」

 

 

ふたたび、サタンが両手を左右に広げながらポーズを取り、目を光らせる。

試合開始直後に発動していた”ライアーアイ”と同じような動きだが、今度は左手を左目の位置に持っていった。

するとどういうことか、フィールド上に複数のボールがあらわれ、ボールを持つ選手が全員ドリブルであがり始めた。

 

 

「な、なにが起こっている!?」

 

「どうしてボールがこんなに!?」

 

 

ボールが突如増えたことに鬼道たちが戸惑っているが、なぜか灰崎と吉良だけは戸惑っていない。

いや、戸惑ってはいるがボールが増えたことではなく、周りの反応に戸惑っている...?

 

 

「どれが本物かわからないが....幸いボールは合計5つ!全員で全てに当たってボールを奪取する!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

鬼道の指示で、灰崎と吉良を除く全員が四方に散らばっているボールを持った選手へと走り寄っていく。

 

 

「なっ!?おいお前ら!何をしてやがる!」

 

「何でボールを持ってるこいつにマークしないんだ!」

 

「なにを言っている、灰崎、吉良!」

 

「ぼ、ボールは四方に散らばってるっスよ!?」

 

「「はぁ!?」」

 

 

な、何だ?一体何が起こっている...?

 

 

「ふふ...僕が真実を映す瞳によって、みんなに真実を見せているだけさ。」

 

「真実だと!?」

 

「一体何をしやがった!」

 

「ふふ.......カカカ....!」

 

「「っ!?」」

 

「くくく....俺の使う”ライアーアイ”はその目を見たものに嘘を教える。...カカカ...!...僕の使う”トゥルーアイ”はその目を見たものに真実を教える。」

 

「っ!つまり俺たちが見ているものが本当ってわけか!」

 

「じゃあ今ボールを持っているお前をぶっ倒せば終わりだ!」

 

「ふふ....」

 

「「なっ!?」」

 

 

灰崎と吉良は、ボールを持っているサタンへと突っ込んでいくが、二人はサタンとぶつかった瞬間サタンをすり抜けた。

 

 

「ふふ...真実を見せるとは言ったけど、見えているものが真実とも限らない。」

 

「な、何だそれ!」

 

「意味わからねえ!」

 

「ふふ......さあ、もう一度ゴールを決めさせてもらうよ?」

 

パチンッ!

 

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

 

サタンが指を鳴らした瞬間、先ほどまで見えていたボールが全て消えてなくなった。

さらにフィールド中央付近にいたサタンの姿が消えたと思えば、いつの間にかゴール目の前に移動していて、円堂と1vs1の状況になっていた。

 

 

「なっ!?」

 

「な、なにが起こったッスか!?」

 

「っ、キャプテン!」

 

「円堂さん!」

 

 

「っ....来い!」

 

「ふふ...君を幻の世界へ招待しよう。”タイムトランス”。」

 

 

「たあああああああ!”怒りの鉄槌”!」

 

 

っ、ダメだ!やはりまたタイミングがずらされている!

 

 

「くっ......うおおおおおおおおおおおお!」

 

「っ!」

 

 

ふたたびタイミングをずらされ、円堂は”怒りの鉄槌”を空振りした。

だが気合でもう一度動きだし、ボールの方に向かってジャンプしたことでボールをキャッチした。

だがシュートの勢いは止まらず....

 

 

「ぐっ......ぐあっ!」

 

バシュン!

 

 

『ゴーォォォォォォォル!オーストラリア代表、追加点!決めたのはサタン!またしてもこの男がゴールを決めました!果たして日本代表はこの男を止めることができるのか!』

 

 

「ふふ...無駄さ。ボールに食らいついたのは驚いたけど....君たちはここで負ける。」

 

「っ....ちくしょう....!」

 

 

これがオーストラリア代表の実力....!

このままでは日本は負ける.....何とかしなければ...!

 

 

 

「円堂おおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「「「「「っ!!!!!」」」」」

 

 

この声は....!

俺たち日本代表は全員、声がした観客席の方へと目を向ける。

 

 

 

「あ...........嵐山......!」

 

 

そこには隼人の姿があった。

隣には王帝月ノ宮の野坂の姿もある。

あいつ....いつの間に日本に戻ってきていたんだ...!

 

 

「円堂!下向いてんじゃねえ!最後まで諦めないで戦う!それが雷門魂だろ!そんなイカサマ野郎どもになんか負けんじゃねえ!」

 

 

「へえ...僕たちがイカサマ野郎...ね。....カカカ!...面白いじゃねえか。俺たちに喧嘩売ってタダで済むと思ってんのか?」

 

 

「うるせえ!日本は負けない!なあ、そうだろ!円堂!」

 

 

「...........ああ!絶対に勝つ!だからそこで見ていてくれ、嵐山!」

 

「おう!」

 

 

円堂の言葉に、隼人は満面の笑みを浮かべながら親指をたてた。

相変わらず...あいつは俺たちに勇気を与えてくれる。戦う力を与えてくれる。

円堂が隣を歩いてくれるなら、隼人はその背中を押しながら前を走っていく。

 

 

「みんな!もう俺はゴールを破らせない!だから攻撃は任せた!」

 

「いつもの円堂に戻ったな。」

 

「キャプテン....俺、頑張るっス!」

 

「ふふ...嵐山君とキャプテンの絆が見えた気がするよ。」

 

 

「....お前たち!ゴールは円堂に任せる!だから全員で全力で攻めるぞ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

「(チッ...あれが嵐山隼人か。鬼道を潰せば問題無いと思ったが...あいつの影響力はマズイ。何とかしなくちゃ....光は...!)」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

「何とか間に合いましたね。それにあなたの言葉で、折れかけていた円堂さんの心にふたたび火が灯った。」

 

「別に....俺の言葉でそうなったわけじゃないさ。円堂はいつだって諦めない。何度だって挑戦して、そして最後には目標を達成する。必ずな。」

 

 

俺はそんな円堂をずっとそばで見守ってきたんだ。

ずっとがむしゃらに練習を繰り返し、ついに世界の舞台で戦うことになった。

そんな燃える状況で、あいつが途中で終わるなんて絶対あり得ない。

 

 

「おーほっほっほ。来たんですね、嵐山君。」

 

「....すみませんね、監督。結局俺、我慢できませんでした。」

 

「おーほっほっほ。問題ありませんよ~。ついでですから、何かアドバイスでも送ったらどうです?」

 

「ふっ...やっぱり俺が来ることも計算済みだったみたいですね。」

 

「おや、何のことやら。」

 

 

全くこの人は....監督ならもっと選手に声をかけてほしいけど。

...いや、俺が知る監督ってみんなそんなものか。

響木監督は無口だし、瞳子さんは基本俺に任せてくれてたからな。

 

 

「円堂!お前、あいつのシュートが止められないんだって?」

 

「ああ....でも何とかしてみせる!」

 

「ああ、お前なら何とかするって分かってるよ!.....でも、もしタイミングがずらされて必殺技が空ぶるんだったら、空ぶらないようにすればいいんじゃないか?」

 

「嵐山さん....それができたら今のようにはなってないんじゃ...」

 

「野坂、そうじゃないよ。」

 

「えっ?」

 

「お前、止めようとして必殺技使ってるだろ!それ辞めろ!」

 

「えっ!?なに言ってるんだよ、嵐山!」

 

「止めようとして空ぶる必殺技を使うんじゃない!空ぶらない必殺技を使うんだよ!」

 

「止めようとして空ぶる必殺技じゃなくて、空ぶらない必殺技を使う....」

 

 

ピピピピピ!

 

 

「ちょっと君たち!そろそろいいかい?」

 

「あ、すみません!」

 

 

審判の注意を受けたので、円堂はフィールドへと戻っていく。

さて、円堂は俺の言葉の意味を理解してくれたかな。

さあ...ここからが勝負だぞ、日本代表!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幻を打ち破れ!

円堂 side

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『さあ日本代表ボールで試合が再開!前半も残り僅か!1vs2のビハインドで前半が終了するか!それとも日本代表がゴールを決めて追いつくか!』

 

 

 

「へへ....(嵐山が戻ってきてくれた。そして今、俺たちのことを見守っていてくれている。)」

 

 

俺はこの前半、二度も同じシュートを決められてしまって、日本の守護神として情けない姿を見せてしまった。

鬼道がせっかく点を取ってくれたのに、もう一度突き放されてしまったら、チームの気持ちが折れてしまう。

もう俺はゴールを破らせない!絶対にゴールを守って見せる!

 

 

「鬼道!」

 

「よし!灰崎、吉良!前線へ進め!不動、一星、基山はボールをキープしつつ、灰崎と吉良へボールを持ち込め!」

 

「はい!」

 

「おう!」

 

「(チッ...)はい!」

 

 

鬼道の指示で、灰崎と吉良が前線へ駆けあがっていく。

それに続くように、鬼道、不動、一星、基山が横並びであがっていく。

 

 

「ふふ...僕たちの恐ろしさがまだ伝わっていないみたいだね。」

 

「ええ、サタン様。我々の力を思い知らせてやりましょう。」

 

「ああ。やれ、サル。」

 

「はっ。」

 

 

鬼道がボールを運びながら走っていると、相手フォワードのサルと数人が鬼道の前に立ち塞がった。

そしてそいつらは両手を上に上げて、何かをつぶやいているように見える。

 

 

「くくく....幻の世界へ誘いましょう。必殺タクティクス、”インビジブル”。」

 

「っ...霧....?」

 

「これで視界を奪おうってか!」

 

「気を付けろ、みんな!」

 

 

突然、フィールドに霧が立ち込めた。

霧はすぐに消えたんだけど、若干辺りが見辛くなっている。

 

 

「(足元にボールの感覚は.....っ!?な、何故だ!?いつの間にかボールが無くなっている!?)」

 

「なっ!?」

 

「鬼道の足元からボールが消えた!?」

 

「何なんだこれは!?」

 

 

「くくく...これが我々の必殺タクティクス。」

 

「これがタクティクスだと...!?」

 

 

「くく...サタン様!」

 

 

いつの間にかボールを奪っていたサルから、ふたたびサタンへとボールが渡った。

サタンはボールを受け取ると、その場で立ち止まって首を揺らし始めた。

 

 

「カッ...カカカ...!...カカカカカ!」

 

「な、何だ!?」

 

「くくく...!マロの力、存分に味わうが良いぞよ!」

 

「ま、また見た目と喋り方が変わった...!」

 

 

「マロがゴールを決めて、ハットトリックじゃ!」

 

「そうはさせるか!」

 

「ここは通さない!」

 

 

また変化したサタンにみんな戸惑っていたけど、風丸と吹雪がすぐにサタンを止めに行った。

でもサタンは余裕そうな態度で、両手を広げて右手を左目、左手を右目の位置まで持ってきた。

 

 

「マロの前にひれ伏すが良い!”イビルアイ”!」

 

 

サタンが叫んだ瞬間、辺りが光った。

光が収まると、サタンが走りこんできていて、風丸と吹雪を抜こうとしている。

....ただ光っただけで、さっきと何も変わってない....?

 

 

「(...あれ?でもさっきは風丸が右で、吹雪が左だったような...)」

 

 

そう思いながら、いつサタンがシュートを打ってきてもいいように構える。

 

 

「ここで止める!」

 

「くくく...マロは止められぬ!」

 

 

まず先に風丸がスライディングを仕掛けた。

それをサタンが右に避けたけど、そっちには吹雪がいる!

 

 

「っ、しまった!」

 

「えっ!?吹雪!?」

 

 

だけど吹雪はサタンの方じゃなくて、その反対側へ走っていく。

何かがおかしいと思って、俺はディフェンスに指示を出そうと右手を前につき出した。

でも、俺の目には俺が左手を突き出しているように見えていた。

 

 

「っ!?(な、何で!?)」

 

 

でも、他のみんなは普通にプレーしている。

もしかしてこれ...俺だけが催眠にかかってる!?

 

 

「っ!ぬ、抜かせないっス!」

 

「一緒に守ろう、壁山君!」

 

「そうっス!行くっスよ、水神矢君!」

 

「”ゾーン・オブ・ペンタグラム”!」

 

「”超ザ・ウォール”!」

 

 

今度は水神矢と壁山が必殺技を発動して、サタンを止めようとする。

だけどサタンはそれに全く臆することなく突っ込んでいき...

 

 

「マロの前では全てが無力なのじゃ!”イビルダンス”!」

 

「「っ!?」」

 

サタンは二人の目の前で急に立ち止まり、変なダンスを踊り出した。

すると二人は突然その場に膝をつき、必殺技は打ち消されてしまった。

 

 

「くくく!これで3点目!終わりじゃ!」

 

「っ!(来る...!ダメだ!惑わされたら!)」

 

「これで終わりじゃ!マロのシュートを止めるなど、寝ぼけたことを言ったことを悔いるが良い!」

 

「(そうだ...俺は嵐山と、みんなと約束したんだ!もうこれ以上、ゴールは割らせないって!)ゴールは守る!もう絶対、点を取られたりしない!」

 

「ならば食らうが良い!”タイムトランス”!」

 

 

『止めようとして空ぶる必殺技を使うんじゃない!空ぶらない必殺技を使うんだよ!』

 

 

止めようとして空ぶる必殺技を使うんじゃない....空ぶらない必殺技を使う.....

どういう意味なんだ、嵐山....それって同じことなんじゃないのか...?

 

 

「(止めようとして空ぶる....空ぶらない...........)っ!そうか、分かったぞ!」

 

 

俺は嵐山の言っていたことを理解して、右手にパワーを溜める。

そして十分にパワーが溜まると、俺はその場でジャンプして相手に背中を向けるようにして地面に右手を叩き込む。

 

 

「マロのシュートに恐れをなして背を向けおったか!」

 

「っ!いや、違う!」

 

「あれは...!」

 

 

そうだぜ、鬼道!豪炎寺!これが俺の新しい必殺技!

”タイムトランス”を、そして相手の催眠術を打ち破る奥義!

 

 

「”イジゲン・ザ・ハンド”!」

 

 

俺が拳を叩きつけた場所から、ドームのようにオーラが広がっていく。

そしてオーラはゴールに覆いかぶさるように広がった。

 

 

「ふん...なにをしても無駄.....なにっ!?」

 

 

サタンの放ったシュートは、俺の”イジゲン・ザ・ハンド”が作った障壁にぶつかり、そのまま滑っていくようにしてフィールドの外へと弾き飛ばされた。

 

 

「ば、馬鹿な....マロの”タイムトランス”が....!」

 

「そうか...!”タイムトランス”は恐らくヒプノシスによってキーパーのタイミングにズレを生じさせる必殺技。円堂は背を向けることでヒプノシスを攻略し、さらにシュートを待ち構えるのではなくゴールを覆いつくすように守ることで、どこに飛んできても防げるようにしたのか...!」

 

「それが嵐山さんの言っていた、空ぶらない必殺技....ってことですね!」

 

 

へへ...嵐山のおかげで、”タイムトランス”を攻略してゴールを守ることができた!

これならゴールは大丈夫だ....!

 

 

「みんな!ゴールは俺に任せて、攻めていこうぜ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

ピッ!

 

 

「いけええええ!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺のゴールキックで試合が再開。前半ももうあと1分あるかってくらいだ。

前半最後の攻撃のチャンス、何とか同点に追いついてくれ、みんな!

 

 

「よし....前半ラストプレーだ!何としても1点をもぎ取る!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

「行くぞ....必殺タクティクス、”アブソリュートサイン”!」

 

 

ボールを持った鬼道が、フィールドにいるみんなに指示を出していく。

その指示が光の筋となって、みんなの動くべき道を示してくれている。

 

 

「基山!一星!」

 

「はい!」

 

「...ふっ....」

 

 

鬼道が次々と指示を出していく中、一星だけが鬼道の指示とは違う動きをしだした。

それによって、基山や不動の方に相手が集中してしまい、鬼道の指示していた道筋が消えかかっていた。

 

 

「チッ...!あいつ、なにしてやがる!」

 

「待て灰崎!」

 

「っ、だが!」

 

「俺たちの役目を忘れんじゃねえ!」

 

「......チッ....わかったよ!」

 

 

「す、すみません!(くく...これで前半は攻めきれずにタイムオーバーだ!)」

 

 

「ふっ....この動きを待っていた!」

 

 

そう宣言した鬼道は、ボールを大きく打ち上げて後方に戻した。

その先には風丸、吹雪が控えている。

 

 

「行くぞ吹雪!」

 

「うん、風丸くん!」

 

「「”ホワイトロード”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

打ち上げられたボールの周りを風丸が回転し、ボールを覆うように竜巻が発生。

さらにその状態からボールを吹雪が蹴り、まるで嵐山の”風穴ドライブ”みたいに風の中をボールが通って前線へと運ばれていく。

 

 

『これはああああああああ!基山、そして不動に釣られてサイドに寄ったオーストラリア代表の意表を突く、中央からのパスだあああああああああああ!』

 

「何だと!?」

 

 

「(一星...お前がなにを企んでいようと、俺はそれを全て突破していく!お前が戦意をなくすまで、ずっとだ!)決めろ、灰崎!吉良!」

 

 

ボールはそのままがら空きの中央を通って、ゴール前まで駆けあがっていた灰崎と吉良に渡った。

 

 

「はっ!俺様の足を引っ張るんじゃねえぞ!」

 

「当たり前だろ、この野郎!決めんぞ!」

 

 

あれは韓国戦で見せた必殺技...!

あいつら、なんだかんだで完成させてたのか!

二人は互いに交互にボールを蹴りながら上空へと飛んでいく。

そして最後は同時にボールを蹴り落として、シュートを放った。

 

 

「「”ジョーカーレインズ”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

青紫色のオーラを帯びたボールが、オーストラリアゴールへと突き進んでいく。

あのシュート、嵐山や豪炎寺にだって負けてねえ!

 

 

「これ以上の失点は許されん!”太陽のギロチン”!」

 

 

上から炎の壁のようなものが落ちてきて、灰崎たちのシュートとぶつかり合う。

でもシュートの威力はまるで落ちなくて、相手のキーパーも徐々に押し込まれていた。

 

 

「ぐっ...馬鹿な....!日本ごときに....これ以上失点など....!っ、ぐあああああああああああ!」

 

 

『ゴーォォォォォォォル!日本代表、前半残り僅かで同点に追いつきました!』

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『ここで前半終了!試合は2vs2の同点!まだ試合の行方は分かりません!果たして、後半戦を制して勝利するのはどちらのチームか!』

 

 

 

「ナイスシュートだぜ!灰崎!吉良!」

 

「へっ...この程度、余裕だぜ。」

 

「はっ!何て言ったって俺様はゴッドストラ「おーい!円堂!みんな!」...って、おい!嵐山サン!」

 

 

「よっ!さっきぶり!」

 

 

「嵐山さん!...それに野坂も!」

 

「やあ、久しぶりだね稲森くん。それに灰崎くんも。」

 

「....おう。」

 

「なんだよ灰崎!照れてるのか?」

 

「チッ...稲森ぃ...てめえぶっ飛ばすぞ。」

 

 

嵐山...決勝で戦った時からまだそんなに経ってないはずなのに、すごく久しぶりな気がする。

俺にとって嵐山は、いつもそばにいてくれるのが当たり前な存在だったから。

それがこれだけの間離れていたから、いつの間にか寂しくなってたのかな。

 

 

「円堂、ナイスセーブだったな。」

 

「へへ...ありがとな!嵐山のおかげでゴールを守ることができた!」

 

「いや...別に俺は何もしてないよ。お前が自分で答えを導き出したんだ。」

 

「嵐山...」

 

 

「ふっ...それで、ここに来たということは日本代表に参加してくれるということか?」

 

「「「「「っ!!!!!」」」」」

 

「......」

 

 

鬼道がズバッと俺たちの聞きたいことを聞いてくれた。

確かに、嵐山がいてくれたら百人力だし、日本代表になってくれたら嬉しい...!

 

 

「.....悪いけど、まだその時じゃないと思う。」

 

「っ!.....そうか。」

 

「ふっ...」

 

 

「な、何でだよ嵐山サン!」

 

「そうですよ!嵐山さんがいてくれたら俺たち...」

 

 

意外にも、鬼道と豪炎寺は嵐山がそう言うってわかってたのかすぐ納得してた。

逆に永世学園で一緒にプレーしていた基山と吉良は、納得できずに引き下がってた。

 

 

「悪いなヒロト、タツヤ。俺にはまだやることがあるから。」

 

「そんな....」

 

「マジかよ...」

 

「その代わり.....監督!言われた通り、ちゃんと連れてきましたよ!」

 

「おーほっほっほ。さすがは嵐山君。ありがとうございます。」

 

「あの...嵐山さん。ここには僕たち以外いませんけど....」

 

「なに言ってるんだ野坂。お前だよ、お前。」

 

「........まさか、僕が日本代表に?」

 

「おう。」

 

「「「「「ええ~!?」」」」」

 

 

の、野坂って頭の手術したばっかりなんじゃ....そんな状態でサッカーやって大丈夫なのか!?

 

 

「野坂くん。このチームにはあなたの頭脳が必要です。今はプレーしろとは言いませんが、どうです?力を貸してくれますか?」

 

「..........わかりました。嵐山さんがここに連れてきた以上、嵐山さんはこのことに納得してるってことですよね。」

 

「ああ。俺も野坂が日本代表に入ることを望んでいるよ。」

 

「.....わかりました。力になります。」

 

 

「さあみんな!まだ後半も残ってるんだ。頑張れよ!」

 

「嵐山.....おう!」

 

 

 

さあ後半戦もやってやるぞ!

この試合に...いや、この試合だけじゃない!

アジア予選を勝ち抜いて、嵐山が来るまで勝ち残ってやるんだ!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着、そして事件

豪炎寺 side

 

 

「さてと...俺はやることがあるから、先に帰るかな。」

 

「隼人...試合を見ていかないのか?」

 

「うん。ちょっとね....今の内にやっておかないとマズイし、もうあんまり時間もないからね。それに...」

 

「それに?」

 

「俺はこの試合、日本が勝つって信じてるからさ。」

 

「っ!」

 

 

全く....お前と言うやつは....だが、お前の信頼は素直に嬉しい。

俺はこの試合には出られないが、隼人がそう言っているんだ。絶対にこの試合は負けられないな。

 

 

『さあ試合も後半戦へと移っていきます!日本は執念のゴールで同点に追いつき、現在の得点は2vs2!追加点を奪い、この試合に勝利するのは果たしてどちらのチームか!』

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「鬼道!」

 

 

日本ボールで後半戦が開始した。

灰崎が鬼道へボールを渡すと、前半最後と同じように灰崎と吉良が前線へと駆けあがっていく。

対するオーストラリア代表は先ほどの動きを警戒しているのか、灰崎と吉良を徹底マークしている。

 

 

「チッ...うぜえな!」

 

「やっと俺様の力に気付きやがったか!」

 

 

「(やはりマークはきつくなったか。あの二人がマークされている以上、俺か基山がシュートを打つ他無いが....中盤に一星がいるから攻め手に欠ける。どうすべきか...)」

 

 

 

「鬼道さん、攻めづらそうですね。」

 

「ああ。」

 

「一星君がいるからですか?」

 

「っ!....野坂、お前...」

 

「さすがに気付きますよ、あんな動きをしていればね。」

 

 

どうやら野坂も、一星が日本を負けさせようとしていることに気付いているようだ。

やはり頭が切れる。しかし鬼道も苦戦しているな....せめて俺が試合に出て助けてやれたらよかったんだが。

 

 

「おーほっほっほ。鬼道く~ん。」

 

「...?」

 

 

ここにきて監督が動いた。監督はイレブンバンドを指さしながら、鬼道へ声をかけた。

鬼道はその動きに首をかしげながらも、自身のイレブンバンドを見ていた。

 

 

「(ふっ...なるほどな。監督も思い切ったことをする。だがこれも円堂がゴールを守ってくれているからこそ。)....壁山!吹雪!風丸!水神矢!お前たちも前線にあがれ!総攻撃を仕掛ける!」

 

「え、ええ!?」

 

「ふっ...なるほどな。わかった!」

 

「総攻撃か...面白いね。攻撃なら僕も慣れているよ!」

 

「なんだかこの感じ、懐かしいっス!」

 

 

「不動!基山!一星!お前たちも行くぞ!」

 

「はっ!お前に命令されなくてもわかってるっての!」

 

「了解です!」

 

「はい!(チッ...全員攻撃か...円堂守がゴールを守っている以上、確かにそれは最適解か...)」

 

 

「みんなー!!!ゴールは俺に任せて、ガンガン攻めていけー!!!」

 

 

なるほど...円堂が”タイムトランス”を攻略したことで、こういう攻め方もできるようになったのか。

やはりお前が後ろにいてくれる安心感は凄まじいな。

 

 

「くくく...そう何度も抜かせはしませんよ。」

 

「ふっ...ならば今回は抜かないでおこう。水神矢!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ほう...」

 

 

「全員攻撃って...皆さん慣れてるけど、俺は攻撃に回ったことなんてほとんど無いのに...」

 

「大丈夫っスよ、水神矢君!俺と一緒に頑張るっス!」

 

「壁山君.....わかった!やろう!」

 

 

鬼道からボールを受け取った水神矢は、壁山と一緒にドリブルで駆けあがっていく。

壁山は水神矢を守る盾のように、水神矢の前を走っている。

 

 

「ここは通さない!」

 

 

『ドリブルであがる水神矢と壁山の2年生コンビに、オーストラリア代表アスモが立ち塞がった!普段は攻撃に参加しない二人ですが、果たしてアスモを抜くことができるか!』

 

 

大丈夫だ。壁山はこの1年で成長し、臆病なところはほとんどなりを潜めた。

それに水神矢も2年生ながらキャプテンを務めていて、鬼道からも信頼されている。

あいつらならやってくれるさ。

 

 

「壁山君!」

 

「任せるっス!”超ザ・ウォール”!」

 

「なにっ!?」

 

 

壁山は水神矢に声をかけられると、その場で”ザ・ウォール”を発動した。

今は攻撃中だが....どうして壁山はディフェンス技の”ザ・ウォール”を....っ!

 

 

「アスモ!そいつに気を取られるな!ボールはもう動いているぞ!」

 

「なっ!?」

 

「ふっ...ナイスだよ、壁山君!」

 

「水神矢君もナイスフェイントっス!」

 

 

そう、水神矢は壁山が”ザ・ウォール”を発動している間にこっそりと横から抜け出していた。

傍から見れば見え見えの戦法だが、その場でいきなりやられたら引っかかってしまうだろうな。

 

 

「鬼道さん!」

 

ドゴンッ!

 

 

そして水神矢はそのまま鬼道へとパスを繰り出した。

鬼道もいつの間にか中央を突き進んでおり、水神矢のパスを受けてそのまま中央を駆けあがっていく。

 

 

「っ...ベリアル、アムドゥ、アガリア!そいつを止めろ!」

 

「「「はい!」」」

 

「ふっ...釣られたか。」

 

「跳んだ!?」

 

 

サタンの指示を受けた3人に鬼道が囲まれたが、鬼道の様子を見るにそれは予定通りのようだ。

鬼道はその場でジャンプすると、辺りを見渡してパスコースを考えている。

 

 

「受け取れ、風丸!」

 

「ああ!」

 

 

パスコースを確認し、鬼道は風丸へとパスを出す。

だが風丸の近くにはオーストラリア代表のディフェンスがいる。

まあ鬼道のことだ、何か策があって風丸に渡したんだろう。

 

 

「ベルフェゴール、我々で止めるぞ!」

 

「ああ、分かっている!」

 

「(こいつらを抜けばゴール前はがら空き...必ず突破する!)」

 

「「食らえ!”デーモンカット”!」」

 

 

残る最後のディフェンダー、ベルフェゴールとデモゴルゴンが同時に”デーモンカット”を発動した。

二人の”デーモンカット”が重なり、さらに強大な壁となって風丸の進路をふさいだ。

 

 

「(確かに強力な壁だ....でもここで止まってなんていられない!俺たちが目指す世界一になるために!)はあああああああ!」

 

 

 

『これはああああああああああ!風丸がベルフェゴールとデモゴルゴンの周りを縦横無尽に飛び回っているぞ!これは風丸の新必殺技かあああああ!?』

 

 

「(俺は確かに生粋のサッカー選手じゃない...それでも...俺だって雷門イレブンの一員!そして日本代表イナズマジャパン!円堂に...嵐山に....みんなに置いて行かれるわけにはいかない!)これが俺の新必殺技!”風神の舞”!」

 

「「ぐああああああああ!」」

 

 

『抜いたあああああああ!風丸、オーストラリア代表の強靭なディフェンスを突破しました!これでゴール前はがら空き!日本代表、後半早々にチャンスです!』

 

 

「決める!”超マッハウインド”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ふん!止めてみせる!”太陽のギロチン”!」

 

 

風丸が放ったシュートに、相手キーパーが必殺技で対抗しようとする。

だが風丸の放ったシュートはゴールではなく、方向転換して右サイドへと曲がっていった。

 

 

「今のはシュートじゃなくて...」

 

「パスだ!」

 

「なにっ!?」

 

「はあああああああ!”流星ブレードV3”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「くっ!」

 

バシュン!

 

 

『ゴーォォォォォォォォォォォォォル!日本代表、追加点!決めたのは基山タツヤ!風丸のアシストでオーストラリア代表のキーパー、パズズに意表を突く形でゴールを奪いました!』

 

 

「ナイスだ、風丸、基山!」

 

「ああ、決められてよかった。」

 

「さすがのアシストでした、風丸さん!」

 

 

「チッ....(くそ....日本代表がここまでやるなんて聞いてないぞ...!このままじゃ日本が勝ち進んでしまう...!それじゃあ光は...!)」

 

 

これで3vs2か。追加点を奪えたが、まだ後半も始まったばかり。油断はできないな。

だが円堂がゴールを守ってくれている。安心して攻めていけ、みんな!

 

 

「(やはり鬼道....あいつを何とかしなくちゃ...!)」

 

「....(一星が何かを企んでいるようだが....俺は俺のなすべきことをなすだけだ。)」

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

『さあオーストラリア代表のキックオフで試合再開!まだまだ時間は残っているが、果たしてオーストラリア代表はゴールを奪って同点、そして逆転できるか!日本代表はゴールを死守して逃げ切れるか!』

 

 

 

「カカカカカカ....カカッ....マロの邪魔をするでない!ゆくぞ、皆のもの!」

 

「「「「はっ!」」」」

 

「必殺タクティクス、”幻影乱舞”!」

 

 

「っ!また霧!?」

 

「さっきのタクティクスと同じ、目くらましか!?」

 

「くっ...動き回っているのは感じ取れるが、ボールの位置がわからん...!」

 

 

サタンたちが両手を天高く広げると、前半最後に見せたタクティクスと同じようにフィールドに霧が立ち込めた。

フィールドがほとんど見えないほどの濃密な霧の中、複数の人影が入り乱れているのが見えるが...

肝心のボールの位置だけがわからない。最初に持っていたのはサタンだが、この状況じゃサタンがどこにいるのかもわからないな。

 

 

パチンッ!

 

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

 

『ななななななななんとおおおおおおおお!霧が晴れた瞬間、オーストラリア代表のサタン、サル、アスがゴール前にあらわれた!』

 

 

「これが我々の攻撃型必殺タクティクス、”幻影乱舞”ですよ。」

 

「さあもう一度ゴールを奪って、仕切り直しだ!」

 

「マロのシュート、二度も止められると思うてか!」

 

「来い!お前のシュートはもう通用しないぞ!」

 

 

「くくく....ならば試してみましょう。行きますよ、サタン様!」

 

「よかろう!マロたちの力、存分に味わわせてやろうぞ。」

 

 

 

っ!”タイムトランス”の動きじゃない!?

サタンはボールをサルに預けると、アスと一緒に飛び上がり、アスはサタンの手の上に置いてさらに上空へと突き飛ばす。

 

 

「我々がサタン様だけのワンマンチームと思いましたか?我々はサタン様を崇拝しているだけ...我々の力でサタン様を最強にするのです!はあ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「これが我々の最強の必殺技!」

 

 

サルはボールを上空に蹴り上げてからさらにジャンプし、打ちあがったボールに対してサル、アスの二人が横からツインシュートしようとしている。さらにそこにサタンが上から落下する勢いでボールを蹴り落とそうとする。

 

 

「「「”ケルベロスブレイク”!!!」」」

 

 

そして3人が同時にボールを蹴り、シュートが放たれた。

ボールには三つ首の犬....ケルベロスのようなオーラが纏われていて、ものすごいパワーを感じる。

 

 

「止める!”イジゲン・ザ・ハンド”!」

 

 

円堂はヒプノシスを攻略した必殺技である”イジゲン・ザ・ハンド”で対抗する。

円堂が作り出したオーラと、サタンたちの放ったシュートがぶつかり合い、ボールは激しく揺れ動いていた。

オーラの壁はボールが進行するのを防いではいるが、その勢いを抑えることができていない。

 

 

「ぐっ....!」

 

「我々の最強の必殺技、防ぐことなど不可能なのです!」

 

「マロの前にひれ伏すが良い!」

 

 

「っ....止める....!もうこれ以上、ゴールを割らせるわけにはいかない!ここで点を許したら、俺はもう日本代表のゴールは守れない!だから!絶対に止めるんだあああああああああ!」

 

 

「なっ!?」

 

 

オーラがさらに厚く...!円堂の想いに呼応するかのように、円堂のオーラもさらに強くなった!

とてつもない威力だった”ケルベロスブレイク”だが、円堂の想いに呼応した”イジゲン・ザ・ハンド”によってゴールからそらされてフィールド外へと飛ばされていった。

 

 

「ば、馬鹿な!」

 

「我々の最強の必殺技が....破られた....?」

 

「カ...カカ....カカカカカ....あ、あり得ない....この俺のシュートが...カカ...カカカ....僕の完璧な力が.... カカカカカ....マロの力が通じないじゃと.....?」

 

「さ、サタン様、お気を確かに!」

 

「カ...カカカカ......カ............」

 

ドサッ!

 

「「「「「サタン様!!!」」」」」

 

 

シュートを止められたことに動揺したのか、サタンが何度も何度も首を左右に揺らしながら何かをつぶやき、そしてついにはその場に倒れてしまった。その様子にはオーストラリア代表の選手全員が動揺しているようだ。

 

 

『おおっと、オーストラリア代表キャプテンのサタン、その場で倒れて動かなくなってしまいました!オーストラリア代表ディアボ監督、これには溜まらず選手交代を宣言!チームの中心であるサタンが抜け、オーストラリア代表はどう戦うのか!』

 

 

どうやら円堂の活躍で、相手チームに大打撃を与えることができたようだな。

このままの勢いで追加点を取って、この試合の勝利を決定づけろ!

 

 

『さあ、サタンの代わりに13番、ルシ・ファノスが投入されるようです!』

 

 

 

「いいかルシ。もうこうなったら勝利などどうでもいい。代わりに日本代表の選手を潰せ!」

 

「ルシ、了解。」

 

「くくく....!」

 

 

 

何だ...?相手の監督が交代する選手に入念に話しかけているが....

普通の相手であれば気にする事もない普通の行為だが、相手が相手だけに気になる。

 

 

だが話など当然聴けるはずもなく、そのまま交代で入るルシがフィールドに入っていったことで試合が再開されることとなった。試合は円堂のゴールキックからだ。試合時間は残り10数分。このまま逃げ切りたいところだな。

 

 

 

ピィィィィィィィ!

 

 

「よし!みんな攻めていけ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ああ!みんな!もう一度全員攻撃だ!あがれえええええ!」

 

 

ボールは鬼道へと渡り、鬼道の指示によって全員があがっていく。

 

 

「不動!」

 

ドゴンッ!

 

 

「ルシ、ターゲット補足。」

 

「はっ!これまでずっとベンチにいた奴が、この試合の熱についてこれるか?ああ!?」

 

「ルシ、任務を遂行する。」

 

「ふん...甘え!........っ!」

 

 

交代で入ったルシが不動の前に立ち塞がったが、不動は巧みなドリブルテクニックでルシを抜き去った。

だが、抜き去って数歩歩いてから突然、不動がその場に立ち止まってしまった。

 

 

「不動!どうした!」

 

「っ.....ぐっ.....何だ急に.....!」

 

 

そのまま不動はその場にうずくまり、なにやら足を抑えていた。

まさか今のプレー中に怪我をしたのか...?

 

 

「不動!....っ!お前、その足どうしたんだ!」

 

「くっ...わからねえ...急に足に痛みが...」

 

 

不動を心配した風丸が駆け寄ると、不動の足の状態になにやら風丸が驚いていた。

よく見てみると、不動のソックスに切り裂かれたような跡が残っており、皮膚も切れたのか血が滲んでいるようだ。

 

 

「っ...俺のことは良い!まだ試合は動いてる!」

 

「っ!....無理はするなよ!」

 

 

風丸は不動の心配をしながらも、不動の言葉に頷いてボールを受け取り、ドリブルであがり始めた。

しかし一体何が....どうして急に足が切り裂かれたように怪我を...

 

 

「まさか、あのルシって選手.....」

 

「野坂、何か気が付いたのか?」

 

「いえ....たださっき不動さんが相手を抜く時、相手の選手の足の位置が不自然だったように思えるんです。」

 

「足の位置.......っ、まさかスパイクで故意に怪我をさせたというのか...!」

 

「ええ、可能性として考えられます。」

 

「っ....(さっき監督と入念に話していたのはそのためだったということか...!)」

 

「あくまで僕の憶測にすぎませんが....あの交代で入った選手には注意した方が良いかもしれませんね。」

 

「ああ......監督!」

 

「おーほっほっほ。わかっていますよ、豪炎寺君。」

 

 

監督はそう言うと、イレブンバンドを操作して指示を伝えていた。

監督の伝えた指示は、『ルシ・ファノスに近付くな。』か....

 

 

 

「(不動のアレはやはりあの選手が....ならばできる限り、あの選手を避ける!)風丸!」

 

「ああ!」

 

「行くぞお前たち!必殺タクティクス、”アブソリュートサイン”!」

 

 

鬼道によってそれぞれがどう動くべきかを指示する光の筋が示される。

それに従って、日本代表は前線へと駆け上がっていく。

 

 

「ルシ、次の標的をロックオン。」

 

「(次は鬼道をターゲットにしたか...!)」

 

「ふっ....ついてこれるかな!」

 

 

ルシは鬼道を追いかけて走っていくが、鬼道は適度な距離を保ちながらそれを躱していく。

その間にも鬼道は指示を忘れず、完全にルシを翻弄している。

 

 

「理解不能。ルシが追いつけない。」

 

「何をやっている、ルシ!早くそいつを何とかしろ!」

 

「ルシ、任務を遂行する。」

 

 

相手の監督が指示を出した瞬間、ルシのスピードがさらに上がった。

徐々に鬼道との距離が近づいてきていると思えば、ふと足元が光ったのが見えた。

あれはいったい......っ、まさか!

 

 

「あれは刃物か!」

 

「馬鹿な....スパイクになんてものを仕込んでいるんだ!」

 

「鬼道!」

 

「(ふっ...そんなに慌てるな、豪炎寺。俺はこんな奴らに遅れを取らん!俺が目指すは世界一、そして嵐山という最強のライバルを超えること!こんなところで立ち止まってなどいられん!)っ!」

 

 

『おおっと!鬼道が飛んだあああああああああ!鬼道のマークにつくルシは飛ばずに鬼道の落下地点付近で待機している!』

 

 

「これで決着をつけろ、灰崎!」

 

ドゴンッ!

 

 

鬼道は高く飛んでから前方にいる灰崎の方へとパスを出した。

そのまま落下していくが、鬼道の足めがけてルシがスパイクを構えている。

このままでは鬼道まで怪我を....っ!

 

 

「ふん!」

 

パキンッ!

 

 

「なっ!?」

 

 

うまい!鬼道の奴、落下の際に一回転してうまいこと刃物を避けたうえ、刃物を蹴り折った!

これでルシが日本代表に危害を加えることはできなくなった!

 

 

「ルシ、任務失敗。」

 

「(よし...)決めろ!灰崎!不動!風丸!」

 

 

「はっ!あんたら、俺にしっかり合わせろよ!」

 

「ふん...生意気な小僧だぜ。」

 

「行くぞ、お前たち!」

 

 

 

灰崎、不動、風丸は先ほど鬼道が出したパスに合わせて同時に飛び上がり、ボールを中心に3人が回転を始める。

これは帝国学園の必殺技...!

 

 

「「「”デスゾーン”!」」」

 

ドゴンッ!

 

 

「くっ!”太陽のギロチン”!」

 

「「「いけえええええええ!」」」

 

「っ......ぐっ....ぐあああああああああ!」

 

 

『ご、ゴーォォォォォォォォォォォォル!日本代表、追加点!不動、風丸の帝国学園コンビと、元帝国学園の鬼道が強化委員として派遣されていた星章学園の灰崎!帝国の遺伝子を持つ3人によって放たれた帝国学園を象徴する必殺技、”デスゾーン”によってオーストラリア代表を突き放しました!』

 

 

ピッピッピィィィィィィィィ!

 

 

『そしてここで試合終了のホイッスル!4vs2!前半の激闘からの大逆転で、日本代表がオーストラリア代表を下しました!』

 

 

 

「勝ったか....」

 

「なんともハラハラする試合でしたね。」

 

「ああ。だがこれでまた、世界一への一歩を踏み出すことができた。」

 

「ふふ.....(でもおそらく、まだひと悶着あるはず。)」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

一星 side

 

 

 

「いやぁ、なんとか勝てたな!」

 

「ふっ....円堂がしっかりとゴールを守ってくれたおかげだ。」

 

「サンキュー!...でも嵐山の助言がなかったらやばかったかも。」

 

「ああ....やはりあいつはすごい。だからこそ、俺はあいつをライバルとして目標としている。」

 

「へへ...」

 

 

くそ....!まさか日本がここまで戦えるチームだったなんて...

だが鬼道、あんたを潰せば日本は戦えなくなる!だからあんたには悪いが、ここで退場してもらう!

 

 

俺たちがロッカールームに戻り、着替えを始めて少しすると廊下からあわただしい音が聞こえてくる。

まさか俺がここまでさせられるとはな....だがこれであんたは終わりだ!

 

 

ガチャ!

 

 

「全員おとなしくしろ!」

 

「な、なんだ!?」

 

「一体何事っスか!?」

 

 

突如として、審判と同じような恰好をした男が1人入ってくる。

その男は入ってくるやいなや、まっすぐ鬼道の元へと向かっていく。

 

 

「俺に何か?」

 

「鬼道有人!お前にドーピング疑惑がかけられている!お前の荷物を調査させてもらう!」

 

「なっ!?」

 

 

男は鬼道を突き飛ばし、無理やり鬼道の荷物を物色する。

周りも何事かと驚きながらも、大人の男が相手であることで下手に動けずにいるようだ。

 

 

「これは.....見つけたぞ、鬼道有人!これはドーピング薬だな!」

 

「な、なんだと!?」

 

「鬼道有人!お前を大会規定違反として連行する!」

 

「ま、待ってくれ!これは何かの間違いだ!」

 

 

鬼道は男に引きずられるように連れていかれる。

ふっ....これで鬼道は終わりだ....!

 

 

「ちょっと待った!」

 

「「「「「っ!」」」」」

 

「嵐山!」

 

 

鬼道が連れていかれると思ったその瞬間、先ほどと同じようにロッカールームの扉が開けられて数人の男がなだれ込んできた。

先頭に立っているのは、日本で一番うまいサッカープレイヤーと言われているという嵐山隼人、その後ろには大会委員と同じ格好の奴と、コートを着たおっさんが立っていた。

 

 

「何事ですか?私は大会規定違反の選手を連行しようと....」

 

「その必要はありません。」

 

「....何を言うのかな。彼はこのようにドーピング薬を...」

 

「それはあなたが鬼道を嵌めるために仕込んだものだ。」

 

「っ!....な、なにを言うのかね。私にそんなことする必要は...」

 

「これを見てもまだ、そんなことが言えるのかな?」

 

 

そう言って、嵐山が取り出したのはスマートフォンだった。

ちょうど俺からは画面が見える位置になっており、その画面にはなんとこのロッカールームの映像が映し出されていた。

そしてそこには男が誰もいないロッカールームで、鬼道の荷物にさっきのドーピング薬の入ったケースを仕込んでいる姿があった。

 

 

「ば、馬鹿な....どうしてこんなものが...!」

 

「昔、勝つために手段を選ばない人がいましてね。日本を貶めるために何かしてくるかもしれないと、勝手ながら仕込ませてもらいました。まさか、いきなり引っかかる馬鹿がいるとは思いませんでしたがね。」

 

「ぐっ....!」

 

「さあ、連行されるのはお前の方だ!」

 

「ぐっ....くそおおおおおおおおおお!」

 

 

男は発狂しながらロッカールームを出ようと走り出した。

だが扉の前に嵐山と一緒に来ていたコートのおっさんが立ちはだかる。

 

 

「どけええええええええ!」

 

「ふん!!!」

 

「ごはっ!」

 

ドサッ!

 

 

コートのおっさんは走ってきた男を背負い投げ、手慣れた手つきで取り押さえた。

このおっさ、何者だ...?

 

 

「ナイスです、鬼瓦刑事。」

 

「おう。お前さんもお手柄だったな。」

 

「いえ、別に。...鬼道、大丈夫か?」

 

「あ、ああ....」

 

 

当の鬼道は何が起こったのか理解できておらず、放心状態のようだ。

これじゃあ鬼道は排除できない。しかも同じような手を使っても今回の失敗のせいで疑いをかけるのが難しくなった。

くそ.....!嵐山隼人....余計なことをしやがって...!

 

 

「....ふっ。」

 

「っ!?」

 

 

今、目が合って笑った....?

まさか俺がこの計画を立てたってことを知っているのか!?

こいつ...一体何なんだ....日本を勝たせるためのアドバイスをしたり、俺の計画を知って邪魔したり...何者なんだ!

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大会に潜む闇

嵐山 side

 

 

「はい、受付完了しました。お部屋は5階の502号室になります。」

 

「ありがとうございます。」

 

「5階はあまり人が立ち入ることはありませんけど、それでも騒がないよう注意して下さいね。」

 

「はい、気を付けます。」

 

 

俺は受付の女性に会釈をしてから、建物の中を歩いていく。

ここは東京のとある場所にある大きめの病院だ。

何故俺が病院に来たかと言うと、ある人物に会うためだ。

 

まっすぐに5階を目指し、歩いていく。

院内は空いていて、エレベーターも使ったので目的地にはすぐに着いた。

 

 

『一星 光』

 

 

部屋の入口にはそう書かれた名札があった。

そう、俺は一星光に会うためにここに来たのだ。

 

 

コンコンコンコンッ....

 

 

「どうぞ....」

 

「失礼します。」

 

 

俺はノックの返事を確認してから部屋に入る。

部屋の中には、車いすに座りながら外の景色を眺める紺色の髪の少年がいた。

彼が一星光........だが、やはりそうだったか。

 

 

「あの....もしかして嵐山隼人さんですか?」

 

「ああ、そうだ。」

 

「うわあ!本物の嵐山選手だ!僕、あなたに憧れていて!去年のフットボールフロンティアでファンになって!それに今年のフットボールフロンティアも!無名だった雷門、そして永世学園を優勝に導いた日本最強のサッカープレイヤー!」

 

「お、おう...」

 

 

やっぱりこういうほめ殺しは未だに慣れないな。

俺はまだまだだと自分で思っているから、その日本最強プレイヤーってのも恥ずかしさと同時に、変な気持ちになるんだよな。

 

 

「....君が、一星光君だね?」

 

「はい!僕のこと知ってるんですか?」

 

「ああ。実は君のお兄さんから君のことを聞いてね。」

 

「充から...?」

 

「ああ。それでせっかくだからお見舞いに来たんだ。...思ったより元気そうで良かったよ。」

 

「へへ...ありがとうございます。でも僕、事故の影響でこんな状態で...」

 

「でも、諦めてないんだろ?サッカーすること。」

 

「.........はい。いつかこの体が治ったら、また充と一緒にサッカーやりたいです。」

 

「良い目だ。......きっと近い将来、その願いは叶うよ。」

 

「えっ?」

 

「....何でもない。さて、俺はそろそろ行くよ。」

 

「え、もう行っちゃうんですか?」

 

「うん。俺もやることあるし、あまり長居するのも悪いからね。」

 

「そうですか.....あの、また会えますか?」

 

「会えるよ。必ず....ね。」

 

「......はい!」

 

 

俺はそのまま病室を出ていこうとする。

扉を開け半歩出てから振り返って、改めて確認する。

 

そこには俺を笑顔で見送る一星光.....いや、一星充がいた。

春奈から話を聞いた時から、俺の中で色々考えていたんだ。

 

 

『一星充は多重人格である』

 

 

それが俺の結論だ。そして恐らくは、弟...一星光の方が主人格であると思われる。

何故なら日本の普通の病院で、亡くなったはずの人間が長期間も入院などできるはずがないからだ。

影山のようにかなりの権力を持っていたとしても、死んだ人間を生きているかのようにするのは難しい。

 

 

それにしても、一星が日本代表を潰そうとする理由は一体何なんだろう。

弟のことを理由に誰かに従っているのか...?

オリオンの使徒とやらも気にはなるけど....ま、とにかく一星のことはあいつに気にかけて貰うか。

 

 

.....

....

...

..

.

 

翌日

 

 

稲森 side

 

 

「もう一本!」

 

「はい!......っ!”シャイニングバード”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「よし...悪くない。これなら次のステップに進めそうだ。」

 

「はい!」

 

 

結局オーストラリア代表との試合では、俺の出番は無かった。

豪炎寺さんが抜けた穴を、灰崎や吉良が埋めてるのが少し悔しかった。

俺だってもっと試合に出て、活躍したい。もっと世界と戦いたい!

 

試合を見るたび、その想いがどんどん強くなっているのがわかる。

 

 

「稲森は嵐山が認めるだけあって、フィジカル面ではかなりのものを持っている。」

 

「ほんとですか!?」

 

「ああ。だからこそ今のお前に必要なのは、新たな必殺技だ。」

 

「新たな必殺技...」

 

「お前が持っている必殺技...”シャイニングバード”、”イナビカリダッシュ”。これだけでは世界には通用しない。今のお前に足りていないのは己を体現する必殺技だ。」

 

「己を体現する必殺技...」

 

 

豪炎寺さんで言う”マキシマムファイア”、あれは豪炎寺さんの全身全霊のシュートって感じだよな。

それに嵐山さんの”バイオレントストーム”...あれも嵐山さんの全力って感じだった。

 

 

「お前の”シャイニングバード”は、俺でいう”ファイアトルネード”だ。通用する相手には通用するが、上を目指すならもっと力を付けるべき....それはわかるな?」

 

「はい、何となく理解できます。」

 

「ならこれからお前には1つ、課題を与える。」

 

「課題....」

 

「どんな形でもいい。新たな必殺技の形を見つけろ。」

 

「新たな必殺技の形........はい!わかりました!」

 

 

新たな必殺技の形....か。なんだかふわっとした内容だけど、豪炎寺さんの特訓、次のステップに進むには何とかして見つけるしかない!

 

 

「じゃあ俺、色々考えてきます!」

 

「ああ。」

 

 

俺は豪炎寺さんにそう告げて、練習用グラウンドを走り去っていく。

世界と戦うために、嵐山さんや豪炎寺さんの期待に応えるために、頑張るぞ!

 

そう想いながら走っていると、玄関ホールに嵐山さんが立っているのが見えた。

 

 

「嵐山さん!」

 

「....ん、稲森か。」

 

「この前ぶりですね!」

 

「ああ。...随分と修也に絞られているみたいだな。」

 

「はい。でもおかげでかなりレベルアップしたと思います!」

 

「そうか、それは楽しみだな。」

 

 

楽しみ?....あ、もしかして俺が試合で活躍するのを楽しみにしてくれてるのかな。

嵐山さんは俺に目をかけてくれて、この人のおかげで今の俺がいる。

だから嵐山さんの期待には応えたい。

 

 

「なあ稲森。少し聞きたいんだがいいか?」

 

「はい。どうしたんですか?」

 

「一星のことだが.....どう思っている?」

 

「一星ですか?う~ん.....」

 

 

一星か....あんまり話したことはないけど、一人だけ海外からの参加だし、少し浮いてしまってる気もするな。

でも円堂さんが気にかけているみたいだし、孤立はしてないけど....あんまりよくわからないというのが本音かも。

 

俺は思ったことを嵐山さんにそのまま伝えた。

 

 

「そうか....」

 

 

嵐山さんは俺の言葉に少し渋い顔をして、何かを考えている様子だ。

嵐山さんは一星のことを気にかけているのかな。

 

 

「一星が気になるんですか?」

 

「いや、ちょっとな。......もし稲森が良かったらだけど、一星を気にかけてやってくれないか?」

 

「俺がですか?」

 

「ああ。稲森は人当たりも良いし、誰とでも仲良くできるタイプだろ。」

 

「そうですかね....でも、チームのみんなとは仲良くしたいと思ってます!」

 

「うん、そういうとこだ。....頼めるか?」

 

 

いつになく、嵐山さんは真剣な表情、声色で俺に頼んできた。

嵐山さんがこんなに真剣に頼んできてるんだ、引き受けないわけにはいかない。

 

 

「わかりました!俺に任せて下さい!」

 

「そうか、良かった。ありがとうな、稲森。」

 

「いえ、ほかならぬ嵐山さんの頼みですから!」

 

「ふっ...頼んだぞ。」

 

 

そう言って、嵐山さんは合宿所から去っていった。

 

 

「よ~し!豪炎寺さんの特訓も、嵐山さんからのお願いも、全力で頑張るぞ!」

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

鬼道 side

 

 

「そうですか...やはり。」

 

「ああ。お前の考えている通りだった。」

 

 

俺は響木監督にお願いしていた。

オーストラリア代表に何か起こっていないか調べてくれ、と。

そうすると、やはり俺たち日本代表との試合後、オーストラリア代表の一部の選手と監督が失踪していることがわかった。

恐らく、韓国代表のペクと同じように、オリオンの使徒と呼ばれる存在だったのだろう。

 

 

「どう思いますか、響木監督。」

 

「ああ、偶然とは考えにくいだろうな。オリオンの使徒....名前からしてオリオン財団が関わっていると思うが、結びつけるには証拠が必要だ。オリオン...なんて別に特別な言葉でもないからな。」

 

「そうですね....」

 

「.....これは黙っているように言われていたが、今夏未がロシアにとあることを調べに行っている。」

 

「雷門が...?」

 

「ああ。円堂の祖父...大介さんのこと、そして嵐山の両親についてだ。」

 

「大介さんと嵐山の両親について.......何故、今その話を.....っ!まさか....」

 

「ああ、そのまさかだ。その件について、オリオン財団が関わっている可能性が高い。」

 

「っ....ますますきな臭い話になりましたね。」

 

「ああ。....彼女にはオリオンの使徒についても調べてもらうよう依頼した。危険だが、彼女に頼るしかないからな。」

 

「そうですね....」

 

「俺も、もう少し様子を見てからロシアに発とうと思っている。彼女一人に調べさせるには、あまりにも大きすぎるからな。....鬼道、くれぐれもこの話は他言するなよ。」

 

「ええ、わかりました。」

 

 

他言できるはずが無い....まさかここで大介さんや、嵐山のご両親が関わってくるとはな。

この世界大会、一体どれだけの思惑が動いているんだ....俺たちは純粋に世界一を目指す、それだけだと思っていたのにな。

 

 

 

「とにかく、お前はまずこのアジア予選を勝ち抜くことだけを考えろ。こういったことは大人である我々に....っ....ゴホッ...ゴホッ....!」

 

「っ、響木監督っ!?」

 

「ぐっ....ゴホッ....ゴホッ.........っ......す、すまん...少しむせた。」

 

「(むせた....?本当にそれだけか...?)」

 

「....とにかく、今はアジア予選のことだけ考えておけ。次の相手、中国代表は相当強いと聞いているぞ。」

 

「......はい、わかりました。それでは失礼します。」

 

 

俺は響木監督の様子に違和感を覚えつつも、その場を後にした。

俺がいなくなってから、響木監督が一人つぶやいている言葉は、俺には届かなかった。

 

 

 

「ふっ....大介さん....あんたのところに行くのはもうすぐみたいだ。」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

一星の真実

一星 side

 

 

「(まさか日本代表がここまでやるとは....それに鬼道を潰すのにも失敗した....くそっ!次の対戦相手の中国代表にはオリオンの使徒はいない....どうすれば...!)」

 

「おーい、一星!これから練習するんだけど、一緒にやらないか!」

 

「円堂....さん。わかりました、一緒にやりましょう!」

 

 

くそ...豪炎寺を潰すのはうまくいったのに、鬼道は嵐山のせいで潰せなかった。

チームの中心である円堂、豪炎寺、鬼道を潰せば、日本は勝てない...そのはずなのに...!

 

こうなったら、この練習で円堂を潰す...それしか方法はない。

 

 

「円堂、これから練習か?」

 

「お、鬼道!そうだぜ!」

 

「っ!(どうしてここに鬼道が...!)」

 

「そうか。....俺も一緒にいいか?」

 

「おう!」

 

「ふっ.....一星、お前もいいか?」

 

「っ!(くそが....!)え、ええ、大丈夫ですよ。鬼道さんの動き、参考にさせてもらいます!」

 

「ああ。」

 

 

 

翌日...

 

 

 

「円堂さん!今日も一緒に練習してもいいですか!」

 

「一星!おう、いいぜ!」

 

 

よし....昨日は鬼道の邪魔が入ったが、今日こそ....

 

 

「円堂、一星。これから練習か?」

 

「豪炎寺!そうだぜ!」

 

「っ!」

 

 

な、何でまたここに人が...!

わざわざ練習の時間もずらして、人があまりいない時間を狙ってるのに...!

 

 

「ふっ...」

 

「っ!?」

 

 

こ、こいつまさか俺の目的に気付いて....!

だから円堂を守るために、円堂を見張っているってことか...!

くそっ!余計な真似しやがって!

 

 

「で、でも豪炎寺さんは足を怪我してますし、無理はいけないんじゃ...」

 

「気にするな、一星。実はもう足はかなり回復していてな。」

 

「えっ!?」

 

「監督からも、次の試合から様子を見つつ起用していくと言われている。」

 

「そ、そうなんですか....よ、良かったですね。」

 

 

くそ...!まさかそこまで回復していたなんて...!

ペクの奴、生ぬるい攻撃しやがって!

 

 

「そろそろ感覚を取り戻したいと思っていたところだ。」

 

「それなら丁度いいな!やろうぜ、豪炎寺!一星!」

 

「ああ。」

 

「は、はい....」

 

 

どうしてだ....どうしてこうもうまくいかないんだ!

このままじゃ光は....二度とサッカーができなくなってしまうかもしれないのに!

俺が日本を潰せば、オリオン財団は光の手術費用を出してくれる....それなのに!

 

 

 

さらに翌日....

 

 

 

「(よし....豪炎寺も鬼道もいない.....これなら!)え、円堂....「おーい、一星!」...っ!」

 

 

な、何でだ!今度は誰だ!?

 

 

「一星!これから一緒に練習しないか?」

 

「い、稲森君.....」

 

 

くっ...この田舎野郎....どうして急に俺に声をかけてきたんだ!?

これまでのように豪炎寺と一緒に練習してろよ!

...っ、まさかこいつ、豪炎寺からの刺客か!?

 

 

「お、一星と稲森で練習か?」

 

「円堂さん!はい、そうです!俺が一星を誘ってます!」

 

「そうか!だったら俺も混ぜてくれよ!」

 

「はい、是非!」

 

 

くそ....こいつら、本当にイラつく....どうしてお前らはそんなにサッカーを楽しめる。

俺にとって、サッカー弟の命を救うための手段、道具でしかない。

だからこそ、サッカーを楽しそうにプレーするこいつらが憎くて仕方ない!

 

 

『兄ちゃん、もう辞めようよ。』

 

 

「っ!」

 

 

な、何だ今のは....光....?いや、違う!光はそんなこと言わない!

光のために頑張っている俺を否定することなんてしないんだ!

 

 

「お、おい一星!大丈夫か?」

 

「えっ....?」

 

「めちゃくちゃ顔色悪いじゃん!救護室に行こう!」

 

「っ、触るな!」

 

「うわっ!」

 

 

俺は思わず、俺の肩に手を回そうといた稲森の手をはじいてしまった。

突然の出来事に、稲森はそのままその場で尻もちをつき、円堂は驚いていたがすぐに稲森のフォローに回っていた。

 

 

「大丈夫か!?」

 

「いてて....だ、大丈夫です。」

 

「ご、ごめん....びっくりしちゃって....」

 

「気にするなよ、一星。俺は大丈夫だから。」

 

「う、うん...」

 

「とにかく、一星の顔色も悪いし救護室に行こう?」

 

 

そう言って、今度は手を回すのではなく、俺に手を差し出してくた。

俺はこの手を取るのが怖かった。こいつらは俺が潰すべき相手。

でも俺は.....

 

 

『うわあああああああ!』

 

ガシャアアアアアン!!!

 

 

「っ!!!うっ....ハァ....ハァ.....っ....ウプッ....!」

 

「い、一星!?」

 

「大丈夫か、一星!?」

 

 

『兄....ちゃん.....?』

 

『......無事....か......光.....』

 

『どうして.....僕を.....庇って.....』

 

『強く....生きろよ.....』

 

 

 

「ハァ...ハァ...ハァ...ハァ....!」

 

 

何だ、この記憶は....俺は知らない....!

どうしてこんな光景が浮かんでくる!俺は....俺は父さんに庇われて、光と一緒に....!

 

 

「兄ちゃん....」

 

ドサッ!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

稲森 side

 

 

「監督!一星は大丈夫なんですか!?」

 

「大丈夫ですよ、今のところは....ね。」

 

「教えてください、監督。一星になにがあったんですか?」

 

「.....そうですね。これはキャプテンである円堂君、そして嵐山君から一星君のことを頼まれている稲森君、あなたたちには話しておくべきかもしれませんね。」

 

 

いつもの監督と違って、とても真剣な態度に俺は思わず緊張してしまった。

一星が意識を失って倒れるくらいだ、きっと一星にはとてつもないストレスなんだろう。

 

 

「彼の本来の名前は一星光君、一星充君は彼の兄なのです。」

 

「えっ?どういうことですか?」

 

「今ここにいる一星君は、弟の光君なのです。ですが彼自身は自分を兄の充だと思っている。」

 

「それは一体どうして....」

 

「彼が幼いころ、兄と父と一緒にドライブしていた時です。多重事故が発生し、父親と充君は死亡、光君だけが遺された。しかし幼い彼にその事実は耐えられるものではなく、彼の精神は分裂....兄である充君と、本来の人格である弟の光君、二つの人格が出来上がってしまった。」

 

 

そんな....一星にそんな過去が.....

でも、一星はずっと兄である充として生活してるよな...

 

 

「まだ話は続きます。....多重人格となった一星君ですが、自覚はありません。何故なら彼は病院にいるときは一星光君、一歩でも外に出ると一星充君へと人格が切り替わるのです。」

 

「それじゃあ、俺たちがいつも見ているのは一星充としての人格...」

 

「そういうことです。しかし彼はそのことを知りません。本気で自分が一星充であり、弟の光は入院している。そう思っているのです。そしてそんな一星君の状態を利用して、とある組織が一星君を操っているのです。」

 

「と、とある組織って...?」

 

「それはまだ言えません。ですが一星君が日本を潰そうとするのには、そういった理由があるのです。」

 

「ええ!?一星って日本を潰そうとしてるんですか?!」

 

 

そ、それが一番の驚きなんだけど....全然気付いてなかった。

そういえばこの前の試合でも、一星は鬼道さんの指示と違う動きをしていた。

あれって単純に一星が指示を勘違いして間違っただけだと思ってたけど....そういうことだったんだ。

 

 

「おーほっほっほ。稲森君、君はそのままの君でいて下さい。」

 

「そうだぜ、稲森!」

 

「君もですよ、円堂君。」

 

「えっ?」

 

「この話を聞いても、きっと君たちは一星君への対応を変えないでしょう。人間、そういう対応というのは難しいものです。同情や哀れみ、嫌悪、悪意....誰しもが抱えるものです。でも君たちは違う。一星君にとっての拠り所になってくれるでしょう。」

 

 

一星にとっての拠り所.....

 

 

『一星のこと、気にかけてやって欲しい。』

 

 

「あっ....(嵐山さんが言ってたのって、そういうことだったんだ。)」

 

「おーほっほっほ。それでは私はもう行きます。頼みましたよ。」

 

「「はい!」」

 

 

一星....お前がなにを抱えているか知ることができた。

お前は俺たちの仲間だ。だから俺、絶対にお前を一人にしないからな!

 

 

 

.....

....

...

..

.

 

 

『え~、週末は台風が接近している影響で天候が大荒れとなる予想です。明日を予定していましたフットボールフロンティアインターナショナルアジア予選第三試合ですが、選手並びに観客の安全確保のため試合を延期する方向で大会運営委員会は調整を行っているようです。』

 

 

「延期か~...」

 

「次は確か中国代表が相手だったはずだが、変わるのか。」

 

「誰が相手でも俺たちは全力を尽くすまでさ!アジア予選だけじゃない....その先には、もっとすげえ世界のライバルたちが待ってるんだからさ!」

 

「「「円堂...」」」

 

「「「キャプテン....」」」

 

 

円堂さんの言葉に、みんなの気持ちが一つになった気がした。

試合が延期になったのは残念だけど、その分特訓に時間を使えるのはありがたいしね。

まだ豪炎寺さんから言われたこと、見つけられてないし。

 

 

「皆さーん、先ほどのニュースは聞きましたね?」

 

「はい、監督!」

 

「皆さん試合に向けて調整していたことでしょう。そ・こ・で!私の方で皆さんの対戦相手を見繕ってきましたよ~。」

 

「「「「「え、ええ~!?」」」」」

 

 

た、対戦相手ってどういうこと!?

週末の中国戦は台風で延期だっていうのに、試合はするってこと!?

確かに、屋内練習場である日本の合宿所グラウンドなら台風が来ていても試合はできるかもしれないけど...

 

 

「そ、それで...試合の相手って誰なんですか?」

 

「おーほっほっほ。そう慌てないで下さい、円堂君。試合相手は週末のお楽しみ。ただし....覚悟を持って試合に臨むことです。皆さんが考えている以上にハードで、エキセントリックな試合になるはずですからね。おーほっほっほ。」

 

 

そう言って、監督はふたたびこの場を去っていった。

覚悟を持って試合に臨めって...そんな相手と試合するってこと?

でも俺たち一応日本代表に選ばれたわけだし、そんな覚悟が必要な相手なんてそうはいないと思うけど...

 

 

そんな軽い気持ちで考えていた俺、いやみんなだったけど、試合当日になって思ったんだ。

これが監督が覚悟を持てって言っていた意味なんだって。

 

 

 

「よう、円堂。それにみんな。」

 

「趙金雲監督、あなた方日本代表イナズマジャパンに宣戦布告します!私が率いるこのネオジャパンこそが、日本代表にふさわしいと!」

 

 

「な、な、な、な.....何だってええええええええええええ!?」

 

 

 

吉良瞳子監督率いる、新たな日本代表ネオジャパン。

そこに集まっていたのは、俺たちの見知った顔ぶれ...そして、俺たちが尊敬してやまない嵐山さんの姿があったんだ。

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

激突!ネオジャパン!

嵐山 side

 

 

「これは一体...なにを考えている、嵐山。」

 

「鬼道....俺は納得していないのさ。日本代表イナズマジャパン....果たして本当に選ばれるべくして選ばれた者たちなのかってさ。」

 

「それはどういう...」

 

「ここにいるのは日本代表には選ばれなかったものの、その座を諦められずに集った戦う意思のある者たちだ。」

 

 

 

「ふっ...なるほど。君が嵐山さんと仲良くなったと思っていたんだけど...こういうことだったのか、西蔭。」

 

「野坂さん....今日俺はあなたを倒す!そのためにここに立っている!」

 

 

野坂と西蔭を筆頭に、元々交流のあった連中がお互い話をしている。

日本代表の方は随分と混乱しているようだな。

 

 

「坂野上!どうしてここに?」

 

「円堂さん!俺、西蔭さんを通して嵐山さんからこの集まりに誘われたんです!今日は俺、円堂さんに思い切りぶつかっていきますから、覚悟していてください!」

 

 

「あんたも嵐山サンの選出ってわけか?」

 

「ああ。久しぶりだな、灰崎。」

 

「折緒...お前、何でこんな...」

 

「水神矢、お前や灰崎にはわからねえさ。選ばれなかった悔しさ...だが俺は嵐山さんに掬い上げてもらった。だから俺は今日、お前らを倒す!」

 

 

「リュウジ、クララ...お前たちまで...」

 

「男子三日会わざれば刮目してみよ、ってね。今日は生まれ変わった俺たちを見せてあげるよ。」

 

「はっ!おもしれえじゃねえか。どれだけ力を付けたか、俺様が試してやるよ。」

 

「油断してたら簡単に倒しちゃいますよ、ヒロトさん。」

 

「クララ...隼人と同じチームだなんてずるいわ...」

 

 

「お姫様がどうしてここに?」

 

「うちもネオジャパンやっぺ!だから今日は敵同士!」

 

「ほう...嵐山も意外な人選するじゃねえか。」

 

「そうだね。でも...お姫様のセンスは僕たちが一番よくわかってる。油断はできないね。」

 

「ああ。」

 

 

「氷浦!ゴーレム!」

 

「久しぶり!明日人、のりか!」

 

「ゴス!今日はよろしくでゴス!」

 

「どうしてこんなことに?二人とも最後にあった時よりなんだかたくましくなってない?」

 

「俺たち、結構レベルアップしたんだ。」

 

「今日の試合を楽しみにしてたでゴス!」

 

 

 

「それからお前たちは....」

 

「俺はペルセウス、世宇子中の次世代エースストライカーさ!」

 

「俺はハデス、世宇子中のディフェンダーです。」

 

「まさか世宇子からも人を集めているとはな...」

 

「豪炎寺修也さん....一昨年のフットボールフロンティアで世宇子はあなたや嵐山さんに敗北しました....でも、これからは俺たちが次世代を担う!だから今日はその覚悟を見せてやる!」

 

 

 

「おーほっほっほ。面白い人選ですね、嵐山君。」

 

「皆、覚悟を持った選手たちです。たとえ日本代表が相手だったとしても、引けを取りませんよ。」

 

「おーほっほっほ。....それは面白いですねぇ。」

 

 

監督の表情が真剣なものになり、少し背筋がゾクッとした。

この人、本当なにを考えているかわからないな。

でも今日は本気で試合をしにきた。日本代表の座を賭けてってのも冗談じゃない。

俺たちは本気で、日本代表の座を取りに来た。

 

 

「この勝負、受けてもらえますよね?」

 

「当然です。この試合で見せてもらいますよ....日本の底力というものをね。」

 

 

『ななななななななんとおおおおおおおおおおおお!今日この日本代表の合宿所で、日本代表の座を賭けた世紀の一戦が繰り広げられます!こんな熱い戦いを実況せずに、実況者を名乗る資格などありません!実況は私、角馬王将がお届けいたします!』

 

 

実況....どこで試合の話を嗅ぎ付けたのやら。

ま、実況があった方が盛り上がるってのも本当だし、いいか。

さあ....真剣勝負と行こうじゃないか、日本代表イナズマジャパン!

 

 

 

「おーほっほっほ。今日の試合は本番ではない試合....色々試していきますよ。今回のスターティングメンバーを発表しま~す。フォワード、染岡君、吹雪君。」

 

「「はい!」」

 

「ミッドフィルダー、鬼道君、一星君、稲森君、基山君。」

 

「「「「はい!」」」」

 

「ディフェンダー、壁山君、風丸君、水神矢君、不動君。」

 

「はいっス!」

 

「「はい!」」

 

「俺がディフェンダーかよ....」

 

「そしてキーパー、のりかさん。」

 

「えっ?あ、はい!」

 

 

「円堂君の出番も後半で作りますからね。よろしくお願いしますよ。」

 

「はい!」

 

 

「では鬼道君...頼みましたよ。」

 

「はい。.....みんな、行くぞ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

 

『さあ両チーム、フィールドに散らばっていきます!...おや、日本代表イナズマジャパン、キーパーは円堂ではなく海腹だ!アジア予選ではまだ起用無しの海腹....果たしてこの試合ではどのような活躍をしてくれるか!』

 

 

「さ、みんな。あいつらに目に物見せてやろうか。」

 

「「「「「おう!!!」」」」」

 

 

『対する吉良監督率いるネオジャパン......こ、これは!一体どうしたことか!』

 

「な、何だと....?」

 

 

俺たちがそれぞれポジションにつくと、実況だけでなく日本代表の面々も驚いたような表情をしていた。

ま、初見だとそういう風になるのもわかるよ。だって一部とはいえみんなの知ってるポジションとズレているからね。

 

 

『これはどういった意図があるのでしょうか!一部の選手のポジションが変わっています!フォワードにペルセウス、坂野上、折緒!ミッドフィルダーに倉掛、氷浦、緑川!ディフェンダーに嵐山、岩戸、白兎屋、ハデス!キーパーに西蔭!嵐山はまさかのディフェンダーです!』

 

 

「嵐山さんがディフェンダー...」

 

「でもそれって大幅な攻撃力ダウンじゃ...」

 

「いや、嵐山さんのディフェンスはそこらへんのディフェンダーよりもすごいよ。」

 

「基山君....そういえば基山君は嵐山さんと永世学園で一緒にプレーしたんだもんね。」

 

「うん。あの人のかけてくる圧力...プレッシャーは相当きついからね。それにあの人はどこにいたってシュートを打ってくるはずだよ。」

 

「確かに....あいつならやりかねん。みんな、相手は嵐山だが普段通りのプレーをすれば良い!それができる選手だからこそ、日本代表に選ばれたはずだ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

鬼道の奴、人を乗せるのがうまいねぇ。あんなこと言われたら、誰だってやる気になる。

ま、ネオジャパンもこの日のために特訓を重ねてきたんだ。まずはあいつらを驚かせるところから始めようか。

 

 

『さあイナズマジャパンのキックオフで試合開始です!』

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「いくぜ、士郎!久しぶりのフォワードだからって、油断するなよ!」

 

「ふふ...当然さ!」

 

 

染岡が士郎にボールを渡して、二人で攻めあがってくる。

さて...まずは1点、奪っていこうか。

 

 

「ペルセウス、折緒、坂野上!攻撃は任せるぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

「緑川、倉掛、氷浦!攻めていけ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

俺の指示により、ディフェンス陣を残して全員が攻めあがっていく。

だがボールを持っている士郎にではなく、士郎たちを追い越してイナズマジャパン陣内へと切り込んでいっている。

 

 

「(一体何を狙っている....いや、何かしてくると思わせるブラフか?)」

 

「ボールを取りに来ないってんならそのまま攻め込むぜ!」

 

「そうだね!僕たちの力、見せてあげるよ!」

 

「っ、待て染岡!吹雪!」

 

 

「さて...早速行きますか。岩戸、白兎屋、ハデス!準備はいいな!」

 

「ゴス!」

 

「行けるやっぺ!」

 

「はい!」

 

 

俺たち4人は一斉に動きだし、士郎と染岡を十字に囲む。

パスを出されないようにしつつ、ドリブルで抜かれないよう徐々に十字を狭めていく。

 

 

「チッ...一瞬にして囲まれちまった...!」

 

「くっ...なかなか固い守りだね...!」

 

 

正面には俺、左右にハデスと岩戸、後方に白兎屋を配置したこのフォーメーション。

なかなか突破は難しいだろう。そして、最後の仕上げだ。

 

 

「行くぞ!」

 

「「っ!!!」」

 

 

俺たちは一斉に中央へと走り出し、士郎と染岡は何とか避けようとする。

だが狭められた十字の中で逃げることはできず、俺たち4人から強烈なスライディングをお見舞いされることとなった。

 

 

「ぐっ!」

 

「うわああああ!」

 

 

『な、何ということでしょう!吹雪と染岡が囲まれたと思えば、一瞬にしてボールを奪われてしまいました!』

 

 

「これが俺たち4人の必殺技、”グランドクロス”!」

 

「やったでゴス!」

 

「決まったやっぺ!」

 

「二人とも、油断はしないで下さい!」

 

「ふっ....攻めろ、お前たち!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺は奪ったボールを大きくクリアする。

攻め込んできていたイナズマジャパンはそのボールを追うが、既に前線へと駆けあがっていたネオジャパンのオフェンス陣によってボールが確保される。

 

 

「くっ...!(完璧なカウンターだ...!嵐山がディフェンスにいることでこそできる、超攻撃的なディフェンスというわけか!)戻れ!ボールを奪い返すんだ!」

 

 

「よし...受け取れ!ペルセウス君!”氷の矢”!」

 

ドゴンッ!

 

 

俺からボールを受け取った氷浦は、状況を即座に判断してペルセウスへとパスを出した。

圧倒的な攻撃スピードに、イナズマジャパンの連携は完全に崩れ去っていた。

 

 

「ここは通さない!」

 

「簡単に俺たちを抜けると思うなよ!」

 

 

氷浦からのパスを受け取ったペルセウスだが、その前に風丸と不動が立ち塞がった。

 

 

「っ!」

 

「「なっ!?」」

 

「ナイスです、ペルセウス君!」

 

 

だがペルセウスは冷静に、横からあがっていた坂野上へとノールックパスを送る。

それを見た風丸、不動はすぐさま坂野上の方へ体を向けるが...そう動いた時点で終わりだ。

 

 

「なんて....決めて下さい、ペルセウス君!」

 

「くっ...!」

 

「しまった!」

 

 

坂野上はすぐさまペルセウスへとスルーパスを出し、ペルセウスは風丸と不動を抜き去る。

これで完全にペルセウスがフリー....さあ、次世代の力を見せつけてやれ!

 

 

「決める!”真ゴッドノウズ”!はあああああああああああ!」

 

ドゴンッ!

 

 

「”ゴッドノウズ”だと!?」

 

「す、すげえ...あの時のアフロディと同じくらいすげえぜ!」

 

 

「っ...止める!”マーメイドヴェール”!」

 

 

ペルセウスが”ゴッドノウズ”を放ったことに、ベンチにいた修也は思わず声を挙げていた。

それに円堂も、去年の決勝のことを思い出しているようだ。

 

キーパーののりかは”マーメイドヴェール”で対抗しているが....今のペルセウスなら、円堂とも良い勝負をするぜ。

お前の一番の必殺技で来なきゃ、止められるシュートも止められないぞ!

 

 

「くっ....勢いが....止まらな....きゃああああああああああああ!」

 

 

『ご、ゴーォォォォォォォォォル!先制点はネオジャパン!ペルセウスが先輩であるアフロディの必殺技、”ゴッドノウズ”を放ち、見事ゴールを奪いました!』

 

 

「ナイス!」

 

「さすがです、ペルセウス君!」

 

「坂野上こそ、ナイスアシスト!」

 

「今度は俺にも決めさせてくれよ?」

 

「俺だって!」

 

 

「っ....(これがネオジャパンか...嵐山、本気で日本代表の座を奪おうとしているということか....)」

 

「....(止められなかった....やっぱり、私じゃ円堂さんみたいには.....)」

 

 

 

さて、インパクトは与えられたようだし、流れはこっちにあるな。

どう攻めていくか.....やっぱりサッカーは楽しいよ。

すげえ奴らと試合できるのが楽しくて仕方ない!

 

 

「(本気で来ないと、痛い目にあうぞ...鬼道!)」

 

「(このままではマズイ....必ず突破口を見つけ出してみせる!)」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ぶつかり合う司令塔

嵐山 side

 

 

俺たちネオジャパンが先制し、ふたたびイナズマジャパンのボールで試合が再開する。

完璧な流れでこちらが先制したが、果たして鬼道はどう持ち直すかな。

 

 

「士郎。」

 

「うん。」

 

 

染岡が士郎へボールを渡して、先ほどと同じように2人で攻め込んでくる。

だが先ほどとは違い、顔つきが真剣になっていた。さっきは完璧に封じ込められていたから、何か思うところでもあったんだろう。

 

 

「(なら今回はアプローチを変えてみるか。)....坂野上、中央を固めろ!ペルセウス、折緒はサイドを警戒!中盤は坂野上のフォローをしつつ、状況を見てパターンKだ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

「(パターンK...?何かの暗号か?)吹雪、染岡!相手の動きに注意しろ!」

 

「おう!」「うん!」

 

「稲森、一星、基山も攻めていくぞ!」

 

「「「はい!」」」

 

「(この試合に負けて本当に代表の座を降ろされても面倒だ。気に食わないけど、今回は鬼道の指示に従うか。)」

 

 

「ここは通しませんよ!」

 

 

俺と同じように鬼道も味方へと指示を出し、自らも前線へと駆けあがっていく。

そうこうしているうちに、染岡と士郎の前に坂野上が立ちはだかった。

ネオジャパンの中で一番見込みがあったのが、この坂野上だ。

ミラクルリベロなんて呼ばれるだけあって、どのポジションでもそつなくこなしてくれる。

そして今回フォワードに置いたのは、元々利根川東泉でディフェンダーをやっていたからこその守備力を買ってのことだ。

 

 

「っ....(こいつ、意外と隙がねえ...!)」

 

「(染岡君が攻めあぐねてる...僕が何とかしないと...!)染岡君!」

 

「っ、おう!」

 

 

坂野上の圧に、染岡1人では抜くのが難しいと判断した士郎がパスを要求した。

染岡自身もそれが分かっているのか、すぐに士郎へとパスを出す。

だが坂野上に相対した時に止まってしまった時点で、もう逃げられないぜ。

 

 

「そこだ!”大河”!」

 

「「っ!」」

 

 

坂野上は必殺技を発動し、隙を見せた染岡からボールを奪い取った。

ふたたびボールを奪われてしまった染岡、士郎は動揺のあまり動けずにいた。

 

 

「ナイスだ坂野上!みんなあがれ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

「そう何度もやられてはいられん!中央を固めろ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

鬼道の指示により、稲森、一星、タツヤが中央を固める。

だがそれではサイドががら空き.....いや、そっちが狙いか。

不動をディフェンダーに置いたのはそれを見越してのことだな。

 

 

「(だが見破った以上、それを超えていくだけだ!)坂野上!そのまま中央突破だ!」

 

「えっ!?.....はい!」

 

 

坂野上は俺の指示に一瞬戸惑ったが、すぐに了承して中央へと突っ込んでいく。

ありがたいことだが、ネオジャパンの面々は俺のことを信頼してくれている。

予想外の指示だったが、俺を信じてそのまま突っ込んでくれたんだろう。

 

 

「(ならその信頼に応えなくちゃな。)攻めていく!」

 

 

『おっと!嵐山、ディフェンスポジションから大きく前進!自らも攻撃に加わろうということか!』

 

 

「ま、まさかそのまま中央突破してくるなんて...!」

 

「でも嵐山さんもあがってきてる!もしかしたらパスを出すかも!」

 

「(いや、違う....あれはまさか...!)」

 

「稲森、一星、基山!気にせず坂野上を止めろ!」

 

 

 

「(さあ、どんどん攻めていくぜ!)氷浦は中央で坂野上のフォロー!倉掛、緑川はそのまま右サイドからあがれ!」

 

「「「はい!」」」

 

 

『こ、これはああああああああああ!嵐山が出した指示が光の筋となり、まるで道標を指し示しているかのようだ!これはオーストラリア代表との試合で鬼道が見せた必殺タクティクス!』

 

 

「ば、馬鹿な...!”アブソリュートサイン”....!」

 

「だけど、ここで坂野上君を止めてしまえば問題無い!」

 

「へへ...そううまくは行きませんよ!」

 

 

鬼道が自身のタクティクスを真似られたことに動揺している中、タツヤは冷静に坂野上を止めようと接近していく。

それに合わせて、一星と稲森も坂野上を止めに入ってきたが....その動きも想定内だ!

 

 

「っ!後ろに振り向いた!?」

 

「一体何を!」

 

「嵐山さん!」

 

ドゴンッ!

 

 

坂野上は3人が接近していることを認識すると、すぐさまその場で立ち止まり後方にいる俺へとバックパスした。

その後、すぐに再び振り向いてボールを持たない状態で3人を抜き去っていく。

 

 

「ハッ!しまった!」

 

「そうか!これはただのバックパスじゃなくて...!」

 

 

「受け取れ、坂野上!」

 

ドゴンッ!

 

 

そして俺へと跳んできたボールを、俺はそのままダイレクトに山なりに打ち返す。

これにより、3人を抜き去った後の坂野上のところへとボールが渡り、3人のディフェンスを抜き去ったことになった。

 

 

「(やりますねぇ、嵐山君。まさかここまで仕上げてきているとは思いませんでしたよ。しかし....この試合を乗り越えなければ、今の日本代表はこれから先の戦いを勝ち進むことはできない。世界のライバルだけじゃなく.....オリオンの使徒に勝つためには、力、知恵、そして心の強さが必要なのです。今の日本代表は良くも悪くも、円堂君や鬼道君を頼るチーム....その殻を破らねばならないのです。)」

 

「(この試合...嵐山さんと西蔭以外のネオジャパンの選手は本気で日本代表の座を狙っているように思える。だけど....あの2人、いや監督も含めてか。他に何かを狙っている...?僕の予想が正しければ、それは恐らくこのチームの変革....か。)」

 

 

 

「そのまま持ち込め、坂野上!」

 

「はい!」

 

 

『おっとこれは!中央を突破したことで坂野上が完全にフリー!ディフェンダー陣はそれぞれサイドに寄った守備を行っていたため、中央は鬼道、海腹を残してがら空きです!』

 

 

「チッ...お前ら元の守備位置に戻れ!(くそ...どうなっていやがる!こっちの作戦は全部見通されてるってことか!?)」

 

「俺が先に行く!」

 

「も、戻るっスよ、水神矢君!」

 

「ああ!」

 

 

先ほどのプレー、中央をタツヤたちが固めて守り、パスを出させることでサイドに寄っていたディフェンダー陣がパスカットするつもりだったんだろうが、少しサイドに寄りすぎていたな。

 

人間、なにか考えていれば大なり小なりそれが態度に出てしまう生き物だ。

今回は明らかにサイドへの意識を感じたからな...対応するのも楽だった。

 

風丸は得意のスピードですぐに中央へと戻ってきているが、そうすると今度はサイドががら空きになる。

白兎屋をディフェンダーまで下げている分、うちのチームは風丸に匹敵するほどの速さを持つ選手はなかなかいない。

ペルセウスも速い方だが、やはり風丸相手では分が悪いからな。

 

 

「坂野上!」

 

「はい!....緑川君!」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ!今度はサイドか!」

 

 

坂野上は風丸を十分にひきつけてから、サイドをあがっていた緑川へとパスを出した。

風丸もすぐさまブレーキをかけ、反転して緑川の元へと走っていくがもう遅い。

風丸の速さを持ってしても、これだけひきつけられてはパスカットもできない。

 

 

「行くぞ!これが俺の特訓の成果だ!俺だってヒロトさんやタツヤ、玲名に負けない努力をしたんだ!”アストロゲート”!」

 

ドゴンッ!

 

 

ややゴールからは遠いが、緑川が渾身のシュートを放った。

イナズマジャパンの虚を突いた形となり、誰もそのシュートを止めることができない。

さらにそこに、走りこんできていた折緒が近付く。

 

 

「見てろ、灰崎!水神矢!日本代表の座は俺たちが頂く!」

 

「っ!あの動きは!」

 

「シュートチェイン、”流星ブレードV2”!」

 

ドゴンッ!

 

 

緑川が放った”アストロゲート”を、折緒が”流星ブレード”でシュートチェインした。

さらに勢いを増したボールが、のりかの守るゴールへと突き進んでいく。

 

 

「っ...(私じゃ...)」

 

「のりかあああああああ!頑張れええええええええええ!」

 

「っ...円堂さん....」

 

 

「(のりか...お前の全力をぶつけてこい!お前がそこに立っている意味を考えろ!)」

 

 

「(私は..........っ....今は精一杯、このゴールを守る!)はあああああああ!”マジン・ザ・ウェイブ”!」

 

 

”アストロゲート”に”流星ブレード”をチェインしたボールが、のりかの”マジン・ザ・ウェイブ”とぶつかり合う。

やはりのりかの”マジン・ザ・ウェイブ”は強力だが...こちらもそれに負けていない。

 

 

「っ...きゃあ!」

 

 

『弾いたああああああああ!ゴールは奪わせませんでしたが、完全には止められていません!ボールはまだ生きている!』

 

 

最終的にはお互いに弾かれる形となり、のりかはその場で尻もちをついた。

ボールは正面に弾かれ、それを追うように不動、風丸が走り寄る。

だがこのチャンス、逃すわけにはいかない。何としても追加点を取られせてもらおう!

 

 

「っ!不動、風丸!急いでボールを確保しろ!」

 

「えっ?」

 

 

『あ、嵐山だああああ!嵐山が猛スピードでボールへと走り寄っている!何というスピードだ!』

 

 

「っ...不動!お前がボールを確保しろ!俺は嵐山を止める!」

 

「おう!」

 

「悪いけど、足止めは無しだ。」

 

「なっ!?」

 

 

俺はさらにスピードを上げ、風丸と正面衝突する直前で回転して風丸を避ける。

流れるように行われたその動きに、風丸でさえまるでついてこれていなかった。

 

 

「「もらった!」」

 

 

俺と不動、ほぼ同時にボールへと辿り着き、お互いに足を延ばす。

僅差だったが、俺の方が先にボールに触れ、俺の進行方向へとボールは転がっていく。

 

 

「くっ...!」

 

「ふっ...貰うぜ、不動。」

 

 

「マズイ....のりか!」

 

「のりかさん!」

 

「海腹!」

 

「っ....」

 

「悪いけど、俺は手加減とかできないからさ。」

 

 

そう言いながら、俺はシュート体勢に入る。

 

 

「怪我したくなかったら....避けた方がいいよ。..........”バイオレントストームGX”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ....!」

 

 

『ご、ゴーォォォォォォォォォル!海腹、緑川と折緒のシュートを弾きましたが、その隙をついた嵐山のシュートが炸裂!ネオジャパン、イナズマジャパン相手に2点を奪い取りました!まだ前半半ばですが、一方的な展開となっています!』

 

 

結局のりかは立ち上がることができず、俺の放ったシュートはそのままゴールへと突き刺さった。

どうやらのりかは何か悩んでいるようだが...試合に雑念を持ち込んでいる時点で、あっちに勝ち目はない。

昔、帝国との試合で俺も痛い目にあった。あの頃が懐かしく感じるよ。

 

 

.....

....

...

..

.

 

鬼道 side

 

 

「ご、ごめんなさい...私....」

 

「大丈夫だよ、のりか!必ず俺たちが点を取るからさ!」

 

「そうっスよ!俺たちディフェンスも、今度はシュートチャンスを作られないよう頑張るっス!」

 

「明日人...壁山君......ごめん....」

 

 

どうやら海腹は何か壁にぶち当たっているようだな。

だがその壁は自らの手で乗り越えていくしかない。

 

それに俺も今、嵐山という最大の壁にぶち当たっているしな。

 

 

「(嵐山というチームのブレイン、そして最強のプレイヤーがディフェンダーにいることでチームがのびのびとプレーしている。単純に実力があがっていることもわかるが、嵐山という存在がチームを大きくしている。)」

 

「すまねえ鬼道...俺たちがしっかり攻められていたらこんなことには...」

 

「いや、染岡も吹雪もそこまで悪いプレーはしていない。相手の動きが想定以上で、しかもこちらの動きに的確に対応されていることが問題なんだ。」

 

「確かに、こちらのプレーは全部読まれているような感じだよね。」

 

「ああ。かなり研究されているように感じる。」

 

 

さすがは嵐山だ。そしてその嵐山の指示に応えることができる彼らもまた、見事と言わざるを得ない。

だが我々は日本の代表として選ばれている。これ以上、無様な姿を見せるわけにはいかない。

 

 

「作戦を伝える。みんな集まってくれ。」

 

「楽しそうじゃねえか、鬼道。」

 

「うん。鬼道君が悪い笑顔してるよ。」

 

「ふっ....ああ、楽しいさ。フットボールフロンティアでは結局、嵐山とは試合ができなかったからな。お互いチームメンバーは異なるが...俺は全力で嵐山と試合できることが嬉しいのさ。」

 

 

だからこそ、俺はこの試合に勝つ。

俺の全力をもって、お前という最高のライバルを超えていってやる!

 

 

.....

....

...

..

.

 

嵐山 side

 

 

『さあふたたびイナズマジャパンのボールで試合が再開!....おっと!イナズマジャパン、フォーメーションを変えてきたようです!稲森を前線にあげ、染岡、吹雪と合わせたスリートップのフォーメーションだ!攻撃の流れを変えてきたか!』

 

 

「(稲森がフォワードか....注意すべきだが、染岡と士郎も無視はできん。俺はディフェンスに徹するか。)」

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「鬼道!」

 

 

染岡が鬼道へとパスを出し、3人がそれぞれ中央とサイドからあがっていく。

俺たちがさっきやった攻撃パターンと似ているな。だが全く同じわけではあるまい。

 

 

「(鬼道のことだ、いやらしいプレーを考えているに違いない。だがそう思い込むのも良くないし、ここは普通に守っていくか。)坂野上は中央を死守!折緒、ペルセウスは攻撃に備えつつサイドを警戒!中盤、終盤でしっかり動きを止めていくぞ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

「ふっ...ここからは俺たちの反撃だ、嵐山!」

 

「っ、この動きは...」

 

「必殺タクティクス、”ルートオブスカイ”!」

 

 

鬼道がその場で飛び上がり、空中でパスを出す。

さらに一星、タツヤとどんどん空中でパスをつなげていき、こちらにボールを渡さない勢いだ。

だが、そのタクティクスは俺がいる時点で通用しない!

 

 

ピュィィィィ!

 

 

「必殺タクティクス、”ペンギンカーニバル”!」

 

 

俺が口笛を吹くと、空飛ぶペンギンの群れが襲来して空中を飛び回る。

それによって、空中でパスをつなげていたイナズマジャパンはもろにペンギンの突撃を食らうことになった。

 

 

「うわあああああ!」

 

「っ!(しまった...!このタクティクスもあったか...!)」

 

「うおおおおおおおおおおお!」

 

 

丁度ボールを持っていた一星がそのまま落下するが、稲森がものすごい勢いで一星の元へと駆けていく。

 

 

「”イナビカリダッシュ”!」

 

「うわっ!」

 

 

そしてそのままの勢いで”イナビカリダッシュ”を発動し一星を抱きかかえ、さらには足でボールをトラップしながら地面へ着地した。

 

 

「(へえ...あれからさらに進化してるじゃん。修也との修行はうまくいってるみたいだな。)」

 

「大丈夫か、一星!」

 

「あ、ありがとう、稲森君...」

 

「良かった。...よ~し、まだボールは生きてる!攻めていくぞ!」

 

 

そう言って稲森は、抱えていた一星をその場に立たせるとドリブルであがり始めた。

一星はなにが起こったのかまだ理解できていないのか、呆然とした様子で稲森を見つめていた。

 

 

「(よし...)稲森は俺がマークする!ハデス、白兎屋、岩戸はゴール前を固めて、突っ込んできた奴を対処しろ!」

 

「ゴス!」

 

「はい!」

 

「了解やっぺ!」

 

 

『おっと!嵐山が前に出て、稲森をマーク!強烈なプレッシャーが稲森を襲います!』

 

 

「(嵐山さんがマークか...でも、俺だって豪炎寺さんと特訓して強くなったんだ!嵐山さんにだって、勝ってやる!)」

 

 

『稲森、それでも前進!嵐山のプレッシャーから逃げずに立ち向かっていく!』

 

 

「ふっ...(お前はそういう奴だよな。だからこそ、俺はお前に未来を見出した!)...来い、稲森!」

 

「負けませんよ、嵐山さん!」

 

 

稲森が俺を抜こうと何度もフェイントをかけてくるが、俺も負けじとボールを奪いに行く。

激しく体をぶつけ合いながら、稲森は俺を抜けないがボールは奪わせず、お互いに一歩も譲らない戦いとなっている。

 

 

「(くっ...抜けない...!)」

 

「(っ...うまいことキープするな...!)」

 

 

「こっちだ、稲森君!」

 

「っ!」

 

「っ、そこだ!」

 

 

後方からタツヤが走ってきて、稲森へとパスを要求した。

稲森の意識が一瞬、タツヤへ向かったことで俺への対処が甘くなり、俺はその隙をついてボールを奪おうと足を伸ばす。

完全にボールを奪ったと思った瞬間、稲森はボールをキープしながらその場で飛び上がり、そしてそのままタツヤへとパスを出した。

 

 

「なっ!?」

 

「(今の俺にはこれが精いっぱい...!でもボールは取られてない!)」

 

 

「(稲森の今の動き....狙ってやったのならばかなりのスキルだ。嵐山が驚くのも無理はない。)」

 

 

「よし...染岡さん!」

 

ドゴンッ!

 

 

タツヤへと渡ったボールは、サイドから駆けあがっていた染岡へとパスされた。

ボールを受け取った染岡は、そのままドリブルでゴール前へと駆けていく。

 

 

「行かせないやっぺ!」

 

「へっ...どれだけ成長したか見せてもらおうじゃねえか!」

 

「っ.....っ.....!」

 

「っ......甘え!」

 

「っ!」

 

 

染岡は白兎屋のディフェンスをうまくかわし、さらにゴール近くまで駆けていく。

岩戸とハデスは.....うん、冷静にゴール前を固められているな。

 

 

「行け、染岡!」

 

「おう!食らいやがれ!”ワイバーンクラッシュV4”!」

 

ドゴンッ!

 

 

染岡がペナルティエリアに入ってすぐに、シュートを放った。

どうやら染岡もさらにパワーアップしているようだな。

だがこちらにも進化した者たちがいる!

 

 

「俺に任せるでゴス!”スーパーしこふみV3”!」

 

「俺もいる!”真・裁きの鉄槌”!」

 

「なにっ!?」

 

 

岩戸とハデスのブロックで、染岡の放った”ワイバーンクラッシュ”の勢いが落ちた。

止めることはできなかったが、これで西蔭もかなり楽ができるだろう。

 

 

「ふっ...後は任せろ!”王家の盾”!」

 

 

西蔭の十八番である”王家の盾”によって、”ワイバーンクラッシュ”は完全に勢いをなくして西蔭の手に収まった。

だがそれでもかなりの威力はあったな。岩戸とハデスのおかげもあって止められたと思った方が良さそうだ。

 

 

「(これが元雷門中、嵐山さんや豪炎寺修也と一緒に戦ったストライカーか。少し手が痺れている.....だが問題無い。それに俺にはあの必殺技もある!)...ゴールはこちらに任せて、攻めて下さい!」

 

 

西蔭は俺へとボールを投げ渡す。だがそのボールを鬼道がカットした。

 

 

「なっ!?」

 

「息つく暇もないほどに攻める!いくぞ、お前たち!」

 

「「「「おう!」」」」

 

「へぇ....なら止める!」

 

 

「っ!...基山!」

 

「はい!」

 

 

ボールを奪った鬼道は、俺が動き出したことを察知したのかすぐにタツヤへとパスを出した。

何だ、俺と勝負しないのかよ鬼道。

 

 

「(焦ってパスを出してしまったが、結果的にはそれで良かったか。)」

 

「(鬼道さん、結構焦ってパス出してたな。...正直わかる。嵐山さんのディフェンスって怖いんだよ。)....何て、試合中に余計なことは考えない!....今度こそ決めて下さい、染岡さん!」

 

ドゴンッ!

 

 

「一言余計だぜ、基山!....いくぜ!”ワイバーンクラッシュV4”!」

 

ドゴンッ!

 

 

ふたたびタツヤから染岡へとパスが通り、染岡も再度”ワイバーンクラッシュ”を放った。

だが染岡の前にはまだ、ハデスと岩戸がいるぜ。さっきと同じ結末になるだけだ!

 

 

「何度やっても同じでゴス!”スーパーしこふみV3”!」

 

「俺たちを甘く見ないでください!”真・裁きの鉄槌”!」

 

「へっ...甘く見てねえさ。俺のシュートを完璧に止めたからこそ、俺たちがここまでやらされてんだからよ!」

 

「っ!」

 

 

まっすぐ進んでいた”ワイバーンクラッシュ”だったが、突然曲がってゴールから逸れていく。

そしてその先には.....

 

 

「でもこのシュート、決めさせてもらうよ!」

 

「士郎か!」

 

「これが僕と染岡君の合体技!」

 

「「”ワイバーンブリザードV3”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ....うおおおおおおおお!」

 

バシュンッ!

 

 

『ゴーォォォォォォォォル!日本代表イナズマジャパン、ついにネオジャパンからゴールを奪いました!これで1vs2!まだまだ試合は始まったばかり!代表の意地を見せてほしいところです!』

 

 

染岡と士郎の合体技、”ワイバーンブリザード”は意表を突かれた形となりそのままゴールへと突き刺さった。

1点返されてしまったか....だがまだ1点。時間はたっぷりあるんだ。それに今の攻撃パターンはもうインプットした。西蔭もあの必殺技を温存しているようだが、点を取られたことで火が点いただろう。

 

 

「このまま一気に同点に追いつき、そして逆転するぞ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

「このまま勝たせてくれるほど、代表の座は甘くない!全力でいくぞ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

前半最後の攻防

嵐山 side

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「緑川さん!」

 

「ああ!」

 

 

ネオジャパンのボールで試合が再開し、坂野上が緑川へとボールを渡してペルセウス、折緒と共に駆けあがっていく。

だがその攻撃力を警戒されてか、ペルセウスと折緒には一星とタツヤがそれぞれマークにつき、中央をいく坂野上には鬼道がついていた。

 

 

「(士郎と染岡、稲森はいつでも攻撃に転じられるよう、ディフェンスには消極的か。ならカウンターを警戒するべきだが....それは鬼道とて承知のはず。ならば逆に一斉攻撃に転じるべきか。)」

 

「(恐らく嵐山は定石など無視してくるだろう。)」

 

「(......ま、あんまり深く考えても俺が鬼道の作戦を完璧に対処するのは無理だ。戦略という面ではあいつの方が何倍もすごいからな。ここは俺らしく一斉攻撃といくか。)」

 

「(嵐山の次の一手は恐らく一斉攻撃!だからこそ、カウンターを狙うためにフォワードの3人は中盤に残しておく!)」

 

「「(勝負だ!)」」

 

 

「お前たち!ここは全員で攻撃にいくぞ!」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「お前たち!一斉攻撃に備えろ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

俺と鬼道、ほぼ同時に互いのチームに指示を出す。

読まれていたか....だが、それで止まるほど俺たちの攻撃も甘くはない!

たとえ読まれていても力づくで、強引にでも突破していく!

 

 

「緑川!積極的にボールを回していけ!」

 

「はい!...クララ!」

 

「よっと....ハデス。」

 

「はい!....緑川さん!」

 

 

俺の指示通り、緑川を中心に積極的なパス回しが行われている。

これによりイナズマジャパンはマークする相手を絞れず、ボールが縦横無尽に飛び回っているのを見ていることしかできずにいた。

 

 

「くっ...(何て速度のパス回しだ。これでは指示を出してもすぐにボールが別の場所に渡ってしまう!それに一斉攻撃してきている以上、マンツーマンディフェンスをすればそれぞれの実力差によっては簡単に突破されてしまう....特に嵐山がボールを持って攻めてきたら....っ...どうすれば....)」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「っ!(稲森!?)」

 

 

『おっと!稲森がものすごい勢いで飛び出した!かなりのスピードで緑川へと突進!』

 

 

 

「っ、マジか!えっと....っ!ゴーレム!」

 

ドゴンッ!

 

 

「あっ!しまった!」

 

 

稲森が突撃してきたことで慌てたのか、緑川からの岩戸へのパスは大きく逸れてしまう。

これはラインを割ったか.....っ!

 

 

「(まだボールは生きている!前半の残り時間もあと少し....だったら俺があのボールを奪って、最後の攻撃チャンスを作るんだ!)うおおおおおおおおおおおおおおお!”イナビカリダッシュ”!」

 

 

『これはあああああああああああ!稲森、緑川が蹴ったボールを猛スピードで追いかけ、必殺技を駆使してカットしました!ボールを追いかける執念が伝わってきました!』

 

 

「ナイスプレー!稲森君!」

 

「ナイスだよ、明日人!」

 

「すごいっスよ、稲森君!」

 

 

「(ほんと...まさか今のボールをカットするとはね。次世代は芽吹いてきてるってか?....だが、まだ負けるつもりはない!)」

 

「っ!(嵐山さん...!)」

 

 

稲森が着地して周囲を見渡しだしたので、俺は猛スピードで稲森へと接近する。

相手に思考する時間を与えない、それだけでも相手の攻撃力を削ぐことができる。

考えるより動け、動きながら考えろ....それができるプレイヤーがさらに上へと行ける!

 

 

『あ、嵐山が稲森へと急接近!ボールをカットした稲森ですが、この強大な壁は乗り越えられるか!?』

 

 

「(すごいプレッシャーだ....でも、今の俺にできることをすればいい!)不動さん!」

 

ドゴンッ!

 

 

「なにっ!?」

 

 

バックパスだと?もう時間も少ない中で奪ったボールなのに、それを後ろに戻した。

確かに俺が接近してはいたが、それでもタツヤや鬼道といった攻めの基点にパスを出すことはできたはず...

何か狙っているのか?

 

 

「っ!」

 

 

いや、これは俺の視線をそらすための一手か!

俺が一瞬目を離した隙に、稲森が前線へと走り出していた。

こうなると厄介だ...俺は全力で走っているから、急に止まるのは難しい。

ましてや方向転換もかなり負担がかかる!

 

 

「いけ!」

 

「よっと!」

 

「任せた!」

 

 

ボールを受け取った不動から、風丸、壁山、水神矢とダイレクトにボールを繋いで、俺を躱すよう円を描くようにパスを回していく。ここまでされると、俺が取れるボールではなくなるな。

 

 

 

「基山くん!」

 

ドゴンッ!

 

 

そして水神矢からタツヤへとボールが渡ると、タツヤはすぐさま前線へとパスを出そうと構える。

 

 

「染岡さん!頼みます!”スターループ”!」

 

ドゴンッ!

 

 

そして流れるように染岡へとパスが渡ると、染岡と士郎、西蔭の2vs1の状況となった。

このまま染岡が決めに来るか、それともさっきと同じように士郎との連携で来るか....

 

 

「行くぜ!”ワイバーンクラッシュV4”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「(そのまま打ってきたか!止める!)”王家の....っ!」

 

「(違う!”ワイバーンブリザード”だ!)西蔭!」

 

 

「遅いよ!”ワイバーンブリザードV3”!」

 

ドゴンッ!

 

 

そのまま”ワイバーンクラッシュ”を放ってきたかと思われたが、途中で士郎の方へと軌道が変わった。

そしてそれに合わせるように士郎が”エターナルブリザード”を放ち、二人の合体技である”ワイバーンブリザード”へと変化し、西蔭を襲う。

 

 

「(大丈夫だ!お前なら止められる!)西蔭!」

 

「(ふっ...俺が野坂さん以外で初めて、背中を預けても良いと思った人...嵐山さんの期待に応える!)何度も同じ手は食らわん!はああああああ!」

 

 

西蔭は”王家の盾”をキャンセルすると、右手を反対側へと伸ばす。

すると手からオーラが伸び、それが手の形となって跳んできたボールを覆いつくす。

 

 

「”キャスティングアーム”!」

 

 

そしてその手は”ワイバーンブリザード”によって凍てつくことも無く、そのまま西蔭の手へと戻っていき、最終的にはシュートを止めることに成功していた。

 

 

「ま、マジかよ...」

 

「僕たちの”ワイバーンブリザード”が止められた....!」

 

「まだまだ俺の力はこんなものではない!嵐山さん!俺はまだやれます!だからどんどん攻めて下さい!」

 

「おう!ゴールは任せたぜ!」

 

「はい!」

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

 

『おっと、ここで前半終了のホイッスル!なかなか濃い内容の前半でした。終わってみれば1vs2でネオジャパンがリード!これが日本最強プレイヤーと名高い嵐山の実力なのでしょうか!ネオジャパン、日本代表イナズマジャパンに引けを取らない、いや、それ以上の実力を見せつけています!果たして後半、イナズマジャパンは代表としての意地を見せることができるのでしょうか!』

 

 

「ふぅ...」

 

「お疲れ様です、隼人さん。」

 

「おう、ありがと杏奈ちゃん。」

 

 

俺がベンチに座ると、杏奈ちゃんが俺にドリンクを手渡してくれた。

言い忘れていたが、こちらのベンチには杏奈ちゃんと大谷さんがいる。

こっちはメンバー数がギリギリだから、こういうサポートをしてくれるのはありがたい。

 

 

「みんな、しっかり給水しておけ。だが飲みすぎるなよ。体が動かなくなるからな。」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「西蔭、さっきのはなかなかよかったな。」

 

「ありがとうございます。」

 

「だけど後半、恐らくあっちも本気で攻めてくるだろうから、”アレ”、解禁するぞ。」

 

「もう...ですか?」

 

「ああ。念には念を入れよってな。」

 

「わかりました。....岩戸、ハデス!頼んだぞ!」

 

「任せるでゴス!」

 

「了解です。」

 

 

「それからペルセウス、折緒、坂野上。お前らも後半は連携で攻めていけ。」

 

「「「はい!」」」

 

 

「緑川と氷浦は後半、俺と一緒に中盤でフォロー。倉掛と白兎屋はディフェンスラインを意識しつつ俺たちのフォロー。」

 

「「「はい!」」」

 

「了解やっぺ!」

 

 

「こっちが勝ってるんだ。守りに入らず、ガンガン攻めていくぞ!この試合に勝って、俺たちが日本代表だ!」

 

「「「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」」」

 

 

.....

....

...

..

.

 

鬼道 side

 

 

「あちらさん、かなり盛り上がってるな。」

 

「まあ俺たち相手に勝ってるし、嵐山サンは人を乗せるのがうめえからな。」

 

 

灰崎や吉良のいうように、あちらの盛り上がりはすごい。

対して、こちらは負けているからか通夜のような暗さだ。

 

 

「みんな、ごめん...私がもっとしっかりしてたら...」

 

「気にすんなよ、のりか!まだ試合時間は残ってるんだ!」

 

「そうっスよ!それに前半最後の方は俺たちがボールをキープできてたっス。」

 

「必要以上に自分を攻める必要は無い。俺たちディフェンス陣もお前をフォローできていなかったしな。」

 

「明日人...壁山君...風丸さん...」

 

 

「おーほっほっほ。後半はリズムを変えていきましょう。メンバーも大きく変えますよ。」

 

 

ここでメンバーチェンジか。だが確かにリズムを変えるのは悪くない。

それに前半の攻防が激しかったせいか、体力を消耗している奴らもいる。

監督は何かを企んでこの試合を組んだみたいだが、それが何なのか見当もつかない。

一体何を考えているんだ、この人は。

 

 

「後半はフォワードに豪炎寺君、灰崎君、稲森君。」

 

「「「「「っ!!!」」」」」

 

「豪炎寺!お前、もう足は大丈夫なのか!?」

 

「ああ。と言っても、今日の調整次第になるだろうけどな。」

 

「ふっ...嵐山相手に調整で済むといいけどな。」

 

「ふっ...だな。」

 

 

「ミッドフィルダー、鬼道君、不動君、野坂君。」

 

「えっ、野坂?」

 

「野坂も大丈夫なのか?」

 

「ええ、まあ。前後半どちらかなら問題無いかと。今後どうするかは今日次第...といったところですかね。」

 

 

まさか野坂まで試合に出ることになるとはな。

 

 

「ディフェンダー、風丸君、吹雪君、壁山君、水神矢君。」

 

「「「はい!」」」

「はいっス!」

 

 

「キーパーはそのままのりかさんでいきま~す。」

 

「えっ...私...ですか?」

 

「おーほっほっほ。とにかく頑張ってくださいね。」

 

 

キーパーは海腹のままか。円堂は確かに頼りになるが、円堂ばかりに頼るわけにもいかないからな。

韓国戦の豪炎寺のように、今度は円堂が標的となって怪我をしてしまう可能性も考えられる。

そう考えると、海腹にも世界と戦えるレベルまであがってきてもらわなくてはな。

 

 

「チッ...ここで交代かよ。」

 

「後半は俺たちに任せておけ、染岡。」

 

「おう、頼んだぜ豪炎寺!」

 

 

『さあそろそろ後半戦が開始します!どちらのチームも一歩も譲らぬ攻防!果たしてイナズマジャパンは日本代表としての意地を見せ代表の座を守り通せるか!それともネオジャパンがその力を見せ代表の座を奪い取るか!選手たちがフィールドへと散らばっていきます!』

 

 

 

「(前半...はっきり言って俺は嵐山にいいようにしてやられていた。だが後半はそうはいかない。必ず同点に追いつき、そして逆転する!)行くぞ!」

 

「「「「「おう!!」」」」」

 

 

「さあ行こうか!」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着!日本代表の意地!

久しぶりの投稿!ちょっと信じられないくらい忙しかったです。(今もですが)


嵐山 side

 

 

『おっとここでイナズマジャパン、勝負に出たか!怪我でオーストラリア戦はベンチだった豪炎寺を投入!さらにオーストラリア戦後に代表入りした野坂もここで投入してきました!これで攻撃のリズムを変え、まずは同点に追いつきたいところです!』

 

 

「ここで修也か....(怪我の状態がどうであれ、あいつほどのストライカーは他にはいない。)西蔭、気を引き締めていけよ!」

 

「はい!」

 

 

ピィィィィィィィィ!

 

 

「行くぞ、ペルセウス!」

 

「はい!」

 

 

ペルセウスと折緒がドリブルであがっていく。

あっちは結局士郎をディフェンスに戻したか。

それにしても、鬼道、不動、野坂って....司令塔ポジションが3人もいたら、チームが混乱しないか?

 

ポジションとしてはこちらから見て、野坂が左、不動が右...そしてその少し後ろに鬼道か。

普通に考えるなら、鬼道が指示役で他はあくまで鬼道を支えるポジションだろうが....あの監督のことだ、他に何か狙っているかもしれない。だがそう考えさせることも作戦かもしれない。

 

 

「ったく...面倒な相手だな。」

 

「おーほっほっほ。(私のこと、面倒だと思ってそうですね。それはこちらのセリフですよ、嵐山君。私の頭を悩ませる相手は、私の師しかありえないと思っていましたからね。)」

 

 

 

「全力で仕掛ける!必殺タクティクス、”ネオ・アブソリュートサイン”!」

 

 

『後半開始早々、ネオジャパンが仕掛けてきた!嵐山が”アブソリュートサイン”....いや、”ネオ・アブソリュートサイン”を発動!ネオジャパンの選手たちを指示して導いていきます!』

 

 

俺の指示通りのパス回しが始まり、坂野上、ペルセウス、折緒を中心に、緑川、氷浦、倉掛とどんどんとパスが繋がっていく。後半開始早々の高速パス回しに、イナズマジャパンもボールを追うのに精いっぱいの様子だ。

 

 

「くっ...!パス回しが早えぇ!」

 

「これじゃあ誰にマークすればいいかわからない!」

 

「(この速度で何て精度だ...これが嵐山さんの鍛えたチーム。だけどそれを乗り越えないことには、僕たち日本代表は世界と戦えない!)灰崎君、明日人君!落ち着いて、自分の近くに来たボールだけに対応するんだ!」

 

「お、おう!」

 

「分かったよ、野坂!」

 

 

さすがに野坂は冷静に対応してくるか。

野坂の一言で、慌てていた灰崎と稲森が冷静を取り戻した。

だが、かといって高速パス回しに対応できるわけでもなく、こちらの動きにはまだついてこれていない。

 

 

「(あちらもリズムを変えてきたか...だが、これ以上無様な姿を見せるわけにはいかない!俺たちは日本代表イナズマジャパンなんだ!)豪炎寺!」

 

「おう!」

 

「っ!」

 

 

鬼道の指示で、修也が動き出した。

とてつもないスピードでペルセウスの元へと突っ込んでいっている。

だが今のペルセウスはボールを持っていない!修也が突っ込んでいくなら、ペルセウスにボールを回さなければ良いだけだ!

 

 

「お前たち!分かっているな!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

「(ペルセウスに回さず...だったらこっちに....っ!?)」

 

「なっ!?」

 

 

『おおっと!緑川が坂野上へとパスを出したが、そこに豪炎寺が割り込んだ!ペルセウスに向かって走り出したと思われた豪炎寺!しかし緑川がパスを出したのを見てから方向を変えて坂野上に突っ込んだ!』

 

 

「(豪炎寺のスピード、テクニックだからこそできる荒業だ。それに豪炎寺ならば、たとえ嵐山が突っ込んできたとしても互角に戦える!)」

 

「(してやられたか...!修也は怪我から戻ったばかり...あれほどの動きをするとは考え付かなかった。チームの指揮官としては失格だな。...だが!)」

 

「っ!(来たか、隼人!)」

 

 

『今度は嵐山が豪炎寺めがけて突進!雷門のエースストライカーと名高い2人が、日本代表、そしてその座を狙うネオジャパンとしてぶつかり合うことになります!』

 

 

「修也!ボールは奪わせない!”爆・風穴ドライブ”!」

 

「っ!負けん!”爆熱ストームGX”!」

 

 

俺は”風穴ドライブ”によって風でできた通り道を作り、邪魔されずにボールの位置まで進もうとする。

対する修也はボールをキープすることを諦めたのか、”爆熱ストーム”でその場からシュートを放とうとした。

 

 

「くっ...!(魔神に投げ飛ばされた分、修也の方が先にボールに...!)」

 

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 

ドゴンッ!

 

 

『豪炎寺、強引にシュート!!!かなりゴールからは離れているが、西蔭はこれを防げるか!』

 

 

「(馬鹿な...この距離でもわかる!このシュートの威力は今までのシュートとはまるで違う!っ...仕方ない!)岩戸!ハデス!”アレ”をやるぞ!」

 

「了解です!」

 

「わかったでゴス!」

 

 

西蔭は修也のシュートの威力を見て、すぐに岩戸とハデスに声をかけた。

そうだ、このシュートを止めるにはそれをやるしかない!

 

 

『おおっと!これはああああああ!!!!』

 

 

西蔭はゴール中央で両腕を組んで仁王立ちし、その左右に岩戸、ハデスがそれぞれ並んで交差する。

そして最後に2人が中央に腕を伸ばすと、3人の後ろには巨大な壁が無数にあらわれた。

 

 

「これは千羽山中の...!」

 

 

「「「”真・無限の壁”!!!」」」

 

ドンッ!

 

 

修也の放った”爆熱ストーム”が、3人の”無限の壁”にぶつかる。

するとすぐにシュートの勢いはなくなり、ボールは3人の目の前に落ちるのであった。

 

 

「っ...まさか”無限の壁”とはな...」

 

「千羽山の選手もいないのに、一体どうやって...」

 

「研究したのさ、それこそ何度も何度も...試合の録画を何度も見直して、何度も失敗して。」

 

「研究...」

 

「俺たちは絶対に日本代表の座を頂く。ただそれだけのために、己を鍛え直し、研究し、力を極めた。機は熟した!俺たちが日本代表の座を貰い受ける!」

 

 

俺がそう宣言すると、イナズマジャパンの面々が下を向く。

あの鬼道や修也でされ、俯いてしまっていた。

円堂がフィールドにいない以上、”無限の壁”を破れる”イナズマブレイク”は打てない。

たとえ打てたとして、そう簡単には打たせないし、俺たちも追加点を諦めていない。

 

この試合、俺たちが勝つ!

 

 

ピッ!

 

 

「っ!」

 

『おっと!イナズマジャパン、ここでメンバーチェンジです!後半開始早々の交代ですが、今の動きを見ての判断でしょうか。水神矢に変わって、円堂がフィールドに入ります!円堂です!』

 

 

「えっ?私と交代じゃないの...?」

 

「(円堂か...つまり監督は”イナズマブレイク”で点を取れと言っているのか。)」

 

 

『まだボールは生きています!このプレーが止まれば交代ですが、円堂はキーパーではなくフィールドプレイヤーとして交代するようです!円堂はキーパーとして出場しても、自ら前線に攻め込むなどガッツあふれる選手!フィールドプレイヤーとしての活躍にも期待です!』

 

 

「面白い。西蔭!」

 

「はい、嵐山さん!」

 

 

やっぱり”無限の壁”を破るために、円堂を入れてきたか。

だったら”イナズマブレイク”で点を取られても負けないよう、ここでさらに俺が点を取る!

西蔭からのロングスローを受け取り、俺はすぐさまドリブルで中央をこじ開けていく。

 

 

「止めろ!」

 

「ここは通さないっスよ!」

 

「君のスピード、僕には通用しないよ!」

 

 

中央をこじ開ける俺の前に、壁山と士郎が立ち塞がった。

だがそれも想定内だ。俺がこうして動いたことで、壁山と士郎が釣れた。

このチームは俺だけじゃない。全員で1点を奪い、1点を守り抜く!チームサッカーの理想形!

 

 

「っ!(嵐山に注目が行って、全員が中央に寄りすぎている!)」

 

「(おかしい...これはいったい....っ!)」

 

「悪いが、このチームのストライカーは俺じゃない。...決めろ、お前たち!」

 

ドゴンッ!

 

「「っ!」」

 

 

俺は十分にイナズマジャパンの注目を集めたうえで、パスを出した。

俺がパスを出すと思っていなかった連中は、完全に虚を突かれた形となり、簡単にパスが通った。

そして俺のパスを受け取った折緒と、そのすぐ近くにはペルセウス、坂野上がいる。

 

 

「行くぞ、2人とも!」

 

「「はい!」」

 

「はああああああああ!」

 

 

折緒が目の前のボールにパワーを溜めると、地上から宇宙服を着たペンギンがあらわれる。

 

 

「なっ!?あれは...!」

 

「私たちの最強の必殺技...!」

 

 

「はあああ!」

 

「「”スペースペンギンV3”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

そして上空でペルセウス、坂野上によって蹴り放たれたボールは、ペンギンたちと共にゴールへと突き進んでいく。

この必殺技は円堂も破った必殺技....これがお前たちに止められるか、イナズマジャパン!

 

 

「くっ...これ以上の失点は命取りだ!だからもう点はやらん!」

 

「俺たちで少しでも勢いをそぐ!」

 

「”スピニングフェンス”!」「”ゾーン・オブ・ペンタグラム”!」

 

 

壁山と士郎はひきつけたが、風丸と水神矢はしっかり動けるように待機していたか。

二人の必殺技が”スペースペンギン”とぶつかり、シュートの威力が少し弱まってしまったか。

だが完全には止めきれていない!

 

 

「っ....うわあああ!」

 

「くっ....あとは...頼む.....ぐわっ!」

 

 

「っ....私が....私が止めなきゃ.....今は....私が日本代表のキーパーなんだから!はああああああああ!”マジン・ザ・ウェイブ”!」

 

 

勢いの弱まった”スペースペンギン”と、のりかの気合の入った”マジン・ザ・ウェイブ”がぶつかり合う。

勢いは弱まってはいるが、”スペースペンギン”の威力は絶大だ。

お前に俺たちの勢いが止められるか、のりか....!

 

 

「っ....(すごい重い....こんなシュートを打てる人たちが、代表に選ばれず私なんかが選ばれてる........っ........でも!それでも選ばれた以上、私は頑張らないとダメなんだ!だから....!)止める!もう絶対、ゴールは割らせない!はあああああああああああああ!」

 

 

やや押され気味だったのりかだったが、右手だけを突き出す形だった”マジン・ザ・ウェイブ”に左手を加え、両手での”マジン・ザ・ウェイブ”としたことで安定し、ついには完全に”スペースペンギン”を止めてしまった。

 

 

『と、止めたああああああああ!海腹、強烈なシュートを見事止めてみせました!』

 

 

「ハァ...ハァ....やった....やったよみんな!」

 

「ナイスっス、のりかさん!」

 

「よし、海腹!一旦ボールをクリアしろ!」

 

「はい!」

 

 

そのままのりかはボールを風丸へと渡し、ボールを受け取った風丸がフィールド外へと出るようキックする。

これで試合が一旦止まった....つまり、円堂が交代で出てくるってわけか。

 

 

「円堂さん、後は頼みます!」

 

「おう!」

 

 

水神矢とハイタッチして交代し、円堂がフィールドへと入ってくる。

キーパーじゃなくてフィールドプレイヤーとして見る円堂はなかなか新鮮だな。

だが今は敵同士...円堂をどう攻略するかを考えるか。

 

 

「嵐山!」

 

「....どうした?」

 

「サッカーやろうぜ!」

 

「っ!.....ぷっ.....ははは!」

 

「な、なんだよ!なんで笑うんだよ!」

 

「別に...はは....」

 

 

全く...お前はそうだよな。

敵....なんて言葉は似合わない。あくまでライバル。

競い合うライバルってのがいいか。

 

 

「(さて...だったらそのライバルにどう競り勝つか、しっかり考えないとな。)」

 

 

 

『さあ、円堂をフィールドプレイヤーに加えて試合再開!緑川のスローイン.....おおっと!』

 

「っ!」

 

「野坂!」

 

 

緑川がスローインで倉掛へとボールを渡そうとしたが、それを鬼道がカット。

すぐさま野坂へとパスを出した。野坂はボールを受け取ると、そのままドリブルで攻め込んでくる。

 

 

「ここは通さないやっぺ!」

 

「ふっ...悪いけど、僕たちはここで止まってなんていられないんだ。だから通させてもらうよ。”スカイウォーク”。」

 

「っ...!」

 

 

野坂はボールを宙へ打ち上げると、自身もそれに追随するようにジャンプし、そのまま空中を歩くように飛び回っていく。さすがに空中で移動されたんじゃ、白兎屋に止めるすべはなくそのまま突破されてしまった。

 

 

 

「(守りは固い...でも、岩戸君とハデス君をどうにかすれば”無限の壁”は使えないはず。だったら.....)稲森くん!」

 

「おう!」

 

 

「そっちでゴスか!」

 

「揺さぶりは効かないぞ!」

 

 

「...へへ、野坂!」

 

ドゴンッ!

 

 

 

野坂が大きく反対へとパスを出したことで、岩戸とハデスはそちらへと意識が向く。

そして稲森へとパスが渡るが、稲森はここでふたたび野坂へと大きく蹴り返した。

 

 

「なっ!?」

 

「ま、またパスでゴスか!?」

 

 

 

『うまい!野坂と稲森、両サイドで大きくパスを出しあうことでディフェンダーの動きを鈍らせた!これで野坂と西蔭の1対1だ!』

 

 

「よし...行くよ、西蔭!」

 

「っ....来い、野坂悠馬!」

 

「はあああ!”キングスランス”!」

 

ドゴンッ!

 

 

「へぇ...(野坂の奴、しっかりリハビリできてるじゃないか。フットボールフロンティアで試合したときよりさらに強くなってやがる。)」

 

 

野坂から放たれた”キングスランス”が、西蔭の守るゴールへと一直線に突き進んでいく。

岩戸とハデスの体勢が崩れている以上、ここで”無限の壁”は発動できない。

やはりしっかり本人に教えてもらうことのできなかった連携技はまだまだ甘いな。

 

 

「(だが....ここが腕の見せ所だぞ、西蔭!お前の力、野坂に示してみろ!)」

 

「(野坂さんとの1対1....燃えないわけがない!あんたが強くなっているように、俺だってあの時よりもっと強くなったんだ!俺の力、あんたにぶつける!)うおおおおおおおおおおおおお!”王家の盾”!!!」

 

 

野坂の”キングスランス”と、西蔭の”王家の盾”がぶつかり合う。

互いに一歩も譲らず、”キングスランス”の勢いはまるで衰えないし、西蔭も押されずにどっしりと構えられている。

 

 

「っ....(これが野坂さんの本気のシュート!参ったぜ...何とか持ちこたえてはいるけど、止められそうに....無い...!)」

 

「西蔭....(君がここまで成長していたなんて、僕は嬉しいよ。だからこそ僕は...君に勝つ!)」

 

「ぐっ.....ぐあああああああああああああああ!」

 

 

『ご、ゴーォォォォォォォォォォォル!前半に攻めあぐね、1点しか奪えていなかったゴール.....ここでついに奪い返しました!野坂と西蔭の同校対決は、野坂に軍配があがりました!』

 

 

「ナイス、野坂!」

 

「ふっ...やるじゃないか、野坂。」

 

「けっ...俺はスルーかよ。せっかく準備してたのによ。」

 

「はは...ごめんね灰崎君。でも君にもきっと出番はあるはずさ。」

 

 

 

「っ...すみません、止められませんでした。」

 

「気にするな、西蔭。....それに、楽しかったろ?本気の野坂と戦えて。」

 

「っ!......はい、悔しいけど....最高でした!

 

「その気持ちが大事だ。その気持ちがあればお前はもっと上に行ける。」

 

「はい!」

 

「さあ!まだ時間は残っている!それにまだ同点だ!次の1点を奪って、決勝点にしようぜ!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

「さあ、行こうぜみんな!」

 

「「「「「おう!」」」」」

 

 

それからの試合展開は、結構一方的なものになった。

何とかこっちもボールをキープしたり攻めたりしたんだが、たとえキーパーでなくとも円堂という精神的支柱がフィールドにいることでチームの力は向上した。円堂という存在が、チームを強くする。

 

 

「これで決めるぞ!」

 

「「おう!」」

 

「”イナズマ”!」

「「”ブレイクV4”!」」

 

ドゴンッ!

 

 

「っ...行くぞ、お前たち!」

 

「「「”真・無限の壁”!....っ....ぐああああああああああ!!!」」」

 

 

『ゴーォォォォォォォォォォォル!日本代表イナズマジャパン、ここで”イナズマブレイク”!ネオジャパンの”無限の壁”を打ち砕き、見事追加点を奪い取った!』

 

 

ピッピッピィィィィィィ!

 

 

『そしてここで試合終了のホイッスル!前半圧倒していたネオジャパンでしたが、後半はイナズマジャパンの意地に押し切られる形で逆転されてしまい、3vs2!イナズマジャパンが勝利しました!』

 

 

「ふぅ....」

 

 

負けたか。最後は地力の差が出たな。

やっぱり円堂、修也、鬼道の3人は他と比べて別格だな。

だがやはり、それが日本代表の弱点でもある。

 

今のまま3人を頼りにしたチームでいると....案外どっかで痛い目見るかもな。

だけどそれを乗り越えてこそ、あいつらはさらに強くなれる。

 

 

「うっ...っ....」

 

「勝てなかった....っ....!」

 

 

こうして悔し涙を流してる、こいつらと同じように。

 

 

「さ、顔上げろ!」

 

「嵐山さん...」

 

「っ...俺たち....結局勝てなくて...っ...!」

 

「確かに試合には負けた。でもお前らは示したはずだ。」

 

「「「「えっ....?」」」」

 

「...戦う覚悟だよ。あの監督だって、そういうところを評価してくれるかもしれない。それに今年だけじゃない。来年、再来年にだって世界大会はあるかもしれないだろ?お前たちが見せた覚悟は、いつの日か必ず芽吹く。だから顔をあげて、胸を張れ!少なくとも.....俺はお前らと一緒にサッカーできて、最高に楽しかったぜ。」

 

「「「「「嵐山さん....!」」」」」

 

 

さて...こうして俺たちの挑戦は終わったわけだが。

 

 

「嵐山!」

 

「...今日は負けたよ、円堂。」

 

「へへ。でも俺は後半ちょっとしか出てないし、お前と戦った感じはしなかったなぁ...」

 

「そうか。ま、その気持ちは次の試合に取って置け。」

 

「そうだな!......と、ところでさ.....」

 

「うん?」

 

「嵐山は....日本代表には....」

 

「.......まだその時じゃない。」

 

「えっ?」

 

「じゃあな、円堂。次の試合も楽しみにしてるぜ。」

 

「なっ....ま、待てよ嵐山!俺の聞いたことにちゃんと答えろよ!」

 

 

俺はそう言って、円堂の言葉を無視して帰っていく。

悪いけど円堂....それはまだなんだ。今はまだ....な。

俺の方でもう少しやっておきたいことがあるから、今は無理なんだ。

 

 

「(おーほっほっほ。感謝しますよ、嵐山君。この試合で日本代表はさらに強くなる。そして強くなったこの日本代表を率いるのは....君しかいない。頼みましたよ、嵐山君。)」

 

 

 

 

 

 

「嵐山....」

 

「円堂、あいつの言葉...しっかり聞いていたか?」

 

「鬼道....どういうことだ?」

 

「あいつは言ったはずだ。...まだ、とな。」

 

「......っ!それって!」

 

「あいつだって、日本代表として世界と戦いたいはずだ。だから....あいつの言葉を信じて待ってやろう。」

 

「豪炎寺......そうだな....そうだよな!よ~し!みんな!これから特訓だ!あいつらに負けてられねえぞ!」

 

「「「「「おう!!!」」」」」

 

 

 

.



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。