英雄の模造品 (ヒャッハー)
しおりを挟む

プロローグ

 おれは世界を愛している。

 

 この世界に生を受けたときはそうでもなかった。

 おれはいわゆる転生者である。今生で生まれた村にはテレビもゲームもネットもない、前世の世界ほど物に溢れているわけでもなく食事は素朴だ。

 電気だってあまり通っていないし、挙げ句の果てに村の外にはモンスターと呼ばれる化け物がいるらしく非常に危険だ。

 有り体に言えばこの世界のことが嫌いですらあった。

 前世基準で言えば娯楽が少ないくせに危険度は比べものにならない。

 モンスターに襲われないように外には出ず、生きるための仕事だけしてつまらない村の中で完結する人生を生きていくことになる。

 

 そう思っていた、あの日までは。

 

 

 

 ある日村では見かけない格好の者たちが村にやってきた。彼らは“神羅グループ”と名乗った。

 『ここに魔晄炉を建設したい』

 『魔晄によってあなた方の暮らしも豊かになる』

 『周辺のモンスターの駆除も請け負い、安全を保証しよう』

 村は魔晄炉の建設を受け入れた。

 建設作業員や彼らを相手にした宿や食事所などの仕事が発生し、魔晄を変換した電力により村の暮らしは便利になり生活は豊かになった。

 やはりゲームやネットはなかったが…。

 

 しかし村が豊かになるだとかは彼にはどうでもよかった。

 それよりもおれは“神羅グループ”、“魔晄炉”というワードに衝撃を受けた。

 前世の少年時代を彩った名作、大人になってからも派生作品が生まれ多くの人を惹き付けてやまなかった世界観。

 「この世界、FF7だったんだ…」

 この世界に転生して、物心がついてから現在までこの世界をよく見る冒険者だとかモンスターがいるただのファンタジーな世界なのだと思っていた。

 しかしそうではなかった。

 久しく刺激のなかった彼の心に激しい熱が起こった。

 見たい。ミッドガルが、ゴールドソーサーが、北の大空洞が、ニブルヘイムが、この世界にあるあらゆる聖地が!したい!聖地巡礼!!

 おれは前世においてオタクと言われる人種であり、ファイナルファンタジーVII及びその派生作品群にことさらに熱を上げていた。

 

 

 

 それからはまるで生まれ変わったように活動的になった。

 聖地巡礼のためには外に出なければならない。

 モンスターの跋扈する危険な領域を旅することになるのだ、当然戦闘は避けられないだろう。

 ならば鍛えねばならぬ。

 何も主人公たちと一緒になって世界を救うほど強くなる必要はない。

 最低限自分の身を守れるだけの力をつけられれば良いのだ。

 村に派遣された神羅の兵士と親しくなり、彼の仕事の傍らではあるが個人的な訓練をつけてもらった。

 自主的に筋トレと木の棒の素振り、ランニングを繰り返して、たまに兵士に成果を見てもらう。

 どうやら才能はある方だったらしく村周辺のモンスター相手ならどうにか勝利、もしくは安定して逃走できるくらいの実力は身につけた。

 しかし正直な話をすればここいらのモンスターなどこの世界では大したものではない。

 それにどうにか勝てる程度の自身もまた。

 予想はしていたが、やはり原作で描写されていた主要キャラクターたちは化け物と言って差し支えないと思わざるを得ない。

 我ながら厳しい訓練をしたとは思うし、強くなったとも実感する。

 実際に今では自他共に認める村一番の強者となった。

 だが数メートル以上もジャンプしたり、拳でモンスターを撲殺などできないし、剣一本で街の構造物を叩き斬ることなどとてもできないし、これから先できるようになるとも思えない。

 クラウドやヴィンセントなどは特殊な処置を受けた存在であるためまだ理解できなくもないが、ティファやシド、タークスのレノやルードたちは純人間であるはずなのだ。

 なのに彼らは当然のようにクラウドと遜色ないほど強い。

 ゲーム的なステータスで見るなら、一部上回ってすらいる。

 やはり持っている才能から違うのだろうか。

 正直可能なら原作知識を活かして彼らを助け、あわよくば俺TUEEEEというやつもしてみたかったが、無理だ。

 彼らメインキャラクターたちの戦いは神話の域であり、そこらのモンスターに四苦八苦するような一般人が首を突っ込んでよいものではないだろう。

 

 (そもそもおれが助けなくても世界は救われるし、むしろ下手に手を出したら、それこそメテオが落ちて世界終了になるんじゃね?)

 

 そう考えたのもあり、当初の予定通り聖地巡礼の旅に専念しようと心を新たにした。

 

 

 

 そして青年と呼べる年齢になるまで旅費と力を蓄え、彼は村を出た。

 

 旅費を節約するために基本は自分の足で歩き、たまに遭遇するモンスターをかわし、乗り合いのチョコボ車を見かければ乗せてもらい、村や町を見つけて休む。

 旅の途中では見覚えのある風景やモンスターなどとも遭遇した。

 ゲームのように数秒で踏破できるような容易い地形ではないし、実際に現実として見るモンスターたちはずっと恐ろしかった。

 だが彼はそれさえ楽しかった。

 大すきだった世界の一部として生きているのだと実感できたから。

 

 

 見知った村や町だって訪れた。

 チョコボファームではチョコボに野菜をあげて乗せてもらえたし、カームで寝泊まりもした。

 

 

 ミッドガルに到着し、見たこともない数の人の群れと腐ったピザ、そして8つの魔晄炉とそこから立ち昇る緑の光を見た。

 

 (あれが魔晄、神羅は無尽蔵のエネルギーとか言っているが原作知識を持つおれは知っている。あの光は星の血液、ライフストリームだ)

 (この先ずっとあれを吸い上げればいずれは星が死ぬ。が、おれにできることはないし、しばらくすればクラウドたちが諸々の問題も解決してくれる)

 (何の心配もない、おれはこの世界を見て回るだけだ)

 

 

 

 船に乗り大陸を渡る。

 青い海、白い砂浜、晴れ渡る空、コスタ・デル・ソルに着いた。

 人と物で溢れていたミッドガルとはまた別種の活気を感じる。

 目に入る人の多くが開放的で、素肌を晒している。

 生まれてこの方田舎で生きてきた自分には水着の美女たちは目に毒だった。

 

 (おれもバカンスを満喫してみたいけど懐が…、諦めるしかないか)

 

 自分だって男だ。

 肌が褐色になるまで焼いて、サーフボードに格好よく乗って、かわいい娘たちに声かけたりしたい。

 が、観光地はカネがかかるのだ。

 のんびりするには懐が苦しい、無念だ…。

 

 

 旅を続ける。

 もうこの辺りで遭遇するモンスターを相手にするには実力が不足しているのか苦しくなってきている。

 最近は逃げ一手だ。

 村を出た当初は約束の地こと“北の大空洞”にも行ってみたいなんて思っていたが、これでは到底無理だろう。

 この辺りのモンスターならまだ遭遇してもすぐに逃げを打つことでなんとかなっているが、彼処に出現するモンスターはダメだ。

 おそらくレベルで言えば20にも満たないだろう己のような輩が近づいていい場所ではないのだ、ラストダンジョンは。

 

 

 コレルからゴールドソーサーへと伸びるロープウェイに未練を感じつつも通り過ぎる。

 

 (ゴールドソーサーか、ff7のファンとしては是非とも行ってみたかった。観覧車に乗りたいし、チョコボレースだってしたかった。前世から久しいゲームも恋しいし、闘技場は…ダメだ絶対実力足りねえや。クソ…カネがあればな、ハァ…)

 

 

 その後も各所を巡り、ついに目的地にたどり着いた。

 

 「ここがニブルヘイム…」

 

 主人公が生まれ、英雄が狂って人類の敵へと変貌する因縁の場所。

 村の奥、ニブル山の頂上にある魔晄炉には宇宙から襲来した厄災、ジェノバが保管されている。

 いろいろと厄ネタが詰まっている村だが、せっかくFF7の世界に転生したからには是非とも一目見ておきたかった。

 例の事件に巻き込まれる心配はあるが、まあ一泊二日の観光くらいなら大丈夫だろう。

 到着したのは日も暮れ辺りが薄暗くなったころであり、疲労も眠気もあったが村の入り口のアーチを目にしてにわかかに気分が高揚する。

 ニブルヘイムは確かに魔晄炉以外には取り立てて特色のある村ではなかったが、原作ファンが夢中になるには十分なものがあった。

 村の広場の中央に給水塔を発見し、意味もなく登ってみたりもした。

 童心に返った気分であったが、さすがに疲労がピークを迎えたので宿を取ることにした。

 

 (神羅屋敷はまた明日にでも見るとしよう。)

 

 そう考えて眠りについた。

 

 

 次に彼が目を覚ましたとき、村の様子は一変していた。

 燃えている。

 先ほどまで静かで、長閑な村であったニブルヘイムが真っ赤に燃えている。

 悲鳴が聞こえる。

 

 「神羅が!ソルジャーが火をつけた!!」

 「セフィロスが村人を斬り殺した!!」

 

 (しまった!よりによって今!こんなタイミングで事件が起きるなんて!!)

 (このままここに居たらセフィロスに殺されるか、宝条の実験体行きだ!とにかく村を出なければ!)

 

 神羅の英雄と戦ってどうにかなるわけもないし、もし奇跡的に生き残ってもジェノバ細胞と魔晄漬けにされてセフィロスコピーの一人になる。

 自分にソルジャーの素質があるとは思えない。

 魔晄中毒になり、ジェノバに乗っ取られて廃人まったなしだろう。

 そしてリユニオンのためにだけ生きて、最後にはセフィロスに用済みとして始末される。

 

 (そんなのはゴメンだ!)

 

 急いで村を出ようとしたが、周囲の建物から苦しむ人たちの声が聞こえた。

 

 (…っ!これでもそこらの一般人よりは強いって自負はある、せめて数人くらいなら!)

 

 良心の呵責を感じて、見捨てることができずに焼け崩れた建物の瓦礫を押し除けて人命の救助に取りかかったそのとき、見えた。

 

 真っ赤な炎に照らされる滑らかな銀色。

 本人も長身でありながら、その身の丈すら超える長さの刀。

 その刀で罪も無い村人を容赦なく斬り殺す英雄を。

 

 目があった。

 緑色。

 あの日、ミッドガルを訪れて目にした魔晄炉、そこから吹き上がるライフストリーム。

 それと同じ色。

 魔晄を浴びた者、ソルジャーの瞳。

 だが普通のソルジャーとは違う、爬虫類のような縦に割れた瞳孔。

 それが強い憎悪を込めて、こちらを見つめている。

 ハッとしたときには既に目の前に立ち、刀を振りかぶっていた。

 

 (長え、こんな長い刀とか絶対使い難いよな。)

 

 死の直前ゆえか引き延ばされた意識の中、そんな場違いな感想を抱いた。

 

そして、袈裟斬りに振り降ろされた刀によっておれの意識は途絶えた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

覚醒

 頭が働かない。

 今自分がしている行動の意味がわからない。

 いや、そもそも意味があるのか。

 何もわからない。

 己が誰なのか、ここがどこなのか、自分が今何をしているのか、わからない。

 

 それより何より、うるさい。

 どこからともなく声が聞こえる。

 一つや二つじゃない、何十何百どころか数え切れないほどの数の声が。

 無数の声が混じり合っていて、意味の見出だせる言葉になっていない。

 そんな雑音のような声が絶え間なく聞こえる。

 それだけではない、今まで知らなかった、聞いたこともなかったような知識が頭に流れ込んでくる。

 自分の脳ではとても処理などし切れないほどの情報量を無理やりに詰め込んでくる。

 遮る術もないというのに、これらの声を聞いているとどうにも意識が曖昧になる。

 何も考えられなくなってくる。

 自分というものが曖昧になって、まるで己も周りに響く無数の声の一つになって溶けてしまいそうだ。

 

 

 

 そんな雑音の中でどれだけの時間を過ごしたのか。

 長かったのか短かったのか、時間の感覚さえはっきりとしない。

 とにかく突然に、ある声が聞こえた。

 他の意味を成さない雑音とは違う。

 はっきりと意志を持って、こちらに呼びかける声が。

 何もかもが曖昧な中、唯一明確な意味を持って聞こえたそれに耳を傾ける。

 

   (リユニオン)

   (黒マテリアを手に入れろ)

   (私のもとに)

 

 リユ…ニオン…。

 黒…マテリア。

 星の支配者…。

 

 セフィロス。

 

 

 

 歩く。

 平原を、山を、川をひたすら歩く。

 黒いボロ切れを身に纏って、ある物を探して世界中を歩き回る。

 あの声を聞いてから、己の行動に、存在に意味が生まれた。

 古代種の遺産。

 究極の破壊魔法“メテオ”を呼ぶ宝珠。

 黒マテリアを見つけ出すのだ。

 そしてそれをセフィロスの下へ送り届ける。

 細胞の再集結、“リユニオン”。

 セフィロスは傷ついている。

 故に我々を呼んでいるのだ。

 黒マテリアの場所はわからないが、セフィロスの居場所はわかる。

 感じるのだ、セフィロスが呼んでいる。

 黒マテリアを持ってこいと言っている。

 他に理解できるものが存在しない自分には、明確に聞こえるその命令は何よりも尊いものに思えた。

 

 使命を果たして、我々のあるべきところへ、セフィロスと一つになるのだ。

 

 

 

 使命を帯びて世界中に散らばった、己と同じようなボロを纏った同胞たち。

 日々何かを通して感じる彼らの反応が消えていく。

 道を踏み外して事故死したのか、それともモンスターに襲われ命を落としてしまったのか。

 いずれにしても同胞たちの数が減ってきている。

 だがわたしに探索を辞めるという選択肢はない。

 セフィロスが我々を待っているのだから。

 

 

 

 モンスターと遭遇してしまった。

 邪魔だ、どいてくれ。

 わたしは黒マテリアを手に入れ、セフィロスの下へ向かわなければならないのだ。

 しかし当然ながらモンスターが去ることはない。

 緑色の牛とゴリラが混ざったようなそれは刺だらけの大きな拳をわたしに振り降ろそうとしている。

 このままあの拳に殴られれば間違いなくわたしは死ぬだろう。

 避けなくてはならない。

 しかしわたしの身体はそのように素早く動くことはできない。

 ここまでくるのにも身体を引き摺るように歩いてきたのだ。

 どうやらわたしは使命を果たせないようだ。

 申し訳ありません、セフィロス。

 わたしは己の生命の終わりを当然のように受け入れた。

 ただ自らの主人の望みを果たせないことへの心苦しさだけがあった。

 

 

 その瞬間、頭の中に主人の声が響いた。

 

 (これ以上、数少ない手足を失うわけにもいかんか)

 (仕方あるまい、私が処理してやる)

 

 わたしの中に存在する何かを通して主人の情報が入ってくる。

 わたしの細胞一つ一つが、わたしとは違う存在のものに変化していくのを感じる。

 

 視点が高くなる。

 身に纏っていた黒いボロ切れが、黒いコートに変わる。

 風になびく銀色が見える。

 左の掌に何かを握る感触を覚える。

 

 そして先ほどまでのノロマな亀のような動きとは比べるべくもない素早く、そして洗練された動きで左手に握ったソレを凪ぐ。

 そのあまりにも鮮やかな一閃に、モンスターは己に何が起こったのかを認識できていなかった。

 振り降ろしかけていた拳を目標に叩きつけようとして、上半身だけが勢いをつけて地面に落ちた。

 モンスターは胴体を横一文字に両断されて息絶え、緑色の粒子となって消滅した。

 

 「たかがモンスターごときが私の道行を阻むな」

 

 身の丈を越えるほど長い刀を振るってモンスターの血を払い落とす。

 

 強い。

 圧倒的だ。

 これがわたしの主人、セフィロス。

 何者も並ぶ者のない最強の存在。

 この星を統べるべき者。

 黒マテリアを手に入れメテオを呼び、この星を流れる生命エネルギー、ライフストリームの全てを吸収して神とも呼べる存在へと至る。

 それがセフィロス。

 

 ………。

 

 ……本当にそうだったろうか?

 

 わたしは知っている。

 セフィロスは生まれたときから特別ではあったが、親の愛を知らず孤独を感じていた。

 わたしは知っている。

 セフィロスにも親友は居た。

 会社に隠れてシミュレータを破壊するほど一緒になってはしゃいでいた。

 彼らが姿を消したときには、やつれるほどの心労を抱えるほどには繊細で友達思いであった。

 おれは知っている。

 危機に落ち入った部下を助け、訓練に付き合ってやり、気を利かせて任務よりも心情を優先させてやっていた。

 意外ではあるが時にはジョークだって飛ばしていた。

 おれは英雄としてのセフィロスを知っている。

 自らの出自を知ってアイデンティティの崩壊を起こし、自身を古代種であると勘違いをして、最後には狂気に落ちて世に仇成す者となってしまったが。

 本当の彼はプライドが高くて意外と繊細だが、他人を思いやる優しさがある。

 人間としての弱さと英雄の名に恥ない強さを併せ持った、そんな男なのではないか。

 そうだ…。

 やはりセフィロスは星を破壊する厄災などではない、英雄だ。

 

 思考と共に今まで曖昧だった自己が浮上するのを感じる。

 自分の中に入ってきたセフィロスという存在をトリガーに意識と前世の記憶がわいてくる。

 

 そしてわき上がるおれという存在と未だ自分の中にあるセフィロスの情報、さらに体内に注入されたらしいジェノバ細胞が反応し、混ざり合い始めた。

 

 「…?」

 「……っ!?」

 「ぐっ…、うぉぉぁ!」

 

 突然激しい頭痛に襲われる。

 

 「何だ…!?これは!!?」

 

 急速に何かが書き変わっていく。

 

 「ぐぅぅ…!私は…!」

 「私、いや…、俺…は!」

 

 「俺は…」

 

 

 

 

 「そうか…、俺はセフィロス」

 

 「ソルジャー・クラス1stであり英雄」

 

 「セフィロスだ」

 

 

 

 

 

 そうして、本来のおれとも、厄災としてのセフィロスとも違う。

 俺という新しい自己が誕生した。

 

 

 

 

 

 

 

 




 セフィロスに斬られた主人公は案の定、宝珠の実験体の1人として黒マントの男ことセフィロス・コピーの一員となりました。
 ですがソルジャーほどではないにしても、転生しても記憶を失わなかった程度には自我が強かったのが幸いしてほぼ完全な廃人となった他の黒マントたちと違い、僅かに思考を残していました。

 セフィロスが主人公をモンスターから救ったのは、そこそこいた動けない自分の手足代わりとなる黒マントたちが黒マテリアを発見できずにポンポン死んで数が減ってしまい、無事目的を達成できるか不安になりこれ以上数を減らさないよう保護してくれました。

 優しい。
 やはり英雄。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

故郷へ

 不思議な気分だ。

 おれとしての記憶とセフィロスとしての記憶と人格が混じり合っている。

 

 そのせいなのか、今身に付けているコートの前部は大きく開いていて、肌寒さすら感じそうだというのに不思議と落ち着く。

 おれだったころには正直どうかと思っていたこのコートも、今では悪くないどころかむしろ気に入り始めてすらいる。

 

 どうやら今の俺という個人はセフィロスの占める割合が多いようだ。

 

 セフィロスとしての記憶も己のもののように思い出すことができる。

 神羅カンパニーの私設軍隊ソルジャー、その頂点たるクラス1stとなり飛び抜けた能力を持って数々の任務をこなした。

 ウータイとの戦争にて多大な戦果を挙げて英雄と呼ばれるようになった。

 ルールや規律を重んじ、堅物だが誇り高く誠実だった親友。

 気難しく、いつもいつもLOVELESSを声に出して読んでいた変わり者だが物怖じもせずに俺に張り合ってきた親友。

 子犬のように落ち着きがなく騒がしいが、不思議と明るい気持ちにしてくれる俺を慕ってくれた後輩。

 そして、ソルジャーですらない一般兵だというのに最強のソルジャーである俺を倒して見せた男。

 

 …クラウド、ニブルヘイムの魔晄炉調査の任務に同行した少年。

 

 …そうだ、あの日の記憶も…ある。

 ニブル山の魔晄炉で己の生い立ちを聞かされ、己という存在の真実を探して神羅屋敷にあった記録を読み漁った。

 そして母ジェノバの正体、己が古代種であると、星の正当な支配者となる存在であり、他の人間たちは古代種を迫害し滅ぼした裏切り者なのだという真実を知った。

 知った気になっていた…。

 己はモンスターなどではないと、もっと崇高な存在であるはずだと…、そんな自分に都合の良い妄想を信じて…。

 

 

 覚えている。

 母に会うために屋敷を出て見たのだ。

 古代種を裏切った者たちがのうのうと生きている光景を。

 そして己の内に渦巻く激情に任せて村に火を放った。

 

 覚えている。

 いきなり炎に包まれた村に困惑している男を斬った。

 

 怒りに震えて掴みかかってきた男を斬った。

 

 泣きながら命乞いをした女を斬った。

 

 息子だけはと懇願してきた女を斬った。

 

 瓦礫を押し退けて人々を救おうとしていた、…おれ自身も斬った。

 

 覚えているんだ。

 己が放った魔法によって燃えさかる村の熱さ。

 何の罪も無かった村人たちを斬り裂いたときの感触を。

 償いようもない罪を覚えている…。

 

 ……その後はニブル山魔晄炉へ向かい、ティファを斬り伏せ、最奥の扉を開けてついに母ジェノバの姿を見つけた。

 

 いや、ライフストリームの知識とおれとして前世の記憶を得た今は知っている。

 ジェノバは俺の母ではなかった。

 細胞による遺伝的な繋がりはあるが、俺の…セフィロスの本当の母はルクレツィア。

 

 人間だ。

 モンスターではなかった。

 古代種でとなかったが、少なくとも俺は人間の両親から産まれたのだ。

 母の名はルクレツィア。

 父は……、アレのことはいい。

 

 その後はザックスを叩きのめし、クラウドに不意を打たれ母と信じていたジェノバの首と共に魔晄炉の底へ、ライフストリームの渦に呑まれたのだ。

 

 

 ……母、そうだ。

 俺ではなくおれとしての母はどうしているのだろうか。

 今がいつなのかはわからないが、旅に出てから一度も便りも出さず顔も見せていないのだ。

 心配をかけてしまっているだろう。

 父は物心ついたころには既に死んでしまっていたが、女手一つで育ててくれたのだ。

 この世にたった二人の家族、この姿で会ってもおれのことに気づくことはできないだろうが、顔だけでも見ておきたい。

 

 これからどうするにしても、まずは一度故郷へ帰ろう。

 

 先ほど倒したモンスターは前世の記憶に覚えがある。

 確かゴンガガ近辺に出現するモンスターだったはず、ということはここから故郷の村に向かうにはコスタ・デル・ソルから出る船に乗らなければ。

 

 「前世で見たように、俺も空を飛べれば楽なんだがな」

 

 俺は飛べない。

 前世の記憶にある俺は空を自在に飛び回っていたが、片側にしかない翼であれほど飛べるようには思えんし、そもそも翼がなくとも飛んでいた。

 あれはおそらくライフストリームから得た知識が成した魔法か、活性化したジェノバ細胞による作用なのだと思う。

 ならばと知識を求めて未だライフストリームの中心にいるセフィロスの本体への接続を謀るが

 

 「…ダメだな、コピーの制御を乗っ取られて警戒しているのか」

 

 どうやら本体から閉め出しを食らったらしく、ジェノバ細胞を通しても繋がりを感じ取れない。

 

 「歩くしかないか」

 

 幸いにも以前とは違ってこの身は最強のソルジャー、一人旅であろうとモンスターなどの危険は有って無いようなものだ。

 

 

 

 

 

 

 予想通り道中のモンスターたちを苦もなく一刀の下に斬り捨てて、コスタ・デル・ソルが見えるところまで来ることができた。

 

 他の同胞(コピー)たちは擬態して移動するときは街中だろうと正宗を手に持っていたようだが、余計なトラブルを避けるためにも非戦闘時は消しておこう。

 得物である愛刀正宗は念じるだけで、霧散し、また何処からともなく己の掌に現れる。

 

 (こういったことができるとなると、己が既に人間ではないということを強く意識してしまうな…)

 

 

 しかし後は町に入り船に乗るだけだという今になって、俺は重大な見落としに気がついてしまった。

 

 「カネがない…」

 

 そうだ、カネがないのだ。

 当然だ、俺はほんの数日前まて黒いボロ切れだけで荒野をさ迷っていた。

 財布など持っているはずもなかった。

 ジェノバ細胞のせいなのか空腹も睡魔も特には気にならなかったこともあり、ここまで食事や宿に泊まるなどのカネが必要なことをせずに直行したため気づくのが遅れてしまった。

 前世の記憶のように倒したモンスターたちがカネを持っていればよかったのだが、当然そんな訳には行かなかった。

 

 「ここまで来て立ち往生することになるとはな…」

 

 前世の記憶ではジュノンから出た船の上でクラウドたちに見つかったジェノバは、途中から泳いでコスタ・デル・ソルまでやって来たらしいが…。

 同じセフィロスに擬態した身体だ、できないこともないだろうが…面倒だな、できるなら避けたいところだ。

 

しかしカネがない以上船には乗れず、どうしたものかと街から少し離れた場所で頭を悩せていると。

 

 「へいへいへい!そこのお兄さん!イカしたコート着てんじゃねーか!!」

 

 突如現れたバイクに跨がった黒いレザーファッションの集団に囲まれてしまった。

 

 「何だお前たちは」

 

 本当に何なんだこいつらは…、前世でも今世でも知らんぞ。

 

 「オレたちのことを知らねぇとはモグリかてめぇ!?」

 

 「このカッチョイー黒レザーを見てもわからねぇのか!?」

 

 「巷を騒がし、泣く子はもっと泣かす!最高にクールな走り屋集団ブラックレザーズとはオレたちのことよ!!」

 

 バイクから降りて自己紹介をしてくれるが、やはり知らない。

 なるほど、存在すら語られなかった有象無象のゴロツキということか。

 

 「あんたのコート気に入りったぜ!オレ様が着てやるからおとなしく置いていきな!」

 

 「ついでに財布もな!!」

 

 「もう身ぐるみ全部置いていけ!!!」

 

 リーダー格と思しき一際体格の良い男の発言を皮切りに、取り巻きたちが次々と要求をエスカレートさせていく。

 

 (おそらく今身に着けているものは正宗と同じく任意で作成できるとだろうが、こいつらにくれてやるのはシャクだ…このコートに目をつけるのはなかなかのセンスだがな。それよりもあのリーダー格の男、見たところ身長は2メートル近い、体格も…よし)

 

 「悪いがお前たちにやれる物は持ち合わせていなくてな。変わりと言ってはなんだが、お前たちが身ぐるみを俺にくれないか?」

 

 

 「はあ!?」

 

 「何言ってんだテメー!!?」

 

 「頭イカれてんのかあー!!?」

 

 「大人しく従ってりゃよかったのによ!オメーらやっちまえ!」

 

 頭に血が上ったゴロツキたちが一斉に向かってくる。

 

 (多対一、ここまで刀の一振りで片付いていたので使うこともなかったが試してみるか)

 

 人間ではなくなったこの身体だが、メリットもある。

 オリジナルのセフィロスがライフストリームから得た知識、それには古代種の知恵も含まれており、セフィロスの情報を持ったこの身体には、今もその知識が刻み込まれている。

 つまり、本来はマテリアを介さなければ発動しない魔法を無手でも発動させることができる。

 

  『サンダー』

 

 曇り一つ無い空から幾筋もの細い稲妻が走りゴロツキを貫く。

 

 「うげ!?」 「ぎゃあ!!?」 「あばばば!!!?」

 

 「オ、オメーら!?」

 

 取り巻きたちは脳天に落雷の直撃を受けて地面に伏せ、ピクピクと痙攣している。

 死ぬような威力ではないはずだが、まあしばらくは目を覚ますことはないだろう。

 

 「クソっ!テメーよくもオレ様のかわいい弟分たちを殺しやがたなー! もうテメーのコートなんていらねえ!ミンチになりやがれー!!」

 

 激昂したリーダー格の男がバイクに跨がって突撃してくる。

 

 「随分と仲間思いなようで好感を覚えるが、悪いな」

 

 今度は全速力で走るバイク目掛けて一筋の稲妻を走らせる。

 

 「うぉ!?チクショーどうなってんだ!!?」

 

 受けた電撃によって電気系統が狂ったのかコントロールを失いあらぬ方向へと走っていき、転倒した。

 

 「ギャー!!??」

 

 (かなりの勢いで滑っていったが、死んだか?)

 

 

 

 「ぐ…、うぅ……」

 

 「どうやら生きているようだな」

 

 近寄って確認したところ打撲や擦り傷はあるが命に別状はなさそうだ。

 

 「安心しろ、お前の取り巻きたちも死んではいない。しばらくすれば目を覚ますだろう。俺としてもこんなどうでもいいことで殺しをするのは気分の良いものではないしな」

 

 「だが、命は取らないがお前たちの身ぐるみはいただいていこう」

 

 

 

 

 思っていた通りだ。

 リーダー格の男は俺と近い体格だったおかげでやつの着ていたジャケットに袖を通しても着心地に違和感はない。

 取り巻きたちの一人がかぶっていたキャップ帽を拝借して、長髪を一つ結びにして縛る。

 

 「よし。これで俺のことをセフィロスだと一目で見破られるようなこともないだろう」

 

 神羅の連中はセフィロスの生存に危機感を抱いている。

 神羅の影響力が強いこの世界で無駄に存在を喧伝しても良いことはないだろう。

 

 「意外と持っていたな」

 

 ゴロツキたちから抜いた財布を懐に納める。

 これで船代としばらくの旅費にはなる。

 服とバイクは置いていくのだ、全裸で荒野に放置されるよりはマシだろう。

 

 転がるゴロツキたちを置いてコスタ・デル・ソルに入り乗船の予約を済ませ、船に乗る。

 

 (ジュノンには神羅の兵士たちが詰めているはずだが、気づかれずに済むだろうか?)

 

 甲板で潮風を受けながら思考する。

 これから船が向かうジュノンは神羅の軍事拠点だ、海底には魔晄炉と研究所もあり警備は厳重であろう。

 (地方の一般市民たちならともかく、神羅の兵士ともなれば俺の顔を知っている者がいても不思議ではない)

 

 気づかれても突破は可能だろうが、これから先神羅の追っ手を気にし続けるというのは面倒だ。

 

 (ジュノンが見えてきたな。さあどうなるか)

 

 

 

 

 結果として気づく者は一人としていなかった。

 

 …自分で言うのも何だが、セフィロスといえば神羅の英雄であり世の少年たちの憧れ。

 前世の知識でファンクラブだって存在していると知っているのだが。

 

 (ひょっとして、セフィロスという存在はあの前開きのコートと前髪で認識されていたのか?バレなくて安心してはいるが、妙に残念な気分になるな…)

 

 少しだけ肩を落としながらジュノンを出て旅を続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 そして故郷があるはずの場所にたどり着いた俺を出迎えてくれたのは、懐かしの村ではなく瓦礫の山となった廃墟だった。

 

 

 

 

 




 前回から間が空いてしまいすみません。

 初めて小説を投稿してみましたが、思っていた以上に大変ですねこれ。
 今まで読み専でたくさんの作品がエタっていくのを残念だなと思っていましたが、完結まで持っていける作者様はもちろん何話も投稿して連載している方々への尊敬の念が強まります。
 私も気力の続く限り頭の中の妄想を吐き出していく所存ですので、これからもお付き合いの程よろしくお願いいたします。


 セフィロス(擬態)くんの中身はセフィロスの割合が大きいですが、元のおれくんの記憶や人格も入ってはいるのでオリジナルより相当マイルドなセフィロスとなっています

 今話に登場したゴロツキたちは本作オリジナルです。
 原作には影も形も存在しませんが、セフィロス(擬態)くんをそのままの格好で行動させると問題があるのと、無一文である現状を解決するための資源として本作のFF7世界に生を受けました。
 一応馬鹿さ加減と人生楽しんでそうなキャラクターモデルとしてはFF7リメイクに登場したベグ盗賊団。
 多分もう出番はないです。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ミッドガルへ

長らく更新できず申し訳ございません。
現在リアルが忙しく執筆を進めることが難しい状況です。
次回は10月の半ばごろには投稿できると思いますので、よろしくお願いいたします、


 「これは…、いったい何が…?」

 

 面影は…ある。

 魔晄炉以外には特別シンボルと言えるようなものがあるわけではない村だったが、それでも旅立つまでここで育ったのだ。

 無駄に広い広場にそれを囲うようにまばらに配置された家屋…その残骸、見覚えがあった。

 

 (モンスター…ではないな。牙や爪にしては破壊の規模が大きすぎる)

 

 廃墟となった故郷を進むと広場に見覚えのない少し大きな岩が置かれ、それに祈っている老人がいることに気づいた。

 彼ならばこの村に何が起こったのか知っているかもしれない。

 

 「すまない、そこの御老人」

 

 呼びかけるとこちらを振り向いてくれたが、どこか驚いた風だ。

 

 「おお…びっくりさせんでくだされ。モンスターかなにかかと思ってしまいましたわ」

 

 「すまない。驚かせてしまったな」

 

 「全くですじゃ。ただでさえ老い先短いというのに寿命が縮みましたわい。」

 

 どうやら少々配慮にかけていたようだ。

 申し訳ないことをしてしまったが、今はそれよりも聞きたいことがあるのだ。

 

 「しかしこのような廃村に人がくるのは珍しいの。もしやお前さんこの村の縁者か?」

 

 「ああ。しばらく会っていなかった知り合いの顔を見にきたんだが、この有り様でな。いったいこの村に何が起きたんだ?」

 

 「なんじゃ知らんかったのか。まあこんな田舎の話など外に流れんか…」

 

 「だから何が起きたんだ。聞かせてくれ」

 

 「魔晄炉じゃよ…。一年前のある日、魔晄炉が爆発事故を起こしたんじゃ」

 

 魔晄炉か…。

 確かにこの村は魔晄が湧き出る場所の関係上、村からかなり近くに建設されていた。

 考えてみれば、あれだけ近けれと魔晄炉が爆発してしまえばただでは済まないだろう。

 

 「…原因は何だったんだ?モンスターか、それとも反神羅組織の仕業か?」

 

 「いえ、なんでも機材の老朽化が引き起こしたメルトダウンによるものだとか。当時友人だった魔晄炉整備員の者が言っておりました」

 

 「そうか…」

 

 「あのとき…、魔晄炉にいた神羅の社員たちはもちろん、多くの村人が犠牲になりました。ワシを含めて僅かに生き残った者たちはこの土地を諦め、各々新しい土地に移り住みましたが、ときどきこうして慰霊碑に祈りを捧げにくるのですじゃ」

 

 「慰霊碑?」

 

 「そうですじゃ。不恰好ではありますが、この岩はワシら生き残りたちが立てた慰霊碑なんですじゃ。ここにはあの事故の犠牲者たちの名が刻まれておるのですじゃ」

 

 慰霊碑を見る。

 見知った名前がいくつかある。

 神羅がくるまでロクに買い手もいなかったろうに道具屋をしていた物好き。

 魔晄炉ができてから大繁盛だと喜んでいた食堂の店主。

 旅に出るまでおれに戦闘のいろはを教えてくれた兵士。

 

 そして、…やはりおれの母の名前もそこには刻まれていた。

 この村の惨状を見たときから薄々予想はしていたが、どうやら嫌な予想は当たりやすいというのは本当らしい。

 

 よく見れば老人にも見覚えがある。

 前世の記憶があったおれは馴染めず、一緒に遊ぶことはあまりなかったがよく近所ではしゃいでいた子供の祖父だ。

 その孫の名前だって刻まれている。

 

 「彼らは死んでしまいましたが、寂しくはありません。彼らの魂は星に還ったのです。彼らの魂は星を巡り、そしていずれ新たな生命に産まれ変わる。そのときにはもしかしたらワシもまた孫に会えるかもしれん。まあワシの場合はそれまで寿命が保つかわかったもんじゃないじゃがな!ハハハハ!」

 

 老人は少しの間遠くを見るような目をしていたが、冗談を言って笑うとこちらを見つめた。

 

 「なにも無に帰ってしまったわけじゃないんですじゃ。彼らは今もこの星の中にいる。姿は見えんし、声も聞こえんが、確かに存在している。だからなにも寂しくはないんじゃ。」

 

 老人の目には曇りがない。

 信じているのだろう、己の親しかった者たちは今もそこにいるのだと。

 

 「そうか…、そうだな」

 

 「…年寄りの話に長々と付き合わせてしまいましたな。つまらなかったじゃろう?申し訳ない」

 

 「いや、そんなことはない。おかげで知りたかったことも知れた、感謝しているくらいだ」

 

 「それはよかった。ワシはそろそろ帰ろうと思いますが、あなたはどうされますか?近くにチョコボ車を置いておりますが、一緒に乗っていかれますかな?」

 

 「いや、俺はもう少し村を見ていこうと思う。話してくれてありがとう、…いつか孫に会えるといいな」

 

 「…こちらこそありがとうございます。それでは、お元気で」

 

 老人が去って行くのを、姿が見えなくなるまで見送る。

 

 

 「“星に還った”か。おれの母も星に還って、今もこの星を巡っているのだろうか」

 

 死後星に還り流れに溶け、星を巡った魂たちは新しい生命としてこの星に産まれ落ちる。

 星を巡る生命の流れ、ライフストリーム。

 

 老人の言ったことは正しい。

 

 しかし俺は知っている。

 神羅が魔晄と呼んでいるエネルギーの正体こそライフストリームであり、もしこのまま神羅たちがライフストリームを資源として消費し続ければ、いずれは星に還った魂たちもまた資源として消費され、本当に無に帰してしまう。

 そうでなくともセフィロス(オリジナル)の目論見が達成されてしまえば、星そのものが死ぬ。

 おれの母の魂も消えてしまう。

 

 止めなくてはならない。

 神羅カンパニーを解体して魔晄炉を停止させ、ライフストリームの利用を止めさせる。

 そして星の崩壊を防ぐためにメテオを呼ぶ災厄を、セフィロス(オリジナル)を滅ぼす。

 

 どちらも難題ではあるが、そのどちらもを達成する道筋は既に見えている。

 

 クラウドたちだ。

 前世の記憶によれば、彼とその仲間たちはこれからの旅を通して成長、結束して3度も世界を救うことになる英雄たちだ。

 彼らの活躍によって神羅の利用する魔晄の正体が明らかにされライフストリームも利用はなくなり、セフィロス(オリジナル)の野望も砕かれる。

 ニブルヘイムでの事件が実際に起こった以上、この世界でもほぼ同じように事は進むはずだ。

 故に問題はない…はずなのだが、どうにも不安を払拭することができない。

 

 

 (いっそ神羅ビルに乗り込み、俺自らの手で重役を抹殺して神羅カンパニーを滅ぼすか?セフィロス(オリジナル)の居場所も既にわかっているのだ、やつの傷が完全に癒える前に挑めばあるいは…)

 

 そこまで考えて、その案を取り止める。

 クラウドたちが辿ることになる道も簡単なものではなかったはず、奇跡と呼べるようなものなのだ。

 むしろ俺が何か余計な手を出すことによって道筋が狂い、星が滅びてしまうようなことがあるかもしれない。

 それだけは避けなくてはならない。

 

 少しだけ悩み、決断する。

 

 (本当にこの世界が記憶にある通りの道をたどるのか、見届ける)

 

 本来の道筋から外れていないか、クラウドたちから姿を隠しながら観察し、もし彼らにどうしようもない危機が迫ったなら、そのときこそ力を貸す。

 できることなら関わらない方がよいことに変わりないのだから。

 

 

 

 クラウドたちの旅を見守るにしても彼らの現在地も、今が前世の記憶におけるどのタイミングなのかも不明だが、確認する方法はある。

 

 ミッドガルだ。

 あの街は事件が目白押しであるし、どの事件がいつ頃起きたかで現在の時期が判断できるだろう。

 時期によっては、直接クラウドたちを見つけることもできる。

 

 

 「いざミッドガルへ…、と言ったところか」

 

 

 

 





もともと星の危機に関してはクラウドたちが解決するだろうと楽観視していたセフィロス(擬態)くんですが、肉親の魂がライフストリームの一部になったと知り危機感を持ちました。




目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。