はじめまして、メリーさん (aodama)
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CHAPTERⅠ
プロローグ


オリジナル初投稿です。


都市伝説というものをご存知だろうか?

 

 

 

世間を賑わせる噂や出所不明の憶測など様々な眉唾物等が大半だろう。まぁ……所詮オカルトである。別に変な宗教を勧める訳でもないし怪しい壺を買わせる訳でもない。では何故いきなりこんなことを言い出したのかというとちゃんとした理由がある。それは……

 

「もしもし、私メリーさん。私は今·····」

 

俺こと北村天哉(きたむらてんや)が現在進行形でオカルト被害を受けているからだ。

 

「貴方の後ろに居るの。」

 

その言葉を聞くと同時に、勢いよく振り返る。先程まで何もいなかった自分の部屋に存在するソレは小学生程の身長しかなく、しかし日本人離れした金髪が目立つ少女であった。驚くほど端麗な顔をしており、将来はかなりの美人さんになることが伺える。そんな少女は俺の顔を覗き込むとニタァ、と嗤い手を伸ばしてくる。ゆっくりと伸ばした手は俺の服に触れ·····

 

 

「せいっ!」

「ぁ痛ッ!?」

 

 

る前に手刀を頭に叩き込まれたため届くことは無かった。突如として振り下ろされる暴力に頭を押えぷるぷると震え出す少女だが、勢いよく顔を上げ涙目になりながら猛抗議してくる。

 

「ちょっとテンヤ!?レディの頭を何だと思ってるのよッ!?」

「知らん。俺の背後に立つ奴が悪い。」

「一体どこの狙撃手よ……。」

「で、一体なんの用だ? ()()()?」

 

「はぁ〜あ」と、何処かつまんなそうに首を振ったと思った矢先、()()()()()()()()メリーと呼ばれた少女。この非日常的な存在と邂逅したのは僅か3日程前である……。

 

 

 

 

 

「ねぇ天哉君! すっごい面白い話あるんだけど聞いて行かない!? ていうか聞いてけ!」

「拒否権無しとは随分革新的なナンパ方法ですね部長。」

 

学校の空き教室に男女が2人。男が一方的に詰め寄られるその光景に甘酸っぱい空間を想像した者は少なからず居るだろう。しかし、そこに恋愛のレの字は微塵も感じさせることは無く、あるのは話を聞いてもらいたいとはしゃぐ子供のような女性とその反応に呆れを示すて天哉である。

 

「で、話してなんですか? (ひでり)部長?」

 

東山 旱(ひがしやま ひでり)。 俺が通う花幸高校の三年生でオカルト研究部の部長であり、三つ編みロングが特徴の残念美人である。

 

「よくぞ聞いてくれました! 今巷で話題となっている都市伝説“メリーさん”についてよ!」

 

そう残念美人。まさに立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合のという言葉が似合う女性なのだが口を開けばオカルト話のオンパレード。理想とのミスマッチから年齢=彼氏なしという、それはもう残念な……「天哉君?」

 

 

「どうしました?」

「今なんかすっごく失礼な事考えてなかった?」

「おお。流石ですね部長。サトリにでもなれるんじゃないですか」

「誰が妖怪じゃい! ってそうじゃなくて!メリーさんの話よ!」

 

こほん。と、一息つくと詳細を話し始める。

 

「昔からあった噂話だけどね。今になってまた話題になってるのよ。」

「はぁ。」

「曰く、幼い見た目と反して大人らしい反応を見せるチグハグさ。曰く、何処にでも現れる。曰く、振り向いたら殺される。曰く、三度目の電話で姿を現す。」

「まぁ、よく聞くメリーさんの特徴っすね。」

「でも、面白いのはここからなの。」

 

ずいっ、とさらに顔を近づけてくる為、反射的に顔を引っ込める俺だが部長はそんなこと気にせず話を続ける。

 

「でね、()()()()()()()()()事がある人がここ数日で多く出回ってきているの。」

「……おかしいっすね。メリーさんに会ったら殺される筈じゃ……。それも複数人。」

 

従来のメリーさんとは違う1つの情報追加に顎に手をやりながら考え込むような姿勢をとる。興味を示した反応に満足したのか目を輝かせながらうんうんと頷いてくる。

 

「そう。だから面白いのよ!」

 

突然立ち上がりビシっと指を突き付けながら宣言してくる部長。

 

「部長命令よ! これの調査に我々オカルト研究部が調査に乗り出すのよ!」

「そうっすか。じゃあ僕スーパーに用があるんで。」

 

そう言って席を立ちあがり教室を出て行こうとする俺にしがみつく部長。離してほしい。

 

「ちょっとぉぉぉ! それでも君はオカルト研究部の副部長かッ!?」

「肩書では腹が膨れませんからね。」

「ええい! そんな子に育てた憶えはないぞ!?」

「まぁ育てられた憶えないんで」

「ぬわぁぁぁぁ薄情者ぉぉぉぉ!?」

 

ぺいっ、と部長を剥がし教室を後にする。後ろから部長の悲鳴が聞こえるがそんなことは気にせずスーパーへと向かう。

 

「(……ん? 着信?)」

 

校門を出た辺りで自身のスマホに非通知の連絡が届く。非通知と表示された画面を何の疑いもなく電話に出てしまう。

 

『もしもし私メリーさん。』

「……はぁ?」

 

そう言ってブツっっと切れる通話。悪戯かと思いその場では特に気に留めることなくその場を離れる。セールの時間には間に合い、戦利品である特売品を見つめながら上機嫌で会計に向かう。

 

「(あ、そうだ。切らした調味料も補充しとかなければ。)」

 

思い出したかのように踵を返し、足りない調味料を思い浮かべながら手元へと揃えていく。

 

「(醤油に味醂、塩……あ、サラダ油もあと少しで切れるか……?)」

 

改めて必要なものを揃え、再度会計を済ます。今日必要なことを全て終わらせ家に向かおうとすると、先程掛かってきた非通知が再度鳴り響く。

 

「……はい。」

『もしもし、私メリーさん。』

 

再び切れる通知。若干の苛立ちを感じながらも大人げないなと心を落ち着かせ家に帰宅する。そして自宅へ着いた直後

 

「(……まただ。)」

 

三度(みたび)掛かって来る非通知。流石に悪戯が過ぎると思い、電話に出て怒りを口にする。

 

「オイ! いい加減に……。」

 

しかし、その台詞は最後まで紡ぐことは出来なかった。

 

()()()()()()()()()()()。』

 

今までとは明らかに違う重圧感のある言葉に身を軽く竦めてしまう。そこでふと今日あった部長との会話内容を思い出す。

 

「(三回ある会話……メリーと名乗る者……。)」

 

まさか、とは思う。昨日の今日どころか内容を知ったのはつい数時間前だ。そんなアニメや漫画みたいな展開が有り得る筈がない。だが·····

 

「『()()()()()()()()()()()。』」

 

事実は小説より奇なり、とはよく言ったものだ。そんな淡い否定は後ろから感じる存在感によってあっさりと打ち砕かれる。機械越しの声と現実の声が重なって耳へと届き、脳が言葉の意味を理解すると同時にゆっくりと振り返る。

 

「はじめまして、私メリーさん!」

 

何も知らない者が見れば笑顔が似合う純朴な少女に映るだろう。俺だってそう思う。純粋な笑顔とは真逆の、底知れぬ重圧感が無ければの話だが……。

 

「(殺されるッ!?)」

 

少女が手を此方に伸ばしてくる。その手は救いを求めるようにも見えるし子が親に抱擁を求めるような寂しさを感じさせた。だが、それ以上に本能が叫ぶ。“其れに触れるな”っと……。本能に従い必死に生き残ろうと模索した俺は決して悪くない。

 

「ッうわぁぁぁぁぁッッッ!!!」

 

だから先程スーパーで買ってきた塩瓶をぶん投げてしまったのも正当防衛である。

 

「ッ()ぁッ!?」

 

ゴンッ、と人体から出てはいけないような音が部屋に響くとメリーと名乗る少女は直撃した頭を抑え、その場でうずくまる。余程痛かったのか軽く震えている。

 

「おぉ……。塩ってホントに効果あるんだな……。」

 

極度の緊張からか場違いな感想が口から洩れる。その言葉を聞いてか、此方をキッと睨み付けてくる。

 

「そんな訳ないでしょッ!? 市販の塩にそんな効果あったらお祓いなんて商売あがったりよっ!?」

「殺人未遂不法侵入少女が何を言うかッ!」

「はぁぁぁ? 殺そうなんて一ミリも思ってませんケドッ!? 自意識過剰過ぎッ!? 寧ろ過剰防衛でアンタが訴えられろッ!」

「嘘つけぇ!? そんな禍々しいオーラ出しときながら殺さないは無理があるだろッ!?」

 

罵声に怒声。互いが互いに1歩も引かぬ水掛け論に遂に少女の方に我慢の限界が訪れる。距離を詰めようとこちらに近づいてきた瞬間、先程ぶん投げた塩瓶を踏み抜いてしまう。

 

「あっ·····。」

 

気づいた時には既に遅し。綺麗な円形で出来た塩瓶は良い潤滑剤となったのか、メリーと名乗る少女は美しい弧を描きながら後ろへ倒れる。

 

「ッ()ぁッ!?」

 

先程と同じ悲鳴。流石に哀れみを感じ、声をかけようか迷っていると此方を睨み殺さんと言わんばかりの形相をしながら涙を流している。そして一瞬キツく口を結んだと思えば今日1番の大声で叫ぶ。

 

「もうアッタマきたッ! アンタに一生取り憑いてやるんだからッ! 泣いたって許さないんだから覚悟しなさいよッ!?」

 

こうして、若干の罪悪感を胸に秘めながら出会ったメリーという不思議な少女は、何気ない俺の日常に終わりを告げる存在となるのだった。

 

 

 

 

 




出来る限り明るく書き上げたいけどどうしても題材が題材なので怖くする描写は出す予定。

ps.主人公の名前を訂正


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第一話

 

 

 

メリーと邂逅した次の日、夢と思いたかった願望は壁をすり抜け部屋に入ってきたメリーと共に打ち砕かれた。まさかこんな非日常的な状況に自身が陥るとは思わず、朝から頭痛が走る。幸い土日休みだった為、“メリーさん”に関する情報を集めるのに時間を気にする必要がなかったのがせめてもの救いだった。

 

「で、私のこと調べてどうするつもりよ?」

「··········。」

「なんか言いなさいよ変態。」

「知らない怪異とは話すなって死んだばっちゃんが言ってた。」

「なんてピンポイントな人生アドバイス·····ッ!?」

 

取り憑いたはいえ直ぐには殺されないのか、至って普通に過ごすメリー。が、さすがに暇を持て余しているのか、ちょっかいをかけては直ぐに飽き、部屋の中を物色し始める。学校用具、私服、本棚、ゲーム機·····etc,キラキラと目を輝かせたと思ったらすぐに次の物品に興味を移し始める。

 

「何このベットッ! ふっかふかっ!」

 

そう言いながら俺のベットの上で飛び跳ねるメリー。この姿だけ見ると年相応の反応を示していて可愛げのあるものなのだが·····。

 

「·····って待て。お前、物に触れるのか·····?」

 

「? 当たり前でしょ? 」

 

単純な疑問に心底不思議そうに首を傾げながら、俺の言葉に肯定の意を返す。

 

「じゃあ心霊現象でよくある物が宙に浮いたりして見えるのって」

私たち(怪異)が興味を持って触っている時だったり持ち上げたりしている時じゃない?」

「宙に浮いて物が暴れ回っているのは·····?」

「大体は玩具を取り合う子供のように怨霊達が癇癪を起こしている時ね。」

「·····ポルターガイストの真理を見た気がする。」

 

そんなやり取りをしている間に集めた情報を纏め終えたので、出かける準備をする。デスクから立ち上がり、壁にかけていた鞄を肩にかけ必要最低限の持ち物を詰め込み部屋を後にする。

 

「何処に行くのよ?」

「·····心臓に悪いから壁をすり抜けて追いかけてくるのはやめてくれ。」

「先に質問に答えなさいよ。何処に行くのよ。」

「お祓い。」

 

一瞬、時が止まるーーー。

 

「·····そう。」

「? もっと物議をかましてくると思ってたんだが。」

「別に良いわよ。無駄足になると思うけど。」

 

要領を得ない物言いに首を傾げるも取り敢えず目的の神社に向かう為に2階から玄関へと向かう。途中、居間にいた婆ちゃんに出掛けてくると伝えると隣にいたメリーが百面相のように表情をころころ変えるのは見ていて面白かった。

 

「どういうことよ!? お婆さん生きてるじゃない!?」

「ばっちゃんは死んだとは言ったけど婆ちゃんが死んだとは一言も言っていない。」

「屁理屈!」

 

どうでもいい会話を道中挟みながら目的の神社へと足を進める。到着すると神社特有の肌寒い空気が身体を包み込み、もう少し上着を持ってくれば良かったなと思ってしまう。

 

「さて、巫女さんでも居ると話は早いんだが·····。」

「今どき巫女なんて居るはずないでしょ。居たとしてと殆どの子がバイトで昔みたいに神秘の力は宿してない子ばっかでしょ。」

「残念。俺は神主への案内を頼む予定なのでその予想は大ハズレだ。」

 

道中の煽りも蓄積していた事もあり、言語を忘れ「うがぁぁぁぁ!!!」叫びながら器用に空中で地団太を踏むメリー。そんなメリーとも、あと少しでお別れとなるとどこか悲しい気持ちにならないこともない。

 

「(数日しか過ごさなかったけどお前のことは忘れないぜ……。)」

 

流し目でメリーのことを見ながら心の中で呟く。そうして神主のところへと赴きすぐさま祓ってもらうように頼む。

 

「おお·····。」

 

思わず、声が漏れる。厳格な見た目に対し物腰自体は柔らかそうな印象。まさに、想像する退魔師としての姿がそこには在った。期待して依頼内容を説明すると、神主はチラリとメリーに目配せし

 

「うん。ワシにゃ無理じゃ。」

「は?」

 

ただ一言。そう告げる。

 

「なんで?」

 

思わず敬語を忘れすで聞き返してしまう。

 

「その禍々しさ、ワシの手で祓える範囲は疾うに越えとるのぉ。すまんが他をあたってくれ。」

 

超ほんわかした雰囲気で告げられる戦力外通告に冗談だと思ってしまう。が、どうやら本当に無理らしく心底申し訳なさそうな顔で頬をかいている。

 

「そこを何とかならないんですか?」

「とは言うもののぉ。変なことして機嫌損なっても怖いし、やっぱ無理じゃ。」

 

医者がさじを投げる、とはまさにこの事。望んでいた要望が出てこなかったためか、頭を抱えてしまう。

 

「そうですか……分かりました。他を当たってみます·····。」

「力になれなくてすまなんだ……。代わりと言ってはなんだがウチの参拝客にならんか?」

「突然脈略もなく来たな。」

「今ならご利益付き。」

「商売魂凄いなオイ」

 

頼りにしていた神社が駄目だとわかると先ほどまで憤怒していたメリーさんは一変してニヤニヤとした顔を見せつけてくる。

 

「(ぐっ……まさか神社でのお祓いを断られると思ってなかった。だが他に手がないわけではないっ! 保険というのはちゃんと用意してあるさっ!)」

 

まだ諦める訳にはいかない。決して……決してニヤついたメリーがうざかった訳ではない。

 

「(兎に角、次の手を打たなければ……。)」

 

こうして保険としていた場所。“教会”へと足早に向かっていく。

 

「おお……神よ……。これ程の試練をこの少年にお与えになるとは……。(※意訳;私には祓えません。)」

 

次に到着した教会で今度は祓魔師(エクソシスト)にお願いしようと来たわけだが、相談して早々この反応。もうダメな気しかしないが一応聞いてみる。

 

「あの……。お祓いって出来たりしませんかね……?」

「ですがご安心をッ!罪深き貴方にも必ず神はお救いになりますッ!」

「え、あの、話聞いてます?」

「此方の神聖な壺をお買い上げくだされば必ず貴方の助けになりましょうッ!」

「あ、結構です。お邪魔しました。」

「通常価格40万円のところを今ならなんと半額の20万円で買えますッ!」

「通販みたいになってきたな」

「今ならなんとセットで神聖な聖書もついてきますッ!」

「マジで通販じゃねぇか。」

 

お祓いを頼みに来たはずが祓魔師(エクソシスト)の目が妖しく光り、雲行きが怪しくなってきたので退散を図る。

 

「お願いだからぁ! 買っていってぇぇぇ!!!」

「だぁぁぁッ! うるッせェェェッ!!!」

 

 

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「くっそ。まさか2箇所ともお祓い拒否になるとは誰が予想できるんだっての。」

「だから言ったでしょ? どうせ無駄になるって。」

 

―――――

 

諸悪の根源(メリー)を引きはがす為に用意した手段全てが徒労に終わり、項垂れながら家へと向かう。失敗に終わった俺を馬鹿にするように笑みを浮かべながら煽ってくるメリー。今までの鬱憤を晴らすが如くここぞとばかりに俺を囃し立てる。

 

―――――

 

「今までもそうだったのよ。私を見てお祓いを頼み、無理とわかったら絶望する。その姿があんまりにも可哀そうだったから離れてあげたに過ぎないわ。あ、あそこって動物園? 私遊びに行ってみたいんだけど。」

「じゃあ俺の場合も離れてくれたり?」

「するわけないじゃん馬ー鹿っ! アンタは一生取り憑くって決めたんだから諦めなさい♪ む、遊園地も捨てがたいわね……。」

「ここぞとばかりに愉悦に浸りやがって。」

「恨むんだったら過去の自分を恨みなさい。水族館も良いわね!」

「あれは誰だってああいう反応になるだろうが……。てかさっきから何なんだ? 行かねーぞ。」

 

―――――

 

「いいのかぁ? アタシにそういう態度をとってぇ? 呪っちゃうぞぉ?」

「呪い、か……。穏やかじゃねぇな。」

「足の小指をタンスにぶつける呪いとか出先で腹痛に見舞われる呪いとか。」

「地味だけど嫌な奴じゃん。」

「効果は100%のお墨付き!」

「もっと嫌だわ。」

 

―――――ァ

 

「ッ、?」

 

微かな、しかししっかりと耳に届く声。背筋を走る悪寒に勢いよく振り返る。日は殆ど沈み、街灯が本格的に仕事をしだす時間帯。住宅街ということで特に変わった様子は見受けられない。振り返った先に見える()()()()()()()()()()()()さえなければ。

 

 

 

ーーーなんだアレは?

およそこの世のものとは思えぬ醜悪さ。

ーーーなんだアレは?

まるでそこだけ世界から切り取ったかのような違和感の塊。

ーーーなんだアレは?

魅入られたかのように目を離すことが出来なくなる。

 

「あぁ~あ。()いて来ちゃったか。」

「ッ!? な、にを……?」

 

思考の水底に沈んでいた意識をメリーの声で掬い上げる。此方を馬鹿にしていた人物と同じ人物なのか疑ってしまう程、纏う雰囲気が変質している。先程までの子供っぽい無邪気さは鳴りを潜め、大人特有のミステリアスな雰囲気を漂わせる。

 

()()()()()。」

 

メリーのその言葉を聞いた俺は反射的に()()から逃げ出すのであった。

 

 

 

 

 



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第二話

 

メリーが発した声に咄嗟の反応を示し踵を返す。以前メリーと相対した時に経験した重圧が活きたのか、驚く程スムーズに走り出すことが出来た。

 

「(あれがなかったら尻餅とまでは行かずとも膝が笑って躓いたりしたんだろうなッ!)」

 

そんな感想をよそに俺の走りに反応したのか、聞き取れない呻き声のような音を発しながら追いかけてくる。速度はやや向こうのほうが早くこのままだと追いつかれるのは時間の問題だ。

 

「(くそッ!? どうすれば……? このまま家に帰る? 駄目だッ! 怪異(コイツ等)に壁の概念が存在しないのは今朝見たばっかだろッ!?)」

 

走りながら何か打開策はないかと考える。しかし、切羽詰まっている事と住宅街を縫うように走ることに集中している状況のせいか思ったように考えが纏まらない。

 

「鬼ごっこ? 随分楽しそうね?」

「これが楽しそうに見えてるなら眼科を紹介するがッ!?」

「霊感がない人に私は見えないから医者にとっては貴方が異常者に見えるわよ?」

「紹介すべきは脳外科の方だったか·····ッ!」

 

「ふふっ」と笑うメリーに悪態をつくが上手く返されてしまう。明らかに雰囲気が変わった状態に違和感を持ちながらも余裕がないこともあり、急いた口調で問い詰めてしまう。

 

「アレは何だッ!? どうしてあの化物は俺を追ってくるッ!?」

 

気にした様子を微塵も感じさせず相変わらずふわふわと俺の周りを漂いながら化物の方をじっと見つめるメリー。少ししてから口を開き、俺の質問に答えてくれる。

 

「ちょっと前にポルターガイストの話をしたのを憶えてる?」

「確か怨霊がどうたらって話だよなッ!? それがどうしたッ!?」

「表現で“玩具を取り合う子供のように”って言ったじゃない? アレ、誇張表現でも何でもないのよ。」

「つまり?」

「あの怨霊達、この世に未練を残した子供達……言わば妖霊の集合体よ。」

 

―――――aaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!!!!

 

「ッ!? 兎に角ッ! このままだと追いつかれるッ!? 何か手は……ッ!?」

「あら? 追いかけられるなんて男冥利に尽きるじゃない?」

「この状況でよくそんな冗談が言えますねェッ!?」

 

ふと、頭をよぎる考え。前回のメリーみたく恐ろしいのは重圧だけで案外どうってことはないのでは……?

 

「なぁッ!? アレに捕まっても大丈夫だと思うかッ!?」

「んー? 良くて廃人、悪くてショック死ってところじゃない?」

「全然大丈夫じゃないですねッ! ありがとうございましたッ!」

 

息は切れ、汗が吹き出し身体は疲労に包まれる。

 

「(くそッ! もう、限界が、近いッ!)」

 

急な運動時に起こる眩暈によって視界がどんどん暗くなる。走る速度も落ちていき怪異はもう直ぐ其処まで迫ってきている。

 

「もう、しょうがないわね……。」

 

耳に届く凛とした声。ふと横を見ると先程までいたメリーが背中合わせの要領で俺の後ろに立っている。

 

「おまっ!? 何してっ!?」

「助けてあげるんだから黙ってなさい。」

 

「さて」と、迫りくる怪異に対し向かい合う形にあるメリー。目を閉じ、少しばかりの深呼吸を行ったと思えば、今度はゆっくりと目を開きしっかりとした声色で言葉を放つ。

 

「貴方の真名は『騒がしき幼霊(ポルターガイスト)』。ここにあなたの居場所はないわ。元居た場所に還りなさい。」

 

紡がれる言の葉に知性の欠片も感じ取れなかった怪異は、先程までの獣じみた動きを嘘のようにピタリと止める。最後に「aaaaaaaaa―――」と、呻きを残すと霧が晴れるかのように視界から消えていく。完全に消滅を確認すると緊張からの解放で、ため息をつきながらその場にへたり込んでしまう。

 

「た、助かった……のか?」

「そうね。この辺にはもういないみたいだし、大丈夫じゃない?」

「……なぁ、改めて聞くけどアイツは何なんだ? それに最後は一体何をしたんだ?」

「うーん。じゃあどこか腰を落ち着ける場所へ移動しましょ?」

 

全力疾走したために噴出した汗が衣服を濡らし、若干の気持ち悪さが身体を包む。少し休憩をしたいことから説明を兼ねて近くの公園へと向かうことにする。

 

 

 

◆   ◆   ◆

 

 

 

「じゃあ改めて聞くけどあのモヤみたいなのは何だ?」

 

公園につき適当なベンチに腰を下ろす。着く頃にはすっかり汗は引いており、運動を行ったためか今なら集中して話を聞くことが出来そうだ。

 

「さっきも言ったけど幼霊の集合体。未練を残しながらこの世を去ることを強制された子供達の幽霊よ。複数の幼霊が集まることによって『騒がしき幼霊(ポルターガイスト)』へと変貌するわ。」

「……あいつの正体は分かった。オカルト過ぎて信じたくないが今まで散々目の前で起きたことだしな。信じることにする。」

 

じゃないと話が進まんからな。

 

「じゃあ次だ。何故アイツの正体を知っている?」

「その前に少しだけ、私達(怪異)について説明するわ。私だけに限らず、怪異と呼ばれる存在は『騒がしき幼霊(ポルターガイスト)』が核となっているの。」

 

メリーのその言葉に思わず首をかしげてしまう。

 

「核、だと……?」

「そう。その『騒がしき幼霊(ポルターガイスト)』に世間の噂……いわゆる“()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

「……成程。つまり核となる『騒がしき幼霊(ポルターガイスト)』に人々の噂が加わることによって怪異が生まれる訳か。となると、さしずめ『騒がしき幼霊(ポルターガイスト)』とは人間でいう心臓という訳だ。」

 

そして、目の前にいるこの少女の正体は……

 

「都市伝説にある“メリーさんそのもの”、か……。」

「驚いた? もっと恐れてもいいのよ!」

「そんな無い胸張りながら言われても。」

「セクハラ禁止!」

 

「真面目に説明してあげてるのに!」と、説明を一時中断し、此方の胸をポカポカと叩いてくるメリーに対しにふと気づく事がある。

 

「(そういや、いつの間にか雰囲気が元に戻っているな……。)」

 

先程までの妖しく大人びた雰囲気の“メリーさん”ではなく、年相応のちゃんと無邪気なメリーに戻っている。

 

「いいもん。いつかきっと大きくなるもん。」

「怪異に成長なんて存在するのか?」

「それは言わないお約束でしょうが!」

「はいはい。それで話を戻すが……じゃあ何故アイツらは俺を襲ってきたんだ?」

 

腐ってもオカルト部員だ。ポルターガイストの話こそ耳にすれど、あんな明確な姿は今までで見たこともなかった。だからこそ自分が襲われた理由に検討もつかない。

 

「さぁ?」

「さあ? ってまさか、分かんないのかよ?」

「あのね。私は神様じゃないんだから全て知ってる訳じゃないの。まぁ、強いて言うなら私の“力”にアテられたんじゃない?」

 

明確な原因が分からないままこの話は終わってしまう。対策の仕様が無いため、次はいつ襲われるかすら分からない。

 

「はぁ·····。じゃあ最後にあれは何をしたんだ? 祓ったのか、それとも·····?」

 

“殺したのか”。という口から零れ落ちる不穏な言葉。普段から冗談めいて使うことはあれど、真剣な場にはそれ相応の重みが増す言葉である。

 

「··········。」

「なんか言い難いことでもあるのか?」

「いえ、別に·····。」

 

「まぁ、言っても大丈夫か。」とこちらに聞こえるかどうかという小さな声でボソリと呟いたと思ったら直ぐに俺の質問に戻ってくる。

 

「私がやったのは“名々縛り(ななしばり)”っていう概念付与よ。」

「お、おう? なんか急に難しくなったな?」

「別にそんなに難しい話じゃないわよ。」

 

どうやら祓ったり殺したりはしていないようだが、代わりに凄く難しそうな話になりそうな予感が出てくる。が、どうやら杞憂のようで改めて説明してくれるらしい。

 

「まず私達怪異には本来名前というのは存在していないの。」

「? そうなのか?」

「ええ、そうよ。本来、名が無い存在は“未知”であって正体が不明であればある程、力を増していくの。それに対抗するために人間達が名前を付けることによって“未知”という概念は取り払われ、怪異は力を失う。」

「·····ん? それじゃあ名前を知られているだけで力を失うことにならないか?」

「勿論、ただ名前を知っているだけ意味ないわ。その怪異がどのような特徴を持ち、性質を持ち、行動するのか。それらを知識として有した上で名前を紡ぐ。その全てを行ってやっと言霊となって効力を発揮するの。」

「成程·····。というか何故そんな事お前は知ってるんだ?」

 

普通、そういう知識は怪異側ではなく人間側が持っている知識だろ。

 

「さぁて。何ででしょうね? 」

「くそっ。のらりくらりと躱しやがって·····。お前で試してもいいんだぞ·····。」

「残念でした! メリーさんは怪異の中でもスーパー怪異なので“名々縛り”なんて効きませーん!それも素人がやる“名々縛り”なんて尚更ね!」

「代わりに悪口でも叩き込むか·····。」

「普通に傷付くからやめてくれる?」

 

聞きたい事は一通り聞いたのでベンチから立ち上がる。沈みかけだった夕日はすっかり落ち、街灯や住宅から漏れ出る光がちらほら目立ってきている。

 

「(今は夜7時を回る辺りか? そろそろ帰らないと心配されるな·····。)」

 

公園から出る直前、ふと気になった事を追加で問いかける。

 

「そういえば、お前は俺を殺したいんじゃなかったのか?」

「? 誰がそんなこと言ったのよ?」

「でも、取り憑くって事は殺したいってことなんじゃないかと·····。」

 

そういうと目をぱちくりとさせた後、過去一大きな溜息をつき首をやれやれと振る。

 

「ほんっとに話を聞かないのね。最初からアタシはあんたを殺そうとなんかしてないって。」

「いや、だって最初会った時·····あ。」

「思い出した? アタシは一度も“殺す”なんて言動取ってないわよ。」

 

確かにそうだ。取り憑くとは言ったものの殺すとは今までで一言も言っていない。

 

「じゃあホントに善意で助けてくれてたのか·····。」

「当たり前でしょ。アンタにはアタシを馬鹿にした事を後悔してもらわないとダメなんだから。それまでじわじわと嬲ってあげるから覚悟しなさい!」

 

空中で上下反転しながら目線だけはしっかりと合わせてくるメリー。嬉しそうに笑顔をにっ! と浮かべたと思うとくるりと一回転しながら家へと一足先に向かっていく。

 

「(案外、悪いヤツじゃないのかもな·····。)」

 

肩を竦めながら長い付き合いになりそうだと、確信めいた予感を思い浮かべながらメリーの後を追うように家へ帰るのだった。

 

 

 

 

 




これで今溜まっているストックは終了。また暫く執筆活動に戻ります。1章ずつストック出来次第投稿します。


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CHAPTERⅡ
第三話


「はじめまして、私メリーさん!」

 

無邪気に挨拶を行う姿は、微笑ましい日常のワンシーンとして取り上げるに相応しいだろう。言われた方だって嬉しいのであろう、直ぐに返事を返してくれる。

 

「メ゛ェ゛ェ゛ェ゛エ゛!」

「見てテンヤ! すっごく可愛いわよ!」

「お前、動物相手にもそれするのか?」

「当たり前よ! アイサツは大事って古事記にも書いてあるわ!」

「その古事記間違ってるよ」

 

さて、勘のいい人なら分かるだろう。この前のお礼という事で俺らは今動物園に来ている。結局あの騒動の後にメリーにせがまれ、俺は気分転換も兼ねて訪問することにしたのだ。

 

「テンヤ! 今度はあっち! パンダだって! どんな動物なのかしら?」

「分かった分かった…。動物は逃げないから少しは落ち着け…。」

 

自身の腕を引っ張って、待ちきれない様子を隠そうともしないその姿はまさに年相応と言ったところだろうか?

 

「しろくろ! ふっしぎー! かっわいいー!」

「(全く…。お転婆娘すぎるだろ…。)」

 

暫くお目当てのパンダに夢中のメリー。満足したのか、すっかりご満悦な雰囲気を感じさせる。

 

「(っと。そろそろ昼か。)」

 

そろそろ休憩にしたいと思っていたので昼食も兼ねて、フードコートへと足を進めていく。

 

「やっぱパンダも可愛いけど、アタシ的にはさっきの羊が可愛いかったわねぇ〜。」

「(メリーさんのひつじ·····。)」

「なんか今凄いくだらないこと考えてない?」

「…別に。」

 

自販機で買ったジュースを口にしつつ、顔を背ける。別に貶したわけじゃないのだが、とうやらメリーはお気に召さないらしい。

 

「ところで、アンタ学校はどうしたの?」

「今日は振替休日で学校は無しだ。」

「ふーん。そんなもんなの?」

「そんなもんだ。…っと、着いたぞ。」

 

特に目につくような食品は無いため、無難にサンドイッチを頼み、席へと持っていく。「いただきます。」と、丁寧に合掌を済ませ黙々と食べ始める。そんな俺の様子を何が面白いのか顔色ひとつ変えずにじーっと俺の顔を覗き込んでくるメリー。

 

「(…食い辛ぇ…。)」

 

特に何か言うわけでもなく、こうも見つめられると気になってしょうがない。微妙な空気を変えるべく話題を振ってみる。

 

「…んぐっ。ところでメリーは腹減ったりとかしないのか?」

「アンタ怪異がお腹空くと思ってるの?」

「いや、ただ単に気になったから聞いただけだ。」

「ここ最近はダイエットの為に食べるの控えようと思ってて……。」

「空くのかよ。」

 

頼んでおいたサンドイッチは元々数が少ない為、あっという間に胃袋の中へと収められる。最後に残り少ないジュースを飲み干し、話の催促をする様にメリーに顔を向ける。

 

「私はあんたに取り憑いてるって話だけど。」

「あぁそうだな。プライバシーの問題で訴えれるか?」

「話の腰を折るんじゃないわよ。で、私は普段あんたに取り憑いていて、私が食事しているシーンは見た事ある?」

「…無いな。」

「ではここで問題。私はいつ食事をしているでしょうか?」

 

ババーン!といった効果音が付きそうなほど両腕を広げるメリー。身体で時計を表しているのか少しずつ腕が動いている。

 

「あー。俺が寝てる時ぐらい、か…?」

「ピンポーン! 正解です。ではではぁ〜続いて第2問。私の主食は何でしょう?」

 

ちっちっちっ! と口で秒針音の真似をするメリーに少し考え込む。この手の怪異が好むものと言ったら1つしかないだろう。

 

「負の感情、とかか?」

「ブッブー! 残念しょー!人の恐怖心が正解でした!」

 

時計を表していた腕を今度はクロスしてバツを全面的に押してくる。その様子に少し愚痴混じりに小言を零す。

 

「負の感情も恐怖心も似たようなもんだろ…。」

「ううん。全然違うよ。」

「 んでだよ? だってどっちもマイナスの感情だろうが。」

「本当に?」

「あん?どういう意味だよ?」

 

地に足つけてたメリーがふわりと浮き、器用に空中に腰かける。その顔は真剣そのものでじっとこちらを見つめてくる。

 

「生理的に人が嫌悪する感情と、人が生きるために憶える感情は果たして本当に同じなの?」

「……。」

「恐怖というのはその人が心から生きたいと思う気持ちの裏返し。私はそんな感情を負の感情だとは思わないわ。」

 

「(…なんて真っ直ぐな目ぇしてやがる。)」

 

不意に自分が抱いた浅はかな感性が恥ずかしくなり、顔をメリーから背けてしまう。

 

「まぁ、つまりなんだ…。要するに腹は満たしてるんだな…。」

「そうね! 具体的には真夜中に物を動かしてビクリとさせてる!」

「偶に夜に物音がなるのはお前らが理由か。」

 

アレ心臓に悪いから辞めてくれ。

 

「ま、こんなところね。だから私に気にせずちゃっちゃとご飯食べなさい。午後も色んな動物見に回るんだから!」

「飯ならもう食い終わったぞ。」

「えぇっ? たったそれだけ?」

 

頼んだ食事がサンドイッチのみなのであっさりと俺の昼食は終了する。だがそんな俺の食生活の何が気に入らないのか今度こそ不満の声をメリーは挙げる。

 

「別にいいだろ。少食なんだから。」

「もっと食べなさいよ。アンタ全然食べないから恐怖の味が薄いのよ。」

「恐怖に味があるとか聞いてないんだけど。というかいつ食べた。」

「初めて会った時。健全な肉体と精神を持つ人から得られる恐怖が一番美味しいの!」

「知りとうないわそんな事。」

「アンタ精神はしっかりしてるけど肉体がひょろいから味が変に薄いのよね……もっと筋トレ頑張りなさい。」

「知るか。というかなんで俺がお前のテイストに添うように肉体改造しなきゃならんのだ。」

「それはアンタが私の取憑先(とりつきさき)だからよ。」

「取引先みたいに言うな。」

「けど最近アンタ全然驚かないし! 驚いても味に深みが無いし! しょうがないから外で済ましてるのよ!」

「外食は高くつくぞ。」

 

と、食事環境への改善を力説しているメリーの後ろから一人の女性が近づいてくる。此方が気付くと嬉しそうに笑顔を浮かべつつ寄って来るその女性は俺も良く知る人物だった。

 

「あれ? 天哉くんじゃん! やっほー!!」

 

そこにいたのは我らが部長。東山旱(ひがしやまひでり)であった。

 

「部長じゃないですか。珍しいですね、部長がこんな所に来るの。」

「そっちこそ珍しいじゃない! こんな所で演劇の練習?」

 

「暑いねー。」と、言いながら先程メリーが座っていた場所へと座り込む。その様子に渋々とはいえ席を譲るメリーが伺える。

 

「演劇?」

「だって一人で滅茶苦茶喋ってたじゃない。それも会話口調。」

 

と、手に持っていた二つの飲み物のうち片方をテーブルに置き、もう片方を口に運びながら部長が呟く。そこまで言われ初めて気づく。メリーは普通の人からは見えていないという事。つまり……

 

「(今まで超デカい声で独り言喋っているように見えたのか俺は……。)」

 

注意散漫。自分自身では気を付けていたつもりなのだが、どうやら口喧嘩に夢中になりすぎたようだ……。

 

「そ、それより部長は何で動物園へ? 何か見たい動物でも居たんですか?」

 

三度の飯より怪異が好きを地で行く人だ。動物園のようなアミューズメント施設に自ら足を運ぶようなイメージではなかったのだが……。

 

「白々しいなぁ天哉君。我がオカルト部副部長である君も()()()を聞きつけてやってきたんだろう?」

()()()?」

「またまたぁ~。分かってるくせに! ()()()()()()()()()!」

「安心しました。いつもの部長ですね。」

 

オカルト大好きっ子。期待を裏切らない、流石部長だ。

 

「この動物園に出ると噂されててね。これはオカルト部部長として調査しない訳にはいかないと思ってね! 丁度学校も休みだっだしこれは天啓に違いないんだよッッ!!」

「で、我慢できず一人で来たって訳ですか?」

「んーん。二人だよ。」

 

そう言ってフードコートの一角を指をさす部長。その方角に目を向けると二つのトレーを以てこちらに向かってくる一人の男子。その姿が確認できたと同時に苦悶の声を漏らす。

 

「……げっ。西園先輩じゃないですか。」

「一体何処の馬の骨かと思えば、北村か。」

 

銀髪のショートヘアーにツーブロック、鷹のような鋭い目付きをした俺の前に現れた西園雨竜(にしぞのうりゅう)という男は、花幸高校三年、オカルト部()()()()だった人だ。

 

「何だそのしみったれた顔は? 同じ部員として恥ずかしい今すぐ顔を止めろ。」

「顔を“止めろ”って何ですか? 不細工とでも言いたいんですか?せめてそこは“変えろ”でしょうが。」

 

性格は気障でいて重度の毒舌。そんな初見信頼度ぶっちぎりワーストワンという自分だったら不名誉極まりない称号を部長直々にもらっているような人だ。

 

「で、西園先輩もその人面犬を探しに?」

「脳みそが耳から抜け落ちて犬にでも食われたか? それとも自分では考えられない園児だと申すか? 」

 

口を開けばコレである。嫌いとまでは行かないがこの人のことは正直苦手である。

 

「部長とデートでもしていたんじゃないんですか?」

「? 何を当たり前のことを言っている? それ以外に何があるというのだ?」

「雨竜君? 何トチ狂ったこと言ってるのかなぁ?」

 

途端に先程まで張り詰めていた空気が緩む。少し揶揄った筈の言葉をドストレートに真に受け、部長からドスの効いたお言葉を送られている。

 

「(部長絡むと途端にポンコツに成り下がるからなぁ...この人。)」

 

こんな人柄だからこそ心の底からは嫌いになれないのだろう。

 

「じゃ、俺はお二人の邪魔したら悪いので、ここらで退散させてもらいますよ。」

 

席を立ち上がり、食べたサンドイッチの包みゴミをくしゃりと片手で握りつぶし、ポケットへと忍ばせる。しかしそんな俺の行動を止める声が挙がる。

 

「ちょっと天哉君? 何“自分は関係ありません”みたいな顔してるの?」

「…え?」

 

嫌な予感。暑さからくる汗とはまた違った冷や汗が背筋をツゥーッと垂れる。

 

「オカルト部として貴方も行動するに決まってるでしょッ!!」

「辞退は?」

「受付拒否!」

 

腕で大きくバツの字を作りこちらの要求を跳ね返す強気の姿勢。こうなればこの部長はテコでも動かない。その姿に両手を挙げて降参の意を示す。

 

「しょーがないですね。分かりました。行きますよ、行けばいいんでしょう?」

「フフフ…流石だよ天哉氏。それでこそ私が見込んだ男だ!」

「今のやり取りのどこに見込まれる要素ありました?」

 

すると、唐突に西園先輩が腕を首に回して来る。その顔は般若の様に歪めており、明らかに怒っていることが伺えた。

 

「北村…よもや貴様が俺と(ひでり)の邪魔をするなど…。」

「でも部長に否定されてましたよね?」

「今は“まだ”だ。」

 

この先輩。思考回路がストーカーのソレである。

 

「ちょっとー私を仲間ハズレにして2人だけでコソコソと話してるのよ?」

「なんでもないです。直ぐに向かいますよ。」

 

部長の元へ向かおうとした刹那、今度は上から逆さにメリーが降ってくる。突然目の前に現れるむくれた顔に身体を吃驚させる。

 

「ちょっと!私との約束が先でしょう!? 午後も一緒に回るって言ったじゃない!」

「悪いが部長は1度こうなったら手がつけられん。悪いが諦めてくれ。」

 

先程まで不機嫌そうだったメリーが遂に抗議の異を唱える。耳元での大声によって顰めっ面になるが先輩たちにバレる訳にも行かないので、メリーにだけ聞こえる音量で囁く。

 

「ヤダヤダヤダーッ! 動物さんたち見るのーッ! いっぱいいっぱい見たいのーッ!」

「…うるせぇ。」

「いーやー! 見ーにーまーわーるーのー!!!」

 

態々ご丁寧に地面へと降りてジタバタと暴れ回るその姿は正に駄々っ子そのもの。そんな姿に呆れつつ部長たちに着いていくのであった。

 

 

 

 

 



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