ハイスクール・フリート   ~空を翔る鳶と海虎~ (鷹と狼)
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登場人物 

 

 

 

 

日本海軍

 

大賀虎雄 (たいがとらお)

1927年3月26日

身長170

血液型 A

出身地 鹿児島県 錦江村

日本海軍 佐世保航空隊 

階級 一飛曹(ラバウル43年時) → 飛行兵曹長 → 少尉(シンガポール45年時→ハイスクールフリート)

年齢 18歳 (シンガポール所属時→ハイスクールフリート)

搭乗機 二式水上戦闘機 エンジンは栄2型、(濃緑黒色、後にハイフリでレーダー、複座改装)

特技 水泳 柔道、空手5段 射撃 炊事 釣り

個人武装 二式テラ銃 二式銃剣 南部14年式拳銃 短剣 服装 飛行帽 色眼鏡 士官略帽 半袖半ズボン航空衣服 航空備品 金塊

CV 保志総一郎 モデル 花菱薫

 

薩摩隼人 幼き頃から悪運が強く、海と空に強い憧れを持ち、海軍佐世保航空隊に入隊。戦闘機乗りに合格したものの、休暇に3人の陸軍下士官と市街地を訪問していた妹を助けるために喧嘩、42年ラバウルに左遷。二式水上戦闘機のパイロットになり、現地でも米英軍哨戒機や爆撃機を撃墜、小型艦艇を撃破する手腕。仲間や現地人との交流は深い。 タイガー 虎ちゃんの呼称

ラバウルで部隊対抗の拳闘大会で優勝。準決勝で桜井洋介と試合、以降は釣り友達となり、1、2を争う程に。その後、43年時に有能な手腕になり、厚木十三中尉率いるラバウル六空勇士のパイロットに。3月に解散、フィリピン決戦前に戦艦武蔵の戦闘機パイロットとして乗艦、シブヤン海戦で武蔵が沈没する迄に奮闘。

戦況悪化と共にシンガポールに所属。二式水戦でも防空、新鋭機を問わず撃墜している。

 

妹はドイツに留学、後にパンターⅡの砲手、大賀晴香

 

 

 

沖田新一郎 (おきたしんいちろう)

1920年11月22日

身長175

年齢 25歳

血液型A

出身地 高知県

所属 日本海軍 呉航空隊

階級 ニ等飛行兵曹 (第2次上海事変) → 上等飛行兵曹 (東南アジア攻略) → 少尉 (ラバウル)→ 中尉(マリアナ、フィリピン)→大尉 (沖縄)

搭乗機 96式小型水上偵察機 → 零式水上観測機

特技 柔道6段 中華拳法(少々) 射撃 料理 釣り

個人所持物 C-96拳銃 南部14年式拳銃 短剣 飛行帽 飛行衣服 航空備品 航空靴 色眼鏡

CV 浪川大輔 モデル 明智小次郎

 

準主人公。高知県出身、四万十川と太平洋の貧乏漁村出身。弟は戦闘機乗り。

長男坊で家、家族の反対を押し切って海軍に入隊。海兵団で良い成績を得たが中退、航空学校に入学。腕を磨き操縦技術はピカ一。戦闘はあまり好まない為、偵察٠観測パイロットに志願。

柔道で身体を鍛え、更に心身を鍛える為に上海で中華拳法を習得(少々)。1939年、日華上海事変の戦闘終了後、地上で休息中、馬族に襲われながらも反撃を行い、九死に一生を得た。この経験から馬族の戦闘を忘れない様に戦利品であるC96拳銃を常に持ち歩いている。

1941年12月の開戦後、新型の零式水上観測機を受領。米英艦隊上空で味方の砲雷撃を観測。また、この時初めて敵戦闘機と空戦、撃墜した。

その後ラバウルに派遣、1943年初頭に補充要員として金城幸吉とペアになり同期の厚木十三中尉と再会。彼の部下に実弟も含め、1943年、4月ラバウル六勇士を結成。

翌年3月に解散後、戦艦大和に転属。マリアナ沖海戦で味方航空部隊が壊滅的ダメージを受けた中で生き残り。フィリピン・レイテ沖海戦でかつて六勇士の大賀虎雄と再会、ともに味方艦隊を護衛、味方艦隊による砲雷撃でアメリカ護衛空母部隊の観測で撃沈に貢献。

1945年3月末、沖縄戦が勃発。戦艦大和以下9隻の艦艇と沖縄までの航海中に発艦、その途中に六勇士の桜井洋介と弟の沖田進次郎とともに沈没するまでに護衛、奮闘した。

その後、海軍鹿屋航空隊に所属。哨戒任務に従事した。そして8月9日、原子爆弾を搭載したB-29と遭遇し、爆発に巻き込まれて行方不明になった。

 

金城幸吉  (きんじょうこうきち)

1928年4月30日

身長166

年齢 17歳

血液型 O型

出身地 北海道

所属 日本海軍 横須賀航空隊

階級 三等飛行兵曹 (ソロモン海戦、ラバウル決戦) → 一等飛行兵曹 (沖縄戦)

年齢 17歳

搭乗機 零式水上観測機 (複座)

所持物 弓矢 94式拳銃 短剣 色眼鏡 飛行帽 飛行衣服 航空備品 重要機密書類 カメラ 三線

特技 弓矢 ナイフ捌き 狩猟 天測航法 敵機艦艇種判別 電信 暗号文作製

CV 上杉紀彰  モデル 衛宮士郎

 

父親が沖縄琉球人、母親がアイヌ。海軍航空隊に志願、操縦士を志すも落第。天測航法と敵機敵艦種判別、電信と暗号文作製を叩き込んで成績がピカ一。

1943年、ラバウルに派遣。沖田新一郎に見込まれて零式観測機の観測手に従事。以降、ラバウル六勇士の伝達サポーターとして重宝。敵機が襲来の際に自身も後部機銃で応戦、5機撃墜した。

フィリピン・レイテ沖海戦と沖縄戦で沖田新一郎と上記の内容通り。鹿屋基地で重要機密書類を受領、長崎の佐世保の飛行中に原子爆弾を搭載したB-29と遭遇し、爆発に巻き込まれて行方不明になった。

部隊で唯一の下士官。

 

 

秋山敏郎 (あきやまとしろう)

1922年 5月29日

身長 155

年齢22歳

出身地 神奈川県 横須賀

血液型 A型

愛称 トチロー

所属 日本海軍整備班長 → 第2復員局 特別復員艦 葛城乗員

階級 (元)海軍先任兵曹長

特技 機械整備全般 

所持物 工具一式 色眼鏡

CV くまいともこ モデル 星渡ゴロー

 

眼鏡を掛け、江戸っ子口調を話す日本海軍航空隊の凄腕整備員。どんなポンコツの機械や敵機の墜落を整備して100%性能を全快する。物を大事にするのは人一倍で、扱いが悪い者にはスパナで人の頭部を殴り、ラバウル六勇士たちですら怖れられている。宴会と祭りに目が無く情熱的であり、赤道祭の司会で一役買っている。

44年ラバウル六勇士が解散後、十三や洋介たちと行動。45年9月終戦後、海軍を除隊。沖田新一郎の弟、進次郎と共に第2復員局に配属され、復員輸送艦葛城の乗員に編入された。46年、6回目のシンガポールから内地の航海時、妹のトチコを復員当時に零戦64型をフィリピン海域に放棄の時に引き揚げ者が重油を満載したタンクの上で火を起こして飯盒炊爨をトチコと止めようとした時に爆発に巻き込まれて、トチコと零戦と共に海に落下した。

 

 

アメリカ海軍

 

ウィリアム・J・スパロウ

1920年6月15日

身長180

出身地 アメリカ アラスカ州

血液型 O

所属 アメリカ海軍 哨戒部隊

階級 少尉(41年)→大尉(沖縄)→少佐(終戦)

年齢 25歳

愛機 PBY-5A カタリナ

所持物 M-1カービン M-1911 サングラス 制帽 飛行衣服 航空備品 ギター

特技 犬ぞり 狩猟 天測航法 

CV 吉野裕行 モデル アレルヤ

 

アラスカ出身のアメリカ人、家族を養う為に1937年に海軍に志願。人より1倍生きることに執着しているため、航空救難救助部隊に配属。

41年、日本海軍による真珠湾攻撃後、救助活動に従事し、ミッドウェー海戦やソロモン海戦、マリアナ沖海戦、フィリピン戦など多くの傷病兵士を搬送した。そして沖縄戦、戦艦大和の水上特攻の最中に撃墜、救助されたパイロットの中に戦闘機部隊に復帰不可能になったトム・K・五十嵐を部隊に転属させた。

終戦後、9月17日、九州から沖縄に物資輸送中に枕崎台風に遭難、行方不明になった。

彼はハワイの空襲前のハワイ基地で看護婦と結婚。39年に双子の娘が産まれた。

 

 

トム・K・五十嵐

1927年12月11日

出身地 アメリカ ハワイ ホノルル

身長 169

血液型 O

所属 アメリカ海軍 戦闘機部隊 → 哨戒部隊

階級 曹長(マリアナ沖海戦)→少尉(終戦後)

年齢 18歳

搭乗機 グラマンF6Fヘルキャット → PBY5-Aカタリナ F4F シーキャット

 

所持物 M-1ガーランド M-1911 ナイフ サングラス 飛行帽 飛行衣服 航空備品 ハーモニカ

特技 射撃 ナイフ捌き 

CV 内山昴輝 モデル 宇佐美夏樹

 

バッキー・S・五十嵐の実弟、日本海軍によるハワイ真珠湾攻撃の影響で兄に続いて海軍航空部隊に入隊。戦闘機に合格して44年、バッキーと同じ日系人部隊に配属。

マリアナ沖海戦で初陣を飾り、フィリピン戦と硫黄島でも日本機と戦い続け、沖縄特攻の戦艦大和を攻撃する爆雷撃部隊の護衛を担う中、大和を護衛する零戦と交戦、撃墜されてウィリアムのPBYカタリナに救助されて九死に一生を得た。

退院後、右半分の顔を火傷して戦闘機部隊に復帰することなく、後方のウィリアムの哨戒救助部隊に編入配属。ウィリアムのPBYの副長として従事。

終戦まで生き延びたが、上記の台風災害で行方不明になる。

 

 

 

シャルロット・F・トライン

1928年 9月15日

身長 158

出身地 フランス パリ

年齢 17歳 

血液型 A

所属 アメリカ赤十字 衛生看護婦

搭乗機 PBY5-Aカタリナ

特技 勤勉 医療行為

CVゆかな モデル テレサ・テスサロッサ

 

フランス、パリ出身の貴族。とても勤勉であり成績が優秀。友人が日独のクオーターであり、日本文化に興味を持つ。医者であるナイチンゲールとキュリー婦人の伝記で赤十字の医者になることを決意した。

39年、第2次欧州大戦が勃発。40年、ナチス٠ドイツがフランスに侵攻して一家はイギリスに避難した時にフランスが占領。ナチスの手が届きにくいアメリカに亡命のため、客船に乗船中にUボートの攻撃で客船が沈没。両親も犠牲になり、彼女ただ一人でアメリカにたどり着いた。

戦時中でも医者を目指す中、日米開戦。医学生でありながら真珠湾攻撃の後、赤十字医療チームの一員として派遣。幾人の敵味方軍民を問わずに手当てをした。

真珠湾の医療活動以降、軍属の医療チームとして太平洋区域、後にウィリアムの航空機による後方支援に活動。幾つの戦場を駆けて、敵味方の幾人の人命を救い赤十字の鑑み的存在。

終戦後、医者となるために再び医療学校の手続きを終え、ウィリアムのPBYで上記の枕崎台風で遭難、行方不明となった。

 

 

キャサリン・スパロウ

1920年 8月28日

出身地 アメリカ テキサス州

身長 160

年齢 25歳

特技 医療 料理 家事 乗馬 ロープワーク 鞭捌き

所持物 SSA拳銃

CV小笠原亜里沙 モデル マリー・ファーマシー

 

テキサス出身の金髪グラマー。今まで荒野ばかりの故郷で飽きれ、テキサスを飛び出し新天地のハワイへ目指し、テキサスと変わらず、サトウキビ畑で海を眺めながら生活することになった。

ハワイの娯楽施設で訓練生時代のウィリアム٠スパロウと出逢い、交際する中で結婚した。真珠湾攻撃の前年に双子の娘を出産。戦争と無縁に過ごせた日々だった。だが、終戦間際に娘たちと海岸を歩いている時、不発弾に触れて親子共々、命を落とした。

 

 

 

エミリー&エマ

1939年7月27日

出身地 アメリカ ハワイ州 ホノルル

CV白石涼子

 

 

 



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プロローグ 

 

 

西暦1945年 7月31日 シンガポール海峡上空

 

数機のアメリカ軍爆撃機B-24が接近。空襲のサイレンが鳴り響き、1機の二式水上戦闘機が出撃した。

 

「シンガポールに爆弾を落としたら何び…いや何機たりとも許さん!!」

 

いつもの爆撃機が定期的に飛来、大賀虎雄がいつもの様に、ショートランドから使用してきた愛機二式水戦で飛行した時に、ある違和感を感じた。

 

 

「(…なんだ?…ワシが来る度に爆弾をばら蒔きして逃げるのに…)まさか!?」

 

 

虎雄が太陽を見上げようとした時、日光を背にして1機のP-51ムスタングが急降下、機銃掃射を浴びせた。被弾してかすり傷で納めた。

 

 

「ぎゃっ……、あ…危ねぇ…ムスタングの同体に虎…あのラバウルの…野郎!」

 

 

虎雄はムスタングの背後を獲ろうとしたが、直ぐに回り込まれた。敵機の銃撃を受ける度に被弾と回避の繰り返し、得意な木の葉落としも難しかった。

 

 

「くそっ!なんて腕のパイロットだ!!…こうなったら…」

 

 

虎雄は機内の雑嚢に手を入れてある物を取り出した

 

 

「…鬼は外!!」

 

 

手榴弾を投げつけ、風防に当たり爆発。そのタイミングでバランスを崩して減速、ムスタングの背後に着いて銃撃した。

 

 

「喰らえ!!」

 

 

「!!…っ!?」

 

 

二式水戦の銃弾が胴体とエンジンに被弾、敵機自慢の速度がみるみる落ちていた。虎雄は操縦席の風防越しでムスタングのパイロットを見た。パイロットは苦しそうに、ゴーグルとマスクを外した。その姿は女性であった。

 

 

「…パイロットは女…まだ子供だ…晴香…」

 

 

撃った弾が血を流しているところを初めて見た虎雄は震えた。

彼の妹は陸軍で特別に入隊、戦車を学び、より一層学ぶ為に海軍の潜水艦でドイツに留学、ドイツで戦車乗りになり欧州で奮闘、5月のベルリン攻防戦で戦死。

 

電報の知らせで、虎雄は泣き崩れた。

 

 

「撃つべきか…いや…撃ったら遺族が復讐する…ここで…うぅ…」

 

 

1発だけエンジンに銃弾を撃ち、エンジンから煙を吹かせた。

 

 

「(武士の情けだ、生還しろ!)」

 

 

虎雄は本来の任務である爆撃機の迎撃に向かった。

 

 

 

 

ムスタングのパイロットは激痛を引き起こしながら意識が危ぶまれていた。

 

 

「…ぐ…はぁ…はぁ…痛い…痛いよぉ~…この借りは…いつかきっちり返す…」

 

 

「ガー…ザザー…『ステラ中尉助けてくれ!!敵機が…ルーフが!!』」

 

 

「…いけない…流血し…て…意…識が……シャル……アリシア……パウラ……兄さん…ヴェン…トム……バッキー…マリー…パンサー…」

 

 

ムスタングが彼女ごと突如、発生した雲の中で消えた。

 

 

 

 

 

 

 

B-24が爆弾をばら蒔き、逃亡。被害は巡洋艦高雄が小破、乗り組10人重軽傷、虎雄の戦果はB-24が1機撃墜、P-51ムスタング1機不確実。このあと虎雄は司令に説教を受けた後、昇進して階級が少尉になった。

 

 

 

シンガポール、海軍哨戒基地 兵舎

 

 

「おぅ、虎ちゃんお疲れ!」

 

 

「お疲れさまだね、タイガー!」

 

 

「…ふぅ~…トチコさん……司令にごっつぁんだったぜ…」

 

 

1人の整備兵、秋山聡子ことトチコが虎雄の元に明日の予定を告げた。

 

「大賀飛曹長…いや少尉、明日の予定に関してだけど…マラッカ海峡方面の哨戒の任務のため、早朝に出撃してね!」

 

 

「…へぇ~い…トチコさ~ん念のため、対潜爆弾を装備頼みまっさ」

 

 

「わかった。明日早いから風呂と食事をお早めに!」

 

 

トチコの進言で、虎雄はドラム缶風呂に入浴、食事を摂って就寝した。

 

 

 

翌日早朝 格納庫

 

 

 

 

「な……なんじゃこりゃ…!?」

 

 

虎雄の愛機が昨日の出撃前の状態に修復されていたものの、しかも両翼が折り曲げていた。

 

 

「両翼が折り曲っておろ~誰の仕業だ…」

 

 

「ふふふ〜!わたしですよ~!」

 

 

「また…奇っ怪なものを…」

 

 

「それはね、本土の連中がなにやら最新鋭の特殊攻撃機の開発した話しを聞き、それでわたしも興味が湧いて二式水戦を改装しました」

 

「なんと...!あの、トチコさん……ちゃんと司令に許可は?」

 

「それはもちろん、エンジンも改装を終えた零戦22型のを搭載、速度も以前より上がり、この折り畳み機能なら潜水艦はともかく、駆逐艦でも搭載可能!」

 

 

「成る程、…この戦局だからな…テストと同時に哨戒に行ってきます。出撃準備!!」

 

 

「了解!!」

 

 

虎雄の号令で整備兵たちは水戦の両翼を伸ばし、本機をスロープに下って着水、虎雄は搭乗した。

 

 

「コンターク!!」

 

 

虎雄は対潜爆弾を搭載した二式水戦が水上を走り蹴り、大空へ飛んだ。

 

「…久しぶりに静かだ……厚木隊長……洋介、…沖田さん、……進次郎……幸吉…平和だ…鹿児島が錦江が懐かしい………」

 

 

次第に朝日が昇り、虎雄は愛機と優々と飛行した。

 

 

 

 

「……っ!!…スピットファイア…!!」

 

 

 

虎雄は空中で食事中、正面に数機の英軍スピットファイア3機が接近、正面から機銃を撃って1機を撃墜。

 

 

「1機撃墜っ!!…しまった、囲まれた…」

 

 

虎雄はこの状況で不利と認識して急降下で離脱、背後から幾つかのスピットファイアが接近、機銃を放ち、二式水戦の風防に被弾。

 

 

「…くそっ…これまでか…」

 

 

虎雄はある不思議なことを走馬灯に思い浮かばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ー 9年前 ー

 

 

「あっ、赤トンボだ!!おぉーい!!おぉーい!!おぉー…ぎゃっ…ゴボゴボ…」

 

 

 

桜が咲いて舞う鹿児島の錦江湾で海軍の飛行機、赤トンボが飛行していた時に、手を振って追いかけて磯部の海に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虎雄は水中で手足を掻き、水上にでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…岸だ…」

 

 

「おぉーい!!おぉーい!!もかちゃん、手を振ってくれた!」

 

 

「(人じゃ…)おぉーい!助けて~!」

 

 

「…!?…男の子がいる!?」

 

 

二人の少女は岸から覗いたら男の子が海面にいた。急いでロープを投げつけて、救出した。

 

 

「「 はぁはぁ… 」」

 

 

「はぁ…はぁ…おまんら助けてくれてありがとう…危うく地獄にいくところだった…」

 

 

「ど…どういたしまして!…やったんだ、わたしたちが助けたんだ!これでブルーマーメイドで役に…って…あなたはだれ…?なんで海にいたの?」

 

 

「見かけない顔だね」

 

 

「オイラは虎雄、海と空が大好きだ!飛行機の赤トンボを追いかけたときに海に落ちた。まぁいつものこった!」

 

 

「…わたしは明乃…赤トンボ…?」

 

 

「…わたしはもえか…ねぇ…ひこうきって?」

 

 

「…おまんたちの…ぶ…ブルー…ま…マーメイドって…なんだ…?」

 

 

その後、歳が近く、虎雄と明乃、もえかの三人は緑芝生で遊んだ。遊びながら互いに話し合い、写真を撮った。太陽が水平線に沈む夕方になった。

 

 

 

「海に生き」

 

 

「海を守り」

 

 

「「 海を往く、それがブルーマーメイド!! 」」

 

 

「明乃ちゃんともかちゃんは絶対にブルーマーメイドになれる!オイラの命の恩人だからな!!」

 

 

「ねぇ虎ちゃん!いつか乗せてね、ひこうきって空飛ぶ乗り物に!」

 

 

「約束だよ、虎ちゃん!」

 

 

「おぅ!約束だ!いい夕焼けだ!オイラは帰るぞ錦江へ!!ぶう~ん!!」

 

 

「ねぇ虎ちゃん!錦江ってどこ!?」

 

 

「おぅ!鹿児島だ…っああぁっ…」

 

 

「「 虎ちゃん!! 」…あれ…」

 

 

虎雄は両手を広げ、芝生を駆けた。明乃に向けて話していると、石につまずいて海に落ちた。明乃ともかは虎雄が落ちたところに向かった。だが、虎雄の姿はなかった。二人は泣きかけたが、またいつか会えると信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虎雄が目を覚ますと、目の前に妹の晴香がいた。

 

 

 

「…兄ちゃん…兄ちゃん…」

 

 

「…ん…晴香……」

 

 

「もうっ!また海に落ちて、心配したんだよ!!」

 

 

「…ゴメン、…ん…明乃ちゃん…もかちゃん」

 

 

「ん…だれ…それ…?」

 

 

「さっき遊んでいた友達だ…あれ?」

 

 

「なに寝ぼけているの…父ちゃんと母ちゃんが心配しているから、家に帰ろ!」

 

 

「ああぁ…」

 

 

家に帰宅後、親にキツく怒られた。

 

 

 

「どんなことがあっても、命を粗末にするな!」

 

 

 

数年後、虎雄は佐世保海軍航空隊に入隊、日本は戦争に突入、妹の晴香は陸軍に。この戦争のベルリン攻防で散り、両親は鹿児島の空襲で亡くなった。

 

 

 

「(…父ちゃん…母ちゃん…晴香…)」

 

 

 

飛行の最中、哨戒海上の空域にスコールが発生していた

 

 

 

「…あ…?スコールが…………潜り抜けて行くか…………」

 

 

 

そのスコールはいつもより一層激しく、長続きした。その時に

 

 

カッ  「ぎゃっ!!…ぐぅ…」

 

 

落雷が直撃、虎雄はそのショックで気を失い、愛機の二式水戦が勝手に飛行し続けていた。

 

 

大賀虎雄はマラッカ海峡上空で行方不明。戦死の扱いになり、二階級特進で大尉になった。

 

 

彼の向かう先は、約束した友の海洋の世界へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから8月9日 鹿児島 海軍鹿屋航空隊基地

 

 

「では司令、呉鎮守府に最重要機密書類を運送しに出動します!!」

 

 

「うむ、気を付けたまえ。沖田大尉、金城一飛曹」

 

 

「「 はっ!! 」」

 

 

日本海軍大尉、沖田新一郎と助手の金城幸吉一等飛行兵曹と共に、呉へ最重要機密書類の運送任務での飛行が決まった。

 

 

 

水上機離発着場

 

 

「沖田さん!幸吉!」

 

 

「兄さん!幸吉!」

 

 

「ん…桜井、進次郎…」

 

 

新一郎と幸吉が愛機の零観の最終整備の最中で見送りにやってきたのは、零戦隊のパイロット桜井洋介中尉と弟の沖田進次郎少尉であった。

 

 

「どうしたお前ら、お前たちも北海道の千歳基地の転属命令が出たんじゃないか?」

 

 

「それもそうですが、沖田さん。俺と進次郎がさっき参戦したロシアの戦いに生還して、そしてこの戦争が終結したら。腹一杯に飯を食いましょうね!」

 

 

「そうだよ兄さん!幸吉!戦死した厚木隊長と虎雄さんの慰霊も兼ねて!」

 

 

それを聞いた新一郎は沈黙、そして幸吉と飛行衣服と航空備品、飛行帽を被り零観に搭乗した。

 

 

「桜井洋介中尉、沖田進次郎少尉!戦争終結したら俺の家で海を眺めながら食おう!ラバウルの思い出を語りながらな!!」

 

 

「「 はい!! 」」

 

 

「洋介さん、進次郎さん、オラのアイヌのチタタプゥを手伝って下さいよ!」

 

 

「はははっ幸吉!兄さんを頼んだぞ!!」

 

 

零観のエンジンが唸り、一気にプロペラが回転した。

 

 

「敬礼ーっ!!」

 

 

洋介と進次郎は零観の新一郎と幸吉機に対して敬礼を行い、出撃する新一郎と幸吉は敬礼、笑みを浮かばせながら遥かなる大空へ羽ばたいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1055時、新一郎、幸吉機は雲海が広がる北九州上空を飛行した。

 

 

「…壮大で…静かな雲海だな…………」

 

 

「新一郎さん、天国ってのはそんな感じですかな~♪」

 

 

「……そうかも知れんな………先に逝った十三と虎雄も………あの世で戦ってきた敵と飲み交わしているかもな………」

 

 

「ん~♪…!?」

 

 

後部座席に設置する無線機のスピーカーが鳴った。

 

 

「…何事だっ!?」

 

 

「…ちょっと待って下さい……これは……大変です!!」

 

 

「内容はなんだ!?」

 

 

「それが、特殊爆弾を搭載したB-29が長崎市に!」

 

 

「何だと!?」

 

 

3日前、8月6日。広島に新型の原子爆弾が落とされて壊滅した。その日以降、日本陸海軍は一層に警戒を強めた。

 

すると、長崎上空付近に、B-29を目視した。

 

 

「いた…あいつだ、幸吉!鹿屋基地と呉鎮守府に連絡、これよりB-29の迎撃に向かう!!(命令違反…ふっ…俺は軍法会議者だな…)」

 

 

「了解!!」

 

 

新一郎、幸吉は進路を呉から長崎に向けて飛行した。

 

 

1100時、長崎上空ー

 

 

「いたぞ!B-29だっ!!」

 

 

「新一郎さん!もう少し接近して下さい!!」

 

 

「言われなくとも接近するぜ!!」

 

 

幸吉は後部座席からジュラルミン製の折り畳みクロスボウを取りだし、矢の尖端に爆薬を取り付けた。

 

B-29まで100メートル接近した時、幸吉は座席から立ち上がり弓を構えた。

 

 

「喰らえ!!」

 

 

「いっけええぇーっ!!」

 

 

一本の矢が放たれ、曲線を描く様にB-29に命中仕掛けた時ー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

長崎が猛烈な光に包まれた。その瞬間に爆風が零観を包み襲った。

 

 

「新一郎さん!ぎゃああああぁーっ!!」

 

 

「うぐぐぐ…幸吉ー!」

 

 

操縦不能になった零観はバランスを失い、落下した。

 

 

「…進次郎……幸吉……桜井……すまん......!…虎雄……十三……今から…往くぜ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、沖田新一郎と金城幸吉は異世界の未来の次元に呑み込まれたのであった。

 

彼らの零観は飛び続け、漸くして次元から脱出、呉の海洋安全整備局の近辺に緊急着水。その海を仕切る青い人魚たちが駆けつけた。

 

 

 



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プロローグ 2

 

 

8月8日 ハワイ、オアフ島 イロクォイビーチ

 

 

「ママ!ここも鉄の網がなくなっているね!」

 

 

「ここのビーチに行くのは久し振りだね!」

 

 

ハワイの灯火管制が解禁されて1年、海岸に設置していた鉄条網が撤去された数ヶ月後にキャサリンとエミリーとエマは馬に騎乗して、笑いながらビーチを歩いていた。

 

 

「ねぇママ、パパはいつ帰ってくるかな?」

 

 

「そうねエマ……パパからの手紙で、もうすぐ戦争が終わる。その時にあたしたちはパパを迎えに行こうね」

 

 

「うん!」

 

 

「ねぇママ!パパが帰ってきたら、お馬に乗ってこのビーチに行こうね!」

 

 

「エミリー。そうね、パパたちと行きましょう!」

 

 

「ママ、お腹が空いた…ランチにしよう!」

 

 

エマの言葉に、キャサリンはポケットから懐中時計を確認した。

 

 

「ん……そうね、ランチの準備するから海で遊んで来なさい~」

 

 

「「 はーい! 」」

 

 

キャサリンの言うことを聞いたエミリーとエマは砂丘と海岸ではしゃいでいた。その中でキャサリンはランチを支度する時、空を見上げた。

 

 

「ふぅ、……ウィル……みんな………どうしているかしら………早く戦争が終わって……家族で平和に暮らしたいわ……」

 

 

「「 ママーっ! 」」

 

「……ん?」

 

キャサリンが双子の方に振り向くと、横たわっている黒い円柱の上にエミリーとエマが立っていた。

 

 

「…………あれは………っ!?」

 

 

双子が立っていた黒い円柱の正体は、真珠湾攻撃時の日本軍が投下した60キロ爆弾の不発弾だった。

 

 

「……エミリー、エマ!!そこから離れて!!」

 

 

「「 …え? 」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドガアアアアアアアァァァン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波打ち際に漂流物が爆弾の信管に当たり、大爆発を起こした。

 

 

イロクォイビーチにて、母親のキャサリンと双子のエマとエミリーが不発弾に接触、父親を残し、儚く散って逝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多くの軍人、民間人が犠牲を出した人類史上、最悪の第2次欧州、大東亜戦争が1945年、8月15日に終結、9月3日に正式に戦争が終結して半月。戦争で敗れた敗戦国日本。生き残った国民は焦土、荒廃した大地を彷徨い、着のみ着のままの暮らしで未来に絶望をしていた。その中、絶望する中でも幾人の国民は僅かな希望を抱き、祖国の復興を目指していた。

 

かつての敵であったアメリカ軍、1機の海軍双発水陸両用機、PBYカタリナが沖縄から九州へ向けて援助物資を運搬しながら哨戒飛行を行っていた。

 

                     

 

 

 

          

9月17日 1345時 奄美大島上空ー

 

 

 

 

 

機長 ウィリアム・J・スパロウ

 

 

副機長 トム・K・五十嵐

 

 

電信=医療従事者 シャルロット・F・トライン

 

 

 

「スパロウ機長、トムさん。戦争が終結して半月……早いものですわね……」

 

 

「そうだなシャルロット、あの戦争で多くの仲間と僕たちの知人も散って逝った……」

 

 

「こらこら二人とも、口を動かすより手を動かせ。シャルロット、定期連絡!トム、周囲の確認!」

 

 

「「 了解! 」」

 

 

ウィリアムはサングラスを制帽のつばに載せて語った。

 

 

「二人はこの任務を終えたらどうする……?」

 

 

「わたくしはアメリカの医学校に戻り、赤十字のお医者様になったら故郷のパリを中心に傷付いた難民を助けたいですわ。」

 

 

「ほぉ、凄いなぁ」

 

 

「君なら出来るよ、シャルロット」

 

 

「いえ、ベルリンで戦死した友人との誓いです。トムさんと機長は…?」

 

 

「僕は、ハワイに戻ったら。飛行機の技術を活かして、兄貴とサトウキビ畑で耕すよ。機長は…?」

 

 

「私か、暫く日本の救援物資の運送に専念して、いつか愛機カタリナと世界の、七つの海を巡りたい。飛行探検家、ファントム・F・ハーロックの様に…それが、子供の頃からの夢だ。そして、眠る妻子に誓ってだ!」

 

 

 

ウィリアムの夢は、既に冒険飛行の時代が終わりを迎えているにも関わらず、妻キャサリンと双子のエミリとエマはあの戦争末期、ハワイの砂丘で日本軍の不発弾に触れて妻子ともども還らぬ人となった。

 

 

 

「……機長………、彼らも喜んでくれますよ。ロマンチックな……ん……んん?……?」

 

 

 

3人が将来を語る中、操縦ハンドルを握るトムが違和感を感じた。

 

 

 

「ん…?どうしたんだトム?」

 

 

「んん…それが……舵が訊きません」

 

 

「何っ!?」

 

 

「通信機に異常が」

 

 

「何だと!?」   

 

 

 

 

 

 

       カッアァ

 

 

 

 

 

 

 

「「「 ギャアあああぁぁー 」」」

 

 

 

落雷がカタリナに直撃してきりもみ落下した。

 

 

「……お父様……お母様……ステラ…アリシア……パウラ…マリー…ごめんなさい……」

 

 

「……兄ちゃん……ステラが待つ所へ往くよ……」

 

 

「……ランスロー……フィリップ…………キャサリン……………エミリー…………エマ……今逝くよ……」

 

 

ウィリアム、トム、シャルロットの3人は走馬灯を観た。そして、3人が搭乗したPBY-5Aカタリナは枕崎台風により行方不明に記録された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、ある神のイタズラで、ある海洋の世界へ転移されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 



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第1話 未知の飛行物体と異世界未来

西暦2006年

 

 

 

横須賀市、諏訪大神社

 

 

 

「ましろ!…走ると転ぶぞ…!」

 

 

 

「大丈夫だよ…おか~さん、おね~ちゃん、早く…!」

 

 

 

長女の宗谷真霜は、横須賀女子海洋学校の学生で、卒業後は母親の宗谷真雪は現役のブルーマーメイドで、真雪の後を追ってブルーマーメイドへ歩むつもりであった。

次女の真冬は中学生だが、まだ中学卒業後の進路は決めておらず、そして、三女のましろは小学生であった。

 

 

そんな過去の彼女は、親子水入らずで諏訪大神社の石段を駆け上っていた。

 

 

 

ましろが先に石段に登り、後ろを振り向くと真雪と真霜、真冬の3人が石段を登って来る。

 

 

 

「昔は、横須賀の街もここみたいに陸地が多かったんでしょう?…お母さん」

 

 

 

真雪の隣を歩く真霜は、昔の横須賀の街並みを尋ねる。

 

 

 

「ええ、学校で習ったと思うけど、日露戦争の後メタンハイドレードの採掘を機に日本は地盤沈下を始めた…水没した都市部に巨大フロート艦を建造してフロート都市に変わって海上開発が進んだ。」

 

 

 

「それで日本は海洋大国になったんでしょ…軍事用に建造された多くの船が民間用に転用されたけど、戦争に使わないという象徴として…艦長は女性が務める様になったんだよね。」

 

 

 

「それが、ブルーマーメイドの始まり…だよね真霜姉?」

 

 

 

「そしてその第一号が‥‥」

 

 

 

「あなた達の曾お婆様よ。それから代々宗谷家の女性はブルーマーメイドになっているの。お母さんもね」

 

 

真雪は歩きながら宗谷家の成り立ちを語る。それから4人は石段を上がり、裏山の山頂に着いて真雪がある事を告げる。

 

 

 

「でもお母さんは次が最後の航海になるの」

 

 

 

「「「 えっ!? 」」」

 

 

 

告げた言葉が、最後の引退だった。その発言にましろを始めとして、真霜と真冬も驚き、唖然とした表情で母、真雪を見る。

 

 

 

「これからお母さん、ブルーマーメイドの先生になるの。こんな広い海のように豊かで清々しい海に生きる女の子を育てていくのよ…」

 

 

 

真雪は諏訪神社の裏山の山頂から見える海を見つめながら現役を退いた後の事を娘達に語る。

 

 

「私…そんな女の子になりたい!」

 

 

 

「お母さんが先生になる学校に入る!」

 

 

 

真雪の言葉に真霜は自身の将来を宣告して、次女の真冬も横須賀女子海洋学校に入学すると心に決めた。

 

 

そしてー

 

 

「わたしも!!…わたしもはいる!!」

 

 

 

三女のましろも小学生でありながら、真冬と同じ横須賀女子海洋学校を目指す。

 

 

 

「…楽しみにしているわ」

 

 

 

そう言って真雪は自分が被っていたブルーマーメイドの制帽をましろに被せ、ましろは恥ずかしそうな表情をする。その時ー

 

 

 

「あっ!?」

 

 

 

「…!?…」

 

 

 

突然、凄まじい爆音で風を切るような速度を出していた濃緑でフロートを付けていた正体不明の飛行物体が飛来、ましろが被っていた帽子が飛んでいき、真雪の帽子は正体不明の飛行物体と空の彼方に飛んでいき、消えた。

 

 

 

「あ、あああ……!!」

 

 

 

「…なぁ…なんだよあれ…?…お母さん、真霜姉…」

 

 

 

「分からないわ…私も初めて見るわ…空飛ぶ物体……」

 

 

 

真霜の表情は何処と無く、笑みを浮かべながら輝いていた。

 

 

 

「(…あれが将来の…この海が守れるわ…)」

 

 

その飛行物体を見て、未来のための革新を思うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから10年後、2016年1月某日 呉 ー

 

 

 

「………ふぅ、やっと書類が終わった…」

 

 

 

宗谷真霜はブルーマーメイド安全監督室情報調査室長/一等監保安督官の現最高責任者となった。

 

 

 

日が沈んで夜になったところに監督室のデスクから一本の電話が架かってきた。

 

 

 

「……はい、こちら宗谷保安監督……お母さん…!」

 

 

 

「『真霜、監督官のお勤めお疲れさま。』」

 

 

 

「…横女の校長を務めているお母さん程じゃないわ…ましろはどう?」

 

 

 

「横須賀女子海洋学校の入試で猛勉強しているわ。」

 

 

 

「そうなんだ~♪あの娘は横女受かるといいねぇ~」

 

 

 

「うふふ、そうね。それに真冬も相変わらずだけど、真霜はいい年だから、いい男性を見つけなさいよ。結婚して、孫の顔が見たいわ~♪」

 

 

 

「…っ!///よ、余計なお世話です!わたしは忙しいし、明後日にわたしは横須賀に帰るから切るね!」

 

 

 

真霜は赤面しながら電話を切り、受話器を戻した。

 

 

「…男性ねぇ…」

 

 

横須賀に出現した正体不明の飛行物体を目撃して以来、彼女自ら調査を行ってきたが、未だに調査はほとんどゼロ。

 

 

時間だけが過ぎる中で、真霜の監督室の窓の片方が開いた。

 

 

 

「…あれ…?風が吹いていないのに窓が…きゃっ!?」

 

 

 

真霜が窓を閉めようと近づいた時に一羽の鳶が室内に入ってきて。応接のテーブルに着地した。

 

 

 

「…なんだ…鳶か...!きゃあぁっ…」

 

 

 

鳶が窓から飛び立って、窓の外の夜をぐるぐる回っていた。

 

 

 

「(…おかしな鳶ね……え…あれは…?)」

 

 

 

真霜が月を照らす夜空には異形な飛行船の大群が飛行していた。双眼鏡で覗くと、胴体の中央下部部分に爆弾が搭載され、いつでも攻撃態勢を整えていた。

 

 

 

「……大変っ!非常事態だわっ!」

 

 

 

真霜はブルーマーメイド入隊以来、非常事態になりつつも、冷静に非常ベルを鳴らそうとした時、窓の外を翔んでいた鳶が目付きを変え、たった一羽のみ飛行船の大群へ向かっていた。

 

 

 

「駄目よ!…たった一羽でできな…え……?」

 

 

 

鳶は姿形を変えた背中に別の翼が生え、嘴にはスクリューと似て非なる羽が生え、高速に回転する。

真霜からしては、見たことがない飛行物体に変形し、嘴から火を吹き、次々と飛行船を落としながら飛行。飛行船を殲滅した後、飛行物体は再び真霜の監督室の窓付近に飛行し、物体の背中に人が居座りながら、真霜に敬礼した。

 

 

「あぁっ…ちょっと待って…待って……!!(……はっ………)」

 

 

気が付くと、真霜は監督室のデスクで横たわっていた。

 

 

「夢か……奇妙な夢だったなぁ…」

 

 

真霜は立ち上がり、監督室の窓から呉の景色を見渡した。

 

 

「また、いつもの平和な日常が始まるなぁ~…」

 

 

東の空から太陽が昇っていると同時に、身体を伸ばしている時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

カッ

 

 

 

 

 

 

 

「…!?今の閃光…?…あれは…」

 

 

 

空から二枚羽根の正体不明の飛行物体が飛来、その物体が真霜の監督室の近辺まで飛来して呉の海に着水した。

 

 

「大変っ!!」

 

 

真霜は沈着にブルーマーメイドに出動を要請、彼女自ら正体不明飛行物体の現場に赴いた。

 

 

 

調査に向かったのは、インディペンデンス級沿海戦闘艦『みくら』が出動、艦橋には宗谷真霜とネコミミを模したヘッドセットを装着した女性艦長である福内典子と同僚の平賀倫子が不明飛行物体が着水して座礁した現場に赴いた。

 

 

 

「あれが宗谷監督官が横女時代に目撃した…正体不明飛行物体……」

 

 

 

あの日、宗谷親子三姉妹が目撃した正体不明飛行物体は海洋安全整備局の耳にも入っており、一部の役員にしか知らされていない最重要機密になっているのであった。

 

 

 

「急いでこの物体の回収を急いで!」

 

 

 

「「 はいっ!! 」」

 

 

「大変です!今確認したところ、この物体に二人の男性が乗っています!」

 

 

 

「何ですって!?」

 

 

 

『みくら』からブルーマーメイドの隊員が出動、二人の搭乗者が気絶していたため、医務室に運ばれた。

 

 

 

医務室ー

 

 

 

「二人の搭乗者の状況は…?」

 

 

「あっ宗谷監督官!男性搭乗者は気絶しているから大事には至らないです。年齢の推定は一人が高校生、もう一人は20代前半です!それに二人はいい男です!///」

 

 

「そう、…よかった…それに余計なことはいいの!」

 

 

みくら、飛行船発着甲板。飛行物体の回収後に機体の確認及び搭乗者の所持物を平賀が確認した。

 

 

「この濃緑の物体…胴体に名称が……零式水上観測機……?」

 

 

「平賀さーん!」

 

 

「あっ、監督官!」

 

 

「この物体でなにかわかったかしら…?」

 

 

「はい、簡素に確認したところ…物体の上下に大きな二枚羽、胴体の名称が零式水上観測機。武装はエンジンの上部に機銃2挺、後部座席に機銃1挺、そして所持物には短剣2、拳銃3挺、ジュラルミン製の折り畳みの弓矢、サングラスそして軍隊手帳です。」

 

 

「軍隊手帳ですって!?この二人は何者でわかった事は…?」

 

 

「それが…おかしな記述ですが…」

 

 

「……1945年……え……?」

 

 

その手帳の内容文で宗谷真霜の顔が真っ青に豹変した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……う……ん…ここは……?」

 

 

沖田新一郎は、何か光が刺さったと思い、うっすらと瞼を開けた。

 

 

「ここは病室か……どうやら生きているな…………」

 

 

「新一郎さん……よかった……目が覚めて…」

 

 

「…幸吉……」

 

 

新一郎の隣のベッドには傷病衣服を着た金城幸吉が横たわっていた。

 

暫くすると、病室の扉が開けられ、3人の白い制服の女性が入室した。。

 

 

「目が覚めたかしら?」

 

 

「…?…看護婦さん…ですか…?」

 

 

「うふふ、白衣の天使じゃなくてごめんなさいね」

 

 

 

新一郎は一人の長い黒髪で麗しい女性を見とれており、幸吉はなぜ一人だけ頭部にネコミミの飾りがあるのか気になっていた。

 

 

 

「えっと……あなたたちは…?」

 

 

「ここはどこですか…?…もしかして、…命令違反したオラたちが海軍刑務所へ…?」

 

 

「安心してください、ここは海洋安全整備局の管轄の呉病院です。私がブルーマーメイドの一等監督官の宗谷真霜です。」

 

 

「同じくブルーマーメイドの福内典子です」

 

 

「同じく平賀倫子です。早速で悪いけど、あなたたちの事情聴取してもいいかしら?」

 

 

「え…あ、はい……ブルーマーメイド…?……なんじゃそりゃ…?…本土決戦に向けての女子特別挺身部隊か…?」

 

 

新一郎は真霜たちが述べた所属の言葉に引っ掛かっていた。

 

そして真霜たちも、小学生ですら知っているブルーマーメイドを存じていないのが疑問に感じた。

 

 

「特別艇身?…本土決戦って…なに…?」

 

 

 

「じゃあ早速だけど、あなたから生年と名前を聞かせてちょうだい。」

 

 

平賀倫子の質問に先に新一郎が答えた。

 

 

「沖田新一郎、大正9年(1920年)11月22日、24歳。高知の四万十村出身。日本海軍大尉、鹿屋基地の所属パイロットです!」

 

 

「同じく金城幸吉、昭和2年(1928年)4月30日、17歳。北海道の小樽アイヌ村出身。日本海軍の一等飛行兵曹、観測機の電信員です!」

 

 

「「「 ……え? 」」」

 

新一郎と幸吉は素直に述べたが、3人は目を丸くする。そこへ福内から質問があった。

 

 

「どうしたんですか…?」

 

 

「あの…沖田新一郎さん、金城幸吉さん?生年と出身もそうだけど、大日本帝国海軍は1945年に解体されているわよ」

 

 

「なにっ!?………解体…?…くそっ…日本が…負けたんだ…」

 

 

「…戦争が……終結したんですね…」

 

 

 

二人は戦争終結で愕然とした。ところがー

 

 

 

「戦争って…なにと戦争をしていたの?日本は日露戦争以来、どこの国と戦争はしていないわよ…」

 

 

「…戦争が無い…?…そんな……馬鹿な…」

 

 

「そう言えば宗谷さん、福内さん、長崎に落とされた特殊爆弾は…?…ロシアの参戦はどうなったんだ!?」

 

 

「ちょっと、沖田さん落ち着いて下さい!」

 

 

真霜が新一郎を抑えながら目を細め、何やら怪しむ様に見ていた。二人は真実を伝えても戯れ言は一切言っていない。

 

彼女たちも半信半疑の表情を浮かべていた。福内と平賀は会話に食い違いだらけでついていかず唖然としていた表情をしていた。

 

 

そして、平賀が質問の内容を変え、タブレットを動かした。

 

 

「あの…沖田さん、金城さん、あなたたちが乗ってきた物体って…なんですか…?」

 

 

二人にタブレットに写った零観をみせた。だがー

 

 

「なんだ…?…この板の機械は…?」

 

 

「新一郎さん!写っている零観が天然装飾に写っていますよ!!」

 

 

「なんて…奇天烈な…」

 

 

新一郎は真霜たちが扱うタブレットは未知なる道具であった。

 

 

「あの…あなたたち、二人が搭乗していた…この物体は…?」

 

 

「あぁ、これは零観です。」

 

 

「零観?」

 

 

「えぇ、正式名は零式水上観測機。敵艦隊上空の艦砲射撃の砲撃支援や敵地の偵察任務をやりこなす水上機です。」

 

 

「……観測機……?水上機……?それは一体どういうものなの………?」

 

 

「ん?どういうものって…航空機の一種で…上空で情報伝達するために作られた機種です。」

 

 

「なるほど……それで、航空機とはどういうものなの…?」

 

 

「え?……ちょっと待って下さい!航空機を知らないんですか!?」

 

 

「えぇ、初めて聞いたわ…あなた達こそ……タブレットも……知らないなんて…」

 

 

「(まてよ…なにかの本で読んだことがある…)」

 

 

幸吉は驚愕していた。彼らがまだ小学生ですら知っている航空機という機種は存じていなかった。

 

新一郎はふと、あることを考える仮説を創造する。

 

 

 

「…俺たちは、長崎の特殊爆弾の爆発で生き延びた訳じゃない!!…その影響で別の世界に飛ばされたんだ!!」

 

 

新一郎は昔読んだSF小説を読んだことを思い出した。

 

 

 

 

 

パラレルワールド。

 

 

それは、ある世界から分岐して、それに並行して存在する別の世界を指す。

 

並行世界、並行宇宙、並行時空とも言われている。新一郎と幸吉はパラレルワールドの世界に飛ばされたのだった。

 

 

 

 

 



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第2話 空を舞う青人魚

 

 

 

 

 

ブルーマーメイド管轄の呉病院

 

 

 

戦争末期、零観ごと戦争が無いパラレルワールドに迷い込んだ沖田新一郎と金城幸吉。

 

新一郎は確かめたいことがあった。

 

 

 

「あの、宗谷さん!今は何年だ…?」

 

 

「え…2016年です」

 

 

「2016年!?」

 

 

「異世界と言えども、あの戦争から70年…おいらたちは浦島太郎みたいに………なってしまったんだ………」

 

 

 

幸吉のごもっともだった。

 

その場で新一郎たちが来た世界と真霜たちブルーマーメイドの情報について意見を交わした。

 

新一郎と幸吉が来た世界は真霜たちの世界の歴史が一変していた。

 

1914年、第1次欧州大戦が始まり1918年に終結した。

 

1939年に第2次欧州大戦が勃発、1941年に大東亜戦争が勃発。日本は米英に宣戦布告。新一郎は大戦の開戦前に志願し、幸吉は戦時徴兵された航空機のパイロットであった。

 

戦争末期、日本はアメリカ軍の攻撃により国土が焦土、留めを刺すかの様にロシアが日本に宣戦を布告。二人は敵のアメリカ軍が長崎に落とした特殊爆弾に巻き込まれて、真霜たちは戦争が無い世界に飛来してきたのであった。

 

それを聞いた真霜たちは信じられないような顔をしていた。

 

 

「………世界大戦……しかも二度も………」

 

 

「日本が……アメリカとイギリス、………再びロシアと戦争だなんて……」

 

 

平賀と福内は信じられない表情をしていた。彼女たち世界の住人にしてはおとぎ話かSFの類いの話し、そして新一郎と幸吉の愛機の航空機も空想の産物になる。

 

二人は簡単に信じて貰うとは思わなかった。もし、逆の立場なら同じ表情をしていたのかも知れない。

 

 

するとー

 

 

「ねぇ、沖田さん…私の目を見て下さい」

 

 

「え?」

 

 

真霜は新一郎の目を見つめていた。新一郎から見た真霜は思った以上に、天女の様に美しく、麗しい女性であった。そして、真霜が夢で見た鳶を思い出した。

 

 

「…///」

 

 

「あの…///えっと…宗谷さん…顔が赤いですよ…///」

 

 

「あっ!…失礼しました…!それとですね…この飛行物体…いえ、この飛行機の写真は分かりますか?」

 

 

真霜はもう一度ダブレットを開き、別の画像写真を二人に見せた。

 

 

「なに!?…これは、二式水戦……!?」

 

 

「…にしき…すいせん…?」

 

 

「新一郎さん!これは、この機体の垂直尾翼の虎マーク……虎雄さんの…」

 

 

「あぁ、これは!…大賀虎雄だ、……虎雄の二式水上戦闘機だ!!あいつめ、シンガポールのマラッカ海峡で戦死したと聞いたがこの世界に来ていやがったのか!!」

 

 

「宗谷さん!この水上飛行機は…?これに乗っていたパイロットはどこに…?」

 

 

気まずそうな顔をしていた真霜は、窓の海を見つめていた。

 

 

「ごめんなさい、…この飛行機を撮ったのは10年前、横須賀なのよ…」

 

 

「…10年前……そんな……その機体はどこに……?」

 

 

「空の彼方に飛んで、消えました。…ごめんなさい…」

 

 

「いえ、…宗谷さんが謝ることはありません。」

 

 

「そうですよ。空に消えたってことは、まだ虎雄さんは生きている証拠です!」

 

 

しょぼんと落ち込む真霜を見た新一郎と幸吉は、彼女を励ました。

 

 

「ねぇ沖田さん!この飛行機はあなたたちの世界でいつ作られた産物なの?」

 

 

飛行機に興味を持った平賀が新一郎に尋ねた。

 

 

「ん…?そうだな。確か…航空学校の練習生時代に教官の授業で習ったが、日露戦争以前にアメリカのライト兄弟が人類史上初の有人飛行機を発明した。その後、第1次欧州大戦で航空機が活躍し始めそして、我々が戦った大戦では航空機が主に。」

 

 

「そして、空の戦いが中心に成りました…」

 

 

「でも、私達の世界のアメリカでライト兄弟という兄弟は聞いたこともない。恐らくその人達は飛行機を発明出来なかったのでしょうね。それに第1次と第2次大戦も起きていないから、沖田さんと金城さんの言う飛行機は登場せず、私達の世界は気球と飛行船しか存在しないと言う訳ね…」

 

 

「そう言うことになりますね。でも、俺にとっては平和でいいと思います。日露戦争以降、この世界の日本は…いや、世界中はどこも戦争なんてしてないですから…」

 

 

新一郎は寂しそうに呟いた。この世界は人と人の血み泥の悲惨な戦争が無く平和そのもの

であり、羨ましく思った。

 

 

「…新一郎さん…」

 

 

「沖田さん…そうね、私の世界は恵まれているかも知れないわね。」

 

 

「確かに、海洋学生の艦艇も民間に転用されたから…」

 

 

「しかも、この世界では海賊が商船を襲うことがあるから…厄介ですな……」

 

 

幸吉が嘆いた時、互いの状況確認を終えた後、真霜は新一郎と幸吉の今後についての交渉を始めた。

 

 

「さて、ここから本題だけど…あなた方はこれからどうするのですか?」

 

 

真霜は新一郎達にどうするのか問う。

 

 

「我々は大日本帝国海軍の所属だが、最早指揮系統を失った今はどうすることはできない…今は漂流者となった俺は残った愛機と仲間を守る義務がある!」

 

 

それに対して、新一郎は、指揮系統を失った以上、これからどうするかは分からないが、例え異世界に飛ばされても自分の愛機と仲間を守る義務を新一郎は、果たすと告げる。

 

 

「なら、私達の海上安全整備局に所属して臨時隊員はいかがでしょうか?」

 

 

「何!?」

 

 

対して、真霜は、自分と同じ海上安全整備局に入り、臨時隊員になるか提案で新一郎は驚き。

 

 

「そうしたらあなた達の事は、全力で守ります。何よりは、あなた達と機体は守れるでしょ…」

 

 

それを聞いた新一郎は困惑する。

 

 

「悪くない話しだが……何か条件がお有りそうだな?」

 

 

真霜の提案に何か条件があると新一郎は睨みつけた。

 

 

「えぇ、私達が持つ技術とあなた達の飛行機の技術を交換したいの!!」

 

 

「!?」

 

 

「何だって!?…オラ達の愛機の技術を!!」

 

 

真霜の言葉に幸吉は動揺した。

 

 

「沖田大尉、金城一等飛行兵曹。あなた達の元の世界に戻るのは事実上不可能だと判断します!…ですから、どうか宗谷監督官の提案を呑んで下さい!!」

 

 

真霜の側にいた平賀がサポートしながら何とか彼女を呑ませようと頼んだ。だが

 

 

「ん……平賀さんの言うことに異論はない、だが、俺たちは元の世界の戦争で戦った兵士です。幾つかの戦場で敵を…人を…殺し、多くの味方や民間人を見殺してしまった。…俺たちは、血に染められた手でその組織にいる資格があるのか……」

 

 

「…………」

 

 

苦しみながら新一郎はそう言う。それを聞いた真霜たちも海の平和を守るブルーマーメイドの仕事に就いて、戦闘の経験もまして人を殺した事など一度もない。

 

 

海上安全整備局が使用する武器はテロリストや海賊、暴漢などを捕獲するテーザーガンや麻酔弾を使用している。もし、自分たちも二人がいた世界のようにどこかの国の戦争で武器を持って相手を殺すことになれば、考えると真霜たちはその引き金を躊躇なく引く事が出来るのかと思うとゾッとした。

 

 

「…そんな…」

 

 

「オラも同じです。後部座席の電信員でも、情報一つで敵の艦艇を沈めたり、機銃で敵機を落としたりした…」

 

 

新一郎と同じく幸吉の瞳は暗くなり、病室も暗く哀しい雰囲気に包まれた。

 

 

「沖田さん、…あなたの心を否定してでも、生きて!生きてください!!生きることが、戦争で死んだ人達の分も生きるこそことが、あなたの罪滅ぼしです!!」

 

 

「…くっ…しかし………」

 

 

「………ぬちどぅ………たから……」

 

 

「「「 えっ? 」」」

 

 

幸吉の一言で真霜たちは注視した。

 

 

「ぬちどぅ宝!!………宗谷さんの言う通り……オラたちは………生きなければなりません!でなければ、厚木隊長に怒られますよ!新一郎さん!」

 

 

「……十三……」

 

 

新一郎は思い出した。

 

海軍士官学校の同期である厚木十三は初陣の日華事変から戦ってきた生粋の飛行機乗りであり、人一倍に飛行機に執着していた。43年にラバウルで再会して当地でラバウル6勇士を結成。1945年2月、フィリピン決戦で戦死するまで戦った。

 

そして、幸吉が述べていた『ぬちどぅ宝』。ラバウル6勇士の訓辞の一つだった。

 

 

「そうだな、…戦死した十三に笑われる…」

 

 

新一郎は目を閉じてゆっくり考えた。

 

 

「……日本海軍大尉、沖田新一郎。」

 

 

「日本海軍一等飛行兵曹、金城幸吉。」

 

 

「これより両名はブルーマーメイドの臨時隊員として命ぜられました!!」

 

 

新一郎、幸吉の両名はベッドから立ち上がり、ブルーマーメイドの宗谷真霜、平賀倫子、福内典子に対して敬礼した。

 

 

「改めてさせて、よろしくお願いします!沖田さん、金城さん。」

 

 

「あの、あなた達の所持していた拳銃とクロスボウ、短剣をお返しします…っ!?」

 

 

福内倫子が二人が所持していた南武14年式、94式拳銃とC96拳銃、クロスボウと短剣を持って来たが、真霜は左手で制止した。

 

 

「約束してください、…これで人を殺めないと……」

 

 

「わかった。但し、緊急時になった場合、個人の判断で使用します。」

 

 

「えぇ、…両名は明日、みくらに乗艦して呉から横須賀に移送しますので、ゆっくりして下さい。」

 

 

「わかりました。平賀さん、我々の零観はどこにあるのですか…?」

 

 

「えぇ、呉ブルーマーメイドの施設の格納庫に保管しています」

 

 

「今すぐ案内をして下さい!パイロットとして愛機の点検する義務があります。」

 

 

「わ、わかったわ。服を着てついて下さい。」

 

 

「おっ、オラも行きます!」

 

 

二人は飛行服を着用して、平賀の案内で格納庫に到着した。中にはやや翼が黒く焦げた零式水上観測機が駐機していた。

 

 

「おぉ、無事だったか愛機よ…」

 

 

「あなた達か、宗谷監督官が言っていたこの飛行物体の人材は?」

 

 

格納庫の影の当区画から、研究白衣を着た女性研究員が現れた。

 

 

「あなたは?」

 

 

「私が名乗る前にあなた達の紹介が先じゃないの?」

 

 

「あぁ、日本海軍大尉、沖田新一郎です。」

 

 

「金城幸吉一飛曹です。」

 

 

「私はブルマーの設備研究課の主任研究員の浦賀鈴留です。しかし、あの飛行物体、さっきから興奮が止まらないわ!」

 

 

「ははは…そうですか…」

 

 

彼女の目は子供の様に輝かせ、零観を触っていた。

 

 

「沖田さん、浦賀鈴留さんはブルーマーメイドで指折りの凄腕メカニックマンです。数々のスキッパーや艦艇、飛行船のメンテナンスをやり込みます」

 

 

「へぇ~整備のエキスパートかぁ~(整備班長の秋山トチローさんとトチコさんみたいだな…)」

 

 

付き添いの平賀が解説。心の中で新一郎は感心した。すると浦賀鈴留が新一郎に近づいた。

 

 

「ねぇ、沖田さん!この飛行機って言うのどんな構造なの?またあとで宗谷監督官に報告書類を書かねばならないから!」

 

 

「あぁ、わかった!」

 

 

 

新一郎は鈴留に零観の簡素な解説をした。

名称零式観測機。エンジン800馬力、最高速度390km。航続距離1070キロ、上昇限度9440メートル。武装が機首に九七式7.7ミリ機銃2門、九二式7.7機銃(後方旋回式)1門。30、60キロ爆弾×2

 

 

 

「…凄い……飛行船より高性能…」

 

 

「…しかも…スキッパーの速度より速い」

 

 

「零観の本体の骨組みに穴が開けられてるどころか、…ネジ自体も軽量化…。それにフロート自体が燃料タンクになっているなんて…翼が折り畳み式なのは?」

 

 

「これは軽巡洋艦から戦艦までに搭載可能な機体だから」

 

 

「艦艇でも搭載可能ですって!?」

 

 

「…この零観の武装が無ければ、純粋な工業製品だがな…」

 

 

平賀と鈴留が舌を巻くほど絶賛した。

 

 

翌日、新一郎と幸吉はブルーマーメイドのみくらに乗艦。零観は後部甲板の飛行船格納庫に収納、ブルーマーメイド本部の横須賀に向けて進路を執った。

 

 

みくら 後部甲板ー

 

 

「呉が…いや…日本が水没して…人工のフロート都市になっているなんて……」

 

 

「あぁ、まっこと…魂消たもんだ...! …さっき宗谷さんから聞いたが、地底にメタンハイドレードっちゅう資源の採掘で地盤沈下したらしい」

 

 

「どの時代でも、自然との戦いですね。…おぉ…連合艦隊だ…」

 

 

二人は呉、柱島付近に停泊する航洋艦艇を眺めて圧巻した。

 

 

「しかし、開戦以降に戦った艦艇が……女子海洋学生さんが航洋実習として扱っているとは…戦争がない世界が羨ましいな…」

 

 

新一郎は呟いた。1941年12月8日の開戦から末期まで、幾度の海戦で戦った艦艇は米英軍により戦没した。この世界の連合艦隊の艦艇はあの戦争がなく、民間に転用した艦艇は女性が扱うことに驚愕した。

 

 

「新一郎さん!大和です!!」

 

 

「…戦艦大和…まさか、この世界でもう一度見られるとは……」

 

 

青のカラーラインで描かれた超大型直教艦大和を目の当たりにした。

 

二人は戦艦大和に深い思い出がある。1944年3月トラック諸島でラバウル六勇士が解散後、皆はそれぞれの原隊に復帰後、戦艦大和に配属。

 

マリアナ沖海戦でアメリカ機動部隊の偵察、フィリピン決戦で二式水上戦闘機の大賀虎雄と共に大和以下の艦隊を護衛、敵艦隊の観測飛行。

 

沖縄の水上特攻の際に零戦の桜井洋介と弟の沖田進次郎と共に沈没するまで護衛した。

 

 

「やはり……巡洋艦以上の艦艇に……カタパルトがない……」

 

 

「…そうだな……宗谷さん達の言う通り、…航空機がない証拠だ………各艦艇よ…どうか、この世界で生きてくれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新一郎と幸吉は戦艦大和を始め、各艦艇に向けて敬礼した。

そして格納庫の影である女性が、二人を覗いていた。

 

 

1735時、駿河湾近海。みくら食堂ー

 

 

「あ~旨かった~…♪」

 

 

「ホントですねぇ〜♪異世界と言えども未来の日本の食事がこんなに旨いとは。厚木隊長や虎雄さん、洋介さんと進次郎さん、トチローさんとトチコさんにも食わせてやりたいですよ~」

 

 

「はっはっはっ!気の毒なことは言うな、しんみりするだろ。」

 

 

「あい、すみません「あっはっはっはっ」」

 

 

二人はみくらの艦内食堂にて食事を堪能していた。食事を終えて、泊まり部屋に戻ろうとした時ー

 

 

「…現在は駿河湾近海……え…今すぐ横須賀へ…?」

 

 

声が気になった新一郎は通路に足を運ぶと、真霜がスマートフォンで通話をしているところを目撃した。

 

 

「…ダメよ……今はお客の保護を兼ねて航行しているから…それに……」

 

 

「宗谷さん!」

 

 

「ごめん、ちょっと待って………沖田さん…金城さん…?」

 

 

真霜の背後に新一郎と幸吉が立っていた。

 

 

「話しの内容は分からんが、一刻も横須賀へ早急に行きたいのですか!?」

 

 

「えぇ、そうですが……まさか…!?」

 

 

「俺が愛機の零観で、試験飛行を兼ねて宗谷監督官を横須賀へ空輸させますがいかがか…?」

 

 

新一郎の考案で真霜をみくらから横須賀まで空輸することを述べていた。

 

 

「私は横須賀へ…?でも、ダメよ!あなた達の飛行機を飛ばせることは民間は愚か、同じブルーマーメイドやホワイトドルフィンに晒させることはできないわ…」

 

 

真霜は新一郎の考案に反対であった。新一郎の愛機、零観は海洋安全整備局にとってトップシークレットであった。

 

 

「飛行航路としては、海上の上空を飛行します。それに、俺たちはあなたたちブルーマーメイドに助けられた恩がある。俺は日本海軍軍人と土佐出身としての仁義が許さん!どうか」

 

 

新一郎は真霜の前で頭を下げて直訴した。

 

 

「……わかりました…飛行に関して任せます。」

 

 

「はっ!」

 

 

新一郎は真霜の前で感謝の意を表し、海軍式の敬礼をした。

 

1755時、みくらは航行を停止、幸吉とブルーマーの鈴留達メカニックマンが格納庫から零観を出して、折り畳まれた翼を伸ばして整えた。

 

そして、飛行服と航空装備、白いマフラーと飛行帽を整えた新一郎が出てきた。

 

 

「よし、浦賀さん。零観の調子は?」

 

 

「はいっ!流石は零観、艦艇に載せるこの折り畳み式は凄い構造ね!」

 

 

「まぁな、…しかし、カタパルトがあれば…一発で飛ばせるのだが…」

 

 

「カタパルト…?」

 

 

「沖田さ~ん!」

 

 

「っ!?はぁーい!あ…」

 

 

そして、艦内から重要書類を入れたバックと、外套を羽織った真霜が出てきた。彼女の外套はブルマー指定の外套でありながら新一郎の目に見とれていた。

 

 

「………美しい…………///」

 

 

「沖田さん…?」

 

 

「新一郎さん…新一郎さん!」

 

 

「……あぁ、幸吉か…なんだ…?」

 

 

「なんだってないですよ!もうすぐ零観をクレーンで降ろすから搭乗して下さい!」

 

 

「あぁ、すまんが今回の幸吉は…このみくらで待機を頼む。」

 

 

「はっ!…オラの待機は久しいですが、宗谷さんと空のデートとは…♪」

 

 

「…喧しい…、…その前に宗谷さんを後部座席に乗せねば。」

 

 

新一郎は真霜の前に手を差し伸べ、その姿を見た真霜は赤面した。

 

 

「……沖田さん、お願いします……///」

 

 

「はっ!ん…?…宗谷さん……この格好は悪くはないが、今は1月。空は寒過ぎるからこれをお貸しします。」

 

 

新一郎は自身の飛行帽とマフラーを脱ぎ出して、真霜に被せた。

 

 

「…あっ!…ありがとうございます……………暖かい……///」

 

 

新一郎と真霜は零観に搭乗、クレーンで海上に降ろして着水してワイヤーフックを外してエンジンを発動、プロペラを回した。

 

 

「エンジンよし、燃料よし、伝声管よし、油圧よし、プロペラよし、コンターク!!発進します!!」

 

 

新一郎の扱う零観は海上を走り蹴り、進路を横須賀に向けて大空へ羽ばたいた。

 

みくらから見ていたみくらの乗員達は唖然とした顔で闇夜の大空を飛び、赤緑の誘導灯だけを見とれていた。

 

 

「凄い、本当に飛んだよ!!」

 

 

「しかも凄い速いですね…」

 

 

「(新一郎さん、どうかご無事で)」

 

 

甲板にいた鈴留と平賀は驚き、闇夜の中を飛行する零観の誘導灯が見えなくなるまで空を眺めた。そして、幸吉は内心で祈り敬礼した。

 

 

この闇夜、世界でただ1機しかない飛行機が飛ぶ中、新一郎が操縦する零観の後部座席に座っていた真霜は空から見た夜の景色に興奮していた。

 

 

「凄い…!!…私は空を…空を飛んでいるのね…!」

 

 

「そうか、この世界は飛行船か気球があっても人が乗ることはあまり無いんだな……宗谷さんが、この世界で初めて空を飛んだ青い人魚になる。……この夜の街景色、…灯火管制がない…戦時とは大違いだな…」

 

 

新一郎は改めて未来、異世界の日本に来た事を実感した。

 

 

「ねぇ、沖田さん…あなたは元の世界に帰りたいと思わないの?」

 

 

操縦桿を握る新一郎は、伝声管から真霜の声を聴く中、彼女からある質問が聞かれた。

 

 

「ん…?…そうですね…さっき呉にいた頃の俺はそう思っていたな………今考えれば忘れたくても忘れられない地獄の世界だった……俺の戦友達が戦死して……仲間と弟は……あの戦火の戦場で戦っているのかどうか……その一人はこの世界に彷徨っている……」

 

 

「…っ!?沖田さん、弟さんがいるの?しかも戦場で……」

 

 

「あぁ、弟と同じ飛行機乗りのパイロット、飛行機を落とす専門の戦闘機パイロットです。宗谷さん、あなたの家族は?」

 

 

「え…えぇ、私の家族は代々名門ブルーマーメイドの関係者。母は現役を退き横須賀女子海洋学校の校長を勤めています。妹が二人、一人はブルーマーメイドの艦長。末は横須賀女子海洋学校の受験で励んでいます」

 

 

「名門の校長と艦長…受験生か……こりゃまた大変な時期にきたもんだ……俺もパイロットになるまで必死に勉強したからな…」

 

 

「沖田さんの家族は?」

 

 

「俺の実家は高知の四万十村の貧しい漁師だ。両親と6人兄妹の長男、さっき言った次男も戦闘機パイロットだ。そして、戦争に突入した戦場で俺と幸吉、弟も戦った。」

 

 

「その戦況の最中、飛行機ごとこの世界に迷い込んだ……私はあなたにできることはないかしら……し………新一郎……」

 

 

「…し…新一郎......!?///...あ…」

 

 

新一郎は赤面仕掛けた時、三浦半島上空を通過。そして、すぐに横須賀上空に到達して旋回飛行した。

 

 

「横須賀上空に到達しましたよ…えっと…宗谷さん…」

 

 

「新一郎、真霜で…良いわよ……///。…それに、1時間も掛からないなんて……これが横須賀の灯なのね……」

 

 

「あ…あぁ!…この零観を着水する場所はどこに!?」

 

 

「あそこでお願いします!私が通っていた母校へ!」

 

 

横須賀の夜景を観て感動する中で、真霜が指差す方向は、海上のフロート学園。横須賀女子海洋学校であった。

 

彼女の母校の波止場にイルミネーションに灯された艦艇が続出して停泊していた。

 

 

「でも、真霜はいいのか?俺の愛機はどの水上に着水できることは問題ないが、この零観はブルーマーメイドの管轄で極秘じゃ…」

 

 

「今のところは問題はないわ。私達ブルーマーメイドは守秘に関して硬いから!」

 

 

「なら安心した。掴まれ!」

 

 

「きゃっ!…」

 

 

新一郎は操縦桿を倒して、機体を横女へ向けて飛行した。高度を下げて、速度を徐々に減速して水上に着水した。

 

エンジンを止めずに水上を学園の波止場まで走行、他のブルーマーメイドの各艦艇の乗組員はさっきまで空を飛行して水上に着水した零観を珍獣を見物をしている目で見ていた。

 

 

「あれが異世界からきた飛行物体…!」

 

 

「……速い!」

 

 

「スキッパーの様に小回りが効き、空を飛び、水上を走っている!」

 

 

「あれには宗谷監督官が搭乗しているのね!!」

 

 

「へ~いいなぁ~…スキッパー乗りのわたしも扱ってみたいなぁ~」

 

 

「あの飛行物体を操縦している人はどんな人かしら…」

 

 

着水した零観は水上の走行中に一艇のスキッパーに接近する。

 

 

「ん…あれは…?」

 

 

「ブルーマーメイドの保安観測部隊の岸間菫です!」

 

 

「日本海軍大尉、沖田新一郎です!!貴部隊のブルーマーメイド所属、宗谷真霜一等監督官を移送しました!!」

 

 

「みくらからの報告通り御苦労様です!!私が波止場の桟橋へ誘導します!!」

 

 

「感謝します!!」

 

 

「岸間さん、ありがとう!」

 

 

真霜は手を振り、新一郎は操縦席から岸間に敬礼して、対する岸間も応える様にハンドサインを返した。零観が横女の学園の桟橋に到着後、新一郎が操縦席からロープを持って先に桟橋に降りて留め具に繋いだ。

 

 

「これでよし。次は、…///…ま…真霜の番だ……///」

 

 

「あっ!…うん……///…きゃっ…」

 

 

新一郎が手を差し伸べた時、真霜が足を滑らせて落ちた。

 

 

「あっ危ない!!…ぎゃっ…」

 

 

新一郎は真霜を受け止めたものの、彼女の下敷きになった。

 

 

「…だ…大丈夫、新一郎……」

 

 

「あ…あぁ、こんなものは……あの戦場に比べてどうってことはない……///」

 

 

新一郎は赤面しながら夜空を見上げた。

 

 

「あの、あなたの帽子とマフラー……ありがとう…///」

 

 

真霜が新一郎の飛行帽とマフラーを返した時、学園の通用口から黒い制服の女性が出てきた。それに気づいた真霜はその女性のキリッと前に立った。

 

 

「ブルーマーメイド横須賀所属、一等保安監督官、宗谷真霜。ただ今帰還しました!」

 

 

「うん、呉の出張お疲れ様ね真霜。想像以上に早い到着ねぇ」

 

 

「えぇ」

 

 

真霜が笑みを浮かばせた時、彼女の母の宗谷真雪が、新一郎と零観の方に顔を向けた。

 

 

「へぇ、あなたの報告通りこれが70年前の…異世界の空飛ぶ船、ひこうき…」

 

 

真雪が新一郎の元に近づいた時、新一郎は敬礼した。

 

 

「あなた、この…空飛ぶひこうき…扱うのにどの位の期間が必要なのですか?」

 

 

「はっ! だいたい4、5年ってところです!」

 

 

真雪は零観の胴体と翼を接触しながら確認した。

 

 

「凄い…確かにこの世界の製品ではないわね。私達の世界では空想の産物なのに、別の世界で人類はこんな飛行物体を造っていたなんて未だに信じられない……」

 

 

「この飛行機に乗った時の大空の旅が忘れられない…、鳥になった気分よお母さん!またお母さんも乗ってみたら?」

 

 

「ふふふ、そうね~また機会があれば…」

 

 

二人の会話の中で、新一郎はある言葉に気になった。

 

 

「(…お母さん…?…この人が…真霜の……お母さん!?)」

 

 

新一郎はこの女性が宗谷真霜の母親だと聞いて、硬直した。

 

 

その後、零観はブルーマーメイドにより回収、当施設に移された。幸吉が乗艦するみくらも横須賀女子海洋学校に到着。新一郎と幸吉は当学校の校長室に免れた。

 

 

「遠い呉からよく来てくださいました。私が横須賀女子海洋学校の校長にして宗谷真霜の母、宗谷真雪です。」

 

 

「宗谷監督官、貴下に救助、並びに当学校の校長室に免れて大変恐縮です。私は日本海軍大尉、海軍鹿屋基地所属。零観のパイロット、沖田新一郎です!」

 

 

「同じく私は零観の観測と電信員の金城幸吉、海軍一等飛行兵曹です!」

 

 

「取り敢えず、ここのソファに座って下さい。」

 

 

「「はっ!」」

 

 

二人は校長室の応接の応接ソファに座り沖田新一郎と金城幸吉のペア、宗谷真雪と真霜の親子の会談が始まった。

 

 

「娘から…真霜からあなた達二人のことを聞きました。この度は色々と70年前の戦時の世界で大変でしたね…」

 

 

「いえ、…この世界に来た事は我々の悪運が強かったかも知れないです」

 

 

「我らが結成された部隊でも、地獄の戦場をくぐり抜けて戦い生還しました」

 

 

「あなた達の事は、私達ブルーマーメイドが面倒を看るから、安心してください」

 

 

「心使い感謝します!」

 

 

新一郎はホッとして安心した。

 

 

「あの、…宗谷校長……我々が宿泊するところは」

 

 

幸吉は宿泊に関しておどおどしていた。すると真雪が

 

 

「それなら安心してください。私の家で寝泊まりしてください。」

 

 

「「 えぇっ!? 」」

 

 

「ちょっと、お母さん…!///」

 

 

真霜と新一郎、幸吉は真雪の発言に驚愕した。

 

 

「ブルーマーメイドの隊員宿舎に関してですが、今年度の女子海洋学校卒業生が来年度に入隊する予定でいっぱいですので空き部屋は困難でしょう。私、宗谷真雪が責任を持って保護します」

 

 

「は…はぁ…」

 

 

その後、新一郎と幸吉は宗谷真雪、真霜と共に横女から本土までフェリーで移動、本土に到着して宗谷家の自宅までリムジンで移動して到着した。

 

到着して二人は宗谷真雪、真霜の自宅の豪邸をみて驚愕した。

 

 

「へぇ~ここが真霜さんのご自宅かぁ~」

 

 

「オラの村の実家より凄い…」

 

 

「俺もだ、……流石は代々ブルーマーメイドを輩出した名家だ…我々の様な身分が入っていいのか……」

 

 

二人は宗谷の敷地に入ることを恐れ、躊躇っていた。

 

 

「構いませんわよ沖田さん、金城さん。あなた達はブルーマーメイドと宗谷家の特別なゲストです。」

 

 

 

 



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第3話 パイロットの待遇と飛翔

 

 

 

 

 

「「 お邪魔しま… 」」

 

 

新一郎と幸吉は宗谷真霜と母親の真雪の豪邸に足を踏み入れた。するとー

 

 

 

「いやぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悲鳴!?幸吉行くぞ!!」

 

 

「了解!!」

 

 

「あぁっ、ちょっと!」

 

 

家の中から少女の悲鳴が鳴った時、土足のまま掛け上がり新一郎と幸吉は懐から拳銃を抜き出し、悲鳴がした部屋に向かった。

 

 

「動くな…こ…これは…」

 

 

新一郎は部屋のドアを蹴破り、拳銃を構えた。だが二人が見たその光景は、20代前半の女性が未成年少女の尻を揉んでいた。

 

 

「根性…!!…なっ何なんだお前らは!?」

 

 

「お前こそ何している!まだ女学生に、破廉恥な事をやっていることが恥ずかしくないのか!?」

 

 

「そうだ、その娘から離れろ!!」

 

 

「なっ!こいつらは最近この近所に出没している強盗か!?」

 

 

「ね、…姉さん…あいつらは武器……拳銃を…」

 

 

「ん…姉さん…?」

 

 

幸吉は、少女のある言葉に気になる時、宗谷真冬は指を鳴らしながらニヤついて腕を構えた。

 

 

「ほうっ面白い、観てな、ましろ!海賊を相手に鍛えたあたしの腕前を!!」

 

 

「姉さん!!」

 

 

真冬は新一郎を右手で殴りかかろうとした時に、彼は拳銃を素早く懐に閉まったところー

 

 

「よっ」

 

 

「なに!?ならば!」

 

 

新一郎の左手で寸止めされ、真冬は左脚で蹴りを射れようとした時に素早く避けられた。

 

 

「なに!?なんだよこいつは…!!(今まで戦った海賊と違う気配だ……)」

 

 

真冬は新一郎と格闘して青ざめた

 

 

 

「女性ながらいい拳だ、だが俺の前には通用せんぞ」

 

 

「なにを小癪な!!」

 

 

真冬は助走をつけて走り、おもいっきり殴ろうと右ストレートで来た時、新一郎は身を屈め右腕を掴み、背負い投げた。

 

 

「………はぁっ!!」  バタッ

 

 

「…痛ってぇ~…!!」

 

 

「あぁ………しまった!女性相手でもつい………」

 

 

「新一郎さん…まぁ、取り敢えずお縄頂戴!!」

 

 

幸吉はうつ伏せに倒れている真冬の両腕を後ろに回し、弓の弦で両手を結んだ時に丁度、真霜と真雪がましろの部屋に駆けつけた。

 

 

「真冬姉さん!」

 

 

「「 真冬!! 」」

 

 

「え…真冬?」

 

 

「姉さん…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

宗谷家、居間ー

 

 

 

 

 

 

宗谷親子3姉妹と零観パイロットの2人の自己紹介を終え、食事しながら談笑していた。

 

 

「先程は、妹さんを投げ跳ばして大変失礼しました!」

 

 

「全くだ、か弱い女性を投げ跳ばすなんて最低だぜ…」

 

 

「なに言っているのよ、いつもましろやブルーマーメイド隊員のお尻を揉んでいる真冬の日頃の行いよ」

 

 

「ふふっそうね」

 

 

「もぅ母さん、真霜姉!全く、どっちの味方だよ…しかし、沖田さん……あんた強いなぁ~どこで習ったんだ~?」

 

 

「……本当に、あの真冬姉さんを投げ跳ばすなんて信じられない…どこで習ったのですか?」

 

 

「あぁ、上海事変の終結後に……」

 

 

「上海事変…?」

 

 

ましろは新一郎の言葉が気になり、首を掲げた。

 

 

「あっ、…いや…それは…」

 

 

「ましろさんでしたっけ…、それですね…新一郎さんは中国に…えっと…留学…した時に中華拳法を習って…」

 

 

「そうそう俺は内地で柔道と空手。昔、中国に留学した時に少し習っていました。アハハ…」

 

 

幸吉のフォローで新一郎たちは何とか誤魔化した。

 

 

「あの、……宗谷校長……貴女の御主人は……?」

 

 

「「「 ………………… 」」」

 

 

 

新一郎の質問で3姉妹が沈黙する中、口を開いたのは母親の真雪であった。

 

 

「10年前、客船を襲う海賊と交戦して殉職しました…」

 

 

「……すいません……大変……失礼なことを……」

 

 

「…いいんですわよ……海の安全を守るために」

 

 

 

 

真雪の新一郎は気の毒なことで悔やんだ。

 

そしてー

 

 

 

「ねぇ沖田さん、金城さん。その…変わった服装ですが…ブルーマーメイドではどこの部署に務めているのですか…?」

 

 

「ん…?あ、…それは…だな……」

 

 

「…えっと、……そうですね……」

 

 

ましろの次の質問で二人は頭を掻きながらタジタジになっていた。

 

 

「ふふっましろ。これ以上詮索は止めなさい。ブルーマーメイドに男性職員は珍しくないのよ。」

 

 

真雪はましろからの質問を制止した。

 

 

「はぁーい…そして、今までどこで配属していたのですか…?」

 

 

「上海や東南アジアを始め、ニューブリテン島のラバウルからトラック諸島、そして戦艦大和に配属していた。」

 

 

「……大和……超大型直教艦の大和ですか……!?」

 

 

「大和の乗員ですって!?」

 

 

ましろは次の質問に答え、新一郎の言葉に真雪と3姉妹が驚愕した。

 

 

「女子海洋学生………いや………かつてのブルーマーメイドのエリートしか乗艦できない大和を………一体……どんな経緯で…………」

 

 

ましろを除く、真雪と真霜、真冬は大和型の艦長を務めたエリートであったため、二人に興味があった。だが、新一郎と幸吉は大和に関して口から言えなかった。

 

 

「…あの…それは……」

 

 

「そうっ!ただ食事するだけに乗艦していました!…あはは…」

 

 

「そうそう、あはは…」

 

 

「…へぇ~そうですか…………さて、私は横女の受験が近いから部屋に戻ります。」

 

 

「「 (ほっ……) 」」

 

 

ましろの目は怪しいそうな目付きに変わり、あきれたかのように自室に戻った。新一郎と幸吉は、互いに背中合わせで持たれた。

 

 

「お二人さん、呉からの移動と娘のましろの相手お疲れでしたね。」

 

 

「はぁ、またいずれ我々が戦艦大和に乗艦したことをお話ししますよ」

 

 

「新一郎さん、これは軍の機密ですよ…」

 

 

「この世界にきて、機密も秘密もあるか!」

 

 

「なぁ…沖田さん。機密と言えば、真霜姉を乗せたひこうき!あたしにも見せてくれよ~!」

 

 

「別に構わないが……飛行機だが、航空機が存在しない世界のあなたたちでは恐ろしい成果を挙げている……!」

 

 

新一郎は真霜たち親娘に航空機の活躍を語った。

 

日露戦争前、アメリカにてライト兄弟が人類初の飛行機を発明、初めて戦場に投入したのは1914年、第1次欧州大戦。

 

大戦初期は敵陣の偵察に過ぎなかった飛行機の飛行行動が戦闘機、爆撃機を開発し、戦場で人々の命を奪った。

 

大戦後、欧米列国は民間人の空輸する旅客機を開発、大空に平和を迎えた。

 

だが、1939年、再び欧州に世界大戦、1941年に大東亜戦争が勃発、米英に宣戦を布告。

 

開戦と同時に日本海軍航空部隊がアメリカのハワイ真珠湾の奇襲で戦艦部隊を壊滅、新一郎が参加したマレー沖海戦でイギリス海軍の戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋戦艦レパルスが撃沈。

 

その海戦以降、戦艦の時代が終結し、航空機の時代が始まった。

 

戦艦などの艦艇は航空機の援護無しの任務では自殺行為、各地の海洋学校が所有する大和型超大型直接教育艦の大和、武蔵があの戦争末期、アメリカ軍の空襲で撃沈された。

 

 

「……そんな……」

 

 

「……嘘だろ…あの大和と武蔵が……」

 

 

真雪と真冬は心底新一郎の言葉に青ざめ、驚いていた。海上の要塞こと海の王者の戦艦が、小さな航空機で撃沈されるなんて夢物語、誰もが思いもしなかった。

 

 

「あの海戦で……俺と幸吉、虎雄は今でも武蔵と大和の配属でフィリピン決戦と沖縄の航海でアメ公の攻撃で防げず、撃沈されたことを悔やんでいる……」

 

 

「「「 ……………………………………… 」」」

 

真霜たちは新一郎と幸吉のあの海戦を経験した者としてか壮絶なオーラを感じていた。

 

 

「………取り敢えず寝泊まりする場所を教えてくれ…」

 

 

「わかりました。一晩だけですがこの居間でお休みください。そして後程入浴場へご案内します。」

 

 

「何から何まで大変感謝します!」

 

 

新一郎と幸吉は宗谷真雪に敬礼。

 

一晩、宗谷家の居間で過ごした。その暗い廊下の影で三女のましろが両手で口元を抑え、震えながら新一郎の言葉をひっそりと聞いていた。

 

 

「(……武蔵と大和が……撃沈……!?)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この世界に来て3日後 小笠原諸島 酉島上空

 

 

「新一郎さん!腕がイキイキしていますね!!」

 

 

「こんな解放された空は久しい!!戦時の制空は敵さんに奪われた上、日に日に犠牲が出る戦場だからな!」

 

 

ブルーマーメイド管轄の酉島上空で、極秘のテスト飛行をする零観。機体を運搬して停泊するブルーマーメイド艦「べんてん」には宗谷真霜と真冬、平賀典子と福内倫子、そして浦賀鈴留が後部甲板から零観を見物していた。

 

 

「あの……ひこうきの零観…、スキッパーより速い…、小回りが利いている…」

 

 

「凄いわね……異世界の技術って。速度も計測器で測ったけど時速は400キロ級、一番速い飛行船でも200が限界なのに、これは凄いものを見たわ……」

 

 

 

上空ー

 

 

「やっぱりいいですね~………海の上の空は」

 

 

「あの青人魚たちは驚いているな、久し振りに俺の荒業やるぞ!掴まれ!」

 

 

「了解!!」

 

 

新一郎は操縦桿を握り、連続の宙返りや急旋回、急降下などの曲芸飛行を見せた。それを見ていた真霜たちや、べんてんの乗員は拍手喝采を挙げた。

 

 

「おおおぉーっ!!すっげぇー!!」

 

 

「もし、配備されたらブルーマーメイドの活動範囲も大幅に広がりますよ!」

 

 

「うん、そうね…」

 

 

真霜は零観の性能を見て、将来的に零観の生産とブルーマーメイド艦艇への配備を考案した。

 

飛行を終えた零観がべんてん付近に着水した。

 

 

「…ふぅ…今の時期の小笠原の海は暑くていいなぁ!」

 

 

「そうだな……あの時代はまだ夏だったから、冬場の日本にきた俺たちには身体に堪え…」

 

 

「どりゃー!!」

 

 

「わわっ!!真冬!?」

 

 

「真冬さんっ!?」

 

 

べんてんから真冬が二人の零観に着地。機体の操縦席に近付いた。

 

 

「なぁ、新一郎!あたしにもこの零観を操縦させてくれよ〜!こう見てもスキッパーの国際大会で優勝した経験が…」

 

 

「待て待て真冬!この零観はスキッパーと違って扱いが難しい!!」

 

 

「いいからいいから……あれ……あれれ…?」

 

 

新一郎が全力で否定したものの、真冬が操縦席に入り込み、無数の計器やスイッチ、レバーを弄ったせいで、発動機と操作盤から煙が出て故障、飛行不能になった。

 

 

「……はぁ……真冬よ…なんてことをするんだ…、飛行機はスキッパーと扱い方が数段違う!!……これじゃ空に飛べん!!」

 

 

「……え…そ…そうなのか……」

 

 

気まずい状況で冷や汗を流す真冬。

 

 

新一郎が息を吐くと、べんてんからクレーンフックが降ろされ、引き揚げられた零観は後部甲板に置かれた。

 

 

「新一郎、お疲れ様ね」

 

 

「あぁ、この世界の大空はいいなぁ~///…また、飛びたいか…?」

 

 

「えぇ、またよろしく///」

 

 

「なぁ新一郎!今度はあたしにも乗せてくれよ~!」

 

 

「沖田さん、わたしも!」

 

 

「私も飛行機に乗せて下さい。沖田さん!」

 

 

真冬、福内典子、平賀倫子等が零観の搭乗に新一郎に近付いて懇願した。だがー

 

 

「あぁ、…今真冬が壊したせいで飛べなくなった…」

 

 

「貴女たち、飛行機の飛行テストはここまでです。横須賀へ帰投しましょう」

 

 

新一郎が述べようとした時に真霜は新一郎の前に立ち、口が笑っていても、目が笑っていない真霜の顔を3人は恐怖した。

 

 

「「「 うぅ… 」」」

 

 

「…真霜…?」

 

 

「さて、横須賀へ帰投しましょう新一郎!」

 

 

「あ、あぁ…」

 

 

真霜が新一郎に何もなかったかのように微笑む。べんてんは母港の横須賀に進路を摂って航海した。

 

 

 

 

 

べんてん 食堂ー

 

 

 

 

 

「なぁ幸吉!あんたらの飛行機、将来あたしのべんてんに載せていいか!?」

 

 

真冬たちは食堂で食事をしながら、新一郎と幸吉の愛機への勧誘が始まった。

 

 

「ちょっと待って下さい……オラの一存では決められません。それにオラは零観の搭乗員と言えども電信、観測員であり、恥ずかしながら……飛行機の操縦は下手くそです……」

 

 

「そうなのか……それは残念だ……それなら新一郎っ………あれ……どこにいるんだ!?」

 

 

ガッカリした真冬は新一郎を勧誘しようとしたが、彼は食堂にいなかった。

 

 

一方、新一郎はべんてんの後部甲板で愛機の零観を応急修理しながら黄昏の水平線を眺めていた。

 

 

「…全く…肝心な発動機のプラグがやられたか…トチローの手腕じゃねぇと直せんな…」

 

 

「新一郎!」

 

 

彼の背後に真霜がやってきた。

 

 

「ん…?……真霜か……」

 

 

「どう、飛行機は…?」

 

 

「…専門の整備士じゃねぇと…愛機は飛べんな…」

 

 

「どうしたの?甲板に黄昏て……」

 

 

「いや、……今日の零観の飛行テストだが……撮影した映像を、この後報告書を作成して上に見せることは、監督官である君は大変だな…」

 

 

「えぇ、もう慣れっこですから。貴方の飛行機の零観は、まだ詳しく必要があるからこの際に海上安全整備局に新一郎も同行を御願いします」

 

 

「あぁ、構わないが……」

 

 

「どうしたの?浮かない顔して……?」

 

 

浮かない顔をしていた新一郎は、海を見ながら語った。

 

 

「……零観は俺と幸吉の愛機であり、日本海軍の物だ。俺一人の勝手な承認はできない」

 

 

新一郎はブルーマーメイドの臨時隊員であっても、未だに日本海軍軍人の鎖に繋がれており、零観を引き渡すつもりはないことを真霜は知っていた。

 

もし無理にしようとするなら新一郎はきっと零観を自爆、ログインした記録データを破壊しかねない。

 

だが、真霜は無理矢理にすることは一切考えていなかった。引き渡しは無理でも飛行機の生産は問題ないと思っていた。

 

 

「でも新一郎。あの飛行機があれば私たちの活動以上に海の安全が保障されるわ!生産して配備すれば活動範囲も大幅に……」

 

 

「海に生き、海を守り、海を往く、それがブルーマーメイド!確かに素晴らしい組織だ。だが、真霜。飛行機ってのは呪われた工業物……この世界で間違った方向に行かないといいんだが……」

 

 

新一郎は零観の引き渡しは反対だが、飛行機の生産については別に反対ではなかった。

 

この世界にとって航空機は未知の分類であり、過ぎた技術や兵器はやがてそれを巡って、国は規模な戦争に発展する。新一郎はそれを心配していた。

 

 

内地に帰投後、真霜は海上安全整備局本部の会議室で幹部たちと会議を開いたのだが、報告書を読んだ幹部たちは

 

 

 

『そんな意味不明なものにいちいち付き合ってられん』

 

 

『し…信じられん…これが異世界で造られた産物か…』

 

 

映像で撮った零観については興味を示さなかっり。中には興味を示したものもいた。

 

 

幹部たちの口から不評な言葉ばかりで、真霜は苦虫を噛み締める時だった。

 

 

「お言葉ですが、今回の件案はブルーマーメイドの管轄であり、飛行機と保護された人物に関しては私に全権があります。今回皆さんにお集まりいただいたのは報告と処遇についてだけです。この飛行機がもし、それが本当だとしたら、その技術は我々にとって宝石が詰め込まれた宝箱を見つけたのと同じです。宗谷監督官の報告書が真実ならば、今までブルーマーメイドとホワイトドルフィンの活動に安全が改善できます」

 

 

南方勝子局長の言葉で、反対する幹部たちは沈黙した。

 

 

「ですが南方局長、確かに高性能ですが何か実績が無い限り、所有する連中に投資はできません!」

 

 

「…良いでしょう。宗谷一等監察官。君の言い分はわかりました。全責任を貴女が持つというのなら、この件、君に任せます。それでいいですか?」

 

 

「はい。ありがとうございます南方本部長」

 

 

会議の終了後、南方は真霜の元へ行き、パイロットである新一郎を尋ねた。

 

 

「真霜さん、この機体を所有する人物は…?」

 

 

「…この会議に出席することを断られました」

 

 

新一郎は、本人と零観の待遇を恐れ、欠席した。

 

 

「そう、残念です。また今度、会わせて下さいね真霜さん」

 

 

「はい、局長!」

 

 

「貴女の花婿候補さんを~♪」

 

 

「っ!?…もうっ局長///」

 

 

南方が茶化すと真霜の顔は赤面した。

 

 

 

 

 

翌日、1149時。横須賀ブルーマーメイド本部資料室

 

 

「んん……やはり…日露戦争以来、あの歴史に刻む程の戦争がない…」

 

 

新一郎はブルーマーメイドの資料室で海洋関連と歴史資料を調べていた。

 

 

 

 

日米独、平和友好同盟成る

 

 

ドイツのアドルフ・ヒトラーがアメリカホワイトハウスにて平和公演説。

 

 

日本海軍によるアメリカのハワイ真珠湾攻撃 → ブルーマーメイドの前身たる、日米共同水上部隊によるパレード、スキッパーの水上曲芸

 

 

 

 

 

東京大空襲 → メタンハイドレードの採掘での国内一部分、地盤沈下

 

 

 

広島、長崎の原子爆弾 → 広島、長崎の大火災

 

 

 

「……んん…?…40年と64年に東京オリンピック。まして20年に三度の東京オリンピック開催予定!?ははっ…発展したな~♪」

 

 

新一郎が息を密やかに飲み込み関心する中、通路が慌ただしくなった。

 

 

 

電信室

 

 

 

「何かあったの?」

 

 

「何なんだ、この騒ぎは!?」

 

 

「宗谷監督官、福内さん。沖田さん!……5分前に一時的ですが、計器に異常な動きがありまして…」

 

 

「異常な動き…?」

 

 

「…磁場の影響じゃないかしら…?」

 

 

福内は磁場の影響と悟り、真霜は何か疑問に感じた。

 

 

「……新一郎たちがこの世界にやってきたことと関係があるのかしら……?」

 

 

「俺たちが……?」

 

 

「沖田さんたちが……確かに考えられますね!一応、通信をチャンネルオープン!」

 

 

「了解!」

 

 

電信員がチャンネルを捜査する中、微弱な電波を傍受した。

 

 

「P………リナ………アメリ……海…………ウィリ……ス……ウ」

 

 



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第4話 移転した漂流者たち

 

 

 

 

 

 

 

「「 …パッ…パパ!! 」」

 

 

「んん……?エミリ…?エマ…?」

 

 

「「 よかったー!! 」」

 

 

誰かに呼ばれる声が聞こえ、ウィリアム・J・スパロウが目を醒ました場所は海岸の砂丘、双子の愛娘が涙を流しながら彼に抱きついた。

 

「…エミリー……エマ……どういうことだ…!?」

 

 

「どういうこととは何……ウィル……?」

 

 

「…キャサリン……?」

 

 

ウィリアムが後ろをゆっくり振り向くと、愛妻のキャサリン・スパロウが立っていた。

 

彼は幽霊を見たかのように、涙を流しながら驚愕していた。

 

 

「………………………」

 

 

「……どうしたの……ウィル……?」

 

 

「……パパ……なんで泣いているの……?」

 

 

「…………そんな………君たちは……日本軍の不発弾で…死んだんじゃ………」

 

 

「……死んだ?……あたし達が………?」

 

 

「「 パパッ!あたしたちはこの通り元気だよ~♪ 」」

 

 

キャサリンは何かあったのか首を傾げ、エミリーとエマはウィリアムの両手を掴んだ。彼は魂が抜けたように膝をついて砂丘に着いた。

 

 

「………ここは……天国か……?」 

 

 

 ガキイィン

   

 

突如、ウィリアムの頭部に金属音が鳴った。

 

 

「痛てえぇー!!…だが、夢じゃない…誰だ!?」

 

 

「何いつまでぼさっとしているんでぃ!」 

 

 

後頭部を殴ったのは、スパナ等の工具を所持し、江戸っ子口調の日本人だった。

 

 

「何者だ……ジャップ!?」

 

 

「俺っちは、日本海軍兵曹長の秋山敏郎、通称トチロー。整備士だ!が…………戦争が終結して第2解員として任務に就いていた。」

 

 

「解員………?……復員兵か……なんでここに……?……いや……ここは何処だ!?」

 

 

「はっきり言って分からん!!分からんからこそ、これをあんたのカタリナからこれを持ってきたんだ、べらぼうめ!」

 

 

「…六分儀……ありがとう。私はウィリアムだからウィルと呼んでくれトチロー!」

 

 

「おぅ、相棒!俺っちはウィルのカタリナを整備してくらあ!」

 

 

「なに!?カタリナが…あぁ…愛機よ……まぁ…バラバラになるよりマシか……」

 

 

ウィリアムが振り向くとカタリナ海岸に打ち上げられていた。

 

トチローは自前のスパナでエンジンエンジンを弄くり、ウィルは六分儀で上空の大陽と星の位置を観測した時だった。

 

 

「「 ウィリアム機長~! 」」

 

 

「……トム、シャルロット!無事だったか!?」

 

 

「機長も無事でなによりです!」

 

 

「トチローさんから六分儀を渡されたってことは……ここがどこかわかりましたか…?」

 

 

「馬鹿、今観測中だ。シャルロット無線連絡は?」

 

 

「無線機は先程トチローさんに修理をして貰いましたが、発信ができても受信ができません…」

 

 

「発信ができただけでも十分だ。トム、カタリナはどうだ?」

 

 

「今、トチローさんと僕がカタリナをメンテナンスをしていますが、在り合わせの物資だけでも飛行不能です……」

 

 

「そうか……助けが来るまでカタリナで寝泊まり………ん!?」

 

 

「どうしたのですか…機長…?」

 

 

六分儀に集中したウィルが、なにかに気付き笑みを浮かばせていた。

 

 

「……ここは…小笠原諸島の海域だ!」

 

 

「「…小笠原…!?」」

 

 

「……小笠原……日本の近くか…こりゃ安心でぃ…」

 

 

油まみれの手を手拭いで拭いているトチローが戻ってきた。

 

 

「トチローさん、残念ですが小笠原はアメリカ軍が支配する占領区域ですのよ…」

 

 

「あぁ…そうだった……」

 

 

トチローは片手に手を抱え、砂地に頓挫した。小笠原諸島は半年前の戦争時に硫黄島をアメリカ軍が占領して以降、制海権を奪われた上に支配区域に指定されていた。

 

 

「そう言えばトチローさん、いつからこの小島に滞在していたのですか…?」

 

 

「あぁ…それはだな…ん……影…?」

 

 

「「 パパッママッ…お空に気球だよ! 」」

 

 

「なに!?」

 

 

彼らの足元に影が被った時、上空から騒音の少ない機械音が鳴った。空を見上げると飛行船がウィリアムたちの上空で空中待機。

 

 

「飛行船だ……」

 

 

「助かったぞ~!!」

 

 

「……青い…人魚……?」

 

 

キャサリンは飛行船のロゴマークに気付き呟いた。

 

 

夕陽が水平線に沈んだ頃、ウィリアムたち7人は焚き火に囲まれて救助を待ちながら、この小島に来た経緯を語り合った。

 

 

「復員艦の乗艦時に海に落ちたんだって…!?」

 

 

「そうなんだってんでぃ!………復員兵の馬鹿どもが、いくら長い航海で空腹に負けて、飯盒を用意した。ところがどっこい重油タンクのそば、俺っちは火を起こすのを妹と止めようとした時に重油に引火して海に落下した……って訳でぃ!」

 

 

「そうなんだ……妹さんと辛い目に合ったんだな…」

 

 

トチローの経緯を聞いたウィリアムは気を落としたが、トチローは不思議な経験を追及した。

 

 

「……あの世に行き掻けた時……変な閻魔に会ったんでぃ!」

 

 

「……変な閻魔…?」

 

 

「……ジジイになったり、ガキになったり…訳の分からん閻魔でぃ……確か……おー……でん……って言ったかなあいつは……」

 

 

トチローの言葉にキャサリンが反応した。

 

 

「…っ!?…もしやオーディン…じゃないのトチローさん!」

 

 

「……オーディン……?なんでぃそいつは…?」

 

 

「…その方は…北欧神話の神様ですのよトチローさん」

 

 

シャルロットがキャサリンを助言して解説し、トチローは納得したがキャサリンがいることに言及した。

 

 

「だけどウィル、…あたしたちも……この島の海岸で目を覚めるまでそれらしき人物に会ったわ……」

 

 

「なんだって!?」

 

 

 

 

 

キャサリンは僅かな見た記憶を、みんなに語った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことなの……」

 

 

キャサリンは膝元で眠っている双子の頭を撫でながら呟いた。

 

 

「………なんだか、胡散臭せぇなぁ~」

 

 

「だがトチローさん、それ以上に戦中と終戦以降、時間と場所、国籍と人種のバラバラだった僕たちがなんで、この島に募ったのか……オーディンがやっていることが……疑問に残りますよ……」

 

 

「それに、トチローさんは流暢に英語を話されてますわね」

 

 

 

「英語…?いや、おれっちはアルファベットを学ぶだけでも精一杯ってんでぃ…おめぇらウィルたちも、日本語がうめぇな…」

 

 

「なに…?日系のトムはおろか、僕とキャサリン、シャルロットが日本語だって…!?」

 

 

 

ヴォオオオー

 

 

「…?…汽笛だっ…船だ!」

 

 

それから沖の方から船の汽笛が鳴った時、みんなは振り向いた。

 

 

「船だっ、助かった!」

 

 

「安心するのはまだ早い、トムとシャルは無線機で救難信号を!手の余った者は焚き火を絶さずに燃やし続けろ!」

 

 

「「 了解! 」」

 

 

「合点承知!!」

 

 

トムとシャルロットはウィリアムの指示でPBYカタリナ無線機で救難信号を発信、トチローとキャサリンは海岸に打ち上げられた漂流物を回収して焚き火の燃料として燃やし、灯りを灯した。

 

 

暗い海の中、彼らの視点から見た事がない黒い艦艇が接近、その船から内火艇が降ろされてウィリアムたちがいる海岸に接近した。

 

 

「なぁウィル、あの艦艇はアメリカ軍の新型艦か……?」

 

 

トチローの言葉でウィリアムの首は横に振った。

 

 

「……いや、知らない……トチローの日本海軍の艦艇じゃないんか…?」

 

 

「……いや、知らん…ん…女……?」

 

 

その内火艇に乗挺していたのが水中服と紺色の戦闘服を着用した女性たちであった。

 

 

「お待たせしました!我々、ブルーマーメイドが救助に着ました!!」

 

 

「(……ブルー……マーメイド………?)」

 

 

ウィリアムたち7人は謎の艦艇と乗員に救助、彼は女性たち集団にも疑問に思った。その中から黒い制服の女性艦長がウィリアムの前に赴いた。

 

 

「あたしはブルーマーメイド所属、『べんてん』艦長の宗谷真冬だ。」

 

 

「アメリカ海軍少佐、PBYカタリナ機長ウィリアム・J・スパロウだ!」

 

 

「PBY……?…あんたらを救助しに来たからには、安心して大船に乗ったつもりでいてくれ!」

 

 

「感謝する!(…艦長が日本人女性……?)」

 

 

「しかし、あんたらは外国人なのに、日本語が話せるなんて助かった~♪」

 

 

「(我々が日本語…彼女からも流暢な英語に聞こえるんだが…)」

 

 

ウィリアムは真冬に対してアメリカ海軍式で敬礼したにも関わらず、互いに発声の問題はなく幸いした。

 

そして、彼女はある物体を注視した。

 

 

「おぉ!これがアメリカ使用のひこうきかぁ~でけぇなぁ~♪」

 

 

「え…?」

 

 

「何だと…?(あれだけの超近代装備の艦艇を備えながら……飛行機を知らないみたいな言葉だ……)」

 

 

 

ウィリアムとトチローは疑問に感じつつも7人全員『べんてん』に乗艦、ウィリアムの愛機PBYカタリナは本艦の乗員により回収しつつも後部甲板に載せられない為に、艦尾から綱で結び着け、常備していた機銃とウィリアムとトムのM-1カービンとM-1ガーランド、ナイフは回収されて艦長室に保管、そして横須賀に向けて曳航し出港した。

 

 

 

べんてん 後部甲板 0200時ーウィリアムとトムが所持している拳銃を隠しながら搭乗機のカタリナを見張っていた。

 

 

「ウィリアム、トム!この時間で見張りでお疲れだなぁ~」

 

 

「トチローさん、カタリナのパイロットとして見張ることは当然です!」

 

 

「トチロー、キャサリンとエミリー、エマはどうしているか…?」

 

 

「あぁ、ウィルのキャサリンさんと双子、シャルロットはグッスリ眠っている。」

 

 

「そうか……」

 

 

「まぁ、あの島に来てから色々あって、どっと疲れて眠っているのでしょう。先程、宗谷艦長から横須賀に向けて航海しています」

 

 

「横須賀か……着けば何かが解るかも知れないな……」

 

 

すると一人のブルーマー隊員が3人の元に訪問した。

 

 

「失礼します!あなたたちの隠し持っている拳銃を回収しに来ました。」

 

 

「何!?なんで僕たちが持っていることが…?」

 

 

「このべんてん艦長の指示です!」

 

 

その光景でウィリアムは黙り、そしてー

 

 

「……艦長の指示なら仕方がないな、それまで預かってくれよ!」

 

 

「はい!」

 

 

2人は拳銃が入ったホルスターごと隊員に渡した。

 

 

べんてん 管理室

 

 

「あっはっはっはっ!!後部甲板の格納庫上部に監視カメラがあることにあいつらは気付いていないな!」

 

 

「そうですね。」

 

 

そう、管理室で隊員たちはウィリアムたちの同行を監視カメラで探っていた。もし、彼らがおかしな行動をすれば、直ちに駆けつけるのであった。そして、カメラをカタリナに向けた。

 

 

「しかし、あの大型ひこうきはいいなぁ~新一郎の零観より多くの人材と物資を空中輸送が出来るなぁ~♪」

 

 

真冬はそう逞りながら微笑んだ。時間が進み、横須賀0800時。べんてんは横須賀、ブルーマーメイド基地に到着した。

 

 

「横須賀だ、とうとう日本に帰ってきたぜ~!」

 

 

トチローは横須賀の出身であり、終戦から1年弱は復員輸送艦に勤務していたため、故郷に帰投したことに感激した。

 

 

「へぇ〜ここが日本。あれが富士山、いい国ねぇ~♪」

 

 

「「 やった~♪とうとうついた~♪ 」」

 

 

キャサリンとエミリー、エマはまるで旅行気分で下艦。するとウィリアムとトム、シャルロットは何か違和感を感じた。

 

 

「横須賀か……アメリカ軍の艦載機の空襲で損害を受けたと聞いたが……」

 

 

「……確かにここは日本だが、少し違う……」

 

 

すると、べんてんが寄航した波止場にブルーマーメイド仕様の軽車輌パジェロが走行、ウィリアムたち7人の前に停車、降りてきたのは宗谷真霜であった。

 

 

「小笠原諸島で遭難した皆様、私はブルーマーメイド一等監督官の宗谷真霜です。異世界、そして70年前の戦時の暮らし…以下同文ー」

 

 

「(…異世界…?…70年前…?)」

 

 

「(ここは日本であって……日本じゃない……!?)」

 

 

真霜の言葉にウィリアムたちは内心驚愕した。シャルロットはある言葉を言及した。

 

 

「…もしかして…パラレルワールドじゃないかしら……」

 

 

「…パラレルワールド…?」

 

 

「その娘の言う通り、俺たちはパラレルワールドに彷徨ってしまったんだ!」

 

 

「「 え…? 」」

 

 

「その声は…?」

 

 

パジェロの運転席と助手席から飛行衣服と飛行帽を着用した人物がやって来た。

 

 

 

 

 

 



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第5話 聴衆と初陣前夜

 

 

 

 

横須賀 ブルーマーメイド基地 桟橋

 

 

 

 

「トチロー!鹿児島の鹿屋航空基地以来の再会だな!」

 

 

トチローがまるで、幽霊を見たかの様に驚愕して腰を抜かした。

 

 

「あわわわわ………新一郎……幸吉……幽霊か……」

 

 

「トチローさん!この通り足はありますよ~!」

 

 

「馬鹿な……お前らは……長崎のピカ……原子爆弾で死んだ筈じゃ……」

 

 

「そっか………やはりオラたちは戦死扱いか……」

 

 

「トチロー、俺たちが長崎の特殊爆弾で行方を眩ましたあと、日本はどうなった?」

 

 

幸吉はあの戦時の飛行にて戦死扱いと聞いて染々し、新一郎はあの後、祖国がどうなったかを覚悟してトチローに尋ねた。

 

 

「……お前らが戦死した6日後、……8月15日、戦争が終結……日本は……敗れた!」

 

 

「っ!?……そうか……やはり、日本は負けた……のか……」

 

 

トチローの報告を聞いた新一郎は敗戦を聞いてショックを受けた。

 

彼は初陣の日華上海事変以来、東南アジア攻略やソロモン海戦、マリアナ沖海戦とフィリピン決戦、沖縄戦。そして本土防衛まで嫌という程に敵と戦った熟練パイロット。

 

お国を何の為に戦ってきたのか分からず、朝日が昇る太陽の海を眺めた。

 

 

「…新一郎……幾つか辛く気の毒な事を伝えっが、終戦の3日後に洋介は対ロシア戦で北方の戦火の中、おめぇの弟、進次郎を生かす為に犠牲になり、戦死したってんでぃ……そして、俺っちの妹のトチコも、復員輸送の任務で殉職した………」

 

 

「……あの桜井とトチコさんが戦死したんだと...!……7月に桜井の娘が産まれたばかりなのに妻子を置いて逝くとは……あの馬鹿野郎!!……………洋介……トチコさん……済まない……進次郎を……うぅ……」

 

 

自身と虎雄、幸吉があの戦争で苦楽を共にした戦友の厚木十三に続き部下であり、仲間だった桜井洋介とトチローの妹だった秋山敏子=トチコも殉職した。新一郎は海面を見つめ、涙を流した。

 

そして、真霜がそっと新一郎の後ろに近づいて背中を優しく撫でた。

 

 

「……新一郎……あなたの仲間が、戦争で犠牲になったのは非情に残念…だけど…」

 

 

「……真霜……」

 

 

「……決して、自ら命を絶たないで……これは私自身からのお願い……」

 

 

何とか落ち着いた状態で、次の事を伝えるためブルーマーメイドの基地に移動、事情徴収を行う為に会議室に急遽予定を変更した、横須賀女子海洋学校の校長である宗谷真雪と真霜真冬の親子姉妹。平賀倫子と福内典子の4人、参考人として新一郎と幸吉の出席による事情徴収が始まった。

 

彼らウィリアムたちのグループは、新一郎たちペアと同様あの異世界、70年前の戦争から異動した兵士であった。

 

リーダー格のウィリアム・J・スパロウ。アメリカ海軍少佐、水上飛行機のパイロット、PBY-5Aカタリナの機長。

 

トム・K・五十嵐。アメリカ海軍少尉、日系の元戦闘機パイロット。沖縄の戦いで撃墜されて、本人の転属希望でカタリナの副機長に就任。

 

シャルロット・F・トライン。アメリカ赤十字の従軍看護婦。

民間人のキャサリン・スパロウと双子のエミリーとエマ。ウィリアムの家族。ハワイのオアフ島で生活していた。

 

ウィリアムの愛機アメリカ海軍のPBY-5Aカタリナ。長距離飛行が可能な双発輸送=哨戒機であった。

 

秋山俊郎。元日本海軍の整備兵曹長、復員輸送艦の葛城乗員。終戦から1年後に海難した。

 

 

「……信じられねぇ……日本が……」

 

 

「……あなたたちの世界の戦争で……日本が攻撃されて焦土に……」

 

 

「……アメリカ、イギリスなど連合国に降伏………」

 

 

「……やはり……彼の国に対向した……結果があったのね………」

 

 

真冬は腕を組みながら顔を青ざめ、平賀は口を開いたままで、福内は両手で口元を抑えて震え、平然しつつも真雪は冷や汗を掻きながら目を閉じていた。

 

100年前の日露戦争終結以降、アメリカを仮想敵と想定して、戦争を経験していない真雪たちにすれば物量の差で分かっていたのであった。

 

 

「……あなたたち、これからどうするのですか……?」

 

 

「…っ!?」

 

 

「「…………………」」

 

 

真雪の一言でハッとしたウィリアムはトムとシャルロット、キャサリンは彼を見つめた。

 

 

「そうだ、今の我々は母国があっても生きる世界が違う。70年も離れていればここはもはや外国です!」

 

 

「そりゃそうだな、少佐の言い分に一理ある。俺たちとあの飛行機が存在するだけで、ここの世界の警備組織、海洋安全整備局が揺れていることは承知、俺たちは厄介者だ」

 

 

参考人の新一郎が言及する時

 

 

「………そうでしょうか……わたくしは……」

 

 

シャルロットの一言で皆は注視、そして

 

 

「自然界がわたくしたちに異世界の介入をさせないなら、仮に介入させても最小限度にとどめるのではないでしょうか…?さもなければオーディンはわたくしたちをここへ漂流させ、放置したため大きな傷を負うことになります……この世界が狂うからですわ……」

 

 

「世界が俺たちのために狂うか……確かにそう言う観点もある。俺もシャルロット嬢の意見に従いたい。しかし、筋は通らんが俺にはこの世界に留まれない予感がある。」

 

 

「不吉な予感は全員がもっているんじゃありませんこと……?このメンバーに関してかつての敵味方……わたくしたちはオーディンの神の力から異世界の介入を許されています……しかし、世界のバランスが発動されるにはわたくしたちの与えた傷は大きくないかも知れませんわ……」

 

 

「……………」

 

 

「するとシャルロットさんは………さらに大きく介入すれば、あなたたちを送らせた神様があなたたちに何かの試練を与えた……と言うのね。」

 

 

「はい、平賀さん……」

 

 

「……試練だかどうか知らないが僕は運命だと思うんだ!」

 

 

「「「 運命だと!? 」」」

 

 

トムの一言で皆は口を開けて注視する。

 

 

「沖田大尉のメンバーの愛機は先にピート(零観)で飛行したとのことで悪い気分ではなかったはずですよ。」

 

 

それもそうだった。ウィリアムたちがこの世界に来る以前に、新一郎が真霜に零観を搭乗して横須賀への飛行と小笠原諸島の試験飛行も決して悪い気分ではなかった。

 

 

「考えて下さい、この航空機が存在しない世界と水没した日本、艦艇と商船を襲う海賊が出没する世の中、これだけの航空機とパイロット、敏腕のメカニックマンを揃えて乗り込んだんだ。誰にも遠慮なく飛行機を飛ばせればやりようによっちゃこの9人でこの世界を変えていくのは可能です!!男として、飛行機のパイロットになって気にならないことはない!」

 

 

「そうだな、ちょっくら横須賀の人魚たちに聞いたが、この世界の連中は海洋国の商船が海賊に襲撃されて困っている!俺っちたちの協力がブルーマーメイドとホワイトドルフィンに貢献すれば海洋国家の連中が安心する!やろうぜ、これも運命と思って、あの世界で戦った俺っちたちの罪滅ぼしだ!なぁ、新一郎!ウィリアム!」

 

 

トムの言葉でトチローも口車に乗り込んだ。

 

 

「……これが日本の江戸っ子か…面白い。なぁ新一郎、共にこの世界でライト兄弟になって翼を羽ばたいて往こう。」

 

 

「ウィリアム……そうだな、トチローの言う通りだ。もし、十三なら真っ先にこの世の中に最善を尽くすな~」

 

 

パイプ椅子に座っていた新一郎とウィリアムが立ち上がった。

 

 

「いやぁ~すげぇ~こと言うなトチローさん~あんたは男だぜ!」

 

 

真冬はトチローに感激した。

 

 

「あなたたちは決心したそうですね。」

 

 

「………………」

 

 

真雪の言葉に4人のパイロットと一人の整備兵、医療従事者は無言で頷いた。

 

 

「あなたたちの決断に感謝します。それまで私はあなた方の部隊を支援します。ブルーマーメイド横須賀基地で指示が出るまでゆっくりして下さい。」

 

 

「「「 はい!! 」」」

 

 

沖田新一郎と金城幸吉、ウィリアム・J・スパロウとトム・K・五十嵐、シャルロット・F・トライン、秋山俊朗は宗谷真雪に対して敬礼した。

 

3日後ー 横須賀ブルーマーメイド基地、寒い中で2機の零観とカタリナを収納する不使用の格納庫2ヶ所でパイロットたちは内部の不要物処分と草刈り、格納庫の補修作業。

 

 

「…はぁ~平和だな~」

 

 

「しかし、寒い中の作業は堪えるな」

 

 

「確かに、零観組みとカタリナ組みは季節外れに異動したから身体が……」

 

 

「おーいトムさん!トチローさんとシャルロットさん、キャサリンさんはどこに…?」

 

 

「あぁ、トチローさんは僕たちの愛機の整備、シャルロットは医療施設の従事、キャサリンさんは食堂の給士。」

 

 

「そうか、今日からだったな~あいつが働くのは~♪」

 

 

シャルロットは医療従事者として医学を学びながら従事、キャサリンは本日から横須賀基地の食堂給士として働くことになった。

 

 

「そう言えば、双子のチビッ子たちは?」

 

 

「ふふっ~♪あそこだ。」

 

 

ウィリアムの愛娘、エミリーとエマは遊びながら荷物を格納庫に運んで行った。格納庫内部のウィリアムの愛機カタリナを修復する中でトチローは部品の調達を待っていた。

 

 

「「 トチローおじちゃ~ん!!にもつもってきたよぉ~!! 」」

 

「おぅっエミリー、エマ、ありがとう!!…この世界のタブレット…これで……MADが造れるなぁ~♪」

 

 

正午のラッパが鳴り響き、ブルーマーメイドの隊員は次々と食堂に向かった。

 

 

「ブルマーが食堂に集まっている」

 

 

「……そろそろ飯の時刻だ、食堂に行くぞぉ~♪」

 

 

「「 りょーかい! 」」

 

 

「トチロー、飯だ!エミリーとエマも行くぞぉ~!」

 

 

「今、手が離せねぇ〜!後で俺っちの分も頼む~!」

 

 

「「 うん! 」」

 

 

トチローを除く、新一郎たちは食堂に向かった。

 

 

 

基地食堂ー

 

 

 

シャルロットも合流して、給士のキャサリンを除き、7人が食堂のテーブルを囲んで食事を摂った。

 

 

「相変わらず、異世界未来の食事は美味いなぁ~♪」

 

 

「ははっ♪」

 

 

「そう言えばウィリアム、君の愛機はどうだ?」

 

 

「エンジン以外、修復されている。流石は江戸っ子のトチロー!いい腕だ!」

 

 

「あいつは暇がある時、敵機の墜落機さえ調査して、修復する手腕だからな。それに愛機を大事にしとけ、機体のどこかを壊したらあいつのスパナに殴られるから気をつけろ!…しかし…虎雄はどうしているのやら……」

 

 

「沖田さん、虎雄って…?」

 

 

トムは新一郎の言葉が気になり、質問した。

 

 

「俺と幸吉は水上機部隊の仲間だ。あの地獄のラバウルで死と隣り合わせで戦ったニ式水上戦闘機のパイロットだ!」

 

 

「あぁ、宗谷校長から聞いたが私たちがこの世界に飛来する9年前に、横須賀上空で飛んで消えたんだってな…」

 

 

「あぁ、それが俺と幸吉が探すついでながらこのブルーマーメイドに協力するのが条件だ!」

 

 

「……………そうだったんだ……沖田さんと幸吉たちも苦労してるなぁ~」

 

 

「皆さん…食事を楽しむことはいいのですが……他のブルーマー隊員に注目の的になっていますわよ…」

 

 

「「 ……あ…っ!? 」」

 

食堂では新一郎たち飛行隊はブルーマーメイドの隊員たちに注目を浴びていた。特に新一郎を見つめたかったのであった。すると平賀倫子が訪れた。

 

 

「沖田さーん!」

 

 

「ん…?平賀さん。どうしたんだ?」

 

 

「私の部署の務めが終えたら、沖田さんたちの格納庫の作業に手伝ってもいいですか?」

 

 

「ん…そうだな」

 

 

「いいじゃないですか沖田さん、今は猫の手も借りたいくらいです。もし、緊急時に航空機が必要になりますよ!」

 

 

「えっ!?いいのトム君!」

 

 

平賀の言葉に新一郎は悩み気味だったがトムが即答した。

 

 

「倫ちゃん飛行機を見に行くの?」

 

 

「はいはーい!私も行きまーす!」

 

 

「私もアメリカ製の飛行機が見てみたい!」

 

 

平賀の背後から福内と岸間菫、鈴留のブルーマーメイドの隊員4名が飛行隊に集った。

 

 

 

航空機格納庫ー

 

 

 

「へぇ~これが異世界のアメリカの飛行機、PBYカタリナ…水上機なのに陸上の車輪が着いている!」

 

 

「こらこら、ブルマーのねぇちゃんども!あまり機体に触るな、錆びるぞぉ!」

 

 

「「 あぁっ!すいません… 」」

 

 

平賀と福内が触ろうとした時、昼食を摂っているトチローに注意を受けた。

 

 

「飛行船と同様に大きい機体……これなら隊員と荷物の運搬、遭難者の救助もできる……」

 

 

「その通りだ!」

 

 

「スパロウ機長…!?」

 

 

平賀と福内、鈴留が見とれる時、搭乗パイロットのウィリアムがやってきた。

 

 

「こいつは哨戒機と同様、海上で漂流する遭難者を救助が可能な機体だ。開戦以来、私は南太平洋のソロモン諸島の戦いやマリアナ、フィリピン諸島を訪れた。そして沖縄で多くの傷病兵を運搬してきた。」

 

 

「……ソロモン諸島から……」

 

 

ウィリアムの経緯を聴いて彼女達は息を呑んだ。

 

 

「機長、…いずれまた、沖田さんと…異世界の経験話しを聞かせて下さい。」

 

 

「えぇ、…あれ?……もう一人は…?」

 

 

「あ、菫ちゃんなら隣の格納庫で…」

 

 

零観が待機する格納庫で、零観の操縦席に岸間菫が座り、本機の側を新一郎が見張っていた。

 

 

「岸間さん、どうだ?零観の座り心地は。」

 

 

「はい!スキッパーと違って少し窮屈ですが、悪くないです。この格納庫ですが、隣の大型機はわかりますが、小型の零観1機だけでは寂しくないですか…?」

 

 

岸間は零観から降りて、その言葉で新一郎は述べた。

 

 

「……それは俺達のもう一人の仲間、大賀虎雄とその愛機、ニ式水上戦闘機が駐機するスペースだ。いつでもあいつが留れるようにな。」

 

 

「へぇ〜見てみたいです。10人目の異世界人のパイロットと3番目の飛行機を…!」

 

 

「さて約束通り、格納庫から海までの間の雑草を処理の手伝いを……」

 

 

「沖田さん!いつか、飛行機のパイロット育成学校を創ったら私は入りたいです!!」

 

 

「…なに…?」

 

 

その言葉で新一郎は振り向き、沈黙した。航空機を拠点とする格納庫周囲の作業は夕暮れになって終結する。そして同時にトチローはカタリナのエンジン整備を終えた。

 

 

「ふぅ~…やっと終えたか……」

 

 

「トチローさん、愛機カタリナの整備ありがとうございます!」

 

 

「礼を言うのは、テスト飛行を終えた後に言え。それに整備を手伝い、早く終わらせた鈴留の嬢ちゃんにも言っとけ!」

 

 

「平賀さん、福内さん、岸間さん、鈴留さん!我々の拠点の整備、手伝いを大変感謝しています!!」

 

 

「ふふっ、困った時はお互い様よトム君!」

 

 

トムは新一郎とウィリアムに代わり、作業で顔が汚れた平賀達に感謝の意をを述べた。

 

 

「このあと食事ですが僕が…」

 

 

「あいにくですけどトム、幸吉さん。食堂は満員ですわよ~!!」

 

 

トムの後ろから食堂で給士のキャサリンとシャルロットがやってきた。

 

 

「えぇ〜!また食事するまで時間が掛かるなぁ……」

 

 

トムと幸吉が嘆く時、キャサリンは笑みを浮かばせた。

 

 

「ふふっ♪そんなことあると思って、皆の分も作って持って来たよ!」

 

 

「おぉ~♪流石は我が妻キャサリン!それじゃ、ピート(零観)の格納庫で皆で夕食だ!当然、平賀さん達のお礼を兼ねて。」

 

 

「「「 はい! 」」」

 

 

格納庫のドラム缶に蒔を入れて火を起こし、火を囲みながら飛行隊とブルーマーメイド隊員の交流会が始まった。

 

「へぇ〜、シャルロットちゃんは戦火の中、わざわざフランスからアメリカへ亡命…!?」

 

 

「倫子さんはスキッパーの国際大会に出場した経験があるんだね~!」

 

 

「ウィリアム機長とキャサリンはオシドリ夫婦な関係、良いなぁ~♪…私もいい男を見つけたい…!」

 

 

「このステーキ、美味いなぁ~♪流石は本場アメリカのキャサリンさん!」

 

 

「このお握り、塩が効いて美味いなぁ~♪」

 

 

「皆、楽しんでいるなぁ~」

 

 

新一郎が一時、席を外した時にある女性がやってきた。

 

 

「はぁい、新一郎!」

 

 

「…!?真霜か…?」

 

 

「私も参加してもいいかしら?」

 

 

「あぁ、この場では男女も上下、年齢も関係なく参加してもいいぞ!」

 

 

「まぁ、うれしい!」

 

 

真霜も参加して格納庫は一段と賑やかになった。

 

 

「なぁ真霜、君の母親の真雪さんと妹の真冬、ましろちゃんも参加すればよかったな。」

 

 

「お母さんは海洋学校で忙しく、真冬の2日前からブルーマーメイドとしての海上勤務。あの娘は宴会に五月蝿いからいなくてよかったわ!」

 

 

「ははっ違いないな!」

 

 

横須賀から離れた太平洋、「べんてん」にて艦長の宗谷真冬はくしゃみをした。

 

 

「そして、ましろも明後日は入試の日で忙しいわ。」

 

 

「そうか、……ましろちゃんにそんな時期か……ましろちゃんが横須賀女子海洋学校に合格したら、祝杯を挙げねばな。」

 

 

「そうねぇ〜。ねぇ新一郎、今度私が休暇を取ったら横須賀でデー…」

 

 

ゥゥゥウウゥーゥゥゥウウゥー

 

 

 

「警報のサイレンだ!!」

 

 

基地内にけたたましいサイレンが鳴り響く、新一郎とウィリアム達にも忘れられない敵を報せる警報だ。

 

 

「総員、搭乗衣服着用、搭乗機点検、配置に点け!!」

 

 

「「「 了解!! 」」」

 

 

 

 



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第6話 客船救助作戦と航空救援部隊

 

 

 

 

警報が基地内に鳴り響く中、真霜は急いで保安監督官として作戦指令室に赴いた。

 

 

「状況を説明して頂戴!」

 

 

「はい!千葉の犬吠埼東方約300キロ地点の海域に客船ザ・ドラゴン号からのSOS受信!海賊の襲撃を受けていると当船からの緊急です!!」

 

 

「当海域の到達予定時間は!?」

 

 

「約3時間です!一番近いべんてんは約1時間です!」

 

 

航空機格納庫にて報せを受け、航空衣服を身に纏った新一郎たちは海図を広げて観測、測量して計った。

 

 

「当海域の到達時間は新一郎!?」

 

 

「ざっと1時間弱、30分強だか、5分で準備を終らせ!!」

 

 

「「 おぅ!! 」」

 

 

新一郎と幸吉、ウィリアムとトムは拳銃と小銃、カービン銃。弓矢等を装備する。

 

医療道具一式を持って来たシャルロットも格納庫に合流。

 

そして、トチローはエナーシャを回した零観とカタリナのエンジンを発動させてスロープで水上へ降ろした。

 

 

「ふぅ〜!!助かったぜ鈴留さん、俺っち一人じゃどうにもならなかったんでぃ!!」

 

 

「お安いご用ですトチローさん!」

 

 

意気投合する時、準備を終えた5人の搭乗員が機体に近づいた。

 

 

「どうだい?機体の具合は!?」

 

 

「てやんでぃ新一郎!快調ってんでぃ!燃料と弾薬もぎっちり詰めて、あと、宗谷監督官の指示で30キロ爆弾二発も設置した!」

 

 

「ウィリアムさんのカタリナも燃料は満タンだ!あなたたちのいよいよですね、航空機での活躍話し、楽しみにしていますよ!」

 

 

「ありがとう。トチロー、鈴留さん!トム、シャルロット!そして平賀さん、岸間さん!搭乗開始!!」

 

 

ウィリアムとトム、シャルロット。オブザーバーとしてブルーマーメイド隊員、戦闘服を着用した平賀倫子と岸間菫が搭乗した。

 

 

「ウィリアム、無事でいてね!!」

 

 

「「 パパ〜!!頑張って~!! 」」

 

 

「(キャサリン!エマ、エミリー…行ってきます!)コンターク!!」

 

 

愛妻のキャサリン、双子の愛娘エミリー、エマが見送る中、先陣としてウィリアムのカタリナが水上を走り出して出撃、暗闇の大空を飛んだ。

 

 

2番機の新一郎と幸吉が搭乗する零観、エンジンを発動させた。

 

 

「(実戦は長崎の上空以来……)俺にできるのか……」

 

 

「新一郎さん……」

 

 

新一郎は日華上海事変以来、操縦桿を握りしめた右腕が震えていた。

 

彼はあの戦争末期、長崎の空で特殊爆弾を搭載した爆撃機を落とせず、多くの犠牲を出して、生き延びた自分が恥ずかしかった。

 

 

「………」

 

 

「新一郎さん…!?」

 

 

「てやんでぃ新一郎!なにやってんでぃ!?」

 

 

幸吉とトチローが怒号の中、新一郎の耳には入らなかった。

 

 

「『……なにやっているのよ新一郎!!』」

 

 

新一郎の航空無線で真霜の怒号が飛び込んできた。

 

 

「…真霜………」

 

 

「あなたが飛行機で飛ばなければ、多くの犠牲がでる!!あなたがやらないで誰がやるの!沖田新一郎!!」

 

 

「……そうだ!(十三、…洋介…虎雄、そして進次郎)幸吉、真霜!!俺に力を貸してくれ!!……コンターク!!」

 

 

零観のエンジンが轟きプロペラが回転、水上を走り出して大空へ飛んだ。

 

 

「新一郎……頑張って……」

 

 

 

真霜は暗闇の空へ飛行する新一郎の無事を祈っていた。

 

 

新一郎、幸吉ペアは房総半島上空でウィリアムたちカタリナグループに合流した。

 

 

 

房総半島上空ー

 

 

 

「新一郎、エンジントラブルか何かあったと心配したぜ!」

 

 

「ウィリアム!心配させてすまん」

 

 

「沖田さん!スパロウさん!宗谷監督官の指示で私が飛行隊の指揮を執ることになりました!」

 

 

「平賀さん……了解した!!」

 

 

「なら平賀さん、この副長席にどうぞ。格別ですよ!」

 

 

「あら、ありがとう。うわぁ~凄い、これが空の景色なのね~♪」

 

 

トムは平賀に副操縦席を譲り、そして彼女は目を輝かしてはしゃいだ。

 

 

「『ガガ…ザー…皆、いい忘れたがお前らの機体の電信機にダブレットの装備MADを施した!!』」

 

 

「「 タブレット……MAD…? 」」

 

 

違法改造の装甲巡洋艦の海賊が砲撃、襲撃を受けている客船ザ・ドラゴン号は傾斜が激しく炎上、その影響で発電が故障してスプリンクラーが作動しなかった。

 

 

「助けてくれー!!」

 

 

「イヤー!!」

 

 

「救命ボートを急げぇ!!」

 

 

「皆様!落ち着いて下さい!!ブルーマーメイドが救助へ来ます。落ち着いて下さい!!」

 

 

船上の乗客等は混乱、乗員が抑えようにも防いでも防ぎれなかった。

 

 

「海賊だ!海賊がスキッパーで接近してきた!!」

 

 

「…もう、だめだ………」

 

 

武装を施した数艇のスキッパーが接近、乗客乗員は絶望していた。

 

 

「ヒャッハー!!」

 

 

「奪え!!抵抗する奴は殺せ!!」

 

 

「……爆音…?ぎゃっ…」

 

 

「……機銃……?」

 

 

海賊のスキッパー数艇が機銃掃射を受け大破。空から大型の飛行物体が接近した。

 

 

「な、何だあれは!?」

 

 

「あ……あれは……?」

 

 

「…あの…飛行物体は……ブルーマーメイドなのか!?」

 

 

客船ドラゴン号の乗客乗員、装甲海賊艦連中はカタリナを目撃して騒然としていた。本機体が客船付近に着水、機体からゴムボートに搭乗したブルーマーメイドの指揮官、平賀倫子とM-1小銃と拳銃を武装した副長のトム、ボート操作する岸間が出動した。

 

 

「我々はブルーマーメイドです!乗客乗員の皆さん、緊急用のゴムボートを用意します!!」

 

 

「ブルーマーメイド...あぁ……助かった!!」

 

 

「慌てないで下さい!!」

 

 

「間もなくブルーマーメイド本隊が来ます!重傷者のみ、大型空中スキッパーで運送します!!」

 

 

トム、平賀、岸間がゴムボートを降し、乗客の重傷者をカタリナに担架で運ぶ中、再び海賊スキッパーが接近した。

 

 

「あんな大型の物体にやられてたまるか!」

 

 

「しまった!!」

 

 

「海賊スキッパーの第2陣が………」

 

 

客船の乗客乗員が混乱の再発した時、ブルーマーメイド=カタリナは落ち着いた様子であった。

 

 

「あの、……何で落ち着いていられるのですか!?」

 

 

「空飛ぶスキッパーはあれだけではありません。」

 

 

「なに!?」

 

 

漆黒の空から光る物体が数艇の海賊スキッパーに命中、大破した。

 

 

零観ー

 

 

「新一郎さん、海賊さんのスキッパーは在庫の品切れなのかもしれません!!」

 

 

「だろうな、あの第1次欧州大戦時代の巡洋艦だ!搭載するスキッパーに限りがある。こちら、零観の沖田!!平賀隊長、あの海賊艦に攻撃許可を!」

 

 

「『ガガ…許可します!』」

 

 

「おうっ!!幸吉、掴まれ!!」

 

 

「了解!!」

 

 

新一郎は零観を旋回させ、標的を海賊艦へ定めた。

 

 

「ウィリアム機長、重傷患者が満員です!先に横須賀へ!」

 

 

「わかった!!平賀さん、トム。無事を祈る!!シャルロット、負傷者に応急措置を!!」

 

 

「了解です!!」

 

 

ウィリアムのカタリナが水上を走り、進路を横須賀へ向けて飛行した。機内でシャルロットはあの大戦終結以来の応急措置を行った。客船ザ・ドラゴン号に残留したトムと平賀、岸間はブルーマーメイド本隊の合流まで人命救助を続行。

 

 

「海賊艦ごと客船へ突っ込め!」

 

 

「「 おうっ!! 」」

 

 

「ぎゃっ…」

 

 

「まただ!またあいつだ!」

 

 

数人の海賊が倒れ、空を見上げた。謎の飛行物体こと零観は機銃掃射を終え、急上昇を飛行。

 

 

「畜生!!…なんだあれは…なんなんだよ!!」

 

 

「撃て!なんとしてでも撃ち落とせ!!」

 

 

「お頭、暗くてわかりません!!」

 

 

「構わん、撃て撃て!」  ヒュッ  カッ

 

 

海賊艦から小銃や機銃の弾幕が張られる中、風を切る音が出て艦橋部に刺さった。

 

 

「矢…?」 ドカアアアン

 

 

幸吉が放った矢の先端部に爆薬が仕込まれ、爆発した。

 

 

「見たか!新技、艦橋潰しだ!!」

 

 

海賊艦の艦橋が炎上する中、海賊たちは混乱。そして水平線からブルーマーメイドの救援、べんてんを始め、2隻の艦艇が往来した。

 

 

「新一郎さん!ブルーマーメイドのべんてんを確認しました!!」

 

 

「やっとお出ましか……あとは真冬の部隊に任せて横須賀へ帰るぜ!」

 

 

「はっ!!……っ!?…MAD…潜水艦の反応あり!!」

 

 

「なに!?」

 

 

MAD=三式1号磁気探知機。

 

トチローが千歳基地時代、対潜水艦哨戒機の東海が駐機していた当時に見物、微かな時間で分解して磁気探知機を暗記して再現。

 

トチローはこの時の為に開発、MADとタブレットを共通して零観とカタリナに搭載した。

 

 

「確かか!?」

 

 

「……反応なし!……この海域を中心に半径4キロを索敵をして下さい!」

 

 

「了解!!…真冬の部隊、ウィリアムの部隊にも警戒態勢の連絡を!!」

 

 

「了解!!」

 

 

幸吉は直ぐ様、べんてんとカタリナに連絡。新一郎、幸吉の零観は反応した海域を中心に探索した。

 

 

「……!?反応あり」  バシュッ

 

 

幸吉は照明弾を打ち上げ、海中に潜む艦影を目視した。

 

 

「海中に艦影、潜水艦です!」

 

 

「よぉし、爆弾投下準備!!」  ギュイィィン

 

 

新一郎は零観を旋回、攻撃態勢を整えた。

 

 

「よぉい、……投下!!」 

 

 

 

 ヒュウウゥー  ドカアアアン ドカアアアン

 

 

 

投下した爆弾2発が風を切り裂くように響き海中に落下、海中で爆発した。海面に油が浮いた。

 

 

べんてんー

 

 

 

「艦長!!海中で爆発を確認!!」

 

「何だって!?畜生!!あたしの獲物を……おい、海賊の潜水艦はどうだ?」

 

 

「待って下さい……雑音が……」

 

 

「海面に泡です!」

 

 

朝日と共に海面が泡立ち、潜水艦が浮上した。

 

 

零観ー

 

 

「新一郎さん!潜水艦が浮上!」

 

 

「よし…あとは真冬に任せよう…。零観の沖田、金城機。任務完了!横須賀基地に帰投する!!」

 

 

「『 こちらカタリナ、スパロウ機、了解!! 』」

 

 

「『 こちらべんてん、真冬了解!! これから海賊の拿捕に向かう!』今日の手柄は、殆どあいつら飛行部隊持ってにかれたな~」

 

 

「艦長!いつでも海賊の拿捕準備が出来ています!!」

 

 

「おっと!客船ザ・ドラゴン号の乗客乗員の救助!残りは海賊の拿捕、あたしに続け!!」

 

 

「「 オスッ!! 」」

 

 

真冬の部隊が客船の救助、海賊の鎮圧時、零観を扱う新一郎٠幸吉ペアは横須賀に向けてまっしぐらに海洋の上空飛行した。

 

 

「新一郎さん!横須賀に帰投したらなにしますか?」

 

 

「……そうだな~疲労回復のために風呂、メシ、睡眠だ!」

 

 

「オラも新一郎さんと同じです。こんな経験はあの長崎の上空以来ですが、民間人の被害は最小限に抑えたからホッとしていますよ!」

 

 

「……そうだな…」

 

 

新一郎と幸吉は横須賀、ブルーマーメイド基地に帰投後、宗谷真霜監督官に報告した。

 

 

「……以上が、我々零観ペアの報告です!」

 

 

「沖田大尉、金城兵曹。ご苦労様です。指示が出るまで待機を命じます!」

 

 

「「 はっ!! 」」

 

 

新一郎と幸吉は真霜に対して敬礼した。報告を終えた後、二人は格納庫へ零観の整備に赴くと、真霜は背後から新一郎を両腕で捕まえた。

 

 

「……新一郎……よかった……無事に帰ってきてよかった……」

 

 

「真霜……俺は飛行機のパイロットだ。この一度死んだ命、必ず青い人魚の巣へ生還する」

 

 

客船ザ・ドラゴン号は海賊の襲撃で沈没は免れ、ブルーマーメイドの増援部隊により曳航。乗客乗員は負傷者を含め無事に救出された。

 

今回の事件で新一郎の零観の援護とウィリアムのカタリナが負傷者を搬送しなければ命を落とし兼ねない状況で乗客乗員は救われた。

 

 

 

後日、横須賀ブルーマーメイド基地ー

 

 

 

「……畜生!!…なんだってんでぃ、この記事は………」

 

 

だが、新聞の記事、テレビの公開されたニュースではブルーマーメイドの真冬のべんてんの活躍のみ、新一郎の零観とウィリアムのカタリナの活躍の映像、記事が一言も記載しておらず、トチローと幸吉、トムは苛立っていた。

 

 

「お前ら、落ち着け!ザ・ドラゴン号襲撃事件に関して、ブルーマーメイドに報道を敷いたのは俺とウィリアムだ!」

 

 

「「 えっ!? 」」

 

 

「なぜなんでぃ!新一郎!ウィリアム!」

 

 

新一郎の言葉でトムと幸吉は驚愕し、トチローは疑問に思った。

 

 

「飛行機の情報を遮断し、戦争を防ぐためだ!あの客船の乗客乗員で目撃者がもし、情報を伝達したら俺たちの存在が危ぶまれる。」

 

 

「そうだ、その証言が一言でも各国の責任者が伝達したら、私らがいた世界のように戦争が勃発しかねない。」

 

 

「…ぐぬぬ……」

 

 

トチローたちは苦虫を噛んだ気分だった。新一郎はみんなの前に立ってー

 

「すまない。それまで皆、耐えてくれ…」

 

 

隊長たる海軍大尉、沖田新一郎は皆の前で頭を下げた。

 

 

「…新一郎さん……」

 

 

「…大尉……」

 

 

「新一郎……くっ……ならば、この飛行部隊に名前だけでもつけようじゃねぇってんだ!」

 

 

「そうだな……」

 

 

「…チームネーム……」

 

 

皆は頭を抱え、悩みに悩んだ。

 

 

「皆さま、お疲れ様です。……あら、皆様?」

 

 

「シャルロットか……実はな……」

 

 

トムは医療の休憩にやってきたシャルロットに、飛行隊によるチーム名の考案を述べた。

 

 

「ん~そうですわね……鷲……イーグル……イーグルってのはいかがかしら……?」

 

 

「…イーグル…?イーグルかぁ~」

 

 

「イーグル……いい響きだ……知り合いの、フィリピンで戦死したランスローのアダ名も鷲だったな~」

 

 

「俺もだ、友人の十三も鷲だったぜ!あいつは喜ぶぜ~!」

 

 

皆はシャルロットの一言で注視して評価した。

 

 

「ん…いい言葉だが何か足りない……」

 

 

「そうだなウィリアム。一部は日本式を入れたいな…」

 

 

悩みが振り出しに戻り、皆は頭を抱えながら悩んだ。すると幸吉は飛行機のエンジンを見つめた。

 

 

「エンジンの轟音……空……雷神……ライジンはいかがですか?」

 

 

幸吉の言葉にトムが反応した。

 

 

「ライジン……もう1つ加えてライジングイーグルはいかがでしょうか!?」

 

 

「ライジングイーグル……いい響きだ!皆はどうだ……?」

 

 

「異義無し!」

 

 

「俺っちもだ!」

 

 

「わたくしもありませんわ」

 

 

「しかし、隊長は誰にするんですか?やっぱり階級の順でウィリアムか…?」

 

 

新一郎が階級の言葉を口にすると、トチローが反応した。

 

 

「階級なら、おめぇが長崎で戦死し、二階級特進で中佐になってんでぃ!」

 

 

「えっ!?俺が中佐…?」

 

 

「まぁ、中佐だろうが大尉だろうが、新一郎は常に前線、私は後方支援。指揮を頼むよ!」

 

 

「わかった!…結成だ…飛行いや…航空救援部隊、ライジングイーグルを結成する事を宣告だ!!」

 

 

「「「 了解!! 」」」

 

 

ライジングイーグルの編成宣告を告げた沖田新一郎の言葉で、ウィリアム・W・スパロウ、トム・K・五十嵐、秋山敏郎、金城幸吉、シャルロット・F・トラインは敬礼した。

 

 

新一郎はライジングイーグルの結成を、保安監督官の宗谷真霜に申告する。そしてすぐに了承を得た。

 

 

 

その後、宗谷真霜は海洋安全管理局へ足を運び、管理局の顧問。議員の黒潮鈴江、虹川雪夫と会談、客船救出の報告の書類を持参提出した。

 

 

 

「ザ・ドラゴン号襲撃事件、ご苦労だったな宗谷監督官」

 

「はい、ありがとうございます。黒潮議員」

 

 

「君の妹の真冬君の活躍は相変わらずだが、君を呼んだのは他でもない」

 

 

「は…?何でしょうか虹川議員…?」

 

 

「横須賀基地に、飛行船より早い空中スキッパー部隊が活躍したと耳にした。」

 

 

虹川は席から立ち上がり、片手を真霜の肩に乗せ口説こうとしたが、彼女は奴の手を叩いた。

 

 

「………私たちブルーマーメイドは守秘があっても、例え議員ですら伝えることは出来ません。」

 

 

「宗谷くん、わたくは真冬くんたちが活躍した裏話で別の部隊の存在は確認済みだ!」

 

 

「……失礼します。」

 

 

真霜は局長室から退出した。

 

 

「……おのれ……宗谷……まぁいい、いつか化けの皮を剥がす!」

 

 

真霜は管理局から出た 真霜は黒潮と虹川の何かを疑問に感じた。

 

 

「(……なんであの議員たちは新一郎たちの航空部隊を……)」

 

 

「宗谷監督官……?」

 

 

平賀が訪ねるがこれ以上訊くことなく、横須賀へ帰投した。

 

 

 

 



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第7話 横須賀の出来事

 

 

 

 

新一郎、ウィリアム率いるライジングイーグルが結成されて数日、最初の任務を遂行する。それはー

 

 

「ふぅ~…やはりブルーマーメイドの輩出校だけあってたくさんの受験生が来ているなぁ~」

 

 

「うんうん、みんな緊張していますよトムさん、……オラたちも志望校の受験があったらそんな顔になっていますよ!」

 

 

トム・K・五十嵐と金城幸吉は横須賀女子海洋学校の警備員。

 

 

校門前には幾人の女子中学生、受験生がやってきた。

 

 

他の隊員のトチローは横須賀ブルーマーメイド基地で搭乗機の整備、キャサリンも双子を抱えながら食堂で給士の仕事をしている。

 

シャルロットは医療関連。

 

 

そして、新一郎とウィリアムは横須賀女子海洋学校を見物。

 

 

 

それは、ライジングイーグルの結成の宣言後。

 

 

 

早朝 宗谷家

 

 

 

沖田新一郎は毎朝、庭で常に武術の鍛錬をしていた時

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 

屋敷の門でインターホンが鳴り、新一郎は赴いた。

 

 

「ん…?どなたですか~?」

 

 

「おはようございます。私は海上安全整備局の局長の南方勝子です。宗谷家に住むライジングイーグルの責任者、沖田新一郎さんを尋ねにきました」

 

 

それから宗谷真雪が南方勝子を家の居間でもてなした。

 

 

「早朝からあなたが来るなんて…」

 

 

「まぁまぁ真雪ちゃん、それよりイーグルの隊長、沖田新一郎さんに面会したくて、居てもたっても…」

 

 

「はぁ…あなたの好奇心は、学生時代から変わらないのね…」

 

 

真雪は新一郎を呼び、局長の彼女と面会した。

 

 

「以前の客船救助の武勇、伝え聞いていますよ」

 

 

「いやぁ~…この世界に存在しない航空機があったからこそです…」

 

 

「あなたたちは、何者ですか…?」

 

 

「元、日本海軍大尉沖田新一郎です。神の

いたずらにて、別の世界の戦時からやってきました…」

 

 

「ふふふ…確かに、ブルーマーメイドとホワイトドルフィンの隊員と違って、顔付きが違うわね。あなたたちイーグルの航空機を詳しくいいかしら…?」

 

 

新一郎はあの世界大戦のことについて語り始めた。

 

 

「あら、もうこんな時間に…沖田さん、また何かあったら、私の命で力をお貸ししますよ」

 

 

「はい!」

 

 

南方勝子は、専用の乗用車に乗って整備局に向かった。

 

 

「うん…やはりあの沖田新一郎の言動、ただ事ではないわね…」

 

 

その時から、ライジングイーグルと南方勝子の繋がりが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今から横須賀女子海洋学校の見学、ですか…?」

 

 

「えぇ、もうすぐましろの受験に見学を勧めたいの」

 

 

新一郎とウィリアムは宗谷家の真雪の書斎にて横須賀女子海洋学校の見学を勧めた。その言葉でウィリアムは緊張していた。

 

 

「いいですか?Mrs.真雪、女子校は男子禁制。私は入ってもいい身分ではありませんが…」

 

 

「ふふっ!私は学校の校長ですから、私がいる限り許可します。それじゃ行きましょうか!」

 

 

「「はい!」」

 

 

こうして、真雪は新一郎とウィリアムを連れて、宗谷家から出て、港で用意されたクルーザーに乗り、横須賀女子海洋学校へと向かった。

 

 

横須賀女子海洋学校、校門

 

 

クルーザーが学校、校門の桟橋に接岸、二人はクルーザーから降りて学校を見上げた。

 

 

「ここが横須賀女子海洋学校…」

 

 

「うん、俺は『みくら』の航海と零観の飛行と着水以来だ!」

 

 

ブルーマーメイドの養成学校であり、真霜や真冬、平賀、福内と岸間、鈴留が学んだ場所である。新一郎はこの世界に来てからの馴染みがあり、ウィリアムは初めてであった。

 

 

真雪と新一郎、ウィリアムは校門を抜け、学校の敷地に入る。すると

 

 

「校長!」

 

 

「!?」

 

 

一人の教員がやって来た。

 

 

「あの真雪さん、…そちらの方は?」

 

 

「こちらは、この学校の指導教官の古庄薫二等監督官!」

 

 

「初めまして、古庄薫です」

 

 

「沖田新一郎です!」

 

 

「ウィリアム・スパロウです!」

 

二人は古庄に対して日本、アメリカ海軍の身分を隠しながら自己紹介をした。

 

後に二人に大きな影響を与える人物である。

 

 

「ああ、あなた方が!校長から話しは聞いています!」

 

 

「「 は、はぁ… 」」

 

 

「古庄教官!彼らに学校を案内して頂戴!」

 

 

「わかりました!」

 

 

「じゃあ私は、後日の受験生に関しての用事があるから、新一郎さん、ウィリアムさん、また後で」

 

 

「「はっはい!」」

 

 

真雪は受験生の試験関連の用事があるため、学校案内を古庄薫に任せ、校舎内に去って行き、新一郎とウィリアム、古庄だけが残った。

 

 

「では、校舎を案内しますね沖田さん、スパロウさん!」

 

 

「はい。」

 

 

「よろしくお願いしますミス古庄。」

 

 

「ふふっ」

 

 

「ん…?何が可笑しいのですか?」

 

 

「いえ、ごめんなさいね!鈴留と真霜から聞いたけど、スパロウさんは子持ちの愛妻家で沖田さんは想像通りの男性ね!」

 

 

「えっ、鈴留さんと真霜さんから!?…失礼ですが、あなたは二人とどんな関係ですか…?」

 

 

「鈴留は学生時代の同期、真霜は後輩よ!……彼氏がいて羨ましいけど…」

 

 

古庄薫は、この横須賀女子海洋学校の出身であり、鈴留は同期、真霜の先輩でもある。彼女は小声で真霜と新一郎の関係を羨んでいた。

 

 

「古庄さん…?」

 

 

「あっ、それでは学校を案内します。」

 

 

「はい、お願いします!」

 

 

そう言うと新一郎とウィリアムは古庄薫の案内の元、横須賀女子海洋学校の学校案内が始まった。

 

横須賀女子海洋学校は、ブルーマーメイドの養成学校の一つで、ブルーマーメイドになる為の必要な知識や艦艇の技術など3年間を学ぶ。他にも呉、舞鶴、佐世保に4校が存在する。

 

 

「へぇ~ここと同じ学校が4校も、海軍の士官養成学校も同じだな」

 

ブルーマーメイドの養成学校が4校あることに驚く。

 

かつての新一郎の世界にも海軍士官学校がある。彼は呉海軍兵学校出身であるものの中退、霞ヶ浦で飛行機の基礎知識と技術を学び、教育を終えた後で呉の水上航空部隊に配属した。

 

因みにウィリアムもアメリカのアナポリス兵学校出身、無事に卒業して航空学校で飛行機の技術を学びハワイに配属した。

 

 

「航海実習はあるのですか?」

 

 

「勿論!入学して直ぐに海洋実習があります。艦に1クラス30人が乗艦して共に学びます」

 

 

「……大体、私が学んだ学校と同じカリキュラムだな~」

 

 

「向こうの世界の学校ですか?」

 

 

「「えっ!?」」

 

 

古庄からとんでもない言葉を聞いて、二人は驚愕する。

 

 

「えっ!?……じゃあ俺たちが別の世界から来たことと……」

 

 

「我々の航空部隊と機体もですか!?」

 

 

「えぇ!9年前の横須賀上空の飛行物体の飛来とあなた方の水上飛行機のことも」

 

 

「「えぇ…!?」」

 

 

古庄は新一郎たちの異世界の転移と飛行機の件を知っていたので、機密情報が漏れていると驚いていた。

 

 

「大丈夫!私は機密に触れる資格を持っています。」

 

 

「そうですか…よかった…」

 

 

古庄は機密に触れる資格を持っていたため、知った新一郎は安心して見学を続行した。

 

 

「そして、我が校の本校舎です。」

 

 

新一郎は、校舎を見て驚愕する。

 

 

「(これが校舎か…俺が一時学んだ江田島の海軍兵学校の校舎に似ているが、懐かしいな…)」

 

 

赤レンガ造りの校舎は、新一郎とかつての戦友、厚木十三が学んだ海軍兵学校の校舎に似ており、どこからか懐かしく感じた。

 

 

「沖田さん、どうしたのですか?」

 

 

「いえ、……私が学んだ兵学校の校舎に似ていたので……それに、赤レンガの校舎は異世界と言えども、伝統は受け継がれているのですね」

 

校舎に入ると、懐かしい江田島の兵学校の廊下と教室。ウィリアムは、教室のドアをそっと覗くと、そこには、幾人の可愛いセーラー制服を着た女子生徒が懸命に勉強をしていた。

 

 

そして、校舎を出て講堂へと向かう。

 

 

横須賀女子海洋学校、講堂

 

 

「此処が講堂です!」

 

 

「こ、これは!?」

 

 

この講堂も向こうの江田島と同じ鉄骨煉瓦石造の大講堂によく似ているが、中は、まるでスポーツを行うスタジアム見たいな作りになっており、下には、作戦図案の様なテーブル機器が3つ設置されていた。

 

 

ウィリアムは講堂の中を見ながら、そのテーブル機器を間近で見る。

 

 

「これは、一体何ですか?」

 

 

「これは図上演習用のシュミレーションシステム機器です。」

 

 

このテーブル機器は、図上演習用のシュミレーションシステム機器の様だ。

 

「図上演習!?」

 

 

ウィリアムは、図上演習用の機器だと聞き、古庄が手本として機器を操作して見た。

 

 

機器を操作すると画面には、演習に使う艦艇や編成が記載されていた。

 

 

「空母が無い…まぁ当然か!」

 

 

新一郎は、演習に使う艦艇の中に空母が無い事に気づく。

 

この世界では、航空機が無いので、空母を基準とした図上演習が無いのだろうと新一郎は理解する。

 

二人は、講堂を後にし、先に向かう。

 

 

横須賀女子海洋学校、地下ドック

 

 

 

そして、古庄に案内されエレベーターに乗って地下に降りた。

 

 

「今度は何ですか?」

 

 

「見てからのお楽しみです!」

 

 

そう言うとエレベーターは地下に到着して、エレベーターから出た新一郎とウィリアムが見た光景は

 

 

「これは!?…地下にこんな施設が有るなんて…」

 

 

二人が見た光景は、横須賀女子海洋学校の地下にある内部ドックだった。

 

 

「驚きましたか?」

 

 

「「え、ええ…」」

 

 

広大な広さの内部ドックには、多種多様な艦がドック入りをしており、修復点検作業が行われていた。

 

 

「このドックは、教育艦が浦賀水道を通る民間船や貨物船やタンカーなどの邪魔にならない様に作られ…学生達に自分が乗る艦の点検もできる様に最高の施設を用意してます」

 

 

「こんな施設は、私達の世界にはない!…雅に先を行っている!」

 

 

「地下の秘密基地みたいだ…」

 

 

航空技術や光学技術は、二人の世界が先を行ってるが、フロート技術やこの様な施設を作る技術は、あまり無い。

 

 

「では次に行きますか?」

 

 

「そ、そうですね…」

 

 

そう言うと次に行ったのは、学生寮で此処も立派で二人も関心してた。

 

 

 

横須賀女子海洋学校、食堂

 

 

見学を終えた新一郎とウィリアムは、学生食堂で古庄と昼食をとる。

 

 

「今回の学校見学は、如何でしたか?」

 

 

「あぁ。ブルーマーメイドの養成校あって、中々良い学校ですね…まあ、流石に私達の学校には及びませんけど…施設の一部などが雅に未来的な物ばかりで驚きました」

 

 

確かに授業や実習のカリキュラムについては、日米軍の養成校と甲乙着け難く、先に見た地下ドックなどは、日米軍の養成学校にはない施設ばかりがある。

 

 

「それは、良かったですね!」

 

 

「はい!」

 

 

3人は、学生食堂で注文した横須賀女子特製カレーを食べる。

 

 

「新一郎、旨いなぁ」

 

 

「あぁ、どの世界でもカレーは共通するな」

 

 

「…」

 

 

古庄がカレーを食べる新一郎をジッと見る。

 

 

「あれ…?何か付いてますか?」

 

 

「真霜が聞いた通りの人ね!」

 

 

「何がですか?」

 

 

「気にしなくて良いわ!大した事じゃないから」

 

 

「はぁ…?」

 

 

新一郎は首を傾げ、カレーを堪能していると薫は個人的な質問をした。

 

 

「ねぇ、沖田さん。横須賀は以前に来たことは?」

 

 

「いえ、今回が初めてです。俺のいた世界で横須賀は、戦闘機部隊の専門場。俺の弟と同期は、横須賀で配属しました。」

 

 

「弟さんが?…あなたはどこで配属を…?」

 

 

「広島の呉です。水上偵察機部隊専門のパイロットとして、配属してました。」

 

 

「…呉で………」

 

 

ブルーマーメイドの世界では、呉の女子海洋学校はエリート中のエリート。

 

どこで反応したのか、薫の胸は高鳴った。

 

和やかに食している時、新一郎の足元に丸々としたどら猫が近づいて座った。

 

 

「ん…猫? 

 

「なんか丸々しいな…」

 

 

「あぁ、その猫は学園に住み着いている五十六です」

 

 

「五十六…?…まさか、山本五十六元帥が猫になっちゃった~♪なんて……」

 

 

「山本五十六…?」

 

 

薫が首を傾げた時だったー

 

 

「『その通りだ沖田君』」

 

 

「へ…?…沖田君?誰だ……俺を呼んだのは?」

 

 

「新一郎、確かに僕も聞こえたぞ?」

 

 

「え?…誰も呼んでないわよ沖田さん」

 

 

「あれ~…おかしいな…確かに誰かが呼んだんだが…気のせいかな…」

 

 

頭を掻きながら、食堂のテーブルには誰もいなかった。

 

 

「『気のせいじゃないぞ沖田君!君の足元だ!』」

 

 

「え、足元…?」

 

 

「…五十六…?…山本五十六…っ!!…山本元帥ですか…!?」

 

 

正体は新一郎の足元にいるどら猫の五十六だった。

 

 

「『そうとも沖田君、ラバウルで君たち六勇士と整備、給士。そして現地人の少女と、アイヌの郷土料理チタタプは絶品だだったな~♪』」

 

 

「…っ!!」

 

 

新一郎は内心驚いた。

 

山本五十六長官が戦死前夜の1943年4月17日、ラバウル基地の辺鄙な兵舎付近で水上機部隊の虎雄と幸吉、零戦パイロットの十三と洋介、弟の進次郎。整備、給仕のトチローとトチコの兄妹。そして、現地人のサンとチタタプを食した当時、連合艦隊司令長官、山本五十六が賞味したのであった。

 

 

「長官……なんで猫になったのですか……」

 

 

「『それだ沖田君、わたしはあのブーゲンビル上空で、米軍の待ち伏せで殺された。だが、目が覚めたとたん猫の姿になっていたのだよ!』」

 

 

「猫に…ですか…」

 

 

「『はははっ、猫の姿になっても悪くは無い、自由気ままに過ごせられるからな~♪』」

 

 

「はははっ……自由気ままか~」

 

 

五十六元帥の言葉で新一郎は苦笑した。五十六は次の言葉を述べた。

 

 

「『そこでだか沖田、この世界の日本は水没して航空機が存在しないことに驚いた。私が亡くなった後に日本はどうなった?』」

 

 

「はっ!…実は…」

 

 

山本五十六連合艦隊司令長官が亡くなった後、1944年にマリアナ沖海戦とフィリピン決戦で大敗。

 

海軍の象徴たる戦艦大和と武蔵が撃沈された。そして、日本の懐である硫黄島と沖縄が占領された。

 

 

「B-29という重爆撃機で母国は灰塵、8月に新型の原子爆弾で広島と長崎が壊滅。ソビエトロシアの参戦。後からこの世界に来たトチローから聞きましたが15日に敗戦、戦争は終わりました。」

 

 

「『そうか……やはり大国に抵抗した結果か。君たち六勇士と兵士たちはよく戦ってくれた。礼を言う』」

 

 

「…長官…ですが…ラバウル六勇士、隊長の厚木十三はフィリピンで戦死。弟の進次郎を生かす為に桜井洋介も北方の戦いで戦死。トチコさんも、フィリピン近海で行方不明に……」

 

 

「『そうか、…気の毒なことを言って申し訳ない…』」

 

 

「いえ、長官。あの大戦で戦って悔やんだこともありますが、この世界に来て良かったこともあります。幸吉とトチロー、そしてそこにいるウィリアムと彼の家族と一人の日系人、フランス人の従軍看護婦もいます。私の愛機零観と彼らの哨戒機のPBYカタリナを共同で配備、ライジングイーグルを結成しました!」

 

 

「『そうか、…もう一人のパイロットはどうした…?』」

 

 

「…大賀虎雄少尉ですが…奴はこの世界で出現したものの行方不明です…」

 

 

「『うむ…大賀少尉を発見次第、新部隊『ライジングイーグル』に編入させよ!』」

 

 

「はっ!!」

 

 

新一郎はどら猫の五十六に対して敬礼をした。するとー

 

 

「『…ところで沖田君、この世界にやって来て好きな娘はできたかね~?』」

 

 

「すっ……好きな娘ですか〜!?///」

 

 

その言葉を聞いた新一郎は赤面した。

 

あれから新一郎はブルーマーメイドの隊員から好意を抱かれていた。

 

主に、平賀倫子と同僚の福内典子。スキッパー部隊隊員の岸間菫、横須賀女子海洋学校の古庄薫。そして、宗谷真霜であった。

 

 

 

 

 

「新一郎さんとウィリアムさん、なにしているんだろうな~トムさん…」

 

 

「さぁな…」

 

 

 

時間と場所を戻し、幸吉とトムが敷地内で見張っている時、横須賀女子海洋学校の校門を賑やかなグループがくぐり抜けた。

 

 

 

「ほら、早くーっ!!」

 

 

「待ってよ~っ!!」

 

 

「試験に遅刻とか洒落になんないーっ!!走れ走れー!」

 

 

「時間はまだ大丈夫だってば~!!」 

 

 

「汗かいちゃった」

 

 

「折角朝シャワー浴びたのに~」

 

 

「…ん?」

 

 

にぎやかな声が聞こえ、トムと幸吉が振り向くと慌てて受験会場に飛び込んできた四人の受験生が居た。

 

 

「も~レオちゃんてば、大丈夫っ言っても止まらないんだもん」

 

 

青みがかった黒髪、広田空にツーサイドアップの髪型の女の子、若狭麗緒が息を整えながら愚痴るかのように言う。

 

 

「もとはと言えば留奈がお寝坊するからでしょー!こっちも被害者だよ」

 

 

麗緒が急いでいた理由を言う。

 

原因はツーサイドアップの髪型の女の子、駿河留奈が寝坊したのが原因の様だ。

 

 

「あ~全力疾走したから数式忘れたかも…せっかく暗記したのに~」

 

 

赤いリボンを着けた、カチューシャをつけた空が息を整えながら嘆く。

 

 

「あっつ〜い…コート脱いじゃおうかしら…?」

 

 

四人の中でも背の高いサイドテールの女の子、伊勢桜良は手で仰ぎながらコートを脱ごうとする。

 

 

「サクラ、エロいからやめな」

 

 

「えっ!?」

 

 

「色っぽ~い」

 

 

コートを脱がせるのを止めたエロいと言われ、ショックを受けているような感じの背の高いサイドテールの伊勢桜良。

 

四人はワイワイと談笑しながら会場の中へと入っていった。どうやら、同じ中学の同期の様だ。それを見た二人は

 

 

「に、にぎやかな4人組だな……」

 

 

「そ、そうですね……」

 

 

「ま、まあ、緊張しすぎた雰囲気だらけだし、そう言う感じもいいんじゃないか~?」

 

 

「トムさん、油断は禁物ですよ…」

 

 

 

「人がたくさん…みんなわたしと同じ受験生かなぁ。さすがブルーマーメイドの登竜門...! よーし、今日は頑張るぞーっ!なんとかなるっ!」

 

 

その中のツインテールをした少女、岬明乃が気合いを入れる。

 

 

その後、新一郎とウィリアムはライジング=六勇士、の隊員である幸吉とトチローに知らせ、山本五十六がどら猫になっていたことに新一郎同様に驚愕した。

 

 

 



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第8話 試験の結果と祝い

 

 

 

受験から数日後、通常の高校と違い入学試験から僅かな期間で合格発表をするのは、この高校独自のシステム。

 

入学試験の成績によりクラスを決める為、早急に入学予定者を集める必要があったのだ。

 

更に合格には補欠合格もあり、横須賀女子学校に入学の意志がある者には直ぐに手続きを取ってもらう必要がある。

 

そして合格発表を掲示する掲示板の前には受験生が合格か否かを見に来ていた。あるものは受かって喜んだり泣く子もいた。

 

そして不合格だった子はまるでこの世の終わりみたいな表情をして家に帰っていった。

 

岬明乃は横須賀女子海洋学校の受験結果の合格番号、100313を探した。

 

 

「(やった!合格したよ、もかちゃん…虎ちゃん…)」

 

 

明乃は合格をしたことを心の中で憂いした。

 

小学校の卒業まで施設で暮らした親友と、呉のフロート公園で出会った少年の名前を。

 

 

一方、トムと幸吉は合格発表を見に来た受験生たちを見ていた。

 

 

「…飛行学校時代を思い出すな…」

 

 

「オラもそうですよ~入れるだけでも奇跡ですよ…」

 

トム自身も航空学生のころ、日系アメリカ人の航空訓練生になれるかどうかではらはらしたのを覚えている。航空学生の合格率は非常に低い。

 

トム自身も無事に合格し、卒業できたことは今でも奇跡だと思っている。

 

そして、幸吉も操縦士になるためにも懸命に頑張ったものの試験に落第。だが、空を飛ぶことは諦めず、天測航法と敵機敵艦種判別、電信と暗号文作製を叩き込んで成績がピカ一。卒業後はラバウルに転属した。するとー

 

 

「うわあぁーーーーん!!!」

 

 

「「 ん? 」」

 

 

急に誰かが泣き叫ぶ声が聞こえたかと思ったら、一人の少女がトムと幸吉の横を走り抜けていく。

 

 

「人間なんてやめてやるぅ~!!」

 

 

「待て、留奈!!」

 

 

「留奈、人間やめるってよ!?」

 

 

「意味が分からん!!」

 

 

走り抜いていった少女を追って、三人の少女達が後を追いかけていく。

 

 

「な、なんだ?」

 

 

突然の出来事にトムは首を傾げ、幸吉も唖然としていた。

 

 

「あれ?確かあの先て海だよな……まさか!?」

 

 

「あ、ちょっとトムさん!」

 

 

トムは何か悟ったのか、急いで先ほどの少女を追いかける。

そしてそれに続いて幸吉とマロンたちも走り出すのであった。そして留奈は桟橋の方へ走り出す

 

 

「私は今日からお魚として生きていくー!!」

 

 

「何言ってんだ!!お前は肺呼吸だろう!?」

 

 

「お魚さんなめんな!!」

 

 

後を追いかける少女らもなんかズレている事を言う。

 

 

「母なる海よ!!」

 

 

そう言って彼女は桟橋から海へと飛び込んだのだが、今は二月の中旬、海は氷のように冷たかった

 

 

「あばばば!!冷たいし!!寒いよ!!助けて!!母も私を拒絶するのか!!だ、誰か助けて!!」

 

 

自ら飛び込んだのに助けを求める留奈。すると

 

 

「この馬鹿!命を粗末にするな!!」

 

 

と、そこへトムが海へ飛び込み留奈を抱えて、岸ヘとあげる。そして留奈の友達がやってきた。

 

 

「ああ、警備員さん。ありがとうございます」

 

 

「お騒がせしました」

 

 

と、トムに礼を言うとトムと幸吉は

 

 

「大丈夫か!?」

 

 

「全く、何があったか知らないが、まだ若いのに命を粗末にするなよ」

 

 

「いや、若いってあんたも若いじゃん」

 

 

トムの言葉に麗緒が突っ込む。すると

 

 

「さ、寒い~‥‥」

 

 

冬の横須賀の海に飛び込んだ留奈は、寒さで身体をガタガタと震わせる。

 

 

「もぉ~ずぶ濡れじゃない」

 

 

桜良がハンカチで留奈の身体を拭くが、焼け石に水である。

 

 

「どこかで乾かさないと風邪ひいちゃうよ」

 

空が心配そうに言う。そこへ

 

 

「何でぇ、誰かと思えば実技試験で隣に居た四人組じゃねぇか」

 

 

マロンたち4人が追いつく

 

 

「あっ、ちっちゃい凄い人」

 

 

マロンの声に気づいた4人が振り返る。

 

 

「ちっちゃいは余計だ!!」

 

 

すると、菱餅の髪飾りの娘こと杵崎ほまれが

 

 

「あの‥‥よかったら、家の船で休んでいきます?そのままだと風邪を引いてしまうので‥‥警備員さんたちも一緒にどうですか?」

 

 

「ああ、僕も彼女がなぜ海に飛び込んだか事情を聴きたいからな」

 

 

ほまれの誘いにトムと幸吉、留奈たちは屋台船に世話になる。そして船の中で 

 

 

「とりあえず、全部脱げ」

 

 

マロンは留奈の着ている服を脱衣と聞いた幸吉は

 

 

「え?お嬢ちゃん。それって追剥か?それとも…」

 

 

「変態!?」

 

 

「違わい!!濡れている服なら脱いだ方がマシだってんでい!!」

 

 

怒ってそう言うと皆は納得し、幸吉は立ち上がって外套を脱いだ。

 

 

「とりあえず、オラの外套を着て身体を暖めろ!」

 

 

「…あ…ありがとう…」

 

 

「トムさん、ちょっと着替えを取りに行きます!」

 

 

「あぁ、頼むよ幸吉」

 

 

幸吉は警備員室へ向かい、衣服を着替えを取りに向かった。

 

 

「やっぱり…受験に落ちたから海に身を投げようと?」

 

 

「うっ…ごめんなさい」

 

 

「はーい、和菓子屋杵﨑特製蜂蜜生姜ゆず湯~」

 

 

「ありがとう~…」

 

 

「警備員さん二人にもサービスです~」

 

 

「あ、ありがとうございます。」

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

幸吉は警備員室から予備の制服に着替えた留奈は警備員であるトムと幸吉から事情を聴いていた。

 

 

「でもさ、それで魚になろうなんて、すっとこどっこいかオメェは?」 

 

マロンは事情を聞いてあきれた表情をすると洋美が

 

 

「でも下手をしたらマロンも海に飛び込みそうね……」

 

 

「「何となくそんな気がするわ」」

 

 

麗緒と空も、洋美の意見に同調した。

 

 

「するか!!」

 

 

麻侖は必死に否定する。するとトムは

 

 

「でも命は大事にしなよ。生きていればまたチャンスはつかめるんだからさ」

 

 

とトムは留奈を励ますが

 

 

「はぁ〜お終いだ。いくら積めば裏口入学できるかな?」 

 

 

「それ犯罪だぞ!?人生詰む気か!?」

 

 

「金を積むより徳を積め!徳を!」

 

 

トムとマロンはとんでもないことを言う留奈に突っ込む。もう打つ手はないかと絶望する留奈に、幸吉はあることに気づいた。

 

 

「ん?そう言えば…君は補欠合格の掲示板は見たの?」

 

 

「…え?補欠合格?」

 

 

「ああ。合格者のほかに補欠合格っていうのがあるぞ。見てないのか?」

 

 

留奈は幸吉の言葉にぽかんとするとほまれが

 

 

「補欠合格者は通常の合格者とは別の場所に貼り出してあったと思ったけど‥‥」

 

 

「ああ、あそこなら合格発表が掲示されている場所から、100メートル離れた場所にあるな」

 

 

「うそっ!!見ていない!!」

 

 

ほまれとトムの言葉に留奈は驚きの声を上げマロンが 

 

 

「なにぃ!!全員立て!!今すぐ見に行くぞ!!」

 

 

「「「「 イエッサー 」」」」

 

 

「随分息が合っているな」

 

 

「そうですね…」

 

 

息の合った行動にトムと幸吉、あかねが苦笑してそう言うのであった。

そして留奈は補欠合格者発表の掲示板を見ると自分の受験番号が張られてあった。

 

 

「100005…あれだ!」

 

 

「あった‥‥ほんとうにあった!!」

 

 

「よかったね」

 

 

留奈は補欠とは言え、合格して居た事に桜良に抱きついて喜んだ。

 

 

「ってか、補欠合格ってなに?」 

 

 

若狭が補欠合格とは何かと尋ねるとトムは

 

 

「まあ簡単に言えば、合格者が辞退した時の穴埋めだな。繰り上がり合格が来れば学校から連絡が来るぞ」

 

 

「ほんと!?私にも希望が!ありがとう警備員さん!」

 

 

「君は補欠と言えども、最上位だね!」

 

 

横須賀女子に入れるチャンスがあり、最上位と知った留奈はトムに礼を言う中、洋美は

 

 

「でも、そうそう辞退者何て出ないと思うけどね‥‥」

 

 

「まあまあクロちゃん。無粋な事は言いっこなしでぇい」

 

黒木の言葉に麻論はそう制す。その言葉に黒木は喜ぶ留奈や友達を見て

 

「‥‥そうね

 

 

と、ポツリとそう呟いた。その後、留奈たちはもう一度トムと幸吉に礼を言い、マロンたちとともに帰ったのであった。

 

 

 

そして、宗谷ましろの受験の結果、合格した。

 

 

 

あれから数日後、トムと幸吉は学園の警備員の勤務を終え、帰宅の時だった。

 

 

「やっと終えましたねぇ~」

 

 

「あぁ、ましろさんも合格してよかったな~!」

 

宗谷家の令嬢、ましろは横女の試験に合格した。

 

 

今夜は、カタリナのメンバーとトチローが宗谷家に招かれたのであった。

 

 

「ましろさんの合格祝いに何か買って行こう!」

 

 

「はい、ん…?」

 

 

幸吉の目に止まったのは、和菓子のれんを掛けた一艘の小舟だった。

 

 

「へ〜車で移動営業する食べ物屋は知っているけど、船の移動営業なんて初めて見るな。これも海洋国家ならではかな?」

 

 

二人は和菓子屋に向かって手を振った。

 

 

「いらっしゃ~い…あ!」

 

 

「ん、君たちは!?」

 

 

驚いたことに、中の店員はあの受験で合格した蜜柑の髪飾りの少女と双子の姉妹であった。

 

 

「伊良子美甘です。」

 

 

「わたしは杵﨑ほまれです。」

 

 

「そして、妹のあかねです。」

 

 

「オラは金城幸吉です。」

 

 

「トム・K・五十嵐です。」

 

 

そして、屋台船の客席では柳原麻侖と黒木洋美、若狭麗緒と駿河留奈、伊勢桜良と広田空のメンバーが合格の祝賀会を行っていた。

 

トムと幸吉はその場で簡素な紹介を済ませた。

 

 

「へぇ~、トムさんは日本人だけどアメリカ人なんだ~」

 

 

「幸吉さんはアイヌの人?弓矢で狩したことあるの?」

 

 

麗緒と留奈の質問を色々と訊かれた時、トムはとっさに腕時計の時間を確認した。

 

 

「…もう、こんな時間か~では我々は失礼します!」

 

 

「おぅっ、もう少し居てくれねぇのか!?」

 

 

「居たいのは山々だが、宗谷家へ行かなければ!」

 

 

「っ!?なんですって!」

 

 

洋美は幸吉が聴いた言葉に反応した。二人は麻侖と美甘、洋美に背を向けた。

 

 

「あっ!ちょっと、…金城さん、五十嵐さん!宗谷さんと何の……」

 

 

「どこに行くんでぃ~?クロちゃん!」

 

 

洋美は追いかけようとした時、麻侖に抑えつけられ行けずじまいになった。

 

 

宗谷家では、末っ子のましろが横須賀女子海洋学校に合格したことを、学校で忙しい母親の真雪を除き、姉の真霜と真冬。

 

ライジングイーグルのメンバーが祝した。

 

 

「ましろさん、合格おめでとう!」

 

 

「おめでとうございます!」

 

 

「おめでとう、ましろちゃん」

 

 

「ましろさん、おめでとうございます」

 

 

「ましろちゃん、合格おめでとうございます!」

 

 

「「 お姉ちゃん、おめでとう!! 」」

 

 

「ましろさん、おめでとう!」

 

 

因みにウィリアムとキャサリン、トムとシャルロットに関しては真雪がブルーマーメイド時代、真霜と真冬がハワイの研修で知り合ったと説明を受けた。

 

 

「お母さんと姉さんたちの知り合いが、わざわざハワイから来て祝いの言葉を述べてくれて、大変感謝しています!私は宗谷家の女性として、横須賀女子海洋学校で海に関して知識を採り入れて必ず海に生き、海を守り、海を往く。ブルーマーメイドになります!!」

 

 

「いよっ!いい演説だった!ましろ嬢ちゃん!ヒック…うぃ~」

 

 

整備員のトチローは酒瓶を片手に持ちながら酔いしれながら拍手を贈り、みんなもトチローに合わせて拍手を贈った。

 

その光景を見たましろは恥ずかしながら照れ、赤面した。

 

 

「うぅっ…///」

 

 

「相変わらず酔っているなトチロー。妹のトチコさんが見れば、怒られるぞぉ~」

 

 

「「「 はっはっはっ! 」」」

 

 

新一郎はそう言いつつ、みんなで笑い合い、テーブルに並べられたキャサリンの手料理を堪能した。時にグラスに入った横須賀の地酒を一口飲みながら思い出した。

 

 

東南アジア攻略を終結後、ニューブリテン島のラバウル基地配属と同時に家族からの手紙が届けられた。記した内容は、弟の進次郎が戦闘機パイロットに合格したことであった。

 

 

「(弟の進次郎が予科練と戦闘機パイロットに合格した時も、そんな光景だったんだろうなぁ~)」

 

 

呉、孤児施設の食堂にて、岬明乃が横須賀女子海洋学校の受験に合格したことを祝っていた。

 

 

「おめでとう明乃ちゃん」

 

 

「ありがとうございます、雫さん。」

 

 

「もえかちゃんと再会するのが楽しみね。」

 

 

「はい、もかちゃんと会うのがとても楽しみです。そして、艦で家族を作ります。海に生き、海を守り、海を往く。それがブルーマーメイドになります!(見ていてね、虎ちゃん)」

 

 

食事を終えた明乃はバルコニーに赴き、夜空を見上げながら海で出会った男の名前を呟いた。

 

 

 

 

 

 



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第9話 真霜と新一郎

 

 

 

2月中旬、愛知県名古屋 万里小路重工業ー

 

 

トチローはライジングイーグルが使用する航空機の部品不足が懸念されて、海洋安全整備局の本部長、南方勝子と真霜の推薦により零観とカタリナに航空機で移動した。

 

万里小路重工業を訪問。赴いたのはパイロットの沖田新一郎とウィリアム・スパロウ。整備員の秋山敏郎。

 

監督官の宗谷真霜と技師の浦賀鈴留は取締役の方と会談した。

 

 

工業、客間室ー

 

 

「…部品製造はお任せ下さい。引き換えにライジングイーグル様のログインしたIDはこの通り万里小路社が秘密裏にお預かりします」

 

 

「いつも、新型のスキッパー配備を大変感謝しています」

 

 

「…いえいえ、ブルーマーメイドとホワイトドルフィンが海の安全を守ってくれているおかげです。しかしながら、新設したイーグル様の航空機。空想のだった産物が、実物を目にするとは、未だに信じられないです」

 

 

「はははっ!我々も同じ気持ちです」 

 

 

「メタンハイドレートの採掘で、日本が沈下したなんて、我々は未だに半信半疑です。それに、あの機体は女子海洋学校の艦艇同様に、戦争で使いたくない、最小限のみに納めたいのです」 

 

 

新一郎とウィリアムたちも、万里小路重工の創業者一族で、現在も東海地方の居住用フロートの大部分の建造を担い、海洋安全整備局が使用するスキッパー製造のおかげで成り立っている。

 

 

「楓」

 

 

「はい、お父様」

 

 

取締役が手を鳴らしたと同時に、髪が美しく、おっとりとして礼儀正しい少女が入室した。

 

 

「はぁ~別嬪だなぁ~」

 

 

「美しいお嬢さんですね」

 

 

「ありがとうございます。お客様。わたくしは万里小路楓です」

 

 

「私の一人娘です。万里小路家に恥じない嗜みを施しています」

 

 

「…これが、…大和撫子か」

 

 

ウィリアムは心底驚いた。

 

 

「あの、わたくしは弦楽器が得意ですので、何かリクエストしますか?」

 

 

楓はイーグルたちにリクエストを述べ、トチローが真っ先にてを挙げた。

 

 

「じゃあ嬢ちゃん、椰子の実を頼む!」

 

 

「椰子の実か~、トラック諸島以来だな♪」

 

 

「畏まりました」

 

 

楓は所持しているヴァイオリンを演奏、新一郎とウィリアム、トチローは目を閉じ、耳を傾けた。

 

彼らの脳裏に、嘗ての東南アジアとハワイ、ラバウルやポートモレスビーの暮らしが懐かしく、一粒の涙を流した。

 

演奏が終わると、楓はお辞儀をして、 彼らは拍手した。

 

 

「いかがですか?」

 

 

「あ…あぁ…とても素晴らしかった…」

 

 

「全くです、横須賀で勤務しているキャサリンたちに聴かしてあげたかったな。」

 

 

「そうだなウィリアム…おれっちは、あの仲間たちに聴かしてやりてぇぜ…」

 

 

万里小路楓に関しては受験を終えたばかりであり、合格した学園が横須賀女子海洋学校であった。

 

 

「それは、おめでとうございます」

 

 

「そりゃめでてぇなぁ〜!しかし嬢ちゃん、なんのために入学を?」

 

 

「強いて言うなら…わたくしは音楽家に、音楽家は旅をするものなのです♪」

 

 

「「「 なるほど~ 」」」

 

 

新一郎たちはどことなく、納得した。

 

 

重工業、湾岸波止場地区ー

 

 

楓は自ら新一郎たち4人を見送りに赴いた。

 

そして彼女は零観とカタリナを見て、心おきなく驚いた。

 

 

「これが、横須賀の都市伝説に聞く空を飛ぶスキッパー…」

 

 

「そう、ブルーマーの連中から聞くが、それは別の機体だ。しかしお嬢さん、我々の機体に関しては最重要機密だ。父親以外、内密に頼みたい」

 

 

「畏まりました。ライジングイーグル様の武運、お祈り申し上げます」

 

 

「ありがとう!」

 

 

新一郎とウィリアム、トチローは楓に対して敬礼。それぞれの機体に搭乗、横須賀に向けて、闇夜の空へ飛行した。

 

 

 

 

 

零観 新一郎、真霜ペアー

 

 

 

 

「あ〜終わった終わったぁ〜…さて、家に帰って…食事と風呂に入って…」

 

 

「新一郎ぉ!!」

 

 

「わわっ!?」

 

 

零観の操縦桿を握る新一郎は、後部座席に居座る真霜からの伝声管の怒鳴り声で慌て、バランスを崩した。

 

 

「きゃっ!?」

 

 

「あぁっ、真霜!すまん!えっと…なんの用だ…?」

 

 

「明日は私の大事な日であるから、早く帰ってきてね!」

 

 

「あ、あぁ…明日もまた、忙しいんだなぁ~」

 

 

新一郎はこの世界に来てから、ライジングイーグルを結成して重大な役職に就いた為に、常に忙しさに身を置いていた。

 

海上安全管理局の役人との対面やブルーマーメイドとの海上訓練に参加。夜間のみの哨戒飛行を行う。

 

新一郎はそう思いつつ、横須賀基地に帰還した。

 

 

 

宗谷家、台所ー

 

 

 

「ふんふん~♪ふ~ん♪」

 

 

仕事で疲れた新一郎と幸吉、ましろが寝込む時間に、真霜は機嫌よく、台所で何かを調理していた。

 

 

「ただいま〜真霜姉〜!台所でなにを?…ん?おっチョコじゃん♪いただくぜ~♪」

 

 

真冬が勤務を終えて帰宅、台所にチョコレートが置いてあり、彼女は手を伸ばした。

 

 

 

バシッ 

 

 

「真冬~…このチョコに手を出したら許さないわよぉ~」

 

 

「ひっ…」

 

 

真霜の口が微笑んでも、目は笑っていない。真冬はその顔を見て、身体が震えていた。

 

 

「わわっ、悪かった悪かったよ真霜姉~。それにそのチョコでなにしているんだ?」

 

 

「ふふふ~♪それは、明日のために使用する兵器よ♪」

 

 

 

 

 

翌日、2月14日ー

 

 

 

 

 

新一郎と幸吉は宗谷家からブルーマーメイド基地に出勤。基地の門にくぐり抜けた時ー

 

 

「沖田さーん!」

 

 

「ん…?わわっ!?」

 

 

新一郎を待ち伏せしていたブルーマーメイド隊員たちが囲い込んだ。

 

 

「沖田さぁ~ん、私のチョコを受け取ってください!」

 

 

「私の受け取ってください!」

 

 

「私も!」

 

 

「私も~!!」

 

 

「新一郎さん!新一郎さん!!」

 

 

幸吉はブルーマー隊員の蚊帳の外に離され、何度も新一郎を呼んだ。

 

そして、新一郎はブルーマー隊員たちの足元にて匍匐前進。

 

 

「ぷはぁっ!…幸吉、離脱するぞ!」

 

 

「了解!」

 

 

新一郎と幸吉はブルーマー隊員の群集から離脱。何とかイーグル隊の格納庫へたどり着いた。

 

 

「バレンタイン?」

 

 

「そうです。バレンタインは女性が男性へのチョコレートを贈る西洋文化の習慣です」

 

 

新一郎と幸吉はトムからバレンタインの解説を受けた。

 

 

「なるほど~」

 

 

「そして、大尉と幸吉はブルーマー隊員から貰ったのですか?」

 

 

「あ、いや……わからなかったから……」

 

 

「なら、あそこの木箱に入れてありますよ」

 

 

トムが指差す方向に5つの木箱があった。それぞれウィリアム、トム、トチロー、幸吉、新一郎専用のバレンタイン箱を設置していた。

 

その中で一二を争うのがトムと新一郎のであった。

 

格納庫内部でカタリナをしていた整備トチローとウィリアムはチョコレートを貰ったことにウキウキした表情だった。

 

 

「ウィリアムは嬉しそうだなぁ~」

 

 

「はっはっはっ!私はそれ以上に、キャサリンのチョコは最高だからな♪」

 

 

「おれっちは、こんなに貰えるなんて夢見てぇぜ!相変わらずの、愛妻家だなぁ〜!おい、トム。おめぇはシャルロット嬢ちゃんから貰ったのか!?」

 

 

トチローはブルーマーメイド本部から書類を持って戻ってきたトムに尋問した。

 

 

「えぇ、彼女はパティシエでありますので、今日の任務が終えた後に食べるのが楽しみです!」

 

 

シャルロットは医療看護婦になる前、パティシエを嗜んでいたため、少しの心得を持っていた。彼女はキャサリンと共に他のイーグルの隊員たちにも配布して労っていた。

 

 

「へぇ~シャルロットさんがパティシエか……流石はフランスの貴族様ですねぇ~」

 

 

幸吉は感心している時ー

 

 

「『ガガ…沖田監督官、沖田監督官。至急、第4格納庫へ!』」

 

 

新一郎を呼ぶスピーカーが流れ、本人は気づいた。

 

 

「あっ、いかんいかん…今日は東京の海上安全管理局に関係者に会いに行かねばならん!そんじゃウィリアム、俺は行ってくる!」

 

 

「おう、あとは任せろ!」

 

 

新一郎はあとの現場の指揮をウィリアムに委ね、哨戒艇が待機する第4格納庫に向かい、真霜も管理局に行く用ができた為、先に新一郎がたどり着き、彼女を待った。

 

 

「ちょっと早すぎたかな?」

 

 

「沖田さーん!」

 

 

「あぁっ…岸間さんか」

 

 

本日の哨戒艇を操縦して同行する岸間が担当することになった。

 

 

すると

 

 

「沖田さん、…これ…わたしからの心からの気持ちです///」

 

 

岸間は新一郎に赤面しながら、心ばかりのバレンタインチョコを差し出した。

 

 

「あ、ありがとう、ははっ…嬉しいなぁ~///」

 

 

「新一郎っ!!」

 

 

岸間からのチョコを新一郎が受け取った時、真霜がやってきた。

 

 

「こんなところでなに隊員とデレデレしてるのよ!!」

 

 

「はっ!?俺がデレデレしてるって?馬鹿言え、女性からの贈り物を受け取っただけだ。何が悪い?」

 

 

二人は岸間が扱う哨戒艇に乗艇してもピリピリした雰囲気だった。互いに距離から離れ、背を向けながら景色を見ていた。

 

そして管理局に来て、新一郎は南方勝子本部長に初めて面会。

 

正式にライジングイーグルはブルーマーメイド、ホワイトドルフィンに続く第3の組織を創った。

 

 

 

 

ライジングイーグル、編入条件

 

 

1、航空機は戦争に使用不可の象徴として量産厳禁

 

 

2、パイロットと機体は最重要

 

 

3、編入の引き換えに部品を支給する事

 

 

だが、南方部長の視線からはどことなく新一郎と真霜の雰囲気は悪い状況であった。

 

 

 

「……あ、あの……沖田監督官の条件を受け入れますが……」

 

 

「えぇ、南方部長。我々イーグルがこの条件を正式に受け入れれば、あなた方の手となり足となり動きます!私は愛機と共に、マーメイド及びドルフィン艦を母艦として行動します。海に生き、海を守り、海を往く。そして、行方不明の同胞を探しに。では!」

 

 

「は…はい…」

 

 

新一郎は南方に対して海軍式の敬礼をして、管理局から退出。

 

再び哨戒艇に乗艇し、次の行き先は横須賀女子海洋学校へ向かった。

 

 

 

 

横須賀女子海洋学校ー

 

 

 

「新一郎!どこへ行くの!?」

 

 

「ん……俺は…学生艦を見学してくる。」

 

 

「じゃあ私も……っ!?」

 

 

真霜がバレンタインチョコを隠しながら近付いた時だった。

 

新一郎の目が変色して、真霜の身体は何処となく動くのを封じられた気分であった。

 

 

 

「…新一郎……」

 

 

 

学校、食堂ー

 

 

真霜はブルーマーメイドの先輩であり、海洋学校教官の古庄薫と相談した。

 

 

「…と、言うことなんです先輩…わたしは言い過ぎたのかしら……」

 

 

「そうなんだ…あなたは妬いていたのね…」

 

 

真霜は薫の言葉に頷いた。

 

 

するとー

 

 

「あなたが早く恋人にチョコを渡さないと、沖田さんは私が貰うわよ~♪」

 

 

「なっ…ちょっと先輩!?」

 

 

「あの人が飛行機のパイロットだけじゃなく、別世界で戦い抜いた歴戦の勇士として勇まく、魅力があるからね~///」

 

 

「…ぐぬぬ…先輩……」

 

 

薫は赤面になりながら、真霜に宣告した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、新一郎はチョコを口にしながら学校の整備ドッグで艦艇を見物しながら歩いていた。

 

 

「…武蔵、摩耶…」

 

 

あの地獄のフィリピン決戦で戦没した艦艇を眺めた。

 

 

「沖田さん!」

 

 

「…ん…岸間さんか」

 

 

「ライジングイーグルの整備局の正式加盟、おめでとうございます」

 

 

「あぁ…ありがとう」

 

 

岸間は新一郎たち航空機部隊が正式に加盟したことを祝辞した。

 

 

「あの、沖田さん///……わたしをあなたの花嫁候補になってもいいですか…?///」

 

 

「なっ…///」

 

 

「飛行機の興味はもちろん、わたしは沖田さんと会ってからその…胸が…///」

 

 

岸間の言葉を聞いて、新一郎は基地に帰投するまで口を開かなかった。

 

横須賀基地に帰投し、ウィリアム、トムのペアはカタリナの夜間哨戒に出動。零観は幸吉、トチローにより整備を受けた。

 

シャルロットは医療に熱心で、キャサリンは子守りをしながら食堂で調理していた。

 

新一郎は基地にいても任務がなかった為、宗谷家に戻り、自身の部屋から横須賀の夜空を眺めた。

 

 

「はぁ~…トチコさん…洋介…進次郎…十三…俺は…何の為に、この世界に来たんだろ……」

 

 

「新一郎~いる?」

 

 

新一郎がかつての戦友と弟を呟いている時、部屋の扉をノックして真霜が入室した。

 

 

「…真霜か……」

 

 

「新一郎…あの…基地であんな事言って…ごめんなさい…」

 

 

真霜は基地での出来事に謝罪した。

 

 

「いいんだ、…俺も…その…君を睨んでごめん…俺は戦場で勇敢なパイロットと言えども、今まで女性と付き合ったことのないヘボな男だ…」

 

 

新一郎は頬を掻きながら謝罪した。するとー

 

 

「これ、私からのバレンタインチョコ。貰ってくれますか?」

 

 

「真霜、ありがとう…///では頂きます♪…ん…美味しい~♪」

 

 

新一郎は真霜からのバレンタインチョコを受け取って、美味しく食べた。

 

だがー

 

「うぐっ……あがが…身体が……これ…は………」

 

 

チョコを食した新一郎の身体に睡魔が襲い、頭数を押さえながらベッドに倒れた。

 

 

「フフフ…如何やら効いてきたみたいね!」

 

 

目の前の真霜が突然、とんでもない事を口走った。

 

 

「き、効いてきた?…チョコに…何を入れたんだ!?」

 

 

新一郎としては、真霜が何を言っているのか理解できなかった。

 

 

「フフ…さっき、貴方が食べたチョコ!…その中に薬を入れたのよ!」

 

 

チョコの中に入っていたのは、媚薬惚れ薬であった。

 

 

「薬?…何でそんな毒物を入れたんだ!!」

 

 

 

新一郎は、何で媚薬を入れたのか、真霜に問う。 

 

 

「毒物とは失礼ね~決まっているじゃない!」

 

 

何と真霜は、新一郎と快楽をしようと企んでいたのだ。

 

 

「だ、抱く!?」

 

 

真霜の発言に思わず驚愕する。

 

 

「な…何…ふざけた事…言ってるんだ!?」

 

 

「ふざけて何もしてないわ!!私は、本当に貴方の事が好きなの!!」

 

 

「えっ…嘘だろ!?」

 

真霜が自分の事が好きだと聞き、新一郎は、つい冗談かと思ったが

 

 

「嘘じゃないわ!…もう、この気持ちが抑えられないの!///」

 

 

既に真霜の心は、新一郎がこの世界に来た時から好きで一杯になっていた。

 

 

真霜は、新一郎ににじり寄る。

 

 

「ふ、ふざけるな!!…俺は、君を抱く気は…く、くるな!」

 

 

薬で動けないとは言え、新一郎は、必死で拒む。

 

 

「抵抗しても無駄よ!」

 

 

だが、新一郎の抵抗も空しく、真霜は、新一郎と唇を交わした。

 

 

『んっ‥‥ちゅっ‥‥んむっ‥‥ちゅっ‥‥んんっ‥‥ちゅっ‥‥んんっ‥‥ちゅっ‥‥んっ‥‥んむっ‥‥///』

 

 

長い口付けをして、離れた時にお互いの口から唾液が糸となって、2人の唇の間に引かれた。

 

 

次の瞬間

 

 

「きゃっ!?」  

 

 

新一郎は、真霜をベットへと押し倒す。

 

 

「し、新一郎?」 

 

 

いきなりベットに押し倒された真霜は驚いた顔で新一郎を見る。 

 

「うう…仕返しだ!///」 

 

真霜を見た新一郎は唖然とした顔で、真霜を見降ろしていた。 

 

 

「はっ!?んちゅっ///」

 

 

真霜の目の前で、新一郎はキスを交わした。

 

 

その長い夜、真霜は、途端にけたたましい叫び声を上げて一気に絶頂する。

 

新一郎は、真霜がどれだけ悶えていようと構わず責め立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、夜が明けた。新一郎はベッドから目覚めると

 

 

「ふぁ~もう朝か?」

 

 

新一郎は目を覚まし、大あくびをしながら起きる。

 

 

「(ああ、酷い夢だった…雅か俺が真霜を犯すなんて…変な夢を見たもんだ!…あんなのは、ヘルブックだけで充分…)」

 

 

新一郎は、昨日、自分が真霜を犯した出来事が全部夢だと思っていた。

 

 

「(いや待てよ!…夢にしては現実過ぎる?…そもそも何で俺は裸なんだ?…もしかして!?)」 

 

 

新一郎は、恐る恐る毛布を捲ると、そこには、幸せそうに眠る真霜の姿があった。

 

 

「はっ!?」

 

 

それを見た瞬間、新一郎の顔は、真っ白になった。

 

 

「(夢じゃない!?…俺は、何て事をしたんだ!?ヘルブックみたいにやってしまった…んだ…)」

 

 

いくら真霜が自分を求めて迫って来たとはいえ、それを抑えられなかった自分は、堆本能に従って、大切な宗谷家の長女を傷物にした。

 

新一郎は、真霜にしてしまった事をつくづく後悔する。

とは言うものの、このまま真霜を此処に置いておく訳にはいかない。

 

 

「おい、宗谷真霜監督官!!…朝だぞ!!‥‥起きろ!!」

 

 

新一郎は、真霜を起こそうと身体を揺する。

 

すると

 

 

「う…ん…もう朝?」

 

 

真霜が瞼をゆっくりと開けて、目を覚ます。

 

 

「お‥おはよう宗谷監督官殿!」

 

「お…おはよ…///」

 

 

新一郎と真霜は、互いに挨拶をする。

 

 

「しんいちろう~‥‥んっ!」

 

 

「んっ!?///」

 

 

真霜は、寝ぼけた様に新一郎に迫り、新一郎の唇を奪う。

 

 

「んっ…ん、うふふ~♪ご馳走様!」

 

 

 

新一郎と口付けしたら、一気に覚醒した様子の真霜。

 

 

「ああ…!?」

 

 

真霜にまたしても奪われた事に新一郎は困惑する。

 

 

その後、真霜はベッドから降り、床に散らばった下着と衣服を着る。

 

 

真霜は衣服を着用して、新一郎は小声で話し、真霜を横抱きして真霜の部屋に送り届けた。

 

 

「…新一郎……///」

 

 

「///真霜…ぐっ…///」

 

 

新一郎は赤面しながら自身の部屋に戻り、何もなかったかの様に朝食を済ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基地に出勤して、イーグルの書斎室にて書類整理をしているものの、新一郎は真霜との関係で上の空だった。

 

 

「…郎…新一郎っ!!」

 

 

「はっ、ウィル…みんな、どうしたんだ?」

 

 

ウィリアム、トム、幸吉、トチローの4人が彼の机の前に現れた。

 

 

「どうしたんじゃねぇってんだ、新一郎!万里小路工業から零観、カタリナの部品が届いたから書類に判を押せってんでぃ!」

 

 

「あぁっすまんすまん……」

 

 

「どうしたんですか沖田さん?朝からぼーっとしてますよ…」

 

 

トムは新一郎の事が心配になって尋ねた。

 

 

「いや、……さて、愛機の整備を……」

 

 

「ですが新一郎さん、宗谷校長が面会を求めています」

 

 

「な、なんだってーっ!?」

 

 

「「「「 ん…? 」」」」

 

 

「いや、…お通ししろ…」

 

 

「了解です!」

 

 

真霜の母親である宗谷真雪が面会を求めてきた。それを聞いた新一郎の鼓動が高鳴った。

 

あの昨晩、真霜との熱い一夜を過ごしたことで悩みに悩み、4人が書斎室から退室した後、新一郎は書斎に閉まっているホルスターから南部十四年式拳銃を抜き出し、頭部に突き付けた。

 

 

「(真霜を傷付けてしまった…詫びて自決を…進次郎、幸吉、トチローすまん。…洋介…十三……今そっちに……)」

 

 

引き金を絞ろうとした時ー

 

 

「失礼します」

 

 

「はっ!どうぞ…」

 

 

扉のノックと同時に彼は咄嗟に拳銃を閉め、真雪を入室させ、彼女をソファに座らせた。

 

 

「沖田さん、昨晩は学校関連で忙しく会えませんでしたが、ライジングイーグルが正式に海上安全整備局の編入、おめでとうございます」

 

 

真雪は新一郎の前でお辞儀をした。

 

 

「あ、いえいえ。真雪さんのおかげです。我々を、飛行機と、扱うパイロットを保護してくれた事を心より感謝します!」

 

 

新一郎も深々と真雪に礼をした。すると、真雪は話題を変えた。

 

 

「あなたたちはブルーマーメイド、ホワイトドルフィンに関する貴重な組織。いずれ、パイロットの教育する学校と教員が必要になります」

 

 

「…つまり、…我々イーグルの…飛行機のパイロットを育成とのことですか?」

 

 

真雪はソファから立ち上がり、窓からカタリナと零観を眺めた。

 

 

「先のザ・ドラゴン号事件の一件であなた方は秘匿したと言えども、飛行機の重要性が高まっています。横須賀、呉、佐世保、舞鶴の学校に並ぶ育成学校を築きたいのです」

 

 

新一郎は目を閉じて考えた。この世界に転移してから色々とお世話になっている。彼らはよそ者と言えども、新一郎と幸吉は宗谷家に居候したり、ウィリアムたちは横須賀基地の隊員寮で世話をしていた。

 

ザ・ドラゴン号の一件以来、ブルーマーメイドとホワイトドルフィンの要請で哨戒飛行や物資運搬を行ったり、さらに万里小路工業から部品を調達することができたのは全て宗谷の協力があったからこそだった。

 

 

「……わかりました。今の我々はまだ産声を挙げた小さな組織です。いずれ、あなた方が猫の手を借りる優れたパイロットを育成する学校を築きます」

 

 

「ありがとうございます。沖田さん」

 

 

「いえ、私は今でも一宿一飯の恩義があります。土佐出身の意地と仁義です!」

 

 

「真雪さん、ようこそおいでに~♪新一郎さん、お疲れ様です♪」

 

 

その時、キャサリンが紅茶を持って書斎に入室。新一郎の言葉を聞いた真雪は微笑み、運命的な言葉を述べた。

 

 

「紅茶をありがとうキャサリンさん。それと沖田さん。私の娘、真霜を貰ってくれないかしら?」

 

 

「ぶはっ…っ!?なんですって…つまり…///」

 

 

彼女の一言で、新一郎は紅茶を吹きこぼした。

 

 

「ふふふ…沖田さんの嫁として貰って欲しいのです」

 

 

「…な…///」

 

 

「ウワアォ~♪新一郎さんと真霜さんが結婚を~♪」

 

 

新一郎は改めて驚愕して赤面、その言葉を聞いたキャサリンははしゃぎ、興奮した。だがー

 

 

「その話、お断りします…」

 

 

「なっ?」

 

 

「なんでですか?」

 

 

新一郎は身体が震えて歯噛みながら、理由を話した。

 

 

「…私は軍の航空部隊に入隊してから、国に命を捧げました。いつ、どんな任務でも死を覚悟して戦場で戦ってきました。今更、女性を貰う覚悟が…それに、身分が違い過ぎます。あなた方宗谷家は代々ブルーマーメイドの家系、私は高知の貧しい漁師村出身です。私が如何なる任務で死ねば、真霜さんが悲しみ、申し訳ありません…」

 

 

「新一郎さん、それはちょっと……」

 

 

キャサリンがフォローしようとした時、真雪に制止された。

 

 

「身分でもキャリアでも関係ありません。あなたがこの世界で初めての航空部隊の基礎を創った人間ならこそです。高知出身なら、坂本龍馬のように夜明けを変えてください」

 

 

坂本龍馬の名前を聞いてハッとした。

 

彼も高知出身で身分も下級武士。のちに脱藩して、お龍と結ばれ、新しい日本を創ったのだ。

 

 

「(…俺は龍馬と似た者同士かな…)あの…校長…真霜さんからの返事はありますか?」

 

 

「えぇ、あの娘の返事はOKよ。真霜からは新一郎以外の男性とは付き合いたくない、お母さんが私と新一郎の関係を引き裂くなら、宗谷の縁を切って駆け落ちしますと宣言したわ」

 

 

真霜は差し詰め、アンデルセンの童話に出てくる人魚姫みたいだった。

 

 

「…真雪さん、いえ…お義母さん、改めて真霜さんを嫁にください。必ずや彼女を、真霜さんを幸せにします」

 

 

新一郎は真雪の前でお辞儀をした。

 

 

「ありがとう、新一郎さん」

 

 

その言葉を聞いた真雪は微笑んだ。

 

 

その日の夕方、イーグルの隊員たちは一日の任務を終えた後、ブルーマーメイド行き着けの居酒屋『わかみや』にて、キャサリンはみんなに新一郎の出来事について報告した。

 

 

「「 おめでとう、新一郎おじちゃん! 」」

 

 

「いよっ、新一郎!おめぇやるなぁっ!」

 

 

「よかったですね、新一郎さん!」

 

 

「すごいですわね沖田さん♪」

 

 

「はっはっはっ!頑張れよ新一郎!」

 

 

「…あぁ…///…ありがとう…みんな…」

 

 

新一郎は一人一人の祝辞を受けて赤面。

 

だが彼はまだ、どことなく複雑そうな顔をしていた。

 

 

「…沖田さん、どうしたのですか…?」

 

 

「…トム……あの娘、真霜はまだ20代、俺は90過ぎのじじいだ。俺はこんな年の差でいいのか…別世界からきた俺が彼女の婿でいいのか…」

 

 

「新一郎は新一郎よ!」

 

 

「…!?」

 

 

新一郎たちの背後に真霜と真冬、平賀と福内、岸間のブルーマーメイド主要幹部一行が居酒屋に入店した。

 

 

「聞きましたよ沖田さん!あなたが宗谷監督官の婿になると」

 

 

「宗谷監督官はいいなぁ~、私も沖田さんを狙っていたのに!」

 

 

「え〜倫ちゃんも!わたしも沖田さんを狙っていたのよ~」

 

 

「倫ちゃん、典ちゃん、わたしもよ~…」

 

 

平賀、福内、岸間がぼやいている時だった。

 

 

「お前ら~、これ以上ぼやいていると、あたしが根性を注に…」

 

 

  カキイィン

 

 

真冬が根性注入という名の尻を揉もうとした時、彼女の目に火花が散った。原因はスパナを持ったトチローだった。

 

 

「バッキャロー!こんな破廉恥な行動は、海賊か強盗相手にしろってんだ!!べらぼうめぇ~!!」

 

 

「痛てぇ~…トチローさんよぉ…スパナで頭を殴ることはないだろ~」

 

 

真冬は頭を摩りながら涙目で訴えた。

 

 

「へっ、帝国海軍による真の根性注入をしようか~?」

 

 

「ひっ…」

 

 

真冬はスパナを所持したトチローの言葉で青ざめた。

 

この場にいた平賀たちから見れば、トチローは救世主に見え、酒場から笑いが溢れた。

 

 

「ふふふ~♪新一郎、よろしくね」

 

 

「…あぁ…真霜…///」

 

 

 

居酒屋『わかみや』にて、ライジングイーグルのパイロットと関係者と、ブルーマーメイドの人形たちは閉店時刻まで騒ぎ、宴会を行っていた。

 

 

 

 

 

 

 



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第10話 鷲vs黒人魚

 

 

 

 

八丈島にて黒いインディペンデンス級。宗谷真冬が艦長を務めるBPF10「べんてん」が沖合いで航行。

 

上空にはウィリアムとトムが扱うPBY-5カタリナ。新一郎と幸吉が扱う零式水上観測機が飛行していた。

 

 

「編隊を解け、攻撃訓練開始!新一郎、幸吉!任せた!」

 

 

「『了解!!』」

 

 

二機は編隊を解き、それぞれの進路へ向かい、低空飛行へ移った。

 

 

「真冬艦長!9時報告にカタリナがのんびり上空で飛行して来ます!!」

 

 

「14時方向にも、零観が低空飛行で向かってきます!!」

 

 

「だから何だと言うんだ、飛行機の攻撃に何ができる!ブルーマーメイドたる者が!我らの行けぬ海はなし!…素早く~そして確実に…徹底的にやれ!!」

 

 

準備する中、真冬は、彼らを激励する。

 

 

『ウッス!』

 

 

自信に満ちた真冬が言い放ち、乗員の士気を向上させた。

 

なぜ、この訓練が始まったのか。

 

 

原因は3日前、ブルーマーメイド横須賀基地 

 

 

医師を目指すシャルロットは、平賀と福内と食堂に歩いていった。

 

 

「シャルちゃんもこの世界の日本に馴染んできなね~」

 

 

「はい、わたくしも戦争が終結したら、友人たちと日本に行く約束をしてました」

 

 

「へぇ~、ねぇその友人はどうしているの…?」

 

 

「……………………」

 

 

福内の言葉で、シャルロットは沈黙した

 

 

「…二人はベルリンで…一人は、シンガポール上空で…」

 

 

「あ……」

 

 

「ご、ごめんなさい……気の毒なことを…」

 

 

シャルロットは敵味方問わず友人がいたが、敵のニ人の友人はドイツ軍の戦車兵としてベルリン攻防戦で戦死。

 

一人はアメリカ陸軍の戦闘機パイロット、シンガポール上空で戦死した。

 

福内は気まずいことを述べたことに謝罪した。

 

 

「いえ、お気をなさらずに。わたくしは友人の分もやり遂げなければなりません…きゃっ!?///」

 

 

「おぉっなかなかいい尻してんじゃねぇか」

 

 

突如シャルロットは悲鳴を上げた。その正体はべんてんの艦長、宗谷真冬であった。            

 

 

「ななな...!///」

 

 

「あっ真冬姐さん、お疲れさまです!」

 

 

「もうっ、また人のお尻を……」

 

 

真冬が平然とシャルロットの尻を揉んでいる時、平賀と福内は平然と挨拶をしていた。

 

 

「…な…なにをなさるのですか!?///」

 

 

「ブルーマーメイドになる為の根性注入だ!」

 

 

「キメ顔で何トンチンカンなことを言ってるんですか。……そもそもシャルロットさんはイーグルのメンバーですよ…」

 

 

「…ひっ…」

 

 

シャルロットが涙目を浮かばした時だった。

 

 

「こらーっ!!真冬~!!」

 

 

「おい、お前は何て破廉恥な趣味なんだジャップの女!」

 

 

シャルロットの悲鳴でウィルと新一郎が駆けつけにきた。

 

 

「はっはっはっ!!これはあたしのトレードなやり方だ!」

 

 

「…ぐぬぬ……」

 

 

真冬の蒼然とした顔で笑い、ウィリアムは怒り気味ながら、腰に装備してあるホルスターに手を掛けて、拳銃を取ろうとした時に新一郎は彼らを押さえた。

 

 

「落ち着け…ウィリアム!」

 

 

「止めるな新一郎〜!シャルは従軍看護師で私の大事な仲間に手を出すのは許さんぞぉ~」

 

 

その場にいた平賀が押さえつけながらなだめさせた。

 

 

「ウィルさん、…そうだ!なら模擬戦闘をしませんか?」

 

 

「模擬戦闘!?」

 

 

「はい、勝てばそれなりの権限があります!ウィルさんと真冬姐さんはどうですか?」

 

 

「ん…わかった……真冬よ、我々が勝ったら、二度とイーグルの尻をさわるな!!」

 

 

「ふっ、いいだろう!アタシらが勝てば、あんたらの零観と新一郎をべんてんの搭載機と専属パイロットとして貰うぜ!」

 

 

「いいだろう!」

 

 

「こらっウィル、俺たちと愛機を黒人魚に売るな!!」

 

 

どこかずれている場面がある中、模擬訓練前夜まで両者は作戦会議に打ち込んだ。

 

 

べんてん ー

 

 

「いいか、連中は上空から爆弾と魚雷をぶち込んでくるだろう!だが、鷲と言えども積載に限りがある。今までの戦闘経験と根性があれば回避して当たらずに済む!この訓練で勝ち、奴らの飛行機とパイロットを入手するぞ!!」

 

 

「「「 おす!! 」」」

 

 

真冬とべんてんの乗務員は訓練に備えて士気が向上。

 

 

 

 

 

ライジングイーグル、格納庫ー

 

 

「おーい、トチロー!カタリナの調子はどうだい!?」

 

 

「あたぼうよウィル!!この通り100%大丈夫だってんでぃ!あとで模擬爆弾の装備するために手を貸してくれ!!」

 

 

「あぁ、わかった!」

 

 

「ウィル!」

 

 

ウィリアムの背後から新一郎が赴いた。

 

 

「ん…?新一郎…」

 

 

「お前は、対艦艇戦闘の経験はあるのか…?」

 

 

「まぁ、ほとんど後方支援の輸送任務だが、ん…一度、潜水艦への爆雷攻撃くらい…」

 

 

「…そ…そうか…」

 

 

「新一郎はあるんか?」

 

 

「そうだな…ソロモン諸島で魚雷艇、本土近海で潜水艦を狩っていたな…」

 

 

 

ウィリアムと新一郎、互いに対艦艇戦闘の経験は無いに等しかった。

 

 

イーグルのメンバーは模擬戦闘の当日までの間、カタリナと零観を八丈島に移動させた。

 

 

 

 

八丈島沖 ー 

 

 

 

「指揮官と整備員の全員が作戦を理解し、どんな不測の事態が起こっても瞬時に修正する判断を持たせなければ勝利はない!」

 

 

 

その言葉で、ライジングイーグルカタリナと零観はパイロットの腕による射撃、電信員の正確な情報と飛行、速度。

 

爆撃と魚雷のタイミングの猛訓練を繰り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時刻を当日に戻し、鷲対黒人魚の模擬戦闘訓練が始まった。

 

 

PBY-5カタリナ 外武装mk.13魚雷 2(模擬)

 

 

零式水上観測機 外武装 30キロ爆弾 2 (模擬)

 

 

7.7ミリ機銃弾 7.62ミリ機銃弾 12.7ミリ機銃弾 (ペイント弾)

 

 

べんてん 速射砲 バルカン砲 (ペイント弾)

 

 

 

装備した機体と艦艇が八丈島の海と空を航行していた。

 

 

 

 

 

 

べんてんー

 

 

 

「艦長!敵機の零観が本艦右舷に向かって飛来!!」

 

 

「よしっ!奴の射角に合わせてバルカン砲で射撃開始!!」

 

 

「了解!!」

 

 

「おっと、狙うのは海面を撃って進路を阻ませろ!!」

 

 

「おす!!」

 

 

真冬は新一郎たちの出どころを見計らい、右舷の二門のバルカン砲で射撃を行った。

 

 

 

零観ー

 

 

 

「新一郎さん!べんてんのバルカン砲が撃ってきました!!」

 

 

「へっ!考えやがったな!べんてんの侵入を拒ませるために海面を狙ってきやがった!!幸吉、出番だ!!」

 

 

「了解!!」

 

 

幸吉は後部座席から立ち上がり、折り畳み式のクロスボウを取り出し、矢(ペイント装備)を備えて構えた。

 

 

「進路よし、風よし、角度よし、食らえ!!」

 

 

水しぶきが弾ける中で幸吉は矢を放ち、曲射を描く様に前部のバルカン砲に命中、バルカン砲はペイントに染り、使用不能。

 

新一郎もスロットルレバーの引き金を絞り機銃を発砲、バルカン砲をペイントで被弾、使用不能にさせた。

 

 

「バルカン砲、被弾!!」

 

 

「畜生、小癪な真似を!!」

 

 

零観がべんてんの真上を通過したすぐに左舷側の幾つかのバルカン砲に矢が刺さり、使用不能になった。

 

 

カタリナー

 

 

「機長!零観の沖田、幸吉ペアの報告です。敵艦の対空兵器を排除されたし!」

 

 

「やったか、新一郎!」

 

 

「ウィル機長、止めを…」

 

 

トムがウィルに止めを刺すことを進言しながら爆弾投下の照準器を準備したが、零観がカタリナが飛行する高度まで上昇、シャルロットは静止した。

 

 

「ちょっと待ってください。幸吉さんから連絡です!」

 

 

シャルロットは機内の無線スピーカーを流した。

 

 

「『べんてんの速射砲とスクリューの攻撃を許可されたし!』」

 

 

「OK!スクリューを足止めすれば、命中率が100%だ!」

 

 

短期の訓練で、カタリナはデコイ相手に魚雷を使用しても外してばかりであった。

 

 

そして、零観がべんてんの後部甲板に向けて急降下を開始。

 

 

 

べんてん ー

 

 

「艦長、零観が急降下!後部甲板に接近!回避行動を!!」

 

 

「落ち着け!奴らが爆弾を落とすまで我慢しろ!」

 

 

「バルカンで対空戦闘!!」

 

べんてんは全てのバルカン砲を立ち上げ、零観に向けて射撃を開始。

 

 

「用意、投下ぁ!!」

 

 

零観はバルカンの弾幕をすり抜け、照準を後部甲板に捉え、たった二発しかない3番爆弾を投下した。

 

 

「艦長、爆弾を投下しました!!」

 

 

「今だ、取り舵いっぱーい!!」

 

 

「『取り舵いっぱーい!!』」

 

 

真冬の指示で、べんてんは取り舵に航行。

 

爆弾は本艦の右舷側に落下した。至近弾で衝撃を受けつつ、回避に成功した。

 

 

「艦長!回避成功!」

 

 

「うはははは〜!!新一郎の下手くそめ!!こっちは対艦戦闘の回避には馴れているんだ!ざまぁ見ろ~!!」

 

 

真冬は左舷の見張り台から、零観に向け舌を出してベロついて小馬鹿していた時々、零観が瞬時に背面に飛行、幸吉が弓で矢を放ち、速射砲を居抜き、使用不能に陥らせた。

 

 

「畜生~!!速射砲が……」

 

 

「再度、零観が接近!!」

 

 

  ダダダダダダ

 

 

「機銃発砲、伏せろ~!!」

 

 

零観は機首の7.7ミリ機銃を発砲、べんてん艦橋の舷窓を掃射した。

 

 

「艦長!!艦橋が被弾~!!」

 

 

「落ち着け、機銃で被弾しただけだ…と…擬弾と言え、舷窓が一面ペイントで前が見えねぇな…」

 

 

「艦長、カタリナが低空飛行で接近!!」

 

 

「しまった!!」

 

 

新一郎、幸吉は自ら囮に出て真冬のべんてん上空を翻弄しながら飛行。

 

その隙に、大型機のカタリナを低空飛行に移動させる準備をした。

 

 

「なにっ!?(しまった…新一郎の零観に気を摂られてしまったか…)速射砲で応戦!」

 

 

「速射砲が使用不能!!」

 

 

「こちらの操舵不能!」

 

 

先程の至近弾で爆弾が水中で爆発した衝撃で、舵が変形した。

 

報告を聞いた真冬は苦渋、これ以上べんてん乗員の士気低下を阻止せねばならなかった。そして、判断した。

 

 

「ぐぬぬ……武器庫から機関銃と小銃、拳銃を持ってこい!」

 

 

「艦長!それでは飛行機を落とすことが…」

 

 

「威嚇だけでもいい!弾幕を張れ!!」

 

 

「「「 ウッス!! 」」」

 

 

真冬の指示により、べんてん乗員は武器庫からありったけの銃器を倉庫から取り出し、カタリナに向けて発砲した。

 

 

 

カタリナー

 

 

 

「おぉ~!やたら撃って、弾幕を張ってますよ機長!」

 

 

「例え機銃で撃ってきても、カタリナは防弾が優れている。シャルロット、機首の機銃座で発砲、脅してこい!」

 

 

「了解です!」

 

 

シャルロットはカタリナの機首の機銃座に移動、べんてんに向けて発砲。

 

だが、彼女はあくまで医者の卵であり、例え訓練でも人員を当てず、極力海面や艦壁を当てていた。

 

 

カタリナを扱うウィルは巧みな操縦、低空飛行で、べんてんの航行する未来位置を掴み、トムは魚雷発射スイッチを手に、機長ウィルの合図を待った。

 

 

「機長、発射を!」

 

 

「まだだ、肉薄に接近してからだ!!」

 

 

副長のトムは焦りつつ、ウィルは計算しながら、敵艦べんてんの速力と愛機の速度を図った。

 

 

「用意……発射!!」

 

 

「了解!!」 ガチッ  バシュッ

 

 

ウィルの合図でトムは発射スイッチを作動、カタリナの両翼の魚雷が海に落下、べんてんに向けて水中を走った。

 

 

べんてんー

 

 

「艦長!!敵機が魚雷を発射、接近してます!!」

 

 

「魚雷を撃て、回避を!!」

 

 

「間に合いません!!」

 

 

「衝撃に備えっ!!」

 

 

真冬たち乗員は艦内にしがみつき、衝撃に備えた時ー

 

 

     ドカアアァン

 

 

上空の無人飛行船のカメラが確認、べんてんの左舷に魚雷が命中。試合は決した。

 

 

「これは…凄い…」

 

 

「…これが…飛行機と艦艇の対決場面…」

 

 

「…凄まじいですね…宗谷監督官…」

 

 

「えぇ……『訓練終了!!』」

 

 

モニターで看ていた平賀と福内は息を飲んだ、そして監督官の真霜は終了の合図を宣告。

 

 

宣告を聞いた。新一郎、幸吉ペアの零観。シャルロットとトム、ウィルは八丈島の神奏港に寄港した。

 

 

神奏港 ー

 

 

 

「カタリナの皆さん、お疲れさまです~!」

 

 

「ウィル、トム、シャルロット!敵艦べんてんの魚雷命中は流石だったな!!」

 

 

幸吉は労い、新一郎は激励した。

 

 

「そんな事ないさ、君たちが囮になってくれた事と、カタリナメンバーのトムとシャルのおかげだ!」

 

 

「だけど、機長の巧みな操縦と合図のおかげですよ!」

 

 

「そうですわよ。わたくし達のチームワークが良かったから勝てたのですのよ~」

 

 

「おいおい、整備を手掛けたおれっちも忘れるなべらぼうめ!」

 

 

「あぁ、そうだったな~!「「「 ははははは!! 」」」」

 

 

ウィル、トム、シャル。そしてトチローが互いに褒め称え、イーグル全員が笑いあった。

 

 

すると、黒人魚。べんてん艦長の宗谷真冬自らがイーグルの元に赴いた。

 

 

「あんたたち、凄げぇな!この勝負、あたしたちの負けだ!だが、新一郎の零観は諦めないからな!!」

 

 

真冬は自らの勝負の負けを認めたが、新一郎の零観を諦めないことを宣告した。

 

 

「全く…真冬よ、君が諦めないことは認めるが、べんてんが零観の専用機に関しては保留だ!」

 

 

「それと、もう二度とイーグル関係者の尻をもて遊ぶなよっ!!」

 

 

「…はいはい……」

 

 

「返事は一回!!」

 

 

ウィリアムと新一郎の返答で、真冬はしぶしぶな返事で約束したが、心の中で呆れつたあった。

 

 

 

 

数日後、横須賀基地。

 

 

 

「はぁ~今から午後の時間が始まる~」

 

 

「キャサリンさん、夕食の献立は何ですか?」

 

 

「そうねぇ~スタミナを整えるため、アメリカンビーフと日本の……」

 

 

施設内で平賀と福内、ウィルの妻キャサリンは路上で歩いてる時ー

 

 

「キャサリン、隙あり~…い…」

 

 

「あ~ら真冬さん、勤務サボって、女性の尻をもて遊んでるんですか~?」

 

 

キャサリンは咄嗟に、懐からSAA拳銃をホルスターから抜き、真冬の額に銃身を突きつけた。

 

 

「あ…き…キャサリン……この拳銃は…?」

 

 

「言ってなかったかしら〜?あたしはテキサス出身のカウガールですよ♪もし、誰かの触ったら、真冬さんの額に風穴開けますから~♪」

 

 

春間近な季節に、真冬は久しぶりに冷や汗を掻いた。

 

その後、横須賀基地にて真冬の行動が過剰過ぎる時、しばしキャサリンにロープ、鞭捌きにより、止められるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第11話 イーグルたちの休息

 

 

 

「パパ~!ママ~!」

 

 

「こっちこっち~!」

 

「走ると転ぶわよ~!」

 

 

横須賀、主人のウィリアム・スパロウが久しぶりに休暇を取り、妻のキャサリンと双子のエマとエミリーの一家水入らずで諏訪大社に向かって階段を登っていた。

 

 

「はぁ~着いた~」

 

 

「これが諏訪大社…」

 

 

ウィルとキャサリンは財布から小銭を取り出して賽銭箱に入れて、鐘楼を鳴らし、手を合わせて祈り詣った。

 

 

「しかしながら、…この異世界の未来に来てから、この生活に馴れたな」

 

 

「えぇ、ハワイの暮らしも良かったけど、この世界の日本も暮らしと生活しやすいわよ~♪」

 

 

「あぁ、そうだな……♪」

 

 

キャサリンたちにとって、あの戦時に比べれば配給も灯火管制もせずに済んだ。

 

ショッピングにしても品揃えも豊富、そして、便利なスマートフォンを常に所持しているのであった。

 

 

「便利なのはいいが、この子供たちの学校はどうするんだ?」

 

 

そう言って、ウィルは双子の愛娘の頭を撫でた。

 

本来、エマとエミリーは青人魚の世界に来る前の9月、小学校に入学する予定だったが、神の悪戯で転移してしまった。

 

そう心配しながら妻のキャサリンに相談した。

 

 

「ふふふ~♪このあいだ真雪さんと相談して、春から横須賀の国際小学校へ入学する手続きをしてくれるからって!」

 

 

「そうか!そう安心したな~♪キャサリン、エマ、エミリー!あの戦時でみんなと離れた分、幸せな家庭を築くぞ!」

 

 

「…うん…ウィル」

 

 

「「 パパ 」」

 

 

ウィルは安心した笑顔で、キャサリンとエマとエミリーを抱きしめた。

 

 

「あのアメリカ人の家族、幸せそうだなぁ~」

 

 

「あの家族の男性の制服…軍人かな~?」

 

 

巫女姿で、神社の路上を箒で掃いていた八木鶫と、後方で応援していた宇田彗はウィルの家族を微笑ましく見ていた。

 

すると、ウィルたちは神社の売店にやって来た。

 

 

「へぇ~巫女さんか、ハワイで見たことがあるが、やっぱ本場は違うな~」 

 

 

「「 ねぇねぇ、巫女のお姉ちゃん!綺麗だね~! 」」

 

 

「あら、ありがとう~♪お礼に御守りをどうぞ♪」

 

 

鶫はエマとエミリーに誉められ、お礼に神社の御守りを譲った。

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

「あぁ、こちらこそ♪この愛娘に」

 

 

「あの、アメリカの軍人さんですよね?」

 

 

「ん、そうですが?」

 

 

「何しにこの横須賀へ?ブルーマーメイドに関しての任務ですか?」

 

 

「まぁね、だけど君たちは横須賀女子海洋学校の入学生徒であっても機密だ」

 

 

「「 !? 」」

 

 

鶫と彗は驚いた顔で驚愕した。なぜ、アメリカの軍人が自身が横須賀女子海洋学校に入学する生徒なのか。

 

しかし、何度かアメリカの軍人を目撃した彼女たちも、どことなく違うオーラを感じた。

 

 

「あの、なんでわたしたちが横須賀女子の入学予定の生徒なのを知っているのですか?」

 

 

「匂いだな。僕はアメリカ海軍少佐、ウィリアム・J・スパロウです」

 

 

「わたしは八木鶫です」

 

 

「あの…、宇田彗です」

 

 

「ふふふ、あたしはウィルの妻のキャサリンです」

 

 

「わたしはエマで~す」

 

 

「エミリーです!パパはひこうきのパイロット~!」

 

 

「「 …え……? 」」

 

 

「おっと、…君たちの名前、覚えておく。また、いつか会おう!」

 

 

鶫と彗も互いに自己紹介を行った。

 

 

だが、ウィルはエミリーの口を塞ぎ、笑みを浮かべながら諏訪大社から去った。

 

 

「なんだか…不思議な家族だったね…流暢な日本語を話していたね鶫ちゃん」

 

 

「…うん…だけど、あの娘が言っていたひこうきって…なんだろう…?」

 

 

「…さぁ…?」

 

 

エミリーの言葉で二人は首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

トム・K・五十嵐とシャルロット・F・トライン、金城幸吉は休暇を取り、ブルーマーメイド使用のパジェロを運転する秋山敏郎は横須賀市街を走行していた。

 

 

 

 

横須賀、ショッピングモール

 

 

 

 

「おめぇら!楽しく出歩いてこい!」

 

 

「トチローさんも、お気をつけて!」

 

 

「あたぼうよ、じゃあっ!」

 

 

トチローと別れたトムとシャルロット、幸吉はショッピングモールでふらついた。

 

食事処で名物の横須賀バーガー、お茶やデザートを食事。ブランドの衣服店で試着。ある時は映画を観賞した。

 

 

「あのバーガーはヒンナだった~♪」

 

 

「あの上着よかったな~!」

 

 

トムと幸吉は階級を抜き、出会った時から仲が良く、互いに肩を組みながら眼と口にした物を語った。その光景を見たシャルロットは微笑ましかった。

 

 

「うふふ~♪あなたたち、子供みたいにはしゃいでますわねぇ~♪」

 

 

「おいおいシャルロット、君だってさっき観賞した映画に嵌まっていたじゃないか!」

 

 

「そうそう、仁義ない任侠で目つきと声マネはヤクザみたいだったぞぉ~!」

 

 

「そ、それはわ、忘れてくださいまし~……///」

 

 

「「 ははははは~! 」」

 

 

彼女は恥ずかしく赤面、二人は笑いながら次のスキッパー店舗に足を運んだ。

 

トムたちは、もて余りの時間でブルーマーメイドの平賀たちからスキッパーの操作教習を受けていた。ついこの間、三人はスキッパー免許を獲得した。

 

 

 

スキッパー 販売所

 

 

 

「はぁ~…ブルーマーの専用と違い、色んな種類のスキッパーがあるな~」

 

 

「しかも、民間用であっても値段が高い…」

 

 

「二人に同感ぞな~…」

 

 

「「 ぞな? 」」

 

 

変な語尾を聞いたトムと幸吉は首を振り向くと、サイドテールの少女がスキッパーを目にしていた。

 

 

「あっ、これは失礼したぞな~」

 

 

「いやいや…」

 

 

「ん…?君は…あの時の受験生か!?」

 

 

駿河留奈が海に飛び込んだ時、スキッパーで走って、トムと幸吉が留奈を救助した時に協力した少女、勝田聡子であった。

 

 

「あ〜あの時の警備員さん。あれはお疲れ様ぞな~」

 

 

「いや、感謝するのは我々の方だ。ありがとう!君の協力がなければ、アウトだったよ」

 

 

「お二人さま、この娘とお知り合いですの?」

 

 

二人はシャルロットに勝田聡子のことを説明した。

 

あの受験結果の当日、瑠奈が海に飛び込んだ時、たまたまスキッパーで走行していた彼女の手を貸してもらった事を語った。

 

 

「なるほど…しかし、勝田さんもスキッパーを扱えられるとは…いつから習ってましたの?」

 

 

「中学生の頃ぞな」

 

 

「へぇ~…そうなんだ」

 

 

「おらたちの飛行学校と変わらない年齢でか…」

 

 

「え…?ひこう…?」

 

 

聡子は幸吉の言葉に頭を傾げた。

 

 

「ほらほら、お二人さま。わたくしたちは海洋安全整備局のスキッパーがありますゆえ、では…」

 

 

「海洋安全整備局!?…あんたらは一体…?」

 

 

シャルロットはトムと幸吉の腕を掴み、この場を去った。

 

聡子は三人の職務が海洋安全整備所属の人材に驚き、詳しく聞こうにも販売所を去って行った。

 

 

時間を遡り、横須賀港を一望できる丘に登ったトチローはお茶を飲んで一服していた。

 

 

「平和だ…時代と世界は違えど、景色は俺っちの横須賀だな~ん…?」

 

 

トチローはある二人の少女のペアを目にした。

 

一人は画用紙とペンで何かを描き、もう一人は暇をもて余し、帆船模型を造っていた。

 

 

「えーと、これはここで…ん…百々どんなキャラクターを書いているの?」

 

 

姫萌は百々が描いているイラストを訪ねて聞いた。

 

 

「それはッスね、あの丘の風に当たっているおじさんを書いているッス…あれ?どこに…?」

 

 

「誰がおじさんでぃ〜!俺っちはまだ25歳でぃ~!」

 

 

「「あ…それは…その…」」

 

 

姫萌と百々の前にトチローが赴いた。百々がモデルに描いているトチローの前で二人は冷や汗を掻いた。

 

 

「……俺っちが漫画の人物になるなら許す。俺っちは秋山敏郎。トチローと呼んでも構わんでぃ!」

 

 

「私は青木百々ッス!」

 

 

「私は和住姫萌です」

 

 

トチローは姫萌と百々と互いに自己紹介。姫萌はあることが気になった。

 

 

「えっと…トチローさんはなんでそんな江戸っ子の口調なの…?」

 

 

「あぁ、俺っちは横須賀出身。親父は江戸の佃島出身だってんでぃ。つい、この口調を受け継いだってんでい!」

 

 

「へぇ〜!なら、わたしと同じだ。両親の実家が神田なんだ♪」

 

 

「そうなんだ、別の意味で遭遇したなぁ~♪しかし、帆船の模型造りに関して上手いな~」

 

 

「ありがとう!わたしと百々は、春から横須賀女子海洋学校に入学することが決まったから」

 

 

「そうッスよ~♪私もこの広い海で世界を見たいッス~♪」

 

 

「そうか!」

 

 

トチローは二人の趣味を褒めながら空を見上げた。

 

 

「なぁ二人とも、海の景色もいいが、空からの景色を見たことはあるか?」

 

 

「「 え…空…? 」」

 

 

姫萌と百々はトチローの言葉で戸惑った。

 

 

「トチローさん、空飛ぶ気球と飛行船は人が乗れないよ…そんな夢見たいことは、百々のイラストに描いて貰いなさい~」

 

 

「トチローさん、どんな形の物ッスかぁ~?」

 

 

二人の言葉でトチローはやや戸惑いながら、公園の時計を確認した。

 

 

「……おっと、こんな時間か。すまんが姫萌ちゃん、百々ちゃん。俺っちは知り合いと、横須賀基地へ戻らんといかん。じゃあなぁ~♪」

 

 

「横須賀基地?ブルーマーメイドの拠点ッスよぉ~!」

 

 

「トチローさん、あんたは何者なの!?」

 

 

「俺っちは基地の専属整備士ってんでい、嬢ちゃんたちが入学したら、自慢の整備機体を見せる。あばよ!」

 

 

トチローはブルーマーメイド仕様のパジェロに乗車。幸吉とトムは、シャルロットを迎えに出発した。

 

 

「あの人がブルーマーメイドの関係者…」

 

 

「…でも、あの人の整備している機体が気になるッス…」

 

 

公園に残った姫萌と百々はベンチで唖然としつつ、トチローの整備する機体が気になった。

 

トチローは横須賀のショッピングモールで三人と合流、ブルーマーメイド基地へ帰投した。

 

 

 

 

その頃、沖田新一郎はライジングイーグル執務室の接待ソファーで居眠りをしていた。

 

連日の夜間哨戒飛行やトチローとの機体整備。海洋安全管理局本部で黒潮と虹川の口喧嘩などの疲れが貯まっていた。

 

 

「…新一郎……あっ…」

 

 

「…スー…スー……」

 

 

ブルーマーメイドの監督官、宗谷真霜が執務室に入室。新一郎が眠っているところを視認、ゆっくり彼の元に近づいた。

 

 

「…夜間飛行、お疲れ様。新一郎……ちゅっ」

 

 

真霜は新一郎の頬に唇を寄せた。するとー

 

 

「ん…?…真霜か…」

 

 

「あっ…新一郎///お目覚めかしら…///」

 

 

「あぁ~よく寝た~…」

 

 

「最近、忙しいのね…」

 

 

「あぁ、本土近海で厄介なのが、武器や弾薬などの密輸だ…」

 

 

最近、新一郎と幸吉は、本土近海の哨戒飛行で海上の治安の悪化が激減しているにも関わらず、密輸を取り締まっていた。

 

新一郎は武器を販売する闇ルートを探っているため、常に目を光らせ、ブルーマーメイドのスキッパー部隊の岸間たちと捜索していた。

 

だが、最近横須賀で人間が蒸発する不可解な事件が報告されている。

 

 

「こんな不可解な物が出回っていれば、いつ戦争が行ってもおかしくない…」

 

 

「ねぇ、イーグルのみんなは…?」

 

 

「あぁ、俺以外は全員外出休暇…」

 

 

「そうなんだ…ねぇ、新一郎の休暇は…?」

 

 

「明日だ。これから四国まで夜間哨戒飛行の時間だから…飛行衣服を…」

 

 

「ふふふ♪今夜は幸吉君の代わりに私が行くわよ♪」

 

 

「え?いいのか?」

 

 

 

 

 

紀伊水道 上空

 

 

 

 

 

零観が飛行する正午、新一郎が座る操縦席には外套を身に付けた真霜が横抱きの状態で座っていた。

 

 

「綺麗…本当に綺麗…やっぱりいいねぇ~♪真っ赤な夕陽に照らせれる空の景色は~♪」

 

 

「そうかっ!なら、自慢の飛行技を披露する。舌を噛むなよ!」

 

 

「えっ!?ちょっと…きゃあぁっ!!」

 

 

新一郎は居座る真霜に飛行技を披露した。連続宙返りや急降下、きりもみと超低空背面飛行などの曲芸飛行。

 

 

 

新一郎と真霜が搭乗する零観は四国の香川に着水、少しの間に金比羅を巡り歩いた。

 

 

太陽が西に傾いた時だった。

 

 

 

「さて、横須賀に戻るぞって…?」

 

 

「うふふ~♪」

 

 

真霜は複座席から立ち上がり、新一郎の操縦席に寄り添った。

 

 

 

「帰りだけど、新一郎の操縦席で一緒になりたいわ~♪」

 

 

 

「…///…飛行中、操縦席が狭くて出て、空から落ちても知らねぇぞ…」

 

 

 

 

二人は搭乗、横須賀に向けて飛行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀、ヴェルニー公園

 

 

 

 

 

 

一人の少女、知名もえかは微笑みベンチに居座りながら、夜空の星を見つめた。

 

 

「…ミケちゃん…どうしているのかな……虎ちゃん……ん…音……?」

 

 

爆音に気付いたもえかは夜空を見上げると、フロートを装備した空飛ぶ物体を目の当たりにした。

 

 

「あれは?……きゃっ!?」

 

 

もえかの目の前を通過した時、その影響で強風に煽られ、もう一度空を見上げた時にはその姿がなかった。

 

 

「…あれは…もしかして……」

 

 

もえかは予感した。あの幼少で出会ったあの少年の言葉を…

 

 

 

 

 

 

横須賀基地 ー

 

 

22時に帰還した新一郎は、零観を自動陸揚げ装置で、格納庫に収納。

 

真霜は操縦席で居眠り、新一郎は彼女を横抱きで操縦席から降ろした。

 

 

「しかし、自動装置は便利だなぁ~♪どうだった真霜、空の旅は……って…気絶して聞けないか…」

 

 

「……うーん…新一郎…」

 

 

「あっ真霜、気が付いたか…家へ帰ろ…むぐ…///」

 

 

「///んチュッ……新一郎…///」

 

 

空のデートに続き、零観の格納庫で二人っきりになり、情熱的になっていちゃついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、二人は気付かなかった。格納庫の扉の隙間には、後に元凶となる者が覗いていた。

 

 

休息が終わり、新一郎とウィリアムは横須賀女子海洋学校、宗谷真雪により招集を受けて赴いた。

 

 

 

 

横須賀女子海洋学校

 

 

 

 

「ごめんなさい、沖田さん、スパロウさん。急に呼び出して…」

 

 

新一郎とウィリアムは真雪に呼び出される。

 

何か仕事で問題があったのか心配だったが、雰囲気からしてどうやら違うみたいだ

 

 

「い、いいえ…それよりも真雪さん。何の用ですか?」

 

 

「あなたたちの飛行機のことは真霜から聞いたわ。それであなたに頼みたいことがあるのよ 

 

 

「頼み事?」

 

 

「どんな頼み事ですか?Mrs.真雪…?」

 

 

「実は今回の入学後の海洋実習があることは知っているわよね」

 

 

「えぇ…」

 

 

「それと零観とカタリナ一体何の関係が?」

 

 

 

二人が首をかしげると真雪は言った。 

 

 

 

「実は、沖田さんとスパロウさんたちイーグルのメンバーに、その零観とカタリナを小笠原諸島に行ってもらいたいのです」

 

 

 

 

 

運命の歯車が今動き始める

 

 

 

 



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第12話 旅立ちの前夜

 

 

 

 

 

「……え?小笠原にですか?」

 

 

新一郎とウィリアムは真雪の言葉に呆気にとられる。そして真雪は頷いた。

 

 

「ええ、私の学校は入学式の後に航海演習をすることは知っているわね」

 

 

「え?はい。知っていますけどそれと俺と小笠原、いったい何の関係があるんですか?それに零観とカタリナも…?」

 

 

「実はねその航海演習の集合場所が小笠原の西ノ島新島に集合することになっているのよ」

 

 

「……まさか西ノ島上空で曲芸飛行をしろということですかお義母さん…いえ校長先生?」

 

 

新一郎がそう訊くと真雪はそうだと言わんばかりににっこりと笑う。

 

 

「それとですね、飛行艇のカタリナをアメリカのハワイ海洋学校に飛行、学校の職員生徒に見せて頂きたいのですがいかがかしら?」

 

 

「おぉ……グレートな任務ですね!僕は賛成しますよ!」

 

 

ウィリアムはやる気満々だった。

 

 

「……そうだな、いつのまにか愛機を暗闇に飛行するのも飽きた頃だ。校長先生たちの生徒さんたちに披露させます。いずれ、パイロットを育成する学校を創る為に。」

 

 

「ありがとうございます。それと、幾つか要望が……」

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀基地、ライジングイーグル

 

 

4月5日の女子海洋学校に関して、ライジングイーグルのメンバーは入学式の来賓及び、航海演習の参加が決まった。

 

だが、訳ありの編成と要望を受けた。

 

 

4月6日 1400時 ー

 

 

PBY-5 カタリナ

 

 

ウィリアム・J・スパロウ

 

 

金城幸吉

 

 

秋山敏郎

 

 

その他、研究員数人。

 

 

4月7日 1500時 ー

 

 

零式水上観測機

 

 

沖田新一郎

 

 

トム・K・五十嵐

 

 

 

超大型直教艦 武蔵 

 

 

校医学生 シャルロット・F・トライン  

 

 

 

「メンバー全員シャッフルとは…しかし、研究員も搭乗させるとは…」

 

 

「あら~、俺っちも参加するとはねぇ……」

 

 

「しかし、わたくしが……武蔵の校医として乗艦するとは……」

 

 

「まあまあシャルロット、武蔵の乗艦は演習が終わるまでだ」

 

 

新編成したリストで、ざわめくイーグルメンバーは緊張しつつあった。

 

ウィリアムは助言、内容を述べた。

 

この選抜した人材は航海演習のみ。

 

小笠原の父島で元の搭乗員に復帰、ウィリアムたちカタリナメンバーはハワイへ飛行、出張。

 

そして、零観の新一郎、幸吉はブルーマーメイドのみくらと共に欧州の地中海へ、派遣の指令を受けた。

 

 

「…以上だ、解散!」

 

 

「「「 はいっ!! 」」」

 

 

 

ブルーマーメイド宿舎

 

 

「おぉ〜!シャルロットちゃん可愛い~」

 

 

「凄く似合っているよ~!」

 

 

「あ…ありがとうございます…///平賀さん福内さん///」

 

 

「エマちゃんとエミリーちゃんの小学制服も凄く似合っているよ!」

 

 

「「わ~い、ありがとう~♪ 」」

 

 

宿舎で横女指定の制服を試着したシャルロット。平賀と福内に褒められて赤面した。

 

イーグルで解散した後、シャルロットは真雪に呼ばれ、彼女のサイズに合う学校指定の制服を受領した。

 

 

「シャルちゃんの格好を見ていたら、わたしたちの学生時代が懐かしいねぇ~」

 

「そうねぇ~…倫ちゃんの艦長時代は散々だったわ…」

 

「う…///」

 

平賀と福内がやや口論気味になりかけた時、窓の外を眺めた。

 

「(この制服姿、みんなに見せてあげたかったわ…ステラ、マリー、アリシア、パウラ…)」

 

あの戦時で戦い戦死、行方不明になった友人の名前を呟いた。

 

小学生の制服を試着したエマとエミリーは母、シャルロットにあることを尋ねた。

 

 

「ねぇ、ママ」

 

 

「パパはエミリーたちの学校に見にくるの?」

 

 

「もちろん。あなたたちの晴れ姿を楽しみしているわ!」

 

 

「「 やった~♪ 」」

 

 

ウィリアムは真雪から横女の入学式で来賓を受けたが、自身の愛娘たちの入学を最優先の為に断った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀女子海洋学校 校長室

 

 

部屋に残された真雪は、以前の模擬戦闘訓練での新一郎とウィリアムの書いたレポートを見ていた。

 

それは艦隊戦のレポートのほかに『航空機による艦艇への攻撃法』『航空攻撃からの防空法』電探近接信管=VT信管などが書かれていた。

 

特に真雪が見たのは航空機による攻撃法だった。そしてその文章には『艦艇の攻撃例』と書かれていたものだ。

 

その文章にはイーグル達がいた世界の第二次欧州、大東亜戦争で米軍が真珠湾攻撃で調査した日本海軍の航空魚雷。

 

米軍がレイテで武蔵、沖縄戦で大和を攻撃した当時の戦法が書かれていた。

 

 

「まさか…あの大和がそんな戦法でやられるとはね……いえ、もしこの世界にも航空機があってその戦法が使われたら……大和級といえども……」

 

 

「ええ、私もこのレポートを見た時は驚きました。今までは砲撃か雷撃の戦法しかなかったので、空からの攻撃について書かれたレポートと、模擬戦闘の映像を見た時は正直驚いています。もし飛行機が大量生産され、実戦に参加すれば大型艦など砲撃が主力の時代は終わるかもしれません。特にこの輪形陣なる陣形は理にかなっています。聞けば沖田さんは観測機…つまり飛行機という空飛ぶ乗り物で指揮官を務めていたと言っていたのもあながち嘘ではありません…」

 

 

「…パンドラの箱とも言うべき報告書だわ…」

 

 

真雪と古庄はそのレポートを見て冷や汗をかくのであった。レポートを読み終えた真雪は所有する金庫の中に入れ、封じた。

 

 

 

 

 

後日

 

 

 

 

新一郎、ウィリアムは横須賀女子海洋学校にて海洋技術海上都市支援に関する会議に出席、会議が終了した。

 

 

「あ~…長い会議が終わったな、新一郎…海賊が頻発する海域の問題点が厄介だな…」

 

 

「あぁ、戦時同様、海上都市の暮らしは楽ではない…水上スキッパーの量産を望む声があっても解決する筈もねぇ。飛行機の重要性が高まるぜ、ウィル…(しかし、真霜はどうしたんだろ…)」

 

 

本日出席することとなっていた宗谷真霜は、何かしらはことがあり、欠席となっていた。

 

 

 

「あの~ちょっといいですか…?」

 

 

会議室から出て、ある女性が声を掛けてきた。

 

 

「はい…?」

 

 

「あの、あなたは?」

 

 

「私はドイツのブルーマーメイド、マリア・クロイツェルです。」

 

 

「沖田新一郎です。」

 

 

「ウィリアム・J・スパロウです!」

 

 

「あら♪あなたたち、流暢なドイツ語を話されますねぇ~♪」

 

 

「「え、えぇまぁ…(…各国の語学を話せられることを、神オーディンに感謝だな…)」」

 

 

心の中でアスガルドの神、オーディンに感謝した。

 

 

学生の食堂に移動し、横須賀女子カレーを食べながら交流を行った。

 

 

「あなた達のひこうき……二種類もあるけど、写真と模擬戦闘訓練の映像を観賞しましたが、どんなものですか…?」

 

 

マリア・クロイツェルも機密に触れる資格を持っていたため、新一郎とウィリアムは色々と説明。だがー

 

 

「実物を見物したいのですが、明日中に地中海へ航海しなければなりません。」

 

 

「そうですか…残念です。ですが、私は横女海洋学校の入学式と航海演習が終了次第、地中海へ向かいます。」

 

 

「わかりました。共に活動することを待っています!」

 

 

「「 はっ!! 」」

 

 

マリア・クロイツェルと食事を終え、二人は学校に住み込むどら猫の五十六元帥に報告した。

 

 

『そうか…この世界にきて僅か2ヶ月弱、諸君らは脚光を浴びておるな~』

 

 

「き…恐縮です…」

 

 

「…航空機が存在しない世界で…ルーフの飛来以来、客船の救助作戦や模擬戦闘訓練で、飛行機を所有する我々ライジングイーグルは高く売れてますからね…」

 

 

『うむ、しかしながら当初の目的は覚えているかの…?』

 

 

「はい、二式水上戦闘機とパイロットの大賀虎雄少尉をイーグルに編入することです!」

 

 

二人は横須賀学校をあとにした。

 

 

 

 

横須賀基地 イーグル 格納庫

 

 

「トチローさん、自身の飛行艇の搭乗準備を急いで下さいよ~!」

 

 

「てやんでぃ!俺っちの整備がなきゃ、カタリナは飛べんだろ、べらぼう!」

 

 

トムは演習参加で荷物の準備を急ぐ中、トチローに問い掛けたが、彼は零観、カタリナを丁重に整備点検を手掛けていた。

 

 

「相変わらずだな~…」

 

 

「トチローさん、おらの弓はどこですか?」

 

 

「おぅ、幸吉の弓矢は作業台に置いているってんでい!」

 

 

「はーい!」

 

 

「トムも手が開いているなら、カタリナと零観の武装を施しておけ!」

 

 

「了解です!」

 

 

幸吉はトチローが指定した作業台にて折り畳み式の弓を受領。演習指定までの海域で海賊が出没しないのは限らず、零観とカタリナに武装を施すトムであった。

 

 

 

 

 

宗谷家 

 

 

 

 

新一郎は仕事を終え宗谷家に帰宅。

 

 

「ふぅ~…また、1日が終わったか…」

 

 

ペアの金城幸吉は当初宗谷家で暮らしていたが、ライジングイーグルが結成してから、彼らの宿舎で暮らしていた。

宗谷家は異世界の日本海軍パイロット、沖田新一郎大尉を家族の一員として扱っていた。

 

 

宗谷家の三女、宗谷ましろは部屋で学校の教科書を揃え、指定の制服を試着、鏡で姿格好を確認した。

 

 

「(とうとう、横須賀女子海洋学校の制服を…)」

 

 

ましろの部屋の扉で叩かれる音がした。

 

 

「ましろちゃん居る?」

 

 

「新一郎義兄さん!?い、今は…」

 

 

「入るよ!」

 

 

新一郎は、部屋に入る。

 

 

「!」

 

 

「っ!?」

 

 

新一郎が部屋に入ると、そこには、何と横須賀女子海洋学校の制服を着たましろの姿があった。

 

 

「おっ!ましろちゃん、それ…」

 

 

「見、見ないで下さい!!」

 

 

どうやら、注文していた制服が届いたから試着をしていた様だ。

 

これから着る制服になれない為、恥ずかしくて、隠そうとするましろ。

 

 

「何隠してるのましろちゃん?…恥ずかしくないよ!…むしろ可愛いゼョ!」

 

 

「えっ!?」

 

 

「ほら、もっと良く見せてくれ」

 

 

新一郎は、ましろに近づき、ましろの制服姿を鏡に映し出す。

 

 

「よく似合うぜ!!…制服姿のましろちゃんも可愛いなぁ~」

 

 

「あ、ありがとうございます…///」

 

 

褒められた事でましろは、顔を赤くする。

 

 

「(良いな…俺の妹の信子と佳代子もこんな学校の制服を着ていたんだろうな…)」

 

 

新一郎はふと、家族で別れた妹を思いだし、染々していると

 

 

「義兄さん!」

 

 

「あぁ、すまない。実は、君に渡したいものがある」

 

 

「あるもの…?」

 

 

新一郎はポケットからお守りを取り出した。それは金比羅前のお守りだった。

 

 

「…金比羅前のお守り…いつ、行ってきたのですか…?」

 

 

讃岐の金比羅前。海上交通の守り神として信仰されており、漁師や船員、海軍軍人など海事関係者の崇敬を集める。時代を超えた海上武人の信仰も篤く、ブルーマーメイドとホワイトドルフィンの職員のみならず、海洋学校学生の聖地でもあった。

 

 

「はっはっ!二日前だ、ついましろちゃんに渡すのを忘れてしまったが、海洋学校の生徒なら持つべきだ。」

 

 

「はい!ありがとうございます、お義兄さん!お義兄さんも、地中海の任務頑張って下さい。任務と私の実習が終わったら、真霜姉さんの結婚も待ち遠しいですね。」

 

 

「いやいや…///俺も海軍に入隊してから、まさか…十三、洋介に続いて結婚するとは思わなかった…///」

 

 

「え…海軍…?」

 

 

「いや、なんでもない…俺は明日早いから失礼します」

 

 

新一郎はましろの部屋を後にした。

 

 

「(…海軍…?日本海軍は昔の時代に解体されたはずなのに………讃岐の金比羅前さん…二日前に…どうやって…船では1日掛かるのに…)」

 

 

ましろは疑問に感じながら、明日の入学式に備えた。

 

 

 

 

新一郎の部屋

 

 

 

夜遅く、新一郎は入学式の終了後、横須賀から小笠原諸島までの飛行ルートを計測している時だった。

 

 

 

「…一旦、八丈島で補給。そして、西之島へ…」

 

 

コンコン

 

 

「新一郎~いる~?」

 

 

「あぁ、真霜か…?どうぞ……」

 

 

真霜が新一郎の部屋に入室した。

 

 

「いつ見ても、新一郎の部屋はいつ見ても綺麗ね~」

 

 

「…まぁな、海軍軍人として当たり前だ…」

 

 

海軍出身の新一郎は生活リズムが整えており、まさに海軍軍人の中では基本中の基本。

 

ブルーマーメイドの監督官である真霜の部屋は生活力がだらしなく、衣服や資料などが散乱していた。

 

 

「しかし真霜、平賀さんから聞いたが、早退したんだってな……」

 

 

会議に出席してなかった真霜は、ブルーマーメイドの職務を早退、家には彼女の姿がなく、休暇を取っている真冬とましろ以外はいなかった。

 

 

「君は家にいなかったが……どこへ行っていたのか…?」

 

 

新一郎の言葉で真霜は赤面した。

 

 

「っ!?///……じ……実は…新一郎…///…わたし…病院……産科に行ってきたの……」

 

 

 

「…へぇ〜病院の産科ね…産科…?…え?………えぇっ!!まさか…」

 

 

「うふふ~♪妊娠したの~♪」

 

 

「えぇっ!?ムグ…」

 

 

新一郎は驚きの余り、口を真霜に塞がれた。

 

真霜の話では、産科の予定では12月頃に出産を耳にした。

 

 

「そうか…そうか…うぅ…」

 

 

新一郎は涙を流した。

 

ラバウル勇士の厚木十三と桜井洋介も柚子と雪と結ばれ、子宝にも恵まれた。

だが、その二人もあの戦争で妻子を残し、散って逝った。

 

新一郎はその二人の二の舞にならない様に、生きることを心の中で誓うのであった。

 

 

 

 

 

 

4月5日  桜が咲き舞う横須賀女子海洋学校の入学式が訪れた。

 

 

 

宗谷家の三女ましろは母親の真雪と姉妹の真霜と真冬に見送られ、通学した。

 

 

 

 

 



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第13話 入学式、そして航海へ

 

 

 

横須賀女子海洋学校 

 

 

 

 

入学式の開会場は超大型直教艦武蔵で行われるため、入学生徒と保護者が乗艦。

 

来賓の中に、日本海軍第三種軍服と短剣を帯刀している沖田新一郎大尉、金城幸吉一等飛行兵曹。

 

 

「おはよう、幸吉!」

 

 

 

「新一郎さん、おはようございます!」

 

 

そして、アメリカ海軍の制服を着用するトム・K・五十嵐少尉の姿があった。

 

 

「おはよう、トム!シャルロット!」

 

 

「トムさん、シャルさん。おはようございます!」

 

 

「沖田さん、幸吉、おはようございます!」

 

 

「皆様、おはようございます」

 

 

「なぁトム、ウィルはキャサリンと、エマとエミリーの入学式か…」

 

 

「えぇ、トチローさんは相変わらずです」

 

 

お互いに挨拶、来賓として参加予定の秋山敏郎ことトチローは、堅苦しいのは苦手なため、ブルーマーメイドのスキッパー整備に専念。

 

ウィリアム・J・スパロウ少佐は妻のキャサリンと共にエマとエミリーの小学校の入学式に出席した。

 

 

シャルロット・F・トラインは横女の制服に包まれて入学式に参列。

 

 

「しかし、シャルロット。横女の制服、似合っておるなぁ~!」

 

 

「あ……ありがとうございます///」

 

 

新一郎の誉め言葉で彼女は赤面した。

 

 

「沖田さん、あなたは真霜さんがいるじゃないですか~」

 

 

「おっと失礼したなトム。そうだな、俺は真霜一筋だ…///」

 

 

すると、シャルロットは周囲を見渡した。

 

 

「しかし……ましろさんのお姿が見えませんのよ……」

 

 

「ん…?そう言えば……」

 

 

「確かに、ましろちゃんは俺よりも早く、家から出たのに……」

 

 

「もしかしたら、バナナの皮で滑って海に落ちたりして……」

 

 

「おいおいトム、冗談はコメディアンの話しにしろ~♪」

 

 

「そうですね!クック…」

 

 

「「「 あっはっはっはっ~♪ 」」」

 

 

 

 

 

 

 

イーグル達が笑い合う一方、その頃横須賀女子海洋学校、校舎では

 

 

 

 

 

「はぁ~入学早々ついてない」

 

 

学校のシャワー室の脱衣所でましろが髪をドライヤーで乾かしていた。

 

数分前にましろはあることで海に落ちてしまったのだ。するとドアが開きそこからツインテールの少女、岬明乃が入ってきた

 

 

「下着と制服乾いたよ。此処に置いておくね、プレスもしておいたから」

 

 

明乃が制服と下着を渡すと、真白は恨めしそうな目で明乃を睨む。実は彼女が海に落ちた原因は彼女が一枚かんでいるのだ

 

 

「でも、よかった入学式には間に合いそうだし…それにしてもバナナの皮って本当に滑るんだね、驚いちゃった…アハハ‥‥」

 

 

自分の落としたバナナの皮のせいで責任を感じた明乃は明乃なりのフォローを入れるが

 

 

「着替えるから出てってくれないか?」

 

 

「あっ、ゴメン」

 

 

明乃は慌てて脱衣所から出るが、一度、ドアから顔を出して

 

 

「折角同じ学校になったんだから、これからよろしくね」

 

 

明乃はそう言い出て行った。それを見たましろは制服に着替えた。

 

 

「はぁ……ついていない……」

 

 

学校教官の古庄薫二等監督官は学校所有のタブレット端末をイーグルたちに渡し、海洋実習のスケジュールの打ち合わせをする。

 

 

スケジュールによると

 

 

 

4月5日

 

 

 

9:00

 

 

 

武蔵の甲板で入学式

 

 

 

10:30

 

 

 

各所属艦内教室にてクラス結成式

 

 

 

13:00

 

 

 

各教育艦、西之島新島に向けて出港

 

 

 

4月7日

 

 

 

10:00

 

 

 

各教育艦、西之島新島に集合

 

 

 

13:00

 

 

 

各艦乗員での交流会とオリエンテーション

 

 

 

4月8日~4月10日

 

 

 

西之島新島近海で航海演習

 

 

 

4月11日

 

 

 

スキッパーやカッターなどのクラス競技

 

 

 

4月12日~4月17日

 

 

 

艦隊合同演習

 

 

 

4月18日

 

 

 

15:00

 

 

 

横須賀女子海洋学校に帰投

 

 

 

16:00

 

 

 

各艦、教室にてオリエンテーション後、解散

 

 

 

と組まれていた。

 

 

 

「随分ハードなスケジュールだなぁ〜!軍の養成学校とは変わらんな!」

 

 

「ん!」

 

 

スケジュールがハードに組まれている事に幸吉は驚く。 

 

 

「確かにハードだけど…これぐらいは組まないと生徒は成長しないし、何よりも生徒の間に友情が芽生えないわよ!」 

 

 

古庄は、ただハードに組んだ訳では無く、ちゃんと生徒の事を考えて、スケジュールを組んでいた。 

 

 

「成程!…生徒に厳しく教育して、生徒を育てる…それだけじゃなく、生徒の間に友情を芽生えさせる…流石は古庄教官!」

 

 

新一郎は、古庄を褒める。

 

 

「ありがとうございます、沖田さん///…ん?」 

 

 

彼女は腕時計を見て、入学式が始まる時間が迫っていることに気がついた。

 

 

「そろそろ入学式が始まる時間ね…では、来賓方はごゆっくり!」

 

 

「はっ!」

 

 

イーグルは古庄薫に対し、敬礼した。

 

 

そして、武蔵のマストに横須賀女子海洋学校の校旗が掲げられ、入学式が始まった。

 

 

『では、宗谷校長よりご挨拶です。』

 

 

校長の真雪が艦首に設置された壇上に上がる。

 

 

『皆さん…入学おめでとうございます…学校長の宗谷真雪です…皆さんは、座学、実技で優秀な成績を収め、この横須賀女子海洋学校に晴れて入学しました…直ぐに海洋実習が始まりますが、あらゆる困難を乗り越え、立派なブルーマーメイドになって下さい。』 

 

 

「(流石お義母さんだ!…凄い事を言いますね)」

 

 

真雪の言葉に新一郎は、目を見開いた。

 

 

やがて真雪の話が終わり、古庄教官から今度の予定が伝えられ、入学式は終わる。

 

 

 

 

生徒達は、それぞれの艦の配置が書かれている掲示板を見る。

 

 

 

「では、皆様。わたくしはこの武蔵の教室へ行って参りますわ。そして、小笠原諸島でお会いしましょう」

 

 

「うん、シャルロット・F・トライン。君の航海実習の幸運を祈る!」

 

 

来賓の沖田新一郎、金城幸吉、トム・K・五十嵐は彼女に対して敬礼、シャルロットも敬礼した後、武蔵の艦内の教室へ赴いた。

 

 

 

武蔵 艦内教室

 

 

 

シャルロットは教室へ入室、武蔵の生徒は試験で選りすぐれた最優秀の生徒であった。

 

 

「(はぁ…凄いですわね…さすが最優秀の生徒様。艦長になられるましろさんは大変ですわね…)」

 

 

「あなたが、フランスからの留学生、シャルロット・トラインさんですね…?」

 

 

「はい、え…?」

 

 

シャルロットが声した方向を振り向くと、艦長服を着用した少女がリストを持って現れた。

 

 

「(ましろさんじゃない…)はい、艦医を担当致します。えっと…あなたは…?」

 

 

「私は知名もえかです。武蔵の艦長を務めますのでよろしくお願いします。」

 

 

「え、えぇ…わたくしからもお願い致します(ましろさんじゃない……なぜかしら…?)」

 

 

シャルロットは疑問を感じつつも、艦長の知名もえかと握手した。

 

 

 

 

 

学校、校庭

 

 

 

 

新一郎は寝転ぶどら猫の五十六元帥と会話していた。

 

 

「元帥…あなたも航海へ行くのですか…?」

 

 

『あぁ、沖田君。…この学生の航海実習だか、どこか胸騒ぎするんだ…』

 

 

「胸騒ぎ…よく言う、動物の勘ですか…?」

 

 

『まぁ、それもそうだが…長らく海軍を務めている軍人としての勘だ…』

 

 

「はぁ、そうですか……仮に、乗艦する艦艇は…?」

 

 

『航洋艦の晴風だ』

 

 

「晴風!?…確か…最低辺の生徒が配属する」

 

 

先ほど新一郎は古庄の艦艇紹介にて、彼女が担任するクラスは学校に合格した者と言えども、最底辺が集う艦艇。

 

だが、そのクラスに宗谷の三女、ましろが副長として編入されていたのを、新一郎と幸吉、トムは驚いた。

 

そして、五十六は立ち上がり、晴風へ向かった。

 

 

「元帥…お気をつけて」

 

 

『あぁ、ありがとう。それと、新入生からあることを聞いた。』

 

 

「新入生からあること…ですか…?」

 

 

『新入生の二人が、大賀虎雄の名前を呟いた。』

 

 

「大賀虎雄…虎雄ですって!?元帥…誰ですか!?どんな新入生ですか!?」

 

 

『落ち着け沖田君、その娘が言うには…武蔵と晴風の配属する生徒だ。』

 

 

「武蔵と晴風…なんてとこだ…イーグルのシャルロットとましろちゃんが乗艦する艦艇とは…」

 

 

新一郎は笑みを浮かばせながら、五十六と共に航洋艦が停泊する波止場へ向かった。

 

 

「お待たせしたな、新一郎~!」

 

 

 

「ウィル機長。どうでしたか、愛娘たちの入学式は…?」

 

 

 

 

波止場にたどり着くと、小学校の入学式を終え、アメリカ海軍軍服を着たウィリアム・J・スパロウ少佐が幸吉とトムに合流。

 

 

 

「あぁ、よかったな!一時だが、家族との時間を取り戻し、絆が繋いだ…」

 

 

 

カーン!カーン!

 

 

 

 

出港の鐘が鳴り響いた時

 

 

 

晴風の艦橋 

 

 

 

「改めまして、艦長の岬明乃です!…よろしくね!」

 

 

 

明乃は、ましろに改めて自己紹介をする。

 

 

ましろも気を取り直して

 

 

「副長の宗谷ましろだ。」

 

 

自己紹介をする。

 

 

そして、幸子もタブレットを操作しながら

 

 

「私は書記の納沙幸子です。」

 

 

自己紹介をする。

 

 

芽衣も

 

 

「水雷委員の西崎芽衣よ!」

 

 

そこまで言ったところで

 

 

「すみませ~ん…遅れました…御免なさい!!」

 

 

右舷デッキの方から知床 鈴が走りながら艦橋に入ってきて 

 

 

「はぁ、はぁ…わ、私…こ、航海長の知床鈴です。」

 

 

息吐きしながら自己紹介をする。

 

 

「あ、貴方は?」

 

 

自己紹介後、鈴は、前に居た志摩に名前を聞こうとするが

 

 

「ほ…ほ…」

 

 

自分の役職と名前を言おうとしているが上手く言葉にできない。

 

 

「砲術委員の立石志摩さんだよね?」

 

 

志摩が答えられないので明乃は、カバーした。

 

 

「うん!」 

 

 

志摩は、どうやら極度の人見知りらしい。そして

 

 

「定位置に着いて!…出航準備!」 

 

 

明乃は、出港準備の命令を出す。

 

 

「前部員描鎖詰め方!…出港用意!…錨を上げ!」

 

 

艦首で錨が上げられてゆくのを確認した水測員の万里小路 楓がラッパを吹くが、余り上手と言えるようなレベルのものではなかった。

 

 

 

「「「「( なんて下手くそな音色だ!これは、練習が必要だな! )」」」」

 

 

 

波止場にいた4人は、心中でそんな事を考えていた。

 

 

前甲板でラッパに気を取られていた主計長の等松美海が青旗を上げて用意よしも知らせる。

 

 

「両舷前進微速150度ヨーソロー…晴風出港!」

 

 

出港の命令が下り、鈴がテレグラフを操作し、針を前進微速に合わせる。

 

 

 

 

晴風 機関室

 

 

 

「前進微速!」

 

 

艦橋のテレグラフからの指示を得て、機関長の柳原麻侖は、前進微速の命令を出し

 

 

「蒸気タービン艦って、確かバルブを…」

 

 

機関員の若狭麗緒と伊勢桜良がバルブを操作する。

やがて機関が始動し、晴風は出港する。

 

 

出港した事を確認したところで

 

 

「航海長操艦!」

 

 

明乃は、鈴に艦の操艦を任せる。

 

 

『航海長操艦!』

 

 

その場にいる全員の復唱を確認し、更に指示を出す。

 

 

「両舷前進原速、赤黒なし!…進路150度」

 

 

「頂きました、航海長…両舷前進原速赤黒なし、進路150度」

 

 

明乃の指示を復唱し、その通りに操艦を始める鈴。

 

 

「あっ!」

 

 

そんな中、明乃は、晴風の横を航行する武蔵の艦橋に手を振っている存在に気づく。

 

 

「もかちゃん!」

 

 

1人は、武蔵艦長の知名もえか。そして、姿こそ見えないが、波止場から来賓した4人が、超大型直航艦武蔵に向かって帽子を振った。

 

 

「シャル、頑張れよぉ~!!」

 

 

「航海の無事を祈るぞぉ~!!」

 

 

「また、西之島で会おう!!」

 

 

「武運を!!」

 

 

こうして、武蔵、晴風以下11隻の教育艦は、海洋実習へと出港した。

 

 

翌日の夕暮れ、教育艦が出港した波止場にてカタリナが着水。

 

 

機上に搭乗予定する研究員らは、この世界に無い空飛ぶ大型のスキッパーこと、水上飛行機を目の当たりにして驚愕した。

 

 

必要な物資と人材が搭乗、今回のみ搭乗予定の機長 ウィリアム・J・スパロウ少佐以下。

 

 

副長 金城幸吉一等飛行兵曹

 

 

整備兵 秋山敏郎兵曹長

 

 

「じゃあ、ウィリアム。幸吉とトチローのことを頼む!」

 

 

「お互いにな、新一郎!トムを任せた!」

 

 

「新一郎さん、今回のみですが行ってきます!」

 

 

「おぅ、新一郎!暫しの別れだせ!」

 

 

「ウィリアム機長、また西之島新島で!」

 

 

「あなた、気を付けてね!」

 

 

「「 頑張ってね、パパ~!! 」」

 

 

新一郎とウィリアム達はがっちりと握手した。

 

小学校を終えたエマとエミリー、妻のキャサリンも夫を抱きしめた。

 

そして、飛行時刻が迫り、ウィリアムが扱うPBY-5カタリナが発進。

 

残った5人は波止場から、機体が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

目指すは、西之島新島沖

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、これが1ヶ月にも及んだ事件の幕開けになるとは、誰も想像していなかった。

 

 

 

 

 



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第14話 異世界で、初航海でピンチ 

 

 

 

 

4月7日

 

 

 

 

 

小笠原諸島、西之島新島沖

 

 

 

 

西之島新島の沖では、教官艦のさるしま以下、多数の教育艦が集結していた。

 

 

 

 

さるしま 艦橋

 

 

 

「全艦集合した?」

 

 

 

さるしまの艦橋で古庄薫は副官に学生艦が全て揃ったかを尋ねた。

 

 

 

「いえ武蔵と晴風がまだです…晴風は通信によると…遅刻です。」

 

 

 

副官は気まずそうに報告した。

 

 

 

「まあ、初航海だから仕方ないわね!」

 

 

 

「しかし、このままでは、当初のスケジュールに支障が生じます!」

 

 

 

副官の言う通り、武蔵と晴風の遅れで既に当初のスケジュールに支障が出ていた。

 

 

 

「大丈夫よ!…あの2機の飛行機とパイロット達なら」

 

 

 

 

それでも古庄薫は、ライジングイーグルのパイロット達を信じていた。

 

 

 

だが、古庄薫は気づいていなかった。

 

 

 

 

 

 

その後、PBYカタリナが到着。 

 

 

 

 

 

「小笠原諸島…この世界に飛来して初めての場所だな…」

 

 

 

「そうなんですね、ウィル機長~。おらたちは、広島の呉に飛来しました♪」

 

 

「そうか!明日は学生の海洋実習の為に、少しでも休めよ幸吉。」

 

 

「はい!あれ…?トチローさんは…?」

 

 

「あぁ、トチローは例の研究員に呼ばれて、島に上陸している」

 

 

 

 

当機体とさるしまに乗艦していた例の研究員が、秋山敏郎の協力で密かに島影に隠れていた潜水艦から黒いブラックボックスを回収していた事、そして、そのブラックボックスの中から2~3匹のネズミに似た生き物が飛び出し、艦内に拡散した事により、更なる事態が起きた。

 

 

 

 

そんな事も知らずに晴風は、急いで合流地点に向かっていた。

 

 

 

途中、機関が不具合で停止と幸子と鈴が怪談話で夢中になって変針点を過ぎても変針する事なく、そのままの針路を進んでしまった為、航路を大きくズレてしまい、幸子と鈴がそれに気づいたのは当直が間もなく終わろうと言う時だった。

 

 

 

 

急いで晴風を予定のコースに戻したが、大幅なロスは免れなかった。

 

 

 

その結果、晴風は、海洋実習の集合時間に遅刻確定となった。

 

 

 

 

 

晴風 艦橋

 

 

 

「現在位置は!?」

 

 

「28°10′50″N(ふたじゅうはちど じゅってんごふんノース)、139°33′30″E(ひゃくさんじゅうきゅうど さんじゅうさんてんさんふんイースト)あと72,4マイル!」

 

 

 

ましろが晴風の現在位置を鈴に尋ねると、やや震えた声で晴風の現在位置を報告する鈴。

 

 

「あと何分で集合場所に着く!?」

 

 

「じゅ、巡航速度18ノットで4時間…」

 

 

「はぁ~始めての海洋実習に遅刻するなんて、ついてない…」

 

 

 

泣きそうな鈴の声の中、ましろの溜息が響く。

 

 

「ご、御免なさい!…私が方向間違えたから!」

 

 

「エンジンも一度停止しましたしね…」

 

 

 

「晴風は、高圧艦だからね…速度は、速いけど、故障が多いんだもん」

 

  

 

「はぁ…ついてない…そう言えば艦長は?」

 

 

 

ましろは、明乃がいない事に気づく。

 

 

「先まで居たんですけど…」

 

 

「遅刻しそうな時に何所、ほっつき歩いてるんだ!!」

 

 

 

 

右舷甲板

 

 

 

その頃、当艦の艦長。岬明乃は、右舷甲板で艦に着いてきた猫の五十六に餌をあげていた。

 

 

「今日はいい天気だね~五十六。やっぱり海はいいな~………あの子…今はどうしているのかな…」

 

 

明乃は海を眺め、ある海で出会った少年のことを覚えていた。

 

 

「艦長〜!副長が呼んでるよ~!」

 

 

「あっメイちゃん」

 

 

「このままだと集合時間に間に合わないって…」

 

 

 

芽衣は、勢いで梯子を降りる。

 

 

 

「さるしまには、通信員のつぐちゃんが遅刻の連絡をしてもらたよ?」

 

 

「でも呼んで来いってさ…」

 

 

「あ、うん」

 

 

 

「ぬ…ぬ…」

 

 

 

明乃は、帽子を取り艦橋に戻る。

 

 

 

晴風、艦橋

 

 

 

「如何したの…?」

 

 

明乃が艦橋に着くと

 

 

「何処へ行ってたんですか!?」

 

 

 

ましろがカンカンに明乃を問い詰める。

 

 

 

「ちょっと甲板に…」

 

 

「遅刻しそうな時に何を…」

 

 

 

「遅れるって連絡は、もうつぐちゃんに送って貰ったし、だから五十六に餌を…」

 

 

明乃は、そう言い、五十六の手を振るう。

 

 

 

「全く、艦長は、たるんでいます!!」

 

 

 

明乃のたるみにましろは、呆れる。

 

 

 

 

 

その時

 

 

 

ドーン!!

 

 

 

一発の砲声が鳴り響いた。

 

 

 

晴風、見張り台

 

 

 

「!?」

 

 

 

見張り台で見張りをしていた野間マチコは、突然の砲声を聞き、眼鏡をはずし、目を細める。

 

 

「はぁ!?」

 

 

 

彼女の耳にはヒュ〜と空気を切り裂く音が水平線の彼方から聴こえて来たと思ったら、突然、砲弾が晴風の右舷側付近に着弾する。

 

 

 

晴風、艦橋

 

 

 

『きゃあ…!?』

 

 

「くっ!…何だ!」

 

 

 

 

突然の着弾の衝撃で艦橋の全員は驚愕する。

 

 

 

『着弾!…右30度、3000!』

 

 

 

『えっ!?着弾?』

 

 

 

マチコからの着弾の報告を聞いて、明乃は驚愕する。

 

 

「また、着弾…!!」

 

 

 

そんな中、再び砲弾が晴風の左舷側付近に着弾する。

 

 

 

晴風、艦内通路

 

 

 

「如何したの…!」

 

 

「120%、分かんない…!」

 

 

 

突然の着弾に晴風の乗員は何が起きたのか分からず、混乱状態になる。

 

 

 

『至近弾、後部甲板に浸水!』

 

 

 

『烹炊室で茶碗が割れちゃったよ…!』

 

 

 

各部署から被害報告がなされ

 

 

 

「シロちゃん!」

 

 

 

「?」

 

 

 

明乃は、突然、ましろをニックネームで呼んだ。

 

 

「シロちゃん!?」

 

 

「?」

 

 

突然、明乃からニックネームで呼ばれ、ましろは、誰を呼んでいるかと思ったが、自分だと気づく。

 

 

「宗谷さんの事だよ…ましろだからシロちゃんでしょ?」

 

 

「シロちゃん!?…艦長…宗谷さんもしくは、副長と呼んで頂きたい!」

 

 

 

明乃にニックネームを付けられ、嫌がるましろ。

 

 

 

それに対して、普通の呼び方で言うよう明乃に要求するが

 

 

「え…他人見たいだよ…」

 

 

 

普通の呼び方の要求に明乃は、他人見たいだと嫌がる。

 

 

 

「他人でしょう!」

 

 

 

しかし、ましろは、他人だと言い張るが

 

 

 

「海の仲間は、皆家族でしょ?」

 

 

 

「家族何かじゃ!」

 

 

「それよりシロちゃん、ちょっと肩車して貰って良い?」

 

 

「…人の話、聞いてますか?」

 

 

 

ましろが言う事に全く耳を貸さず、明乃は、状況を確認する為、ましろに肩車をするよう要求する。

 

  

 

確かに今、砲撃されている時に言い争ってる暇じゃない。

 

 

 

「ありがとう!私だけじゃ届かないから…」

 

 

 

ましろに肩車され、明乃は、艦橋の天盤から上半身を乗り出して、双眼鏡で前方を見る。

 

 

 

 

「艦長!さるしまからの砲撃です!!」

 

 

 

「えっ!?古庄教官!?…如何して……」

 

 

 

明乃は双眼鏡でさるしまを指揮している古庄薫の姿を見て驚愕する。

 

 

 

「遅刻したからだ!!…怒られて当然だ!」

 

 

 

ましろは、晴風が予定の時刻に遅刻したから、それで怒って砲撃したんだという。

 

 

 

「そんな…それで砲撃なんて……」

 

 

 

しかし、そんな理由で古庄が砲撃するとは、明乃は思えなかった。

 

 

 

『右前方に着弾…!』

 

 

 

その時、3発目の砲弾が晴風の前方の海面すれすれで炸裂した。

 

 

それは、雅に訓練用の模擬弾では無く、攻撃用の実弾の爆発だった。

 

 

 

「爆発した!?これ…実弾!?」

 

 

 

「このままだと怪我人が出るぞ…」

 

 

 

実弾だと分かり、明乃とましろは、動揺する。

 

 

 

明乃は古庄が何故、実弾で射撃してくるのか、全く分からなかった。

 

 

 

しかし動揺も束の間

 

 

 

「リンちゃん!回避運動を!」

 

 

 

明乃は、素早く鈴に回避運動を促す。

 

 

 

「り、了解…回避運動、と~り~か~じ~」

 

 

 

鈴は、左に舵を切って、回避運動を取る。

 

 

 

「あっ!…そうだ!…シロちゃん降ろして貰えるかな?…ココちゃん、遅刻に関しての謝罪を打電で!」

 

 

 

回避運動の中、明乃は、肩車を止め、直ぐに通信員の鶫にさるしまへの遅刻に関しての謝罪を打電せよと幸子に指示する。

 

 

「了解です…八木さん、さるしまに打電を!」

 

 

 

幸子は通信室に居る鶫に謝罪文をさるしまへ送信する様に指示を出す。

 

 

 

その間、明乃は、艦橋の艦内電話、受話器を取り

 

 

 

『あ…あ…遅刻してすいませーん!!』

 

 

 

艦内電話でさるしまに謝罪を促す。

 

 

 

しかし、謝罪を促してもさるしまの砲撃は止まず

 

 

「ま、まだ撃って来るよぉ…!」

 

 

 

鈴が涙目と涙声で言う。

 

 

 

「唯の脅しでしょ…決める気ならとっくに決めているわよ、さるしまなら…」

 

 

 

芽衣は、やや余裕がある様子で鈴に呟く。

 

 

確かに芽衣の言う通り、さるしまは、現在ブルーマーメイドで使用されているインディペンデンス級沿海域戦闘艦と同じ艦だ。

 

 

 

ならば、精密なレーダー射撃が可能であり、さるしまが本気で晴風へ攻撃しているのであれば、とっくに命中弾があっても可笑しくはない。

 

 

だが

 

 

 

「艦長!…打電、返答無しだそうです!」

 

 

 

さっき送信した謝罪文も無視された。

 

 

 

「そんなに怒ってる!?」

 

 

 

送信した謝罪文も無視された事に明乃は動揺する。

 

 

 

そんな時

 

 

 

「代われ!」

 

 

「?」

 

 

 

急にましろに代われと言われ

 

 

 

「私が遅刻した理由を説明する。」

 

 

 

ましろは、明乃から受話器を受け取り、咳払いした。

 

 

 

「航洋艦晴風、集合時間に3時間と2分遅れましってまことに申し明けありません…しかしながら、機関にトラブルが発生じ、いたしかったなかったんであります…これは高圧艦特有のトラブルで有り…つまりは、予想できない事態で有った為…」

 

 

 

改めて、さるしまに謝罪を促す。

 

 

「始末書のお手本みたいですね。」

 

 

 

『うん』

 

 

 

始末書のお手本を呼んでいるような光景だった。

 

 

 

だが、ましろの謝罪も虚しく。

 

 

 

『右舷に着弾!!』

 

 

 

またもや晴風の右舷付近に着弾する。

 

 

 

「くっ!…さっきより位置が正確になっている!…もうこうなったら反撃しようよ!」

 

 

 

さるしまも徐々に精密な射撃へとなり、着弾距離も徐々に迫りつつある。

 

 

 

そんな中、芽衣は、一か八か反撃に打って出ようと言う。

 

 

「「わぁっ!!」」

 

 

「「キャァっ!!」」

 

 

「『着弾!!右30度』」

 

 

「えっ!?着弾…」

 

 

砲撃が再度続き、着弾。後部甲板に至近弾により浸水。晴風の乗員が混乱していた。

 

 

 

「…魚雷を射とう…」

 

 

「魚雷!?」

 

 

「え!?マジ、魚雷を射つの~♪」

 

 

明乃は艦橋で判断を下した。

 

 

明乃の言葉を聞いた芽依は興奮し、その性格とは反対にましろは躊躇した。

 

 

「しかし、われわれは遭えてこの砲撃に耐えるしか…うわっ!!…」

 

 

「私も、出来ることなら攻撃したくない…でも晴風のみんなを守らないと。私は、晴風の艦長なんだから!!」

 

 

明乃はましろの反対を推して、攻撃命令を出した。

 

 

艦橋要員は明乃の指示に従い、魚雷発射の準備を急いだ。魚雷は模擬弾頭で、当たれば沈まずに済むと予測した。

 

 

目標はさるしま、魚雷発射管を右舷に向けて射程を捉えた。

 

 

「攻撃はじめっ!!」

 

 

晴風からたった1本しかない模擬魚雷を放ち、さるしまの左舷に命中した。

 

 

「よしっ命中!!」

 

 

「さるしまの速度が落ちました!」

 

 

「取りかじいっぱーーぁーい!!最大全速!!」

 

 

「『さるしま、砲撃!!着弾!!』」

 

 

さるしまは損傷を受けてなお砲撃を放った。

 

 

「艦長!!左舷10時方向、スコールを確認!!」

 

 

「ココちゃんありがとう!スコールの中に入ろう、リンちゃんお願い!」

 

 

「うぅ…取り舵いっぱー…あれは…?」

 

 

相手の命中率が落ちると予想し、スコールに向けて航行しようと鈴が泣きかけたとき、スコールの中から爆音が響き、風を切る様に飛行物体が出てきた。

 

 

「艦長!スコールから飛行物体です!!」

 

 

「あれはなに!?」

 

 

「…水上スキッパー…!?」

 

 

「…にしては…空中を飛んでいる…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「……ひこうき……… 」」

 

 

 

 

明乃とましろは小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もしかすると教官たちの…マル秘なんかじゃ…」

 

 

 

 

幸子は妄想した頃、二式水上戦闘機の操縦席で気絶していた日本海軍少尉、大賀虎雄は目が覚め、水上に1隻の陽炎型駆逐艦を確認した。

 

 

「…つ…あれは、陽炎型駆逐艦!…………どういうことじゃ………シンガポールの拠点を中心に陽炎型が…………本土に集結しているはず………付近の………見たことない艦艇…米英の新型か!?…………追われている!やらせるか!!」

 

 

 

虎雄は操縦桿を倒し、急降下しながら攻撃体勢に整え、対潜水爆弾の投下を準備、標的を敵新型艦艇(さるしま)に照準を定め、投下レバーを引き、投下。

 

 

「っ!?…あれ…?」

 

 

だが、投下装置が使用不能。再び上昇して、体勢を整えた。

 

 

「さっきの空戦の影響で仇になったか!…こうなったら!お手製の椰子の実爆弾をくれてやる!」

 

 

虎雄は再び降下して、椰子の実爆弾を投げ飛ばし、さるしまの前部甲板に命中、速射砲と垂直発射装置を撃破させた。

 

 

 

 

 

晴風ー

 

 

 

「…凄い…」

 

 

 

「0時方向ヨーソロー!鳥島10マイルまで退避!!」

 

 

 

日が水平線に沈む夕暮れ、晴風は全速力で海域を離脱、後を追うように二式水戦が晴風上空を通過して飛行して。

 

 

 

そして、消失した。

 

 

 

 

「…あの正体不明の飛行物体、…消失しました…」

 

 

「…しかし凄い速度…小回りに左右旋回して…飛行船の飛行性能より優れている…」

 

 

「…うぃ…」

 

 

「あの国籍マークは日の丸…日本の…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、国内海洋安全整備局が危機混乱に陥っていた。

 

 

 

 

「『横須賀女子海洋学校の指導艦艇さるしまが、女子学生艦晴風の攻撃を受け大破、陳びに突如、飛来した正体不明飛行物体の波状攻撃を受け被害甚大!!』」

 

 

 

「『学生艦が攻撃!?正体不明飛行物体だと!?』」

 

 

 

「『至急、海洋安全整備局に連絡を!!』」

 

 

 

「『こちら、羽田港湾管理局!ただいまさるしまより受信!以下、早急の応対を求む!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

晴風ー 

 

 

晴風 艦橋の要員が、さるしまの件にて談義していた。

 

 

 

「それにしても…あの砲撃は何だったんでしょう…」

 

 

 

「ちゃんと逃げ切れるかどうか抜き打ち特訓だったんじゃない?」

 

 

 

「その可能性は無くもない」

 

 

 

「それにしても…、本気過ぎだよ…」

 

 

 

「はぅ…」

 

 

「もしかしたら、さるしまがクーデターを起こしたとか…『我々はブルーマーメイドの教官艦と言うちっぽけな存在ではない!宣言する、我々は独立国家さるしま…』」

 

 

「真面目に考えてみたら!」

 

 

 

幸子の喉の変声、さるしま側の妄想を唱えた。だが、ましろにより静止された。

 

 

「でも大きな怪我の娘がいなくて良かった。皆かすり傷程度で済んだみたいだし、被害状況と未確認の飛行物体をまとめたら学校に報告したほうがいいよね」

 

 

「どれだけ叱られることやら…説明して分かって貰えるしか…」

 

 

ましろが心配してソワソワしてた時、無線のブザーが鳴った。

 

 

幸子は受話器を取り、顔色が青く変色して明乃に報告した。

 

 

「…大変です…晴風が……我々の艦が反乱したって!」

 

 

 

「反乱!?」

 

 

 

 

 



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第15話 逮捕され、離脱してピンチ

 

 

 

横須賀女子海洋学校校長室

 

 

男性教官が校長の宗谷真雪に海洋安全整備局から晴風の報告に赴いた。

 

 

「晴風が反乱!?」

 

 

「はい、集合時間に遅れて到着した晴風は、突如教官艦さるしまを攻撃、撃沈したそうです」

 

 

「…なぜ…そんな事態に!?」

 

 

「さるしま艦長、古庄教官は意識を失った状態で、まだ詳しいことは分かっていません…もう一つ知らせることが、航行していた晴風の付近に正体不明飛行物体が飛来、留めを刺された後、晴風と動向したそうです」

 

 

 

「…正体不明の飛行物体!?…もしかしたら…あの時の…」

 

 

「「 失礼します!! 」」

 

 

 

突如、校長室に元日本海軍大尉、零式水上観測機のパイロット、沖田新一郎と元アメリカ海軍少尉、PBYカタリナの副長パイロット。トム・K・五十嵐が入室した。

 

 

「…お義母さん……いえ、宗谷校長!西之島に、正体不明機が出現したと報告を聞いたのですが…本当ですか…!?」

 

 

「新一郎さん!?えぇ…これがさるしまが沈没寸前に撮られた写真です…」

 

 

真雪は沈没寸前にさるしまが撮った写真を新一郎に渡した。するとー

 

 

「…二式水戦……虎雄……間違いない…あいつだ……虎雄のヤツだ!」

 

 

写真を見た新一郎は身体が心底震え、瞳から涙が溢れた。

 

戦争末期、マラッカ海峡上空で戦死した訃報を聞き、鹿屋基地で新一郎を始め、ペアの金城幸吉と零戦パイロットの桜井洋介と弟の沖田進次郎。整備員の秋山敏郎(トチロー)は嘆き悲しんだ。

 

 

「ぐっ...! 宗谷校長、私を…零観で小笠原諸島へ行かせて下さい!本機で片道のみ飛行可能です!」

 

 

新一郎が涙を拭い、彼の隣で黙っていたトムは口を出した。

 

 

「私からもお願いします!昨日、ブルーマーメイド本部にて、カタリナの定期連絡が途絶えたウィリアム機長と幸吉、トチローさん。そして、武蔵に乗艦しているシャルロットの消息が気になります!沖田さんと出動の許可を!」

 

 

「……許可します。私からの条件ですが、横須賀校の学生航洋艦と晴風の探索をお願いします。」

 

 

トムの言葉で沈黙した真雪は目を閉じ、条件付きの許可を与えた。

 

 

「「 はっ!! 」」

 

 

新一郎とトムは横須賀女子海洋学校校長、宗谷真雪に対して敬礼をした。

 

二人に与えられた任務は、大賀虎雄と二式水上戦闘機と消息不明のPBYカタリナのパイロットウィリアム・J・スパロウ少佐。

 

そして、今回のみ人員機上配置した金城幸吉一飛曹と整備員のトチローの捜索。

 

新入生の航海実習で直教艦武蔵で艦医として乗艦したシャルロット・トライン。宗谷真雪の娘、宗谷ましろが乗艦する学生航洋艦晴風の捜索を命ぜらた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校長室から退室した時、黒服の制服を着た数人の女性が入室した。

 

 

「失礼!沖田新一郎とトム・K・五十嵐か?」

 

 

「あぁ…」

 

 

「あなた達は…?」

 

 

「我々は海上安全公安局の者だ。君たち二人に逮捕状を持ってきた」

 

 

彼女の制服の懐から逮捕状の書類を広げて見せた。

 

 

「…なんだとっ!?」

 

 

「何の為に僕たちを!?」

 

 

「罪状は、学生航洋艦晴風とグルで、飛行機で上空から教官艦さるしまの撃沈に関与した罪だ」

 

 

「馬鹿な、休み休みも言え!」

 

 

「そうだ!いくら我々ライジングイーグルの水上飛行機は小笠原に飛行する だけでも数時間は掛かるが、往復分の燃料が足りないぞ!」

 

 

「動向はどうあれ、君たちの飛行機による攻撃は変わらない。ただちに沖田と五十嵐を逮捕拘束、イーグルが所有する零式水上観測機を押収せよ!」

 

 

新一郎は察知した。

 

連中は黒潮の手下であり、虎雄の行動に濡れ衣を被せる形で喉から欲しがる飛行機を手に入れることが目的であった。

 

 

公安の者が部下に指示を出した時、真雪がたち塞げた。

 

 

「公安の方々、この方たちは重要な使命を受けたばかりです。お引き取りを!」

 

 

「宗谷校長!いくら校長でもあなたの権限はありません」

 

 

「なんですって!?…なら…南方局長に……」

 

 

「南方は海上安全管理局の局長は解任された!」

 

 

「…そ、そんな…」

 

 

「…くっ…トム…」

 

 

「沖田さん、こ…これは…?」

 

 

新一郎はトムに向いて、ただひとつしか無い零観の格納庫の鍵を渡して、小声で呟いた。

 

 

「(…トム…俺からの命令だ。今からこの鍵を持ってこの場から離脱。零観で消息不明のイーグル仲間と俺の同胞。学生艦を捜索せよ!)」

 

 

「(…沖田…大尉…)はっ!!武運を!!」 

 

 

トムは校長室の窓に向かって飛び込み、離脱した。

 

 

「逃げたぞ!?」

 

 

「追え!!」 パァン パァン 「「「 !? 」」」

 

 

「動くな!!」

 

 

新一郎は懐からモーゼル拳銃と南部十四年式拳銃を取り出して発砲した。

 

 

「貴様ら!一歩でもトムを追い掛けたら、身体に風穴を開けるぞ!!」

 

 

公安の職員は新一郎の言葉に恐怖で震えた。

 

死闘を繰り広げ、血肉を争い、忌まわしく地獄の様な上海やマレー、ソロモン、マリアナ、フィリピン、本土防空などの戦場で、戦ってきた者にしかわからないオーラを感じた。

 

 

「「 ひぃっ… 」」

 

 

「くっ、……ここは任せて、五十嵐を追い掛けなさい!」 

 

 

「はいっ!」

 

 

3人の公安員はテーザー銃をホルスターから取り出し構えた時ー

   

 

パァン パァン パァン「きゃっ!?」

 

 

新一郎の馬族の拳銃技、流し撃ちで全てのテーザー銃を弾き飛ばし、更に武術で公安を気絶させた。

 

 

「貴様ら!トムを捕まえたければ俺を倒してから行け!…お義母さん…」

 

 

新一郎は、常に身に付けていた短剣を真雪に渡した。

 

 

「(……新一郎さん?)」

 

 

「(お義母さん、…万が一私に何かあった時に、この短剣を真霜に渡してください!)では!」

 

 

「新一郎さん!」

 

 

新一郎は二挺の拳銃を構え、一人一人の公安隊員の武装を狙い射ち、一人、また一人の公安員を気絶させた。

 

トムは学校から基地の格納庫へ向かい、エナーシャで零観のエンジンを回し、唸らせた。

 

 

「よしっ、…機長、シャル、幸吉、トチローさん。待ってろよ…待ってろ…うぅ……ぐ…」 

 

 

トムは零観に搭乗し、操縦桿を握ろうとしたが、自身の右手が拒んみ、震えた。

 

 

「……ぐ……沖田さん…僕は飛行機の操縦桿が握れません…スキッパーで行きます!」

 

 

 

零観で逃亡を図る筈だったトムは飛行機の格納庫を封じ、スキッパーの格納庫に向かった。

 

 

「はぁ…はぁ…今度こそ往くぞ……」

 

 

格納庫からスキッパーを取り出してスロープで下ろし、水上に浮かせた。

 

 

ヒュッ 「!?」

 

 

スキッパーに搭乗を仕掛けた時、一発の銃弾がトムの頬を掠めた。

 

 

「ここまで来たか!」

 

 

トムは背中に背負っていたM-1小銃を取り出し発砲、銃口に人を向け威嚇した。

 

 

バアァン バアァン バアァン ピーン

 

 

「くっ……あばよ!」

 

 

弾切れになった時に手榴弾を投げて、爆破と同時にトムはスキッパーに搭乗、水平線の彼方に向けて水上を走行した。

 

 

「追え!!」

 

 

「はっ!…きゃっ…!?」

 

 

公安隊員がスキッパーに搭乗した時、背後から新一郎が発砲。

 

狙い撃ったのはスキッパーのエンジンで、全てを使用不能にした。

 

 

「よしっ、こんなもんだな~♪」

 

「こ…こ…この野郎~!!」

 

 

一人の公安隊員が震えた手でテーザー銃を握り、新一郎に向けた。

新一郎は隊員に反応して左手のモーゼル拳銃を向けた。だが

 

 

カチカチ 「しまったっ!?弾切れだ…」

 

 

「くらえ!」

 

 

「やられるか!」 シュッ

 

 

空のモーゼル拳銃を投げ、テーザー銃の斜線を遮り、勢い走って隊員の腹部を強打、気絶させた。

 

 

「(許せ…)」

 

 

新一郎が格納庫から出ると、多くの公安隊員がテーザー銃や警棒、盾を装備して周囲を囲んだ。

 

 

「沖田新一郎!お前は完全に包囲されている!武装を解除して、格納庫にいる人質を解放すれば、罪を軽くする!」

 

 

「……わかった…………」

 

 

新一郎は公安の要請を呑み、所持するモーゼル拳銃と南部十四年式拳銃を足元に置いて解除、両手を挙げた。

 

 

「だが、俺を捕まえても何人かの海鷲はこの大空と海原に羽ばたいている限り、捕まえられない!」

 

 

数人の隊員が新一郎に近づき、手錠を掛けられ海上整備局に連行された。

 

 

「(…トム、あとを頼む。…ウィリアム、幸吉、トチロー、シャルロット、虎雄…待ってくれよ……真霜、…すまない…)」

 

 

新一郎は心の底から仲間と、結婚する真霜に謝罪した時、すれ違いしたかの様に、真霜が私的で海洋学校の校長室に赴いた。

 

 

「…トム君が逃亡…新一郎が逮捕ですって…お母さん!?」

 

 

母親の真雪から衝撃的な事実を知らされた真霜は驚愕した。零式水上観測機が航洋艦晴風と手を組んで教官艦を撃沈。

 

そして公安が察知、首謀者たる沖田新一郎が逮捕され、トムがスキッパーを強奪して太平洋に逃亡した。

 

 

「…なんで…なんで新一郎が逮捕されなきゃならないのよお母さん……」

 

 

「…ごめんなさい、真霜…公安の前では逆らえることが……」

 

 

巴御前と称された宗谷真雪も、己自身の無力を悔やんだ。

 

 

「お母さんに責任はないわ。私は公安局に行って確かめに…うぅ…ゴホッ…ゴホッ…」

 

 

「…真霜…真霜!?しっかり!」

 

 

真霜は扉のノブに手を掛けた時に咳き込み、片手を口と腹部を押さえながら倒れた。

 

 

 

横須賀から逃亡したトムは太平洋、青ヶ島にて燃料、糧食を調達する。磯部に隠しているスキッパーに積み込んだ。

 

 

 

「……よしっ!…しかしながら、この間貰った給料がスッカラカン……さすがにスキッパーってのは、飛行機と違って時間が掛かる……僕も…沖田さんの飛行機を扱えれば……」

 

 

戦闘機部隊出身のトムはあの戦争終結前、沖縄救援に航海した日本海軍の戦艦大和との海戦で新一郎の弟、沖田進次郎の零戦に撃墜された恐怖がトラウマになった。

 

岩場に座り込み、水を飲みながら水平線に沈む夕日と格納庫の鍵を握りしめながら眺めた。

 

 

「沖田さん…キャサリンさん、エマ、エミリ…僕だけ逃げてすみません。……ウィリアム機長、幸吉、トチローさん、シャルロット。そして、大賀虎雄。…必ず探し見つけ出す!」

 

 

 

 

その頃横須賀基地、隊舎にてウィリアムの愛妻キャサリンはエマとエミリの小学校を終えて療に帰宅した時、哨戒機カタリナの行方不明の知らせを聞いて、悲しみ、危機を感じて、SAA拳銃に弾丸を装填して所持した。

 

 

「ママ…」

 

 

「……なんで…むち…とピストルを…?」

 

 

「ごめんなさい二人とも、もしかしたらこの家に悪い人がくるかも知れない……!」

 

 

「「…う…うん」」

 

 

二人は母親に従い、立てこもりの準備を行った。

 

 

キャサリンも二人に関して気の毒と感じつつ、国際小学校に入学して2日目でこんな事態になるなんて思ってもいなかった。

 

 

 

 

 

 



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第16話 遭難して、追撃してピンチ

長らく空けて申し訳ありません

そして、今年もよろしくお願いします


 

 

 

晴風 ー

 

 

 

「『ザザ…学生艦が反乱、さるしまを攻撃、さるしまは沈没。艦長以下、乗組員は全員無事…』」

 

 

艦橋要員が港湾から発した無線を聴き、芽依は苛立ち鈴に向かって怒鳴った。

 

 

「なんで反乱したことになってんの!?先に攻撃してきたのは、さるしまでしょ!」

 

 

「えぇっ…わ…わたしに…言われても…」

 

 

「知床さんに言ったって仕方ないだろ…」

 

 

「ああ…ごめんごめん…」

 

 

鈴に八つ当たりしてすでに涙目、ましろが制止して芽依が謝罪する。

 

 

「でも…どうして沈没しちゃったんだろ…模擬弾だったのに…もしかすると…演習の一環…じゃないかな…」

 

 

「演習で沈没するか」

 

 

鈴が疑問に思い、ましろは否定的だった。

 

 

「なら…わざと沈没したとか!わたし達は偶然にも、何かさるしまの黒い秘密を知ってしまったんですよ!」

 

 

「また始まった…」

 

 

「わたしら遅刻しただけじゃん」

 

 

ましろと芽依はやや飽きれ、幸子の妄想により一人芝居が始まった。

 

 

「『お前ら、見たな!』『わたし達、何も見てましぇーん!』『えぇい、ここのまま生かしては置けんどー!』『あ、逃げられた!えぇいこのまま秘密と共に沈んでやる~!』ブクブク…」

 

 

「全部妄想でしょ…」

 

 

芽依が静かに突っ込み、ましろは幸子に連絡を訊ねた。

 

 

「それより納沙さん、そのタブレット通信切ってあるの?」

 

 

「大丈夫です。さっき、艦長の指示があった時にオフにしてます」

 

 

「通信機器が使えないのは不便だけどな…」

 

 

「まぁ、今発見されたら面倒だしね…仕方ないよ…」

 

 

「ごめんね…不便だと思うけど、第2合流地点の鳥島沖だから」

 

 

明乃は艦橋要員の意見を聞き入れ、予定通りに合流地点の鳥島に進路を移した。

 

艦橋内部がさるしまの行動と正体不明機で講演していた。

 

 

 

 

 

海洋整備局 保安部

 

 

 

「くそっ…せっかくイーグルの飛行機を目の当たりにして、手に入れられんとは…なんたる失態だ…!!」

 

 

議員の黒潮鈴江は執務室で苛立っていた。

 

横須賀基地のイーグルが所有する水上飛行機、日本海軍の零式水上観測機が格納庫に収納しているにも関わらず、秋山敏郎が万里小路重工で製造した特注の鍵を使用、施錠していた。

 

 

「ははは〜!苛立っていますなぁ~」

 

 

「うるさいわよ!奴らの飛行機が無ければ、海外の売買どころか、例の物資を輸入するのが困難よ!」

 

 

葉巻を咥えた虹川雪男が嘲笑いながら黒潮に呟いた。

 

 

「ですな…おれだって、この葉巻が無ければ生きて活けなぁい~♪」

 

「ぐぬぬ…零観は格納庫で施錠、カタリナは行方不明…どう入手するか、アンタも考えな!!」

 

 

「ん~…手っ取り早いですが、さるしまを襲った正体不明機を捕まえれば、どうですかね~♪」

 

 

「それよ…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀女子海洋学校の教官艦「さるしま」を航空攻撃した二式水上戦闘機、搭乗する日本海軍少尉、大賀虎雄は再び異次元の渦で彷徨っていた。

 

 

 

「さっきの艦艇は…どこだ…?…ここはどこなんだ!!……シンガポールへ…日本へ…鹿児島へ帰らせろ~……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太平洋 小笠原諸島 近海にて、横須賀女子海洋学校の航洋艦晴風が航行していた。

 

 

晴風艦長、岬明乃は艦の後部甲板を応急修理する和住媛と青木百々、野間マチコを訪問。

 

機関室にて機関長の柳原麻侖、機関助手の黒木洋美たちに謝罪。

 

医務室で負傷した小笠原光、駿河留奈と広田空の訪問、衛生長・保健委員の鏑木美波から難しい言葉を聞き入れた。

 

 

「『艦長、至急艦橋へお戻りください!』」

 

 

ましろからの艦内放送が医務室に鳴り響く、明乃は艦橋へ戻る。

 

 

 

晴風、艦橋

 

 

「御免!…お待たせ!」

 

 

明乃は、艦橋に戻り

 

 

「被害状況、如何でした?」

 

 

戻って来た明乃に各部の被害状況を聞く。

 

 

「後部甲板が結構やられて、爆雷があと1発、魚雷もないし…機関室も総点検だって…」

 

 

被害甚大と弾薬のない事を幸子に言うが

 

 

「可愛い…!」

 

 

そんな幸子は、自分のタブレットで双眼鏡の上で昼寝をする五十六を写真に撮るのに夢中になっていた。

 

 

「そんなもの撮っていないで、被害状況を記録しろ!!」

 

 

しかし、横からましろが叱る。

 

 

「学校側から連絡は?」

 

 

明乃は、ましろに横須賀女子海洋学校からの連絡はないか問う。

 

 

「ない!」

 

 

今のところ横須賀女子海洋学校から何も連絡は無い。

 

 

「そう」

 

 

「私達、見捨てられたんじゃないの…」

 

 

横須賀海洋学校からの連絡が一切無い事に芽衣は、見捨てられたと思い、それを聞いたましろは、不安になる。

 

 

「今、事実確認中なのかも…」

 

 

明乃も見捨てたんじゃなく、事実確認中なんだろうと考える。

 

 

「こ、このまま鳥島沖10マイルまで退避で良いんだよね?」

 

 

鈴は、明乃にこのまま鳥島まで退避して良いのか聞いた。

 

 

「うん…私達が反乱を起こしてさるしまを攻撃したみたいに言われてるけど、違うってこと説明しなきゃ…」

 

 

「合流地点に着いたとたんに捕まっちゃわないかな…」

 

 

鈴は、涙目になってそう言う。

 

すると

 

 

「『お前ら何故さるしまを攻撃した!?』『ちがうんです!先に攻撃したのはさるしまの方で』『嘘を言うな!』」

 

 

突然、幸子が一人妄想芝居を始めた。

 

 

「ひっ…」

 

 

幸子の最後の台詞の大声に近くにいた志摩がビックリする。

 

 

「信じて貰えないって事?」

 

 

「だが我々に反乱の意思などない…このまま逃げ続ける事は出来ないのだから…速やかに近くの港に入ろう艦長!」

 

 

「うん、そうだね港に入れば攻撃される事もないだろうし」

 

 

ましろの言葉で明乃は、港に入ればそう簡単に攻撃されないと考え、同意した。

 

 

「鈴ちゃん、横須賀までどれくらい掛かりそう?」

 

 

明乃は、鈴に横須賀までどのくらい掛かるか聞く。

 

 

「巡航で38時間かな…?」

 

 

鈴の巡航で、38時間を約1日30と計算する。

 

 

「全く、こんなクラスになったばっかりに、ついてない…」  

 

 

ましろは、このクラスになった事への不満を言う。

 

 

「何よ、こんなクラスって!…そりゃ晴風は合格した生徒の中でも最底辺が配属される艦かも知れないけど…それは、あんたも一緒でしょ!」

 

 

それを聞いた芽衣がムッとした表情をして、ましろに言う。

 

 

「一緒にするな!…私は、入学試験は全問正解していた筈なのに解答欄を一つずらして回答したから…」

 

 

ましろは、解答欄を一つずらして回答した事を顔を赤くして暴露した。

 

 

『あ…』

 

 

すると、艦橋にいる全員が口を開いていた。

 

 

「ついてないんですね…」

 

 

「五月蠅い!」

 

 

ましろは、幸子に言われ恥ずかしくなり意地を張る。

 

すると明乃が

 

 

「そ、そっかー、私なんて受かっただけでも奇跡なんだけどね…たまたま勉強してたところが出て、ましてや艦長なんて…」

 

 

明乃は、手を頭の後ろに回し少し照れた様にそう言う。

 

 

「此方は、強運の持ち主ですか…」

 

 

「うぃ」

 

 

そんな時

 

 

「鳥…」

 

 

志摩が横を飛ぶ海鳥に気づく。すると幸子が空を飛ぶ海鳥を見て

 

 

「こんな時、あんな風に学校に、戻れたら良いんですけど…水素やヘリウムを使わない空飛ぶ船って、作れないですかね?」

 

 

水素やヘリウムを使わない空飛ぶ船、つまりガソリンで動く航空機が出来ないかと言う。

 

 

「はぁ…あんなもは空想の…空想の…」

 

 

幸子の言葉でましろは口の動きを止めた。

 

集合地点の西ノ島新島近海、教官艦さるしま上空と9年前、母親の真雪と真霜、真冬の姉妹と横須賀の諏訪神社で見た、フローを装備、濃緑のカラーリングの空飛ぶ物体を目撃した。

 

入学前、姉の真霜の婚約者、沖田新一郎の部屋に忍び込み、彼の資料を見て驚愕した。

 

 

「…っ!?これは…あの時みた…二式水上戦闘機…?え…幸吉さんと新一郎兄義さんのも…」

 

 

デスクに置かれてある新一郎と相棒の金城幸吉の背後に写っていた機体の名称、零式水上観測機を見て、身体が震えた。

 

 

「(一体、…新一郎兄義さん達は何者なの…)」

 

 

ましろは艦橋で沖田新一郎が何者なのか、深く考えた。

時刻は昼時となり

 

 

『みなさ~ん、食事の用意が出来ました~!』

 

 

炊飯所から食事の用意ができたと言う放送が流れる。

 

 

晴風、炊飯所兼食堂室

 

 

「本日のメニューは…晴風カレーです!」

 

 

今日の昼食の献立が伝えられた。

 

 

晴風、艦橋

 

 

「カレー‥‥」

 

 

それを聞いて、真っ先に反応したのは、志摩である。

 

普段あまり反応しない彼女の目は、カレーと聞いた瞬間、キラキラと輝かせていた。

 

 

「今日は金曜日でしたね!」

 

 

「カレー!!」

 

 

旧海軍時代からの伝統は、失われておらず、毎週金曜日にカレーを食べる習慣はこの世界の今でも続いている。

 

 

「じゃあ交代で食べに行こっか!」

 

 

「うぃ!」

 

 

「うちの艦のカレーどんなのかな!?」

 

 

晴風艦内で、そんなカレーで盛り上がりしている時

 

 

晴風、見張り台

 

 

「はっ!?」

 

 

見張り台にいるマチコが眼鏡を外し、水平線の彼方から一隻の艦影を肉眼で捉えた。

 

 

「右60度。距離30000、接近中の艦艇は…アドミラル・シュペーです!」

 

 

それは、ドイツ、ヴィルヘルムスハーフェン海洋学校所属の小型直接教育艦アドミラル・グラフ・シュペーだった。

 

 

晴風、艦橋

 

 

『えっ!?』

 

 

見張り台からの報告が艦橋に響き。

 

 

『アドミラル・シュペー!?』

 

 

明乃は、驚愕する。

 

 

「ドイツからの留学生艦です!」

 

 

「取り合えず総員配置に…」 

 

 

明乃は、驚愕しながら総員配置の号令を出す。

 

 

「総員配置!」

 

 

艦内に警報が鳴り響き、晴風の生徒達は、折角のカレーがお預けとなった。

 

 

「えっ!?」

 

 

「速度20ノットで接近中…」

 

 

「見つかっちゃいました!?」

 

 

「その様だな…」

 

 

アドミラル・グラフ・シュペーの僅かな動きの報告から、完全に向こうに捕捉された事をましろは認識した。

 

 

晴風、見張り台

 

 

「シュペー、主砲を旋回しています!!」

 

 

今度は、アドミラル・グラフ・シュペーの主砲の28cm砲が晴風に向けたと言う報告が入る。

 

 

晴風、艦橋

 

 

「えっ!?」

 

 

「撃ってくる!?」

 

 

「問答無用ですね…」 

 

 

主砲旋回の報告を聞いて、一気に緊張した空気へと変わった。

 

 

「野間さん!…白旗を!」

 

 

明乃は、直ぐにマチコに白旗を上げるよう指示する。

 

 

晴風、見張り台

 

 

マチコは、直ぐ白旗を上げる。しかし

 

 

「シュペー主砲発砲!?」

 

 

白旗を上げるのも空しく、アドミラル・グラフ・シュペーは、主砲を斉射。

 

 

晴風、艦橋

 

 

「何で…」

 

 

「エンジンも止めないと駄目だ!!」

 

 

「確かに白旗だけでは、降伏になりませんね…」

 

 

「でも逃げるんだよね?」

 

 

「う、うん、180度反転する…面舵いっぱ~い、前進いっぱ~い!」

 

 

明乃は、降伏を諦め、逃走を決意する。

 

 

「面舵いっぱ~い!」

 

 

鈴は、舵を右側に切る。

 

 

「着弾…!!」

 

 

その直後、アドミラル・グラフ・シュペーから放たれた砲弾が晴風の左側に着弾した。

 

 

晴風は、砲撃を回避しながら、海域からの離脱を図る。

 

 

『シュペーも速度を上げました!!』

 

 

「追ってきた…」

 

 

「早く逃げようよ…」

 

 

逃走する晴風に対し、アドミラル・グラフ・シュペーは、追撃してきた。

 

 

「シュペーは基準排水量12100t、最大速力 28.5ノット、28cm主砲6門、15cm砲8門、魚雷発射管8門、最大装甲160mmと小型直教艦と呼ばれるだけあって巡洋艦並のサイズに直教艦並の砲力を積んでいます」

 

 

『着弾!!』

 

 

幸子がタブレットでアドミラル・グラフ・シュペーのスペックを話している間にもアドミラル・グラフ・シュペーからの砲弾がまたもや晴風の周囲に着弾する。

 

 

「しゅ、主砲の最大射程は約36000m、重さ300kgの砲弾を毎分2.5発発射可能で、一発でも当たれば、一瞬で轟沈です…まあ、15cm砲副砲でも、うちの主砲よりも強いんですけど…」

 

 

「砲力と装甲は、向こうが遥かに上‥‥」

 

 

「うちが勝っているのは、速度と敏捷さだけ…」

 

 

「このまま機関全開にし続けたら完全に壊れちゃうよ…」

 

 

さるしまの戦闘で晴風は、機関の調子があまり良くない、その為、出せる速力も限られていた。

 

 

「魚雷撃って足止める?」

 

 

芽衣が魚雷で足を止める事を提案するが

 

 

「もう無い!」

 

 

「あ~!!そうだった!!」

 

 

さっきの戦闘で魚雷は、使い果たした事をましろに指摘され、芽衣は、頭を抱え叫んだ。

 

 

「こっちの砲力は?」

 

 

「70で5」

 

 

「7000で50mm!?…シュペーの舷側装甲は?」

 

 

「80mmです!」

 

 

「30」

 

 

「3000まで寄れば抜けるのね?」

 

 

「ちゃんと会話が成立してる…」

 

 

芽衣は、この会話を聞いて会話が成立している事に驚いた。

 

 

「これが艦長の器って、やつですか…」

 

 

「そんな分けないだろ!」

 

 

幸子が感心しそう言うがましろはそれを否定する。

 

 

「麻侖ちゃん!!出し続けられる速度は?」

 

 

『第4戦速まで、でぇい!』

 

 

「第4戦速…27ノットか…」

 

 

「向こうの最大戦速とほぼ同じです」

 

 

「如何したら…」

 

 

明乃がそう考えていると志摩が

 

 

「ぐるぐる…」

 

 

「え?」

 

 

「ぐるぐる」

 

 

「はっ!?…鈴ちゃん!!取り舵いっぱい!!」

 

志摩の言葉に明乃は、名案が浮かんだか、鈴に左に舵を切る様を命じる。

 

 

「取り舵いっぱ~い!!…取り舵30度!!」

 

 

鈴は、左に舵を切る。 

 

 

「何をする気ですか!?」

 

 

「煙の中に逃げ込むの!!」

 

 

そう、志摩が言いたかったのはこれだった。

 

 

「戻~せ、面舵いっぱ~い!!」

 

 

「戻せ、面舵いっぱ~い!!面舵30度」

 

 

シュペーの砲撃を晴らす晴風は、8の字を描きながら回避行動する。

 

 

「一発でも当たればやられる。速度と小回りが効くのを生かして、逃げ回れるしかない!!…麻侖ちゃん機関を不完全燃焼させて!!」

 

 

『合点承知!!黒煙が煙幕代わりだな~!』

 

 

明乃の作戦を麻侖は、理解する。

 

 

『それから逃げ回るんで、機関には負担をかけるけど、よろしくね』

 

 

「よろしくって‥‥」

 

 

「やるしかねーんだい!!」

 

 

洋美は機関に負荷がかかるのが不安な様子なのだが、逃げるには致し方ないと麻侖は割り切る。そして明乃は鈴に

 

 

「鈴ちゃん不規則に進路を変えて。できたら速度も。…ただしできるだけ速度を落とさないように…」

 

 

そう指示すると、芽衣が

 

 

「止めるには実弾を使うしかないよ?」

 

 

そういう中、シュペーは晴風に攻撃し続ける中、明乃は、砲戦指示を出す。

 

 

「戦闘…左砲戦30度、同行のシュペー…」

 

 

「何を言っている。さるしまの時と同じになるぞ!!」 

 

 

明乃の指示にましろは反対する

 

 

「実弾でスクリューシャフトを打ち抜くの、そうすれば足止めできるから…」

 

 

「これ以上やったら、本当に反乱になる!!」

 

 

「このままだと…怪我人が出る!!」

 

 

明乃はそう言うとまたも晴風のそばでシュペーの砲弾が着弾する。それを見たましろはついに決断し、明乃と一緒に実弾装填キーを回す。

 

 

「実弾…りょうだん始め…」

 

 

実弾装填キーが回され、主砲の砲身に実弾が装填された。

 

 

「まる」

 

 

志摩が、砲撃準備が完了した事を明乃に伝える。

 

 

『装填良し…射撃用意良し』

 

 

砲術員の小笠原光がそう伝える。あとは明乃の発射命令を待つだけとなった。

 

 

「スクリュー撃つには、どれだけ距離を詰めれば良いかな?」

 

 

「水中だっと急激に弾の速度が低下するから無理だって」

 

 

「水中弾ってのがあったでしょう」

 

 

「それは、巡洋艦以上でうちには、積んでないから…」 

 

 

「通常形状でも、水中は、進むって聞いたよ?」

 

 

「理論上は、12,7cm砲弾の水中直進距離は約10m。最悪、原則装甲を抜くことを考えれば…30以下まで近寄ってください。」

 

 

そして、幸子が通常弾で推進機を破壊するには、30m以内に接近するように言うと、それを聞いた鈴は驚き

 

 

「近づくの?怖いよ~」

 

 

「何を言ってる!!」

 

 

「だから怖いって言ってるの~」

 

 

ましろの怒声に鈴は怯えてそう言うと

 

 

「じゃあ、分かりました!!」

 

 

幸子は両手で鈴の目を塞ぐ

 

 

「ふぇ!?な、何するの!?」

 

 

「ふふ…近づいてください♪」

 

 

「真面目にやれ!」 

 

 

幸子の行動にましろが叱る。そして鈴は舵を左右に切りながらアドミラル・グラフ・シュペーに接近する。

 

 

「距離40…38…36…」

 

 

36mまで接近したところでアドミラル・グラフ・シュペーの28㎝砲弾が晴風の第三砲塔を直撃、第三砲塔が大破した。

 

 

「わわぁっ!!」

 

 

「きゃあぁ!!」

 

 

『アドミラル・シュペーから小型艇が向かってきます!』

 

 

「えっ!?」

 

 

シュペーから、何故か小型艇が一隻、こちらに向かってくると、見張り台から報告が入り、明乃が驚く。

 

しかし、次の瞬間、シュペーの副砲弾が小型艇を直撃し、小型艇に乗っていた少女は海へ投げ出される 

 

 

『小型艇の乗員が海に落ちました!』

 

 

「味方を攻撃している?」

 

 

「何で?」

 

 

マチコからの報告を聞き、何故、味方を攻撃するのか艦橋組は、驚愕する。すると幸子が

 

 

「『わたしは、艦長の指示に従えません!晴風を攻撃するなんてあまりにも!!』『なんだとー艦長に逆らう気か!?』『ええ〜い!こんな船、脱出してやる~!』」

 

 

「想像でものを言うな…」

 

 

「私にとってはノンフィクションよりフィクションが真実です!」

 

 

幸子が得意げに言い放つ。すると、突然、明乃が

 

 

「シロちゃん…」

 

 

「宗谷さんもしくは、副長と呼んでください」

 

 

「ここ、任せていい?」

 

 

「え?」

 

 

いきなりの明けの言葉にましろは一瞬黙ってしまう。そして明乃は艦橋を出て

 

 

「ドイツ艦を引きつけっておいてね…ココちゃん、甲板に保健委員の美波さんを呼んでおいて!」

 

 

「何を…っ!まさか…」  

 

 

ましろは、明乃の元へ向かう。

 

 

「何で、敵なのに助ける!」 

 

 

「…敵じゃないよ…」

 

 

「え…?」

 

 

「海の仲間は…家族だから…じゃあ。行って来るね」 

 

 

そう言うと明乃は、ましろに被っていた艦長帽を渡す。ましろは、明乃の艦長帽を受け取った。

 

 

そして明乃はスキッパーに乗り、小型艇から落ちた少女の救出に向かった

 

 

「艦長、落ちた娘助けに行ったの?」 

 

 

「距離30まで近づけ」

 

 

「う…う…」

 

 

ましろの指揮のもと、鈴は、涙ながら舵を切る。すると

 

 

『上空から何か来ます!!あ…さるしまに現れた、例の飛行物体です!!』

 

 

「なに!?」 

 

 

マチコの言葉にましろは驚くと、それと同時に砲撃音とは違う轟音が空の上から聞こえた。

 

 

シュペーの少女を救助するために、スキッパーを扱う明乃も空を見上げた。

 

 

「あぁっ…!?」

 

 

そしてその瞬間雲から一つの濃緑の飛行物体が風を切り裂くような轟音を発しながら現れたのだ。

 

そう、さるしまを大破させた二式水上戦闘機だった。 

 

 

 

晴風、シュペー上空 

 

 

 

「ん…あれは...?ドイツのアドミラル・グラフ・シュペーか!?」

 

 

異空間から脱した二式水戦と扱うパイロット、大賀虎雄が目を醒ました。

 

アドミラ・グラフ・ルシュペー、ポケット戦艦とも呼ばれる巡洋戦艦の一種で、第二次欧州の初戦で謎の爆沈を遂げたと、飛行練習生時代にて報じられた。

          

 

「なんで…ナチス・ドイツの艦艇が…この太平洋に…ここはあの世なのか…?」

 

 

虎雄はそう呟き、もう一度確認するとナチスの軍艦にはある甲板に書かれた鉤十字のマークはなかった。

 

シュペーは日本駆逐艦に向かって砲弾を撃っている28㎝の砲弾。

ドイツは敗戦を迎えたにも関わらず、日本海軍の陽炎型駆逐艦を標的にしていた。

まともに喰らえば、ひとたまりもない。被弾すれば真っ二つに割れて沈没する。下手をすれば死人が出る可能性があった。

 

 

「くそっ!どうすれば…」 

 

 

無線で攻撃をやめるように連絡するにも、ドイツの周波数が分からないうえ、電波障害で通信も不能だった。そのため無線で攻撃をやめるように言えない状態であった。

 

すると、駆逐艦から一艇の水上艇が下ろされるのが見えた。

 

 

「水上艇?どこに向かう気だ?」 

 

 

虎雄はスキッパーの様子を見るとその先に壊れたボートにしがみつく人影が見えた。どうにか救出に向かった。

 

するとシュペーの砲がそのスキッパーの方へと向けられていた

 

 

「まずい、止めろーっ!!止めるんじゃっ!!」

 

 

虎雄はとっさに操縦桿を握り、シュペーの方へと急降下をした。雲を突き抜け高度は1000に降下。虎雄はシュペーの主砲や副砲に向かって機銃掃射をした。

 

7.7ミリと20ミリ弾が雨あられと砲台に命中する、だが、雹がぶつかったみたいにカンカンカンと音を立てただけで、かすり傷にもならなかった為に、上昇した。

 

 

「やっぱり機銃じゃ豆鉄砲か…こうなれば対潜爆弾で!」

 

 

自身の愛機の両翼には、投下し損ねた対潜水艦爆弾があった。

 

航行していた駆逐艦=航洋艦晴風はシュペーからの距離30メートルに接近、第1砲塔が旋回して発砲、後部甲板付近に弾着。目標艦の速力が減速した。

 

 

「なるほど…相手さんのスクリューシャフトを…ならば、わしはっ!」

 

 

虎雄は操縦桿を倒し、再び急降下。

 

目標は、シュペーの後部甲板、機関部を照準に入れた。

 

そしてシュペーは目標を晴風ではなく虎雄機の方へ向け、砲撃し、虎雄はすかさずその砲撃を躱す 

 

 

「すげぇな~だが…」

 

 

太平洋戦線では幾つもの軍艦の対空砲を経験した彼にとってこの程度なら難なく交わすことができた。

 

だが、シュペーには対空機銃を装備せず、高角砲や主砲などの砲撃のみ。無論威力は凄い、撃つのには装填の時間がかかる。

 

飛行機による攻撃に対し高角砲や主砲の弾幕の他大型砲の装填時間を補うために機関銃が使用されるのだが、目標艦の対空機銃の必要性はかなり薄く、搭載していなかった。

 

 

「距離500メートル…十分よし!喰らえ!!」

 

 

ガチン

 

虎雄は水戦の爆弾投下装置を作動、右翼の対潜爆弾が金切り音を発し、そして吸い込まれるように目標である後部甲板に命中、爆発を起こした。

 

 

「やった…ぎゃっ!!」

 

命中を確認した時、15センチ副砲が水戦に放たれて、手前に爆発した。

 

爆発による衝撃により、体が大きく揺れた。あまりの衝撃により虎雄は気絶しそうになった瞬間

 

 

『どこいくの!?』

 

 

「はっ…!?」

 

 

脳裏に女の子の声が聞こえた。虎雄は無意識にドイツ艦、陽炎型の上空を離脱した。

 

 

赤い夕陽が二式水戦を赤く染め、虎雄は意識すれすれの中、操縦していた。

 

 

「…いい夕陽だ…眠い~…」

 

 

虎雄は太平洋の海に着水、漂う海に揺れながら、航洋艦晴風に救助されるまで眠りについた。

 

 

「…厚木隊長…沖田さん…洋介…進次郎…幸吉……トチローさん…トチコさん…晴香…」

 

 

 

虎雄はかつてのラバウルで過ごした隊長や上官、戦友や後輩、そしてベルリンで命を落とした妹の名前を呟いた。

 

 

 



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第17話 絶海の牢獄

 

 

 

 

 

海上安全整備局 拘置所

 

 

 

 

「…ぐ…はぁ……は…ぁ……」

 

 

 

ライジングイーグルの零観パイロット、沖田新一郎は行方不明になった全隊員に成り代わり、保安部により逮捕された。

逮捕された新一郎は毎日の様に、保安部の虹川により部下共々の拷問を受けていた。

 

 

「さぁ、吐いて貰おうか。君の所有する飛行機格納庫の予備の鍵を」

 

 

「…喋るかよ…貴様に…飛行機のネジ一本たりとも売る訳には…」 

 

 

   バシッ

 

 

「うぐっ…!」

 

 

「沖田ぁっ!!」

 

 

「…俺たちの世界…ライト兄弟が動力飛行機で人類初飛行してわずか11年、人間は飛行機が兵器になることに気付いてしまった。飛行機は化け物となり、戦争の様相を一変させた。この世界で平和に過ごした貴様らに、あの大戦で経験した者の忠告だ!!」

 

 

拷問室に虹川雪男が入室、片手に注射器を持っていた。

 

 

「さぁ、沖田君。君に薬を注入するよぉ~♪」

 

 

「へっ…自白剤か…そんなもの注入しても、黒潮と虹川の暴言を吐き続けるぞ!!…それに…貴様ら…海賊の犬が…」

 

 

 

「ふふふ~♪この薬剤を投与したら、拷問以上の地獄が待っているよぉ~♪」

 

 

 

「…拷問以上の地獄…おい、虹川…まさか……?」

 

 

不敵な笑みを浮かべた虹川は、新一郎の腕に薬剤を注入した。

 

 

次の日から、新一郎の地獄が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

時は遡り、4月6日

 

 

日本近海

 

 

その頃、武蔵は、晴風と同じ様に集合地点の西之島新島沖へと向かっていた。

 

 

超大型直航艦武蔵、艦橋

 

 

 

「明日から他のクラスと合流ですね!」

 

 

海図を見ながら当直中のクラスメイト、吉田親子がもえかに声を掛ける。

 

 

「うん!」

 

 

海図から吉田に笑みを浮かべながら言うもえか。

 

 

 

 

医務、保健室

 

 

横女海洋医=ライジングイーグルのシャルロット・F・トラインはデスクに居座りながら医学本を読み、勤勉していた。

 

 

「ふぅ…70年、医学が進歩しているから、学び覚えるのに大変ですわ…」

 

 

 

ズシイィィン

 

 

「え…?」

 

 

 

艦内で微妙に震えた感じがした。気になったシャルロットは伝声管で艦橋へ連絡した。

 

 

「こちら、医務室。振動を感じたのですが、何かあったのですか…?」

 

 

「『 航海長の吉田です、艦長は射撃指揮所の様子を見に降りました! 』」

 

 

 

「なんですって…!?」

 

 

 

武蔵、通路

 

 

艦長の知名もえかが射撃指揮所へと向かっていると、通路の向こうからまるで何かから逃げているかの様に走って来るクラスメイトの角田夏美がいた。

 

 

夏美は、もえかに飛びついて涙を流す。

 

 

「艦長、皆が…皆が…」

 

 

「皆って?」

 

 

もえかが、夏美が逃げて来た通路の先を見ると、そこには大勢のクラスメイトの姿があった。

 

 

「ひぃっ!?」

 

 

夏美はそんなクラスメイト達の姿を見て怯える。

 

 

「どうしたの貴方達!?…何を…?」

 

 

もえかは恐る恐るクラスメイト達に声を掛けるが、彼女達は、無口無表情のまま何も言ってこない。

 

 

「貴方達!?…一体…」

 

 

もえかも恐る恐るクラスメイト達に声を掛けるが、やはり彼女達は、無口無表情のまま何も言ってこない。

 

 

すると、彼女達は、無口無表情のままゆっくりともえか達に近づいてくる。

 

 

「ひいぃっ!?」

 

 

「おやめなさい!」

 

 

もえか達が恐怖の中、別の通路からデッキブラシを持ち、数人のクラスメイトを気絶させた。

 

 

「シャルロットさん!」

 

 

「こ……これは……?」

 

 

シャルロットの視線から、敗残兵の行進が見えた。

 

 

「あれ、艦長如何したんですか?」

 

 

逃げる途中、偶然、艦橋に報告しに通路を歩いていたクラスメイトの小林亜衣子と出くわした。

 

 

「小林さんも急いで上に!!」

 

 

「何か遭ったんですか!?」

 

 

「良いから上に…付いてきて!!」

 

 

亜衣子は、理由も聞けず、何事かと思い、シャルロットともえか達と共に艦橋へと避難する。

 

 

 

 

武蔵 第一艦橋

 

 

 

艦橋に避難したシャルロットともえか達は、急いでドアに鍵を掛け、ついでにバリケードを構築し、階段(ラッタル)のハッチを閉め、モップの柄とロープを使い、階段(ラッタル)のハッチを開かない様にした。

 

 

「これでしばらくは、誰も入って来られない!」

 

 

誰も入って来られないと聞いて、5人は、安心する。

 

 

「何が何だか分かりませんが、そもそもこうなった原因は何ですか?」

 

 

「それはわたくしにも分かりません…角田さんは、何か知ってる?」

 

 

「わ、私にも分かりません…機関の調子を見に行こうと機関室に行こうとした時、急に皆に襲われて…その後、何も考えず逃げたんです!!」

 

 

「と言う事は、原因は、全くわからないのですのね…!」

 

 

「これから如何しますか艦長!」

 

 

「そ…そうね…」 

 

 

「取り合えず、やるべき事は…先ず状況の把握と必要な物の調達ですわ…」

 

 

シャルロットは、状況の把握と必要な物の調達を指示した。

 

 

先ず、シャルロットともえかが状況の把握の為、辺りを確認してくると残りの3人は、必要な物の調達を命じられた。

 

 

「じゃ、3人とも危なくなったら直ぐ戻ってきて」

 

 

「分かりました。」

 

 

「それからわたくしと艦長のどちらかが戻らなかった場合、探しに来ないで…」

 

 

「何故ですか?」

 

 

「まだどんな危険が有るか分からわかりません…貴方達を危険に巻き込む訳にはいきません…わたくしは、宗谷校長から貴方達をどんな事から守ってほしいと言われてあります…」

 

 

「シャル先生、艦長…」

 

 

「それじゃ…行きましょう…」

 

 

 

任務が開始され、シャルロットともえかは、階段から、他の3人は、エレベーターから下へと降りて行った。

 

 

そして、武蔵から位置を知らせるビーコンが途絶え、行方不明になった事にシャルロットやもえか達は気づかなかった。

 

 

 

 

4月8日

 

 

 

シャルロット、もえか、親子たち3人は水と糧食の確保、シャルロットともえかは遭難に備えて必要な医薬品を確保。連絡するために、無線室へ赴いた。

 

無線室に入ると中には誰も居らず、無線も無傷のままの状態でほったらかされていた。

 

 

親子は、直ぐに無線機を取り、外部に連絡を取ろうとした。

 

 

「どお吉田さん…学校との連絡は取れそうですか?」

 

 

「…駄目です!!…雑音が酷くて、通じません!!」

 

 

「救難信号は?」

 

 

「それも駄目です…」

 

 

雑音が酷くて、通じず、救難信号も駄目だった。 

 

 

「航海長、ちょっとわたくしに操作させてください!」

 

 

「はい!」

 

 

彼女はライジングイーグルの零観とカタリナに連絡を試みたが、ノイズが流れていた。

 

しばらく待てば、ノイズも消えるかも知れない。

 

 

だが、このまま此処に居ても危険過ぎる。

 

 

「仕方ありません、取り合えず非常用無線機だけでも持って、艦橋に戻りましょう!」

 

 

仕方なく、シャルロットは、机の下にあった非常用無線機だけでも持って、艦橋に戻る事にした。

 

 

「…よし、誰も居ない様です…」

 

 

ドアの隙間から通路を除き、誰もいない事を確認し、通路を出て、来た道を通って、急いで艦橋へと戻る。

 

 

 

武蔵、通路

 

 

 

「此処を通れば甲板ですわ!」

 

 

通路を進み来た道を通って、艦橋へと向かう。

 

通路を通る中、放浪している生徒達と出くわさなかった。

 

 

 

 

エレベーター前

 

 

 

「良かった!…何とか辿り着きましたねシャル先生!」

 

 

ようやく、エレベーターに辿り着き、もえかは安心する。

そして、親子がボタンを押すと、エレベーターが下へと降りてくる。

 

 

「早く!早く来て!!」

 

 

しかし、降りてくるのに時間が掛かり、シャルロットは焦る。

 

 

「先生!?」

 

 

焦っているともえかが何事かとはやてを呼び、シャルロットは、後ろを向く。

 

 

すると、後ろから、さっき放浪していた生徒が現れ、しかもその数は、先の4〜5人から10人程に増え、ゆっくりとこっちに向かってくる。

 

 

「不味いよ先生!…このままだと皆捕まってしまいます!」

 

 

エレベーターもまだ降りてこない.後ろから放浪している生徒がゆっくりとこっちに向かってくる。

 

 

「機長やトムさん程じゃありませんが、時間を稼かねばなりません!!」

 

 

デッキブラシを護身用として所持したシャルロットが野人化した生徒と戦った。

 

 

「はぁっ!たぁっ!」

 

 

「凄い…」

 

 

もえかと親子はシャルロットのブラシ捌きで何人か気絶させた。

 

だが、戦う内に彼女の体力が危うく、最大の危機が迫った。

 

 

 

その時

 

 

 

「あっ、間にあった!」

 

 

ようやく、エレベーターが降りて来て、3人は、急いで乗り込み、艦橋へ帰投した。

 

 

超大型直航艦武蔵の現状で、正常なのは艦長の知名もえか、航海長の吉田親子、応急員の角田夏美、調理担当兼予備倉庫管理者、小林亜依子。そして医学生のシャルロット・F・トラインの5名に留まった。

 

 

 

艦長の指示でみんなは艦橋に持ち込んだ緊急用無線機で物資を確認する時、外から轟音が鳴り響いた。

 

 

「え…?なにこの音…?」

 

 

「艦長!左舷10時方向、上空に何かが飛行しています!」

 

 

双眼鏡で水平線を見張っていた親子が視認した。

 

 

「え…?見せて!…あ…なに…あれは…?」

 

 

親子はもえかに双眼鏡を譲り、彼女は視認して驚愕した。

 

 

「艦長…何をみてらっしゃるのですか…?」

 

 

「……シャル先生…これを…」

 

 

「あれは…カタリナ?なんてことですの!!」

 

 

シャルロットも双眼鏡で確認、視認した機影はアメリカ海軍の双発哨戒機、PBY-5カタリナだった。 

 

 

「かたりな…?シャル先生、なにそれ?」

 

 

もえかと親子は彼女にはてなを浮かび上がらせた。

 

2日前、不穏な行動を取る武蔵は本艦を通過する船舶に対して砲撃。

一方、カタリナは徐々に武蔵に向けて飛行してきた。

 

 

「止めてください、機長!!近づけば撃ち落とされます!!親子さん、無線機の修理を急がしてください!」

 

 

「わかっています…落ち着いて!」

 

 

「あっ…モールス信号が…!」

 

 

シャルロットがカタリナに向けて叫んでも無に等しく、親子に無線機の修理を急がせる様に直訴した。

 

 

だが、武蔵の主砲どころか、機銃はカタリナに向けず、徐々に本艦の速度が減速、停船。

 

そして、カタリナは海上に着水、本艦に接近した。

 

カタリナの搭乗員、金城幸吉と整備士の秋山敏郎は洋上で武蔵の生徒から燃料と弾薬の補給を受けていた。

 

その光景を見たシャルロットの身体が震え、膝に着いた。

 

 

 

「なんてことを…なんでカタリナが…武蔵から補給してらっしゃるの…?教えて下さい…ウィル機長…幸吉さん…トチローさん…」

 

 

「…シャル先生…?」

 

 

「あの…シャルロットさん…どういうことですか…?」

 

 

「…あの空飛ぶ飛行物体…シャルロットさん…どういう関わりなの…?」

 

 

「あなたは…何者なの…?」

 

 

「……隠しても…仕方ありませんわ…全て仰います」

 

 

シャルロット・F・トラインは全てのことを語った。

 

自身は別の異世界から送られてきた住人、忌まわしい時代と戦場で従軍した看護婦と述べた。

 

この世界にきてから、まだ未発表の組織、ライジングイーグルの隊員と呟き述べた。

 

 

武蔵のもえかたち生徒は青ざめ、冷や汗を流した。

 

 

「……し…信じられない…」

 

 

「…別世界で…日本は世界と戦争をしていたなんて……」

 

 

「シャルロットさんが言うひこうき…想像で描かれた産物を…あなたの言うことはあながち嘘ではありませんね…」 

 

 

「もえか艦長…わたくしを信じるのですか…?」

 

 

「はい、それとシャル先生。戦時の世界からきたとなれば…大賀虎雄さんのことは…?」

 

 

「え…?」

 

 

艦長のもえかはシャルロットに、幼少に出会った、大賀虎雄を述べた。

 

 

午後5時、作業も終わり、ようやく非常用無線機が使えるようになった。

 

 

「これで届くの?」

 

 

本当に救援が呼べるか夏美は、不安になる。

 

 

「問題ない筈…唯電源がバッテリーしかないので使えるのは、数分かと…どうぞ…」

 

 

問題はないが、維持できる電力がバッテリーの為、使えるのが数分程度。 

 

しかし、他に手がない。

 

親子は、もえかに無線機のマイクを渡す。

 

 

「此方武蔵、此方武蔵…現在アスンシオン島沖北西10マイル…非常事態が発生しています…現在アスンシオン島沖北西、至急救援を…至急救援を…」 

 

 

もえかは、電源が切れるまで、救援を呼び続けた。

 

 

それをたまたま、退避中の晴風が傍受した。

 

 

しかし、ノイズが酷く、横須賀女子海洋学校や海上安全整備局には届かなかった。

 

 

こうして、もえか達は、絶海の牢獄の中で挫けず、残った4人と一緒に艦橋に立てこもった。

 

 

 

 

 

八丈島 近海 岩場 ー

 

 

 

 

「うーん……晴風よ…ましろちゃんよ…武蔵よ…シャルロットよ…どこの海で彷徨っているんだ……」

 

 

トム・K・五十嵐はタブレットで海図を睨んでいた。

 

 

 

「ビーコンがやられているのか…?……機長…幸吉…トチローさん……あんた達は一体どこに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀 隊員宿舎

 

 

 

「キャサリンさん、私です平賀!」

 

 

昨日、今日の食堂にキャサリンの姿がなかった。

 

気になった平賀がスパロウ夫婦が暮らす部屋へ赴き、扉をノックしても、静かだった。

 

 

「…静かだ…もしかして夜逃げ…いや、出入口の監視所から報告があるはず…あれ…?」

 

 

ノブを回すと扉が開いた。部屋の中は真っ暗だった。

 

 

「あの…キャサリンさん…エマちゃん……エミリーちゃん…?…きゃっ!?」

 

 

平賀が床に躓き、前向きに倒れた。

 

 

「痛たぁ~…」

 

 

「「 それぇ~!! 」」

 

 

 

「きゃっ!!なに、なに~!?」

 

 

平賀が紐でぐるぐると巻かれた時、天井の蛍光灯が付いた。

 

 

「動くな!!」

 

 

SAA拳銃を構えたキャサリンが出てきた。

 

 

「あ……倫子ちゃん……」

 

 

「「 …倫子お姉ちゃん......! 」」

 

 

ライジングイーグルの関係者、ウィリアム・J・スパロウのグループは、横女学校の教官艦さるしまを攻撃した罪により行方不明。

 

隊長の沖田新一郎が公安部により逮捕された。危機を感じたキャサリンは自身と双子の娘を護る為に拳銃を構えた。

 

そして、彼女たちが暮らす部屋の出入口に罠を設置していた。

 

 

「あの…倫子ちゃん、ごめんなさい…」

 

 

「「 倫子お姉ちゃん、ごめんなさい 」」

 

 

キャサリン、エマとエミリーは、平賀に謝罪した。

 

 

「あはは…いいのよ…この事態なら、仕方ないわ…それに、キャサリンさん、イーグルは立場上、危うい状況に措かれていますが、私達ブルーマーメイドが、全力であなたたち家族を守ります!」

 

 

「倫子ちゃん、ありがとう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『黒潮君、あなたの言う異世界の異物、残りの飛行機はいつ入手するの?』

 

 

「…申し訳ありません、カタリナを入手したものの、零式観測機は格納庫に封じられ、専用の鍵は一人の隊員が所持し、太平洋に逃亡…奴らのは一枚上手でした…」

 

 

『ふふふ…まぁいいわ、横須賀女子海洋学校の学生艦とドイツの留学生艦に例の生物を、拿捕したアメリカ機に積み込み、上空からばら蒔けたことは大きな成果だわね。いずれ七つの海を制し、我が物とするわ。今後、残りの飛行機を捕獲し、とことん海洋整備局の艦艇を殲滅するのよ。今後もあなたを期待するわよ』

 

 

「はっ……黒ひげ卿」

 

 

 

 

 

黒潮鈴江がモニターであることを報告し、電源を閉じた。

 

黒潮が通じた相手こそ犯罪界の女海賊、沖田新一郎たちライジングイーグルが捜索する最重要人物、コードネームは黒ひげ。

 

 

 

 



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第18話 黄昏の再会

 

 

 

 

 

 

 

「…はぁ…うぅ……」

 

 

ドイツ艦、アドミラル・グラーフ・シュペーの戦闘で被弾した日本海軍、二式水上戦闘機は海に着水。

 

波が揺れる中で日本海軍少尉、大賀虎雄は微かに意識を回復する。

 

 

 

「……厚木…隊長……」

 

 

 

 

 

虎雄はラバウル航空時代、ダンピール海峡から生還後の六勇士の結成前に、のちの隊長である海軍中尉、厚木十三と仲間たちと酒を呑み交わした記憶を呼び覚ました。

 

 

 

 

1943年3月末  ラバウル航空隊 

 

 

 

「お前の名前は虎雄って言うのか~……」

 

 

「はい、父から付けて頂きました…干支の寅年に、干支の順番で3月に生まれました…」

 

 

「そうか、はっはっはっ!お前の親父さんは思いやりがあるな。虎は千里に行って、千里に帰る。…必ず日本に、故郷に帰るんだぞ虎雄……」

 

 

「はい、厚木隊長!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僅かな力で左手で電鍵を押し、電波を発した。

 

 

「……虎は千里に行って、千里を帰る……(…ぬちどう宝……生きることに……敵に助けられても……許してくれますか…厚木隊長……)」

 

 

 

虎雄は教えられた『生きて虜囚の辱しめを受けず』の戦陣訓を無視し、ラバウル六勇士の言葉を信じ、救助を待ちながら、再び気を失った。

 

 

 

 

晴風 浴場

 

 

 

明乃は、濡れた服を洗濯に出し、大浴場でシャワーを浴びていた。

さるしまとシュペーの攻撃。そして、二度にわたる、正体不明の飛行物体の飛来で悩まされた。

 

 

「あれは…確か…昔、虎ちゃんに教えられた…ひこうき…これからどうすれば……私は艦長なんだから!…そうだよね、もかちゃん…虎ちゃん…!」

 

 

明乃は、元気を取り戻す。

 

 

シュペーの戦闘後、無事に戦線を離脱した晴風は、現在目的地もわからずに海面を進んでいた。

 

そして今その晴風の艦長である明乃は、シュペーから脱出し保護をした少女の様子を見に医務室へと向かった。

 

 

「美波さん…」 

 

 

ノックをして医務室に入る明乃

 

 

「艦長?」

 

 

「様子はどう?」

 

 

「外傷はない。脳波も正常…後は、意識が戻るのを待つしか…」

 

 

 

「そっか…ありがとう、私見てるから美波さん、食事してきて」

 

 

 

「感謝、極まりない…」

 

 

 

明乃は、そう言うと美波は、お礼を言い医務室を出る。そして明乃は、ベットで横になっている少女を見て、微笑んだ。

 

 

そして炊飯所兼食堂室では晴風のクラスの子たちがカレーを美味しそうに食べていた。

 

 

「これが、晴風カレー」

 

 

「やっと食べられますね~」

 

 

鈴と幸子は、晴風カレーを見て言う。

 

 

「…美味い!!…」

 

 

志摩は、待望の晴風カレーを食べ、幸せな顔をする。

 

 

「甘がちだけど、コクがあります」

 

 

「ブルーベリージャムを隠し味に入れてるから」

 

 

幸子は、美甘に晴風カレーの感想を言う。すると

 

 

「美味しい!!」

 

 

「ん、美味しい!!」

 

 

光と美千留がそう言い、周りでは、美味しいと言う声が飛び交う。 

 

 

「「 はぁ…やったぁ!! 」」

 

 

それを隣の炊飯所で見ていた杵崎姉妹が喜んでいた。

 

 

「マッチにも持ってってあげよ~っと♪」

 

 

「何がマッチよ‥‥」

 

 

「美化委員長はクロちゃん派ッスか?」

 

 

「はぁ!?」

 

 

食堂室で生徒達が和気藹々とカレーを食べ、談笑している中

 

 

「そういえばさ~さっきあの飛んでいたのなんだったんだろうね?」

 

 

「あ、それ私も思ったぞな」

 

 

まゆみの言葉に聡子がそう言うと一気に艦内の食堂内では、昨日のさるしまとさっきシュペーや晴風の前に現れた飛行物体の話題で盛り上がっていた。

 

 

「でもかっこよかったよな~こうビューン!って!!」

 

 

「確かにスキッパーや飛行船よりも速かったですしね。それよりあの急降下を見ました!まるでトンビのようでしたよね!」

 

 

「そうそう。それに何か落としてシュペーを小破させたよね?」

 

 

「うん。あれって爆弾かな?すごいよね?あれだけの砲撃を躱して、命中させるなんてね」

 

 

 

「そうそうバキューン!だったね!」

 

 

と、飛行物体が話題となっていた。

 

 

艦橋 ましろは、鈴と交代で舵を握っていた。

 

 

「(間違いない…あれは昔…横須賀で見た飛行物体だ…あの物体は…飛行機と言う乗り物…しかし、新一郎義兄さんは…あれと…どんな関わりが…)」

 

 

舵を握りながら悩みにつくましろだった。

 

 

「宗谷さん、お疲れ様…カレー持ってきたわ。」

 

 

すると、食堂室に居た洋美がましろの為にカレーを持って来てくれた。

 

「あ、すまない!」

 

ましろは、洋美からカレーを受け取る。

 

 

「余り、無理しないでね!」

 

 

そう言って、洋美は、戻ってきた。そんな洋美にましろは、嬉しかった。

 

カレーを食べようと口に持っていこうとした時

 

 

ビー…ビー…ビー…

 

 

突如、通信を知らせるベルが鳴る。

 

 

「通信?…はぁ…ついてない…」

 

 

突然の通信でカレーが食べられなくなった事にましろは、ガッカリする。

 

ガッカリしながら、艦内電話の受話器をとって耳に当てる。

 

 

「っ!?」

 

 

その通信内容を聞いたましろは思わず目を大きく見開いた。

 

そして、医務室に居る明乃にも

 

 

晴風、医務室

 

 

 

『艦長!…至急艦橋に来てください!』

 

 

艦橋からの呼び出しに明乃は、急いで艦橋に向かう。

 

 

晴風、艦橋

 

 

明乃が艦橋に着くと、ましろが驚愕した顔をしていた。 

 

「シロちゃん如何したの?」

 

 

「非常通信回線が!」

 

 

「何所から!?」

 

 

「武蔵からです!」

 

 

「武蔵!?」

 

 

武蔵の言葉を聞いて、明乃は、驚愕しながら、ましろから受話器を受け取る。

 

 

『此方武蔵…此方武蔵…』

 

 

 

「もかちゃん!?…私、明乃!…どうしたの!?…何があったの!?」

 

 

明乃はもえかに話しかけるが、向こうの無線機の受信感度が低いのか、明乃の応答にもえかは答える事無く、必死に救援要請を伝える。

 

 

『非常事態発生…至急、救援を…現在、アスンシオン島北西…アスンシオン島北西…至急救援を…至急救援を……』

 

 

やがて、受話器からもえかの声は聴こえなくなり、晴風の艦橋は不気味な程の静寂に包まれた。

 

 

「もかちゃん‥‥」

 

 

明乃は受話器を持ったまま固まってしまう。

 

 

「艦長…!」

 

 

そして、電信室から鶫が伝声管を伝って報告する。

 

 

「鶫ちゃん…!?」

 

 

「長符号を受信しました!」

 

 

「長符号だって、一体どこから!?」

 

 

 

 

見張り台

 

 

 

「ふぁあ…」

 

 

鶫が長符号を受信したと同時に、見張り台の野間マチ子が傾きかけた陽の光が、夕暮れ時の太平洋を赤く染める。

 

穏やかな海面に反射してキラキラと光る様子はあたり一面に宝石をばらまいたような美しい景色であった。

 

そんな海を見ながら、見張り員の野間マチコは、本日何度目かのあくびをする時ー

 

 

『野間さん、周囲の海面に何か物体はある?』

 

 

「艦長…特に、ん?」

 

 

突如、伝声管から艦長の明乃が海面に何かあるのかを確認すると、光るのが見えた。

 

 

「(気のせい…?いや違う)」

 

 

マチコは遠視用の眼鏡をはずし、よく見ると海面になにか浮かんでいた

 

 

「あれは…」

 

 

それは濃緑の物体であった。それを見たマチコは

 

「右舷六十度、大型の漂流物!例の飛行物体です!!」

 

 

伝声管で艦橋に報告を行う。

 

その言葉は艦橋に残っていたましろと明乃に伝わり、その場でカレーを食べていた晴風の乗員たちは甲板へと出る。

 

 

「本当だ…さっきの飛行物体だ…」

 

 

甲板に集まった生徒たちは飛行機、二式水戦を初めて目の当たりにそう述べる。すると双眼鏡をもって見ていた幸子が 

 

 

「艦長、あの物体のところに人が乗っています!」

 

 

「え!?」 

 

 

幸子の言葉に明乃は双眼鏡で見ると、その物体の中に人が倒れていた。

 

 

「鈴ちゃん!艦をあの物体に寄せてくれる?」

 

 

「は、はい!」

 

 

「しかし、あの物体はさるしまとシュペーを小破させてます。近づくには、警戒をしたほうがいい、艦長!」

 

 

「う…うん…」

 

 

「砲雷科、警戒態勢を」

 

 

明乃の指示で鈴は晴風をその浮遊している物体に寄せる。

 

そして、ましろの指示で砲雷科は連装砲、機銃を二式水上戦闘機に向けて警戒した。

 

「シロちゃん、ちょっと行ってくる」

 

 

「危険です!艦長自ら行くなんて…!」

 

 

明乃はましろの言葉が耳に入らず、艦が二式水戦のそばに寄せると、明乃は二式水戦の翼に乗り操縦席を見る。

 

そこでは帽子とゴーグルをして顔はよくわからなかったが、目を閉じ動いていなかったために、明乃は風防を開けた。

 

 

「………大丈夫!?しっかりして!」

 

 

「………う…ん……ん…」 

 

 

明乃の視点では、操縦士の左手には電鍵を押しながら長符号を発していた。

 

 

「発信源は、この人とこの物体からだったんだね…」

 

 

そして、明乃は操縦手の動脈に手を添えながら、彼の僅かな声が聞こえた。

 

 

 

「…声がある……生きてる…男の人…!」

 

 

パイロットが生きていることに明乃は安心し、操縦者を持ち上げようとするが一人じゃ持ち上げることができなかった

 

 

「だ、誰か手伝って!」

 

 

「よっしゃ!やってやるぞ!」 

 

 

「うぃ…」

 

 

芽依と志摩は明乃の指示で動き、搭乗員を晴風に運んだ。

 

 

「(これが…ひこうき…)ねえ、シロちゃん。あれも持って行こう。この人の物みたいだし…!」

 

 

「え?でもどこに乗せるんですか?」

 

 

「魚雷用のクレーンで引き揚げて、置き場所もとりあえずは広い後部甲板に乗せとけばいいから」

 

 

「わかりました」

 

 

二式水戦はクレーンを使用し後部甲板に運ばれる。

そして操縦者は担架に乗せられ、医務室へ運ばれた。

 

 

艦橋組のましろと幸子、芽依と志摩はパイロットの所持物と二式水戦を簡素に調べた。

 

 

「おぉ~!!拳銃、装飾の短剣…!」

 

 

「…組み立て式の小銃…カッコいい…」

 

 

芽依と志摩は操縦士の所持する武装を、目を輝かせながら手にした。

 

 

「これは凄いです〜!この飛行物体が空を飛んで、さるしまとシュペーを破壊したなんて…」

 

 

 

幸子はタブレットで幾つかの写真を撮り納めた。

 

 

ましろは二式水上戦闘機の側に寄り、操縦席を見つめた。

 

 

「…っ!?…あれは…なんてとこ……」

 

 

機体の操縦席の後部には、横須賀の諏訪神社、母親の真雪がブルーマーメイドの現役を退く事を宣告した時に翔ばされた帽子が、操縦席内後部の無線アンテナに引っ掛かっていた。

ましろは機体に上り、操縦席後部に手を伸ばして掴み取った。

 

 

「(…良かった…見つけたよ…見つけたよ、お母さん…)」

 

 

ましろは安心した顔で、帽子を胸の中に掴んだ。

 

 

 

医務室

 

 

 

「艦長…急患か、いつでも手当ての準備しているぞ」

 

 

「食事中ごめんね美波さん」

 

 

「「 せぇーのっ! 」」

 

 

シュペーの生徒が眠っているベッドの隣で、媛姫と百々が二式水戦のパイロットを担架からベッドに寝かせた時、手帳が落ちた。

 

 

「手帳…艦長っ手帳ッス!」

 

 

「え…?手帳…」

 

 

明乃が百々から手帳を渡された時、パイロットは寝言を呟いた。

 

 

「…う……どこ…だ…どこ……なん…だ…あけの……もえか……」

 

 

「明乃…まさか…!?」

 

 

彼女はパイロットの手帳と装身具の名札を確認、名前は大賀虎雄だった。

 

 

「っ!?…そんな…あなたは……あなたは……虎ちゃん!?」

 

 

 

 

 

 

 

晴風が虎雄を保護した同時刻、横須賀女子海洋学校、会議室

 

 

「校長、海上安全整備局より連絡です」

 

 

「読んで?」

 

 

真雪の秘書の老松亮は、報告する。

 

「はい、今回の晴風、速やかに学内で処理できない場合、大規模叛乱行為と認定し、その際、貴校所属艦は拿捕、それが不可能であるならば、撃沈するとの事です」

 

 

何と、海上安全整備局から横須賀女子海洋学校に齎されたのは、問答無用の晴風への撃沈命令だった。

 

 

「っ!?」

 

 

海上安全整備局からの晴風撃沈命令に真雪は、驚く。

 

 

「このままでは、本当に反乱と見なされて、ブルーマーメイド及びホワイトドルフィンの本隊の治安出動もあり得ます」

 

 

「まだ、真実が分からないのに、生徒達を危険な目に遭わせる訳にはいかない!!」

 

 

ブルーマーメイドやホワイトドルフィンらの実働部隊が本格的に出動すれば学生の乗る晴風はただでは済まない下手をすれば死人が出る可能性があった。そのため真雪は海上安全整備局からの晴風撃沈命令に否定の声をあげた

 

 

「私達は生徒達の安全の為、あらゆる手を尽くしましょう!!」

 

 

「はい!!」

 

 

「まずは、国交省の統括官に連絡を…」

 

 

そう言い真雪は立ち上がる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第19話 坊ヶ崎の悪夢

坊ヶ崎沖で沈んだ戦艦大和や艦艇の乗組員の方々、黙祷を捧げます


 

 

 

 

 

「ここは…」

 

 

 

 

横須賀女子学校で気を失った宗谷真霜は、ある艦艇の甲板で横になっていた。

 

 

 

「ここは…大和…?大和だけど形状が…なんでこんなに男性が…甲板に高角砲と機関銃座が…」

 

 

真霜が目の当たりにした大和は、呉所属の青いカラーラインはなく、呉所属の旗はかつての軍艦旗、紋章も菊が飾られていた。

 

乗組員は溢れるばかりの男性のみで、更に増設した高角砲や25ミリ機銃がびっしり設置されていた。

彼らは鉄兜を被り、空を睨みながら緊迫した状況だった。

 

 

「ねぇ…あなたたち…ねぇ…」

 

 

真霜が自身より同い年位の男性やそれ以上の男性、あるいは高中学生くらいの少年に声を掛けても、誰一人たりとも彼女に反応していなかった。

 

 

「もぅ…誰一人わたしに反応しないなんて、……それに、大和を中心に艦隊が円陣を組んでいるのね……規模は、巡洋艦と航洋艦…」

 

 

そう呟きながら暫くすると、艦内から次々と糧食を詰めたアルミケースを担い、それぞれの機銃座や高角砲の区画へ向かい、握り飯を支給していた。

 

 

「あら、おにぎり美味しそう~…おにぎりを食べる人たち、いい顔になっているね……」

 

 

食事の光景で乗組員たちは笑顔に溢れ、真霜はすかさず笑みを浮かべた。

 

後部甲板に向かって歩いていると、大和の艦尾にあるクレーンが作動、ある機体を格納庫から引き上げ、レールを敷く専用の滑車に載せた正体は、零式水上観測機だった。

 

 

「あ…あれは零観…も…もしかして…っ!?」

 

 

零観に反応した真霜はゆっくり近づくと、その機体のパイロットが、沖田新一郎と助手の金城幸吉だった。

 

 

「ねぇ新一郎、幸吉君!わたしよ、真霜よ!」

 

 

真霜が何度も新一郎と幸吉を呼んでも、どの乗組員同様に二人は反応しなかった。

 

 

「…新一郎…なんで…なんで聞こえないの……二人がいるってことは……新一郎が話していた……戦争の……沖縄……?」

 

 

真霜が立っているところこそ、昭和20年(1945年)4月7日。戦艦大和が率いる連合艦隊は、沖縄に向けての航海だった。

 

 

任務は、沖縄を侵攻する敵アメリカ軍艦隊を撃退し、その後に砲台と化するのである。

 

 

彼女が恐ろしげな気持ちになった時だった。

 

 

『「ガガ…敵機来襲!総員戦闘配置につけ!!」』

 

 

艦内ブザーが流れると同時に、乗組員は緊迫した状況でそれぞれの部署に配置し、空を睨んだ。

 

 

乗組員が睨む空には、分厚い雲が覆う空から大規模となる飛行機が飛来した。

 

 

「なんて数の飛行機、見たことがない……もしかして……この艦隊を襲うの…!?」

 

 

100を越える飛行機の群れを目の当たりにした真霜は、身体が震えた。

 

 

「くそっ、おでましか…迎撃する!急げ、エナーシャを回せ!零観をカタパルトに接続しろ!!」

 

 

「「「 了解!! 」」」

 

 

新一郎の指示である整備員は本機のエンジン部にハンドルを回し、発動。数人の整備員が本機を押してカタパルトに接続した。

 

 

「沖田新一郎!」

 

 

「金城幸吉、発進!」

 

 

「…っ!新一郎…お願い……行かないで!!」

 

 

 

真霜の声は届かず、新一郎と幸吉が搭乗する零観が短いカタパルトを走り発艦、彼を含む3機の零観が敵機を迎撃に向かって飛行した。

 

 

「…ああ…あぁ…」

 

 

迎撃に向かった新一郎機は敵の航空機を撃墜、或いは敵機が落とした魚雷を幸吉が弓で矢を放ち、水中で爆破した。

 

敵の航空機の形状はフロートを装備しない水上機型では無く、スリムな上に速度が600を超えており、迎撃に向かった他の零観を簡単に討ち落とされた。

 

 

大和や軽巡矢矧などの艦艇の高角砲や機銃が敵機に向けて火を吹き、数機の機体が被弾し、海に墜ちた。

 

そして、敵の戦闘機の大群が甲板の兵士を狙い、機銃掃射を受けて血を流し、命を落とした。更に爆撃機の爆弾と雷撃機の魚雷攻撃を受けた。

 

 

「…そ…んな…そんな…あんまりだわ……」

 

 

ブルーマーメイドの災害現場で携わる真霜は、先ほど笑顔になっていた年上や年下の乗組員は命を落とし、幾人もの屍の山を目の当たりにし、顔を青ざめる。

 

たった一機残った新一郎、幸吉機は敵機の追撃攻撃を回避し、逃亡した。

 

だが、新一郎の巧みな操縦であるにも関わらず、敵はしつこく攻めて襲来した。

 

 

「…そんな…逃げて…逃げて新一郎、幸吉君!」

 

 

戦闘機の機銃が発射された、窮地に陥る時だった 

 

 

ギュイィィン  ダダダダダダダ

 

 

別方向から2機の味方の航空機、零式艦上戦闘機64型が飛来し、複数の敵の戦闘機が落とされた。そして、新一郎と幸吉の窮地が救われた。

 

甲板に居た真霜は常に所持する小型の双眼鏡を覗き、救援に飛来した戦闘機パイロットを見た。

 

 

「(あの…飛行機のパイロット、新一郎に似ている…あの少年が彼の弟さんなのね…)」

 

 

新一郎、幸吉機と救援に赴いた零戦の沖田進次郎と桜井洋介が次々と米軍機を撃墜する中、一時的に大和への航空攻撃を防いだ時、別の空域から米軍戦闘機が襲来。

 

 

「っ!?…そんな…そんなまさか……」

 

 

その中の編隊で、真霜は見覚えがある人物を目撃した。

 

米海軍戦闘機、グラマンF6Fヘルキャットのパイロット時代のトム・K・五十嵐、彼に似た兄、バッキー・S・五十嵐が新一郎の弟、進次郎に向けてロケット弾を発射、空戦に挑んだ。

 

 

「……トム君…そんな…」

 

 

 

この大和が戦う海でトムは進次郎との対決が始まったにも関わらず、攻防一体で決着が付き難い状況の頃。

 

 

 

「…今度こそ…今度こそ…あいつを落としてやる!!」

 

 

初陣のマリアナ海戦で戦闘機に搭乗し、トムの最後の空中戦が展開された。

 

 

 

トムは進次郎機の背後に取り付き、照準を入れた。

 

 

 

 

 

「これで、止めだ!!」  ドドドドドドドド

 

 

 

 

 

 

 

トムは機銃を放ち、進次郎機を掠めた。その影響で進次郎機のプロペラが止まり、海に向けて落下した。

 

 

 

 

 

「…やった…やったぞ!鷹のジークを墜とした!!」

 

 

 

 

 

 

 

トムは嬉しさの余り歓喜した。

 

 

 

ブルルルル

 

 

 

しかし、進次郎は殺されてはいなかった。トムの銃撃のタイミングで機体を滑らし、わざと掠めた時にエンジンを停止して海に落下した。

 

 

 

計器のスイッチを発動、プロペラが全力で回り始めた時を見計らって、操縦桿を手前に倒し上昇した。

 

 

 

 

 

 

 

グオオォン    ダダダダダダ

 

 

 

 

 

 

照準でトム機を捉え機銃を放ち、エンジン部と舵を被弾させ、機体が弱まったところで後ろに回り、機銃弾を浴びせ、トム機から火が吹いた。

 

 

 

 

 

 

 

「トム君…トム君…!!……ん…あぁ…ウィリアム……」

 

 

 

艦の甲板から見ていた真霜はトムを何度も呼び、心が届いたのかヘルキャットは水平に保ち、海上に墜落、すると一機のカタリナが墜落したヘルキャットの側に着水。

 

その機体を扱っていた人物こそ、ウィリアム・J・スパロウと、従軍看護婦のシャルロット・F・トラインだった。

 

ヘルキャットの操縦席から脱したトムは、ウィリアムのカタリナから投げ出された浮き輪に掴まり、救助された。

 

 

 

 

 

「トム君…よかった…よかった」

 

 

 

 

 

進次郎機はトムやウィリアムのカタリナの上空に飛来、旋回しながら敬礼し、大和が航行する海域に戻った。

 

その光景を目の当たりにした真霜はホッとし、無念を撫で下ろした。 

 

 

 

だが、その時点で数隻の艦艇が伍落、大和も次々と魚雷が命中、減速した影響で爆弾が命中、左の傾斜が激しく傾き掛けた。

 

 

 

 

 

「また、敵攻撃隊の来襲…!?」

 

  

 

 

 

新一郎・幸吉ペアは、進次郎と洋介に続き迎撃に向かった。

 

 

 

だが、数で圧倒的な敵攻撃部隊と対処が抑え切れず、大和が徐々に傾きかけていた。

 

 

「大和が…」

 

 

傾いた影響で乗組員は次第に海に投げ出され、真霜は宙に浮いていた。

 

大和がひっくり返り、その影響で大爆発。

 

 

 

巨大なキノコ雲が空を覆い、沈んだ海に重油が浮かび上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

14時23分、戦艦大和が沈没した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大和が…大和が沈んでしまったのね……これが戦争…航空機による攻撃の脅威……ウィリアムさん…シャルロットちゃん…トム君…幸吉君……新一郎…」

 

 

 

不沈艦と謳われた大和が沈没。そして、これが新一郎たちが経験した、忌まわしい戦争を改めて知った真霜だった。

 

真霜は海戦で戦った男たちに涙を流し、手を合わせながら黙祷し、敬礼した。

 

 

 

「……うぅ…ぐるぅ……ああぁ~……」

 

 

 

真霜は急に腹部に激しい痛みを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀 ブルーマーメイド基地 

 

 

安全管理局と同様、基地内部は緊急で騒然としていた。

 

 

「ん……んん……はっ!?ここは…?」

 

 

ブルーマーメイドの一等監督官、宗谷真霜は魘され、医務室のベッドで目が覚め、緊急本部へ赴いた。

 

 

「宗谷監督官!」

 

 

「宗谷監督官、大丈夫ですか!?」

 

 

「え…えぇ…大丈夫よ、今入った報こ…」

 

 

「…姉ちゃん!!」

 

 

突如、妹の真冬が真霜の前に赴いた。

 

 

「姉ちゃん!いったいこれは何なんだよ!!」

 

 

「お、落ち着いてください真冬姐さん!」

 

 

「真冬艦長落ち着いてください!!」

 

 

真冬が真霜の胸ぐらをつかみすごい剣幕で攻めていたのを真冬の部下と平賀が抑えていた。

 

 

「姉ちゃん!なんだよこの晴風撃沈命令って!晴風にはシロが乗っているんだぞ!それだけじゃない!新一郎はどうなっているんだよ!あいつが保安局で逮捕されたってどうなっているんだ!!それに、トムは太平洋で逃亡、ウィル達も行方不明ってどういうことか説明しろ!!まさか、あいつらイーグルを見捨てて見殺しにするつもりじゃないだろうな!!」

 

 

「そんなわけないでしょ!!」

 

 

「「「 っ!? 」」」

 

 

今までにない大声でそう叫ぶ真霜に真冬たちは一瞬固まる

 

 

「そんなわけ…ないでしょ…私たちの妹と、大事な仲間と結婚する新一郎なのよ?見捨てるなんて絶対にないわ。それに私だってこんな事、認めたくないよ……それに……この子のためにも…」

 

 

「……真霜姉…ごめん…言い過ぎた………え…この子…?」

 

 

真冬も先の言葉に冷静になり真霜に謝る。

 

真霜はこの場にいる全員が晴風の反乱を否定しながら腹部を擦りつつも、真冬は姉の呟く言葉が気になった。

 

 

「私はどうしても晴風とウィリアムさん達カタリナが反乱したとは思ってないわ。だから私は晴風と新一郎たちの無実を証明したいわ」

 

 

「宗谷監督官。私たちも手伝います」

 

 

「あたしも手伝うぜ!!」

 

 

「みんな…ありがとう」

 

 

真霜は協力をしてくれる平賀や福内、真冬に礼を言う涙を流したかったが、今は、涙を流す時ではない。

 

 

「じゃまず、平賀と福内は、このまま明石と間宮と共に晴風及び、PBYカタリナ。そして、洋上に出現した飛行物体とパイロットの捜索を…上より先に晴風を抑えて…」

 

 

『はい』

 

 

「真霜姉、あたしは何をすれば…」

 

 

「真冬は、保安即応艦隊を率いて、晴風以外の行方不明の学生艦を捜索して、晴風が反乱したと同時に位置が不明なの、彼女らの安否が気がかりだわ!」

 

 

「カタリナと晴風以外の学生艦の捜索なんて、気が乗らねが、確かに真霜姉の言う通り、他の生徒の安否も気掛かりだ!!…分かったぜ真霜姉!!」

 

 

「じゃ、3人とも任せたわよ!!」

 

 

「「 はいっ!! 」」

 

 

「おぅっ!!」

 

 

 

 

 

「(この子の未来のために…戦争のない世界を作らないと…)」

 

 

 

 

真霜は腹部を擦りながら、未来の平和のために戦うことを決意した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある無人島で、2機の飛行物体が座礁していた。

 

 

ある機体は零観に酷似、二枚羽で布と木製で造られ、二本のフロートを装備したオレンジ色の複葉機。

 

 

もう1機は胴体が太く濃いブルー、二本のフロートを装備した、国籍が星マークの戦闘機だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第20話 眠る虎の短剣

 

 

 

日本近海 和歌山沖 

 

 

一方、甲板では艦首先で、楓が午後17時を知らせるラッパ(音色の悪い)を吹いていた。

記録係の幸子は、被害状況を確認する為、各部を見回っていた。

 

 

そして第一主砲塔付近では

 

 

「武田さん!主砲の状況は、どうですか?」

 

 

幸子は、武田美千留に各主砲の状況を聞く。

 

 

「見ての通り点検中…大部分は、自動化されてるけど、点検が大変だよ!!…どう、光?」

 

 

美千留は砲塔の頂上で整備をしている小笠原光に訊くとゴーグルをつけて点検をしていた光は

 

 

「まだぐずてるんだよね、この子…」

 

 

汗を拭いながらそう返事をする。

 

 

「あと、どれくらい掛かりますか?」

 

 

「日没までは、何とかするよ~!!」

 

 

日没までには、主砲の修理作業が完了の予定の様子

 

 

「よろしくお願いします!!」

 

 

『は~い』 

 

 

幸子は、主砲の修理作業を美千留と光に任せ、第三主砲塔付近に向かうと美甘が修理が忙しくて、食堂室まで食べに行けない生徒に対して、おにぎりなどを配っていた。

 

 

「おにぎりできたよ~!!」

 

 

「「「 ありがとう 」」」

 

 

皆が美甘に礼を言いおにぎりを取る。

 

 

「顔になってるのが梅干が入ってるやつね…」

 

 

「松永さん、姫路さん。こちらは何か異常ありませんか?」

 

 

二人がおにぎりを食べていると幸子が尋ねてきた。

 

 

「発射管は、異常な~し」

 

 

「ま~あ、魚雷が一本も無いけど…」

 

 

さるしまの砲撃で模擬と云えども、唯一の魚雷を使用したことを、報告する。

 

幸子が美甘の持つバットの中にあるおにぎりを見る。

 

 

「皆さんのお食事は、おにぎりなんですね」 

 

 

「みんな修理で食堂まで来れないし、忙しいから…あっ!?そう言えば武蔵から非常通信が着たって、本当?」

 

 

美甘は、武蔵からのSOSが来た事を幸子に問う。すると松永理都子と姫路果代子が

 

 

「私もそれ聞いたよ」

 

 

「他の艦って、如何なってるのかな?」

 

 

と、二人がそう訊くと

 

 

「「 …あ 」」

 

 

二人は幸子の様子が変わったのに気づく。そして幸子は

 

 

「『世界の全てが敵に回っただと!!』『武蔵を沈める訳には、いかない!!南の果てまで逃げYO!』」

 

 

いつもの一人芝居が始まったのだが

 

 

「そのネタ、あんまり面白くない…」

 

 

「え~!!」

 

 

元ネタが分からないのか美甘から、あまり面白くないと言われ、幸子はがっかりする。

 

すると美甘が 

 

 

「そう言えば、あれ結局なんだったの?」

 

 

後部甲板に固定され置かれている二式水戦を見て幸子に訊く

 

 

「さあ?私もよくは…さるしまとシュペーの上空を飛んでいたのは事実ですよ」

 

 

「それはみんなから聞いたけど…それに誰か乗っていたんでしょ?」

 

 

「だけど、この物体はカッコいいねぇ♪エンジン部分と翼に武装があるんだねぇ~」

 

 

「もしかしてあれ、未来とか異世界から来たんじゃないですか?遥かな世界から異次元の嵐に巻き込まれ気が付けば…あ!別世界に!!」

 

 

「「「…………」」」 

 

 

「ん~…乗って、扱ってみたいな…」

 

 

理都子が目を輝かせながら、水戦の翼を撫でる。

 

暫くして、各部の被害状況を確認し終えた幸子は、艦橋へと戻ると各部の被害状況を報告する。

 

 

「損傷の確認、出来ました!!」

 

 

「状況は?」

 

 

ましろが訊くと幸子はタブレットを動かす。

 

 

「現在、機関修理中…3番主砲使用不能、魚雷残弾なし、爆雷残弾1発…戦術航法装置並びに水上レーダー損傷…通信は、受信のみ出来ますが…」

 

 

「そうか…」

 

 

「あと、あの飛行物体の武装を、砲雷撃科の皆さんと確認したところ、20ミリと7.7機銃。最後に爆弾が一発です。」

 

 

「あの飛行物体にも武装か、何がなんでも横須賀に持ち帰らねば……」

 

 

幸子はましろに各部の被害状況は、深刻で、特にさっきのアドミラル・グラフ・シュペーとの戦闘で第三主砲は、損壊し修理は、不可能。更に機関も逃げる時に無理をした為、現在修理中。弾薬も残り少ない状況だったことを報告をする。

 

未確認飛行物体=二式水上戦闘機の武装も報告し、タブレットに記し保存し、更に横須賀へ持ち帰ることを検討している。

 

 

「航行に必要な所の修理最優先でどれくらい掛かる?」

 

 

「機関だけなら後8時間くらいですね」

 

 

「先ずは、其処からだな…」

 

 

ましろはそう言うと伝声管へと向かい

 

 

「…機関長!動きながらで大丈夫か?」

 

 

伝達管で麻侖に確認を取る

 

 

『何とかする〜!でも、巡航以上は、出せねいぜ~!』

 

 

麻侖は、機関を修理しながら、答える。

 

 

「分かった!!……巡航で学校に戻る最短コースで良いですね…艦長?」

 

 

麻侖の言葉にましろはそう返事をし、そして明乃に伝えるが、先ほどの武蔵の件で動揺していて気が抜けている為、全く反応がなく、すると五十六が明乃の頭の上に乗っかり、尻尾で叩くにも全くの反応なし。

 

 

「艦長!!」

 

 

ましろは、大声で叫んだ。

 

 

「えっ!?…シロちゃん、何?」

 

 

ましろの呼び出しに明乃は、ようやく気付く。

 

 

「はぁ、気持ちはわからなくはないですが、しっかりして下さい!!」

 

 

「ごめん、つい…」 

 

 

ましろはため息をついてそう言い明乃は謝るのであった。

 

一方、通信室では鶫が鼻歌を歌いながらスマホをいじっていた

 

 

「…ん?」

 

 

突然、どこかの通信を傍受する。

 

 

「海上安全委員会…」

 

 

傍受した内容を鶫は、スマホに記録する。

 

そして傍受した内容をまとめた鶫はその内容を

幸子に連絡する。そして幸子は明乃たちのもとに向かった。

 

 

「八木さんが、緊急電傍受したそうです」

 

 

「「 何所から!? 」」

 

 

「海上安全委員会からの広域通信ですね」

 

 

「広域通信…?」

 

 

幸子が通信内容が書かれたタブレットをましろと明乃に見せ、それをましろが読み上げる

 

 

「え~と…現在、横須賀女子海洋学校の艦艇が逸脱行為をしており、同校全ての艦艇の寄港を一切認めないよう通達する…また、以下の艦は抵抗するようなら撃沈しても構わない…航洋艦晴風!?」

 

 

内容の中に晴風の名前が記載されていた事にましろは、驚く。

 

 

「げ…げき…」

 

 

「撃つのは、好きだけど…撃たれるのは、やだぁ~!」

 

 

撃沈という言葉を聞いて志摩と芽衣が頭を抱え動揺する。

 

 

「何所の港にも寄れないって事?」

 

 

「そう言う事だろ?…」

 

 

「私たち完璧にお尋ね者になってるよぉ~!!」

 

 

明乃とましろの言葉に鈴は涙目でそう嘆くと、明乃は先ほどの武蔵の緊急通信を思い出す。

 

 

「もしかして、武蔵も同じ状況なのかも…だから、非常通信を…」

 

 

「こっちと違って、簡単に沈むような艦じゃない」

 

 

「でも、助けを求めてた…だから…」

 

 

「我々の方が助けが必要だろ!!それに、実技演習もしてない私達が如何やって助ける気だ!」

 

 

明乃の言葉に、ましろは大声で言う。そしてましろはこう続けた。

 

 

「艦長、気持ちは私にも少しはわかります。ですが今はこっちを…みんなの安全を優先するべきです。学校へ戻る方針を変えるべきじゃない…武蔵の事は、学校に報告して任せよう」

 

 

現状を見て今はここ、晴風の乗員の安全を優先すべきと考えたましろは武蔵の事は、学校に任せ、我々は、学校に帰投すべきである事を告げる。

 

そしてそれを聞いた明乃は少し考えると小さくうなずいた。

 

 

「わかった…シロちゃんの言う通り、学校へ戻ろう。」

 

 

「うぃ」

 

 

明乃はそう言うと志摩もうなずく

 

 

「じゃあ私が艦橋に入るから、皆は、休んで」

 

 

「うぃ?」

 

 

明乃はみな休むように言うと志摩が首を傾げ幸子が

 

 

「今夜の当直は私と鈴ちゃんです」

 

 

タブレットを動かし当番の予定表を明乃に見せる。そしてましろも

 

 

「正しい指揮をする為には、休むのも必要です」

 

 

そう二人が言うが明乃は

 

 

「私は大丈夫だから‥‥」

 

 

そう述べた。だが

 

 

「良いから休んでください!!」

 

 

「うん…分かったよ…シロちゃん」

 

 

ましろの剣幕に明乃はしぶしぶ承諾し、休むため艦長室へと向かうのであった。

 

そしてましろは明乃が艦長室へ向かったのを確認する。

 

 

「やれやれ…」

 

 

呟きながら、ましろ艦橋を出る

 

 

「あれ?副長。そっちは医務室ですよ?」

 

 

幸子がそう言うとましろは

 

 

「私は休む前に、あの物体に乗っていた男を見てみたい」

 

 

背を向けたまま幸子に言い、その場を去るのであった。

 

 

医務室

 

 

「美波さん、失礼する……留守か……」

 

 

ましろが医務室の扉をノックし、入室。

美波が留守の時、ましろはシュペートの乗員が眠るベッドの隣のベッドに眠る、二式水戦のパイロット、大賀虎雄を見つめていた。

 

 

「(この男が大賀虎雄……)」

 

 

沖田新一郎と金城幸吉、秋山俊郎が背後に写る南洋のラバウルの花吹山と零戦と零観にて、モノクロ写真に写っていた9人の内の一人だった。

彼が所持していた二式テラ銃と南部十四年式拳銃。

そして新一郎と幸吉が所持・装飾した、同じ短剣だった。

 

 

「(この男のせいで…私の…)」

 

 

ましろは横須賀の諏訪神社で二式水戦を目の当たりにしてから不幸がつづいた。

入学以前、武蔵の乗艦ミスで比叡に乗艦。神社のおみくじの悪さ、入試でのミス。

心の底から怒ったましろは銃を選択した。だが、下手に撃てば銃声でみんなに気付かれるのを恐れ、短剣に変更して手にして、鞘から刃物を抜いた。

 

 

「っ!」

 

 

「ん…副長…!?」

 

 

「あっ…美波さん…」

 

 

保健の美波が医務室に戻り、ましろに振り向いた時、彼女は短剣を咄嗟に隠した。

 

 

「何か用か…?」

 

 

「い…いや、あの飛行物体の…搭乗員が気になったから…失礼する!」

 

 

ましろは短剣を持ったまま医務室から出ていった。

 

 

そして同じころ艦長室ではベッドに転がった明乃が浮かない表情をしていた。 

 

 

「(もかちゃん…助けに行きたい…でも、今は…教えて虎ちゃん…)はぁ~もっと艦長として、しっかりしないと…」

 

 

明乃は、そう言いながら眠りにつく。

 

 

その頃、晴風のすぐそばの海域で海の中、二隻の潜水艦が動いていた。

 

 

 

 



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第21話 闇夜の鉄鯨

 

 

一隻は日本の東舞男子校の伊-201、もう一隻は、アメリカのハワイ男子校のガードフィッシュ。

 

 

「艦長、日本の横須賀海洋学校の航洋艦かと……」

 

 

「もう一隻は水中でスクリュー音、日本の男子校の潜水艦です」

 

 

「絶好の獲物だな、潜望鏡深度まで浮上」

 

 

ガードフィッシュは潜望鏡深度に浮上、潜望鏡には晴風が捉えられた。

 

 

「速度はそこそこ、エンジンに深刻なダメージがあるのだろう。…艦橋の形からすると陽炎級だ」

 

 

「もしかしたら、日本の海洋で騒いでいる晴風かと…?」

 

 

 

 

 

突然、ベッド横の内線電話が鳴る。

 

 

「!?」

 

 

内線電話の着信音で明乃は、目を覚ます。

 

 

『艦長!…水測の万里小路さんが、何か海中で変な音がするって‥‥艦長!!…艦長!!』

 

 

「配置つけ!」

 

 

艦橋にいる幸子からの報告に明乃は、直ぐ配置の命令を下し、乾いた製服に着替え艦橋に向かう。

 

 

晴風、艦橋

 

 

明乃が艦橋に上がると、艦橋では幸子と鈴が当直をしていた。

 

 

「ココちゃん、報告して!!」

 

 

「えっと‥‥方位30と後方60に二軸の推進機音、感4‥現在音紋照合中です。」

 

 

艦橋に飛び込んできた明乃に幸子は現状を報告する。

 

 

「水上目標がいないって事は…潜水艦!?」

 

 

幸子の報告を聞き、明乃は直ぐに潜水艦だと察した。

 

 

「ふぁ〜どうしたの?…こんな時間に‥‥」

 

 

欠伸しながら、まだ寝ぼけ眼な芽衣とアザラシの様なアイマスクを付けた志摩が艦橋に上がって来た。

 

 

更にもう1人

 

 

『ん!?』

 

 

明乃と幸子は、ある人物に注目する。

 

 

「シロちゃんそれ!?」

 

 

「何やってるんですか?」

 

 

2人の目の前に立っていたのは、寝ぼけた状態で鮫のぬいぐるみを抱っこしたままのましろだった。

 

 

「ん…わぁ…これは…その、見るな!?」

 

 

ましろは慌てて、鮫のぬいぐるみを後ろに隠す。

 

 

「主砲、配置よし!」

 

 

「機関は、まだ修理中!…巡航以上は、だせねぇぜ!」

 

 

「見張り異常なし!…何も見えませんが……」

 

 

光、麻侖、マチコが艦橋に報告する。

  

 

「か、各部…配置に着きました…」

 

 

ましろは恥ずかしがりながら、明乃に総員配置に付いた事を報告する。

 

 

「音紋照合いたしました東舞校所属艦、伊201とアメリカのハワイ校所属艦、ガードフィッシュですわ。」

 

 

音紋照合の結果、接近する艦艇は、東舞鶴男子海洋学校所属の潜水直接教育艦伊号第201潜水艦とハワイ男子海洋学校所属のガードフィッシュだと判明した。

 

 

「ありがとう万里小路さん!」

 

 

『どういたしまして…』

 

 

「東舞校、ハワイ校?」

 

 

聞き慣れない学校名に首を傾げる芽衣。

 

 

「…男子校ですね!」

 

 

幸子がタブレットで、東舞鶴、ハワイ男子海洋学校がどんな学校なのかを説明する。

 

東舞鶴とハワイ男子海洋学校とは、ブルーマーメイドと並んで、ホワイトドルフィンの養成学校である。

 

 

しかし、水上艦艇の多いブルーマーメイドの養成学校と違いホワイトドルフィンの養成学校は、潜水艦が殆んどで東舞鶴男子海洋学校もその一つである。

 

 

「へぇー男子校なんだ!?」

 

 

すると、左舷側の見張りをしていた秀子が横から意外そうに呟く。

 

 

「潜水艦は全部男子校ですもんね…でも狭くて暑くて臭くて‥‥」

 

 

秀子に釣られて、右舷側の見張りをしていたまゆみが、潜水艦は全部男子校の所属だと言う事を説明し、更に潜水艦のイメージ(悪い部分)を述べる。

 

 

「わ、私には無理…!?」

 

 

鈴が潜水艦のイメージ(悪い部分)を聞いて、涙目で言う。

 

 

「絶対追手だよ!…撃っちゃおう!」

 

 

追ってだと思い込み、先制攻撃を仕掛けようと芽衣は言う。

 

 

「ココちゃん、伊201とガードフィッシュと通信できないかな?」

 

 

明乃は伊号201とガードフィッシュ潜水艦と交信できないか試みる。

 

 

「普通の電波は海水で減衰するので届きませんね。」 

 

 

幸子は普通の電波では届かないと、明乃に説明する。

 

 

「じゃあ普段、通信は如何してるの?」

 

 

明乃は、伊号第201潜水艦が普段通信しているのか、分からなかった。

 

 

「潜水艦だからって、いつも潜ってる訳じゃない!!」

 

 

ましろは、潜水艦は時々浮上して交信すると思った。

 

大体は、合っているが、ちょっと間違っている部分もある。

 

 

「そうだよね、時々は海上の様子見ないと怖いよ!」

 

 

「シロちゃん、潜ってる時は向こうも外の様子をソナーで探ってるんだよね?」

 

 

明乃は、相手もソナーで外の様子を探っているのかと聞く。

 

 

「当然だ!」

 

 

ましろは当然だと返す。

 

 

「じゃあ、此方からアクティブソナーをモールスの変わりに使ったら?」

 

 

明乃はアクティブソナーをモールスの代わりに使う事をましろに提案する。

 

 

晴風、水測室

 

 

「恐らく可能だと存じますが…」

 

 

水測室で伊号第201潜水艦を捕捉していた楓も明乃の提案が可能だと言う。

 

 

晴風、艦橋

 

「そんな事したら間違いなく砲撃したと思われるぞ!!」

 

 

ましろはアクティブソナーを撃てば、間違いなく砲撃したと思われ、反撃される可能性が大だと思い、明乃の提案に反対する。

 

 

「ソナーでも何でも良いから撃っちゃえ!」

 

 

芽衣は撃てるモノなら砲弾だろうと魚雷だろうとアクティブソナーでも何でも良い様だ。

 

 

「馬鹿なこと言うな!!」

 

 

ましろは、高ぶった芽衣をおさえながら断固反対する。

 

 

「万里小路さん!…所属と艦名、戦闘の意思は無い事を伝えって…」

 

 

晴風、水測室

 

 

「委細、承りました。」

 

 

楓は、アクティブソナーで潜水艦と通信してみる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、ガードフィッシュ

 

 

 

 

「艦長、航洋艦からアクティブソナーが発っしています。しかも和文モールス信号でです」

 

 

「和文モールスだと?…で、相手はなんと?」

 

 

「ええっと…『此方、横須賀女子海洋高校所属、航洋艦晴風。貴艦への攻撃意思は無し』…とのことです」

 

 

戸惑いながら言う通信手に艦長は

 

 

「ククク…見苦しい電文だな。教官艦さるしまを攻撃した晴風とは、あの日本人はコメディアンの素質があるようだな!」 

 

 

「で、艦長どうします?攻撃を中止するのは…?」

 

 

「我がガードフィッシュは暫く見物だ。きっとあのモールスも苦し紛れの言い分だ、戦闘海域の中、学校の艦が、しかも航洋艦がうろちょろしている時点で欺瞞だというのはすぐにわかる。隣艦の伊-201に何かがあれば、予定通りあの船を真っ二つにして轟沈する。操縦手!敵のソナーにひっかからないよう潜行せよ!敵の側面に回り込み魚雷を放つ!」

 

 

「アイサー!」

 

 

「見てろ、貴艦はこのガードフィッシュの魚雷で轟沈してやる」

 

 

 

 

晴風艦橋では

 

 

 

「目標進路変換、急速に深度を増していますわ」

 

 

楓からの報告で潜水艦は潜望鏡深度から更に潜航している。 

 

 

「だから言っただろう!!」

 

 

「でも、もしこれでこっちの状況が伝われば…」

 

 

「それはそうだが、私達はもうお尋ね者なんだぞ!!」

 

 

ましろは、先程の海上安全委員会の広域通信で晴風撃沈命令の事を思い出す。

 

 

「やっぱり追手なんだって!」

 

 

「は、早く逃げようよ…」

 

 

芽衣の言葉に鈴は、ブルーマーメイドとホワイトドルフィンの艦艇が来る前に潜水艦から逃げようと言う。

 

 

「‥‥鈴ちゃん、両舷前進微速、ソナーの邪魔にならない速度で…」

 

 

「りょ、両舷前進微速!!」

 

 

鈴は明乃の指示通り、ソナーの邪魔にならない速度で伊号第201潜水艦から逃げる。

 

 

しかし、潜航を続けていた伊号第201潜水艦は、直ぐに潜望鏡深度まで浮上、潜望鏡を出してこちらを見ていた。

 

 

晴風、艦橋

 

 

「伊201って、どんな艦なんだろう…」

 

 

明乃は幸子に伊号第201潜水艦の情報が無いかを尋ねる。

 

 

「えっとですね‥‥あっ!?有りました!」

 

 

幸子はタブレットのページをめくり、伊号第201潜水艦の情報を探し当てる。

 

 

「基準排水量1070t、水中速力20ノットは出る高速艦ですね。」

 

 

幸子は伊号第201潜水艦の性能を説明する。

 

 

「20ノットって、晴風に比べたら、全然遅いよ!」

 

 

性能を聞いて明乃は、水上速力と水中速力を勘違いする。

 

 

「こっちは水上、向こうは水中でそれだけ出るが凄いの…通常の潜水艦は6ノット程度だ!」

 

 

勘違いする明乃にましろが説明する。

 

 

「20と6」

 

 

横から志摩が通常の潜水艦との速力の割合を言う。

 

 

「へぇ~約3倍は、早いんだ…」

 

 

2人の説明で明乃はようやく理解する。

 

 

「武装は?」

 

 

「53cm魚雷発射管4門、25mm単装機銃2挺、魚雷10本!」

 

 

幸子は、伊号第201潜水艦の搭載武装を説明する。

 

 

「ガードフィッシュは…?」

 

 

「ガードフィッシュはですね…」

 

 

幸子はガードフィッシュの詳しいデータを開いたその時

 

 

晴風、水測室

 

 

「魚雷2本いらっしゃいました!」

 

 

突然晴風に向けて、伊号第201潜水艦は魚雷2本を発射した。

 

 

晴風、艦橋

 

 

「マロンちゃん、出せる限りで最大戦速!!」

 

 

楓からの報告を聞いて、明乃は急ぎ回避行動を取ろうと機関室の麻侖に指示を出す。

 

 

晴風、機関室

 

 

その頃麻侖は、まだ機関の修理に躍起になっていた。

 

 

「今は手が話せでぇい、クロちゃん頼んだ!」

 

 

「了解!」

 

 

麻侖は修理中の為、操作が出来ないので洋美に頼んだ。

 

 

晴風、水測室

 

 

『万里小路さん!発射音はどっちから!?』

 

 

明乃は楓に魚雷の接近方向を尋ねる。

 

 

「魚雷音方位270、近づきます!感2‥‥感3‥‥」

 

 

楓は向かってくる魚雷を捕捉しながら報告する。

 

 

晴風、見張り台

 

 

続いて見張り台で見張りをしているマチコが魚雷の確認をする。

 

 

「了解!」

 

 

マチコは目を細めて、楓から指示が来た方向を見張る。

 

 

すると、彼女の目には此方に接近して来る2本の雷跡がはっきりと確認できた。

 

 

「雷跡左30度、距離20、此方に向かっている!」

 

 

 

晴風、艦橋

 

 

 

「リンちゃん!取舵いっぱーい!」 

 

 

明乃はマチコの報告を聞いて、左に回避するよう鈴に命じる。

 

 

「と、取舵いっぱーい!」

 

 

明乃の回避命令に従い、鈴は、左に舵を切り、回避運動を取る。

 

 

 

晴風、見張り台

 

 

「魚雷、衝突コースから外れます!!」

 

 

全速で左に回避したお陰で魚雷回避に成功。

 

 

晴風、艦橋

 

 

「艦尾方向で2発爆発!!」

 

 

そして魚雷2本が晴風の後方で爆発した。

 

 

もし、明乃が全速で左に回避していなかったら、命中しなくても、至近で爆発して、被害を被っていたかもしれない。

 

 

「あと8発‥‥タマちゃん左砲戦準備!」

 

 

魚雷回避後、明乃は即座に主砲の発射準備を志摩に命じる。

 

 

「うん!」

 

 

志摩もそれに従い砲身を魚雷が来た方向へと向ける。

 

 

『目標、見えません!!』

 

 

「撃ったら、今度こそ完全に敵対する事に…」

 

 

明乃の砲戦準備にましろは反対する。

 

 

「分かってる!…でも逃げ切るには…」

 

 

 

しかし、明乃もそれは分かっているが、今の現状で伊号第201潜水艦から逃げるには、一戦交えるしかなかった。

 

 

「ぜ、全速が出せれば、多分振り切れると思うけど…」

 

 

『だから全速は出せねぇって!!』

 

 

「わ、分かっています…」

 

 

鈴が全速を出せれば、逃げ切れるのだが、今は機関の点検中なので全速を出すことが出来ない事を忘れていたのか、そう呟くと、機関室の麻侖から怒声が飛び、縮こまる鈴だった。

 

 

「万里小路さん!相手の位置分かる?」

 

 

明乃は、伊号第201潜水艦の位置を知ろうとしたが

 

 

晴風、水測室

 

 

「恐れ入りますが、もっとゆっくり進んで頂かないと…」

 

 

出せる限りの全速で逃げてる為、水音が乱れて、伊号第201潜水艦の正確な位置が掴めなかった。

 

 

晴風、艦橋

 

 

「速度落としたら、やられちゃうよ!」

 

 

鈴の意見も最もだ。

 

 

速度を落として、相手の位置を掴む前にやられてしまう。

 

 

「兎に角、今は逃げ回ろう!」

 

 

一時間後

 

 

『周囲、何も見えません…』

 

 

マチコから周辺に異常はなく、平穏な夜の海が広がっている報告を受ける。

 

 

「1時間経過か…速度差からも、十分距離は、開いたかと…」

 

 

「そうなの?」

 

 

「向こうも、最高速度でずっと水中を動けるわけじゃない!」

 

 

最初の攻撃から一時間が経過し、ましろは、伊号第201潜水艦を振り切ったと推測する。

 

 

「じゃ、何とか逃げられたかな?」

 

 

明乃は、伊号第201潜水艦を振り切った事に安心する。

 

 

「逃げるなら任せて!」

 

 

鈴が自信満々で答える。 

 

 

「それって自慢する所ですか…」

 

 

幸子が茶化す様に鈴に尋ねる。

 

 

「こ、ココちゃん!?」

 

 

鈴と幸子のやり取りに艦橋は笑い声が満ちた。

 

 

晴風、水測室

 

 

『万里小路さん!…何か聞こえる?』

 

 

明乃が水中にも何か変化がないか楓に尋ねる。

 

 

「あら、お許しあそばせ!?…起きておりますわ…」 

 

 

楓は少しウトウトしながら答える。 

 

 

晴風、艦橋

 

 

「御免ね、こんな遅くま…でも、もう少しお願い…」

 

 

本来ならば、寝ている時間であったが、完全に潜水艦の脅威が去っていない中、水測員の楓を任務から外すわけにはいかなかった。

 

 

其れに対して、謝罪する明乃。

 

 

 

晴風、水測室

 

 

「畏まりました!」

 

 

楓ももう一息と気合を入れて、ヘッドホンを耳に当てた。

 

 

晴風、艦橋

 

 

「ふわぁ‥‥ねむぃ‥‥」

 

 

「ふわぁ…駄目だ…眠い…」

 

 

志摩は大きなあくびをし、芽衣も大あくびをし、2人とも寝不足になり、集中力はダダ下がりの中

 

 

「そんな、皆さんに杵埼屋特製のどら焼きです。」

 

 

ほまれが夜食の差し入れにどら焼きを艦橋に持ってきた。

 

 

晴風見張り台

 

 

見張り台で見張りをしていたマチコは、振り切ったと知り、休憩を取って、どら焼きを食べようとした時

 

 

「はっ!?」

 

 

突然、魚雷2本が晴風を目掛けて、向かって来たのを目視で確認する。

 

 

「雷跡フタ!…左120度30!…此方に向かう!」

 

 

マチコからの報告で艦橋はさっきまでの空気から一転し、再び緊張した重苦しいものへと変わる。

 

 

回避運動で揺れは艦全体に響く。

 

 

晴風、医務室

 

 

「…な、何じゃ!?」 

 

 

「わぁっ!?ってここは…?」

 

 

その揺れと轟音は医務室で眠っていた少女と、驚いた声を上げた虎雄を起こすには十分の威力だった様だ。

 

虎雄が眠っていたベッドの隣で、金髪の西洋の少女と医務の医師が小学生の少女に驚いた。

 

 

「目が覚めたか?」

 

 

起きたことに、美波が声をかける。

 

 

「意識はしっかりしているか?…此処は横須賀女子海洋学校所属、航洋直接教育艦晴風の医務室だ…私は衛生長の鏑木美波…アドミラルシュペーの乗組員と、空飛ぶ飛行物体の搭乗員とみるが、間違いないか?」

 

 

「あ、あぁ…(空飛ぶ物体…?わしの二式水戦の事か…?)」

 

 

「う、うむ、ワシはアドミラルシュペーの副長、ヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルクだ…しかし、一体如何して…何で男が…?」

 

 

「あんたがあのシュペーの乗員だって...!?…この艦が横須賀所属!?この東南アジアまで…!」

 

 

ミーナと虎雄は、自分が何故此処にいるのか聞く。

 

 

「シュペーからお前が飛び出してきて、しかもそのシュペーに攻撃されていたのだと聞いている…うちの艦長がスキッパーで出て、気を失っていたお前を回収してきたんだそうだ…何か覚えて…」

 

 

その時、また逃走に入ったのか、晴風が大きく揺れ、美波はバランスを崩した。

 

 

虎雄は、咄嗟に美波の肩を掴んで支える。

 

 

「大丈夫か?今、一体如何なっておる?」

 

 

「この晴風は現在潜水艦に追われている様だ。」

 

 

「潜水艦じゃと!?米英軍か!?」 

 

 

「米英?…潜水艦からの攻撃を受けているのか?…だが、これは…ええい、ここでは拉致があかん!…ワシの制服は何処じゃ!?」

 

 

「わしの飛行服は…?」

 

 

「此処に有る…濡れていたが洗濯し、乾燥機にかけてある。」

 

 

美波が机の上に置いてあったミーナの制服と虎雄の飛行服を彼女に手渡す。

 

 

「ありがとう!」

 

 

「わわっ!///」

 

 

すると、ミーナは美波はもとい、男子の虎雄がいるにも関わらず、今着ている検診衣を脱ぎ捨て、制服を着用する。

 

その光景で虎雄はミーナに赤面、咄嗟に背を向けた。

 

 

「艦橋はどっちじゃ!?」

 

 

美波はほんの一瞬だけ悩んだが、直ぐに頷き医務室の扉を開く。

 

 

「案内しよう、急げ!」

 

 

「分かった!」

 

 

美波は、虎雄とミーナを艦橋まで連れて行く。

 

 

晴風、通路

 

 

「自分から聞いておいてなんじゃがそう簡単に艦橋まで案内して良いのか?」

 

 

「今、この艦に沈まれてはお前も困るだろう?…孫子に『同舟相救う』という言葉がある…例え敵同士や見ず知らず同士であっても、乗り合わせた舟の危機に際してはお互いに助けあうといった意味のものだ…私はそれに賭ける!!」

 

 

美波の難しい言葉に、虎雄は納得した。

 

 

「はぁ~…また難しいことを…」

 

 

「ふむ、成程のぉ…そういうことなら力になっちゃるけん」

 

 

「鹿児島弁と広島弁か?…まあ、いい…艦橋はその先だ!」

 

 

「ド感謝する!」

 

 

「ありがとう、先生!」 

 

 

虎雄とミーナは美波と別れ、艦橋を目指していった。

 

 

 



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第22話 海虎、晴風の決着

 

晴風 艦橋

 

 

「あと6本…」

 

 

「こんなに直ぐ見つかるとは…」

 

 

明乃とましろは、向こうの魚雷の残存数を確認しながら双眼鏡で魚雷が爆発した方向を確認する。

 

 

その時

 

 

「このド下手くそな操艦は、なん何だ!…艦長は誰じゃい!…この船はド素人の集まりか!?」

 

 

突然、誰かの怒鳴り声が艦橋に響き、3人はデッキから艦橋に戻ると、そこには、前のアドミラル・グラフ・シュペーとの戦闘で救助したミーナと、二式水上戦闘機のパイロット、大賀虎雄が現れた。

 

 

「今、潜水艦と戦闘中でして…」

 

 

「そんな事、分かっとる!…ならば夜戦中なのに照明が付けっているとは、何事だ!!」

 

 

ミーナは何故、潜水艦と戦闘中なのに照明を付けているのか問う。

 

 

その言葉に慌てて、明乃は照明を消すよう指示する。

 

 

「全部照明消して!!」

 

 

明乃の指示で、晴風の全部の照明が消える。

 

 

「何にも見えない!?」

 

 

いきなり照明を消されうろたえる芽衣。

 

 

「陽明を鳴らしておかないからだ!」

 

 

ミーナの指示で直ぐに赤色灯が付いた。 

 

 

「航海灯も消せ!ド間抜けどもが!」

 

 

更に付いていた航海灯も消され、これで晴風は、完全に伊号第201潜水艦、ガードフィッシュの視界から消えた。

 

 

「こんな事したら、他の船とぶつかっちゃう…」

 

 

「戦闘時に自分の姿を晒すドアホがいるか!…取り舵いっぱーい!!」

 

 

鈴が嘆くと横からミーナが鈴を怒鳴り、鈴は驚愕し、更にミーナは左に舵を切るよう指示する。

 

 

「なるほど…じゃが…戦時と言えども、この艦には男が一人もいねぇ……」

 

 

虎雄は艦橋に行くまで、高等の女学生ばかりで驚き、ただ突っ立っていた。

 

 

「と、取り舵いっぱーい!…取り舵20度…」

 

 

鈴は、驚愕しながら左に舵を切る。

 

 

「聴音聞き逃すなよ…」

 

 

『畏まりました。』

 

 

「これで少しは、時間が稼げる筈だ!!」

 

 

「…お前は、誰だ?」

 

 

ましろは、ミーナに自分は誰かと聞くと、艦橋にいる全員が注目する。

 

 

「ん…ワシは‥‥ヴィル…」

 

 

ミーナが名を名乗ろうとした時

 

 

「あっ!?…ドイツ艦の子と飛行機の子だよ!…目が覚めたんだ!?」

 

 

ミーナが名乗る前に明乃が彼女の正体と虎雄を述べる。

 

 

「いや、それより今は戦闘だ…直ぐに反撃の準備に移る…潜水艦戦ならワシに任せろ…!」

 

 

「へ…」

 

 

ミーナの心強さに明乃は、感心する。

 

 

「潜水艦の本場は、ドイツだからな!」

 

 

『お…』

 

 

更に艦橋にいる者もミーナに感心する。

 

 

「流石ドイツ!」

 

 

「ドイツ?」

 

 

幸子と鈴はそんなミーナを褒め、ミーナは照れる。

 

 

「確かに、ドイツ海軍はUボードが優れている。わしも飛行兵と言え、協力する」

 

 

虎雄も関心すると、幸子が彼を訪ねた。

 

 

「あの、あなたは…?」

 

 

「わしは日本海軍少尉、大賀虎雄です!」

 

 

「え…日本海軍…?」

 

 

「日本に海軍は廃したはずじゃが…?」

 

 

虎雄の自己紹介にミーナと幸子は首をかしげる。 

 

 

「廃した…?」

 

 

「ま、まあ…いい。まずは、ド基本の爆雷で…」

 

 

「1発しか無い!!」

 

 

「じゃ、ド定番の対潜迫撃砲を…」

 

 

「そんなの積んでないって…」 

 

 

「Mk32対潜魚雷は?」

 

 

「いつの時代だよ、てか知らん!!」

 

 

「わしの愛機に対潜爆弾がある!二式水戦で飛ばせてくれ!!」

 

 

「なんだって!?…だけど…飛ばせる訳に…」 

 

 

「出撃して!」

 

 

「艦長!?」

 

 

ましろは虎雄の水戦の出撃に反対した。この晴風から逃亡する事に疑問を感じた時、明乃が手を差し伸べ制止した。

 

 

「そう、私達には何もない…だから、知恵と力を貸して欲しいの…」

 

 

明乃は、ミーナと虎雄に知恵を貸して欲しいと頼む。

 

 

「わかった!ワシの愛機の二式水戦の元に案内を頼む!」

 

 

「うん、サトちゃん!虎ちゃんに機体が置いてある後部甲板に案内して!」

 

 

「了解ぞな!」 

 

 

「虎ちゃん、無事に帰ってきてね!」

 

 

「了解です!ん…虎ちゃん?」

 

 

虎雄は明乃の言葉に気になりつつも、急いで飛行帽と飛行装具を身に付け、聡子に愛機が置かれている後部甲板に案内してもらった。

 

 

「対潜爆弾よし、案内ありがとう!」 

 

 

「どういたしましてぞな!」

 

 

「しかし、もう一つ手伝いを頼む!」

 

 

虎雄と聡子は機体ごと海に向け、機内からエンジンを発動機するエナーシャのハンドルを取り出し、回転させて発動させた。

 

 

「掃海具って、これ?」

 

 

明乃の指示のもと、美海と美甘が掃海具の用意をする。

 

 

「ほっちゃん、あっちゃん手伝って…」

 

 

「「 分かった! 」」

 

 

更にほまれとあかねがやってきた。

 

 

晴風が右に舵を切る中、後部甲板では美海が防雷具落下機に登り、防雷具を外そうとした時

 

 

「うぁ…うぁ…!?」

 

 

急な舵切りで思わず手を離してしまい落下する。

 

美海は急な舵きりで思わず手を放してしまい、落下しそうになったが何とか防雷具落下機に捕まり、落下を回避したが、今度は転進した為、艦がぐるりと回等し、その影響で防雷具落下機自体がグルグル回り始めた。

 

 

「うぁ…うぁ…!?」

 

 

グルグル回る防雷具落下機にしがみ付きながら悲鳴を上げる美海。

 

 

「何だか止めないと?」

 

 

「でも、船が揺れてって…」

 

 

2人は、美海を助けようと防雷具落下機を止めようとするが、艦が揺れている為、できそうになかった。

 

 

その時

 

 

「世話が焼けるが…とりゃっ!!」 

 

 

エナーシャを回し終えた虎雄は、落下機の回転スイッチを止めた。

 

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 

「はっはい!!」

 

 

虎雄は美海の手を取り回収した。

 

 

「掃海具外して!!」 

 

 

横にいた美甘が、防雷具を外すよう2人に指示する。

 

 

「「 ん、ん 」」 

 

 

2人は急いでレバーを操作して、防雷具を外す。 

 

 

「ふぅ…」

 

 

「…ふぅ」

 

 

「あ、危なかった…」

 

 

「掃海具良し!!」

 

 

4人と虎雄の努力で防雷具は海中に落下し、準備は完了した。

 

そして虎雄は、水戦をギリギリにデッキまで寄せて搭乗した。

 

 

「すまん、あんたら!このわしごと機体を海に放り出してくれ!!」

 

 

「ええっ!!」

 

 

「でも、この物体をわたしたちで動かせるのかしら…?」

 

 

「やるわ、この人に助けられたお礼をするのが流儀よ!」

 

 

「美海ちゃん…わかったわ!」

 

 

「あなたに協力します!」

 

 

美海の言葉で美甘とあかねとほまれは、虎雄が搭乗する二式水戦を力いっぱい押し出し、海に落とした。

 

 

「コンターク!!」

 

 

水戦を海に落下したタイミングと同時にエンジンのプロペラを回転させ、すさまじい轟音が響く。

 

 

「うわっ!!すごい音!!」

 

 

「それにすごい風!?」

 

 

轟音とともに高速に回転するプロペラの風圧に皆は驚き、5人はプロペラの風によってスカートがめくれそうになるのを必死に抑える。

 

虎雄が扱う水上戦闘機は闇夜の空に飛行した。

 

 

 

 

 

アメリカ潜水艦 ガードフィッシュ

 

 

「…あのスキッパー…空を飛んでいる…!」

 

 

「艦長…?」

 

 

潜望鏡で覗いていた艦長は、晴風の側でこの世界に存在しない飛行機を目視した。

 

 

虎雄が離水した後に探照灯が照射され、海面を走行する魚雷が映し出された。

 

 

「っ!…魚雷じゃ!!」

 

 

晴風はそのまま舵を右に切ったまま艦体をぐるりと旋回しながら砲戦に入り、航走する魚雷に向けて、主砲を一斉掃射。

 

砲弾は魚雷の至近で爆発し、衝撃で魚雷の磁気信管が誤作動を起こし、魚雷全部が自爆した。

 

上空から目の当たりにした虎雄は冷や汗を掻いた。

 

 

「ほっ…全くひやひやするわ…しかし、あの掃海具で一体何を…」

 

 

艦橋からの指示のもと、爆雷投下の命令が下り、ほまれとあかねがきつそうにしながら重いレバーを操作し、爆雷を投下する。

 

 

伊号第201潜水艦も爆雷の安全深度100mまで急速潜航しようとしたが、運悪く晴風が係留している防雷具の係留ワイヤーがスクリューに絡みついてしまい、伊号第201潜水艦は潜航出来なくなり、それに追い打ちをかける様に投下された爆雷が頭上で爆発、付近で爆発の水柱が立つ。

 

航行不能となり、更に至近で爆雷を諸に命中した伊号第201潜水艦は戦闘不能となり、沈没を避ける為、急速浮上を開始した。

 

 

やがて晴風の右舷に、伊号第201潜水艦が急速浮上した。

 

 

「やったか!!…しかし、あれは日本の潜水艦…っ!?」

 

 

晴風の右舷から走行する魚雷の雷跡を肉眼で確認、機体を捻らせ急降下に移った。

 

 

「沈めてたまるかーっ!!」   ダダダダダダ

 

 

水戦の20、7.7ミリ機銃の掃射で走行する魚雷を撃破、再び上昇した。

 

 

 

晴風

 

 

 

『右舷に魚雷を確認...! あ…! あ...あの機体が撃破しました!!』

 

 

「凄い、あの空飛ぶスキッパーがやったんだ!!」

 

 

マチコが魚雷を発見したと同時に撃破したのに驚愕し、双眼鏡で覗いていた芽依は艦橋ではしゃいでいた。

 

 

「魚雷が発射された海域はざっとこの辺りじゃな…」

 

 

虎雄は操縦桿を握りながら計算し、魚雷が発射された海域の上空を飛行した。

 

操縦席から照明弾を上空に打ち上げ、海中に艦影を確認した。

 

 

 

「いた!!」    ギュイイイイン

 

 

 

虎雄は海中に潜むアメリカ潜水艦ガードフィッシュに向けて急降下、爆弾投下レバーを掴んだ。

 

 

「よーい…撃てぇ!」     ガチン ヒュウウゥ

 

 

たった一発の対潜爆弾が金切り音を放ち、ガードフィッシュが潜む海中に投下、本艦前部に命中、爆発の水柱が立つ。

 

 

ガードフィッシュも沈没を避ける為に浮上した。

 

 

「…撃沈には至らずか……早くこの海域を離脱せねば…」

 

 

 

虎雄は晴風に通信するにも周波数が分からず、やむを得ず発光信号を取り出し連絡した。

 

 

晴風

 

 

『空飛ぶスキッパーからの発光信号です!!』

 

 

「なんて伝えているんだ!?」

 

 

『「直ちにこの海域を離脱せよ!我、あとから追いつく!」』

 

 

「了解した、今です!艦長、逃げましょう!!」

 

 

「最短コースは既に選定澄みです!!」

 

 

「ワイヤー切り離して…両舷前進強速!!」

 

 

伊号第201潜水艦の浮上を確認した途端、明乃は直ちに、現海域からの離脱を指示する。 

 

 

晴風、無線室

 

 

「伊201からの国際救難信号の発信と応答を確認…現在東舞校教員艦が30ノットで接近中…」  

 

 

戦闘続行が不可能になった為、伊号第201潜水艦がSOSを発信。

 

 

それを傍受した東舞鶴男子海洋学校所属の教員艦が、此方に向けて急行中の報告が入る。

 

 

 

晴風、艦橋

 

 

 

「取り舵一杯!20度、ヨーソロー!」

 

 

鶫からの報告を受け、明乃は急いで当海域からの離脱を指示する。

 

 

「さっさと逃げようよ…!!」

 

 

鈴は号泣しながら、舵を切る。

 

 

ガードフィッシュの艦橋付近に数人の乗員が機銃座に着き、水戦に向けて射撃を開始。

 

 

 

「調子に乗るな、空飛ぶスキッパーめ!!」

 

 

 

 

ダダダダダダ

 

 

 

 

それを見た虎雄は最後に、ガードフィッシュに向けて低空飛行に移った。

 

「最後の仕上げじゃ」   ギュイイイイン   ダダダダダダ 

 

 

 

「伏せろ!!」

 

 

「ぎゃっ…」

 

 

虎雄はガードフィッシュに向けて機銃掃射、乗員は被弾を避ける為に海に飛び込み、射撃していた機銃と対艦砲、メインマストと潜望鏡と無線アンテナを破損させた。

 

 

晴風は浮上した伊号第201、ガードフィッシュ潜水艦を放置して、東舞鶴男子海洋学校所属の教員艦が来る前に現海域を離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

潜水艦 ガードフィッシュ

 

 

 

 

「前部魚雷発射室、耐圧亀裂!潜航不能!魚雷発射、機銃、対艦砲発射不能!」

 

 

担当する乗員が次々と副長に報告、所々の艦内外の部分が破損していた。

 

 

 

「艦長、無線もやられました!急いで伊号第201に合流しましょう!!」

 

 

 

「わかっている、第一にハワイ校に全て報告せねばならん……日本が恐るべき超兵器を作り出した…と」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4月9日 5:40

 

 

数時間後、ようやく海域からの離脱に成功、進路を北に取るが行き先は不明。

 

 

そして、大賀虎雄は明乃の命令通り晴風に帰投する。

 

 

「…っ!?…なぜじゃ…なぜ、味方艦がワシに銃を…」

 

 

だが、晴風に戻っても本艦の連装砲と機銃が虎雄と水戦に向けられ、本人と機体を回収しても緊迫が続いた。

 

 

 

「来い、お前に聞きたいことがある」

 

 

 

「了解する、ワシも色々と聞きたいことがある」

 

 

 

明乃はミーナがいる医務室、ましろは虎雄の南部14年式拳銃を突きつけ、誰もいない教室に案内し、砲雷の芽依、砲術の志摩と航海長の鈴の3人で事情聴取を行った。

 

 

 

「帝国海軍少尉。佐世保航空隊出身、シンガポール所属、大賀虎雄じゃ……」

 

 

 

虎雄の証言では、虎雄は前日までシンガポールに所属していた日本海軍軍人。血に染められた戦場で戦った兵士であった。 

 

ましろと鈴は戦争の恐怖で青ざめながらも聴取を続けた。

 

 

「大賀虎雄さん、何度も言うように日露戦争以降は戦争せず、あなたが所属する組織の海軍は1945年解体したのは事実だ!あなたが所持するノモクロ写真に写る沖田新一郎さんと金城幸吉さん、秋山敏郎さんは私の組織する部隊が保護している!」

 

 

「…っ!…沖田さん…トチローさん…幸吉……どうやら…本当らしいな…」

 

 

ましろとの話が食い違う中で、虎雄は肌身離さず所持するラバウルの花吹山を背に写る写真の人員と、ましろの真っ直ぐな瞳を見て納得した。

 

あのマラッカ海峡で発生した落雷の影響で別の世界に飛ばされたことを理解した。

 

この世界は自身の時空と未来を越え、日本の大半が地盤沈下して海洋都市の国家。

 

乗艦している晴風などの戦闘艦艇は、その時代の戦争は存在せず、女性が扱うことは戦争をしない象徴として扱われていた。

 

彼が暮らした時代より遥かに技術は向上するが、この世界には水素やヘリウムを仕様する気球か飛行船が空の主力、虎雄が搭乗する飛行機は存在せず、架空の存在に扱われている説明を受けた。

 

その中にいた芽依は目を輝かせながら、二式水上戦闘機に質問した。

 

 

「ねぇ大賀さん、あんたの空飛ぶスキッパーは凄いね〜!あの武装はカッコいい~!」

 

 

 

「スキッパー?……水上艇のことか…あれは…飛行機だ…」

 

 

 

「ひこうき…?あれが…水素とヘリウムを使わない空飛ぶ産物なんだね…」

 

 

「知床さん、その質問は今度にしてくれないかな…?」

 

 

「ご、ごめんなさい……」

 

 

鈴は虎雄に飛行機の質問を聴こうとした時、ましろに制止され縮こまった。

 

ましろは虎雄に幾つかの緊迫したことを追及した。

 

教官艦さるしま、グラーフ・シュペー、伊号第201とガードフィッシュ潜水艦の騒動を追及した。

 

 

「大賀さん、私達はまだ学生の身分ですが、晴風が日本に帰還したら、沖田さんたちに引き渡し、出頭してもらいます!」

 

 

「了解した、副長!」

 

 

ましろは、横須賀女子海洋学校に戻るまで虎雄の身を晴風で預かる事にした。

 

それを聞いた虎雄はましろに海軍式の敬礼を返した。 

 

 

その時

 

 

 

『艦長!…校長からの全艦帰港命令が出ました!』

 

 

『えっ?』

 

 

艦橋から横須賀女子海洋学校の全艦帰港命令が出されたと言う報告を受ける。

 

 

 

 

 

晴風、艦橋

 

 

「えっと…『私は全生徒を決して見捨てない…皆を守る為にも全艦可及的速やかに学校に帰港せよ』との事です。」

 

 

横須賀女子海洋学校からの全艦帰港命令の内容に艦橋の皆は、ホッとした表情になる。

 

だが、前の晴風撃沈命令は一体誰が出したのか、其処が謎だった。

 

 

 

晴風、教室

 

 

朝食の席にて、明乃は横須賀女子海洋学校からの帰港命令の内容を皆に伝えた。

 

 

しかし、伊号第201、ガードフィッシュ潜水艦との戦闘が影響しているのか、集まった生徒達の何名かは舟を漕いでいたり、テーブルに突っ伏して寝ている者もいる。

 

主に、本艦において唯一の男性である大賀虎雄の存在に女子たちは注目していた。

 

 

「学校から全艦帰港命令が出ました…晴風も学校側が責任をもって保護するので戻ってくる様にって…帰還中は一切の戦闘行為は禁止だそうです。」

 

 

『良かった!!』

 

 

明乃の説明に皆は、もう戦闘が無い事に安堵する。

 

 

「だが、まだ広域には晴風に対する警戒は続いている…どの港にも寄港できない…我々は、密かに学校に戻らねばならない。」

 

 

 

学校に戻っても警戒が必要だと言うましろ。

 

 

「それから、新しい友達を紹介します!」

 

 

ある程度の説明を終え、明乃がミーナを皆に紹介する。 

 

 

「ドイツの…ヴィナブラウシュガインゲンマメ…あれ、何だっけ?」

 

 

名前が長かったせいか、明乃は途中で忘れる。

 

 

「サイシュン!!」

 

 

『あっ!?』

 

 

自分の名前を途中で忘れた明乃に腹が立ち、ミーナは自分で自己紹介をする。

 

 

「ヴィルヘルムスハーフェン校から来た…ヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルクだ…アドミラル・シュペーでは副長をやっていた。」

 

 

「(なっ…彼女はあのシュペーの副長じゃったんか…)」

 

 

ミーナの身分を聞いた虎雄は、内心驚いた。

 

 

「長いから、ミーちゃんで良いかな?」 

 

 

名前が長いので明乃は、ミーナをニックネームで答える。

 

 

「誰が、ミーちゃんじゃ!?」

 

 

明乃の言葉にミーナはつっこむ 

 

 

「そして、もう一人紹介します。飛行機の搭乗員、大賀虎雄君です。」

 

 

明乃は虎雄の名前を覚えていた。

 

 

「はっ…日本海軍少尉、大賀虎雄です。あの水上飛行機のパイロットです!」

 

 

虎雄は晴風の生徒の前で敬礼、みんなは驚きざわめいた。

 

 

「じゃあ部屋は…ココちゃん、何処が空いてたっけ?」

 

 

明乃は、ミーナが寝泊まりできる様に空いている部屋が無いか幸子に問う。

 

 

「う~ん…ベットの空きがあるのは…副長の部屋だけです。」

 

 

「えっ!?…私の…部屋…」

 

 

空いている部屋が自分の部屋だけだと知り、ましろは固まる。

 

 

幸子達はミーナをましろの部屋まで案内する

 

 

晴風、副長室

 

 

「うぉ!?」

 

 

ましろの部屋に行くと、部屋は縫いぐるみが一杯置かれ、アンティークの部屋になっていた事にミーナは驚く

 

 

「うわぁ!?すご!?」

 

 

「夜いたサメさんも居ますね…」

 

 

「宗谷さんからは想像できない部屋です!」

 

 

それを芽衣、まゆみ、幸子が覗く。

 

幸子はましろの部屋をタブレットのカメラで撮りまくる。

 

 

「良い部屋だな…今日からよろしく頼むぞ!!」

 

 

どうやらミーナは気に入ったようで、ましろに礼を言う。

 

 

「はぁ~」 

 

 

ましろは恥ずかしがりながら、ため息をつく。

 

そして虎雄の寝床に関しては、明乃が案内された場所が物資が詰んでいる倉庫だった。

 

 

「ごめんね、どの部屋も満員で…」

 

 

「いや、大丈夫じゃ。どの兵員室に比べてマシじゃよ明乃艦長」

 

 

明乃が謝罪すると、虎雄は笑みを浮かべながら感謝した。

 

 

「久しぶりの再会だから、あとで毛布を持って来るから。えっと、これからよろしくね、虎ちゃん!」

 

 

 

二人はかつての海で一度きりの出会ったことを覚えていた。

 

 

 

 

 



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第23話 粘り奮戦する海鳥

 

 

 

4月9日

 

 

10:00

 

 

東京拘置所

 

 

晴風と二式水上戦闘機が無事に伊号第201潜水艦、ガードフィッシュの脅威から脱した頃、東京拘置所に幽閉されている沖田新一郎は、取り調べの為、両手を手錠で拘束されたまま、特別取調室へと向かっていた。

 

 

「…」 

 

 

拘束されてから、4日が過ぎ、新一郎の顔は少し頬が剥れ、髪と鬚が伸びていた。

 

 

東京拘置所、特別取調室

 

 

東京拘置所の特別取調室は、凶悪犯罪者などを取り調べる為に特別に作られた部屋で外を見る為の窓が一切なく、唯あるのは大きな鏡(マッジクミラー)が有るのと真中に机と椅子が2つあるだけの撒布系の部屋であった。

 

特別取調室に連れて来られた新一郎は、両手を手錠で拘束されたまま、取り調べを受ける。

 

 

しかし、検察官2人がかりで何度も新一郎を問い詰めても、新一郎は、断固として落ちなかった。

 

 

「いい加減にしろ!!」

 

「…」

 

「いい加減、認めたら如何ですか、沖田監督官!…もう証拠も有るのだし、此処は、潔く罪を認め、刑に服するべきです…そうすれば、いくらかの恩赦を受けられるよう我々が保証してあげましょう。」

 

 

今度は潔く罪を認めれば、いくらかの恩赦を受けられるよう取引を持ちかけてきた。

 

 

「何で、やってもいない罪を認めなければならないんだ!!…それに、その証拠が本物か如何か見せて貰おうじゃないか!!」

 

 

しかし、新一郎は挫けず無実を訴え、証拠を見せるよう逆に要求する。

 

 

「な、何だと!?」

 

 

「貴様!!犯罪者の分際に我々を脅す気か!?」

 

 

「脅すなんて別に…俺は、有罪に出来る程の証拠を見せろと言ってるだけじゃないか?」

 

 

「ふざけるな!」

 

 

「ふざけるのは、貴様らの方だ!!」

 

 

数時間も同じ状態が続き、結局、少し休憩する事になった。

 

 

休憩中、新一郎はある事を思う。

 

 

「(…いつまで、こんな事を続ける気だ?…いい加減、うんざりしているんだが…)」

 

 

いつまでこんな事を続ける気か、新一郎は心中で呆れていた。

 

 

「(今頃、皆如何しているのだろうか?…無事で居るのか?…そう言えば、キャサリンさんとエマとエミリーは、大丈夫だろうか?…トム…虎雄を頼む…)」

 

 

そんな時

 

 

「!?」

 

 

突然ドアが開き、中からさっきの検察官2人ともう1人、虹川雪男が入ってきた。

 

 

「また虹川か?何度やっても同じ事だ…!」

 

 

また続きかと新一郎は平然と笑う。

 

 

ホワイトドルフィンの保安部の制服を着た、虹川雪男だった。

 

 

「…私は、管理局顧問の黒潮鈴江の使い出で来ているのだよ!」

 

 

「黒潮の犬が何のようだ?それに南方局長はどうした!?」

 

 

黒潮の使いだと知って驚き、南方はどうしたのかと聞く。

 

 

「南方局長は任を解かれ、今は謹慎中その代理として、私の上司、黒潮鈴江が国交大臣代行に就任した。」

 

 

「あの悪女か?」

 

 

南方の謹慎を知り、新一郎は何故だと問う。

 

 

「それは貴方が素直に我々に協力しないからですよ沖田監督官!…素直に協力すれば、こんな事にならなかったものを…」

 

 

「ふざけるな!!…誰がお前らに協力などするのか…協力するぐらいなら、死んだ方がましだ!!貴様らは…海賊との裏ルートを…ぐはっ…」

 

 

新一郎の海賊との言葉で、虹川が彼を殴った。

 

 

「ふん!……本当に、馬鹿な男だ!それに…何でお前なんだ!!」

 

 

「……ん?」

 

 

「何であいつは俺じゃなく、お前を選んだんだ!!」

 

 

突然、虹川は態度を変え、新一郎を問い詰める。

 

 

「な、何だ?何の事を言ってるんだ…?」

 

 

突然妙な事を言われ、新一郎は何の事か分からなかった。

 

 

「惚けるな!!…お前が俺から真霜を取ったせいで、俺がどんな目にあったか!?……お前さえ…いや…飛行機が現れなければ、真霜は、俺の物になっていたのに…」

 

 

新一郎がこの世界に来る前から、虹川と真霜は恋人の関係だった。

 

だが、それは単なる思い込みで真霜は、虹川に興味は無かった。

 

昔は小悪党のグループリーダーで、悪さをしていた事や、同期をたぶらかし彼女に好意を抱いている虹川は、真霜はこれっぽっちも興味が無い。

 

虹川もブルーマーメイドの真霜しか目に入らず、真霜に内緒で密かに追いかけていた。

 

 

だが、以前に横須賀の空を飛行した二式水上戦闘機と呉の空に現れた新一郎との出会いで真霜は変わった。

 

   

そして、飛行機を探索調査する真霜は、異世界から飛行機を扱う新一郎の元に行ってしまった。

 

真霜のストーカー行動がばれ、親から勘当を言い渡され、虹川は出世コースから外され、危機的な状態に落ちいたが、黒潮の人脈で親との勘当は免れ、虹川は黒潮の恩に報いる為、今まで海賊と悪事を重ねてきた。

 

いつしか真霜を自分の物にし、更に横取りし、自分をこんな目に合わせた新一郎とその仲間達に復讐する事を胸に秘めた。

 

 

「へっ…欠伸が出て聞いて呆れる…(そう言えば真霜は…こいつと何度か遭って、嫌ってるんだろう…だから彼女は、こいつの名を口にしなかった…)」

 

 

新一郎は、真霜が虹川の名を言わなかった事に気づく。

 

 

「まあ良い、どうせお前はもう終わりだ…晴風も間もなく処理される」

 

 

「な、何だって!?…おい!…晴風を処理するとはどういう事だ?…まさか!?」

 

 

晴風処理を聞いて、新一郎は、驚く。

 

 

「察しの通り!…晴風には、既に撃沈命令が下っている…それに貴方には、さるしまを大破した叛逆罪で起訴が決まっている。」

 

 

晴風撃沈命令と新一郎の起訴を彼に告げる。そして、どさくさ紛れに水戦を略奪する

 

 

「貴様、何を考えているんだ!!…相手は、学生艦なんだぞ!!…撃沈すれば乗っている生徒は如何なるか、分かってるのか!!」

 

 

晴風撃沈命令を聞いて新一郎は、激怒する。その中の乗員が、大賀虎雄との繋がりを探りたかった。

 

 

「そんなの知った事か!…私には関係のない事だ…」

 

 

虹川は晴風を撃沈しても何とも思わなかった。

 

 

「お前、それでも人間か?…俺は、如何なっても良い…だから、晴風を助けてくれ、頼む!!」

 

新一郎は自分の身を省みず、イーグルの仲間と晴風を救う様、虹川に頭を下げて嘆願する。

 

それを見た虹川は

 

「フフハハハ!!…惨めだね沖田監督官!誇りある元帝国海軍の士官が聞いて呆れるわ!!」

 

 

新一郎の姿を見て嘲笑う。

 

 

「まあ、助けられないと言う訳でもないが……」

 

 

晴風を助けられると虹川は言う。

 

 

「本当か?」 

 

 

晴風を助けられると聞いて、表情を変える。

 

 

「但し条件がある」

 

 

「条件?」

 

 

晴風を助ける代わりに虹川は、新一郎にある条件を突き付ける。

 

 

「晴風を助ける代わりに、イーグルで残された零式水上観測機と飛行機の技術を我々に提供する事だ。そして、真霜を引き渡せ!」

 

 

晴風を助ける代わりに、守っていた零観などの飛行機の技術を引き渡せと言って来たのだ。

 

だが、零観を収納している格納庫に鍵を掛けて、封じていたために、手を出せなかった。

 

更に、真霜を引き渡す要求を出した。

 

だが

 

 

「ふざけるな!!そんな条件が飲めるか!!」

 

 

新一郎は断じて拒否する。

 

 

「良いのか…?断れば晴風は救えんぞ!?」

 

 

「ん…」

 

 

新一郎は悩む。

 

 

「如何する?」

 

 

考えた結果

 

 

「悪いがそんな条件は呑めない!!」

 

 

拒否を選んだ。

 

 

「晴風とイーグルが如何なっても良いのか?」

 

 

「確かに晴風は心配だが、俺の仲間たちは、地獄のような戦場で戦った身だ!…こんなの切り抜けられる!!」

 

 

新一郎は、虎雄が晴風の生徒を守りながら学校に戻れる事を信じていた。

 

 

「ふん!…そんなに仲間を信じるなら、面白い時間になってきたな…」

 

 

「あ…ぐぐぅ…ああぁ……!!」

 

 

新一郎の身体が震えて、口から唾液と泡が吹き出すほど苦痛を浴びていた。

 

 

以前に注入されたのは、真実の血清と言われる強力な自白用の麻薬で、注入されれば洗いざらい吐き、副作用として廃人になる。最悪の場合、死に至る。

 

 

「さて、そろそろしゃべってくれませんかね?……でないと、薬がないと生きていけないよ…?」

 

 

虹川は、真実の血清が入った注射器を新一郎に見せつける。

 

 

「…ああぁ…やめろ!!…これ以上…注入するな…屈しない…屈しないぞ…!!…ゴホッ…ゴホッ…」

 

 

「ふん!好きにしろ!」

 

 

「へっ…好きにするぜ………飛行機ってのは…女を抱くように扱うんだぜ…」

 

「…なんて屁理屈を…この野郎!!」

 

 

虹川は怒り、所持する拳銃を新一郎の頭部に向けた。

 

 

「へっ…撃つなら撃て……俺を撃ち殺したら…機体を強奪しても…搭乗するパイロットの……育成が…出来ん…ぜ…」

 

 

その言葉で虹川は、拳銃のグリップを握り絞め、ホルスターに入れた。

 

 

「こいつを牢に閉じ込めておけ!!」

 

 

「「 はいっ!! 」」

 

 

虹川は二人の検察官に命じ、新一郎を牢獄に閉じ込めた。

 

 

 

牢獄

 

 

 

「くそっ…この苦痛は……あの戦争で…命を奪った罰だな………あぁ…な…なんだ…?……あぁ……十三……洋介……進次郎…」

 

 

新一郎は牢獄の中にて、薬物の副作用の幻覚で、あの戦争で命を奪った敵と自身が関わる味方、そしてラバウル六勇士の一員、戦場で散って逝った戦友の厚木十三と桜井洋介。

 

取り残された実弟、沖田進次郎の幻覚を見た。

 

 

「……真霜…真霜…まだ見ぬ子よ………一目…見るまで死なんぞ…死なんぞ…ぐ…!」

 

 

 

 

 

 

ホワイトドルフィン 東京基地

 

 

 

 

「くそっ…なにがなんでも…飛行機を……」

 

 

虹川が執務室で苛立つ中、一人の側近が入室、報告した。

 

 

「先程、入ってきた情報によりますと…昨夜、晴風は和歌山沖で東舞校所属の教育艦伊201と戦闘、伊201とアメリカのハワイ高校所属のガードフィシュを航行不能にし、その後逃走したとの事です」

 

 

昨夜あった晴風と伊号第201潜水艦、ガードフィッシュとの戦闘を虹川に報告する。

 

 

「被害は?」

 

 

「艦は航行不能になりましたが、生徒全員は無事に救助されたそうです」

 

 

「そうか…でも、晴風はどうした?」

 

 

伊号第201、ガードフィッシュ潜水艦の生徒全員が無事であり、晴風を述べながら睨んだ。

 

 

「その事ですが…報告にはまだ続きが…」

 

 

側近から、もう一つの報告を聞く。

 

 

「何?」

 

 

「救助された生徒の話によりますと、ガードフィッシュの生徒が空飛ぶスキッパーに機銃掃射の攻撃され、そのスキッパーが晴風と行動の主張をしているんです」

 

 

「そうか…ならば、保安部の精鋭隊員の数人を晴風を探すんだ!!」

 

 

気が狂った様に、晴風を探せと部下に命じる。

 

 

「は、はい!!」

 

 

虹川は機体を奪う為、晴風の捜索を密かに開始した。

 

 

だが、広い太平洋をどう探すのか、そこで宗谷真霜の元にスパイを密かにつける事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀ブルーマーメイド基地、作戦本部

 

 

 

一方その真霜の方では、監禁されている新一郎を救い出すべく、母親の真雪と協力して、虹川より先に晴風の保護をすべく動いていた。

 

 

「その後、晴風の情報は?」

 

 

真霜は現在の晴風の情報が無いか、情報を集めていた。

 

救助された伊号第201潜水艦、ガードフィッシュが先に晴風を攻撃したと主張していると、生徒からの報告を受ける。

 

 

「…引き続き、晴風の情報収集及び捜索を続行して!!」

 

 

「はいっ!」

 

 

何が起きているのか掴むべく、真霜は引き続き、晴風の情報収集及び捜索を続行するよう命じた。

 

 

「(…待っていて新一郎!…絶対に貴方の無実を証明してあげるわ!)」

 

 

真霜は、新一郎の短剣を両手で握りながら無実を証明すべく、再び晴風の捜索を続行する。

 

齎された情報は、全て晴風の捜索を行っている平賀と福内に送られた。

 

送られた情報を元に平賀と福内は、二手に分かれて捜索する。

 

しかし、平賀と福内は気づいていなかった。

 

 

2人の動向は、逐一虹川達に筒抜けだった。

 

その為、虹川は2人のうちどちらかが晴風を見つけたら、直ぐに先に確保するよう命じていた。 

 

その事も知らず、平賀と福内は晴風捜索を続行する。

 

 

 

 

 

 

横須賀女子海洋学校、校長室

 

 

「そうですか…」

 

 

その頃、横須賀女子海洋学校では真雪が校長室で、今回攻撃した側の東舞鶴男子海洋学校校長と電話会談をしていた。

 

 

「東舞校長は何と?」

 

 

「晴風捜索に協力を申し出てるわ!!」

 

 

教頭に電話会談の内容を話す。

 

 

「それは、此方にもありがたい事です」

 

 

「艦の現状は?」

 

 

「現在、全艦寄港命令で帰投中です…間宮、明石、舞風、浜風は、晴風の捜索中…」

 

 

現在、海洋実習に出ている艦艇は、全て真雪からの全艦寄港命令に従い帰投中。

 

間宮、明石、舞風、浜風は、晴風の捜索の為、別行動を取っていた。

 

 

「……引き続きブルーマーメイドと協力して、晴風捜索を続行。そして、ライジングイーグルの隊員、トム・K・五十嵐の保護最優先を」

 

 

「はっ!」

 

 

こうして真雪は、東舞鶴男子海洋学校の協力を経て、晴風捜索を続ける。

 

 

しかし、真雪は知らなかった。

 

 

武蔵以下、海洋実習に出ていた艦艇が密かに次々と通信が途絶え始めていると言う事を

 

 

 

 

 

 

 

日本近海 高知沖

 

 

「あ~あ…燃料が危ういな…」

 

 

洋上でスキッパーに股がるトム・K・五十嵐は、黒潮、虹川から横須賀から脱出して数日、幾度も虹川の追手と戦闘を繰り返しながら四国近海に浮かんでいた。

 

 

「バカスカ燃料を食っているな…スキッパーよ…さて……この四国近海で…一番近い補給拠点は…」

 

 

トムはタブレットを立ち上げ、地図で付近を確認した。

 

 

「…あ…四国オーシャンモール……補給しないよりマシか……」

 

 

トムは四国オーシャンモールに向けて海上を走った。

 

 

「(ウィル機長、沖田さん、シャルロット…幸吉…トチローさん…キャサリンさん…エマちゃん、エミリーちゃん…無事でいてください…)」

 

 

トムはバラバラになったメンバーを心中、無事を祈ることばかりであった。

 

 

 

大賀虎雄と二式水上戦闘機、晴風を保護する者、狙う者が晴風を捜索する。

 

果たして晴風を見つけるのは、青人魚か、海鳥か、白いイルカか?

 

 

 



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第24話 虎の交流と乙女の買い出し

 

 

 

 

4月13日 早朝 晴風 後部甲板

 

 

大賀虎雄は自身の愛機、二式水上戦闘機を点検して、頭を悩ましていた。

 

 

「畜生…アメ公の潜水艦め、ワシの愛機に穴を空けやがったな……!!」 

 

 

ガードフィッシュとの戦いで、唯一装備する対空機銃により被弾、胴体はまだしも、フロート部分と発動機の後部にある燃料タンクに穴が空き、燃料が漏れて空になった。

 

その他に胴体と翼の鋲が跳んで、機体はガタガタ。下手すれば空中分解をしかねない。

 

朝からの機体の応急処置で、晴風乗員が虎雄と二式水上戦闘機について質問したり、女子たちが所持する板状の所持物で、内蔵するカメラで記念写真、写された写真はモノクロではなく、天然装飾された写真であり、所々驚愕した。

 

 

「はぁ…全く…この時代と世界の人間は、当たり前の様にカメラを持っておるな……」

 

 

「おお〜!これが、別の世界からやってきた空飛ぶ飛行機械か~!」

 

 

続いてシュペー乗員の副長、ヴィルヘルミーナが自ら後部甲板に置く二式水戦を見物にやってきた。

 

 

「ん…?…えっと…ヴィルヘルミーナさん!ヴィルヘルミーナさんも見物か?」

 

 

虎雄は見物にきたミーナに挨拶をした。すると、彼女の顔は驚愕していた。

 

 

「っ!…君は…ドイツ語が喋れるの…?」

 

 

「ドイツ語……?何を言う、ワシはドイツ語どころか、英語はさっぱりじゃ…」

 

 

「さ…さっぱりにしても……君は日本訛りもなく流暢過ぎる……どこで習ったの…?」

 

 

「ん…どこで習ったと言えども、ワシはパイロットを育成する佐世保海軍航空隊出身じゃ。ミーナさんは、なんでこのアジアに来たんじゃ?」

 

 

虎雄はミーナに極東の日本近海までの航海を質問し、彼女は深刻な顔をした。

 

 

「我等がアドミラル・シュペーか…」

 

 

「そうじゃ…あっ、だが言いたくなかったらいいんじゃ…」 

 

 

「いや、私もよくわからないが聞いてもらった方がいい」

 

 

そう言うとミーナはあの時、シュぺーで何があったのかを思い出しながら虎雄に話した。

 

 

「我らの艦は横須賀校との合同演習に参加する予定だった…」

 

 

「日独との合同演習…」

 

 

虎雄はシュペーとの合同演習のため、気まずそうな感じで目を見開かせた。

 

 

「私らは合流地点に向かっていたんだが、突然電子機器が動かなくなって調べようとしたら、誰も命令を聞かなくなった‥‥」

 

 

「それって叛乱?」

 

 

「わからん、私は艦長から付近に航行するこの晴風に知らせるよう命じられて脱出してきた」

 

 

「艦長?」

 

 

「私は必ずシュペーに戻らなければ、必ず…」

 

 

そう話すミーナの瞳には明確な決意が宿っていた。

 

 

「分かった、ワシも手伝うぜ!」  

 

 

「え?」

 

 

「ワシもよく分からんが、この世界に送られた意味があるかも知れんからな」

 

 

虎雄もミーナが戻れるように手伝うと言うと、ミーナは虎雄の方を見る。

 

 

同舟相救う、その船を同じくして渡りって、風にあおればその相救うや左右の手の如し。

 

先ほどの医務室で、ミーナは美波にことわざをそう言われたことを思い出した。

 

平素は敵どうしでも、いざと言う時には助け合う。つまり、敵同士でもいざと言う時は、お互いに助け合うべきだという意味だ。

 

 

「他人ごとではないが、協力しますよ。ヴィルヘルミーナ副長!」

 

 

虎雄はミーナに対して敬礼をした。だが、彼女は手を差し出した。

 

 

「私は副長と言えどもまだ学生の身だ、年齢としては君が年上だ、私のことはミーナと呼んでくれ!」

 

 

「わかった、ワシは虎雄と呼んでくれ」

 

 

「あ…///」

 

 

虎雄はミーナと握手し、彼女の心臓の鼓動が鳴り、赤面した。

 

 

虎雄は一人になったところ、短剣を所持する生徒が、連装砲の影に立っていた。 

 

 

「すぅ~…はぁ~…」  スチャ

 

 

深く呼吸し、刃物を鞘から抜いた時

 

 

「ぬ…」

 

 

「っ……うわわ~……!!」

 

 

生徒が猫に驚き、その場を去った。

 

虎雄が水戦の応急処置をなんとか終わらせた時、ある猫が虎雄に近づいた。

 

 

『成がでるな、大賀君!』

 

 

「あっ、元帥!」

 

 

虎雄の元にやってきたのは、どら猫の五十六。

 

教室の自己紹介の後、虎雄は艦艇に猫が乗艦していることにやや疑問を感じつつも、猫好きであった。

 

だが心の中に声が聞こえ、その猫こそがあの戦時のブーケンビル島上空で命を落とした、山本五十六元帥であったことに驚愕した。

 

猫になった五十六は、横須賀にて元ラバウル六勇士の沖田新一郎大尉、ペアの金城幸吉一等飛行兵曹、整備士の秋山敏郎兵曹長と再会。

 

かつての敵、アメリカ軍のウィリアム・J・スパロウ少佐、日系人のトム・K・五十嵐少尉、従軍看護婦のシャルロット・F・トラインがこの世界に転移した。

 

零式水上観測機、PBY-5カタリナの愛機ごと転移。敵味方を越え、海洋救難の任務に着く部隊を編成した。

 

そして、六勇士のパイロットである大賀虎雄を探索することも第一に、海原を飛んでいた。

 

 

「全く、信じがたい話と編成ですよ…まぁ、沖田さんならやりかねませんね。…フィリピンで戦死した厚木隊長は喜びますが…あの戦争で多くの敵を殺し、味方を見殺しにしての罪滅ぼしになりますから…」

 

 

『そうか、私も君たちの手を殺戮の血に染めてしまったことに謝るよ。』

 

 

「いえ、元帥がはみ出しの水上戦闘機パイロットのワシをラバウル六勇士の一員に指名して頂けたことに感謝しています!あの部隊で厚木隊長や沖田さん、洋介と進次郎、幸吉たちの出会いがなければ、ワシは愛機と共に殺戮者となり、戦場で命を落としていました。そして、沖田さんたちと再会するのが楽しみですよ」

 

 

『そうか…』

 

 

一人のパイロットと猫が海を眺めている時、五十六は笑みを浮かべながら言った。

 

 

「大賀君、この晴風に彼女になる娘はいたかね…?」

 

 

「なっ…元帥…///」

 

 

五十六の言葉で虎雄は赤面した。

 

 

「実はな、この世界でスパロウ少佐はハワイで生き別れた妻と双子の娘さんと再会。沖田君はなんと、横須賀で由緒ある家系の女性と結婚の約束をしている」

 

 

「へぇ〜沖田さんが…って!…えぇ!?」

 

 

かつて勇士の一員で、上官である沖田新一郎は、この世界に転移して1ヶ月。晴風副長、宗谷ましろの姉、宗谷真霜と婚約を交わしていることに虎雄は驚愕した。

 

 

「はぁ…沖田さんが…それに弟の進次郎が驚くな…残ったあいつに義姉ができたか…」

 

 

「そう言うことになるな、…ところで、私が亡くなった後、譲った短剣は持っているかね…?」

 

 

「っ!……元帥…それが……」

 

 

短剣の言葉で虎雄は気まずくなった。

 

山本五十六が亡くなった後、虎雄たち六人のパイロットたちは、上官から短剣を受領。ラバウル六勇士を編成した。

 

1944年の3月、戦局は悪化を辿り六勇士は解散。なお、解散しても六人は短剣を所持し続けた。

 

シンガポールに配属した虎雄は、マラッカ海峡から大事に飛行服の懐に納めながら、この世界に転移。

 

ドイツ艦アドミラル・グラフ・シュペーの奮戦で気絶し、晴風に回収した後に紛失した。

 

 

「そうか…まぁ気にするな、猫のわたしがこの晴風の艦内を捜索する」

 

 

「元帥…色々とすみません…」

 

 

頭を下げて深々と謝罪する虎雄。

 

艦長の明乃がスピーカーで交代と見張りの者だけを残し、大部分の生徒は晴風の教室に集められた。

 

 

晴風、教室

 

教室に集まった生徒達は突然の招集に何事かと思い、教壇に上がった媛萌と百々が今回、全員を招集した理由を話し始めた。

 

 

「日本トイレ連盟によると、女性が一日に使うトイレットペーパーの長さの平均は12.5m…うちのクラスは30人、航海実習は2週間続く予定だったので、余裕を見て250ロールは用意していたんです…それが…」

 

 

「日本トイレットペーパー連盟…?つまり何が言いたいんじゃ和住さん?」

 

 

何が言いたいのか、虎雄は答えを迫る。

 

 

「つまり…もうトイレットペーパーがありません!!」

 

 

『ええ…!?』

 

 

トイレットペーパーが無いと言う現実を告げられ、皆は驚愕する。

何故トイレットペーパーが無くなったのか、理由を詮索すると

 

 

「誰がそんなに使ったの!?」

 

 

「このクラス、トイレ近い人ばっかなの?」

 

 

辺りで責任の追及を始めた。

 

 

「1回10cmに制限すれば?」

 

 

「えー困る!?」

 

 

なかに桜良と空が、トイレットペーパーの制限案も出したが、直ぐに却下された。

 

 

「誰よ!?…無駄に一杯使ってんのは?」

 

 

芽衣までもが犯人を探ろうとした時

 

 

「あ…でも私トイレットペーパーで鼻もかんじゃいます…」

 

 

何とトイレットペーパーの使い過ぎを幸子が自ら自供した。

 

 

犯人は幸子だけかと思ったら

 

 

「すいません!…私、持ち込んだティッシュが無くなったので、1個通信室に持ち込みました!」

 

 

更に鶫が、自分の持ち場にトイレットペーパーを持ち込んだことを白状した。

 

 

「食堂でも見たよ、ロール」

 

 

「ちょこっと拭くのに便利なんだよね!」

 

 

「うん便利!便利!」

 

 

続いて果代子の目撃情報で、杵崎姉妹が使った事を白状した。

 

 

「あ…ワシも…愛機のオイルが漏れて、あの紙で拭き取ったな……」

 

 

虎雄自身も、トイレットペーパーを使用したことも、気まずそうに自白した。

 

 

「全く、どいつもこいつもすっとこどっこいだなぁ…」

 

 

そんなやりとりを聞きながら麻侖が鼻を鳴らした。 

それから、殆んどの生徒がトイレットペーパーを無断で使用した事が明らかになった。

 

無くなった原因が無断使用と皆の我慢の忍耐力が無い事が分かり、虎雄は呆れてしまう。

 

 

「如何しよう…無くなったら、おトイレ行けなくなるのかな…」

 

 

鈴が今後のトイレの不安を言う。

 

 

「……」

 

 

「ぬう」

 

 

横では、志摩が今後のトイレ問題が深刻化する時に、手製の猫じゃらしで五十六と遊んでいる。

 

 

「それもこれも、日本のトイレットペーパーが柔らか過ぎるのが駄目なんだ!…だからつい沢山使ってしまう!」

 

 

ミーナが席から立ち上がり、日本のトイレットペーパーの素晴らしさを力説する。

 

 

「蛙鳴蝉噪」

 

 

トイレットペーパーの問題で論争する生徒を見て、美波がポツリと呟く。

 

 

「戦争だと!?」

 

 

ミーナが美波の聞こえた言葉の部分に反応する。

 

 

「意味は「五月蠅いだけで無駄な論議」って事ですよ!」

 

 

幸子がミーナに蛙鳴蝉噪の意味を教える。

 

 

更にトイレットペーパーの論争が激しくなり、収拾がつかなくなる。

 

 

「艦長、まとめて下さい!!」

 

 

それを見かねたましろは、明乃に皆をまとめるよう指示する。

 

 

「あ、うん…み、みん」

 

 

「静かに、…皆、落ち着け!」

 

 

明乃が皆をまとめようと言おうとした時、虎雄が代わりに皆の論争を止める。

 

虎雄の一声に皆は論争を止め、彼に注目する。

 

 

「では、艦長!」

 

 

注目したところで、直ぐに艦長である明乃に交代する。

 

 

「は、はい…皆!!…他にも足りない物、必要な物ない?」

 

 

明乃がトイレットペーパーの他に何か不足している物は無いか皆に尋ねる。

 

 

すると

 

 

「魚雷!」

 

 

「ソーセージ!」

 

 

「模型雑誌!」

 

 

「真空管…」

 

 

何とも、今、必要が無い物ばかりが出る。

 

4人から出てきた意見を虎雄は、呆れながら息を吐いた。

 

 

「これから学校へ戻るとすると、2日は掛かる…何とか物資を補給したいところだ」

 

 

「燃料や弾薬は学校経由じゃないと調達できないから、薬品、食料、最低限必要な日用品だけでも、如何にかしたいな…」

 

 

横須賀女子海洋学校まで、丸2日は掛かる。

 

だが、それまで物資が持つか分からない。

 

何とか物資を何所かで調達したいが、今は追われているので、何所の港にも寄港できない。

 

 

「戦闘禁止命令が出ているとはいえ、なるべく他の船には遭遇したくないよね…」

 

 

「位置がバレるんで、通販は出来ないですし‥‥」

 

 

「通販?」 

 

 

鈴も幸子も同意見であるが、虎雄は通販の言葉が気になった。

 

そうなると、残る手は一つ 

 

 

「買い出し行こう、買い出し!!」

 

 

買い出しだ。

 

 

「買い出し?」

 

 

芽衣が買い出しに思いつき、明乃もそれにくいつく。

 

幸子はタブレットで、何所か近くで買い出しできる場所を探す。

 

 

「えっと…確か此処に『オーシャンモール四国沖店』がある見たいですけど…」

 

 

すると、近くにオーシャンモール四国沖店があるのを見つけた。

 

 

「買い物…行きたい!行きたい!」

 

 

「日焼け止め持ってくるの忘れちゃったし」

 

 

「私もヘアコンディショナー無くなっちゃった…皆、私の使うんだもん!」

 

 

買い出しの言葉を聞いて、皆がオーシャンモール四国沖店に行きたくなる。

 

だが今の状況下で、晴風の生徒全員が買い物へゾロゾロと行ける筈がない。

 

 

「確かに、今の状況で皆で楽しく買い物に行く訳には行けません!!」

 

 

「だね…目立たない様に少人数で買い出しに行こう!!」

 

買い物を楽しみにしている生徒達には悪いが、ここは少人数で目立たない様に買い出しに行くしかなかった。

 

 

「艦長!…もう一つ重大な問題が!」

 

 

オーシャンモール四国沖店へ買い出しに行く事が決まった中、突然美海が立ち上がり、明乃にある重大な問題を言う。

 

 

「何?」

 

 

明乃が何かと問う。

 

 

「…お金が……足りません…」

 

 

「…えっ!?…」

 

 

何と買い出しに必要な資金が無かったのだ。

 

美海の発言の内容を聞いて、全員が硬直する。

 

金が無いなら調達するしかない。

 

明乃は艦長帽を脱ぎ、逆さにし

 

 

「トイレットペーパー募金、お願いしまーす!!」

 

 

明乃は皆に、トイレットペーパーの募金を呼びかける。

 

皆もそれに乗じて、ポケットから財布を取り出し、中身を確かめる。

 

しかし、お金が少ないせいか、皆の表情は良くない。

 

中には不満そうな顔の者も居る。

 

 

「宵越しの金は持たねぇ!」

 

 

つまりお金を持っていないということなのだろう。

 

 

「小切手は使えませんわよね‥‥」

 

 

「うん‥多分…」

 

 

楓はお嬢様だから、支払いも小切手。

 

 

「ジンバブエのお金ですが、良いですか…?」

 

 

今度は幸子が、外国の紙幣を出してきた。

 

 

だが外国の紙幣は、銀行で日本の紙幣に変えなければならない。 

 

 

「ワシはユーロしかない!」

 

 

ミーナはドイツからの留学生なので、持っているのも幸子と同じ外国の紙幣だった。

 

 

『ワシ?』

 

 

ミーナの一人称に杵﨑姉妹が聞き間違いかと、ミーナの顔を見ながら聞き返す。

 

 

「‥‥何かワシの顔に付いてるか?」

 

 

周囲の人が自分の顔を見ていたので、ミーナは周りの人に何かと尋ねる。

 

 

「ワシ…!?」

 

 

『きゃはは……!!』

 

 

女学生の一人称にしては可笑しかったのか、周囲から笑い声が立ち始める。

 

 

「な、何が可笑しいんだ…!?」

 

 

皆に笑われ、ミーナは両手を上げ、ムキーッと声を上げた。

 

 

「虎ちゃんは…?」 

 

 

「あぁ…わしのは…」

 

 

虎雄は懐から財布を出し、紙幣があるにも関わらず、旧時代の紙幣であったために使えなかった。

 

「へっ…ここじゃ紙くずか……あっ……そうじゃ!」

 

 

航空半長靴の踵部分から純金の金貨数枚を出した。

 

 

「えっマジ、金じゃん!?」

 

 

「金貨じゃん!!」

 

 

「なんでこんな物を持っているの!?」

 

 

「あぁ、わしは陸軍さんからの要望で、マレー・フィリピンから本土に金塊を運搬する船団の護衛を任務を担い、その報酬じゃ」

 

 

こうして生徒全員は、虎雄が所持する金塊の協力で、何とか資金を確保した。

 

人選は各自でジャンケンで決め、勝った方が行く事になった。

 

 

 

ある程度、決まった人選は

 

 

そして、生徒は艦長の岬 明乃、機関員の和住媛萌、主計の伊良子美甘、保健の鏑木美波の計4人が選ばれた。

 

そして、用心棒である海軍少尉、大賀虎雄

 

5人は怪しまれない様に私服に着替え、スキッパーが置いてある前部甲板に集合する。

 

 

 

晴風、前部甲板

 

 

「それじゃあ私と虎ちゃん、ミカンちゃん、ヒメちゃん、美波さんとで、買い出しに行ってくるから、晴風をお願いね、シロちゃん!!」

 

 

明乃は自分が艦を離れている間、ましろに指揮を委ねる。

 

 

「艦長!?…副長もしくは、宗谷さんと呼んでください…」

 

 

相変わらずあだ名で言われるのが嫌いなましろ。

 

 

「副長、そればっかりですね!!」

 

 

後ろから幸子が突っ込む。

 

5人は、それぞれ2艇のスキッパーに乗艇する。

 

 

スキッパー1号艇

 

 

操縦士

 

岬 明乃

 

便乗者

 

大賀虎雄、伊良子美甘

  

 

 

スキッパー2号艇

 

操縦士

 

和住媛萌

 

便乗者

 

鏑木美波

 

 

乗艇後、スキッパーが海上に降ろされ、2艇はオーシャンモール四国沖店へと向かう。

 

 

海上

 

 

「一度駅に寄って、バスでオーシャンモールに行くから…」

 

 

何所にブルーマーメイド、ホワイトドルフィンの目が有るか分からないので、直接では無く、駅からショッピングモールへと向かう事にした。

 

 

「お忍びで行く訳だな!」

 

 

「ちょっと、カッコイイね!」

 

 

「艦の話とか専門用語を出しちゃ駄目だからね!…それと無駄な買い物も駄目!」

 

 

「卵と生クリームとイチゴを買いたいんだけど…」

 

 

「駄目に決まっているでしょ!」

 

 

「ヒメちゃん、レバーとかチーズとか食べてる?」

 

 

「どっちも嫌いだし」

 

 

「やっぱり~ビタミンB12が足りないとイライラするらしいよ…」

 

 

「してないから!」

 

 

2人は無駄な論争を始める。

 

 

「はいはい、2人とも無駄なお喋りはここまでじゃ!…この通信も傍受されている可能性がある…目的地到着まで、緊急以外は無線封鎖!」

 

 

『ん…』 

 

 

軍隊で経験のある虎雄が、無線で連絡し合い論争を止める。 

 

スキッパー2艇は、オーシャンモール四国沖店へと向かう。

  

 

1号艇

 

 

明乃がスキッパーを操作しながら質問した。

 

 

「虎ちゃんはこの世界に来て休めた…?」

 

 

「あぁ…あの戦時下で、敵が来る度に愛機と出撃して戦った…それが嘘のように感じる……」

 

 

「……わたしたちは…本当の戦争は知らない……SFの類いしかしらない戦場で…虎ちゃんは戦っていたのね……」

 

 

「…わしや…関わる仲間と敵は…戦争になると互いに殺戮者になってた……明乃艦長や美甘ちゃんたち仲間には…そんな地獄を、わしは話しとうない…」

 

 

「…………」

 

 

明乃と美甘は、虎雄の身体が震えていた。彼女たちからして見れば、あの戦争で戦い、生きるのに必死だったのを物語っていた。

 

 

 

晴風、前部甲板

 

 

明乃達を見送り、ましろ達は艦橋に戻る。

 

 

「艦長直々にトイレットペーパーの買い出しとは…はぁ…艦長は、自分の艦に…」 

 

 

「副長がジャンケンで負けるからじゃないですか…10回連続で…あれは、見事でしたねぇ~」

 

 

ましろは、本来なら自分が行くべきだったが、明乃にジャンケンで10回負けたので仕方なく艦に残った。

 

 

「艦長にジャンケンで挑んだのが間違いだった…」

 

 

ましろは自分の運が付いていないのに、運が付いている明乃と勝負したのが間違いだった事につくづく自分の行動に呆れてしまう。

 

 

「ジャンケンはジャンケンでも…負けた方が行くって事にしておけば良かったんじゃないですか?」

 

 

「!?…もっと早く言えっ!」

 

 

幸子からの意外な案が出たが時既に遅く、もっと早く言えとましろは幸子を怒鳴る。

 

 

「きゃ~コワ~イ」

 

 

ましろに怒鳴られ、幸子はまるで子供みたいに逃げる。

 

 

「そもそも副長、スキッパー運転できるのかな?」

 

 

「さぁ…」

 

 

芽衣と鈴がましろにスキッパーの運転が出来るのか、思い詰める。

 

本当は、ましろはスキッパーの免許は持っていないのだ。

 

だから行っても、足手まといになるだけである。

 

その事に本人は、全く気づかない様だ。

 

 

 

 



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第25話 海上の安らぎ

大変お待たせしました。


 

 

 

 

オーシャンモール四国沖店、無料シャトルバス駅

 

 

一方、買い出しに出かけた虎雄と明乃達は、オーシャンモール四国沖店に無事に着く。

 

 

「(ここが…四国沖店…)」

 

 

四国沖店は海上に浮かんだ都市であることに驚いた。

 

あの地獄の様な世界大戦から異世界、時空から70年たったのは信じがたいことだが、事実だった。

 

 

「え~と…無料シャトルバスが有る筈なんだけど…」

 

 

到着したそうそう、美甘は、ショッピングモール方面に向かう無料シャトルバスを探す。

 

無料と聞いた虎雄は目を見開いた。

 

 

「しゃとるバス…?へぇ~タダで乗れるバスがあるのか…?」 

 

 

「そうなんだよ虎ちゃん、あっ!…あれあれ!」 

 

 

無料シャトルバスを見つけ、スキッパーを駐艇場に止めてから、5人は、無料シャトルバスに乗り、ショッピングモール方面に向かう。

 

 

数分前、四国沖 

 

 

「ねぇ虎ちゃん……腰に拳銃を持っているのはなぜ…?」

 

 

「う…万が一じゃ、わしらを追う者がでてくる時の護身用じゃ」

 

 

明乃は何か察知したのか、虎雄の腰に拳銃を所持していることを質問する。

 

虎雄は折り畳み式の二式テラ銃を除き、南部十四年式拳銃や手榴弾2個、二式銃剣を所持していた。

 

 

「…はぁ…ようこそわたしたちの世界へ大賀虎雄少尉、ここからがあなたがゲストよ♪」

 

 

「あぁ…よろしく頼む…!」

 

 

時間を戻し、暫くして、無料シャトルバスは、ショッピングモールに着く。

 

 

「わぁ!」 

 

 

初めて着たのか、明乃は、ついはしゃいでしまう。

 

 

「…日本じゃ…わしは日本に帰ってきたんじゃ……!(ここは四国沖…わしの沈んだ鹿児島の錦江村はどの辺りになるのかな…)」

 

 

「虎ちゃん…」

 

 

明乃に続き、虎雄も海上都市であっても、祖国の長崎で騒動を起こし、左遷して辺鄙のソロモン諸島のショートランド島に配属。

 

戦局でソロモンが激戦地になり、ニューブリテン島のラバウルに撤退。

 

ラバウルで厚木十三たち艦上のパイロットと上官の沖田新一郎と金城幸吉と会い、六勇士を結成した。

 

それからトラック諸島に転属、戦局の悪化で解散、最後にシンガポールに転属、その間の3年間、日本に帰れて喜んだ。

 

 

「平和だ!」

 

 

「お茶する時間ぐらいあるよね!?」

 

 

「ないから…」

 

 

「ヒメちゃん、それ、かえって目立つよ!」

 

 

媛萌は変装なのか、マスクにサングラスを装着しており、美甘の言う通り怪しさ抜群な姿でかえって目立つ格好だった。

 

 

「それに、虎雄もサングラス掛けてるし~」

 

 

「ん…?いや、これはな…」

 

 

姫萌に虎雄も四国店に到着してから航空夜間用の黒色メガネを掛けていた。

 

自身としては、視力を失った盲目者としてだった。

 

 

「じゃあ、わたしが虎ちゃんの手を繋ぐよ」

 

 

「わたしもだ、少しでも偽装するために手を貸そう。」

 

 

そう言って、明乃と美波は虎雄の手を繋いだ。

 

 

「じゃあ中、入ろうか?」

 

 

5人は、ショッピングモールへと歩み出す。

 

 

 

「ん…?あれは…?」

 

 

その5人の背後から、ロッドケースを背中に背負った男性が歩いていた。

 

 

 

一方、晴風では、買い出しに行った虎雄と明乃達が帰って来るまで、自由時間になり、生徒達は、それぞれ休養を取る。 

 

 

 

晴風、甲板

 

 

楓が甲板でラッパの練習をする。

 

 

「修理できる?」

 

 

「予備砲身も無いし…無理かな?」

 

 

光と美千留が損壊した第三主砲の修理を話していたが、予備の砲身も無いので、修理は不可能だった。

 

 

「持って来たよ…」

 

 

「ありがとう」

 

 

杵崎姉妹は甲板で洗濯物を干す。

 

 

「はい、目線!」

 

 

「へい!」

 

 

「きゃ!?マッチ!!」

 

 

艦首では、百々がマチコと写真撮影をしているが、2人が抱きついている事を美海がヤキモチを焼いている。

 

 

「…あんまり使える物ないね…」

 

 

「トイレットペーパーとか流れて来ないかな…」

 

 

左舷側では、理都子と果代子が漂流物をフックに引っ掛けて何か目ぼしい物は無いか探していたが、これと言った物は無かった。

 

 

「マロンちゃんは?」

 

 

「機関室の方が落ち着くんだって…」

 

 

「え…たまには、太陽を浴びないと…」

 

 

「流石機関長殿…」

 

 

いつも機関室に籠っている機関員四人衆も水着になり甲板で日光浴をする。

 

 

だが、折角の休みなのに機関長の麻侖は甲板には出ず、機関室で鼾をかきながら寝ていた。

 

 

晴風、艦橋

 

 

艦橋では、見張り体制がとられているのだが、周りの空気に影響されてか、何とも緊張感が無い。

 

 

「…平和って…良いね…」

 

 

今のところ何の事態も起きていない、平穏な時間が流れている艦橋で鈴が呟く。

 

 

「…良い」

 

 

志摩も鈴の意見に賛同し、一言呟く。

 

 

「今日の晩御飯何がいいかなぁ…」

 

 

「カレーが‥‥良い!」

 

 

「今日は、金曜じゃないよ…」

 

 

そんなまったりムードが流れている

 

 

「…はぁ!?…」

 

 

ましろは、疲れてるのか眠い状況で艦橋に立っていた。

だが、目を覚まし両手でほっぺたを叩いて起きる。

 

 

そんな時、羅針盤の上に置いてある明乃の艦長帽に目を向ける。

 

 

ましろは、誰も見てないのを確認し、羅針盤の艦長帽を取る。

 

 

「ちょっとトイレ行ってくる…」

 

 

 

艦長帽を取ったましろは、隠しながら艦橋を出る。

 

艦橋を出て、マストあたりで誰も見てないのを確認し、隠していた艦長帽を被り、更に隠し持っていた虎雄の短剣を装飾のリングに紐を通し、左腰にぶら下げた。

 

艦長帽を被り、短剣を装備したましろは、喜びながらはしゃぐ。

 

しかし、はしゃいでいると横から洋美が現れ、ましろは、慌てて、艦長帽を隠す。

 

 

「…宗谷さん、凄く似合ってた。」

 

 

ましろが艦長帽を被っていたのを見て、洋美は褒める。

 

 

「えっ!?…」

 

 

「私ね…宗谷さんに艦長に成って欲しかったな…あれ…その短剣は…?」

 

 

洋美は左腰の短剣に目を付ける。

 

 

「えっと…大賀少尉が戻ってくるまでに、この短剣を預かってくれと…」

 

 

「そ…そうなんだ…それでも似合っているよ」

 

 

「…あっえーで、何か?」

 

 

ましろは洋美に短剣で誤魔化し、預かっていることに嘘をついた。

 

そして、何の用事か問う。

 

 

「ミーナさんが艦内案内してほしいんだって」

 

 

洋美は、ミーナに晴風の艦内を案内しようとましろを呼びにきた様だ。

 

 

「わ、分かった。」

 

 

ましろは探険を腰に着けたまま洋美と共にミーナに艦内を案内する。

 

 

ましろがいなくなった艦橋に芽衣が戻って来た。

 

 

「あれ!?」

 

 

戻って来た芽衣は、ましろが居ない事に気づく。

 

 

「副長何所行ったの?」

 

 

「さっきトイレ行くって出て行ったけど…そう言えば遅いね?」

 

 

「(あれ多分、嘘ですけどね…こっそり艦長の帽子持って行ったし…それに虎雄さんの短剣を持っていた…恐らくは…)」 

 

 

幸子は、ましろの艦長姿を想像しながら

 

 

「はっ!?雅か…っ!!」

 

 

ある事に気づく。

 

 

そして

 

 

「『宗谷さん、その帽子と短剣凄く似合ってます!』『そ…そうかな』『やっぱり艦長は、宗谷さんが務めるべきです!』『そうだ…やはり私が艦長を務めるべきなんだ!!…やろう!…艦長が居ない今こそ反旗を翻す時…下克上だー!!』ビシッ『素敵っ、宗谷さんっ!一生ついて行きます!!』『落ち着いて下さい副長!!…反乱は…反乱はいけませんっ!!』」

 

 

片手に短剣を掲げるイメージをしながら一人芝居を始めた。

 

 

「ま~た、始まったよ!」

 

 

「大変な事になってるね…」

 

 

またも一人芝居を始める幸子に2人は、呆れる。

 

 

「そう言えば、虎雄さんですけど…」

 

 

「切り替え早っ!」

 

 

幸子の切り替えの速さに芽衣は、恐怖を感じた。

 

 

「虎雄さんがどうしたのココちゃん…?」 

 

 

「うん、艦長は虎雄さんと関わりがあるみたいです。どことなく、下の名前を読んでいますよ~」

 

 

「あ~…それに自己紹介で『日本海軍』と言ってたよね~日本に海軍があったのはずいぶん昔のことなのに…昔の時代から…別世界から…どうやって艦長と会ったのかな…」

 

 

芽依が虎雄と明乃との関係が気になり、頭を傾げていた。

 

 

「…はっ!まさかっ!!」

 

 

幸子がまた何かを妄想する 

 

 

「また始まるの?」

 

 

芽衣はうんざりした表情をすると幸子は

 

 

「『明乃!』『…虎ちゃん!!』『俺は、君と会うために軍から脱走した!!俺と共に暮らそう!!』『ありがとう虎ちゃん…だけど…わたしは今、武蔵に友達が…!』『なら、俺も手を貸すよ!!君のためなら、例え火の中水の中!!』」

 

 

「長いわ!!まぁ、無くともないな…」

 

 

芽衣が幸子の妄想に突っ込み、艦橋は慌ただしくなる。

そんな中、鈴は軽くあくびをすると 

 

 

「平和って…いいな」

 

 

そう呟くのであった。

 

 

 

 

晴風甲板では機関科と炊飯員、主計科のメンバーによる女子会の様なモノが行われていた。

 

 

「杏仁豆腐作ったから食べて」

 

 

「どうぞ」

 

 

杵﨑姉妹が作って来た杏仁豆腐を皆に振舞う。

 

 

「しかし、あの大賀虎雄って、わりといい男前だね~」

 

 

「それに、艦長も物好きだね〜!シュペーのミーナさんはともかく、あの謎の男性も」

 

 

「虎雄少尉は、なんか色々と訳ありかな…?」

 

 

「へ〜あぁ、そう言えば。少尉さんについて思ったことがあるんだ」

 

 

空がそう言い後甲板に置いてある二式水戦を指さすと麗央も

 

 

「ああ、あれね。あれで空を飛んでいたってほんとかな?」

 

 

「私は見たっすよ!さるしまとシュペー、潜水艦の戦闘のとき、すっごい速さで飛んでいたっす!」

 

 

「うんうん、凄い勢いで水上を走り、巧みな機動力だったよ!」

 

 

「飛行船はともかく、スキッパーより早かったね~!」

 

 

百々とほまれ、あかねがそう証言する。

 

さるしまとシュペー、ガードフィッシュの戦闘時、百々は二式水戦が飛んでいるのをこの目で見ていた。

 

 

「へ~でも飛行船より早い乗り物なんて聞いたことがないよ?」

 

 

「確かに虎雄少尉って何者なんだろうね?」 

 

 

留奈と美海がそう言うと

 

 

「そう言えば自己紹介のとき、日本海軍少尉って名乗っていたよね?」

 

 

「そう言えばそうだね?日本に海軍があったのって随分昔だよね?」

 

 

「少尉も昔の軍隊の階級だよね?確か…士官の一番下だったよね?」 

 

 

「じゃあ、虎君って兵隊で、あれに乗ってダダダッ!!って人を何十人も撃っちゃってたんじゃないの?」

 

 

「「「 っ!? 」」」

 

 

留奈のその言葉に皆は少し驚いた顔をする。

 

二式水上戦闘機には7.7、20ミリ機銃、シュペーの戦闘まで翼の下に爆弾の武装が施されていた。

 

 

「あはは~ま…まさか…考え過ぎだよ留奈……」

 

 

「そうよ…海外に軍隊があっても、日本は軍隊が無くなった引き換えに海上安全整備局が設立したんだから…」

 

 

空が笑いこけ、桜良が留奈に解説しながら頭を撫でた。

 

留奈は右手に顎を付けて傾げた。

 

 

「うーん…夕べ変な夢を見たの…」

 

 

「夢って…どんなの留奈ちゃん…?」

 

 

留奈が見た夢でほまれが反応し、質問した。

 

 

「えっとね……ハワイみたいな南国の島で…富士山みたいな…山の麓に真っ平らな土地に…虎君のようなスキッパーじゃない機体が、何機か陸上に並べてあったよ…」

 

 

「「「 ………… 」」」

 

 

みんなは留奈の言葉に沈黙する。

 

 

「ね…ねぇみんな、せっかくの休憩だから親睦しようよ~!」

 

 

「そ…そうっすよ!せっかくなんで、私は記念に描くっすよ~♪」

 

 

みんなは気分を取り戻して話題を変えた。

 

 

「それにしても…学校に帰ったら私達怒られるのかな?」

 

 

「まさか停学とか退学にならないよね?」

 

 

不安そうな機関科の留奈の嘆きに、同じく機関科の空がどこか悲しそうな顔をする。

 

 

お菓子やお茶が並んでいる女子会なのに、再び空気は重い。

 

 

「学校に着いた途端、捕まったりするのかな‥‥」 

 

 

「ブルマーになれないとか?」

 

 

「ブルマー?」

 

 

「ブルーマーメイド」

 

 

「そうなったら何のためにこの学校に入ったんだって話よね」

 

 

美海がそう言うと周囲の皆が頷いた。

 

あまりにも空気が重かったのを感じたのかそれとも忘れたいのか麗緒が

 

 

「無い無い…だって宗谷さん、校長の娘さん何だって!」

 

 

麗緒は、ましろが真雪の娘だから、ましろがいる限り、処罰が下される事はないと思った。

 

 

「えっ本当…!」

 

 

「あ、校長も宗谷だ!…宗谷真雪!!…宗谷さん、ましろだよね!」

 

 

ましろが真雪の娘だと知って、2人は、驚く。

 

 

そんな時

 

 

「「 ん? 」」

 

 

ミーナに艦内を案内していたましろと洋美が偶然、其処に居合わせて、みんなの会話を聞いてしまう。

 

 

「真雪とましろかぁ…雪は白いもんね…」

 

 

「えーでも校長の娘なのに、うちのクラス?…武蔵とかじゃないんだ?」  

 

 

麗緒は、ましろが真雪の娘なのに何故、成績優秀の武蔵じゃなく、成績不良の晴風に配属されたのか、気になる。

 

 

「っ!!」

 

 

麗緒の言葉を聞いて、ましろは、落ち込む。だが、そんなましろを見て、洋美が

 

 

「余計なお喋りは止めなさい!!」

 

 

余りに余計な一言を言っていた4人を止める様、激怒する。

 

更にミーナも

 

 

「この、噂好きのドグサレ野郎共!修理する箇所がいくらでもあるだろ!…取り掛かれ!!」

 

 

『は、はい!!』

 

 

ミーナの一喝を受け、まるで蜘蛛の子を散らす様に皆は思い思いの方向に散っていく。

 

 

「気にしないでね、宗谷さん…」

 

 

7人が去った後、落ち込むましろに洋美は、慰めようとする。

 

 

「‥‥」

 

 

だが、さっきの7人のお喋りを聞いて、ましろは本当は、晴風じゃなく、武蔵に乗りたかった。

 

入学試験での初歩的なミスで結局、晴風に乗る事になってしまった。

 

 

ましろは以前、義理の兄の沖田新一郎から貰い、肌身離さず所持する金比羅前の御守りを握った。

 

 

「……新一郎義兄さん…私…金比羅前さんから見放されたのかな…?」

 

 

 

 

「あ、アビスの箱だ…!」

 

 

漂流物を拾っていた理都子と果代子が通販会社のロゴが書かれた箱を見つけ、2人は、その箱を引き揚げる。

 

 

「通販の箱なんだから雑誌とか入ってないかな……あれ?」

 

 

 

何が入っているのか、期待しながら蓋を開けると、そこには蓋が開いた飼育箱があり、中からハムスターの様なマウスが飛び出して、甲板を走り去っていった。

 

 

ちょうどその頃、機銃座で昼寝をしていた五十六が、甲板を走るマウスの姿を見つける 

 

 

「ヌン!!」

 

 

猫としての本能が目覚めたのか、いつもまったりとしている五十六の目がギラリと光りそのマウスを追いかけて行った。

 

 

『うん?』

 

 

マウスは、偶々その場にいた、ましろ、洋美、ミーナの足元を通過した。

 

 

「鼠??」

 

 

ミーナが足元を見て、ましろが左を向くと、マウスを追いかけていた五十六が突進してきた。

 

 

「わぁ!?…ひぃ…ひぃ…ぐぼっ!!」

 

 

驚きの余り、尻もちをつくましろ、更に其処に五十六が腹に乗り飛び越えていった。

 

 

「宗谷さん、大丈夫?」

 

 

洋美がましろに駆け寄り心配して声を掛ける。

 

 

「全く、猫なんか乗せるから……はぁ…ついてない」

 

 

ましろは、つくづく自分の運の無さに悔やむのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ショッピングセンター 食品売場

 

 

 

 

 

 

「おぉ~…鹿児島やシンガポールの売店と違い、品揃えが豊富じゃ…厚木隊長が話したアメリカみたいじゃな~」

 

 

虎雄は以前、ラバウルにて隊長であった厚木十三のアメリカ留学経験談を耳にしていたため、海外留学に行きたいと夢見ていた。

 

 

そして、もう一つとしてはドイツに行き、ベルリンで戦死した陸軍の妹、大賀晴香の慰霊をすることだった。

 

 

「……晴香…」

 

 

「あっいたいた、虎ちゃん!」

 

 

虎雄が振り向くと、卵と生クリーム、苺を購入した美甘が赴いてきた。

 

 

「あ…美甘ちゃん」

 

 

「どこに行ったのよ…艦長と合流するよ~!(あっ///)」

 

 

美甘はとっさに虎雄の手を掴み、歩いた。だが彼女は無我夢中で虎雄の手を握り掴んだ時、美甘の心が熱くなった。

 

 

「ねぇ虎ちゃん……」

 

 

「ん…?」

 

 

「虎ちゃんは艦長、…岬さんと付き合っているの?」

 

 

美甘は虎雄に対し、艦長である明乃の彼氏かと質問する。

 

 

「いや、明乃はワシの命の恩人じゃ。その…少しでも恩返ししたいのじゃ…」

 

 

「そうなんだ…元の世界で彼女は…?」

 

 

 

「いない、戦場で死んだら泣かせる訳にはいかんからの…ワシの隊長は去年結婚したばかりじゃ、その後に戦場でとんぼ返りしたまま、フィリピンで戦死した……」

 

 

「そうなんだ…だけど、親しいお友達は…?」

 

 

 

「あ…いるな……」

 

 

 

虎雄にはかつて、ラバウル六勇士で親しい友人がいた。

 

あの世界で残っている桜井洋介と沖田進次郎。そして、この海洋国家にて数ヶ月前に異動した沖田新一郎と金城幸吉がいる。

 

 

「だけど虎ちゃん、そのお友達と再会するまで絶対に死なないでね!…わたしの為にも…」

 

 

「あぁ……ん、美甘ちゃん今なんて…?」

 

 

 

「な…何でもない///…はやく艦長と合流するよ~///」

 

 

 

「わわっ!?」

 

 

美甘は頬が赤くなりながら、虎雄を引っ張って行く。

 

 

 

「お待たせ…!!御免ね…!!」

 

 

材料買いを終えた美甘と虎雄が3人と合流する。

 

 

「材料買えた?」

 

 

「うん!…それでね…」

 

 

美甘は、ある物をポケットから出す。

 

 

 

「じゃ〜ん!…1枚だけだけど抽選券貰っちゃった!!」

 

 

 

材料を買った後に抽選券を貰った。

 

 

 

「これ、一回福引できるんだって」

 

 

「何が当たるんだ?」

 

 

 

何が当たるのか美波は、分からなかった。

 

 

「それは分からないけど…商品券とか当たったらもう豪華なケーキになるね!」

 

 

 

美甘も何が当たるのか、分からなかったが、もし当たるとすれば、商品券でケーキなどを買いたいと願う

 

 

「いや其処は、トイレットペーパーに使うでしょ…」

 

 

確かに其処は、トイレットペーパーを買うのが当たり前。

 

 

「福引きの賞品と言えば豪華旅行券!」

 

 

媛萌は、豪華旅行券が当たれば良いと思っていた。

 

 

「そんなの当てて如何するんだ?」

 

 

美波の言う通り、今はそんな物当てても何の意味もない。

 

 

「金券ショップに売ればお金にできる。」

 

 

如何やら売って、お金にする事を考えていた。

 

 

「うわー夢がない!」

 

 

「それじゃ早速いってみよーっ」

 

 

『おーっ!』

 

 

気を取り直して、5人は、露店のくじ引きに向かう。

 

 

「(虎ちゃんが美甘ちゃんと手を繋いでいる……それに、何だろう…この心は…)」

 

 

虎雄は美甘と手を繋いでいる光景を目の当たりにした明乃は、どことなく複雑になっていた。

 

 

 

 



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第26話 海上の抗争 

 

 

 

 

5人は買い物で抽選券を貰ったので、福引する為、福引会場に向かっていた。

 

 

オーシャンモール四国沖店、福引会場

 

 

5人は福引会場に着き、そして誰が引くか協議する。

 

 

協議した結果、艦長である明乃が引く事になった。

明乃はハンドルを回す。

 

 

次の瞬間

 

「トイレットペーパー1年分おめでとうございます!!」

 

 

金の玉が出て、一等のトイレットペーパー1年分が当たった。

 

 

カランカランと鐘をならす店員。

 

 

「やった…!!」

 

 

 

「艦長…じゃなくて岬さんすごっ!?」

 

 

「何て運の良い…抽選券1枚しか貰えなかったのに…」

 

 

「確かに幸運じゃな、明乃…」

 

 

4人が明乃の幸運体質に驚く。

 

 

「良かったね…トイレットペーパーまだ買わなくて…」

 

 

福引でトイレットペーパー1年分が当たり、美甘は喜ぶ。

トイレットペーパーを買う必要がなくなった。

 

 

「でも、1年分なんて如何やって持って帰るんだ?」

 

 

美波の言う通り、トイレットペーパー1年分は、5人では到底持って帰る事は出来ない。

そんな時

 

 

「ご自宅までお送りしますよ!」

 

 

運搬方法を考える5人に店員が家まで配送してくれると言ってくれた。だが、それは無理な相談であった。

 

 

『えっ……』

 

 

それを聞いた5人は、円陣を組む。

 

 

「如何しよう、艦まで送って貰えないし…」

 

 

「持てるだけ持って帰ろうよ!」

 

 

「…………」

 

 

取り合えず持ってる分だけ持って帰る事にした。

 

しかし虎雄は沈黙し、ある連中にマークされていたことに気づいていた。

 

そして、無料シャトルバスの駅まで戻ろうと歩いていると

 

 

「ん!?」

 

 

前方に白い制服を着た女性達が立ちはだかる。

 

 

『…ん?』

 

 

5人は何かと思った時

 

 

「貴方達、晴風の乗員ね!」

 

 

『うえっ!?』

 

 

突然、自分達の正体がばれ

 

 

「戦略的撤退よ!」

 

 

姫萌たちは急いでトイレットペーパーを捨てて、その場から逃げる。

 

 

「ま、待って、皆……」

 

 

明乃と虎雄も遅れて、急いで3人の後を追う。

 

 

「あ、待ちなさい」 

 

 

逃げる5人を、平賀倫子は急いで後を追いかける。

 

だが、虎雄は懐からある物を取り出す。それは、日本軍の九七式手榴弾。安全ピンを抜き、着火させるため信管を強く叩き、平賀達に向け思い切り投げた。

 

カンカン

 

 

「っ!?」

 

 

平賀の足元に手榴弾がコロッと落ちてきて

 

 

「艦長たち、伏せろ!」

 

 

「はっ!?」

 

 

虎雄に言われ、明乃達はその場に伏せる。

 

次の瞬間

 

 

ドカアアァン

 

 

手榴弾が爆発

 

『わぁ!?』

 

平賀達は手榴弾の破片でかすり傷を負い、行動不能になる。

 

 

「今じゃ!」

 

 

虎雄は平賀達が手榴弾で行動不能になっている間に、明乃達の元に向かう。

 

 

「皆…わしに付いてこい~急げぇ!!」

 

 

「虎ちゃん!」

 

 

虎雄は明乃の手を繋ぎ、みんなを連れて急いでその場を去る。

 

 

「ま…待ってください、大賀少尉…!!」

 

 

平賀達は虎雄と明乃達の後を追おうとしたが、手榴弾を受けたせいで暫くは動けなかった。

 

 

そして

 

 

「今のは…手榴弾…?」

 

 

直ぐ近くに居たトムは、手榴弾の爆発音に気づき急いで向かう。

 

 

 

数分後

 

 

 

虎雄達は何とか平賀達から逃げる事に成功し、人気のない路地に逃げこんだ。

 

路地に逃げ込んだ虎雄は、路地から辺りを見回し、誰も追ってこないのを確認する。

 

 

「…如何やら、まいた様じゃな…」

 

 

誰も追ってこないのを確認し、取り合えず安心する。

 

 

「皆、怪我はねぇか?」

 

 

虎雄は平賀達から逃げる時に手榴弾で怪我をしていないかと問う。

 

 

「だ、大丈夫だよ…虎ちゃん…」

 

 

明乃たちの被害はなかった。

 

 

「い、今の何!?」

 

 

「手榴弾じゃ…こんな事もあろうかと一応、機体から持って来たんじゃ…ま~あ、役には立った見たいじゃが…」

 

 

「うぅ…耳と肌がヒリヒリする。」

 

 

美波はさっきの手榴弾の爆発の影響で、耳と肌がヒリヒリしていた。

 

 

「収まるまで暫く我慢してくれ美波さん!」

 

 

「ああ…折角のトイレットペーパーを置いて来ちゃったよ…!」

 

 

美甘は平賀達から無事助けられた事に感謝したが、残念な事に福引で当てたトイレットペーパーを置いてきた事を悔やんでいた。

 

唯一は、虎雄が背負うペーパー1ダースのみだった。

 

 

「仕方ねぇ!…無事なだけと、わしが背負うペーパーで我慢してくれ……」

 

 

虎雄は、悔む美甘を慰める。

 

 

「取り合えず急いで晴風に戻ろう…大半のトイペーパーの事は残念じゃが、諦めるしかない……!」

 

虎雄は取り合えずトイレットペーパーは諦めて、急いで晴風に戻る事を提案する。

 

 

「そうだね、虎ちゃん!」

 

 

虎雄の提案に明乃も同意する。

 

 

「はぁ…今あるトイレットペーパーは1ダース、逃げるしかない…」

 

 

「そうだね…」

 

 

媛萌はトイレットペーパーを何としても手に入れたかったが、今は逃げるのが先決だと思い、美甘もそれに同意する。

 

 

「三十六計逃げるに如かず」

 

 

美波もことわざで呟く。その時

 

 

ガチャ

 

「あっ!?」

 

突然、後ろから黒いスーツ姿をした者が現れる。

 

 

「動くな!」

 

 

スーツの者は虎雄の背後にある物を向けた。それは拳銃だった。

 

 

『えっ!?』

 

 

 ドキューン

 

 

「がはっ……」

 

 

虎雄は素早く拳銃を抜き発砲、スーツの者の肩を撃ち抜いた。

 

 

「何じゃ、貴様?」

 

 

虎雄は警戒しながら激痛で踠き苦しむ者に近づき、南部拳銃を突き付けながら問う。

 

 

「ぐっ…た…助てくれ…頼む……」

 

 

「わかった…美波さんこいつの応急処置を…」

 

 

男の要望で虎雄は南部十四年式拳銃を下げた時

 

 

「とりゃあっ!!」

 

 

「なっ…貴様…」

 

 

スーツの内部に、防弾チョッキを着こんでいたおかげで免れた。

 

 

「防弾チョッキを着て正解だった…大賀虎雄、お前を確保する!」

 

 

スーツの者が虎雄の拳銃を払い、自力で立ち上がり、格闘技で虎雄の腕を掴み掛かろうとした。

 

 

「なっ…!?」

 

 

「海軍を、薩摩を舐めるな!」

 

だが虎雄は素早く躱し、手刀で腕を叩き、柔道で得意の一本背負い、腹部を強打し、スーツの者を気絶させた。

それを目の当たりにした明乃と姫萌は目を見開いた。

 

 

「虎ちゃん!?」

 

 

「大丈夫じゃ…」

 

 

「虎雄…凄い…」

 

 

「まぁな、わしは柔道と空手を噛っておるなんじゃ…こいつらは…?」

 

 

「わからない…なんでわたし達を…」

 

 

「…わからん…もしかすると、スパイじゃ……」

 

 

「動くな、晴風の生徒ども!!」

 

 

美波が黒服の者を調べると、別の通路から数人の者たちが懐から拳銃を抜き、構えていた。

 

それに対し、虎雄は不安気味な明乃たち晴風の乗組員を守る為に、南部十四年式拳銃を構え、戦闘態勢をとった。

 

 

「うぅ…なんでこんなことに…」

 

 

「…絶体絶命……」

 

 

「(こいつら…なんの為に…)」

 

 

一人の男が拡声器を構えた。

 

 

『晴風の女子生徒に告ぐ、その拳銃を武装する者と、貴殿の飛行機械を我々に引き渡せば、君たちの生命を保証する!』

 

 

「何ですって!?」

 

 

「なんでじゃ…この娘より…」

 

 

だが次の瞬間、指揮した男は背後から頭部を撃たれて絶命した。

 

 

「う!?」

 

 

「なんだなんだ!?」

 

 

「背後から敵襲!!」

 

 

「食らえっ!!」

 

 

黒服の男たちが困惑するところを見計らった虎雄は手榴弾を投げ、爆発した。

 

 

「…やったか…っ!?危ない、伏せろ!」

 

 

爆発した現場から発砲、虎雄は明乃たちに伏せる様に指示する

 

 

「と…虎ちゃん…」

 

 

「艦長たちはここで…わしが確認してくる…」

 

虎雄は明乃たち4人を残し、拳銃を手にし現場へ確認しに行った。

 

手榴弾で爆発した現場は沈黙。

 

 

顔を負傷した一人は生き残り、海に逃亡した。

 

「…うぅ…ひぃっ…」

 

 

「…くそっ…逃げられたか…あいつらが…何のために…?」

 

 

「それは、君と君の水上飛行機を手に入れるためだよ大賀虎雄少尉!」

 

 

「なに!?…あんたは…?」

 

 

虎雄の横に現れたのは、M-1ガーランドを所持し、日本人でありながら、アメリカ海軍の飛行衣服を纏った、トム・K・五十嵐だった。

 

 

「敵か…?日本人がなんでアメリカの格好を…わしを助けたんじゃ…?」

 

 

「おっと、僕は元アメリカ海軍少尉、トム・K・五十嵐だ。沖田新一郎が結成したライジングイーグルの隊員だ…?」

 

「ライジング…イーグル…?…トム…沖田さんが…!?…元帥が言ってたことは…真実か…!?」

 

虎雄は晴風に乗艦する猫の五十六元帥の言葉で聞き出したことを思い出した。

 

すると

 

 

「そこまでよ、大賀少尉!!」

 

 

「さっきの追ってか!」

 

 

「ひっ!?」

 

 

虎雄は虎雄と晴風の生徒の拘束を損ねた、ブルーマーメイドの平賀たちであった。

 

虎雄は拳銃を平賀たちに向けた。

 

 

「やめろ虎雄!」

 

 

「こいつらは、わしらを捕まえにきた敵じゃ!」

 

 

「待って!私達は、味方です!!」

 

 

「なに、味方…?」

 

 

「この人の言う通り、味方だ!」

 

 

「なんじゃと…!?」

 

 

トムの言葉で、虎雄は拳銃を下ろした。

 

 

「晴風の生徒たち、…トム君、無事だったんだね」

 

 

「平賀さん!…こいつらは晴風の生徒の抹殺、大賀虎雄を捕まえに来た海賊です!」

 

 

「えぇ、わかったわ!」

 

 

トムはスーツの者達の元に向かい、虎雄は質問した。

 

 

「こいつらは、お前達の仲間じゃないのか?」

 

 

虎雄は、黒服の者達がある組織が送り込んだスパイなのか平賀に問う。

 

 

「…はっ!?」

 

 

平賀は死体の黒服達を見て、平賀は驚く。

 

 

「顔見知りか?」

 

 

「えぇ…横須賀基地で沖田監督官を拘束したスパイ達です!!」

 

 

黒服達の正体は、上官の沖田新一郎を拘束した海賊だった。

 

「何じゃと!?」

 

 

「恐らく、黒潮と虹川監督官のスパイでしょう!」

 

 

平賀は、黒服の者達が黒潮と虹川の手のスパイだと見抜く。

 

 

「ち、違う…我々は、海賊だ!お前たちの黒潮と無関係だ!」

 

 

虎雄は一人気絶させ、拘束した黒服の者は黒潮の手先ではないと言い張る。

 

 

「黙りなさい!…あなたを殺人未遂及び恐喝罪で逮捕します。連行して!」

 

 

平賀は寒川と志度に、黒服の海賊を連行するよう命じる。

 

 

『はいっ!』

 

 

寒川と志度は、海賊の一人を連行する。

 

 

そこに、晴風の生徒である明乃たち4人が出頭、白い制服を着たブルーマーメイドの平賀倫子たち増援の隊員が駆けつけ、彼女たちを保護した。

平賀がトムと話す光景を見ていた彼は、顔見知りだと発覚した。

 

 

「しかし、あんたは何者じゃ…?」

 

 

「わたしはブルーマーメイドの隊員、平賀倫子です。君のことは、ライジングイーグル…いえ…かつての上官の沖田新一郎海軍大尉から聞いています」

 

 

「…沖田さんが…なぁ、あんた!沖田さんはどうしているんじゃ!?…拘束しているってのはどう言うこと何じゃ、五十嵐…!?」

 

 

「ねぇ、虎ちゃん…沖田って人は…?」

 

 

「ライジングイーグルってなんなの…?」

 

 

小笠原諸島の西之島、横須賀女子学校の航洋艦晴風が教官艦さるしまを攻撃した件にて、編成したばかりのライジングイーグルが海上安全整備局に睨まれ、代表者の沖田新一郎大尉が拘束、逮捕された。

 

ラバウル六勇士の金城幸吉、整備士の秋山敏郎は、アメリカ海軍のPBY-5カタリナに搭乗し、演習目的の西之島で行方不明になった。

 

 

「そんな……幸吉と…トチローさんが行方不明…わしが…教官艦を攻撃したせいで…明乃たち…沖田さんが拘束…畜生…くそったれ…め…」

 

 

虎雄は自身の行動で危険な目に合わせたことに罪悪感を抱き、悔やんだ。

 

すると、トムが虎雄の襟首を掴んだ。

 

 

「大賀虎雄!ここで悔やんでいる事より、今生きてやるべき事をやれ!!」

 

 

「あ…あぁ…」

 

 

虎雄の脳裏には南方の最前線ソロモンで、連合艦隊司令長官、山本五十六大将が戦死、彼の遺言で特殊部隊、ラバウル六勇士を編成、かつての隊長だった厚木十三の訓示を思い出した。

 

 

「さあ、此処では何ですから、取り合えず我々の支部に行きましょう。話は其処で…」

 

 

 

「頼みます、この世界と事態を教えてくれ!」

 

 

 

「まぁ落ち着け。さあ、行きましょう。晴風の皆さん!!」

 

 

「はっ…はい!」

 

 

 

虎雄と明乃たちは事情を説明する為、平賀達と一緒にオーシャンモール四国沖店のブルーマーメイドの支部へと向かう。

 

 

 

横須賀ブルーマーメイド基地 庁舎、真霜の執務室

 

 

最初の電話から数時間が経過した後、再び真霜のところに電話が入る。

 

 

「はい、もしもし…?」

 

 

 

『宗谷監督官!…平賀です!』

 

 

 

電話の相手は平賀からだった。

 

 

 

「どうしたの平賀監察官!?…先程、報告を終えたばかりのなのに…何かあったの?」

 

 

 

『その…ライジングのトム・K・五十嵐隊員と、日本海軍少尉、大賀虎雄と接触しました。』

 

 

 

「…トム君と!?…それで、彼らは今何処に?」

 

 

 

平賀からトムと新一郎の部下、大賀虎雄と無事接触した報告を聞き、真霜は彼らが今何所に居るか問う。

 

 

『今此処に…支部で晴風の生徒達と一緒に状況を説明しているところです。』

 

 

「そう…良かった!!」

 

 

トム達が無事、平賀と一緒にブルーマーメイドの支部に居る事を聞いて、真霜は安心する。

 

 

 

『それと、報告にはまだ続きが…』

 

 

「!?」

 

 

真霜は、平賀からある思わぬ報告を聞く。

 

 

『大賀少尉と晴風の生徒達を保護したとは別に、海賊の残党の一人を拘束しました。』

 

 

「海賊?」

 

 

『詳しくは分かりませんが、おそらく黒潮、虹川監督官のスパイかと…晴風の乗員を人質にとって、大賀少尉に従わなければ乗員を一人ずつ殺すと脅したそうです。』

 

 

平賀は拘束した黒ずくめの男達の事とその男達が明乃達を人質にとって、虎雄を脅した事を真霜に報告する。

 

 

「何ですって!?それで、晴風の乗員は?」

 

 

真霜は明乃達の安否を問う。

 

 

『殺される寸前で、トム君と大賀少尉が彼らを救出しました。』

 

 

 

「そう…良かった…」

 

 

明乃達が無事な事に安心した。

 

 

『それで、これから彼らと共に晴風の元に向かうつもりです。』

 

 

平賀はこれから晴風に向かう事を真霜に告げる。

 

 

「そう…くれぐれもお願いね!」

 

 

『はっ!』

 

 

「あと、追及なことだけどトム君と二式水戦のパイロットの顔をモニターで見せてちょうだい!」

 

 

『はい!』

 

 

真霜は電話の受話器からモニターに映り、画面からトムが写った。

 

 

『真霜さん!』   

 

 

「トム君、よかった…無事で…」

 

 

『真霜さん、色々と心配を掛けてすいません…』

 

「いいのよ……あなたが無事で…」

 

 

「…真霜さん、…ウィル機長の家族、キャサリンさんとエマちゃん、エミリーちゃんは…?」

 

 

「心配しないで、私たちブルーマーメイドは絶対に保護しています。あの…晴風の元にやって来た…パイロットと面会させて」

 

 

『は、はい!』

 

 

真霜との通話中、虎雄と代わった。

 

 

「…モニター越しで失礼します。あなたが新一郎…いえ、沖田新一郎大尉の部下ですね。私は海上安全管理局、ブルーマーメイドの一等保安監督官、宗谷真霜です」

 

 

「はっ!お初に掛かります。私は日本海軍少尉、大賀虎雄です!…失礼ですが、あなたは晴風副長、宗谷ましろのお姉さんですか…?」

 

 

「えぇ、そうよ。そして、新一郎と結婚する約束をしています」

 

 

「は…そうですか…(沖田さん、こんな別嬪さんと結婚するのか~!)」

 

 

虎雄はどことなく納得し、羨ましそうに思いつつ、真霜は笑みからすぐに深刻な顔になった。

 

 

「大賀少尉、あなたの上官は濡れ衣を着せられて、別の組織に拘束されています!」

 

 

「沖田さんが…!……宗谷さん、沖田さんはどこにいるんだ!?今すぐ助けに…」

 

 

「落ち着け少尉!」

 

 

「落ち着いていられるか!離せ、五十嵐!」

 

 

「助けたい気持ちは分かる!だが、お前一人と愛機だけで何が出来る!!」

 

 

「トム君の言う通りよ大賀少尉!」

 

 

「あ……く…その短剣は…!?」

 

 

真霜の一言で虎雄は落ち着いた。そして、彼女は新一郎の海軍短剣の鞘から一枚の書類を取り出した。

 

 

「沖田新一郎大尉があなたに向けた命令書があります。『大賀虎雄少尉。今後、横須賀女子海洋学校所属、航洋艦晴風と行動せよ!』」

 

 

「…沖田さん…くっ…今日会ったばかりのあんたの命令を聞く訳にはいきません!…だが、…沖田さんの婚約者なら尚更です。沖田さんをよろしくお願いします、宗谷監督官!」

 

 

苦虫を噛み潰したように、虎雄は真霜を睨みつつも敬礼をした。

 

 

「えぇ、必ず助けだすわ!」

 

 

 

 

 

 



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第27話 晴風からの乱射

 

 

大賀虎雄は支部での事情説明を終えた後、トムと明乃達(美甘と媛萌、美波は、スキッパー)は、平賀達と共に明石と間宮を連れてブルーマーメイドの哨戒艇で晴風に向かう。

 

 

「…食糧艦間宮…幽霊船かと思った~!」

 

 

「え…?間宮が幽霊船…?」

 

虎雄の言葉で、平賀が頭を傾げた。

 

彼が知るのは、1944年12月20日。南方から本土への航海中の南シナ海で米潜水艦の魚雷を受けて沈没した。

 

シンガポールに所属していた虎雄たち日本軍将兵は嘆き、悲しんだことを呟いた。

 

 

 

18:00

 

 

一方、晴風は、荒れ狂海上の中、買い出しに行った虎雄と明乃達の帰りを待ち続けていた。

 

 

 

晴風、甲板

 

 

 

「うわ、漂流物漁っている場合じゃなくなってきたね!」

 

 

 

「…気持ち悪い~…」

 

 

昼間からずっと漂流物を漁っていた理都子と果代子であったが、荒れてきた海の中で、下を向いて作業をしていた為か船酔いを催した様子だった。

 

 

 

2人の周りには、漁った漂流物が山ほど置かれていた。

 

 

 

晴風、艦橋

 

 

 

「そろそろ艦長と少尉が戻ってくる時間だよね…」

 

 

 

「此処で合流にしたんですけどね…」

 

 

 

買い出しに行った虎雄と明乃達の帰りが遅いのに芽依と幸子は、気になっていた。

 

 

「艦長と大賀少尉はまだか!」

 

 

もう1人、虎雄と明乃達の帰りをまだかまだかと待ち浴びていたましろが艦橋に怒鳴りながら戻って来た。

 

 

 

「ひっ!?」

 

 

 

怒鳴るましろに鈴は、ビックリする。

 

 

 

「まだですね…」

 

 

 

「何、呑気に買い物してるんだ!」

 

 

 

ましろは、余りに帰りが遅い虎雄と明乃達に呆れ果てる。

 

 

「ぬう…」

 

 

「!?…ひっ!」

 

 

ましろは、何かと思い艦橋に赴いた五十六の方を向くと突然、ビックリな顔をする。

 

 

何故なら、五十六がある物を口の咥えていたのだ。

 

それは、昼間、通販会社の箱から逃げたあのマウスだった。

 

五十六はマウスを生け捕りにして、まるで艦橋の皆に自慢するかの様に見せた。

 

 

「…かわ…いい……」

 

 

志摩は、五十六が生け捕りにしたマウスを見て、可愛いとうれしそうに、五十六が床に置いたマウスを手に取る。

 

 

「フギャ…!!」

 

 

すると五十六がまるで俺の獲物を横取りするなと言っているかの様に、マウスを取り替えそうと暴れるが

 

 

「こら、こらぁ」

 

 

芽衣に抑えられて奪い返す事が出来なかった。

 

 

「!?…」

 

 

マウスは自らを手のひらに乗せてくれた志摩の頬に自らの頬を寄せる。

 

 

「人懐っこいですね…」

 

 

幸子はマウスを見て和む。

 

 

「生き物は持ち込み禁止だろ!」

 

 

規律を守るましろは、マウスを持ち込んだ事に腹を立つが

 

 

「飼い主が見つかるまで預かっておきましょうか?」

 

 

幸子が飼い主が見つかるまで、自分が責任を持って、預かると言うが

 

 

「ん…」

 

 

それに対して、ましろは、何も反論できなかった。

 

 

ましろと幸子がマウスの処置について話している頃

 

 

見張り台で見張りをしていたマチコが双眼鏡で水平線に浮かぶ4つの黒い物体を発見する。

 

 

「ん!?…」

 

 

何かと思い、もう一度双眼鏡を覗くと

 

 

「!!…」

 

 

晴風と同じ横須賀女子海洋学校所属の給糧支援教育艦間宮と工作支援教育艦明石、そして護衛の航洋直接教育艦浜風、舞風だった。

 

 

 

晴風、艦橋

 

 

『間宮、明石及び、護衛の航洋艦2隻右60度、200、此方に向かう!!』

 

 

 

「また攻撃されちゃうの…!?」

 

 

また攻撃されるのかと鈴は、泣き叫ぶ。

 

 

「…いやな予感が当たった…」

 

 

ましろは、虎雄と明乃達の帰りが余りに遅かったので、もしかしたら捕まったのではないかと思ったが、それが的中した様だ。

 

 

 

「ど、どうしよう!?…艦長と虎ちゃんがまだ戻って来てないし…」

 

 

 

「ボイラーの火を落としてるから、何れにせよ逃げられない!」

 

 

虎雄と明乃は、まだ戻っておらず、更にボイラーも火を落としている状態なのでエンジンも動かせない。

 

絶体絶命の危機。

 

 

「……」

 

 

不安そうに事のなり行きを見る志摩。

 

 

この時、志摩の手に居たマウスは、先程見せた人懐っこい姿はなく、まるで魔界の使い魔か小悪魔の様な雰囲気を出していた。

 

 

間宮、明石、浜風、舞風は探照灯と照らしながら二手に分かれ、更に美甘と媛萌、美波が乗るスキッパー2艇と、明乃と平賀、虎雄とトムを乗せたブルーマーメイドの哨戒艇が晴風に向かう。

 

 

「あれが晴風か?」

 

 

「そうじゃよ…」

 

 

「あの駆逐艦に、ましろさんが副長を務めている艦艇とは…」

 

 

「うん…?お前、なんでそれを知っているんじゃ…?」

 

 

「一時的にアルバイトと試験合格の祝賀会、そして来賓として入学式を見物した。」

 

 

虎雄とトムが呟いていると晴風は、間宮、明石、浜風、舞風の4隻に完全に囲まれた。

 

 

晴風、甲板

 

 

「囲まれた!!」

 

 

甲板に居た光、美千留、理都子は、不安そうに周囲を見渡す。

 

 

「おぇ…!」

 

 

だが、果代子だけは船酔いでそんな余裕も無く、1人吐いていた。

 

 

晴風、艦橋

 

 

「逃げられないよ…!!」

 

 

完全に包囲され鈴は、泣き叫ぶ。

 

 

「ド間抜け共が何をやってる!…艦長や虎雄は如何した!?」

 

 

その時、ミーナが艦橋に怒鳴り込んできた。

 

 

「まだ戻ってきていません!!」

 

 

「何…!?」

 

 

 

虎雄と明乃が戻っていない事にミーナは、驚愕する。

 

 

見張り台

 

 

「艦長達が戻ってきました…!!」

 

 

マチコが美甘と媛萌、美波が乗るスキッパー2艇を視認する。

 

 

「はっ!?…ブルーマーメイドの哨戒艇もいます!」

 

 

更に虎雄、明乃と平賀、トムを乗せたブルーマーメイドの哨戒艇を確認する。

 

 

「何!?」

 

 

「ブルーマーメイドって…私達を捕まえに来たの!?」

 

 

4隻の艦艇に包囲され、更に後ろからはブルーマーメイドの哨戒艇まで現れた。

 

晴風の艦橋の不安と緊張がピークに達した。

 

 

「カレーなんか食ってる場合じゃねぇ…!!」

 

 

突如、艦橋に怒声が響いた。

 

 

『!?』

 

 

 

何かと思い皆が怒声の方向を向くと其処には、志摩が立っていた。

 

しかし、その状態は、大人しい性格とは違い、まるで野人化した状態になっていた。

 

 

「た、立石さん?」

 

 

幸子は普段の志摩からは考えられない声を出した彼女に困惑する。

 

 

「何だ、カレーって!?」

 

 

ミーナも今日の夕飯のメニューでもないカレーの事を口走った志摩に困惑する。

 

 

「そ、それより、逃げないと…」

 

 

鈴は何とかしてこの場から逃げようと呟く

 

 

「何言ってんだ!!逃げてたまるか!!攻撃だ…!!」

 

 

志摩は正気を失って、攻撃だと言い張る。その態度は余りにも普段の志摩らしからぬ態度であった。

 

 

「おっ!…撃つか!?…撃つのか!?」

 

 

そんな志摩の態度に疑問を感じつつ砲を撃てるかもしれないと芽衣は少し期待した目をする。

 

 

「止めろ、戦闘禁止だ!」

 

 

ましろは、絶対に攻撃するなと言うが

 

 

「黙れ!!」

 

 

完全に正気を失っている志摩は、全く聞く耳を持たなかった。

 

 

『っ!?』

 

 

「タマちゃん如何しちゃったの急に…」

 

 

志摩の異常に鈴は、泣き叫ぶ。

 

 

「『もう逃げるのは嫌!』『そうよね、逃げちゃ駄目!私、戦う!』」

 

 

 

幸子がまた一人芝居を始める。

 

 

「良いから、止めろ!!」

 

 

完全に正気を失っている志摩をましろと芽衣が取り押さえる

 

 

「離せぇ…」

 

 

「大人しくしろ…!」

 

 

2人に抑えられ志摩は、暴れ出す。

 

 

『うわっ!?』

 

 

志摩の物凄い力に、ましろと芽衣は、壁に叩き付けられる。

 

 

「うっ!?…お、落ち着け!」

 

 

 

ミーナは、志摩に落ち付けと述べる

 

 

「!!!!!!」

 

 

2人を振り払った志摩は、全く聞かず、猿の姿勢を取りながら艦橋を飛び出す。

 

 

そんな志摩をミーナは急いで追いかける。

 

 

晴風、甲板

 

 

艦橋を出た志摩は、まるで猿の様にデッキから魚雷発射官から更に飛び移って行く。

 

 

『あっ…』

 

 

甲板で様子を伺っていた光、美千留、理都子、果代子は、飛び移る志摩を見て、何かと思い志摩が飛び移る方向を見る。

 

 

やがて、志摩は、25ミリ機関銃が設置された銃座にたどり着く。

 

 

志摩は、何の躊躇いもなく25ミリ機銃の照準を明石へと向ける。

 

 

「本当に撃つ気だ!」

 

 

芽衣は、てっきり志摩が冗談で言っているのかと思ったが、どうやら志摩は、本気の様だ。

 

 

 

「明石…間宮…おめーらにやられるタマじゃねぇんだこっちは!!」

 

 

 

ドォン ドォン ドォン

 

 

 

志摩は、25ミリ機銃を四方八方に乱射する。

 

 

機銃の乱射にデッキに居たましろと芽衣、幸子、鈴は、床に伏せる。

 

 

更にそれを見た光、美千留、理都子、果代子は、怯える。

 

 

 

ブルーマーメイド哨戒艇

 

 

 

「な、何じゃ!?」

 

 

「晴風から発砲!」

 

 

「発砲!?大賀さん、これは如何いう事ですか?」

 

 

「分からない!!誰じゃ、発砲したのは!?」

 

 

「タマちゃん!?」

 

 

「えっ!?」

 

 

突然の発砲に虎雄と平賀、トム達は困惑し、更に発砲したのが志摩だと聞いて、虎雄は驚く。

 

 

 

晴風、デッキ

 

 

 

「ああ、撃っちゃたね!」

 

 

「何て事をしたんだ!…」

 

 

志摩が撃った事で、ましろの中にこれで本当に自分達は反逆者になってしまったと言う絶望感が沸き上がる。

 

 

晴風、甲板

 

 

やがて、機銃弾全弾を討ち尽くした志摩は別の25ミリ機銃へと移動しようとした時

 

 

 

「このドアホウの…ドマヌケがぁ…」

 

 

追いついてきたミーナが志摩を掴むと思いっきり投げ飛ばす。

 

しかし、志摩が落ちたところは、冷たい夜の海だった。

 

 

「しまった!?」

 

 

志摩を海へと投げ込んだ後、ミーナは止める為とは言え、冷たい夜の海に人を投げ込んでしまった事の重大さに気づく。

 

 

『タマちゃーん!!…立石さーん!!…大丈夫!?…』

 

 

甲板からは、光、美千留、理都子、果代子が海に投げ飛ばされた志摩の安否を心配する。

 

 

「くそっ、今助けるぞ!!」  ドボーン

 

 

「虎雄!!」

 

 

「虎ちゃん!!」

 

 

「大賀少尉!!」

 

 

すると虎雄は海に落ちた志摩を助けに飛び込み、彼女を救助した。

 

 

「…ぷはぁ~…はぁ…はぁ……うまく着地しろよ、タマ…!」

 

 

そして、虎雄は志摩を晴風の甲板へ投げ飛ばし、戻ってきた。

 

 

「うっ!!…??」

 

 

志摩は、何事もなく甲板に着地した。

 

 

「戻って来た!!」

 

 

晴風の甲板へと戻ってきた志摩に4人は、驚く。

 

 

やがて投げ飛ばしたミーナやデッキに居た4人が志摩の元にかけつける。

 

 

「大丈夫?」

 

 

「タマちゃん」

 

 

晴風の甲板へと戻ってきた志摩に幸子と鈴が声を掛ける。

 

 

「よくぞ、ド無事で!」

 

 

更にミーナも志摩に泣きながら抱き付く。

 

 

「それを言うなら、ご無事だって‥‥」

 

 

芽衣は、冷静にミーナの間違った日本語にツッコミを入れる。

 

 

「!?…あら?…あなたそんな所にいたの?」

 

 

幸子は志摩のスカートのポケットに入っていたマウスに気づく。

 

 

マウスは、一時的に海水に浸かったせいかぐったりとしていた。

 

 

「タマちゃん大丈夫…?」

 

 

明乃が志摩に怪我がないかを尋ねる。

 

 

「うぃ!」

 

 

「あれ、いつもの調子に戻ってる?」

 

 

志摩は、先程の様子と違い何時もの無口な状態に戻っていた。

 

そして、トムは海に飛び込んだ虎雄にロープを投げ、救助した。 

 

 

「…全く、この冷たい海で無茶するな…」

 

 

「…冷てぇ~助かった…トム~!」

 

 

「少尉、毛布です」

 

 

「あぁ…ありがとう…平賀さん…」

 

 

トムと平賀は、海水の冷たさでガタガタ震える虎雄に毛布を被せた。

 

 

「聞いて!…補給艦の皆は、助けに来てくれたんだよ…!!」

 

 

「え!?」

 

 

ましろは、明石のマストを向くと、マストには、救助に来たという信号用の旗が掲げられていた。

 

 

ブルーマーメイド哨戒艇

 

 

「如何やら、終わった見たいだな…」

 

 

「ん」

 

 

 

ようやく難が終わり、虎雄とトムは、ホッと安堵する

 

 

「それにしても、今のは、何だったんだ?…なぁ虎雄、お前の生徒は頭が可笑しくなってるのか?」

 

 

トムは、さっきの志摩の行動を見て、晴風の生徒は、頭が可笑しくなってるのかと問う。

 

 

「そんな訳無ぇよ!彼女はたちは、皆穏やかな性格じゃ!」

 

 

トムに対して、虎雄は、晴風の女学生は、穏やかだと述べる

 

 

「でも、あれは…」

 

 

虎雄が穏やかだと言ってもトムは疑問に感じた。

 

哨戒艇は、晴風の左舷に接岸、タラップが降ろされる。

 

 

「それじゃ平賀さん、わしと艦長が先に皆に状況を説明しに上がりますので、それまで待ていて下さい。」

 

 

「分かりました。」

 

 

まず虎雄と明乃が上がり、晴風の生徒に状況を説明する事にした。

 

 

2人は、タラップを上がって、ましろ達が居る1番魚雷発射管へと向かう。

 

 

「シロちゃん!」

 

 

「か、艦長、大賀少尉!?」

 

 

買い出しから出かけて半日、ようやく明乃と虎雄は、ましろと再会した。

 

 

「シロちゃんや皆、怪我ない?」

 

 

「…はい…今のところは…」

 

 

「良かった…」

 

 

さっきの発砲で晴風の生徒に怪我が無い事に明乃は、安心した。

 

 

そして、ミーナに投げ飛ばされた志摩も無事だが、

 

 

「タマ!」

 

 

虎雄は、そのままミーナと一緒に居る志摩の元に赴く。

 

 

「うぃ…」

 

 

虎雄を見て志摩は、さっきの事で怒られるのかと思い困惑する。

 

 

「虎雄!…こ、これは…」

 

 

ミーナが志摩を庇おうと代わりに釈明する。

 

 

「うぃ…虎くん…!?」

 

 

「良かった!…怪我は無い見たいじゃな!」

 

 

虎雄は、志摩に対して、怒るどころか、志摩の事を心配してくれた。

 

 

「う~ぃ」

 

 

そんな虎雄に志摩は、笑顔を露にする。

 

それを見たましろ達は、安心して、2人を見る。

 

そして、後ろからトムが心配になって、虎雄の後を追いかけてきた。

 

 

「(何だ心配で追いかけてきたんだが、その必要も無かった様だ)」

 

 

トムは、2人を見て、心配は不要だと思った。

 

 

晴風、居住室

 

 

居住室で虎雄とトムは、平賀の前で真雪からの親書を開けて読む。

 

真雪からの親書からも海上安全整備局が勝手に晴風撃沈命令を下した事

 

そして、真雪と真霜が晴風撃沈命令を撤回する事に対し奔走している事

 

真霜が沖田新一郎達の解放に対し奔走している事

 

学校側からも今回の事件の原因究明の調査を行っている事

 

命の危険にさらしてしまった事に関しての謝罪が記されていた。

 

 

「…」

 

 

「ん…確か平賀さんの言う通り、この親書からも宗谷監督官と平賀さんたちブルーマーメイドが我々の味方だと言う事が証明できます。」

 

 

親書を見て、トムは、平賀と真霜達が味方だと確認した。

 

 

「分かって頂ければ恐縮です…それに先程、意識不明だった古庄教官の意識が戻ったと言う知らせがありました。」

 

 

「古庄教官が!?良かった!!」

 

 

古庄の意識が回復した事を知らされ、トムは、喜ぶ。

 

 

何故なら、これで虎雄と新一郎達が無実だと証明出来るからだ。

 

 

「ついては、補給と整備が済み次第、晴風と二式水上戦闘機は、事情聴衆の為、横須賀に帰還して貰います。」

 

 

事情聴衆の為、晴風は、補給と整備が済み次第、虎雄と共に横須賀に帰還する事を告げる。

 

 

「承知した。」

 

 

「了解した。」

 

 

平賀の帰還に虎雄とトムは、承諾する。

 

 

「では、私は、晴風の艦長のところへ参りますので大賀少尉、トム君?」

 

 

 

平賀は、明乃の元に向かおうとに声を掛けた時

 

 

「あっ、平賀さん!?」

 

 

トムは、ある事を平賀に問う。

 

 

「何ですかトム君?」

 

 

「その…武蔵とカタリナは…如何なりましたか?」

 

 

トムは、武蔵の事を聞く。

 

 

「えっ?武蔵じゃと…?」

 

 

虎雄は武蔵と聞いて驚いた。

去年のフィリピン海戦で、主力艦隊がレイテ島への航海で護衛任務を担ったが、航海中にアメリカ軍機の空襲で被害を受け、撃沈した。

 

 

「武蔵とカタリナは、現在ビーコンを切っていて…行方不明なんです。」

 

 

「行方不明!?…それで捜索は、如何なっていますか?」

 

 

行方不明の言葉を聞いて、トムは、驚愕し、捜索は、如何なっているのか問う。

 

 

「今、真冬姐さん達が捜索を行っています。」

 

 

現在、真冬の捜索部隊や応援として、東舞鶴男子海洋学校から教員艦隊が出動し、武蔵以下の不明艦を捜索中

 

 

「真冬さんが僕も捜索に…」

 

 

トムも武蔵とカタリナの捜索に参加しようと願い出る。

 

 

「それには、及びません…東舞校も捜索に参加しているので、二人は、補給が済み次第、横須賀に戻ってください。」

 

 

しかし、その必要はなく、平賀は、再度横須賀に帰還する様告げる。

 

 

「でも」

 

 

トムは、捜索に加わりたいと主張を枉げなかった。

 

 

「今晴風と沖田さんは、処分命令が解けていない状態なんです…いつ処分されても可笑しくありません!!」

 

 

まだ、晴風と新一郎は、危険な状態から脱してはいない。

 

そんな状況で武蔵の捜索など自殺行為だ。 

 

 

「…分かりました…速やかに横須賀に戻ります。」

 

 

平賀の言葉を聞いて、最早反論する事は出来ず。

 

 

結局、平賀に従い横須賀に帰投を承諾する。

 

 

「では、参りましょう!」

 

 

「はい」

 

 

「(大丈夫なのか!?…本心じゃ偉く落ち込んでいるが…)」

 

 

虎雄は、トムが本心じゃ捜索に参加できないから偉く落ち込んでいると察したが、虎雄は、何も言えなかった。

 

 平賀は、虎雄とトムを連れて、明乃の元に向かう。

 

 

4月14日

 

 

6:00

 

 

晴風、甲板

 

 

甲板に出た明乃とましろは、虎雄とトム、平賀と合流

 

 

「此方は、私と同僚で、海上安全整備局、安全監督室情報調査隊の平賀二等監察官!!」

 

 

トムは、さっきの落ち込みを2人に見せず、平賀を明乃とましろに紹介した。

 

 

「誠に申し訳ありませんでした!!しかし、トムさんが…大賀少尉と同類の人種とは…」

 

 

ましろは、志摩が発砲した件について平賀に謝罪、そして、トムがアメリカ海軍の飛行服が虎雄の飛行服と酷似していることに驚いていた。

 

 

「あ、あの…姉さん…いや、宗谷真霜がいる部署の方ですか?」

 

 

「ええ、私は、宗谷一等監督官の命令で貴方々に接触したんです。」

 

 

平賀は、ましろに真霜の命令で接触する様に説明する。

 

 

「シロちゃんのお姉さんって、ブルーマーメイドだったんだ!?」

 

 

明乃は、ましろの姉真霜がブルーマーメイドだった事に驚く。

 

 

「海上安全整備局は、さるしまの報告を鵜呑みに晴風が反乱したという情報を流しています…ですが、我々、安全監督室の見解は、異なっています!!」

 

 

「えっ!?」

 

 

「先程、飛行機パイロットの大賀虎雄少尉や艦長の岬さんからも聞きましたが、晴風は自衛の為にやむを得ず交戦したのですね?」

 

 

平賀は、ましろに真霜達が晴風がさるしまを攻撃したのは、自衛の為にやった事だと見解していると言う。

 

平賀が説明している途中、間宮の艦長藤田優衣と明石の艦長杉本珊瑚がタラップを渡り、晴風の甲板に降り立つ。

 

 

「はい、その通りです!!」

 

 

平賀の説明にましろは、その通りですと答える。

 

 

「今回、攻撃した生徒は?」

 

 

平賀は、志摩をどうしたのかと問う。

 

 

「取り合えず拘束しています。」

 

 

明乃は、倉庫に監禁している事を平賀に言う。

 

 

「そぅ…」

 

 

「すみません、普段は大人しくて、あんな攻撃する子じゃないんだけど…」

 

 

明乃は、志摩の性格からあり得ないと平賀に説明する。

 

 

「また戦闘になると思って気が動転したのかもしれないわね」

 

 

平賀もこれまでの経緯から志摩も疑心暗鬼になっていたのだろうと思い志摩に対して、厳罰を下す様な事はしなかった。

 

 

 

晴風、倉庫

 

 

その当の志摩本人は、芽衣と一緒に倉庫でトイレットペーパーを段ボール箱に詰めていた。

 

 

「しばらく拘束されるのは仕方ないよね…まぁ、私も付き合うからさ!」

 

 

「うん…」

 

 

志摩は、今だに自分のせいで大勢の人に迷惑をかけたと深く落ち込んだままな様子

 

 

「いや…良い撃ちっぷりだったよタマ!…引っ込み思案な砲術長だな~って思っていたけど、見直した!」

 

 

落ち込んでいる志摩に芽衣は、元気づけようと励ましの言葉を掛ける。

 

 

「…でも…何であんな事したのか……?」

 

 

志摩は、発砲した事は、覚えていたが、何故、自分があんなマネをしたのかは、全く分からなかったのだ。

 

 

「心に、撃て撃て魂があるんだよ!」

 

 

「うぃ?」

 

 

安定のトリガーハッピーな西崎の発言に首をかしげる志摩。

 

 

そんな時、2人が居る倉庫のドアがノックされ

 

 

『差し入れで~す』

 

 

杵﨑姉妹が監禁されている2人の為に差し入れを持ってきたのだ。

 

 

「立石さんがカレー食べたがっているって聞いたから…」

 

 

杵﨑姉妹が持ってきた差し入れは、志摩が好きなカレーだった。

 

 

「…あ…とう…」

 

 

「ありがとうって言っている。」

 

 

杵﨑姉妹の粋な計らいに志摩は、感謝を言いきれず代わりに芽衣が言った。

 

 

晴風、甲板

 

 

「ホントに教官艦が攻撃してきたの?」

 

 

珊瑚は、明乃にさるしまが攻撃した事を確認をするかの様に問う。

 

 

「うん」

 

 

「我々は、演習が終わった後に合流する予定だったから状況がよく分からなかったの…」

 

 

優衣は、演習終了後に合流する予定だったので、詳しい事は、分からないと明乃に伝える。

 

 

「あの、じゃあ如何して、私達に補給を?」

 

 

「校長先生の指示で…」

 

 

「お母さ…校長の?」

 

 

「真雪さんが?」

 

 

晴風の補給を指示したが真雪だと知って、驚く。

 

 

「我々も宗谷校長に依頼を受けたの…海上安全整備局の見解と違って、校長は晴風がさるしまや潜水艦を攻撃したとは思えない…と主張しているわ。」

 

 

平賀はましろに先程、トムと虎雄に手渡した親書と同じ内容をましろに説明した。

 

 

「さるしまの艦長、古庄教官の意識がやっと戻ったみたいだから、これで何が起こったのかが解明できると思う…」

 

 

『‥‥』

 

 

明乃、ましろにして見ても、あの時、何故古庄がいきなり実弾を使用して発砲してきたのか?

 

何故、先制攻撃をしてきたにも関わらず、古庄は虚偽の報告をしたのか?

 

2人はその事実を知りたかった。

 

 

「後程、発砲した生徒には、聴取を行います…それでは、後は頼んだわね、2人共?」

 

 

『はい!』

 

 

平賀は、補給と補修の指揮を珊瑚と優衣に任せ、志摩の聴取の準備の為、トムと共に一度哨戒艇へと戻って行った。

 

 

「ありがとう」

 

 

「!?…何故、私に?」

 

 

「だってシロちゃんのお母さんが私達を信じてくれたから、疑いが晴れたんだもん!」

 

 

「…うちの母は自分の信念を貫く人だから…」

 

 

ましろは、明乃に礼を言われ、拗ねる。

 

 

「それでこそブルマーだよね!」

 

 

「ブルマー?」

 

 

明乃の発した言葉に驚くましろ。

 

 

「うん、皆ブルーマーメイドの事、こう呼んでいるよ!」

 

 

「ブルーマーメイドを略すな!!」

 

 

ブルーマーメイドを略す事に反対するが

 

 

「んっ!?」

 

 

突然、ましろの目の前に

 

 

「んっ!?え、ええ??」

 

 

ポールの上で寝転がる五十六と配下みたいに側で寝転ぶ二匹の猫がいた。

 

 

「うぁ…」

 

 

「な、何故、猫が増えてる!?」

 

 

猫が増えているのにましろは、驚く。

 

 

「あ、うちと明石の猫よ!」

 

 

「あっ、そうなんだ!」

 

 

「補給艦はネズミが発生しやすいので飼っているの…」

 

 

どうやら猫2匹は、間宮と明石でネズミ対策として、飼われている猫。

 

 

優衣と珊瑚がそう話していると2匹の猫は、突然、寝転ぶのを止めて、如何いう訳かましろの元に行き始めた。

 

 

「来るな…来るな…来るな…」

 

 

二匹の猫は、恐る恐るましろに近づいてくる。

 

 

それを見たましろは、段々困惑して来て

 

 

次の瞬間

 

 

「来るな……!!!」

 

 

ましろは、悲鳴を出しながら逃げていった。

 

 

2匹の猫もその後を追う。

 

 

「シロちゃんって、猫に好かれて良いな~!」

 

 

明乃は呑気にそんな事を言っていた。

 

 

横須賀女子海洋学校、校長室

 

 

一方、横須賀女子海洋学校では、真霜が晴風を無事に保護した事を真雪に報告していた。

 

 

『艦長、乗員共可笑しな様子はありませんでした。』

 

 

「そう…ありがとう」

 

 

『海上安全整備局にも報告を上げたけど…まだ、晴風に危険分子がまだ乗船してるいのではないかと疑っているわ…学校に戻る前に全員拘束するべきではないかとの意見もあるの…これ以上晴風に何かあると、私だけじゃなくお母さんの立場も危うくなるわ!』

 

 

「私の心配はしなくて良いわ…でも…何か異常事態が発生している…貴方はその解明を急いで…それと、新一郎さんの解放もね!」

 

真霜は、自分の立場が危うくなっても真霜に今回の事件を引き起こした発端を調べるよう要請した。

 

そして、イーグルと新一郎を救う事にもなる。

 

 『分かっているわ!…ついては、私に考えがあるの!』

 

 

「考え?」

 

 

『私に任せてほしいの!』

 

 

真霜は、平賀が逮捕した刺客を使って、ある作戦を実行に移そうとしていた。

 

 

晴風、医務室

 

 

「結局、飼い主が見つからなくて、此処で預かって置いて貰えますかね?」

 

 

幸子が美波に例のマウスの面倒を美波に頼んでいた。

 

「無問題(モーマンタイ)」

 

 

美波はこのハムスターの様な生物の面倒を見ると言う。

 

 

「…但し、ハムスター…には非ず‥‥」

 

 

美波は飼育箱に入っているマウスをジッと見て、この生物はハムスターではないと断言する。

 

 

「じゃあ何ですかね?」

 

 

「調べてみる。」

 

 

美波はこの生物が一体何なのかを調べる事にした。

 

しかし、美波は、気づかなかった。

 

このマウスこそが今回の事件を引き起こした発端と言う事を

 

 

 

 



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