こんな後日談には外星人も苦笑い (政影)
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天の原 ふりさけ見れば

 微かな月明かりを頼りに廃墟となった工場を上へ上へと進んでいく。

 激闘の影響で崩落の危険がある為立ち入り禁止だったが構うことはない。

 崩れたらそれまで、それよりもこの先の光景が見たい。

 

 歪んだ扉をこじ開け屋上へ。

 

 見上げた空には──赤い月──ベーターシステムとか巨大質量消滅の影響とか色々言われているけど私にはどうでもいい。

 

 ただ血のように染まった月を眺めていると凍り付いたはずの感情が昂っていく気がする。

 それはとても気持ちの良いもので思わず口元が緩んでしまう……変なの。

 

 

「?」

 

 

 突然夜空に現れたのは流れ星が三つ……いや、それにしては動きがおかしい。

 互いに衝突しつつも最初の軌道を維持するかのように転進、まるで意思を持っているように。

 それを目で追っているとそれがだんだん大きく、あっ、直撃コースだ。

 

 視界の全てが光に覆われた時、何故か夕飯の買い置きが無かったことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

「……変な夢」

 

 目を開ければ見慣れた天井、どうやら眠っていたようだ。

 枕元の両親と愛犬が写った写真の横の時計は既に朝の六時を示している。

 学校は休校だけどとりあえず体を起こして──

 

 

「おはようございます」

 

「おはようございますわ」

 

「グッモーニン♪」

 

 

 ベッドの横には何故か三人の女性が正座していた。

 一人は私そっくりな顔立ち、黒髪ショートにブレザーの制服の少女。

 一人は黒髪ロングに黒セーラー服というシックな出で立ちの少女。

 一人は金髪に強めのメイク、気崩したワイシャツの制服ギャル。

 

「ドッキリ? 不法侵入?」

 

「いいえ、あなたを不慮の事故で死なせてしまった者達です」

 

 ……どうしよう、言っている意味が分からない。

 それに自分と同じ顔・同じ声で平坦に話されるのもかなり異様だ。

 

「わたくしが話しますわ。外星人って知っているかしら?」

 

「人類を太陽系ごと消滅させようとした宇宙人達のこと?」

 

「まぁ……一括りにされるのは気に入りませんけどそんな感じです。わたくし達三人がまさにそれ。ここまではよろしくて?」

 

「話が進まないのでとりあえずは」

 

「賢い娘は好きでしてよ。それで光の星が人類の抹殺を撤回したからそれぞれの目的の為これ幸いと足を運びましたの。ちなみにわたくしはメフィラスの星から」

 

「わたしは光の星です」

 

「アタシはザラブの星よ」

 

 なんとまあ外星人勢揃いということで。

 見た目とは裏腹にセキュリティには自信のある我が家、発言内容が真実である可能性はそこそこ。

 このご時世、一介の女子高生に手の込んだドッキリを仕掛ける意味もないか。

 

「そして着陸の時に失敗して貴女を……その……」

 

「いやー、大気圏突入のタイミングで三人ぶつかったけど廃墟に不時着で一安心かと思ったら現地人がいるとかどんだけアンラッキーよ(笑)」

 

「黙りなさい」

 

「無神経です」

 

「……ゴメン」

 

 外星人同士でもヒエラルキーはあるみたい、一応良識も。

 まあどうでもいいけど。

 

「結果的に貴女の命を奪ってしまい申し訳ありません」

 

 光の星から来たウルトラマン子さん(仮)が土下座、私の姿で。

 何だか私が謝罪しているみたい。

 他の二人も土下座まではいかないまでも頭を下げた。

 

「……では今の私は?」

 

「三分の一ずつ命を出し合って蘇らせました」

 

 昔見たロボットの合体シーンとケーキバイキングが思い浮かんだ。

 生き返らせてくれて感謝すべき?

 いやでもそもそもの原因はこの三人だし。

 

 ……深く考えても仕方ないか。

 

 

 その後命の定着やら惑星間条約やらとかで最低でも一年は一緒に生活することを告げられた。

 今では私以外誰もいない一軒家なので部屋は余ってるからいいけど。

 

 

 あと地球上での名前が欲しいというから適当に付けた。

 ザラブはシスタ。

 メフィストはフェレス。

 マン子さん(仮)はヒメ。

 ……偽名感溢れてる。

 ゲームでもデフォルト名のまま始めるタイプだし。

 

 

 まあ私も北斗南なんて北だか南だか分からない名前だから我慢してよ?

 

 

 

 

〇シスタとの日々

 

 

 

「南っち遊びに行こっ♪」

 

「……声が大きい」

 

 終礼が終わると同時に教室に飛び込んできたのは、私の学校に転校してきた三外星人の一人でザラブ星から来たシスタ。

 確か彼女の同族は人類同士を争わせて絶滅させようとしたけど失敗してウルトラマンに真っ二つにされたような。

 わざわざウルトラマンに化けなくても核保有国の首都を潰せば勝手に核戦争で滅ぶのに。

 歩みを進め周りに人がいなくなったのを見計らって聞いてみる。

 

「次はどんな方法で人類を滅ぼすの?」

 

「ちょ、ちょっと物騒なこと言わないでよ!? アタシはただ観光に来ただけだって!」

 

「ふーん」

 

 命の授受で私の記憶は三人に見られたけど逆はゼロ。

 私の脳が情報量に耐えられなくて破裂するからとか。

 まあ人類抹殺はともかく太陽系消滅は絶対に止めてほしいけど。

 犬に危害を加える奴らは外星人だろうと神様だろうと許さない。

 

 

 

「ウホッ、見てよこの同人誌、すごくエッチじゃん!」

 

「ザラブって拘束プレイ好きすぎる」

 

「えーっ、だってドS眼鏡が抵抗できずに頬を上気させて「あ、もういいから」」

 

 次々に買い物かごへエロ漫画を投入していくシスタ。

 私は監視という名目で同行を強いられている。

 ちゃんと私服に着替えたので十八禁ゾーンでも問題ない。

 

「別種族のエロ漫画なんて面白いの?」

 

「人類だって異種姦好きとかケモナーだっているじゃん♪」

 

「……まあ確かに」

 

「こんなに楽しい文化を生み出す人類を滅ぼすなんて間違ってるよ!」

 

 力説するシスタ。

 謎の説得力がある、気がする。

 もしこの考え方がザラブの主流派だったら……人類殲滅じゃなくて人類性奴隷化が推し進められるような。

 どちらがマシかな?

 

「いや、流石に二次元と三次元の区別はつけるからね?」

 

「お好きにどうぞ」

 

「冷めてるね~、こうなったらとっておきの一冊を!」

 

 冷めてる、か。

 ラブだかブラザーだか知らないけどわざわざ他所の星まで来る熱心な外星人は凄いと思うよ。

 

 

 

 

〇フェレスとの日々

 

 

 

「──ふぅ、『メンカタカラメヤサイダブルニンニクアブラマシマシ』からの『完飲』、わたくしの好きな言葉でしてよ」

 

「馴染み過ぎでしょ」

 

 フェレスが拉麺と言っていいのか分からないギガ盛の食べ物をスープまで飲み干す間に私は普通の拉麺を食べ終えた。

 外星人の胃袋恐るべし。

 

「さぁ、ロットを乱す前に出ましょう」

 

 食事内容はともかく振る舞いは淑女。

 三人の中で唯一金融資産を持っているだけに手強い相手だ。

 

「前任者の置き土産ですから有効利用しませんと」

 

「じゃあコンビニでアイス奢って」

 

「ええ、わたくしもそんな気分ですわ」

 

 

 夜の公園、辺りに人影は無い。

 二つに折るタイプの棒状アイスの片方を貰い口に入れる。

 マンゴー味美味しい。

 

「で、置き土産に禍威獣はあるの?」

 

「……ノーコメントですわ。貴女の親族の命を前任者が禍威獣で奪ったことに関しては何度でも謝罪いたしますが」

 

「別にいらない。フェレスがやったわけじゃないし」

 

 これは本心。

 仮に私以外の人類が他の星に超兵器を打ち込んでも謝ろうとは思わないから。

 多分報復されても感情は動かないだろう。

 

「そう……」

 

 訪れる沈黙、夜の公園でアイスを咀嚼する音だけが微かに響く。

 

 ふと見上げれば白い月、異常は解消されたようだ。

 赤くない月、それでも感情の昂りを感じる。

 兎が居たら切り裂きたい位に。

 

「愉しそうですね」

 

「何でだろうね」

 

「貴女の記憶の中に関連するエピソードはありませんでしたのに」

 

「IQ一万でも分からないんだ」

 

「IQ一万でも分かりませんわ」

 

 視界の端に映る柔らかな笑顔、心からなのか作り物なのか私には分からない。

 ゆっくりと体を蝕んでいく甘美な毒のような侵略者。

 人類を巨大化させて光の星に攻め込むような博打はしないだろうけど。

 もっと狡猾に、もっとスマートに、もっと邪悪に。

 

「はい、もう一本いかがですか?」

 

「ありがとう」

 

 お次はグレープ味、「甘い囁き」に続いて「酔いと狂気」か。

 感情の昂りを紛らわすのに思考の海に沈んでいくのも悪くない──

 

「もうっ、こんな美少女が横にいて何もしないのは宇宙的大罪ですわよ!」

 

「いや女同士で何をしろと?」

 

「『異種和姦』わたくしの好きな言葉です!」

 

「興味ない」

 

 

 帰宅したら虫刺されが酷いと二人に心配された。

 

 メフィストフェレスはやっぱり悪魔だった。

 

 

 

 

〇ヒメとの日々

 

 

 

 夕食の時間になり一階に降りていく、焦げ臭さに悪い予感しかしないが。

 

「ちょっとヒメっち火力上げ過ぎだって!」

 

「動物の死体は中まで火を通さないと危険です」

 

「消炭になったら人類は食べられませんわ!」

 

 今日も賑やかなことで。

 料理当番を三人の外星人が受け持つようになってから一週間、無事に済んだ例がない。

 本当はカップ麺が良いのに三人に反対されている以上成り行きを見守るしかないが。

 

「あっ、南っち丁度良い! ヒメっちが食材塗れだからお風呂で洗ってあげて!」

 

 ……料理の苦手な私でもそんなことにはならないのにどうして?

 捨てられた子犬の様な表情の自分は見たくなかった。

 

 

「ほら、目を瞑って」

 

「はい」

 

 風呂イスに座らせたヒメの頭をよく泡立てたシャンプーでわしゃわしゃ。

 そしてトリートメントにリンスと続けていく。

 まぁこいつらの身体組織は頑丈だから浴室洗剤でも大丈夫な気はするけど……。

 そもそも自分の星だと機械で瞬間洗浄なので入浴の習慣が無いからって、何故私が自分の何十倍も生きてる外星人の体を洗わないといけないのか。

 

 次はボディスポンジにボディソープを滲み込ませて泡立てたのちヒメの体を──

 

「あんっ!」

 

「私の声で変な声出さないで」

 

「しかしくすぐったいので、んっ!」

 

 ウルトラマンの弱点、痛みには強いけどくすぐりには弱い。

 いや、くすぐってるつもりはないけど。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「何息切れしてるの。まあ私も疲れたけど」

 

 普段の無表情からは想像の付かない上気したヒメの顔、口の端からは涎が垂れている。

 

 ……こんな顔できるんだ。

 

 その感想はブーメランだと直ぐに気付いて微妙な気持ちになった。

 

 

 

 結局夕飯はご飯とインスタントの味噌汁だけだった。

 

 

 

「南さん、今日も良いですか?」

 

「入って」

 

「失礼します」

 

 夜遅くヒメが私の部屋を訪ねてきた。

 目的はパソコン、というかインターネットでの情報収集。

 対象はリピアという名のウルトラマンと同化していた禍特対の神永新二さんについて。

 どうやらヒメはリピアさんの後輩だったもののそれ以上の感情を持っていたようで……。

 

「でも完全に分離したんでしょ?」

 

「……はい、先輩は神永さんに命を与え死にました」

 

 椅子に座りパソコンを操作しつつも微かに震える肩。

 このウルトラマンが不器用なのは料理だけじゃないらしい。

 まあ仮の姿としてコピーした私の影響だと言われたら謝るしかないけど。

 

「神永さんに惚れた?」

 

「しっ、質問の意図が不明です!」

 

 明らかに動揺する彼女の犬耳フードを外し細い首に手を這わす。

 三星人の命を与えられ常人より全てが強化された私なら──なんて暗い妄想を楽しむ。

 だけど彼女は大事な……カード。

 数札なのか絵札なのかジョーカーなのかは分からないけど。

 

「今度ネロンガの出現地点、リピアさんと神永さんが出会った場所に行ってみる?」

 

「よいのですか? 是非お願いします!」

 

 私の人生の最大の失敗は間違いなくあの時あの場所へ愛犬と共に出掛けたことだろう。

 最後に残った私の家族、まさか飛来した巨石に潰されるなんてね。

 でも、そろそろ花を手向けに行こうかな。

 

 

「今日も一緒に寝る」

 

「…………はい」

 

 

 ヒメイワダレソウ、別名リピアは重点対策外来種にリストアップされたり雑草抑制として育てられたりと二つの顔を持つ花。

 

 

 

 

 

 

 ああ、今日も月が奇麗だね。

 

 そのうちもっと綺麗にしてあげるから。




<嘘予告>

地球に忍び寄る新たな脅威!

「イヤーッ! 宇宙一の忍者は拙者でござるよ、ニンニン!」

「あ、すみません前に回ってもらえますか? よく間違われますので」

「やーだー、お酒買って買って!」

果たして南は誰とウルトラ☆ッチをするのか!?


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