不運・悪運 Lv MAX! (プリズ魔X)
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Lv1 これは果たして不運なのか?

諸君、君達は……って、これじゃ意味が被ってしまうな。まぁとにかく、転生ってご存知かな?アレだ。生き物助けるためにトラックに轢かれて神様登場!ってやつだ。まぁかく言う俺もその1人……なんだが、転生する時に特典ガチャなるものがあるのだ……あってしまうのだ!

 

え?なんでこんな言い方なのかって?

転生特典ガチャには所謂ハズレがあるのだ。存在してしまっているのだ!──神様曰く、バランス調整の為に入れざるを得ないそうだ──……大抵ハズレを引いた転生者は即落ち二コマなり、ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムするなりして2週目に突入するんだが、俺は複数引いた結果、不運Lv MAXを引いてしまった。簡単に言えば、ありとあらゆる厄災が俺だけに降り注ぐ。

 

これだけならまだいい。他で挽回出来るかもしれないし、最悪死んで2週目に入ればいいって思っていた時期が私にもありました……

 

そう、ハズレ2連発である。厳密にはハズレでは無いのだが、不運Lv MAXとの組み合わせの都合上大ハズレなんてレベルじゃない。

その特典は悪運Lv MAX。簡単に説明すると、たとえ全身複雑骨折しようが、胴体の上と下がお別れしようが生き延びて復活!……という感じだ。

 

つまり……不運Lv MAXで大怪我→悪運Lv MAXで生存&復活→また不運Lv MAXで大怪我……を繰り返すのだ。しかも体は無駄に適応しようと頑丈になるもんだから不運の内容もエスカレートする。そのうちちょっとした隕石が俺の頭上にピンポイントに落ちてくるんじゃねぇの?

 

神様なんて、俺のあまりの引きの悪さに同情して上司に再度ガチャを回せるか聞いたそうだが、決まったものはしょうがないで上司が俺を強制的に転生させた。その上司もすっげぇ苦々しい顔で送ってたから中間管理職だったんだろうな……

 

そして俺は今、不運Lv MAXが発動している。具体的に言うと、女尊男卑団体にリンチされている。最近は殴られすぎてもう痛みすら感じなくなったのがせめてもの救いか。

まぁそもそも痛くはないし怪我もしないが……時間の無駄なんだよなぁ……

 

おっと、そういえば転生先の世界を言っていなかったな。……勘のいい奴ならもう分かってるだろうが、ここはインフィニット・ストラトスの世界だ。つまり、男として生まれた俺はもう酷い扱い確定。この時点で不運Lv MAX発動してんじゃねぇか!

どうせなら性転換で女の子になって漢ノ娘する方がマシだよ……

 

「はぁ……」

 

「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……何よこいつ……これだけやったっていうのになんでこんなピンピンしてんのよ!?」

 

「生意気ね……そうだわ、目を焼きましょう。そうすればこの生意気なガキも苦悶の表情を浮かべる筈だわ!」

 

あぁ……まだ目は慣れてないんだよなぁ……

 

そんな事を思っていると、ヒーローは案外早く来た。良かった、悪運Lv MAXが発動してくれたみたいだ。

 

「貴様ら、そこで何をしている!」

 

現れたのは黒い長髪を1本結びにした、クールビューティという言葉がふさわしい女性であった。あぁ……男じゃねぇのかよ!男なら矛先が変わってリンチされる間に確実に逃げれるっていうのに!女だと最悪今いる集団に加勢されるから嫌なんだ!

 

「……織斑千冬!? なんでここに!」

 

「不味い!逃げましょ!」

 

「逃がすものか!」

 

織斑 千冬と呼ばれた女性は一瞬で俺をリンチしていた集団を気絶させて俺に駆け寄る。

 

「大丈夫か!?」

 

「よっ……とと……こりゃ何本か折れたな……あぁ、気にしないでください。慣れてるんで」

 

「!!…………」

 

俺を見るなり千冬さん? は非常に苦々しい顔になり、すまないと何度も言ってきた。何でこんなに心配してくれてるんだ?たかが骨が数本折れただけでしょうに……

 

「! ………名前は?」

 

「……そういえば無かったなぁ……よし、布幸(ふゆき)でいいや。どうしたんですか?」

 

「いいか? 私の養子になれ!」

 

「……へ?」



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Lv2 災難は止まらない

「おじゃましま……うわぁ……」

 

千冬さんにほぼ強引に島と思わしき場所の建物に連れられた俺は、目の前に広がる惨状を見て、やはり不運Lv MAXが発動しているのを確信した。

 

「…その、なんだ。すまない……」

 

(……不幸体質って他人にも影響を及ぼすものだったのか……?)

 

そう、見渡す限り缶ビール、缶ビール、時々ゴミ袋。そして無造作に投げ捨てられた衣服の数々。

 

なんでこの人こんなにズボラなんだよ……もしかしてこれ、俺は掃除用具と親しくなったりする感じ?

 

「……掃除しましょっか」

 

「いや、私がやる……」

 

 

 

ブリュンヒルデ掃除中............

 

 

 

「えぇ……」

 

「本当に申し訳ない……」

 

何故かさらに悪化していた。いや、なんで?

 

「……とりあえず指示するので、それに従ってください」

 

「頼む……」

 

 

 

 

 

 

 

 

1時間後、とりあえず最低限生活できるだけのスペースは確保出来た。

 

そういえば織斑ってどこかで聞いた事あるような…… なんだっけ? 主人公の名字だったかな?やべぇ。女尊男卑の世の中だって事のインパクトが強かったのと友達に少し話を聞いた程度だから判断材料が足りなさ過ぎる……ん?電話がかかってきたな。

 

「ん? すまない、少し失礼する」

 

ガチャリと受話器を取って千冬さんは電話の相手と話す。

 

「はい、織斑です。……はい。……はい!?」

 

何やら面倒事の予感が……

 

「……布幸。男子のIS適正の一斉検査をする事が決まった。私の弟がISを起動させてしまったんだ。……先程から迷惑をかけてばかりだな」

 

「いえ、こうやって保護してもらえるだけでも十分ですから。この不幸体質はどう足掻いてもダメですし……」

 

「……そうか。とにかく、無理はするなよ?」

 

 

 

 

 

 

IS適正の検査だが、どうやらここはIS学園という、文字通りISについて教える為の学園だったのだ。千冬さんはそのIS学園の教員の1人らしい。

早速千冬さんが量産型ISの”ラファール・リヴァイブ”を俺がいる第1アリーナに持ち運んで来た。

 

「さあ、触れてみろ。触れて展開されれば適正があり、展開されなければ適正はなしだ」

 

「まぁ、俺は男なんで適正は……ん?」

 

「……おめでとう、か? ますますお前を養子にする理由が出来たな……」

 

俺はいつの間にかラファールを纏っていた。……ただ、一つだけ異常な点がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故かラファールが動かなくなった(故障)

 

「……おかしいな。メンテナンスは万全な物を選んだのだが……」

 

千冬さんが故障したラファールを見つめてどこが故障したのかを見ると、いきなり目を見開いた。もしかして……

 

「……レッドゾーン間近だぞ!? 今すぐ降りるんだ!」

 

「え、え、え…………ません」

 

「何をやっている! 早くラファールを外すんだ!」

 

千冬さんが外せと言っているが、それは無理な相談だ。なぜなら……

 

「千冬さん……これ外せません! 逃げてください!」

 

「!」

 

ドゴォォォォォォン!!

 

 

「ぐうぅぅぅぅぅ!!」

 

千冬はラファール・リヴァイブの爆発の衝撃に耐えきれず吹き飛ばされてしまう。

如何に千冬が世界最強の称号を手にしていたとしても、結局は人間。殆どの武装を外して尚、火薬庫に等しいラファール・リヴァイブの自爆による爆風の中立ち続けるなど不可能なのだ。

 

「布幸……! 布幸…!」

 

千冬が覆いかぶさってきたラファール・リヴァイブの残骸を吹き飛ばしながら駆け寄り、爆煙が晴れた先には火傷だらけの布幸が倒れていた。

 

「い……つ、つ……とりあえず……保健室に……」

 

全身にできた火傷の痛みに体が悲鳴をあげてしまい、そこで布幸の意識は途絶えてしまう。

 

「あぁ……生きてて良かったぞ……! すぐに保健室に運ぶからな!」

 

 

 

 

 

 

 

「織斑先生〜そろそろ終わりましたか……? ……って、どうしたんですか!? っ!ぴゃあ!」

 

千冬が布幸を背負って運ぼうとした時、副担任の山田 真耶が出てきた。千冬は鬼気迫る表情で真耶に話しかける。

 

「山田先生はすぐさま医師を呼んでくれ! 私はこいつを保健室に運ぶ!」

 

「わ、分かりました!」

 

 

 

その後、なんとか布幸は一命を取り留めたのだった……



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Lv3 インパクト抜群?

保健室、IS学園のかかりつけ医達が驚愕に包まれていた。

 

「これは……なんという体なんだ!」

 

「体の頑丈さだけなら織斑先生に匹敵するかそれ以上なのでは?」

 

「……骨が数本折れているのにそこに火傷が重なって尚生きているなんて……!」

 

「失礼します。……布幸は大丈夫なんですか?」

 

「えぇ、命に別状はありませんし、後遺症も残る事は無いでしょう。……この際はっきりと言います。この子の体は間違いなく織斑先生に匹敵かそれ以上の頑丈さを持っています。……そして恐ろしい事に、未だに頑丈さは上がり続けているのです。……織斑先生の所で保護するのをおすすめします」

 

「いや、元よりそのつもりだった。これから手続きをするので失礼する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

「……以上です!」

 

スパァァァン!

 

「……自己紹介もまともに出来んのか貴様は!」

 

「げぇ! 諸葛亮! 「スパァン!」いだぁ!?」

 

「私は軍師ポジションではない! それと、ここでは織斑先生と呼ぶように」

 

私は愚弟に制裁を食らわす。良くも悪くも一夏は変わっていないな……

 

「はぁ、全く……毎年毎年よくもまあここまで集まるものだ。それとも私のクラスだけ馬鹿者を集中させているのか?」

 

毎年恒例の歓声の中には「叱って罵って!!」だの、「お姉様のためになら死ねます!!」など、16歳の女子高生の発言としてはいささか不味い物まで混じっている。これが毎年なのだからため息のひとつも出てしまう。……早く布幸を呼ぶか。

 

「さて、諸事情により遅れて来た者がいる。これから自己紹介をさせるから、騒がないように」

 

そう言って私はドアを布幸の代わりに開ける

 

「え……?」

 

「……なんで怪我してるんだろ……?」

 

「……私、見てらんない!」

 

「っ! いいえ、セシリア・オルコット!ここで目を逸らしてはいけませんわ!」

 

「……初日からなんの騒ぎに巻き込まれたんだろう」

 

「何度見ても痛々しいです……」

 

 

布幸は松葉杖にギプス、身体中に包帯を巻いて出てきた。これで殆ど痛みは感じていないのだから驚く。

 

 

 

 

「あー、織斑 布幸だ。織斑先生の養子としてここに来た。一応IS適正はある。不幸体質でこんなになってますが、よろしくお願いします。……以上です!」

 

ま、こんなもんだろ……インパクト抜群、そして必要最低限の説明。以上です!と言う感じの終わり方でもここまで差が出るとはね。とりあえず松葉杖が邪魔だなぁ……

 

 

「「「「……養子ィィィ!?」」」」

 

「ち、千冬姉! 養子とったなんて聞いてないぜ!?……ひっ!」

 

「……ここでは織斑先生だ。織斑、養子をとったと言っても、昨日正式になったばかりだ。連絡が遅れたのは詫びよう」

 

「わ、分かりました……」

 

ありゃりゃ……あいつが千冬さんの弟か。厳しいというか、期待の裏返しというか……

 

「山田先生、号令を」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

SHRを終えて次の授業の準備をしていると、前の席にいる一夏の方から話しかけてきた。フランクだねぇ……

 

「なぁ、今いいか?」

 

「織斑 一夏か。構わない……なんで養子になったのか気になるんだろ?」

 

「あぁ。千冬姉が養子とるなんて思ってもいなかったからさ」

 

「まぁ……色々あってな。……他に何か聞きたいことはあるか?」

 

「……なんでそんな大怪我してるんだ?」

 

「ISの自爆にやられた。……以上です!」

 

瞬間、クラスの空気が変わった。いや、たかがISの爆発じゃ人(外)は死なねぇよ。悪運Lv MAXなめんな。

 

「……その、なんだ。……災難だったな」

 

「まぁ俺は不運も強いが悪運も強いんだ。死ななきゃ安い。……たぶん」

 

そういえば胴体の上と下がお別れした時はうさぎ耳付けた人が縫って治してくれたなぁ……今頃どうしてんだろ?

 

「……そろそろ前向いておいた方がいいぞ? そうしないと織斑先生の制裁が一夏の頭を空振りして俺に飛んでくるからな……」

 

「いやまさか……ない……よな?」

 

残念ながらあるんだなこれが。最初の頃は流れ弾で何度死にかけたか……

 

 



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Lv4 量産型は最早爆弾

翌日、1時間目の授業の真っただ中、前日始業式後のHR同様一人の男子生徒がだらだら汗をかいていた。その正体は織斑 一夏である。

 

「ぜ…全部分かりません……」

 

「ぜ、全部ですか!?」

 

ただし今回迫っているプレッシャーの正体は、黒板の横で仁王立ちしている千冬さんからのものであるようだ。

これは手厳しいねぇ……俺?この怪我だ。基本的にギプスのせいでノートなんてまともに取れないし、出来る事といったら分厚い参考書をプルプル震えながらページを捲って眺め、黒板に書かれた事を見るだけだ。つまり、割と暇。

 

「ええと……今の段階で全く分からないという人は他にいますか?」

 

戸惑いながらも何とか教師としての責務を果たそうとする山田先生だったが、誰も手を上げない状況を自分で作り出してしまい結局涙目になってしまっている。俺が言うのもなんだが、この人大丈夫かなぁ……?

 

「織斑…入学証と一緒に同封された案内書は読んだか?必読と書いてあったはずだが」

 

「あ、あの電話帳みたいなやつですか?間違えて古本と一緒にすてまし ダッ!?」

 

一夏の真上から鉄拳制裁を食らわした千冬さんはとても面倒そうにため息をついた。本当に御苦労さまです。

 

「仕方ない。新しいものを発行してやるから、一週間で覚えてこい」

 

「一週間!?いや、さすがにあの電話帳サイズで一週間は……」

 

「あ゛?」

 

「やります!!」

 

抵抗むなしくさっさと言いくるめられた一夏。……おい、なんでこっちを見るんだ!

 

「……あの、布幸は大丈夫なんですか?」

 

「問題ない。1日もすればあの怪我は治るらしいから遅れはしてもすぐに追いつける程度のものだ」

 

……事実だから言い返せねぇ。まぁ今はギリギリ付いていてけるから大丈夫か……

 

 

 

放課後、俺と一夏は千冬さんに呼び出された。一体なんの要件なんだ?

 

「一夏、布幸。お前達の部屋の鍵だ」

 

「……あっ」

 

「? なんで布幸の鍵と形が違うんだ?」

 

「そうだな。一夏にも説明しといた方がいいだろう。……俺はギネス世界記録に認定されかねないほど超不幸体質なんだ。簡単に例えると、近くのありとあらゆる厄災が俺だけに降り注ぐ。バナナの皮が近くにあれば、それを避けようとしても必ず踏んで滑ってしまうし、大怪我は日常茶飯事。今回のIS爆発もまぁ……いつもの事さ」

 

こうして見ると俺ってまともな生活送れないよな。ガス引けない。水道は多分やべぇ異物がホイホイ混じってくる。電気は感電の元だから基本的に電池式のものしか使えない……うん。現代人として生活できないわ俺。

 

「そこでだ。布幸にはログハウスで暮らしてもらう。と言っても、広さはそれなりに確保するし、かなり頑丈に組み上げるがな。勿論耐火性も高くする予定だ」

 

千冬さん……本当の最適解は何も建てないことなんです……実は野宿が最適解なんです……

 

「それとだ。2人には専用機を与えられる事になった」

 

「専用機って?」

 

「……世界に一つだけしか無いISだと思えばいい」

 

「理解しました!」

 

千冬さんのあまりにもざっくりした説明で理解した一夏の近くで俺はこの先の災難の元に不安そうになってしまう。

……どうせ俺らの専用機って整備性最悪なんだろ?そんで、俺の専用機がなんかしらのトラブルを起こしてドカン!なんだろうなぁ……

 

「……そんな顔をするな布幸。お前のISには武装を一切載せない。よって爆発の心配は薄い。安心しろ」

 

「いや、ISがそう何度も爆発するわけ……ないよな?」

 

「……束に作らせるように言うから大丈夫だ(多分……)」

 

「束さんに作ってもらうのか!? すげーじゃん布幸!」

 

「……とりあえず全身装甲でガチガチの防御特化にしてください。死なないようにしてくれればそれでいいです」

 

「……全身装甲で防御特化か。通るかは分からないができるだけ要望は通させる」

 

千冬さんはそう言ってゴミ屋……自室の方へ歩いていった。

 

 

「……なぁ一夏」

 

「なんだ?」

 

「……千冬さんって、私生活ズボラ?」

 

「……もしかしてアレを見たのか?」

 

俺の話を聞いた一夏はまさかと顔を青ざめさせる。

 

「もっと恐ろしい事が起きたよ……」

 

「まさか……掃除悪化現象か!」

 

あれって毎回やってるの?……すげぇ一夏が苦労してるように見える……どこか抜けてるとこがあるとこといい、それ以外は素晴らしいとこといい、姉弟ってこうも似るもんなんだな……

 

「……そうなんだよ」

 

「なんか……千冬姉が迷惑かけてごめんな?」

 

「いや、いいんだ。こうやって過ごせるだけでも幸せだからな……」

 

「なんか布幸が言うとすげぇありがたみが……!」

 

「……なぁ、一夏。今度時間があったら……」

 

「……千冬姉の部屋、掃除するか」

 

「「……はぁ」」

 

俺と一夏は揃ってため息をついて別れるのだった……

 

 

 

翌日、ギプスも松葉杖も包帯もしていない布幸の顔が1組でお披露目されて、意外とイケメンだったので歓声が巻き起こり、布幸は己のマイナス転生特典を恨んだのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もしもし? ちーちゃん、何か用?』

 

「……養子にとった布幸の専用機を作ってほしい」

 

『んーと、布幸、布幸………… ねぇ、もしかしてその布幸って子、しょっちゅう大怪我してない?』

 

「よく分かったな。会ったことがあるのか?」

 

『うん。その時は上半身と下半身が別れてたけどね。しかもテキトーに縫いつけただけで復活したんだから驚きだよ! それで印象に残ってたんだよね〜 ……で、その布幸からの要望とかあるの?』

 

「あぁ、大前提として武器は絶対に搭載するな。搭載したら誘爆して悲惨な結果になる。あと、とにかく防御特化の頑丈な全身装甲にして欲しいとの事だ。他に要望はないらしい」

 

『? まぁいいや。……よし、大方設計は決まったよ!』

 

「そうか。切るぞ」

 

『え、もう少しちーちゃんと話した』ブツッ! ツー、ツー、ツー……

 

「……束は一体どんなISを作るのだ?」




さて、布幸君の専用機ですが、ヒントは亀です。


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Lv5 決闘とトトゥガ()

「うぐぅ……ISの基礎だけでこんなにもあるなんてぇ……」

 

またまた翌日、一夏がぐったりとしながらIS理論の基礎を頭に叩き込んでいた。ゾンビみたいになって……

 

「……応用は知識として覚えるだけなら楽だな。知識として覚えるだけならな……」

 

「これに加えて実技もあるんだろ……? 俺達、前途多難だな……」

 

「ははっ、俺は不運的な意味でな……はぁ……」

 

え?ため息ついてたら不幸になるだろって?こちとら元から不幸じゃ!でもなぁ!やらなくてもなにか変わるわけじゃないからやるしかないんだよ!「ちょっとよろしくて?」……ん?

 

縦ロールに整えた長い金髪とブルーの瞳が特徴的な女の子が話しかけてきた。どうしよう、すげぇ逃げたい。すげぇ嫌な予感するんだけど。これ厄災降り注ぐパターンだよね?

 

 

「まぁ! なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

不運Lvマァァァァッックス!! お前なぁ!! 事ある毎に面倒事に巻き込むんじゃない!ただでさえ朝不穏な連絡が千冬さんから来たってのによォ!

でもなめんじゃねぇぞ!こちとらボコボコにされる経験は豊富だからな!だからなんだって話だけど!

 

「……すまない、色々大変だったんでね。君の事を知らないんだ」

 

「……まぁあの怪我ですものね。すぐに治ったのはこの際考えないことにしますが……私を知らないのは不味いですわね! 私の名はセシリア・オルコット! イギリスの国家代表候補生と言えば私が如何に素晴らしいか分かるはずですわ!」

 

「……布幸」

 

「なんだ?」

 

おい、もしかして……勘弁してくれ〜!

 

 

「代表候補生ってなんだ?」

 

ガタタタタタッ!

 

わお、聞き耳立ててた子達が一斉にズッコケたよ。君達組体操できるんじゃない?

 

「あ、ああ、あ、貴方本気でおっしゃってますの!?」

 

「おう、知らん。布幸、分かるか?」

 

「いや、まだ教えてないから分からないのも無理は無いな。いいか? 代表候補生ってのはな……ざっくり言えばオリンピックのアスリートの卵。つまりエリートなんだ。……分かったか?」

 

「あ、その例えすっげぇ分かりやすい!」

 

 

「そう、エリートなのですわ! 本来ならわたくしのような選ばれた存在とは、クラスを同じくする事だけでも奇跡…! そしてなんたる幸運! その素晴らしさをもう少し理解していただけるかしら?」

 

「おう、そりゃ光栄だな」

 

「はぁ……貴方、馬鹿にしていますの……?」

 

「まぁ俺達はISとは無縁の生活を送ってたからな。俺に至っては初めて乗ったISが……うん」

 

「何をどうしたらメンテナンスを直前にしたISが爆散するのですか……」

 

不幸ゥ……ですかねぇ……ラファール爆散事件で思い出したが、俺の専用機大丈夫かなぁ……?

……しないよね?爆発。

 

 

「ふん。まぁでも? わたくしは優秀ですし、優しいですから。泣いて頼まれたらISの事でも教えて差し上げてもよくってよ。な に せ! 入試で唯一教官を倒したエリート中のエリィィィトですから!」

 

俺もラファール爆散事件さえ無ければ試験出来てたんだろうなぁ……まぁそしたら相手は世界最強だっただろうけど。

 

「入試って、あれか? ISを動かして戦ったアレ?」

 

俺はISが爆散したから戦えなかったけどな!

 

「それ以外に入試などありませんわ」

 

俺は最早怪我を最低限治すのが入試みたいなもんだったけどな……あれ、目からトマトジュースが……

 

「あれ? 俺も倒したぞ、教官」

 

「は……?」

 

「……と言っても、相手が勝手に突っ込んで自滅……布幸!?」

 

「は…え?……えぇ!?」

 

「ドヴジダ、ブダリドモ……?」

 

「布幸! 血涙!血涙出てるって!」

 

「……もう訳が分かりませんわーーー!!」

 

その後チャイムが鳴って、オルコットがティッシュを渡してくれた。これ、なんか鼻血拭ったみたいだな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えー、授業に入る前に、再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけなくてな」

 

千冬さんの言葉に教室が俄かにざわめく。俺? さっきからトマトジュース(比喩)が止まんねぇからそれどころじゃねぇんだわ。

 

「他校でいうクラスの委員長みたいなモノではある。それだと何となくイメージがつくんじゃないか? ちなみに1度決まると1年間変更はないと思え」

 

あれか。学級委員長みたいなもんか。

ただ、クラス対抗戦ってのがよく分からん。多分、このざわつきもそれが気になっての事だろうな。あ、トマトジュース止まった。

 

「クラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。簡単に言えば、各クラスの代表者同士がそれぞれ模擬戦を行う、といったモノだ」

 

うーん、俺が出たら(自爆的な意味で)公開処刑ですね分かります。

 

 

「自薦・他薦は問わない、誰かいないか?」

 

千冬さんが皆に問いかける。

さて、誰が推薦されるかな、まぁ俺以外だってのは予想できるけど。

 

「はいっ! 織斑くんを推薦します!」

 

「へ!?」

 

「私もそれがいいと思います!」

 

「私も織斑くんを推薦します!」

 

「ちょおっ!?」

 

「では候補者は織斑一夏、と。他にはいないか?」

 

「ま、待ってくれ! 別に俺じゃなくても……あっ…! ……いや、なんでもないです!」

 

いや、今君、俺を売ろうとしたよね?……ね?(威圧)

 

「ひっ! 布幸! まだ血涙が拭ききれてないからそんな風に見るなぁ! ホラーだよそれ!」

 

スポォォン!!

 

千冬さんの出席簿がさくれ……ん?スポォォン?

 

ボゴォッ!!

 

「ふごっ!?」

 

「大丈夫か布幸! 済まない!」

 

「大丈夫ですよ。鼻栓は間に合いました」

 

俺はグッドサインを出して問題ないと伝える。危ない危ない。オルコットからティッシュ貰ってなかったら掃除する羽目に……あ

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「布幸君が!布幸君が発狂した!」

 

「この人でなし!」

 

「あっ……」

 

一夏ァ!なんでそういう所だけ察しがいいんだよ!ありがと!後で一緒に千冬さんのゴミ屋敷ビフォーアフターしような!……おい、嫌な顔すんなよ。それを察して千冬さんが(´・ω・`)な顔してるぞ!

 

「み、見て!千冬様の(´・ω・`)よ!」パシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャパシャ!

 

「……没収だ」

 

 

 

 

 

その後、なんやかんやあってオルコットと一夏が言い合いになって決闘する事に。俺?専用機を実際に見るまで絶対に出るもんかコノヤロー!

 

そういえば今日専用機が届くんだよな……今放課後なのにまだ届かないなんて遅いなぁ……

 

そう思いながら俺はログハウス───初代フラグ君ハウスと名付けた───のドアを開ける。

 

「あぁ〜どうしよ……ん?」

 

「お帰りなさい♡ご飯にします? お風呂にします? それとも……わ・た・し?」

 

不運Lv MAX! また面倒事だよ! よし、千冬さんに通報しようそうしよう。そしたらこんな裸エプロン女もイチコロだ!「もしもし千冬さん?」

 

「待って待って待って! これでも私結構学園内では偉いんだから!」

 

「どれだけ偉くても人として信用できないですね……やっぱり千冬さんに公然わいせつ罪容疑で通報しましょう」

 

こんな裸エプロンしてる人が学園で偉いなんて信用できないね!なんかやめてやめて言ってるけど……いいや限界だ!押すね。今だ!……ん?

 

キュピーン!!俺の謎の経験からしてこの後俺の不運LvMAXのとばっちりでこの人は大怪我する!

 

「危なァァァァい!」

 

「あらやだ強引♡」

 

俺は妖怪裸エプロンを腹から突き飛ばして射線から逃がす。直後、先端にドリルのついたニンジンが屋根を突き破って落ちてきた。

 

「……はぁ、不運Lvマァァァァッックス!!」

 

「時たま情緒不安定になる……と」

 

なんかメモしてるんだけど。もしかしてそっち(ヤンデレ)系?

 

「……はぁ」

 

「なーにまたため息ついてるのよ。こんな美人なお姉さんがいるんだから……」

 

ん? 俺はため息ついてなかったけど?

 

「はぁ……更識、布仏姉の所へ行くぞ」

 

「! 織斑先生! そこだけは! そこだけは勘弁を!」

 

「あ゛?」

 

「分かりました……」

 

「あぁ、それと……もう1人説教する相手がいるな」

 

説教……あ、この殺人ドリル人参送ってきた人だろうな……多分知り合いなんだろう。

 

「布幸、今のうちに中のISを外で展開してみろ。あいつは頭のネジは10本ほど消滅しているが、ISで妥協はしない奴だ」

 

「はい!……あ、これが開け口か」

 

俺がハッチを開けると、中から紺色の亀のようなISが出てきた。

 

トトゥガというらしい。……ん?紺色、亀みたい、トトゥガ……死の旋風隊のバーンズさんの機体じゃねぇか!

 

 




と、言う訳で布幸君の専用機は機動戦士ガンダムクロスボーンからトトゥガでした!
皆は予想、当たっていましたか?


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Lv6 ほんの僅かな希望?

夜のアリーナに入る許可を貰い、しっかりIS所属も設定してもらって、俺はトトゥガを展開する。

すると、クロスボーンガンダムに出てくるトトゥガよりふた周りほど小さいシルエットのISが展開された。

 

「武装は……無しか。拡張領域にも変な物は無し。多重構造による高速硬化ガスも非搭載。トトゥガの代名詞のビームシールドが無いのが違和感あるな……」

 

実際、本来ハンマーハンドになっている部分は普通のマニュピレーターになっているし、背中にはトゲトゲことビーム砲兼ビームシールド発生器が1本も生えていないツルツルの甲羅になっている。

 

「次は軽く動いてみるか。……というかこれ、歩けるのか?」

 

俺がトトゥガを纏ったままで歩くようにイメージすると、イメージが悪かったのか、そもそもそういう設計なのか、可愛いペンギンのようにヨチヨチと歩けた。果たしてトトゥガがヨチヨチ歩いても可愛いのか…?

 

そんな事を考えていると、千冬さんがアリーナに入ってきた。

 

「ふむ、それが布幸の専用機か。……見たところ誘爆するような武装は無いな」

 

「まだ初期化と最適化が終えていないのでこれからどうなるかは分からないんですけどね……」

 

そう、ISには初期化と最適化が存在しており、これを終えた一次移行で姿が変わる。当然の如く武装が変わったりするからやべーもんが突然搭載されたりする。ホントにいったい何を仕込んでるのか分からないから怖ぇんだわ。

 

「データを見た限り、とりあえず初期化は終えたようだし布幸には明日からアリーナで最適化を終えてもらう」

 

一夏がなんか言いそうだけど大丈夫か……? あいつISまだ持ってないし、訓練機もいっぱいで取れなかったって聞くし……

 

「分かりました。……問題は一次移行ですね」

 

「……そうだな。一次移行は大きく姿を変えてしまう。……む、適正が出たぞ。Dだ」

 

「……ウマ娘で言えばどれぐらいですか?」

 

「む……ウマ娘はやっていないから分からないが、パワプロで例えるならスキル無しでのオールFとオールEの中間だな」

 

「じゃあやる事は最低限できる…って感じですか」

 

「そうだ。実際歩いてみせただろう?」

 

「……でも、なんか飛べないんですよね。さっきからイメージしてるんですが、地面から3mm浮いたりもしない……」

 

「……そればかりは鍛錬あるのみとしか言えんな。だが、6月頃に行われる学年別トーナメントまでには仕上げた方がいいぞ?あれは全員参加するからな」

 

「うげ、そんなんあるんですか。……そん時に爆散しないといいですね……」

 

「本当だな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、アリーナで私は自分の調整をしようとアリーナに入ると、見慣れない紺色の亀のようなISがヨチヨチと歩いていました。警報が鳴らないという事はIS学園の新しいISか、誰かの専用機なのでしょう。それにしても、今どき全身装甲なんて珍しいですわね?

 

「もし? そこの方、今から射撃訓練をするのでここは危険ですわ。別の所で訓練はした方がいいかと」

 

「ん? あぁ、オルコットか。俺だ、中にいるのは布幸だ。今は専用機の最適化をしてる途中」

 

誰かと思ったら布幸さんですか。全身装甲の理由は……まぁケガを減らすとかその辺でしょう。

 

「あぁ、布幸さんは織斑さんより一足先に専用機を貰ったのですね? 見た所全身装甲のようですが……」

 

「そりゃ、とにかく硬さを求めて作ってもらったからな。名前はトトゥガ。スペイン語で亀を意味するらしい」

 

「亀……ですか。見た目は亀にも見えますが、歩き方はどちらかというとペンギンのようですわ……」

 

「まだ飛べないからな……IS適正、Dなんだよ。飛べない亀はただのリクガメさ」

 

「いや、亀はそもそも空を……いえ、確かチェルシーが空飛ぶ亀がいると言っていたような……?」

 

確か、見た目の割にとても軽いと聞きましたわ。飛ぶ時は回転するとも……

 

「……なぁ、オルコット。ちょっとトトゥガに軽く1発撃ってみてくれないか?」

 

「……ですが、シールドバリアーが張られていませんわよ?」

 

「あぁ、シールドバリアーをON/OFFできるようになってるんだ。全身装甲の意味が無くなるからね」

 

「……いえ、如何にそのトトゥガが全身装甲と言えども、私の専用機の火器では装甲を突き破ってしまう可能性がありますわ。そんな危険な目には遭わせられませんわよ?」

 

「むぅ……ん? 最適化終了か!」

 

「トトゥガは一次移行でどの様になるのでしょうか…… !!」

 

最適化が終わり、一次移行に移った瞬間、トトゥガの周囲にビームの膜のようなものが形成されて眩い光がトトゥガを包む。

 

「……!?」

 

セシリアが目を開けると、トトゥガがいた所には巨大な影があった。

 

「……ん?オルコット、縮んだか?」

 

「……いえ、貴方のISが大きくなったんですわ」

 

「デカっ!?」

 

俺がトトゥガを見ると、マニュピレーターがハンマーハンドに変わり、背中の甲羅にビーム砲兼ビームシールド発生器が生えていた。そして視点が高い。

 

「なぁ、何mあるか分かるか?」

 

「5m以上はあるかと……。本体だけでここまでの大きさになるISは見た事がありませんわ……」

 

「……あ、飛べた」

 

5mはあり、羽もないトトゥガの巨体で飛ぶとかいうシュールな絵面が完成だ。

 

その後、オルコットの射撃をビームシールドで食らってみたが、エネルギーも殆ど減らずにかき消してオルコットを唖然とさせた。



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Lv7 ボディガード(物理)

「……はぁ〜…………なんで家がこんな目に……」

 

 俺は殺人ドリル人参に破壊された屋根を(自力で)治した『初代フラグ君ハウス・リペアード』の中でオルコットと一夏の試合をモニターで見ながら愚痴る。ちなみにモニターのエネルギー源は外に置いてあるトトゥガからだ。あれ自体がデカい電池になってるからな。

 

「あ、一次移行した。こりゃどうなるか……?」

 

 一夏の奴、なんで初期化も最適化も無しで代表候補生とまともに試合できるんだよ……これが才能の差か……あ、一夏負けた。

 

 ふむふむ……零落白夜という能力で、シールドバリアーを切り裂く……ん?これ、食らったらトトゥガのビームシールド無意味じゃないか?あの人参送り付けた奴、束とか言ったかな……後でビームシールド無意味かどうか千冬さん経由で聞いてみようかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、1組では山田先生による朝のショートホームルームが行われているところだ。

 

「では、1年1組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」

 

 一か……あれ、俺には-に見えるんだが……気の所為か?

そういえば一と-とーってどういう分類の仕方するんだ?

 

「では、クラス代表は織斑一夏で異存はないな」

 

「「「異議なし!」」」

 

あ……考え事している内に終わっちゃった……

 

「あぁ、それと布幸は遂にIS適正が判明し、適正はD判定された。その為、今日行われる実技では他の生徒と同様に見学だ」

 

「……まぁ今のIS技術で出来る事は限られていますし、異存はありません」

 

飛べると言っても精々10mが限界なんだよな。トトゥガの巨体で飛べるイメージがとりづらいのもあるが、やはり適正による補正がヤバいのだろう。

 

「うむ。報告もこれで終わったし、早速授業を始めるぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

「これよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう」

 

 

 IS学園では、勿論座学だけでなくISの実習授業も組み込まれている。昼休みも終わった5限目。今日がその記念すべき一発目の授業だ。

 

 既に整列は済ませ、俺達の前には千冬さんと山田先生が立っている。

俺も含めて全員がISスーツを着用している。ちなみに俺のISスーツは千冬さんのつてでドイツが作ってくれたそうだ。やはりこういう時は頼りになるね千冬さんは。

 え?部屋はどうなのかって? 一夏曰く、千冬さんの部屋はゴミ屋敷Lvが日によって変動するらしく、最近は特に大きなトラブルもないためか安定期に突入したらしい。

 

 

「織斑、オルコット。まずはISを展開しろ」

 

 

 専用機持ちは基本的に、自分のISをアクセサリーの形状で体に待機させているんだとか。オルコットは左耳のイヤーカフス。一夏は右腕のガントレットといった具合だ。

 ちなみに俺のトトゥガは何故かわくわく7に出てくるポリタンクZだ。目覚まし時計にもなって、朝から気持ちよくラッパを鳴らしてくれるぞ!(寝坊しそうになると爆竹を絶え間なく鳴らしてくる)

 

 

「はい!」

 

 千冬さんに言われてから1秒と掛からず、オルコットが専用機、ブルー・ティアーズをその身に纏う。千冬さんが言うには、1秒以内に展開してこそのIS熟練者らしい。

ちなみに俺は5秒かかる。……先は長い!

 

 

一夏は……何やら苦戦しているようだ。「うーん、うーん」と唸ってはいるが、白式が展開される気配は一向にない。これでどうやって白式を代表決定戦の時に展開したのだろうか。

 

「どうした織斑。この前は特に苦もなく展開してただろうが」

 

「いや、あの時は無我夢中だったし……」

 

「……ふむ、そうだったな。いいか、ISの展開はイメージする事が大事だ。自分が白式を纏っている姿を思い描け」

 

「な、なるほど。白式を纏っている俺の姿を……こうか?」

 

一夏の身体から光の粒子が解放されるように溢れて、そして再集結するようにまとまって、IS本体としての白式が形成される。少なくとも1秒より早いのは確かだ。

 

「よし、その感覚を忘れるな。では、2人とも飛んでみろ」

 

「「はい!」」

 

オルコットのブルー・ティアーズは槍のように飛び、一夏の白式は少々不安な所があるが、そこまで問題は無かった。やっぱ才能って大事なんだな。不平等な現実だけが平等に来るだっけ?そんな事を伏〇が言っていたような……というかそれ以前にトトゥガで飛べるのか怪しいな……

 

 しばらくすると、オルコットが上空からスピードに乗って降りてきた。そして、地表ギリギリのところでピタっと止まってみせた。

 これが代表候補生の実力……実際にISに乗ったからこそ分かるオルコットの実力……!最初はちょっと面倒そうな奴かと思ってたけど、これで高飛車や慢心マンにならない奴を聞きたいわ。そしてちゃんと慢心を無くしたオルコットは偉い(上から目線)

 

「よし、では織斑も同じく急降下と完全停止をやって見せろ。目標は地表から30センチだ」

 

「は、はい!」(え、えーっと、とりあえず急降下する隼のように……!)

 

「うぉぉぉぉッ!!」

 

 

うん、一夏らしい凄い雄叫びだ!……ん?なんか様子が……あれ、もしかして地面と追突事故するパターンでは?

 

「布幸、トトゥガであれを受け止められるか?」

 

「あっ…… トトゥガ!」

 

俺は土壇場でトトゥガを4秒で展開。一夏の落下予想地点に弁慶の如く立ち塞がる。

 

「一夏!そこから逆方向に進もうとするんだ!」

 

「! おう!」

 

一夏も俺の意図を理解して可能な限り減速し、俺はトトゥガの巨体と重量を活かして一夏の白式ごと受け止める。

 

「ぐうぅぅぅぅ!!」

 

あまりにも高いスピードで白式が突っ込んできたもんだから流石のトトゥガでも2、3メートル程押されて地面を耕してしまう。俺も衝撃を殺しきれずに少しジーンときた。

 

「いでで……大丈夫か? 一夏」

 

「俺は絶対防御のおかげで大丈夫だから心配すんな! サンキュー、布幸」

 

「お2人とも大丈夫ですの!?」

 

「大丈夫か一夏!」

 

オルコットは俺も心配してくれたが、一夏の話に出てきた箒……だったな。俺の雰囲気(なぜか変換できた)を感じとって大丈夫と判断したが、一夏は心配した……あっ…ふーん……(理解)

 一夏ェ……後でちゃんと気がつくといいんだが……

 

「馬鹿者。急降下しろとは言ったが、トップスピードで駆け落ちろとは言ってないぞ。今回は僅かに減速できたのと、布幸がトトゥガで受け止めてくれたからそこまで大事にならなかったが、本来なら衝撃で骨が折れていた可能性もあったのだぞ?絶対防御とて無敵ではない。それを忘れないように」

 

 絶対防御というのはその名前に反して結構穴がある。高すぎる衝撃は殺しきれないし、当然高すぎるエネルギーをぶつけられると貫通する。

 例えるなら絶対防御があるといえども、ゴジラとかに踏みつけられたら流石に即死しちゃうから過信しちゃダメだよってこと。

 一夏も千冬さんのプチキレにしょんぼりしているが、オルコットと箒が慰めているから、割とすぐに立ち直るだろう。

 

「上昇・飛行・下降はISにおいて基礎動作になる。織斑もそうだが、ここに居る諸君らにもしっかり出来るようになってもらうからな。それと、布幸のトトゥガでいつも受け止められると思わないように」

 

「「「 はい! 」」」

 

「よし。では授業の続きだ……」

 

俺も早く高く飛べるようにならないとなぁ……まだフワフワとしか浮けないんだよなぁ……鳥のように飛びたい……

 

 



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Lv8 衝撃吸収

高評価はいわば書き手のやる気を出す燃料なのです。他意はありません()


翌日、普段はかなり早めに教室にいる布幸が、ありとあらゆる不運により──具体的には、何もない所でコケて、2組の担任が偶に飛ばすチョーク(衝撃で砕ける程のスピード)の流れ弾が額に直撃、謎のツインテ女子の施設案内(案内した後に何か言っていたが、遅刻の予感がしたので逃げた)、うさぎっぽくてやたら強い盗撮ロボットの処理etc.....───遅刻した。

 

「……布幸、5分遅れたな。各地から目撃情報があるからいつもの不運だろう? 出席簿は免除してやる」

 

「はひ……」

 

ボロボロの布幸が腫れた頬を擦りながら答え、千冬が号令をかける。(今日は山田先生が学園の設備一斉点検により不在らしい)

 

「さぁ、SHRを始めるぞ」

 

 

 

◇◇◇

 

 

昼休み、布幸はおにぎりを中庭で頬張っていた。勿論不運Lv MAX対策である。

 

「……よし、外敵はいないな。ハトもたかりに来ない。今日は珍しいな……」

 

描かれていなかっただけで俺は様々な不運にぶち当たっていた。オルコット対一夏の映像も偶に字幕が何故か文字化けしてビビらされたし、トトゥガは定期的に高速硬化ガスが漏れたりする。あれ漏れると後処理が……な。

昨日の飯はカラスに奪われかけ、一昨日はハトがおにぎり本体を狙ってたかり、今日は雀が頭で休憩する(しばらくしたらどこかへ飛び去った)。

 そうそう。不運Lv MAXなんだが、たまーに仕事しない時がある。多分、癒し要素を与えて発狂しないように調整されてるんだと思う。

多分今日は不運Lv MAXのサボりの日だ。

 

そんな事を考えておにぎり(塩むすび)を頬張っていると、オルコットが半泣きでこちらに駆け寄ってきた。

 

「あの…………布幸さん、一夏さんがこのサンドイッチを食べて凄い顔で味がヤバいと問い詰めて来たのですが、本当にこのサンドイッチがおかしい味なのか不安で……その、味見をお願いしたくて……」

 

「……ちょっと食べ足りなかったからいいぞ」(話からして明らかにヤバい代物だろうけど、ここで遠慮して機嫌を損ねられて周囲になんか言われても面倒そうだし……今日は珍しい不運Lv MAXサボりの日だ。美味しい可能性も無きにしも非ず……!)

 

意を決して俺はサンドイッチを手に取り、一気に頬張る。

!!??!?……わりぃ、俺、死んだ……

 

「」

 

「ふ、布幸さんんんんん!?」

 

 

その日、目が覚めた俺は激しい下痢と腹痛により午後の授業を休んだ……不運Lv MAXめぇ……!

 

 

 

 

◇◇◇

 

次の日の放課後、俺は日課となっているトトゥガでの歩行と飛行の訓練をしている──同時刻、一夏はオルコットと箒による特訓でしごかれている──と、昨日出会った謎のツインテ女子がアリーナに入ってきた。見慣れないISを展開しているのを見るに、専用機持ちなのだろう。

 

「はぁ〜……あのバカ一夏めぇ……ん?」

 

「あ」

 

俺とツインテ女子の目線が合った。いや、厳密には俺の乗っているトトゥガの頭に視線を向けている。

 

「何よその あ、って! バカにしてんじゃないわよ!?」

 

「違う違う! そんな意味で言った訳じゃ……」

 

「……なんかアンタ、聞いた事ある声ね……?」

 

「あー、昨日逃げるように行ってしまったのは謝る。1組の織斑 布幸だ。ちなみに織斑先生の養子」

 

「ふぇ……? 千冬さんが養子をとった……? いやいやそんな訳……」

 

 俺がトトゥガを解除して自己紹介をすると、ツインテ女子は俺の千冬さんの養子発言の辺りから何か呟いていた。

 なんだよ、そんな事されたら気になる……が、こういうのは追及してもはぐらかされるかぶっ飛ばされるかのどちらかだろうからスルーだ。ちゃんと線引きしないと不運Lv MAX関係なしに不幸になるからな……

 

「なぁ、突然で悪いんだが、ISの飛行って何かコツがあるか? 他はある程度できるんだが……」

 

「そうねぇ……感覚よ感覚! 自分の感覚を信じてやっていれば自ずとできるもんよ!」

 

「感覚……思えばトトゥガでは上手く飛べないという先入観が俺にはあったな……自分の感覚を信じてやっていれば自ずとできるもの……か。ありがとう、少し分かったかもしれない」

 

「そう、役に立ったなら良かったわ。……そうだわ! アンタ、専用機持ちって事はそれなりの腕前ってことよね? 私と模擬戦をしなさい!」

 

「……俺のトトゥガを相手するのは他のISにはあまり参考にならないぞ?」

 

「いいわよ。どうせ一人でやるよりも効率いいし。ほらほら! 早速準備してよ!」

 

俺は半ば強引に模擬戦をやる事になり、トトゥガを再び展開して背中を向ける。

 

「? 何よ、ハイパーセンサーで前後が分からなくなったの? 向いてる向きが逆よ?」

 

「いや、これでいい。あー、「(ファン・)鈴音(リンイン)よ。鈴でいいわ」 鈴、これがトトゥガの基本スタイルなんだ」

 

俺の後ろ向きトトゥガに鈴はやや不満があるようだが、何とか納得してくれた。

 

「じゃあ、始めるわよ!」

 

鈴は、トトゥガの腕だと新しく装備を持てないと判断して近接戦で仕留めるべきと考え、切るというより叩き潰す様に設計された一対の青龍刀、『双天牙月(そうてんがげつ)』を呼び出して肉薄する。

 

「まずは小手調べだ!ビーム砲!」

 

トトゥガの棘のようなビームシールド発生器兼ビーム砲からビームの嵐が巻き起こり、鈴の専用機、『甲龍(しぇんろん∕こうりゅう)』のシールドエネルギーを奪おうとするが、鈴の卓越した操縦技術によりかすりもしない。

 

「狙いが甘いわよ!」

 

「ビームシールド!」

 

鈴はそのままトトゥガに密着して双天牙月で切りかかるが、トトゥガのあまりに強固なビームシールドによりあっさりと阻まれてしまう。なんとトトゥガのビームシールドはアリーナのシールドバリアーの数倍の堅牢さを誇る。零落白夜のような抜け道でも使わない限り突破は困難だろう。

 

「さぁ、この要塞とも言えるトトゥガの守りを如何にして崩すかな…?」

 

「ふーん……そのトゲがビームの盾の発生器なのね? ならトゲが無い正面から狙う!」

 

「トトゥガの真骨頂はまだ見せていないぞ! 来い!」

 

「滅多切りにしてやるわ!」(……とは言ったけれど、あの図体じゃ龍咆も効果は薄いだろうし、このまま切りつけまくって弱点を探して、そこを叩く!)

 

(ラッシュのスピードが上がった!)

 

一見すると鈴の一方的な攻撃が続いているが、一向にトトゥガに目立ったダメージを与えられない事に鈴は苛立っていた。

 

「なんちゅう硬さなのよ!もう優に100回は切りつけてるわよ!?」

 

「トトゥガは守りに特化したISだ!ちょっとやそっとで傷はつかないぞ!」

 

(この感じ、あのISは攻撃とドッグファイトがそこまで得意じゃない……でも堅牢すぎて、双天牙月でかすり傷にしかならないのに龍咆じゃ…… !関節が見えた!そこを狙えば……!)

 

鈴は双天牙月でトトゥガの関節部を狙い、傷をつけることに成功する。

 

「甘いね鈴。トトゥガの真骨頂はここからだ!」

 

「!!」

 

ブシュゥゥゥゥゥゥ!!

 

突如傷つけた部分からガスが吹き出して鈴の甲龍を包み、急速に固体となって身動きを封じる。

 

「何よ、これ!」

 

「高速硬化ガスだ。トトゥガの装甲は多重構造になっていて、そこの隙間にガスが詰まっている。肉を切らせて骨を断つ。だ!」

 

俺はトトゥガのハンマーハンドで身動きの取れない鈴の甲龍のシールドバリアーを殴りまくって絶対防御を発動させ、シールドエネルギーを僅かに残して、辛くも勝利する。

 

「うぐぅ……甲龍みたいな近接重視ISを殺しに来てる機体じゃない……!」

 

「これは相性の問題だな……実は俺のIS適正、Dなんだが、高速硬化ガスのお陰で避けさせずに殴れた。だから勝てた」

 

「ガスを喰らいたくなければ遠くでチマチマ削るしかないって事……? なんていう化け物よ……!」

 

「まぁ攻撃力と機動性はお察しだけどな……」

 

「うーん……それにしても随分と極端なISね……どうしてこんな欠陥機ができたのよ?」

 

「あぁ……それには理由があってな。俺がISに乗ると、ことごとく故障して、最悪爆散する。だから堅牢さを求めた全身装甲のトトゥガを作ってもらった。構造も比較的シンプルにしてメンテナンスもマニュアルさえあれば自力でできるし、毎度毎度ISが授業の度に爆散したら不味いからさ……」

 

「なんでISが爆散するのよ……」

 

「自分、不幸なので……」

 

「いや、不幸で済むレベルじゃないわよ!?」




この作品のIS適正Dは、基本的な動きは可能で、止まった敵になら安定して攻撃できると想定して書いています。なので、初手のビーム砲は完全に牽制ですね。


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Lv9 縁の下の力持ち

面白いと思ったら、よければ高評価をしてください!(直球)


 クラス対抗戦当日、1年生のアリーナはまさにすし詰め状態であった。

 

 クラス対抗戦はそれぞれの学年毎に別れて開催されるのだが、やはり一年一組のクラス代表は織斑一夏という世界でも2人だけの男性IS操縦者の中の一人である為に自然と注目度は高くなった。

 

 俺はいつ不運という名の厄災が降り注いでもいいように出口付近に立って観戦していた。

 

「おぉ……一夏の奴、すげぇな。鈴相手にここまで渡り合うなんて……」

 

 いやほんと凄いよ。俺はトトゥガの近接殺しの構成でギリギリ勝利だったのに一夏は同等に渡り合って戦えているし、なんなら押してきている。戦いの中で成長し続けているバケモンじゃんか。

 ……状況と残りのシールドエネルギーからして、そろそろ決着がつくかな?

 

 

 

「まさかここまで粘るとは思わなかったわよ、一夏」

 

「もう勝ったつもりかよ?」

 

「あんたの力量もわかったからね……ここからはさらにギア上げていくわよ!」

 

「なら俺も!もっと全力で行くぞ!」

 

 鈴と一夏が武器を構える。

──決着は近い。

観客が固唾を呑んで見守る中、2人は同時に動き出し────────

 

 

─────────刹那、アリーナの上空に貼られていたシールドごと所属不明のISによって吹き飛ばされた。

 

 アリーナを貫く衝撃は、爆音と共に観客席を大きく揺るがした。

突然の出来事に生徒の殆どが困惑する中、俺は歳の割にかなり濃密な経験からアレが物騒な物を積んでいるのを感じた。

 

瞬間、人を殺す事など簡単な威力のビームが俺の横に飛んできた。

 

「きゃあぁぁぁ!!」

 

「お助け下さい! 命だけは! 命だけは!」

 

「ひぃぃぃぃぃ!!」

 

 皆がパニックに陥る中、俺はトトゥガを展開してスピーカーを起動。避難誘導を始める。

 

『みんな!俺のISが盾になれる! できるだけ出口付近に集まるんだ!』

 

 人波が俺のいる出口の方になだれ込んできてトトゥガの前に隠れる。トトゥガの大きさなら出口を塞ぐことが可能だ。

 

俺は所属不明のISの方に背中を向けながらプライベートチャンネルで一夏達に報告する。

 

「一夏、鈴!他の生徒は俺が守っているから周囲を気にせずそいつを叩き潰せ!」

 

『了解! 他の生徒は頼んだわよ!』

 

『サンキュー布幸! お陰で思う存分戦えるぜ!』

 

 

時折、流れ弾として胸部からのビームや、副腕に取り付けられたビームソーが飛んでくるが、トトゥガのビームシールドでギリギリかき消せるレベルの威力だった。

 

「よし、全員ここに…… !! 篠ノ之がいない!」

 

俺が篠ノ乃がいないことに気づくと、アリーナのスピーカーが響き、篠ノ乃の声が聞こえた。

 

『一夏ァッ! 男なら!! その程度の敵に勝たずしてどうする!』

 

直後、鈴の甲龍の放つ衝撃波で一夏の白式が加速。所属不明のISを切り裂かんとするが、相手は腰を90度曲げて無理矢理回避し、隙をさらした一夏を狙うが、間一髪で間に合ったオルコットの狙撃により、所属不明のISは機能を停止する。

 

 

「……みんなは下がってるんだ。俺はあれを抑えて動けなくする」

 

俺はもう危険は過ぎ去ったと判断してアリーナに降りる。

 

「……大丈夫か、一夏、鈴」

 

「あぁ、なんとか……」

 

俺が無人機から意識を逸らした瞬間、無人機が駆動部を軋ませながら動き出し、突然無人機自身のISコアを引っこ抜いて俺のトトゥガにズブズブと押し込んだ。

 

 すると、トトゥガのハンマーハンドが変形し、多関節でムチ状の細い腕に変わった。

 

「ISコアが……融合した……?」

 

「……!!??」(この腕、クァバーゼのスネークハンドじゃねぇか!!)

 

 この時、布幸は何となく不運Lv MAXが発動した予感があった。しかも特大の奴がくると感じた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ゴーレムが勝手に動いて、ISコアをトトゥガに融合させた……これは……面白そうだね!」

 

 何処かにあるラボで、天災が興味深そうにスパイウサギロボのカメラから一部始終を覗いていた。

 布幸の予感は間違いなく的中しているだろう……



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Lv10 デュアルコアとデュアル転校生

「……ちょっと織斑先生に報告してくる。コアが融合するなんて前代未聞の出来事だ。それも、ぶっ壊した無人機が動いてコアを引っこ抜いて俺のトトゥガに押し込んだんだ……」

 

「……あぁ」

「分かったわ」

「分かりましたわ」

 

俺はトトゥガを解除して、3人より一足早くアリーナを出る。

 

 

 

 

 

ゴーレム乱入事件の処理が終わった翌日の放課後、俺は千冬さんの自室にて、改めてトトゥガの変化について相談をしていた。

 

「ISコアの融合……か。今まで一次移行や二次移行は確認されていたが、話を聞く限りイレギュラーだらけだ。とりあえず整備ができるように束にデータを送ってマニュアルの変更をさせる」

 

「……あの、千冬さん。なんか……すごぉぉぉく嫌な予感がするんですよ」

 

「奇遇だな。私もとてつもなく嫌な予感がするんだ」

 

「「……はぁ」」

 

その後、千冬さんはヤケ酒、俺はトトゥガから改名した、プロト・デスゲイルの試運転をしてその日を終えた……

 

 

 

 

 

◇◇翌日◇◇

 

「みんな、おはよう」

 

「「「「おはようございます! 」」」」

 

その声が聞こえた瞬間、生徒達はここは軍隊なのかと聞かれるほどのスピードと正確さで挨拶の言葉が出る。

我らが1組の担任、織斑 千冬先生の登場だ。よく見ると服装に変化がある。

 

色は黒でタイトスカートと、見た目は大して変化していないが少し生地が薄くなっていて涼しそうだ。学年別のトーナメントが今月下旬で、それが終わると生徒もそこから夏服に替わるらしい。

 

「うむ、いい返事だ。さっそく今日もホームルームを始めたいところだが、その前に重要な報せがある。山田先生、いいですか? 」

 

「はい。今日は転校生がなんと2人も来ています! 」

 

「「「えええええっ!?」」」

 

いきなりの転校生紹介にクラス中が一気にザワつく。そりゃそうだ。この三度の飯より噂好きの10代のうら若き乙女、そんな彼女達の情報網をかいくぐっていきなり転校生が現れたのだから驚きもする。しかもそれが2人ときたのだから、当然驚きも2倍、いやそれ以上だろう。

 

山田先生が入室を促すと、教室の扉が開いて二人の転校生が入ってくる。

一人は金髪を腰の辺りで結び、中性的な顔立ちの"男子"であった。

 

そして二人目はズボンを身に纏っているが、銀髪のロングヘアーが目を惹き、一瞬で女子だと判断できる。

何より左目に付けている眼帯が特徴的だ。

 

金髪の男子の方から自己紹介を始める。

 

「フランスから転入してきたシャルル・デュノアです。ここに僕と同じ境遇の方々がいると聞いてやって来ました。よろしくお願いします」

 

「お、男……? しかも3人目……?」

 

彼が自己紹介を終えてお辞儀をすると、すかさず一夏と真島は耳を塞ぐ。

きっとこの後はクラス中の女子の歓声が響くはずである。

 

 

「「「きゃああああああーーーっ!!!」」」

 

パァン!

「!?」

 

「うわぁっ!? きゅう……」

 

一夏はギリギリ耳を塞ぐのが間に合い、自身の鼓膜を死守する事ができたが、布幸は予めつけていた耳栓が衝撃波で吹き飛び、デュノアは突然の事に対応できずにモロに食らってしまい、クラクラとしている。

 

「男子!男子よ!しかも貴公子って感じな男子!」

「「ああ〜、これはこれで母性本能をくすぐられる……!」」

「布幸君の薄幸そうな感じも良かったけど、こっちも大物よ〜!」

 

 

「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

 

 3人目であるデュノアのインパクトが強すぎて影に隠れているようだが、布幸は確かにもう1人の転校生を目で捉えていた。

 

 輝くような銀髪。ともすれば白に近いそれを、腰近くまで長く下ろしている。綺麗ではあるが整えている風はなく、ただ伸ばしっぱなしという印象のそれ。しかし何より目を引いたのが、左目の眼帯だった。医療用の物ではない、本物の黒眼帯だ。そして開いた方の右目は瞳に赤い色を宿しているが、その温度は限り無くゼロに近い。下手したらマイナスに突入している程で、まるで生徒を下らない生物として見ているようであった。

 

 身長はデュノアと比べて明らかに小さく、離別や一夏の胸辺りぐらいの高さしか無い。小柄な体格をしてはいるが、その身に纏う雰囲気は、まさに『軍人』そのものだった。

 

「………………」

 

 当の本人は未だに口を開かず、腕組みした状態で教室の女子達を至極下らなそうに見ている。しかしそれも僅かな事で、今はもう視点をある一点……織斑先生にだけ向けていた。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

 いきなり佇まいを直して素直に返事をする彼女に、クラス一同がポカンとする。対して、異国の敬礼を向けられた織斑先生はさっきとはまた違った面倒くさそうな表情を浮かべた。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒の1人に過ぎん。私の事は織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

 そう答えてピッと伸ばした手を体の真横につけ、足を踵で合わせて背筋を伸ばす少女。その佇まいはどう見ても軍人か軍関係者にしか見えない。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「「「………………」」」

 

 クラスメイト達の沈黙。続く言葉を待っているのだが、名前を口にしたあと、ボーデヴィッヒは一言も話さない。……入学初日の一夏と同じく緊張で次の言葉が出ないのだろうか?

 

「あ、あの、以上……ですか?」

 

「以上だ」

 

 空気にいたたまれなくなった山田先生ができる限りの笑顔でボーデヴィッヒに訊くが、返ってきたのは無慈悲な即答だけ。そんな彼女の冷たい反応に山田先生は今にも泣きそうな表情を浮かべた。

 

「──っ! 貴様が……!」

 

 ふと、一夏と目が合ったボーデヴィッヒは目尻を吊り上げてツカツカと彼の元へと歩いて行き、右手を振り上げた。誰が見ても握手が目的などでは無いのが分かる。あれは……一夏の頬に平手打ちしようとしているのだ。

 

「っ!?」

 

遅れて気付いた一夏が慌てて身を引こうとしているが間に合わない。

一夏が痛みに備えて目を瞑るが、身構えていた衝撃は一向に来なかった……が、音は来た。

 

ツルッ…ドサッ!

 

「……退け、貴様に用はない」

 

一夏が目を開けると、なんと布幸がボーデヴィッヒを押し倒していた。……正確には、布幸が何も無い所で滑ってボーデヴィッヒを押し潰したのだが。

 

「俺だって好き好んでこんな事はしない……あと、ぶつなら俺をぶつんだ。一夏じゃなくて織斑先生の養子の俺をやるんだ……」(あぁーー!!やべぇよやべぇよやべぇよ!女子を!女子を押し倒しちまった! よし!俺を殴ってもらえば一夏の件も俺のセクハラも有耶無耶になるはずだ!)

 

 布幸は突然の事で非常に混乱しており、支離滅裂な事を言ってしまっていたが、ボーデヴィッヒは養子という言葉に反応して「ほう……」というような顔をして席に着き、こう言った。

 

「織斑 一夏、貴様にこれだけは言っておく。貴様があの人の弟であるなど、私は断じて認めない。よく覚えておけ……」

 

「……あー、ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第2グラウンドに集合。今日は2組と合同でIS模擬戦闘を行う。以上だ。解散!」

 

パンパンと手を叩いて織斑先生が行動を促し、今のボーデヴィッヒ達のやり取りについて行けず呆気にとられていたクラスメイト達が慌ただしく動き始める。

 

「君達が織斑くんと布幸くん? 初めまして。僕は──」

 

「ああ、待った。今は移動が先だ。女子が着替え始めるからさ……」

 

「織斑先生、いつものよろしくお願いします……」

 

「分かっている。乗れ」

 

俺はいつもの事をしてもらう為に千冬さんを呼び、千冬さんもなんだか満更でもなさそうにおんぶしてくれる。

 

「キャーー! 千冬様が布幸くんをおんぶしているわー!!」

 

「早く着替えて追いか……護衛をするわよ!」

 

千冬さんが弾丸の如く早歩きをすると、1部の女子が恐ろしいスピードで着替え始め、一夏が青ざめて、シャルルの手を握って猛ダッシュした。

 

「げぇ! 早く行こうぜシャルル!俺達も捕まっちまう!」

 

「う、うん!」

 

 

 

 

「うぅ……ガードが固くて布幸君だけは攻められないのよね……」

 

「ほぅ……黛、私の目が黒いうちに授業前に油を売るとはいい度胸だな……後で補習だ」

 

「うぐっ……でも、新聞部としては布幸君の情報を得るまで……退かぬ!媚びぬ!省みぬ!」

 

「そうかそうか……そんなにも勉強熱心とはな。……補習3倍だ」

 

「我が生涯に沢山の悔いあり……ッ!」

 

(これ毎日来てよく懲りないなぁ……)

 

そう、なんかメガネをかけた2年生が毎日しつこく追っかけてくるのだ。その度に毎回千冬さんに撃退されているし……

 

 

いつも通り千冬さんがボタンを押して圧縮空気が抜ける音を響かせ、ドアが斜めにスライドして開く。第2アリーナ更衣室、無事到着というところだ。

 

「到着だ。早く着替えるんだな」

 

「はい!」

 

 

 

 

「あ、一夏、シャルル。お先に失礼するぜ!」

 

「ちょ、待てよ!」

 

 

 


 

「よし、全員いるな。これより2クラス合同のIS実習を行う。今回は専用機持ち含め、本格的な射撃訓練や格闘訓練といったカリキュラムだ。各自用意したISに並び、出現したドローンを狙ってくれ。専用機持ちはその支援や手助けに回ってほしい」

 

配置された"打鉄"や"ラファール・リヴァイヴ"には1組と2組の女子が続々と並び始めている。

 

俺はプロト・デスゲイルを纏い待機していると、何故かボーデヴィッヒがこちらを見定めるように視線を向けていた。

 

「わぉ! フッキーのISはいつ見ても大きいねぇ〜!」

 

「ん? あ、のほほんさん。その打鉄に乗るんだね?」

 

「うん!」

 

 トップバッターは布仏 本音ことのほほんさん。おっとりとしていて癒し系なのだ。(語彙力消失)

 

「よーく狙って……それっ!」

 

 のほほんさんはアサルトライフルを構えてバルーンを次々とロックオンして撃墜していく。20個ほど撃墜してしばらくすると交代を告げる布幸からの通信が本音の耳に届く。

 

「楽しかった〜!」

 

「あ、そのまま降りると……あぁ……」

 

 俺が止めようとした時には時すでに遅し。搭乗部の位置が高くてよじ登る必要が出来てしまった。

 

「あちゃ〜、失敗しちゃった!」

 

「……ほら、次乗る奴はスネークハンドで持ち上げてやるから……って、なんだその不満そうな顔は……ん?…………はぁ……次やらかした奴は責任を持って次乗る奴を持ち上げ……あ〜分かった分かった! やればいいんだろ?」

 

 女子達が目線による訴えをし、俺がその先を見ると、一夏とシャルルがお姫様抱っこをしているのが見え、女子達がして欲しい事を察して、とりあえず釘を刺そうとするも、揃って上目遣いで見るもんだから押し負けてしまった……

 

 



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