ホロと幻の美形 (ただのRyo)
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転入生

初作品初投稿です

楽しんでもらえると幸いです。



「ここがアッシュフォード学園か…」

 

僕、皇ライはこの私立アッシュフォード学園に転入することになった。

 

…私立アッシュフォード学園…

トウキョウ租界の中でも一番の広さを誇る学園。

学内に初等部、中等部、高等部、大学部があるので学生だけでもかなりの人数がいる。

 

ただ大きいだけの学園ではなく特徴的なのが、この学園の理事長の理念でもある、いかなる人種でも入学を受け入れるという点だ。

辺りを見渡すと一般的な人間だけではなく、

見た目は人間だが実際のところはロボットであったり、動物の耳や尻尾が特徴的な獣人、大きい耳が特徴なエルフなど多種多様な人種が存在している。

 

 

僕自身は普通の人間であり、よく知り合いからは銀髪が目立つと言われるが、ここの学園の人達の中ではそこまでは目立たないと思うので安心した。

 

「さて、まずは理事長室に向かうか」

 

僕がこの学園に転入してきたのは理由がある。

 

その理由とはこの学園の理事長から凄く気に入られてしまっているということだ。

 

実は理事長と僕の母が古くからの友人で、僕も小さな頃からよく顔を会わせていた。

その度に僕をこの学園に通わせないか、と母に強く薦めていた。

僕は理事長から学園の資料などを見せてもらった時に多種多様な生徒がいることに興味を持った。

先ほど僕の特徴で髪が銀髪であることを説明したが、この銀髪の為か、通っている学校では生徒や教師からは驚かれたり、奇異な目で見られることが少し多かった。

 

僕の母は日本人だが、父親はもうおらず、異国の人間だったようで、僕が銀髪なのはその影響だ。

僕に向ける目線が悪意があるものではないことは理解をしていたが、学校での居づらさを感じていた。

 

 

母には僕が学園に興味を持っていたことを打ち明けると、微笑み理事長と掛け合ってくれた。

 

これが僕がこの学園に転入してきた理由だ。

 

 

 

 

 

 

 

そんなことを考えながら学園内の廊下を歩いていると、僕の後ろから誰かが走っている音が聞こえてきた。

 

「やっばぁい!遅れるにぇぇ!!」

 

「もうー!みこち早くしてよー!」

 

綺麗な水色と鮮やかなピンク色の髪の2人組が僕の横を走り去っていくと、

水色髪の子の制服のポケットから水色のハンカチが零れ落ちたのが見えた。

 

「あっ!待ってくれ!」

 

落としたハンカチを拾い上げて、走り去っていく2人に僕は声を掛けた。

 

「ん?」

 

「にぇ?」

 

2人が急ブレーキを掛けるように減速すると、そのまま立ち尽くしてしまった。

 

「え?えっ?誰あの銀髪イケメン?みこち知ってる?」

 

「ううん、みこは知らないにぇ」

 

何か話しているようだがあまりよく聞こえなかった。

取り敢えず落としたハンカチを渡そう。

 

「呼び止めてすまない。今、君がハンカチを落としたから渡そうと思って」

 

そのままハンカチを差し出した。

 

 

「え?あっ!ほんとだ!」

 

ハンカチ落とした子がポケットに手を入れて確認していたが、落としたことに今気づいたようだった。

 

「ありがとう!これ姉街から貰ったものだから大事なやつだったんだ~」

 

ハンカチを渡しながら気になる言葉があった。

 

「どういたしまして。姉街?」

 

姉街、という単語に首を傾けていると、

 

「プークスクス、すいちゃんハンカチ落としちゃうなんてドジっ子だにぇ~」

 

一緒にいたピンク髪の子がニヤニヤしながら笑っていた。

 

「あぁん?みこちが寝坊してHRに間に合わないかもしれないから走ることになったんだから、もとはといえばみこちのせいじゃん!!」

 

「そ、それとこれは関係ないもん!」

 

どうやらHRに間に合わないから走っていたらしい。

2人が目の前で言い争いを続けていると、僕がいるのを思い出したのか途中で止まった。

 

ハンカチを落とした子は僕を見ながら話しかけた。

 

「そういえば君この学園で見かけたことないね?もしかして転入生?」

 

「ああ。今日からこの学園に転入する予定だったんだ」

 

「なるほどにぇ~。だから見たことがなかったんだにぇ」

 

2人は見かけたことがない僕の存在に納得してくれたようだ。

 

「私は高等部3-Aの星街すいせい!よろしくね!」

 

「同じく3-Aのさくらみこだにぇ~」

 

「クラスはまだ聞いていないが、2年の皇ライだ。よろしく先輩方」

 

お互いの自己紹介を終えて、2人が1学年上の先輩であることが判明した。

 

ちょうど自己紹介が終わると、学校のチャイムが全校に鳴り響いた。

 

「「あっ!やばい!!」」

 

2人が本来の目的に気づき、再び走り出した。

 

「じゃあまたねライ君!学園内で会ったら声かけてよ!」

 

「今度会ったらみこ達のクラブを紹介するにぇ!」

 

走り去っていく様子を見て2人に向かって手を降った。

 

 

あっという間の出来事であったが、この学園で2人の知人ができたことは運が良かったのかもしれない。

 

(また近いうちに会いそうだな)

 

僕は心の中で呟き、そのままの足取りで理事長室に向かった。

 

 

 

 

 

 




1話目は以上となります。

文が短い気もするけど、慣れたらどんどん増やしていこうと思います!


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理事長室

2話目に突入です。

ホロライブで大人気なあの人が理事長です。


学園の廊下をずっと歩いていると目的地に辿り着いた。

 

「ここが理事長室か。それにしてもとても長い道のりに感じたなぁ…」

 

学園内がかなり広いため到着まで少し時間を費やしてしまった。

先ほど知り合いができたばかりだし、今度道案内でもお願いしてみようと思う。

 

理事長室のドアの前に立ち、ノックをした。

 

「どうぞ。」

 

男性の声が中から聞こえて、ドアが自動的に開いた。

 

「失礼します。」

 

ドアが開かれ入室許可を得たため、そのまま入室した。

 

「おお!ライ君よく来てくれたね!!」

 

「どうも。お久しぶりです、理事長。」

 

手を差し伸べられたので握手に応じる。大きく力強いが、優しさを感じられる手だ。

 

そう、僕の目の前にいる温和な男性がこの学園の理事長、谷郷・アッシュフォード・元昭。

 

以前も説明をしたが、僕の母の古い友人で、僕が幼い頃からも顔をよく合わせて話もしていた。

とても気さくで優しい人で、僕をこの学園に転入させてくれた人でもある。

 

「いやーライ君がこの学園に転入してくれて本当に嬉しいよ。来たばかりだがこの学園はどうだい?」

 

「理事長からお話を伺っていたよりも、学園がかなり大きくて驚きました。それと少ししか確認していませんが、想像していたよりも色々な人種がいることにすごく興味を持てました。」

 

「ははは、確かに他の学園に比べるとうちはかなり広いからね。でもそのうち慣れるはずさ。最近は獣人だけではなく、天使や悪魔、あとはドラゴンもいるって噂だよ。」

 

「多種多様な生徒がいるとは聞いていましたが…まさにファンタジーのようですね。」

 

天使や悪魔は何となく想像できるが、ドラゴンはどのような姿で過ごしているのだろうか…

大きさからしてかなり目立ちそうだが、姿形を変えているのだろうか。

 

「あ、そうそう、ライ君にこれを渡しておかないとね。」

 

そう言って理事長は僕に大きな封筒を手渡してきた。

中身を確認すると、学園の手続きに必要な書類と学生証でもあるIDカードが入っていた。

 

「その中のIDカードで学園内の施設の入室だったり、食堂も無料で利用できるから自由に使ってくれ。一部の施設は教師にしか入れない場所はあるが、僕や教師からの許可が下りたら入室することもできるよ。ちなみにこの学園の屋上は許可がいるけどライ君のカードは既に権限を付けているから行ってみるといいよ。」

 

「凄い便利な機能がついていますね。権限の付与もありがとうございます。」

 

このIDカードを無くすとかなり困りそうだ…無くさないように気を付けよう。

IDカードを確認すると、僕の顔写真と名前、クラスが記載されていた。

 

僕のクラスは…2-Bか。後で教室の場所を確認しておかないといけないな。

 

「今日は転入手続きを終えれば後は自由時間だ。好きにこの学園を見て回るといいよ。最後にライ君は寮生活を希望していたが、ちょうど寮室に空きがなくてね…その代わりに学園内のクラブハウスの一室を空けることにしておいたよ。そこにライ君から送られてきた荷物を置いてあるからぜひ自由に使ってくれ。」

 

「色々手を回してもらって…本当にありがとうございます。」

 

「気にしないでくれ。僕はライ君がこの学園に来てくれて本当に嬉しいんだ。是非この学園の人達とたくさん関わって、君にとっていい経験になることを願っているよ。」

 

「ありがとうございます。では僕はこれで失礼します。」

 

僕は最後に理事長に一礼をし、部屋を退出した。

 

 

 

 

提出が必要な書類の提出が終わり、どこから学園内の探索をするべきかを考えながら廊下を歩いていると、

 

「あれ?ライ君?」

 

「ん?」

 

声を掛けられたので振り向くと、朝に出会った水色髪の少女がいた。

 

「君は…星街先輩?」

 

「先輩って何だかむずがゆいなぁ…すいせいって呼んでよ!」

 

「そうか?なら遠慮なく。すいせい、君はどうしてここに?」

 

「いやぁ、みこちが補修で教室に残ってて、待つのも暇だから学園内を歩いていたんだけど、そうしたらライ君が歩いてるのを見かけたから声掛けちゃった。」

 

「なるほど、学園に知り合いが少ないから声を掛けてくれて嬉しいよ。」

 

「えへへーそうでしょそうでしょ。ちなみにライ君は何をやってたの?」

 

理事長室に行き、書類の提出を終えたので、学園内を探索しようとしていたことをすいせいに伝えると、

 

「そっかぁ、じゃあ私暇だし、学園を案内してあげようか?」

 

「それは凄くありがたいんだが…いいのか?」

 

「いいのいいの!それに朝ハンカチを拾ってくれたことだし、そのお礼をさせてよ!」

 

「じゃあ…せっかくだしお願いしてもいいかい?」

 

「決まりぃ!じゃあ早速行こうよ!」

 

すいせいは夜空の星のように明るい笑顔を見せ、僕の手を引っ張りながら走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




みんな大好きYAGOOの登場です。アッシュフォードはミドルネームという感じで…笑

ホロメンは誰をどのように登場させるかはまだ詳しく決めていないので、感想などで登場させてほしいホロメンがいたら教えてください。


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学園探索

3話目

一応ロスカラのライ君を知らない人がいると思われるため、この作品での簡単な設定を記載しておきます。

皇(すめらぎ)ライ 17歳

母と歳の離れた妹と3人でキョウトで暮らしていた。母が日本の皇族の血を引いており、ライの中にも血が流れているが、公表しようとは思っていない。通っていた学校でライは自分の銀髪を珍しがられたり、奇異な目で見られることに疲れたため、多種多様な生徒がいるアッシュフォード学園で自身が自由な姿で居られる生活を希望し転入を決意。
容姿端麗、頭脳明晰、運動神経抜群、料理が得意。たまに天然発言あり。

こんな感じです。ロスカラのライ君のように記憶はなくしておらず、家族も父親以外は存命の設定にしています。


すいせいに学園を案内してもらえることになったため一緒に廊下を歩いている。

 

「ちなみにどこを案内してくれるんだ?」

 

「んーそうだなぁ、一応教室と食堂、あと寮を案内するつもりだけど、歩いてて気になるところがあったら言ってよ。案内してあげるから。」

 

「ありがとう。ここの学園凄く広いから、必要な場所だけでも案内してもらえるのは助かるよ。」

 

「いいっていいって、転入生じゃなくてずっとこの学園にいる生徒でもまだ全部の場所を把握していない人もいるくらいだからね。」

 

すいせいの話を聞いていると、この学園で迷子にならないか不安になってきた…

僕は記憶力がいい方だと思うが、忘れないようにしっかり案内を聞いておこう。

 

 

そんなことを考えていると最初の目的地、教室についた。

 

「ここが教室だよ。ライ君は2年生だからフロアはこの2階だね。」

 

「なるほど、学年によってフロアが違うのか。」

 

「そうそう、私やみこちは3年生だからこの上のフロアだね。階段上がるとすぐだから今度遊びに来てよ。」

 

「分かった。お邪魔することにするよ。」

 

「うんうん、せっかくだし教室の中も入ってみようか。」

 

すいせいの提案で教室の中も入ってみることにした。

教室のドアの前のスキャナーにIDカードをかざすとドアが開かれた。

 

今の時刻は夕方で、既に放課後の時間となっており、街に繰り出していたり、クラブ活動をしていたりする生徒が大半のため、教室に残っている生徒は少なかった。

 

「まぁ、今は放課後だから生徒は少ないかぁ…ん?あれって…」

 

「どうしたんだ?」

 

すいせいが何かに気づいたようで教室の中を歩きだした。

すると机の上に突っ伏している生徒の前で歩きを止めた。

その生徒の髪は紫がかっていて、よく見ると頭に耳が生えており、腰からは尻尾が生えているのが見えたので、おそらく獣人の生徒だろうか?

 

「あー!やっぱりおかゆちゃんじゃん!」

 

「うーん…なぁにぃ…?あれれ?すいちゃん?どうして2年生の教室にいるのー?」

 

すいせいにおかゆと呼ばれていた生徒は大きなあくびをしながらむくりと体を起こした。

 

「今日この学園に転入してきた子がいてさ、ちょうど教室を案内してたんだよ。」

 

「なるほどね~すいちゃんは優しいなぁ。あっ、君がその転入生?」

 

「ああ、皇ライだ。」

 

「わーお凄いイケメンだねぇ。初めまして2-Bの猫又おかゆでーす。よろしくねライ君。僕のことはおかゆって呼んでねー。」

 

「僕も2-Bだ。こちらこそ明日からよろしく頼む。」

 

明日からの学園生活でクラス内に友人が作れるか不安だったが凄く安心できた。

 

「ところでおかゆちゃんは何で教室に残って寝てたの?」

 

「ころさんが補修で残ってさー、それを待ってたら寝ちゃってたんだよ。」

 

「ころねちゃんもか…私もみこちが補修で教室に残って暇だったから彼を案内してたんだよね、みこちはもうすぐ終わると思うけど…」

 

「ころさんは2教科の補修だからねー、もうちょっとかかると思うから僕は教室で残ってるよ。」

 

「オッケー、じゃあまた彼の学園内の案内を続けてくるよ。」

 

「気を付けてねー、ライ君もまた明日教室でねー。」

 

「ああ、寝ているところを起こしてすまなかった。」

 

新しくできた友人おかゆと別れ、学園探索の続きが始まった。

 

 

 

 

食堂はかなり大きく、学園の生徒が全員入れるのではないかと思えてしまった。

メニューもかなり豊富で、これを無料で提供してもらえるのは本当にありがたい話だ。

すいせいの話ではメニューに載っていないものでも、リクエストを出せば提供してもらえることもあるらしい。改めて規格外の学校だと感じた。

 

 

 

ちょうど食堂の案内が終わった直後に、朝に出会ったピンク髪の少女が合流してきた。

 

「うう…、死ぬかと思ったにぇ…」

 

「みこち遅いよ!どんだけ時間かかってるのさー。」

 

「だってぇ…にぇ?朝の銀髪イケメン君だにぇ?」

 

「どうも。さくら先輩。」

 

「!先輩…!いい響きだにぇ…まぁにぇ!みこはエリートだからにぇ!」

 

「ああーライ君みこちにも先輩はつけなくていいよ。つけると調子に乗ると思うから。」

 

「そうだったのか、よろしくみこ。」

 

「なんでだよ!!っていうかライ君も切り替えが早すぎるにぇ!!!」

 

さくら先p…みこの絶叫が学園内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 




学園探索は次話まで続く予定です。

ちなみに作者はおにぎりゃーです。


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学園探索2

4話目

お気に入り登録ありがとうございます!
本当に作品への励みになっています…


みこと合流した後、その足取りで寮に向かった。

 

寮もかなりの大きさで、寮に食堂はないが、寮の隣が学園の食堂なので何も不便はないように見えた。

IDカードで寮に入室している様子も見られたのでセキュリティも万全そうだ。

 

「ここが生徒が使っている寮だね。私は姉街と一緒に住んでいるから寮生活はしてないけど。」

 

「寮もかなり大きいな…姉街っていうのはお姉さんのことかい?」

 

「そうそう、最近帰るのが遅いと口うるさいんだよねぇ…」

 

「それはすいせいのことを心配しているだけじゃないのか?大切にしてくれているいいお姉さんだと思うけど。」

 

「そ、そうかなぁ…なんか恥ずかしいや…」

 

すいせいは僕の発言に少しだけ顔を赤くしていた。

確かに他人から家族に大切にされていることを指摘されると恥ずかしさがあるのかもしれない。

 

「みこはここの寮で暮らしてるよー。学園の周りのマンションの一室並に広いから快適だにぇ。」

 

「そういえばライ君は寮生活?それとも学園外のお家?」

 

「でも今って寮室満員じゃなかったっけ?」

 

「いや、僕の実家はキョウトにあるから1人暮らしで寮生活をする予定だったんだけど、理事長から寮室の空きがないって説明をされて、代わりにクラブハウスの空き室を使ってくれと言われているんだ。」

 

「まじで!?クラブハウスってかなり部屋とか施設充実してなかった!?」

 

「確か寮よりもかなり快適って噂だよ!!…YAGOOめ…イケメンには甘いにぇ…」

 

「そうなのか?まだ行っていないからわからないが…」

 

そう伝えるとすいせいとみこは顔を見合わせてお互いに頷いた。

 

「「ライ君!!」」

 

「ん?なんだい?」

 

「「クラブハウス一緒に行こう!!」」

 

「???」

 

僕は2人に腕を掴まれて、強制的にクラブハウスまで連行された。

 

 

 

クラブハウスに到着し中に入ると、大きなホールがあり、大きなモニターなども設置されてある。どうやらここから色々な施設に行けるようだ。

クラブハウスの施設にはラウンジやトレーニングルーム、多目的ルーム、マッサージルーム、小さな図書室もあり、その中にはカフェもあった。

 

「めっちゃくちゃいいじゃん!トレーニングルームとか、多目的ルームにマイクとかスピーカーの備品あったから、歌とかの練習に使えそうだし!」

 

「クラブハウスにマッサージルームとかカフェがあるなんて知らなかったにぇ…今度利用してみよー。」

 

「なんだか規格外な学園だなって改めて思ったよ…あ、ここが僕の部屋かな?」

 

僕達はおそらく僕が暮らすであろう部屋を発見し、中に入った。

 

「「おおお!!」」

 

すいせいとみこは感嘆の声を上げた。

中は広々としていて、僕が実家から送っていたダンボールに入れた荷物が置かれてあり、家電(最新鋭)も生活で必要なものが一式そろえてあった。

ベッドのサイズは何故かダブルになっているが、ぐっすり休めそうだ。

 

僕がその中でも特に嬉しかったのはキッチンの設備が充実してあることだった。

料理をするのが好きだからコンロやオープンがしっかりとしたものが用意されているのはとても嬉しい。今度理事長にお礼を言いにいこう。

 

「うわぁ!お風呂も広ーい!なんか高級なホテルみたいだね!」

 

「ベッドもみこのやつよりデカいにぇ…あっ!」

 

みこは何か思いついたのかニヤリと笑い、ベッドにダイブした。

そして僕の方を振り向き、両腕を広げながら、

 

「ライ君…」

 

「ん?」

 

「きて…?」

 

「はっ!?ちょ、みこち何言ってんの!?」

 

みこの発言と行動にすいせいが顔を赤らめたが、

 

「ああ、分かった。」

 

「ええ!?ライ君も何言って…!?」

 

僕はそのまま、みこのいるベッドまで歩みを進めた。

 

 

 

みこside

 

(ふっふっふ…ライ君といえども男の子なんだにぇ…このシチュエーションとみこの色気でメロメロになってベッドに飛び込んでくるに違いないにぇ…ん?)

 

ライ君がベッドの前で立ち止まって、みこに手を差し伸べてるにぇ…?

 

「ライ君…?何してるにぇ?」

 

「ん?起き上がれないから起こしてほしいんじゃないのか?」

 

ライ君の発言で部屋に沈黙が流れて、

 

「ぎゃはははははは!みこち何やってんのwwwwww」

 

「う、うるさいにぇ!」

 

すいちゃんがお腹を抱えて笑っているから恥ずかしくなってしまったにぇ…

 

「?」

 

ライ君は状況を把握していないようだった。

 

「っ!!ライ君のばかぁ!!!」

 

本日2回目のみこの叫びが学園にこだましたにぇ…

 

 

ライside

 

あの後みこを起こそうとしたらみこに怒られたが、すいせいはあれが正しいと褒めてくれてよく分からなかった。

 

時間も日が沈みかけてきていたので、そろそろ解散をしようという話になった。

 

「2人とも今日はありがとう。僕1人では学園の探索も苦戦していただろうし、何より楽しかった。」

 

すいせいが今日ハンカチを落とさなければ、この出会いや、学園案内、教室内でのクラスの友人作りなどもできなかったかもしれない。

改めて2人にお礼を伝えた。

 

「いいのいいの!私たちもちょー楽しかったし!ライ君も面白いし、いい子で良かったよ。」

 

「みこも楽しかったにぇ!納得がいかないことが何個かあったけど…」

 

2人とは学年が違うが、転入生の僕にここまでしてくれるなんてとても心強かった。

もし2人に困ったことがあればぜひ力になりたいと思う。

 

「よし!じゃあ時間も時間だしそろそろ帰るね!…あっ!その前に…」

 

すいせいはポケットから携帯端末を取り出した。

 

「ライ君連絡先教えてよ。今度遊びに誘いたいし!」

 

「みこもみこも!クラブ(不知建)の皆にも今度紹介したいにぇ!」

 

「こちらこそお願いするよ。」

 

すいせいとみこと連絡先の交換ができた。

 

「ありがとう!じゃあこれで本当に帰るね!バイバイ!」

 

「みこも寮に戻るにぇー。ライ君バイバイ!」

 

「ああ、2人とも帰り道に気を付けて。」

 

2人を見送り、手を振って別れを告げた。

 

 

いざ転入をすると決めた時は不安な気持ちはあったが、今は明日が来るのが楽しみになっていた。

 

(まだこの学園にきたばかりだが、転入したのは間違いではなかったと思う。すいせいやみことまた会うのもそうだが、新しい出会いも楽しみだ。)

 

僕は日が沈みかけている空を見上げて、クラブハウスに戻った。

 

 

 

 

 




あっという間の4話目終了。

休日だから何話も投稿できたけど、仕事がある日は1話投稿目指して頑張りたい…

皆さんからの好評価やお気に入り、感想が本当に励みなっているので、気に入っていただけたら是非お願いします!


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学園生活開始

5話目です。

作品を書き始めて早3日。

色々な人に読んでいただき感謝です。


「皇ライです、キョウトから来ました。よろしくお願いします。」

 

僕は2-Bのクラスのみんなの前で自己紹介をした。

 

この時期に転入生が来ることはかなり珍しいのか、クラスのみんなは大盛り上がりをしていた。

 

「キョウトからだってよ、すげぇな。」

 

「キャー!銀髪イケメンよ!!」

 

「顔だけじゃなくて名前も素敵…ライ様って呼んでいいかなぁ…」

 

クラスのみんなは拍手をして迎え入れてくれた。

クラスの中には昨日既に自己紹介を済ませた猫の獣人のおかゆもいて、手をヒラヒラと降ってくれていた。

 

「皇の席は…「せんせー、僕の隣の席が空いてまーす。」おっ、そうだったか。では猫又の隣の席に行ってくれ。」

 

「わかりました。」

 

おかゆが先生に自分の近くの席が空いていることを伝えてくれた。近くになるようにしてくれたのだろうか?知り合いが近くにいると安心するな。

 

そのまま先生の指示に従い、おかゆの隣の席に着席した。

着席したとたんおかゆが横を向き、僕に声を掛けた。

 

「やっほーライ君、自己紹介ばっちりだったね。」

 

「そうかな?それより近くの席に誘導してくれてありがとう。」

 

「いいのいいのー、僕ライ君と仲良くしてみたいって思ってたのー。」

 

「おかゆお前…いつの間にこんなイケメンな知り合い作ってたんだ…?」

 

おかゆの前に座っているボーイッシュな女の子が、僕とおかゆが話しているのを見て驚愕していた。

 

「えへへ、昨日ころさんの補修を待っている間にすいちゃんに紹介されたんだー。」

 

「へーすいちゃんとも知り合いなのか、あのすいちゃんが心を開くなんて珍しい。」

 

ボーイッシュの女の子は僕に向かって自己紹介をしてくれた。

 

「ちわっす!大空スバーゥ!これからよろしく!スバルのことはスバルって呼んでよ!」

 

「改めて皇ライだ。よろしくスバル、僕のこともライと呼んでくれ。」

 

スバルは見た目どおり明るい女の子という印象で、おかゆはのんびり屋さん?という印象を受けた。

性格が真反対そうだが、それが功を奏して仲がいいのかもしれないな。

 

「よーし、それでは朝のHRを始めるぞー。」

 

先生からの号令がかかり、僕の学園生活初日がスタートした。

 

 

 

 

 

 

「や、やっと昼休み…めちゃくちゃ疲れた…」

 

「ふぁ~。よく寝たぁ~僕お腹すいちゃったよ。」

 

「ふぅ…授業についていくのに問題がなくてよかったな。」

 

4限目の授業が終わり、昼休みが始まった。

授業内容は先生の教え方も丁寧なこともあり、ついていくのは全く問題がなかった。

 

ただ、スバルは数学の授業中に頭から湯気が出ていたし、おかゆは授業のほとんどを寝て過ごしていた。

 

数学の内容も理解できたので今度スバルに教えてあげよう。おかゆは…何とかして起こそう。

 

「ねぇーお腹空いたし、早く食堂に行こうよー。」

 

「そうだな、ライも行くでしょ?」

 

「え?僕も行っていいのか?」

 

「もちろんだよー、ほら早くいかないと昼休み終わっちゃうよー。」

 

「あっ!待てよおかゆー!」

 

2人が食堂に向かって走り出したので、僕もそれに付いて行った。

 

 

 

昼休みということもあり食堂はかなり賑わっていた。

 

僕達3人はそれぞれの料理を受け取って席に着いた。

 

おかゆはおにぎり、スバルはサンドイッチ、僕はカルボナーラにした。

 

「ふぅ…沁みわたりますなぁ…」

 

「…お前は授業中ずっと寝てただろ…」

 

「確かによく先生にバレずに済んでたな、おっ、このカルボナーラ美味しい。」

 

3人で食事をしていると、スバルが僕に質問をしてきた。

 

「そういえばライってなんでこの学園に転入してきたの?」

 

「確かに僕も気になるかもー。」

 

「転入をした理由か…」

 

「あっ、ごめん、答えづらい質問しちゃった?」

 

「いや、あまり人にこの話をしたことがないからどこから説明しようかと思ってさ。」

 

僕は2人にこの学園に転入した理由、いきさつを話した。

 

「なるほどね…確かに一般の人からするとライの見た目は目立つからなぁ…」

 

「見てる人は興味本位で見てるだけかもしれないけど、見られる側はあまりいい気はしない時はあるよね…」

 

2人は僕の話を聞いてくれて、共感してくれた。

 

「スバルも小さい頃からこんな声だったから、よく周りの子にからかわれてたりしたもんなぁ。」

 

「僕も猫人間だから、普通の子からしたら物珍しいだろうし視線は感じてたねー。」

 

「2人とも話を聞いてくれてありがとう。何だか話してみたら気持ちがラクになったよ。」

 

2人にも過去に似たような体験をしたらしいが、スバルの声は元気があるからこっちも元気になれる気がする。おかゆは髪も耳も尻尾も綺麗に紫がかっているから素敵に見える。

 

僕が2人に感じたように自分では気に入っていなかったり、コンプレックスの部分も他人からすると長所として捉えてもらえることがある。

 

(僕もいつか自分のこの見た目を他人に誇ったり、好きになったりできればいいな…)

 

 

そんなことを考えているとふと、おかゆとスバルを呼ぶ声が聞こえた。

 

「あれ?おかゆとスバル?」

 

「今日はここでご飯なんだ余?」

 

「ん?おー、ミオしゃとあやめじゃん!」

 

「やっほー、ミオちゃん、あやめちゃん。」

 

スバルとおかゆの友人だろうか…?

 

1人は黒髪と尖った黒い大きな耳に大きな尻尾が特徴な犬…いや狼の獣人。

 

もう1人は白い綺麗な長い髪と赤い目、そして額の角が特徴な人間…この子は何の人種だろうか…

 

そういえば以前理事長が珍しい人種がこの学園にいると転入時に言っていたが…あっ!

 

「悪魔だ!」

 

「鬼だ余!!」

 

…どうやら間違えてしまったようだ…

 

 

 

 




新たにメンバーを3人登場させたところで一旦区切ります。

なんか作品を見直すとコンビで出演させる傾向にありますね…


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生徒会

6話目

目標は寝るまでに1投稿…!


昼休みにおかゆとスバルと食堂で食事をしていると、2人の生徒に話しかけられて、同じテーブルに座った。

 

「うちは大神ミオ!ミオってよんでいいよ~、ライ君よろしくねぇ~。」

 

1人目は狼の獣人大神ミオ。僕たちと同じ学年でクラスは2-D、さらに生徒会の副会長を務めているそうだ。

 

「そしてうちの隣に座っているのが…」

 

「ツーン」

 

「もうあやめ、ライ君も悪気はなかったんだから許してあげなよ~。」

 

「ふん!余、初めて人に悪魔だなんて言われたんだ余!」

 

「す、すまない…」

 

…僕の目の前でほっぺを膨らませて怒っているのが百鬼あやめ。悪魔ではなく鬼とのことだ。

大神さんと同じクラスで、なんとこの学園の生徒会長を、2年生であるにも関わらず務めているらしい。

 

「まったく!余は立派な鬼なのに、悪魔と間違えるなんて本当失礼しちゃう余!」

 

その言葉に僕は自責の念にとらわれた。

僕は他人からの自身の見た目のことに対してのコンプレックスがあるにもかかわらず、同じことで相手を傷つけてしまった…

 

「すまない、僕は君のことを見た目と憶測だけの発言で深く傷つけてしまった。僕にできることなら何でもする、どうか許してくれ…」

 

僕は席を立ちあがり、深く頭を下げた。

 

「えっ…ちょ、あっ、えっ?」

 

百鬼さんは酷く狼狽えていた。

 

無理もない…彼女にとって許せないことだったんだろう…僕はどんな罰も受け入れるつもりだ。

 

「あやめちゃん、ちょっと怒りすぎじゃないかなぁ。」

 

「確かに、ここまで謝ってるんだからゆるしてあげなよ。」

 

「そうだよあやめー。転入してきたばかりの子を悲しい気持ちにさせたらかわいそうだよー。」

 

「うう…」

 

おかゆ、スバル、ミオさんが僕に助け舟を出してくれた。すると百鬼さんが、席を立ちあがり、

 

「よ、余もごめんなさい…本当は間違われたことにはそこまで気にしてなかったけど、ちょっと揶揄いたくなっただけなの…」

 

顔を俯いて話す百鬼さん。するとミオさんが、

 

「うんうん、2人ともお互いに謝れて偉いねぇ。仲直りのあとはちゃんと握手しようね~。」

 

その言葉に百鬼さんが顔を上げてにっこり笑いながら手を差し伸べてくれた。

僕もそれに乗っかって手を伸ばし、しっかりと握手をした。

 

「改めて皇ライだ。ライと呼んでくれ。」

 

「余もあやめでいい余!それから、ようこそ!この学園に!」

 

無事にこの学園の生徒会長と仲直りができ、歓迎してもらえた。

 

 

 

 

改めて5人で談笑を続けていると、僕はあることを思い出した。

 

「あっ、そういえば急な質問で悪いんだが、みんな甘いものは好きかな?」

 

その質問に対してみんなは不思議そうにしていたが、肯定をしてくれた。

僕はその答えを確認し、バッグからある箱を取り出した。

そして箱を開けると、プレーンとチョコ、抹茶のクッキーが出てきた。

 

「えー!ライ君これなぁに!?」

 

「僕が作ってきたクッキーなんだ。交友関係を広められたらと思って作ってきたんだ。今日は3種類しか用意ができなかったけど、よかったらみんなで食べてくれ。」

 

「わぁい!僕クッキーだぁいすき!ライ君ありがとう!」

 

「食後のデザートを食べれると思わなかった…あんがと!」

 

「ライ君器用だねぇ。ありがたくいただきまーす。」

 

「ライ君すごい余!余、抹茶大好き!では早速…」

 

「「「「いっただきまーす!」」」」

 

各々クッキーを口に運んで食べてくれた。

 

「おいしー!いくらでも食べれるよ!」

 

「これが女子力…負けた気がする…」

 

「甘すぎず、ちょうどいいバランスでいいねぇ…」

 

「おいひい余!」

 

おかゆとあやめからはかなり好評をいただいた。

ミオさんからはバターが普通のクッキーと違う気がすると、気付かれて、今回のクッキーは無塩バターを使っていることを教えた。それに気付けるのは流石狼の嗅覚だ。

スバルからは簡単なお菓子作りの方法を教えてほしい、と言われたので、今度一緒に作ろうと約束をした。

 

 

 

「うーん、満足満足♪」

 

みんなクッキーを全て食べきってくれた。

 

「これから授業に戻るの嫌になってきたな…」

 

「あと休憩も10分だし教室に戻るか。」

 

先に食堂にやってきていた僕たちは早めに教室に戻ることにし、ミオさんとあやめと別れた。

 

 

3人がいなくなった後、ミオとあやめはライのことについて話していた。

 

「ねぇ…ミオちゃん。」

 

「うん?」

 

「ライ君を生徒会に入れたいね!」

 

「そうだねぇ、根もまじめだし、性格も優しいから人材としてとてもいいけど、まだ学園に完全には慣れていないだろうから、流石に早いかもねぇ。」

 

「そうだ余なぁ…ライ君のクラスはわかったし、今度色々生徒会に関する仕事内容を教えるか手伝わせるかをして、アタックをかけたい余。」

 

「優秀な人材は早めに確保しておきたいし、色々準備を進めておこうね。」

 

「うん!!」

 

ライ君…必ず生徒会に入れて、もっといい学園にしてみせるんだ余!

 

 




6話目の終了。

勢いで書いたけどライ君の生徒会への加入どうしましょうかねぇ…


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体験入部

7話目

UAが1000件超えしていたことにびっくり…

ご新規さん、いつもご愛読していただいている方々に感謝…


「よーし、今日の授業は以上だ。みんな気をつけて帰るんだぞ。」

 

転入日初日の授業がすべて終わり、放課後になった。

 

授業間の休み時間の間に、僕への質問などでクラスのみんなが囲うようにして集まった。質問に答えていくうちにクラスのみんなと打ち解ることができて、無事仲良くなることができた。

 

放課後はそれぞれクラブ活動に行ったり、帰宅したりとしていて、スバルはこの後バイトがあり、おかゆはミオさんやあやめと同じクラスの犬神ころねという生徒と一緒に帰宅していた。

おかゆに犬神さんを紹介をしてもらったが、犬神さんはおかゆを庇うようにおかゆの前に立ち、僕を睨み警戒しているようだった。

 

…初対面のはずであるが、僕は何かしてしまったのであろうか…

 

僕はまだ何もクラブに所属しておらず、アルバイトもやっていないため、自室のクラブハウスに戻ろうとしていた。

いや、まだトウキョウ租界に来たばかりなので、学園周りの街のことはほとんど知らないので、探索でもしようか…

しかし、トウキョウ租界はかなりの広さなので、今からの時間だけでは探索は難しいかもしれない…

 

考え事をしながら階段を降りようとしていると、上の階段から聞き覚えがある声に声をかけられた。

 

「あれ?ライ君?」

 

「ほんとだ!ライ君だにぇ~。」

 

「すいせい?みこ?」

 

「ん?すいちゃんとみこちあの子と知り合いなの?」

 

「うわぁ、ノエちゃんと髪色似てるイケメン君だ。」

 

すいせいとみこから声をかけられたが、2人以外にもう2人一緒にいるようだった。

 

「やっほーライ君、今から帰るとこ?」

 

「ああ、自室に戻るか、租界の街中を探索しようと思っていたんだ。」

 

「みこ達も今から租界に行こうとしてたから一緒に行くにぇ?」

 

みこがそう言って階段を一段下ろうとした瞬間…

 

「にぇ?…うわぁあああああ!」

 

なんと、足を滑らせてしまったのか、前のめりに顔から転びそうになってしまっていた。

 

「みこち!?危ない!!」

 

隣居たすいせいが咄嗟に手を伸ばしたが、ギリギリ届いていなかった。

 

(くっ…!!間に合えっ!!!)

 

僕はみこが体制を崩した瞬間、自分の鞄を投げ捨て、思いっきりジャンプをした。

 

みこを受け止められることができる階段に着地をし、抱きしめる形でみこを受け止めた。

 

「みこ!大丈夫か!?」

 

「に、にぇ…怖かったにぇ…」

 

みこは目に少し涙を浮かべていたが、安堵しているようだった。

 

「よかった…何とか間に合って…」

 

本当に間に合ってよかった…もう少しのところで大怪我をしてしまうところだったかもしれない。

 

「みこち!?大丈夫!?」

 

すいせいと他の2人も駆け寄ってきた。

 

「いやぁ…今のは見ててポルカの寿命縮んだよ…」

 

「本当だよ…でも君凄いね!あそこからジャンプしてみこちのキャッチに間に合うなんて…」

 

「階段に他に誰も降りてなくて助かったよ。おかげでみこのところまですぐ飛ぶことができたから。」

 

「ライ君は命の恩人だにぇ…本当ありがと…」

 

「どういたしまして。じゃあみこ降ろすよ。」

 

抱きしめていたみこを解放し床に立たせた。しかし、みこを見ると立ててはいるが、歩けないようだった。

 

「みこ?どうしたんだ?」

 

「今ので足が震えてしまって上手く動けないんだにぇ…」

 

そう言われてみこの足を見ると、生まれたての小鹿のように足をプルプルと震えさせていた。

 

「…ぷっ。」

 

僕はその様子が何故か面白くなってしまい吹き出してしまった。

 

「ら、ライ君!笑わないでほしいにぇ!」

 

「す、すまない…僕もわからないが何故か面白くなってしまって…ははは。」

 

「ご、ごめんみこち私も笑っちゃう…あはは!」

 

「すいちゃんまでぇ!ひどいにぇ!」

 

「流石サイコパすいちゃん…」

 

「なんかあの2人似てるかも…」

 

僕とすいせいはみこの足の震えが止まるまで笑いが収まらなかった。

 

 

 

 

 

改めてすいせいとみこ以外の褐色肌で耳が少し大きなエルフと、大きなふわふわした尻尾が特徴な獣人の2人に自己紹介をした。

 

「今更だが初めまして、転入生の2-Bの皇ライだ。よろしく。」

 

「私はハーフエルフの不知火フレア、私も2-Aで同じ2年生だよ。これからよろしくね!」

 

「2年生てことは先輩ですねー。あたしは尾丸ポルカ、フェネックの獣人です!1年生ですけど仲良くしてください!」

 

てっきりすいせいとみこと同じ学年かと思っていたら、2人ともバラバラの学年だった。何の集まりだろうか?

 

「みんな学年が結構バラバラなのに仲がいいんだな。」

 

「まぁね、同じクラブ活動をしている仲間だからねぇ。」

 

「なるほど、そういえば以前みこがクラブ活動をしていると言っている気がしたな。たしか不知建って言ってたっけ?」

 

「そうそう、正式名称が不知火建設で、今日はいないけどメンバーはもう一人いるんだー。」

 

「不知火建設か。ということは部長は…」

 

「一応私がこのクラブの部長だよ。活動内容は一緒に部室に集まって遊んだり、街に出て遊んだりしているんだー。」

 

仲がいいメンバーで集まって遊ぶことが活動内容らしい。クラブといえばきつい内容などが多いと思っていたが、すごく楽しそうに思えた。

 

「今日は活動の一環として租界に行こうっていう話になってたんだ。」

 

「そうか、クラブ活動中なら邪魔をするわけにはいかないな。みんなで楽しんできてくれ。」

 

「えー、ライ君も一緒に行こうよー。」

 

「そうですよライ先輩ー、ポルカも先輩とお話してみたいですよ!」

 

すいせいとポルカは僕を誘ってくれているが、参加をしてもいいものなのだろうか…

 

「あっ、じゃあいいこと思いついた!」

 

フレアが手を叩き、アイディアが浮かんだようだった。

 

「ライ君まだどこのクラブにも所属していないんでしょ?だったら不知建の体験入部って形で参加すればいいよ。」

 

フレアのアイディアにみんなが共感をした。

 

「それがいいにぇ!街で遊びつつ、ライ君に街の案内もできるにぇ!」

 

「体験入部だから、必ず入部する必要はないけど、新しい仲間ができると私達も嬉しいから、是非入部するかは活動をしてみながら考えてみてよ!」

 

「そうか…じゃあせっかくの機会だし、体験入部してみるよ。」

 

「「「「やったぁ!!」」」」

 

みんなは僕の参加を喜んでくれて、嬉しいような照れくさい気分になった。

 

学園生活で僕の新たな活動が始まろうとしていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




不知火建設残りのメンバーはあの女騎士です。

次回体験入部が本格的に開始。

すいちゃんとみこちが出てくると話の展開が書きやすい…

何かこういった内容の話を読んでみたいということがあれば、是非感想に書いていただければ幸いです!


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体験入部2

8話目

仕事がしんどいですが投稿は続けたい…


不知火建設の体験入部として学園付近の街にやってきた。

 

以前の学校でも放課後に友人と帰ったり、寄り道をしたことがほとんどなかったため、今の状況を楽しみたいと思っている自分がいることを感じている。

 

そんな様子の僕に気づいたのかすいせいが話しかけてきた。

 

「おー?ライ君何だか楽しそうだね?」

 

「ああ、前の学校でも放課後に友人と一緒に帰ったりしたことがなかったから、ワクワクしてるんだと思う。」

 

「えーそうなの?でも確かにライ君が遊び歩いてる姿も想像できないね。」

 

「先輩ってなんとなく貴族に近いオーラがありますよねー、どこかの国の王子様だったり?」

 

「ポルポルそれは漫画とアニメの見過ぎだってw」

 

「「「「あはははは!!」」」」

 

「…」

 

ポルカもなかなか鋭い…王子ではないが、母が皇族の血を引いているため、確かに貴族ではある。

ただこの情報は学園では理事長しか知らないことだ。みんなを騙す気ではないが、あまり公にしてもいい情報ではない。しばらくはこの話は出さないようにしておこう。

 

みんなと歩きながら街の中を歩いていると、不知建のみんなの目的地に到着した。

 

「着きました!我らが目的地カラオケ!」

 

「うう!早く歌いたいにぇ!」

 

カラオケ…僕は来たことがないが、密室で好きな歌を歌うことができる施設であることは知っている。僕が来ることになるとは思ってもいなかったが、体験入部の一環として楽しませてもらうことにしよう。

 

入口で受付を済ませて、ドリンクバーで飲み物を注ぎ、指定された部屋に入室した。

 

外から見ると狭い部屋なのかと思ったが、割と部屋にはゆとりがあり、伸び伸びと歌うことができそうだ。外から見てもよく分からないので、歌うのが恥ずかしいという人でも、気にすることなく歌えるのもカラオケの魅力らしい。

 

「よーし、じゃあすいちゃんから歌おうかな!」

 

「よっ!待ってました!歌姫すいちゃん!」

 

まずはすいせいから歌うそうだ。デンモクという機械に自分が歌いたい曲を入力すると、その曲が流れ出して歌うのが流れのようだ。

 

すいせいが入力した曲が部屋のモニターに表示されて歌が始まった。

 

すいせいの歌声は聞いたもの全てを魅了するように綺麗で、とても楽しそうに笑顔で歌っていた。

 

みことポルカはどこからか持ってきたマラカスとタンバリンですいせいの歌を盛り上げて、フレアも手拍子をして楽しそうだった。

 

僕もこの光景をみてるといつの間にか笑顔になっていた。僕も友達がいればこのような思い出もできていたのかもしれないな…

 

 

 

 

 

 

すいせいが歌い終わり、みことポルカにバトンタッチしていた。

 

すいせいはドリンクを飲みながら僕の隣の席に座った。

 

「ふぅ…どうだったライ君?私の歌は?」

 

「お疲れ様。すごく心に響く歌だった。」

 

「えへへ、お世辞でもそう言ってくれて嬉しいよ。」

 

「お世辞なんかじゃないよ。楽しそうなすいせいを見ていたら、僕も楽しくなってきた。すいせいの歌には人の心を動かす力があるのかもしれないな。」

 

「そ、そこまで褒められると流石のすいちゃんも照れちゃうな…でもありがと…」

 

すいせいは顔を赤らめて照れていた。

 

みことポルカの歌が始まった。2人は所謂アニソンというアニメで流れる主題歌をテュエットしていた。

2人とも元気いっぱいに歌っていて、聞いている人達に全てに元気を与えるような感じがした。

 

「ぷはぁ、歌いきったにぇ。」

 

「いやー、みこちと歌うのほんと楽しいわー。」

 

「次はフーたん歌う?」

 

「いや、私実は喉がちょっとだけ調子悪くてさ、今日は聴く側に回っているよ。」

 

「ありゃー、それは残念…それなら次は…ライ君歌おう!」

 

「え?僕がか?」

 

「そりゃそうだよー、今日は体験入部なんだし、せっかくだから私と歌おう?」

 

すいせいから誘われて歌うことになってしまった。どうしようか…何を歌うか考えてもいなかった。

 

「ライ君の声はどっちかというと低い方だから、バラードの曲なんか合いそうだけどどうかな?」

 

「実は最近のアーティストはあまり分からなくて…有名なやつなら少し分かると思うが…」

 

「オッケー、ならこの曲はどう?」

 

すいせいが選曲した曲はなんとか僕でも知っている曲だった。流石はすいせい、曲選びも最適だ。

 

曲は男女のアーティストが歌っているもので、それぞれのパートの分け方は簡単だった。

 

「ライ君待ってたにぇ!」

 

「盛り上げは任せてよ!」

 

「2人ともしっかりねー。」

 

みんなの応援もあり僕は歌に集中することにした。隣のすいせいも顔が真剣になっている。

 

歌が始まり、歌詞を見ながら一生懸命に歌った。途中すいせいの歌声に吸い込まれそうになったが、なんとか持ちこたえた。

 

歌に集中していると、いつの間にか歌が終わっていた。みんなの反応を伺おうとしていると、

 

「2人ともうますぎだにぇ!!」

 

「本当だよ!タンバリンを鳴らす暇もなかったよ!」

 

「凄かったねぇ…つい聞き入っちゃったよ…」

 

なんとかみんなに褒めてもらえた。隣ですいせいが息をつきながら、

 

「やったねライ君!ハーイタッチ!!」

 

ハイタッチのポーズをしてきたので、僕も構えるとすいせいが思いっきりハイタッチをし、いい音が鳴り響いた。

 

「ライ君やっぱり歌上手いじゃん!今度違う曲も一緒に歌おうよ!」

 

「所々すいせいがカバーしてくれたから上手く歌えただけさ。でも凄く楽しかった…今度曲を教えてくれたら覚えてみるよ。」

 

「ほんと!?約束だよ!」

 

楽しく歌えたためか、すいせいはテンションが上がっている様子だった。

 

「すいちゃんデートの約束?隅に置けないにぇ…」

 

「ヒューヒュー、お熱いことで。」

 

「ちょ、違うから!!」

 

すいせいは不知建メンバーに揶揄われているようだった。

 

 

 

 

 

そのあとは退出時間いっぱいまでみんなと一緒に歌った。

 

生まれて初めてのカラオケであったが、またこのメンバーで来たいと思った。

 

 

 




体験入部はもう少し続きます。

すいちゃんの歌って、疲れたときや元気がないときに聴くと元気出ますよね…


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体験入部3

9話目です。

すみません活動報告に1週間程休止すると記載しましたが、
PCが治ったため活動を再開します。

自分が機械音痴すぎて本当嫌になります…


あの後カラオケ店から退出をし、僕への街の案内として、日常品などを購入する際に品物の数が多く、値段も手ごろなものを揃えてあるお店を不知建のみんなから紹介してもらえることになった。

 

学園の前にはバス、モノレールなど街に向かう交通手段はたくさんあるようで、交通手段に関しては後日学校から街に向かうときに教えてくれるらしい。

 

カラオケ店から10分ほど歩いたところに、大きなショッピングモールが見えてきた。

客が多くかなり賑わっているようで、店の種類もかなり豊富で、洋服や雑貨などを取り扱っている店が多く、スーパーマーケットやフードコート、ゲームセンターなどの娯楽施設もあるそうだ。

 

「ここはかなり大きな施設だな…一日で探索を終えるのは難しそうだ…」

 

「あはは、流石にこの規模を一日では見て回れないんじゃないかな?でも今日はライ君が生活に必要になるところを案内するつもりだから安心してよ。」

 

僕が圧倒されているとフレアが安心できるよう声をかけてくれた。

 

「それは助かるよ…一人だと迷子になりそうだしな。」

 

「でも迷子になっているライ君も見てみたい気がするにぇ…」

 

「あーでもわかるかも。普段落ち着いているライ君があたふたしてたらどうなるんだろ?」

 

「それだけは勘弁してくれ…!」

 

みことすいせいが良からぬことを考えていたようだったので必死に制止した。

こんな広いところでみんなとはぐれたらもう会える気がしない…

 

「まぁ時間もたくさんあるわけじゃないんで、そろそろ回ります?」

 

「そうだなポルカ。行こう。すぐ行こう。」

 

すいせいたちから逃げるようにポルカの手を引っ張って探索を始めた。

 

「ちょ、ちょっと先輩ぃ!!」

 

「あー、待てぇ!」

 

「逃がさないにぇ!」

 

「ライ君急ぎすぎると迷子になるよー。」

 

僕とポルカの後をすいせいとみこが追いかけてきて、最後尾からフレアが注意をしてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

ショッピングモールの中では雑貨店とスーパーマーケットをみんなに案内してもらった。

案内してもらった店はみんながよく利用している店だけあって、品物の種類や品質が良い物が多く、値段もお手頃だった。

スーパーマーケットはフレアがよく利用しているようで、どの場所にどの食品や、どの調味料があるかを教えてくれた。

 

案内が一通り終わったので、みんなの要望でフードコートでクレープを食べることにした。

 

すいせいがブルーベリークリーム、みこがいちごクリーム、ポルカがハムエッグ、フレアがバナナチョコ、僕は抹茶あずきクリームだ。

 

「うーん、美味しい!」

 

「みんなで放課後に買い食いをする…これも活動の一環だよねー。」

 

「ちょうどお腹空いてたしね~、でもライ君奢ってもらってよかったの?」

 

「ああ、みんなには遊び方も教えてもらったし、街も案内してもらったからそのお礼と思ってくれればいいよ。」

 

「ライ君はできる後輩だにぇ~。みこをもっと敬ってくれてもいいんだよ?」

 

「そうだな。あ、みこ鼻にクリームついてるぞ?ちゃんと拭かないとだめじゃないか。」

 

僕はみこの鼻についたクリームをハンカチで拭ってやった。

 

「…なんでみこは毎回こんな扱いなんだにぇ…」

 

「みこちが先輩風吹かせられるのはもっと先かもね~。」

 

「ぐぬぬ…」

 

「それより先輩のクレープ美味しそうですね?」

 

「僕抹茶が好きなんだけど、これはすごく美味しいな。」

 

「へぇー、あ、そうだ。先輩のクレープ一口もらってもいいですか?ポルカのやつも食べていいんで。」

 

「「「!?」」」

 

ポルカの発言にみんなが驚いているようだった。

 

「もちろん。ポルカのやつの味も気になっていたんだ。」

 

僕はポルカとクレープを交換して食べてみた。

 

「あ、ほんとだ。ポルカあんまり抹茶食べたことないですけど、ほろ苦い味の後に甘味があって美味しいですね!」

 

「ポルカのクレープもいいな。クレープは甘いものか中身が冷たい物しか食べたことがなかったけど、ご飯のおかずのような温かいものも凄く合うな。」

 

ポルカと交換したクレープを返すと残りの3人から、

 

「「「ライ君!」」」

 

「ん?」

 

「「「クレープ交換しよう!!」」」

 

「あ、ああ。」

 

「?」

 

僕とポルカはなぜみんながこんなに勢いよく迫ってきたのかわからなかったが、みんなも僕のやつを食べてみたかったんだろうか…?

 

結局みんなともクレープを交換して、みんなのクレープも食べさせてもらった。

やっぱりフルーツ系のクレープも美味しかったので、また今度来るときは違うのを食べてみることにしよう。

 

 

 

 

 

 

クレープも無事?に食べ終えたため、そろそろ解散することに決めた。

僕とみことポルカは寮(クラブハウス)で暮らしているため学園に。

フレアは学園外で友人含めて4人でシェアハウスをしているようだ。

すいせいはお姉さんと2人暮らしのため、それぞれ別れるつもりだったが、

 

「あっ!そういえば不知建の部室に課題をそのまま置いてきちゃったにぇ…」

 

「えー!みこちまた!?」

 

みこが部室に忘れ物をしたことを思い出したらしい。

その課題は明日の朝提出しないとまずいらしく、どうしても取りに戻らないといけないみたいだ。

 

「もぅ、しょうがないなぁ。部室のカギは部長の私しか持ってないから学園に戻ろっか。」

 

「うう…フーたんごめんにぇ…」

 

「まあまあ、じゃあみんなで戻る?」

 

「うーん、でもすいちゃんは学園からちょっとだけ距離あるから大変じゃない?姉街も帰りが遅くなると心配しそうだし。」

 

「あー、確かに言われるかも…」

 

「でもすいちゃんとフーたん学園外で解散するときっていつも一緒に帰ってるよね?1人で大丈夫?」

 

「まぁ今日くらい1人でも問題ないっしょー。寄り道するつもりもないしさ。」

 

「うーん…」

 

フレアはすいせいが1人で帰るのが心配のようだ。

 

「なら僕がすいせいを家まで送ろうか?」

 

「えっ!?」

 

「ライ君いいの?」

 

「フレアはすいせいが心配みたいだし、僕は自由に動けるから問題ないよ。学園までの道も覚えたし。」

 

まだ遅い時間ではないが少しずつ暗くなってきているので、女の子が1人で帰るのを心配するフレアの気持ちも分かる。

 

「確かにライ先輩と一緒なら安心ですね。」

 

「じゃあライ君お願いしてもいい?」

 

「任せてくれ。すいせいもそれでもいいかい?」

 

「う、うん…ありがと…」

 

「?」

 

すいせいの様子がおかしい…?顔も少し赤いみたいだし、返事も少し歯切れが悪いように感じられた。

 

「ははーん。」

 

みこが何かに気づき、すいせいに何かを耳打ちをしに行ったあとすぐに逃げるように走った。するとすいせいの顔がさらに赤くなり、みこを追いかけようとした。

 

「み、みこち!違うから!!」

 

「またねライ君!すいちゃん頑張るにぇ!!」

 

「あっ、みこち待ってってば!」

 

「そそっかしいなぁ、じゃあライ君すいちゃんをよろしくね!」

 

すいせい以外の不知建メンバーは走り出して、学園に戻って行った。

その場には僕とすいせいだけが取り残された。

 

「まったく…じゃあライ君改めておねがいするね?」

 

「ああ、お姉さんも待っているだろうし早く帰ろう。」

 

僕とすいせいもすいせいの家に向かって歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 




一応体験入部はこれにて終了。

書きながらストーリーを考えているので、時間が少しかかってしまう…


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星街姉街

ついに10話突入。

UA2000突破ありがとうございます!

お気に入りをしてくれる方も増えてきてとても嬉しい…

これからも応援していただけると幸いです。


すいせいを家まで送ることとなり、2人で話をしながら歩いていた。

 

「なるほどね…だからライ君は転校してきたんだね。」

 

「ああ、でもこの学園のみんなといる時は見た目を気にすることがほとんどないから気楽でいいよ。」

 

「確かにライ君はどちらかと言うと目立つ方だとは思うけど、学園のみんなもかなり特徴的な多いからあまり気にならないかもね。」

 

すいせいにまだ僕が転入した理由は話していなかったので伝えておいた。

だがすいせいの言う通り、この学園にやってきてからは人の目線がほとんど気にならなくなっていた。

 

「やっぱり転入初日で、学園やクラス内に事前に友達ができていたことが大きいかもしれない。心にも少し余裕ができていたから。」

 

「あはは、じゃあ私とみこちのおかげなのかな?」

 

「そうだな、あの時すいせいがお姉さんからもらったハンカチを落としてなければここまで関わることがなかったかもしれないしな。」

 

「そっか、じゃあ姉街にも感謝だね。」

 

すいせいと出会いの頃を思い出しながら話していると1つ気になることが思い浮かんだ。

 

「そういえば、すいせいのお姉さんはどんな人なんだ?」

 

「姉街?そうだなぁ…一言でいうと不思議ちゃん?」

 

「不思議ちゃん?」

 

「ぱっと見は普通の人に見えるんだけど、家でよくぬいぐるみと話しているのをよく見かけるよ。」

 

「ぬいぐるみと…」

 

なるほど…確かに不思議だ…

 

「まぁでも、私には優しいし、ご飯も毎日作ってくれるし、遊んでくれるし、たった1人のお姉ちゃんだから大好きだよ?」

 

「そうか…仲がいいんだな。」

 

「たまに喧嘩もするけどねー、そういえばライ君は兄弟とかいるの?」

 

「ああ、妹が1人いるよ。」

 

「あーやっぱり?ライ君は、ザお兄ちゃん!って感じしてるもん。」

 

「そうか?」

 

「ねえねえ、妹ちゃんの写真ないの?」

 

「写真か…そういえばキョウトからトウキョウに引っ越す前に一緒に写真を撮ったような…」

 

僕は携帯の写真フォルダの中から妹との写真を探した。

 

「あった。これだ。」

 

「どれどれー?うわ!めっちゃ可愛い!!」

 

すいせいに僕が妹と目線を合わせるように姿勢を下げ、カメラに向かって映り込んでいる写真を見せた。

 

「目元とかはライ君にそっくりだねー。妹ちゃんは黒髪なんだ?」

 

「ああ、妹は母親似だって周りからよく言われているよ。」

 

「そっかぁ…あれ?妹ちゃんちょっと目が赤くなってる?」

 

「僕がちょうどキョウトからトウキョウに向かうときに撮った写真で、それで妹が寂しくなっちゃったらしくて直前まで泣いてたんだ。」

 

「かわいいなぁ…いつか会わせてくれない??」

 

「近々僕の近況を知るためにトウキョウに行きたい、って言ってたからタイミングが良ければ会えると思うよ。」

 

「ほんと!?来る日決まったら教えてね!予定空けるから!」

 

お互いの家族について話をしていると、すいせいの家のマンションの入り口前まで着いた。

 

「あっという間に着いちゃった…ライ君わざわざ送ってくれてありがとうね?」

 

「いや、こっちも凄く楽しい話ができてよかったよ。じゃあ僕はこれで…」

 

「あっ、ライ君待って!」

 

僕が帰ろうとしたらすいせいに呼び止められた。

 

「ん?なんだい?」

 

「あっ…えっと…」

 

?…すいせいから呼び止められたが、顔を俯いて何かを言い淀んでいるようだった。

 

 

 

 

 

すいせいside

 

何で私ライ君を呼び止めちゃったんだろ…

特に言うことも無いはずなのに…

 

多分さっきみこちが帰り際に耳打ちしたことが原因だと思う…

 

 

(すいちゃん、アタックするならこれがチャンスだよ?)

 

 

あの時みこちが何であんなことを言ったのかがわからない…

別に私はライ君のこと嫌いじゃないし、でも…好きってわけじゃ…

 

「あれ?すいちゃん??」

 

「え?」

 

考え込んでいたら毎日聞き覚えがある声に声を掛けられた。

その声に反応して振り返ると、両手にスーパーの買い物袋を掲げた私と似た顔で、みこちのピンク色の髪よりも色が少し薄いサイドテールの髪型をした私のお姉ちゃんだった。

 

「お、お姉ちゃん?家にいるんじゃなかったの?」

 

「えー?今日はスーパーで買い物してくるから帰りがちょっと遅くなるって朝言ったじゃんー。」

 

…確かに言っていた気がする。

でもまさかライ君と一緒にいるところで鉢合わせするなんて…

 

「あれれ?あなたはー?」

 

「あ、初めまして。皇ライと言います。」

 

「あー!あなたがライ君?すいちゃんからライ君のことは話でよく聞いてるよー?」

 

「!?」

 

「そうなんですか?」

 

「うんうん、最近新しく学園に転入生が入ってきて、その子と仲良くなれたー!って喜んでたんだよー。」

 

「ちょっとお姉ちゃん!余計なこと話さないで!!」

 

お姉ちゃんが暴露を始め出したので急いで止めた。

これ以上余計なことを話させないようにお姉ちゃんをマンションの中に押し込もうとした。

 

「もうーすいちゃん痛いよー。」

 

「いいから家帰るよ!ライ君またね!!」

 

「あ、ああ、また学園で。」

 

「えー、もうライ君帰らせちゃうのー?」

 

お姉ちゃんは何故かライ君と別れるのが嫌みたいだった。

 

「あ!そうだ!」

 

お姉ちゃんは何か思いついたようで、私の元からするりと離れるとライ君の元へ向かった。

正直嫌な予感しかしない…

 

「ねぇライ君?せっかくだからうちで一緒にご飯食べないー?」

 

「「え…?」」

 

 

 

 

 

 

 

お姉ちゃんから爆弾を投下された。

 

 




次回ライ君が星街ハウスにお邪魔します。

姉街ほわほわしてるイメージあるけど喋り方これでいいかな…?


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食事会

11話目。

昨晩投稿しようと思ったら寝落ちしてました…




すいせいside

 

私は今家でシャワーを浴びている…結局あの後…

 

 

 

 

(材料いっぱい買ったし一緒にご飯食べようよ?ね!)

 

(は、はい、ご迷惑でなければ…)

 

(決まりー!さ、いこいこ!)

 

(ちょ、ちょっとお姉ちゃん!)

 

お姉ちゃんはライ君の背中を押しながらマンションに押し込んでいった。

 

 

 

 

 

(ライ君も嫌がってはなかったけど、迷惑じゃなかったかな…というか男の子を家に呼ぶなんて初めてだからどう過ごせばいいか分かんない…)

 

私はシャワーを浴び終えて、髪をドライヤーで乾かして部屋着を着てリビングに向かった。

 

リビングに入るといい匂いがしてきた。お姉ちゃんが作った料理を並べていて、キッチンではライ君が料理をしていた。

 

「いやー、ライ君手際がすごくいいねー。」

 

「普段料理をよくしているからかもしれませんね。でもお姉さんも流石の手際です。」

 

「あはは、何だか男の子にお姉さんって言われると弟が出来た気分になるよ。」

 

ライ君とお姉ちゃんが談笑しながら食事の準備を進めていた。何だかお姉ちゃんが羨ましい…

 

「あ、すいちゃんお風呂終わったー?」

 

「すまないすいせい、準備がもうすぐ終わるからもう少しだけ待ってくれるか?」

 

「あ、うん。何か私も手伝うよ。」

 

「じゃあ食器の準備をお願いしてもいいかい?」

 

私は頷き、ライ君がフライパンで調理をしていたオムライスを乗せる用のお皿を探した。

 

食器がキッチンの後ろの戸棚にあるのでライ君と背中合わせになる形となった。

 

普段学園でしか会わないライ君が家に、しかもすぐ後ろにいることに違和感を感じてしまう。

 

オムライスを盛付ける用のお皿を見つけて、ライ君に手渡したときに手と手が当たってしまった。

 

「っ!!」

 

なんとか表情には出さなかったが、内心驚いてしまった。

いつもと違う状況だからか、普段意識しないところでも意識してしまう…

 

「よし、盛り付けも終わったし、リビングに行こうか。」

 

「う、うん、私お腹空いちゃったよ!」

 

ライ君から声を掛けられてなんとか我に返り、お皿を持ってリビングに向かった。

 

 

 

 

 

ライside

 

すいせい達と食事の準備を終えて、リビングのテーブルの椅子に座った。

テーブルには僕が作ったオムライス、お姉さんに作ってもらったサラダとコーンスープが並んでいる。

 

オムライスのソースは一応トマトソースとデミグラスソースの2種類を用意した。

我ながらソースはいい出来なものを作ることができたと思う。

 

「よし、じゃあ食べよっか!いっただきまーす!」

 

お姉さんの掛け声で食事が始まった。

 

僕はトマトソース、すいせいとお姉さんはデミグラスソースを選んでいた。

 

「んー!このオムライス卵がフワフワで、ソースもコクがあって凄く美味しいよ!」

 

「ほんとだ!お店で食べるオムライスみたいで美味しい!」

 

よかった、何とか2人には好評みたいだった。自分でも食べてみたがいつも通りの味だ。

 

お姉さんが作ってくれたコーンスープも飲んでみた。

 

「このコーンスープも美味しいですね。コーンの甘味がしっかりと出ていて優しい味だ。」

 

「えへへ、それは自信作なんだー、気に入ってくれて嬉しいよ。」

 

すいせいはオムライスを気に入ってくれていたようで、もうすぐ食べ終わりそうな勢いだった。

 

「すいせい、まだチキンライスは残っているからオムライスのおかわりいるかい?」

 

「いるー!!」

 

「…?すいせい、サラダは食べないのか?」

 

すいせいのお皿を見るとサラダに手をつけていないようだった。

 

「…え?何のこと?」

 

…すいせいは僕から目線を外し、そっぽを向いていた。なるほど野菜が嫌いのようだ。ただ、僕はそれを見逃すほど甘くはなく、

 

「…サラダも食べないとオムライスは作らないからね。」

 

「そ、そんな!?ライ君私を殺す気!?」

 

すいせいは椅子から立ち上がり僕の肩を揺さぶってきた。

 

「し、しっかり野菜も食べないとだめだ!」

 

「すいちゃんは玉ねぎ以外の野菜は野菜って認めてないのー!」

 

そう叫ぶすいせいは泣き出しそうな顔をしていた。今までに見たことがないすいせいの表情に何故かドキッと感じてしまった。

 

「それに私だけじゃなくてお姉ちゃんにも注意してよ!」

 

「え?」

 

「あっ…」

 

すいせいに言われてお姉さんの方を見てみると確かにサラダが減っていなかった。

まさか姉妹揃って…

 

「い、いやだなぁすいちゃん、一番最後に食べようとしてただけだよ…」

 

「お姉さん。」

 

「な。なぁにライ君?」

 

「本当に食べますか?」

 

「う、うう…」

 

ダウトだ。星街家はみんな野菜が嫌いなのだろうか…

 

「…2人ともせめてそのお皿にあるサラダを半分は食べてください。それまではオムライスは没収です。」

 

「「そ、そんなぁ…」」

 

こうして星街姉妹への食への教育を始めることにした…

 

 

 

 

 

何とか2人はサラダを食べた。すいせいに至っては半泣き状態になっていたが、流石に野菜も食べないとバランスが悪い。

 

「うう…ライ君食べたよ…」

 

「年下の子に怒られたの初めてかも…お姉ちゃん悲しい…」

 

2人は目の光を失い、呻き声を上げながらお皿の上のサラダを完食していた。

 

「2人ともよく頑張りましたね。おかわりのオムライスもうできてますよ。」

 

「「やったぁ!!」」

 

一瞬で2人の目の光りが戻り、笑顔も戻った。

 

「そ、そんなにオムライスが食べたかったのか?」

 

「だって…ライ君のオムライス凄く美味しかったんだもん…」

 

「嫌いな野菜を我慢して食べる価値はあるよ…」

 

「そ、そうか…」

 

ここまで褒めてもらえるとは思っておらず、少し照れてしまった。

 

「ライ君顔赤いけどどうしたの?」

 

「…何でもないよ。」

 

美味しそうにオムライスを食べ、ほっぺにソースがついたすいせいを見ると笑顔になれた。

 

また今度違う料理も作ってあげようか…

 

 

 

 

 

 




確か船長の動画で星街姉妹が野菜嫌いって話があった気がする…

一旦星街ハウス回は次でラストの予定です。


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契約

12話目

更新頻度が落ちて申し訳ない…

最近仮面ライダーオーズを見直しており、プトティラコンボの無の欲望ってライ君にぴったりだなぁって妄想していました。


夕食を終えてそろそろ学園に帰ろうかと思っていた。

 

「よし、それじゃあ僕はこの辺で…」

 

「えー、ライ君もう帰っちゃうのー?」

 

帰ることを伝えるとお姉さんが残念そうな声を出していた。

 

「一応学園の門限が決まっているので、それまでには戻っておこうかと。」

 

「そっかぁ…門限なら仕方ないね…でもまた遊びに来てね?」

 

「ありがとうございます。是非ご迷惑でなければ。」

 

「あ、ライ君、帰るなら見送るよ。」

 

「ありがとうすいせい。」

 

「私も私もー。」

 

星街姉妹に見送ってもらえることとなり、学園へ戻ることにした。

 

 

 

 

 

すいせいside

 

マンションの下まで降り、ライ君を見送ることにした。

楽しい時間はあっという間で、名残惜しささえ感じている。

 

「じゃあライ君気を付けてね~。」

 

「はい、今日は本当にありがとうございました。」

 

「あっ…」

 

「ん?すいちゃんどうしたの?」

 

まただ…ライ君と離れそうになった時と同じことが起きてしまった…

伝えようと思っていない言葉が勝手に漏れてしまう…

 

「ううん、何でもない…」

 

「…すいせい、もしよかったら僕と少し歩かないか?」

 

「え?」

 

「まだ道を完全に把握してなくて、少しだけ案内をしてもらえるとありがたいんだ。」

 

「え、でも…」

 

ライ君に街を案内したときに道を覚えたって言ってたから、この辺りももう覚えたのかと思っていたけど…

 

「すいちゃん、行っておいでよ?ライ君も困ってるみたいだし。」

 

お姉ちゃんも微笑みながら言ってきた。

 

「…うん、分かった。」

 

 

 

 

 

ライ君の学園までの帰り道を一緒に歩いていた。この辺りは街灯が多く、暗くはないので安全ではある。

 

少し歩いているとライ君が話し出した。

 

「すまないすいせい、僕は1つ嘘をついてしまった。」

 

「え?嘘?」

 

「ああ、道をまだ完全にしていないと言ったが、実はもうほとんど覚えているんだ。」

 

「あー、やっぱり?ちょっとそんな気はしてたんだ。」

 

やっぱり、あのライ君が複雑でないこの道を覚えられなかったというのは違和感があった。でもそうなると1つおかしなことがある。

 

「やはりすいせいには気づかれていたか…」

 

「まぁね、でもどうして嘘ついたの?」

 

付き合いはまだ短いがライ君に下心とかがないのがよくわかる。ただそれを含めても、ライ君が嘘をつく理由がよくわからなかった。

 

「…すいせいが何か言いたそうにしていたからかな?」

 

「え?」

 

「すいせいを家に送って帰ろうとした時と、さっき見送ってもらおうとした時にすいせいが僕に何か言いたそうに感じたから…お姉さんの前とかでは言いづらい内容なのかと思って。言いたくなければ無理には聞かないけど…」

 

「…ライ君は何でもお見通しだね。」

 

流石に私の心の整理もついていない状態なので、この気持ちを伝えるわけにはいかない。でもあのことは話してみてもいいかな…

 

私はライ君より一歩前に出て、夜空を見上げた。

 

「ライ君私ね夢があるんだ。子供のころからずっと大好きだった歌で、世界中のみんなを元気にしたり、幸せな気持ちにしてあげたい…そんな歌に関わる仕事とかを将来やってみたいんだ。」

 

「そうか、でもすいせいの歌には僕や不知建のみんなも元気にしてもらっていたよ。カラオケの時にも言ったけど、本当にすいせいの歌には人の心を動かせる力があると思う。だから僕もすいせいの歌を色んな人に聞いてもらえたらいいなって思っているよ。」

 

不思議とライ君に掛けられる言葉には自分には本当にそんな力があるのかもしれない、というような自信が湧いてくる。

 

「じゃあライ君1つお願いしてもいい?」

 

「?なんだい?」

 

私は身体を振り返し、ライ君の顔をしっかり見て伝えた。

 

「もし、私が他の人の前で歌を披露するために、ステージみたいなところに立つことがあったら、一番近くで私の姿をライ君に見ていてほしいんだ。そして、挫けそうになった時は…私のことをそばで支えてほしい…」

 

気持ちを伝えているときに、言葉を繋げようとして途切れ途切れになってしまったけど、今ライ君に伝えたいことは全て伝えた。

 

「もちろんだ。僕に力になれることであれば何でもするよ。すいせいの夢を応援させてくれ。」

 

私の真っすぐな気持ちに、ライ君も真っすぐな気持ちで答えてくれた。

 

お姉ちゃんや不知建のみんなと同じようにライ君も大事にしていきたい…失いたくないと思ってしまう…

 

伝えた気持ちと心で考えていた恥ずかしさをごまかすように、ライ君に向かって一歩進み、ライ君に正面からもたれかかるように頭をライ君の肩に預けた。ライ君はしっかりと受け止めてくれて、そのままライ君の顔を直接見ずに言葉を紡いだ。

 

「約束…破ったら許さないからね。」

 

「ああ、僕とすいせいの約束…いや、契約だな。」

 

「契約…いいね、それ。」

 

「ああ、僕はすいせいに力を。」

 

「私はライ君に居場所を。」

 

「契約成立だな。」

 

ライ君は微笑み、手を差し出してきた。

私も笑みを浮かべてそれに応じ、手を伸ばし握手をした。

 

夜空の雲が晴れ、星々が2人を照らし出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




契約成立です。

次回以降は学園生活に戻ります。



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生徒会室

13話目

私事ではありますが4年近く付き合っていた彼女と別れることになりました。

彼女の今後の幸せを願うばかりです…


僕がアッシュフォード学園に転入してきて2か月近く経った。

 

学園生活にも慣れてきて、一人でこの広い学園を行動しても道に迷ったりという問題がなくなってきた。

 

「よし、ではここの問題を…皇。」

 

「はい、X=3です。」

 

「よろしい。」

 

「…やっぱライって頭いいんだなぁ…」

 

僕の近くの席にいるスバルが言葉を漏らしていた。

今のところ授業も問題なく着いていけていて、最近はクラスメイトから分からないところをいく質問もされたりしている。

所謂普通の学園生活を送ることができていて毎日が楽しい。

 

以前体験入部をした不知建は結局このまま入部してもいいものなのかと思っていたが、この学園の校則の中にはクラブや委員会などにはいくつ所属してあっても問題はない、という校則があったため、フレア達の後押しもあり、僕は不知火建設の正式なメンバーとなった。

 

不知建のみんなは僕の加入に大いに喜んでくれていた。特にすいせいが嬉しそうにしていたが、何か僕が入っていいことでもあったのだろうか?

今では放課後に用事がない日には不知建の部室に立ち寄ることにしている。

 

体験入部の際にはいなかったもう一人のメンバー、白銀ノエルと知り合うことができた。

フレアと彼女は同じクラスメイトで、以前話していたフレアとシェアハウスをしているメンバーのうちの一人でもあるらしい。

2人はとても仲が良いようで、基本的にはいつも一緒に行動をしていて、僕の気のせいだとは思うが、ノエルがフレアを見ている時の目と他の人を見る時の目が違うように感じられた。まぁ、仲が良いから大切に思っているということなのであろう。

 

 

そんな学園生活を謳歌していたある日、僕とおかゆがクラス当番であったため、クラスの皆の課題を担任の先生に提出するために、放課後2人で職員室に向かっていた。

 

「ライ君ほとんど課題持ってもらっちゃってるけど重くない?」

 

「流石におかゆがこれを持つのは大変だろうし、あんまり重くないから大丈夫だよ。」

 

「ライ君は優しいねー。ありがとう~。」

 

おかゆとはクラスメイトの中で一番仲良くなれた友人でもあり、彼女にもよく学園の案内やお世話をしてもらった。

彼女とは波長が合うのかクラスでもよく話すし、移動教室の際も一緒に行動し、昼食もよくスバルと一緒に食べたりする。彼女は彼女の祖母と一緒に暮らしているらしく、今度スバルと家に遊びに行く約束もしている。

 

 

 

 

 

 

課題を先生に渡し、職員室を出た後そのままおかゆは家に帰るらしく、それぞれ挨拶をして別れた。

 

僕もそのままクラブハウスに戻るか不知建の部室に行くか迷っていたところ、

 

「うーん、前が見えなぁい…」

 

職員室から出てきた生徒から唸り声が聞こえたので振り向くと、かなりの量の書類を抱えた大きな黒い耳と尻尾が特徴な獣人がいた。

 

「ん?ミオさん?」

 

「んぇ?そ、その声はライ君?」

 

以前食堂で知り合った大神ミオさんだった。書類が多すぎるせいで僕の顔が見えていないようだった。

 

「ああ、その書類はどうしたんだい?」

 

「これ生徒会で処理しないといけない書類なの。でもウチ1人じゃ持つのが多すぎたみたいで前が見えないんだよぉ。」

 

書類を持ちながらミオさんがふらついていたので、僕はミオさんが持っている書類を半分受け取った。

 

「前が見えないと危ないよ?僕も運ぶの手伝うよ。」

 

「あ、ありがとう、本当助かるよぉ~。」

 

 

 

 

 

 

 

僕はミオさんと生徒会室まで書類を運ぶこととなった。生徒会室まで続く廊下を2人で歩いているとミオさんに話しかけられた。

 

「そういえばライ君学園には慣れたー?」

 

「そうだね、学園の中に友達ができたし、クラブにも入ったから毎日楽しいよ。」

 

「へー、なんのクラブに入ったの?」

 

「不知火建設だ。」

 

「不知建!?」

 

ミオさんがびっくりした声を出したので僕もびっくりして危うく書類を落としそうになった。

 

「ど、どうしたんだい?」

 

「いや、ライ君が不知建に入るのが意外過ぎて…脅されたりとかしてないよね?」

 

「そんなことはされてないよ。すいせいやフレア達も優しいし。」

 

「フレアはともかく、すいちゃんが優しいのか…ライ君やるねぇ。」

 

「…不知建に入るのはまずいのか?」

 

「うーん、まずいってわけではないけど、よく生徒会室に部費の抗議をしにきたり、噂では生徒会を乗っ取ろうとしているって話をよく聞くから…」

 

「乗っ取り…僕が活動している時はそんな話を聞いていないから、流石にその話は飛躍しすぎていると思うよ?」

 

僕の記憶が正しければそんなことはしていないはずだ。たまに僕以外の皆がサングラスをかけてなにか会議をしているところを見かけていて、よくわからない暗号で話しをしていたが、ただのミーティングだと思う。…おそらく。

 

「ウチの気のせいだったらいいんだけど…あっ、生徒会室に着いたよ。」

 

ミオさんと話しているうちに生徒会室前まで着き、ミオさんと一緒に生徒会室に入室した。

 

生徒会室には僕らが入室する前にすでに、生徒会長の席で書類の整理をしている人物がいて、入室した音に気付いたのか席を立ちあがった。

 

「あやめぇー。新しい書類持ってきたよぉー。」

 

「ミオちゃんありがとう~。…あれ?ライ君も一緒なんだ余?」

 

「やああやめ、久しぶりだね。」

 

僕らの目の前にいるのがこの学園の生徒会長である鬼神、百鬼あやめだ。

以前ミオさんと一緒のタイミングで知り合い、この学園にやってきたことを歓迎してもらった。

 

「ライ君に職員室から書類運んでもらうの手伝ってもらったんだよー。」

 

「そうだったんだ!ライ君ミオちゃんを助けてくれてありがとう!」

 

「少し手伝っただけさ、じゃあ僕はこの辺で失礼するよ。」

 

「あっ、ライ君待って!」

 

書類も運び終えたので、僕はこのまま帰宅しようとしたが、あやめから呼び止められて、

 

「ねえねえライ君、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生徒会に興味ない?」

 

 

 

 

 

予想にもしていない言葉をあやめに投げかけられた。

 




他の生徒会メンバーの中にもホロメンはいます。



投稿頻度ですが、ちょっと仕事のことであったりでメンタル的にしんどい状況が続いているので、最近少し落ち着いています。

以前の頻度に戻したいとは思うので今しばらくお待ちください…


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生徒会室2

14話目

UA4000突破&50お気に入り突破ありがとうございます!

これからもどんどん活動を続けていくのでよろしくお願いします!!



最近ピーマンの肉詰めがマイブームです。


 

生徒会室にミオさんと書類を届けに来たらあやめから生徒会に興味がないか、と声を掛けられた。

 

「生徒会に興味か…全くないわけではないが…どうしてだい?」

 

単純に何故そのような質問をあやめがしてきたことに疑問を持った。

 

「ふっふっふ…実はライ君を生徒会に入れたいとずっと思ってたんだ余!!」

 

あやめは僕の目の前までやってきて、僕の方に指をビシッと刺して質問に答えた。

なるほど、質問の意図は理解した。だが何故僕を生徒会に…?

 

「あー、そういえば初めてライ君に会ったときそんなこと話してたねぇ。でも確かにライ君みたいな優秀な生徒が生徒会にいてくれたら助かるね。」

 

ミオさんは思い出したようにあやめに同調した。

あやめはうんうん、と首を縦に振っていた。

 

「先生からの授業の評価も高いし、体育の授業でも運動抜群!おまけに階段から落ちそうになった生徒を受け止めていたっていう報告も生徒たちから上がっているんだ余!そんな優秀な生徒は是非、我が生徒会に入ってほしいんだ余!」

 

…どうやら僕の行動は思っていたよりも色んな人に見られているみたいだ。

奇異な目ではなく、ただの評価として見てもらえていることはありがたいことではあるが。

 

ただ生徒会は学園の象徴とも呼べる組織ということである。

そんな組織の一員に転入してきたばかりの僕は本当に相応しいのかが不安には残る部分である…

 

「ウチから見てもライ君は生徒の模範になれるような生徒だと思うから、転入したばばかりの部分は気にしなくてもいいと思うよ?」

 

「…少し考えてもいいかい?」

 

「えっ…?」

 

さっきまでウキウキしていたあやめが固まってしまった。

 

「ら、ライ君…生徒会に入ってくれないの…?」

 

よく見るとあやめの目が少し潤んでいる気がする…ま、まずい…

 

「余、余がこの間食堂で意地悪なことしたから…?ライ君、余のこと嫌いになっちゃった…?」

 

あやめは僕の手を取りながら今にも泣き出しそうになってしまっていた。

 

「ち、違う!そんな重要な役目をすぐ了承するわけにもいかないと思って、考える時間がほしいと思っただけなんだ!」

 

必死で弁明をしたが、あやめが泣き止む気配はない…どうすれば…

…やはりあれしかないのか…

 

「…分かった、僕を生徒会に入れてくれ…」

 

「えっ!!ほんと!?」

 

僕が生徒会に加入する意思を伝えた途端、あやめが泣き止みパッと明るい笑顔になった。

 

「やったぁ!!ライ君が生徒会に入ってくれた余!!」

 

…なんだかあやめの策にはまってしまった気がするな…

ミオさんが僕の隣に苦笑いをしながらやってきた。

 

「あはは…ライ君もやられちゃったか。他の生徒会メンバーの子の中にも同じ流れで入った子もいるよ。」

 

「…流石は生徒会長だと思ったよ…あやめのあの交渉力は上に立つ者には必要なのかもしれないね…」

 

あのあやめの泣きそうな顔を見た途端断れる気がしなかった。恐らく今までの交渉においても有利に動いていたに違いない。

ただミオさん曰く、あのあやめの泣き顔は狙ってやっていないらしい。

あやめは将来社長の座に就く方が成功するかもしれないな…

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて、無事ライ君が生徒会に入ってくれたことだし、役職はどうしようかな?」

 

「そうだねぇ、副会長の席は空いているけど、まだちょっと流石に副会長は早すぎるかもねー。」

 

「僕も流石に副会長はちょっと…」

 

「むむむ…今はどの役職が空いているんだっけ?」

 

「今はさっき言った副会長と、書記長、風紀委員長、あと美化委員長の席があいているよ。」

 

ミオさんはすぐさま資料を確認し、どの役職が空いているかを教えてくれた。

 

「あ、でもそれぞれの委員会ではもうすでに、長がいるんだけど、男女で合わせて長を2名まで任命されることになってるんだ。生徒会長だけは1人しか任命されないけどね。」

 

副会長はまだ早すぎる気も僕もしていたから一旦副会長は除外しよう。

そうすると候補に上がってくるのが書記長、風紀委員長、美化委員長だ。

 

「まあ、任命式が行われないとまだ役職を決定することができないし、もうすぐ何人かの生徒会メンバーがやってくると思うから、任命式前に気になった委員会の体験をしてもいいよ?」

 

ミオさんから役職の体験の提案をしてもらった。

どの委員会の体験をしようかと思っていると、生徒会室の扉が開かれる音がした。扉の向こうに振り返ると、2名の生徒がいた。

 

「あやめ先輩、ミオ先輩お疲れ様です!」

 

「こんやっぴー。」

 

1人はグレーのショートヘアの子で、頭に大きな星の形をした髪飾りをしており、背中から天使のような羽が生えている。

もう1人の子は紫のツインテールで、八重歯と腰から生えている鋭い尻尾が特徴的な子だ。

 

「かなたちゃん、トワちお疲れ様だ余~。」

 

「あれ?男の子?」

 

「ほんとだ、でもどこかで見たことがあるような顔のような…?」

 

入室してきた2人が僕に気づいたようだ。この子達も生徒会のメンバーなのだろうか?

 

「2人に紹介するね!今日から生徒会に入ることになった2年生のライ君だ余!仲良くしてあげてね!」

 

「ええっ!!新メンバーだったんですか!?」

 

「これはまたいきなり…あやめちゃんが決めたんでしょ?」

 

「えへへ、ライ君は生徒会に必要な人材だと思ったんだ余~。」

 

2人はそれぞれの反応をしていたが、とりあえず自己紹介をすることにした。

 

「改めて生徒会に加入することになった2-Bの皇ライです。この学園に転入してまだ2ヶ月ほどですがよろしくお願いします。」

 

「あ、初めまして!僕は1-A、天使の天音かなたです!生徒会では美化委員長を担当しています!」

 

「トワも初めましてですね。同じく1-A、悪魔の常闇トワです。トワは風紀委員長を務めてます。」

 

2人ともポルカと同じ1年生のようだ。1年生で生徒会に努めているのは驚いたが、この2人もとても優秀なんだろうな。

そんなことを考えていると常闇さんから声を掛けられた。

 

「あの皇先輩、先輩ってすいちゃんと仲良かったりします?」

 

「すいちゃん…すいせいのことかい?すいせいは確かに友人だが…」

 

「ああやっぱり、じゃあすいちゃんが言っていたのは先輩のことだったんですね。」

 

「すいせいが僕のことを話していたのか?」

 

「はい、よくトワはすいちゃんとよくゲームで一緒に遊んだり、カラオケに行ったりするんですけど、最近転入してきた子と仲良くなれた、ってよく話してくれるんですよ。優しくていい人だから機会があったらトワにも紹介したいって。」

 

すいせいがそんなことを…僕がいないときにそんなことを話してくれるのは嬉しいが何だか恥ずかしいな。

 

「でも確かにすいちゃんが言ってたとおりで優しそうな人で安心しました!是非生徒会で一緒に頑張りましょ!」

 

にしし、と白い歯を見せながら常闇さんが笑った。

…なんだろう、自己紹介の時に悪魔と言っていたからもしかしたら悪い子なのかもしれない、と少しでも思ってしまった自分が情けない…すごくいい子じゃないか…

見た目は確かに悪魔かもしれないが本当は天使なのかもしれない。

 

「お、2人とも仲良さそうだねぇ、ライ君とりあえずトワの風紀委員から体験してみる?」

 

「そうだね、お願いしてもいいかな常闇さん?」

 

「勿論です!トワのことはトワって呼んでください!」

 

「わかったよトワ、僕もライで構わないよ。」

 

「よろしくお願いしますライ先輩!」

 

「ちぇー、僕の美化委員にも来てほしかったなぁ。」

 

「もちろん天音さんの委員にも興味があるから、風紀委員の次にお願いしてもいいかな?」

 

「本当ですか?やったぁ!」

 

こうして僕は生徒会に加入することとなった。

 

慌ただしい日々が始まりそうな気がするが、それもそれで楽しみにしておこう…

 

 

 

 

 

 

 

 




執筆していて作者も少し思いましたが、ホロメンの学年に違和感を感じている方もいるかもしれません…

ただご都合主義のため悪しからず…




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礼拝堂

15話目。

最近暑い日が続いていますが皆様体調には是非お気を付けて…


あやめの(強制)勧誘で僕は生徒会に入ることとなった。

 

入った後はトワと天音さんからそれぞれ委員会の仕事と役割を教えてもらい、2人の委員会をそれぞれ体験してみた。

 

トワの風紀委員は学園内の風紀を取り締まっていて、朝は学園の門の前に立ち、生徒が乱れた服装をしていると注意をしたり、遅刻者を取り締まっていた。

 

ただこの学園の服装への規則はそこまで厳しくないため、ほとんど注意することはなかった。

遅刻者のリストを見せてもらうと、リストの中にみこの名前が入っていたが、そっとリストを閉じ見なかったことにした。

 

委員会を通してトワと話す機会があったが、彼女は悪魔ということもあり見た目で誤解されることがあるらしく、以前は少し自身の見た目にコンプレックスがあったそうだ。

 

トワも僕と同じくあやめに生徒会に勧誘されたようで、最初は乗り気ではなかったそうだが、生徒会の活動を行っていくうちに、彼女自身の真面目さや優しさ、意志の強さを周りに理解をしてもらえたようで、彼女に自信に繋がり、見た目のことも気にしなくなったようだ。

 

僕もトワに自分が転入した理由、コンプレックスの部分を話すと凄く共感をしてくれて、

 

「ライ先輩も生徒会での活動をを通じて、コンプレックスがなくなるといいですね。トワも力になれることがあれば協力します!」

 

と言ってくれた。本当に凄くいい子だった…

僕もトワの力になれることがあれば協力をすることを伝えるととびきりの笑顔で喜んでくれた。

 

 

 

 

 

 

天音さんの美化委員は学園内の環境の美化、清掃用具の管理、そして学園内の花壇やプランターの花のお世話などを行っている。

 

仕事量で見るとかなり多いが、天音さんは背中に生えている羽で飛ぶことができ、移動や作業はかなりスムーズにテキパキできていた。

 

僕も普段から掃除は好きで、委員会の活動を手伝っているときはかなり楽しかった。

 

天音さんとも作業の間話す機会があり、彼女の秘密を1つ教えてもらった。

 

その秘密とは彼女は握力がかなり強いらしい。彼女は恥ずかしがりながら握力測定器で数値を披露をしてくれたが、55.9kgというとんでもない数値が出ていた。

 

僕自身の握力も計ってみたが50kgだったので男性よりも強い握力に凄いと思ってしまった。

 

本人は女性として握力が強いことに不満があるらしく普段はこの握力を隠しているそうだ。

ただ普段の生活では力の加減が難しいらしく、日常品の中でよく壊れてしまうことがあるらしい…

 

 

 

 

 

2人の委員会を経験させてもらったが、結局どの委員会に所属するかはまだ決まっていない。

 

あやめやミオさんからも生徒会に加入はしてもらったが、いきなり決まったことではあるので、委員会は決めるのはゆっくりで構わないし、今のところは生徒会の仕事もたまに手伝いに来てくれればそれでもいいそうだ。

 

一応生徒会に加入することになったことをクラスのおかゆとスバル、不知建のみんなに伝えることにした。

 

おかゆとスバルは応援してくれるようで、あやめとミオさんが困っていたら助けてあげてほしいと言っていた。

 

不知建のみんなはすごくいい笑顔で祝福してくれて、生徒会で何か大事な情報がゲットできたら共有してほしいとフレアに言われた。

みんなが祝福してくれたとき何故かいつも不知建のミーティングで使っているサングラスをメンバー全員が付けていて、僕にもサングラスをプレゼントしてくれた。

 

でもみんなから祝福してもらえるのはとても嬉しかった。フレアに言われた通り何か情報の共有は行っていこうと思う。

 

 

 

 

 

生徒会に加入してから1週間、放課後に僕は学園の体育館の隣にある礼拝堂に立ち寄ろうとしていた。

以前すいせいとみこに学園を案内してもらったときに建物の一部として紹介をしてもらい気になっていた。

礼拝堂の静かな雰囲気が気に入っており、たまに気分をリラックスさせたい時立ち寄ることにしている。

 

僕は礼拝堂の入り口を入ろうとすると中に人がいる気配を感じた。

 

(先客かな…?)

 

礼拝堂の中を確認してみると、中央の主祭壇に2人の人物がいることを確認できた。

 

1人は修道女の格好をした赤髪の女性。もう1人は神父のキャソックと言われる服装と眼鏡をしており、白い髪と頭上の可愛らしいふわふわした耳が特徴で、恐らく女性と思われる。

その2人は僕が礼拝堂に入ったことに気づいたようで、赤髪の修道女が話し始めた。

 

「ああ…神父様、また迷える子羊がこの礼拝堂にやってまいりました…」

 

「そうですねシスターマリン、迷える子羊を救済していきましょう。」

 

迷える子羊…?もしかして僕のことだろうか?

 

「さぁ、迷える子羊よ。あなたが懺悔をしたいことをお聞かせください。あなたが悔い改めることであなたの罪は神に許されることでしょう。」

 

「懺悔?いや特に懺悔をしに来たというわけではないが…」

 

「いえいえ、この礼拝堂に来るということは何か後ろめたいことがあるということです。さぁ、そのご自身の見た目で何人の女性を侍らせてきたのかを懺悔してごらんなさい。」

 

…なんだか無理矢理懺悔をさせられそうな雰囲気になってきているな…

しかし本当に何も思いつかない…僕の悩みでもいいのだろうか?

 

「では懺悔の代わりではないですが、悩みを聞いてもらえますか?」

 

「ええ、何でも聞かせてください。」

 

僕はシスターと神父にこの学園に転入してきたこと、その理由について話をしてみた。

 

「なるほど、あなたはそのご自身の見た目に幼少期の頃からコンプレックスに近い悩みを抱えていて、この学園に転入してきたのですね?」

 

「まぁ周りの目線というところですかね?この学園に来てからはあまりその悩みがなくなってきましたが…」

 

「安心してください、あなたの悩みはご自身の過去の経験から生み出されたものです。それをこれからの生き方で上書きしてばいいだけの話なので、この学園での生活があなたの悩みを解決してくれることでしょう。」

 

神父からはこのようなアドバイスをいただいた。確かに焦っても悩みは解決しないし、少しずつ前に進んでいけばいいのかな…

 

「ありがとうございます。なんだか気持ちがスッキリしました。」

 

「いいのですよ、我々は迷える子羊を救済するのが役目。では今回寄付金として…」

 

シスターが話を進めようとしたとき、礼拝堂の入り口から誰かが入ってきた。

 

「すいませーん、生徒から礼拝堂で変なことをしているって通報が入ったんですけどぉ?」

 

入り口からの声に振り返ると生徒会風紀委員長のトワがいた。

 

「トワ?」

 

「あれ?ライ先輩?」

 

「な、なんの御用ですか?今は迷える子羊の相談に乗っているだけですよ?」

 

シスターは何故か焦っている様子だった。僕の悩みに乗っているだけであったんだが?

 

「ライ先輩こんなところで何してたんですか?」

 

「礼拝堂で心をリラックスさせようと来たんだが、シスターと神父がいて僕の悩みを聞いてもらっていたんだ。」

 

「へぇ…」

 

僕の話を聞いてトワはシスターをじっと見つめていた。

 

「そ、そうですよ!いかがわしいことや怪しいことなどはなにも…」

 

「そういえばライ先輩、このシスターから何か変なこと言われませんでしたか?」

 

「変なこと?…そういえば寄付金って話が出ていた気が。」

 

「ぎ、ぎくぅ!」

 

相談が終わった後に寄付金の話が聞こえていたがあれは何の話だったんだろう…?

僕からの報告を聞くとトワはすごい笑顔になっていた。

 

「よーし船長、ちょーっと話を聞きたいから生徒会室まで来てもらえますか?」

 

「い、いやー、船長って誰のことですかね…神父様逃げましょう!!」

 

シスターは神父がいたところを振り返ったがそこには誰もいなかった。

 

「ああ、神父ならさっき礼拝堂から出て行ってましたよ?」

 

「フブちゃん!?裏切ったのかあいつ!!」

 

「はいはい、とりあえず船長は生徒会室に連行ね。じゃあライ先輩ごゆっくり~。」

 

「あ、ああ。」

 

「待ってトワ様!き、君もたすけてくださぁい!!」

 

シスターは叫びながらトワに首根っこを掴まれて礼拝堂から生徒会室に連行されていった。

 

普段は静かなはずの礼拝堂からは考えられない騒ぎが起きたが、ようやく静けさに包まれた。

やはりこの場所は静かな方が合っているな…

 

しばらくの間礼拝堂の中で目を閉じて心をリラックスさせることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久しぶりの投稿になりました。

最低で週2投稿を目指していきたい所存…


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勉強会

16話目

昨日誕生日を迎えました。

一年が過ぎるのが年々早くなっているように感じています…


いつも通りの学園での授業が終わり、放課後の時間が訪れた。

普段であれば授業が終わればクラブハウスの自室に戻るか、不知建の部室、生徒会室に行く予定がある。

だが今日はクラスメイトのスバルが今日の数学の授業でどうしても分からないところがあるようで、放課後教室に残って教えてほしい、と懇願されたため、スバルへの特別授業を開催しようとしていた。

 

「ライほんとごめんな…スバル今日の授業のちんぷんかんぷんすぎて…」

 

「全然かまわないよ。確かに今日の授業はちょっと難しかったし、僕も復習がてら付き合うよ。」

 

「ありがと…でもなんでおかゆも残ってんの?別に今日の授業躓いてなかったのに。」

 

スバルの席の前に僕が座り、その隣に参加予定ではなかったおかゆがちょこんと座っていた。

 

「いやー、今日は家に帰っても特にすることがないから、2人ともうちょっと一緒にいたかったんだよ~。」

 

「ええ…邪魔すんなよ…?」

 

「だいじょぶだいじょぶ~、多分ほとんど寝てるから~。」

 

「まあ参加人数が多くて悪いことはないし…じゃあおかゆ、僕がスバルに教えている中で捕捉するべきとこがあったら教えてくれるかい?」

 

「オッケー、任せてよ。」

 

こうして僕とおかゆの2人体制でスバルのサポートをすることになった。

 

「じゃあ早速始めようとするか。まずは基礎からおさらいしよう。」

 

「あれ?簡単なところからでいいの?」

 

スバルから疑問の声が上がった。

 

「こういう時って難しい問題をガンガン解いていくのが大事とか思ってたんだけど…」

 

「確かに応用問題を解いていくことは大切だ。でも応用問題も難問もまずは基礎ができていないと解くことが難しいんだ。特に数学は基礎の公式とかの覚え方が間違っていると、そもそも解けないことの方が多いからね。」

 

「なるほど…」

 

「逆に言うと基礎がしっかりと理解ができていれば、どんな問題でもある程度順序立てて解くことができるから、基礎は本当に大事だよ。」

 

「ライが言うと説得力あるな…」

 

「うんうん、本当に先生みたいだね~。」

 

「よし、放課後だからあまり時間もないしそろそろ始めるぞ?」

 

「はい!ライ先生!」

 

こうしてスバルの特訓が始まった。

 

 

 

 

 

「先生!出来ました!!」

 

「どれどれ、採点してみるよ。」

 

授業内容としては、学園の授業と同じ流れで行い、スバルが理解ができなかったところをさらに嚙み砕いて説明をした。

それである程度スバルが理解ができたら、僕が作成した問題をノートに記載させ、解かせる。これを一連の流れとして行っていた。

 

「うん、問1~問3までは正解だ。でも問4だけ惜しいな。」

 

「え、どこどこ?」

 

スバルは勉強が苦手というイメージを持っていたが、飲み込みが早く、要領がいいため勉強を教えることにそこまで手がかからなかった。

現状スバルは基礎の部分はあらかた理解ができており、応用の部分で躓いている、といった状況だ。

ただ、僕とおかゆが教えている感じでは応用も、解き方さえ理解ができればそのうち解けるようになるとは思う。

 

「途中まではちゃんと合っているよ。ただ最後の部分はここの公式を当てはめて…」

 

「ああ!そっか!」

 

「スバルちゃんこの短時間でここまで理解できるなんて覚えるの早いねぇ。」

 

「ああ、成長スピードがかなり速いと思うよ。」

 

「へへへ、でもここまでできるようになったのも2人が教えるの上手いからだって!」

 

僕とおかゆがスバルを褒めると、照れくさそうに笑った。

 

教室の窓から外の様子を見ると、もうすぐ日が暮れそうになっており辺りが若干暗くなってきていた。

 

「よし、じゃあ最後に一通りおさらいをしてお開きにしようか。スバル、あともうひと踏ん張りだ。」

 

「うん!!」

 

 

 

 

 

あれからもう一度今日の振り返りを行い、再度問題をスバルに解かせてみた。

 

「うん、スバル全問正解だ。」

 

「よっしゃあ!!」

 

なんとかスバルは全問正解することができた。

苦手だった問題を克服できたことが嬉しかったようでスバルは喜んでいた。

 

「おめでとうスバルちゃん~、ライ君もお疲れ様~。」

 

「スバルにここまで教えられたのもおかゆのサポートの賜物だよ、分かりやすい言葉でスバルに教えてくれて助かった。」

 

「…2人共ほんとに遅い時間まであんがとな、ここまでスバルに付き合ってくれて…」

 

「ん?何言っているのスバルちゃん?」

 

「え…?」

 

僕とおかゆは顔を見合わせて笑いスバルに伝えた。

 

「「友達なら当然だろ(でしょ)?」」

 

「!…へへっ、そうだよな!友達だもんな!!」

 

スバルはとびきりな笑顔を見せてくれて、今日の勉強会は終了となった。

 

 

 

 

 

僕たちは教室から退室し、それぞれの岐路につくことになった。

 

「2人とも気を付けて帰るんだよ?」

 

「うん、おかゆと家近いから大丈夫だよ。」

 

「そうそう。あ、ライ君前に話したけど僕の家に今度遊びにおいでよ~。」

 

「ああ、近いうちに是非頼むよ。」

 

「えへへ、約束だよ~?」

 

「あっ!じゃあ今度スバルの家にも来てよ!」

 

「分かった。でも今日はもう遅いし、また明日話そうか。」

 

「それもそうだな、じゃあなライ!」

 

「ライ君また明日~。」

 

2人は走りながら学園の門まで向かっていった。

 

「さて、僕もクラブハウスに戻るか…ん?」

 

僕も自室に戻ろうとした時に、誰かの視線を後ろから感じた。

1人だけの視線ではない、複数の視線だ。

確認しようとして後ろを振り返ったが、そこには誰もいなかった。

 

「気のせいか…?」

 

遅い時間の学園に人がいるとも思えなかったので、気のせいと思うことにして自室に戻ることにした。

 

 

 

 

 

「あれが2-Bの皇ライか…」

 

「さっきこっちの視線に気づいてなかった?」

 

「どうなんだろ?たまたまじゃない?」

 

ライが去ったあと複数の人影が現れた。

人影の全員がいつの間にか撮影されていたライの写真を手に持っていた。

「総帥、どうするでござるか?」

 

人影のうちの1人から総帥と呼ばれた人物が前に出て、言葉を発した。

 

「以前トワ様と一緒に学園の前に立っていた男…絶対許さん!」

 

総帥なる人物はライの写真を手で握りつぶし、怒りを露わにしていた…

 

 

 

 




最後の人影…一体何Xなんだ…?

昨日夢にスバルが出てきてこの話が浮かびました。(ネタ提供に感謝…)


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全員集結

17話目。

最近お気に入りをしてくれる方や閲覧してくれている方が増えてきてとても嬉しいです。

気に入っていただけたらお気に入り、高評価を是非お願いします!



そしてこの話で、あることを確定させます。


 

 

「うーん…」

 

「あれー?ライ君悩み事?」

 

「ライが悩み事って珍しいな…」

 

学園での授業間の休憩時間にふと考え事をしているとおかゆとスバルに気づかれた。

 

「いや、悩み事ではないんだが、今朝に不思議なことがあって…」

 

「「不思議なこと??」」

 

僕は2人の言葉に肯定の意味を込めて頷いた。

 

「僕が暮らしているクラブハウスで毎朝クラブハウス内の施設を清掃してくれている人がいるんだけど、僕の部屋は自分で掃除をしているから毎朝僕の部屋のごみの回収だけお願いしているんだ。毎朝部屋の前にごみ袋を置いているんだけど、今日はいつもより遅くなっちゃって…」

 

 

 

 

 

 

今朝

 

(今日はちょっとだけ起きるのが遅くなってしまった…ごみ回収間に合うかな…)

 

いつも通りの部屋の前にごみ袋を置こうと部屋から出ると、

 

「あっ…」

 

「?」

 

部屋の前に見知らぬ可愛らしい小柄な少女がいた。

 

少女はメイドの格好をしており、髪は綺麗なピンク色で長い髪を2つに束ねていた。

見た目からするに僕と同い年か、近い年齢の子であろう。

 

その少女と僕は目が合ったがすぐに視線を外されてしまった。

 

すると少女がとても小さな声で、

 

「ア、アノオ…ゴ、ゴミィ…」

 

「ああ、いつもありがとうございます。」

 

 

恐らくこの少女が毎朝ごみを回収してくれているのであろう、と考えお礼を伝えた。

 

僕は少女に手に持っていたごみ袋を手渡すと少女は受け取り僕に一礼をした。

 

すると少女は凄いスピードで走り出し、その場を立ち去っていった。

 

(風のような子だな…?)

 

取り残された僕はそのようなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「…というようなことがあったんだ。その子は僕を見ているときずっと怯えている気がして、僕は何かしてしまったんだろうか…」

 

「「ああ…」」

 

2人に今朝の出来事を話し終えると2人は何故か納得しているような顔をしていた。

 

「スバルちゃん…」

 

「ああ…多分スバルもおかゆと同じこと考えてると思う…」

 

2人は顔を見合わせて頷いていた。僕だけが状況を把握できていないようだ…

 

「2人とも何か心当たりが?」

 

「うん…多分それあくあのことだと思うよ?」

 

スバルから聞き慣れない名前が出てきた。

 

「あくあ?もしかしてスバルはそのメイドの子と知り合いなのか?」

 

「スバルちゃんだけじゃなくて僕もねー。ライ君が会った女の子は僕たちと同じ学年で2-Cの湊あくあ。あくあは僕やスバルちゃんとも友達で、よく遊んだりしてるよ~。確かこの学園でYAGOOにお願いされたアルバイトとして、清掃や身の回りのお世話をやってるって言ってたよ。」

 

「アルバイトか。だから僕のクラブハウスの清掃もやってくれているのか。」

 

「あくあは料理以外の家事は中々の腕前だからね~。ただあくあはかなり人見知りでね…初対面の人とはうまく話せなかったりするんだけど、悪気があるわけじゃないから今朝のことは許してあげてね~?」

 

「人見知り…そうだったのか。」

 

「まぁ仲が良いやつにはよく喋ったりもするから、今度スバル達と遊ぶときにでも紹介するよ。」

 

「ありがとうスバル。いつもお世話になってるお礼をしたいから頼むよ。」

 

湊あくあ…近いうちにまた会えることができるだろうか…

 

そんなことを考えていたが、まさかその日のうちにまた再開することになるとは今の時点での僕は考えもしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、今日は不知建のみんなと街に遊びに行く予定があったので、街に向かっている。

 

「いやー、メンバーが全員揃うと気持ちいいねぇ。」

 

部長のフレアが感慨深く呟いた。

 

前回はノエルがいなかったが今日は彼女も参加しているので、不知建メンバーが全員揃っている日だ。

 

「みんなこの前はごめんね~。団長が入ってる部活が忙しくてどうしても参加できなくて…ライ君もせっかくの体験入部だったのにごめんねぇ?」

 

「僕は大丈夫だよ。改めてよろしく頼む。」

 

ノエルは不知建に入る前より剣道部に所属しており、そこで部長を努めている。

彼女は普段とても温厚でのんびり屋さんだと言われているが、部活ではかなり動きが俊敏かつ優雅らしい。その動きが聖騎士に見えることから部活内では団長と呼ばれて慕われているようだ。

 

僕も以前剣道を習い事でやっていたことをノエルに伝えると、是非今度部活に遊びにきてほしいと誘ってもらえた。

 

「ねえねえライ君!」

 

ノエルと談笑していると、すいせいが僕の腕を引っ張ってきた。

 

「ライ君、一緒に写真撮りたいんだけど、そのまま正面を向いたまま私と顔の高さを合わせるように屈んでもらってもいい?」

 

「?こうかい?」

 

「はいチーズ!」

 

すいせいの指示に従い屈むと、すいせいが自身のスマホで僕とすいせいの写真を撮った。

 

「えへへ、ありがと!」

 

「別に構わないが、いきなりどうしたんだい?」

 

「ライ君と付き合い長くなってきたけどさ、まだ写真一緒に撮ったことがなかったから欲しいな、って思っちゃって。」

 

確かに写真はこの学園に来る前のIDカード用の写真しか撮っていなかった。

 

僕のスマホにすいせいから今撮ったばかりのツーショットの写真が送られてきた。

すいせいは写真を見て嬉しそうに微笑んでいた。嬉しく感じてくれているなら僕も嬉しくなる。

 

すいせいが写真を見ているところをみことポルカが覗き込むと、

 

「あー!すいちゃんずるい!!」

 

「へへーん、いいでしょ。」

 

「ぐぬぬ…ライ君!みこ達とも撮るにぇ!」

 

「ああ、構わないが…」

 

みことポルカとも写真を撮ろうとしたが、

 

「こらーみこちとポルカー。そんなことやってたら街で遊ぶ時間どんどん無くなっちゃうよ?」

 

先頭を歩いていたフレアに2人は注意されていた。

 

「えー、でも部長…」

 

「みこ達もライ君と写真撮りたいにぇ…」

 

2人は口を尖らせてフレアに抗議していた。フレアも2人の気持ちを汲み取ってあげたいと思っているようで何か案を考えているようだった。

 

「うーん、そうだなぁ…あっ、じゃあさ!今日はゲーセンで遊んで、その終わりに不知建メンバー全員でプリクラ撮るってのはどうかな?」

 

「「おお!」」

 

フレアの案に2人は満足したようで、そのまま僕の方に振り返りみことポルカに手を引っ張られた。

 

「ライ君ゲーセンに急ぐにぇ!」

 

「ライ先輩早くしないと時間なくなっちゃいますよ!」

 

「はいはい…2人とも急いで転ばないようにね。」

 

僕は2人に引っ張られながらも、この状況が楽しいと感じていた。

 

時間は有限のため、僕たちは急いで街に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

すいせいside

 

「あはは、なにやってんのみこち達。」

 

「ライ君も随分不知建に馴染んできたね…ノエちゃん?何やってんの?」

 

「ライ君達が手を繋いでるの見てると団長もフレアと手繋ぎたいなぁ、って思っちゃって。」

 

「はぁ…ちょっとだけだよ。」

 

「うへへ、フレアぁ…」

 

「ごめんやっぱりやめとくわ。」

 

「フレア?!そんなのあんまりだよぉ…あびゃびゃびゃ…」

 

「ノエルまた脳が破壊されちゃってるよ…いいのふーたん?」

 

「まぁそのうち元に戻るって…それよりすいちゃんさぁ…」

 

ふーたんが言葉をそこで区切って私に耳打ちしてきた。

 

「すいちゃん、ライ君のこと好きでしょ?」

 

「!!…うん、好きだよ。」

 

やっぱりふーたんにはバレてたか…

 

以前ライ君と約束…いや、契約だ。あの日以降からライ君に惹かれて、長い時間を過ごしてきた今、私はライ君に恋をしてしまっている。

ライ君には私のこの気持ちのことを今すぐ伝える予定はない。

 

ただ今は不知建のみんなとライ君といるこの時間を大事にしたいから…

 

みこちに似たようなことを言われたときにも感じたが、改めて他人から言われると恥ずかしい気がする…

 

「ふふふ、そっかそっかぁ…青春ですなぁ…」

 

「でもこのことライ君には言わないでね?」

 

「もちろんだよ。不知建の部長の名に懸けて言いません。」

 

「ふーたんだからそこは信頼してるけどね…あ、ノエルにも聞かれてたんだ…」

 

「大丈夫大丈夫、ノエちゃん今脳が破壊されてる状態だから聞こえてないよ。」

 

「あびゃびゃびゃ…」

 

「ならいっか…あっ!みこち達もうあんな遠くまで!」

 

「ほんとだ、私たちも急ごう!」

 

「すいちゃん、応援してるからね。」

 

「…ありがと。」

 

その言葉を皮切りにふーたんと一緒にノエルの手を引いてライ君達を追いかけるように走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回まで続きます。


すいちゃんをライ君好きルートに確定させました。


すいちゃんを攻略するのってRPGとかの裏ボス並みに難しそうですよね…


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銀狼

18話目。

昨日初めての感想をいただき、とてもウキウキしていました…笑

是非楽しんでいただけたら引き続き高評価や感想をお願い致します!


 

あれから不知建メンバー全員で街の中のゲームセンターに辿り着いた。

 

トウキョウ租界の中でもかなり大きな規模のゲームセンターのようで、メンバーの皆や学園の生徒もよくここを利用するみたいだ。

 

「ゲームセンターか…僕こういうところ初めて来たんだけど、どんなゲームがあるんだ?」

 

「「「「「ええっ!?」」」」」

 

僕の何気ない発言で不知建の皆が驚いた顔で僕の方に振り向いた。

 

「ライ君…ゲーセン来たことないの?」

 

フレアが恐る恐る質問をしてきた。

 

「ああ、前の学校では友達と帰ったりとかしていなかったから…この間皆と行ったカラオケも初めてだったんだ。」

 

僕の話を聞くとみこが僕の目をじっと見つめていた。

 

「ライ君…」

 

「な、なんだ?」

 

「さっきのすいちゃんの時みたいに屈むにぇ。」

 

「?」

 

みこの指示に従い少し屈むと、みこに頭を撫でられた。

 

「ライ君…辛かったんだにぇ…」

 

「ライ先輩…ポルカ達が傍にいますからね?」

 

ポルカにも頭を撫でられた。

 

…何故か2人に憐れな目で見られている気がする…

 

すいせいとノエルからも、

 

「ライ君いっぱい思いで作ろうね…?」

 

「団長がギュってしてあげようか?」

 

という僕が可哀想な人間であるかのような反応をされた…

 

段々と僕はいたたまれない気持ちになり、その場から走り出した。

 

「あっ!ライ君!?」

 

「ま、待つんだにぇ!!」

 

誰も僕を探さないでくれ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後すいせいとフレアが僕に追いつき、2人に腕を掴まれながらゲームセンター入り口前に戻ることとなった。

 

何とか落ち着きを取り戻し、思わず錯乱してしまったことを皆に謝罪をして入店をした。

 

店の中には様々な施設があり、モニターに表示されている映像を元に遊ぶビデオゲーム((格闘ゲーム、ガンシューティングゲーム、音楽ゲーム、レースゲーム)、

 

景品をクレーンやレバーなどで掴んで獲得するクレーンゲーム、

 

インスタント写真を撮影し、それを印刷したシールを製造するプリクラなど、

多くの娯楽施設で溢れていた。

 

各自で好きなゲームを楽しんで、最後に皆でプリクラを撮ろうという話になったので、一旦解散という形になった。

 

僕は初めてなので、皆が遊んでいる様子を見て遊ぶものを決めようと思う。

 

と、思っていたが解散した後すいせいだけ僕と同じ場所に残っていた。

 

「あれ?すいせいは遊びに行かないのかい?」

 

「いやー、遊ぼうかなとは思ってたんだけどライ君ゲーセン初めてなんでしょ?一緒に回った方が色々ゲームの紹介してあげれるからライ君も選びやすいかなぁって思ってさ。」

 

「それは助かるよ、ありがとうすいせい。」

 

すいせいは困ったときなどすぐに手を差し伸べてくれる。僕もすいせいが困ったときは力になりたいが、この学園にいる間はまだ先のようだ…

 

「ううん、…ライ君一個お願いがあるんだけどさ、ゲーセンを回る時だけ手繋いでもいい?」

 

「手を?」

 

「ほ、ほら!ここかなり広いからさ!結構逸れちゃったりすることが多いから!」

 

「なるほど、確かにここは広いから迷子になりそうだな…」

 

ここで逸れてしまうと時間のロスにも繋がってしまうかもしれない。

ここはすいせいの提案に乗ることにした。

 

「じゃあ行こうか、すいせい。」

 

すいせいに向けて手を差し出した。

 

「うん!」

 

すいせいも僕の差し出した手を伸ばし、手を繋いだ。

 

すいせいの手は暖かく、女の子特有の指の細さ、柔らかさがあった。

 

「えへへ…」

 

すいせいは僕の顔を見て恥ずかしそうにしながら微笑んでくれた。

 

すいせいの嬉しそうな顔を見てると僕も嬉しくなる。僕もすいせいに笑顔で返した。

 

 

 

 

 

 

すいせいと2人で店内を回っていると、クレーンゲームのコーナーに着いた。

 

すいせい曰くクレーンを操作をして景品をゲットする、というシンプルなゲーム内容だった。

 

辺りを見渡すと大きなぬいぐるみやお菓子などが景品となっているようで、一旦ここで遊んでみることにした。

 

僕はどの景品の台がいいか探していると、大きな狼のぬいぐるみが陳列してる台を発見した。

 

狼の色はシルバーで、僕の髪色と同じ色ということもあって少し興味が出た。

 

「ライ君いい台見つけたー?」

 

すいせいも台を探していたようで、僕がこの台に興味があることを伝えると頷いた。

 

「狼かっこいいじゃん!でもこの狼なんだかライ君に似てるよね?」

 

「ああ、僕の髪と一緒の色をしているからな。僕もちょっと興味があるんだ。」

 

「確かに髪色とも似てるけど、顔もちょっと似てない?かっこいいけど優しい目をしてるところとかさ。」

 

「顔も?そうかな?」

 

「ねえねえ、せっかくだしやってみようよ!」

 

すいせいの一押しもあり、僕はこのクレーンゲームで遊んでみることにした。

 

ルールや動かし方はすいせいに教えてもらい理解はできたので、問題はないと思う。

 

僕は台にお金を入れてレバーでクレーンを操作した。

 

狼の位置とクレーンの位置をしっかり確認し、僕はボタンを押した。

 

クレーンは狼に向かって下がっていき、アームが胴体の部分をしっかりと掴んだ。

 

そのままクレーンが狼を持ち上げて、景品の取り出し口まで運び、アームが開かれ狼をゲットすることができた。

 

「ええ!?ライ君一発ゲットってすごいじゃん!!」

 

「たまたまだよ、すいせいの教えが良かったのかもしれないな。」

 

取り出し口の狼を手に取ってみると、見た目よりも大きく感じられた。

手触りも柔らかく、抱き心地も凄くいい。

 

「ライ君写真撮るからその子抱いたままこっち向いてー?」

 

すいせいはスマホを構えて僕とぬいぐるみの写真を撮ってくれた。

 

「うん!いい感じ!ねえライ君、私もその子抱っこしてみてもいい?」

 

「もちろん。」

 

僕は抱えていたぬいぐるみをすいせいに渡した。

 

すいせいも僕と同じようにぬいぐるみを抱きしめていた。

 

「うわぁ!すっごいフワフワ!めっちゃ抱き心地いいねぇ…」

 

すいせいは抱きしめながらすごく満足そうな顔をしていた。

 

ぬいぐるみを正面から見つめ微笑んでいて、気に入っているようだった。

 

その姿を見た僕はある提案をした。

 

「すいせい…よかったらそのぬいぐるみもらってくれないか?」

 

「え?」

 

「ゲームを教えてくれたのはすいせいだし、すいせいもそのぬいぐるみを気に入っているみたいだからどうかなって。」

 

「ほんとにこの子もらっちゃってもいいの…?」

 

「ああ、すいせいがそれで喜んでくれるなら僕も嬉しい。」

 

すいせいは僕の提案に驚いているようだったが、嬉しそうにもしていた。

 

「…じゃあありがたくいただくね、ありがとうライ君!」

 

ぬいぐるみを抱きかかえながらすいせいは笑顔を見せてくれた。

 

最近すいせいが笑顔を見せてくれると僕は嬉しく感じることが多い。

 

僕はすいせいの笑顔を見るのが好きなのかもしれないな…

 

 

 

 

 

 

 

 

すいせいと他のクレーンゲームのコーナーを探索していると、ポルカとみこを発見した。

 

ポルカは大きな猫のぬいぐるみを持っており、みこも同じぬいぐるみをゲットしようと試みているようであった。

 

「ぐぬぬ…全然取れる気がしないにぇ…」

 

「みこち違うやつにしたら?結構お金使っちゃってるでしょ?」

 

「でも!みこもこの猫ちゃんが欲しいもん!」

 

「みこちまたやってんのー?」

 

「ん?すいちゃんとライ君?…あっ!!すいちゃんそのぬいぐるみ!」

 

「へっへー、いいでしょー。」

 

みこは僕がすいせいに渡したぬいぐるみを見て羨ましがっているようだった。

 

「…みこはぬいぐるみが取れなくて苦労しているのに…ポルポルもすいちゃんもずるいにぇ!」

 

「ポルカ3回目でこの子取れちゃったからなぁ…」

 

確かにみこだけぬいぐるみが取れないのは可哀想な気がする…

 

「頭はアームで掴めるけど、取り出し口に運ぶまでに落ちちゃうんだにぇ…」

 

みこがプレイしていた台を見ると、大きな猫のぬいぐるみが陳列されており、僕が見た限りだともう少しで取れそうな気がしていた。

 

「みこ、今度は頭じゃなくて胴体を掴んでみらどうだい?」

 

「にぇ?胴体?」

 

みこは不思議そうな顔をしながらも、僕の言ったとおりに操作をした。

 

すると、アームがしっかりと固定されたようでそのまま取り出し口までぬいぐるみを運ぶことができていた。

 

「やったぁぁぁ!取れたにぇ!!」

 

「みこちやったじゃん!ポルカとお揃いだね!」

 

みこちとポルカは互いに喜び合っていた。

 

「ライ君教えてくれてありがとにぇ!」

 

「どういたしまして、みこ他にお勧めなゲームはないか?」

 

「そうだにぇ…あっち側にゾンビを倒すシューティングゲームがあるんだけど、みこ的には面白かったからお勧めだにぇ。」

 

「あー、あっち側のやつね。ししろんも…あ、ポルカの友達もそのゲーム好きですよ。」

 

みことポルカのお勧めのゲームを教えてもらい、次はそちらに向かうことにした。

 

「ありがとう、教えてもらったゲームもやってみるよ。」

 

「みこ達はもうちょっとここら辺で遊んでおくにぇ。」

 

「そのあとふーたんとノエルも探さなきゃね。」

 

「僕たちもそれが終わったら合流するよ。」

 

「みこちとポルカ、後でぬいぐるみ持って写真撮ろうよ~。」

 

「撮る撮る~!」

 

「じゃあまたあとでにぇ~。」

 

一旦みことポルカと別れた。

 

「ライ君行こっか?」

 

「ああ。」

 

僕とすいせいはまた手を繋ぎ直し次のゲームの場所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ごめんなさい前回後1話と言いましたがもう1話続きます。


今日のおかゆんのメン限配信で脳が破壊されました。


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遊戯女王

19話目。

1話のUAが1000を超えました。

引き続きこの作品を楽しんでくれる人が増えてくれると幸いです。


 

すいせいと手を繋いだままみこ達にお勧めされたゲームコーナーに向かっていた。

 

僕はすいせいの手を柔らかいと感じていたが、すいせいも何か感じていたようだ。

 

「ライ君って身体細いのに手がっしりしておっきいよねー。」

 

「そうかな?すいせいの手は細くて柔らかいね。」

 

「ちょ、なんか恥ずかしいからその発言やめて!」

 

そんなことを話しながら歩いていると、目的のゲームの近くまで着いた。

 

みこ達も言っていたようにかなり人気があるゾンビを倒すガンシューティングゲームらしく、すでに先客の女の子が遊んでいた。

 

その子は僕たちと同じ学園の制服を着ており、その制服の上からパーカーを着て、キャップを被っており、さらにそのキャップの上にパーカーに付属しているフードを被っていて、顔はこちらからはよく見えなかった。

 

プレイを観察していると、ゾンビを倒した数や銃の弾を当てた箇所、自身が生き残っているタイムをポイントとして計上していき、ランキングを競っていく、というようなゲーム形式だ。

 

その子は襲ってくるゾンビの群れを的確に頭を撃ち抜いて倒し、全てのゾンビを倒し尽くしていた。

 

「凄いな…」

 

僕はその子のプレイを見て感心していると、すいせいは首を傾げていた。

 

「…なーんかあの格好と後ろ姿見覚えがある気がするんだよなぁ…」

 

プレイが終わりそのゲームの前から移動し、その子が僕らの方向に向かって歩いてきていた。

 

ちょうど正面から来ていてすれ違いそうになったが、

 

「ああっ!!」

 

すいせいがその子を指さし大きな声を上げた。

 

その子はビクッと驚き、その拍子で被っていたフードが外れた。

 

「君は…」

 

フードを被っていて気づかなかったが、フードが外れたことにより綺麗なピンクの髪が見え、顔もハッキリと見えた。

 

そう、その子の正体は僕が朝クラブハウスで出会った少女、湊あくあであった。

 

「あくたーん!!」

 

すいせいは湊さんの名前を呼び抱き着いていた。

 

「ス、スイチャン…」

 

やはりおかゆ達が言っていたように彼女は極度の人見知りらしい。

 

すいせいが抱き着いたことによってどうしたらいいか分からない、というように困惑しているようだった。

 

ただ、すいせいの反応を見る限り、恐らく仲がいい関係ではあると思う。

 

「あっくたーん!こんなところで会うなんて奇遇~。ゲームして遊んでたの?」

 

「ウ、ウン…」

 

「そうだよねー!あくたんゲーム大好きだもんね!」

 

「ウン…」

 

「ねえねえあくたん!この辺りに新しいハンバーガーショップできたから今度一緒に食べにこうよ!」

 

「ウン…タベル…」

 

「やったぁ!日程とかは電話するから2人で決めようね??」

 

「ウン…」

 

…仲がいいとは思う…

 

見た限りではすいせいが湊さんを圧倒しているように見えるが、2人のコミュニケーションの取り方であると信じたい…

 

すいせいは満足したのか。僕の方に振り返り湊さんを引っ張ってきた。

 

「ライ君紹介するね!私の友達の湊あくあ!あくたんっていうの!めっちゃくちゃゲームが上手な女の子で、すっごく可愛いの!!」

 

「アッ…」

 

すいせいが僕に湊さんの紹介をしてくれたが、僕は彼女を知っていた。

 

湊さんも僕の顔を見て思い出してくれたようだ。

 

「…こんにちは湊さん、今朝以来だね。」

 

僕は湊さんに挨拶をすると彼女は首を縦に何度も降ってくれた。

 

「あれ?ライ君あくたんのこと知ってるの?」

 

「ああ、実は…」

 

僕はすいせいに今朝の経緯を説明した。

 

「なるほどねー、確かにあくたんクラブハウスのバイトやってるって言ってたよね?」

 

「うん…」

 

湊さんの声が少し大きくなってきた。少し慣れてきたのだろうか?

 

そして僕は湊さんに伝えたいことを思い出し、彼女の顔を見つめて伝えた。

 

「湊さん…いつもクラブハウスの清掃や僕のごみ袋の処理とかしてくれてありがとう。おかげでいつも不都合なく過ごせているよ。」

 

僕からの日頃のお礼を伝えると、湊さんも僕の顔を見て話してくれた。

 

「ううん…ライ君いつも綺麗に使ってくれているし、ごみの量も多くないから特に苦労してないよ…?」

 

たどたどしいが何とか湊さんと会話ができ、お礼を伝えることができた。

 

するとすいせいからある提案が出た。

 

「ねえねえ、せっかくだしさ3人で遊ばない?」

 

確かに、この機会に是非湊さんとも仲良くなりたい。

 

「そうだね、湊さんはどう?」

 

「うん、遊びたい。あと、ライ君…」

 

「?」

 

「あくあでいいよ…?」

 

そう言った後彼女は顔を赤らめてうつむいた。

 

僕とすいせいは彼女の様子を見た後、顔を見合わせて互いに微笑んだ。

 

彼女は人見知りではあるが、とても優しい心の持ち主であるのだと感じた。

 

この調子だとすぐ仲良くなれそうだ…

 

 

 

 

 

 

その後3人で先程のガンシューティングゲームで遊んだ。

 

あくあはすいせいの言う通りゲームの腕もよく、ゲームに関する知識も多く持ち合わせていて、初心者の僕でも楽しめるようにゲームに関してのアドバイスもしてくれた。

 

1度目は動作やルールの確認をあくあとしながらプレイしていたので、スコアは伸びなかったが、2度目では的確にゾンビを撃ち抜いたり、立ち回りを理解ができていたので、スコアがかなり伸び、今までこのゲームをプレイした人のランキングの中で10位に食い込むことができた。

 

ランキングを見ていると同じ名前の人が記載されており、よく見ると

 

AqukinnMaster

 

と言う名前が10位以上のランキングに全て記載されていた。

 

AqukinnMasterという名前はあくあがゲームで遊ぶ際のユーザーネームらしく、このゲーム以外のゲームのランキングにも名前が載っているようだった。

 

あくあは自分が好きなもののことを話すことは好きなようで、僕にいっぱい話しかけてくれた。

 

すいせいは僕があくあに教えてもらっている間も黄色い悲鳴を上げながらあくあに話しかけていた。

 

先程のようにすいせいが一方的に話していてもあくあは頑張って受け答えをしていた。

 

あくあ曰く、すいせいはいつもいっぱい話しかけてくれて、コミュニケーションを取ろうとしてくれるのは嬉しいらしい。

 

上手く返せないときもあるようだが、すいせいもちゃんとあくあが話すのを待ってあげているようで実はあくあとしても話しやすいそうだ。

 

すいせいとあくあはゲームセンター以外でもパソコンや家庭用ゲーム機で遊んでいるらしく、そこに生徒会のトワを加えて3人で遊んでいるようで、今度僕も遊びに加えたいとあくあから誘ってもらった。

 

あくあから見ると僕はゲームのセンスがあるとのことで、他のゲームでも遊んでみたいと言ってくれたので喜んで了承した。

 

この後に不知建のみんなとプリクラを撮るので誘ってみたらそれは恥ずかしいようで、逃げるようにして帰っていった。

 

次に彼女と遊ぶのが楽しみだ…

 

 

 

 

 

 

 

あくあと別れ僕とすいせいは不知建の皆とプリクラを撮るためにプリクラコーナーに向かっていた。

 

既に他のメンバーは集合しており、僕たちを待っていたようだった。

 

「すいちゃんライ君遅い~!」

 

部長のフレアに注意をされてしまった。

 

「すまない…ゲームセンターが初めてだったものだったからいっぱい遊んでしまったよ。」

 

「まぁライ君がゲーセンの良さを知れたということでいいんじゃない?」

 

怒られていた僕たちにノエルが助け舟を出してくれた。

 

「そういえばノエルとフレアはどこで遊んでいたんだ?」

 

僕の質問にノエルは満面の笑みを浮かべ、フレアは少し疲れているような顔をしていた。

 

「団長とフレアはねぇ…ずっとプリクラを撮ってたの!」

 

そう言ったノエルは大量の写真を取り出した。

 

「ノエちゃんずっと開放してくれなくて…疲れちゃったよ。」

 

フレアはそう言いつつも嫌な顔はしていなかった。やっぱり2人はとても仲がいいな…

 

「すいちゃんはあれからライ君とずっとデートだったにぇ?」

 

「…みこちー?何か言ったー?」

 

「…なんでもありません…」

 

みことすいせいも仲良く話しているようだった。みこの顔が引きつっているように見えるのは気のせいだろう。

 

「ねえねえ、皆早く撮ろうよ~。」

 

ポルカが痺れを切らしたようで、皆をせかしてきた。

 

フレアもポルカに同調し、皆に向かって声を掛けた。

 

「そうだねぇ、時間もなくなってきたしそろそろ撮ろっか?」

 

「「「「はぁーい。」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すいせいside

 

プリクラを不知建のみんなと撮り終わって、解散して家に帰宅した。

 

私の部屋にはお姉ちゃんの部屋ほどではないがぬいぐるみを飾っている。

 

そして今日ライ君からもらった狼のぬいぐるみが仲間に加わった。

 

今はそのぬいぐるみを持ち上げて正面から見つめている。

 

この子を見つめているとライ君からもらった時の嬉しさを思い出して顔が緩んでしまう。

 

「えへへ…嬉しいなぁ…」

 

ライ君から…好きな人から初めてもらったプレゼント。

 

ライ君にその気がないと分かっていても嬉しいものは嬉しい。

 

私は狼のぬいぐるみを胸元に抱きしめた。

 

(今はライ君に気持ちを伝えはしないけどいつかは…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ほぼほぼすいちゃんとライ君のデート話になってましたね。

朴念仁のライ君も気づいてほしいなぁ…


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図書館

20話目。

最近高評価やお気に入りをしてくれる方がどんどん増えてきてくれていてとても嬉しいです。


最近の悩みはサブタイトルが適当に決めすぎて困っています…


 

いつも騒がしい学園は今日は休日。

 

クラブ活動をしている生徒はグラウンドを走っていたり、校舎にいるが授業がある日に比べるとその数は少ない。

 

いつもの騒がしい雰囲気も好きだが、物静かな雰囲気も僕は好きだ。

 

そんな僕は最近予定がない日は学園のある場所に立ち寄っている。

 

「さて、今日は何の本を読もうかな?」

 

そう、僕が普段暮らしているクラブハウス内の図書室だ。

 

僕は読書が好きで、小さなころから小説、図鑑、専門書など様々な書籍を読み漁ってきた。

 

本は自分が知らないこと、考え方などを広げてくれる。

 

作者によって様々な表現の仕方があるので、そんな発見をするのも楽しみでもある。

 

休日のため図書室を利用する生徒は多くはないが、この図書室には漫画や雑誌も置いてあるので、寮生活をしている生徒などは利用している姿が見受けられる。

 

以前みこが漫画を読むために利用をしているのを見かけたことがあり、漫画を読んで爆笑していたところを窓口の人に注意されて涙目になっているのを見かけた。

 

当たり前だが、図書室では静かにしよう。

 

僕は気になった小説を2冊選んで手に取り、読むための席を探していた。

 

僕がよく利用するのは図書室の奥の窓際の席であるが、生憎先客がいて、利用することができなかった。

 

使えないものは仕方なく、その隣の席を利用することにした。

 

僕は席に着き、本を読み始めようとした。

 

(?)

 

僕は視線を感じ、隣の席に視線を移した。

 

そこにはライトブルーの長髪でウェーブがかかっており、白い花飾りが特徴で綺麗な黄色い目をした女の子がいた。

 

耳が人間よりも長いため恐らくエルフだろうか…?

 

その子はずっと僕の目をじーっと見つめていた。

 

気になってしまった僕は声をかけてしまった。

 

「あの、僕に何か?」

 

その言葉でその子はハッとなり、

 

「ご、ごめんなさい!」

 

僕に謝罪をし、そのまま読書を再開したようだった。

 

僕は不思議に思いながらも気にしないようにし、読書を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3時間ほどで読み終えたところで、また別の本を探しに行こうかと思ったときに僕のスマホに着信が入った。

 

連絡相手はあやめであった。

 

内容は生徒会メンバーで街に出て喫茶店でお茶会をするようでそこに参加しないか、というお誘いだった。

 

特に断る理由もなかったので、参加する意思をあやめに伝えて、席を立ち上がり、図書室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

???side

 

隣に座っていた男子が図書室を後にしていく…

 

でもあれは間違いない…10年ぶりに再会することには思わなかったけど…

 

「ライ君…この学園にいたなんて…」

 

声をかければよかったと後悔をしているが、先程はライ君を見過ぎてしまい彼に怪しまれてしまっている可能性があったのでそれはできなかった。

 

ライ君は私のことは覚えていないかもしれない…でもそれでもかまわない。

 

次に会ったときは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

制服から私服に着替えて学園前のモノレールに乗り、街に到着した。

 

あやめに教えてもらった喫茶店の前まで着くと、その店の前にトワが立っていた。

 

「あっ、ライ先輩!」

 

「やあ、トワ。」

 

トワも今日は制服ではなく、ガーリー系の女の子らしい私服で来ていた。

 

「?ライ先輩?どうしました?」

 

「いや、トワの私服を初めて見たなって思って。」

 

「あ、確かに…どうです?」

 

「よく似合ってる、可愛いよ。」

 

「えへへ、ありがとうございます!!」

 

トワは照れ臭そうに笑っていた。

 

トワに聞くと今いるのは僕たちだけで、あやめたちは道が混んでいるようで10分ほど遅れているそうだ。

 

外で待つのも退屈なので、先に喫茶店の中で待っていることにした。

 

トワ曰く、ここの喫茶店で提供されるデザートはすごく人気らしく、生徒会メンバーでよく集まったりしているらしい。

 

デザートは皆が来てから決めるということで、先に飲み物を頼んで待つことにし、僕はコーヒー、トワは紅茶にした。

 

生徒会の皆を待つ間にトワと飲み物を飲みながら雑談することにした。

 

「そういえばライ先輩、この間あくたんと会ったんですよね?」

 

「ああ、不知建の皆とゲームセンターに行ったときにたまたまね。」

 

「この間すいちゃんとあくたんとゲームしてるときにその話が出たんですよ~。3人で遊んでていいなぁって思っちゃって…」

 

そういうトワは少し拗ねているような寂しいような顔をしていた。

 

「トワもライ先輩と一緒に遊びたいです…だめですか?」

 

「ダメなわけないよ。あくあたちからトワもよく一緒に遊んでるって話を聞いたから今度4人でゲームしようって約束したんだ。」

 

「本当ですか!?」

 

この前あくあとすいせいと話した内容を伝えるとトワの顔が明るくなった。

 

「それで今日はその件でトワにお願いがあって…」

 

「トワに?何ですか?」

 

「僕皆で遊ぶ用のゲーム機やPCを持っていなくてさ…2人はトワが結構詳しいって言っていたから、今度PC選びとかを手伝ってくれないか?」

 

「!!勿論です!トワに任せてください!!」

 

「ありがとうトワ。」

 

いきなりのお願いにもかかわらず、トワは快く引き受けてくれた。

 

やはりトワは優しくていい子だな…

 

「2人ともお待たせ~。」

 

「ごめんねー、道が混んでて混んでて…」

 

トワとの話の間に生徒会メンバーのあやめ、ミオさんがやってきた。

 

天音さんは別の予定があるらしく、今日は残念ながら欠席のようだ。

 

「あやめちゃん、ミオちゃんこんやっぴー。」

 

「ライ君急に呼び出してごめんだ余~。」

 

「全然、むしろ呼んでくれて嬉しいよ。」

 

「ライ君の生徒会加入の歓迎会やってなかったからねぇ。今日はかなたがいないからウチらだけだけど、今度全員でやる予定だからねぇ~。」

 

「ありがとうミオさん。楽しみにしてるよ。」

 

「余、お腹空いちゃった…デザート頼も~。」

 

「僕、パフェとパンケーキ食べたいな。」

 

「ライ先輩食べますね!?」

 

「確かに人よりも良く食べはするかな…?」

 

「人より食べていてそのスタイル…羨ましい…」

 

「ライ君女の子を敵に回した余…」

 

なんだか皆からの視線が怖い気がする…

 

「…ちょっとお手洗いに行ってくるね。」

 

「あっ、逃げた。」

 

僕はその場から戦術的撤退をした。そしてトワ、僕は決して逃げてはいない。…逃げてはいない。

 

 

 

 

 

 

 

トワside

 

ライ先輩…うまい具合に逃げたな…

 

そんなことを考えていると、ミオちゃんに話しかけられた。

 

「トワ、何かいいことあった?」

 

「えっ?何で?」

 

「トワいいことあったとき身体を横に揺らす癖あるからさ。」

 

そんな癖があったのか…気を付けよう。

 

「いいことというか…ライ先輩にお願い事されたから?」

 

トワはミオちゃんにライ先輩にお願いされた内容を話した。

 

「なるほどね~。確かにそれはトワが適任かもね。ライ君から頼られたのが嬉しかったの?」

 

「うーん、その気持ちもあるかもだけど、一番はトワと仲が良い友達との和をライ先輩が広げているってことかな?トワの友達はいい子しかいないから、ライ先輩にどんどん知ってもらっているのが嬉しいというか…」

 

「そっかぁ…確かにライ君自身もいい子だから、そういった繋がりがどんどん広がるのは嬉しいよねぇ。」

 

ミオちゃんもトワの気持ちに共感してくれた。

 

「あやめはどう思う?」

 

ミオちゃん正面に座っていて、メニュー表を眺めているあやめちゃんに声を掛けた。

 

「…」

 

「あやめ聞いてる?」

 

「ん?ごめん、余なんも聞いとらんかった。」

 

「「…」」

 

トワとミオちゃんは見つめ合い、ため息をついた。

 

「あやめ、罰としてあやめが頼んだデザートの最初の一口ウチがもらうね?」

 

「あっ、トワも。」

 

「ええっ!?ふ、2人とも酷い余ぉ!」

 

あやめちゃんが涙ぐみながら抗議をしていたが聞かなかったことにした。

 

…トワの最高の友達のためにもトワができることはサポートしていきたい。

 

その第一歩としてライ先輩の環境を整えてあげよう。

 

注文したデザートが運ばれてきて、ライ先輩も戻ってきた。

 

「ただいま…あやめどうかしたのかい?」

 

「ら、ライ君…ミオちゃん達に酷いことされたんだ余…」

 

「?トワ、何かあったのかい?」

 

ライ先輩がトワに質問してきた。その答えにトワは、

 

「なんでもないですよ、ライ先輩♪」

 

トワは悪魔らしくいたずらっぽい笑みを浮かべてあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




登場するホロメンが徐々に増えてきていますが、文才がないので少しずつの登場となっています…

早く登場させてほしいホロメンがいれば感想などで教えてください~。


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級友

21話目。

最近Twitterを始めました~。
仲良くしていただける方いれば是非フォローを…

@tadanoRyo628


 

「ここが僕の家だよ~。」

 

「おお、これは風情があるな。」

 

「おかゆ家に来るの久々だなぁ。」

 

今日は以前から約束をしていたおかゆの家に遊び行くことになっていた。

 

おかゆの家は和風建築の家で、僕の実家も和風建築になっているから少し懐かしい雰囲気を感じた。

 

「さぁさぁ、入って~。」

 

「お邪魔します。」

 

「おっじゃましまーす!」

 

おかゆの家に入り、おかゆの部屋まで案内してもらった。

 

「あらあら、おかゆお帰り。」

 

「あ、婆ちゃんただいまー。」

 

部屋をおかゆに案内してもらう途中でおかゆのお婆さんに出くわした。

おかゆのお婆さんはおかゆのように猫の獣人ではなく、普通の人間のようだった。

 

「おかゆの婆ちゃんこんちわー!」

 

「スバルちゃんいらっしゃい。久しぶりに来てくれて嬉しいよ。あら、男の子?」

 

「初めまして、皇ライといいます。おかゆさんとは学園でのクラスメイトで仲良くさせていただいています。」

 

「あなたがライ君ね?おかゆから話は聞いてるよ。」

 

「そうだったんですか?」

 

「学園に転入生が来て、仲良くなれたーって嬉しそうにしてるのよ?」

 

「もーう、婆ちゃん恥ずかしいからやめてよー。」

 

お婆さんの報告におかゆが若干照れているようだった。

 

「あ、そうだ、これつまらないものですが受け取ってください。」

 

「あら、ご丁寧にどうも~。まぁどら焼き!」

 

おかゆの家に遊びに行くことが決まったときに、おかゆのお婆さんに手土産が必要だと思い、おかゆからお婆さんの好物を聞いてキョウトから取り寄せておいたものだ。

 

「ありがとうねぇ、後で部屋におにぎり持って行くからゆっくりしていってね。」

 

「ありがとうございます。」

 

「やったぁ!おにぎりおにぎり~!」

 

「おかゆの婆ちゃんのおにぎり美味いんだよなぁ…」

 

おかゆのお婆さんに挨拶を終え、おかゆの部屋に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ僕の部屋へ~。」

 

「特に前に来た時と変わってないな。」

 

「お邪魔します。」

 

おかゆの部屋は女の子らしい部屋であるが、本棚には多くの漫画、机にはPC、家庭用ゲーム機が多く置かれており、ゲームが好きなおかゆらしい部屋になっていた。

 

「…ん?」

 

おかゆの部屋を見渡しベッドに目をやっていると、布団の中が少し動いているのが見えた。

しばらく観察していると布団の中からもぞもぞと猫が現れた。

 

「にゃぁ~。」

 

「てまにゃんただいまー。」

 

「おおてまにゃん、久々だなぁ。」

 

「てまにゃん?猫の名前かい?」

 

「そうそう、本当は手毬っていうんだけどかわいいでしょー?」

 

おかゆがてまにゃんを抱きかかえ僕に差し出してきた。

僕はそのまま受け取り、てまにゃんを胸に抱えた。

 

てまにゃんは僕の顔をじっと見つめていたので、僕も思わず見つめ返してしまった。

その様子を見ていた2人は可笑しかったのか噴き出していた。

 

「あっはっは、ライ君見つめすぎだよぉ~。」

 

「ら、ライ…そんな真面目な顔で見つめ合わなくてもっ…」

 

2人の反応はあまり気にせずに、てまにゃんの柔らかい毛並みの頭を撫でた。

 

「猫ってかわいいな…」

 

「ライ君てまにゃん気に入った?」

 

「ああ、僕もちょっと猫を飼いたいなって気持ちになったよ。」

 

僕が撫でるのを続けているとてまにゃんも気持ちがいいのか嬉しそうに喉を鳴らしていた。

 

「むー、てまにゃんいいなぁ…ねえライ君僕も撫でてみて?」

 

「おかゆを?」

 

「てまにゃんを見てるとすっごい気持ちよさそうにしてるから、頭撫でてみてほしいなぁって。」

 

「まぁ構わないが…」

 

おかゆの要望でおかゆの頭を撫でた。

 

おかゆの頭はてまにゃんのように柔らかく、手触りとしてはおかゆの方が心地がいい。

 

「んっ…」

 

おかゆはくすぐったいのか声を我慢しているようだった。

 

「ふわぁ…あっ…気持ちいい…」

 

…頭を撫でているだけのはずだがおかゆの様子がおかしい気がする…

しかし、おかゆの頭の感触をもう少し楽しみたいと思う自分がいて手が止まらない…

 

「あん…ライ君…だめぇ…」

 

「はいストーップ!!」

 

我を失いかけていると、スバルが僕とおかゆの間に入り止めてくれた。

 

「ああん、スバルちゃん何で止めるのー?」

 

「バカかお前は!?友達同士の変なところなんか見たくねぇわ!ライも何やってんだよ!!」

 

「すまない…おかゆの頭の感触がよくてつい夢中に…」

 

「全く…2人の変な様子見せられるスバルの気持ちにもなってよ!」

 

スバルに初めて怒られてしまった…

確かにスバルからしたら置いてけぼりになってしまっている状況だった。

 

「てか今日はライにゲーム教えるんだろ?早く遊ぼうよ。」

 

「それもそうだったねぇ、ライ君今度ゲーム機買いに行くんでしょ?」

 

「ああ、トワに教えてもらいながら買いに行く予定なんだ。」

 

「オッケー、じゃあ僕たちがよく遊んでいるゲームは基本的にみんなやってるやつだからそれで遊んでいこう~。」

 

「ありがとう、僕自身が今までゲームをやってこなかったから色々教えてもらって助かるよ。」

 

「いいっていいって、スバルたちもライと遊べることが増えると嬉しいからさ。」

 

おかゆとスバルはクラスメイトの中でも一番仲がいい友人だ。

そんな2人は僕が困った時や分からないことがあった時はすぐに助けてくれる。

 

こんな2人に見合った友人に僕は慣れているのだろうか…

 

「ん?どうしたのライ君?」

 

「なんか神妙な顔つきだな?」

 

「…2人は僕が困ったらいつも助けてくれているだろ?僕は2人に何かできているのかな、って考えててさ。」

 

僕は2人に考えていたことを伝えると、2人は顔を見合わせた後、不思議そうな顔をしていた。

 

「僕たちいつもライ君に助けてもらっているよ?」

 

「この前も遅い時間までスバルに勉強を教えてくれたし。」

 

「僕もクラス当番の日に課題持ってもらっちゃったし、授業中寝ちゃってる時も起こしてくれてるし。」

 

「お菓子とかも作ってくれるしな!」

 

「2人とも…」

 

「僕たちだけじゃなくてクラスの皆や生徒会の皆、ライ君が所属してる不知建の皆、きっとライ君に助けてもらってることが多いはずだよ?」

 

「そうそう、それにライも前言ってたじゃん?友達なら当然、ってさ!!」

 

「…そうだったな、ありがとう2人とも。」

 

この2人には頭が上がらない…

僕の抱えていた悩みもあっという間に解消してしまう。

ならば僕は2人が助けを求めれば必ず力になろうと誓った。

 

「さてさて、じゃあ早速ゲームしようよ~。」

 

「スバルレースゲームやりたい!」

 

「レースゲームか、この前すいせいとあくあとゲームセンターで少し遊んだな。」

 

「ライ、あくあと仲良くなれたの!?」

 

「すいせいから紹介してもらって、そこからゲームについてあくあに教えてもらったんだ。」

 

「おお、人見知りのあくあとそんなに早く仲良くなれるなんてライ君やるねぇ…」

 

「…あくあ仕込みってことならライに勝てる気しなくなってきた…」

 

「じゃあこのレースゲームで最下位の人は罰ゲームにしない?レースで1番になった人の言うことを聞くとかどう?」

 

「面白そうだな、それでやってみよう。」

 

「ライ!?そんなゲームに乗るなあああ!」

 

 

 

 

 

 

レースの結果僕とおかゆが1位になったときに、スバルが最下位だったときがそれぞれ1回ずつあり、罰ゲームが決定した。

 

おかゆはスバルに対して部屋の片付け、漫画の整理を手伝わさせられていた。

 

僕は今の時点で聞かせる内容がなかったので保留にした。

スバルには何をしてもらおうか…

 

「おいライ!悪い顔になってんぞ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「気のせいだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




スバおかの友情は見ててほっこりします。

仲がいい友達が欲しい…(血涙)


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襲来

22話目。

いつの間にか20話超えてました…

それと全体UAが10000を超えました!!

いつもご愛読、最近読み始められた方も引き続き宜しくお願いします~。


 

学園での授業が終わった後、主に最近は不知建の部室ではなく生徒会室に赴いていた。

 

実は近々学園で大きなイベントである学園祭が行われる予定で、その準備に必要な予算の編成や報告書の作成のためにあやめから手伝ってほしいという要請が来たからだ。

もちろん僕も生徒会に所属しているので断る理由もなく、承諾した。

 

生徒会室に入ると机の上には書類が山積みになっており、生徒会メンバーは頭を抱えていた。

僕は書類の作成などの作業は苦ではなかったので、自分が処理する報告書はすぐ終わった。

ただ、天音さんが少し苦戦していたので天音さんの分も引き受けた。

 

「あやめ、頼まれた報告書の作成終わったよ。」

 

「ライ君ありがとう~、本当助かった余。」

 

「ライ先輩手伝ってくれてありがとうございます!」

 

「どういたしまして、お役に立てたのなら何よりだ。」

 

「ぷはぁ…トワもやっと終わったぁ…」

 

皆一通り処理を終えたようで一息ついていた。

 

「皆お疲れ様~、お茶淹れたから飲んでねぇ。」

 

ミオさんが一息入れるタイミングを見計らってお茶を淹れてくれていた。

僕はこのタイミングで出すのが得策かと思い、持参したお土産を取り出した。

 

「皆、実はキョウトから取り寄せたどら焼きを持ってきているんだが食べないか?ミオさんが淹れたお茶にも合うと思うから、よかったら受け取ってほしい。」

 

そう、先日おかゆの家に遊びに行った際にお土産として持っていったどら焼きだ。おかゆの家へのお土産だけではなく、生徒会メンバー用と不知建メンバー用にそれぞれ取り寄せておいた。

 

「どら焼き!?余どら焼き大好き!!」

 

「やったぁ!」

 

「ライ先輩ありがとうございます!」

 

「ライ君わざわざありがとうねぇ。」

 

皆喜んでくれているようだった。そのまま皆に配っていると、僕のスマホに着信が入った。相手は…フレアだ。

 

「ごめん皆、電話が入ったから少し席を外すね。」

 

皆へ了承を取り、生徒会室から出て電話に出た。

 

「もしもし?」

 

「あ、もしもしライ君?今大丈夫?」

 

「ああ、ちょうど生徒会の仕事もキリがいいところまで終わったから大丈夫だよ。」

 

「よかった、この後不知建メンバーで学園祭についてのミーティングするんだけど、ライ君も久しぶりに参加できないかなって思って連絡したんだ。」

 

「そうだったのか、確かに最近生徒会の仕事が続いていたから不知建に顔を出せていなかったからな…」

 

「きっと皆ライ君の顔見たいと思ってるよ~。でも来れそうだったらで全然大丈夫なんだけど…」

 

フレアの言葉で不知建メンバーの皆の顔を思い浮かべた。久しぶりに皆に会いたい、という気持ちが生まれてきた。

 

「分かった、不知建に寄る用事もあったし、生徒会の皆に挨拶したら部室に向かうよ。」

 

「ほんと!?じゃあ部室で待ってるね!」

 

「ああ、じゃあまた後で。」

 

フレアとの会話が終わり、電話を切った。

 

急いで仕事を終わらせて不知火建の部室に向かおう…

 

 

 

 

 

 

 

 

フレアside

 

現在部室には私とすいちゃんがいる。ノエちゃんは剣道部に顔出し、ポルカは部室に向かっている途中、みこちは…小テストの補修らしい。

 

ちょうど今ライ君に電話をし、ミーティングに参加するか確認したところ久しぶりに参加できる、と確認が取れて電話を終えた。

 

すると、すいちゃんが不安そうな顔をして声を掛けてきた。

 

「ふ、ふーたん、ライ君どうだった…?」

 

私はその不安を吹き飛ばしてあげるためにも笑顔で答えてあげた。

 

「ライ君今日は来るって!生徒会の仕事を終わらせてからみたいだけど。」

 

「本当!?」

 

その答えにすいちゃんの顔が明るくなり、嬉しそうだった。

 

「よかったねすいちゃん。」

 

「うん…嬉しい。」

 

最近ライ君が部室に来れてなかったこともあり、すいちゃんは寂しそうだった。

すいちゃんだけではなく、不知建の皆、もちろん私もだがライ君がいないことに寂しさを覚えていた。

でも今日は部室に顔を出すと彼は約束をしてくれた。忙しい中でも私たちの関りを大切にしてくれる彼の優しさを感じられて嬉しい。

 

「でもすいちゃん、ライ君の連絡先知ってるなら連絡でもしてみればよかったんじゃない?」

 

「だ、だって、何て連絡したらいいか分からなくて…」

 

「うーん、ライ君なら何て送っても返事してくれそうだけどなー。」

 

「それは…そうかもだけど…」

 

そう言いながらすいちゃんは頭を俯いていた。

この頃のすいちゃんはとても可愛い。もちろん元からも可愛いけど、恋をしてからもっと可愛くなった気がする。

 

「まぁそれはともあれ、ライ君に学園祭一緒に回れるか聞くんでしょ?」

 

「うん、でももう回る人が決まってたらどうしよう…」

 

「もう…すいちゃん考えすぎー。」

 

先程可愛くなったと言ったが、ちょっと弱くなったとも感じる。気持ちはわからなくもないけど…

 

「じゃあさ、今から聞いてみなよ?生徒会室まで迎えに行ってさ。」

 

「ええ!?」

 

「ええ!?、じゃありません。ほら、行った行った。」

 

私はすいちゃんの背中を押して、部室から追いやろうとした。

入り口の前まで押すと、すいちゃんの耳元で囁いてあげた。

 

「大丈夫、すいちゃんなら上手くいくよ。」

 

「!フレア…」

 

すいちゃんは顔だけ私を見ていたが、そのまま前を向き直し、深呼吸をしていた。

 

「ふぅ…よし!行ってくる!」

 

「いってらっしゃい!」

 

すいちゃんは部室を飛び出し、生徒会室の方向へ走り出した。

 

「すいちゃん、頑張って…」

 

 

 

 

 

 

 

 

ライside

 

フレアとの電話を終えた後、あやめ達に不知建に顔を出さないといけなくなったことを伝えると、仕事も落ち着いたし、今日は行っても構わない、と頬に餡子を付けたあやめが言ってくれたので僕は不知建の部室に向かうこととなった。

 

久しぶりの不知建での活動にわくわくしている自分がいて、部室に向かう足取りが軽かった。

フレア…ノエル…ポルカ…みこ…そしてすいせい…皆の顔を思い浮かべて僕は部室への道を辿っていた。

 

部室に向かうための階段が目に入り、階段を上ろうとした時、階段の上から聞き覚えがある声に呼び掛けられた。

 

「ライ君!!」

 

「…すいせい?」

 

フレアと一緒に部室で待っているはずのすいせいがいた。

すいせいの様子からすると、先ほどまで走っていたようで肩で息をしていた。

何故走ってこちらに来ていたのかは気になったが、それでも久しぶりにすいせいに会えたことの方が嬉しかった。

 

「久しぶりだねすいせい、会えて嬉しいよ。」

 

「!!…私もライ君に会えて嬉しい。」

 

すいせいも同じ気持ちだったようだ。僕は嬉しくなり笑顔を浮かべた。

そんな中すいせいは呼吸を整え、僕の目を真っすぐと見つめた。

 

「ライ君…お願いがあるの。」

 

「お願い?」

 

僕が繰り返した言葉にすいせいは頷いた。

 

「学園祭の日…私と!」

 

すいせいの言葉を聞いている途中、僕が通ってきた廊下からの視線に気づいた。

 

(この視線…以前スバル達と勉強会で解散した時に感じたものと同じ…?)

 

視線を感じる方に振り返ると2人の人物の姿が見えた。

 

1人はシャチのような黒いフードを頭に被り、フードと同じマスクを付けた少女。

もう1人は刀を背負った侍のような…忍者のような恰好をした少女。

よく見ると2人はそれぞれ耳にインカムのような内線機を付けていた。

 

「あ、いたいた、標的見つけたよー。」

 

「ラプ殿、どうするでござるか?」

 

2人は誰かと通信をしているようだった。

先ほどのフードの少女が言った標的…2人の視線が僕に向いていることから導き出される答えは…

 

「標的というのは僕のことかな?」

 

「うん、そうだよー。皇ライせんぱぁい。」

 

「風真たちの総帥の命令でござる、いざ尋常に…」

 

フードの少女は腰を落とし姿勢を低く構え、侍少女は背負った刀を鞘ごと取り出し構えた。

 

「「勝負!!」」

 

2人は真っ直ぐ僕に詰め寄ってきた。

 

(まずいな…不知建の皆の用のどら焼きが…仕方ない…)

 

僕は階段の上にいるすいせいに声を掛けた。

 

「すいせい!これを預かっていてくれ!」

 

そのまますいせいにどら焼きが入った紙袋を投げ渡した。

 

「えっ!?わ、わぁ!!」

 

すいせいは何とか紙袋を胸元でキャッチしてくれた。その姿を見届けた僕は正面の2人に向き合った。

 

フードの少女は拳を構えて、侍少女は鞘に収められた刀でそれぞれ殴りつけてきた。

連続で攻撃が繰り出されているが、僕はそれを次々と躱していった。

 

(この2人なかなか動きが素早い…でも見切れないことはないな。)

 

動きは素早いが攻撃パターンが一定で、ある程度予測はできるため、彼女らの攻撃は僕には当たらなかった。

しばらく攻撃が続いていたが、なかなか攻撃が当たらないため、2人の動きが止まった。

 

「もーう、何で当たらないのー!」

 

「悪いけど、君たちの動きはもう見切ったよ。」

 

「この短期間で風真達の動きを見切ったでござるか!?」

 

攻撃が当たらなければどうということもない。しかし、こちらは攻撃する理由がないので攻撃はしていない。そのため決着がつくこともないので、このまま攻防が続くのは少し面倒だ。

 

(このまま距離を置くのが得策か…だったら!)

 

僕は2人に背を向けて思いっきり廊下を走り出した。先程までの動きを見るとスピードではこちらに分があると判断し、追いつかれないようなスピードで距離を空けることにした。

 

「ええ!?はっや!!」

 

「ま、待つでござるー!」

 

2人は追いかけて来るが、予想通り僕との距離の差を埋めることはできていないようだった。

僕はそのままスピードを緩めず、廊下の先の階段を勢いよく登り、彼女らを撒くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

???side

 

「あーあ、取り逃しちゃった。」

 

「あそこまで手強いとは…無念でござる!」

 

標的を取り逃がした…組織内で掃除屋と用心棒と呼ばれている2人がミッションに失敗するのは初めてだった。

 

皇ライ…総帥から受けたミッションは彼を捕縛すること…

このミッションに失敗すると給料を半年分カットすると総帥に言われた瞬間から、今回はどんな手段を使ってでも完遂すると仲間と誓った。

 

彼の姿を見失いはしたが、特に問題はない。

 

「沙花叉、位置は特定できたでござるか?」

 

「もちろんだよいろはちゃん、シャチの特性舐めないでよねー。」

 

沙花叉と呼ばれた少女はシャチが持っている特性の超音波で情報の交信が行えており、標的がどこに逃げたのかも既に把握済みであった。

 

「こよちゃん。標的の彼、そっちの実験室の近くに行ったから準備お願いー。」

 

『はぁい!まっかせてー!』

 

インカムで仲間に連絡を取り、捕縛の準備を進めていく。

 

総帥の嫉妬で出されたミッションなので、彼には申し訳ない気持ちはあるが、こちらにも色々事情があるため仕方がない。

 

「さ、風真たちも後を追うでござるよ。」

 

「あーん、待ってよいろはちゃーん。」

 

我々も引き続き標的の後を追い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつもよりちょっとだけ長めになっちゃいました…

話は次にも続きます〜。

それにしても戦闘描写って難しすぎやしませんか…?


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総帥

23話目。

前回の続きです。

前話で誤字の報告をいただきました。
誤字に気づかれた方は遠慮なくご報告いただけると非常に助かります…


 

追手の2人を振り切り、3階の理科実験室の前までやって来た。

 

(彼女らの目的は不明だが、しばらくの間姿を隠しておくのがいいかな…)

 

僕がそんなことを考えていると、実験室の扉が開かれていることに気づいた。

ここは普段は授業の時間にしか使われておらず、現在は放課後の時間であるため、人の出入りも無いと判断しここに身を隠すことにした。

 

実験室の中に入り、辺りを見渡すと、窓が黒いカーテンで覆われているため薄暗く、机の上に顕微鏡、スタンドに立てかけられている液体が入っている試験管やフラスコ、棚には標本や人体模型が置かれており少しだけ不気味な雰囲気に感じられた。

 

「ここならすぐには見つからなそうだな…」

 

そんな独り言を呟いていると、置き去りにしてしまったすいせいのことを思い出した。

一応すいせいに連絡しておいた方がいいと思い、電話をかけようとしたその時、

 

「じゃっじゃじゃーん!!」

 

「!?」

 

いきなりの陽気な声と実験室の電気がついたことにより僕は驚いてしまった。

 

声のする実験室の入り口の方へ振り返ると、そこには笑顔を浮かべ、白衣を着た薄桃色の髪色で頭部に耳が生えた女の子がいた。

 

「君は…さっきの2人の仲間かな?」

 

「そうでーす!初めまして皇ライ先輩、こよはholoXの頭脳、博衣こよりでーす!」

 

その子はウインクをしながら自己紹介をしてきた…

先程の2人と比べて好戦的ではないように見えるが油断はできない。

 

「こよたちの目的は先輩の捕縛なんですー、だから捕まってくれませんか?」

 

「…僕を捕まえてどうする気かな?」

 

「さぁ?こよたちはラプちゃんに命令されただけでそこまでは聞いてませんね。」

 

博衣こよりと名乗った女の子はそう言いながら実験室の扉を閉め、鍵をかけた。

 

(鍵をかけられた…そうなると脱出手段は一つしかない…)

 

僕は脱出の経路として考えていた窓を見た。

ここは3階。窓から飛び降りても恐らく問題はない。問題はどのタイミングで実行に移るかだが…

 

「あ、先輩?窓から逃げようとか考えてます?」

 

「…その口ぶりからすると何かしらの対策があるみたいだね?」

 

「はい!窓の外にはルイルイが待機しているので、例え窓から逃げ出したとしても無駄ですよー?」

 

なるほど、仲間を既に配置していたということか。窓付近で待機しているということは恐らく空を飛べる特性を持っていると思ってていいだろう。

 

何かここを脱出する手段はないか…

頭をフル回転させていると、先程すいせいに連絡を取ろうとしていたことを思い出した。

僕は机の下に屈み込み、スマホですいせいに理科実験室にいることをメッセージで伝えた。

 

そしてすぐさま立ち上がり、再び彼女と向き合った。

しかし、そのタイミングで僕はある違和感に気づいた。

 

(何だ?この甘い匂いは…っ!?)

 

僕がこの匂いに気づいた瞬間、強烈な眠気に襲われ、床に膝をついた。

 

「あっ、やっと効いてきましたかー?」

 

「これは…催眠ガ…ス…」

 

ぼやける視界に映ったのは試験管とフラスコを手元に持っていた彼女の姿だった。

 

「この液体同士を合わせると、あら不思議!簡単な催眠ガスの出来上がり〜、ってもう聞こえてませんかね?」

 

意識を手放すまいと抗いを続けたが、視界がどんどん暗くなっていき、そして…

 

僕の意識は暗闇に落ちた…

 

 

 

 

 

 

こよりside

 

「ふぅ、やっと終わったよぉ…」

 

ラプちゃんから命じられたターゲットの捕縛に成功した。

本来はいろはちゃん達の時点で確保できる想定だったが、思っていたよりもやり手だったようだ。

確かにこよがここまで追い込むことができたが、その間でも脱出の手段を色々考えていたようだったし、ルイルイが窓で待機していなければ、本当に窓から逃げられていたかもしれない。

 

さて、しばらく起きることはないけど早めに連行しないとねー。

外にいるルイルイにインカムで連絡を取ることにした。

 

「ルイルイ?ターゲットの捕縛完了したから運ぶの手伝ってー?」

 

『オッケー。ラプラスに任務完了の連絡入れるから、終わったら運びましょう。』

 

「はぁい。」

 

連絡を終えた後、眠っている彼に目を向けた。

 

「うーん、ラプちゃんの用事が終わればもらっちゃいたいなぁ…モルモットとして優秀そうだし…あっ、助手という手もありかも~。」

 

そんなことを考えながら眠っている彼の頭を撫でてあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

すいせいside

 

「はぁ…はぁ…」

 

ライ君が女子生徒に襲われているところに遭遇してしまった。

あの2人には見覚えがある。確かholoXとかいう変な集団のメンバーだったはずだ。

その2人からライ君が上手く逃げ切ったのは目で追っていたが、あっという間に見失ってしまった。

 

ライ君が逃げた方角を追って探していたがどこにも彼は見つからない。

途方に暮れているとライ君から連絡がきた。

 

『3階の理科実験室にいる。』

 

ライ君からのメッセージを確認した瞬間目的地に向かって走り出した。

 

(待っててライ君…聞いてほしいことがあるんだから…)

 

そんな思いを抱き、ライ君がいるはずの理科実験室に到着した。

 

「ライ君!!」

 

扉を開けながら彼の名前を呼んだ。

いつもであれば、名前を呼ぶと笑顔を向けながら返事をしてくれる彼からの返答があるはずだった。

 

しかし実際は広くて暗い実験室に私の声が木霊しただけであった…

 

(いない?どうして…)

 

彼がいないという事実が私の不安を駆り立てる。

 

急いで彼の携帯に電話をした。

帰ってきた声は携帯の電源が切られているという音声だけだった。

 

ライ君が噓の場所を伝えた可能性を考えたが一瞬でその考えを否定した。

ライ君がそんなくだらない嘘をつく筈がない。

 

走ったお陰で頭に酸素が足りていないことと、私の思考を落ち着かせるために呼吸を整えた。

 

徐々に思考がクリアになってきて、辺りを見渡した。

ライ君がこの実験室にいたのはおそらく事実。であればここで何かがあったに違いない。

 

私は実験室で探索を始めると、暗い床に光るものを見つけて拾い上げた。

 

「これって…ライ君のサングラス?」

 

間違いない。不知建の正式メンバーになり、ライ君が生徒会に加入したときにフレアが渡したものだ。

 

これは不知建メンバーの証。不知建を大切にしてくれている彼がこんなところに置き去りにするのはとても考えられない。

 

(じゃあどうして…もしかして捕まってしまったとか…?)

 

最初のあの2人は標的と言い、ライ君を狙っていた。

倒すのではなく、捕まえるということも標的と言ってもおかしくない。

 

「ライ君を探さなきゃ…」

 

あんな変な集団に捕まったらライ君が何をされてしまうか分からない。

ただ、私だけでは探すのは難しい。そこである人物に電話をかけた。

 

「もしもし、ちょっと力を貸してほしいことがあって…」

 

 

 

 

 

 

 

ライside

 

「うっ…」

 

目を開くと辺りは薄暗く、窓がない見知らぬ一室にいた。

部屋は暗く、奥までははっきりと見ることができなかった。

 

(確かさっきまで僕は実験室で眠らされて…)

 

眠りから意識が徐々に覚醒し始め、自分が置かれている立場に気が付いた。

僕の身体は椅子に座っている状態で、腕と足は肘掛けと脚に縄で四肢が縛られており、身動きが取れない状態になっていた。

試しに身体を動かしてみたが、縄が強く縛られているため動く気配はなかった。

 

自分がこういった状況になっているのは間違いなく、最初に襲撃してきた2人、実験室で出会ったこよりという少女によるものだろう。

 

(さて、どうしたものか…)

 

そのようなことを考えていると、部屋の奥から人の気配を感じた。

 

「ほぉーん、博士の催眠ガスからもう目が覚めてんのか。」

 

「やっぱり沙花叉たちを軽くあしらっただけの実力はあるということかしら?」

 

声と足音が徐々に近づいてきて僕の目の前まで来た。

足音が止まった瞬間、薄暗い部屋が急に明るくなり目がくらんだ。

 

目が光に慣れて視力が戻り、正面をしっかりと見据えた。

すると僕の目の前には、2人の人物がいた。

 

1人は高身長で目が鷹のように鋭い女性。

そしてもう1人は対極的に低身長で、大きな角が特徴で拘束具のような服を着ている幼女だった。

その幼女が僕に向かって話しかけてきた。

 

「お前が皇ライだな?」

 

「そうだが…君たちは?」

 

「ふっふっふっ…よくぞ聞いた!!」

 

幼女は待ってましたと言わんばかりに、高身長の女性と一緒に自己紹介を高らかに始めた。

 

「刮目せよ!吾輩の名はラプラス・ダークネス!holoXの総帥にして、ラプラスの悪魔だ!!」

 

「そして私はholoXの女幹部、鷹嶺ルイと申します。以後お見知りおきを~。」

 

2人の自己紹介を聞いて僕はあることに気づいた。

 

「悪魔?トワと同じなのかい?」

 

僕がその質問をすると、ラプラスと名乗った幼女の身体が固まった。

固まったのは一瞬で、幼女が僕に向かって手を翳すと縄が僕の身体をきつく縛り始めた。

 

「ぐっ…締め付けが…」

 

「お前があの方の名前を口に出すな。」

 

彼女の黄金の目の輝きが増している…

おそらく念力のような力を使っているのだろう。

 

先程まで僕を襲撃してきた3人はラプ、という名前を出していた。

僕を襲う指示を出していたのはおそらく彼女に間違いない。

ただ疑問に思っているのが、なぜ彼女は僕にこのようなことをするのだろうか?

僕の記憶には今までに彼女と出会った記憶がない…

 

「なぜ自分がこんな目にあっているのか、と考えているようだな。吾輩はそこにも腹が立つ。」

 

「ラプ、程々にしておきなさいよ?ここのアジトもいつ見つかるかわからないんだから。」

 

「ああ、こいつに2つ質問をしたらずらかるぞ。」

 

2人の会話から察するに僕に聞きたいことがあるようだ。

だから僕を捕まえる必要があったのか…?

 

幼女が僕に真っすぐ目を合わせて来た。

吸い込まれてしまいそうな黄金の瞳に思わず目を逸らしたくなるがそれはできなかった。

 

「今の話を聞いているからわかると思うが、お前には答えてもらうことがある。黙っていれば縄の縛りをもっと強める。勿論嘘をついても強めるからな?」

 

「…分かった。」

 

「では1つ目の質問だ。お前は生徒会に所属しているな?何故生徒会に入った?」

 

「…生徒会長のあやめにスカウトされたからだ。生徒会に入る前からあやめとは友達で、生徒会の仕事を手伝ってほしいと頼まれた。」

 

「なるほど、嘘ではないようだな。では次の質問だ…」

 

僕は次の質問が来るのを待った。…が、なかなか次の質問が来ない。

彼女の様子を見ていると、顔を下に俯いており、わずかだが身体が震えていた。

 

「あの…」

 

「勝手に発言するな!」

 

彼女は再び僕に手を翳し縄の縛りを強めた。

 

「っ!」

 

縛られている四肢に痛みが生じ、声が出そうになるが必死に堪えた。

 

「お前は質問にだけ答えればいい…最後に大事な質問だ。…お前は生徒会風紀委員長の常闇トワと…つ、付き合ってるのか!?」

 

「………は?」

 

彼女から予想もしない質問が来たため間抜けな声が出てしまった。

僕とトワが?付き合う、というのは男女間の交際のことか…?

 

「質問に答えろ!!」

 

「ぐぁっ!」

 

締め付けがさらにきつくなる。自身の骨が軋むような感覚だ。

 

「お前がトワ様と生徒会の活動をしているところを見かけたことがある…お前と話しているときのトワ様のあんな笑顔…吾輩は見たことがない!」

 

「ちょ、ちょっとラプ、落ち着きなさい!」

 

鷹嶺ルイと名乗った女性が止めに入ろうにしたとき、部屋のドアが思い切り開かれる音がした。

 

「誰だ!?」

 

ラプラスがドアの方に意識を向けて集中が切れたからか、縄の縛りの強さが元に戻った。

 

痛みが引いたことにより一息つけたので、僕もドアの方に目を向けた。

ドアから2人の人物が入ってくるのが見えて、その2人が誰かが分かった瞬間僕は安堵した。

 

「ライ君!!」

 

「助けに来ましたよライ先輩~。」

 

「…すいせい…トワ…」

 

僕の学園内での知人の中でも、最も頼りになる2人が現れた。

 

 

 

 

 

 

 




ごめんなさい次の話まで続きます!

ラプ様を超能力者にしちゃいました。

でも総帥なんだからそれぐらいの能力持っててもいいですよね…?


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記憶

24話目。

昨日お気に入り登録が100名に到達しました!
多くの方々に楽しんでいただけてとても嬉しいです…





 

すいせいside

 

…holoXアジトに向かう前の実験室…

 

ライ君を何とか探し出したいと思った私はトワに連絡をした。

 

「もしもしトワ、ちょっと力を貸してほしいことがあって…」

 

『どしたんすいちゃん?急ぎの要件?今トワ、ライ先輩にもらったどら焼き食べながら休憩中なんだけど…』

 

「そのライ君に関係することなの!お願い!!」

 

『…分かった。すぐ行くから場所教えて?』

 

私の必死な声に只事ではないと気づいてくれたトワに場所を教えた。

 

5分後にトワはすぐに実験室に駆けつけてくれた。

そのまま私は事情をトワに説明した。

 

「なーほーね。ライ先輩がholoXに攫われた可能性があると…ラプラスの奴何考えてんだか…」

 

「私も探したいんだけど場所に心当たりがなくて…だからトワお願い!」

 

私はトワに頼み込んだ。その姿を見たトワは私を安心させるように笑顔を浮かべた。

 

「まぁ他ならぬすいちゃん頼みだからね、任せといてよ。ちなみにすいちゃん何でもいいからライ先輩の私物とか持ってない?」

 

「ライ君の?…あっ、サングラスなら持ってるよ。」

 

私は実験室で落ちていたライ君のサングラスをトワに渡した。

 

「うんうん、これがあれば大丈夫。」

 

「でもこれでどうするの?」

 

「まぁまぁ見ててよ、ちょっとだけ離れてて?」

 

そう言ったトワから少し離れた。離れたところからトワの様子を見ていると、トワは目を閉じて何もない空間に手を翳した。

 

すると何も無い空間から黒い扉が現れ、扉がゆっくりと開かれた。

 

扉の中から小さな黒い丸っこい生き物が出てきた。

 

「トワこの子は?」

 

「この子はビビっていうの。トワの使い魔なんだー。」

 

そう説明するトワはビビという生き物をトワの頭の上に乗っけると、ライ君のサングラスをビビに見せていた。

 

「ビビ、このサングラスの持ち主がどこにいるか探せる?」

 

ビビはサングラスをじーっと見つめた後、トワの頭の上から飛び降り、実験室の扉から出て行った。

 

「多分見つけたみたい、すいちゃん追いかけよ!」

 

「うん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライ君!!」

 

実験室でいなくなったライ君をやっと見つけた。

私の予想通りライ君は捕まっていたんだ。

 

「…すいせい…トワ…」

 

いつも通り返ってきたライ君の声。

ただ、ライ君の様子からすると疲弊しているようで、私たちに気づかせないよう無理をしているように見えた。

 

ライ君をこんな目に合わせたのはこいつらだ…

holoXの総帥と幹部だった気がする。恐らく首謀者は総帥だろう。

 

「ト、ト、ト、トワ様!?」

 

「…ラプラス、生徒会の風紀委員長だけでなく、不知建のメンバーよ。」

 

「ラプラス!ライ先輩に何やってんだ!」

 

トワは総帥に詰め寄ろうとしていた。

 

「ち、違うんっすよトワ様!吾輩、この男に質問することがあっただけで…」

 

「質問?ライ先輩から何聞こうとしてんの?」

 

「そ、それは…」

 

何だかトワの質問に答えたくないようだった。

でもそのおかげであいつは今ライ君から意識を離してる。今のうちに…

 

「こ、こいつとトワ様が付き合ってるかを確認したかったんですよ!!」

 

…は?トワとライ君が付き合ってる…?

 

「はぁぁぁぁ!?」

 

トワもそんなことを言われるとは予想できていなかったようで、素っ頓狂な声を出していた。

 

「な、何でそんなことになってんだよ!」

 

「前トワ様の生徒会の活動中にこいつと話してるのを見かけて…その時のトワ様凄く楽しそうな顔をしてたから…」

 

「ちげーわ!ライ先輩と話すのは確かに楽しいけど…だとしてもその考えは飛躍しすぎだろうが!」

 

トワは必死に否定していた。

 

そっか…ライ君は生徒会でも活動しているから、そこでの人との関わりは知らなかったな…

トワがちょっと羨ましいかも…

 

そんなことを考えていると事態が進もうとしていた。

 

「もういいんすよ!吾輩のこのラプラスの瞳をこいつに使えば真実が分かる!ここにいる全員にも見せてやる!」

 

「ちょ、ライ君に何する気!?」

 

「ラプラス!それはやめておきなさい!」

 

「うるさい!」

 

総帥がそう言うと、女幹部と私は念力のような力で地面に抑えつけられた。

動けない…ライ君を助けなきゃいけないのに…!

 

女幹部も立ちあがろうとしているようだったが、苦戦していた。

 

ただトワだけは立ち上がっていた。トワの方が悪魔としては立場が上だから影響を受けていないようだった。

 

そんな私たちの様子を見て、黄金の瞳をさらに輝かせていた総帥はライ君に向き直り、目を合わせていた。

 

「これから吾輩のラプラスの瞳を使って、お前の記憶と心を映像として投影する。この力は消耗が激しいからできれば使いたくなかったが…」

 

「や、やめ…ぐぁっ!」

 

ライ君の身体に縛られている縄が強くなっている。彼の苦しんでいる声を聴くなんて耐えられない。

 

「お願い!もうやめて!」

 

「ラプラスやめろ!」

 

私の声を聴いてトワが阻止するために走り出した。

 

「さぁ、お前がこの学園で1番大事に思っている人物を教えろ!」

 

トワがライ君達に手が届きそうになったその瞬間、部屋が黄金の輝きに包まれた。

 

私はあまりの眩しさに目を閉じた。

恐る恐る目を開くと、既に光が収まっていた。

ライ君の方を見るとライ君は目を閉じて項垂れていた。おそらく意識がないと思う。

 

するとライ君の身体から白い球体のような物が出てきて、部屋の中央に浮かび出した。

 

「これがライ君の記憶と心…?」

 

その球体は徐々に光が強くなり、球体に人の顔が浮かんできた。

 

その球体に映った人物は…トワだった…

 

確かあの球体に映るのはライ君が学園で1番大事だと思っている人…

やっぱりあいつの言う通りライ君はトワが好きだったんだ…

 

「あれ…?おかしいな…」

 

私の目から涙が溢れてきた…

目の前が霞んで何も見えない…

 

私は立っているのも、この映像を見るのが辛くなり顔を下に向けて座り込んでしまった。

 

「すいちゃん!すいちゃん!」

 

トワが必死に私の身体を揺さぶってくる。

 

「…何、トワ?」

 

「あの映像ちゃんと見て!」

 

「…いや、いいよ…ライ君が誰を大事に思っているのか分かったし…」

 

「馬鹿!いいからほら、立つ!」

 

トワに腕を掴まれて無理矢理立たされた。

 

正直もう見たくなかったが、トワに言われるまま球体を見た。

さっきと同じようにトワが映っていたが、トワだけでなく、トワと同じ生徒会のメンバー、ライ君のクラスメイト、不知建メンバーが映し出されていた。

 

映像の最後には私の姿が映し出されていた。

ライ君と最初に出会った頃、不知建の体験入部、ゲーセンでぬいぐるみをプレゼントしてくれた時、色々なライ君と私との思い出が映し出されていく…

 

するとあることに気づいたトワが私に耳打ちをしてきた。

 

「ねぇすいちゃん、他の皆よりすいちゃんが映し出されている時間長くね?」

 

「!!」

 

確かにライ君と仲が良い人や、よく関わりがある人が映し出されていたが、一瞬顔が映る程度だった。

 

(私の場合は思い出も…もしかして…)

 

球体の光が弱くなってきて最後の映像が映し出された。

 

(約束…破ったら許さないからね。)

 

(ああ。僕とすいせいの約束…いや、契約だな。)

 

これは…ライ君と私だけが知っている契約…

ライ君もあの日から私のことを大事だと思っていてくれてたのかな…

 

また涙が溢れてきたがさっきとは違う種類の涙だ。

 

「すいちゃん…よかったね。」

 

トワは私に声をかけながら背中を撫でてくれた。

トワもフレアと同じで私のライ君への気持ちを知っていた。

 

「ありがとう…トワ…」

 

そして球体の光が消え、ライ君の身体に吸い込まれるように戻っていった。

 

これでひと段落…あれ?ライ君の側にいたはずのあいつがいない?

 

「ねえ?総帥はどこ行ったの?」

 

部屋の周りを見渡すとドアの前にこそこそ逃げ出そうとしている総帥の姿が見えた。

 

そのままドアが開かれて逃げだすために走り出そうとした瞬間、何かに躓いたのか盛大に転んだ。

 

「いってえええ!?」

 

「逃すかアホ!」

 

そう言うトワを見ると、トワは事前に自分の尻尾を使い総帥の足に巻き付けていたようだった。

 

「今日という今日はこってり絞ってやるからな!覚悟しとけ!」

 

「ト、トワ様ぁ!あっ、でもそれもいいかも…」

 

トワは総帥の足を掴み、引きずって部屋を出ていった。

 

残された女幹部はライ君の元に近づき、ライ君を縛っていた縄を翼で切り裂いた。

そして私の方を向き謝罪をしてきた。

 

「ごめんなさい。私達がラプラスの暴走に手を貸した結果、あなた達に迷惑をかけてしまった。」

 

「まぁ私は別にいいけど、ライ君には目を覚ましたら直接伝えてあげて?」

 

「ええ約束するわ。では私はラプラスを助けに行ってくるからこれで…」

 

女幹部はそう言い残し部屋を後にした。

 

部屋にはライ君と私だけが残された。

 

「…ライ君?」

 

寝たままのライ君に声をかけて、身体を揺すってみた。

しかしライ君はまだ目を覚ます気気配がない。

 

「…保健室に運びますかぁ…」

 

 

 

 




ごめんなさい話が予想以上に長くなってしまい次まで続きます…

作者の計画性の無さをお許しくださいませ…


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保健室

25話目。

目次の内容を少し変えました。

ここまで読んでいただいている方にはあまり関係がないことですが念のために…

すいちゃんのミドグラLIVE本当に良かった…
すごい技術が詰め込まれていたので気になる方は見て損はないので是非。


 

すいせいside

 

あれから私はライ君を保健室に連れて行き、フレアに電話をして事の顛末を伝えた。

 

「そう、ライ君が目を覚さないから起きるまではこのまま一緒にいたいの…」

 

『そっかぁ、すいちゃんもライ君も色々大変だったね…ミーティングは別日でも大丈夫だから、今日はすいちゃんが一緒にいてあげて?』

 

「うん、ありがとうふーたん。じゃあまた…」

 

私はふーたんとの会話を終えて電話を切った。

姉街にも念のため帰りが遅くなることを連絡しておいた。

 

保健室の外で電話をしていたので、再び保健室に中に入った。

 

ライ君は保健室のベッドで眠りについており、保健室の先生に容態を診てもらっていた。

 

「ちょこ先生、ライ君はどう?」

 

「あらすいせい様。特にライ様の様子変わりはないわね〜。」

 

彼女は癒月ちょこ。この保健室の主で悪魔だ。見た目もスタイルも良く、性格も穏やかなため生徒からもかなりの人気を誇っている。

ただ仕事中に居眠りして他の先生に怒られている姿をよく見かける…

 

ちょこ先生はライ君の頭を触りながら診断結果を教えてくれた。

 

「呼吸の乱れもないし、外傷もあるわけじゃないからそのうち目を覚ますと思うんだけど…」

 

「そっか…」

 

その話を聞いたあと保健室の机にライ君から預かっていた紙袋を置き、ベッドの横にある椅子に座って目の前で眠っているライ君に目線を移した。

 

(異常はない…それでも起きないのは何でなんだろう…?)

 

静かに眠っているライ君に疑問を思っているとちょこ先生に話しかけられた。

 

「それにしてもすいせい様が男の子を保健室に連れて来た時はびっくりしたけれど…大切な人なの?」

 

「…うん、不知建の皆とか私が大切に思っている人達と同じくらいにね…」

 

「うふふ、すいせい様が言うなんて余程大切な人なのね。ライ様が目を覚ますまで保健室は自由に使ってていいからね?」

 

「ありがとうちょこ先生。」

 

「さて、ふぁぁ…ちょっとちょこは眠いから眠るわ…」

 

ちょこ先生はそう言うと保健室の空いているベッドに潜り込みすぐに寝てしまった。

 

私はちょこ先生が眠る姿を見て相変わらずだなと溜息をつくと、

 

「ううっ…」

 

眠っているライ君から呻き声のような声が発せられた。

 

「ライ君!?どうしたの!?」

 

私は椅子から立ち上がりライ君の様子を見た。

額から冷や汗が浮かんでいる…うなされているみたいだ…

 

「行かないでくれ…」

 

とても小さな声でライ君の口から言葉が漏れていた。

その言葉に続いてライ君の腕が何かを求めるかのように宙に伸びた。

 

「ライ君っ…」

 

私は安心をさせるためにライ君の手を両手で掴んだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ライside

 

「ここは…?」

 

僕は気付くと学園の廊下に立っていた。

 

(僕は確かラプラスという少女に拘束されていたはずだが…?)

 

覚えているのはラプラスという少女が僕に近づき、黄金の瞳で覗かれてから…ここからが思い出せない…

 

よく周りを見渡すと自分がいる位置が生徒室の近くの廊下であることに気が付いた。

とりあえずここにいても何も始まらない。僕は生徒会室に赴くことにした。

 

生徒会室前に辿り着くと中から声が聞こえてきて、誰かがいるのが分かった。

僕はいつも通り生徒会室に入室した。

 

「でさぁ…ん?」

 

僕が生徒会室に入ると会話が止まった。僕はいつもの皆がいると思い顔を見渡すと驚くべき光景が広がっていた。

 

確かにあやめ、ミオさん、トワ、天音さんの4人がいた。

しかし皆の髪色と瞳の色が黒だった。ミオさんはいつもの黒色のままであったが、ミオさんの特徴でもある大きな耳と尻尾、これらが無くなっていた…

あやめも角、トワの細長い尻尾、天音さんの天使の羽、それぞれ皆の特徴でもあった部分が無くなっていた、それが無いのが当たり前かのように…

 

「?えっと…君は?」

 

黒髪のあやめが僕に声をかけてきた。

 

「あやめ?何で髪色が黒に?それに皆も…」

 

「ん?君は私のこと知ってるの?」

 

「…え?」

 

「あやめちゃんー。あやめちゃん生徒会長なんだから、生徒があやめちゃんのこと知っててもおかしくないでしょ?」

 

「あっ、それもそっか!」

 

トワにそう言われたあやめは納得していた。

そして僕の方を向き直し会話を続けた。

 

「えっと、君は日本人…じゃないよね?あまり見たことがない見た目をしているから海外からの転入生かな?」

 

「でも海外からの転入生の話とかあったっけ?」

 

「確かに見たことがない綺麗な銀髪だねぇ。瞳もウチらと違って碧いし…」

 

「でも日本語上手でしたね?僕英語苦手だから凄いなぁ…」

 

皆が僕にそれぞれの感想を漏らしていた。

 

(皆僕に関する記憶がないのか…?)

 

そして僕はあることを思い出してきた。

以前の学校の人達の反応を…

 

僕に向けてくる奇異な物を見るような視線、僕はその視線がとても苦手だった。

 

「…すまない、迷惑をかけた。」

 

僕はそう言い生徒会室から駆け出した。

 

「あっ!ちょっと君!!」

 

あやめに声を掛けられたが、それを振り払い廊下を駆け抜けた。

 

学園の廊下を走っていると、教室の中にいる生徒、廊下を歩いている生徒の姿がいくつか見えた。

だがその姿はいつもの多種多様な姿の生徒ではなく、皆黒目黒髪の日本人の人間の姿になっていた。

 

その生徒たちからも僕の見た目の珍しさからか、僕に視線を向けていた。

僕はその視線に耐えられず目を瞑り、ある場所に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕が目指したのは不知建の部室だった。

ここにいる皆はいつも通りの皆でいてくれていることを信じてやってきた。

 

(頼む…)

 

僕は部室の扉に立ち、心を落ち着かせて扉を開けた。

 

そこにいたのはみこ、ポルカ、ノエル、フレアで、やはり皆も他の生徒と同じように黒髪で普通の人間になっていた。

 

「お!入部希望者!?」

 

部室に入ってきた僕に声を掛けたのはフレアだった。

やはり彼女からも僕の記憶が消えているようで、入部希望者と勘違いしているようだった。

 

(やっぱりダメか…)

 

僕は皆の記憶が消えていることにショックを覚えたが、返事を返した。

 

「…ああ、ちょっと前から気になっていたんだ。」

 

「ほんと!?」

 

フレアは瞳を輝かせていた。いつもの綺麗な橙色ではないが黒色の瞳が輝いていた。

 

「おお、初めて見るイケメン君だね〜。」

 

「確かに…あっ!でも団長は勿論フレア一筋だかんね!」

 

「はいはいありがとねー。」

 

「遂にノエたんとすいちゃんに後輩ができるんだにぇ〜。」

 

みこの言葉であることに気づいた。

この部室にいるはずのすいせいがいない…

 

「部員はもう1人いるのかい?」

 

「うん、今日は日直だから教室にいるはずだけど…えっ!?」

 

僕はみこの言葉を聞き、すいせいがいる教室に走って向かった。

 

(すいせい…)

 

自分でもよく分からないがとてもすいせいに会いたいという気持ちが生まれていた。

この学園で1番よく接してくれた彼女がいないという不安に駆られているのかもしれない…

 

そうしているうちにすいせいの3年生の教室の近くに着いた。

 

すると教室の後ろから1人の生徒が出てきた。その生徒はいつも通りの綺麗な水色の髪色のすいせいだった。

 

「すいせい!!」

 

思わず大きな声ですいせいに呼び掛けた。すいせいは僕の声でこちらに振り返ると、静かに微笑み歩き出して行った。

 

「!ま、待ってくれ!」

 

僕はすいせいを追いかけるために走った。しかし、走っているはずなのにすいせいとの距離が全く埋まらない。そればかりかどんどん距離が空いてしまっている…

全速力で走っているが状況は何も変わらなかった。

 

すいせいを追うことに夢中で気がついていなかったが、周りの景色がどんどん黒く塗り潰されていく…

 

「行かないでくれ…」

 

すいせいに手を伸ばしたが虚しくも届かない…

そして僕の目の前も黒く塗りつぶされていき、意識が闇に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すいせいside

 

ライ君がうなされ始めてからしばらく経ったあと、呻き声が止まった。

 

私はその様子を見て安心し、一旦手を離した。

 

するとその途端ライ君は目を覚まし、飛び起きた。

 

「わぁ!?ライ君!?」

 

「はぁ…はぁ…すい…せい…?」

 

いきなりライ君が飛び起きたことに私はびっくりしてしまった。

 

起きて私を見たライ君はいつもより落ち着きがないように見えた。まるでずっと探し求めていた物を見つけたかのような顔をして。

 

「大丈夫ライ君?水でも買ってこよ…!?」

 

起きたライ君の側に近づき、声を掛けたら予想していないことが起きた。

 

そう…

 

 

 

 

 

 

ライ君に抱き締められた…

 

「すいせい!…よかった…」

 

「ら、ライ君!?どうしたの!?」

 

いきなりライ君に抱き締められたことが衝撃的すぎて思考がストップしてしまった。

起きたばかりで混乱しているのだろうか…?

 

無理に引き剥がす訳にもいかなく、少し様子を見た。

 

するとライ君は落ち着いたのか私から離れ、顔が真っ青になっていた。

 

「す、すまないすいせい!僕はとんでもないことを…」

 

「あっ…ううん、大丈夫だよ?」

 

ライ君がとても申し訳なさそうに私に謝罪をしてきた。

別に私は嫌では…気にしていなかったので、謝罪を受け入れた。

 

(でも本当にドキドキしたぁ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

ライside

 

(最悪だ…僕はすいせいに対して何ということを…)

 

僕は夢の中のすいせいを追い求めることに夢中になってしまい、現実のすいせいを抱き締めてしまった。

…いや、仮に夢の中だとしても何故抱きしめる必要があるんだ…

 

正直今の僕は起きたばかりということと、夢の中の出来事がショックな内容であったこともあり、頭が上手く機能していない。

 

(いつものようにすいせいと話すことができない…)

 

「すいせい…その…僕は!」

 

謝らないといけない、という気持ちがあるが、夢の中の皆のように僕に対する接し方が変わってしまったらどうしよう、という気持ちが生まれてしまい、うまく言葉に出来なくなってしまっている。

 

(僕はなんて情けないんだ…)

 

僕は何もできないままベッドの上で俯いてしまっていた。

そんな僕を見兼ねたのかすいせいは僕に近づき声を掛けてくれた。

 

「ねえライ君?今から屋上に行かない?」

 

「…え?」

 

「ちょっと空気吸いに行こうよ。ね?」

 

「…分かった。」

 

すいせいの提案に従い、僕とすいせいは保健室を後にし、学園の屋上に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん…やっぱ屋上は気持ちいい!」

 

すいせいは屋上で大きな伸びをしていた。

外は夕暮れで、周りの景色が夕日で照らされてとても綺麗だった。

屋上で吹く風は心地よく、少し僕の心を落ち着かせてくれた。

 

今ならちゃんと話せることができると思いすいせいに話しかけた。

 

「すいせい、僕はラプラスに眠らされてから夢を見ていたんだ。」

 

「夢?」

 

僕は覚えている夢の内容をすいせいに伝えた。

 

「そっか…それはライ君にとってなかなかきつい夢だね…」

 

「多分それで僕はあんなことをしてしまったんだと思う…すいせい、本当にすまなかった。」

 

改めてすいせいに謝罪をした。

するとすいせいは僕の方へ振り返り声を掛けてきた。

 

「ライ君、1つだけ質問していい?」

 

「なんだい?」

 

「どうしてライ君は夢の中で私を追い求めたの?」

 

すいせいは真剣な顔で僕の顔を真っ直ぐ見つめてきた。

 

(何故すいせいを追い求めたのか…その答えは決まっている。)

 

「それは、すいせいがこの学園の中で1番大事な人だからだ。」

 

そう言い、僕もすいせいの目を真っ直ぐ見つめ返した。

 

「不知建の皆、生徒会の皆、クラスの皆、学園で僕によくしてくれる人達、この皆も勿論大事な人達だ。でもすいせいはこの学園に来てから過ごす時間も長くて、君と過ごす時間は刺激的で楽しくて、そして…何より契約者だからな。」

 

「!…やっぱり覚えててくれたんだ…」

 

すいせいは真剣な顔から優しい笑顔を浮かべてくれた。

 

「私は抱きしめられたことは本当に気にしてないけど、ライ君は気になっているようだったから改めて許します!」

 

「…ありがとう、すいせい。」

 

僕はすいせいの言葉で安心した。

何だか喉につっかえていたものが取れた感覚になった。

 

するとすいせいが僕に歩み寄って来た。

 

「…ライ君、1個だけお願いがあるんだけど聞いてくれる?」

 

「…僕にできることなら何でも言ってくれ。」

 

夕日が沈みかけてきており、沈む前の最後の光がすいせいに注がれ、すいせいを輝かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「学園祭の日、私と一緒に回ってください!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…学園祭当日が楽しみだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




話が長くなり過ぎましたが一旦ここで区切ります。

話の構成は頭に浮かんでいますが、文字に起こすのに苦戦の日々…


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試験

26話目。

活動報告に記載していましたが、コロナ陽性者になっており投稿が滞っておりました…

現在体調は喉以外は回復してきたのでまた活動を再開いたします!

引き続きお楽しみください~。


 

すいせいと学園祭を一緒に回ることを約束してから一週間。あれから再び学園祭の準備に追われていた。

 

生徒会での手伝い、クラスと不知建での出し物の準備、忙しい日々が続いていたが、僕は皆で協力して学園祭の準備をするのが楽しかった。皆も同じ気持ちだったようで、苦戦しながらも楽しそうに準備を進めていた。

 

学園祭も2週間後に迫ってきており、あらかたの準備は終わっているが、学園祭までに1つの大きな壁が待ち構えていた。それは…

 

「来週から定期試験か…」

 

クラスメイトのスバルが机に顔を突っ伏しながら嘆いていた。

 

そう、学園祭の前に学生の本分である学業、定期試験が待ち構えていた。

しかも今回の試験は成績に大きく影響してくるようだ。

 

「今回のテストで出題教科の半分を赤点採ったやつは学園祭の期間補修だからしっかり勉強しとけよー。」

 

と、担任の先生から大きな釘を刺された。

クラスメイトの何人かがその言葉を聞いた瞬間、顔面が蒼白になっていた。

 

今回の試験の範囲はすでに発表されているが、かなり範囲が広いものとなっていた。

その範囲の中にはかなり難しい単元が含まれている教科があり、苦戦することが予想される。

 

「ふむ、この学園での試験を受けるのは初めてだが、少し難しいかもな。」

 

「ライ君もそう思う?僕も今回はしっかり勉強しなきゃ~。」

 

隣に座っているおかゆも同じ気持ちだったようだ。

 

「ライとおかゆでも難しいならスバルはどうなっちゃうんだよ…」

 

前の席に座っているスバルが涙目でこちらに振り向いてきた。

 

「まぁ確かに難しいが、前の勉強会の時みたいにしっかりと基礎が理解できれば問題ないと思うよ?それにスバルが良ければ今回も勉強会をやろうと思うが…」

 

「まじで!?本当頼むよ!!」

 

「ライ君~、僕も参加していい?」

 

「勿論。おかゆにも参加してほしいと思っていたんだ。」

 

「ありがとう~。今回も教室でやる?」

 

「一応その予定だ。2人の予定次第だけど、早速今日からやろうと思うんだが…」

 

「ライ君!!」

 

「ん?」

 

2人と勉強会の話を進めていると、教室のドアの方向から聞き覚えがある声に呼びかけられた。

声がする方に振り返ると、そこにはノエルがいた。

 

「ノエル?」

 

「ライ君やっほー。」

 

遅れてノエルの後ろからフレアが顔を覗かせた。

 

「フレアまで?あれ、今日って不知建での活動って何かあったか?」

 

僕の記憶が正しければ今日は不知建での活動は特にない予定のはず…

 

「あ、違う違う、今日は不知建での活動は関係ないの。」

 

「?じゃあ僕に何か別の用事が?」

 

「そうそう、特にノエちゃんがねー。」

 

そうフレアに言われてノエルの方に目線を向けると、ノエルが僕の方に歩み寄ってきた。

いつもの穏やかな優しい表情のノエルではなく、真剣な顔をした彼女がこちらに向かってくるのはなかなか迫力があった。

 

「ライ君!」

 

「は、はい。」

 

ノエルの勢いに押され、つい敬語になってしまった。ノエルは何を言おうとしているのだろう…

 

「団長に…勉強を教えてくれぇ…」

 

…生徒がもう1人増えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前回のようにおかゆとスバルの3人で勉強会を開く予定であったが、急遽ノエルとフレアも参加することになった。

 

不知建にいる間ノエルが成績が悪いという話を特に聞いたことがなかったが、出題範囲の中でどうしても分からないところがあるようで、このまま試験に臨むと赤点になってしまう可能性があるらしい。

 

「もし赤点を採ってフレアと学園祭を回れなくなったら団長は死んじまう…」

 

そう呟いたノエルの目から光が失われており、相当深刻らしい…

フレアと一緒に勉強をしていたようで、フレアから教えてもらいながら勉強を進めていたが2人では限界がきたようだ。

 

以前不知建の部室でノエルが課題をしているときに分からないところを教えてあげたことがあったが、その時の教え方がノエルには分かりやすかったようで、それで僕らの教室までやって来たそうだ。

 

「お願いだよライ君…団長を助けると思って力を貸してくれないかな…?」

 

ノエルは手を合わせてお願いをしてきた。

ノエルは不知建での活動中や、廊下ですれ違った時なども僕によく声を掛けてくれていて、とても良く接してくれている。僕にとって良き友人である彼女の力になってあげることができるのであれば断る理由はない。

 

「勿論だよノエル。せっかくの学園祭を回りたい人と回れないのはとても辛いと思うし…僕ができる範囲で良ければ力になるよ。」

 

「ライ君!…ありがどぅううう!」

 

ノエルは僕の手を両手で掴み感謝の言葉を伝えてきた。

 

「じゃあ早速この5人で始めようか。フレアとはおかゆは1人でも問題ないと思うからまずは各自で勉強を進めてみてほしい。スバルとノエルは僕が教えながら一緒に進めていこう。」

 

「「はーい。」」

 

「ノエル…一緒に頑張ろうな!」

 

「はい!スバル先輩!(はぁ…スバル先輩めちゃくちゃかわええ…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すいせいside

 

「うう…すいちゃんここ分かんないにぇ…」

 

「またぁ?どこ?」

 

私とみこちは放課後の教室で試験に向けて勉強をしている。

といっても、ほとんどはみこちが分からないところを教えてあげているだけなのだが…

 

「ここはこうやってドーンって解くんだよ。お分かり??」

 

「擬音でわかんねえよ!もうちょっと分かりやすく教えてほしいにぇ…」

 

「そんなこと言ってもなぁ…何で分かんないの?」

 

「キィィー!…あーあ、すいちゃんがライ君みたいに教え方が上手かったらいいのに…」

 

「あっ、みこち。そういえばすいちゃん今お腹空いてたんだ、もう帰っていい?」

 

「嘘です!もう一回教えてください星街さん!!」

 

今回の試験赤点が多かったら学園祭に参加できないから私もしっかり勉強したいんだけどなぁ…

でもみこちを放っておくわけにもいかない。

 

…もう少しみこちを弄って遊んでから本格的に始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

ライside

 

「よし、皆一旦20分くらい休憩にしよう。」

 

「つ、疲れた…スバル、購買でお菓子買ってくる!」

 

「あっスバル先輩、団長も行きます~。」

 

2人は教室を抜けて購買に向かった。

教室に残ったのは僕とおかゆ、フレアの3人となった。

 

「2人とも順調に進んでるかな?」

 

「うんー、ライ君の授業に耳を傾けながら問題に取り組んでいたからちゃんと解けてるよ~。」

 

「私もー。やっぱりライ君教え方上手だねぇ。」

 

「それはどうも。スバルとノエルもちゃんと着いてきてくれているから何とかなりそうで安心してるよ。」

 

スバルは前回教えたことは家でも復習をしっかりしていたようで、ちゃんと覚えていたので特に教えることに苦労はしなかった。ノエルに関しても基礎はしっかりできていたので、応用の考え方を教えてあげるだけだったので、この調子でいけば2人とも問題はなさそうであった。

 

僕もちょうどひと息つこうと思い、自動販売機で飲み物を購入しようとした。

すると、そのタイミングでフレアに呼びかけられた。

 

「ねぇライ君、勉強と関係ないことだけど1つ聞いてもいい?」

 

「ん?なんだい?」

 

「学園祭の期間中にさ、誰かと一緒に回る予定とかある?」

 

「ああ、すいせいと一緒に回る約束をしたよ。」

 

「ええ!!ライ君本当!?」

 

おかゆが机から飛び上がり、驚いていた。

 

「…そっかぁ。」

 

フレアは微笑んでいた。何故微笑んでいるのかは分からないが、すごく優しい表情だ。

 

「僕、すっごくびっくりしちゃった…ライ君、僕応援してるからね!」

 

「?ありがとう…?」

 

すいせいと学園祭を回るだけだがおかゆから応援された。

 

「じゃあライ君、すいちゃんをしっかりエスコートしないとねー。」

 

「そうか…僕にできるだろうか…?」

 

「すいちゃんならライ君と一緒だったらどこでも楽しんでくれそうだけどね。すいちゃんは割とその場のノリで楽しむタイプだし。」

 

「でも計画してあげたらあげたで喜びそうだけどね~。」

 

「あー、確かにそれは分かるかも。」

 

おかゆとフレアはそれぞれの話で盛り上がっていた。

事前にすいせいに何処を回りたいか聞いておいた方がいいのかもしれないな…

 

そんなことを考えていたらスバルとノエルが教室に帰ってきた。

2人の両手を見ると大量のお菓子が抱えらえていた。

 

「皆ー、一緒に食べながら休憩しよー。」

 

「購買のおばちゃんに試験勉強で残ってるって伝えたらいっぱいサービスしてもらっちゃったよ~。」

 

「わーい、スバルちゃんノエルちゃんありがとう~。」

 

「ライ君も一緒に選ぼ?」

 

「…ああ。」

 

少し疲労が出てきていたが、もうひと踏ん張り頑張ってみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りが暗くなる前に勉強会が終わり、全員で教室を後にして学園内の廊下を歩いていた。

歩きながらスバルとノエルの2人から感謝の言葉を告げられた。

 

「ライ…今回もありがとな…家帰ってからも頑張ってみるよ。」

 

「団長もだよ、ライ君のおかげで何とかなりそうだよ~。」

 

「お役に立てて何よりだ。それに2人ともほとんど理解できていたから、あと数日くらいで完璧にできると思うよ。」

 

するとおかゆから皆にある提案をした。

 

「ねえねえ、1つ提案なんだけど試験までの期間皆で勉強会するのはどうかな?そうすればスバルちゃん達も安心だろうし。実は僕もライ君に質問したいところが出てきたから、勉強会をやってもらいたいんだよねぇ~。」

 

「あっ、それいいかも。実は私も分かんないところ出てきてさー。」

 

「いいんじゃないか?僕も教えながら振り返ることができるし…スバル達もいいかい?」

 

「「はい!先生!!」」

 

2人の返事が何だかおかしくて僕は笑ってしまった。

 

「おっ、ライが笑うの珍しいな。」

 

「確かに~。」

 

「…僕ってそんなに笑っていないか?」

 

「うーん、いつもは真顔になっているのが多いかも?」

 

「でもたまに出る表情にギャップを感じるね。」

 

自分では表情を出しているつもりだったが、まだ乏しいらしい。自室に戻ったら笑顔の練習でもしようかな…

 

そんなことを話していると、上の階段から2人の生徒が降りてきた。

 

「やっと終わったにぇ…」

 

「みこち家に帰ったらちゃんと復習してよ?」

 

みことすいせいだった。2人もまだ学校に残っていたらしい。

 

「あれ?みこちとすいちゃん?」

 

「ん?あっ!部長とノエたん!ライ君も!」

 

「スバルちゃんとおかゆちゃんもいるじゃん!」

 

2人は僕らに気づき階段を早足で降りてきた。

 

「やっほー、すいちゃんみこち~。」

 

「2人も試験勉強してたのか?」

 

「そうそう、みこちに勉強教えててさー。」

 

「うう、部長…みこの頭を撫でて慰めてほしいにぇ…」

 

「はいはい、よく頑張ったねー。」

 

「そっちは大人数だねー。」

 

「うん、団長とスバル先輩がライ君に教えてもらうために勉強会を開いてもらったの。」

 

「えぇ!みこもそっちに参加したかったにぇ!ライ君教えて!!」

 

「構わないが…今僕らが勉強しているのは2年生の内容だよ?」

 

「…実は2年生で習った内容の応用が出題範囲の中にあるんだにぇ…」

 

なるほど、確かに2年生の内容でも、1年生で習った内容を使うことがあるので、みこが参加したがる理由に納得できた。

 

「じゃあ後で出題範囲を携帯に送ってくれないか?それを見て問題を考えておくよ。」

 

「ライ君…恩に着るにぇ!!」

 

「えー、じゃあすいちゃんも明日から参加する~。」

 

「勿論。すいせいも大歓迎だ。」

 

「えへへ、ライ君ありがと。」

 

すいせいと話をしているとすいせいの後ろからゆっくりおかゆとフレアが近づいていた。

すると2人はすいせいの腕を両側から掴み、2人に捕まった。

 

「すーいちゃん!」

 

「わぁ!?な、何?」

 

「ちょーっと1分だけ話そっか?」

 

そういうと2人はすいせいの腕を掴んだまま帰り道の逆方向に歩き出し、すいせいは引きずられるような形で連れていかれた。

 

「皆は先に学園の門まで行っててー。」

 

「僕らもすぐ追いつくからさ~。」

 

「えっ!何されるの私!?だ、誰か助けてー!」

 

すいせいの叫びもむなしく、3人の姿はすぐに見えなくなってしまった。

 

「…とりあえず僕はこのままクラブハウスに帰るから、皆また明日。」

 

「うん!ライ君バイバイ!」

 

「フレアたちにも伝えておくよ~。」

 

今日のところはここで皆と別れ、帰路につくことにした。

 

明日からもまた大人数での勉強会になるだろう。

 

(皆のためにクッキーとか焼いて持っていこうかな…)

 

そう思いついた僕は早足になり、急いで明日の準備に取り掛かることにした。

 

皆で学園祭をしっかり楽しめるように…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ノエルとスバルは学年が同じ設定でノエルがスバルを先輩と呼んでいることに違和感を覚える方がいるかもしれませんが、そこはご都合主義ということで…(作者の不手際)



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四つ葉

27話目。

早くも10月に突入…

体調を崩しがちな時期が近付いているので、皆様も体調には気をつけてお過ごしくださいませ〜。


 

「よし、そこまで!後ろの席から答案用紙を前に回してくれ。」

 

先生の試験終了の合図の声が教室内に響き渡った。

今日は定期試験最終日。この試験期間中、勉強会に参加していた皆と頑張って勉強をした甲斐もあり、僕は試験の解答に困ることはなかった。

 

「終わったああああ!!」

 

スバルが机に突っ伏しながら声を上げた。

僕は今回の首尾はどうだったかスバルに聞いてみた。

 

「どうだったスバル?」

 

「ライ…今回はスバル史上1番勉強したから手ごたえはあったよ…でも疲れたぁ…」

 

スバルは満足気な顔をしていた。

スバルが今回の勉強会で1番頑張っていたと僕は思っている。学校での勉強会が終わった後も僕に連絡を入れて熱心に質問をしてきていたからだ。

 

「お疲れ様、後は結果を待とう。」

 

「2人ともお疲れ様〜。」

 

スバルと話していると手をヒラヒラと振りながらおかゆが話しかけてきた。

おかゆは勉強会の中でも自分でしっかりと取り組んでいて時折僕に確認の質問をしていただけだったので特に心配はしていない。

 

「おかゆもお疲れ様。その様子なら問題はなかったみたいだね?」

 

「うん〜。勉強会でライ君に質問したところもバッチリ解けたから大丈夫だと思うよー。」

 

とりあえずクラスメイトの2人は問題なさそうでよかった。

 

(残る心配は勉強会に参加していたノエルとみこだけだが…)

 

そんなことを考えていると廊下を走る2つの大きな足音が近づいてきた。

すると足音が教室の前で止まり教室のドアが勢いよく開かれた。

 

「「ライ君!!」」

 

声がする方に振り返ると、たった今頭に思い浮かべていたノエルとみこがいた。

2人は走って疲れたのか息を整えていたが、2人とも笑顔で僕に向けてサムズアップをしていた。

 

その姿を見て上手くいったことを察した僕は同じく笑顔でサムズアップで返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試験が終わって数日が経過した。

それぞれの試験の答案用紙の返却が始まり、教室では生徒の阿鼻叫喚の声で溢れていた。

 

そして先生からスバルが名前を呼ばれスバルの番が回ってきた。

スバルが答案を先生から受け取る前は緊張しているように見えたが、受け取って点数を確認した瞬間スバルはその場で飛び跳ねていた。

 

「ライ!おかゆ!見てよこれ!」

 

スバルは僕とおかゆの元に自身の答案用紙を持ってきた。

点数を見ると全ての教科で赤点を回避し、平均点数は80点を超えていた。

 

「おお!すごいねスバルちゃん。」

 

「スバルは今回の試験勉強凄い頑張ってたからね。これくらいの点数は採れると思っていたよ。」

 

「スバルこんな点数採れたの初めてだよ…ライもおかゆも勉強会で助けてくれてあんがと!!」

 

はしゃいでいるスバルを見て僕とおかゆは微笑んだ。

友人の努力の結果が実って僕たちも嬉しい。

 

「そういえば2人は点数どうだった?」

 

「ん?ああ。」

 

「僕たちはこんな感じだよー。」

 

僕とおかゆはスバルに結果を見せた。

 

猫又おかゆ 平均90点

 

皇ライ   平均95点

 

「…お前ら化け物やん…」

 

何故かスバルに引かれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校が終わったその日の夜、僕は自室のPCの起動準備を行なっていた。

このPCはトワにお願いをして選んでもらい、購入していたものだ。

 

何故僕がPCを起動しているのかというと、夕方頃にあくあから連絡が入り、このようなメッセージが届いていたからだ。

 

『今宵20時、戦場に集結。』

 

このメッセージは以前あくあとすいせい、トワ、そして僕の4人でゲームで遊ぼうと約束をした時に作成されたチャットグループにあくあから送られていた。

僕はこの文章の意味が理解できておらず、個人でトワにチャットで確認をしたところあくあが言う戦場というのはゲームのことを指すらしい。

 

ついでにトワから今回遊ぶゲームについても事前にPCを購入した日にインストールをしてもらい、一緒にプレイをしていた。

ゲーム内容は4人1組のチームで戦うバトルロワイヤル形式となっており、20組のチームによる総勢80名が1つの広大なフィールドで戦い、フィールドの建物内などにある武器である銃や物資を拾い集め、それらを使い1組の勝者を決めるのが基本ルールになっている。操作をするキャラクターの種類は豊富で、それぞれのキャラクターに特徴や能力がある。チームを組む際にもキャラクター同士のバランスと仲間内での連携も重要になってくる。

 

既に3人は僕を待っている状態で、準備も整ったので3人が会話をしている通話アプリのグループ通話に入った。

 

「すまない、待たせたね皆。」

 

「あっ!ライ先輩こんばんは!」

 

「ライ君遅いよー。」

 

「や、やっほーライ君…」

 

トワ、すいせい、そしてあくあからそれぞれ声を掛けられた。

基本的に学園内か租界で会って話すことがほとんどだったので、こういったアプリを通しての会話は何だか新鮮な感じがした。

 

3人はこのゲームでよく一緒に遊んでいるようで、Startendというチームを組んで大会にも出たことがあるらしい。その中でもあくあは特に大会内でも高成績を収めたこともあるようだ。

以前のゲームセンターでのあくあの動きを見ていた僕は納得できたが、まさかこんな可愛らしい女の子が戦場を駆け回り、敵を撃ち倒す姿があるとは普段のあくあの様子しか知らない人からすればさぞ驚かれるだろう…

 

「さて、ライ君も来たことだし早速始める?」

 

「そだねー、ライ先輩も大丈夫ですか?」

 

「ああ、皆の足を引っ張らないように頑張るよ。」

 

「ら、ライ君…あ、あてぃしが守ってあげるから!」

 

「ありがとうあくあ、頼りにしてるよ。」

 

「エヘヘ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲームが開始され、僕たちはフィールドで物資を拾い集めていた。

僕はトワと一緒にプレイした時にも使用していたスナイパーライフルを今回もメイン武器にすることにした。

狙うのにコツがいるが、上手く当たれば一撃で敵を倒すことができるので僕は気に入っている。

 

ある程度物資が揃ったので皆で場所を移動しようとしたその時、

 

「…!銃声!!」

 

トワがいち早く銃声に気付いた。音からするにここからそう遠くはない。

 

「よーし、せっかくだしあいつら倒して物資奪おうよ!」

 

すいせいからの提案に皆が賛同した。

ここで上手く倒すことが出来れば敵の数を減らせるだけではなく、まとまった物資も獲得ができて一石二鳥だ。

 

僕達は銃声が鳴った方角に向かい、索敵を開始した。

現在は銃声がしないが、此処に向かうまでに銃声が鳴っていたので、恐らく別チーム同士が戦闘を行い、決着が着いた状態なのだろう。

 

索敵を開始して数分、敵を最初に発見したのは僕だった。

 

「皆、敵を確認した。南のビルの屋上に4人いる。」

 

「ライ君ナイス!」

 

「ほんとだ、見た感じ物資を漁っているみたいだから周りは全然警戒してないね。」

 

「あてぃしがスキルを使えば皆と一緒に屋上までワープできるけど、フルパだから勝ち切れるかちょっと怪しいかも…」

 

あくあが使用しているキャラクターのスキルは空間移動能力を所持しており、入口出口のワープホールを作成し、空間移動を可能にするスキルだ。

相手の裏をかくことができるので強力なスキルではあるが、デメリットとして連続での使用はできないため、使うなら絶好のタイミングでないと効果は薄い。

 

そうなってくるとまずは基点作りが必要だ。幸い相手はこちらに気づいていない。このアドバンテージを有効に使うためには…

 

「ライ先輩…」

 

「トワ、多分僕も同じことを考えていたよ。」

 

「「???」」

 

すいせいとあくあは何のことだか分かっていないようだった。無理もない、これは以前一緒にプレイしたトワしか知らないことだ。

 

「ライ先輩に狙撃であいつらを抜いてもらおうと思って…前一緒にした時も先輩はSR(スナイパーライフル)使ってたんだけど、全弾相手に当てることできてたからさ。」

 

「全弾!?マジで!?」

 

「…や、やっぱあてぃしが見込んだだけはあるね!」

 

基本初心者の場合は連射ができて使いやすいSMG(サブマシンガン)やAR(アサルトライフル)を使うのがセオリーだ。

確かに僕も最初はARをメインに使おうと思っていたが、SRのヒット率が異常に高く、トワからも驚かれた程だった。

 

「ならライ君に狙撃がしやすい向かいのビルに移動して狙撃で抜いてもらって、あてぃし達が抜いた敵以外を倒せばいけるね。」

 

「それでいこっか。あいつらのビルの下に移動するねー。」

 

あくあの提案にすいせいが賛同したが僕は正直不安な部分がある。

 

「…僕に任せて大丈夫か?前回は上手くいったが今回も上手くいくとは…」

 

「え?だってライ君ならやってくれるでしょ?」

 

すいせいは首を傾げながら当たり前かのように言った。

あくあとトワは笑顔で僕を見ている。皆に信頼してもらっているということは嬉しい。皆からの信頼を裏切るわけにはいかないな…

 

「わかったよ。屋上の敵の牽制は僕に任せてくれ。」

 

僕は3人にそう告げると敵の向かいのビルに移動を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(よし…まだいるな…)

 

移動が終わり、まだ敵がビルの屋上にいることが確認できた僕はSRを構えてスコープを覗き込んだ。

4人の内、屋上の入り口から遠い敵に狙いを定め引き金を引いた。

撃ち出された弾丸は狙い通りの敵にに命中し、その敵は倒れた。

残りの敵が味方が倒されたことで襲撃に気づき、すぐさま屋上の入り口を目指し走り出した。

僕はリロードをし、再度SRを構えた。残りの敵の内の2人は建物内に入ったが、1人が入り口から遠かったこともあり、まだ入り口に向かって走っているのを視認できる状態であった。

 

(逃がさない…)

 

僕は建物内に逃げようとした最後の敵を逃がすまいと狙いを定め引き金を引いた。

逃げ遅れた敵にも弾丸が命中し、敵は倒れた。

 

「皆、屋上で2人を倒した。今ならいけるよ。」

 

「さっすがライ先輩!あくたん、すいちゃん!トワは下から迎え撃つから屋上から攻め込んで!」

 

「OK!あくたんお願い!!」

 

「うん!」

 

あくあとすいせいがあくあのスキルでビルの屋上まで一瞬で移動をしているのが見えて、そのまま2人は建物内に逃げ込んだ敵を追っていった。

トワも下から向かっているので挟み撃ちができ、人数も3vs2のためこちらが圧倒的に有利だ。

数分後、銃声が聞こえたが一瞬で収まった。

 

「ライ君終わったよー。」

 

あくあ達から戦闘終了の連絡が入った。

流石はと言うべきか仕事が早い。

 

彼女達からチーム連携が上手くいったことへの喜びの声が聞こえてきて、僕も嬉しくなった。

 

「よーし、この調子で最後まで敵を倒しまくろう!」

 

「「おおーっ!」」

 

 

 

 

 

 

 

あの後も数チームと戦闘があったが、僕達のチームの連携が上手くいき、特に苦戦もすることなく僕達は最後まで生き残って、チームの初陣は勝利で収めた形となった。

 

最後に今回の招集者のあくあから皆への労いの言葉が送られた。

 

「皆今日はありがとう〜、久しぶりにすっごく楽しかったよ!」

 

「あくたーん!!今日もかっこよかったよぉー!!」

 

「ウ、ウン…」

 

「トワも楽しかったー!チーム連携めちゃくちゃ良かったし、全然負ける気しなかったし!」

 

「僕も楽しかった。あくあ、今日は誘ってくれてありがとう。」

 

今日は本当に楽しかった。今までテレビゲームなどをしてこなかった僕からするととても刺激的で、皆と喜び合えたのも楽しかった。

 

「ねぇねぇ皆、トワから提案があるんだけどさ…」

 

「ん?なになにトワちゃん?」

 

「この4人で新しいチーム作ろうよ!絶対この4人なら大会とか出てもいい線いけると思うんだ!」

 

「「!!」」

 

「チーム?以前3人で組んでたチームみたいなものかい?」

 

「そうです!ライ先輩本当に初めてとは思えないくらい上手いし!状況判断とかも的確だしオーダーとかに向いてますよ!」

 

「確かに今までトワがメインでオーダー出してたからライ君が加わるともっと動き良くなりそうだね!正直このチームなら負ける気しないもん!」

 

皆が新しいチームの結成に盛り上がりを見せていた。

この3人はとても仲が良い、それでいて雰囲気も優しく感じられた。そんなチームの輪に加えてもらえるのはとても光栄だ。

 

「僕でよければ是非。もっと皆と遊んでみたいしね。」

 

「決まり!最強チームの結成だね!!」

 

「あ、でも…」

 

「ん?どしたのトワ?」

 

「チーム名どうする?前はStartendにしてたけどそのままにする?」

 

「うーん、ライ君が新しくチームに入ったから折角だし変えたいかも…」

 

「どうするあくたん?」

 

「あてぃし!?えーっとえっと…あっ!そうだ!」

 

あくあは慌てふためいていたが、何か思いついたように明るい表情を見せた。

 

「ここは一番新人のライ君に決めてもらおうよ!」

 

「えっ、僕が考えるのか?」

 

「ここのチームでは先輩の言うことは絶対だからねぇ…期待しているよ新人君。」

 

…何だかあくあが出会った最初の頃に比べると遠慮がなくなってきている気がする…

スバル曰く、あくあは仲良くなった人には積極的に絡んでくれると言っていたので仲が良くなったことを喜ぶべきなのだろうが…

 

「いやー楽しみだねぇ。」

 

「ライ先輩のセンスに期待しちゃうなぁ。」

 

すいせいとトワもあくあに便乗してきた。

これでは下手な名前は付けられないな…

 

「うーん…」

 

僕は目を閉じて考え始めた。

 

(4人のチーム…4…4の数字が象徴なワード…あっ…)

 

僕は頭の中を駆け巡らせた結果、ある植物の名前が思い浮かんだ。

 

「クアドリフォリオ…省略してQ4なんていうのはどうだろう?イタリア語で四葉のクローバーって意味なんだが…」

 

「Q4…いいね!」

 

「四葉のクローバーか…4人チームにぴったりだし、お洒落っぽくていいじゃん!」

 

「やっぱライ先輩センスえぐいわぁ…」

 

3人の反応を聴く限り、3人とも好感触のようで安心した。

 

「えー、ではStartend改めQ4!このチームでこれから頑張っていこう!」

 

「「おーっ!!」」「おー」

 

時刻を見ると日付をが変わる前の時間になっていた。あくあの音頭を皮切りに今夜は解散することになった。

 

「それじゃああてぃし明日早いからもう寝るね!皆おやすみ~。」

 

「トワもお風呂入ってからそろそろ寝なきゃ。またね~。」

 

「ああ、おやすみ。」

 

そしてあくあとトワは通話グループから抜けていった。僕もアプリを閉じようとしたがまだグループにすいせいがいることに気づいた。

 

「すいせい?まだ寝ないのかい?」

 

「あはは、実は夕方ちょっと寝ちゃってたからまだ眠くないんだよねー。」

 

なるほど、確かに昼寝をすると夜はなかなか寝付けないということはよくある。

 

(そういえばテスト期間中の間すいせいとあまり話せていなかったな…)

 

勉強会に一緒に参加はしていたが、お互いが忙しかったためいつも通りの会話ができていなかった気がする。

すいせいはまだ眠くないということだったのである提案をした。

 

「すいせい、まだ眠くないならこのまま少し話さないか?」

 

「!!うん!話そ話そ!!」

 

すいせいから了承の返事が返ってきた。

僕とすいせいは眠りにつくまでの間しばらく話した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久しぶりの投稿と、長文になってしまい申し訳ないです…

この頃忙しかったのもあり更新頻度が落ちてしまっていましたが、以前の頻度に戻したいので是非お待ちください…

話に出ているゲームはA〇EXを基にしていますが、戦闘表現難しすぎますね…


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学園祭

28話目。

最近スバルのコードギアス同時視聴を見ていますが、当時を思い出して懐かしい気分になっています。

コードギアス見たことない人ももしかしたらいるかもしれませんが是非見てほしい…


 

「皆~、生徒会長の余だよー!今から学園祭の開始を宣言する余!!」

 

今日は学園祭当日。生徒会長であるあやめから学園の生徒全員に向けて放送が行われた。

すでに生徒の皆は準備が完了しており、学園の門には学園外から学園祭を楽しむためにやって来た方達の長蛇の列ができている。

 

いま放送をしている放送室には生徒会メンバーが全員集結している。

もちろん僕もいるが、ただ僕は今すぐこの場から逃げ出したい…

 

「宣言は新しい生徒会メンバーの皇ライ君から行われる余!」

 

あやめがそう言うと持っていたマイクを僕に向けて渡してきた。

 

「…あやめ、本当にやらないとダメかい?」

 

「もちろん!会長命令だ余!」

 

あやめは笑顔で僕の最後の望みを否定した。

誰かに助けを求めようとしたが、他のメンバーはあやめと同様僕に笑顔を向けるだけであった。

 

「さぁライ先輩早く早く!」

 

「ウチ、楽しみだなぁ。」

 

「ライ先輩、生徒の皆が待ってますよ?」

 

トワとミオさん、天音さんの様子を見て僕は逃げられないことを察した。

僕は今から行うことに対して思い切り深呼吸をし、覚悟決めてあやめからマイクを受け取った。

 

「…に、にゃああああ!!」

 

僕の合図と共に花火が打ちあがり、学園全域に学園祭のスタートが伝えられた。

 

この合図は決して僕が考えたのではなく、あやめが考案したものだ。

僕の合図を聞いていた生徒会のメンバーは皆お腹を抱えて笑っていた。

 

(…消えてしまいたい…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「あっはっはっはっは!!!」」」」」

 

不知建の部室に笑い声が響いていた。

笑い声の原因は先程の学園全域に放送されていた生徒会メンバー兼不知火建設メンバーである皇ライの合図にであった。

 

「ら、ライ君のあんな声初めて聴いたにぇw」

 

「ちょ、ちょっと待って、お、お腹痛い…w」

 

「ライ君が放送を聞かないでほしい、って言ってた理由ってこれのことだったんだw」

 

「これは確かに聞かれたくないかもね…ん?ポルカ何しちょるん?」

 

「ん?ライ先輩の今の合図録音したからその音声チェック。」

 

「ポルカナイス!!」

 

「あ、その音声私に送ってー。」

 

「みこにもみこにも!!」

 

「へっへっへ…毎度ありぃ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライ君お疲れ様~。さっきの放送可愛かったよ~。」

 

「…おかゆ…できればそのことには触れないでくれ…」

 

「えー?どうして?」

 

「おかゆ…ライの気持ちを考えてやれって…」

 

僕は放送が終わった後すぐ教室に向かった。

向かう途中の生徒からの目が恥ずかしすぎてどうにかなってしまいそうだった。

 

しかし今日は折角の学園祭、落ち込んだままでは周りの空気も悪くなってしまうかもしれない。

僕は気持ちを切り替えてクラスの出し物の準備に取り掛かった。

 

学園祭は3日間に渡って行われて、僕は初日はクラスの出し物、2日目は不知建の出し物、最終日は自由行動という予定になっている。

僕は生徒会メンバーなので学園の見回りを学園祭の期間中に行わなければいけないが、あやめからは学園で迷っている人や困っている人がいれば助けてあげる、それだけをしてくれればいいと言われた。

僕はこの学園の学園祭に参加するのが初めてだったので、あやめは僕に学園祭を楽しめるよう考慮してくれたんだと思う。

 

あやめに感謝しながら僕は準備に必要な着替えを始めた。僕たちのクラスの出し物というのは…

 

「よーし、2-Bホストクラブ開店準備だよ~!」

 

そう、ホストクラブである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園祭準備期間中。

 

「ライ君、僕たちのクラスの出し物はホストクラブに決まったわけなんだけどさ。」

 

「ああ、去年はおかゆとスバルがメインになって回していたって聞いていたが。」

 

「そうそう~。でも今年はクラスの皆の投票で僕とライ君がメインで回すことになったからライ君にホストの極意を教えてあげるよ。」

 

「僕はあまりそういうのに疎いんだが…ホストは何をするんだ?」

 

「簡単に言えばお客さんを喜ばせてあげることかな?お客さんが望んでいること、夢を与えるのがホストの仕事なんだ。」

 

「夢を与える…ホストとは大変な仕事なんだな…」

 

「うーん、確かにお客さんによっては大変だったりするけど、基本的にはお客さんと楽しくお話をするだけだから楽しいよ?お客さんが楽しんでくれたら飲み物の注文もたくさんしてくれるし。」

 

「おかゆ…お前去年あんだけ大変だったのに楽しかったのかよ…」

 

「うん!スバルちゃんも助けてくれたからねー、今回もよろしくね。」

 

「まぁスバルは今回どちらかというと裏方側だからなるべく助けには入るけどさ。」

 

スバルはやれやれと肩をすくめていた。

おかゆは楽しく話をするだけでいいと言ったが中々難しいような気がする。

 

「お客さんを楽しませてあげるにはどんなことをしてあげればいいのかな?」

 

「基本的にこんな店に来る人は普段寂しい思いをしている人が多いからね。他愛もない話をしたり、褒めてあげると喜んでくれると思うよ?」

 

おかゆからホストの極意を学んでいると、おかゆが何かを思い出したかような反応を見せた。

 

「あっ、そうそう。ライ君のホストをするの時の名前も決めなきゃね。」

 

「名前?ライじゃだめなのか?」

 

「ライ君、さっきも言ったようにホストは夢を与える仕事なんだよ?現実と同じままの名前だと夢の世界に浸ることができないんだよ。」

 

「な、なるほど…」

 

確かに一理ある。なんだか今日のおかゆはいつも以上に気合が入っている気がするな…

 

「というわけでホストになる時の名前を考えます。ちなみに僕はおか斗って名前だよ。」

 

「名前か…じゃあ僕もおか斗にちなんでライトなんていうのはどうかな?」

 

「おー、かっこよくていいじゃん。決まりだね。」

 

「ホストでライトか…人気者っぽいけど、何かすんごいやっかいそうな客を抱えてそうな名前だな…」

 

…スバルが不穏な内容をボソッと呟いていたが敢えて僕は気にしないようにした…

 

「あとは口調を変えてみよっか?ライ君いつも1人称は僕だけど俺に変えてみたりとか。」

 

「口調…お、俺か…難しいな…」

 

「うわぁ…ライが俺って言ってんの違和感しかねぇわ…」

 

「確かに物心つく前からずっと僕だったからね。でも1人称を変えるのは不思議だけどなんか楽しいな。」

 

「でしょでしょー?僕もおか斗の時は俺って言ってるけど違う自分になりきるみたいで楽しいよー?」

 

「違う自分になりきるか…」

 

自分を別の何かになりきるなど考えたこともなかった。

おかゆの感性は人とは違う部分があるが、僕にとって新たな方向から物事を見ることができるようになった気がするので彼女の話を聞くのはとてもためになるし、なにより楽しい。

 

「…やっぱりおかゆは凄いな…よく僕が考えもしないことを思いつくな…」

 

「えへへ…もっと褒めてもいいんだよー?」

 

「いやいやライ、そう考えないのが普通だから。」

 

おかゆが嬉しそうにしている中スバルがツッコミを入れてきた。

おかゆは気にしないまま僕に頭を差し出してきたのでその頭を僕は撫でた。以前彼女の家に遊びに行ったときに頭を撫でてから時折頭を撫でることをおかゆに求められている。

彼女の頭は猫以上に触り心地がいいので役得だと思いながら頭を撫でることにしている。

 

「ふわぁ…至福の時ぃ…」

 

「お前ほんとにライに頭撫でられるの好きだよな?」

 

「うんー、力加減が絶妙で気持ちいいんだー。」

 

僕はおかゆの頭を撫でながら話を進めることにした。

 

「そういえば衣装とかどうすればいいんだ?」

 

「ああ、衣装はスーツなんだけど、演劇部から借りてくるからそれ着てもらえばいいよ。メイクもちょっとするけどクラスメイトに得意な子がいるからやってくれるしスバルからも頼んでおくよ。」

 

「ありがとうスバル。じゃあ僕はホストの話し方の練習でもするか…」

 

「ライ…この学園まじでやっかいな客多いから気をつけろよ…?」

 

「…肝に銘じておくよ。」

 

その後少しの不安を抱えながら僕はおかゆとホストの練習に励んだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして今日が学園祭本番当日。

 

「ライト、準備はいいか?」

 

「ああ、おか斗。今日はお客さんを全力で楽しませてあげよう。」

 

黒いスーツを着たおか斗。それに対をなすように白スーツを纏った僕…いや俺。

 

 

 

 

「「さぁ!開店だ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




学園祭の内容はしばらく続きます~。

2期生を好きになったのはおかゆんのホストクラブだったのでこの話を書きたかった…


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学園祭2

29話目。

皆様お久しぶりです…

最近の仕事が忙しすぎて投稿が滞ってしまい申し訳ない…

投稿頻度はこれから戻していきたいと思います!!

それでは前回の続きです。




 

俺とおか斗の合図でお店が開店した。

お客様はスバルやクラスメイトによって順番に通されるようになっており、耳に付けているインカムでやり取りをしている。

 

『じゃあ2人ともお客さん通していくぞ?…って、おわぁ!?』

 

「スバル?」

 

やり取りをしていたスバルから悲鳴のような声が聞こえてきた。何かトラブルでもあったのだろうか?

 

そんなことを考えていると、ドアが勢いよく開かれた。

 

「おか斗くぅーん!ラミィが来たよー!!」

 

恐らくスバルの悲鳴の原因であろう女の子が俺達の前に現れた。

その子はライトブルーの長髪のエルフで、以前図書館で僕の隣の席に座っていた子だった。

 

「やぁラミィ、今年もよく来てくれたね。」

 

「もぉーう、違うでしょー?俺だけのラミィでしょ?」

 

「あはは、ごめんごめん。俺だけのラミィ。」

 

「そうそう♪…ん?あなたは…」

 

ラミィと呼ばれた少女は俺の存在に気づいた。

 

「初めましてお嬢様、俺はライトといいます。よければお嬢様の名前を教えていただけませんか?」

 

「やだぁ!ちょーイケメン君じゃーん!ラミィは雪花ラミィっていうのー!ライト君はライトだけのラミィって呼んでね?」

 

図書館で初めて会った時とは比べもつかないテンションの差に内心驚いていてしまったが、何とか名前を聞き出すことに成功した。

僕は早速おか斗から学んだことを実践することにした。

 

「素敵なお名前ですね、そして何よりお綺麗だ。」

 

「ほんとにぃ~?ちょーうれしぃー!」

 

「ライトは今日初めて働く新人なんだよ。優しくしてあげてね?ラミ「俺だけのラミィ」お、俺だけのラミィ…」

 

「もっちろーん!ラミィが優しくしてあげちゃうー!」

 

「ありがとうございます、とても嬉しいです。」

 

「なんか敬語だと他人行儀みたいな感じがして嫌だなぁ…まぁでも紳士っぽい感じも悪くないから特別に許しちゃう~!」

 

ご機嫌を損ねなくてよかった。

ラミィを席まで案内し、3人で席についた。

ラミィはどうやら俺に興味を持ったようで質問をしてきた。

 

「ライト君は去年いなかったでしょ?どこから来たの??」

 

「俺はここに来る前はキョウトにいたんです。」

 

「キョウト…やっぱり…」

 

「??」

 

ラミィは俺が以前キョウトにいたことを教えると何か考え事をしているようだった。

何を考えているのか首を傾げるとラミィはハッと我に返ったようで話を続けた。

 

「キョウトはやっぱり美人が多いもんね!ライト君もちょーかっこいいし、お肌も綺麗だよねー!」

 

「ありがとうございます、ライトだけのラミィもお嬢様、という言葉にぴったりなくらいお綺麗です。」

 

「いやだもーう!褒めても注文しかしないよー!」

 

ラミィは自分の頬を両手で抑えて、嬉しそうにしていた。図書館ので見かけた時にも感じていたが本当にどこかの令嬢と思えるように彼女はとても綺麗だった。

 

「ねぇ俺だけのラミィ?俺のことはほったらかしなの?」

 

そう言いながらラミィの隣の席に腰を下ろしたおか斗が、ラミィの肩に腕を回し詰め寄った。

 

「ライトを可愛がってほしいって頼んだけど、俺も相手してくれなきゃ寂しいよ?」

 

「おか斗くんごめーん!お詫びに飲み物注文するから許して~!」

 

「ほんとに?じゃあライトのデビュー記念にシャンパン(ノンアルコール)頼んでもいい?」

 

「もっちろん!もう好きなの頼んじゃって!!」

 

「ありがとう~、俺だけのラミィだーいすき。」

 

「お、おか斗君もう一回言って?」

 

「俺だけのラミィだいだいだーいすき。」

 

「ああん!ラミィもしゅきしゅき~!」

 

流石はおか斗。あっという間にラミィの好感度を上げてしまった。

 

(俺も何かしないと…あっ、そうだ、おか斗に教えてもらったあの技が…)

 

 

 

 

 

 

 

 

(いいライ君?ホストに来る女の子は基本的にイケメンが好きなんだ。ライ君お顔がすっごいかっこいいから微笑んであげると女の子からの黄色い悲鳴が鳴りやまないはずだよ!!)

 

おか斗からもらったアドバイスを思い出し、隣に座っているラミィに向けて微笑みを浮かべてみた。

 

「じゃあライト君にも何か言ってもらお…っ!?」

 

僕の方に目を向けたラミィが驚いた顔のまま固まってしまった。

それからしばらくして我に返ったのか俺の方に身体を寄せてきた。お互いが向き合う形となり、ラミィが俺の顔に両手を伸ばし、両手で俺の顔を包んだ。

ラミィの手はひんやりとしていて少し驚いたが、彼女は僕を真っすぐ見つめてきている。

彼女の目は何かを確かめようとしているような、真剣な目をしている。

 

(彼女の目…どこかで見たような…?)

 

ラミィと出会った図書館ではなく、それ以前に見かけたようなそんな感覚に襲われた。

そんなことを考えていると教室の扉が開かれた。

 

「どもー、ここにラミちゃん来てません?」

 

扉から現れたのは長身の女性だった。ツーサイドアップに髪をまとめてあり、髪色は俺と似ている灰色、頭部にあるフワフワの耳はまるで獅子を連想させた。

さっきの言葉から察するに彼女はラミィを探していたようだ。

 

「あーっ!ししろーん!!」

 

探されていた張本人は俺の顔をパッと離し、勢いよく立ち上がってししろんと呼んだ彼女のもとに走り出した。

ししろん…どこかで聞いた覚えがある言葉のような…?

 

「もーう、ラミちゃん待ち合わせ時間過ぎちゃってるよ?」

 

「ごめーん!ついつい夢中になっちゃって時間に気づかなかったの~。」

 

「そんなことだろうとは思ったけどねー、あたしお腹空いたから一緒に屋台回ろうよ~。」

 

「うんうん!じゃあ早速行こう!あっ、おか斗君ライト君、2人ともありがとうね。シャンパンの代金受付に払っておくから!」

 

「わーい、俺だけのラミィありがとう~。」

 

「ありがとうございます。」

 

お礼を言うとラミィは急いで受付まで走って向かった。

 

「あっ、もしかして皇先輩ですか?」

 

ししろんと呼ばれていた女性は僕を見ながら質問をしてきた。彼女は俺…僕を何故知っているのだろうか?

 

「そうだけど、君は?」

 

「あたしは獅白ぼたんっていいます。おまるんから良く先輩の話を聞かせてもらっていまして。」

 

「ポルカから?…あっ、もしかしてポルカが言っていたゲームが上手なししろんっていうのは…」

 

「あはは、それは多分あたしのことですね。」

 

思い出した。ししろんという名前は以前不知建の皆でゲームセンターに遊びに行ったときにポルカから出た名前だ。ポルカが楽しそうな顔をしながら語っていたのを覚えている。

 

「今度時間できたときゆっくり話してみませんか?」

 

「…是非。ポルカの友人なら大歓迎だ。」

 

「やりぃ、ありがとうございます!じゃああたしとラミィちゃんはこれで、おかゆ先輩もまた~。」

 

「うん、ぼたんちゃんまたね~。」

 

ししろん…獅白さんは僕とおかゆに手を振りながら出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ…初のお客さんの相手は終わったな…」

 

「ライ君お疲れ様~。初めてでラミィをさばききったの凄いよ!」

 

「事前におかゆに教わっていたおかげだよ。前知識がなければ本当に大変だったと思う…あっ、そうだスバルは?」

 

冒頭でスバルの悲鳴を聞いていたが、その後のスバルのことを忘れていた。

ちょうどそのことを思い出したタイミングで、スバルが入り口の扉からよろめきながら姿を現した。

 

「ふ、二人とも…」

 

「スバルちゃん?どうしたのさ?」

 

「店を開けた瞬間ラミィが突撃してきてさ…それでスバル達が吹っ飛ばされて…」

 

「スバルも大変だったんだな…」

 

「ライもな…ラミィ来年から出禁にするかな…」

 

「でもラミィちゃんと代金は支払ってくれてるよ?」

 

「ぐぬぬ…確かに」

 

「さて、僕はそろそろ着替えてくるよ。」

 

「あっ、ライ君そろそろ時間だよね?」

 

「えっ?ライどこか行くの?」

 

「生徒会の仕事の一環で学園内のパトロールをするんだ。」

 

「ええ!?じゃあ店どうすんだよ!?」

 

「…スバル。」

 

僕はスバルの肩を掴み、スバルの顔を真っ直ぐ見つめた。

 

「な、何だよ。」

 

「前おかゆの家で遊んだ時の罰ゲーム覚えているか?」

 

「罰ゲーム?…あっ…」

 

以前おかゆの家でレースゲームで遊んだ時に獲得したスバルに言うことを1つ聞かせる権利を使わずに、今もまだ持っていた。

 

「ら、ライまさか…」

 

「そのまさかだ。スバル僕の代わりにホストを頼む。」

 

「おいっ!スバルにその地獄を押し付けるな!!」

 

「大丈夫、学園内でちゃんと宣伝してくるから。じゃあ僕はそろそろ行くよ。」

 

「ライ君お勤め頑張ってね~。」

 

「待てライ!行くなぁぁぁ!!」

 

再度スバルの悲鳴が聞こえたが、次の仕事が待っていたので僕は走り出した。

 

 

 

 

 




ホロメンの地獄企画大好きです。


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学園祭3

30話目。

もうすぐ20000UAまでいきそうです…

引き続き気に入っていただければ高評価やお気に入り、感想などをお願い致します!!

そして話は変わりますが皆さん以前不知建のTwitterで不知建の漫画の発表があったのをご存じですか?

漫画内での不知建の設定や学年がこの作品とほぼ全く同じであったことに驚いたと同時に凄く嬉しい気分になりました…



 

学園祭2日目。

 

 

現在の時刻は午前8時。学園祭は10時から開始されるが、不知建で実施する出し物の最終準備のために、僕は朝早くから部室にやって来た。

僕はクラブハウスからそのまま来たため一番乗りであった。事前にフレアから預かっていた部室の鍵を開けて、部室内にある電気ポットでお湯を沸かし、皆の到着を待った。

 

部室を開けて席に着いて5分ほど経つと、部室前の廊下から足音が聞こえてきた。

その足音がどんどん近づいてきて部室の前で足音が止まると、扉が勢いよく開かれた。

 

「ライ君!おっはよー!!」

 

元気な明るい声の正体は不知建の広告部長担当、星街すいせいであった。

 

「おはようすいせい。」

 

「あれ?みこちはまだ来てないの?」

 

「ああ、まだ見かけていないが…」

 

「じゃあ寝坊してるかもねー、みこち朝に弱いし。全く…同じ学園で生活してるライ君は早く来てるのに。」

 

「まぁみこらしいと言えばみこらしいが。」

 

「あはは、確かに。」

 

すいせいは僕に同意しながら荷物を部室の机に置き、僕の隣に座った。

するとちょうどポットのお湯が沸いたようで、僕はコーヒーを淹れる準備をしようとした。

 

「すいせい、コーヒーを淹れようと思うんだが紅茶でも飲むかい?」

 

「あっ、飲む飲むー!」

 

すいせいは苦いものは苦手なため紅茶にしてあげた。

ただ甘いものも得意ではないので甘さを控えめにした茶葉のものを選んだ。

 

「ねぇライ君?」

 

「ん?」

 

準備をしているとすいせいが僕に話しかけてきた。

 

「明日、楽しみにしてるね!」

 

「…ああ、僕も楽しみだ。」

 

明日は学園祭3日目。この日はクラスや不知建の出し物はなく、生徒会の仕事もないため自由行動となっている。

そのため以前からすいせいと3日目を一緒に回ろうと約束をしていた。

 

僕がすいせいに応えるとすいせいは嬉しそうに笑っていた。

僕と学園祭を回ることをそれだけ楽しみにしてくれているのだろうか。喜んでもらえるなら僕も嬉しい。

 

カップにそれぞれコーヒーと紅茶を注ぎ、すいせいに紅茶が入ったカップを渡して僕はすいせいの隣の席に着いた。

そのままコーヒーを1口飲むと、程よい苦みと旨味が染み渡り、静寂な部室にも相俟って落ち着きをもたらしてくれた。

すいせいも満足そうに紅茶を口にしていた。気分が良くなったのか、すいせいは椅子に座ったまま椅子をもっと僕の隣に近づかせた。もう少しで肩と肩が触れ合いそうな距離に僕は心地よさを感じていた。

 

その後、僕とすいせいは皆が到着するまで言葉を交わさなかった。でも僕はこの雰囲気は嫌いではなかった。

 

結局フレアたちは8時30分頃に到着し、みこはさらにその10分後に息を切らせながら到着した…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし、みんな準備はOK?」

 

「「「「おーっ!!」」」」「ああ。」

 

部長のフレアの掛け声にメンバーが応え、2日目の学園祭がスタートとなった。

 

不知建で行う出し物はお化け屋敷だ。

受付、案内役、脅かし役の2人ずつの3グループの交代制で役割を分担している。

受付は僕とフレア、案内役はみことノエル、脅かし役はすいせいとポルカだ。

 

不知建の部室をお化け屋敷にしたのだが、これはあくあの友人の紫の魔法使いにお願いをして改造した。

物理法則を無視して部室が変化していく様子に唖然としたが、皆曰く気にしない方がいいとのことだった。

 

それぞれメンバーが持ち場に付き、僕とフレアも部室前の受付の席に座った。

すると間もなく生徒達が受付前にずらずらと並び始めた。不知建のお化け屋敷は例年大人気らしく、チケットを購入してもらい、時間になったら連絡を入れて入室してもらう予約制にしているそうだ。予約制にしてから運営がだいぶ楽になっていたようで、今回も予約制となっている。

 

僕がチケットの販売、連絡の役割を担い、フレアが客を整列、誘導を行っている。

 

「はい、こちらがチケットになります。順番が来たら連絡を入れるので時間厳守でお願いします。…お待たせしました、今のお客様が中から出てきたら開始となりますので受付前までお越しください。」

 

「ノエちゃんみこちー、お客様が入ったから案内お願いねー。あっ、次に入られるお客様はこちらでお待ちくださーい!」

 

僕とフレアはテキパキと仕事を捌いていった。

 

「人は多いが何とかなるものだね。」

 

「いやー、ライ君がいて助かったよー。みこちとノエちゃんは計算苦手だし、すいちゃんとポルカはどちらかというと脅かす役の方が適任だからさ。」

 

「生徒会での仕事で慣れたおかげかもしれないな。…でもフレアや不知建のみんなには申し訳ないと思っているんだ。」

 

「えっ?何で??」

 

僕の発言にフレアは不思議そうに首を傾げていた。

 

「こうして今日不知建の出し物に参加はしているけど、生徒会の仕事やクラスの出し物の準備を優先してしまって、中々手伝いに来ることができなかったからさ…皆には負担を負わせてしまっていたかもしれないと思って…」

 

実際そうだった。

もちろん不知建に顔を出せる時は出してはいたが、僕が手伝えることはあまりなかった。

申し訳ないという気持ちを抱えていたが、隣に座っているフレアはクスクス笑っていた。

 

「フレア?」

 

「あっ、ごめんごめん、ライ君が真面目過ぎて笑っちゃってさ。」

 

「真面目過ぎる?」

 

「そっ、不知建の皆ライ君が学園祭に向けて生徒会の仕事が忙しいっていうのは知っていたし、わざわざ忙しいのに合間を見てライ君皆に会いに来てくれたでしょ?その時は皆凄く嬉しいって思ってたし、ライ君が頑張っているから私たちも頑張ろう!って気持ちになれたんだよ?」

 

フレアは細い人差し指を振りながら教えてくれた。

 

「学園祭の為に一生懸命働いてくれていたライ君、生徒会の皆に私たちは感謝しかしてないよ。」

 

「フレア…」

 

「だからさ、折角の学園祭をしっかり楽しんで、忘れない思い出を作ろうよ。ね?」

 

そう言ってフレアは優しく微笑んでくれた。

 

(この学園祭で気負いしていたのは僕だけだったか…)

 

フレアが言ってくれた通りに僕は学園祭を楽しみ、思い出を作りたいと思えた。

僕は改めてフレアに向き合い、笑顔を浮かべて頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休憩に入り、部室がお化け屋敷と化して休憩ができない状況であるため、僕が住んでいるクラブハウスの部屋を不知建の休憩所として活用していた。

 

「ぷはぁ!疲れたにぇ!」

 

「ポルカも疲れたわ…脅かすのって結構体力いる…」

 

「お客さんも多いしねー。午後からどんどん増えると思うよ。」

 

「ああ、予約リストを見るだけでも学園祭終了ギリギリの時間までいるな。」

 

「だよねぇ…すいちゃん喉痛めそうだからのど飴買ってこようかな。」

 

「すいせい、のど飴ならベッドの横の机の引き出しの中に入ってるから食べてもいいよ。」

 

「ほんと!?助かるわぁ…あっ、これすいちゃんの好きなやつだ!」

 

「すいちゃんポルカにも頂戴―。」

 

「みこはお腹が空いたにぇ…」

 

「確かにお昼だからな…何か屋台か売店で買ってくるよ。」

 

僕が部屋から出ようとしたタイミングで、ちょうど部屋のドアが開いた。

入ってきたのは両手に袋を抱えたノエルと…

 

「皆~飲み物買ってきたよ~。」

 

「おー、ライ君久しぶりだね~。」

 

「…お姉さん?」

 

すいせいのお姉さんだった。

 

「お姉ちゃん遅いー。」

 

「ごめんごめん、不知建の皆の分のお弁当作ってたら遅くなっちゃってさ~。」

 

すいせいのお姉さんはそう言うと持ってきたバッグの中からお弁当を取り出した。

 

「やったー!姉街大好きー!!」

 

みこは喜びながらお姉さんに抱き着いていた。

 

「よしよしー、みこちは今日も可愛いねー。はいっ、ライ君もお弁当どうぞー。」

 

お姉さんはみこをあやしながら僕にもお弁当を渡してくれた。

 

「ありがとうございます…でも、どうしてお姉さんが学園祭に?」

 

「実はすいちゃんに学園祭の日忙しくなるだろうからお弁当を作ってほしいって頼まれてさー。私もこの学園のOGだから久しぶりに学園祭の様子が見たくなったの。あ、あとライ君に久しぶりに会いたいって気持ちもあったんだー。」

 

「なるほど、そうだったんですね。僕も久しぶりに会えてうれしいです。」

 

お姉さんと会うのは以前すいせいの家にお邪魔した時以来だ。

お姉さんは凄く優しいお姉さん、という印象が強く、同じく優しいすいせいのお姉さんであることを実感させられた。

 

「むぅ…」

 

お姉さんと楽しく話しているとすいせいがムスッと顔をしかめていた。

 

「すいせい?どうしたんだい?」

 

「べっつにー…」

 

何故かすいせいに顔を逸らされてしまったが、僕は何かしてしまっただろうか?

 

「あっ、そうだライ君、ちょっと耳貸して?」

 

「?」

 

僕はお姉さんに手招きされて、指示に従った。

 

(ライ君学園祭のブルームーンって知ってる?)

 

(ブルームーン?)

 

(学園祭最終日の夜に礼拝堂に行くと…いいことが起きるみたいなの!思い出したらすいちゃんと行ってあげて?)

 

お姉さんも学園祭最終日に僕とすいせいが学園祭を一緒に回ることを知っているようだった。

ブルームーンという話は初めて聞いたが、いいことが起こるというなら行ってみたい、と思う。

 

(分かりました。僕も礼拝堂は好きなので、すいせいを誘ってみたいと思います。)

 

(うんうん!是非行ってね!)

 

伝えたいことが終わったのかお姉さんは耳から離れた。

そのままお姉さんは他の不知建メンバーにお弁当を渡していった。

 

ブルームーン…何が起こるか分からないが覚えておこうと思う。

 

とにもかくにもまずはお化け屋敷を成功させたい。

 

(午後からも皆と頑張ろう…皆と思い出を作るためにも…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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学園祭4

31話目。

すいちゃんの2ndLIVEに現地参加してきました。

色々感情がぐちゃぐちゃになりましたが、最高のLIVEでした。

円盤化が待ち遠しい…




 

学園祭3日目(最終日)。

 

僕は今学園の門の前ですいせいの到着を待っている。

今日学園祭を一緒に回る予定であるすいせいだが、道が混んでいるようで10分ほど遅れるとのことだ。

 

(それにしても…今日は特に人が多いな…)

 

今日が学園祭最終日ということもあり学園内にはかなりの人がいた。

恐らく道が混んでいるのもこの学園祭が無関係というわけではないらしい。

 

「あのぉ…」

 

「ん?」

 

僕が考え事をしていると、コートを着て手に学園のマップを抱えた女性が話しかけてきた。

その女性はピンクのインナーが入ったロングヘアーで厚底眼鏡をかけており、目元は少し分かりづらいがかなりの美人であることが伺えた。

 

「僕に何か?」

 

「実はここに行きたいんですけど道が分かんなくなっちゃって…」

 

女性は手に持っているマップを指差して僕に行きたい場所を示した。

その場所は僕が知っている場所だった。

 

「ああ、そこは…」

 

僕はその女性に目的地までの道を教えた。

 

「なるほど!結構近くだったんだ!教えてくれてありがとうございます!」

 

女性は僕に笑顔を向けて頭を下げた。

僕は気にしていないことを伝えるために手を振った。

 

「じゃあ私はこれで…あっ、そらちゃーん!ここの行き方教えてもらったよー!」

 

「ほんとあずきち!?どこどこ??」

 

女性は僕と別れ友人と思われるサングラスをかけた女性と合流していた。

 

(2人とも高校生に見えないくらい大人びているが…すいせいのお姉さんと同じOGなのかな?)

 

そんなことを考えていると待ち合わせの相手の姿が見えてきた。

 

「ごめーんライ君!道が凄い混んじゃってて…ハァハァ…」

 

すいせいが息を切らしながらやってきた。

 

「だ、大丈夫かすいせい?」

 

「うん…ほんと待たせてごめんね?」

 

すいせいは申し訳なさそうに謝罪してきた。

 

「…全然気にしていないよ?それより…」

 

僕は言葉を途中で区切り、すいせいに手を差し伸べた。

 

「早く一緒に回ろう?早くすいせいと色んなところに回りたいんだ。」

 

「!!…うん!行こう!」

 

笑顔が戻ったすいせいは差し伸べた僕の手を取り、学園の門を2人で潜り抜けた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえばライ君はどこを回りたいかとか決めてるの?」

 

屋台などが多い中庭辺りにやってくるとすいせいから質問をされた。

 

「実は…ここに行ってみたいんだ。」

 

僕はポケットから学園祭用のマップを取り出してすいせいに目的地の場所を差し示した。

 

「ここは…体育館?」

 

「ああ、おかゆとスバルから教えてもらったんだが、体育館で演劇があるみたいでそれを見てみたいと思ってたんだが…どうかな?」

 

「へぇー、いいじゃん!行ってみよ!」

 

すいせいも乗り気なようでよかった。以前の勉強会でフレアからアドバイスをもらっていたが事前に行きたいところを決めておいて正解だった。

 

「すいせいは行きたいところは決まっているかい?」

 

「うーん…実は決めていなくてさ…ライ君が行きたいところに行ってみたいなぁ、って思ってたんだ。」

 

「僕の?」

 

「ライ君生徒会でも忙しそうだったし、不知建の出し物の準備もあったでしょ?一生懸命皆の為に準備してきてくれたから、最終日の今日くらいはライ君の思い出に残る為にも好きなところを選んでほしいんだ。」

 

「すいせい…」

 

「まぁ、単純にライ君はどこに行きたいのかなって個人的に気になってたのもあるんだけどね。」

 

そう言いながらすいせいは照れ臭そうに笑った。

…すいせいもフレア同様僕のことを考えてくれていた。

 

「…ありがとうすいせい。すいせいも楽しめるようにちゃんと決めるよ。」

 

「うん!今日はリード頼むよ~?」

 

すいせいは僕の胸を小突きながら悪戯っぽく笑った。

2人で笑い合っていると、

 

「あれ?ライ君とすいちゃん?」

 

聞き覚えがある声に呼びかけられた。振り向くとそこには僕と同じ生徒会メンバーのミオさんがいた。

 

「あっ!ミオちゃんじゃん!」

 

「お2人は待ち合わせですかなー?」

 

「うん、すいせいと体育館で演劇を見ようって話をしていたんだ。」

 

「おおー奇遇だねぇ。ウチもその演劇を見に行こうと思ってたんだぁ。」

 

「そうなんだ、じゃあミオちゃんも一緒に私たちと見に行く?」

 

すいせいがミオさんに同行しないか誘ってくれた。

折角の機会だし、ミオさんと一緒に行動するのもありかもしれない。

 

「あっ、ちょっとだけ待ってくれる?ウチも待ち合わせしている子がいて、その子がもうすぐ来ると思うんだけど「ミオ―!!」…噂をすればなんとやらだよ…」

 

ミオさんの言葉を遮って明るい声が聞こえてきた。

声がする方に振り返ると白い髪と頭上のふわふわした耳を揺らしながら走ってくる女の子がいた。

 

「ハァハァ…ミオ…遅れてごめん!!」

 

「もう、フブキー?ウチずっと待ってたんだよ?」

 

やってきた女の子はミオさんに手を合わせて謝罪をしていた。

ミオさんはやれやれと窘めていたが、本気で注意をしているわけではないようだった。

 

「フブちゃんやっほー!」

 

すいせいもその子と知り合いだったようで手を振りながら声を掛けた。

 

「おお、すいちゃん!あれれ?すいちゃんもミオと待ち合わせしてたの?」

 

「ううん、今さっきミオちゃんを体育館の演劇に誘おうとしてたの。ミオちゃんの待ち合わせ相手はフブちゃんだったんだね。」

 

「あっ、じゃあすいちゃんも待たせちゃってたのか…ごめんよー?…ん?すいちゃんの隣のイケメンの彼は?」

 

「ああ、この子は皇ライ君。私の後輩で不知建のメンバーなんだー。」

 

すいせいがフブちゃんなる女の子に僕のことを紹介してくれた。

しかし、僕は別のことを考えていた。

 

(フブちゃん…どこかで聞き覚えが…それにあの耳もどこかで見たような…?)

 

恐らく僕は彼女を見るのは初めてではない。

この学園に居る間に見かけたはずなのだが、どうしても思い出せない…

どうにか思い出そうとしていると向こうの方から話しかけてきてくれた。

 

「こんこんきーつね!初めまして!白上フブキでーす…?」

 

「?どうも皇ライです、よろしく白上さん。」

 

明るい挨拶をしてくれた白上さんであったが、何故か途中からトーンダウンしていった。

彼女の様子を見てみると僕の顔を見つめながら首を傾げていた。

 

「あれあれ?何処かでお会いしたような…?」

 

「奇遇だね、僕もどこかで白上さんを見かけたことがある気がするんだけど…」

 

どうやら白上さんも僕を見たことがあるようだ。

お互いに認識があるならおそらく間違いない。

 

僕は目を閉じてもう一度深く思い出してみた。

 

彼女の特徴的な白い大きな耳…フワフワとした触り心地が良さそうな耳…

こんな感じの耳を見たことが1度だけある。

 

(あれは確か礼拝堂に行ったときに…あっ!)

 

自身の記憶を頼りに礼拝堂で起きた出来事を思い出した。

 

「神父様…?」

 

「!?!?」

 

僕の言葉で驚いた顔を浮かべた白上さんがフワフワした耳を真っすぐに突き立てた。

 

「えっ?」

 

「神父??」

 

すいせいとミオさんはピンと来ておらず不思議な顔をしていた。

 

「ちょ、ちょっとこっちに来てください!」

 

「あ、ああ。」

 

白上さんは焦った様子で僕の手を掴み、人気がない方に僕を連れていった。

 

「あっ…ライ君…」

 

すいせいは僕たちの姿を見ながら何か言いたそうにしていたが、僕はそのまま白上さんに連れて行かれてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




一旦区切ります。


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学園祭5

32話目です。

気づけば20000UAを超えていました。
投稿頻度が落ちた中でも読んでくださる方がいてとても嬉しいです。

仕事が最繁忙期に突入してグロッキー状態となっていますが、何とか活動は続けていきます!


 

「お願いします!ミオには白上が神父をやっていることは言わないでください!!」

 

すいせいやミオさんを置いて白上さんに人目が付かない校舎裏に連れて来られたが、着いた瞬間にいきなり白上さんが顔に手を合わせて懇願してきた。

 

「??言ってはいけないことなのかい?」

 

「…前に一度だけミオに礼拝堂で神父をやってたのがバレたことがあって…その時に変なことをするなぁ!ってめちゃくちゃ怒られてしまって…」

 

あの優しくて温厚なミオさんが怒ることがあるのか…

生徒会で一緒にいる間にあやめ達に注意をしているのを見かけたことがあるが、怒鳴ったりしている姿が想像できない…

 

「ちなみに何で神父をやっているんだい?」

 

「実は…白上の趣味がコスプレでして…この前は同じコスプレ趣味のマリンに誘われて礼拝堂で神父とシスターごっこをしていたのですが思いのほか楽しくなっちゃって…」

 

「なるほど…僕もクラスの出し物でコスプレをしたけど確かに楽しかったな。」

 

僕も先日おかゆと一緒にホストのコスプレをしたが、想像より楽しかった。

白上さんが言うことも理解ができる。

 

「本当ですか!?ここにもコスプレ仲間がいたなんて!…そ、それでミオには黙っていてくれませんか…?」

 

「…人の秘密を口外する趣味はないよ。」

 

「あ、ありがとうございますぅ!!」

 

白上さんは嬉しそうな顔をして僕の手を両手で握りしめてきた。

 

「じゃあ、黙ってくれる代わりに一つ良いことをお教えしましょう。」

 

「?」

 

良いこと?

白上さんは僕の手を離すとコホン、と1回咳ばらいをして、目を閉じながら語り始めた。

 

 

 

 

 

 

アッシュフォード学園ができて間もない頃、ある生徒が恋に落ちました。

 

2人はとても愛し合っていましたが、生まれや人種の違いにより、

 

お互いの両親や教師に反対をされ、2人の仲は引き裂かれてしまいました…

 

想いを断ち切れない2人はこのまま離れ離れになるのなら、と

 

学園の礼拝堂で2人だけで結婚式を上げ、永久の愛を誓い、死を選ぼうとしました。

 

いなくなった息子と娘を探し、礼拝堂にたどり着く両親と教師達…

 

互いに短剣を突き刺そうとする2人…

 

その時、

 

礼拝堂に飾られていたステンドグラスが輝き、人々を包み込みます。

 

幻想的な光景は、狂乱的な思考を沈め、静寂な水面を心に広げました。

 

2人の若者と両親たちは初めて互いを見て話し合い、そして2人の仲を認めました。

 

その夜はブルームーン。

 

夜空に浮かぶ満月はステンドグラスの輝きで礼拝堂を照らし出し、恋人たちを祝福していました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「それ以来、ブルームーンの夜は学園の礼拝堂で告白すると、その恋はどんな障害をも乗り越え、成就し永遠に結ばれると言われているのです…」

 

白上さんは話し終えると深い息をついた。

 

ブルームーン…すいせいのお姉さんに教えてもらった単語だ。

確かお姉さんの話では良いことが起きるという話だったはずだが、白上さんの話を聞くと御伽噺の恋愛の話に聞こえたような…

 

「素敵なお話だったけど…どうして僕にその話を?」

 

「おやおや?皇さんとすいちゃんってそういう仲じゃなかったんですか?」

 

「そういう仲?」

 

白上さんは不思議そうに首を傾げていたが、僕も釣られて首を傾げてしまった。

 

「…もしかして白上は余計なことを言ってしまったのでは…」

 

「???」

 

「す、皇さん?すいちゃんとはどういった関係ですか?」

 

「すいせい?僕がこの学園に転入してきて初めてできた友人で…大切な人だ。」

 

「むむむ…すいちゃんもそう思っているはずですよね?」

 

「すいせいには直接聞いたことがないからそれはわからないが…」

 

「じゃあ学園祭を2人で回っているのはどうしてですか?」

 

「それは…学園祭が始まる前にすいせいに一緒に回ろうと誘われて…」

 

「うーん、その話を聞くと、そうだとしか思えないですねぇ…でもどうなんだろなぁ…」

 

白上さんからの質問に次々答えていると白上さんが何故か頭を抱えていた。

 

(すいせい…)

 

改めて彼女のことを考えると、この学園にいる間において色濃い思い出を作ることができたのは大半がすいせいのおかげだ。

 

不知建、クラスメイト、生徒会、その他においても色々な繋がりができたのはすいせいの存在があったからだと思う。

 

ふと、以前ラプラスによって悪夢を見せられた時のことを思い出したが、すいせいが自分の元から離れていなくなってしまうことが実際に起きてしまうと思うと、

 

 

 

 

 

 

 

(凄く嫌だな…)

 

自分でも驚いたが醜い感情を持ってしまったようだ。

決して自分のものではないすいせいを失くすことに何故か焦燥感や喪失感に近いものを感じている。

彼女には彼女にしか選べない道があるはずなのに…

 

「白上さん…いや神父様。」

 

「はい?」

 

「1つ、僕の悩みを聞いていただけませんか…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すいせいside

 

「あの2人遅いね…」

 

「そうだねぇ…フブキは何でライ君を連れて行ったんだろ?」

 

フブちゃんとライ君がこの場を離れて10分ほど経過した。

…正直あの2人が何を話しているのかめちゃくちゃ気になっている。

 

(こっそり覗こうかな…)

 

「ねぇすいちゃん?」

 

「うわぁ!?な、なにミオちゃん?」

 

ライ君達のことを追いかけてみようと思っていた時に、ミオちゃんから話しかけられてしまったのでびっくりしてしまった…

ミオちゃんの方に振り向くとミオちゃんが凄くいい笑顔をしていた。

 

「すいちゃん、前からライ君と学園祭回る予定だったの?」

 

「え、うん…まぁ…」

 

「ほうほう…なるほどねぇ…」

 

改めて聞かれるとなんか恥ずかしい…

多分ミオちゃんには私の気持ちには気づいてそうだし…

 

「あっ、勘違いしないでね?別にウチは2人を邪魔なんてする気はないからさ。逆に応援したいんだよね~。」

 

「応援?」

 

「そうそう、すいちゃんもライ君もウチにとっては大事なお友達だからねぇ。だから幸せになってほしいって思っちゃうんだぁ。」

 

「ミオちゃん…」

 

「あっ、良いこと思いついたんだけどさ、ウチがすいちゃんの今の運勢占ってあげようか?」

 

ミオちゃんはそう言いながら懐からタレットカードを取り出してくれた。

 

ミオちゃんの占いは良く当たることで有名だ。でも…

 

「ありがとミオちゃん…でもやっぱり今回は占ってもらわなくていいや。」

 

「え?いいの?」

 

「うん、やっぱりこれだけは自分の力で何とかしたいから…」

 

「そっかそっか…これは余計なお世話だったね。」

 

「ううん、でも気持ちは本当に嬉しかったから。」

 

そう言って私はミオちゃんと笑い合った。

 

そしてしばらくしてからライ君達が戻って来た。

 

「お、お待たせ~。」

 

「もうフブキー、待ち合わせにも遅れるだけじゃなくて、さらに待たせるなんて…ウチも怒るよ?」

 

「ごめんよミオ―、すいちゃんもごめんね?後で白上が屋台で何か奢ってあげるからさ…」

 

フブちゃんは申し訳なさそうに謝罪をしてきた。

ライ君も私のところに戻ってきて申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「すまないすいせい、遅くなった。」

 

「本当だよー。私と回る約束をしていたのに、私を置いて他の可愛い女の子のところに行っちゃうんだもんなぁ。」

 

「それは…すまない…」

 

ライ君の顔が罰が悪そうな表情に変わった。

別にフブちゃんに連れ出されただけなので怒ってはいないが、何となく揶揄いたくなってしまった。

 

「ちなみに…何してたの?」

 

「それは…」

 

「…言えない?」

 

「…うん。」

 

「ふーん…」

 

ライ君が私に隠し事をするのは珍しい。

私を待たせている間にフブちゃんを口説いていたらライ君をぶっk…ちょーっと怒ったかもだけど、流石にそんなことはしないのは分かっている。

 

「まっ、いっか。今日は最終日だから人も多いし、早くしないと回りたいところ回れなくなっちゃうかもだから早く行こ?」

 

「…ああ、そうだな。」

 

「よし!そうと決まれば…」

 

私は言葉を区切ると、自分の右腕をライ君の左腕の間に通し、腕を組んだ。

 

「す、すいせい?」

 

「…ほら、今日はライ君が私をエスコートしてくれるんでしょ?だったら、早く連れて行ってよ?」

 

そう言ったものの自分のした行動にめちゃくちゃ恥ずかしくなってきたので、ライ君から顔を逸らした。

ライ君は少し固まっていたが、意を決したのか腕に力が籠ったのを感じた。

 

「…行くよ、すいせい。」

 

「うん…」

 

私たちは少しぎこちない動きで、演劇が行われる体育館を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「青春ですなぁ…」」

 

フブちゃんとミオちゃんがいるのを忘れたまま。

 

 

 

 

 

 

 




本当はタロット占いする予定でしたが…

さ、作者がタロット占いの仕組みを説明できなかったとかではないんです!(大噓つき)


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学園祭6

33話目。

もうすぐ活動を始めて1年が経とうとしています…

飽き性な自分がここまで続けられるとは思っていませんでしたが、
いつもこの作品を楽しんでいただいている皆様のおかげだと思っています。

引き続きお楽しみいただけましたらお気に入り、評価、感想などのコメントお待ちしています!!


 

すいせい達と中庭から移動して、目的の演劇が行われる体育館にやってきた。

 

すいせいと腕を組みながら移動していていたためか、少し周りから目線が増えていた気がする。

主に男子生徒から睨まれていた気がするが、すいせいから気にするなと言われたので何も考えないようにしていた。

 

後ろから着いてきていたミオさんと白上さんは何も言わなかったが、終始凄い笑顔であった。

 

体育館の入り口付近に辿り着いた僕らは演劇を観るのに必要なチケットを買いに来た。

 

「そういえばライ君、観ようと思ってる演劇のタイトルってなに?」

 

隣にいたすいせいが僕に質問をしてきた。

 

「ああ、僕らが観ようとしている演劇のタイトルは…」

 

僕は入り口で貰ったパンフレットに記載されているタイトルを指で差してすいせいに見せた。

 

『ひとりぼっちの皇子様』

 

「「「ああ、なるほど…」」」

 

「?」

 

僕以外の3人がタイトルを聞いて反応を示した。

 

「皆この話を知っているのか?」

 

「うん、昔の有名なお話だから小っちゃい頃から知ってるよ。」

 

「白上はこの話割と好きではあるんですが…」

 

「なんていうか…面白いんだけど、凄く切ないストーリーなんだよねぇ…」

 

どうやら有名なお話だったらしい。

僕は知らなかったが、タイトルを観て一番興味を惹かれたのがこれだった。

 

「…皆が知っている話なら別の劇の方がいいかな?今からでも「ライ君。」…すいせい?」

 

僕の言葉の途中ですいせいが言葉を重ねてきた。

すいせいは僕の顔を真剣に見つめてきた。

 

「ライ君、さっきの私との中庭での話覚えてる?」

 

「…?」

 

中庭での話…どの話のことだろう…?

すいせいは真剣な表情を崩し、やれやれとした顔で、僕の胸を小突いてきた。

 

「もう、言ったじゃん…私は今日ライ君が行きたいところを回りたいって。」

 

「あっ…」

 

そういえば学園祭を回る際にすいせいから言われたな…

 

「まぁ私たちに合わせようとしてくれる気持ちは嬉しいし、そこがライ君の優しさだなって思うけどさ…一番はライ君が楽しんで、思い出に残るようにしてほしいんだよねー。」

 

「すいせい…」

 

「いいじゃん、ライ君が気になるのがその話ならそれで、ね?…私はライ君が楽しんでくれるなら、それだけで楽しいからさ。」

 

すいせいはそう言って微笑みかけてくれた。

すいせいには本当に敵わない…

 

「ありがとうすいせい…すいせいは本当に優しいな…」

 

「まぁね、私はライ君よりもお姉さんですから!…だからちょっとの我儘とか、甘えたいことがあったら何でも言ってよ?寛大なすいちゃんは許してあげるからさ。」

 

「うん…」

 

何だか胸が暖かくなった。

ここまですいせいが僕のことを考えてくれているのがとても嬉しい。

 

「…って、決めちゃったけどさ…ミオちゃんとフブちゃんもこれでいい?」

 

「全然いいよぉ~、ウチこの話自体は好きだし。」

 

「白上も!むしろ皇さんにこの話知ってほしいですもん!」

 

すいせいの言葉に2人が賛同してくれた。

 

「よし!じゃあ受付に行ってこのままチケット買っちゃおう!」

 

「行こ行こ~。」

 

「ほらほら、皇さんも行きましょー。」

 

「…ああ。」

 

すいせいとミオさんに先導され、背中を白上さんに押されて僕たちは受付に向かった。

 

 

 

 

 

 

受付は僕とすいせいで済ませることにして、ミオさんと白上さんは劇が始まるまでに学園祭の屋台で買い物をしてもらうことにした。

 

「すみません、ひとりぼっちの皇子様のチケット4枚ください。」

 

「はーい、チケットどうぞでござ…あっ!」

 

「?…あっ、君は…」

 

受付に辿り着いた僕らはチケットを購入しようと受付の人に声を掛けた。

するとそこには、以前ラプラスの命令で僕を襲撃した侍風な忍者のような格好をした少女がいた。

 

「す、皇先輩でござるか?」

 

「ああ、君は確かholoXの…」

 

「あっ、あの時は名前を名乗ってなかったでござるな。コホン、holoXの用心棒、風真いろはと申すでござる。」

 

いろはと名乗った少女はその後丁寧に頭を下げて挨拶をしてくれた。

 

「改めて、皇ライだ。ところで風真さんは何故ここで受付を?」

 

「いろはでいいでござるよ。実はholoXのメンバーの出し物で劇をするのでござるよー。」

 

なるほど、そういうことだったのか。

しかし、そうなると気になることがあった。

 

「劇はメンバーだけでやるのか?それだと少し大変なような気がするが…」

 

「あっ、そこはラプ殿の秘策があるから大丈夫でござるよ?そういえば皇先輩は「ライ君、チケット買えたー?」すすすすす、すいせい先輩!?」

 

いろはと話をしていたら、僕の後ろで待っていたすいせいがひょっこりと顔を出してきた。

 

「ん?…あっ、いろはだー。」

 

「すすすすいせい先輩!ごごごごご無沙汰しているでございますでござる!!」

 

「おうおう、落ち着けー、日本語おかしくなってるよー?」

 

「すいせいはいろはと知り合いだったのか?」

 

「うん、とは言っても、この前のラプラスの一件があった以降で知り合いになったから付き合いはまだ浅いんだけどねー。」

 

「ああ…すいせい先輩と話せるなんて…holoXに入っててよかったでござる…」

 

すいせいが出てきてからいろはの反応が変わった。まるですいせいのファンのように見える。

いや、前おかゆに聞いたが、すいせいはこの学園の生徒から男女問わずかなりの人気を誇っているようだ。

ファンクラブもあるらしく、もしかしたらいろはもそこに…?

 

「ていうかいろは、他のメンバーはどこにいるの?」

 

感激しているいろはに対してすいせいが疑問を投げかけた。

 

「…はっ!ほ、他のメンバーは劇が始まるまではアジトで待機してるでござる。」

 

いろはは我に帰ったようで、何とか落ち着いたみたいだ。

そして何か思い出したように、手をポンと叩いた。

 

「そうでござる!ラプ殿が皇先輩に会いたいって言ってたんでござった!」

 

「ラプラスが?」

 

「何か言いたいことがあったようでござるが…内容までは風真は聞いてないでござる。」

 

ラプラスが僕に何を伝えたいんだろう…?

ラプラスとはあの事件以来あっていないが、トワが厳重注意を行ったことはトワから聞いている。

 

「…またライ君に酷いことするつもり?」

 

すいせいが少し不機嫌な顔になった。

以前のことを思い出して警戒をしてしまっているのであろうが、そのすいせいの反応を見て慌てふためいているいろはの様子を見て僕は苦笑してしまった。

 

「すいせい、僕はもう前のことは気にしていないよ?」

 

「でも…」

 

すいせいは納得がいかない様子であった。

すいせいが僕のことを心配してくれるのは嬉しい。

 

「あの後トワがちゃんと注意してくれたみたいだし、それに…何かあればまたすいせいが守ってくれるって信じてるから。」

 

「!…分かった、ライ君がそこまで言うなら…」

 

渋々、といったような感じですいせいは納得してくれた。

男としては女の子に守ってもらうのはどうかと思ったが、すいせいを信頼しているからこその頼みだ。

 

「そ、それじゃあ、ラプ殿の元まで案内させていただくでござる!」

 

僕達はいろはの案内で再びholoXの総帥と相まみえることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと次の話が内容長めになる予定です。

あと作者が気にしている内容のアンケートを取らせていただくので是非ご回答のご協力を…


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学園祭7

34話目。

半年近く振りの本編の更新となります…
お待ちいただいた方は本当に申し訳ございません。

何故ここまで日程が空いてしまったかと言いますと、10話以上連続で下書きを書いていたのですが、10話を全て消して、一度全て書き直してしまったのが原因となります…

ある程度方針は固まったので、これからは更新頻度を上げられるよう頑張ります!

それではどうぞ。


 

いろはに以前僕が拘束されていたアジトの前まで案内をされた。

そしてアジトの前の扉にいろはがノックをした。

 

「ラプ殿?いるでござるか?」

 

『おー風真?どした?』

 

「…皇ライ先輩とすいせい先輩をお連れしに来たでござる。」

 

いろはが僕たちを連れてきたことを伝えた瞬間、扉の前から足音がドタドタと鳴り響き、勢いよく扉が開かれた。

 

扉から現れたのはholoXの総帥ことラプラス・ダークネスだ。

 

「皇…ライ…」

 

「や、やあ、久しぶり…?」

 

予想していた反応と違ったことに僕は少し驚いてしまった。

 

ラプラスは僕の顔を確認すると、顔を俯けたままゆっくりと僕に近づいてきた。

僕はその様子を見たまま立ち止まってしまった。

 

「ちょ、ちょっと!ライ君に何する気!?」

 

するとすいせいが僕とラプラスの間に割り込んできた。

すいせいは腕を大きく広げて、僕を庇うような体勢をとった。

 

あと一歩踏み出すとぶつかりそうな距離になり、そこでラプラスは歩みを止めた。

 

しばらく誰も言葉を発さず、時間が過ぎた。

するとラプラスの口から言葉が発せられた。

 

「……かった…」

 

「え?」

 

以前のような自信満々の声とは裏腹にかなりか細い声だった。

あまりにも小さな声であったため僕はつい聞き返してしまった。

今度はラプラスは俯かせた顔を上げながら僕の顔を直接見ながら、もう一度言葉を発した。

 

「…この前はすまなかった…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞こえてきた言葉は謝罪のものであった。

先程の反応といい、この言葉も予想していなかったものであったため、思わずすいせいと顔を見合わせてしまった。

以前のような横暴さは感じられず、まるで親に叱られて謝罪をしに来た子供のように見えた。

 

その様子を見た僕はすいせいの肩に手を置き、位置を入れ替えた。

 

「あの時の吾輩はトワ様がお前に盗られたと勘違いしてしまっていたんだ…でも、痛めつけたり、記憶を覗いたりしたのはやりすぎてしまったと思う…」

 

そう言った後、ラプラスは僕の目を真っ直ぐと見つめてきた。

 

「これからはholoXの総帥として、この学園、世界を征服していくために、部下に見られて恥ずかしくない姿を見せていきたいと思う。だからっ…すまなかった…」

 

言い終わるとラプラスは頭を僕に下げた。

正直、今は驚きの方が大きい。野望は大きいが、あのラプラスがトワに注意されたからとはいえ、ここまで変わるとは思っていなかった。

 

「ラプラス、僕は気にして「ライ君待って」?」

 

もとより、謝罪をされるなら僕は受け入れるつもりでいたため、そう回答しようとしたがすいせいに止められた。

するとすいせいは僕に小声で耳打ちをしてきた。

 

(ライ君このまま許しちゃうの?)

 

(ああ、そのつもりだったんだけど…)

 

(あれだけのことされたんだから、もっと謝罪させたり、何かさせてもいいんじゃない?)

 

すいせいにそう言われてから少し考えて、ラプラスを見る。いつものような天上天下唯我独尊な彼女は身を潜め、おっかなびっくりに身を少しすくめるその姿はただの女の子のように見えた。

 

その姿を見てから僕はラプラスと目線が同じになるようにしゃがんだ。

 

「…じゃあラプラス、1つ僕のお願いを聞いてくれないか?」

 

「願い?な、なんでも聞くぞ!」

 

「僕と…友達になってくれないか?」

 

「…えっ?」

 

その回答にラプラスは心底意外そうな顔をして、すいせいといろはは小さく笑みを浮かべて黙って話を聞いている。

 

「そ、そんなことでいいのか?…でも吾輩どうすれば…」

 

「そうだな…じゃあ僕のことを名前で呼んでほしいな。お前、とかじゃなくて名前で。」

 

「…皇…ライ?」

 

「うん。」

 

「ライ…ライ…」

 

「はい。」

 

「ライ…すまなかった…」

 

「もう謝る必要はないよ。十分トワから注意を受けていただろうし、トワからも反省の色は見られるって報告ももらっていたから。謝罪も罰も受けたしこれでおしまい。だから…」

 

僕はその場で立ち上がり、ラプラスに右手を差し伸べた。

 

「これからは友達として、宜しく頼むよ。」

 

「…ああっ!」

 

ようやくラプラスは笑顔を見せてくれた。長い袖を捲り上げ、同じく右手を僕に差し出し、そのまま握手をした。

 

「吾輩たちは友達…いや、盟友だ!その盟友の証としてライ!お前に吾輩の力を与えよう!」

 

「えっ?」

 

ラプラスの言葉に疑問を感じた瞬間、以前のようにラプラスの黄金の瞳が輝きだし、辺りを照らした。

あまりの眩しさに思わず目を閉じたが、一瞬のことだったようですぐに光は収まっていた。

 

「…ラプラス?今のは?」

 

「ライに吾輩の力を流し込んだんだ!まぁやばくなったら助けてくれる御守りみたいなものだと思ってくれ!」

 

ラプラスはふふん、と胸を張って応えた。

ラプラスの力が僕に…

今のところ何も変わった様子はない。驚きはしたが、ラプラスの気持ちとして受け取っておこうと思う。

 

「ラプラスありがとう、とても心強いよ。」

 

「うむ!盟友として当然のことをしただけだ!」

 

最初はラプラスに目の敵にされてはいたが、ようやくそれも解消できたようでよかった。

そのことを嬉しく思っていると、いつの間にかすいせいがラプラスの後ろに立っており、両手の拳を握りしめラプラスのこめかみ辺りを拳でぐりぐりと押さえつけた。

 

「すいせいさん!?ちょ、痛い痛い痛い痛い!!」

 

「またライ君に変なことして!この前みたいに倒れたらどうすんの!」

 

「してない!してないっす!」

 

…なんだか母親が子供を叱っているような光景にしか見えなかった。

すいせいがラプラスのこめかみから手を放し、ラプラスを解放した。するとすいせいは僕の方に振り返り大股で近づき、僕の正面に立った。

 

「ライ君。」

 

「す、すいせい?」

 

すいせいからじーっと見つめられてしまいたじろいでしまったが、すぐさますいせいは両手で僕の頬を包んできた。

いきなりのことと、すいせいの手が少しひんやりとしていたこともあり驚いたが、すいせいに見つめられたままその場から動けなくなった。

するとすいせいは笑顔を浮かべ、僕の頬を思いっ切り引っ張った。

 

「ひゅ、ひゅいへい、いひゃい…」

 

「ライ君はなーんで警戒心がそんなにないのかなぁ?この前のこと忘れちゃったの??」

 

すいせいはどうやら僕が無警戒でいることに腹を立てているようだ。

確かに以前はすいせいとトワに心配をかけてしまった。そのことを考えると僕はもう少し慎重になるべきだったかもしれない…

 

「ご、ごめんなひゃい…」

 

「んー?何て言ってるかわかんないなぁ?」

 

すいせいは僕の頬を一瞬少し強く抓ってから解放してくれた。

すいせいも力はずっと入れてはいなかったので、凄く痛いわけではないが、頬をずっと伸ばしている状態になっていたため、ちょっとだけヒリヒリしている。

 

「すいせい…ごめん…」

 

「全くだよ?ライ君は女の子に対する警戒心が足りないと思う。女の子って意外と怖いんだよ?」

 

「反省してます…」

 

「…これ以上ライバルを増やしたくないんだから…」

 

「えっ?」

 

すいせいは大きく息を吸ってため息をつき、仕方がない、というような笑みを浮かべた。

 

「まぁ皆に好かれるっていうのがライ君の魅力なんだろうね。よっ、と…」

 

そのまますいせいは背伸びをし、僕の頭を撫でた。優しくというよりは、大型犬を撫でるようなわしゃわしゃと撫でていたので、僕の髪が若干乱れた。

 

すいせいは細腕ではあるが、しっかりと力が入っており、手のひらからは温かさを感じられて、どこか心地よかった。

 

「めちゃくちゃ人のアジトの前でイチャついてんなぁ…」

 

「ああ、すいせい先輩に頭を撫でてもらえるなんて羨ましいでござるぅ…」

 

ラプラスといろはの声が聞こえてきて僕は我に返った。他の人からこの様子を見られていたと思うと顔が熱くなってきた。

 

「んー?ライ君…もしかして照れてる?」

 

「言わないでくれ…」

 

「ふむふむ、そっかそっか!」

 

すいせいに指摘されて余計に恥ずかしく感じてきた。正直学園祭を開始の際の猫の鳴き真似をした時より恥ずかしい気がする…

そんな僕とは裏腹に、すいせいは満足気な顔を浮かべていた。

 

「じゃあライ君も恥ずかしい思いをして罰も終わったから許してあげる。ラプラスももうあんなことしちゃだめだよ?もしまたやった場合は…」

 

「も、もうしないです!YMD!」

 

「よろしい、じゃあ劇楽しみにしてるから頑張ってね!いろはも客引き頑張れ!」

 

「は、はいでござる!」

 

「うんうん、ほら、ライ君行くよ?」

 

ラプラスといろはに激昂の言葉を投げ、返答にも満足したすいせいは鼻歌を歌いながらそのまま僕の手を引き、holoXのアジトを後にした。

 

 



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学園祭8

35話目。

ミドグラのMidnight MissionのMVをご覧になられた方はいますか?
凄く完成度の高いMVになっていて、曲の歌詞もミドグラ1stアルバムの曲に関連付けられててめちゃくちゃエモかったですよね…

最近お気に入りや感想を書いてくれる人が増えてすごく嬉しいです!
思ったことや要望などでも全然大丈夫ですので、感想に記載いただければ是非返信もさせていただきたいと思います!

それではどうぞ。


 

すいせいと一緒にラプラスの元から体育館に戻って来た。

入り口付近には白上さんとミオさんが袋を両手に抱えて待っていた。

 

「フブちゃんミオちゃんお待たせー。」

 

「お、帰って来たねぇ。」

 

「2人ともお帰りなさい~!じゃじゃーん!屋台でいっぱい買ってきましたよ!」

 

白上さんは両手に抱えた袋を見せてきた。袋から良い匂いが漂っていて、中身は2人が屋台で買ってきてくれた食べ物のようだ。

 

「2人ともありがとう。皆の分のチケットも買えたから後で渡すね。」

 

「はーい、劇が始まるまでまだ時間もありますし、どこかで座って食べます?」

 

「じゃあ中庭のテーブル席に行く?あそこは結構人も少ないし、多分空いてると思うよ?」

 

「よし、なら中庭に行こうか。2人とも、袋を貸してくれるかい?重かっただろ?」

 

「わわ、ありがとうございます皇さん!」

 

「ライ君ありがとね~。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕達は中庭に移動して目当てのテーブル席を見つけた。

風通しもよく、人も少ないため休憩をするにはうってつけの場所だと思う。

席には先客がいたが、よく見ると僕たちが知っている人物だった。

 

「ふぃ~パトロールマジで疲れたわぁ…」

 

「…トワ?」

 

「ん?…ライ先輩!?」

 

テーブルに項垂れていたトワが僕に声を掛けた瞬間に飛び起きた。

 

「トワじゃん!ここで何してんの?」

 

「すいちゃん!あっ、フブちゃんとミオちゃんまで…」

 

「やっほートワ様~。」

 

「トワ、パトロールお疲れ様だねぇ。」

 

「そうか、今日はトワがパトロール係だったね。」

 

「そうなんですよ、学園内を歩き回って場所がわかんない人を案内したり、落とし物のトラブルとかに対応したり、出し物をやっているクラスのヘルプをしたり…滅茶苦茶疲れましたぁ…」

 

トワはそういうとまたテーブルに項垂れた。

相当疲れが溜まっているようだし、お腹も空いているのではないかと思い、僕はトワに提案をした。

 

「トワ、もしよかったら今から皆で屋台で買ってきたものを食べるんだけど、トワも一緒にどうだい?」

 

「えっ、いいんですか?」

 

トワは僕の方に振り替えると同時にグーっとお腹の音を鳴らした。

トワは顔を真っ赤にしていたが無理もないと思う。恐らく朝からずっと学園内をパトロールをしていたようだし、お腹が空くのは当たり前だ。

 

「お、お願いします…」

 

トワからも承諾が出たため、トワを含めて食事をすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか、皆ラプラス達の劇を見に行くんですね。」

 

「ああ、さっきラプラスと会って以前のことを謝罪されたよ。トワから注意を受けてから反省していたみたいだったよ。」

 

「まだ注意が足りなかったかと思ったんですけどね~、まぁライ先輩にちゃんと謝ったならいいとするか…」

 

僕の隣に座っていたトワは腕を組みながらやれやれ、といった表情を浮かべていた。

するとトワの逆隣に座っていたすいせいがふと思い出したことを述べた。

 

「ライ君、ラプラスを許した後に友達の証?みたいな感じでラプラスから力を貰ってたよね?」

 

「うん、正直どんな力なのかが分からないし、どう使うかも分からないけれど…ラプラスが言うにはやばい時に助けになる力らしいよ?」

 

「ほえー、ラプラスそこまでやったのか。ライ先輩、ちょっと手を貸してもらえますか?」

 

「手を?」

 

トワにそう言われて僕は右手をトワに差し出し、トワは僕の手を握り目を閉じた。

 

「ライ先輩…ラプラスに相当信頼されたか、気に入られましたね?」

 

「?」

 

トワは目を開き、僕の目を見て優しく微笑んだ。

 

「普通悪魔の力って悪魔じゃない人間が使うとなると、契約した悪魔によっては人間側のリスクが大きいんですよ。でもライ先輩から感じる力はライ先輩の意志とは関係なく発動する力。聞こえ方としては制御できない力みたいに聞こえちゃいますけど、ライ先輩の力に依存しない純粋なラプラスの力だから先輩にはリスクもないし…自動発動させるために常に先輩の身体を魔力が覆っている状態だから、ラプラス相当な魔力を使ったんでしょうね。」

 

トワからの説明を聞いて、ラプラスがそこまでしていてくれていたとは思わなかったから驚いてしまった。

ただの人間の僕としては力のようなものは今は何も感じられない。でもラプラスが友達である僕に大きな施しをしてくれたのだと思うと嬉しくなってしまった。

 

「ラプラスには何かお礼をしないといけないかもな…」

 

「ラプラスがお礼を求めるってなると、ライ君をholoXに勧誘してきそうな気がするねぇ。」

 

「僕をholoXに?…それでお礼になるんだったらそれでもいいk「「だめだよ(です)!!」」…え?」

 

ミオさんの発言で僕にできることでの案としてはいい案だと思っていたが、すいせいとトワに否定された。

 

「ライ君不知建にも生徒会にも入ってるでしょ?これ以上何かに加入したらライ君の負担が大きくなっちゃうじゃん!」

 

「そうですよ!それにこれからQ4での活動もある予定なのに、時間がいくらあっても足りない状況になっちゃいますよ!」

 

「…そうかな?」

 

2人の意見は真っ当だと思う。やることを増やしたことによって今までやっていたことが中途半端なものになってしまうのはよくないし、僕も嫌だ。でも…

 

「…やっぱりラプラスが僕の力を必要としていたら助けてあげたいな。これは相手がラプラスだからじゃなくて、仮にすいせいやトワ、ミオさんや白上さん、不知建の皆、生徒会の皆、クラスメイトの皆…僕が知っている人が助けを求めているなら手を差し伸べられる人間になりたい。僕の知っている皆が僕に力を貸してくれるように…」

 

「ライ君…」

 

「って、ちょっと傲慢だったかな?」

 

自分で言葉にしていてもそう思ってしまった。僕にできることなどたかが知れている。

 

「そんなことないよぉ~、ウチら生徒会にはライ君がいないと本当に大変なんだから。」

 

「いやそれは本当に思うわ…ライ先輩のおかげで書類仕事とか、備品整理とか大助かりすぎますもん…」

 

「ふふっ、皇さん頼りにされてますねぇ…白上もコスプレ仲間として是非今後お力を貸していただきたいです!」

 

皆から頼りにしてもらってなんだか嬉しいようなこそばゆい気持ちになった。白上さんのは…僕もコスプレをするということなのかな…?

 

「不知建にもライ君は必要だよ…私にもライ君の力を貸して欲しい…」

 

「勿論だすいせい、今後も君が僕を必要としてくれるなら力になる。君が僕を助けてくれたように。」

 

「…私ってライ君に何かしてあげられてるかな?」

 

「すいせいは僕がこの学園に来てから1番初めに力を貸してくれたじゃないか。学園の案内、クラスメイトの紹介、不知建にも誘ってくれた…他にも数え切れないくらい君には助けてもらってるし、居場所も友達も君のおかげでできたんだよ?」

 

「そっか…」

 

「むしろ僕の方こそ、すいせいに何かできてるのかなって気になってるくらいさ。」

 

すいせいは不安そうに聞いてきたが、いつも力を貸してくれるのはすいせいの方だと思う。そんなすいせいに何か恩返しをしたいと思ってはいるのだが…

 

「じゃあライ君私のお願いを聞いてくれる…?」

 

「勿論。」

 

「私…ライ君のことをもっと知りたいな。」

 

「僕のこと?」

 

「うん、ライ君が好きなものとか、家族のこととか、キョウトにいた頃の話とか…私のこととかはよく話してたけど、ライ君の話ってあんまり聞かなかったから聞いてみたいんだ。」

 

「わかった。あんまり面白い話じゃないかもしれないけど、今度聞いてくれると嬉しいな。」

 

「うん!あ、でもちょっとは面白く話せるよう努力はしてよね?」

 

「…善処するよ。」

 

僕の話か…何から話せばいいだろう?…もうすいせいや皆になら僕に流れている皇家の血について話してもいいと思う。

驚きはするかもしれないがすいせい達なら拒絶はしないだろうという何となくだが確信があった。

そんなことを考えているとミオさんから声をかけられた。

 

「ライ君~、ウチたちのお願いも聞いてくれたりする?」

 

「ん?ああ、勿論だよ。」

 

「トワ達、ライ先輩が作ったお菓子食べたいです!あやめちゃんとかミオちゃんは食べたことがあるみたいですけどトワも食べてみたいです!」

 

「食堂で食べたやつだねぇ~あれほんとに美味しかったからさぁ…」

 

ミオさんとトワからはお菓子作りの要請が入った。

以前あやめやおかゆ達に提供したようなものであれば造作もない。

 

「構わないよ。生徒会のお茶菓子として定期的に作ってくる感じでもいいかな?」

 

「全然いいです!たっのしみ~!」

 

「じゃあウチはお茶菓子に合うお茶とか飲み物を探しておくよ~。」

 

「ありがとうミオさん、楽しみだ。」

 

生徒会での楽しみとしてミオさんが淹れてくれるお茶やコーヒーがそのうちの1つだ。どれも美味しく、かつ作業でひと息つく際の絶妙なタイミングでミオさんが提供してくれるからモチベーションアップにも繋がっている。

 

楽しみが1つ増えたことに嬉しさを覚えていると、隣に座っているすいせいが僕の腕を指でつついてきた。

 

「私もライ君のお菓子食べてみたい…」

 

少し寂しそうに言ってきたすいせいが可笑しく思ってしまい、優しく頷くことにした。

 

「今度不知建の皆で食べる用にケーキを作ろうと思ってたんだ。すいせい用に甘さ控えめなケーキも作る予定だよ。」

 

「!!…ありがと…」

 

すいせいは嬉しそうに笑いながら、少しだけ僕との距離を詰めて座りなおした。

その様子を見ていた白上さんが僕にウィンクをしていた。

 

さっき白上さんと話したことを思い出して僕は白上さんに頷いた。

 

(多分、僕がすいせいに対して思っている感情は…)

 

「あっ!そろそろ劇が始まる時間だよ!」

 

ミオさんの声を聞いて我に返り時計を見ると劇の開始時間まであと10分近くになっていた。

 

「やばっ!そろそろ行こうよ!」

 

「そうだな、トワ、僕たちはそろそろ行ってくるよ!」

 

「はい!ライ先輩楽しんできてくださいね!あっ、すいちゃんちょっとちょっと。」

 

「ん?なにトワ?」

 

トワに挨拶を告げるとトワがすいせいに声をかけて耳打ちをしていた。

その様子を見ているとすいせいの顔が段々と赤く染まっていった。顔を赤くしたまますいせいはトワに頷いていた。

 

「すいせい?何かあったのか?」

 

「な、なんでもない!は、早くいこ!」

 

すいせいは何か焦った様子で体育館に向かって走っていった。

すいせいの様子に不思議に思いながらすいせいに着いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいちゃん…応援してるからね?」

 

 

 

 



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番外編
番外編


もしもライ君がホロメンバーの家族だったらの妄想話です。

本編と内容と設定が異なっていますが楽しんでいただければ幸いです。


星街家の場合

 

「すいちゃんもう朝だよ~。」

 

「うーん…後10分だけ…」

 

平日の朝、お姉ちゃんに起こされる私。

いつもと何も変わらない日常だ。ただ、昨晩は少し夜更かしをしていたため、起きるのが億劫になってしまっている。

 

「もーう、ライ君が朝ごはん準備してるんだから早く行ってあげなよー。」

 

「…わかったよ…」

 

渋々布団から抜け出し、眠い瞼を擦った。

 

リビングからいい匂いが漂ってきていて、徐々に意識が覚醒し始め、リビングに向けて足取りを進めた。

 

リビングに辿り着くと、キッチンで朝ごはんを準備してくれている大事な兄がいたので朝の挨拶をした。

 

「お兄ちゃんおはよ~。」

 

「おはようすいせい、今日はいつもより少し早起きだね。」

 

星街ライ…星街家の長男で、私の兄であり、姉街の弟。

頭がよく、料理も上手で、かっこよくて、そして何より家族を大事にしてくれている…そんなお兄ちゃんが私は大好きだ。

 

友人からよく紹介をしてほしいと頼まれることがあるが、お兄ちゃんを誰かに渡してしまう気分になるのが嫌なので毎回断っているのはお兄ちゃんには内緒にしている。

 

「お姉ちゃんに何回も起こされたから仕方なくね。」

 

「姉さんに僕が頼んだからね。もうすぐ朝ごはんの準備が終わるから先に顔を洗っておいで。」

 

「はぁい。」

 

お兄ちゃんに言われた通りに洗面所に顔を洗いに行くことにした。

冷たい水で顔を洗い、さっぱりした気分になり完全に目が覚めた。

髪も少しボサボサになっていたので櫛で髪をとかし、お気に入りのリボンで髪をサイドアップで結んだ。

 

いつも通りの自分になれたことを確認し、リビングに戻るとテーブルに朝食の準備が終わっていた。

今日の朝食のメニューはトースト、スクランブルエッグ、ベーコン、スープ、デザートに苺が用意されていた。

 

「今日も美味しそうだねぇ、いっただきまーす。」

 

トーストにバターを塗り、噛り付くとトーストとバターの風味が口に広がった。ベーコンはカリカリに焼かれており、スクランブルエッグも中身が半熟になっていて、とても美味しく感じられた。

 

「んー!今日もどれも美味しい!!」

 

「あははっ、すいせいは毎回美味しそうに食べてくれるから嬉しいよ。」

 

お兄ちゃんは既に朝ごはんを食べ終えていたようで、食後のコーヒーを飲んでいた。

 

「ねぇねぇお兄ちゃん、今日夜ご飯ハンバーグ食べたい!」

 

「ハンバーグか、構わないが食材の買い出しに行かないとね。」

 

「やったぁ!じゃあ私も買い物手伝うよ!」

 

お兄ちゃんは私の願いをいつも叶えてくれる。たまにお姉ちゃんからは甘えすぎって言われる時があるが、それでもお兄ちゃんは笑いながら許してくれる。

 

「遅れちゃう遅れちゃう~。すいちゃんライ君行ってきま―す!」

 

「お姉ちゃんいってらっしゃーい。」

 

「あっ姉さん、お弁当忘れてるよ!」

 

お姉ちゃんが慌てて家を出ようとしていたが、お兄ちゃんが作ってくれたお弁当を忘れていたようで、お兄ちゃんが玄関まで追いかけていった。

お弁当はお姉ちゃんとお兄ちゃんが交代で作ってくれており、2人とも凝ったお弁当を作ってくれているので、学校での密かな楽しみになっている。

今日はどんなお弁当かなぁ…

 

 

 

 

 

朝食を食べ終え、学校の制服に着替えてお兄ちゃんと家を出た。

お兄ちゃんと学校が同じなので、ほとんど毎日一緒に登校している。

 

「それじゃあすいせい、ヘルメットは被ったかい?」

 

「OKだよ!いつもすみませんねぇ…」

 

お兄ちゃんはバイクを持っており、学校にはバイクで登校している。

そのため私もバイクの後ろに乗せてもらって一緒に登校するのが毎日の楽しみになっている。

 

お兄ちゃんのバイクの準備ができたようで、まずお兄ちゃんがバイクに跨るのを確認した後に私がバイクの後ろに跨った。

バイクから落ちないようお兄ちゃんの腰をしっかり掴んで出発する準備が完了した。

 

「よ―し!学校に向かって出発進行―!」

 

「…はいはい。」

 

お兄ちゃんは苦笑しながらバイクを発進させた。

 

 

 

 

 

バイクは風を切り、どんどん他の車を追い越していく。

みこちや不知建のみんなとよく一緒に遊ぶゲームでも、車やバイクを運転するゲームで遊んだりしていて、ゲームにおいて速い乗り物はすごく爽快感があって好きだが、やはり現実でのバイクの爽快感は何事にも代えられない。

 

「いやっほう!速い速―い!」

 

「すいせい…落ちないように気を付けてくれよ?」

 

「ねぇ…お兄ちゃん?」

 

「ん?なんだい?」

 

爽快感が出たことによりいつもよりテンションが上がっているためか、お兄ちゃんに自分の気持ちを伝えたくなっていた。

運転中だから声が届きにくいと思うので大きな声で伝えた。

 

「お兄ちゃんいつも優しくしてくれてありがとう…大好きだよ!!」

 

「…ああ、僕もすいせいのこと大好きだ。」

 

お兄ちゃんはフルフェイスのヘルメットをしているので顔がよく見えないが、おそらく顔が赤くなっていると思う。

お兄ちゃんの反応に満足した私はお兄ちゃんの背中に抱き着き、学校に到着するまで大人しくすることにした。

 

いつまでもお兄ちゃんとお姉ちゃんと家族で仲良くやっていけるといいな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




初めての番外編でした。

姉街はお姉さん感が強いので妹ではなくお姉さんのままにしました。

すいちゃんは家族にはわがままで甘えん坊なところ凄くかわいいと思ってます(共感してくれる方いてくれぇ…)。


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番外編2

久々の番外編です。

今回はふと頭に思い浮かんだホロメンが吸血鬼で、ライ君だけがその秘密を知っている、というような設定で読んでいただければ~

※グロテスクな描写はないですが、血を飲むなどの表現が苦手な人はブラウザバックを…


 

あやめの場合

 

「うーん、仕事疲れた余~。」

 

「お疲れ様、あやめ。」

 

生徒会での書類の処理が終わり、今日の仕事は終了した。

 

「ライ君も多い時間まで付き合ってくれてありがとうだ余。」

 

「どういたしまして、こういった書類の作業は嫌いじゃないから気にしなくていいよ。」

 

ライ君…生徒会にいるメンバーの中で一番の新人だけど、仕事が早く丁寧で、生徒からの人気も高く、先生達からの信頼も厚い。

 

余はまだ生徒会長として学校を引っ張って行くつもりだけど、ゆくゆくはライ君に副会長に就いてもらって、余の右腕として、生徒の模範として一緒に学園をもっと良くしていきたい。

 

「さて、周りも暗くなってきたし、そろそろ生徒会室を閉めて帰ろ…あれ…?」

 

余がライ君に声を掛けて席を立ち上がろうとした瞬間に大きな眩暈を起こし、倒れそうになってしまった。

 

「あやめ!」

 

すぐさまライ君が駆け寄り、余が倒れる前に身体を受け止めてくれた。

 

「おっとっと、ライ君ごめんね?」

 

「あやめ…最近飲んでないんじゃないか?」

 

「あはは…ライ君は全部お見通しだね…」

 

「最近生徒会での仕事が多かったし、それの疲れも溜まっている影響かもね…」

 

ライ君が身体に触れているということもあり、余の身体が熱くなり、どんどん吸血の欲求が高まっているのが分かる。

 

「ライ君…いい?」

 

「ああ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

この時間には誰も生徒会室に立ち寄る予定はないが、念のためドアにカギをかけた。

 

ライ君は制服の袖を捲り、手首を差し出してきた。

 

余は自分の爪でライ君の血管を少し引っ掻き、傷をつけた。

 

すると傷口から真っ赤な紅い血が溢れ出してきて、余は傷口に口を付けた。

 

溢れ出た血を飲み干していく。ライ君は優しく微笑みながら余の様子を見てくれている。

 

ライ君の血の味はとてもバターのように濃厚で、余が欲していた渇きを潤していく。

 

このまま飲み続けていたい、という感覚に襲われるが理性をなんとか抑えつける。

 

3分ほど飲み続けて、ようやく口を離し、最後に傷口を舐めた。

 

吸血鬼の唾には高い治癒力があり、ライ君の傷口はすぐに塞がれた。

 

「ふぅ…ご馳走さまでした。」

 

「お粗末様でした。これで足りそうかい?」

 

「うん、1週間休みがなくても問題なく動けそうだ余。」

 

ライ君の血を飲んでからは眩暈、身体の気怠さが消えていた。

 

これでしばらくの間は血は必要がなくても行動できる。

 

余の答えに満足したのか、ライ君は余の頭を撫でた。

 

何故か血を飲み終わった後はライ君は必ず頭を撫でてくる…

 

「もー、ライ君余を子供扱いしてない?」

 

「そんなことはないが…嫌だったかい?」

 

「…ううん。」

 

恥ずかしいが撫でられるのは心地が良い。ライ君は血を抜いた直後なので休息の意味を込めて毎回この時間を設けている。

 

余とライ君の歪な関係はまだしばらく続きそうだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すいせいの場合

 

「はぁっ…はぁっ…」

 

いけない…最近血を吸うのを我慢していたこともあって眩暈と動悸が激しい…

 

身体が今すぐにでも血を欲しているのが分かる…でも吸血鬼であることは皆に隠しているし、学園の中では人の目があるので、すぐには手に入らない…

 

…いや、1人だけ私の秘密を知っている人がいる…確か今日は不知建の部室に向かうと言っていたはず…

 

私は藁にもすがる思いで部室まで歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

部室のドアの前に立つと、中に誰かがいる気配を感じた。

 

吸血鬼のため聴覚や嗅覚が人間よりも研ぎ澄まされており、誰が中にいるかも分かっている。

 

会いたい人が中にいることを確認し、ドアを開けた。

 

中には窓際の席に座って読書をしていて、ドアを開けた音でこちらに気づいたのか静かに振り返った。

 

「やあ、すいせい。」

 

皇ライ…不知建メンバーの中では一番の新人であり、私の後輩。そして唯一私の秘密を知っている男の子…

 

「やっほー…ライ君…」

 

息をするのもしんどいがライ君に挨拶を返した。

 

「すいせい?目が紅く…」

 

ライ君に言われるまで気が付かなかったが、目が紅くなっているらしい。

 

でも今の私にはそんなことまで気にすることはできず、ライ君の座っている席の前まで進んだ。

 

「ライ君ごめん…私我慢できない!」

 

「!すいせい!?」

 

今の私は正常な判断ができない…ライ君が驚いているがもう止めることはできない。

 

私はライ君の肩を掴み椅子に座らせて、ライ君の膝の上に座り首の部分に少し爪で傷を付けて、傷口から溢れ出た血を飲み始めた。

 

ライ君を抱き寄せるような形で密着していて、ライ君の血の味と匂いが混じり合い思考がどんどん狂わされていく。

 

(もっと血が欲しい…ライ君が欲しい…ライ君の全てが欲しい…)

 

ライ君は血を吸われていて苦しいのか息が少し荒い…

 

「すいせい…ちょっと痛い…」

 

「ごめん、本当にごめん。」

 

ライ君に謝罪をするが吸血を止められない…

 

そんな私を落ち着かせるかのようにライ君が私の背中をさする。

 

落ち着かせる行為であるはずだが、今の私には逆効果で、そうしてくれることも快楽に替えられてしまう。

 

抱きしめる力が強くなり、さらに密着したところでライ君は私の耳元で囁いた。

 

「すいせい…君が望むなら僕の全部を君にあげるよ…」

 

その言葉で思考が真っ白になり、吸血を一瞬止めた。

 

ライ君の首元から口を離し、ライ君の顔を見つめた。

 

ライ君は私を真っすぐ見つめ微笑んでいて、首元から紅い血が流れている姿を見て私は身体が熱くなってくるのを感じた。

 

そのまま私はライ君の顔に私の顔を近づけて…

 

「!?」

 

私はふと我に返り、部室の外に誰かが通る気配を感じた。

 

ライ君もそれに気づいたようで、息を殺していた。

 

普段であれば外に誰がいるかを把握できるが、今は焦っていることもあり感じ取ることができなかった。

 

ただその人物は一瞬部室前を立ち止まっただけであり、そのままどこかに行った。

 

居なくなったことに対して安堵をしてライ君の方を振り返ると、少しぐったりしている様子であった。

 

そこで私はライ君に何をしてしまったのかを思い出し、顔が青ざめた。

 

「ライ君!本当にごめん!大丈夫!?」

 

私はとんでもないことをやらかしてしまったことを実感し、すぐさま謝罪をした。

 

「ああ…もう少し血を抜かれたら危なかったかもしれないけど…」

 

すぐさまライ君の止血をするために首元を舐めて傷を塞いだ。

 

傷口はふさがったが血を抜きすぎたためかなり疲労しているようだ。

 

「ちょっと頭がクラクラする…すいせい悪いけど水を買ってきてくれないか?」

 

「うん!ちょっと待ってて!」

 

私は部室を飛び出し、自販機を探しに向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライ君…飲める?」

 

「ああ、ありがとう。」

 

私は一応水を2本購入し、ライ君に渡した。

 

ライ君はペットボトルのキャップを開けてそのまま飲み始め、一気に一本を空にしていた。

 

「ふう…生き返ったよ。」

 

「よかった…ほんとにごめんね?」

 

「全然いいよ、すいせいの役に立ててよかった。」

 

ライ君は椅子から立ち上がろうとしたが、上手く立てないようだった。

 

「あはは、力がちょっと入らないや。」

 

乾いた笑いをしたライ君を見ているといたたまれない気持ちになってしまい、ライ君にある提案をした。

 

「ライ君…私の血を飲む?」

 

「え?」

 

「ライ君から貰いすぎた血を返そうかと思って…」

 

私はそう言いライ君に私の首元を近づけた。

 

「い、いや大丈夫だ。」

 

「?」

 

ライ君は私から顔を背けていたため不思議に思っていたが、ライ君をよく見ると顔が凄く赤くなっていた。

 

私はライ君の反応が面白く、揶揄いたくなってしまい、ライ君の耳元に囁いた。

 

「血を飲むだけなのに何考えてんの?…ライ君のえっち…」

 

「っ!も、もう帰る!!」

 

「あっ、ライ君ごめんってば!」

 

ライ君は無理して立ち上がり、部室から出ていこうとしていた。

 

流石にまだ本調子ではないので、クラブハウスまで送ることにした。

 

部室を出る前にライ君に向かってお礼を伝えた。

 

「ライ君ありがとう、美味しかったよ♡」

 

ウィンクして伝えたが、ライ君は不満そうだったので手を繋いであげた。

 

顔は見えないがちょっと嬉しそうな気がしたので私は満足した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




何故かすいちゃんが若干えっちになっちゃったな?(すっとぼけ)

ライ君の台詞にすいちゃんの歌の歌詞を少し弄って入れちゃいました…笑


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番外編3

久しぶりの番外編です。

今回のお話はちょっと悲しめなものになっています。(悲しいお話が苦手な方はブラウザバックを…)

ゲームでのギアス編でのライ君は数百年前のブリタニアの王で、自身が持っていたギアスを暴走させてしまい悲劇を生みだしてしまいます。
その悲劇を起こしてしまった自身に罰の意味を込めて数百年の眠りにつきます。

ギアス本編の時間軸に目覚めた際に記憶を失ってしまいますが、物語を進めていくうちに徐々に過去の記憶を取り戻し、最終的に自身の罪を思い出してしまうことになります。

現代でできた仲間や友人にまた悲劇を起こしてしまうことを恐れて、皆の記憶から自身の存在を忘れるようにギアスをかけて再度眠りにつくことを選びます。

皆ライ君のことを忘れてしまいますが、ライ君の記憶がないはずなのに心にぽっかり穴が開いてしまったり、訳も分からず泣いてしまうなど、反応は様々です。

それを現在の作品のホロメンにゲームと同じギアス編EDの内容を当てはめてみようと思い執筆しました。

読む覚悟ができましたらどうぞ…


 

生徒会の場合(あやめ視点)…

 

「もーう、全然仕事が終わんない余ぉ…」

 

現在、余達生徒会メンバーは学園祭に必要な報告書の作成に勤しんでいた。

 

「しょうがないでしょー?学園祭が1週間後に迫っているのに、まだ書類作成が全然終わっていないんだから。」

 

隣に座って作業を進めている副会長のミオちゃんに咎められた。

 

「ミオ先輩…その通りなんですけど、終わる気配が全然ないですよ…」

 

「やっぱ人手が全然足んないよねー。トワの隣の机に積み上げられてる書類も片付けないといけないんでしょ?」

 

机に項垂れてしまっている美化委員長のかなたちゃん、自身の隣の机に山積みされている書類を見て嘆くトワち。

 

「あっ、実はその書類の山はもう作成が終わっているやつなんだよね。」

 

「まじで!?この山積みのやつミオちゃんがやってくれたん?」

 

「ううん、ウチじゃないよ。」

 

「えっ?じゃあ誰がやってくれたんですか?」

 

「…実は分かんないんだよねぇ…」

 

「「えっ??」」

 

ミオちゃんの発言に首を傾げる2人。

余がやったわけでもなくいったい誰が…?

 

「ねえ、何か知ってる?」

 

余はミオちゃんと反対の隣の席に向かって声を掛けた。

しかし、その席には誰もいなかった…

 

「あやめ?今ウチに話しかけた??」

 

「…いや、なんでもない余。」

 

ミオちゃんは余に自分が話しかけられたと思って不思議そうな顔をしていた。

…まただ、最近こうやって誰もいないはずの場所に話かけてしまう…

まるで誰かがそこにいるのが当たり前のように思えてしまっていて…

 

「さっきの話に戻すけどさ、実際のところ誰が書類を片付けてくれたんだろね?」

 

「うーん、生徒会の活動に興味がある人とかかな…?でも生徒会室に入るためにはウチらみたいにIDカードに権限がないと入室できないはずなんだけどねぇ…」

 

「見えない人…なんだか透明人間か妖精みたいですね?」

 

ミオちゃん達が先程の話で盛り上がっていた。

余も書類を片付けてくれた人物は気になる。書類にざっと目を通したが計算ミスなどの不備は見当たらず、完璧な書類となっていた。

現在生徒会は人手が足りていない。これだけの書類が作れる人材は是非とも確保…ではなかった、勧誘をしてきたい。

 

「じゃあさ、この書類作成した生徒を皆で探してみよう余!そしてあわよくばその人を生徒会に入れちゃおう!」

 

「確かに人手も足りてないし、この機会に新しいメンバーを入れちゃうのもありかもねぇ。」

 

「「さんせーい!!」」

 

生徒会メンバー全員から同意の声が上がった。

 

「ね?〇〇もいいと思うよね!?」

 

余はまた隣の誰もいない席に向かって声を掛けた。

 

「…?」

 

「あやめ?」

 

「…あはは、余疲れちゃってるみたいだ余…」

 

何故だろう…

何で余は誰もいない席に声をかけちゃうんだろう…

 

そこには誰もいないはずなのに。

余はなにも知らないはずなのに。

 

痛い。

胸のあたりがとても痛い。

 

失ってはいけないものを失ってしまった気がして…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すいせいの場合…

 

「うわぁ!また負けたにぇ…」

 

「へっへーん、すいちゃんの勝ち~。」

 

私は自分の部屋でみこちとテトリスで遊んでいる。

 

「すいちゃん強すぎるんだにぇ!もうちょっと手加減してよ!」

 

現在の戦績は10戦10勝で私の圧勝(当たり前だが)となっていた。

一応ゲーム開始から20秒間は私はコントローラーに何も触らない、というハンデを付けているが、それでもみこちに勝つのは造作もないことであった。

 

「じゃあ次何のハンデ付ける?30秒縛りとTスピン縛り付けようか?」

 

「一旦休憩!頭使いすぎて疲れたにぇ!」

 

そう言うとみこちは後ろに倒れこんだ。

全く…これからが勝負だというのにもう疲れちゃったのか。

 

「あれ?すいちゃんまたぬいぐるみ増えたの?」

 

倒れこんだみこちが私のベッドの方を見ながらそう言った。

 

「え?どの子のこと?」

 

「ほら、あの銀色の…」

 

みこちが指を差したのは銀色の優しい目をしている狼のぬいぐるみであった。

 

「あー、あの子ね…あれ?あの子いつからいるんだっけ…」

 

「え…覚えてないの?」

 

私は立ち上がってぬいぐるみの元まで行き、狼のぬいぐるみを抱きかかえた。

私が所有しているぬいぐるみは基本可愛い動物がメインになっているが、この子は私にしては珍しいかっこいい子だ。

 

「うーん、最近からいるような、ずっといるような…」

 

他の子はいつ購入したか、誰から貰ったかは覚えているが、この子だけは曖昧だった。

確か誰かから貰ったというのは何となく覚えている…

 

「こんな子を忘れるなんてかわいそうだにぇ…」

 

「し、仕方ないじゃん。分からないものは分かんないんだもん…」

 

みこちに指摘されるとは思わなかったが、確かに自分でも覚えていないのが不思議だった。

改めてこの子を真っすぐ見つめると、見た目はかっこいいが、狼にしては目がとても優しい。

この子に似た目をしている人をどこかで見たことがあるような…

 

(ああ、すいせいがそれで喜んでくれるなら〇も嬉しい。)

 

「えっ?」

 

「にぇ?」

 

「みこち今何か言った?」

 

「ううん、何も言ってないよ?」

 

急に誰かの声が聞こえた気がした。

 

聞いたことがないはずなのに懐かしい声。

 

優しく包み込んでくれるような暖かい声。

 

「すいちゃん!?」

 

「ん?何?」

 

みこちが急に驚いたような大きな声を上げた。みこちの顔を見るとこちらを心配しているような顔をしている。

 

「すいちゃんどうしたの…?どこか体調悪い?」

 

「え?何で?」

 

「だって…すいちゃん泣いてるから…」

 

「…え?」

 

みこちに言われるまで気がつかなかったが、いつの間にか私の目から涙が零れていた。

 

「あれ?お、おかしいな…どう…して」

 

手で涙をぬぐってもどんどん涙が溢れて狼のぬいぐるみを濡らしてしまった。

 

でも、ぬいぐるみは泣いてもいいというようにこちらを見つめている気がして、

 

オロオロしているみこちが背中をさすってくれているのも相俟って、

 

私はしばらくの間泣き崩れてしまった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと短めですがあやめをルルーシュED。

すいちゃんをナナリーEDを基に執筆しましたが、

すいちゃんが泣いちゃうのは良くない…

モザイクカケラを流しながら読んでいただくと本当にゲームのEDっぽくなるかもしれません…


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番外編4


皆様あけましておめでとうございます。
今年もこの作品を楽しんでいただければ幸いです。

楽しんでいただけましたらお気に入りや高評価、感想などを記載いただけるととても励みになります。

またまた番外編でございます。

今回もロスカラ本編に寄せて執筆しております。

もしもすいちゃんが黒の騎士団に加入して行政特区が成功していたら…?のお話~。


 

行政特区日本が設立されて1か月。

ブリタニアと日本の戦いは収まりつつあった。

しかし、行政特区に賛同しないブリタニアの貴族達やテロリスト達の反乱は未だ起きており、その反乱の鎮圧を行っているのが僕ら黒の騎士団だ。

 

僕は行政特区日本設立時にギアスによって操られたユーフェミアに撃たれて重傷を負い、無理やり僕のギアスで命令を上書きした後に出血とギアス使用時の後遺症で意識を失っていた。そのまましばらくの間入院をしていたが、僕は先週退院をした。

本来であれば今週までは入院している予定ではあったが、同じ騎士団員のカレンとすいせいが僕の入院していた騎士団員用に設立された病院に何度も見舞いに来て、その度何故か喧嘩をしていたため、院内の人達に迷惑が掛かってしまうと思い早期退院することにした。

この話をゼロ…ルルーシュとC.C.に話すと、ルルーシュは頭を抱え、C.C.はお腹を抱えて笑っていた。

 

僕たち3人は戦場にいる間は互いに抜群の連携ができており、他の追随を許さない勢いで敵を薙ぎ払っていた。騎士団内で僕は作戦補佐、すいせいが戦闘隊長、カレンがゼロ直属の零番隊隊長、というそれぞれ騎士団内で重要なポジションに就いている。

しかし、カレンとすいせいはプライベートのことなどでは馬が合わないようで喧嘩をしているところをよく見かける。

ただ、お互いが嫌いというわけではないようで、学園内でも騎士団内でもよく一緒に行動している。

 

そんな2人だが今日は珍しく騎士団内で言い争いをしていて…

 

 

 

 

 

 

 

「だからあそこは私の紅蓮で先行して決着をつけた方が早かったんだってば!」

 

「そしたら私の星影(すいせい専用KMF)の出番がなくなっちゃうじゃん!」

 

「出番は関係ないでしょうが!早めに決着をつけちゃう方が被害も少なくて済むでしょ!」

 

「そ、それは…でもそれを言ったら前の戦闘の時だって私が先行して終わらせたら、カレンが敵を残しておけ、って怒ってたじゃん!」

 

「うっ…い、今はその話は関係ないでしょ!」

 

「「ぐぬぬ…」」

 

『全く、あの2人は何を言い争っているんだ…』

 

格納庫をゼロと共に通りがかると、カレンとすいせいが正面から言い争っているのを見かけて、その様子を見たゼロがため息をついた。

 

「先日のテロリスト鎮圧の際の結果に不満があったらしくて…朝からあんな様子なんだ。」

 

『あれを他の団員が見かけると心象的にマイナスだな…ライ、何とかできないか?』

 

「僕がか?」

 

「放っておけ。あのままにしておく方が面白い。」

 

どこからともなく綺麗な黄緑色の長髪の魔女であるC.C.が現れた。

彼女はあの2人の様子を見ながらとても楽しそうに笑っていた。

 

「でも…」

 

「あいつらの様子は私が見ておくさ。それにお前たちは今から騎士団内で打ち合わせがあるのだろう?そっちを優先しておけ。」

 

『確かに…あと10分程で会議が始まるな。魔女の言うことにも一理ある。』

 

「じゃあC.C.、任せてもいいかい?」

 

「ああ、さっさと行ってこい。」

 

C.C.が手をヒラヒラ振っているのを見届けてから僕とゼロは会議室に向かうことにした。

少し不安が残るがC.C.に任せておこう…

 

 

 

 

 

 

すいせいside

 

「ああ、もう!埒が明かない!」

 

「それはこっちの台詞よ!」

 

私とカレンは何十分も言い争いを続けたが、どちらも折れる気配がなかった。

別にカレンのことは嫌いではない。むしろ騎士団の中ではライ君と同じくらい信頼しているし、KMFの操縦技術や体術のレベルの高さには素直に尊敬している。

 

でも私にも譲れないものがある。今騎士団の中で私は戦闘隊長のポジションに就いているが、本当は憧れであるライ君の作戦補佐のポジションを狙っている。

そのためには自身の作戦で成果を上げて、ゼロや幹部達に認めてもらわないといけない。

最初は作戦や戦略の立て方は右も左も分からなかったが、今は一人でも考えることができる。

 

最近はゼロに直談判に行き、この作戦でいかなければ星影で暴れまくる、と脅してみようかと考えはしたが、ライ君に嫌われたくないので流石に辞めた。

 

ライ君は私が立てた戦略の考え方を褒めてくれるが、彼やゼロの戦略に比べるとまだまだなので、彼らの作戦の戦闘の記録や映像を確認して、戦略や考え方をどんどん盗んで自分のものにしている。

 

1日でも早くライ君の隣に立てるようになりたい。

彼の負担を減らしてあげられるようになりたい。

 

カレンも私と同じ気持ちを持っているので、ライバルのような関係になっているが、やはりカレンには負けたくない。

 

その想いが強い所為もあってこのような言い争いになってしまったが、正直収まりようがない。

どう収拾を付けようかとは思っているが…

 

「お前たちは何をやっているんだ?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

私たちの間に割り込んできた声に反応すると見知った人物がいた。

 

「C.C.じゃない。何か用?」

 

「お前たちの言い争いが目に余るという報告が上がってな。いつまで言い争っている。」

 

「「だってすいせい(カレン)が!」」

 

「分かった分かった。静かにしろ。」

 

C.C.はうんざりそうな顔をしていた。

正直私とカレンはC.C.が苦手だ。

上から目線な態度が気に入らないし、かなりわがままな性格というのもあるが…

何故かC.C.はライ君の保護者面をよくする。騎士団内で行動しているのをよく見かけるし、租界でも一緒にいるということをライ君から聞いている。

やはり好きな人に自分以外の女の影があるのは何かモヤモヤしてしまう…

 

「言い争いの原因は聞こえてきたから分かっている、前回の作戦の件だろ?だったらあれで決着をつけてこい。」

 

C.C.はそう言いながら格納庫の奥を指差した。

それは誰も乗っていない色々な配線が繋がれたKMFの2人分のコクピットだった。

 

「あれは…シミュレーションマシン?」

 

「あれで思いっきり戦え。シミュレーションで戦う分なら誰の迷惑にもならないだろ。」

 

「私はいいわよすいせい。」

 

そう言うカレンは自信ありげに挑発的な顔をしてきた。

ここで引いたら女ではない…なら答えは一つ。

 

「私もいいよ。ボッコボコにしてあげるから。」

 

「後悔しないことね!」

 

「勝負内容は攻撃を一度でも当てた方が勝ち。これを2本先取だ。」

 

「「OK!!」」

 

カレンがコクピットに向かって走り出したので私も追いかけた。

 

「ねぇすいせい、1つ賭けをしない?」

 

「賭け?」

 

カレンから賭け事を持ち出されるのは珍しい。何をかけるつもりだろ…?

 

「勝った方がライとデートする権利を手に入れる、っていうのはどう?」

 

「!乗ったぁ!!」

 

絶対に負けられない戦いが始まろうしていた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ…」

 

「ここまでやって引き分け…?」

 

結果は1本目がカレン、2本目が私の勝ち。

決着をつけるための3本目が長引き、お互いのKMFのエナジーフィラーが同時に切れるという引き分けに終わってしまった。

 

「ちょっと休憩…」

 

「私も…汗かきまくちゃった…」

 

シミュレーションとはいえ、KMFのコクピット内ということもあり熱がこもってしまい、体力的にも精神的にもお互いの限界が来た。

疲労感が凄いが何故かスッキリした気分になった。あれだけ全力でお互いにぶつかったからもうモヤモヤもない。

 

「賭け事も今回はなしだね…」

 

「正直3戦目の途中からそのことが頭から抜けていたわ…」

 

コクピットから出て、カレンと汗を流すためにシャワー室に向かうことにした。

 

「カレン…ごめんね?」

 

「…私もごめん。ちょっとムキになりすぎちゃった。」

 

シャワー室に向かう途中で今回のことについてお互いに謝罪した。

今までもぶつかり合った後は必ず謝罪はしていた。こうやって私たちは仲を深めていっている。

 

「さっ、シャワー浴びたら租界でお昼ご飯食べに行きましょ!」

 

「いいね!すいちゃん焼肉がいい!」

 

「おっ、2人とも仲直りは終わったか?」

 

2人でご飯を食べに行くことに決めていると、黒の騎士団の副指令の扇さんとすれ違った。

 

「あっ、扇さん。」

 

「あれ?私たちの言い争いの件知ってたの?」

 

「ああ、会議前ライから話を聞いてな。」

 

「えっ、ライ君も知ってたの…?」

 

「会議が終わるまで心配していたぞ?会議が終わった後C.C.がライに無事に上手くいったと聞かされて安心していたが。その後2人で租界に行っていたぞ。」

 

「そっか…ライに心配かけさせちゃってたんだ…えっ?」

 

「ん?」

 

「扇さん…ライ君誰と租界に行ったって…?」

 

「誰って…C.C.とだが…」

 

一瞬私とカレンの思考が止まった。

 

 

 

 

 

 

「「…あの魔女ぉぉ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

C.C.side

 

「C.C.、よくこんなお店知っていたね?」

 

「ここは神楽耶から教えてもらった行きつけの茶屋でな。お前が好きな和菓子を多く取り揃えてある。」

 

「すごく楽しみだよ。連れてきてくれてありがとう。」

 

「礼には及ばん。お前の退院祝いを兼ねて私からの祝いだ。」

 

私はライを会議が終わった後この茶屋に連れ出した。

ここは会員制の茶屋で誰でも自由に入れる場所ではないため、仮にあの小娘共がここを特定できたとしても中に入ることはできない。

 

「でも意外だな、C.C.がピザ以外の食べ物に興味を示すなんて。」

 

「お前の影響かもな…」

 

「?」

 

ライは不思議そうに首を傾げていた。

その様子が何故か面白く笑ってしまった。

 

「ライ、お前といると退屈しないよ。」

 

「それは…よかったのかな?」

 

「もちろん、お前はルルーシュと違って、私に付き合ってくれるしな。」

 

「僕もC.C,と一緒にいるのは楽しいよ?」

 

ライの言葉に私は満足した。

テーブルに肘をつけ頬杖をしながらライを見つめた。

 

行政特区でこいつを失うことにならなくてよかった。

もしライを失っていたことを考えてしまうと、騎士団員やルルーシュ、カレンやすいせいなどもどうなってしまっていたか分からない。

 

魔女として数百年生きてきたが、こいつより面白い人間は見かけたことがない。

カレンとすいせいがライのことを好いているのは知っているが、渡してしまうのはまだ惜しい。

 

「さぁ、和菓子が運ばれてきたぞ?」

 

「おお…」

 

和菓子が好物なライは目を輝かせていた。

この表情を知るものはまだ少ない。

恐らくあの小娘たちも知らないであろう。

 

「まだあいつらには早いかな…」

 

「ん?何がだい?」

 

「…なんでもないさ。」

 

私はライに向かって魔女らしく悪戯っぽく微笑んで見せた。

 

(いつかライが私の願いを聞いた時、その願いを叶えてくれるだろうか…いや、このことは今は忘れておこう…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ほっとんどギアスのみのお話になってしまいました(笑)

ゼロのことはそこまで尊敬していなそうなすいちゃん。

ライ君のKMFは月下で、すいちゃんのKMFは星影。

作者に絵の才能があれば描きたかったのですが力不足を痛感…

カレンとすいちゃんは仲良くなれそうな気がしています。


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番外編5

久々の番外編。

今回はおかゆん目線のお話です。

内容はヤンデレ系のお話となっております。


苦手な方はブラウザバックを…


 

 

「…うっ…」

 

「あっ、ライ君目覚めた?」

 

「…おかゆ?…これは!?」

 

僕の愛しい人がベッドの上で目を覚ました。

彼は今の状況にとても驚いている。

何故なら彼はベッドの上で両手と両足を錠で拘束されているからだ。

そして服は囚人服のようなものを身に着けている。

 

…まぁ僕が全部やったんだけど♡

 

「うふふ、ライ君凄く似合っているよ?」

 

「おかゆ…これは何の遊びだい?」

 

「これはね、遊びなんかじゃないんだよ?」

 

「何?」

 

「あのねライ君、驚かないで聞いてほしいんだけど…」

 

僕はそう言いながらライ君の目を見つめた。

ライ君は僕の顔を不安そうに見つめている。

 

普段はかっこいいけど、無表情の方が多い彼がこんな顔を僕だけに向けているという事実に僕は全身がゾクゾクするような感覚に襲われた。

 

「ライ君はこれから僕と一緒に暮らすことになるんだよ!」

 

「……は?」

 

まただ。ポカンとしている彼の表情。

普段見せない表情を僕だけに見せているという状況に、興奮に近いものを感じた。

 

「どういうことだい…?」

 

「えっとね、ライ君はこれから僕以外の人とは誰も会わなくていいんだよ。僕がライ君の身の回りの面倒を全部見てあげるから。」

 

「…?」

 

ライ君はまだ理解ができていないようだった。

まぁ無理もないかな?僕が勝手にこの部屋に連れてきちゃったわけだし。

 

ライ君はキョロキョロ周りを見渡していた。

多分自分がどこにいるかを分析しているんだろうなぁ。

 

僕はライ君の様子を見ながら、ベッドの横のテーブルの椅子に腰を掛けた。

 

「おかゆ、ここはいったいどこなんだ?僕は確かおかゆの家に遊びに来ていたはずなんだが…」

 

「ここは僕の家の秘密の部屋だよ~。友達のシオンの魔法で作ってもらった特注品でね、僕の許可が無いと誰も入れないし、見つけられない仕組みになってるんだぁ。あっ、婆ちゃんもこの部屋のことは知らないんだよ。」

 

以前シオンを口説いてこの部屋を作らせたのは正解だった。

おかげで好きな人を手に入れることができたのだから。

 

…最近ライ君の周りに可愛い女の子が増えてしまった。

すいちゃん…フレア…あやめちゃん…数えだしたらきりがない。

 

皆のことはもちろん大好きだし、友達だと思っている。

 

でも…ライ君のことは皆のこと以上に好きになってしまった。

 

学園での授業中。

ライ君とスバルちゃんの3人で租界に遊びに行っているとき。

お互いの家で遊んでいるとき。

 

どんな時でも彼の姿を目に追ってしまう。

 

最初はライ君と一緒にいることができればそれでいいと思っていた…

でも最近はそれだけでは満たされず、彼の私物にも手を出してしまっていた。

 

ライ君の飲みかけのペットボトル…普段使っているハンカチ…

 

頭ではダメだと分かっていても、もう理性を抑えることができなくなってきていた。

 

(アア…ライクンガホシクナッチャッタナァ…)

 

そう思ってしまった時には行動に移してしまっていて、今の状況に至っている。

 

ライ君に視線を移すと、鎖を外そうともがいていた。

 

「ライ君?どうして鎖を外そうとしているの?」

 

「…僕はここから出たい。」

 

「なんで?僕とずーっと一緒にここいるのは嫌なの?」

 

「おかゆと一緒にいるのが嫌なわけではないけど、ここにずっといるのは無理だ。生徒会の仕事や、不知建の皆と約束している用事もあるし…」

 

「……」

 

ライ君の答えを聞いた僕は無言でベッドで仰向けになっている彼のお腹の上に跨った。

ライ君は僕の動きを観察するようにじっと見ている。

 

「まぁさっきも言ったようにここからは僕の許可が無いと出れないからねー?それでも皆に会いに行こうとするの?」

 

「ああ…」

 

「ふーん…」

 

ライ君の考えは理解できた。

僕は右手をライ君の胸の上に優しく置いた。

ドクン…ドクン…とライ君の心臓の音が掌に伝わってくる。

 

「うふふ…ライ君心臓の音早いね?」

 

「おかゆ…くすぐったい…」

 

僕はそのまま右手を彼の胸からなぞるように首元、鎖骨に移動させた。

 

鎖骨の窪みの部分に手が辿り着いてから一瞬動きを止めて、僕は猫特有の鋭い右手の5本の爪を、

 

「おかゆ?何を…ぐっ!?」

 

ゆっくりと突き刺した。

突き刺した個所から赤い液体が滲み出てきている。

 

常人なら叫ばずにはいられないであろう痛みだけど、ライ君は必死に声を上げず、痛みに耐えていた。

 

このライ君も初めて見た。

痛みに必死に耐えようとしているライ君もかっこいいなぁ。

 

僕は爪を引き抜き、付着した血を舐めとった。

彼の一部を身体に取り入れたことにより僕の興奮のボルテージが高まってしまった。

 

「どうライ君?痛い?」

 

「…おかゆ…どうして…?」

 

ライ君の目からは恐れや怯え、悲しげな感情が感じられた。

 

「安心して?ライ君がちゃーんと僕の言うことを守って、ここで暮らしてくれるならもう痛いことや苦しいことはしないから。むしろ良いことしかないからね?」

 

「僕は…」

 

「まぁ僕以外の人とは連絡は取れないし、僕と一緒じゃないと外にも出れないけど、ご飯も僕が用意するし、お風呂も入れてあげるし、あっ、僕がいない間はてまにゃんがいるから寂しくないよね?」

 

僕は微笑みながらライ君に話しかけた。

ライ君から返答がなかったから、僕は何も声に出さずゆっくりとライ君の首元に手を伸ばした。

 

「やめ…」

 

首元に少し触れただけだけど、ライ君の身体はびくりと反応していた。

 

(さっきの痛みを思い出しちゃったのかな?)

 

人間は怖い出来事などを体験してしまうと、それがトラウマに繋がってしまう時がある。

恐らく反射的に身体が反応してしまったのだろう。

 

僕はその姿が愛おしくなってしまい、ライ君の身体を優しく抱きしめた。

 

「大丈夫、怖くないよ。僕がずっと傍にいるからね?」

 

「おかゆ…」

 

先程の悲しげな表情から、何かに縋るような表情に変わっていた。

今のライ君は表情がコロコロ変わっていく。

どの表情も今までに見せたことがないけれど、どれも魅力的だ。

 

僕はライ君を安心させるように、彼の耳元に顔を近づけて優しく囁いた。

 

「ライ君、大好きだよ?」

 

まずはライ君にこの生活に慣れてもらわないとね~。

何をしてあげようかな…

 

僕は部屋の壁に掛けてある鏡に一瞬目を移した。

 

そこには、目を不死鳥のような紅い色を宿した僕の姿があった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以前おかゆんがメン限配信で行ったヤンデレ系配信を思い出して書いたお話となります。

一番好きだったのはおかゆんの全力台パンのところです。


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番外編6

かなり久しぶりの投稿です…
お待ちいただいていた皆様大変申し訳ございません…

仕事が多忙であったことと、執筆を試行錯誤を繰り返していたため、遅くなってしまいました…

というわけで久しぶりの番外編。

内容も久しぶりにライ君が星街家の家族だったらのお話。

番外編ということでホロ以外の方も参加させてみてます~。


 

「むぅ…」

 

私、星街すいせいには姉兄が2人いる。

1人は姉である姉街。もう1人は兄である星街ライ。

2人とも妹である私に凄く優しいし、困ったときは助けてくれたり、相談に乗ってくれる自慢の姉兄だ。

 

2人には何も不満は無いけれど…いや、無かったというのが正しいのかもしれない。

最近お兄ちゃんのことで1つ不満ができてしまったのだ。

 

今私はその不満ができた原因のお兄ちゃんの部屋のベッドでベッドに飾っていた銀色の狼のぬいぐるみを抱えて座っている。

部屋はしっかりと整理整頓されており、几帳面なお兄ちゃんの性格を表した部屋だ。

 

ベッドに座っていた私はぬいぐるみを抱えたまま、そのまま後ろに倒れこんだ。

ベッドにはお兄ちゃんの残り香がかすかにして少し幸せな気分になった。

でも、部屋の主であるお兄ちゃんはいない。

倒れこんで見えるのは白い天井だけ。

 

「お兄ちゃん…何でアルバイト始めちゃったんだろう…?」

 

静かな部屋に私の独り言が響いた…

 

 

 

 

 

 

 

1か月ほど前からお兄ちゃんはアルバイトを始めた。

お兄ちゃんは私にはアルバイトを始めたことを教えてくれなかったが、お姉ちゃんが昨日お兄ちゃんのアルバイトのことについて口を滑らせたから問い詰めた。

 

何でお兄ちゃんがアルバイトを始めたのかお姉ちゃんのぬいぐるみを人質にして問いただしてみたが、それだけは言えないと涙ぐみながらお姉ちゃんは口を閉ざした。

 

お姉ちゃんが言うにはお兄ちゃんは駅近くの喫茶店で働いているらしい。

それを聞いた途端その店に突撃をしようと思ったが、流石にお兄ちゃんの邪魔をするのは不味いとお姉ちゃんに止められた。

 

確かに頑張っているお兄ちゃんの邪魔をするのはよくない…

でも、すいちゃんとお兄ちゃんが一緒に過ごす時間が減るのもよくない…

 

というかそもそもお兄ちゃんは何でアルバイトを始めたのだろうか?

お兄ちゃんは別に浪費癖があるわけでもなく、むしろ節約家の方が性に合っていると思う。

お金に困ったなんて話は一度も聞いたことないし、お姉ちゃん曰く、お小遣いはともかくお年玉にもほとんど手を付けていないようだ。

 

(お兄ちゃんがアルバイトをする理由…お金…?社会経験を積むため…?趣味…?)

 

お金はともかく後者の2つはあり得るかも…

お兄ちゃん真面目だし独立するための社会経験としてやっているのも考えられる。

まぁ、お兄ちゃんが私から離れて一人暮らしするのは許さないけど。

 

お兄ちゃんの趣味の中に料理があるから喫茶店で働こうとするのは何となく分かる。

それにお兄ちゃんは大学も今の時点で推薦での合格が決まっているから時間にも余裕があるみたいだし、趣味に費やそうとしているのかもしれない。

 

(有力候補は趣味のためかな…?後は…友達の紹介とか?…ま、まさか!?)

 

私はある考えに思い至り、お兄ちゃんのベッドから飛び起きた。

 

「お兄ちゃん…まさか彼女ができたんじゃ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…というわけなんだけど皆どう思う?」

 

翌日、私は不知建の皆を集めて相談をすることにした。

お兄ちゃんは不知建には所属していないが、メンバーが家に来ることもあって姉街同様皆と仲が良い。

 

「なるほどねぇ…あのライ先輩についに…」

 

ふーたんが感慨深そうに呟いた。

 

「ていうか今までライ先輩にそんな噂が立たなかったのが不思議なんだにぇ。」

 

「そりゃそうだよ。そんなことがあったらすいちゃん何しちゃうかわかんないもん。」

 

「すいちゃん目がマジになってて怖いよ…」

 

「団長もライ先輩の彼女の話聞いたことないけど…すいちゃんその後ライ先輩にバイトの話とか聞かなかったの?」

 

「んー、聞いてみたんだけど姉街と同じようなことしか答えてくれなくてさー。バイト先の場所とかは教えてくれたんだけど、バイトする理由だけ『…内緒だ。』って教えてくれなかったんだよね。」

 

「まぁすいちゃんも兄離れするいい機会なんじゃねぇの?いっつもライ先輩にべったりだと彼女の1人や2人もできやしな…痛い痛い!?すいちゃん痛いにぇ!」

 

変なことを言ったみこちの頬を抓った。

大切な家族の心配をして何がいけないんだ。

 

「はいはい、すいちゃんやめてあげてねー…じゃあライ先輩のバイト先の様子を覗いてみる?あたしも気になって来たし。」

 

ふーたんが良い提案をしてくれた。

確かに直接この目で見た方が、お兄ちゃんが何で秘密にしているか手っ取り早く分かるかもしれない。

 

「ポルカも見てみたーい!」

 

「団長もー。」

 

「みこもー、お腹空いたし喫茶店行ってみたいにぇ。」

 

全員の意見が一致した。

 

「よーし、不知火建設出動ー!」

 

「「「「おーっ!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

お兄ちゃんとお姉ちゃんから教えてもらった喫茶店の名前は「地獄屋」というちょっと変わった名前の和風の喫茶店だ。

駅近くにあるということだけ聞いていたから探すのに時間がかかるかと思ったけど、不知建皆で探していたこともあり、あっさりと見つかった。

 

店の外観は、The 喫茶店、というくらい普通だ。店の前にはちゃんと営業中と書かれた看板が立てかけており、営業中なのは間違いない。

駅近くであるはずなのに騒音が聞こえない位置であるため立地としては最高かもしれない。

 

「よし…皆、行くよ?」

 

私は店のドアノブに手をかけて皆の反応を伺った。

皆は声を出さず私の目を見て力強く頷いてくれた。

 

ドアを開ける前に一呼吸だけおいて、意を決しドアを開いた。

カランコロン、とドアベルが店内に鳴り響き、店内に足を踏み入れると珈琲の良い匂いが漂ってきた。

 

(凄く静かで落ち着く…お兄ちゃんが好きそうなお店…)

 

そんなことを頭で考えていると、店内のカウンター席を掃除をしている男性が目に入った。

白いシャツに黒いズボン、そして黒いエプロンを身に着けているその男性はたった今私が頭で思い浮かべていた人。

 

「いらっしゃいませ。って…すいせい?」

 

そう、星街ライだった。

 

「…お兄ちゃん!」

 

「す、すいせい!?」

 

私はお兄ちゃんを呼びながら抱き着いた。

お兄ちゃんはいきなりのことで驚いていたがしっかりと受け止めてくれた。

自分でも分からないが何故か抱き着きたくなってしまった。

お兄ちゃんの胸からお兄ちゃんの匂いと珈琲の香りが私の鼻腔いっぱいに広まった。

 

「すいせい、どうしてここに?」

 

お兄ちゃんは不思議そうな表情を浮かべていた。

多分、私がここに来るのは予想してなかったんだと思う。

 

「ライ先輩ご無沙汰してます~。」

 

ふーたんがお兄ちゃんに声を掛けた。

 

「フレアも?…というか不知建の皆?」

 

お兄ちゃんは不知建の皆がいることに驚いていた。

 

「なるほど…すいせいが連れて来たんだね?」

 

流石はお兄ちゃん。理解が早くて助かる。

お兄ちゃんは仕方がない、とため息をつきつつ私の頭を撫でてくれた。

 

「すいちゃんからライ先輩がバイトを始めたって聞いて、気になって皆で来ちゃいました!」

 

「それは構わないんだけど…今は仕事中だから「ライ君お客さん来たん?…ってえらい多く来たなぁ。」あっ、店長。」

 

お兄ちゃんの言葉を遮るように店の奥のテーブルから声がした。

声がする方に振り返ると、そこには片肘をテーブルに付けて頬杖をしながら自身の綺麗な小豆色の髪の毛を弄び、こちらを楽しそうにニコニコと笑顔浮かべている女性がいた。

メイド服のような割烹着を着て、耳は犬や狼を連想させるような耳で、瞳は珍しく左が黄色、右が紅色と所謂オッドアイだった。

 

とりあえず私たちが彼女を見た感想は、

 

「「「「「美人だ…」」」」」

 

「あら、お上手やねぇ。」

 

私たちの感想に気を良くしたのか、お兄ちゃんに店長と呼ばれていた彼女はさらにニコニコと笑っていた。

 

「皆ライ君のお知り合いなん?」

 

「はい、学校の後輩と…僕の妹です。」

 

お兄ちゃんは不知建のメンバーと私を店長さんに紹介をしてくれた。

 

「ほーん、ライ君の妹はんかぁ、どれどれ…」

 

店長さんは耳をぴょこぴょこと動かしながら私のことをじーっと見てきた。

 

「あ、あの…?」

 

「あっ、かんにんな?あたしは戌亥とこ。この地獄屋の店長をやらせてもらっとるよ。それにしても…妹はん、ライ君に似て別嬪さんやなぁ。」

 

「みこ達は店長さんもめちゃくちゃ美人だったことに驚いたにぇ…」

 

「さぁさぁライ君、せっかくのお客様なんやからお席に案内してあげて。」

 

「はい店長。」

 

店長さんからの指示にお兄ちゃんは笑顔で答えていた。

 

「もうライ君、いつも通りにとこさんって呼んでくれていいんよ?」

 

「今は仕事中なので…」

 

「相変わらず真面目さんやなぁ。」

 

「じゃあ皆、お冷とメニュー表を持ってくるから、奥のテーブル席に座っててくれるかい?」

 

「「「「はぁい。」」」」「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

お兄ちゃんに席を誘導された私たちは指定の席に移動した。注文を一通り終えると、お兄ちゃんはすぐさままた厨房へ姿を消した。

皆はお兄ちゃんのことを待っている間雑談を始めたが、私は別で考え事を始めてしまった。

 

(お兄ちゃんは至って普通な様子だけど…結局バイトを始めた理由ってなんだろ…?)

 

特にお兄ちゃんに変わった様子はない。いつも通りのお兄ちゃん。

店長さんと仲は良いみたいだけど、別に付き合っている様子とかは見受けられない。

ずっとお兄ちゃんと店長さんの様子を見ていると、それに気づいた店長さんが首を傾げながらこちらに近づいてきた。

 

「ん?どうしたんライ君の妹はん、あたしの顔に何か付いとる?」

 

「あ、いえ…」

 

「すいちゃん、店長さんならあのことを知ってるんじゃない?」

 

隣に座っていたふーたんから提案があった。

確かに、ここでの面接を店長さんがやっているなら知っているかもしれない。

 

「あのこと?」

 

「はい、実は…」

 

私は店長さんにここにやって来た理由を説明した。

店長さんはオッドアイの瞳を輝かせながら、私の隣に座って終始興味深そうに頷きながら聞いてくれた。

 

「なるほどなぁ、ライ君がアルバイトを始めた理由…確かに面接をした時にあたしは聞かせてもらったよ。」

 

「ほんとですか!?何でお兄ちゃんは…」

 

「そやねぇ…あたしが教えてもいいんやけど、ライ君に直接聞いてみたらいいんやない?」

 

「でも、この前聞いた時は教えてくれなくて…」

 

「ふふ、安心してええよ?ライ君と仕事の合間によくお喋りするんやけど、よく家族のこと…つまり妹はんのことを話したりしとるんよ。」

 

「お兄ちゃんが?」

 

何を話してるんだろ…?

自分がいないところでそんな話をされていると思うと少し恥ずかしい…

 

「優しいお姉さん、可愛い妹はんのこと、まぁほとんどライ君の自慢話みたいになっとるけど、家族のことを話しているライ君は本当に楽しそうにしてるんよ…そんなライ君やったら可愛い妹はんのお願いにちゃーんと答えてくれると思うけどな?」

 

ケルベロスは嘘をつかへん、と店長さんは話の最後にウィンクをした。

ってか店長さんケルベロスだったんだ…てっきり犬か狼かと…

 

「やっぱ兄妹だけあって話すことも似てくるんじゃねぇ。」

 

「すいちゃんもライ先輩だけじゃなくて何だかんだ姉街のこともよく話すもんねー。」

 

「みこも姉街と話してる時、すいちゃんとライ先輩の話をよくしてるの思い出したにぇ。」

 

…続々とノエル達不知建メンバーからも暴露が行われた。

 

(まじで恥ずかしい…!)

 

家族で同じことをしているのを知られて、皆がニヤニヤした顔でこっちを覗いてくるのを見て私の顔が赤くなってくるのを感じた。

 

「でも、兄妹でそこまで仲が良いのも羨ましいよね。多分学園内でもすいちゃんの兄妹ってトップレベルで仲が良いと思うし。」

 

ふーたんが先程の店長さんみたいに肘をテーブルに付けて頬杖をしながら言った。

 

「確かに…兄弟がいてもいっつも喧嘩するって話もよく聞くし…すいちゃん達って喧嘩はしないの?」

 

「喧嘩か…姉街とたまにするけど、お兄ちゃんとはないかも…注意とかされる時はあるけど怒られたことはないし…」

 

「ライ先輩が怒ってる姿とか想像できないにぇ。…でも一番怒らせてはいけない人だと思うにぇ…」

 

自分の今までの人生の記憶を辿ったがお兄ちゃんと喧嘩した記憶は全くない。多分お兄ちゃんとお姉ちゃんがしてるのも見かけたこともない。

私が我儘を言ったとしても笑って許してくれるし、お姉ちゃんが買い出しに行く時にお兄ちゃんが家にいる場合はお姉ちゃんの荷物を持つために一緒に出掛けている。

お姉ちゃんと喧嘩した時だっていつも仲裁に入ってくれて、すぐ仲直りをしやすい場を作ってくれる。

何事においても私たちのことを優先してくれる、多分それは私達兄妹…いや家族を、

 

「それだけ大事に想ってくれてるってことやね…」

 

「…うん。」

 

改めてお兄ちゃんの愛情を実感して先程まで感じていた恥ずかしさは消えて、胸が暖かくなった。

 

「店長さん…いや、とこちゃん、やっぱりお兄ちゃんが自分から話してくれるのを待ってみるね。」

 

「そっかそっか、まぁライ君は隠しっぱなし、みたいなことはしないやろうけど…あたしからもライ君に促してみるな?」

 

「うん!」

 

そんなこんなで話をしていると、お兄ちゃんが注文した品を運んできてくれた。

 

「皆お待たせ、注文のクリームソーダと珈琲、あとクッキーとプリンにたい焼きだよ。」

 

「たい焼き!みこの!!」

 

「うわぁ、どれも美味しそう…」

 

「ノエちゃん後でちょっとプリンちょーだい?」

 

「いいよー、ってこれ全部ライ先輩が作ったんですか?」

 

「ああ、口に合えばいいが…店長?何だか楽しそうですね?」

 

「そうやろー?早速すいちゃんと仲良くなれたんよ!」

 

とこちゃんはそう言って私に優しく抱き着いて頭を撫でてくれた。

 

「へへー、いいでしょお兄ちゃん?」

 

「もうそこまで仲良くなったのか…何かあったのかい?」

 

お兄ちゃんは私たちが仲良くなったことに不思議に思ったのか首を傾げながら聞いてきた。

そんなお兄ちゃんの様子を見て私ととこちゃんは顔を見合わせた。言いたいことをとこちゃんは察してくれたようで、そのままお兄ちゃんに応えてあげた。

 

「「…内緒!」」

 

「?」

 

またお兄ちゃんは更に首を傾げていた。

 

 

 

 

 

 

皆とお茶会を楽しんだ後、私以外の不知建のメンバーはそれぞれ帰宅した。

皆が帰る時間と店の営業が終わる時間が近かったので、私はそのままお兄ちゃんを待って一緒に帰ることにした。

間もなくしてお兄ちゃんの帰宅が準備ができたので、私たちも店を後にした。

帰る前にとこちゃんは、いつでも遊びにおいで、と店の前で手をヒラヒラと振りながら私たちを送ってくれた。

とこちゃんと話していると結構音楽の趣味も合ったので、個人的にまた来ることを約束した。

 

そしてお兄ちゃんと道を並んで家まで歩きながら帰宅をした。

 

「それにしてもお兄ちゃんのバイト先いいところだね?私も皆もすっかり気に入っちゃったよ。」

 

「それはよかった。でも皆で来るなら事前に言ってほしかった気がするけどね。」

 

「あはは、急に決まっちゃったから…でもごめんね…?」

 

「ううん、とこさんもすいせいのこと気に入っていたみたいだし、また皆でおいで。」

 

「うん!不知建のメンバーも勿論だけど、あくたんとかトワも誘ってみるね!」

 

そう言うとお兄ちゃんは笑ってくれた。

久しぶりにお兄ちゃんと一緒に帰ることができるのが嬉しくもあり、私はお兄ちゃんの左腕に抱き着いてみた。

 

「おっと、すいせい?」

 

「えへへ、家着くまでこうして帰ろうよ!」

 

「ちょっと恥ずかしいな…」

 

お兄ちゃんは恥ずかしそうな顔をしていたけれど、決して嫌がったりはしなかった。

そのまましばらく家に向かって歩いていると、お兄ちゃんから話しかけられた。

 

「すいせい。」

 

「うん?」

 

「僕がバイトを始めた理由…気になるかい?」

 

「!!…どうして?」

 

「さっきとこさんと話をしているのが少し聞こえてね…店を出る前にもとこさんから、すいせいに話してあげたらって言われたんだ。」

 

とこちゃん早速言ってくれたんだ…

仕事が早すぎるケルベロスに関心をしているとお兄ちゃんが話の続きを始めた。

 

「すいせいは僕がもう大学の合格が決まっているのは知っているだろ?それで大学での生活を考えると1人暮らしをした方がいいかな、って思って今から少しずつお金を貯めているんだ。」

 

「ええっ!?お、お兄ちゃん…1人暮らししちゃうの…?」

 

「今の予定ではね。来年はすいせいも受験があるし、集中できる環境を作る為にもちょうどいいかなって思って「やだ!!」…すいせい?」

 

思わずお兄ちゃんの言葉を遮ってしまった。

お兄ちゃんが私から離れてしまう?毎日一緒にいられなくなる?…そんなの嫌だ…

 

「私いい子にしてるから!勉強も頑張るし…お兄ちゃん達の家の手伝いももっとするし…嫌いな野菜も頑張って食べるし…それから…だから…傍にいてよ…!」

 

抱きしめているお兄ちゃんの腕を更に強く抱きしめた。むしろ縋りついていると言った方が正しいかもしれない。

まるで駄々っ子のようになってしまったけど…それでもお兄ちゃんがいなくなるのは嫌だ…

 

しばらく顔を俯かせているとお兄ちゃんが右手で頭を撫でてきた。

 

「やれやれ…母さんの言ったとおりになったね…」

 

「お母さん…?」

 

何で今お母さんのことが出てきたの…?

 

「実は1人暮らしを大学生になったら始めてみるつもりだって母さんと父さんに電話で話していたんだ。父さんはすんなり了承をしてくれたんだけど、母さんは姉さんとすいせいが絶対反発するから止めておいた方がいい、って言ってたんだ。」

 

「お母さん…ちなみにお姉ちゃんは何て言ってたの?」

 

「…家の床で大の字になりながら泣きながら反対されたよ…まぁそれでもすいせいが了承したら認めるって言ってた。」

 

「うわぁ…お姉ちゃん子供じゃん…」

 

「姉さんには僕が話したとは言わないでくれ…姉さんの名誉のためにも…」

 

こう言ったけど私も家だったら子供みたいに駄々をこねたかもしれない。あと家に帰ったらお父さんに電話で説教しておこう。

 

「まぁバイトを始めた理由は1人暮らしのこともそうだけど、とこさんの喫茶店は前からお客として通っていたんだ。そこでバイトの募集をしていたからちょうどいい機会と思って働き始めたんだ。」

 

「そうだったんだ。いつ頃から通ってたの?」

 

「確か僕が高校受験の頃からだから…3年くらいかな?とこさんともそれくらいの付き合いだね。」

 

「そんなに!?めちゃくちゃ常連じゃん!」

 

あれ、もしかしてお兄ちゃんとこちゃんのこと…

 

「お兄ちゃん…もしかしてとこちゃんのこと好き?」

 

「ん?ああ、好きだよ?」

 

「ええっ!?」

 

やっぱり…確かにお兄ちゃんの女の子の友達ってそらちゃんやAZKiちゃんみたいに大人っぽい人が多いから、年上が好きなのかな…

 

「とこさんが淹れる珈琲は美味しいし、仕事も熱心で尊敬できるところも多いから人として凄い好きだな。」

 

「…えっ?」

 

「ん?」

 

「…私はお兄ちゃんがいつも通りで安心したよ…」

 

「???」

 

お兄ちゃんは不思議そうに首を傾げていた。

多分しばらくお兄ちゃんに彼女はできないだろうことを確信して何となく安心した。

そして、お兄ちゃんの腕を手放し、正面からお兄ちゃんに抱き着いた。

 

「…それでお兄ちゃん1人暮らししないんだよね?」

 

「…すいせいが僕の1人暮らしを望まないなら、しばらくはね。」

 

「約束だよ…?」

 

「もちろん。」

 

お兄ちゃんは私をあやすように背中を撫でてくれた。お兄ちゃんの胸、凄く安心する…

 

「さて、姉さんも家で待ってるだろうから早く帰ろうか?」

 

「うん!よーし、お兄ちゃん!家まで競争しよ!よーい…ドン!」

 

「あっ!ずるいぞすいせい!」

 

私とお兄ちゃんは同時に駆け出した。

 

 

 

いつかはお兄ちゃんは家を出ちゃうかもしれない…

でも今の間だけはもう少しだけ一緒に…

 

 

 

 



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