キヴォトスの家はすぐ壊れる (金髪先生)
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1話
雨が降っている。いつもは透き通るような青が見える空は、今はどんよりとした雲に覆われている。
今日は久しぶりの休日だった。特に行くところもないから外にぶらっと出かけようと思ってたのだが。
「……めんどくさいから今日はいいか」
気持ちを切り替えて家でゴロゴロモードになった俺は、早速布団を敷いて横になろうと――
玄関ドアがノックされる。
「宅配なんて頼んでたっけなぁ」
インターホン鳴らせば良いのに。壊れてたっけ? なんてどうでもいいことを考えながら玄関に向かう。そして俺はゴム弾の入ったハンドピストルを手にとる。キヴォトスは治安がよろしくないので用心するに越したことはない。
俺は慎重に覗き窓を見ると……。
「シロコ…………??」
ずぶ濡れになった砂狼シロコがそこにいた。
◇◇◇
とりあえずシロコを家にあげて暖房を入れた。
「家が爆発したから泊めてほしいと……」
「……ん。急にごめん」
どうしたら家が爆発するんだろうか。
「近くで銃撃戦があって手榴弾が家に飛んできた」
どうやら俺は顔に出やすいらしい。シロコが説明してくれた。
「とりあえず怪我はない? あ、あとタオル。ごめんね。着るもの探したんだけど、スーツくらいしか持ってなくて」
「ん。ありがとう先生。怪我は特にしてないよ」
「怪我してないのなら良かった。お風呂は湧いてないけどシャワーならすぐに浴びれるよ。洗濯はこっちでしちゃうから。その間着替えられるもの探してくるね」
「シャワーで充分だよ。……本当に何から何までありがとう」
「困っている生徒いたら助ける。先生の仕事だから気にしないで」
俺が言うとシロコは微笑みながら浴室に向かった。
◇◇◇
落ち着け俺。素で先生ムーヴしてしまったが大丈夫かこれ? びしょ濡れJKと屋根の下で2人きりだぞ?? しかもナチュラルに風呂案内して洗濯もしておくよとかアレか? っていうか今日泊めるって言っちゃったけどヤバくないか?? 抑えきれるか俺?? めっちゃいい匂いしたんだが?? 恋人いない歴=年齢の俺が女の子と。しかも教え子と!! かぁ〜〜〜!! 事案ですよコレ!! いきなり刺激が強すぎません?? 耐えてくれよ俺の理性……!!
とりあえず温かい飲み物を用意するためにお湯沸かす。風邪引いたら大変だしな……。ついでに素数も数える。落ち着け落ち着け……。
まずやることを整理しよう。
・洗濯
・シャツの用意
・飯の用意
・不健全な物の掃除及び隠蔽
・寝床の用意
・素数
おk。把握した。
飯は今日は出前を取るか。ピザとか寿司とか。雨降っている中で出前を頼むのは気が引ける致し方ない。
不健全な物の隠蔽もシロコが家に上がる前にある程度マッハで片付けた。再度確認したが……特に無いな!ヨシ!
そしてシャツだが……。
俺がクローゼットを開けると。
デカデカと神秘と書かれた青いシャツ。ご立派な水晶埴輪(文字通り)が3本プリントされたシャツ。ヒフミから貰ったペロロ様シャツ、etc……。
「はぁ……こんなことならばマトモなシャツを1枚2枚買ってくれば良かった……」
何を隠そう俺はネタシャツコレクターなのである。
旅行に行ってお土産屋を覗くと真っ先に、ご当地Tシャツコーナーを覗くくらい好きだ。こないだレッドウィンター連邦学園を仕事で訪れたが、その時にぶらりとよった土産屋購入した白ひげシャツはお気に入りだ。かわいい。
しかし今はそんな趣味の俺が嫌いだ。だから彼女が出来ないんだ。きっとそうだ……。
とりあえず一番無難な神秘シャツにした。いや待て。下はどうする?
シャツだけ纏ったシロコを一瞬想像する……。
「フンッ!!」
己に喝を入れ煩悩を払う。そうだ……どっかに下だけジャージがあった気がする。よしよしその調子だ。
俺は着替えを用意すると意を決して脱衣所に向かうことにそた……。
◇◇◇
「……………………はぁ」
私はシャワーを浴びながら考えていた。
家が壊れたと言ったが嘘だ。近くで銃撃戦は確かにあったが煩かったからすぐに黙らせた。
休みの日なのに雨が降っていて退屈だった私は、ふと先生の家に遊びに行くことを思いついた。今思えばなぜそんなことを思いついたのかは分からない。アビドスの職員室で先生の住所がチラッと見たのを覚えていた。私は悪くない。先生のセキュリティが甘いのがいけない。
そしていざ先生の家の前に来たのは良かったけど。チャイムを鳴らそうとした時、頭が真っ白になった。何で私はここに来たんだっけ? 先生は迷惑じゃないかな……。そう思うと胸の奥がズキズキと疼いて苦しかった。顔が熱くなり頭がぼーっとした。
ドアをノックしてそれで出てこなかったら帰ろう。そう思い私は弱々しくドアを叩いたのに……
「……シロコ??」
彼は気づいた。気づいてくれた。気づいてしまった。
ドアが開いて先生と目があった時、安心感に包まれて。
「家が……その爆発して……」
自分でも嘘を吐いた事に驚いた。なんで。どうして?私は遊びに来ただけなのに。素直に遊びに来たと言えば良かったのに。
先生は少し待っててと言った後。ドアの奥に戻っていった。
(なんで嘘なんか……)
やっぱり私、どこかおかしい。そう思って帰ろう。踵を返そうとした時、思ったよりも早くドアが開いた。
「……とりあえず上がって? 風邪、引いちゃうからね」
「うん……」
結局私は流されるように先生の家にお邪魔することになってしまった。
(……これからどうしようかな)
とっさに吐いた嘘の事。正直に言ったほうがいいのかもしれない。いや言ったほうがお互いのためだ。でも、もう少しこのままでいたい。なんでか分からないけど。
「…………ん」
このモヤモヤもシャワーで流れてくれないかな。
続くかどうか分からんけど、頑張って続き書きます……
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第2話
やっぱり向かう決心がつかなかった。
「俺の家で教え子がシャワーを浴びていらっしゃるのですがどうすればいいですかね。アロナさんや」
「行き着くところまでヤっちゃいましょう」
早速、俺は
あまりの事態にすっかり忘れていたが、
女性経験が皆無な俺は、藁にもすがる思いでアロナに相談したのだが、どうやら間違いだったみたいだ。
「ちなみにお相手は誰なんですか?」
「……………………シ、シロコ」
「(ド下手くそな口笛の音)」
「じゃあなアロナ。短い間だったが世話になったな」
「真面目に考えますからそれだけは許してください。おねがいします」
俺が工具箱からトンカチを取り出すと、画面の向こうのアロナは美しい土下座を披露した。それは見事な美しい黄金比だった。
「コホン。では真面目に考えましょう。まず、どうしてこの状況になったんですか?」
「実はだな……」
カクカクシカジカと説明すると随分と生暖かい目を向けられた。なんだその眼差しは。やめろ。
「別になんでもないですよ〜? 別に〜?」
「もう何でもいいから助けてくれ。正直理性が持たん。俺が先生から犯罪者にジョブチェンジする前に、なんとかこの状況を乗り越えたい」
「はぁ……仕方ありませんね。先生が捕まるのは勘弁ですから」
「助かる。で、何か良い案はあるか?」
◇◇◇
我が家の浴室のドアは磨りガラスだ。そして脱衣所に入るとすぐ目の前に浴室のドアがある。つまり入った瞬間シロコのシルエットが目に飛び込んでくるのだ。多分そうなってしまえば、自分を保つことは難しい。俺は聖人君子ではないのだ。我ながらド最低な事を言っているな。
そこで俺は目隠しをして、アロナに脱衣所までのルートをナビゲートしてもらう作戦を立てた。脱衣所に突入。着替えを置いて
洗濯機を回す。そして脱衣所を出る。完璧だ。素晴らしい。
「先生! こちら
「よし。準備はいいな?」
俺は気合をいれて
「行くぞ!」
教師生活を賭けた作戦が今始まる――。
◇◇◇
(そろそろ上がろうかな……)
長らくシャワーを浴びていたせいかもしれない。少しのぼせてきた……。
先生に用意してもらったタオルで体を拭き浴室から出ようとすると、ドアの奥から声が聞こえてきた。
「シロコ、まだ浴室にいるか? 着替えを持ってきたんだけど、開けても……いいかい?」
「うん。まだシャワーを浴びてるよ。着替えありがとう」
「……おう。入るぞ」
ガチャリとドアが音をたてて開く。その瞬間、私は浴室のドアが磨りガラスなのに気がついた。
「あ、その、まっ」
「大丈夫だ。俺は何も見ていないし、見るつもりも無い」
先生はお辞儀の姿勢をしながら入ってきた。
「あ、その……磨りガラス越しだとはいえ、その、なんだ。色々マズいだろ??」
「ん…………そうだね。気遣わせてごめん」
「ごめんね俺もそこまで気が回ってなかった……。と、とりあえず洗濯機の上に着替え置いておくから! あと洗濯機も回しておくね! じゃあ……俺は出るから」
そう言うと、先生は同じ姿勢で脱衣所から出ていった。
「…気まずいな」
私のわがままのような行動に付き合わせてしまった事に対する罪悪感と、先生の少し慌てたような様子に何故か嬉しさが込み上げてくる。
「…………何を期待してるんだろう、私」
やっぱりのぼせてきてるみたい。早く上がろう。
◇◇◇
「よくやったアロナ。オペレーション成功だ!」
リビングに戻ってきた俺達は作戦成功を喜び合っていた。
「どうですか! 私のサポートは。実にインテリジェンスで素晴らしかったですよね?」
フフン。と笑うアロナ。こやつめハハハ。
「やっぱりラッキースケベを盛り込もうかと思ってやめた、アロナの理性も褒めてください!」
「ハハハ、もしやったらお前と一緒に自爆するからな」
「はははアロナジョークですよ! 先生!」
面白いジョークだハハハ。
さて着替えの用意も持っていったし、洗濯機も回した。後はシロコが戻ってきてから出前を頼んで、寝床を用意すればいいか。
寝床もシロコには寝室で寝てもらって、俺はリビングで雑魚寝すればいいや。この勝負、俺の勝ちだ!
◇◇◇
脱衣所に上がった私は、先生が用意してくれた着替えを手に取った。
(なんで神秘なんだろう? よく分からない)
先生が好むデザインはよく分からなかったが、こうしてわざわざ着替えを持ってきてくれた。先生には感謝しかない。先生のシャツは大きめだ。私が着る分には(少しブカブカだけど)問題はない。
(早く着替えよう……あまり遅いと心配だろうし……)
そして下着を履こうとして全身の血の気が引いた。
「――――ない?」
すぐに思い当たった。自分の家のつもりで、つい洗濯機に入れてしまった……。
洗濯機の中をを覗くと、ガタゴトという音をたてながら、絶賛濯ぎの真っ最中だった。脱水するまで多分時間がかかる。
「……………………」
◇◇◇
これから先の目処が立ったことで精神的余裕が出来た俺は、優雅に珈琲楽しんでいた。うーん、実にテイスティ!
「先生。は、入るよ……」
「ごめんねシロコ。シャツ、そんな柄しかなくて。今、お急ぎモードで洗濯機回してるから、もう少し我慢してくれ」
「あ、そ、その。ううん。気に入ってる、から気にしないで」
「? それは良かった……?」
神秘Tシャツめっちゃ似合うじゃん。いや神秘Tシャツが凄いわけではなく、シロコが凄いのだ。
下のクソダサジャージもサイクリングが趣味のシロコにはやたらスポーティで格好良く見える。100点!!
しかし、少し顔が赤い。やっぱりちょっと恥ずかしいよな……。そりゃそうだ。男が着た服だし、あまり気持ちのいい物ではないだろう。
「そうだ、シロコ。夕飯は何がいい?」
話題を変えるべく、俺は夕飯についてシロコに尋ねる。がどうにもシロコは上の空だ。
「…………っ」
「シロコ?」
「あ、えっと……何の話、だっけ?」
「夕飯の話。出前頼もうかなって。少しのぼせてる?」
「あ、ううん! そういうのじゃ……ない。夕飯は、その、先生が食べたい物でいいかな」
なんか様子おかしくないか? やっぱり風呂場でのアレが気まずいか……。
「じゃあラーメンにしようか! 俺もちょうど温かいものが食べたいなぁっていう気分だから」
「ん……分かった」
そうと決まればネットワークから出前を注文する。
「あー、そういえばシロコは蕎麦食べれる? 苦手だったり?」
「苦手……? 苦手な食べ物は基本ないよ。先生がご馳走してくれるなら、何でも」
「そ、そうか」
…………。
「その、なんだ……さっきは本当に申し訳無い」
「……もしかして洗濯機の事?」
「洗濯機?」
なんのことだろうか? もう既に衣服は入っていたし、俺が直接触ったわけじゃないのでセーフ。今の衣服も洗濯機も進歩して、適当に衣服を入れるだけで勝手にコースを選んで選択してくれる。衣服も技術の進歩で色移りとかその他諸々気にすることはなくなった。一人暮らしの俺にとってこれほど革新的な技術はない。開発者には頭が上がらないな。
「! …………言い間違えた。着替え持ってきた時の事なら、気にしてないよ。先生も気遣ってくれてありがとう」
あ、そっちね。
「あ、いやいやいやいや全然? ほら。俺、先生だしぃ?ね?」
『何が先生だしぃ?ですか』
「ゴホッ! ゴホンウォッホン!」
「だ、大丈夫……?」
「気にするな、アr、すこし咽ただけだ」
「そ、そう」
(アロナの奴め……)
「ちょっと水取ってくるね。シロコも何か飲む?」
「あ、じゃあ、スポーツドリンクってある?」
「いつぞや差し入れしたときと同じのあるよ。少し待ってて」
「あ、ありがとう先生」
俺は立ち上がると水を汲みにキッチンに向かう。
そして
「アロナ」
「……雨、降るのかな」
コイツ……。
「……にしてもシロコさん何か様子が変じゃありませんでしたか?」
「変? 少しのぼせただけじゃない? いや、熱中症? まずいな。早くスポーツドリンク持っていかないと」
「(熱中症ではなければいいんですけど……)」
◇◇◇
「ふぅ……」
なんとかバレずにすんだ。
危うく、私から洗濯機の中の事を自白しそうになったときは焦った。
(やっぱりソワソワする……)
だいぶ慣れたといっても、やはり異常事態なのは変わりない。
(こんなにもくすぐったいなんて思わなかった……)
先生にバレないように、何とかして洗濯機の中から【目標】を回収しなきゃ。
「大丈夫。銀行を襲うより簡単」
私の作戦が人知れず始まる。
正体を現した変態ティーチャー
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第3話
「おまたせシロコ。スポーツドリンク持ってきたよ」
「ん。ありがとう」
私は先生からペットボトルを受け取る。私がいつも愛飲しているメーカーだ。
「覚えていてくれたの?」
そう私が尋ねると、先生は照れくさそうに頬を掻いた。
「あぁ、それね。シロコが美味しそうに飲んでいるのを見て、買ったんだんだけど、結構ハマっちゃって。低カロリーで後味もスッキリしてるからね」
「ん……。先生が気に入ってくれたのなら良かった」
「そうだな。シロコとおそろいだな」
そう微笑みながら先生もペットボトルの栓を開ける。
「そうだね」
おそろい……。先生とおそろいか……。
私の好きなものを先生も好きになってくれたということ。
(なんだか、とても嬉しいな……)
そう意識すると、心が暖かくなって愛おしい。
「あのさ、先生」
もっと私のことを知ってもらいたいな……。
「ん? どうしたの?」
先生の瞳が真っ直ぐ私を見つめる。
ちゃんと思いを伝えなきゃ。
「もし。もしも、だよ? 次の休日の予定が空いているのなら」
「うん。空いているのなら?」
「一緒にサイクリングに、出かけてみない?」
「さ、サイクリングかぁ……」
「……駄目?」
「いやいや、ほら、俺、体力がないからさ! 足手まといになるんじゃないかな……? それだとほら。シロコが楽しくないんじゃな」
「そんなことない、よ」
そんなことはない。私は。
「わ、私は、先生と一緒なだけで、その、嬉しい。一人で遠くまで行くのも楽しいけど、先生と一緒に行けたら、きっと……もっと楽しいと思うから」
「シロコ……」
「先生のペースでいいよ。先生が行きたいところに一緒に行こう。…………駄目かな?」
「…………」
言ってしまった。私の我儘を。
心臓が早鐘を打つ。
「ね、シロコ」
先生がゆっくりと口を開く。丁寧に。間違えないように。
「……俺はね、実はちょっと心配してたんだ」
「心配?」
「そう。シロコがどこか遠くに行っちゃうんじゃないか。ってね」
私が遠くに……?
「初めてアビドスに来て、遭難して、シロコに助けてもらって。そういえば文字通りおんぶにだっこ状態だったな…………。いい歳漕いて本当に情けない限りだよ」
そういえばそんなことも……あった。
先生をおんぶしたし、……エナジードリンクも。
(思えばあの時からかもしれない)
あの場所で初めて出会った時。不思議と落ち着いたんだ。
この人なら、私達の学校をなんとかしてくれるって。
「んんッ。……それで対策委員会の皆と出会って、ヘルメット団を追い払って、なんか色々、あったよね」
「うん、色々……あったね」
しばらくは勘弁だけどね、と先生は苦笑を浮かべ、スポーツドリンクを一口呷る。
「シロコはいつも皆のために最善を尽くしてくれたよね。それが俺には眩しく見えた。だけど、どこか焦っていたんじゃないか?」
「……それはアビドスが無くなっちゃうって思って」
「勿論、それもある。だけど――――」
◇◇◇
言葉に詰まる。偉そうに教師面して、肝心な所でキメきれないだよなぁ俺。ダッセ。
唇がワナワナと震える。
「あー、なんだろう。うまく言葉が出てこないな。……やっぱり、忘れてくれ」
誤魔化す言葉が漏れる。
これだけ語っておきながら今更怖気ついた。
デリケートな話題だ。あくまで推測だ。俺の勝手な思い上がりだ。俺は心理カウンセラーでもなんでもない。怖くなる。ゲームならやり直しが効くのに。現実はそうはいかない。軽々しく踏み込むべきじゃない。
シロコの真っ直ぐな瞳を直視することが出来ずに俺は――。
「うん、聞いてるから。ゆっくりで、いいよ」
……………………。
「本当に、情けない……限りだな」
すっかり温くなったスポーツドリンクを一気に流し込む。
甘酸っぱい液体が喉に支えていたモノごと奥に消えていったのを感じながら、俺は慎重に言葉を紡いだ。
「……。実は寂しかったんじゃないかな」
シロコの目が僅かに見開く。
「あくまで推測だし、俺の気持ち悪い勝手な想像だけど」
「……うん」
コクリと首を縦に振ったのを見て、俺は続ける。
「思い出を作るのを怖がってるんじゃないかなって。心のどこかでアビドスが無くなっちゃうんじゃないかって。いつか無くなるのなら思い出なんて要らない。みたいに思えたんだ。」
シロコは俯いていて表情は読めない。
「でもそうじゃなかった」
シロコの顔がゆっくりと上がる。
「カイザーとの事件が一段落ついて、少しだけ前に進んで、ほんの少し余裕ができた。まだまだ借金は全部返せてはいないけど少なくとも、今すぐにアビドスが廃校になることも無くなって。それからシロコが皆と接する事が多くなった気がするんだ。皆でサイクリングに行こうって誘ったり、……今日もこうして自分を頼りにきてくれた」
「先……生…」
「シロコが、ようやく安心して学校に通えるようになって、俺は本当に嬉しいんだ」
「……うん。私もっ……! アビドスの、皆と一緒に過ごす時間が、好き……。ずっと続けば良いのにって毎日願ってた」
シロコが、いや、対策委員会のメンバーは抱えていた責任と願いは、年端も行かない少女が背負うようなものではないはずだ。
「……知っているかい、シロコ。皆が笑って一日が過ぎ去っていく。そんな何気ない日常って、実は小さな奇跡で出来てるんだ」
あの時、手紙を受け取らなかったら。あの時シロコが俺を助けてくれなかったら。
もしかしたら俺が居なくても、何とかなったのかもしれない。
でも間違いなく言えるのは。彼女達の努力と、そして小さな奇跡の積み重ねで
むせび泣く彼女の頭を、俺は遠慮がちに撫でた。
「小さな奇跡が起こったのは、諦めなかったおかげだ。……よく頑張ったな、シロコ」
「うぅ……ぐすッ……せんせっ……先生……!」
嗚咽交じりの言葉が俺の胸に染み込んでくる。
涙を流す彼女を抱きしめたい衝動に駆られたが、ぐっと堪える。……今はただ見守ってあげよう。
適当妄想怪文書シリアス回。
人生初のシリアスであり、シリアスを書く作家さんの苦しみが痛いほど分かりました。
語彙力がないのでアホみたいに「……」を擦り続けて大変読みにくい上に、原作エアプの独自解釈とナルシスト魂を爆発させた回になりました。でも何気ない日常のくだりは入れたかったんや……。許して……。
次回はちゃんといつもの変態ティーチャーに戻るはずです。分かりません。その時の気分です。脳内プロットもう役に立ちません。やばいよやばいよ。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
頑張って、何とか続きを絞り出します!多分!
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第4話
シロコの第一印象が不思議ちゃんだったので、ストーリー読んでいくうちにちゃんと皆と仲良しなのが分かってホッとしました。
めっちゃいい子じゃないか。これからも皆で銀行襲おうな。
どのくらいの時が過ぎたのだろう。
私が落ち着くまで、先生はじっと待っていてくれた。
「……さっきの話に戻るんだけど」
しばらくの静寂の後、先生は少し恥ずかしそうにはにかんだ。
「その……シロコが遠くに行くのは嫌だけど、でも……それでも俺の知らない場所で新しい友達を作って、いろんな体験をして、たくさんの思い出を作ってくれたらいいなって思うんだ。だから……その、なんだ。……頑張れ」
「……うん」
――そっか。私は先生に、こんなにも想われていたのか。
「ごめんね。心配かけて」
「いや、誤ることじゃないよ。むしろ俺のほうこそ勝手なことを言って申し訳なかった」
「ううん、すごく嬉しかった」
先生は本当に凄い人だ。
私の不安を察して勇気づけてくれる。その上で一緒に悩んでくれて、励ましてくれる。。
そしてこうして背中をそっと押してくれる。
――ああ、そっか。私は、ずっと……。
「先生は、やっぱり私の自慢の先生だよ」
「……はっきり言われると照れるな」
そう言いながら先生は頬を掻く。
「これからもよろしくね、シロコ」
「うん、よろしく」
お互いに笑いあうと、それから先生は立ち上がって伸びをした。
◇◇◇
俺が立ち上がると、ちょうど洗濯が終わったこと知らせるアラーム音が部屋の外から聞こえてきた。
「お、洗濯が終わったみたいだな……。ちょっと取りに行ってく」
「先生、私が取りに行くから。先生は座ってて」
いつの間にか立ち上がってたシロコが俺の肩を掴んでいた。
「シ、シロコさん??」
有無を言わさぬ表情でじっと見つめてくるシロコ。
「それはそれ、これはこれ」
「お、おぉ……。そうか。脱衣所に洗濯機があるから……」
「ん、分かった」
シロコはスタスタと脱衣所に向かっていった。
「?」
俺、何かしたか……??
◇◇◇
ふぅ、危なかった……。
すっかり忘れてたけど、先生に洗濯機の中身を見られる訳にはいかない。
先生ちょっと訝しんでたけど、何とか自分の手で回収できそうでよかった。
脱衣所に無事に到着する。周囲を警戒……。異常なし。
洗濯機を蓋を開くと、ふわりと柔軟剤の香りが鼻孔をくすぐった。
(私の制服も下着も先生と同じ匂い……)
そういえば意識してなかったけど、このシャツもジャージも先生のものだ。
そう思うと、私は無意識にシャツに顔を埋めた。
胸いっぱいに空気を吸い込むと、柔軟剤とほんの少しの私の汗の匂い。
(先生……。好き)
先生の家に来てずっと私はどこか変だったけど。この疼きの正体にようやく私は気づいた。
これは間違いなく恋愛感情。私は先生が好き。
だけど、きっと実らない恋だと思う。他の生徒も先生の事は皆好きだから。
(ちょっとだけ、嫉妬するな……)
叶うのなら、先生の隣で一緒にいるのは私だけでいい。
だけど、先生が他の子と仲良く喋っているのを見て。先生が心から楽しそうな顔を見たら――。
(それでいいって思っちゃうんだよね……)
先生の事を考える度に、どんどん気持ちが大きくなっていく。
今はまだ大丈夫。先生の近くに居られるだけで満足できる。
だからせめて、先生の前ではもっと素直でいようと思う。それが、今の私の精一杯の愛情表現。
「……そろそろ戻らなきゃ」
先生が心配する前に私は手早く着替えることにした。
◇◇◇
シロコが戻ってくるまでの間、俺はのんびりとテーブルの上で待っていた。
そういえば、そろそろ出前が届く頃かなぁなんて思ってたら。
(ピンポ~ン)
「紫関ラーメンの者なのですが。出前をお届けに参りました~」
「お、来た来た! 」
いろいろあったからか腹ペコな俺は、待ちきれずに玄関のドアを開けた。
「こんばんは! 出前をお届けに……って先生っ!?」
「せ、セリカ!?」
俺の家の前に、アビドス対策委員会の一人である黒見セリカが立っていた。
シリアスの後のギャグ回ってどうしたらいいんですかね(白目)
もうノリで書いているので、整合性取れてないかもしれない。
ちょくちょく手直ししたりするので許してくださいm(_ _)m
セリカ登場です。どうなるんやろ。俺にもわからん。
明日の俺がきっと考えてくれる。うん。
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