とある魔術のストレンジ (競馬好き)
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プロローグ

アベンジャーズが、科学技術や超人血清の力によって、物理的な脅威から地球を守っているのなら、魔術師は、全く別の脅威から地球を守っている。

 

 

マルチバース。ダークディメンション。ドルマムゥ。その他にも、様々なマルチバースからの脅威。

 

 

その魔術師の中でも、最強の魔術師と呼ばれるものが居る。それは、至高の魔術師:ソーサラー・スプリームと、魔術師の間では呼ばれている。至高の魔術師は、アガモットの目というレリックの力で、時を操ることができる。アガモットの目にはインフィニティストーンの一つ、タイムストーンが収まっており、熟練の魔術師でも理解することができない難解な呪文を理解することで、タイムストーンを操れるのである。

 

 

そして、今代の至高の魔術師、ドクター・ストレンジ。この存在は、アース616やアース199999で、アガモットの目や魔術によって幾度と世界を救ってきたのだ。

 

 

 

アガモットの目には本来、タイムストーンのみが収まっているものである。しかし、この世界のアガモットの目は違った。

 

インフィニティストーンは、全部で6つ存在する。スペース、リアリティ、パワー、ソウル、マインド、タイム。それぞれ空間、現実、力、魂、精神、時間を司っており、6つ全て揃えガントレットに納め、指を鳴らすだけで宇宙に居る全生命の半分を無作為に消滅させることが可能なのだ。

 

そのストーンすべてが、この世界のアガモットの目には収まっているのである。それはなぜか?

 

簡単に言えば、この世界には、位相、界、と呼ばれる異世界が無数に存在しており、それが衝突しあうことで、様々な魔術的脅威を呼び寄せているからである。この世界を守るために、最初の至高の魔術師、アガモットはすべてのインフィニティストーンを手に入れ、アガモットの目に納めたのだ。

 

 

「っていう設定にしといたから、持ってって大丈夫だよ」

 

「本当に大丈夫なのこんなアイテム持っていって?」

 

 

青い道着のような服装に、赤いマントを羽織った青年が、男に聞いた。

 

 

「大丈夫大丈夫、本当のことだしね、実際。本軸の世界では、アガモットの目を使用できるような存在は居なかったし、そもそも、見つけられてないし。というか、これ無しであの世界をどうやって生き延びていくの?」

 

「さぁ?俺とあるシリーズ読んだことも見たこともないから、どんなヤベェキャラ居るか知らないし」

 

「それじゃぁ、楽しみにしておいて」

 

 

と言って、男が青年の体を叩くと、半透明な青年が飛び出し、消えていった。そして、男は残った体にあるアガモットの目をどこかへテレポートさせた。

 

 



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ストレンジ

「よっと」

 

 

スリングリングを使用して、洗濯かごの中にある洗濯物を洗濯機へと入れていく。洗剤と柔軟剤を入れて、ボタンを押し、洗濯をスタートする。

 

洗濯が完了するまでに、朝ごはんを食べておく。洗濯ものを物干し竿にかけていき、これで、朝の家事は完了。暇になった。

 

私の名は、御医者ストレンジ。なぜ名字が御医者なのか?産まれたときからこうなのだからわからない。そして、なぜか知らないが、名前はカタカナでストレンジ。私の使う魔術が、多元宇宙にいるある存在と同じものであるため、こうなっているのであろう。

 

 

私は、とても古びた金庫を開け始める。そこには、アガモットの目が台座の上に置かれており、私はそれを手に取り首にかけ、保護呪文を施す。アガモットの目全体に、オレンジに輝くエルドリッチライトが展開され、保護呪文をかけるのに成功した。

 

 

ドサッ!

 

 

保護呪文をかけ終わったと同時に、隣の部屋から物音がした。ベランダに出て見てみると、白い修道服を着た銀髪の少女が私の友人、上条当麻のベランダの手すりに干されているのだ。

 

 

「必要悪の教会・・・」

 

 

覚えのある名前。私はタッティングのような手振りで解析魔術を展開し、少女を調べ始める。

 

 

「名前は、インデックス、身につけているものは歩く教会か。これまためんどくさい存在が来たものだ。ん?なんだこの術式は?」

 

 

喉の奥に妙な反応を発見し、解析魔術を喉奥に集中させていく。

 

 

「こいつは、解除するのに骨が折れるな、当麻の幻想殺しに任せておいたほうが良さそうだ。・・・。脳に膨大な量の記憶があるな。閲覧すると精神汚染のようなものをくらうようだ。マインド・ストーンの力を使えば、普通に閲覧可能だろう」

 

 

と言って、アガモットの目を開き、マインド・ストーンの力を利用した魔術、精神のセプターを使用。黄色い杖状エルドリッチライトが現れると、私の精神と魂を汚染から守るフィルターを形成する。さらに、インデックスの記憶への干渉術を展開し、彼女の脳内にある莫大な量のなにかの記憶へアクセスする。

 

 

「こいつは、原典の魔道書か。ということは、彼女は名前の通り、禁書目録というわけか。なぜそんな人物が学園都市に来てるんだ?魔法の魔の字もない場所だぞ?まっ、魔術師の俺が言っちゃ説得力ないがね。まぁいい、当麻呼ぶか」

 

 

私は外に出て、上条宅のインターフォンを鳴らす。

 

 

「はーい、どちら様?」

 

「おはよう当麻。ベランダ行ってみろ、面白いことになってんぞ」

 

「はぁ?なんだよそれ?」

 

「いいから見てみろ」

 

 

当麻は私の言われたとおり、ベランダに行き、その光景に驚愕した。

 

 

「な、面白いだろ?」

 

「何が面白いことになってるだこの野郎!!この子誰だよ!?」

 

「さぁな、お前のベランダから物音がして、見に行ってみたらあーなってた」

 

「なんだよそれ・・・」

 

 

困惑した表情で引っ掛かっているインデックスを見る当麻。

 

 

「お前関連か?」

 

「いいや」

 

「だよな。魔術師って道着みたいなの着てるし」

 

「そのとおり」

 

「ってことは学園都市の方?」

 

「さぁな、なんでこんなところに居るのやら」

 

 

すると、少女が目を覚ました。

 

 

ぐぅううう〜。

 

 

そして大きく腹を鳴らした。

 

 

「そこの二人、お腹一杯ご飯を食べさせてくれると嬉しいな」

 

「そうか、だったらそこから降ろしてやるから、コンビニでも行って弁当でも何でも買って食べな」

 

「私はお金なんか持っていないんだよ」

 

「よくもまぁ堂々と言えるわ」

 

 

と言いつつ、彼女をベランダに入れる。

 

 

「なんなんだこいつ?」

 

「わからん。ただ、魔法関連なのは確かだ」

 

「確か、魔法と魔術って色々と違うんだっけ?」

 

「まぁな」

 

 

と、二人で話し合っていると、彼女が一点をじっと見つめ始めた。

 

 

「おいおい、この腐った焼きそばパンを食べようってのか?よし、たぁーんと喰え!貪り喰え!!」

 

「いやちょっと待て、いくらなんでもそれは酷すぎる。ちょっとよこせ」

 

 

上条から腐った焼きそばパンを受け取り、テーブルに乗せる。

 

 

「こんなことでこれを使いたくはないんだがな」

 

 

アガモットの目を開き、タイムストーンの力を行使し、焼きそばパンを腐る前に戻した。

 

 

「できたぞ、食べろ」

 

 

インデックスに焼きそばパンを与えると、一口で食べてしまった。どんな口をしているのやら。

 

その後、煎餅やらお菓子やらを与え、様子を見た。

 

すると、インデックスがこちらに話しかけてきた。

 

 

「まずは自己紹介をしなくちゃいけないね。私の名前はね、インデックスって言うんだよ。見ての通り教会の者です」

 

目次(インデックス)?」

 

「一応本当だ、俺が調べたからな」

 

「あ、バチカンの方じゃなくてイギリス清教の方だね」

 

「どっちでもいいし!!」

 

 

アレイスターが呼んだ訳じゃなさそうだな。どうやって入り込んだ?

 

 

「んで、なんだってお前がベランダに干してあったんだ?」

 

「干してあったんじゃなくて落ちたんだよ?追い詰められて隣のビルの屋上に飛び映ろうとした時背中を撃たれてね」

 

 

追われていた、彼女の命を狙う何者かに。撃たれたと言っていた背中にはそれらしき痕跡はなし。まぁ、歩く教会に守られていたんだろう。

 

青ざめた顔でこちらを見てくる上条。

 

 

「仕方ない」

 

 

私はエルドリッチライトを展開し、寮全体に結界を張った。

 

 

「これで良いか?」

 

「ありがとよ」

 

「あなたって魔術師なの?」

 

「まぁな、まっ、君が知っている魔術師の部類には入らないと思うがね。そもそも彼らが使うものは魔法であって魔術ではない」

 

「ふーん、でも、あたしが持っている10万3000冊の魔導書のことは知ってるんでしょ?」

 

「いいや、さっき見るまで知らなかったな。我々の魔術の世界にも、書物があるが、あんな誰にも見せたくない。この知識は自分のものだ!っという欲望が駄々漏れの書物は見たことがない」

 

「見るまで!?あなた、魔導書を見たの!?」

 

「ああ」

 

「汚染は?」

 

「防ぐ方法ならあるからな。お前の身元を調べるために見たが手がかりはなかったし、意味はなかったな」

 

「使おうとは思わなかったの?魔導書の力を」

 

「もっとすごいもの持ってるし」

 

「ああ、インフィニティストーンだっけ?確か宇宙ができたビッグバンの時の残骸だっけ?それを持ってるんだったよな」

 

「その通り、だから、私からしたら魔導書なんてものはそこらにある本と同じような部類なのさ」

 

「世の中にはいろいろな価値観の人がいるって言うけど、あなたは特別変な価値観を持っているんだね」

 

「インフィニティストーンの力を見ればそれの意味がわかるさ。さっき焼きそばパンを腐る前に戻したのも、タイムストーンの力だしな」

 

 

そう言うと、アガモットの目を不思議そうな目で見つめ始めるインデックス。

 

 

「とにかく話を戻そう。それで、魔導書がなんだって?」

 

「そうそう、魔導書、それが連中の狙いだと思う」

 

「連中?」

 

魔術結社(マジックキャバル)だよ」

 

「魔術ねー、そりゃストレンジの魔術を見てるから信じるけど、それはやっぱりストレンジのだから信じられるわけだし、それにこの学園都市の超能力とかを見てる。だから、そういった超常現象は珍しくもない。だからこそ、科学(げんじつ)と無関係な代物(オカルト)は信じられねぇんだよ。MP消費で死人が生き返ったら、誰も育脳なんてしないしな」

 

「頭ごなしに否定はしないんだね。でも、魔術はあるもん」

 

「魔法な。私が使っているのが魔術で君が言っているのは魔法だ」

 

「じゃあ、その君の力と私が知っている魔術はどんな違いがあるんだよ」

 

「その話をすると長くなるんだが、まぁいいだろう。多元宇宙(マルチバース)ってわかるか?」

 

「なんなんだよそれ?」

 

「簡単に言えば、別の世界、別の宇宙だ。位相とかじゃないぞ、まったくの別世界だ」

 

「そんなもの本当にあるの?」

 

「見たいか?」

 

「見れるの!?」

 

「あんまりはおすすめはしないぞう。そんなに楽しいものじゃない。被害者の俺が言う」

 

「それじゃいくぞ?」

 

 

私はインデックスのおでこに触れ、魔術を行使した。

 

 

「きゃぁああああぁあぁああ!!!!」

 

 

絶叫とともに、インデックスの魂がこの世界から消える。

 

 

「世界の成り立ちは知っているかな?」

 

 

そして、私は解説を始める。インデックスに、さまざまな世界を見せる。クリスタルが宙に浮かぶ幻想的な世界や、手が増殖するなんとも気持ちの悪い世界。そして、ドルマムゥのダークディメンション。

 

 

「物質的な宇宙が全てではない。現実とは。感覚を越えた先に、何が待っていると思う?存在の根底で意識と物質が出会う。思考が現実を作り出すんだ。多元宇宙には、無限の宇宙が存在する。終わりのない世界。善意が溢れ、命を育む世界。悪意と欲望に満ちた世界もある。暗黒の世界、時間を遥かに超越した未知の力が、私たちを貪欲に待ち受ける。お前が存在する意味はなんだろうな?インデックス」

 

 

「きゃぁぁぁああああ!!おふっ!」

 

「ああ!!俺の机が!!」

 

「今元に戻してやるから騒ぐな」

 

「い、今のはなんだったんだよ!?」

 

「今のがマルチバースだ。無限にあるマルチバースから、エネルギーを取り出し、我々は魔術を行使する。どうだ?君の知っている魔術とは全然違っただろ?」

 

「全然もなにも根底から違うんだよ!!」

 

「だろうな、だから君が知っているものは魔法だと言っているんだ」

 

「この知識を知られたらますます危険なんだよ!」

 

 

あわてふためくインデックス。余計なことを教えてしまったか?まぁ、なんとかなるだろう。

 

 

「そ、それじゃあ、あなたも彼みたいなすごい力を持っているの?」

 

「いや、そんなすごいものじゃ」

 

「ああ持っているぞ。幻想殺し(イマジンブレイカー)。これは私の仮説だが、幻想殺しは物理法則のみで構成された世界の法則を持った右手だと思われる」

 

「いったいどんな力なんだよ?」

 

「現実を歪める力。超能力や魔法、魔術などの異能の力を触れるだけで無へと帰す。まぁ、それ以外の使い道はないものだがな」

 

「その通り、弱っちい右手だよ」

 

「ふーん、そんなあり得ない力。彼ならわかるけどあなたがほんとに持ってるの?」

 

 

煽るような顔をするインデックス。俺の力は信じたみたいだが、上条の力は信じていないようだ?まぁ、そんなものがあるわけがないとでも思ってるんだろう。実際、幻想殺しは、あり得ない力、の部類だからな。

 

 

「ほぉ?やってやろうじゃねぇか!」

 

 

その顔にイラついたのか、右拳を歩く教会へとつきだした。

 

 

「ふふん、幻想殺しがいくら魔術に強くても、この歩く教会は壊せないんだよ!!この修道服は、教会としての必要最低限の要素を詰め込んだ服の形をした教会!!布地はトリノの聖骸布を正確にコピーし、織り方縫い方刺繍の飾り方まで全てが計算されたもの!強度は法王級なんだよ!」

 

 

バラッ!

 

 

上条の右手が触れると、歩く教会はバラバラになっていってしまった。

 

俺は危険を感じ、ラガドールのルビーリングを展開する。

 

すると、インデックスは、裸を見られた怒りから上条に噛みつき始めた。そして、私にも噛みついてこようとするが、盾に阻まれ噛みつくことができず、諦めた。

 

 

「かかっていた魔法までは戻せないが、直してやるぞ」

 

「本当!?」

 

「貸してみろ」

 

 

壊れた歩く教会を受け取り、魔術で直してやり、そのままインデックスへ着せた。

 

 

「ありがとうなんだよ!」

 

「どういたしまして」

 

「あの、私も魔術って使える?」

 

「もちろん使えるぞ。魔術を行使する人物に制限はない。魔力でもなくても誰でも使える」

 

「それじゃあ、もし、ここに戻ることができたら、教えてくれるかな?」

 

「いいだろう。だが、私の指導は厳しいぞ?」

 

「わぁ!ありがとうなんだよ!!」

 

 

ほんの少し、和やかな空気が漂うが、上条がそれをぶち壊した。

 

 

「うわっ!そうだ補修!!行ってくるわ!!鍵はかけても大丈夫だよな?」

 

「ああ、リングで出る」

 

「あだっ!」

 

 

バキッ!

 

 

いつもの上条の不幸が炸裂し、上条の携帯が破壊される。

 

 

「ぅううう、不幸だぁ・・・」

 

「クスッ、不幸というより、ドジなだけかも?」

 

 

と、言いつつ、インデックスは出ていってしまう。先程の「ここに戻ってきたら」の発言通り、ここから離れるらしい。

 

 

「おい、どこ行くんだよ?」

 

「出てく、ここにいると、いつ敵が来るかわからないし、ご飯ありがとうね?」

 

「一応結界を張ってあるぞ。わたしが守ることもできる」

 

「そうだよ!!お前行くアテあるのかよ?事情はよくわかんねぇけど、魔術師、いや、魔法師か?そいつらが彷徨いているならうちに隠れてストレンジに守ってもらえば」

 

「ダメだよ?〝不幸〟になるよ?さっきはドジなだけと言ったけど、幻想殺しが本当にあるなら、神様のご加護とか運命の赤い糸とかそういったものを全て消してしまっているのかもよ?」

 

「どういうこと?」

 

「簡単に言えば、幸運の力をどんどん消しちゃっているって訳だな」

 

 

私がそう言うと、上条は項垂れ、ショックを受けた。

 

 

「マジっすか・・・」

 

 

上条が立ち上がろうとすると、手に、違和感を感じ、見ると、ガムが引っ付いていた。

 

 

「ね?立ってるだけでそれなんだもん、私にかかわったらなおさら」

 

「いや、それとこれとは関係ない!危ない目に遭うって知ってて外に放り出せるわけないだろ!!」

 

「よく言った上条」 

 

 

上条の言葉に驚くインデックス。すると、彼女は振り返りながら言った。

 

 

「それじゃあ二人とも、私と一緒に地獄のそこまでついてきてくれる?」

 

「いー」

 

 

ウィイイイン!

 

 

「ひゃいっ!」

 

 

私が返事を帰そうとすると、掃除ロボが現れ、インデックスが驚く。なんと間が悪い。

 

 

「なんかへんなの出てきてる!!」

 

「ただの掃除ロボだろ?」

 

「日本は技術大国って言うけど、使い魔(アガシオン)も機械化される時代なんだねぇ」

 

 

すると、隙をついて、インデックスが走り出してしまう。

 

 

「待てよ!この先一人でどうしようってんだ!!」

 

「だいじょーぶ!!教会まで逃げれば匿ってもらえるから!!」

 

 

階段を駆け降り、インデックスは消えていった。

 

 

「行っちまったな。お前、補修間に合うのか?」

 

「あ!!やべぇ!!」

 

「仕方ない」

 

 

俺はスリングリングを学校の校門前に展開してやった。

 

 

「ありがとよ!!なぁ、アイツ見つけたら助けてやってくれないか?」

 

「わかってるさ」

 

 

転けかけながら、上条はあわてて教室へ走っていく。

 

私は言うと。

 

 

となりのビルからこちらを見ている男女を睨み付けた。

 

 



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聖人&魔法師VS至高の魔術師

私は、隣のビルからこちらを見ていた男女を睨み付け、部屋に戻り、アガモットの目を開くと、リアリティストーンの力で透明になって、部屋を出て男女の背後に降り立った。

 

 

「それで、君たちは一体何の用だね?」

 

「なっ!?いつの間に!?」

 

「どうやって!?」

 

 

男女はとても奇抜な格好をしていた。

 

男の方は、赤い髪に、いかにも魔法師といった黒い服。そして、目元にはバーコードという格好。

 

女の方は、長い髪をポニーテールに括り、Tシャツに片方の裾を根元までぶった切ったジーンズ、腰のウエスタンベルトには2mの令刀という格好だ。

 

 

「彼女を追っていたのは君達だな?言っておくが、私の目が黒いうちは、彼女には指の一本も触れさせやしないぞ?」

 

「だが、我々もあれの中にある知識はとても重要でね、回収させてもらうよ」

 

「ほう、では、ここで倒しておくか」

 

 

私は、ラガドールのルビーリングとエルドリッチウィップを展開し、身構える。

 

 

男と女もルーン文字が描かれたカードや、ウエスタンベルトに納めてある刀に手を掛ける。

 

 

しばらく睨み合いが続いたが、魔法師たちが先に仕掛けてきた。魔法師はルーンカードから発生させた炎の柱で、女は抜刀術による攻撃。

 

 

(いや、女の攻撃は超高速で飛んできているワイヤーか)

 

 

魔法師には、浮遊マントを飛ばし、頭に絡まりついてもらい、私は女の相手をする。一番こちらが厄介そうだしな。

 

 

私は、ホゴスの加護を付与したセラフィムの盾で、迫り来るワイヤーを防ぎエメラルド色の綺麗な蝶へと変換する。

 

 

「っ!?」

 

 

その光景を見て、女は驚くと、すぐに戦闘スタイルを変え、接近戦に持ち込んできた。私が魔術師だから接近戦は苦手だと思ったのだろう。あさはかな考えだ。

 

私はヴィシャンティの聖なる剣を作り出し、令刀の攻撃を防ぐ。だが、思いの外女の力が強い、というより圧倒される。

 

 

「ぐっ!お前、聖人か」

 

 

だったら、こちらにも考えがある。ヴィシャンティの聖なる剣が紫色に光り始める。私の胸元ではアガモットの目が開き、パワーストーンが目映い光を放っている。

 

 

「ぐぁああああ…」

 

 

令刀を通じて、彼女の体にパワーストーンのエネルギーが伝達され、彼女を蝕んでいる。相当な激痛だろう。

 

 

「少し大人しくしておけ」

 

 

私は令刀を払うと彼女の腹に掌を叩きつけた。すると、彼女の体からアストラル体が飛び出し、女はその光景に驚き、倒れかけている自分の体と半透明な自分の体を交互に見ている。

 

 

「いったい何が起きて・・・」

 

「お前のアストラル体、いわゆる魂をお前の体から叩き出した」

 

「そんなことが、一体あなたはどんな魔術を」

 

「簡単だ、君たちが使っているのが魔法で、私の使っているのが魔術というだけだ。さて」

 

「モゴッ!モゴモゴッ!?モゴッ!」

 

 

女の体を優しく地面に寝かせ、浮遊マントを引き剥がそうともがく魔法師のほうに歩いていき、ヴィシャンティの聖なる剣の応用、ヴィシャンティの聖なる斧を作り出し、魔法師の首に刃を突きつける。

 

 

「ブハッ!ッ!?」

 

「降参するか?」

 

「ッ!ああ、降参だ」

 

 

両手を上げ、降参のポーズをする。斧を消し、サイトラックのクリムゾンバンドで男の両手を拘束。女も、アストラル体を体に戻した後同じくクリムゾンバンドで両手を拘束。令刀を取り上げる。

 

 

「それで、君たちの目的はなんだ?答えによれば、殺すことも視野に入れておく」

 

「待て待て、僕達はインデックスを助けようとしているんだ」

 

「助ける?なんのことだ?」

 

「インデックスには、完全記憶能力があります」

 

「ああ、私と同じような能力だな。それに何があるんだ?」

 

「彼女は、魔導書を記憶していることは知っているな?」

 

「ああ、さっき聞いた」

 

「その記憶に、脳の85%をその魔導書の記憶に使っている。残りの15%で今の生活をしているんだ。その15%は一年立つと使いきってしまう、そのため、一年おきに記憶を消さなければならないのだ」

 

「ふっ、騙されているなお前ら?」

 

「なんですって?」

 

 

私は魔術で人の頭の絵を出しながら説明を始める。

 

 

「いいか、そんな理論だったら完全記憶能力を持つ人間は皆五六歳で死んでしまう計算になるぞ?そんなことがあり得るわけないだろう。元々脳は、140年分の記憶が可能になっている。さらに、記憶する場所も違う。簡単に言えば入れ物が違うんだ。意味記憶エピソード記憶その他もろもろ。たとえ、何十万冊本の中身を覚えたとて、その本の内容を記憶する入れ物が作られるだけで、思い出を削らなければならないなんてことは絶対にないんだ」

 

「「ッ!?」」

 

「それは本当ですか?」

 

「当たり前だ。まったくこれだからこの世界の魔法師は!少し科学を勉強しろ!このど阿呆!」

 

「す、すまん」

 

「インデックスの状況を鑑みるに、魔導書の記憶を好き勝手に使いたい教会が変な魔術でも仕込んだんだろうよ。そもそも、使うだけで世界をねじ曲げられる魔導書を野放しにするわけがないだろう?というか、お前ら見てたんだろ?あいつのことを調べてるの」

 

「ええ、もちろんです。怪しかったので切りかかろうとしましたが、すぐに興味を失せたような行動を開始したので」

 

「その時、首のところに変なルーン文字が刻まれてたぞ」

 

「何!?それは本当か!?」

 

「ああ、多分だが、あれのせいで記憶を消すしかないんだろう。まぁ、今その魔法を解除しようとしても逃げられるだろう。辛いだろうがまだ演技を続けておけ、ついでに言うと、あの青年、上条当麻を襲っておいて、その際にお前らのインデックスとの思い出を話してやればやる気になるだろう。あの魔術を消すのにはやつの右手が必須になるからな」

 

「わかりました・・・。ありがとうございました。あなたが教えてくれなかったら、私たちはあの子の思い出をまた消してしまうところでした」

 

「ああ、感謝するぞ魔術師」

 

「ああ、じゃあな魔法使い」

 

 

俺はスリングリングを使い、街へ繰り出そうとすると、女に止められた。

 

 

「あの!お待ちください!!」

 

「なんだ?まだ何か用でもあるのか?」

 

「ええ、名前を、教えていただけませんか?」

 

「御医者・スティーブン・ストレンジだ。父の家系がアメリカ人でね。婿に来てこんな名前だ」

 

「できれば、魔術名も」

 

「私の魔術名は知らない。そもそも、君たちの使う魔法、いや君たちの認識では魔術か。それと、私の使う魔術は根底からまったくの別物でね」

 

「そうなのですか?私たちの認識では魔術・・・どういう意味かわかりませんが、あなたの魔術について少し興味があります。改めてあなたに話を聞きに行きたいと思います。私の名は、神裂火織です。魔法名は、Salvare000(救われぬ者に救いの手を)です」

 

「よろしく」

 

「僕も君の魔術の話を聞いてみたいね。僕の名はステイル・マグヌス。魔法名はFortis931(我が名が最強である理由をここに証明する)だ」

 

「そうか、一つだけ教えておこう。魔法名ではないが、私はこう呼ばれている。至高の魔術師(ソーサラー・スプリーム)と。ではな」

 

 

リングを通って街を歩き出すと、次はめんどくさいやつに絡まれた。

 

 

「ちょっとあんた!!見つけたわよ!!」

 

「はぁ、今度は君か」

 

 



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超電磁砲と至高の魔術師

「ちょっと!ちょっとあんた!!」

 

「はぁ、今度は君か」

 

「何よそのため息!!」

 

「さっき色々とあってね昼でも食べに行こうと思ったらこれだよ。てかもう3時だし。あいつらのせいで昼食いそびれちまったじゃねぇか」

 

 

大きなため息をつき、後ろでビリビリと電撃を走らせている女子中学生を無視して歩き出す。

 

 

「ちょっと無視しないでよ!!」

 

「また戦えって言うのか?」

 

「わかってるじゃない♪」

 

「なら何かを食べさせてくれ、朝食べた後何も食べてないんでね」

 

「そ、そうだったの。先に言いなさいよね!」

 

「だから今言っただろう」

 

「ほんと、その言葉遣い鼻につくわね!!」

 

 

ビリビリと頭に微小な電撃を発生させながらレベル5第三位、超電磁砲(レールガン)こと御坂美琴。彼女は、まだ私が彼女のことをレベル5だと知らなかった時、チンピラに絡まれていたところを私がスリングリングで助けたのだが、それが気に食わなかったようで、私に電撃を放ってきた。私はそれを大人しく受けておけばよかったもののそれをラガドールのルビーリングで防いでしまった。そこからこの調子である。

 

 

蕎麦屋に入り、ざる蕎麦と、エビと鶏の天ぷらを注文する。

 

 

「あたしもお腹空いちゃった」

 

「私は君の分まで払わないぞ」

 

「お金くらい持ってるわよ!」

 

 

御坂もメニューを開き、そばを注文する。しばらく待っていると、そばが到着し、食べ始める。

 

 

「ズズ、ズズズ。おみゃえは。ごくっ。なぜ私をそこまでつきまとう?」

 

「そりゃ、あの時私の電撃を、あいつみたいに防いだからに決まってるでしょう」

 

「悔しいのか?」

 

「そうよ!意味分かんない力に私の力を否定されて、プライドを傷つけられたのよ!?」

 

 

前髪から火花を散らせながらそんなことを言ってくる。力にプライドを持つところを見ると、まだまだだな。

 

 

「お前のプライドを傷つけたつもりもないし、やる意味がない。そもそも、なぜ私がそんなことをすると思った?」

 

「だって、あたしレベル5だし」

 

「あの時は君がレベル5だったとは知らなくてね」

 

「そんな事ある?」

 

「レベル5やらなんやらに私は興味が沸かない」

 

「そういうこと?意地でも耳に入りそうなものだけど」

 

「私の耳には入らなかっただけだ。ご馳走さま。大将美味かったよ」

 

「それはどうも、会計は1980円だ」

 

「あちょっと、待ちなさいよ!!」

 

 

会計を済ませ、家へと向かう。その間も、御坂はついてくる。

 

 

「まだなにかあるのか?」

 

「ええ、あんたの力、あれどんな能力よ?」

 

「教えても、科学脳のおまえじゃ理解できん」

 

「なんでそう決めつけるのよ」

 

「科学じゃ説明できないものだからだ」

 

「オカルト的な力だって言ってるの?」

 

「そういうことだ。それだけ教えてやる」

 

 

マントをはためかせながら、私は歩くスピードを上げる。すると、背後から金属を弾く音が響いてきた。

 

 

「はぁ」

 

 

ため息を一つ吐き、私はホゴスの加護を付与したラガドールのルビーリングを片手に展開し、振り向きざまに前へ突き出す。そこに、吸い込まれるように超電磁砲が衝突。超電磁砲はエメラルド色の一匹の蝶に変化し、飛んでいく。

 

 

「え?あたしの超電磁砲どこいっちゃったの?」

 

「あれだ」

 

「えぇええ!?そんなわけないじゃない!!なんであたしの超電磁砲が蝶になっちゃうのよ!!」

 

「これが私の力だ。お前の力は私には効かんぞ。さっさと帰れ中学生」

 

 

スリングリングを寮の前に開き、それをくぐり、振り返る。

 

 

「こんどは何よそれ!?」

 

「また今度だ」

 

 

リングを閉じ、寮の自分の部屋へ歩を進める。

 

 



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自動書記

受験期になりました。更新が大幅に遅れます。すみません。


数日後

 

今日も今日とて、御坂美琴に絡まれていると、白い光線が空へと発射される。方向は小萌先生の家の方面である。

 

竜王の殺吹(ドラゴンブレス)・・・。超電磁砲」

「なによ?」

「急用ができた」

 

スリングリングを開きながら御坂美琴へ言い、リングをくぐる。

 

「あたしも行くわよ」

「まだお前は関わらない方がいい」

「なんでよ!!」

「簡単だ、この先にまだお前には理解できないものがあるからだ」

「はぁ!?あんたの魔術ってやつを理解し始めてるじゃない!!」

「それでもまだ早い、まだお前は科学のみの世界で生きているんだ」

「ちょっ!!待っ」

 

リングを閉じて小萌の家を見ると、屋根に大穴が空いている。どうやら、見事禁書目録にかかっていた魔術を上条が解いたようだ。だが。

 

「問題発生か・・・」

 

浮遊マントの力で飛び小萌宅へ入ると、そこには、禁書目録が魔術を行使していた。

 

「ストレンジ!!」

「ああ、来てやったぞ」

 

どうやら、禁書目録へかけられていた魔術、首輪には破壊されたと同時に自動書記(ヨハネのペン)が発動するようになっていたようだ。まったく、必要悪の教会の上層部は堕落してしまったようだな。

ラガドールのルビーリングを片手に展開し、竜の殺息を防ぐ。

 

 

「お前、それ片手で受け止められるのかよ!?」

 

「あぁ、まぁ私だからな」

 

 

禁書目録の前に自動書記の術式が展開され、術式の間から何かがこちらを見ている。位相の中の怪物か、それとも多元宇宙の脅威か?何者か知らないが、この世界に入らせるつもりはない。

 

 

「当麻、あの術式を破壊しろ。自動書記の効果によって妙なやつがこの世界に入り込んできそうだ」

 

「破壊しろって、どうやって近づくんだよ!!」

 

「私に任せろ」

 

 

イコンの形像を発動し、分身にルビーリングを抑えさせると、私はアガモットの目を開き、パワー・ストーンの魔術、オーブの魔法円を腕に展開する。そして、自身を分身と重ねると、分身は消滅。ルビーリングはオレンジから紫色へと変化し、竜王の殺息を侵食し始める。

 

 

「ついてくるんだ」

 

「了解!」

 

 

竜王の殺息を押し返し、徐々に禁書目録のもとへ近づいていく。竜王の殺息から、純白の羽が吹き出し、近づいていく我々に降り掛かってくるが、ルビーリングに収まりきらなかったパワー・ストーンの力を操り、それを破壊していく。そしてついに、禁書目録のもとへ到達。

 

私は、パワー・ストーンを持って竜王の殺息を相殺する。

 

 

「今だ当麻!!」

 

「うぉぉおおおお!!!」

 

 

上条は右手を突き出しながら怯んでいる禁書目録へ駆け出す。幻想殺しが術式を破壊し、怪物の気配が消える。気絶している禁書目録を受け止め、その場に座り込む上条。私も安心して帰ろうと、リングを開く。しかし、ひらひらと何かが穴が空いた天井から落ちてくるのが見え、振り返ると、竜王の殺息の余波である羽が上条と禁書目録のもとへ落ちてきていた。

 

 

「まずい」

 

 

エルドリッチウィップを展開し、羽を弾こうと振るうが、羽はスルリとウィップを避けてしまう。上条がそれを見て幻想殺しで羽を消そうと右手を羽へと近づけていくが、またも羽はスルリとかわし、上条の頭に直撃。それがまるで運命だったかのように。

 

 

「当麻!!」

 

 

私は倒れた上条に駆け寄る。アガモットの目を開き、タイム・ストーンの力でなんとかできないかと考えたが、人体への行使は行ったことなどなく、さらに、上条当麻という存在が消えてしまう可能性、そして、上条当麻が自然の法則を犯せば、一体どんな規模の脅威が彼の目に現れるのか想像がつかなかったため、行使を断念した。

 

 

「なんでやめたのですか!?」

 

 

神裂が声を上げる。

 

 

「これを使えば、当麻自身が自然の法則を犯したことになる。そうなれば、一体どんな規模の脅威が当麻に降りかかるかわからないからだ。それに、上条当麻という存在が消えてしまうかもしれない。使いたくても使えないんだ。良い医者を知ってる。そこへ連れて行く。お前たちはもう帰ったほうがいい。行くぞ、禁書目録」

 

 

リングを開き、二人をその場に残し、目を覚ました禁書目録を連れ、冥土返し(ヘブンキャンセラー)のもとへ気絶した上条を連れて行った。

 

 

 

翌日

 

 

上条が目を覚ましたという連絡があり、私は冥土返しの病院へと向かった。

 

 

「目を覚ましたようだな」

 

「えっと・・・」

 

「やはりか、すまなかった。あのとき、私がうまく対処できていればお前がこんなことにはならなかった」

 

「いやいや、謝る必要がないって、お前何にも悪くねぇって!」

 

「だが・・・」

 

「必要な犠牲を払ったんだろ?」

 

「そういうことになる」

 

「なら、よかったんじゃね?これで。誰かを助けられたんだろ?」

 

「ああ」

 

「なら、それでいいじゃん」

 

「そうか、お前がそう思うなら。私はお・・・」

 

「お?」

 

「いや、私は、ドクター・ストレンジだ。よろしく頼む」

 

「ああ、何て呼べばいい?」

 

「ドクターでも、ストレンジでも」

 

「なら、ストレンジで」

 

「そうか、では、私はもう行く」

 

「ああ、お見舞いありがとうな」

 

私は病室を出た。私の心で覚悟が決まった。転生して以来、私は、この能力が万能であり、この世界で無敵の力を誇ると思ってきた。だが、これでわかった。たとえどんな力であっても、運命というのは、それを突破してきてしまうということが。

これ以上、あのような犠牲は産まない。誰かを救うために誰かが不幸にならなければならない、そんな運命を、私は覆す。彼のような犠牲は、もうこれ以上出さない。

 

私はドクター・ストレンジ。この名にかけて、私はすべてを救う。

 



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間話:魔術と魔法

アウレオルス戦はストレンジは関与しません。一方通行戦にしっかりと関与します。すみません。


ピンポーン。

 

朝の8時にインターフォンが鳴った。誰だか知らないがもう少し時間を空けてこれなかったのか?

 

私は玄関へ向かい、鍵を外してドアを開けた。そこには、予想外の来客がいた。

 

「すみません、朝早く」

「神裂火織・・・。本当、お前らはどうやってこの学園都市に侵入するんだ?」

「伝手がありまして、あの、先日はとてもお世話になりました。どうお礼をしたらよいか・・・」

「気にするな、私は私のできることをしただけだ。立ち話もなんだ、入ってくれ」

「失礼します」

 

神裂を招き入れ、リビングへと連れていく。

 

「広いですね、これも魔術ですか?」

「ああ、そうだ。魔術はとても応用力が高いんでね」

 

お茶を錬金術で入れ、トレイにのせる。さらに、机と椅子を二つ呼び寄せ、向かい合うように置き、お茶を並べる。

 

「さぁ、座ってくれ」

「ご丁寧にどうも、失礼します」

 

さて、今回は何で私のところへ来たのだろうか。外の世界で厄介事でもあったか?

 

「それで、今回はなぜ私のところに?また私に助けてほしいのか?」

「いえ、違います。今回は休みをとってあなたのところへ来ました。聞きたいことがあったのです」

「聞きたいこと?」

「はい、あなたは先日、我々が使う魔術を魔法、と称しました。それがとても興味深かったので・・・」

「その事か・・・なら、場所を変えよう」

 

すると、突如周辺の景色が変わる。神裂はよろめき、お茶をこぼしてしまう。

 

「い、今のは?」

「場所を変えた、ここは、私の修行場だ」

 

周囲にはさまざまな書物が浮かび、天井にはオレンジ色の光が走る巨大な地球儀がある。

 

「また魔術ですか、本当に、一体どの宗派に属しているのかわかりませんね」

「私の魔術に宗派などない。あるのは、知識と技術、そして、信念のみだ」

 

浮かぶ本達を本棚に戻し、地球儀を消すと、神裂と向き合う。

 

「さて、では、君たちが使う魔法と私が使う魔術、これの違いを教えるとしよう」

 

ある書物を取り出し、それに記された魔術を行使する。すると、複数のオレンジ色に枝のような光で繋がれた玉が無数に現れる。

 

「これは?」

「これは、マルチバースだ。さまざまな可能性の世界、全く別の法則で動く世界。それを可視化した」

「異世界、のようなものですか?」

「いや、君たちの知る異世界は位相というものだろう?この世界に属している、単なる別空間に過ぎない。このマルチバースは、完全なる別世界、そこから私はエネルギーを取り出し、魔術を行使している」

「そうだったのですか。我々は生命力を魔力へと変換し、魔術を行使しますが、あなたのものは外の世界からエネルギーを呼び寄せているのですね」

「ああ、さらに言うと、この魔術はインデックスでも使用することが出きる。今度、教える予定だ。彼女の絶対記憶能力があれば、簡単にマスターできるだろう」

「あの子でもですか。なぜこんな力が隠されていたのでしょうか?」

「さぁな、だが、私が魔術を学んだときには、この世界に魔術は存在していなかった」

 

神裂は可視化されたマルチバースの一つを覗き込むと、疑問の声をあげた。

 

「これは?」

 

見ると、そこには、先日の事件の光景が広がっていた。しかし、そこには私がいなかった。

 

「それは、平行世界の一つだろう。その世界にはどうやら、私はいないようだ」

「では、この世界のあなたはどこに?」

「たぶん居ないだろう。文字通り、存在していないんだろう。この世界には、私が扱う魔術は存在しておらず、私自身も存在していない。この世界の当麻は苦労するだろうな」

「何も、感じないのですか?」

「ああ、こういう世界があっても不思議ではないだろう。マルチバースには無限の可能性が存在しているからな」

 

魔術を消し、先ほどリビングに置いてきたお茶を呼び寄せ、一飲みし、空となった湯呑みをキッチンへと飛ばす。

 

「あの、もう一つ気になっていたのですが」

 

神裂は、私の首にかけてある一つのレリックを指差した。

 

「この圧倒的な力を放っているこれは一体?」

「これか?これはだな」

 

私はアガモットの目を開くと、タイムストーンを取り出した。

 

「これは、インフィニティストーン。宇宙が作り出される原因となった、六つの特異点の残骸」

「宇宙を作り出した特異点の残骸!?」

「あぁ、誰かは知らないが、これを作成していたようだ」

「なぜそんなアイテムが、いままで見つからなかったのでしょうか?」

「さぁな、だが、魔術的な痕跡を見るに、今の私では到底解除できない隠蔽魔術が施されていたようだ。だが、私はある人からもらってね。ある人については、詳しくは話せないが、簡単に言えば、上位存在だ」

「そんな人にあなたは接触できるのですか・・・」

「いや、私からはできん、だが、彼等からは出来るだろう」

 

アガモットの目からインフィニティストーンを外し、宙に浮かばせながら説明する。

 

「この石にはどのような力が?」

「紫色のストーン。こいつは、パワー。計り知れないエネルギーを保有し、これ一つで文明を星まるごと破壊できる。

赤色のストーン。これはリアリティストーン。現実を歪め、物質の変換ができる。

水色のストーン。これはスペースストーン。空間を歪め、別の場所に繋いだり、他のストーンのパワーを遠い場所に行使するときに使う。

黄色いストーン、これはマインドストーン。精神を操り、洗脳などができる。

オレンジのストーン、これはソウルストーン、魂を操れると聞いたことがある。しかし、私もこいつについては謎が多く、完全には扱いきれてはいない。

最後に、緑色のストーン。これはタイムストーン、時間を操ることができ、時間逆行、時間加速、時間のループの作成、未来に起こるすべての可能性の体験、などができる」

「バカみたいな力ですね」

「それだけ危険なんだ。これをあるガントレットに納め、指を鳴らすだけで宇宙全体にいる生命の半分が消滅する」

「宇宙全体にいる生命の半分が!?」

 

目を閉じながら、そう言うと、神裂は頭を抱えながら驚いた。

 

「そんな力が世界に知れ渡れば、あなたは全魔術結社から狙われますよ」

「国からも狙われるだろうな」

「怖くないのですか?」

「怖いさ。だが、インフィニティストーンは一つの時間軸を作り出す。誰かが管理しなければいけないからな」

 

それが普通かのように言う私に驚きながら、彼女は私が呼び寄せた椅子に座る。そして、顎に手をやりながら、何かを考え始めた。

 

「どうした?」

「私は、あなたのことを口外しないことを、至高の魔術師に誓います」

「いきなりどうしたんだ?」

 

胸に手を当て、真っ直ぐとこちらを見ながら言ってくる。

 

「あなたの力は、他の魔術師や魔術結社が知ってはいけない力です。ですので、至高の魔術師の名に、口外しないことを誓ったのです」

 

立ち上がりながらそう言う神裂。

 

「そういうことか。まぁ、確かに、そう簡単に教えてはいけないものではあるな。帰るのか?」

「ええ、もう行かないと」

「そうか、では送っていこう」

「送っていくって、ここ日本ですよ?」

「ああ、それがどうした?」

 

 

私は、スリングリングを使用し、フランスのエッフェル塔の前に繋げる。

 

「なっ・・・いえ、驚くほどのものでもないですよね」

「ああ、基礎中の基礎の魔術だ。どうぞ?」

「ありがとうございます。では、今日はありがとうございました」

「ああ、気を付けてな」

 

リングを閉じ、茶器などを仕舞うと、時計を見る。

 

「完全に遅刻だな」

 

 

ため息を吐きながら、魔術にて制服に着替えると、学校の真ん前にスリングリングを開き、校門をくぐった。

 

 



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