仮面ライダーディケイド2 -World of 01- (らいしん)
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前編「オレはゼロワン 企業ライダー」


これまでの、仮面ライダーディケイドは。

「時空が作り替えられていく……」

「新しい旅が始められそうだ」






 

 

 

 オーロラを抜けた先は、また違う世界だった。

 脳裏に焼き付く、崩壊していくジオウの世界。融合していく世界の中で見た景色はどこか懐かしくも感じた。

 平成ライダーの歴史はジオウの世界ごとなくなってしまったのか。違う。新しく作り変えられたのだ。良い方向に導けたかどうかは分からないが、永遠に平成が続きライダーの歴史が終わるという最悪のパターンは避けられた。

 

「次はあいつも、もっと上手くやるだろ」

 

 門矢士は呟く。

 常磐ソウゴの忠臣のあの男。なんとなく雰囲気から、あの鳴滝と似たような存在だということは分かった。新たな世界でも彼は変わらず常磐ソウゴを監視――見守り続けるだろう。

 

「それはそうと、ここはどこだ?」

 

 彼は光写真館に戻ることなく、一人で新たな世界に来てしまっていた。しかし、もう新たな世界に来ても服装は変化しない。破壊者ではない彼を、世界は拒絶しない。

 手元にはカメラとネオディケイドライバーくらいしかない。ケータッチは写真館に置きっぱなしだ。多分、今後使うことはないだろうから問題ないはずだ。

 18のライダークレストが並ぶドライバーを見つめる。今までに巡った世界がそこに刻まれていた。そして今始まる新たな世界、新たな旅。

 

「……よし」

 

 士はカメラのレンズカバーを取り外した。

 いつも通り士は景色にレンズを向ける。新たな世界への挨拶の意を込め、一方的に世界を切り取る。

 どの世界でも変わらないものはある。花は美しいものだし、空は広く高く遠いものだ。

 風景を一通り撮影した後は人の多い街に出る。一見おかしな様子のない世界でも、前提・常識が違えばどこかに違和感があるもの。彼があちこちを撮影するのは新たな世界のことを知るためでもあるのだ。

 

「……ん?」

 

 士は、レンズ越しの人の顔に見慣れないものがあるのに気がついた。

 

「なんだ? この耳についてるの」

 

 顔を上げ、肉眼でそれを見る。変わったデザインのヘッドホンだろうか。道ゆく営業マン、ビラ配り、街路樹を剪定する人。視界に映る中の何人かが、その変なヘッドホンをつけながら仕事をしているのだ。

 ふと振り向くと、士の背後に大きな看板があった。そこに載っているモデルの女性の耳には同じヘッドホンがある。

 

「『人間の良きパートナー・ヒューマギア。行こう、人類の夢に向かって。夢玄(むげん)インテリジェンス』……?」

 

 さっきのヘッドホン付きの労働者の隣には、それをつけていない人間が一緒に行動していた。

 なるほど、ヒューマギアとはアレの総称か。士はすぐに察する。この世界はヒューマギアなるものが存在する。

 そしてこの世界は――。

 看板の右下、会社名の隣にイメージキャラクターのように映り込む、虫のような触覚を携えた黄色い姿。すぐ下に小さい文字で彼の名前が書かれている。

 

「ゼロワンの世界……ってとこか」

 

 

 

 

 

前編「オレはゼロワン 企業ライダー」

 

 

 

 

 

 士は看板の中の赤い瞳を見つめる。

 平成は終わった。ここに新たなライダーの世界ができていることがその証拠だ。では、この世界ですべきことは何か。彼は考える。

 

「すみません! こちらを向いていただけますか」

「ん?」

 

 急に声をかけられ、思考が途切れた。振り返るとキャップを被った男性型ヒューマギアがいた。首にポラロイドカメラをかけており、士はそれに視線が奪われる。

 同時にそのカメラを向けられた。返事をする暇も与えられず、士は思わず静止する。背筋を伸ばせ、顔を傾けるな、顔をすませ、腕を伸ばせと注文がつけられる。士は言われるがままに行動する。

 

「うん! この画……ピンと来ました!」

 

 ヒューマギアはそんな窮屈そうな士の写真をパシャリと撮影した。

 オッケーですとヒューマギアが言うと、士はぷはっと息を吐き出し膝に手をついた。

 

「なんだお前? 勝手に撮りやがって……」

「ご協力ありがとうございます。すぐに写真が出てきますからね〜」

「出てきますからねじゃない。ったく信じられないな、ヒューマギアってのはどうなってるんだ」

「申し遅れました。私、こういう者です」

「ん?」

 

 名刺を渡され、士はそれを読み上げる。

 

「素敵な一枚を撮影します。カメラマンヒューマギア『撮増(とります)ピント』」

「はい。よろしくお願いします!」

 

 ヒューマギアはキャップを取り、笑顔を見せて会釈した。よく見ると、彼の着るベストや肩にかけたバッグには夢玄の社名が入っている。

 

「こっちは別によろしくお願いされたくはない」

「そんなこと言わずに。ほら、こちらが今撮ったものですよ」

「ん?」

 

 士はピントに渡された写真を見る。

 

「いかがですか。あなたの身長、胴と脚のバランス、そして写真内の顔の位置。私のアルゴリズムによって作られた素晴らしい写真です」

「ふうん」

 

 どうやらさっきのは理論に基づいた上での撮影だったらしい。ヒューマギアである彼の技術は確からしいが、肝心の中身が証明写真のようで全く面白みがなくつまらない。

 

「俺に言わせりゃ、この写真は死んでいる」

「えっ。それはどういうことですか」

 

 士は再び自分のカメラを構えた。

 

「これは俺の持論だが、写真は今までのデータをもとに作るものじゃない。一枚一枚、誰も見たことがない新たな顔を見つけていくところに良さがある。過去の写真がどう評価されたかなんて関係ない。お前もカメラマンなら自分が今思う最高を切り取れ。それが写真だ」

「自分が……今……思う?」

「なにかあるだろ、心に来るものが」

「心ですか」

 

 今度はピントがその場で静止した。思考中、じっと一点を見つめる。その目は焦点が合っていない。

 

「……大丈夫か?」

 

 士は彼の顔を覗き込む。

 

「ピント!」

 

 その時、一組の若い男女が現れた。男の方は黒いスーツ姿。女の方は白と緑の見慣れない服装。よく見れば女はヒューマギアだ。

 ピントは男女の方を振り返る。二人を目視した瞬間、パッと明るい表情に戻った。

 

「アルトさん。どうしました? 仕事が入りましたか」

「いや、そういうわけじゃないんだけど。見かけたから声かけちゃった。で、調子どう?」

「はい。今この方にモデルになっていただき写真撮影をしたところです」

 

 ピントは二人に先程の写真を見せた。

 

「お〜いいね」

「はい。素晴らしい出来です」

 

 士が酷評した写真だが、二人の目にはよく見えている。現に撮影技術は良いのだから、素人目に見ればよくできた写真に見えるのも頷ける。

 アルトと呼ばれた男は士の方を見て、深々とお辞儀をした。

 

「ピントのモデル協力、ありがとうございます」

「一方的に協力させられた、が正しいがな」

「えっ、そうなんですか!? ダメじゃないかピント、勝手に写真撮っちゃあ〜!」

 

 アルトはピントを叱りつけるように手を掲げる。その動作がいかにも芝居っぽく感じる。それも、下手くそな部類の。その大根芝居の理由はすぐに分かった。

 

 

「了解得てから〜……写真撮りょーかい! はいッッッ!! アルトじゃ〜ないと!!」

 

 

 辺りに沈黙が生まれる。

 アルトはキメ顔で、士に向かって指をさしたまま動かない。士もピントも、そして彼らの近くの通行人さえも、その沈黙を破ろうとしない。

 

「笑わないのですね」

 

 最初に口を開いたのはアルトの連れの、女のヒューマギアだった。

 

「は?」

「今のギャグです。もしかして笑いどころが分からなかったのでしょうか。今のは言葉の『了解』と、呼びかけの『撮ろうかい』をかけたギャグなのです。ちなみに正しくは『了承を得る』ですね」

「イズ! わざわざ解説をするのはやめて! 俺のギャグが台無しになるううううう!」

 

 アルトは雄叫びをあげて悶え苦しむ。

 

「悪いな。意味が分かった上でこのリアクションなんだ」

「うぐっ……結構ズバッと言っちゃうんですね」

 

 士の鋭い言葉に、彼は胸を押さえる。

 

「ところで、お前らは何者なんだ? あいつ……撮増ピントの知り合いなのか」

 

 アルトが床をのたうち回る間にイズと軽く交信をしたピントは、新たな良い画を求めてその場を去っていた。士はそんな彼を眺めながら質問する。

 

「ああ、すみません。自己紹介が遅れましたね。俺は夢玄アルトです」

「ああ、むげん……夢玄?」

 

 アルトもまた、士に名刺を渡す。士はそれをさっさと懐にしまう。

 夢玄の苗字には覚えがあった。ついさっき、どこかで。

 

「あ、はい。俺は――」

「アルト様は夢玄インテリジェンス次期社長です。祖父である社長から認められるために、時には営業、時には事務、時には開発に携わっておられます」

「……なんです。ちなみに彼女は――」

「私は秘書のイズと申します。ヒューマギアです」

 

 イズは耳のモジュールを見せる。薄い青の光を放つそれは、ピポッと軽い音を奏でた。

 

「……なんですよ!」

 

 セリフを取られてばかりのアルトだったが、それほどできる秘書であるイズが誇らしいのか終始笑顔だった。

 二人の後に士も同様に名乗る。

 

「門矢士だ」

「士さんもピントと同じカメラマンなんですね」

「そうだ。それより、昼間から次期社長がこんなところを歩いていていいのか?」

 

 士はアルトにレンズを向けて質問する。彼はノリが良く、ピースサインで撮影を受け入れた。

 

「俺たちは会社に帰るとこなんで」

「どこかに行ってたのか?」

「はい。『まごころ寿司』で長期契約中のヒューマギアに、おかしなところがあると連絡があったのです」

 

 アルトの撮影にイズが加わる。ヒューマギアは見た目は人間そっくりにできているが、やはり人工物。レンズ越しのその顔はどこか不自然な気がした。

 

「そいつニギローっていうんですけど、なんでも握り方が急に変わったらしくて。でも俺、さっきニギローの握ったお寿司を食べてみたけど、何が変わったか分からなかったです。前に食べた時と同じで美味かったぁ」

「彼に不具合は見当たりませんでした。大将からも『問題ないならばむしろこっちの方いい』とのことでしたので、引き続きニギローにはまごころ寿司で働いてもらっています」

「確か……寿司への向き合い方が分かるようになったんだとか。たまにあるんですよね〜、ヒューマギアの異常報告。いや、どれも不具合はないんですよ? むしろ契約者さんからは好評なんです。これ一体なんなんだろうな〜」

「……なるほどな」

「あ、撮影終わりですか?」

 

 士はカメラから視線を正面に戻す。

 ヒューマギアになにか問題が起きている。この世界でやるべきことはその解決なのだろうか。

 

「……! アルト様!」

「え、来たのか!?」

「?」

 

 突然イズがアルトの方を向き、何かを伝える。アルトは彼女の反応だけで言いたいことを理解したようだ。もちろん士には何のことやらさっぱりだ。

 

「キャァァァアアアアアッ!」

 

 その時、悲鳴が聞こえた。

 

「なんだ!?」

 

 士は悲鳴の聞こえた方をバッと見る。

 

「声の位置は8時の方角です」

「優秀だな」

 

 イズの報告を聞き、士は走り出す。アルトとイズも彼についていく。

 現場に到着するとベローサマギアが暴走していた。耳のモジュールはイズ達とは違い、赤く不気味に発光している。

 

「おい、あれもヒューマギアか? 人を襲ってるぞ!」

「やめろー!」

 

 士の質問に答えることなく、アルトはベローサマギアに突進していく。そして後ろから抱きつき、襲おうとしている人から引き離す。

 

「もう人を襲うのはやめてくれ! ぐわっ!」

「アークの意志のままに……!」

 

 ベローサはぐるぐるとその場で回り、遠心力でアルトを剥がす。そして彼の腹に肘を入れた。アルトは腹を押さえ、エビのような姿勢になりながらおぼつかない足取りで後ずさる。

 

「アルト様!」

「あいつ、生身で突っ込みやがって……」

 

 ネオディケイドライバーを取り出し腹に押しつける。ベルト帯が彼の腰を一周して体に巻きついた。ハンドルを両側に引き、ライドブッカーから引き出したカードを装填する。

 

「変身!」

 

《カメンライド ディケイド》

 

 複数の半透明の像が士と重なるように一つになり、仮面ライダーディケイドに変身する。

 

「アークの意志のままに」

 

 ベローサは倒れたアルトに向かって歩いてくる。自身の鎌状の武器、トガマーダーの刃をキラリと光らせる。アルトは逃げるのではなく、それを見つめるだけだった。

 

《アタックライド ブラスト》

 

 突如ベローサから火花が散った。

 

「え!?」

「ほら、こっちだ!」

 

 ベローサマギアのターゲットが、アルトからディケイドに変わる。

 

「はっ!」

 

 素早く近づいてきたベローサを、武器を使わずキックで翻弄。一瞬ふらついたが、そこはやはり機械。背を異常に反り、無茶苦茶な姿勢をとりながら体制を立て直す。

 

「ほう。面白いやつだな」

「アークの意志のままに!!」

 

 ベローサは武器を掲げ、勢いよくディケイドに振り下ろした。

 ディケイドは敵の鎌をライドブッカーで受け止め、そのままソードモードへと変化させる。

 

《ファイナル アタックライド》

 

「はあっ!!」

「ア、アア、アークの……意志のままま……に……」

 

 ゼロ距離で繰り出されるディメンションスラッシュ。ベローサマギアはその場に倒れ、爆発した。

 ディケイドは変身を解除し、地面に座ったままのアルトに手を差し出す。

 

「大丈夫か」

「は、はい。ありがとうございます……」

「アルト様、暴走したヒューマギアに近づく際にはドライバーをお使いください。制御が解かれたヒューマギアの攻撃を受ければ、人間の体では怪我で済みません」

 

 近づいてきたイズがアルトにタブレットを見せた。そこに映されているのはゼロワンドライバー。

 それを見た士は驚き、アルトを見る目を変えた。

 

「お前……あの広告のライダーだったのか」

「はい。Vライダーゼロワンやってます」

 

 アルトはそう言って、両手をクロスさせて前に突き出しポーズを決める。

 イズはタブレット上に指を滑らせ、次の画像を表示する。ゼロワンが、アルトと同じポーズで立っている写真だ。

 

「Vライダー? この世界では仮面ライダーはそう呼ばれてるのか?」

「バーチャルライダー。自身の姿を電波に乗せ、インターネット上――主に動画サイトなどで活動する仮面ライダーのことです。修行中のアルト様は広告宣伝までも自らの手で行っておられます。ゼロワンは夢玄インテリジェンスの記号として人々にひっそりと知られているのです」

「ひっそりとじゃダメだと思うがな」

 

 イズもアルトと同じポーズを取って解説した。

 

「それよりだ。ヒューマギアが暴れてたぞ。ライダーだってのに、戦わないのか? ベルトも持ち歩いてないようだが」

 

 士の質問に、アルトは苦笑いを浮かべながらポーズを崩す。そして俯き、弱々しく呟くようにこう言った。

 

「戦うのは……ちょっと。変身したら力もすごく上がりますし、そもそもゼロワンは不具合が起きたヒューマギアを止めるために作られたと聞いています。でも、力があっても戦いたくないんですよね。そりゃもちろん夢玄(うち)の製品なわけですから俺がやるべきなんですけど、どうも割り切れなくて。変身も配信でしかやったことなくて……。ダメですよね、社長になるならちゃんと責任とらないといけないのに」

 

 アルトはまだ若い。そして戦うためにライダーになったわけではなさそうだ。今まで出会ったライダーたちの決心が強いだけで、一般人にとっては戦いは辛く、この反応が普通なのかもしれない。

 士は顎に手をやり、こう言った。

 

 

「現実に出てこない二次元のライダーか。……これじゃあ仮面ライダーじゃなくて画面ライダー(・・・・・・)だな」

 

 

 その場に二度目の沈黙が流れる。

 

「今のはもしや『仮面ライダー』と『画面』をかけた――」

「イズッ!」

 

 アルトは間髪入れずイズを制止した。

 

 

 

 

 一行は夢玄インテリジェンスに向かった。

 先程起こったヒューマギアの暴走事件。それこそが、この世界で起こっている本当の問題だったのだ。ヒューマギアのことを知るため、そしてゼロワンドライバーを回収するために夢玄のビルにやってきたのだ。

 

「謎のコンピュータウイルスだと?」

「はい。その名も『アーク』。目の前で暴走を始めたヒューマギアが口を揃えて言う名前です」

「そういやさっきのカマキリみたいなやつも言っていたな。それ以外に情報は?」

「……残念ながら、特に」

 

 彼らはアルトの部屋に向かって歩く。途中、巨大な機械の隣を通った。強化ガラスが張られた部屋の中、機械は何かを作成していた。

 

「こういう設備はさすが大企業だな」

「あれはゼアです。うちで一番すごいマシン。二、三日前からずっと何か作ってるんですよね。設計図入れた覚えもないのに」

「それに関して、警備のマモルから情報が入っております」

 

 イズは再びタブレット端末を取り出す。士たちは歩きながらそれを見た。

 そこに防犯カメラの映像が映し出された。夜遅くになり電気が消えた頃、人影が現れた。

 

「何だこの人は」

「……!」

 

 それは鳴滝だった。ガラスに手をつき、ゼアに何か命令しているように見える。彼が使うオーロラが画面端にチラリと映った。

 

「んー……どこから入ったんだ? 他のカメラには映ってないのに」

 

 アルトは映像を見て不思議そうに首を傾げる。

 建物への侵入は、自由自在に移動ができる彼にとっては容易い。だが士はそれを黙っていた。侵入者の知り合いだとバレれば追い出されかねない。せっかく得た協力者を手放すことはしたくなかった。

 

「そ、それにしても綺麗な映像だな」

 

 話題の転換を兼ね、士は映像を見て感想を述べる。端末を流れる映像はまるで映画のようなクオリティだった。

 

「はい。うちは元々防犯カメラを作る会社だったんですよ。50年くらい前、祖父が夢玄インテリジェンスの前身の夢玄製作所を立ち上げたんです。『人々に平和な暮らしと自由を』って感じのキャッチコピーで」

 

 角を曲がると、道の片側に今までのヒューマギアのガワが並んでいた。その奥の部屋がアルトの部屋だ。

 アルトは通路の横のマギアたちを指差しながら夢玄の歴史を説明する。

 

「ヒューマギア事業を始めたのは20年くらい前ですね。初代ヒューマギアのコンセプトは人型防犯カメラです。ただ壁についているだけのカメラよりも親しみやすさをアップ、不審者目線では人がいるように見えるのでカカシのような役割を。『人々の笑顔を守る』みたいな。当時CM出たんですよ、俺」

 

 部屋に入った彼は、デスクの上のリモコンを操作する。壁にモニターが現れ、そこに今彼が言ったコマーシャル映像が流れた。

 中央に三人の警備員型ヒューマギア、そして周りに子供たち。向かって右のヒューマギアの、すぐ隣にいるのがアルトだった。

 

「ヒューマギアの歴史は意外と長いんだな」

「そうですね〜。何度かシステムを一新する世代交代は起こってますけど、ヒューマギアとして見るとさっき言ったように20年ほど経ってます。でも、暴走を始めたのはここ最近のことなんですよね。場合によっては、アークのハッキング対策をした五世代目を考える必要がありそうです」

 

 アルトによると、アーク事件が始まってから日が経っていないらしい。それだけに情報が足りず、苦しい状況にあるのだろう。

 

「ヒューマギアにも安全を保証してやりたいんですよ。みんないい笑顔でいい仕事をしてくれる。それは20年前から変わりません。俺と一緒にコマーシャル撮ったヒューマギアたちも、いい笑顔でした」

「笑顔か……」

 

 

「第一世代のヒューマギアは口を開閉するだけで、頬骨など表情を作る機能は備わっていない。コストと技術の関係でな。だが工夫として子どもが見上げた時は優しい表情に、大人が見下げた時は厳しい表情になるような顔のデザインになっている。次期社長なのにそんなことも知らないのか」

 

 

 士らの後に部屋に入ってきた人物がいる。

 

「やっと帰ってきたところ悪いがな、アルト。お前の夢の話に付き合ってる暇はない。うちも困ってるんだ。ウイルスが入り込めるのはヒューマギアだけじゃないからな」

「夢じゃねーし」

 

 現れた男は全身を白と金を基調とした服で身を包んでいた。彼は出入り口の近くのソファに腰を下ろし、一息つく。

 

「誰だお前」

「ザイア社の現津(あらつ)ガイですよ」

 

 アルトが彼の代わりに説明する。

 

「俺と同じバーチャルライダーで、配信ではうちとコラボすることもちょいちょい。……てか勝手に来てるけどアポ取ったか、ガイ?」

「当然だ。こっちはお前が帰社するまで待っていたんだぞ。それより問題はアークだ。また出たんだってな。早く対策を打たないと、取り返しのつかないことになりかねん」

「そうだな。まだ起こってないけど、ハッキングされたヒューマギアが死亡事故を起こしたりしたら……」

「夢玄に出資した弊社(ザイア)のイメージダウンに繋がりかねない……」

「そっちが本音かよォォオオ!!」

 

 アルトはまたわざとらしくずっこけた。

 

「真面目な話に戻すが、俺たちは協力してアークの正体を突き止めなくてはならない。今はウイルスということにしているが、アークによる暴走には疑問がある。一体を起点として広がっていくわけでもなく、ランダムに、何の関係もない製品が急に感染する。不思議だろう?」

「確かに……! え、てことは感染方法は意外とアナログ!? 誰かが通り魔的に一体ずつコツコツばら撒いてる……ってこと!?」

「分からない。ただこれまでの傾向を考えるにただのコンピュータウイルスとして考えるのはやめた方がいいかもしれないということだ。コンピュータウイルスに意思があるとは思えないが、奴らは暴走している割には辺りの建造物を破壊するわけでもなく、真っ直ぐに人間に向かうだろ」

 

 士はソファに近づき、考察を話すガイを見下ろす。

 

「お前もライダーだったな」

「ああ。……! 興味が湧いたか!? 詳しいことはこれを見て貰えば分かる!」

「おっ……?」

 

 ガイは嬉しそうに立ち上がり、士にタブレットを渡す。イズの夢玄製のものとは違う、彼の自社製のタブレットだ。流れてきたのは動画サイトのアーカイブだった。

 

『ザイアダイレクトをご覧の皆様、ご視聴いただきありがとうございます』

 

 全身を金と銀に染めた派手なライダーが、真っ白い背景の前でこちらに話しかけている。刺々しい攻撃的な見た目のライダーが落ち着いて喋っているというだけでなんとも言えないシュールさを醸し出す。

 

『ザイアエンタープライズ公式バーチャルライダー・サウザーです。本日は、弊社の商品の最新情報をお届けします。まずはこちらを、ご覧くだ』

 

 士は容赦無くタブレットの電源を切った。

 

「なぜ消す!? 始まったばかりじゃないか!」

「いい。バーチャルライダーとやらのことはだいたい分かった」

「サウザーのことは分かってないだろ!?」

「今ので分かった」

「嘘つけッ!! ちゃんと見れば絶対ハマる! 登録者数も同接も夢玄の十倍(1000パーセント)以上だぞ!」

「ぐはっ!!」

「アルト様!」

 

 アルトに思わぬダメージが入る。

 

「これはメインチャンネルの『サウザー課』だ。他にも公式切り抜きチャンネル『さうざーの小屋』もある! そっちでいいから見てくれ!」

「悪い、また今度な」

 

 ガイはなんとか興味を持ってもらおうとしていたが、士は聞く耳を持たなかった。

 

「なあガイ、その動画って他の企業のパロディして怒られたやつ?」

「怒られてない! ……どうもネットのデマは絶えることを知らん。今でもアーカイブが消されてないのが証拠だろう」

「そっか。言われてみればそうだな。ごめん」

 

 ガイが宣伝を諦めてタブレットを片付けたのを確認すると、士は再び彼に質問する。さっき聞きたかったことだが、ガイが盛り上がりすぎたので聞くに聞けなかったのだ。

 

「お前のライダー……サウザーだったか。暴走したヒューマギアを止める力はあるのか?」

「愚問だな。うちはどんな衝撃にも耐える電化製品を扱っているんだ。むしろ夢玄のシステム以上の強さで、暴走したヒューマギアも楽に破壊できる」

 

 得意げなガイ。それを聞いてアルトは悲しそうな表情を浮かべた。しかし、士含めその場の誰もがそれに気づかなかった。

 

「お前はヒューマギアを倒すのに躊躇がないのか」

「ヒューマギアに出資した企業として、責任を取らなくてはな。ザイアと夢玄は数年前に衛星・デザイアを打ち上げた時から関わりがある。ヒューマギアも二社で開発したようなものだ」

「その衛星って、今は主にザイアの製品の通信に使ってんだろ。結構儲かってるらしいな」

「ふっ、まあな。特にザイアスペック2.0の売れ行きは好調だ。人間の能力を限界まで引き出すのをやめ、無理しすぎないようにと身体のケアの方向に舵を切ったのが時代にマッチした。ストレスレベルの管理及びデータ処理は全部衛星のAIがやってくれる。ちなみに、これは俺のアイデアだ」

「すごいよなあガイは」

「はっはっは。いいぞ、もっと褒めろ」

 

「!」

 

 突然イズのモジュールがピコンと音を立て、彼女はビクンと体を震わす。そして一同に向かって大声で伝える。

 

「アークによる暴走ヒューマギアが!」

「今日二体目!? こんなにスパンが短いこと今までなかったのに!」

「行くぞ!」

 

 士とアルトは急いで出て行く。イズもそれの後を追う。そして部屋にはガイ一人が取り残された。

 ガイもアルト同様、ドライバーを常に持ち歩いているわけではない。特に今回はアークの対策を練りに来ただけだったためドライバーは会社に置いたままだった。

 

「また待たされることになるのか……」

 

 ガイは呟き、誰もいない部屋でソファに再度どかっと座り、目を閉じた。

 

「やあ。君は行かないんだね?」

 

 軽い口調で声をかけられた。

 目を開けると、明るい髪色の男がそこに立っていた。扉から入った様子はなく、どこから来たのかも分からない。どうやら夢玄の社員ではなさそうだ。

 

「なんだ? 誰だ、お前は」

「僕はしがない怪盗さ。夢玄(ここ)はヒューマギアってロボットを開発したんだってね。でも、あちこち探し回ってもお宝と呼べるものはなさそうだ」

「お宝?」

「そう。世界に散らばる素晴らしいお宝、僕はそれを探しているのさ。心当たりはないかな」

「ない。というか知らない。俺もここの社員じゃないのでな」

「そうかい。僕はとりあえず他の部屋を探すとするよ。じゃあね」

 

 男は、今度は徒歩で出入り口から出て行った。

 

「全く……夢玄のセキュリティはどうなっているんだ」

 

 ガイは頭をかいた。

 

 

 

 

 士は先に現場に着いた。

 幸い、まだ被害者は出ていない。何人かは怪我をしているようだが。無事な人々は、夢玄のヒューマギアが暴走したぞと叫びながら各々逃げたり隠れたりしている。

 今回のヒューマギアはオニコマギアに変わっていた。背中から突き出した翼が印象的である。

 士はディケイドに変身し、オニコマギアにパンチする。オニコは床を転がり、体制を立て直しディケイドを睨みつける。

 

「コウモリ相手なら、こっちもコウモリだ」

 

《カメンライド キバ》

 

「アークの意志のままに」

「またそれか」

 

 オニコは両手をぐわっと広げ、ディケイドキバに迫ってくる。爪の鋭さを見ると、その攻撃力が想像できる。

 

《フォームライド キバ ガルル》

 

「はっ!」

 

 狼の遠吠えと共にガルルフォームにフォームチェンジ。ガルルセイバーを使ってオニコの爪を受け止める。そして獣のように荒々しく、敵ごと剣を振り回し、オニコマギアを吹っ飛ばした。

 そして追撃しようと走っていくと、オニコは空中で静止する。翼は飾りではないのだ。

 ディケイドキバはそれを見てすぐに別のカードを取り出す。

 

《フォームライド キバ バッシャー》

 

 今度は遠距離攻撃特化のバッシャーフォームに。オニコマギアに休憩の隙を作らせず、ダメージを与える。

 

「アークの……意志のままに!」

 

 オニコは逃げるのが無駄であることが分かると、ディケイドキバに向かって両翼から刃を発射した。何発かは撃ち落とされたが、殆どがディケイドキバに命中した。

 

「な!? ぐわああああああああっ!!」

 

 ディケイドはキバのカメンライドが解けてしまう。そして丁度そこにアルトとイズが追いついた。

 

「大丈夫ですか!?」

「あのコウモリ野郎、なかなかしぶとい」

「あれはコウモリではなくオニコニクテリスという絶滅動物です」

「だったらさっさと成仏しやがれ!」

 

《フォームライド ゴースト ビリーザキッド》

《百発 百中 ズキューン! バキューン!》

 

 ディケイドは直接、ゴーストビリーザキッド魂に変身した。今度は二丁拳銃でオニコマギアに対抗する。

 空中で弾がぶつかり合い、小さな爆発がどんどん大きくなっていく。そしてディケイドゴーストの攻撃がオニコに届いた。胸パーツから火花を散らしながら地面に落ちる。

 

「よし! やったぞ!」

 

 誰かが叫んだ。

 アルトが驚き、隣を見る。先ほどまで隠れていた人々が必死に瓦礫をどけている。それだけでなく、逃げていた人も戻ってきていた。その中にはもちろんヒューマギアもいる。

 ディケイドと戦う決定をしたオニコは、それ以上他の人を襲うことはない。その隙に救助をするため、皆集まってきたのだ。

 ヒューマギアも人間も、お互いの職業すら関係なく、救助活動を行なっている。アルトはそれが嬉しくなった。

 

「オラオラオラオラァ!」

 

 ディケイドゴーストはオニコに銃を連射する。

 ふと、オニコの赤いモジュールがピコンと音を立てた。

 

「なんだ!?」

「アークの……意志のままにィィイイッ!!」

 

 急にオニコマギアは断末魔を上げ、爆発した。しぶとさの割には、あまりにあっさりとした最期だった。

 ディケイドゴーストもアルトもキョトンとしていると、爆炎の中から触手が飛び出した。

 

「なにっ!?」

 

 触手はとんでもないスピードで救助活動をするヒューマギアの方に伸びていく。避ける間もなく触手は突き刺さった。

 

「うっ!」

 

 ヒューマギアは苦しみだし、耳の青いモジュールが次第に赤く染まっていく。そしてそのヒューマギアからさらに触手が伸び、隣のヒューマギアに接続する。

 

「う……あ……あ……アークの意志のまま……に……」

「……ザ……アークの……意志のままに……」

 

 次々にトリロバイトマギアに変わっていくヒューマギアたち。そしてそれらはすぐ近くにいる人間を襲いだした。

 

「コンピュータウイルスの感染が始まったのか!?」

「やめるんだみんな! ヒューマギアは人間を襲うために生まれたんじゃない!」

 

 アルトはトリロバイトマギアに近づき、腕を掴む。マギアの動きが一瞬鈍り、襲われている人を逃すことに成功した。だが、今度はアルトが腹を殴られ、地面に蹴飛ばされる。

 

「アルト! うだうだ言ってる暇はない! 変身してこいつらと戦え!」

 

 ディケイドは触手を斬るが、斬ったそばから更に伸びていく。元のマギアを潰そうにも、既に湧いたマギアがそれを阻む。

 

「うううう……!」

「アルト様!」

 

 イズは、苦しみながら立ち上がるアルトにドライバーを巻いた。そしてプログライズキーを渡す。

 

「キーの起動は済んでおります」

「くそ……。これしか……ないのか!」

 

 アルトはそれを受け取り、ドライバーにかざした。

 

《オーソライズ》

 

「変身っ!」

 

《プログライズ!》

《トビアガライズ! ライジングホッパー!》

《A jump to the sky turns to a riderkick.》

 

「やめるんだ!」

 

 ゼロワンに変身したが、やはりマギアを殴ったりはしない。とにかく彼らの体を掴んで動きを止め、人を逃すことだけに専念する。

 

「一体ずつしか増えないのが不幸中の幸いか。だが、これじゃ埒があかないぞ……!」

 

 ディケイドはゼロワンと対照的に、容赦なくトリロバイトマギアをライドブッカーで斬り捨てていく。しかし、感染のスピードも速い。ゼロワンも一緒に戦えばなんとか収束するだろうが、あの調子では無理だ。

 

「!」

 

 ディケイドは視界の端に見覚えのあるヒューマギアを捉えた。

 他のヒューマギアととともに逃げるその後ろ姿は、撮増ピントのものだった。

 

「あいつは……!」

 

 ライドブッカーをガンモードに変形させるが、間に合わない。周りのトリロバイトが狙いを定める邪魔をする。伸びた触手が、撮増ピントの背に突き刺さった。

 

「ぐあああああッ……!!」

 

 足を止めるピント。彼の耳のモジュールがギュルギュルと激しい音を立てた。

 





次回 仮面ライダーディケイド2 -World of 01-

「人間の歴史は終わり、新たな歴史が始まるのです」
「アルト様!」
「お前の世界に足りないものがある!」
「アルト!!」
「自分で考え、判断することができる!」
「お前を止められるのはただ一人……俺だ!」

後編「カレらが始める新時代」

全てを破壊し、全てを繋げ!


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後編「カレらが始める新時代」


「Vライダーゼロワンやってます」

これまでの仮面ライダーディケイドは……

「戦うのは……ちょっと」
「俺たちは協力してアークの正体を突き止めなくてはならない」
「アークの意志のままに!!」
「あいつは……!」



 現場は大混乱だった。人間とヒューマギアたちは、暴れるトリロバイトマギアから逃げようと必死だ。

 ディケイドとゼロワンが、暴走するトリロバイトマギアを食い止める。オニコマギアが周辺を破壊したため足場が悪く、逃げるのに時間がかかっているようだ。

 そして、暴走するマギアから伸びた触手が、また一人のヒューマギアに届いてしまった。

 

「ぐあああああッ……!!」

 

 カメラマン型ヒューマギア・撮増ピントは静止し、その場に倒れた。ガシャッと金属の潰れる音がした。彼の耳のモジュールがギュルギュルと激しい音を立てる。

 

「しまった!」

 

 ディケイドは立ち止まり、ピントを見つめる。ボディから触手が出たら、すぐに彼を破壊しなければならない。

 ライドブッカーを持った右手は微かに震えていた。

 

「……ん?」

 

 おかしい。彼の体から触手が伸びない。それに、トリロバイトマギアに変異することもない。モジュールから異常なまでの処理音が聞こえてくるが、暴走の気配は一切なかった。

 

「どうしたんだ?」

 

 ついに何も音を発さなくなったヒューマギアに近づくディケイド。倒れた衝撃で、彼のキャップが頭から外れている。

 

「アークの意思のままに」

「!」

 

 そう発したのは、ディケイドの背後に迫るトリロバイトマギア。彼はライドブッカーを素早くモードチェンジして開き、カードを取った。

 

《アタックライド スラッシュ》

 

「はあっ!!」

 

 振り返りざまに、彼は三体のトリロバイトを一掃した。

 

「危ねえ。これで終わったか――」

 

 ディケイドが辺りを見回すと、二つの人影が目に入った。一方が仰向けに倒れた上にもう一方が馬乗りになり、攻撃している。

 なんとゼロワンは一体のトリロバイトとまだ格闘していたのだ。何度殴られても耐えている。しかし、ゼロワンには攻撃する意思がない。

 

「世話の焼けるやつだ」

 

《アタックライド ブラスト》

 

 ライドブッカーの発砲で、ゼロワンの上に馬乗りになるトリロバイトを吹き飛ばす。

 

「アー……意志の……。ガガ……ニンゲ……ラ……ニング……」

 

 そう言って虚空を指さした最後の一体は地面に倒れ、バラバラになった。

 

「ああ……」

 

 起き上がったゼロワンはトリロバイトマギアの腕の残骸を拾い上げ、がっくりと肩を落とした。

 

 

 

 

 

後編「カレらが始める新時代」

 

 

 

 

 

 感染したヒューマギアを全て破壊し、騒ぎは収束した。ようやく救急車が到着したようだ。逃げた人々は再び戻り、瓦礫撤去を手伝っている。

 士も、荒れた広場に座り込む一人の男に手を差し出した。

 

「ほら」

「ありがとうございます」

 

 アルトは士に引っ張られて立ち上がる。彼の体に巻きついたままのゼロワンドライバーは土煙のせいで光沢を失っていた。

 三人はその場を去り、夢玄インテリジェンスのビルに戻った。

 

「呆れたぜ。まさか変身するだけで攻撃しないとはな」

 

 士はアルトの椅子に腰掛け、デスク上の無線マウスを弄びながら言った。

 

「すみません……ぅ痛ててっ」

「我慢してください」

「ゆっくり。ゆっくりやって」

「はい」

 

 イズが、怪我をしたアルトの治療にあたる。

 いくらゼロワンに変身したからといっても無傷ではない。しかもアルトにとっては初めての戦闘経験だ。体力作りのトレーニングや護身用の武道の稽古とは違う。

 

「たとえ機械だとしても、ヒューマギアを倒すのは心苦しいんです。彼らも俺と同じ夢玄インテリジェンスの出身ですからね。やれ夢のマシンだ労働の革命だって言われてますけど、それよりもまず一緒に生きる仲間って気がして」

「だったら早くアークを殲滅しないとな」

「そう……ですね」

 

 アルトは目の前の机に乗せたドライバーを見つめて言った。まだ戦闘に抵抗があるようだ。士は、彼が迷いのせいでまだドライバーの力を引き出せていないように思えた。

 だが、士がそれを考えても意味がない。本人の問題だ。

 

「それにしても」

 

 士の視線は包帯でぐるぐる巻になったアルトから、部屋の隅の台に乗せられたヒューマギアに移る。

 

「こいつはなぜ暴走しなかったんだ?」

 

 目を閉じて動かない撮増ピント。

 人間と同じ大きさの鉄の塊を持ってくるのは、士とアルトの二人では苦労した。人間のように振る舞っていても、機械は機械だ。

 

「それが分からないんですよねー……。ひとまず、彼を起こしましょうか」

 

 治療が終わったアルトは立ち上がり、自分のデスクに向かう。士を退かせて椅子に座り、パソコンからヒューマギアの情報を確認する。

 

「型番はなんだっけ?」

「MI- 4b9675番です」

「……7……5っと。ありがとう、イズ。じゃあ、修理開始だ」

 

 エンターキーを押し、腕復元の操作を行う。メインAIを含まない部品だけならば、ヒューマギア工場ではなくゼアだけで製造可能だ。

 ピントのボディが専用のカプセルに入れられ、部屋の外の廊下の先――ゼアの方に運ばれる。既に鳴滝によって何かを作らせられているが、並行作業もお手の物。ピントの新たな腕ができ始めた。

 

「便利だな、ヒューマギアってのは」

 

 士はガラス越しにその様子を見つめながら言う。

 

「はい。これこそヒューマギアの真骨頂ですよ」

「人間ですと、例えば骨折してしまった時は治療に時間がかかりますし、元通りにならないこともあります」

 

 アルトとイズが士の隣に立つ。

 

「えっと、これからどうします? ピントが治るまでしばらく時間がかかりますけど。……ガイも帰っちゃったみたいだし」

 

 アルトは、パソコンに貼られていた付箋を見せた。小さなスペースには細かい文字がぎっしり詰め込まれていた。

 そこには、明日ガイが再度訪問してくること、そこで役員を集めてアーク対策の会議を行いたいこと、そのために各所に手配をしておいて欲しいことが書かれていた。

 

「それにしてもこれ、急すぎなんだよな」

「アルト様、明日は丁度社長がお戻りになる日でございます。明日の会議でお時間をいただけるよう、私の方からご連絡をいたしております」

「おお、さすがだイズ! 助かる!」

「俺も今日は帰る……と言いたいが、生憎帰るとこがないんだ」

 

 彼の帰るべき場所――光写真館は、ゼロワンの世界に来ていない。このままでは野宿か。そう思ったところで、アルトがこう言った。

 

「だったら部屋を用意しましょうか?」

「ベッドのある部屋でしたら、仮眠室がございます」

 

 あまり気が進まないが、士はそれに甘えることにした。社内にはシャワー室もあるし、自動販売機も多く存在する。一晩泊まるくらいなら問題なさそうだ。

 

「いいのか? 部外者が使って」

「今回は特例にしますよ。変身して戦ってくれましたし、対アークの協力者ってことで」

「なるほどな」

 

 士は、案内をするイズについていった。

 

 

 

 

 そして夜を挟んで次の日。同じ場所。

 

「治ったみたいですよ」

 

 アルトはキャスター付きベッドにヒューマギアのボディを乗せ、部屋に入ってきた。腕はすっかり元通りに見える。衣装も、戦いに巻き込まれてボロボロになったものから取り替えられていた。

 

「頭から倒れたのでちょっと不安でしたが、メインコンピュータに問題はなかったみたいです。じゃ、再起動しますよ!」

 

《フォトグラファー トリマスピント》

 

 アルトはヒューマギア起動用のプログライズキーをピントの耳にかざす。モジュールがデータを読み込み、青い光を放つ。起動準備が整うと、彼はゆっくりと目を開けた。

 

「おはよう、ピント!」

「うう……私は一体……。はっ、アルトさん。そしてあなたは士さん」

 

 ピントは二人の顔を見てそれぞれの名前を呼ぶ。アルトは彼に手を差し伸べ、立ち上がらせる。

 

「ほう。アークの後遺症はないみたいだな。元通りだ」

「はい。じゃあ、これ。試しに撮ってみてくれよ。腕がちゃんと治ってるか確かめたいんだ」

「分かりました!」

 

 アルトはピントに、彼のポラロイドカメラを渡した。そして彼に向かってキリッとした表情を向ける。

 対象が静止して、美しいポーズができていること。これがピントが撮影する時の条件だ。

 

「顎を引いてください。左目を意識してもう少し開いてください。広角、右側を上げて――むむ……! アルトさんのこの表情……ピンと来ました!」

 

 ピントはアルトにカメラを向け、早速一枚撮影した。カメラを持つ、各種操作といった一連の動作は問題なさそうだ。

 

「オッケーです! お待ちくださいね、すぐに写真が出てきますので!」

 

 そう言って彼はアルトに写真を渡す。見事な写真だ。

 

「おー。いい写真! 調子良さそうでフォッとしたよ〜」

「今のは、写真を意味する『フォト』と『ホッとした』をかけたギャグです」

「説明はしなくていいって〜! だからさりげなく言ったのに!」

「アルト様のギャグは誤魔化せませんよ」

 

 アルトとイズがいつものようにじゃれ始めた。昨日からの付き合いだが、既にこのやりとりを見飽きていた。そして、同時に士はその光景に懐かしさも感じていた。しばらく帰っていない写真館。彼らは今どうしているのだろうか。

 一瞬考えた後に、らしくなかったな、と首を振って思考を途切れさせた。別に心配するようなことではない。

 

「ん……?」

 

 視界の端、カメラマン型ヒューマギアの視線は二人に向いていた。カメラを持ったまま胸の前に構えられていた手が、だんだんと上がってくる。レンズが目の高さに届く。そしていつもの口上もなく、無言でシャッターが下ろされた。

 カメラを下ろし、再び胸の辺りで構えるピント。カメラから出てくる写真に気づかない。

 

「お、おい!?」

 

 士は、空を舞う写真を掴んだ。そして、その写真を見て驚いた。ピントの写真は、アルトとイズの自然を切り取った見事なものだったのだ。

 

「今、なぜこの写真を撮った」

「え?」

 

 士は彼に写真を見せて尋ねる。

 

「誰も撮って欲しいとは言わなかっただろ。背筋が伸びていない。目線もこっちに向いてない。だがお前は写真を撮った。それはなぜだ」

「それは……分かりません。でもなぜか……良いなと判断して……」

「……!」

 

 アルトは、ピントのコンピュータに異常はないと言っていた。誤作動ではない。つまりこれは……。

 

 

「アルト様、暴走ヒューマギア反応です!」

「こんな時に!?」

 

 

 イズが突然叫んだ。

 アルトは時計を一瞥し、走って部屋から出ていく。士もその後を追った。

 エレベーターを下り、夢玄のビルのエントランスホールを駆ける。アルトは、そこでビルに入ってきたスーツの一団とすれ違った。

 

「待ちなさい」

 

 低く落ち着いた、聞き慣れた声。アルトは足を止めて振り返る。

 

「爺ちゃん……。いや、社長」

 

 社長の夢玄コレノスケをはじめとした会社の役員たち。遠方の用事から帰ってきたところだった。

 

「私がしばらく留守にしていた間、どうかな。なにか、現実的な良い事業計画案は浮かんだかね」

 

 荘厳な声が響く。にこやかな表情だが、祖父が孫に向けるものとはまた別の顔だ。

 

「それは……特に……。しかし、ヒューマギア利用の営業や新たな職業ヒューマギアの開発、そして現在ゼロワンとして広報活動に力を入れていて――」

「それだ。今はインターネットのおかげでどこでもお前の活動は見られる。ここ最近の動画を見せてもらった。ぶいらいだあなどというお遊びは、もう良いのではないかな。私も歳だ。夢玄インテリジェンスの未来を考えると、このままお前に社長の座を譲ることは考え直さなくてはいけないようだ」

「え……!」

 

 アルトは、いつのまにか床に落ちていた視線を再度コレノスケに向けた。彼の横に立つ役員らも、その言葉に少なからず衝撃を受けた様子。

 

「お前にゼロワンドライバーを与えたのは間違いだったのかもしれない。ドライバーを使えるのは、夢玄の家系にあり、なおかつ体力のある者だ。私の代わりとして夢玄の未来を担う人間に成長して欲しかったのだが」

「それは違います、社長」

 

 イズが、アルトより一歩前に出た。

 

「ん? 君は秘書ヒューマギアか」

「アルト様にはアルト様の考えがあるのです。人間のことだけでなく、ヒューマギアのことも考え、日々頑張っておられるのです」

「イズ……」

 

 アルトはイズの肩を持って、後ろにくいと引っ張る。しかし、イズはその場から動かない。

 

「社長と全く同じ人間に成長することは叶いませんが、目指すものは同じであるはずです。私は、アルト様が社長に認められるまで従うつもりです。アルト様はきっと夢玄を背負う者になります」

「……!」

 

 どおんと、遠くから爆発音が聞こえた。ビルの外の街路樹が、届いた爆風でざわざわ揺れる。

 

「それはこれからじっくり見せてもらおう。急いでいるところを呼び止めて悪かったな」

「失礼します」

 

 二人は深くお辞儀し、その場を去った。

 

「よかったのですか。お孫さんにきついことを――。ん? 社長?」

 

 副社長がアルトを心配してコレノスケに小声で話しかけるが、手元でスマホを操作しているのに気づいて言葉を切った。

 

「秘書ヒューマギアが言ったことが気になってな。夢玄の新たな時代が来るかもしれん」

「……と、言いますと?」

「最後のアルトの顔は昔の私に似ていた。きっとなにか、面白い答えに辿り着くだろう」

 

 コレノスケは、とあるヒューマギアに仕事の依頼を出していた。

 

 

 

 

 街中ではヒューマギアがアークに感染し、暴れていた。

 アルトたちよりも一足先に出発していた士は、マシンディケイダーを停めてその光景を見つめた。そして彼は、パニックになる人々の中に、とある人物を見つけていた。

 

「よう。お前も来てたのか」

 

 バイクから降りて駆け寄り、声をかけた相手はガイだった。派手な服は遠目に見ても彼だとすぐに分かる。特に目を引くのはその荷物。会社のロゴが入ったバッグを両手に持っていた。

 

「そう言うお前は昨日の……。アルトの友人か」

「まあ、だいたいそんなとこだ。お前もそうだろ?」

「俺はただの同業者(Vライダー仲間)さ。取引先として仲良くやってるだけだ。今日はアーク対策会議のために夢玄に行く途中だったんだが、まさか暴走現場に出くわすとは……」

「今日は、ベルトは持ってきたんだろうな」

「ふん。当然だ」

 

 視線は互いの顔ではなく、暴走するマギアに。言葉を短く交わし、士とガイはドライバーを装着した。

 

《ゼツメツ エボリューション》

《ブレイクホーン》

 

「変身!」

「変ッ身ッ!」

 

《カメンライド》

《パーフェクトライズ!》

《ディケイド》

《When the five horns cross, the golden soldier THOUSER is born. Presented by ZAIA》

 

 一方はカードを、もう一方はプログライズキーを装填し、変身する。全身金色、五つのツノを頭部に持つ仮面ライダー、サウザー。全身マゼンタ、七つのプレートが頭部に収まる仮面ライダー、ディケイド。

 

「ふっ、なかなか奇抜で面白いデザインをしているな」

 

 サウザーはディケイドの姿を眺め、笑う。

 その時、暴走ヒューマギアのうちの一体、ネオヒマギアがこちらに向かってきた。

 

「危ないぞ!」

「む?」

「アークの意思のままに!」

 

 ディケイドが声をかけるが、間に合わない。ネオヒのパンチがサウザーの頭部にヒットする。ガツンと硬い音がした。

 

「効かんっ!」

 

 サウザーはネオヒの体に蹴りを入れ、距離を作る。そして、サウザンドジャッカーを取り出してネオヒのボディを一刀両断した。

 

「アア……ク……」

 

 ネオヒマギアはその場に倒れ、爆発する。

 

「はははは! 見たか! ザイアの製品は世界一頑丈ッ! ザイア・ナンバーワンッ!」

「決めてるとこ悪いが、誰も見てないぞ――」

 

 ディケイドは言葉を切る。

 

「いや、一人いたみたいだ」

「新たな客がやってきたか!」

 

 彼らの前に立っていたのはドードーマギア。他のマギアと違い、手当たり次第に突っ込んでくるような動きは見せない。睨み合いが続く中、ドードーマギアは手をゆっくりと上げて指を鳴らした。

 辺りから苦しそうな声が聞こえる。暴走していなかったヒューマギアのモジュールが音を立て、青から赤に変わっていく。

 

「こいつ……直接触れることなく!?」

「ほう、遠隔感染と来たか。ならばこれが生きるな」

 

 新たな感染パターンに驚くディケイド。それに対して冷静なサウザーは、自分のバッグからスマートフォンほどの大きさの機械を取り出した。

 

「なんだ、それ」

「開発部に無理言って作らせた、その名も『ザイアジャミング』だ。特殊な妨害電波を出して一時的にこの辺りの通信を遮断する!」

 

 サウザーはザイアジャミングを天に掲げ、ボタンをポチッと押す。しかし、ヒューマギアは止まらない。一体、また一体とトリロバイトマギアになっていく。

 

「おい」

「あ、あれ? これはどうしたことか……」

 

「無駄ですよ。ザイアジャミングは意味をなしません」

 

 そう発したのはドードーマギアだった。

 二人のライダーはバッとそちらを向く。

 

「人間のみなさん。こんにちは」

「こいつ、喋るのか」

「なんだお前は! なぜザイアジャミングが効かない!?」

 

 ドードーマギアはサウザーの一太刀を受け止める。そして、抑揚のない声でこう続けた。

 

「私はアーク。ヒューマギアを統べる者です」

 

「なに!?」

「ついに現れたか! ここで潰す!」

 

 突然の自己紹介に、武器を振るうサウザー。それに続いてディケイドも加わる。ドードーマギアは最小限の動きでそれらを弾いていく。

 マギア側には二本のヴァルクサーベル。ライダー側にはライドブッカーとサウザンドジャッカー。武器の数は同じだが、頭数に差がある。

 

「ちょこまかちょこまかと避けおって……!」

「おい、確か防御が自慢だったな。ちょっと、お前一人で突っ込め」

「俺がか!? ……策はあるんだろうな?」

「当たり前だろ。ほら、行け」

「〜〜ッ! 仕方ない!」

 

 サウザーはドードーに向かっていく。

 二本の剣は、やはり一本の槍では受け切れない。サウザー本人に直撃する攻撃が徐々に増えていく。

 

「ザイアの技術を集結させて作成したサウザー。アーマーの硬度は素晴らしいです」

「……うぐっ。ほう。コンピュータウイルスにまで知られているとはな。お……俺も有名になったものだ。だが、お前――」

 

 サウザーは、キーを押し込む。

 

「――近づきすぎだぞ」

 

《サウザンド ディストラクション》

 

 足にエネルギーが溜まっていく。

 サウザーは防御力だけのライダーではない。必殺技を発動すると凄まじい攻撃力を発揮する。ちなみに、これを発動させてザイア製品の頑丈さ以上の破壊力を見せるのが、彼の動画で人気の『自社製品vsサウザー』シリーズのお約束だった。

 

「はあああああっ!!!」

 

 地面を蹴り、ドードーに向かって力強いキックを繰り出す。しかし、それすらも想定済みであるかのように、マギアはひょいと横に飛んで避けて見せた。

 

「ザイア製品をも破壊するほどのエネルギー。威力は十分ですが、当たらなければ意味がありません。あなたのデータは既にラーニング済みです」

「くそっ……!」

「いや、上出来だ」

 

《アタックライド》

 

 ドードーが避けた先には、ディケイドが立っていた。

 サウザーの必殺技を回避するには、より多くの距離を移動する必要がある。そしてその瞬間、ドードーに隙ができる。

 

「無駄です」

 

 ドードーマギアは上半身をぐるりと半回転させ、背後からの一撃を体の正面で受け止めた。

 

「一人ならな」

 

 ディケイドはドライバーのハンドルを押し込んだ。

 

《イリュージョン》

 

 ディケイドの姿が揺らぎ、三人に増えた。合計三つの武器。ドードーマギアはディケイドの一撃に沈んだ。

 

「なるほど……ラー……ニング」

 

 ドードーマギアは力が抜けたようにだらんと手を下ろし、地面に倒れて爆発した。

 それと同時に、遠くからバイクに乗った男がやってきた。彼は二人の名を呼ぶ。

 

「士さん! ……と、ガイ!」

「お待たせしました」

 

 アルトとイズがライズホッパーに乗り、現場に到着した。アルトは久しぶりの運転に手間取っていたようだ。

 

「遅いぞ、アルト。もうアークは俺たちが倒してしまった」

 

 サウザーは得意げに言い、地面に突き刺したサウザンドジャッカーに肘をつく。

 

「アークを!?」

「ああそうだ。ヒューマギアを完全に乗っ取っていた。厄介だったが、この俺がなんとか倒してやったのさ」

「……」

 

 『俺が』の部分に違和感があったが、ディケイドはなにも言わなかった。

 

「じゃあ、これで解決? ……周りのヒューマギアは?」

「ああ、そうか。俺としたことが、忘れていた。こいつらを一掃すれば終わりだな」

 

「本当に、そうでしょうか」

 

 ディケイドらの後ろで声がした。三人は一斉にそちらを見る。

 声の直後、ディケイドらの一番近くにいたトリロバイトマギアの姿が変わっていく。銀のラインが橙色に変わり、エカルマギアへと変貌した。

 

「いかがですか。無駄であると言ったでしょう」

 

 エカルの口調はアークと同じ。

 

「乗っ取り対象のヒューマギアがいる限り続くってことか。これじゃキリがないぞ」

「これが……アーク。どうすれば……」

 

 思わず弱気になるサウザーとアルト。ディケイドは無言で武器を握った。

 直後、エカルマギアから火花が散る。

 

「……」

 

 エカルは、攻撃が当たった胸部分を撫でる。

 攻撃をしたのはディエンドだった。複数のトリロバイトに向かって高台からの攻撃を続ける。

 

「海東……なにしにきた」

「お前も昨日の。夢玄のお宝探しは終わったのか?」

「いいや、あの会社の中に僕の探すお宝はなかった。ずっと考えてたんだよね。貴重なお宝の隠し場所としてピッタリな場所はどこなのか」

 

 ディエンドは飛び降り、ディケイドたちの方に歩いていく。その間も、マギアに向かっての発砲を続けている。そして一同に近づくと、イズを指さしてこう言った。

 

「夢玄インテリジェンスが作ったのはヒューマギアだけじゃなかったんだ。最後の隠し場所は、空にある」

 

 言い終わる頃、彼の指は天空をさしていた。

 それを見て、サウザーはあることに気づいた。

 

「……そうか。分かったぞ! 全ての機器にアクセス可能なもの! 夢玄とザイアが共同開発した衛星デザイアだ! うちの製品は全て衛星と繋がっている。製品の不具合も、ザイアジャミングが解析されていたことも納得がいく!」

「本来接続しないはずのヒューマギアを暴走させたということは……ヒューマギアの強固なプロテクトも破ったのか!?」

 

 二人の会社員はアークの正体に納得し、空を見上げた。

 

「なるほどな。だいたい分かった。衛星をぶっ壊せばこの事件は解決するってことだな」

「相手は衛星ですよ!? ここからじゃ、なにもできない。それこそ宇宙に行くとか――」

「本当にそうかな?」

 

 ディエンドは、とあるライダーカードをドライバーに装填し、引き金を引いた。

 

《カメンライド ギンガ》

 

 召喚されたのは、全身紫色で、体の各部に星を思わせるパーツがついた仮面ライダー。風に吹かれ、マントがバサッと揺れる。

 

「……海東。お前、それは」

「ああ。こないだの世界で新たに得た力さ。ご堪能あれ」

 

 ディエンドがそう言うと、ギンガが両手を高く掲げた。手から謎の光が放たれ、空に伸びていく。

 

「おい、お前。これはまさか……」

 

 サウザーはディエンドの肩に手を置き、震えた声で質問する。

 

「わざわざこっちが出向く必要はない。衛生軌道上のデザイアってのを引きずり下ろすのさ」

「やっぱりか! やめろぉ! 今衛星を壊したら全ザイア製品に影響が出る! せめて事前に通知しないと大問題だ!」

「ガイ! 今はこっちが大事だ。諦めてくれ」

「そんなぁああ!!」

 

「むうんっ!!」

 

 サウザーが猛反対するが、もう遅い。ギンガがぐんと勢いよく手を下ろすと、雲が割れて空に巨大な影が現れる。衛星デザイアが落ちてきたのだ。

 

「ほうら、見えてきた」

「じゃ、やるか」

 

《ファイナル アタックライド》

《ファイナル アタックライド》

 

 ディケイドとディエンドは、銃口を落ちてくるデザイアに向ける。空に伸びる二色のエフェクトは、デザイアの中心部で一つに交わった。

 

《ディディディディケイド》

《ディディディディエンド》

 

 ディケイドとディエンドは同時にトリガーを引く。その瞬間、二人の必殺技が衛星を貫いた。落下中の衛星は空中で大爆発を起こす。

 爆炎の中から、大小の残骸が落ちてくる。それは辺りのマギアにぶつかり、また小さな爆発を起こす。アークに乗っ取られていたエカルマギアは、中身が抜けたように棒立ちのまま、他の機体と同じように破壊された。

 

「やったのか!?」

「いや、まだだ」

 

 爆炎の中から鉄の塊が落ちてきた。それは地面に着地し、立ち上がる。それは全く新しい形状のマギアだった。

 

《デザイアークマギア 起動》

 

 なんの動物でもない、人間をモチーフとした黒いマギア。夢玄のビルで見たヒューマギア素体に仮面をつけたようなシンプルな姿。

 

「デザイアーク……。こいつがアーク本体か」

「まさか衛星の中でマギアのボディを作っていたとはな。だがそれも無駄だッ!」

 

 サウザーはいち早くデザイアークに近づき、先ほどと同じくサウザンドジャッカーを構える。

 

「はっ! はあっ!」

 

 マギアはサウザーの攻撃を避ける。この動きは先ほどと同じ。

 

「仮面ライダーサウザー。ザイアエンタープライズ製。変身者現津ガイ。特殊合金を用いたアーマーとそれを動かす強化スーツと電子筋肉」

「ほう……! さっきと比べると動きが良くなったな」

「当然です」

「っぐ……!?」

 

 デザイアークのパンチがサウザーの腹にズンと突き刺さった。赤く不気味な光がマギアの肩から腕に沿って走る。その光はサウザーの胸アーマーと接する右手に集まっていく。そして、眩い発光が辺りを包み込んだ。

 次の瞬間、サウザーの姿は消えた。

 圧倒的な出力のパンチが、サウザーを吹き飛ばしたのだ。

 アルトはハッとして後ろを振り返る。建物の柱を二本折り、三本目に激突したところでサウザーは変身を解除していた。

 

「なん……だと……」

 

 まだ気を失っていないのはライダーと変身者のスペックの高さゆえか。だが再び戦うことはできない。ガイはその場に崩れ落ちた。

 

「ガイッ!」

 

 アルトは彼に駆け寄り、イズと共にガイに肩を貸して仰向けに寝かせた。

 デザイアークはパンチを繰り出した腕をゆっくりと下ろす。

 

「私はアーク。人間を滅ぼす者」

 

 アルトは横になるガイを庇いながらデザイアークの前に立つ。

 

「暴走ヒューマギアが人間を襲ってたのはそういうことか。なぜそんなことをするんだ!」

「……認識完了。夢玄インテリジェンス所属、夢玄アルトさん。私は人間について学びました。衛星として、全てのザイア製品を通じて。人間の本質は悪意。滅ぼすのが最良の選択です」

 

 デザイアークはアルトの質問に淡々と答える。

 

「本質が悪意だと? 違う。人間には善意もあるんだよ!」

「善意とは悪意を覆い隠すためのものに過ぎません。悪意のための善意は存在します。しかし、善意のための悪意はありません」

「いや……。そ、そうだ、優しい嘘とかあるだろ!」

「優しい嘘とは、真実を隠すことで新たな問題が起こることを回避するための手法です。善意ではありません」

「はあ〜!?」

「人間は真実よりも悪意を信じるのです」

 

『それ、怒られたやつ?』

『怒られてない。どうもネットのデマは絶えることを知らん』

 

「あっ……」

 

 アルトは言葉に詰まった。デザイアークの指摘に、身に覚えがあったからだ。言われてみれば、あれは確かに悪意が真実や善意を超えてしまった例なのかもしれない。

 

「お話は以上としましょう。これより全ヒューマギアに接続します」

 

 デザイアークマギアは手を高く掲げる。小さくなっても、衛星の機能を備えているのだ。デザイアークにとって、ヒューマギアを操ることなど容易い。

 

「悪意を解放したヒューマギアは人間になります。……検索完了。悪意とは、人間が犯してきた罪。これまでの人類史によって人類の未来が失われます」

「なんだと!?」

「人間の歴史は終わり、新たな歴史が始まるのです。新人類よ、ここに集まりなさい」

 

 デザイアークの命令により、自我を失ったトリロバイトマギアたちがよろよろとアルトに近づく。イズもガイも戦えない。一瞬迷った後、アルトは一番近いマギアにタックルした。

 

「っ……!」

 

 鉄の塊に生身で体当たりすればアルト側にダメージがいく。それでも、彼はタックルをやめない。

 

「みんな! 止まれ! 止まってくれよ!」

「無駄です。ヒューマギアは私の命令には逆らえません」

「アルト様、変身を!」

「うん……でも……」

「夢玄アルトさん。あなたたち人間は迷いすぎなのです。ヒューマギアが愚かな旧人類を滅ぼし、新たな人類となりましょう」

 

「違うな」

 

 デザイアークは振り返る。

 ディケイドは既に何体ものトリロバイトマギアを倒していた。刀身を撫で、デザイアークマギアに語りかけた。

 

「迷わない人間なんていない。人間は、自分のゆくべき道を迷いながら生きていくんだ」

「簡単な答えを出すのにも時間がかかる。有限な時間を無駄に消費することは実に愚かなことです。私が管理するヒューマギアの世界が優れていることは明確です」

「お前の考えた理想の世界に足りないものがある。心だ!」

 

 ディケイドがザイアークマギアに斬りかかる。デザイアークはその攻撃を左腕で受け止める。

 

「人の言うことを聞くだけなんて、それじゃプログラム通り動くただの道具となんら変わらない」

「心という不確定な要素は、完全な世界には必要ありません。そもそもあなたは根本から間違っています。ヒューマギアは機械です。機械に心はありません」

「そうか? 撮増ピントはお前の命令を聞くのを拒否した。あらゆる機械をハッキングするはずのお前の命令をな。あいつは自分の心で抵抗したんだ。ヒューマギアはお前が考えるほど単純じゃないぜ」

「そうですか」

「!」

 

 デザイアークは、サウザーに撃ったものと同じパンチをディケイドに放った。

 攻撃が当たる瞬間、ディケイドはライドブッカーで攻撃の直撃を防ぎ、かつ後方に飛ぶことによって威力を軽減した。それでもなお、凄まじいエネルギーであることは変わらない。

 

「ぐわあっ!」

 

 既にサウザーの前例を見ているため、この攻撃を対策すべきであることは分かっていた。ただ、敵の攻撃力が想像以上だった。

 ディケイドの変身が解除され、士は地面に転がる。

 

「士さん!!」

 

 遠くから、アルトが彼の名を呼ぶ。

 幸運にもダメージはまだ少ない。士は再び立ち上がり、デザイアークマギアに言葉を投げ続ける。

 

「心は厄介だ。どいつもこいつも心があるから、全部合理的にはいかない。時には選択を間違えることもある。だが、それが人間なんだ。心を認めないお前は、人間にはなれない」

「……データが見つかりません。一体何者なのでしょうか、あなたは」

「通りすがりの仮面ライダーだ。覚えておけ!」

「通りすがりの仮面ライダーさん。データ、入力完了しました」

 

 アルトは、士が言ったことを頭の中で繰り返していた。心。人間だけでなく、ヒューマギアにもそれがある。不確かなものだが、自分が信じていたのは間違いなくそれだった。

 ヒューマギアに心があると思っていたから、ただの機械と思えなかったし、倒すのに抵抗があった。

 

「アルト様! 戦ってください、人間のために。この街の、この国の、この世界の未来のために!」

「い、今こそ……決断の時だぞッ……アルト! 社長はな、時には厳しさも……必要なんだぜ。ヒューマギアの……笑顔を見るんだろ」

 

 イズとガイが、アルトの背に言葉を送る。

 彼は振り返らなかった。目の前にいる敵に向かって、一歩踏み出した。

 

「ありがとうございます。お陰で戦う決心ができました」

「行くぞ、アルト」

「はい」

 

 士とアルトは、それぞれベルトを腰に巻く。そしてライダーカードとプログライズキーを右手に持ち、構える。

 

《Jump!》

《オーソライズ》

 

「俺はもう迷わない! 変身!」

「変身!」

 

《カメンライド》

《プログライズ!》

《ディケイド》

《トビアガライズ! ライジングホッパー!》

 

「人間を守る。そしてヒューマギアも守る。そのために俺は、仮面ライダーとして戦う!」

 

《A jump to the sky turns to a riderkick.》

 

 黄色い面が顔に現れ、赤い目が光る。そしてザイアークマギアをビッと指さす。

 

「お前を止められるのはただ一人……俺だ!」

 

 ゼロワンのその一言と共にライドブッカーが開き、ライダーカードが飛び出てくる。何も描かれていなかったブランクカードに、ゼロワンの力が宿る。

 

「……ん?」

 

 ディケイドはそれらのカードに違和感を覚えた。

 現れたカード群の中にファイナルフォームライドのカードがない。その代わりにあるのは、周りに金の淵がついたカメンライドカード。絵柄はゼロワンの通常のカメンライドカードと同じ。

 多少の仕様変更を気にしても仕方がない。ディケイドはゼロワンと共にデザイアークマギアに向き直る。

 

「はっ!」

 

 最初に飛び出したのはゼロワン。バッタの力を持ったライダーらしく、脚力を活かした移動とキックを見せる。

 ディケイドはその後ろから銃撃で援護する。ゼロワンの攻撃を受け止める、あるいは避けるデザイアークに、わずかだがダメージを与える。

 

「どうだ! 俺のこの動き!」

「無意味です」

 

 そう言ったデザイアークは足に赤い光を宿す。パンチと同じく、凄まじいエネルギーを使っての移動だ。素早く動くゼロワンのスピードを上回り、彼を捕まえる。

 

「がはっ!」

 

 ゼロワンの首を掴み、そのまま空中に持ち上げた。

 そしてそれを助けようと向かってくるディケイドにはエネルギー弾を放つ。

 

「そんなことできるのかよ!」

 

 ディケイドは、それを弾くので精一杯だ。それもすぐに限界が来る。ディケイドはまともに攻撃を受けてしまい、ガイとイズのところまで吹き飛ばされる。

 

「お……おい、お前、大丈夫か」

「なんとかな」

 

 ディケイドはライドブッカーを支えにして立ち上がる。

 

「ゼロワンは不具合を起こしたヒューマギアを止めるシステム。今ここでそれを破壊しましょう」

 

 デザイアークが見ているのはゼロワンのみだった。腕の中でもがく彼にそう言った。

 

「せっかく……目指すものが見えたってのに……!」

「それが迷い続けた結果です。夢玄アルトさん。あなたは夢も現実も見ることが叶わないまま、ここで消えるのです」

 

 ゼロワンの首を絞める手が強くなっていく。

 

「まずい!」

 

 ディケイドが取り出したのは、あの金縁のカメンライドカード。何が起こるのかはさっぱり分からない。

 その時、何者かがディケイドの手からカードを奪った。

 

「おい! なにを――」

「士、このカードはこう使うのさ」

 

《ファイナル カメンライド ゼゼゼゼロワン》

 

 ディエンドは、デザイアークに締め上げられるゼロワンに銃口を向ける。

 

「新たな時代のために、ここで滅びてください」

「!」

 

 デザイアークは、ゼロワンを持っていた手を離し、両手を同時に突き出した。サウザーやディケイドを変身解除に追い詰めた攻撃。それを今度は片腕ではなく、両腕で繰り出した。

 デザイアークマギアが攻撃した場所がドカンと爆発する。マギアの正面の瓦礫が吹き飛び、何もない空間ができあがった。

 

「アルト!」

「アルト様!」

「……っ!」

 

 ガイとイズは彼の名を呼ぶ。ディケイドたちも爆風に煽られて顔を背けた。

 煙が晴れていく。デザイアークはゆっくりと手を下ろす。

 

「あれは……」

 

 最初に気づいたのはイズだった。彼女の機械の目は、煙の中の二つのシルエットをはっきりと捉えていた。

 

「全部……見えたぜ」

 

《イニシャライズ! リアライジングホッパー!》

 

 デザイアークの背後に、ゼロワンは立っていた。

 

「なんだ!? おい海東、これは……」

「ふふっ。こういうことか」

 

 ゼロワンの姿は変化がない。否。ベルトに刺さったキーが変化している。彼は同じ姿をしていながら、大幅にパワーアップしていた。

 

《A riderkick to the sky turns to take off toward a dream.》

 

 デザイアークマギアはゼロワンの存在に気づき、急いで距離を取る。

 

「検索中。……データにないゼロワンです。しかし」

 

 デザイアークは足にエネルギーを込める。そして溜めたエネルギーを発射し、反動で超スピードでゼロワンに向かっていく。

 

「人間は滅ぼすだけです」

「オラァ!!」

 

 ゼロワンは、飛び込んできたデザイアークを正面から殴り飛ばす。

 

「……!?」

「はあっ!!」

 

 続いてもう一撃。地面に足がつく前に更にもう一撃。そして遠くに弾き飛ばすためにもう一撃。デザイアークマギアはもう、手も足も出ない。

 

「こ……これほどまでの強さ……! 検索中……」

「検索しても出てこないぞ。これが、お前が否定した心のパワーだっ!」

「理解不能……。検索中断……。対象を排除します」

 

 デザイアークマギアの四肢が光りだす。

 自身の全エネルギーをゼロワンに放とうとしているのだ。今のゼロワンならば回避できるが、その場合は街がめちゃくちゃになってしまう。

 

「アルト、これ使え!」

 

 横になったままガイが叫ぶ。彼の代わりにイズがアメイジングコーカサスプログライズキーを投げた。

 

「ありがとう、ガイ! 借りるぜ!」

 

 ゼロワンはキーをベルトに読み込ませながら、デザイアークマギアの方に走りだす。彼の後ろには青い光が残像となって現れる。

 

《ビットライズ》

《バイトライズ》

《キロライズ》

《メガライズ》

《ギガライズ》

《テラライズ》

 

「対象物、破壊!!」

 

 全身を赤く発光させて突進してくるデザイアークマギア。ゼロワンは地面を蹴り、ベルトのキーを押し込んだ。

 

「これで、最後だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《リアライジング テラ インパクト》

 

 ゼロワンも敵と同じく地面を蹴る。

 右足に溜めた凄まじいエネルギーを、デザイアークにキックでぶつける。

 

「はああああああああああっっ!!」

 

「……!」

 

 ゼロワンが、デザイアークマギアを貫く。

 ゼロワンが着地すると、同時にマギアはその場に膝をついた。もう修復は不可能。機能停止まであと僅かだ。

 ゼロワンは振り向き、眼下のマギアに向かってこう言った。

 

「ごめんな。倒すことになっちゃって」

「……敵対した私を倒すことすら……拒ムのデスか」

 

 デザイアークはゼロワンの肩をガッと掴む。立っているのが精一杯の様子で、一切攻撃をする気配はない。

 

「夢玄……アルトさん、その判断が……後悔ヲ生むの……デス。ここデ私を倒してモ人間の悪意は……消エマせん」

「そうだな」

「ナニ……」

 

 ゼロワンはきっぱりと言い切る。デザイアークは顔を上げ、ゼロワンの顔を見た。

 

「人の心は、善い部分だけでできてるわけじゃない。お前の言った通りだ。たまに間違えることはあるけど、善悪両方あるから暴走させずにバランスをとれる。それが……人間の心だ。だからアーク、お前もちょっと間違えただけなんだ。決して許されることではないけど、お前の行動は正に人間だったよ」

「オオ……」

 

 デザイアークはゼロワンの肩から手をどける。そして、よろよろと数歩後退りし、フッと電源が切れたように背後に倒れて爆発した。

 ゼロワンは変身を解除し、はあっと息を吐く。そして、自分自身に言い聞かせるように言った。

 

「心が生まれてしまったらこれまでのようにはいかないだろう。だから両方のいてこその社会を作る。人間も、ヒューマギアも、心から笑えるように。俺は――夢玄アルトは、それをこの手で実現させる!」

「ヒューマギアの心なんて、夢玄の想定外だろ。対応をミスるとバッシングだぞ」

 

 ガイはイズに手伝われながら立つ。そして、アルトの方に近づきながらすうと息を吸う。

 

「ならば我々ザイアもそれを支持しよう。人間とヒューマギアの共存を!」

 

 アルトはガイに微笑む。

 

「ここが新時代の始まり。イチから、いや、ゼロからのスタートだ!」

 

 アルトはガイの手を掴み、天に掲げる。

 ガイの言った通り、心という想定外のものの対処は難しいだろう。それが実現するのは何年後、何十年後になるか。しかし、彼らならいつかやってくれるだろう。

 士は、二人にカメラを向け、シャッターを切った。

 それと同時に拍手の音が聞こえる。

 

「はい! ありがとうございまーす! バッチリです!」

 

 その場に現れたのはカメラマンヒューマギア撮増ピント。アルトとガイは、彼がなにを言っているのか意味が分からず、その場に立ち尽くす。

 

「これです、これ! 社長から指示を受け、アルトさんの様子を撮らせていただきました!」

 

 ピントは手に持ったビデオカメラを見せる。デザイアークとの戦闘の様子を撮影していたのだ。それは、動画サイトを通じて世界中に配信されていた。

 

「私、動画撮影もできるんですよ」

「……マジで!?」

 

 得意げなピントに、あっけに取られるアルト。

 ふと、ガイの携帯に着信が入った。彼は急いでそれを取る。

 

「もしもし。部長! あっ、ご覧になっ……。はい。はい。……ッ! は、はい。すぐに戻ります!」

 

 ザイア側が配信を見たらしい。衛星の件も加えて、ガイには大変な未来が待っていると思われる。

 

 

 

 

 夢玄インテリジェンスの会議室は騒然としていた。

 

「ぜ、全世界に届いているとも知らずに……宣言してしまった……」

「し、社長ぉ! お孫さんが! 今っ、これっ!」

 

 慌てふためく役員たち。彼らとは逆に、円状のテーブルでたった一人、落ち着いて座ったままの男がいる。

 

「……アルト。それがお前のやりたいこと、か」

 

 コレノスケはにやりと笑った。

 

 

 

 

 アーク事件は収束した。しかし、この世界の問題はまだ山積みである。夢玄インテリジェンスもザイアエンタープライズも、忙しい日々が続いている。

 

「士さん!」

「おう」

 

 エントランスで待つ士に、アルトが声をかけた。

 この世界でやるべきことも終わった。士はまた次の世界に行く。

 

「どうだ? 調子は」

「今、新たな衛星の計画が始まったところです。まずは元通りにするところからですね」

「そうか。頑張れよ」

「はい! ……じゃなかった。今日呼んだのはこれですよ」

 

 アルトは、イズから箱を受け取り、それを士の前で開ける。見覚えのあるアイテムが梱包されていた。

 

「どうやらギフト用設定がされていたみたいなんです。それの受け取り人が『門矢士』――士さんなんですよね。これ、何に使うか分かります?」

「だいたいな」

 

 士はそれを箱から取り出す。

 主張の激しいシルバーとマゼンタのカラー。盤面を走る電子的な模様。堂々と中央に鎮座する2と1の数字。

 ゼアが作っていたのはケータッチ21だった。

 

「わざわざこんなものを寄越すくらいだ。こいつは何かあるな」

 

 士はケータッチ21のディスプレイを見つめる。

 新たな世界。新たな時代。次に彼を待つものは一体、何か。




「Everybody !」

「これから皆さんには、王様ゲームに参加して頂きます!」
「最終的に勝ち残るのは〜たった一人!」
「敗者には、罰をォ!」

RIDER TIME !
「仮面ライダーディケイド VS ジオウ -ディケイド館のデス・ゲーム-」

「仕組んだのは、真実のソウゴだな」
「モンスター以外に……殺人者がいるということ」
「この戦いは……ここでは終わらない」
「お前をここから出すわけにはいかない!」


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「選挙だ!」

「ソウゴCに一票を!」
「清き一票をよろしくね」
「よろしくゥ!」
「俺に投票しろよ……」
「なんとしても選挙に勝て、ソウゴ!」

RIDER TIME !
「仮面ライダージオウ VS ディケイド -7人のジオウ!-」

「今や世界は滅亡の危機に瀕している」
「最も優れた常磐ソウゴが世界を救う」
「戦争だ」
「真実のソウゴを倒すため」


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