カオ転三次 転生者がガイア連合山梨支部を作る話 (カオス転生三次っていいよね)
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それぞれのきっかけ

 ぶちゅりと生肉を齧る音がいやらしく響き、塞がれた口から絶叫の破片が少しだけこぼれている。

 

 呆れるほどに何もないまま終えて、人間関係も薄いままで・・・父さんや母さんや兄さん姉さんよりずっと早く死んで・・・

 だからあり得るはずのなかった二度目は必死に頑張ってきた、一緒の体にいるほんとのこのお家の子供と一緒に。

 なのに・・・これはないだろう。不条理だ。

 

「ムゥゥ!!ムゥゥゥ!!!!!」

 

 おかあさんが泣きわめく、犬頭の怪物に抑えられて声にもならないままに。

 

「ガフっ!ゴフっ!ウマイ!ウマイ!」

「うぅん・・・いぃぃ恐怖だ、あぁ・・・たまらない」

 

 お父さんが食べられていく、料理するように、恐怖を引き出すために散々に嬲って腕も足もなくなっちゃった後で。

 幽霊みたいなのがねっとりと感情を味わい恍惚とした表情をして、犬頭ががっつく。お父さんはあっという間になくなっていった。

 

 

「あぁぁ、熟成も進んで。これならいい、やはり人間を食べる時は家族ごとに限る、おっとコボルト君、余り急がないでくれよ、メインがまだなんだから

 じっくり悲鳴を上げさせるんだ、そうすれば・・・ンふふ」

 

 じゅるりとこちらに意味深な視線を向けて、舌なめずりをする・・・まさか、僕?僕なのか?僕がいたから、お父さんも、姉さんも?

 

「ンゥゥゥゥ!!!ンゥゥ!ンゥ!!!」

 

 お母さんが食われて行く、恐らく何に食べられているかすらわからないまま・・・足が食われた、腕が食われた・・・反応すらなくなったのをつまらなく思ったのか幽霊がなにか魔法を使って回復させて、胴体を伝って・・・心臓と頭を飲んだ。

 

「あぁぁ・・・なんと甘美な・・・これほどの素質の持ち主が絶望に染まり切って・・・」

「ニクゥ!!ウマソウナニクゥ!オレ、コイツ、マルカジリィ!!」

 

 いよいよメインの時・・・らしい、二度目は終わり、この子の命も一緒に。

 いやだ、死なせたくない、死にたくない!何か、何かないか!涙すら浮かべて足掻こうとする僕を見てまた一段とうまそうになったと笑う悪魔達を横目に必死に探る。

 魔法は、あいつのを見たからちょっとはわかるはずだ、縛られてるのはどうすればいい、攻撃って!?

 

 

(ねぇ)

 

 今君を死なせないように必死に手段を探してるんだ、君も!

 

(いいよ、使って)

 

 ・・・何を

 

(このままじゃ二人とも終わっちゃう、お母さんもお父さんも姉さんも殺したアイツらに何も痛い目見せることなく。だから・・・いいよ)

 

 何を言っているのかわからない!早く何か、何か見つけなきゃ!

 

(キミの魂はきっと僕よりずっと力がある・・・だから、だよね?その上使っちゃったらきっと僕は・・・

 けど抑えなくっていいよ・・・もう)

 

 うるさい!二人で生き残るんだ!

 

「ンんぅぅぅ、ちょっと味が落ちて来ましたか?熟成させようと思いましたが・・・欲張りすぎたみたいですねぇ

 食べなさい、コボルト君」

 

 ぐわっと犬頭の大口と牙が迫る・・・あ

 

(生きろ、キミならできるはずだ)

 

 

 

 その日、家族はみんな死んで、ボクは本当の意味で産まれた

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「くそっくそっ!!こいつら分かってない!終末が来るのよ!」

 

転生者専用雑談スレ

 

6:名無しの転生者

嘘乙、俺一般人だけど入れてるし

 

10:名無しの転生者

拗ねちゃってスレ主書き込んでねぇじゃん。面白そうだったのになー

 

18:名無しの転生者

ここでオフ会って出されたこの神社潰れかけじゃん、そんなにお客欲しいんでちゅかー

 

20:名無しの転生者

第二カルパのメノラー言えたら信じてやんよ

 

24:名無しの転生者

反応無いな、逃げたか

 

27:名無しの転生者

やっぱ偽モンか

 

 

 

「メノラーって何よ!カルパって!?なんでピクシーのフォルマとかで来ないのよ!これだから無駄に捻くれたオタクはぁ!!」

 

 完全に信じない方向に流れてしまった掲示板を諦め、立つ。

(チラシ・・・また刷らないと、駅のもはがされてたからまた・・・)

 

 私に特別な力やカリスマなんてあるわけないとわかっている・・・けど、やらなきゃならないんだ・・・あの人達はいないんだから。

 一応ある現地勢力の細い伝手をたどっても、ネットをどれだけ探っても、何にも出てこなかった。居ないのかまだ動いていないのかは分からない、だけれど調べる限り大破壊はもうそう遠くないはずだ、霊地の活性化や悪魔被害の増加・・・ここから先はもっとひどくなるだろう、前世で通った流れだ。

 もう動かないといけない、なら覚えている私がやるしか・・・

 

 

 チラシを抱え、ポストに無理やり詰め込まれた紙を捨て、寂れた神社を出る。

 

「あぁぁ・・・ヤな天気」

 

 空は、今にも雨が振り出しそうな曇り空。

 

「雨・・・漏らないと良いなぁ・・・直してくれる工務店もないし」

 

 ひとりぼっちで頼れる仲間もなく・・・足は重かった。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

 授業をさぼって情報収集に入り込んだ学校のコンピューター室で、場末の掲示板から何から全て片っ端から漁って怪しいものを片っ端から調べる。

 あまりにも見覚えのある悪魔、それと対峙した時に目覚めた力・・・創作物に転生とか妄想だろうと思っていたが、町の影、墓地や路地裏の怨念や悪意の吹き溜まりを回れば状況証拠はいくらでも貯まっていった。

 

 殴れる相手ならいい、俺が使える数少ない魔法に耐性持ってないのでもいい・・・だが複数耐性持ちなんていっくらでも思い当たる。それ以前にソロで生き残れるようなもんじゃない・・・切実に仲間が欲しかった。

 そんなときに目に入ったのが過去ログにしまってあった微妙な名前のスレッドだった。

 

 

転生者専用雑談スレ

 

1:名無しの転生者

 このスレッドは転生者だけが入れるスレッドです、協力して大破壊に備えましょう

 

2:名無しの転生者

もし集まれるようならうちの神社へ来てください、一応本物のオカルト系神社だから覚醒の手助けとかできます

 

 

3:名無しの転生者

あ、住所張ります

116.jpg

 

 

 

 荒らされた挙句33レスで過去ログに仕舞われているが・・・この感覚、最近いやになるほど味わった魔法だとかそういうものの気配を感じる。

 それにカルパにメノラー・・・3だったかな、荒らしに来てる匂いもするしスレ主とは関係ないだろうがどうやら本物もいるらしい。

 罠の可能性もある、だが罠なら逆にこんな雑な真似はしないだろうという思いもある・・・

 

 悩んでいるとガラガラと荒っぽく入り口が開き、教師が殴り込んでくる。

 

「平ぁ!!授業にも出んと高い備品を勝手に弄りおって!ウイルスにでも感染してたらただでは置かんぞ!」

「ちょうどいい、これ何に見える」

「あん?真っ黒じゃないか、からかっとるのか!!」

 

 覗き込み防止フィルムなんて良い物はない、そしてこの反応は明らかにマジのキレ方だ・・・アタリか。

 椅子を蹴飛ばして立ち上がり、わめく教師を無視して計画を立てる。

 

(住所は分かってる、不良になっておいてよかったな、学校のさぼりと外泊が楽だ。

 さて・・・何人かね、出来れば5人くらいはいてほしいが)

 




ぶっちゃけうまく行ったのって元々転生者同士交流コミュニティできてる状態で行った→実際バリバリ実力派かつ大規模な神社持ちのショタオジが色々してくれた→覚醒者が覚醒者を呼ぶ
の連鎖したことが大きそうなので、初手でぶっこんで荒らしに食いつかれたらそこで止まるよねという…


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ガイア連合山梨支部結成

「山梨県H市・・・ここか」

 

 怪しげな掲示板に乗せられていた、おそらく俺と同じような転生者のスレ主がオフ会で集まろうとしていた神社へ行こうとさっさと列車に飛び乗って飛び出した。

 自由に動けるように普段から不良していてよかったと思う、二度目の家族に情が沸きすぎない様にと始めたことだが学校をさぼろうがどこに行こうが諦められているというのはこういう時便利でいい。

 

 しかし・・・なんとも言えない場所だ、良くも悪くも悪魔どもと関わってきたおかげでそういう雰囲気は掴めるようになってきたが、そもそもの流れる力が大分少ない空気がある。

 周りの土地は富士山始めとした山々に囲まれて大層にぎやかなことになっていたが・・・ここはぽっかりと穴のようになっている。

 悪魔だの異界だのが発生するような場所というのは霊地として扱われ、根付いた霊能者がきっちり管理しているというのはこっそりと隠れて観察してきて理解した。重要な霊地には相応の歴史も持った家が充てられるだろうし弱い所ならばそれもまた相応の家を当てるだろう・・・つまるところ

 

「あまり期待しない方がよさそうだなこれは」

 

 ハズレを引いたらしい、まぁ仲間の一人も見つかればそれでいいのだと思って諦めるしかないだろう。

 少しばかり重くなった足取りを進めていると、掲示板の前で爺さんと子供が話している。見た所中学くらいか?一体なんでまたこんな時間に、学校あるだろうに。

 

「まぁ私としては持ってってくれるんならそれも良いけどねぇ、そんなもんどうしようっていうんだい?」

「神社までの地図にします、行ってみたかったんですよ、日埜神社に」

「物好きだねぇ・・・あんな寂れた神社に」

 

 どうやら俺と目的地は一緒らしいが・・・一般人か?都合が悪いな、まぁ向こうで何か考えてくれてると良いんだが・・・

 しかし一般人目線でも寂れていると来たか、本気で外れかこれは。

 

「寂れているから行ってみようかと、廃墟とか好きなんですよ」

「ハハハ、なるほどねぇ。あぁ、あそこの娘さんには気を付けてね、そのチラシ見てもらえたらわかるだろうが・・・

 全く境内の掃除もせずにこんな怪しげな遊びを、まぁツアーだとかでお金稼ぎたいってのもわからなくはないんだけどねぇ、お参りに行く人もほとんどいなくなっちゃったし、けれどねぇ、だからこそ」

 

 愚痴を垂れ流しだした爺さんの言葉を聞き流し、チラシとやらを盗み見る・・・女神が転生する、転生者よ集え、異能に覚醒しよう、世界を襲う大破壊に備えて。

 見れば明らかに俺のような存在向けだ、しかも戦う思考を持っている。一応一人仲間ができそうだって事で喜ぶべきなのか、唯一のあてがこんなカルトもどきなことにがっくり来るべきなのか・・・

 チラシを見ていたことに気づいたのか、子供がこっちを・・・・・・!?

 

(おい・・・あの目、いや、一般人相手だから抑えていたのか、やべぇな・・・俺よりは確実に強い)

 

 アタリだ、コイツがいるだけで大当たりだ。神社なんぞに行かずにこいつだけ連れていきたいくらいだ。

 口パクで駅の外で待つとだけ伝えてサッと外に出る、爺さんに見つかるとヤバそうだ。

 

 温くて甘みが人工的でやたら口に残る・・・如何にも昔の自販機のココアだな・・・

 ずるずると現代のモノを思い出すと悲しくなってくるココアを啜りつつ待っているとすぐにあの子供が出て来た。

 どうやら向こうもこっちに話があるらしい、不良としてかなりアレな姿をしているというのにずんずんとこちらに近づいてくる。

 

「あなたも?」

 

 チラシをこちらに見せてくる・・・指先は転生者の所に合わせて・・・やはりか

 

「あぁ、よろしく」

 

 指先から魔力で転生者同士と字を書いて本意を伝える・・・伝わったらしい

 

 

 

―――――――――――――――

 

 ざくざくと荒れ果てて石段にも欠けが多く、コケが生えた上に落ち葉が積もってぬるついて滑る寂れた神社道を歩きつつ転生者だというお兄さんと話す。

 ・・・それにしてもこの人はでだなぁ、金髪でピアスもしてて、これが渋谷系?

 

「はぁ!?掲示板ってさっきの駅の掲示板の方かよ!どんな巡り合わせだ」

「僕はむしろインターネットの掲示板なんて方法で探してたことに驚いたのだけれど・・・よくそれで信じたね?」

「怪しげな術の痕跡があったからな、マジモンっぽいのも居たから無駄にはならんだろうと思った。一から探す手立ても無いからなぁ、藁にも縋るってやつだ」

 

 派手な割に内容はきっちりしているし、考えているのはあの時僕が襲われたような悪魔への対策・・・見た目と違って真面目だなぁこの人。

 僕も家族を失ってからは片っ端から悪魔を狩りながらホームレス小学生してたが、その僕から見てもそれなりに強いし実践経験も多そう。

 小技も豊富で頭も回すし組織力がいるってところまで頭を回してる、ほんと意外な人だ。

 

 ちまちまと話しながら歩いているとすぐに神社が見えてくるが・・・これはひどい

「・・・こりゃ期待しない方が良さそうだな・・・」

「まぁ・・・うん」

 

 蔦が絡みまくった廃墟一歩手前と言わんばかりの小さな本殿、水の枯れたコケだらけの手水場、欠けた狛犬・・・社務所は家を兼ねているんだろうが、表に傘を出しっぱなしで放置してるのはどうかと思う。

 まぁとりあえず行ってみるが・・・人いるのかなこれ、宣伝で集めても逃げるんじゃないかなこれ。

 お兄さんがぽちぽちとインターホンを押すが・・・鳴ってるのかなこれ、僕は人並み外れて耳が良くなったはずなのに何も聞こえない。

 

「・・・鳴ってねぇなこれ、上のランプも反応してねぇ・・・ボロボロだなこりゃ・・・」

 

 ・・・これほんとに人いるのかな、からかわれた?いやおじいさん曰く変人の娘さんがいるらしいし居るには居るんだろう。

 お兄さんはとりあえず押しまくってみることにしたようだ、まぁもしかしたら鳴るかもしれないしね。

 

「おーい、来てやったぞー、オフ会とやらに。とっとと出てこー」「うるっさいわねキンコンキンコン!!」

 

 ばしゃぁんと派手な音とともに引き戸が開く・・・あ、ガムテ張ってたガラス落ちた。

 ぎちりと不機嫌そうな隈の浮いた目、手入れしてませんとばかりにぼっさぼさの髪・・・それでも肌艶が妙に良いし力を感じる、まさかこの人が。

 

「苦情なら受け付けないわよ!あのチラシは必要なの、あと父さんと母さんはしばらくいないからね!開店休業!わかったらとっとと・・・あんたたち、誰?」

「お前がチラシと掲示板で呼んだお仲間だよ・・・帰っていいか?」

 

 その後の大喜びとみっともないくらいの勢いでの引き留めは名誉のために伏せておくことにする。

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 初対面からやらかしてしまったが・・・ついに転生者が来た!掲示板もチラシも無駄じゃなかった・・・

 前世から転生者の才能は分かっている、実際目の前にいるでかい不良っぽい金髪ピアスも、ちっこい美少年も、覚醒して現地勢からは若手のホープとして養子に誘われまくっている私が全く勝てる気も勝とうという気もしないバケモノだ。前世基準でいえばヒラだけど。

 とりあえず来歴から何から全部ぶちまけて協力要請する腹見せ戦略で行こう、てか私それしかできない、ただの元事務職兼掲示板管理人その5だし。

 

 全部話し終わるとぐりぐりと頭痛をこらえるような金髪ピアスと宇宙猫美少年がいた。

 そりゃそうなるよね!!

 

「あー・・・つまりだ、まず女神転生ごちゃまぜだと、この世界は」

「えぇ、そうね、メシア教会くらいは見たでしょ、あいつら無駄に勢力大きいし。分かってたんじゃない?」

「信じたくはなかったがな・・・それで世界は数年だか数十年だか後に盛大に破滅すると・・・」

「前世の記憶はちょっと曖昧だけれども、海外は相当悲惨なことになってたし日本もミサイル撃退パーティーが連日連夜ってくらいの事にはなってたわ。

 その始まりの全世界的霊地同時活性化は今世でも起こってるし地方は破綻しだしてる、起こるでしょうね、また」

 

「それでこれが一番わからないが・・・あー、アンタは同じような世界で一回目を経験して二回目だと・・・マジかよオイ」

「えぇ、マジよ、だからこそあんな手使って集めたの、前世では成功してたからね・・・まぁ関わった人がすごかったからでしょうけれど、私がやるとこれだし・・・」

 

 ずぅんと頭を抱える私と金髪ピアス・・・なんか一番気持ち通じた気がする、いや多分気のせいだ。

 二人仲良く沈んでいるとメガテンもあんまり知らなかったっぽい美少年が声を出す、ごめんたぶんめっちゃ気まずかったでしょ君。

 

「えぇっと、話はよく分からなかったけれども、なるべく多くの人を助けるために動くって事で・・・良いのかな?」

「えぇ、まぁね」

 

 実際問題そっちの方が良い、自分だけ生き残るぜ―!とかやるよりは無私の心っぽく動いて周囲の協力集めまくった方が生き残りやすい。

 ・・・まぁそういう生臭いこと言うと嫌われそうだから言わないけど、純粋そうだし。

 

「それで当面は悪魔が本拠地にしている異界とかそのなりかけを徹底的に潰していく?」

「そうそう、うちは元々富士近辺の霊地からぽっかり空いた空白地帯に逃げ込んできた悪魔対応しつつ派遣やってた零細だからあんまり大きなのはないけどね。

 けどそんなのでも大きい所の対応能力は割かれてるし、一般人が入ったら死ぬ。潰しておくに越したことは無いでしょ。

 一般覚醒者であるアンタら二人を連れ回すのは良い顔されないかもしれないけれど・・・実力主義で天才に相応しい仕事与えてるだけって事で押し通すわ」

 

 あとそうやって宣伝すればそれなりに集まってくるだろうし・・・転生者釣りだすのは失敗した以上、現地勢力取り込んでデカくしていくしかないだろう。

 若手にヤバイ現状を憂いてこのままでいいのかって意識持ってるのがかなりいることは実地で関わって知ってる。

 実力主義掲げて天才三人がとんでもない勢いで小さいとはいえ片っ端から大量に異界を潰してる、それも古いやり方捨てて明るい未来のビジョンも(実際知ってるから)あるとなればそれなりに惹かれるのはいるはず。 

 

「なら、僕は参加する。普通の家族を守れるんなら・・・戦うよ」

「っっっシャア!!!!!ありがとう!」

 

 思わずガッツポーズを取ってしまうが美少年くんに引かれてはいない様だ、良かったぁ!!

 ・・・まぁ金髪ピアスは引いてるんだけれど、その金髪ピアスもがりがりと頭を掻いてため息をつきつつ返事を寄越す。

 

「異界巡りができるんなら文句はない、アテにしていいんだな?」

「私の占術なめんじゃないわよ、異界発生外したことは無いわ」

 まぁ感知できなかったことはあるけど・・・そこは秘密にしておこう。

「ならよろしく・・・とりあえずはな」

「まずはそれでいいわ。ありがとう!ありがとう!」

 

 

 これで転生者の仲間ができた、しかも気配から戦闘向け!何歩前進できたか考えるのが怖いくらいだ、夢じゃないわよねこれ!!

 

「っと、今更だが言ってなかったな、俺は九条義孝、覚醒者だ。

 感知と霊視はそれなりに自信がある、戦闘もそこそこにできる、武器はなんでも使うスタイルでスキルはアギとブフ持ちだ」

「僕は源葵・・・よくわからないけど変身して戦える、刀使って戦うなら結構自信はあるかな」

 

 思った通り戦闘向け!しかもゴリゴリ前衛と中衛・・・回復持ちその他諸々後方支援りせちー枠の私にピッタリじゃない!

「私は日埜佳乃占いからナビに移動中の回復、呪術防御、戦闘以外ならなんでもござれよ、よろしく」

 

 ぎゅっと手を重ねて仲間としてきっちり誓う・・・くぅぅ、やっと、組織ができる!

 

「それで、名前はなんかあるのか?前のそのデカい転生者の組織にだってあったんだろ?」

 

「ん?えぇ、名前はもう決まってるわ」

 

 ヤバイ名前だし反発されるかもしれない、けれども私にはあれ以外もうしっくりこないのだ、だからここはごり押し手でも決める。

 

 

「「どんな名前」だ?」

 

 重なった声で問いかけてくる二人に思いっきり胸を張って名乗ってやる、前世日本をほとんど制覇していたその組織の名前を。

 

 

「今日から私たちは、ガイア連合山梨支部よ!!!」

 

 

 反対されたけど押し通してやった、はっはっは!!




ぶっちゃけ佳乃はやっぱり凡人では無理なのかってバリバリ絶望してたので願いが叶ってテンションが振り切れました
義孝はとりあえず何かをしなければ、が形になってくれてちょっと張り切ってます
葵は協力してみんなを守ることができる仲間ができたことに普通に喜んでます
つまり3人とも割とはしゃいでまふ


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ガイア連合山梨支部活動録

 思いっきりアクセルを踏んだ車を走らせつつミーティングを行う、まぁ占いで人こないかどうか確かめてるし認識されづらくしたうえで人避け全開で通る道に近寄ることすら避けたくなるようにしてるから問題ない!

 ・・・まぁ思いっきり悪用だけれども異界多すぎてこうでもしないと回る速度が・・・中異界以上の一個抑えればそれなりに効果あるのと違ってウチに回されるような小異界は数が勝負だ。

 

「今日回る予定で今のとこ抑えてるのは6つ、これから私が式飛ばして知り合いに回してもらう予定のが15、発生するはずの異界が8、いつも通り全部潰すわよ。

 移動時間も考えると全部20分以内、思いっきり駆け足で行く。

 ただし4番目と13番目、18番目に行く予定の異界は注意しなさい、多分レベル10は超えてそうなそれなりにヤバイのがいるみたい、着いたときまた言うわね」

 

「了解、補給はどこで取る?」

「5番と14番、食事も用意しておいてもらうからそこで取って」

「わかった」

 

 ガイア連合山梨支部を立ち上げて一月、こうして寝泊りできるように改造したマイクロバス(私一人で受けてた依頼のお金が大体飛ぶくらい高かった)に葵と義孝を詰め込んで小異界つぶしのドサ周りをするのも慣れて来た。

 はっきり言ってかなり無理押しなやりかたをしているとは思っているが、実際問題構成人数3人で拠点もしょぼいにもほどがある霊地と零細にもほどがあるうちの組織で、人の耳目を引きつけて人を集めたり中異界、大異界に入れるような評価を得るには才能に頼った無茶をせざるを得ないのだ。

 戦闘要員の二人がかなり意識高く文句も言わずに付き合ってくれる天才という恵まれすぎた引きのおかげでこんなことができている。

 はっきり言って頭が上がらない、ほんとありがとう。

 

 無茶の成果で若手の中にはガイア連合に協力してくれる人間も増えて来た、中には山梨のまとめ役やってる神社の跡取りなんて大物もいるくらいだ。

 ・・・まぁお父さんに頭抑えられているからほんと跡取りとして動かせる範囲、でしかないがありがたいことには変わりない。

 おかげでこの車に着けている回復術式も改良して二人を万全に保ちやすくなった。

 

 ぎゅぎぎぎとドリフトに派手にタイヤが唸るのを聞きつつアクセルを踏み、ちらりとミラー越しに最低限のミーティングを終えたら即眠りに入っている頼もしい二人を見る。

 万能型で弱点をきっちりついてひるませたり道具さえあれば冷静な判断力で回復、立て直しなんでもござれの義孝。

 あの公式チートのヨシツネ(まぁ外見が某運命なのは置いておく、本人もなんでか分かってないみたいだし本霊が女装でもしたがったと思っておこう)、のデビルシフターな葵。

 ・・・この二人が運よく来てくれて協力してくれている、それだけで転生者数百人なんかより価値がある様にすら思える、私も頑張らないと。

 

 思っている間に最初の異界に着いた、ブレーキをかけて周りに焦げた匂いをばらまきながら止まる。

 さて、後はもう起きだしている頼もしい二人を送り出して根回し裏方仕事の始まりだ。

 

「葵!義孝!ついたわよ、お願い!」

「あいよ」

「一つ目、早く片付けようかお兄さん」

 

 扉を開けて異界を指し示した途端にだん、と勢いよく踏み切って勢いよく突入する・・・もう見えないわね。

 さて、多分・・・10分くらいかしら?

 覚醒者として跳ね上がった身体能力と、慣れを生かして手紙を大量に仕上げて印鑑を押す。

 あとはこれを送って3つ次の異界攻略中に返事を受け取る、地元組織のメンツを立てるために許可を取ったって形はいるのだ。

 まぁ実際は組織内の私らの協力者とか私を買ってくれてる知り合いが即許可して返信を即出しているんだからあってないようなものだが。

 

 ばっと式神にした手紙を送り出すと同時に異界が消えて二人が帰ってくる、よっし間に合った!

 

「おかえり、お疲れ!」

「魔石だ、頼んだ」「ただいま」

 

 義孝が少し疲れた顔で挨拶も無しに魔石を投げてよこし、露出過多美少女ヨシツネになったままの葵が挨拶だけして座席を改造した畳床に転がって即座に寝息を立てる。

 やはり小異界とはいえどこの短時間でとなると相応に疲れるらしい。

 なら後は私の仕事だ、魔石を回復術式の燃料代わりに叩き込んで二人を回復させ始めるのを確認して即座に移動を始める。

 

「次行くわよ!すぐ着くから18分寝てなさい!」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「次、そこ右だ。少し待て・・・よし」

 

 佳乃の占術で作った地図を片手に悪魔を避けて走る。

 ゲームだったら片っ端から狩るんだろうが・・・消耗を避けないと予定数異界を潰す前に俺たちがつぶれる。

 俺たちが倒す数が減ればそれだけ他の組織の余裕が削られる、転生者である俺たちと現地人の才能格差があるとしても数と重ねた年代は嘘をつかないというのも確かだ、可能な限り生き残らせたい。

 

 異界突入前に教えられた此処のボスの弱点は推定だがアギ、ジオ系は無効、物理耐性持ち、なるほど警戒するわけだ。

 葵と言う絶対的な物理火力を持ち、佳乃のサポートで体力を確保できる俺たちはかなり強いが、物理以外はまだ薄い。

 俺も日埜神社で積んだ多少の修行では小器用さの方を優先していたから火力と言う意味では心もとない。

 

 まぁ、勝つが

 

「この部屋だ、行くぞ!」 

「うん!」

 

 ばきりと音を立てて扉を蹴破り異界の主に相対する、と同時に問答無用でアギをぶち込む。

 

「ガ?!貴様ぁぁぁぁぁ!!」

「聞いてる暇なんてないんでなぁ!とっととくたばれ悪魔野郎!」

 

 口上を言い捨てると同時にアギで怯んだ植物型の異界の主は物理耐性すら無視する勢いの葵に無言の4連撃を叩き込まれ体積が半分に減っていた。

 

「あいかわらず俺の相棒は頼もしいことで!オラ、怯め怯め!」

「ギュゥゥァァァァァ!!!!!」

 

 動こうとするたびに俺がアギを叩き込み、葵が刻む。

 異界の主が沈黙するまで一分と無い速さだった。

 

 さて、力だけはため込んでたおかげでレベルアップもしたが、大変なのはここからだ。

 

「葵、道覚えてるな・・・行くぞぉぉぉぉ!!」

 

 異界が崩壊する前に最短距離で大脱出、それも道中で出会う悪魔を逃げず、仲間に警告する暇すら与えずに殺し尽くしながら。

 深刻にトラエストが欲しい。

 

「右前方!」「了!!」

 

 全速力で音を立てずに走りつつ、途上に探知した悪魔の位置を伝え、葵が切り捨てた直後にアイテムやマッカなどめぼしいものを足を止めずにガメる。

 我ながら大分物欲に染まって見える真似だが、零細のウチには取りこぼしている余裕などないのだ。

 悪魔の血を弾き飛ばしつつバックパックをいっぱいにしていると光が見える、よし!

 

 異界を飛び出すと、佳乃が大分違法改造したマイクロバスから式神を飛ばしているのが目に入る。

 佳乃自身は戦っていない事を気にして俺と葵にこっちがちょっと後ずさるくらいにありがとうねぇありがとうねぇと感謝しまくってくるが、佳乃のバックアップと組織との交渉とスケジュール管理能力が無ければ俺たちは今の10分の1も異界を潰せていたか怪しい。

 自分自身の凄さをもっとわかるべきだと思うが・・・まぁそこもアイツの味か。

 目をきらめかせて俺たちを出迎える佳乃の開けたドアからバスの中になだれ込み、魔石を佳乃に渡して他は全部後ろのボックスに流し込む。

 

「おかえり、お疲れ!」

「ただいま」「ほい魔石」

 

 どさどさとそのまま後ろの回復術式畳に葵とともに寝転がる・・・ヨシツネのままだから良いにおいするし柔らかいんだよなコイツ。

 いつもならこのまま寝に入って移動開始だが、確か次は

 

「次のとこで休憩の準備させたからそこでご飯ね、とりあえず霊薬盛り盛りのカレーとただの牛乳にアイス用意させといたからしっかり堪能しなさい。

 私はついでに武田のとこのと会談してくるわ」

 

「ん、今回は別か、了解」

「・・・わかりました」

 

 佳乃が別になると聞いてあからさまに寂しそうに丁寧語を使う葵の髪をがしゃがしゃと撫でまわし、聞くべきことは聞いたと改めて寝に入る。

 

 この一か月・・・ずっとこんなだ。

 はっきり言って相当無茶苦茶に無茶をやっているだろうなとは思う、だが俺には充実していた。

 異物感を感じていた家族ではない家族ではない、才能も価値観も生まれも同じ相手と、同じ目標を持って全力で能力を思う存分振るう・・・あぁ、この時間が続けばいいのにと思う。

 

 少し物思いに耽っていると、眠っていないことに気づいた葵が寝ぼけ眼にさっさと寝ろとばかりにとんとんと背中を叩く。

 はいはい寝ますよっと。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

「お疲れ様ぁぁ!!今日も目標完遂!ありがとう!ほんとにありがとう!」

「佳乃の方こそな、お前のサポートのおかげでやれた。ありがとう」

「えぇっと、それじゃ僕も。お兄さんのおかげで刀振るだけに集中できたからありがとう」

 

 ちょっと一瞬だけ顔を見合わせ、笑いあってお姉さんの入れてくれた霊草のお茶を飲む。

 元々は悪魔の起こす悲劇が許せなかったから・・・僕みたいなことが無いように、みんなを守るためにこの力を使える組織を探していたらちょうどよくあったからってだけだった。

 けれど、今は正直ここ以外なんて考えたくなかった。

 

「っくぅぅぅぅ!これ、見てよ義孝ぁ!霊装専門の呉服屋が協力したいって・・・ガイア連合に参加したいって!200年の老舗よ!」

「おぉ、すっげぇな。しかも富士の方じゃないかこれ、武田のとこに収めてるってマジのこの辺りトップか」

「そう!そうなのよ!しかも跡取りが、なんて灰色じゃないわよ!全面協力、秘伝だってガチの守秘義務以外は持ちだしてくれるって!くぅぅ・・・」

「お姉さん、泣かない泣かない、ほら」

 

 感極まって涙を流すお姉さんの顔をハンカチで拭う。

 そして離すとニヤリと笑みを浮かべたお姉さんに思いっきり抱きしめられた。

 

「ひゃん?!」

「あぁもう可愛いわね、うちの最高戦力はぁ!お?これ変身してなくても女の子っぽくなって来ちゃってないかなー?うぅぅーん?」

「酒でも飲んでんのかてめぇは!?」

「おぶふ!」

 

 むにむにといやらしい笑みを浮かべたお姉さんに胸を揉まれて困っているとお兄さんが湯のみを振り下ろした。

 倒れたと思ったら突っ伏したまますぅすぅと寝息を立てだした・・・疲れてたのかな?

 

「あー、運んだらとっとと寝るか、明日もあるしな」

「うん、それじゃお布団敷いておくよ」

 

 ぱっと寝室に入ると、空気が違う。

 霊地としては相当に貧弱なこの日埜神社で、名家らしい武田某さんの所の休憩場より凄いものを用意できるのはお姉さんの腕だろう。

 僕らを集めるために全力で動き続けていたり、こんなことができるくらいしっかり努力して学んでいたり、正直あの熱意には頭が下がる。

 だからこそこのガイア連合が発展していく喜びもひとしおではしゃいじゃったんだろうなと思うと、困っているよりぎゅって抱きしめてあげるべきだったんだろうか?

 それじゃお兄さんが反応に困るかな?

 

 考えつつたたんでおいた布団を敷いて整えていると、お姉さんを寝かしたであろうお兄さんが来る。

 

「おつかれさま、それじゃあおやすみなさい」

「あぁ、おやすみ」

 

 隣り合った布団で眠り、軽く手を握る。

 うっとおしいと思われるかもしれないが、悪魔と殺しあっている日々の中では、どうしようもなくこの温もりが恋しくなってしまう。

 暗闇の中でお兄さんがふっと笑い、手を握り返してくれる感触を楽しみつつ目を瞑る。

 

 さぁ、明日も戦えない皆のために、悪魔退治だ。

 




ナチュラルに転生者以外を自分の心許せる相手と思えなかった義孝は転生者3人で擬似家族みたいにワイワイするの一番楽しんでます
葵は前世と今世の家族に悪いと思いつつも二人の温もりにかなり絆されて家族扱いしだしてます
そして佳乃は二人との出会いを毎日3回出会いの神様に感謝してまふ

あと小異界でも現地勢だけだと基本的に耐久して悪魔漏らさないようにしつつ長々儀式してようやく鎮める(中身生きてるし、大元に手を出せてないからからちょいちょい再発)異界の主討伐の場合も儀式や霊具で脱出まで閉じないようにしてたら悪魔も…で被害が出たり逃げられたりしてます
そのあたり一切なしで突っ込んで首狩ってとっとと逃げて異界崩壊に気づかせず中身異界ごと全滅×多数してる二人はマジの怪物級扱いですね


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ガイア連合山梨支部初めての中規模異界攻略

「ですから河口湖異界への突入許可を貰いたいと言っています!

 盟主である日埜とその側近の実力は分かっておりましょう!」

 

「分かっている、だからこそ出せんと言っているのだ!

 お主らの気持ちも分かるがあの異界は代々河口の家が管理している伝統的な修行場だぞ!」

 

「今そんなことを言ってどうなるというのです!活性化の影響で分家から集めた人間は何人死にました?

 家が滅んでからは遅いのです!」

 

「だとしても譲れん一線がある!確かに被害はあるが後代のことを思えばこれだけは譲れんのだ!」

「その古い考えが気に食わないと言っています!

 我らガイア連合、家々から持ち寄り磨き上げた英知を持ってすればより新しく効率的な修練とて可能となりましょう!

 後世のためと言うのならばそれこそが後の為です!」

「それが本音か若造が!!

 何でもかんでも新しくすれば良いというものではない!

 帰る場所がなくなってから泣いては遅いのだぞ!!」

「泣けるのも生きているからでしょう!

 場所にこだわって泣くことすら出来なくなりたいのですか!」

 

 山梨の霊能者を纏めている武田家の跡取りと現当主がひたすらに怒鳴りあっていた。

 この家の事ばかりではない、ガイア連合、その理念と眩しいばかりの活躍は若者の目を眩ませるに十分だった。

 際限なく増え、強くなる異界と悪魔。長年共に鍛えて来た親戚が死に、知った顔の精鋭が死に、友の父母が死ぬ。いずれは自分もそれに加わるだろうと薄々思いながらそれでもと必死に足掻いていた・・・そこに現れたのがガイア連合だった。

 

 伝統や家の決まり、規律に縛られず、実力者を取り込み使いこなす。車と言う近代技術と今まで日埜の家が積み重ねてきた術式を組み合わせることによる高速移動と回復の両立。異界と言う霊的資源でもある場所を一切躊躇わずに潰す果断さ。

 何もかもが求めていたものだった、こうすればいいのだと思いながら伝統と家の柵に縛られて諦めていたものが…メシアの介入で失われた筈の物がそのまま目の前にあった。

 山梨の霊能者は誰もが思った、日埜の麒麟児がやってくれた。あれこそが希望だと。

 

 今や若手の多くはガイア連合に合流し、残った者も心情はガイア連合に寄っている。武田の跡取りである義嗣もその一人であり、もっとも初期にガイア連合への協力を始めた男だ。

 小異界をほぼほぼ制圧し、今現在も改良された霊装と、新たに作り出された修行により随分と腕を上げた連合の者たちが生まれ出る異界も順次制圧している。

 ならば次はそれぞれ家々が重要な修行場であり採取場として利用してきた中規模以上の異界への挑戦となるのが自然な流れであり、その交渉を山梨異能者総代である武田家当主と・・・父と行うのが義嗣に任されたのも自然なことだろう。

 

 しかし交渉は平行線であった、どちらも自らの正しさを信じるが故に一歩も引かない。

 刀を抜いていないのが不思議ですらある。

 そして今、いよいよ決裂した

 

「ここまで話が分からないとは思わなかった!これ以上話しても時間の無駄だ、失礼する!」

「とっとと出ていけい!!このバカ息子が!」

 

 バチィと派手な音を立てて襖が閉じられ、どかどかと乱暴な足音を立てて義嗣が去ると程なくして老いた召使が茶を運び込んできた。  

 

 

「相も変わらず大した演技でありますな」

「何、この程度も出来んなら当主などやっていられるものではない」

 

 ずずっと音を立てて茶を啜る顔には先ほどまでの血気盛んな様子のひとかけらすら残っていない、それどころか穏やかで笑みすらある。

 それもそのはず、そもそも彼にガイア連合への隔意も、新しい技術を作り上げようと走り回る息子たちを止めるつもりも無い。それどころかなんと頼もしい者たちだと諸手を挙げて喜んですらいるのだから。

 ただ武田の当主として、山梨霊能者総代として様々な問題を抑えるために反ガイア連合の立場を取った方が良いからそうしているだけでしかない。

 

「それで、河口の翁は頷いたか?」

「いえ、跡取りの方はそれとなく誘導すれば転ぶでしょうが、流石に爺になると頑固で困りますな」

「はっはっは、お前ももう爺だろうに、今の義嗣の様子をみていたのだ。

 宥めているがどうにも止まらんと弱り切った顔の一つもすれば一つや二つ手放す気になるだろう。元々家内でも突き上げられている筈だ」

 

 ガイア連合へ合流する若者は多い、だがやはり科学技術に手を出すことや、いずれ表にも介入してそちらの技術も使うと言っている事、霊地と霊地のはざまという空白地帯の抑え兼周囲の家への傭兵稼業でどうにか食っていたと言う極めて低い家格である日埜の娘が盟主と言うこともあって反発する老人もまた多い。

 それら反ガイアを抑えつつ譲歩を引き出し、じわじわと誘導するのにはやはり同じように息子に反発されているほうが都合がいい。

 惣領として期待を掛けている息子が若者らしい熱病に冒されて困りつつもどうにか舵取りをしている総代に、厚顔になれる人間と言うのはそうはいない。

 

「後はいつも通り盗み見しやすい所に何冊か置いておけ、頼んだぞ。

 私は日埜の娘に手紙を書く」

「では今度は多少奥の方から持ち出しましょうか、あれだけ頭に血が上っていれば多少の不自然も見逃してくれそうですな」

 

 茶を・・・ガイア連合で開発された霊水化術式ポットを使って入れられた以前より格段に美味く効能の上がった茶を飲み干して筆を持つ。

 

「さて、次は長野と静岡あたりへの伸張でも勧めるとするか、十分にこの山梨の術は修めただろう」

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

「なるほど・・・確かに手を広げるって意味ならそっちも良いかな、流石に武田の小父様は目端が広いわね」

 

 現地の霊能者を引き入れに引き入れ、ガイア連合山梨支部はそれなりに順調に拡大していた。

 覚えている前世からすれば随分とアナログ気味な面も多いが、そこは転生者と言う才能のあるぶっ飛んだ頭した劇薬を寄せ集めたのではなく現地の真面目な霊能者が主軸だからだろう。

 現代技術と霊能技術、それぞれ秘匿された家の技術の融合、それらを学んだ才能ある技術者に十分な資源を与える。

 なにせ全国規模どころか世界規模の話、技術による平均値の押し上げこそが正義だ。

 

 ただ問題は資金だ、占術と前世知識と言う強みを使って株式投資や先物で資金も調達しているが・・・なにせ前世ではこんなの最大規模でぶん回した上で大富豪と言う立場持ちの転生者が複数共同してやっと世界対応できるようになったのだ。

 いずれは海外にも手を伸ばすのだ、それを考えれば今のうちからそっちの伝手も持たなければ行き詰るだろう。

 

「怪しい新興カルトの親玉として表の人間たぶらかすっていうのも外聞悪いけれど仕方ないわね・・・」

 

 悩みつつ時計を見ると、時間だ。

 武田君を交渉に出せば河口湖支流異界を潰す許可が貰えると事前に決まっていた、そのために葵も義孝も、配下になった霊能者達も準備させている。

 組織として成長し、大勢の人員が増えた中で初めて中異界を潰す。

 つまるところ鍛錬の好機であり資源調達の好機であり実力アピールの好機である。

 回復術式による陣地構築に徹底的な集団戦術で一切の悪魔を漏らさず足止めし、その間に葵と義孝による首狩りで終わらせる。1日フルに使う大作戦である。

 

 他県への勢力伸長を考えればここでのアピールは大きい、特にトップの天才3人だけがすごいのではなく、家々から持ち寄った技術を合わせて平均値を押し上げたという組織としての力のアピールは絶対に必要だ。

 近場なればこそ交流のあった人間も多い、家にいた時とガイア連合に入ってからの変化はよく見えることだろう。

 

「フフっ我ながら・・・よくもまぁこんなこと考えられるようになったものね」

 

 元々ただの大学生から転生して、ガイア連合何て怪しげな名前の組織でサーバー管理やってただけのちっぽけな小娘が・・・

 転生者としての才能こそあれど、本当によくもまぁここまでこれたものだ。

 これも全て葵と義孝のおかげだ、あの二人が居なければ私など早々に折れていただろう。

 

「さて、行きましょうか、みんな待っているわ」

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 今回の異界はすごいとこだった、異界の存在強度も高いから主を倒して脱出するまではいつもより猶予があると聞いてはいたが、それでも不安になるくらい広い。

 方々回りながら悪魔を入り口のガイア連合のみんなの元へ誘導していたとはいえ、僕とお兄さんの二人で異界の主にたどり着くまで20時間かかるのはちょっと尋常ではない。

 それに敵の質も凄まじい、小さい異界なら主をやっていそうな悪魔が平然とそこらを出歩いている。

 正直入り口が心配になるが・・・お姉さんがやれるしやらなきゃいけないって言っていたのだ、信じるべきだろう。

 それでもとそわそわしているとぽんとお兄さんの大きな手が頭に置かれる。

 

「信じろ、佳乃がやるって言ったんだ。あいつが失敗したことがあるか?」

「・・・最初、僕らを集める時」

「はっはっは、だがそれ以外はみんな成功してきた、心の余裕さえあったらあいつは失敗しないさ。

 そんなアイツが堂々とした目でやるって言ったんだ、絶対成功する。俺たちはそれを信じて動けばいい」

 

 頬を手で覆われてお兄さんの力強い目と見つめあうと、心が静まっていく。

 そうだ、僕らの仲間でリーダーを、僕らが信じないでどうするんだ。僕らは僕らの仕事をきっちりやればいい。

 

「ありがとうお兄さん」

「いいさ」

  

 ざくざくと歩き出せばもう、悪魔は粗方誘導を終えて異界の主の気配が近い。

 刀と体の感触を確かめ、ゆっくりと力を入れていく。

 

(八艘飛びは・・・まだ未完成だけど使うべきか、逆落としはあまり意味がない。

 魔石に霊薬の準備もできている、刀も万全、よし)

 

「行くぞ!」

「うん!」

 

 ドガっと音を立ててお兄さんが扉を殴り開ける。

 主との決戦が始まった

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 力の抜けた葵を背負って、悪魔もおらず崩壊までの時間も長くといつもよりずいぶんと余裕のある異界の崩壊から抜け出す。

 中規模異界の主が強化されているという事の洒落にならなさがよくわかる強敵だったが・・・それでも葵は強かった。

 ヨシツネ・・・というか牛若丸か?のデビルシフターとしていつか使えるようになるとは思っていたがまさかこんなに早く八艘飛びを目にできるとは。まぁ反動で随分と消耗したようだがこれからは少し俺たちは休みだ、後は異界を出て勝ったとアピールするときだけしゃんとしてくれればいい。

 

 これでガイア連合はまた一段成長できる・・・俺と葵と佳乃の組織が、また一歩先に進む。

 

「ありがとうな、葵」

「お兄さんこそ・・・ありがとう」

「ふん、疲れてるんだから休んどけ、そんで俺の感謝だけ受け取っとけ」

「なにそれぇ」

 

 ふんわりと柔らかく小さな最強の相棒の体をよりきっちり抱えなおし、休みやすくする・・・本当によくやってくれた。

 ざくざくと歩を進めていると悪魔の血の香りと光が見えてくる・・・着いたか。

 

「さて、行くぞ葵、凱旋だ」

「うん」

 

 くっと力を入れて自分の足で立つ葵を、見えないところまでは支えながらゆっくりと前に進む・・・出た。

 

 わぁぁぁぁぁと大きな歓声と、佳乃が出迎えだった。

 

「河口湖支流異界・・・討伐、完了だ」

「ただいま」

「えぇ・・・えぇ!お帰りなさい!」

 

 がっと二人まとめて抱きしめられて、祝いの宴会が終わるまでずっと抱きしめられたまま過ごすことになった・・・あぁぁ、気心知れた女二人(かたっぽ中身少年だけれども)の割とある乳×2で顔が緩むけど緩んだら周りから殴られる地獄よ・・・

 

 




義孝はもう完全にトゲ抜け落ちて二人にデれまくってます
佳乃は元々転生者として才ある側だったのが完全に覚醒しました
葵は実のところ誰か身内が死ぬとバリバリダメージ受けるので今回一番やばかった枠です

あと追記するなら河口湖異界は本体(元中異界、現大異界)嘯川や新倉掘抜等にある異界(元小異界、現中異界)で今回攻略したのは川の方ですね、本体は河口家が生贄や貢物も駆使して鎮めてます
そして会談の様子は常に式神通して他家に見せてました、ブチ切れたと見せかけた時にまとめて気迫で壊しましたが


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組織内での佳乃達

「六道修行を行いたく」

「・・・えぇ、かまわないわ。資格は満たしているようだし」

 

 転生者は多少は現地の伝手とかスカウトとかで集まりだしたがあまり集まっていないし、現地人でも強くなる方法、才能の差をどうにかする修行を編み出す必要があった・・・初めの方から本気で協力してくれた人たちを粗末にしたくないのもある。

 だからショタオジの編み出した修行法を元に才能がない人間を才能がある人間並みにできる無茶を作ってみたのだ、まぁレベル限界が20まで届くとか30まで届くとかそのレベルだけれども(私が自分でやってみて途中でダウンしたが、実験体志願した武田の跡取り君は普通に超えてそこそこ強くなってた)

 まぁ当然のように無理無茶無謀も良いとこなやっばい修行でありそれは大規模に広めている。

 それでも後を絶たない辺り現地勢のガンギマリっぷりは恐ろしい・・・

 

 修行法の中身は単純である、難易度は地獄だけれども。

 丸7日五感を断ってそのうち6日はそれぞれ仏教の六道に即した苦痛を与える・・・尚当然食事も何もなく水だけは無理やり流し込むが、七日絶食なのでそれができない人間はまず足切りである。

 一日目、地獄道の行。文字道理地獄の責め苦をイメージして作られた苦痛を3時間で切り替えながら与える。ここだけ切り取った簡易版は八大地獄修行、もしくは八寒地獄も足して十六大地獄修行としてまた別にやっている。

 二日目、餓鬼道の行。飢え、乾き、食べられる感覚などを延々と与える。

 三日目、畜生道の行。あらゆる獣として食われ、食う感覚を与え続ける。人間としての感覚を失ったり正気を失いやすいため此処で止まるのも多い・・・と言うか私が止まった。

 四日目、修羅道の行。剣、槍、弓、鞭、拳打、銃撃、砲撃、考えられる限りあらゆる人間の攻撃手段による苦痛を与えられる。武道家も兼ねてる霊能者面々がすごい数意見出してくれた、怖い。

 五日目、人間道の行。生苦、老苦、病苦、死苦、それぞれの四苦を精神に想起させる。・・・老人方の協力によって実現したけど感じたくないなぁ・・・うん。

 六日目、天道の行。天人五衰になぞらえて修行によって手に入れた力を失っていく幻覚を与える。

 七日目、無。丸一日異能者の持つ第六感すらも封じて何もしない。ある意味で最もきついかもしれない。

 

 我ながらよくこんなものを考えたものだ・・・

 しかし効果は確かだ、霊的な素質という本来変えようもないものを、疑似的な生まれ変わりを経て向上させることができる。

 連合の力不足を嘆く現地勢からはそれはもう狂喜乱舞を持って迎えられ、私の手が修行のために一時塞がることになってしまったほどである。

 

「安村、監視役をお願い」

「ははっ!」

 

 ぐるぐると術式を刻んだ部屋に修行を願い出た霊能者を縛り付け、血を小瓶に一本ほど取った後、術式を刻んだ針を霊的な力の通り道に差し込み封じる。

 最後に目に呪布を巻き額に呪符を張り付けて、小瓶の血を油に混ぜて灯火を点ける。

 この火が細くなるか揺らぐと魂に危険が及びだしているというわけだ、もし危険な状態になれば監視役が即座に呪符を剝がし修行を中断する。

 はっきり言って一時も気を緩めず延々見ている監視役の方もきつい仕事だし失敗したら洒落にならないから信頼のおける実力者にしか任せられないというコスト高い修行である・・・途中で交代するとそれもゆらぎになって修行のノイズになるし。

 

 とりあえず修行の類を終えたら後は片っ端から報告書に目を通す。

 それぞれの家の当主や次期当主みたいな大物も精査してくれているので精度は高いし、権限もかなり渡しているので少ないが、逆に言えばそれだけの重要事項が来ているというわけで気が抜けない。

 

「えーっと・・・日本住血吸虫症が悪魔化してそれを主にした異界発生・・・はぁ!?ミヤイリガイは絶滅させた筈でしょ!?

 ちょ、即病毒退散持ち・・・後炎術と氷術使えるのも用意して!後で占術も使ってから改めて指示出す!」

 

 ばっと持ち回りでやらせている秘書役に指示を出し、次の書類に目を通す。

 とりあえず退治した後で公衆衛生課に伝手持ってるのから改めて色々対策取らせておきましょう。

 

「それで次は・・・静岡の方からの救援要請かぁ。

 ガイア連合加入も含めてって事だけれどなんで私のとこまで・・・ってこれほんと?修善寺の大異界こっちに寄越すって。

 ・・・あぁ、うち義経居るものね、そりゃ回すか。

 源氏の神降ろしに敬意払ってって感じだしうちに来させる形の方が良いか、会談するからセッティングよろしく」

 

 公式武力チートとしてありがたがってたけれども・・・こういう余禄もあるのかぁ、人員の人格見極めもやってもらってるしほんとありがとう葵。

 

「次・・・長野の方からもかぁ・・・

 諏訪湖中心に無茶苦茶に活性化してきていい加減限界と・・・これもう完全にうち取り込む形になるのかしら?

 いえ、ミシャクジ様鎮める諏訪大社だけは切り離しておいた方が良いか・・・援助はするにしても下手に介入するより独立してもらってた方が安心ね、あれはまだ手に負えない」

 

 あぁもう・・・仕事が・・・仕事が多い・・・葵と義孝の二人つれて走り回りたい・・・

 あぁ、大異界突入付いて行きましょう、疎かになっている私自身の修行もできるし・・・そうだ、そうしましょう・・・

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 ダン、ダンと音を立てて銃弾が悪魔を模した的の頭に突き刺さり、一拍置いて燃え、凍り、雷が走る。

 

「ふむ・・・これも良いが、銃撃を反射や無効化、吸収する相手もいるだろう。

 弾が当たる前に魔法効果を発動できるようにはならないか?」

「申し訳ありません義孝殿、現在のわれわれの技術では量産するとなるとそこまでしか・・・

 しかし、これでも随分と革新的な技術です、まずはこの属性銃の扱いを慣らすところから始めるべきでは?」

「それも確かか、すまんな、焦りすぎた」

「いえ、正しい危機感であるかと」

 

 話しつつも義孝がリボルバー型の銃を撃ち、弾を籠め、また撃つ。

 その度に数十あり本物のように動く式神の応用で動かされる的が風に刻まれ、核熱に焼かれ、毒に蝕まれ呪いで朽ちる、一度たりとも外さぬ精度は銃に触れて数か月とは思えない。

 

 銃、弾、どちらもガイア連合に合流した霊能者と地元工場の合力によって作り上げられた最新式の量産式霊装試作品である。

 はっきり言って技術班の目から見れば十二分に強力と思える仕上がりだが、義孝の目にはどこか不満があるのを感じ取っていた。

 

「恐れながらお聞きしたく、義孝殿は何をお求めでありましょう?

 盟主の側近でありガイア連合三巨頭の一角である貴男の考えを私に明かしてはくれませぬか?」

 

 その言葉に義孝も銃を撃つ手を止め、視線を合わせると苦笑する。

 

「それほど仰々しくなくても良いんだがな・・・

 まぁ単純な話だ、俺が考えているのはいずれ自衛隊と協力したらという時のことだ。

 今の銃は良いが、リボルバー式以外では出来るか?と考えるとどうしてもな」

「確かに現在は弾薬までを術式の構成に含めることで小型化している為自動式小銃などは難しいでしょう。

 それは私たちで改良するべき課題としても・・・自衛隊との協力ですと?

 彼らは・・・いえ、失礼をしました」

「良い、確かに今の自衛隊を見れば対霊組織へと変えるのは困難だろうからな」

 

 戦後、メシア教の介入により日本の霊的機構は盛大に弱体化した。

 中でも大きいのが国の霊的守護が解体されたことであろう、ヤタガラス、葛葉、葛葉四天王・・・国家を守り続けた霊的国防機関は解体され、名高き術師は軒並み自害を強要された。

 現在最終霊的国防機関と位置づけられる根願寺の実態はお粗末なものだ。

 術者の実力はメシア教が放置しても特に問題ないと判断した最低限でしかなく、メシア教の顔色を窺い大きな動きもできず、帝都守護のみに汲々としている。

 

 ガイア連合構成員からすれば根願寺を廃してガイア連合が最終霊的国防機関としての地位を襲うのは自然の事としても、政府の力を使い霊的国防を含む軍を新設するのではなく自衛隊と言うかの大国の意向により全く霊的な知識を排除して作られた軍と協力するというのは些か非効率に思えた。

 なにせ彼らからしてみれば霊的な防護など怪しげなものでしかなく、下手をすれば使命感を持ってガイア連合という国家に入り込んだカルト宗教の排除にすら動くであろう。

 

「だが、彼らが積み重ねた霊能の一切関わらない戦闘技能と、救助技能、なにより護国への使命感は侮っていいものではない。

 確かに恐ろしく困難だろうが、その困難を乗り越えてでも味方にするべきだ。少なくとも俺はそう考えている」

 

 義孝の言に技術班班長は頭を下げる。

「義孝殿がそのようにお考えであるというならば私共はそれに備えて改良を進めることとしましょう。

 お聞かせいただきありがとうございました」

「あぁ、こちらこそよろしく頼む」

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 ヨシツネの姿へ変わった葵がそこかしこで組み手をしている中をじっくりと見つつ、時折木刀で攻撃もして警戒の薄れた所や隙のできてしまっている部分を指摘する。

 二対一、三対一、三体二、はたまた五対五、様々な組み合わせで常人を超えた身体能力を持つ霊能者が、医療の常識を超えた治癒を前提に一切の禁忌を廃して本気で組み合う姿は恐ろしいまでの迫力があった。

 

「そこ、仲間の援護できる範囲から離れているときにあまり隙を晒すものではない、死ぬぞ」

「はっ!ご指導ありがとうございます!」

 

 パァンと一切の容赦のない殴打に蚯蚓腫れのような痛々しい跡が残るが、叩かれた側の構成員はかの義経公に指導してもらえたという喜びに満ち溢れている、見た目が多少悍ましい。

 そのようなことを何度か繰り返し、あるところで葵の目が細まる。

 

 すたすたと、組手に励み今にも正拳を相手に叩き込まんとするガイア連合構成員の足を勢いよく払い、木刀で霊的なツボを撃ち抜きしばらく動けぬ体にする。

 

「お主、力に酔った邪念が見えたぞ。

 そこの、担ぎ出して統括の武田の所に連れていけ」

「ははぁ!!」

 

 ざざっと跪き、目の前でいきなり組手相手が倒されたというのに反発の一つも見せずに担ぎ、道場から走り出る。

 それもそのはず、この鍛錬は実力向上とともに、急速に拡大し、強化されたガイア連合の精神性を引き締める目的で行われており、それは皆に伝えられている。

 源義経という高名な武将を宿す葵の目から見て怪しげな色を宿す者は、即座にあらゆる力を封じ、呪術によりあらゆる仕事にかかわることを封じられたうえで自らの地元に返され守るべきものを再確認した後、八大地獄修行を経て雑念を落とし戦列に戻ることとなっているのだ。

 

 その日、担ぎ出されることとなった人数はガイア連合数千の内二十八であった。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「んあぁぁぁぁぁぁ、つかれたぁぁぁぁぁ!!!」

「敬ってくれるのはいいが・・・さすがに気疲れがひどいな」

「・・・・・・・・」

 

 夜、佳乃、義孝、葵の三人の私室で気の抜けた声が響く。

 三人が三人とも思いっきりだらけた姿をしており、葵に至ってはよほど気疲れしたのか突っ伏したままうにうにとうごめいている。

 

 ガイア連合はもはや山梨をほぼ勢力圏に取り込み、静岡長野もかなりの家が参加、もしくは協力を表明している。

 つまるところ順調に拡大しているわけだが・・・そこで問題があった。

 明確な未来図を描く盟主であり、発起人でもある佳乃。

 民間からの覚醒者でありながら、すでにガイア連合の掲げる近代武器と霊能を融合した戦い方の明確な案を持ち、実践してもいる義孝。

 数多くの異界を先陣切って叩きつぶした最高戦力であり、名高き九朗判官義経をその身に宿す葵。

 当然の如く全員が恐ろしい勢いで敬われていた、彼ら自身がそれにふさわしい態度以外を取れぬほどに。

 

 三人ともが元々一般の出であり、そうした態度に慣れていない。

 しかしやらねばという事もわかっている生真面目さを持ってもいたため、それはもう恐ろしい勢いで消耗していた。

 

「あーもう、葵ぃ・・・だきしめさせてぇぇぇ・・・」

 がばりと抱きつぶしにかかった佳乃を袖にしてひらりと転がり義孝の背中を取る。

 じりじりと抱きつぶさんと迫る佳乃と義孝を盾に逃げる葵、二人に挟まれてどうすればいいのだと困惑する義孝の間にしばらく緊迫した空気が流れ・・・一拍置いて全員が笑い出す。

 

「ふふふ、おかしい」

「ふっはは、そうだな、これくらいが俺たちの相応ってものだ」

「あーバカみたい、これが地方の希望、ガイア連合三巨頭様よ?っぷふ」

 

 笑いあい、気も休まったところでそれぞれが寝る準備をする、誰も何も言わずとも連携して葵が布団を敷き、義孝が枕を取り出し、佳乃が香を焚き、寝具が整い自分以外が布団に入ったと見るや明かりを落とす。

 

「おやすみなさい、二人とも」

「うん、おやすみ」

「くあ・・・それじゃ寝るか」




佳乃アナライズ→準備はいるが才能限界とかまでガッツリ見える精密検査
義孝アナライズ→普通の戦闘用アナライズ、弱点とスキル
葵アナライズ→大雑把な実力と物理耐性、あとアライアンス、ダーク、もしくはダーク寄りニュートラルかを見抜く
あと何人か修行組に転生者混じってたりします

ちなみに佳乃は93、義孝は89葵は99が才能限界ですね、限界がそのままレベルアップ速度にも関わってくる(才能あればあるほど早い)ので下を見れば5とかな現地人との差はヤバいです


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ガイア連合掲示板

掲示板形式はやっぱり書かないとカオス転生ではない気がする
それはそれとしてこれ掲示板でいいのだろうか?掲示板らしい会話ではないです


1:名無しのガイア連合員

 この掲示板は日本各地に散らばるガイア連合員が交流を持つための掲示板である。存分に活用されたし。

 

2:名無しのガイア連合員

 ふぅむこれがインターネットというものか

 

3:名無しのガイア連合員

 なにせ寄合を持つだけでも一苦労であるからなぁ、式神のやり取りも良いがやはり霊紙は節約するに越したことは無い

 

4:名無しのガイア連合員

 しかしなぜ匿名なのだこれは?名を明かしてこそ交流の意味があるというものであろうに

 

5:名無しのガイア連合員

 顔を見ずに語るからこそというものもあろうよ、公が直々に選別しているのだ、顔が見えぬからと言って好き勝手なことをほざくものもおるまい

 

6:名無しのガイア連合員

 ふぅむ、であるか

 

7:名無しのガイア連合員

 しかし皆様方随分と文字を打つのに慣れておりますな?私などはもとより表とのかかわりで使っておりましたが

 

8:名無しのガイア連合員

 あぁ、慣れぬ者には筆で書けばこの掲示板に書き込める書字板をとお気遣いいただいてな

 

9:名無しのガイア連合員

 なんと、そのようなものまであったとは、ちらとも知りませんでした

 

10:名無しのガイア連合員

 はっはっは、お主は随分と慣れておるようだからのう、わざわざ言わずとも良いと思われたのだろう

 

11:名無しのガイア連合員

 おぉ、試しに覗いてみれば随分と盛り上がっておられる

 

12:名無しのガイア連合員

 なかなかに楽しそうだ、たまには息抜きもよかろうて

 

13:名無しのガイア連合員

 おぉ、来い来い

 

14:名無しのガイア連合員

 文字のみとはいえしがらみ無く語り合うというのは楽しいものですなぁ

 

15:武田義臣

 おぉ、なるほどここを弄れば名前が出せるというわけか

 

16:名無しのガイア連合員

 おや、武田の快童ではないか、流石に目が早い

 

17:名無しのガイア連合員

 匿名だけではなかったのかこれは、見落としていたな

 

18:名無しのガイア連合員

 若者にはこういったものの扱いでは敵わんなぁ

 

19:名無しのガイア連合員

 皆様方、やはりこういった場では何か軸を持って話すべきでは?せっかくの機会ですし

 

20:名無しのガイア連合員

 なぁに、こうしてただ話すことで深まる絆と言うのもある

 

21:名無しのガイア連合員

 話してはおらんだろうて

 

22:名無しのガイア連合員

 はっはっは、こうして揚げ足を取り合うのも醍醐味と言うものか

 

23:名無しのガイア連合員

 顔が出ていればどうしても立場が付きまとうからなぁ、こうはいかん

 

24:名無しのガイア連合員

 うぅむなるほど、これがこの掲示板とやらの目的でありましたか

 

25:名無しのガイア連合員

 風呂場で絆を深めるようなものだなぁ、見栄や権益という衣を脱ぎ捨て語り合う場と言う訳か

 

26:名無しのガイア連合員

 さすがに盟主は考えが深い

 

27:名無しのガイア連合員

 ありがたやありがたや

 

28:名無しのガイア連合員

 おぉ待て待て、発案は義孝殿であると儂は聞いたぞ

 

29:名無しのガイア連合員

 ありがたいありがたい

 

30:名無しのガイア連合員

 近代技術とは武装ばかりでなくこのようにも使えるのだなぁ

 

31:名無しのガイア連合員

 ほぉ、なるほどあの方ならば納得だ

 

32:名無しのガイア連合員

 おぉ、盛り上がっているようで何より

 

33:名無しのガイア連合員

 ちと考えすぎではないか?あー25の、肩の力を抜いておけ、これは楽しい、それでいいではないか

 

34:名無しのガイア連合員

 おぉ、書いている間に次の話が来だしたわ

 

35:名無しのガイア連合員

 風呂場で絆を深めるとはまた古い・・・

 

36:名無しのガイア連合員

 ごちゃごちゃしてきたのう

 

37:名無しのガイア連合員

 はっはっは、これが妻のやる井戸端話というものか

 

38:名無しのガイア連合員

 おぉ、霊装を見たときも思ったが山梨のは随分と進んでいるなぁ、これはコンピューターと言うものではないか

 

39:名無しのガイア連合員

 なぁに、噛み合わぬのもそれはそれで楽しい物よ、何時の話をしておるのだ、遅い遅いと笑ってやれい

 

40:名無しのガイア連合員

 これが掲示板と言うものか、ハイカラであるな

 

41:名無しのガイア連合員

 ふむ、落ち着いて話すというならやはり修行の話でもいかがか?針山地獄行がどうにも越えられん

 

42:名無しのガイア連合員

 インターネットではないか?

 

43:名無しのガイア連合員

 おう武田のはどこへ行った

 

44:ぬいぇふぃあちゅ

 おぉ、こうすれば名前が入れられるというわけか

 

45:名無しのガイア連合員

 なぁに、我らとて初めて触れたものよ

 

46:名無しのガイア連合員

 ほっほっほ、本物の井戸端話と言うものはもっと背筋がひりつくものですよ

 

47:名無しのガイア連合員

 おうい、無茶苦茶になっておるぞ、慣れんなら書字板を使え

 

48:名無しのガイア連合員

 超えられぬものを越えんと奮起すればこそ魂を磨くことができるというものだ、その性根をこそ鍛え直せい

 

49:名無しのガイア連合員

 銃にもようやっと慣れたかと思えばこのようなものが来る、何時になれば慣れ親しまんと必死にならずにおられるようになるやら

 

50:名無しのガイア連合員

 匿名こそが味であろうよ、武田のから名無しに戻ったのだろう

 

51:名無しのガイア連合員

 はっはっは、女房連中も恐ろしいものだ

 

52:名無しのガイア連合員

 おう、話と言えばあれよ、神奈川の連中が薄緑を公に献上したいと伝えてきおったぞ

 

53:谷治康

 おうこうか、なるほどなぁ

 

54:名無しのガイア連合員

 それもこの匿名掲示板と言うものの作法か、長々素性を晒すのも無粋よな

 

55:名無しのガイア連合員

 書字板とはどこでもらえばいい、配られたときに貰い損ねてなぁ

 

56:名無しのガイア連合員

 なんだと、公の佩刀がついに戻るか

 

57:名無しのガイア連合員

 おぉぅめでたい

 

58:名無しのガイア連合員

 山梨の者か、さすがに耳が早い、おぉめでたきことよ

 

59:名無しのガイア連合員

 なぁに、そうしていくことこそ維新の志というものであろう

 

60:名無しのガイア連合員

 さてもさても、なんでも話して良いというなら一度ガイア連合と言う名の意味を教えてもらいたい、なにせ新潟の新参でな

 

61:名無しのガイア連合員

 こうなると鎧が戻るのも待ち遠しい

 

62:名無しのガイア連合員

 55の、支部か出張場で言えばどうとでもなるぞ

 

63:名無しのガイア連合員

 鎌倉か、あそこは随分と念入りに破壊されていたからなぁ、苦しかろうよ。急ぎ救援が欲しいというのもわからんでもない

 

64:名無しのガイア連合員

 めでたいめでたい

 

65:名無しのガイア連合員

 これでまた一段と公に力が戻るか、何ともめでたきことよ

 

66:名無しのガイア連合員

 盟主殿の占具も良いものを見繕わねばな

 

67:名無しのガイア連合員

 ガイアなどと他国の名を名乗っておるのはメシア教の奴原の目をごまかすためよ、力を蓄えねばとても戦えん

 

68:名無しのガイア連合員

 この国にあるどの組織とも異なる名を名乗ることで新しき組織であると打ち出しておるのだ

 

69:名無しのガイア連合員

 えぇい白羽の悪鬼どもめ、この日の本の伝統ある地を好きに荒らしおって

 

70:名無しのガイア連合員

 いずれは新しきヤタガラスである、葛葉を継ぐものであると堂々と名乗れるようになりたいものだ

 

71:名無しのガイア連合員

 あの悪鬼外道共めが

 

72:名無しのガイア連合員

 根願寺などにでかい面をさせておるのも今だけよ、我らこそが正当なる霊的国防組織である

 

73:名無しのガイア連合員

 おう、義孝殿の主導する銃器や爆弾の霊装も随分と改良されておる、戦力が充実してよいことだ

 

74:名無しのガイア連合員

 ふぅむ、67と68どちらが真実か

 

75:名無しのガイア連合員

 メシア教の奴原には親兄弟を攫われた恨みがある、残された小指に誓って奴ら生かしておけぬ

 

76:名無しのガイア連合員

 これこれ、忘れるなとは言わんが恨みに染まるな、我らの第一の使命は護国であり民を護る事であるぞ

 

77:名無しのガイア連合員

 帝都を守る根願寺が不甲斐ないから我らに救援を頼るのだ、やはり奴らでは足りぬ

 

78:名無しのガイア連合員

 メシア教の奴らこの機に随分と暴れまわっておる、やはり放っておけん

 

79:名無しのガイア連合員

 いずれはともかく未だ力が足りぬよ、せめて本州全て押さえねば

 

80:名無しのガイア連合員

 どちらも真実よ、いずれメシアとその傀儡を排せば豊葦原中国護国連合と堂々名乗ることとなろう

 

81:名無しのガイア連合員

 すまぬな、これでは公に申し訳が立たぬ。一度修行へ出るとしよう

 

82:名無しのガイア連合員

 銃器を任せている氏子が言うには自衛隊の御用達工房の技術は随分と高いようだ、やはり国の力は強い

 

83:名無しのガイア連合員

 霊的国防兵器の復活は為らんか、栄光の帝国陸軍の遺産、やはりあれがあれば随分と話は変わって来よう

 

84:名無しのガイア連合員

 佳乃様が仰るには力さえ足りれば海外も含めてメシアの動きは抑えるとのことだ、精進せよ

 

85:名無しのガイア連合員

 一般からの人員も増えた、今一度志を違えぬように引き締めねばな

 

86:名無しのガイア連合員

 義孝殿が自衛隊といずれ協力せんと言っておるのも分かるものだ

 

87:名無しのガイア連合員

 盟主も自衛隊には随分と気にかけて居った、なんでも見どころのある将がおるとか

 

88:名無しのガイア連合員

 どうにもなるまいよ、随分と念入りに地脈ごと破壊された。資料の一つも残っておらん。

 

89:名無しのガイア連合員

 なんと、ではますます鍛えるに気合が入るな

 

90:名無しのガイア連合員

 神奈川のが言うには自衛隊とのつながりもあるらしい、多少は変わって来よう

 

91:名無しのガイア連合員

 やはり我らの弱体化は深刻であると思い知らされたなぁ、まさか野の中にあれほど才人が隠れておるとは

 

92:名無しのガイア連合員

 ほぉう、将の名は分かるか、この中に書いておけば繋ぎが取れる者がおるかもしれん

 

93:名無しのガイア連合員

 根願寺をあまり責めてやるな、奴らとて非才の身でありながらどうにかやっておるのだ

 

94:名無しのガイア連合員

 銃もだが車よ、あれが増えれば随分と変わってくる。神奈川のというなら大和産業の本拠があったろう

 

95:名無しのガイア連合員

 なんでも五島公夫という名らしい、陸上自衛隊一等陸佐、国軍で言うところの大佐だ

 




流石に五島はいないとヤバい…いやマジで
あと中で出た護国連合の名前は佳乃がそれっぽくぼかしたガイア連合の名前の由来を聞いた現地人が勝手に言ってます

あと前回あたりからは山梨各家が寄贈したかなりいい霊地に熟練大工が立てたガイア連合山梨支部(本殿道場社務所修行場等かなり大規模)に主な拠点が移ってます、日埜神社は佳乃の両親の墓として保存されてます


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転生者三者三様

カオス転生転生者にバリバリきついので賛否両論かも知れません

あと反響が凄かったので初めて投稿後編集します、転生者集団の実力面について 
はっきり言って才能の残酷さと大異界をある程度自由に使える、サポートが手厚く無茶もさせられる、限界を見極められる教官(葵)ですくすく育ってレベル20オーバーで戦闘技能も円熟してます、足りないの精神性だけです


「佳乃姉さん、指定されてた転生者集団・・・ある程度鍛え上げられたよ」

「・・・はぁ、うん。ごめん葵、ちょっと、心固めさせて」

 

 最初は転生者が欲しいと思っていた、今も必要だと思っている。

 けれど、同時に思ってしまうことがある。転生者は組織としてはいらない、と。

 才能も凄まじい、知識も多い、今より発展した現代で知識を蓄え、場合によっては女神転生と言うゲームである程度起こりかねないことや効率のいい鍛え方、あるべき未来像や便利な道具、作るべきものを思い浮かべられる。

 そしてはっきり言って現地人とは比べ物にならない性能を持つのが転生者である。特に才能の差は大きい、現地人がレベル5や6、才能があっても10で止まる中で最低ラインでも60をキープしているようなバケモノぞろいだ。

 

 そのうえで思う。あんなやる気がないくせに特別扱いを求め、面白半分で遊びのように私の血を吐く思いの救援を潰したような人間ばかりの集団を、どこまでも真面目に使命感に燃えて本気で国を守るために力を尽くしている中に混ぜるべきではないだろうと。

 いや、はっきり言って私怨が入っているのは分かっているのだ、自覚もしている。あのときのことは私のやり方も相当まずかったし。

 だが会いたくないと思ってしまう。会うと決めたのは私だし直々に指令を出すとも決めたのに、

 

 受ければ覚醒者になれる、私の作った今のガイア連合で行っている修行より格段に緩いショタオジの作った修行。前世でそれを嫌だと受けずにいたのが何人いた?

 うじうじしているなと自分で思う・・・だけれども・・・

 

 燻っていると葵がじっと目を合わせて、落ち着いた声で話し出す。

 

「姉さん、やるんでしょ?」

「・・・うん」

「必要だって思ってるんでしょう?」

「・・・うん」

「怖い?」

「・・・うん」

 

 結局のところそうだ、私は葵や義孝以外の転生者と会うのが怖い。

 事務所の片隅でPCを弄っていた前世の自分を思い起こさせる相手に会うのが怖い。

 ガイア連合の盟主である佳乃でなくなってしまいそうな相手と会うのが怖い。

 だからこそ心の中で必死に罵っている、我ながら器量が小さいというか・・・みっともないというか。

 

「一緒に行くから、それに悪い人たちじゃないよ。

 転生者だって明かしてないからかもしれないけど、鍛錬自体は真面目で、今は戦うのがやるべきことって分かってくれてる。

 今まで仲間になってくれたガイア連合のみんなと変わらない」

「・・・ごめん、葵、情けない姿見せたね

 ふぅぅ・・・よし!行く!」

 

 ぱぁんと頬を張り気合を入れなおす、よっしゃ行くぞ!!

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 ガイア連合というものすっごい聞き覚えのある怪しげな組織に会社ごと取り込まれ、なぜか目をつけられたときはあ、終わった・・・と思った。

 だが聞いてみれば地元の霊能者が集まってる組織だし、やってることも地方や家の枠超えてまとまって実力主義で鍛えまくって今起きてる異変に対抗しようぜって割と健全なことだ。いやまぁこれからオワタになるのかもしれんが。

 実際問題メシアあるとかやべぇよぉ・・・って思ってたから今回のことはある意味渡りに船だった、組織内で教えられたことだと国内の失踪かなりメシア教関わってるし、俺と一緒になった転生者仲間の中にはメシアの国内支部にさらわれそうになったのまでいた。

 

 対抗する力をつけるのは悪くないし、幸い転生者ってのは才能に恵まれているらしい。

 すくすく育ち・・・そして全員まとめて集められた、お偉いさんと会わせられるって事で・・・うん、怖い!!

 転生者仲間と駄弁りつつ待っているとじりっと背筋に圧が走る、あ、やばい、だまらな

 全員が一気に黙ったところで見覚えのある太ももが入ってくる。

 ガイア連合に入って良かったと思える最大の点、ナマ牛若丸が見れる・・・まぁ鬼教官だし雑念出してっとシバかれるんだけどな!!

 

「控えい、これより盟主がお主らに命を下さる。

 敬いて拝せよ」

 

「「「「「ははぁ!!!」」」」」

 息を合わせて畳床に頭を擦りつける・・・やらないとめっちゃ周りがキレるんよなこれ。

 公になんと不敬な!とかで。

 

 たんたんと小気味良い足音を立てて盟主とやらが入ってくる・・・威圧感やっべぇな、戦闘向けではないって話だが・・・きっつ。

 

「顔上げなさい、これから命令するのはアンタらの才能見込んでの事よ。

 成功させてもらわないと困るからきっちり聞きなさい、良いわね」

 

 想像していたよりずいぶん軽い語調で盟主が語りだす、言われた通り顔を上げると・・・うお、若いし美人だな、幹部用よりさらに煌びやかなガイア連合の制服が似合ってる。 

 

「これからアンタらには武田義嗣をリーダーに海外救援に行ってもらうわ、メシア教の連中にこれ以上好き勝手ヤラレると不味いけど、下手に全面戦争やらかすとどうしようもなくなる。

 追い詰められてる魔術結社や現地霊能組織を説得して隠密で連れてくるのがアンタらの仕事。

 ・・・それと、現地でアンタらみたいに才能豊かな奴ら見かけたら何が何でも説得して連れて来なさい、メシアに目つけられたら死ぬか、死ぬよりひどい目に合うかよ」 

 

 ・・・え、海外派遣されんの俺ら?

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 ドォン、ドォンと派手な音をさせて霊能者の使用前提に作られたバケモノ銃器をぶっぱなしまくる。

 魔法での火力は弱点付いてダウン取る事メインだから期待できないし、こういうとこで補わないとな。

 

「精が出るなぁ、そんで腕も良い、全部あのとんでもなく速い的に当ててやがる」

「おっさんか、人いないから良いが気ぃ付けとけよ、これでも俺は偉いし敬われてるんでな」

 

 ガイア連合の拡大に伴い、表の会社を地元有力地主としてのコネや資金で傘下に収めたり色々とやっている。

 その時ついでに中から才能ある人間を抜き出したが・・・その中にはそれなりに転生者がいた。

 佳乃からは転生者ってだけで同族意識持たれてたかられたり舐めた口たたかれると組織として不味いって事で基本秘密にするよう言われているが、俺と葵双方の目で見て問題ないであろう現地に負けないくらいマジな相手には漏らしてもいいともいわれている。

 

 そしてこのおっさんは数少ない認められた相手の一人と言う訳だ。

 十六大地獄修行も乗り越え、いずれは俺の部下として動いてもらうことになっている。

 

「そういえば何人か呼び出し食らってたがなんだありゃあ?俺みたいに兄ちゃんらも転生者だって知らされてるのは外されたみたいだが」

「言いたくはないが・・・まぁ言わない方が不審か」

「なんだ?ヤバイことか?」

「ヤバイっちゃやばいな、転生者内でも選別やってるって話だ」

「・・・生臭そうなの出て来たなおい」

 

 実際当初は俺も少し疑問に思ったが・・・才能で言えば遥かに上だというのに同じ時期入った名古屋や金沢の新人どもより遥かに早く音を上げ鍛錬の場で甘ったれるやつや、見えんとでも思っているのかトイレで掲示板に陰口や葵への劣情を書き込むアホ共見て気が変わった。

 才はあるし使わねばどうにもならんのは確かだが、高い使命感と危機感を持っている現地の人間と違って現代という平和な時代の感覚から抜け出せておらず性根がどうしようもないやつが割といる。

 おっさんのように家族を守る、部下や会社の人間を生き残らせてやりたいと地に足付けている人間でもなければ、組織の中に入れても不協和音を立てるだけだろう。 

 

「選別って言っても粛正するだとか追放するだとかじゃあない、そこは安心してもらって良い」

「当たり前だ、そんな組織ならとっとと飛び出す」

「転生者って言っても結局この地に生きる人間だ、それが分かってないでゲーム感覚の奴らがいるだろう」

「あぁ・・・まぁしゃあねぇだろうがよ、ただでさえあり得ない二度目の人生で、しかもメガテンだぜ?ゲームの世界で手から炎出したり風出したりできて自分は天才様だ、ふわつくのも仕方ないだろう。

 結婚でもすりゃ一発で落ち着くだろうよ」

「それを待っていられる余裕もないんでな」

 

 がちりと60口径のマグナム弾を詰めなおし、再度的を撃つ、今度はさっき開けた穴を通して他の的に当てるか。

 

「生き延びられるだけの実力が付いたと判断したやつから独立部隊として海外派遣する、元からあっちに居る転生者への対応も必要だとは思っていたのがあるし、なによりメシア教が暴れまわる本場だ。

 本物の紛争地帯に突っ込めば流石に目も覚めるだろう、葵がそれでも生き残れるように鍛えた」

「おいおい・・・スパルタ過ぎんだろ、折れるぞ?」

「そうはさせん為に連合でも初期に参加した指折りの優秀な指揮官をつけるさ、元々実力だけは有るんだ、今戦線で出てる中で最強格のパワーだの程度なら一対一で対峙しても逃げられる。

 それに折れても甘いまま死ぬよりかは良い」

 

 腹に響く音を立てつつ銃を撃ち続ける・・・っち、穴が広がってる、かすったな。

 

「あの性根のままだと技術班にすら回せんからな、失敗や想定外が自分では償えないことを引き起こすのだと分からん天才など無能より質が悪い」

「分かるが・・・怖いねぇ、転生者としての仲間意識ってのはなしかい?」

「あるさ、最初っから仲間だった葵と佳乃にはな。他は所詮多少気に掛ける他人だ、アホなら見捨てるしまともなら諸手を挙げて歓迎してやる」

 

 ドォンとライフルか何かのような音を立てて最後の銃弾が放たれ、合間に挟まれた人の的に掠らせもしないまま全ての悪魔を模した的の頭に穴が開いた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――

 

 

 ひゅるぅりと軽やかに型稽古染みた鮮やかさで髭面の転生者と葵が剣を交わす。

 まるで全て初めから決めているかのように迷いも躊躇いもなく、凄まじい速さでありながら互いに掠ることもなく木刀と木刀が閃く。

 当然これに台本や打ち合わせた型などない、葵とその弟子がただ無心に振った剣が自然とそうなっているというだけである。

 

「師匠ー、拙者の初陣は決まり申したかー?」

「うん、僕と義孝兄さん、あと義孝兄さんの方も部下連れて4人で阿津賀志山異界を攻略する。

 始めから大異界になるけれどいいかな?」

「お任せくだされ!」

 

 自らが師範を務める剣術道場の門下生が来ぬ、可笑しいと調べ上げ、父母や教師から様子がおかしかったと情報を集めてついにはメシア教に辿り着き、攫われた子を救うのだとメシア教教会に殴り込み捕らえられたところを葵に助太刀されたことを縁として参加したこの男。

 才に恵まれ心強く、師にも恵まれたその実力は新参ながら既にガイア連合の中でも指折りの物であった。

 

「しかし・・・外国に出されたという同胞は無事で帰って来ましょうか?

 やはり拙者もそちらへ・・・」

「仮にも河内源氏の流れを汲む武田家を継ぐにふさわしいと認められた武人が率いているんだ、あまり心配するものでもないよ。

 それに精神鍛錬も兼ねているんだ、君が行っては甘さが出てしまう」

「うぅむ・・・師匠がそう仰るのならばあえて言いはしますまい」

 

 言いつつ乱れた心を読んだ葵が弟子の木刀を跳ね上げ、額を打つ。

 

「僕は僕にできる限り彼らを鍛えた、はっきり言って一般の戦闘員は山梨からついてきてくれるのだって単純な力なら彼らに抜かれてしまったくらいだ。

 彼らを心配するよりも君は国内の平定が仕事だ、まずはそれをしっかりとこなしなさい。

 ・・・もう、見たくないんだろう?メシアの虜となった人間を」

「はい・・・えぇい!心乱した拙者が未熟でありましたわ、師匠!もう一本ご指導願いたく!」

「いいよ、さぁ打ち合おうか」

 




転生者集団が真面目なのは葵の目から見てなので葵をエロい目で見て稽古付けてもらってる時だけはいいトコ見せてやろうと全力なのが大きかったりします
ぐへへ、襲ってやるぜとか犯罪に走りそうな邪念なら見抜けるけどそれほどの度胸はないたぐいなので性知識薄いってか無いに等しいから劣情よく分かってない葵だと見抜けない隙間抜きですね

あとござるは他がいるとバリバリシリアスに武士します

佳乃は一話のミストラウマだから必死で転生者否定する理屈を捻り出しまくってる感じですね

あとガイア連合制服出来ました(ほぼ大正時代の軍服、呪殺祝福無効耐性)指揮官用、幹部用と階級が上がるごとに飾り紐(精神状態異常耐性)外套(火氷耐性)みたいに増えていきます
耐性が優秀な代わりに基本防御力は低めですね、それぞれの支部に合わせて改造も認められています


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葛葉探求

大分現地人が暴走します


「これは・・・?」

「お兄さん?」

 

 佐渡島金山大異界を探索していると、妙な術式の痕跡を見つける。

 追跡妨害、匂い落としに気配落とし・・・徹底している、それにこれは明らかに悪魔ではなく人間の術式だ、使われてる幾つかの式に何度か見た覚えがある。

 

「・・・かなり古いが、実力者だな、葵。ついてきてくれ」

「うん」

 

 入り口で待機させている支援チームに式を飛ばし、じりじりと警戒しつつも術を辿る。

 俺が間近で見てやっとわずかに掴める程度・・・遠隔だと佳乃でも掴めないのは無理はないか、ガイア連合として発展させてきた術式とは別物だが洗練の度合いで言えば同等、何者だこいつは?

 

 草を分け入り、岩を避け、幻覚を解き、結界をすり抜ける。

 じりじりと1時間、ようやく何かが・・・死臭?いや、まだ生きているか。

 脇道の小さな小さな洞、小柄な人が座り込んでようやっと収まる程度の中にじぃっと、何年そうしていたのか分からない老婆がいた。

 

「お兄さん、これ」

「あぁ、落ち着け、俺が対応する・・・下手な刺激を与えたらその場で死ぬぞこれは」

 

 回復を準備しつつ声をかける・・・不味いな、術で随分と生命活動を緩めていたみたいだが、20年・・・いや下手をすれば30年か?

 こちらが二の足を踏んでいると、向こうが先に気づいたらしい、いや、元々結界を抜けた時点で気づかれてはいたのだろう。動けるようになったのが今と言うだけで。

 

「あぁ・・・何と眩しき力・・・あなたは・・・その服、ヤタガラスの者でありましょうか・・・?」

「いや、それを継がんとは思っているがな。未だ日本の半分程度しか守ること叶わない未熟な身だ。

 そういうあなたは葛葉か」

「・・・何と言う僥倖・・・託すことができる・・・」

「おい待て、明らかにあなたは死にかけている。聞こえるか?気をしっかりと持ち直せ、これを含むんだ」

 

 虚ろな目でぼそぼそと力なく言葉を漏らす老婆に霊薬を与えんとするも、老婆は拒否して懐に仕舞った小さな桐箱を取り出す。

 

「雷堂様を・・・頼みます」

「あぁ、受け取る、任せろ、だから・・・」

 

 言い切る前に老婆の力が抜ける、霊の気配すら感じられない・・・本当に力の一筋を絞り切ったのが今なのだろう。

 

「・・・その人」

「あぁ、すぐ埋葬してやる・・・それにしても、ライドウだと?」

 

 小さな桐箱からは、じりじりと力が漏れ出していた。

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

「それで、渡されたのがこれってわけ?」

「あぁ、流石にこれは俺から直接お前に渡すべきだと思った」

「多分正解ね・・・鳥羽!60代以上、大規模異界を管理していた家の元当主級の人間を呼び出せるだけ呼び出しなさい!!」

 

 ライドウ・・・いや雷堂、その名の意味は恐ろしく重い。

 帝都守護、いや、日本のすべてを守り続けて来た葛葉四天王の中でも最強の名。

 メシア教の姦計によって国を質に取られ滅んですでに30年は数えた今ですら霊能者の家に生まれたものならば誰もが知っている。

 

「葛葉四天王が自害を強要された後、遺体は返還されていない、全てメシアが持ち去ったまま。

 ・・・これ以外はね」

 

 小さな桐箱を開けると、切り離されて尚霊的な力に満ち溢れ、瑞々しさを保つ足の指が入っていた。

 感じる力は恐ろしく強い、義孝が鍛えぬけば至れるであろう果てに指を掛けているとすら思える。

 間違いない、本物だ。

 

「これが日本をずっと守ってくれた方の・・・お葬式、上げてあげなきゃね、確かまだできていないんでしょう?」

「えぇ・・・きっちりと弔ってあげなければね、けれどその前にすることがあるわ」

 

 葛葉四天王の死後、葬儀は誰のものも行われていない。

 メシア教の介入によりカルトの一員として国をたぶらかしたA級戦犯であり、極悪人とされた人間の葬儀など真実はどうあれ行えるものではない。

 なにより奪われた肉体の行方すら知らぬ間に下手な儀式をすれば本当に魂すら奪われることになるかもしれない、それが恐ろしかった。

 だが、ここには指がある、確かな導がある・・・私の占術であれば行けるはずだ。

 

「河口、三木、姉小路、仰せにより只今罷り越しました」

「来たわね、単刀直入に言うわ、集められるだけ、手が空いているものを全員動員体制に移しなさい、半数はメシアへの警戒に回して」

「お待ちください、いったい何事が起きたというのです、流石にそれを聞かねば動けませぬ」

「あぁ、ごめんなさいね、けれどあなた達もこれを見れば・・・聞けばこうなるわ」

 

 不穏にも聞こえる言に三人の顔が曇る、あからさまな変事。

 ましてこの三人は保守派も保守派、戦後のメシア教による乱暴狼藉を見ていたからこそ殻にこもる様にしていた者たちだ・・・葛葉を、ヤタガラスを、心底慕い、国の安泰を信じていたからこそそれが覆されたときに誰よりも先を悲観し守りに入った者たちだ。

 

「これなるは先の大戦でメシア教の陰謀に散った葛葉四天王、葛葉雷堂の指。

 葛葉の忠義者が異界に潜伏し、守り続けていた正真正銘の遺体・・・私はこれを用いて占を行う。あなた達には行方知れずの葛葉四天王を取り戻してもらう、葵と義孝も別件でかなり派手に動いてもらうことになるわ」

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 メシア教の教会に悲鳴が響く。

 ガイア連合のうわさは聞いていたが全く意識していなかった、所詮は小さな島国のこれまたちっぽけな地方の組織。

 その組織に今、アークエンジェルが、パワーが、それらを呼び出した司祭が、片端から殺し尽くされていた。

 

「河口翁!一階の制圧完了しました!」

「では地下と敷設された孤児院を抑えよ、何が施されておるやらわからん、子供と言えども油断するなよ。

 天使を孕まされていたとしても可笑しくはない、それがメシア教だ」

「ははぁ!!」

「それと・・・手抜かりがあるぞ」

 

 言うと同時に刀を抜き打ちに、薄壁ごと隠し部屋に召喚された鎧の天使を切り捨てる。

 司祭の死を切っ掛けに仇討ちのために召喚する機構が仕込まれていたのだろう、司祭の死体から明らかに精気が失せていた。

 

「申し訳ありません、お手を煩わせました!」

「構わん、だが心せよ。奴らは老いた猿のように狡猾で、蛇よりも執念深い。

 殺したと油断すればその隙に仲間の体を爆弾にするのが奴らだ、残心を忘れるな」

「心に刻みます」

 

 今度こそ掃討に出かけた部下を尻目に、盟主より預かった式を頼りに求めるものを探す。

 ガイア連合としてメシア教と事を構える気は無い、それは事実だ。

 だが、そうもいっていられない理由がそこにはあった。

 

 優れた霊能者の体や血は全てが優れた霊的素材となる、そしてそれぞれの適性により様々な特性を得る。

 護国にすべてを捧げた葛葉、その身は当然優れた素材であり日本との相性が良い、国内で使えば恐ろしく強力な結界の媒介となり日本人の心を安らげることのできる特性を持つだろう。

 汚れた悪魔使いの身の浄罪として、戦争に疲弊しきった異教徒がメシアへ帰依し心を安らげる助けとする。

 メシア教が躊躇う理由などなかった。 

 

 高々と掲げられた、教会を覆う結界の発生源である十字架の救世主像・・・葛葉四天王を探索する力を与えられた式神はそこにぴたりと吸い付いていた。

 即座に銃で固定を撃ち抜くと、救世主像が教会を破壊しながら倒れこむ。

 

 支えの十字架の裏、僅かな空洞を刀の柄で砕き、中身を取り出す。

 

「・・・雷堂様・・・遅く・・・本当に遅くなりました・・・・・・

 申し訳ありませぬ・・・我らが不甲斐ないばかりに・・・申し訳ありませぬ・・・」

 

 河口家の長老である健之翁は、あふれ出る涙が止められずにいた。

 メシア教により自害させられた葛葉四天王、十五代目葛葉雷堂が右手薬指・・・メシア教の結界の起点となり、これまで心ならず日本の民を天使の傀儡と変えて来た教会を守り続けていた肉体のひとかけらが、数十年の時を経て今、解放された。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

「焼けぇい!!猊琳様の遺体を辱めておった罪じゃ、この地の全てを灰に帰せい!!」

 

 姉小路の長老が吠える。

 天使を、司祭を、助祭を、全て切り捨て、撃ち殺し、それでも収まらぬとばかりに猛り狂う。 

 普段恐ろしく慎重であり、臆病とすら称されていた彼は最早メシア教との敵対は絶対に避けねばならぬという事すら頭から抜け落ちメシア教のすべてを滅ぼさんと猛っていた。

 

「おぉぉ・・・猊琳様、いま、貴方方の後を継ぎこの国を守る若者があなたに相応しき墓所を用意して待っております・・・

 それまではどうか、どうかこの爺の懐にてご辛抱ください・・・」

 

 懐に収まった葛葉猊琳の目を収めた箱を撫でつけ、笑みを浮かべていた次の瞬間。

 目すらやらずに抜き放たれた銃が怪しげな光を見せていたメシア教の経典を撃ち抜き、弾丸からあふれ出た炎が発動しかけた術ごと焼き尽くす。

 

「あなた様が守り続けていた国の一欠けらとて白羽根どもには渡して置けませぬ、どうか我らの行いをご覧ください」

 

 最後に一撫でし、箱をしっかりと収めなおすと、爺は再び鬼に戻る。

 

「この教会を燃やし尽くせば次は信者どもじゃあ!

 洗脳されておった者や薬を使われた者のみ生かし、それ以外は骨の一欠けらすら残すなぁ!!」

 

 

 

――――――――――――

 

 

 ばさりと音を立てて干からびた右腕を供物として呼び出されたエンジェルが真二つに分かれて落ちる。

 

「小僧、あれが今までお前が信じておったメシア教よ。

 儂が切り離しておらなんだら全身を供物とされておっただろうなぁ」

「は・・・あ?え、てん・・・し?腕が・・・」

「っち」

 

 ばしゃりと霊薬を干からびた右腕にぶちまけ、今も血を吹き出す断面に着けるとぴたりと吸い付く。

 

「これで正気に戻ったか」

「あ・・・あ、貴方は何なんです!

 急に来て祭壇を壊して、私の右腕を切り飛ばして、天使様も切って!」

「当たり散らすな、信じたくなかろうがな、これが真実よ。貴様は子らを洗脳するための駒でもしものとき天使を呼ぶための生贄だ・・・おぉ、ここに居られたか」

 

 がさがさと砕いた祭壇から目当てのものを取り出す。

「え?いや・・・なんで、人の顎みたいな・・・なんでそんなものが」

「結界も解けた、頭も冴えていよう。

 来い、貴様にはメシアの奴原をごまかす手先になってもらわねばならん、聞きたいことは今から全て教えてやる」

 

 

 

――――――――――――

   

「やはり・・・」

「まさかそんな・・・いやしかし、確かにこれほどの結界を貼るとはどのような技術をと思っておりましたが・・・」

「教義とは人を導き、癒すものですが、時に人を狂わせもします。あなたは、どう思われますか?」

 

 穏健であり、天使も知り、愛を与えんと努め続けていたメシア教の司祭。

 彼は今、同胞の成した罪を目の前に突きつけられていた。

 

「彼らは私達がこれを取り戻し、弔ったと知れば喜々として私達を神敵であると糾弾し、この日本の民に剣を、銃を、砲を向け、心を惑わす香や術によってその尊厳を汚すでしょう…

 バチカンの手も借りてどうにか戦争は防ぐつもりです、あなたも、どうかその一助となってはくれませんか?」

「私は神の僕なれば、その正しきを信じて動くのみです・・・そして、私はこのような蛮行を為すは神を騙る悪魔に誑かされたが故と信じております。

 微力なれど、異端による殺戮を防ぐため、この手、この立場、この言葉、いかようにもお使いください」

 

 

――――――――――――

 

 

「きょ・・きょ、キョウジ様!!ガイア連合が突如乱心!国内のメシア教教会へ襲い掛かり、片端から灰に返しております!」

「あぁ、知っている」

 

 今代葛葉キョウジ・・・いや、戦後、主を失おうとも国を守らんと根願寺に寄り集まったヤタガラスと葛葉の残党を纏めるためにそう名乗っていた男は静かに手紙を見ながら返事を返す。

 

 使命に燃えていた、力不足に嘆いた、それでもやらねばならぬと思った、そして今・・・

 

「正当なる霊的国防機関として絶対にやらねばならなかったことだ、我らとて力があればやっていただろうな」

「何を仰っているのです!いくらガイア連合と言えど把握する限りメシア教と表立って戦える力はありません!核が落ちるのかもしれないのですよ!」

「メシア教とて他国との戦に手を割かれている、面倒で強力な敵の存在する宗教観念の薄い日本にこれ以上手を掛けまいよ」

「キョウジ様?どうなさったと言うのです、キョウジ様」

 

 あまりにも様子の可笑しいキョウジの様子に根願寺の僧が逆に冷静になり、問いを投げる。

 

「あぁ・・・キョウジか、そうだな、私はキョウジだ・・・

 不甲斐なく、力なく、術なく、それでも私はキョウジだ」

 

 ぼそぼそと言葉を零し、一拍置いて力のこもった声が響く。

 

「ヤタガラスと葛葉に連なる者を全て集めよ!

 我らはこれよりガイア連合へ降る!!!」




老人組が強いのは霊能者として才がなく、家からも期待されずに守られなかったから普通に徴兵されて、徴兵先で覚醒者兵士やってたのばっかりだからですね、本来の当主候補とか才あるのはメシアに潰されたので

カタカナ表記のほうが馴染み深いとは思いますが、現地人が呼ぶとなると漢字表記だよなぁと


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葛葉葬儀

「これで宗谷岬異界も制圧した、お前らが山梨まで来られる余裕は出来たな?」

「あぁ、十分だ。

 だけれども、なんでここまでする?ガイア連合の噂は聞いているがまだうちに来るほど勢力圏は広がっていないはずだ」

 

 訝し気に問うのも最もだろう、北は新潟が完全制圧に向けての一歩目、山形にわずかに手を掛けたかと言うところなのだから。

 ここでこうして異界を潰したとしてもその間に継続的な支援策や勢力の安定、強化を行うことができなければまた異界が生まれるだけだ、これは本当に一時の余裕を作る対症療法でしかない。

 

「これを読め、そうすれば分かるだろう」

「手紙?一体何が・・・なんだと?おい、これは本気か?いや…正気か?」

「あぁ、本当で、本気で、正気だ」

 

 目の奥にはわずかな喜びと、大きな恐れ、戸惑いの色も多く感情がぐちゃぐちゃになっているのが丸見えだ、仮にも長がこうなるとはな。

 

「メシア教が黙っていないぞ、それにいくらガイア連合と言えど・・・南の方も未制圧の異界がどれほどある?

 出来る余裕だって今の状況なら一月もあるかないかだ。

 間に合うとは思えないが」

「間に合わせるさ、それにやらねばならんことは分かるだろう。

 このままと言うのは余りにも彼らの献身を侮辱している」

「あぁ・・・分かるさ、参加させてもらうよ・・・俺たちだって、望んでいたことだ」

 

――――――――――――――――――

 

 

「国内メシア教過激派は抑えたわね?

 教会施設から偽報を出せる限り出しなさい。天使経由でバレるでしょうが国へのごまかしさえ効けばとりあえず無茶はできないはずよ。

 天使だってまだ高位が出るには戦場で異界との境が緩んでいるか依り代を使うかでもないとできないはず。

 あとこっちに着いた元メシアンと根願寺の伝手で大使館と交渉、そっちには私も出る」

「京都からは許諾の返事が来ました・・・しかし、よろしいのですか?」

「うちに置いといたって気が休まらないでしょうよ、帝都はこれから荒れる。

 なら葛葉始まりの地に眠らせてあげるのが一番でしょうよ」

「えぇ・・・そうですね、安らかに眠っていただきたいものです」

 

 河口の爺様はともかく、姉小路が無茶してくれたからわりときついわね・・・けれどまぁ海外からの報告も合わせて見るにあっちもいい加減に手いっぱいの筈。

 巨大すぎる組織故に広げすぎた版図全てが荒れていることで削られるリソースも多い。 

 なら後は力を示した上である程度の取り繕いさえすれば向こうとしても荒れさせようとは思わないだろう。

 もしもの時のために手も打った・・・成功してくれればいいが。

 

「盟主様、バチカンからの返書です」

「・・・よし!!これで抑えが楽になる。

 秋葉!文字通りの錦の御旗よ、広められるだけ広めなさい。穏健派ならこれで行けるはずよ!」

 

 人の手指や目、骨を埋め込んだあからさまな邪教の姿・・・メシア過激派の敵対閥からすれば政治闘争の絶好の材料だとは思ったが、高く買ってくれたようだ。

 

「四国、土佐を公が抑えました、これですべてです!代表格はすべて参加の意思を示しています!」

「返書書くから筆と紙!今すぐ最上級のを用意しなさい!!」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「葛葉四天王の葬儀・・・だと?」

「えぇ、この日本に住む全ての者はあの方々に恩があるはずです」

「分かっている!分かっている・・・だが」

 

 桜島を望む屋敷で島津家当主と、自らの宿した義経の官位に相応しい正装姿の葵が語り合う。

 どこまでも静かに、しかし凛と日本の恩人達を最大の儀で持って送り出さんとする意思を曲げずに説得を繰り返す葵。

 メシア教や根願寺への配慮をせねば何が起こるかわからぬと家を守るために頷かぬ当主、平行線であった。

 

「メシア教は恐ろしいぞ・・・奴らが何をしたかは知っていよう。

 そんな奴らが直々に滅ぼすべき神の敵として全霊を掛けて討たんとした葛葉の方々、それを弔うという事が・・・どういうことか分かっているのか?」

「分かっています、だから盟主も・・・佳乃も全力を尽くして政治工作を行っているのですから。

 それでもやらなければならないことです、日本の霊的国防のために働き続け、日本の命脈を繋ぐために自死を選んだ誇り高き英霊。

 彼らに安らかな眠りを与えることができずに何故胸を張って日ノ本の民であるなどと名乗れましょう」

 

 背筋をまっすぐに保ち、語る葵の目には一欠けらの迷いや淀みもない。

 その澄んだ瞳に映るぐにゃりと懊悩を示すように折れ曲がり、迷い続け、淀みに澱んだ島津の身の惨めさを本人に教える。

 

「どうしてもやるというのか」

「無論」

「メシア教がどうしても収まらず血を求めればどうする」

「敵を斬れば収まるというのであれば敵を。

 自らの腹を斬れば収まるというのであれば腹を斬りましょう」

 

 はぁっと・・・ため込んだ何もかもを魂ごと吐き出すような重い息とともに落とし、ぐっと足腰に力を入れる。

 

「・・・島津はガイア連合に下り、葬儀に参加する」

「ありがとうございます」

 

 花のような笑顔と、最上の美しさを持つ礼であった。

 

「それでは、不作法ながら失礼いたします。

 まだ一つ、行かねばならぬところがあります」

 

「そうか、船はいるか?」

「いえ、飛行機を抑えておりますので、お気遣いありがとうございます」

「あの地は未だ大戦の亡霊が荒れ狂って居る・・・真に島に着けたかどうかは確かめておけよ、いくらお主でも飛行機に包まれたままニライカナイに沈んではどうしようもあるまい」

「忠告、有り難く」

 

 

――――――――――――――――

 

 

「良いのですか?キョウジ様」

「良いも悪いもない、これが今までキョウジを名乗っていたものとしてやらねばならんことだ」

 

 白装束に身を固めた一団、その全員が元は葛葉であり、ヤタガラスであった。

 送られてきた手紙にはただ、これから葛葉四天王の葬儀を行う事。メシア教から遺体を取り戻すために関係を悪化させかねない事。可能な限り抑えるからそれに協力してほしいという事があった、それだけがあった。

 招待の言葉は一つもなかった。

 

 根願寺として・・・葛葉として、ヤタガラスとして、その残党として、葛葉キョウジを名乗る者として、蓄えた何もかもを使った。

 財貨を、伝手を、情報を、霊具を、霊薬を、文字通り使えるもの全て使い果たして、国外関係は最低限の安定を得た。

 

 ならば後は、この身の義務を果たすのみである。

 

「ガイア連合・・・いや、地方の全ての霊能者は私達を許しますまい」

「可笑しなことを言う、貴様は自らの不甲斐なさを許せているというのか?」

「いえ、しかし」

「良いのだ、我らは全てを明け渡して腹を切ればいい。

 日和見の爺どもとてもはやどうにもならんことを悟れば諦めもしよう。

 それだけの後継が生まれてくれた・・・」

 

 霊的国防組織としての地位も、対メシア教工作の合間にどうにか認可を得た。

 もはや後の憂いなどない。

 

「・・・あぁ、見ろ、気持ちの良い空だ」

 

 空は、どこまでも青く澄んで晴れ渡っていた。

 

 

―――――――――――

 

 

 葛葉四天王の葬儀はガイア連合の山梨拠点にて行われることとなった。

 

 帝都にあったヤタガラスや葛葉の拠点はすでに焼け落ち、重要なものは残さず持ち出されていたが、僅かに持ち出された物や年嵩の者の記憶をもとに可能な限り再現し、神棚や祖霊舎が再現され、代替とされた。

 遺体はそれぞれ百を超える数に切り刻まれており修復は困難を極めた、しかしそれぞれの顔を知る老人や隠し持っていた写真などの参考資料も活用し、ついにはほぼほぼ完全な復元を為された。

 遺体は北枕に安置したのちそれぞれの地方から集められた最高の米、塩、水、酒、四天王それぞれの好物を祭壇に備える。

 

 納棺の儀も恙なく終え、地方代表者数千がそれぞれに祭詞、祭文を唱え。また腕の限りを尽くし雅楽を奏でる。

 ・・・玉串奉奠にて涙を堪え切れず泣き崩れるものも多く、人数も人数であるためこの時点で1日が過ぎた。

 

 葬場祭も終わりに近づき、これより火葬祭に移らんとする時の事だった、葛葉キョウジが招待無く訪れたのは。

 

 

「止まれ、止まれい狼藉者がぁ!」

「ぬぐ!!済まぬがこちらにも為さねばならんことがある!」

 

 葬儀の場にて血を流すわけにもいかぬと無手により制圧せんとする警備兵は、命すら惜しまぬと言わんばかりの勢いでキョウジの道を開くために縋りつく彼の部下たちを殺すこともできず、ついには声の届くところにまでキョウジの侵入を許していた。

 

「双方止まりなさい!尊き方々の霊前よ、騒がしくすることは私が許さない」

「盟主、しかし」

「いいの」

「・・・ははぁ!」

 

 ざくざくと玉砂利を踏みながら、佳乃が服も乱れ、骨も多少外れている節のあるキョウジに近づく。

 

「何故、ここへ?貴方は確かにメシアの抑えに協力してもらった・・・けれどもこの葬儀に顔を出せる立場であると思って?」

「分かっている・・・それでも来た」

「いったい何を・・・」

 

 戸惑う佳乃の眼前にてキョウジが膝を折り、額を玉砂利だらけの地に擦り付ける。

「不肖の身ながら葛葉が一家を継ぐものとして、奉る。

 もはや力なき我ら葛葉に変わり、どうかこの国をお守りください・・・新たなヤタガラス、日埜佳乃殿」

「・・・・・・」

 

 無言のうちに佳乃の額に汗が流れる・・・重い、余りにも重い言葉だった。

 誰もが事の成り行きに注目していた、風の音すらうるさいほどに静まり返っていた。

 

 白装束を着込み、この場で額を地に擦り付けたキョウジの覚悟は余りにも明らかである、彼は死ぬ気だ、命を懸けてきている。

 

「ヤタガラスは・・・継がないわ」

 佳乃が絞り出すように言葉を紡ぐ、ぴくりとキョウジが震え、会場にも落胆の色が漂う中で他の誰かが言葉を発する前に佳乃が続ける。

「私は、私達はガイア連合として確かにこの国を守る。

 ・・・だから、もう眠らせてあげなさい、葛葉も、ヤタガラスも、祖霊たちも・・・後は私がやるわ」

「その言葉、葛葉として確かに聞き届けた。

 日本を、どうかお頼み申す」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 葬儀の何もかもが終わった後の夜・・・ひたすらに葵に縋って泣いていた。

 

「なんで、なんでみんな私に背負わせるのよぉ!なんでだれかが背負ってくれないの?

 私なんてちっぽけな占い係でいいじゃない、サポート役でいいじゃない!覚悟がもっと決まっているのも、頭が良いのも、力があるのだって・・・何人もいるでしょう!」

「うん・・・うん、つらいよね」

「葵と義孝と・・・三人だけで走り回っていたかった、何にも背負わずただ強いだけで、異界を潰して凄いなんて言われて、上に立つ誰かに従ってたまに案だしたり取り入れてもらえるだけの端が良かった」

 

 我ながら情けないと思う、だけれども止まらなかった。

 やらなければならないと思って動き出した、正しいと思うことをし続けて来た、必死で走った・・・気づけば背負うものだらけ。

 吐きそうだった、重かった、私の一挙一動で誰かの生死が動く、組織が動く。

 私なんてこんなものだと分かってくれているのもふたりだけ、泣いて良いのもこの私室だけ。

 

「やめちゃいたい?」

「うん・・・けど、駄目だから、それは絶対に。

 みんなみんな私を信じて尽くしてくれてる、いろんなものを捧げてくれてる、なら、つらいからってやめちゃ・・・多分私が私を許せない」

「そうだね、お姉さんは真面目だもの」

 

 ひっひっと情けなくしゃくりあげ、涙で顔を汚しながら6つも年下の本来まだ中学校に通っている年の子供に頼り切り、縋りつき、泣きわめく。

 どうしようもなくみっともない、けれどそうしなければ本当に折れてしまいそうだった。

 ショタおじのような本物の英雄だったらと思う、知っていたから動けただけの私なんかよりよっぽどふさわしい人がいると思う、けれど辞めることだけはもうできなかった。

 

「なんで、転生者もみんなみんな辞めちゃうのよぉ、私の10分の1も辛い思いしてないじゃない、義孝や葵の100分の1も戦ってないじゃない。

 私みたいな普通の女にも耐えられたのになんで逃げるのよぉ、背負ってくれたっていいじゃない。

 一緒に戦ってくれていいじゃない、前はあんなに馬鹿みたいに楽しそうに戦ってたじゃない」

「仕方ないよ、戦うことはほんとはつらいもの、それを何かで誤魔化せなくなったら戦えなくたって」

「馬鹿ぁ、ばかぁ、使命感とか持ちなさいよ。死んじゃうのよ」

 

 自分でもわかっている、私が前世でやられたら諦めるだろうとも思っている。

 もっとじっくりやるとか組織内で嫁や婿を斡旋して後戻りできなくするとかもっと上手いだまし方だってあるだろうと思う。

 それでも、厳しい世界を知って協力してほしかった、つらい事ばっかりだってことを誤魔化さずに知らせて、縛り付けもせず、協力してほしかった。

 

「転生者もっとすごいやつも立場あるやつもいるのよ!シベリアやイランに金突っ込んで石油の権益山ほど得た大金持ち、情報技術40年進めた怪物、信濃にだってワタシ達から隠れてたけど跡取りにありえないくらいの天才がいた・・・転生者がいた!

 なんで私なのよ!なんで知識あるってだけの私ばっかり動いてるのよ!アンタら凄いじゃない!動きなさいよ!もっとすごいことできるでしょう!」

「けど、今は協力してくれているよ、始めるのがつらかっただけで動きたくないわけじゃなかった」

「最初っから作りなさいよぉ・・・特殊部隊でも家のを鍛えて精鋭にするでも・・・なんかできたでしょ、なんで稼ぐだけなのよ、なんで自分鍛えるだけなのよ」

 

 八つ当たりだ、私だって動き出すまではショタおじに乗っかるつもりで、日埜神社の娘として鍛えていただけだった。

 転生者同士でコンタクトを取ろうともせず車を弄ったり前世知識で術を改良して天才って呼ばれて気分良くなったり・・・

 分かるのだ、鮮烈な切っ掛けなく正しいから、やるべきだからで環境を変えてしまおうと努力を始められるのはすごい事だって。

 私みたいな反則女でもなければ初期も初期に危機感持って動きなんかしなかったって。

 

「根願寺だって、なによ今回の責任を取るために中枢みんな・・・腹切るって。

 全部私たちに任せるって・・・もっと生き汚く足掻きなさいよ、なんであんなすっきりした顔するのよ」

「あの人たちだって国を守りたかったんだよ、それで、僕たちを生き残らせるべきだって思ったんでしょう」

「国外逃亡とか企てなさいよ、なんで死ぬのよ、馬鹿、命を大切にしなさいよ・・・死にたくなんかないでしょ、馬鹿ぁ」

 

 メシア教や国への面子を立てるために、根願寺の重役は腹を切った。

 外交的にも、帝や政治家に対してもガイア連合にすべてを譲ると何もかもの手続きを終えた上で。

 

「・・・ごめん、葵、情けない姿見せて、きっちり立つから・・・ありがとね」

 

 離れようとしたら、葵が無言で抱き留めてきて、布団に諸共倒れこむ。

 

「いいよ、僕らしかいないんだから、朝またガイア連合の佳乃に戻らなきゃいけなくなるまでずっと情けないお姉さんのままで。

 僕の胸で良ければいくらでも貸すから、ほら」

「・・・うん、じゃあ、あまえる」

 

 この日は、しばらくぶりに夢も見ずに3時間も眠れた




アライメント
日埜佳乃L:N
やらなきゃならないとなれば動くが、基本的にその時々や相手によって態度が変わるしなんとなく周囲の空気に流される普通の人間
源葵L:L
基本的に社会的規範に従う善人、善き人でありたいと思っているし、その社会で幸せになれる人間を一人でも増やそうと力を尽くす
九条義孝C:N
自らの思うところだけに従う、ガイア連合に参加したのは力をつけ組織力を得るためそれが正しいと思ったからで、ガイア連合へ尽くしているのも葵と佳乃という好いた相手がいるから、善人やるか悪人やるかは相手の好悪で決まる

誰が抜けてもヤバいけど中でも葵が抜けたら一番ヤバいです、メンタルケアと組織の秩序と善性担当なので居なくなったらほんとにガイアになっていきます


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IFルート
俺が転生者の組織を作る話


掲示版あたりからのifルートでも書いて見る
葬儀ルートはあれ以上がが思い付かないし


 忙しく働いていたある日、ふっと思いついたことがあった。

(転生者を味方につけるの…私だとできなかったけど義孝だとできちゃうんじゃないかしら、もしかして。

 葵だと真面目過ぎるからあのノリは難しそうだし…忙しそうにしてるのは知ってるけれどこっちも急務だし、頼んでみようかしら)

 

 3轍目で一瞬くらりとぼやけた頭に霊薬を流し込んで気合を入れなおし、声を上げる。

 

「日高、義孝を呼んできて。

 二人だけで話すことがあるからその後は見張りもお願い」

「かしこまりました」

 

 しばらく待つと義孝が来た、煤や油が付いていたりするところを見ると今日も銃と硝煙の中で忙しくしてくれていたらしい、お疲れ様。

 

「ごめんね、急に呼び出して」

「気にするな、そんで何事だ?

 俺が忙しいの知ってるお前が呼ぶんだ、大事だろ。葵が居ない辺り荒事じゃなさそうだが」

「あぁ…その…ふぅぅ。

 私、最初転生者呼び集めようとして失敗したじゃない?

 いや葵と義孝来てくれたんだから大成功なんだけどさ、それはそれとして普通の転生者って今いないじゃない」

「あぁ、なるほど、才能とんでもないらしいからな、それで味方につけようって話か。

 …いや大丈夫か?お前正直トラウマになってるだろ」

 

 …やっぱり義孝には見抜かれていたようだ、はっきり言って私は普通の転生者を味方につけようとして荒らしのせいで大ゴケしたのがトラウマだ。

 私のやり方が拙かった、仕方ないと言い聞かせていてもどこかで信じきれないし、今もろくなもんじゃないのが来るだろうなぁ、忙しい義孝に任せるほどのことじゃないよ、後から才能あるの来ちゃうと先に居て必死で苦労してるのがぎくしゃくするよと辞めるための言い訳が頭の中でエンドレスに響いている。

 だが、それでも味方につけないといけないのだ、それを私は知っている。

 

「いえ、お願い。

 …確かに仲間にするって思い浮かべるとすごいきついけど、それでも才能格差を考えるとどうしてもいるの。

 お願い義孝、私には無理だったから」

「はぁ…分かった。

 お前がそうまでいうならどうにかしてみるさ、いろいろ手は借りるぞ」

「うん、いくらでも貸すからほんとお願いね。

 ガイア連合戦術研究長役はしばらく休んでいいから、私の密命で動いてるってことにしておく」

「…葵との異界周りだけはさせろよ」

 

 はぁぁっと疲れたようにため息をつく義孝に頭を下げ、頼み込む。

 いやほんとめんどくさいこと頼んでごめん。

 

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 

 佳乃から転生者を味方につけろと言われた…正直、気が重い。

 いや、意義は理解している、佳乃いわく俺達は上澄みらしいが、それでも転生者の才能は現地の人間と比べ物にならないらしい。

 数と士気と鍛錬と装備と戦術で補えない絶対的な格の差、それはこれからさらに霊地の活性化が進み大物が出だせばどうしたって立ちふさがる問題である。

 それを防ぐために転生者がいる、なるほどわかりやすい。

 …だが一つ問題がある。

 

「どんだけ選りすぐっても令和の人間がガイア連合に馴染めるわけがない…無理やり中に入れても反発しあうだけだ。

 …まして危機感の薄いやつらもいずれ引き込むとなると軽い組織にしないと逃げられる。

 ガイア連合に仕事や装備を回して貰い、訓練も受けさせてもらう紐付きの別の組織としてまとめる必要がある。

 …………そしてそれを纏めるのは転生者でガイア連合とつながりが深く佳乃の意のままに動き信頼もできる実力者でないといけない。

 っくそ!!」

 

 詰まる所どう足掻いても俺しかいなかった、別組織として動くなら俺たち3人の私室で会う事も出来なくなるだろう、葵や佳乃がどう思おうと組織としてのけじめとしてそうせざる負えない。

 プライベートで会うというのも難しいだろう、葵にしろ佳乃にしろ人間として恐ろしく強靭な覚醒者の中でも突き抜けた天才が霊薬漬けになってやっと持つ程働いている、開けられる時間なんて碌にない。

 はっきり言って転生者を集める方策は腹案もあるし佳乃の力を大っぴらに借りていいというならどうとでもなるだろう。

 だがその先にあるのは確実な離別だ。

 そしてやらなかったとしたらその先にあるのは破滅。

 

 がりがりと頭を掻きむしる両手が止まらない、佳乃と葵と離れる、それは嫌だ。

 

 心底、嫌だ。

 

 だが離れなければ待っているのは転生者を取り込めず実力者不足で破綻する先のない未来。

 ガイア連合が発展していけば下からの突き上げにいつまでも抗い切れるものではない以上在野の天才の取り込みは始まるだろう、その時になれば待っているのは転生者との決裂だ、早めに決断する必要がある。

 そして佳乃は今やるといった…やってくれと俺に頼んだ。

 これ以上戦術を研究しているから、これで戦死者が減るからと仕事に没頭して目を逸らすことはできない。

 

 佳乃と葵を巻き込んでの破滅か、俺一人が別の組織に行くか…答えなど決まっている。

 理性もそれを支持している、感情もあいつらの不幸など認めないと言う。

 それでも必死で目を逸らし、決断を先延ばしにして、出来るならばなかったことにしたいくらい決断することは辛かった。

 

「ガイア連合に転生者を入れるのは…あぁクソ、俺は何を言っている。

 現状はあくまでも日埜神社の跡取りという地方の天才が発起人になって地方の霊能者を束ねたと言う分かりやすい形があるからあぁも躊躇いなく集まってくるし術と言う財産を捧げてくれているんだ。

 訳の分からん一般人の天才がわらわらいる謎の組織になってしまえば躊躇いが起こる、メシア教の事を考えれば日本を纏めるのに少しも足を緩めている暇はないだろう。

 俺と佳乃達が個人的に付き合いが持てるほどに組織同士を深く結ぶ…無いな、不協和音を起こさないために切り分けるという元の意味がなくなる。

 ………俺以外に見込みのあるやつに任せる………そんな奴がどこにいる!!」

 

 我ながらみっともなく感情的にダァンと机に拳を叩き落とす。

 分かっている、分かっている…だがどうにか済ませられないかと考えてしまう。

 

「………戦術構築については最低限の形は出来た、老人どもに任せて佳乃が方向性の調整をすればどうにかなる程度には、葵が指揮を執る中に後方組を随伴させれば良いだろう。

 ……必要なのはまず佳乃が使っていた転生者以外を弾くと言う術式、可能ならば精神が揺れ動いている人間だけを絞れれば尚良しか、女神転生の世界に転生した、不可解事件に不安感を持っている、そのあたりの動機があるやつから取り込んである程度固めなければコケるだけだ。

 …動機がないやつに向けての飴も今の内から用意しなければどうにもならんだろうな、佳乃が言っていたのは式…女に男に飼い犬か、情を注がせ続けるには良いだろうが、ノウハウがない。

 生身のを回せばどう足掻いても陰謀の生臭みが出る、多用はできない……となると娯楽か?

 修行用に第六感を経由して恐ろしいまでのリアリティで刺激を与える幻覚はあったな、あれを弄るか」

 

 拳を叩き下ろした机に顔をつけ、ぶつぶつと口先だけで考えを纏めていく。

 頭の中ではぐるぐると自分が葵と佳乃から離れなくていい理由を探しながら。

 

(日高の…いや、あいつは流されるだけだ、今は霊能者の家に生まれてそのままガイア連合にいるからでしかない。前世をある程度共有できる仲間と会えばそちらに惹かれて終いだろう。

 紫藤…腕はともかく性根が一兵卒でありたがりすぎる、変な運用はしない方が良い。

 武東は向いているかもしれんが野心が強すぎるしそれを表に出し過ぎる、引かれるだろうな。

 佳苗は…いや、あいつは諏訪鎮守の役目だ、外すわけにもいかない。

 山木、ただの技術者に期待する役割ではない)

「掲示板経由である程度種を蒔くとして複数のPCや回線を使った方が良いな、そっちに特化した転生者も居るだろう、自演がばれれば一気に引かれる。

 式を弄って遠隔で命令した内容を打ち込むようにさせるか、他の人間を介在するわけにもいかん。

 釣るとするなら材料に悪魔の写真でも確保しておくべきだな、ピクシー、コボルト、カハクに…ポルターガイストは映らん、アーシーズ辺りで緩めてからリャナンシー辺りの印象的な人外を叩き込むか。

 事後現場や犯行現場、ありえない獣の爪痕に妙な死体…痕跡でリアリティを出せるやつも確保しておくか。

 集めた後の集合場所は…寂れていても失望を買うしガイア連合の敷地や施設を使えば下部組織の印象が強まる。

 適当な霊地にでかい屋敷でも建てるとするかな」

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 合同訓練も一段落付き、夜にお兄さんと休みを兼ねて異界潰し巡りをしていた時、ふっと軽く話しかけて来た。

 

「なぁ、葵。

 もし俺が、しばらく別の組織行って別れることになるかもしれないってなったらどう思う」

「急だね、何かのたとえ話?ん~、じゃあとりあえずそれはお兄さんがやるべきだって思ったから?」

「あぁ…まぁ、そうだな。

 もちろん別れてる間は会えないし、会っても話せないし、結構な間別れることになる」

 

 1年半の付き合いだけれども、こんなに歯切れ悪そうで気まずそうなお兄さんの顔は初めて見た。

 たとえ話なんて誤魔化してるが、多分これは本当にそうせざるを得ないことになったのだろう。

 なら僕がやることは

 

「お兄さんがやるべきだって思ったなら送り出すよ、寂しいし、つらいけれども。

 いつでも帰って来てくれていいし、迎え入れられるように準備して送り出して、別々の道行ってるお兄さんを信じている。

 だから、安心して良いんだよ?

 離れてるからって無くなっちゃうくらいの繋がりじゃないんだから」

 

「………はは、そんな真面目に答えるなよ、例え話だっての」

 

 くしゃっとした力の入ってない笑顔で笑い飛ばしたお兄さんが話を振り切るように先行して、ずんずんと進む。

 …ぼそりとこぼした感謝の言葉は、聞かなかったことにした方が良いんだろう。




前みたいに毎日投稿してるときついし質が落ちると分かったのでこんどは不定期になります、週2くらいは書けると思うので長い目で見てください


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不可解事件を語ろうpart27

 

294:名無しの転生者 ID:nr3+zkTmL

 つまりあれはマジだと・・・

 

295:名無しの転生者 ID:2tMO90liy

 いや嘘やと思うやん、ニュースになっとるやん、新聞取り寄せてみるやん、写真乗ってるし訃報欄でお名前見れちゃうやん

 ふざけんなよぉ、マジかよ!!

 

296:名無しの転生者 ID:nlTproJhT

 結局前スレの不可解事件で偽モンの方が少なかったなこん畜生

 

300:名無しの転生者 ID:OThSdL8+g

 ログ辿ってきたけど・・・え、いやこれマジ?まだそこそこ元気なヤッさんがやらかした特にオカルトでもない事件でした!が癒しって

 

302:名無しの転生者 ID:v9da8RIC8

 やっぱメガテンかよぉ・・・

 

304:名無しの転生者 ID:zqj+pT4Dh

 ほれお前らピクシーたん見て癒されろ

 pixy.jpg

 

309:名無しの転生者 ID:4iYfUNZLb

 >>304ありがとう、それはそうとここがメガテンって証明を突き付けるのやめてください!

 

311:名無しの転生者 ID:U6rMLjmDG

 メシアンの陰謀論www

 ・・・あれ?これもしかしなくてもマジだな?

 

312:名無しの転生者 ID:Xcx/7K/o3

 新規だけどここ最近の明らかにオカルトな事件板かこれ?

 んじゃこれな

 くま.jpg

 

316:名無しの転生者 ID:9e649yOdh

 どう見ても熊よりヤバい動物の爪痕ですね本当にありがとうございます

 ・・・いやなにこれぇ・・・トラック3枚卸って

 

320:名無しの転生者 ID:anlxZKMBp

 近所の神社の神主さんが明らかに血のにじむ包帯姿→行方不明欄の絶望よ

 

321:名無しの転生者 ID:cAf9U4wrg

 最近は特にそんなことないけどなぁ、一過性じゃないか?

 

322:名無しの転生者 ID:GQotpW52q

 追加だ、北海道で雪山大雪崩、スキーに来ていた地元高校生が全滅だとさ

 

324:名無しの転生者 ID:S/cIrqq4B

 >>321お前さては山梨だな

 

328:名無しの転生者 ID:i7GrrD5yC

 >>321その簡単な頭が羨ましい

 

329:名無しの転生者 ID:kMLePjsVN

 一応地元の対抗組織とかもあるらしいな、ちょいちょい死んでるけど・・・

 

334:名無しの転生者 ID:cAf9U4wrg

 いや確かに山梨だけど・・・え、なんでこんな簡単に特定されてんの?

 

336:名無しの転生者 ID:dj2rH5789

 メガテンだと覚醒かサマナーか悪魔召喚プログラムにデモニカください・・・

 

340:名無しの転生者 ID:yTuhLGcp9

 >>334そんな暢気なこと言えるのは山梨住民だけだからだよ、移住増えてんだから気づけよ

 

344:名無しの転生者 ID:8W4GfY6eE

 >>デモニカ(国連とかの最新鋭装備)悪魔召喚プログラム(スティーブン)サモナー(秘伝、漏れ見える感じ封魔管レベル)

 

348:名無しの転生者 ID:qHIGnlEau

 霊能者っぽいのはこの中にもいるみたいだけどなぁ、なぁ管理人さんよぉ!!

 

352:名無しの転生者 ID:k0bL6SU9r

 管理人:転生者同士での話し合いの場としていろいろあれこれやって転生者しか入れない掲示板つくったよ☆S○GAを語ろうぜ!!

 

353:名無しの転生者 ID:MT3o2H8kJ

 >>348それ以外にもちょいちょいいるっぽいけど口揃えてどうやって転生者以外弾いてんのかわからんと言ってるという・・・

 

355:名無しの転生者 ID:C2LKH5pH7

 >>352なぜあんなアホに神は技術を与えたもうたのか

 

359:名無しの転生者 ID:AWB9PuHiI

 >>352なんで現状ほんとに転生者以外入ってないっぽいのか逆に怖い

 

363:名無しの転生者 ID:n+RWn7ogC

>>344ギリギリ狙うなら覚醒かな・・・

 

364:名無しの転生者 ID:/+tPXd0cb

 >>344管狐レベルよサモナー、レベル3の狐ちゃんかわいいです

 

367:名無しの転生者 ID:6EuA3jD8i

 >>336地方霊能者とか下手すると覚醒してないのもごろごろいるぞ

 

372:名無しの転生者 ID:QnoExHSle

 >>359霊能者組は大体有能扱いっぽいし転生したからチートな才能持ってます!素質高めで足切りします!みたいな感じじゃね?知らんけど

 

375:名無しの転生者 ID:M2X6U0P4b

  >>364本物がいるぞ!囲め!

 

376:名無しの転生者 ID:yPqfYaBTy

 終末板なんてものまであったし末法ぶりがすごいよね

 東京受胎まであと2X年!!

 

380:名無しの転生者 ID:OdqtN1LOz

 >>376やめろ

 やめろ

 

384:名無しの転生者 ID:sy4CBUuYJ

 転生者の友達を探しています、この顔を見かけたら教えてください

 千秋.jpg

 

387:名無しの転生者 ID:flSqCtCHv

 >>376メシアン人気の方がすごいだろあそこは、自称海外帰りは大体メシア推し

 

390:名無しの転生者 ID:cAf9U4wrg

 >>384そうか・・・生身で巡り合って互いに明かして友達になれてたのか・・・よかったな

 

 

 

―――――――――――――

 

addneo

それで、そのネタはマジっぽいのか?

 

niko

あぁ、俺が保障する、確かに死ぬほどきついが覚醒者になれた

 

antimessiah

おい、まさかメシア教の紐付きってわけじゃないだろうな?あいつらはどこにでも手を伸ばしてるぞ。才能有って脇の甘い俺らは正直エサだ 

 

niko

アンチさんの警戒も分かるけどマジもんだよ、地元の組織から飛び出したやつが俺ら用に新しく立ち上げるって訳だ

 

sidou

立ち上げってことは1からか?それもそれでどうなんだよ

 

yukinko

あぁ、ガイア連合の始まりの三人から一人抜けたって聞いたなぁそう言えば

 

nekoinu

え、ちょっと待って、名前ヤバいけど終末までは頼れそうな裏の期待株じゃん、転生者だったのアイツラ

 

antimessiah

あぁ、俺もうわさなら聞いたことはあるが・・・ありゃただのヤタガラスの再生産だろ、米軍握ってるやつら相手じゃ当てになんねぇぞ

 

niko

や、残ったのはガチの地元の天才と天然物のヨシツネ、転生者だから馴染めず抜けたっぽい。ノリと知識量の合う相手と組織を作りたいそいつと俺らで利害一致って訳よ

 

sidou

まぁそれでも現地で蓄えられた知識引き出せば俺達が生き残る種にはなる、それで十分じゃないか?

 

addneo

それでニコさんよ、そいつの名前は?

 

niko

実名はアウトだろうしな・・・ハンドルネームならトロワだってさ

 

nekoinu

ガンダムじゃねぇか!!

 

 

――――――――――――

 

 

 

 かちりかちりと複数の掲示板やチャットでのやり取りを行い、ある程度の反応を得られたのを確認して閉じる。

 

「…釣れたか、仁藤を迎え入れた甲斐も在った。

 転生者同士と言う無形の集団意識も育っている、あとはじわじわと広げるとして…金を稼いでおくか、ガイア連合管轄外で行動していた実績も作る必要がある。

 技術者が早めに釣れればいいがな、まぁそこは運も絡む、期待だけにとどめておくべきか」

 

 ちらりとガイア連合の活動と、そこから予測される最前線を書き込んだ地図を眺め、仕事の位置を決める。

 ガイア連合が近ければこれから状況は変わると後先考えずに物資を注ぎ込み、人的被害を抑える。

 ガイア連合が遠ければ今までと同じように持続性を考えて遅滞に徹する。

 

 なり振り構わぬと金払いが良いのはガイア連合最前線近く。

 報酬は多少渋いが仕事自体が拘束もゆるく経験値、アイテムも得られるのは最前線より遠く。

 

「…バッティングには気を付けるとするか、とりあえず金だな」

 

 木刀の中に本身を仕込んだ物を竹刀袋に入れて担ぐ。

 今までのようにガイア連合の伝手を使って誤魔化すわけにもいかないし、外見年齢的に補導しようとする警官も居るから人払いと偽装は欠かせない。

 

「群馬だと今から出て最低限で済ましても帰るころには夜だな、訪問予定は…明日の昼から覚醒志望3人組、しばらく拘束されるしとりあえずいろいろと回っておくとするか」

 

 独り言が多くなっているな、と感じる。

 いつでも話したい奴が傍にいた反動だろう。

 そのうち、多分家に居たときのように喋らないのが普通になっていくんだろうな、早く楽になりたいものだ。

 




掲示版のうち何人か義孝です、別回線別PC使って所在もバラバラに離した上で式使って遠隔操作書き込みしてます


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3人のそれぞれ

 ぱちゃぱちゃと音を立てて湯を弄ぶ。

 神奈川で現在危機的状態にある異界を掃討した後、地元の霊能組織から心づくしとしてせめてと秘湯へ案内されたのだ。

 こういう時は相手の顔を立ててある程度は受け取っておくべきだと言われていたので久々にしっかりと休ませてもらっている、汚れ落としでさっと浴びることは多いが湯船につかってのんびりするのは久々だ。

 

 ちらりと視線を投げるも、映るのは湯気と庭ばかり。

 かつてと比べて、少し寂しくなった。

 

 昔、小異界を潰しまわってた頃、お姉さんが疲れをじっくり抜くためにはたまにはこういうのも要るのよって、霊薬をたっぷり混ぜたお風呂を作ってくれたことがあった。

 術で回復効果上げるの手間だから二人一緒に入っちゃいなさいよ!なんて言われて。

 日埜神社のお風呂はちょっと大きめだけれど、それでも二人だと狭くてちょっとふざけながら押しあったりして…何二人だけで楽しそうにしてんのよってお姉さんもお風呂の窓からのぞいてきたりしてみんなで騒ぎながら楽しんでた頃。

 

 霊地としての質も、稼ぐために問題ない所で観光地しながら磨き上げた諸々の設備とかも、こっちの方がはるかに上なんだろうなって思う。

 けれど、僕は日埜神社の、古びた普通の家にあるようなお風呂の方が好きだった。

 

「うん、だめだめ、しっかりしなきゃ」

 

 ぱしゃりと顔をお湯で洗って寂しい気持ちを払ってシャキッとさせる。

 これが僕らの頑張ってきた結果で、いろんな人の人生を変えてきた結果なのだ。

 胸を張っておかなきゃ背中についてきてくれた人に、僕らに賭けるって決めてくれた人に、僕らが切り捨ててきた悪魔に、余りに失礼だ。

 

 むにむにと頬を弄って笑顔の作り方を思い出す、お風呂あがったらしっかりお礼言って、これからのこととかきっちり話し合わなきゃ。

 

「ガイア連合への参加と、技術交流に関する話は専門の人に任せるとして、源氏に関する事は大体僕に任せられることになりそうかな。

 鶴岡八幡宮とか箱根神社とか由比若宮とか幕府跡とか…しばらくずっとこっちに居ることになりそうだなぁ、武士達の魂も随分荒ぶってたし。

 今の民に災いを齎すわけにもいかんって今まで抑えられてたのは実力者ばっかり見たいだから…うん、頑張ろう」

 

 だってぼくは義経で、日本を守るガイア連合の武の頂点なんだから。

 

 ざばりと湯から上がった時、頭にあるのはこれからの異界の攻略手順と、坂東武者の武芸に関する事だけだった。 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

「トロワ、これでアンタが言ってた依頼は全部だ、メシアの情報を寄越せよ」

「確かに。

 そら、私が知っている限りの国内のメシア分布、確実にかかわっていると思われる事件情報だ」

「…多いな、何故こんだけ握っててアンタは何もしてなかった」

「高々一人、何ができる。

 お前も軽い気持ちで動くなよ、お前の暴発でメシアンどもがイラつけばその事件数は倍になると思え」

 

 バサバサの白髪の少年と、仮面の男が話し合う。

 地方の奥まった林の奥にある豪華な屋敷、ジャケットに仮面の怪しげな男と、明らかに成長不全の節が見える細く目つきの悪い白髪の少年。

 どこからどう見ても怪しげな組織としか言いようがなかった。

 

「だがいつまで黙っていろと言う!!

 分かっているだろうあんただって、奴らはあからさまに俺たち転生者を狙い撃ちしてる…食い物にしてるんだ!

 そうやって縮こまってばかりなら何のためにこんな組織を立ち上げた!」

「時期は来る、お前の憎むメシアン共に崩壊させられた日本の霊的国防組織の再建は急速に進んでいるんだ。

 お前ひとりで、いやさ私達数十人程度で国中に目を届かせる気か?

 結局のところ国中をカバーするなら国に委託され、信頼される組織こそ必要なんだ。

 私たちの出番はその後、国内が立ち直りメシアの精鋭共とぶつかり合う時に対抗できるだけの精鋭組織であることだ、わかったら鍛えていろ。

そら、次の依頼だ、これでも民間人の被害は減るぞ」

「………っく!!」

 

 ぎちりと歯を噛み締めながらも理性が勝ったのだろう。

 依頼の書かれた紙をもぎ取り、白髪の少年がどかどかと乱暴に部屋を出ると、交代に軽薄そうな笑みを浮かべた男がするりと入り込む。

 

「あ~らら、アンチくんキレてますね。

 ま、あれで理屈は分かる人ですからそのうち落ち着くでしょうけれども、お疲れさんですわ」

「あいつはあれでいい、熱を持て余しているというだけでメシアへの怒りも、転生者を守りたい気持ちも本物だ。

 それでも抑えきれないものをぶつけられる程度なら苦労でもない」

「ヒュウ、流石リーダーさんは言うことが違う」

 

 にこにこと目を細めて笑みながら仮面の男、トロワから片時も目を逸らさずに話し続ける。

 

「やぁやぁ、しかしとりあえず自衛力目当てで入りましたがねぇ、あんな目標があったなんてねぇ。

 組織として大きくなっていくのは必要でしょうけれどもあんな明確に先の姿があるなんて知りませんでしたよえぇ。

 流石に一番早くこういう組織を立ち上げた人は視点が違う」

「嫌味を言うな、分かっているだろう。

 この組織にまとまりなどない、名前を付けようと言い出すやつがいないのが証だ。

 自分が生き残るため、力をつけて家族くらいは助けるため、色々とあるが誰もかれもが個人として動いている。

 そんな状況で組織としての大目標などとぶちまけて見ろ」

「ま、そうですがね。

 俺だって実際一宮の惨劇見なけりゃさっきのでヒいてましたよ、もうちょい音に気を付けては?」

「居るのがお前だという事には気づいていた、だから聞かせた」

 

 飄々と言葉を交わしながらもどこか上滑りするように、冷えた空気が場を満たしていた。

 さらさらと砂のように軽い言葉をいくつか交わした後、本命とばかりに書類を持ち出す。

 

「で、トロワさん。

 アンタが言う通りに引きずり込んだ仲間達は生き残ってすくすく育っているわけだ。

 最初はメシアの被害者や異界被害に巻き込まれた天然ものの覚醒者、それを見て来たヤバいと実感してるの。

 そのあたりだけでもどんどん増えていくだろうな、そんだけ今の日本はヤバイ。

 …それで十分なはずだ、要るってのか?」

「甘えたことを言う、覚悟ができていなかったところで惨劇はやってくる。

 そしてガイア連合や私たちが成果を出せば出すほど被害と緊迫感を持つ奴は減る」

「だからって甘いエサで釣って騙して人格崩壊ものの経験させて覚醒させて、そうと分からないまま死ぬかもしれないところに連れてって良いってか?

 流石にリーダー様は考えることが違うもので」

 

 ぎちりと声からは抑えきれない苛立ちと怒りを漏れ出させながらも顔は未だに笑んでいた。

 まるでそれが最後の抑えだとばかりに。

 

「分かっているのに私に当たるのは止めておけ、仁藤。

 戦闘やそのための鍛錬と言う辛く、異常な行為を自分や周りの命を守るためだからと正気で行えるやつなどそうはいない。

 まともな奴らは目を逸らしていなければ戦えない、どれだけ必要だったとしてもだ、相手を傷つけるという事はそれだけ重い。

 戦える力をつけさせておかなければそのまま死ぬだけだ、この計画を行えば生き残れはする」

「だからって騙すのはおかしいでしょうよ、信じるとかそういう心、忘れたので?」

「お前こそ忘れているようだな、誰もが信じても返してくれるなど、幻想だよ。

 善意を持って救い、感謝をくれる善良な市民だと信じていた彼らの返礼は何だった?」

 

 投げかけられた言葉に一瞬傷ついたように額に手を当て、そんな自分に少し唖然としたような顔をした。

 仁藤と呼ばれた男の顔からついに笑みが消え、負けを認めたように苦り切った顔を逸らして吐き捨てる。

 

「…あんたのそういうところが嫌いだ」

「そしてだからこそこの事態に対抗できると信じているから従っている、だろう。

 こちらもお前の能力だけは理解しているし信用している。

 お前の仕事だ、今度はこの5人を引き込む、仲を深めておけ」

「…アイ・サー」 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「…義孝は上手くやってるみたいね」

 

 ぱらぱらと報告書をめくりつつ確認する。

 ガイア連合の手が届いていないところでの被害状況をざっと確認してもじわじわと減っている。

 制限を掛けた武具や、結構なマッカと引き換えとなっている覚醒用設備の借用も増えていることを見ると人員も増加傾向にあるらしい。

 

 良いことだと思う、これで終末を乗り越えられるだけの力を得られる、転生者も格段に生き残る確率が増える。

 悪いことだと思う、結局のところ同意すらなく才能があるからと神様にむりやり他所の世界から引き釣り込まれただけの、普通の人間に戦わせている。

 

「はは、私達で出来たらよかったのになぁ。

 葵が天沼鉾でも振り回してメシアンとか四文字様とか片っ端からなぎ倒して、義孝が緩んだ魔界との境とかいろいろ締めなおして、私がばーんと経済とか色々牛耳ってミサイルも何もかも大量破壊兵器封印しきっちゃうの。

 だーれも手伝わせなくっていい、やるんだーって決めた私達だけで気兼ねなくバーッと全部片づけて、他のみんななんも知らないで前世のアニメとか作って笑ってて、あはは…はぁ」

 

 分かっている、それでも言いたくなってしまうのだ。

 戦うことは辛い、戦わせることは辛い、やらなきゃみんな死ぬしかないからやっているけれど、私はこんなつらい思いしたくなかったし、つらい思いをさせたくなんかなかった。

 それでも戦うって決めた私達だけで片付くならまだよかった、けど現実どうにもならなさそうだからと戦う気なんかなかったはずの他を引き込んでいる。

 

「…あぁもう!

 うじうじしてんじゃないわよ私!頑張ってくれた義孝に失礼でしょうが!

 ガイア連合としての舵取り、頑張るわよ!

 ただでさえ義孝が抜けていろいろ不具合出てるんだから、私の占いで補って負傷者減らさないと」

 

 義孝が抜けたことで戦術に関してはほぼほぼ正解一発引きみたいな無茶は出来ずにじっくり試してものにしている普通の形になっている。

 詰まる所磨き上げられてはいっているが実戦の中での試行錯誤の失敗もそれなりにあるし、それで負傷する人員も出ている。

 せめて死傷者や重傷者が出てこない様に下調べを徹底しなければならない、そしてそれに関して一番あてになるのはそっちの方面に特化して単純な才能も最高クラス、葵と義孝っていう贅沢な護衛連れてレベル上げもしていた私だ。

 

 内部の意見調整や参加しようとする組織トップ相手への交渉、方針立てなどいろいろ組織の一番上としての仕事も山ほどあるし、民間人に被害が出そうなこととかないかも視ておかないといけないから休んでる暇なんかない。

 

「再来週には葵が戻るんだったわね、ならそれまでは…二回くらいでいっか、どうせ一人で寝ても浅くしか寝れないし、そんだけ寝れば薬と合わせて持つでしょ」

 

 仕事は山積みだが覚醒者の体は便利だ、体力も桁が違うし回復力も凄いし霊薬の効きも良いから休息っていう本来一日の半分くらい使うことを、食事の3回合わせて1時間だけで終わらせられる。

 葵や義孝なんかの戦闘要員はともかく私は後方だし、部屋もばりばりに回復力を上げたりする術式を常に回している、この程度ならまぁ問題ないだろう。

 

「ふふ、葵と一緒にぐっすり休むためにも、きっちり仕事の憂いは片づけないとね」

 

 するすると外に手渡しでなければならない書類を受け取りに行かせていた秘書が戻ってきたのを感じ、盟主としての顔を取り直す。

 

「當麻!持ってきたら5番と9番の部屋に占の準備させておきなさい、北条と山本と話した戻り道で視るわ!

 手直しの余裕ないだろうから抜かりなく準備なさいよ!」

「は、かしこまりました」

 




義孝が仮面被って偽名名乗ってるのは九条義孝が源葵と日埜佳乃と一緒に居ないという辛い現実からの逃避です
コスプレのほうが軽いノリの転生者から親しまれやすいだろうとか、仮面に色々防具としての性能付けてたり色々表向きの理由はつけてますが、本音はそこです 

あと今の転生者向け覚醒試練は体を寝かせて転生時の神に引きずり込まれて世界を移動して受精卵に宿って産まれるまでの記憶を思い出させることですね、覚醒したら目覚められます
安全装置もついてますがかなりギリギリまでストップは掛かりません


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義孝の組織 交渉 人事 実働

「どうだろう、悪い条件ではないと思うがね」

「確かに、こちらとしても受け入れるに否はありません」

 

 ある程度転生者による民間での転生者救援団体兼互助組合としての評判を作り上げられた頃だった、財産を作り上げた転生者が接触してきたのは。

 30少々の恐らく戦後ほぼ間もなく誕生したであろう年でありながら、前世の知識と恐ろしいまでの相場眼により名を馳せた日本財界の怪物。

 彼が接触してきた理由はあまりにも単純だった。

 

 メシア教はじめとする荒事、ダークサマナーや最近の変事からの護衛、霊的知識による防衛強化、自身の覚醒、はっきりいって転生者でなくとも求める類のことだ。

 それに対しての報酬は自身で動かせる限りの金銭と、表向きの身分であるダミー会社への援助や投資、自身の同類の転生者富豪への繋ぎ。

 

「しかし、このような零細を選ばずとも日本にはそれなりの組織もあると思いますがね」

「分かっているだろうに」

 

 無言で肩をすくめることを返事とする。

 まず日本で接触できる霊能組織の代表である根願寺は表の人間が踏み入れるのを嫌う、精々が資金援助による護衛までで結び付くには弱い上、技術提供なども渋られるだろうから流した金は会社への得にもならない宗教団体への献金としか映らない。

 地方霊能組織はそもそも余裕がない、金銭援助である程度どうにかならないこともないが一から育ててずぶずぶになる覚悟がいる、地元の名士への賄賂扱いになるのも避けられないだろう。

 ガイア連合はまだ資金調達や近代技術の取入れに柔軟さが残っているように見られているだろうが、元々地方の地主などを兼ねていた有力者が組織内に多いだけあって地元の会社と結びつきが多すぎてすぎて旨味が薄い。

 大和産業や拳母自動車、最近は日本の半分近くの霊地異常活性変事を抑えた事を契機に根願寺の仲介を経て政商としての顔の強い四菱、新規に参入しようにもお手上げなのが本音だろう。

 

 会社として投資するなら勢いのいい成長が予期されつつも柵がなく、恩が着せられるだけ未熟なところが良い、当たり前の話だ。

 答えを知っているという絶対的な技術におけるアドバンテージを持つのが転生者だ、大量に集めて自由にさせられるだけの縛りの緩い会社と金を与えられれば、なんていうのは子供でも分かる。

 まして覚醒の方法も握っている以上、情熱が健康問題で押しとどめられるなんてことも基本的にない、至れり尽くせりだ。

 その上で霊的な防護についても保証してくれる警備会社も兼ねる、唾をつけない方がおかしい。

 

「さて、それではさっそく一つ、見せましょうか」

「ん?おぉ、随分と質のいい…あぁ、成程、オカルトとしては定番だな」

 

 くっと持ち込んだ万年筆に自らの血を流しいれ、書類にサインをすると、赤いインクで書かれた署名が光を上げ、しばらく間を置いて収まる。

 演出だが、こっちの方が受けがいいだろう、実際目をきらめかせている。

 

「これでこの契約は破棄できない、書類自体も破ることもできませんし、上書きもできない。

 気になる様ならお試しを、ペーパーナイフを突き立ててみても構いませんよ」

「では遠慮なく」

 

 にやりと笑みを浮かべてざくざくとナイフを差し込み破れないと笑い、インクツボをひっくり返しても一つのシミもできないと笑う姿は子供っぽい。

 まぁ彼からすればようやく手に入れた本物のオカルトへの切符だ、はしゃぎたくもなるだろう。

 

「ふはははは!凄いなこれは、あぁ、良いものを見せてもらった、ありがとう。

 ところで一つ聞きたいんだがね?」

「どうぞ」

「これを見せてもらった代金をこの契約に上乗せするにはどうすればいいのかね?」

 

 悪戯っぽい笑みはなるほど社長をやるだけあって、どこか人を引き付ける魅力があった。

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

『仁藤浩司…じゃあ、今度もニコくんだね、けど普通の名前になっちゃったねー、虎太郎ってかっこよかったのに』

 

 会えるはずもないと思っていた幼馴染が、知らない顔をしてそんな事を言っていた。

 俺は…なんて言ったんだっけな、確か、すごく怒らせたことだけは覚えているからデリカシーのないことを言ったんだろう。

 

『えぇ…ネットで知り合った人と会うのぉ?

 やめときなよ、危ないって』

『お前こそ、母さんが教会行ったりしてるんだろ?

 メシア教ってすげぇ怖いんだぞ、そりゃ表向きは立派だけどさ、離れるように言っとけよ』

『うへぇ…無理無理、神父さんに心酔してるもん、言ったら怒られるどころじゃすまないって』

 

 その後も散々言ったけれど、結局翻意させることはできなかった、家出するなら来てくれるって約束だけは出来た。

 そしたら同棲だなって、少し浮かれたからそれを見せたくなくって余計に抑えてぶっきらぼうに対応したのを覚えている。

 

『頼む!俺の町でメシア教がなんかやるみたいなんだ、多分ろくでもないことだ、力貸してくれ!』

『構わない、そのためのこの組織だ。

 あぁ、ただ…後悔はするなよ』

 

 トロワは多分分かっていたんだと思う、覚醒者としての、人間を越えた力を人の目の前で振るうって事の意味を。

 …そして敵でも人でなしでも、なにかを傷つけることが出来るやつは”ふつう”の奴らにとっては恐いんだって事を。

 

 ざぁざぁと、雨が降っていた。

 

 妙なにおいが漂う中で並ぶ、虚ろな目にどこか薄く恐怖を漂わせたメシア教の服を着た見知った顔と、生贄のように捧げられたいつも河で釣りをしてた爺さん。

 もらった泥臭い魚を母さんがやりづらいと文句を言いながら捌いて、家で不味い不味いと言いながらよく食べたのを覚えている。

 爺さんの血が流れる中にぽつんとたたずむ天使と、メシア教の教徒。 

 

『ここか!助けに来たぞミナぁ!』

 

 怒りに任せて切りかかる俺は、それでも転生者故の才能か、その時すでにトロワからそれなりに鍛えられていたからか、あっさりと天使とメシアン共を切り捨てていた。

 そして…あぁやめろ、やめてくれ

 

『は…は…ふぅ、さぁ、もう大丈夫だぞ!

 ほら、みんなもう生贄に捧げられることもないんだ、家に帰ろう!』

 

 戸惑う俺に向けられるのは正気に戻った町のみんなの色濃い恐怖と怯えが浮かぶ目ばかり、それに気づかない様に…いや、気づきたくない様にあいつに近づく俺を避けるように人垣が割れる。

 

『あ、ほら、ミナ、もう、大丈夫だから、ほら』

 

 伸ばした手の返事は、心底怯えた顔と、顔に投げつけられた銀の燭台だった

 

 

 

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 布団を蹴り飛ばすようにして起き上がる。

 いやな夢の後味を忘れるために枕元に置いておいた寝酒を煽る、最初は未成年飲酒だと気の引けていた事なのに今ではもう手放せなくなってしまった。

 ぐいぐいと喉を通るままに流し込み、頭の鈍る感覚を享受する、不健全だとは思うが辞められない。

 

「がふっげほっか、ふ…はぁ」

 

 飲み干した瓶を投げ捨て、壁に背中を預けてずるずると座り込む。

 ようやく、多少トンでくれた。

 

「ったく、嫌な夢ぇ見ましたねぇ。

 もう2年も経ったんですから忘れていいと思うんですがねぇ、我ながら女々しいことで。

 あぁ、勿体ねぇ、高い酒だってのに全部味も分かんねぇまま飲んじまった」

 

 やりたい何かを見つけることもできないまま、トロワに言われるがまま色々やった結果溜まった仕事の報酬で買った、御幾ら十万円の酒が割れた瓶から少しこぼれているのを見ながら、ぼんやりと今日やることを組み立て始める…仕事で忘れるために埋め尽くそうとする。

 

「あぁっと、ネットの風聞作りと…あぁ、シバキグループとチャットで誘い込まにゃならんか。

 後…後何があったかな、あぁそうだ、追い込まれ組のフリャァ達をメンタルケアして、救出のも転がってたな、あれもやるか…」

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 手甲に刃を取り付けた武器で、悪魔どもを片っ端から斬り捨てる。

 小さな氷の妖精を相手の出す吹雪を突っ切って真二つに切り捨て雪に戻し、ひょろひょろとながいイタチのような狗神が噛みつきに来るのを避けて足で踏みにじって叩き切り、レオタード姿の淫魔の飛ばす雷を避けてそのまま顔を叩きつぶすように脳に爪をぶち込む。

 

「くそっくそっくそっ!」

 

 依頼をこなす中でも分かる、これで強くなれてはいない、足踏みをしていると。

 俺を好き勝手にいじくり回したメシアンの後ろにいる天使、奴らを倒すにはまだ足りない、そして俺が足踏みをしている中でも犠牲者は出ている。

 実力が足りない、時間が足りない、組織力が足りない、何もかもが足りない。 

 

 

「----!?」

 荒れる心のままに闇雲に戦う中で、いきなり背筋が凍った。

 バケモンみたいに強いのがいる、そしてそいつはこっちを見ている。

 

 はっはっと犬のように荒れる息を必死で静めて構えを取る。

(逃げる…無理だ、戦う、無理だ、どうすればいい、どうすれば)

 かつり、と音が鳴り、そいつが姿を見せた。

 

「おや?人間…あぁ、そう言えば民間へも依頼を出していたと言っていましたね、引き下げ忘れでしょうか。

 怯えさせてしまってすいません」

 

 姿勢も、顔も、肌も、表情も、何もかもが美しい少女がひどく穏やかな声で、心の底からこちらを思いやっていると分かる笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

「なるほど、あなたが例の組織の、うわさは聞いております」

「は、ガイア連合の大物様に知られているなんて光栄なことで」

 

 情けなくへたり込んだ俺を心配したのか、彼女が持ち込んだ救助用だという小規模結界の中で軽食を貰っていた。

 ずるずるとカロリー補給用の甘ったるいココアを啜る俺の顔を見る彼女は…なんというか、ひどく、戦いが似合わなく見えた。

 俺が悪態をつけるくらいに回復したことの方を嬉しく思って、きつい口調なことも何も気にせずにこにこと穏やかに笑みを浮かべて慣れた手つきでクラッカーに切ったチーズを載せている姿は、武装を除けばあまりにも日常の香りがした。

 

 だが、分かっている。

 刃はあるのだと、俺など足元に及ばないほどに強いのだと。

 だからこそ、その平和な在り方にひどく腹が立った。

 

「なぁ…あんた、強いよな、戦えるんだよな、そんでガイア連合で、日本人守ってんだよな」

「えぇ、強いですよ。まだまだですが」

「なら!なんでメシアのクソ共に切りかからない!あいつらのせいで傷ついてるのがどんだけいると思ってる!」

 

 言ってしまった後に、少しだけしまったと思った。

 力不足を悔いるような、ひどく悲しそうな顔をした彼女に、一瞬言葉が止まった。

 

「本当に、ごめんなさい。

 私の力不足です、今の私では…私達では彼らを排した後、怒り狂って襲い来る彼らから日本を守れない。

 だから穏便に変事を収め、治安を取り戻して彼らの蛮行を抑え込むのが限界なのです。

 私の力不足の犠牲になったであろう方々には…あなたにはどのように侘びても足りません」

 

 俺に頭を下げる彼女には一欠けらも八つ当たりを疎むような気持が感じられなかった、見た目からして俺と同年代か年下か…なんにせよ俺を守れなかった責任なんて筋違いだろうに。

 

「……だったらぁ!なんで国防だの日本を守るだのと言う!力不足なんだろうが、期待させるなよ!」

「それもまた、期待を抱いていただきながら裏切ってしまったことを謝るしかできません。

 本当に申し訳ありません。

 私達の掲げた旗に集う方々の力を借りてより多くの人の平穏を守るため、傷つき疲れ切った方々にすこしでも安心と希望を与えるためにと掲げた未だ道半ばの名目です。

 しかし、守れなかった方の絶望を深めた事は………詐術にかけてしまったことには、本当に…申し訳ありません」

 

 はたはたと、涙が垂れて地面を濡らす姿にたまらず、逃げるように走り出していた。

 

「くそっくそっくそっくそったれがぁぁぁぁ!!」

 

 分かっているのだ、あいつが正しいことも、必死に頑張って人の平和を守ろうとしてくれていることも、心底俺たちを慈しんでくれていることも、短い間でも痛いほどに伝わった。

 分かっているのだ、俺がやったのがあいつを傷つけるだけの最低の八つ当たりだって事も、今はメシアに手を出すべきでないって事も…やったら大勢死ぬって事も。

 

 それでも我慢できずに言った、言ってしまった、被害者を笠に着て。

 守りたくって力が足りないなんて俺も一緒なのに、その情けなさが、悲しさが分かるはずなのに。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 怒りなんかなく、どこまでも誰かを守る為に…俺達を守る為ことだけを純粋に考えているあいつと比べて、ひどくちっぽけな自分が惨めで、叫ぶしかできなかった。




義孝居ない影響として異界攻略の遅れや高精度アナライズで葛葉の隠匿を見抜ける戦闘力もある実働員がいなかったりでガイア連合の方に葛葉ライドウの指が行かないままただでさえギリギリだった付き人が力尽きてます
後々まだ穏健なメシア教通じて探るときに発覚したりはしますが、しばらくは懇願寺が霊的国防組織ですね
あと葵が2話時11→15アンチくんが現在16です


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普通の転生者達

数年単位で時間飛ばしました


 放課後、ある程度人の帰りだした高校で、こないだ転生者って分かってから友達になった八槙がこそりと声を潜めて話しかけてくる。

 

「なぁ、今日はお前空いてるよな、その、なぁ。

 依頼の方手伝ってくれたりしないかなーって」

「…どうすっかねー、良い感じで組みあがってきたしなぁ、俺のデッカード。

 マッカもあるしフリースペースでって思ってたんだが」

 

 正直貯金は作っておきたいし受ける気でもいたが、あえてそっぽを向いて見せる。

 まぁ実際あとは塗装でこだわり抜いて終わりだから本当でもあるんだが、負けたときの補修代考えるとなぁ。

 

「頼む!あとちょいで俺のサイドラできんだって!」

「お前それこの前とりあえずこんくらいでいいかーって適当やって対戦でむしられたからだろ、ってか声でかいって。

 …あー、なんでもない八槙が金貸してくれって言ってるだけだ」

 

 大声に反応したのかこっちに振り向いてくるクラスメイトにひらひらと手を振って何でもないアピールをした後で、まだ頭を下げている八槙に改めて声を潜めて返事を返す。

 

「わかったよ、ただ早く終わるやつだけだぞ、良いな」

「おぉ…恩に着るぜヒロ!」

 

 話もまとまったとともにカバンを背負い、目当ての所に向かう。

 高校からはそれなりに遠く、町外れの少し寂れた所にぽつんと立つそこだけ妙に窓の光も多く、栄えている感じのするビル。

 一階のこの世界にはなかったはずのブランド名したコンビニではご同類っぽいのがイートインでファミリーだったりLだったりするチキンとか未だ流行っていないエナジードリンクを飲み食いしている。

 

 俺たちもコンビニに入り、適当にチキンとポテチと飲むイチゴヨーグルトとハラスおにぎり辺りを適当に籠に突っ込み、店長への挨拶ついでに買う。

 

「ちぃーっす店長、今日イマキさんとか来てる?」

「こんちわー、あとカフェオレいつものもお願いします。」

「お、ヒロくんにヤマくんか、来てるよ。

 ニトさんにネコイヌさんもね、シドさんからの依頼も来てるから大騒ぎだ、急いだ方が良い」

「いぃ!?マジかよ!急ぐぞヒロ!!」

「あ、ちょ、おい!俺のがまだ」「はいカフェオレミルク砂糖マシマシぬるめ」

「来たな!走れ!」

 

 ここだけで普及している電子マネーでちゃっと払った直後に走り出す八槙に引っ張られ、カフェオレを少し零しながらもどうにか付いて行く…ったく、確かに旨い依頼多いとはいえ。

 

「がんばってねー」

 

 送り出してくれる店長に手を振り返しながら、二階へと駆け上がっていく。

 バック走でダッシュに付いて行けるのは我ながら人間してないよなぁ、あ、ヤベそろそろ階段だ。

 流石に振り向いて3段飛ばしに駆け上がる八槙に引きずられながら数秒で3階まで登り、扉に会員カードを叩きつけて開くと同時に滑り込むと、いつも通りの騒がしさが出迎える。

 

「だぁぁぁぁ!!色が決まんねぇぇ!!乾いたらなんか違うし、上から塗ったら違うし、はげもしねぇし!」

「いやお前それ以前に間接これがっくがくじゃねぇか、走らせたら折れるだろこれ」 

「良いんだよ飛行用なんだから、足とか飾りだ!方向転換用のフィンだ!」

「いやそれにしたってこれ…あ、折れた」

「うぉぉぉいぃぃぃぃぃ!!!?」

「だから最初はキット説明書道理に組めって言ったじゃねぇか、フルスクラッチとか無理だこんアホたりゃぁ!」

 

「っし!バック処理完了、ダイレクトアタックだ!」

「甘い!墓地から罠発動!」

「墓地から罠だとぉ!!!」

「いやお前ディスク弄って確かめてたじゃん、それ言いたかっただけだろ」

「…うん、いやけど、そんな冷えた突っ込みしなくてよくない?」

 

「今日のお目当ては?」

「新惑星でやってる定期の緊急やったあとはぶらぶらかなー、そっちはなんかある?」

「あ、SPオーダーまだとり切ってないから付き合ってよ」

「うぃー、んじゃ俺リーダーやるからついてき」

「あ、僕ちょっと早めにあがるから多分途中で抜けるかも」

「アタシちょっと定期メンテ用のスクショ取りたいから時間とってー、集合版でやりたいんよ」

 

 なぜか全員着ぐるみ姿でゲームを始めようとしてるやつ、塗料と削りカスに塗れながらプラモつくってるやつ、やたらクオリティの高いコスプレでカードゲームやってるやつ、全員が本来この世界にない懐かしい娯楽を思い思いに楽しんでいる。

 しかも全部元だとリアルにはありえなかったおまけつきで。

 ぐるっと知った顔を探していると八槙にまた引っ張られた。

 

「いた!ほらあっこ!やっべぇもう群がられてる、残ってろよぉ!」

「あぁもう、ちっと急いだってそう変わんねえだろっておい!」

 

 引っ張られながら向かう先には人並みに覆われて今は見えないやたら古めいたモンスターをハントする感じの掲示板と、受注用の機械がある。

 …なんで受付嬢じゃなくこっちなんだろうと思って聞いたら受付嬢やりたがるのが居なかったらしい、と言うかいるにはいても覚醒者にならずに稼ごうぜって思ってたら覚醒者の受注者側に詰め寄られて無理ってなったり、体力的に持たなかったりで結局定着しないからセルフになったとか。

 

「いらっしゃいませー、今日も新鮮な依頼が届いてますよー」

「マキさん、時間短めで…えぇと、シドさんかイマキさんのあります?!」

「はい、ありますよー、二人だとこの辺りで、ハイどうぞ―」

「っしゃぁ、受付完了!」

 

 そして案内のマキさんは特に雇われてるわけでもなければ報酬も取ってない癖に妙に強い覚醒者だ、なんだこの人。

 SFチックなオペレーター風ごてごて装飾な服も自作らしい、本当になんなんだこの人。 

 依頼を全部見てて聞かれたら条件と相手の実力に従って渡す上、独占されない様に防いだりもしてるが特に給料も報酬もないらしい、渡そうとしたら逃げられたとか、ほんとなんだこの人。

 

 八槙が受注機に依頼の書かれた名刺サイズのカードと、俺の分も合わせた二枚の会員カードをはめ込むと依頼が消え、俺達の会員カードの裏に依頼名が刻み込まれる。

 確認したいときはちょっと魔力込めて叩けば詳細が浮かび上がる様になっている、慣れたがやっぱり未来に生きてんなこれ。

 

「よっし、ヒロ…ってあれ?怒って…られます?もしかして…」

「いやぁ、散々引き回されて相談なしに依頼決められたってねぇ、怒るわけないじゃないですか、それより次の人の迷惑ですからのきましょうよ八槙君」

「あ、いやー、その、ごめんなさい」

 

 少しばかりイラついたのも確かなので八槙をからかいつつチクチクと攻めていると、大モニターが動き出す。

 お?これは、なんかイベントかな。

 カウントダウン後、仮面に赤いジャケット姿の怪しげな金髪の男が画面に映し出される、やっぱりなんかあるみたいだ。

 

「ごめんってヒロ!報酬の割合7:3で良いからさ!」

「あー、良いから黙っとけ、なんか来た」

「ん?おぉ、イヤァなんだろうなぁ!」

「調子よさげにして誤魔化しても報酬は7貰うかんな」

 

 ぐしぐしと縋りついてくるのを押し返して画面に集中する。

 7割かぁ、これはジェイデッカーまで行けるかもな、報酬良いの選んでたっぽいし。

 

『おはよう諸君、SGAエンターテイメント社長のトロワだ、楽しんでいるところだろうが告知をさせてもらう。

 では早速だが内容からだ、このような怪しげな仮面にいつまでも出ずっぱりになられても詰まらないだろう』

「よ、ロリコン!」

「袖破れよ三分の一!」

「前乱入してきてあっさり俺の00落としていったの忘れてねぇからなこん畜生がぁ!!」

 

「相変わらずえらい人気だなぁ」

「あれ人気か…?」

「罵声も人気だろ、反応無いのが一番なしだ。

 聞こえてないとはいえあんだけふざけたことを社長に言えるんだぞ」

 

 俺や周りがはやし立てたりスルーしてプラモ組んだりデッキを弄っている中でも告知は続いていく。

 あの怪しいのが全国規模の会社の社長で転生者のまとめ役やってるんだからわっかんねぇよなぁ…ガチの人たち曰くすげぇ実力者らしいし、地元の霊能組織ともつながっててそっから引っ張った技術とか資源でこのありえないゲーム群ができてるらしいから凄いんだろうが…

 やっぱ見た目だと日本で一番有名な赤い仮面の情けないロリコンマザコンライバルコスプレにしか見えねぇし、ちょいちょい遊びに顔出すし…

 

『先月のランキングはこのようになっている、そしてこちらが先々月、3月前、見てわかる様に固定化が激しくどうにも後発組や低ランクでのモチベーションが落ちているように思える。

 そこで私達SGAエンターテイメントではこの度直近半年で依頼報酬月5万マッカ以上、かつ3月以上ランク100位以内を続けている場合様々な特権を付与して上位ランキングへ移行することとした。

 特典については技術部への優先的要望権、衣装開発優先権、武器や防具の自由カスタム権、マイキャラクターフィギュア購入権などを予定している、詳しいことは転生者用掲示板公式告知に書き込む予定だ、後で確認してほしい。

 これを機に上位ランカーにはより一層の奮起を、低位ランカーには上位昇格を目指しての奮闘を期待する』

 

「へぇ、ついに対応来たんだ」

「ガチ勢いると勝てないからなぁ…隔離してくれっとありがたいわ、ランク報酬自体はまんまっぽいな」

「いやけど上位のも良いなこれ…目指して見よっかなぁ」

「やめとけやめとけ、お前1893位だったろ、上は格ちげぇよ」

 

 ざわめきも一層激しくなる、それもそうだろう、全国ランキングはなんだかんだで注目の的。

 100位以内報酬は文字道理格が違うレベルの強装備だの、大体のSGAエンターテイメントにある予約式の無茶苦茶効果あるリラクゼーションルーム使用権だとかほしいのばっかだが、ほぼほぼ独占状態で諦められていたのも確かだ。

 これで変動が起こりやすくなる、上目指すのが出だすだろうな、しばらく騒がしそうだ。

 と、暢気なことを思っている俺は隣を忘れていたんだろう、後から思い返すと暢気すぎた。

 

「…くぅぅぅぅぅ!!燃えて来たぁ!行くぞぉヒロ!目指すはまず500内だ!」

「んぬあぁ!?ちょ、おま、反省したんだろひっぱんじゃねぇ?!」

「まずはシドさんの素材依頼で、あとイマキさんの献血な!」

「聞けおめぇ!!報酬8割貰うかんな!絶対だぞ!」

 

 がっとまた腕を掴まれて走り出す、何度目だこれ!

 後ろではまだトロワが話し続けている、後で調べとくか。

 

『またこの度私達の活動実績も踏まえてガイア連合主催の霊能団体向け武術、術式訓練において教わることのできる項目が幾つか新たに解禁された。

 多少のマッカはかかるがそれを踏まえても実り多く、実力向上につながるのは確かだ、希望者はそれぞれの拠点で依頼掲示板から申し込みができる、上を目指すのならぜひ参加してほしい。

 さて、硬いことはこれまでだ、ここからは来月発売する新商品についての発表になる。

 では任せたぞ、広報部長の仁藤』

『アイアイ、ってか可笑しくないですかねぇ、なんで社長に俺の仕事とられまくってんの?

はい、それじゃここからはニコさんからのお知らせでーす』



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霊装開発

「来、遠隔式対霊兵装開発について聞かせてもらおう」

「あいあいりょーかい、ってもバチバチに順調だよ。

 アンタが想定する相手に操作させるのを考えるとちときついかもしれないけれどね」

 

 いずれガイア連合ですることになるであろう自衛隊との協力において越えなければいけないのが一つ、未覚醒者の戦力化だ。

 いかにも食いついて娯楽として利用できそうな分野で開発できたのも、それを良しとするような経験をした転生者の技術者を引き込めたことは大きかった。

 特殊な素材を使用した模型を覚醒者の操作により遠隔で自由に動かす、それもまるで本当に戦っているかのように大迫力にビームやレーザーや実弾を…そう見える物を出しながら。

 

「かなり小型とはいえ人型に凝りに凝った上で基礎フレームはよっぽど変なのとか1から自作じゃなければタイプ別に複数ある実稼働の縮小版だ、それを全部監視してデータとってで全国規模で月に何十万戦ってくらい戦わしまくったんだ。

 これで成果出せなきゃ嘘だよ、最近出した1/16モデルも高くてめんどいわりに買ってくのが割といたしね。

 研究用のマッカもじゃぶじゃぶ稼いだ分注いでくれてるから足りてる」 

「成程、発展の余地はまだまだあるとして現状の結果としてはどこまでの物ができている?」

「とりあえず覚醒者オペレーターが付きっきりで操作完全装着者任せなら34までの上限はあるとはいえそいつのレベルをそのまま装着者に付与できる、ただ素材にオペレーターの血液を使うの前提にした方が良いねこりゃ。

 あんたの血入りで動かしてるデータ見た感じ安定性も接続強度もふざけたぐらい跳ね上がってる、もしもの時途切れましたなんて洒落になんないし、距離も伸ばせるから無しは考えないでいいくらいだ」

 

 PCに映るシミュレーターモデルを見る限り、確かに距離や環境を変えた場合の安定性が大違いだ、終末で無茶苦茶になった環境で動かすことを考えると血無しでは不安が大きい。

 

「成程、整備に負荷を掛けることになるが…安定性のために必要な犠牲と割り切るか、武装や魔法については?」

「武装に関しては問題ない、もたせりゃそのまま使える。

 ただ現行のガイア連合式使うんなら干渉しない様にある程度相性は確かめておいた方が良いかな、救難信号とか監視機能に緊急時結界保護機能、民間人やガイア連合に向けた場合の自壊機能。

 転生者が使うってこと前提に本人からマグネタイト吸い上げて機能諸々盛り込みまくったウチのあれじゃ別もんだ、武器としての性能もとりあえずレベルなあれじゃ実験にも何にもなんないっての」

「ふむ…なるほどな、まぁそこは任せることにしよう。

 レベル限界については今後の課題とするとして、武装に関してだ、式符については随分と実験したと思うが、あちらはどうなんだ?」

 

 元々地元の組織が術に使う符や巻物、それらから単一かつ単純な術だけに絞る代わりにマグネタイトを注ぎ込めば発動する武器として開発を進めていた。

 魔法を込められた石などとは違い使い手の魔力を食うしかなりのロスもあり、数度使うと摩耗しだすがそれでも十分に強力であり、応用性も高い。

 こちらについてはカードゲームを模して演出付きで実験していたが、どうにも兵装の方には組み込まれていないように見える。

 

「あぁ…ありゃ確かに便利だが、組み込むのは無理だわ。

 干渉しまくるし、元々繊細なだけに戦闘中衝撃受けて歪んだらボン!だ、外付けにするならハナから武器のカートリッジ入れ替え充実させて属性網羅させるのが一番だね。

 医療用キットとして携行するとかそういうのなら使い道もあるかってくらいかな?」

「高望み過ぎたか、まぁ覚醒者が生身で持つ携行武器としての需要はある、費用分の成果は出たと思っておくとしよう。

 対悪魔戦闘シミュレーターも順調だな、よくやってくれた」

「あぁ、衣装スクラッチだのフィギュアだの体型から推測しての理想的なポージングモーションとかが割とボロイ稼ぎになってくれたからね、開発チームが無茶苦茶やる気出してくれたんだよ。

 んじゃ、これが纏めた資料だ、あちらさんによろしく」

「あぁ、礼を言う」

 

 どっしりしたアタッシュケースを受け取り、席を立つ。

 後のことは俺の仕事で、楽しみだ。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

「これが私達、SGAグループの開発した霊能関連技術だ、問題がないかの精査と利用に関する許諾を貰いたい。

 もちろん対価を払っていただけるのなら使用に関する許可もする」

「確かに、まぁ1週間以内に返事ができると思うわ。

 芳澤、技術班に回して」

「はっ」

 

 ばかりとケースを開けて確認する素振りだけして即座に専門家に回す…そういう言い訳で秘書をしばらく離す。

 

「ふぅ、これで気楽に会話ができるわね、数分だけれど」

「あぁ、半年ぶりだな…葵は流石に無理か?」

「いけるけど流石にここに同席は無理ね、道場にいるはずだから訓練担当に礼に行くって名目で動けば会えるでしょ」

「…贅沢は言えないが、会いたかったなここで」

 

 ぼやく義孝についくすくすと笑ってしまう、ガイア連合に居たときと比べて随分寂しがりになったようだ。

 

「あんたウチのから大体嫌われてるものね、そんで葵は無茶苦茶好かれまくってる、と」

「話しかけると引き離しに来る奴らがごろごろいるからな…地元連中はともかく転生者まで同類で、同類の集まる組織作ってバリバリに貢献しまくってる俺を嫌いまくるんだから大したものだ」

「仕方ないじゃないアンタ私と葵以外には性格悪いもん、幹部も幹部なのにウチ出てったし」

「…俺だって傷つかないわけじゃないんだぞ?」

「んふふふふふふふふ、口元、上がってるって気づいてる?」

 

 濡れた犬みたいにしょぼくれて、自分をさらけ出して私にからかわれているのを楽しんでいる姿に、笑ってしまう。

 離れていた間に随分と弱っていたようだ。

 

「っと、足音来たわね、短いけどもうお終い。

 …九条義孝殿、SGAグループの技術は我らガイア連合と自衛隊の大きな助けとなっております。

 深く、深く感謝いたします」

「いえ、我らSGAグループもまた日本の一員、そして何より別の手段を取らんと外に出た身ではありますが未だガイア連合の志は私の中に根付いております。

 私達の磨き上げたものが国を守る一因となるならばこれ以上の喜びはありません」

 

 扉の前に来たであろう秘書にも聞こえるようにそれなりの声で仰々しく挨拶を交わし、別れる。今度会えるのは何時になるだろうか?

 

「どうぞ」

「あぁ、ありがとう」

「芳澤、九条殿は葵に会いたいようだから案内してあげなさい」

「あぁ、SGAグループの人間を鍛えてもらっている礼を言いたくてね、案内してくれるかな、秘書君」

「はい、ではこちらへ」

 

 歩き出す背を、気づかれないようにほんの少しだけ手を振って見送る…さて、五島に連絡入れないと。

 シュミレーターの改善と装甲服の改良は待ち望んでたみたいだし、早めに教えてあげないと訓練日程も変わるだろうしね。

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 柄とハバキを外して、するりと静かに拭い紙で刀身を綺麗に拭う。

 油や汚れが取れたらぽんぽんと満遍なく打粉をはたいてまた拭う。

 きっちりと確かめた後で上等な油を塗り、ハバキや柄を戻して収める。

 

 刀の手入れをするのは良い、無心に刀の様子だけを見ているとすぅっと心が静まっていく。

 

 SGAグループ…義孝お兄さんの組織に居る人の中でも飛びぬけた人の訓練を頼まれて行っていたが、やはりどこか釈然としない気持ちと嬉しい気持ちが入り交じる。

 転生者が、本来戦う所以なんてない平和を生きていた人間が天才だからって戦うのは良くない。

 必要だって分かっているし、上に立つ人間としてお兄さんもお姉さんもよく考えた結果なんだろうとは思う、けれど…やはり良くはないと思う。

 狙われやすいから自衛力が居るのは確かだが、そんなもの身に着けなくって良いくらい僕らがきっちりと守れないからだと思うと、どうしようもなく自分の不甲斐なさに泣きたくなる。

 

 同時に、家族や友達を守りたいという強い気持ちで武器を持って鍛え上げて、僕に何度も打ちのめされながらも強くなっていく人たちを見ると嬉しい気持ちになるのは確かだ。

 あの人が嬉しそうに語っていた職場恋愛の末結婚したっていう奥さんは、生まれたばっかりだっていう子供は、あの子が笑いながらやんちゃで馬鹿な奴らって言ってた兄弟や友達は、彼らが守る限り無事だろうって思えるから。

 

 最後にじっくりと検分した後で刀掛けに戻してしゅるりしゅるりと足袋が擦れる音を立てていた廊下の人に声をかける。

 

「どうぞ、手入れは終わっているから用事があるなら入ってくると良い」

「は、SGAグループの九条義孝殿が訓練の礼をと」「悪いが通してもらおう、顔見知りだ」「何を!?」

「良い、芳澤。

 義孝殿とは旧知の仲だ、それに私の実力は知っていよう、短い間でいい、二人で話させてはくれないか?」

「公がそのように仰るというのなら…」

 

 するりと襖を閉め直し、気を聞かせてか防音の結界も張ってくれる今日のお姉さんの秘書官を見送り、お兄さんと向き直る。

 

「久しぶり、お兄さん」

「あぁ…その…綺麗に、なったな、葵」

 

 すごく色々と表情を動かしながら言葉を探してそんな第一声を零したお兄さんに、少し笑ってしまった。

 

「いや、その、笑われるのも仕方ないと思うが、本当に随分と綺麗になった、見とれたぞ」

「ふふ、ありがとう。

 体が育ち切っていないときからずっとヨシツネをしていた時間が長すぎたせいかな、いろんな影響が出ちゃったみたい、女の人みたいでしょう?」

「大丈夫なのか、それは…いや、それならデリカシーないことを言って悪かった、すまん」

「良いよ、気にしてないから」

 

 語りつつ、さっと湯を沸かして戸棚にしまっておいた抹茶を取りだし、お茶の準備をする。

 がりがりと所在なさげに頭を掻いた後に、結局正面にどかりと腰を下ろすお兄さんは昔と比べるとずいぶんと、情けなく見えて、可愛かった。

 

「それで、その、な、葵。

 俺の会社で…転生者のレベル…霊格を自衛隊とかガイア連合のに付与できる装備がもう完成したんだ、普段から鍛えたり協力はいるけど、前線に出さなくって良いようには出来た。

 気にしてただろ、葵」

「そう、良かった、今までのだと付与できる限界が低すぎてどうしても強い相手に通用しなかったからね。

 …うん、良かった、五島さんも喜ぶよ」

「…五島…さんなんだな、いや、何気にしてるんだろうな俺は」

 

 今まではどうしても才能の面で突き抜けた転生者が、相手の突き抜けた戦力相手に必要と言う面があった。

 それが解決して、戦いたくないなら後ろに下げたままでもいいようになった、大きな一歩だ、つい笑みがこぼれてしまう。

 しゃかしゃかと点てたお茶を礼代わりにと差し出す。

 

「どうぞ、お礼の代わり。

 本当にありがとう、お兄さん」

「あぁ、うん…うまい、優しい味だ」

「もう一杯、いる?」 

「あぁ、頼む」

 

 しゃかしゃかと、静かに茶筅の音が響く。

 今度は、落ち着いた良い静かさだ。

 

「…良い、天気だなぁ」

「うん、そうだね」

 

 庭に落ちる日差しはきれいで、ホトトギスの声が響き、ゆったりと時間が過ぎていく。

 

「はい」

「あぁ、ありがとう」 

 

 ぐっと飲み干すと、椀を僕に返してお兄さんが立ち上がる。

 しっかりと落ち着いて、芯も通ったみたいだ。

 そしてもうお別れだ、僕もお兄さんも仕事が詰まっているし、あまり長くいるとよろしくない。

 少し寂しいが、仕方のないことだ

 

「…それじゃ、またな」

「うん、また、ね」




とりあえず転生者の組織化と自衛隊の装備とかの目処もついて一段落なのでまたしばらくお休みして練ります
いつも感想くれるさいあすさん、玉連さん、tea-さん、イワシ4号さん、プルータスさんにぼるてっかーさんとノートルさんと、カシナートの剣さんありがとうございました、励みになりました


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