雨奇晴好のバースデーパーティー (鯨蓮根)
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雨奇晴好のバースデーパーティー

それは雨が降りそうで降らない、鼠色の空の日の朝だった。目覚めのドュクプェを楽しんでいた私、MAGES.は、今日は一体何をしようか…そう思案を巡らせていると、珍しく携帯に着信が。右手はドュクプェで塞がれているため、その逆の手で着信を伝えようと鳴く携帯を黙らせる。発信者は…

 

 「5pb.か、朝っぱらから一体どうしたというのだ」

 

 「ふふっ、おはようMAGES.」

 

 「………?」

 

 やけに嬉しそうな声色の5pb.に、私は何とも言えないむずがゆさを感じた。

 

 「あ、ああ、おはよ…う?」

 

 「MAGES.、誕生日おめでとう」

 

 「へ?」

 

 虚を突かれ声が裏返ってしまったが、すぐに言葉の意味を理解し、背面にあったカレンダーに目線を移す。しかし月めくりカレンダーが示すは、『5月』。慌ててページをめくると、1日が二重丸に囲まれ、その下には5pb.の文字で『MAGES. 誕生日』の文字が。

 

 「ああ…そうか、私は今日、誕生日だったな」

 

 「あー、また忘れてたの?」

 

 そう、私は誕生日というやつにはっきり言って無頓着だった。5pb.は毎年バースデーライブを行っているが、私の誕生日を祝う人物などそう多くはない。そういえば去年も5pb.からの電話で今日がその日だと把握していたが、まさか今年もそうなるとは

 

 「ふふふ…狂気の魔術師たるもの、年齢などという極めて相対的な時間の流れに依存するものには…」

 

 「はいはい、せっかく今年の初めにボクがカレンダーに書いたのに忘れるなんて、これは罰ゲームかな?」

 

 「いやカレンダーはめくるのを忘れて…って、ばっ、罰ゲーム!?なぜ誕生日に罰を受けねばならない!?」

 

 「罰ゲームとして今夜ボクがケーキを持ってくるから、誕生日パーティーしよっか」

 

 「え?」

 

 それは罰ゲームというのだろうか、考える暇も言い返す隙も与えられず、今晩の私の予定は埋まったのだった。

 

 

 

結局あの後、18時を少し回った頃。ラジオの収録終わりの5pb.はアップルパイを抱え私のラボにやってきた。外は雨が降り出しており、濡らした髪を私が貸したタオルで申し訳なさそうに拭いた。誕生日ケーキとしては珍しくないかと問う私に、それしか残っていなかったと5pb.が答える会話をBGMに、パイの上に年齢分の蝋燭が立てられる。ちょうど注文していた宅配ピザも届き、5pb.が無理やり私の帽子を赤い星柄のパーティー帽子に挿げ替えて準備完了。不満げな私に対し、彼女は似合ってるよと笑った。

 

 「じゃ、電気消すね?」

 

 蝋燭に火が灯り、部屋の電気が消される。

 

 「ハッピーバースデートゥーユー♪ハッピーバースデートゥーユー♪」

 

 ゲイムギョウ界の歌姫・5pb.による観客1人のライブ。ファンの1人としては垂涎ものだが、そんな気がまるで起こらないのは目の前の青髪泣きぼくろの少女を『親友の5pb.』として認識していたからだろうか。

 

 「ハッピーバースデーディアMAGES.♪ハッピーバースデートゥーユー♪」

 

 私はフーと息を蝋燭に吹きかけ、火を消した。それに伴い部屋は完全な暗黒に包まれ、

 

 「MAGES.、誕生日おめでとー!」

 

 照明にぶら下がった紐を引きつつ、5pb.が溢れんばかりの笑顔で私を祝福する。

 

 「なんだ5pb.、私は…もう少しこの漆黒の闇に身を委ねたかったのだが…」

 

 「はいはい、今日の主役がそんなこと言ってちゃダメだよ?明るくいこう?」

 

 照れ隠しに中二チックな言葉をひねり出すも軽くあしらわれ、コップに注いだドュクプェで乾杯………5pb.はサイダーだったが。

 

 

 

 

 

 やがてコップも皿も空になり、そろそろお開きかという雰囲気になった頃。

 

 「MAGES.、今日泊っていい?」

 

 「……!?ゴホッ!ゲホッ!」

 

 唐突なことだったので、3本目が空になろうとしていたドュクプェにむせてしまった。

 

 「と、泊る!?仕事で来てるんなら、ホテルを取ってるんじゃないのか!?」

 

 「うーん、そうなんだけど、今から戻るのも………ダメ?」

 

 「ベッドは無いぞ?」

 

 「大丈夫大丈夫、ボク、割とどこでも寝られるから」

 

 「ソファで寝ると身体に悪いぞ…?」

 

 「1日くらい平気だよ?」

 

 「……」

 

 私は超次元ガジェットの開発中にたびたび机で寝落ちするため寝床の心配はないが、やはりアイドルともあろう者が自分の身体に気を使わないのはいかがなものか…いや、親友の頼みだから聞いてあげるべきだ、雨も降っているのだから…そんな議論が脳内で執り行われ、最終的に下された結論は…

 

 「……わかった、今宵は止まってゆくといい」

 

 「本当!?よかったぁ」

 

 安堵した表情で、5pb.は今晩の寝床となるソファに一層深く腰掛ける。

 

 「じゃあ今日は夜更かししよ?MAGES.と話したいこと、まだたくさんあるから!」

 

 嬉しそうな5pb.が待つソファに近づきながら、話の内容を考える。今日1つ歳を重ねたが、生まれたのは5pb.の方が先。それでも時折自分の方が年上かと錯覚するような純粋さを持つ彼女が私の…親友である幸運に感謝しつつ、来年も2人で誕生日パーティーをやりたいと思った…罰ゲームとしてではなく。

 

 

 

 「本当にありがとうMAGES.、実はボク、今日のホテル取ってなかったんだよね」

 

 「は?」

 

 「雨の中空いてるホテル探すのやだなって思ってたし…MAGES.とより長く一緒に居られるし、一石二鳥だね!」

 

 「5pb.、お前…」

 

 「騙してごめんね?でも案外すぐ許可してくれたし、お芝居がよかったのかな?演技のお仕事もできるかな?」

 

 どうやら私は、間違いなく5pb.の年下らしい。嬉しい怒りを感じながら、雨が降りしきる誕生日の夜は過ぎていった。




モデルの会社の設立日=そのメーカーキャラの誕生日
この概念は非常に良いと思っているのですが、5pb.ちゃんはともかくMAGES.ちゃんは設立の経緯が少々ややこしい(合併や吸収の結果できた会社の)為、彼女については公式サイトの沿革に書かれていた中でのMAGES.という名称の初出である日という事で…手を打てませんかね?



あと5pb.×MAGES.派なので、5pb.ちゃんを攻めに置いている影響で若干のキャラ崩壊を起こしていないかと不安になっております


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