~異次元大会~ (バトルマニア(作者))
しおりを挟む

始まりの一日目
異次元大会の説明(ネタばれあり)


 タイトル通りの設定集です。狭間の住人の設定もあります。


・大会ルール説明

 バトルロイヤル形式で大会は運営され、全員に評価点が配分されたのち、制限時間256時間でそれを奪い合い、点数がもっとも高かった者の優勝者とします。

 仮死亡や復活に必要な時間が制限時間をオーバーすると言った戦闘不能になった場合は強制退場により脱落判定が出ます。また仮死亡にならなくても、致命的なダメージが予想される場合も同様の処置を取ります。封印や追放などにより戦闘会場から姿を消した場合、時間内に回帰できなかった 又はできないと判断された場合には、同じく脱落判定を出します。ただしその場合は点数は消滅します。

 一番最初に入った者にのみ点数が配られ、点数持ちがやられた時点で分体などが残っていても脱落扱いします。また分身や作成物などの放出した存在の有無は、各能力の性質によります。

 戦闘会場の端には薄い光のカーテンを設置しており、これは時間が経つごとに徐々に狭まります。この外側に1分以上滞在した場合脱落者となり点数も消滅します。

 乱入者撃破時は、通常の10倍の得点が発生します。

 この大会での優勝景品は『願いの成就』です。

 

・その他の事項。

 当施設は破壊行為及び大会運営の妨害が発生しない程度に自由に使用できます。また観戦者と参加者の両者は、自身のいる観戦場や戦闘会場など以外の場所への出入りや干渉を行わないでください。これは大会の参加者及び観戦者、従業員など全員に適応されます。

 観戦者は食堂や戦闘室などの多種多様な施設が使用可能です。詳しくは担当の係員や従業員にお聞きください。

 用意された会場以外の安全の保障はできません。把握外への移動は自己責任でお願いいたします。

 

・点数ついて

 1~100点の中で、対象のスペックや単純な強さなどで決まる。とは言え強者しか集めていいないので、最低値は40点ぐらいである。

 実は、大会参加用の単体の魔魅さんを100点とした場合の基準で、魔魅さんが倒せそうとかめんどくさそうとかで点数を決めている。また相性や急成長などは一切考慮されていないので、点数差も覆せるかも?

 あと参加人数と強さの基準は大体こんな感じ

 

 100点 約1千人 インフレ作品の最強キャラ

 90点台 約5千人 チート持ちの主人公ぐらい

 80点台 約1万人 ライバルやボス級のキャラ

 70点台 約2万人 チートなし世界での最強

 60点台 約3万人 上澄みや一握りの強者

 50点台 約4万人 強者として知られている

 40点台 約6万人 弱めの主人公の取り巻き

 

 星の中での強者たちや惑星級の力を持った者、異世界を行き来する者などもおり、中には宇宙レベルの存在まで色々参加しているので、こんな感じになっている。

 

 

・主催者について

 とある事情からこの大会を開き、別世界から強者たちを招いたやつ。大会のルールもこいつが決めているが、特に変な仕掛けとかはしておらず、大会自体はちゃんと運営している。性格自体はあまりいとは言えないが、ルールは守るし不平等も嫌っている上、几帳面で嘘がキライである。用意周到で根回しや裏工作などの事前準備が得意だが、戦闘自体は真正面からするタイプ。そのため本人は悪人のつもりだが、悪役が向いてなさすぎる性格。

 なおルールには主催者側が参加してはいけないなどの表記がないため、普通に参加している。

 

 

・魔魅さんについて

 参加者を集めた張本人。主催者に大会の話を持ち掛けた人でもある。大会でのあらゆる運営や管理、警備などは彼女に一任されており、実質主催者と魔魅さんの二人だけで大会を運営している。なお彼女は無限増殖みたいな能力を持っており、その力を使って大会の運営をしている。変なことをすれば、すぐさま大量の魔魅さんが駆けつけてくる……と言うかその場で増えたりするので注意しよう。

 全員が本体で、性格や性質は個体ごとに若干違うので出会ったやつ次第。

 そして主催者同様参加しているが、本来参加できるほどの存在ではないため、能力を使わないなどいくつか制限付きでの参加になっている。

 

 

 

・多元存在について

 多元存在とは、もっとも存在密度が高くかつ流動体のように存在が、目まぐるしく変化し続けるもののこと。あくまで存在構造の変化であって、見た目や性質がと言う話ではない。要は成長や進化の類。

 またあらゆるものへの干渉と認識ができるため、格の違いからくる上位からの攻撃や見えない感じ取れないなどの一方的な干渉ができず、摩訶不思議な力が高度なマジックや手品と化している。だがあくまで同じ土俵に立つだけであるため、単純な技量差や物量によるゴリ押しは通じる。

 存在密度が高すぎるがゆえに隙が無く、同じ多元存在からの攻撃以外は大抵通じない。その密度差は重金属とスポンジぐらいある。特に特殊攻撃や状態異常、あらゆる支配や精神干渉、果てには乗っ取りや体内への攻撃などには高すぎる耐性があり、もし入り込めても変動し続ける存在構造に擦り潰されて大した影響は与えられない。そんな特殊能力を使うぐらいなら、外から殴った方が効果的である。

 無駄がなく効率が良すぎるため例外なく超ハイスペックだが、見た感じ元となったものと見分けがつかない。また燃費が良く環境への依存性が低いためどんな世界でも生存できる。

 しかし見た目相応の事しかできず極端な範囲攻撃は苦手だが、その範囲内に限って言えば絶大な力を発揮する。参加者は全員多元存在になる。

 

 

・乱入者について

 勝手に参加した狭間の住人たちのこと。約300人おり、最低でも65点からであり、多元存在として戦い方を熟知しているという強者揃い。兵器たちと参加者を取り合っている。

 

・狭間の住人について

 全員が超人の多元存在で戦闘狂。驚異的な学習能力があり、特に対応能力がずば抜けている。乱入者クラスになると、技術の範疇だと大抵のことは覚えて再現や調整ができる程度。

 自由や実力 生存などを重視しているが、それ以外の感情などの中身は普通の人間とあまり変わらず、大抵のことは人並み程度の奴が多い。ただ長く生きていたり、過酷な環境になれているので、本人がちゃんと悩んでいるつもりでも切り替えや判断が異常に早く、結果的にメンタルがクソほど強い。例として、どんな負傷を負ってもリアクションの有無にかかわらず大したことのないように見える。

 因みにだが狭間の住人は、すべてを出し切る戦闘を楽しむための『ゼンリョク』や手段を択ばず手加減をしなくなる『ホンキ』などがあるが、意識がない状態が一番強い。しかしそれでは戦闘を楽しめなくなるので、極力使ってこない。

 

 

・狭間の住人の種族について

 細かく説明すると長くなりすぎるので、これさえわかればって言う簡単な種族説明です。

 

 人族……平均的で可もなく不可もない人型の原点。身体能力は微妙だが、汎用性は随一でありやろうと思えばどんな能力でも持てる。

 

 獣人族……動物の特性を持った種族。基本的に身体能力が高く、本能で動きやすい。

 

 樹人族……植物の特性を持った種族。全体的に穏やかそうな傾向で、生命力が非常に高い。

 

 龍人族……龍の特性を持った種族。普段は人型だが、最終的にはドラゴンや龍になることが出来る。

 

 透人族……幽霊のような特性を持った種族。浮かんだりモノをすり抜けたりでき、気配も薄く、やろうと思えば透明化みたいなことも出来る。

 

 鉱人族……鉱石や結晶の混じった種族。体が重く硬いので耐久性は高いが、泳ぐことが困難。よく鉱石などを食べている。

 

 水人族……水中に適合した種族。ちょっとした液体の操作や水中呼吸なんかができる。水や液体が関わっているところでは調子がいいが、それがない場所だと調子が上がらない。

 

 血人族……血肉が操れる種族。血液や肉体の操作ができ、特に血液は大抵のものは溶かしてしまう毒みたいなものなので結構ヤバい。

 

 巨人族……身体が大きな種族。通常で2~3m程度の身長を持つ。更に巨人化で最大十倍までデカくなれる。

 

 小人族……手のひらサイズな種族。普通の人間の十分の一程度の大きさで、宙を飛び回れるようにと羽のようなものがついている。すばしっこく機動性に優れているが、通常での攻撃範囲が狭い。

 

 天人族……神や天使みたいな種族。漏れ出したエネルギーがそれっぽく形取り、見た目がそうだというだけで、実際のところはほぼ関係がなかったりする。空が飛べたり、放出系が得意。

 

 機人族……機械の混じった種族。機械と繋がったり、自己改造したりと色々出来る。記憶能力や演算能力に優れているが、合理的に動くかと思えば案外そうでもない。

 

 幼児族……見た目も中身も子供のような種族。無尽蔵の体力に高い成長能力を持っているが、どれだけ取り繕っても中身は子供であり、精神が不安定になると子供っぽくなる。

 

 武具族……武具などを生成できる種族。当人にとって最も最適な武具が生成でき、当人の実力に合わせて性能が上下する。武具は体の一部であり、壊されるとその分ダメージを受けるので注意。

 

 不滅族……圧倒的回復能力を持つ種族。小さな傷や欠損であれば戦闘中でも問題なく治せ、大きなダメージでも時間をかければ完治させることが出来る。

 

 粘体族……人に擬態したスライムのような種族。見た目は人と変わらないが、中身はスライムのようになっており、体を変幻自在に変形させる事ができる。硬質化で耐久の無さを補えるが、変形に制限がかかる。

 

 殊眼族……特殊な目を持つ種族。種族全体で目に関した何かしらの能力を持っている。

 

 表裏族……二つの人格を持つ種族。生まれながらにして二つの人格を持ち、いつでも交代可能。仲がいいかはさて置き、何やかんやでサポートしあっている為隙が少ない。

 

 頭角族……角の生えた種族。鬼人族などとも呼ばれているが、他にも種類がいたのでこれで統一された。角には色々と用途があるが、みんなからは頭突きが強そうだと思われている。

 

 異型族……異形の特性を持った種族。力を出せば出すほど異形の姿になる。いろいろと厄介な能力を持っている奴が多い。

 

 現霊族……現象そのものみたいな種族。自然現象などが人化したみたいな種族であり、上位はどいつもこいつも規格外に強力。

 

 原種族……個体数の少ない種族。他の種族と似ていたりする奴も多いが、組み分けが済んでいない、または研究が進んでいないやつら。探せばチラホラいたりする、珍しい程度の種族枠。

 (神族、悪魔、天使、吸血鬼、死人、書物、不滅鳥、人形、電脳、迷宮種、建築種など)

 

 と以下の通り大きく分けてもこれだけたくさんの種族が存在する。その他、血の濃さや混血など様々。

 

 

・狭間の住人の能力者の定義について

 様々な種族がいる狭間の住人だが、能力者と言われる者たちがいる。その定義は、通常その種族ではできないことが出来るようになった者のことを能力者だ。系統として大きく分けて二つあり、種族の限界突破か、全く別の特殊能力である。前者は強力で使いやすいが単純で、後者は扱いがややこしいが手札を増やすという意味では優秀だ。

 また能力者は、自己申告や周囲からの評価で決まる。なぜなら、種が混ざりすぎて細かな判別がめんどくさいからだ。

 

 

・一般流について

 狭間の住人の一般人なら誰でも使える、または狭間世界に一般的に流通している技術の総称。強さもそうだが便利さを重視したものが多いので、精度はさて置き出力では能力者や専門者には届かない。

 

 以下戦闘での基本系

 

 移動系の 瞬動 空動 乱動 無動

 

 斬撃系の 飛斬 空斬 乱斬 曲斬

 

 衝撃系の 重撃 空撃 乱撃 尖撃

 

 認識系の 感知 探知 察知 把握

 

 これらを戦闘が巻き起こる日常で特に苦労せず使いこなすのが基本となっている。技にしてまとめているのは、単に子供や初心者用にわかりやすくしたものだから。極めればチョットした感覚の延長や呼吸や歩行と同じレベルになる。

 他にも様々なものがあり、技を開発してネットに流している者たちもいる。しかし役に立つかどうか怪しかったり、見た目重視のネタ技など、遊びや日常生活で使うことに特化していたりするものも多い。

 

 

・兵器たちについて

 ステージギミック用に残しておいた兵器群。個人用の施設や町レベルのものもいくつもあり、どれも参加者を苦しめるには十分すぎる戦力を保持している。乱入者はライバル扱いで、見つけ次第排除対象。

 




・羊さんについて
 人間ベースの白羊の獣人のような見た目の虚空の管理者。無限に分体がおり区域を分けたり代わりばんこで管理しているが、そのほとんどが普段はボ~としたり寝ているだけで数万年~数億年経っているぐらいのんびりしている奴。だが、時々起きて楽しいことがないかふらついている。
 観測者付き添っている奴もその一人で、やけに人が多いなと思って観察しに来た個体。狭間世界やその関係場所にに近づいた者たちを、多元存在にするのが仕事の一つなので気が付いたのだ。今回の異次元大会の参加者も全員、多元存在にした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

世界の行く末

 虚空が広がる空間で、巨大な金属質な球体をバックに、ボロボロになり倒れ伏す一人の少年と、疲れ切った男が肩で息をして少年に止めを刺そうと近づく。

 

「ボクは負けたんですか?」

「そうだ怪物。やっとここまで追い詰めたんだ。さっさとくたばれ」

 

 少年の体からは火花や電気が漏れ出しており、何もしなくても壊れそうだが、男はどうしても自分の手で決着をつけたいようだ。だがその足取りは重いようで中々距離は縮まらない。

 

「観測者のアナタがここまで来るのは想定外でしたね」

「そうか?俺と同じ観測者ならそれぐらい分かってると思ってが?」

 

 数々の仲間たちの力を借り、時には見捨てなければいけない程の戦場をくぐり抜けてきた観測者はそう言う。

 

「ならその観測者なら分かってるはずです。このボクを壊したところで……」

「何を言っているんだ?最後の人工知能であるお前が消えれば、あのデカブツは機能を停止するはずだ」

 

 観測者は、後ろにある巨大な金属質な球体を指差し、一生懸命足を進めようとする。

 

「そうですね。あれとアレに繋がる人工知能はとっくの昔に壊れています。ボクを除いてですがね。そのせいでここまで追い詰められたんですが……やはり一端の端末程度では使いきれませんか。ですがね。そういうことでは……」

「一端の端末がここまでやったことに驚きだ。多元宇宙を巻き込んで戦争を起こすなんてな。それもつい最近まで善戦してたんだから、怪物以外でもなんでもない」

 

 壊れかけの兵器は、自身の修復のために多元宇宙へと喧嘩を仕掛けた。この結果がこのザマであり、兵器の敗北で幕を下ろそうとしていた。

 

 

「そうかも知れませんが、そういうことを言いたいわけではなくてですね。ボクを破壊するとこの多元宇宙が虚空へ落ちてしまうんですよ。繋ぎ止めていたボクがいなくなるから」

「虚空へ?何だそれは?」

 

 確かに最後の機体である少年を破壊すれば、長年この世界を苦しめた兵器はその存在を保てなくなるだろう。だが少年はその後のことについて言っていた。その内容に足を止める観測者。

 

「無から有を守る内側の層。何もない世界、それが虚空です。そこへ落ちたものは有から不要なものとして判断され、急速に滅びへと向うのですよ。まぁボクはその先から来たんですがね」

「お前が来たってことは帰って来れるはずだ。どうにかする」

 

 虚空へ落ちた際の話をする少年だったが、少年がその先から来たということに反応して、観測者はどうにかすると言った。

 

「ええ、確かに帰っては来れますね。ですが、割に合わない代償を払うことにはなりますよ。さぁ、どれだけ犠牲が出るんでしょうね?いくつ宇宙を切り捨てるんでしょうかね?」

 

「お前ッ!!」

 

 怒りに震える観測者だが、少年が言っていることは事実であり、それだけ虚空が無慈悲で絶望の詰まった場所だと言うことだった。

 

「ボクは兵器。それも狭間世界最高位、六大施設の一つ『観測機』です。そんなボクでさえ運任せだったのに、アナタたちが無代償で帰ってこれるはず無いじゃないですか。甘く見てるのはアナタ方の方です」

 

 宇宙という枠組みに収まっている存在では到底敵わなかった存在。そんな観測機でさえ、無事通り抜けたのが奇跡なほどに、虚空とは恐ろしい場所なのだ。

 

「まあそれでも、ボクの運はそこで尽きましたがね。こっちに来て、順調に進んでいると思っていたのに、管理者なんかに邪魔されて滅ぼされる寸前まで追い詰められましたし、逃げ切ったと思って復活しようとしたらアナタ方に止めを刺されかけてますしね」

 

 どこか諦めたように喋り続け

 

「あ、知ってます?この世界が廃棄される理由って、ボクたちが来たからなんですよ。正確に言うと少し違いますが、原因はボクたちです。やはり外世界の異物が紛れ込んだ世界なんて邪魔なだけですからね。宇宙の概念世界からすれば、この程度の範囲は傷にすらならないのでしょう。当然と言えば当然ですが、すごく残念なものです」

 

 そして最後には残念そうに顔をしかめる。

 

「……くそっ!どうすりゃいいんだ!」

 

 観測機を破壊しても、この宇宙は終わる。だからと言って見逃しても碌な未来など待ってはない。そんな選択肢しか残されていないほどに、この世界は行き詰まっていた。

 

 そんな時だった。

 

「お?なんか変な場所に繋がった」

 

 急に空間が歪み誰かが出てきたのは……

 

 

 




 一から書き直して、主人公の周りを前回のものと別物にしています。

 変更点
 ・主人公に目的を与える。(世界を元に戻す)
 ・因縁の相手と仲間を出す。(前回は見つけ出せなかっただけ)
 ・主人公に変なサポートを付ける。(マジで変なヤツ)

 今のところはこれぐらいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

乱入者の話

 突如として現れた獣人の少女のような乱入者に、二人は呆然としていた。

 

「やぁ、私は狸塚 魔魅(たぬずか まみ)。魔魅さんと呼んでね。で、私がここに現れた理由なんだが、キミたちをとある大会へ招待しようと思って……」

 

 勝手に話を続ける魔魅さんに、観測者は待ったをかける。

 

「ちょ、ちょっとまってくれ!意味がわからない。こんな状況で?え、なんで?」

「こんな状況って……私にはわからないな。なんせこの世界には、今来たことろだからね。出来たら説明してもらえる?」

 

 黙り込む観測機とは対象的に慌てている観測者。そこで状況を一切把握していない魔魅さんは、状況確認のために説明を求めた。

 

「この世界は宇宙って場所で、今こいつと戦争中で滅びかけてんだ。虚空に落ちるってな。ってかそれ知らないってことはお前、別世界から来たのか?」

「うん、そうだよ。宇宙外世界からやってきたんだ。虚空の先にある狭間世界ってところさ。たまたま繋がったからね」

 

 どうやらこの宇宙が虚空に触れた影響で、向こう側の存在が一時移動できるようになっているようだ。それに驚いていると魔魅さんは観測機の方を見て

 

 

「ああ!観測機じゃない。一兆年ぶりだね。元気してた?」

「……」

 

 呼びかけに答えない観測機に、魔魅さんは相変わらずの笑みで続ける。

 

「元気じゃなさそうだね。このまま行くと壊れるのも時間の問題かな?そんな滅びかけのキミたちに朗報だ。今回開催される異次元大会ではね、優勝者の願いを叶える事ができるんだ!」

 

 元気に、朗報で名案があると言う魔魅さん。そこでやっと観測機が声を出した。

 

「……ボクのことを恨んでるのか」

 

「……変なことを聞くね。キミのせいで、私たちの計画がどれだけ狂って、こちらがどれだけ被害を受けたと思ってるのかな?狭間世界は大幅な弱体化を受けて、不明の怪物共を除いた六大施設以上の存在たちはマトモに活動できなくなった。管理者に敗北するだけじゃなくて、こっちの世界にやってこさせるからだよ」

 

 声色は変わらず目を細めて笑顔のままそう言い放つ。だが内容の通り、隙間から見える瞳には何も写ってはいない。

 

「そんなつもりはなかった、ボクたちだって……」

「結果が全てだよ。過程なんてそれを飾るか言い訳のための理由づけでしか無い。たじろぐ暇があるならさっと動いて結果を出すといい。末端とは言え、六大施設の一つを名乗っているならなおさらね。ということで、大会に出場するよね?」

 

 弁解を許さず、一方的な威圧を加える魔魅さんに、観測機は

 

「わかった。必ず優勝して復活してみせるよ」

「そう言うと思ってたよ!今のキミには何も期待してないけど、大会自体は楽しくなりそうだ!ってことで一応直してあげるね」

 

「なッ!?」

 

 魔魅さんは何かしらの道具を取り出し、それから放たれた波動がその場にいる全員のすべての傷と破損を直していく。

 

「それは……修復機関……」

「その劣化版だよ。応急処置だからね。ムリしないように。で、キミはどうするのかな?」

 

 道具を仕舞い、観測者の方へ向いて話しかける。

 

「少し……」

「考える暇なんてあるのかな?この世界は虚空へ片足突っ込んでるんだよ?猶予はあるとは言え滅ぶのも時間の問題だね。それにこっちだって、他に参加者を集めなきゃいけないんだ。で、答えは?」

 

 魔魅さんにとって相手の事情などどうでもいいようで、さっさと返答をしろと言う。

 

「わかった。参加する。その代わり、俺の仲間たちにもその話を回してくれ」

「ん~わかったよ。祭りごとは多いほうがいいからね。見つけたら話しておくよ。じゃ、お二人さん追加で行ってらしゃい!」

 

 そう言うと空間に穴を開けて、二人に入るように促したのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

虚空での強化

 何もない空間でフワフワと漂う観測者。

 

「ここは……どこだ?」

「ん?ああ、気がついた?そのまま寝てていいよ。すぐ終わるからさ」

 

 観測者以外誰もいないはずの空間で、そう声が返ってくる。相手の正体どころか、姿すら確認できない状況で、観測者は即座に能力を使おうとするが……

 

「なっ!?」

 

 一切発動せずに、逆に力が抜けていく感覚に襲われた。

 

「無理に動かないでね。今調整中なんだからさ」

 

 相手はそれを見越してか、呆れたようにする。

 

「何が起こってる?俺は大会に出場するために移動していたはずだ」

「そうなの?わたしはただこっちの世界に干渉したから、こうやって能力の強化と最適化をしているだけよ。本来なら一瞬で気づかれる事なく終わるはずだったんだけど、どうにもあなたの能力……と言うか存在に引っかかってしまちゃって。だから今しばらく待ってね」

 

 そう聞こえ、なんとなく問題なさそうだと思ったのか、観測者はあっさり抵抗をやめた。

 

 

「お前は誰なんだ?それに調整ってされたあとはどうなるんだ?」

「こっちに来るんならわたしは調整する必要があるの。じゃなきゃ長く生きられないからね。わたしは“虚空の管理者”だよ。羊さんって呼んでね。みんなからそう呼ばれてたから」

 

 自己紹介をしてくる相手に、観測者は戸惑いを見せる。

 

「わ、わかった、羊さん。で、俺はどうなってるんだ?」

「別に虚空に入るだけなら何もしなかったんだけど、狭間世界に近づいたから多元存在にしてるの。まぁあなたは元からそれだったみたいだからする必要もなかったんだけど、強引になったみたいで無茶苦茶だったから干渉したのよ」

 

 どうやら存在を強化してくれているようだ。それもキチンとした形に整えてである。

 

「だろうな。俺は多元存在になっただけだど、観測機の実験での結果だ」

「へ~観測機ね。あの子が……だから多元存在になれたのね。内側じゃなれる子は凄く少ないからね」

 

 多元存在になれる者はごく少数だ。大抵の場合、下位存在から始まり、特殊なことが出来る中位存在、能力が持てる上位存在、より強力になった最上位存在、神などの領域である高位存在、そして規模や強さが規格外な超位存在になってしまうのだ。それに比べ多元存在とは、生存や存在維持に長けた者を言う。彼らはどこにでも存在でき、誰とでも対等に競い合え、何より内部構造が複雑で高密度すぎた。その上、多元存在は世界から嫌われているので、それになるものはごく少数だ。

 

 例えるなら、超位存在は派手で巨大な恒星だとするなら、多元存在は地味で小さなブラックホールである。

 

「こっちに来た奴らはみんな多元存在に?」

「そうよ。わたしが一人ひとり丁寧に多元存在にしてるの。今回は量が多くてちょっと手間取ってるけどね」

 

 大会の関係で、本来来れないはずの存在がこちらへとやってきていた。そのため量が半端なく多くなっているのだ。

 

「魔魅さんってやつが大会開くらしいから、それで量が増えてるんだと思う」

「そうね、あの子にも困ったものだわ。まぁだからと言って邪魔するつもりもないけどね」

 

 管理者は無闇に世界に干渉しないし、しても小出しでコソコソしている。これは管理者の力が大きすぎることや、出て行っても碌なことがないなどの理由があるからだ。あくまで世界の維持管理などが目的なので、余程のことが起きない限り表に出てくることはない。

 

「まぁ、そうだな。お前ら管理者は……」

「そうね。世界が維持できるか否かでしか動かないからね」

 

 例え惑星上のすべての存在が滅びようと、世界にとっては待ってればまた出てくる程度の感覚でしかないので、その程度では動かない。だが積極的に動く例外もあり、それは管理下に置いている者たち以外からの影響を排除する場合だ。

 要は外部からの影響を善悪問わず、世界の維持に邪魔や不要と思われたら動くのだ。これが本格的に、それも最大規模の概念世界で実行されたのが観測機の襲来だった。

 

 

「ま、そんな話はいいの、ちょうど調整も終わったところだしね」

「そうだな、ありがとう……そういやお前はどうするんだ?」

 

 体が薄れ始めた時に観測者は、次いでだしとこれからどうするのか聞いていた。羊さんにとって、観測者含め今回の参加者の多くは部外者にあたる。やろうと思えば強化などせず、全員消滅させることも容易いのだ。

 

「虚空はいわば、なんでもありの廃棄場みたいなところよ。だからわたしは最低限以外なにもしない。ただ見てるだけでいいの」

「そりゃな。ほっといても消えるわけだし」

 

 羊さんにとって、虚空へ入って来たものは等しく無に帰るものなので、手を出すまでもないと言ったところなのだろう。

 

「でも大会か、面白そうだからあなたを通して見てみようかしら?全体が見えても面白くないだろうし」

「え?それは……」

 

 最後にそう聞こえ、質問を返そうとする観測者だったが、その前に意識が途切れたのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

会場での会話

 観測者が気がつくと、多くの参加者がいる広く豪華そうなパーティー会場にいた。

 

「ここは……」

『大丈夫?』

 

「っ!?」

 

 急に脳内に声が聞こえ、周囲を確認する。だが観測者に話しかけている人物はどこにもいない。

 

『ん?ああ、ごめん。急に話しかけて、わたしだよ、羊さん……って言っても姿を見せてないからわからないよね。じゃ……これでよしっと』

 

(いや良しじゃねえよ)

 

 脳内に話しかけてきた羊さんは、観測者の視界内にその姿を表す。それは、全体的に白色が特徴の和服の寝巻きを着た羊の獣人だった。

 

『まぁ別にいいじゃん。とりあえずこの大会中はよろしく』

(……まぁいい。追い出せそうにないし、強化してくれたお礼も兼ねてな)

 

 少し考え、追い出すのは不可能だと判断した観測者は、早々に諦め許可を出す。

 

 

『ありがとー。でなんだけど、話しかけられているよ?』

 

「大丈夫ですか?ボーとして?」

「あ、ああ大丈夫だ」

 

 一瞬動揺してなにも出来ずに突っ立っていると、近くにいたキラキラした鎧を着たイケメン男に声をかけられていた。

 

「あんたも参加者か?にしても随分と多いな」

「そうですよ。ここにいる皆さんの多くは参加者らしいですね」

 

 非常に広い会場に大量の人がおり、ザワザワと何かを話したり、机の上に置かれた食事を楽しんでいるようだ。

 

「随分と強そうな奴らが集まってるな。こりゃ苦労しそうだ」

「そうですね。娯楽で参加してる人もいれば、優勝を狙っている人も多いでしょう。……そういえばあなたは、どんな世界から来たんですか?因みに僕は、魔物や悪魔とかが蔓延る世界から来たんですよ。そこで勇者ってのをやってたんです」

 

 キラキラした男は勇者だと名乗り、自身のいた世界について簡単に紹介する。

 

「へ~、俺は宇宙を旅してただけだから、特定の世界に属してたわけじゃないな。強いて言うなら、宇宙世界かな。適当に観測者って呼んでくれ」

 

 観測者もそれっぽい自己紹介をし、自身の存在を名乗った。

 

「観測者ですか、わかりました。それにしても宇宙中を旅してたって、いろんな世界を見てきたのかな?」

「ああ、そうだ。お前のいたような世界なら億千万と見てきたし、それ以外にも科学が発達した世界とか、妖怪や怪異がひしめく世界だとか、詰め込める要素全てをごちゃまぜにした世界とかも見てきたな」

 

 観測者は観測機との戦争のために宇宙中を旅して、様々な世界を見てきた男だ。こと見ることに関しては、最上位の一握りの中にすら入っている人物でもあった。

 

「そんなに世界があるんですか」

「お前たちのいる星ってのは、宇宙に浮いている無数にある星の一つだからな。俺はそこを渡り歩いていたんだ」

 

 そして同時に、世界を渡り歩くに値する程の実力者でもある。そうでなければあの観測機の相手など務まるわけがない。

 

 

「たくさんの星があるのは知っていましたが、それほど多かったなんて……世界は広いですね」

「ああ、広いとも。もう果てしなく続くんじゃないかと思えるほどにな。そんでもって、厄介で強い奴らも腐るほど見てきたな」

 

 勿論それだけ旅をしていれば、強者たちとの出会いも多くなってくる。俗に言う神やチート存在、銀河や宇宙さえも統べる者たちも見てきていた。

 

「因みに、僕はどれぐらい強く見えますかね?」

「……わからんな。ただ、俺が知っている奴らに一瞬でやられるほど弱くはないと思うよ」

 

 話が続いていく過程で、自分はどれほど強いか勇者が聞いてきた。それに対し、少し周りを確認した後にそう答える。

 

「ははは、そう言ってくれるとありがたいです。ここには、僕より強そうな人がたくさんいますから」

 

 勇者は、苦笑いを浮かべそう返す。

 

 確かにこの勇者の言う通り、ここには強者しかいない。最低でも神や超越者の領域に入っている者たちだらけだ。

 

 だが…

 

「ここに来て強化されてるだろ?そのお陰で、ここにいる奴らはみんなほぼ同じ立ち位置にいる事になっている。さっきも言ったが、一方的に蹂躙されるほど、お前も含めたここの奴らは弱くない」

 

 観測者は、規模や存在の格の違いで全てを圧倒する者たちを知っている。それの目の前だと、あらゆる能力や力が無意味になりかねないとも理解していた。だがここに来て話は180度変わった。なぜならあのときの強化で、その差の大半を埋められてしまったからだ。

 

「そうですね。アレのお陰で僕は強くなりました……だけど、それは彼らも同じです」

「……一つ勘違いしてるようだから言っておくが、あれは純粋な強化なんてものじゃないぞ。あれの真骨頂は、あらゆるものへの干渉権を得るというものだ。これのお陰で、どんな相手にも攻撃が通るようになったし、やろうと思えばどんなものにでも対応できるようにもなった」

 

 驚いた顔をする勇者に、観測者は続けて

 

「実感わかないと思うが、それは感覚や認識のズレが起きないように調整されてるからだ。まあ意識して使う分には自己調整は必要だがな」

「そ、想像以上ですね。実感としては、ただ強化されただけしか感じられなかったのに……」

 

 試しに少し能力を使ったりして確かめる勇者だったが、それでもイマイチ理解できないようで、難しそうな顔をする。

 

「使いこなすのは、少し難しそうですね」

「そりゃな。今まで感じ取ってきた情報量とは比べ物にならないほど、情報量が増えてんだから当然だ。まともに思考できてんのが不思議なぐらいだ」

 

『ん~、褒められると頑張ったかいあると思えて嬉しいね』

(ホント出鱈目だな。格を同じに出来るってとんでもねえことなんだぞ。強制的に技量とか経験、相性勝負に持ち込まれて、一方的な攻撃ができないって面倒この上ないわ)

 

 そんな事を話していると、会場全体に特有の音が鳴り響き、暗くなっていく。

 

「おっ、始まったか」

「そうみたいですね」

 

 周りが静かになり、二人も話すのを止めたのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

挨拶とルール説明

 暗くなった会場に、いくつかまばらに光が差し込む。

 

 その光の中には、天井からぶら下げられたモニターが設置してあり、ありがちな人型のシルエットが映し出されていた。

 

(主催者本人は出てこずに、姿も見せないか…)

『会場広いから仕方がないんじゃない?それと襲撃対策でしょ』

 

(当たり前のように思考を読むなよ)

 

 観測者はそう思い、羊さんにツッコミつつ話が始まるのを待つ。

 

 

 

「どうもはじめまして、私はこの大会の主催者です。

 今日は本大会へご参加いただき、誠にありがとうございます」

 

 開会の挨拶が響き渡り、ザワついていた者たちが完全に黙り込み、辺りは静寂に支配された。

 

「まず、本大会の大まかな概要を説明します。この大会は、バトルロイヤルにて優勝者が決まります」

 

 違和感はなく、人に限りなく近いが、老若男女判別のつかない声。それが静かな会場に響き渡り、大会についての説明を開始する。

 

 

「バトルロイヤルは、全員に評価点が配られ、制限時間256時間でそれを奪い合って点数がもっとも高かった者が優勝者とします」

 

 長い制限時間に、参加者が多いためかと会場内でどよめきが走る。

 

 だが観測者は……

 

(参加者が多いのもあるが、一人ひとりが強いからだろうな。下手すると決着が着かないやつも出てくるだろうから、こりゃ戦闘能力が高いだけじゃ生き残れんかも……)

『多元存在はしぶといからね~。強さもさることながら、厄介さはその上を行くから簡単にはやられないよ』

 

 大体予想はできていたと言わんばかりに、納得した顔をしていた。

 

「この大会での優勝者には、どんな願いでも一つだけ叶えることが出来ます。ぜひ頑張って優勝を狙ってみてください。以上が大会の概要になります」

 

 

 最後の方に聞こえてきた話が、観測者の耳に入る。

 

(何でも叶えられるね。よくあるものだが、どこまで叶えられるのやら……)

 

 観測者は、似たようなものをたくさん見てきたのだろう反応をする。

 

(どこまでできるかわからないが、俺の願いは決まってる。まずは優勝目指して頑張るか)

『そうしてくれるとこっちも楽しめるから嬉しいよ。頑張って』

 

 だがどれも、なんでもと言いながら限界や代償がある場合が殆どで、完全なものを見たことがなかったようだ。しかし観測者はこれにかけているようで本気で優勝を狙っていた。

 

 

 

「次に試合外についての説明をいたします」

 

(……一応聞いとくか)

 

 それを聞いた観測者は、主催者の声に耳を傾ける。

 

「本施設は、他のお客様や参加者などに迷惑がかからない程度であれば、自由に使用可能です」

 

(自由に使わせてくれるって、随分と太っ腹だな)

『元の施設を勝手に使ってるだけだからね。対人トラブル起きなきゃ痛手にならないんだよ』

 

 羊さんの説明も聞きながら、そんな呑気なことを考え、話の続きを聞く観測者。

 

「なお、試合外での大規模戦闘や施設破壊などは、できる限りお控えくださるようお願いいたします。また、もしその様な事態に陥った場合、大会組織側はそれなりの対処をさせていただきます」

 

 大会の説明が終わり、その後もごくごく当たり前な説明が続く。しかし、観測者も含めた一部の参加者たちは、とある事に気がついた。

 

(やはり、俺たちを対処できるほどの戦力が大会組織側にもあったか。こんな大会開くぐらいだから当然なんだろうが、敵対はしたくないな……。てか変なこと考えてる奴いるな。頼むから暴れないでくれよ)

『そっちの方が身のためだね。詳しくは言わないけど、勝つどころかあなたでも逃げ切れるかどうかわからないからね』

 

 さっと周りを確認した観測者は、嫌な気配を複数感じ取り、そんな事を考える。羊さんもそれに同意し、逃げられないことも教えていた。

 

 

「最後に、本大会参加証明書の契約サインをお願いいたします。

 以上を持ちまして、本大会の説明は終了いた……」

 

「ちょっと失礼」

 

 最後の説明が終わろうとしたその時、画面が映り変わり、ワンピースを着た灰銀髪の少女が怪しく微笑みを浮かべて映っていた。

 

(誰だあいつ?大会側の人間じゃなさそうだな)

『あ~あの子は……まぁ見てれば分かるよ』

 

 会場はざわめき始めたものの、少女は勝手に自己紹介を始めた。

 

「私は大世渡 鏡華(おおせと きょうか)。この大会の参加者だよ。同時に大会側の想定してなかった乱入者でもあると思うけどね」

 

 鏡華の言葉に、更に会場はざわめく。

 

「まぁまぁ落ち着いて、別に大会を壊そうなんて考えてないよ。ただもっと楽しめるようにしようと思っただけ。ってことで、ちょっとルールの追加と変更をしていいかな?」

 

「……別に構いません。こちらが許容できる範囲なら」

 

 鏡華が主催者に話しかけ、主催者は渋々といった感じに了承する。

 

「ん~硬いね。こういう時はいつもそうだよなお前は、もっと楽しく気楽に行こうよ。せっかくの祭りなんだからさ。ってことで、私たち乱入者の評価点を倍増させるって事で願い。どうせならわかりやすくしてもいいよ。特定は済んだでしょ?」

 

「わかりました。では得点を十倍以上にして、点数表記を赤くしておきましょう」

 

 残り時間や点数などは注視すればわかるようになっており、乱入者たちはその表示が赤くなるようだ。そうして少々の調整の後に参加者全員の目の前に、一つのウインドウが現れた。

 

 

「……ま、まぁ悪い話じゃないな。点数は得られやすくなったし。にしても細かい説明に禁止事項か……特にこっちが不利益になるようなこともないし、書いてあることは至って普通だな」

『そうだね。主催者はそういうところちゃんとしてるし、約束事はキチンと守るよ』

 

 それを読み、おかしなことが書いてないかを確認した観測者だったが、特にそのようなことは書いておらず、非常に常識的かつ当然の内容しか記載されていなかった。さらには羊さんのお墨付きもあり大丈夫だと判断していた。

 

「大会自体は真っ当だな。乱入者を除いてだが……」

『まぁあの子たちはね。戦ってみてからのお楽しみだよ』

 

 そう思いながら、観測者は契約書にサインをする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれと同時に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、どこまでやれるか」

 

 転移が発動するのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

いきなり大惨事!?

 快晴の天気の下、柔らかで涼しい風が吹く大草原に、一人ポツリと現れた観測者。

 

「ランダムとはあったが、大自然の中とはな」

 

 観測者が辺りを見渡すと、遠くの方に巨大な柱がいくつか見える。だが壁は見えず、森、山、山岳などの大自然が、どこまでもどこまでも連なっていた。

 

「これも施設の中なのか……」

『そうだね。ここだけでも星の表面積なんて軽く超えてると思うよ』

 

 能力である観測を使い、観測者は一瞬にして試合会場全体を理解する。その施設の巨大さと、大会のスケールのデカさに二度驚いていた。

 

 

「一番近い参加者まで、最短で5キロも離れてるのか。それに参加者が17万人もいるんだが?」

『結構多いよね。大変だったよ』

 

 観測者が見える範囲でこれほどの人数がいる。そして何より、それが小さく見えるほど巨大なこの施設に、驚きを隠せないでいた。

 

「デカすぎるし妨害もかかってるから、施設全体が把握できない。どうなってんだ……」

『そりゃね。いくら末端とはいえ六代施設の一つ、【虚構施設】なんだからそんな楽に見せてくれるはずないじゃない。なんてったって、わたしと張り合おうとしてる相手なんだから』

 

 大会会場だけでもそれなのだ。施設全体ともなれば、そんなものでは済まないだろう。そしてなにより、管理者を相手取ろうとする存在なので、規格外なのは当然なのだ。

 

 

「とりあえず情報の収集と整理だ。今のうちに情報取っとかないと勝ち目がないかもしれねえからな」

『頑張れ~』

 

 観測に特化した観測者が、隠れている参加者も踏まえて正確な数とバレないように簡単な情報を割り出す。それと同時に、地形の把握や相手の位置などの情報を取り出していく。

 

 だが、そう上手く事が進むわけもなく……

 

「くっそ、やっぱ防がれたか。それに反撃もかよ!」

 

 より正確な情報を抜き出そうとした瞬間に、嫌な顔をして能力を一旦切る。どうやら妨害されたらしく、おまけに反撃を受けそうにもなったようだ。

 

 

「流石に、強者と言われるだけは……」

 

 

 観測者が最後まで言い終わる前に、各地で強大な力が同時多発的に発生し

 

「ちょっ!?いきなりかッ!?」

 

 空が明るく光り、時空が歪み、世界が揺れ、空間にヒビが入り、瞬間的に莫大なエネルギーが発生する。

 

「やばいやばいやばい!!」

『見てる分には面白いね』

 

 相殺と力のぶつかり合いが起き、余波である爆風が先程確認した地形を破壊していく。そして次に先ほどのせめぎあいに打ち勝った暴力の塊が、各地に降り注ぎ、光の雨や流星群などになり無差別に大地を溶かし吹き飛ばしていた。

 

 無論それは、観測者がいる場所にも降り注いで来ており、急いでその場から逃げ出す。

 

「無茶苦茶だッ!!」

 

 なんの捻りも、小細工もない純粋な暴力の塊。観測者は、そんなもの受け止められるはずもなく、一瞬にして逃げにまわる。だが攻撃の方が若干早かったのか、観測者に当たりそうになった。

 

『あっ、くるよ』

「こういうのは苦手なんだよ!」

 

 観測者は振り返り、当たりそうな極大の光弾をいくつか弾き飛ばす。それを一歩遅く降り注ぐ流星にぶち当て、爆発四散させた。

 

「質量物じゃなくてよかった……」

『そういうの苦手そうだもんね。あとで教えてあげようか?』

 

「頼む。じゃなきゃ生き残れそうにない」

 

 あの極大攻撃の数々はただの余波であり、そのお陰で観測者でも弾き返せていたのだ。そして苦手なものの対処法を教えてくれるらしい羊さんに感謝する観測者。

 

 

「やっぱな」

『そうなるよね~。何度も撃たれたらたまんないもんね~』

 

 一回目の攻撃が止み、観測者は一気に戦況を確認する。すると、想像通り第二撃目が準備されていた。だが、その二撃目が放たれることはなく、先手を打った者たちへの攻撃が始まったからだ。

 

 

「にしても……マジでヤベえな」

 

 同時に、今の攻撃で誰もリタイヤしていないことに驚く。

 先手必勝、完全な不意打ちにも取れるあの奇襲攻撃を、無傷ではないにしろ参加者たちは耐え抜いていたからだ。無論、無傷の者や、もうすでに回復しきっている者も存在する。

 

 そして何より……

 

「これがこの世界の自然か」

『そうだよ。これぐらいで滅んでたらこの世界じゃ生きてけないよ』

 

 ボロボロになった大地がすでに回復しかかっており、観測者のいる草原も異常とも取れるほどの速度で植物が大地を覆い、消し飛んだ地形を覆っていく。

 

「参加者に比べれば弱い……ね。油断してたら簡単に足を掬われるほどの奴らが、か」

『原生生物以外にも各種施設とか兵器もいるから気を付けてね。そっちも手ごわいよ』

 

 大自然の中で戦っているのだから、当然原生生物も存在する。おまけに施設の中でもあるので、その程度では済まなくなる可能性は非常に高い。なのにあの契約書には、観測者が言ったようなことが書かれていた。

 

「嘘はなかった。だが……」

 

 観測者には騙されているのか、過剰評価されすぎているのかわからなかったが……

 

「想定以上だ」

 

 そう思うのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

神速の槍使い

  観測者は気配を消し、急いで逃げていた。理由は簡単、近くに敵が迫ってきているからだ。

 

(やばいぞ、なんか向かって来てる)

『誰かと戦ってるから今はこっちには気づいてないみたい。巻き込まれたら面倒ね』

 

 そう会話している間にも敵は周囲を破壊しながら突き進んできており、観測者はふと足を止める。

 

『どうしたの?』

(……いや、少し見てみたいと思ってな)

 

 観測者はその名の通り、見る事が好きな奴だ。その為なら多少の危険もいとわないし、なんなら介入することも少なくない。

 

『逃げないとやられるかもよ?それに遠くから見るってのもあるけど?』

(それはさっき失敗した。だからその時はその時だ。ま、簡単にはやられないからよ)

 

 普通なら遠くから見たりするものだが、ここに参加している者たちはそう甘くはない。だから見るとしたら間近で見るしかないのだ。

 

『逃げようとしたり見ようと近づいたり、変なことするね』

(結果的に優勝できればいいんだ。判断なんてその場で変わる。それに観測機と戦ってる間はこんなことできなかったからな。息抜きも兼ねてだ)

 

 観測者はストレスが溜まっていた。別に戦闘が嫌いなわけでもないのだが、長い期間気を張って戦争していたので、そのストレスは尋常じゃないほど多いだろう。

 

(お?来た来た!)

『ま、わたしも楽しませてもらうね』

 

 そう言うと、いきなり目の前の風景が消し飛び、クレーターなのか抉れた大地が遠くまで続いている。

 

 

 

「おうおうおう、ここまで暴れて二人しか巻き込めなかったか。点数も増えてねえし残念だ」

 

「こ、こいつ……!」

「君か、いきなり攻撃してきたのは!」

 

 ボロ付いた二人の少女の前に立つ、槍を持った男。その禍々しいオーラに怯まず、二人は戦闘態勢に入る。

 

「耐え抜いたお前らに敬意を表して名乗ってやる。俺は邪神教 第十二席 神速のルイスだ。お前らも名乗るといい」

 

「私の名前は……ミツヒデ……」

「私の名前はユキだよ……」

 

 三人が名乗り終わり

 

「ではやるとしよう、せいぜい楽しませてくれよ!」

 

「「っ!!?」」

 

 一気に戦闘が始まる。

 

 まず最初に動いたのはルイスだった。神速の名の通り誰よりも早く槍を突き出し、回避したミツヒデの背後を抉り取る刺突波を連続して二人に浴びせ続ける。

 

(破壊力ヤバイな。流石は速度支配系の能力だ)

『速度は攻撃力に直結するからね。それにしてもあの二人もやるね』

 

 だが二人も負けていない。ミツヒデは自身と二刀流に雷を纏い、ユキは刺突を剣で受け流しながら氷の大地を広げて対抗していた。

 

(雷と氷か、規模もそこそこでいい感じだな)

『ここに来れる時点でね。それにわたしが調整したんだから当然よ』

 

 ルイスが刺突ではケリが付かないと見て、一気に距離を詰める。それに反応した二人も、反撃の為に動き、激しいせめぎ合いが起きていた。

 

 雷撃の光が周囲を苛烈に照らし、氷の大地がすべてを凍らせ次々に氷の柱や欠片が発生する。それを圧倒的速度でかわし、破壊し、二人を押し始めるルイス。

 

(拮抗……してるようには見えないな。ルイスにはまだ余裕がある)

『そうみたいね。まだ自分にしか影響出してないし』

 

 二人は全力で戦っていた。やれることできることを全て出し切り、初対面ながら連携まで高レベルでこなしている。だがその二人をもってしてもルイスには届かず、余裕を見せつけられていた。

 

(精神的に来るだろうな。見透かされたら終わりだってのに)

『仕方がないよ。存在の格は同じでも、その中身の実力までは同じになってないから』

 

 どんな相手にもついていけ、どんな現象にも反応できる。それは絶対をなくし、理不尽を極限まで薄めることが出来るが、あくまでも一方的にやられない勝負になるレベルまで引き上がっているだけであり、中身までは保証されていない。その性質上純粋な力の差があった場合、どうしても後手に回ってしまうため、その差が勝負にじわじわと出てきており、二人は焦りを誤魔化そうと攻撃が激しくなる。

 

 

「随分と粘るな。だがこれならどうだ?」

 

「なッ!?」

「グハッ!?」」

 

 そんな時だった。ルイスが能力を使い槍を振り切ったのは……

 

「まだまだ!」

 

 一瞬にしてすべてが吹き飛び、大爆発と共に二人にも大きなダメージが入る。さらに追撃として斬撃は放たれ、防ぎはしたが大きく後退する二人。

 

「減速世界」

 

(うおっ!?)

『これはまた』

 

 即座に反撃をしようとした二人だったが、そうはいかず一気に動きが鈍る。そしてルイス以外のすべてのものの速度が、際限なく減速し続け始めた。

 

「速度が全てだ。強さに関係なく俺より遅いんじゃ話にならない」

 

「「ッ!?」」

 

 回避も防御も間に合わず、遠距離からの刺突波を喰らわせ二人は体が削られる。それに対抗しようと必死に次の行動をする二人だが、多少マシになった程度では開き過ぎた速度差は埋まらず、問答無用で削られ斬り裂かれと血飛沫が空中に残る。

 

(こりゃ時間の問題だな。まだ手札もいくつか残っててこれかよ)

『加速世界と本人の超加速ね。前者は全てのものを加速させて崩壊させる技で、後者は己の身を破壊兵器化させる超強化。どっちも厄介だけどあなたならどうにかなるでしょ?』

 

「ああもちろん――」

 

 抵抗むなしく鈍くなり続ける二人に、ルイスが止めを刺そうと槍を振るった。

 

 だがそれは届かず

 

「観測は終わっている」

 

「なっ!?貴様!?どこから!!」

 

 観測器の刀に弾かれるのであった。

 

 




 応募キャラを使わせていただきました


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

観測者の実力

 いきなり現れた観測者に驚いたルイスは、一旦距離を取り能力を解いた。

 

「いいのか?そんなことして?」

「けっ、そうさせたのはお前だろ」

 

 能力を効かないことを見せつけられ、調子を狂わされと、想定外な事態が起きたことにより立て直しを図らされたルイスだったが、余裕は崩しておらず相変わらず隙の一つもない。

 

「誰かは知らねえが、そこの二人よりかは強いみたいだな」

「あっ、そうだった。助けてやるから邪魔すんなよ。話はこいつを始末してからだ」

 

「う、うん。そうしてくれるとうれしいな」

「……同じく」

 

 二人は納得したように頷き、ルイスは機嫌を悪くした。

 

「言ってくれるじゃねえか。俺の能力がちょい効かないぐらいでよ。どうせなら三人で掛かってきてもいいぜ?」

 

「いやいや、お前なんて一人で十分だろ。すばっしこいだけのガキなんだからさっ!」

『挑発の為とは言え酷いね』

 

 

 神速の突きが観測者を穿とうと迫ったが、それ分かっていたのか容易く弾き返される。そして始まる超速の攻防により、ミツヒデとユキは咄嗟に距離を取った。

 

「あ、あれがあいつらの本気?」

「違うと思う。手は抜いてないだろうけど……」

 

 激しい攻防の割に外部への被害は殆ど起きていなかった。なぜなら観測者がそのすべてを完全に防ぎ、ルイスの行動を制限していたからだ。だがルイスに焦りの色は見えず、攻防は限界を知らす加速し続ける。

 

(この範囲で使うか。小細工も大したもんだ)

『範囲を絞って効果を上げるのは常套手段だけど、これだけ狭くできるなんてね。相当自信あるのかな?』

 

 その場から動かず、攻防が収まるギリギリの範囲で加速世界を使われていた。更には気付かれないようにと色々と小細工を仕掛け、確実に観測者を倒しにきていた。

 

(自信があるように見えるが、内心は焦ってるな)

『フフ、ホントあなたの能力はすごいわね。なんでも見えちゃうんだからさ』

 

 余裕と平静を装うルイスに対し、観測者は余裕なくホンキを出しているふりをして冷静に考える。

 

(さて、強化の方は使って欲しくないから、こっちでギリギリをせめるか)

 

「っ!?簡単にはやられねえってか!じゃあこれならどうだ?」

 

 観測者の反撃がかすりだし、ルイスは多少の焦りを感じながら次の能力を使う。すると槍から何かが放たれ、周囲にまき散らされていく。

 

 

「毒か?見え見えだぞ」

「だからなんだ?対応できるもんならしてみせろ!」

 

 まき散らされた毒が空間を汚染し、攻防で発生する余波で凶器と化す。しかし観測者に効いてる様子はなく、どうしようと困った顔をするだけであった。

 

「衝撃波でうまく防いでるようだが、反撃の手が緩んでるぞ?」

「毒はくらいたくないからな」

 

「そうか……だったら意地でもくらわせてやるよ!」

 

 状態異常に苦い経験でもあるのか、苦笑いをする観測者。それを好機と見たのかルイスは、毒の効力を高め、加速によりさらに凶悪になる猛攻。

 

(焦りを活力に替えてるな。やりやすくはなったが勢いが増したのは面倒だ)

『そうだね。だから気付かないんだろうけど』

 

 今までそういう相手と出会わなかったのか、焦って周りが見えていないだけなのか、おそらくその両方なのだろうと結論付ける二人。強い奴や格が高い者にありがちなミスである。

 

 

「じゃ、決着を着けるとしよう」

「えっ?」

 

 観測者がそう言った瞬間、ルイスの槍の一撃が軽く弾かれた。それにより呆気にとられ体勢を崩したルイスは、追撃をギリギリで受ける。

 

「お、おまッ!?」

「遅いんだよ」

 

 加速世界を利用し、更に追撃を加える。だがルイスも負けじと加速し、ニヤリと笑いながら更なる加速を――

 

「だから遅いんだって」

 

 躊躇なく加速した観測者は、驚きと焦りを隠せなくなったルイスを容赦なく斬り裂いたのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

話し合い

 ルイスを倒した観測者は、その姿が完全に消失するのを見とどけた後に二人の方に振り返った。

 

「倒した……のか?」

「そうだ。退場もしただろ?にしても攻撃してこなかったな」

「恩人に剣を向けるわけないよ」

 

 光の粒子になり退場したルイスの事を言い、そして隙をついてこなかったことを指摘した。しかし流石にそこまでする気はないのと、そもそも勝てる気が無かったことも合わさり何もしてこなかったようだ。

 

 

「聞きたいんだが、お前らは本気で優勝する気はあるか?」

「……いや、出来たらってだけで、そこまででもない」

「私も」

 

 遠慮気味にそう返す二人。それがどういった意図があるのかは、想像に難くなかった。

 

「じゃあ俺の協力をしてくれないか?ここでの戦い方を教えてやるから」

「それは、かまわないけど……裏切りとかは、考えないの?」

 

「正直裏切られても大した障害にならないから問題ない」

「そう……」

 

 ミツヒデの質問に、さっとそう答える観測者。あんなものを見た後なのでわかりきっているとは言え、直接言われて内心気を落とす二人。

 

 

「早速だが、多元存在としての感覚を付けてもらう」

 

「それって……ッ!?」

「ッ!?」

 

 観測者はそう言うと、二人の肩を掴みエネルギーを流し込む。それに驚いた二人は息が荒くできているのかすらわからなくなり、焦点も定まらず一瞬で倒れる寸前まで追い詰められるような状態になった。

 

「こ、これ……はっ!?」

「ほっといても身につくが、それじゃ他の参加者と同じだ。優位性を取るために強引に引き出している。そうでもしなきゃ勝つどころか生き残る事すらできないし、乱入者相手じゃ逃げる事すらできないからな。まぁ専門じゃないがすぐ終わらせるから我慢してくれ」

 

 膨大な情報量に押しつぶされそうになる二人は、今にも意識が途切れそうだった。しかしそれに合わせて自身の存在が最適化され、意識と無意識の間を行ったり来たりを繰り返す。

 

「分かると思うが、多元存在ってのはあらゆる存在への干渉権を持つものの事だ。お前らの感じているそのすべてに干渉可能で、同時にくらう可能性がある現象でもある」

 

 後から説明するのが面倒だと思った観測者は、苦しんでいる二人をよそに勝手に説明を開始した。

 

「そして何より、存在構造の複雑さと密度は他の追随を許さないほどに高い。このお陰で微細な影響、状態異常や自然環境などに高い耐性を持つ。特に改変や支配に関しては、自ら無防備で受け入れに行かない限り、影響を受けることはないに等しい」

 

 何事にも例外はあるがな、と現状を見ながらそう付け足す観測者。そして最後の仕上げに入る。

 

「最後に多元存在の技である。一般流を叩き込んでやる。俺が知ってる範囲だが戦力アップにはもってこいだからな」

 

 能力を使い最適化に手を出す観測者。

 実はこの最適化自体は多元存在自体の能力を利用しているだけで、観測者が直接操っているわけではない。あくまで力を認識させるためにちょっかいをかけているだけである。そのためこれ自体は誰でもできるのだが、より深い層へのちょっかいは専用の能力と極められた技術が無いとできない。

 

 

「いつ見ても驚かされる。これだけ弄ってんのに苦痛や不快感止まりだ。その上で最適化の速度が増して安定してきてやがる。効かなくなるのも時間の問題か」

『まぁ~ね。慣れという名の耐性を得ることは別におかしな話じゃないでしょ。完全な無効化なんてのは無理だけど』

 

 作業も終盤に差し掛かり、余裕が出始めた観測者に羊さんが話しかけた。

 

(どんどん意味わかんなくなってきやがる。観測で見えてるはずなのに理解が追い付かないぞ)

『見えてるだけでもすごい事よ。多元存在ってのは、常に構造が変動して最適化され続けてるからね。随時その場と状況に適応して成長し続けてる的な感じかな』

 

 誰もが超成長を持ち合わせているようなものである。ルイスとの戦いで彼がそれに気づいていれば、観測者は二人を守り切れなかっただろう。それどころか勝つにしろ逃げるにしろ深手を負い、優勝など夢のまた夢になっていた可能性が大いにあった。

 

 

「こんなもんか、気分はどうだ?」

『聞かなくても分かるとおもうけどな~』

 

「な、なんとも……言えない気分です……」

「気持ち悪い……」

 

 強引に叩き込んだ感覚と知識のせいで体調不良を訴える二人。だが一過性のものなのですぐ収まるだろうと話の続きをする観測者。

 

「まぁこれで最低限は強くなった。最初の100時間は優勢を保ってられる。それ以外は相当な手練れか乱入者、俺みたいな元々が多元存在でなければ負けはしないだろうな。勝てるわけでもないが」

『まぁ初めだしね。気付かないとついて行くのでやっとだし、後半で気付いても手遅れだし……まあ頑張れ』

 

 観測者は説明をしながら、羊さんはうんうんと頷く。そこで二人から質問が飛んできた。

 

 

「確かに強くなった……というより、万能感を凄いけど」

「これで勝てると思えないね」

 

「だから勝てないって言っただろ。お前らは二人で組んで倒せる奴を倒しながら、自分らは倒されないようにして、あとは適当に場外に行くなりして退場しといてくれ。そしたら点数が消えるだけで済む」

 

 もっともであるし観測者もそう言っている。しかし意外に冷静なので観測者は安心していた。

 

「このリストに書いてあるヤツを狙ってくれ」

「「特殊型?」」

 

 リストを見た二人は、頭に?マークを浮かべる。

 

「能力が強力な類ですか……」

「無効化とか反射とか、明らかに強そうな奴らなんだけど……」

 

「確かにそうだ。だが存在に慣れてない今だと楽に倒せる。逆に言えば、存在が安定しだすと一気に凶悪な相手になるんだ。知識や情報は武器だろ?」

 

 そう言うと、二人は納得した顔をして

 

「なるほど……今なら一方的に叩けると」

「相手がこっちに慣れる前に倒せってこと?」

 

「多元存在の特性の一つ、何にでも干渉できるは、マジもんのチートだ。能力と違ってその場にあるものしか干渉できなかったり、性能自体は劣るが単純に反撃や壊すだけなら十分すぎる。元の世界じゃ嫌われる代表格になるほどには強力だ」

『絶対とか完全とかを問答無用で崩しにかかってくるんだから当然ね。それを差し引いても相手の優位性を簡単に詰めてくるし、構造の隙を突いてくるなんてされたらたまったもんじゃないわ』

 

 要は、超能力戦で多元存在とそれ以外が戦えば、得意技や特性を全潰しされた挙句、急所にクリティカルヒットを当ててくるようなものである。しかも多元存在にとってその程度の攻撃は、通常攻撃に過ぎないのだ。

 

 

「あとはそっちでどうにかしてくれ」

「わかった。約束は守る」

「うん、私も」

 

 そうして観測者は、二人と別れたのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

厄介で面倒なこと

 観測者は、二人と離れてからしばらくして空を見上げた。

 

「厄介な」

『そうだね~』

 

 謎の空間が世界を覆い、周囲百キロ程度を包み込む。

 

「規則追加か。逃がさないための逃走不可と、参加者と出会ったら即時戦闘の真剣勝負。それになんとなく相手に情報が知れる情報周知ね。なかなか面倒なものを……」

『そうだね。ま、観測できるだけマシじゃない?』

 

 発生した効果は、逃走不可と真剣勝負に情報周知。この空間から脱出するには、強引に空間を破壊するか、条件を満たすほかなく。後者はまだしも、前者は観測者でも割に合わない労力が必要になるだろう。

 

「ロックウィルとかいうやつか。能力の割に大剣振り回すのが得意と、あとタフネスとか」

『天賦の無名ねえ。大層な異名持ちだね。能力は把握してたけどそっちは確認してなかったな~』

 

 羊さんは、参加者全員に強化と改造を施しているが、当人の人生や記憶などに関しては最低限しか手を出していないのでわからないことが多い。おまけだが観測者も、詳しい情報は近くで直接視認するか、遠距離では戦闘に支障がでるほどの集中力を要するので、外に出ていない情報は詳しくはない。

 

「ある程度はわかるが、詳しくはもっと近づかねえと……でも出会いたくないな」

『能力が能力だしね。自分にも影響してるから手は限られるだろうけど、頻繁に規則を変えられたら戦いにくいだろうし……ま、もっと厄介な能力者はいくらでもいるから、あなたは大丈夫だとおもうけどな~』

 

 観測者は嫌がっているのに対し、何やら期待したげにそういう羊さん。

 観測者もその場限りの戦いであれば、勝てるには勝てるだろう。それどころか、連戦や横やりが入らないという条件をいくつか入れれば、理論上この大会で観測者に勝てるものは上位の一握りだけだ。だが世の中そんなに甘くなく、邪魔立てはしょっちゅうで、疲弊した時などは狙いどころで休む暇などありはしない。

 

 

「一色 空、ルミネ・シュネージュ、ミストレア、エトワール・スレイヤー、田中 圭一、ギルバルト・ホーエンス、デルサネス、神崎 アリス、カルネ・ネークロイツ、糸永 縫人、オウカ、カナタ、秋晴 日和、ヒメカ、ヒヨリ、四季 秋奈、シロ・ラモール、エンキ、リン・フォーファイム、海林……」

『範囲が広いだけあって随分と多いね』

 

 軽く観測者が確認しただけでも、これだけ多くの参加者がこの空間に閉じ込められていた。隠れている参加者や勝手に入ってくることも考えればもっと多くなるだろう。

 

 

「どうするかな?とりあえず様子見でもしたいが」

『であったら問答無用で戦闘開始だからね。しかも軽くとはいえ情報も漏れるし、観測で様子見ながら慎重に動かないと連戦するはめになるよ』

 

 一度戦いが始まれば、居場所がバレて立て続けに戦闘をさせられることになるだろう。なので極力顔を出さずに、おこぼれを回収するほうが効率がいい。

 

「巻き込まれて乱戦ってことにもなりかねんし」

『一対一なんて条件出されてないからね。あくまで真剣勝負、手を抜くなってだけだし』

 

 巨大な攻撃に巻き込まれて強制戦闘開始となればまた話が変わってくる。おこぼれどころか逃げることで精一杯になるだろう。

 

「てかすごく戦いたくなってきたんだが。まさかこれ相手を認識しただけで影響出るのか?」

『そうみたいね。過剰な強化を施して戦闘意欲を引き出してるみたい』

 

 条件がそろえばそろうほど影響を強く受けるらしく、様子見をしようと思っていた観測者は引っかかってしまっていた。

 

「しくじったな、これだから情報系の攻撃は嫌なんだ。今は抑えられるが、相手に攻撃されると我慢できんかもしれない。解除も現実的ではなさそうだし」

『いくら耐性の高い多元存在でも、マシンガンみたいに連続して受け続ければね、こうなるわよ。ま、一定以上はほぼ影響でないから抑えようと思えば抑えられるよ』

 

 この空間にいる限り、永遠と能力の影響を受け続けることになる。そのため、解除した先から再度かけなおされキリがなくなるのだ。とは言え直接叩き込まれているわけではないので耐性と回復で拮抗し、その影響は一定の水準を超えることはない。

 

 

「え~と、とりあえずだな。臨機応変ってことにしよう」

『逃げたわね』

 

 どうにか気持ちを落ち着かせた観測者はそう言い、移動を開始したのだった。

 

 




 名前だけですが、投稿キャラを使わせてもらいました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

とある戦い

 黒い礼装の上から白い外套にフードを被り、仮面型のペストマスクで顔を隠している男、ロックウィルは能力を使い、周囲100キロを専用の戦闘フィールドに作り替えた。

 

「早速使ってみたが、調子はいいみたいだな」

 

 強化改造された能力の使い心地を確かめ、手に持つ大剣を軽く振る。

 

「最初はどうなるかとおもったが、案外どうにかなるもんだ。だろ、嬢ちゃん?」

「バレていましたか。隠れるのは得意なんですけど……この空間ではあまり上手くいきませんね。久々に気分が高揚していますよ」

 

 そう言いロックウィルの目の前に出てくる少女。その姿は、全体的に青みかかった白のように見える、布切れを羽織った16か17歳ぐらいの少女だった。雰囲気も物静かで穏やかそうだが、能力の影響で高揚しているようだ。

 

「こんな子供まで参加してるのか?無法地帯だな、この大会は」

「失礼ですね。こう見えても大人なんですよ」

 

 茶化しに対して、少し呆れたように返しをする少女。

 

「俺はロックウィルって言うんだ。お前は?」

「シロ・ラモールです。あなたを殺す者の名ですので、ぜひ覚えておいてくださいね」

 

 微笑とともにシロから何かが放たれ、大剣を振り打ち消すロックウィル。

 

 

「いきなりかっ!!」

「防ぎますか」

 

 それが火ぶたとなり、ロックウィルは一気に距離を詰めようとする。だが防ぎきれないほどの何かを感じ、即座に飛び退いて逃げ回り始めた。

 

(能力特化型の波動操作辺りの能力か?範囲と効果が強すぎて近寄れん)

(やはり反応されますか。私の“静音”は隠密にも特化してるんですが)

 

 その場から動かずに能力を連発するシロと、攻略方法を考えるロックウィル。

 

 そして先に動いたのは――

 

「なっ!?」

 

 瞬間移動にも等しい速度でロックウィルの目の前に現れるシロ。そしてそっと相手の胸に手を添える。その瞬間にロックウィルの体に超衝撃が浸透し、弾けるように吹き飛んだ。

 

「ぐう~、効いたぜ、ホント」

「あら?効き目が悪いですね」

 

 一撃とは言わないものの、相当なダメージを与えられると思っていたシロは、不思議そうに無傷のロックウィルの事を見ていた。

 

「だが何となくわかった」

「そうですか。ではどうします?」

 

 ロックウィルは大剣を構え、再度接近を試みた。しかしシロはそれを許さずに、静かなる波動を連発し牽制を行う。

 

 だが――

 

「おらっ!!」

「っ!?」

 

 波動が斬り裂かれ、続けてシロの元にも斬撃が届く。それを片手で防いだシロだったが、打ち消しきれずに距離を取るように飛び退いた。

 

(私の能力が押し負けた!?いえ、どちらかとッ!?)

 

 考える暇もなく素早く追撃をしてくるロックウィルに意識を戻し、防げるものの想定外の衝撃をその身に受ける。

 

(これも防ぐのかよ。しかも調整も始めやがって)

 

 能力で有利に立ったロックウィルだが、シロも負けじと情報を集めて対抗してくる。それは斬撃と波動がぶつかる度に調整されていき、拮抗に近づいていた。

 

(なんとなくわかりました。能力の本質は“規則”ルールを操作するか付け加えるといったところでしょう。それで私の能力よりも有利に立つルールを使っていると。使い方を見るに強引なルールは作れないのでしょうね)

 

 そして波動を束ね、極限まで細めた斬撃が大剣を弾く。しかしそれをわかっていたというかのように、勢いの増した回転斬りがシロを襲う。

 

「効きませんよ」

「わかったか……」

 

 次は手をかざすまでもなく空中で止められた大剣。それの強度は凄まじく、即座に放たれた衝撃をも無効化されじりじりとしか動かない。

 

「衝撃よりも斬撃を強くするように書き換えたようですが、私が斬撃を使えないとでも?」

「そうは思っちゃいない。ただ少しでも気をそらせればいいと思っただけだ」

 

「は?」

 

 じりじりと動いていたはずのロックウィルが急に動き出し、シロの体を斬り裂き鮮血が飛び散る。

 

「なっ!なにがっ!!?」

 

 驚きのあまり同じことをするが、ロックウィルは止まらず大剣も弾けない。次々に放たれる斬撃をどうにか避けようと動くものの、負傷と動揺のせいで完全に避けきれずに傷が増えていく。

 

「くっ!でしたら!!」

 

 地面を破壊し足場をなくす。そして後方に飛び退くとともに、大量の瓦礫と衝撃をロックウィルに押し付けた。

 

(と、止まらない!斬撃も無暗に撃てませんしどのようなルールを――っ!?)

 

 だが大剣を数回振るだけですべてが跳ね除けられ、即座に迫ってくる斬撃を避けきれずにシロは目を見開く。その一撃は強引に避けることはできるが、勝ち目がなくなることには変わりなく現状の先延ばしが限界だろうもので、そもそもシロがそのような考えに至る暇すら与えないものだった。

 

 しかし、その斬撃はシロに届くことはなかった。

 

「ふ、吹き飛んだ?」

 

 誰かに横やりを入れられたのか、ロックウィルは殴り飛ばされたかのように真横に吹き飛ぶ。それを好機と思ったシロは、息を整え応急処置をしながら周囲を確認した。

 

 

「あなたは?」

 

 紺色の長髪で、白のワイシャツに黒いベストとネクタイ、スラックスというスタイリッシュな格好をした女性の麗人のような男性がそこにいた。

 

「誰だお前?」

「俺はエトワール・スレイヤー。単なる通りすがりだ。面白そうだから手を出させてもらった」

 

 起き上がったロックウィルの問いに、自己紹介のあいさつをするエトワール。それと同時にシロの攻撃よりも認識がしずらい何かが放たれる。だが警戒していた二人はそれを難なく防いだ。

 

「ここにいる奴らはみんなそうだな。回避も防御も不可能なはずなんだが」

 

(横やりが入って助かりましたが、厄介そうな能力ですね)

(透過性のある念力みたいなものか。防ぐのが難しそうだ)

 

 凶悪な能力者が割り込み、一対一対一の三つ巴となった戦場で、三人は決着を着けるべく一気に動き出すのだった。

 

 




 投稿キャラを使わせていただきました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

とりあえず観察1

 気配を隠し、観測をすることにした観測者は、面白そうな戦いや漁夫の利を得れそうな状況を探っていた。

 

『戦わないのね』

「バカ言え。こんな状況で戦えば無駄に消耗するだけだ」

 

 簡単に勝つためにもできるだけ情報を集め、せめて終盤になってから動きたいと考えている観測者は、そのまま観測を続ける。

 

『この子達とかどう?』

「ん?一色 空とルミネ・シュネージュとエンキの戦いか」

 

 チラッと見えた戦い合う三人の様子を見て、羊さんはそう提案した。それを聞いて観測者は、どれどれと目を向ける。

 

「一色 空は、斬撃系と魔眼系と移動系か」

『色々多かったから、まとめて改造したんだよね』

 

 一番に目を向けたのは、二枚目の黒目で黒髪短髪の旅人風の男だ。細かい内容は教えてくれないが、観測結果と羊さんの口ぶりから厄介で強力なものに違いないと思う観測者。

 

「ルミネ・シュネージュは、存在の固定化ってところか?」

「一点特化でわかりやすかったわ」

 

 次にルミネに視線をむける。その姿は色白で白の長髪の少女で、襟にファーの付いた白いロングコートを着ている。どうやらこの少女は、特化型で改造しやすかったらしく、心なしか元気そうな羊さん。

 

「エンキも特化型の炎熱系か。体を炎熱にして高速移動もできると」

「非実体ね。回避に特化してるから倒すの大変よ」

 

 最後に見たのは、燃えるような赤髪が特徴で、和装をし太刀を構えた高身長の鬼人だった。そいつの能力を捉えた観測者は眉をひそめる。

 

「非実体は嫌だな」

「ん?トラウマでもあるの?」

「ちょっと昔にな。特に多元存在での非実体となると無敵感が凄いし」

「否定できないわね。攻略法知らなきゃ一方的になるから」

 

 心底嫌そうに言う観測者は、三人の戦いの観測に戻る。

 

 

 

 炎熱の波が周囲を焼き尽くし、一撃の斬撃がそれを斬り裂き、あらゆるものを貫く無数のビーズが飛び交う戦場。一瞬でも気を抜けばその先は死が待ち受ける激闘の中で、三人は中々勝負を着けられずにいた。

 

 

(困った。あの女が邪魔で鬼人に逃げられるな)

 

 一色は、迫りくる炎熱を斬り裂きそう考える。彼の能力は、実体のない相手に強い能力だったが、単純に破壊が難しい物体を投げつけてくるルミネに困っていた。

 

(強化された測定眼である程度見えるが、どちらも隙がない。この炎熱の中じゃ、せっかく強化された世界の扉も使い物にならないか……さて、どうしたものか)

 

 考えるが、妙案が浮かばない。他の乱入者を期待するのも手だが、各地で戦闘が起こっているので可能性は低く、能力によっては自身が不利になる場合もある。そこまで考え、横から飛来するビーズをかわし、目の前の炎熱を斬り裂く。

 

 

 

(あの鬼人、邪魔……)

 

 目の前の獲物を、何度も炎熱せいで取り逃がす。それに嫌気が差して、調子よく高まっていた興奮が狂わされストレスが溜まるルミネ。

 

(侵蝕と制御で、せっかく、強くなったのに……)

 

 ルミネの触れたビーズが白くなり始め、それを振りまくとともに完全に白化して飛んでいく。するとそれに触れたものは問答無用で貫かれ、少しの時間周囲を薄っすらと白化させる。

 

(……でも、私じゃあいつたおすの難しいし……)

 

 周囲の気体や炎熱そのものを白化させて防御をし、足を進めながらそう考える。非実体との相性が非常に悪く、もし対象を白化させたところで、倒したのではなく封印に近いので点数は入らない。そもそも周囲の炎熱が止まると自分も閉じ込められることになるため、無暗に動けなかった。

 

 

 

(ああも簡単に非実体に攻撃できるとは、あの男は厄介だな)

 

 エンキは、炎熱をまき散らしながらそう思っていた。多元存在にとって、無敵だろうが絶対だろうが非実体だろうが、それ単体ではどうとでもなるものでしかない。そこに技量が合わさって、初めて実力として発揮される。

 

(回避の余地はあるが、意識を割かれる)

 

 非実体の場合はその能力が回避や受け流しに特化しているため、通常の攻撃では触れることすらできず、技を使っても高い確率で対処されてしまう。だが能力の場合はそうもいかない。技の上位互換なだけあって、明確に回避しようとしなければ危うい場面が多いのだ。

 

(あの女から仕留めようと思っていたのだが、どうにも難しそうだ)

 

 相性的に有利なルミネを倒したかったようだが、一色は無視できない相手だと思い作戦を立て直す。

 

 そして……

 

 

 

「あっ、離れた方がよさそう」

『そうね』

 

 何かを感じ取った観測者は、激しくなる戦闘をよそに、さっさと退避するのだった、

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

とりあえず観察2

 次の相手を探して移動していると、観測者は足を止めて気配をより周囲に溶け込ませた。

 

「どいつもこいつも血気盛んだな」

『あなたも抵抗しなきゃああなるのよ』

 

 荒れ狂う斬撃の嵐と、それに耐える三人の姿があった。

 

(斬撃を撃ってるのはギルバルト・ホーエンスってやつか。それで耐えてるのが、ミストレア、田中 圭一、デルサネスの三人か)

『斬撃王、ギルバルト。霧幻の魔術師、ミストレア。不死の傭兵、田中 圭一。死王デルサネスね。あと数歩近づけばギルバルトの斬撃範囲に入るから気を付けてね』

 

 観測者が読み取った情報をわかりやすくまとめる羊さん。

 

(こっちからの移動は難しいな。見るだけ見て遠回りしよう)

『あなたにはそれがあってるわ』

 

 そうして観測を開始するのだった。

 

 

 

「ふむ、なかなか倒れないな」

 

 上空から斬撃を撃ちまくっているギルバルトがそう呟く。

 

(量を重視しているとはいえ、質を疎かにしたつもりはないのだがな。あの娘には水で防がれておるし、男は斬り刻んでもすぐ復活。骸骨に関しては届きすらしてないように見えるな)

 

 優位に事が進んでいても決して油断しない。勝負事とは、気を抜いた奴から消えていくのだ。

 

(反撃は今のところ見られないな。余裕がないのか、様子見されているのか)

 

 一発でも当たれば切りくずされる可能性のある斬撃の嵐。対処できていても奥手になって、反撃の余裕がないように見える。事実防ぐ手段を持っていない田中は、傷だらけになりながら時には四肢や首が切断されても再生復活を繰り返して、ギリギリで耐えているように見えた。

 

(いや、どちらにしろ……)

 

 能力を強め

 

「すべて斬り刻めばいい」

 

 斬撃の嵐が一層強めようとした。

 

 

 

「すごい手数ね」

 

 ポツリとそう呟くミストレアは、吹き荒れる斬撃を防ぎながら、研究者である自身の思考をフル回転させながら現状の打破と解析を進めていた。

 

(この斬撃。斬撃同士が干渉しあって乱反射してる。それなのに威力がほとんど下がってない)

 

 無差別に発生し続ける斬撃は、お互いを斬り裂き分裂を繰り返し、空間を埋め尽くすまで止まらない。いくら一発一発が小さくても、圧倒的量で押し寄せてきていた。

 

(結界を出ればあいつみたいに粉微塵……)

 

 水で作った結界の中から、遠くでズタボロになっている田中のことを見る。

 

(空間の支配権を奪い取らないと攻撃どころか移動すら困難……ね)

 

 高い集中力の中、斬撃の軌道を観察し打開策を考え続ける。しかしどれだけやっても、同じ土俵に立っていないのが原因だと結論が出ていた。

 

(いいわ。そっちがその気なら……こっちも同じ手を使うまでよ」

 

 そう思った瞬間、ミストレアの水結界が流れを変えた。

 

 

 

「お、いおい。なんっだ、こりゃっっ……」

 

 斬撃で肉体をズタズタに斬り刻まれる田中は、怯みながらそう思う。

 

(俺が不死者じゃなきゃ血肉すら残ってないぞ)

 

 不死者である田中は、どうやっても死なず消えれない存在だ。例えこの斬撃の嵐が大会終了まで続いても、田中を殺すことはできないだろう。

 

(はぁ~、このまま消滅して死ねたらいいんだけど、できねえから絶対優勝しなきゃダメだしな。あいつらとも約束してるし)

 

 田中は“不死者同盟”という組織に属している一番の若手で、元の世界から40人近い仲間と共にこの大会に挑んでいた。目的はみんな同じで、完全に死に滅びること。生きるのに疲れた連中なので、こうやって死ねそうな場所があると、何も考えずに突っ込んできてしまうのだ。

 

(十分傷ついたし、いっちょやるか)

 

 そうして田中が体に力を込めると、斬撃の効き目が悪くなり見る見るうちに傷がなくなっていく。それと同時に田中の周囲が歪み出した。

 

 

 

「なかなかの手数であるな」

 

 死滅を纏い、それを周囲に振り撒くデルサネスは端的にそう思った。

 

(死滅で一定の威力以下の攻撃は完全に防げるが、これではこちらも動けん)

 

 あらゆるものを破滅減衰させる能力を持つデルサネスは、それをばら撒くことにより格下の攻撃を完全に防ぐことができる。だがそれ以上に斬撃の量が常軌を逸しているからか押されていた。

 

(中途半端な攻撃では話にならんな)

 

 試すまでもなくそれがわかるほどの実力。そう思いながら自分と似ているとも感じていた。そして何かを思い出したのか、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

(我がここまでせねばらなんとはな)

 

 死王として元の世界で頂点に立ってから長い年月が経ち忘れていた感覚を呼び起こす。

 

「久々にホンキを出すとしよう」

 

 適当にばら撒いていた死滅を操り纏う。すると効果が引き上がり、斬撃のみならずあらゆるものが届くことなく死滅した。

 

 

 

「やべっ!」

『あっ、避けた』

 

 何かしらの空間が広がり、観測者は急いで瞬動でその場を離れる。それが功を成し、世界の展開から逃れていた。

 

「田中ってやつの“戦争世界”か。巻き込まれたらただじゃ済まねえな」

『不死者の再生の際に生じるエネルギーを強引に抽出して世界展開するのよね。無尽蔵だから厄介極まりないわよ』

 

 不死者が傷つけば傷つくほど性能が上がり続ける能力を相手しなければいけない三人に、少しの憐れみを感じながら観測者は離れるのだった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

とりあえず観察3

 様々な場所を隠れて移動する。

 

「ここらが潮時か」

『そうみたいね』

 

 様子見の終わった奴らが戦闘を激化させて、どんどん逃げ場がなくなっていくのを感じながら、観測者はそう思う。

 

「ちゃんと見れるのはあの戦いが最後……」

『どんどん規模が下がってるね。まぁ仕方がないことではあるけど』

 

 観測者も我慢の限界が近くなっている。そのため少しのキッカケがあればすぐにでも乱入しかねなかった。それを避けるために規模が小さい戦いを観測するのは当然の結果だ。

 

「あのオウカとカナタって親子が機人族?狭間世界の種族……じゃないか。表記も同じだし」

『似てたから形だけ作り替えたの。案外そういう子は多いわよ』

 

 狭間世界の種族と、それ以外の種族には明確な違いがある。創造主がどうたらとか、みんな多元存在だとかは当然として、パッと見でわかるのは魂の有無である。狭間の住人や生物は、魂がないのだ。それどころか精神体だとか霊体みたいなものまで、彼ら彼女らはその一切を持ち合わせていない。

 

「何もかもを持ってそうなのに、魂関係の物だけは何もなかったな」

『あの子たちがあっちの世界に求めるものの一つなのよね、魂って』

 

 観測者たちが相手取っていた“観測機”は、目的の一つとして魂を求めていた。それは単なる好奇心と知識欲から始まり、最終的には大多元宇宙を巻き込んだ戦争になったのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

「くっ、あの子たち強いわね!」

「うん、負けていられない!」

 

 一部が機械でできた身体と二本の槍を持った親子が、爆発と共に相手の二人から距離を取る。

 

「ここに来てから調子がいいけど、ここまでたくさん強者が多いとは思ってなかったわっと、行くわよカナタ!」

「うん!」

 

 狐の獣人が煙の中から飛び出して、持っていた刀から斬撃を放つ。二人はそれをかわし、背後で構いているであろう獣人の仲間ごと、振った機械槍から放たれた光線で切り刻む。

 

「これも幻影か!」

 

 しかし獣人は少し歪むだけで、あと一人からも何の反応はない。そして二人に分かれた獣人は、親子に襲い掛かる。

 

「っ!?わかってたけどっ!!」

 

 槍で防ごうとするカナタだが、幻影のように実体がない獣人は槍をすり抜けカナタに斬撃が届きそうになる。そこでカナタは、爆撃を発生させて自身を吹き飛ばし距離を取る。

 

(どうしよう?)

(正確な情報がないと)

 

 打ち合いすらできない状況に頭を悩ませる二人。そこで出した答えが……

 

「「こうしよう!」」

 

 光線と爆撃、ミサイルで周囲を満遍なく攻撃をすることだった。

 

 

 

「む?波状攻撃であぶりだす気?」

「そうみたい」

 

 獣人の少女と、機械人形のような特徴が見える少女が、視界が覆われた世界を警戒しながら話し合う。

 

「妾の幻影対策をしようとしているの?甘く見られたものね」

「準備はできてる。早くお願いリン」

 

「わかってるわ海林」

 

 銃器を構え準備満タンだった少女の声掛けに獣人のリンが答え、自身の幻影を作り出し親子の方へと向かう。

 

「っ!?本物!?」

「確かめてみれば?」

 

 本体であるリンが狙ったのは、母親のオウカの方であった。オウカは手ごたえがあることに驚きつつも、これを好機とみているのか攻撃の手を緩めず連撃を繰り出す。

 

(幻影でかわされる!)

 

 実体をズラされているため攻撃が当てずらく、リン本人も弱いわけではないので攻撃が掠りもしない。しかし近接戦ではオウカたちの方が有利だ。見極めかわし対処しながらその差を埋めていく。

 

 だが――

 

「っ!?」

 

 海林のことを一瞬忘れていたオウカたち親子に襲撃が炸裂する。

 

「障壁までもってるのね」

「機人族を甘く見ないことね」

 

 そして始まる激戦と言わざる終えない攻防。銃弾と光線、爆撃や斬撃が飛び回り、幻影が消されては追加されていく。

 

(能力の効き目が悪い。ここにいる参加者は耐性と対策の高さが尋常じゃないわね)

 

 そんな激戦の中、リンはそう思った。実体を自由に出し入れできる幻影に、想像しうる最大の幻影を振りまき続けている。もちろんその中にも幻痛や幻惑など効果も入れているが、どれもそもそも届かない。完全には見透かされていなくても、拮抗するには十分すぎるほどだ。

 

(時間のっ!?)

 

 この激戦の中も相手親子は幻影の解析を進めている。早く決着を着けないとと焦ったその時だった。海林の援護射撃が止んで、後方で戦いが始まる。

 

「あっちも着いたみたいね。さ、決着をつけましょう」

「……いいわ。ホンキで相手してあげる」

 

 長期戦を捨て、一気に力を解き放つ。元よりそうしないと蹴りがつかないと結論が出たことも相まって、両者ともに目に見えるほどのオーラを迸らせていた。

 

 そして次の瞬間には、両者の力がぶつかり合い……

 

 

 

「邪魔しちゃ悪いな」

『そうね』

 

 観測者はそそくさとその場を離れるのだった。

 

 




 投稿キャラを使わせていただきました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

蒐集家 リリス・ハーベスト

 観測者が移動していると、大きな爆発と苦戦する二人の姿を見かけていた。

 

「苦戦してるな」

『相手が悪かったみたいね』

 

 方向を転換して武器を取り出し、速度を上げる。

 

「……やるか」

『行くの?ま、頑張ってね』

 

 そう呟くと同時に飛斬を放ち、娘の首を締め上げていた小悪魔少女はそれに驚き、娘を投げ飛ばし即座に距離を取った。

 

 

「だれよ!うちの邪魔をするのは!?」

「俺だ」

 

 分断するかのように中心に立つ観測者に、少女は叫ぶ。それは怒りのこもったものだったが、観測者はどこ吹く風だ。

 

「はぁ?わけわかんない。せっかくいい気分だったのに」

「それは悪かったな。弱い者いじめの邪魔をして」

 

 機嫌を損ねている少女に観測者は挑発をする。

 

「ふ~ん。言ってくれるじゃない、あんた。正義の味方か何かのつもり?」

「いや、そんな大層なもんじゃない。単なる通りすがりだ」

 

 ご立腹の様子の少女は、煙のように白く濁った刀身の刀を向ける。それに対し刀を軽く構え、いつでも対応できるように観測を強めた。

 

 そして……

 

 

「おい!邪魔をするな!」

「そうだぞ!」

 

「ん?」

「は?」

 

 後ろにいた二人が、そう声を荒げていた。

 

「これは私たちの戦いだ!首を突っ込んでくるな!」

「いやめっちゃ苦戦してただろ。お前らじゃ勝てねぇよ。だから……ああ、興奮状態か」

 

 自分もそうだったと思い出し、ため息ついでに息を整えておく。

 

「なにをブツブツと!お前か、ら……?」

「どうしたヒヨ、リ……?」

 

「あっ……」

 

 二刀流による攻撃を放とうとしたヒヨリは、踏み出した瞬間に動かなくなり、その母親もピタリと動かなくなった。

 

 

「バカね。ま、仕切り直しと行きましょう。あんたならもっと楽しめそうだしね」

「……仕方がねえか。いいぞぶっ倒してやる」

 

 いつの間にか武器を剣に変えて数度振りぬいていた少女がそう言うと、次の瞬間には空間ごと二人の体の至る所がズレ落ちて爆発四散する。それを背景に観測者と少女の姿が掠れ、真正面から獲物がぶつかり合った。

 

(爆発性の空間斬撃か)

『武器の能力ね。能力的に手札が凄く多そうだから頑張ってね』

 

 目にも止まらぬ速さで打ち合う二人の間に発生し続ける爆発現象。それは武器の能力であり、赤い爆発模様がついた剣と打ち合う度に、爆発が発生していた。

 

「やるわね。さっきの二人とは大違いよ!」

「どうも!」

 

 空間を斬り裂き、爆発を利用した急激な方向変化と加速により攻撃ペースを上げる少女。悪魔なだけあり精密な飛行能力も駆使してくるが、観測により完全に見切っている観測者には届かずに軽く流され続ける。

 

(能力は“蒐集家”だな。それで武具道具の大量のストックがあると)

『状況に合わせて最適解なものを取り出して使いこなす。多彩な子ね』

 

 何千何万のも武具や道具を持ち合わせている少女は、相性勝負という面では非常に有利な能力者だ。しかし裏を返せば、相性がわかりずらい相手や単純に強い相手には分が悪くなる。

 

 

(空爆剣も解析の義眼が通じないじゃない!いったん距離を取って……っ!?」

「逃がすと?」

 

 武器を変えるために距離を取ろうとするが、爆発も通じずそのまま斬り合い続ける。それに焦った少女は

 

「っ!?考えを改める必要がありそうね!」

 

 瞬時に武器を切り替え、儀式用で使うかのような短剣で斬撃を受け止める。すると短剣が砕け、観測者の周りをその残骸が取り囲んだ。

 

「へ~封印か」

「どうせ長くは効かないでしょ。はぁ~、使い捨ても代償武具も使いたくなかったんだけどね。認めてあげる。あんたは今のうちよりも強いわ。だから全力で相手してあげる」

 

 そう言った瞬間に、歪んだ何かが少女を取り巻き、世界を押しつぶすかのような存在感が一気に溢れ出る。

 

(悪魔の力と武具とか道具の重ね掛けか)

『認識阻害とか隠蔽でわかりずらくしてるみたいだけど、あなたには関係ないわね』

 

 普段から見た目及び解析などでも正確な情報がわからないように細工していたようだが、最大限まで力を高めた今、その力は隠しきれずに空間の歪みとして表れていた。しかし観測者にはその力の総量や根源、構造などがはっきり見えているので、あまり意味をなしていない。

 

 

「一応名乗っといてあげる。うちの名は、リリス・ハーベスト。世界に名を轟かせる大悪魔にして、この世のすべてを手に入れる、蒐集家リリス・ハーベストよっ!!」

 

 そう叫んだリリスは、先ほどとは比にならないほどの速度で光でできたような剣を振り落とす。

 

「うおっ!やべっ!」

『すごい莫大なエネルギーね。聖剣とか神剣の類かしら?』

 

 観測者が結界を破壊しそれを避けた瞬間、眩い光が周囲を包み込み、光の柱が地を削りながら彼方へと続いて行く。

 

「避けるんじゃないわよ!」

「連発ッ!?」

 

 神速の連撃が観測者を襲う。その一撃一撃は先ほどと同じ出力で放たれており、もはや周囲は光の本流しか見えないほどの物量だ。

 

(物量で押し切る気か!)

『本来連発できないものを、道具の併用で強引に使ってるのね』

 

 小細工など一切ない単純な火力で観測者を消し飛ばしにかかるリリス。しかしこれほどの攻撃を受けても観測者は健在で……

 

「中々強いな」

「ッ!?当たり前でしょ!あんたを倒すために特注で揃えた装備よ!!」

 

 的確に放たれる反撃を光剣で受け止め受け流し、怒涛の超連撃を放つ。すると景色だけにとどまらず、空間までもが光に飲まれる。

 

(これでも届かない!だったらもっと上げるまでっッ!!)

 

 自身の悪魔としての力をすべて身体能力に注ぎ込み、道具を使い聖剣の力を強引に引き出す。

 

 だが……

 

「……振り回されてるんじゃ話にならねぇよ」

 

「ッ!?」

 

 しかし攻撃の隙間をぬって観測者の斬撃が頬を掠め、莫大なエネルギーで押し返す暇なく無駄撃ちを繰り返しながら押され始める。

 

(素の身体能力はこっちの方が上のはずなのに!)

 

 一発でも当たれば勝てるはずなのに、その一発がどこまでも遠い。一手一手と追い詰められていき、傷の量が回復力を上回り始める。これも攻撃特化にしすぎて、防御や回復を後回しにした結果だろう。

 

(どうすれば、どうすればっ!!)

 

 焦るリリス。それもそのはずで、強引に引き出した能力には時間制限があり、早く決着を着けなければ自滅する恐れがあったからだ。

 

「一番破壊力のある武装なんだろうが、使い手がこんなんじゃな。元の使い手の方がまだマシだぞ」

「っ!?知ったような口利かないでっ!!」

 

「いや見たから言ってるんだが?」

 

 記憶の観測まで済ましたようで、淡々とそう言う観測者。

 

「そもそも切り札として使う攻撃を連発できたら強いとでも思ってるのか?当てる状況に持っていくとか考えない?視界とか悪くなるってそこまで頭回らないのか?」

『まぁこの子。なんでも仕舞えたり、適性とか制限無視して装備とか道具使えるだけだしね。種族で能力が高くて、それなりの経験積んでるだろうけど、戦闘に関して言えば全部並みがいいところって感じかしら?』

 

 リリスは道具の使い方やその組み合わせ、戦略に関しては高い能力を持っているが、戦闘者としてみれば並みがいいところである。

 

「要はお前自体が弱いんだよ」

「っッ!?だったらッ!!」

 

 距離を取り、集中するように雰囲気が変わる。そして駄々洩れにしていたエネルギーを剣に集め始め、極光の塊に剣が早変わりし、聖なる光っぽいものがリリスを包み込んでいた。

 

(おお。ここで成長したな)

 

「これって……いける!」

 

 リリスが一歩踏み出した瞬間に光と化した攻撃が咄嗟に回避した観測者を掠り、反撃をする。だが一瞬で背後を取られ、観測者は体勢を崩しながら強引に避け始める。

 

「はぁぁっ!!」

 

 ムダな出力を最小限に抑え一本の刀身に力を集めたそれは、しかし余波だけで周囲を破壊し続ける極光をまき散らす凶器へと変わる。粗削りとは言え、最初の一歩として十分すぎるほどの成長具合だった。

 

 だからこそ……

 

 

 

「ほいっと」

 

「え?」

 

 観測者の一振りで、凝縮された極光剣は容易く砕け散った。

 

 

「え?な、なんで……こっから、これからもっと……」

 

 折角掴んだ成長とその成果をあっさり壊され、動揺を隠せないリリスは、観測者から遠ざかるように後ろに下がる。

 

「出力は大したもんだし成長も見ものだったが、そこまで待ってやるとでも?それにそっちも限界だろ」

「う、うそ。なんで……壊れるにしてももう少しは……」

 

 崩れていく装備たち。そしてリリスの体も限界のようで、膝から崩れ落ちる。

 

「薬の類も使ってたんだろ?それも結構強力なの。あと初めて使う力だから感覚ズレたんじゃねぇか」

 

「あ、ああ……」

 

 体が崩れ、退場演出が始まる。それを受け入れられずに能力を使おうとするが、発動せずにただただ光が強くなるだけだ。

 

 

「じゃあな。次の奴が来るからよ」

 

 観測者がそう言うと同時にリリスは消え去り、高速で鎖らしきものが地形を壊し二人の参加者を吹き飛ばしながら背後を通ったのだった。

 

 




 投稿キャラ使わせていただきました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

乱入者 秋晴 日和戦

 吹き飛ばされてきた二人は、咄嗟に鎖の持ち主に能力を使っていた。

 

「神聖ッ!?」

「死霊ッ!?」

 

 女子高生のような少女は、空中で体勢を整えながら神聖を全力で解き放ち、斬撃として標的に放つ。そしてその隙を縫って、魔術師風の男が複数の死神型の死霊が向かう。

 

「うそッ!?」

「なにッ!?」

 

 だが、他のすべてを削って撃ち放った斬撃は鎖に粉々にされ、うねりくる鎖に死神たちもかき消され――

 

「「ッ!?」」

 

 目にも止まらぬ速さで何かが通り過ぎ、男が頭を潰され、少女は背後から胴体を斬り裂かれ真っ二つになり消えていく。

 

 

「こんなもんか?大したことない奴らだ」

 

 つまらなそうにそう呟く少女は

 

「お前はそうじゃないことを祈るよ」

 

 観測者の方を見てそう言った。

 

 

 

(やべぇ……乱入者だ。それも最上位勢とか)

『秋晴 日和。船長とか情報屋とも言われてる、情報戦艦の長だね。この結界の影響で本来の性格と抑えていた分を加算されて出てきてるから、相当狂暴化してるよ』

 

 先ほどの二人、神崎 アリスとカルネ・ネークロイツを瞬殺した秋晴は、鎖を持って観測者を見ている。どうやら観測者の事を強者と認めて様子を見ているようだ。それに対し観測者は、一歩間違えれば負けかねない相手に内心焦っており、どうしようか考えを巡らせていた。

 

「随分と暴れまわってるじゃねえか。狭間の住人。いや、秋晴 日和と言った方がいいか?」

「私は自分の情報を出すのは好きじゃねぇんだ。どこでどうやって知ったかしねぇえが、私の事を知る奴は生かしておけねぇな」

 

 情報を重要視する秋晴は、自身の事を知る不特定多数を許さない。なので地雷を踏み抜いた観測者を許すはずもなく、今まで以上に目つきを尖らせる。

 

 そして――

 

「おらッ!?」

「ッ!?」

 

 目にも止まらぬ速さで振るわれた鎖は、回避したはずの観測者を吹き飛ばし、続けて威力と速度の増した追撃が観測者に迫る。

 

 その威力は大気を斬り裂き大地を抉る攻撃であり、幾千万と残像を残しながら世界を壊していく。

 

(出鱈目すぎるぞ!!)

『相変わらずの腕力ね』

 

 必死に逃げ続けているおかげで大した影響は出ていないが、反撃に回ることなど頭の隅にすら置けない猛攻に冷や汗すら出る余裕がなくなっていた。

 

『挑発なんてするから』

(動きが雑になると思ったんだよっ!てか話しかけるなッ!!)

 

 雑になるどころか、確実に始末するために精度も出力も上がっていた。要は、ただ決意させただけに終わったのだ。

 

(どうするどうする!?今までの相手とッ!!?」

 

「反撃ぐらいしろよ」

 

 突然目の前に現れた秋晴に、驚愕の表情を浮かべ

 

「逃げてばっかか?」

 

「く、クソッ!」

 

 掴みから逃れるために強引に距離を取る。

 

 

「狭間の住人ですらないのに“一般流”を使えるのか。面白い奴だ」

「お見通しってか?」

 

 咄嗟に斬撃をばら撒いて追撃を対処したことを見抜かれており、苦笑いを浮かべるしかない観測者。実は反撃の意味も込めていたのだが、全く足らなかったようですべて打ち消されていたりもする。

 

「中々遊べる奴だ。私の部下にならないか?」

「冗談よしてくれ」

 

「そうだな。お前程度ならいくらでも用意できる!」

 

 瞬動により振るわれた鎖は、傍から見ると突然現れたかのように見えるだろう。だが観測を成功させた観測者からするとただ早いだけの攻撃であり、回避と接近を同時にこなせていた。

 

(こいつっ!?)

 

 同じ瞬動であとは刀を振るうだけと言うところまで来ていた。だがその期に及んで秋晴が見せたのは、驚きでもど惑いでもなく

 

「面白い!!」

 

 戦闘狂のような笑みだった。

 

「くっゾッ!ガハッ!!」

 

 届かない位置に突き出された手で、秋晴は空間を掴み取る。そしてそれを強引に引き寄せ、鎖を持った拳で受け身も取れない観測者の腹をぶん殴る。それにより潰れるような感覚を体内で味わい、一歩遅れて横腹に鎖が直撃していた。

 

「なんだ無動も乱動も使えない、わけじゃないな。精度が低いのか。まぁなんでもいい」

 

 転がりボロボロになった観測者を見ながら冷静に推察し、秋晴は鎖を振るう。

 

 

 そんな中、観測者は……

 

(なんだ、くる)

 

 迫りくる鎖を観測し、最大まで上がった思考速度はすべてをスローモーションにしていた。だが観測者には動ける力も構造も残っておらず、ただ死を待つだけと化している。

 

(何も、できない。一兆年も、生きて……観測機を、倒すために、戦い続けたのに……)

 

 自分たちの世界を無茶苦茶にした元凶を倒すために、全力を尽くしていた人生。それがこの世界では一切通じず、遊び程度の意味合い程度しか持ち合わせていないという事実。

 

(あっちとは、宇宙とは質も桁も、違いすぎる……)

 

 多元存在になり同じ土俵に立てたと思っていた。“一般流”を覚えて対等に戦えると思ていた。だが実際のところは、スタート地点に立っただけであり、使いこなせていたと思っていた“一般流”も単なる見様見真似で終わっていただけで、能力に至っては雑多ものにもほどがあった。

 

(終われ、ねぇのに……動かねぇ……。取り戻さなきゃ、ダメなのに……戻さなきゃ、いけねぇのに……)

 

 速度も威力も増し続ける鎖が寸前まで迫ってくる。だがそれでも体はピクリとも動かない。

 

(もう、終わ――)

『いや頑張ってよ』

 

「ん?」

 

 羊さんが話しかけ、それに反応した観測者は反射的に鎖をかわしていた。

 

 

「はぁはぁ……」

 

「起き上がるか。そうこなきゃね」

 

 追撃をかけてあの場で始末することもできた。だが秋晴はそうせずに、期待の眼差しを向ける。

 

「フラフラだね。もう少し待とうか?」

「随分と、優しいんだな」

 

 僅かな時間で回復をこなし、刀を構える。

 

 それを見た秋晴はニコッとした。

 

「そうでもない。ただもうちょっと遊んでみたいと思っただけよ」

「後悔すんなよ?ふ~……“完全観測”」

 

 観測者の目つき雰囲気が変わり、秋晴は楽しそうに

 

「へ~、絞ったか。さて、どこまでやれるか……楽しみだ!!」

 

 鎖を振り回しながら高速で観測者に攻撃を仕掛けるのだった。

 

 




 ~おまけ~
・狭間の住人(多元存在)の性質について
 他の存在とは比較にならないほどの密度を誇る多元存在の攻撃は、一撃一撃が凄く重い。とにかく重い。それは何気ない通常攻撃からであり、意識されるとさらに重みや鋭さが増す。この性質故に多元存在は、それ以外の存在に対し圧倒的有利に立ち回れる。攻撃面では回避以外のまともな対処法がほぼ存在せず、防御面ではあらゆる現象や干渉が異常なまでに効きずらい上に対処までしてくるので当然と言えば当然である。
 なお多元存在同士の殴り合いでは、無意識や本能などで対処しているためそこまで感じることはなく、力を込められていてもちゃんと防げていたら大した問題にはならないだろう。だがちゃんと防げなかったり、急所や弱点に叩きこまれると観測者のようになる。

・完全観測について
 観測者の大技みたいなもの。元は『あらゆる情報を完全に観測し理解する』という反則じみたものだったが、多元存在になってからは『周囲と対象の情報を漠然とすべてがわかった状態にする』というものに変わっている。これは多元存在の完全な理解が不可能なことと、性能が上がりすぎて一周回って感覚的なものになってしまったことが原因である。
 なおこの技は、事前情報の量によって性能と負荷のかかり具合が変わる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

ゼンリョクの戦い

 秋晴から放たれた鎖による刺突をかわし、瞬動で一気に斬りかかる。

 

「中々動けるみたいだね。その状態は!」

「当たり前だ!」

 

 秋晴は後退しながら鎖をぶん回し、無差別のように見える攻撃を周囲へと撒き散らしていた。しかしその一撃一撃は、観測者を誘導し追い詰めるように仕掛けられている。

 

『“完全観測”って割には攻めきれないのね』

(見えてるだけだからな!)

 

 被弾や掠りどころか影響さえ受けずに距離を詰めようとする観測者。だが完全に攻めきれずに何ども取り逃がしていた。すべてを把握し最大化された能力と最適解を打ち続けても、素は拮抗しているので結局打てる手は限られるからだ。

 

(にしても恐ろしすぎる!一撃にどれだけの意味の攻撃を仕込んでやがるんだよ!)

『上位の方とは言え、このレベルの狭間の住人なら当然だけど?』

 

 秋晴は、当然のようにあらゆる可能性を内包させた攻撃と動きをしてくる。それを全て手に取るように把握する観測者は、気持ち悪さを感じていた。

 

『そもそも秋晴は、機人族だしね。演算能力は高いのよ。あなた程じゃないにしても、感知能力も高いし。まだいくつか武装隠してるしね』

(はぁ!?手ぇ抜かれているのか!?)

 

 機人族は機械系の武装を体の一部にすることができる。それによって能力を拡張したり、手札を増やせるのだ。

 

『いえ、ゼンリョクよ。だからどんな手でも使ってくるの。隠してるから手を抜いているなんて安直すぎるわよ?』

(だな!だいたいわかるっ!にしても色々教えてくれるなッ!!)

 

 思った以上にベラベラと話す羊さんに、観測者は自身が危うくなっているのにもかかわらずそう返していた。

 

『ええ、狭間関係に関しては教えてあげようと思っただけよ。何もわからずにすぐにやられても面白くないし』

(そうか――くぅっ!」

 

「完全じゃなかったの?」

 

 秋晴の鎖が観測者のスレスレを通り過ぎて、不規則に攻撃がうねりくる。それを観測者はギリギリで弾き続けて距離を取っていた。

 

「すまんが観測は完璧でも俺はそうじゃないんでな」

「そう?じゃあしぶとくなっただけ?」

 

 また一瞬で攻撃が飛ばされ、次は完全に回避し接近してきた秋晴に刀を振り切る。

 

「流石は機人族と言ったところか?」

「よくご存じで。それにそっちこそやるじゃない」

 

 乱動で素通りして背後を取ろうとしたようだが邪魔され、秋晴は仕方がなく素手で受け流していた。

 

「近接は得意よ」

「だろうな」

 

 そしてノンストップで始まる流れるような攻防。絶え間なく動き続ける二人は、疲れどころか息切れすらせずに残像と斬撃や衝撃をまき散らす。

 

 

(技量も一流。何度見ても馬鹿げてるとしか言いようがねぇ)

『狭間の住人は、特に戦闘狂は常に命のやり取りをしてるのよ。それにあなたたちと違って同格以上なんていくらでもいるからね』

 

 狭間世界に明確に頂点や最強と言われる存在はいない。どれだけ強くても、どれだけ凄くても、それに追いつく奴や相対する存在がどこかにいるのだ。それに例外はなく、例え全知全能のような存在でさえ絶対無敵にはなれない。

 

(強いわけだ。そこで何百年も生き残れるんだからなおさら)

『そうねっと、くるわよ?』

 

 羊さんがそう言った瞬間に、鎖が直角に曲がる。だが観測者はそれをわかっていたかのように避け、追撃の鎖を弾く。そして一気に接近してきた秋晴の拳を刀で受け流していた。

 

「対応してくるのね!」

「見えてるからな!」

 

 兆候は見えていたとはいえ、あの攻防の中では観測者レベルでなければ完全に見切れないだろう。まさに初見殺しと言ったところだが、実際はもっと厄介なことであった。

 

(あれもできるこれもできるとなると面倒だな)

『手札を増やすのは当然だけどね』

 

 せっかく見つけた隙を埋めるかのように湧き出てくる策の数々。それで常人では使いきれないほどの手札を完璧に把握し最適解で打ち出してくる。これでは隙などあってないようなものであり、逆に隙が罠へと変貌しているのだ。

 

(隙がねぇ、手の打ちようが……)

『ちょっと?隙なんて作りだしちゃえばいいのよ。それが狭間流の戦い方よ。じゃないと体力負けするわよ』

 

 隙があるならそれが一番だが、ないのであれば強引に突破するしかない。

 

 それを聞いた観測者は――

 

「これなら、どうだッ!!」

「ッ!?」

 

 流れに逆らうかのように斬撃を放った。それに一瞬対応が遅れた秋晴は、ここにきて初めて微かな傷を負うことになる。それを治すために一旦距離を取って攻撃をやめ、観測者も追撃をかけずに息を整える。

 

「トリッキーさは重要だな」

「そうね。同意見だわ」

 

 だが観測者も負傷自体は免れたが、反動によるダメージを受けていた。あの場で強引に勝負を仕掛けに行っていれば、勝利と引き換えに観測者も相当のダメージを受けていただろう。

 

 

「電撃武装。奥の手って程じゃないし、ベタな手だけどどうかしら?」

「使ってほしくはなかった――なッ!」

 

 秋晴がそう言うと、バチバチと電気を身に纏い始める。そしてより一層速度が増し、電気を纏った鎖が迫りくる。これで無暗に弾くことさえできなくなった観測者は、回避の一手を使い続ける。

 

『わかってると思うけど、これで終わりじゃないわよ』

(わかってるよ!)

 

 これで終われば儲けものと言う攻撃は多くとも、これで終わらせるという攻撃は存在しない。この手を出した時点で、秋晴にとって次の手の目途が立ったと同義だからだ。

 

「爆発か!」

「こういうの好きでしょ?内側の奴は!」

 

 電気により分解された気体が化学反応を起こして局所的な爆発を引き起こす。それは観測者の妨害でもあり、秋晴の攻撃速度の上昇を意味している。

 

(もたもたしてると次の手が来るってのにますます受け流せなくなった!くそッ!)

『落ち着いて落ち着いて。もっとよく観察して“一般流”を見て』

 

 爆発、電撃、高温を超高速で振り回してくる秋晴の攻撃に焦る観測者。だが羊さんの言葉で秋晴をよく観測し、“一般流”を見極める。

 

 そして――

 

「来ると思ったッ!!」

 

 乱動で鎖を素通りした観測者は、一気に瞬動で秋晴に接近し斬撃を放つ。だが秋晴もそれを予測していたようで、拳を放っていた。

 

「っ!?」

 

 しかし秋晴の拳は外れ、即座に放った蹴りも空を切る。そしてまたも斬撃が秋晴の体を斬り裂き、秋晴は反撃のために鎖を振り回しながら殴打を負傷覚悟で繰り出し続ける。

 

「ハハハッ!!」

 

 秋晴の反撃は一発も当たることなく虚しく空を切り、体は軽傷とはいえ傷が増え続ける。だが秋晴は楽しそうに笑いどうしようかと考えていた。

 

 それに対し観測者はと言うと

 

(楽しそうに!こっちは体が壊れそうだってのによ!)

『無動ね。それで防いでるのよ。攻撃にも応用できるから、ほら真似て』

 

 強引に技を使った反動で、体がバラバラになりそうな感覚に苦しんでいた。これでは一発でも攻撃を受ければ即退場してしまうだろう。だがそんな観測者をよそに羊さんは次の要求をする。

 

「ッ!?ここまでッ!!」

「ぐっ!?」

 

 無動による攻撃が秋晴にぶつかり、秋晴は大きく斬り裂かれる。しかし少しずれたとは言え同じ精度の無動同士がぶつかったことにより、完全に斬り裂き切れずに刀が止まった。そこへ秋晴れが電撃を放ち、観測者が全身を焼かれるようなダメージを受ける。

 

『掴みが来るよ』

「わかってる!」

 

 掴みかかってきた秋晴から刀を引き抜き、再度攻撃に戻る観測者。だが秋晴も翻弄し続けられるほどバカではない。ダメージが大きいにも関わらず、先ほどよりも正確に対応して観測者が冷や汗を流すほどの攻撃を繰り出し続ける。

 

「やるねぇ。凄いよ。だから――」

 

 秋晴が拳を観測者に向けて

 

『来るよ』

「ッ!?」

 

 放った瞬間、空間が割れ景色がガラスのように破壊された。それを上空に空動で回避した観測者に鎖が迫るが、動きが急に雑多になり観測者の回避と共に秋晴も上空に飛んでくる。

 

「邪魔すんな!糸永!!」

 

 そして秋晴がそう叫ぶのだった。

 

 




・鎖について
 狭間の住人が使う武器の一つ。使用に高い技量や握力などの力が必要なことや能力や源力を使って作り出すものもあるが、ここでは武器と性能についての説明をする。
 普段は持ち主が決めた運びに適した長さに設定されているが、必要に応じて長さを変えることができる。これは、源力を使うことにより増殖する特殊な素材を使って作られているからである。また種類によっては、斬撃に特化したものや単純に重量を増して威力を上げたものなど様々な鎖武器がある。
 性能は、高速かつ高威力で射程も自在とか言うふざけた武器。しいて言うなら近距離が苦手だが、それは武器としてであり、狭間の住人自体は近接戦が強いのであまり意味がない。間合いでの軌道が読み辛く、破壊から拘束と移動手段まで幅広く使え、『一般流』を合わせることで更に凶悪度が増す。
 また糸やワイヤーと違い質量があったり可動域が自由なので、攻撃力や複雑さが凄まじいことになっている。

・狭間の住人の戦闘(攻撃)について
 可能な限りあらゆる可能性を重ねて攻撃してくる。このすべてが本命なので、どれだけ見えていようが対応が遅れた瞬間に無意味になる。それが観測だろうが未来視だろうが変わらず、必ず何かしらの対策を持っている。
 あと当たろうが外れようが関係なく、基本ノンストップで攻撃の手を緩めることはない。

 無動……一瞬動けなくなるが、あらゆる攻撃を完全に受けきることができる。存在を固定させるという性質上、攻撃に転用すると壊れないもので殴られたかのような威力になる。しかし失敗すると無防備になる。

 乱動……存在をブラすことにより、一瞬だけあらゆる干渉を受けなくする。存在を未確定状態にするという性質上、攻撃に転用すると防御の貫通などができる。しかし失敗すると無防備になる。

 空撃……空間に干渉する衝撃波を放つことができる。普通に衝撃波を飛ばしたり、空間を揺らしたり、空間を破壊して割ったりできる。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

動き出す兵器たち

 空中で観測者と秋晴が漂う中、地上に一人の男が立って二人を見上げていた。

 

「何の用だ!邪魔しやがって!」

 

(あいつ、秋晴と同等かそれ以上の力を感じる!)

『糸永 縫人。異形族の糸使いね。あの子は大人しかったはずなんだけど……』

 

 秋晴が苦情を呈している中、観測者は情報を集めていた。それでわかったことは、自分より強いかもしれないということだった。

 

「アタシを置いて 楽しそうじゃない」

「だからなんだ!」

 

 糸永がニコニコとしてそう言うが、秋晴はイライラしている様子でそう叫ぶ。

 

「だから 混ぜてほしいな~って」

「無理だな!こいつは私の獲物だ!お前とやり合うつもりもない!」

 

 糸永は大人しそうな雰囲気だが、秋晴は真逆で電気をバチバチと迸らせている。

 

(獲物の取り合いか……それにあれは……)

『ここじゃあなたほどの相手は探すのが大変だからね。羨ましかったのかも。あとあなたの思う通りよ。抑え込んでるけど、戦闘狂が発症しかけてるわ』

 

 狭間の住人は、なんやかんやで戦闘狂だ。入るまではさて置き、一度スイッチが入ると気が済むまで止まらなくなる。糸永はその寸前の状態だった。

 

「そう 残念ね。三つ巴も いいと思ったのだけど」

「余計なお世話だ!」

 

 秋晴れにそこまで言われ、引き下がるとともに内面の闘争本能も収まりだす。

 

 

「あっ、そうそう。一つだけ忠告なのだけど……」

 

「なんッ!?」

 

「は?」

『来たわね』

 

 去る前に糸永は振り返り、何かを言おうとする。だがその前に秋晴が、上空から飛んできた何かを弾き飛ばして衝撃波と爆風が巻き起こった。

 

「鈍ったわね。書類仕事ばかりじゃ 仕方がないのだろうけど」

 

「あいつか~!」

 

 そう恨めしそうに言い放つと、秋晴の姿が消える。その瞬間にまた爆撃光が見えた。どうやら上空から攻撃してきた何かに、仕返しに行ったのだろう。

 

「あら?これは もらっちゃっていいってことかしら?」

 

「遠慮しときたいんだが?」

『完全観測切っちゃダメよ。一瞬でバラバラにされるから』

 

 警戒心を限界まで引き上げ、薄く張り巡らされた糸を把握していく。

 

「フフっ、冗談よ。横取りなんて しないわ。もったいないのだけど 次を探すとするわね」

 

 そう言うと、物欲しそうにサッと糸を片付けて秋晴同様その場から姿を消す。

 

 

「……はぁ~、どうなってんだ?」

『説明してあげてもいいけど?こっちの話だからね』

 

 呆れたため息をしながら警戒は怠らず、加速した思考の中で羊さんに説明を求める。完全観測のせいで、遠くの事を把握できないので仕方がないのだ。

 

 

『兵器たちが動きだしたのよ。それで乱入者……要は狭間の住人を排除し始めたわ』

「兵器が?……ああ、狭間産の 兵器か……」

 

 眉をしかめる観測者。

 

『観測機の件、相当来てるのね。まぁ当然と言えばそうなんだろうけど』

「まぁな。あいつの、あいつらのせいで……まぁいい。この大会に優勝すれば、解決はしないまでも多少はマシになるだろ」

 

 苦虫を嚙み潰したような顔になるが、それよりも今だと話を続ける。

 

『そうね。……でなんだけど、この大会会場には多くの施設や兵器があるわ。それは最初の観測で見えてたでしょ?それが参加者たちの影響で目覚めたのよ』

「それでなんで狭間の住人の排除を?あいつらだったら参加者こそ狙いそうだが?」

 

 機能停止状態だったとは言え、この会場には数多くの施設や兵器が放置された状態だった。それが戦の余波やちょっかいで目覚めたのだ。

 

『最初はそのつもりだったんでしょうね。でも狭間の住人に邪魔されたから、先にそっちの排除に乗り出したって感じかしら。特に上位陣の当たりは強いわ。あの子たち簡単に割り込んでくるから』

「あいつららしい」

 

 同族や同郷など一切関係なく、邪魔であれば排除する。内側や別世界の存在など、彼らからすれば貴重な情報源の塊でしかない。それの回収の邪魔をしてくるのであれば、全機能を持って排除に乗り出してくるだろう。

 

「この大会 本当に大丈夫か?」

『まぁ主催者はこれぐらい大丈夫だって思ってるわね。厄介な怪物や兵器は大会前に殲滅してるだろうし。料理で言うちょっとした隠し味程度の認識よ』

 

 これぞ狭間クオリティー。乱入者が来ようが兵器が起動しようが全く意に関しない。大会そのものを崩壊させる相手が来なければ、どうとでもなると思っているのだ。

 

「大会外は?」

『そっちは観測できてないのね。普通に大丈夫よ。主催者は契約を破るのを嫌うから』

 

 観戦者は厳重に守っているので特に問題ないらしい。格上が来ないように数々の対策を講じているのだろう。

 

 

『完全観測やめて見てみれば?そっちの方が速いわよ』

「ああそうする……ん?ホントにこれ大丈夫か?」

 

 観測者はとりあえず完全観測をやめ、全体の把握のために全体観測を使う。すると周囲の風景が鮮明に映し出され、カオスと化した現状が理解できた。

 

 その光景は、上空には人工衛星や飛行機が漂い、巨大なロボットや人型兵器が参加者を襲う光景だった。

 

「ごちゃごちゃだな」

『まぁ兵器は特注品出ない限り強くないから大丈夫でしょ』

 

 確かに強くはない。参加者や乱入者と違い範囲攻撃である程度蹴散らせるので、耐久面としては羊さんの言う通りだ。だがその代わりに攻撃面や物量などに特化しており、その差を埋めようとしている。

 

「施設に近づかなきゃマシなんだろうが……」

『いずれは外へ手を出すでしょうね』

 

 様子見状態であれば反撃しかしてこないが、相手の戦力を確認し次第 本格的に動き出すだろう。

 

『と言っても、その前に大半は壊されると思うから大丈夫よ。それよりも利用者の方があなたにとって厄介じゃない?』

「確かに……」

 

 不意を突かれた兵器たちでは上位の参加者にかなわない。範囲攻撃持ちであれば瞬く間に殲滅できるだろう。これで全体の半分以上は再起不能になる。だが問題は兵器を利用する者が出てくることだった。

 

「強化だけならまだしも、施設そのものを乗っ取られたら結構キツイぞ」

『現在進行形でやってる子がいるわね』

 

 そもそも施設が目覚めた原因である乗っ取り行為。これに失敗した為に連鎖的に他の施設が目覚めているのだ。タダでは転けない狭間精神が受け継がれていると言っていいだろう。

 

『で、どうするの?逃げる?待つ?』

「逃げるに決まってんだろ。待ってたっていいことない」

 

 百害あって一利なしと決め、丁度自身を取り囲んでいた世界も壊れたことから逃げを選択する観測者。

 

「100キロぐらいだったら空動で数秒もかからんし、さっさと逃げ――」

「ああぁぁッッ!!!」

 

 そこまで言いかけて、叫び声が聞こえた方へ振り向き

 

「なん、は?……グハッ!!?」

 

 吹き飛ばされてきた何かにぶつかり、一緒に結界の外まで飛んでいくのであった。

 

 




~おまけ~
・狭間産の兵器について
 多元存在と渡り合うために作られた超兵器。並みの世界では再現どころか解析すらままならない超技術の塊だが、多元存在からすれば便利であれ脅威ではないのが現状(同格での話)。だって殴れば壊せるレベルだから。
 ただし耐久面(多元存在基準)以外では驚異的な性能であり、一般人からすれば普通に脅威。殴って壊してくる戦闘狂どもがおかしいだけである。

・秋晴を襲った兵器について
・衛星型攻撃兵器『天撃』
・価格 47億円
・概要
 通常は静止衛星として機能し、攻撃の際は観測座標に対し即座に杭式物理破壊兵器を射出します。毎分12発前後の射出ができ、初速はおよそ秒速8キロメートルから、空間圧縮と力場制御による反作用などを利用し距離に比例し着弾まで加速し続けます。よって、距離に比例し火力が引き上がります。
 機体保護に関しましては、常時展開された空間歪曲結界により守られており、一定以下の攻撃を全てズラし当たることはありません。近距離戦に入られても、無数に備え付けられた極細次元光線により暴雨のような波状攻撃にて対処可能です。
 制作組織『西島プロダクション』より


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

飛ばされて来たもの

 何かにぶつかり遥か彼方まで吹き飛ばされた観測者は、森が生い茂る中にポツンと立つ世界を支える支柱の一つに激突して、地面に転がっていた。

 

「う……な、なんだ?誰だ」

 

「うぅ……」

 

 目を回している着物を着た少女を見て、即座に観測をする。

 

「乱入者……」

『結構飛ばされたわね。あ、この子は四季 秋奈よ。多分誰かに吹き飛ばされたのね』

 

 どうしようかと悩み、とりあえず起こそうとなった観測者は、四季に近づこうとした。その瞬間――

 

「はッ!?す、すまない!急にぶつかって!」

 

「は、はぁ……」

 

 ハッと目を覚まし、的確に観測者のいる方へ土下座をかましていた。

 

「この度はワレの不注意で迷惑かけてしまい誠に申し訳なかった!」

 

「それはいいんだが、誰に飛ばされたんだ?」

 

 周囲も含め大体の情報は見れたので、それ以外を聞こうとする観測者。

 

「よくわからぬが、衝撃を扱う参加者だろうか。その者に吹き飛ばされたようだ」

 

「そ、そうか……ところでお前は乱入者だよな?」

 

 一応聞いてみることにした観測者は、それとなく話を振る。

 

「はっ!申し遅れた。ワレは四季 秋奈と言う者だ」

「ちょっと落ち着け」

 

 興奮が冷めない秋奈に、落ち着くよう言う。

 

「す、すまない。何分慌てるとこうなってしまうもので……」

「わかったから、あと普通にしてくれ」

 

 変なしゃべり方する奴だなと思った観測者は、普通にしゃべってほしくてそう要求するが

 

『この子厨二病よ』

 

「少し落ち着いた。礼を言う」

 

「そうかよ……」

 

 それは叶わず、立ち上がって礼を言われるだけだった。それに観測者は疲れたように諦める。

 

 

「……いくつか質問いいか?」

「構わないぞ。ワレの答えられることならなんでも答えよう」

 

 見た目とそぐわない言葉使いと腕を組むその姿にやりにくそうにしながら、観測者は気になっていることを聞くことにしていた。

 

「まず一つ。お前たち乱入者は、狭間の住人はなんでこの大会に出た?」

「面白そうだったからだ。別世界の者との戦闘を目的に参加した。主催者は想定外だったらしいがな」

 

 わかっていたが無茶苦茶だと思う観測者。そして主催者が誰かはわからないこともついでにわかり、誇らしげにしている秋奈を無視して次の質問に行く。

 

「二つ目だ。お前の知っている乱入者の数と強い奴を上げてくれ」

「いいだろう。大体300人程いるから長くなるが、大世渡 鏡華を筆頭に糸永 縫人、秋晴 日和、邪龍 偽音、風龍 空、釘崎 朴、雪原 鎖、紅月 光、睦月 七草、波辺 海人、霊山 みき、浮島 夕野、東雲 炎華、桜間 陽子……」

 

 そうやって名前と大体の概要を聞いていく観測者。そして思ったのが……

 

(出会いたくないな)

『まぁ全員と出会うなんてことはないでしょうね。流石に』

 

 話を聞いている限りだと、上げられた全員が90点以上で、およそ30人いるらしかった。これは非常に面倒なことで、観測者を超える実力者が最低でも30人はいると言うことに他ならない。

 

(なんせさえ乱入者以外でも100点は大体千人もいるんだぞ。90点台でも五千人強だ。あとはそれ以下とは言え、それでも苦戦しないかと言えば違うし……どうしたもんか)

 

 悩む観測者。なりたての多元存在であれば、100点でも苦戦はするが勝ち目は大いにある。だが熟練者ともなれば話は変わってくるのだ。先の戦いを見れば一目瞭然だろう。

 

 

「と、こんなものだな。他に聞きたいことはあるか?」

「いやいい、じゃ……」

 

 聞きたいことも聞き終えたしと、刀に手を添える。それを見た秋奈は驚き、一瞬で距離を取った。

 

「いきなりやり合おうというのか?」

「そうだな。じゃ、あやっぱいいや、色々と話ありがとな」

 

 隠してはいるようだが、秋奈が冷や汗を流し戦闘態勢に入っていることを見破っている観測者は、刀から手を放す。そしてそのまま手を引き、秋奈と別れようとする。

 

 

「ちょッちょっと待った!ワレを置いていくつもりか!?」

「置いていくも何も、首取らなかっただけありがたいと思ってほしいもんだな」

 

 別に戦うんならそれで構わないと再度刀に手を添えるが、そうじゃないそうじゃないと手を振る。

 

「そ、そうだ!自己紹介をしよう!名を名乗っただけじゃ足りないな!うん!」

「……まぁいいか。俺は観測者だ。この大会じゃ絶対優勝したいと考えてる。邪魔なら斬り捨てるからよろしく」

 

 そう言うのじゃない 物騒すぎる!と言っているが、狭間の住人が何言ってやがると観測者は冷ややかな目で秋奈を見た。

 

「ワレは四季 秋奈!四季旅館 秋を司る王なり!得意武器は鎌で好きな食べ物は秋が旬のもの、特に炊き込みご飯だ!この大会には遊びで参加してるだけだから特に優勝とか狙ってないぞ!うん!」

 

 テンパっているのが観測しなくてもわかる。

 

「え~とえ~と、あっそうだ!厨二病同盟にも加入してるぞ!かっこいいものとかロマンのあるものは大歓迎だ!」

 

「へ~」

 

 得意武器である鎌を顕現させ、秋をモチーフとしたエフェクトを出し始める秋奈。どうやら能力を使って出しているようで、観測者の感想は“地味に実用性があるもの”とか“相性悪そうだからやっぱここでやっとくか?”とかだった。

 

「どうだ!かっこいいだろ!よし、もう友達だな!これからよろしく!」

「いやなんでそうなんの?てかなんでそんなに執着すんだ?」

 

 あっさり否定され、崩れかける秋奈だったが、話せばわかるかも!とギリギリで元気を戻す。

 

 

「だって……秋晴さんの戦闘邪魔しちゃったんだよ!」

「あ~……」

 

 秋晴からすれば、せっかく楽しんでいたのに衛星兵器に邪魔され、それを潰している間に秋奈に獲物を取られたようなものだ。秋奈は、二重でストレスの溜まった秋晴を恐れているようだった。

 

「格上に狙われたらどうなるか……大会中じゃ死なないからって出会ったら殺されるだろうし、大会外でもボコられるか嫌がらせされるかも……」

 

 そこまで大人げない事はしないだろうが、嫌みごとの一つや二つは言われるだろう。あとは軽くイジられるぐらいだが、すごい かっこいいを主体とする秋奈からすれば致命的だ。

 

「だから一緒にいさせてほしいと?秋晴が来た時に自分に目が行かないように?」

「そ、そうだ!いやちょっと違うけど、やむをえんだろ!せめて会うまででいいから!頼む!もちろん責任も取る!」

 

 これもこれでダメージは大きいが、一緒にいた方が秋奈にとって得が多いからそうする他ないのだ。

 

 

「随分と自分勝手だな。こっちの事情も考えないで。あとかっこよくない」

「うぐっ!」

 

 精神ダメージを受ける秋奈。

 

「そ、それでも、それでもだ!頼む!役に立つから……!!」

「どうやって?」

 

 仮に連れていくにしても、何かしら明確なメリットがないといけない。だから観測者は容赦なくそれを問う。

 

「ワレ程のレベルになると、半径10キロ、いや12㎞は探知が効く。これで即座に敵の位置を把握できるぞ!」

「俺は観測って能力あるから全部見えんだよな」

 

 ガクッとくじけそうになり、次を即座に言う。

 

「じゃ、じゃあ複数戦にだったらどうだ!一体多はきついだろう!仲間がいた方がいいに決まってる!」

「実は俺の仲間が大会に参加してんだよな」

 

 一緒に戦うかどうかはさて置き、秋奈を引きはがす理由になると、仲間がいることを言う。それを聞くと更に苦渋の表情になり次の、いや最後の案を出す。

 

「ワレといたら援護してやれるぞ!止めだってそっちのものでよいから!」

 

 秋季領域と言う技で仲間の援護もできると言う秋奈。並みの参加者であれば翻弄できると豪語する。そして観測者の目を見て答えを待つ。

 

「……わかったよ。ただし、邪魔も手も出すな。手伝いが必要ならその時言うから」

「よしっ!よろしくな!」

 

 そうして観測者との同行を勝ち取った秋奈は、ルンルンで観測者の元へと向かうのだった。

 

 




 ~おまけ~
・厨二病同盟について
 かっこいい、すごい、ロマンなどを重要視する集団。自分が特別な存在だと思い込んでいたり なり切ったりしている奴も多く、まさに厨二病と言うにふさわしい集団。
 ただ彼らの言う『別世界の知識』についてはあまり当てにならない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

観測機

 巨大なクレーターの中心で、銀色の源光刀を持つ無傷な少年……観測機が立っており、その視線の先には学生服のような服を着た男が息を上がらせ冷汗を流しながら刀を構えていた。

 

「この程度なら問題ないですね」

 

「クソっ、野郎が……」

 

 自分の力が通じない様子の男子学生は、そう悪態をつく。そして何かをしようと体内で莫大なエネルギーが荒れ狂う。だが少年は一切表情を変えずに――

 

「殺すッ!」

 

「うるさいですよ」

 

 源光刀を振り、衝撃波を掻き消し、寸前まで来ていた追撃の斬撃を受け止めていた。

 

 

「先ほどの50点も行っていない奴は当たり前として、これで70点なら、80点後半までなら大した苦戦もせずにやれますね」

 

「黙れっ!!」

 

 男子学生は、神速と言っても過言ではない速度で変幻自在の連撃を発動させ続けるが、簡単に受けきる観測機はどこ吹く風だ。

 

「井学 卓也さんでしたっけ?技能作成とは随分便利な能力ですね。他人の技を学習して自分のものにできる。それも改造も可能と。それも他人から盗んだものですかね?」

 

「っ!ッ!?」

 

 無限に続くと思われた斬撃は、観測機が少し手を加えた瞬間に一瞬で打開し、井学は転移らしき力で距離を取る。

 

「また仕切り直しですか?あまり時間を使いたくないので、さっさとケリを着けたいんですが……ね!」

 

「なっ!?」

 

 瞬動で距離を詰め、源光刀を振る観測機。その斬撃を咄嗟に防いだ井学は、簡単に押し負け地面を転がりながら吹き飛ぶ。

 

「まぁ参加者と言うだけありますね。多元存在にもなってますし、当然と言えば当然ですが」

 

 防がれた事と張り続けられている超重力が強まるのを感じ、平然と止めを刺すために近づきながらそう呟く観測者。

 

「っと、夢幻流とか言う奴ですか?」

「そうだッ!」

 

 倒れ伏す井学の姿が急に消えたと思ったら、観測機の背後から斬撃が放たれる。観測機はそれを回避し、斬り返しを行うが、斬撃が届く前に煙のように消え去り、死角から斬撃が放たれる。

 

 それを――

 

「こうですかね?」

 

「ガハッ!?」

 

 斬撃が当たるスレスレで同じ技を使い背後に回って、背中を斬り裂いた。

 

「回復ですか?再生ですか?まぁ何でもいいですが、しないのなら死んでください」

 

 首を斬り飛ばそうと源光刀を振る観測機。そして次の瞬間には

 

「なんッ!?」

「時間停止なんて見慣れてますから」

 

 完全復活して側面に回っていた井学を斬り飛ばす。だが井学も黙ってやられてる訳もなく、大地を斬り裂く斬撃を飛ばした。

 

「地裂斬ってやつですか。地面を削っているように見えて地面から生えている技ですね。受けるのに失敗したらって技ですが、まぁ壊せるのなら問題ないものです」

 

 それを安々と破壊し、急接近した観測者は

 

「初見殺しが得意なようで」

 

「これもッ!?」

 

 人一人を覆いつくせる程度のこじんまりとした火炎を押しのけ、逃げようとした井学の片腕を斬り飛ばした。

 

「クソクソクソォッ!!」

 

「乱雑ですね。技はどうしました?」

 

 逃げるのを諦めて、残った片手に握り絞めた刀で連撃を放つ井学。それは段々と激しくなり、片手で打っているとは思えないほどの猛攻となっていたが、苦肉の策では観測機の脅威にはならない。

 

(多少はマシになりましたか。凄まじい成長力ですね。まぁ、所詮はこの程度ですが)

 

 それはまさしく超成長と言えるほどのものだったが、すべて見えている観測機には、そんなものかと切り捨てられてる程度の事だった。

 

「っと。もう終わりにしましょうか。少々楽しくて時間を忘れるとこでした。やはり生物の成長は見てて楽しいものがありますね。まぁ僕もそうなったわけですが……にしても勿体ない。もう少し時間があれば多少はマシな戦いができたでしょうか」

 

 これは本心である。負ける気はないが、大会の後半戦で出会えたのなら、遊べるぐらいには成長していただろうと見ていた。まぁそこまで生き残れればの話だが

 

「舐め腐りやがってッ!!」

 

「おおっ」

 

 井学は観測機を押しのけ、一歩下がり、治していた腕と共に一刀流で構え

 

「受けてみろ!夢幻流 奥義 百華一線!」

 

 一瞬にして放たれた花のように見える幾何学模様が、観測機を包み込むように発生し、一斉に襲い掛かる。

 

「は?」

 

 だが技は空を切り、踏み込んだ先でバラバラになって崩れ落ちる。

 

「重なり合った別次元から放たれる百の斬撃と、自身の放つ一線」

 

 空動で斜め上に逃れていた観測機が着地し、井学を見下ろす。

 

「初見殺しってホント強力ですね。なんせ何もわからないんですから。……さて、次行きましょうか。時間は有限ですから」

 

 何もできずに消えゆく井学を放置し、次の標的の元へと行くのだった。

 

 




~おまけ~
・観測機について
 狭間世界最強格の施設、六大施設が一つ『観測機』。狭間世界が明確に別世界もとい内部世界の情報を知るきっかけであり、同時に狭間世界に甚大な被害を与えた存在が来る原因になった存在。現在めちゃくちゃ弱体化しているが、それでも今大会で最上位に入れるぐらいの力は保持している。
 なお羊さんに適当に調整され、狭間世界の人類種である機人族になってしまっている。

・六大施設について
 どこかの研究者や科学者などが作り出した、大規模かつ別世界に手を出すために作り出されたバカげた研究施設。名の通りその中でも上位六つが有名どころであり、その一つひとつが宇宙級の概念世界級に匹敵するほどのものである。

 唯一宇宙に進出した施設    観測機

 あらゆる境界を航行する戦艦  境界船

 虚空に平然と存在する超施設  虚構施設

 量子世界に樹海のように広がる 量子界樹

 時空の果てに拠点を構える   時空要塞

 次元の隙間に張り巡らされた  次元基地

 であり、今大会に使用された関連施設は『虚構施設』である。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

 これまでの登場者まとめ

 

・名前 観測者

 得点 90点

 容姿 軍刀を携え作業服を着たお兄さん

 能力 観測

 説明

 この作品の主人公。因縁の敵である観測機との最終戦の際に、マミさんという獣人に大会に誘われ、優勝賞品目当てに参加した。基本安全地帯から観測をして情報収集を行い、勝てると思った戦いにしか身を投じない。そのためヤバいと思ったらすぐに逃げるし、勝つためならどんな手でも使ってくる。

 特に今大会はホンキで優勝を狙っているため、それが色濃く出ている。

 能力は『観測』で、あらゆるものを細かく見通すことができる。特に範囲に優れた能力であり、不意打ちや遠距離攻撃は基本無意味。また相手の視界や認識などを把握することによって、高い隠密や隠蔽 情報操作などをしてくる。集中すると『完全観測』という状態になり、範囲は狭まるものの その範囲に入ってきたものの情報を全て感覚的に把握することができ、相手のすべてが筒抜けになり未来視レベルの観測能力を使ってくるので、観測者と相対した者の勝ち目が絶望的になる。

 

 

・名前 ルイス

 得点 83点

 容姿 顔立ちのいい、黒を基調とした戦闘用宗教服(機動力を重視した軽装)を着た槍を持った若い男

 能力 加減変速 猛毒

 説明

 元の世界は、高レベルなファンタジーのような世界で、邪神教 第十二席 “神速のルイス”として世間では恐れられている。不良のような口調と態度にそぐわず、案外頭が回りちゃんとものごとを考えている。

 名のある邪神教メンバーの中では最古参なのにもかかわらず部下もおらず最下位の順位に即しているが、それは信仰心が一番低いことから由来する。なぜならルイスは、強者になるために入信したに過ぎず、格上に対する敬意はするがいずれ超えるという野心家な面があるためである。

 実力自体は一二を争うが、一席には同士討ちがせいぜいで、特別な零席とは戦えておらず、邪神自身には遊ばれて終わる屈辱を味合わされている。そのため内心は慎重に動くようになってしまい、作中では観測者にそこを突かれて敗北した。

 能力は『加減変速』と『猛毒』で、前者は高速から低速やそれを踏まえた可変速ができる。技として速度が増し続け最終的にはすべてが崩壊する『加速世界』とすべてが減速し続け最終的には誰も動けなくなる『減速世界』、場所や時間によって速度の加減速が乱雑に発生し続ける『変速世界』、自身に超加速を施し超兵器と化す『神速化』などがある。また物体の速度差を利用した攻防など、効果範囲や対象 事柄に絞って加減速を使用もできる。

 後者は邪神から与えられた能力だったが、こちらに来て完全に定着したもので、誰にでも効果のある猛毒を、あらゆる形で瞬時に作り出せる能力である。また『加減変速』と併用して、毒の作用速度を調整もしてくる。

 

 

・名前 田中 圭一

 得点 70点

 容姿 銃器などの現代装備に身を包んだ男の傭兵

 能力 不老不死 兵器生成

 元の世界は、世界自体は地球そっくりだが、異能や魔法、陰陽師などやそれに対になるあらゆる怪物たちが闊歩する危険な世界であり、不死者たちはその頂点として君臨している。怪物たちの中には不死者の影響でそうなった者たちがいるが、どちらの起源が先かはわかっていない。

 田中は『不死者同盟』という死を望む集団の若手として知られており、同時に『不死の傭兵』として戦場で恐れられている。

 最初は死ぬために世界を回り、次に戦争に巻き込まれ、最後にその悲惨さをこの世から消すために傭兵となった。人類 怪物問わず戦争を起こす者たちの仲裁 殲滅をして被害を最小限に抑えることを目的としており、自身が死ぬ前に世界が平和になればいいなと思っている。中立と気まぐれの多い不死者の中では珍しい性格をしている。

 能力は『不老不死』と『兵器生成』で、前者は不死者ならみんなが持っている“どうやっても死ぬことも衰えることもできない”能力で、後者はあらゆる武器兵器を生成させる能力だ。使用する技として、特攻やゴリ押しなどが罷り通るものが多く、中でも『戦争世界』は別格であり、彼の世界で最上位に位置する世界系の力となっている。

 独自の空間を作り出し外界と隔離し、テーマに沿ったことを好き放題発生させることができるというもので、彼の場合は都合のいい解釈を混ぜたあらゆる戦争の再現やその発生。無尽蔵の武装使用による圧倒的物量を可能としている。更には不死者なので消耗を気にせず、逆に傷つけば傷つくほど性能と継続時間が高まり続ける理不尽なものとなっている。

 

 

・名前 ギルバルト・ホーエンス

 得点 68点

 容姿 旅人のようなオジサマ

 能力 無限斬撃

 元の世界は、ダークやSFや普通のファンタジーなどのいくつもの異世界が点在する世界。

 一つの世界にとどまらずにあらゆる世界を旅する放浪者。世界を観光したり強者を探して行く先々で気の赴くままに行動し、ついた異名が『斬撃王』。知識も経験も豊富で大人びたような雰囲気と、常に冷静で余裕をもって行動しており色々考えるが、いざ戦闘になると最終的にすべて斬り刻めばいいと考える脳筋思考な部分もある。

 能力は『無限斬撃』で、あらゆる種類の斬撃を無限に発生させることが出来る。これにより空間を埋め尽くす斬撃を放ったり、実体の有無にかかわらず認識したものを強制的にぶった切ったり、空間や次元 世界なども問答無用で切断する。

 

 

・名前 デルサネス

 得点 71点

 容姿 王を象った骸骨

 能力 死滅

 元の世界は、死神や悪霊などが闊歩する地獄や冥界のような世界。この世界は現世で死者は不要と切り捨てられた者たちがどこにも行けずに、捨てられ消滅を待つだけの世界だ。

 地獄や冥界など、いくつかの世界が分かれており、その内の一つであるもっとも大きな“死滅界”で頂点として君臨する『死王』と呼ばれた最強存在。消滅を遠ざけるために自分のいる世界を広める必要があり、他の死の世界と戦争するのが当たり前の世界だったが、デルサネスの所には誰も戦争を仕掛けずに暇を持て余していた。しいて言えば楽しみとして、たまに力をつけてくる者たちを毎回待っていたが、それでも数百年単位で待たねばならず、またそいつらも遊び相手になるのが限界と言う始末。

 彼は現世にも興味がなく、というか無数にある現世のどこで生まれたのか、はたまたこの世界で生まれたのかすら覚えていない。ただ理不尽な死と消滅を振りまくだけの存在に、それっぽい自我が生まれただけに見える。

 能力は『死滅』で、あらゆるものを死に至らしめる、または終わらせる能力。常にオーラのように身に纏っており、これによりあらゆる現象はこいつに届くことなく朽ち果てる。また自由自在に形を変え物質化などもできる。しかし一度に出せる量に限度があり、使いすぎると薄くなり攻撃が通りやすくなる。

 

 

・名前 シロ・ラモール

 得点 66点

 容姿 全体的に青みかかった白のように見える、布切れのような服を羽織った高校生ぐらいの少女。黙って大人しければまさに聖女に見える。

 能力 静音

 元の世界は、政治や宗教、闇組織や怪物化した獣などが渦巻くダークファンタジー世界。そこで『静寂の殺戮者』と恐れられている殺人鬼。常に静かでおとなしい雰囲気があるが、中身は立派な殺人鬼である。基本は姿をぼかしており正確な姿を知るものは少なく、それなのに見かけても話してもよく考えなければ違和感すら感じ取れないレベルの隠密性を有する。あと異名は、彼女のいる場所は常に静かだから。

 元はただの村娘で、見た目が気味悪い、何を考えているのかわからないなどと住んでいた村や生みの親からも捨てられた浮浪孤児。非常に賢く常識を持ち周囲に溶け込めるようにしていたが、感情が薄かったり欠落していたため、捨てられてもなんとも思っていない。

 そのまま当てもなくふらついている間に人攫いに会い、攫われた先でも特に何も感じることなくボーと人間観察していたが、色々あって何の気なしに隠していた能力を使い人攫い集団を皆殺しにする。その時に初めて感情が動き、殺人鬼として自覚する。その後もフラフラと放浪しながら自身に悪意を向けてきた相手と、世間的に潰してもよさそうな相手を旅費確保と遊びの名目で真正面から乗り込み壊滅させ、彼女にケンカを売った組織や貴族のせいで、町がいくつか壊滅している。

 ただ殺すだけもいいが、それよりも一生懸命逃げたり抵抗してくる相手を、まるで子供がおもちゃで遊ぶかのように一方的に殺戮するのを好んでいる。だが自分の認めた相手には本気で相手をするため、その聖女のような見た目をあらわにさせる。ただし興奮すると丁寧口調だが口調が雑多になる。

 その他襲ってきた相手には容赦なく体の部位をピンポイントで破壊して、戦闘不能にさせることが多い。それを死ぬか面白くなくなるまで続ける。

 能力は『静音』であり、波動とか周波数系の能力。これにより普段は、自身から発せられる音や光の屈折などを相殺、歪曲し自身の姿形をぼかしている。防御面ではあらゆる攻撃を相殺させてたり、衝撃波で吹き飛ばして終わらせている。攻撃では衝撃や破壊など、やろうと思えば斬撃にもできる。傍から見たら、一瞬でぐちゃぐちゃになったり、消し飛んだり、潰れたりしている。

 

 

・名前 エンキ

 得点 69点

 容姿 赤目赤髪の和装をした大太刀持ちの炎神鬼

 能力 炎神

 元の世界は、妖怪たちが争う和性ファンタジー世界。妖怪の中でも神の領域に達した一柱。穏健派で自身の種族である鬼族と人間などの他の種族との共存を成功させたが、他の大妖怪や人間や神へ至った妖怪との争いに巻き込まれて、自分たちの領域が脅かされ戦争状態になっている。

 この戦争を終わらせて平和を作るために、仲間たちと共にこの大会へと参加している。

 能力は『炎神』であり、その身を神の炎に変えることが出来る非実体系能力。実体のないこの能力は、自身の体を炎として変幻自在に変えられ、圧倒的な対応能力を誇り、本人の技量を合わせてみれば無敵に見えるだろう。神性を帯びた炎は、あらゆるものを焼き尽くし浄化させる。

 

 

・名前 神崎 アリス

 得点 53点

 容姿 金長髪の学生服を着た美少女

 能力 神聖

 元の世界は、神秘があふれ出し神話の存在が復活した地球に似た世界。通常兵器の効き目が悪い神話の怪物共に人類は生存権とその領域を大幅に脅かされたが、そんな時に人類にも神秘の力が目覚め、なんとか滅亡を食い止めている感じ。そして研究の結果、特に子供の方が神秘の力が強いということで、子供たちを戦士として育て上げる学園がある。そこの学園長の一人娘。

 性格は誰にでも優しく正義感があり上品な元気さがある。成績も常にトップの委員長と言う完璧超人を絵に描いたような美少女……だが、親しい人の前では真面目に変なことを言ったり気が抜けてポンコツになることがある。あと本人は知らないが、実は親である学園長が、自身の遺伝子を使って決戦兵器として生み出した、神話の怪物の因子を組み込んで生まれた人造人間の最高傑作である。

 能力は『神聖』で、光を主軸にしたあらゆる神秘を引き起こすことが出来る。光線や光弾などと言った通常光でできそうなことや、身に纏うことにより身体能力を大幅に引き上げ、飛行や高速での移動や不都合の大幅な軽減ができる。最終的にはあらゆるものを浄化し消滅させる。また力が暴走すると自我を失い大幅にパワーアップしたりする。

 

 

・名前 カルネ・ネークロイツ

 得点 50点

 容姿 暗いイメージの男の魔導士

 能力 死霊 

 元の世界は、何かしらの召喚や使役が当たり前のファンタジー世界。その世界で最凶の死霊使いとして有名だが、姿形含めその正確な情報を誰も知る者は少ない。適当にほっつき歩いていると思ったら、不定期で依頼を受けて死霊を差し向けて戦争に介入したり魔物などの討伐をしている。

 本人は陰キャマッドサイエンティストのような奴で、ただ最強の死霊を作り出すためだけ動いており、世間に疎く興味もない。ただ資金稼ぎはもちろん、良質な死体や死霊が手に入るためにそう言う依頼は積極的に受けているだけである。最終的には自身も死霊化させようとしていたが、大会に参加して望んだ以上の力を得たので、次のステージへと行くために優勝を目指していた。

 能力は『死霊』であり、死霊やアンデッドなどを生み出し支配する能力。生者でありながら、自身の中に大量の死霊やその情報を内包しているため、そこから力の限り死霊などを引き出すことが出来る。元より使役している死霊は万を超えており、これにより様々な戦略を得意としていたことも合わさり、無尽蔵に死霊を生み出させる。自身が殺したに関わらず、ただの死体なども支配できる。

 

 

・名前 リリス・ハーベスト

 得点 60点

 容姿 態度がデカい小悪魔娘

 能力 蒐集家

 元の世界は、勇者と魔王がいたファンタジー世界。勇者と魔王の戦いが相打ちで終わったが、未だに世界からは魔物は消えず、魔王軍残党が各地で暗躍し暴れている感じ。

 リリスは魔王軍の古参の幹部だったが、他の幹部と違い魔王の復活には興味はなく、一応やってるだけであり内心では自身が世界を裏から支配しようとしている。そのために世界各地から武具や道具を集めて、他者を支配し強力な軍勢を裏でコソコソ作っていた。小悪魔のような見た目をしているが、その中身は大悪魔で、他人を支配するのが好きな奴。

 能力は『蒐集家』で、収納空間という自身の所有物としたものを無制限に保管可能な力に加え、所有物の使用条件などを無視して限界まで無制限に使用できる力を持つ。またあらゆるものを道具化する力もあり、明確な格下であれば生物や人間なども道具にして蒐集対象である。これにより作中では、複数の武具道具の使用による戦闘力の底上げや、勇者の武器『聖剣 ブレイバー』、密かに回収していた魔王の死体で作った『無尽の心臓』(無尽蔵かつ莫大な回復力を持つ道具)を使用していたりする。

 なお実は蒐集家は、使用の条件を無視できるが、コストを無視できるわけではないので、完全に使いこなせない武具も意外に多い。特に『聖剣 ブレイバー』は、所有者の心や魂の在り方、それに加え所有者を慕う者たちの想いを一心に受けて最大の効力を発揮するものなので、道具で無理矢理引き出された作中の聖剣では、火力ぐらいしか再現できていない。

 

 

・名前 井学 卓也

 得点 70点

 容姿 黒目黒髪の学生服を着た男

 能力 技能作成

 元の世界は現在の地球のような世界だったが、能力の発生と開発の影響により極端に強い能力者が生まれてしまい、物量による戦争の根底が崩れ、個々人の質による一騎当千が可能となった世界。その中でも上位の能力者は、戦略兵器や核兵器以上とまで言われている。そして戦争すると人類も世界も危ないという事で、能力者同士で競い合う競技を作り、そこで国力を見せ合う代理方式になった。(政治や能力開発、テロリストや小さな小競り合いと言う名の紛争などと問題があるが、まぁそんなものどこでもあるので気にしないものとする)

 そんな世界のとある国の能力者育成学園に通うのが彼『井学 卓也』。学園では一般人組の一人で、高い能力を見込まれ入学した。その実力も高く世界ランキング最上位者たちに匹敵する実力があるが、面倒ごとを嫌って実力を隠している。

 実は俗にいう裏の住人であり、幼少期に無差別テロの被害に合い家族を失い、引き取られた先で能力実験を受け、非公式試合や紛争地帯に送り込まれたりしていた。そしてどうにかそこから抜け出したと思ったら次は学園に放り込まれてと、平穏と別れを告げたかのごとく不幸者。

 すぐに失うからと、あまり群れたがらず単独または少数を好むが、一度した約束や仲間を大切にする。他人の不幸がほっとけずバレない程度に人助けもする。そして敵や裏切り者には一切容赦しない性格。観測機に、同じく参加していた幼馴染を倒され、勝負を挑むが完敗する。

 能力は『技能作成』で、あらゆる技術や能力を技として作り出し使用可能にする能力。学んだ能力や技の一部の要素や因子と言ったものを獲得でき、それをそのまま使ったり組み合わせて『時間停止』や『超重力』、『地裂斬』や『火炎葬』などと言った単発の技を作り出せる。だが作成や調整には多少時間がかかる。

 戦闘では主に、『夢幻流』と言う刀剣術を扱っている。勿論これも勝手に覚えて改造した技が多数含まれている。だが本名は改造した初見殺し技であり、真正面から戦っているのはダミー。

 

 

・名前 観測機

 得点 100点

 容姿 戦闘服を着た、水色の髪と目と肌にはその色の線があるのが特徴的な少年。

 種族 機人族

 能力 観測

 観測者の因縁の敵。別世界へと手を伸ばそうとする組織系列最上位機、“六大施設”の一機。地球時間で約一兆年前に宇宙世界へと飛来した超兵器。当時はその圧倒的力で宇宙を我が物にしようと働いたが、“宇宙の管理者”に主人もろとも木っ端微塵にさせられ敗北し、今日に至るまで復活しようと暗躍してきた。だがその計画は“観測者”率いる抵抗軍などによって妨害され成功していない。それどころか本体まで追い詰められ、崩壊寸前のところで今回の大会の事を聞いて首の皮一枚繋がっている状態。願いはもちろん完全復活。そして今度こそ宇宙を手に入れ、その成果で“六大施設”最下位の座から脱却を目指している。これを自分の主人の贈り物にするために……

 能力は『観測』で、観測者と同じ能力である。だがその練度は桁違いであり、見ると言うことに関して隙も弱点も存在しない。

 

 

 

 

 ~乱入者たち~

 

・名前 四季 秋奈

 得点 70点

 容姿 秋をイメージした姿と着物を着た女の子

 年齢 15歳(約220年)

 種族 季節の現霊と人のハーフ

 能力 秋

 乱入者の一人。四季旅館の女将の四人娘、秋の間担当の三女。今回の大会は、別世界の知見ができると思い姉妹全員で参加している。あと親から力試しして来いと言われたのもある。

 残念厨二病であり、かっこいいと思って色々しているが、ヘマをすることが多く姉妹の中では一番弱い。しかしアイドルとしては人気が高く、売り上げ貢献度は断トツ一位である。

 旅館で働いてるだけあって家事や料理、仕事は一流だが、仕事やカッコよさを重視しているため、ゼンリョクはまだしもホンキで戦う事が少ない方。好きな食べ物は秋が旬のもの、特に炊き込みご飯。

 所属組織は『厨二病同盟』で、日々仲間たちとかっこいい技やセリフなどを話し合っている。得意武器は鎌で、能力を使って様々な鎌を生成して戦う。また結界術などにも精通しており、防御や援護などもできる。

 能力は『秋』で、秋に関することが大体できる能力。『秋季領域』という、侵蝕領域を展開でき、自身の有利な環境へと世界を書き換えていくことが出来る。

 

 

・名前 糸永 縫人

 得点 95点

 容姿 使い古されたコートを羽織った天然パーマの高身長美男子

 年齢 23歳(約340年)

 種族 異形族(蜘蛛)

 能力 糸

 乱入者の一人。大陸最強格の一人……の友人で近所に住む戦闘者。森の中に住んでおり、普段は縄張りから出ないが、大陸最強格こと“霧原 かすみ”の付き合いで来ていた異界の宿で大会の話を聞いて出ることにしたやつ。冷静沈着で計画的だが臨機応変にも動ける。オネエっぽいのは素であり姉の影響でもある。

 能力は『糸』で、その名の通り超強度の糸を無尽蔵に出し操ることが出来る能力。

 

 

・名前 秋晴 日和

 得点 93点

 容姿 鎖を持ちコートを羽織ったヤクザのような恰好した少女

 年齢 22歳(約330年)

 種族 機人族

 説明

 乱入者の一人。情報戦艦の十七代目船長。情報関係を中心にした売買組織の長。そのため情報を何よりも重要視しており、本人も組織もそう言うマナーには厳しい方。

 元は戦闘者として戦艦で始末屋をしていたが、とある秋晴が関わる事故で前船長が死亡したため、その責任を取って船長になった。そのせいで書類仕事などが多くなり、戦闘回数が減って勘が鈍っており弱体化している。普段は静沈着であり、責任感が強く、厳しさを持ち合わせたヤツだが、久々の戦闘を楽しみにしていおり、結構やる気だったが、上手く行っていない。実は結構の不運持ちだったりする。

 能力は持っていないが、機人族の特性で様々な機械武装を組み込んでいる。秋晴の主な武装は、鎖と電撃武装と言う、電気などを操ることが出来る内機関だ。能力者のように高出力だったり、操作性が自由自在とまではいかないが、小回りが利き鎖の制御の補助、電撃による牽制や攻撃など結構便利。また凄まじい怪力を持ち、特に腕力が非常に強い。

 

 

 

 

 

 

 天翼projectさんの投稿キャラ

 

・名前:ロックウィル

 異名:天賦の無名

 得点:73点

 性別:男性

 種族:人間

 容姿:黒い礼装の上から白い外套にフードを被り、仮面型のペストマスクで顔を隠している。

 身長:187cmくらい

 一人称:俺

 二人称:お前

 能力:規則追加(空間のルールの書き換え)

 説明:戦闘では能力により自分ごと対象を特殊な異空間に取り込み、その中で自身も影響を受ける『ルール』をいくつか作れる。張った異空間内に三つのルールを、自身の周囲に二つのルールを、自身に対して一つのルールを作れる。作中出たのは、広範囲に逃走不可、即時戦闘、真剣勝負。中範囲に自己紹介、斬撃優勢。自身に停止不可を仕込んだ。

 性格:気さくで親しみやすく、他人と競い合うことを楽しんでいる。勝負事には真剣に挑み、勝負相手の健闘は称え、負けたのならあっさりと受け止めて直ぐに反省する素直な思考の持ち主。なお能力はおまけでロックウィルの強さの真髄は大剣を軽々と扱う膂力と圧倒的なまでの持久力と耐久力からなるタフネスである。

 

 

・名前:ミストレア

 異名:霧幻の魔術師

 得点:55点

 性別:女性

 種族:魔女

 容姿:透き通るような青みがかった銀髪と白を基調としたファー付きのロングコート。幼げな顔立ちの美少女。

 身長:155cmくらい

 能力:水生成操作

 説明:戦闘は水を生み出し水流による切断や霧による目くらまし、水面を展開し屈折の容量で魔法を逸らしたり、虫眼鏡の原理で光を集約し光線を放ったりもできる。また、水を凍らせるたり逆に瞬時に解凍することも出来る。最大の大技として、空に海を作り上げそれを操って対象を閉じ込めた上で凍結させ、丸ごと砕き割る『シャーベット・シャッター』を使う。

 性格:知識を貪欲に求める研究者気質。冷静っぽい雰囲気は出てるが目的の為ならば障害は打ち払い理由は突き詰め、決して回り道をしない実直な性格。

 

 

・名前:ルミネ・シュネージュ

 得点:67点

 性別:女性

 容姿:色白で白の長髪の少女。襟にファーの付いた白いロングコートを着ている。

 一人称:私

 二人称:貴方

 能力:白亜の沈黙(ホワイトアウト)

 説明:触れたものから色を奪い、そのものの時を止めて、存在と状態ごと永久不滅のものにできる。色を奪う速度を自身で制御でき、その色の抜かれ具合で強度が変わる。たま色を抜いたものは周囲の色を少しだけ奪う効果がある。直接色を奪ったものは任意で返すことができ、間接的に奪ったものは時間経過で元に戻る。ちなみに、透明の物体から色を奪った場合はそれが白くなり、白い物体から色を奪った場合は変化しないが、ちゃんと時は止まっているという状態になる。なお本人も原理は理解していない。

 主に防御に用いるため普段は周囲の気体から色を少しだけ向いた状態で制御し、不意打ちや弱い攻撃を防ぎ、強力な攻撃が来ると透けるほど薄い布で攻撃と自身の間に布を広げたり自身を覆って色を抜くことで絶対防御を行う。攻撃は生物から直接色を抜いたり、持ち歩いている無数のビーズをばら撒くように投擲する瞬間に色を抜き、あらゆるものを貫通しどこまでも真っ直ぐ飛ぶ絶対的な攻撃をばら撒く。

 性格:可愛らしい見た目ではあるが、基本あらゆるものに無関心で、人と関わるのが苦手。大会では「1人になりたい」という願いを叶えるため参加している。オドオドとしたはっきりしない口調。

 

 

・名前:エトワール:スレイヤー

 得点:68点

 性別:男性

 容姿:紺色の長髪で、遠目なら女性の麗人に間違われることもある。白のワイシャツに黒いベストとネクタイ、スラックスというスタイリッシュな格好。

 一人称:俺

 二人称:お前

 能力:『幽冥の魔手(ファントムハンド)』

 説明:距離や障害を無視して対象に触れたり掴んだりすることが出来る。『魔手(ハンド)』とは言うものの足から触る事も出来るため、回避も防御も不可能の攻撃を直接叩き込める。なお影響力が上回れないものには、簡単なことしかできない。

 性格:基本刹那主義で他人からの評価を気にせず、自由で快活な性格。大会には「面白そうだから」と参加した。

 

 

 金矢さん

 

・名前:一色 空 (いっしき そら)

 異名:断ち切る者(ディバイダー)世界の旅人(トラベラー)

 得点 70点

 容姿:二枚目、黒目、黒短髪

 性別:男性

 一人称:俺

 二人称:君、(老若男女問わず)○○ちゃん

 能力:概念斬撃、測定眼、世界の扉

 説明:斬撃に関するあらることができる。あらることを正確に認識できる計測眼と合わせることにより、非実体特攻になり果てには概念までも斬り裂くことができる。あらゆる観測内座標に空間を繋げることができる。それは世界レベルにまで達しいるが、激しい戦闘で気軽に使えるほどのものではない。

 性格解説:様々な世界を渡り歩く、旅人。快楽主義者にして刹那主義者。多趣味で自称2020個の特技があり、類稀な直感を持ち非常に幸運、宝くじを買えば必ず3等以内が当たる。また賭け事が恐ろしく強いが、異常な程様々な事態に巻き込まれ、それを解決せざるを得ない状況に追い込まれる。それを持ち前の豪運と直感と縁と勝負感でなんやかんやで解決するが、そのせいで更に厄介事が舞い込むという悪循環。故に交友関係が恐ろしい程広くあらゆる世界の重要人物達とちょくちょく連絡を取り合ったりしており、事件に遭遇する悲運と縁などに恵まれる幸運が反比例している。普段はおちゃらけた三枚目だが、異常な状況に対する順応能力や清濁併せ呑む柔軟性を持ち、性別年齢国籍問わず友好関係を築ける懐の深さがあり人を惹きつける、ある種のカリスマがある。

 

 

 

 アスカさんの投稿キャラ

 

・名前 ミツヒデ

 得点 45点

 性別 女性

 容姿 金髪で紙は長く、普段は結んでいる。瞳の色は金色。

 身長 165

 年齢 17

 種族 人間

 異名 雷神の剣姫

 能力 雷電

 説明

 傭兵の忍び一族の頭領の娘。優秀な忍びであり、剣術と体術を得意としている。雷忍者と二刀流で戦う姿から雷神の剣姫と呼ばれいる。性格は無口で無愛想で無表情だか、根は優しい性格。傭兵の一族だか悪党の依頼は基本的に受けず、暗殺も悪党や犯罪者しか殺さない。一般人には基本的に手は出さない。

 

 

・名前 ユキ

 得点 45点

 性別 女性

 種族 聖剣

 容姿 銀髪で髪は短い。瞳の色は赤。

 身長 158

 能力 氷結

 説明

 古代人に作り出された氷の聖剣が人間の姿になったのが彼女である。人間になった理由は本人にもわからないらしい。天真爛漫でいつも明るく。色んな事に興味を持つ。並みに剣術は天才らしい。

 

 

・名前 オウカ

 得点 44点

 性別 女性

 種族 機人族 きじんぞく

 容姿 金髪で髪は長く結ぶでいる。瞳の色は黄色。

 身長165

 年齢 50歳[見た目は人間の高校生ぐらいに見える。」

 説明

 礼儀が正しく。誰に対してはも敬語を使う。

 いつも笑顔で優しい性格だか、昔はかなりの無表情だったらしい。しかし人間の男性に恋をし、その人と結婚してからは今のように心から笑えるようになったらしい。その男性は病気で数年前に亡くなっているが、現在の彼女はその人の分も頑張って生きよとしている。カナタという娘もいる。

 

・名前 カナタ

 得点 43点

 性別 女性

 種族 機人族 きじんぞく

 容姿 オウカに似ているが髪は短い。

 身長 158

 年齢17

 説明

 オウカの娘で機人族と人間のハーフの少女。

 真面目な性格で、かなりの努力家。母親のオウカのことを尊敬しており、いつかは母親を守れるぐらい強くなりたいと願っている。父親の命日には必ず母親のオウカと墓参りをしている。

 

・機人 きじんぞく

 生まれ時から体が機械で出来ている種族。ミサイル、レーザー、爆撃などの攻撃を得意としている。二槍流での戦闘を得意としている。

 

 

・名前 ヒメカ

 得点 45点

 性別 女性

 種族 火精霊 ひせいれい

 容姿 赤髪で髪は短い。瞳の色は赤。

 身長 165

 年齢 50(見た目は人間の高校生ぐらい)

 説明

 普段から無口で無表情であり、あまり他人と関わろとしないため、周りからは怖がられが、根は優しい性格。人間の男性と結婚しており、ヒヨリという娘もいるため、家族に対しては愛情があり、大切に思っている。その男性は数年前に病気で亡くなっているが、彼女はその人の分も頑張って生きよと誓っている。

 

・名前 ヒヨリ

 得点 44点

 性別 女性

 種族 火精霊 ひせいれい

 容姿 ヒメカに似ているが髪は長い。普段は結んでいる。

 身長 160

 年齢 16

 説明

 ヒメカの娘。火精霊と人間のハーフでもある。真面目でまっすぐな性格。努力家でありかなりの負けず嫌い。母親のヒメカのことは尊敬しており、母親のように強くなりたいと思っている。

 

・火精霊 ひせいれい

 炎魔法を操る精霊の一族。二刀流での戦闘も得意としている。体から炎を出すことも可能。

 

 

 

 SOURさんの投稿キャラ

 

・名前:リン・フォーファイム

 点数:46点

 能力:有幻影

 概要:自在に幻影を作り出せ、力を強めれば現実に干渉できる。あくまで追加するだけなので、見つかりずらくはできても明確にあるものは完全に消せない。

 容姿:全員が全員「蠱惑的で妖艶な狐の獣人」と答える容姿。首元に狐の紋様がある。

 説明:とある人物が生み出して解き放った数体の一人。元の世界では、獣人が住んている国の女王として君臨している狐の獣人で、物凄くあざといが女王としての品もある性格。とある人物の核の一部分+幻覚と有幻覚を操る事が出来るアイテム+瀕死だった狐+魂の無い人口生命体(人間)

 

・名前:海林(かいりん) 

 称号:機械仕掛け女神

 点数:46点

 性別:女

 容姿:全員が全員「超ドSな美しい女神様」と答える容姿。両方の瞳に歯車の紋様がある。

 能力:武装作成

 概要:銃器や装備品及び上記の能力に必要な道具と弾の作成能力。

 説明:とある人が生み出して解き放った数体の一人。普段は様々な場所に移りながら傭兵家業を営んていて実力主義者な性格。とある人物の核の一部分+永久機関+容姿の元となった人形+常に発達するAI

 

 




~おまけ~

・名前 狸塚 魔魅(たぬずか まみ)
 得点 100点
 容姿 全体的に茶色っぽく、長袖長ズボンにコートを羽織った普通の魔魅さん
 種族 獣人族(狸)
 能力 ???
 今回大会に参加することになった魔魅さん。沢山いる魔魅さんの中で、少し戦闘に寄ったタイプ。愛想よく大人しそうに見えるが、内心は好奇心と警戒心の塊。
 全ての能力がそれなりで、経験や技量がカンストしているバケモノ。こいつを基準に、点数がつけられている。


 投稿キャラは改変されている部分もあるとは思いますがご了承ください。こちらの世界観や他のキャラと対当に戦うための処置です。どうしてもと言う方は質問箱などに意見をお入れください。

 投稿者と読者の皆様、改めてありがとうございます。これからも本作品をお楽しみください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

慣れ始めた二日目
森の中を移動中……


 周囲を警戒しながら森の中を移動する観測者は、話しかけてきた秋奈の事を適当にあしらっていた。

 

「ふむふむ、王と言うのはそういう事だったか。という事は、ワレも実質王と言う訳だな」

「多分な……」

 

 観測者の説明した王と言う概念に、神妙な顔をする秋奈。それを見た観測者は、大体合ってるしそれっぽい事言ってたくせにわかってないかったのか、と思っていた。

 

「そういやお前は、ちゃんと探知使ってんだろうな」

「何を言う!勿論だ!最大範囲では使っていないが、六キロ先までわかるぞ」

 

 標的を探す手伝いをさせている観測者は秋奈にそう言う。それに対し当たり前だと言う秋奈だが、いくら秋奈が探知が得意とは言え、流石に常に最大範囲で使うことはできない。集中しなければせいぜい半分程度が限界だ。

 

「能力もなしによくそんなに見えるな」

「見ると言うより感じると言ったところだ。それに所詮は単なる技術の一つだ。能力者にはかなわん」

 

 大体わかると言うだけで、専用の能力者のように細かく把握したりはできない。というか能力者相手に同分野の技術で優ることはできない。なので誤魔化す方法などいくらでもあるし、何なら能力や道具を使われれば比較的楽に突破される。

 

「それ意味あんのか?どうせ見えない相手には通じないぞ」

「あるに決まっているだろう!不意打ち防止とか周囲の把握は勿論、やっているだけで相手のリソースを割けるのだぞ。要はムダなことをさせて隙を作りやすくできる」

 

 通じる相手であれば見放題だし、通じない相手であっても、それ対策のために相手の手札が一つ潰れる。それに相手が少しでも隙を見せれば、そこから芋づる式に見つけ出すこともできるので、ムダにはならない。

 

「いやだからっていくら何でも範囲広すぎな気がするがな」

「感知系は、いくつかあるのだ。探知は範囲型で、遠距離からの攻撃用だ。上位の射撃者なぞ、射線が通れば、下手したら障害物を無視して超遠距離から攻撃してくる。これを張っておかないと対処できんわ」

 

 大会参加者クラスとなると、十数キロ先から攻撃ができ、それが0,1秒も経たずに飛んでくる。それの対処のためであり、例え相手が探知外から攻撃してきても、攻撃そのものが探知内に入れば対応可能だった。

 

「因みに他のは?」

「基本だと全部で、感知、探知、察知、把握だ。前から、普通のと範囲型、意識外の対応用、精度重視と色々ある」

 

 その他、各自の感覚を特化させたようなものから、第六感のようなものまである。能力者や種族によって使い方や組み合わせが異なるので、まさに千差万別と言える数の技が存在する。

 

「意外にちゃんとしてんだな」

「当たり前だ!これができないと相手の動きが把握できないだろう!不利にもほどがあるぞ!」

 

 秋奈からすればこれぐらいできて当然なのだろう。観測者からすれば、すでに弱めの能力者の域である。

 

 

『この子達、できることの基準がやけに高いからね。そのせいで戦闘は相当ハイレベルよ』

(だろうな。戦ってみてわかった。それにこんなけ話しているのに、探知どころか他の感知系も全部が常に張りっぱなしだ)

 

 目の前の着物を着た厨二病は、リアクションも大きく油断も隙もあります見たいな風貌なのに、実際のところはその逆で、いつでも対応できるように動いている。

 

「どうやって使ってんだ?」

「どうって……見ればわかるだろう?」

 

 不思議そうな顔をする秋奈に観測を使用する観測者だが、見えるだけで複雑すぎてすべてを理解できていなかった。正直表面を見ているだけで、まるで高度な文明のある星に張り巡らされたインターネットを見ている感じだ。

 

「まさかわからないのか?見えてるのだろう?」

「見えるだけだ。理解は別だ」

 

 観測は見る能力であり、理解力は自前である。見えることによって分析や解析を行っているだけで、自動で理解したりしているだけはない。

 

「あ~、なんて言えばいいんだろうか?こう全身で感じると言うか、思考で理解すると言うか……」

 

『この子達は基本見て経験して覚えてるから、誰かに教えるの苦手なの。説明求めても専門家とかじゃない限りちゃんとした答えは出せないわよ』

(これ見りゃなんとなくわかる)

 

 秋奈は上手い表現が出て来ず、頭を悩ませ唸る。それを見た観測者は説明は無理そうだなと諦め

 

「ダメだ!教えた事も教わったこともないことを伝えられるか!」

 

 同時に秋奈も無理だとさっさと投げ捨てていた。

 

「すまぬが見て覚えてくれとしか。どうせなら力を流し込んでやろうか?そっちの方が速そうだ」

「遠慮しとく」

 

 観測者と秋奈の使っている力の流れは違う。何ら質など違いを上げればきりがない。これは世界や個人で変わるので仕方がないのだが、ある程度なら調整できるよ、という意味で言っているのだ。

 

「まぁ不快だからな、アレは」

「不快で済めばいいんだがな」

 

 違う力を入れられるのだから不快極まりないだろう。それを利用して流れを自覚させるのだから当然だ。

 

「流れがわかれば相当楽になるのだがな。残念だ」

「俺だって独自の流れはある。お前ら乱入者に比べれば雑多かもしれないがな」

 

 他の参加者に比べれば上等だが、乱入者に比べると見劣りする程度の質だ。なぜなら覚えるにしたって知識も経験も足りないのだ。そして手っ取り早い方法も今断ったばかりと言う。

 

「まぁちょっとずつ学んでいくさ。だからお前にも多少戦ってもらうぞ。俺が観測できるまでな」

「よいぞ。そのためにこの大会に参加したのだからな」

 

 一番の観測対象は隣にいる。時間はかかるが紐解けるし、現在進行形でそれを行っている。多少点を取られても、乱入者の力と一般流を完全に使い熟す技量が手に入ればお釣りがくると踏んでいた。

 

「ってことでさっそく見つけたからそこへ行くか」

「む、ああ、10キロ先か。これは中々、いいだろう。しかと見てよく学ぶと言いワレの実力をな」

 

 ニヤリと笑った秋奈は、瞬動で標的の元へと移動し、観測者もそれに合わせて瞬動を使ったのだった。

 

 




 ~おまけ~
・能力と技術について
 同等の相手であれば、技術はどうやっても能力に敵わない。それをやるためだけに能力を高めた相手(特に特化型など)と、誰にでも使える技術では、その差は埋められない。
 ただし総合という面で敵わないだけなので、使い方によっては敵う場合があるが、それもまた同じことをされたら一からやり直しである。

・力の流し込み(循環)
 流れを教えるためだとか、仲間の回復用の技、または体調不良を強制的に治す民間療法としても使われる。他人の力が入ってきて大丈夫?となるが、全然大丈夫じゃないし、凄く不快になる。悪用すれば他者の体内から、ズタズタに体を破壊できる危険極まりない技。でも大丈夫、これを敵に使うぐらいなら殴った方が速いから誰も攻撃技として使わない。なお似た技はあるので対策自体は取られている模様。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

秋奈の実力

 森を駆け抜け標的を見つけた秋奈は、剣を持った空色髪の少女の前に堂々と出た。

 

「ワレの名は四季 秋奈!四季旅館、四姉妹の三女!秋の間の王である!ワレは貴様に勝負を申し込む!いざ勝負!」

「え!?なっ!?」

 

 そして名乗りを終えた秋奈は、さっそく相手に向かって攻撃を仕掛ける。

 

「ッ!?いきなりね!」

「そうでなくてはな!」

 

 見せるための戦いな為、秋奈の獲物は観測者と同じ刀となっており、剣と打ち合って距離を取る両者。

 

「70点ね。しかも乱入者だけあって不意打ちも得意なのかしら?」

「すまないな。わかってると思っていたのだ。次からは気を付けよう」

 

 挑発を挑発で返す秋奈は、澄ました顔で少女を見る。両者は警戒しているようで、どう攻めようかを相手の様子を見ながら慎重に考えているようだ。

 

(相手は70点の神系の存在か。名前は神薙 香菜。能力は蒼天と漂白。剣術と体術が得意で実力も確かに高いが……)

『秋奈ちゃんとどれだけやり合えるのかしらね?初撃はギリギリっぽかったけど』

 

 隠れて様子を見ている観測者は、羊さんと話しながら大人しくしていた。二人の見立てでは、神薙が秋奈に勝つのは難しいと踏んでいるようだ。

 

 そうしている間にも目の前の二人は動き出し、先手を放った秋奈の斬撃が神薙を掠める。

 

「剣を持っているという事は剣術が得意なのだろう?さぁ存分にその剣捌きを見せてみよ!」

「ッ!?」

 

 次々に繰り出される剣戟にギリギリで対応してくる神薙は、焦りながらも形勢立て直そうと必死で剣を振るう。だが秋奈の方が一歩先を行っており中々立て直せないでいた。

 

(秋奈って剣術も行けたんだな。それらしい記憶はなかったはずだが)

『得意武器が鎌ってだけで基本何でもできるのが常識よ。どれだけ戦ってると思ってるのよ、あの子たちが』

 

 得意武器以外をわざわざ使い必要がないと言うだけで、別に使えないわけではない。それに狭間の住人とそれらの戦闘の常識が違うと言うものある。

 

「やるではないか。剣術に関してはそちらが上か」

「じゃあなんで上回れないのよ!」

 

 どうにか立て直して距離を取った神薙はそう叫んでいた。

 

「む~そうだな。まずそんな見え見えな攻撃は、対処できて当然だと思わないか?こんな感じに……」

 

「なっ!?」

 

 一瞬で秋奈の姿が消え、寸前で突き出された斬撃をどうにか逸らす神薙。

 

「分かりずらい攻撃でなければいけないな。あと、そこ隙だらけなので殴らせてもらったぞ」

 

「グハッ!?」

 

 強烈な腹パンをくらい木に叩きつけられる。それはまるで見せつけるように、まるで参考資料のような戦い方だ。

 

「ほ~、即座に斬り返しとは見事だな」

「見切ってから言うんじゃないわよ!」

 

 これも観測者に見せるためなのだが、それは逆に神薙にも力を与える。同じことを、自分の才能とセンスと経験を織り交ぜアレンジして即座に死角から放ったのだ。しかし秋奈はひょいっと簡単に避け、打ち合いが始まる。

 

 

(才能を経験で簡単に埋め合わせてくるか。それと一つの技術に頼り切っていないから何でもできると。ヤベェな、あの時戦ってたら無傷じゃいられなかったかもしれん)

『倒せる自信はあるのね』

 

 隙の無さを重視する狭間の住人は、その対応能力が異常に高い。秋奈にとって刀とは、あまり使ったことがなく使い手を見ていることの方が多い武器なのだが、実力の大半が才能に依存している相手であれば、簡単に埋め合わせできる程度には使い熟せるのだ。

 

『そもそも武器と体の特徴とか扱い方を知ってれば、大体使い熟せるのよ。そこに経験とかが入るから同格以上相手には、得意武器とか戦術以外使わないだけでね』

(確かにな。大体できても細かいところで足元掬われるから使わないのか。で、あれは、相手の動きが明確に見えるから才能の差を気にしなくていいと)

 

 秋奈は見えているから、神薙の方が剣術の腕前は上だとわかったのだ。同時に見えているからこそ、どんなに剣術が上手くても、どうにでもなると言っているのだ。

 

『神薙は秋奈より速く動けるわけでもなければ、身体能力的に優れているわけでもない。才能とかセンスで上回っていても見え見えだから脅威にもならないし、逆に秋奈の方がそれを学んじゃうのよ』

(能力を使えばと言えば話は変わってくるだろうが、使える状況には見えないな)

 

 秋奈と神薙の両者は、当たり前だが相手の能力がどんなものなのかは知らない。だが感知能力に軍配がある秋奈の方が有利であり、少しでも怪しい動きが見られたら即座にその手を潰しているのだ。

 

 そんなことをしていると、秋奈は追撃を止め

 

「剣術の戦いはこの程度でいいだろう。能力を使ってみるといい」

 

 待ってあげるよ、と無防備になったような態勢を取る。勿論そう見えるだけで、実際のところは隙などあってないようなものであるが。

 

 

「使わせてくれなかったくせに、今更なに?見下してるのかしら?」

「いやいや、そのようなつもりはない。ただ折角だし見ておこうと思った次第だ。なに、能力だけではなくゼンリョクで来てくれて構わないぞ。さっきのは単なる準備運動のようなものだろうからな」

 

 一見挑発しているように見える文言だが、秋奈は本当にそう思っていた。そもそも秋奈は、能力の使用を邪魔しているつもりも見下しているつもりもない。ただ相手は剣術だけで戦ってきていると思っており、秋奈はいつも通り戦っているだけに過ぎなかった。

 

「そう、じゃあ今度こそ本気で全力で行かせてもらうわね」

「それは楽しめそうだ。ワレもそれに答えてゼンリョクを出すとしよう」

 

 秋晴はすでに大体の技を出しており、神薙と観測者にはわかってもらえただろうと判断し、刀を鎌に変える。それを見た神薙は少し表情が歪みかけるが、すぐに戻しゼンリョクの戦いが始まるのだった。

 

 




 ~おまけ~
・厨二病あるあるについて
 大半の狭間の住人は、不意打ちじみた攻撃をやることが当たり前となっている。隙を見せるような行為は、“来てください、狙ってください”と言っているようなものなので、“それぐらいわかってるんだろうな、対処できるんだろうな”と言う感覚で攻撃してきます。
 ですが厨二病や自分が強者だと思っている奴はそんなことはしません。真正面から戦うことが多いし、中には攻撃を全て受けてくれる奴もいます。でも秋奈のように名乗りを上げるのは珍しい方。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

やる気のでない戦い

 神薙が能力を使った瞬間に

 

「蒼天世界!」

 

 景色気が一変し、晴天で青空がどこまでも続く草原のような世界が展開される。それと同時に神薙の全能力が大幅上昇し、神性の混じった莫大なオーラが炎のように噴き出ていた。

 

「凄まじいいオーラだ。羨ましいぞ、貴様」

「そう言うあなたはこじんまりとしてるのね」

 

 神薙に比べ秋奈は、非常に小さい気を纏っている。それはよく目を凝らさないとわからないほどに小さく、出ているものも薄いものだ。

 

(あいつ相手のオーラを見てどれだけ強いかわかるのか。あいつのいる世界の基礎技術みたいだな。まぁここじゃ大して役に立たん技術だが)

『そうね。見た目だけでわかる程あの子たちは甘くないわよ』

 

 神薙は見ただけで大体相手の基礎スペックがわかってしまうようだ。だがそれはあくまで目視と見破れた部分だけに依存する。それにあくまで基礎と言う名の最低値なので、技量などは含まれていない。

 

(持久戦で勝てるとでも思ってんのか?)

『まぁ見てればわかるわよ。外でゆっくりしときましょ』

 

 因みに観測者は能力の範囲外扱いで中には入れなかったが、その分ゆっくりできるからいいかと考えていた。

 

 そして明らかに素の力に差がありそうな二人は、武器を構えたままジリジリと距離を詰めて……

 

「はあぁぁ!!」

「いざ参るっ!!」

 

 一気に剣と鎌を交える。

 

 

(あいつ、あれだけのオーラをちゃんと扱えてるのは凄いな)

『過剰量を精密に操るのは難しいからね』

 

 激しい攻防を見ながら、そうもらす二人。どうやら神薙は見た目以上に凄いことをしているようで、オーラの操作精度からそれの応用なども完璧に使い熟しているらしい。それも強化され本来の限界を超えた状態でである。流石は天才と言ったところだろう。

 

(でもその割には攻めきれてないな。経験の差もそうだが、あの密度の差か?)

『まぁ、そうね。狭間の住人の密度は、多元存在の中でも飛びぬけて高いからね』

 

 先ほどと変わらず経験で凌駕されており、更にはギリギリ届いた程度の攻撃では、秋奈の体に傷をつける事さえできていなかった。

 

(相性も悪いな。戦闘スタイルはさて置き間合いが合ってない。ありゃなんにもできないかもな)

『体力も効率も段違いだし、持久戦も無理ね。あの子はいつも通りもっと攻めねきゃ勝ち目ないわよ。まぁできないのだろうけどね』

 

 パッと見、鎌をもって素早く動き回っている秋奈の方が体力の消耗が激しそうに見えるが、実際のところはその逆で、受け身で動きが少なそうな神薙の方が消耗が激しかった。理由は簡単で、不得意な状況に持ち込まれ続ければ嫌でもああなるだろう。

 

(狭間の住人に消耗戦は愚策か)

『狭間の住人に限らず、多元存在に消耗戦は愚策よ。使い熟している者なら特にね』

 

 多元存在は消耗しずらく、かつ回復力が異常だ。一時間かけて削った体力を数分で全回復させ、調子を戻すだけなら数秒もかからない。消耗戦に持ち込みたいのなら、一瞬の隙も与えずに攻め続けなければすぐに回復される。

 

 そんな考察をしている二人をよそに、秋奈は神薙へと語りかけていた。

 

「おいおい、なんだその体たらくは?もっとゼンリョクをだしてみろ。ワレはまだ技の一つも出していないぞ!」

「ッ!?うるさいわね!!」

 

 一発一発が重く素早い上、武器の性質的にも不利だ。なんせ能力で作り出されているために、攻防の度に調整されて間合いが簡単に変化する。そのせいで漂白も間に合わず、秋奈にはなんかされてるな?程度にしか思ってもらっていない。これではいくら天才の神薙でも苦戦を強いられていた。

 

「そこっ!やるならちゃんと突き放せ!中途半端にするな!」

「あなたのせいでしょ!?」

 

 なぜかアドバイスをしだす秋奈。それに合わせて必死に対応しようとする神薙だが、アドバイスを越えられず一歩先をいけないため戦況はよくならない。

 

「ああぁ!じれったい!貴様はもっと攻めに転じると思ってわざわざ近づいたのに!?何もできておらんではないか!どうなってるのだ!?」

「だからあなたのせいでしょうがッ!!」

 

 最低限は抑えているとはいえそれだけで、あとはわざわざ相手の得意分野で仕掛けているのに、しかもわかりやすく動きを見せているのに、秋奈の想像通りにならない。もっと白熱した楽しい戦いになる予定だったのに……

 

「だったら!その能力、遠距離攻撃もできるであろう!あと空飛んだりも!それを生かして見せよ!」

 

 そう言い、一応手本代わりに打ち合った瞬間に衝撃波で神薙を吹き飛ばす秋奈。

 

「言われなくてもしてやるわよ!」

 

 それに合わせて空に飛び上がり、光線を大量に飛ばし始めた。

 

「そう来なくてはな!」

 

 そう叫ぶ秋奈は、光線を回避し弾きながら楽しそうに戦闘を続けるのだった。

 

 




 ~おまけ~
・狭間の住人は、教えるのが苦手だが、悪いところの指摘は得意。だがやり方が下手なので分かりづらい。
 あと戦闘は相手の手を潰すのが当たり前になっているため、格下との戦闘では激しくなりずらい。秋奈は頑張っていたが、癖でああなってしまっている。てかこれぐらい超えてきて欲しかったと思っている。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

楽しい戦闘

 神薙を突き放した秋奈は、高速で移動しながら光線を回避し続ける。

 

(さて、どうしてやろうか?遠距離ではあちらが有利。場を乱すのは忍びないし面白みに欠ける。ではッ!!」

 

 勢いよく急な方向転換をし神薙の方を向いて、それと共に両手に小さな鎌を生成し

 

旋回する小鎌(スピン・オブ・サイズ)!!」

 

 超高速でブーメランのように小鎌を神薙へと投げつける。

 

「ッ!?」

「その程度か!」

 

 的確に首と胴体を挟み撃ちするかのように投げられた小鎌を急いで回転して回避する神薙だが、気が付いたたら目の前にいた秋奈に腹を殴られて吹き飛んでいた。

 

「超高速移動の瞬動と空間移動の空動だ。空にフィールドを移したからと言って油断してくれるなよ?あの程度一瞬で距離を詰められるのだぞ。こうやってな!」

 

 成長せんとまた殴られるだけでは済まない、次は確実に首を刈り取ると大鎌を生成し、体勢を取り戻した神薙に襲い掛かる。

 

「は、早すぎる!」

「当たり前だ!貴様の認識の隙間を縫っているのだぞ!早いに決まっているだろう!」

 

 攻撃に瞬動を混ぜているので、異常に攻撃速度が速い秋奈。その仕組みは、ただでさえ速い瞬動を、相手の認識の隙間に使っていることによって起きる現象だった。これにより、相手がどれだけ速く動けようが関係なく速いと思わせることが出来るのだ。

 

 

「光線に風ばかりとは芸のない!」

「グッ!」

 

 無数に発生する光線と暴風をすり抜け大鎌で殴り飛ばす。

 

「乱動。存在を乱してブラしたり分散させたり、極めれば未確定化させ、あらゆる障害物をすり抜ける技。そして攻撃に転じさせれば今の貴様のようになる」

 

 存在を揺さぶられ、気分が悪くなったのか顔色を悪くする神薙。だが次の瞬間には回復し、接近戦で斬りかかって来ていた。

 

「なっ!ガハッ!?」

「無動。攻撃を相殺する技だ。極めれば存在を固定化させ、あらゆる攻撃を無傷で受けきる技となる。それを攻撃に転じさせれば、わかるな?」

 

 剣を逸らされるとともに秋奈の拳が炸裂する。神薙は非常に重く硬いものに殴られたかのような衝撃を顔面に受け、意識が飛びそうになっていた。

 

「ああ、すまない。重撃も混ぜていた。つい癖でな。混ぜて使うのが当たり前なんだ。こっちでは」

 

 そう言いながらすぐに回復した神薙の斬撃を回避する。

 

「にしても弱い。回復力が上がっただけか?すべて脅威になりえない。もう少し真面に戦ってくれないか?」

 

 喋る余裕もないのか答えない神薙は、上がった力と比例して雑になる剣戟を秋奈にぶつけようとする。しかし当たり前だが、その程度では掠りすらしない。

 

 

「む?掴むか?それで……!?」

 

 詰まらないと鎌を振り首を飛ばそうとしたが、なぜかズレて掴まれてしまう。すると秋奈の鎌が真っ白に侵食されて朽ち果てた。それに驚いた秋奈は咄嗟に距離を取る。

 

「少し驚いた。できるではないか」

「チッ、あと少しだったのに……」

 

 ここにきて秋奈は初めて漂白の存在を知った。そして周囲の異常にも気づいた。どうやら愚かな行動を取っているフリをして準備していたようだ。

 

「感知を狂わせに来たか。それにその力、流石のワレでも長くは触れてよくなさそうだ」

「見えるから強いんでしょ?だった分からなくしてあげるわ」

 

 そう言った瞬間に神薙の姿が消え、背後を取られる。それをギリギリで回避し、反撃で再度生成した大鎌で攻撃を仕掛けるが、神薙は煙のように消える。

 

「錯覚か!」

「分かってるじゃない!」

 

 風、光、空間、世界、そのすべてを使って秋奈を騙し攻撃を仕掛け続ける神薙。だが大変そうだが、凄く楽しそうに対処していく秋奈。その速度は増し続け、抑えきれなくなった衝撃で二人は吹き飛んでいた。

 

 

「分かりにくいぞ!ではこちらも技を使わせてもらおう紅葉舞い斬り(オータム・リーブス・ダンス)!!」

 

 ここにきて秋奈は秋の力を纏いオレンジ色の紅葉のようなエフェクトを纏い、緩急を付けつつ一気に距離を詰め大鎌を振るう。

 

「負けないわよ!」

 

 エフェクトと残像をまき散らして、踊るように鎌を振る秋奈にギリギリで付いてくる神薙。だが増え続けるエフェクトは視界と感知の邪魔をして神薙の体に少しづつ傷が増えていく。

 

「おおっ!打ち返すとは!霧覆う炎爆(フォギーバーン)!」

 

 単純な剣術で打ち返され、驚きながら残ったエフェクトに手を加えいきなり大爆発を起こしていた。そしてその中から神薙が高速で飛び出して来て、大鎌で受け止め漂白が届く前に大鎌を捨て新しい鎌を作る。

 

 

「天神流っ!」

「遅い!降り月(ダウン・ムーン)!」

 

 上に逃げた秋奈に追撃を仕掛けようと構える神薙だが、その前に鎌が投げられ急激に巨大化する鎌を回避する。

 

「瞬天!」

「っ!?霧隠れ刃(ミスト・ヴェール・ブレイド)!」

 

 一瞬で距離を詰め、秋奈にその斬撃が届きそうになるが、咄嗟に小鎌を出して斬撃を放ち、神薙の目の前に霧のように広がり軌道を逸らしてた。

 

首切り鎌(デス・サイズ)!」

「避天!」

 

 

 スレスレの状態で首を狩りに行く秋奈だが、鎌は空を切り少しズレた位置から神薙が現れ、連撃を叩き込まれた。

 

 

「無動か!」

「分かってるじゃないか!秋斬り(オータム・スラッシュ)!」

 

 それを腕で防ぎ切った秋奈は、鎌を腕から生やしそれを思いっきり振りぬいた。それは神薙に当たらなかったが世界が切れ、その隙間から秋の風景が広がる世界が見え広がっていく。

 

「う、うそ!私の世界がっ!」

「余所見するな!」

 

 一瞬意識がズレた瞬間に鎌を振られそれを神薙が受け止め吹き飛ぶ。

 

 

「力が!こうなったらっ!蒼天漂白砲っ!!」

 

 吹き飛ばされながら、自身の力が減衰するのを感じた神薙は即座に大技を秋奈に向けて放つ。それは人一人覆いつくせそうなほどの巨大な光線だった。

 

「そう来るか!ならな!秋季爆解砲(オータム・ブラスト)!!」

 

 凄まじいエフェクト共に力が集まり、その力が展開した結界内で暴発寸前まで高まり光線として放たれる。

 

「「ははぁぁっっ!!」」

 

 二人の光線がぶつかり、世界を白く塗り潰す。

 

 そして――

 

「随分と楽しませてもらったぞ!」

 

 世界が秋一色に塗りつぶされたと同時に秋奈の力が勝ち、神薙は光の中に消えたのだった。

 

 




 ~おまけ~
・秋奈の技について
 かっこいいから技に名を付けて放っている。しかも出す前に相手に伝わるように声を出している。ぶっちゃけムダな工程だが、ロマンに勝るものはないのでやり続ける。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

巻き込まれたようだ

 観測者が秋奈と神薙の戦いを眺めていると、ふと大地と大空に何かを観測し、そちらに目を向ける。

 

「ゴーレムと怪物か。こりゃ大規模戦闘になりそうだな」

『同意見ね』

 

 遠くの方に見えたゴーレムは、大地を取り込みながら大空へと手を伸ばし、恒星のような火球に手を突っ込む。だが次の瞬間にはその腕はドロドロに溶けて大爆発を起こし、周囲へとまき散らかされていた。

 

「こっちに来るな」

『そうね』

 

 山のようにデカいゴーレムがドロドロ粉々になりながら、観測者の方へと飛ばされてくる。それを――

 

「ほいっと!」

「うおっ!?」

 

 飛斬で真っ二つにして退けていた。そして中から、黒目黒髪でボサボサ頭の目隠れで長袖長ズボンのジャージを着たデカい男が飛び出して来て、地面にぶつかる。

 

 

「取り込めなかった!?」

「随分と派手にやってるみたいだな。お前」

 

 能力を使い観測者の攻撃を取り込もうとした男だったが、それが通じず急いで刀を向けてくる観測者から距離を取る。

 

(はぁ!?90点!?あのバケモンと同じじゃねぇか!なんでこう格上ばっかりとッ!?)

 

「とりあえず退場しとけ」

 

 観測者は男の思考を読みながら、首を斬り飛ばそうと斬撃を放つ。だが男は地面に潜り込み事なきを得ていた。

 

「能力は分かっている。あいつの相手もあるんだ。さっさとケリを着けさせてもらうぞ」

 

「その調子だと弱点もわかってんだろ!ふざけんな!」

 

 同化した地面を操り攻撃を仕掛ける。だがそのすべては地形ごと斬り刻まれ、スレスレで逃れた男は更に同化と侵食を広げて大規模な地殻変動を開始していた。

 

「陣地作成の要塞型能力。言ってしまえば迷宮化みたいなもんか。それにあらゆるものの吸収能力か。吸収量に限界があるのがせめてもの救いか」

『鉱人族と迷宮族に似てたからそれを参考にして調整したのよ。能力は侵食迷宮ね。非実体にしてるからコアとか本体はないけど、分ければ分けるほど性能は下がるわ。倒すには形を保てなくなるまで消耗させればいいわ』

 

 観測者の集めた情報をまとめて、上手く作ってるでしょ?と誇らしげな羊さん。それを聞きながら、呆れと恐ろしさを感じる観測者は、迫りくる地形の波状攻撃を斬り刻み、的確に力の流れが大きい場所を断ち切っていく。

 

 

(くそ!全部筒抜けかよ!消滅とかじゃなきゃ死なないと思ったのに!)

 

 男は、樽井 大祐は心の中でそう叫ぶ。惑星クラスのストックと無敵に思える力を手にしたのにも関わらず、最初に築いた拠点は範囲攻撃で消し飛ばされ、逃げ隠れていた所にあの化物に出くわした挙句、飛ばされた先にはそれと同等の観測者に命を狙われていた。

 

(運が悪すぎる!いや、ここに参加してる奴が化物すぎる!)

 

 樽井は、優秀な能力にものを言わせた物量と戦略を得意とする奴だ。こちらに来てから戦闘手段は増えたものの、戦闘における技術やセンスはからっきしであり、目立った才能の一つもない凡人である。なので、強すぎる能力や才能、経験による高すぎる技量などが当たり前なこの大会では少し見劣りするのだ。

 

 それでも――

 

「めんどくさすぎる。75点は納得の評価だな」

『逃走も補給も許さず削り続けるあなたの方が凄いわよ』

 

 際限なく巨大化したり、圧倒的物量で押し潰すことが出来るのは脅威だ。50点台程度であればこれさえあれば事足りるし、同格以上相手にも相性が良ければそこそこ戦え、逃げきることも容易だろう。

 

 こんな奴らに出くわさなければだが

 

「チッ!来たか!」

「来るなよ!」

 

 空から高速で飛来した者は、一瞬でうねり狂う森を更地にしたのだった。

 

 




・投稿キャラを使わせていただきました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大規模戦闘の予兆

 細長い人型のような人外が降り立った。その見た目は、枯れ木の世に細い体に腕がしなる鞭のようになっており、頭部には全方位に目のようなものがびっしりと付けているバケモノだ。

 

「まさに化物だな。防御を切り捨てて、攻撃と速度に特化した」

『まぁ、あれもあの恒星から切り離された一体に過ぎないんだけどね』

 

 目の前のバケモノは、空に輝く恒星から切り離された一部でしかない。要はこいつも非実体に近い性質の敵なのだ。

 

「しかも切り離したあいつに最低限の情報しか乗せてない。対策してやがるな」

 

「ふざけんな!このバケモンがっ!」

 

 観測者がそう思っていると、樽井が巨大なゴーレムとなり拳を振り落とす。その一撃は、目の前のバケモノを殺すに十分なほどの威力を秘めていたが――

 

「っ!?」

「こうなるよな」

 

 バケモノの姿が掠れ、一瞬で樽井の体が斬り刻まれ、地に返る。だが負けじと大規模的に地形を操り、取り込もうと四方八方から攻め立てる。

 

「なんて速度と攻撃力してやがる!取り込めねぇ!」

 

 しかしどうやら速度に差がありすぎて捉えきれず、次々に斬り刻まれて終わっていた。

 

 

(さてどうするか。樽井は取り込むものがある限り死なないし、あの化物も恒星を落とさないと勝負にすらならない……落とすか)

『そうするのね。そうしかないか……』

 

 それに巻き込まれながら観測者は考える。そして思いついたかのように飛び上がり、高速で軍刀を振りぬいた。

 

「!?」

「貰った!」

 

 それにより飛斬が飛び、恒星を真っ二つに斬り裂く。同時に本体を攻撃された事に驚いたバケモノは気を取られ、樽井の攻撃に体を削り落とされて、抵抗虚しく物量により地形に埋もれて取り込まれていた。

 

「くそっ、生物は専門外だ。複製すら……」

「おい、来るぞ」

 

 樽井が取り込んだバケモノを確認しようとした瞬間に、観測者がそう言う。すると光が消えた恒星が一人の人物に圧縮されて、二人の元に落ちてきていた。

 

 同時に世界が夜明けのように薄暗くなり、本来の時間に戻った。

 

「な、なんだありゃ!?」

「わからないのか?お前が倒した化物の本体だ。あの中には奴が食ってきた幾千万もの世界とそれ以上の生命が内包されてる。流石は次元生命体の一体だな」

 

 歪んだ闇を纏ったような服装に黒長髪ストレートの美女の姿となった次元生命体は、凄まじいい覇気をばら撒きながら空中で二人を見下ろす。

 

 

「無様に逃げ回るだけに飽き足らず、共闘して余を倒すにかかるとはな」

 

「別にそんなんじゃねぇよ!」

「なんでもいい。お前は始末する」

 

 そう叫びながら何か準備する樽井。それに対し観測者は、飛乱斬で嵐のような斬撃を浴びせるが

 

「甘く見られたものだ。一度受けた攻撃が何度も通じると思われるのは」

 

「やっぱバケモンじゃねぇか!」

 

 すべて次元の闇の中へと消えてしまう。

 

 だが……

 

「分かった。お前は殺せる。問題ない」

 

「言ってくれる。二人まとめてかかってくるといい。せいぜい余を楽しませ、満足させるがよい!強者共よ!」

 

「俺もかよ!」

 

 観測者の観測が終わり、ケンカを買った次元生命体は二人に襲い掛かり、樽井はツッコミながら嫌な顔をし、周囲が削り取られ大爆発するのだった。

 

 




 アンケート出してみました。個人的に気になったからです。ぜひ回答をください。
 アニメとか漫画とか他のネット小説だったらもっと強くて凄いキャラだっているでしょうから、こっちと比べたら……とかあるかなって思いまして

 自分としては、うちの作品はまぁまぁ強いかな?程度に思っています。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

大規模戦闘……だと思う?

 戦場を虫食いのように乱雑に発生する先の見えない幻想的な闇が通り過ぎた場所には、何も残らない。そこには虚無だけが漂う空間となり果てるのだ。

 

 そんな戦場を三人の怪物は動き回り、斬撃と衝撃波が響き渡る。

 

(強いな。これで弱体化してんのか)

『元は宇宙を喰らいつくす存在だからね。そして宇宙がなくなると、自分の体を別世界に切り分けて飛ばしてを繰り返す子だからね。その中の成長途中の子で、魔魅さんに一度叩き潰されて弱体化してるんだろうね』

 

 恒星クラスのストックと言ったが、それは次元生命体にとってまだ幼虫のようなちっぽけな状態でしかない。そこに魔魅さんにボコられ更に弱体化していた。

 

(あいつの記憶を見たが、魔魅さんはマジもんのバケモンだな。俺が戦っても確実に負けるぞ)

 

 次元生命体を一方的に殺し続けている魔美さんを見た観測者は肝が冷えていた。そして

 

 

『大会用の魔美さんなら勝てるんじゃない?』

「は――ッ!?」

 

「余所見とはいい度胸だな!」

 

 羊さんの言葉に絶句し、単調になったところを瞬間移動してきた次元生命体に一発喰らう。それにより抉れるような痛みと共に高速で殴り飛ばされていた。

 

「余所見はお前の方だ!」

「邪魔だ!」

 

 観測者に追撃をかけようとする次元生命体を掴み上げるように、地面から巨大な腕が生えて握りつぶされるが、次の瞬間にはドロドロに溶けて弾け飛んでいた。その上光線が四方八方へと飛び散り、先で大地が斬り裂かれ大爆発が巻き起こる。

 

 

(マジか!あいつ出てんの!?)

『主催者も出てるわよ。別に出ないとは言ってないし、ルール違反でもないし』

 

 思考をフル回転して、戦闘を放り投げて羊さんに話しかける観測者。それもそうだろう。乱入者だけでもギリギリの障害なのに、魔魅さんに主催者となれば優勝の確率はさらに低くなるからだ。

 

(いや分かってるけど、まさかマジで!?)

『マジよ。でも点数で勝てばいいだけじゃない?回避するのは得意でしょ?そんな風に』

 

 

 だが思考はすぐに戦闘へと引き戻され、飛来した瓦礫や刀剣などの武器の数々を回避し弾いていく。そして闇の先から見えた視線をの対処のために、次元生命体と戦っている樽井が出した巨大ゴーレムの上半身を粉微塵に斬り裂いた。

 

「うおっ!?死ぬとこだった!」

「即死系の魔眼か」

 

 次元生命体が使ったのは、目が合った相手が目を離せなくなる技と、その相手にあらゆる死を体験させ続けてショック死させる魔眼だ。それを観測者は横やりを入れて樽井を助けたのだ。

 

「チッ!ちょこまかと!」

 

 何度も邪魔され上手く攻撃が決まらない次元生命体は、物陰に隠れた観測者を空間から染み出した次元の闇で削り取ろうろするが、これも当たらない。それどころか、観測者が動き回りながら空斬で空間を斬り裂き、空間干渉の邪魔をされていた。

 

(近接戦を仕掛けて来ないのは、自分が劣っていると分かているからなのか)

『あの子にボコボコにされたのが効いてるんじゃない?』

 

 一定の距離を保った状態での攻撃を重視しているようで、次元生命体は頑なに近接戦を仕掛けて来ない。それは魔魅さんに近接戦でボコボコにされた事が原因であり、情報が見えない相手は慎重に戦う癖が出来たからだ。

 

「じゃあこっちから仕掛けるだけだ」

 

 物陰から出た瞬間に瞬動で一気に距離を詰め、軍刀が次元生命体の首を掠める。それを驚いた顔で回避した次元生命体は、次の瞬間には観測者を見失い正面をバッサリと斬り捨てられた。

 

「これだから!ウザい!」

 

 地面に叩き付けられたところに樽井の地形操作が襲い掛かるが、植物のようなものが急速に生えて地形を飲み込み押さえつける。

 

「逆に吸い取ってくれよう!」

「嘘だろ!なんだこいつ!」

 

 その瞬間に樽井の悲痛な叫びが聞こえ、地面の中で支配権の取り合いが発生して大地が歪み揺れ動くのみとなる。

 

 

「次はキサマだ!」

 

 世界を動かすに足る程の念力が発生し、観測者のいる場所ごとねじ潰す。だが瞬動を使う観測者を捉えきれずに、念力は斬り裂かれてしまう。

 

「ガッ!?」

「逃げんなよ」

 

 瞬間移動で距離を取ろうとするも、行き先が把握されているため先回りされ普通に斬り裂かれる。そして怯んでいる隙に数太刀入れられ、最後には顔面に拳を叩き込まれ、形を保っているだけと化す。

 

「キ、キサマ!闇の中へと消えろ!」

 

 自分ごと次元の闇で覆い隠し、光の届かない世界が生まれる。そして溶けるようにすべてが消える。そのはずだったが……

 

「邪魔だ」

「ッ!?」

 

 一太刀振った瞬間に闇は消滅し、斬られ、殴られ、蹴り飛ばされた。

 

「なんだもう終わりか?」

 

(勝てない勝てない勝てない!あいつと同じだ!そんな未来ない!!なんで気が付かなかった!!何をしても何もできないッ!!!)

 

 次元生命体は体を治しながら高速で思考を巡らせる。未来を見ても、運を操作しても、現実を改変しても、毒をばら撒いても、大規模な攻撃をしても勝てない。ただ一番マシな未来を選択し続けてきた結果がこれなのだ。

 

「どうした?何もしないのか?」

 

「ヒッ!?」

 

 次元生命体は一歩近づいた観測者から離れるように下がる。それと同時に見えていた多くの未来が消失し、望まない未来へと収束し始める。あの時もそうだった。全く同じだ。未来視なんて、本当のバケモノたち相手には大した役には立たない。

 

 なんせ能力が完璧でも、使い手が……

 

「やっぱダメだな。じゃ終わらせるか」

 

「や、やめろ!余は!余はあいつにッ!!?」

 

 そして次元生命体が最後に見たのは、消えゆく自分の体だった。

 

 




 ~おまけ~
・未来を潰されるのって怖いよね。
 次元生命体は未来視とかを使いまくって戦っています。その他にも見えない所で運とか確率とか操っていますが、勿論観測者はそれを織り込み積みで動いているので、簡単ではありませんが上回れます。
 したことは簡単!有利になる未来を残して誘い込み、逃げれなくなったところで一気に相手の見ている未来を潰して、都合の悪い未来を押し付ける。それだけ!ついでにトラウマもあったから利用したのだ。

 やっぱ元の世界で圧倒的強者だと、同格や格上と対峙すると不利になるよね。だって足掻く手段なんてほとんど知らない訳だから。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

逃がしたし逃げた

 平原を秋奈と走り抜ける観測者。

 

「逃がしてよかったのか?」

「ああなっちまったら仕方がないだろ。手の付けようがない」

 

 自分の点数をチラリと見て、次元生命体の点数が加算されているのを確認する。それと同時に背後を確認していた。だが杞憂だったようで何も追いかけてきていない。

 

「まさかあいつが自我崩壊するなんてな」

「むう、どんな奴かはらからんが、さぞかし精神の弱い奴だったのだろうな。あの様子を見るに」

 

 秋奈が神薙を倒し出てきた時には、それはもう大変なことになっていた。訳も分からん怪物たちが闊歩し、無差別に攻撃をまき散らす惨状。そこで戦い続ける観測者にと、驚いて一瞬フリーズしかけた程だ。

 

「まぁ仕方がない。あいつのあの時の自我は、戦闘用じゃなかった」

「次元生命体と言ったか?そういうヤツはそうなるだろうな。少ないが何度か見たことがある」

 

 次元生命体の表面に出ていた自我は、何億と存在する自我の頂点であり、同時に戦闘用ではなく蹂躙用の自我だった。それが崩壊し制御がなくなったことで、次の自我を決める再編が起こり始めたのだ。

 

「根本は本能だが、登録されたのがあの自我だから点数入ったんだろうな」

「そうであろうな。無限にリトライできるのなら、ゲームとして面白みに欠ける」

 

 次元生命体の本能は、現在の自我では現状を打破できないと判断し、あの自我を捨てたのも大きな原因の一つだろう。だからあいつの見ていた未来では、自分が消えていた。それにより参加者以前にすべて終わったのだ。きっと次生まれてくるのは、すべてを引き継いだ別の誰かであり、フィールドモンスター扱いになるだろう。

 

「で、逃げたし逃げられたわけだ」

「それは随分と残念だったな」

 

 急に崩壊して襲い掛かってきた次元生命体は、まさしく怪物だった。更にそこで牽制用の樽井が逃げ出し、次元生命体が手をこまねく必要がなくなった。これにより攻撃手段が増えた次元生命体は、一番の脅威である観測者を排除にしにかかったのだ。

 

 

「で、どうするのだ?次の参加者を探すのか?それとも隠れるのか?」

「参加者を探すに決まってるだろ。優勝目指してんだ。手ごろな奴を先に倒しとかないと、厄介な奴しか残らないからな」

 

 決め手が欠ける観測者にとっては、後半になればなるほど倒しにくい奴しか残らなくなる。だから前半でどれだけ手ごろな参加者を倒して点数を稼ぐかが、勝負所になるのだ。

 

「一日は36時間。この大会は256時間だから、7日と4時間しかないからな。残り時間は、225時間で今は二日目の朝過ぎ。最終日は早めの昼過ぎと言ったところか。なんとも短い大会だな」

「説明どうも。戦闘と彷徨うので時間を消費しまくってる。特に吹っ飛ばされたのがデカい。あれのせいで計画が吹き飛んだ」

 

 吹き飛ばされた後に、ダメージを癒すのと、周囲の警戒を再度し直さなければいけなくなり、それなりの時間を用意していた。前者ははさて置き後者は致命的で、あそこ周辺は軒並み点数の高い者しか残っていなかったので、それを避けようとしたようだ。

 

「で、今は逃げる次いでに手ごろな相手を探している所だと?」

「そう言う事だ」

 

 秋奈としては面白みに欠ける事だが、事情があるであろう観測者にそれを言う程子供ではない。なんなら、自分は単なる付き添いでしかないのだから、口を出す気もない。

 

 ただ……

 

「不満か?」

「ワレからすればな。だが他者の意志を曲げる程ではない」

 

 観測者にはお見通しで、秋奈も聞かれたから答えた。しかし秋奈としては、狭間の住人としては、他人にもの申すと言うのは失礼な行為に値すると思っているので、あまり口に出すことはしない。

 

「お前らは人に意見とかは言わないのか?記憶を観測した感じそうは見えないが?」

「相変わらずデリカシーの欠片もないな。まぁそうだな。言わないことはない。だが深くは言及はしない。精々、疑問に答えてくれたらよいな程度だ」

 

 狭間世界には、様々な人種や環境で育った住人が居るため、誰と出会っても『そういうヤツもいるのか』程度の認識に留まる。なのでわざわざ他人の倫理観に踏み入った話をしないのだ。特に否定的な話はほぼしない。

 

「お前らには悪とか正義がなさそうだな」

「所詮は個人の感性だ。ぶつかり合いはあってもそれは善悪ではない。ましてや正義などどこにもありはしない」

 

 何はともあれ考え方が違うから争うのだ。そこに善悪や正義などはありはしない。

 

「合理や実益を重視する者もいれば、ワレのようにロマンを追い求める者もいる。妥協できないのなら決着をつけるだけ。間違いや正しさを言うなら、行動で示して証明すればいいだけだ」

 

 普通の狭間の住人はここまで考えない。良くて善悪程度だろう。だが秋奈は別世界の事を調べている側の人なので、観測者の質問の意図を汲んで答えた。

 

「罪とか罪悪感もなさそうだな」

「悪いと思う事はあるぞ」

 

 無法な世界の狭間世界には罪などないが、狭間の住人にだって悪いと思う事はある。だがそれが人間に近いだけで、同じものではない。ただ言える事は、それが隙になる事は決してない。

 

 

「まぁい。手ごろなのを見つけた。様子見して隙が出来次第攻撃を仕掛ける。お前は待機して何時でもフォローに回れるようにしといてくれ」

「わかった」

 

 戦闘を繰り広げている参加者を見つけた観測者は、そう言うと気配を極限まで隠して物陰に隠れるのだった。

 

 




~おまけ~
・狭間の住人の感性
 狭間の住人は、「そういう事もあるよね」「そういうヤツもいるよね」で認識が終わるので、関係が近い者ならまだしも、赤の他人について深くは言及しない。相対的なものに口を出しても碌な事にならないからだ。また言っても言われても軽く受け流すのがベター。特に意見が違うからと他人を否定することはほぼない。
 彼らがやっていることは、「疑問」「肯定」「証明」が主で、聞きたいことがあれば疑問、正しいと思う事に肯定、正しいと言うなら証明、の三つが主。
 あと普通に嫌味やブラックジョークとかもあるけど、それは言い合いやケンカなどに踏み出した時の話なので、普通の会話では許容内の軽いものしかでない。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

不可視の空間

 一見なにもなさそうな空間を見つめる観測者に、秋奈は不思議そうに尋ねていた。

 

「違和感は感じるが、何も見えないぞ?残滓かなにかではないか?」

「そう言う奴らなんだ。特定の対象だけを引き釣り込むタイプだ」

 

 秋奈には、観測者が見てるからあるんじゃないか?と見てから違和感を感じるのが限界だが、隠蔽された別空間では今も二対二の戦いが繰り広げられている。観測者にはそれがはっきりと見えていた。

 

「……確かに。だが能力で隠されると分かりずらいな。それに入り方もわからん」

「それは問題ない。考えてある。お前にも働いてもらうぞ」

 

 観測者に言われて注意深く観察して、やっとその空間の曖昧な境界線が見えていた。だがそれが限界で、その先の事は何もわからない。

 

「どうやるんだ?」

「完璧も絶対もない。それはお前がよくわかってるだろ。てかちょっと黙ってろ。入り込む隙を見定めなきゃダメなんだからよ」

 

 そう言うと観測者は能力を強めて、その先を見た。

 

 

 

 一面蠢くバラが咲き乱れる空間で、赤いマントをなびかせた勇者のような見た目の真剣を持つ青年が、暗殺者風の相手に剣を振り落とす。

 

「くっ!なかなか決まらない!」

「なんて威力してんだ!」

 

 振り落とされた剣による剣圧が地面を抉り、飛斬となった斬撃波がバラ畑に大きな斬撃跡を残す。その威力に暗殺者風の……カエデ・セブンは驚きを隠せないでいた。

 

「この空間めんどくさい!迷いの森ぐらい!どうするデウィル!?」

「少しは声を抑えろ!ブレイバ!にしても変幻自在で無尽蔵のバラにそいつの連携……厄介だな」

 

 角を生やした魔王のような男、デウィルがバラが生え変わり元通りになって行く光景を見ながらそう言い、その隙にカエデは距離を取りガンマンモードに切り替えて銃撃をする。

 

「花粉もそうだが遠距離もムリか……」

 

 銃撃は二人を避けるように軌道を描き、調整して強引に届かせた弾丸はブレイバに弾かれて終わっていた。

 

〈なら 近距離〉

 

 そう音が響き、バラがサポートから本格的に動き出す。それにより棘のある茎で突き刺したり巻きつけようと、全方位から攻め立てる。しかし即座にブレイバが剣を振り周囲の茎を斬り刻み、デウィルは魔法結界により身を守る。

 

「あぶねっ!急になにすんだ!」

「これも効かんか!」

 

 ドサクサに紛れ気配を消して接近したカエデが、侍モードで渾身の一太刀を放つ。だがスレスレで躱され、斬り返しを盾使いモードで吹き飛ばされそうになりながらも防ぎ、重戦士モードで攻めの姿勢に入り反撃を開始した。

 

「結構強いな!お前!色んな事できるのはすごい事だぞ!」

 

「近接じゃ一番の高火力モードを安々と打ち合える奴なんかに言われたかないわ!」

 

 

 止めどなく打ち合う両者の武器がぶつかる度に、重い衝撃と火花が散る。そんな中カエデは攻め切れない事に焦り、ブレイバは純粋無垢に楽しそうにしていた。

 

(あっちも攻め切れてない。成り行きであのバラと組んではみたが、やっぱこっちもあっちもあの二人とは相性は最悪だ。後の事もあるが、まずはこいつらを倒し切らなきゃ話にならないな)

 

 カエデが考える事は正しい。複数の分野で一流を誇るカエデだが、近接と剣術が超一流のブレイバには届かない。それを解消しようとこの空間を展開させたバラと組み、得意のチームプレイで戦おうとしたが……

 

(あのデウィルとかいうヤツが厄介すぎる。後衛として優秀過ぎる上に、今は止んでいるが支援役としても優秀。解析と魔法構築までして、近接も魔法ありきとは言え弱いわけじゃないとか……)

 

 得意技の効果が薄く、単純な物量で押し切ろうとしているバラだが、デウィルの編み出した魔法『燃える熱風斬』と『枯れ果てる領域』により斬り刻まれて塵に返されていた。しかも同時進行でこの空間の解析と新しい魔法の解析も進めている。

 

 

(どっちか一人ならどうにかッ!?」

 

「余所見はよくないよ!」

 

 刹那の隙を突かれ、体勢を崩すカエデ。そして続けざまに振り落とされる真剣を受け止めるが、力負けして武器が破壊されていた。

 

「くっ!ならッ!」

「これは!?」

 

 反動で後方へ下がると同時に工作兵モードでちょくちょく仕掛けておいた糸を引っ張り、ブレイバを絡めとる。

 

「なッ!こんなもッ!?」

「これで終わりだ」

 

 この程度ならすぐに斬られて終わるのは分かり切っていたのか、流れるような手つきで弓兵モードとなったカエデは、一瞬で極限まで引いた弓でブレイバの心臓をその矢で貫く。

 

「あっちも終わったか。じゃぁ……はぁ?」

 

 ブレイバがやられた事に動揺したのか、デウィルの手が一瞬止まる。その隙を突いて熱に耐性を得た赤黒いバラの茎が伸び、その身体を貫いていた。

 

 

「な、なんで?この空間は……いつの 間に……?」

 

 そしてカエデも観測者の軍刀により背後から貫かれており、バラの空間も押し潰されるように退場を開始したのだった。

 

 





 投稿キャラを使わせていただきました。

 ~おまけ~
・能力と技術の性能の違いについて
 能力≧技術である。同じ練度だと能力が優勢だけど、極め抜けば技術はそれに追いつく感じです。あとは完全に使い手や状況次第で、能力はカバー範囲が広いから基本有利になりやすい。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

なにあれ?

 隙を突き一気に敵を殲滅した観測者たちは、不穏な気配を感じ取って、遥か先の大空を見る。

 

「なんだよ、あれ……」

「ふむ、機械側の仕業だろう」

 

 遠くの方に見える空を覆いつくす煙と赤く染まった世界。それはまるで世界の終末と言っても差し支えないものであり、大地は裂け、火山噴火の如く溶岩があらゆる場所から溢れ出していた。

 

「ほう、世界の磁場に干渉する超電磁兵器とも言えるものだな。それで地中深くの溶岩流とかをを弄っているのだろう。厄介なものを使ってくるものだ」

「あのデカい爆撃機みてぇのか。限界高度にびっしりと整列しやがって、バケモンが」

 

 世界の磁場に干渉して、ほぼ無限に飛行運用可能で、電子光線やレールガン、雷落などをしまくれるだけの兵器だ。あとついでに相手の電子機器とか金属類の破壊とか使用不能にできたりとかもできるぞ。

 

 

「遠いがどうする?一応、参加者の気配は感じるが、行くのか?」

「逃げるに決まってんだろ。あいつら相手しても消耗するだけだ」

 

 巻き込まれた参加者たちは、あれと逃げるなり戦うなりしているのだろう。だが戦況はあまりにも酷いものだ。超高高度から一方的に攻撃され地上は地獄絵図。近づこうにも無尽蔵に降り注ぐ爆撃により撃墜されて殺される。

 

「流石は機械陣営だ。量産機にしては上手くやる」

「ホント最悪だこの世界。なんであんなんを量産してんだ」

 

 それなりに質と圧倒的物量で押し潰す。機械陣営の得意戦法だ。正直、一機では普通に撃墜されるので、当然と言えば当然だが……

 

「ん?乱入者も戦っているな。きっとあいつらの戦いに巻き込まれたのだうな」

「なら尚更逃げなきゃダメだろ」

 

 数人の乱入者と複数の参加者が、空を駆け巡って爆撃機を撃墜しまくっている。因みに大会内では、こういう場所は意外に多く、各地で大規模殲滅が巻き起こていたりする。

 

 

「ん~?あれは山本家と雪ノ下家か。見える範囲で四人はいるな」

「いや、全体で七人だ。氷剣家と城川とかいうヤツらもいる」

 

 光線をばら撒いている天人族の山本家、氷結や吹雪を吹かせている氷剣家と雪ノ下家の影響で結構カオスな戦場となっていた。そして秋奈も、そいつらもいたか、と納得したように見る。

 

「あの調子だと、こっちに辿り着く前に爆撃機の方が全滅しそうだな」

「それでもパスだ。あれだけの数を相手するのは身が重い」

 

 乱入者の点数は平均70点台。それ以外の生き残りの参加者たちも同じレベルだ。それが最低でも20人以上は暴れまわっている。流石の観測者でもあの数を乱戦しながら凌ぎきる事は困難を極める。

 

「あ~やってらんねぇ。こうやって兵器と高点数者に先を越され続けるのか」

「それでもやるのだろう?願いのために」

 

 観測者はそれに答えるように、そうだと呟いた。だがそれと一緒に何かが高速で二人の近くに飛来する。

 

 

 

「あ~、やられた!ん?あっ、秋奈だ!」

「城川か、吹き飛ばされたのか?」

 

 地面が抉れ、小さなクレーターの中から飛び出して来た少女に話しかける秋奈。その相手は、先ほど話に出ていた城川だった。

 

「そうだよ。あの爆撃機のレールガンに当たってね。踏ん張り切れずにここまできたの。流石に連続して当てたられると防ぐのも難しいかな!」

「そうか。で行くのか?」

 

 元気よく撃たれた場所を見せてくる城川。全身にあざのような金属が焦げたような跡があるが、これでも半分以上は防いだのだと主張している。

 

「うん!やられっぱなしはいけないからね!」

 

 そう言うと地面に手を突き、吸い上げ舞うように金属を集め始める。

 そしてそれを全身に纏い

 

「なんだそれ……」

「ん?君は強そうだね!でも今はいいや、あっちが先だからさ!まだ五機しか沈めてないからね!これは超硬鉄の合金鎧だよ!ちょっとやる気出してそれなりの合成にしてるから、すっごく硬くて重いし、かっこいいでしょ!」

 

 黒ずんだ鋼色のダマスカスのような金属のスーツに覆われた城川は、観測者の呟きに答えるかの様に堂々と見せつけていた。

 

『格闘戦が得意なんでしょうね。あの構成は明らかに攻撃向きだけど、あの子の技量で常に金属の操作とその攻撃面を相手の攻撃に向けられるんでしょうね。だから硬さに振り切れる。流石は75点なだけあるわね』

(あれが75点とか信じたくないわ)

 

 特定の性能が尖っても、当人が強ければ何の問題もないと言わんばかりの構成に、こんな奴らを相手しなきゃダメなのかと頭を抱える観測者。事実、城川に限らず乱入者たちは、それが出来る程強いのだ。

 

 

「じゃ!次で会った時よろしくね!」

 

 

 そして見せつけた事に満足したのか、城川は瞬動を使い一瞬で戦場に戻ったのだった。

 

 





 投稿キャラを出させていただきました。

 ~おまけ~
・なんか徐々に向かってくる爆撃機について

・電磁力爆撃機『テラ・エレキテル』
・価格 一機当たり550億円
・概要
 通常運用では、世界の磁場を利用したほぼ無限の飛行運用可能な状態からの地上からでは手出しができないほどの高度を飛び、そこから爆撃と地殻操作などを行う。それにより地上は地獄絵図と化かす場合のが大半。これで死なないものを爆撃と言う名の波状攻撃として電子光線や連射式にしたガトリングレールガン、変幻自在の落雷や電撃などで追撃を行う。また磁場操作により、電子が関わる全てに深刻な被害をまき散らし続ける事が可能です。
 制作組織『電子工業』より


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

どこ行きやがった。

 山の中を歩く一人の女がいた。

 

「くそっ、あの野郎どこ行きやがった」

 

 それは秋晴であり、いなくなった観測者を探していたのだ。

 

「勝負を捨てやがって、やっと調子戻してきたところなのによ」

 

 人工衛星を撃墜させ、地上に戻った後に残っていた参加者を皆殺しにして結界から出てきた。秋晴からすれば調子を戻す程の戦闘ではなかったが、時間がかかって完全に見失ってしまっていたのだ。

 

「見つけたら絶対に仕留めてやる……ん?」

 

 そんな感じで草木を分けて歩いていると、一つの小屋を見つけていた。

 

「……いるな、強いのが」

 

 静かだが、いる。それもとびっきり強くて、厄介なのが……

 

「そっちから来るか」

 

 小屋の扉が開き、腕が太く手が大きい筋骨隆々の白いのっぺりとした黒い覗き穴があるだけの仮面をつけた三メートル近い大男が出てくる。服装は仮面と白い獣の毛皮フードを基本にボロ布の服に裸足、手首には材質不明の鉄製の手枷の様な物がつけられているだけの男だ。

 

 

「やるか?」

「そうだな。それが主人の命令だからな」

 

 見つけた参加者や邪魔者を適当に全員始末しろ。それが主人、この大会に呼び出した魔魅さんからの命令であり、奴隷である大山(魔魅さんが付けた仮名)はそれを実行するために、秋晴に襲い掛かる。

 

「なかなかの速度だ!」

「避けるか」

 

 瞬動を使ったのか、一瞬で距離を詰め拳を振るう大山。だが秋晴は回避し、握りしめた拳でゼンリョクで殴った

 

「ガッ!?」

「耐えられるだろ!すぐ沈むなよ!」

 

 空間ごとカチ割れ、怯んでいる刹那の内に殴打による空隙を叩き込み続ける。それにより吐血しながら吹き飛ぶ大山に狂気的な笑顔で迫る秋晴は

 

「なるほど!適応か!」

「っ!?」

 

 腕を掴まれ折られそうになるが楽しそうに、振り回し地面に叩きつけ山の斜面が吹き飛んだ。

 

「身体能力も再生能力も申し分ない。流石は95点だ。存分に付き合ってもらうぞっ!!」

 

 目が開けられないほどの雷電が迸り、大山ごと周囲が焼け黒ずむ。だが大山はすぐに再生していき、攻撃に対しての耐性を取得していく。それを見た秋晴は、顔面に空撃を叩き込んでいた。

 

「そんなに戦うのが好きかい、お前さん?」

「傷も浅いか、それに手はなっ!?」

 

 大山は手を放しておらず、傷も浅かった。そして今度は自分の番だと言わんばかりに秋晴を振り回し、喰らった威力よりも数倍にして叩き返す。

 

「いいなっ!」

「耐久イカれてんのか?」

 

 目にも止まらぬ速さで何度も何度も、地面や木々、岩に叩きつけ、時には尖った場所にも打ち込んだ。だが秋晴は、驚いているだけでこれと言ったダメージは負っていない。

 

 それどころか……

 

「ゼンリョク出せそうだ!」

「さっさと死ね」

 

 秋晴は振り回されながら体勢を整えて、大山の眼球へとその金属っぽく鋭くなった指を突っ込もうと伸ばす。それを掴んだ大山は、引きちぎろうと引っ張るが

 

「面白くねぇことすんじゃねぇよ!」

「チッ!」

 

 衝撃で手を放し手蹴り飛ばす。しかしそう遠くは飛ばせず、音速すら容易く捉え切る大山の動体視力が捉えきれない速度で使用された空動で懐に入られており

 

「おらっ!」

 

 重撃を最大で打ち込む。それにより体内まで満遍なく強大な衝撃が響き、周囲と共に全身が軋み口は勿論、目や鼻からも血が噴き出し、膝を着く。そこに顎に蹴りを入れて斜め上に打ち上がった。

 

「受け流したか」

「……久々にまともなダメージ喰らったぞ」

 

 すでに殆ど治っているとは言え、消え切らない口に付いた血を拭いながら立ち上がる。そして視認できる程強力かつ強大な静かなオーラを漂わせて、戦闘態勢に入った。

 

「まだ出せるのか?待ってやろうか?」

「いやいい。戦った方が速い。お前と同じようになッ!!」

 

 力を引き出すために追撃しなかったのを相手も気づいているようで、一気に力を引き出した大山は、瞬動で距離をゼロにし秋晴をぶん殴った。

 

 

「そうこなくちゃな!」

「反応してきやがるか!」

 

 瞬き一つの内に何百手も超える攻防が行われる。それにより地形は削れ、木々は吹き飛び弾け飛ぶ。

 

「私もまだまだだな!やっぱ鈍るとここまで弱くなるのか!」

「黙って戦えないのか!」

 

 オーラと電撃が飛び交い高速移動で動き回りながら、殴り合いだけで消えていく山々。秋晴が鈍っていると言うのもあるが、大山は学習能力が高いらしく、魔魅さんに教えてもらった一般流はすでに使い熟せるレベルに達していた。そのため実力の拮抗で衝撃が受け流されているだけである。

 

「久々なんだ!毎日毎日書類整理と人員の調整ばっかさせやがって!私の本業は戦闘職の始末屋だぞ!」

「知らねぇよ!」

 

 山々を超えそのすべてが破壊され、ドロドロに溶けてマグマと化していく被害が凄まじい戦い。拠点ではできない戦闘に興奮しきった秋晴は、大山でも驚くほどの速度でテンションを上げて戦っていた。

 

 

「武器使うぞ!」

(ぐっ!?こいつ!」

 

 超近接戦の殴り合いでは勝負が着かないと考えたのか、より威力の高い鎖を取り出し、距離を取ろうとモノを投げつけながら離れる大山へ撃ち出した。

 

 それは足に絡まり、引っ張られると同時に秋晴が近づき――

 

「ガハッ!!?」

「へばんな!」

 

 通り過ぎてまた引っ張られ地面に叩きつけられる。そして追撃として、背中に重空撃を叩き込まれ、背骨も臓器が一瞬でダメになっていた。

 

「離れっ!?」

「治るんだろ!消えるまで遊んでよ!」

 

 振り払い、跳び起きるが、その瞬間に首に何かが通り斬り落とされそうになる。それを支え、地面を重撃で踏み込み、接近と鎖を対処する。

 

 

(適応できるはずだ!なのにダメージが減らない!それに聞いてたが強すぎるぞ乱入者!)

 

 ギリギリで対応できる鎖の猛攻を受けながら、そう考える。確かに大山の「あらゆる事象に適応し、耐性や対応能力を上げ続ける」能力は非常に強力だ。だが多元存在になった以上、それは強力止まりだ。どれだけ強力になろうが、同格であると言う前提がある以上、突破法はある。

 

(暴力的だが技量は超一流かよ!適応した側からその隙を突くように!)

 

 大山はすでに秋晴の攻撃全てに適応している。だが、その度に構造の隙を突くように攻撃をされ、適応が繰り返される。それに単純に攻撃力が高すぎると言う問題もある。不老不死だからよいものの、そうでなければ負けるのも時間の問題だ。

 

(それにあいつのギアが上がる速度の方が速い!)

 

 乱入者一同は、単純な出力や能力であれば戦えば戦う程際限なく強くなる。同時に学ぶところがあったり、同格以上であれば学習もする。その上このレベルになると体力切れもない。なので長期戦にめっぽう強いのだ。

 

 

「おい!どうした!」

「動き回りやがって!」

 

 それに秋晴は動き回り、大山もそれに合わせて動かなければいけなかった。少しでも止まれば、驚異的な攻撃力の猛攻を受ける事になるし、大山も検証済みだが鎖は当たっても避けても受け止めてもダメだ。

 

「お?」

 

 ならと、あらゆるものを消し飛ばしていく鎖を避けて、オーラを刃状にし腕を振って飛斬を放つ。勿論この程度なら即座に、もう片端の鎖が来て破壊される。

 

「あ?」

「死ね!」

 

 だが秋晴が回転しながら鎖を放つ瞬間、その一瞬のうちに距離を詰めて、呆気ない秋晴の顔にオーラも全乗せしたガチの一撃を叩き込んだ。それは地面と挟む形で行われ、地面を何回も陥没させて、深い穴が出来上がっていた。

 

 

「これでも倒せないのか!」

「なかなかの攻撃だったぞ!」

 

 飛び上がり、首を鳴らす秋晴。その顔には傷がついた跡があるが、スッと治っていく。今まで一番ダメージが大きかったようだが、それでも許容範囲内。大山ほどではないにしろ、時間で治る程度のモノでしかない。

 

 

「ちょうどいい。あいつに使う前に試験運用だ」

「なっ!やめッ!!?」

 

 元々異次元の身体能力に磨きがかかり、呪いの緩和や能力のブーストにより遥かに強くなったハズの大山が危機感を覚える光球をサッと作り出す秋晴。

 

「耐えてくれよッ!!」

 

 勢いのまま解き放たれたそれは、星の存続が危ぶまれるほどの威力が込められた超威力の光弾であり、一瞬にしてすべてが白く染まったのだった。

 

 




 投稿キャラを使わせていただきました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

水浸し

 秋を模した大森林の空間で、大洪水の激流が観測者たちに押し押せる。

 

「物量だな。厄介なのと出くわしたもんだ」

「ワレの領域を沈める気か!分岐せよ!(ブランチ・アウト!)

 

 それを鎌の一振りで割った秋奈は、続けて斬撃を分かれさせて、躊躇なくそれを消し飛ばしていた。

 

「消えんか!」

「生物まで出すか。深海世界だから当然か」

 

 それでもより大きくなって押し押せてくる津波を二刀流にした大鎌で消し飛ばした秋奈は、観測者と共に飛び出て来た深海生物のような怪物を斬り刻む。

 

「直接叩いてくるから援護頼んだぞ」

「わかっているわ!界っ!」

 

 世界が切り分けられたかのように境界線が現れ、それにぶち当たったものは押し潰れたり切断されるが、圧倒的物量に耐えられなかったのか、すぐに結界が割れるように破壊される。だがその一瞬で秋奈は観測者に恩恵と簡単な結界を張り送り出した。

 

 

「惑星規模の天災の深海竜か。点数は88点、星を沈める程の力がりますと。無視してくれればいいのに、これだから上位の世界の存在は……」

『力が集まった惑星であの規模となると相当だよ。大きさで言うと上はいるとはいえ、中身で言うと上澄みだね』

 

 荒れ狂う海上を走り抜け、深海に潜む巨大な細長い竜を観測する。その大きさはまさしく惑星規模であり、並の世界なら移動するだけで大陸を沈められる程だろう。

 

(ま、邪魔するんなら殺すだけだ。あいつの持ってる点数ごと奪えるんだから願ったりかなったりだ)

『2000点以上持ってるもんね、頑張って』

 

 狙いを定めて一直線に軍刀を振り落とし、海を割り落ちながら深海竜の元へと向かう。それを阻止しようと大量の狂暴な魚が宙へと飛び出し喰らいついてくるが、すべて斬り捨てられていた。

 

『深海世界。並みの存在じゃ、中に入った瞬間に水圧でお陀仏だね』

(説明どうも)

 

 観測者は簡単に海を割っているが、この海の水圧は凄まじいもので、まるで深海をそのまま切り抜いてきたかのように表面付近でさえ軽くマリアナ海溝を超える水圧が発生している。そして中心部は圧力により氷のように固形化しているようだ。その最深部に新海竜は寝そべっている。

 

『全部吹き飛ばすことが出来ない以上、相手の土俵で戦わざるおえないね……』

「ああ……」

 

 星の外側まで届き軽く隕石を両断できる水刃斬が上から降り注ぎ、あらゆるものを貫く水飛沫が隙間を縫って全方位から観測者へと届くが、普通に避けられ受け流されて攻撃に紛れながら気配を周囲と同化させて次の飛斬が放たれた。それによって深海竜のいる近くの深海部が大きく抉れ、やっと相手も動き出した。それにより更に多くの水が動き、すぐに観測者のいた場所が沈む。

 

『でも効かないんでしょ』

(チィ!当然だ!)

 

 だが観測者は潰れない。すでに仕組みを理解し対策を用意していた。不利な事には変わりないが、攻撃を直接受けなければ大した影響ではない。

 

 

『一般流使えるんなら当然だけどね』

(ごもっともで!)

 

 高速かつ大量に向かってくる深海生物とそこらかしこに漂う猛毒持ちのクラゲなどの生物を斬り刻み、深海竜の元へと距離を詰める。だが簡単には詰めさせてくれないようで、流石は深海の支配者と言うべき立ち回りだろう。

 

『あの子も言ってたでしょ?行動にもっと乗せなきゃ。乱入者ぐらい使い熟したかたら一動作に全乗せするのが当たり前よ』

(無茶を言う!)

 

 斬撃系で言えば、飛斬 空斬 乱斬 曲斬とあるが、一動作の中でこのすべてを入れ混ぜて出せるのが秋奈の言っている領域の話だ。それが出来れば、この程度の群れはどうとでもなる。

 

『やっぱあなたも主力に重きを置き過ぎね。それ失ったらどうする気なの?』

(あいつに言われた事を繰り返すな!)

 

 相手の土俵で戦っているのだから、流石の観測者も苦しい戦いになっていた。なんせさえ総量では負けているのに、相手は観測者を危険視して本気になっているのだから当然だ。

 

『と言うか、初手当たらなかったのそんなに辛い?』

(当たり前だ!あれが当たってりゃ、こんなに苦労することなかったわ!)

 

 生物と激流のコンボで中々接近できない。その上相手は防御もガチガチに固めている。あの飛斬が当たっていれば、さっさと観測が済んで深海竜が体勢を立て直す前にやれたものの、水流などによる空間や認識の歪曲で当たらなかった。

 

『多元存在にも慣れてるし、深海竜も乱入者倒してるから、一般流は使ってくるに決まってるでしょ?』

(わかってる!分かりやすいもんな!)

 

 やっと猛攻を切り抜け、観測で相手の隙と道筋を確認して空動で一気に駆け抜ける。それにより壁のようになった氷水へと空斬を連続して打ち込む。

 

『秋奈にやってもらった方が良かったんじゃないの?てか今のは空飛斬か尖撃の方が良かったと思うけど?』

(この空間で無茶言うな!あとあいつとこいつの相性は最悪だ!こいつはバケモンみたいな見た目しておきながら知性は相当高い!あれはちゃんと戦い方を弁えてやがる!それに勝てたとは言え乱入者には特に警戒してんだぞ!)

 

 防御壁を破壊し、散らばった残骸が嵐のように飛び交う中、観測者は反撃しつつ距離を取ろうとする深海竜の流れを読み切り、飛斬を放つ。それが硬く柔らかい深海竜の体に巨大な傷を作り体液が噴出する。だがそれもすぐに治り、血により強く狂化された深海生物たちが襲い掛かる。

 

『確かにあの子じゃ相性悪いわね。善戦はできても押し潰されるでしょうし』

(ってことだ!)

 

 深海竜は大暴れして更なる激流を生み出す。それに流され深海生物を斬り刻みながら、飛斬を連射する観測者は、安定してダメージを与えていた。この度に深海生物は強化されて厄介になり続けているが、これも観測のために必要な行為だ。実力者相手には隙を突いて情報を引き出すために、相手の策に乗らざるおえない場合もある。そして巨体すぎてこの作業だけで何十分とかかっている。

 

『近づかないの?突ける隙はいくらでもあるでしょ?』

(バカ言うな!あいつの体表近くに大量の深海生物がいんだぞ!)

 

 息が上がる。観測者はこういう敵とも戦ったことは数多いが、それも多元存在になっていない超位存在しか戦ったことがなかった。いわゆる格下としか戦ってこなかったのだ。だから見えていても対応するので精一杯になりつつある。

 

『そう言えばあの生物たちも多元存在ね。簡単に倒せるとは言え、攻撃力は本物よ』

(だから困ってんだ!)

 

 ここは多元存在しかいない場所だ。無双はできても、それは安全圏からのモノではなく、相手と同じ土俵で勝っているに過ぎない。なのでいつ反撃が届くかどうかわからないのだ。

 

『にしても、攻め切れてないじゃない。まさか怖いの?』

(当たり前だ!乱入者以外でこんなに中身が詰まってるのは初めてだからな!)

 

 深海竜はその巨体で適当に動いているように見えて、的確に観測者を攻略しにかかってきている。飛斬が当たった際だってそうだったし、ああ見えて観測者の後に控えているであろう秋奈に対しての警戒も怠っていない。明らかな脅威を二人相手に、いつでも対処できるようにギリギリのラインで戦っているのだ。

 

『星の中核を統べるだけあるわね』

(そうだな!だがもいい!観測は終わった!)

 

 そうして戦いは、決着へと向かうのだった。

 

 




 ~おまけ~
・一般流の使い方
 参加者クラスなら一つ一つ使うだけならすぐに覚えられるから、そっからがスタートラインだね。
 でも一般流は少ない動作に全乗せするのが本来の使い方だよ。だから相手からすれば、同じ動作で、てかただ普通に動いてるだけでなに飛ばしてくるかわからないガチャみたいなもんだね。経験すれば分かるけど、初見だと酷い技だよ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

決着

 観測を終えた観測者は、一気に攻めの姿勢になり、今までにない巨大な飛斬が深海竜へと放ち、相手は大きく斬り裂かれる。

 

『防御をすり抜ける方を選んだのね』

(いつもの事だ!)

 

 張り巡らされた防衛機構をすり抜け、深海竜の体を傷つけ続ける飛斬。しかも深海竜の再生も若干鈍い。

 

『再生しにくいようにするなんて、悪質ね』

(戦いってのはそう言うものだろ!)

 

 攻撃の手が減ったが、攻撃の質が悪質なものになった。それに違和感を思えながら、深海竜はより多くの水流と水圧を操り、ミンチにしようと仕掛けてくる。

 

『気づかないのね』

(そりゃな!ギリギリまで気づかれないようにしてるからな!)

 

 水流の隙間を縫って戦う観測者は羊さんにそう返す。違和感の無いように細工はしている。そのための布石も条件もすべて整え、相手の認識を理解した上で、常に調整を繰り返している。それを最小の労力と最高の効率で行っているのだ。

 

『確かに相手からすれば自分が優勢に見えるわね。あの子の事も気にしなきゃいけないのも大きいし』

(いるんだから利用ぐらいはさせてもらうわ!)

 

 深海竜は秋奈にも意識を割かなければいけない。秋奈はいつでも戦えるように準備はしているものの、観測者と深海竜の戦いが終わるまで手を出す気はないのだが、観測者はそれを利用してより効率的に隙を見出していた。

 

『でも厳しい?』

(当たり前だ!)

 

 水流に流されて来た猛毒クラゲの群れを乱斬で斬り刻む。同時にその隙間から細長い深海魚が噛みつきに来ており、それを水流を利用して受け流す。そして立ち止まらずに飛斬を放ち、直線状にいた巨大なアンコウやサメなどの生物群ごと深海竜に攻撃を加える。常にこれだけの攻撃をさばき続けなければいけないのだ。

 

 

『あれ?変えるの?』

(ダメージ気にされるよりマシだ!)

 

 観測者は意図に気付かれまいと、奥の手を出されない程度にわざと隙を晒してより攻撃は過激化する。その中には精密な攻撃も含まれており、観測者はより窮地に立たされたかのように見えていた。

 

『総量が大きいと大変ね』

(だから困ってんだ!)

 

 歪み続ける視界に水と同化した見えない無数の水針、擦り潰そうと増す水圧と流れの勢い、水温も自由自在で水中にできる気泡は爆発物であり、固形化した液体の残骸が激流となって深海生物たちと共に流れてくる。一瞬でも気を抜けば消えてなくなるであろう猛攻。強引な攻撃も混ざり始め、流石の観測者も手が足らなくなり始めていた。

 

 そんな時だった。

 

『あ……』

(なッ!?)

 

 世界に響く大爆発が連続して起き、秋奈の領域が破壊される。それと同時に空と言う概念が崩壊し、星を埋め尽くす圧倒的水量と水圧が世界を満たしにかかる。

 

『あら?』

(計画を早める!)

 

 これ以上は割に合わないと観測者は用意しておいた攻撃を放った。それにより想定以上のダメージを負った深海竜は、観測者に集中すると同時に、自分が先に攻略されたのだと理解する。その事実に驚き目を見開きながらも、即座に対応しにかかろうとしたが

 

『よかったわね』

(あいつ!)

 

 数百キロ先から放たれた、大海を割る飛斬の一撃が深海竜へと直撃し動きを鈍らせる。それは深海竜にとって不意打ちであったが大したダメージにはならない攻撃だ。しかし観測者が隙を突くのには十分すぎるものになっていた。

 

(終わりだ)

 

 重症覚悟で口を開けて、真正面に添えた観測者を咆哮で消し飛ばそうと溜めていた強大な力が放たれる。だが観測者は、研ぎ澄まされた感覚とやけに冷静な思考で、相手の最後の一撃ごとすべてを断ち斬ったのだった。

 

 




 ~おまけ~
 秋奈はクラーケンだとかの巨大な深海生物たちと相手してたところに、深海竜の水爆攻撃を連続して受けて結界が破壊されたよ。それに対し秋奈は、一対一はお気に召さなかったのかと戦闘に入る気で飛斬を深海竜にはなったよ。

 因みに深海竜の奥の手の一つは、観測者に使おうとした崩壊砲みたいなのだよ。
 これは、制御下にある物質を極限まで圧縮して水爆を引き起こしてなお崩壊するまで圧縮して、相手に光線上に解き放つ結構強い技だよ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

休憩中に……

 深海竜を倒した二人は、さすがに疲れたと秋奈の領域内で隠れて休んでいた。

 

「どうだワレの領域は、いい場所だろう?」

「紅葉が綺麗な世界だな」

 

 二人以外誰もいない世界で、和風な小屋の前のベンチで団子を食べながらそう話す二人。

 

「そうだろうそうだろう。ほれ、好きなだけ食うがよい、いくらでもあるからな」

「遠慮なく」

 

 いい場所だなと褒めた観測者に、機嫌を良くした秋奈は次々と団子や和菓子を取り出す。

 

「こんなに穏やかになれたのは久々だ」

「そうなのか?お前ほどの強者が?」

 

 秋奈から見ても観測者は強者である。そんな強者が余裕がなさそうな事を言うのだから、少し驚いて話を聞いてきていた。

 

「ずっと戦っていたからな。何億年も、何百億年も、それ以上に長く」

「そんなに長生きしてたのか!?」

 

 そうは見えないと、大きく驚く秋奈。

 

「まぁな。観測機が虚空の果てから来てから、ずっと戦っていた。始めはあいつを追い返すために、奪われたものを取り戻すためにな」

「観測機?ああ、六大施設の一機か。確かに奴らは強大だ。それも納得だな」

 

 狭間世界でも六大施設の巨大さは知られている。理論上最高値と言われる連中の上位勢だからだ。

 

「そっちでも有名なのか?」

「もちろん。技術と研究の権化であり科学者や研究者の集まりよ。一番浅くても700億年前からその地位を崩した事がない集団よ」

 

 狭間世界での700億年前と言えば、地球時間でおよそ1兆年前にも遡る程の長期組織だ。寿命に制限がない狭間の住人とは言え、その時間は非常に長い時間を指している。

 

「研究者……確かにその通りだったな」

「奴らは少々加減を知らないからな。利益と災害をばら撒くなんとも言えん組織よ」

 

 不可能を排したような存在である六大施設たちは、秋奈が言った通りの連中だ。そして観測者もそれには強い心当たりがあった。

 

「観測機と木枯だったか」

「行方不明の六大施設の一機と一人だな。700億年前に真の宇宙を発見したと言ってから、行方知れずになったとか。まぁその後にこちらも内からの侵攻にあって、それどころではなかったと言う話だが」

 

 狭間世界では有名な話だ。特に研究者関連にとっては悲劇的な大事件が起こった時期だった。

 

「何があったんだ?」

「詳しくは知らんが、めっちゃ強い奴に上位勢が負けて、六大施設やそれを筆頭にしていた科学者集団たちが大打撃を受けて技術力が後退したらしい。それに他にも色々あったって、黄金凶の連中が言ってたな」

 

 狭間世界の大転機だった時期だ。そして狭間世界が、弱体化し、少し優しくなった事案でもある。この事態を苦々しく思う古い研究者は多いので有名な話だ。

 

 

 

「ん?」

「何か来た?」

 

 ゆっくりとしていると、領域が揺れて何かが侵入してくる。それにより少し離れた場所が爆発し、土砂と爆風で巨大な柱が出来上がっていた。

 

「面倒な。少しぐらい休ませてくれよ……」

「まぁ戦場ってのはこういうもんだからな。さて、ワレの領域に無断で入り込んだのはどこのどいつなのか……」

 

 二人は気配を探るが、その間も侵入者は影しく戦い続けて領域は破壊されている。凄まじいい破壊力であり、一撃一撃の攻防で木々が薙ぎ払われている。

 

 

「ん?」

「あ、」

「あ!やっぱり!秋奈ちゃん!」

 

 一人の赤髪の少女が吹き飛ばされてきて地面をバウンドしながら近くの岩に叩きつけられる。それに追いついてきた一人の少女が、秋奈を見てうれしそうに話しかけていた。

 

「こんな所にいたんだ!奇遇ね!」

「姉上。いつも言っているが、領域を無暗に破壊しないでくれ」

 

 着物を着た大剣と桜色の短髪が特徴の背の低い少女、「四季 春香」は秋奈の姉妹の一人だ。一番ちっちゃいが長女でいつも楽しそうにしている女の子である。そうやって普段は子供っぽいが、時頼見せるスッとした顔つきは美しくも人気が高かったりする。

 

「ん?そっちの男はだれ?まさか彼」

「協力関係にあるだけだ」

 

 ふ~んとして観測者をジロジロとみる春香は、まいっかと言って、片手で振るった大剣で赤髪の少女「イスズ」の爆炎の一撃を受け止めた。

 

「なかなかやるね。じゃあもっと遊ぼう!」

「バケモノめ!」

 

 失礼ね!そう返しながらイスズを撃ち飛ばす春香は、大剣持ちとは思えない速度でそれを追いかけて行く。

 

「ま、手は出さん方がよさそうだな」

「そうだな、ホントは外でやってもらいたいものだ」

 

 激化する戦いを眺めながら、そう話し合う二人であった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

それでもやっぱり?

 春香の戦いを眺めながらゆっくりしておこう、そう思っていた二人だったが、しばらくしてなにやら別の方向を向いた秋奈がまた顔をしかめる。

 

「侵食か。やってくれる……」

「黄金郷か。ゴール・ドレ・フェーブルって奴だな。得点は78点か」

 

 すべてを破壊困難な黄金に上書きし、それを自在に支配する存在。そいつが、領域を黄金に変えながらこちらに向かってきていた。

 

「強いしお前との相性が……」

 

「消えろ」

 

 その瞬間に、領域の一部が切り離され、それを包み込んだ結界が一点に向かってすべてを押し潰していた。

 

「お前……」

 

 まるで部屋に入り込んだ害蟲を潰すように、相手を始末した秋奈を少し引き気味に見る観測者。

 

 

「気を抜くな。まだ終わってなどいない」

「わかってるよ」

 

 一瞬にして姿を現したフェーブルは、手荷物黄金の剣で秋奈に斬りかかっていた。観測者はそれに横やりを入れて弾き返す。

 

「酷いではないか!いきなり終わらせようとするなど!」

 

 全身黄金の装備に身を包んだ、王侯貴族のような姿と物言いの金髪イケメンが距離を取りながらそう言う。

 

「知らん。今すぐ帰るのであれば見逃す、黙って消え失せろ」

「そうも行かぬのでな。貴殿らが溜め込んだその点数。私が貰い受ける事にしたのでな」

 

 当然と言わんばかりにそう言い放つフェーブル。

 

「そうか……では、始末してやろう。手加減は期待するなよ?」

「数で上回っているからもう勝ったつもりか?実に滑稽!その程度いくらでも覆して!こうやってな!『ノンブル ドール』!」

 

 地面に広がっていた黄金から、完璧で美しいと思えるような黄金の兵士が生えてい来る。美術品としても、一兵士や兵器としても完璧な仕上がりなのだろうと、一目でわかる完成度だ。

 

 

「あの男を相手しろ!私はあの小娘をやる!」

 

 そう指示した瞬間に戦いの火ぶたは切られ、急速に広がる黄金とフェーブルの攻撃を防いで吹き飛ばされた秋奈、飛び掛かってくる黄金兵を斬り裂く観測者により戦闘が始まった。

 

 

 

「この人形、再生するのか……」

『めんどくさいわね。黄金がある限り無制限で湧き出てくるわよ』

 

 新しい黄金兵が復活し、それを一瞬で始末するが、どこかで生まれた黄金兵が剣で斬りかかってくる。それを振り向きざまにかわし斬り落とす。

 

「足切能力か」

『邪魔になればそれでいいみたいなのね』

 

 倒すこと自体は簡単でも、次から次へと湧いて出てくる。高いだけで派手な能力を持たない観測者のような存在にとって、苦手なタイプだ。

 

「それにこれか」

『ええ』

 

 即座に生み出された黄金兵が攻撃を仕掛ける。まるで騎士のような見た目と戦い方で、参加者には見劣りするが決して弱いわけではない。だが観測者が言っているのはその事ではなく、広がり続ける輝く黄金の事であった。

 

「リュウール・ドレ、黄金の輝きか」

『直接触れるだけじゃなくて、光に当たるだけでもじわじわ黄金が侵食するのね』

 

 黄金兵を蹴散らしながら、その光を見る。これも嫌がらせと足切用のものだろう。通常時の参加者は大丈夫でも、それ以外は対策しなければ徐々に黄金に侵食され、最後には黄金の塊になってしまう。それ以外にも微弱な魅了のような精神影響も出ていて、思考妨害に役立っている。

 

「それであれが意図的に強めた、リュミエール・ドレか」

『直視しない方がいいわよ。下手したら脳みそやられるわよ』

 

 秋奈との戦闘で作り出した黄金の塔から、眩い光が放たれる。それにより広範囲の森が瞬く間に黄金と化し、観測者も目を背ける。その瞬間に黄金兵が死角も含めた三方向から一気に攻め立てる。

 

「囚われると厄介だな」

『近ければ近いほど強まるからね、力が』

 

 回避して通り過ぎると同時に前にいた一体を斬り裂き、追撃をかけて来た残りの二体も振り向いたのちに何度か打ち合って軽く葬る。だがその隙に何十体と生成された黄金兵が次々に連携をしながら襲い掛かってくる。

 

「数を増やせば性能が落ちのか」

『数百体も増やしてたらそうでしょうね』

 

 その数はすでに百を超え、やられた先から補充され増え続けている。個々の性能が下がったとは言え油断できないし、数がそろえばそんなものどうとでもなる。少数精鋭から軍に切り替えただけに過ぎない。格下や長期戦、足止めなら適切だろう。

 

「巻き込むのは無理そうだな」

『そうね。ちゃんと住み分けて戦ってるわよ』

 

 黄金の矢の雨が降り注ぎ、それを無視して剣や槍、斧などの武器を持った有象無象が襲い来る。観測者はそれを冷静に対処し、遠くの方で戦っている春香に目を向けるが、こちらの戦いを気にせずに戦っている。秋奈もフェーブルとの戦いに手こずっていて無理そうだ。

 

 

「終わらすか」

『観測は終えたものね』

 

 すでに観測は終えている。その一線を持って、最初に一体の黄金兵の制御が根本から断ち切られた。それに少し反応したフェーブルは、その隙を突かれ劣勢になり始める。

 

「仕組みが理解できればこんなもんか」

『筒抜けってホント怖いよわね~』

 

 向かってくる黄金兵を次々に切り捨てまくる観測者。まるで散歩しているかのような足取りで振られるその一つ一つが 増え続ける黄金兵に歯止めをかけていた。それどころか明らかに動きが悪くなっている。

 

「それでこれか」

『質重視。決着を着けに来たわね』

 

 ヒートアップする観測者を止める単に、自爆覚悟で連携も無視して黄金兵たちが襲い掛かる。それで稼げた時間は数秒にも満たなないものであったが、その隙に一体の黄金兵が出来上がっていた。

 

「自分の腹心を再現したのか」

『死人に縋るだね』

 

 そこにいたのは、黄金で出来た長身イケメンの軽装備の騎士様だった。作り出す際に感じ取った薄っすらとした思念を観測したのか、その情報は筒抜けだ。だが、だからと言って簡単に勝てる相手ではない。

 

 

「強いな」

『平然に言われてもね』

 

 長剣を構え、一瞬で距離を詰めてくる騎士。それを流しきれずに、地面ごと陥没する観測者。そして次の瞬間には両者の追撃がぶつかり合い、距離を取る。

 

「重い速い強いの三拍子だな」

 

 これが勝ちに来た思いの塊。失ったすべてを取り戻すための本気。

 

「だがそれがどうした!」

 

 騎士は踏み出し一瞬で距離を詰める。だがそれは観測者も同じで、目にも止まらぬ攻防が、抑えきれない余波が秋の森を蹂躙する。

 

「剣だけでよ!それが才能か!?天才って奴か!?」

 

 スピード特化の絵になる程美しく洗礼された剣術。それに対し、合理と効率を突き詰めた勝つため殺すためのだけの戦闘術。

 

 あらゆる手段を用いる観測者と剣一本で渡り合う天才騎士の姿がそこにあった。

 

『これ本体より強いわね。まぁあの子と戦う以外の全リソース注ぎ込めばこうなるの頷けるわ』

 

 羊さんがポツリとそう言う。事実、他の兵どころか、根本である黄金侵食自体も完全に停止している。理想と再現と強い思いが込められた腹心の再現体。フェーブルは、無意識にそれほどのものを作り出していた。

 

「強い!」

 

 体が軋む。速度もギリギリ。完全にステータスでは上回られている。フィジカル一辺倒だが技量も上澄みで、おまけに欠損どころか負傷させることすら困難。相性最悪な存在。

 

「マジで強い!」

 

 斬撃は木々を薙ぎ倒し、移動すれば地面が抉れ、衝撃は地形を容易く均してしまう。それはまるで誇張された伝説や神話のようなレベルである。

 

 しかし――

 

「が、それだけだ!」

 

 そんな激闘の中で、観測者は一筋の線を見出し、そこに向かって軍刀を振っていた。

 

『観測を終えてるんだから当然ね』

 

 それを受けた騎士は、一切の抵抗むしなく真っ二つに斬り裂かれる。そしてその機能は完全に停止し、ただの黄金の塊へと返り崩れ去った。

 

 

「あっちも終わったみたいだな」

 

 黄金の塔が崩れる同時に消え去るフェーブルの姿を見た観測者は、そう呟きながら合流のために足を進めるのだった。

 

 




~おまけ~
・観測を終えたの意味
 相手の情報を筒抜けにした上に、攻略の算段が付いたと言う意味。実行できるかどうかは観測者次第。
 因みに隙や弱点がなかったり極端に少なかったりすると、今回みたいにまずそれらを作り出すための仕掛けからしなければいけないので、長期戦になりやすい。

・黄金兵の性能
 見ての通りのインチキ性能。即死技である黄金化に対抗できることを前提にしても、並みのアニメ世界ならこれだけで無双できる。
 因みにフェーブル自体は、軽く見積もっても惑星級の戦闘力があるし、最高傑作の騎士はそれを上回る。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。