転生者の復活記~死にぞこないの物語~ (バトルマニア(作者))
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転生者の復活記 簡単設定集(ネタばれあり)

 一応これが基準です。
 ストーリーが進んだり、思いついたら新たに付け加えます。


 

・世界観について

 転生者のせいで中途半端に技術力が高いが、基本的に未開拓地や発展途上の場所が多い異世界ファンタジー。大きく分けて人間族、亜人族、魔人族の三種族が人類をしており、各自で独自の力を保有している。

 因みにだが、この世界は『転生者の放浪記』の1000年後の話で、『異能学園の用務員』の色々あった約1万年後の話でもある。

 

 

・システムについて

 この世界の意思であり、世界を維持管理するための存在。滅びないことが最優先事項な為、そのためなら手段を択ばず何でもする。なおシステムが運営しているステータスは、すべての存在の成長進化の促進を目的にされているが、認識自体は一部の者にしかできない。

 

 

・管理者について

 世界を管理する者のこと。本来は世界の意思が担当するものだが、特例で別の者が管理者をしている。

 現在の管理者は、迷宮神 メイズという者が世界の管理を行っている。この星に張り巡らされた迷宮の神であり、同時にこの星の神の頂点である。とは言え、世界が認めた(世界の味方)正式な神は現在彼女しかいないし、彼女は神として振舞う気はない。そもそもは一万年前に無理矢理神にさせられただけなので当然である。部下として、各地の『迷宮主』や『大海の支配者 リヴァイアサン』などがいる。

 

 

 

・人類種について

 人間族……特殊なこと以外何にでも適性がある。主に生命力という名の気力などを扱い、基礎能力を強化できる。魔法などは苦手で、それを技術にまで落とし込んだ術式をよく使う。因みに術式は暗記科目なので覚えれば誰でも使える。

 

 魔人族……基本的に能力も高く主に魔力を使うことから、特に魔法系統に優れている。魔族と言っても様々な種族があり、人間そっくりな魔人から吸血鬼や妖精、アラクネなど魔力を主体とした者たちの総称。

 

 亜人族……上記の二種族以外の各種族ごとに特殊な能力を持ち合わせている者たちの総称。獣人や龍人や鬼人、森人(エルフ)矮人(ドワーフ)など種類が豊富。基本的な主力が気力か魔力以外の使い手の集まり。

 

 

・魔物について

 魔物と言われているが、実際のところは色々な魔物や妖怪などをまとめてそう呼んでいるだけで、その種類は結構多い。主には使用する力の違いによって分けられている。自然生成されるものと、生物的に生まれるものがある。

 

 

・力の種類について

 気力……主に人間が使う、基礎能力を底上げしてくれる力。身体能力はもちろん、感覚が優れたり、回復力が上がったり、視力がよくなったり、耐性が高くなったり、思考速度が上がったりする。

 

 魔力……主に魔人族が使う、魔法などを使うための力。万能性があり、あらゆる想像物に対応して変質してくれる性質がある。ただし再現できるというだけで、各分野の得意性質には劣る。

 

 獣力……主に獣人族が使う力。気力の上位互換的な力で、無意識や本能と言った方に強く作用する。ただし反動が大きく疲労がたまりやすい。

 

 鬼力……主に鬼人族が使う力。気力の上位互換的な力で、特に肉体強度が高くなる。ただし気持ちが高まりやすくなり制御が難しい。

 

 霊力……主に精霊や森人(エルフ)矮人(ドワーフ)などが使う自然の力。周囲の力を利用したりできるが、体質に合わない力を使ったり取り込んだりすると体調を崩す。

 

 龍力……主に龍人族が使う力。気力の上位互換的な力で、変化しにくいため耐性面に優れている。だたし、汎用性に乏しく 自身が持つ属性に力が特化される。

 

 妖力……変化の力。魔力の上位互換的な力で、多様性に優れている。ただし、大雑把に使うことを想定されているため、細かい調整が非常に難しい。

 

 呪力……負の力。攻撃性や陰湿性が強く出る。回復などには使えない。

 

 聖力……あらゆるものを清め浄化させる聖なる力。その最終形態は、絶対的な消滅の力。

 

 邪力……攻撃性と暴力の塊。ただただ破壊に特化した力。

 

 神力……他の力の良い所取りをした強力な力。または他の力と組み合わせることで強くなる力。万能に見えるが、それは基準が高いだけで実は使い手によって偏りがでる。あと格の低いものには負荷が大きすぎるのが難点。

 

 源力……世界に漂うエネルギーそのものであり、あらゆる力や元素などの原型。これを合成したり組み合わせることであらゆる力や物質を生み出している。神力の上位互換的なもの。超越者以上でないと認識すらできず、扱うとなればその中でも上位の実力が必要。

 

 

・スキルについて

 スキルには通常スキルと特殊スキルがあり、前者は誰でも取得可能で、後者は才能か大きな容量がないと取得できない。能力の拡張と成長を早めるための補助機能であり、基本本人の才能を少し超えた程度でしか効果がない。なので、持っていないからできないなどと言うことはない。有利なだけである。

 

 特殊スキルの例 能力などを真似て作ったもの、またはそれの補助機能。

 憤怒、暴食、怠惰、強欲、色欲、嫉妬、傲慢など

 

 通常スキルの例 強化系、技術系、情報系の三種類

 

 最上位スキル 各分野で統合され、剣士や斥候、術者など職業のようになったスキル

 上位スキル さらに統合され特化したスキル 対物理など

 中位スキル 統合され性能が向上したスキル 衝撃耐性など

 下位スキル 単一の効果しかないスキル 打撃耐性など

 

 ※特殊スキルやスキルに表示されない魔法などは、超越者になる事により適した能力や種族能力になりますが、それは世界にとって都合が悪いので、作中では秘匿されいます。

 

 

・レベルについて

 1~100まであり、レベルが上がるごとに基礎能力が引き上がる。これの数値が高いと一部のスキル取得や成長が早くなる。以下はレベルの目安。十段階評価だが、スキルレベルも似たようなもん。

 

 1~20レベ代 年齢と共に上がる範囲のレベル。大人になれば20レベ前後は当たり前になる。

 

 20~50レベ 一般人の上げられる限界。同時に戦闘に身を置く者のスタート地点。

 

 50~80レベ 下位から上位の探索者や戦士。自然生成される魔物の限界レベル。

 

 80~90レベ 世界でも有数の実力者。才能はもちろん経験や技量なしではたどり着けない。

 

 90~100レベ 最上位の探索者や迷宮の最奥にいる一握りの強者。

 

 

・超越者や超越種について

 レベルを超えて、ステータスを必要としなくなった真の強者。システムと切り離されてなおその強さと可能性は衰えることはない。現在人間界には、過去最高人数である人類側 魔物側共に10人程度の計20人前後はいる。裏世界にはその数倍の勢力がうごめいている。

 

・簡単な強さ順について

 レベル持ち<カンスト勢<超越者≦システムまたは管理者の順で強いです。特に最強格の超越者たちは、システムや管理者と言われる存在を困らせる程度には強いです。

 

・多元存在について

 超越者が極まれになる存在。本来の正常な世界では生まれないイレギュラーであり、その力は超越者と一線を引くほど。この世界は厄災の襲来によりその発生率と可能性が異常に高くなっているが、それでも人間界では傾向が見える者が数人、最果ての大陸でも最上位の支配者層ぐらいしかない。

 

・能力について

 システムとは関係がない所有者本来の特殊な力。スキルを超えた性能を誇るが、その方向性は個人次第。

 

 

・転生者について

 一定以上の魂の強度を持つ者たちが、運よく生まれ変わった存在。何かしらの能力か、高いスペックを持ち合わせている。

 

 

・神について

 神格を持つ者たちの事。神格とは、一定以上の存在格を持った状態で、信仰心などが集まればできるもの。これから生まれた力が神力であり、誰がどれだけどう信仰するかによって力の性質がかわる。一度神となったら信仰する者がいなくなっても神のままである。また神力を受け継いだものを神族、与えられたものなら神造物などと言ったりする。

 

・精霊について

 自然の精霊が基準で、実はそこら中にいたりする。だが殆どが人間に感知できないほどの微弱な存在で、力を持っていても自我を持つ個体は上位勢であり、非常に少ない。精霊と契約したり、力を借りたりして霊力や霊術が使える。魔素汚染されると薄い自我を持ったり能力が上がるが、妖精などと言った魔物になる。

 

 

・勇者について

 勇者は対魔物用や対魔王用と言った感じの存在。それ以外だともはや戦略兵器と化しています。上位の特別な武器には意思が宿り、長い年月と経験で自我が芽生えることがあります。勇者のなり方は、自我のある特別な聖剣や神剣に選ばれればなれます。

 

・魔王について

 人類外から生まれる強力な魔物。それが多くの群れを率いたらできる者たち。基本的に魔物の延長線上なので、人類ほどの知性知能 自我などと言ったものは持ち合わせていないが、極まれにそれらを獲得する者たちがいる。

 

・等級や特殊な武器や道具について

 武器や道具などには等級というものがあり、一番上が特級で、そこから一級~五級と評価されている。これはシステム側の評価で、システムの存在を知らない大半の人類は、所持していれば無意識で解析や鑑定などを使ってなんとなくわかる者たちもいる。それを基準にして様々な等級が決まっている。

 またこの世界には、基礎能力強化や属性付与などの魔法や術式の刻まれた武具が出回っているため、余程特別な武器でないと聖剣や魔剣などと呼ばれない。これは迷宮で産品されるものや天才や神などが作ったもの、特別な経緯でできたものを解析してできたものが、劣化模倣で量産できるようになったからでもある。

 呪いや負荷が大きいもの 対価が必要な武具のことを代償武具と言った括りでまとめられている。これらはどれも強力で、最悪身を亡ぼすことを覚悟すればどんな武器兵器よりも上を行く。

 

 

 

 

・厄災について

 害悪の頂点にして、あらゆるものの敵。この世界の悪いことは半分ぐらいこいつのせい。状況の悪化を含めればほとんどこいつの仕業とも言える。ある程度力を取り戻すまで探知するのが非常に困難なのと、宿主に知恵や力を与えて人の能力や欲望を増大させたり、魔物たちを狂暴化させたりと厄介極まりない。こいつの排除のために世界の意思や人類は約一万年も奮闘しているが、どの時代どの文明も完全に殺し切ることができずに翻弄し続けられている。その原因は、厄災が毎度自身の情報を曖昧にしているからでもある。

 また1000年に一度のペースで本格的な復活をしており、それは数を重ねるごとに力を増している。敵としてどんな世界にも簡単に出せるお手軽キャラ。

 

 

 

 

・列強国について

 人間界側の世界でも飛びぬけて強大な国力を持つ国。

 

・魔大陸を制覇した帝国、大魔帝国。

 本名 マクロニア帝国。魔導を使った高度な文明を築く帝国。帝国を八方位で守る王たちがおり、戦力や技術力と言った国力において隙が無い。

 

・亜大陸を制覇した国家、天妖亜國。

 本名 天妖亜國。自然よりな特徴があるため文明の進み具合は最も遅いが、多種多様な種族によるフィジカル面では最強クラスの国家。各種族のトップが集まって物事を話し合っている。

 

・中央大陸最大の大国、中央合衆国。

 本名 アリウス合衆国。様々な種族が多く暮らす大国。探索者組合や商業者連盟、技術者協会などの組織の大本営がある国であり、経済において右に出る国は存在しない。

 

・もっとも平和な小国群、護国連合。

 本名 フリーデン連合。周囲を囲む四つの国と、中心にある美神と言われる神が治める国からなる中央大陸からはみ出した半島国。元は危険で荒れた大地だったが、数百年前に美神が住み着き今の形になった。様々な種族が住み、平和そのものの理想郷とも言われている。

 

・複数の島々からなる国、諸島連邦。

 本名 シーエリア連邦。普通の人類に加え、水や空に関わる種族が多い国。世界最強の海軍を保有しており、現代兵器に似た兵器を数多く生産している。

 

 

・主な各大陸や島々について

 

・魔族が多く暮らす、魔大陸。

 地図で言う右上ら辺にある大陸。魔力関係の資源が豊富。それにより魔導などが発展している。魔力に汚染された、魔化してしまった種族が多いともいう。

 

・亜人が多く暮らす、亜大陸。

 地図で言う左上ら辺にある大陸。龍人や鬼人、精霊や獣人など魔素とは違う力を使う特殊な種族が多い。純潔とも言われている。

 

・人間が多く暮らす、小大陸。

 地図で言う左下ら辺にある大陸。最も小さい大陸で、いまだ統一されず争いが多い大陸。人間を中心とした国家が非常に多い。

 

・最も大きく多様性のある、中央大陸。

 地図で言う中央にあり赤道の上でアフリカ大陸を横にしてちょっと歪み伸ばした感じの巨大大陸。中央にあることから、様々な種族がここに集まってくることで有名。中央合衆国があるため大きな争いは起きないが、小さい争いならちらほら起こっている。

 

・複数の島々が広範囲に点在する、諸島群。

 地図で言う、赤道付近でそこそこ広範囲に点在する島々。迷宮資源と海底資源が目立つ。技術力が高く情報網を引きまくっている。

 

 

・世界三大危険地帯について

 迷宮以外の超危険地帯。高密度なエネルギーのせいで迷宮が設置できず、最上位の迷宮の最奥や裏世界に迫る程の危険地帯とかしている。またトップ3と言うだけで、ここ以外にも危険地帯は複数ある。

 

・中央大陸にある、深淵郷。

 世界の中心、そこに存在する大穴とその周囲の歪んだ世界。莫大なエネルギーにより空間や次元自体が歪んでおり、常に少しづつ変動し続ける空間の大きさや座標のせいで地図が当てにならない。時より大きく動くことがあるので要注意。

 

・魔大陸にある、暗黒樹海。

 中心に存在する魔界樹の影響で、少しづつ広がり続ける薄暗い樹海。魔界樹が発する莫大な魔素により、周囲の生物は異常発達しており、植物たちは絶えず成長し続けている。現在、大魔帝国がその進行を食い止めている。

 

・亜大陸にある、神秘領域。

 世界最大の聖域であり、神や神聖なものが存在すると言われる領域。現にそれらしいものも数多く確認されており、霊力や神力などの力も検出されてる。

 

 

・十七英雄について

 十七人いる大英雄。基本人類の味方であり、国家や組織の味方ではない。戦闘力に限らず、人類に大きな貢献をした者たちなので、全員が強いわけではない。厄災と因縁のある者が多く、厄災を完全に討ち滅ぼすために生まれたと言っても過言ではない。

 

 

・死徒十三席について

 好き勝手に生きる十三人の危険人物の集まり。トップがまとめ上げていることもあり全員知り合いではあるが、仲間意識があるわけではないので争うこともしばしばあり、その度に被害が大きい。過去の厄災が自身の隠れ蓑として作った組織が、厄災討伐後も残った産物。

 

 

・亜神教について

 人工または異界の神を呼び出そうとする集団。指揮しているのは死徒十三席の一人であり、目的は唯一神の創造で、他の神の排除活動も同時進行で行っている。死徒十三席経由で厄災を顕現させようとして作った組織。1000年前に失敗して以降厄災としてはその役割は終えているのだが、残った信者が厄災にそそのかされた『平和な世界』を求めて今の形態になった。

 

 

・七災魔王について

 複数存在する魔王の中のトップ集団。人類との関係は良好~最悪まであり、魔王同士でも争うことも珍しくない。七災魔王とは、魔王の中で最強格であること、現在暴れているかだけではなく、過去の実績や潜在的な危険度で選ばれている。人類同様厄災のことを危険視しており、どんなに関係が最悪でも厄災討伐の時だけは協力する。その後は知らん。

 

 

・四凶神について

 悪神、邪神、禍神、災神の四人の神。正式な神ではないが、神性を保持しているトップ層で超が付くほどの危険人物たち。最低でも超越者級の実力を誇る。あらゆる存在にとって毒にも薬にもなる存在で、普段は気ままに生きているが、その内情は厄災を滅ぼすために何千年も生きている者たち。

 

 

・探索者組合について

 迷宮や危険地帯などで活動する者たちが所属し、生存力が高く戦闘では対魔物などに長けており、その他採取や雑用、商隊の護衛など様々な仕事もこなしている。厄災が出た際は、他の組織と協力して速攻で動いてくる。

 

 

・商業者連盟について

 商人たちの集まりであり、あらゆる経済を実質的に牛耳っていると言っていいほどの勢力である。だが彼らの目的はバランスを保つためというのが大きく、余程のことがない限り表立って活動しない。厄災が出た際は、他の組織と協力して速攻で動いてくる。

 

 

・技術者協会について

 技術の発展や保護を目的とした集団である。自由なやつが多いため、詳しく何をやっているのかは謎。所属組織には、魔女会や三賢者などがある。厄災が出た際は、他の組織と協力して速攻で動いてくる。

 

 

・迷宮同盟について

 メイズをトップとした迷宮主たちの集まり。迷宮は世界維持のためにノルマがあるので、それの管理と報告のために作った組織。一応迷宮主たちのコミュニケーション広場として役立っている。厄災は見つけ次第、欠片すら残らず排除対象。

 

 

 

・最果ての大陸について

 世界の裏側、メイズの住む大陸。南北のアメリカ大陸を歪ませたような形のメイズの迷宮そのもの。強大な力を持つ魔物が数多く闊歩しており、人類どころか知的生物自体が極端に少ない。この大陸は、幾度とない力のインフレにより人類では手出しができなくなってしまっている。それにより厄災を完全に駆除できたが、その代わりにこうなってしまった。現在の主な目的は、メイズのストレス発散と世界運営用のエネルギー生産所と化している。

 

 

・裏世界最強格について

 最果ての大陸に属している各地のトップであり支配者。一体一体が世界最強格で、一つのグループでさえ表世界の戦力では相打ちがいいところ言われているほどの強者たち。メイズにも負けない程度には対抗できるため、嫌なことはNOと言える者たち。あと裏世界全員に言えることだが、こいつらは特に神や王と言った上位存在を嫌っている。

 

 大自然の中を彷徨い移動するエネルギーの球体、量子玉。

 

 広大な砂漠地帯を堂々と飛行する超巨大な炎鳥、獄炎鳥。

 

 大陸を分断する巨大山脈の頂きに鎮座する金色龍、古龍。

 

 己の文明の再建を目指す古き世界の生き残り、万能戦艦。

 

 幻想的な雰囲気と輝きを漂わせる巨大な大樹、幻想大樹。

 

 最果ての大陸南北の隙間に居座る槍を持った亡霊、魂喰。

 

 湿地帯をゆっくりと這いずる巨大なスライム、源生粘体。

 

 緑生い茂る豊かな大地の空に浮かぶ白い球体、妖魔聖蟲。

 

 荒野が山岳が大地が蠢き破壊されていく光景、大地真核。

 

 何の変哲もない様に見えるただの巨大な大樹、暗黒大樹。

 

 



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転生できるらしい

 何もない空間に、誰とも知れないヤツがいた。

 

「ここ何処よ?いやマジで……」

 

 そいつは記憶を探りながら考え込む。

 

「え~と、確か……」

『死んだんですよ。バイクで山道を走行中に事故で、です』

 

 急に声が聞こえ、そいつが驚く。

 

『馬鹿みたいにとばしているから、操作を誤って崖下に落っこちたんです。思い出しました?』

「思い出した。でも仕方がないだろ、残業続きで疲労困憊、テンションがおかしくなってたんだ。で、お前誰?と言うか何処?」

 

 そう言い再度見回すが、誰もいない。それどころか、周囲の認識すらできない。

 

『この場に名前なんてないんですよ。私はこの世界に流れ着いてきた魂を転生させるシステムみたいなものです。ってことで転生できますが、しますか?』

「は?マジ?」

 

 システムに転生するか聞かれ、拍子抜けになっていた。

 

「て、転生?できんの?」

『できますよ。で、どうします?ステータスとかもありますが?』

 

 それを聞いた転生者は……

 

 

「や、ヤッター!異世界転生キタコレ!!チート使って無双できるんじゃね!!」

『死んだというのに随分と……。まぁそれは貴方の容量次第ですね。今確認するのでしばしお持ちを……』

 

 その確認の間、転生者は今までの人生を勝手に語りだしていた。

 

「いや~、前世はいいことなんてなかったからな。不運だったと言っても過言じゃない。イジメなんてのはなかったが、友達なんていないし、親兄弟含めて人間関係もいいとは言いがたかった。就職してからもブラック企業に入っちまって苦労と理不尽の連続、そんなオレが転生とは……」

 

『確認終わりました。貴方の残り容量は……』

 

 感慨に浸る転生者を無視して、システムは話を続ける。

 

『300です。まぁ転生者にしては随分と低いですね』

「は?」

 

 呆気にとられ、口をパクパクさせることしかできていない転生者に、システムは説明を開始しようとした。

 

 

「では転生の……」

「いやいやちょっと!説明してくれ!」

 

 転生をさせられる前に声を上げる転生者。

 

『だから転生の説明……』

「そうじゃなくて、なんで低いんだってところだ!」

 

 勢いよく気になっていたとこを質問する。

 

『そうですね。ではこの際ですので、すべて説明しましょう。あとでグチグチ言われてもうるさいだけなので』

「頼む!」

 

 詳しく説明をする気になってくれたようで、転生者はそれに喜ぶ。

 

『貴方の容量は低いです。普通転生者なら、低くても1000は越えてます。この水準は、不便のない人生を送れる程度ですね。それに比べて貴方は300。記憶や自我を保ってられる最低値で、創作物のような高い能力や特別な力などとは無縁の数値です』

 

 どうやら、意識はそのままだが、転生者の思っていた無双やチートとは無縁のようだ。

 

「あの、その……数値を上げる方法とは……?」

『記憶や自我の廃棄ですね。魂の強度は転生するのに十分なので、謎に容量を食っているその部分をどうにかするしかありません。因みに廃棄すれば軽く10倍いや100倍ぐらいになりますよ、多分。まぁ貴方には無理でしょうけど』

 

 どうやら、記憶などが原因で容量が削られているようであった。

 

「波乱万丈だったとは言え、そんなに圧迫してたのか。まだ26だったのに……あと記憶の廃棄は無理だな、普通に。最適化とかできない?」

『表層はできますが、中層以降は情報量が多く複雑すぎてあまり手出しできません。どうしてもと言うなら、廃人覚悟でやってもいいですが?』

 

「いややめてくれ、精神崩壊とか洒落にならん。できる範囲で頼む」

 

 そうして最適化が始まる。すると、転生者は一瞬気分が良くなり。

 

『分かりました……終わりました。500ほどになりました』

「早って、てかひっく!それでも半分かよ!」

 

 一瞬で終わった作業と、それでも大した事のない結果に驚きを隠せない。

 

『仕方がないでしょう。所詮は小手先だけの応急処置です。てかこれでも捨てまくりましたからね、文句言わないでください。適当なスキル付与して問答無用で転生させますよ』

 

 文句を聞いたシステムは、少し苛ついたのか脅しをかけ転生者を黙らせる。

 

「ゴメン!悪かった。許してくれ」

『別にいいですが、一つ。暴力を受けなかったからイジメじゃないとか考えない方がいいですよ。深くは見てませんが、アレは完全にアウトです。貴方が異質でポジティブだったから酷く見えなかっただけですから』

 

 

 酷いものを見たという感じに、システムはそう言った。

 

「そうかな?別に実害は出てないからいいんじゃね?」

『それは貴方が気にしてなかっただけでしょう。それに年並外れた能力の高さと異常な思考回路。すべてが奇跡的な配分で、事態が悪化する前に解決してます。それが貴方の能力では?』

 

 どうやら、持ち前の能力の高さで、序章ですべて終わらせていただけの話しであった。それにしては嫌われ過ぎだろうとシステムは思っていたが、見ていく途中で異常者だからと納得していた。

 

『では転生の説明と準備を始めます』

「よしきた!どんとこい!」

 

 そうして、異常者の転生が始まったのだった。

 

 




 ~おまけ~
 ・転生者容量について
 容量300……自我と記憶が保ってられるギリギリの範囲。それがあるだけマシな方で、大した能力は得られない。

 容量1000台……不便のない人生を送れる程度。初期からそこそこの才能に恵まれており、鍛えれば上位に食い込むことも容易なレベル。

 容量2000台……当たり前のように特殊能力又は、突出した才能を持っているレベルの容量。人生楽しく過ごせそうなライン。

 容量3000台……能力社会でも余裕で上位陣に行く込めるレベルの容量。無双も夢ではないかもしれない。

 容量4000台……人類の領域を超え始める領域。まだギリギリ踏みとどまってる感がある。

 容量5000台……人類の最高値。やりようによっては神みたいな存在になることも可能。

 ・ちょっとした解説
 初期から才能や能力などを持っていた場合。例として、最大2000あるけど、能力か才能の数値引いて残りの空き容量1000ぐらいと言ってくれるのだが、主人公の場合は、解析できない領域があるので、わかる範囲で数値を出しているためやけに低くなっている。


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ステータス設定……のはずが

 

『ではまずステータスを決めましょう』

「おお!なんか出てきた!」

 

 システムの声に合わせて、転生者の目の前に半透明の画面が現れる。

 

「転生の際に決められることは、種族、性別、スキルの三つです。あればですが、固有能力に関しては転生後に表示されます」

「うおお!種族とスキルの数スゲェ―、けど容量足りねぇ!」

 

 勝手に画面を操り、内容を見ていく転生者。そこにはファンタジー御用達の種族やスキルと言ったモノが大量に表示される。それに興奮する転生者だったが、高位の種族やスキルほど容量を要求され、殆どが選択不可になっている。

 

『種族の大まかな種類は、人間族、魔人族、亜人族、その他です。念じればより詳しい内容がでますが、貴方は種族も性別も固定のようですね』

「なんでだよー!吸血鬼とか魔人とか獣人とかになってみたかったのに!てかなんで性別までっ!?」

 

 それどころか種族に性別まで既に決まっており、その内容も解析不能で表示がバグっていた。

 

『手出しできなかった領域のせいでしょうね。恐らくそこに大半の容量が食われているのでしょう。ですが安心してください。スキルの方は選べますので』

「選べるって言ったって低レベルなもんばっかじゃん!チートのチの字も見えない!」

 

 初期設定でありそうな、ノーマルスキルはそこそこ選べるけど、中位のスキルは数える程度で、上位スキルは一つか二つが限界と言ったとところだ。

 

『選べるだけマシです。本来なら才能と努力、運などが関わって取得やレベルアップするものなので……てかもうそろそろ黙ってください。うるさいです』

「あ、ごめん……」

 

 声色を変えたシステムに謝る転生者は、すぐに静かになり詳しい話を聞く。

 

 

『才能を無視して取得できるのはここだけですが、転生してからもスキルは普通に取得できます。ですのであまり悲観する必要はありません』

「そういやスキルってなんなんだ?」

 

 転生者は気になったことを率直に聞いた。

 

『本人の行動や才能によって、各個人に合わせて技術を与える補助システムです。段階は1~10まであり、数値が上がるほど性能も上がります。因みに、基礎能力のレベルが上がれば上がるほど一部のスキル取得や成長が早くなります』

「技術の範疇しか与えられないんだな。その分学習できそうだ」

 

 本人が出来ることの補助や強化、更には知識や技術。凄いことではあるが、あくまで万人が出来る範囲のことを補強しているだけのようだ。

 

 そこで何かを見つけて、追加で質問を飛ばす。

 

 

「例えばこの強奪っていうスキルで他人のスキルを奪ったらどうなる?」

『その場合、システム上のスキルを奪ったことになります。ですので、使用者はその分技術が向上し、対象は経験や技術だけが残ります。まぁステータスのことを知っているのはごく一部なので、傍から見れば片方は動きが良くなって、もう片方は多少動きが悪くなる程度でしょうか』

 

 あくまでシステム上のスキルが奪われるだけであり、全てがなくなるわけではないようだ。よって強奪者は、数値ほどスキルを扱えない振り回された状態になり、奪われた側は補助がなくなり技術の精度が下がるらしい。

 

「まぁ技術の範疇ってんなら当然か」

『はい。スキルレベルも当人の技量に合わせて上昇します。自分が出来る範囲+1ぐらいですね。当人の技量が上がっていることが一番効率がいいですから』

 

 裏を返せば、レベル7の使い手は、スキルを抜かれてもレベル6相当の技術が扱えるのだ。

 

「スキルを取りすぎるとどうなる?」

『他のスキルが取りにくくなったり、全体的な成長が遅くなります。統合して上位スキルにすれば多少はマシになりますが、基礎レベルが低い状態でやれば、変なスキル構成になったり最悪詰みます』

 

 そして奪った側は、その分容量を取られてしまう。おまけに実力に見合わないレベルのスキルを持ってしまうと、更に成長は鈍化する。幸い強奪スキル自体にも調整機能はついているので多少は大丈夫だが、高レベルや特殊スキルなどを適当に奪いまくってしまうとそうなるのだ。

 

「ハズレスキルだな」

『そうではありませんよ。使い方を間違っているだけです。転生者にありがちですがね』

 

 ステータスを知れる数少ない存在である転生者にありがちなミス。スキルの大量取得や高レベル化などをして、後の成長に大きく悪影響が出やすいようだ。

 

「やっぱ地道が一番だな」

『そうですね。急激なレベル上昇は、ショック死を引き起こす場合もありますので』

 

 唐突の告白に一瞬目を丸くする転生者。

 

「え?なにそれ怖い」

『基礎レベルは最大が100で、存在の成長に合わせて数値が上昇します。その中で最も効率がいいのは、他の高レベル存在を殺して、その存在の残滓を取り込むことです。その時に取り込みすぎると過剰摂取で死に至ります』

 

 そう言って実際の様子を脳内に流される転生者。どうやら強力な存在は複数人か、特殊なスキル持ちじゃないとダメらしい。でなければ最悪即死してしまうようだ。

 

「そういやなんでレベルに上限があるんだ?」

『それがシステムの限界だからです。強くなりすぎるとこちらとしても管理しづらいので』

 

 能力が上がりやすいようにしているようだが、上限を設けることによってインフレを未然に防いでいた。なぜなら、強くなりすぎて世界を壊されでもしたら困るからである。

 

 

「てかなんで強くする必要があるんだ?」

『質問が多いですね。まぁ聞かれたら答えますが……それはですね、強力な存在は膨大なエネルギーを発生させます。それをシステムを通じて回収することによって世界に還元させてるんです。それに人類や魔物などを利用しているだけですよ。……面倒なので適当に情報突っ込みますね』

 

 そう言ってシステムは、世界の状況や自身のことについて軽い情報を転生者に見せつける。

 

「お、おおっ!なるほど、そういうことか。じゃなきゃ滅ぶんだな、だから調整していると」

『はい、そうです。人類や生物にとって過剰なエネルギーは悪影響でしかありませんし、こちらも漏れ出すエネルギーの回収と不足分の補填をしなければいけません。なにとぞご理解を』

 

 事情を話したシステムは、スキル選択画面に戻す。

 

『ということで、スキルの選択をしてください』

「あ、はい、わかりました」

 

 そのままシステムに言われるがまま、転生者はスキルを決めることにするのであった。

 

 

 




 ~おまけ~
 ・種族とコスト(最低値)
 人間族……コストは100で、特殊なこと以外何にでも適性がある。主に生命力という名の気力などを扱い、基礎能力を強化できる。魔法は苦手で、それを技術にまで落とし込んだ魔術をよく使う。
 魔人族……コストは200~500で、基本的に能力も高く主に魔力を使うことから、特に魔法系統に優れている。魔族と言っても様々な種族があり、人間そっくりな魔人から吸血鬼や妖精、アラクネなど魔力を主体とした者たちの総称。
 亜人族……コストは300~700で、上記の二種族以外の各種族ごとに特殊な能力を持ち合わせている者たちの総称。獣人や竜人や鬼人、エルフやドワーフなど種類が豊富。基本的な主力が気力か魔力以外の使い手の集まり。
 その他……コストは100~1000で、魔物や精霊などの人類以外のカテゴリ。

 ・基礎レベルについて
 上限は100で、レベルが上がる度に身体能力やその機能が上がり、容量が増す。これにより物覚えが早くなったり、スキルの取得やレベルアップがしやすくなる。
 レベル上げ方法は、戦闘なしでも年齢と共に20前半まで上がり、訓練や何かを倒すことによってそれ以上のレベルにすることができる。
 また対策を取っていないと急激なレベルアップで死に至ることがある。


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スキル設定

 スキルを決めるために目の前に表示されたスキル一覧を見ていく転生者。

 

「剣術に、身体強化、解析……ノーマルスキルはこんなもんか」

『スキルは、通常スキルと特殊スキルがあります。通常スキルは、やろうと思えば誰でも取得できるスキルで、特殊スキルは適正者や特殊な才能をもつ者にしか取得できません』

 

 システムがスキルについて簡単な説明を入れる。

 

「なんとか魔法とかないのか?」

『魔法のプログラムを組むより、思考強化などをした方が安上がりで多様性が生まれるんですよ。固定されるとやり難いでしょう?それに体系化されたものは魔術として出回ってますし』

 

 一々魔法を作って提供するより、人類側の裁量に任せたほうがいいとシステムは言う。その代わりに基礎能力を強化するスキルは豊富に取り揃えてあった。

 

「プログラムの中での自由性とかはどうなんだ?」

『ありますが、システムに干渉されない程度に抑えています。不正アクセスなどを防ぐためです。技などを取りやめたのがそれが理由です。以前能力を使ってシステム内部に入り込んで、不正利用されかけたので』

 

 ステータスを極力秘匿するのも、わかりやすいプログラムを作らないのも、すべてはシステムを認識させないためであり、過去の失敗を改善した結果だった。

 

 

「わかった。じゃ、スキル決めますか。とりま特殊スキルでも……」

 

 一つぐらいはいいものがあるだろうと思い特殊スキル一覧を見た転生者は……

 

「どれも1000超えじゃねえかっ!」

『特殊スキルですからね。才能という適性も、取りやすくなるための経験も無いのであればこうなります』

 

 強奪、模倣、吸収、創造、補正補助、真偽看破、無効化、自動化、最適化、支配化、魔王化、全適合、万能作成、付与、迷宮主、破壊、不屈、思念、覇気、特化、全属性、自己改造、不老不死、硬化、超成長、超耐性、超思考、超学習、超回復、等価交換、空間把握、異常攻撃、瞬間移動、情報偽造、技能選択、覚醒、透明化、透過、魔眼、叡智、憤怒、暴食、怠惰、強欲、色欲、嫉妬、傲慢、寛容、慈愛、分別、忠義、節制、純潔、勤勉…………

 

 どれもこれも高コストなものばかりで、転生者には手が届かない。

 

「なんか安くならない?」

『できますが、あまりおすすめしませんよ。安全装置や調整機能などを取り外すことになりますから』

 

 特殊スキルは能力などを真似て作ったモノだ。それをそこそこの才能や適正がある、容量があるという理由だけで使えるようにできるシステムなので、安全対策は必須である。でなければどんな反動や副作用が起きるかわかったものではない。それを外して使うということは、最悪死ぬ場合も考えられる。

 

「いやそこまではいい。使った瞬間お陀仏とか考えたくない」

『でしょうね。こちらも面倒な作業が増えなくて良かったです』

 

 そう言い転生者は通常スキルの方を見る。

 

 大まかな種類は、技術系と強化系、情報系の3つである。技術系は、それに応じた行動に補正がかかり、強化系は基礎能力にプラスして自身を強化するもので、情報系は知識を得たり解析などができる様になる。

 

「通常スキルって転生してからも普通に手に入れられるんだよな?」

『はいそうです。努力、経験によって手に入れることができます。ですが何事にも向き不向きがあり、手に入れられるタイミングも成長速度も違いますが、育てていけばいずれ強力なスキルになるものばかりです』

 

 理論上誰でも取得可能だと言うだけで、その度合いはわからない。すぐ手に入る者もいれば、死ぬほど努力してやっと得られる場合もあるのだ。さらに言えば取得方法も自分で探っていかなければいけないため、その労力は大きい。

 

「ステータスが見れるだけ有利なんだろうが、やっぱり楽したいな」

『おまかせというものもありますよ。こちらが対象者にあった最適解を提案させていただくものです。その場合より対象者を最適化して容量が増します。ただし、少々特殊な形での転生という形になりますが』

 

 それを聞いた転生者は、考えるまでもなく

 

「頼む!」

『わかりました。では良き転生ライフを』

 

 即答して意識を失うのだった。

 

 




 ~おまけ~
 ・スキルについて
 スキルは使用者の能力を最大限高め、成長を促すものである。段階は1~10まである。またスキルが足を引っ張るほどに使用者が強くなったとみなされた場合、最高値を超えレベル表記と効果がなくなる。
 レベルを上げれば容量が上がりスキルを取得しやすくなるが、強奪などで無理矢理奪ったり、何かしらの方法で多くのスキルを取ってしまうと、容量に収まりきらなくなり成長が阻害される。

 主なものは強化系、技術系、情報系の三つがあり、コストは以下の通り
 下位スキル コストは10~30で、剣術や身体強化、○○知識など単体の効果しか持たないもの
 中位スキル コスト50~100で、刀剣術や心体強化、○○知恵など複数の効果を持つもの
 上位スキル コスト150~300で、武術や対○○、○○英知など幅広い効果を持つもの
 最上位スキル コスト500以上で、職業のような表示がされ、その分野で高い実力が発揮できる。
 特殊スキル コスト1000以上。能力などを真似て作ったもの。

・能力について
 システムとは関係がない所有者本来の特殊な力。スキルを超えた性能を誇るが、その方向性は個人次第。


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転生できた

 

 今転生者は、とてつもなく混乱していた。

 何故かというと、それは思っていたのとは全く違う転生方法だったからだ。しかもそれで放り出された場所は、人っ子一人見えない大自然のど真ん中である。

 

 

(これはどういう事だ?転生っていったら、母親の腕の中で目覚めるんじゃないのか?美人な母親に格好良い父親。それに周りには兄弟姉妹とかいたりして……。まぁ、まだ慌てる時じゃない。とにかくここから移動して安全な所に行かなければ!)

 

 そう思い転生者は、体を起こそうとしたが

 

(ん?体がうまく動かないぞ。そういえばステータスを見ていなかったな。この身体についてわかるかも知れないな)

 

 そう思いステータスを見てみると

 

 

 

-----------ステータス-----------

 

・名前  無し  / 年齢  0歳

・性別  女

・種族  不明

・Lv  1

・能力   不明

・スキル  成長補助Lv1

      言語理解

---------------------------------

 

 

 

(ん?は?なんだこのステータスは?)

 

 自身のステータスを見て呆然とする転生者。

 

(は?0歳?0歳ですか?なんとなく分かってたけど流石にこれはないでしょ。嘘だと言ってくれよ。大自然に0歳児が1人はないだろ!しかも種族が不明って……、結局なにも分かってないとか。てかどうしようこの状況)

 

 自身が何を思っているのか考えがまとまらずに、簡単に混乱していた。

 

(とりあえずスキルでどうにかなるかもしれない。詳しく見てみよう)

 

 打開策を求めてスキルの詳細を見る事にしたようだ。

 

 

・成長補助……あらゆる成長を補助してくれる優れもの。これさえあれば大抵の事は人並み程度にはできるようになる。あとは努力次第。

 

・言語理解……転生者に与えられるスキル。ありとあらゆる言語を理解し、読み書きができるようになる。おまけとして若干の思考強化が含まれる。

 

 

(いい……のか?)

 

 いいのか悪いのかわからなくて困惑する転生者。それもそうだろう、言語理解は転生者なら誰でも持っているスキルで、成長補助はあらゆる低レベルスキルの詰め合わせである。適性が読み取れず、苦肉の策としてどうにか頑張って入れてくれたのが伺える代物だ。

 

(まぁ詰め合わせ系は上位スキルって話だから良い物なんだろうが)

 

 適当にスキルを取りまくった者への応急措置スキルに満足する転生者。

 

 そう考えていると

 

 

(あっちの方に人影みたいなのが見える。もしかして人でもいるのか?……いや待て、ここは異世界なんだぞ!ゴブリンとかコボルトかも知れない!ここは慎重に解析だ)

 

 

 そう思い、その人影に解析をしてみることにした転生者。

 

 

 

~ステータス~

 

小鬼(ゴブリン)

・Lv???

・スキル???

 

 

(あれ?解析がうまくいかなかったかな?もしかしてレベル不足?だったら成功するまで連打だ!)

 

 そう思ったので周りに向けて解析を使い始めた。それも手当たり次第に頭痛がするほどに

 

 

・草・草・草・草・草・草・草・魔草・・・

 

 

 そこらじゅう解析を使いまくったら、草から魔草になっていた。レベルは相変わらず変わっていないが、あくまで基準でしかないので無視をして使い続ける。

 

(頭痛がひどくなる一方だ。だが我慢できないわけでもないな。この調子で……)

 

 そのまま使い続けること数分、名前に続き簡素な説明文も出始めたのでもういいだろうと、もう一度近くにいたゴブリンに解析を使うと

 

 

ステータス

小鬼(ゴブリン)

・Lv31

・スキル・身体強化Lv3・棍棒術Lv2・打撃耐性Lv2

 

 

(えっ!?何あのレベル!ゴブリンってこんなに強いやつだったっけ?ってまてまて、これが普通のレベルかもしれないじゃないか)

 

 と、転生者が戸惑っていると、急に巨大な影が差した。

 

「次はなんだ!?」

 

 その瞬間、巨大なドラゴン、龍?がゴブリンのいた近くに舞い降りた。上手く見えないとは言え、その壮大さに驚き呆然としてしまった転生者だったが、すぐさまハッと我に返る。

 

(そっ、そうだっ!解析しとかなきゃ!)

 

 

 解析しようとしたその時、ゴブリンが高い身体能力で龍に攻撃しだす。しかし龍には傷一つ付かず、コバエを払うようにゴブリンを払いのけ、ゴブリンはボロボロになりピクリとも動かなくなった。

 

 そして邪魔者がいなくなったのか龍はその場に蹲り、のんきに寝始める。

 

 

(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!あいつ強すぎだ!レベル31のゴブリンを一瞬でって……そ、そうだ解析、解析だ!)

 

 

ステータス

 

・リントヴリム

・Lv100

・スキル???

 

 

(え?龍というよりドラゴンだ!それにレベルが100だと!?ダメだ危険すぎる!速く何処かに逃げないと!けど、体が動かねえぞ!!どうすんだ!!!)

 

 

 とにかく逃げようと体をジタバタさせていると

 

 

(か、体が少し動くようになったぞ!なにかスキルでも手に入れたのか?そんなことは後回しだ!とにかく速くこの場から逃げないとっ!)

 

 転生者は必死になって体を動かし移動する。そして逃げた先にあった横穴に入り込んだとたん、すぐに意識を落としたのだった。

 

 




 ~おまけ~
 ・転生方法について
 通常であれば親がいる環境に送り込まれるが、種族や能力の関係上それができなかった。初期スキルに関してはカスタマイズしたとおりになる。
 ・成長補助について
 あらゆるスキルを組み合わせて使用できるようにしたもの。正規の方法で取得できておらず、システムへの依存度が高いため、スキルを失うと通常以上に弱体化する。また一つ一つの性能が、専用のスキルより低い。


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起きたら……

 暗い場所で赤ん坊が目を覚ます。

 

(ここはどこだ?そういや俺はなんでこんな所で寝ているんだ?今は大変な時期で早く仕事に行かなくちゃいけないのに!)

 

 転生者はそう思いながら立ち上がろうとするが、なぜか立ち上がれない。

 

(あれ?なんで立てないんだ?)

 

 と周りを見渡すと……

 

 

(あ、そうだった。俺は異世界に転生したんだったな。それから危険すぎる敵を見て逃げてきたんだった)

 

 はぁ~と溜め息をする。

 

(これからどうしろっていうんだよ~。いくら強力なスキルがあったって、勝てるどころか逃げられるかどうかわからねぇよ。そういえば、ステータスの方はどうなってるんだ?見てみるか……)

 

 

-----------ステータス-----------

 

 

・名前  無し  / 年齢  0歳

・性別  女

・種族  不明

・Lv  2

・能力   不明

・スキル  成長補助Lv2

      言語理解

 

 

---------------------------------

 

 

 

(あ、なんかレベル上がってる、なんでだろ?身に覚えがないし上位スキルってレベル上がりずらいんじゃなかったっけ?低レベルだからか?)

 

 最初は上がりやすいのは確かだった。しかしそれでも上位スキル。そんな簡単に上がるとは思えないでいるようだ。

 

(まさかこの中に成長補正とかも混じってるのか?だったら嬉しいんだが、内容が見えないからな、わからん)

 

 スキルの内容は見れない。なぜならそんな能力も特殊スキルも持ち合わせていないからだ。システムはあくまでも簡単なものしか見せてくれないのだ。

 

(にしてもこのスキル、特殊スキル以外を取り込むのか?まさかそれでレベルを上げてるとか?)

 

 転生者の考察は間違えてはいない。だがそれに頼ると一定の水準で頭打ちになるので、経験や技量を鍛えなければいけないのだ。ここではそれに困る事は無いだろうが……

 

 

(……で、食料どうしようか?)

 

 辺りを見渡すが、視界が上手く機能せずに草しか見えないようだった。

 

(どうしよう、そこらの草でも解析して食べれそうなやつないか見てみるか。最悪不味くても我慢すりゃいいだけだしな)

 

 そんな事を考えながら、周りの草を見てみると…

 

   毒薬草

 

(ん?なんだ【 毒薬草 】?いや、まぁこんなんもあるのか?)

 

 と思い首をかしげる。

 

 

 毒薬草・毒薬草・毒薬草・猛毒薬草……

 

 

 

(な、なんだと?ここ一帯、毒薬草しかないんだがどうなってんの?)

 

 そんな事を思って周りを解析しまくった転生者だったが、結局何も見当たらなかった。そのうちに周りは暗くなり、気が付いた時には疲れたのか寝てしまっていたのだった。

 

 

 こうして転生者の異世界での一日は幕を閉じた。

 

 

 



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異世界掲示板

 転生者は困っていた。

 

(腹が……空いた……)

 

 周囲には凶悪な魔物たちと食えそうにない野草、完全に殺しに掛かっているとしか思えない状況に思考が低下し始めていたのだ。

 

(なにか、なにかないか……)

 

 新たなスキルを得ようとしたり、レベルを上げようとしたりと、やれることはすべてやっていた。だが打開策は見つからず、ただ消耗するだけである。

 

(ステータス……何の役にも立たない。助けてくれ、ヘルプ、ヘルプミー……っ!?)

 

 そうやって助けを求めたその時だった。ステータス以外の表示が視界に移る。

 

(け、掲示板?いやこの際細かい事はどうでもいい!やるだけやってみるしかねえ!)

 

 そして掲示板に意識を集中させる。

 

 

・新規転生者サポートスレ

 

・新スキルのアイデア会

 

・【悲報】ワイの迷宮攻略されそう

 

・【朗報】高難易度迷宮クリアできそう

 

・暇だから適当に面白い事書き込んでいくスレ

 

・聖剣 捨てる 方法

 

・魔剣 手放す 方法

 

・美神ってやっぱクソだわ

 

・ヤバイ組織ランキング

 

・列強国家ランキング

 

・高難易度迷宮ランキング

 

・世界最強ランキングトップ100

 

・十七英雄序列三位に出会ったけど質問ある?

 

・世界三大危険地帯に行ったけど質問ある?

 

・【悲報】ワイ死徒十三席の末席に入ってた。

 

・四凶神に出会った話をする

 

・奴隷制度って実質派遣や契約制度みたいなもんだった件

 

・紛れ込んだ隣国の姫、四天王になるpart659

 

・魔王のワイ、迷宮核を手に入れ無事社畜へジョブチェンジする

 

・迷宮主のワイ、高級施設立て維持費に殺されかける

 

・【悲報】魔法にあこがれたワイ、魔法が使えないことが判明する

 

・世界の美味しい物リスト

 

・スライムってかわいいよね

 

      ・

      ・

      ・

      ・

 

 

 こんな感じのタイトルがどこまでも続いていた。

 

(な、なんだこれ、最近のから数百年前のまであるぞ……とりあえず新規転生者サポートスレってのを開いてみるか)

 

 なにかわかるかもしれないと期待を抱き、転生者は取り合えz巣見てみようと新規転生者サポートスレを開く。そして書き込まれている途中の最後尾を見た。

 

 

567:新規転生者

 タイトル見て来たんですが、だれかいませんか?

 

568:古参転生者

 いるで、てか新人か。よくここ分かったな。

 

569:中堅転生者

 ネットがある世界から来たんやな。歓迎するで

 

570:古参転生者

 で、どうしたん?なんでも答えてやるから質問どうぞ

 

571:新規転生者

 え~と、今食料もない魔物だらけの危険地帯にいるんだけどどうしたら?因みに周囲の様子とステータスはこんな感じ

 

572:古参転生者

 うわ~、結構詰んでんな。でも安心しな。転生者は最初の五年は生存保証されとるから

 

573:転生迷宮主

 おっ?新人?見せてもらったけど大変そうだね~。俺も昔はそんなんだったよ

 

574:古参転生者

 自分語りは別スレにでもどうぞ。一応ここは相談スレなんやぞ

 

575:中堅転生者

 そうやで、助けを求めに来てんだからちゃんと答えなきゃダメやで。

 

576:転生迷宮主

 悪い悪い、そうだな。せっかくの新人だ。大切にせねば話し相手が減るってもんよ

 

577:古参転生者

 ここ入ってくるの少ないくせにすぐ死ぬからな。調子乗ったり転生場所悪いせいで

 

578:新規転生者

 そうなんですか。じゃあ早速なにかアドバイスください

 

579:古参転生者

 さっきも言ったが、転生者は最初の五年は自殺とかしないとめったなことが無いかぎり死なない。だからその間にレベルアップすればいい。それで大抵の事は解決する

 

580:中堅転生者

 スキルを取りまくるのもいいで、特に強化系。レベル低いうちは取りやすいし、ワイらは死なないから無茶して取り放題や

 

581:転生迷宮主

 めちゃ大変で苦しいがな。まぁ死なないから大丈夫だよ

 

582:転生魔王

 魔力とか使いまくって超回復利用すればいいんじゃない?

 

583:浮浪転生者

 耐性は必須だぜ。特に状態異常系は取っとかないとな

 

584:傭兵転生者

 技術系のスキルも取っとけ、特に体術とかだな

 

585:錬金転生者

 知識系も忘れずにな。ぶちゃけこっちの方が重要

 

586:王家転生者

 権力者には気を付けとけよ

 

587:魔物転生者

 雑食っていうスキルいいで、上位スキルになると悪食とか異食になってなんでも食えるようになるから餓死せんですむ。ただし食事の楽しみを忘れかけるので注意

 

588:亜人転生者

 流石は厳しい異世界を生き抜いた奴らだ。面構えが違う……

 

589:新規転生者

 ありがとうございます。とりあえず死なずにすみそうなのでやってみます。

 

 

 そうして転生者は、特に書き込むことなく情報を集められたので掲示板を閉じ

 

(死なねえのか、でも腹は減る……)

 

 近くにある草を見て

 

(食うか)

 

 つかみ取った毒草を口に放り込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(苦、不味ッ!?)

 




 ~おまけ~
 ・異世界掲示板について
 転生者や迷宮主など、世界システムに関わっている者たちが開ける掲示板。最初はこんなものはなかったが、大昔とある転生者がシステムの空き容量を勝手に使って作られたもの。そこから広がっていき、世界公認のものとなった。


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あれから……

 転生者はとある事を考えていた。

 

(名前どうしようか?)

 

 死なない事がわかり、草を食べたり鍛えられるだけ無茶をしてスキルの練習をしたりと色々やって一週間、ふとそんな事が頭に浮かんでいた。

 

(名前が無いと不便だ。それに掲示板にだって、名持はいいって書いてあったし)

 

 この世界では、名を持つ事が地味に重要になってくる。なぜなら、名を持つと存在が安定し能力が上がりやすくなるのだ。これは、システムが対象をキチンと認識できるようになり、その恩恵を受けやすくなるなどの理由がある。

 

(で、どうするかな?前世の名前は覚えてないし……)

 

 転生者は容量欲しさに最適化を行ったせいで、人格に影響が出ない記憶を破棄されてしまっていた。そのせいで名前も含めたほとんどの事を覚えていないのだ。

 

(大まかな記憶と感覚的にわかる事は多いけど、正確な事柄が思い出せない。まるで最低限だけまとめて残されて、それ以外を全部捨てられた感じだ。実に不思議だ……)

 

 もっと言うと、大量にあった名前付きファイルを“大切な物”という最低限しか入らない一つのファイルにまとめられて、残りを捨てられたようなものだ。だから中身は何となくわかっても、場所や人の名前などが欠如していた。

 

(まぁ大切だと認識してた単語はあるから、それで適当につなぎ合わせるか。あと掲示板とかも見て参考になりそうなのも探せばいい。魔物の名前とかは当てにならんし……)

 

 そう思い転生者は、いつものように掲示板を見ながら名前を考える。

 

(いつも思うが、なんだかネットスラングとか中二病っぽいのが多いな。異世界だからか、そういう転生者が多いのか)

 

 掲示板の利用者は、システムに干渉できる転生者や迷宮主と言った世界について理解のある者たちで構成されている。

 

(質問コーナー?……なんかシステムとか管理者とかいるんだが……)

 

 中には質問コーナーなどもあり、システムや管理者などがバランスや世界観を壊さない程度であればなんでも答えてくれるものまであるのだ。

 

(ま、まぁ今のところは掲示板は見るだけであまり使わないと決めてるからな。のめりこんだら大変だし、安価とかもっての外だ)

 

 極力掲示板への書き込みはしない事にしている転生者。なぜなら、死なないにしても危ない事態なのには変わりなく、今は兎に角生活基盤を整えなければいけないからだ。そこに人付き合いが苦手なのも合わさり、なかなか手が出ないのだろう。

 

 

(そういや今世じゃオレは女か、実感が薄いが相応の名前の方がいいよな)

 

 年齢が低いせいか性別に実感が湧かない転生者は、折角だしと女性らしい名前を考える。

 

(異世界っぽい名前は……ありきたりな奴ばっかで参考になりそうなのがないな。やっぱ前世と同じ感覚で付けるか)

 

 名づけスレとかいうものを見つけた転生者だったが、ふざけた名前やありきたりな物しか出てこず、カタカナ表記の名前を諦める。というよりそもそも感性に合わなかったようだ。

 

(じゃあ、え~と、木枯……いや違う。平片……これも違う。古内……これだ!古内 明理にしよう!)

 

 ゴロがよさげなものを思いつき、予定調和の様にそう決める古内。すると体に力がみなぎり……

 

『名前決めたんですね』

(し、システム!?)

 

 システムが話しかけてきたのであった。

 

 




 ~おまけ~
 ・名持ちについて
 名を持つとシステムに認識されやすくなり、その恩恵が受けやすくなる。更に有名になり異名持ちになると、その効果はさらに高くなる。理由は、名を持つ者を特別な者として認識し、さらに追加で異名を持つ者は世界にとって有益に働く可能性が高いためそうなっている。

 ・システムについて
 明確な形は持っていないが、しいて言うなら世界そのもの。世界の存続のためらな割と何でもするため、敵対すると大変なことになる。


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システムとの会話

 システムがいきなり話しかけてきて驚く古内だったが、そんな事お構いなしにシステムは話を続ける。

 

『変な場所に転生させてしまって見失ってたので死んだかと思ってましたよ』

(いや補正有るから大丈夫だろ……ってそうじゃない!聞きたいことがいろいろあるんだ、答えてくれ!)

 

 突っ込みながら冷静?に話を続けようと努力する古内だが、やはり心は安定しないようだ。

 

『いいですよ。不手際のお詫びです。どんな質問にも三つだけ答えましょう』

(なぜ三つ!?ってわかった!三つだな!わかったから消えないで!見捨てないで!)

 

 システムの気配が薄くなるのを感じ、急いで引き留める古内。それに引き止められてか普通に戻ってくるシステムに安心してかため息を吐く。

 

『長い話は受け付けませんよ。こちらも用事があるので』

(ああ、道理で……すまない、ホントごめん。つい話すのが楽しくなってな)

 

 どうやらシステムも仕事があるようで、それは悪かったと古内は反省する。だが次の瞬間には気を取り直し質問が始まっていた。

 

 

(じゃあ一つ目なんだが、ここはどこだ?掲示板にもそういう情報は無かったが?)

『ここは世界の裏側、最果ての大陸です。地図はこんな感じで南北に大陸が一つづつある感じですね。表世界には知られていない場所なので、そうそう情報は出てきませんよ。特に位置や細かい情報は制限をかけてますので掲示板でもやり取り不可能です』

 

 簡単な説明とともに世界全体の地図が出され、最果ての大陸の情報が出される。地図としては大まかな枠組みでしか認識できないようだが、南北のアメリカ大陸を歪ませたような形だ。

 

 

(じゃあ二つ目なんだが、この大陸での生存方法を教えてくれ)

『五歳までにレベルを30以上にしてください。毒とか使えばそこらの魔物は簡単に倒せるので楽ですよ。あとスキルも5以上であればより生存率は高まります』

 

(いや、そうかもしれないけど……具体的には?)

『そこらに生えてる毒草を使うんですよ。それをスキルでも何でも使って毒装備を作って、暗殺とか特攻するんです。生きたいと思って行動し続ければ滅多に死なないので頑張ってください』

 

 古内にとってこの大陸のレベルは高すぎるので、解決法を聞いていた。それに対しシステムは、転生者得点で限界まで無理できるから簡単だよね?と無茶な方法を提案してくる。

 

 

(……最後に、俺の能力について教えて)

『すみませんが無理です。こちらも把握していないので。ですがレベルを上げて行けばいずれ使えるようになりますよ』

 

 能力に関しては、教えなくてもある程度は使えるようになるのだ。なぜならそれが自分自身だからだ。それをより分かりやすくするためのステータスだと言うだけで、絶対必要かどうかと言われるとそうではない。もちろん古内の様に自覚がない者薄い者もいるだろうが、基礎能力が上がれば能力も自ずと自覚できるようになってくるのだ。

 

『そのかわりに魔導について教えましょう。能力と魔法系はあまり相性よくないですが、最低限の事はできるでしょう。……あとここでは学ぶのが難しいですからね』

 

 そう言ってシステムは魔導についての情報を古内に送り込んだ。因みに、基本的に能力と魔法系は相性が悪い。理由は、能力は便利で強力だがその分容量を多く使っていたり、特化しすぎていて他の力を受け付けなくなるからだ。

 

(これが……魔導?魔法と魔術の合わせ技みたいなもんか?)

『そうです。才能がいる代わりに汎用性が高い魔法と、誰にでも使える代わりに決まった事しかできない魔術。その両方が使え、更に組合わせることが出来る技術です。本来なら才能と容量が豊富で、その上で努力を怠らないものにしか成せない技ですよ』

 

 スキルで補強できるとは言え、元である存在の能力も高いことが求められるのが魔導と言うものだ。その知識と技術をいつでも回覧できるようにしてくれていた。

 

(なんとなくだが感覚も分かったし、教材は多いに越したことがないからな。ありがとな)

『まぁこちらも手を出し過ぎるとダメなのでこれが限界ですが、頑張ってください』

 

 そういうとシステムは、古内との会話を切り辞めて消えるのだった。

 

 




 ~おまけ~
 ・最果ての大陸について
 世界の裏側、最果ての大陸。世界最大の危険地帯であり、そこらかしこに表世界たる人類界に多大なダメージを与えられる奴がうじゃうじゃしている。

 ・魔法、魔術、魔導について
 魔法とは、周囲の特定の量子に干渉して、思いのままに周囲を改変する力である。周囲の影響を押しのけるエネルギー量と想像力があればできないことはない。汎用性という面では能力を上回っているが、影響力の多くを特定の量子に依存しているため、それがないと発動できない。
 魔術とは、魔法を体系化、技術化して誰にでも使えるようにしたものだが、魔法と違い個々での応用に欠け一定の結果しか出ず、さらには術式を作ったり覚えたりと事前準備が必要になるものである。
 魔導とは、魔法と魔術をどちらも使え組み合わせた技術の事を言う。古内はシステムの補助ありきで、成長補助のスキルレベル分の魔導が使える。


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成長と戦闘準備

 毒草を食い、スキルを鍛え、無茶な修行を繰り返して数年。古内はステータスを見て満足していた。

 

 

-----------ステータス-----------

 

 

・名前  無し  / 年齢  3歳

・性別  女

・種族  不明

・Lv  5

・能力   不明

・スキル  成長補助Lv4

      言語理解

 

 

---------------------------------

 

 

「よし!スキルレベルが上がったぞ!」

 

 掲示板を見る以外で唯一の楽しみとかしたレベル上げで、久々に上がったスキルレベルを見ながら嬉しそうに声を上げる古内。

 

「たった一レベ上げるのに一年かかったな。掲示板を見る限りだと異常に速い速度らしいが」

 

 レベルが低いうちは上げやすいのは確かだが、複合スキルや特殊スキルは便利な分上げずらいのだ。最低限とは言え、すべてのスキル効果が得られる成長補助はとりわけ上げにくいはずであったが、掲示板で集めた情報を使い毎日動けなくなるまで修行した結果である。

 

「基礎レベルも年齢以上だし、人間界じゃ強いほうなんだろうな」

 

 基礎レベルは年齢とともに上がり、二十代で止まってしまう。それ以上は修行するなり、魔物を倒すなりしなければレベルが上がらないのだ。

 

「この世界の五歳児相当の身体能力と、一人前を超えたあたりの技量か」

 

 肉体がまだできていないので補助に頼りきりになるが、それを踏まえても前世の成人男性程度であれば倒せるほどの実力を身に着けた古内。

 

 だが……

 

 

小鬼(ゴブリン)

・Lv63

・スキル・斥候Lv6・心体強化Lv6・対物理Lv5・対異常Lv4

 

 

「うわっ、また来やがった。ああいうやつとは戦いたくないな」

 

 そう呟きながら気配を殺してそそくさと逃げる。

 

「俺は自然発生した魔物と戦いたいだけなによ……」

 

 この世界には魔力から自然発生した魔物と、生物的に生まれる魔物が存在する。古内が探しているのは前者で、今見つけたのが後者であった。なぜ前者がいいのかというと、レベルのわりに経験や技量などが低く戦いやすいからだ。

 

「にしてもどこから来てるんだ?あいつ?」

 

 斥候のスキルも相まって、未だに相手の素性一つわからない古内。スキルのおかげで辛うじてそこにいる事はわかっても、大まかな情報しか得られずに装備すらまともに認識できてはいなかった。

 

「場所がわかるだけありがたいか」

 

 レベルが高く熟練者のような雰囲気を漂わせ、最上位スキルを当たり前のように保有する小鬼など誰も相手したくないだろう。古内も補正が無ければ、今頃吊るしあげられて捕まっていたかもしれない。

 

「道具でも作るか。あと手ごろな魔物探しも」

 

 そんなことを考えながら小鬼をやり過ごした古内は、集めた枝や毒草を使って魔導により道具を作り、時より広範囲の探知を使いながら目的の魔物を探すのであった。

 

 




 ~おまけ~
 ・魔物について
 魔物とひとくくりにされているが、細かく分けると、魔物、妖怪、神獣、怪物、精霊、呪霊、幻獣、破獣など様々な種類がいる。これは使っている力の種類や発生源の違いから分けられている。しかし見た目の形態が似ているものが多いため、一応に魔物とされている。


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スライム討伐!

 道具を作ることに成功し、草の中をこそこそとしながら標的を探す古内。

 

(やっぱ異世界での最初の敵と言ったらスライムとかだよな)

 

 スライム。それはRPGなどで最弱として名高い粘性生命体である。古内はそれを探していた。

 

(掲示板によるとスライムはどこにでも湧き出て、食物連鎖でも底辺に近いって書いてあったしちょうどいいだろうな)

 

 掲示板にて情報収集を行った結果、スライムという便利生物は、倒してもよし食料にしてもよしと、非の打ちどころのない魔物だった。ただしノーマルに限る。

 

(注意点もあったが、先手を打てれば問題ないらしいし、高レベルに関してはどれも強者だから近づかなきゃいいだけだ)

 

 だがスライムは弱い魔物であるが、侮っていい相手ではない。あくまで対策や性質が知れ渡っているから倒すのが容易というだけで、無知で挑めば十分に危険な魔物なのだ。

 

(お!いたいた!どれどれ、ステータスは……?)

 

 

粘性生物(スライム)

・Lv11

・スキル・雑食Lv3・打撃耐性Lv2・毒物耐性Lv1

 

 

(20レベも超えてないし強いスキルも持ってない。けど……ええい!きっと大丈夫だ!)

 

 そう思い迷いを振り切った古内はスライムの近くへ行き、持っていた長い短刀のようなもので突き刺す。

 

(おっ!)

 

 するとスライムは簡単に崩壊し、べちゃりとドロドロの水たまりを作った。そして……

 

「おおっ!!?」

 

 体に力がみなぎり、レベルが一気に引き上がる。

 

「ホントだ!スゲー割のいい魔物だな、スライムって!」

 

 人間界の地上にいるスライムは、基本スキルもなく5レベ未満しかなく、古内が倒したのはその2倍以上のレベルを誇るものだ。しかし掲示板によると、20レベまでは大して強さが変わらず、その割にレベルアップには打ってつけの魔物として紹介されていた。

 

「レベル低いから塩かければ倒せるし、魔物の弱点の魔核潰せば即死するしでホント都合がいい魔物だ」

 

 塩を用意できなかった古内は、土魔道で細長い短刀を作り出し、スライムの魔核を貫いたのだ。不意打ちなのと、そもそもあまり強くないことも相まって簡単に倒せていた。

 

「一気に8レベまで上がったぞ。この調子でじゃんじゃんやっていこう」

 

 スライム退治に味を占めた古内は、そのまま次のスライムを探し出し次々に葬っていく。

 

「5体倒しただけで、高レベルスライムのレベルを超えた……」

 

 そして短時間で15レベまで上げた古内は、ニヤニヤが止まらなくなっていた。

 

「この調子でいけば20……いや、30レベもすぐだろ」

 

 格下となったスライムではレベルは上げにくくなったものの、それは数をこなせばどうとでもなるだろうと高をくくり、スライムを探し出すのだった。

 

 

 だが古内はまだ知らない。20レベ以降のレベルの上げにくさと、魔物の強さを……

 

 

 




 ~おまけ~
 ・スライムについて
 どこにでも湧き出てくる魔物。倒してよし食料にしてもよしとあまり強くない……のは低レベル帯のスライムであり、高レベルになると倒しずらく厄介な魔物へと変貌する。理由は、スライムは低レベルだと形の維持だけで精いっぱいになり、攻撃などほとんどしてこないが、20レベを超え始めると存在が安定し戦闘能力が一気に跳ね上がるからだ。
 


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夢?

 白衣を着た顔の見えない誰かが、満点の星空を見てニヤリと笑っていた。

 

(誰だ、こいつ……?)

 

 それはまるで、心の底から欲しかったものが手に入った喜びが滲み出たかのようなものだ。それを古内が認識した瞬間、そいつの周りに立体映像が投影され様々な情報が高速で流れていく。

 

(なに、してんだ?)

 

 相変わらず顔はモヤがかかったように見えないが、ニヤニヤが止まらないのかそういう雰囲気だけは伝わってきていた。そうしていると、視界の端から少年が現れそいつに話しかける。

 

(聞こえない……なに、話してんだ?)

 

 見た目ではわかりずらいが少年も喜んでいるようで、それと同時に世界に何かが覆いつくされゆっくりと動き出す。

 

(デケェ……)

 

 そいつらが立っていた……というより乗っていたのは、巨大な動く惑星のようなものだった。それは金属の装甲で覆われており、明らかな人工物、宇宙船のようなものだ。

 

(どこに、向かってんだ?)

 

 誰にも見えないように、誰にも分らないように仕掛けを施された宇宙船は、流れる周囲の景色は見えなくなり光速を超えどこかを目指して航行をしていく。

 

(中心?それに……)

 

 チラリと見えた映像には、世界の中心が映し出されており、別の画面では何かを考えているのか、様々な資料が出されている。それについて少年と話し合っているが、納得のいく答えが見つからないのか、困った雰囲気が漂っていた。

 

(わかんね)

 

 簡単なことは出てくるものの、難しいことは考えられなくなっているようで思考を放棄しだす古内。それもそのはずで、夢のような空間で色も音も認識できなければこうなるだろう。

 

(ん?どこ、いくんだ?)

 

 そうやってボーと眺めていると、二人は宇宙船の中へと帰っていく。古内はそれを追いかけることもせず、いやできずに意識が薄れだした。

 

(なにも、できなかったな~)

 

 ぼんやりとそう考える古内。それが何に対してなのかは本人にもわからず、しかし考えることすらしない。ひたすら誰もいなくなった景色を眺めるだけである。

 

(……?どうして、ここにいるんだろ?)

 

 そしてふとなにかが脳裏をよぎり、次の瞬間にはきれいに消え失せる。それは何も感じないはずなのに、明確な記憶として残っていすらしないのに、善悪問わずあらゆる感情がごちゃ混ぜになったものを感じ、一瞬だけ鳥肌を立たせていた。

 

 そして――

 

(ま、いっか……なるようになるさ)

 

 最後にはそう行き着き、古内の意識は完全に闇に沈むのだった。

 

 



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全く上がらん……

 レベリングを初めて一か月が過ぎていた。

 

「全く上がらん……」

 

 20レベまではすいすいと上がっていたものの、それ以降は驚くほど上がりずらく、古内は苦戦していた。

 

「格下だからか?」

 

 現在の古内のレベルは21だ。それに対し倒しているのは相変わらず20レベ以下のスライムたちであった。20レベになってからすでに100を超えるほどのスライムを倒しているが、大した成果は見られない。

 

「ちょっと掲示板で情報収集するか」

 

 そうして古内は掲示板を開いて、スレを見ていく。

 

 

「え~と、レベルについては……ん?すぐ出てきたな」

 

 大量にある変なタイトルの中から、目的のものを探そうとする古内だったが、思い浮かべただけで目的の情報が出てきていた。

 

「便利なもんだ。これだけあれば書き込む必要ないな」

 

 あまり人付き合いが得意でない古内にとって、転生者コミュニティどころか普通のコミュニティに入ることすら難易度が高い。なので極力関わらないように生きているのだ。こうやって前世でも他人に興味を示さず、何でも自分一人でできてしまうため大抵のことは問題にならなかった。

 

「レベルの上げ方ね。思った通りだ」

 

 古内が見たスレには、効率のよいレベルの上げ方が書かれてあり、同時にやってはいけないことも簡単に書かれていた。

 

「格上と戦うこと、二十歳前後なこと、一人で戦うことか」

 

 格下ではそもそものエネルギー量が足りずに吸収効率が悪く、肉体の全盛期である二十歳前後でなけれ還元効率が悪く、複数人ではエネルギーが分散してしまう。

 

「エネルギーが多い場所でもレベル上げしやすいのか。まさにここだな」

 

 要はどれだけエネルギーを吸収して自身へ還元するかの話なので、エネルギーが満ち足りている最果ての大陸はレベリングに打って付けの場所だった。

 

 しかし……

 

「とは言えな。勝てんだろ……」

 

 エネルギーの多い場所の魔物は強くなりやすい。なぜなら魔物は、人類や他の生物よりも吸収率還元率共に高水準だからだ。特にここ最果ての大陸では、表世界の地上ではお目にかかれない強力な魔物がうじゃうじゃしている。おまけに言うなら、各地で縄張りを作っている最上位種たちは、高難易度迷宮の深層で出会うような奴を遥かに凌駕する実力者ぞろいだ。

 

「でもな。年齢の方はあきらめざる終えないし、タフネス特攻で戦わなあかんのか。やりたくねぇー」

 

 何度も言うが、転生者はよほどのことがない限り5歳までは死なない。だが死なないというだけで、ストレスも感じるし苦しくもあるのだ。そこで心が折れてしまえば即死亡だろう。

 

「お、ちょうどいいところに小鬼がいるな」

 

 そう思い、小鬼のステータスを見る古内。

 

 

ステータス

小鬼(ゴブリン)

・Lv25

・スキル・身体強化Lv1・打撃耐性Lv1

 

 

「……あいつ倒そうかな」

 

 運のいいことに、今まで一番レベルの低い小鬼を見つけた古内は、そいつを倒そうと動き出したのだった。

 

 




 ~おまけ~
 ・世界に漂うエネルギーについて
 あらゆる世界には、あらゆる力の源であるエネルギー量子が漂っている。これはそれ単体ではほとんどなにも影響をもたらさないが、何かしらの方法で合成変換されることにより、魔力や気力、妖力などになる。
 なお本来ならエネルギー量子は、纏まってなにかしらの物質になるが、この世界のように多量に発生している世界だと、過剰分が明確な物質にならずに特殊現象の発生源になることが多い。


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ゴブリン討伐

 小鬼を倒すことにした古内は、手作りの毒短刀を手に小鬼に近づく。

 

(静かに近づいて、後ろから突き刺してやれば一撃だろ)

 

 そうでなくても毒で死ぬまで耐えればいい。そう楽観的に考え、短刀の突き立てられる距離まで接近した古内は、スキルに身を任せて最速の突きを放つ。

 

「やっッ!!?」

 

 だが振り切る前に気付かれ、距離もギリギリだったことも合わさり掠るだけに終わった。さらに反撃も諸にくらい殴り飛ばされる。

 

「ッ!?」

 

 そのまま近づいてきた小鬼に追撃を受けそうになったが、咄嗟に短刀を振るい牽制をして間合いを取った。

 

(なんで気付くんだよ!なんであんなに強いんだよ!)

 

 レベル差が小さく、スキルに関しては優ってさえいる。だがそれでやっと、同じ土俵に立てたといった感じにしか見えない状況だ。

 

 

(来っ!)

 

 一気に距離を詰めようと小鬼の踏み込みに気付いた古内は、急いで短刀を盾にして切り返す。

 

(仕留めきれなかった……)

 

 またも掠めるだけでワンステップでかわされ、体勢を低くして反撃を仕掛けてくる。

 

(ふ~、冷静になれ。スキルと補正が反応している限り俺は負けない。にしてもなんでこいつこんなに動けるんだ?この大陸のせいか?)

 

 冷静さを取り戻した古内は、ムダに自ら動くのをやめて、スキルの感覚に任せることにした。すると戦闘が楽になり考える余裕ができる。

 

(毒で弱ってきてるから攻撃が当てやすくなったな)

 

 少し経ち小鬼の動きは初めに比べ明らかに悪くなっていたが、それでも仕留めきれない。古内が無意識に安全や守ることを重視して奥手になっていることもあるが、小鬼が気を奮い立たせて頑張っているのが大きかった。

 

「これで終わりだ」

 

 だが毒が回りきった小鬼は、足がもつれて体勢を崩す。そこへ古内は止めと言わんばかりに短刀を突き出す。

 

「おまっ!?」

 

 短刀は胸に突き刺さったが、小鬼はそこで死なず、力いっぱい古内の首を絞めてきた。

 

「さっさと……くたばれっッ!!」

 

 苦しむ程度には閉まる首だが、小鬼もあまり力が残っておらず、古内が短刀を捻り強引に振り切ることで力が弱まる。そこへ追撃にと傷口に思いっきり蹴りをかましていた。

 

 

「はぁはぁ……なんとか勝った……」

 

 息を切らしながら、へたり込む。どうやらスキルによる補正された動きに慣れていないせいで、体の節々が悲鳴を上げたようだ。

 

「改善点が、多い……な」

 

 スキルがあればどうにかなるなど甘すぎる考えだったと後悔する古内。

 

(それに、殺したのに何も感じない)

 

 転生した影響か、スキルの影響かわからないが、古内は殺しや戦闘に不快感を感じていなかった。逆に成し遂げた爽快感の方が大きく、これからも頑張っていこうとさえ思っている。

 

「まぁ、いいか。これぐらいじゃないと生きてけないし」

 

 そう思い、古内は仰向けになって青空を眺めるのだった。

 

 




 ~おまけ~
・古内の強さについて……
 戦闘経験もなければスキルをうまく使いこなしているわけでもない。なので単発の精度はスキル相応だが、ただ振り回されているだけなのでついていけずに逆に隙が多くなっている。なおそれもスキルのゴリ押しで誤魔かしているが、余計なことをするため要所要所で無意味とかしている。

・小鬼の強さについて……
 生まれたてだが、本能はキチンと働いているため隙は少ない。身体能力は強化している古内と同等で、技術も経験もないので反射神経だけで戦っている。スキルがないにしては頑張っている方。同レベルだったら苦戦するとはいえ、これだけ動けるのはこの大陸ならではで、レベルやスキル外の基礎能力も周囲のレベルに合わせて生まれるから。


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魔導を使おう

 ゴブリン退治から半年ほどが経ったある日、古内はとあることを思いついていた。

 

「魔導使えばもっと楽できんじゃね?」

 

 毎日チマチマ勝てそうな魔物を探しては、死に物狂いで挑んでギリギリの勝利を収める。そしてその割にはレベルの上りは悪く、現在のレベルは23レベだった。そこで楽にレベル上げをするにはどうすればいいのかと考えた結果、手に入って以降戦闘では一切使っていなかった魔導の存在を思い出したのだ。

 

「風の刃で、こう首をスパッと斬り落とせれば楽なのにな」

 

 そう思い魔導を使って風を起こし、草むらに向かって放つ。

 

「しょぼ……」

 

 頑張って刃のような形にしても草一つ傷つけることはできず、すぐに拡散してただの風になってしまう。

 

「いや、練習が足りないだけだ。目指せ風使い!」

 

 自身の知識や掲示板、スキルの力を使いとにかく練習していく。

 

「え~とまずは制御をちゃんとできるようにして、そっから極限まで圧縮できるようにならないと……」

 

 大抵の現象は、圧力のかけ方で決まる。大きな圧力を、小さな範囲に集中させれば貫通でも切断でもできるようになるのだ。逆に分散できるようにすれば、大抵の攻撃は防げる。攻撃面で問題なのは、その必要圧力と制御のレベルの高さだった。

 

「ダメだ。桁が違いすぎる……」

 

 全力で集中して放たれた風刃は、草を斬り裂くことができた。だがこれでは割に合わない。と言うか、そもそも動物、それも強化されている魔物には傷すらつけられないし、撃とうと頑張っている間にボコられて殺されるのが落ちだ。

 

「初心者には厳しかったか」

 

 ガッカリする古内は、他の属性について考えだす。

 

 

「やっぱ一番殺傷能力を出しやすいのは炎か?」

 

 適当に火力を出して焼き殺してやればいい炎は楽だ。燃え移りさえすれば、耐性でも持っていない限り大きな効果を狙える。

 

「土は動かしにくいんだよな。まぁ防御が妥当だろう」

 

 質量物を動かすには大きなエネルギーが必要だ。その分質量での攻撃になるので、比較的に簡単に攻撃を加えやすい。だが他の属性に比べて機動性や俊敏性に欠けているため、攻撃自体には向いていない。初心者は大雑把に防御に回した方がいいだろう。

 

「水……水って凄いな」

 

 動かしやすく圧力も加えやすい。水辺で使えないと水の生成にコストがかかるが、それを無視すれば使いやすい手ではある。

 

「てか、この世界の魔法って属性で分けられてないよな?」

 

 そう思いだし、再度スキルと掲示板で調べなおした結果。

 

 

・魔法……コストと想像力があれば何でもできる。

 

・魔術……特定の手順や術式を使えば、一定の効果のある現象を発生させれる。

 

・魔導……上記の二つを合わせたもの。

 

 

「だよな。想像力だ。術式は情報系のスキルから引っ張ってこればいいし」

 

 わかりやすく属性があるだけで、実際のところはその枠を超えたことも普通にできる。

 

「重力に時空、空間とかも使えるのか」

 

 その他即死や強制、絶対化などマジで何でもできる……が、基本的にそれだけのコストを用意できないため、属性という形にせざる終えない面もある。というか、それができるなら別の方法を使った方が安上がりで効果的だ。

 

「……あっいた。あのスライムに重力っと」

 

 試しにスライムに対して重力を発生させる。するとスライムの動きが一瞬止まり、少し鈍くなった。

 

「もっとだ。もっと周りの重力を巻き込む感じに……」

 

 自身の発生させる重力に限界があるのか、周囲の重力を利用しようと操作する。するとスライムは更に潰れ、動かなくなった。しかし倒せたわけではなく動きを封じただけで……

 

「う、動けん……」

 

 同時に古内も魔力の使い過ぎでその場から動けなくなっていた。それが十数秒続き、古内が魔法を止めてスライムも何事もなかったかのようにまた草を食いだす。

 

「……修業が必要だな」

 

 そう結論を出して、毎日の日課に魔法の練習を入れるのだった。

 

 



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一年の成果

 力を高め、突き出した手から風の刃を飛ばす。それにより、向かってきた複数の小鬼の首を斬り落としていた。

 

「疲労感も息切れもなし、速度威力共にも問題なしっと」

 

 そしていつものように小鬼たちから剝ぎ取るだけ剥ぎ取って、その場を後にする。

 

「あれから一年、あと半年で五歳か」

 

 魔導を修業し始めて、およそ一年。ひたすらに魔導を使い続け、やっと同レベル代の小鬼を一撃で屠ることができる程度の威力に仕上げていた。

 

「スキルは5レベで、基礎は28レベか。早いんだろうが、ここじゃ物足りんな」

 

 勝てそうなやつを片っ端から狩りまくった結果。残り半年で、目標一歩手前まで来ていた。

 

「おっ。27レベの豚人(オーク)だ」

 

 さっとステータスを見て、生まれて間もない豚人だとわかった古内は、さっそく攻撃を仕掛ける。

 

 

「風刃!」

 

 古内がそう叫ぶと、先ほどよりも数段鋭い風刃が背後から豚人を襲う。それに気づいた豚人は、咄嗟に腕を振り盾にしながら風刃を受けて、後退しながら体勢を整えた。

 

 それに合わせて古内も短刀を構える。

 

「武器もなしにオレに勝てるとでも?」

 

 フル装備で尚且つ古内の方がレベルもスキルも高い。体格差やステータス外の評価もあるが、それでも揃えるだけ揃えている古内の方が普通に有利だ。

 

「反応なしか。まぁ……当然だろうがなッ!」

 

 全力で接近し、慣れた手つきで短刀を振る。それを紙一重でかわされ、瞬時に薙ぎ払いの手刀が繰り出されたが、小柄な古内の方が素早く 即座に距離を取っていた。

 

「本能とスキルによる技術。再現された疑似的な経験。今までのオレじゃ、苦戦する要素しかなかったな」

 

 睨み合い、回るようにじりじりと距離を詰める両者。

 

「だが今は違う!」

 

 瞬間的に接近し、高速で短刀を突き出す。それをボロボロの腕で防ぎ、力を入れて古内の動きを封じようと……

 

「毒だよ。特別性で即効性のな」

 

 全身に回るには遅いが、傷だらけの腕を一本使い物にできなくなるには十分すぎる毒に、豚人は驚きながら無理矢理攻撃を放っていた。

 

「無理な攻撃は効果が薄いぞ。それも誘導されたならなおさら」

 

 絣すらせずにそのまま膝をつく。息が荒くなり毒が回り始めたようだ。

 

「まともに戦うと思ったか?バカバカしい」

 

 そのまま地面から杭が生え、簡単に豚人を串刺しにして決着がつく。

 

「楽に勝つことが一番だからな」

 

 そう豚人に向かって言ったが、すでに息絶えておりうんともすんとも返ってこない。

 

 

「はぁ~なんだろう……まぁいいか。レベリングの続きだ」

 

 なんとも言えない気持ちになるが、それを振り払いすぐにまたレベリングに戻るのだった。

 

 




 ~おまけ~
・古内の装備について
 古内の衣類や装備は、素材を集めたり魔物たちから剥ぎ取ったものを魔道やスキルを使って作ったものです。スキルと掲示板情報のお陰でそれなりの物にはなっているが、見栄えはあまりよくなく、性能としては市販で売っているものに毛が生えた程度です。

・豚人について
 いわゆるオークと言う奴。体格がよく大柄で、豚顔ぽいのでそう言われている。力が強く体力がありしぶといが速度機動性共に低く、魔法や遠距離攻撃など立ち回りによっては小鬼より倒しやすい。

・短刀の猛毒について
 短刀についている毒は、改良に改良を重ねた古内オリジナルの猛毒となっている。物質的な毒としても 魔法的な毒としても優秀で、どちらかだけでも猛毒なのに合わさると更に驚異的な効果を発揮する。完全に無効化するにはどちらの対策も必須。


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更に三か月

 

 自分のステータスを眺め

 

「くそっ……」

 

 上がっていないレベルを見てそう口に出る。

 

「あんなけ殺ってるのに何で上がってねぇんだ……」

 

 ひたすらレベリングを繰り返す古内だったが、三か月前に見たレベルから変わっていなかった。

 

「トレーニングだって欠かしてねぇし、格下とは言え狩り続けてんだぞ……」

 

 毒を飲み、筋トレをし、体力を付け、技量を磨く。それに加え殲滅する気で手当たり次第の魔物を狩り続けている。無論魔導だけではなく直接戦って経験も得ているのだ。それなのに一向に好転的な変化は訪れない。

 

「あと三か月しかねえんだぞ……」

 

 焦る古内。死なない期間を過ぎれば、今までのような強引で無茶な修業はできなくなる。要は強くなるタイミングが極端に減る可能性があるのだ。

 

 これでは流石の古内でもポジティブではいられない。

 

「とりあえず……」

 

 遠くにいる魔物を鑑定する。

 

「とりあえずだ……」

 

 だがどいつもこいつも格下しかおらず、30レベを超える魔物すら見えない。

 

「あいつらに……いやダメだ!」

 

 時より現れる高レベルな魔物を思い出し、草原を出ようかどうか考える。そうでなくても、草原の中心にいつの間にか居座るようになった風龍のような魔物もだ。しかし実力の差は絶望的に離れており、殺されるだけでは済まないのではと脳裏をよぎり頭を抱えた。

 

「どうすれば、いいんだ……どうすれば……」

 

 同格が存在しない状況に、手詰まりを感じ気分が悪くなる。

 

「くそ、くそっ、くそっ!」

 

 スキルも思考もフル活用して結果を導き出すが、望んだ結果は出てこない。それに大きなストレスを感じ、抑えていた声が大きくなり、表情を歪めながらギシギシと歯を食いしばる。

 

「勝率が低い。逃げきれないかもしれない。そもそも勝負にならない……ふざけるなよ!」

 

 叫びたい思いを抑え、地団駄の一つもできない。それこそ自身の望む安全や安全から遠ざかることであり、同時にそれだけ弱く無力であるという証明にしかならないからだ。

 

 

「……いや、そんなこと言ってられねえよな」

 

 だが、逃げ場も救いもない現実を受け入れなければ進めない。目的があるのなら、生きたいと願うのなら、玉砕覚悟で挑まなければ未来はないのだ。

 

「要は勝てばいいんだ。どうやっても……手始めに、あいつでも殺りに行くか」

 

 落ち着いて考え直し、丁度良い相手を思い出す。

 

「たしか、草原と森の境目にいる魔物だったな……」

 

 そうして古内は、フラフラと目的の魔物を殺すために歩き出すのだ。それが他の相手より勝ち目が見えるというだけで、確実性のないものだったとしても……

 

 




 ~おまけ~
・レベリングについて
 格下をいくら倒したところでレベル上げには殆ど貢献しない。それでもどうしてもというなら、短期間に大量の割に合わない量を倒さなければいけない。なぜなら格下のエネルギー量は、相対的に見てどうしても少なくなってしまうからで、吸収率が悪く抜けたり維持管理に使われるので、基本レベルアップに使われることはない。
 だから格下を倒して小分けに取り込むより、格上を倒して一気に取り込んだ方が圧倒的に効率がいいのだ。


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戦いだ

 フラフラと草原と森の境界線に近づく古内。

 

「いたいた」

 

 姿は見えないが、力の塊を見ていることを確信する。

 

「じゃあ……死ね」

 

 そう言い地面に手を着き、土魔導を発動させる。すると地面が圧縮され、目的の場所で大爆発が起きる。そして土煙と共に大きな影が現れ

 

「怒ってんのか?」

 

 煙が晴れると、そこには3メートル程度の大きな蜘蛛のような魔物がいた。

 

「やっぱ格上か」

 

・土蜘蛛

・Lv35

・スキル・糸術Lv3・隠蔽Lv3・隠密Lv3・身体強化Lv2・嚙砕Lv2・瞬発Lv2・対毒物Lv1・感知Lv1

 

 

 自分の巣を破壊されて怒りに震える土蜘蛛は、素早く古内へと飛び掛かる。それに短刀を振り風刃を飛ばすが、大したダメージにならず一旦距離を取る古内。

 

「バケモンだな」

 

 風刃と共に乗せた短刀の毒が効いておらず、慎重に動いているのかジリジリと距離を詰めながら隙を伺っていた。

 

「お前みたいな奴は、一瞬の隙で勝負を終わらせるんだろうがッ!」

 

 土蜘蛛に話しかけるように呟く古内だが、返答は土蜘蛛の瞬発による接近により返された。それを受け止め踏ん張ろうとする古内だが、地力で負けているため自動車の衝突事故のように吹き飛ばされる。

 

「……そう簡単に終わると思うなよ?」

 

 キレイに着地でき、地面を操り杭を土蜘蛛の下から生やす。だが杭の強度が負けたのか砕かれ、土蜘蛛の瞬発による攻撃が再度古内へと向かう。

 

 しかし――

 

「よっと」

 

 土蜘蛛の視界から古内が消え、古内のいた場所で探ろうとした途端に腹が突き刺され斬り裂かれる。それに驚いた土蜘蛛は即座にその場を飛び退き、地面に開けられた子供一人分程度の小さな穴から出てくる古内を確認していた。

 

「不意打ちし慣れているくせに慣れてねぇのか。まぁ当然か」

 

 自身が不意打ちされたことに怒りを覚え、再度古内を食い殺そうと瞬発しようとする土蜘蛛。だが体に少しの不調をきたし、思いとどまる。

 

「その程度の対毒物じゃ防げんぜ」

 

 先ほど斬り裂いた短刀の一撃、それは浅く薄い傷だったが、土蜘蛛を確実に弱らせていた。だがまだ足りない。この程度ではこの圧倒的なレベルの差は埋まらない。だから古内は……

 

 

「ゴリ押しじゃ!」

 

 

 そう言って攻めあぐねていた土蜘蛛に、溜めていた火炎放射を食らわせた。毒で弱らせ徹底的に弱点を突く。それ以外に勝つ方法はなく、一撃でもまともにくらうとその場でゲームオーバーだ。

 

「クソッ!そのまま焼き死んどけよ!」

 

 炎の中から土蜘蛛が突進してくるのを感知し、ギリギリで避ける。そして反撃に弱った関節部分に短刀を食らわせるが、軽く体液が出るだけで大したダメージにならない。

 

「毒使うな!」

 

 即座に火炎放射をしようとする古内へ向かって、土蜘蛛は毒を吐く。古内にとってこの毒物は大したことないが、牽制で言えば十分だった。それの対処のために魔導を風の防御へと切り替え、嫌がらせ程度の意味しかない風刃をまき散らす結果となったのだから。

 

「ふぅ~……やっぱ風は消費がきついな」

 

 発動の速さではずば抜けている風属性だが、出力が弱くそれを補うために効果を高め消耗が激しくなる。用意していてそれなのだから、咄嗟に出たのであればなおさらそのコストは増大するのだ。

 

「さて、どうかかってくる?噛みつきか?引っ掻きか?それとも跳びつッ!?」

 

 素早く跳びつく振りをし、糸を出す土蜘蛛。それに引っ掛かり身動きが鈍くなる古内へ、得意の毒液をぶっかけ弱るのを待つ土蜘蛛。

 

「あがぁ!!?」

 

 もがき苦しみ弱っていく古内。そしてしばらくして動かなくなった古内へ再度毒液をかけ、無反応を確かめた土蜘蛛は、獲物を持って帰ろうと古内へと近づく。

 

 

 そして――

 

 

「かかったな!」

 

 土蜘蛛を取り囲むように土のドームを作り出し、即座に火炎を浴びせる。

 

「逃がさん!俺の魔力なくなるまで燃えとけぇっ!!」

 

 逃げ場を失った土蜘蛛は必死に逃げようとするが、囲まれ逃げ場を塞がれた挙句に炎で体が上手く動かない。

 

「ど、どうだ!魔導だけなら通じるんだよ!どれだけ鍛えたと思ってやがる!」

 

 更に無慈悲に火炎を注ぎ込む古内。ここで手加減すればやられるのは自分だとわかっているのか、確実に仕留めた感覚があるまで限界を尽くす気らしい。

 

「ん?これは……」

 

 そしてそれが功を奏したのか、力の流入を感じ取り魔導を止め確認をする。するとそこにはなんと、焦げ臭い匂いと共にこんがりと焼け焦げた土蜘蛛の姿があった。

 

「か、勝った?勝ったぞ!!なんだ大したことねぇじゃん!レベルも……30超えて31だ!」

 

 思った以上の成果に大喜びの古内。この喜びの前にはレベルアップ酔いをも意味をなさず、湧き上がる活力がすべてを押し流していく。

 

「これならいける!あの龍を倒せるぞ!」

 

 目標である龍の撃破に現実味を帯び始めるのだった。

 

 




~おまけ~
・土蜘蛛
 大きな蜘蛛。体長は最大で2~3メートルぐらい。地中に巣を作り、そこからの不意打ちによる狩りを得意とする。毒を持っておりそれで獲物を弱らせたり、その他糸で拘束や移動をする。
 正面戦は苦手なので、基本的に巣に攻撃して誘い出すやら叩きだして戦おう。上手くやれれば巣に攻撃した時点で終わったりする。人間界では初心者狩りで恐れられているが、対処法を知っていればそれなりに鍛えている一般人でも倒せる。
 なお古内が戦った土蜘蛛は人間界の3倍は強いし、一回り大きい。搦手を使われずに直接殴りに来られたら古内は重傷を負っていた。


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準備完了

 あれからおよそ3か月……あと数日で生存補正が切れるところまで来ていた。

 

「現在のレベルは38レベ。そして風龍のステータスは……」

 

 

・風龍

・Lv52

・スキル・風龍Lv5・流操術Lv5・感知Lv4・察知Lv3

 

 

「やっぱ強い。レベルも種族も勝ち目がない……」

 

 緑かかった西洋ドラゴンのような見た目の龍。その戦闘能力は非常に高く、まさに生態系の最上位に位置していると言っても過言ではない。それが風龍だ。

 

「だが俺には補正がある。どんな攻撃を食らっても死にはしない」

 

 精神が折れない限り決して死なない補正。これを軸にしてゾンビアタックをするのが狙いのようだ。

 

「ってことで今回レベリングと同時進行で揃えたのがこの一覧!」

 

 そう言って、どこの誰に話しかけているのかわからない古内は、勝手に自分の装備の解説を始めた。

 

 

「下着類はもちろん、ジーパンや長袖を中心とした旅人セット&作業着セット。やっぱこういうのだね」

 

 そう言い作り出した机の上に並べる。

 

「素材はなんと土蜘蛛の糸だ。丈夫で質感もいい高品質な糸、最高!」

 

 土蜘蛛を乱獲している最中に、糸を回収して衣類を作っていた。勿論スキルや掲示板、魔導などをフル活用して作ったので、非常に高品質なものとなっている。

 

「めっちゃ大変だったけど作ってよかった。これが文明人の第一歩だ」

 

 大変なだけではなく結構グロい作業もしていたが、もう慣れっこになった古内は何とも思わなくなっていた。

 

「生産性を考えるなら蜘蛛はダメだよな~。危険だし共食いするしで問題が多い。蚕とかミノムシとかか?異世界だからできるのか?まぁいいや」

 

 人間界にいけばこの技術を使って大儲け……などと考えているが、掲示板に書いている時点で先駆者がいることに古内はまだ気が付いていない。もしいなくても問題があるのは明白だが、それも同様だ。

 

 

「次に武器はこれだ!」

 

 そして次に出したのが武器だった。

 

「短刀をアップグレード!金属製に!しかも強化した各種状態異常と魔導も搭載!」

 

 そう掲げられた短刀は、銀色の刃に紫がかった輝きを放っていた。

 

「俺が考えた最強合金だし、服もそうだが最大限の魔道も付与しといた。これで最強だろ。向かう所敵なし!」

 

 土魔導を使い地道に金属を集め、火魔導で精錬などを行ってできた短刀に満足する古内。なお短刀でドラゴンが倒せるかどうかは非常に微妙な所だ。だが同時に風龍戦は、これが古内が打てる最善であるのだからこうするほかない。

 

「あとは投擲武器の針だ。これで遠距離も大丈夫!」

 

 魔導が未熟な古内にとって、投擲武器を作るのは当然だった。それに便利なものほど対策されているだろうという考えもある。ドラゴンなんて最たる例だ。物理が効きやすいかと言われれば微妙だが、魔法関係は高い耐性がありそうである。

 

「いけるぞ!勝つぞ!なんとしてでも!」

 

 そう気を奮い立たせて周囲を片付け万全の装備した古内は、一気に風龍に攻撃を仕掛けたのだった。

 

 




 ~おまけ~
・風龍
 属性龍の一種。その名の通り風属性のドラゴンである。リントヴリムが通り過ぎた際に大量の龍力がまき散らされ、それが原因で発生したドラゴン。自然生成された魔物なので普通のドラゴンより弱いが、それでもこの安全地帯で無双できる程度の実力がある。てかそもそもドラゴンが自然生成されること自体稀である。

 風龍……風を司る龍っぽいことが出来る。またはそれの補正。色々持たせるよりこれである程度まとめ上げた方が楽だということで、こういうスキルは結構ある。

・古内の精神状態
 結構ヤバい……


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風龍戦

 風龍の方へと走り出した古内は、速攻で土魔導を発動させ、風龍を串刺しにしようと腹の位置に杭を発生させる。

 

「効かねぇよな!」

 

 だが極限まで尖らせたはずの杭は刺さらず、体を動かしただけで壊されて風龍は古内の方へと顔を向けた。

 

「ッ!?」

 

 その瞬間、古内は咄嗟に真横へと飛び退いた。それも全力で

 

「ふざけやがって!」

 

 転がりながら体勢を整え、針を構える。そして目も向ずそちらを確認する。するとやはり一瞬先までいた場所は暴風と風刃によりズタズタにされており、冷や汗を流す。

 

「くらえ!」

 

 針を高速で投げつける。それも風龍の眼球に向けてだ。

 

「チッ!」

 

 しかし届くことなく風龍を取り巻く風に軌道をそらされ、その場に散らばるだけに終わる。そして針が爆発し、風龍の視界を少し妨害した一瞬で短剣を構えて急接近をかましていた。

 

(せめて一発でも突き刺しとかねぇと!)

 

 現状で近づけるか近づけないかで言えば、恐らく無理で絶望的だ。だが長期戦に持ち込むにしても、状態異常を使わなければ話にならない。なので古内は当初の予定通り、真正面から風龍に突っ込んでいた。

 

「ぐウゥッッ!!」

 

 そして風龍にあと数歩で届くところで、横からの突風に体が持っていかれそうになる。それを風龍はただ見ているだけで、戦闘態勢にすら入っていない。どうやら古内の事を単なる羽虫程度にしか思っていないようだ。

 

「ハァッッ!!」

 

 強化を最大まで高め、短剣にも力を回し怪しい紫の輝きが溢れれる。

 

 そして――

 

「は?」

 

 空に吹き飛ばされた古内は呆けた声を出していた。

 

「え、え゛ッ!?」

 

 そして次の瞬間には最初に撃たれた風の攻撃で全身が“殴られ 斬られ 捻じれ”たかのようなダメージを受け、ボロ雑巾となった古内は地面に向かって落下を開始した。

 

 それは風龍の真隣に嫌な音を立てて激突し、古内はピクリとも動かなくなる。それを見下ろす風龍は、邪魔な死体を吹き飛ばそうと風を

 

「ジんでネ゛ェよッ!!」

 

 相殺され、何かしらの方法で急加速した古内は、風纏をものともせずに紫がかった短剣を風龍に突き立てた。そして続けて、傷を大きくするためになぞるように走り出す。

 

「クソガッ!!」

 

 だが危険視されたのか突風で離されてしまい、着地狩りかのように大量の風刃が古内を襲っていた。それを盛り上がらせた土の壁で防ぐが、すぐに壊されそうになったため、次々に土壁を作りながら走り出す。

 

 

「なんだなんだ!?一発攻撃くらっただけでそのざまか!?さっきまでの余裕はどこいった!?なぁ!?」

 

 

 意味のない事だろうことを煽るように叫びながら風が鈍っているのを感じた古内は壁をなくす。そこ先では、明らかに顔色が悪くなっている風龍がいた。

 

 

「ああっそうだったな!お前は紛い物だったな!!空も飛べねぇ贋作だっ!!」

 

 

 所詮は自然生成された紛い物。本物と比べるまでもない劣化品。そう叫んだ古内に風刃が襲うが、精度が落ちたそれでは古内にも簡単に打ち消せた。

 

 

「調子が狂えばこの程度か!?やっぱガワだけだなッ!!」

 

 

 短刀を振るい風刃を斬り裂き風龍に接近する古内。そして風纏を突破し、一太刀入れた途端に風の出力が跳ね上がり、吹き飛ばされる。

 

「こんなもんかぁっ!?」

 

 強引に体勢を取りなおし、負傷も気にせず立ち向かう。普通だったら首の骨どころか全身の骨が折れ砕けてもおかしくない攻撃だったが、生存補正でそのすべてを受けきる古内には隙が無いのだ。

 

「小出しでどうにかなるとでも!?それとももう限界かっ!?」

 

 機動力さえ損なわなければいい古内は、最低限の攻撃だけをかわし受け流して、それ以外は無視して攻撃を続ける。特攻に近いその猛攻に流石の風龍も防ぎきれないようで、軽いながら傷が増えていく。そしてその度に少しづつ弱っていく風龍。

 

 

「っと、できんじゃねぇか!!」

 

 そこで風龍は本気を出した。瞬間、暴風が吹き荒れ、いくつかの竜巻が発生して古内目掛けて向かっていく。

 

「ッ!?」

 

 流石に竜巻はくらえないと間を縫って風龍に近づこうとした。だが途中で何かにぶつかり、抉れるまではいかないものの強い衝撃に弾かれる古内。

 

「空気弾か!」

 

 そこらかしこに巻き散らかされた空気弾が、竜巻を縫って古内へと向かって移動を始める。

 

「面倒だな!」

 

 竜巻に囲まれ、当たれば抉られ、壊せば破裂する空気弾がそこらかしこにある。おまけに奥の方では風龍が何かをしているのが見て取れた。

 

 死なないだけ、動けないような負傷をしないだけの古内にとって、足止めは最も警戒するものであった。なんせ時間がないのだ。

 

「させるかよ!」

 

 なら強行突破だと、今度はホントに何も考えずに短刀を振りながら突っ込む。それにより打撲痕ができ、血をまき散らし、全身が軋んでいるが気にも止めない。そうやって数秒もたたずに風龍の目と鼻の先まで近づいた古内は、短刀を振り落とす。

 

「ギぐかッ!!!」

 

 鼻先を掠ることが精一杯の斬撃と、暴風の咆哮がぶつかり、土魔道まで使って踏ん張る古内。そして無事耐えきった古内は、反動で鈍っている風龍に飛びつき――

 

「ジ、ネ゛ぇッ!!!」

 

 吐血しながら短刀を風龍の眼球目掛けて振り落とす。それにより片目がつぶれた風龍は、暴れ狂い古内はゴミのように地面を転がる。そこへ風龍の踏みつけが決まり、潰されながら地面に埋まる古内。

 

「い、でぇ、なッ!!」

 

 何度も何度も潰されるが古内は死なない。それどころか、強引に力を引き出し強化を繰り返し、風龍の踏みつけを受け止めていた。

 

「ガハッ!」

 

 だがふと重圧が消え、空気弾に吹き飛ばされる古内。

 

「距離ばっか、取りやがって!」

 

 急速に治っていく古内の体。それと対照的に風龍は傷はひどくなり辛そうにしている。だがこれだけしても古内の方が不利だ。なんせ決定打がないのだから。

 

「生まれて初めての本気はどうだ!?苦戦の味は!?最悪だろう!?」

 

 体勢を立て直される前に攻撃をしようと踏み出す古内。だがその前に風龍から近づけないほどの暴風が吹き荒れ、状態異常が少しづつマシになっていく。

 

「治すんじゃねぇっッ!?」

 

 足を風刃で斬り裂かれ、一瞬立ち止まる。そこへ調子を戻し始めた攻撃の数々が飛来し、転がるように逃げる古内。

 

「クソガッ!!だったらこっちだって!!」

 

 風龍に追いつくために、強引に力を引き出しドス黒く見えるほどの強化を自身に施す。その姿はまさに死んでいないだけと言った風貌で、二体の殺意の塊は向かい合う。

 

「最後まで、付き合ってもらうぞッ!!」

 

 そして始まる長い長い戦い。

 

 あらゆるものを使い、使えるものを使い潰す 生存をかけた戦いの幕が、火蓋を切って落とされたのだった。

 

 




 ~おまけ~
・不幸な風龍について
 死なないアンデッドみたいな奴に襲われる風龍。
 古内を甘く見たせいで初撃を食らい、感覚異常や状態異常 能力低下だらけになり飛行能力を失い、不得意な地上戦で戦う羽目になっている。しかもまともな戦闘経験はこれが初。

・卑怯な古内について
 死んだふりを駆使して風流に大量の状態異常を食らわせたやつ。その後もダメージを無視して動き続けたり、強引に力を出して限界突破したりとやりたい放題。だがこれだけしても状態異常以外は大したダメージになっておらず、数時間どころか数日がかりで倒す気でいる。


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夢の続き

 気が付くと大海の上にいた古内は、いつも見る顔の見えない女性を見ていた。

 

(また、この夢?)

 

 時々見る起きたら忘れてしまう程度の夢であり、前後関係もあやふやな夢だったが、それは誰かの人生の物語のようだと直感でわかるものだった。

 

(なに……)

 

 そう思った瞬間に、影が差し、巨大なドラゴンが女性に向かって飛んできて目の前で止まる。

 

(なに、はなしてんだろ……)

 

 相変わらず音も色もわからないが、話が進むたびに少しづつ雰囲気だけは伝わってくる。

 

(怒ってる……?)

 

 交渉が決裂したのか、ドラゴンが先制でブレスを使った。それは単なる炎のように見えたが、その範囲が凄まじく、恐らく宇宙から見てもわかるレベルのものだった。

 

(効いてない)

 

 だが女性は無傷だ。傷どころかホコリ一つついていない。そして女性には敵意はなく、好意的にドラゴンに話しかける。

 

(あ……)

 

 だがドラゴンは、ますます怒り先ほどより強力な光線のようなブレスを吐く。

 

 それは女性の体を貫き

 

(やっぱ、きいてない……)

 

 光線は星の重力を飛び越え遥か彼方へ消えて、女性は光線を透かしたように平然としていた。そこでドラゴンは、更なる力を使い再び女性に向かって攻撃を仕掛けようとする。

 

(あれは……)

 

 だがその瞬間、女性の体から黒紫のモヤが染み出した。

 

(なに?でも……)

 

 ドラゴンはそのモヤを目の前で見て、不気味な感覚に襲われたのか気分を悪くしながら慌てている。そんなドラゴンを無視して女性は何かつぶやきながら、少し不機嫌そうにドラゴンを見つめ、モヤを制御するかのように手を振った。

 

(あ……)

 

 すると突然、上空に巨大な金属球が現れた。それは以前見た宇宙船で、古内はこんなにもデカかったのかとどこか感心したように宇宙船を見る。だがドラゴンは驚くばかりで、その球体の正体を知ることができていなかった。

 

(すごい……)

 

 次の瞬間、金属球から放たれた衝撃波と暴風が、ドラゴンを吹き飛ばし、近くの海に巨大な水柱を立てながら叩き落とした。女性は金属球を見上げながら、よくやったと微笑む。

 

(むちゃくちゃな……)

 

 彼女は、ドラゴンに害を加えるつもりはなかったが、自分を排除しようとする敵には、決して手加減をしないことを示したのだ。

 

(はは、ばけもんめ……)

 

 女性の指示で、金属球は再び大空に姿を消した。そして女性は、海上に浮かぶドラゴンを見つめ、呆れたようにしながら再度要求を突きつける。

 

(なにも できないのか……)

 

 ドラゴンは圧倒的実力差を見せつけられ、何も言えなくなり、苦渋の決断と言わんばかりにその要求を受け入れるしかなかった。その瞬間、世界を壊さない程度の空間の歪みと、謎の光がネットワークの世界全体に広がり始める。

 

(これで、おわり……か)

 

 世界が掠れ意識が浮上するのを感じ、見ていたものが薄れていく。現実では何かと戦っていたのだと、夢なんて見てる暇はないのだと、いつものようにキレイさっぱり忘れ――

 

(は?)

 

 女性が最後にチラリとこちらを見たを感じ、完全にここでの意識が途絶えるのだった。

 

 



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仲間が欲しい……よし作ろう!

 どれだけ経ったかわからない。朝日が顔を照らし、虚ろな目でそれを見る事が限界な古内は、視線を移す。

 

 そこには、素材にならないまでにボロボロになった風龍の死体があった。

 

「勝った。レベルも、スキルも、上がった。これで 大丈夫だ。その はずだ……」

 

 目標の強さはもう手に入れた。あと数時間だけだが生存補正も切れていない。あとは回復を待つだけだろう。

 

「もう、立てねぇや」

 

 強引に戦い続けた。何度死にかけたかわからない。装備もボロボロで、自慢の短剣も すでにどこに行ったか分からない。ただ隙を見せれば、きっと酷い結果になるだろうと、風龍を休ませることなく戦い続けた。

 

 

「すっきり、しねぇな……」

 

 勝者は紛れもなく古内だ。だが肝心の古内はモヤモヤを残し続けている。

 

「虚しい、と言うか……」

 

 風龍の死んだ目を見る。何度も目が合った。そのすべては殺意の籠ったものだった。

 

「悲しい、と言うか……」

 

 殺し合うことしかできない。死闘の末になんとやらなど、創作物のような理想の展開などありはしないと再認識させられた。

 

「寂しい、と言うか……」

 

 何度語り掛けても意思疎通などできはなしない。全てが悪いとわかっていたし、それが単なる無茶苦茶だととも理解していた。

 

「ダメだな、こりゃ……」

 

 それでも諦めきれずに、でも手は抜けずに殺して終わった。少しでも気を抜けばきっと結果は逆だっただろう。現に死ぬまで弱らせ続けてやっと勝てた相手だ。

 

 

「でも、勝っちまったんだから、生き残らなきゃな」

 

 

 古内の精神状態は非常に危険な状態だ。転生してこの方、まともに会話したことがないのだ。すべて独り言、うわ言で、その他掲示板を見ることでしか他者を知らない。それに掲示板も、ここが『最果ての大陸』だからか書き込めない。

 

「そうだ、じゃなきゃこの戦いがムダになる」

 

 だからこうやって無理矢理だ、気を奮い立たせるしかない。自業自得でも、自作自演でも、単なる妄想でも使って、強引にテンションも上げて、ポジティブになって、進み続けるしかないのだ。

 

「それに、仲間なんて すぐにできるさ。いや、作ってやるさ」

 

 回復したのか起き上がり、魔導で体をキレイにし、服も一瞬で着替え直す。

 

「世界は広い、俺はまだこの草原しか知らない」

 

 やっと一歩を踏みしめる準備が整ったのだ。まだ始まってすらいないのだ。

 

「この大陸から出なくたって、探せばいるだろ、一人ぐらいは……よし!」

 

 『最果ての大陸』から出るには生半可な実力では不可能だ。それこそカンスト勢を通り越して、超越者にでもならなければ、人間界の陸地すら拝めない。だったら『最果ての大陸』で仲間を作ればいい。数だけは数え切れないほどいるのだ、魔物なぞ。

 

「ん~、そうだ誰にしようかな~?小鬼(ゴブリン)豚人(オーク)?それとも鬼人(オーガ)?亜人種の方が人っぽいからそっち系か?」

 

 背伸びをしながら考える。時より見かける強力な亜人種は小鬼だけだが、自然生成された魔物は鬼人まで知っている。その他にも狼種や兎種、蟲種など様々存在するが、やはり人に似ていて意思疎通が取れそうな相手方がいいらしい。

 

「いや、ここは初心者にも優しいと噂の粘性生物系(スライム系)かな?ちょっと探せばいくらでも出てくるし」

 

 そう言いながら掲示板を開き、魔物、仲間と検索する。すると『魔物のテイムの仕方!』や『魔物の仲間、おすすめ』や『テイムするならこの魔物!人気ランキング!』などの文字が見える。

 

「なるほど、粘性生物系は育てるのに楽だと。これは重要だな」

 

 そして目に止まったのが『スライムのススメ』と言うものだった。

 

「普通の生物系は食事が大変。死人系(アンデッド系)は不清潔で扱いにくい。精霊系(エレメンタル系)悪魔系(デーモン系)天使系(エンジェル系)とかの精神存在系(スピリチュアル系)は格によるけど契約が大変と、その他の種族も維持や契約に問題が多いと。スライム系を除いては」

 

 明らかにスライム系を贔屓する書き込みに怪しみながら、先を読み進める。

 

「ん~確かに、最悪食事はそこらの草でもいいわけだし、持ち運びも便利みたいだな」

 

 種類にもよるが、基本的に契約も維持もダントツで簡単なのがスライム系の特徴だ。しかも役に立つことも多く、なによりかわいいと力説されている。

 

「それに、人化すればいい……か。スキルとか進化とか魔法とかで、ね」

 

 人間に近くなるように進化したり、そう言うスキルを取得させれば、人間と似た存在になるらしい。魔人族や亜人族なんかも、元を辿ればそれっぽい存在が多いようだ。

 

「薬のレシピは……うわっ!めんどくさ!……でもこれしないと俺の求める仲間ができないか」

 

 スキルを取るにしても進化させるにしても時間がかかるし確実ではない。だが薬を使えば確実に人化できると書かれており、それを見た古内は驚き、次の瞬間にはめんどそうな顔をする。

 

「技術はスキルでどうにかできても、素材とか製作のための施設も道具もない。迷宮主はコストさえ支払えば簡単に手に入るらしいけこ、こっちはそうじゃないんだよな」

 

 すべてにおいて相当ハイレベルなことを求められることから、考え込む古内。だが……

 

「いや、これが無かったら結局なんにもできない。だったら作るしかない!よし、希望が見えてきた!俺はまだやれる!!やってみせるぞ!仲間と共に世界を気ままに旅してやるんだ!異世界を楽しんでやるんだ!」

 

 そうして気合を入れ直して目標が決まった古内は、風龍に死体を片付けるためにそちらに目を向け

 

 

「って……へ?ちょっ!あ゛~待って待ってっ!!何やってんだ!お前ッ!!」

 

 

 そこには一匹のスライムに取り込まれる、風龍の死体の姿があったのだった。

 

 




~おまけ~
・スライム大好きさんについて
 転生者兼 元勇者兼 現迷宮主の一人。約100年前に転生してきて、聖剣に選ばれ勇者になって魔王を倒し、いざこざが嫌で隠居して迷宮主になった人。森の奥にある洞窟でスライム迷宮を運営しており、大好きなスライムたちと仲良く大人しく暮らしている。
 個人としても迷宮としても上位陣であり、そこらの小国や魔王なんかとは比べものにならないほどの戦力を持っている。勿論 配下はすべてスライムである。


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スライムが、仲間になった……はず

 急いでスライムを引き剝がそうと近づく古内だったが……

 

「どうすりゃいいんだ!」

 

 そもそもどうやって引き剥がそうかと盛大に悩む。ボロボロとは言え、龍の死体はそれなりに使い道があると調べはついている。できるだけ傷つけずに取り返したいが、スライムはべったりと張り付いて引き剥がせそうにない。

 

「やべぇどんどん溶かされていくんだけど!?スライム強すぎだろ!」

 

 無抵抗の死体を取り込むにしたって早すぎる消化速度に更に慌てる古内。そして触れたら自分も溶かされるのではないかと手が出せずに、形が崩れていく風龍の死体を眺めることしかできない。

 

「鱗とか外郭はさて置き、血とか肉とか臓器とかでなんか作れたかもしれねぇのに!骨だって!ああそこまで溶かすのかよ!!」

 

 骨一つ残さない様子で隅々まで溶かされる。そして古内が慌てふためく十数分ですべてがスライムの胃袋に収まり、そこには巨大なスライムだけが残った。

 

「あ、ああ……なんて、ことを……ゆ、許さん!絶対に許さんぞ!貴様っ!!」

 

 怒りに任せ炎魔導を放つために手に力を込める。

 

 しかし――

 

「な!こいっ――!?」

 

 それに反応したスライムが古内へと飛び掛かり、瞬く間に取り込まれてしまった。

 

(や、ヤバい!溶かされる!?)

 

 粘度の高い液体の中で身動きが取れず、回復したとはいえそれは動けるだけの全快ではない状態だ。こうもがっしりと掴まれてはどうしようもない

 

(す、ステータスだ!俺のバカ!慌てててみるの忘れてた!まずは相手の能力を確かめないと!)

 

 いつまでたってもダメージがないことから、生きている相手には消化に時間がかかるのだろうと判断した古内は、一旦冷静になりステータスを確認する。

 

 

粘性生物(スライム)

・Lv22

・能力・完全吸収・緩和収束

・スキル なし

 

・完全吸収……取り込んだ相手のすべてを手にする。それにより最低値が決まり、再現時には自分の実力が上回っている分だけ加算される。ただし取り込んだ部分しか再現できず、スキルやレベルもこれにより吸収され、スキル取得及び素のレベルアップに大きく制限がかかる。

 

・緩和収束……自身の許容量を超えたダメージや負荷を受け付けない。あらゆる不都合は、緩和され収束して消えてなくなる。

 

 

(はぁ!?バケモンやんけ!どうせいちゅうねん!)

 

 風龍なんぞ比べものにならないほどのバケモノ具合に突っ込みを隠せない古内は

 

「おぼあがおぼ……」

 

 誤って口を開けてしまい、中にスライムが中へと流れ込んできていた。

 

(息もできねぇなのに!ふざけんな!)

 

 形は保っているものの、体内は外見よりもボロボロであり、そこを攻撃されてしまえば残り時間を苦しみながら終えることになるだろう。

 

(どうにか、どうにか……ん?苦しくない?)

 

 そこでとあることに気が付き、古内は普通に呼吸のようなことができていることに気付く。

 

(なんで?油断させようとしてる?それとも俺って最初っから呼吸に空気必要なかった?)

 

 種族も能力も不明な古内は、まさかそう言う種族だったのか!?と一瞬希望が見えたが、結局行動できない事には変わらず、冷汗を流す。

 

 

(どうしよう。でもダメージもないんだよな。なんか全身触られてるだけみたいな。まさか俺が窒息するまでまってんのか?)

 

 攻撃能力はホントに無いようで、溶かされている感じもない。全身を触られている感覚はあるようだが、これにどういった意図があるのか古内には分からなかった。

 

(再現ってことは、さっきの風龍とかにもなれるんだよな?死体とはいえ取り込んだんだから。さっさと風龍にでもなって……まさか取り込み中は変身できない?それとも俺の解釈が間違ってる?)

 

 鑑定などの相手の情報を見るものは、実力差が離れていたり、能力だったりすると見れる情報に制限がかかる。特に能力の場合は、システムの解析次第なので、複雑なものは結構いい加減だったりする。

 

(まぁ何でもいい。ともかくこの状態をどうにかしないと。まずは魔力を外に出せるかだ)

 

 仕方がないので一つ一つ試していくことにした古内は、手始めに魔力を体外に放出した。

 

(ダメだ食われる!それどころか流れを辿って……こいつが何もできないのが唯一の救いか……)

 

 流れを把握され内部へと何かを流し込まれる。しかしそれだけで何かをしてくると言うことはない。ただ居座るだけで何もしてこないのだ。

 

(おかしい、いくら攻撃能力がなくてもここまで入り込まれたら簡単に俺を殺すことが出来るはずだ。なのに何もしてこない。何考えてやがるこいつ?)

 

 もうすべて掌握されかけている。すくなくとも古内が自分で感じる部分はだが、それだけでも十分すぎるのだ。

 

(……こうなったらやるっきゃねぇ、こいつと契約して仲間にしてやる)

 

 少しづつ侵食されている。全てを奪い取るかのようにだ。だから古内は、先手必勝として、魔力を操り水ライムの中へと染み込ませる。

 

(抵抗がない?想定外?それとも……いやなんだっていい。こうだ!)

 

 スライムの体内で契約の魔導を使用し、それは抵抗なく行われ契約を済ませる。

 

(なに!?急に動きが!?成功したはず……!?)

 

 契約は滞りなく終わったのだが、その瞬間にスライムは古内のことを満遍なく触りだす。それに驚いたと同時に意識が薄れ

 

(ダメだ、意識が、眠い……)

 

 完全にど切れるのだった。

 

 




 ~おまけ~
・契約について
 契約は魔法や術式、魔導などできる。元はチームを組んだりするときに、情報伝達や結束を高めるために開発された技で、それをより高度に改造したもの。今では契約術式として幅広く使われている。
 内容や強度も様々あり、どれにも共通しているのが、破った際に契約が切れて相手に把握されるというもの。罰などは初期設定次第なので必ずあるわけではないが、約束を破ったことがバレるのでそれだけで十分だろう。
 因みに基本、強制契約とかはできない。契約した後の強度は高いが、契約するまでの過程は、完全なる無抵抗か、相手が同意したり寄り添ってこないとできないレベルで貧弱だからだ。
 おまけに仮に契約ができても、両者が同意又は理解している部分までしか発動しないので、説明不足だったり隠している部分までは効力が発揮されないし、ガバガバだったらその分弱くなる。


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何とかなった。

 柔らかな風が顔に当たり、古内は目が覚め周囲を見渡す。

 

「なにも……いやいる?」

 

 スライムとの繋がりを感じ、立ち上がり周囲を良く見渡す。

 

「成功したのか……それに調子もいい。まさかあいつがやったのか?」

 

 傷一つもないどころか、今までにないほど調子がいい事に気が付いた古内は、その調子でスライムとの繋がりを辿って探そうとした。だがその必要はなく、ズルズルとあちらから草をかき分けやってくる。

 

「お前だったのか、スライム……」

 

 一応警戒はしていたが、間違いなくスライムだった。そして返って来た返答が……

 

「え?くれるの?」

 

 デカい葉っぱと共に何かの肉をポッと吐き出し、目の前に差し出すスライム。一応繋がりができたことで、スライムが伝えたいことが古内にもぼんやりと理解できた。それは友好の印と

 

「名前が欲しい?まぁそうだな。スライムじゃ味気ないしな」

 

 判別もつきづらいし、この際だから要求通り名前を付けた方がいいだろうと考え込む。

 

「う~ん?スライムだから……」

 

 気の利いた名前を考えようと頭を悩ますが、いい名前が出て来ない。自分のような前世でよくある名前などではなく、せっかくなので異世界っぽいかっこいい名前にしようとブツブツと呟きスライムの様子を見るが、どれも反応がよくない。

 

「……ライム?とかどうだ?」

 

 スライムのスを取っただけの簡単な名前。だが響きがよく、かつ探せばいそうな名前なのでどうだ?とスライムの目?を見つめる古内。

 

「お~受け入れてくれるか!よかったよかった!ついでに俺の苗字もやろう。特に凄いもんじゃないけど」

 

 しばらく経ち、スライムは気に入ったと言う反応を見せ、ステータスでも確認してみるとばっちり『古内 ライム』の文字が書かれていた。

 

 

「にしても腹がすいた。せっかくだしお前も一緒に食おうぜ。俺は料理が得意なんだ」

 

 今までにないほどの空腹を感じ、目の前の旨そうな肉を持ち上げる古内。そして魔導で近くにあった大きめの石を切り出し、それを熱し始める。

 

「スパイスは……まぁ適当に薬草とかでいいだろ」

 

 今までため込んでいた香料になりそうな薬草っぽいものを使って、肉を柔らかくするために叩きながら擦りつけていく。

 

「調理器具とかも作らなあかんな。生存補正も終わったし、草食ってばっかじゃ栄養失調で死にそうだし」

 

 今までは適当に草を食っておけば腹が膨れていたが、寝ている間に生存補正が切れたこれからはそうもいかない。それに今までまともなものを食べられなかったから、これからは美味いものをたくさん食べたいとも考えていた。

 

「人間界に行ったら美味いもん一杯食ってやるんだ。この肉みたいな……」

 

 肉を焼いていると、旨そうな肉汁と匂いが漂いよだれが垂れる。前世で一人暮らしで自炊したり、美味そうだな~と見ていた料理動画、そして何より今世で手に入れたスキルでそれなりのものが作れるようになったのだ。

 

「ん?そういやこの肉、何の肉だ?」

 

 そこで気が付く。この肉は何の肉なのかと?古内は転生してこの方肉など食ったことがない。食わなくてもよかったと言うこともあるが、それらしい食材を見つけられなかったからだ。

 

「え?オーク?食えんの?」

 

 そこでこの肉がオーク由来だと知る古内。元々こういう肉なのか、それとも特殊な下処理をしたのか、古内は頭を悩ませる。てかそもそも寄生虫とか病原体とか大丈夫だろうかとも思っていた。

 

「ま、美味そうだし大丈夫だろ」

 

 とは言え古内は、生存補正ありきとは言え、よくわからないものを食いまくって来た経歴がある。なので別に腐ってたわけでもないから火通せば大丈夫だろうし、何より耐性も高いから大丈夫だろうと判断した。

 

「よしできた。これお前のな」

 

 デカいステーキを二つに切り分け、ライムへと渡す古内。そして思いっきりかぶり付き

 

「美味い!豚顔っぽかったからもしやとは思ってたけど、まさに豚肉の厚切りステーキだな!」

 

 ムシャムシャと美味そうに肉を頬張る。ライムも一口で取り込み、中で切り分けながら消化して満足そうだ。

 

「へ~情報系のスキルで分かるんだ。てことは掲示板でも……あ、普通にあったわ。和食再現とかもある。あっち出身の奴もいるんだな~」

 

 食べながらチラッと探してみたら、どうやら魔物は食用にできる種類があるらしく、オークは豚肉そのものだと書かれていた。今まで特に困らなかったし、余裕がなかった古内は見過ごしていたのだ。

 

「にしても情報系か、一応スキルには入ってるから使えるちゃ使えるけど、ここじゃ本家に劣るんだよな」

 

 これは古内が使い方がイマイチわからないという事だ。技術系は感覚などに働きかけるスキルなので、補助しやすいので古内でも十全に扱える。それに対して情報系は、知識や学などを覚えやすくしたり、違和感のない程度に与えるスキルなので、その知識に触れると言う前提がなければ持っていても大した効果はない。

 

「へ~所有者はそれなりにいるけど、高レベル保持者は結構少ないんだ。大半は技術系で補えるからかな?まぁ前世でも学者とかは少なかったし、豆知識とか雑学程度じゃこんなもんか。一般人なら最悪なくても困らんだろうし」

 

 感覚が優秀すぎて、それで大半は解決してしまえるので、詳しく深い知識を付けずに終わることが多いらしい。そもそも頭を酷使することなんて少ないだろうし、広く浅くでは大して高レベルにはならない。てか持っていなくても、普通に生活する上で特に困らない者の方が多いのだ。

 

 

「っと、ご馳走様!いや~久々の肉は美味かった!ありがとな、ライム」

 

 大満足の古内と、おいしかったですねと同意するライム。そして古内はライムに向き直し

 

「改めてだが、これからよろしく頼む」

 

 そう言うと、ライムもこちらこそと意志を飛ばして、より強い繋がりができるのだった。

 

 




 ~おまけ~
・情報系スキルについて
 その知識分野に関しての記憶の上昇や拡張、アイデアの補助などが詰まったスキル系統。○○知識や○○学、○○叡智など様々な種類がある。
 ステータスやシステムがバレないように隠蔽しながら作用しているので、違和感のないように可能性的にありうる範囲の知識しか追加されない。また文明レベルを過度に上げないようにの対策などもされている。
 因みに転生者の場合も同じだが、鑑定や解析などで明確に見えるので、そのアドバンテージの高さはそれ以外との比ではない。
 なお情報系は、転生者の要望が切っ掛けで生まれたスキル系統である。知識無双したかったらしい。


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これからの事

 食事を終えた古内とライムは、これからの事について話し合っていた。

 

「ここを出るには強くなるしかないんだよな。で、どこ行けばいいと思う?」

 

 明確な返事も返ってこないだろうし、そもそもライムも知っていることは少ない。相談相手としては不足しかないが、それでも話し合いぐらいはできるとしていた。

 

「あるのは、東西南北で“森林”“荒野”“山脈”“湖”だよな」

 

 現在古内たちは、大陸の中心部にある安全地帯と化している草原にいる。そこから東にジャングル?のような大森林があり、西にはどこまでも続く荒野みたいなのが続いており、南にはそびえ立つ山脈があり、北には巨大な湖と奥の方には湿地らしきものが見えていた。

 

「一応調べてはみたが、見なくてもわかるぐらい強い気配が蠢いてんだよな。どこも」

 

 ライムも肯定するように上下に揺れる。何度か足を運ぼうとした古内だったが、風龍を超える気配を複数感じ、探索を断念していたのだ。

 

「風龍倒して強くなったが、それでも山脈以外は尻込みするな~。だってここからでも感じるぐらい強そうだし」

 

 隠す気のない強大な気配やエネルギーを感じ、一瞬にして三つの候補を切り捨てる。だが、だからと言って山脈がいいと言うわけではない。

 

「隠密とか隠蔽が一番厄介なんだよな。避けるの難しいし、不意なんて突かれたら一巻の終わりだな」

 

 基本的に格上しかいないこの世界で、弱い古内たちが生き残る方法は、大人しく逃げ隠れておくことである。だから決して真正面から強敵に挑んだり、不意を突かれてはいけないのだ。

 

「ふ~ん。じゃあ山脈にするか。準備どうしようか?」

 

 なんとなくライムの意志を感じ取り、山脈に決めた古内。だが何の策もなく行くことはできない。下手したら草原から出た瞬間に、強敵と出くわして殺される可能性もあるからだ。

 

「まず俺のステータスだが」

 

 そう言ってライムに教えるついでに自分のステータスを見る。

 

 

-----------ステータス-----------

 

 

・名前  古内 明理  / 年齢 5歳

・性別  女

・種族  不明

・Lv  45

・能力   不明

・スキル  成長補助Lv6

      言語理解

 

 

---------------------------------

 

 

「中々強いだろ?まぁ今考えればそうでもないんだろうが」

 

 自分がどこまで強いのか、何ができるのかを伝えていく。古内にとって、それがライムの理解に繋がっているかどうかはわからなかったが、それとない反応をするライムに、ついつい話すのが楽しくなってペラペラと喋り続けていた。

 

 

「で、ライム。お前は何ができる?って、うおっ!すげぇ!」

 

 それに答えるようにライムの体が膨張変形し、小鬼の姿となった。

 

「今まで取り込んだ魔物の姿になれるのか?」

 

 豚人や鬼人、狼や兎などなど、この草原にいる魔物には大体擬態でき、その力も相応に操れるようだ。

 

「まさかお前、俺の倒した魔物を取り込んでいたのか?」

 

 他にも見せようとしてくれているのか、少し長く粘土細工のように変形しているライムにそう聞く。

 

「そうか。だから感謝してると。良い奴だな」

 

 どうやらライムは、古内が倒して放置した魔物を取り込みまくってきたようだ。そうやって強くなってきたので、相当感謝してくれている様子。あと取り込んだのも攻撃の意志はなかったとのこと。

 

「完全な状態の風龍にはなれない?情報が足りないから?」

 

 色々質問していく中、どうやらライムは擬態対象の情報の入手具合でその再現度が変わるらしい。一番はそのまま取り込むことだが、そんなこと中々できないので数で補わなければいけないとのこと。

 

「ん?これは!?」

 

 ライムの擬態が完了し、驚く古内。長くストレートな灰色髪に穏やかそうな同じ色の瞳、短髪オールバックで鋭い目つきなところ以外は自分とそっくりのライムが立っていたからだ。

 

「あの時回復ついでに俺の情報を?でも完全じゃない?時間がかかる?」

 

 少し改造されているが、見た目の擬態はできる様だ。だがそれ以外の部分はさっぱりで、言葉も話せなければ、長時間の維持もできない。これからの成長と古内の情報提供次第と言ったところだろう。

 

「いやいや十分だ!あとは言葉と擬態の強化だけだろ!よし!これは思った以上に速くできそうだ!」

 

 ライムを育てればこの孤独も大いに改善される。現状それっぽくしか意思疎通できないし、一方的に話しているようで少々味気なかったので、古内にとっては大歓迎もいいところだ。

 

 

「っと、そうだったな。山脈に行くことについて話さなきゃな」

 

 興奮して話がそれてしまったが、ライムに促され話を戻す。

 

「レベリングは期待できないから、まずは装備を万全に整えてだな。その後に少しづつ調査を……」

 

 そうして古内とライムはこれからの事について詳しく話出すのだった。

 

 




 ~おまけ~
・ライムの擬態について
 重要なのは情報の収集であり、死体や現物などではない。現物があった方がいいだけで、別に代用品はいくらでもある。因みに生物に限らずあらゆるものの吸収、再現ができ、理解していないものは再現だけで、できるものはその尺度によって改造などもできる。ただし大元が、模倣、再現、改造であって、創造ではないので注意。


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さぁいざ山脈へ!

 なんやかんやで一か月ほど時間をかけて準備を終わらせた一人と一匹は、山脈へと足を踏み入れていた。

 

「麓の方は森で、上に行けば行くほど動植物が少なくなるか。普通の山脈と変わらないな。頂上に行ったらいい景色が眺められそうだなぁ、ライム」

 

 服の中に入れたライムに話しかけながら、鬱蒼と茂った森の中を歩む古内。その足取りは慎重で、気配も最小まで抑えて周囲に溶け込ませている。独り言も口には出しているが、外には響いていない。

 

「雲に届くぐらいだもんな。いくら強力な植物でも流石にそこまで繁殖はできないか。それとも……」

 

 詳しくない古内でもわかる程巨大で、低く見積もっても標高3000メートル以上はありそうな山脈だ。きっと頂上かその先に強力な魔物でもいるのだろう。

 

「まぁいいや。にしてもライム。お前の案は凄いな。自分が防具になるって」

 

 話を変え、ライムを褒める古内。それに好印象を抱いたのか、ライムは少し揺れて古内はくすぐったがる。

 

「おお、揺れるな揺れるな、くすぐったいって。で、隙間を狙われてもお前のお陰で防げるし、怪我しても覆って回復してくれるなんて至れり尽くせりだな。それに持ち運びにも便利だ」

 

 現在のライムでは、便利でも戦力と言う面ではあまり期待できないし、古内の戦闘に付いていくこともできない。そのためサポートに回ろうと話し合ったのだ。

 

「しかも邪魔にならないし、重くもない。何なら強化までしてくれるとは、お前俺より魔法使い熟してるな?」

 

 ライムは何でも真似て使い熟す天才だと言っていいだろう。魔法や魔術に限らず、情報さえあれば能力までも思うがままだ。汎用性や万能性で言えば、古内とは比べるのもおこがましいほどの差がある。

 

「なにより回復してくれるのはホントありがたい。俺も怪我しないように頑張ってるが、どうしても上手く行かなくてな。致命的だからどうにかしたいんだがな……」

 

 今まで練習はしてきたものの、心底では生存補正に頼り切って来た節がある。そのため回避や防御が疎かで、勢いに乗ると強引な攻撃もいとわなくなる癖がついていた。

 

 

「幸いタフなのと回復が速いから多少は無茶が効くんだが……ああ、悪い悪い!そういうことは止すから怒んなよ……」

 

 もっと体を大切にしてくれと、ライムから怒りを受け悪い悪いと謝る古内。ライムとしても、折角の仲間を失うのは嫌なのだろう。だから全力で抗議しているようだ。

 

「そうだな~。お前が守ってくれると安心だな、ライム」

 

 はて?これは、信頼している証か、それとも介護してくれ宣言なのか?ライムにはわからなかったが、頼られている気がして悪くないのか大人しくなるライム。

 

「ま、それにゆくゆくは俺と肩を並べて一緒に戦おうな。当分先になるだろうが、それまでには俺も立派になってるだろうからさ」

 

 ライムが力を付けるまでの間はこのスタイルで行くと決めている。だが古内は分かっているのだろうか?他者を真似れるライムの成長力と言うものを

 

「っと、そう言ってたら魔物のお出ましだ。やるぞ」

 

 そして魔物の気配を感じ取った古地は、戦闘態勢に入るのだった。

 

 




 ~おまけ~
・山脈について
 安全地帯を除けば一番安定した場所。他の地域に比べて魔物も弱けりゃ、異常に多いわけでもない。これも山脈の先にいる者のお陰なのだろうか?


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狼戦

 狼に囲まれた古内は、周囲を確認しながら武器を構える。

 

「すでに囲まれてたとは、俺もまだまだだな」

 

 そう言いながらステータスを確認した。

 

緑狼(グリーンウルフ)

・Lv35~40

・スキル・擬態Lv4・俊足Lv4・嚙砕Lv3・嗅覚強化Lv3・連係Lv2

 

 

「おいおい、中々の連中じゃねえか」

 

 レベルは見ての通りで、数は七体ほど。森の木々や雰囲気に擬態しているため、集中しないと数え間違えるほどの精度だ。

 

「スキルのお陰か?いや、スキルは普通よりできるところの表記でしかない。強みであり主力であって、それだけじゃない。あれはこいつらの力そのものだ」

 

 隙なく短刀を構えているため、狼たちは襲ってこない。精々警戒しながら周囲をゆっくりと移動しているだけだ。

 

「異物感半端ないんだろうな。だからすぐ見つかったと、匂いとかも考えとくべきだったな」

 

 

 スキルに頼りすぐるのも悪いと思った次の瞬間、痺れを切らしたのか狼たちが襲い掛かってくる。

 

「ほれ、ほれ!」

 

 二体の狼が木の陰から素早く距離を詰め、古内を食い殺そうと飛び掛かった。だがそれを簡単に回避され、斬り裂かれる。

 

「おっと!」

 

 体勢が悪くなった古内へと三体目の狼が襲い来る。だがそれもギリギリで回避し、軽く斬り裂きつつ距離を取り、威圧をもって牽制した。

 

「状態異常の味はどうだ?」

 

 最初の二体は傷が大きく急所に入っているのか既に瀕死で、三体目は傷は軽いが状態異常ですぐにでも体調を崩していた。

 

 

「残り四体か……じゃあ次は俺からいくぞ!」

 

 

 そう叫び近くにいた狼へと襲い掛かる。それに驚いた狼は、咄嗟に身を引こうとするがもう遅かった。判断を誤った狼は、首を斬り裂かれ、血をまき散らしながら絶命する。

 

「次ッ!」

 

 それを合図に残りの狼たちが敵討ちかのように迫る。

 

「いい連係だな」

 

 目の前の一体をやれても、あとの追撃でやられてしまう。かといってここで逃げれば、流れ失って戦闘が長引く。

 

「これならどうだ?」

 

 地面を棘状に操作し、目の前の三体を一気に貫く。それにより瀕死又は絶命まで行った三匹は動かなくなる。さっきのはあくまで近接戦での話であり、魔導を使えるのなら何の問題もない話であった。

 

「擬態で動きとか距離感が分かりづらかったがなんとなかったな。じゃあさっさと……」

 

 血の匂いに誘われて他の魔物が寄ってくるのを避けるために、さっさと死体回収してトンズラここうとしたその時だった。

 

「ッ!?こいつまだ!?」

 

 視界外から倒したはずの三体目が古内へと噛みつく。それを避けきれず足を噛まれ、骨が折れる感覚を味わる古内。

 

「こいつッ!?死にぞこないの癖に!!」

 

 スキルがある程の強力という事なのだろう。瀕死の状態でも古内の足から離れない。凄まじい執念だ。

 

「くたばれ!」

 

 このまま手こずっていると、逃げきれなくなると判断した古内は、即座に狼の首を力任せに斬り裂き、力が緩んだところで逃げ出して、ライムによる治癒が始まる。

 

「すまんライム。ここまま行くぞ。補助頼む」

 

 そして古内は、連戦を避けるために、魔導で風の流れを操作しつつその場をそそくさと離れるのだった。

 

 




 ~おまけ~
緑狼(グリーンウルフ)について
 人間界では、森や草原にいる魔物。本来のレベルは、20レベ前後であり、スキルも低レベルなものが一つあればいい方で、二つ以上持っていたら強敵と認識される程度。特に擬態持ちは、初心者殺しとして恐れられている。
 また狼系に限らずだが、環境や属性、上位種などで沢山種類がいる場合が殆ど。


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森の中、山脈の麓

 傷も完全に癒えて、森の中を歩む古内は、山脈の麓まで来ていた。

 

「ここで何か取れればいいんだがな」

 

 古内の目的は鉱石や素材の採取だ。だから山脈に来ている。

 

「……どうやるんだ?」

 

 そこで古内は気づいてしまった。どうやって鉱石を取ればいいのかわからない。漫画のようにたまたま見つけられるわけでもなければ、ゲームのように都合よく剥き出しになっているわけでもない。そもそも場所や鉱石の種類すら真面にわからない。

 

「そんな時は、掲示板頼りだ!」

 

 ライムの呆れ気味の反応を感じながら、掲示板を見てお目当てのスレを探す。

 

「なるほどなるほど、画像付きとは随分と手厚いじゃないか」

 

 そう言って、次々に流し読みして必要事項を覚えていく。その間無防備なのだが、ライムがちゃんと警戒しているので安心だろう。

 

「よし!大体わかったぞ。まずはこうやって、手を地面とかに置いて……」

 

 手を地面に置き

 

「力を一気に広げる!」

 

 限界まで自身の体内を流れている力を、周囲の力を巻き込みながら広範囲へと広げていた。

 

「そ、そし……て!」

 

 土魔導を使い、地形を操っていく。

 

「抜き出すッ!!」

 

 地面から何かが抜け、古内の目の前に大きな金属の塊が現れていた。

 

「はぁはぁ……どんなもんじゃい!」

 

 そう言いぱたりと倒れ、ライムに介護される。どうやら勢いに任せてすべての力を使い切ったようだ。バカなことこの上ない。

 

 

「これをどうにかして分けなきゃいけないわっか。あと製造方法とか品質とか、種類とか物質の比率とか……」

 

 倒れながら取った金属の事を考える。とりあえず一か所に集めただけであり、どういった成分が含まれているかまでは分からない。しかも製造法も詳しくは知らない。

 

「鑑定とスキルと掲示板で探すしかないか」

 

 要はしらみつぶしだ。一つ一つ探っていく必要がある。幸いそれをするだけの便利なシステムがあるから、時間さえかければ大した問題ではないが、なければよくわからない合金で武器を作っていた所だろう。

 

「え~と……え!?マジっ!?魔導でちゃっちゃっとつくれんの!?」

 

 だがここで大きな壁にぶち当たった。どうやら金属加工にはそれなりの施設が必要のようで、まずはその準備からしなければいけなくなったのだ。因みに魔導だけでもできなくはないが、きっと古内の頭では理解しきれないので、碌なものはできないだろう。

 

「一からか……こりゃ大掛かりな作業になるな」

 

 言葉の通り今の古内には、スキルと知識ぐらいしか真面な物がない。そしてその二つも古内には手に余るものだ。

 

「まずちゃっちゃっと鍛冶場のようなもん混ぜた家でも作って、そっから調整していくか……」

 

 だがやってみないとわからないと、回復した古内はバク転で立ち上がり、さっそく作業に取り掛かる。なんせこいつには、時間だけはいくらでもあるのだから……

 

 




 ~おまけ~
・魔法や魔術での採掘について
 この世界のこの時代ではあまりされていない採掘方法。個人では案外多いが、やるなら魔法などで地形を操り、お目当ての物質を取り出すものだが、まず初めに目的物の場所を探知などで探し当てて、そこまで行き近くで取るのが定番であり、決して広範囲を一人でするものではない。
 なお世間一般では、普通に魔道具を使って掘っている場所の方が多い。てか個人や小規模の需要は迷宮で完結し、それ以外の大規模なものは鉱山などが利用されている感じ。


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完璧無欠の家が出来たぞ!

 とある大きな平屋なのか二階立ての家なのか微妙な建築物の前に、腕を組んだ古内が経って満足したような顔をしていた。

 

「あれから二年。ついに俺の住居が出来上がった」

 

 そう言い、謎の思いで話に入り出す。

 

 

「最初のころは大変だったな。建築資材の確保とか、魔物との抗争とか」

 

 資源と土地の確保のために自然破壊はお手の物。その際に近くの魔物を殲滅させたり、逆に殺されかけたり、逃げ回ったり、敗走したり……そうやって現在七歳になっており、作り始めておよそ二年。ステータスの年齢部分で確認したので間違いないだろう。

 

「二年かけた最高の一品。よくここまでできたよ。そう思うだろ、ライム?」

 

 服の中にいるライムにそう話しかけ、ライムも肯定の意を示す。そして伊達に二年経っていないと言わんばかりの完成度に、大満足な古内。ライムと協力して、超人的な身体能力と魔導、掲示板とスキルの叡智を駆使し作り上げられた一軒家だ。

 

「鍛冶は勿論、普通の住居としても成り立つし、増築も可能。その他思い付きで色々設備も付けたしな」

 

 近代化改修前提もお手の物。魔導を駆使して、前世の家電や鍛冶工房などの現代設備をふんだんに取り入れた施設。ガス溶接やアーク溶接などもできるようにしてあり、最終的には3Dプリンターでの道具作成なども考えていたりもする。これぞ近未来道具とも言えよう。

 

 

「初めの頃は建築が全くうまく行かなさ過ぎて、武器とか道具作りに途中迷走したり、油断してたら魔物に家破壊されて一からやり直しとかあったけど、いい思い……」

 

 感慨深く思い出を語り、過去を深く思い出す。その内容はポジティブなものではなく、大変だったと言う記憶だ。そして思い出が増える度に、段々と雰囲気がおかしくなっていく。

 

 

「でなわけねぇーだろ!なんであんなに簡単に崩れんだよ!魔物の襲撃もふざけんじゃねぇー!わざわざ結界まで張ったのに見つけ出すんじゃねぇよ!」

 

 イライラが爆発する。その内容は正直言って当然のものだった。こんな危険地帯に住んでいるのだから、すべてがアニメのようにうまく行くはずがないのだ。

 

「確かに情報はあったがな!詳しい事は曖昧で分かりずれーんだよ!てかちゃんと書かれてねぇーんだよ!スキル無かったらこの程度じゃすまなかったぞ!」

 

 建物を建てる立地や条件、知識や技術などなど、古内には足りないものが多すぎた。そのせいで大分苦労したのがうかがえる。

 

「確かにな、当然だろうな!基礎も学ばずにこんなところでいきなり本格建築始めるとか想定されてねぇよな!だってあれ、スローライフスレだぞ!馬鹿か俺は!」

 

 しかもいきなり理想の自宅の建築である。無謀にも程がある。もう少し過程や段階を踏んだり、していくのが妥当だろうに、なんとなく出来るだろでやってしまっていた。そしてそれで成し遂げられたのが奇跡だろう。

 

「はぁはぁ……まぁいい。できたんだから愚痴はこれぐらいにしておこう」

 

 随分苦労したし、遠回りだった気もしなくもないが、そこは超人スペックとスキル、ライムとの協力でゴリ押ししたのだ。スキル万々歳である。これからもよろしく感が凄い。

 

「さて、自宅もできたし、やるか、探索!」

 

 そして建築のために中途半端に中断していた探索を開始するために、張っていた結界から出るのであった。




 ~おまけ~
 一気に二年進みましたが、この期間古内は資材確保と建築と道具製作以外はあまり何もしていません。なんなら大半の時間を結界内に籠って引きこもりしていたので、探索などもしていませんね。ここからがやっと周囲を知れる最低ラインになります。


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森の探索

 結界から出た古内は、森の探索のために気配を薄めて地図を持って歩く。

 

「七歳か。レベルも50超えたし、スキル7になった。上々だな」

 

 転生して七年。前世の記憶も薄れ、ライムと今世を楽しむ事が生きがいと化している残念転生者、古内。

 

「迷走中に武器も作ったし、道具も揃えた。家作ってからやるんじゃなくて、同時進行しちまったな」

 

 新しく作った装備を思い返しながら、短刀を取り出す。

 

「何度見てもいい出来だ」

 

 ダマスカス鋼のような綺麗な刀身。可能な限りあらゆる金属の合金を試し、その最適解で作り出された合金刀の一つ。その性能は素晴らしいの一言であり、刃物として理想的な仕上がりでできている。

 

「やっぱ俺には短刀が似合ってるな」

 

 因みに短刀に拘っている理由は、扱いやすく愛着があるのと、単に身長的な理由で長物が扱いずらいからだ。古内は別に腕力が強いわけでもないので当然だが。

 

「予備も複数あるし、役に立つかどうかわからんが一応他の武器も用意してある。完璧だな」

 

 当然予備も他の武器も複数持っている。スキルのお陰で最低限は扱えるので問題ないだろう。それにどれだけ強力だろうがいずれは壊れるし、弾かれてはい終わりではたまったものではない。幸い所持容量は亜空間でどうにかなるので、嵩張ることもない。

 

「ライムも俺と同じ姿になれるようになったし、あとは喋れるようになるだけだな」

 

 そしてライムも古内と同じ姿になれるようになっていた。とは言え、ライム曰く戦闘が出来る程度に安定しただけであり、言葉も喋れなければ生物として細かいところを完全に真似られている訳ではないようだ。なので今もそうだが、完全体になるまでは古内の中で補助に徹するとのこと。

 

 

「そう言やライム。あの泥人形(ゴーレム)と小鬼たちどう思う?」

 

 適当に歩き続けて、それなりの範囲の地図を浮かび上がらせた後にライムに話しかける。因みにこの地図は魔道具で、行った場所の地図を勝手に作ってくれるものだ。

 

金剛人形(アダマンタイトゴーレム)はここいらで一番強い奴だ。レベルが87もある。他の地域のカンスト勢とか超越種に比べたらマシだけど、今の俺たちじゃ勝てない相手だ」

 

 アダマンタイトゴーレムは、この山脈近い森の中で一番強い魔物だ。4メートルに近い巨体でその名の通り、全身アダマンタイトと言うこの世界で最も硬い金属の塊でできた魔物である。

 

「魔法も使わなければ能力もない。ただ硬すぎて攻撃が全く効かないし、あの質量攻撃は脅威だな」

 

 アダマンタイトは変形どころか欠けすらしない超固く重い金属だ。そして魔法や特殊能力を一切通さない性質もあり、その耐性は極め抜かれている。そして防御性能は、古内の攻撃は勿論、超越種の攻撃も防ぎきる。そのお陰で、本人が動いている以外の特殊能力が全くない。

 

「世界三大金属の想輝鋼(オリハルコン)金剛(アダマンタイト)妖輝鋼(ヒヒイロカネ)。その内の一つが大量に手に入ると考えれば、ぜひ倒しておきたいよな」

 

 本音はこれである。アダマンタイトゴーレムを倒して、貴重なアダマンタイトを大量に取りたいのだ。一応古内もすべての金属を所持しているが、この三つに関しては合金としてしか使えない程度の量しか持ち合わせてない。

 

「にしても他の二つは見つけられなかったな。魔銀(ミスリル)は少ないけど(アイアン)とか青銅(ブロンズ)は普通にいるのにな」

 

 この山脈には様々な金属が集まっているようで、様々なゴーレムが大量に生息している。そのため素材には困らない。困れば適当なゴーレムを狩ればいいのだから。

 

「まぁ、それはさておき。小鬼……がいるな」

 

 視線の先に小鬼を見つけ、短刀を構えるのだった。

 

 




 ~おまけ~
・世界三大金属について
 世界三大金属の想輝鋼(オリハルコン)金剛(アダマンタイト)妖輝鋼(ヒヒイロカネ)は、一般で名の上がる最高品。これらで作った武具や魔道具は非常に高性能で、探索者などの憧れとなっている。

 想輝鋼(オリハルコン)……その本質は神力に近いもの。あらゆる願望に反応して、その性能を極限まで高めてくれる。純正とか大国からしても高すぎるので、基本的に合金や混ぜ物とかで使われる事が多い。でも純正が一番性能高い。
 金剛(アダマンタイト)……めっちゃ硬いし結構重い。何も通さないほどの不変性がある。装甲や切削用の素材に使ったらいいかもしれない。純正なんて逆に使いづらいので、合金とかで使った方が良い。
 妖輝鋼(ヒヒイロカネ)……その本質は、吸収性や同化性が非常に高い特殊な金属。所有者によってその性質が変わったり、稀に混ざったりする便利金属。合金や繋ぎとして非常に優秀。

・金属の種類の説明
 その他の金属、銅、銀、鉄、金、アルミニウム、チタン、タングステンなどなど現実にあるものに加え、それらに何かしらの力が染みついたものがある。てか大体は、現実にあるものを主軸にそれが歪んでしまったものが大半。あとはちょくちょく特殊なものが各地にあるだけ。
 なお世界三大金属についてに関しては例外で、採掘量自体は少ないが大抵の場所からは採掘できる。


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小鬼たち

 木々に隠れて三体ほどいる小鬼の方を見る古内は、さっそくステータスを確認した。

 

小鬼(ゴブリン)

・Lv53

・スキル・斥候Lv5・心体強化Lv4・対物理Lv3・対異常Lv3

 

 

小鬼(ゴブリン)

・Lv55

・スキル・戦士Lv5・察知Lv4・対物理Lv3・対異常Lv3

 

 

小鬼(ゴブリン)

・Lv58

・スキル・術者Lv5・探知Lv4・心体強化Lv4・対異常Lv3

 

 

(うえ、つえ!格上じゃん!)

 

 各自役割におったそれなりの装備を身に着けた小鬼たち。一対二なら割と余裕で倒せそうだが、三体相手は正直言ってムリと言う差があった。

 

(正直あいつらの上位互換もいるし、なんならあいつらが集団でかかってきただけで死ぬ自信がある)

 

 補正モリモリの古内にとって、単に基礎レベルが高いだけの敵ならどうにかなるが、残念ながらここ最果ての大陸の魔物は、軒並みスキルの練度も高いので、今の古内は徹底的に戦闘を避けなければ生き残れない。

 

(ん、魔物?)

 

 そんなことを思っていると、茂みを分けながら大型なクマが現れる。

 

 

・銅熊《ブロンズベアラー》

・Lv48

・スキル・体術Lv4・嗅覚強化Lv4・強靭Lv3・対異常Lv3

 

 

 そいつを確認した瞬間、慣れた手際で小鬼たちは戦闘態勢に入り、簡単な術も仲間にかけて、その追加の準備もできていた。

 

(小鬼ってこんな強かったけ?)

 

 改めて今まで見てきた小鬼と前世で読んでいた小説などに出てきた小鬼を思い出し、そう思考を巡らせる。

 

(あんなに賢くないし、鍛え上げられてもないよな)

 

 戦士が前に出て、クマの攻撃をスレスレで躱しながら斬撃を仕掛ける。それによりクマは斬り裂かれるが深く斬れなかったようで、痛みに悶えながら反撃をしてきたクマから一旦距離を取っていた。

 

(外傷気にしてんだな。賢い)

 

 少ない手数で斬り殺せるように強化を更に強める小鬼。いくらレベルが上でも、基礎が違うのでこうやって強化しないと都合の良い戦いはできないようだ。

 

(強いし上手い!俺よりも!)

 

 先ほどよりも明らかに速くなった足取りで、クマに攻撃を仕掛ける小鬼。その一撃一撃は、あとの事を考えているのか、急所と言うか筋や関節などを的確に斬り裂いていた。

 

(おお、そうやるのか。観察の一つでもしとけばよかったな)

 

 それを興奮したように見入る古内。古内も何度か倒したことある魔物とは言え、あんな手際よく戦えない。そして今まで関わらんとこと避けていたことを少し後悔していた。

 

(最後は首を斬り飛ばす気か!よくっ……)

 

 戦士が最後の仕上げと言わんばかりに、動けなくなったクマの首を派手に斬り飛ばし、古内は頭部に衝撃を感じ、意識が吹き飛ぶのだった。

 

 




 ~おまけ~
・小鬼たち含む亜人種について
 知能面が低いので大したものはできないが、人類に近い性質を持つ亜人種は、武器を作ったり村を形成したりする。だがレベルが高ければ知能面の低さがカバーされて、どんどん成長していく。

・銅熊《ブロンズベアラー》について
 人間界では、浅い森の中ではそこそこ強い方の魔物で、こいつを倒せれば一人前と言われる魔物。肉は少し臭いが食料になるし、皮は衣類や装備に使える便利な魔物。人間界での固体は、強くても30レベ台でスキルも低レベルなのが二、三個あればいい方。
 因みに銅もあれば銀も金も、なんなら鉄や各種属性ごとの色もあるクマ系の魔物。


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夢だ

 白を基調とされた神殿、そのどこかの一室で、いつも見る女性が神かそれに至ったと思われる男の前に立っていた。

 

(またこいつだ)

 

 女性はどこまでも温和にニコニコとした笑みを見せて、神に話しかけている。それに対し神は神妙な面持ちでその話を聞いてきた。

 

(こいつが誰かのかわかってきた)

 

 プロジェクターでなにやら映像を見せながら話している様子はさながら営業マンだが、相変わらず内容も声も聞こえない。だがなぜかこの女性の名前が分かっていた。

 

 

(木枯 和夜か。マジで誰なんだ?)

 

 そう考えていると、時間が進み発展した星をバックに神々たちに囲まれた木枯の姿があり、星のすべてが観測機の作り出した構造体によって覆われていた。

 

(嘘はついてない。悪気もない。ただ交渉が決裂しただけか)

 

 木枯が何をしたのか、大体分かる。彼女は嘘も偽りもなく話し続ける。ただひたすらに現実を語り続ける。それに対し神々が怒りの表情をしていた。

 

(木枯のした事は……どうなんだろうか?わからない)

 

 いい未来を見せてやった。そうなるように協力もしてやった。だがそれは神々と協力者である木枯にとっての都合の良い未来だ。その結果この星は終わりを迎えようとしていた。

 

(意思のない星を食い尽くした。治すなんて不効率でムダだからこの星を離れるように助言した。何なら改造してやろうかと。なのに争いが起きている)

 

 木枯は正直者だ。だが聞かれた事と言いたいことしか話さない。示すデータに嘘偽りはなく、平均的で最頻値で中央値的な普通のデータを見せ続けただけだ。誰もが納得し安心しただろう、その結果がこれだ。

 

(星の内側で争いが起きても、木枯は黙っていた。別にそこまで契約した覚えがないからだな。その間も求められた結果は出し続けたはずなのに)

 

 劇的な発展に神も星も耐えられなかった。それで利益を得たのは、木枯と観測機だけだ。神秘も資源もすべてこいつらに吸い上げられていた。

 

(囲まれて感情をぶつけられて、あいつは――)

 

 それは決して契約違反でも何でもないのだが、こいつが元凶だと目の前の木枯を殺そうとした結果が、契約の破棄による争いである。

 

(残念そうにするだけか。わかってる)

 

 次々に木枯へと攻撃を仕掛け、向かって行く上位の神たち。

 

(お前からすれば、無数にある可能性を一つ潰しただけだもんな)

 

 そのすべてが、何もできずに殺されていく。

 

(もったいないから星も取り込んで)

 

 星もどんどん解体されて行き、観測機の中へと落ちていく。

 

(何も残らない。誰にも知られることなく消えて……いやあいつの中で残っていくんだな。ちゃんとしてやらなきゃダメだから……)

 

 隔離され、隠蔽された小さな世界はの中で、観測機にすべて回収されていくのだった。

 

 



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村だったぜ

 ベシベシと叩かれ目が覚める。

 

「ここは……小鬼?」

 

 寝ぼけた様子で周囲を見渡すと、どこかの大きめの木造建築の家の中で目が覚めていた。しかも周囲には小鬼が何人かおり、外にもいる事が気配で分かった。

 

「だれ?てか俺はこんな所におるん?」

 

 少しづつ意識が覚醒してきて、疑問だらけになる。それもそうだろう。小鬼に気絶させられたのにも関わらず無事に生きているのだ。

 

「……ライムのお陰か」

 

 モゾモゾと服の中で蠢くライムに気を向け、そう呟く。どうやらライムのお陰で、首の皮一枚繋がっていたようだ。周囲の状況的に古内はそう判断した。

 

「ほいっと。で、交渉とかできるか?」

 

 立ち上がり、この村の村長と思われる小鬼に話しかけながらステータスを除く

 

小鬼(ゴブリン)

・Lv76

 

 迷宮込みの人間界でも滅多にお目にかかれない、小鬼とは思えない高レベルである。そして途中で妨害したのか、スキルは見られていなかった。

 

「すまん、つい出来心で……」

 

 干渉された事に気が付いたのか、不快そうにする村長に謝る古内。どうやらこのレベルとなると、大抵の干渉は気づかれる様だ。

 

「で、話なんだが。殺さないでいてくれてありがとう。俺たちと仲良くしないか?」

 

 古内の言葉に嫌そうな顔は消えない。後ろで控えている小鬼たちも同じだ。

 

 

「俺こういうの作れるけどさ、どうよ?」

 

 自慢の短剣を取り出し、村長に見せる。そして追加で、どんどんと自作の道具や設計図も近くにあった机の上に並べていき、どうだと小鬼たちを見る古内。

 

「他にも色々作れるぞ。アイデアだって出せる。だ、だからな、ほら、助けてくれ!」

 

 なんやこいつ、とか、呆れた様子で見つめられる視線に耐えかねて、声が大きくなる。

 

「まだ死にたくなんだ!せっかく転生してチートやっぽいとか思ってたらそうもでもないし!人がいない所に飛ばされるし!」

 

 凄まじい悲壮感を漂わせて、次々に言葉をぶつける。それを呆然と聞いている小鬼たち。

 

「魔物強いし!意思疎通取れる奴なんて殆どいないし!一人じゃ虚無感が凄いんだよ!頭がおかしくなる!だから友達になってくれ!」

 

 悲痛な叫びを聞いた小鬼たちは、どうしたものかと悩む。自分たちと似たような存在であり、別に脅威でも邪魔でもないし、素材にも食材にもならないのだから、見逃す分には構わない。だが一緒にいさせてくれは困る相談だからだ。

 

 

「せめて何かしら友好関係を結ばせてくれないか?取引からもでもいい、用意できるものは何でもしよう!」

 

 悪感情を感じられない戸惑いを感じ取った古内は、ここぞと言わんばかりに話をねじ込む。

 

「早速友好の印に、この中から好きなのを選んでくれ!いくらでもいいぞ!」

 

 出した道具たちを小鬼に見せびらかし、チラリと横目で見た少しの興味も見逃がさずに、テンポよく説明を始める。その事により、この場の流れは古内を中心に流れ操られていた。

 

(そしてゆくゆくは言葉も文字も浸透させて、人化薬を作ってな……)

 

 古内は興奮し怪しいニヤニヤがでそうになるが抑え、それを笑顔に変えてスラスラと話を進めるのだった。

 

 



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あれから一か月

 あれから一か月がたち、無害さのアピールや泣き脅しや同情を誘っての好感度?稼ぎが上手く行き、どうにか村の中に納品目的で入れるようになった古内は、道具の納品のために村長の家に出向いていた。

 

「これが納品物です。どうです?いい武器たちでしょう?」

 

 そう言い、村長を中心に村で武器や装備を作っている小鬼たちが、机の上に並べられた品を手に取って見ていく。

 

「ここじゃ珍しい金属製の武器ですぜ。へへ、どうですかい、村長さん?」

 

 ニコニコとした笑顔で、まるで悪徳商人のように武器の説明をする古内。ここの小鬼たちは、金属製の武器を使っておらず、魔物製の装備や武器を使っているのだ。そこに自信作を出したのだ。

 

「あの時は見せるだけが限界で大した数は渡せなかったけど、今回は村全部に行きわたらせられる数の武具を用意しやしたぜ」

 

 ライムも手伝ってくれたとは言え、満足のいく品を百個以上も用意するのは苦労していた。なので失敗できないと、ゴマすりの如く手をさすりながら、この一か月の事を思い出す。

 

 

(嫌われない程度に村に何度も足を運んでよかった。村のみんなに顔も覚えてもらったし、警戒心はあるがここまでこぎ付けられた)

 

 あの後見逃してもらえたものの、「もう近づくなよ」的な雰囲気を喰らったが、そんな事にはへこたれずに村に何度も足を運んでいた。

 

(最初は大変だったな。俺の事を知らない奴からボコられたり、追い払われたり、ライムが居なかったら逃げ出せなかったかもしれない)

 

 適度にボコられたり、追い払われたり、そのまま森の中で放置され魔物に襲われたりと何度か死にかけたが、それもすべてライムのお陰で何とか生き残る事に成功していた。

 

(仲良くなろうと思って、狩りに出てた小鬼たちにも出会いに行ったが、普通に攻撃してくるし、説得大変だったな。まぁこうやって外堀を埋めるのも大切な事だ)

 

 偶然を装って小鬼たちと接触し、仲良くなろうともしていた。勿論最初は攻撃されていたが、最近は挨拶する程度には仲良くなっていた。だが古内は知らない、変な目で見られていたり、避けられている事に。

 

(そしてここまでやって来た!俺を受け入れてくれたのだ!)

 

 いや違う。しぶとい古内に根を上げて仕方がなく迎え入れたのだ。今も変な動きをしようもんなら即座に攻撃できるように準備がなされている。能天気な古内とは違いライムは、その事に気が付いており、静かに主人を守っていた。

 

 

「っと、どうです?いい品でしょう?」

 

 妄想に耽っている所をライムに戻され、品の拝見と話し合いが終わったらしい村長たちに話しかける。その顔は何とも言えない顔だ。どうやら、持ってきたものが粗悪であれば放り出す気でいたらしいが、感心を持てるほどいいものだったので、対応に困っているようだ。

 

「定期的な納品とメンテナンスからでいいんで!」

 

 悪意はなくともどこか嫌な感じがする変人とは付き合いたくないのか、判断を渋る村長に「ヤバい!」と感じた古内は、乗り出してそう迫る。

 

「どうぞ!ぜひ!うちと契約してください!」

 

 頭を机にぶつける勢いで下げる。いや、ぶつけてゴンッ!と鳴って、ライムに治してもらっている。その勢いに負けたのか、疲れた顔をした村長は了承の意を古内に伝えていた。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 それに喜んだ古内は、お礼を言って話の続きを進めるのだった。

 

 



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あれから三か月

 あれから三か月。古内は村の一員のように馴染み、村人たちとも仲良く狩りに行ったり、村の仕事を手伝ったりと、親睦を深めていた。

 

「さて、模擬戦と行こうか。本気で来いよ」

 

 目の前には、紋章の付いた剣を持った小鬼がおり、周囲はザワザワとしていた。あの剣は、古内の協力の下作り上げた魔導が付与された魔銀製の剣だ。今回は、戦闘訓練ついでに、この剣の性能を確かめるために古内が名乗りを上げてこうなっていた。

 

 

「おっと!はえぇ!」

 

 小鬼は素早く距離を詰め剣を突き出してくる。それを寸前で避けた古内は、今まで小鬼たちが使っていた魔物製の牙でできた短剣を反撃に振るう。

 

「避けるよな!」

 

 だがその一撃はギリギリで避けられ、薙ぎ払いが古内を襲った。それを滑りこけるように思いっ切り地面を蹴り距離を取る。

 

「ふ~隙がねぇぜ」

 

 古内が体勢を整えている内に相手は構え直しており、次は上から脳天目掛けて剣を振り落とし

 

 

「これも中々だな!」

 

 受けきれないと判断した古内は、短剣で受け流しズラしながら空いた手で拳を叩き込んでいた。

 

「おっと!浅かったか!」

 

 一瞬怯んだが、追撃を撃つ暇なく雑に斬撃が放たれる。それに距離を取りながら短剣を確認する古内。

 

「一発受けただけでこれかよ……」

 

 強化していたはずの短剣のは部分が少し削れ、冷汗を流す。それと同時に

 

「どうです皆さん!これを見てください!一発でこの威力!すごいでしょう!」

 

 チキンと宣伝しておく。

 

「お?まだやるか?中途半端だもんな」

 

 だがまだ訓練は終わらない。まぁそうだよなと感じ取った古内は、そのまま短剣を構え、一気に距離を詰め短剣を振るう。しかしそれを見切った小鬼は、最低限の動きで避けて、両者の激しい攻防が始まる。

 

(俺が協力した甲斐があるな。この短剣とはホントに性能が違いすぎる!)

 

 後手に回るわけにはいかないので先手を打ってギリギリでどうにかしているが、同レベルの相手がより強い武器を使っていればこうなるだろう。

 

(ここで見比べて確信したが、魔物の素材は上手く使えば強いが癖が強い。それに比べて金属製の武器は単純に強くなりやすい)

 

 幸威が使っている剣は別に属性を付与したり、特殊な力など付与されていない。ただ単純に耐久や斬味などの基礎スペックを上げ、取り扱いがいいだけだ。だがそれが凄く強い。斬り殺せるのであれば相性など考えずにこれを使えばいいほどに強いのだ。

 

 

「っ!?あぶね!」

 

 斬り上げを躱したが、斬撃波は地面を抉っている。

 

「強化したな」

 

 力を流し込めば紋様である術式がさらに性能を引き上げてくれる。こうやって軽い斬撃を放つことだって可能なのだ。

 

「じゃあこっちは斬味と刺突だ!」

 

 本格的に古内も力を回し、この短剣の特性である斬味と刺突を強化する。それで剣の腹に突き刺す。

 

「よし!勝った!」

 

 剣は欠けながら弾かれ、態勢を崩した小鬼に拳を叩き込む。それにより勝利宣言した古内が堂々と勝ってしまったのだった。

 

 



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