異能学園の用務員 (バトルマニア(作者))
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始まりの4月
入学式の片付け


 広い体育館のような場所で、複数人の大人たちが清掃やら片付けやらを行っていた。

 

「ちょっと君、もう入学式は終わったよ」

「んっあ、あ―っ!?す、すみません!教えてくれてありがとうございます!」

 

 一人の眠りこけていた少年を揺すり起こした男は、礼を言って急いで去っていく少年の背中を見て

 

「話が長いから眠たくなるんだよな。俺も居眠りした記憶があるからよく分かる。まぁあそこまで酷くはなかったが」

 

 そう昔のことを思い出す。ごく普通の高校を卒業して早三年。最初に入った会社で上手く行かず、その後の転職も失敗。それから開き直り、資格を取るやら色んな仕事がしたいと言い訳を重ねて、ダラダラとバイトをしながら生活してきた。このままではダメだと思いながらズルズルと生活していたある日、とある求人が目に入り、それをチャンスと捉えた男はとある場所に就職できていた。

 

「にしても俺が異能学園なんかに就職出来るとは、世の中何があるかわからないな。資格いっぱい取ってて良かった」

 

 そこは世間では異能学園と言われる場所で、異能力者を集めて教育、研究する場所だった。しかしこの男にはそんな事は関係ない。

 

 なぜなら……

 

「にしても異能か、なんか変な開発とか受けるんだろうな。で、あとは研究とか国防に関わることか?怪物とか国のこととかあるだろうし……まぁ大層な事だが俺は関係ないな」

 

 正社員とは言え一介の雇われ。給料の良し悪しで入っただけの彼には、殆ど異能と関わる機会はないのだ。せいぜい一般人よりかは多い程度だが、それでも間近で見れたり、異能力者と話せる程度である。問題が起きなければだが……

 

 

「さてと、こっちはこれぐらいだっ!?」

「おい、ちゃんと働いてるか?」

 

 片付けを終えて、別の場所を手伝いに行こうとしたその時だった。後ろから誰かに小突かれ、男は驚来ながら振り返る。

 

「か、母さん。こっちは終わったよ」

「こっちもだ。暇だったから見に来たんだけど、問題なさそうでよたった」

 

 そこには作業着を着た子供のように背の低い少女が立っており、男は少々怪訝な顔をする。

 

「俺も子供じゃないんだ。これぐらい出来る」

「親にとってはいつまでも子は子供。それについ最近まで定職にも付かずにダラけてたのはアンタでしょ。ワタシが仕事を持ってこなかったらどうなってたことやら」

 

 母親と呼ばれた少女は、息子の対応にやれやれと呆れた様子だ。

 

「それは母さんも同じだろ?つまらなくなったらすぐに職変えるし」

「ワタシはどこでも働けるからね。そんなことより、あっち手伝いに行くよ。広いんだからテキパキ動かないと終わらないからね」

 

 そう言って足早に次の仕事をしに行った少女の後ろ姿を見ながら……

 

「親と同じ職場って……諦めるしか無いか」

 

 そう言って男も向うのであった。

 

 



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昼休憩

 入学式の片付けが終わり昼休憩に入る。用務員たちは足早に休憩室に向かい、男も少女と共に昼飯を喰いに行っていた。

 

「あ~疲れた。広いし清掃も大変だったな」

「この程度で疲れたって……まぁ気疲れね。慣れないことすると体力使うし。でも早く慣れなよ。仕事なんだから」

 

 そう会話しながら休憩室に着き、昼飯の準備をしだす。

 

「分かってるよ。一応この学園のことは全部頭に入ってる。後は細かいところの調整だけかな」

「お、流石我が息子。これぐらい訳ないか」

 

「ま、異能学園は優秀な人材を取り揃えてるって話だからな。できないからクビとか言われたくないし」

 

 就職してから早々、二人はこの学園についてあらかた調べ上げていた。一応、用務員の一人に至るまで優秀な人材を取り揃えていると聞いていたようで、これぐらい当然だろうと思っているようだ。

 

 

「これからこの学園の維持管理をしていくのか。何事もなければいいな」

「どうでしょうね。物騒な世の中だから難しいんじゃない?まぁそんな時は警備の人がどうにかしてくれるでしょ。ワタシたちの出る幕はないよ」

 

 彼らの仕事は、この異能学園の清掃や機材の補充、設備点検などの維持管理である。一応警備などの仕事もあるが、それは別に雇われている異能力者たちの仕事であり、彼らは基本的に無縁という契約内容であった。

 

「流石にそうだよな。ここは世界でも上位に入る異能学園だ。そんな大事起きないよな」

「そうね。事が起きても大事になる前に終わるでしょうね。流石に表立って国に喧嘩売るバカはいないでしょ」

 

 好奇心があるのか少々残念そうだが、それ以上に目立つ行為はゴメンだと考えているようで、二人は楽観視しながら用意した飯を食い始めた。

 

 

「相変わらず美味いな母さんの飯は」

「そうでしょ?これでも定食屋とかでバイトしてたからね。それにネットで見かけた料理はあらかた作れるようになったし」

 

 そう自慢げに、弁当の中身を解説しだす。それはいつものことのようで、男は軽く聞き流しながら偶にする質問をしていた。

 

「いつも思うけど、なんでそこまで出来るんだよ。暇さえあれば勉強したりさ俺には無理だよ、娯楽を嗜みながらじゃないと」

「そりゃ暇だからに決まってるじゃない。やることないし、ゲームや小説っていう娯楽品は、アイデアはともかく簡単すぎてちっとも楽しくない。だから出来ること増やしてんのよ」

 

 男の母親は何でもできた。取れるだけの資格を取りあさり、暇さえあれば参考書や論文を読んだり勉強したりとなんでもしているのだ。本人曰く、ゲームや小説は面白く感じないようで、それらで暇を潰しているだけのようだ。

 

 

「まっ、ねぇ。母さんは動いてる方が好きみたいだし」

「そうそう、ワタシは動き回ってる方が好きなんだ。こっちに来てからは自重してるけど、昔はもっと動き回ってたんだぞ。今でもウズウズしてるぐらいだ。あっちにいた頃が懐かしい、アイツら元気かな?」

 

 少女は昔を思い出しながら懐かしそうにする。ホントはもっとやりたいことがあるのだろう。だがそれを我慢して気を紛らわすために、ひたすら自分の楽しいと思えることをしていた。

 

「どうした母さん?」

「いや、久々に思いっきり動きたくなっただけ」

 

「それはちょっと……友達との約束だってあるし……」

 

 それを聞いた男は、ゲッと驚いた顔をしてすぐさまやめさせようと説得しにかかるが

 

「休みは2日あるでしょ。どっちかで付き合って、相手がいないと満足できないから」

「……わかったよ……」

 

 子供のように不満そうな顔をする母親相手に、呆気なく撃沈していた。

 

「ありがとう」

 

 男の了承を聞いた少女は、満足したのか頬笑みを浮かべ喜ぶのだった。

 

 



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下校時間

 昼休憩から特に何事もなく時間が過ぎて、下校時刻に差し掛かっていた。そんな中殆どの仕事を終えた二人は、最後の片付けをしていた。

 

「何もなかったね」

「そりゃな。初日からそんなぶっ飛ばさないって」

 

 それもそのはずで、初日など新入生への説明やこれからの準備ぐらいしかやることがないものだ。大半の生徒は才能や適性があり、それを開花させていくのが手順というものであり、詳しい能力検査もしていないのに問題など起こるはずがない。

 

 一部には特別な者や生まれつき異能がある者たちもいるが、そういう者たちは一般の生徒とは別のクラスに集められているので、問題も起きにくいだろう。

 

「期待してたのか?」

「そりゃね。異能って面白そうだし、なんか見れると思ってたよ」

 

 どうやら少女は異能が見てみたかったようだ。

 

「異能見たことあるだろ」

「異能な~。間近ではあんまりないからね。いつも画面越しとか遠目とか書類上でし見ないから、せっかくの機会なのにな~」

 

 初日からぶっ飛んでいるのは少女のようで、男は呆れた顔をしていた。

 

「これからいつでもそんな機会はできるだろ。ほら、大会とか訓練とかもあるんだし」

「そうだね。興奮しすぎてたみたい」

 

 能力開発や戦闘訓練、世間様への印象向上などなど、異能が浸透した世界でもやることが山ほどある。なぜなら、安定したとは言え未だにテロや革命、怪物たちが消えたわけではないのだ。むしろ表に出てくる頻度が減っただけで、個々での厄介さは増しているぐらいだ。

 

 

「……これからずっとここで働くのか。そう思うとなんだかな」

「どうしたどうした?早速不満か?」

 

 なにか思うところがあるのか、男は呟くように小さな不満……と言うより不安をポツリと言う。

 

「いや……と言えば嘘になるが、飽きないかなって」

「その時は別の就職先を探せばいいんだよ。それに別に金に困ってるわけじゃないんだから」

 

 少女ほどではないが、男も高スペックなのもいいところで大抵のことは出来る存在だ。そのため昔から、ある程度出来るようになると飽きて別のことをしだす事が多かった。無論それも社会に出たり、経験を積んだりでマシにはなったが、中に芽生える虚無感やつまらなさが消えた訳では無い。

 

「それは母さんの話だろ?俺は自分で稼がなきゃダメなんだ。いつまでもぶら下がってることなんてできねえよ」

「偉くなったな~、誇らしいぞ。でも苦しくなったらいつでも言ってな、いくらでも助けてあげるから」

 

 今までは母親に頼る部分がお大きく、助けられたことなど数知れずという状況だった。だが男も大人になり社会人だ。いつまでも親にしがみつくのも嫌だった。しかし少女も男の親としてどこまでも見守る決意がある。

 

「ありがとう母さん」

「いいよ。私が一緒にいたいだけだから。逆に縛り付けてないか心配になる」

 

 少女からしても男が独り立ちするのが正しいと理解はしていた。しかし唯一の血の繋がった家族を手放すことができずにいるのだ。

 

「ま……それはあるかもしれないけど、今のところは大丈夫だよ」

「まっ安心して、お前が嫌なら離れるし、それ以前にワタシの方が早めにくたばるだろうからさ。ハハハ!」

 

 笑顔でそんなことを言ってくる少女に、男は苦笑いをしながら片付けを終わらせるのだった。

 

 



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特に何事もない平和な日々

 入学式から三日が過ぎていた。その間に小競り合いのようなものがあったものの、二人の……というより大事にはならず、みんな平和な日々を送っていた。

 

「な、何もない……だと?」

「そりゃな。教育と教師の努力の賜物だろうよ。それに多少はあったみたいだけど学校側も大事にはしたくないだろうし」

 

 昼飯を食べながら思っていた状況と違うとガックシしている少女に、先に食べ終わっていた男はまぁまぁと落ち着かせる。

 

「確かに力のぶつかり合いは感じてたけど、それって異能の検査とか訓練のせいじゃなかったの?私その時別のとこで仕事してたから見に行けなかったんだけど」

「そこで小競り合いがあったらしい。異能が使えるからって興奮したのかもな。というか今仕事抜け出そうとか考えただろ?やめてくれよ」

 

 少女は、与えられた仕事はちゃんとこなすし問題を起こす気はない。だがそれは問題の発生や表面化しなければいいという考えで、そうならなければ割と勝手に行動するのだ。そして高すぎる能力が仕事を完璧かつ迅速に終わらせ、手伝いの名目で様々な場所に行っているのだ。

 

 

「あ~見たかったな。そっち行けばよかった。だけど面白い事が起きそうだ。例えば、どこかの名家とか身分差とか勘違いエリートとかがそれっぽい主人公に絡んで何か起こるとか、それかどこかの悪の組織的な何かが攻め込んで来るとか」

 

「こりゃダメだ。てか最後の物騒すぎるわ」

 

 様々なイベントを期待していた少女に、男は呆れが混じりながら引いていた。

 

「ふん、暇すぎてありそうな展開をネットで調べたの。あと闇の組織とか秘密結社とかその逆の組織とかも普通にあるからね。昔短期バイトやってたし。まぁ戦闘員にさせてくれなかったからムカついて、全員まとめて総合建設業者とか警備会社にしてやったけど」

「そんなことまでやってたのか……」

 

 信じているのかいないのか、疑うような目で少女を見る男。しかしどこか身に覚えがあるのか、恐らくそうだろうと思っていた。

 

「大丈夫、大株主にはなってるし悪さはさせないから。もちろん詳しくは教えれないし他言も無用だよ。商売はイメージが大切だからね」

「そうだよな。わかってるよ」

 

 そういう部分は理解があるので、興味があっても聞きはしない。しかし株主うんぬんよりも、母さんを恐れて何もしないのでは?とは考えていた。

 

「む~何か変なこと考えてるな。別に恐怖で支配してるわけじゃないぞ。ちょっと終わらない仕事を与えてやっただけだよ。ほらこの世界物騒だろ?そういう仕事ならいくらでもあるからさ 」

 

(それがすでに恐怖なんだが……)

 

 笑顔でそんな事を言う少女に若干の恐怖を感じながら、平静を装い頷く。男も含め、大半の存在は永遠と働いていられるほどの能力も精神力もないのだ。

 

 

「そういやアンタ。ここで仲良くなったやつとかいんの?友達とかさ?」

「普通にいないよ。いつも言ってるけど仕事場なんだからそういうことする場所じゃないだろ」

 

 少女の質問に男は正論で返す。どうやらいつものことのようで、少々呆れ気味だ。

 

「友達いないと寂しいぞ。刺激が無くて息苦しくなる」

「仕事とプライベートを割り切ってるだけだよ。ちゃんと仕事はできてるし、別に関係が悪化しなきゃなんでもいいだろ」

 

 親子の割に仕事への考え方が真逆のようで、楽しさややりがいを求める母親と、楽さと効率を求める息子で意見は違う。

 

「いや~昔っからそうだよな。ワタシにはムリだけどアンタにはできるんだよね。これが育ちの違いってやつかしら?ちょっと羨ましいわ」

「俺からすると母さんのコミュ力の方がすごいよ。誰とでも仲良くなって何でもできる。俺には合わないけど一種の理想形みたいなものでしょ」

 

 両者とも受け入れるかどうかはさておき、否定はしない。それがどれだけムダな事かはわかっており、逆に理解しうまく付き合おうと考えていた。

 

「そう言ってくれるとありがたいな。隣の芝生は青く見えるってのはこのことか!」

「そうだね……っと、昼休憩ももう終わりだな。じゃ俺は先に仕事場にいくよ」

 

 そこで休憩時間も終わりに近づき、男は昼からの仕事の為に先に片付け、準備のために少女と別れるのであった。

 

 



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厄介ごとはどこからともなく湧いて出る

 準備を終え仕事に取り掛かった男は、慣れた手つきで清掃をこなし、自身の担当区画を掃除していた。

 

「備品の点検もよし、どこも壊れた場所もなし。こっちはもう終わったから、次はあっちだな」

 

 清掃をしながら問題がない事を確認しながら仕事をしていく。

 

「にしてもホント広いな。この学園。ま、いろいろ詰め込んでるから当然だが」

 

 普通の学校設備に加え、様々な異能関係の設備が盛りだくさんの異能学園は、それなりに広く一区画の維持管理も大変であった。そこを専用で雇ったプロの用務員で管理するのだ。

 

「俺や母さんみたいに、隅々までやるわけじゃないからそうでもないのかもな。まぁ俺から見ても母さんは異常だが」

 

 普通は、男やあの少女の様に常に大掃除レベルで掃除する事は無い。年に数える程度であろう。だがこの二人はそれでは早く終わり暇になるからと、新品同然に整備しているのだ。なお男は無理だが、少女はそれでも他人を手伝う余裕がある。

 

 そんな事を考えながら時間が経ち、 屋内の掃除を終えた頃には帰りのチャイムが鳴り響いていた。

 

 

「っとこれでこっちも終わり、あとはここらの外回りと……なんだ?」

 

 片付けをしている途中、何かを感じ取ったのかその場で立ちどまり、神経を研ぎ澄まさせる。

 

「生徒?何でこっちに?」

 

 今いる男の担当場所は、基本生徒は立ち入らない場所だ。そんなところに数人の気配を感じ、不思議に思いながら様子を見に行く。

 

「四人か。それもあの立ち位置、なんか嫌な予感するな」

 

 様子見で隠れ、気配を探り人数と立ち位置を確認する。すると三人が一人を囲むようにして立っており、なにやらよくない気配を感じ取っていた。

 

(ん~顔と名前は把握してたけど気配はしてなかったな。誰かわからん。変なことされても面倒だし、注意ついでに把握しとくか)

 

 何であれトラブルが起きれば男もただでは済まない。なぜなら自分の管轄内だし、放置するわけにもいかなく、何より後処理が面倒なのだ。だから問題を起こされる前に止めなければならなかった。

 

 

「おい君たち。こんなところで何してるんだ?」

 

「なんだおっさん」

 

 リーダーぽい男子生徒が男の方を見て、明らかに敵意ありげに睨んでいた。

 

「おっさんって……まぁいいや。ここは生徒でも許可なく入っちゃダメなところだぞ。あとお前、今異能使おうとしただろ?それも人に向かって。それの注意だよ。大事になるからやめなさい」

 

 異能の使用は違法行為だ。それも意図的に害意があった場合更に罪は重くなる。男はそう注意したが……

 

「知らねえよ!俺に指図するな!」

「あ~どうしよ」

 

 忠告を無視して、異能である炎の力を手に宿していた。それに困った風に呆れる男。

 

「あ~、君たちは使うなよ。これ以上……」

 

「無視してんじゃねえ!」

 

「「「っ!?」」」

 

 無視した男にムカついたのか、リーダーは炎弾を作り出しぶつけようと撃ち出す。それに驚いた取り巻きの二人と標的だった男子生徒は何もできずにただ見ている事しかできない。

 

 しかし――

 

「は?」

 

 男は煙でも払うかのように炎弾を片手でかき消し、何事もなかったように再度説得をしだす。

 

「え~だからやめろって、今ならまだ黙っててやるからさ。探知されて誰か来ても間違いだったことにすればいいし、な?」

 

 大事になると面倒だし時間が取られるとしか考えていない男は、少し威圧をかける。

 

「お、俺を誰だと……っ!?」

「知ってるさ。一応生徒の顔と名前は全部頭に入れている。それでもここじゃただの一生徒だ。多少は仕方がないだろうが意図的に使うもんじゃない。それぐらいわかってるよな?学び舎に余計なもん入れこむなよ」

 

 建前とは言えここでは皆一生徒でしかない。学び成長することが目的である施設に、権力などという余計な物は必要ないという事だ。

 

「わかったら大人しくしとけ、もうそろそろ人が来る」

 

 異能を検知したのか、何人かの教員がこちらに向かって来ていた。それに気づいた男は、四人に大人しくしておくよう指示し、その後すぐに教員が到着する。

 

 

「動くな!異能の不正使用を感知した。そこの用務員、状況説明を頼む」

「そこの男子生徒ですよ。まぁ大した事はしてないので多めに見てやってください」

 

 そう言いながら状況説明をしていく男。それに青ざめるリーダーだったが、大事にしないように少々嘘は混じっている。まぁ大したことでないのは確かなので問題ないだろう、と男は思っていた。

 

「なるほど、今回は多めに見るが……次はないぞ」

「「「は、はい!」」」

 

 無事説明も終わり、最後に教員に怒られ反省する三人。それは教員に怒られているからなのか、後ろで男がニコニコしているからなのかわからないが、一人は被害者になりかけた人なので気まずそうにしていた。

 

「じゃ自分は仕事に戻りますね」

「ああ、協力感謝する」

 

 そうして生徒と教員は帰って行ったのだった。

 

 



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休日一日目 前半

 少しのトラブルがあったものの、無事休日を迎えられた男は、とある場所に向かうために大型の個人用クルーザーに乗っていた。

 

「またこんなん買って……」

「いいじゃん。どうせ金なんていくらでもあるんだし。使わないと増え続けるだけだし。社会に還元しなきゃね」

 

 呆れた様子の男に、少女はジュースを飲みながらくつろぎまくっていた。

 

「小崎様、おかわりのジュースです」

「快人様もどうぞ」

「ありがと、サヤカ」

「ありがとう、ミカエルさん」

 

 少女と男がサヤカとミカエルからジュースのおかわりをもらい、少女は子供の様にうまいうまいとストローで飲み、男は二人に話しかけた。

 

「すみませんね、こんな休日に呼び出しちゃって。娘さんもいるのに」

「別に構いませんよ。こちらも相当お世話になってますから、これぐらいは……それにムツミも連れてきてますので」

「こちらもですよ。誘ってくれてうれしいぐらいです」

 

「そうそう、楽しい事はみんなでってね。休日に呼び出しちゃってるんだからこれぐらいしないと」

 

 プライベートなので来れそうな人に募集をかけて、とりあえずクルーザーに乗れそうな人たちを集めた結果こうなったのだ。もちろん家族連れもOKで、来てくれた人たちには行き帰りのスタッフ兼、一泊二日の旅行のような形だ。これも少女の人望あってこそである。

 

 ちなみに誰も来なかったら、二人は海の上を走って目的地まで行っていた。

 

 

「そういやコトリは?姿見えないけど?」

「すみません、ちょっと娘たちの相手をしてもらってて、呼びましょうか?」

 

 そういいサヤカは、遠くの方で子供たちに遊ばれているコトリに視線を移す。

 

「あらら、ならいいよいいよ。大変そうだし」

「流石に子供にはな」

 

 コトリはめんどくさがりで、暇さえあれば寝たりだらけている人だった。そんな彼女でも、子供相手では無視できないのか一緒に遊んでいた。

 

「……そういやあいつ炎出せたよな?バーベキューとかする予定だから手伝ってもらおうかな?」

「それはいいですね。きっとみんな喜びますよ」

 

 本人がいないところで勝手に話が進むところを見て、男は何を思ったのか苦笑いをしていた。

 

 

「そういや二人とも、仕事の方はどうだ?また変なことされてない?」

「はい、小崎様がいらっしゃってからは特にそのようなことはされていません」

「ええ、一度は逃げ出した場所とは思えませんね」

 

 二人やコトリも含めた他の社員もそうだが、少女が雇っている者たちはとある組織で人間兵器として作られた改造人間だ。そして少女がその組織を乗っ取り、一般企業に作り替えたおかげで助けられた者たちでもある。

 

 なお、裏業界の組織を乗っ取る事に味を占めた少女は、乗っ取った組織を手当たり次第に法人化し支配下に置いていったことは、まあ別のお話……

 

「不満があったらいつでも言っていいよ。仕事内容がアレだし、休みとかちゃんと取れてるよね?手当とかも?」

「大丈夫ですよ。確かにやってることは大して変わってませんが、扱いがすごく改善されましたから」

 

 部下が勝手なことをしてないかや、ブラック企業になってないか心配する少女に、大丈夫だと返すミカエル。

 

「うん、給料もたくさん出るし休みも自由もきく。本当にありがとう」

「ならよかった。ワタシも確認はしてるんだけど漏れがあるかもしれないしね。何かあったら気兼ねなく言って」

 

 なにより人材を大切にする少女は、改善を怠らない。そのため神出鬼没に各組織に現れては、視察や聞きこみをする場合がある。そしてこの行為は、各組織のトップにとって非常に心臓に悪いことこの上ないのだ。

 

 

「母さんの下につくって、みんな大変だろうな……」

「その通りだ。あいつの下についたら忙しくて仕方がない」

 

 三人で話している所を外から眺めていた男に、コトリが話しかけに来る。どうやら隙をついて子供たちの相手を他の人に押し付けて来たようだ。

 

「コトリさん、でもあなたの場合は……」

「聞きたくない、やる事はちゃんとしてる。そんな事より島が見えたぞ。ってことで私は疲れたから休ませてもらう」

 

 それだけ言うと、コトリは逃げるように去っていくのであった。

 

 




 投稿キャラを出させていただきました。


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休日一日目 後半

 島に着いた一行は、まず島の関係者に出迎えられ挨拶をし終わっていた。そして現在は、島から離れた海上で立ち話をしている。

 

「いいのかあんな適当で、一応部下だろ?」

「いいのいいの。今回の目的は仕事じゃなくて遊ぶことだからね。それにかたっ苦しいのなんでめんどいだけだし」

 

 相手方はなんだか話したそうにしていたが、少女はそれを無視して最低限の事だけして振り切っていた。

 

「大変だな。母さんの部下ってのは……」

「一番大変なのはワタシよ、書類の山を当たり前のように突きつけられるんだから。それに現場にも行ったりしなきゃだし……正直学園での仕事は息抜きみたいなものよ。理由付けて休んでるだけのね」

 

「そういや学園にも母さんの部下たちが関わってたような……」

 

 少女は大企業どころではなく、一般には名が知られていないだけで世界でも上位に入るほどの経済圏を作り上げた人だ。政治経済国家ぐるみも全て掌握できると言われているが、部下たちはともかく本人は興味ないのであまり手は出していない。学園の仕事を持ってきたのも少女の部下たちだ。それもこれも裏組織を取り込み続けた結果だが、そのせいで仕事は増え続けるばかりでもある。

 

 

「ま、そんな事より始めましょうか。二十歳過ぎて初めての戦闘訓練を!」

「そ、そうだね……」

 

 元気になった少女に、顔を引きつらせる男。それもそうだろう。今まで理由付けて逃げ回っていたのに、今回それに失敗したのだ。

 

「じゃ行くよッ!!」

「うおッ!?」

 

 少女は一瞬で距離を詰め、超高速の蹴りや拳の殴打を繰り出してくる。それを紙一重でかわし受け流しながら後退する男。

 

「こっちだよ!」

「速いって!?」

 

 男は反撃をしたが、それは残像で拳はむなしく空を切る。そして後ろに回り込んだ少女は、二刀の刀を取り出し斬り掛かる。

 

「うずうずして仕方がなかったんだ!やっぱ全力で体を動かすのは気持ちがいいなっ!!」

「ちょっちょっちょっとっっ!!?」

 

 殺意などが一切こもっていないはずのその連撃は、確実に男を追い詰めるにたる威力と速度で振られ続ける。それから逃げ回る男は、急いで距離を取ったが……

 

「逃げるな!」

 

 飛ぶ斬撃、飛斬が次々に放たれ、男の視界を埋め尽くしていた。

 

 

「あっぶね!」

「流石に避けたか。とうぜんだよな!」

 

 水中に逃げた男は、反撃の衝撃波を何度も発生させた。だがいとも容易くかわされ、上から飛斬の雨が降り注ぐ。

 

(いつも思うけど軽い運動でこれってヤバいよ!だが逃げてばかりだと後が怖いから反撃しねえと!)

 

 水を割り海中数十メートルまで届く少女の斬撃をかいくぐり、男も刀を一本取り出し飛斬を放つ。しかし精度が違い過ぎるのか相殺すらできずに回避がしやすくなる程度にしか役に立たない。

 

「もっと反撃してよ!」

「ッ!?」

 

 気が付いたら目の前にいた少女の斬撃を受け止めようとしたが、それは残像であり背後を取ら水上に蹴り飛ばされる。

 

「もっとよく見て!全体を!!」

 

 そのまま空中に吹き飛ばされた男に、大量の飛斬とともに追いかけてくる少女。一見隙がなさそうに見える構図だが、男は少女の声掛けに答えるように最低限の飛斬を破壊し、少女の斬撃を受け止めた。

 

「できるじゃん!じゃもっと行くよ!」

 

 そのまま空中で斬り合う二人。その攻防は、大気を震わせ、波を大きくし、漏れ出た飛斬が周囲を斬り裂いていく。そしてひたすらに攻防は激しさを増し、少女は楽しげに笑い、男は苦笑いをすることしかできない。

 

「ホントは半年に……いや月一……でもなくて、毎日したいんだよ!なんで付き合ってくれないの!生活には困らせないのに!」

「嫌だ!無理だ!ここは母さんのいた世界じゃない!毎日が戦闘でありふれた世界じゃないんだよ!」

 

 狭間世界出身の少女は戦闘狂だ。だが本人はそう思ってはいなかった。なぜならもっと戦闘好きな奴は多くいたし、そもそも少女はどこにでもいる一般人で、そいつらに困らされることも多く“これだから戦闘狂は……”と呆れた事も数え切れなかったからだ。しかしこちらに来て少女は自身が……狭間の住人が戦闘狂であることを理解した。理由は今まで当たり前のようにしていた仕事や遊びが戦闘とは認識していなかったからで、それを戦闘だったと認識せざるおえなくなったからだ。

 

「こっちの住人は張り合いがなさすぎるんだよ!だからアンタしかいなんだよ!」

「俺も強くないわ!」

 

 そして満足のいく戦闘が出来なくなり我慢し続けた結果、少女は立派な戦闘狂になり果ててしまったのだ。だからこうやって定期的に発散しなければ、何をしでかすか分からない存在になった

 

「そんな事無い!ワタシの息子だろ!あの人との子でもあるんっ!?」

「その話は聞きたくないッ!」

 

 少女は思いっきり叩き落され、男も渦を巻く水中に飛び込む。その寸前で本気の飛斬を放ち、海底が見える勢いで海を割り切った。

 

 だが――

 

「流石ッーーだッ!!」

 

 その斬撃は少女によって搔き消され、第二撃目が完全に少女を海底に押し付けた。しかし多少体勢が崩れかけただけで大したダメージになっておらず、割れた海のど真ん中で迫る海水を無視して再度斬り打ち合う。

 

 そんな時だった。二人は気にしていないが、地面が揺れ出し巨大な何かが起き上がろうと海底が浮上し始める。

 

「か、母さっ!?」

「この程度気にするな!今はこの時を楽しむのが先だ!」

 

 その場で戦えなくなったのか一旦距離を開け男は説得を試みようとする。しかし少女にとってこの程度脅威にすらならずに戦闘続行の為に男に斬りかかった。

 

 

「っ!?邪魔するなぁっ!!!」

 

 起き上がっている何かが少女の行く手を阻もうとする。それを容赦なく斬り刻み

 

「はぁあぁぁっっ!!」

「舐めるなっ!!」

 

 その隙を男に突かれ、対処が間に合わずに刀を手放してしまった。しかし少女はその程度では止まらない。即座に素手による殴打を繰り出し、最後には男を蹴り飛ばし何かをぶち抜いて吹き飛んでいく。

 

「お前は邪魔だ!」

 

 そんな戦いをしている少女に起き上がった怪物は、触手を向かわせひねりつぶそうとした。だが次に取り出した薙刀に斬り刻まれ、伸ばしてきた触手と腕は見事にズタズタになる。それどころか怪物を踏み台にして男を追う少女。

 

(ヤバイ!母さんがホンキを出した!)

 

 怪物の肩の上まで逃げていた男は、咄嗟に怪物の体の影に隠れる。すると複雑に入り組んだ飛斬が怪物を抉り斬り裂いていく。それで大きなダメージを受けた怪物は叫んでいるが、男はそれどころではなかった。

 

(薙刀を多節棍にした武器。あれは軌道が読みずらくて厄介だ。飛斬ならまだしも間合いに入ったら死ぬ!)

 

 襲い掛かる飛斬の嵐を、怪物を盾にしながらどうにかやり過ごす男。だが少女はそんなとこは関係ないと怪物がどれだけ苦しもうと無視して男を狙って攻撃を撃ち続けていた。

 

 そして怪物のてっぺんに辿り着いた二人は……

 

「くそっ!ヤケだっ!!」

「決着だ、息子よ!!」

 

 両者一歩も引かずに掠れた残像しか見えない速度で激しい攻防を繰り返し

 

(攻防は完璧に近い!どう切り抜ける!!)

 

 巻き込まれた人型の触手まみれの怪物を海に叩き返し

 

(ここだッ!!)

 

 一筋の光を見出した男は

 

「はぁあぁぁっッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガァッ!?」

「一手遅かったな」

 

 最速の突きを見切られ、意識を刈り取られるのだった。

 

 



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休日二日目

 少女との遊びが終わり、島で休むだけ休んだ後、友人のと約束の為に本土に帰っていた。

 

「はぁ~、ひどい目にあった……」

 

 帰った時点で夜が明けており、待ち合わせの場所に着くころには集合時間より少し早めの時刻となっていた。そこで少女との遊びを思い出しながらため息をつき、出された水を飲みながら友人を待つ。

 

「お~速いな。待ちきれなかったか?」

「久しぶり、元気してたか?」

「就職おめでとう」

「しかもあの異能学園だって?話聞かせてくれよ」

 

「遅れるよりかはいいだろ。さっさと座ってなんか頼め」

 

 そこで友人たちが集まり、席に座りそれと同時に昼食にとメニューを見ながら呼び出した定員に注文していく。

 

 彼らは小崎の学生時代からの友人で、二人は社会人になり残りは大学に行った者たちだ。小崎には他にも友人や知り合いが多いが、今回は特に仲のいいこの四人と会う約束をしていた。

 

 

「いや~最近どうよ。うまくやれてるか?」

「まぁ仕事の方はな。あと異能学園については何も話せないからな、佐藤。企業秘密の塊だし情報漏洩とかシャレにならん。お前も社会人なんだからわかるだろ?」

 

「分かってるって、試しに聞いてみただけだ。すまんな小崎」

 

 前に座った友人の一人がそう話しかけてくる。だが小崎は仕事の話を嫌い、佐藤はそれを悟って引き下がった。

 

「お前ほどの奴がな。もっと上に行けるだろうに。まっそんなことより、彼女とはうまくやってるか?」

「そんな関係じゃねえよ。あっちが勝手に絡んで来るだけだ。というか巻き込まれてるだけだ。正義感の強い奴ってのは面倒なもんだな」

 

 母親関係の知人も多いが、小崎もそれなりに色んな所に行ったり体験したりを繰り返している。そんな中で厄介な者たちとも多く関わっていた。

 

「なんだ小林、自分だけ彼女がいないからそんなこといってんのか?」

「そうだよ次期社長様。お前らと違って俺は、彼女いない歴=年齢なの。俺の兄弟姉妹だってそれっぽいのがいるのに俺だけなしだぜ?悲しくなるね。このままじゃマジで仕事が恋人になっちまうよ」

 

 そうかみしめる小林は、運ばれてきたジュースを飲み喉を潤した。

 

「別に俺が社長になると決まったわけじゃないんだからそういうのはやめてくれよ。社長令嬢とは付き合ってるけど彼女だって弟がいるわけだしさ」

「渡辺、お前はすこぶる優秀だ。成績優秀だし性格も容姿も文句なしのな。だからその可能性は高いし、そうでなくても重鎮にでもなるさ。それに加え俺はずっと下っ端だ。同僚も真面目で近寄りがたい奴ばっかでよ。お前らが羨ましいぜ。特に山田が」

 

 いつものように軽い愚痴を放つ小林は、そう言って山田に話を振った。

 

「確か同棲してるんじゃなかったけ?」

「いや、まぁ、そうだけど。あいつは行き場所ないから……」

 

 山田は大人しめの人であり、自分の考えはあるものの押しに弱い人物だった。そして何より面倒見がよく優しい性格だ。それを知っているみんなは、各々で勝手に考えを巡らせ納得する。

 

「お前昔っからそうだよな。捨て猫拾ったりよ」

「どうせほっとけなかったか、押しかけられでもしたんだろ」

「人助けはいいがちゃんと考えてな。ま、いざとなったら言ってくれ」

「いつでも相談してくれていいんだぞ。助けてやるから」

 

 小林、佐藤、渡辺、小崎がそう声をかけ、みんな一斉に小崎の方を見る。

 

「え?どうしたんだ?」

 

「確かにお前に言ったらどうにかなりそうだな」

「俺もそう思う」

「まぁ親が親だし」

「頼りにさせてもらうよ」

 

 小崎の母親は知る人ぞ知る凄い人だ。表に出ていないだけで特定の業界では超が付くほどの有名人でもあり、間接的に助けられたことも少なくはないのだろう。

 

「いやいや、母さんがすごいのは確かだけど俺はそうでもないぞ。母さんはああ見えて実力主義だから、かろうじて助言はくれても助けてはくれないからな。結果的にそう見える事はあるけど」

「それを差し引いてもお前は凄い奴だ。なんせあの実力主義の魔境を、平然と生き延びてついてってんだから」

 

 小崎の母親は、息子に対しても容赦なく実力主義を叩き込んでいる。しかも、これぐらいできるだろうと遊び感覚であり、それを英才教育と言えば聞こえがいいが、同じ状況でもついて行ける者など数える程度しかいないだろう。なのに日常生活かのように平然としている小崎もまた、異常な実力者であった。

 

「てかそんなのどこで知ったんだよ」

「いや何年付き合ってると思ってんだ。それにこっちの業界じゃ有名な話だし」

「強引に実力を付けさせに来るとか地獄以外の何物でもないからな」

 

 大学組を放って三人で話し出してしまう。あくまでも仕事の一環として出会ったり話を聞いたりとは言え、直接関わっていない小林と佐藤にもその噂は届いており、学生時代に見たこととすり合わせておそらく事実だろうと思われていた。

 

「っと、すまんな置いてけぼりにして」

「いやいいよ。にしても相変わらずだな」

「表立って話は聞かないけど、やっぱすごいんだね」

 

 学生時代からの付き合いもあって理解のある仲間たちに安心する小崎。

 

 そこに渡辺が続けて声をかけ

 

「まぁとりあえず、料理も来たところだし食べながらってことで」

「あ、そうだな」

 

 頼んでおきながら忘れていた料理を食べだすのだった。

 

 



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仕事に戻ったら……

 休みが明け、仕事に戻った小崎は、トラブルのない日々を送っていた。

 

「ま、そうそう起きんよな」

 

 いくら異能学園とはいえ、そう頻繁には事は起きない。というか起きたとしても秘密裏に対処されるため、係わりの薄い者にとってはないも同然なのだ。そう言いながらいつ通り仕事をこなし、昼休憩を終えた小崎は次の場所へと向う。

 

「ん?なんだこの気配?」

 

 だが小崎は、ここでも重要施設を任せられる程度には関係者だ。

 

「ウソだろ、おい」

 

 例え表側の立場と本人が一用務員としてしか認識していなくても、トラブルはあっちから向かってくる。

 

「これ母さん案件だろ……」

 

 強い気配と戦いの気配を感じそう呟く小崎。そして急いで駆け付けた先には、破壊された廊下と横たわる女性がいた。

 

 

「オーディンさん!?」

「うぅ……」

 

 相当のダメージを負っているようで、苦しそうに唸るオーディン。

 

「なにが……というか何でここに……?」

「……すみません。こちらから怪しい気配を感じ取ったので……」

 

 改造人間であるオーディンは、普通の人間よりも頑丈で回復力が高かった。そのためしゃべれる程度にはすぐに回復したようだ。そこで事情を聞き出す小崎。

 

「持ち場を離れたのは今回は仕方がない。それにうちは臨機応変がモットーだし。それで、手短に説明を頼む」

「地下の研究施設での暴走事故のようです。詳しくはわかりませんが、炎の異能者が暴れていました。どうにか結界で閉じ込めましたがこのざまで……申し訳ございません」

 

 オーディンは警備員として雇われている自身が、役割を果たせないことに気を落とす。それを見た小崎は、少し考えた後に

 

「わかった。じゃあ俺が対応しよう」

「っ!?い、いえ!ここは私が……」

 

 鎮圧に行こうとする小崎を止めるために、体に鞭を打って動こうとするオーディン。だが小崎は、まぁまぁとその動きを制する。

 

「ダメージも大きいし、結界の維持で大変だろ?それにこの様子だといつまでもつかわからんし、なによりお前の武装だと相性が悪すぎる。応援を待ってたら被害が広がっちまう」

 

 無理をしているオーディンと、いまだに収まらない力の波動を感じ取った小崎は、オーディンを止めて提案をしだす。

 

「だから結界の維持に尽力してくれ。ちゃっちゃと終わらせて絞めてくるからさ」

「……わかりました」

 

「ありがとな。じゃ、頼んだぞ」

 

 諦めてくれたオーディンに礼を言い

 

 

「さて……やるか」

 

 目つきが変わった小崎は、そのまま現場に急行するのだった。

 

 




 投稿キャラを出させていただきました。


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暴走生徒

 現場に近づくにつれて廊下の破損状況が酷くなり、強い気配が近くなる。

 

「こりゃひでぇ」

 

 気温も上がり、ところどころ炎熱により溶かされた場所や焦げ目が目立つ。どうやら結界から出るために、そこらじゅうを徘徊して破壊しまわっているようだ。

 

「お、いたいた。炎の精霊ってところかな?」

 

 そして相手を見つけた小崎は、普通に近づいていき……

 

「うおっ!なにすんだ!」

 

 放たれた炎を片手でかき消した。

 

 

「おいおい落ち着けよ。てか生徒を使うとかどこの馬鹿がやったんだ?」

 

 そこにいたのは、あの時問題を起こした炎使いの生徒だった。その生徒は、自身の使役している精霊と融合し、暴走状態である。

 

(流石にこれは完全には無理だな。この施設の担当者は確か……)

 

 異能学園の出資者は、大きく分けて三つの組織が関わっている。一つ目はこの国である日本国、二つ目は表の世界で研究開発を行っている企業などで、最後に裏世界の実質的支配者である小崎 麻希率いる組織連合の三つだ。

 

 そしてここの施設の担当者は、裏世界の研究者だった。

 

「っと、その前にお前だったな。後処理の事もあるからちゃちゃっと片付けさせてもらうぞ」

 

 そういうと同時に暴走生徒は、炎をまき散らして再度襲い掛かってくる。だが小崎の動きはそれよりも速く、相手が半分も距離を詰めることなく殴り飛ばしていた。

 

「熱いな。それに頑丈そうだ」

 

 相手が生徒なので手加減はしているが、それでも炎とともに一瞬で傷を回復させて立ち上がる生徒を見て眉を顰める小崎。

 

(どこまでやっていいのか調整が難しいな。変にケガさせて後遺症が残っても大変だし)

 

 考え事をしながら放たれた炎弾を打ち消していく。

 

 

「お前っ!お前らのせいだ!!」

「どっちが喋ってんだ?……まぁ、とりあえず攻撃やめておとなしくなってくれ」

 

 うわごとの様な呟きとその目には明確な敵意が宿っているが、小崎は多少の疑問を思い浮かべながら説得をしようとする。

 

「こんな世界認めるか!すべて焼き尽くしてやる!」

「混ざってるのか?」

 

 だが話はかみ合わずに、より攻撃は激しくなるばかりだ。

 

(混ざって情緒不安定にでもなったか?何のことに怒っているのか……心当たりが多すぎて見えてこないな)

 

 説得の糸口を探すが、どれに対して怒っているのかわからず眉を顰める。

 

「わからないか!?お前らが異能と言って世界に広めた力とその存在にかかわることだ!!」

「ああ、お前らの本職と精霊のほうだったか。確かにそうだが、俺たちが公表しなくても時間の問題だったと思うぞ。隠ぺいにだって限りがあるからな」

 

 この世界には様々な力と存在、そしてそれを利用する組織が存在する。異能が公表される以前は、それは秘匿され表世界に出てくることはなかったが、小崎の母親の影響と拡大し続ける異能の力を抑えきれなくなった裏世界の存在たちは、やむなくその存在を公表することになったのだ。

 

「知るか!我々はそうやって世の平安を守ってきたのだ!貴様なんぞに何がわかる!」

「お前らの業界以外にも異形や怪物と戦ったりする奴らはいくらでもいる。今だってそうだ。テレビやニュースで出てきている事件など氷山の一角にも満たない。世間が納得してくれるだけマシだと思えよ」

 

 そして公表された力を異能という一括りにして、表世界ににじみ出て抑えきれなくなった事態をその異能たちが原因であると広めた。これにより対処しやすくなった事件は数知れずになったが、力を秘匿しておきたい連中や秘密結社としてやってきた者たちは大打撃を受けることになる。よって異能学園を筆頭に、それらに関わる者たちは大いに恨まれることになったのだ。

 

「で、話せるぐらいには戻ってきたんならおとなしくしてくれないか?今ならまだ大ごとにはならんから」

「ふ、ふざけるな!言わせておけば!貴様から焼き殺してやる!」

 

 暴走状態から力が馴染んできたのか本来の姿になろうと力を込める。すると炎でできた狼のような耳と尻尾が出てき始め、炎は一層燃え上がる。

 

「まだ足りんがこれで先ほどのようにはうまくいかんぞ、小僧!」

 

 そういい先ほどとは比べものにならない速度で接近されるが――

 

「なっ!ガァッ!?」

「おとなしくしろって言ってんだろ」

 

 あまりの単調な動きに、裏拳一発で壁に叩きつけられ沈められていた。

 

「起きろ、使われるだけのガキ。そんなんだから兄どころか妹にすら勝てないんだよ。まず力に振り回されないようにしろ」

「な……なにがっ!?」

 

 倒れる生徒の胸ぐらをつかみ、目を合わせる。

 

「力が強いだけでどうにかなると思ってんのか?自分の事も知らねえ奴なんてたかが知れてんだよ。ちょっとは自分とそいつに向き合ってみろ。返事は?」

「は……はい」

 

 絞り出すように出された返答を最後に、生徒は気を失い力が分散する。

 

 それを確認した小崎は

 

「はぁ~、話しつけに行くか」

 

 呆れたように呟き、生徒を担いで奥に足を進めるのだった。

 

 



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昔の夢

 とあるところに、自然の化身である精霊と心を通わし力を得る精霊士と言われる者たちがいた。その者たちは、大昔から暴走して災害の化身と化した精霊を治めるために、契約した精霊とともに戦ってきた。そして近代に近づけば近づくほど文明の悪影響により精霊は荒々しくなり、科学の発展により精霊士たちは表世界から姿を消すことになる。

 

 

「これはどういうことですか!父上!」

「これは決定事項だ」

 

(兄貴と……親父?)

 

 一人の少年がとある書類を床に叩きつけ、父親に声を荒げる。それを心配そうに見ている周囲だが、誰も近寄ろうとはしない。

 

「お前には異能学園に行ってもらう。これは決定事項だ。お前たちも例外ではないぞ」

「っ!?ですが!我々はそういうものとは無縁でしたでしょう!」

 

(これは……昔の?)

 

 少年の他に、年端も行かぬ若い衆を見渡す当主らしき男に、皆目を背けていた。

 約5年前、表世界から姿を消し裏から世界を支えていた一つの業界があらわになっていた。これは時代の流れに逆らえなかった者たちの話だ。

 

「文明の発展とともに精霊の暴走は日に日に酷くなっている。我々の力では、もはや抑え込むことが難しい」

「だから外から力を借りようというのですか!?」

 

(なんでこんな夢を……)

 

 冷静に淡々と話す当主とは対照的に、向かい合う少年は霊気をまき散らしていた。

 

「そうだ。最近現れた異能と共に出れば違和感なく溶け込める」

「そういうことを言っているのではありません!」

 

(ああムカつく……)

 

 過去最悪の思い出を思い出し、イライラが増す。なぜなら当主含めた一部の者たち以外は、この判断に否定的であったからだ。

 

「誇りや教えを捨てろとは言わん。だが現実を見ろ。我らが一度表世界から去ったのも世の流れ、それは今回も同じよ」

「っ!?」

 

(なんでだ……)

 

 しかし同時に当主の言っていることも理解できたので、苦渋の決断をするしかなかった。だがまだ子供たちは、今までと違うことを聞かされ混乱し、納得できずにいた。

 

「そもそも、我らの使命は世の平穏を保つこと。やり方などいくらでもある」

「そう……ですが……」

 

(なんで弱気なんだよ……)

 

 年上筆頭である少年は、事の深刻さを理解できていないわけれはなかった。しかしその弟は

 

 

(ありえねぇ。親父がこんなこと言うなんて……兄貴が何も言い返せないなんて……なんでこうなっちまったんっだよ。誰が悪いんだよ)

 

 精霊士として優秀でも、人として見れば普通の子供でしかない。精神も思考も視野も視点も経験も、何もかもが不足している単なる子供だ。教え込まれ、凝り固まった考えはそう変えられるものではない。

 

(おかしいのは世界だ。間違っているのは異能だ!そんなもの世界に蔓延らせたのは誰だ!)

 

 極端化した善悪に囚われ、ぐちゃくちゃになった思考を怒りのままに働かせる。

 

 そして――

 

「――ガァッ!?」

 

 頭に響く衝撃と共に現実に戻され、一気にその考えは霧散した。

 

「な……なにがっ!?」

 

 視界が歪み苦しい状態を我慢し、周囲を確認しようとする。だがその前に胸ぐらを掴まれ、目の前の誰かに淡々と何かを言われた。それの内容が理解できなかった少年だったが

 

「は……はい」

 

 絞り出すように出された返答を最後に、少年は気を失い力が分散するのだった。

 

 



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研究者

 小崎は生徒を背負ったまま、奥に逃げ延びていた研究者の元へと来ていた。

 

「これはどういうことだ?」

「いや、そのですね」

 

 白衣を着て眼鏡をかけている少年に、生徒を近くのソファーに寝かしながらそう話しかけた小崎。それに対し少年は目を泳がせながら苦笑いをする。

 

「研究所も素材も、お前の要求するものは用意していたはずだが?契約書にそこら辺も全部書いてあっただろ?」

「ご、ごめん……」

 

 どういう事情であれ、約束を破り生徒にまで危害を加えた目の前の少年を許す気がない小崎は、少々真面目に話していた。その圧に押されて、謝ることしかできない少年。

 

「詳しく事情を話してくれ。ことによっちゃ、大ごとになるぞ」

「そ、それだけは……やめてください。話しますから」

 

 そう言った少年は、弱々しく話し出す。

 

 

「ちょっとした出来心だったんです。その生徒の検査をした時に、精霊との繋がりが歪だったので、どうしてだろうな~と」

 

 少年は研究者である。それも裏世界で働いていた、元犯罪組織の天才研究者と言われていた人物だ。得意分野は精霊や悪霊などを人を統合させることで、強大な力を持った戦闘員を製造することである。

 

「だからちょっと手を加えて、ね。もちろん合意の上でね!それでスムーズにしたんだ。いや、流石にそれだけでああなるとは思ってなかった……ホントだよ!多分抑圧されてた感情に作用したんだろうけど、それも結果論的に分かったことだ!」

 

 必死にそういう少年は、ホントに訳が分からないといった感じになっていた。だが初めてのことに興奮しているのか、抑えてはいるものの少し滲み出している。

 

「今までの失敗作は急に暴れだしたりとか、会話すらできなかった奴らばっかだったのに、今回はそうでもなく安定してそうに見えたんだ。それで油断して、脱走を許してしまった。鎮静剤も催眠ガスもする暇もなかった。効いたかどうかも怪しいしね。やっぱ分野が若干違うから調整が難しいね」

 

 余裕を取り戻してきたのか、悠長に話し出す少年。

 

「自然の霊と生物の霊が同じわけないだろ。そもそもお前が元居た業界とはその定義すら違う」

「そ、そうだよ!失念だった。データが似通ってたから試しにしてみたんだけど、やっぱ構造とか性質が違ったかな。もっと細かく見とくべきだった。でも大丈夫、今回で大方のデータがそろったから……いやごめん……」

 

 反省会だったのを思い出し、顔を下に向ける。それを見た小崎は、ため息をつき

 

「はぁ~。やっぱ実験が足りなかったか?」

「はい……人体実験ができないと正確なデータが取れなくて、つい……」

 

 裏世界の高い技術力は、あまたの犠牲の上で成り立っている。それも積極的に行われるため、特にこういう分野では表世界の比ではないのだ。

 

「それでも許すことはできない。ちゃんと上に報告する。これからのためにもな。だが大ごとにしないからそこだけは安心しろ。こっちだって世間の目があるからな」

「……ありがとうございます」

 

 大ごとにならなそうならもみ消す。現場ではよくあることだ。面倒ごとが増えるだけだし、自分たちの首を絞めるに終わる。そもそも縛ったところで時間と共にそんなものは風化するので、厳重注意して形だけ整えておく方が費用対効果はよい。記憶に残っていなければ意味がないのだ。

 

「じゃそういうことで、次からは気をつけろよ。じゃなきゃわかってるだろうな?」

「わかりました……」

 

 そうして少年はトボトボと片付けをしに行き、クギを刺し終わった小崎は報告と生徒を保健室に連れていくために、生徒を背負って去るのだった。

 

 



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報告

 オーディンに終わったことを伝えて、生徒を保健室に送った後に、母親のいる場所へと向かう小崎。

 

(校長室って、あっちでもなんかあったのか?)

 

 探知で反応があったことと、先ほど連絡が来たことで場所を知った小崎は少し面倒を感じながら廊下を歩く。

 

「ん?」

「あなたでしたか」

 

 校長室が見えてきたところで足を止める小崎。そうすると影の部分から誰かが出てきて、小崎はそいつに話しかけた。

 

「シャドウさんでしたか。ここで警備を?」

「はい。呼び出された者以外は通すなと言われています」

 

 薄っすらと闇を纏い、腰には二丁の拳銃を携えた黒髪を長く結んだのが特徴の少女がそういう。

 

「じゃあ通っていいか?母さんに呼び出されてるんだ」

「はい、どうぞ」

 

 そう言い道を開けるシャドウ。

 

「本人確認とかは?」

「あなたと麻希様は見れば本物かどうかすぐにわかります。それに、偽物でしたらわざわざ姿なんて現しません。今回は一応声をかけただけです」

 

 シャドウは影精霊という種族で、精霊は人よりも色んなものを見て判断している。もちろんそこら辺も偽造する者もいるが、こと小崎家に関しては一目見た瞬間にわかってしまうらしい。

 

「そうか……。あなたも大変ですね」

「いえ、そうでもありません。では」

 

 そう言い切ると、シャドウはまた影の中へと消えていった。それを見終わった後に、小崎はノックをして校長室へと入っていく。

 

 

「おっ、来た来た。そっちも大変だったみたいね」

「オーディン君から話は上がって来ているよ。事が大きくなる前に収めてくれて感謝する」

 

 中へと入ると、学園長と小崎の母親である麻希がそう声をかけてきた。

 

「失礼します。母さんの方でも何かあったんですか?」

「そう弁えなくてもいい。そうだ。麻希さんのところでも襲撃があったみたいだ。しかも都合よく監視カメラの類も破壊させられていたから、状況もよくわからない」

「まんまとしてやられたよ。ピンポイントにあんなことやってくるとは思わなかったな。あれは学園内に主犯がいるよ」

 

 困った要に顔を歪ませる学園長とは違い、麻希は楽し気にしながら椅子に座って机の上に置いてある菓子を食っている。

 

「そこまでわかってて調べないのな」

「相手の正確な情報も目的もわからないし、たぶん今のままじゃ逃れるすべはいくらでもあるだろうからね。ちょっと泳がせるのが吉よ」

「ちょっとで済めばいいが……」

 

 学園長の負荷が増えていくのをよそに、麻希はニコニコで最後の一つのお菓子を食った。

 

「で、一応聞いてるけどそっちの話を聞かせてよ」

「わかった。こっちじゃ……」

 

 軽い説明を二人にする小崎。それに頷きながら静かに聞く二人の態度は、片方は少し安心したようで、もう片方はつまらなそう聞いていた。

 

 

「なんだいつものことか」

「それも見過ごせん事だが、事情が分かってるだけまだマシか」

 

 内部で起こったことに関して、学園長はさっそく改善策を考え始め、麻希はどこまでもつまらなさそうだ。

 

「つまらなそうだね。母さん」

「まぁね。知ってる奴が失敗しただけじゃ面白みに欠けるってだけ。ま、苦情の一つは入れてやるけどね」

 

 麻希は、イベント事には寛容だ。襲撃者や未知の敵となると喜んで戦いに行くし、スパイが部下や生徒の中に入っていても、あとが楽しみだと言って別に積極的に探し出そうとはせずに好きにさせている。だが内部で起きたことに関しては大して関心がなく、最低限のことしかしていない。

 

「そう言わないでくれ。君が仕切ってる組織だろ」

「喧嘩売ってきたから潰して部下にした。管理してるのも暇つぶしで、そっちの言う最低限を守らせてるだけだ。十分だろ?」

 

 おとなしくなり、疑似的にとは言え麻希のいることによって政府の把握できる程度の組織と化した元犯罪組織たち。だがそれもこれも麻希さんあってこそなので、彼女がいなくなった後は混乱と混沌が渦巻くことになるだろう。

 

「……はぁ、君にはどれだけ言っても無駄なようだ」

「そう言うなよ。ため息は幸せが逃げるぞ」

 

 完全に遊ばれている学園長は、ますます疲れた顔になり肩を落とす。

 

「あっ、そうだ。ワタシの清掃エリアもっとこっち側にしてよ」

「あまり君を表に出したくないんだが」

 

 地図を取り出して学園長にそう言う麻希。本人にはまったく自覚はないが、仮とは言え裏世界のトップなので、あまり顔を出してほしくないのだろう。だが麻希にはそんなこと関係ない。

 

「そう言うなよ。これも犯人を誘い出すための罠だと思ってさ。今回は手練れだろうから普通の警備システムじゃ無理だと思うし」

「ほんとに君には何も通じないみたいだな」

 

(本家の異能を体験したいってのもあるんあろうな。ここはいる前は書類ばっかって話だったし……)

 

 組織は無暗に大きくするもんじゃないと言っていたことを思い出し、そう思う小崎。麻希だってはじめは責任感などで頑張っていたが、ひと段落ついたのと遊べなくなったストレスで過度なことをしなくなっただけである。まぁ、遊び相手として見逃されていた者たちも多いが……

 

「まぁ今回の話はこれで終わりだ。何かあれば追って話を通す」

「じゃあお願いね~」

「こっちも残りの仕事に戻ります」

 

 そう話が終わり、三人は各自仕事と後始末に戻るのだった。

 

 




 応募キャラを使わせていただきました。


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通りすがりの生徒

 小崎が仕事場に戻っている最中に、何か変な気配を感じそちらを見た。

 

「あの生徒は……」

 

 そこには入学式で寝ていた生徒がおり、教室に戻るためか足早に移動していた。

 

「?」

 

 見た目におかしなところはない。いつのまにか気配も普通に戻っている。違和感を感じたのか気のせいだったような感覚に襲われた小崎は……

 

「ちょっといいか?」

「へ?」

 

 とりあえず話しかけてみることにしていた。

 

 

「な、なにか?」

「ちょっと気になってね。こっちはあまり生徒がいる場所じゃないから」

 

 いないわけではないが、それでも理由なく来る者は少ない場所だ。

 

「ちょっと友達が倒れたって聞いたのでお見舞いに来たんです。その帰りです」

「ああ。彼の……」

 

 どうやらあの暴走生徒の友達のようで、それを聞いた小崎は納得しかけて……

 

(情報が早いな)

 

 やけに情報が早いことに疑問に思った。なぜなら事が起きてからまだ一時間も経っていないし、母親の方で起きた事件の方が騒ぎが大きく目立っていた。そもそも極力騒ぎにならないようにしていたのに、彼はどうやって友人が倒れたことを知ったのだろう?と

 

「誰から聞いたんだ?」

「いや聞いたというか、異能の方でわかっちゃって……」

 

 それを聞いた小崎は内心難しい顔をする。

 

(そういやこの生徒……これは困ったな。そう言われちゃ深くは聞き出せない)

 

 異能でわかったと言われれば、言い逃れし放題になってしまう。積極的な使用は罪に問われやすいが、勝手に発動するものはどうしようもないからだ。せいぜい犯罪を犯したときに刑が重くなるぐらいだろう。

 

 

「お~い!どうしたんだ?」

「あっ!すまん。ちょっとこの人に話しかけられて……」

 

 どうしたものかと一瞬考えこんでいたその時。廊下の先から一人の生徒がやってきた。

 

「……あ~。そうか」

 

 めんどくさそうになにか悟ったその生徒は、友達である目の前の生徒に視線で何か訴えかけている。だが初めに呼び止められた生徒は、困った顔をしてどうしようもないといった感じだ。

 

「いや、呼び止めてすまない。最近ちょっと厄介事が多くてね。神経質になってたよ」

「あ~確かに。今日だってあんなことありましたからね」

 

 納得した風に頷く二人は、ハッとしてあることを聞き返してきた。

 

「まさか俺たちを疑ってます?」

「そんなわけ……」

 

 確かに自分たちが怪しい動きをしていた自覚があるのか、少し焦りだす二人。だがそれはスパイだとかの反応ではなく、ただ単に悪いことをしてしまったのではないかという方だった。

 

「そこまでじゃないよ。別に大した話じゃない。まぁ怪しい動きはやめてほしいな。勘違いするし」

 

「「すみません」」

 

 異能力者はどこか自分を特別な人間だと思っている節がある。確かに特別と言えばそうだが、そのせいで良くも悪くも行動的で厄介事を起こしやすい。なのでこうやって咄嗟に仲間の心配をして動き出したり、麻希の方でもあったようだがムダに出しゃばってめんどくさくなる。

 

「君たちは知ってるとは思うけど、君たちの友達の生徒さんが暴走事故に巻き込まれたんだ。これはあっちとは関係ないけど、こういう場所じゃ完全に防げないものなんだよ。一応気を引き締めておいてくれ」

 

「はい」

「わかりました」

 

 そこで世間話程度にヤバいことが多いから気をつけなさいと話すことにした小崎は、ほぼなくなった違和感が再度出てこないか確かめ始める。だがその傾向は出てこず二人を返す。

 

(もしスパイや敵でも事を起こさなきゃいいか。どっちみち下手なことすれば母さんに潰されるだけだし。もし俺に仕事回ってきても、いつものように後始末に回ればいいだけだからな)

 

 二人の去っていく姿を見ながら、小崎はそう思うのだった。

 

 



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なにごとも……ないよね?

 あれからは何事もなく休日前夜まで過ごした小崎は、ぐったりとしている母親に話しかける。

 

「どうしたの?珍しい」

「いや……何と言うか。めんどくさい事になったというか。原因が分かったというか」

 

 ソファーに寝転がる母親の隣に座り、背中をさする。

 

「大変なんだな。今回の相手は」

「そう、それ!大変なんだよ。逃げ足が速いというか。大切なところ見えてないというかさ」

 

 一瞬テンションが戻りかけたが、嫌なことを思い出したのかまた下がる。

 

「でも大丈夫。そっちには行かせないようにするから。多分あっちも興味ないだろうし、あんたから手を出さなきゃなにも起きないと思うよ」

 

 あくまで目的は麻希であり、息子である快人は標的外であるようだ。

 

「なんで?」

「なんでって……まぁあれかな。外から来た私が気に食わないんじゃない?それ除いても、これまでの行動とかもろもろ入れれば理由はいくらでもありそうだけど」

 

 そう言って、昔を思い出す麻希。

 

 

「こっちに落ちてきてさ。最初はなんてことない平和な世界だと思ってたのよ。超能力もなければ魔法なんてもってのほかって感じの、特別感のない世界」

 

 どこかつまらなそうだが、同時に悪くないと言いたげな表情になる。

 

「でもちょっと生活して、色んな場所行ってたらさ。出るわ出るわで驚いた。やっぱこうなるのかってね」

 

 次は悪くないが物足りないと言った感じになった。

 

「それでワタシは気になっているところ全部行ってみたのさ。魔法に魔術に超能力、陰陽師に呪術師に霊術師とか、あとは秘密結社とか闇とか光とか悪とか正義とかの組織。それに怪人や魔法少女もいたな。そんで色々行ったりやったりして、気が付いたら今なわけよ」

 

 サッと上げただけでもこれほどの所に関わっている。それもすべてにおいて善かれ悪かれ目立っているので、どこでどう印象を持たれているか分かったものではない。事実麻希を殺したがっている連中は世界中にいるだろう。要は候補が多すぎて、正確に誰なのか判別できていなかった。

 

「家に帰ってこないこと多かったもんね」

「それはごめん」

 

 息子に目を着けられないように立ち回りながら、すべてを対処していた麻希は、家に帰らないことが多かった。

 

「まぁ気にしてないけど……」

 

 最低限は会話はしていたしちゃんと愛情もあったので、快人もそれは重々承知の上でのことだ。

 

 だが、どうしても一つだけ許せないことがあった。

 

「カジノの件は許さない」

 

「あれはホントごめん……」

 

 海外にも行っている麻希は、その先でカジノで遊んだことがある。そこで勝ちまくってしまい、不正を疑われた挙句に、裁判などで一時口座から金の引き出しを停止させられたことがあった。一応無罪は勝ち取ったが、出禁&勝負の無効が決定し、ただ時間と労力が食われるだけの結果となった。

 

「ゲームはもうこりごりね」

「普通のゲームすればいいじゃん」

 

「だから難易度低すぎて面白くないの。あと本体もコントローラーが壊れるし」

 

 ゲーム内容どころかシステム全部把握できるわフレーム単位で操作できるわの超人スペックでやればそうなるだろう。と言うか、そもそもゲーム機が持たないのだ。

 

「対人ならまだいいけど、パターンが決まってる相手は手応えがない。成長してくれないと話にならないじゃない」

「そんな相手この世界には限られてると思うよ」

 

 それ以外にも理由はあるが、一番は直接戦った方が楽しいというのが大きい。しかし、麻希のいた世界と違って、この世界にはそんな超人そうそういないのだ。だからそういう相手を求めて色んな所に顔を出していたとも言える。

 

 

「まぁなんであれ、結局アンタはこっち側に来ちゃったけどね」

「まぁ俺も俺で物足りなかったし、なんか色々感じるというか見えるというかな」

 

 麻希譲りで探知能力が高い快人は、子供のころからいろんなものが見えていた。最初は危なそうだからと避けていたが、年を追うごとに力が増して脅威に感じなくなり興味心が勝り、結局関わっていたのだ。

 

「アンタの友達も大概だし、この近所もね」

「表に出ないだけで案外多いからな」

 

 小崎家の影響でその周囲がわかりやすかっただけで、特殊な人や現象は年々多くなっており、次々に発見されている。それでも騒ぎが起きないのは、異能を流行らせたお陰ともいえる。

 

 

「それで――……はぁ~、ちょっとごめん。なに?」

 

 楽しく話しているその時だった。水を差すように麻希のスマホが鳴り、仕方がなく電話に出る。

 

「は?救援?魔王が?」

 

 少し機嫌が悪くなり、眉をしかめる。

 

「なにが?」

「いやね。魔界に、魔界龍とかいう奴が現れて、魔界を暴れまわってるんだって。それで助けてくれって……。前に出禁にしたくせに」

 

 魔界に限らず、異界や霊界に冥界や神界など、その他様々な場所から出禁を食らっている麻希。だが時頼こうやって救援要請があるのだ。

 

「まぁ、仕方がないと思うけど?」

「あ~分かってるよ。怖がられてるからね」

 

 理解はしているが、不満は大きい。

 

「明日はアンタと遊ぼうと思ってたけど……ま、遊び相手ができたと思ってちょっと行ってくる。ついでに観光もね」

「そ、そう。お土産楽しみにしてるよ」

 

 それを聞いた快人は、内心すごく安堵するのだった。

 

 



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休日 前編

 麻希が魔界に向かい、無事平穏な休日を手に入れた快人は、散歩ついでに近くのショッピングモールへと来ていた。

 

「やっぱ休日は散歩だよな」

 

 期間限定や新商品がないかと見て回るのも楽しみの一つだ。イベントごとがあればなおの事よしだと周囲を見渡す。

 

(人化してるみたいだけど、色々いていいな。これからどんどん増えていくだろうし、そうしなくてもいい世の中になればいいな)

 

 人に化けている者たちは結構多い。いくら異能が広まっているからと言っても、それは知識としてだけの場合が多く、一般市民には程遠いものだと思われている。なので異形の姿で人前に出ればどうなるか分かったものではないからだ。

 

「ん?」

 

 そうやって適当に店を見回っていると、友人の一人である 山田の姿を見つけていた。

 

 

「よう山田、買い物か?」

「なんだ小崎か。ああ、ちょっと付き合わされてな」

 

 そう言って山田は、近くにある洋服屋の方を見る。その先には女物のコーナーがあり、長くキレイな黒髪の美少女が服を選んでいた。

 

「何度見ても美少女だな。どうやって引っかけてきたんだよ」

「ついてきたんだよ。不可抗力だ……」

 

 田中曰く、異世界から帰ってくる際に無理矢理割り込んでついてきた子らしい。それで仕方がなく居候することになったんだとか。

 

「大変そうだな」

「そうなんだよ。いや、ホントにな。他人と暮らすのがああも大変とは……」

 

 そう話す山田の姿はどこかやつれており、苦労に堪えない生活を強いられているのが見て取れた。元々のお人よし具合と負い目を感じているのが相まって、完全に尻に敷かれているのだ。

 

 

「我を相手するのは疲れるか?」

「うんうn……」

 

 話に夢中になっていた山田は、背後から近づいてくる少女に気が付かなかった。それにゆっくりと振り返り、誤魔かすために苦笑いを浮かべる。

 

「いや……冗談だよ、はは……」

「我に嘘は効かんぞ?心を読む程度容易いからな」

 

 弁解をしようとするが、少女の言葉に山田は結構焦っていた。いや、言葉だけでなく雰囲気が少々しょぼくれているという理由だろうか。

 

「お主が嫌なら我はあそこを出ていくが……」

「それはダメだ。流石に……」

 

(言い合い始めやがった。心読める奴の相手は大変だな)

 

 そうして二人は、快人を置いて言い合いを始めていた。それも片方は心を読んでいるため、本人たち以外には断片的にしかわからない会話だ。もちろん快人もついていけないので、巻き込まれないように一度そばを離れる。

 

 だがその先で……

 

「あ!先輩じゃないっすか!」

「奇遇だな。こんなところで出会うなんて」

 

「……なんだお前か」

 

 別の誰かに絡まれることになっていた。

 

 



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休日 中編

 振り返った先には、二人の女性が快人の方へ来ていた。一人は普通の少女であり、あと一人は体格のいい背の高い女性だ。

 

「奇遇っすね。こんなところで出会うなんて」

「うむ。お前の事だから親の遊びに付き合わされてると思っていたぞ」

 

「母さんは魔界の方へ出張中だ。てかそうじゃなくてもどうにか断る」

 

 それを聞いた二人は、少し微妙な顔をしていた。

 

「魔物だの怪人だの魔族だのこの世界はどうなっているんだか」

「そうっすね。先輩に会ってからどんどん新しいものがででくるっすから」

 

 異能とか最たる例だしと言い合う二人。

 

「そういやお前たちはなんでここに?」

「ん?ああ、普通に買い物だが?」

「そうっすね。別に忙しいわけじゃないっすよ。最近はむしろおとなしい方だと思うし」

 

 今回はただの買い物のようで、更に言うと最近は結構楽できているようだ。

 

「そうか、まぁやるとしても俺のいないところでやれよ」

「そう言わずに手伝ってくださいよ。ほら、一般人が被害に合うのは見逃せませんよね?」

「うむ、私たちは戦えても守るのは苦手だからな」

 

 正義感が強い二人は、いつも出会うとこんなことを言ってくる。おまけに少女の方は学生時代の後輩と言うこともあって同じ町の住人だ。今は休日の散歩中ぐらいしか出会わないが、学生時代はそっちゅう絡まれていたぐらいだ。

 

「それでいいのか……?一応怪人から市民を守る魔法少女ってやつだろ」

「そういう先輩も似たようなものっすよね?」

 

 同じ秩序を守る者同士頑張りましょうという少女。

 

「うむ。力あるものは弱者を守らねばいけない。隣町の魔法少女もそう言っていたぞ」

「お前は戦いたいだけだろ。てかあの人まだ魔法少女してんの?もう少女って年齢じゃない気がするが……」

 

 女性にも正義感はあるが、実は戦闘できるから魔法少女になったという経緯がある。ただその責任感は本物で、他の魔法少女との関りでそのことを学び、多くの人を助けたいと思っていた。

 

「どうやらあっちの魔法少女は、契約した瞬間から不老になるらしい。羨ましい限りだ」

「経緯が違うから同然っすよ。でもあんなに魔法少女の種類があるなんて驚いたっすね」

「それだけじゃないが、なにより関りがなかったことに驚きだったな。似て非なるものとは言え」

 

 なった経緯も違えば戦う相手も違う。中には組織的に運営されているものもあるのだ。なぜこんなに種類が豊富なのか謎だが、一番の謎は異能が出始めるまで殆ど関りがなかったところだろう。魔法、能力、陰陽師に限らず、似ていようが似ていまいがも関係なく、あらゆるものが微妙にズレた位置にあり絶妙にかかわらず認知されていなかった。

 

「ん?」

「なん……こっちか?」

「せっかくの休日なのに……」

 

 そんな話をしていると、空間が揺れ次元が移り変わる。

 

 

 そして……

 

 

「見つけたぞ!ここで会ったが百年目!今日こそ貴様らの命日だ!」

 

 体格のいい大柄な怪人と機械でできた武士のような怪人を引き連れた、軍服のような服を着た女性がそう叫ぶ。

 

「なんすっか。また性懲りもなく」

「前よりかはマシみたいだがな」

 

 呆れた顔をしながら二人が前に出る。それに合わせて、怪人二体も軍服女を守るように、前に出てきた。

 

「そう言ってられるのも今の内だ!前回と違いこの二体は我が組織の最高傑作!貴様らごとき簡単に捻り潰してやる!」

 

(あれ?前にも同じこと聞いたような?てかまだこんなことしてたのか、こいつ)

 

 前回巻き込まれた時も、似たような文言で脅しにかかってきたことを思い出し、ついでに軍服女も学生時代の後輩、それも同じ部活の地味子とも言える子だったことを思い出す快人。因みに両者とも学校では接点がなかったし、絶妙に出会わなかったこともあり、これを知るのは快人だけだ。

 

「魔法少女も大変だな……」

「そう言うんなら手伝ってほしいっす。気配溶け込ませてないで」

「そうだぞ。お前なら簡単に終わらせられるだろ。まぁ譲る気はないが」

 

 相手に認識されないように気配をぼかしている快人は、軍服女に気付かれていない。これも色々と話が拗れないように配慮した結果なのだ。なので軍服女からすれば、二人の魔法少女が雑談しているように見えるだろう。

 

「なにをコソコソ話している!ふざけやがって!」

 

 軍服女がイラついたように叫ぶ。

 

「まぁ何はともあれ世界隔離張られててよかったな。あれは完全に変人だ」

 

「怪人生み出してる秘密結社っすよ。しかも並行世界が何だかって言ってる。そんな奴らに真面な奴なんているわけないっす。あとこれ私たち関係ないっすよ」

「うむ、その通りだ。流石にこんなことできん。恐らくあいつもな。まぁ今はこっちだ。少し遊んでやるか」

 

 二人はそう言うと、魔法が発動し全身が一瞬光り変身する。

 

「さぁ、殲滅の時間っす!」

「ふ~さて、貴様らはいつまでもつかな?」

 

 そこには、学生服を着た黒刀を二刀流にして周囲に計四本の黒刀を浮かべた少女と、鍛えられ上げた肉体と膨大なオーラを迸らせる女性が立っていた。

 

「ふん!今までのように行くと思うなよ!」

 

(どっちもどっちだな。まぁそれはいいとして……これの原因あいつらだな。仕方がない止めに行くか。じゃなきゃヤバいことになりそうだ)

 

 一斉に動き出した両者の激しい戦いを見ながらそう思った快人は、次元を壊した原因の気配を感じ取り、そっと現場に向かうのだった。

 

 



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休日 後編

 快人が原因の中心点に行くと、山田を挟んでその連れとそれに似た美しい白長髪の美少女が言い争っていた。

 

(これどうすればいいんだ?)

 

 聞き耳を立てながら、困り果てている山田と言い争う美少女たちの様子を覗き見する快人。

 

 

「お姉様を返してください、山田さん!」

「そう言われても……」

「おいしっかりしろ、守ってくれるんじゃなかったのか?」

 

 嫌がる黒髪は山田を盾にしながらそう言い放つ。すると白髪は慌てふためき

 

「な、なんですか!まさかお姉様!山田さんと!?」

「勘違いするな変態女神。まだそこまでやってない」

 

「ハハハ……」

 

 何やら言い合って、山田は苦笑いをするのが限界の様子だ。

 

(あ~確か、黒髪は破壊神だったか?じゃあその妹であの白髪は創造神と)

 

 なんとなく察しがついた快人は、以前聞いた話と照らし合わせて、恐らくこの空間は黒髪であるあの破壊神が妹である創造神から逃れるために作った空間なのかと理解する。それに自分たちが巻き込まれたということも……

 

(ってことはあの破壊神がこっちに来た理由は、妹から逃げるためか?山田は巻き込まれたって言ってたが、姉妹ケンカも大概にしてほしいもんだな)

 

 そこまで仲が悪そうに見えないが、距離を取りたいと思う気持ちもわからんでもない。だがそれが自分たちの世界に悪影響が出るなら、快人は動かざるおえなくなる。

 

(母さん居ないし、他の奴らじゃ止められんだろうな)

 

 世界間の移動で力を使い弱体化しているとは言え相手は神。それも星における最上位の存在だ。こいつらを武力で黙らせれる存在など、この世界では小崎家を除けば数える程度だろう。

 

 

(山田じゃ身が重いだろう。いや、どうにかしそうではあるが心配だし、被害を出されても困る。仕方がない……おい、何やってんだ。ちょっと落ち着け」

 

「「「えっ!?」」」

 

 急に現れた快人に驚く三人は、少し硬直する。

 

「何ですか貴方!」

「この世界で動けるとは、ただものじゃないな」

 

 警戒する二人とは裏腹に、一触即発の状況に諦めかけていた山田は、助け舟が来たと救われたと言った感じだ。

 

「山田の友人で、この世界のお偉いさんってところだ。とりあえず暴れることだけはやめてくれ。お前らが戦ったら被害がデカすぎる」

 

 一応すごい立場ではあるが、それが自分由来でないと思っている快人。だがここでは言い切った方がいいだろうとそうしていた。

 

「……別にこの世界に何かする気はありません。私はお姉様を返していただければそれでいいですから。そしたら素直に元の世界に帰りますよ」

 

 創造神の少女はそう言うと、姉である破壊神の方を見る。

 

「いやだ。私はこいつと一緒にここに残る」

 

「……いや俺を見られても!」

 

 創造神からは怪訝な目で見られ、快人からは懐かれてんなと困った顔をされ、山田はそう叫んだ。

 

「にしても困ったな。暴れないにしても、お前ほどの存在がこの世界にいられても困るんだがな」

「それは存じています。私だって元の世界の事もあるので」

 

 存在が大きすぎると世界を歪めてしまうので、極力長いどころか存在してほしくないのだ。特にこの世界は歪みに歪んでおり、許容限界も近いと来た。破壊神や他の上位存在のように力を抑え、なんなら世界維持のために力を貸してくれないと存在されては困る。

 

「じゃあ一旦帰ってくれないか?今はこれのお陰で世界に影響がないが、これが消えた後はそうもいかない」

「そう言うわけにはいきません。世界移動も簡単にできるわけではないので、ここで帰ったら次がいつになるかわかりません」

 

 正直何度も世界移動されても困るが、このままいられるよりマシだと案を出す。だが創造神は一歩も引かず、破壊神に近づく。

 

「お姉様。貴方がいないとこちらの世界が成り立たなくなります。創造と破壊は表裏一体。片方だけと言うわけにはいきません。あれについては謝りますから、帰ってきてください」

 

 山田を挟んで頭を下げ、謝罪の意を示す創造神。

 

「お前の言うことはわかるが、あれについては許せない。と言うか頼むから姉離れしてくれ」

「それは私に死ねという事ですか。私は、私はお姉様がいないとダメなんです!」

 

 感情を爆発させた創造神のせいで世界が揺れた。

 

「そうは言ってもな。いつまでもあんなにべったりされるのも迷惑だ。元は一つだったとは言えだ」

「そうです!元は一つだったんです!だから惹かれ合ってるんです!これは切れない絆!姉妹愛なんです!だからあれも仕方がないこと!愛がなせる技です!」

 

 山田と快人は、苦笑いとため息を隠せない。どうやら二人の関係は、話に聞いていた以上だった。シスコンすぎるのだ、この創造神は。

 

「だったら役割の一つぐらいちゃんとこなせ。安易に信者を洗脳するな」

「だって!お姉様を悪く言うあの者たちが悪いんです!果てには討伐しようなんて!洗脳で済ませただけ温情があるでしょう!抹消してあげてもよかったぐらいです!」

 

 創造と破壊で役割が分かれているという事は、善と悪に分かれることは珍しくない。勿論それは当人たちの人格を無視してそうなってしまうのだが、創造神はそれを許せなかったのだ。

 

「そうならないことはお前がよくわかってるだろう」

「そうは言っても!万が一があります!召喚された山田さんがいい例です!」

 

 そして世界が歪み、それを治そうとした破壊神だったが、それに失敗し色々あって争った結果、二人は大きく消耗し神々の戦いは一旦終わりを告げる。だが信者は黙っておらず、正義だ悪だと勝手に信者同士での争いが始まり、それは抑え込んでいたものが爆発したように苛烈になり、最終的には打倒破壊神のために召喚されたのが山田だった。

 

「そうです!もういっそあの世界を壊すか作り替えましょう!」

「やめろ!混沌神にでもなる気か!」

 

 創造神とは思えない気配を出し始め、ヤバいと思った破壊神は咄嗟に創造神を抑え込もうとする。

 

 だがそれは罠だったようで――

 

「捕まえた~」

「お前!?」

「ちょっ!?」

 

 創造神は破壊神の腕を掴み、破壊神は反射的に山田の腕を掴む。

 

「あっ……」

 

 そして三人はこの世界から消え失せる。

 

「……まぁ長くても1週間で帰ってくるだろ」

 

 隔離世界が崩れるのを感じながら、昔のことを思い出した快人はそう呟くのだった。

 

 



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魔界にて

 

 薄暗く怪しい光に濁った世界。

 

 それが暗雲なのか世界そのものの性質なのかはわからないが、決して明るく照らされることのない薄暗さと夜のような暗闇しかないのがここ魔界であり、この異常な地球に隣接した数ある世界の一つである。

 

 そんな世界の中心で、巨大な龍の上にてつまらなそうに休んでいる麻希がいた。

 

「魔界の意志。なんでこんなことをした?」

 

『ここまでしても敵わぬか……』

 

 ボロボロになり身動きの取れなくなった龍はそうもらし、続ける。

 

『我はこの世界そのもの。世界存続のためにやったのだ。貴様ならみなまで言わずともわかろう』

 

「……まぁね」

 

 麻希はそう呟き、龍から飛び降り静かに世界全体を見渡す。

 

「限界みたいね」

『そうだ。この世界は限界だ。今まで騙しだましやってきたが、ついにはそれが訪れた』

 

 表層はいまだに無事に見えるが、中身がスカスカのボロボロと言う始末だ。

 

「だから燃料、もとい資源が欲しかったと?それとも乗っ取ろうとでもした?」

『そのすべてだ。だが無駄だった。貴様がいるのだ。そうでなくともあちらには強者が山ほどいる。世界の意志もだ』

 

 小さく弱い世界は限界が速い。それの解決策はいくつかあるが、その中でも他の世界の侵攻と言うのは、相当切羽詰まっている状況の証拠であった。

 

 てかそもそも、世界に意志が芽生えている時点で結構な重症なのだ。なんせそれは、世界が複雑化していることであり、自らを削って穴埋めしようとした結果なのだから。

 

「一か八かで自分の世界の資源をすべて回収して、束ねて挑む気だったのね」

『そうだ。仮に敗れても、我が一部がその世界に刻みこまれればそれでよかった』

 

 滅びることが決定事項なら、逃れられないのなら、なりふり構っていられない。だから魔界龍は、己を分解再構築するために 自分自身である世界を壊そうとしたのだ。

 

 だが中に住む者たちはそれを許さなかった。

 

 それもそのはずで、数百年 数万年後に世界が滅びると言っても、寿命が短い存在にとっては関係ない事であり、最悪世界を捨てて別世界に行けばいいだけの話でしかないからだ。

 

『ほんの少しでもいい。一時期の記憶でもいい。ただ生きた証を残したかった。誰かに見て欲しかった。でなければ我々は、我のような世界は消えるか擦り潰されるかしか道はない』

「そうか。間違えちゃいないね。でも、こっちにはアンタたちを受け入れる隙間すらないよ」

 

 世界にも許容量というものがある。麻希のいる世界は、それがギリギリであり他の世界を受け入れる隙間すら残ってはいない。魔界のような別世界がやってきたところで、一時凌ぎにはなっても最後にはムダな情報として処理されて終わる。時間にして数百年程度であり、人間に例えたら数日である。

 

 

「そもそも、ワタシが止めてなきゃ、地球の意志は現文明を あいつごと一掃しようとしてたんだから」

『逆行者か。余計なことをしてくれたものだ』

 

 地球に異常が発生した原因でありすべての元凶。現在の地球に発生しているものすべては、逆行者一人によって引き起こされたことであり、麻希が追い詰めたがっている相手である。

 

「知ってんだ?」

『この世界に限らず、地球に隣接してる世界は奴の能力の一端で生まれたものだ。奴の素性は知りえないが、その力の性質程度なら予測できよう』

 

 逆行、それは過去に戻るなにかしらの能力の一つである。この力により、どれだけ麻希が追い詰めようと、そうなる前の過去に飛ばしてすべてをリセットさせているのだ。

 

「世界規模の能力だから感知に時間かかったけど、アンタ知ってたんだ」

『我も確証を得たのは最近の事だ』

 

 自分が対象であれば即座に気付くこともできただろうが、巻き込まれているのであれば感知は難しい。それは世界も麻希も変わりはない。だから対処が遅れたともいう。

 

「そうなると、まさかあいつこの世界で逆行使ったの?」

『そのまさかだ。修正も調整にも手を焼いた』

 

 種類にもよるが大抵の場合、逆行は世界に多大な負荷をかける。しかも巻き戻る時間が長ければ長いほど指数関数的にその負荷も増大する。魔界はその被害を受け、大打撃を受けたのだ。

 

「なんで使った?てかなんでこの世界にこれてんの?それも逆行使ったんだろうけどさ」

『逆行とその差違を感知しているだけだ。その内容や個々人の心情を把握できるわけではない』

 

 これが厄介なところで、逆行者以外でその詳しい内容を誰も知りえない。これは同格での話だが、場所がわからなければ格上でもどうしようもない。てか下手をしたら逆行者本人も詳しく知らない可能性もある。

 

「にしても困った。多分他の世界にも手は出してるだろうし。異能公表したのは悪手だったかも」

 

 逆行すればするほど世界は疲弊し異常が増す。これにより発生した異能などの対処が追い付かなくなり公表したが、悪手だったと後悔する麻希。なんなら世界の安定と逆行者を誘き出し割り出すための学園もダメだったともらす。なぜなら、異能などが表に漏れ出して来た頃から、逆行者の行動が活発になったからだ。

 

「下手したら変質してるかも、うえ~厄介」

『現状でさえ並行世界を巻き込んで居るのだ。これ以上成長されればここ一帯ごと消えてなくなるであろう』

 

 いくら逆行したからと言っても、その時期を境に異能が生まれるのが限界で、大昔から何かあるなんてことはできない。勿論他にも種類があるし世界の修正能力などもあるが、大体これが時空系の逆行である。

 

 だが並行世界系の逆行であれば話は変わってくる。魔法や妖怪などが密かにあった並行世界と混ぜることで、表面上は元の世界でも、中身がすり替わったりごちゃ混ぜになっているのだ。なんせ、逆行者が見ている部分だけを合わせた移動しかできないからであり、認識していない部分に関しては考慮されないからだ。

 

「とりあえず仕組みを知らないとどうしようもない」

『その前に奴をどうにかしろ。そして我が世界を救ってくれ』

 

 魔界龍はそう懇願するが、麻希は首を横に振る。

 

「余裕がない。あいつをどうにかしない限りはな」

『奴が地球で逆行をするだけでも、隣接している世界は疲弊する。影響は逆行をした世界よりも小さいとはいえ、地球にしがみついている世界はどこも死にぞこないだ。対処しなければまた同じようなことが起こるぞ』

 

 それを聞いた麻希は、小さくため息をついて考える。正直すべてを救うことは不可能だ。麻希がこの世界に来た時点でも詰みかけていたのに、今はさらに酷くなっている。

 

 そもそも世界が滅びていない多くの理由は、麻希が世界の負荷を我が身を削って抑えているからであり、そんな中で地球以外も救うことなど視野に入れられない。

 

「まぁ今年中に決着をつける。話はその後だ。それまでは大人しくしてろ」

『……わかった。だが忘れるな。我らも生存がかかっているという事を』

 

 仕事が増えるなと思いながら魔界龍にそう言うと、魔界龍は嫌なクギを刺して溶けるように消えていなくなったのだった。

 

 



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逆行者

 とある暗い一室で、一人の男が疲れたようにうなだれていた。

 

「魔界か。酷い場所だったな」

 

 詳しくはわからないが、おおよそ高校入りたての年齢に見えるその男は、その年齢に合わない目と雰囲気をしていた。まるで何十年、下手したら100年を超えるほどの長生きしているような感じだ。

 

「これでいいんだろ?なぁ……」

 

 うつむきうわ言を呟く男は、少しして頷く。

 

「そうだよな。排除すべきものでも、使えるもんは使わないといけないからな」

 

 きっと魔界の事なのだろう。そして同時に、それに準ずるすべての異常に対しての言葉であった。

 

「ああ、うん。そうだったな」

 

 そこで何をしたのかは彼にしかわからないが、心の中で整理するだけにとどまっているのか、口には出さない。

 

「きっと……なぁ。そうだな」

 

 出てくるのは判別の付かない言葉の一覧だけだ。そしてそれは誰かと話しているように見え

 

「へぇ……そんなところまで」

 

 頷き相槌をしながら、次の事を考える。彼にとっては大切な何かなのだろうそれは、彼の隙間を埋めるかのような的確なことを言ったようだ。

 

「だったら、そうだな。あそことかどうだ?異界だ。神界とかは、ダメだろ?」

 

 何か提案し、熟考し始める。だが何かを言われたのか

 

「へ?こっちで?理由は……そうか。だよな。って、は?もっとある?」

 

 驚いたような反応をし

 

「クソッ……そこまでかよ」

 

 苦虫を噛み潰したように表情が歪み、更に熟考した。それは彼が悩むのような、彼にとって不都合な事実なのだろうが

 

「へ~、なるほど。確かにな。まぁ、そうなるよな」

 

 何かしらのフォローが入ったのか、すぐに納得し冷静に戻る。

 

「お前の言うことは、正しいもんな。嘘なんて、ないもんな」

 

 自分自身に 言い聞かせるように、語りかけるように、同意を求めるように、そう呟く。

 

「だな。ありがとう。絶対にやってみせる。取り戻すから……」

 

 小さく呟きながら、握りしめていた両手に力が入り、それと同時に体から漏れた何かが揺れ

 

「ふ~。はは、すまんな。大丈夫だ」

 

 それに気づいた男は、緊張を解くように息を吐き、周りの空間が歪む。

 

 

「必ずやってみせるさ。あいつを殺してな……」

 

 

 そう呟く。今度はぼそぼそ言うのではなく、小声だがちゃんと聞こえるようにはっきりと……とはいっても、ここには男以外誰もおらず、声も外には聞こえない。

 

「っと、よし、もうこんな時間だ。早く行かないと学校に遅れる。せっかく入ったんだから楽しまないと。あいつが作ってくれた、異能学園を な」

 

 そして男は立ち上がり、いつものように雰囲気を切り替え、部屋を出るのだった。

 

 



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 今までの登場キャラ

 ここでは簡単にキャラ紹介していきます。
 快人の友人関係は、詳しく出た時に書きます。


 

・名前 小崎 麻希

 性別 女性

 種族 幼児族(狭間の住人)

 年齢 自称21歳(約320年+逆行分約100年)

 説明

 とある次元戦艦にて清掃員をしていた狭間の住人(一般人)。甲板清掃中にバケモノに襲われ、21年前にこの世界に流れ着いた。その後に生まれた息子、快人を育てながら仕事を転々として、気が付いたら裏業界を作り出し、そのトップとなる。色んな意味で世界への影響力が大きい存在であるが、本人は気にしておらず、友達が多い程度の認識でしかない。

 現在は世界を狂わした元凶である『逆行者』を追っており、彼女の感覚では100回以上の逆行を体感している。これは彼女の把握内または世界に大きな異常が発生した回数であり、逆行の細かい内容はぼんやりとしか覚えていない。逆行に耐性がある彼女にとって逆行は、記憶が曖昧になりながら過去に戻された挙句、知らない能力や歴史がポッとで出てきたようなものである。なお異能は最近生まれたもので、麻希はちゃんと把握していない。

 学園を作り出した大きな理由は、増え続ける異常を隠しきれなくなったのと本格的に逆行者をあぶり出すためである。そしてそこで息子と共に用務員として働いている。正直トップに立って入るものの、本人は下っ端の管理職の方が向いているためこう言う立場でいるのもある。

 実はできるだけ息子には関わって欲しくないと願っており、自分が生きている間にすべての問題を解決させようとしているが上手く行っていない。世界との契約で、世界に許容してもらう代わりに世界の生存に手を貸す契約をしている。今回の仕事は、逆行者の排除とその際に発生した負荷の肩代わりである。

 

 

・名前 小崎 快人

 性別 男性

 種族 人族(狭間の住人)

 年齢 21歳

 説明

 今作の主人公であり、麻希の息子。イベントごとには寛容だが、事が大きくなることは嫌っておりめんどくさがりな一面がある。仕事とプライベートはきっちり分けるタイプ。純血の狭間の住人だが、狭間世界で育っていないので、一応多元存在的な立ち位置。あとは母親に鍛えられてマシな方とは言え、実力もイマイチ(四級行けばいい方)でそこまでシビア(甘さがある)でも戦闘狂(戦い始めると別)でもない。

 母親から父親との馴れ初めを聞かされ、若干女性が苦手になってしまっている。ユニークな友達がたくさんいる。

 高校卒業後に母親のコネで色々叩き込むついでに実力主義な会社に入社させられるも肌に合わず、転職も上手く行かず、資格勉強を言い訳にフリーターとして転々としていた。その後に母親に誘われ『異能学園の用務員』になる。

 

 

・名称 暴走生徒

 性別 男性

 年齢 15歳

 説明

 精霊士と言われる、自然の化身である精霊と心を通わし力を得る者の一人。業界としては、自然異常のによる狂暴化した精霊の鎮静化が主だが、力を悪用する者の討伐もしている。

 文明の発展と逆行や異能公表による影響で、表世界での活動を余儀なくされた状態に憤りを感じており、それが原因で自分たち以外の異能などに攻撃的である。更には優秀で優しい兄や妹と学園に来てから知った多くの格上に劣等感を感じており、それを解消しようと実験に参加した結果、精霊に飲み込まれ暴走した。

 炎狼の精霊と契約している精霊士であり、学園では火炎使いとして登録している。

 

 

・名称 研究者

 性別 男性

 説明

 元犯罪組織の天才研究者と言われていた少年。自然霊ではなく、生物の幽霊や悪霊などが主な業界出身。得意分野は悪霊と人を融合させることで、それを使って強大な力を持った戦闘員を製造することである。本人も改造を施しており、異能力者としての最低限の身体能力に、知能や思考に特化した改造をしている。だがそのせいで精神が不安定で、興奮すると抑えていた狂気が滲みだし暴走することがある。

 

 

・名称 学園長

 性別 男性

 説明

 異能学園の学園長。正義側、もとい政府側の人間であり、異能と呼称されるすべての異常を管理し、社会の秩序を守ることを重視している。いつも麻希に振り回され、ストレスが多く胃痛に悩まされている。

 本人も強力な異能を持っており、世界でもトップクラスの実力者。

 

 

・名称 居眠り生徒

 性別 男性

 年齢 15歳

 説明

 快人が一番初めに出会った生徒。便利な探知系の異能を持っており、それで暴走生徒である友達の様子を見に来た。友達を作るのが上手く、暴走生徒とも同じクラスなので仲良くしている。そのおかげで暴走生徒も大人しくなったという。

 

 

・名称 付き添い生徒

 性別 男性

 年齢 15歳

 説明

 居眠り生徒と暴走生徒の友達。居眠り生徒同様友達の様子を見に来たのと、一人で行かせるのは忍びないという事で一緒にきた。

 

 

 

・名称 普通の少女

 性別 女性

 説明

 快人の学生時代の後輩。本来接点など一切なかったが、魔法少女活動の最中に出くわして縁ができた人。魔法少女活動は無給であるが、自分の町と生活を守るために行っている。そのため力がある快人には、怪人退治を手伝ってほしいと思っている。

 因みに力の根源は怪人と同じで、たまたま怪人に襲われて目覚めたのがキッカケなので、魔法少女とは名ばかりの存在だったりする。本人曰く、そう見えるから、らしい。

 

 

・名称 体格のいい女性

 性別 女性

 説明

 快人と同年の女性。別の学校の生徒だったので接点など一切なかったが、後輩経由で繋がりができた人。見た目通りのバトルジャンキーで、怪人相手にも魔法少女化しなくてもそこそこ戦える超人。そして力に目覚めた後は圧倒するほどの戦闘力を持ち合わせている。色んな業界の魔法少女を知っており、そう名乗った方が都合がいいと言って魔法少女を名乗っている。一応正義感はあり、弱者に手を出す者は看過できないタイプ。

 

 

・名称 軍服女

 性別 女性

 説明

 快人の学生時代の後輩。それも同じ部活の地味子とも言える子。だがその正体は、並行世界からこの世界を侵略しに来た怪人組織の幹部。詳しい移動法は謎だが、やっていることは並行世界に存在する自分と同期させて、意識を同じにして来ているらしい。この町を足掛かりにして世界を侵略しようと企んでいる。

 

 

・名称 山田

 性別 男性

 説明

 快人の学生時代からの友達。大人しく面倒見がよい男。高校時代に異世界に召喚され、色々あって美少女な破壊神を連れて帰って来た人。恋愛関係には疎く、大抵の関係は仲のいい友達とかであり、破壊神の事は親戚の子供の面倒を見ている程度の感覚で扱っている。なお異世界召喚により彼の夏休みは潰れた。

 

 

・名称 破壊神

 性別 女性

 説明

 異世界の破壊神。妹の創造神のせいで自分の世界がおかしくなり、それをどうにかしようとしたら人類に敵認定され、異世界から召喚された山田を差し向けられたヤツ。そのまま倒されたふりをして、山田が元の世界に帰る術式に割り込み、こちらの世界に来た。事が落ち着いたら帰ろうと思っていたのだが、その前に創造神がやってきた。なお山田に好意を抱いているが、本人もよくわかっていない。

 

 

・名称 創造神

 性別 女性

 説明

 異世界の創造神。姉を追いかけてきたシスコンヘンタイ。姉にベタベタしすぎて突き放され、精神が不安定になり、気が付いたら世界は混沌として、異世界から召喚された山田と共に姉が消えていた。これにより一旦冷静に戻ったが、連れ帰りに姉と対面してシスコンが再発した。なお山田には、姉を守ってくれた恩と、姉を取られたかもしれないと言う嫉妬の感情に駆られている。

 

 

・名称 魔界龍

 容姿 赤黒い巨大な龍

 説明

 魔界の意志が龍の形となって顕現した姿。逆行者により世界の寿命が大きく削られ、地球を飲み込もうと自分の世界の資源を回収していた最中に麻希さん叩き潰されたヤツ。地球からはみ出た可能性の一つであり、世界の規模は大陸程度がせいぜい。

 違和感はあるが、逆行者に何をされたのかわかっておらず、魔界龍からすればいきなり余命宣告を受けたようなものである。

 

 

・名称 海底の怪物

 容姿 触手でできた巨大な人型

 説明

 小崎家の戦いのせいで目覚めた怪物。戦いの余波でボロ雑巾にさせられ速攻で海底に叩き落とされた。実は世界各地の深海で復活の時を待つ強大な存在の一体であり、通常の人類では核でも使わないとまともに戦えない相手だったりする。でも異常化したこの世界の人類なら、脅威だけどどうにかなる怪物扱い。

 

 

 

 アスカさんの投稿キャラ

 

・名前 サヤカ

 性別 女性

 種族 爆炎龍

 容姿 銀髪で髪は長く結んでいる。瞳の色は赤。

 身長 160

 年齢 50[見た目は人間の高校生ぐらい」

 説明

 人間たちが古代の龍の細胞から産み出した爆炎の龍。その正体は人間の少女に龍の細胞を移植して産み出した人間兵器である。性格は無口で無愛想。人間に従うの嫌い、今は麻希の元で自由に生きてる。

 人間の男性と結婚してからはムツミという10歳の娘もいる。その男性は病気で亡くなっているが彼女にとっては今でも大切な存在である。

 人間の頃の名前は毛利咲である。

 

・爆炎龍

 人間が古代の龍の細胞から産み出し龍。爆炎の魔法を操り、八の首を持っている。

その正体は人間の少女に龍の細胞を移植して産み出した人間兵器である。普段は人間の姿でいる。

 

 

 

・名前 ミカエル

 性別 女性

 種族 人工天使 じんこうてんし

 容姿 銀髪で髪は長く結んでいる。瞳の色は赤。天使のような羽がある。

 身長 165

 年齢 50[見た目は人間の高校生ぐらい)

 説明

 人間たちが産み出し人工天使。いつも明るく、かなりの自由人で、人間に従うことに反発して逃亡する。

 それからは自由に生きていたが、とある人間の男性と出会い、結婚する。その男性は病気で亡くなっているが彼女にとっては今でも大切な存在である。ツバメという名前の10歳の娘がいる。

 彼女はもとは人間であり、人間の頃の名前は遠藤雫である。

 

・人工天使

 人間が産み出し人工の天使。光魔法と風魔法を操り、弓と二刀流での戦闘を得意としている。その正体は人間の少女を改造した人間兵器である。

 

 

・名前 コトリ

 性別 女性

 種族 火鳥 ひどり

 容姿 赤髪で髪は短く、瞳の色は赤

 身長 160

 年齢 17

 説明

 炎を操る火鳥の少女。いつも無口で、めんどくさいことが嫌いで、基本的に眠っていることが多い。その正体はもとは人間で人間だった頃の名前は大和凛である。人間に従うのを嫌い、施設を燃やして逃亡した。

 

・火鳥 ひどり

 人間が産み出した火の鳥。巨大な赤の鳥。炎を操り、どんな熱さにも耐えられる。

その正体は10年前に人間の少女を改造して産み出した存在である。普段は人間の姿だか火鳥の姿にもなれる。

 

 

・名前 オーディン

 性別 女性

 種族 防衛システム

 容姿 銀髪で髪は長く結んでいる。瞳の色は赤。

 身長 160

 年齢 18歳

 説明

 とある組織が自分たちの施設を守るために開発した防衛システム。基本的に感情がなく、かなりの無口。その正体は人間の少女を改造した防衛システムである。本人は途中で任務を放棄して逃亡した。

 人間だった頃の名前は上杉ミクである。

 

 

・防衛システム

 とある組織が施設を守るために開発した防衛システム。強い結界を張ることが可能であり、ミサイルやレーザーを放ち、ハッキングも得意としている。

 その正体は人間の少女を改造した防衛システムである。

 

 

・名前 シャドウ

 性別 女性

 種族 影精霊 かげせいれい

 容姿 黒髪で髪は長く普段結んでいる。瞳の色は黒。

 身長 160

 年齢 50「見た目は人間の20代くらい」

 説明

 礼儀正しく、誰に対しても敬語を使うが人間嫌いの精霊である。その正体はとある組織が人間の少女を改造して生み出した人工精霊である。本人は人間に従うのに反発して逃亡している。

 実はとある人間との男性の間にノルトマという娘を産んでいる。その男性はすでに病気で亡くなっているが彼女のにとっては今でも大切な存在である。ちなみに人間だった頃の名前は影山渡 「かげやまわたる」である。

 

・影精霊

 影を操り、闇魔法を使精霊。二丁拳銃を武器に使う。その正体はとある組織が人間の少女を改造して生み出した人口精霊。ただ本人は人間に従うことに反発して逃亡する。

 

 




~チョットした世界観説明~
 どこにでもありそうなカオスな現実ファンタジーみたいな世界。魔法も異能も呪術も陰陽師も怪物も神も異世界も何でもありで、これからも増え続けるかもしれない世界。ただ見た目によらず世界が滅びかけだったり、敵が厄介すぎるだけの世界である。


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穏やかで怠い5月
5月入った!仕事が増えた!


 なんやかんやで四月が過ぎ、五月に入る。その間に、山田が神二人を連れて無事帰ってきたり、街中や学園内で厄介事が起きかけたが、速攻で解決して快人は学園長に呼び出されていた。

 

「早速で悪いが、この契約書に目を通してサインしてくれないか?」

「……仕事を増やす気ですか?」

 

 快人が軽く目を通したそれは、業務内容の一部変更と拡張という内容の紙だった。

 

「すまないが、こちらも手が回らなくなってきてね。全員にこうやって業務の変更を頼んでいるんだ」

「それにしても、これは多すぎでは?」

 

 快人の配属先……と言うか仕事内容は、学園全体への仕事範囲の拡張であった。それもいつもの仕事に加え、警備や見回りなどの事項も増えている。

 

 

「言っちゃ悪いが、君なら余裕では?今の仕事も十全に熟せている訳だし、それどころか暇な時間の方が多いと思うけど?その空いた時間でやって欲しいんだ」

「そういうことを言ってるわけではないです。確かに初期の契約書には、業務の増加がある場合があると記述されていましたが、限度と言うものがあると言ってるだけです」

 

 快人ならできなくもない仕事量ではあるが、こうも一気にやることが増えると困る。特に快人は、責任が大きくなったり、残業はしたくない派の人なので、面倒なことは嫌なのだ。

 

「正直、麻希さんの息子である快人君は、そこにいるだけで、いると思わせるだけで抑止力になる。だから見回りをしてほしいんだ。それだけの組織内の問題は大きく減らせるんだ」

 

 快人は麻希の息子であり、同時に世界でのトップクラスの実力者でもある。その他にも学園内に入っている組織の人からも一目置かれており、彼の目に見える範疇で変なことをするものは少ない。

 

 だが……

 

「母さんじゃダメなんですか?」

 

 そう言うなら快人よりも、特に裏組織の者たちにはトラウマ級の存在である、麻希に頼んだ方が効果的だ。頼み方にもよるが、ホントに大変なことになるのなら、渋々付き合ってくれるだろう。

 

 

「いや、麻希さんはダメだ。ああ見えて結構手一杯だったりするんだ。なにより彼女が私や他人の要求にまともに答えてくれたためしがない」

「それは……まぁそうですね」

 

 しかし麻希も中々難儀な性格をしており、ギリギリまで動かない可能性がある。と言うか、そうするだろう。それにそもそもの仕事量も多いので、優先順位の低いことは途中でほっぽり出すのは目に見えていた。

 

「麻希さんには善意や良心はあっても正義なんてものはない。特に誰かに求められたものなんて、機嫌がよくでもなかったら簡単に切り捨てられる。君もわかるだろ?」

「母さんはそう言う人ですから」

 

 

 麻希に限らず、純粋な『狭間の住人』とはそう言ったものだ。自我が強く、自分のしたいことをしているだけなので、正義なんてものは持ち合わせていない。あくまでそう見えるだけでしかないので、余計な口を出すと何をしでかすかわからない。

 

 またこれは快人も近いのだが、モラルとルールが重なっているから従っているだけなので、それと乖離したルールを突きつけても彼らは従わない。

 

 

「まぁそう言う人だから、あまり頼りにならない。それに……まぁあれはいいだろう。とりあえず、頼めないか?せめて見回りだけでもいいから。余程の事がない限りムダに呼び出さないから」

「……わかりました。流石に死人が出たりするのはヤバいですからね。背に腹は代えられません」

 

 切実にそう願う学園長に快人は、同情したのか、少し悪気を覚えたのか、はたまた別の何かを思ったのか、最後には頷いた。

 

「了承してくれて感謝するよ。では細かい点を詰めようか」

「そうですね」

 

 そうして仕方がなく了承した快人は、細かい仕事内容を決めるために学園長と話合うのだった。

 

 



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昼飯

 学園長と話をしていると昼になっており、快人は学園長に昼飯を一緒に食べようと誘われていた。

 

「知ってると思うが、ここの学食はすべてタダだ。勿論職員の食事も同じくね。これも麻希さんのお陰なんだけどね」

「まぁ母さんですから」

 

 職員用の食堂で、頼んだメニューを待つ二人。因みに今日は麻希は来ていない。魔界の件で色々あったため、一応他の世界も見てくると休みを取っているのだ。なので快人は弁当を持っておらず、定食を食べに来ている。

 

「一流の料理人が作る学食なんて世界でも数少ないだろう。流石は麻希さんが揃えただけはある」

「まぁ母さんは飯にはうるさいですから」

 

 せっかくだからいいものを食べたい。何ならみんなにも分けてあげようと言って作ったのがこの学食だ。おいしさや栄養バランスに富んだ品がなんと和洋折衷何でもそろっている。しかも過度な要求でなければ新たに品を作ってくれるサービスまで手掛けていた。

 

 

「っと、話している間に料理ができたみたいだ。私が取ってこよう」

「お願いします」

 

 渡されていたブザーがなり、学園長が取ってくると言って席を立つ。そしてササっと返って来た。

 

「今週の定食はサバの味噌煮か。美味そうだ」

「そうだね。定食を準備してくれてホント助かるよ。困ったときはこれを選べばいいからね」

 

 適当に選んでもおいしい定食を準備してくれているシステムを作った麻希に感謝しつつ、二人は食べ始める。

 

「ところで、組織内に怪しい動きがあるってホントなんですか?」

「……ああ、それは間違いない。少しづつだがそれは広がりつつある。最悪なのが、麻希さんが放置している連中と見分けがつかないってところだ」

 

 話し合いで出てきたことを再度聞き返す快人。それに頷き、困った様に渋い顔をする学園長。

 

「母さんももう少し対処してくれればいいのに。流石にこの事態は見過ごしちゃいけないと思うんだがな」

「その通りだ。だがそれ以外は問題が多いが、麻希さんの直属の部下はまだ裏切っていない。と言うか裏切る気はないだろうな」

 

 麻希の部下の多くは、裏世界の被害者や力でねじ伏せた者たちだ。その中でも直属の部下は、助けた被害者で構成されているため裏切り者は出にくい。

 

「母さんは例え全員相手しようが大丈夫なんだろうけど、こっちはたまったもんじゃないからな」

「力で抑え込んで、軽い自由と引き換えに部下にしている連中は何をしでかすかわからない。麻希さんありきの縛りなんて長くは持たない。あの人だってずっと現役でいられるわけじゃないだろう。最近は疲れが見える場面が多くなってきている」

 

 いつものことながらため息をつく二人。世界規模を個人でどうにかできるのは、この世界で麻希さん以外いないのだ。その本人が適当に動いているのだから、平和と秩序を重んじる者たちはストレスが絶えない。

 

「因みに俺は、母さんの後とか継がないですからね。身が重すぎる」

「そこを何とか頼む。麻希さんの息子である快人君ぐらいしか後継ぎできないんだ」

 

 個人としては麻希の次に強い快人だが、極端に強いわけではないため世界を相手どれるほど強くはない。なので麻希の後など継げないと考えている。だが学園長からすれば抑止力として、まとめ役として継いで欲しいと考えていた。

 

「いやいや無理ですよ。それに母さんはなんか近いうちに何とかとか言ってたし、組織についてはどっちでもいいって言ってましたよ」

 

 嘘だろ?と言う顔で快人を見る学園長だが、麻希としては世界との契約が優先な為、受け継がせてもそちらだけのつもりではいる。麻希も成り行きと面白半分で作った組織を、無理矢理快人に押し付けるつもりはないのだ。せいぜい最低限の後始末をして終わらせるのだろう。

 

「楽なんだがな。君たちに任せた方が……」

「大丈夫ですよ。裏も表も総合では似たような戦力でしょ?そもそも拮抗しているところに割り込んだのが悪いって、母さんも言ってましたし。元に戻るだけですよ」

 

 どれだけ強力でも『狭間の住人』は部外者であることには変わりない。なので極論いなくなっても何も変わらないのだ。

 

「ま、まぁその話は後々として、こちらでも麻希さんと話し合わなきゃだし」

「無理矢理押し付けようとしないでくださいね。ホント、俺じゃあいつらを制御なんてできませんから。まぁ後始末ぐらいは手伝いますけど、あまり期待しないでくださいね。ではお先に失礼します」

 

 そして先に食事が終わった快人は片付けのために立ち上がり、学園長は そうか……と呟き、二人は別れるのだった。

 

 



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ゴールデンウイークに入り

 ゴールデンウイークに入り……

 

「休みが……いや分かり切ったことだが……」

 

 異能学園ではゴールデンウイークでも職員に休みはない。それどころか長期休暇など単なる幻想でしかない。休日出勤やシフト、交代制などなど言われているが、言ってしまえば臨機応変に働いてね。という事だ。

 

「覚悟はしていたが、今回の件で……いやもうやめよう。仕事だ」

 

 なんやかんやで仕事を増やされ丸め込まれ、やることが倍増した快人は学園内を見回りしながら疲れたようにそう呟く。

 

「まぁ、ほっといたらダメなのが多いのは分かるよ。雇ってる研究員とかだって信用ならんだろうからな」

 

 異能を研究 開発する場所なので、それはもう億越えの精密機械や危険な薬品などだけでは言い表せないものが様々ある。それの維持管理も仕事の内だし、侵入者がいないかの確認も大切だ。

 何より少なくない職員が、信用ならない裏世界の住人と言うのもある。

 

「問題なし、問題なしっと。はぁ~、エラー出やすいんなら機種の統一ぐらいしてほしいな。整備する技の身にもなってくれよ……」

 

 各部屋を回って問題がないか確認し、ついでに指定されていた機械や施設の点検もしていく。どれも各自の自作精密機器な為変わりがなく、しかも業界ごとに対応する力と仕組みが違っているので、わざわざやることが多い。

 

「あと三件もあるのか、いつもどこか壊れてやがる。何もない日が珍しいぐらいか。はぁ~」

 

 広いし数も危険も多い。これでは壊れない方が珍しいだろう。基本的に専用の整備しや自分たちで直すのが当たり前になっているのだが、すべてを把握して直せる麻希と快人の二人はよく頼まれ代行することがある。

 

「最初はこんなもんじゃないと思ってたんだがな。考えが甘すぎたか」

 

 外部には漏れていないので詳しくはわからないだろうが、4月中旬から事件が多くなり始めていた。事前に防げるものが多いのが幸いしているだけで、細かいところは修理は増え続ける一方だ。最近は機械の故障と人員不足が重なり、快人はよく駆り出されていた。

 

 

「確かここの先は……」

 

 なんやかんやで修繕を終わらせながら、最後の施設へと足を運ぶ。そこの報告書を見た時にふと、とある人物を思い出していた。

 

「人具計画か。確かエクスさんの所だったか?」

 

 それは裏世界の被害者の一人の名前だ。そして人具計画とは、人に強力な武器を融合させて強化人間を作る計画の事である。

 

「伝承とか伝説とか過去の武器使ってるんだっけ?どうやって集めたんだか」

 

 特にこの組織は、過去にあった人知を超えた武具と適合者を合わせる実験をしていた所だ。最初は武具の収集と復元をして使い手を作り出す予定であったが、幾度とない抗争と完全な復元が不可能だと悟った組織は、人にそれを移植する実験をしていた。エクスはその被害者の一人だ。

 

「被害者も多かっただろうに。まぁそれはどこも同じことを言えるんだが」

 

 裏世界は、高度な技術と異能を持った者たちが闊歩する無法地帯だ。全体の被害者は数知れず、麻希のお陰で勢いはなくなったものの、恐らく今なお膨れ上がり続けているだろう。

 

「そういや、エクスさんの娘さんは学園に入学してたっけな?他にも結構いた記憶があるが……」

 

 作業を進めながら、麻希さんの助け出した人たちの事を思い出す。多くの被害者たちは知人としての接点しか持たないため詳しく知らないが、何人かは直接助けたことがるので名前がパッと出てきたのだ。

 

「サヤカさんとかミカエルさんもそうだし、シャドウさん、イノリさんとかもそうだったな、親の方は」

 

 他にもいるが、すぐ思い出せたり同じ職場にいるメンバーを呟く。

 

「みんなゴールデンウイークか。子供いるし優先順位高いんだろうな」

 

 子供がいる家庭は当然の事、更に片親の人たちは休みが取りやすくなっている。そしてその逆の独身者は、その穴埋めをするために休みもこうして働くのだ。まぁその分給料は高いが……

 

「ま、しゃあねぇな。さっさと終わらせて俺も帰ろう」

 

 別に予定はないが、みんな休んでいるのに自分だけ働いているのは少々嫌なので、ペースを上げてさっさと仕事を終わらせようと気合を入れるのだった。

 

 




・投稿キャラを使わせていただきました。


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ゴールデンウイークとは?

 今日も今日とて出勤する快人は、あらかたの仕事を終わらせて最後の仕事場である訓練場に来ていた。

 

「広いな、ここ整備するのか」

 

 当たり前だが訓練場は広い。そして多くの生徒が入り異能の訓練をする場所なので、消耗も速く短いスパンで整備しなければいけない。

 

「あ~めんうなどい。パッと見キレイそのにな。あ~、あそことあそこか。確かになんかおかしいな」

 

 普段から維持管理されているので見た目では分かりにくいが、快人にはどこが悪いのか一目でわかってしまう。場所によっては、工事が必要な所もあるのだが、今回は大丈夫そうなのがせめてもの救いだろうか。

 

「他には……ん?誰だ?」

 

 一応見落としがないか確認をしていると、訓練場に誰かが入ってくる気配を感じ、確認のためにそちらを見た。

 

 

「快人さん。お疲れ様です」

「こんな時でも仕事とは大変だね」

「そうですね。まぁ慣れてますから」

 

 そこには子供を連れたシャドウとエクスの姿がおり、全員が武器を携えたやる気満々の様子だ。

 

「久しぶり!快人さん!」

「お久しぶりです。快人さん」

「ああ、どうも。今からここ使うんですか?」

 

 ノルトマとアルテラに挨拶を返しつつ、訓練場を使うのかと聞き出す。

 

「はい、整備は昼からと聞いていたので、それまで使うつもりです。一応今日の朝に連絡は入れていたのですが、聞いていませんか?」

「そうですか。いえ、大丈夫です。分かりました。こちらも速く仕事が終わって来ていただけなので、ご自由にどうぞ」

 

 シャドウの言葉に納得した快人は、手元にあった書類の確認をしたが何もなく、連絡もなかったがそう言う事かと身を引いた。

 

(今日の朝か、入れ違いだな。早く終わらせたかったら少し早出して仕事してたが悪手だったな)

 

 よくある勝手な早出と言う奴だ。認識自体はされているが給料も出ない所謂サービス残業のようなもので、後の業務を円滑に済ませるためや現場の清掃整備、明らかに過剰な仕事量を仕方がなくこなす場合によく見られる。

 

 

「ね~、久しぶりなんだからちょっと相手してよ!」

「そうですね。少し実力が見てみたいです」

 

 そう考えていると、ノルトマとアルテラがそう言ってきて、親であるシャドウとエクスも乗り気に頼めないか?と言ってきていた。

 

「そうですね。少しだけならいいですよ」

 

 そう言い、喜ぶ四人に準備をするからと作業道具を置いて返ってくる。

 

 

「よし、どこからでもかかってこい!」

 

「じゃあいくよ!」

「行かせていただきます!」

 

 ノルトマが二丁拳銃で狙い撃ち、アルテラが光る剣を作り出し距離を詰めてきた。それに対し快人は銃撃を避けて、接近してきたアルテラの手首を掴み地面にねじ伏せる。

 

「なっ!?」

「少し詰めが甘いな」

「がっ!?」

 

 ノルトマからの銃撃を紙一重でかわし、反動でアルテラを投げ飛ばす。それと同時に一気に距離を詰めてノルトマを強く衝撃が伝わらないように軽く殴り飛ばす。

 

「で、次は何をするんだ?」

 

「それは――」

「攻める!」

 

 アルテラが素早く距離を詰め、ノルトマが銃撃で快人の動きに制限をかけた。それを普通にかわしながら、二人を観察する快人。

 

「剣の振りが甘いな、間が待ってない。そっちが露骨に狙いすぎだ。もう少しフェイントを加えないと……っとそれはないな」

 

「わっ!?」

「うそっ!?」

 

 アドバイスを聞いてすぐに実践しようと試みるのはいい事だが、素直すぎるのは問題だなと思いながらノルトマの射線上にアルテラを誘導する。そして当たりそうなところでこかしていた。

 

「さて、次はノルトマの方を見ようか」

「っ!?だったら!」

 

 近づく快人にノルトマは、自身の影から鞭のような影を複数具現化し、縦横無尽に振り回す。これにより接近を阻止しつつ、銃撃で攻撃できると考えているようだ。

 

「制御が甘いし適当に振り回してるな?」

「入ってくるの!?」

 

 ひょいひょい避けながら普通に散歩感覚で入ってくる快人に驚くノルトマ。そこで意を決したような表情になり

 

「はぁっ!!」

 

 刺突の影を伸ばして快人を貫こうとする。

 

「見え見えじゃ意味ないだろ」

 

 それすらも普通に避けた快人は、一気に距離を詰め、終わりだと言ってねじ伏せて倒していた。

 

 

「流石ね、快人君」

「まったく勝負になってなかったわ」

 

 エクスとシャドウはそう感想をもらし、倒れた二人に近づく。

 

「怪我はさせないようにしましたから。では少し疲れたので休んどきますね」

 

 そう話、次いでに何時まで申請したのかを聞き出して端の方へと行く。

 

「今から13時までか。昼休憩終わった辺りね。普通なら。はぁ~、トラブルがなきゃ、一日ぐらい休めるかな?ゴールデンウイーク」

 

 快人は、四人の戦いを眺めながらそう呟くのだった。

 

 




・投稿キャラを使わせていただきました。


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ゴールデンウイーク最後の日

 ゴールデンウイーク最後の日になり、やっと休みが取れた快人は、町に出ていつものように散歩をしていた。

 

「土曜日まで使う羽目になるとは……まぁいい。やっとの休みだ。適当に店でも回って買い物でもするか」

 

 土曜日まで使うとは思っていなかったのか、疲れたように町を見渡す。

 

「変なもんはないな。……そうだよ、こんな時ぐらいみんな休めばいいんだよ」

 

 仕事が忙しくなり、休日も何かに巻き込まれる。そんな濃密な日々を過ごす快人は、久々の穏やかなひと時に安心したようにそう呟く。

 

「怪人が出たり、魔物?みたいな怪物が出てきたり、路地裏で異能力者がいたり、どうなってんだこの世界?」

 

 飽きがこないことはいい事だが、常にどこかで人知れず事件が起きている。巨大生物やヒーローが出た時には後始末に追われたな。と目を遠くして思っていた。

 

「なんか母さんが言ってたな。異常が多いだの、世界がどうたら」

 

 異常が多いほど世界からエネルギーが抜けて大変になっていると言う事なのだが、快人を含めた大半はそれを知らない。そんな世界だから、狭間の住人が迷い込めたとも言うが……

 

「まぁ俺にはどうしようもないな。っと、丁度いい、少し早いがここで昼食でも取るか」

 

 そう思い、近くにあった喫茶店に入る。

 

 

「ん?あいつら?」

 

 中に入り、店員とやり取りをして適当な席に向かおうとする。だがそこで見たことのある二組のカップルが目に入り、そちらに行く。

 

「渡辺にみんな、奇遇だな。こんなところで、今から飯か?」

「小崎か。久しぶり。そっちこそ」

「小崎さん。お久しぶりです」

「久しぶり~そうだよ~」

「一緒に食うか?席も空いてるし」

 

 友達の渡辺に話しかけ、その連れの三人も挨拶して、一緒に昼飯を食おうぜと誘ってくる。それに甘える形で、小崎も席に座った。

 

「降魔さんに、狼谷、晋野。久しぶりだな。お前らも散歩か?」

「飯作るのが面倒いから、適当に外食してるだけだ」

「ほんと小崎さんは散歩が好きですね」

「すぐに散策行こうとするかね~」

 

 晋野、降魔、狼谷の順に答え、で何にすると渡辺がメニュー表を手渡してくる。それを見ながら適当に品を決めて、やって来た店員に伝えていく。

 

「ここ美味しいんだよね~。毎日でも来たいね~」

「無茶言うなよ。俺たちにはそんな金ねぇだろ。なんせさえ無茶言って田舎から出てきたんだから」

「そう言えばお二人は、田舎の方から来たんですよね?どんなところだったんですか?渡辺さんや小崎さんとも始めから仲がよさそうなもの気になりますし、聞いても?」

 

 狼谷と普野の話に降魔が気になったのか聞いていた。

 

「二人の住んでた場所は相当田舎でね。何と人狼伝説がある場所だったんだ」

「人狼伝説ですか?」

 

 渡辺が彼女である降魔にそう言い

 

「そうだな。俺たちが行った時も大変な事件が起きたんだ」

「そうそう。人狼に人が襲われてって話なんだ」

「そ、それは恐ろしいですね。どうなったんですか?」

 

 小崎もノリに乗って話を続けようとした。だがそこで普野と狼谷が声をかける。

 

 

「大変な事件は起きましたが、人狼とは関係ないですよ、降魔さん。二人もそう言うのやめてくださいよ」

「そうだよ~。それに人狼伝説って、単なる言い伝えでそんな大層なものでもないし、実際いなかったでしょ?」

「そうなんですか?ビックリしました。最近色々聞きますし、つい本当かと」

「悪い悪い」

「ちょっと話盛り過ぎたわ」

 

 悪乗りをした二人は、軽く謝り話を元に戻す。

 

「ちょっと高校の時に、俺と小崎とあと山田と小林で人狼が出るって話のある田舎に行ったんだ。そこが二人のいた村で、そこで二人と仲良くなったんだ」

「事件ってのも人狼に成りすまして、村人を襲っていた強盗の事だ」

「詳しく言うと、空き巣に失敗した犯人が逃げる際に目撃者を襲った事件だ。それで話が大げさになって人狼ってことになりかけた。幸い大したことではなかったけど、ホント迷惑な話だよ」

「外から来た人は怖いね~って話でもちきりだったよ~。都会の人も無暗に田舎なんて来るもんじゃないね~」

 

 ひと昔前に地方へ田舎へみたいな話が上がっていたことがあり、それで移り住んできた人が多くなり各地で問題が起きたことがあった。その一つが今回の話に上がったことだ。

 

「それは大変でしたね」

「うん、そうだよ~。僕たちのいたような田舎には、便利なものなんて数える程度しかないしね~」

「自然豊かって言うけど、実際は自然しかないってことだ。移動も車がないとまともにできないな」

「やっぱ立地がね。大人数が住むのに向いてないんだよ、そう言う所は」

「いつの時代も変わらんな」

 

 田舎あるあるはどこに行っても同じなようだ。やはり利便性に欠けるとこうなりやすい。そんなことを話していると料理が届き、雑談しながらみんな楽しく食べ始める。

 

 

(……人狼か。ホントにいないと思ってんだろうか?)

 

 そんな様子を見ながら小崎は、狼谷をチラリと見てそう考えた。

 

(たまにこいつに狼の耳とか尻尾出てるけど誰も気にしないんだよな)

 

 小崎はたまにしか見た事ないし、見た時も堂々と生やしていて誰も気にしていないので見間違えではないかと考えていたが……

 

「あ?え?」

「僕をジロジロ見てどうしたの~。なんかついてる?」

「女性を、人の彼女をそんな目で見るのはちょっとな。なんも……ってこれか。ちゃんと食えよ、お前」

「汚れが気になったのか?だが友人相手とは言えジロジロ見るのはダメだと思うぞ。ちゃんと言わなきゃ」

「小崎さん、そうですよ。ちゃんと言わなきゃ勘違いされちゃいますよ」

 

 なんかついてると言うか、生えてる耳と尻尾が と思った小崎だが、誰も気にしない事に、幻覚か認識災害か?と思いながら、少しいちゃつく狼谷と普野に謝るのだった。

 

 



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五月病でも仕事はある

 少ない休みを終えて、怠い体を動かし仕事に戻る。

 

「五月病か?はぁ~、ダメだな。こんなんじゃ」

 

 ゴールデンウイークが終えてに三日が経っていた。この間別に大きなことは起きず、いつも通りの仕事をこなしていた。だが快人は怠さを感じ、五月病を疑う。

 

「心なしかみんなも調子上がってなさそうだし、もしかしたら異変だったりして?いや母さんがいるのにそこまでの事が起きるわけないか」

 

 麻希が帰ってきて、学園内の厄介事は落ち着きを取り戻す。昔なら麻希など関係なく暴れていた連中も、麻希の恐ろしさを知ってからはみんな大人しくなっていた。そしてなにより麻希の行動範囲が広がったことが、敵対勢力にとってはすごく効いているようだ。

 

(それに母さん、最近ピリついてるしな)

 

 それに加え、一部の者にしか気づいていないが、今の麻希は心なしかピリついていた。それをバレないように隠しているようだが、他人がチラリと見た時や近くにいることが多い快人は気づいていた。

 

 

(表立って動いてる奴はいないけど、裏で動いてそうだもんな。調べて見るか?)

 

 だがそれを踏まえてもあくまでも麻希に目を付けられないように、表立って動いてないだけだ。水面下ではコソコソ動いているだろう。現にそれらしい気配は感じる。

 

(でも俺には詳しくわからないし、母さんも動かないし……いつもみたいに仕掛けてくるまでまってるのかね)

 

 快人は未熟者だ。できると使い熟しているは違うように、気配は感じてもそれを特定できない。それに対処する時などは、偶然出くわすか要請があった時だけだ。それ以外だと各所で対処可能か、麻希の遊び相手になって終わる。

 

 

(でもまぁ、仕方がないほっとくわけにもいかんしな)

 

 だが今回は放置する訳にはいかなかった。理由は仕事だからだ。学園長からも言われているが、この学園を守り維持する事が仕事になった以上、麻希が動かないのであれば快人が動かなければいけない。

 

(……母さんにも困ったもんだ。いくら人類が二の次だって言って……も?)

 

 いつだったか昔?聞いた話を思い出す。だがそれと同時にいつ聞いたか思い出せなかった。

 つい最近だったのか、子供の時なのか、高校卒業時なのか、コネ入社した時なのか、フリーターしてた時なのか、とにかくいつの話だったのか、探っても出て来ないし、全部で聞いたことあるような違和感を感じていた。

 

 

「まぁいいや。めんどくさいが、この仕事終わったら探しに行くか」

 

 そして快人は答えの出ない疑問を捨てて、次の仕事のために現在やっている清掃業務を速めに終わらせるために手を速めるのだった。

 

 



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怠惰の悪魔

 あらかたの仕事が終わり、気配のする方へと向かう快人。その場所は学園の中心部で、中庭に当たる広い空間だった。

 

「……あいつか」

 

 中心に寝そべって寝ているそいつを見つけた快人は、近づき声をかける。

 

「何したんだ。レチア」

「ん~あ、快人君だ~。おはよ~。キミも一緒に寝ない?気持ちいよ~」

 

 自分の長くふわふわな髪の毛を布団に気持ちよさそうに寝ている、トナカイのような角を生やしシロクマと狼が混ざったような獣人っぽい悪魔は、友達でも誘うかのようにそう言う女性悪魔のレチア。

 

「仕事中だ。そうでなくても断る」

「なんでさ~。働きすぎは良くないぞ~。私の前任者とか他の悪魔たちにみたいに過労死するよ~」

 

 彼女は怠惰の悪魔であり、常にこうやってダラダラしているのだ。そして他人(働いている者や忙しそうな者)を見かけると休めよ~と言ってくる。

 なお前任者はめんどくさいと言いながら何でも請け負ってしまうお人好しで、過労により倒れて七欲王の席を引退している。

 

「死んでないだろ。悪魔はしぶといんだ。で、なんでお前がここにいるんだ?悪魔界に何かあったのか?」

「別に~麻希さんが近いうちに来るって聞いたから、早めに避難しに来ただけだよ~」

 

 寝ながらそう答えるレチア。どうやら自分の国や配下を置いてさっさと逃げだして来ただけの様だ。

 

「危機察知だけは凄いな。前もそうだったが。どうせ配下も放置だろう?かわいそうに」

「え~あの子たちは優秀だし、引きこもってれば大丈夫だと思うけどな~?それに外に遊びに行くって言ったら喜んでたから大丈夫でしょ~」

 

 王がそんなのでいいのかと心配になるが、怠惰の悪魔が支配する国だ。悪魔界で最も怠惰で大人しく平和な国で、王であるレチアもそれを体現した存在なのだが、どうしてかわからないがこれでも不思議と上手く行く。

 

「なんで見限られないんだか……」

「私は平常時以外はあんまり役に立たないからね~。戦闘力も王たちの中じゃ最弱だし~。適材適所ってやつだよ~」

 

 そしてレチアはあんまり働かないし弱いのに人望のある王として有名であった。なぜならいるだけで利益のある王だからだ。なので危険があればさっさと逃げて、あとで戻って来てくれればいいと思われているのだ。

 

 

「まぁ分かった。どうせあてもないんだろ?」

「そうだよ~。一応、元色欲の王の所にって考えてるけど~入れてくれるかな~」

 

 前回もそうだった。レチアは思い付きの無計画に地球に来て、迷子になっている所を助けて二人は知り合ったのだ。その時も色欲に会いに来ていたようだが、普通に追い返されていた。

 

 理由は……

 

「無理だろうな。お前、力を垂れ流すし姿も変える気ないから」

「ん~、だって~。めんどくさいんだもん~。疲れるしさ~」

 

 レチアは隠れる気がないのだ。他の悪魔や妖怪など他種族ですら、隠れるなり人類に配慮している部分が多いのに、彼女はそんなことを一切しない。

 

「それに違和感持たれないんだからさ~」

「じゃあせめて縮んでくれ」

 

 能力のお陰で、変った人だなと思われるだけで、実力者以外からは違和感も敵対もされずにいられているが、こいつは体がデカい。角も含めると3メートル強になり、普通の建物に入るのも一苦労するのだ。

 

「そういや快人君の家は小さかったね~」

「お前がデカいんだよ。後で迎えに来るから、縮まっとけよ」

 

 そうして、快人は残りの用事を済ませるために仕事に戻るのだった。

 

 



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迎えに行ったら

 仕事が終わり、レチアを迎えに中庭へと向かっていると、近づくにつれて違和感を感じ始めていた。

 

「結界?」

 

 またあいつが適当に寝ているのだろうと違和感を放置していたが、どうやら違うらしく、何かしらが戦う気配と結界を確認し中へと入る。

 

 

「悪魔祓いか。それもうちの生徒の」

 

 日本中にいる異能力者やそれに類ずる各業界の少年少女を集めている異能学園には、勿論このような人物が多数在籍している。目の前で戦っている数人の悪魔祓いもその内の一つだ。

 

「結界張ってるからいいものを、こんな戦いされたら中庭は荒れまくりじゃねえか。片付ける身にもなってくれよ……」

 

 物陰から無数の黒い影か鞭のように生えており、それが悪魔祓いたちを蹴散らしながら隙を突いて銃弾を放っている。そしてその中を掻い潜って、二人の悪魔が奇襲を仕掛け、片方が殴り飛ばし、もう片方が大剣で斬撃を放っていた。

 

「レジェンドにタイクーン、あとヒョウガーか」

 

 影を操る悪魔のレジェンド、風を操る悪魔のタイクーン、氷を操る悪魔ヒョウガーの三人に追い詰められる悪魔祓いたち。それもそうだろう、彼女ら悪魔たちは王クラスの護衛なのだ。彼らも優秀とは言え、同じ数で戦って勝てる相手ではない。

 

「結構激しいな。声かけても聞こえなさそうなんだが?てかあいつら安易呑気に飯食ってんだ?」

「いつもの事だ。本当あの方には困らされる」

 

 結界の影響で外部への影響は出ていないが、内部はぐちゃぐちゃだ。庭は荒れまくり、その中心ではレチアと数人の悪魔がなぜか呑気に食事をしていた。そして快人に話しかけるウミノと言う悪魔。

 

「ウミノさんか。なんでこんな事に?」

「私の、と言うかレチアの気配を感じ取って来たんだ。で、問答無用で払うって聞かないから、護衛に相手させてたんだ」

 

 どうやら案の定の結果らしい。そして当の本人は部下と一緒に食事をしている。

 

「手加減はしてくれてるみたいだな。よし、終わらせるか」

 

 そう言い快人が三対三の戦いに近づき、手を叩いた。すると重く高い音が鳴り、あらゆる異能は消え去り、全員の動きが止まる。

 

 

「終わりだ終わり、解散」

 

 

 そう言うと、悪魔たちは撤収作業に取り掛かり、悪魔祓いたちは不満げと言うか何を言っているんだ?と言う顔をして、苦情を言おうとする。

 

 だがその言葉は口から出ることなく、全員ピタリと止まっていた。

 

「あ~快人だ~。迎え遅いよ~」

「お前はな……」

 

 レチアが快人に近づく経路にいた悪魔祓いたちは全員、レチアの怠惰に直で触れてしまい、声が出ないほど戦意喪失していた。と言うか何も考えられない状態になっていた。それに呆れながら、ちっさくなって飛びついてきたレチアを受け止める。

 

 

「お前はもうちょっと加減というものを知ろうな?」

「え~でも~、快人には効いてないからいいじゃん」

 

 そう言う事じゃないと降ろそうとするが、不満げな顔をして

 

「おぶって行って!」

「はぁ~、わかったよ」

 

 そこまで動きたくないのか?と半ば諦め気味に背負い直す。

 

「レチアは出会った時からあの性格だからね。快人さんも食べるかい?うちの料理」

「母さんの手料理はおいしいよ!」

「料理人だからね~」

「料理長も認めるぐらいだからね」

 

「いやいい。帰ってからにしてくれ」

 

 後から付いてきた悪魔たちの数人、ヒョウドル、ヒョウガー、ウミル、タイフーンがそう言う。

 

「ウミノさん。これでこっちに来てる悪魔は全員?」

「そうだ。レチアの配下はこれで全員だ。あっちでも仕事があるから、私たち以外のレチアの配下は出て来れないだろう。なんせあの麻希が来るんだからな」

「大変なもんね。こっちは事前に知れたからよかったものの、他の国も忙しくてこっちには手が出せないと思うよ」

「麻希さん以外にも、問題が色々あるからね」

 

 ウミノとレジェンド、タイクーンの三人がそう教えてくれた。それを聞いた後、快人は惨状後を見返し、悪魔たちに断りを入れてから、無線を取り出し残っている用務員に連絡を入れる。

 

 

「セイスドさん、ダイヤズさん。ちょっと仕事が発生した。生徒が色々やらかして中庭が少々荒れてしまってな。他の用務員とかイカロスさんにとかにも手伝ってもらって片付けといてくれ。俺は今、手が離せないからさ」

 

 そう言った矢先無線の先では、「どうして私がこんなことをしないといけないの!?」とか「前に変わってもらったし仕方がないわね」などが聞こえてくるが、「頼んだぞ」と言って無線を切る。

 

「生徒は……あの様子じゃ無暗に動かさん方がいいな。後から来た用務員たちに任せよう」

 

 そう判断し、快人はレチアたちを家に案内するのだった。

 

 




投稿キャラを出させていただきました。


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帰宅

 豪邸や別荘に近いほど巨大な家の前にやって来た快人一行は、さっそくその中に入る。

 

「お帰りなさいませ、快人様」

「ああ、伝えているとは思うが、客人たちだ。丁重に頼む」

 

 見ての通り屋敷は広いので、こうやって使用人を雇っているのだ。まぁその使用人の殆どは、以前の休日編にいたサヤカやミカエルのような麻希さんが助けてきた人たちで構成されている訳だが。

 

 

「随分広くなったね~、使用人もつけちゃって~」

「客が多い時用の別荘だ。普段住んでる家はもっと小さいぞ」

 

 目の前の豪邸は、客人用の家らしい。麻希さんは、良くも悪くも顔が広いので、別荘やマンション、ホテルなどを複数と言うか全世界に持っている。これもその内の一つだ。

 

「じゃああの家を知ってるのは私だけ~?」

「お前だけじゃないが、少ないだろうな。組織のトップが住むような家じゃないから」

 

 昔住んでいた家は今も普段使い用にしている。その家は、日本ならどこにでもありそうな、家族用のアパートの一室である。

 

「快人さん。夕飯を作りたいので、キッチンを借りても?」

「好きなように使ってくれ」

 

 ヒョウドルは礼を言いキッチンの方へと向かい、他の悪魔たちも案内されるがまま、部屋に通されていく。

 

 

「おい、お前も行くんだよ」

「?」

 

 なぜか一人だけ残ったレチアに、呆れた様子でそう言う快人だが、肝心のレチア自身は不思議そうな顔をしていた。

 

「お前用の部屋もあるんだ。っておい、嫌な顔をするな。なんでそうなる」

 

 レチアがいつ気が抜けて力を放っても、元の大きさに戻ってもいいように広くて特別な部屋を用意していた。だがなぜか、本人はそれを聞いて文句がありそうな顔をしている。

 

「昔みたいに同じ部屋で寝よ」

「無理があるだろ。てかあの時は家が狭かったからだ」

 

 レチアを家に迎え入れた時は、アパートだった。勿論、客人を入れるようにはできていないので、寝るところは同じ部屋になっていた。

 

「じゃあ広くなった今なら一緒の部屋で寝てくれる?」

「いやそれも無しだ。前みたいに抱き着かれたら面倒だからな」

 

 勝手に抱き枕にしてくる上に、レチアは動かないし起きないので、快人も動けなくなる。それは非常にめんどくさかった。

 

「自制、できると思うから……ね?」

「なんで疑問形なんだよ。とにかくダメだ。子供でも家族でもないんだから、男女が同じ部屋にいるのは問題があるだろ」

 

 精神面ではさて置き、快人も色々と成長している。たまに麻希さんは潜り込んで来る時以外は、一人で寝るのが当たり前だ。やっと母親から顔方されたのに、と思っているぐらいだ。

 

「じゃあ家族になればいい?」

「変なこと言ってないで部屋に行けって。あっちの奥の方だ。俺は疲れたから休みたいんだ」

 

 そう言って去ろうとするが

 

「いいじゃん、ケチ」

「は?」

 

 そうチラッと言われて、しょぼくれて部屋に向かうレチアを、理解できなさそうな顔で見る事しかできなかった。

 

 



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話し合い

 レチアが部屋に行き、ベッドで寝転がってムンムン言っていると、部屋に誰かが入って来ていた。

 

「レチア。少し話がある」

「……麻希さん……」

 

 少し期待していたようだが、それを振り払い麻希さんの方を見るレチア。

 

「ワタシの息子に告白じみた事したみたいね」

「そうだけど~。振られちゃったけどね~」

 

 悪気のなさそうなのんびりした口調で、そう言うレチア。

 

「でしょうね。まぁ、息子はあの人に似ていい男だけど~。結構鈍いわよ~」

「ふ~ん。てっきり前みたいに忠告しに来たのかと思ったよ~」

 

 私の息子なんだからそうなるのは当然 と言う麻希さん。それに対し、昔向けられた忠告ではないのか と少し安心するレチア。

 

「もうそろそろワタシも子離れしないとな~ってね。あの子が未熟なのが気がかりだけどね」

「じゃあ貰ってもいいって事?」

 

 それを聞いたレチアは、食い気味に期待の目線を向ける。

 

「邪魔しないってだけよ。まぁあの子もモテモテだし、アンタに傾くかどうかは知らないけどね」

「それでもいい。希望は見えたから~」

 

 満足して嬉しそうなレチアを見て、もういいか、と思った麻希は、本題に入るために真面目な顔をした。

 

 

 

「で、こっからは真面目な話。悪魔界の方はどう?何か違和感は?」

「違和感だらけ、大きく干渉されてないから、気にしなくていいよ」

 

 少し真面目になり、怠惰が抜ける。理由は簡単だ。麻希さんが明らかに疲れているからだ。隠してはいるが、怠惰として悪魔としてそう言うのはハッキリと分かる。

 

「そうもいかない。だから、アンタもわかってると思うけど、悪魔界には行かせてもらう」

「別にいいよ。でも無茶しないでね。貴方も悪魔界も長くはないだろうし」

 

 落ち着いて、そして悲しそうにそう麻希さんに伝えた。

 

「そうなのか。悪魔界も、原初であるアンタも、どこもそうか……」

「うん。やっぱ無理はいけないね。最近は上手く寝れないや」

 

 レチアは、原初最後の生き残りである。あの悪魔界を根本から支える、魔界龍と同じ立場の最高責任者。だからこの状況は、どこまでも苦々しく思っていた。

 

「原初の、私の兄妹たちはみんな、全員いなくなっちゃった。私たちしかあの世界を支えられないのにね。ホント、何も言えないよ」

「でしょうね。悪魔界がなくなったら、殆どの悪魔も滅びる。特にあの世界出身の悪魔はそれは避けられない」

 

 悪魔界は、この世界で悪魔たちの故郷であり、存在定理である。本来この地球に刻み込まれていたそれは、膨れ上がった負荷を分散するために悪魔界と言うものに分かれてしまっていた。他の世界も同じだ。

 

「2000年だったっけ?それよりも前だったかな?私が生まれたのは。傲慢と強欲と憤怒のお兄ちゃんに、怠惰の私、暴食、色欲、嫉妬の弟と妹たちが出来たの」

 

 昔を思い出すかのように語り出すレチア。

 

「私はずっとダラダラしてて、みんなと楽しく生きて、悪魔たちも増えていって、人間とか神とかとも争って……」

 

 懐かしかった。いつも夢に見る。今でも忘れないほどに。

 

「気が付いたら一人ひとりいなくなって、知らない悪魔界が出来てて、貴方が来た」

 

 これがレチアが知っている歴史だ。寝ている間が多く細かい所は把握していないが、大きなところはちゃんと分かっている。

 

「逆行が使われているのは、20年にも満たない範囲。だけど、繰り返す度に並行世界を巻き込む。そして一つとなった世界は、最適化のために他の付属世界を生んだ」

「分かってる。私が生きた世界はもうどこにもない。それも分かってるよ」

 

 ムダな所を省かれ、最適化された世界に歴史などない。現在を基準とした過去が形成されるだけだ。矛盾を突かれないために記録も記憶も調整される。程度の差は知れているが、それを認知し過去を知るのは、取り残された者か世界に匹敵する者だけである。

 

「どこが変わったかよね?全部教えるよ」

「そうしてくれると助かるわ」

 

 そうして二人は、詳しい事を詰めるために話し合いを続けるのだった。

 

 



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今日の学園は平和です。

 レチアが来てから数日が経ち、五月も中旬が過ぎようとしていた。

 

「ふ~平穏平穏」

 

 廊下の掃除を終えてモップを洗う。そして気配を探り、中庭に意識を移した。

 

(レチアは静かに寝てるな。悪魔たちも大人しいし)

 

 なぜレチアがいるのかと言うと、一人だと暇だと言って勝手に学園に付いて来ようとしたので、客人として招く事にしたのだ。

 

(抑えた怠惰のお陰で事件も起きずに済んだのは助かったな)

 

 レチアが適度に怠惰を振りまていくれるお陰で、学園の中にいる者たちは少し大人しかった。これにより毎日何かの事件で騒がしい学園は、普通の学校のように大人しくなったのだ。

 

「これだと、ずっといてくれると助かるんだがな。まぁ無理か。遅くても今月中で帰るって話だし」

 

 レチアはああでも悪魔界の王の一人だ。今回は麻希の襲来のせいで地球に逃げて来たが、本来なら悪魔界にいなければいけない存在である。

 

(こうやって大人しくしとけばいいのにな。事ある毎にちょっかいかけて来なきゃ、普通に感謝できるんだがな)

 

 この数日間、レチアは快人にアタックしまくっていた。それはもう、偶然を装ったり、強引に誘ったりだ。しかしされている当の本人は、一切気づかずにのらりくらりと受け流されていた。

 

(レチアも子供みたいな事をするな、本当……)

 

 しかしレチアは下手だった。快人からすれば、昔やって来た延長線上にしか感じられず、そして狭間の住人は好意は感じるが恋愛には疎すぎた。

 

 

「ん?」

 

 そんなことを考えながら次の場所に行こうと移動していると、二人の女性、セイスドとダイヤズと出くわしていた。

 

「あ、快人!前はよくも仕事押し付けてくれたわね!悪魔相手に何の対価も無しにいられると思うっ!ぐえっ!?」

「やめなさい、セイスド。前にお礼はしてくれたでしょ。それにしても今度もまた大きなのを相手してるみたいで」

 

 炎の槍を生み出し速攻で攻撃を仕掛けようとしたセイスドだが、ダイヤズに襟首を引っ張られ倒れる。

 

「そちらこそ相変わらずで。まぁこっちは大したことはないよ」

「相変わらず強い人。悪魔の王を相手にそう言えるのはあなたたちぐらいでしょうね」

「やめろ放せ!」

 

 暴れるセイスドを摘まみ上げながらそう言うダイヤズ。

 

「知り合いだし、大人しい部類の悪魔だからね」

「悪魔とは思えないわね。みんなこんなのとばかり」

「変な目で見るな!そう言うあんたもエルフとは思えないぐらい戦闘狂だったじゃん!」

 

 こういう悪魔が目立つので酷い印象を持たれがちだが、実は大人しい奴も案外いる。悪魔に共通するのは契約順守なとこぐらいだ。

 

 そしてエルフはと言うと……

 

「エルフは温厚そうに見えるだけでそうでもないもの。魔界暮らしを舐めないでね」

「それを言うなら悪魔界だって同じだ!」

 

 エルフは魔界の森に住まう種族の一種だ。長寿で美男美女、温厚で争いを好まない……ように見えるが、事自分たちの縄張りを守るためなら、あらゆる手段を行使する森の狩人だ。まぁ大抵の場合は防衛メインなので、昔のダイヤズのように積極的に戦おうとする者は少ないが。

 

「まぁまぁ二人とも。もう昼休みだし、そこら辺でね。あとあの時のお礼代わりにお菓子作って来たのでどうぞ。ちゃんと家族分もありますから」

「私の夫と娘に寂しい思いをさせたんだ。同然だな!」

「ありがたくいただくわ。きっと夫も娘も喜びます」

 

 因みに二人とも既婚者で幼い娘を持つ一児の母だ。なので、仕事を押し付けてしまった事を少し悪いと思って、手の込んだ菓子折りを渡す事にしていた。そうしてそれを渡すために快人は、二人の家族自慢の話を聞きながら休憩室に向かうのだった。

 

 



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休日だ

 休日になり、快人はレチアに付き合いながら町中を歩いていた。悪魔らしさを抜いただけとは言え、レチアは珍しく人間に擬態して、護衛たちはそれに驚いていた。因みに彼女らは、擬態して付かず離れずを維持して護衛をしている。

 

「母さんが行ったけど、大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ~。あれは単なる確認だしね。あと国の方も私の影武者のカケトナがいるし、その娘のカケトも護衛として優秀だからね~」

 

 快人は詳しい事は知らないが、レチアは大丈夫と返す。一応、国としての体裁は保っているようだ。

 

「へ~」

「それに後釜もいるしね~。ロゼリアって言う、悪魔と竜のハーフの子。悪魔竜ってところかな?詳しい事は知らないけど」

 

 悪魔界にも竜やその他の生物っぽいのはいる。これは、様々な世界の悪魔などが混ざった影響だ。ただそのすべてに共通するのが、悪魔の要素や関係がある事だ。

 

 

「子供いんのか?」

「違うよ~私はずっと独身だよ~。あの子は拾ったの。後任候補の一人ね。その中でも結構優秀なんだ。私がいついなくなっても大丈夫なように」

 

 レチアは起きている時間が短いくせに、一度寝たら最低でも数十年は起きない。その間を任せる悪魔が選ばれるのが、後任の王候補たちだ。

 

「悪魔って長生きだったよな?レチアが寝てる期間任せる奴か」

「そんな感じ~。悪魔にとって、特に怠惰系列の悪魔は数十年とか割とすぐだからね~、多分。なのに私は十年起きてたらいい方だからさ~」

 

 悪魔にとって十年は長い時間ではない。なんせ悪魔は数百年は普通に生きるのだ。上位の方になると千年に手が届く者も合われる程度には長寿だ。なのでレチアは、起きている時間がかなり短い。

 

 

「今回は長いみたいだがな」

「まぁ今回はね~。結構長いね~」

 

 レチアが目覚めてからすでに10年は過ぎている。なので今のレチアはいつ眠ってもおかしくない状態のはずだった。しかし、見た目によらずにぴんぴんしている。

 

「もうすぐ15年目か。話を聞く限り」

「そうだよ~。最長記録!ってところかな~」

 

 おっとりとしつつ、少しだけ元気を出すレチア。それに対し、よくなるな~、体調崩すなよ、と声掛けをする快人。

 

「別に頑張ってるわけじゃないのよね~。私はどこまで行っても怠惰だし~」

「そう言う時もあるってだけか」

 

 怠惰の本質は、『本来の働きをしない』ところである。休みなさいと言っても休まない、やらなければいけない事をしない、何かを欠け捨てた時点で、程度の差はあれど彼女にとってそれは怠惰なのだ。まぁ彼女の怠惰判定は大きすぎるが……

 

「それにっと、着いたよ~」

「ここは……」

 

 そこは、この町で有名な製薬会社のオフィスビルだった。

 

 




 投稿キャラを出させてもらいました。


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休日ね

 ビルの中に入り受付に話を付けた二人は、いきなり客室に通されていた。

 

「話付けてたのか?」

「うんそうだよ~。行くよって思念送っておいたんだ~」

 

 一方的に思念を送って予約していたようだ。迷惑この上ないが、言ってもムダだと思われているのかちゃんと用意してくれていた。

 

「……まぁ今度からは相手の都合も聞けよ」

「ん~わかった~」

 

 いつものように聞き流すのではなく、珍しく素直に頷くレチア。それに違和感を覚えたが、偶には人の話を聞くもんだなと流す快人。そんな感じで客室近くに来た時だった。

 

 

「あ、快人さん。おはようございます。なぜうちに?」

「降魔さん。こいつの付き添いだ」

 

 そこには渡辺の彼女兼社長令嬢の降魔がいた。

 

「この方は?」

「レチアだよ~。キミのおばあちゃんに用があってね~。ちょっと遊びに来たんだ~」

 

 そう呑気に言うレチアは、サラッと降魔を見て。

 

「レチアおばさん?」

「そうだよ~。わかんなかったかな~、久しぶりに擬態したからね~。ん~それにしても、やっぱあの子に似て綺麗だね~」

 

 数年ぶりな上に、以前出会った時とは雰囲気も見た目も違ったのでわからなかったようだ。だが言われてみればとすぐに認識し直していた。

 

「いえそれほどでも。レチアおばさんこそ、すごくキラキラして変わられたようで」

「そうかな~、えへへ。お世辞でも嬉しいよ~」

 

 降魔に褒められ嬉しそうにするレチア。そんな感じで世間話をしていると、降魔の後ろから声をかけられていた。

 

 

「麗奈。廊下で話すと相手にも周りにも迷惑でしょう。それに今日は渡辺さんとお出かけするのでしょう?時間は大丈夫なんでしょうね?」

 

「あ、そうでした!ありがとうございます、お婆様。では私はこのあたりで」

「デートかな?時間取らせちゃってごめんね。いってらっしゃ~い」

 

 降魔改め麗奈は、そう言うと頭を下げてそのまま出て行った。そのままレチアの会いに来た目的の悪魔がこちらにやってくる。

 

 その姿は、着物を着こなしたパッと見婆さんに見えない程美しく綺麗な人だった。

 

「ラグニア~久しぶり~」

「久しぶりです、沙麗さん」

「貴方って悪魔は。いきなり思念で来ると言って詳しい事も何も言わずに予定を進めて。配下を使ってでもいいからもっとちゃんと報連相しなさいよ」

 

 能天気なレチアと違い、目の前のこの会社の会長婦人のラグニアこと沙麗は呆れながらそう言うと、普通に客室に案内した。

 

「気も予定も張り詰め過ぎたら病むよ~」

「お前は極端すぎると思うぞ?」

「快人さんの言う通りね。貴方は何もかもダラしなさすぎるのよ。あと悪魔名で呼ばないでくれる?」

 

 悪魔は自分の名に誇りとプライドがあるがあまり、それが弱点にもなりうるので本名を呼ばれるのを嫌う。これは自分の正体を隠すためであり、相手に対策を取られないようにする初歩中の初歩だ。勿論、マイナーだから知らんやろとか、知られたところでなんてことない悪魔たちもいるので一概にそうと言う訳ではない。常識の一つにあるだけだ。

 

「そうだったね~、ごめん沙麗」

「わかればいいんですよ、まったく……」

 

 そう雑談して、逆室に着き中に入るのだった。

 

 



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休日です。

 客室に入り、席に座った三人は、レチアの話を聞き少々呆れていた。

 

「ってことなんだよ~。だから良かったら泊めて~」

「話を聞く限り、そちらで十分に思うけど?」

「まぁ、こっちも部屋は準備できますけど」

 

 行き当たりばったりなレチアにため息を隠せない二人。挨拶ついでとは言え、ちゃっかりしている。

 

「でも~。私たちが居たら迷惑じゃない~?快人は?」

「別にホテルはいくらでもあるし、母さんも許可している。特に問題ないけど」

「貴方にもそんな気遣いで来たのね……」

 

 酷評だがその通りでもある。後先は考えないが、気遣いぐらいはできるのだ。まぁそれが身を結ぶかどうかはまた別の話ではあるが。

 

「とりあえず、こっちはサブとして来たのね?だったらその時は手を貸すわ。貴方には恩もあるし」

「そうだったけ~?」

 

 売った運すら忘れるのがレチアである。昔の記憶を探るが、途中でめんどくさくなり不思議そうな顔をしていた。

 

「私がこちらに召喚された時に色々手を貸してくれたでしょ?国の方にもね」

「少し失礼します。そうですよ、レチア様。一度寝られる前の、70年ほど前の事です。配属したての最初の大仕事だったので、よく覚えています」

「そうだったけ?レジェンド」

 

 控えていたレジェンドが影から出てきてそう説明する。

 

「はい、沙麗様が王を辞め、こちらに隠居する手伝いをしろと。そう命を受け、色欲の国の手伝いに行っておりました」

「あ~思い出した~。人間と結婚したから悪魔界にいられないって、相談されたね~。あれかな~?」

 

 他人に説明してもらわないと思い出せない。これがレチアクオリティである。

 

「沙麗様が召喚されての捜索には関わっておりませんが、その後の事ならお答えできます」

「そうだったね~。急にいなくなった時も大変だったし~」

 

 その昔、ここの当時若社長に召喚された沙麗は、そのまま仕事の手伝いをする傍ら、めでたく結ばれて王を辞めたのだ。そしてレチアがその後始末をしていた。こんなんでも悪魔界のトップなのだ。

 

 そんな感じで雑談をしつつ、挨拶も終え、帰ろうと席を立とうとするが。

 

「ちょっと二人で話すから先に行ってて~」

「ああ、わかった。外で待ってるよ」

 

 そう言って先に出ていく快人と護衛たち。それを確認した瞬間に、レチアは怠惰とは思えないほどさり気なく、素早く力を行使して、バレないように部屋を隔離した。

 

 

「何のつもり?」

「いや~、ちょっとね」

 

 それを見た沙麗はいきなりの事で反応が遅れ、レチアに怪訝な顔を向ける。だがそこにはいつも通りのレチアがおり、何事もなかったかのように口ごもっているだけであった。

 

「何が言いたいの?」

「あの~え~と、相談なんだけど……恋愛の仕方ってどうやるの?」

 

 恥ずかしそうに、だが真剣なレチアの様子を見て、ため息を呆けた後にため息を吐く。

 

「一緒にいて楽しくて安心できて助け合えれば勝手に……って、そのために?」

「うん、だって、そう言うの得意そうだし、色欲だし、悪魔だし」

 

 それを聞いた沙麗は、私の色欲はそんなんじゃないし、悪魔なのは同じでしょうがと思いつつ、昔を思い出して懐かしさを覚えながら相談に乗るのだった。

 

 




~おまけ~
・悪魔界は実は魔界に統合される可能性が大きかったが、最古で悪魔界の支柱であるレチアが生き残ったことにより、悪魔界として独立出来ている。

 各世界は、地球から切り離された者たちは似た者同士で寄り集まって各自の世界を作り出す→世界が出来るが弱い順取り込まれたり壊れたりして、その残骸が地球や他世界に集まる。と言う形で成り立ってる。最終的には、地球以外のすべての世界は滅んでその残骸が地球に住まう事になる。
 こうなっているのは、「異能や特殊な存在と言う名の異物が存在しない普通の世界に戻ろうとしたけど無理だったので、仕方がなくその力を使って生き延びようとする世界の仕組み」が原因だったりする。と言うほぼ詰みかけの世界観。


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