オワタ式な神機使いの生き方 (てっちゃーんッ)
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1話

 

はいはいどーも。

 

突然ですが俺、台場マロンと言います。

 

『台場』と言えばわかる人もわかると思う。

 

俺はその人の"弟"にあたります。

まぁ、それは後々として…

 

 

 

うん、 漠然と告げよう。

 

こんなところ(GE)に転生してました。

 

はー、最悪ぅぅぅ!!

ワイはただのサラリーマンやったんやぞ!?

 

なしてこんな酷いところに放り込まれたん??

 

神のイタズラですか?ゴッドイーターと言われるくらいだから俺の命すらもイタズラですか?

 

くっそぅ……しかもここに来る前に何があったのかも覚えてない。

 

もしやトラックに轢かれた?トラックドライバーを異世界行きの切符扱いとか可哀想だろ。俺も可哀想だけど。

 

ああ、わかんねぇ。

全く記憶にございません。

 

とりあえず何とか生きている。

 

運が良かった方だ。

 

しかし最初はこの世界がゴッドイーターの世界だと知らずにいた。気づいたらこの荒廃した世界に降り立っていた。そりゃもうショッキングでした。

 

なんでこんなことになってるんですかねぇ?

本当に俺がなにをしたって言うのですか。

 

しかもこの世界に降り立ってからは体は縮んでいた始末だし。どこぞの高校探偵のように遊園地で黒ずくめの男を追いかけたりして、後頭部を叩かれてくすりを飲まされたとかそんな記憶はないです。そんな危険なことしたくないし。

 

そんな感じに天に向かって神様に吠えていたら横から荒神が吠え返してくれた。この時に理解した。もしかして?と。

 

それから現実逃避と共に死にものぐるいで逃げた。もちろん最初はわけのわからない化け物だったけどそれはオウガテイルと呼ばれる小型のアラガミ。しかし子供サイズまで縮んでいた俺からしたらオウガテイルもなかなか大きな生き物であり、森の熊さんに追いかけられてるような気分だった。いや、まだ森の熊さんの方が優しいか?そんなわけないか。

 

シロクマでさえ時速40キロは出せるから無理だな。そもそも人の身では大差は無い。ともかく混乱と恐怖の中で息を切らしながら走っていると地上に転がっているとスタングレネードを踏み潰して光が瞬いた。

 

踏んだ時に靴は焼けてしまったがオウガテイルは目潰しをくらい俺はなんとか逃げ切った。そして途方に暮れていたところでとある者たちに助けられた。大きなチェーンソーのような剣を振り回してオウガテイルを軽々となぎ倒してくれた。

 

 

この時、俺は廃回し尽くされたこの世界で戦う兵士の姿を見て一つの単語が頭に浮かびあがった。確信したのだ。

 

 

 

 

『ゴッドイーター』

 

 

 

 

残酷な世界であることを知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さーて、今日もアラガミのフレンズがどったんばったん大騒ぎ。

 

だけどそれは「たのしー」じゃなくて「多ノ死(たのし)ー」って感じに心が荒んでいく始末である。

 

はー、泣きそー。

 

でもオラクル細胞ないと戦えない俺たちだからそんなことも言ってられない。そんなわけで俺は望みもしないけどアラガミとフレンズ(P53侵食因子)した訳よ。

 

そしてそのままとある実験室で始めて出会ったそのフレンズ(神機)と友達の印として「よろしく」の握手したけどそのフレンズはツンデレなのか握りしめた瞬間過激的な痛みが伴った。

 

なるほど。

 

これが分か『血』合うって事か。

 

 

はは…(嘲笑い)

やかましいわ。

 

 

いや、たしかに人間とアラガミの侵食因子が混ざり合い、ゴッドイーターとしてこれからその神機と『分かち合う』ことになるけど、もっと穏やかに事も進めないのかなぁ。

 

まぁ人知を超えると言うのはそれほどにと言う事にしておこう。ともかくマジで痛かった。

 

舌を噛みちぎって死のうと思える余裕もない程に。

 

しかしこれで俺にも力を得た!…って、普通な感じには終わらなかった。

 

聞き逃せなかったことが起きる。

 

不幸か幸運なのか、研究員からは『新型神機使いの"プロトタイプ"』として神機握りしめさせられた。

 

これってつまり俺はさりげなく『実験』扱いでゴッドイーターにさせられたんだよね?プロトタイプってそういうことですよね?いやまぁ俺はたしかにゴッドイーターになりたくてを志願したよ?でもまさか新型の実験扱いで使われるとは思いもしなかった。

 

いやでも時期的(無印開始前)には新型が現れ始めるくらいだ。そろそろ新型神機使いもちょいちょい溢れてくるとは思ってたさ。

 

しかしそんな事を考えれないほど緊張していたところに研究員から「ゴッドイーターやろうぜ!お前実験機の新型な!」って言われたので俺は『新型』の単語に心躍らせながらそのままゴッドイーターなりました。

 

だがゴッドイーターの検査を終えたら「実はこれって実験でもあるんですよねテヘペロ」って感じだった始末。検査(建前)であり実験(本音)だったらしい。 しかしスターゲイザー曰く「君は成功率は高いよ!」って言ってたからこの実験は成功することにはなってたって事だ。

 

 

ふ〜ん。

 

……いやいやいや!

 

人を騙すのは良くない!!

 

もし失敗してたら俺死んでたことになるよね!?って問い詰めまくろうとしたけど疲労感故に倒れてしまい、気づいたら一般兵の部屋にあるベッドに寝転がされていた。

 

 

ああもう無茶苦茶だよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

って出来事はもう一ヶ月前の話。

 

いまではフェンリルの犬だよ俺。

 

あれ?そういやフェンリルも()だからこうなると犬の犬ってことか?

 

にほんごむずかしいネ。

 

そんで、そんなワンワンなフレンズの組織の傘下に入った俺はゴッドイーターとして毎日アラガミを狩ごっこ。極東と言う名の動物園でどったんばったん大騒ぎ。生きた心地がしない生きる毎日を生きている。

 

でもゴッドイーターになれた者はアラガミと渡り合える力を得る。もちろん俺にもその力はあるので戦う回数は勝手に増えていき、修羅場をくぐり抜け続けた。

 

気づいたらアラガミの動物園だろうとクソッタレな職場でも生き延びて行けるようになってしまう。人間はそんな生き物。

 

だが、しかし。

 

 

俺の使用する神機が特殊過ぎるせいで…

その…

なんというか…

うん、ヤバイのだ(語彙力ゥ…)

 

説明するよりも見てもらった方が話は早いと思う。

 

 

 

 

剣: オラクルソード

 

銃: 203式キャノン

 

盾: 超回避バックラー

 

 

 

 

どうよ?

 

銃はともかく【剣】と【盾】がなんかアレじゃないと思いませんか?

 

ゴッドイーターのゲームを114時間か、514時間以上やりつくしてる方ならこの装備を見て「あっ(察し)」って思わない?

 

うん、思いますよね。

 

そう、生きた心地がしない理由の一つ。

 

 

俺の武器は()()()()()装備なのだ。

 

 

 

「何度見ても斜め上過ぎるね、コレ」

 

 

そんな俺はガラス越しにメンテナンスを受けてる途中の神機を見てこれまでの事を思いふけていた。

 

 

「毎度ながら思うけど、オワタ式な上にオラクルソードプレイとか上級者かよ」

 

 

俺の神機はDLC特有のぶっ飛んだ武器である。

 

例えばスイーツ系の武器とかね。

 

あのあたりだ。

 

ネタ武器と捉えても構わない代物。

 

 

「マロンくん? ……ふふっ、えい」

 

 

 

スススッ、ス〜ゥ、と首筋をなぞられる。

 

唐突な快感に。

 

 

「ファ!? インド人を右に!?」

 

「!?」

 

 

思考の中で首筋を指で撫でられてしまい、ナンでも合いそうなニッコリニコのインド人が踊りながらハンドルを右に傾けるそんな幻覚が脳内に映ってしまう。いやお前誰だよ。

 

そのせいで驚かせる側のリッカが驚いていた。

 

 

「悪い、なんか変な言葉でた。あとおはよう」

 

「う、うん、お、おはよう。イタズラした私が言うのもなんだけどそんなに驚かなくてもいいじゃない?」

 

「いや、まぁ、考え事してたところからに不意打ち側は流石にね?… って、後ろから人差し指で首筋をくすぐらなくても良いので?次は目力先輩の咆哮が出でも知らないゾ」

 

「後ろから見てまだ目が覚めて無さそうだったから少しイタズラ込めて覚ましてやろうと思ってね。目力先輩ってなんだろう…」

 

「たしかに覚めたよ。 ありがとう」

 

「それは良かった。それよりも自分の神機を見てどうしたの?」

 

「いや、まぁ、その…… なんだかな、って思って」

 

「あー、そう…だね」

 

 

 

仕方ないよね… っと、最後に言葉を吐ききった整備班のリッカはその後は何も告げない。

 

リッカも俺の事情を知ってるため、余計に何も言わないことを選んでくれている。

 

 

「まあ、コレに関しては事故だよ。今となっては命あるだけマシだと思ってるさ」

 

「でも、こんなのって…」

 

「そうだな。普通は良くない。この苦労もあの装備は取り替えれたら解決するんだ。何度もそう思った。しかしプロトタイプとしての代償か、はたまたは呪いなのか、予想としなかったイレギュラーだ。この装備を手放すと俺の中のオラクルが安定しなくなる」

 

「…」

 

「姉は適合率が高い。しかし俺は低い。まあ実際のところ彼女と血の繋がりがないからそこは個人差が激しくなるのが普通の話だとしても、やはり考えちゃうのよね」

 

 

 

何度も言うが俺は新型神機使いのプロトタイプ である。

 

そして新型神機使いは私たち研究者による研究によってちゃんと機能できるのか?その最終確認のために実験機として選ばれたのが俺。その狂気から俺と言う神機使いが誕生した。

 

 

新型のプロトタイプ…

 

これから誕生する存在のための"土台"として扱われる重要な存在。

 

響は良いかもしれない。

 

でも悪くいうならば"モルモット"としての扱い。

 

不確要素をあぶり出すための消耗品。

 

失敗すればその者は運が悪かっただけの話だ。

 

そしてその実験は成功した……表向きは。

 

表向き。

 

俺は新型になった。

 

プロトタイプだがしっかり剣と銃を持ち合わせ、切り替えて戦えることが出来る。

 

新型としては成功である。

 

しかし予想もしなかった支障(失敗)が起きた。

 

俺に統合したオラクル細胞が突然変異を起こしてしまい、最終試験(実験)として扱われたオラクルソードと超回避バックラーの神機以外をこの体が受け付けなくなってしまった。

 

他の神機に触れると激痛が走るほどの拒絶反応を起こすようになってしまい、もし無理やり神機を変えてしまうとオラクル細胞が過激に反応してしまい、アラガミ化一直線の危険性もあり得るらしい。

 

そんなわけでこれら以外の装備を切り替えることが不可能になってしまった訳だ。

 

元々俺の適合率がそれほど高くない事も原因らしいが、この事実を教えてくれたスターゲイザーは申し訳なさそうにしていた。

 

それはもう責める事も出来ないほど後悔を纏ったスターゲイザーの姿は今でも覚えている。

 

もちろん当初はオラクルソードと超回避バックラーで結合を終えさせたら俺は他の神機に切り替える予定だった。

 

あくまで実験を成功させるための過程として扱われた。新型として成功させるため。

 

そうすれば新型神機使いを誕生させた極東支部の実績は他の支部よりも最先端を行く支部として大きな権限を持てるから。

 

極東は実績を欲した。

 

実験を『成功』と言う形で必ず納めるために生まれてしまった()()の果てに俺がいる訳だ。

 

 

ちなみに超回避バックラーとオラクルソードが選ばれた理由はとても簡単。

 

()()()()()()()()()()()()()とされているから。

 

どんなに適合率が低くてもこの二つなら成功しやすいから。そして丁度そこにいた俺を半分騙す形で実験は進められた。

 

こんな感じにたまたま運悪くモルモット扱いされてしまった悲しい神機使い。

 

それが、今の俺である。

 

 

 

「ごめんね、マロン」

 

「え?」

 

「私にもっと力があったらマロン君が不自由無く戦えるようにあなたのために神機を変えることだって出来る。なのに神機を整備するエンジニアとして何も力になれないなんて…」

 

「コレに関しては整備士の範囲外だ」

 

「け、けど…」

 

「リッカ、そう悲しまないで。一応この神機も扱い方次第では非常に強い武器だから」

 

「ッ、でもこれはマロン君を守る武器じゃない!」

 

「そうだな。たしかに超回避バックラーは紙切れの様にヘッポコだ。オウガテイルのような小型アラガミでも一撃で粉砕してしまう。それにオラクルソードでは傷を与えられない。この神機で近距離でアラガミを倒すことなど不可能」

 

「だ、だったら!」

 

「でも斬りつけることでオラクルを多量に回収して、破壊力のあるブラストで肉片にする。アラガミを倒せないことはない。あと紙切れの様な盾だからこそ羽のように軽い。だからどんな攻撃も『当たらなければどうってことない』って精神で立ち回れるようになる。超回避と言うに相応しい」

 

 

まあ実験成功を収めるための歯車なんだから使用者の命を考えてない神機だけどな。守れないし、逃げるだけしかできない。

 

こんなトチ狂った武器はゲームだけのネタだけで良い。

 

 

「戦えなくはない。でもそれ以上に危険なのは変わりない。でももうこれは仕方ないんだ」

 

「本当に…それで良いの?」

 

「良いわけがない。本音を言うならば俺はもっと強固な装備で固めたかった。頼もしい武器を握りしめてアラガミとは正面から立ち向かいたかった。俺を弟として迎え入れてくれた姉を守れる男としてまっすぐ踏みしめたかった。けどもうコレは仕方ない」

 

 

仕方ないことだ。

 

もう過ぎた出来事。

 

でも全てを不幸とは思わない。

 

武器は不自由だけど___弱くない。

 

原作通りバーストモード時の恩恵がとても大きい神機。近接の攻撃手段はゼロに等しいが、生存率の高い装備でもあるため、活かし方次第ではアラガミの殲滅も捗る。一人で動く分には非常に生き残りやす装備だ。

 

でも一撃も受けることが許されないオワタ式な装備なのは確か。

 

一歩間違えれば死あるのみ。

 

この場合の俺は姉以上に軟弱である。

 

だからどんなミスもアクシデントも無くしていかなければならない。

 

ミスは自分自身だとして、アクシデントは神機の調子による。

 

だからそこら辺はリッカ頼りだ。

 

 

 

「だからリッカ、いつも通りメンテナンスよろしくね」

 

 

「ッ、うん!任せて!ちゃんと任されてあげるから!でもそのかわり自分の事もちゃんとメンテするんだよ?」

 

「大丈夫だよ。ミッション返し前はちゃんとアキレス腱伸ばしてるから」

 

「もう、そういう事じゃないんだけど…」

 

「アラガミなんて化け物から絶対に攻撃を受けないためにも俺自身の体は常に柔軟で無ければならないからな。まぁ任せとけ。これでもヴァジュラを横切る際に喉元撫でて地面に転がしたことあるから」

 

「無茶はダメだからねー!」

 

 

 

リッカの声を聴きながらエレベーターに乗り込み、元気に声はシャットアウトされる。

 

 

 

「極東支部へ加入時に対する扱い方は酷かったけれど悲観的になり続ける必要は無い。別にあの武器で戦えないことはないのだから」

 

 

 

だけど忘れてはならない。

 

この世界はゲームから編み出された存在だがゲームのようにリセットやリスポーンなんて許されない。

 

誰だって命はただ一つだけな物語。

 

今日も死なないように上手く立ち回るだけだ。

 

それでも吐き慣れたため息と共に今日もクソッタレな職場に直行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は過去に愚かな事を考えた。

愚かな事を仕出かしてしまった愚か者だ。

 

人類のために研究を続けていた。

 

そんな私は間違いを犯した。

 

同じ志を抱えていたあの頃の3人との絆を絶って別の道を進んでしまった。

 

今はスターゲイザーとして極東支部の研究員の位置付いている。

 

 

それはともかくとして極東支部の支部長であるヨハン・シックザールが突如この極東支部で新型神機使いを誕生させるためのテストを行うと言い出した。

 

やや早計な判断に私は首を傾げたが、彼は早い方が人類のためになると言い。どこか焦りを見え隠れさせていたのは気のせいだろうか。

 

しかし極東支部は他の支部よりも最前線を走り続け無ければならない場所。なんせ人類最後の希望と言われるほどの場所だ。

 

それを目の敵にするかのように極東以外の外部の支部もココ極東支部に負けじと研究を急いでいた。

 

私も研究員だからわからないことはない。

周りの人間の探求に劣るのは少し癪だからね。

 

それはそれとし私もヨハンの判断には半分ほど同意であった。

 

極東は既に新型神機使いの実用性など、あらゆるモノははっきりさせている。

 

……これは理論上に過ぎないけどね。

 

でもデータは嘘つかないことを信じる。

 

ガラス越しに見下ろす。もう間も無く新型神機使いな誕生する。それを待っている。

 

しかし戸惑いがあった。何せ成功率は95パーセントほどであり、残りの5パーセントは不安要素として残していた。

 

その残りの不安要素を全て取り除いてから私は新型神機使いの誕生させることを望む。

 

何故ならこれから旧型と呼ばれることになる神機使いと同じP55因子を使うことでゴッドイーターは更に新型へと進化する。

 

だからその進化を確実なものとするためにはやはり確実(100%)に手を伸ばさなければならない。

 

だが常に極東は先を行かなければならない場所だ。だから遅れを取ることは許されなかった。

 

極東にいる研究員(狂人)達もそれを望んでいた。

 

それ故に私の制止も無意味にとなり半端強行的に実験を早めることになった。

 

多数決以上の進行。

私は制止を諦めた。

 

でも私自身、心の奥底では『早く見たい』と急いでいたのかもしれない。

 

私は研究員と言う名の探求の塊だ。

 

やはりそこは歳を取っても変わらないのだろう。

 

 

そして実験は『極東に実績を残す事』を意識させた故、必ず成功させることに集中していた。

 

もうこれは人類のためと言うべきだろうか?

 

最後の希望と呼ばれてる名誉のために実験を行ってるように思えた。しかし私はその意識を外に追いやる。私も今だけは周りと同じ"狂人"に染まって研究を続けた。

 

そして必ず成功させるこの実験のためにオラクルソードと呼ばれる剣。

 

それから超回避バックラーと名付けられた二つの神機を選んだ。

 

 

神機はすごいものだ。

 

 

アラガミの様に何もかもを喰らうような"剣"であり。

 

アラガミの様に核兵器も無価値とする"装甲"である。

 

 

しかし。

 

それとはまったくもって正反対である神機。

 

 

何も傷つけれない……なまくら。

何も防ぎきれない……ただの板。

 

 

ゴッドイーターは逆にアラガミを喰らい返す存在だ。

 

しかしこの神機達ではどうにもならない。

 

子供が遊ぶ様な壊れやすいおもちゃで旧約聖書に登場する巨人のゴリアテを討ち倒せと言うようなものだ。

 

そしてそれらの組み合わせから『一人目の新型神機使い』を作ることになる…

 

 

 

ああ、なんと言うことだ。

 

 

これは"進化"ではない。

 

狂人の私たちの愚行による"劣化"ではないか。

 

そしてそれを何も知らぬ青年に受け渡してしまい、残酷を背負わせてしまった。

 

でも実験は止められない。

 

私は狂人として立ち回る時に持ってはならぬ後悔を今頃生み出しながらも、躊躇いを捨てたつもりで実験を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

実験は成功。

新型神機使いは極東支部で完成した。

 

プロトタイプを完成させたこの結果を極東からあらゆる支部にこのデータが受け渡す。

 

極東支部はまた一つ、世界に希望を見せたことになる。これで極東は人類の最前線と研究の最先端を兼ね備えた支部もしてコレからも突き進むことができるだろう。ヨハネスも喜んで吐いた。

 

 

しかし小さな犠牲を生み出した。

 

それは許されない事だ…

 

実験は成功。

 

だが彼は不成功な神機使い。

 

不自由な神機使いにさせてしまった。

 

許してとは言わない。

 

狂人は赦しをこう生き物ではないから。

 

それでも償いの少しは出来るだろうか。

 

唯一、銃だけは変えか効いた。

 

この青年と同じ名字を持つ姉と同じ銃の神機を彼の武器に加えてあげた。

 

 

 

 

 

「台場マロンくん、か……」

 

 

 

痛みで気絶した彼をガラス越しから見下ろす。

 

誰にも聞こえぬ声で私は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 





この1話だけで4割近く文体を編集してます。
昔はどれだけ文体が酷かったのか…
しかも淫夢用語に手を出した頃の話です。
可愛いね。ピルグリムして♡


ではまた


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2話

 

〜 贖罪の街 〜

 

 

 

調査"隊"と言いながらもソロで調査してる俺こと台場マロンだ。

 

しかしぼっちプレイでのミッションなため調査隊ってのは言葉として正しいだろうか?調査兵ってのが表現として当てはまるがそこら辺どうだろうか?

 

まぁこれでも一つの小隊扱いだから調査隊でもオーケーかな。

 

 

まぁ、そんなのはこれからの事に比べたら些細な問題だ。

 

 

 

「なーんでボルグ・カムランが二体もココにいるんですかねぇ!?しかも原種じゃなくて堕天種じゃねーか!!」

 

 

さっきまでは一体だけしかいなかったが急にビルの上からダイナミックエントリーしてきた。

 

お陰で一気に視界内の密度が上がる。

デカすぎんだよテメェら!

 

しかし朝起きてミッション受けたらいきなり大型アラガミと朝の準備体操を始める事になるとかシャレにならない。背筋も尻尾もピーンと伸ばして朝から健康的ですよコイツら。

 

 

「ちょ、あぶねぇ!」

 

 

一体ならともかく二体はいつもよりも気を使うから気を抜いてられない。刺されば一撃死だ。

 

まぁこっちは極東の赤い彗星と呼ばれてる(呼ばれてない)台場マロンだ。

 

カムラン程度の攻撃は当たりやしないさ。

 

でも二体になると少しだけキツイかな。

 

油断はしない。

 

 

 

「てかさりげなく火と雷の堕天種に遭遇しているがこれっねかなりレアだよな?双方揃えば随分と自己主張激しい色合いで、目が痛いぜ」

 

 

街を駆け巡り、瓦礫を高台に、壁まで飛びあがり、神機を変形させながら壁を走って、壁に打ち付けたバレットの爆風で宙高く浮く。

 

カムランから放たれるガトリングは体を捻って回避する。赤い彗星ごっこできる超回避バックラーのお陰でとても身軽だ。触れたら一撃でミンチより酷いことになるが。

 

そしてカムランの届かない場所まで着地する。

 

なんとか撒いたと思ったら…

 

 

 

「げっ、天敵(サリエル)までいるし…」

 

 

高いところに逃げればなんとかなると思ったがそうもいかないようだ。

 

いくつかパターンがあるにしろサリエルのレーザー攻撃の挙動は予測不可能。

 

回避が非常に困難だ。

 

その上サリエル種は目がとても良いから逃げるのも一苦労だ。

 

 

 

え?

戦わないのかって?

 

 

いやいや。

もしものことがあったら俺は死ぬぞ?

 

 

それにコレはあくまで『調査』だ。

 

偵察兵とは違う。

 

分かりやすく言えば、フィールドワーク。

 

未開の土地をこの目で調査する。

 

そこは激しい戦闘に耐えれる地形なのか?

そこは踏み込むには脆い危険域なのか?

そこは荒神が群れを成した区域なのか?

 

戦闘兵が入る、前に偵察兵が入る、前に入るのが調査兵。

 

戦闘外による神機使いの安全を確保するための役割だ。

 

そして戦いは戦いが上手い奴にやらせておけば良い話だ。

 

俺は俺の役目を全うするだけ。

 

とりあえず贖罪の街にはボルグ・カムラン堕天の二属性が存在してることをアナグラに報告しなければならない。そのためには俺が生きて帰る必要がある。

 

 

「ここら辺を拠点に彷徨って三日目か。長いのは慣れたが、食事が薄味なの辛いよなぁ…」

 

 

そろそろ示したポイントに迎えのヘリコプターがくる頃だろう。とっととこんなところおさらばするべきだ。いくら神機使いとは言え肉体は平気でも精神的に病み始める。そうなると判断力が落ちて死につながる。から元気でも良いからメンタルは確保しなければ調査隊なんて務まるわけないのだ。

 

 

「しかしボルグ・カムラン堕天二体と戦ってくれる神機使いなんかいるのか?リンドウさんとソーマぱいせんとサクヤさんの第1部隊ならやってくれるかな?」

 

 

 

良く考えると極東の神機使いは四人以下の小隊を主として行動するが普通に単独戦もしてしまうからな。特にリンドウさんやソーマぱいせんのような強い奴。

 

もしボルグ・カムラン堕天種が極東以外の支部で現れたら他の支部は総力戦、死を覚悟して戦いに望むだろう。

 

 

「こうなるとスキルのユーバセンスが欲しいところだな。未だにプロトタイプの制御ユニットだし腹くくって変更しようか?もしかしたら制御ユニット程度くらい… いや、やはり俺のオラクル細胞が関係してあまり弄らない方がいいよな恐らくは…」

 

 

 

バースト状態の恩恵はとても大きく、装備している制御ユニット次第ではアラガミを凌駕する力を得ることが可能。

 

しかし俺のオラクル細胞はあまりにも不安定すぎるため制御ユニットの切り替えは望ましくない。

 

だがそれ抜きにしても俺の神機はスキルに関しては優秀だ。原作キャラと比べると何気にスキルの数は極東支部の中で一番多い。

 

特に超回避バックラーの『アスリート』がなによりも助かる。

 

これのおかげでまったく息切れせずにアラガミから長時間逃げ続けれる。

 

調査隊の中でスタミナと言うのは何気に生命線だから。

 

まぁその前に見つかるなって話だけど。

 

でもサリエルは無理。

 

アイツは本当に目が良い。

 

見つかったら泣きそうになる。

 

 

「ちょ、こっちに追って来やがった!!だぁぁあ!!!このままじゃヘリコプターで帰れなくなるだるぉぉぉ!?!?お前どこまでも追いかけてくるんだからよォォ!!」

 

 

半ギレになりながら殲滅することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 アナグラ 〜

 

 

 

 

「エリック! 上田!」

 

「!!?……お、おっっととと!」

 

 

 

真上から襲いかかる……一つの空き缶。

 

それをなんとか受け止めたり

 

 

「華麗なるナイスキャッチ」

 

「この程度なら華麗に受け止めるけど…ふつうに手渡しできないのかい?」

 

俺の華麗なる先輩は飲み物を受け止めながら苦笑いする。

 

そしてプルタブを開けて飲み出した。

 

 

 

「僕の分も買ってくれたのかい?むしろ先輩の僕が買う側だと思うけどね」

 

「ボタン押したら二つ出てきた。だから一つは近くで見かけた先輩に渡すつもりだった」

 

「そうなのかい?そういえば前も似たようなことも起こってたね。なんだか幸運の女神に愛されてるみたいだ」

 

「アラガミだらけの世界で女神に好かれてるなんて気味が悪いぜ、勘弁してくれ」

 

「でもマロンくんはかなり幸運さんだと思うけどね。このジュースのアタリのように些細な幸運も含めて君はアナグラの中で特に運が良い男だと僕は考えてるよ」

 

「それはあまり嬉しくないことだな。台場姉弟は幸運な二人だとは言われてるけど俺からしたら鬱陶しい」

 

「それは周りの連中がおかしいのさ。君はたまたまアラガミからレア物を引いた。それだけだよ」

 

「だとしてもミッションの同行者が特にうるさいんだよ。例えば台場マロンはなにもしてないくせに死んだアラガミから素材を食らうなんておこがましい…ってさ。 そんでレア物を引いてしまったあかつきには怒りで神機で切り裂いてこようとした。なーんでアラガミだけではなく神機使いからも狙われないとダメなんですかねぇ?」

 

 

俺の苦労を聞いて苦笑いするエリックを横目に飲み干した空き缶を潰してゴミ箱に投げ入れる。

 

 

「ああ、そうだ。幸運で気になると言ったら君のお姉さんである台場カノンは周りに幸運をもたらすようだね。ミッション後の報酬が少し豪華だったりするようだ」

 

「…」

 

 

我が姉と同行するものはミッション後の報酬が多いと言う話は他の神機使いからも時たま聞くことがある。

 

金稼ぎが大好きなカレルとシュンからも「誤射はともかくそんな感じはする」とこの話に共感していた。

 

俺は我が姉。または『台場カノン』との同行によって報酬が多くのる話ってのは少し引っかかっていることがある… と言うよりおかしいからそこらへんの調査を進めていた。

 

 

 

「なぁ、エリック」

 

「ああ、構わないよ。ここ一週間の報酬のデータベースを送ってあげよう」

 

「!」

 

「前から相談してくれていたことだ。だからその上で何も言わなくていい。君は周りの連中と違って意味ある事をしている。なら僕はそのお手伝いを華麗にさせてもらうよ。もう既に僕がデータに書き込んでるから後でアーカイブで華麗に眺めてると良い」

 

「っ! ありがとう!エリック!」

 

「構わないさ。華麗なる僕と同じブラスト使いのよしみだ。そのくらいの手伝いはさせてもらうよ。まあそれ以上に僕が君を手伝うには他の理由があるけどね」

 

「え?」

 

 

エリックは背を向けて空き缶をゴミ箱に捨てなからエレベーターへと向かい…

 

 

「君は存じてると思うけど僕にはエリナって名前の可愛い妹がいる。妹の事をいつも大事に思っている。だから兄妹《姉弟》のために何かしてあげたいその気持ちはとても素晴らしい物だと僕は共感するよ」

 

「!」

 

「君の恐れていることが杞憂だとしても些細なことに気にかける姿勢を僕は尊重する。過保護すぎるのは良くないけどね。それでも君の愛しい姉が色々と問題を抱えてるとしたらそれが真っ直ぐ解消されるように検討を祈ってるよ」

 

 

長いセリフを残して去るエリックの後ろ姿は色んなものを背負っているように見えて、とても頼もしく思える。

 

 

「ありがとう、エリック」

 

 

俺は早速自室に戻り、上着をベッドにぶん投げると早速アーカイブを開いた。

 

数分するとエリックから頂いた貴重なデータが届いてたので確認する。

 

台場カノンと同行したミッションクリア時の報酬量と、そうでない時の報酬量を照らし合わせる。

 

そしてエリックのように協力してくれた『橘サクヤ』さんと『ジーナ・ディキンソン』の姉貴からもいただいてくれたデータとも合わせる。

 

最後に受付嬢の『竹田ヒバリ』さんからは台場カノンの出撃データと報酬獲得に因んだデータを受け取った。あまり細かい情報は渡されなかったがヒバリさんに悩みを聞いてもらうと半分は手伝ってくれた。ヒバリさんもカノンを心配していたらしい。

 

 

俺は一体何をやってるかと言うと。

 

 

「これは…」

 

 

台場カノンと同行するこたによりミッション成功時の報酬量が増える話は一体どういう仕組みで動いてるのか確認したかった。

 

もしオカルト的な、または霊的に働いてるなら台場カノンは紛れもなく『レアモノ女神』である。

 

でも俺はそれが本当なのか調べたくて勝手にこんな事をしているのだ。

 

そしてしばらく画面の数字と格闘しながら集計したデータを叩き出して、理解した…

 

 

 

「あのバカ…!!やはりそうか…!!」

 

 

 

結論から。

 

台場カノンに『レアモノ女神』は無い。

 

むしろその逆。

 

台場カノン"だけ"の報酬量が少ない。

 

そして"同行者"の報酬量が多い。

 

 

それはつまり…

 

 

 

「姉さんは同行者に自分が受け取るはずの報酬を分け与えている、そう言うことか!」

 

 

 

俺はアーカイブを閉じて上着を掻っ攫いながら部屋を出る。

 

途中ソーマとすれ違い、焦っている俺に対して不思議そうな視線を向けるが今は関係ない。

 

そしてエントランスまで足を運ぶ。

 

 

 

「っ、姉さん!」

 

「!? …マ、マロン??」

 

 

ピンクの髪の毛に、第一印象はホワホワと柔らかそうなイメージを与えそうな立ち姿をしている我が姉を見つけた。

 

 

そして…

 

急接近して袖を掴み取る。

 

 

 

「!?」

 

「ちょっと面貸してもらうからな!」

 

 

 

ガシッと腕を強く掴み、エレベーターまで強引に連れ去る。

 

後方にいたタツミさんとブレンダンさんは俺の行動に少し固まるが俺に声をかけてこの一連を止めようとするもエレベーターの扉は閉まる。

 

 

 

「マ、マロン…!どうしたの急に!」

 

「反抗期じゃないぞ!純粋に怒ってる!」

 

 

それから姉を屋上に連れ去った。

 

ちょうど誰もいない事を確認する。

 

戸惑っている姉を睨んで…

 

 

 

「おい!バカノン!!」

 

「ふぇ!?」

 

「お前! ミッション時の報酬を他の同行者に分け与えてるな!!」

 

「!!!」

 

 

 

俺の言葉にカノンは目を見開く。

 

それはまるで「何故それを…」と言葉にできるほどの顔だった。

 

 

「誤射や誤爆による罪悪感故に他者へ報酬を流すなど!このアホ!何を考えての行いだ!」

 

「っ!ほ、ほっといてよ!私の報酬だから私が何に使おうと勝手だよね!」

 

「やはりそう言う事で自分が受け取るべき報酬を同行者に流してるのか!それも最大だ3分の2近くを!何でそんなことするんだ!おかしいだろ!」

 

「っ、うるさい! マロンには関係ないよ!それになんでそんなこと知ってるのよ!?どうして!!」

 

「どうしてだと? そうか、知りたいかぁ?」

 

 

俺はお望み通りこれまでの事を話した。

 

色んな協力者がいて、カノンの『レアモノ女神』説を調べるために。

 

でもレアモノ女神説なんてあり得ない話であり、実際はカノンが同行者に報酬を半分近く流していた話を伝えた。

 

 

 

「っ、な、なんで……なんで、そんな事を調べて…」

 

「姉さんが心配だからに決まってるだろ!」

 

「!」

 

「いつもいつもゴッドイータとして命賭けて戦ってるのに充分な報酬も無く、神機も満足に強化出来ず自分を苦しめて!そんなこと繰り返してたら母や妹を!そして俺を置いていつか死んでしまうかもしれないだろ!」

 

「ぁ…」

 

 

 

しまった、と…

 

やってしまった、と…

 

姉はやっと理解して、後悔する。

 

 

 

「姉さんはさ。使用してる神機故に周りへ迷惑かけ過ぎる。そうして自分が使われなくなる事を恐れてるんだ。だからそうならないためには周りが勝手に思い込んだ『レアモノ女神説』を利用して、少しでも好かれようとするために身を削ってるだろ?」

 

「……」

 

「やめてよ。そんなの。嫌だよ」

 

「マロン……わたし…」

 

「お願い。もうやめてくれ。俺はそんな姉さん見たくない。俺の姉さんは家族を、そして弱き者の代わりに戦うためにゴッドイータになったんだ。検査では適合率の高さにスカウトされたけど姉さんは人を守りたいその意思を持ってたからこうして毎日戦うことを決めたんだ。俺はそんな姉さんの後ろ姿がかっこいいと思えたんだ」

 

「マロン……」

 

「そりゃ確かに戦いの中での銃撃戦はポンコツだ。援護できない誤射姫だ。総合的にバカノンだ。自分と周りを含めて大変だと思う」

 

「うっ、そ、そこまで言わなくても…」

 

「だが重たい銃を握って人を一撃で喰らうアラガミを駆逐しようと正面から立ち向かう。それは『俺にはできない事』であり、姉さんはできるんだ。そして今まさに出来ているんだよ。だからさ、マスコットのように好かれようとするのやめてくれ… 頼むよ、カノン」

 

 

 

俺は前世も含めて既におっさんの年齢だと思われる。精神年齢はこの世界の同年代の者たちよりも高い。でも一人で放浪していた俺を拾って姉になってくれた台場カノンに感謝している。

 

そして大事に思っている。

 

だから、放って置けないんだ。

 

 

「マロン…ごめんなさい。 ダメなお姉さんで」

 

「!」

 

「マロンにそこまで思われていて、それほどに心配されていることにいますごく恥ずかしく感じてます」

 

 

 

カノンは静かに涙を流しながら謝る。

 

俺はその姿を見て『もう大丈夫』だと言う事を理解した。

 

 

 

「ありがとうね、マロン」

 

「ああ、気にするな。姉さんのそういうところ、今に始まったばかりじゃないから」

 

「もう、あまり意地悪言わないでよ。私はマロンのお姉さんで、歳上としてちゃんとしてないとダメなんだから」

 

 

 

そう言ってギュと抱きしめられる。

 

柔らかな抱擁に対して俺も同じように返す。

 

 

 

 

「マロン…」

 

「?」

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

「これからもダメなお姉さんをよろしくね?」

 

「ああ、よろしくしてあげるよ」

 

「ふふ、ありがと」

 

 

ミッションから帰ってくる神機使い達のヘリコプターを眺めながら俺はカノンの事を考える。

 

ゴッドイータとして加入したばかりの頃は一ヶ月先に配属したカノンとブラストの練習に付き合ってくれた。

 

荒々しい一撃の数々だった。しかしそれが適合率の高さ表しているからカノンに感心した。

 

俺は彼女が原作キャラだからこそ『大丈夫』と勝手に頷いた。

 

でも大丈夫じゃなかった。

 

彼女は彼女の悩みによって今回のレアモノ女神説の話を利用して自身を苦しめていた。

 

今回はその事を解決したがこれからが大変だ。

 

また彼女が曲がった道に進まぬよう、俺は弟として姉の彼女を支えないとならない。

 

第2部隊さんの二人にも力を借りながらだけどカノンを頼れるゴッドイータにしたいと思う。

 

俺はゴッドイータなカノンに追いつけるよう、オワタ式な苦悩に負けず、強くなろう。

 

それだけの話だ。

 

 

 

つづく






エリックはとても良い奴です。


ではまた


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3話

〜 鉄塔 〜

 

 

「さて、姉さん。俺がブラストで攻撃したら姉さんもそれに合わせて攻撃するんだ」

 

「わ、わかりました」

 

 

 

現在、第2部隊と共に行動中の俺氏。

 

カノンの立ち回り方を今一度教えるために第2部隊のミッションも同時進行で行なっている。

 

 

…と、言うけど。

 

姉さんに指南するというのはあまり意味が無い"と事だ思う。

 

またこの言葉はあとで理解するとして、

 

 

まぁそれでも、おれは姉さんには今一度立ち回り方を指南するつもりでこうしてやってきた。

 

第二部隊とは何度か同行ミッションを行いながらカノンにアドバイスしたりしたけど、アレからあまり上手くいってないらしい。

 

俺にも姉さんと時間を合わせてあげれるほど余裕があれば良かったがここ最近アラガミの調査に駆り出されて姉さんとの時間が無かった状態だ。

 

しかし前回のボルグ・カムラン堕天の調査を終えてから少し落ち着きを見せていたので今日はこうして第2部隊とミッションだ。

 

ちなみに前日発見したボルグ・カムランはリンドウさんと、ソーマぱいせんと、サクヤさんの第1部隊が駆除済みだ。

 

あとエリックも同行して華麗に終わらせて来たらしい。エリートはやっぱり強いなぁ。

 

あとでエリックから武勇伝を聞いてアラガミの動きなど参考にさせてもらおう。

 

オワタ式な俺からしたらアラガミの情報はとても重要だから。

 

 

 

「タツミさんとブレンダンさんが攻撃する。そしてアラガミが二人を振り払おうと暴れ出したら二人は距離を取るはずだ。そこで姉さんのブラストをぶち込んでしまえば良い。なんなら後ろからぶち込んで二度とケ♂ツの穴が閉まらんようにしてやってもええんやで」

 

 

「あ、うん、か、考えとく…」

 

「いくら姉のポジションに置いてるとはいえ女性に対してそのセリフはどうなんだマロン?」

 

「あとカノン。そこで考えとくはないと思うからな?」

 

 

 

タツミぱいせんとブレンダンさんのツッコミにケタケタと笑って返す。

 

まぁこれで少し緊張感が解れたことにタツミぱいせん『良し』としてくれた。

 

やり方はやり方だけど。

 

 

 

で、アラガミと交戦が始まる。

 

俺が言った事を姉さんが覚えてるならその通りにやると思う。

 

 

 

 

 

 

だが、しかし。

 

 

 

 

「オラァ! 肉片にしてやるよ!」

 

「「「ギャース!!」」」

 

 

「 知 っ て た 」

 

 

タツミぱいせんとブレンダンさん。

 

そして一緒にいたオウガテイルも変な悲鳴をあげながら吹き飛ばされる。

 

そのままコンゴウはケツにブラストをぶち込まれるとお尻を抑えながら吹き飛び、壁に顔面が直撃した。

 

それを見届けると姉さんは心底嬉しそうな笑顔を作っておれに振り向きながら。

 

 

「きゃはは!マロンじゃなぁい!久しぶりだねぇ!!」

 

「…よ、よーす、裏カノン。 久しぶりだね」

 

「相変わらず可愛い顔立ちしてるねぇ!ねぇねぇ!そろそろマロンのファーストキス貰って良いかなぁ!!それともその先を行く?ぜんぜんいいよ!マロンならわたしの初めても貰っていいよ!あっはははは!!」

 

「コイツ…」

 

 

そんなコントをしているとアラガミが寄って来た。耳の良いアラガミだから直ぐに気づいたのだろう。雄叫びをあげている。

 

 

「ほらみろ!ヤキモチ焼いて襲ってくるぞ!そして俺はオワタ式だから退避するぞ」

 

「あははは!それならあなたのファーストキスはこのブラストでアラガミに放火してやるよ!熱々にねぇ!!」

 

 

 

銃口から爆砲が吹き荒れる。

 

ズドーンと轟音を響かせた。

 

コンゴウは悲鳴あげながらまた吹き飛ぶ。

 

オラクルポイント(OP)が無くなるまでトリガーを引き、肉片になるまでブラストを放つ。

 

 

「オラオラオラ!!」

 

「……」

 

 

最初に『意味が無いと思う』と言った事を覚えてるだろうか?

 

それはその通りである。

 

とりあえずまず最初に申すなら。

 

台場カノンは『強い』神機使いだ。

 

そのため立ち回りを指南する必要はあまり無い。

 

いや、必要がないというより意味がないと言った方が正しいか?それは『裏カノン』と呼ばれる彼女の二重人格が存在しているその"性格"が立ち回りって単語を意味無くさせてしまうからだ。

 

神機を握りしめれば灯される闘争心、そうやって変貌するその人格はアラガミをゴミのように蹴散らしてしまいたい彼女の"望み"が強く現れているから。自分がアラガミより強いという事を常に示さなければならないから。それを理想とした結果の人格。それが裏カノンだ。

 

闘争心の高さと、適合率の高さを兼ね備えた彼女から放たれるオラクルの砲撃はどんなブラスト使いも凌駕してくれる。そんな訳で彼女は弱くない。むしろ強い神機使いである。

 

ただ人格も合わせてブラストは連携がとても難しい。エリックのように理性的かつ華麗に戦えるならブラストは価値を発揮するが、カノン自身の戦闘センスはそこまで高くない。裏カノンの人格が出てくるまでは、それはもういつも新兵気分のカノンである。

 

それ故にカノンは周りから煙たがれてしまう。

 

こればかりは……仕方ない。

 

 

「ちっ、弾切れかよ……クソがァ!!」

 

「い、今だぞ、ブレ公」

「りょ、了解した」

 

 

裏カノンの迷惑性は擁護し切れないが、口の悪い姉貴の姿は可愛いと思ってる俺氏。

 

あと俺は手出しができないので隅っこで眺めてるだけだ。

 

 

「そういやOPアンプルあったな!さすが私だ!準備がいいねぇ!!」

 

「「ふぁ!!?」」

 

 

 

OPアンプルを神機に突き刺す。

 

するとカノンのブラストが元気になり、残弾が回復すると再びテンション高く叫んだ。

 

 

「きゃはははは!!回復ゥゥウ!!」

 

「やっべ!!早く退くぞ!」

「うおおあ!?カノン!!まだ撃つなぁ!!」

 

 

 

「ああもう、無茶苦茶だよ」

 

 

 

まともに指南することも出来ず、それでもミッションはクリア。

 

裏カノンによってズタボロにされたコンゴウのコアが破壊されなかったのは凄いと思う。

 

 

「これだけの火力があるなら第一部隊でも戦えそうだな」

 

 

一応だが台場カノンは"衛生兵"だ。

 

決して戦闘兵ではない。

 

それなのにこの強さだ。

 

世の中って不思議だよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リッカさん、俺の立派なブラストの話なんですけど」

 

「なんか卑猥く聞こえるね、俺の立派ブラストって」

 

「汚れてるのは頬についてる油だけで結構ですぞぉ!お願いだから心は綺麗でいてくださいね?ね?」

 

「あはは、冗談だよ。安心して」

 

「本当か?一旦その頭をスパナで締め直してあげても良いですよ」

 

「だったらそのまま頭の先から指先まで隅々まで念入りにメンテナンスしてくれる?ただし私は精密機械なりにデリケートだから慎重にやさしく取り扱ってね?」

 

「ゴッドイーター故に壊してしまいそうなので遠慮しときます」

 

「根性無し」

 

「もとより逃げ回る戦い方してるから根性無しは否定しない」

 

 

コミニュケーションがてらにリッカとある程度遊ぶと持ってきた冷やしカレードリンクを互いに飲み干す。

 

そして次こそあるは程度真剣な声でリッカに語りかける。

 

 

「前に提案したアレ、今日で完成させたいけどダメかな?」

 

「あ、それにね。うーん、もう無理かな…」

 

「あー…そうですか。やはりおれの案は難しくてダメでしたか。仕方ないですね」

 

「いや、そういうことじゃないよ?もう完成させてあるから開発は一旦お終いってこと」

 

「え?…は!?ちょ、俺抜きでか!?」

 

「うん。君の考えた開発案なんだけど、それが結構楽しくてね。それでエンジニア故にどんどん追求してしまった。そしたらつい最後までやっちゃったんだ」

 

「いや、おれ、その神機の使用者として完成する瞬間に立ち会う必要あったはずと思うのだが??」

 

「作ってしまったし、もう仕方ないでしょ!それよりもほら、早く使ってみてよ!」

 

「えー、なんだかんだで今日は有給なんだけどなー」

 

「午前中カノンさんと訓練してたじゃない。なら別に午後そのままミッション行ってしまえば普段と変わりゃしないって。へーきへーき」

 

「何がへーきへーきだよ?はぁ、一体俺の使う有給ってなんなんだろう…」

 

「休みの日でも頑張って働けば給料が出る仕事って意味じゃないかな?」

 

「それただの仕事日だよォ!!」

 

 

 

さて、前々からリッカさんと開発を進めていたモノの試験に洒落込むため俺はエントランスに向かいヒバリさんからミッションを受注する。

 

ちなみに有給にもかかわらずミッションを探し出した俺にヒバリさんが心配する。

 

最近まで仕事漬けだったおれがワーカホリックになってしまったのでは無いかと心配された。

 

そう思われるのも仕方ない話。

 

何せアラガミの調査に駆り出されまくってた身だから。

 

朝早くから寝起きが取り除けてないヒバリさんに「おはよう」の挨拶を始めとして、夜は疲れを見せながらも営業スマイルを崩さないプロの彼女に「俺が最後?」の挨拶で1日が終わる。

 

ゴッドイーターってだけでブラックだが労働時間を考えると俺は特にブラックだ。

 

しかし残念ながら、前世の経験もあってブラックに慣れてやがる。

 

これでは自分がかわいそうだ。

 

後でご褒美をあげなきゃ。

 

あ、ちなみに俺の調査報告は95%以上は的確な情報なのでかなり頼られている。

 

それ故に色んなところに飛ばされるのだ。

 

いやー、有能って辛いね!

 

はは、辛いなぁ…

 

 

「無理しないで下さいね?」

 

「それタツミぱいせんに言ってあげたら喜びますよ」

 

「調子乗るのでやめときます」

 

「ぱいせんの道のりは長いなぁ…」

 

 

ヒバリさんと短くやり取りを終えて神機保管室に歩みを進める。

 

そして至ってまともな銃を除いたオラクルソードと超回避バックラーの二つがオワタ式な存在感を出していた。

 

慣れたとはいえ内心軽くため息をつきながらも直ぐに心を切り替えて今日もまたアラガミと立ち向かうだけだ。

 

それから重くもない神機を肩に乗せて俺の乗車を待つヘリがプロペラを回転させていた。

 

 

 

「またオワタ式っスか」

 

 

 

そしていつものパイロットに煽られる。

 

 

 

「そうだよ。いつも通りさ。とりあえずその愉快な口は後で裂いてやるからな?見てろよ見てろよ」

 

「HAHAHA!!切ることも叶わないオラクルソードで裂きたいなら無事に逃げ戻って来ることだな。あと裂けると言うより"避ける"側なのはあんたの方だとアドバイスくれてやるよ」

 

「HAHAHA!!あまり調子乗んなよ?このヘリなら一撃で吹き飛ぶぞ? 何せ!俺のブラストは咲けるからな!」

 

「あー、ちなみに確認取るけど今の下ネタ?」

 

「リッカと同じように受けとんなやこのバカイロット。お前が頭の修理されてろ」

 

「安心しろ。ヘリと同じように頭のネジが飛んでるのは自分でも理解してる。こんな世の中なら珍しくもないだろ」

 

「せやな」

 

「とりあえず向かうぞ」

 

「よろー」

 

 

 

廃回した荒地を眺めがら適当に会話。

 

ヘリがとあるポイントに止まると扉が開く。

 

 

 

「ほら、目的地だ。御武運を」

 

「ありがとう」

 

 

 

地上から50メートルの高さ。

 

ヘリから飛び降りて下を見下ろしながらアラガミの位置を瞬時に把握。ちらりと贖罪の教会を視界に入れながら浮いてるザイゴートを踏み潰して、プレデターモードで食らいつきながらオラクルを多量に回収する。するとザイゴートは萎んだ風船のように萎み、着地しながらオウガテイルに投げつけた。

 

 

 

「確か、ココをこうして、こうする」

 

 

203式ブラストの側面に手のひら押し付ける。

 

体からオラクルポイントが抜け出すような感覚と共に銃の側面の側面に突き刺さっている注射器のようなモノ、スタングレネードと同じサイズのものだ。それを抜き取ってピンを引き抜きグレネードの衝撃耐性を無くす。軽い衝撃で簡単に爆発するだろう。

 

そしてそれを怯んでいるオウガテイルに投げつけて、光った。

 

 

 

「!」

 

 

耳を劈くような爆発が起きる。

 

威力は我が姉と同じようなブラスター爆撃だ。

 

オウガテイルが粉々に砕け散ったのだ。

 

 

 

「こいつは強力すぎる…」

 

 

自身のバースト状態も関係してると思うけどこれは中型アラガミもただでは済まない威力だ。

 

コンゴウ一体なら軽く砕いてくれそう。

 

 

「オラクルソード故に多量のオラクルポイントを得てしまう。それをどうにかして無駄なく使えないかと相談したが… いや、面白いものができたな」

 

 

俺が考案したのはオラクルポイントの『ストック』であり、オラクルソードの力で多量に回収してしまうオラクルポイントを"どこか"に貯蔵できないかと考えた。

 

ちなみにこの考案はGE2の経験者ならブラストで『何がしたいのか?』がわかるだろう。

 

でもそれはまだ不可能なようであり、俺の考案したモノは一旦保留を受けた。なぜならそこまで技術が出来上がってないからだ。溜まりに溜まったオラクルポイントを一つの銃に収めるのは銃に負担をかけ過ぎる。

 

でも発想としては非常に面白く、開発的に不可能ではないと言われた。

 

でもまだ作れないと言われた。

 

しかしもしその技術が完成させるための素材は既に分かっている。

 

あとは俺の頑張り次第。

 

とりあえずは今回の実験だがリッカの協力もあり結果は『大成功』だ。良い報告ができる。

 

 

 

「これスイッチで起動して爆発させれないか?この威力ならいいトラップになると思うが」

 

 

さらに新たな案を考えながら残りの雑魚処理を行いミッションはノーダメージで終えさせた。

 

そして今日はやっと夕方から休む事が出来た。

 

そして明日は朝から仕事だ。

 

辛いです。

 

 

 

つづく

 






マロンはリッカと仲が良いです。
あとヒロインです(ネタバレ)


ではまた


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4話

 

〜 煉獄の地下街 〜

 

 

「え? 妹さんの誕生日プレゼント?」

 

「何か良い案はないかい?」

 

「そうだな。たとえばエリナちゃんの歳は幾つだっけ? 誕生日を迎えると11歳か?」

 

「そうだね」

 

「なら11歳相応のプレゼントが良いな。帽子とかアクセサリーみたいに可愛らしい物はどうだ?」

 

 

「それもありだけど、エリナは色々持ってるからね」

 

「でも最愛の兄から貰えるなら何だって嬉しいだろ。あまり難しく考えなくて良いんじゃないか?」

 

「…そう…だね。 君の言う通りだ」

 

「あ、でも、そうだな」

 

「?」

 

「エリックが決めかねてるなら、エリナちゃんをショッピングに連れて行って、何か買ってあげるのはどうよ?そして帰りに美味しいご飯でも食べてさ、兄との一日をプレゼントする。これで良くないか?」

 

「ふむ、それはとても素晴らしい案だ。 華麗なる僕からのピッタリなプレゼンツだね」

 

「じゃあシユウ三体なんてチョチョイと葬って華麗に帰ろうか」

 

「同感だね。ってことでソーマ。今回もよろしく頼むよ」

 

「………ちっ」

 

 

 

若干空気になっていたソーマを連れていま現在『煉獄の地下街』って場所までやってきた。

 

マグマ垂れ流しでとても暑い。

 

 

「俺は行く。お前らは一体だけ逸れたシユウに迎え」

 

 

「ソーマは二体同時にかい?」

 

「ソーマぱいせんならシユウ程度は余裕だろうし良いんじゃないか?」

 

 

「……とりあえず、ついてくるな」

 

 

 

冷たく突き放す彼。

 

それは死神のレッテルを貼られてしたい、そして死神のレッテルを受け入れた故に集団行動を嫌うソーマ・シックザールは俺たちから離れようとする。

 

その場からクールに去った… と思いきや、進んだ先の足場が悪いためソーマは運悪く躓いてしまいヨタヨタと少しフラついていた。

 

 

「…」

 

「…」

 

「………」

 

 

 

しばらくの静寂。

 

俺とエリックは横目で視線を合わせ会い。

 

 

「やはり一緒に行こうか?」

 

「今日のソーマぱいせんは調子悪そうだし賛成だ」

 

「うるさい!!いらん!!」

 

 

 

大声で否定する。

 

子供っぽく不機嫌そうに去って行こうとするが俺たちも早足で追いかけてソーマの両側に立ち並んだ。

 

その行動に対してソーマは少しの驚きと戸惑い混じり合わせ、声は怒りを示す。

 

 

「おい!お前ら!!」

 

「違う違う。ただ俺たちの進行方向にソーマぱいせんが向かっているだけで別に追いかけてる訳じゃないゾ」

 

「そうだよ(便乗)」

 

「だからけっッッっして、なんだか寂しそうなソーマのとなりに立って今日もクソッタレな職場でアラガミを食らいつくそうなんて思ってもないから」

 

「そうだよ(肯定)」

 

「エリック! お前もなに便乗してやがる!」

 

 

 

だんだんとソーマのプンスカメーターが上がる最中一体のアラガミがお出ましとなる。

 

 

 

「おっとっ!? これはこれは? 俺たちの進行方向にシユウがいるぞー! これはソーマぱいせんも討伐しなければならないし、見つけた俺とエリックもゴッドイーターとして駆除しなければならない! ああ残念!! これはソーマぱいせんと共闘するしかないな!!」

 

「そうだよ(肯定)」

「ッッ〜! 勝手にしろ!!」

 

 

最近俺のノリに毒されてきたエリックもブラストを構え、半分諦めを見せているソーマの援護を開始する。

 

そんな俺は物陰に隠れて隙を伺うことにした。

 

オワタ式なので慎重にな。

 

しかしあまり心配は無い。

 

ソーマには『存在感』ってスキルがある。

 

アラガミから狙われやすくなるスキル。

 

お陰で俺はアラガミに狙われる回数が比較的少なくなる。なので物陰でビクビクする必要はあまり無いのだが、オワタ式を忘れないためにも慎重になってもいいだろう。

 

 

 

「おら、不完全プレデターモードいけぇ!」

 

 

俺は隙をついて神機をプレデターモードに切り替え、ソーマぱいせんと踊っているシユウを狙いつける。

 

そして釣竿のように投げ入れると捕食のために変形したプレデターモードは伸びてシユウ頭にかぶりついた。

 

 

しかしこの武器はオラクルソード。

 

武器の性能故に敵を傷つけるレベルで噛みちぎる事は出来ず、甘噛み程度で食らいつく。

 

まぁそれでも多量のオラクルの回収が完了できるためノーダメージに関してはブラストで取り戻すことができる。

 

神機から手榴弾を生成して声をかける。

 

 

「ソーマ、華麗に射線上を開けてくれ」

 

「ちっ」

 

 

ソーマは舌打ちしながらも大きくシユウから退き、射線上を開けた。

 

エリックに対してはなんだかんだで「素直に聞いてくれるソーマかわいい」

 

 

「テメェ!聞こえてるぞ!」

 

 

どうやら心の声が出ていたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「調査ガバガバやん!」

 

 

どうも、甘そうな名前の男、台場マロンです。

 

エリックとソーマぱいせんと共闘の末、一体目のシユウは難なく撃破完了しました。

 

それで怒ったソーマは単独行動に出ました。

 

エリックもソーマの行動に苦笑いしながらもシユウの散策のため一度別れることに。

 

そして俺は…

 

 

 

「「グォォオ!」」

 

「「ゴボゴボ!!」」

 

 

 

シユウ二体はともかく真っ赤なグボロ・グボロ堕天の二体に追われているところだ。

 

それにしても今回のミッションにグボロ系までいるなんて思いもしなかった。

 

そして遠距離攻撃の嵐である。アスリートのスキルとかなかったら俺なんか既にお陀仏だ。

 

スキル様様です。

 

 

 

「さりげなく堕天種までいるし、地獄かよ。いや、このステージもある意味地獄か。ハハハワロス」

 

 

それにしてもこれは調査報告が疎か過ぎないか?

 

報告だとシユウが二体だけだと聞いていたのにね。

 

 

 

「こんなところだ。凄く暑て仕方ないから調査なんてまともに捗らないかもしれない。でも命賭けて戦うゴッドイーターの事を考えてくれよな本当に」

 

 

人は与えられた情報を信じてそここら対策を立てる。

 

しかしその情報に誤りがあり、立てた対策が無意味と化せば容易く危険を晒される。

 

そんはの論外だ。

 

それ手練れのゴッドイーターすらも失ってしまうことも珍しく無い。

 

ましてやココはアラガミの動物園と言われる極東支部だ。

 

お粗末に左右されては直ぐに死んでしまう。

 

 

 

「その結果としてオワタ式な俺はアラガミ四体のベリーハードモードに突入してる始末。こんなの上級者を超えた超上級者かよ。まだ無印ピルグリムの方がマs… ごめん、無印ピルグリムも正直無理だわ」

 

 

 

生成した手榴弾に小さなアンテナを設置して腕輪に無線を繋ぐ。

 

そして曲がり角の壁に引っ掛ける。

 

 

「くらえよ!」

 

 

俺を追いかけて先行するシユウ二体の後ろにいるグロボ達の目の前にスタングレネードをぶん投げる。光が弾けるとグボロは視界を奪われてフラフラする。

 

次にシユウの斬りはらいが目の前に迫ってくるが背を低く攻撃を回避してそのまま背を向けて再びアラガミから逃走を開始。

 

後ろを見ず適当にブラストの銃口をシユウに向けて放火。ブラストは攻撃範囲が広いので多少ガバガバなエイムでも大丈夫。そして運良くシユウの足に直撃。結合崩壊した。

 

結合崩壊されたアラガミはまるで神の怒り触れたがごとく戦闘力を上昇させる"活性化"を行うようになる。それは当然シユウでもあり活性化を行おうとした。

 

 

 

「ポチッとな」

 

 

腕輪から無線を飛ばして壁に引っ付いてる手榴弾が反応。壁を崩壊させながらけたたましく光った。

 

爆発に巻き込まれたシユウはうめき声が上げなごら活性化は強制的に押さえつけられ、崩れる壁の瓦礫に押しつぶされていく。

 

そのまま遅れ気味に追いかけてきたもう一体のシユウも瓦礫などに堰き止められる。俺は完全にアラガミから逃げることができた。

 

オワタ式故の逃走力舐めんなよ。

 

 

「マロン!」

 

「おい! 無事か!?」

 

 

戦闘音に聞いて駆けつけた二人。

 

とりあえず合流に成功だ。

 

 

「おお、ソーマぱいせん!大丈夫。この通りぴんぴんしてるぞ!へーきへーき!へーきだから!」

 

 

「…とりあえずその"ぱいせん"ってやらを止めろ」

 

 

 

いまは怒ってないようだ。

 

それよりよりも俺のこと心配してくれて駆けつけてくれた「ソーマぱいせん優しい」

 

 

「いい加減叩き殺されたいらしいな」

 

 

あ、また心の声が口から漏れてたようだ。

 

 

「それより赤くてホットなグボロ・グボロもいたぞ。しかも二体」

 

「それは本当かい?」

 

「本当だぞエリック。いま二体とも仲良くスタングレネードでふらついてる頃だと思う」

 

「本当によく生きてたね」

 

「慣れたよ」

 

「おい、お喋りはここまでだ。くるぞ」

 

 

瓦礫が蠢く。

 

すると瓦礫の隙間可否激おこプンプン丸なシユウと目があった。

 

するとソーマがチャージクラッシュのためにバスターを構えるが…

 

 

「待て待て。ここじゃ狭いから広いところに出よう。ブラスト使いの俺達二人じゃソーマの邪魔にしかならない」

 

「……」

 

「せっかく合流したんだ。 ちゃんと援護させてよ、ソーマ」

 

「……ちっ」

 

 

 

最近わかったことがある。

 

ソーマが諦めたように「ちっ」と舌打ちしたら素直になってくれること。

 

なのでこの舌打ちは俺の提案に頷いてくれた事になる。素直じゃない「ソーマつんでれ」

 

 

 

「わかった。 テメェもシユウごとぶった切られたいことがな」

 

 

 

また心の声が漏れていたようだ。

 

 

 

 

 

それから。

 

わし、18才と。

堕天種のアラガミと。

煉獄の地下街で盛りあった。

 

今日も明日もクソッタレな職場なんで、神機使いシユウとホットなグボロ達も巻き込み、しこたま殺し愛をやりはじめたんや。

 

アラガミはオラクルの塊なもんやから、スタングレネードでヒクヒクするシユウやグボロに多量のブラストをドバァーと出してきた。

 

初見殺しなトラップも兼ねてオラクルで結合崩壊共に、アラガミのオラクルをずるずるっこんでやって、もう狂うほど気持ちいいんじゃ。

 

ああ〜、たまらないぜ。

ブラストはやはり最高やな。

 

極東支部でクソ(ッタレな職場)まみれになりたい奴、至急メールくれや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 整備室 〜

 

 

 

「オラクル手榴弾の調子どう?」

 

「かなりいい。でも使い所さん間違えるとかなり酷いことになりそうだな」

 

 

冷やしカレーをゴクゴク飲み干す彼女の味覚に少し引きながら質問に答える。

 

ちなみに俺が飲んでるモノも冷やしカレーなんだけど、湯煎して少し温めたやつだ。

 

 

 

「あ、マロン。そういや朗報が一つあるよ」

 

「と、言いますと?」

 

「銃にオラクルを貯蔵できるアラガミ素材が全てわかったよ」

 

「情報が早いなオイ!?」

 

 

脳内で『メイン情報来た!これで勝つる!』と騒ぎ出す懐かしき大昔のヴァナディール達の絶賛を受け止めながらも既に次のプランを頭から引っ張りだそうとしていた。

 

 

 

「それでその素材って?」

 

「まず全ての属性に適応させるための『オラクル火石』『オラクル輝石』『オラクル氷石』『オラクル雷石』を必要する」

 

「アラガミ素材じゃないな」

 

「これはあくまで神機に溜めすぎたオラクルの暴走を四つの属性で暖和させることが目的なんだよ。あとオラクルの保存料みたいな感じの役割も果たす。何せあらゆるアラガミからごちゃ混ぜにオラクルを吸収するんだからこれは必要なことなんだよ」

 

「ごちゃ混ぜ? ……ああ、そういうことか。なるほど。この話はあくまで"新型"神機使い限定の話で通るのか」

 

「相変わらず話が早くて助かるね。うん、その通り。君は剣と銃の切り替えが可能な神機使いだからアラガミを攻撃することでオラクルを回収して、オラクルポイントに変換してそれを銃撃に使う事になる」

 

「そうだな」

 

「今の世代の神機使い。または今後()()と呼ばれる事になるだろう銃オンリーの神機使いは自動回復ユニットの効果によってオラクルポイントを常に銃の中で生成し続けている。そのオラクルはバンバン使いまわしても神機に負担が掛から無いモノなんだよ。もちろん整備は必要だけどね?しかし適合率が低くても使えるように編み出された銃専用のオラクルなんだ。負担が軽いの」

 

「だけど新型の場合は色んなアラガミからオラクルを喰らい、それをごちゃ混ぜにしながらオラクルポイントを貯蔵することになる。いまはまだアラガミの種類が多くないからそこまで複雑に混ざり合わないけど、今後の事を考えるとオラクルを制御できるようにする必要がある訳だな?そして今後考えている『オラクルリザーブ』ってシステムを導入するならそれはもう必須な訳か」

 

「うん。マロンの言う通り、今後新型神機使いはアラガミからごちゃ混ぜにしながらもオラクルを吸収することになる。それを人間サイズの神機に対して多量に詰め込めてしまうならそれを制御するシステムが必要な訳だね。その近道として『オラクル火石』『オラクル輝石』『オラクル氷石』『オラクル雷石』の四つの属性を管理してくれる素材が必要な訳なんだ」

 

「アラガミにも属性があるからな。それくらいは必要か」

 

「でもその四つの素材さえ集まればあとは簡単に開発は進むことは既に研究済み。あとはアラガミの素材だけよ」

 

「リッカまじ仕事早すぎないか?」

 

「極東のエンジニアだよ?これくらい当然」

 

「うわー、頼もしすぎる。いい人に会えて良かったと心のそこから思ってる」

 

「むしろこのような開発プランを考えてくれる神機使いが居てくれた事に私はすごく嬉しく思うかな?」

 

「まあ… 俺の場合だとオワタ式な事も含めて手段を広げるしか無い。そのためには色々と考えてしまうんだよ」

 

「うん……そっか…」

 

 

 

簡単な話。

 

戦闘が続けば続くほど死亡率は高い。

 

人間のエネルギーは無限じゃない。

 

長い時間の中で常に生と死の駆け引きを行う。

 

そのためには戦闘時間を減らす必要がある。

 

だから俺はブラストの『ワンパン』性能の高さに目をつけた。

 

そしていずれ引き金一つ引くだけで()()()()()ような戦闘が可能なら、それはどれだけ戦闘時間が捗るだろうか。

 

ミッション時間自体は長引くかもしれないけどアラガミと対立してる時間が少ないなら事故率や死亡率も低くなるはず。

 

アラガミの動物園と言われる場所で常にアラガミと駆け引きをするならこれくらいの事はやらないとならない。

 

 

 

「それで? 制御システムのための材料はわかったけどやはりアラガミから素材を必要とする訳だ。そしてそのアラガミとは?なあリッカ、教えて。次は何をすればいい?あと何を殺せばそこに辿り着く?」

 

「セ ク メ ト」

 

「こ ろ す き か」

 

「冗談だよ」

 

「リッカァァッ!!!」

 

 

 

まずセクメトなんかと戦ったら冗談抜きで『キボウノハナー』一直線だろ。

 

笑えねぇ…

 

 

 

 

 

 

つづく



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5話

 

〜 アナグラ 〜

 

 

ひとときの平和の中、アナグラ。

 

朝起きて食事を済ませた神機使い達はミッションが開始されるまでこのラウンジでのんびりと雑談しながら過ごしていた。

 

 

「おはようございます、タツミぱいせん」

 

「おう、おはよう!マロン!」

 

 

どうも。

甘そうな名前の男、台場マロンです。

 

さて、エレベーターから降りるとタツミぱいせんといつも通り朝の挨拶を済ませる。

 

その後ブレンダンとも挨拶を済まして軽く雑談を行い、それぞれの今後の予定などたわいもない話を繰り広げる。

 

まあタツミぱいせんから切り出される話は二割型ヒバリちゃん関連だけどな。

 

相変わらずお熱ですね。

 

そんな感じに会話を弾ませてると少し遅れてエレベーターからもう一人が降りてきた。

 

その人物は衛生兵の台場カノン。

 

または我が愛しい姉である。

 

しかし、そんな彼女の口から…

 

 

「うぅ…マロンの所為で腰が痛いです…」

 

「「「!!??」」」

 

 

ブラスト並みの爆弾発言が投げ込まれた。当然ながらカノンの言葉を聞いてた他の神機使いは目を見開いた。

 

そして姿勢悪く階段にもたれかかっていた俺はその発言にズルリと足滑らせてゴロゴロと落ちる。隣の受付カウンターにいるオペレーターのヒバリさんから心配されながらもカノンと交互に見合わせる。先ほどの爆弾発言が気になるらしい。

 

とりあえず誤解を解こう。

 

 

「おい、姉さん。 それ誤解生むから止めろ」

 

「だってぇ……」

 

 

涙目で中腰で腰をさすりながら情けない声を出す我が愛しい姉上よ、その姿は可愛いと思うけどとりあえずタツミぱいせんとブレンダンぱいせんの視線が痛い。オワタ式のペラペラな防御力にひどく効いちゃう。

 

そんなこと考えながら我が姉の額を指で小突いていると後ろからタツミぱいせんはため息つきながら俺の肩に手を乗せて…

 

 

「マロン。姉に溺愛してるのはわかる。カノンも弟君を大事にしてるのもよく分かってる。だから君たち二人が何しようと俺たちは見守るだけだ。 だけどなマロン!もしもの時はちゃんと男として責任を…!」

 

「ちげーよ」

 

「ぐえっ!!」

 

 

雑談時に飲み干した空き缶をタツミぱいせんの顔に押し付けて没シュート。

 

その勢いで階段からゴロゴロ転がり落ちる。

 

あと我が姉が腰の痛みは朝起こしてあげたときに出来た痛みだ。何せバレットエディットの作成を手伝って欲しいと言ったのに、その約束の日に気持ちよくお寝坊さんしていた。

 

ノックしても目覚める気配は無く仕方ないので無防備に鍵が空いていた扉を開けてメガホンの咆哮で叩き起こしてやった。すると我が姉は驚いてベッドから落ちて腰を打った流れだ。

 

そこら辺は説明すると一部の人たちは納得してくれた。まあ中にはまだ疑っている人もいるがそれは仕方ないだろう。なんだかんだで俺とカノンが仲良いのはそこそこ有名だから。疑われるのも仕方ない。

 

 

「とりあえず姉さんはこっちだ。あとブレンダンさん、カノンはお借りしていきます」

 

「あ、ああ、わかった」

 

 

それと我が姉の部屋の上からもドスンと音が聞こえた。

 

位置的には多分リンドウさんの部屋だったか?

 

しかしこんな時間まで眠ってたという事はサクヤさんと仲良くしっぽりやってたのかな?

 

気持ちよく寝ていたところで何か申し訳ない事したか。

 

 

「とりあえずエディット実験室に行くぞ」

「あ、ちょっ、ちょ!急に引っ張らないでぇ」

 

 

戦いが起きれば勇敢に立ち向かう我が姉もアナグラにいる時はこうもヘナチョコだ。

 

そこが可愛いけれど少しはしっかりしてよね。

 

 

 

 

 

「ぐっ、…頭がいてぇ…」

 

「ソーマじゃないか。今日は非番なのか?ゆっくりな朝だな… って、頭支えてどうした?」

 

「知らん!下から突然爆音が聞こえて寝床から落ち… ああ!くそッ!誰だ!朝からこんなクソくだらないイタズラを起こした野郎は!」

 

「マロン」

 

「あの野郎!今日こそは捻り潰してやる!」

 

 

 

「いいのか隊長?」

 

「構わん。空き缶ぶつけられた上に階段から転げ落ちたせいで俺も頭が痛い」

 

「そこは自業自得だと思うが」

 

 

 

アナグラのひとときの平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 バレッドエディット実験室 〜

 

 

 

「どう? 完成したか?」

 

「なんかうまくいかない。モルカー爆撃の威力あげようと着火地点に爆発を重ねたんだけど何にも弾けないよ?」

 

「モルカーじゃなくてモルターな?プイプイする爆発なんて可愛さだけだろ。あと何も弾けてないように見える原因は爆発を重ねていることが原因。爆発が相殺し合ってる」

 

「そ、そうなの?」

 

「一瞬だけ爆発が起きてるけど爆発したことを目視確認できないだけ。もし爆発をハッキリとさせるなら時間差で弾けさせるくらいにしなければならない」

 

「え、ええと……ええ?」

 

「とりあえず付着式の時限爆弾式に変更する。そうすれば仲間にも時間差で爆発させれることを知らせれるからな。そうすれば誤解も減るはず。あと時間経過で爆発の威力をあげるエディットも行おうね」

 

「う、うん!」

 

 

少々頭がポンコツな姉のバレッドエディットを手伝って一時間が経過していた。

 

まぁバレッドエディットなんて仕組みが複雑すぎるため神機使いから不人気だ。

 

でもゴッドイーターをプレイしてる俺からしたら仕組みは大体理解してるので難しくは無い。

 

しかしその代わり俺の階級はまだ低いのでエディットで使える種類が少ない。

 

 

そのため アレ が作れないのだ。

 

 

そのアレとはまず→空中に打ち上げる→ある程度停滞させる→その間に威力を上昇させる→それを地面に打ち付ける→ドバァー!と大爆発を起こす→見ろアラガミがゴミのようだ!→彼女ができる。

 

そんなバレッドエディットだ。

 

まあこっちの世界でそんなことすればバレッドエディットの可能性に皆は戦慄すると思うけど原作ゲームをしていた俺はワンボタンでそこら中に汚ねぇ花火が打ち上げていた。なかなか爽快な一撃。せっかくだからこの世界でも早く打ち上げてその光景を見てみたいところだ。ブラスト使いだからこそのロマンである。

 

 

「マロン、その… いつもありがとうね」

「?」

 

 

不意に姉からお礼を言われる。

 

 

「私いつもみんなに迷惑かけてる。そして弟のマロンにもこうして色々と迷惑かけてしまっている。えへへ、頼りない姉だよね」

 

「それは半分違うな、姉さん」

 

「え?」

 

「迷惑かけてるところはそりゃ仕方ないと思うよ。でも頼りないとは思ったことないよ」

 

 

 

俺は姉の… いや、カノンの頭に手を置いてゆっくりとポンポンと叩いて慰める。

 

撫でられた驚きから徐々に恥ずかしさを気にし始めたカノンの顔は赤く染め始める。

 

俺と彼女との身長差はあまり無い。

これではどちら妹弟なのかわからない状態だ。

 

しかしそんなこと気にもせず俺は自分を批難するカノンを否定し続けた。

 

 

「姉さんに大変な一面はあるけれど、その分頼られる一面もあるんだよ。何がどうとか、これがこうとか、姉さんの美点などを言い切るには時間がかかるけど俺はちゃんと知っている。だからそうやってあまり自分を批難しないで」

 

「マロン…」

 

「数週間前にもさ、ミッションの同行に嫌われまいとするために自分の報酬を仲間に与えるために横流しを行って、レアモノ女神説を作り上げて好かれようとしていた。だけど俺は止めた時姉さんに言った。姉さんは家族を守ろうとするためにゴッドイータになった。そして命かけて戦うその世界で姉さんは逞しく立ち向かい続けている。そんな姉さんをダメな人だなんて俺は思わない。無力な人々を守るためにアラガミを殺し続けて、そしてそんな人々は戦う姉さんのことをとても頼りに思ってるよ」

 

 

彼女は立派だ。

 

自信を持たせたい。

 

両肩をポンポンと強く叩いて伝えてる。

 

カノンは大丈夫だと。

 

 

 

「さぁ、無力な人々を守るためにアラガミ殺すバレッドエディットは幾らか完成した。そのため実験を行うよ、姉さん」

 

「う、うん! わかった。 同行よろしくねマロン」

 

 

ニコニコと笑顔を作り出す我が姉。

 

やはり可愛い顔をしている。

 

 

「… っと言うわけで、覗き見してるソーマは非番だけどミッション行こうぜ。そして一緒にオラクル塗れになろうや」

 

「ふぇ!?」

 

 

 

「おまえ…いつから気づいてた?」

 

 

物陰から顔を見せるソーマ。

 

見つからないと思ってたのかな?

 

 

 

「俺が姉さんの頭をポンポンしてるときにガラスに反射してソーマが映ってたよ」

 

「………ちっ」

 

少しだけおマヌケさんでしたね。

 

そして我が姉は俺に慰められていた姿を見られたと思い、再び顔を赤く染めながら手をワタワタとして戸惑っていた。

 

 

「姉弟愛を特等席で覗き見たんだ。バレッドエディットの実験に付き合って下さいな?せーんーぱーい」

 

「……なんでこうなった」

 

 

 

それでもなんだかんだで断らないソーマやさしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 贖罪の教会 〜

 

 

 

「ああ、それでアナグラ中で俺を追っかけてたのか。そりゃ悪いことしたな」

 

「はぁぁぁ…」

 

「ええと…そのぉ……」

 

 

 

クソでかため息を聴きながら上から順に、オワタ式、ツンデレ死神、誤射姫と、こりゃまた奇妙な組み合わせでのミッションだ。

 

ちなみに標的はオウガテイルの群れである… が、なぜか調査不足な事を報告されている。

 

は?マジ?調査隊は何やってんの?

 

そのためこのミッションでは別のアラガミが存在するらしい。現れても中型アラガミ程度ならまだ良い。しかし強すぎるアラガミがこのミッションに存在するならば充分に警戒しなければならない。

 

 

「どうやらオウガテイルの群れ以外に中型以上のアラガミが存在するらしい。現れる前提で考えて動くぞ」

 

「だ、大丈夫です!ソーマさんがいますから!」

 

「……そう思うなら、おれと行動しない事だな」

 

「ふぇ?」

 

 

ソーマはカノンを冷たく突き放す。

 

いつも通りの対応。

 

しかしカノンの言葉は『ソーマが俺たちを守ってくれる』と言う意味として受け止めれる。

 

そのためかソーマが微かに動揺していた。

 

俺はそれを逃さなかった。

 

だからなのか、そのフードの下では苦しそうな顔をしているように見える。

 

 

 

「俺も姉さん同様に頼りにしてるからな、ソーマ」

 

「やめろ」

 

「いいや、純粋に頼りにしてる。だって此方はブラスト使いが二人だぜ? 俺の近接武器も前衛として意味無さない。実質後衛が二人だ。しかしそこに強靭なバスター使いのソーマが居るならば鬼に金棒。大きな安心感がある訳さ。これを頼りにならないで何になる?」

 

「そ、そうですよ! ソーマさん程の神機使いがいるなら何にも怖くありません!」

 

「…ちっ、面倒な野郎共だ」

 

「なっ! わ、私は野郎じゃありません! 女性ですよ!!」

 

「姉さん、そう言う事じゃないぞ?」

 

「…………はぁ、とっとと片付けるぞ」

 

 

色々と複雑な気持ちに襲われていたソーマだったが俺やカノンのやり取りによってどこかバカらしくなったのかまたため息を吐く。

 

その姿を見たカノンは再びワタワタと慌て始めるが野郎扱いが気に入らない感情も見え隠れさせていた。

 

そして…

 

 

 

 

「オラァ!バラバラに散ってしまえよ!!」

 

 

 

今日の朝に作り上げた姉弟の結晶。

 

オラクルバレッドを射ち放つ。

 

集まったオウガテイルを一撃粉砕を行う。

 

見ていてすごくグロいです。

 

 

 

「あっははは!! こんなのどうヨぉ!!」

 

 

銃口を地面に落としてトリガーを引くとオラクルが地上を走った。

 

弾はオウガテイルの足元を通ると急に真下からブラストが吹き荒れる。

 

腹元から胴体を抉られたオウガテイルは次々と絶命していった。

 

 

 

「すごいすごい!見てよぉマロン!ソーマ!オウガテイルの臓器が赤く真上に吹き飛んで血まみれだよ! キャハハハ!!!」

 

 

「……」

「……」

 

 

ソーマもカノンがトリガーを引けば人格が変わる事はよく知っているため、それなりに耐性はあったがそれでも言葉にし辛いのは皆同じであった。しかしボムマスターのスキルでも搭載されてるか?

 

心なしか爆撃の威力が増してる気がする。

 

 

「ありゃオラクルポイントが切れるまであの調子だな。近づけないね」

 

「おい、おまえの姉は一体なんなんだ?」

 

「んー?二重人格。知らない?」

 

「……知らん」

 

「そうか。まあ、良くありげな過去の話だよ?今の頃よりも弱かったアラガミ防壁が食い破られてまだ小さな俺はオウガテイルに追いかけられると壁に追い込まれた。そしたら姉さんが割り込んできたんだ」

 

 

 

___ 私の弟を食べるなぁ!!

___ 許さない! 許さないから!!

 

 

 

 

「ゴッドイーターでもない頃の弱さ。オウガテイルの目の前に仁王立ちな姉さんは恐らく死ぬ気だった。大口を開けて襲ってきた。それは恐怖そのもの。でも…」

 

 

 

__来い! ぶっ殺してやる!

__私の大事なモノを奪おうとするなら!

__グチャグチャにして殺してやる!

 

 

 

「啖呵を切って鉄パイプを構えたんだ。この時だったかな?姉さんに人格が現れたのは。証拠に姉さんは睨みつけていた。子供の何倍も大きな相手だとしても、大口を開けて噛み付こうとするその恐怖を目の前にしても、姉さんは荒ぶる神様を相手に対立をやめなかった」

 

「……」

 

「まあその後すぐにゴッドイーターが駆けつけてオウガテイルを倒してくれた。助かったことを実感すると足腰から力が抜け落ちた姉さんは地面に座り込んだ。握りしめていたパイプも手放して。しかし不意に呟やかれたんだ」

 

 

 

__私……今の私より強くなりたい。

__そして戦える人間になりたい。

__アラガミなんか吹き飛ばせる。

__そんな、そんな自分が欲しいよ。

 

 

「姉さんは幼い時から弱い自分を少なからず憎んでいた。男に産まれていたのなら今よりも強くなれた筈だとか色々と考えてた」

 

「……」

 

「そして今がある感じだ。運命に選ばれたのか適合率が高いこともあり無事にゴッドイーターとなった。その時には姉さんの中にある別の人格は戦う時が来ると大いに発揮されるようになっていた。だからアレは…」

 

 

 

ソーマから視線を外して、視線を移した先はいまも荒ぶっている姉の姿。

 

 

 

「臓物千切れろ! 張り裂けろ! ぶっといので貫いてやるよ!あっははは!!!」

 

 

 

オウガテイルが吹き飛んていた。

 

鮮血舞う贖罪の教会の外でアラガミの断末魔が響き渡り、そしてあの時の弱さはいまはもう過去の事らしい。

 

ボムマスターのスキルでも搭載してるのか怪しいくらいに激しい爆撃がそこら中に飛び交っていた。

 

 

「自己暗示に近いモノかもな」

 

 

それが良いのか悪いのか、判断はできない。

 

でもゴッドイーターになろうとするカノンにとって必要な力なのかもしれないから。

 

 

「……なぜそれを俺に話す?」

 

「深い理由は無い。ただほんの少しだけ理解して欲しかっただけ。姉さんは悪気があって誤射してる訳じゃないことを知って欲しかったんだ。たしかに姉さんはポンコツなところがあり、戦闘でも度々迷惑かけてる。でも悪い子じゃないから嫌わないで欲しい… って事を弟が誤解を解いてるだけだ」

 

 

 

まぁソーマにこんなこと言ってもおそらく「俺には関係ない… 」と切り捨てられるかもしれなかった。

 

でも俺は姉のことを知って欲しかった。

彼女は優しい気持ちを持っている素敵な人。

 

それを理解して欲しかった。

これは俺の独りよがりだ。

 

けど…

 

 

「マロン、一つ聞く。おまえの姉のカノンとは血の繋がりは無いはずだ。なのになぜそこまでカノンの事を思える?」

 

「!」

 

 

 

むしろ追求してきた彼に驚いて、少しだけ目を見開いた。しかし俺はカノンを見ながら軽く微笑んで答える。

 

 

「そんなのカノンが大事だからに決まってるだろ。血の繋がりは無いけれど俺は大事だよ。それだけで充分だと思う」

 

「……理解できないな」

 

「大事にしたいと思える相手が出来たらソーマも分かると思う。そこに血の繋がりなんて関係ないって事も含めてな」

 

「…」

 

「ちなみにソーマの事を気にかけて大事にしてるのはエリックだって言っておくゾ」

 

「……知らん」

 

「あと俺も」

 

「おまえは余計だ」

 

「じゃあエリックは良いって事だよな?なるほどな」

 

「おい、黙れ。 叩き潰されたいか?」

 

 

いつも通り、暴力的な冷たい言葉。

 

しかしそれがソーマだ。

 

 

 

「なぁ、ソーマ」

 

「………なんだ」

 

「俺はエリックといつまでもソーマを放っておかないからな。うざったいくらいにつきまとってやる」

 

「普通それを口から言うか?」

 

 

どこかもう諦めたかのように疑問をぶつけるソーマに対して俺はドヤ顔でこう言った。

 

 

 

「愛の告白は言葉からじゃないと伝わらないだろ?」

 

「くたばれマロン」

 

 

 

 

流石バスターブレード使い。

 

告白なんて簡単に両断してくれた。

 

 

 

 

つづく






GE2と言えばブラッドアーツ。
そしてブラスト。
イコールとして、つまり、そう言うことになる。
シエルの開発は偉大でしたね。

ではまた


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6話

 

〜 贖罪の街 〜

 

 

 

いま、三人は死にものぐるいで走ってる。

 

 

 

「調査隊の馬鹿野郎!何がオウガテイルの群れだ!くそッ!」

 

「持っているスタングレネードが不良品な上にこの編成で禁忌種のポセイドンとかアホくさ」

 

「は、早く逃げましょう!」

 

 

 

しかしこうも簡単に接触禁忌種と出会えるなんて極東支部はアラガミの動物園なんだって今一度再確認できる。しかも亜空間ミサイル攻撃を得意とするポセイドンがお相手だ。

 

姉さんはポセイドンと出会った事ないから対策も分からず困り果てている。

 

ソーマは交戦経験はあるようだけどこの編成だとまず死人が出ることを恐れて"今は"撤退に力を入れていた。

 

もしこれが禁忌種ではない普通のやわらか戦車ならソーマも俺も戦えるのだがカノンを入れた編成なら色々と準備不足だ。

 

 

「ソーマ! 左!」

 

「なに!? うおっ!!」

 

 

ソーマの進行方向に亜空間からミサイルがこんにちはしてきた。

 

俺が声をかけるまでは気づかなかったようだ。

 

カノンも未知のアラガミに怯えながらも撤退する足を緩めない。

 

 

「た、建物はどうですか!?」

 

「亜空間ミサイルは建物越しでも攻撃してくる上に狭い室内だと爆発から逃げれないから却下だ。逃げるなら空間の狭いところだ。もしくはかなり遠くに逃げるくらいだな!」

 

「だとしたらこの先どうするのマロン!?」

 

「どうするもなにもぶっ殺すだけだ!アラガミは殺す!!」

 

「ソ、ソーマさん!」

 

 

 

そう"今は"撤退に力を入れてるだけでポセイドンを殺せるタイミングがあるならソーマはまったくもってその気だ。

 

しかし姉さんは別だ。

彼女だけ交戦経験が無い。

 

奴の情報も頭に入れてないのだから。

 

ちなみに俺は一瞬だけどポセイドンとは出会ったことはある。いつだったか屋上から飛び降りて来たポセイドンが目の前にダイナミックエントリーしてきた。急な禁忌種とのエンカウントは死を覚悟したが足場が悪すぎるその場所で着地して、それで床が崩れて巨体はそのまま落ちて行った。

 

出オチなポセイドンに思考が追いつかなかったが、とりあえずなんとかなったとホッとしてたところに次は亜空間ミサイルが飛んできた時はマジでビビった。

 

その場から必死に逃げて生き延びた。距離を取れば亜空間ミサイルは飛んでこなかった。

 

さて過去の経験からわかること。それは飛んでくる亜空間ミサイルにも射程圏内ってのがあると言うこと。距離を大きく取れば攻撃は飛んでこない。だから死ぬ気で逃げて奴から距離さえ取れたなら生存は確定するはず。まあ戦車相手に逃げれるかわからないが。

 

あとソーマは自分がゴッドイーターである事と自分がアラガミを殺すために生まれたことを考えると逃げに徹するなんてあり得なかった。

 

今にでも殺しに掛かろうと苦虫を潰したような顔で堪えている。

 

 

「ちっ!マロン!お前はお前の姉を連れて離れろ!邪魔だ!」

 

「そうしたいのは山々なんだけどさ」

 

「くっ…はぁ……はぁ……」

 

「俺たちのように彼女はスタミナはずば抜けてないからな。不可能だ」

 

「ならおれが抑える!お前らは早くこの域から消えろ!」

 

「落ち着けよ、ソーマ。まず()()()ポセイドンを一人で相手して抑えれるほどソーマは強いのかよ?この場にリンドウさんがいるなら分かる。あとソーマはアレと交戦経験があるだろう。しかしそれは極東では無い出張先でのアラガミだろ?ここは極東であってその時と意味が全く違う。アレは極東のアラガミだ。自殺行為ならやめてくれ」

 

「黙れ…!」

 

 

フードから見せるソーマの顔は激しい焦りを感じさせる。

 

そしてこう思ってるに違いない。

 

__(死神)が引き寄せてしまったのだ…と。

 

 

 

 

 

「アレは俺が倒す!だからお前らは__!!」

 

「だから…なんです? 死神だから… あの厄災を引き寄せたから… あなたは責任を取るなんて言うのですかっ?」

 

「!」

 

 

 

怒りで興奮していたソーマはカノンの言葉により声が詰まる。

 

 

「はぁ、はぁ…くふぅ……ごめんなさい。呼吸落ち着きました。それでソーマさんは自分のせいだと、ありもしない事を言うのですか?」

 

「!」

 

「あなたが… あなたが死神だから、あのアラガミを引き寄せたなんて私どうでも良いです!変な責任感を負わないでください!」

 

「くっ、ッッ!!マロン!テメェ!また余計な事を!」

 

「姉さんは優しいからな。随分前にソーマがどうして辛そうにすることが多いのかを聞いてきた。だから俺は答えた。それだけ」

 

「っ、コイツら…!」

 

「はいはい、ツンデレ死神自称者を抱えた設定はここまでにしとけ…… そろそろ来るぞ」

 

「「!!」」

 

 

 

カノンの呼吸を整えさせて、ソーマと言い争いをしていれば当然奴が追いかけにやって来る。

 

まぁ、このメンバーでは逃げきれるとは思ってないので半分あきらめていた。

 

逃げることについては俺ひとりなら可能だ。

 

戦うより逃げるのが得意。

 

 

 

「聞け、二人とも。この近くには地下鉄が通っていた場所が存在している。故に足元が脆い。これは俺が調査隊として実際にその場まで調査したから言えることだ。極東にはアラガミとの交戦に向かない場所として報告してある。そんでもってあのポセイドンはとても重たいアラガミだ。そしてあいつを今から誘う場所は脆い足場のあるエリア…… あとは分かるよな?」

 

「!!… だけどマロン、その足場にポセイドンが乗っただけで崩れるの?」

 

「崩れるかはわからない。なので脆い場所のど真ん中にポセイドンを誘導する。そしてポセイドンの動きを止めてからソーマが真上からチャージクラッシュを叩き込む。その勢いで床を崩してポセイドンを地下に落とすわけだ」

 

「待て。そうなるとポセイドンこ動き止めるにも誰がその役目を受けるつもりだ?もしやヒョロヒョロのお前が囮になるとは言うんじゃねぇな!?」

 

「そ、そうですよ!ホールドトラップも無いのに!」

 

「大丈夫だ。俺は囮として任されるためのバレッドエディットを持っている」

 

「「!」」

 

「これでもソロで活動している調査隊だ。逃げるためのモノは多く用意している。今回のミッションでも驕りなくこのブラストに仕組んでいるんだ。今は得意な俺を頼りにしろ」

 

 

ポセイドンはなんとかしなければならない。

 

何せ回収のヘリコプターも近づけないから。

だからなんとかできる俺の言葉を聞いた二人は決断する。

 

 

「ソーマが頼りだ。思いっきり頼むぞ」

 

「……ッ、ちっ、なら早くポイントを告げろ。他のアラガミが集う前にな」

 

 

本当はホールドトラップが手っ取り早い。

 

しかし「当たらなければどうって事ない」精神の俺は身軽さを追求するためにバレッド以外のアイテムは極力持ち込まないスタイル。仮に何か持ち込んだとしても仲間と一緒にミッションを向かうときくらいだ。

 

今回は仲間のために回復アイテムを少量持ち込んだがオウガテイルだけだと聞いてたので対大型アラガミ専用のアイテムは持ち込んでいない状態だ。しかし万が一のために準備を怠ったミスだなこれは。あと他に何か現れてもソーマがいるからと軽く慢心していた。しかし現れたのは禁忌種だった。極東をナめてたわ。

 

 

「配置につけ!そんでもって絶対に死ぬな!」

 

 

姉と同じブラストを構えて向かって来るポセイドンの正面に立つ。

 

 

 

「グォォォオオオ!!」

 

 

 

うわー、デケェなオイ。

 

でも過去に姉さんは俺を助けようとするためにこうしてアラガミの目の前に立ちはだかったんだ。何倍も大きなオウガテイルを相手に。

 

 

 

「…」

 

 

だけど今回は姉さんが立ちはだかった時の何倍も何倍もヤベーヤツだ。

 

マジでヤベーヤツだ。

 

オワタ式装備のゴッドイーターがポセイドンと対面するなんて正気の沙汰も良いところ。

 

側から見れば自殺行為に過ぎない。

 

でも……そこに大差はない。

俺は何やっても一撃死確定な体だ。

 

不意に死ぬことなんてあり得る。

 

けれど…

 

 

 

「怖いとか、震えるとか、既に忘れた体だ」

 

 

恐怖心なんていつだったか麻痺していた。

 

ほんの少しの緊張感が身体を蝕んでるだけ。

 

でも失敗したら死ぬ??

 

いやいや、そんな考えは抱いていない。

 

紙一重を生きてきた俺は既に狂っている。

 

だから禁忌種のポセイドンだろうと関係ない。

 

恐れずにブラストのトリガーを引いた。

 

 

「震えろ!オラクルの檻だ!」

 

 

ブラストから放たれたオラクルはポセイドンを囲うように地面を走る。

 

5つのオラクルがポセイドンを閉じ込める柱となって地面から真上に伸びる。

 

神々しい異質なオラクルに驚いたポセイドンは足を止めてしまい、周りを見渡す。

 

禁忌種としての知能の高さが警戒心を持ち合わせるようになる。それが奴の失敗。

 

そしてポセイドンの腹元からブラストが打ち上がった。

 

 

「粉々にしてあげるね!!」

 

 

怯んだ隙にカノンが先ほどオウガテイルを血祭りにしたバレッドでポセイドンの弱点の腹を貫くいた。粉砕された腹と共に悲鳴をあげるポセイドンだが絶命に至らない。

 

しかしそれは充分であった。

 

 

 

「堕ちろォォ…!!」

 

 

ソーマのチャージクラッシュを振り下ろすには充分過ぎるほど隙を作れるからだ。

 

 

「グォォオ!!!?」

 

 

荒神を殺すために生まれた死神の一撃は轟音を響かせながら、ギリシャ神話の名を持つ海神を地底に叩き伏せたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 神機整備室 〜

 

 

「死ぬかと思った(小並感)」

 

「普通死ぬよね?」

 

 

どうも、甘い名前を持つ男マロンです。

 

ポセイドンを地底にねじ伏せてから必死に逃げて無事アナグラに帰還して報告書を提出し終えたところです。

 

とりあえず俺はあそこの調査隊のガバガバ調査を許さないと思います。同じ調査隊として許せません。今度ソーマと一緒に〆てやる。

 

ちなみに後のソーマは口数少なかった。しかし俺たちとの壁がまた一つ無くなったように気がした。命懸けで逃げて協力したからな。少しは信頼を置いてくれると嬉しい。

 

あと姉さんはアナグラに帰還してラウンジに一歩踏み込んで、膝から崩れ落ちて意識を失いました。

 

まぁ、仕方ないね。

 

何せ初めて出会うポセイドンの危険性を間近で感じて、自分達よりも凶悪な強敵と命懸けの鬼ごっこ。そんな寿命縮めるような緊張感から解放されたら誰だってそうなる。

 

それに俺とソーマの情報が無ければ間違いなくあの場で姉さんは死んでいただろう。

 

そのくらいのことが分かる姉さんならどれだけ小さな隙間を潜り抜けて命拾いしたことか身に染みている筈だ。でも今は安心して良い。ふかふかの布団で寝てる。

 

さて俺自身も疲弊してましたがリッカさんが本気で心配してくれたので顔を出した。彼女の顔を見ればこうして生きてることを実感できる。

 

有り難い。

 

 

「しかし、よく全員で生きて戻れたらものだな、禁忌種を相手に」

 

「その割には余裕そうに見えるのは気のせいかな?」

 

「気のせいではないよ。俺の心が麻痺してるだけだ。危機感は持っている。しかし一歩間違えれば命が消えることに対しての恐怖心があまりないんだ。死んだら困る。その程度には受け止めている。でも脳が拒む。怖さを。だから周りの人間からすると余裕そうに見えるんだろうな俺って」

 

「それは…」

 

「サカキ博士も言ってた。ストレスを背負いすぎて脳みそが麻痺していると。恐怖で体を硬直させるのは危険だと脳みそが理解してるから恐怖心を抱えないようにしてる。まともじゃないってさ。まあゴッドイーターって時点でまともではないがな」

 

「っ…でも、そんなのもっと自分を大切にできなくなるよ…」

 

 

彼女は悲しんでくれる。

 

可哀想な俺を。

 

 

「できる、限り自分を大切しようとしている。でもそうなってしまったんだ。この体は」

 

「……マロン…」

 

「俺は壊れたつもりはない。でもどこか壊れてしまった。それは良いことなんだろうか…」

 

「………少しで良い、じっとして」

 

 

ギュ__と、後ろから抱きしめられる。

 

俺を心配してくれる彼女の優しさ。

 

恐怖心を遮断してしまった体だけど、抱きしめて震えてくれる彼女の腕は分かる。

 

俺に悲しんでくれることを。

 

 

「無理……しないで」

 

「ああ、できたら、そうしたいな……リッカ」

 

 

俺はいつからこうなったのか。

 

もっと自分を悲しむべきだろう。

 

でももうそれは疲れた。

 

何度も悲しんでいたから。

 

それでも今はこうして息をして、ゴッドイーターとして立っているのは姉さんがいるから。

 

そして俺は生きるから。

 

そうしなければならないから。

 

心がどうにかしてしまっても、ゴッドイーターになった以上はアラガミを喰らい続ける。

 

それがこの役割。それは腕に刻まれた因子と共に死ぬまで続くんだから。

 

 

 

 

 

 

__オワタ式 。

 

それは諦めを誘い、恐怖心を奪うだけ。

 

普通を諦めて、狂気を普通として受け止める。

 

ああ、その通りだ。

 

ゲームと同じように、狂った装備。

 

それを今命懸けてやるのだから。

 

ならどこか壊れても仕方ないのだろう。

 

そうでなければ成り立たない。

 

それがオワタ式だから…

 

 

 

 

つづく



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7話

 

〜 アナグラ 〜

 

 

 

 

「いつ見ても糖尿病になりそうな液体だな」

 

『ただのオラクルでしょ?』

 

「でも色がなぁ」

 

『オラクルに保存料はあっても着色料は無いよ』

 

 

 

肩に付けているトランシーバーから聞こえるリッカの声。彼女からツッコミを受けながらオワタ式の神機にチクっと注射する。

 

ちなみに注射してるこれはOアンプルの事であり、オラクルポイントを即座に回復する便利なアイテム。

 

ゲームではゴクリと飲んでたけれど神機に直接注入して回復する手段もあるらしい。

 

もちろん飲むタイプもあるけど個人差によっては拒否反応起こして吐いたりするらしい。

 

なので俺は男らしく♂ブスリ♂と刺せるタイプを使用している。

 

オラオラ、嬉しいだるぉ??

 

 

さて、戦闘でもないのになぜOPを回復させるような真似をするのか? 理由は簡単だ。

 

とある実験を行っているからだ。

 

それは…

 

 

 

「リッカ、オラクルリザーブのストックが7を超えた!予想以上だ…実験は成功だ」

 

『予想よりも成功上回った結果だね! いやほんとにすごいのが出来たよ! これは間違いなくブラストの"革命"だよマロン!』

 

「そうだな。この実験を通してただ誤射するための神機じゃなくなった事になる。むしろ誤射してしまっても良いくらいの価値が生まれたんだ。 革命どころではないかもなしれない」

 

『いや、さすがに誤射は遠慮してあげて?』

 

 

ちなみだがブラストの誤射に関しては仲間に殺傷的ダメージの危害が加わらない。

 

オラクル同士が拒否し合うから体は傷つかない。その代わりハンマーで吹き飛ばされたような衝撃を受けてしまうが。

 

ただし、スナイパーは冗談抜きでやばい。

傷つかなくても肉体が衝撃で抉れる可能性あり。

まあスナイパーで誤射なんてしないだろうが。

 

 

 

『そ、それで?リザーブ分のバレットは撃ち放つのかな?』

 

「ワクワクしてるところ悪いけど撃つわけないでしょう?そんなことしたらアナグラ半壊するぞ」

 

『…え?アナグラを半壊させるなんてどんなバレットを作ったの?』

 

「………」

 

『え?なにその無言? なんか怖いよ?』

 

「……見たい?」

 

『い、いや、やめとく…』

 

「そうか、懸命な判断だと思うよ」

 

『う、うん』

 

 

 

しかしオラクルリザーブの話を持ち込んでから三ヶ月が経過したけど、こんなに早く開発が進むとは思わなかった。

 

流石アナグラの整備士リッカさんってところだ。

 

俺のワガママに付き合ってくれた彼女には感謝しかない。

 

冷やしカレードリンク一年分に値する。

いや、一年分ではまだ足りないくらいか?

 

 

 

「ホラホラホラホラ!ぶち込んでやるぜぇ!」

 

 

実験は終わったので神機の中にあるオラクルポイントを消費させようと思い、バレットエディット実験室を壊さない程度のバレットを撃ち放つ。

 

たまに遊び心込めて星の形をしたレーザービームを披露したり、かの有名な内臓破壊弾をターゲットにぶち込んで鮮烈に散らしたり、ダメージよりも魅せるバレットを放ったりする。

 

時折トランシーバーからリッカの驚き声が聞こえたり、この実験にたまたま立ち寄った神機使いは窓ガラス越しから目を見開いたりと驚きを示してくれる。

 

アナグラ唯一のバレットエディット製作者の一人として反応してもらえるのは非常に嬉しい限りだ。ちなみにアナグラのバレットエディッターで有名なのは俺以外だとサクヤさんくらい。

 

ゲームでは簡単に作れちゃうけど実際にこうして作り上げようとするとシステムが複雑過ぎて放り投げてたくなる。

 

wikiなんてない世界だからね。

 

そんで作成に慣れるまでが非常に大変。

 

そのため市販で売ってるので充分だと言う神機使いが殆ど。

 

だからバレットエディット実験室の主な利用者はそう多くない。

 

ちなみに『GE2』の『抗重力』に似たシステムを導入したバレットエディットも制作中だ。

 

仕組みはかなりややこしいけど瞬発的な破壊力が期待できる。

 

てかこれを作った一人でシエルって何者だよ?

 

ブラッドの力が後押ししたとは言え短期間で完成に漕ぎ着けたのはマジの天才だ。

 

俺なんてリッカと共同作業でやっとやぞ。

 

 

「あ、弾切れか」

 

 

それからオラクルポイントは空になる。

 

実験は成功の二文字で終了となった。

 

 

 

「しかし長かった」

 

 

本当にここまで長かった。

 

神機使いとしては半年超えたくらいの時を過ごしたけどやはり長く感じた。

 

でもこれで……

 

 

 

「ブラストに革命を起こせる…」

 

 

ブラストの売りは破壊力。

 

でも仲間との連携に向かない。

 

殺傷的ダメージは無かろうとも誤射されるのはとても危険であり、この武器種は嫌われていた。

 

また1発1発が多量のオラクルポイントを消費してしまうため小刻みな遠距離攻撃が望めない。

 

だけどオラクルリザーブのおかげでストック量に見合った破壊力を作り上げればアラガミの殲滅性が増す。

 

つまりトリガーひとつで勝負にケリをつけれるほどだ。それも一瞬で。

 

これがゲーム画面なら愉快な一面になるだろうけど実際のところかなりエグい事をやろうとしてるわけだ。

 

最終目標として天高く落下して爆ぜる"あの"オラクルバレットを作ってやろうと思ってるけど果たしてどんな光景になるだろうか?間違いなく至るところにどデカいクレーターが出来るよね。極東も顔が真っ青だ。

 

『マロンくんお疲れ。神機をメンテナンスするから戻ってきてね。あと冷やしカレードリンクは一本温めてるから』

 

「わかった、ありがとう」

 

 

 

てか冷やしカレー温めたらただのカレーになるのでは? それを考えながら実験室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「かんぱーい!」」

 

 

 

リッカは冷やしカレードリンク。

 

俺は湯煎でホカホカに温まっている冷やされてたカレードリンク。

 

互いに缶同士をカチンとぶつけ合いプルタブを開ける。

 

やっぱりリッカくんの……

実験後の……

一杯の……最高やな!

 

 

 

「そうだ、マロンくん! オラクルリザーブ開発成功に続いて朗報があるよ!」

 

「?」

 

「マロンくんの『制御ユニット』についてなんだけどね、ついに新装できそうだよ!」

 

「んぐっ!? ゴホッ、ごほっ!」

 

「だ、大丈夫!?」

 

「あ、ああ……すまん」

 

 

 

あまりの朗報にカレードリンクが喉の器官に詰まって咳き込んでしまう。

 

てか鼻にカレーが入って地味に痛い。

 

もしこれが辛口のカレードリンクなら最悪だったな。

 

 

 

「それで、制御ユニットに関しての朗報なんだけど… それってマジか?」

 

「うん!だからマロンくんが初期から使ってるその制御ユニットを取り外してとうとう新装できるの!」

 

「っ、そうか……やっとなのか」

 

 

それはつまり、俺の装備を取り替えると言うことだ。

 

今までそんなことできなかったのにゴッドイーター歴約半年目にしてやっと初期装備変更ができると言うことだ。

 

ああ、なんか…

 

オラクルリザーブの開発成功の流れからして制御ユニットの取り替え可能までくる涙出てきたな。

 

よくここまでやってこれたな…俺。

 

 

 

「ちなみにどんな制御ユニットなんだ?」

 

「マロンにピッタシのがあったよ」

 

「そりゃ良かった」

 

 

 

制御ユニットにも種類がある。

 

戦闘に向く奴から、そうでない奴まで。

 

そこそこ種類が存在する。

 

無論、俺のオワタ式装備にあった制御ユニットであれば助かる。

 

間違っても【剣攻撃力↑】なんて装備は意味が無いからな。

 

オラクルソードは攻撃力0である。

 

あー、でもリッカが見つけてくれたのなら装備するかな?するよ、うん。

 

そもそも俺は初期の頃から使っているこの制御ユニットがあまり好きになれない。

 

だって名前が『プロトタイプ』だ。

俺にとって皮肉でしか無い。

 

ゴッドイーターとしての生まれも方も関わってなんか嫌だった。

 

 

「リッカが見つけてくれた俺に見合う制御ユニットか。なんだろう」

 

「マロンくんは偵察向きな働きをする神機使いだからね。それに見合った制御ユニットを探していた。そして奇跡的に一つだけマロンくんのオラクルを暴走させずに使えるちょうどいい制御ユニットがあることがわかったの」

 

 

何度も言うけど俺のオラクルは些か不安定な働きをしている。タツミ先輩と同じかそれ以上に適合率が不安定らしい。その結果としてオラクルソードと超回避バックラーがピッタリと俺にくっ付いている。それ以外を受け付けない。

 

でもまだ銃と制御ユニットには取り替えの可能性があった。慢心はできないが俺のオラクル因子にあまり影響を及ぼさないモノなら取り替えが可能である。

 

しかし今までそれが無かった。

 

 

 

「でも確認取れた当時はそれはまだ存在しない制御ユニットだったけどね」

 

「…存在しない、とは?」

 

「ええと、研究データには残っていたけど開発はされてない状態だった。理由としては素材不足が主な理由なんだけど、それ以前にこの制御ユニットに見合った使用者がいない事が原因なんだよ。なので私が漁るまではお蔵入りな制御ユニットだったけれど、これがマロンくんのオラクルと安定して適合することがわかったのでサカキ博士と話してこれの研究を進めたんだ」

 

「うん」

 

「サカキ博士と共同だったから研究速度は早かった。まぁデータ上によると既に完成されていたようなもんだから素材さえ集めてしまえば作れるから、長く使えるよう頑丈に作るくらいだった。それでオラクルリザーブ開発の片手間に進めてたらねいつのまにか完成しました」

 

「完成しちゃったかー」

 

「そんでもって改良したよ!」

 

「改良もしちゃったかー」

 

 

 

やっぱりこの人凄いわ。

 

「無いから作ろう!」で開発してしまうその実行能力の高さが極東のエンジニアって感じだ。

 

そんでもってリッカたんマジ天使。

 

 

 

「しかしサカキ博士も共同で開発してくれるとは考えなかった」

 

「神機使いの研究をしているサカキ博士からすると制御ユニットこそ理解が深い人だから問題無く請け負ったんだよ。あとスターゲイザーとして探究心が旺盛だから興味云々でこの研究に喜んでたし。と、言っても彼の本音は多分そこじゃ無いね」

 

「?」

 

「マロンくんに負い目があったんだよ、博士はね」

 

「!!」

 

「君を不自由な神機使いとして作り上げたのは紛れもなくサカキ博士を含めた研究者達だ。 そして神機使いに立ち会うサカキ博士は研究者(狂人)である。 でもその前にサカキ博士は狂い無き人としてヒト(可能性)に立ち会う観察者なんだよ。 だから手を貸した… いや、そう言った機会を待っていたのかも知れないね」

 

 

機会。

それは……

 

 

「償いのつもりか?」

 

「かも知れないね」

 

 

 

あの時のことは覚えている…

 

後悔したサカキ博士の顔を。

または…

 

失敗に項垂れた研究者の顔でもあった。

どっちも併さった表情だった。

 

起こしてしまったのはもう仕方ない。

俺もそうやって強引に受け止めた。

 

サカキ博士は…

 

あの後どのようにこの結果を受け止めて、今もスターゲイザーを務めているのかわからない。

 

でも俺のことを気にかけてくれていたからこそリッカと共同で研究してくれたのだろう。

 

なら、そこに感謝しなければならない。俺をゴッドイーターとして生かしてくれるなら。

 

 

「リッカ、制御ユニットを見せてくれないか? どんなモノなのか見たい」

 

「いいよ」

 

 

 

俺の望みを了承したリッカは立ち上がって手招きする。

 

おれは彼女の様なエンジニアだけが入る事を許される研究室に招かれた。

 

目を引く様なモノが沢山置いてある。彼女の努力が多く飾られている。

 

彼女は立ち止まり、アーカイブのボタンをカチカチと入力して画面を立ち上げる。

 

そしてしばらく流れていた『loading』の大文字が流れて、画面が切り替わる。

 

制御ユニットの画面が出てきた。

 

 

「これが…」

 

 

よくわからない細胞や単語。

 

モニターの隅では数字がいまも働く。

 

辛うじて読むことができる英文などが記載されていた。しかし…

 

 

「名前が………無い?」

 

 

どこにも制御ユニットの"名前"が書かれていないのだ。

 

 

 

「リッカ? これは?」

 

「うん、マロンの疑問通りこの制御ユニットにはまだ名前が付いてないの」

 

 

 

リッカはボタンを入力する。

 

すると画面が切り替わる。

 

そこには『 scout(スカウト)』と画面の上側に大きな文字で書かれていた。

 

 

「これは偵察隊や調査隊に属する神機使いが良く扱う制御ユニット…… あ!もしかしてコレか!?」

 

 

だとしたらありがたい!!

この制御ユニットなら随分と楽になる!!

 

しかし…

 

 

「違うよ、これはただの……過程だよね」

 

「………え?」

 

 

 

違う??

 

違うのか??

 

これじゃ無い??

 

それより彼女の言う『過程』とは??

 

もう一度画面を見る。

 

すると気づいた。

 

画面の右側に『Derivation』と書かれた英文。

 

そんなリッカは俺の視線の先に気づいたのか少し微笑んでボタンを再びクリックする。

 

すると先程最初に見せられた名前のない制御ユニットの画面に切り替わった。

 

 

「待てよ…」

 

 

英文の意味を思い出す。

確か『Derivation』とは『 派生 』って意味だ。

 

または『導出』って意味もあったか?

 

そして先程見せてもらった『スカウト』の『派生』により生み出された『制御ユニット(進化系)』だとしたら……

 

 

「!」

 

 

これは願った以上のモノになる。

 

つまり!!

 

 

「これ、もしかしてイーグル______」

 

「『イーグルアイ』では無いよ」

 

 

え?

 

違う…のか??

 

 

「これはイーグルアイよりもっとすごい制御ユニット。改良に改良を重ねた最高の一品。だからこれをイーグルアイと呼ぶことが出来ない」

 

「そうなのか」

 

「これが無名なのは台場マロンと言うゴッドイーターが名付けてもらい、台場マロン専用として使う事を望まれた制御ユニットだから。私とサカキ博士はそうしてもらおうと思ったからまだ名前を入れてないんだ」

 

「!!」

 

「さぁ、腕輪を出して、この機械に乗せて」

 

「あ、ああ…」

 

 

 

大人しく腕を乗せる。

 

そして小さなチューブが腕輪にはめ込まれる。

 

リッカがカチカチと設定する。

 

 

 

「待っている間にこれを見て」

 

「?」

 

 

 

モニターに何かが映し出される。

 

そこには…

 

 

『マロンくん。この映像を観てるという事はその制御ユニットを受け取ってくれることになるんだね。ありがとう』

 

「サカキ博士…!」

 

『君には苦労させてしまった。しかしこの機会はスターゲイザーとして、または研究者としてチャンスを貰えたのだと思っている。だから私は少しでも君に対する償いになるだろうと考えてリッカくんと共にこれを作った。どうか受け取ってもらいたい』

 

「……償い…か」

 

『君がプロトタイプとして土台となり、新型の研究は多い進んだ。だからこそとても理不尽極まりない結果を君の体に刻んだ。それは愚かなんだろう。でも私は今も続ける。君が一人のゴッドイーターとして、または一人目の新型神機使いとして可能性を見るために、スターゲイザーの私はそれを望むよ』

 

 

 

それだけ言うと映像は終わる。

 

 

「サカキ博士は制御ユニットの研究に力を注いだ。その目的はさまざまだ。でも台場マロンと言うゴッドイーターのために手がけた。それは間違いないよ」

 

 

カチカチと入力して、機械が作動する。

 

そして腕が少しビリビリしてきた…

 

 

「そして完成させたこの制御ユニットなんだけど…」

 

「?」

 

「ここだけの話。この制御ユニットに使われてるアラガミの素材は今のマロンくんの数段上の階級じゃなければ使うことが禁止されてる素材なの」

 

「なに? それって、つまり…それは」

 

「これだけで理解してくれるのマロンくんの事だからこれ以上は説明しないけど、つまりそう言う事だよ。さて、少しイタイけど耐えてね」

 

「ッ!?あああー!痛い!痛い!痛いぃ!痛いんだよぉ!!」

 

 

 

いやいやいや。

 

これ少しどころじゃねーぞ!?

 

 

 

「おやしらずを抜くよりはまだマシだと思うから堪えて」

 

「それを基準に考える程に痛いって事だよなソレ!」

 

「ふふ、かもね。はい、終わり。 お疲れ様」

 

「おうふ…」

 

 

 

ヤベェ、すげー痛かったゾ。

ゴッドイーター辞めたくなりますよ…

 

涙目になりながらもリッカにお礼を言う。

 

そして画面の方に目を向ければ第一使用者の欄に俺の名前が刻まれていた。

 

これは光栄に思うと良いのだろうか?

 

 

「しかし制御ユニットの切り替えでこんなに痛み伴うのか?」

 

「個人差によるかな? でもマロンくんの場合仕方ないとしか言えないかもね」

 

「神機だけではなく制御ユニットすら装備を変える事を嫌がるのか俺のオラクルは。面倒な体になったな本当に」

 

「それでもまだ制御ユニットは取り変えれそうだから変えたまでだよ。その代償で先ほどの痛みを伴うことになるけどね…」

 

「でもそれだけで済むならまだ良いさ。それにやっと装備を変えることができたんだ。今はとても嬉しいに決まってるよ」

 

「うん、よかった。 そう言ってくれると頑張って開発した甲斐があったよ」

 

「じゃあ……とびっきりの名前をつけるか」

 

「そうだね。 私はそうしてくれたらすごく嬉しいよ」

 

 

 

 

イーグルアイよりも上を行く制御ユニット。

 

 

それはつまり原作ゲームにも存在するスカウトの派生で作られたイーグルアイの派生で誕生する制御ユニットの事。

 

偵察兵のために存在すると言っても過言ではないレベルでゴッドイーターを支える上級クラスの制御ユニット。

 

だからオリジナルの名前をつける事なく、俺は原作ゲームに存在するその物の名前をつける事にした。

 

それは…

 

 

 

「【シャドウ】と、名付けよう」

 

「わかった、そう入力するね」

 

 

 

リッカはボタンを入手し、モニターに映しだされる上の枠に一つ一つ文字が入力される。

 

 

_____ shadow(シャドー)

 

または ___ 『シャドウ』でも良い。

 

こうしてプロトタイプを脱ぎ捨てた俺の制御ユニットが手に入った。

 

 

「ああ…やっと……か」

 

 

 

神のいない世界で願ってた。

 

プロトタイプから脱することを。

 

 

 

「リッカ、ありがとう」

 

「もう、そんな泣きそうな顔しないで」

 

「ぇ?…今、俺、そんな顔してるのか?」

 

「あはは、そんな事ないよ。嘘だって」

 

「おいおい勘弁してくれ。実際のところ泣きたい気持ちでいっぱいなんだけど」

 

「なら、泣いちゃう?」

 

「辞めとく。せっかくスタートラインに立てたのにみっともないから」

 

「みっともなく無いよ。ここまで頑張ってきた証なんだ。少しくらい感情のままに()()()も良いんじゃ無いかな?」

 

「!!」

 

 

 

震える…か。

 

しばらく忘れていた感情。

 

今なら正しい反応なのか?

 

困惑してしまう俺を見た彼女は困ったように笑いながら手を広げてこちらを抱きしめてきた。

 

 

「!!」

 

「マロン。わたしはエンジニアだよ。直す事が得意エンジニアなんだ。だけど君の不安定なオラクルも、君を呪縛する神機も、君の麻痺したその恐怖心も、何も直してあげることができない。ただ支えるだけなんだ。わたしはそれしかできないんだよ」

 

 

彼女は悲しく笑う。

 

 

「けれど一つも出来ない事はない。わたしが君にやってあげれる事はマロンくんにしてあげるよ。だからね…」

 

 

こちらの両肩に手を置いて、その悲しさをかき消すようにストンと胸元に顔を寄せて…

 

 

 

「わたしも君と震えるから。だから君も震えて、心のままに慄えてね」

 

「……俺は、もらってばかりだな」

 

「そんなことない。君が戦って、皆を守る。そこに私も含まれてるから、貰ってばかりなんて思わないで。だからマロン。誰かから貰うためにも、誰かに与えるためにも、君が死んだらダメだよ」

 

「……ああ、死なない。約束する」

 

 

 

そうだ。死ねない理由が出来た。

 

そして初めて怖い理由が出来た。

 

ここまで注がれた彼女の思い、そして与えてくれた賜物を、オワタ式を言い訳にして抱えて死ぬなんて絶対にお断りだ。

 

それを無化にしてしまう痛みと、繋げてくれたものが絶たれてしまう悲しみと、それが引き金となる恐怖は彼女から与えられた制御ユニットと共に今この体に刻まれた。

 

死んではならない理由が出来たんだ。

 

 

 

「リッカ」

 

「?」

 

「ありがとう」

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

 

 

 

ちゃんと心で生きてみよう。

 

オワタ式を言い訳にせず。

 

台場マロンとして待ってくれる人のために。

 

恐怖心が本物であることを正しく思い出しながら俺はゴッドイーターとして、戦っていく。

 

決めた今日から始める、それだけ()の話だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 屋上 〜

 

 

 

「やぁ、なに黄昏ているんだい?」

 

「エリックか、お帰り」

 

 

戦場から戻ってきた親友に労わりの言葉を掛け、自然と横に並び合う。

 

屋上のフェンス越しから外を眺めれば色んなゴッドイーター達が戻ってくる。または夜にミッションへ旅立つゴッドイーターもいた。

 

あのヘリに乗ってる神機使いが五体満足でこの極東に戻ってくるだろうか?

 

そんなこと考えながら夕焼けを味わう。

 

 

 

「いい目をするようになったね」

 

「どうした突然?」

 

「まぁ、聞きたまえ。君はオワタ式故に僕達とは違う道を歩みながらゴッドイーターをしないければならない。そのためには色々な事を考えて打開策を生み出し、ただでさえ低いその生存率を何とかしなけらばならない。それを考える君の目はまるで…… 機械的だった」

 

「!」

 

「生きるための努力は人に活力を与える。そして君は生きるための努力を重ねてきた。けれど何か違う。君の目はただそこに至るまで遂行しようとする目だ。その上でそこに至るまでの道を既に理解してるような感じにも捉えれてね、まるで作業のようにも見えた」

 

「…」

 

 

 

エリックは本当に良く人を見ている。

 

『そこに至るまで遂行』

『理解してるような』

『まるで【作業】のようにも見えた』

 

ああ、間違いない。

 

これはこの世界の『元ゲームプレイヤー』として吸収した知識から来てる俺の目だ。

 

そしてエリックには俺は自分がこの世界のゲームプレイヤーだと打ち明けてはいない。

 

しかしエリックは異常で異質なその違和感をしっかりと俺から見極めていた。

 

 

「なにを経験してそのような眼差しを覚えたのかは僕にはわからない。最初の僕は痛みを知らない温室育ちの僕だったからね。だから君がゴッドイーターになる前はどれ程を抱え、どれ程の事を考え、どれ程の経験を積んで来たのかもわからない」

 

「……別に、そんな大した事ではないさ」

 

 

 

そう、大した事ではない。

 

ゲーム画面の中の"都合が良過ぎる分身"を動かしていただけだ。

 

そこに映る格好良さに憧れていただけだ。

 

セーブボタンとリセットボタンを楽しんでただけだ。

 

ひたすらセコイ事(原作知識持ち)で生き延びてるだけだ。

 

だから俺はエリックが感心を抱く程の人間ではない。

 

 

 

「でも、今の君はそうじゃない」

 

「……え?」

 

「強い意志を抱いたよう男の眼をしてる。覚悟を決めたような眼をしてる。生きたいと思える息遣いだ。経験と効率から生み出されたその答えだけに目指す歩みでは無くなり、その足踏みには本心から溢れた感情が篭っている。なぜなら君が"こうしたい"と訴えてるからだね」

 

「そうなのか?」

 

「うん、とても伝わるよ。 その眼からはたしかに訴えている」

 

「……そうか」

 

 

 

エリックの今の話は周りからしたら何のことなのか分からないだろう。

 

だけど俺にはそれが理解できて、エリックも自分だけそれが分かっていればいいと余計なことは考えない。

 

そしてエリックからは俺の変化を喜んでいるようにも感じる。サングラス越しから喜んでる事を訴えいた。

 

 

 

「もしかして、心配させてしまった?」

 

「少しはね。まぁ、君の置かれた状況を見ると仕方ない事とは思ってたさ。そして僕は見守るしかできなかった。しかし、今日の君の横顔見たら変えられたんだと思えたんだ。だからもう心配はしてないさ」

 

「そうか。 なんかすまんな」

 

「なに、気にするな。こんなご時世だ。何かしら抱えていてもおかしくはない。そこにソーマくんも、マロンくんも、大差ない」

 

「そうかい。それにしてもエリックは良く人を見ているよな」

 

「これでも僕は親が動かす大企業の跡を継ぐ人間なんだ。まだ御曹司であるが人を見極める力を必要としなければならない。だから僕はそう言った練習などを積んでいる訳だ」

 

「なるほど。 ……華麗だな」

 

「フッ」

 

 

 

ナルシストで、少々面倒で、無理してでも余裕ぶり、周りからは反感買われやすい立ち振る舞いを行うが、彼はたしかにこの世界で戦い、一人の人間として完成しようとしてる。

 

オウガテイルに頭から喰われるだけの存在(NPC)ではない。

 

それを証明してくれた。

 

 

 

「なんか色々ありがとうよ、エリック」

 

「礼には及ばんよ。と、言うより礼を言われる理由は無いがね。ただ僕は『変わったな』と伝えただけだ」

 

「それならそうと簡潔に言えよ」

 

「まあまあ、こうして君と少しだけ長く話す時間が欲しくなっただけだ。 あまり怒らないでくれたまえ」

 

「別に怒ってはないさ。俺も話が出来て嬉しいよエリック。でもあまり油断しすぎんなよ?いつか足元すくわれることになって、それでオウガテイルに頭から喰われることだってあり得るんだからな。俺もお前も」

 

「おいおい?それでは足元から食われるのか、頭から食われるのか、はっきりしないじゃないか。一体どっちなんだい?」

 

「それはアラガミの性格によるかな」

 

「はははっ!アラガミ相手にたい焼き理論を持ち込むなんて君くらいだよ!」

 

「おっと??エリックはたい焼きの事を知ってんのか?」

 

「知ってるよ。 たい焼きもどきな物を幼い頃に食べたことあるからね」

 

「たい焼きもどき…って、それ本当にたい焼きの形してたかよ?」

 

「んー…グボロ、みたいな形してたかな?」

 

「おいおい、幼い頃にアラガミ食らってたとか既にゴッドイーターしてた件について」

 

「フッ、当たり前じゃないか。なんせ僕は…」

 

 

 

 

 

 

___華麗なる神機使い(ゴッドイーター)だからさ

 

 

 

 

 

 

 

そう言って俺の肩を叩おて横を通り過ぎる。

 

そんなエリックの後ろ姿は大きくて…

 

背負ってるモノも計り知れなくて…

 

ただ、華麗なる生き様を見せていた。

 

 

 

 

「……原作知識って、なんだろうな」

 

 

 

多分、恐らく。

 

一番、無意味なんだと思う。

 

それが改めてハッキリした瞬間でもあった。

 

 

 

「…」

 

 

 

でも、ひとつだけ変わらないものは近くにあり、それを眺める。

 

 

 

「綺麗な夕陽だな…」

 

 

どの世界でもこれだけは変わらないらしい。

暖かな気持ちになれたんだ。

 

今日も生きて、心が震えて…

 

それを明日も繰り返そうとする。

それだけの話だ。

 

 

 

 

 

つづく

 

 





第一部 〜完〜

って感じかな??随分とふわふわしている良くありげな内容けどまだその程度しか書けなかった頃の自分だったのかな?それでも懐かしい感覚でした。


ではまた


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8話

 

 

 

人の手によって綺麗に整地されたはずの道は無慈悲な存在に手荒れ果てた大地と変わり、何十年も前に沢山の建物が並んでいたその場所は瓦礫として朽ちてしまい、潤いを与えていた水も自然もそこには無い。

 

この世に現れたアラガミと呼ばれし存在によってこの世界は変えられた(食べられた)

 

しかしそんな世界でも生き残るために足を止めない者がまた一人いる。

 

この世のアラガミを殺すために急ぐ青年は幼い頃にとある神機使いから渡されたコンパスの針を目印に進む。

 

そしてもう一人。

 

足を怪我してまともに歩けないひとりの女性。

 

その姉は愛する弟を心配させぬようこの状況に立たされながらもひたすら先頭を歩き、ひたすら南へと進む。

 

しかし…

限界は来た。

 

 

「…ぁ……ぅぁ……レン…カ…っ…」

 

「姉さん!!?」

 

 

 

疲労により地面に崩れる。

 

もう足は進まない。

 

そのかわり獲物を喰らおうとする足音が聞こえる。

 

アラガミだ。

 

 

「!」

 

 

弟はいち早くアラガミに気づくと地面に崩れた姉の腰に腕を通して抱き上げて建物の中に潜む。

 

そして朽ち果てた建物の奥に進む。

 

疲労と怪我に苦しむ姉が咳き込む。その弟は姉を地面に座らせて壁に背中を預けさせて、その足を確認した。

 

 

「っ…」

 

 

数刻前に受けた傷。

 

アラガミに襲われながらも全壊した集落を抜ける際にバイクに乗って逃走を開始したが、その時オウガテイルの牙が姉の足を捉えた。

 

その傷跡は思ったより深く、膿により侵食していた。これでは足がまともに機能しない。

 

今ここで治療を行えばその足を元に戻す事はできるだろう。だがそのような道具はこの状況持ち合わせてる筈もない。あるのは一口分の水とビスケット。

 

あと方角を間違えないコンパスだけ。

 

包帯も消毒液も存在しない。

 

既にこの世界にそんな大層なモノは無い。

 

そのかわり絶望だけはその場にあった。

 

 

 

「レンカ、あなたは…逃げな、さい」

 

「嫌だ! 俺は姉さんを置いてなん___」

 

 

希望を捨てたくないその言葉を続けた次の瞬間だ。

 

建物の天井が崩れる。

 

何かが……

いや、絶望が上から落ちてきた。

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

大きな牙と、大きく広い尻尾。

 

この世でよく見られるアラガミ。

 

オウガテイルだ。

 

小型のアラガミだが、力無き一般人からすれば絶望する相手だ。

 

しかもそのオウガテイルは通常のオウガテイルとは異なり、大きな尻尾に電気を纏っている。

 

まるでヴァジュラとのハイブリッドだ。

 

ただのオウガテイルではない。そんな厄災がこの姉弟に追い討ちとばかりに舞い降りる。

 

 

 

「グルル?」

 

 

 

黄色のオウガテイルは周りを見渡すと身を強張らせていた姉弟と目が合う。

 

そしてその目は当然のごとくこう訴える。

 

 

___獲物だ…

 

 

 

「くっ…」

 

 

 

青年は足元に落ちてる鉄パイプを握りしめて、アラガミと対立をする。

 

勝てないのはわかっている。

 

でも逃げることを選べない。

 

後ろにいる姉をアラガミの餌食にはさせない。

 

神に祈ることさえもせず、ただ無力に立ちはだかるだけだ。

 

そんな弟の後ろ姿を見て姉は思った。

 

アラガミから逃げることができないこの足を抱えた自分が最後に役立てる方法。それはアラガミの餌になるだけ。

 

そして【繋ぐ】だけだ。

 

母から、父から、繋げてくれたこの命。

 

それを目の前にいる弟に繋ごう。

 

そう思い姉は手を伸ばしてナイフを取る。

 

 

「もう…仕方ない、弟なんだから…」

 

「!?」

 

 

弟は見る。

 

震えるその手で握るナイフの先を。

 

 

 

弟は悟る。

 

姉が今から何をしようとしてるのか。

 

 

 

弟は知る。

 

父が逃がしてくれたように姉もそうしようと。

 

 

 

 

「やめろ! 姉さん!」

 

 

 

 

思考が追いついた時にはもう覚悟を決めた姉の姿がそこにあった。

 

伸ばす手は届かないだろう。

 

そして彼女の終わりが喉元に斬り込まれようと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぶち込んでやるゼェ!」

 

 

___斬り込まれようとはしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうもお久しぶりです。

 

甘そうな名前の男、台場マロンです。

 

まあもう、この世に栗なんて無いですが。

 

この世唯一のマロンは俺だけ。

 

まあそこら辺はどうでもいいか。

 

さて、現在この付近を調査しています。

 

半年前に調査済みだと言うのにまたこの場所に飛ばされました。

 

恐らく半年周期で同じところを何度も調査させられるのでしょうね。

 

馬鹿馬鹿しい。どこも廃回していて変わらないと言うのに。

 

あ、この愚痴は調査隊としての目線ね?

 

内緒だぞ?

 

 

 

「んん??……あれは?」

 

 

 

調査記録を刻むために携帯しているメモ用の電子機器から視線を外す。

 

ビルの上から気になる モノ を見つけた。

 

ただし、物ではなく()だ。

 

 

 

「オウガテイル? いや、あれは本当にオウガテイルか?」

 

 

 

毛並みが黄色い。

 

一瞬、ヴァジュラかと思っ………いや、まさか!

 

 

 

「まさかヴァジュラテイルか!?初めて見た!」

 

 

 

この世界に来てから一年が経過する。

 

その間にアラガミは飽きるほど見てきた。

 

しかしオウガテイルの亜種的存在は一度も見ていない。

 

てか今までオウガテイルに別種がいた事すら忘れていた。

 

まぁそれどころじゃなかったゴッドイーター人生だったので細かにアラガミの種類など意識する余裕なかった訳だ。

 

まっ、多少はね?

 

 

 

「建物に入った。随分と気ままで……って、おいおい……嘘だろ?」

 

 

 

ゴッドイーターとしての視力と調査兵として嫌ってほど良く見えるようになってしまったこの目が、地面にこびりつく微かな血痕を見つけてしまう。

 

小さく垂れ落ちただろ血の跡は人間でなければこの世界ではありえない。

 

もしアラガミならもっと鮮烈に撒き散らされてるだろう。

 

 

 

「こりゃ経験則上だと人間の生存者がいることになるな…」

 

 

 

その答えに行き着くと俺はポケットから"強制解放剤"を取り出して神機に突き刺す。

 

すると体がチリチリと焼ける感覚に襲われるが体内が熱くなり身体に力が湧き上がる。

 

ゲームならば体力が下がり耐久面が不安になるが、まあ俺には関係無い。

 

オワタ式に体力(バイタル)は飾りだからな。

 

そのため躊躇することはなかった。

 

 

 

「疑似バーストモードは安定、よし」

 

 

 

バースト状態の確認を終える。

 

それから片目を閉ざす。

 

そして閉ざして無い方の眼に力を入れる。

 

すると視力は片方の目に集中して()()()()()ようになる。

 

微かにだがオラクルが視認できるようになる。

 

地面に視線を向ける。

 

足跡だ。

 

オウガテイルサイズの足跡。

 

重力と引力がある地球だからこそオラクルの塊であるアラガミの体から溢れるオラクルが足跡となって地面に形作ってくれる。しばらくするとそのオラクルと消えてしまうから、まだ新しいと言うことだ。

 

ちなみにコレはユーバーセンスの力では無いらしい。

 

俺個人が持ち合わせている能力。

 

 

「調査兵としての進化、もしくは人としての進化だったりするかもな」

 

 

一応サカキ博士には説明した。

 

適応力の問題らしい。

 

オワタ式だからこそ、アラガミたる神機使いの俺が生き残るために体がそう進化したんだと。

 

そのトリガーとして片目を閉ざして、閉ざした分の視力を片方の眼に集中させて力を発揮する。

 

人間じゃない。まるで化け物だ。

 

いや、ゴッドイーターは化け物だな。

 

ゴッドイーター2でもブラッドが進化してきたんだ。俺はブラッドじゃないがオラクルを投与してアラガミの力を得たゴッドイーターだ。

 

それなら俺だってブラッドじゃ無かろうとも進化もするさ。それだけの話だ。

 

 

「っと、逃すと思うか…!」

 

 

オラクルソードを強く握りしめてヴァジュラテイルを追いかける。

 

途中数体のオウガテイルの群れがいたがその真上を高々と飛び、強引に突破する。

 

見上げれば視認できるほどの堂々とした突破なのにオウガテイルは気付かやい。

 

更に高く降り立った着地の音も無反応。

 

これが【超消音】の力か。

 

気配すら断じている。

 

なんなら声も張り上げ無ければ、独り言呟く程度の音も断殺する。

 

改めてすごい力だと理解する。

 

ゲームなら消音で充分だがリアルが絡むとそうもいかない。

 

見つからないことが生き残る近道だ。

 

リンドウも「死にそうになったら逃げろ」「そんで隠れろ」「隙をついてぶっ殺せ」を多くの新人に教えている。

 

そして「生きていればなんとかなる」が生きる道として正解なら超消音のようなスキルは生存率を大いに高めてくれる。ソーマのように戦える奴だけが()()()を出してアラガミを屠ってくれたらいい。

 

俺は戦闘タイプじゃないので逃げ特化と言うことにしておこう。

 

リッカマジでありがとうな。

 

一応サカキ博士にも感謝はしておく。モルモットにしてくれた恨みはまだ些か消えないが

 

 

「しかも微かに小さな反応が二つある!まさかこの建物の中か!」

 

 

バースト状態だから察知力も高い。

 

これもオワタ式故の進化だ。

 

なんならオラクルではない普通の生物の気配だと言うこともわかってしまう。

 

少し焦りを生みながらもヴァジュラテイルを追跡していると朽ち果てた建物の中に入った。

 

すると二階への階段を登り、奥へ奥へ進む。

 

やけに足取りが軽い。

 

 

 

「っ、そう言うことか!待ちやがれ!」

 

 

 

するとヴァジュラテイルは走り出す。

 

そして床が脆い地面を見つけるとその場所にめがけて力強く踏みつけて真下へ崩れ落ちる。

 

しかもその先はアラガミでは無いよ小さな生物反応が二つある。

 

まるでヴァジュラテイルはそこにいることわかっていての動きだ。

 

なんだよあの知的な行動は。

オウガテイルにしては賢すぎる。

 

 

 

「アラガミが!知力を待とうなど!そのまま人を超えるつもりか!」

 

 

 

ヴァジュラテイルの後を追いかけるごとにだんだんと二つの生命反応も強くなる。

 

神機を変形させながら穴に向かって飛び降りてヴァジュラテイルの背中を確認しながら銃口を下に向けてトリガーに指を引っ掛ける。

 

そして。

 

 

「ぶち込んでやるゼェ!!」

 

「ガアアアア!?」

 

 

流石に大声を消せる超消音では無いが、意識をこちらに向けさせるためだ、問題ない。

 

鉄球のようなモルター砲が脊髄を狙う。

 

 

「ゴ、ゴヒュュゥ…ァ!!!」

 

 

ヴァジュラテイルの脊髄が破壊されるとそのまま首がへし曲がる。ふらつくヴァジュラテイルを上から踏みつけて、折れる骨の音が建物の中で響き渡る。そのまま足に力を入れた潰して首にトドメを刺して、首が千切れる。

 

転がる顔を壁に向かって蹴り飛ばし、打ち付けられたその瞳は焦点が合わない。

 

 

「お前らも死んでしまえ」

 

 

騒ぎを聞きつけて曲がり角から出てきた数体のオウガテイル。

 

そのタイミングと合わせてヴァジュラテイルの頭に向かってトリガーを引き、オラクルが真横に弾け飛ぶ。連鎖爆撃系のバレットでまとめてオウガテイルを消し炭にした。

 

 

「さて、コアは貰うぞ」

 

 

胴体は残っている。

 

それに神機を向けて捕食…しようとして。

 

 

「台場…さん?」

「マ、マロン?」

 

 

 

「んえ?」

 

 

いま俺の名前を読んだ……か?

 

振り向く。

 

そして、そこにいたのは…

 

 

 

 

「……空木(うつぎ)?」

 

 

 

 

つい10日前にお世話になった家族の子供達がそこにいた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて再開を懐かしむ暇もない。

 

アラガミ動物の中で足を止めるのは自殺行為なので空木家の姉弟を連れて調査のために作り上げた拠点まで向かった。

 

向かった先は元々処方せんだった場所であり薬も瓦礫の下に埋もれている。その中でいくつか無事に使える薬が転がっていた。

 

足を怪我してる空木家の長女である『空木イロハ』に薬を使って治療した。

 

 

まあ、しかし…

少し空気が悪い…

 

 

俺は一旦姉弟だけにして外の見回りに向かった。

 

まぁ入り口からアラガミに見つからないよう顔を出していて外を見渡す程度だけどな。

 

すると空木姉弟の穏やかではない揉め事が聞こえる。

 

 

 

「姉さん! なぜあんなことをした!」

 

「っ…それは、あなたを逃がすために…」

 

「俺はそんな事望んでいない!」

 

「…」

 

「俺の家族はもう姉さんだけしかいない。お父さんも… お母さんも、命を捨てて俺たちを生かそうとッ」

 

「違う!!」

 

「!」

 

「捨てた訳じゃない!命を繋いだの!」

 

 

 

普段穏やかな姉から声が上がる。

 

てか、この声拾ってアラガミ来なければ良いが。

 

 

 

「レンカと私のためにお父さんとお母さんは命を繋いでくれた!神に祈れない世界だから!人の力だけで生きる世界だから!人が人を助けて繋いだのよ!だから私も… わたしもっ… わたしは…レンカを繋ごうと思って… ナイフを持ったけど………でもっ、でも…」

 

 

 

歯をくいしばるような声。

 

決めたはずの覚悟が揺らいでる心情。

 

それはまるで…

 

 

 

「わたしはレンカと離れ離れになると思うと……怖くて……苦しくて……」

 

「姉さん…」

 

「ごめんなさいっ…ごめんなさい…レンカ…わたし…ごめんなさい、わたしは…やはり…ごめんなさい……貴方と、別れるなんて…ぅぅ」

 

 

 

 

わからないことはない。

 

むしろイロハは賢明な判断を下した。

 

そして……その覚悟も俺はよくわかる。

 

よく知っている。

 

だって俺の姉さんも、そうしてくれたから。

 

死を目の前にして尚弟を救おうとしたその強さを良く知っている。

 

 

 

「神に祈れない世界……か」

 

 

それはつまり天に向かって救いを求めれないこと。そうなると無力な人間にそれはどれほど苦しいことか?

 

いや、俺には分かるはずもない。

 

何せアラガミを殺せる力を得てしまった俺だ。

 

だからその言葉はどれほど重いのかもわからないのは確かな話だ。

 

 

 

「レンカ………れんか………れんかぁ……」

 

「もう、いい。 ここは…… 安全だから…」

 

「レンカ……置いていかな、いで…レンカ……」

 

 

 

魘されるように呟かれる。

 

そして救われた事実を受け止めた体は一気に脱力感に襲われたのか安心と不安を矛盾させながら微睡みに落とされていった。

 

そろそろ見回りから戻るかな。

 

聞き耳立てていた雰囲気もなく自然と戻る。

 

 

 

「ただいま。 イロハの調子は……寝たのか?」

 

「あ、ああ」

 

「相当疲れてるみたいだし」

 

「あぁ…」

 

 

レンカにもたれかかるように眠りついたイロハ。

 

そして離れたくないその両腕がレンカの腰に回されていた。

 

 

 

「とりあえずそんな地面じゃ冷たくて仕方ないだろ。すぐそこに布敷いてるからそこで横にさせよう」

 

「わかった。 色々悪いな…」

 

「気にすんな。 10日前のお返しだ」

 

「そうか……もうそのくらい経つのか」

 

 

 

アレから10日が経過した…

 

それは俺が空木家と別れた日数だ。

 

 

 

「5日間の調査は成功…? で終えたのか?」

 

「ああ、お陰でそこそこ良いデータが取れた」

 

 

 

居住区外で生きる空木家と知り合いなのは、俺がとある調査場所に投げ飛ばされ先で知り合った。

 

 

……少し過去を巡ろう。

 

 

数日分の生活道具を持ち込み、ヘリコプターから降り立った近くにはとある集落があった。

 

ゴーストタウンも含めて今まで見てきた中でおそらく一番大きな集落であり、人もそこそこ多かった。

 

小型アラガミ程度なら襲われ辛い構造をしている場所だった。ただし浮遊するアラガミからの防衛手段は無いようだった。つまり絶対安全とは限らない。

 

俺はその集落付近に拠点を構えようと思ったので、ついでに集落の人々とコンタクトを取ろうとしたが返ってきたのは殺意の眼である。

 

俺はこれがなにかを知っていた。

フェンリルを恨んで、憎しんでいる。

 

それだけで答えが行き着いた。

 

フェンリルの居住区に入れず追い返された放浪人の眼だ。

 

まあ諦め半分だっから恨み込められた眼はそれほどショックは無かった。

 

とりあえず歓迎されてないことはわかったので俺は邪魔にならない場所で拠点を立てようと思い、勝手にどこか住まえないかと散策して、下層にあるボロ屋に行き着いた。

 

それからその拠点を中心に半径20キロメートルを東、西、南、北の順番で数日ほど調査を行った。

 

ちなみに砂漠化している北のほうでは接触禁忌種であるセクメトがいた。めちゃくちゃ熱い場所なのに背筋を凍らせながら砂に潜り込んで身を潜めてやり過ごした。

 

砂漠での戦闘経験なんか無い中で空中を自在に動ける半チート版シユウなんかと戦ったら死あるのみ。数時間は砂の中にいた。かなり辛かった。 一応セクメトは集落と反対の方向をひたすら目指していたから調査記録に刻んで奴は放っておいた。

 

そんな感じにヘロヘロになりながら集落に戻れば、ザイゴートの群れが集落の近くまでやってきていた。それに気づいた難民は緊急信号を出して、難民に避難を呼びかける。

 

俺はゴッドイーターとしての勤めを果たすため神機を変形させてトリガーを引く。

 

流れ作業のように連鎖破壊を起こしてザイゴートを地面に叩き落としてやった。

 

避難信号を出していたひとりの難民は唖然としてこちらを見てたので「倒したぞ」と気怠るげに手を振って返事する。感謝される隙も与えない俺はともかくヘトヘトの体を休めたいと思って拠点に転がった。

 

そして休もうと思った時だ。

 

遠征から戻ってきた青年、空木レンカと初めて出会った。ザイゴートが散り散りになる光景を見て急いで戻ってきた。

 

俺がやった事を知らせたら感謝された。

 

そして、こう聞かれた。

 

 

 

『アラガミと渡り合える方法を知りたい』

 

 

 

この世界に負けぬ、強い瞳。

 

俺はどうしようか考えたが、頭まで下げられたので「わかった」と頷いた。

 

そしてこの日から空木レンカと交流が出来上がった…… と、言うか空木家と交流が出来上がった。

 

ザイゴートの件もあったのか難民から俺の存在を許してくれたらしく、難民キャンプに案内されま。

 

そして何故か空木家が使うテント内で活動させてくれることも許された。

 

食料であるビスケットも分けて貰った。数日は食べなくてもある程度は生きていけるゴッドイーターなので遠慮しようとしたがレンカの姉のイロハに押されて半ば強引に渡された。ビスケットはこっそり戻しておいた。

 

それよりも嬉しかったのは毛布込みで横になれるスペースが提供されたこと。この時は時は涙出そうになった。過去に半壊したカプセルホテルで奇跡的に綺麗な状態で残っていたベッドの拠点も大変快適だったが、ここは人の温かみがある。軽いホームシックを覚えそうになったほどだ。

 

そして合間を見てレンカにはオウガテイル程度なら鉄パイプでも凌ぎ切れる対アラガミ戦術を教えた。あとついでに対人戦も教えた。

 

姉には簡易スタングレネードの作り方を教えてあげた。そうやって俺は空木家にお礼をした。

 

それから無事に5日間の調査を終えて空木家とは10日前に別れたのだ。

 

これが彼らとの出会いと生活である。

 

そして、彼らから聞いた。

 

その難民キャンプはアラガミの侵攻によって失われた、と。

 

 

 

「レンカ、再開を懐かしむのも良いけど今日はもう寝よう。明日は早く出る」

 

「え?」

 

「俺も丁度極東に戻る途中だからな。そこまでは一緒に行こうか」

 

「いいのか?あ、いや、待て。そういえば検査反応が無ければ入れないのだったな…」

 

 

レンカの言う検査反応とはその人間がゴッドイーターとしての適性能力があるかどうか確かめるための試験だ。

 

俺もカノン同じことをしてゴッドイーターになった。

 

それで引いてる血の関係でゴッドイーターの資格があるかどうか変わる。

 

ちなみに本編GEの3年後に現れるブラッドはその血をより選抜した結果だ。

 

ジュリウスやシエルがそうである。

まあ、それはともかくとして…

 

 

 

「でも極東を目指していたんだろ?ここで留まるよりはマシだ。どれだけ狭い道でも目指すことをやめるなよ、レンカ」

 

「!!……ああ、そうだな。俺は極東を目指していた。なら、留まるなんてできない」

 

「それで良い。じゃあもう寝ておけ。俺はもうしばらく見張ってる」

 

「交代は__」

 

「いや、必要は無い。君はイロハのそばにいてあげてくれ。震える姉を見てあげて」

 

「!……ああ。 感謝する」

 

「ああ、おやすみ」

 

 

 

レンカは横になってるイロハの近くに座り込む。

 

すると疲れが出てきたのレンカもそのまま一気に眠り込んだ。

 

俺は外を見る。

 

 

 

「レンカ、あんたはイロハと血の繋がってない事は知らないで歩んでるのか」

 

 

 

空木家がいた集落の滞在中に俺はイロハから聞かされた。

 

レンカは血が繋がっていない…と。

 

何故これを知ってるかと言うと俺はレンカのバトルセンスを見て「ゴッドイーターになれば充分強くなる」と姉のイロハに言ってしまった。

 

少し浮かれていたとはいえ、これがどれほど酷い言葉なのか俺は気づかなかった。

 

するとイロハは教えてくれた。

レンカは適正検査を合格で終えてる事。

 

しかし血の繋がりがないから極東に行ってもレンカだけが居住区に招かれて救われる事。

 

そして何より……彼と離れたくないこと。

 

 

『愛してるんだな』

 

『え?……ふぇぇええ!?』

 

 

空気が悪くなりそうだからそう茶化して会話を強制的に終えさせた俺はそこそこクズ野郎だと思う。

 

でもイロハの反応からするとレンカが大好きなのは確かである。

 

てか俺も姉さんいるからそこら辺は理解できる。

 

兄弟愛以上のその感情……わからない事はない。

 

素敵だと思うけどな。

 

 

 

『でもあいつの人生はあいつ自身が決めるだろう。 その時はとして尊重してあげなよ』

 

『そう、よ、ね…』

 

『でも女性として引き止めてもいい』

 

『え?』

 

『じゃあ、俺は極東に戻る支度するから』

 

 

 

 

とても、セコイ事を教えた。

 

けれど選ぶのはいつだって 一人 である。

 

それはどの世界でも変わらない。

 

 

 

「んぁ……ぁれ? っと、や、やばい、すこしウトウトしてたか。って、あんなところにサリエルいるのか!?なんでこの地域に徘徊してんだよ。こわー、戸締りしとこ」

 

 

 

だから今はしっかりと眼を開けて選んで(戦って)行こう。

 

そうしなければ、全てが喰われてしまう。

 

そんな世の中だから…

 

 

 

 

つづく



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9話

 

 

__私、待ってる。

__いつまでも待ってる。

__だからゴッドイーターになったら…

__ちゃんと迎えに来て…

 

__ああ。

__絶対に…絶対に会いにいく。

__ゴッドイーターとして胸を張れるように…

__そして、強くなったら、必ず……

 

 

 

 

 

 

 

とある姉弟の約束。

 

姉は弟を抱きしめて、色葉を残す。

 

弟は姉に守るために、蓮華を揺らす。

 

そして遠くに見える防護壁の扉に弟は進む。

 

姉は離れて行く弟の背中を眺めていた。

 

いずれ、互いに会える日を待ち望んで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、ここは"ダム湖"の近くにある集落。

 

アラガミ化した森を潜り抜ける。

 

辿り着いた場所は…集落。

 

山の中にある学校だった場所。

 

そしてそこには 人間 が住んでいる。

 

 

 

「ここは一年前に見つけた場所でな、人が住んでいたんだ…誰かの手によってな」

 

「え?」

 

「その人を…いや、そのゴッドイーターを知った時は心底驚いたさ」

 

「ゴッドイーターが、作った集落?」

 

「厳密にはここに住んでた者達と出会い、そして生活を支援していると言った方が言葉として正しいかな?それで俺は調査兵なのでこの場所があることをフェンリルに知らせる必要があるのだが…」

 

「ひ、必要があるのだが…??」

 

「知らんぷりする事にした。ここはマッピングに残さず俺の内に納めた。それで好奇心で接触する事にした。最初は警戒はされたけどこの集落に手を差し伸べているゴッドイーターの知人だと知ればそれなりに友好的に向かい入れてくれたよ。もちろん黙秘込みでね?それから色々あって俺もこの集落を支援している」

 

 

一時間ほど前にレンカと別れたイロハ。

 

俺は彼女を連れてこの場所を案内する。

 

この集落を説明しながら足を進めると…

 

 

 

「お? なんだ、帰ってたのか」

 

 

「んあ? おお、マロンじゃねーか、随分と久しぶりだな」

 

 

プランターで育てた果実を試食してる俺以外のゴッドイーター。

 

またの名は__雨宮リンドウ。

 

彼は片手に持つ果実を頬張りながらこちらに反応する。そして酸っぱそうな顔をする。

 

どうやら疲れによく効いたらしい。

 

 

 

「うぉぉ、すっぺぇぇ…」

 

「俺もちょうだい」

 

 

 

齧られた果実を投げ渡される。

 

俺も一口。

 

 

 

「普通にうまいぞ?」

 

「お前マジか?おじさんの俺には無理だな」

 

「まだ全然若いだろ何言ってんだ」

 

「いやー、世代交代も早いなこれは」

 

「何言ってんだよ、リンドウ」

 

「半分は冗談だよ、マロン」

 

「いや、冗談込みじゃねーか、オイ」

 

「お、たしかにそうだな」

 

 

 

俺とリンドウのやり取りを見た集落に住まう人達は笑う。

 

のどかな場所である証拠だ。

 

 

「しかし南のほうから出張帰りだと言うのにすぐさま様子見に来るとはリンドウもよく頑張るなぁ」

 

「まぁ、お前が代わってくれたからそれほど心配はしてなかったがな…… っと? マロンの後ろにいる女性は?」

 

 

 

リンドウは俺の一歩後ろにいる新顔に反応を示す。

 

 

 

「とある少年のヒロイン的存在だ」

 

「ぅぇ!?」

 

「おお、そりゃまた重要人物だな」

 

 

良いお口直しとばかりにイロハを茶化したリンドウは試食後の一服のためタバコをふかし始める。

 

そして先程の『ヒロイン』の言葉に顔を赤くしているイロハは動揺を誤魔化そうとたどたどしく挨拶をする。

 

軽く俺が説明すればリンドウは慣れたように把握してイロハを招いた。

 

その時「そういやどこかであったか?」と聞いていた。

 

おいおい。

 

あんたにはサクヤさんがいるだろ。

 

マジトーンで「殺すわよ、リンドウ」とぶち抜かれるぞ。

 

 

 

「あの、台場さん」

 

「?」

 

「ありがとうございます」

 

「なーに、気にするな。とりあえずここで生活の仕方を覚えながらちゃんと足の怪我治しておけ。レンカに会うまでにな」

 

「!」

 

「あいつがいつまで掛かるかわからない訓練生を卒業すれば一人前のゴッドイーターとしてフェンリルの外に出ることが出来る。そうした時にいずれ出会える筈だ」

 

「レンカ……うん、そうだよね…レンカ…」

 

 

 

ああ、これはもう恋する乙女と変わりないな。

 

まだ姉として心配してる。

 

しかしその瞳の奥は紛れもなく…

 

 

 

「じゃ、俺は帰るから。あとリンドウ、俺は配給のビール飲まないから後で届ける」

 

「気がきく後輩を持ってて俺は幸せ者だと思うよ」

 

 

 

リンドウはタバコと配給ビール。

 

彼の生きがいはこの二つがあってこそらしい。

 

 

ちなみに俺は冷やされていたカレードリンク(温められたカレードリンク)と姉さんの手作り焼き菓子が好きだぞ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、空木レンカの空木イロハルートの攻略が開始されたあの日から数日が経過した。

 

俺は溜まりに溜まった有給を使おうと考えて部屋の中でボーっとしていた。

 

ひたすらボーっとしていた。

 

ちなみに俺の部屋はエリートクラスの部屋である。

 

つまり、俺は極東支部からはエリートとして認められている事になる。

 

でも総合的な評価になるとリンドウ以下。

 

もしくはソーマとは同じくらい。

 

理由としてはここ極東支部は激戦区で有名であり戦闘に特化した者が特に評価されやすい。

 

これはソーマが評価されている。

 

もちろんリンドウもだ。

 

ほかにも統率力の高さも評価されやすく、いかに戦力を保持していられるかも重要。

 

これもリンドウが当てはまる。あと第一班のサクヤ、他は防衛班を束ねるタツミもそうだ。

 

その点、俺は双方に当てはまる活躍は無い。

 

だが調査隊としての働きは極東支部のゴッドイーター達を支えることになっている。

 

調査から与えられた情報を頼りに戦うゴッドイーター達の生存率にも関わるからだ。

 

そして俺から得る情報は95%も信頼に値すると言われている。

 

なので調査隊としてここまでの成果を上げているゴッドイーターは俺一人らしい。

 

 

ちなみに何度か軽く説明してるが『調査兵』と『偵察兵』は似てるようで実は異なる。

 

例えば『調査兵』戦いの場となる地形の『安全性』を確認するための兵。

 

それを半年周期で地形などが変化してないかをこの目で確認をする役目だ。

 

ヘリコプターだけでは調査も行えない。

 

そもそも空飛ぶ鉄の塊がブンブン飛び回っているとザイゴートやシユウに見つかり、一番最悪なのはサリエルだ。そうなると永久に追いかけてくるレーザービームと地獄の鬼ごっこが始まってしまう。

 

そのためアラガミに対抗できるゴッドイーター自らがその足と目で調査することになっているのだ。

 

あと生息しているアラガミの数や行動範囲なども調べなければならない。情報は本当に大事なので。信憑性が薄かろうと情報の一つか二つ抱えていればそれだけで生存率は変わる。かなり重要な役割だ。

 

 

そして『偵察兵』は討伐するべきアラガミを監視または観察を行う役割。

 

アラガミの位置や数、または現状の変化を強襲部隊が到着するまで随時報告して追跡する役割だ。もちろん見つかってはならない。

 

時には偵察兵がアラガミを誘導して、戦闘区域まで誘い込み、リンドウ率いる第一部隊のような強襲兵に引き継いでアラガミを討伐してもらう、やや地味な役割だが、確実にアラガミを倒すためにも必要なパイプ役だ。

 

 

まとめると。

 

調査兵がフィールドワークを行い、偵察兵が標的の行動を報告して、殺る気マンマンの強襲兵がアラガミを屠る。

 

こんな流れだ。

 

そして仕事の頻度だが調査隊は一回の仕事がとてつもなく長い。やることがフィールドワークだから時間が長く求められるのは当然。

 

その代わり仕事が無ければ休みも長い状態だ。

 

なので俺はイロハを案内した集落のようなところを気にかけてあげれる感じ。

 

もし仕事が始まればアナグラからは長い時間お別れだ。結構大変です。

 

まあ、その苦労もあり偵察兵と調査兵の中で一番評価されてるのは俺だ。

 

だからベテランの部屋が貰えた。

 

それだけの話。

 

 

 

「うぁぁ……だっっる」

 

 

そして厄介なことに、何もしないオフ中だと脳みそが「やったー!休みだー!」と理解すれば全力で体を休めようと力が無くなってしまう。

 

気力も抜け落ちる。

脳の回転も遅くなる。

何も考えなくなる。

 

ひたすら睡眠欲が襲いかかる。

 

これに関してはゴッドイーターになり、オワタ式のプレッシャーの中で生活したから。

 

まあこの状態はオフ中のみだから別に不便では無いが、ダラけすぎな自分が些か情けないと言うか。

 

まぁ、いいか。

 

そういや今の時間は……あ、もう夜か。

どれだけボーっとしてたんだ?

 

あぁぁ、だっっ、る…

 

 

 

コンコン

 

 

 

「?…どうぞー」

 

 

 

姉さんかな?

軽いノックからすると女性な感じもする。

 

 

 

「やっほ、マロン。 こんばんは」

 

「こんばんは、リッカ」

 

 

軽く上着を羽織った寝間着の姿でやってきた整備士のリッカ。

 

今日は冷やしカレードリンクは持ってきてないようだ。

 

 

 

「ええとね、自販機が壊れてた…」

 

「別の階層なら売ってるだろ?」

 

「やだよ。 上着を羽織ってるとはいえ寝間着の姿であまりウロウロしたくない」

 

「そうか」

 

「それにこの姿はマロンくんだけに見せていたいから…ね?」

 

 

 

何この子?

 

めちゃくちゃ可愛い過ぎだろ。

 

知ってたけど。

 

あとリッカの寝間着はパジャマだ。

 

スパナとナットの絵柄がペイントされてるクリーム色の可愛らしいパジャマ。

 

そしてどこかしら幼さを残しながらも、整備士として健康的に鍛えられた足腰のくびれ、あと着痩せしてるのかパジャマ越しからそこそこ膨よかな二つの山。

 

風呂上がりなこともあって普段よりも色っぽさを引き出されている。

 

仕事から終えてからはしおらしく立ち振る舞う彼女はとても魅力的だ。

 

俺はこの人と()()で居られることがどれほど幸福だろうか?

 

生きていて良かったって思うわけ??

うれしぃ……うれしぃ……

 

 

 

「オフ中のマロンくんはいつも通りだね」

 

「あー、うん、まぁな。とりあえず何もない限りうつ伏せの状態から動けない」

 

「ふふ、そのままマッサージでもしようか?」

 

「嬉しいけど、仕事で疲れてるでしょ?」

 

「整備すると思えばなんともないよ」

 

「俺はこれから整備されるのか…」

 

「念入りにメンテしてあげるよ、マ、ロ、ン」

 

 

 

そして彼女は「よいしょ…」と小さな声で腰の上に乗ると、背中に手を押し付けてググッと力を込める。

 

しばらく圧をかけると、肩甲骨から首筋まで親指でググッと押しながらほぐす位置を動かす。

 

それを何度か繰り返したあと、首のツボを摘むように伸ばし、頭皮を指で叩いたりと本格的なほぐしを行ってくれる。

 

 

「んー、それほど凝ってないね」

 

「ストレッチは欠かしてないからな。筋肉はあまり張り詰めないんだよ」

 

「流石、極東支部最強の神機使いだね」

 

「残念ながら極東支部では皮肉なんだけどな…」

 

「例えそうだとしても私はマロンの活躍を知ってるから無問題だよね?」

 

「せやなー」

 

「マロンくんは、凄いよ」

 

「ほんまになー」

 

「いいこ、いいこ」

 

「それなー」

 

 

あまりにも心地よいマッサージに俺のIQはなんでも肯定してくれるフレンズ化に染まってしまう。

 

そんなリッカはこのユルユル感を寧ろ楽しむくらいであり、クスクス笑ってはたまにこちらの波長に合わせてノッてくれる。

 

控えめに言って天使。

 

 

 

「ふー、疲れたぁ」

 

「ありがとう、気持ちよかった」

 

「ふふ、それは何よりだよ」

 

 

 

すると手を伸ばしたままグデェーと彼女は倒れこんで、俺は彼女の下敷きになる。

 

背中に柔らかいものがあたる。

 

そして彼女は後ろからぎゅっと抱きしめてからこちらの首筋に顔を埋めて「ん〜」と満足そうな声。

 

風呂上がりのいい香りに包まれながら身を任せていると、不意に肩首に柔らかな感触が襲う。

 

ちゅるちゅる、と啜る音も聞こえる。

それを甘噛みの感触だと知る。

 

 

 

「んちゅ〜……ん、マロンの味がする」

 

「栗の味か? 甘くないだろうに」

 

「ん……ダンボールみたいな味がする」

 

「なんだよそれ」

 

 

 

くすぐったい。

 

へんな気分になる。

 

さっきまで無気力に転がってたのに男としての性が稼働し始める。

 

 

 

「マロン…」

 

「?」

 

「いつも無事に帰ってきてくれてありがとう」

 

「…俺からそう約束したんだ。 当たり前さ」

 

「その約束を何度も守ってくれるあなたのことが私は大好きだよ」

 

 

 

俺は敷布団にうつ伏せで今の彼女の顔が見られない。

 

でも彼女の事を良く知る俺なら、今どんな表情をしているのか、どれだけ愛情を表してくれているのか、それが理解できるから頬が緩みそうでいまこうしてうつ伏せの状態に助かっている。

 

でもこの状態のままは好ましくない。

 

あと寂しい。

 

俺は体を横にしてリッカと共に寝転がる。

 

ほんの数センチから眺めた彼女の顔は、可愛らしくて、頼もしくて、可愛いらしい。それから心身共に彼女を求めたくなる。

 

このような関係(恋人)になってから抑えるのは非常に難しい昂りの感情。

 

そしてそれは彼女も同じようであり、何の合図もなく、いつものように自然と唇が合わさる。

 

ある程度口づけを終えれば甘たるい声で名前を呼んでくれる。

 

脳をくすぐる。

 

激しく奪いたくなる衝動を抑えながらも、可憐な体を壊さぬように抱き寄せて再び交じり合う口づけでゆっくり愛を確かめる。

 

 

 

「マロン…」

 

「?」

 

「明日の仕事はね、昼からなんだ…」

 

「…」

 

「今日はいっぱい愛してね…」

 

「…………ああ」

 

 

 

 

 

 

 

 

このあと無茶苦茶バーストモードした。

 

 

 

 

つづく

 



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10話

 

〜 訓練室 〜

 

 

 

「オウガテイルは案外慎重な生き物であり、最初の内は獰猛には襲いかからない。でもここはそうじゃない。データベースから掘り起こされるAIに従った理性なきアラガミ。だからこの程度で遅れとるなよ、レンカ」

 

「うおおぉぉぉ!!」

 

 

プラスチックで作られた訓練用神機もどきを握りしめたレンカはオウガテイル(シミュレーター)に対して怯まず交戦を行う。

 

そして一撃で屠り、次の獲物を索敵する。

 

少し離れたところにコンゴウがいる。

 

しかもそのコンゴウは映像で作られた人間を襲おうとしている。

 

しかも器用に怯えたようなリアクション込みでリアリティが高いのなんの。

 

絶望感を見せてくれるシミュレーターの中でレンカは今からコンゴウに近づいても救助は間に合わない事を察して苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

しかし唐突に何かを思い出した。

 

 

「っ、確か、こうやって!」

 

 

プラスチック製神機もどきの持ち手部分を引っ張り、力を込めると剣が銃にガチャガチャと音を立てて変形する。

 

些かオモチャっぽくる見える武器だがそのトリガーを引けば銃口から赤い弾が放たれた。

 

コンゴウの胴体を抉り壁に吹き飛ばした。

 

 

 

「いいぞ、やっと咄嗟に出来たな」

 

「ああ、なんとか…な」

 

「そしてらあとは今の変形を実戦時に一秒も掛けずにやる事だ。だからレンカの神機が完成したら何度も変形させたりと遊んでおけ」

 

「ああ、わかった」

 

 

 

手数が多くなる分、剣と銃の両刀は複雑であり使い分けが難しい。

 

しかし状況によって変形させながら闘えるレンカの飲み込み良さが伺える。まだたどたどしく神機を扱うが素質は充分であり、なによりレンカはアラガミとの戦闘に場慣れしている。

 

外で生きてきた彼の強さだろう。

 

レンカのポテンシャルを再確認しながら上を見上げるとガラス越しにこちらの様子を見ているツバキ教官だ。あの顔は何を考えているのか。

 

ちなみに俺が訓練に付き添っている理由は同じ新型だから。

 

オワタ式に呪われたプロトタイプとは言え新型神機の使い勝手は俺が一番詳しい。なので俺が立候補してツバキ教官から許しを得た。プロトタイプではない正真正銘の新型かつ潜在能力の高い神機使いを早急に育てれば戦力も一気に増強する。あとサカキ博士や理事長からも大いに期待されているため、その活躍は誰もが期待している。

 

何かと俺も重大責任だな。

 

まあ、俺はそれでもプロトタイプとして生まれた神機使いだ。踏み台にして主人公補正でグングンの仕上がってほしいな。

 

 

 

「ぜぇ…ぜぇ……お、わっ、た…」

 

「シュミレータの訓練とは言え、今回は二人分の設定の中で全てのアラガミを捌いたんだ。 上出来だな」

 

「いや、そんな事はない。途中までマロンがオウガテイルの注意… と、言うよりかは、しばらくアラガミを引きつけて俺から戦力を割ってくれた。そうなると一人分のアラガミに息切れ起こしてる俺はまだまだ、だな…」

 

「だとしても状況に応じての近距離と遠距離の神機切り替えはスムーズに行えてた。そこから冷静な攻撃は流石だ。レンカの中にある才能がしっかりと訴えてる。だってシュミレータとは言え空想世界のアラガミも怖いだろ?」

 

「…」

 

「臆せず、怯まず、竦まず、尚且つ程よい緊張感を保ちながらも神機を手元から落とさないゴッドイーターは絶対に強くなる… って、それよく言われてるから」

 

「そうなのか?」

 

「いや、いま俺がここで決めた」

 

「そうなのか…」

 

 

 

軽口を叩きながらアフターフォローを行う。

 

まあコイツは恐らくストイックなタイプだと思うから何度か落とし込んで、後は勝手に自己分析させていれば勝手に強くなるだろう。

 

吸収力がある。

 

化けるな。

 

 

 

「じゃあ理解を深めるために猿蟹合戦でもしようか」

 

「さる、かに?」

 

 

訓練所の高台に案内すると壁に取り付けられたタブレットを触る。

 

シュミレータを設定。

 

するとコンゴウ四体を選択した。

 

 

 

電子機器(PSP)の中なら地獄(ピルグリム)であるが、ここではトリガー一つでワンパンできる世界だから四頭くらい楽勝だよな?」

 

「どう言う意味だ?」

 

こっち(プレイヤー側)の話だ。 そらっ、始まるぞ」

 

「!」

 

 

 

早速コンゴウがこちらを視認して襲いかかってくる。息を呑むレンカに俺は声をかける。

 

 

 

「この訓練は銃撃しかできない旧型の状況を理解してもらう」

 

「理解?」

 

「たとえばだ。接近が可能なレンカが居てくれたなら旧型はかなりやりやすくなる。でも居ない場合は非常に危険だ。 ほら、右」

 

「!?」

 

 

 

レンカの胴体を叩き潰そうとするコンゴウにブラストが放火される。

 

 

 

「一体ならまだ良い。でもそこに四体いたら? またそれ以上の個体いたら?銃撃しかできない旧型に未来は無い。しかし接近戦で前線を張れる神機使いが近くにいれば戦況は変わる。わかるな?」

 

「…」

 

「銃形態も使えるレンカは新型神機使い。なので今回の猿蟹合戦でその理解性を深めよう」

 

「理解…か」

 

「ゴッドイーターは何も一人で全てを全うしろとは言わない。剣も銃も使える手数の多い新型だとしても背中は仲間に補ってもらうんだ。レンカはそれを身につけてもらう。お前は仲間と戦えるゴッドイーターになれ。プロトタイプなんかではない。正式な新型として…!」

 

 

 

 

 

(プロトタイプ)に出来なかった事をやってくれ。

 

 

 

 

 

それは願いだ。

 

俺がそうでありたかった願い。

 

しかしこの体は既にまともではない。

 

だから託す、正しく受け取れた者に。

 

ゴッドイーターの彼に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、俺はしばらく仕事が無い。

 

なのでレンカ強化イベントという名の訓練は有給を使って一週間みっちり教育してやった。

 

雑学も交え、対アラガミの知識もつぎ込んだ。

 

なかなか熱心な性格をしてため教え甲斐があった。なので良い有給を過ごせたと思う。

 

その過程で『藤木コウタ』とも知り合い仲良くなったが格好がフェンリルの服装だった。訓練生だからまだラフな格好は許されてない。レンカも訓練生卒業までは堅苦しそうなフェンリルの服装だろう。

 

ちなみに有給中は訓練ばかりではない。

 

恋仲であるリッカと外でデートしたり、外でなくとも部屋の中で一日中ゴロゴロしながらキスしたり、人肌が恋しくなったらそのま部屋の電気を薄暗くして肌を重ね合ったり、行為後は一緒にシャワーを浴びたりと結構濃厚にイチャイチャしている。

 

肉欲のために堕落した有給も良いが、リッカと整備室で神機の『強化パーツ』の開発も行ったりしている。あと彼女から神機の整備を学んだりと戦う以外を吸収しているところだ。かなり充実している。そして夜になればそれなりな肉食系な彼女の甘えモードに変貌して、俺の理性が結合崩壊。バースト状態突入してしっぽり互いにメンテナンスした。

 

本当に充実している。

 

だから彼女のためにも死ねないな。

 

 

そして有給が終わった次の日の夕方。

 

アラガミ装甲が壊れた。

 

 

 

 

「穏やかじゃないですねぇ…」

 

 

大型作戦会議室の巨大なモニターに映し出された居住区の映像。

 

アラガミがアナグラを守る装甲を食い破り、次々と侵入する。

 

 

「すみません!」

 

「遅いぞ、ヒバリ」

 

 

遅れてやってきたオペレーターのヒバリはツバキ教官から注意を受ける。

 

休憩中だったのかな?

 

オペレーターも大変だな。

そんな俺はツバキ教官に用があったが今はそれどころでは無いので邪魔にならないよう階段式の長椅子に座って状況を後ろから見る事にした。

 

極東支部にいるゴッドイーターがヘリコプターに乗り、食い破られや防壁へ向かう。

 

目的地まで数分はかかるな。

 

それまでは抵抗できない人々がアラガミに喰われ続けるだろう。 無慈悲だ。

 

え?

 

俺の出撃?

 

それが襲撃許可を頂けない。

 

何せ俺はフェンリルからすると貴重な調査隊であるため戦闘兵として活用は認められない。

 

例え高く評価されたゴッドイーターだとしても事故で失うのは痛手である。

 

そういう事だから動かせないのだ。

 

過去にも防壁が食い破られて、それで姉を加えた防衛班だけが居住区に飛んでいって、俺だけは出撃許可を出させてもらえないもどかしい経験してる。

 

なので俺は後ろで眺めて皆の無事を祈るだけ。

 

なのだが…

 

 

 

「「!!」」

 

「おいおい…」

 

 

 

この世界は無慈悲だから人間をたやすく追い込む。

 

ヘリコプターが進む方向とは逆の方向にある防壁が食い破られたのだ。

 

これでアラガミの侵入場所は二箇所になる。

 

これは由々しき事態だ。

 

ツバキ教官は早速部隊の分裂させてもう一つのポイントに向かうことを指示するが、到着まで時間が経ちすぎる。

 

っ、これは、異例だな。

 

え?突破が二ヶ所??

 

アラガミにそんな知性あったか??

 

禁忌種ならともかくコンゴウのような原種は流れるがままに蒸れて、それで飢えを求めて防壁を超えて来ただろうに。

 

予想外だ。

 

このままではと思い…

 

 

「ツバキ教官、流石にここは俺が___」

 

 

 

 

「アラガミが侵入したのか…?」

 

 

 

もう一つの声。

 

それは空木レンカ。

 

彼はこの状況を見て叫ぶ。

 

ここからゴッドイーターをもう一つの防壁に向かわせないのかと。

 

しかし…

 

 

 

「出撃できる神機使いが誰一人も、いない?」

 

 

ヒバリさんとツバキ教官の沈黙。

 

それは肯定を意味していた。

 

 

 

「厳密には出撃可能な神機使いがいないだ」

 

「!」

 

「俺は訳あって出撃許可をもらえない。レンカは訓練生だから出撃は認められない。そして俺たちの他にも出撃できない奴らは怪我などで戦闘行為が行えない。つまり襲撃可能なストックが無いんだ」

 

「っ!!」

 

 

後ろから声をかけられ驚くレンカ。

 

だがそれ以上に俺から伝えられた事実が驚愕として襲い掛かる。

 

数秒間の静寂、そして動き出した…

 

 

 

「っっ、俺は! アラガミを殺すために! ゴッドイーターになったんだ!」

 

 

「空木ッ!」

 

 

 

レンカは走り出す。

 

ツバキ教官の声は彼には届かない。

 

心のままに走り出した。

 

若いって良いねぇ…

 

 

 

「ヒバリ!レンカの居場所を特定しろ!」

 

「現在神機保管庫に向かってます!」

 

「!!……待て、レンカの神機の整備は___」

 

 

 

「あ、すんません。それ俺とリッカで昨日終わらせてしまいました」

 

 

 

「ええ!?」

「なんだと!?」

 

 

 

ほら、有給中にリッカの神機整備手伝ったから色々と作業が進んでしまって、そしてレンカの神機まで整備できた始末だ。

 

反省も後悔していない。

 

 

 

「あー、そうだな…よし!!とりあえず俺が責任持ってレンカを追いかけよう!!」

 

 

「待て!お前まで行くのか!?」

 

 

「しかしツバキ教官。あのレンカに追いつけるの俺くらいですよ」

 

 

「くっ、だが…」

 

 

ツバキ教官は貴重な新型を安易に出撃なんかさせたくない。

 

その気持ちは分かる。

 

彼女の判断は上官として悪くない。

 

むしろ正しい。

 

しかし、このままでは埒があかない。

 

 

「俺がレンカを死なせないようにする。俺の言葉はちゃんと聞く彼なので、大丈夫です」

 

「………っ、早急に迎え」

 

 

迷ってる場合ではない。

 

俺は敬礼して廊下を駆ける。

 

そして整備室まで来たのだが…

 

 

「うわ、壁に穴抉り開けて脱出しやがったのかアイツ!?やり方が若すぎィ!」

 

 

思いっきり一人分の大きさ。

 

太いのが気持ちいい。

 

 

 

「本当、若いよね」

 

 

声を聞いてすぐにわかった。

彼女だ。

 

 

「こんばんはマロン。整備中だったから抜け出し辛かったけど、凄い音がしたからやっぱり中断して見に来たんだ。そしたらこの有様だよ」

 

「行動力の塊でむしろホッとするね」

 

「彼って、歳いくつ?」

 

「確か…15か?」

 

「うん!若いね!」

 

「リッカも若いだろうに」

 

 

緊張感が走る中でも緊張感無い会話を弾ませながら俺はモニターをタップして、床から排出されたオラクルソードを手に掴む。

 

紙切れのように軽い神機だけ、俺の大事な生命線。 そしてこれを握れば羽のように軽くなって力が湧いてくる。

 

深く息を吸い…

 

ゆっくり吐いて…

 

呼吸は伴う。

 

最後にリッカへ振り向き。

 

 

 

「行って来ます」

 

「うん、いってらっしゃい、マロン」

 

 

 

天使が微笑んで見送ってくれる。

 

あぁ^〜、たまらないぜ。

 

ぜったい生き残って帰ってやる。

 

彼女の声援を力に俺もレンカがこじ開けた壁の穴を潜り抜けながら片目を閉ざして視力を強化する。

 

数百メートル先には、若さゆえの過ち犯しながらも自分に素直な青年が残したオラクルの足跡。

 

一応レンカの足止めとして20メートルほど真上に伸びる防壁が下から現れるが、レンカはとんでもない脚力で跳び、壁の上に着地するとそれを近道として走り出す。

 

 

 

「適合率高すぎだろ、すげーなオイ」

 

 

 

一応俺もあのくらいなら飛べる。

 

神機がめちゃくちゃ軽いし。

 

まるで 主人公 みたいだな。

 

 

 

いや、待てよ。

 

むしろ……そうなのでは??

 

なにせこの極東で新型を握った人間だ。

 

空木レンカってそうだよな?

 

 

 

「あまり意識してなかったが、そうなのかな…」

 

 

 

極東に現れし新型神機使い。

 

原作ゲームからすればつまりそう言うことだ。

 

そうなると…

 

 

 

「原作知識は役に立たない、はっきりわかんだね」

 

 

 

まあとりあえず追いかけよう。

 

俺も垂直の壁を走り、レンカを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー、感じたことあるオラクル反応だと思ったらエリックか」

 

「マロン!?なぜ防衛に…??」

 

「あー、やんちゃ坊主を追いかけに来た」

 

「なるほどね。しかし彼は初陣なんだよね?なかなか動きが華麗ではないか?」

 

「そりゃレンカの訓練は俺が一週間近く付き添った。もちろん対アラガミの知識もつぎ込んださ。あと激しい戦闘行為後のケアの仕方も教えたりと、可能な限り無駄を省かせるように仕立てたよ」

 

「なるほど、もうそうならばあの動きに納得が行くね」

 

「あ、うん。それよりまもなく横からコンゴウが現れるぞ」

 

「え?」

 

 

本当に現れるコンゴウにエリックは驚く。

 

だが俺はこちらに来ることを知ってたので冷静に捌きながら。

 

 

 

「戦艦のコンゴウ(金剛)違いだが、命弾けるバーニング・ラブに関しては勘弁願おうか」

 

 

 

俺とエリックを叩き潰そうとするコンゴウが横からダイナミックエントリー、しかし俺はブラストを放火して奴のバーニング・ラブを拒否する。コンゴウの顔が弾け飛びそのまま地面に轟沈した。

 

しかしまた何処かで復活するだろう。

 

ダメコンも真っ青だ。

 

 

 

「レンカ、援護するから前衛役やってみろ!」

 

「っ、マロン!?付いてきたのか!?」

 

「ああ。とりあえず詳しい話は後だ。いまはコイツらを屠るぞ、ゴッドイーター」

 

「っ、ああ!」

 

 

頷いたレンカはアラガミに振り向いて神機を力強く握りしめる。

 

 

 

「いいのかい?」

 

「訓練は充分に行った。俺的には実戦に飛び込んでも良いと考えてたくらいだから良い機会だよ。状況的に不謹慎な言い方だけど」

 

「フッ、君に任せるさ」

 

 

 

エリックと共にレンカを支援する。

 

ちなみにブラストでもカートリッジ変えれば支援攻撃できるから誤射は心配しなくていい。

 

なのでレンカの邪魔をするアラガミは遠慮なく射撃で葬った。

 

その途中で逃げ遅れた母娘を叩き潰そうとするコンゴウが現れたがレンカは慣れたように銃形態に変えるとトリガーを引く。

 

コンゴウの顔を吹き飛ばした。

 

 

 

「……凄い威力だね」

 

「適合率の高さが伺えるだろ?」

 

「化けるね、アレは」

 

「俺もそう思う」

 

 

 

軽口叩きながらもアラガミに攻撃することを忘れず、レンカの潜在能力に苦笑いしていた。

 

すると新人研修とばかりに襲いかかる初見殺しのヴァジュラがレンカをロックオンする。

 

 

 

「!!」

 

「レンカ、怯むな。座学で教えた奴だ。わかるな?覚えているならお前ならそいつは殺せるだろう。できるか?」

 

「あ、ああ…!」

 

「一応確認だが、ヴァジュラの知識はちゃんとあるだろうな?雷を受けたらスタン状態で動けないことを」

 

「覚えている。ヴァジュラを中心とした大気が電気で震えたら合図だと」

 

「上出来だ。ならあとは死にやしないさ。どうとでもなる!」

 

 

 

本当ならリッカと開発に成功した強化パーツの『スタン抗体1』を装備させて『スタン体制』のスキルを持たせてからヴァジュラと戦わせたかった。

 

事故率を減らすために。

 

そもそも『スタン=死』は共通認識だ。

 

しかも初見殺しで襲いかかってくる。

 

だから事前な知識と情報は大事だ。

 

当たり前だよなぁ??

 

 

 

 

「ヴァジュラの予備動作をよく見て戦え。案外大振りな攻撃ばかりでわかりやすい。慣れればまったく怖くない敵だ!」

 

 

 

しかしながら初陣にヴァジュラとは一体誰がこんな事やるだろうか?

 

初見殺しの塊を新人ゴッドイーターが立ち向かうなんて自殺行為に過ぎない。

 

けど、レンカは退くことも無ければ、恐れることも無い。

 

神機を握りしめてヴァジュラを殺す気でいた。

 

 

 

「マロン!それとマロンの隣の人!援護を頼んだ!!」

 

 

 

それだけ言うとヴァジュラに走り出す。

 

マロンの隣の人とはエリックのことだろう。

 

エリックは少しだけ驚いたが、笑みを浮かべてブラストを構える

 

 

 

「フッ、いいとも新人くん。僕の援護も交えて華麗に舞いたまえ!」

 

「おっけー、援護は任せろ。さて、訓練を除いて久しぶりのチームプレーだから気合い入れてくぞ」

 

「言われてみれば、たしかにマロンと華麗に肩並べて戦うのも久しぶりだ…」

 

「でも今回の主役はレンカだってそれよく言われてるから」

 

 

 

未だ三人だけしか集まってない防護壁の近くでアラガミに囲まれながらも俺を含めたベテラン神機使いの二人。そして期待の新人たる主人公くんだ。

 

 

そこに絶望は無い。

 

最後まで立っているのは間違いなく、ゴッドイーターだから。

 

 

 

 

 

つづく



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11話

 

 

 

「独房の居心地どうよ?」

 

「良くないな。マロンは入った事あるのか?」

 

「いや、今回が初めて」

 

「意外だな」

 

「おい待て、そりゃどう言う意味だ?」

 

 

 

どうも、甘い名前を持つ男、台場マロンです。

 

レンカは独房です。

 

ちなみに俺も独房だ。

 

え??入ってる理由??

 

レンカを連れ戻すと言って戦わせたから。

 

なので無断の行動として断定。

 

そのため半日分、独房行きである。

 

 

 

「まぁ栄光ある独房だよ。ゴッドイーターとして人を守ったんだ。なので今は胸張って寝心地悪い寝床に転が………ん?誰か来るな」

 

「??」

 

 

まず足音からして女性だと判断する。

 

そしてハイヒールのような硬い足音では無い

 

軽い靴音だ。

 

その正体は…

 

 

 

「マロン? そこにいるの?」

 

「あ、姉さん(カノン)

 

 

 

現れたのは義姉の台場カノンだ。

 

心配そうな顔をしていた。

 

 

 

「マロン、そんな寂しそうなところにいて大丈夫なの?」

 

「大丈夫だよ姉さん。今は新人のレンカと反省会するためにこうやって独房を使っているところだ。しかも贅沢なことに1人一部屋で借りることができたVIPレベルの扱いだ。非常に満喫してる」

 

「んなわけあるかよ…」

 

 

 

レンカから呆れたようなツッコミが入る。しかし姉さんは俺の変わらぬ様子を見て安心したようだ。ちなみに姉さんは俺がここに入っている理由は知っている。

 

寂しくないかと心配して来てくれたらしい。

 

 

 

「それとレンカくん、こんにちは」

 

「あ…はい、こんにちは」

 

「ここ出ることができたら今度焼き菓子食べに来てね」

 

「あ、はい。ここを出ることが出来たら是非頂きます」

 

「うん、待ってるね」

 

 

 

ちなみに姉さんとレンカはお互いに知り合いだ。

 

俺がレンカと訓練してるところを度々顔を出していたからだ。

 

あとカノンが俺の義姉である事も知っている。

 

 

 

「じゃあレンカくん、マロンをよろしくね」

 

「ああ、わかった」

 

「おい、待て、それはどう言う事だ?」

 

 

 

短い会話を終えた姉さんは再び俺に振り向く。

 

すると何か思い出したかのような反応を見せた。

 

 

 

「そう言えばマロンの彼女さんから伝言預かってるよ」

 

「リッカが?」

 

「うん。ええとね『初の独房おめでとう、でも早く出ないとグレるよ』って言ってた」

 

「メンテナンス不足だったか…」

 

「??」

 

 

姉さんは首を傾げてるがレンカは微妙な反応を示していた。

 

なんだかんだでレンカは頭いいから今のくだらなさを理解したようである。

 

さて、ここに長時間居座ることも出来ないため姉さんはこの場を去った。

 

また静かになる。

 

俺は適当に座って壁に話しかける。

 

 

「今のうちに何か聞きたい事あるか?俺はレンカよりも先にこの独房を出る。するとそのタイミングで俺は有給が終わり、早速ミッションに飛ばされることになるだろう」

 

「忙しいんだな」

 

「フィールドワークはそうなんだよ。だからこそ俺はもうレンカに何も指南する事は無くなる」

 

「!」

 

「それにな、俺たちが独房でこうやって話せる距離にしたのはツバキ教官による最後の計らいだと思う」

 

「そうなのか?」

 

「だと思うよ?なので聞きたいものがあるなら今のうちに聞いておけ。教官紛いなことは今日で終わりにするからさ」

 

「…」

 

 

 

壁に寄っ掛かり、最近慣れて来た先輩風を吹かせる。

 

しばらくの沈黙だが、レンカは口を開く。

 

 

 

「マロン、なぜ俺にそこまで付き添ってくれる?」

 

「そうだな………お前が眩しいから、かな」

 

「?」

 

「俺は新型だ。でも不完全な新型としてここに降り立った神機使い。悪く言えばモルモット扱いで新型にさせられた…… って、いつだったか前に話したよな?」

 

「ああ…」

 

「だけどレンカは完成した新型だ。少なからず俺も同じ新型のつもり。だから同型であるレンカを応援したい。しかし本音を言えばそんなレンカは俺には出来ない事をやってくれそうだと思ったから」

 

「できないこと??」

 

「あー、いや。あまり気にするな。ただの自己満足だよ。俺はレンカを気に入っている。それだけだ」

 

「そうか…」

 

 

固い寝台に転がる。

 

目を閉じる。

 

思い浮かべるのは先ほどのカノン。

 

血のつながりはない。

 

弟にしてくれた人だから。

 

そして…

 

 

「レンカ…」

 

「なんだ?」

 

「お前は自分の姉の事は、好きか?」

 

「え? ……あ、あぁ、勿論だが…?」

 

「そうか。いいことだな」

 

「?」

 

 

 

たまたま同じように似たような境遇の仲と出会った俺たち。

 

俺は知っているが、レンカはまだ知らない。

 

イロハがまだ隠したいことだから。

 

ならその時が来るまで彼は生きる必要がある。

 

彼女のためにも、ゴッドイーターする必要が。

 

 

 

「頑張れ、主人公…」

 

 

 

目が覚めたらミッションだ。

 

俺も生きるために、今は蓄える。

 

冷たい独房で静かに眠りついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

極東支部。

一人目の新型神機使い__台場マロン。

 

栄光ある一人目(モルモット扱い)として君臨した者。

 

ただそれは不完全な新型として。

 

 

実際のところ、わたしは彼にあまり期待はしていなかった。

 

スターゲイザーを名乗るサカキ博士は実験後になって後悔を生んでいたが…… 私にそんな感情は無い。

 

そもそも後悔や懺悔など起こすことも許されないところまで来た。私は自分を愚者だと認めている。若さ故の過ちを拭うために。

 

また研究成果を奪った者の復讐も兼ねて。

 

そして愛していた者の償いのため、忌み子(ソーマ)を抱えながら私は人類を救いの秤にかけて全てを終わらせようとしている。

 

だから私はどこまでも無情だ。

 

ああ、無情だからこそ一人目として扱われたモルモットな彼を哀れだとも思わない。

 

これからのための踏み台として『それ(呪い)』を背負ってもらうことにした。

 

 

しかし、しかしだ。

 

彼は___ナニカが、おかしい。

 

人類は進化する。

 

ロマンチストなペイラーの言葉。

 

台場マロン。

 

呪われたはずの神機使い。

 

だが彼にとってソレは呪い(まじない)なのか?

 

私はオカルトチックな現象やロマンチストな思考は好みではない。叩き出される数字と実績だけを目に入れる。これは研究員として働いて備わった気質故なんだろう。

 

しかし彼は人類を容易く喰らうアラガミ達を前にしても五体満足で帰投し続ける。

 

何度も何度も無事に戻ってきた。

 

それはまるで、女神に愛されてるように彼は荒神から護られている。

 

そんなロマンチストな考えがよぎる。

 

私は「ありえない」と切り捨てたい。

 

人は神によって常に蹂躙されているのだ。

 

だから女神が救いを差し伸べたなど信じがたい。

 

しかし彼のデータベースを開けばそれは事実だと証明する。私はその活躍を信じざるをえなかった。

 

彼は闘いにおいて類い稀ぬセンスの持ち主… なんてほどではなく、彼は至って普通の人間だ。

 

適合率が高い台場カノンと姉弟であるが、そこに見合わぬ適合率の数値の低さはやはり何かがおかしいと感じられた。

 

 

だが一つだけその異常性が分かったのだ。

 

彼は非常に賢いゴッドイーターであることだ。

 

その証拠として極東支部で一番と言われるほどのバレットエディット作成者だった。

 

バレットエディットは非常に複雑な代物であると聞いている。手慣れない者はエディットの作成に一日中かけることも珍しくない。ゴッドイーターでない私でもその難しさは理解しているつもりだ。

 

しかし扱いに困難な代物こそ大きな力を発揮してくれる。それがオラクルと言うもの。

 

それを周りに理解させるように彼が抱える多大なバレットの数々はミッションの生存率を上げていた。

 

いつだったから接触禁忌種であるポセイドンの動きを封じ込めたバレットを使うことで仲間二人を連れて生還を果たす実績も残した。

 

あのポセイドンを相手にこれは異例だった。正直に言えば私はその報告を疑うくらいだったから。

 

しかし彼が賢いのはバレットエディットが限定ではない。

 

アラガミに対する知識量が豊富である。

 

そのためミッション中でどんなイレギュラーが発生しても丁寧に対応すればそのままアラガミを攻略してしまう。

 

要するに立ち回り方が非常に上手だと言うことだ。

 

 

 

だから私は一度だけ考えてしまった事がある。

 

もし彼があのような実績を欲した故に課せられた神機ではなく、正常な神機を得ればどうなったのだろうか?

 

それこそ神を凌駕する鬼神そのものになってくれたのか?

 

 

 

まったく…… この私が『もしも』なんて考えるとは。

 

濁った空絵を連想する自分の愚かさに嘲笑ってしまう。

 

それほどに彼の力がここまで影響さているのだろう。

 

そしてなによりも…

 

 

 

 

「『メテオ』か……」

 

 

 

彼が作りあげた悪魔の所業(メテオ)

 

バレットエディットの事だ。

 

 

 

 

「…」

 

 

 

 

私はとあるプランを作り上げていた。

 

それにはアラガミのコアを多量に必要する。

 

そのため沢山のアラガミを集めて、一斉殲滅して多量のコアを回収する、そんな空絵を描いていた。かなり難しいプランだろう。しかし必要である、多量のコアが。

 

しかし彼の存在が、彼によって手掛けられたバレットエディットが可能にしてくれる。

 

 

 

神に刃向かう私に示された道…

 

それはまるで…

 

 

 

「神と相対するために【悪魔】となったか…」

 

 

 

 

人 が 神 になるのか…

 

神 が 人 になるのか…

 

 

いや、彼だけは違う。

 

人でも神でもない。

 

彼は私たちの呪いにより『悪魔』となったか。

 

 

 

 

「ふっ、くくっ。 悪魔か」

 

それは流石にくだらないか。

 

愚か者()はどこまでも愚か者()のままだ。

 

本当は神にも悪魔にもならない生き物だ。

 

そう似せるだけの、器用な生き物。

 

 

 

 

ただ、そうなれるように夢見てるだけ。

 

研究者の私がそうだったように…

 

人類の分際で、先を行こうとした愚か者に変わりない…

 

 

 

 

「まもなくだ。まもなく『オペレーション・メテオライト』が完成するだろう」

 

 

 

この愚かさを拭うために、愚かに手を染める。

 

だから人というのは荒ぶる神に喰われて当然なのだろう。

 

なんとも御し難い存在だ……

 

 

 

 

 

つづく



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12話

 

〜 そこらへんのどこか 〜

 

 

 

 

「案の定、独房から出ると早々に遠征へと飛ばされ早くも二日目突入なんだが…」

 

 

なんだこのオラクル反応…???

 

えぇ…(困惑)

 

 

感じたことある反応だから知ってるアラガミと思うが…なんか今までよりやばすぎないか?

 

 

この禍々しさをわかりやすく例えるとアレだ。

 

BBで作られる野獣先輩と同等の禍々しさだ!!

 

アカン、これじゃ人類が死ぬ!

 

 

 

まぁ、9割近くが既に死んでるけどな。

 

 

 

「とりあえず見に行くか。どうせバーストモード中の俺を見つけられる訳ないし。これも超消音様様ですな。開発してくれたリッカ愛してるぞ。だが、サカキのおっちゃん、テメーはダメだ」

 

 

つけもの並の感覚でサカキ博士を否定しながら建物を活かして禍々しい反応に接近する。

 

そして到着。

 

顔をひょっこりと出して、とんでもないオラクルを放つアラガミの姿を確認すると…

 

 

 

「ふぁ!?なんだこのおっさんは!!」

 

 

オラクル反応からしてヴァジュラ種だと思ってたがまさか"ディアウス・ピター"だとは。

 

てかなんかこのピター少し違うな?

 

マントのように覆ってる部分が少し異なる上に、顔立ちもなんか違う。

 

ピターなんだけど変異したピターかな?

 

 

 

「しかし……」

 

 

 

警戒心が無さすぎる。

 

あの感じ、どうやら自分より強い相手に出会ったことなくて慢心してるな??

 

いまなら殺せるのでは?

試作品のメテオで。

 

 

 

「てか、どこ行く気だアイツ?」

 

 

 

いや、もう少し様子伺おう。

 

新種のアラガミなら新情報として調査しなければならない。

 

まぁ、本当に危険ならば即葬りたいけど。

 

 

 

「あ、バーストモード解けたか。タイミング悪いな。どうしよう。もう一回飲んどくか?いやでも前に過剰摂取でエライことなったからな」

 

 

 

強制解放剤は飲んだ時にバイタルが削られる。

 

ゲーム画面ならただ体力が減るだけかもしれないがこの世界でそれを服用すれば強制解放後に少し怠くなる。

 

あとふらふらしてしまう。

 

それだけ体に負担が掛かってる証拠だ。

 

そしてそれを何度も服用すれば大変な事になるのは明らか。エネルギードリンクを何本も飲むのと同じだ。それは薬品でもあること。

 

飲み過ぎは普通に死んじゃうよ?

 

ゴッドイーターは少し丈夫だから簡単に死にやしないが異常は起きる。

 

目眩や嘔吐はもちろん下痢も起きる。

 

ミッション中に下痢なんて最悪だぞ(二敗)

 

 

 

 

「あれは目的地があっての移動だな。どこに行くつもりだ?ハウスか?」

 

 

 

隠居するつもりならそうして欲しい限りだ。

 

何もせずそのまま朽ちてくれ。

 

 

 

「しかしピターで良いよな?見た目が違うから少し見間違えそうだがオラクル反応はピターと似てる。だけど独特の気持ち悪さはアレから発せられている…初めて感じるものだな」

 

 

 

のしのしと我が道のように歩くピター。

 

普通なら都会だっただろうこの場所は人類が楽しそうに悠々と歩くはずだ。

 

だけど今ではアラガミの場所となっている。

 

そんな人類は一つの場所に押し込まれて絶望と隣り合わせにしているのだ。

 

そう思うと苛立ちを感じる。

 

 

 

「アレは普通じゃダメだな。正面から殺せないな。ピターのマントが鋼鉄のように見える」

 

 

 

と、言うよりかは本当に硬いマントを持ったアラガミだろう。

 

生半可な刃ではどうにもならない。

 

しかしオラクルソードは斬れ味や肉質などに囚われない武器なのでそこらへんは気にしないで済む。そしてピターから回収するオラクルはとてつもない力を発揮するだろう。

 

 

 

「まぁ、近寄るつもりは無いがな。とりあえず仮拠点で報告書にまとめたらさっさと早期帰投を申請しよう。それからは極東に任せよう」

 

 

 

何せあのピターの目は相当殺ってる目だ。

 

かなり危ないアラガミなのは確かだ。

 

早めに情報共有は広めておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 ヘリコプター 〜

 

 

 

さて、早期帰投のお許しが出た。

 

やったぜ。遠征が2日で終わるなんて極東支部はホワイトだなー、わーい。

 

さて、社畜に対する皮肉はさて置きだ。

 

ヘリコプターで優雅に空のお散歩の最中1つの通信が入ったことでその時間は終わりを告げた。

 

 

 

「?」

 

 

 

操縦中のパイロットに手招きされね俺は通信機を受け取る。

 

どうやら俺宛のようだ。

 

 

「代わりました、マロンです」

 

『ツバキ教官だ。帰投中に申し訳ないが頼みがある』

 

「はい、なんでしょうか?」

 

『とある部隊の増援に駆けつけて欲しい』

 

 

 

"駆けつけて"欲しい。

 

まるで急用を欲する言い方。

 

それから導き出される答えは…

 

 

 

 

「ツバキ教官、それは戦いの増援としてですか?」

 

『ああ』

 

 

 

調査隊の俺に戦闘行為を頼むという事はつまり相当な事なんだろう。

 

 

 

「俺以外には、居ませんか?」

 

『増援に駆けつけて欲しいポイントの近くにはマロンしか居ない』

 

「分かりました。向かいます」

 

『よろしく頼む』

 

 

それからツバキ教官に軽い説明を受けた。

 

通信の回線がギリギリのところになったため詳しくは聞けなかったが、簡単にまとめると飛行する大型の輸送機がアラガミの群れに襲われてるらしい。俺はその増援に向かう形だ。

 

しかし増援先が大空なんてどんだけスタイリッシュなんだよ

 

もちろん素のゲームはスタイリッシュアクションだけど…… そこまで求めるか?

 

何というか常識外れな存在には非常識で対応って事か。随分と命がけだな。

 

人間の体ではいくつあっても足りねーや。

 

 

 

「パイロットさん、頼んだぞ」

 

 

さて、俺はパイロットに通信機を返して極東から渡されたポイントに向かわせる。

 

その間で俺はヘリコプターにストックされたOアンプルを神機に投与する。

 

オラクルリザーブを行なってもう一回Oアンプルを投入する。

 

激戦を予感させながら着々と準備を続けた。

 

 

 

「え?なんだあれ?」

 

 

 

不意に外を眺めれば何か細かなモノが群れとなって浮遊していた。

 

その群れは俺たちのヘリコプターが進む方向と同じ場所を目指している。

 

するとデジタルマップを覗いた操縦士の驚い声が耳に入る。

 

どうやらとんでもないモノがレーダーに映ったようだ。

 

俺もいま視認したから分かる。 あれは驚く。

 

 

 

「浮遊するタイプの幼体だよな?あれだけの数は初めて見るな。うへー、素直に気持ち悪い光景だな」

 

 

 

その後、俺は操縦士に指示を出した。

 

あの群れを追いかけながらかなり上の場所へ移動させる。

 

やや遅れながらアラガミの群れを追いかけていると大きな飛行船が現れた。

 

 

 

「あ、リンドウじゃん」

 

 

 

飛行船の上で孤独に戦う男。

 

そして少し離れたとこらに飛んでるヘリコプターからは援護射撃が行われている。

 

発砲音からしてスナイパーだと分かった。

 

そうなると候補は一人しかいない。

 

早速通信をつなげた。

 

 

 

「サクヤさーん、リンドウさーん、俺です!台場マロンです!増援として来ました!」

 

 

『え!?増援!?それにマロン!? 』

 

『おいおい、いいのか?』

 

 

あまり良くないんだが??一応戦闘は避けたいタイプなんだが、まあ非常事態だから仕方ないから。

 

端末機に呼びかけながら俺はトリガーを引く。

 

ブラスト弾が爆発を起こす。

 

連鎖爆撃で複数のアラガミを巻き込んだ。

 

 

 

『増援はありがたいが、そんなの聞いてないぜ?』

 

「先程まで極東からギリギリ回線届く場所にいたんですよ。そんで愛しい弟のために増援向かえとツバキ教官から頼まれた」

 

『おお、そりゃ愛されてるねー、俺も」

 

「姉を持つもの同士、身に染みるな」

 

 

軽口叩きながらもアラガミの幼体をリンドウは神機で斬り裂く。

 

するとチラリと飛行船の後方を見る。

 

 

 

「リンドウさん、チラチラ後ろ見てどうしたんだ?」

 

『いやー、ちょっと…な?てか、その距離で良く俺が後ろ気にしてるの分かったな』

 

「自分、色んな意味で極東最強なので」

 

『答えになってるようでなってないぞー』

 

『リンドウ、軽口は良いから行きなさい』

 

『おう、ならちょっくら行って来るわ』

 

 

リンドウが俺の冗談をあしらいながら飛行船の後方に飛び込み、姿を消した。

 

何事だろう?

 

 

「サクヤさん、自分はモルター爆撃で後方のアラガミを落とすの、でサクヤさんは機体に張り付くやつをお願いします」

 

『ええ、助かるわ!』

 

 

 

そして飛行船を襲うアラガミを殲滅する。

 

俺もサクヤのように真上からズッコンバッコン放つ事にした。

 

しかし、いい腕してるよなー、サクヤさん。

 

元オペレーターとは思えないや。

 

そんな感じにしばらく一方的な攻撃で次々と葬るが、違和感を覚える。

 

 

 

「俺たちに興味無さすぎでは?」

 

『そうね。アラガミは飛行船に夢中ね。まぁこちらとしては助かるけど』

 

「好き嫌いしても大きくなれないぞ」

 

『アラガミになに言ってるのよ』

 

 

 

どうやらアラガミにとってヘリコプターはどうでもいいようだ。

 

あまり美味しくないのかな?

 

 

 

「あ、でも、3時の方向に好き嫌いしなくて大きくなってる奴がいるぞ」

 

『あら、ならお仕置きね』

 

 

 

サクヤさんはバンッ!(大破)とスナイパーで狙い、好き嫌いのアラガミを貫く。

 

 

 

「お見事」

 

『お残しは許さないわよ』

 

 

 

そう、一匹たりともな。

 

アラガミは全部駆逐してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

独房から出されると向かった先は大型の飛行船であり、自分と同じ新型神機使いをお迎えに上がるとの事だ。

 

まぁここまでは良い。

 

だが俺は今現在、とある状況に立たされる。

 

 

 

「っ!このっ! このっ!!!」

 

「おい、落ち着けよ!」

 

 

なぜか自分と同じくらいの女の子から攻撃されている。

 

彼女曰く「捕まえに来た」と誤解しているみたいだ。

 

アラガミの群れが来ているにも関わらず格闘戦を行っている。

 

 

「っ、だからやめろ!」

 

「なっ!? きゃぁ!」

 

 

しかしマロンから対人戦を学んでいた俺は彼女の攻撃を防いでは受け流し、互いに目立った傷はひとつも受けていない。

 

マロンはこれを"あいきどう"と呼んでいたか?

 

前世の記憶から引っ張り出した技術だと茶化していたが何のことだ? しかし効果的だ。

 

力の強い神機使いだからこそあいきどうの武術とやらがが活かせる。

 

大きな怪我もさせず無力化できるから。

 

 

 

「何のつもりなんです! あなたは何ですか!」

 

「極東に新しい神機使いが来ると聞いた!俺たちはその迎えに来ただけだ!」

 

 

最初は落ち着いていた彼女だが、あいきどうであしらわれる度に苛立ちを覚えて興奮に達する。

 

今は敵意むき出しだ。

 

対話は難しいらしい。

 

しかし、この空気を壊してくれる神機使いが一人現れた。

 

 

 

「おいおい、二人とも何イチャイチャしてんだ?」

 

「イチャイチャしてない」

 

「イチャイチャなんてしてません!」

 

「おお、やはり若いってのは人と仲良くなりやすくて羨ましい限りだねぇ」

 

「仲良くなんか無い」

 

「仲良くなんかありません!」

 

 

現れたリンドウのせいで緊張感が失せて行く。

 

なんとも言えない空間に染まり、とうとう彼女は呆れたように「くだらない」と切り捨てる。

 

しかし場は落ち着いた。

 

ナイスと言うべきか。

 

 

 

「イチャつく前に外にいる腹ペコ供(アラガミ)をどうにかするぞ。 異論は無いな?」

 

「無い」

 

「ふん」

 

 

それから彼女、または『アリサ』という名の新型神機使いと一時休戦の形に収まる。

 

なぜ一時休戦なのか理解できないが…

 

まあ、今この場を収束できたならまぁいい。

 

そして三人で軽く作戦会議が行われると本格的にアラガミの駆除が開始されようとした。

 

しかしアリサが「旧型は旧型なりの仕事ができれば結構です」とリンドウさんに言い放つ。

 

なんて奴だ。彼らも好きで1つの形態に囚われてる訳じゃ無い。それにいま俺たちが新型として戦えるのは旧型で戦って来てくれた先駆者がいるからだ。リスペクトと言うのは無いのか?

 

俺にも先駆者《マロン》がいる。

 

彼が複雑な新型を抱えてくれた。

 

プロトタイプとして土台を作ってくれた。

 

だから俺はこうして強くなれた。

 

だから彼女の発言に許せない気持ちになった。

 

 

「おいレンカ、怖い顔してるぞ」

 

「!?」

 

「強張りすぎるな。 まあ、かるーく行こうや」

 

「あ、ああ…」

 

 

 

でも今はアラガミの殲滅が大事だ。

 

彼女に対する気持ちは一旦置いておこう。

 

そう思って飛行船の上に戻った時だ。

 

インカムから聞きなれた声を拾う。

 

 

 

『おーい、レンカじゃねーか』

 

「!!?」

 

 

 

驚いた。

 

俺よりも先に独房から出た台場マロンがヘリコプターの側面からブラストを射ち放ち、アラガミを倒していた。

 

しかし何故ここに?

 

 

 

『成り行きでこうなった。とりあえずまだまだ上から援護できる。レンカは存分に食い荒らしてくれよ』

 

 

 

頼もしい。 この一言に尽きた。

 

不自由な外で生きて、何も持たなかった俺をここまでに仕上げてくれた彼がまたこうして共に戦ってくれる。

 

 

 

「リンドウ! やるぞ!」

 

「お、おお?そうだな。やる気がある事はいい事だ。でも少しは気楽にな?あまり気を___」

 

「うおおおおお!!」

 

「張り詰め…… っと。 やれやれ、まったく。若いって頼もしい限りだねぇ」

 

 

 

それから俺は神機を構えて飛行船の上で駆ける。

 

更に上ではサクヤさんがヘリコプターから一発分のバレットを発撃ち放つ。すると天の川のようにアラガミが次々と爆ぜた。だがそれ以上にマロンが放つバレットも規格外だ。

 

まずマロンが撃ち放ったオラクル弾はその場で停留する。そしてマロンのヘリコプターはその位置からそそくさと離れた。サクヤさんが乗るヘリコプターもマロンの通信によりその場から離れる。

 

そして停留してるオラクルは肥大しながらジリジリと密集するアラガミの群れににじり寄り…

 

そして…

 

飛行船を揺らすような大爆発が巻き起こる。

 

 

 

「ヒャッハー!汚物は消毒だぁ!」

 

 

 

アラガミの群れを散らしたマロンはご機嫌な様子で高らかに叫んで、落下する。

 

 

……え? 落下?

 

 

 

「マロン!?」

 

 

 

随分と余裕な様子で空高いヘリコプターから降りるマロン。その途中で次々とアラガミを撫でるように斬りつながら落下する。アレに殺傷力は無い事は知ってる。しかし落下しながらも簡単に刃を通すその姿はベテラン神機使い。

 

アリサもその姿に驚いている。

 

そして俺とアリサが立つ間のスペースに着地するとマロンは剣形態から銃携帯に変形させると銃口は上を向いており、トリガーを引く。

 

また1つオラクル弾が放たれた。

連鎖爆撃。

流れるように上空のアラガミをまた一掃した。

 

 

 

「この火力こそがブラストの真骨頂だな」

 

 

 

こちらに振り向きながらケラケラと笑う。

 

3日ぶりの再会だ。

 

 

「さて、再会に喜ぶ暇もない。何せアラガミはまだまだ沢山いるんだ。ぼーっとしてる暇は無いよ」

 

「「!」」

 

 

 

俺とアリサはハッとなり、神機強く握り直す。

 

アラガミへ駆け込んだ。

 

 

 

「なーにが沢山だ。俺が飛行船の中へ一時的に離れた時に随分減らしたなマロン」

 

「ヘリコプターに沢山アンプルあったから捗ったんだよリンドウ」

 

「それに見合った殲滅量てか?ったく、新型のせいで常識が壊れちまう」

 

「ゴッドイーターとなって半分近く人間は捨てたんだ。既に常識は壊れてるよ」

 

「お前の場合は規格外だっつうの!」

 

 

『二人とも話してないで動きなさい。それとも上からその頭撃てば動くかしら?』

 

 

「「ごめんなさい」」

 

 

後ろで軽口叩き合う二人もサクヤの鶴の一声によりやっと動き出す。

 

どんなに世界が壊れても男性が女性には勝てない常識は変わらないらしい。

 

さて、サクヤさんの支援射撃も交えた飛行船で俺たちゴッドイーターはアラガミを次々と喰らい始める。

 

さて、マロンやリンドウはともかく、まだまだ新人の俺と、今日初顔合わせになったアリサは長時間になるだろう戦闘に緊張する。

 

しかしそれを他所にマロンは手のひらサイズのビデオカメラを持ちながらこの戦況を撮影していた。調査隊としての役割らしいがこんな時でも遂行するらしい。

 

心強い…のか??

 

しなし撮影しながらも後ろを見ずにアラガミをブラスト弾で撃滅するその姿は異常に見える。

 

たしか『ユーバーセンス』だったか?

 

その能力を持っていればあんなこともできるとマロンが話していたが…

 

いや、そんなはずない。

 

アーカイブで調べた限りだとユーバーセンスは大まかな位置を知る程度であり、マロンのように芸達者なブラインドアタックまで出来るほどユーバーセンスの力は無い。

 

アレは純粋にマロンが研鑽して来た感覚。

 

すごい、なんであんなことが出来るんだ?

 

 

 

「あの人も新型…」

 

「どうした?」

 

「!!…いえ、なんでもありません」

 

「?」

 

 

 

アリサは最初、マロンの戦闘を見て「アラガミに傷一つ与えれない欠陥な神機使い」と酷評していた。

 

見下す事が多い彼女の性格は今回のミッションで良く理解できたが流石にそれはどうなんだ?

 

言葉に出してないとは言え、彼女の眼を見たらそれはわかった。

 

流石に俺も苛立ちを覚える。

 

しかしマロンの戦いをみて少しずつその評価が変化していった。

 

 

「レンカ、もう少しだ、頑張れ!」

 

「っ!」

 

 

少し、疲れて、腕と脚が、止まっていた。

 

声をかけられて、神機を握り直す。

 

 

「この程度乗り越えて、何度も乗り越えて、そしたらお前が強くなって、お前が迎えに行け」

 

「む、迎えに…??」

 

「約束した筈だろ?逢いにいくって」

 

「!!……姉さん(イロハ)ッッ」

 

「俺も会いにいく、姉さん(カノン)に。そして逢いにいく、リッカにも」

 

 

真横にいたマロンは一歩踏み込み、幼体のアラガミを撫で切りながら変形すると流れるようにトリガーを引き、再び敵を落とす。

 

あれが戦いに向かない調査兵の姿??

 

何を言う。

 

ここにいる誰よりも多く倒してるでは無いか。

 

襲いかかる風圧に負けない。

 

風の抵抗など感じさせない。

 

息切れを忘れたように刈り尽くす。

 

踏み込んだことで凹んだ甲板の数は幾つだ?

 

緑色の斬撃は何度この眼で捉えた?

 

いや、逃した斬撃もある。

 

激しい戦闘の過程でビデオカメラのカートリッジも入れ替えながらこの状況を記録に残す姿は色々とおかしい。よく見れば口も動かしているがもしやこの録画の状況説明のつもりか?なんて神機使いだ…… この人は。

 

 

 

「俺も……あんな風になれるか??」

 

 

それは遠い姿。

 

けれどあの人は俺に期待してくれる。

 

自分には出来ないゴッドイーターの姿は、俺ならできるんだと、そう言ってくれたから。

 

 

 

「なら、出来るようになろう」

 

 

 

頼もしい先駆者の後に続いた。

 

俺はゴッドイーターだから。

 

 

 

 

 

つづく

 



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13話

 

〜 食堂 〜

 

 

 

さて、現在お昼の時間。

 

お腹を満たすために食堂までやってきた。

 

半分サイズのジャイアントトウモロコシを主食にして、冷やしカレードリンクと、冷やさせれていた温かいカレードリンクを添えて、目の前でニコニコと座っているリッカとささやかなお食事デートだ。リッカたんマジ天使。かわいい。

 

 

 

「それで、これがサリエルの幼体と思われるアラガミの群れ」

 

「んー、見た目気持ち悪いね」

 

 

 

流石にお食事中で見せるべきじゃないだろうビデオカメラの映像は前回のミッションで録画した奴だ。風の音がうるさい。

 

 

「そして幼体アラガミの殲滅後に現れたコイツはウロヴォロス。それもかなりでかい個体だ」

 

「何これ!?」

 

「録画の中のリンドウが言った通り、触る神に祟りなしって奴だよ。しかもこの体格に飛行能力があるらしい。ゆっくりと降下してるのがなによりも証拠だな」

 

 

ジャイアントトウモロコシを齧りながらリッカに見せる動画。

 

成長し始める幼体のアラガミ。

 

各々が神機を振るう戦闘シーン。

 

ラストキルを貰ったレンカのワンシーン。

 

そして先程見せたのは雲の中から出てきたウロヴォロス。デコイとして使ったヘリコプターに食らいつく超大型アラガミの姿に新人二人が息をのむ声が鮮明に聞こえる。このショッキン映像も分からないこともない。

 

そして飛ぶらしいウロヴォロス。

 

やはり原作知識は意味が無い。

 

はっきりわかんだね。

 

 

 

「それにしてもこの映像はツバキ教官に渡したの?」

 

「渡したよ。コピーしてな」

 

「なんで?」

 

「元々空木レンカの戦闘スタイルを確認する目的として回したんだよ。まあアラガミの生態を報告して対アラガミの対策を立てるためにもカメラは回したが、俺の中でメインはレンカだ」

 

「相変わらずレンカくんお気に入りだね。 妬いちゃう」

 

「俺にとってリッカが一番のお気に入りなんだってそれよく言われてるから。そんでさ、レンカの戦いっぷりを知ってもらったのだが、そこでリッカにお願いがあるんだよ」

 

「?」

 

「考案した強化パーツにオラクルを節約できる物があったよな?それの開発を進めたい」

 

「別に良いけど、何か考えがあるんだね?」

 

「ああ。俺の目測が正しければレンカはブラストを使いこなす。いま見せた映像でもレンカは剣から銃に繋いだ攻撃を得意としている。柔軟なんだよ彼は」

 

「私は戦いとかよくわからないけど、レンカくんにとってオラクルを節約する強化パーツがピッタリの代物になるんだね?」

 

「ああ」

 

「ん、いいよ。マロンのお願い聞いてあげる。わたしもレンカ君のこと気に入ってるから」

 

「ありがとう。あと妬いちゃう」

 

「私にとってマロンが一番だってそれよく言われてるから」

 

「うれしぃ…うれしぃ…」

 

 

そう言って開発を決めてくれる大天使リッカ。

 

いつも俺のワガママをよく聞いてくれる彼女だけど、ちゃんと理にかなってるからこそ頼みを承ってくれる。そして開発に手を抜かない彼女の作品に俺はいつも絶賛する。大体これの繰り返しだ。

 

幸せすぎて脳内バーストモード不回避ですわ。

 

 

 

「ふぅぅん、あなたが…」

 

 

「?」

 

 

 

俺とリッカの時間に割ってきたのはロシアからやってきたアリサだ。

 

それよりもなんか見下されてる?

とある業界ではご褒美らしいけど。

 

そんでもって相当な至近距離で迫ってこちらを見ているので、座っているあ俺はアリサの胸が下から見えそうになる。随分と無防備だ。この子の恥じらいはロシアで冷凍保存されて置いて来たらしい。

 

 

「聞きました。 あなたは極東支部で最初に作られた新型であり、そして極東最強だと」

 

「前者は事実だけど後者はふざけてつけられてからな?あと厳密には極東最強ではなく極東最"狂"だよ」

 

 

 

俺は個人の生存率や作戦の成功率が高いことで評価されている。あと支援に回った時の貢献率も一番高いとされている。しかも数値化した場合雨宮リンドウを超えているらしい。

しかし認めきれないゴッドイーターや面白がらない輩は皮肉的敬意を込めて俺のことをこう名付けた。

 

極東支部の中で最も『狂って』いる神機使い。

それが、極東最()だと。

 

 

「そんな細かいことはどうでも良いです。ただそれだけ噂される異物なのならば相当な者だと拝見しました」

 

「人を異物呼ばわりとは失礼な奴だな?」

 

「しかし今日の午後から開始されるミッションで同行すると聞きましたので、改めて一眼伺いに来ましたが、緊張感も無く浮かれてる姿を見て些かガッカリなところですね」

 

「異物呼ばわりに関しては無視かよ」

 

 

原作ゲームでもなかなか棘のある言動だったがこうして対面すると結構クるとこあるね。

 

俺は彼女の過去を知ってるからまだ理解できるがそうで無い奴からしたらたまったもんでは無い。

 

彼女の姿は問題児そのものだろう。

 

 

「まぁ、心配すんな。ただミッション前にリラックスしてるだけだ。俺ってメリハリの付け方が上手いからな」

 

「でもマロンってその割には休む時はグデーってとんでもないほど無気力状態になるでしょ?」

 

「それは仕方ないだろリッカ。体のリミッターコントロールは遠の昔に壊れてる。ミッションを終えて部屋に戻ればパタリと倒れちまうのは仕様だ。100%か0%のどっちかだ」

 

「でもその分無防備なマロンを好きなように出来るから良いんだけどね」

 

「好きにって… あのねぇ、無気力状態は空腹すらも無視するんだぞ?ある意味死活問題なんですがそれは」

 

「私だって無防備にパジャマ姿晒してるでしょ?そんな私を好き勝手するじゃん。だからおあいこってことになるよ」

 

「何そのガバガバ理論」

 

「朝ボルト締め忘れたからガバガバなのは仕方ないね」

 

 

「もう! イチャイチャするなら他所でやってください!」

 

 

「「やだよ」」

 

 

「はぁ!?」

 

 

 

アリサが俺を貶してた(?)話題はいつのまにか何処へ行ってしまい、イチャイチャしてるところを見せつけられて顔赤くして怒っていた。

 

なんだ?

 

かまってちゃんか??

 

と、言っても現状は扱いづらい年相応な態度と性格だけであって、根はいい子な事は原作プレイヤーとしてそれはよく知ってる。寧ろ今だけこのアリサを楽しめれると考えればそこまで苦痛でもない。残念さが少し心に残るだけ。

 

 

 

「そんじゃ、そろそろストレッチでも始めようかな」

 

「ストレッチ、ですか?」

 

「ああ。俺には一番欠かせない準備タイムだ。 これを毎日やってるから動きにミスもしないし、傷を負わずにいつもミッションを終えれる。そんじゃ後でな、ロシアのルーキー」

 

「っ!か、勝手に新人扱いしないでください!!」

 

「それでも俺からしたらまだ君はヒヨッコだよ」

 

 

 

年相応な反応。

 

レンカとは違って揶揄いがいがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 贖罪の教会 〜

 

 

さて、リッカと些細なお昼ご飯デートを終えてから二時間が経過。

 

体を無駄無くほぐし終えた。

お陰で手首が軽い。

 

その上オラクルソードを握れば本当に羽根のように軽くなる。体に肉が詰まってるか心配になるレベルな程だ。もう慣れた感覚だけれど。

 

その状態でおれはアリサと二人でミッションに出た。対象はコンゴウ二体だ。簡単に倒せるアラガミだけど、あの豪腕から繰り出される攻撃は普通にワンパンで死ねる。なので遠距離攻撃で封殺することがオススメだろう。

 

 

「ここから西にオウガテイルが6体。あと西南に討伐対象のコンゴウが2体まとまってる。あと何故かサリエルもこちらに来てるな」

 

「サリエルが…?って、なんでそんなに細かく分かるんですか?さっきも『あの岩陰からオウガテイル』と言い当てて…」

 

「自分、極東最()なので」

 

「誤魔化さないでください!」

 

「まぁ、極東支部で一番の調査兵と認められてるくらいだし、このくらい出来て当然だろ」

 

「規格外か何かですか、あなたは」

 

「ある意味規格外だから間違いではその認識で無い。まあそこらへんのカラクリはその内教えてやるよ。そんじゃあさっさと討伐対象は倒そうか。俺ってサリエルの天敵だからミッションはさっさとクリアしたい」

 

「…わかりました」

 

 

どこか納得いかないアリサだがミッションは淡々とこなしてオウガテイルの駆除。

 

メインであるコンゴウ二体をあっさり葬った。

 

その時にリンクバーストでアリサを強化したりと新型神機使いならではの支援に回ったが… 何故か怒鳴り始める。

 

 

「教えなさい! これは何なんですか!」

 

「はい?」

 

 

 

まさか『リンクバースト』を知らないとは思わなかった。

 

 

 

「新型だけが許される力だ。知らないの?」

 

「新型だけが許される…?一体何なんですか?」

 

「……君は何も知らないんだな?」

 

「な、何がですか…」

 

 

どうやらアリサは新型をただ剣と銃が両立できる『便利な』モノだと認識してるだけだ。

 

これはよろしく無い。

 

 

 

「よしアリサ、少し質問しようか。君は旧型と新型の違いを思いつく限りの言ってみて」

 

「え?」

 

「ハイ、よーい、スタート」

 

「うえ!? え、ええとっ…ま、まず変形が出来ること、そして捕食…は、旧型もできるから…あ、でも捕食する事でオラクルを補充して射撃の弾を回復できる能力があります」

 

「他には?」

 

「え?……た、盾と銃が使える…?」

 

「それはただ普通に当たり前なことだろ」

 

「ぐっ…!」

 

「で、他にわかることは?」

 

「え………ええ、と」

 

「どうやら無いみたいだな。なるほど、つまり君はまだその程度ってことだな」

 

「なっ…!!」

 

「ちょうどいい。今からこちらに来るだろうサリエルを駆逐しながら教えてあげよう」

 

 

 

俺はアリサに手招きして建物の中に隠れる。

 

あとアリサは少し拗ねてしまった。オオグルマの洗脳解除前の黒歴史状態のアリサは完璧主義寄りな性格なので、俺の満足行く答えを出せなかった事を気にしているようだ。俺も言葉に意地悪が過ぎたが彼女には良い薬としておこう。

 

さて、俺が指差した場所に視線を向けさせる。

 

すると低空で移動するサリエルが現れた。

 

もうアリサは俺のユーバーセンスに慣れたのか驚きはしなくなった。

 

 

「新型でも銃形態にならなければ銃撃はできないなんて固定概念は捨てちまえ。新型は剣形態でも銃撃できるんだから」

 

「え?」

 

「そこで観察していろ。今から見せるのは『インパルスエッジ』って技だ」

 

「インパルス、エッジ?」

 

「剣形態でも強引に砲撃をねじ込める素晴らしい技だよ。見せてやろう」

 

 

 

眼の良いサリエルとはあまり戦いたくないが不意打ちで叩き落とせば案外なんとかなる。

 

最悪アリサの力も借りて倒せば良い。

 

俺はブラストの銃口を斜めに向けてサリエルに飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はロシアから極東支部にやってきた。

 

ここ極東支部は激戦区と恐れられる場所。

 

アラガミの動物園とも言われている。

 

だからここで戦うゴッドイーターは屈強な者達で集われてるかと思ったが、対してそうでもないようだ。

 

ゴッドイーターに対して緊張感が無い。

本当に激戦区かと疑われるような空気。

 

そんな奴らが多くだった。

 

しかし例外はある。

 

輸送機から私を迎えに来たゴッドイーターはそんな連中と比べて見事と言える者達だった。

 

例えば、雨宮リンドウと橘サクヤ。

この二人はキャリアが長いベテラン神機使い。

 

そして同い年で、同じ新型の空木レンカ。

 

しかし私の方がゴッドイーターとしての実戦経験は長かった。けれど空木レンカの活躍は私に劣ることない働き。更に輸送機のミッションが今回彼だと初めてだと聞いた。つまり外での本格的な初陣。なにかの間違いだと思いたかったが、アーカイブから見れるデータが全て物語っている。

 

防衛区の中で一度だけアラガミと戦闘は行ったらしいが、サリエルの幼体の群れに飛び込むような激戦は初めてらしい。つまり本格的なミッションはあの輸送機の護衛が初めて。

 

どうして?

私とは変わらない年の彼がどうやって?

あの動きは新兵にしては只者では無い。

 

 

しかし原因はすぐにわかった。

 

空木レンカと親しい仲である神機使いがいた。

 

それは新型神機使いのプロトタイプである台場マロンと言う男。彼の存在が空木レンカを強くした。私は気になって台場マロンを調べた。

 

プロトタイプの意味も気になったからだ。

 

そしで極東で『最強』であることも聞いた。

 

これだけの事がわかれはある程度納得はいく。

 

実際に私は台場マロンの戦いを輸送機で見た。

 

後ろを見ずに銃弾を当てる技術。

 

通り魔のごとく繰り出すのは見えない斬撃。

 

しかも風が強い輸送機の上でビデオカメラを片手に回しながらアラガミと戦う神経は疑いたくなった。彼が調査兵でアラガミの情報を集める役目を背負ってるのはわかる。アーカイブでそのことを知った。でもあの状況でそんなことをやれる精神は相当だと思った。

 

ゴッドイーターになって半分人間やめてるのにさらにそこから半分人間をやめたような動きは印象深い。狂っている。

 

だから極東最狂なのか。

 

これだけの情報量つい前日に起きた出来事。

 

今でも驚きが私の中で巡る。

 

しかし私は台場マロンを見下していた。腑抜けた周りのゴッドイーターと同じ枠に入れていた。

 

でもそれは台場マロンを『強い』と認めたくなかった幼稚な神経からかもそれない。もしそうなら自分でも嫌になってるが、それを止めることはできなかった。けど私はいつものように冷徹な言葉と視線を持った。

 

でも食事中の彼からあしらわられる。

 

そして、彼のつかみどころがわからないままミッションが始まる。

 

 

 

 

「軽いブリーディングを始めるぞ。 今回の討伐対象は__」

 

「コンゴウ二体だけです。事前情報で確認したので問題ありません」

 

「残念、問題ありだ」

 

「なっ!?」

 

「いいか?よく聞け新入り。ここはアラガミの動物園で有名な極東支部。人手が足りないレベルでいつもアラガミでいっぱい。接触禁忌種も半年に一回以上は必ず見かけるヤベーところ。そんな奴らを含めて極東が管理しているつもりである区域に生息するアラガミは一つの場所にこだわらずあらゆるところに現れる。もしかしたらこのミッションにコンゴウ以外のアラガミも現れることだってあり得る」

 

「それは…」

 

「あり得ないとでも?」

 

「ですが、そんな事が簡単に…」

 

「残念だけどそんな簡単がここでは当然のように起こるぞアリサ。だから極東でゴッドイーターをするならイレギュラーを想定しながらミッションに取り組め。何事もなければそれで越したことはない。けど受け取った情報だけを鵜呑みにしてミッションに取り組むのならば極東でいずれ死ぬことになる」

 

「……」

 

「脅してるようで悪いけど、ここ極東はマジでイかれてる場所だ。せっかく現れた金の卵も即座に蹂躙されてしまうところだ。そうやって失った神機使いは多い。俺はその枠にアリサを入れたくない」

 

「……大丈夫です。 ありがとうございます。 けど私はそんな簡単に死にませんから」

 

「そうか。ならまずはそれで良い。何だかんだでその方が頼もしいからな。先ほどの件については、慣れもしない先輩風吹かせているプロトタイプがそう言ってた… 程度に今の話は覚えておいてくれ。じゃ、始めるか」

 

 

 

そう言って彼は走り出す。

 

すると小型アラガミへ一直線。

 

まるでそこにいることがわかってるかのように駆けて行き、背中を撫でるように斬りつけながら最後は捕食。

 

しかし台場マロンのプレデターはアラガミの皮膚に牙を立てた程度であり噛み砕けてない。だから絶命はしない。

 

しかし、アラガミは何が起こったのか気づいてないようだ。台場マロンから攻撃されたことすら理解してない。私は隙だらけの小型アラガミを銃撃でトドメを刺した。

 

 

「アーカイブで個人のプロフィールを調べたなら分かると思うけど、俺って斬撃や捕食でアラガミは殺せない欠陥品だ。銃撃でなければアラガミにダメージを与えれない。そんなわけなので細めなキルはアリサ頼りになるからな、よろしく」

 

「プロトタイプは…… プロトタイプなりの仕事をしていただければ結構です。けれど、了解はしました」

 

「おうよ」

 

「でも今回はあなたが逆に支援してください」

 

「わかった。 そうしようか」

 

 

そしてミッションが本格的に始まる。

 

そして今回はじっくりと彼の活躍を見れそうだから私はそちらにも目を向けた。

 

あくまで興味の対象としたが。

 

 

 

「なんでアラガミはあなたに気づかないんですか?」

 

愛の結晶(リッカのお陰)って奴だ」

 

「はい?」

 

「まあ、意味については、そのうちな」

 

 

時々よくわからないことではぐらかそうとする。

 

絶対なに何か仕組みがあると思うのでそれは今度聞いてみることにした。

 

 

「ところでアリサは捕食の際に全て弾に変換するんだな」

 

「変換?ああ、捕食完了の際の事ですか。私は全て弾に変換させます。身体強化はありがたいですが効果時間は長くないので選択外ですね。 実用性だけを考えるなら私は弾に全て変換します。あと手間かけて捕食したのに効果が薄いのでは強化状態(バーストモード)なんて意味なんかありません」

 

「そりゃ小型アラガミや中型アラガミ程度から得る強化状態は効果薄い。リターンが無いからな。わからないこともない」

 

 

 

オウガテイルやザイゴート。

 

コンゴウやサリエル。

 

大型アラガミならわからないこともないがその程度のアラガミから捕食してもリターンが小さい。

 

それなら全て弾に変換してしまえばまだ良い方だ。

 

だから捕食から得る強化状態に意味など無い。

 

それは彼も理解しているようだった。

 

 

「まぁ俺たち新型ならそんな事は解消されるけどな」

 

「?」

 

 

解消される?

 

強制解放剤の事だろうか?

 

そんなのロシアにもある。

 

それを伝えようとした時だ…

 

 

 

「じゃあ、受け取れ」

 

「!?」

 

 

 

彼はいつのまにか私に近づいて銃形態に変えていた。彼の神機の銃口は私の神機に向けられてトリガーが引かれる。

 

すると銃口から吐き出された白いオラクルが私の神機に吸い込まれる。

 

次の瞬間だ。

 

 

 

「ッッ!!?」

 

 

 

体が軽い。

 

力が湧いてくる。

 

握る神機が暖かい。

 

これは……まさか強化状態??!

 

 

「お? アラガミを確認。いくぞ」

 

「なっ! ま、待ってください!」

 

 

私は久しぶりに感じる強化状態で追いかける。

 

すぐに彼へ追いつき突然の出来後に少し文句を言い放つ。

 

アラガミをあしらいながら私の文句に首をかしげる。彼はわたしが怒ってる理由がわかってないらしい。

 

それよりもコンゴウを一体討伐して尚、強化状態は続いている。既に効果は無くなっていておかしくないはずなのに…

 

 

「彼は一体何者なの?」

 

 

プロトタイプと言えども私よりも新型として戦い続けてきたから知ってる量も違うと思う。

 

だからこの瞬間、彼との差を認めてしまいそうで怖かった。

 

ダメだ。

 

私は周りの腑抜けたゴッドイーターよりも強いんだと、正しいんだと、意思を通し続けないと、舐められないように。

 

けどアラガミに臆することなく神機を振るう彼は幼稚な私なんかよりも大人で、落ち着いていて、理想的な強さだ。

 

新型のプロトタイプなんて言葉は関係ない。ひとりのゴッドイーターてして強い。その力は無意識に憧れを抱きそうになって、彼に対する感情ご少しわからなくなってきた。

 

っ…ダメ。ここで緩んでしまっては。

 

く、食いつかないと…!

 

 

「教えなさい!今のは何なのですか!」

 

「……は?」

 

 

彼から受け渡された白く光るオラクルを問い詰めた。見たことない不思議な現象はちょっとした恐怖も交えながら、同じ新型なのにそれを知らない自分自身の苛立ちも併せて彼に怒鳴ってしまう。

 

しかし彼に色々と説明されてから私は"新型神機使い"として恥ずかしさが巡る。

 

知らないだらけだった。

 

しかも彼の言うことのほとんど当ては嵌り、無言で肯定し続けた私は完全に打ち砕かれた。

 

そのためこのミッションの始まりから終わりまで何も言い返すことが出来なかった。

 

むしろミッション前の食堂で顔合わせした会話からマウントを取られ続けていた。

 

私ってこんなに恥ずかしい存在だったんでしょうか?

 

 

「インパルスエッジは重量の関係上ロングブレードで使用する方が良い。他の武器だと体重移動が面倒だからな。もし慣れたらショートでもバスターでも好きに使えばいいさ。俺はショートだが慣れたから使っている」

 

「…あの、もう一度見せてくれませんか? 形だけ確認しておきたい、です…」

 

「なら俺と同じ構え方をして」

 

「は、はい」

 

「まずこの持ち手をひねる。その時に銃口だけ大きく展開されるから。あとは放ちたい方向に神機を傾ける。そして腰を低くして、後ろ足をしっかり地面につけてから、最後はトリガーを引くんだ。腕だけで制御を__」

 

 

トリガーを引いた。

 

あまりの衝撃に神機が振り回された。

 

 

「うわああ!お、押さえきれません!」

 

「あっぶねっ!!?腕だけで制御するな!!後ろ足だよ!後ろ足!!」

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

「あ、危うく頭がお陀仏だった…」

 

 

 

今日はとことん恥さらし。

 

極東で初ミッションにしてとても忘れられない日となった。

 

あと、彼は強い。

 

それは認めないとならないらしい。

 

 

 

つづく



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14話

 

 

「姉さん、また精度落ちたか?」

 

「ええ!?で、でもちゃんとアラガミは倒せているよね!?」

 

「攻撃範囲が広いブラストでも狙わないで撃つのと、狙って撃つのとは違うぞ?」

 

「うぅぅ……」

 

「誘導するバレットエディットに頼り過ぎた結果だな。一度修正しよう。バレットをデフォルトの設定に戻して。それでアラガミを倒す」

 

「わ、わかった」

 

 

 

最近大きなミッションもない。

 

そのため休暇が出来た。

 

なので俺の義姉である台場カノンを連れて小型のアラガミの掃討ミッションを受けてやって来た。ちなみに誘ってくれたのは姉さんであり、俺は喜んで彼女が指定したミッションに着いて来た。そして今は真心込めてスパルタしているところだ。

 

 

「オラァ!!」

 

「うわっ、とうとう裏カノンになりやがった…」

 

 

そして切り替わる彼女の人格。

 

オウガテイルが悲鳴を上げて吹き飛んだ。

 

 

「あっはっは!やはり自分で狙い定めて好きなところを破壊するのは気持ちいいねぇ!お前の断末魔最高だったよ!!」

 

「デフォルトの意味間違ってんだろ…」

 

 

オラクルバレットは普通のデフォルト設定だが人格はデフォルトから裏カノンの豹変してゲラゲラと気持ちよく笑っている。俺と同じ203式キャノン砲が彼女の喜びに比例して銃口から火を吹く。

 

そして良い笑顔でこちらに振り向いた。

 

 

「あっはは!マロンじゃない!ねぇねぇ!そこで今の見てくれたよねぇ!めちゃくちゃすごっかったねぇ!」

 

「適合率の高さだな。トリガーひとつであの威力。衛生兵って枠じゃないぞ」

 

「たしかに傷を治すのも良いけどさ、アラガミ倒してしまった方が早くなぁい??その方が安全だし!何よりアラガミの血飛沫も見れて一石二鳥だよねぇ!!これ最高ぉぉ!!あはっはははは!!!」

 

「タツミ先輩苦労してんなぁ…かわいそ…」

 

 

衛生兵としての役割を忘れてるわけではないが裏の人格は傷つけてくる根源、言わばアラガミを駆逐すれば解決すると言う思考らしい。

 

言ってることはわからなくないが戦闘維持のために存在するのが衛生兵であることを忘れてないだろうか?

 

いや、ゴッドイーターとしての役割に忠実である証拠だろうが…

 

 

ppppp!!

 

アナグラから通信?

 

 

「ヒバリさん?」

 

『マロンさん!突然すみません!』

 

「いえ、それよりどうしました?」

 

『救援に向かって欲しく急遽連絡を…!!』

 

「!」

 

 

 

オペレーターのヒバリさんから指示を受けたあと、迎えのヘリコプターにカノンを乗せて先に帰投させる。

 

そして俺はヘリコプターに乗らず、アナグラとは反対の方へ走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

油断したわけではない。

 

しかしその禍々しさは想像以上だった。

 

ピターと言われるアラガミに襲われてしまい、技量でどうにかできるほど生温くない。

 

その圧倒的な力に俺達は押し潰されてしまった。

 

サクヤさんとコウタの援護は期待できない状況まで追い込まれて、その力に屈した。

 

その証拠に俺の神機はピターによって壊されていた。

 

 

ここまでなのか…?

 

 

地を這いながらも気絶するアリサを守ろうと覆い被さる。

 

俺の力ではどうにもできない現実を突きつけられた心の弱さが一瞬だけ神に祈りそうになってしまう。残酷から目を背けて祈れば楽になるだろうか?

いや、それではダメだ。

 

俺は神を喰らうためにゴッドイーターになった。

 

絶望の淵で神に祈りたくなる人の弱さを振り払い、打開策を考える。

 

するとアリサを守ろうと覆い被さった時に触れた携帯アイテム。

 

 

「!」

 

 

俺はすぐさま彼女の腰に備え付けられていたスタングレネードを掻っ攫い、それを地面に叩きつけて発光させた。

 

どうやらスタングレネードの効き目はあるようでピターは怯んだ。

 

その隙にアリサを拾い上げて俺は立ちあがろうとしたが足腰に力が入らない。出血の量も多すぎる。意識も危うい。それでも這いつくばりながら倒れているアリサを引きずって、ピターから遠ざかろうとした時だ。目眩しに暴れるピターの巨体が崖に一歩踏み込み、そして崖は崩した。

 

落下する体。

 

地面に打ちつけられる。

 

冷たい水が襲いかかる。

 

体は無慈悲に流されている。

 

アリサはこの手で掴めているだろうか?

 

わからない。

 

わからないが、まだ倒れることは出来ない。

 

俺は失いそうな気を保たせながら、歯を食いしばって先で立ち上がる。

 

 

 

「からだが痛すぎる、な…」

 

 

 

背中を突き刺された激痛に堪えながら泥水を踏み締めて前に。

 

未だに動くこの体は俺の適合率が極東支部の中で一番高いため、とても高い回復力や防御力が備わっているらしい。だからあれだけピターからズタボロにされても歩けるくらい俺のバイタルは強靭らしい。それでも疲労は抜けない。体のあちこちが悲鳴を上げている。今すぐ倒れない、ら

 

あのピターから助かった現状を受け止めた体は今すぐにでも力が抜け落ちそうだ。

 

でも、それはピターだけ。

 

まだここはアラガミがうようよと存在する場所。油断なんて出来ない。

 

少し離れたところで気絶してるアリサを見つける。ぐったりしている彼女を拾い上げ、岸の上に寝かせる。

 

 

 

「アリサ?……っ、アリサ!?」

 

 

 

息をしていない。

 

俺は直ぐに彼女のコートを剥がし、彼女の胸元に両手を当て、心肺蘇生を行う。

 

この知識はマロンから教わった訳ではない。

 

これは姉さん(イロハ)から教わった。

 

神に祈れないから、自分で人を助ける。

 

そう言い聞かせられ、俺は人命救助の知識を姉さんから得た。いまここで役立つ時だ。

 

 

「っ! げっほ…げっほ…っ…」

 

「!」

 

 

蘇生する彼女の姿を見て今度こそ体の力が抜け落ちる。

 

良かった。

 

姉さんのお陰で、俺は人を助けれ__

 

 

 

「っ!?アラガミ!」

 

 

 

オウガテイルだ。どこにでも現れる奴だとマロンから聞いてるが本当にこの上なく鬱陶しい。

 

アリサも倒れていてる今どうしようもない。

 

神機もまともに動く気配が無いため戦闘行為は避けないと…

 

 

 

「逃げるが勝ち…か」

 

 

 

マロンの言葉を思い出す。

 

確かこれを『ことわざ』と、言っていたか?

 

殆どの文明が食われた今、失われたポテジティブシンキングの一つだと言ってたが… それって本当か?いや、今はどうでも良いか。

 

だがリンドウも言ってたな。

 

生きていればなんとかなる…か。

 

俺はアリサを背負って建物に逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

意識が戻る。

 

俺はアリサを適当な建物の中まで運び、個室の中にある寝床を見つけるとそこに寝かせる。

 

ぐったりとしていた。

 

俺も相当やばい。

 

しかしアラガミがこの建物に侵入してくる可能性は捨てきれないため、生存本能が働き、意識を保たせていた。

 

俺の意識は彼女を見守ろうとしていた。

 

しばらくすると寝床からアリサが目覚める。

 

 

「ここ…は?」

 

「目が覚めたか…」

 

 

状況把握のため彼女と短く言葉を交わした瞬間。

 

ギリギリ保っていた意識が遠のいた。

 

限界だ。

 

背中を貫かれた傷が痛い。

 

しかしズタズタにされてもよく生きた体だ。

 

俺は、よくやった、方だろう…か?

 

命がけを渡ってきた精神力は底を尽きる。

 

倒れた。

 

 

 

 

 

 

レンカ、対アラガミ戦術は非武装の人間が活用する技術だが、ゴッドイーターになってからも使えるのは覚えておけ。

 

 

___そうなのか?

 

 

そうだよ(肯定)ゴッドイーターも神機が手元から無くなれば非武装の一般人と変わらないだろ?身体能力はともかくとして、アラガミを殺す方法は無くなる。でも逃げ延びることを優先とした対アラガミ戦術ならアラガミを前にしても生き残れる。オウガテイルの捌き方は覚えてるな?

 

 

___ああ。確か"わざと"噛みつかれる距離にいる…だったな。

 

 

ああ。遠くにいると尻尾のトゲを飛ばしてくる。普通なら認知してからの回避は間に合わない。でもオウガテイルは獲物に食らいつける距離に相対している時は一直線に噛み付こうとする単純な生き物だ。あとは動作を見て回避可能な筈だよ。

 

 

___ああ、そう教えてくれたな。

 

 

 

あとその大口に目掛けてスタングレネードを投げればオウガテイルは確実に怯む。体内から発光させれば両目が一時的に潰れるからな。ちなみにこれは検証済みで、効果的だ。

 

 

___いるのかその情報? あと検証までしたのか…

 

 

 

おいおいあまりコレをバカにすんなよ?

もしかしたらこれのお陰で生き延びれるぞ?

 

 

 

___別にバカにはしてない…… だが、そんな状況に…

 

 

 

言いたいことは分かる。でも慢心するな。絶対にそんな事は「ありえない」と斬り捨てるのは二流以下だ。最悪な状況になってしまった時のことを想定して『知識』を頭に準備するんだ。 お遊び程度でもいい。脳内でシミュレーションを繰り返すんだ。そうすりゃ打開のための『知恵』も直ぐに浮かび上がる。冷静な自分をちょっとでも保てる。

 

 

__そしたら大丈夫なのか?

 

 

ある程度はな。でも勘違いするなよ?これはアラガミを殺すための力ではない。泥まみれになってでも生き延びることをやめない神に祈ることをやめた人間の力だ。生きるための知恵。

 

 

__知恵…

 

 

 

レンカは外で生きてきた人間だ。理不尽が蔓延る外側で足をつけて来た。なら君だけの生き残り方もある。決して諦めるな。お前が諦めた時がお前という人間の終わりだ。神に祈らないからこその生きた方をイロハに教えてもらったんだから、それを力に……

 

 

そう、俺はそれを、力に…

 

姉さんが与えてくれた、知恵と力を…

 

そのためには…

 

 

 

 

 

「きゃぁぁあ!!パパ!! ママぁ!!」

 

「!?」

 

 

アリサの悲鳴で目が覚める。体感的に短い睡眠だが、長い夢を見ていたように思えた。いや今はそれどころでは無い。

 

 

「ッッ、うおおお!!!」

 

 

俺は壊れた神機を掴んでこの部屋に襲いかかってきたオウガテイルの右目を狙って叩きつける。

 

アラガミだって生物だ。

目を狙われれば一瞬だけでも怯む。

 

俺はその間に掛け布団を投げてオウガテイルの視界を制限させた。

 

 

「アリサ!!」

 

「っ…っっ…」

 

 

あまりの精神的なショックにより口元に指を咥えるほどの幼児退行をしていた。

 

彼女らしくもない。だから心配になる。何がそこまで怯えさせたのか俺にはわからない。しかしそれを考えてる場所でもない。動けない彼女を抱きしめながら建物から飛び降りた。オウガテイルからなんとか逃げ切る。

 

 

「あの建物にまでやってくるのか…」

 

 

建物に入りやすい小型種だからこそ許されるのだろう。残念だ。休めることが出来るいい場所だと思ったのに運が悪すぎる。いや、ほんの少し休めただけありがたいか。

 

 

「しっかりしろ!アリサ!」

 

「!」

 

「その足で歩けるな?」

 

「え? あ、はい…」

 

「なら行くぞ。 コンゴウが来たら面倒だ」

 

「え? コンゴウが!? ど、どこに!?」

 

「今はいない。だが奴は聴覚が良すぎるアラガミだ。この程度の騒ぎでもやってくる可能を捨てきれない」

 

「!」

 

「わかったらこの場から離れるぞ」

 

 

極東に来た当時と打って変わって随分と弱気な立ち振る舞いをするアリサだ。震える手を引っ張り先導する。俺はアラガミの気配がしない建物に向かって進んだ。 文明が失われた今あの建物は一体なんなのかも知らないが、とりあえず駆け込む。

 

とても広い場所に出た。

 

蛇口が多く、水を受ける大きな皿、あと石鹸らしきモノが転がっている。

 

もしやこれは浴場か? すごく大きいな。

 

 

 

「あなたの神機は壊れて動きません…」

 

 

 

突然口を開くアリサに耳を傾ける。

 

どうやら精神面は安定したようだ。

 

 

「やはりか」

 

 

たしかに、見たらわかる。

 

俺の神機は半壊していて、生きてる様には思えない。

 

 

「や、やはりか…って!それがどういうことか分かっているんですか!」

 

「ゴッドイーターとして力を無くした… とまではいかないが、身体能力を除いて一般人と変わらないと言ったところか」

 

「っ! ならなんでそんなに冷静なんですか!」

 

「まだ死んでないからだ」

 

「!」

 

「たしかにアラガミを殺せない。だから俺はアラガミからしてら活きのいい上等な餌なんだろう。だがそれがどうした?まだ死んでない。足は動く。手も動く。頭も動く。ならこんな状況なんて覆してやれる」

 

「っ… ど、どうして…?こんなにもボロボロなのに、絶望的なのに、どうしてそうやって立っていられるの?い、一体なんの薬を飲んだらそうなるの?」

 

「薬なんて飲んでない」

 

 

 

俺は立ち上がり、入り口を見渡す。

 

アラガミは来てない様だ。もし来たとしてもここなら隠れながら移動できる場所だ。

 

警戒心さえ失わなければ何とかなるだろう。

 

 

 

「俺は薬なんて飲まない。飲んだのここまで繋いでくれた凡ゆる命だ。それはマロンだったり、母さんだったり、父さんだったり、姉さんだったり、ツバキ教官だったり、コンパスを渡してくれたとあるゴッドイーターだったりと、色々とだ。その中には死にながらもここまで繋いでくれた。託してくれたんだ。だから俺はそれを飲んで生きている」

 

「繋いだ命を、飲む…?」

 

「そうだ。 アリサ、この世界で神に祈れない。 なぜなら祈っても助からないから。敵は神だから。なら神に祈ることは無意味なんだ。だから人は人で救わなければならない。そのためには神を食らえる程に強くならないとダメだ。なによりも…」

 

「?」

 

「そんな自分自信を支えるソレを抱かないとならない」

 

「……空木さんにとっての『支え』ってなんですか?」

 

姉さん(イロハ)に会う事だ。 そのためには生きる。なんとしてでも生きてやる」

 

 

 

執念と言っても良い。

 

そう、例え話。

 

これはマロンから聞かされた。

 

とあるゲームの物語だ。

 

その者は、一から積み上げて完成させた優しい世界に満足すると、突如ソレをリセットしてしまい、次は真逆の結末を目指す。

 

作るのではなく壊し、虐殺の先に手を伸ばし続けた。全くもって無意味な事のために凶器を振るい、凶器は狂気と変えていった。

 

その世界の怒りに触れてしまう過程で何度も殺されるが『絶対に成し遂げる』と心に掲げた者は何度も何度も殺されながらもそこにたどり着いた。

 

虚労に佇む達成感は自分の褒美で、ゴールまでたどり着いだ自分への愛で沢山だ。

 

そこに後悔もなく、そして何も無い。

 

そうなる結末を知っていたにも関わらず、ただその結果をその目で見たいがために抱き続けた独りよがり(LOVE)決意はとても煌びやかに狂っているんだと。

 

そう教えられた。

 

それは、人だからできること。

神にはできない、悍ましさから。

 

 

そう、夢中なんだ…

 

人はそうなったとき、とても恐ろしく強い。

 

だから俺の執念は、もしくは決意は、心と体を動かすための歯車だ。

 

 

 

「絶対に生きる。俺は最後の家族である姉さんを迎えに行くんだ。だから次は俺が姉さんを守る番なんだ。繋げてくれたこの命で、姉さんを守るために…」

 

 

 

だからゴッドイーターになれたんだ。

 

 

 

「……強い、んですね」

 

「別に強くなんか無いさ。でも、このまま縮こまる自分を許さない。それだけの話だ」

 

 

 

そう、強くなんか無い。

 

必死になるだけ。

 

それだけなんだ、ゴッドイーターは。

 

 

 

 

 

つづく






マロンがレンカにしたたとえ話についてだが。
筆記当時(2018年)は、とあるloveでいっぱいなゲームが、とても流行ってからね。
作者もそれに夢中だった。
仕方ないね。























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15話

 

 

大雨の中、一つの建物に避難していた。

 

そして二人揃って眠りそうになったその時だ。

 

ガダガダと強い衝撃が響き渡る。

 

アリサと俺はそれに目を覚まし、身構えた。

 

…もしかして地震か?

 

崩壊したこの世界だ。

 

ここも地盤が悪いのだろう。

 

そして外を見れば空が明るくなってた。

 

 

 

俺たちはアリサの神機探しを再開して上流を目指していた。

 

 

 

 

そして…

 

神は俺たちを追い込もうとしていた。

 

 

 

 

「あった!私の神機!!」

 

「アリサ急げ!オウガテイルがこっちに気づいてる!」

 

 

 

アリサの神機を探すために上流へ移動した。 案の定彼女の神機は見つかったが、オウガテイルには見つかってしまった。 しかしこちらも索敵を怠って無かったため不意打ちを受けることはない。

 

しかしマロンが言ってた。

 

オウガテイルは空気を読まない生き物だと。

 

まさにその通りだと思う。

 

そしてアリサの様子がおかしい。

 

 

「だ、大丈夫、ですッ!こ、こんな奴ら、私が!!」

 

「やめろ!退くぞ!!」

 

 

ダメだ。明らかに恐怖を無理やり押し殺している。声も神機も震わせながらなんとかオウガテイルに身構えているが、危うさだけが物語っている。

 

 

 

「ぁ…ぁぁ!」

 

「アリサ!」

 

 

 

俺は半壊した神機を振るいながらアリサとオウガテイルの間に割って入る。

 

ダメだ。

 

自分も視界がフラつきまともに戦えない。

 

 

「ごめんなさい…!ごめんなさい…!!ごめんなさい…!!!」

 

 

 

後ろを見れば、彼女はアラガミに対する恐怖心によって完全に崩れ落ちてしまっていた。いつも冷静に立ち向かっていた彼女はどこに行ったのか?

 

そしてあの震えは一体何があったのか? 「パパ、ママ、助けて」と懺悔するかのように怯える姿は痛々しく感じた。

 

 

「スタングレネードは無いか…」

 

 

半壊した神機では何もできない。

これではアラガミを殺せない。

肉体はボロボロで体はうまく動かない。

 

 

「………」

 

 

絶体絶命とはこのことだろう。

 

勝ち目がない。

 

だから…

 

だから……

 

俺は握っていた神機を落とした。

 

 

 

ああ。

 

もしこの両手を握りしめながら跪き…

天に向かって神に祈れば助かるだろうか?

 

 

 

 

 

いや、そんなことはしない。

 

こんな世界で意味がない。

 

神に襲われていて、神に祈るなんて。

 

 

 

「こいッ…!」

 

 

 

握りしめるのは両手ではなく"鉄パイプ"だ。

 

途中で拾ったこれを腰に引っ掛けていた。

 

俺は鉄パイプを真っ直ぐとオウガテイルの目の前に伸ばし、そこに注意を集めさせる。

 

オウガテイルは初手の一撃を大いに警戒する傾向が見られるらしく、その大口で大胆に獲物を喰らうかと思いきや、とても慎重な生き物であることをマロンから教えてもらった。

 

もちろん周りのオウガテイルもなんとかしなければならないが…

 

まずは目の前のオウガテイルだ。

 

 

「ッ、こんな状況ッ! 覆してやる!!」

 

 

後先考えない。

 

助かる確率なんて関係ない。

 

何もしないなんてそれこそ神に願うのと同じ。

 

絶望に溺れやしない。

 

鉄パイプを強く握り、覚悟を決めたその時だった。

 

 

 

 

「レンカァー! アリサを守れ!!」

 

「!!」

 

 

極東支部に来る前から聞き慣れた声。

 

何故ここに?

 

俺たちの救出だと直ぐに理解した。だがその安息より先に体が動いた。水面に落とした神機を拾い上げると俺は姿勢を低くアリサを庇いながら片手に神機を構える。次の衝撃で壊れそうな神機だが躊躇なく盾を展開した。

 

 

そして、次の瞬間___光った。

 

 

 

「グァ??___???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けたたましい音が自分を中心に広がる。

 

しかし断末魔は何一つ上がらない。

 

周りを見渡せば沢山が砕け散っていく。

 

そして何が着弾した時の衝撃はとてつもない破壊力を生み出していた。

 

だがそれに見合った衝撃はコチラに飛んでこない。それでも壊れそうな盾が軋む音を立てて耐えている。しばらくして光が静まった。

 

 

 

「……終わっ…たの、か?」

 

 

 

周りを見渡す。

 

アラガミは駆除されたのか一匹もいない。

 

そして…

 

 

 

「よく頑張ったな、レンカ」

 

「マロン…」

 

 

 

この声に安心を得た。

 

極東の最狂は、頼もしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも甘い名前の男、台場マロンです。

 

姉さんとミッション終了後に緊急連絡が舞い降りたので俺は帰投せずそのまま緊急ミッションへと洒落込みました。

 

そのミッションとは変異種と言われるピターに襲われて消息不明となったレンカとアリサの救出であること。

 

普通なら俺以外の神機使いを駆り出して救出に向かわせることが正しい。てかリンドウが適任だとおもうのだが。しかし救出に向かうそのポイントは俺の方が近いため白羽の矢が立った感じだ。あと俺が前に調査した区域だから動きやすさを考えると台場マロンが適任になるんだろう。あとユーバーセンスの関係かな。

 

ちなみに姉さんも救出の同行を申し出たが俺の足について来られる訳でも無いため置いて行くことにした。

 

仕方ないね。そのかわり姉さんから余った回復剤をありがたく貰った。レンカ達のバイタルが危ういなら使う必要があるからだ。あと携帯してきたボマークッキーも受け取った。しかし残念ながらクッキーは割れてる。裏カノンで砕けたっぽいな。味は美味しいだろうが。

 

それからヒバリさんから出されたポイントまで馳けているところだ。途中現れる小型アラガミからオラクルを回収しながらオラクルリザーブを行い、万が一のために備える。あとスキルのお陰で息切れはしていない。

 

 

 

「?? あれ? これってレンカのオラクル? いや、違うな…」

 

 

 

非常に薄いオラクル反応。

 

しかしそれはレンカでは無い。

 

だが、知っている別のオラクル反応だ。

 

 

「もしかしたら、アリサの方……ッッ!!!」

 

 

 

これは違うっ!

 

禍々しいオラクル反応だ。

 

しかも。これって…

 

 

 

「知ってるぞ。これは間違いなく変異種と種別されたピターだ。まだこの辺をうろついてやがったか」

 

 

 

これはレンカ達を探してるのか?いや、それはわからない。でもこの場で放っておくとまたエンカウントする可能性がある。まぁ俺がいる限りそれは無いと思うがまだこの付近にフラフラさせておくのは非常に厄介だ。

 

さて、どうする??

 

 

「オラクルリザーブのストックはいま最大の9までカウントしてる。先程姉さんとなミッションに出たが、まだ一度も放火してないから冷却装置も未使用だ。なんならエディットの破壊光線は1発放てる。そして"アレ"も持ってきた…」

 

 

 

 

 

もしかしたら。

 

……ここでピターを殺せるのでは?

 

 

 

 

 

「……オラクルリザーブを導入したブラストの真価値を見せる時だな…」

 

 

 

俺はバースト状態の効果が切れそうなるので強制解放剤を摂取する。

 

体がチリチリと焼ける感覚に襲われるが慣れたので気にしない。

 

むしろ最近はこのチリチリ感が心地よいくらいだ。生きてるって感じがする。

 

 

 

「さて…」

 

 

 

俺は一直線にピターの方へ走る。建物から建物に移り、瓦礫の間を潜って壁を走る。途中フヨフヨ浮いてるザイゴートを捕食してバースト状態を持続させ、オラクルもゴッソリ回収した。

 

縮んだ風船のように地面に落下するザイゴートを横目に進み、そして…

 

 

 

「見つけた…」

 

 

 

ピターを視認する。

 

俺は物陰に隠れた。

 

すごいな。

 

凶悪なアラガミにドキドキしている。

 

まだゴッドイーターになったばかりの俺ならこんな感情あまり感じられなかっただろう。

 

でも今は心を麻痺させることもなく確かな強さとまともな恐怖心を手に入れた俺ならやれる。

 

うまくやれるはずだ。

 

これは命を投げうる行為ではない。

 

確実に倒せる見込みがあるから、やるんだ。

 

 

 

「触る神に祟りなし。そう言うのも分かるけど俺はゴッドイーターだ。時には自分からアラガミを屠ってなんぼだろ」

 

 

 

俺はバレットを切り替えると銃口を真上に向けてトリガーを引いた。

 

超消音の効果もあり、音もなく銃口からは小さな球体のオラクルが真上に飛び出す。

 

ある程度空に伸びると停滞した。

 

すると停滞した丸いオラクルは着々と空中に漂うオラクルを吸収し始める。

 

 

 

「ググッ?」

 

 

 

しかしそれでも雰囲気の変わり具合は流石に気づいたか。

 

何が起きている事を感知したピターは周りを見渡す。

 

けれどまだ上には気づいていない。

 

 

 

「オワタ式なんだけど、俺も相当バカだよな」

 

 

 

タイミングよくバースト状態が解けた俺は物陰から出てピターの前に姿を現わす。

 

超消音じゃ気づいてくれないからな。

 

視覚的にも気づかれづらい。

 

 

 

「御機嫌ようピター」

 

「!?」

 

 

 

ピターはこちらに気づく。

 

そして表情豊かなのか驚いたような顔をする。

 

神が人になろうとしてるのか?

 

お前らは化け物だろうが。

 

 

 

「よくも俺の可愛い後輩をズタズタにしてくれたらしいな?」

 

「?」

 

「二人だよ。わかるだろ?青と赤のな」

 

「グッ、フフフッ…ゥァハッハッハッ」

 

 

 

俺の言ってる事を理解してるのかそれに答えて笑っているように見える。いや、コイツ笑っている。相当知能が高いアラガミなんだろう。

 

ヴァジュラテイルの時と言いアラガミが確かな知能を持つとこんなにも腹立たしい存在に成り代るとは。

 

やはりアラガミは害悪、はっきりんかんだね。

 

 

「グォ…」

 

 

 

銃形態から剣形態に変形させた俺は冷静に告げた。

 

 

 

「なぁピター、俺はお前を殺すんだが……?」

 

「グガァァア!!!」

 

 

駆除対処を見るような目。

ピターを格下にして言葉で嘲笑う。

 

すると知能高きアラガミは理解する。

 

神の怒りに触れたようにピターは大声で威圧するとマントには禍々しい電気が集う。

 

しかし、こんな簡単な挑発に乗るとはね?

 

随分と己の力に自信があるらしい。

 

俺はスッと息を吸い、足に力を込めてピターに向かって走った。

 

 

「…」

 

 

ピターに集まるオラクルからして広範囲の攻撃はこない。

 

だが腕に電気を纏っている。

 

しかも攻撃準備が早い。

 

やはり周りとは違う。

 

俺は少し関心を抱きながら強制解放剤を神機に注入しながら足に力を込めてピターの足元に突っ込んだ。バースト状態になった瞬間、踏み込んだ場所から残像が出来上がる。

 

ピターはその早さに驚いたかのように見えたが走り迫る俺を叩き潰そうと腕を振り下ろした。

 

 

 

「遅いぞ」

 

 

 

猫パンチの着撃地点にブラストから生成した"オラクル手榴弾"を置き去りにして通り過ぎ、ピターの腕は遅れてその場を叩き潰す。

 

しかし叩き潰したのは神属性のオラクル手榴弾、ピターの片腕はゼロ距離爆撃でズタズタになった。

 

 

「グガァァア!!!!?」

 

 

二足歩行で立ち上がるほどの痛みが走り、それに比例した悲痛な叫びがこの戦場に広がる。

 

哀れすぎる怯み方に、情けない姿を晒す王様がそこにいた。

 

 

「新人の二人を圧した程度でイキってたとか恥ずかし過ぎだろ。 はよ死ね」

 

 

マントに流れていた電流は怯んだ時に解除されている。もっと近づいて良さそうだ。

 

天を仰ぐように二足歩行の格好で痛みに悶えるピターの後ろ足に近づくとオラクルソードで後ろ脚を滅多斬りにする。

 

オラクルソードと超回避バックラーはとてつもなく軽い。秒で7回は斬りつける事はとても容易いく、右、左、右とひたすら交互に斬り裂く。

 

しかし絶命させるためのダメージはない。

ただオラクルを抜き取るだけ。

 

でも俺はひとつだけ、このオラクルソードで面白い方法を身につけた。

 

 

「(それでも、皆等しいオラクル細胞ッ!)」

 

 

アラガミの体はオラクル細胞がそれぞれ脳や筋肉や臓器に変化して体を作ってる。

 

簡単に言えばアラガミはオラクル細胞の『群体』である。

 

それこそほとんど絶滅してしまった"獣"と同じような体を構成してるわけだ。

 

肉質も、骨格も、重力のある地球に適応した形に進化している。

 

そして俺はひとつここでとある考えに行き着いた。

 

四足歩行で活動する獣の形をしたアラガミも絶滅しただろう犬や猫や猿などの動物と体内構成が同じならば、ヴァジュラ種にも獣と同じように『アキレス腱』があるのではないか?と考えた。

 

もしアキレス腱もオラクル細胞が作り上げてるならば、オラクルソードでそのオラクル(アキレス腱)を抜き取ってしまい、アキレス腱を支えてるオラクル細胞の活動を止めてしまえば脚の機能を奪い取れるのではと考えた。

 

 

そして一年間の細かな検証結果により…

その答えは…

 

 

 

 

「ガッ……ァ?」

 

 

 

 

ブチっと、音が鳴った気がした。

 

ガタガタと震える脚。

 

そして、奴は立ち上がれなくなる。

 

 

 

「無様だな、ピター!」

 

「ガァァ…!? ガァァ!? ガァァア!!??」

 

 

 

四足歩行の生き物の弱点は脚。

 

獣は脚力がある生き物だ。

 

だが失った時の代償は計り知れない。

 

それは獣の形を司った神も同じだ。前足と後ろ足を震わせながら立ち上がろうとする。

 

獣が、神を偽るケモノが、泥に塗れながら、ひどく、ひどく無様な姿を晒している。

 

こんな奴がレンカを追い込んだ?

 

地面をのたうち回り、そして立ち上がることもできない神様が?

 

ああ、馬鹿みたいだ。

 

俺はどこか冷めたように神機をプレデターモードに切り替えてピターの首元にかぶりつく。

 

 

 

「グォォオ!!??」

 

「動くな、食いづらいだろ」

 

 

 

攻撃力が皆無なオラクルソードだから、当然プレデターモードにも殺傷能力はないためピターを喰い殺す事はできない。

 

しかしオラクルは吸血するかのようにガブガブと吸い上げる。

 

そしてそのまま『オラクルリザーブ』を行った。

 

 

「2…3…4っと、オラクルの回復が早いな? 腐っても上位種と言ったところか。ドンドン吸収してリザーブのストックが増えてく」

 

 

ピターと言うオラクルの泉を吸い上げる。

 

 

 

「おっと、マントは展開しようとしても無理だぞ?お前が力一杯踏んづけたオラクル手榴弾はお前らピターが弱点とする神属性。当然ながら『封神』の効果は絶大だ。柔らかい肉球(肉質)からその属性を踏んだ訳だ。効果覿面で困ったなぁ?」

 

「アアァァ!!!」

 

 

言葉を理解してるのかわからない。だがピターは足掻こうと地面をのたうち回る。しかし封神の効果でうまくオラクルが働かず、首元にプレデターが噛みつき、切れてしまったアキレス腱では何もできない。

 

なにより自分より何倍も小さな人間に転がされている状態は屈辱そのものだ。

 

屈辱塗れで、泥まみれ。

 

こんなにも汚れた神様はいないだろう。

 

 

 

「ところで真上にあるコイツを見てくれ。コイツをどう思う?」

 

「ァァァ??」

 

 

 

言葉は理解できるようピターだからこそ、素直に空を見上げて…

 

 

「!!!??」

 

 

絶望を見せたように目を見開く。

 

 

「すごく大きいだろ?そりゃこの一帯な漂うオラクルを吸収しまくって肥大したんだ。ここまで回収してきた多量のオラクルを使って作り上げた最強のバレットエディットだ」

 

 

知らない原作プレイヤーはほぼいないと言っても過言では無い。

 

最初はバスケットボールサイズしか無かった。

 

しかし今はウロヴォロスくらいのサイズだ。

 

空は肥大するオラクルで埋め尽くされていた。

 

 

 

「お前が相手とするゴッドイーターは調査隊の神機使い。凡ゆる事を把握している。この辺りのオラクルの濃度とかな。まあ元々知ってたこともあるけど。まあ今のお前にはどうでも良い話だろう。さて、再現しようとソレに近づけることには成功したが、近づけただけで全てはマネすることができない。あのバレットエディットには欠点があるんだよ」

 

 

風船のようにただ肥大するだけ。

 

下に落ちてこない。

 

 

 

「ホーミングしながら落ちるところまで全自動でやってくれるなら助かったけど、そこまで再現はできなかった。まだ研究がそこまで進んで無いからね。でも威力はそれ相応に真似する事はできた。だから…」

 

 

 

__落とすのは俺がやるんだ。

 

 

ブラストの銃口を真上に掲げる。

 

 

 

 

「ゲーム画面では伝わらない本当の恐ろしさをお前に教えてやろう……喜べ!お前が最初だ!ピター!」

 

 

 

トリガーを引けば一発分のオラクルが放たれる。

 

空中で肥大するオラクルにゆっくりと近づく。

 

 

 

「いま吐き出した一撃はお前のオラクルで作り上げた。そしてお前を殺すために肥大しているあのオラクルはお前のオラクルに触れると一目散に()()()()()()降り注ぐ」

 

「グォォッッ!!!」

 

「しかしながらあのバレットエディットは火力全振りなオラクルだ。故に誘導性は無いに等しい。しかも途中で拡散してしまう。しかしこの場から動くこと叶わないお前ならあとはわかるよな?」

 

「グガァァア!!」

 

 

 

貴様ァ!とばかりに封神の効果が切れたピターは鋭いマントをこちらに伸ばしてきた。

 

鋭さはある。しかし反応は出来る。

 

俺は腰に持っている鉄パイプを握りしめて…

 

 

「ふん!」

 

 

それを思いっきり振り落とした。

 

バキッ!!!

 

カラン、カラン…カラン…

 

 

 

「!!?」

 

「わからないか? アキレス腱を支えてるオラクルを絶つ事が出来るなら、そのマントを構築するオラクルも絶てばソレすらも落とすこともできる。わざわざオラクル細胞を使わなくても鉄パイプでこうやってな?」

 

 

地面に転がったマントの破片を鉄パイプの先端でグリグリとねじ込んで、耐えれずに割れた。

 

 

 

「グォォオオオオオ!!」

 

「お前の体は強靭だ。しかし強力な攻撃ができるほどオラクル細胞は繊細だ。それが崩れてしまえば何の意味もない。どんなに凄い建物や装甲を備えても中身の骨組みが無くなれば簡単に崩れちまう。それと同じだ」

 

 

 

例えば、オウガテイルはオラクル細胞の濃度はそこまで高くない。そのため鉄パイプなどで体内を突き刺して動きを制御させることができる。

 

ピターもオラクル細胞を抜き取り、骨組みを壊してしまい、オウガテイル並みの濃度にしてしまえば鉄パイプで刈り取ることも可能だ。

 

あと銃型のスナイパーが放つ一撃で肉質が柔らかくできる。中身の骨組みを破壊して、オラクルの濃度を低下させるから。それをピンポイントで狙撃できるサクヤさんがいるからリンドウやソーマが大型アラガミ相手に無双できるわけだろう。これが第一部隊の総合力。

 

まああくまで一時的だ。オラクルは勝手に生成して回復するので、時間が経てばピターのアキレス腱はまた構成されて元に戻るだろう。

 

 

 

まあ、その前にコイツは殺すけどな。

 

 

 

「ァァ…グォォオ…」

 

「こうなったのは全部強いお前が悪い。何せ俺のオラクルソード(アラガミ)は敵のオラクルが濃ゆければ、濃ゆいほど、嬉しがって吸い尽くしてしまうからな。つまりピターはソレ相応に美味しかったわけだ」

 

 

 

上を見上げる。

 

そろそろオラクル同士が融合しそうだ。

 

 

 

「じゃあなピター。このマントの破片はありがたくもらっていくから」

 

 

「グガァァアアア!!!!!!」

 

 

 

最後の雄叫びだろう。

 

必死にもがこうとする、哀れな声。

 

俺はピターと戦闘開始に置いていたビデオカメラの一までやってきた。

 

ピターの暴れる姿。

 

そして地面の色が禍々しく変わる。

 

オラクルが迫っているからだ。

 

 

 

「これが、人間(プレイヤー)の考えたやり方だと言うなら、どっちが化け物やら…」

 

 

 

まるで小さな【終末捕食(メテオ)】だ。

 

それがピターのために始まろうとする。

 

 

 

 

 

「さて、これが終わったらレンカ達を探すか」

 

 

 

 

 

 

そして指で数える程度の時間が経ち。

 

崩壊した都市の狭間で断末魔をかき消すような爆音が響き渡り、この区域を揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やったぜ投稿者 : 極東最狂(オワタ式)

 

 

緊急ミッション進行中の先程、希望のホープである新人くん(15歳)と、ロシアの新人ちゃん(15歳)と、オウガテイル(8体)と、土手下で盛りあってた。

 

救出対象を探すも誰もいない崩壊都市なところなんで、そこでしこたまオラクルリザーブを補給しながら探し始めたんや。

 

するとおっさん(ピター)が地下足二足歩行からぐるぐると横たわってじゃれてきた。

 

プレデターモードがおっさんの首元にかぶりつくとオラクルがドバーと吹き出してきた。

 

それと同時にブラストがオラクルを吐き出したんや。

 

もう顔中オラクル塗れ。

 

リザーブで溜め溜めたオラクルを真上に打ち上げて、それがヒクヒクと肥大して…

 

あぁ^〜たまらないぜ。

 

お陰で計二回も多量のオラクルを吐き出した。

 

もう一度やりたいぜ。

 

やはりバレットエディットは最高やな。

 

GE2のVer1.0による非アップデートのメテオまみれになりたいやつ、至急、メールくれや。

 

 

 

 

 

 

「って、感じに道草食ってた」

 

「そんな道草があるのか??」

「そんな道草かありますか!??」

 

「仕方ねーだろ。お前らの救出中にアレに見つかってみろ。助けれる気がしねーぞ」

 

「だからと言って、ついででピターを殺すなんて、あなた本当に極東最狂なんですね…… ドン引きです…」

 

「規格外もここまで極まるのか…」

 

「倒すために沢山準備したからな。倒さなきゃ準備した意味がなくなる」

 

 

 

もしアレがグアトリガとかだったら当然アキレス腱の切断とかやり方は変わる。

 

そのためにまた色々と準備しなければならない。

 

今回はヴァジュラ種のピターだったから倒せた。

 

てか、ヴァジュラ種は比較的簡単な部類だぞ?

 

それがピターだろうと獣なら変わりない。

 

 

 

「さて、ここで留まっても仕方ないので移動するぞ。あと救助のヘリは期待できない」

 

「え? なんでだ?」

 

「俺がメテオ落としたせいで今頃極東支部は混乱状態だ。そもそも俺の開発したこのバレットエディットは非公開だ。もちろんこの存在はリッカしか知らない。だから極東からすると突然オラクル反応が肥大して、それが落ちて弾け飛んで、クレーターまで作った。そうなると極東も行動が慎重になるだろ。柔軟な対応ば望めない」

 

 

 

あとただ単に人手不足。

 

 

「そんなわけで俺たちはまとまって行動する必要がある訳だ。まぁここより安全な場所があるのでそこに一直線だがな」

 

「安全な場所?」

 

「ああ。なんならレンカにとってそろそろ"約束"を果たす時だろう」

 

「約束?」

 

 

首を傾げるレンカ。

 

俺は回復剤を渡しながら答えた。

 

 

 

 

「お前のだよ、レンカ」

 

「!!!」

 

 

 

 

 

もうそろそろ立派なゴッドイーターだろう。

 

なら、約束を果たしてもいいだろう。

 

そう考えて、目的地は決まった。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 



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16話

 

 

〜 集落 〜

 

 

 

「レンカ!会いたかった!会いたかった!!」

 

「うわっ!?ね、姉さん…!!?」

 

 

ここまで来た時の旅路で怪我を負ってた脚だったが、完治したことを知らせるように元気よくレンカに飛びつくイロハ。

 

好きな男を離すまいと強く抱きしめて再開を喜ぶ姿に周りの人たちは微笑ましい姿に笑っている。レンカはどうするべきか迷いながらも、とりあえずイロハの再会に喜びながら背中をポンポンと叩いて撫でていた。

 

二人はしばらく放置しておこう。

 

 

 

「あ、女将さん。彼女をお風呂に案内してくれませんか?ここまでの旅路でボロボロになってしまって」

 

「あらあら、そうね。 なら早速案内するわ」

 

「あ、あの…わ、わたし…」

 

「ほら、こっちにいらっしゃっい。女の子はいつだって綺麗じゃないとね。こんなおばさんよりも若いんだから大事にしなさい」

 

 

そう言って湯船にドナドナされるアリサ。

 

あとまだレンカはイロハに捕まっている。

 

てか、尻尾があったらブンブンしてるなアレ。

 

 

「なぁ親爺さん。 あの二人絶対そうですよね」

「ああ、あれは間違いなくホの字だ」

「いやー、若い頃を思い出しますなぁ」

「ああ^〜、良いっすねぇ〜」

 

 

どうやらイロハは集落の人々に愛されてるようだ。

 

まぁここに集う難民たちは皆力を合わせて生き残る事を強く誓った者同士。助け合いは必須。

 

それにイロハは幼い頃から図鑑を読んでいたりと本の知識が豊富であり、なにより植物に関する知識はここにいる誰よりも豊富だ。

 

プランターで育てている植物は彼女のお陰で増殖に成功していた。

 

おおよそ100人分の食べ物を120人分にしたレベルであり、彼女の貢献度は高い。

 

そんなわけで彼女の存在はこの集落に置いて重宝されるが、まあそれ抜きで彼女の優しい性格もあり皆から愛されているとのこと。

 

ちなみに玉砕した男が二人いたらしい。

 

そりゃイロハって魅力的な女性だ。

 

性格も優しく、素敵な女性だ。

 

たが、そんな彼女にも心に決めた男がいる。

 

今目の前で繰り広げる光景が答えだ。

 

ちなみにレンカはまだ知らない。

 

二人は違う血を引いた義姉弟であることを。

 

まあ、イロハ次第ではすぐゴールだな。

 

 

 

「しかし、この神機…」

 

 

 

今見るとレンカの神機はズタズタだ。

 

盾も壊れている。

 

俺のオラクルバレットを防がせたことがトドメとなったのだろう。

 

一応レンカやアリサを巻き込まないためのバレットを使用させたが、それでも衝撃と風圧で壊してしまったらしい。

 

それほどボロボロだったのか、俺の調整ミスか。

 

まあどのみち死んだ神機らしい。

 

レンカ達が生きてるだけマシとしよう。

 

 

「あ、あのぉ、ゴッドイーター様?その背負ってるモノってなんですか?」

 

「おお?気になるかお嬢ちゃん?コイツはアラガミを殺殺(コロコロ)して来た時に手に入れた素材だ。本体は跡形もなく消したけどこの素材は持ち主が生きてると思ってまだ消失しないんだ」

 

 

 

まぁ、今は俺がこのマント(翼刃)の親機だし。

 

だってあれだけ変異種ピターのオラクルをガブガブ吸ったんだ。

 

主が絶命しても、絶命した主のオラクルが俺の神機にたっぷり含まれてる。まだ生きてると勘違いしてんのか自然消滅してない。

 

残念だったな、ピター。

盛大に利用させてもらう。

 

 

 

「んっ〜、レンカぁぁ…………すき

 

「ね、姉さん……」

 

 

 

義姉さんのクソデカ感情も時間の問題だろう。

 

姉のメテオに耐えれるレンカが気になるところさんだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さてヒートアップしていたイロハは落ち着きを取り戻すと、周りから見られていた事を思い出して赤面していた。

 

ふつうに美人かわいい。

 

そんな姉弟のくっつきイベントは終わりを告げてレンカはイロハから治療を受けている。

 

外で生活してた頃もレンカが無茶してらしく、その度にイロハが怪我を治すのは良くあったらしい。久しぶりにレンカの傷を治療したりと大好きな弟の面倒見れて幸せそうにしている。

 

そんな俺は二人の邪魔しまいと思って集落を見回り中だ。

 

途中難民達がプランターで育てた野菜などを頂いて試食した。

 

ちなみにリンドウは極東支部不在中。

 

そのため最近集落の様子を見に来てないらしい。

 

たしかにアナグラであまり見かけなかったな。

 

特務か?

 

てか、同じ第一部隊のリンドウに特務の案件入ってるそれのせいで第一部隊とは関係ない俺がレンカとアリサの救助に選ばれたんだよな?

 

別に貧乏くじとは言わないけど、本来あのような緊急ミッションは俺じゃなくてリンドウのクラスが行くべきだろう。

 

てか変異種ピターを掻い潜って助けに行くムーブは本来オワタ式がやるべきじゃない。

 

殺しちまったけど。

 

さて、極東はどう反応するやら…

 

 

 

「マロンさん…」

 

「お? アリサか、どうした?」

 

 

お風呂に入って汚れを落としたのかロシア人の白い肌が綺麗にみえる。

 

なんなら夕陽に照らされた肌は少し色っぽい。

 

 

 

「風呂上がりに外とは、湯冷めしないか?」

 

「心配ありがとうございます」

 

 

 

随分としおらしくなったな。

 

ただの女の子だ。

 

 

 

「そうだ、アリサにお薬渡しておかないと」

 

「え?」

 

「はい、精神安定剤らしきもの。強力だからあまり過剰に取り込むなよ?」

 

「っ!あ、ありがとうございます…」

 

 

 

よく見ると小さく手を震わせながら薬を受け取る。まだ精神面が安定してないようだ。

 

そりゃそうか。あのピターに叩きのめされてプライドも体もボロボロだ。取り繕う余裕もないらしい。

 

 

 

「で? 何か用があったんじゃないのか?」

 

「ぁ……は、はい…」

 

「?」

 

「その………ええと、た、助けていただいて、ありがとうございます…」

 

「気にすんなよ。可愛い後輩達が危ないって聞いたんだ。なんだかんだで俺も私情を挟んで駆けつけたさ。それに俺と同じ新型が居なくなるのは寂しいし」

 

「寂しい、ですか…」

 

「そりゃそうだろ。微々たる時間の中でも言葉を通わした仲だ。関わり持った人が失われていくなんて苦しいほかあるまい。あと、アナグラにいる以上は少なからず仲間だろ?」

 

「……なか、ま…」

 

 

 

慣れない言葉なんだろうか。

 

信じられる人はいても、仲間はいなかった。

 

アリサのゴッドイーターの人生は多分そうなのかもしれない。

 

 

 

「アリサ、少し話しないか?」

 

「……はい」

 

 

 

近くのベンチに腰掛け、アリサを隣に招く。

 

彼女は横に座った。

 

 

 

「俺の昔話をしようか。アリサも気になってたと思う部分だ。オワタ式の秘密もだよ」

 

「!」

 

 

興味はあるようだ。

 

俺は語る。

 

 

「俺ってさ、今と比べて最初のうちは新型として不完全な欠陥品と言われた。それからプロトタイプと名付けられた。最初はプロトタイプの名が嫌いで仕方なかった。しかし研究者達は俺を通して反省点などを炙り出し、次こそは不自由させないように新型の研究が進められた。踏み台として使われたといえば聞こえは悪い。しかし次の者たちの糧なったと考えれば、俺も多少は割り切れた」

 

 

 

そう受け入れないと、やってられなかった。

 

もしかしたらこれが正しい感情だ。

 

 

 

「しかし俺はそれでも恨んだよ。極東は成功の二文字を得るために成功率を高くする神機を選んだ。それがオラクルソードと超回避バックラーの二つ。しかも俺のオラクルは不安定だ。取り替えが効かない。しかし剣は殺せない、盾で守れない。そんな自分を呪った。しかしなんだかんだで俺は新型としての骨組みは得ていたから神機の変形機構は可能だった。 そこから先は好きにしろって感じでゴッドイーターとして放たれて俺に見合った役職についた。それが調査隊。討伐隊の次に、死亡率が高い仕事だ」

 

「でも、あなたが生きてるのは、あなたが強かったからじゃないですか?」

 

「そうでもない。今は昔よりも全面的にマシになったが最初の頃なんかはオワタ式のストレスに押し潰されそうで辛かった。そして脳が恐怖心を殺した。余計な感情は死につながる。だから恐怖心を麻痺させた。元々握っている神機故に死にやすいのなら死亡率なんて関係ない。今考えたらかなり自暴自棄だったかもしれない動きだ。無意識に。それで死んでしまっても別に良いかなと、考えてそうしてたのかもしれない…」

 

「!」

 

「中途半端だった。死にそうだから死ぬときはそれで良いとか考えてた割には、死にたくないために試行錯誤を繰り返して生存率を上げようとしていた。当時はなぜそんなブレッブレな思考でゴッドイーターやってたのか分からなかった。死ぬのが恐ければ神機使いなんて引退すれば良かったのに。でもゴッドイーターを続けた。約束事があるから」

 

「約束??」

 

「姉さんとの約束。それは使命感。もしくはただの独りよがり。脆弱な依存だったかもしれない。しかしそれは絶望するしかない世界で唯一俺を生かしてくれる淡い願いでもあった。そうやって生きないとならない理由を作り、死なないように俺を後押しする。だから、生きてた」

 

 

 

そう。

 

中身は死んでた。

 

しかし外側はまだ生きていた。

 

まるで本当のオワタ式のようであった。

 

 

 

「生きていれば、恐らくなんかある。荒ぶる神に殺されそうにな世界だけど、場違いすぎる神頼み的な希望感を持ちながら俺は限られた強さを引き出しながらなんとか生きた。この世の神様からは何も無かった。でもヒトからは何かあった。そしてオワタ式に負けたくない本当の理由(リッカ)を見つけた」

 

 

 

 

__こんな世界で神に祈らない。

 

__人は、人でしか、助けれない。

 

 

 

 

「まさしく愛だよね」

 

「あ、愛…?です、か?」

 

「ああ。俺はリッカって女性に助けられて、ここまでやってきた。そしてそれは愛情に変わっていた。しっかり台場マロンって人間に彼女が注いでくれた。俺は満たされた。この体に」

 

「…」

 

「………言ってることわかる?」

 

「え?ぁ、は、はい」

 

「あー、まだ子供には愛とかそういうのは難しかったか」

 

「なっ…! こ、子供扱いしないでください!」

 

「オイオイ、そう言ってるうちは子供だぞ?」

 

「よ、余計なお世話です…!」

 

 

 

なんか、良い感じだな?

 

年相応って感じ。

 

生意気な小娘って思ってたけど、こうなれば普通にかわいいな。

 

まあ一番可愛いのはリッカですけど。

 

 

「まあ、今日は何とか生きた。だから明日は今日よりも死なないように生きる。それで良いじゃないか」

 

「そ、そんな緩い心持ちで、良いんですか?」

 

「気立てはな、苦手でも自分で解決するべき感情なんだよ」

 

 

 

俺は立ち上がる。

 

 

 

「アリサ。薬は手段だ」

 

 

 

振り向く。

 

 

 

「しゅ、だん…?」

 

「薬は一時的に傷を抑える便利な道具だ。しかし治すのは自分だ。自分で自分を治すんだ。人間はそれを繰り返してきた生き物だ。アリサが頑張らなければならない」

 

「治すのは……自分…」

 

「その薬はあげる。でもあくまで手段だ。解決するべき痛みは向き合って、理解して、治す方法は__」

 

 

 

 

___アラガミが来たぞー!!

 

___避難しろー!! 早くー!!

 

___うああああ!!

 

 

 

 

「タイミング、わるっ」

 

 

 

アラガミは空気を読まない害悪。

 

はっきりわかんだね。

 

てか良いところだったのに。

 

一度はやってみたかった熱血少年漫画ムーブの出番すらも食らってしまうとかマジ卍。

 

 

 

「ア、アラガミ!? ぁ、ぁぁ! ぃ、いや!! た、助け__」

 

「落ち着け」

 

 

 

軽くチョップして彼女のパニックを止める。

 

 

「あうっ…」

 

「俺たちはゴッドイーターだ。それを忘れない」

 

 

 

しかしこの状態で戦わせられない。

 

 

 

「俺は討伐に向かう。アリサは隠れてな」

 

「っ!…そ、それは!」

 

「命令は三つ。死ぬな。死にそうなったら逃げろ。そんで隠れろ。運が良ければ隙をついてぶっ殺せ」

 

「え?」

 

「あ、これは受け売りだぞ?とりあえずそんな感じに隊長らしくない素敵な命令がある。だから命令に従ってアリサは隠れてろ」

 

「わ、私はそんな…」

 

「ゴッドイーターとして、神機を握れる?」

 

「神機…」

 

 

 

震える手が証拠。

 

それではアラガミを喰らえない。

 

その震えに気づいたアリサは苦しそうな顔をする。

 

俺は手を伸ばして崩れそうになる帽子を整えてあげながら肩を叩く。

 

アリサは顔を上げてこちらを見るが、不安に塗り潰された目が渦巻いてることがよく分かった。

 

 

「今のアリサはそういうことなんだろう。まあ任せておけ。これでも俺はゴッドイーターだ」

 

 

 

俺はアリサを置いて悲鳴の元に走り出す。

 

壁に立てかけていたオラクルソードを握りしめるとスキル効果が発動されたのか、体は羽のように軽くなる。

 

強制解放剤をひと舐めしてほんの一瞬だけユーバーセンスだけを発動。

 

って…!!

ボルグ・カムランのオラクル反応!?

 

おいおい!?

 

 

「極東が動物園なのはわかるけど、流石に無法地帯すぎる…」

 

 

 

多分おそらく森の中を突き抜けてやってきたんだろう。

 

そうなるとカムランが通ったところの木々が倒されて道ができてしまうかもしれない。

 

早めになんとかする必要があるな。

 

まだアンプルあったか??

 

 

 

「マロン!」

 

「レンカ、さっきぶり。とりあえず住民の避難を急がせろ。怪我してる者がいたら即座に運んでやれ。ゴッドイーターの身体能力なら余裕だろう」

 

「マロンは?」

 

「アラガミは俺が殲滅する。 今は俺しか出来ないからな」

 

「それは……」

 

「バーカ!そこで負い目を持つならそれはお門違いだ。レンカはレンカなりの役目を果たしてきた。今は運悪く戦えないだけ。けれど今のレンカの出来ることはあるだろう?姉さんを守ってやれ」

 

「!!…わかった、気をつけてくれ」

 

「オワタ式だから気をつけるのは慣れてるさ」

 

 

 

心配させないように言葉を返してオラクル反応を捉えた方向に走る。

 

建物の屋根の上に飛び移り、望遠鏡を使って様子を伺う。

 

カムランが我が道のように堂々と進んでいた。

 

 

 

「極東の中に入れずとも生きようとしてる人々がいるんだよ… だから、そろそろいい加減にしようか、アラガミ…!!」

 

 

 

静かな怒り。

 

ボルグ・カムランに接近する。

 

広いところに出たボルグ・カムランの頭に火属性のモルター爆弾を放って怯ませる。

 

その隙にボルグ・カムランの真下にスライディングして真上に砲撃した。

 

 

 

「内臓破壊は痛烈だぞ、存分に楽しめ!」

 

「ギィィィ!!!??」

 

 

 

装甲の硬い正面から攻撃しても弾かせる。

 

ならばみんな大好き『内臓破壊弾』でマゾゲー無印すらも解決だ。

 

それにこのバレットの利点はあまり爆散しないことだ。

 

この集落には建物や倉庫がある。

 

なのであまり激しい戦闘はしたくない。

 

だからこのバレットが役に立つ。

 

お陰でボルグ・カムランは弾ける体内に苦しんでいる。

 

そりゃ外部には何も支障が起きていないの内側ではぐちゃぐちゃにされているんだ。

 

かるくホラーだよね。

 

 

 

「てか、内臓破壊食らわせてもまだ生きてんのか、たまげたなぁ」

 

 

 

打ち所が甘いだけか?

 

それならもう一撃同じ内臓破壊弾を放つべき思う…が、そのためのOPが足りない。

 

ピターから回収したオラクル使っちまうか??

 

いや、これは確保しておきたい、今後の研究のために。

 

ならカムラン自身からオラクルを吸収しないとならないな。少し面倒だな。

 

そう考えて銃形態から剣形態に変えた瞬間だ。

 

 

真横からボルグ・カムランに砲撃が数発ほど襲いかかった。これは……アサルト?

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ……!!」

 

 

「ア、アリサ?」

 

 

 

額に大量の汗を流して、ガタガタと神機を震わせながらも、アサルトの銃口はアラガミに。

 

彼女の瞳はまだゴッドイーターを失っていない。

 

脆く崩れそうな彼女だが、でもそこにいた。

 

 

「運が…はぁ、はぁ…良ければ、不意をついて…はぁ…はぁ……ぶっ殺せ…でした…ね」

 

「そうだな。とても命溢れる判断だと思う」

 

 

 

そう一言残してボルグ・カムランの体にオラクルソードを斬りつけて、オラクルを回収しながら2歩後ろに下がり、神機を斜めに構えインパルスエッジを撃ち放つ。

 

ブラストの火力でボルグ・カムランは胴体を貫かれると、断末魔をあげながら絶命した。

 

 

「ありがとう、すごく助かった」

 

 

コアを引き抜いた後アリサにお礼を言う。

 

すると彼女はその場に膝から崩れ落ちる。

 

相当無理したようだ。

 

しかし、その眼は先程とは少し違う。

 

 

「私はゴッドイーターなんです。だから、逃げも隠れも、しない。守られるだけじゃない。強く、なりたい。私は、ゴッドイーターに、なりたい…ッ、です…」

 

 

 

感情を抑えきれない彼女は静かに涙を流す。

 

体はガクガクと震えていた。

 

しかしゴッドイーターな彼女は息を吹き返そうとしていた。

 

 

「まろんさん、わ、わたし、なれますか?ゴッドイーターに…」

 

「ああ、もちろん」

 

 

 

即答する。

 

俺は原作ゲームの彼女を知ってるから。

 

そして目の前の彼女を知ったから。

 

なら、ゴッドイーターになれる。

 

 

 

「俺が、ゴッドイーターにしてやるよ」

 

「!」

 

 

 

地面に落ちた帽子、それと涙。

 

白い髪の毛に触れて、グシャグシャと撫でる。

 

 

 

「子供……扱い…しないで、いい、ですから…」

 

「ポロポロ泣いてよく言うわ」

 

「うるさい…です。ドン引き…です、よ…」

 

「そうかよ」

 

 

 

しばらくして泣き止んだ。

 

彼女は涙を拭って立ち上がる。

 

 

 

「動けるな?」

 

「ええ、マロンさんからもらった鎮静剤を飲んだので。大丈夫です」

 

「そうか。それは良かった。じゃあとりあえず避難した人たちを安心させたいから状況報告と事故処理に入る。レンカも呼んで手伝って」

 

「わかりました」

 

 

 

しっかり涙をぬぐいとてもいい顔になる。

 

そして夕日に照らされる彼女はとても美しいんだ。そう思えるほどに。

 

もう、生意気な小娘なんて、言葉に当てはめれない……こともないか。

 

彼女はまだまだ子供だ。

 

でも子供って本当に成長が早いもんだ。

 

またひとつ強くなった気がする。

 

 

 

「あ、それと一つだけ言い忘れてた」

 

「?」

 

「渡した薬なんだけど、それただの"眠気防止剤"だからな」

 

「……………ふぇ??」

 

 

 

消失するボルグ・カムランを横で間抜けな声が広がる。

 

 

 

「俺は一言も『鎮静剤』と言ってないから」

 

「!!?」

 

 

 

つまり、彼女は鎮静剤なんかに頼らず自分の力だけで動いたという訳だ。

 

とても強い女の子だぞ。

 

 

 

「まぁ結果論として"目が覚めた"からコレでいいだろうよ」

 

 

「なっ!…なっっ!なぁっっ…!!?」

 

 

 

そう言って俺は避難場所まで足を進めた。

 

良い色だ。

 

良い夕日の色だ。

 

後ろからうるさく聞こえる子供な声と共に。

 

ゴッドイーターを染める、穏やかな色に。

 

 

 

 

つづく

 



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17話

 

 

 

余命3年。

 

そんな言葉を聞いたら普通は狂乱するか、泣き崩れるか、唖然とするか、何かしらのリアクションを取るはずだ。

 

しかしそれを聞いても尚、堂々とする。

 

それが彼の利点だろう。

少し心配になるが。

 

 

「やはり高い適合率だからこそ、その余命なんだろう」

 

「逆に高くなければ既に死んでた。そう言うことだな?」

 

「そうだとも。高い適合率は生命力の高さだ。そして回復力もある。変異種のピターに半殺しにされても尚レンカくんは生きた。普通なら死んでいてもおかしくない。しかし勘違いしてはならない。今生きているのは死を遅らせた延長に過ぎない。高い適合率から命を繋ごうと酷使したその代償は大きい」

 

 

そりゃ腹を切られて、背中をブッ刺されて、それでも今生きてるのは適合率の高さから。

 

まだ死ななかったけど、いまから死へ向かおうとしている。

 

無事で良かったとは言い難い状態だ。

 

 

 

「レンカの現状はわかった。しかし俺を呼んだのはただ伝えるだけじゃ無いんだろ?」

 

「もちろんだ。君には協力してほしいことがあるからね」

 

 

 

今、俺はサカキ博士のラボにいる。

 

そして待ち構えていたかのようにサカキ博士と廊下で出会い「レンカ君について話がある」と言われて、俺はラボまで付いてきたのだ。

 

 

 

「キミ個人で集めた研究データがほしい。もしくは調査目録と言うべきかな?」

 

「なんだ、知ってたのか」

 

「キミはリッカ君と良く共同開発を行なっているようだね?キミが個人で抱える調査目録を暴いた訳では無いが、開発してきた数々の産物を見れば一目瞭然だ。これでも私はゴッドイーターやアラガミを研究している者だ。アナグラに既存するデータと比較すればなんとなくわかるものさ。そしてキミはアナグラのデータベースには無いところからアプローチを得て開発に着手している」

 

「調査隊としての強みって奴だ。一回のミッションに対して濃厚な情報量を得れるからな」

 

 

まあ半分嘘で、半分本当だけど。

 

もちろんこの世に足をつけて得た知識もあるし、前世の記憶を頼りにしている。

 

そこら辺を併せて研究開発を行なっている。

 

ピターを葬ったメテオは正にそれだ。

 

ブラッドアーツ無しでホンモノに近づけれた産物なんだよ、アレは。

 

 

「まあサカキ博士の言いたいことはわかった。協力しよう」

 

「……良いのかい?」

 

「レンカを助けるためだ」

 

「……そうか。とても助かるよ」

 

「サカキ博士の言いたいことは分かる。だから先に言っておく」

 

「?」

 

「俺は過去の所業をそこまで引きずってない」

 

「!」

 

「俺と言う存在が土台となり、正しい新型が現れたと言うなら、無駄ではなかったんだとその結果を飲み込むことにしている」

 

 

 

レンカとアリサが現れたから。

 

だから俺は報われた気がした。

 

 

 

「そうか。なら、私はキミのことを存分に頼るとしよう、マロンくん」

 

「狂人を忘れない星の観察者と、極東最狂の規格外が手を組むんだ。これ以上に恐ろしい組み合わせはない。加減の知らない神のイタズラを凌駕するぞ」

 

 

 

そう言って俺は部屋に戻って調査目録を整理して、再びサカキ博士のラボまで向かいデータを手渡す。

 

それは表向き独断で支部に渡してない独自のデータだ。

 

そのデータを見たサカキ博士は大変興奮していたが、レンカのために急ぎたいので宥めて研究を始めた。

 

 

 

「君が持ってきたピターの翼刃。それからキミのオラクルソードでピターから回収したオラクルはリザーブされたまま保存されている。これらのデータを合わせて今よりも強固な制御システムを作り上げて、それを神機に搭載する」

 

「元々神機にも腕輪と同じ抑制力があるのは知ってるが腕輪ほどじゃない筈だ。効果は出るのか?」

 

「可能さ。負担を別に移すんだ。言わばキャパシティーを分配する」

 

「分配?……ああ、なるほど。抑えるのか」

 

「そうとも。そして仮で作った神機がコレだ」

 

 

 

モニターに展開された設計図。

 

俺は少し顔を顰める。

 

 

 

「なるほどなぁ……でも、これを新型と言う度胸か。皮肉だな」

 

「これは最初の段階だ。たが心配はないとも。新型として元の形に戻る筈だよ。彼の努力次第でね」

 

「努力云々は問題ないだろ。何せアイツ、物語の主人公みたいな天才型だから」

 

「それは頼もしい限りだ。今後ともよろしく頼むよ」

 

「… それは俺に言ってるのか?まあこうなった以上は俺がまた教えるけど、再びリンドウ(教育)の役割を奪うことになるな。今度リンドウに飯を奢らせるか」

 

「それならいっそ君が部隊を作ってレンカくんを下に置くのはどうだい?」

 

「あー、それは前に考えた。でもアイツのバトルセンスを考えると調査隊として扱うには勿体なさすぎる。これまで通り第一部隊だよ。レンカがゴッドイーターをするならな」

 

「そうか。ならこれからの取り組みは決まったね。だとしたら早速取り掛かるとしよう。それとも他に何か追加案はあるかい?」

 

「ある。リザーブシステムだ。それをカートリッジの代わりとして使おう」

 

「なるほど。それは名案だ」

 

 

その後はリッカも合流してレンカの神機を新しく開発した。

 

ピターの刃翼を加工して新たなロングブレードを生産して、そこにリザーブシステムを参考にしたカートリッジを搭載する。

 

そしていくつかのパーツを外すことでシステムのキャパシティを空けて、空いた分は神機の抑制力を高める。

 

そうして2日程度で出来上がった。

 

俺とサカキ博士の知恵と、リッカの手慣れた技術力でそう苦労はしなかった。

 

そしてレンカを神機保管庫に呼んで、その神機を握らせて訓練所までやってきた。

 

二人でくるのも少し懐かしいな。

もう一ヶ月は経ちそうだ。

 

 

 

「盾と、銃が、無いのか…」

 

「新型なのに旧型。もしくは盾無しの旧型以下だな」

 

「みたいだな。その代わり随分と軽い」

 

「そりゃ盾無しだからな。回避性能を上げるために軽量化を図った」

 

「…これがカートリッジか」

 

「レンカは神機を握った状態で戦闘行為を行うと体内のオラクル細胞が戦闘本能により活性化してレンカの寿命を追い込む。だからその矛先をカートリッジの中にあるオラクルに向けるんだ。そうすることで寿命の減少を抑えれる。まあそれでもカートリッジだから…」

 

「可能な戦闘回数が設けられる、そう言うことか…」

 

「ああ、そうだ。しかもカートリッジ消費から戦闘可能な時間はそう長くない。たとえば目の前にコンゴウが二頭現れて、7回程度神機を振ってそれで倒せた時が、おおよそのタイムリミットだ」

 

「…」

 

「今のところ最大で三回分。つまり一回のミッションに対してノーリスクの戦闘は三回しか出来ない。そこから先は寿命を食らわせる状態になる。早死にするぞ」

 

 

 

もしレンカが神機を置いてゴッドイーターを引退すれば三年間は生き延びれる。

 

まあそれでも三年程度だが。

 

でもその間にレンカの寿命をなんとかできる手段を得れるなら、またゴッドイーターとして咲き誇ることは可能だろうが、まあ彼は引退を選ばないだろう。

 

引退に関してはイロハを引き合いに出せば少しは迷ってくれそうだが、でもゴッドイーターになるためにアナグラまでやってきた彼の人生。

 

ゴッドイーターでは無い空木レンカは彼の中に存在しないはずだ。

 

 

「あ、まだ神機を振るうなよ。戦わない時は地面に寝かせてる状態だ。オラクル細胞は臨戦状態を感じて活発になる。だから刃は寝かせて落ち着かせるんだ」

 

「こうか?」

 

「ああ、それで良い。そしてカートリッジを消費するためのオラクルリザーブのスイッチが手元にあるはずだ」

 

「これは普通のオラクルなのか?」

 

「ピターのオラクルに似た別のオラクルだ。俺が回収してきたデータから引き出して作ったオラクルだ。まあヴァジュラ種のオラクルで代用できるからヴァジュラ種が絶滅しない限りはカートリッジの量産に問題ない。そのオラクルを神機に統合して肩代わりしてもらう」

 

「………色々と、迷惑をかける」

 

「気にするな。リッカ!ダミー出してくれ!」

 

 

 

そう言ってリッカは「ほいほーい」とダミーを出す。

 

ヴァジュラの形をしたアラガミ。

 

ほんの少し柔らかいダミーだ。

 

 

 

「オラクルリザーブのスイッチを押せば神機に搭載された小型モニターに戦闘可能な行動数値が出てくる。移動と攻撃に対して消費する。最初は意識して振るってみろ。それで消費量を把握して最終的に感覚だけでやるんだ」

 

「意識しないと難しそうだな」

 

「複雑に考えすぎるな。なんなら車の運転と同じだよ。おおよそこのくらいのスピード出ているだろうの感覚で法定速度を守れば良い。レンカの場合は使用量を把握するんだ」

 

 

まるで携帯の受信料金とのご相談だ。

 

今はまだ回線の悪いオラクルリザーブ。

 

しかし少しずつ改善すれば多くの通信が可能になる。そんなメカニズム。

 

 

「!!…この神機、良く斬れるな……」

 

「嫌な思い出か?」

 

「まあ、そうだな。だから頼もしいくらいか」

 

「前向きなのはレンカの強みだな。いま残量はどのくらいか?」

 

「2度振るって残量が67%…」

 

「ピターの刃翼はよく切れる。力いっぱい握らずに振るえば消費量は抑えれる筈だ。しっかり体に落とし込むぞ」

 

「ああ、もちろんだ」

 

 

 

盾も無し、銃も無し。

 

旧型のように剣だけで戦う新型神機使い。

 

身を守れない姿。

 

それが……俺と重なる。

 

まあだからこそ、教えれることが多い。

 

俺にしかできないことだ。

 

 

 

「レンカは神機に慣れる。それして神機がレンカに慣れてくる。そうして余裕で出来れば枠が空いてくる。キャパシティーが増えるんだ。そうなれば盾も銃も搭載出来る。新型神機として正しい形に戻るまでは大変だろうがゴッドイーターであることには変わりない。頑張れよ」

 

 

 

俺は 銃 だけでしかアラガミを殺せず、レンカは 剣 だけでしかアラガミを殺せない。

 

今はそうなってしまった縛りプレイ。

 

でもいつかは克服できる筈。

それを未来に託そう。

 

 

「…」

 

 

三年だ。

 

三年あれば、なんとかなる。

 

俺が未来に託すのはGE2に出てきたオラクル。

 

それはレトロオラクル細胞

 

オラクルを永久に複製する優れもの。

 

それをレンカに使えるなら寿命の代わりにレトロオラクル細胞が彼を生かしてくれる筈だ。

 

そこに可能性を賭ける。

 

 

 

「皮肉だな…」

 

 

 

この世界で神頼みなんて、救えない。

 

でも、三年だ。

 

今はそこに可能性を賭ける。

 

他に何か有ればそれでも構わない。

 

でも、この先どうなるかわからない。

 

だから生きようが、死のうが、終着点は三年後。

 

それまでの軌跡がここから始まる。

 

そう、彼の縛りプレイが始まるんだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まあ、そんなこんなで5日経過。

 

レンカはミッションの出撃数が大幅に減った。

 

てか、俺が止めるように言った。

 

リンドウとも相談した結果だ。

 

それから…リンドウに頭を下げられた。

 

 

_俺にはできないことをマロンがしてくれる。

_部隊長として、すごく感謝しているんだ。

_アイツを気にかけてくれて、ありがとうな。

 

 

原作キャラからこんなにも感謝されるようになってなんだか感情深い気持ちになるが、俺は純粋にレンカを気に入ってる。

 

助けたいと思っての行動だ。

 

見返りが欲しいわけじゃない。

 

前も言ったように俺に出来ないことはレンカが出来る筈だから、そこに期待を寄せたいだけ。

 

だから彼を救う。

 

 

 

まあ、期待を寄せるのは実のところレンカだけではない。

 

それは…

 

 

 

「マロンさん、何ボーッとしているんですか! 進行するアラガミがもうすぐポイントまで現れますよ!」

 

「気合い入ってんなアリサ。てかわかるのか?アラガミの位置」

 

「まだ大雑把にですが意識すればわかります」

 

「もうユーバーセンスを使いこなしてるのか、天才かよ」

 

「天才さどうかはわかりませんが、この(スキル)と相性が良かったのか、よく分かるんですよ」

 

 

 

彼女が扱う盾は原作ゲーム通りの力を引き出している。

 

なら何故今までユーバーセンスの力が発揮されてなかったのか?

 

単純な話。

 

アリサは戦闘技術が高い。

 

変形を良く使いこなしている。

 

本人はまず『器用』なんだ。

 

けど神機に対する理解力が低かった。

 

元々リンクバーストの存在も知らない… と言うより忘れていたくらいだ。それからインパルスエッジの技術を知らなかったりと、ただ神機に備わった殺傷力と射撃性能だけ把握してアラガミを屠る。

 

そんなプレイングでこれまでゴリ押してきたので神機に備わった力に対して意識がなかった。

 

なので俺が意識させるようにした。

 

 

 

「インパルスエッジの威力は一律にしておけ。多数に変則つけすぎると変に体を痛めるぞ」

 

「わかりました。絶対に覚えてみせますから」

 

「まあ君は天才だからすぐにモノもにすると思うけどな」

 

「でも知らないことが多いです。だからいろいろな戦いを教えてください」

 

「構わないが俺は一応調査隊だぞ?基本的に戦闘はNGなんだよ」

 

「しかし知識力はアナグラで一番です。なので私はあなた以外の新型神機使いから学ぼうとは思いません」

 

「お役目盗られた部隊長(リンドウ)が泣くな、こりゃ」

 

 

まあリンドウからは「先輩として色々教えてやってくれ」と言われてるので、そうしている。

 

そんでもって俺がプロトタイプではない正しい新型神機使いとして成功していたら絶対に第一部隊に入れたかった。そう言っていた。

 

 

 

「俺もリンドウと肩を並べたかったよ…」

 

 

 

俺たち二人なら最強だった筈だ。

 

そこにソーマもサクヤを添えれば無敵だ。

 

そうなってたと思う。

 

だからレンカに俺の願いを託す。

 

そしてアリサにも期待を寄せるんだ。

 

 

 

「ミッション完了です、お疲れ様でした」

 

「ああ、お疲れ様」

 

「コア回収しておくのでマロンさんは休んでいてください」

 

「わかった、ありがとう」

 

 

 

数メートルほど歩く。

 

この世界でも夕日は綺麗だ。

 

そしてとある方角を眺める。

 

今俺たちがいる『愚者の空母』から眺めることができる一つのドーム。

 

 

 

「一年前に比べて、随分と力を蓄えている…」

 

 

 

特異点(シオ)がいなければどうしようもないが、その個体に着々と溜まっていくエネルギーはゴッドイーターになった当時よりも更に濃ゆく感じられる。

 

 

 

「…」

 

 

 

この世界は原作ゲーム進行ではない。

 

だから何が起こるのかわからない。

 

それこそシオが現れるかもわからない。

 

でも、もし。

 

結末が同じ方へ進むなら、俺もその時は考えないとならない。

 

でも最終的な役割は俺じゃない正しい者がそうしてくれる筈。

 

だから、託す。

 

残酷な世界だから、人間は神に祈らない。

 

それがゴッドイーターなんだから。

 

 

 

ではまた



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18話

 

 

〜 集落 〜

 

 

 

オペレーション・メテオライト。

 

アラガミから大量のコアを回収する作戦。

 

まずアラガミを引き寄せる特別な装置を各ポイントに設置を行い、銃型を使えるゴッドイーター達が『メテオ』と名付けたバレットエディットを放火してアラガミの一掃を行う。その後はプレデターモードを使えるゴッドイーターがアラガミのコアを回収する大規模な作戦だ。そうしてエイジスの完成を早めるらしい。

 

あとこの作戦はとても重要かつ極東支部を中心としてるため国外からいろんなゴッドイーターがやってくる。

 

それだけの価値があるのだろう。

その作戦開始もあと3日だ。

 

ちなみに調査隊の俺も参加することになっている。俺は戦闘兵では無いのだが。

 

まあ安全にヘリコプターから撃つだけなら危険性は無いので俺も参加は決まった。

 

そして大規模な作戦だ。それまでに英気を養いたいところだがアラガミを引き寄せる装置を設置する作業があるので俺もその作業に駆り出される。まあ下には降りず、ヘリコプターからアラガミを察知して危険を知らせる役割だ。下では他の神機使いが護衛してくれる。

 

それから設置作業が数十分くらいで終わり、このまま真っ直ぐ帰投しようと思ったのだが、目に入ったダム湖の集落が気になったので俺はこのままフリーミッションに入った。

 

ミッション終了後は即座な帰投が厳守されているが、調査隊は追加調査としてミッション終了後も行動が可能である。

 

その権限を使って俺はヘリコプターから降りてダム湖の集落に向かったのだ…

 

 

__ドボンと貯水槽で音がした。

 

 

不安そうな難民たちがそう訴える。

 

俺はアラガミか何かか?と気になったので早速ダム湖まで様子を見に行ったところだ。

 

 

「不安要素はこの中かぁ?」

 

 

水中のアラガミが現れたのなら駆除と報告が必要だが、強制解放剤をひと舐めして発動したユーバーセンスにはオラクル反応が引っかからない。

 

アラガミでは無いことがわかった。

 

だとしたら何もない?

 

もしかしたら難民の空耳か?

 

でも一人では無い複数の声が不安を訴える。

 

なら聞き逃してない音だろう。

 

中に何かあるのか?

 

直接視認しようと思い、俺は水中に飛び込んで、水深くまで進む。

 

ゴッドイーターの身体能力で強引に下へと浸水して、何かが見えた。

 

 

「!?」

 

 

え?なんだあの装置?

 

見た目ズッシリとした機材だが…

 

おい、待て。

 

これってオペレーション・メテオライトで使う装置じゃないのか?

 

何でここにあるんだよ?

 

 

 

「…………」

 

 

 

これは誰の判断だ?

 

いや、ただ一人。

 

ヨハネス支部長だ。

 

この集落にアラガミの引き金を投げて何をするつもりだ?

 

あなたは何を考えてココに投げ入れた?

 

いや、これは…

 

 

 

「(もし、原作を、なぞるとしたら…)」

 

 

 

リンドウを抹殺するためか??

 

この世界はもうゲームとは程遠い物語で構築されている。

 

でもこんな世界でもゴッドイーター。

 

キャラクター1人に対する結末が決められているとしたら、アリサの加入から次に起こる悲劇はおそらく…

 

 

 

「…」

 

 

 

原作ブレイクをしたいとか、そこまでの考えはない。

 

ただ自分に必死なだけだから、どこかしら俺が余計なことをしてるのかもしれない。まあマロンって人物が存在してる時点でもうおかしいかもしれないが。

 

まあ、それはまた後で考えるべきだろう。

 

 

とりあえずこの装置は引き上げ……

 

いや、待て。

 

 

 

「(むしろバッテリーを引き抜くか)」

 

 

 

そしてこのまま水の中に沈めておこう。

 

それで終わってから回収しよう。

 

もちろん壊したい気持ちはある。

 

しかし集落に不安を与えてしまう。

 

なので今しばらく、作戦が終わるまではこのままにしておくことにした。

 

なーに、見つかっても整備不足ってことにしておけば良いさ。

 

極東は人手不足だからな。

 

ガバの一つは起こるさ。

 

そう言うことにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 アナグラ 〜

 

 

水中でバッテリーの引き抜き作業は面倒だった。

 

感電するくらいならまだ良い。

 

オワタ式だろうとゴッドイーターだから耐えれる筈。

 

だがもし誤作動で装置が起動したらいよいよ本気で破壊するつもりだったが、なんとかなった。

 

組み立て式なのでそこまで複雑ではなかった。

 

色々と報告を済ませて、くたくたになりながら廊下を歩いていると。

 

 

 

「君が台場マロンくんか」

 

「?」

 

 

とある人物が接触してきた。

その人は。

 

 

「失礼、私はオオグルマダイゴ。君も知っているアリサって子のメンタルカウンセラーの先生として極東までやってきたのだ。まあ… もうカウンセラーの意味は無くなってきたがね」

 

 

そりゃ、アリサはもう薬飲んでないからな。

 

いや、たまに飲んでいるけど、顔付きは柔らかくなって、後輩として可愛らしくなってきた。

 

そろそろ積み上げてきた黒歴史を彼女の前で笑い話にしてやるか。

とても良い顔で悶えるだろう。

 

 

「はい!そうですね!彼女は極東に来たばかりの頃よりもなんだか一層元気になりました!心の不安定もみんなと肩を並べて打ち解けることで乗り越えれそうです!僕も先輩として安心ですよ!彼女の面倒を見てきた先生もさぞかし嬉しいですよね!」

 

 

クタクタな表情から一変。

 

俺は満面の笑みで対応した。

 

 

「あ、ああ、そうだな…」

 

 

複雑そうな顔をするクルマ。

 

オオグルマの名前なんだからもっと横浜タイヤの様に嬉しそうな顔しろよ。

 

おらおら、うれしぃだるぉ??

 

 

さて、それはともかく、俺はこの人が何をしているのか知っている。

 

原作ゲームだとこの人のせいでリンドウはアラガミと永久デートしなければならなくなるからだ。お陰でレン君が激おこぷんぷん丸。

 

その引き金となるのがアリサなんだけど、しかし彼女はあの一件でトラウマを克服したことにより心身ともに強くなった。

 

まだ多少は引きずるところはあるけれど少しずつ強かになっている。今日も元気よくインパルスエッジに振り回されている頃だろう。

 

そんなわけでアリサの引き金によってリンドウはあの運命を進むことは恐らく無い筈…… だよな??

 

そう簡単に死ぬような男ではないと思うが…

 

 

 

「ところで俺に何かようですか?」

 

「いや、特に大きな用事はない。ただ、アリサの、その、複雑な精神面を救った人がどんな人なのか気になってね。本職として気になる限りだから」

 

「ああ、そういう事ですか。別に特別なことはしてませんよ。俺は彼女の力になれる事。それから辛い時は人に寄りかかって良いことを教えただけです。あと味方が周りにいることもね」

 

「そ、それだけなのかい?」

 

「そうです。トラウマに打ち勝つとはそういう事なんだと俺は考えてます。しかしそのトラウマに打ち勝つまで支えてくれる人が必要です。 だからアリサにとってオオグルマ先生は恩人でしょう」

 

「そ、そうか。それは、うむ… 患者の先生として嬉しいことだ…な」

 

「ええ!だからオオグルマ先生!ここまで可愛い後輩を支えてくださって感謝します!」

 

「あ、ああ…」

 

 

我ながら気味が悪いほどのキャラ作りだ。

 

そしてオオグルマ先生も複雑そうな顔を見え隠れさせている。

 

見ていて清々しい気分だ。

 

 

 

「あ、自分は調査報告の整理があるのでこの辺りで失礼します!!」

 

「う、うむ…」

 

 

 

俺は百点満点なスマイルで猫かぶりながらオオグルマと別れてエレベーターに乗り込む。

 

 

 

「わざわざ俺に接触してきた。その理由はやはり…」

 

 

 

俺の排除か…

 

または、ただ単に気になっただけなのか。

 

しかし不利益に思われたらそれまでだ。

 

少し行動を慎重にするべきかな。

 

 

 

「とりあえずリンドウにはダム湖にあった装置の話くらいはしておくか」

 

 

 

 

明日は大掛かりなブリーディング。

 

そして明後日は本格的にオペレーション・メテオライトが始まるだろう。

 

その日まで備えることにした。

 

 

 

 

つづく





次がラストです。


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最終話

ラストです。


 

結論から。

 

オペレーション・メテオライトは無事に作戦完了とした。

 

ヘリコプターから銃型の神機使いがバレットのメテオを放つと作戦開始の合図。

 

メテオによって装置に集まったアラガミをスダボロに転がされる。その隙に接近型の神機使い達が神機に薬を投与してプレデターモードが肥大化させるとその大口で一気にアラガミを食い荒らす。こんな感じにコアの回収は捗った。

 

しかし途中アラガミの装置が暴走してアラガミの数が一気に増えたりとトラブルが発生。

 

それでも神機使い達は力を合わせて凌いだ。

 

作戦は成功だ。

 

もちろん気にしていたダム湖に被害はない。

 

安心した。まあバッテリーは引き抜かれて作動はしなかったからな。それもそうか。

 

ちなみにアラガミを引き寄せる装置が暴走したのはオオグルマダイゴの仕業らしい。

 

作戦終了後にヨハネスが演説でそう言ってた。

 

そんでもってオオグルマは消えた。

 

何のためにいたんだろう、アイツ…

 

まあリンドウの排除には繋がらなかったし、アリサも洗脳解除された状態だし、お役目ごめんってやつだろう。なんというか哀れ。まあここは原作通りなんだろうけど。

 

 

ちなみにリンドウはまだ生きている。

 

ピターに襲われて永遠のデートを楽しむ流れは無くなったせいだろう。

 

そのかわり特務やらなんやら誤魔化しながら極東から良く姿を消す様になってしまった。

 

極東の闇と戦っているのか、または純粋に特務で忙しいのか、それはわからない。

 

 

ただし、リンドウから…

 

『ダム湖の件は助かった。しかしそれは俺が表向きとして見つけて装置を解除しておいたことにしておく。そんでマロンは大人しくしておけ。じゃないと集落はお前以外任せられないからな』

 

 

この意味は、そういうことだろうか。

 

俺は察したが、でも『わかった』と一言だけ。

 

リンドウも俺が理解した事はわかっているだろうが、表面上は頷いてくれた。

 

それでも心配だったのか、リンドウはついでにこんなことも俺に言った。

 

『俺はあまりレンカやアリサに指導はしてやれずマロンに任せっぱなしだな。まあだからこそ任せれると言うか。別に今の役柄や部隊を移動しろとは言わない。だがこれからも二人のことはマロンに頼みたいんだ。てかお前にしか頼めない。頼めるか?』

 

 

くそぉぉ……リンドウ、そんな風に言われたら断れないだろうが馬鹿野郎。

 

 

そんなわけで俺は頷いた。

 

そうすることでレンカやアリサを育て、俺は極東の闇から遠下がり、リンドウはまた戦う。

 

そんな形に落ち着いた。

 

サクヤとソーマ、コウタもよく知らない。

 

ただ単にリンドウは忙しく動き回る。

 

そんな認識で、俺だけは知る。

 

 

 

でもまだ、その時ではない。

 

 

 

この世界は原作からかけ離れた展開だが、もしそれでもゴッドイーターって舞台の結末が同じなら、どこかで行先は結び合うはず。

 

人の形をしたアラガミ(シオ)が現れて、リンドウが何かの誤りでアラガミになって、レンカが第一部隊の隊長になって、物語は原作ゲームと比較的近い形で進んで、第一部隊は終末補食を目の前にするんだ。

 

その場に俺が居るのか。

 

もしくは居ないか、

 

その結末は、まだ知らない。

 

何せ、俺はオワタ式だから。

何かの拍子で死ぬのかもしれない。

 

だからこの先は何が起きてもわからないのだ。

 

 

 

 

だから、ゴッドイーターをつづける。

 

 

 

 

「レンカ、神機の調子どうだ?」

 

「悪くないが、盾ってこんなに軽かったか?」

 

「そりゃバックラーの種類は軽いに決まってるだろ。とりあえずジャストガードの技術を叩き込むから頑張ってついてこいよ」

 

「ジャストガード…また妙なシステムを作ったな…」

 

「妙なモノとは失礼な。ただ盾を展開するときにオラクルをカチンと発火させることで一瞬だけタワーシールド並みの防護壁を展開するだけだ。別に妙ではない。普通のジャストガードシステムだよ」

 

「マロンの普通は俺たちにとってハードルが高い…」

 

「そうか? 少なからず主人公補正を持つレンカは問題なく覚えそうだが」

 

「意味が分からん…」

 

 

少し呆れながらもレンカは盾を展開してバックラーを馴染ませる。盾を展開する時もカートリッジを消費するからあまり多様できないが、最近は調整に慣れてきたのか少ないオラクルの消費量で戦えるようになってきた。やはりセンスあるよな。これが主人公補正か。羨ましい。

 

 

「マロンさん、残りのアラガミの討伐完了しました!」

 

「お疲れ、アリサ」

 

「はい!」

 

 

そんでもってマジで元気になったアリサ。

 

もうトラウマに追われていた頃の彼女は居ない。

 

そしてなにかと俺を慕ってくれる。

 

もう教えることないんだけどなぁ…

 

あと教えたとしても連携能力くらいか。

 

てか俺はソロ専の調査隊なんだから当てにしすぎても困るぞ。

 

 

 

「アリサも強くなったな」

 

「そんなことないですよ!もっとうまく立ち回れないとなりません。それで!それで!マロンさん?次は何を教えてくれますか?」

 

「あー、一応これでもう全部教えた様な感じなんだけど」

 

「まさか!そんなことないです!で、でしたら普通の神機使いにはできないマロンさんの規格での技術を教えてください!それならもっと色々ありますよね?」

 

「まあ、そうだなぁ…」

 

「あるんですね!」

 

 

 

うーーん、この。

 

どうしてこうなったのか知らないが、なんかアリサがアホの子みたいになっていた。

 

原因は俺もよくわかってない。

 

気づいたら「次はどんな技術を!?」とか「次は何を見せてくれるんですか!」みたいにズイズイくる子になっていた。

 

この明るさっぷりは彼女が救われた証拠なんだけど、なんか想像してたのと違う。

 

けれど彼女の向上心は眼を見張るものがある。

 

主に戦闘面の吸収力が高い。そう考えるとやはりこの子普通に優秀な神機使いだわ。

 

 

「さて、レンカのカートリッジも全部消費したから帰るぞ」

 

「世話をかけるな、マロン」

 

「適材適所って奴だ。まあ俺もいつまでも付き添う訳じゃない。いつかまた長期的な遠征に向かう羽目になる、らその時はアリサやコウタにも手を貸してもらいながらゴッドイーターしていけ」

 

「でもレンカさん、オペレーターのお仕事もありますからね。神機を握るだけの仕事では無くなりました。これから大変ですよ」

 

「構わないさ。アリサの様に出来ることは全てやると決めたんだ。そうでなければ……」

 

「そうでなければ…?」

 

「………」

 

 

 

アリサの問いかけに少し黙るレンカ。

ほんのちょっと、困った様に目線を動かした。

 

 

「まあ、事実(血縁)を明かした攻略対象(イロハ)のために、レンカは迎えに行けるその日まで頑張るって事だよ」

 

「………アナグラに帰るぞ」

 

「あ、レンカさん!」

 

 

 

まあそりゃ、いきなり血縁の事実なんて言われたらレンカもどうしたらいいのかわからなくなるよな。なんならイロハも血縁の事実を言い終えるとそのままレンカに対する思いも告げてしまい、勢いで言ってしまったことに顔真っ赤にして建物の奥の方に逃げちゃったし、頭の容量が良いはずのレンカも流石に頭から湯気が出てキャパオーバーを起こしていた。

 

しかしこんな世界でもちゃんと青春出来るらしい。集落の人たちの目がすごく優しかった。

 

とりあえずレンカに「俺はどうするべきなんだ?」とマジで困り果てていたので…

 

 

『レンカがベテランの部屋を貰って、特務をこなせる位になったら、イロハを向かいに行ってやれ。そしたら階級権限で居住区入りを認められて一緒に住めようになるから』

 

 

そう教えてやった。

 

そして「わかった」と目の色が変わった。

 

決めるときは何かと早いよな、この子。

 

さてはオメー主人公だな??

 

まあ、その前に手段を探す。

 

レンカを生かすための手段は考え続ける。

 

そんでもって三年後に現れてくれるだろうレトロオラクル細胞の可能性に賭ける。

 

これが彼のゴッドイーター人生だろう。

 

 

「レンカさん。次はどこへ目指します?」

 

「そろそろコンゴウを相手に一人で戦える様にはなりたいかな」

 

「でも無理しないでくださいね?」

 

「大丈夫だ。そう簡単に死んでたまるか」

 

 

 

アリサとレンカ。

 

同じ新型神機使い。

 

俺は少し訳ありな新型神機使い……の、ために踏み台となった新型神機使いもどき。

 

この先の時代はこの2人から始まる。

 

でも、まだ、もう少し先の話だろう。

 

だからそれまではこのペラペラな後ろ姿で二人を率いて、時が来たら本当に踏み台として二人にはこの世界の終末に立ち向かってもらう。

 

それが俺の出来ること。

 

オワタ式でも、先輩ゴッドイーターとして新人2人を導ける筈なら、俺はこの神機だらうと握りしめる、それだけなんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 夜と自室 〜

 

 

 

 

 

「ねぇ、マロン」

 

 

 

甘えるように背中に乗っかる彼女。

 

無気力気味に布団へ倒れる俺に声をかける。

 

 

 

「どうした、リッカ?」

 

「子供が欲しいな」

 

「ぶっっ」

 

「もっとココに宿して良いんだよ?」

 

 

 

無気力状態な俺でもこれには反応を示さざる得ない内容だった。

 

 

「まだ改修が足りない。満たされてないよ」

 

「それは性欲的な意味だろ。女の子が何を言ってんだ…」

 

「もっと一億年から二週間前まで愛してよ」

 

「この甘えん坊め…」

 

「だってお父さんの前では立派な姿見せないといけなかったし… 今まで甘えれなかったのをマロンにぶつけるだけ」

 

 

どうやらこの甘え具合はそう言う事らしい。

 

まあそれも仕方ない。

 

締めすぎたボルトは壊れてしまい、制御を忘れて弾けたようだ。

 

 

 

「…はむっ」

 

「痛い」

 

「んー、マロンの甘い味がする」

 

「冷やしカレー好きの辛党が何を言ってんだよ」

 

 

どうやらリッカも、俺と似てるようだ。

 

俺はミッションが終わると頭のスイッチが切り替わり、全身無気力状態に陥り、体が全力で休むようになっている。

 

そしてリッカも同じ。一歩間違えれば暴走するだろう兵器の整備に毎秒緊張を味わっている。そして気を緩めぬよう終わりまで集中している。そりゃ疲れてしまう。

 

そのため険しい時間から解放されれば彼女もこんな感じにヘロヘロなリッカに早変わり。

 

そして俺にだけしかできない甘えん坊モードに突入してしまう。まあそれがとんでもなく可愛い。リッカたんマジ天使。

 

 

「マロン可愛い」

 

「おまかわ」

 

「愛してる」

 

「知ってる」

 

「ありがとう」

 

「こちらこそ」

 

「好き」

 

「そうだな」

 

 

俺はうつ伏せから体を仰向けに起す。お腹の上には彼女がこちらを見ている。互いの心臓の鼓動が聞こえる距離。それから体温。彼女はこの体制に満足気な表情をしながら胸元に頭を置いてより密着して甘え出す。

 

俺は可憐そこ背中を撫でながら、もう片方の手で頭を撫でて、今日もオワタ式に負けず無事に帰ってきたことを教えるように。

 

 

 

「子供は…そのうちな」

 

「ほんとう…?」

 

「……リッカは、本気なのか?」

 

「うん、本気。マロンの子を産んであげる」

 

 

 

目を細める彼女の表情はどこか蠱惑的で既に母性を知っているような気がする。

 

その眼の奥は既に未来の子を宿している気がして少し恐ろしくも感じるが、でもそれだけ本気になる彼女に俺は引き込まれる。

 

やはり彼女なんだ、おれは。

 

オワタ式に絶望した心と、忘れてしまった機能を、元の型に取り戻してくれた。

 

死の恐怖をちゃんと意識して、生きるために戦えるゴッドイーターとして、俺はやっとそうなれたんだ。

 

 

「(生きることから逃げるな…か)」

 

 

そんなセリフがあった筈。

 

たしかにそうかもしれない。

 

俺は生きることから逃げてたと思う。

 

でも今は違う。

 

生きるために逃げる。

 

それがオワタ式としての正しい歩み。

 

セーブもリセットも無い、一度限りの命。

 

なら、その一度限りを彼女のために。

 

 

 

「マロン」

 

「?」

 

「明日も、頑張って、生きて」

 

「……ああ、任せろ」

 

 

 

この世の神では編み出せない、人間の営み。

 

彼女の言葉に Yes と口付けを送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜 極東の屋上 〜

 

 

 

 

 

「やぁ、早いお目覚めだね」

 

「エリックか、お前も早いな」

 

「たまたまさ。 いつもならまだ寝てる予定だが今日は妹と久々に会う予定だからね。君もご一緒するかい?」

 

「いや、今日は2時間後に遠征だ。それまで1時間くらいストレッチしてから行くつもりだよ」

 

「念入りだね」

 

「死にたくないからな。足くじいてアボンなんて華麗じゃないから」

 

「そうかい」

 

 

 

ヘリコプターはまだ飛ばない時間だから静かな朝日だけが俺たちを照らしている。

 

するとこの屋上にまた一人やってきた。

 

 

 

「ソーマじゃん、早いな」

 

「……なんだ、お前らか」

 

「黄昏ソーマとかレアじゃん。 早起きしてよかった」

 

「ちっ、早朝から口の減らない奴だ…」

 

「やぁソーマ。おはよう。君もこの朝日に引き寄せられたのかい?」

 

「……」

 

「違うなエリック。俺たちはなんとなく来ただけだろ。それが今日あり得ない確率で集われただけだ。もしや今日の運は使い果たしたか?」

 

「ふんっ、だとしたらどこかでくたばるかもな」

 

「なーに言ってんだソーマ。俺の自室でまだ寝転がってる大天使リッカから運を補充すれば無問題だから」

 

「今だけ寝顔が可愛い堕天使だろうけどね」

 

「眠りに堕ちてる天使の意味で堕天使か。堕天使リッカ……うん、アリやな」

 

「早朝から何故惚気なんか聞かされているんだ、俺は」

 

「そこは僕も同感かなソーマ」

 

 

まさかのソーマ側に回ってしまったエリックに内心驚きながらも冷やされていたあったかいカレードリンクを喉に流し込む。

 

それから数分は無言の時間。

 

その間に軽く今後の方針を立てる俺は不意に話題を投げた。

 

 

 

「今日お前ら仕事?」

 

「僕は午前中だね仕事さ。討伐目標がシユウだから足をパパッと破壊して華麗におしまい。午後は妹のエリナと夜ご飯を楽しんでくるさ」

 

「ふーん。 ソーマは?」

 

「…いつも通りだ。 アラガミをぶっ殺す」

 

「答えになってないけど、とりあえずアレ(特務)な事はわかった」

 

「…」

 

「??」

 

 

 

エリックは特務を知らない。

 

何か大変なことをやってるのは本人も雰囲気で理解してるがそれが、特務と言う用語の中でミッションを行なっている事は知らない。

 

俺からしてエリックの実力は確かだけど、リンドウクラスにならないと特務は受けることができない。

 

ちなみに俺は調査隊として特務となるミッションの下調べに向かわされているため、特務に駆り出されるゴッドイーターを全員知ってる。

 

まぁ指で数えるほどしかいないけどね。

 

 

 

「まぁ、無理はしないようにね、ソーマ」

 

「心配なら自分の心配をしておけ、エリック」

 

 

 

やはりエリックに対してはどこかデレがあるよなこの自称死神は。俺に対してはあまりデレはないのになんだよこの扱い。 根っから嫌われてる訳じゃないのはわかっているけど、もう少し仲良くなりたいな。

 

まあ、いずれデレてくれるだろう。

 

頑張れ、レンカ!

 

イロハ攻略ルートと同時にソーマも攻略してくれよなー、たのむよー

 

 

 

「さーて、俺はミッション開始までストレッチしてくる」

 

「相変わらず念入りにだね」

 

「ああ、死にたくないからな」

 

「……本当、君は変わったね。マロン」

 

「んあ?」

 

「昔なら『死なないように』って言葉を程度だったが今の君は『死にたくない』ってハッキリしている。友人として心の奥底から安心してるよ」

 

「え?あ、うん。なんか心配させて悪い…な?」

 

「なぜそこで疑問形だ、お前と言う奴は」

 

「いや、ちょっとわかんねーよ、ソーマ」

 

「ふっ…ふははは!」

 

 

エリックは高笑いする。すると手をバッと広げると右腕は俺の肩に、左腕はソーマの肩に、それぞれの肩にエリックは腕を乗せて三人の距離をグッと縮める。

 

唐突な行為に俺は驚くが、その好意と行為を理解して俺からからもエリックの腕を掴んで固定してケラケラと笑う。

 

ソーマはフード越しから驚きを示して鬱陶しさを視線に表す。でも本気で嫌がってはいないみたいで、舌打ちひとつだけで抵抗した。エリックはその細やかな抵抗に笑い飛ばしながら腕の力を強めて、俺たち三人の泥臭そうな友情が朝日と共に照らされていた。

 

 

 

 

 

俺たちはゴッドイーターで、アラガミと言う理不尽と戦う兵器だ。

 

故に、バケモノと言える存在。

 

でも人である事は変わりなく、この体にちゃんと心もある。

 

だから幾度無く感情に振り回されながらも毎日を人間として大地を踏みしめていた。

 

そしてなぜ俺はこんな世界に降り立ったのか未だにわかってない。神のいたずらにしては命安いレベルで笑えない。

 

理不尽極まりない転生物語だけど、ゴッドイーターになった以上は神を喰らう存在として俺は続ける。

 

例え、神機が異常な代物だとしても。

 

それを握りしめて今日も戦う。

 

そして、自分がヒトである事を忘れないために心で生きる。

 

 

 

それが__オワタ式な神機使いの生き方

 

 

 

これが台場マロンと言う人物なんだから。

 

 

 

 

 

 

 

お わ り






色々とデータが破損、または消失してたのでボリュームが落ちてますが、これで投稿できる物は全てでございます。

今と比べて3年前クォリティーですが、こんな作品も書いてた頃があったんだなと、懐かしく思いながら少しだけ手直ししつつ、これにて19話分は工事完了です。

ちなみに続編は書く予定ありません。
なんとなくアニメ進行で綴っただけの作品なので。

次の小説に取り掛かりたいと思います。
一ヶ月程度の更新。
お付き合い、ありがとうございました。


ではまた!


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