白雪に染る夜叉 (ほがみ(Hogami)⛩)
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キャラ紹介 六花

六花(りっか)

 

誕生日   5月24日 

所属   璃月仙人

神の目     氷

命ノ星座  玉塵座

璃月を古くから守っている仙人・夜叉。「雹蕾」や「飛雪大聖」と昔は呼ばれていた

 

キャラ詳細

 

少年のような体つきだが、1000は軽く超えている仙人だ

彼曰く、途中から数えるのが面倒になったと言っており、実年齢はもっと上なのかもしれない

無妄の丘にてよく目撃されるが、白いような服装のため妖魔とか亡霊だとか恐れられている

だが彼は気にしていない。なぜなら彼は人の名声など必要ないからだ

恥ずかしがり屋?いやいや、そんなことはない。なぜなら彼には恥ずかしいという感情はもう捨てているからだ。それ以外にもかなりの感情をこれまでに捨ててきている

―彼に残っているものは、誰かを守るための力と妖魔を倒すという意思だけなのかもしれない

 

 

 

キャラクターストーリー1

 

六花は何故一人で戦うか――

それは一般には流出していない飛雲商会秘蔵の伝記、「氷傀儡夜叉記」に記されている

『昔、無妄の丘となる場所には氷の傀儡を使う無名の夜叉がいた。その夜叉は常に一人。孤高に生きていた。昔、近くを旅していた旅人が聞いた「貴方はどうして一人で戦うのか」と。すると、夜叉は答えた「我は失うことを恐れた。ただそれだけだ」。次に旅人が何を失ったか、あなたは誰かと聞いても答えてくれなかった―』

 

 

キャラクターストーリー2

 

六花は雪の山で生まれた仙獣であった

だが彼は実の親を知らない。彼曰くそのときの記憶にあるのは冷たく白い雪に染まる赤い血と空腹の苦しみだけだった

ある日、六花は縄張り争いに敗北し、その日の食事を得られなかっただけでなく、体中に怪我を負い、死を覚悟したが、後に主となる女性に助けられ。一命を取り留めた

彼は自分の命を助けてくれた彼女に忠誠を誓い、一生守り続けると誓った

 

 

キャラクターストーリー3

 

雹蕾。その名が人の世に知れたのは古く、厄を払う夜叉の名だと伝わっていた

その身が危機に瀕しているとき…その名を呼べばどこからともなく冷たい空気が立ち込め、目の前の危機を払うとされている

人曰く『それは希望であった。魔物の危機に瀕した我を窮地から助けてくれたのだ。あの夜叉を模すような面…あれには絶望を払う力と希望があるに違いない』

 

 

キャラクターストーリー4

 

彼は岩王帝君の完全なる夜叉ではない。だが、岩王帝君を自らの主であるかのように敬い、帝君の意思に従ったり異論を唱えたりするそうだ

『俺が彼から提案されることや意見を反対されてもなにも思わないのは、彼に多大なる信頼やその実力を認めているからだ。もし、俺がこの世界から消えたとしても彼ならば…俺の目指した世界を作ってくれるだろう』

鍾離は彼についてこう語っていた

だが、その言動からか他の仙人からは変なやつだと思われていたらしい

 

 

キャラクターストー…(以下略 随時更新

 

 

 

ボイス

 

 

初めまして…

ん?お前は…初めて見る顔だな。我の名は…六花。覚えていても得はない

だが…もし名を呼んでくれたら、我はすぐに駆け付けよう。この剣はお前たちを守るためにあるからな

 

 

世間話 暇

暇だな…留雲のところにでもいくか…いや、魈と手合わせを…いやでもな…

 

 

世間話 日常

我の日常は特に面白くない。妖魔を倒し、傀儡の調整を行う…それだけだ

 

 

世間話 自然

人の世は苦手だ…我は自然と共に過ごす方がよっぽどいい

 

 

雨の日…

雨はいい。我の傀儡の力が最大に発揮されるからな

 

 

雷の日…

雷…あまり嫌いじゃない

 

 

雪の日…

雪…白い…彼女を思いだしてしまうな

 

 

晴れの日…

空が青いな。しばらくはこの旅路もいいものになりそうだ

 

 

おはよう…

朝だ。早く起きないとやるべきことがどんどん過ぎていくぞ

 

 

こんにちわ…

昼時だな。万民堂の料理を食べにでもいくか?

 

 

こんばんわ…

夜は一番不吉な時間帯だ。我はともかく、人の者は恐怖で怯えるだろう…おい、どこへ行こうとしている?ま、まて、我もついていこう!

 

 

おやすみ…

休息は必要不可欠だ。よい夢をみろ。そしてそれを我に伝えろ。そうすれば、我も夢を見たという気になる

 

 

六花自身について 忘れられない

我には忘れられないことがある…それは我の元の主のことだ。帝君を悪く言っているのではない。ただ…彼女は…

 

 

六花自身について 璃月

守るべき場所だ。帝君が治めていた璃月ではなくなり、人の璃月になったとしても同じこと…人の世は苦手だが、だからと言って手放すことはしない

 

 

彼女…について…

彼女は我の主であった。心優しく、いつもニコニコしていて…愛らしかったのを覚えている。だが…彼女は…

 

 

神の目について…

これか?知らん

 

 

興味のあること…

あの万民堂の小娘が作る特殊な料理を味わってみたいな―ん?清心のスライム炒め…?い、いやっぱり遠慮しておこ―いや、我は食すぞ…仙人の誇りにかけて…

 

 

興味のあること2…

もう長いこと彼女に会いに行っていないな…行かなくてはな。彼女に今の我を見てもらうためにも

 

 

鍾離について…

鍾離様は賢いお方だ。我は尊敬している―だが、モラの使い方が…少しな

 

 

魈について…

あいつは魔神戦争時代からの友だ。いい意味でも悪い意味でもな。だが…あいつは昔とは変わったな

 

 

甘雨について…

人優しく、仕事はなんでも一生懸命に頑張るいい子だ。最後に彼女に会ったのは…ざっと500年もあってないな…今度会いに行くか

 

 

仙衆夜叉について…

我もかつては仙衆夜叉の一人になれるだろうと期待されていた。だが、我は帝君からの誘いを断り、影で璃月を守る夜叉となった―ん?なぜ断ったのか…だって?ははっ。名のある夜叉になってしまえば、要らぬ期待を背負ってしまうからな。我には合わぬ

 

 

瀞について…

彼女が仙衆夜叉になる前から我は彼女を知っている。彼女と我は俗にいう幼馴染のような関係で、我が仙衆夜叉を断った時、彼女は悲しそうにしていた―彼女が亡くなった時…我は気が気ではなかった。それほど我は彼女を想っていたのだろう。彼女には悪いことをしたと何千年も悔やんでいる…

 

 

申鶴について…

我と彼女はどこか似ている気がする…いつか分かり合えるかもしれないな

 

 

重雲について…

最近の方士はどれもあれのような感じなのか?はぁ…我がせっかく教えた法術もこの世から消えるのか?―なんだ?二度は教えぬぞ

 

 

刻晴について…

彼女は最初から神に統治される世界を嫌っていた。帝君はどう思うかわからないが、我はその意思が好きだ。どうせなら、自分で世界を作っていった方がおもしろいしな

 

 

七七について…

以前薬草を採っていた彼女を守護したことがあってからというもの物凄く懐かれたのだ。我は嫌いではないからよいが…彼女はどう思っているのか?

 

 

濫について…

彼女と初めて会ったのは、今から数千年前のことだ。瀞が死の危機に瀕した時、彼女は現れ、瀞を救った。彼女の秘密を知っているのは、我と留雲、そして理水だけだ。帝君の前では1度も現れたことは無い

なぜ現れなかったのか―それは今でも不明なままだ

 

 

好きなものについて…

彼女()があのときに作ってくれた心温まる料理が好きだ

 

 

嫌いなもの…

嫌いではないが…最近チ虎魚焼きを食べ過ぎていてな…あれは特別な日に食べることにしよう

 

 

六花の悩み…

最近、仙衆夜叉たちの(最期)を見る…我は彼らに酷いことをしてしまったのかもしれないな…

 

 

 

六花について知る 1

我を知って何になる。我は俗世とはかけ離れた夜叉―いや、それは普通なのか…?

 

 

六花について知る 2

夜叉である我は一度人の世だけではなく仙人の世からも離れた。なぜならもう目の前で――我の親しい人が死ぬのを見たくなかったからだ。だが…いまはこうしてお前と旅をしている。摩耗とは不思議なものだな

 

 

六花について知る 3

俗世は苦手だ。なぜなら我の正体を知ってしまえば我に頼ろうとする人が増える。それはつまり自らで成長しようとせず、他人の力で成長しようとしているとも言いかえることができる―…我が手を出さなくても成長できるというのになんとも言えないな…だが、人の力で解決できないことは我らに頼れ。必ずその困難を解決してやる。だがその際に言葉を違うな。その時、我はもう助けようとは思わないかもしれないからな

 

 

天賦

 

 

通常攻撃    

【氷垂月華】  敵に最大6段の攻撃を与える

  【重撃】   一定のスタミナを消費し、範囲攻撃をする

【落下攻撃】  空中から落下し地面に衝撃を与える。経路上の敵を攻撃し、落下時に範囲ダメージを与える

 

 

 

 

元素スキル

 

【晴天雹凍】  前方の敵に氷元素ダメージを与える。敵が凍結した場合、凍結時間が増加。凍結した敵へのダメージ増加

 

彼の心はいつも凍っている。それは、ともにこの技を生み出した彼女がもうこの世にはいないからだろう。だが…彼の心を溶かすときは、もうそこまで来ている

 

 

 

 

元素爆発

 

【玉塵法剣】  前方の一定の範囲内に下から巨大な剣を形成する。形成された直後、巨大な剣は崩壊し、六花に氷の傀儡を纏わせ、攻撃モーションの変化、通常攻撃が氷元素ダメージになり、攻撃速度が上昇する。この効果は六花が退場時に解除される

 

六花が夜叉になり始めて会得したこの仙術。威力は弱くとも璃月にこれを真似た術があるという

 




随時更新中。増えたり減ったり(?)します
物語が進んだら斜線引かれるかもしれません
たまにここらへんをいじってるので見てってください


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キャラ紹介 瀞

(せい)

 

誕生日   7月22日

所属    璃月仙人

神の目     水

命ノ星座 螺旋巻録座

璃月を守っている仙衆夜叉の一人。「伐灘」や「螺巻大将」と呼ばれている

 

 

キャラ詳細

 

仙衆夜叉・伐灘の名で通っている仙人であるが、伝承ではすでに死しているため、その名は通らなくなってしまった

だが彼女はそんなの気にしていない。人が幸せであればそれでよいと考える心優しい女の子だ

優しそうな顔、声、見た目ともに見た人全員が認める絶世の美女。極めつけはそのまぶしい笑顔だろう。数々の男性がこの子に目を奪われたが、この子は彼らのことなど眼中にない。なぜなら彼女には心から思う人がいるから

―目を奪われたとしても、彼女の本当の姿を知るものはいまだ訪れない…

 

 

 

キャラストーリー1

 

水面瀞笛。それは彼女が作れる数多くのなかの一つの楽器であり、その音色は水面のように穏やかで、心休まるようである。その楽器が作られたのはもうずっと前のことであり、彼女も思えていないんだとか。だがその笛を手に取ると何故か懐かしいような感情をその胸にあるという…

 

キャラストーリー2

 

仙人の里。それはかつて存在したと人の世に伝わる伝説上の里である。しかしそれは伝説ではないことが瀞にはわかる。なぜなら彼女自身、その里出身であるからであるから

かつてのその里は、留雲借風真君や理水畳山真君など、名のある仙人も過ごしていた。その里の中での彼女はまだ幼く、今の身長の胸くらいの身長しかなかったが、そんな瀞でもいろんな人の傷等を治していた

まだその名がなかったときの話だ

 

 

キャラストー(以下略 随時更新

 

 

 

 

 

ボイス

 

初めまして…

王難、賊難、水難、火難、羅刹難、荼枳儞鬼難、毒薬難の時は私を呼んでください~。ほかにも―厄難とか病難の時でも呼んでもらえるとすぐ駆け付けます~。「三眼五顕仙人」――「瀞」ここに参上―です!

 

 

世間話 暇

お暇ですね…こんな時は――何しましょう?

 

 

世間話 業瘴

う――っ…大丈夫です…ご心配おかけしました

 

 

世間話 人の世

あ!今日は万民堂の最新作が出る日…は、早く帰ってもいいですか…?

 

 

雨の日…

雨はお好きですか?

 

 

雷の日…

うわっ――!か、雷は苦手なんです…

 

 

雪の日…

この寒さは使えますね…あ、寒かったら言ってください!私が羽織るものお貸しますよ!

 

 

晴れの日…

うーん!いい天気!どこか一緒にでかけませんか?

 

 

おはよう…

心地の良い朝ですよ。こんなに心地の良い朝には早起きすることが大切です!です!

 

 

こんにちは…

お昼の時間です。万民堂のお料理を食べに行きませんか?

 

 

こんばんわ…

夜ですよ…この世界で1番危険な時間帯です。妖魔といい魔物といい、全てが活発化する時間帯ですので、出歩く際は私をお呼びください

 

 

おやすみ…

おやすみなさい…私もあなたのそばでなら安らかに眠ることが出来ます。いい夢を

 

 

瀞自身について 業瘴

歌の魔人が私につけた業瘴は、ほぼ永久に取れることはないでしょう。ですが、心が安らぐことをすれば…取れる気がします…多分

 

 

瀞自身について 契約

契約は時には悲惨な結果をもたらす原因にもなります。その一例が私です。契約があるために…彼を殺さなくてはならなかった…戦友だった彼を倒さなくてはならない…それほどに辛いことはこの先もないと思います

 

 

神の目について…

私達夜叉は神の目が無くとも力を発揮できます。ですが、それは自らの業瘴を代償にするので、近くに人がいた場合にはとても危険です。なので、神の目は人を守るときに使います。少なくとも私はそうやって使っているつもりです

 

 

興味のあること…

浮舎の兄者…まだ見つかっていないそうですね…

 

 

魈について…

金鵬は未だ妖魔を退治しているのですか?はぁ…私達が現世から消えてしまったがために一人で戦っていたなんて…こんどあったらありがとう会を開きましょう!そうしましょう!

 

 

仙衆夜叉について…

私が属していた仙衆夜叉はもういません。一人は狂い、一人は魔物となった…そしてもうひとりは―私が殺害しました―生き残ったのは金鵬と私のみ。そんなの仙衆夜叉とは呼べません

 

 

六花について…

六花は私が彼がほかの魔神に身を挺して守っていた時期からの友です。私は帝君。彼は帝君と仲が良かった魔神のお方についてました。本当に幼馴染といっても過言ではないですね

 

 

モラクスについて…

私は帝君に忠誠を誓いました。それは不変です

ですが…人の璃月になったことにより、帝君は逝去されたと世には伝わっています。私はどのようにして璃月を守ったらよいのでしょうか…

 

 

香菱について…

彼女の独特な料理センスは面白いですよね〜清心のスライム炒めとか、炎スライムと若竹の組み合わせとか…向こう千年たったとしても、彼女みたいな料理人は現れないと思います

 

 

濫について…

彼女は……私の弱さに呆れてました。数千年前から何も変わっていないと――私も実際、それは思っています。ああしたい、こうしたいと言葉だけで願ってもそれは実現しません。だからこそ彼女は実践に移ったのでしょう

 

 

好きなものについて…

お肉が大好きです!お肉に勝るものはありません!

 

 

嫌いなものについて…

甘いものは好きなほうですが…スイーツでない料理は嫌いです…例えば―揚げ魚の甘酢がけとか…あれ、甘い意味あるんですか?

 

 

瀞の悩み…

うう…業瘴のせいで本来の力が出せません…これでは夜叉の名がぁ…

 

 

瀞について知る1…

私は仙衆夜叉として様々経験してきました。人を助けることや、動物を森に帰すこともありました。ですが、あなたのように旅をしたことはありません。ですので、無知な私を連れて行ってください

 

 

 

 

 

天賦

 

通常攻撃

  【芙蓉覆水】 敵に最大4回の攻撃を与える

    【重撃】 一定のスタミナを消費し、大きな水滴を爆発させ、範囲攻撃をする

  【落下攻撃】 空中ら水元素を集中させながら落下し、地面に衝撃を与える。経路上の敵を攻撃し、落下時に範囲攻撃を与える

 

 

元素スキル

 

【落花流水の情】 水の羽衣のような円を纏い、継続的に範囲内の敵を水元素ダメージを与える

         「水火も辞さず」

         一定間隔で敵に仲間の及び付近のキャラクターHP回復。

         氷・炎元素の元素ダメージアップ

 

璃月にはこのような熟語がある。"伐難情成"。その意味は、伐難は心優しく、すべての人を救う夜叉であったから伐難のように心優しき人になりなさい―という意味だ

 

 

元素爆発

 

【湊妖儺舞】  水元素を両手に集中させ、大きな鉤爪を形成する。形成されたあとは、攻撃モーションの変化、通常攻撃が水元素攻撃になり、付着させた水元素の継続時間が伸びる。この効果は瀞が退場時にクリアされる

 

業瘴を使って発揮する伐難としての本当の姿。彼女のこの姿を見ることは稀と行っても過言ではないだろう

 

 



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エピソード
エピソード 六花「凍った時」


エピソード作って見ました



無妄の丘には幽霊が出る――その噂はいつ頃から聞こえていたのだろう

十年、百年、もしかすると千年前から囁かれていたのかもしれない

事実か。それとも虚実か。それを知るには無妄の丘に行く必要がある

だが、大抵の人はそこの雰囲気に怯え、その正体を見ることは不可能であった

 

そんな中…2人の子供が偶然そこに迷い込んでしまった

 

子供たちは恐怖と戦いながらこの丘を越えて自らの住処へと帰ろうとする。ざわざわと草木が騒がしく会話をし、風の音は木の隙間を通り抜けるとともに不気味な声をあげる

 

莉「ねぇ…燎ちゃん…大丈夫なの…?ここ…お父さん達が言ってた怖いとこだよ…」

燎「大丈夫…きっと仙人様が助けてくれるから…進み続けよう…」

 

燎と名を得た少年は莉と名のある少女を心配させぬと声をかける。だが、少女はわかっていた。少年もまた恐怖しているということを

それに伝説ではこの丘は死の丘とも呼ばれており、踏み入れたものは誰1人として生きてこなかったと

なぜなら、昔ここには魔物がたくさんいたが、とある時を境に全て消えてしまったから。

ガサッ-その音に莉は怖くなり、ぎゅっと目を瞑る

 

莉「怖い…怖いよ…」

燎「大丈夫、僕がいるから。」

 

怖がる莉の手を優しく燎は握る

―その時。草木の隙間から何者かが2人を襲いかかってきた

バッと燎が振り向くと、そこには一匹のリスがいた。燎がほっとしていると、更に草木の音が数多く鳴り響く。ガサガサと不安を煽るかのようにその音は続き、二人は恐怖に怯える

だが、少年はその恐怖に恐れず、少女を護るという勇敢な気持ちを持ってその草木から出てくるナニカに備える

 

バッと出てきたナニカに大きく手を広げ、少女を護る体制に入った

もうだめだと思い、目をつむったその瞬間、氷点下のほどの冷気が無妄の丘を包み込む。水は凍り、草木には白き霜が化粧をしたかのようにつき始める。少年たちは恐怖というよりも、何故か安心感をその冷気から感じ取ることが出来、少し不気味に思った

ザッザッ…と少年達に近づく足音。莉は怖くなり、更にギュッと燎の手を強く掴んだ

 

「―無事か?」

 

優しくかけられた声に燎はそっと目を開ける

そこには仙人のように白く、氷のように凛々しい青年が立っていた

 

燎「あなたは…」

「我の名など良い。お前たち、ここに迷い込んだのだろう?」

莉「どうして分かるんですか…?」

「君たちからは塩の香りがするからな。大方港の子で、ここにはお使いかなにかで来たところ…ここに迷ったのであろう?」

 

青年の考察はほぼ等しかった

二人は璃月港に住む子供で、軽策荘にいるばあやに会いに来たところだったが、途中魔物に襲われ、頑張って逃げて来たらここまで来てしまったというわけだ

ここは軽策荘に近いが、道を間違うのもわからなくはない。ましてや魔物の襲われているときなど、冷静に判断出来ないのだ

 

「ここは危険だ。我がお前たちの行きたい場所に連れて行ってやろう」

莉「いいの?」

「あぁお前たちを助けることは我の使命でもある。それに子供を見捨てるようなものでは、契約に反するからな」

 

そう言って青年は二人を安全に移動するため、傀儡を生成して抱きかかえる

氷の傀儡は冷たくなく、人肌のように温かい。それは実の母に抱かれているかのような心地よさで、二人は眠くなってしまう

 

「眠たいのなら寝ると良い。よくここまで二人で来たものだ。疲れただろう」

燎「軽策荘の…ばあやに……」

 

燎と莉の記憶はそこで終わった

次に目が覚めたときは、助けてくれた青年が声をかけたときだった。そこは二人の目的地であり、目の前には二人のばあやが心配そうな声で二人の名を呼んだ

二人は、涙を流しながらばあやに駆け寄ると、大きく手を広げたばあやに抱きつき、安堵の声をあげた

 

二人はどうやってここに来たのかと。どのような経緯があってここに来たのかと問うと、二人は声を揃えてこういった「この人が助けてくれたよ」と。後ろを指差し、後ろを振り向くと、そこには季節外れの白雪が舞っていた

 

莉「あれ…でも…助けてくれたもん!」

婆「それはきっと仙人様じゃなぁ…感謝するのじゃ、仙人様はいつでも助けてくれる」

二人「「ありがとう仙人さま…」」

婆(まさか二人も仙人様に会うとはなぁ…私の孫を救っていただき感謝します。飛雪大聖様…)

 

感謝をされた青年は木の上からその様子を眺める

決して人とは交わらない。それが青年、もとい飛雪大聖の決意。人と交われば人は必ず仙人に頼る。そして仙人ほど生を得ることは出来ない。それ故失うものは人の比ではない。だがしかし…彼女…あのばあやは以前、飛雪大聖が助けた者であった

―あんなに老けてしまったかのかと少し感情が落ち込んだ。だから人と関わるのは嫌なのだと改めて実感する

 

「…出逢えば失う。我の大切なものはもうほとんど残っていない」

 

初めに出会った大切な人

次に出会ったたくさんの仲間(夜叉)

そして助けるべき大切な民

 

その殆どを時間と共に失い、今やもうなにも残っていない

風が音を運び、光が暖かさを作ろうとも、彼の止まった心の時間を進める事は出来ない

 

――無妄の丘から妖魔の気配がする。あの辺り一帯は一通り妖魔を滅したはずだが…と飛雪大聖は思い、その場から立ち去った

 

その妖魔の気配の地点に行くと、嫌な感じなれた感覚をその場に感じた

普段の妖魔とは違い、縛られるような感覚。それは昔、それも2、300年前に感じたものとそっくりであった

だがそれはありえない。なぜならその元凶は断ったはずだから

非常に似た存在なのかまたは……

 

あたりを見ると、妖魔に取り憑かれた魔物がおり、追いかけられているのは、二人の方士。倒そうともしているがその力は歴然。妖魔によって強化された魔物の強さは並大抵ではなく、人間に対応できるものではない

―だがその二人は、飛雪大聖が驚くような術を使った。だからというわけではないが、彼もいつもは違い、氷の傀儡を生成して助けてやることにした

そして…

 

「…まったく…最近の方士は弱い…」

 

二人の方士に向かってそう言い放った




そういえば名前変わりました
青空の愛犬家から、YouTubeでも使ってるほがみにしました


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本編 雪のような夜叉
0話 名の知れぬ傀儡使い


―無妄の丘。そこには強い妖魔が多く、人など立ち入ってしまえば、すぐにでも狂ってしまう危険な場所…故に人は近づかない。ただでさえ不気味なのにさらに危険があるなど、死に急ぎもいい所だと口を揃えて言う

 

そんな無妄の丘に2つの冷たき影があった…

 

――――――――――――――――――――――

 

「yeye,rooureu,ydyu!」

 

巨躯な体を持つヒルチャール暴徒は2人の璃月人をしつこく追い回す

2人の璃月人は戦闘に長けているのだが、なぜか戦うことをしない。それを見てかヒルチャール暴徒は仲間をよび、逃げ惑う二人の璃月人をさらにしつこく追い回す

やがて、目の前に大きな崖が聳え立ち、二人の行方を阻む

 

?「っ…戦うしかないか!」

?「そのようだな…重雲、主は左を頼む。我は右を」

重雲「はい!」

 

2人の璃月人は戦闘を始める

所詮はヒルチャールと侮ってはいけない。このヒルチャールたちはどこかおかしい。なぜだか獰猛になっている。それを吟味してたたかわなくてはいけない

2人は、氷の神の目を持っているが、それでもかなり手ごわい敵だ

 

?「くっ…なぜこんなにつよい?」

ヒルチャール暴徒「yedada!u hyhoei itoo yuo!」

重雲「申鶴(おば)さん!元素爆発を使おう!」

申鶴「よかろう!"天真敕奏"!」

重雲「"妖魔め、立ち去れ"!」

 

申鶴の元素爆発は氷の傀儡、重雲の元素爆発は氷の剣

2人が放った元素爆発はヒルチャールたちにヒットし土煙が上がる。土煙が晴れたあと…敵が一掃されているものと誰もが思った。だが実際は、ヒルチャール暴徒以外のヒルチャールが倒されていて、暴徒は無傷のようだった

2人はどうしてと悲嘆にくれるような顔をする。いや、驚きといった方がよいか

―俺は無傷だぞと言わんばかりに雄たけびを上げるヒルチャール暴徒。その手に持った大きな斧を時が止まったかのように動けない二人に向けて振り下ろす

その時。それは彼らを守った

 

?「―――――」

ヒルチャール暴徒「ganshui???!!!!」

申鶴「氷の…」

重雲「傀儡?!」

 

彼らを守った氷の傀儡は斧を跳ね返し、その場でくるりと一回転すると、そこに白と青を基調とした蒼白髪の青年が立っていた

その姿は凛々しく、青年とは思えない立ち姿であった

 

?「まったく…最近の方士は弱い…」

 

そう呟いた彼の名は六花(りっか)。またの名を…飛雪大聖と呼ばれていた人々の記録にはない夜叉である

彼はいとも容易くヒルチャール暴徒を撃破し、その手に持った片手剣をシュッとしまう

な、何が起こったんだと重雲はつぶやく。それもそのはずだろう。撃破するのにかかった時間はおよそ"0.5"秒程。七神のような強い方々であれば、それはお茶の飲むくらいなのだろうが、一般人から見れば、一瞬消えた瞬間、次の時にはヒルチャール暴徒が倒れているのだから

 

申鶴「氷の傀儡を使った…あなたは一体…?」

重雲「助けていただき感謝致します。その…あなたは?」

六花「我の名は六花。お前たち方士の師となるものだ。覚えても得はない」

 

彼はそう言って消えてしまった

不思議に思った2人は璃月に帰った時、それぞれ彼について調べることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――重雲side――

 

璃月に戻った重雲は、方士の家系を辿った

方士としての家系。重雲らを救ってくれた彼の者は「お前たちの師となるものだ」と言っていた。そしてあの強い氷の傀儡…一般人ではないことは火を見るより明らかだろう

 

重雲「家系だけじゃなく、歴史とかも調べて見ようかな」

行秋「ここにいたのか重雲」

 

飛雲商会の次男坊こと、行秋は重雲に声をかける

 

重雲「あ、行秋。ちょうどよかった!少し僕の調べものを手伝ってくれないか?」

行秋「今日暇だから別にいいけど…何を調べているんだい?」

重雲「"六花"という人について何か知らないか?」

 

行秋はかなりの読書家であり、かなりのことを知っている。飛雲商会の次男坊ということもあってか、暇があったら読書をしているくらいだ。ついでに言うと剣術にも優れていて、かつて栄えた古華派という剣術の流派を学んでいる

はっきり言うと…従者よりもはるかに強い。星を付けるなら星6が付くほどだろう

 

行秋「うーん…六花という人は知らないな。僕も璃月全ての人を知っている訳じゃないからね」

重雲「そうか―あんなに"強い氷の傀儡を使ってた"んだからてっきり腕の立つ人かと―」

行秋「―その人をどこで見た?」

 

行秋は少し驚くような声で重雲に質問を投げかける

 

重雲「む、無妄の丘で見た」

行秋「――――」

 

少し考え込む行秋。だがすぐ答えは出た

 

行秋「―昔、ある人の著書で見たことがある。魔人戦争時代、無妄の丘となる場所には氷の傀儡を使う夜叉がいたと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――申鶴side―――

 

申鶴「師匠」

留雲「なんだ?悩み事か?」

 

璃月の西北部、奥蔵山に住んでいる白く美しい鳥の仙人は申鶴の師、留雲借風真君だ

彼女は俗世とは関わらないという性格をしており、普段からこの仙府にこもってからくりの発明や仙術の鍛錬など色々と勤しんでいるのだが、何故かよく物知りで、本当によく分からない人だ

 

申鶴「悩み…というのではないのですが…」

留雲「悩みではないのならばなんのようだ?近頃は俗世に顔を出しているではないか。妾はてっきり想い人が出来たのかと思ったの―」

申鶴「"六花"…という名に聞き覚えはないでしょうか?」

 

その名を言った途端。彼女は静止した

 

留雲「…六花。その名をどこで聞いた」

申鶴「妖魔と対峙しているときに助けてもらいました。かなり強い氷の傀儡を行使していましたので、師匠なら何か知っているかと」

留雲「―あやつ、まだ存命していたか」

 

留雲は少しめんどくさそうに口を開き申鶴に六花という名の男について語り始めた

 

留雲「かつてあやつとはともに競い合う者であった…妾が仙府の中でからくりを作り、彼がそれを攻略した。攻略された妾はさらにそれを改良してよいものを作った。よくこの仙府に足を運んでいたのだから、甘雨のやつも彼のことは知っておる」

申鶴「魈も彼のことは知っていますか?」

留雲「さてな。降魔大聖が知っておるかどうかは妾にはわからん」

魈「我の名をよんだか?」

 

風と共に現れた少年の名は魈。降魔大聖や金鵬の名で知られている三眼五顕仙人の夜叉の一人だ

普段は望舒旅館付近の妖魔の討伐を帝君から命じられている。今ここにいるということは仕事が終わった後なのだろう

普段から無口な彼はとある人とかかわったことにより少し柔らかくなった。いつもは氷のようだったが、最近は水に近くなってきていると留雲借風真君はいう

 

留雲「降魔大聖…六花という者は知っておるか?」

魈「―――六花。懐かしい名だな」

申鶴「貴方も、彼のことをご存じで?」

魈「彼とは魔神戦争時代からの仲だ。同じ夜叉として、ともに腕を磨きあげたからな」

 

魈は懐かしむように口を綻ばせる

 

魈「だが、急になぜその話を?」

留雲「なんでも、申鶴が六花と話をしたと」

魈「――あいつ…まだ生きていたのか?」

申鶴「…?二人とも、どうして同じような回答をするのですか?」

 

申鶴がそう問うと二人は口をそろえてこのように言った

 

―――あいつは変人だったと

 



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1話 妖魔の気配

評価1ついちゃった…と思ったんですが、評価1でも貴重な評価ですのでこの一票を大切にしていきたいと思います
ただ…これだけは言わせてほしい














ー毎回同じ人が私の作品に1つけていくのはもう私のアンチやんけ


――旅人side―――

三杯酔――璃月チ虎岩の一角にある茶店。そこには講談師がいて、飽きることの少なく、お茶も翹英荘の良質な茶葉を使っているらしいからとても良いものだ

旅人はこの三杯酔に呼び出された…

 

パイモン「鍾離―来たぞー」

 

旅人()の隣を浮遊する小柄な少女は三杯酔の席に座る凛々しい男性に声をかける。彼の名は鍾離。葬儀屋往生堂の客卿で、謎多き人。博学多才で伝承・儀式・歴史・鉱石・植物と、ありとあらゆることをその頭に入れているため、璃月では先生という愛称が使われている

 

鍾離「来たか」

蛍「今日はどんな用事なの?」

鍾離「話が早くて助かる。だが、稲妻から帰ってきたばかりだろう?まぁこの店のお茶でも飲んですっきりとするといい」

パイモン「そんなこと言ってモラは大丈夫なのか?」

 

すると鍾離は心配しないでくれと一言。モラに関しては今までは「公子」が払ってくれていたのだが、あの"一件"があってから、「公子」は璃月にいることが出来なくなってしまった

どうやってモラを払うのだろうか…と蛍とパイモンは同時に思ったはずだ。モラに興味がなかった鍾離は普段から財布の残金を確認していない―というか財布を持っているのかもわからない

 

鍾離「ふっ…安心しろ。往生堂に請求すればいい」

パイモン「な"」

 

パイモンはどこから出したのか分からない太い声を出した

 

パイモン「な、なぁ鍾離…そんなことして…大丈夫なのか…?」

鍾離「心配するな。それ相応の仕事はしているからな」

蛍「そういう問題じゃ…まぁいっか。お茶はまたの機会に。それでなんの御用でしたっけ?」

鍾離「近頃、妖魔の気配が1層強まっているらしい。層岩巨淵を初めとして、今は各地にその気配は広まっている。原因は不明だ」

パイモン「妖魔の気配…まさか魈が大変な目に!?」

 

魈は望舒旅館付近の妖魔の討伐を命じられた夜叉だ。別名降魔大聖。あの強い魈が簡単に負けるはずないと蛍はどこか思っている節もあれば、もしやられていたら…という不安が蛍の心を揺さぶる

不安になったのが鍾離にバレたのか彼はにこやかな笑顔でこう呟いた

 

鍾離「彼ならば、契約に従い、望舒旅館付近で闘っている。大事には至っていないし、なんなら心配する必要も無いだろう」

パイモン「そうかぁ…よかったぁ…」

蛍「それで、私にそれを倒してほしいの?」

鍾離「ああ、弱い輩は妖魔退治の専門家に任せておけばいい。君たちには、一段と目撃情報が多い場所の調査を頼みたい。本来、こういうのは玉衡や天権が直接君に頼むのだろうが、今回は少し特殊でな。俺が頼むことにしたんだ」

 

そういって鍾離はお茶を一杯のんだ

 

蛍「少し特殊?」

鍾離「そうだ。妖魔の気配は人には感じられにくいからな。気配が100上がるのならば人であろうとわかるが、10程度妖魔の気配が上がったところで人は感知できない。だが、その10でも積もりに積もれば脅威となる」

蛍「だから私に調査を頼みたい…そういうこと」

 

鍾離は深くうなずく

塵も積もれば山となる―と稲妻のことわざがある。それの意味は、小さなことでも積み重なれば山のように高くなるという意味だ。今の状況はまさにそれと同じだろう。放っておけば次第に璃月の脅威に。もっと行けばテイワット崩壊の危機になるだろう

 

蛍「わかった。見過ごすわけにはいかないもんね」

鍾離「ありがとう。俺も一緒に行ければよいのだが…」

胡桃「あ、いたいた!鍾離さーん!」

鍾離「…とまぁ彼女が呼んでいるからな、俺はいけない。この紙に目撃情報が多いところをまとめておいた。何かあれば往生堂の渡し守に話しかけてくれ」

 

そう言い残して鍾離は机の上に一枚の紙を置き、胡桃のところに歩いて行った

鍾離もしっかりと仕事をしているのだな―とパイモンは感じ取った。それと同時に蛍は―鍾離先生…ちゃんと仕事してるなら金銭払いなよ…と思った

そんなことはさておき。蛍は鍾離が置いていった紙を見る。そこに書かれていたのは、鍾離が言っていた通り妖魔が最も多く目撃されている地名が書かれていた

 

 

―瓊璣野…帰離原

―珉林…奥蔵山

―碧水の原…無妄の丘

 

 

パイモン「うわぁ…結構多いなぁ…」

蛍「帰離原と無妄の丘は璃月港から歩いていけるけど…奥蔵山は結構遠いね…」

パイモン「そうだな。行こうと思えば全部行けるけど…そんなことやってちゃ日が暮れちゃうぜ…」

申鶴「おや…主たち。何をしている?」

 

どうしようかと悩んでいた蛍たちに申鶴は近づいていく。その頭には何とも可愛らしく木の葉が乗っかっていた。パイモンがそれを指摘すると、申鶴はハッと驚いたかのように頭を探り、ふふっと微笑む

昔に比べて彼女は感情が出るようになった。それは旅人と関わり、俗世を知ったからだろう

 

申鶴「それよりも主たち、何を話していた?」

蛍「最近妖魔の気配が強くなったらしいからその調査をしてくれって頼まれてね。どこにいこうかとかんがえてたんだよ」

申鶴「そうか。奥蔵山でも妖魔の気配が強まっていた。先ほど我が排除しなかったらもっと広がっていただろう…」

パイモン「そうかぁ…やっぱり奥蔵山にも――って!倒したっていったか?!」

 

パイモンはいつも通りのノリツッコみを豪快にかます

申鶴が奥蔵山の妖魔を退治したということは私は値は奥蔵山に行かなくてもよいのではないかと蛍は思った。その考えはパイモンも同じのようで、二人は顔を見合わせニコっと微笑んだ

 

蛍「ありがとう申鶴。おかげで手間が省けた」

申鶴「我がなにかした覚えはないが…主が喜ぶならよかった」

 

にこりと笑う申鶴に別れを告げ、二人は瓊璣野に足を運び始めた

残された申鶴は一人、去って行った彼女たちについて思う。一人で行かせて良かったのかと。妖魔は微量とはいえ確かに強くなっている。その影響は妖魔だけではなく、一般のモンスターも妖魔の影響を受けている。それがわかるのが先日、重雲と申鶴が対峙したヒルチャール暴徒だ

 

本来であればあの程度のヒルチャールは簡単に駆除できた。だが、予想外に強かった。だから二人はあのヒルチャールから逃げることを選んだのだ。まぁ六花が来てくれたおかげで最悪の事態は逃れたのだが…

 

申鶴「…一応のため我もついていこうか…」

 

そういい、申鶴は去っていった旅人を追いかけ始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瓊璣野―帰離原

 

蛍とパイモンは璃月港から寄り道なしですぐここまで来た。だけど、そこにはヒルチャールが数多く倒れているだけだった

何かおかしいと思った二人はあたりを見渡す。すると、倒れているヒルチャールの中心と思われるところに、見覚えのある少年が立っていた。深い緑の髪、和璞鳶と銘を打たれた槍をその手に持って佇んでいる彼の名は…

 

パイモン「魈!」

魈「…お前たちか」

蛍「どうしてここに…」

魈「我がここにいておかしいことがあるか?我は望舒旅館付近の妖魔退治を帝君から命に受けている。その責務をはたしたまでだ」

 

魈はいつもとかわらない雰囲気で言葉を発する

 

魈「お前たちはこの妖魔の気配を調査しているのだろう?ならば、無妄の丘に行くとよい。あそこは我の守備範囲外だ。まだ妖魔の気配がある」

パイモン「そ、そうか。ありがとな!」

 

2人は再び去っていった

2人に変わるように次は申鶴が魈のもとを訪ねた

 

魈「…一日ぶりだな」

申鶴「そうですね。ところで…旅人をみませんでしたか?」

魈「彼女らは無妄の丘に行っ――」

 

言葉の途中。ポシュっポシュっ…と妖魔の影響を受けたヒルチャールやモンスターが現れ、二人を囲んだ

申鶴は即座に槍を構え、戦闘態勢に入る

魈は瞳を閉じ、静かに申鶴に話しかけた

 

魈「ここは我に任せろ。お前は旅人のとこにいけ」

申鶴「!?―で、ですがこの量は―」

魈「こんなの…"あの時"に比べたらどうってこともない―いけっ!」

申鶴「お、この恩は忘れません―」

 

たったったと走っていく申鶴を見送る魈は少しため息をついた

―何がこいつらをこのようにしているのだろうか。こんな面倒なことを引き起こしているのだろうかと少し面倒に思う

だが、その思いもすべてここで断ち切るとしよう。そう思い、彼は面を被った

 

魈「"靖妖儺舞"っ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

碧水の原―無妄の丘

 

相変わらずここは怖い。どうせなら来たくないと思ったほどだ―とパイモンは言った。実際蛍もそのように思っている。この場所はテイワットでも唯一といってよいほど怖い場所なのだ。ヤシオリ島など比にならないほど怖い。なぜなら近づくだけで近くが霧に包まれたような感じになり、人魂のようなものが見えるから

 

パイモン「うぅぅ…やっぱり見間違えなんじゃないか…?」

蛍「見間違えのはずがないよ。魈だって妖魔の気配があるって言ってたしね」

パイモン「でも…でも…」

???「なんだおまえら!!!

パイモン「うわぁぁぁぁぁ!!!!」

 

謎の声が響き渡り、パイモンが大声をあげる

パイモンの声が無妄の丘に生える木々に木霊して、空間を渡り歩く。先程の声はどこから聞こえたのか全く検討もつかない。それどころか、その声を出したと思われる人もいないから尚更特定は難しい

 

パイモン「どどどどどどこにいるんだ!」

蛍「パイモン落ち着いて…」

???「ここはわれのなわばりだぞ!きさまらにんげんがたちいることはゆるされていない!

パイモン「ま、またきこえたぁぁぁぁ!」

 

パイモンはその声に恐れて蛍の腕を掴む。その蛍はと言うと、声の元を辿るために試行錯誤し、場所を特定しようとしているが、なかなか足取りが掴めない。何しろ妖魔なんて初めて退治するのだから

元素視覚を使っても、妖魔の気配は元素とは関係の無いものの可能性があり、何もてだかりがない

 

???「いますぐでていかぬといえのならば…ここでつぶすまで!!

 

この声が終わった途端、2人の目の前に遺跡守衛が突然現れた。それは霧から出てくるかのように本当に突然だった。その遺跡守衛はどこか今までのやつとは違い、弱点となるコアの部分が非常に赤かった

その遺跡守衛は1人ではなく、4、5ほど同じように出てきて、起動状態に入っていた

 

蛍「っ…」

 

蛍は剣を構え戦闘状態になるーが、さすがにあの旅人でも一度に4、5匹ほ遺跡守衛を相手するのは骨が折れる。しかも今まで触れてきたことの無いNewtypeの遺跡守衛だ

これは接戦になるな…と心の中で蛍は思った

 

???「いけ!わがしもべたちよ!

パイモン「わわわわき、、きたぁぁ!!!」

蛍(…どうする…この数を私ひとりで倒せる…?魈がいてくれたら心強いけど、いつまでも頼ってるばかりじゃいけない…)

遺跡守衛「ーー=ー ̄\___」

 

遺跡守衛の機械音が鳴り止まず、こちらに向かってくる

早く出さなくては…と蛍は焦る。パイモンは怯える。申鶴は未だ来ず、ただ時間だけがすぎてゆく

 

ーと、蛍の判断が遅いのに見限ったか、天から一筋降りてきた

それは冷たく、落下した瞬間に付近に霜が着く程だった。その落ちてきたものは人であり、魈と酷似した服装をしていた

 

??「ふっー!!」

 

その人は着地したかと思ったら、一時の間に次々に遺跡守衛を倒していく。それは稲妻で雷電将軍と戦った時のように素早かった。雷光。もしくはそれに準ずるほどの速さだった。的確に弱点を撃破していくその姿は、刻晴の元素爆発と似ている

あの遺跡守衛を一秒もかからず倒したあの人は一体…と蛍が考えていると、その人は目を瞑り集中するかのように静かに立っていた

 

??「そこかーっ!!!」

 

突然目を開き、空中に一閃。直後、その一閃を放った場でアビスの魔術師が勢いよく吹き飛んだ

 

アビス「お、おまえはなんなんだ…わがしもべをいっしゅんでたおすなどー

??「…冥土の土産に持っていけ」

 

その人はアビスの魔術師に止めを刺した。その止めを刺した時間は雷電将軍と戦った蛍でさえも見えないほどだった。つまりは雷電将軍を上回る可能性があるということだ

その人は武器をしまって立ち尽くす二人に近づいてくる

 

??「…判断が遅すぎるぞ」

 

彼は一言、蛍に向かってそういった



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2話 調査その1

??「…判断が遅すぎるぞ」

 

助けてくれたその人は、蛍に向かってそういった。蛍はこの人について考える

ー見た感じ、ただの人ではないことは確実だろう…あのような技を出せるのは魈のような仙人、または雷電将軍のような神だけだ。後者は多分ない。あるならば注目されているはずだ…となると…と彼の正体を探る

 

??「囲まれてもう少しでやられそうなのにただ立っているだけ。死にに来たのならまだしも、その様子じゃまだ死ぬことはしないんだろう?ならばなぜただ立っているだけだったのだ」

蛍「ご、ごめん…でも死にたかったわけじゃないんだよ?」

??「ふんっ…信じられるか」

 

彼は蛍の顔からふいっと顔をそむけた。その姿はどこか魈に似ているところがあった。人に興味を持たない仙人の特徴。昔の申鶴と似ている―いや、それ以上だろう。だが、その言葉からは、人を大事に思うような優しさが見て取れる

おそらく根は優しいのだろう。蛍はそう思った

 

申鶴「主たち大丈夫であったか?」

パイモン「あ申鶴!オイラ達は無事だ!」

申鶴「それは良かっ…あ、あなたは…」

 

申鶴は目の前の人を見て少し驚いたような顔をする

 

パイモン「知り合いか?」

申鶴「あぁ…先日、ここで我を助けてくれた命の恩人だ。名前は…六花と言った」

六花「…我の名を覚えていても得はないと言ったはずだ」

申鶴「命を助けてくれたものには感謝しなくてはならない。師匠はそう言っていた。それに師匠の友ならば、我の師匠でもある。覚えないと貴方に悪い」

 

六花は少し黙る

 

六花「…お前の師匠を我は知らない。故にお前は我を覚えなくて良い」

申鶴「我の師匠は、留雲借風真君だ。心当たりがあると思う」

六花「……あいつか」

 

六花はボソリとつぶやき、申鶴を見る。それは警戒の目ではなく、観察の目であった。一通り申鶴を観察した後、六花は少し微笑み、口を開いた

 

六花「確かに。その服装は留雲のものだな。彼女は我のことをなんと?」

申鶴「―変なやつだったと」

 

その瞬間、六花の頭に雷が落ちた…ように見えた

そして、辺りの温度が何度か下がる気配を感じ、無妄の丘の霧が1層深まる。パイモンと蛍は少し恐怖を感じる。あの「淑女」とはまた違うが、何か心の底から逃げ出したくなるそうな…そのような感情だったという

 

六花「ほう…あいつ我のことをそこまで言うとはな…次会った時には―まぁいい。お前たちなぜここに来た」

パイモン「お、オイラたちは妖魔の気配の調査をしてるんだ!最近、妖魔の気配が強くなっただろ?放置してたら璃月の危機になるからオイラたちがそれを解決しようとしてるんだ」

六花「…妖魔など仙人に任せればよいものを」

 

六花の言い方にはどこか含みがあるよう蛍は感じる

それは世界を旅してきた旅人だからこそ感じるものであった。仙人に任せればいいものを。それに含まれる意味合いはどんなものだろう

 

蛍「―今の璃月は神の璃月じゃなくて、人の璃月なんだよ」

六花「…ほう。この数千年であの方の意思も変わったのだな」

蛍(…あの方…?)

六花「で、お前はどのようにして調査するんだ?」

パイモン「妖魔が出没した場所に行って痕跡を探すんだ!そこから妖魔が強くなってる元凶を―」

六花「―お前たちは妖魔の気配を感じることができるのか?」

 

パイモンは六花に渾身の一撃をくらい、うぅ…と意気消沈している

そう。蛍には妖魔の気配というものがわからない。元素と妖魔の気配は根本は同じものだが緻密に言うと違うものだ。元素はこの世界にたくさんあり、それを行使する人がいるが、妖魔の気配は基本的には人に害を与える。それと、大気中にある妖魔の気配はとても微量だ。そのため人には行使できず、触れる機会もない

 

重雲や申鶴のような人々は特殊で、訓練しているため妖魔の気配が察することが出来る。人も訓練すれば妖魔を察することが出来るのだが、その訓練はとても過酷で常人には出来たものではない

 

六花「ふっ…できないのだな」

パイモン「し、しかたないだろ!オイラたちはあくまで普通の人間なんだ!」

六花「それでどうやって妖魔を調査する」

パイモン「うぅ……お前、意地悪って言われないか?」

 

六花は鼻で笑い誤魔化す

 

六花「生憎人とは関わらない性なもんでね。言われたことは無い。それで?妖魔をどうやって退治する?」

蛍「…ついてきてくれたら嬉しい」

 

無理な相談だろう。蛍はそう思った。ー恐らくこの人は仙人で鍾離先生と仲が良かった人なのだろう。そんな人に着いてきてくれーと頼んでもはいそうですかと来てくれるはずがないー

 

六花「いいだろう」

パイモン「いいのかよっ!!!」

 

パイモンのノリツッコミはさておき、六花は悩む素振りなどなしに即答した。

 

六花「我も妖魔の気配を危惧している。それに辿ればあいつが…

パイモン「それは良かった!よろしくな!ええと…」

六花「改めて自己紹介しよう。我の名は六花。一時の間だけ名を覚えればいい」

パイモン「一時だけって…まぁいいや!オイラはパイモン!こっちは蛍っていうんだ!」

 

六花は少し微笑み、よろしくといった

その直後、六花は申鶴に近づき少し世間話をしていた。その内容は、留雲借風真君に関係するものだった。あいつはどうしているだの師匠としてどう思っているだのそんな話だったようだ。中には甘雨の話もあったそうで、甘雨が話されるのを危惧している話もあった

 

六花「留雲によろしくと言ってくれ」

申鶴「あぁ。わかった。では、我はここで失礼しよう。旅人、パイモン。またな」

パイモン「おう!またな!」

 

そう言って申鶴は無妄の丘を下っていった

残された三人は妖魔の元凶を探すためにどうすればよいか考えることにした。最初に出た案は妖魔の気配を辿り、その元凶に達するものだった。だが、その案はー妖魔は点々としていて、元凶に達するには時間がかかりすぎる―という立花の言葉で却下された

 

最終的に、妖魔を倒したときに共通することを探し、それを調査する。という案が可決された

もし裏で操っている人物がいれば、それを叩けばこの妖魔の気配がおさまるし、そうでなくても、魔神が復活する可能性がある。妖魔は破れた魔神の残滓であるため、妖魔が活性化するということは、魔神の復活の可能性があるということだ

 

パイモン「それじゃあさっきはなにかおかしなことがあったか?」

蛍「うーん…遺跡守衛がおかしかったこと…アビスの魔術師が透明化してたこと…アビスの魔術師が遺跡守衛を召喚(?)してたこと…」

パイモン「じゃあアビスの魔術師が原因なのか?」

六花「いや、そうではないだろう。あの言語を話していた…おそらくは裏の存在があるだろう」

 

そう言って立花はアビスの魔術師がいたところに行き、少し観察する。そこには黒い塵のようなものがサラサラと落ちていた

 

蛍「六花、それは?」

六花「魔神の残滓の結晶だ。すなわち妖魔の力の源だな」

パイモン「どうしてそんなものが…」

六花「…他のところも行くぞ」

パイモン「お、おい!待ってくれ!」

 

颯爽と立ち去ろうとする六花を二人は必死に追っていく

―どうしてそんなに急いでいるのか。早く手を打たなくては行けない事情でもあるのかととその時蛍は思った。どうにか理由を聞いてみようと蛍やパイモンが試しても、はぐらかせるばかりでなにも進展がない。その顔から察しようと思っても、彼の顔は常に無表情…彼の心を読むことは無理なのだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瓊璣野―帰離原

 

六花「…ここにも結晶がたくさん落ちているな」

 

帰離原に来た六花はそう呟く。それもそのはずだろう。ここは先程、魈がたくさん妖魔を倒していたところなのだ。魔神の残滓の結晶が多いのもその影響だ

すると六花は何かを感じ取るように目をつむる。そして深く深呼吸し、肩をゆっくりと落とす。それはまるで、自然と同化するかのようだった

 

パイモン「り、六花…」

六花「しっ―――――来るぞっ!」

 

六花が叫ぶと同時に、風が心地よく通り抜ける。その瞬間、ポシュっ…ポシュっ…とヒルチャールが出現した。このヒルチャールの出現の仕方はどこかおかしい。通常、ヒルチャールはこのようには出現しない。このように出現するのはーアビス教団関係だ

 

パイモン「あ!ヒルチャールが出てきた!」

アビス「なにをしているのだきさまら

パイモン「?!あの声も聞こえた!」

六花「やはりそうか…やるぞ旅人。我がやつの居場所を暴く。それまでヒルチャールを討伐しつけていてくれ」

 

そう言って六花は剣を手に取り、ヒルチャールの群れに走っていく。蛍もそれに続いていくようにヒルチャールの群れに突進していく

ヒルチャールの声と剣の音が帰離原に響き渡る。戦いの最中、六花はそのヒルチャールたちに違和感を覚えた

―弱すぎる。異常なほどに弱い。これでは無妄の丘で戦っていたときに比べて非常に弱いーそう思いつつ六花は術師の場所を探る

 

六花(すべてのヒルチャールについている妖気を辿って…いた。あそこか)

六花「”晴天雹凍"!!!」

 

心臓を突くような元素スキルを使ってアビスの魔術師をあぶり出す

剣はアビスの魔術師のシールドを一瞬にして破壊し、そのまま身へと突き刺さる。立花はその突き刺した状態のアビスの魔術師をじっくりと観察した

 

――いつもの魔術師とは少し違う。正気を失っているのか、はたまた妖魔に支配されているか…少し辿って見るか――――っ!

 

魔術師に取り付いているであろう妖魔を辿ろうとした時、六花の頭の中に大量の記憶が流れて来る。これを彼は昔に経験している。これは業瘴の一種なのだろうと推定した。かつて魈以外の三眼五顕仙人、及び夜叉はこの業瘴に飲まれ、自我を失って亡くなっている。あの魈でさえもその業瘴に包まれたのだ。

今、その業瘴が六花を包もうとしている

 

六花(くっ…これは…っ?!)

 

―災厄の時代。すなわちあの魔神戦争時代の記憶だった



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3話 記憶

評価嬉しいです!モチベが上がります!





だからと言って低評価ばっかり押さないでね♡


―魔神戦争。それは今の璃月には考えられない非情な戦いであった

数多の魔神はこの璃月を我が物にしようと自分の民を率いて他の魔神の領地に侵略し、次々に人を。魔神を殺していった。当時の魔神たちが何を考えていたかはわからない。だが、そこには慈悲などはないのだった

 

??『雹蕾―』

雹蕾『はぁ…はぁ…なんでしょうか…我が主よ…』

 

雹蕾と呼ばれた一人の夜叉は、主と称する人の声に反応する

 

??『私はもう…』

雹蕾『馬鹿なこと言わないでください主!ここを死守しなくては―夜叉の名が廃れます!』

??『ですがもう…私が生きていける道はないのです…』

 

悲しそうに呟く者に雹蕾はその者を崇拝する信者の民のことを思った

彼女が消えてしまえば、その信者は居場所を失い、右往左往してしまうだろう

 

雹蕾『では民はどうするのです?!ここを守らなくては…我々の未来もないのです!』

??『私は彼と"契約”を果たしました。彼は"契約"は必ず破りません…ですので…雹蕾…あなたが―』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パイモン「おい!六花!」

六花「はっ…」

 

パイモンの一言で六花は天を仰ぎ目を覚ます。六花はぜーはーと荒い息遣いで体を起こすと、体の奥底で何かが蠢くのを感じる。熱い…鉄のようなドロドロしたものが体の中で蠢いている

 

―これはまずった…と六花は思った。たかが業瘴と侮ってはいけない。実際、業瘴で亡くなった仙人は数知れず、かの仙衆夜叉でさえその業瘴が原因で亡くなっているのだ。放っておけば体を蝕み、自我をもわからなくなるだろう

 

六花「はぁはぁ…」

蛍「大丈夫?」

六花「大丈夫だ…このくらい―くっ…」

パイモン「あぁぁ…とにかく動くな。旅人、こいつをどうにかしようぜ」

蛍「どうにかって―とにかく、望舒旅館に一回行こう!そこで手当できる道具とかもらってこよう!」

パイモン「そうだな!おい!少し行ってくるからお前は静かに待ってろよ!」

 

そういって二人は急いで駆け出していく

残された六花は一人業瘴と戦う。このまま死ぬのか。彼女たちに見られぬまま消えるのかと少し悲しくなる

 

六花(―?なぜだ?なぜ我は今悲しいと思った?我は夜叉…いつかは死ぬ運命。ならば最後まで一人でいようとあの時自分に契約したではないか―――――っ!!!)

 

六花はあまりの辛さに目をつむる。何しろ業瘴など、ここ数百年は彼の体から消え去っていたから辛さなどなかった

その時、真っ暗になった六花の目の前に誰かが立った。彼女たちではない誰か。だが六花には心当たりがない。妖か、それとも宝盗団か。六花は目を開け、その正体を確認した

 

そこには見慣れた―とは言えないが、確かに懐かしい少年が立っていた

 

魈「…無様な姿だな。数千年ぶりにあったというのに我にそのような醜態を晒すか」

六花「金鵬()…か…久しいな我が戦友よ」

魈「ふんっ…業瘴が蝕んでいるというのによくもまぁ口が回るな」

六花「お前は…相も変わらずだな―っ…」

 

業瘴による痛みが六花を襲う

魈はそれを見て無様だと言った。それもそうだろう。彼の記憶にある六花はとても強く、業瘴などに負けるものではなかったからだ。彼は昔の六花と今の六花を比べたのだ

 

魈「ーなぜ彼女たちと行動を共にしている?お前は1人が良いのだろう?」

六花「璃月の危機が迫っているのなら、そんなことは言ってられない」

魈「…昔と変わったな。お前」

六花「ふっ…仲間の力とやらは強いみたいだ―っ!」

 

猛烈な痛みが六花に押し寄せる

すると魈は優しげに六花に痛むかと聞いてきた。―変わったのはお前もじゃないか―と六花は心の中で思う

 

魈「業瘴を取り除きたいなら面を被れば良いだろう?」

六花「まだだ…我は面を被るときではない。我の面はやつを倒す時に使う…それに、彼女たちにはまだ我の正体を明かしていないのだ…そうやすやすと被っていられるか」

魈「そうか。ならば、我が手をかそう。あの時の借りだ」

六花「ふっ…まだ覚えていたとはな…済まない」

 

そう言って六花は瞳を閉じて、魈がすることに身を任せる

すると魈は儺面をかぶり、六花の胸の前に手をおく。手のひらからは、翡翠色の風元素が現れ、六花の内部の業瘴を発散させて行く

 

少しした後、六花の体内の業瘴はほとんど発散して消え去ってしまった

 

魈「っ―はぁ…はぁ…」

六花「―済まなかった魈。お前にだけ責任を与えてしまったな」

魈「別に…大したことじゃない。あの時の借りを返したまでた。それじゃあな」

 

魈はそれだけ言い残して帰ってしまった。そういうところは全然変わっていないなと鼻で笑う

ちょっとした後、旅人たちが戻ってきて、杏仁豆腐を食べてと六花に進めてきた。六花は渋々杏仁豆腐を、食べたそうだ…

 

パイモン「それで、なんでああなったんだ?どこにも倒れる要素なかっただろ?」

六花「…過労だ。我は孤独にひたすらに魔物と血を流してきた。このようにゆっくりすることなんてなかったからな」

パイモン「お前…本当はなんなんだ?」

六花「名乗る名もない。ただの人だと思って過ごしていればいい――お前たちのおかげで我の体調も治った。感謝する」

 

六花は立ち上がり、体を伸ばす。魈が手を貸してくれたことは彼女たちは知らない。知らなくてもよいこともあるのだ。

何かを思い出すように立花は先程流れてきた記憶を整理する。見たくない記憶。見るべき記憶。かなり混雑しているが、必要な情報だけ取り出して考える。

 

―璃沙郊の青墟浦に…禁忌滅却の札を持ったファデュイがいる…元素の流れや妖気からそこが今回の騒動の元凶だろう。

 

パイモン「おい六花…」

六花「…よし。青墟浦に行くぞ」

蛍「それはまた遠いところに行くね…どうしてそんな遠くにいくの?」

六花「そこに今回の異変の元凶がいるようだ。いいところに目をつけたな…奴ら」

パイモン「どういうことだ?あそこになにかあるのか?」

 

???が頭に浮かんでいるパイモンに六花は答えた

静かに。昔を懐かしむように。また、悔やむようにその口を動かした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―その遺跡はかつての魔神が居座っていた場所で、魔神戦争の終結までその遺跡は機能していた。その魔神は魔神の中でもかなりの非道であり、死者をも自らの下僕として扱っていた

魔神が死しても、その下僕は機能し続け、層岩居淵に向かう鉱夫が次々に襲われた

 

それを危惧した岩王帝君は夜叉をその地に向かわせ、その下僕の討伐を命じた。

しかし結果は敗北。その出向いた夜叉はその地で死してしまったのだ。

これは璃月の危機になると考えた岩王帝君は、その死した夜叉よりも強い夜叉を向かわせ、その地に向かわせた

 

その夜叉の名を"雹蕾"といい、夜叉の中でも飛びでて強い夜叉であった。

雹蕾は仙衆夜叉の伐難とともに下僕が蔓延る遺跡へと足を運んだ。しかし、そこで見たのはかつての同胞の変わり果てた夜叉の姿であった。

 

雹蕾と伐難は苦渋の決断を強いられた。かつての仲間を倒すという決断

倒さないという決断はできなかった。なぜなら二人は岩王帝君と契約を交わしたから。下僕を殲滅するという契約を交わした彼らはどうしても倒さなくてはならない。契約破棄は岩喰いの刑に値する。それは岩王帝君に忠誠を誓う以上、最低の行為だ。

 

変わり果てた夜叉は容赦なく二人を襲った。

それがかつての同胞ともしらずに―否。同胞ともわからないのだろう。

伐難に向かって攻撃を仕掛けた夜叉。その攻撃を雹蕾が代わりに受け、伐難が夜叉に止めを刺す―伐難の悲鳴が遺跡中に鳴り響く。かつて仲が良かった彼を―彼女は殺した。殺さなくてはならなかった。

どうすることもできず、雹蕾と伐難は立ち尽くした。

 

伐難は決断した。その身を呈してその遺跡に蔓延る魔神の残滓と下僕を封印しようと。

…だが、これしかなかった。下僕は永続的に湧き続け、このままでは体力が消耗するだけなのだ。雹蕾は悲しくもこの提案を受け入れ、その地に蔓延る下僕を封印した―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パイモン「そんなことが…」

六花「これは我の家系に伝わる隠された歴史だ。我の家系は夜叉と交流があったらしい」

蛍「それが本当なら…」

六花「あぁ。璃月の危機だ」

 

そこで何かをするということは、少なからず魔神と関係がある。ましてや妖魔の気配が増加している今、魔神が復活する可能性が非情に高まっているだろう

六花及び蛍とパイモンはそれを阻止するために、まずは璃月港に向かった



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4話 危機?

毎日投稿したいなーと思ってたんですが、現実はそう上手く行きませんね…こんな遅くになりましたが、見ていただけると嬉しいです

更新できない日など多々ありますので、良かったらこの物語の行く末やキャラの考察などして頂けたら…


璃月港――群玉閣

 

コツコツと走る筆。ぺったんぺったんと押される印。ここ群玉閣は平常通り動いている…とは限らない。実をいうと甘雨が体調不良で先日から休んでいる。あの甘雨が体調不良で休むことなど珍しすぎることだ

仕事熱心で、常に仕事をしているような彼女だ。知らぬうちに疲れが溜まってしまっていたのではないかと彼女を秘書に持つ凝光と刻晴は少なからず思っている

 

刻晴「…甘雨、大丈夫かしら…」

凝光「心配のしすぎは危険よ。仕事に支障をきたすわ。それはあなたが一番嫌なことじゃないのかしら?」

刻晴「それもそうだけど…やっぱり心配よ」

 

刻晴は心配そうにため息をつく。刻晴がこのような状況になっているのも非常に珍しいことだ。彼女は常に今日の仕事は早急に終わらせ、明日の仕事に取り掛かる―そんな人だ。だが、そんな彼女もこのようになってしまっているのはなにか原因があるのではないかと凝光は思う

 

実際、凝光も気だるい気分なのだ。夜蘭はサボるし、書類は山積みだし、朝食にはあまり好みでない黄金蟹が出るし…とあまり機嫌はよろしくないのだ

 

―ゴロゴロ…と雷鳴が起こると同時に雨がぽつり…ぽつりと降り始めてきた

 

凝光「あら?雨ね」

刻晴「なにか不穏な空気ね…」

 

刻晴がそう呟くと同時に群玉閣の扉が開かれる

振り向けばそこには、南十字船隊の船長が堂々と立っていた。その隣には、稲妻式の服を来た青年がバツが悪そうに例の船長の傍に立っていた

 

凝光「あら、嵐が来たわね」

北斗「誰が嵐だって?冗談はその書類上だけにしときな凝光。今回ばかりはそんな要件じゃないんだ」

万葉「そうでござるよ、凝光殿。今、この璃月には危機が迫ってるでござる」

凝光「…危機ねぇ…私からすれば、あなたのような素性の擦れない人からの助言というのが一番危険なのよ」

 

凝光は宝盗団を見るような疑いの目を万葉のことを見る。すると、凝光のそばに誰かが歩いてきた。すらっとした綺麗な女性。腕には青い腕輪をつけていて白い上着を肩で羽織っている

 

―彼女の名前は夜蘭。噂のサボり魔だ

 

夜蘭「その人は大丈夫な人ですよ。私が保証します」

凝光「貴女が言うなら間違いないわね夜蘭。珍しいわねここに来るなんて」

夜蘭「そうですね。ですが重大な報告をするため来たんです」

 

夜蘭は懐から一枚の紙を出した。そこにはファデュイの動向が記されていた

 

―層岩巨淵の近くにファデュイが終結しているようだ。そのファデュイは層岩巨淵に行くというよりかは、その近くの遺跡に行っているように見える。共いいた宝盗団によると青廃墟でなにか行おうとしているとのこと。もう60%完成しているそう

 

凝光「へぇ…興味深いわね」

百識「凝光様大変です!!!!」

 

勢いよく凝光に向かって叫んだのは、群玉閣の秘書であったがその勢いはすさまじく、膝に手をついて呼吸を整えるほどであった

それほど重大なことなのだろうと、刻晴や凝光は息をのむ。本当に危険かつ火急の要件でなければ、このように急いでこないだろう

 

刻晴「どうしたの?息を整えて言ってみなさい?」

百識「は…はい!ええと…まず何から話したらいいか…」

凝光「ちょっと待って、たくさんあるの?」

百識「はい…要点だけ掻い摘んで説明します!まず第一に、青廃墟にて謎の発光が確認されました!現在は静まっています。第二に、その発光現象が起きた瞬間に謎の歌がその青廃墟から聞こえさらに…」

 

百識は一呼吸おいて悲しむように言う

 

百識「璃月港に謎の魔物が迫ってきています…」

「「「なっ…」」」

 

その場にいた全員が驚愕した。それと同時に、危機感と恐怖を感じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――旅人side――

 

璃月港についた三人はどこかおかしいような気配を感じた

活気のある市場、人、港であったはずの璃月港はその真逆。活気がなく、人通りも少ない。港に至っては停泊している船が寂しそうにゆらゆらと浮かぶばかり。そして曇天の空…

この璃月港に何か起こっていると肌で感じた

 

六花「…人の璃月はこのようなものか?我にはどこかおかしく感じるのだが」

パイモン「いやこんなんじゃないぞ…オイラもどこかおかしく感じてるぞ…」

蛍「いつもこの時間なら店はたくさん開いてるのに…どうして?」

 

三人は付近に聞き込み調査を始めた。だが、人は少なく聞ける人はごく限られていた

千岩軍の兵士に聞こうともその千岩軍もいない。どうしようかと困っていると、蛍の傍に一人の男性が現れた

 

??「おや…?あなたたちは…」

パイモン「あ!白朮!」

白朮「お久しぶりです―と言いたいのですが、今は少し立て込んでいまして…」

蛍「なにかあったの?もしかして…こんなに人がいないことと関係する?」

白朮「その話の前に…あなたについて聞きたいのですが」

 

するとバフっ…っと六花の腰付近に何かが当たる。なにかと思い六花が振り向くと、そこには小さな少女がいた。彼女の名は七七。キョンシーとしてこの世界に生きているひとだ

 

七七「あ…ごめんなさい―ってあれ?りーさん?」

六花「七七か。久しいな」

白朮「おや、知り合いだったのですね」

六花「あぁ。以前野草を採っている七七に会ってな。帰る時まで護衛をしたものだ」

 

七七は六花に抱きつき顔をスリスリしている

 

白朮「―それにしてはよく懐かれていますね。私も七七のそのような顔は初めて見ます」

六花「そのようだな。なぜか懐かれてしまったんだ」

七七「りーさんいい匂い…」

六花「よっこいせっと…さ、白朮殿、続きを話してくれ」

 

七七を抱っこした六花は白朮に話を進めるように促す

すると白朮は「殿なんてつけなくていいですよ」と丁寧に六花に言った

 

白朮「話を戻します。今、私たちは璃月中の患者に会いに行っているんです」

蛍「璃月中の患者?」

白朮「えぇ。つい2、3時間ほど前から急増してるんです。それも皆さん同じような症状でして…」

 

白朮が話しているとき、六花は不穏な気配を察していた

ついさっきあったような気配…気持ちの悪い気配。アビスの気配とはまた違う。もっと不気味な気配…妖気にしては薄すぎる

 

―と思った瞬間、空がいきなりひかり輝いた。目がくらむ程の眩い光と雷鳴のようなものが鳴り響く。するとポツリ…ポツリ…と雨が降ってきて、次第に落雷も始まった

 

パイモン「なんだ?急な雨だな?」

六花(―これは違う…雨などではない!)

六花「旅人一ーーーくっ!」

七七「りーさん大丈夫?」

 

突然六花を襲った業瘴により膝をついた六花に七七は優しく声をかける。それはかつて六花の主だったものを思い出させるような優しく暖かい手だった

 

六花「あ…ありがとう七七」

白朮「大丈夫ですか?」

六花「あぁ大丈夫だ…ただの過労だ…」

白朮「過労ですか…みなさんも同じようなことを言ってましたね…」

パイモン「どういうことだ?」

白朮「それは―」

 

白朮が言い終わる前にその音は鳴り響いた




短いのには訳があります。この先、重大な局面を迎えるということです


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5話 侵略者

今回、すっごく駆け足になってる感ありますが、大事な局面なので楽しんでくれれば嬉しいです
そして評価並びに、誤字報告感謝です!!!

誤字についてですが、今執筆している機種が3つありまして、確認してみると平日の日中に執筆している機種で誤字が発生しやすくなっているみたいです…今後、誤字を気をつけますので、これからもよろしくおねがいします

最後になりますが、誤字を指摘してくださった方、誠にありがとうございました!


???「グォォォォォォォォ!!!

 

突然璃月全土に響いたその咆哮は不気味なものであった。辛うじて人の声だと認識できるおぞましい声。病に苦しんでいる璃月の人々の恐怖心を煽った

パイモンは慌てふためき、七七は耳を塞ぐ

 

パイモン「うわぁぁぁぁっ!なんだったんだ?!あの声!!」

七七「りーさん…あれ、嫌」

六花「まさかな…いやでもそんなはずは―」

 

そして六花は1人、その声について考察する

単なる声なのか。それともなにか意味のある声なのか。そもそも声では無いのではないかと色んな考察ができたが、ひとつの考察に行き着く

 

―かつて六花の主を死のそこまで追いやった最低の魔人。六花としては因縁の相手。怒りを初めて覚えた死んでもなお死者を愚弄した魔人。青墟浦で暴れていた魔人

 

???「ダガァァァァァァァ!!!

六花「―っ!!!!」

 

六花にはその声が"歌"に聞こえた

因縁の相手が歌っていた死者を愚弄する歌。主を追いやる時に歌った歌。自分の勝利だと決めつける歌…全てが六花の頭の中を巡る

 

―ダメだ。ここで怒り、面を被っては

 

と六花は自分自身を制御する

ここで面を使えば、"その時"までに力は残っていないだろう。少なくとも今、業瘴に飲まれかけていて力を消耗している。使わない方か懸命だろう

 

今はどうするか考えなくては―と六花は考えを変える

今しなくてはならないこと―それは青墟浦にいってファデュイを止めること。魔人の復活を阻止すること。ならば今どうするべきか…そう、青墟浦へ行く。元凶を断つ

 

決意した六花は七七の頭に手をのせる

彼女を戦場に連れて行くわけにはいかない。もしケガをさせてしまったらこの可愛らしい顔が見られなくなってしまう

 

六花「白朮、七七を頼む」

七七「りーさんどこかいっちゃうの?ヤダ、一緒にいて」

六花「必ず戻ってくるよ。約束(契約)―な」

七七「…うん」

 

六花はしゃがんでと七七は指切りをして約束する。その時の七七の顔はとても悲しそうな顔でだったため六花はすごく申し訳ない気持ちになった

すまないと思いつつ立ち上がった六花は蛍の傍へ駆け寄り、急いで青墟浦へ向かおうとすると、七七は大きな声で「絶対帰ってきてね!」と涙ながらに叫んでいた

 

残された二人は静寂に包まれる

白朮は七七の行動に興味を持ちつつ、まだ苦しんでいるであろう患者のもとへと急いだ。白朮の手に惹かれる七七は少し涙ぐみ、六花の身の心配をしていた

 

―忘れられない。日々物忘れがひどい七七だが、彼のことは一度も忘れたことはなかった。それはなぜか。彼には七七を引き寄せる要素でもあるのだろうか。七七が彼に思うことは、ずっと一緒にいたい。その気持ちが七七の心を侵食する

 

七七(りーさんの面を被ったとき…七七は―)

 

七七は彼の面を"勝手"に被ってしまった時のことを思いだす

それは心地の良い匂いであり、安らぎを与える気持ちになる―あの儺面のことを思いだした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天衡山

 

六花と蛍が青墟浦へ行ける道を走っていると、前方に人だかりが見えた。そこにいるのはどれも見覚えのある人たちのみ。七星の凝光と刻晴を筆頭に千岩軍。重雲や行秋、申鶴や辛炎もいた

蛍はなんの騒ぎかと思っていると、六花はその人だかりを無視するかのように急いで歩み始めた

だが、その足を凝光が止める

 

凝光「―すみませんがこの先は通すことはできません」

六花「…我は急いでいるんだ」

凝光「それでも―ここを通すわけにはいきません」

 

凝光は頑なに六花や蛍を通すことを拒否する。その表情はかつて璃月を襲った渦の魔神"オセル"と対峙したときよりも険しかった

 

六花「…どうしてもか」

凝光「えぇ。関係のない人にけがをさせるわけにはいかないの」

六花「ケガなど多くしてきている。それに我は―――」

???「アガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

六花の声にかぶさるように例の咆哮が轟く

今度は鮮明に。人の声のように聞こえてさえきた。六花はこれはまずいことになりそうだと思い、先行こうとするも、やはり凝光に阻まれ行くことが出来ない

 

そうこうしているうちに、なにか分からないが地鳴りのような音が聞こえ始めてきた。凝光はその地鳴りを感じ取り、少し苦しそうなでもあり、焦っているような表情を浮かべ、その場にたっていた

 

六花(?!これは地鳴りじゃない!ヒルチャールとかの行列だ!)

万葉「姉君!来るでござる!」

北斗「おう!みんな構えろ!嵐が来るぞ!」

 

その場にいた人達は全員武器を構える

当然、訳の分からない旅人やパイモンは困惑し、少しばかり狼狽える。が、すぐに凝光が説明してくれた

 

パイモン「な、何が起こるんだ?!」

凝光「今、璃月港は危機にさらされているわ。何千、何万もの魔物が押し寄せてくるんだもの。だから、私たちが食い止める―はぁっ!」

 

手を前に出した凝光は文字を空に書くように1字切ると、璃月港に巨大なカーテンのような防護壁が作られた。さらに凝光の後ろには岩を射出するための陣が書かれており、体制は万全のようだ

 

蛍も璃月港の危機ということで急いで支度し、戦場に臨む

 

 

みんな緊張感を持ってこの場に挑んでいる

 

数秒、雨が滴る音が聞こえた

 

次に聞こえたのは、雨の音などではなく、あのヒルチャールの声だった。それも1人ではない

凝光が言ったように何千何万の魔物が喚く声だ

 

―咆哮。悲鳴。叫声。絶叫。どの言葉を切り取っても合致するような喚き声。ヒルチャールからそんな声が出るとはこの場にいる誰もが思わなかった

 

刻晴「行くわよみんな!」

「「「はい!!!」」」

 

刻晴の声と同時にみんな一斉に魔物に襲いかかっていく。次々にヒルチャールをはじめとした魔物は消えていくが、延々と無尽蔵に出てくる。ヒルチャールにも色々な種類があるもので、石を投げるものや炎スライム、氷スライムを投げるものもいる。そいつらに対応するために、先方を変えなければならなかった。なぜなら、いつもより強化されているから。攻撃のパターンが変化し、いつもより凶暴になったヒルチャールは非常に戦いづらい

 

辛炎「みんながんばれ!こっから"いつもとはちがうん(ロック)"だぜ!"最高の歌を奏でろっ!"」

 

ジャーンとロックな楽器を弾いた辛炎。彼女のファンはそれに乗るようにボルテージが上っていく

ヒルチャールもそのロックに共鳴したのか、更に行動が不規則になる。凝光はその不規則なヒルチャールに向かって岩石を飛ばし加勢する

それを見た北斗は凝光に駆け寄り自分の考えを伝える

 

北斗「アタシたちは先に行って元凶を止めてくる!凝光!ここはたのんだ!」

凝光「言われなくてもわかっているわよ。それよりもあなたの無事を祈っているわ」

北斗「ははっ!偉大なる天権様に心配されるなんてな!予想外なこともあるもんだ!」

凝光「もうっ!そんな冗談言ってないで早く行きなさい!」

 

凝光に注意された北斗は笑いながら凝光の元を離れ、群衆に突っ込んでいく

依然ヒルチャールは多い。突っ込んでいくのは無謀に過ぎないだろう。だが、北斗には自信があった。この群衆に突っ込んでも安全に行ける自信が

なぜなら彼がいるから。風と共に船に乗り込んできた稲妻の浮浪者―いや、稲妻の剣士がいるから

 

万葉(姉君が行こうとしている…ならば拙者も答えねばならぬな!)

万葉「風の赴くままに!」

 

風を集め、ヒルチャールたちを一箇所にまとめ上げた万葉に対し、北斗は称賛の声をあげる。やはり万葉は仲間のために動ける素晴らしい人だと心からそう思った

 

北斗「流石だな万葉!助かった!」

万葉「拙者も付いていくでござる!」

北斗「お、助かる!みんな!アタシはこれから魔物の元凶に行く!来たいやつはついてこい!」

 

北斗の活気のある声が誰よりも響き渡り、人々の士気が向上する。彼女のたくましさというのはすごいものだ。かつて船員の一人が発した言葉だが、北斗がいなければ荒れ果てた海を進むことはできなかったという。北斗がいたからこそ、どうにか前を向けたと語っている

 

海山を倒したという伝説もあるだろうが、彼女自体そのような影響力を持っているのだろう

 

彼女の声に影響されたひとたちが次々に彼女の背を追う

残されたのは七星二人と千岩軍、辛炎や行秋と雲菫などの人々だった。数が少ないように感じるが、北斗率いる群衆が先に行ったため、ここが正念場だろう

 

凝光「みんな、ここが正念場よ!あとは北斗船長がどうにかしてくれるでしょう。それまで持ちこたえるのよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――旅人side――

 

北斗が率いる群衆は前線で頑張っていた。やはりいつも通りには行かない。強化された魔物は異常なほどに倒しづらく、かの六花でも厳しいところがあった

しかし強いのはこちらだ。若干押し勝ち続けていると思った矢先、あの言葉が聞こえてきた

 

???「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

今度は人の声のように。獣の声ではなく人の声。確実に復活しようとしていると立花は不安に思う

―彼女が復活してしまえば、あのときの二の舞いだ。伐難がしたことが無意味になってしまう。立花はそう思いながら敵を倒し、先に行こうとしていた

 

遺跡守衛「―――=√\_/」

六花「お前は――あのときの――?!」

 

六花は目の前に現れた遺跡守衛に対し驚愕の音をこぼす

そう。今立花の目の前にいる遺跡守衛は以前、無妄の丘に現れたおかしな遺跡守衛なのだ。傷の位置、草の伸び方。そして立花がつけた傷の位置まで一致しているのだ

 

六花「なぜ――?!」

胡桃「あ…あれは…」

 

胡桃が指を指した方には、数百数千の人と思わしきものがいた。服装を確認するに千岩軍や宝盗団、中にはモンドの西風騎士団の甲冑を着ている人もいた

―なぜこんなところに…と立花が思っていると、胡桃は憤りの念をはっした

 

胡桃「”死"を冒涜するなんて…許せない」

 

胡桃のその声を聞いて立花はようやくわかった。彼らはもう死んでいる人なのだ。戦闘中に聞こえた胡堂主という単語、そして胡桃(フータオ)と呼ばれた名前からして、この子は葬儀屋の堂主なのだろうと推察し、その子が死を冒涜するなんてと言っているということは、この人達はもうこの世にはいない死した人なのだと理解した

なぜ死者が―とも考えたが、青墟浦で死んだ魔神は死者を下僕として扱う最低な魔神であったことを思い出した

 

そんなことを考えていると、遺跡守衛がここまでやってきて、かかろうとしてきていた

 

六花(まずった―――!)

胡桃「破っ!!!!」

 

六花に迫って来ていた遺跡守衛を胡桃が撃破する。見事コアに当たり消滅した遺跡守衛がいた場所に立って、立花に話しかける

 

胡桃「ここは私たちがなんとかする。あなたは、この先に行って」

六花「いいのか?」

申鶴「助けられた恩をここで返させてくれ。留雲借風真君(師匠)ならそういうだろう」

重雲「あなたは僕達よりも遥かに強いです。ですのでここは僕達が引き受けます」

 

四人は任せてくれと言わんばかりの顔で、六花を見る。そして、北斗へと合図を送る。ここは私たちに任せろと。その姿はこの場所にいる誰よりもかっこよく、自信に満ち溢れていた

北斗と万葉は先に向かって行った。蛍は四人の近くで止まっている六花をみて少し不安そうに見るが、六花はここを任せてくれと言ってくれた四人に頭を下げてから一言言った後、北斗の後を追いかけて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だんだんと青墟浦に近づいてきて、徐々に敵の数も減ってきた

どうやら要所要所で出現するように設定されているようだ。そうした方が攻めるときに有利なのだろう

 

蛍「はぁっ!!!」

ヒルチャール「Guy…」

 

今ここにいる最後の一人を倒した。少しの時間静寂がこの空間を制覇したかと思うと、次は目の前にデットエージェントが出現した。明らかに敵対意識を持っている。なぜなら最初から警戒の体制に入っているから

 

デットエージェント「―死ヲモッテ償エ!」

北斗「また厄介なのが出てきたな」

万葉「六花殿、旅人」

 

万葉は戦闘態勢に入っている六花と蛍に囁くような声で呟く

 

万葉「ここは拙者たちに任せて先にいくでござる」

蛍「でも…」

北斗「なに、このくらい、海山に比べればどうってことはないさ!さっ!行けっ!」

六花「っ―――済まないっ!この借りはいつか返す!」

 

2人は北斗たちに背を向け走り去っていく。その背をみたデットエージェントは逃がすまいと視線をずらす。すると北斗は「"お前たち"の相手はアタシたちだ!」と言ってデットエージェントに向けて攻撃をする。北斗は今、お前たちと言った。それに気づいたのは彼女だけではない。万葉も先に気づいていた

万葉は風の神の目を持っているため感じ取ることが出来るが、北斗はその類ではない。ではなぜかそれは―

 

万葉「気づいておられたのか?」

北斗「どのくらいあんたと一緒にいたと思ってるんだ。これくらいわからなきゃ、船長失格さ!」

万葉「姉君――いくでござるよ!」

 

2人を囲むファデュイ達。その数10人。しかしそんな数などは関係ない。なぜなら、一人はかの雷電将軍の無想の一太刀を受け返し、一人は海の海獣"海山"を討伐した人だから

こんな数のファデュイなどその者の足元にも及ばない

 

万葉「"風の共、雲の行くごと"」

北斗「"よく見ておけ"!」

 

2人の放った元素爆発の音は天衡山いっぱいに広がった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛍「はぁ…はぁ…」

六花「大丈夫か?」

蛍「大丈夫…だけど…みんな心配だね」

 

蛍は息が切れつつみんなの心配をする

先ほどファデュイとの戦い時に分かれた北斗と万葉。遺跡守衛と亡霊をここは任せてくれと勇敢に立ち向かった胡桃と申鶴と重雲。そして最も璃月港に近く、最終壁になるであろう凝光や刻晴。辛炎と雲菫と行秋。みんな我々が元凶を断つまでその戦いはずっと続くだろう

 

その戦いが続くということはつまり、それに比例するかのように危険度も向上するのだ。戦えば戦えば戦うほど疲労感が蓄積され、本来のパフォーマンスが出せなくなる

 

戦闘時間が長くなれば長くなるほど、親しい人からの心配は広がっていく。それに璃月港には、病人も沢山いるのだとか。おそらくは妖気が原因であり、時間をかければかけるほど辛く取れにくいものになる。だからこそ早く終わられなくては

 

六花「大丈夫だろう。彼らは我から見てもだいぶ強い。心配せずとも戦えるさ」

蛍「でも…心配なものは心配だよ」

 

六花はその言葉を聞いて元の主を思い出した。自分の身に危機に迫っていても他者を心配していた彼女、最後はその心配していた人たちによって命を経たれたのだが

 

六花(ふっ…その意思があるだけましだな)

 

鼻で笑った六花を見てよくわからないという顔をする蛍。それと同時に揺れ始める地面…立っていられないほど揺れる地面に屈し、ふたりとも膝をつく。揺れが収まったかと思えばいきなり付近が暗くなった

不思議に思った蛍が辺りを見渡すがなにも変哲がない

 

変わりのない道、景色、空―――だと思ったのは束の間

曇天の空は一部だけ漆黒の黒に染まっており、恐怖が心を塗り替えた

 

―否、それは漆黒の黒ではなく、巨大な岩石であった




一旦整理します
璃月に残っているのが、煙緋・甘雨・白朮・七七

璃月港付近が凝光・刻晴・辛炎・行秋・雲菫

遺跡守衛と戦っているのが、胡桃・申鶴・重雲

ファデュイと戦っているのが、北斗・万葉

一番最前線が六花と蛍です


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6話 狂乱怒涛

すこし深堀します今回は(謎の倒置法)


空に浮かぶ漆黒の岩石。それは群玉閣に及ぶほどの大きさであり、魔神オセルを再度封印できるくらいであった。どうしてそんなものが宙に浮いているのか六花や蛍は不思議だった。何のために―誰のために―と考えがまとまらず、開いた口が閉まらない

 

―こんな巨大な岩石を作り出せるのは、全盛期の帝君ぐらいだろう。だが、もうすでに帝君は璃月の神としての座を人に譲っている。しかも、魔神戦争時代時代ならわかるが、こんなに巨大な岩石を作る意味がない

と六花は頭の中の記憶を頼りにこの岩石を作っているモノの正体を暴こうとするが、全然出てこない

 

―――その時。その岩は動き始めた

         他でもない六花たちに向かって

 

そして六花はこの岩石が有る理由がわかった。これは確実に殺しに来ている。息の根を止めようと――確実に一撃で仕留めようとしているのが目に見えた

 

六花「"晴天雹凍"!!!」

 

地を蹴り、かの岩石へと迫る六花。その刀身に氷を纏わせ岩石に向かって一閃を放つ。間違いなく一刀両断したと確信した。これで大丈夫とも思ったがすぐに異変に気づいた

 

―柔らかすぎないか?

 

シュバッと一刀両断できたものの手応えが異常なほどない。それはまるで箸で杏仁豆腐を切るかのような感覚であると言える

六花は岩をよく観察してみる。すると、その岩は岩石というひと塊の物体ではなく、何億の石や塵でできているようだった。道理で手応えがなかったのだ。六花が放った攻撃は見事に塵や石の間を通り抜けた為、手応えがないように感じたのだ

 

再び地面に戻った六花はどうするべきか考え始める

 

六花(じゃあどうする…こいつを爆発させる?でも無理だ…)

パイモン「うわぁぁぁぁ来るぞ来るぞ!?」

六花(せめて旅人達だけでも退避させないと…)

 

岩石は刻々と迫ってきている。それはつまり、残された時間ももうわずかであるとも言い換える事が出来るということだ

早くに決断しなければ、全員即死。運が良くても、普通の人は死ぬだろう…旅人にはこの規模の岩をどうすることも出来ない。強風であろうと荒星であろうと雷鳴であろうと、この規模の岩石を砕くことは不可能に近いのである

 

―夜叉である六花ならばどうにかできるか。先程、晴天雹凍を使ったのに無傷であり、攻撃を促すこの岩石をどうにかすることは非常に難しいのだろう

 

六花「…これしかないのか―!」

 

六花は最後の砦に残しておこうと思っていた面を被ろうとする…これを被るということは、夜叉としての本来の力を最大限に発揮することなのだ。それはつまり六花が思考する最終決戦にて本気を出すことが出来なくなってしまう可能性が大いにある。六花としてはそのようなことは極力避けたいのだが…と迷っていると、巨大な岩石になにか物体が当たり爆発する

なにかに当たった岩石は3分の1が削れ、漆黒の闇が少しかけていた

 

六花「なんだ…?」

??「妾が駆けつけてやったのにそのような醜態を晒すか?」

六花「お前――」

 

美しい白い羽根。空のようにも見える青い羽が輝き、その美声を発する仙鳥が、少し高くなっている山に立っていた

 

パイモン「この声は――!」

六花「留雲…」

留雲「まさか妾だけ来たと思っているか?」

 

留雲がそう含みのあるように呟くと、またしても岩石に何かが一つ…二つ…と当たり、爆発を起こす。すると岩石は跡形もなく消え、砕けた破片が地面に向かって落ちてくると、六花は傀儡を使ってその破片から旅人を守った

 

―留雲借風真君が言った言葉の意味と今の現象を照らし合わせる。妾だけではない―つまり今のは加勢してきた他の仙人だろう。そして留雲借風真君と仲が良い仙人といえば――

 

理水「久しいな六花よ」

削月「息災であったか?六花」

六花「お前たち―」

 

―理水畳山真君。削月築陽真君。六花に話しかけた璃月の仙人が留雲のように凛々しく立っていた

六花はその仙人に対し懐かしさを覚える。六花が人の世を離れる前、よくこの三人と茶を飲んでいた。留雲の仙府がある奥蔵山の頂上で翹英荘で作られた良質な茶葉を使い世間の話を楽しんでいた

 

ところが、六花が人の世を離れてからその茶会は徐々にする回数が減っていき、最近は滅多にやらなくなっていた。理水も削月もふたりとも六花のことを心配していたが、どこに隠れたか検討もつかず、ただ心配する日々を送るだけであった

 

パイモン「どうして仙人たちがここに?もう人の璃月になったから手出しはしないんじゃなかったのか?」

留雲「そうともいえぬ。ほれ、あれをみてみろ」

蛍「土煙でなにも見えない…」

留雲「そう焦るでない。今晴れる」

 

留雲がそう呟くと同時に、大きな咆哮が鳴り響き、土煙が一気に晴らされる

土煙があった場所に謎の人が佇んでいた。岩のような衣服に身を包み、長い髪を背におく。六花はこの者を見たことがあった

 

かつて仙衆夜叉としてこの璃月を守っていた岩の夜叉。兄貴分の浮舎対して服をきろとか身なりをちゃんとしろとか優しげな声をかけていたあの夜叉

 

六花「弥怒――なのか――」

 

今は亡き仙衆夜叉。魔神に操られていた弥怒を伐難と共に殺害したはずだ。しかし今彼は立っている。かつてとは変わり果てた姿でここに立っている。髪は荒れ果て、目は真っ赤に染まる。優しげな声を発していたその口からは、苦悩の息が流れ出ている

 

蛍「あれは――?」

削月「あれは弥怒。かつて仙衆夜叉としてこの璃月を守っていた岩の夜叉だ」

パイモン「仙衆夜叉!それって――」

弥怒「ア"ァァァァァァァ!!!!」

 

夜叉とは思えない奇声をあげ、鋭利な岩を飛ばしてこちらに無造作に攻撃してくる。その攻撃は留雲たちにも飛んでいき、留雲たちは空へと飛び上がる

仙人であろうと人であろうと関係ないと言わんばかりの攻撃方法からは、もう以前の彼を感じ取ることはできなくなってしまっていた

獣のようなその攻撃。以前の彼であれば、ちゃんと戦略を立てて戦っていた。こうすればこうなるから――といった感じで知性を活かし、戦っていたのだ

 

岩を飛ばす弥怒に留雲はお得意のからくりで弥怒の体を拘束し、その行動を止める。そうして地上に戻ってきた仙人たちは旅人に仙人が手出しする理由と弥怒を倒す方法を話し始める

 

留雲「これを人に任せられるか?」

蛍「――どうするの?」

理水「帰終機にて殲滅する。しかし、今帰終機は準備状態にある。それまでやつのことを頼むぞ」

パイモン「おい!まかせるのかよ!まてって――行っちゃった…」

 

パイモンの声も届かず、仙人たちは空に飛び上がってしまった

直後、留雲が弥怒に施した拘束具が一気に解き放たれ、弥怒が大声を挙げる。大声を挙げると同時に巻き上がる土煙を払い六花は前に出る。こいつは弥怒ではない―どこか心の中でそう思っている六花。それは過去にも経験したことのある思いであった

 

六花「…弥怒」

弥怒「ウ"ゥゥゥゥゥゥゥゥゥ?」

六花「―変わり果てたなお前も。あの時…お前を救ってやれなかったこと…まだ悔やんでいる」

弥怒「ア"ァァァァァァァ……」

 

応答するかのように声を漏らす弥怒。それは知性を持った声なのではなく、単なる息の漏れなのか。はたまたまだ知性を持っていて、本当に返事をしているのか…どちらなのかはわからない。しかし、次に起こったことは紛れもない敵対しているということだった

 

弥怒が六花のことを攻撃したのだ

 

蛍「六花!」

六花「―弥怒、すまなかった」

弥怒「ア"ァァァァァァァ!!!!!」

蛍「立花!!!!」

 

六花は攻撃が来ているというのに不動。蛍が心配しているのに全くもって動こうとしない

次に六花が口に出した声は、弥怒に対する懺悔の言葉ではなく、区切りをつける声であった

 

六花「終わりにしよう―弥怒」

弥怒「ア"ァァァァァァァ!!!!」

?「いや、終わらせるのはお前でなはい」

 

突然咆えた弥怒に続いて、凛とした少年の声が響き渡る。その声はこの場にいる誰もが聞き覚えがあり、なおかつこの人なら勝てるだろうという信頼がある声であった

空を切る槍の音。新緑色に輝くその槍の名は和璞鳶。かの岩神が作った石クジラとも戦った海獣を貫いたとされる力のある槍。それを持つのは金鵬と呼ばれた仙衆夜叉――

 

?「ふっ!!!!」

弥怒「ガ"ァァァァァァァ…」

 

天空から弥怒めがけて落下してきたその閃光は、弥怒の体を貫いた

しかし貫かれた弥怒は岩のように崩れ落ち、塵のように消えたと思えば、少し奥の方で再度復活したのだ

落下攻撃してきた少年はふっと鼻で笑い、旅人の方を振り向く

 

?「ここは我に任せろ」

蛍「魈…!」

魈「あいつは我と同じ仙衆夜叉だ。ならば我の手で沈めたい」

 

魈はそのように静かに呟くと、拳をグッっと握りしめた

彼にも彼なりの決意というものが有るのだろう。同じ仙衆夜叉として戦ってきた弥怒。ここ数百年見ていなかったかつての同胞をその手で殺す。その心境は他人には考えられたものではない

 

六花「金鵬。ここはたのんだぞ」

魈「あぁ。もとからそのつもりだ」

 

六花は蛍を抱えあげて華麗に去っていく

その姿をみた魈はふぅと息を吐く。―今から殺し合いをするのだと。かつて自分と共に妖魔を払っていた同胞と殺し合いをするのだと魈は自分に言い聞かせる

 

――弥怒。岩の夜叉で頼りがいのある夜叉であった。いつも優しげな顔をしていて、応達も伐難も彼を慕っていた。もちろん魈も彼をいいやつだったと考えている。だが、その彼をここで殺さなければならないという事実はどう返しても変わらない。ここで殺さなければ璃月は襲われ、人にその座を譲った帝君が手を下すことになる。それだけはさせない

 

弥怒『金鵬』

魈「―っ…」

 

かつての弥怒と姿が重なる。そして魈は一息吐く

 

こいつは弥怒ではない

 

弥怒を模した妖魔だ

 

弥怒はすでに死んだ

 

弥怒を冒涜するなら…

 

魈「――お前を殺す」

 

儺面を被った魈は弥怒に刃を向け、自分との区切りをつけた



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7話 調査その2

4日くらいサボっちゃってごめんなさい!
ARKをダウンロードして遊んでたんですけど…まじで面白すぎですわ
これからはこんなに期間空けないようにがんばります





青墟浦。そこには変な歌が響き渡っていた。女性が奏でるハミングのような歌がずっと流れているのと同時に、ヒルチャールやアビスの魔術師たちがその歌に合わせて踊っていた

パイモンは恐怖に怯えるように身震いをする

 

パイモン「うぅ…なんだかおかしなところだな…」

蛍「そうだね。この歌もなんの歌なのか全然わかんないし―」

六花「これは歌の魔神"ミュルクス"の歌だ」

蛍「歌の…魔神…?」

 

蛍は頭の上に?をつけ、首を傾げる

それもそのはずだ。歌の魔人ミュルクスを知るものはもうこの世には居ない。なぜなら自らの信者をも下僕として扱い、死人になってもなお下僕として使役していたからだ。自らの民を守るために岩王帝君は青墟浦方面を封鎖し、その魔神を知ることを封じた

 

しかし、この歌がこの青墟浦に響いているということは…と六花は少し恐怖を感じた

 

六花「そうだ。かつてこの青墟浦が繁栄していたときの玉座に座していた魔神だ。その魔神は自らの民をもその歌で魅了し、下僕として扱っていた。この歌をいいものだと思うな。魅了されるぞ」

パイモン「み、魅了されたらどうなるんだ…?」

六花「――あのヒルチャールみたいに永遠に踊り続けるぞ」

パイモン「お、オイラ…絶対にこの歌がいい歌だと思いたくないぞ…」

 

ガクブルするパイモンをおいて六花は歩み始める

―目標は地上には居ず、遺跡の地下にいる。かつてもそうだったと六花は思い出す。魔神戦争時代、帝君に命じられて歌の魔神の討伐をしたときも同じような状況になっていた。いまも流れているこの歌が遺跡中に響き渡り、魔物が狂い踊る。しかし当の本人は地下に引きこもり、歌を歌う…

 

帝君は「あいつはもともと善良な魔神であった」と言っていたが、六花にはそうとは思えなかった。六花が初めて出会った時に感じた感覚は恐怖、狂乱と恐ろしい感覚出会ったのだ

 

六花「…探せ。どこかに地下に繋がる通路があるはずだ」

蛍「どこかって…来たことあるの?」

六花「あぁ、過去に1度な。この遺跡を調査する時にその通路を見つけたのだが、もう過去とは違う…今やどこにあるか分からない」

蛍「…この歌もその地下から?」

六花「そうだ。この歌を早くやめさせなければ、璃月の人々はもっと苦しむだろう」

蛍「よし!わかった!」

 

蛍はビューンと地下へ続く通路を走って探しに行く

六花はそれを見て少しばかり安心する。まだ歌に飲まれてないのだなと心から安心する。歌の魔神が歌う歌に飲まれたものは、少なからず自我というものを失う。そして自我を失ったあとは、その体の支配権を完全に奪われ、死んでもなお動かされ続ける

 

六花「…我も遺跡への入り口を探すか…」

 

遺跡は以前とは全く違う。全盛期の頃と比べると風化が激しい

天井は落ちて晴天を覗かせ、壁は苔に飲まれてかつての模様など消えていた。そのような状況でかつて見つけた地下への道を見つけることは非常に難しい。その地下への入り口は地上と非常に近い位置にあったと六花は記憶している

かつてもその穴から歌が――

 

六花「――そうか…そうやって見つければいいじゃないか」

 

六花がそのように思いつくと、遺跡の奥の方から六花の名を呼ぶ声が聞こえ、その方から二人が走ってきた

 

パイモン「おーい!六花!」

六花「みつけたか?」

蛍「歌が聞こえるところを辿って行ったらあったよ」

 

蛍は自信満々にこやかに答える

六花が考えてたことをすでに旅人は思考し、それを行動に移していた。このテイワット大陸を旅している蛍の判断力を六花は関心した。どのようにすれば目的を達せられるか。この瞬間どうしたほうがよいか。それがわかっている

 

―昔からある固定概念にとらわれず、今この段階で思考し判断、行動する。それは仙人でもすることが難しい。むしろ仙人のほうができない可能性すらある。人は人と成長するというが、それは本当だったらしい

 

六花は旅人に連れられその遺跡の地下への入り口へと向かった

♪〜♪〜とハミングがその入口から絶え間なく聞こえてくる

 

六花「よし。行こう」

 

三人は暗闇が広がる遺跡の地下へと足を踏み込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――歌神支配域遺跡地下――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下遺跡は当時の面影を残しているが、苔や風化が激しい。天井からは巨大な琥珀のような結晶が生えていて、光源になっている。辺りを見れば魔神の残滓の結晶だらけで、どこか不気味さを誘う

 

パイモン「こんなとこ…初めてきたぞ…」

蛍「そりゃあそうでしょ。青墟浦に行くことなんてそうそうないし。こんなに探索したのだって今回が初めてだしね」

 

他愛もない話が遺跡内に響き渡る

外とは裏腹にこの遺跡内は全然魔物の気配がない。地下に入ってからと言うもの一度も戦闘に入っていないのだ。普通、自分の身に危険が迫ると知れば魔物を自分の周りに配置するのだろうが、なぜかそのようなことはしていない

 

―復活した今なら余裕で勝てる――そういう意味の現れなのかと六花は思う

 

確かに歌の魔神は強かった。人を人では無くし、魔神の力で強化する。そうすることで、人を超えて夜叉まがいの強さになる。かつてはそのように戦っていた。決して自分では戦わず、他者の力を借りて戦っていたのだ

 

するとパイモンが六花に向かって心配そうに問いを投げた

 

パイモン「…なぁ六花…さっきからなにも喋らないけど…どうかしたのか…?」

六花「すこし考え事をしていた。なぜ地下には魔物がいないのかと」

蛍「そう言われると確かにいないね…」

パイモン「それならそれでいいじゃないか?戦闘少なくて」

 

パイモンがそのように言うと六花は重そうに首を横に振った

 

六花「―弱いものほど群れる―という言葉を聞いたことがあるか?」

パイモン「ん?なんだそれ」

六花「個としては弱いが、集団として、組織としてその個があつまれば、夜叉のように強くなる。そんな感じの意味だ」

パイモン「ん??それがなんで今そんなことをいうんだ?」

 

再び首を傾けるパイモンに六花は教える

 

六花「―逆に考えてみろ。強者は群れない。お前たちがかつて戦ったことのある強者はどうだった?一人であっただろう?」

パイモン「たしかにそうだったけど…それと今の状況は違くないか?」

 

パイモンの言っていることは大まか正しい

強者は群れない。仮に強者を歌の魔神と仮定するとする。ではなぜヒルチャールたちが璃月の方に侵略していったか。それは弱いものがすることではないのか

地上の方には魔物が群れている。地下には全くといっていいほどいない

パイモンは群れているから弱いものなんじゃないかと考えた。しかし六花や蛍の考えは違ったみたいだ

 

蛍「地上で戦力を落として…地下で決着をつける…そういうこと?」

六花「あぁ。おそらくな。それか本当に強い臣下がいて、そいつに任せるか…その二択だな」

パイモン「うぅ…よくわからなくなってきたぞ…」

六花「わからずとも結果は最後にわかる。先を急ぐぞ」

 

蛍と六花は先に進む。パイモンは頭が蒸発しそうになりながらもなんとかついてくる

 

 

 

少し進んだ時、目の前に何者かの遺体があった

観察してみると、その手には禁忌滅却の札を持っており、顔にはデットエージェントの証である仮面をつけていた。どうやらこのファデュイが六花の見たファデュイであり、歌の魔神の封印を解いた犯人なのだろう

 

近くにはこの者の所有物であろう執行任務とデットエージェントの刃が落ちていた

六花はもっと深く観察する

 

六花(背中から何者かに切られたみたいだな…獣か?いやそれにしては返り血が少ないような気が…あ)

 

六花は地面に落ちていた水に注目した

まだ乾ききっていない水。その水からは少しばかりの業瘴の気配が感じられた

自然界で業瘴が生成されることは絶対にない。業瘴を生成するのは魔神の残滓や妖魔。それと夜叉が技を行使するときだけだ

しかし、その妖魔や魔神の残滓の気配はここには感じられない

となると、この水に付着している業瘴の正体は…

 

六花「――伐難…?」



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8話 魔神

パイモン「なぁ六花…また考えごとか?ほんとに大丈夫か?」

 

遺体のデットエージェントを観察して動かない六花に向かってパイモンは心配の声をかける。パイモンが声をかけたくなるのもわかる。なぜなら六花はずっと動かなかったからだ

 

―不動。不変に変わらない体制を見て心配したのだ

 

六花「あぁ…大丈夫だ。ちょっとしたことだからな」

蛍「ちょっとしたことって…本当に大丈夫?」

六花「大丈夫だ。先に進むぞ」

 

そうそう言って歩き出す六花の背を二人は見ていた

先に進むぞ―そういった彼の顔は少しばかり悲しそうに。悲しみを噛み締めているかのような顔をしていた。ちょっとしたこと―その悩みがその顔を作った原因なのかはわからない。だが、蛍やパイモンはその顔を見て少し不安だと感じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六花「む…行き止まりだな」

 

先を急ぐ三人の行く手を阻むのは高く高くそびえ立つ壁だった。壁を注目して見てみると、道があるように見える。どうやら行きべき先はこの壁を登ったところに有るみたいだ

 

パイモン「迂回路は――無さそうだな」

蛍「どうやって登る?よじ登る?」

六花「以前は階段があったのだが…朽ちてしまったようだな。さて、どうやって登ろうか」

 

よじ登るのも悪くは無い。と六花は少し思う。しかしよじ登っている時に敵襲が来たら、為す術がないだろう。弓矢持ちのヒルチャールなどがいた場合はもっと最悪だ

 

上がる道は無いのだろうか。六花はよく探してみる

すると、壁際の地面に何かが埋まっているのが見えた。見たところなにかの装置のようだ。丸い形に線が入っており…その線の場所には凹みがある。その凹みからは翠玉色の光が漏れていて―と、ここでこれがなにであるかを六花は理解した

 

六花「元素石碑か――」

蛍「元素を与えたら動くやつ?」

六花「そうだ。だが残念なことにここにいる元素持ちでは解決出来ない。なぜなら、この石碑は"風"元素で反応するものだからな」

 

六花のどうしようもないというため息が遺跡中に響き渡る。ここを突破できるものがないと断言してしまうのは仕方のないように思えるだろう。蛍は岩元素、六花は氷元素、パイモンはよくわからないが、少なくとも風元素ではないだろう

 

―どうすればこの壁を超えられるだろうか

 

六花が夜叉の力を使い、颯爽に飛べば簡単に超えることができるだろう。だがしかし、それをしてしまうと、六花の体内に有る業瘴が増加し、魔神との戦闘どころではなくなってしまう。傀儡を使うのも同様に業瘴の影響を受けてしまうため、使うのを控えている

 

悩んでいる六花の横から蛍がスッと出てきて、元素石碑に手を触れる

 

その瞬間、ブワッ!!っと風が巻きおこり、元素石碑が風元素を感知して封域を作り出した

 

六花「…元素は岩ではなかったか?」

蛍「えへへ…私は少し特殊でね。今のところ3つの元素をあやつれるんだ」

 

三元素を操れると聞いた六花は少しその体質を羨ましく思った

六花がもし三元素を使うとしたら、氷と水と炎だろう。氷の傀儡と水の傀儡を作り、自身の元素を炎にする。そうすることにより、氷と水で凍結。凍結したのを炎で溶解することができ、敵に大ダメージを与えることができるのだ。それだけでなく、氷の次に炎が当たったとしても溶解。氷が当たらず、水が当たったとして、その次に炎であっても蒸発反応を起こすヤバい夜叉になってしまう

 

――まぁ、一人ではそんなことできないが…

 

今六花が考えていた先方はかつて仙衆夜叉と共に戦っていたときに使っていた技だ。応達と伐難、そこに六花が入ることによって爆発的なダメージを与える戦法であった

 

そんなことはさておき

これでやっと遺跡の奥に行くことができる

 

六花「よし、行くぞ」

蛍「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――歌神支配域遺跡地下 最深部――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人はかなり深いところまで来た。おそらく最深部と見ても過言ではないだろう。そこは暗く、中途半端に光る鉱石が多々あるだけであり、無妄の丘と似ている雰囲気であった

六花はもうすぐ魔神が鎮座しているということを確信していた。妖魔の気配がとてつもなく大きくなってきているからだ

―しかし、それ以外にも気になる気配があった

 

業瘴の気配。先程も感じた業瘴の気配…

 

悩む六花を見て、パイモンは本当に心配そうにする

 

パイモン「悩んでるっても…あんなに悲しそうな顔するか?」

蛍「結構深い悩みなのかもしれないね」

六花「何を話している?」

パイモン「いやいや!なんでもないぞ!」

 

突然来た六花に対し、パイモンはびっくりして手を思いっきりブンブン振って否定する

 

六花「なんでもないのにそこまで否定するか?」

蛍「――パイモンが悩みについて聞きたいって言ってた」

パイモン「おい!オイラはそんなこと言ってな――」

六花「――良かろう。話してやる」

 

悩む素振りも無く、六花は淡々と話し始めた

その姿はどこか悲しそうにも見え、パイモンは更に心配する

 

六花「先程の遺体の近くに水が落ちていた。その水には夜叉が背負っていた業瘴が付着していた」

パイモン「それがどうかしたのか?」

六花「…自然界で業瘴が生成されることはほぼない。それが生成されるのは死した魔神の死骸か妖魔…それと夜叉が技を行使するときだけだ。だが、あそこにはあった。何者かに襲われた遺体の近くにそれはあった」

蛍「そのとき妖魔の気配は?」

 

その問いに対し、六花は首を横にふる

妖魔はそこにはいなかった。妖魔がいた形跡も感覚も全てそこにはなかったのだ。仮に妖魔がいたとしたら六花が排除しようとしただろう。だがしかし、この空間には何もいない

魔神の死骸の近くではあるが、それなら業瘴がそこら中に蔓延しているだろう

 

蛍「となると…残されたのは…」

パイモン「"夜叉が技を行使した"ってことか?!」

六花「そうなるな――」

 

六花が言い終わると同時に遺跡の壁が崩壊し土煙が蔓延する

一人は驚いて人の背中に回り込み、一人は戦闘状態に入る。そして一人はその正体を察した

―強い業瘴の気配。その身に背負った業瘴は精神をすり減らし死を招く。かつてその現状を六花はその目で見た。仙衆夜叉と呼ばれた彼の者たちの末路…それに匹敵するかのような強い業瘴がそこにいる

 

??「わざわざこの地に入ってくるとは…無様なものよ…

 

土煙の中から聞こえるだみ声。人といえる声ではなく、死した者の声と言い換えても寸分違わない声であった。旅人はその声に恐怖を覚え、六花はその声に聞き覚えがあった

 

かつてこの遺跡に玉座していた魔神。死者を下僕として扱うあの魔神。六花の主を死に瀕するまで追い回した魔神。六花としては因縁の相手

 

六花は傀儡を生成し、土煙でけむっている場所に飛ばす。傀儡はまっすぐに土煙に飛んで行くが、なにかに弾かれたように土煙から飛び出てきて、その姿を失う

 

??「せっかく復活したのに殺されるのは神とて許されることではない

パイモン「だれだ!」

??「名を名乗るときは自分からと言われなかったか?のう(すい)

推「――――」

 

土煙が晴れる。そこには、女性と思われる人が二人。凛々しくこちらを蔑むように見ていた

夕日を背負うような赤い服。風になびく艶のある髪は、まるで燃え盛る炎のようであり、無意識に引き込まれるかのようであった

 

その隣には、深淵まで届くほど澄明な水のようにきれいな髪の女性が立っていた。頭には甘雨のような角が生えていて、明らかに人ではないことがわかる

顔には魈のような仮面をつけていて、表情がわからない

 

旅人は六花の方を見ると、青い女性を見て固まっていた

 

六花「まさか…そんな――」

??「おや?我らを見ておそれおののいているのか?なんとも無様なものよ

蛍「っ――これ以上人を馬鹿にするなら容赦しない―!」

??「何ができる?集まったとしてもたかが人。我らには敵わない。さぁ行け、推よ

推「………」

 

推と呼ばれた青い人は、両手に水のようなもので獣のような爪を作り、こちらに突進してくる――と思った瞬間、蛍の目の前にその人は現れた。その間、およそ0.1秒ほど。それは六花が蛍を助けた時よりも早い速度であり、人の目では追えない速度であった

 

蛍は未だ硬直する。雷電将軍の雷をも凌ぐその速度について来れない

しかし確実に攻撃は迫って来る。息の根を止めるような攻撃は止まらず、蛍の腹部に迫る。その時――

 

――六花の剣がその攻撃を弾いた




なんかこんな感じの終わり方しかしていない気が…もっと成長しなくては


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9話 夜叉

遺跡内に響きわたる高音の鉄の音。六花が推と呼ばれた女性の攻撃を弾いたことにより、生じた強烈な風がパイモンと蛍を容赦無く襲う

 

パイモン「うわっ――!!!」

 

体が軽いパイモンは飛ばされかけるが、精一杯蛍の服を掴んで飛ばされないように努力していて、蛍は頑張ってその風に流されないように足を踏ん張る

六花たちが起こした強烈な風は10秒ほど続き、やがて土煙を巻き起こしておさまった

 

―しかし、依然剣戟の音は続く。高い金属音は遺跡中…否、地上である青墟浦にも届いていることであろう

六花は休むこと無く、推の攻撃を弾き返す。難なく弾き返すその様は、まるでその攻撃を経験しているかのようであった

 

六花(なぜだ…なぜお前が―――)

推「………」

六花「――伐難っ!!」

 

六花の渾身の一撃が推の仮面に直撃する

その瞬間、土煙ははて、推と呼ばれた女性の仮面は半面だけ砕け落ち、その顔が露わになる。絶世の美女といえるほどの美貌。世を歩けば男が群がると行っても良いほどその美貌は美しかった

 

だが、六花はその美貌に囚われなかった。なぜなら、彼女は仙衆夜叉の一人――水の夜叉、伐難であるからだ

 

伐難は仮面を破壊されたことにより一時距離をとる

蛍とパイモンは六花に駆け寄り、剣を共に構える。パイモンは六花が先程言った言葉を六花に聞き返す

 

パイモン「六花、さっき言ってたことって…」

六花「さっき言ってたことか?」

蛍「伐難って聞こえた。でもそれって――」

 

六花は静かに声を放つ

 

六花「そうだ。仙衆夜叉の一人、水の夜叉"伐難”。かつてこの遺跡で魔神の下僕もろとも封印した夜叉だ」

伐難「………」

 

伐難は虚ろな目でこちらを見てくる

戦闘する――というよりもなにか指示を待っているようにも見えるその姿は、不動であった

静寂。その言葉がこの空間を制覇する。何も動かず、ただ聞こえるのは布が擦れる音のみ。六花は立ち尽くす彼女を見て昔のことを思い出す

 

 

仙衆夜叉と共に過ごした記憶。伐難や応達とコンビを組んで戦った記憶。この遺跡で伐難と共に魔神の下僕を封印した記憶

 

 

伐難『ねぇ六花みてみて!これ可愛い!』

 

可愛らしい笑顔で笑ってきた彼女

 

伐難『六花、浮舎の兄者しりません?』

 

兄貴分の浮舎に試合を挑もうとしていた彼女

 

伐難『えへへ…金鵬にいたずらしちゃいましょうか』

 

いたずらしちゃおうとこっそり言ってきた彼女

 

伐難『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…!!!!み"ん"な”ぁぁぁぁぁ…』

 

 

彼女と出会ってから彼女と経験したことすべて思い出す

だが今、実際に目の前にいるのは…そのような彼女ではなく、魔神に意識を奪われ、傀儡となってしまった彼女である。その違いに六花は歯を食いしばる

 

あの時、我が助けていれば――あの時、我が変わりになれば――

 

無意味な後悔が六花の体の中を這いずり回る

その時――六花の耳に伐難の声が聞こえた気がした

 

伐難『雹蕾―――』

六花「伐難―――?」

パイモン「?どうしたんだ六花?なにか呟いていたけど…」

六花「―彼女の声が聞こえた気がする。我の名を呼んでいた…」

 

パイモンは再びわけがわからないような顔をする。話を聞けば、六花以外の人には聞こえていないようだ。もしかしたら、六花が聞こえた声は六花自身が生み出した幻想で、本当のものではないのかもしれない

だが六花は――その声を再び聞こうと精神を集中させる

 

伐難『――――雹――――』

六花(聞こえた――!ならば――)

 

モヤめいているが六花には確実に伐難の声が聞こえていた

六花は更に集中し、その声に意識を集める

 

伐難『――雹蕾――――おね――届いて―――』

六花(もっとだ――もっと集中を―――)

伐難『雹蕾!!』

 

 

 

 

 

 

 

完全に伐難の声が聞こえたとき、六花は遺跡の中ではなく、謎の空間にいた。海底にドーム上の空間ができていて、溺れることはない。その空間は痛みや業瘴の苦しみなど無く、全てが心地のよい空間であった

六花が辺りを見渡して見ても旅人の姿がなく、ただ空間の中央に女性が立っているだけであった

 

六花はその女性に近づく

 

艶のある透き通るような水色の髪、懐かしい立ち方をしている彼女は―――

 

 

六花「…伐難」

伐難「やった…私の願い…届いたんだ…」

六花「あぁ。届いたとも」

伐難「久しぶり――雹蕾」

 

涙ながらに笑顔を作る伐難は、以前と全く変わっていなかった

久しぶり――そう言われた六花は、伐難の名を口に出す

 

六花「(せい)。済まなかった…あの時君の代わりに我が――封印すればよかっ――」

伐難「あなたと私がもし反対になったら…璃月――いや、テイワットは崩壊しちゃうよ?」

六花「―――」

伐難「夜叉のなかでも飛び抜けて強いあなたがミュルクスの傀儡になったら…」

 

伐難の言っていることは正しい

当時、六花は仙衆夜叉に選ばれるほど強かった夜叉だ。しかし、帝君の誘いを六花は断った。理由は"いらない期待を背負ってしまう"からだった。選ばれることは名誉である。がしかし六花は断った。そのせいで、留雲やほかの仙人からは恥ずかしがり屋の変な夜叉だ―と言われているのだ

 

帝君の誘いを断ること自体、おかしなことだ

帝君に忠誠を誓う夜叉なのにどうして断るか。その逆恨み(?)で六花は当時命を狙われる事もあった

そんな人が魔神に操られたらと思うと、自分のこととはいえ恐怖に六花は思った

 

伐難はすこし笑顔になって六花に話しかける

 

伐難「…積もる話もあると思うけど、今はそんな話をしている暇はないよ」

六花「どういうことだ?」

伐難「私がこの空間を構成する時間はもうわずか―――だから現実世界で私を助けて雹蕾」

六花「助ける…ってことはまだ死していないのか?!」

 

伐難はコクリと縦にうなずく

六花は安堵の声を漏らす。傀儡にされたということはもう死していると誤認していたからだ

伐難は続けて六花に自分を助ける方法を話していく

 

伐難「私は生きたままミュルクスに操られてる。ミュルクスの業瘴が私を蝕んで今も消えそうなの」

六花「どうしたらいい。我にできることはないか?」

伐難「ミュルクス本体に私を蝕んでいる業瘴のコアがあるの。それを破壊して―――わたしに―――取り――」

 

伐難の声にノイズが混ざる。残された時間はもう本当にわずかしかないのだろう

六花は精一杯伐難のノイズが混ざった声から、伐難が言いたいことを抽出し、伐難の願いを叶える努力をする。それは懺悔の思いか。もしくは彼女に対する恩返しなのか。それは誰にもわからないが、ただ一つ。どうやっても変わらない事実があった

 

伐難は生きている。今もなお業瘴に飲まれ、苦しみあがいている

 

それを我は助けなければならない。魔神戦争時代から――いや、それ以上前からの家族を――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蛍「六―――!―花―――!六花!!」

 

ぼーっと立ち尽くす六花に向かって蛍は声をかけ続ける。しかし、六花は不動で動こうとしない。パイモンが頭に乗ってゆらゆらと揺らしてやっても、魂が抜けたように動こうとしない

蛍は少し、不安に思った。なぜなら今六花が動かないのは、いつもみたいな悩んでいる姿とは違うから。魂が抜けたように動かないということは、蛍も経験したことがなかった

 

??「ふっふっふ…やっと効いたか。我の支配が!

蛍「支配…だって…?」

 

蛍が呟くと、赤い髪の女性は高らかに口を開いた

 

??「そうだ。我が歌のトリコになったのだ!これで支配権は我のもの!つよいと思ったが…ただの人であったか。さぁ!いけ!推よ、あやつを破壊するのだ!

伐難「………」

 

命を命じられた伐難は遺跡守衛のように命令に従う

六花の命を狙って――六花の存在を抹消するために――

しかし六花は不動。すこしも動こうとしない。だが伐難は着々と迫ってくる。伐難の手には先程も見た水鋭利なの爪。蛍には防げないあの攻撃を無防備な六花に与えようとしているのだ

 

蛍「っ―――!!!!」

 

蛍は雷電将軍と戦ったときのような勇気を振り絞り、六花の前に立つ

―彼に助けられた――その思いを返すために蛍は剣を構える

 

しかし、伐難の速度は雷鳴よりもはやく、構えたときにはもうすでに人が会話するくらいまで迫ってきていた。もうむりだ――蛍はそうおもった。今までそんな苦労よりも今この瞬間が一番くるしい。死というものが間近に近づいているという恐怖。助けがないという恐怖。すべての恐怖が混ざって後悔になる

 

 

 

 

 

蛍「――まだ…ここはゴールじゃないのに…」

 

蛍の悔やんだ声は伐難の鋭利な爪が空を裂く音にかき消された



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10話 守るための名

感想、評価感謝いたします!初めて色付きになりました!
物凄っっっく励みになります!


――我は雪の山で生まれた仙獣であった。生まれてからというもの、我はずっと一人。厳しい寒さの中、我は空腹で倒れそうであったが、雪を喰い、雪に染まり、必死に食いつないでいた

 

しかし、その日々も長くは続かない

 

我は途中で猛獣に襲われ、死を覚悟するほどの怪我を負った。全身が激痛に襲われ、意識が朦朧とし、もうだめだと思ったその時――我に救いの手が差し出されたのだ

それは優しい手であった。怪我を負った我を介抱し、怪我が治癒できるまで付き添ってくれた。優しい料理、暖かな肌。そして愛情というものをくれた

 

―我は一人ではなかった。なぜなら彼女がいたからだ

 

 

「今日からあなたの名前は雹蕾(ハクライ)!」

 

 

柔らかな笑顔で我に名をつける彼女。その時、我は決心した

―我がこの者の盾となり剣となろうと。戦うことが苦手な彼女に変わり、我が彼女に降りかかる災難を払おうと

彼女は不運なことにかなりの災難が降りかかる。それをすべて我が払う。我はそれが苦とは思わなかった。なぜなら、彼女は我の主であり、彼女を守ることは我にとって誇りであったからだ

 

雹蕾「勝手に抜け出されては困ります!我の援護もなしに…」

「だってだって!あなたがいっっつも助けてくれるから私も、それになにか返さなきゃって――」

雹蕾「だからって―――いや、感謝いたします。ですが――我は我が主と共にいるだけで十分なんです。これ以上、あなたに何かをもらったら…」

 

他愛もない話。

されど大事な話。

我にとってはそれが至福の時間であった

 

ある日、彼女は契約の魔神と対談することになった。その魔神は契約に一番の重みを置き、絶対に破らない魔神であった。我は彼女についていこうとするも、彼女は「この人は安全よ。大丈夫」と我に言った

契約の魔神は「不安なのであれば、そこでこの子と見ていればいい。俺も戦う気はないからな」といって、水色の髪の女の子をこちらに向かわせた

 

女の子はこちらをみて「こんにちわ!」と可愛らしく挨拶する。我もそれに応じ「こんにちわ」と返す

 

その後、彼女たちは奥蔵山の頂上にある机のような岩で対談を始め、我らはそれを少し離れたところから見ていた。少しの間黙って見ていたが、シビレをきらしたのか女の子は我に話しかけてきた

 

「名前はなんていうの?」

雹蕾「我の名は雹蕾。彼女の盾となり剣となるものだ」

瀞「ふーんそうなんだ!私は(せい)。夜叉の名前を伐難っていうの!あなたの夜叉の名前は?」

 

夜叉の名前―と瀞は言った。我には夜叉の名などない

そもそも名が二つあることなんてあり得るのかと我が瀞に聞くと、瀞は「夜叉には二つ名みたいなのがあるんだよ。私だったら人に名乗るときの名は瀞。人を守るときの名前は伐難って感じ」と返答した

 

―ならば…我の人に名乗る名はなんなのだろうか

 

人を守るときの名が夜叉の名であれば、我の夜叉名は雹蕾であろう。しかし、名を名乗るときの名は…我にはない

 

雹蕾「名の由来を聞いてもよいか?」

瀞「うん!夜叉の名はね、"俗世の苦を伐し、難を解せよ”って意味なの。瀞はね〜"清らかな心で人を守る"って意味だって」

雹蕾「清らかな心…まさに君みたいだな」

 

我は瀞を見ながら微笑む

瀞は我の笑顔を見て可愛らしく微笑む

 

対談が終わったあと。瀞と我はじゃあねと手を振って共に別れる

我は主に「仲が良くなってよかった」と言った。彼女はそれが目的だったのかもしれない。その後、我は夜叉の名の由来・意味を聞いた

彼女は困ったような顔をしつつ、我に教えてくれた

 

「雹蕾の意味はね。"氷のように冷たくとも、雹のように人に害をなそうとも、それはまだ蕾で、いつか花を咲かせるときが来る"…ってことよ」

雹蕾「長い―」

「しょ、しょうがないじゃない!私はあの人のようにねーみんぐせんすないんだから―」

雹蕾「――ありがとう」

 

我が突然感謝を伝えると、彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめた

 

我にはこの名だけで良い。主につけられた名を我は大事にする

 

この名は我が守る大事な人のために呼ばせる。他の誰にも呼ばせない。これは我が我に契約した不変の契約―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――夜叉(われ)の名は、雹蕾。我の名前を侮辱するのであれば―――容赦なく殺す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

??「さぁ!いけ!推よ、あやつを破壊するのだ!

 

命令された伐難は棒立ちする六花を抹殺するため、その手に構えた鋭利な武器を構え、突進してくる

蛍は棒立ち状態の六花を守るため、六花の前に立ち、その身を呈して守ろうとする

ギュッと目をつむる蛍。伐難のあの速度では蛍は一撃を弾くこともままならない。だから、せめてでも―と蛍は思い、痛みに備える

 

後悔。その念は死したら残らない。なんの念も残らないのだ。あの時楽しかったこと、悲しかったこと、辛かったこと全てが無垢の海に浮かぶ泡のように消えてゆく

 

蛍はそれを嫌だと立ってから思ってしまった

だが、六花を見殺しにすることは出来ない。この選択しか無かった

 

蛍「――――?」

 

いくら時間が経っても痛みは来ない

痛みもなく殺されたのか―あるいは―などと根拠の無い考察ばかりする。しかし、その考察が間違っているということを、すぐに知ることになった

 

ゆっくりと蛍は目を開ける。そこには霜のようなものが全身に張り付いて動かない伐難の姿があった。蛍の目と鼻の先には伐難の爪がもう数センチというところで止まっており、間一髪という言葉が1番マッチする

 

蛍「助かっ…たの?」

 

 

蛍が放った言葉は、白霧を纏いながら空へと消える

パイモンは寒いと言って身震いを起こす。辺りを見れば、ドラゴンスパインのフィンドニールのように冷気が目に見えるくらいに白く宙を舞っている

 

蛍はこの寒さを知っていた

つい最近、感じたこの寒さ…ドラゴンスパインのような寒さではなく、淑女のような寒さでもない。だか、確かに感じたことのある寒さ

それは数時間前、六花が申鶴から聞いた留雲借風真君の悪口(?)に反応した時のものと同等だった

 

蛍の隣からスっと抜けるように六花は出てきた

その姿は、いつもの六花とは少し違っており、どこか勇気、希望に満ちているような姿で、それはまるで雷電将軍との戦闘の時に、目狩り令にて没収された人の願いを背負った蛍のようであった

 

六花はそっと凍った伐難の手に触れ、何かを願うように目をつむった

 

六花(待っていてくれ…すぐに助ける)

 

赤髪の女性は六花が動けたことに衝撃を受け、声を飛ばす

 

??「な、何故だ!なぜ我の支配がー

六花「あのくらいで我を支配できると思ったか?」

 

軽く笑った六花は蛍の方に少し歩み、六花が考えた作戦を伝える

―とても簡単だ。六花が赤髪を攻撃し伐難を襲っている業瘴の核を破壊する。いいタイミングで蛍が伐難に風で拡散反応を起こす。そうすれば、伐難を助けることができる

 

もちろんリスクはあるだろう。拡散時に凍結状態が解除され、伐難が暴走する可能性がある。最悪の場合、全滅し、璃月が崩壊する可能性すらある

 

六花は伐難が暴走する可能性を考慮し、蛍に一枚の札を預ける

 

蛍「これは?」

六花「我の傀儡の力を凝縮させた札だ。お前の力を増幅させる効果がある。もし伐難と戦闘になっても戦うことが出来るだろう」

蛍「こんなにいいもの…貰っちゃっていいの?六花は大丈夫なの?」

 

六花の身を案ずる蛍に六花は優しく微笑む

我のことは大丈夫だ、自分の身を案じろと言わんばかりのその表情。初めて会った時とは全然違うその顔に、蛍やパイモンは少し驚いた。冷淡で冷たい人であった彼の顔が今、こんなにもにこやかになっているからだ

 

六花は伐難を見て業瘴の気配を辿る

伐難から伸びる業瘴の糸は、赤髪の女の胸部に伸びている。あそこに伐難を支配している業瘴の核があるのだろう

 

六花「行くぞ、歌の魔神"ミュルクス"。今度こそ現世に戻れなくしてやろう」

魔神「くっ…行け!我が下僕よ!

 

赤髪の女ーもとい魔神ミュルクスがそのようにつぶやくと、地面からヒルチャールが出現し、六花を襲い始める

六花はいとも容易くそのヒルチャール達を排除し、ミュルクスの胸部に剣を突き刺そうと剣を前に出すが、ミュルクスはまたもやヒルチャールを召喚し、六花の攻撃を防ぐ

 

六花「…相変わらずだな。その戦い方」

ミュルクス「相変わらず?我は貴様とは初対面のはずだが?――」

 

その瞬間、六花の剣がミュルクスの胸部を穿いた

 

六花「そのよく喋る癖も貴様らしい」

ミュルクス「しく…じった…ガァァァァァァァァァ!!!

 

濁流のように漏れ出す業瘴。六花は今だというタイミングで、蛍に合図を送る。合図を受理した蛍は風の元素爆発を使い、伐難に竜巻を当てると、黒いモヤの業瘴が拡散されて行った

 

竜巻が霧散し風になり、業瘴が拡散されて消滅する。だがしかし、伐難はいまだ虚ろな目をしていて、正気に戻ったとは言えない風貌であった

まさかと六花が思った瞬間、ミュルクスが伐難に命令した――すべてを破壊しろと。

その命令に従うように体を動かし始めた

 

六花「何故だ…核は断ったはず!」

ミュルクス「ふはははは!あまいな!体に残ったもののことを忘れたか!

六花「ちっ…そうか!」

 

伐難は目の前にいた蛍に襲い掛かる

蛍は驚きはしたものの、その攻撃を難なく避けることが出来た。その後も伐難は獣と見間違うほどに攻撃してきたが、蛍自身も驚くほどにすべて簡単に避けることが出来た。それどころか、伐難の攻撃が少し緩やかにも見える

 

蛍は伐難の攻撃を躱しつつどうにか耐えていた

六花はどうしたら伐難を救うことが出来るか。再び同じような行動をとるか

 

―いや、それでは完全に業瘴を排除することは不可能だろう。ならばどうするか。夜叉である六花がすべきことはただ一つ

 

――六花の儺面を以って伐難の業瘴を断ち切る

 

六花「旅人っ!!!!」

 

そう決意した六花は、蛍に自分の難面を投げる

旅人は何かを悟ったかのようにその面をキャッチし、伐難にその面を隙があるときに顔に取り付ける

 

牙を剥いた獣のようなその面。色は白に近い蒼白で目元には赤いメイクのような紋様が入っている。額部分には魈みたいな紋様が赤く晶蝶のような形をしているようにも見える。魈の面と画期的に違うところは、角が短いということだ。どちらかと言ったら角ではなく耳のようにも見える

 

 

伐難「キャァァァァァァァァァ!!!!

 

 

面をつけた伐難は地面に膝をつき、悲鳴を上げて苦しむように天を仰ぐ。それと同時に伐難の体から業瘴が抜けていく。次第に、伐難の表情は回復していき、苦しそうな表情から安らぎの表情になった

そして伐難はそのまま地面に倒れそうになり、それを蛍がキャッチした



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11話 崩壊

誤字指摘してくださった方ありがとうございます!結構思いつきでやってるので投稿している話と違ってくるかもしれませんが、できるだけそういうことはないようにしていきたいと思います!

それと少しご報告を

私情で1、2周間投稿できない可能性があります。できるだけ投稿しようとは思いますが、一応報告させていただきました

では続きをどうぞ


意識を失った伐難を抱える蛍に六花は安堵の表情を浮かべる

彼女の内部にはもうほとんどと言っていいほど業瘴は残っていない。もう安心してよいだろうと、六花は安心したのだ

 

伐難に駆け寄り、自らの面を手に取る六花。それを見て、パイモンは六花を質問攻めにする。それの様はまるで有名な著作者に我こそはとサインのために群がる読者のようであった

 

パイモン「お前本当はなんなんだ…?色々知ってたり、恐ろしいくらいに強かったり…はっ!もしかしてお前…鍾離と同じ神様なのか?!」

六花「ふっ…さすがの我もあの方と並べるほどの格は持っていない」

蛍「パイモン…もうすこし考えてみようよ」

 

六花は面をかぶり、ミュルクスの方を向く

すると、ミュルクスは六花の面を見てハッと驚くような素振りを見せ、口元をニヤッと歪ませ、独り言をブツブツと呟いている

 

ミュルクス「その面…そうか、貴様は――ハクライ!!

六花「ようやく思い出したか」

 

ミュルクスは六花の顔を見て怒りをあわらにする

それは封印されたことに対してか、殺されたことに対してか激しく憤っていろんな言葉を連ならせる

六花は流しながら話を聞く。その言葉には興味がないかのように聞き流す

 

ミュルクス「貴様に封印されてからのこの数千年――一度もうらまなかった日などないわ!!その名もあの弱っちい女からつけられた――」

六花「――今なんと?」

 

辺りの気温がグッと下がる。その寒さはドラゴンスパインよりも淑女の氷よりも極寒で、大気が凍るかと思うような寒さだ。儺面をつけた六花の目が青く光り、大気中の水元素が凍り、その凍結した水元素に反射してキラキラと星のように輝く

 

ミュルクスはそんなことも気にせず復唱し始める

 

ミュルクス「聞こえなかったのか?その名もあの弱っちい女か――――」

 

その瞬間、ミュルクスの腕が吹き飛んだ。その瞬間にふさわしい言葉は”刹那”であろう

六花の札を付け、身体能力が強化された蛍でさえ見えなかった。つまりは、その速さは蛍に見せていた速さとはまた別の―――雹蕾としての強さであった

 

ミュルクスの腕が地面に落ちると、その腕は即座に凍結し、粉々に割れてしまった

 

ミュルクス「お、おのれ…貴様―――!」

六花「………我の名を侮辱するものは容赦無く殺す。ましてや我が主を侮辱するなど―――その身を持って、否。その魂をも排除する」

ミュルクス「くっ…ならばこれでどうだ!

 

突如ミュルクスの体が業瘴で包まれる。それと同時にあの気味の悪い歌も聞こえて来る

どう来るか様子をみる六花。だが六花はどのように来ても倒せる自信があった。なぜなら、夜叉としての力を完全に発揮しているからだ。体に残った業瘴はすでに消え去り、全盛期の力を取り戻している。夜叉一人で魔神と戦った頃の力

今は侮辱されたことによりそれよりも強くなっている可能性すらある

 

ミュルクスの体が業瘴から解き放たれる

そこには炎のように煌めく赤い髪に夜叉の証である面をつけたミュルクスがいた

 

ミュルクス「ふはははは!これで貴様も殺せまい!

六花「貴様――っ!!!」

 

その姿は紛れもない仙衆夜叉の炎の夜叉、応達の姿であった

 

六花はその姿をしたミュルクスに怒りを放つ。死者を愚弄することは生前からやっていたことだが、今回ばかりは許されることではない。仙人の愚弄。しかも親しかった人に变化し、自分をまもるために使うなど…卑劣で醜い

 

六花は剣を構え直してミュルクスに攻撃を仕掛けるも、ミュルクスは陽炎のように朧気に消え、攻撃が当たらない

その技はかつて応達が使っていた技であった。応達が避けることが苦手だからどうやって避けるか、考えて考えてやっとのことで生み出した回避技。やつはその技をなんの躊躇いもなしに使った

 

――こいつは殺すべき相手だ。

 

次。ミュルクスからの攻撃が六花に来た

その技も応達がよく使っていた技で、炎元素を一点に集中させ、球体を作りそれを相手にぶつける。一回で決める必殺のような技

六花はその技を剣で切り裂く。二つに別れた炎の球体は遺跡の壁に当たり、やがて蒸発反応を起こして消滅する

 

――こいつは応達ではない。

 

 

 

応達『六花殿!』

 

 

 

応達に变化したミュルクスと応達が重なる。尊敬の眼差しで六花を見ていた応達。今ここにいるのはそんな応達ではなく――

 

ミュルクス「この力は良いなぁ…

 

――ただの地に堕ちた魔神だ

 

六花「貴様を殺す」

ミュルクス「殺せるものなら殺すがよい。我にダメージはあたえられない。それに、貴様にはもう力がないであろう?

六花(どうやってこいつを殺す…?攻撃が当たらないこいつにどうやって――)

ミュルクス「さて、ここが貴様の墓場だ――死ね。

 

ミュルクスは手のひらに巨大な炎の塊を生成し始める。それは一撃で璃月を崩壊に導けるほどの元素集中力であり、人など簡単に死せるものだった

さすがの六花でもあの大きさの火の塊を斬ることは難しい。しかしそれを撃たせないようにすることも難しい。なぜなら陽炎のような回避行動をとり、六花の攻撃をないものとするからだ

 

―どうやって攻撃を当てるか。攻撃される前に避けられる。気づかないうちに攻撃するか。蛍と共に攻撃するか…だが、それでは共倒れする危険性もある。それだけではなく、意識を失った伐難を再び支配される可能性も…ならば六花一人だけで戦うしかない

 

どうするかと迷走する六花の傍に一つツララが落ちてきた

 

六花(ツララ…そうか―――この空間は今、我の元素で満ちている…我が自由に使うこともできる!)

ミュルクス「ふん…威勢は良いもののなにもしてこないか…失望したぞ、ハクライ――?????」

パイモン「なんだ…?火の玉が小さくなっていくぞ…?」

 

困惑するパイモンが言う通り、ミュルクスが生成していた炎の塊が次第に小さくなっていく。ミュルクスはその現象が受け入れられないらしく、衝撃を受け自分の手を交互に見る

 

ミュルクス「……元素の無効化か。さすがだなハクライ。だか、貴様は我にダメージをあたえることは出来ない

六花「そうだな。ならば、これならどうだ?」

 

六花は指でシュッと1文字書くと、ミュルクスの腹部を初めとして、全身から氷の剣が突き出てくる。あるものは上に、あるものは地面に突き刺さるように出てきて、ミュルクスの動きを止めた

 

必死にもがくミュルクス

しかしもがけばもがくほどその剣が肉を抉り、さらに傷口が広がる。ポタポタとその剣や服から滴る赤い鮮血。応達の炎でとかそうと試みるも、一向に溶ける気配はない

 

それもそのはずだ。六花は応達に技を教えた師匠であり、訓練でよくその剣と応達の炎で撃ち合いしており、実践で融けたことは一回しかない。それも卒業試験のような試験でしか六花の剣は融けなかった

訓練を積んで積んでやっと融けたその剣を、なんも訓練の積んでいないただの素人が使っても逆に鋭利になるだけだ

 

ミュルクス「な、何をした!なぜ我にダメージが入る!

六花「陽炎幻煌。それは攻撃を受けた時に発動する回避行動だ。だか、それにも弱点がある。発動者が攻撃されたことを認知しなくては発動出来ないと言うことだ。故に我は貴様の内部に元素爆発を発動させ、逃げ場を無くしたということだ」

ミュルクス「こしゃくな…貴様程度に我は――」

六花「無様だな。かつて我の主を殺害した方法で殺される気分はどうだ 」

ミュルクス「ふんっ…あの女ほど我は弱ぐ――ぐはっ…

 

六花の主を冒涜したため六花は更に剣を追加すると、ミュルクスは吐血し、ゼーゼーと荒い息を吐く。その顔からは余裕というものがなくなっており、目は徐々に虚ろになって行きそうであった

突き刺された剣とミュルクスの傷口から漏れる業瘴。それは徐々にミュルクスの力が減っている証拠であった

 

だが、ミュルクスはそんな状態であるのにいきなり天を仰ぎはじめ、何かを言い始める

 

ミュルクス「我は…こんなところで終わる魔神ではない!!!」

六花「なにを―――」

 

遺跡全体が揺れ始める。その勢いは遺跡を崩壊させ、自らをも生き埋めにするかのようであった

天井から土の塵や破片が落ちてくる。このままでは全員死んでしまうと思った六花はどうにかして蛍や伐難を地上に戻さなくてはならないと考え、その方法を試行錯誤する

 

―今から急いで地上に戻る。その手もあるが、おそらく時間切れになり生き埋め状態になるだろう。ならば…蛍に渡した傀儡の力を凝縮させた札を使って地上に戻すしかない

 

六花は蛍の方を向き、手をかざす

 

蛍「六花…?」

六花「――伐難を頼む」

蛍「ちょ―――」

 

六花がシュっと手を横にふると、蛍と伐難は氷の繭みたいな者に包まれ、その繭が崩壊した瞬間その場から消えていた

 

六花「さて…ミュルクス覚悟はいいか?」

ミュルクス「こんなところで…我は…

 

未だ負けぬと言い張るミュルクスに対し、六花は剣を構える

覚悟を決め、六花は自らの名を放つ。夜叉としての名、それだけでなく、人に知られていたときに呼ばれた名を六花は放った

 

 

六花「我の名は雹蕾!人に呼ばれし名は飛雪大聖っ!この身を持って璃月をまもる夜叉となろう!!!」

 

 

その声は崩れる遺跡の破片に木霊し、璃月の風となった



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12話 希望

出せる時出します
そういや2.8の予告番組来ましたね。万葉が来るとか何とか?
引きたいけど…うっ…10連前に夜蘭来てたから神引きしか救いはない…救済が…必要…必要なの…


――璃月港side――

 

攻めてくる魔物を退ける凝光率いる千岩軍。それを鼓舞する辛炎と雲菫。だが、長く戦っていて、もう体が疲労しつくしかけていた

今だ収まらない魔物の進軍。北斗は何をやっているのかと怒りを覚えそうになる

 

辛炎「く…まだ収まらないか…私の喉も厳しいぜ…」

雲菫「…頑張りましょう。私達が鼓舞しなければ…もっと被害が出るかもしれません」

 

雲菫が言ってることは正しい

すでに負傷者は数十人を超えている。回復できる人は璃月で体調不良の診察を行っていて、今この場にはいない。そのため、負傷者の十分な治療が難しく、これ以上治療することは厳しい

 

大抵の千岩軍は辛炎や雲菫のファンだ。それ故勇気ももらえる

 

行秋「くっ…」

刻晴「大丈夫?!」

行秋「はい…なんとか…」

刻晴「無理は禁物よ。傷が癒えるまで少し休んでなさい」

 

刻晴は行秋に指示をする

その時。そこの人たちが知らない人の声が聞こえた。凛々しい男の声。その人に任せればすべて解決しそうなほどかっこよく、助けてくれそうであった

 

『人に呼ばれし名は飛雪大聖っ!この身を持って璃月をまもる夜叉となろう!!!!』

 

その声に反応するかのように、青墟浦の方から光の波動が飛んできて、魔物を一掃した

 

凝光「魔物が…消えた…?」

 

 

 

 

 

その声は胡桃や北斗にも聞こえており、凝光と同じように声が聞こえた瞬間、光の波動によって遺跡守衛やファデュイが消え去る

その声の正体を知っている申鶴や胡桃や重雲、北斗や万葉は彼に敬意を払う

 

胡桃「あの人の声…」

申鶴「まさか二度も助けられるとは…」

重雲「璃月に戻ったら彼にお礼をしましょう!」

北斗「あいつからはすごい可能性を感じたが…やっぱそうだったか!」

万葉「六花殿には感謝しかないでござるな」

 

六花に対する尊敬の念が集まっていく

六花のことを知らない人は、助けてくれた仙人として尊敬の念が募る

 

 

 

 

 

 

体調不良が蔓延していた璃月港でも同様に六花の声が聞こえ、その体調不良が嘘のように軽くなって行った

特に重症で、起きていられない人には夢の中で夜叉の姿になった六花の姿があり、迫りくる妖魔からそのものを払ってくれたと後に人は語る

 

甘雨「六花さん……」

 

懐かしい人の声を聞いて甘雨はすこし気が楽になる。気だけではなく、本当に楽になったのを実感し、甘雨は六花に感謝の念を伝える

500年ほど会っていないが、甘雨は絶対に生きているという確証があった。彼は一人でも魔神と戦える人だ。そんな人が負けるはずがないとこの500年ずっと思っていた

 

甘雨「六花さん。皆さんを救ってくださりありがとうございます…」

 

 

その声は七七にも聞こえていた

 

七七「――りーさん?」

白朮「どうしました?」

七七「今、りーさんの声が聞こえた」

 

七七は何故かすこし悲しんだ

―もう帰って来ないのではないか。約束は果たされないのではないかと心配になり、少し涙ぐむ。すると、白朮が七七の頭をポンポンとたたき、七七を慰める

彼はきっと帰ってくる。約束は果たされるよと

 

 

 

璃月中に響き渡った六花の声。病を治し、人々に勇気と希望を与えるその名は――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―飛雪大聖。その名は今後、人々の心に残り続けるであろう夜叉の呼び名で、璃月を救った英雄の名である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅人side

――青墟浦――

 

蛍「うわっ!!!」

 

ドスンと尻もちをついた蛍は痛たた…と腰をさする。辺りを見ると、横になった伐難がいて、六花の姿はなかった

蛍は記憶を辿る。どうしてこうなったか。それは、六花が札の力を使い、崩れゆく遺跡から助けてくれたからであった

 

遺跡の入口を見るも、そこは崩れており中に入ることなど出来なくなってしまっていた

 

伐難「う…う―ん…」

 

蛍がどうしようかと悩んでいる時、眠っていた伐難が目を覚まし、その傷だらけの体を起こす。パイモンはそれにいち早く気づき、伐難に駆け寄る

蛍もパイモンに続いて伐難に駆け寄り容態を見る

 

パイモン「おい大丈夫か!」

伐難「…大丈夫…それより、あなたたちがここまで運んでくれたの?」

蛍「いや――六花が…」

伐難「六花―やっぱり助けてくれたんだ…あれ、でも六花はここにはいないの?」

 

不思議そうに辺りを見る伐難に蛍は申し訳のないような気持ちで今の状態を教えた

 

――すべてを知った伐難は瞳に涙を浮かべ、沈痛の念を出す。それは伐難が六花に対する陳謝の気持ちかあるいは自分の未熟さに失望したきもちか。その場にいた蛍には考えつかなかった

だが、考えつかぬとも、今、彼女は悲しんでいるということは誰が見てもわかる。蛍は、そんな伐難に六花からもらった一枚の札を差し出す

 

伐難「うぅ…うっ…それは…?」

蛍「六花が私に渡してくれたもの。六花の傀儡の力が凝縮されているんだ―――」

伐難「――もう一回いって…?」

パイモン「だから六花の傀儡の力―――」

伐難「それを貸してっ!!!」

 

伐難は蛍から札を取り、それに向かって仙力を送る

何をしているかわからない蛍とパイモンはその行動に対し疑問の声を上げた。すると伐難はその疑問の回答を仙力を送りながら出してくれた

 

―六花の力が残っているなら、六花はまだ生きている。その糸を切らさないためにも、仙力を送り続け、六花の仙力を枯渇させないようにしなくてはならない

 

そう答える伐難だが、かなり厳しそうであった。それもそうだろう。今までミュルクスに支配されていて、支配権が戻ったのは今さっきなのだ。なのにこんなハードなことをしたら…身が持たない

 

蛍はなにかしようとするも、仙人のことだからどうしようにもない

なにかないか…なにかないかと模索し、一つの希望を見つけた

 

蛍「魈―――――!!!!!!

 

伐難や六花と同じ魈を呼ぶことだ。魈は蛍から名を呼ばれればすぐに駆けつけるという簡単な契約を交わしている。そのため、今呼べばおそらく助太刀してくれると思ったのだ

風が通る音と同時に、やはり魈は現れた

 

魈「なんのよう……だ?」

 

魈は伐難を見て硬直する

数秒。時間が過ぎ、魈の硬直がもとに戻る。それと同時に魈は驚きを隠せないでいた

 

魈「ななななぜ!伐難が!?まさか…妖魔か!?」

伐難「久しぶり…金鵬――くっ…」

魈「なにを――」

伐難「話は後!今は手伝ってほしい!」

 

伐難は札に仙力を送り込みながら魈と会話する

訳のわからない魈は困惑するが、蛍が今の状況を説明すると、魈はまさか―と口に出し少し考える。だが、すぐに答えは出た。魈は面をかぶり、その札に仙力を送り始める

 

魈とて人を見捨てるような人ではない。しかも命の恩人を見捨てるなど言語道断

魈は絶対に助けてやる。あのときとは反対になっているが、その時に受けた恩を最大限返すという思いを持って仙力を送る

 

その仙力に気づいたのか、留雲や理水。削月もその場にやってきた

 

留雲「なにをしておるのだ?」

パイモン「あ!仙人たちだ!」

蛍「六花を助けようとしているの。できれば力を貸してほしい」

削月「助ける…?まさかあやつがくたばったのか?!」

理水「まさかそのようなことが起きるとは…」

 

仙人たちに衝撃が走る

あんなに強かった六花が敗れるなどと思っていなかったから

 

留雲「妾も力をかそう。理水、削月はどうだ?」

理水「我も力をかそうぞ、なぁ削月」

削月「あぁ。せっかくの茶仲間をなくすのは痛いからな」

 

三人の仙人も札に仙力を送る

しかし、力を使い果たした六花の仙力の容量はすごく、五人の仙人であっても足りないくらいであった。長年一人で戦い続けてきた六花の力。それは七神に匹敵するかと思われる程の力

五人の仙人が全力を出しても、勝つことができない可能性がある。そんな人を失うことは、璃月にとっても仙人たちにとっても過大な損失になるだろう

 

 

 

伐難「戻って…戻ってきてよ!雹蕾!!!!!

 

 

 

伐難の声も虚しく、空に消える

 

このまま戻ってこないのではないか。ありがとうの一言も言えずお別れしてしまうのではないか。そんな不安が伐難を襲う

その思いは伐難だけでなく、他の仙人たちも思っていることであろう

 

彼はかなり慕われていたのだ

 

その時、一人の男性が仙人のそばに歩いてきた

 

パイモン「あ…おまえは――」

蛍「なんでここに…」

 

二人はなぜという思い出いっぱいになる。その男性は、二人にこう答えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「契約の神が契約を破ることはしない」



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13話 思想

かなりの時間おまたせしました!
次話投稿です!

誤字報告等、誠に感謝いたします。誤字の無いように気をつけてはいるんですが…誤字ってしまいます…ほんとに感謝してもしきれません















真っ黒な泥のような空間に六花は漂っていた

――ここはどこだ?我はどうなった?

不安が六花の心を侵食していく。六花が最後に見たのは苦しむミュルクスの姿。六花の玉塵法剣が全身に突き刺さったミュルクスにトドメの一撃を突き刺した

 

――あぁ、ここは死後の世界なのだろうと、六花は思った。そうでなくてはこの変なところには来ないだろう

 

六花(…主…申し訳ありません。我は…誓を守ることができませんでした…)

 

落ちる

この沼のような空間に落ちていく。それと同時に数多の記憶が六花の頭に思い出される

生まれたときの記憶。主に助けられた記憶。魔神戦争の記憶。主との別れの記憶…そして、帝君に救われたあの日のこと―――すべてが、思いだされる

 

六花は魈や伐難に対する懺悔の言葉を並べる

 

六花(金鵬…我はお前に戦いを申し込まれた時、断ってしまっていたな。すまなかった…)

魈『――まだだ――!――我はお前と手を合わせていない―――!!!』

 

空間に魈の声が聞こえた気がする。それは空耳なのか、六花の幻聴なのかわからない。次に、六花は伐難に対する懺悔の言葉を述べた

 

六花(伐難―いや瀞…君には本当に世話になった。我がいなくてもあの旅人たちがいる…)

伐難『―雹蕾!!戻ってきてよ――!――私はまだ…あなたに感謝を伝えてないの――』

 

そんなことを言ったってこの現状は変わらない。この空間から逃げ出す方法など存在しないと思わなくては正気が保てない。次第に、体の感覚が薄れていく。感覚が鈍くなっていくことに六花は恐怖を覚える

 

自分が自分ではなくなっていく感覚。それはなんとも言えないほど不気味で、気持ちが悪かった

 

そんな時、魈でも伐難でもない声が、六花の名を呼ぶ。それは六花にとってみれば懐かしい声ばかりで、これが走馬灯かと六花は思う

 

応達『六花殿!手合わせを所望致します!』

六花(……応達。初めて我に弟子にしてくれと頼んできた時はさすがに笑ったな…いきなり襲ってきて、天を仰いだと思えば、すぐに立ち上がり弟子にしてくれと言ってきたな。まぁ我は最後のひと試合でしか負けてないが…)

 

ぼんやりと応達の姿が見てえてくる

霧がかかったかのように境界線がボヤかされ、はっきりとは見ることが出来なかった

 

また誰かの声が六花に届く

 

弥怒『六花殿。そろそろ行きましょうか』

六花(弥怒…お前はいつも浮舎に服を着ろだのちゃんと身だしなみを整えろだの言っていたな。我はそういうところ、嫌いではなかったぞ)

 

そして応達と同じようにぼんやりと姿が見える

だがやはり霧がかかったように境界線がボヤかされていて、見ることは出来ない

しかし2人はそこにいるかのような生気を出していた

 

六花(あぁ…我の命はもう無いのか…主よ…)

「―私は許しませんよ。あなたはまだこちらにくるべきではありません」

 

その声は優しく、愛に満ちていた

声は六花の体をめぐり、体の鈍った感覚を取り戻していく。六花はその声を聞いて涙が出て滴るが、その雫を光の女性が零さずすくった。そして、六花のひとみに溜まった涙を払い、優しく頭を撫でた

 

「あなたは変わりませんね」

六花(我が主…)

「幼くて雪のような性格…だけどその心には誰かを守るための情熱がある。ここで立ち止まらないで。ほら、あれを見てみなさい」

 

光の女性が指した方向には明るい球体が浮かんでおり、その球体の中にはかつて六花が体験した記憶が写っていた。心が暖かくなるような記憶。六花にとって懐かしむべき記憶

六花はその記憶に吸い込まれるように意識が向いた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥蔵山。そこの頂上にはテーブルと席があり、仙人と帝君が座するべき席であった

景色に優れていて、涼しいことからかなりの人が訪れ、その席に座ろうとするが、仙人からそれを拒まれる

 

――そこは貴様らの席ではない。今すぐこの場から去ね!!!!

 

その言葉を聞かされた人々は恐れすぐに下山していくことであろう

 

だが、今その場にはいくつかの影がその席に座っていた

仙人はそのことには何も触れず、ただその者たちを眺めるばかり

 

その座っていた一人が口を開き、大丈夫かと男に聞く

 

「六花殿…本当に大丈夫なのですか…?」

六花「大丈夫だ弥怒。ちゃんと帝君(留雲)話し合って(闘って)決めたからな。勝利したのは我だ」

留雲「はぁ…帝君…申し訳のない…」

 

凛々しい人の姿になった留雲は申し訳の無いように声を漏らす

帝君のために作ったその座席は今、六花率いる夜叉が占領している。悪い子とかと思われるが、実際は六花は帝君に許可を取っているから何の問題もない。と言ったのに、留雲が「帝君が良くても妾が許さぬ」といったため、六花は決闘して勝ったらその人の言うことにしよう―ということで決まった

 

「しかし…我々がここにいても良いのだろうか…妖魔は未だ消えぬのに」

 

雷の夜叉・浮舎が心配をするも火の夜叉・応達が大丈夫でしょうと浮舎に言う

 

応達「束の間の休息なんですよ?こんな時にも身を張っていたら疲れますよ」

浮舎「そうであるが…心配にもなるだろう?璃月を守る我らが休息をとっていては守れるものも守れなくなる。我はそれを危惧している」

弥怒「あなたはへんなところでマジメですね…」

浮舍「変なところでとはなんだ、変なところでとは」

 

浮舍は弥怒に少し怒りを飛ばすも、すぐに収める。喧嘩をしたところで何もならないことを知っているから、喧嘩はしない。言い争いはするが…

 

そばで見ている応達と六花は相変わらず仲がいいと心から思った

実際、喧嘩という喧嘩はした事がなく、なにか気に食わないことがあれば、何かしらの対決で白黒つける決着をする。だが、それも本気ではない。訓練というていで行っていることだ

 

六花はテーブルに茶菓子とコップを置き、急須に理水と削月から貰った特製茶葉を入れる

削月曰く、この特製茶葉は1000年もの月日をかけて乾燥させ、仙人の力で香りや旨みを凝縮したものだという

 

応達「このような素晴らしいもの…頂いてしまっていいのでしょうか?」

六花「あぁ。我が削月達にこの会をすると言ったら快くくれたものだからな。使わないと彼らにもこの茶葉にも失礼だ」

 

六花が言い終わると同時に登山口の方から伐難と金鵬が道具を持って歩いてきた

―おもーい!と言いつつ運んでくる伐難に六花は傀儡を飛ばし、その荷物を代わりに運んでやる。金鵬はオイという顔をしていたが、後で美味いものを食わせるから我慢して欲しい

 

ドスンと置かれる荷物。六花はその荷物の紐を解き、準備を始めた

 

浮舍「六花殿?その料理器具はなんのために…?既に茶菓子はここにありますが…?」

伐難「茶菓子はあっても茶はないんじゃ無いですか?浮舍の兄者♩」

浮舍「む、その通りだな…ならばそれは茶を沸かすために?」

 

浮舍の問に六花はこくりと頷く

すぐに六花は茶を沸かす準備に入り、それと並行するかのように別の料理を作り始める。冷凍肉を鍋で煮込み、その旨味を土台に塩や調味料を加えてスープにする。一度冷製肉を取り出し、その冷製肉をフライパンで全面こんがりと焼く。焼けたらフライパンに蓋をしてじっくりと中まで熱を通す

スープに野菜を入れ、火を通して柔らかくする

 

それと同時にお湯が湧いたため、みんなにお茶を注ぐ

透き通ったきれいな茶色のお茶は、心地の良い匂いを出している

 

金鵬「良いものだな」

伐難「景色も最高ですし、日頃の疲れが取れますね〜」

応達「ところで、六花殿は何を作っているのでしょうか?」

六花「ん?まぁ少し待っていてくれ」

 

六花は再び料理に戻る

スープを鍋から取り出し、皿に盛り付ける。焼いていた肉に竹櫛をさし、中まで火が通っているか確認し、火が通っていたため、薄く切ってスープが入った皿に盛り付け、みんなの席に運んでいく

 

六花「ほら、おまちどうさま。"雪下の恵み"食べてほしい」

伐難「わぁ〜!お肉おいしそ〜!いっただきま~すっ!」

応達「伐難、そんなに急いで食べては喉につまらせますよ?もっと味わって食べないと。私もいただきますね六花殿」

 

仙衆夜叉は六花の作った料理を食べ始める

 

金鵬「――優しい味だな」

弥怒「温まりますね」

浮舎「うむ、美味だ!」

 

六花の料理を食べた仙人はみんな笑顔になり、その笑い声は璃月中に聞こえたという

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな心があたたまるような記憶

 

みんなと笑いあった記憶

 

人を助けたときに感謝された記憶

 

 

そんな記憶が六花の背中を押し、真っ黒な空間から逃すように六花の体を掴む

 

 

ここにいては行けない。まだ生きなければならない。まだ夜叉として―――璃月に生ける者としての契約を果たしていない

 

 

 

魈『―戻ってこいっ!』

 

 

伐難『――戻ってきて!!』

 

 

蛍『―――六花!!!』

 

 

パイモン『―――おい!帰ってこい!!!』

 

 

留雲『―――まだお前に勝っておらんぞ!!!!』

 

 

理水『――――まだ茶はあるぞ!!!!!』

 

 

削月『―――――ここで死ぬならば許さんぞ!!!!!!!』

 

 

みんなの声が空間中に響き、六花が見ている方向から流れ星のような光の線が六花を包む

 

 

全部包まれたと思った時、六花の頭に一つの記憶が浮かんできた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前に名をやろう」

 

雹蕾「はっ…」

 

「お前に名は――――"六花”。六度目に立ち上がった時、花を咲かせよ。そういう意味だそうだ」

 

雹蕾「…?―失礼ながら帝君、だそうだ…というのは?」

 

「―お前の主が決めた最後の名だ。彼女からの最後の贈り物。夜叉の名は持っているだろう?彼女にはネーミングセンスがないから人の名をきめられなかったらしい。だから俺と二人で考えたこの名を使ってくれ」

 

雹蕾「――主…」

 

 

 

 

六花は暗闇の中、目を閉じる

 

それは諦めではなく、希望であった

 

まだ生きることができる―――その思いは決して消えること無く、六花の胸に残った



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14話 感謝

―草の香りに水の匂い。六花の背には地面の硬さ。炎が燃える音と遠雷の咆哮。風が運んでくる氷の冷気。7つの元が六花の体を刺激する

 

六花「う…うん…」

 

再び目を開ければ、そこには見知れたいくつもの顔があった

仙人である留雲、理水、削月。夜叉である魈、伐難。共にミュルクスと闘った旅人。そして――ともう一人を見る前に、涙ぐんだ伐難を六花が見た瞬間、六花は伐難に抱きつかれた

 

心配したんだよと子供のように泣く伐難の頭を六花は優しく撫でる

その髪は昔と変わらず、なめらかでとても懐かしい気持ちになる。一応ではあるが、夜叉としての歴は六花のほうが上であるため、よく技を見てやっていた

 

みてみて出来たよ―とはしゃぐ伐難の頭をよしよしと撫でてやったことが思い出される

 

伐難「心配したんだからぁぁ…」

六花「済まなかった。すぐに戻るつもりだった」

伐難「だってだってぇ…」

 

泣き止ませるまでに数分かかった…久しぶりに会えたというのに、悪いことをしてしまったなと六花は反省する。ほんとうはもっと早く帰るべきであったが、ミスで死んでしまうという失態をおかしてしまった

―終わったら"雪下の恵み"を作ってあげようと約束する

 

伐難が六花から離れたあと、近くにいる仙人たちにお礼を言おうと思ったが、口を揃えてみんなこのようにいう「礼を言うべき相手は他にいる」

六花は少し悩んだが、すぐにその意味を理解し、すぐに立ち上がり、そばで立っている男性に頭を下げた

 

六花「助けていただき、誠に感謝いたします」

鍾離「…無事であったか?」

六花「はい。帝君のお陰様でこの通りです」

鍾離「まさか歌の魔神が原因だとは、俺も予想外であった。それに――予想外な収穫もあったみたいだしな」

 

鍾離は伐難の方を見て少し微笑む

―何百年前に失ったはずの夜叉(伐難)がそこにいる。それは夜叉を従える帝君()として微笑ましい感情に浸っているのだろう。それは魈であっても同じ感情であろう。共に戦った戦友とまた会えた。それだけで魈の心はかなり救われた

 

鍾離は再び六花の方を向き、六花に声をかける

 

鍾離「では俺はもう行くぞ」

六花「はい。帝君のご厚意に預かり感謝いたします」

鍾離「あぁ、お前も体に気をつけろ」

パイモン「あ、鍾離!」

 

去ろうとする鍾離にパイモンは声をかける

鍾離はその声に反応し、顔だけをパイモンの方に向け、何だという

 

パイモン「さっき言ってた"契約を破ることはしない"ってどんな契約なんだ?六花を助けるための契約なのか?」

鍾離「…それは実際に彼から聞いてくれ。俺が話すより、彼から聞いたほうがいいだろう。では、またな」

 

鍾離はそう言い残して去っていってしまった

パイモンはそのことがどうにも気になるようで、六花にそのことを聞こうとするも、六花は魈や他の仙人に世話になったなとあいさつを交わしている

 

留雲や理水や削月は六花に別れの挨拶を告げ、自らの住処へと帰っていってしまった

残された魈や伐難は六花の無事を祝し、こうしようああしようなど、いろんなことを話し合い、六花が喜びそうなことを提案しあっている。六花はその様をみて、昔の夜叉だけでの会議を思い出した

 

六花が一人になったのを見計らい、パイモンと蛍はさっきのことを六花に聞くことにした

 

パイモン「なぁ六花、鍾離が言ってた――」

六花「契約のことか?詳しく話すと長くなるから省略するぞ。まずはじめに、我の主は帝君ではない」

蛍「鍾離じゃ…ない?」

六花「あぁ。我の主は他にいた。もとはその主についていたのだがな…彼女は魔神戦争時代に敗れた。我は主を崇拝していた民と共に璃月港に逃げ込み、そこで帝君と契約した」

 

難しいような顔をするパイモン。六花は難しく考えずに気楽に考えろという

 

パイモン「敗れたって…」

六花「その言葉のとおりだ。我の主は戦闘が苦手であったがため、その身を失った」

蛍「じゃあ鍾離が言った契約って?」

六花「我の主と帝君の最後の契約だ。"我をよろしく頼む"大まかに言えばそういう契約だったらしい」

 

その契約の中身は六花でもわからない。だが、雹蕾だった六花に名を与えることや、六花を助けることはその契約の中身であったに違いないだろう

…鍾離が助けたのはその契約があったからかも知れないが、鍾離自信、六花のことは良いように思っていた。夜叉の中でもかなり強いその彼が生きていて、死にそうになっているのならば、助けたくなるのもわからなくない

 

パイモンと蛍は聞きたいことが終わってしまったため、少しの間静寂が訪れる

 

六花「…なにか聞きたいことはあるか?」

蛍「えっと…じゃあ……昔ここで起こったことは六花のことだよね?」

六花「あぁ。我のことだ」

蛍「なんで自分が夜叉だって隠してたの?」

六花「…いえばお前たちはすべて我に任せると思った。だがそれは我の勘違いだったみたいだがな」

 

今ならわかる。この者たちに自分の身分を明かしても大丈夫だと。もし明かしても、自分も戦うと言って我を頼らないだろうと六花は思う

伐難と闘ったときも、六花に頼らず、自分がすべきことを考えて闘っていた

 

六花「…共に闘ってくれて感謝する」

蛍「――」

六花「何かあれば我の名を呼べ。すぐに駆けつける」

蛍「ふっ…!」

 

突然笑いだした蛍に六花は困惑する

何を笑っているかときけば、魈と全く同じことを言っているからだという。あぁ…やっぱり同じ夜叉なのだなと改めて実感する

 

―夜叉はなにかのために戦う。

 

ある人は契約のために。

 

ある人は人のために。

 

 

そして六花は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分を助けてくれた主が守りたかった民を守るために―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




雪のような夜叉〜END



とりあえず六花登場となる第一部は終了しました!
いかがでしたか?面白かったでしょうか?誤字脱字がまだ多い私ですが、これからもよろしくお願いします!
まだまだ続ける予定ですので、今後とも見ていただけたらなーと想います





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玉塵雷鳴歓迎祭
0話 祭りの予感?


歌の魔神が璃月を襲ってから数日たったのある時のこと

 

璃月の群玉閣内で何やら面白そうな話が上がっていた。それは歌の魔神を退けた飛雪大聖に対する感謝と稲妻の鎖国令が解かれ、これからたくさん盛り上がってくるということの前夜祭のような祭りを開こうと言うことであった

 

しかし、璃月港では新たに助けてくれた飛雪大聖が強いか元々の降魔大聖が強いかという言い争いが続いているのだという…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅人side

 

久しぶりに万民堂来てみたパイモンと蛍は、卯師匠に料理を頼む

しかしそこには見慣れた姿がないように見えるが…

 

パイモン「卯師匠、香菱は?」

卯師匠「香菱は少し前から稲妻に行っていてな…いつ帰ってくるか俺にもわからん」

蛍「そうなんだ…じゃあこの間の事件のときもいなかったの?」

 

卯師匠はコクリとうなずく

道理で姿を見なかったと蛍はほっと息をつく。もしかしたら危険な状態になっているのではないかと心配していたから、その言葉を聞けて少し安心した

 

すると、蛍のそばに見知れた女性が現れた

 

伐難「卯師匠、来ましたよ」

蛍「あれ?伐難?」

伐難「あ、旅人さん。今日は何を食べるんです?」

 

伐難は蛍たちに優しく微笑みかける。その笑顔は高嶺の花のようにきれいで、眩しいものであった

蛍は「今日はおすすめを頼んだ」というと、伐難は笑顔になって「なら私と同じ食べ物を食べませんか!」と勢いよく聞いてくるのに屈し、良いよと蛍は言った

 

伐難「卯師匠!彼女たちにも私のと同じモノを!」

卯師匠「あいよ!瀞ちゃん、新商品だよな?」

伐難「ええ!とっておきのやつお願い!」

 

ウキウキになりながら席に座る伐難を見て、蛍はすこし可愛らしく思った。仙衆夜叉である伐難のそのような姿が見ることが出来て嬉しいような気持ちになる。魈や六花はそのような表情をすることがなかったため、すこし新鮮味を感じる

蛍は横目で伐難のことを見る。この世のものとは思えないほどの絶世の美女…テイワットでそうそういないであろうその美貌は、蛍をも虜にするかのようであった

 

料理を待っている途中、伐難が蛍に話しかけてきた

 

伐難「そういえば最近、璃月港で飛雪大聖(六花)の名前をよく耳にするんですけど…旅人さん、なにか知りません?」

蛍「いや?私はそういうのあんまり聞かないよ?」

卯師匠「それは最近の事件が関係してるな」

 

卯師匠は目の前のテーブルに料理を置く。その料理は…万民堂らしく真っ赤に染まっており、刺激的な匂いが花を刺した

獣肉のステーキとは違う形の肉…天枢肉のような四角い肉で、それの上から赤い特製ソースのようなものを、その身が見えなくなるくらいまでかけている…

 

はっきりいって怖いと蛍は思った。こんな料理今まで食べたことがないから―――稲妻で体験した闇鍋はまた別だろう

 

伐難「最近の事件って、この間のことです?」

卯師匠「あぁ。みんなが苦しんでいるときに飛雪大聖の言葉が聞こえてな。その瞬間に心が安らいだという。それも一人じゃないみたいでな…たくさんの人がそれを感じたり、実際に飛雪大聖が見えたりと、あれは神様だったんじゃないかと思ってる人もいる」

伐難(六花大丈夫かなぁ…)

 

人の世があまり好きでない六花の心配をする伐難。彼を昔から知っている彼女は彼の性格も知っている。人に期待されることが嫌いな彼に取って今の状況は苦痛であろう…

 

そのあとのこと…

真っ赤に染まったお肉を美味しそうにパクパクと食べる伐難の横で頑張ってそのお肉を頬張る蛍は、若干後悔していた。辛すぎる。多分辛いもの好きであっても、辛いと言う可能性があるほど辛い

 

蛍「うう…辛い…」

伐難「そうでした?私は程よい辛さだと思ったんですが…」

パイモン「お前の味覚はわからないぞ…」

「旅人さん、すこしいいですか?」

 

その聞いたことのある女性の声は蛍の後ろの方から聞こえたため、蛍は振り向く。そこには月海亭の秘書、甘雨が立っていた

なにか用事があるのか―と思った瞬間、甘雨は目を見開き、そばにいる伐難を凝視した。その自分が旅人から伐難に変わったのだと蛍は確信した

 

パクパクと口を開いたり閉じたりしている甘雨。それはまるで目の前の状況が信じられないというかのようであった。そんな甘雨を蛍のそばで見ている伐難はニコニコと笑って甘雨を見る

 

伐難「久しぶり。甘雨ちゃん」

甘雨「ば、ばば…伐難さん??!!どどどどどうしてここに――」

伐難「…あれ?予想と違う反応――留雲真君から聞いてないの?」

甘雨「聞いてないです!無事だったんですか?!」

 

意気揚々に伐難に聞くその姿は、久しぶりに姉とあった妹のような感じに見える

それからその後、甘雨と伐難は他愛の無い話をすこしした後、用事を思い出したのか、甘雨は蛍に顔を向けて要件を言った

 

甘雨「こほん…旅人さん。玉衡様から伝言です」

パイモン「刻晴から?一体なんだ?」

 

何かと悩むパイモンのまえに、甘雨は一枚の紙を差し出した

そこに書いてあったのは、刻晴から蛍に対しての依頼書であった

 

内容を簡潔にまとめると、近々大きな祭りをやるそうだが、それに市民の意見を反映させたいから聞き込みしてほしいとのことであった。ちなみにその祭りには鎖国令を解禁した稲妻の人も来る可能性があるため、できるだけ多くの人に楽しんでほしい――とのこと

 

聞き込みをするのは簡単なのだが、市民の意見を反映するとなると難しくなる。数多の人が同じ考えをしてるわけではない。それは子供でもわかる簡単なことであろう…

 

だけど、今の状況は好機なのかも知れない

六花が作り上げた状況は、今璃月を一つにまとめあげているともいえるだろう

 

蛍「わかった。刻晴によろしくって伝えておいてくれる?」

甘雨「はい、わかりました。それでは失礼しますね」

伐難「またね甘雨ちゃん」

 

甘雨はニコニコと笑顔を絶やさず去っていった

 

伐難「さて――私は留雲とか他の仙人に聞き込みをして来ます」

パイモン「手伝ってくれるのか?」

伐難「久しぶりに人の世に来たんですから、この際、いろんなところを体験したいんですよ。私が封印される前とは全然違うこの璃月は、新鮮ですし。では!また後で会いましょう!」

 

そう言い残し、伐難は去っていった

彼女良い奴だよなとパイモンは言うが、本当にそのとおりだと蛍も思う。どこか彼女は人を呼びつけるような魅力があると言えばいいかなんと言えば良いか分からないが、なにかの魅力はある。それは夜叉であるからかあるいは、彼女という人格がそうであるか…

 

 

 

とにかく、蛍は周囲の人に聞き込みをすることになった

 



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1話 どうしようか

蛍「…一通り聞き込みをしたね」

 

蛍が疲れたかのようにそういうと、パイモンはそうだなと返してくれる。そして彼女が次に口に出した言葉は、結果は―だ

パイモンはかなり優秀(時と場合による)で、結果などをまとめてくれる(時がある)。今回もまとめてくれたのだろう

 

パイモン「六花のことが多かったな…それと魈のこと…どっちが強いなんてオイラには分からないぞ…」

蛍「どっちにもいい所はあるし、どっちにも弱点はあるだろうしね。これじゃあ決めづらい…」

 

片方によれば片方の反感を買ってしまう。どっちもあげてしまえば、今の現状と変わらない。つまりはこの問題は難しいことであるということ。月逐い祭の時のように難しい課題なのである

 

万人受けするものを作るというのは難しいようだと蛍は改めて実感する。それ故に万人受けしている行秋やアルベドや雲菫は天才とも言えるだろう。いや、天才に違いない

 

雲菫「あら?旅人さん、なんで居るのですか?」

蛍「雲菫!ちょうどいいところに来てくれた!実はかくかくしかじかあーだこーだでこんななんだけど…」

 

雲菫に事情を説明すると、雲菫はうーんと唸りを立てる。さすがの雲菫でもこの状況は難しいのだろう。万人受けする作品を作ることは困難を極める…と思っていたら、雲菫はこうしてみてはどうでしょう―と提案を出してくれた

―その提案は、雲菫が得意な劇で六花と魈ふたりとも出演させるということであった

 

今の状況と変わらないんじゃ?と思ったが、ふたりとも出演させて、何かと戦い、共に勝利するということであった

 

いい案だと思った蛍は、そこに焦点を合わせることにして刻晴に報告しようとしたところ、ちょうど刻晴が近くを通った。千岩軍を連れて歩いている刻晴に声をかけた

 

刻晴「あ、旅人。どう順調かしら?」

パイモン「おう!順調だ!ただ…」

刻晴「ただ?」

パイモン「…大半が六花と魈のことなんだ…」

 

頭の上に?をつける刻晴に蛍は簡潔に説明する

六花は巷に広がる飛雪大聖で、この前の事件を解決した人だと。すると刻晴はあぁーと驚くような顔をして、言葉を繋げた

 

刻晴「かの飛雪大聖の噂と降魔大聖の噂ね…どちらかをピックアップするのは、どちらかの逆鱗に触れる可能性があるわね」

蛍「今、雲菫と話をしてたんだけど、劇みたいにして両方とも出演させたら良いんじゃないかって」

雲菫「どちらも出演させて、なにか強大な敵を倒す…そのようにすれば、どちらかが偏るということは無いでしょう」

刻晴「――いい考えね。今璃月の情勢は飛雪大聖への感謝が高まっているようだし、万人受けしそうね。それはそれで報告しておくわ。稲妻の人が来ることについてなにか案はないかしら?」

 

―しまったと蛍は口を開ける

璃月のひとにばかり聞いてしまったせいで、稲妻の人の意見は聞けていなかった。稲妻の経験がある旅人に、任せることもできるが、それでは一人の意見になってしまい、万人受けできるかどうかわからない。できれば多くの人に聞きたいが…

 

刻晴「稲妻の人は聞いてないのね。わかったわ。聞いたら千岩軍を通じて私に教えて頂戴ね。まぁ急がなくてもいいわ。今週中には教えてほしいものだけど」

蛍「ごめん…」

刻晴「いいのよ。私が急に聞いたのが悪いし、あなたを攻めるつもりはないわ。でも、劇をするというのはいい案ね…採用されると思うわ」

雲菫「ありがとうございます。どのような物語にするのかも考えておきますね」

刻晴「採用されたときはお願いね。じゃあ私はこれで」

 

刻晴は千岩軍とともに辺りの警備に戻っていった

残された雲菫と旅人はどうしようかと考える。とりあえず、雲菫は物語を作れる人に依頼してみるため、一時和裕茶館に戻ることにした

 

蛍はこれからすることを考える。今しなくてはならないのは、稲妻の人の意見を聞くことだ

だが、長年鎖国していた稲妻の国民が璃月にいる人数は非常に少ない。なぜなら稲妻近海は近頃まで激しい雷雨で普通の漁船や商船は通ることが出来なかったのだ

 

パイモン「…あ!たしか埠頭に稲妻の人がいなかったか?」

蛍「―いた…!たしか…竺子だったっけ?」

パイモン「そうそう!自分で船を作って自力で稲妻から逃げてきたんだよな。でも…嫌な思い出を思い出させちゃうかも…」

蛍「うーん…でも貴重な情報者だよ?気が苦しいけど…聞いてみようよ」

 

そうして蛍は埠頭に足を進めた

故郷の環境が嫌で、故郷から逃げてきた彼女にその故郷のことを聞くのは、いささか気が苦しい。嫌な思い出が思い出されなければ良いが―と蛍は心配しながらその足を進める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

璃月 埠頭

 

埠頭は相変わらず潮の香りと、魚売りの声が響き渡っていて活気が出ている。だが、そこにはいつもとは見慣れない大きな船があった。豪華ともいえるその風貌…嵐にも負けないほどのその迫力は、船長である人のようであった

その船は、南十字船。かの北斗が船長をしている嵐にも負けない船だ

 

北斗のそばには万葉がいて、二人は竺子と何やら話をしている

蛍はちょうどよいと思って竺子のところに行くことにした

 

北斗「あんたが竺子か?」

竺子「え、はい…そうですが…なにかようでもあるのですか?」

万葉「お主に手紙が届いているでござる。読むとよいでござるよ」

 

万葉は封筒に入った手紙を竺子に差し出した。竺子はその封筒を見てすこし涙ぐみ、その手紙を読み始めた

その姿は、故郷を懐かしむような、そんな雰囲気を出していた

蛍はその間に入るのは野暮かと思ったが、蛍たちの存在に気づいた北斗が元気よく蛍たちの方に歩いてきた

 

―久しぶり…と話を始めようと思ったが、実際あったのは数日前だ。久しぶりというほどでは無いだろう。それを北斗も思ったのか気まずそうに声を曇らせる

 

北斗「その…なんだ…調子はどうだ?」

蛍「げ、元気だよ?」

北斗「そ、そうか。それなら良かった。ところで、今日は何をするためにここにきたんだ?」

 

らしくない北斗さんを見て笑いそうになるが、ここに来た目的を話し始めた

 

蛍「近々、璃月でお祭りみたいなのをするんだけど、色んな人の意見を聞きたくてね。しかも、鎖国令を解除した稲妻の人も来るかもしれないから聞き込みを…」

北斗「ほほう…竺子に聞くつもりなら今は辞めておいた方がいい。感傷に浸ってるからな」

万葉「稲妻のことであるならば、拙者が答えるでござる。流浪人とはいえ、拙者も稲妻の者。その心はわかっている所存でござるよ」

パイモン「そうか!万葉も稲妻出身だったな!じゃあ…二人に質問させてもらうぞ」

 

パイモンは万葉と北斗に対し、質問を始めた

北斗はアタシもか!?と驚いていたが、そこは北斗の環境適応能力ですぐに同意した

―稲妻の人にとっての祭りとはなにか。祭りといったら何を思い浮かべるか。楽しいことはなにか、などなど…

いろんなことを聞いた二人は考えながら口を開いた

 

万葉「稲妻の祭りは、出店が多いように感じるでござるな。それと、思い浮かべるのは長野原の花火でござる」

北斗「アタシもそうだな。長野原の花火は直接心に残るもんなんだ。あんたも見たことがあるだろう?」

蛍「うん。きれいだった」

北斗「だろ?それに豪華な料理とかあるともっと楽しくなる!稲妻の神は永遠を求めてるけど、稲妻の人々はいまの瞬間ってのを楽しんでるんだとアタシは思うんだ」

 

自慢げに語る北斗のそばで、万葉はこくこくと頷く

昔だが、稲妻から長野原の花火を運ぶ時、北斗の南十字船を利用していたらしい。そのお礼として稲妻から璃月に向かう時、長野原の一人娘が大きな船の花火を上げたそうだ。それを見た南十字船の人たちは、食べていた料理が宙に舞うほど驚いたとのこと…だが北斗は「贈り物はこうでなくちゃな!!」と好評だったとか

 

楽しそうに話す北斗と万葉に感謝の意を告げ、刻晴に報告に向かうことにした

 

―結果として、稲妻の人の意見としては、出店が多い。長野原の花火との意見が上がった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

刻晴side

 

コツコツと響く刻晴の足音

その手にはかなりの量の書類があり、そこには璃月の人の意見が書かれている。ならば蛍に聞く意味はなかったのではないか。そう思うのもわかるが、璃月を救った彼女から聞くことで、璃月の人の意見がなにか変わるかも知れない可能性があったからだ

実際、変わっているのが結果としてある。璃月七星からのアンケートと蛍が集計した結果を比較して比べてみると、それが一目散にわかる。七星が集計した結果とはかなり違う

 

刻晴「…やっぱり固すぎるのが原因かしら?」

 

そうつぶやき、刻晴は璃月七星が集う会議場へとつながる重々しい扉をひらいたのだった

今回の会議で祭りへの各担当が決定する。おそらく刻晴は祭り全般の運営になる可能性が高いが…その主導権を得られるかどうかは、彼女の運次第といったところであろう

 



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2話 迷惑な通説・約束した戦

無妄の丘

相変わらず恐怖で動けなくなりそうなほど怖いこの場所。そこには誰もおらず、ただ妖気が漂うばかり

いつもより冷気が強く漂う無妄の丘に、怪しげな二人の姿があった

 

舎弟「兄貴…もうかえりましょうよぉ…」

兄貴「バカいえ!ここに飛雪大聖がいると噂なんだ。絶対に倒すまで帰らんっ!」

 

二人の1人は意気揚々とその足を前に前に運び、どんどん前に進んでいく。一方の1人は無妄の丘の雰囲気に恐怖を覚えたのか、快く進んでいるようには見えない。むしろ帰りたがっている

木々の隙間を風が通り、葉っぱ達がざわめき始める…それと同時に、歌のようなものが聞こえ…

 

舎弟「ひぃぃっ…なにか歌も聞こえますよぉ…?」

兄貴「大丈夫だ!あれは単なる岩の隙間に風が吹かれてる音だろ?なんにも不気味じゃねぇ。そもそも―」

 

兄貴と呼ばれた男が自慢げに話している時も、舎弟と思わしき彼は怯えていた。なぜなら、木と木の隙間から白い影が見えたからだ

あれは間違いなく幽霊に違いない…そう決心した舎弟が兄貴に話をしようとすると、またもや見え始める。それも1人ではなく、2人…3人と増えているようにも感じる

 

兄貴分はまだ自分の話に夢中になっていて周りの状況を見えていない。その時、前を歩きながら話していた兄貴分は、冷たい氷のような壁に当たった

 

兄貴「痛ってえな…なんだ?」

舎弟「あ、兄貴!!!!」

兄貴「なんだようるさいな。ただの氷だろ?ただの…」

 

兄貴分が再び前に顔を向けた時。そこに居たのは、ただの氷ではなく、綺麗な女性の姿をした氷像であった

生気すら感じるその氷像は、ゆっくりとその手を動かし、兄貴分達に問いを投げた

 

「汝、海に染まる者か?それとも、水を冒す者か?」

兄貴「う、海に染まる者だ!!」

「そちらの者は?海に染まる者か?それとも、水を冒す者か?」

 

舎弟も同じく海に染まるものだと言うと、氷像は一気に冷気を吸い込み、匂いを確かめるように目を瞑る

すると氷像は、いきなり憤怒の表情を見せ、兄貴分達に怒号を飛ばした

 

「貴様らからは、我が主の匂いはせぬ!不浪人よ、今すぐこの場から去ね!そして二度と来るな!2度目はその命は無いと思え!」

兄貴・舎弟「「ひゃ、ひゃぁぁぁぁぁぁぁい!!!!」」

 

2人の男はその勇気とは裏腹に、泣きながら叫びながら無妄の丘を駆け抜けて行ったという…

その一部始終を木の上から見ていたある青年は、その氷像に声をかける

 

?「…相変わらずの趣味だな」

??「心外だな…我はただ会うに相応しい人物かどうか確かめているだけだ」

?「どうだか―ふっ!!」

 

青年は木から飛び降りる。すると氷像は海に浮かぶ砕氷のように崩れ始め、その砕氷から1人の男性が現れる。白い吹雪に身を隠すかのような姿…その手に持つは歌の魔神を穿った永久凍土の刃。その心にあるのは、民を守ろうとする熱い情熱

 

そう、彼の名は―

 

?「六花」

六花「なんだ金ほ――魈」

 

呼びかけた夜叉の名を六花は言い直す

魈はどちらの呼び方でも良いと言ったが、六花には六花なりのポリシーというものがある。夜叉として力を振るう時は"夜叉の名を"。人として対応する時は"人の名"を言うようにしている

 

そのようにすれば、人からこの人が夜叉であるとバレずに済むからだ。夜叉であると知れば、神の目を持たない人々は夜叉に寄りすがり、自分では何もしなくなってしまうだろう…

それでは何も進化はしない。他人に寄りすがって生活するのと、自分で何かをして生活するのでは、成長の幅が変わってくる

 

夜叉である魈や六花、伐難はそれを経験している。帝君(鍾離)が幾度も名を変えているのも、俗世で生きることが出来なくなってしまうことへの対策と言えるだろう

 

魈「どちらでもよいと言ったはずだ。我の呼び名など――」

六花「自分の名を冒涜するな。その名は己が主から授かった名だろう?なら、大事にしろ」

魈「…お前から言われると説得力があるな」

六花「こう見えて数千年もこの名を使っているからな。ところで魈、我に何か用があってきたんだろう?」

 

六花がそのように言うと魈は静かに口を開く

 

魈「…あの時の約束、忘れたわけではないだろう?」

六花「あの時―――」

 

微かな記憶を六花はたどる

 

 

 

 

厄災が起きるよりも前…つまりは五百年よりも前のことであった。仙衆夜叉がともに集っていた時、六花は応達の稽古をしているときであった。そのころには、魔神戦争の残滓の影響は薄れて、夜叉が行かずとも人だけでも対処できるような時代になっていた

 

響き合う剣劇の音。焔と凍。相反する二つの元素。故にどちらかに優劣などなかった。そのためそこにあったのは単純な戦闘能力のみ…のはずだ

 

応達「はぁぁっ!!!」

六花「ふっ!!」

 

応達が放った火の玉を六花は剣で相殺する。応達は相殺されて困惑するかと思いきや、にこりと笑い六花の油断を誘っているかのようであった

六花は風の音を聞く。応達とは違う炎の音が背後から聞こえ、奇襲をかけようとしているのだなと思った六花は、背後に氷の壁を生成してその攻撃を防いだ

 

その様を見ていた他の夜叉は応達に対して驚きの声を上げた

 

浮舎「おお…あの応達が奇襲を仕掛けるとは…」

弥怒「成長とはすばらしいですね」

伐難「応達、すごい」

 

賞賛される応達は、六花の攻撃に驚いたように表情を変化させる。六花は蒸発で生成された霧から姿を現し、剣を剥ける

 

六花「お前の攻撃は終わりか?なら我の番…」

応達「はわわ…こ、降参です…」

 

しょぼんとする応達にみんなは声をかけに行く

六花は成長したなと感心していると、魈が自分も六花と対戦をしたいと願ってきた。それには他の夜叉たちも驚いたようで、本当にやるのかと諭すものの、魈は本気でやろうとしている

強さとしては、浮舎と弥怒よりも下くらいだが、それでも夜叉の中では強い

 

六花としては今すぐにでも戦いたいつもりではあったが、疲れや帝君との対談があったため、あえなく断念するしかなかった

 

魈「ではいつ戦ってくださいますか?我はあなたと戦いたい」

六花「そうは言ってもな……」

魈「我にとは戦えぬということですか?」

六花「そういうことでは――わかった。お前が1人で爆炎樹を倒せたらだ。倒せたら考えてやる」

 

言い終わると魈は目を輝かせ、わかったと言って走り出していく

 

まだ彼が若かった時のことだ

 

 

 

 

 

六花「…まさかまだあの時のことを覚えているのか…」

魈「忘れた―とは言わせぬぞ。この数百年間…我は待ちに待った。しかし、あの厄災の後、応達や伐難を失ったお前は我らのもとを去り、今まで姿を見せなかった」

六花「―我もそれは後悔している。死の間際それを後悔したほどだったからな……ああ、なるほど、お前は我と戦いたいのだな?」

 

そのように少しにやけながら言うと、魈はムッとした表情で答えた

 

魈「そうだ。今ここで千年もの契約を果たしてもらおう」

六花「成長したとは思ったが…変わらぬな」

魈「その口―開けないようにしてやるぞ?」

 

あからさまに敵意を丸出しにする魈。六花は今度こそ魈と戦うことを決意した。何千年も待たせたのだ。これ以上待たせる訳には行かないだろう

 

2人は共に武器を構える。剣と槍。リーチとしては槍が優勢に思えるが、六花の実力はそれを超えるか

昔よりは強くなっているであろうその構え方に、六花は少し既視感を覚えた

 

六花(あれは―かつての帝君の構え方―!魔人戦争時代の頃の槍の構え方にそっくりだな…まさか、帝君の手を借りたわけでは無かろうな)

魈「―金鵬!ここに参る!」

六花「雹蕾、ここに参る」

2人「「行くぞ!!!」」

 

2人が対決を始めようと走り出し、2人して先手必勝とスキルを発動した瞬間、その勢いは水の泡のように消えてしまった。否、2人の間合いに大きな水の泡が生成されたのだ

スキルの途中停止は原理的に難しい。それは六花であっても、魈であっても同じこと

2人はスキルを発動しながら、水の泡に迫っていく。ああもうどうにでもなれ―と思った2人は、勢いを増しながら突進する

 

先に水の泡に命中したのは六花であった。氷の攻撃は水の泡を凍結させ、次に魈の攻撃が来たものだから氷が拡散。たちまち冷気が辺りに放出されたのだ

 

「はいはい。そこまでそこまで」

魈「おい…なぜ邪魔した!我らは正々堂々と闘っていたんだぞ!」

 

正々堂々と闘っていた魈は怒りを露わにするが、六花はその様子とは真反対かのように、ものすごく冷静でどこか諦めているようであった

六花は感情を露わにする魈に歩み、すこし落ち着けと言う。そして、その攻撃してきた人に対し声をかける

 

六花「伐難。どうして我らの戦闘を妨害した?」

伐難「今戦ったら一日かかるでしょ?なら、私の物事を早く終わらせたいなって思った瞬間に戦い始めちゃったからさ…」

六花「…わかった。早々に終わらせよう」

 

魈も六花も諦めたかのように伐難の話を聞き始める

その内容は六花の活躍を祝して祭りを開こうとしているから、その聞き込みだという

二人は伐難の質問に回答すると、なぜか疲れてしまったため、戦うのはまた今度にしないかという魈の提案に六花は賛同する。気づけば時間は5時間ほど経っていた…これが戦闘後ではなくて良かったと、二人は心のそこからおもったそうだ




質問です
どのくらいの時間帯に出せば嬉しいでしょうか?
私としては予約投稿すればいいじゃんという感情なんですが、皆さんが希望する時間帯を教えてくださいな





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3話 物語の構想

騒がしい璃月の繁華街。夜になった璃月の繁華街は、朝とは全くもって違い、賑やかさが湧いてきている

そのうち和裕茶館では、雲菫が公演していて、いつもより人の気が多い。雲菫が公演している題名は「神女劈観」。かの申鶴の半生書いた物語であり、雲菫としても思い入れのある物語だ

 

雲菫「―――では、今夜はここまで」

 

雲菫がそのように言うと、観客は皆パチパチと拍手するものや、今日も良かったよ!と感想を飛ばすものもいる

その観客の中…青い髪の少年は待ち人を待つため人のいない影へと移動し始める。物陰に来た時、彼は懐から手紙を取り出し、約束の確認を始める

 

「ふむふむ…間違っていないな。彼女はもう少し時間がかかりそうだから、本でも読むか」

 

手紙を懐にしまい、それと変わるように彼が好きな本を手に取り見始める

…しばし時間が流れたようで、彼は集中し、璃月港の賑やかさなど耳に入らなくなってしまった。面白い文法、興味を誘う書き方、どれも彼が気になるものばかりであった

彼女はまだかと思う気持ちはとうに無い。今、彼は本の世界に見入っているからだ

 

「おまたせしました…!すみません…」

 

彼女は息を切らしながら少年の前に立つ。少年は本をパタンとしまい、彼女と目を合わせた

 

「いや、待ってはいないよ雲菫。君も忙しいだろうに」

雲菫「いえいえ…私の約束に同意していただきありがとうございます行秋さん」

 

行秋は本題に入ろうと言って雲菫から考えてほしいと言われた物語の原本を提示する。もちろん、行秋の字は壊滅的に汚いため、代筆の人に書いてもらったやつだ

その内容は、飛雪大聖と降魔大聖がなにかの理由で共に対立し、戦闘を開始したが、途中で強大な魔物に襲われ、共にその強大な魔物を倒す―ということであった

 

その方法であればどちらが強いか二人の夜叉が争うも共に倒す。どちらが優勢かなど無いように思えて良いものだと雲菫は思った

 

雲菫「しかし問題はその戦う理由や…強大な魔物をどうするかですね」

行秋「構想はできても実物がないからね。職人のような人がいればいいけど…旅人ならなにか知っているかも知れない。明日きいてみよう」

雲菫「わざわざありがとうございます。明日は私も公演が無いので、共に聞いてみましょう!」

 

雲菫は行秋に別れを告げ、今日の話し合いを終えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日

旅人side

 

気持ちの良い朝を迎えた蛍は、背伸びをして鈍った体を叩き起こす

今日は北斗の船で宿泊していたため、とても海の匂いが心地よい。それと昨日は北斗が戦闘に酒盛りしていたため、甲板でダウンしている船員の人たちがたくさんいる。みんな2日酔いになったり、体調が悪そうにしている

一方の北斗はというと、船から降りて天権の凝光と会話をしているみたいだ。その様子から、二日酔いなど関係ないようにみえる

 

蛍は鈍っている体を動かし、船を降りた

 

凝光「あなた酒臭いわよ」

北斗「しょうがないじゃないか!前日は久しぶりの璃月で酒盛りしてたんだ」

凝光「…その件であなた迷惑行為判定されてるわ。はいこれ、令状」

 

北斗は突き出された令状をみてげげっ…と言う。そこに書かれていたのは、北斗及び死兆船号の処罰について、その大まかない違反行為とその刑罰が書かれていた

しかし、どうしたことかそこまで厳しい処罰ではなく、稲妻から人を乗せてくるという簡単な仕事であった

―はじめからそういえばいいだろと北斗が言うと、凝光は鋭い軽蔑の目を光らせた。会うのも嫌なのに素直に頼むことなど、天が地にくっついてもありえないだろう

 

凝光「とにかく、あなたにはそれをしてもらうわ」

北斗「いつもとわからないが…」

凝光「罰金のほうが良いかしら」

北斗「いやいやいや!!!感謝するぜ凝光」

 

そのような会話を蛍は聞き、すこしクスっとくる

その後、甲板にいる船員が目を覚まし、仕事を開始し始めたため、蛍は一時北斗の船から降りて、凝光と会話することにした

 

凝光「おはよう。よく眠れたかしら?」

蛍「うん」

凝光「昨日はすまなかったわね。急に頼み事をしちゃって…迷惑じゃなかったかしら?」

蛍「大丈夫だよ。いつものことだから」

 

心配する凝光に蛍は励ましの声をかける

―冒険者協会から毎日のように急な頼み事を提示される。例えば、アカ○○ワイナリーの清掃とか、寝子の写真を撮影してほしいとか…いろいろある。それに比べれば全然屁でもないことであろう

凝光は昨日してくれたことはちゃんと反映させてもらうと言い残し、なにか他にないかしら?と聞いてくる。蛍は昨日万葉と北斗から聞いた稲妻の人の意見を話した

 

凝光「…出店に花火ね。楽しくなりそうね。ありがとう」

蛍「そうだ、劇は…」

凝光「心配しないで。ちゃんとやるわ。海灯祭みたいに海の上に劇場を増築するの。その間に劇の事など頼んでもいいかしら?」

パイモン「おう!任せてくれ!」

 

元気にパイモンが言うと、凝光はよろしくねと言って群玉閣に帰っていってしまった

これからどうしようかと悩む。昨日、雲菫は物語を作れる人に頼んで見ると言っていた。だからその進捗の確認と、劇が採用されたことを報告するために和裕茶館へ向かうことにした

―所々千岩軍が多いような気がする。その千岩軍は手にチラシのようなものを持っていることからして、今度の祭りのチラシを貼っているのだろうと考察する

 

パイモン「どれどれ…おうちりかみなりかんげいさい…?」

玉塵雷鳴歓迎祭(ぎょくじんらいめいかんげいさい)ですね」

 

声をかけてきたのは、蛍たちが会いに行こうと思っていた雲菫であった。その隣には行秋がいた

 

パイモン「玉塵雷鳴歓迎祭?」

行秋「読んで字の如し。璃月を守った飛雪大聖と鎖国解禁した稲妻の人を歓迎する祭りだって書いてある」

蛍「ふたりともどうしてここに?」

雲菫「物語の話をしようかと思ったのです。行秋さんに書いてもらった物語があるのですが…その話のネタにしようかと」

 

雲菫は蛍に一冊の本を差し出す。それは行秋が作った物語であり、劇に使用しようとしているものであった

パラパラとめくられる本。蛍は行秋自筆の本じゃなくてよかったと心から思う。内容は良いと思うが…ところどころ向けているところが気になるところだ

おそらくそれを蛍に聞きたいと思っているところなのだろう

 

雲菫「…なにか思いつきましたか?」

蛍「うーん…強大な敵……ヒルチャールの王とか?でも夜叉なら簡単に倒せるし…エンシェントヴィシャップ?でも本当の魔物をここに持ってきたら安全を確保出来ないし…」

行秋「遺跡守衛みたいな敵はどうだい?」

蛍「安全性が確保されてたら良いんだけどね…でも安全性が確保されててかつ強いようなからくりがあれば…」

 

蛍が悩んでいると、後ろから二人の女性が歩いてくる

それは伐難と甘雨であった

二人は蛍を見つけると、見つけた!という文字が見えるような身振り手振りをして近づいてくる

 

伐難「旅人さん、たくさん聞いてきましたよ!」

パイモン「どうだったんだ?」

甘雨「私から説明させていただきます。留雲真君はそうかの一言で、他のお二人はぜひ参加したいとのことでした」

 

なるほどとコクリとうなずく蛍。伐難はその隣にいる二人の男女に気づき、二人に自己紹介する

行秋も雲菫も伐難を見たのは初めてであり、このような美人を見たのも初めてに等しいため、戸惑ってしまう

 

雲菫「は、初めまして…和裕茶館で劇してます雲菫です…」

行秋「僕は行秋…ただの読書好きだ…」

伐難「よろしくね」

 

その笑顔も、太陽を反射する海の光に照らされて、普段よりもさらに明るく見えるため、誰にも負けないほど綺麗で美しかった

 




今回まで投稿時間希望アンケートします
次回からはそのアンケートの結果を参考に時間を決めようと思います!


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4話 カラクリ

パイモン「…そうだ!瀞、六花と魈についてなにか知らないか?その―戦いあう…とか」

 

伐難は悩むことなく六花と魈について話し始めた。その様はまるで今さっき見てきたかのようで…いや、見てきたのだろう。仙人たちに聞きこみをしてくるということは必然的に六花や魈ともあうだろう。その時、闘っていたのではないかと蛍は考察する

実際そのようだ。具体的な例を出してきたが、あまりにも具体的すぎる

 

伐難「…まぁ簡潔にいうと、昔に交わした約束のために闘ってるって感じです」

雲菫(…なんで昔のこと知ってるのかとか聞いちゃだめな気がするけど…気になる!)

蛍「ありがとう。もう一個聞きたいんだけど…劇で強そうな敵を使用するんだけど、どうにかできる術はないかな?」

伐難「うーん…」

 

伐難は悩みの声が漏れつつも必死に答えを得てそれを蛍に伝えた

 

伐難「生物系はだめだよね…機械系…でもそんなの作れる人なんて―――」

甘雨「―いるじゃないですか!留雲真君が!」

 

あっ!という顔をする伐難。完全に忘れていたようだ

留雲借風真君はからくりを作ることが趣味(?)であり、以前は調理器具を作っていたこともある。彼女なら機械系の敵を作ることも容易そうだと伐難と蛍は思う

―それじゃあ留雲のところに行こうとなったら、雲菫と行秋は物語の編集をするということで、ここで別れ、甘雨も仕事に行かなくては鳴らないという理由で別れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥蔵山

 

ここは相変わらず心地がよい―留雲借風真君はそのように言った

空気は澄んでいて俗世の五月蝿さもない。仙人が住むには最高の条件、最高の場所である。そんな中、申鶴は武術の鍛錬に来ていた

留雲としては彼女には俗世に染まってほしいものだと思っているが、たまにここに来るのも悪くはない。なぜなら、彼女が完全に俗世に染まってしまえば、留雲は一人で悲しくなってしまう。甘雨は甘雨で仕事が忙しすぎて偶にしか来れない。留雲は再び仙府に閉じこもるしかない

 

申鶴「師匠」

留雲「なんだ?なにかあったか?」

申鶴「山の麓から誰かが来るようですが…どうしますか?」

留雲「ふむ…この気配…伐難か?」

 

留雲がそのように考察すると同時に、伐難の頭が見え始めた。しかし申鶴は見覚えのない初めて見る人であったためいまだ警戒を怠らずにいる。いや、先の鍛錬で赤紐が緩んだかすこし気性が荒くなっているせいか

警戒されていると知った伐難。しかしその足を止めること無く歩みを止めない。それどころか、申鶴の威嚇すら恐怖には思っていない。まるで子犬のようだなーと軽々しく思っている

 

申鶴「…なにものか」

伐難「留雲真君の友達。彼女に聞きたいことがあってここにきたの」

申鶴「…信じられない。あなたも世のものと同じく仙人の力を借りにきたのだろう?」

 

神妙深く詮索する申鶴に旅人が駆け寄ると、申鶴はその警戒を解いた

―本当に留雲真君の友なのだろうか。友であれば彼女は仙人なのか―といろんな考察を申鶴はその心の中で考える。しかしそんな申鶴の隣に、留雲真君が舞い降りてきて、安心しろと呟く

伐難は見ていたのなら早く止めてほしかったと留雲真君に文句を言い、口論になりかけるが、そこは大人の対応。すぐに冷静さを取り戻し、本題に入った

 

伐難「―――ってことなんだけど…」

留雲「ふむ。期間は何時だ?」

 

やけに乗り気な留雲に蛍はなんでそんなに乗り気なのかと聞くと、六花が人前で戦うなど千年に一度のこと。ならば妾も協力せてやろう―みたいなことを言っていた

 

パイモン「なんか意地悪だな―期間は…おそらく1、2週間くらいすると思うぞ。昨日決定したばかりだからな」

留雲「それなら妾も完成できそうだ。からくりの敵を作れば良いのだろう?」

蛍「そう。できれば安全性も考慮してくれると嬉しい」

留雲「ふむ…そうなると"からくりの芯”が不足するな…旅人よ。近くに妾が放棄した”混沌の心眼”があるはずだ。それを一つと理水から"特上琥珀液"をもらってきてはくれぬか?それがなければ起動することが出来ぬ」

蛍「特上琥珀液だね?わかった」

留雲「伐難と申鶴も共に行け」

 

なぜか自分から離すように言う留雲。なぜなら集中して作業するには、静かな空間が必要であり、一人の時間というものが必要だからである。申鶴もそれに反論することなく、素直に話を聞いた

三人は理水真君に会いにいくために琥珀が多く群生する琥牢山に向かうことになった

 

その道中…申鶴は伐難に駆け寄り先程は済まなかったと謝る

しかし伐難は全然だいじょうぶだ。赤紐の緩みが原因ならしょうがない―と確信を突く言動したため、申鶴は驚く。この者は自分が赤紐の緩みが原因だともなんにも言っていないのに、原因を見抜いた。その観察力は人のものでない事をその身に受けた

 

 

 

 

 

琥牢山

 

琥珀のトラップ蔓延るこの山。その琥珀のトラップは、魔物を閉じ込める他に良からぬことを企む宝盗団をも閉じ込める。閉じ込められた先はどうなるかわからない。死するまで閉じ込められるか、はたまた死すること無く閉じ込められるか

そんなことも気にせず、三人は琥牢山を登山していく

 

伐難「ここに来るのは久しぶりです」

パイモン「昔はどうしてここにきてたんだ?」

伐難「理水は茶を作るのが得意なんですよ。それも結構美味しいんです。戦いなどで疲れた時、訪れていました」

理水「――相変わらず褒めるのが上手いな」

 

突然聞こえてきた理水の声

気づけばもう琥牢山の頂上にいて、理水はさらに上の剣山のような場所にきれいな翼を羽ばたかせ凛々しく立っていた

 

理水「よく来たな。旅人、伐難、そして申鶴よ」

伐難「久しぶりです理水。今日はあなたに頼みたいことがあってきたの」

理水「頼みたいことか…我にできることならばやろう。何を所望するか」

 

蛍は理水に理由を説明し、特上琥珀液をくれないかと交渉したが、理水はすこし考え、重々しく口を開けた。それはあげることが出来ない―というようなそのような表情であった

不安に思う蛍の予想は的中し、理水の口から出できた言葉は今は特上琥珀液はあげることが出来ない。そういうものだった

 

伐難「今はというと…?」

理水「つい先日まではあったのだが、紛失してしまってな。作ることには作れるんだが…"上琥珀"が我にもどこにあるのかわからん。そなたらが、探して持ってきてくれたら、我も喜んで差し出そう」

パイモン「うぅ…また捜し物か…その上琥珀ってどんな見た目なんだ?」

 

理水はその特徴を細かく説明する

―まず、元素視覚で認知できる。近くには魔物が沢山いる。普通の琥珀のようだが、太陽に透かすと透明感が高い…などなど沢山アドバイスを貰えた。それホントにいる?みたいなアドバイスもあったものの、3人は上琥珀を探しに琥牢山を走り回ったのだった…

 

 

 

 

 

数時間たって、ようやく上琥珀を発見した。それは普通の琥珀より光り輝いているようにも見え、確かに上質なものであると言える

それを理水に渡すと、よくやった。完成まで少し時間がかかるから明日また来てくれと言われ、理水はそのまま自分の仙府へと帰っていってしまった

 

時刻はもう昼を超えてていて、走り回ったからかお腹から声が漏れる。それも1人だけでなく、その場にいる全員のお腹から声が漏れていた

 

伐難「そろそろお昼にしますか!」

 

そう言って伐難は近くにあった調理器具を使用するべく火を起こし始めた

火を起こしながら料理するモノを考える。とりあえず三人になにが食べたいかを聞く。すると、蛍は瀞の料理は初めてだからおすすめでよいといい、パイモンは美味しいものならなんでもいいぞ!と。申鶴は肉料理が食べたいと言っていた

 

伐難「うーん…お肉料理…あ!あれ作ろうかな!」

パイモン「お!きまったのか?」

伐難「私に作れるかどうかわからないけど…頑張りますね。それじゃあ…お肉と野菜を集めてきてくれませんか?」

 

申鶴と蛍はわかったといい、即座に探しに向かう。その間、伐難はある料理の作り方を思い出す。昔に仙衆夜叉が集まったときに六花が作ってくれた料理…心が温まるようなあの料理…

 

―数分経って彼女たちが戻ってくる。伐難は早速料理を始めた

しかし数百年前のことで、作り方が曖昧で…よくわかっていない。作っているうちに別の物ができるのではないかという不安が伐難の心を支配する

だがそんな心の不安に負けず、テキパキと伐難は料理を始めていく

 

伐難(不安だけど…まぁなんとかなるよね!)

 

最後にお皿に丁寧に盛り付け、みんなに配膳を始めた。それはかつて六花が奥蔵山のテーブルにて仙衆夜叉の宴を開いた時にみんなに出した料理であった。しかし、六花が出した料理よりも何かが足りず、満足が行く結果にはならなかったが、それはそれでいい

 

伐難「…まぁ失敗してもいいよね。次成功すればいいんだもん」

 

伐難が作った雪下の恵は白い雪のような湯気を立てて雲へと昇っていく。満腹になったみんなはその場で少し仲良く川の字でその場に寝そべったとさ…




アンケートありがとうございます!
次回からは16:00に投稿しますのでよろしくです!

あ、次の話は少し時間置くことになるかもしれません。理由はリアルで仕事が忙しいのが一番です。出すことが可能であれば普段通り出しますが…恐らく火曜日になるかと思われます


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5話 悩み、イメージ不足

やはり出せませんでした…済まないです!
まぁ予告はしてたのでいいとしましょう。

誤字報告マジでありがとうございます!

…最近これしか書いてない気がする










次の日 未明

琥牢山の頂上にてすやすやと安らかな寝息を立てる四人。しかしそのうち一人は、寝ることが出来ず、むくりと重そうに体を起こし外の方に向かって足を運ぶ

―綺麗な夜空。数千年昔から変わらないその景色は彼女の心にじんわりと広がり、やがて溶けていく。虫は歌い、月はその空に我が王であると言わんばかりに光輝いている

 

理水「…眠れぬのか」

伐難「…ええ」

 

夜中なのに声をかけてきた理水に対し伐難は返答を返す

その表情は、日中とは違い悲しさや後悔と言ったような無念を象徴する暗い表情をしていた…

 

理水「先の戦いで受けた傷がまだ治らぬのか?」

伐難「…それも一理あります」

理水「業瘴か…」

 

静寂。少しの間静かな時間が空間を制す

業瘴…それは夜叉にとっては切っても切り離せない、いわば体の一部とも言い換えることの出来る魔人のエネルギー。それは体を蝕み、やがては夜叉を狂わせ、魔物に変貌を遂げる。魔人戦争時代から安寧の時代まで、そのような人々を何人も見てきた。銅雀、応達、浮舎、弥怒。そのもの達の死には、全て業瘴が絡んでいる

だがそれは、仕方の無いこと。帝君が統治する璃月を守るには夜叉の力は必要だ

しかし今は…

 

伐難「理水真君…」

理水「なんだ?」

伐難「私たち(夜叉)は俗世に必要だと思います?」

理水「…何故そのようなことを…」

伐難「帝君が玉座していた璃月はもう終わり、人の璃月が始まった。これは揺るぎない結果です…ですが私たちは帝君のために戦っていたも同然なのに…」

 

伐難の悲しい声が空気に溶ける。それは悩みの声であり、決して人前では見せない伐難の心の姿であった

その声に理水は答えた。同じ仙人として――人生の先輩として

 

理水「帝君は人々を見放したのではなく、人々に自らの力で進むように手を離したまでだと我は思う。今はまだ巣立ちの日を待っている。伐難よ、お主は帝君と契約をしたのか?」

伐難「そういうわけじゃないですけど…」

理水「ならばお主がしたいようにすればよいのではないか?帝君に仕える…帝君の意思と同じでもいいのではないか?」

伐難「帝君の意思…」

 

伐難は胸に手を当てて考える

―なぜ帝君が璃月の統治の座を人に譲ったのか。そして私は今のまま璃月を守護する夜叉のままでいいのか。答えはすぐには出なそうにない。このまま考えているとさらに深く沈んでいきそうになる

その様子を心配した理水は伐難に優しく声をかける

 

理水「今すぐ分かれとは言わん。いずれお主にもわかる時が来るだろう。仙人の俗世との付き合い方がな」

伐難「ほんとにわかるでしょうか…」

理水「わかるさ。あの降魔大聖でさえわかったのだ。あやつより強かったお主に分からないはずが無かろう?」

 

金鵬が…と伐難はつぶやく。孤高に見えて仲間思いで、俗世には疎く、浮舎にイタズラされても起きなかった彼でさえ俗世との付き合い方がわかっている。伐難は少し思い出を見る

彼と初めて会った時の記憶。彼がまだ若かった時の記憶。その時はまだ俗世になれないような気配を出していた。しかし今はその時とは比べ物にならないくらい成長したのだろう

 

理水は寝ている蛍たちのほうを向き、声を続けた

 

理水「それに、璃月を人の身で2度も救った彼女がそばにいる。お主がわからずとも彼女が教えてくれるだろうよ」

伐難「そうでしょうか…いえ、そうですね。理水真君、ありがとうございます。お陰様ですこし楽になりました」

理水「別によい。同じ仙人たるもの、助け会わなくてはならない。今日はもう深い。早く体を休めよ」

 

綺麗な翼を羽ばたかせ、理水は空高く飛び去ってしまった

確かに月の位置を見るに今日はもう日付が変わってしまっている。昔であれば安心して睡眠することが出来たのだが、今は業瘴の影響もあって安心して寝ることが出来ない。その感情は魈であっても六花であっても変わらない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理水「ではこれを」

伐難「ありがとうございます理水真君」

 

出来上がった特上琥珀液が入った小瓶を理水は伐難に渡す。その小瓶には、何やら張り紙が付いていて、なにか書かれているようであった。よく見ればそこには…―疲れたのならばいつでも来るがよい。歓迎するぞ―と達筆な字で書かれているのであった

理水…と伐難が顔を上げた時にはすでに理水の姿はなく、仙人が放つ不思議な気配のみが残されていた

 

伐難「…さぁ留雲のところに戻りましょう。彼女もかなり進んでるでしょうし、ちょうどいいときでしょう」

パイモン「いやいやさすがのあの仙人でも一日で完成はできないだろ…?」

申鶴「そうでもないぞ。昔、我が一日留守にしたときなんかは、一日でからくりを5つも作っていた」

 

衝撃的な申鶴の話を聞き、まさかねと思う蛍

この数時間で強大な敵というものを作ったというのならばかなりの実力であろう。いや集中力と言った方がいいのかもしれない。人の集中力は数時間と続かない。仙人であれば、その枷を外せるのかと

蛍達はそんなことを思いながら、奥蔵山に向かう

 

だがしかし…留雲の口から出されたものは、その予想を裏切るものであった

 

留雲「…1割もできておらん」

伐難「まさか留雲真君がからくりのことで出来ていないなんてことがありえるんですね」

パイモン「ほら言っただろ?できてないって」

留雲「技術的な問題ではない。アイディアの問題だ。妾はお主達から強い敵の具体的な話は聞いていなかった。妾なりに必死に案を出していたものの…いい案が浮かばなくてな」

 

留雲はそう言ってどうしたものかとつぶやく

どうやら留雲はイメージというものが少なすぎて、四苦八苦していたみたいだ。それもそうだろう。突然強そうな敵を作ってくれと言われても普通はパッと出てこない。出てくるなら、それはインスピレーションが冴えている天才肌の人だろう

 

留雲「なにかいい案はないか?例えるならば…今まで戦ってきた中で1番強いと思った敵とか―」

蛍「フライム!!!」

 

蛍のその大きな答えにパイモンはおい!と一声上げる

 

パイモン「あながち間違いじゃないけど…そういうことじゃないだろ?」

蛍「あはは…フライムは厄介だからね。強い敵っていっても戦ってきた敵はどれも強かったよ?」

留雲「その中でも格別に強い奴はおらぬか?」

蛍「うーん…強いて言うなら魔偶剣鬼かな」

留雲「まぐう―聞いたことのない名だな。稲妻の者か?」

 

どのようなものかわからない留雲に蛍はその容姿や攻撃、強さなどを簡単に説明した

あれの強さは、個人的に夜叉と対等であると思う。とある剣の流派初代宗主の記憶と統合したが原因不明の暴走を起こしたとかなんとか?あれに挑みに行って返り討ちに会った旅人は数多の星を超える。決して生半可な気持ちで挑んではいけないモノなのだ

 

留雲「ふむ…イメージが想像しずらいな。なにか写真があればよいが…」

蛍「撮ってこようか?」

留雲「よいのか?ならばそのモノを動かしている原動力となるものも取ってきてほしい」

蛍「わかった。みんなはどうする?」

 

蛍は後にいる二人に聞くが、申鶴と伐難は―行きたいのはやまやまであるが、模擬戦闘をしようという約束をしていたため、あえなく断念した

わかった。すぐに取ってくる―と言って山を下山していく蛍の背を三人は見送る

留雲は伐難に「行かなくてよかったのか」と聞くと、伐難は行きたさはあるが、あちらで戦ってしまえば、いろいろな意味で旅人にも危険が及ぶから―と

 

申鶴「瀞、戦おう」

伐難「準備はできてるの?」

申鶴「あぁ。万端だ」

伐難「そう…じゃ!いきますよ!!」

 

奥蔵山の頂上で始まった夜叉の伐難と申鶴の模擬戦闘。その様子をみて、留雲は懐かしさと不安を思いだした。今の伐難は全盛期の伐難ではない。これが全盛期だったら…

考えるのはよそうと留雲は首をふる。そして蛍が撮ってくるであろう魔偶剣鬼の構造を想像しながらその戦いを見ていた

 




フライム…私は嫌いです。なんで螺旋に入れてくるんですか?時間なくなるやろ!


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6話 稲妻へ宣伝と任務を

長らく時間が空いてしまい申し訳ありません!
飽きた…訳では無いのですが、筆が止まってしまいまして…
今後はこんな感じになることが多いかも知れませんが、私が構想してる最後まで必ず走り抜けますので!こんな私が書く物語をどうぞ今後ともよろしくお願いします!

長くなりましたが、本編どうぞ!













旅人side

再び璃月港に戻ってきた蛍は、今すぐ稲妻に行く方法を考える

一番手っ取り早いのはウェーブボートで行くことなのだが、ここにはウェーブボートのポイントがない。つまりは、誰か稲妻に行く際についていかなければならないということだ

 

北斗「お!旅人じゃないか!」

 

悩む旅人のもとに運よく来てくれた北斗は、笑顔で蛍に話しかける

よく見てみれば、北斗の手には真新しいような手紙が丸く閉じられていて、何かの契約書か依頼書のようであった。蛍がそれを北斗に聞くと、まぁなと誤魔化すような発言をした

 

北斗「凝光のやつ…面倒な仕事を押し付けるためにわざと誘ったんじゃないだろうな…」

蛍「面倒な仕事って?」

北斗「ん?あぁ…稲妻へ玉塵雷鳴歓迎祭の宣伝と長野原って花火屋にすこし依頼を頼んでくれって凝光にいわれたんだよ」

 

北斗は重そうな息をその口から放つ。その姿はいかにも面倒くさいといった心情が見て取れる。北斗の本業とは違う仕事に戸惑っているのか、もしくは嫌がっているのか。だが、彼女はやってくれと言われた仕事は間違いなく最後まで終わらせる人だ。やってくれと言わなくてもやることはあるが…

蛍は稲妻に行くのなら私も連れて行ってほしいと北斗に言うと、北斗は喜んで一緒に来てくれと目を輝かせて蛍の手を握った

 

 

 

 

船に乗り込む蛍。その船には、こころなしか全員の数が少ないように見える。蛍がそのことを北斗に聞くと、ほとんど凝光に取られたとの事

おそらくは祭りの準備のために、多数の船員が取られたのだろう。もしくは宴会の反省であろうか。だが、宴会の反省だとしたら、船長である北斗が取らなくてはならないから違うだろう

 

まぁとにかく、蛍は北斗と共に稲妻へ行くことになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

稲妻ー離島

半刻も経たずして、北斗が舵をとる船は稲妻の離島へと停泊した。不思議なことに波はものすごく穏やかで、外海の嵐も消え去っていた。北斗でもその状況は珍しいらしく、少し不安に思った

鎖国令が撤廃されたとはいえ、自然の嵐も有り得るのに、雨ひとつすら降らない晴天の空。そして穏やかすぎる海…

 

北斗「…まぁ悩んでても仕方ない!さっさと依頼を終わらせるか!」

「お!久方ぶりだね旅人!」

 

桟橋を元気に走ってくる金髪の青年。蛍は彼のことをよく知っている。彼はこの離島の顔役(?)であり、鎖国中はよく助けてくれた人。名前をトーマという

 

蛍「久しぶり。元気にしてた?」

トーマ「それはもう!お嬢も若も先日璃月でやった偉業を喜んでいたよ!」

蛍「もう噂が広まってるのか…」

 

多分噂は尾ヒレ背ビレついて肥大化しているだろうと蛍は少し困る。噂とは肥大化しやすいものなのだ。必ずオリジナルの情報が広がる訳では無く、どこかで崩れ、最悪の場合にはオリジナルの原型が無くなるだろう

北斗はトーマに事情を話した。するとトーマは、「宣伝の件なら任せてくれ。社奉行が全国民に伝えよう」と言って、北斗達を稲妻城城下町に案内してくれることになった

 

道中、海乱鬼などに襲われもしたが、北斗が「ほほう!璃月では見ない敵だ!稲妻流に言うと…手合わせ願おう!あはは」と言った感じでノリノリで海乱鬼と交戦していた

 

 

 

 

トーマ「着いたよ。ここが稲妻城の城下町。左手の方の坂の途中に彼女はいるから、俺はここまでかな」

北斗「ありがとうな。今度酒でもどうだ?」

 

するとトーマは遠慮しておくといってそのまま神里屋敷へと帰って行った。おそらくは玉塵雷鳴歓迎祭のことを伝えに行くのであろう。社奉行がどう出るかによって璃月に客が来るかどうかが決まる。まぁ、璃月も稲妻もどちらちも利益が出るだろうから告知するだろうけど…

 

北斗「さてと―長野原の花火屋に行くとするか!」

パイモン「おう!宵宮元気かな?」

 

蛍はこっちだよと長野原花火屋に案内を始める

普段宵宮は店には居ない。花火に使う材料や参考になる模様などをそこら辺で採取しているのだと宵宮の父は言っていた。だが蛍はその見たことがない

他人には見せられない宵宮だけの秘密というのがあるのだろう。例えば、宵宮だけが使うことのできる秘密の花火の調合とか…秘密の仕事とか――まぁ憶測の域を出ないが

 

そんなことを考えていると、長野原花火屋から旅人の名を呼ぶ声が聞こえる

何時までも元気なその女性の声。透き通るようなその声は、花見坂中に響き渡った

 

宵宮「元気やったか~!!」

パイモン「おう!元気だったぞ!」

宵宮「それはええな!璃月でまたすごいことをしたて噂なっとるで~!さすがやな!ところでどうしてウチのところに来たんや?」

蛍「そのことなんだけど…」

北斗「久しぶりだな宵宮!」

 

北斗が元気に挨拶すると、宵宮は目を丸くして少し動きが止まる。だがすぐに「北斗姉さんや!!」と数年あっていない姉に会った妹のような声を上げ、北斗に近づいてねだる子供みたいに手を胸の前で小さく振る

宵宮と北斗は近頃会えていない。鎖国という状況下、長野原花火は北斗に花火の運搬を頼んでいたのだが、最近の璃月の出来事や、離島の規制厳格化によって長い間会うことができなかった

久しぶりの再会を楽しんだ北斗は本題に入った

 

すると宵宮は「ウチにまかせとき!!」と言って契約を難なく遂行した

 

北斗「よかった!――それじゃあ旅人。アンタの用事を終わらせるか!」

蛍「あ、そうだった…忘れてた」

宵宮「なんや?あんたもなにか用があってきたん?」

蛍「うん。実は…」

 

蛍はここまでの経緯を話す

 

宵宮「へぇ~そのりゅう…なんちゃらに頼まれて魔偶剣鬼に挑まなあかんわけか」

蛍「うん」

北斗「なら、アタシたちもついていくか!仲間は多い方がいい――そうだろ?」

 

高らかに笑う北斗に蛍は感謝する

その後三人はその足のままヤシオリ島にある蛇神の首に向かった

 

 

 

 

 

 

 

ヤシオリ島

 

ヤシオリ島には巨大な蛇の骸がある。それはかつて淵下宮を統治していた神であり、今もなお呪いをヤシオリ島に振りまいている。そのせいで何時如何なる時でも絶えず雷な鳴り響き、雨が滝のように降り注ぐ

蛇神の怨嗟はその土地にいるものの精神に影響を及ぼし、発狂させる。発狂してしまった人の後は誰も知らないその者たちを見たものはもういないからだ

 

北斗「無妄の丘に引けを取らない恐怖だな」

パイモン「そうだな…ここもまた違った怖さがあるぜ…」

 

雨降る中、三人は目的地へと着々と足を進める

かの魔偶剣鬼がいるところにはまだ遠く冷たい雨が体の体温を奪い去る。しかし完全に冷え切ることはない。なぜなら楽し気な話をしながら歩いているから

―モンドでの旅、璃月での旅、稲妻での旅、そして…六花や伐難のこと。宵宮や北斗には誰も新鮮な話だったらしく、目を輝かせていた。北斗に至っては転職しようかなと言っていたほどだ

 

仲睦まじい会話が止まり、目的地についた

荒野のような荒れ果てた草木の生えない円形の広場に1人。魔偶剣鬼は静かに佇む。人を待っているのか、それとも自らを作り上げた主を待っているのか分からない。なぜなら彼には会話する機構がつけられていないからだ。そもそも、剣の鍛錬用のからくりと会話する意味などないからか?

 

北斗「やつが魔偶剣鬼か…」

蛍「少し戦闘は待ってね。写真撮るからー」

 

パシャ、パシャと次々に切られていくシャッター音。

技術が進んでいるフォンテーヌ産のカメラは高性能。雨の中であろうと日に囲まれていようと使用することが出来る

雨の音にシャッター音は吸われていく。そして静寂が現れた時、かの者は起動を始めた

 

怒り。もしくは哀愁とも取れる鬼の面を真っ二つに割り、魔偶剣鬼は立ち上がった

 

宵宮「なんや…怖いもんやな!」

北斗「あぁ…アレからは感情を一切感じない…むしろ近寄るもの全てを殺そうとする殺意が見える」

蛍「来るよ!気をつけて!」

 

蛍のその声に2人は武器を構える

魔偶剣鬼はその腰に携えた立派な刀を抜刀し、こちらに近づいてくる

 

 

蛍含めこの場にいる者は気づいていなかった

かの者の悲痛な心の叫びを




宵宮〜可哀想な子だよね。キャラとかそういうのじゃなくてガチャの話ね!
最初は綾華と将軍に挟まれ、今回は万葉+クレーとスメールのキャラ達に挟まれ…

私?もちろん持っていますが何か?なんなら綾華引いて宵宮引いて将軍引きましたが何か?

私のテイワットの万葉くんは未だに流浪してるみたいです(途中から何が言いたいのかわからなくなっちゃった!昔の私が自慢したみたいですみません!)


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7話 作られた心

―なぜ魔偶剣鬼は誕生したのか。それはもう誰も知らないであろう。なぜなら彼は、今はもう無き剣の流派の訓練用からくり剣士として作られたからだ。その流派は代々宗主が使っていた技の秘伝書が紛失してしまったことにより、代々続いてきた素晴らしい技を使うことの出来る者は、例え同じ流派の弟子であっても容易ではなかった

 

『このままではせっかくの流派が潰れてしまう…』

 

そう思った時、その流派の道場に1人の流浪人が尋ねてきた。話を聞いているとかなりの博識な人のようで、弟子たちは助けを求めた

すると流浪人は『その技を使えるカラクリ剣士を作れはいい』そのように言い残し、去っていった

 

彼が言った言葉はあながち間違いとは違かったので、弟子達はその言葉を真に受けた。しかし、完成まで数時間というところで、何者かの襲撃を受けた。その正体はたった1人の青年ーいや、流浪人であった

流浪人はそのからくり剣士の起動コアに少し細工を施し、そのからくりに"心"を与えた

心を与えられたからくり剣士は流浪人に名を聞いた。しかし言葉を話すことが出来ないからくり剣士はその名を聞くことは出来なかったものの、弟子達に向かって名を放っていたのを聞き、かの流浪人の名を覚えた

 

『心を与えし主の名は国崩…拙者は主の帰りをここで待とう…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

旅人side

 

北斗「うぇぇ!?どんな攻撃だそれ?!」

 

魔偶剣鬼が放った風の剣影をいなした北斗は驚きを隠せない。璃月の敵が絶対に放つことのない攻撃。それは失われた技術であり、稲妻でも魔偶剣鬼しか使えない剣術である

冷たい風が魔偶剣鬼の立派な剣に集まる。その技術は神の目に頼ったものではなく、その身に沁みこんだ剣術の流派によるものである。氷と風の二つの元素。その技は決して人には扱えない例外と言っても過言ではないほどいいものだった

 

蛍「避けて!!」

宵宮「これでも――くらい!!!」

 

宵宮が放った火の矢は、魔偶剣鬼が放った氷と風の剣影を壊し、魔偶剣鬼の体の中心に当たる。すると魔偶剣鬼は力を失ったかのように地面に伏してしまった

伏せられた魔偶剣鬼からは、氷元素粒子が風元素によって拡散される

蛍は普段とは違うその姿に少し疑問に思う。からくりで心がないはずなのに、どこか無念さが伝わてくるかのようなその姿…いや、気のせいなのかもしれない

 

蛍はそう思うことにした。そう思った方が何かと気が楽になるからだ

魔偶剣鬼の傍に駆け寄り、コアとなる魔偶の芯を回収した。その魔偶の芯には、少しばかりひびが入っていて、中からなにか見えそうだが、なにか恐怖をあおるため見るのをやめた

 

そんな蛍たちに、多数の人の足音がこちらに向かって歩いてくるのが聞こえる

よく見ればそれの大勢の人達は、稲妻の鎧を着ており、稲妻城に属す武士であるようだ

 

「お前たち何をしている」

 

大勢の人の先頭にいる女性は三人に声をかける。その女性をみた宵宮は伐の悪そうな顔になり、少し後ずさりを始めた

その様子を見た女性は、その鋭い目を睨ませる。その目は、冷酷とも言えるかもしれない

その女性の名は…九条沙羅。天狗の末裔九条家に生まれた天領奉行のトップの人だ。将軍の命令を第1に考え、その通りに行動する…将軍様バンザイな人だ

 

蛍「沙羅…どうしてここに?」

沙羅「異常な元素をここから検知したため、私達はそれの調査に来た。ところがつい先程、その元素の反応が突然途切れたため、急いできたところ…お前たちがいたということだ」

北斗「異常な元素…多分コイツだな」

 

北斗が指を指す方には、倒れた魔偶剣鬼がいる。北斗の言う通り異常な元素とはこれの事だろう。蛍も以前戦った時とは違う感覚を感じた。それが元素の影響なのかはどうかわからない

 

沙羅「…そうか。ならば、調査のため一時ここを封鎖する。お前たちはここを動くな」

北斗「おいおいそれはないだろ?アタシたちだって被害者みたいなもんだ」

 

反論する北斗に屈せず、沙羅は鋭い目付きを与える

 

沙羅「被害者かどうかは我々が決める。調査次第だ。もしかしたら、またそこの彼女(問題児)が原因かもしれないからな」

宵宮「んな!私は今回ばかりは被害者や!」

 

どうだか―そう言って多くの同心と武士を連れて魔偶剣鬼に向かう沙羅。北斗はその様子を見て、蛍に彼女の話を聞いてみた。蛍は簡単にだが、沙羅の概要を話す。天領奉行に属していること。雷電将軍の命には必ず従うこと…などなどだ

すると北斗は、やっぱりかと大きくため息をついた

 

北斗「凝光みたいだなと思ったんだよ…通りで掴みにくい訳だ」

パイモン「北斗って凝光と仲良いよな」

北斗「協力関係にあるからな。仲悪いわけないじゃないか!だけど…あいつの真剣ぶった仕事姿はどこか好きじゃないんだ。なんかこう…自由がなさそうでさ」

蛍「…役柄上仕方ないことなのかもしれないけど、確かに自由がなさそう…」

 

ここで蛍は思った。璃月も稲妻も変わらないんじゃないかと

神の意思で働く七星。神の意思で動く天領奉行。今となっては、岩神は死してしまったが、内情的には変わらない―モンド?あれば例外では?

「クシュン!」風の音に紛れてかの酒飲み飲兵衛吟遊詩人のくしゃみの声が蛍の耳に届いた…気がする。多分気のせいだろう

 

数分経って、やっと沙羅がこちらに戻ってきた

 

沙羅「お前たちを疑ってすまなかった。恐らく、魔偶剣鬼の異常な暴走によるものだろう」

パイモン「異常な暴走?」

沙羅「ああ。伝承によれば魔偶剣鬼には作られた心がある。それは精密すぎる故に暴走するらしい」

蛍「伝承?」

沙羅「そうだ。私も詳細は知らないのだが、この魔偶剣鬼はかつて雷電五箇伝の一つの流派の者が作ったそうだ。しかし、原因不明の操作不能状態になりここに廃棄された…私が知っているのはここまでだ」

 

雷電五箇伝。それは、稲妻の伝統"刀に魂を込め、戦いをしていた"有名な五つの鍛冶屋の剣の流派のことである。しかし今では「天目流」のみが残っている。「一心流」は血族が残っているが、流派としては衰退。残りの3つは何かの因果で消失している

その中で魔偶剣鬼を作った流派がある…それは恐らく「天目」「一心」の2つ以外のものであろう

 

沙羅「とにかくお前たちの容疑は晴れたんだ。もうここには近づくな」

パイモン「なんでだ?何かすることがあるのか?」

蛍「確認だよ。ほんとに合ってるかどうかの確認。それなのに私達が近くにいたら邪魔になるでしょ?」

パイモン「それもそうだな…それじゃあ一旦戻るか!」

 

4人は稲妻城を目指して歩みを始めた

その後のことだが、1度宵宮も璃月に下見をすることになり、共に死挑船号へ乗り込んだ。初めて璃月に行く宵宮は少し緊張で、どうなるかわかっていない。だか、宵宮のコミュニケーション能力がれあれば、どんな人とでも仲良くすることが出来るだろう



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8話 頼み事

最近崩壊3rd始めたんですよね(突然の告白)
伐難の伝説任務を考えているんですが、崩壊3rdっぽくなっちゃうんですよ…原神しかやってない人でもわかる内容なんですが、崩壊3rdっぽく…
















再び璃月に戻ってきた。北斗は宵宮を凝光のところに連れていき、蛍はその足で奥蔵山まで頼まれた物を届けに行く

 

街中はいつもより騒がしく、もうすぐ祭りが始まるという人々の心を反映しているかのようで心地が良い

ふと璃月港の船着場の方を見れば、2鳥に挟まれる場所には、海灯祭の時のような海の上に舞台が作られようとしていた

道端には出店の骨組みが出来上がっていて、ほんとにもうすぐ祭りが来ることを実感できる

 

パイモン「うわぁ~!相変わらず仕事が早いな…」

蛍「刻晴が担当者らしいからね。仕事がどんどん終わってくでしょ。私達も行こう」

パイモン「おう!留雲真君も待ちくたびれてるだろうしな!」

 

賑やかな通路をかき分けるように蛍は奥蔵山へ足を運び始める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥蔵山

 

留雲は凛々しくその山の湖の中心に立って旅人達を待っていた。どのような構造か、どのような姿がを想像しながらその姿を待っていた

蛍は奥蔵山に着くと同時に一目散に留雲のところへ行き、留雲に目的の品物を差し出した

留雲は待っておったぞと一言。差し出された品物を受け取り、じっくりとその品物を見始めた

 

留雲「…コアとなるものはこれだけか?」

蛍「うん。それひとつで動いてるみたい」

留雲「ふむ…単一起動炉か。なるほど…ならば動力源を…様々な技に繋げるには…」

 

ブツブツと専門的なことをつぶやく留雲のことを心配したパイモンは留雲に大丈夫かと聞いてみる

すると留雲は「なんのこれしきのこと!妾が何年このようなことをしてきたかと思っておる?人間が考えた機構など妾が子供の頃に作ったも同然!」と全然大丈夫だと思われる意気揚々な言葉が聞けた

 

留雲「しかし作るのには時間がかかる。また数日したら来るといい」

蛍「わかった。それじゃあ…あと何しようかな」

パイモン「うーん…とりあえず璃月港まで戻るか」

 

パイモンの言う通り蛍はゆっくりと璃月港まで戻り始めた

その背を見る留雲。その背が全て消えたあと、視線を下におろし蛍から貰った魔偶剣鬼の起動コアを見つめる

―鈍い青の不思議な機械。そのひび割れた隙間から魔神にも匹敵するかのような気配を感じる。魔神の力を使用しているのか、あるいはそれを参考にしたか

どちらにせよ良いものと言えるものではなかった

 

留雲(さてと…作るとするか)

 

仙力の力を使い人の姿になった留雲は写真と魔偶剣鬼の芯を手に取り、仙府に入ってゆく。その仙力で封じられた仙府から出てくるのは何日後か。それは申鶴はおろか甘雨でさえ、伐難でさえも分からない。留雲本人しか知らないことである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

六花side

 

心地の良い風が望舒旅館の最上階を通り抜け、綺麗な音を残してゆく。六花はその最上階から地上で戦闘を繰り広げている魈を見ていた

―風と一体となって戦うその姿。その姿は数千年前とは全くの別物であり、見ないうちに成長したのだなと感動を感じる

数千年前の魈はまだ幼く、武術に無駄が生じていた。自分が戦うための意思すらわかっておらず、仙衆夜叉と呼ばれるには身に余るものであった。なぜなら、力というものしかなかったからだ

 

しかし今はその時の問題を全て解決し、なんのために戦うかを知っている。それは彼にとってみれば些細なことなのかもしれないが、ほかから見ると、すごい進歩なのだ

 

六花(―本気で戦ったら弥怒とも対等に戦えるか…?)

 

そのレベルまで成長していると見ても良い

六花的にだが、仙衆夜叉にも強さの位というものがあり、1位は浮舎。次に弥怒。その次に伐難と応達。そして魈…とこのような並びであると考えていた

―まぁ実際にはこの考え方は良くはない。なぜなら、浮舎は影打ちが得意であり、弥怒は敵を騙すのが上手い(策略に優れている)。応達は純粋な武力であり、伐難は耐久戦に優れていて、魈は素早さが優れている。皆違う分野なのだ。その分野をひとまとまりにして、誰が1番だとかはつけることが出来ない

 

…ホントのこと言うと、六花が応達にしか技などを教えていなかったのはこれが関係している。確かに六花にも素早さや耐久力はあるのだが、それの源は純粋な力、武力である。そこから派生させて素早さ、耐久力…と分岐して行っているのだ

だから、同じ源の応達には教えることができ、違う源の魈には教えることが出来ずにいる

 

「…魈様のご友人でしょうか?」

六花「?確かにそうだが…君は?」

 

突然六花に話しかけてきた女性は名を名乗る

その姿は大変凛々しく、只者ではない気配を六花は感じ取った

 

オーナー「ヴェル・ゴレット。この望舒旅館のオーナーです」

六花「そうか。我の名は六花。魈に何か用事でもあるのか?我が伝えられる範囲なら伝えることも可能だが」

オーナー「いえいえ!見ず知らずの人に頼む訳には―――いや、魈様のご友人の方に頼む方が得策ですね。ええと…これを」

 

オーナーは1枚の綺麗に折りたたまれた紙を六花に差し出してきた。六花は中を見ても良いかと聞き、許可を得たため中を見てみる

するとそこには、玉塵雷鳴歓迎祭と書かれたチラシであった

 

オーナー「もうすぐ、璃月港で大規模な祭りを開催するそうなので、せっかくなら魈様も行ってみてはどうかとお伝えください」

六花「承知した。確かに伝えよう」

オーナー「よろしくお願いします。では」

 

後ろを振り返り、オーナーはテクテクと歩いてゆく

六花は後ろにいる気配に向かい「聞いてただろ?」と問いを投げると、六花の背後から綺麗な鈴の音と共に魈が現れる。聞けばほとんどオーナーと六花の話は聞いていて、説明してもらう意味もないらしい

 

六花「で?どうする?」

魈「我は……」

六花「我的には行ってほしいな。お前はこの数百年戦い続けてきた。なら、たまには休むのもいいんじゃないか?」

 

魈は以前下を向き黙っている。そこには何が葛藤のようなものも見える…

 

魈「…しかし、我も契約に従わなければならない…我が楽しみたいから契約を一時保留させてくれなどと、帝君にいえるもの――」

「いや、今回ばかりは俺も許そう」

 

そう言って現れたのは、1人の男。それはかつて契約の神と称され、今も尚影で璃月を護る岩王帝君…もとい、鍾離であった

鍾離は魈の目の前につくと、言葉を続ける

 

鍾離「六花の言う通り、契約と言うものがあれど、休みは必要だ。休みがなければ精神は摩耗し、その肉体は土に帰るだろう。俺としてもそれは防がなければならない」

魈「帝君…では、この道の危機は誰が護るのですか?我が倒さなければ―」

鍾離「その件に関してはこの旅館付近にいる男がどうにかしてくれるだろう」

魈「付近の…男?」

 

魈は鍾離の言った言葉に反応し、望舒旅館の付近を良く観察して見る。すると一際目に入ったのは、岸辺で釣りをしている男だ。魈は普段は全然辺りを観察しないのだが、確かずっと釣りをしている男がいたはずだ。…それも敵から身を守る術も兼ね揃えているかのような身のこなし…只者ではない

 

鍾離「実際俺も彼には尊敬の念を抱いている。人のみでありながらあそこまで行けるとは…」

魈「…本当に大丈夫なのでしょうか」

鍾離「心配するな。なに。数年遠出する訳では無い。ほんの数時間、離れるだけだ」

 

魈は再び心配そうな顔を見せるが、帝君の声がけもあってかわかったと声を出した

 

魈「ですが万が一…璃月の民に危害が加えられるようであれば、我はとごにでも赴き、戦いを始めます」

鍾離「ああ、それでいい…ところで、伐難はどこだ?」

六花「伐難ならば、留雲のところにいるはずですが…何が御用でもあるのですか?」

 

鍾離はいないのならば良いと言って、そのまま去っていった。最後に魈が発した言葉…伐難はいないかという言葉。その言葉には、どのような意味が込められているのか…

久しぶりに会うことができたから世間話でもするためか。はたまた…と詮索を続けようとする六花の心を六花は止める。帝君の意志に従う。帝君を疑うことなどご法度

疑っていないにしろ、無駄な詮索は身を滅ぼす原因になりうる

 

オーナー「…魈様。お料理をお運びしました」

魈「―感謝する」

 

オーナーが運んできたのは、皿に乗った美味しそうな杏仁豆腐。ちゃっかり注文していたらしい…その匂い、その見た目、その柔らかさ…数千年前からあるが、これほど精巧な料理は六花でも見たことがない

故に食べたくなってしまった

 

あげないぞと皿を移動する魈、それを先読みし杏仁豆腐を食べようとする六花。その小さなもの達の戦いは心地の良い風が通り抜けるその望舒旅館の最上階で行われたのであった



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9話 安全確認。下見

留雲借風真君が仙府こもり始めて72時間経過した

蛍たちはそろそろできた頃合いかなと思い、奥蔵山まで確認に行くことにした

 

奥蔵山につくとそこには留雲と、木みたいな材質の物でつくられた魔偶剣鬼がその湖の真ん中で鎮座していた

完全にとは言えないが魔偶剣鬼と非常によく似た留雲作の魔偶剣鬼は、静かに自らの刀を見始める

―さすがの留雲でも完全再現は難しいようだ…

 

留雲「来てくれたか」

蛍「そろそろかと思ってね」

留雲「つい先程出来上がったところだ。なかなか機構が難しくてな…完全なる再現とはならぬ。はぁ…妾としたことが…」

 

そう言って留雲はため息をつく。しかし蛍からしてみれば、精巧そのもの。点数をつけるとしても付けられないくらい素晴らしいものであった

留雲は少し頼みがあると言う前置きをしてから蛍に頼みを告げた

 

留雲「妾が作った魔偶剣鬼―すなわち仙偶剣鬼の安全確認をしてもらいたい。妾自身、できる限りの安全確認はしたのだが…やはりお主から見てもらうのが最適化と思ったのだ」

パイモン「六花に頼むのはダメなのか?」

蛍「…六花に頼んだら意味無いじゃん」

 

パイモンはあっ…そうか…と少し驚いたような表情をみせた

―六花と魈の戦いのために作ったものなのだ。サプライズなら最後まで取っておくのが常識というものだろう(多分)

蛍は断る理由も無いため、その願いを承ることにした

 

―安全確認と言ってもただ戦うだけだよね…

そう思いつつ蛍は準備を始めた

 

留雲「まずは妾が操縦して戦う。その次に自動操縦に変えるぞ」

蛍「わかった」

留雲「よし…ではいくぞ――仙偶剣鬼、起動!」

 

掛け声とともに仙偶剣鬼は瞳を光らせ、剣を手に握りしめ立ち上がる

蛍も剣を握りしめ、どう来るか様子を見る。仙偶剣鬼はゆっくりと歩み寄り剣を振るってくる。蛍は軽々よけ、次の攻撃にそなえる

…といった感じにその戦闘は数分間続き、その後すぐに自動操縦モードの戦闘に入った。自動操縦モードは妙に強く、蛍でも避けるのは容易ではなかった。隙という隙を突いてくるその攻撃は、若干殺気すら感じるほどであった

 

留雲「ふむ…大丈夫のようだな。仙偶剣鬼、停止!」

 

その声に反応して仙偶剣鬼は力をなくす

蛍は乱れた息を直し、剣をしまった。なかなかに強い相手で、鍛錬に丁度いい強さであった。どうして自動操縦モードは強いのかと留雲に聞く

 

留雲「劇だけに使用するのはもったいないであろう?だから鍛錬に使えるようにしたのだ。妾や六花用に調整している」

蛍「だから強かったのか…」

留雲「しかし仙人用とはいえ、お主は何度も避けた…見るたびに強くなっているな」

蛍「あはは…ありがとう」

 

蛍が感謝を伝えると、留雲は微笑む

―つい先日妾の仙府を攻略したと思ったら、もう妾の作ったカラクリに対応できてるとは…と留雲は嬉しいような悲しいような感情をその胸に感じる

留雲は俗世とは交わらない。だが、旅人のことは良いように思っている。それは旅人が持つ不思議な力のおかげか、または留雲の気持ちが変わったのか。それはどちらにもわからないことであろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雲菫side

璃月港

 

刻晴に連れられて劇をやる特別ステージまで案内される。そこはいつも海灯祭で付設されるところにあり、手前に今より一段大きいステージがあり、大きさは秘境くらいの大きさで結構広い。その奥には、雲菫が歌うためにあるステージよりも大きい台があった

基本的に海灯祭のような感じで装飾されており、とても豪華である

 

雲菫「きれいですね…」

刻晴「そうね。せっかくの祭りなんだから、豪華にしないと」

雲菫「ここなら気持ちよく歌えます!ありがとうございます!」

刻晴「いいのよ。私達もあなたの歌や踊りが大好きなんだから、あなたにも気持ちよく歌ってほしいの。それじゃ、私は一度もどるわ」

 

そう言い残し、刻晴はその場から去る

雲菫は今この舞台に感動し、どうやって歌おうか今から心が躍る。その後、雲菫は役者を集め下準備を始める。本当であれば、飛雪大聖と降魔大聖本人に出演してほしかったが、仙人という役職上難しいであろう

 

雲菫「では、流れをもう一度確認してみましょう。私が特定の文までよんだら、飛雪大聖役の香さん出てきてください。その後すこししたら降魔大聖役の涼さんが出てくる。そして私の声と同時に舞を披露してください」

涼・香「「了解しました」」

雲菫「その次は依頼してある装置が届き次第、決まりますが…とにかくお二人は戦闘体験に長けていると聞きました。なので、その機械が出してくる攻撃を避けながら隙きをついて攻撃してください」

 

役者の二人はコクリと頷き、舞の確認をする

雲菫は何度も物語の本を暗唱しながら頭に覚え込む。何分。何十分経ったかわからないが、熱中して暗唱する雲菫に1人の女性は声をかける。しかし雲菫は熱中しすぎているのか反応がなく、その女性は何度も何度も声をかけ続けた

すると雲菫もやっとその声に気づいたようで、「ごめんなさい!」と勢いよく謝る。目の前にたっていたのは、璃月のロックミュージシャンこと辛炎であった

 

辛炎「どうしたんだよ。雲菫らしくないぞ?」

雲菫「辛炎さん…今度開催される玉塵雷鳴歓迎祭のための劇の練習をしていたんです。初めてのお話なので、頭に叩き込んでおかないと…」

辛炎「へぇ〜!どんな物語なんだ?」

 

雲菫は大まかなストーリーが書かれた台本を辛炎に渡す。すると辛炎は興味津々な様子で私にも手伝わせてくれないか?!と雲菫に提案を促す

 

辛炎「アタイがその2人で共闘する時にロックな曲を奏でるってのはどうだ?!」

雲菫「…悪くは無いですね!私の歌だけだと物足りなさもありますし、辛炎さんのロックを合わせたら場面の急展開というのも表現できます!」

辛炎「だろ!」

雲菫「そこでなんですけど…その…戦闘に入る前の段階の音楽もお願いできませんか…?」

 

手を合わせて頼む雲菫。その願いを辛炎は「任せろ!」と言ってまた再び台本を見る

そうしてブツブツと何かを唱えるような悩みを雲菫に見せる。よく耳を澄まして聞けば、「うーん…ここは琴の方がいいな」とか、「ここは笛で…」とか考えていた

一人のミュージシャンとして辛炎は心が踊っているのだろう

 

辛炎「戦闘するときはアタイらしさを出してもいいか?」

雲菫「はい大丈夫です。そのほうが盛り上がりますしね!」

 

二人は祭り当日のことを想像しながら今日を終えたのであった

 



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10話 運搬。俗世へ

スメール楽しすぎて草元素










旅人side

奥蔵山

 

安全確認を終えた留雲と蛍は、この仙偶剣鬼をどうやって璃月港まで運ぶかを考える。重量としては余裕で大きな岩石を超えるかと思われる仙偶剣鬼をどのようにして運ぶか…

悩みどころであった。蛍が持っていくことは力的に無理だし、かといって留雲が運ぶのもなにか違う気がする

 

―はてどうしたものかと悩んている二人に、申鶴が声をかけた

 

申鶴「旅人、師匠、なにか悩んでいるのか?」

留雲「おお申鶴!丁度いいところに来てくれたな。いまこの仙偶剣鬼をどのようにして運ぶかと悩んでいたのだ。お主さえ良ければ、運んではくれまいか?」

申鶴「それは良いのですが…運んだ後、誰がこれを操作するのです?」

 

申鶴の問に留雲はあたふたする

「か、紙に書いておく」と焦ったような口ぶりで言ったが、紙に書いたところで仙人の技術を模倣できるわけではない。もし現場で壊れてしまったら誰が直すのであろうか。そういう可能性から考えるにその案は壊れてしまう危険性を考えて否決された

 

申鶴「やはり師匠直々に行くべきだと我は思う」

留雲「バカを言うでない―!妾が俗世に出向くなど…」

蛍「でもあっちで壊れたら直せないよ?それにあとで訓練用にも使うんなら一緒に行ったほうがが良いと思う」

留雲「うむ……」

 

留雲は悩み、天を高く仰いだ

俗世に染まることが苦手な留雲は俗世に行きたくない。だが、俗世に行くと今決断しなけれはならない今の状況に、留雲は惑う。行くべきか行かぬべきか――

行けば自分のプライドと引き換えに安全を得る。行かなければ仙偶剣鬼を失う可能性がある…留雲は迷いに迷い自暴自棄になってしまった

 

留雲「ええい!妾のプライドなどどうでもよい―!すこし待っていろ!」

 

そう言い残し、留雲は仙府へと一度帰っていった

―すこし経って、すぐに留雲が戻ってくる音が聞こえる。こつこつと仙府につながる洞窟から足音が聞こえる。ヒールのような高い足音。そして現れたのは、きれいな長い髪の凛々しい女性であった

一瞬誰かと蛍は思う。しかし、すぐにそれは誰なのかがわかった

 

「ふぅ…この姿になるのは実に500年ぶりだ」

パイモン「りゅ、留雲なのか?!」

 

驚くパイモンに留雲?は回答する

 

留雲「そうに決まっているだろう?妾の仙府から出てくるのは妾しかおらんだろう?」

申鶴「――師匠の人の姿…初めてみた…」

留雲「どうだ?おどろいたか?」

申鶴「…似合っている」

 

申鶴に褒められた留雲はすこし恥ずかしがる

あの申鶴が人を褒めるまで成長した――と感動も同時に感じる。山に捨てられた申鶴を助け、ここまで育て上げてきた留雲だからこそ感じ取ることができる感情だろう。甘雨も留雲に育てられた…わけではないが、甘雨から褒められてもそういう感情は浮かない

 

留雲「まさかお主から褒められるとは…」

パイモン「本当に似合っているぞ!申鶴は心からそう思っているんじゃないか?」

申鶴「ああ。仙獣姿の師匠も凛々しく綺麗だが、人の姿の師匠は美麗だ」

 

またも褒められた留雲は顔を紅潮させ、話を切り替える

 

留雲「こ、こほん!妾を褒めるのは嬉しいがそう、すごく嬉しいが…今は璃月港に行くべきだろう。璃月港や人にあったら妾のことを"玲瓏"と呼べ。」

蛍「わかった。玲瓏だね」

留雲「うむ。では出発するか」

 

留雲がそう言うと、申鶴はよいしょと重たい仙偶剣鬼を担ぎ、璃月港に向かって歩みを始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

璃月港

玉塵雷鳴歓迎祭劇場会場

 

やっとのことで申鶴が仙偶剣鬼を持ってこの場に来ると、千岩軍が何事かと駆け寄ってくるも、蛍が事情を伝えると逆にそれを援護するような感じになった

 

申鶴「これはここで良いのか?」

千岩軍「はい。ひとまずここに置いておけば大丈夫だと思います」

申鶴「感謝する――よい…しょ…」

 

ドスンと重そうに置かれる仙偶剣鬼。起動していない仙偶剣鬼は先程の戦闘とは打って変わってマネキンのように生気を感じるさせることはない

しかしどこか蛍にはソワソワすることがあった。起動していないのに起動しているかのような不安感。気を抜いたら襲ってくるようなその不思議な気配…

…と警戒している蛍のそばに雲菫と劇団の役者がよってきた

 

雲菫「旅人さん。無事完成したんですね」

蛍「うん。紹介するよ。この人が今回仙偶剣鬼を作ってくれた"玲瓏"。なかなか癖のある人だけど―」

玲瓏「癖など無かろうに…そなたがこの劇を仕切るものか?」

雲菫「は、はい。雲菫と言います」

玲瓏「妾の…いや、我の名は玲瓏。これからよろしく頼む」

 

かしこまった留雲に雲菫は対応する

そして話は劇の話になり、早速戦闘の話になった

 

雲菫「――………で、このときにこの仙偶剣鬼?が飛雪大聖と降魔大聖役の涼さんと香さんに襲いに行きます」

玲瓏「ふむ…ならば今この場でその戦闘をできるか?」

雲菫「この場で…ですか?」

 

留雲の問いに雲菫はすこし困惑する。話を聞くと、戦闘を記録して同じような動きができる機能が備わっており、それを使用するということであった

本来は留雲や六花の訓練用機体のために考えた機構で劇をするためではない。だがさすがの留雲。その時の動きを精密に再現できる。つまりは苦手なもの、苦手な攻撃を何度も何度も繰り返し練習することのできる最高の機構を考えたものだ

 

そして戦闘は始まる。蛍はいざというときのために近くで剣を構えて待機する

しかしその心配はいらなかったようで、役者の二人は慣れた手付きでその攻撃を避けたり、攻撃を与えたりしている

 

雲菫「――今です!」

玲瓏「はっ!」

 

タイミングに合わせて留雲は仙偶剣鬼を倒れさせる

―その倒れた動きさえ完全に記録され、劇用の仙偶剣鬼が完成した

 

雲菫「ありがとうございます!」

玲瓏「どうってことはない。我にかかればこんなところだ」

涼「カラクリの強さも程よいくらいでしたし、玲瓏さんは本当は仙人なのでは?」

玲瓏「まさか。我のような俗世嫌いが璃月を守る仙人になるはずなかろう?」

 

うまく自分の正体を隠した留雲に対し、蛍は「留雲は俗世に染まらなくても、俗世に対する力はあるのかな?」と思ったそうな

実際何千年も生きてきたから、その人生経験なのかもしれない

 

―もうすぐ玉塵雷鳴歓迎祭。人々は当日に向けていつにもない楽しさを求めるため、今日も頑張るだろう




追記…海灯祭にて留雲借風真君のシルエットが出ました!あんな感じなんですね…結構想像通りというかなんというか…
それに合わせてこの小説も少し改変します。こまかーいところしか改変しないので、大まかにはねじ曲がらないはず!


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11話 招待された稲妻の者たち

スメールが楽しい♡
ニィロウ早く来ないかなー3.1で来るのは確定っぽいけど、早く使いたい!

あ、本編どうぞ











???side

稲妻

稲妻城天守閣頂上

 

そこはいつもの日常、いつも通りの作業をしていた。何も変わらない。あるのは永遠を目指すための手段のみ

そう。雷電影の代わりとなる雷電将軍が座する天守閣の頂上。バルバトスやモラクスとは違い、今もなお自ら国を統治し続けてはや500年。将軍にとって目指す永遠が"内なる者"の影響により変わったのだが、これからもやり続けることはただ1つ。己が目指す永遠を追求するのみ

 

将軍「………ふう」

 

将軍はひとおわりを示す息を漏らす

やるべきことはまだまだ残っている。例えば、セイライ島の雷鳥の問題や、鶴観の霧の問題。まぁどちらもかの旅人が解決したようなものだが…だが、島国である稲妻にとって、その2つの島は大切なものである。そこをいかに有効に使うかがこれからの稲妻を左右するであろう

 

天守閣頂上は城下町とは違い静寂がその場を制覇する

なぜならその場には将軍しか居ないから。ほかの誰もいない。何かあれば下から遣いのものが来て教えてくれるが、大抵は来ない

 

将軍「…今日も空は青いですね」

 

1人寂しく窓から空を見る将軍

その景色はいつもと変わらず、綺麗な水色をしている…と、その風景を誰かが邪魔をした

桃色の髪をした宮司…すなわち悪戯好きの八重神子であった

 

将軍「…なんの用事ですか?」

神子「冷たいのぅ…寂しいかなと思って来てやったのに、そんな仕打ちとは…ううっぐずっ。妾悲しくなっちゃう」

影(―変わってください将軍)

 

わざとらしく泣き真似をする神子に対し、将軍もとい影は胸元から夢想の一太刀を取り出し神子に向かって振るう

神子は焦ったようにその一太刀を避け、影に何をする!と抗議を入れた

 

神子「わ、妾が危うく死ぬところだったぞ!」

影「日頃の仕返しですっ!それになんですかあのキャラは!」

神子「だって妾悲しかったんだも…」

 

またもや同じようなキャラになろうとした神子に影は刀を向ける

 

神子「じょ、冗談じゃ…」

影「はぁ…まぁいいでしょう。それより今日は何用で来たんですか?新しい娯楽小説の宣伝?それとも新しい甘味の提供?」

神子「残念じゃが今日は別の用事じゃ。ほれ、これを見よ」

 

神子は懐から一枚の広告紙のようなモノを影にわたす。そこには、璃月にて玉塵雷鳴歓迎祭と大きく書かれており、楽しそうな雰囲気であった

なぜ神子はこれを影に渡したのか、影は分からなかった。渡して何になるのか。璃月で開催される祭りを稲妻の神である雷電影に渡してもなんにも関係がないだろう

 

神子「―はっきり申すと、この祭りに行ってほしいんじゃ」

 

にっこりと微笑えんだ神子は、影にとって衝撃的な言葉を発したのだ

―この祭りに行ってほしい。つまりは自分の領地(稲妻)を離れて祭りに参加してほしいということ

しかし稲妻を統治する神が自分の領地を離れて良いだろうか。自分がいないときに稲妻国内でなにか事件があったらどうしようか―と様々な心配事が影の胸を圧迫する

しかしそれを神子は見抜いたのか、影にむかって声をかける

 

神子「安心せい。行くのは数日じゃ。そのうちに起こったことはこの国にいるものに任せるよい」

影「ですが…」

神子「心配ならばリストでも作っておけばよかろう?さっ!早く行くぞ」

 

手を引っ張る神子に影は困惑する。今すぐ行くのかと。その前に天領奉行に伝えなければならない。九条家の娘や九条家の息子であれば数日間なら任せられる

そう思い天領奉行に向かう

 

天領奉行は相変わらず訓練をしており、何があろうと将軍様を守るという使命感が燃えている

そこに九条家の娘、九条沙羅が必死になって訓練をしていた

 

影「頑張っていますね」

沙羅「しょ、将軍様!本日はどうしてここに?」

影「すこしの間稲妻を離れます。その間、この稲妻をよろしくおねがいしますね」

 

その言葉を聞いて沙羅は驚く。それもそうだろう。今までずっと統治してきた将軍が今離れるというのだ。その理由を知らなくては心配になるだろう

 

沙羅「な、なぜ離れるのですか?いやいや!野暮なことを聞きいてしまいましたね…」

影「いいですよ。稲妻を離れる理由は……旧友に会うためです」

沙羅「旧友ですか…」

影「はい。もうずっと前ですが璃月の神が死したと聞きました。私は彼と交流があったので…」

 

野暮なことを聞いてしまったと沙羅は思い、「将軍様がいない間、全力を尽くして稲妻を守ります」と絶対に守る決意いのようなものが見えた

神子と影は、それを見て大丈夫だなという安心感がうまれ、璃月に向かう準備を始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

社奉行side

 

鎮守の森の先にある大きな屋敷。そこは神里家が主体となって動いている社奉行屋敷があった

海から吹く心地の良い風が屋敷内に通り抜け、茶を入れればきれいな色になり、風流が身に染みる

そんな社奉行の屋敷で神里綾華はすこしの悩みがその心のなかで渦を巻いていた

 

―先日トーマから聞いた璃月で行われる派手な祭り。"玉塵雷鳴歓迎祭"がとても綾華の興味を引いていて、ウズウズしているのだ。だが、社奉行の仕事や神里家である以上、不用意な行動は危険を伴う

 

綾人「――綾華」

綾華「はぇ?!なんでしょうか?お兄様」

 

綾華ははっとして綾人の呼びかけに応答する。どうやら長い間綾人に呼ばれていたようで、綾人は心配する

いつもすぐに返事をする綾華がいつにもなく落ち込んでいるような、悩んでいるようなそんな雰囲気であるからなおさら心配になる

 

綾人「なにか心配事かい?」

綾華「いえ…お兄様が心配するほどのことでは無いです」

綾人「…顔に出ているよ。心ここにあらずってね」

 

そう言って綾人は一枚のチラシを見る。それはトーマから聞いた話をもとに稲妻へ広げた璃月の祭りの広告であった

―心配事があるのなら楽しむことが大切かなと綾人は思い、一つの策を思いついた

それは綾華に璃月の祭りに行ってほしいということ。事実を言うと、綾人が数日前に綾華の部屋を通りかかったとき、綾華がチラシを見てウズウズしていたのを目撃している。口には出していないが、行きたい気持ちがあるのだろうと、綾人は悟ったのだ

 

綾人「綾華、璃月に行きたいのかい?」

綾華「―!!な!なぜそれを…!!??」

綾人「そういう顔をしていたからね。だけど家柄上、迂闊に行くことは出来ない。それで悩んでいるんだと私は思っていたんだけど…間違っていたかい?」

 

―間違ってはいない。間違ってはいないが、それを打ち明けたからってなにか変わることはない

 

綾人「行っておいで」

綾華「…いいのですか?」

綾人「ああ。妹の願いを叶えるのは兄の責務だろう?護衛をつけようか。ええと…だれがいいかな…トーマにしようか」

綾華「それでは家の事が――」

綾人「家の事なら他の人にさせる。綾華は楽しんでくると良いよ」

 

優しげな笑顔を見せて微笑む綾人。綾華は心からの感謝をして、ウキウキしながら璃月に行く準備を始めた。トーマが来るまでまだ時間はある。それまでどうしようか何を着て行こうかと今から心が踊っている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海祇島side

 

珊瑚が群生する現人神が統治する海祇島。その風景はテイワット内でも有数な絶景スポットで、観光客が絶えない(多分)。この海祇島を統治するのは人の姿で舞い降りた巫女、珊瑚宮心海だ

天領奉行との戦闘も一段落つき、人々も安静になってきた。食料自給は安定していないが、スメールの学者がくれた肥料によってよくはなっていくだろう

 

しかし、心海の心はすこし悲しくなっていた

なぜなら心海が璃月で開催される祭りに大好きな作家、沈玉が執筆したあたらしい物語が使われるのだが、心海は海祇島を統治しなくてはならないため、行くことが出来ない。それ故すこし悲しいと思っているのだ

 

心海「はぁ…行きたいのは山々ですが…」

ゴロー「どこか行きたいところがあるのですか?」

心海「わっ!」

 

部屋に一人しかいないと思っていた心海はゴローに驚く

 

心海「び、びっくりしました…」

ゴロー「も、申し訳ありません。…なにか悩みがあるのでしたら、なんでも言ってください」

心海「…もうすぐ璃月で祭りが開催されることは知っていますか?」

ゴロー「はい。知っています」

心海「その祭りに私の好きな作家の方が作った物語が劇になるんですよ。それを身に行きたいのですが…海祇島の巫女であるから容易に離れることは難しいですし、なにしろ心配です」

 

心海がそう言うと、ゴローは「すべて我々におまかせください!珊瑚宮様はすべてを背負いすぎです。たまにはゆっくり羽を伸ばすのも必要です」とゴロ―らしさ全開で言ってくれたことに対し、心海は嬉しそうに微笑む

―確かにすべて自分で背負っていたのかもしれない。たまには羽を伸ばそう―と思ったのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい!俺様を忘れちゃこまるぜ!!!!この、荒瀧・超お祭り楽しみ・一斗様をな!!!」

「親分…はぁ全く…」



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12話 玉塵雷鳴歓迎祭・一日目

今日だけ12:30に投稿してみます
日曜とか休日は12:00くらいの方がいいですか?








璃月港

 

きらびやかな装飾が璃月港を支配し、人々の楽しげな声が璃月を支配する。玉塵雷鳴歓迎祭当日を迎えた璃月は未だかつて無いほどの盛り上げを見せていた

玉塵雷鳴歓迎祭は二日通して行われ、一日目は璃月七星主催の料理王決定戦。二日目はみんな待望の劇。そのあとはフィナーレを飾る長野原の花火だ

 

料理王決定戦は月逐い祭以来の祭りで、前回は香菱が王者を勝ち取ったが、次は誰になるのか見ものである

今回は璃月七星だけでなく、璃月に来てくれた人も試食でき、評価することが可能になっているため、前回よりも楽しみが増えている

 

会場は特設会場。決戦の準備を始めているそこには、前回勝者の香菱と望舒旅館の料理人・言笑が何を作ろうか考えていた

 

香菱(せっかく稲妻まで行ったんだし、稲妻料理も作りたいよね…メインは天枢肉にして…その付き合わせは優しいお茶漬けがいいかな?そして緋櫻餅をデザートにして…)

言笑(香菱に負けぬよう俺もスメールに行って学習してきた―今日、それを試すとき!)

 

二人の料理人は静かに火花を散らす

そこに稲妻の神とその眷属がふらりと通りかかった

 

神子「何やら面白そうなことをしているのぅ。なるほどなるほど…料理対決とな?」

影「私はやりませんよ」

神子「まだ何も言っておらんだろう…しかしまぁ、影の手料理など食べてみたいものじゃがな」

影「…消し炭になりますがそれでもいいですか?」

 

脅しをかける影に神子は動じず、「それでも食べたい」と言いかけるが、その直後影が残っていた言葉を放った

 

影「――体が」

 

それはあまりにも非道であり、眷属である神子の普段は見えない尻尾の毛が震えるほどであった

流石に体を消し炭になっては困る神子。いたずら好きな神子でさえその言動を冗談と捉える事は難しく、恐怖に怯えた…消し炭になるってどんな料理の方法なのだろうか。逆に気になってしまうが、それを聞いてしまうと、その場で消し炭になる可能性すらある。雷をも自分の力とできる影の力を、その眷属である神子が食らってしまったら…確実とは言えないが、かなりの重症になる可能背はある

 

神子「…やっぱり遠慮しておこう」

影「さっ!祭りをたのしみましょ〜」

 

気を取り直した影は再び歩みを始める

神子はそんな影に若干の恐怖を覚えながら影との旅行を開始した

影を困らせたら影特製の手料理が振る舞われ、その日が最後の晩餐になるかも知れない。神子はからかうのはほどほどにしておこうと心に決心した

 

 

 

 

神子と影が通りったあと、またも同じような会話が聞こえてくる。今度は神里家の令嬢とその家来がそこを訪れていた

 

綾華「トーマ。あそこになにかありますよ?」

トーマ「あれは…料理対決かなにかか?気になりますかお嬢」

綾華「ええ。旅人さんから璃月の料理は食べた事ありますが、璃月本場の料理は初めて食べますし、どれほど辛いのか見てみたいですね」

 

何時にもなくウキウキしている綾華にトーマは安心する

ここのところの綾華は元気が無いようであった。それは綾人も心配していた事柄であり、トーマも心配していた。しかし、今この綾華を見れば、そんな感情すら等の昔に消え去っていく

―料理といえば。木漏茶屋で行った闇鍋は楽しかったなとトーマは昔をおもう。しかし綾華がケーキを入れるなんて考えられなかった

 

トーマ「そういえばお嬢」

綾華「…?なんでしょうか?」

トーマ「お嬢は料理はできるんですか?」

 

純粋に気になったトーマは綾華に聞いてみた。綾華は神里家のお嬢様。お嬢様と言うと料理が出来ないようなそんな感じがする。無礼になってしまうが、神里綾人も料理が苦手であり、雷電将軍も料理が出来ないという噂がある。やはり位が大きくなると料理も出来なくなってしまうのだろうか…

トーマの純粋な悩みに綾華は答える

 

綾華「出来ないわけではありませんが…好んで作ることはありませんね」

トーマ「この際、学んでみるのはどうです?料理対決なら料理をするところも見れますし、勉強にはなると思いますよ」

綾華「―それは良いアイディアですね!旅人さんにも私の手料理を振る舞いたいですし、勉強してみます!トーマ、私がんばります!」

 

さらに元気が出る綾華をトーマは出店の方へと連れて行く。出店は稲妻を参考にしているみたいで、稲妻と璃月のハーフみたいであった。しかも売っているものは璃月のものもあれば稲妻のものもある

そして食べ物だけでなく、璃月を守る仙人を模した可愛らしい人形も販売していた

稲妻とは違った璃月の屋台は、綾華の心を刺激した

 

綾華「トーマ!ちょっとこっちに!」

トーマ「はいはい…」

綾華「これ美味しそうです!」

店主「お嬢さん。稲妻の人だろ?お米プリン食べてくかい?」

綾華「…お米プリン?」

 

頭の上にはてなをつける綾華に店主は優しく教える

お米プリンは璃月の仙人が考えたもので、お米なのにスイーツらしい。炊いたお米に鳥の卵と砂糖、そして牛乳を加えて煮て冷やしたもの。食べればほっぺが落ちるようなほど、美味しいものなのだ

綾華はそれに興味をもち、無理を承知で作るのを教えてくれないかと店主に聞いた

すると店主は快く引き受けてくれて、丁寧に作り方を教えてくれる

綾華も腕がいいのかすぐに作れるようになり、トーマに試作品を食べさせる

 

トーマ「―うん。美味しいですよお嬢。甘さもバッチリだ」

店主「嬢ちゃん、なかなかの腕だな!これなら…少しばかり店番を頼めるかい?娘と回る約束をしてたんだが、交代の人がいなくてね。嬢ちゃんがいてくれて助かった」

綾華「はい!私におまかせください」

 

済まないなと言って去っていく店主。その様子からして本当に娘がいるのだろう。綾華は張り切り、店番を頑張る

トーマは動けない綾華の代わりに色々な出店を回り、品々を集めてくるため1度離脱した

…―次々と来る顧客。それは綾華の可憐な容姿に呼ばれたと言っても過言ではないだろう

 

綾華「―…はい!少々お待ちください」

 

忙しくなってきたと思ったその頃。その店にとある客が来てくれた

 

神子「あれま?なんじゃ社奉行の娘ではないか!」

綾華「!!八重宮司様?!ど、どうしてここに…?」

神子「どうしてとな?妾は影に付き合ってる(付き合わせてる)だけじゃ。今し方、この美味しそうな出店を見つけてのう。ほれ、影こっちに来るのじゃ」

 

神子が呼びかけると、群衆の隙間から様々な食べ物を持った影が現れた。その姿に綾華は驚かざるを得ない。なぜなら、神子及び旅人以外は雷電将軍=冷徹、冷淡な人だと思っているから。こんなにも食べ物(しかも甘味多め)な影を見たことがない

 

影「早すぎです…もっとゆっくり行きましょう?…あら?あなたは…」

綾華「しょ、将軍様―――」

影「し――っ。ここにはお忍びで来てるんですから、あまり大声は出さないでください」

綾華「し、失礼しました…」

影「はいよろしい。それでは、お米プリン…?をひとつ」

 

綾華は言われるがままお米プリンを作りに始める。それもとても丁寧に。もしここでミスを犯したらクビが飛ぶかもしれないという恐怖と戦いながら料理をする

 

出来上がったお米プリンはいつにもなく綺麗で、艶やかであった

 

影「美味しそうですね…いただきます!」

神子「妾の分も残せよ?ほれ、代金じゃ」

 

綾華はちょうどのモラを受け取った。そして影の姿を見て安心する

なぜならあんなにも幸せそうな将軍を見たことがないから。甘味を食べている姿など想像出来なかったが、今日体験できた

今日のことは忘れることは無いだろうと綾華は心をに刻み込む

 

神子「ああ妾の分がぁぁぁ…」

綾華「八重宮司様も苦労なされてるんですね…」

パイモン「あれ?綾華じゃないか?おーい!」

 

次なる客は、稲妻を目狩り令から救ってくれた英雄とそのオトモ(?)

綾華は今こそ今まで作ってきたお米プリンの実力を見せる時と思い、一生懸命にこういった

 

 

 

 

綾華「旅人さん。私、あなたにプレゼントがあります!」




あとの話なんですが、結局料理対決は香菱が勝ちました。言笑もスメールの料理を出したのですが、やはり刺さるのは稲妻の料理だったそうです

あ、突然ですがキャラ紹介とか定期的に更新してるので見てってくださいね


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13話 玉塵雷鳴歓迎祭・二日目 上

玉塵雷鳴歓迎祭が2日目になり、ますます勢いは増してゆく。なぜなら、今日が六花と魈の劇があるからだ。璃月中の人々が楽しみにしているこの劇。それは璃月の人だけではなかった

 

六花「今日が我らの劇の日だな」

魈「……あぁ」

 

魈と六花は和裕茶館近くの橋のような建物から劇の特設会場を見て会話を交わす。魈を鍾離と六花で説得させてここまで来たが、あまり乗り気では無いようだ

―いや、接し方がわからないのかもしれない。何しろ魈は人とは交わらない。しかも俗世に行くことなど今まで無かったから尚更だろう

 

甘雨「六花さん、魈さん」

六花「―甘雨か、久しいな。元気にしていたか?」

甘雨「はい。六花さんもあの時からお変わりないようで安心しました」

六花「まさか甘雨から心配される時が来るとは…もうあの時とは違うのだな」

 

甘雨はあの時?と首をかしげ、その「あの時」を思い出す

しかしそれは甘雨にとってのトラウマであり、甘雨自身の口からは決して話すことの無い内容であった

―そう。それは甘雨の幼少時代の頃の話で、その頃の甘雨は団子と見分けがつかない程にまるまると太っており、1度山を転がったらそのまま麓まで落ちていくのではないかと思われる程であった

落ちていったあとは六花にたすけられていたのだが…

 

思い出した甘雨は顔を真っ赤に紅潮させ、六花のことポコポコと叩く

 

六花「ははっ、すまないすまない」

「おやおや…懐かしい声が聞こえるねぇ」

 

それは他の人に向けられたものではなく、六花たちに向けられたものであった

それと同時に六花はその声について聞き覚えがある。何千年前に共に闘った戦友で、前回の魔神オセルとの戦いも人々の手を助けた。長い階段を登ってきたその声の正体は、千貫の槍とか呼ばれてたピンであった

その隣には伐難がいて、どこかで一緒に出会ったみたいだ

 

六花「久しいなピン」

ピン「そうじゃなぁ。ざっと二千年はあっていない。少しくらい会いに来ても良かったじゃないか?」

六花「そう入ってもな、我にも事情があったんだ。魔神の残滓の処理をしていたら知らぬうちに百年、千年と過ぎていったからな」

 

時の流れは早いものだと改めて感じる。すこし前まで魔神戦争の時代だと思えば、あっという間に甘雨は成長し、魔神の時代は過ぎ去って、今は人の璃月となっている

それほど人の千年と仙人の千年は違っているのだろう。人にとっての一日は仙人にとっての一瞬。しかしその一瞬にはその身に余るほどの感情が詰め込まれており、その生命が尽きるまでその感情は消える事はない。いかに短い人生であってもそれは変わることがなく、逆にもっと華々しいものになる

 

伐難「…こうやってみんなで集まるのは久しぶりですね」

ピン「そうじゃなぁ…できれば全仙人で集まって食事でもしたいもんじゃな」

六花「理水や削月はともかく、留雲は難しいだろうな。なにしろ俗世に興味ないみたいだし、奥蔵山からどこかに行くことなどめったに無い。今日みたいな日も奥蔵山にこもってカラクリを作っているだろうな」

 

そう言って六花は劇場の方を見る。今も何かしらの劇をやっていて、すこし盛り上がっている

六花は何かが気になってその劇場を注目する。なにやらその劇場から仙力のようなものが感じ取れるのだ。邪悪なものではなく、神聖な仙力。それは夜叉や仙人が使うものであり、人が出すことは不可能である

六花はよく観察し、その仙力の正体を探る

すると、一人の凛々しい女性がその仙力を発しているのがわかる。そしてその人は六花が見たことのある…いや、知人の人であった

 

六花「まさかな…ピン、甘雨、あれを見てくれ」

 

ピンばあやと甘雨は六花の言うとおりに劇場の方を見る。するとやはり仙力を感じ取ったようで、すぐさま例の女性に目がいく

甘雨はその女性を見た途端、信じられないとばかりいうような表情をみせ、「ありえないです…でも…」などと独り言を呟いていた。その甘雨の独り言にトドメを刺したのはピンだった

 

ピン「ほお…あれは留雲じゃな」

甘雨「や、やっぱり?!な、なぜ留雲真君は俗世に…まさか山が飽きてしまったのでしょうか…?」

伐難「いやいや、留雲は旅人の手伝いで仕方なくあそこにいるんだよ。劇で使用するカラクリが彼女特製で人には直せないから留雲直々に行かなきゃならない状況になってね」

六花「留雲も優しくなったものだな」

 

六花が鼻で笑うと、伐難は六花と魈に対し

 

伐難「もしあれが暴走した時は六花と魈が助けに入ってね?」

魈「なぜだ?なぜ我々が助けなければ――」

伐難「留雲が作ったカラクリが人から倒されると思う?それに、あなた達を題材にした劇であなた達が直接出てきたらそれはそれで良い演出なんじゃないかな?」

六花「一理あるな。留雲のカラクリは我と戦うことを目的にしているものも多い。人用に調整していたとしても無意識に我用になっている可能性すらあり得る」

 

留雲は六花に勝つため。六花は留雲のカラクリで実力を上げるために二人は争っている

それはライバルと行っても過言ではない。暇であれば留雲はカラクリを作り、六花はそれに挑戦する。その繰り返しであった

その意識が残っている可能性があるのではないかと六花は推察したわけで、その六花用のカラクリを人が体験してしまえば…その身はズタボロになるだろう

 

六花「…まぁ本当に暴走があればの話だ。いざとなれば我らが守り、そういう演出であると錯覚させる」

 

その六花の話に魈は賛同しているようには…見えなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

劇場特設会場は昼間よりも人が多く、早く劇が始まらないかとソワソワしている人々が大半だろう

 

一斗「なにか面白そうなことをやってるじゃねぇか」

忍「親分、勝手な行動は謹んで。ここは璃月。ちゃんと契約しないと稲妻よりひどい罰則があるから」

一斗「わあってる!俺様とて祭りの雰囲気を潰すような人間じゃねぇ。祭りの雰囲気を楽しまなきゃ損だろ忍!」

 

不安そうな顔を浮かべる忍とガハハハと高らかな笑いを轟かせる

と、その声に反応した稲妻の神子はその声に近づいていく。しかしそれに気づいた忍は「面倒事になりそうだ」と思い、その場をそさくさと離れる。しかし離れたことにより、神子は「その正体はやはり…」とニヤリと笑う

だがそれ以上の追跡はしない。追跡してしまえば、影が神子はどこにいったのかと不安になり、手の中にある食べ物すべて食べつくしてしまうからだ

神子は影の元へ潔く戻る。

 

影「ちょっと神子、いきなりどこに行ってたんですか!心配したんですよ!」

神子「心配させぬつもりだったが…まさかこれほど寂しがりだったとは…全く誰に似たのやら…」

影「私から離れないでくださいっ。まったく…ほらっ腕を組みますよ」

 

そう言って神子の腕を奪い、自分の腕と組ませる

神子はその様子を見て「可愛いやつだな」とボソリと呟くと、影は少し顔を紅潮させていた。どうやら勢いでやってるのか恥ずかしいようで…影の内心は「勢いでやっちゃいましたけど…これ絶対神子が馬鹿にできる素材提供しましたよね…はぁ…」と後には引けないため、さらに力を込めると、馬鹿にしようと思っていた神子が紅潮を始めた

 

その後、劇が始まる時が近づいて来ても離すタイミングを取れずに、2人はずっと腕を組み続けていた

 

影「―始まるようですよ///」

神子「そ、そうじゃのう///」

 

てぇてぇな2人の近くで、珊瑚宮の巫女は今か今かと始まる劇を待っていた。しかしその心の中には、少しばかりの不安もある

―珊瑚島は大丈夫だろうか。前はここまで離れなかったが、璃月までとなるといささか不安が生じて仕方がない

 

心海「ゴローに任せてはいますが…やっぱり心配です。あ、そういえばゴローが行きしな渡してくれたものがありましたね。確か…心配な時に開けて欲しいと言っていましたが…」

 

心海は懐から箱を取り出し、言いつけ通り箱を開ける

すると箱には1枚の紙が入っており、そこには珊瑚島は任せてくれと言った珊瑚島の兵隊とその大将のゴローからの心配せずとも守りきりますと言った心海を安心させる言葉がずらりと並んでいた

 

心海「率いるはずの私が逆に心配させてますね…よしっ!今日は楽しんで、ゴロー達にお土産を買いましょう!」

 

心の不安を払拭した心海は、劇が早く始まらないものかと心して待ち始めた

そして…劇が始まる。劇場の最上部の壇にたった雲菫は、華々しい笑顔で今から劇を開演することを告げる

 

 

雲菫「皆さん、おまたせしました。今より、”聖魔夜叉双記”を開演します。この物語は、先日の璃月で起こった物語をもとに、稲妻で大人気中の『沈秋拾剣録』の作者"沈玉"さんが執筆したものです。あらすじを説明しますと、璃月を護る夜叉の飛雪大聖と降魔大聖が昔交わした約束を果たすために決闘しますが、その最中に…といった感じででう。演奏は辛炎さん、役者は涼さんと香さんです。では始めたいと思います」

 

雲菫はそう言って深呼吸し、劇を始める準備に入った

 

 

 

 

 

 

雲菫『それは―ある一時のことでした』



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14話 玉塵雷鳴歓迎祭・二日目 中

雲菫『それは――ある一時のことでした』

 

雲菫が語りを始めると同時に、モンドのきれいな風のようなきれいな笛の音色が流れ始めた。その音楽を演奏しているのは辛炎であり、いつもの辛炎とは違う雰囲気を出していた

その演奏は劇の情景を映し出していると言っても過言ではない。そして雲菫の美しい声がその物語を飾り、目の前に見えるかのようであった

 

雲菫『魔神が蔓延るかつての璃月には岩王帝君が率いる夜叉がいて、璃月は岩王帝君と夜叉によって安寧を謳歌していました。その夜叉の中の二人、飛雪大聖と降魔大聖はこの戦いが終わった時、どちらが強いか決闘しようとその胸に刻み込みました』

 

雲菫は言い終わると、場面が変わったかのように役者の二人が出てきて、きれいな舞を踊り始めた

 

雲菫『二人の夜叉は魔神と戦い、均衡する戦いを強いられました。草は激炎に栄え、水は刄氷に変わる。人々は神によりすがることしか出来ず、不安な日々が人々の心を支配した。激戦の末、魔神には勝利したものの飛雪大聖は魔神の攻撃によって行方知れずとなり、他の夜叉も行方が知れなくなった。一人になってしまった降魔大聖は未だ彼は生きていると信じ続け、約束を果たすために妖魔の退治を行い続けました』

 

降魔大聖役の役者は、舞を突然やめ、疲れたように地面に膝を付けた

その姿はまるで魈そのものであり、ものすごく精巧に作られていると六花は思う。実際にはそのような話は無いものの、まるでその話があるかのようで本人ですらあったのではないかと思ってしまう

 

雲菫『そして時は幾千年過ぎ去り、璃月は魔神の驚異からは解き放たれ、安寧の日々を過ごしていたその時、行方知れずであった飛雪大聖は再び魈の前に現れ、約束を果たすために』

 

飛雪大聖役の役者は霧から合わられるかのように壇に再び上がる

 

雲菫『降魔大聖はこう言いました――あなたは本物の彼のものかと。現れた飛雪大聖は―いかにも、と返し、その剣を降魔大聖に向け、約束を果たそうぞ―と約束を忘れず今までいたという決意を降魔大聖にぶつける。約束を忘れかけていた降魔大聖も約束を思い出し、武器を手にとって思いをぶつけはじめました』

 

話を聞いていた六花はどこかで聞いたことのあるような話だな…と思っていると、魈は伐難に向かって「お前も関わってるな」とヤジ(?)を飛ばした

よくよく考えてみれば、六花と魈が戦う理由など常人の思いつくことではない。それもピンポイントな部分に刺さる理由だ

六花のことはもう長い間知られていなかったためその理由がわかるはずもなく、わかるのだとしたら…六花をよく知る人物で、よく三眼護顕仙人と共にいた人…絞られるのはただ1人しか居ない。そう、伐難である

 

―えへへバレた?とわざとらしく言うも、魈は動じない。知られたとしても何も無いからだ

 

雲菫の歌声は次の歌に入る

 

雲菫『2人の夜叉は戦いを始めると、木々はざわめき、動物たちは戦々恐々とする。その戦っている姿はまるで自らのナワバリを争う獣のようでもあり、仙人らしい優雅さもありました』

 

2人の役者はその声に合わせるように舞を始める

辛炎の演奏する笛の音は、風に透き通るかのような繊細で玲瓏。その場面にあっているちょうど良いバランスの音色であった。例えて言うのであれば…静かな滝の音であろう。壮大であるが、その土地にあっていてその場面を狂わせることはしない。辛炎の曲は珍しくそういう曲調であった

 

心海「あっ…枕玉先生がこのような言い回しをしているのは珍しいですね…」

 

心海は1人、その劇の内容を理解し、そのうえで沈玉の特徴と相違点を感じ取っていた

 

――剣の綺麗な音色が鳴り響く。舞にも似た美しい剣劇には、影も驚かされる。その舞には隙というものがなく、長年訓練されてきたもののように見える。名の立つ冒険者でもあのようなきれいな動きは出来ない。きっと名のある武術の生まれなのだろうと思っておくことにした

剣は空を切り、音色は空を紡ぐ。数分経ってもその息は上がることがなく、未だきれいなままだ

 

雲菫『二人は何年と戦うも決着はつかず、その周りには魔物や動物はいなくなった。それは二人の仙力に怯えたためか、他の要因があるのか二人は不思議に思いました。もし仙力に怯えたであれば責を取らなくてはならない。そう思った二人の夜叉は一度決闘をやめ、魔物や動物がいなくなった原因を探すことにしました』

 

またもや場面は変化し、今度は流れるような優雅な音楽に変わる

その様子に荒瀧一斗はすこし不満(?)をもったようだ。「俺様ならここで決着をつける!引き分けなんざ許さねぇ!」と言いたげな表情だったが、以前より"大人に"なったのか、口には出さなかった。その様子を見た忍はすこしでも大人になってくれたのがすこし嬉しいような感情を抱いたそうだ

 

雲菫『…二人の心を驚かすかのような報が近くを旅していた者から聞いたそうです。なんでも千年前に倒したはずの魔神が復活し、再び璃月を窮地に陥れようとしているそうな。二人は急いでその現場に向かいました。すると、そこには噂通りかつて倒したはずの魔神が二人を待つかのように座って待っていた』

 

留雲作の仙遇剣鬼が舞台の下から現れ、観客はすごいものだなと驚く

しかし、綾華や神子、そして影はその仙遇剣鬼に見覚えがある。綾華は昔の見聞で。神子は影から聞いた話で。そして影は――自分の中にある記憶内に

物語はまだまだ途中。終わることを知らないだろう

 

雲菫『二人の夜叉は決意しました。再びこの魔神を排除しようと。今度は二人の力を合わせて――と、魔神はその決意を見て剣を抜き、千年の雪辱を果たすと空に誓い、千年を超えた長い決闘が始まった』

 

仙遇剣鬼は腰から剣を抜き、二人の役者に剣を振るう。二人はいとも容易くその攻撃をよけ、剣と剣をぶつけ合わせたり、その身に攻撃したりする

その姿は緊張というのもが少なく、心から簡単に避けているという雰囲気が出ている。実際、練習はしたのだろうが、それでも普通の人は緊張するだろう。なぜなら避けれず、自らの身の危険がある可能性があるから。神の目を持っている人であったとしても、不安になるだろう。しかし、かの者らは違う。見た感じ神の目を持っていないが、不安のない動き。それは実践経験が神の目の所有者を超えたということが言える

 

辛炎の激しく彼女らしい音楽が劇場に響き渡り、壮大な場面であることが証明される

争っていたはずの二人の夜叉は力を合わせて敵を倒す。どちらが強いなんてことはなく、ふたりとも同じ夜叉であり、それぞれ違う力を持った夜叉なのだ

 

二人の役者は同時に仙遇剣鬼に攻撃を与える。すると、仙遇剣鬼は力なく倒れ、驚異が去ったように見える

 

雲菫『―二人の夜叉が放った攻撃は魔神にあたり、魔神は散りました…………??』

 

雲菫は違和感を感じる。何者かが怒り狂うような憎悪的感情。何なのだろうかと不安になるも、劇を続けようとした瞬間…起動停止したはずの仙遇剣鬼が突如起動し、胸元から黒い霧のようなモノを撒き散らし始めた

その黒い霧のようなモノからは、雲菫が感じ取った憎悪的感情や惜別の念。それだけでなく数多の感情が入り混じっていた

ギギギ…と体が軋む音を鳴らす仙遇剣鬼。留雲もとい玲瓏は緊急停止のコードを打ち込もうとするが、黒い霧によってその道を阻まれる

バギッと口を模した外装が破壊され、その口から苦しそうな息が漏れる

 

???「あ"あ”あ”あ”…」

 

役者の二人はさっと剣を構える。しかしその手にはすこしばかりの恐怖があった

なぜなら仙遇剣鬼から発せられるその憎悪に怯えてしまうからだ。いかに戦闘経験豊富であっても、この仙遇剣鬼の気迫には負けるだろう

仙遇剣鬼はその口から――否、その心から声を上げた

 

仙遇剣鬼「死せよ…我の名は――千の手を持つ国斬鬼崩なり!!!!

 

国斬鬼崩と名乗った仙遇剣鬼は剣を握り締め、役者の二人に襲いかかった



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15話 千手、国斬鬼崩

長らく更新できなくてすみませんっ!
リアルで忙しかったのと、伐難の伝説任務と六花の伝説任務を思いついてこっちに手が回りませんでした!
気づけばUAも15,000を超えていて…お気に入りも100を超えました!本当にありがとうございます!お気に入り100人突破とかUA15,000記念とかしたほうがいいんだと思いますが…考えておきますね
自分が思う最後の展開まで走り抜けるつまりなので、それまでがんばります!
では本編へどうぞ!!!














国斬鬼崩と名乗った仙遇剣鬼は役者の命を貰うためにか襲いかかる。役者は体が強張るも、必死にその攻撃を避け攻撃を与える。しかし攻撃が効いているのかどうかは不明で、すぐに次の攻撃が来る

雲菫は予想外なことにパニックのようなものを起こしてどうすればよいか分からなくなってしまう。しかし、辛炎はその状況をすぐに飲み込み、更にロック的な音楽を演奏し始める

 

雲菫(えっと…えっと…ど、どうすれば…)

 

時は刻々と過ぎてゆく。観客は不安になる。これはアクシデントなのでは無いかと

戦闘を見ていた影は国斬鬼崩の武術に既視感を覚えた。どこかで見たことがあるような…しかし最近ではなく、過去に――と、その姿も相まってかすぐにその正体を掴むことが出来た

 

―それは他でもない雷電影の剣術と似ていたのであった

 

なぜ似ているのか。雷電影の剣術は雷電将軍も使っているが、頻繁に行使しているわけではない。それ故影に武術が似ているというのは不思議なことであった

だが、一つだけその剣術を知っている流派が"あった”。それは今はなき雷電五箇伝の一つ「千手」である

千手は一心・天目とは違い、雷鳴のような薄くも力強い刀を作り、将軍の剣術を模した剣術を使う武に長けた流派であった。しかし、数十年前の没落事件があってからはその流派は完全に途絶え、記録もなくなっている

 

影「まさか…」

 

影はすこし恐々とする

―あれの元の流派は影のもので、人には使うことは出来なかった。しかし、カラクリとなってしまえば…その技を簡単に使ってしまうかも知れない

 

 

 

 

 

 

 

暴走した様子を見ていた仙人+夜叉たちはどうしようか迷う

 

六花「まさか本当に暴走するとは…」

ピン「ほほっ!仙人の勘は伊達ではないのう」

伐難「ま、まさかほんとに暴走するなんて…あの子も困ってるみたいだし…そうだ!」

 

伐難はバッと頭を上げ、なにか思いついたように水を操り、手の上で転がす。その様子は、幼い頃の伐難とそっくりで、六花は変わってないなと懐かしむ気持ちになる

―伐難は昔から「人のために私は動くんだ〜」と言っていた。その時は笑って流したが、今も尚その決意が揺らいでないとなると、その決意は千の岩を穿つ程であろう

 

伐難「うーん…よし、出来た!」

 

伐難の手に握られるは1管の横笛。水のように透き通っており、精巧なデザインをしている

その笛はピンであっても六花であっても初めて見るもので、伐難が水元素で何かを作るということを初めて見たのだった

魈は伐難にそれをどうするつもりだと聞くと、伐難はこう答えた

 

伐難「この笛であの子に声を届けるの。波長をあわせてあげれば…普通の人にはただの笛の音にしか聞こえないけど、波長があった人には私の声が聞こえる―はず」

魈「…そんなことが可能なのか?」

伐難「理論上はね。でも今はそれにかけるしか無い」

 

そう言って伐難は笛を吹き始めた

―きれいな笛の音。低い音であっても、透き通るような人には決して出すことのできない仙人特有の音が劇場に響きわたり、辛炎のロックと混ざって心地の良い曲になる

伐難の理論通りに雲菫に聞こえている音はちゃんと伐難の声で「聞こえてますか」と頭に響きわたるかのような声であった

 

伐難《―声が聞こえていますか?》

雲菫(この声は―?)

伐難《私はええと…なんて言えばいいんでしょうか…水の精って呼んでください。私はあなたとこの劇を護るためにあなたに話しかけています》

雲菫(水の精さん。私はどうすればいいですか?)

 

不安になる雲菫に伐難は優しく答える

 

伐難《ある人が来るまで私の声に合わせて歌を歌ってください。大丈夫、あなたならこの劇を綺麗に終わらせることができますよ》

雲菫(―わかりました!ではよろしくおねがいします!)

 

雲菫は伐難の声に合わせて歌を歌い始める。事情を知らない人から見れば、笛の音と辛炎のロックに合わせて歌っているように見えるだろう

国斬鬼崩は依然、役者に向かって攻撃をしていて役者は戸惑いつつも攻撃を避けている。しかし、その身はカラクリではなく人であるため、いつかは体力が落ちてしまうだろう

 

雲菫『倒れたはずの魔神は隙を見て奇襲をかけ、二人は焦燥する。魔神は2度もやられた悔しさを大いに2人にぶつけ、今までにない土壇場の力を見せます。そして、近くにいた旅人に向かって攻撃を放つ』

 

役者の2人は空を切る国斬鬼崩の攻撃に耐えられず必死に持っていた剣を空に手放してしまう。それを見た国斬鬼崩は好機に思ったのか一気に役者との距離を詰め始め、その命を狙う

その様はまるで何度もやられた劇の中の魔神のように…猛々しいもので、ハプニングが運良く劇の中に収まったように見える

 

雲菫『危機に瀕した二人は、帝君を思い出しました。魔神が蔓延るあの時に、璃月の民を守ったあの頼もしい背――そして二人が憧憬する人はこう言いました。”魔神には魔神のやりたい事がある。それは他人が干渉することはできない。だが、人に危害を加える魔神は何があっても許されることではない。お前たちはその魔神から民を護る事が唯一の使命だ”と』

 

その瞬間、伐難は六花たちにアイコンタクトを送る―今が出番だと

そのアイコンタクトに答えるかのように六花は魈に声をかけた

 

「我らの出番だ。さぁ、いくぞ」

 

そのように言うと、魈はあまり気乗りしないような返事を返した

六花もだが、人の前に立つことはあまり好きではない。だが、今は行かなくてはならない。この状況は魈にとって最悪ではあったが、六花にはどちらの問題も解決する方法があった。だからこそこんなに積極的になっているのだ

 

六花「今行かなくてはあの者たちの命はないぞ」

魈「だが…我は――」

六花「めんどくさいな!ほら、さっさと行くぞ!」

 

六花に手を引かれる魈。その様はまるで子供のようで、若干仙人らしくはなかった

バッと手すりから大きくジャンプし、劇場の方へとジャンプする。その脚力は仙人らしく素晴らしいものであった。その飛んでいる途中、六花は魈に話しかける

―ついても安心して戦えと。魈の姿は別のモノになっている。だから身がバレる心配もないし、なんなら魈とは思えない声にもなっていると

若干の心配も感じながら、二人は国斬鬼崩と役者の間に登場し、国斬鬼崩の攻撃を受け止める

 

空には雲菫の澄んだ歌声が響き渡り、舞台には氷元素が霧を生成する。その様は仙山の一角の様であった

 

雲菫『二人の夜叉は心に刻んだ契約の力を発揮し、旅人に襲いかかる魔神の攻撃を受け、旅人を護る』

 

舞台に降り立った二人の姿を見た旅人は、二人に既視感を覚えているが、若干その人を特定することができなかった。なぜなら…二人の姿は、いつもの姿ではなく、凛々しい女性の姿であるからだ

六花はかつての主出会った女性の姿に。魈は魈をそのまんま女性化したような姿になっているからだ。六花であって六花でない。そして魈であって魈ではないその姿に違和感を感じているのだ

だが、留雲を含め仙人たちはその正体に気づいている。気づいているとさらに面白くなってくる。あの魈が女性化しているのだ

 

雲菫『帝君との契約の力は底知れず。以前の力よりも強大な力を発揮し、魔神と対等に対決します。風のような舞と氷のような鋭さの攻撃は魔神に必中し、魔神は致命傷を負い、もう再び立ち上がることはできなかった…』

 

そのセリフと共に魈と六花は国斬鬼崩の心に向かって攻撃を放ち、その動作を止める。すると、国斬鬼崩は悔やむように―または哀しむように呟き始めた

 

国斬鬼崩「国崩…我が主よ…我は再び…あなたとは会えないのか…

 

人にとっては強力な国斬鬼崩も、六花や魈の前では無力同然。新たな体に馴染むことができず、徐々に力を失っていく。それが彼のものに取って幸なことか不幸なことか―それは他人にはわからないだろう

しかしハプニングは六花や魈、伐難のおかげで何事もなく無事に終わらせることができ、劇は最高の盛り上がりを見せた

 

劇が終わって少ししたあと…留雲は雲菫含め劇をしてくれたみんなにすまぬと謝る。仙人であろうものが人に頭を下げているのを見ると、少し笑いがこみ上げてくるものもあるが、笑ってしまえば留雲に無礼だろう…

―劇が終わって各々様々な感想を述べ始める

 

ある者はあのカラクリと戦いたいと願い、またあるものは璃月の劇風に感激する

 

そしてあるものは…今回の話を書籍にできないかと相談しに行くのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魈「おい…我の女体化を早く直せ!」

伐難「似合…ってるよ…ふふっ」

 

まだ女体化している魈は六花に向かって文句を言う

ワイワイするこの感じも久しぶりだと六花は感じる。この数百年感じることのなかった感情を感じることができ、少し嬉しく思う――まぁすぐに戻すつもりはないが…

 

伐難「あはは―うっ…

 

伐難は楽しみの中に苦しみを感じる。それは体の外傷ではなく、内側から来るものであった

―みんなに心配をかけないよう、バレないようにその苦しみに対応する。その苦しみはかつても感じたことがあったが、ここまで苦しいのは初めてだ…体を中から奪われるようなその感覚…油断すれば簡単に奪われる。緊張を解かぬように深呼吸する

 

伐難「ふう…ふう…」

伐難(あなたには…私を奪わせない…)

 

苦しみが段々と消え失せ、いつもの状態に戻る

落ち着いた伐難はピンばあやから声をかけられた。「苦しければ頼っていいんだよ」と優しい言葉をかけてもらったが、伐難は自分の問題だから心配をかけるわけには行かない。と自分で解決する道を選んだ

 

 

 

―楽しい祭りももうすぐ終わる。だが、まだ時間はあるのだ



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16話 玉塵雷鳴歓迎祭・二日目 下

評価ありがとうございます!すっごく嬉しいです!
次回かその次でこの玉塵雷鳴歓迎祭編は終了して、おそらく伝説任務に移ると思います
















祭りも終盤に差し掛かり、みんなの惜しい気持ちがこみ上げてくる

荒瀧は出店をめぐり、神里は土産を選ぶ。珊瑚宮は枕玉と話をし、八重は劇の話を何とか出版できないかと話を付けている中、玉京台の一角の璃月を眺めることができるデッキで影は彼と話をする

璃月の神を降りた彼はいつもと変わらず、現神である影は少し奇妙に思う。もしその立場が影なのであれば、平常を保てるか不安になる。眞がいなくなったときも不安になってしまい眞の目指す道とは違う永遠になってしまったからこそ…彼に聞かなければならない

 

鍾離「…久しいな」

影「そう…ですね…最後にあったのは――眞と共に七神揃った時ですか?」

鍾離「そうだ」

 

少しの間静寂が訪れる

人の賑やかさ、璃月の匂い、当たり前だがこの感覚は稲妻にはないものだ

 

影「…これがあなたが護ってきた璃月という国なのですね」

鍾離「―俺だけではないさ。俺を慕う人々のおかげでもある。俺一人だけではここまで発展はすることができなかっただろう」

影「そう…ですか…。璃月の神を降りたと聞きましたが…」

鍾離「ああ。璃月はもう俺が統治しなくてもいいくらいに成長した。人は成長する―それは天理に契約された絶対不変の契約だ。契約の神(モラクス)でさえそれを変えることはできない」

 

それを聞いて影は少し自分のしたことに対し反省をする

自分勝手な行為で自分の国を危機にさらし、戦乱の時代にさせた。そして絶対不変の永遠など無いことが分からず、一心浄土で一人自我の統一をした…自分はいつまで経っても子供であったなと反省する

それを見た鍾離は影の判断は間違いではなかったと慰めるような反応をする

 

鍾離「人には人のやり方があるように、神にも神のやり方がある。それをダメだと言うのは俺の役割ではない」

影「―やはりあなたにあって良かった。神子に相談すれば馬鹿にされますし」

鍾離「相談できるのは彼女だけではないだろう?」

 

影は思わず疑問の音を出してしまう

 

鍾離「お前の元にも来たはずだ。世界を巡る旅人がな」

影「……」

鍾離「彼女なら俺たちの苦しみも悩みも、全て解決してくれるだろう。なにせ彼女は――」

影「――はい。」

 

風と共にライアーの音が二人の耳に届く

今この瞬間、彼女はどこにいるのだろうか。今も困っている誰かに手を差し伸べているのだろうか

次なる国は知恵の国"スメール"だろう。スメールと言えばあの小さな神は元気だろうかと二人は綺麗な月を見て思う。まだ神になって幼い彼女は自分を卑下していないかと

と、鍾離は人が歩いてきた気配を感じ、その正体が影の眷属であることを理解した

 

鍾離「お前の眷属が迎えに来てくれたみたいだな」

影「その様ですね。今日はありがとうございます。あなたとお話ができて私の悩みも少なくなりました」

鍾離「それは良かった。悩みがあるならいつでも来るといい。お前ならば歓迎する。お前はあいつとは違って俺の頭に酒をかけたりはしないからな」

影「ふふっ―はい。お体に気を付けてくださいね。ではまた会う日まで」

 

背を向け去っていく影に鍾離は少しの期待をしながらその姿を負う

これから稲妻はもっと良くなっていくだろう。かつての稲妻を統治していたバアル()の背を追うように…そして自らの道を行くように…

―と、近くに見知った気配を感じ、出てきてもいいぞと鍾離は声をかける

 

鍾離「別に隠れなくてもよかったんじゃないか?」

六花「いえ、帝君と雷神の仲を裂くわけにはいきませんし、我なんかが雷神の前に立つ力はありません」

鍾離「彼女と対峙できる力は魔神戦争時代からあると思うが…それに俺のことは戦いの場以外では帝君と呼ばなくていいと昔から言っているだろう。名前で呼んでくれ」

 

本来の主でないため鍾離は昔からそう言っているのだが、六花は本来の主でなくとも敬意は払わなくてはならないと思っているため、帝君と呼んでしまうのだ

だが、もう神の座を降りたこともあり、六花も呼び方を改めることにしたようだ

 

六花「鍾離様、今日ここに来たのは…」

鍾離「あぁ。わかっている。今年は行くのだろう?」

六花「…はい」

 

六花は静かに鍾離の問に返事を返す

 

鍾離「鍵はすでに開けてある。それと…お前に謝らなければならない。彼女の唯一の聖遺物を海に返してしまった」

六花「――鍾離様のことです。何かわけがおありでしょう。それに、いつまでも飾っておくわけにはいかなかったです。あれは海に還るべきでした」

鍾離「……お前が言うなら間違いないのかもな。ではな」

 

そういって鍾離は去っていく

六花は一人、玉京台で月を眺める。すると、そこに白朮と七七がやってきて、一緒に花火を見ようと提案してきた。六花は七七を抱え上げ、自分の肩に乗せる

そして月を見上げれば、あの夜とは違う人の世にふさわしい綺麗な月であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

万民堂

 

胡桃「これをこうして~できた!!!」

 

万民堂のキッチンで往生堂の堂主は突如頭に思いついた料理を作っていた

出来上がったのは清心のスイートフラワーの蜜和え。どっちも綺麗な花で、スイートフラワーはとても甘いからなんにでもあう!…といった感情論(?)で料理をした結果。"見た目は"とてもおいしそうな料理が出来上がった

艶々しく月光を反射するかのような綺麗な清心…差し出された重雲と香菱は少し戸惑いつつその清心を口に運ぶ

 

重雲「まず…く…ない?」

 

口に入れた瞬間、芳醇な蜜の香りが口いっぱいに広がり、そこはまるでスイートフラワーの花畑のようであると言える。その中で柔らかい蜜の布団に入ってすやすやと睡眠するかのよう…

―そう想像した瞬間、その眠りを妨げる悪意あり苦みが口の中を攻撃し始める。例えるなら、地脈で出てくるフライムのようだ

 

2人は悶え苦しむ。かの香菱であっても清心のスイートフラワーの蜜和えは行けなかったようだ。そもそも清心はとても苦く、一工夫しなくては食べられないほど。それを工夫せずにスイートフラワーの蜜と合わせたものだから蜜の甘さに比例して苦みも増したことにより、もとの清心を食べたほうが楽であるほどの謎料理ができあがったのだ

 

胡桃「あれ―失敗しちゃった?」

重雲「うっ…もしかして妖魔なんじゃないか…?」

「済まない、それを貰えるか?」

 

悶え苦しむ二人後ろからその清心を貰いたいと前に出る申鶴。その様は迷いや惑いなどは一切なく、ただそれが欲しいと思っているようであった

胡桃から清心のスイートフラワーの密和えを貰い受け、申鶴は1口頬張る。むしゃむしゃと食べ進める申鶴。その顔は変わらず、これが普通であるとでも言うかのようであった

 

申鶴「ごくん…なかなか美味であった。スイートフラワーの密を清心にかけるとは想像したことが無い、それゆえ新鮮な感覚であったな」

重雲「もしかして…苦くないの?」

 

申鶴は当然だと言わんばかりの笑顔を見せる

仙人の弟子である彼女にはこれほどの清心は苦ではないのだろう。もしくは清心の食べすぎで味覚が壊れたか。恐らく後者はない。なぜなら、旅人が作った料理や、屋台の料理を美味しそうに食べていたから。味覚が壊れているのならば、あんなに美味しそうに食べはしない

 

胡桃「これはー往生堂の看板として商品化できるかも!!??」

???(何屋を目指す気だ!葬儀屋関係ないじゃないか!)

 

あの小さなガイドの声が聞こえるようなそんな雰囲気を4人は楽しんでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煙緋法律事務所

 

祭りだと言うのに民事の訴訟は起こる。否、祭りだからこそ怒るのだ。人々が祭りという非日常な体験を通じ、いつものリミッターを外してしまう。だからこそいがみ合いが起こる。それの結末はどうなるか。その結末はふたつに別れることになる。ひとつは千岩軍によって鎮圧されること。もうひとつは法律の専門家に任せること

どちらにせよ、煙緋には関係あることだ

 

煙緋「なぜこんな日まで書類の整理をしなくてはならないんだ…はぁ…やはり民事は嫌いだ」

 

珍しくため息をつく煙緋。その時心から煙緋は思った。助手が欲しいと。助手がいれば仕事の効率も上がるし、何しろ自分で解決しにくい課題を一緒に解決することができる

どうしたものかと悩んでいる煙緋の部屋の扉が何者かによってトントンと叩かれる。また民事の相談では無いか、面倒事では無いかと少し嫌な予感を感じつつもその扉を開けた

 

忍「お久しぶりです煙緋先輩。お元気でしたか?」

煙緋「あ、忍じゃないか。久しぶりだな。私は元気だったとも。忍は元気だったか?」

 

忍は昔と変わらない煙緋を見てほっとする。だがしかしその表情は少し重く、若干疲れているようにも見えた。よく部屋を見ればその机には山盛りとも言いかえる事のできるほどの膨大な書類の山があった

―煙緋先輩は祭りの最中でも仕事をしなくてはならなくて、しかも当分終わりそうのない量だ。忍は手に持った屋台の食べ物を煙緋に渡す。忙しく行くことのできなかった煙緋は嬉しくなり、忍の手を優しく包む

 

煙緋「一緒に食べたいが…まだ仕事が終わらなくてね…」

忍「なら、一緒に終わらせましょう。二人でやれば早く終わります」

煙緋「――ありがとう。それじゃあ早速やろうか。ええと…」

 

二人はテキパキと机の上に置かれたタスクをこなして行く

その様はまるで長年一緒にいた相棒同然の動きであった。忍はこの状況を嬉しく思っている。なぜなら憧れの煙緋先輩と一緒に仕事できているから。法律の業界は色々と制約があって向いていないとは思うものの、煙緋先輩と会話することや、煙緋先輩と一緒に仕事することは楽しい

それは煙緋であっても同じころだろう。稲妻が鎖国する前、忍は煙緋から法律を学んでいた。それもかなり優秀かつ礼儀正しい。彼女なら立派な法律家になるだろうと思っていた。そんな彼女とともに作業ができるのだ

なんだか懐かしいような感情になった二人は、早くも書類を処理し、一緒に忍が買ってきた祭りの屋台商品を食べたのあった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

群玉閣

 

璃月の上空を飛ぶ群玉閣。そこでは璃月七星と夜蘭はそこで祭りの景色を楽しむ

予想通り祭りは大成功。稲妻の観光客も来て、これを機に稲妻との商売の契約が結ばれ、両国とも経済が回ることになるだろう

依然として謎は残っている。どうして青虚浦からあれ程の魔物が来たのか不明であり、原因すら掴めていない。あのあとすぐに派遣隊を青虚浦に送ったが発見できたのは崩壊した地下遺跡と見られる入り口だけ。その先はなんにもわかっていない。それは情報を得ることが得意な夜蘭でさえわからないのだからお手上げだ

 

凝光(でもまぁ…仙人様が助けてくれて良かったわ。この祭りを楽しんでくれているといいのだけど…)

 

仙人の趣向は俗世とは違う。だからこそ心配になるものだ

安堵している凝光に夜蘭は駆け寄って話をする

 

夜蘭「魔物の件の尾は掴めたわ。ああなった原因はファデュイだったみたい」

凝光「…彼ら何を企んでいたの?」

夜蘭「封鎖されている層岩巨淵に入りたくて青虚浦の魔神を開封させて、その騒ぎ中に入るつもりだったみたい。あいにくその計画は破綻したけどね」

 

層岩巨淵と聞いて凝光はすこしため息をつく。あそこは危険だから封鎖していたが、近頃は安定してきている。そろそろ開放してもいい時期なのかもしれないが、ファデュイの動向はどうなっているか…と余計な詮索が入ってしまう

この件は確実にファデュイが悪いのだが、おそらくファデュイはシラを切るつもりだろう。部下が勝手にやったことだ。わたしたちは関係ない―と簡単に切り捨てるのが彼らのやり方。まぁその後はどうなるのかはわからないが…

 

夜蘭「なんにせよ…層岩巨淵を開放したほうが安全かもしれないわ。崩落箇所も確認済みだし、危険性は前よりは落ちているはずよ」

凝光「あなたがそう言うなら間違い無いのでしょうけど…」

 

そんな会話中、一輪の大きな火の花が空に咲き誇る

それは璃月百合のように綺麗で美しく、悩みなどなくなるようであった

長野原(稲妻)の花火はまた一味違うと凝光含め璃月七星は思ったそうな

 

長時間、璃月を彩った祭りは終わりを迎え、人々は寂しさを感じつつも今日という日を心に刻んだ




やはり鍾離先生はたよりになるなぁ…持ってないけど


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17話 後始末

これにて玉塵雷鳴歓迎祭は終了します。この話なんですが、おまけ程度の付け足しなので、見ても見なくてもあまり変わりません。ただ、見た方が理解に繋がると思います(いや見てくれ!特に意味は無いが見てくれ!)










大反響だった玉塵雷鳴歓迎祭は終了し、留雲は自分の仙府にて仙偶剣鬼の調査を始める

あのような暴走は仕組んではいなかったし、暴走するとすら思っていなかった。暴走させる意味も無いし、暴走する事を考えていれば緊急停止の装置を作っているだろう

―どうして暴走したのか。原因はなにか。劇がクライマックスになる時、仙遇剣鬼は倒されたその時に覚醒したように見えた。つまりはその"行為”がトリガーになっているのだと仮定する

なにがその行為に反応しているか。留雲自体はそんなことを作った覚えもないし、作ろうとも思わない

 

ならば留雲が作ったものではない別の機構…それが原因だ。つまりは――

 

留雲「…旅人が持ってきてくれた魔偶の芯か…やはりこれが…」

 

作る前から留雲は危険は感じていたが、まさかこれほどとは思っていなかった。魔神に匹敵するのも、旅人が魔神の亡骸の近くで採取したからだと思っていた…だが、これに隠された力は本物の魔神に匹敵するだろう

留雲はどうしようかと考える。これを廃棄するのは些か勿体ない気もする。こんな面白い機構を危険だからという理由だけで捨てるのは…

―少し気になった留雲はその機構に記録された記憶を垣間見る。するとそこには――壮絶な稲妻の事情が記録されていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――時は今から数十年前。稲妻には5つの有名な刀鍛冶がいた

 

刀と心を一体化させる「一心」

 

忍耐力と意思が強い「天目」

 

経を唱えるが如し刀にも力を与えつ「経律」

 

百人の力を合わせる「百目」

 

そして稲妻の神のような武術を備える「千手」

 

その刀鍛冶は互いに競い合い、互いに成長していった。その刀鍛冶は神にも認められ、雷電将軍に献上することのできるほど稲妻中で力を持つようになった

その5つの流派をまとめて―「雷電五箇伝」人々はそう呼んだ

 

しかし千手の流派の人々はこれからのことについてすこし悩んでいた。自らの流派の目標である雷電将軍の剣術を完全に使うことができないからだ。なぜなら初代宗主から続く秘伝の書を紛失してしまったのと、現宗主が病でとこにふしたから。初代宗主は秘伝の書を使うことにより剣術を使うことのできたそうだが、今の弟子は使うことができない

だからこそ不安に思っているのだ。自分の代で流派が途切れてしまうのではないかという不安…それは雷電将軍が大切にしてきているものを自分が壊してしまう―そういうことだ

 

千手の弟子たちは考えた。このまま鍛錬を積むかそれとも別の方法を探すか…

先代の宗主たちは自分の力でその流派を支えてきたが、今この状況の弟子たちは困惑する

そこに一人の流浪人が「一晩泊まらせてはくれまいか」と訪ねて来たのだ。断る理由もなかった弟子たちは快く引き受け、その流浪人は聞けば正直なことを話すことはできないが訳合ってこうなっていると言った。その後会話が続き、よくよく聞いてみるとかなりの博識であることがわかる

そこで、弟子たちは自分たちの悩みを聞いてみた

 

「どうすればこの流派を守れるか。稲妻の神の武術をどうやって習得すればよいか」と。すると流浪人は「ではカラクリ剣士を作り、それに技を覚えさせればいい」そのように言った

 

その手があったかと関心した弟子たちは流浪人に感謝をして、その晩を終えた

 

次の日からそのカラクリ剣士を作ることは始まった。稲妻城城下町で一番有名なカラクリを作る職人にそれを依頼し、自らの修行をおろそかにし始めた

そして―春が来て――雪が降り――春が来て――雪が降って早二年ほど。ついにカラクリは完成した。これを起動するのは明日にしようと誰かがそういった。楽しみは取っておいたほうがいいのだろうと思った弟子たちもその晩は寝ることにした

―その晩のことであった。カラクリ作れとを教えた流浪人がやってきて、まだ”心のない”カラクリ剣士に心を与えたのだ。心がないのは辛いことだと知っているかのように、そのカラクリに心を与え、明日早くに弟子たちを奇襲した

 

―そうはじめからこれが狙いだったのだ。雷電五箇伝を滅亡させるという目標でこの流浪人は動いていた。現宗主が床にふせ、秘伝の書もなくした千手は他の流派よりも容易く壊せる…それが目標であった

 

「お前は何者か」

 

弟子の一人がそう叫ぶと、流浪人は言った

 

「我はこの国を壊す者。国崩なり」

 

その言葉を聞いたかどうかはわからないがその日、千手はこの世界から完全に消え去ったのだ

 

目覚めたカラクリ剣士は各地を彷徨った。我を作ってくれた国崩はどこかと。しかしそのときにはもう国崩は遠くの国に行っていて、カラクリ剣士は会うことができなかった

彷徨ったがためにカラクリ剣士は恐れられ、人々はカラクリ剣士に立ち向かうために武術を会得した人々が立ち向かった。しかし、千手の真髄「雷電将軍の武術」を会得したカラクリ剣士に勝てるわけも無く、人々は敗北の数を増やしていったのだ

 

だがある時、そのカラクリ剣士に立ち向かわんとする勇敢な少年が現れた。その名は無名であり、誰にも知られることのない名前であった

その少年はいとも簡単にカラクリ剣士の攻撃を避け、その心に傷を与えた

傷を負ったカラクリ剣士はもう戦う気力や、国崩にあうという目標を忘れ、ひたすらに剣を振ったのだという

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

留雲「なるほど…その悔しさがトリガーになったのか…お前も悲しい過去を背負っているのだな」

 

事情を知った留雲は仙力を使い、魔偶の芯を封印する。そしてその心だけを抽出し、綺麗に成仏させた

―妾にできることはこれぐらいしかない。と珍しく慈しむ感情を出して留雲はカラクリを再構成し始めた

留雲が目指すは六花との対決で勝利すること。六花に勝つことが重要なのである

どれだけ時間が経っても、どれほどの年月が経ってもそれだけは達成しなくてはならない自分に課した契約。あいにく時間はたくさんとある。二人には余るほどの時間がこれからも待っているのだ

今日もきょうとて六花に勝つためのカラクリを作成しているのだろう…

 



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伐難伝説任務 油水離反。覆水盆に返らず
0話 序幕


伐難伝説任務 油水離反。覆水盆に返らず start〜





……月夜。それは起こった

一迅の風が奥蔵山に吹き荒れ、仙鳥は高く空を飛ぶ。しかしその様子はいつもの仙鳥とは違う。優雅。孤高。高嶺。どの言葉をとっても当てはまるであろうその姿は、今宵は違った

 

それは何かから逃げるように。あるいは、何か戸惑っているかのように――その月夜に羽を広げた

 

 

……氷島。それは来た

妖魔を退治せしふたつの影。何変わらぬ日常。妖魔退治を生業とするものにとっては日常である。だか、それを阻むは黒き影

影は妖魔の仲間か。もしくは、新たな敵か。少なくとも彼らはその影が、自分たちの仲間とは思えなかった

 

 

……水面。それは見せた

総務司に属するひとつの水。彼女に知らぬ情報などない。宝盗団の行方、ファデュイの動向、ありとあらゆる情報が彼女元に入ってくる。しかし彼女は知りもしなかった。その情報すら必要にならない刺客が来る日が来るとは

 

 

 

……岩盤。それは悩ませた

璃月七星の天権。彼女は璃月の法を担当するものである。どんな事件が起きようと、全ては法という契約で終息される。しかし、その事件にはその法が通じそうにない。何千、何万とある璃月の法典も無意味と化した。彼女はどうすれば良いか天を仰ぐほど悩むであろう

 

 

 

……荒海。それは現れた

波狂う船の上。天は怒りを落とし、風は鋭い刃を飛ばす。その中、勇敢な船長は船を進める。舟がもつ物資を望む人たちの元に

しかし、それは突然現れた。雷鳴鳴り響く瞬間、船に落雷が落ち、そこから人が現れた

その人は、ニヤリと笑ったかと思えば、ひと時で船員を倒し、その船長に問うた

 

『月夜に潜む。それはなにか』

 

船長は知らないと答えると、その人は船長を海に投げ飛ばし、船長は深き水に沈んで行った

 

 

 

 

……月下。それは始まった

碧水の原にある孤島の上。降魔大聖はひとり瞑想をする。我は何者か、我はなんのために存在するかを確かめるためだ。その身に蝕む業瘴に体を乗っ取られないために。自分は自分自身なのだと感じるために降魔大聖は瞑想をする

その途中、それは突然始まった。人が見るは緑の閃光と朱い閃光。月夜の空にはそれしか映らなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――暗い世界で1人。少女は目を覚ます

そして考える。ここはどこか。私は誰なのかと。すると、心の中で誰かが囁く。『貴方は私。私は貴方。だから何も考えなくていい。これからは…私が貴方が嫌なことをすべてやってあげる』

 

それは危険な話だと少女は体を起こし、辺りを散策する。しかし、体は鎖に繋がれたように重く、動かすことなど出来ない

少女の意識は風に吹かれた灯火のように消えかけ、何も感じなくなりそうになったその時、彼女の手に誰かが触れた

 

 

そう。これは彼女の物語であり、悲しき宿命を背負った少女の物語でもある




伐難の伝説任務始まりました!
あ、六花と瀞のキャラ紹介更新入りましたので見てくれると嬉しいです!


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1話 辛いものと炎と彼女

旅人side

蛍はいつも通りデイリー任務を終え、冒険者協会へと足を進める。受付のキャサリンとは、いつもと変わらない挨拶をして報酬をもらう

ー今日は討伐系統の依頼が多かったからか、普段よりもモラが多い。パイモンは「頑張ったご褒美に何か食べに行こうぜ!」と食事を誘ってくるも、蛍は内心(自分が食べたいだけでは…?)と思ってしまった

 

2人は万民堂へと足を運ばせ、香菱に料理の注文をする

 

香菱「ー少し待っててね!!」

パイモン「おう!…ひひっ。ここにいると、なんだか瀞を思い出すな!」

蛍「そうだね。ここが初めて瀞とご飯を食べた場所だし、それにあのインパクトは忘れられないよ」

 

特性激辛肉。今では当たり前のように並んでいる激辛シリーズは全て伐難が試食、アドバイスをして成り立っているものだという…

伐難は辛いものに耐性があるらしく、絶雲の唐辛子もパクパク行けるのだとか?でも本人は好んで食べるということはしていないそうだ。なぜなら、辛さ云々より変な味がするらしく、それが苦手なのだそうだ

 

そんなことを思っていると、香菱が料理を運んできた

 

香菱「おまたせ!新商品、炙り魚のピリ辛仕立てだよ!」

パイモン「お〜!待ってたぜ!うーん!いい匂いだな」

蛍「これも瀞との共同料理なの?」

香菱「そうだよ。でも、これは瀞さん向け…というか、一般の璃月人向けの味付けだけどね」

 

パイモンは1口炙り魚を頬張る。その途端、パイモンはほっぺが落ちるかのような可愛らしい表情を見せた。その表情からして本当に辛さは抑えられているのだろうと蛍は確信し、パクっと炙り魚を頬張れば、口のかなで魚が踊り出すかのような濃厚な魚の風味と、その魚を支えるかのようにピリ辛なタレが絡み合っていてとても美味しい

 

蛍「ピリ辛って言うけど、そこまで辛くないんだね」

香菱「もっと辛さを足したい時は言ってね?追加の辛味ソースをかけてあげるから」

蛍「ありがとう。でも私はこれくらいがちょうどいいかな」

 

蛍は再び魚を1口食べる

しばらくして食事を終えると、そこに煙緋が何か困った様子で現れた。その姿は誰かを探しているかのようで、挙動不審―まではいかないが、怪しいような動きをしている。煙緋がそのような挙動なのは非常に珍しく、ホタルであっても新鮮であった

煙緋は探している挙動の中、蛍を見つけこっちに駆け寄ってくる

 

煙緋「旅人ちょうどよかった!今人を探していて…」

蛍「お、落ち着いて…ほら水」

煙緋「ありがとう――ふぅ」

 

水を飲んだ煙緋は一息つき、蛍に伝える

 

煙緋「ここに瀞さんは来なかったか?」

蛍「私が来るときにはいなかったよ。香菱は見てない?」

香菱「ここ最近は見てないかな…何かあったのかなって心配してはいるけど…」

煙緋「そうか…彼女に伝えなくちゃならないことがあったんだが…ここにも来ていないのか」

 

―ここにも。と煙緋はそういった。そのことからしてかなりの場所を駆け巡ったと予想できるが、それほど重要なことなのだろうかと蛍は少し考える

すると煙緋は蛍に一緒に来てくれないかと頼むと、蛍は急ぐ必要のある用事はないからいいよと回答する

 

煙緋「それじゃあ一緒にいこう。もう璃月港で瀞さんが行きそうなところは行ったんだが…なんにも進展がなくてな…」

パイモン「じゃあ璃月港にはもういないってことかな?うーん…瀞が行きそうなところ…無妄の丘とか奥蔵山か?」

蛍「申鶴とか甘雨にも聞いてみたいね」

煙緋「甘雨先輩か…甘雨先輩なら知っていると思うが、忙しいだろうし…申鶴さんは私とはあまり関わりはないしなぁ…」

蛍「ピンばあやには聞いたの?」

 

そういえばピンばあやも仙人だったと気付き、仙人ならば伐難と関わりはあるだろうと思いついた蛍は煙緋に聞く。すると煙緋は「ばあやには聞いていないな…」と言ったため、蛍一行はピンばあやの元へと向かった

その途中に数日間瀞を見ていないことについて蛍は考える。なにか重大なことが起こったのか、もしくは魈のように妖魔と戦っているか。だが、六花曰く伐難は魈とは違い、耐久性に優れているのだとか。もし伐難が妖魔と戦っているのであれば時間がかかる。そのためここにこれていないのかと予想する

だがあくまで予想だ。ほんとうの理由はわからない。最悪の場合でなければいいが…と蛍は心から思う

 

 

 

 

玉京台

玉京台に到着し、蛍たちはピンばあやを尋ねる。するとピンばあやはまるで待っていたかのようにお茶を差し出し、話をしようじゃないかとゆっくりと話しかけてきた

それはまるでこれから話すことがわかっているように――

 

ピン「よく来たね子どもたち。今日聞きたいのは瀞についてだね?」

パイモン「なんで分かるんだ…」

ピン「ほほっほ!実をいうと瀞から託されたものがあるんじゃよ」

 

そう言うとピンばあやは壺から一枚の手紙を出し、それを蛍に渡す

蛍はそれを広げてその内容を見る

 

―旅人さんへ。お元気でしょうか?この間の祭りは大盛況で楽しかったですね。私や六花、魈も陰ながら楽しんでいました。さて、私は少しの間、留雲のところに行ってきます。理由は教えることが難しいのですが、心配しなくても大丈夫です。私がいきなりいなくなり困っている人が現れていると思います。なので旅人さん、私は長い休暇を取っているとお伝え下さい。すぐには戻れませんが、必ず戻りますのでご安心を

それではまた会える日まで…

 

煙緋「休暇を取っているのか。それでは頼むことができないな」

パイモン「そうだな。どんな依頼なのかはわからないけど、オイラたちにできることならなんでもするぞ!な!旅人!」

蛍「………」

 

蛍はその手紙を呼んで違和感を感じる

この手紙の感じからして、伐難はみんなに迷惑をかけたくないような…そんな感じがしている。迷惑をかけないようにみんなと距離を開ける…苦しんでいる人がよくやりがちな行動だ。もし伐難が苦しんでいるのならば、助けてあげたいと思う

だが、集中しすぎているせいか、蛍はパイモンから呼ばれていることに気づく事が遅れ、なんの話だっけ?と聞き返した

 

パイモン「大丈夫か?なんだかボーってしてるけど…」

蛍「大丈夫だよ。で、なんの話?」

パイモン「オイラたちで瀞に依頼された事をやるんだ!いいだろ?」

蛍「やること無いしいいよ。それで…どんなことをすればいいの?」

 

煙緋は依頼を蛍に話す

それは蛍にとって簡単なことばかりであった

 

煙緋「旅人がいてくれて良かった。それじゃあまた」

 

そう行って煙緋は帰ってゆく

早速取り掛かろうかと思ったその時、ピンばあやは六花に声をかけた

 

ピン「旅人、少しよいか?」

蛍「…伐難の事だよね?」

ピン「ほほっほ。察しが良くて助かるのう。実を言うとな、伐難は業瘴を患っているんじゃよ。それも魈や六花とは比較にならないくらいの巨大な業瘴をな」

 

ピンばあやの話を簡単に話すと、夜叉は本来から業瘴を患うものだが、定期的に発散しなくては体の中から蝕まれてゆく。伐難は業瘴を定期的に発散していたのだが、それよりも業瘴の増加スピードが早く、どうしたらいいかわからない状況になっていた。だから今回、俗世を離れ、留雲や他の仙人と合同でどうにかできないかという話になったのだった

そして業瘴を払うには本人の心の状況も大事であり、

 

ピン「だから伐難の見舞いに行ってはくれまいか?そうすれば伐難も少しは心が休まるかもしれないからのう」

パイモン「でも…瀞は心配かけたくないんじゃないのか?」

ピン「伐難は人を思う子じゃ。人には迷惑をかけたくないのじゃろうが、その本心は寂しがっているのかもしれないのぅ。だから会いに行っておくれ」

蛍「うん。わかった」

 

そういって蛍は伐難に会いに奥蔵山に向かう

どれほど苦しんでいるのかは蛍には想像ができない。もしかしたら動けないほど苦しんでいるのかもしれない。それだけでなく、寂しさという苦しみも背負っている可能性もある

蛍はその苦しさを少しでも和らげたいと思った

 

 

だが、蛍は知らなかった

その夜、あの優雅な仙鳥が自身よりも強い力を持ったものに恐れ慄き、自らの仙府をあとにする事件が起こることなど、知るよしもなかったのだ




伝説任務は長くしたいな〜って言う自分の思いがあります
とりあえずニィロウが欲しい(謎)


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2話 もうひとりのわたし

―夜叉。それは自らの主の命に従い、その契約の通りに自身を働かせる者たちのことである

ある人はこの世の魔を滅するため、その身が業瘴に蝕まれても戦い続ける

またある人は自らの主を護るため、自らの主が愛した人々を護るために戦い続ける

 

だがそれは契約をした者が自らの自我を保っているからであり、その約束を忘れていないからである

 

もし、その契約したものが自我を失い、その契約を忘れることになってしまえば…その後はどうなるかはその者にも誰にもわからないのだ

例えばかの仙衆夜叉のように―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――瀞side――

 

目が覚めると、瀞は真っ黒な空間にいた

それは冷たくも暖かくもなく、なんとも言えない空間であった。例えるならば精神の世界…とでも言ったらいいのだろうか。特別明るいというわけではないが、真っ暗というわけではない。自分の体は見えるし、辺りを見渡すこともできる。だが、見渡しても真っ暗なものは真っ暗なままだ

―どうしてここにいるのか瀞は考える。たしかここに来る前は留雲のところにいて業瘴の手当をしていたはずだった。そして、夜になり身を休めようとしていたはずだった

 

ここはなんなのだろうか。もし、瀞の夢の中なのであればなぜこのような夢を見ているのだろうか

 

『――久しぶりね。瀞』

 

瀞の声によく似た鋭い女性の声が空間に響き渡る

瀞はその声に聞き覚えがあるも、あり得るはずのない声だと思った

 

『―ありえない?それは何故?』

 

瀞の心を読むかのように彼女は声を響かせる

その様はまるで螭龍に対抗する岩王帝君かのようであり、瀞の心をすべて透かしているのかもしれない

彼女はまたも声を続ける

 

『―もうすでに失くなったモノだと思ってた?もう自分とは離れたものだと思ってた?残念。私はあなたが居続ける限り生存する。あなたの業瘴が私を生き続けてくれるの』

 

彼女は鋭い声でふふっと笑う

その笑い方に瀞は懐かしさを覚えつつも、彼女はかつてともにした彼女ではない事がその言葉の中に入っていた

彼女の名前は――濫。魔神戦争時代に出会ったもうひとりの瀞である

彼女もまた岩王帝君と契約を結んだ夜叉の一人であり、隠れた仙衆夜叉の一人であった

瀞が危機に瀕した時、彼女は現れて瀞が安全に療養できる環境を作っていた

だが彼女は力を行使し続けた結果、自らが使う業瘴に耐えきれず、瀞の中で消失した…はずだった

 

濫『―不安?私が行きてて不安なの?』

瀞(そういうわけじゃ…)

濫『―まぁいいわ。あなたは今苦しんでいる。私に課せられた契約は《瀞を護る》こと。なら私の出番じゃない?』

瀞(だめ…今のあなたじゃ私を護ることは出来ない!)

 

そう瀞がいうと、またも濫は笑う

 

濫『あなた今自分の状況に気づいて無いでしょう?』

瀞(…私の状況?)

濫『―今貴方は業瘴に侵されてる。業瘴は私の力の源…大丈夫、あなたが復活するまで私がアナタの変わりになってあげる。私ならあなたができないこともできるわ。あなたが嫌な事、あなたが拒否することも"全て"やってあげるわ』

 

それを聞いた瀞は少し恐怖を覚える

彼女は純粋で、言われたことを素直にやる。それはなんの比喩もない言葉通りの意味である。なぜなら今まで帝君の命をなんの異論も抱かずに行動し続けてきている。それほど彼女は命じられたことに純粋なのだ

逆に捉えれば、それは純粋すぎると言い換えられ、瀞が嫌な事、拒否すること全てをやるということは、つまり瀞が心から守りたい人々が傷つく可能性もないとは言えない

 

瀞(まって!濫…!)

 

言葉は虚無の空間に消え、濫にはその言葉は届かなかった

このままでは璃月どころか岩王帝君にも迷惑をかけてしまう。瀞はそれはダメだと思い、体を動かそうとするも、鎖で繋がったかのように体は動かず、体は不動であった

―叫ぼうにも叫ぶ程の力はなく、ただ息が盛れるのみ

 

瀞(…どうしよう…助けて…六花…旅人…)

 

―その時、伐難の頭上に光が灯る

それは心が休まるように温かく、体にまとわりついた重いものが無くなっていく感覚を覚える。そしてその光は、髪の長い女性の姿に変わり伐難に優しく触れる

触れられた伐難は重いモノから完全に解き放たれ、体が楽に動くようになった

 

瀞(あなたは………)

『――すべての母として、私はあなたを助けます。そしてあの子を助けてあげなさい』

 

瀞は光の女性が手をかざすのと同時に水で構成された仙獣の姿になった

変身した瀞はそのままその空間からは消え、残ったのはその光の女性のみ。その女性はその空間で一人言葉を発する

 

『――瀞は気づいていませんが…この空間は彼女の中にもとからあったものでは無いですね…もとからあったのかもしれませんが、もしかしたらあの子が…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

濫は痛む瀞の体を動かし寝ている状態からムクリと体を起こし、手を開閉させて意識と体を馴染ませる。体は昔と変わらず自由に動くが、言語機能が些か機能していない。声は出せるのだがあまり凝った言い方は出来ず、簡単な単語しか話せない

―長い時から目覚めた後であるため、その弊害なのだろうか。じきに治るだろうと濫はその弊害を放置しておく

 

少し歩いて見ようと体を立たせた濫は異様な感覚を取る。それはまるで殺気を持った何者かに包囲されているかのようで、気分が悪くなった

これも長年の弊害かもしれないと思ったため一歩踏み出すと、濫の足元めがけて仙力を持った矢が飛んでくる

その行為から、弊害などのものでなく完全にこの身を滅しようとしている者の攻撃であると判断した

 

濫(久々の戦闘だから――私を楽しませなさい!)

 

濫は体の中にある業瘴を纏わせるかの如く開放し、飛んでくる攻撃を業瘴の炎で燃やし尽くした

そして攻撃してくるモノを本能的に壊すべく、昔のように――契約に従い、瀞が――なるようにその手に赤く大きな鉤爪を形成し、ニヤリと口角をあげた

 




UA20,000人+お気に入り100人突破を記念して記念作品を作りたいと思います!アンケートの期間は伐難の伝説任務終了までとし、他にしてほしい事などあればこの話の感想などに書いていただけると嬉しいです!
伐難の伝説任務はまだまだ続くよ?


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3話 荒れた仙府と瀞

誤字報告誠にありがとうございます!
未だに誤字をする癖をなおしたい…












―甘雨side――

 

いつもと変わらないような絶雲の間。雲は高く空を泳ぎ、水は静かに地面を這う。風は尖った山々をするりと通り抜け、仙人は霧を飲む

 

だが、すこし注目すればそこはいつもとは違かった

 

奥蔵山に赴けば水が荒れており、木々はまるで何者かに怯えるかのように細々としていた。甘雨は一人その惨状をみて何があったのだろうかと深々と考える。嵐がきたという話もないし、魔物が出たという話もない。ならばこの惨状は留雲真君によるものか。もしかしたらなにかあったのかもしれない

口は滑るが、幼いころから自分の面倒を見てくれた留雲真君にもしものことがあれば、甘雨はどうしていいか分からなくなるだろう

 

甘雨「留雲―真君…!」

 

甘雨は急いで留雲を探し始める

山の頂上に登り、水に隠された情報はないかと調べ、木々になにか無いかと調べれば、仙府を見る。するといつもは固く閉ざされているはずの仙府の扉が少し空いていて、中の景色が隙間から漏れている

―これは留雲真君になにかあったのかもしれない。そう思った甘雨は急いで仙府の中に入り調査を始める

仙府はいつも以上に荒れており、今まで作っていたカラクリがそこら中に寝転んでいる。そのなかの一つを調べれば、なにかと争ったように壊れていた

 

甘雨「一体なにがあったのでしょうか――あ、あれは!」

 

何かを見つけた甘雨は急いでその見つけたモノに駆け寄る

よくよく見てみればそれは人の姿になった留雲であり、その身には数多の傷がついていた

 

甘雨「留雲真君!大丈夫ですか?!」

留雲「う…甘雨か…?」

甘雨「はい!私です!一体なにがあったんですか?」

留雲「良かった―ごほっ…妾としたことが…失敗したな…」

 

留雲は傷ついた体をなんとかして動かし、自分の身に起こった事を話してくれる

こうなったのは自分のカラクリのせいではなく、とある者のせいであったと

 

留雲「まさかあれほど力をためておったとは…妾のカラクリでさえ保つことが出来なかった…」

甘雨「留雲真君、一体誰が…」

留雲「話すのはまだだ…もうじき旅人が来る。彼女が予測することはだいたい当たるからな―っ…」

 

痛む傷を押さえ、手を貸してくれと甘雨に頼む留雲。さすがの留雲でさえそのなにものかの力に敵わなかった。留雲のカラクリは非常に強力で、並の人では簡単に返り討ちになる。その理由は六花に勝つため日々精進しているからだ。仙人のためのカラクリの本気の一撃を一般人が受けてしまえば、一発でその生命をなくなってしまうほど

警戒用のカラクリでさえ一般人には厳しい

 

留雲「清心をとって来てくれぬか…?三束ほどでよい」

甘雨「ですが…留雲真君を一人にするわけには行きません!」

留雲「よい…はやく取ってくるのだ…」

「おい!大丈夫か!!??」

 

その時、小さなテイワットガイドの声が仙府中に響き渡った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―旅人side――

ほんの少し前

 

煙緋からの依頼を終わらせすぐさま伐難の元へと向かう蛍。早く行って自分にできることをしたいと願う蛍だったが、その行方を阻むように魔物の群れが蛍の目の前を通る

蛍が剣を握るも魔物たちは蛍がいることすら気づかないかのように目の前を通り過ぎていく

 

パイモン「おかしいな…なんでヒルチャールたちはオイラたちに気づかないんだ?」

 

パイモンが奇妙に思ったその時、その魔物の群れを黒い炎というのが例えるのが丁度いい謎の攻撃が一掃した

元素の力ではないその炎は蛍たちの目を引き、若干恐怖を覚える。ヒルチャールはその炎から逃げていたのかと考え、その炎が飛んできた方向を見ると、またもや炎が飛んできていた

―危機に感じた蛍は一発一発避け、その炎から距離を取る。すると炎は蛍を追尾するかのようにその起動をするりと変更し、しつこく執着してきた

 

蛍「しつこいっ―!」

 

蛍は追尾してくる炎に向かって岩を飛ばす。すると岩はまるで霧の中に消えるかのように炎に消えさり、炎は更に勢いをまして迫ってきていた

―もうダメだと思った蛍はパイモンを抱き寄せ、防御の体制を取る…も、その衝撃はなにかによって蛍の身には届かなかった

恐る恐る目を開ける蛍。そこには狐のような形をした水が浮いていたのだった

 

蛍「な、なにが起こったの…?もしかして助けてくれた…?」

パイモン「むーむーむむむー!」

蛍「ご、ごめんパイモン」

 

蛍は自分の胸からパイモンを開放すると、パイモンは「苦しかったぞ!」と蛍に提言する。ごめんとパイモンをなだめる蛍にその水の狐はよってきて、言葉を発した

 

水狐「――旅人さん」

蛍「パイモンなにか言った?」

パイモン「いや、オイラはなにも言ってないぞ?お前じゃないのか?」

水狐「旅人さん、私です」

 

水の狐が喋ったことに驚くパイモンだが、すぐにその声の主を誰だか理解した

声の主は瀞であり、今は諸事情あってこの姿なんだとか…しかしその事情というのを聞くと、何故か肝心なところが砂嵐のように消えてしまい判断することが出来ない

例えば、「私がここにいるのは―――のためで、私自身―――だからです」みたいなかんじだ

 

瀞「とにかく、今すぐに留雲のところに行ってください!私の予想が正しければ…今留雲は…」

パイモン「危険な状態なんだな?よし、いこうぜ!」

蛍「うん。急がなきゃいけないみたいだね」

 

蛍は急いで奥蔵山へと向かっていく

留雲にはいつもよくあっているし、見知らぬ人というわけではない。何度も留雲に助けられたり、助けたりする仲だ。しかも瀞が早く行くように促すということはなにか危険なことが起こったのだと推察できる。そう思いつつ、蛍は奥蔵山に上り、その惨状を目の前にした

木々は荒れ果て、水は龍が去ったかのように荒れている。いつもの穏やかな奥蔵山とは違うその惨状を信じることは出来なかった

―瀞は「ひどい有様…」とこの状況を悲嘆し、蛍も信じられない気持ちはあるものの、留雲を探すことにした

外にはいないように見えるため、彼女の仙府を尋ねるとその扉は空いていた

蛍たちは留雲を探すためその仙府に入ると、その中でさえ荒れ果てていた

 

蛍「一体なにがあってこんなことに…」

パイモン「見た感じ、なにかに壊されたみたいだな…でも留雲のカラクリを突破できる人なんているのか…?」

瀞「………」

 

先に進んでいく蛍たち。そしてその先にあったのは、傷ついた留雲の姿とそのそばにいる甘雨の影であった

それをみてすぐさまパイモンは大きな声で留雲に向かって大きな声を出す

駆け寄ってよく見てみればその傷は深いようで、かなり痛そうだ

 

パイモン「その傷どうしたんだ?!」

留雲「説明すると…長くなる。今はこの傷を治すことに専念するべきだ…旅人、清心を三束もっておらぬか?」

蛍「たくさん持ってるよ。三束でいいの?」

留雲「あぁよい…甘雨よ。それをすりつぶして妾にくれ…」

 

甘雨は言われたとおりテキパキと清心をすりつぶし、それを留雲にわたす

留雲はすりつぶした清心を傷口に塗り、傷薬として使用した。仙力が戻るまで代用しるようだが、痛そうだ。まるで傷口に塩を塗るかのような痛みがありそうだなとパイモンは思った

―すこし落ち着いた留雲は口を開き、今この状況になった事情を話し始める

 

パイモン「なんでこうなったんだ?」

留雲「妾も予想外であった。こうなったのは業瘴によってその体を支配された伐難がここから逃げそうとしたのが原因だ。妾のカラクリで行動を制限できると踏んだのが間違いだった」

蛍「えっ…でも瀞はここに…」

瀞「…留雲、私のせいで…ごめんなさい」

 

瀞は留雲に頭を下げる

だが、パイモンと蛍は未だ分からなかった。瀞はここにいるのに、支配された伐難が逃げ出している…伐難は2人いるということなのだろうか。それともどちらかの伐難は偽物で、どちらかが本物なのだろうか

 

留雲「お主のせいでは無い。これはどう足掻いても避けれなかった事実…業瘴を背負っている者の運命だ」

瀞「……」

パイモン「どういうことだ?瀞はここにいるのに暴走した瀞にやられた。つまり瀞は二人いるのか?」

瀞「はい。この体は本体ではなく、精神体といっても過言じゃありません。本体は業瘴に侵食され、別人格を保有しています。だから―」

 

仙府に少しの風が吹き込む

瀞は静かに息を吸いこみ、自分がすべきこと。しなくてはならない事をすぐさま考えていた。それから読み取れる感情は決意そのもので、その決意を無駄には出来ない感情を聞く人は覚える

そして瀞は静かに口を開いた

 

瀞「…彼女を止めないと――璃月が危険です。彼女は私が出来ない事、嫌なことをやると言っていました。私はこの璃月を愛している。璃月に住む人を守りたい―なら、彼女はこの璃月を危機に瀕させるはずです。それは…たとえ彼女であっても許すことが出来ない。ですが、私だけでは彼女を止めることが出来ません…ですので、旅人さん。私に力を貸してください」

 

誠心誠意頼む瀞に旅人は快く引き受けた

 



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4話 黒影

評価並びに20,000UAありがとうございます!
と、とりあえず昨日はば、バグなんでしょうか…一日で900弱の人が見てくれるなんて…夢のようでした…
初めて評価10貰ったこともあり、とってもウキウキしながらこの話を書いたので、なんかものすごく早く物語が進みます

最近、原神のMAD作ってるんですが、楽しいです

それでは本編へ


















――申鶴side――

 

ここに妖魔の気配があると依頼された重雲は偶然出会った申鶴と揺光の浜で共に妖魔退治を行っていた。その依頼をしてくれたひと曰く、黒いような紅いような炎が自分に向かって飛んできて、いてもたってもいられ何状況になってしまったということだった

 

重雲「目撃情報的にはここらへんだったはず」

申鶴「妖魔の気配が少しする。だが、噂の黒い炎は見当たらないな」

 

砂浜を二人は歩く

チャプンと波が岩に打ち付けられたかと思えば、すぅーっとその身を引き、またもやチャプンと打ち付ける。この静かな浜辺には妖魔の気配はあれど、こんなに穏やかで敵の気配すらない

―もしかしたら”いた”という気配なのかもしれない。つい先程まで妖魔がここにいた可能性も否めない。もう黒い炎は消え去って、ここにはもう脅威はないのかもしれない

しかし二人は気を緩めなかった。妖魔の気配を根本から完全に消さなければ、またここで被害が起こるかもしれない。そうなれば、重雲は方士としての信頼を失い、申鶴にも多少の影響はあるだろう

 

重雲「辺りを調べよう。なにかあるかもしれない」

申鶴「ああ。我はあちらを」

 

そう言って二手に分かれて辺りを調査する

水の中から砂に隠された手がかりはないかと探しに探して数十分。申鶴は岩肌に隠された秘密を見つけたのだった

それは無様に倒された魔物から酷く焼けたような獣の亡骸。それらはその体から見たことのない要は黒い炎とも言えるものを発していた

重雲を呼び、その黒い炎がなんなのかを調べる

 

重雲「―おそらくこれが依頼者の言っていた黒い炎なのか……なんだが妖魔とは違った気配がこれから発せられている…申鶴(おば)さん、これがなんなのかわかる?」

申鶴「いや…我にもなんだかわからん。ただ人には危険なものというのだけがわかる――っと!」

 

その黒い炎に触れようとした重雲の手を申鶴は止める

 

申鶴「な、なにをしている!」

重雲「なにって…すこし調査を――」

申鶴「だめだ。それに触れるな。これは我々では対処のしようがない…できることなら我もこれを排除したいが」

 

するとそこに通りすがりの商人がこちらにやってくる

それは焦っているように逃げるようにこっちにやってきたものだから、二人はどうしたのかと聞きに行く

商人は「た、助けてくれ!ヒ、ヒルチャールの、ヒルチャールの大群が襲ってきてる!!!」と死にものぐるいで言って来る。よく見れば、商人の後ろのほうからヒルチャールやベビーヴィシャップ等の魔物が土煙を上げて追いかけてきていた

 

重雲「あなたはここに隠れてて。僕達はあれを食い止める――」

申鶴「―――具現せよ!―」

 

氷の傀儡を飛ばし、申鶴は魔物の群れを牽制する。傀儡越しに見た景色は、魔物たちがなにかから逃げているかのようにも見え、若干不思議だが、とにかくこの群れを排除しなくてはこの商人も自分たちも危険だと思った申鶴は一番先頭にいるヒルチャール暴徒(盾)に攻撃を与える

攻撃を与えられたヒルチャール暴徒は驚き、後ろに続くヒルチャールも辺りを警戒するかのようにその歩みを止める

―すると、そのヒルチャール暴徒の目の前―申鶴と重雲の目の前にアビスの詠唱者(炎)が立ちふさがった

 

詠唱者「防ぐな退け。俺たちはお前たちに興味はない」

重雲「何をしようとしているんだ―」

詠唱者「急がなくては―――」

 

言いかけた言葉を遮るように、アビスの詠唱者の後ろ側で何かが爆発し始める

轟々と鳴り響く爆発音。物悲しいような声を上げて吹き飛ぶヒルチャールたち。丸まったヴィシャップはその爆発によって四方八方に散し、アビスの詠唱者はその爆発に対抗するかのように攻撃を返す

わけも分からず申鶴たちは唖然とする。すると、黒い炎が申鶴たちに飛んできて、まずいと思った瞬間にはもう目の前に来ていた

 

申鶴「っ―――旅人…ここまでかもしれん…」

 

申鶴は重雲を護るように立ち向かい、重雲も身を護る体制に入る

―耐えれるか…と思った申鶴はギュッと目をつむるも、爆発が来ない。爆発音は聞こえているのにその力が来なかった

どうなったのかと目を開けると、そこにいたのはアビスの詠唱者であり、自らの力でその黒い炎を相殺していたのだった

 

申鶴「なぜ………」

詠唱者「なぜアビス側の俺がお前たちを護ったか気になるんだろう?俺とて共に過ごした仲間の友人を見殺すのは胸にくるものだ」

重雲「友人―?」

詠唱者「旅人。そういえばわかるだろう?」

 

そういうとアビスの詠唱者は申鶴たちに背を向け、その炎に立ち向かっていく

アビスの詠唱者が一筆空に描くと、申鶴と重雲、そして商人の足者にアビスのゲートを生成させた

 

詠唱者「―今回だけだ。友人に免じて使ってやろう」

申鶴「なにをっ――――――」

 

申鶴の声は虚しく虚空に消える

そしてアビスの詠唱者はかつて共にした仲間の事を思い出し、懐かしむ気持ちになる

淵下宮にてともに調査し、淵下宮にて自らの正体を明かし、戦ったあの旅人を――

 

詠唱者「さて…やつをどうやって始末しようか」

 

詠唱者は考える

 

あの旅人ならばどうするか

 

殿下の肉親ならばどうやって行動するか

 

アビスの詠唱者及び、淵上と名乗るものはその手に炎をまとわせ、次々に来る黒い炎に熱い炎をぶつけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰離原

 

アビスの詠唱者によって飛ばされた申鶴たちは、一旦気持ちを落ち着かせる

得体のしれない人に助けられ、ここまで転移させてくれた。それも旅人の友人だからという理由だけで助けてくれた。もしかしたらなにかあるのではないかと思った申鶴が、自身と辺りを調べるも何も変哲がなく、いつもの帰離原でいつもの体であった

 

申鶴「なぜ助けてくれた…?なにか企んで…」

 

辺りをもう一度よく観察をする。するとご丁寧に商人が運んでいた荷物も近くに止まっていた

商人は助かったと感謝を述べてその荷物を引き、そのまま璃月港へと向かっていった。また襲われるのではと心配になった重雲はその商人を護衛すると言って重雲は一旦戦線を離脱した

申鶴は先程の現場がどうなっているか気になり、現場に向かう

―人の力とはまた違うあの力。じっくりと観察し、留雲や旅人に教えなければならない

その時、目の前に謎の黒い影が現れた。形は申鶴よりも小さな人形で輪郭がぼやぼやとはっきりとは見えない。だが、その影は獣などではなく、明らかに形であった

 

申鶴「…何者か」

「………」

 

影は不動。何も話さず、なにも動こうともしない

少しばかりの恐怖を覚えた申鶴は武器を構え、影が動く事を想定して構えを作る

その身で感じるのは、出会っては行けないという感じの恐怖心。今この場からすぐにでも逃げたくなる恐怖心――申鶴が今までに抱いたとこの無いような感情――

 

申鶴「―答えろ。何者か」

「………………仙人」

 

そう呟いた瞬間、申鶴は黒い霧に包まれ、帰離原から消えたのだった…




20,000人記念としてなにかやらなくては…伐難の伝説任務終了したら始めるとして…アンケートを作らなきゃ…


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5話 水面、煙を知らず

長い時間おまたせしました!
この期間中考えていたんですが、伐難の伝説任務の1話と2話の間に新たな話を挟むかもしれません。ただわからなくならないようには出来ます

















――夜蘭side――

 

璃月港、岩上茶室の一室にて夜蘭は凝光から依頼された書類を机の上に広げ、その書類から読み取れる情報を整理する。その書類は、かなりの機密的な書類であるが、一大事を争うため、一時的にここに持ってくることが許可された

―直近、璃月全体的に謎の魔物に襲われるというケースが増えてきている。その魔物はテイワット全域で脅威とされているようなアビス教団というものでなく、全くの別物だ。それは黒くて、モヤのようで…と人々では個体差があるのか別の回答をしている

襲われるだけでなく、実際に行方知らずになっている者もおり、仙人の武を備えた申鶴が実際に行方知らずとなっている

…書類の中身はだいたいこんな感じだ

 

夜蘭(魔物は何故人々を襲うのかしら…縄張り?いえ…それなら各地で見られるのはおかしいわね…そもそも行方不明にすることの出来る魔物なんているの?それだけでなくて人によって姿が違う…)

 

夜蘭は様々な仮説を立てつつもその仮説を自らで潰していく。そうすることで、余計な選択肢は消え去り、真実のみが明らかとなる

だが、今回は一筋縄では行かなそうだなと夜蘭は少なからず思うことどろう。現段階でも特定することは出来るが、それには多大な時間を費やしてしまう

 

夜蘭「はぁ…やっぱり次なる報を待つしかないわね」

 

するとそこに夜蘭の部下である文淵が夜蘭に報を持ってくる。その報の中身は今夜蘭が考えることを優位に進めるための情報であった

―陸上にて襲われた、あるいは行方不明になった人の正確な数と位置、そして残されていた物について。だがそれはどれも一貫性がなく本当に獣が襲ったとも言えるような配置であった

ますます状況が複雑になる。獣であれば人によって姿が変わる事はない。急な攻撃に錯乱していたという可能性もあるが、武を備え精神的にも強い千岩軍の兵士の目撃情報でさえ同じような話をしていた。つまりは本当にその姿である…といえるのだろう

 

夜蘭「情報が混雑してるわ…私が直に行かなきゃわからないのかもしれない…宝盗団を利用して調査しようかしら」

 

書類を人目の届かない場所に隠し、夜蘭は岩上茶室から出る

文淵からもらった情報が書かれた紙を見ながら、次はどこに来るのかを考察し、作戦を考える。魔物との遭遇は偶然か必然か。もしかしたら魔物との遭遇はなにか原因があるのではないか

―よく紙を見て考えてみると、そこからヒントが得られた。まず、はじめに奥蔵山付近からその魔物の襲撃は始まり、徐々に璃月港に来ているかのような…そんな雰囲気を感じた。次に数。魔物に襲われた人々は一人だったものは誰もいない。つまりは複数人のときであり、かつ一人は必ず逃す…そうすることによって何が生まれるのかは夜蘭には分からなかったが、複数で行動させれば魔物はよってくる可能性があることがわかった

 

夜蘭「よし…じゃあ作戦を開始しましょう」

 

夜蘭は身分装って宝盗団に嘘の手紙を書く

その内容は、この場所に――のお宝が眠っているらしい。まだ誰も手をつけていない。君たちが独占する事ができると言った内容だ。宝盗団はそういった情報を嘘とは思わず行く習性がある。なぜなら宝盗団のほとんどの団員が金に困っているとか目立ちたいからとかそういった理由で入団しているから

そしてその手紙を矢の先の方に取り付け、宝盗団のいる場所へと足を進める

あいにく宝盗団はそこら中にいるため見つけるのは簡単で、拠点としている場所に夜蘭は弓を放つと、宝盗団はすぐさまその矢についた手紙を見つけその手紙を広げる

そしてその情報が嘘だとも知らずにそさくさと盗掘する準備を始め、その場を去る

 

夜蘭(相変わらず目ざといわね。でも今回はそれに助けられるわ)

 

夜蘭もそれを影から見守るように宝盗団を追いかける

奥蔵山の近く。天穹の谷と呼ばれる遺跡がたくさん集まっている地域の近くの山風にその宝盗団は向かい、夜蘭はその様子をバレないように観察する

夜蘭に騙された宝盗団はみんな感情を表に出し、騙されたや騙したやつを倒しに行こうとか様々な事を口に出していた

 

そう思ったのも束の間。次の瞬間、その宝盗団の目の前には黒い煙を纏っていると言っても過言ではない謎の魔物が現れ、宝盗団を襲い始めた

元素のちからとは違う黒い炎がその魔物から放たれ、宝盗団がすぐにやられる

 

夜蘭はここにいてはまずいと思い、すぐにこの場から逃げる

 

あの魔物は普通ではない

 

あの魔物に近づいてはならない

 

あれは禁忌に匹敵する

 

魔神時代に封印された古代の異物か

 

夜蘭にはそのどれか判断は出来なかったが、ただ一つ。その魔物は夜蘭がこれまで得てきた情報をすべて無駄にするかのような存在であり、夜蘭には解決のしようが無いものであったということだけ

そして夜蘭がその魔物から逃げ、魔物が追ってきていないかと振り返ればそこには…黒い煙の中に佇む真っ赤な眼光が夜蘭を睨みつけていた

 

?「…………水」

 

魔物から発せられたその言葉は夜蘭には解読できず、夜蘭は魔物からの打撃によって意識を失った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

群玉閣

 

夜蘭「………うっ」

 

目が覚めた夜蘭は見知ったような天井を見上げる

そして体を起こそうとすると、見知った女性の声で夜蘭に声をかける。その言葉は心配の声。その人によると夜蘭は天穹の谷近くで倒れており、血は流れていなかったものの危険そうな状態であったため運んできたのだそうだ

夜蘭自身、外傷はないと自覚しているのだが、如何せん殴られたと思われる部分が痛む。体を動かすのも苦では無いのだが、痛むため動かしたくないそうだ

―誰からやられたのかと女性から問われ、夜蘭は答えようとする…が、やられる直前の記憶がごっそりとなくなっている。誰からやられたのかも誰がいたのかも覚えていない状況だ

 

夜蘭(なるほど…これが証言者が答えていた真実ね…)

 

手がかりは無くなったのかと思ったが、それがわかっただけでかなりの進歩であるとその女性に伝えた

 



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6話 寂莫

ナヒ―ダが可愛すぎて崩壊1stになる













――旅人side――

奥蔵山から璃月港に帰ってきた蛍は少しだけ璃月港の異様な奇妙な状態を目にする

それは普段よりも活気がないその雰囲気や、千岩軍の兵士ですらどこか恐怖しているようなそんな感情を抱く。いつもの人口密度を100とすると、今はその半分よりも少ない。店もやっているところとやっていないところがある

パイモンと蛍は奇妙に思いながら、この雰囲気の中経営している春香窯の鶯に話を聞いた

 

鶯「あ旅人はん…こんな時にようきてくれたなぁ」

蛍「璃月港の雰囲気が暗いけど…なにかあったの?」

 

蛍がそう聞くと鶯は暗い声で答えた

 

鶯「最近な…商人や冒険者が行方不明になっとんのよ。それも結構突然。うちの顧客も行方不明になっとうから心配や…」

パイモン「行方不明?」

鶯「そうや。千岩軍が必死に探しても見つからへんし、逆に行方不明になる…はぁ怖いわぁ」

 

鶯は心配そうに空を見上げる

それからしばらくしていろんな人に話を聞いた結果、みんな同じような回答が返ってきた。瀞はそれに関連して、「彼女がやったのかもしれません…」と一言。瀞の本体は業瘴を使用し攻撃に転用しているため、考えられない事があっても不思議じゃないとの事

 

パイモン「むむむ?業瘴って人にも仙人にも害をなすものじゃないのか?それなのに瀞の本体の奴はなんで業瘴を使うことかできるんだ?」

瀞「詳しく話すと魔神戦争時代まで遡りますが…簡単に話せば、彼女は業瘴に耐性がある仙人と言っても過言ではないです…」

 

業瘴は人はおろか仙人まで害をなす物質であり、魔神の残留エネルギー。その他様々な事で形成されるものである。それを攻撃に転用、使うことは仙人であっても難しく、放出しか出来ない。それを攻撃に転用している瀞の本体は、瀞でさえどのように行動するかわからないのだ

するとそこに甘雨が現れ、留雲はもう大丈夫なのかと蛍は尋ねる。返ってきた答えは安心を得るものであった

―留雲の傷はもう大丈夫といえる段階まで回復したが、まだ安静にしていなければ行けないため、理水真君にあとを任せたらしい

 

甘雨「…伐難さん。あなたの本体についてですが、この写真を見てくれますか?」

 

甘雨はそう言って一枚の写真を取り出し、蛍たちに見せる

その写真には例の黒い炎とそれに襲われる冒険者、そして黒い炎の隙間から血のように赤い目が見えた。瀞はそれを見て少し息を吸い込む。瀞が言うにそれは瀞の本体で業瘴を使っている場面だという

 

瀞「…その冒険者は今どこに?」

甘雨「わかりません…刻晴様の情報では行方不明になっているとの事で…」

パイモン「じゃあこの写真を取ったやつはどうなったんだ?」

甘雨「この写真を取った方は今意識不明の重体になっています。その方が持っていたフォンテーヌ産の写真機から抽出したものです。凝光様の調べによると……複数人で襲われ、必ず現場から一人は生還していますが、その生還した人は例外なく何者かに怯えるか、その襲われた記憶を無くすそうです」

瀞「―業瘴の影響ね…早くあの子をどうにかしないと…もっと酷いことになる…」

 

水の狐は尻尾を悲しそうに下げる

気になったパイモンは瀞にその本体の方にある別人格について話を聞くことにした

 

パイモン「瀞、本体の方にある別人格について聞きたいんだけど…」

瀞「彼女は私のもう一つの人格…もうひとりの私。戦闘が苦手な私と対比して戦闘に長けている彼女…本当に私とは真反対と言ってもいいくらいです」

 

瀞が言うには、彼女と初めて出会ったのは魔神戦争時代の事で、いつも心のなかで会話をしていたのだとか。だが、500年前の厄災のときに全力を出した結果、自らの力に耐えきれず瀞の中で消滅してしまった

彼女の存在を知っているのは留雲や理水、六花や鍾離などで大抵の仙人は彼女の存在を知らない。それ故彼女の実力などわからない事ばかり

何故人を襲うのか、何故今復活したのかなど…

 

甘雨「伐難さんと彼女にそんな過去があったなんて…」

瀞「ですが…彼女は昔とは違っていました」

蛍「昔とは違う?」

瀞「はい…彼女は決して自分に課せられた契約に反することはしませんでした。彼女の契約―それは私を護る事の他にも、私が望む事を手助けするという契約も結んでいます。なのに……」

 

現在、彼女は瀞の望む事の反対に向かって行動している。このまま行けば、璃月の人々だけでなく、六花や魈、そして岩王帝君に手を出す可能性もありうる…そうなる前に彼女をどうにかしなくては行けない。幸い、まだ彼女は復活したばかりで、昔の力を発揮できていない。かつての力を取り戻す前にどうにかしなければ、以前の歌の魔神よりも悲惨なことになるだろう

 

瀞「…彼女が現れた場所を教えて」

甘雨「は、はい。ええと…こことここと…」

 

甘雨は地図上に印をつけていく。それはかなりまばらで次にどこに現れるかなどはわからない

しかし瀞はわかっていた。彼女がなにも考えずに人を襲うはずがなく、なにか原因があるはずだと。そしてそこから逆算していけば必ずたどり着けるはずだと

―じっくり。じっくりとその地図を観察し、その結論にたどり着くための糸を探す。もし誰かを探しているのなら?帝君を殺害しようとしていてその力を戻るまで人で試している?それなら次の目標は…

 

瀞「――魈に戦いを挑む…?」

パイモン「それがあいつの次の目標なのか?」

瀞「おそらく…いやでもまだ確証がありません…もっと情報を集めてみないと…」

甘雨「私の方でもなにかないか調べてみますね。凝光様に今回のこと話さなければ―」

 

甘雨はそう言って立ち去る

残された三人は、とにかく他にも情報がないかを調べるため他の人に聞き込みを始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――璃月海上――

 

荒れ狂う波に抗うように進む舟。風は一迅の刃となり、天は怒りを落とす。この雷は稲妻の神のものではなくごく自然なものである。だが、まるで渦の魔神オセルがいるかのようなその不気味な気配に船員たちは恐れる

だが、その船長は勇敢でありその雰囲気を恐れずに前に進んでいく

貨物はゆらり揺られ、船員はぐらりと酔う。予報ではこんなはずではなかったのだが、急な雷雲の発生が著しく納品時間も引き延ばせないため行くしかないのだ

 

「このまま進めばいつかはたどり着ける。この苦しみも今だけだ!」

 

勇猛果敢に言葉を放つ船長。その姿はまるで海山を討ち滅ぼした北斗船長のようであった

実際この船長は北斗の事を尊敬しており、北斗のような人になりたいと心から思っている

 

―その瞬間、今までにない雷鳴が舟に響き渡る。そして更に雷鳴は激しさを一層まし、天は何かを訴えているのかと考えるほどであった

そして舟に雷が落ち、舟が大きく揺れる。幸い、貨物や船員は投げ出されることはなかったが……その落雷下地点に、紅い髪の少女が現れた

 

その少女はまるで息をするかのように船員をなぎ倒し、船長に接近した

 

「あ、あんた何者だ――」

 

船長は焦る。殺されるのでは無いかという不安と、この得体のしれない少女は何なのだろうかという疑問

しかしその少女は船長の問に答えず、船長に問いを返した

 

少女「月夜に潜む――それはなにか」

 

船長は意味がわからずに困惑する。船長が答えずにいると、少女はどこからともなく取り出した凶器を船長の喉元に突きつけ、答えを急くように促した

もうどうにでもなれと思った船長は「知らない」と一言答えた

―少女はその言葉を聞いた瞬間船長の胸元を掴み、その船長を荒れ狂う海へと放り投げるとニヤリと口角をあげた

 

少女「…言語機能が回復してきたわね。さて…次はどこに行こうかしら」

 

そう。その少女の名は濫。今この璃月を恐怖に怯えさせている張本人だ

徐々に力を取り戻してきている彼女はその力を制御するために様々な事をしている。だが、それは瀞が思っているように彼女の本心でなく、業瘴によるものなのかもしれない

 

(…やめなさい。これ以上は――)

濫「うるさいわね。私は契約に従っているだけよ」

(契約に従っているのなら他にも方法はあるはず―――)

濫「他に何があるっているの?私にはこの方法しか無い。それはわかっているはずでしょ」

 

心の中で”自分と"対話する

心の中の濫は今表面に出てきている濫とはまた別人格なのかもしれず、今の行動を否定している。それがいいことかどうかはわからないが、今の濫にとって邪魔な存在だろう

 

濫「この力も…戻ってきたところだし、そろそろ手合わせ願いたいわね…」

 

濫は考える

 

どこ行けば自分の実力と会う対戦ができるか

 

誰だ自分に会うだろうか

 

濫「…魈がいるじゃない」

 

そう言い残し、濫は雷鳴と共にその舟を去った




前回、このアンケートを投稿後に追加してしまってすみません。改めてここで告知します
UA20,000+お気に入り100人突破を記念して作品を作りたいと思います!期間は伐難の伝説任務終了までで、終了時に一番多かったものを作ります。よろしくお願いしまう


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7話 緊急対策

投稿できない期間が続いてすみません
ちょっと家で事情がありまして…執筆する時間が少なくなってしまいました。これからは頑張って執筆していきます

そういやすり抜け後にナヒ―ダ引きました。やったね















――凝光side――

コツコツと鳴り響くきれいな足音。群玉閣はいつもこのような静かな空間がひろがっていた

だけど今日は少し慌ただしい。それは連日の事件が関係して、凝光含む璃月七星ははその対応にずっと追われているのだ

―凝光は自室に寝かせた友人の容態をみるために少し席を外す。その友人もかの事件の被害者であり、事件の事を調査している人でもあった。彼女はかなり腕の立つ人であるのだが、そんな彼女も被害者になってしまった

 

凝光「…入るわよ」

 

寝ている可能性もあるため、凝光はゆっくりと扉を開いて様子を伺う

自室は変わらずの部屋模様であり、寝具には彼女、夜蘭が休養を取っていた

 

夜蘭「なにかしら?」

凝光「体調はどう?なにか欲しい物とかあるかしら」

夜蘭「特にないわ。もう体もかなり回復して来たし、明日には例の事件の調査を再開できる」

 

それを言うと、凝光は「それはしなくても大丈夫」と一言

夜蘭には体を完全に休めてほしいという願いもあるが、一度被害者になってしまってここまで意識がはっきりとしているのはなかなかいない。それ故、次に襲われてしまえば、何が起こるかわからない―という願いがある

それに、この事件の依頼のあと、層岩巨淵の最終調査も残っている。あそこは彼女でなければ調査することは困難だ

 

夜蘭「…そうね。層岩巨淵の調査もあるから、黙って置かないと行けないわね」

凝光「ありがとう。でもあなたの調査のおかげでいい情報が得られたわよ。これ、ちょっと目を通して見なさい」

 

夜蘭は凝光に差し出された報告書に目を通す

その報告書にかかれていたのは、前に旅人が目にした写真と瀞の証言が書かれていた

―瀞がその謎の魔物と関係があり、しかもそれが瀞のもうひとりの人格であると。そしてその瀞はかつて死したと伝承されていた仙衆夜叉の螺巻大将であると知る

だが、夜蘭含め凝光は驚きはしなかった。所詮伝承。仙人は実在すると知っていても、それを求めたいとは思わないからだ

 

凝光「どう?なにかわからない?」

夜蘭「夜叉……なるほどね。私が記憶を失ったけど気が狂わなかったのは、様々な痛みに強いからかしらね。業瘴はその体に酷い痛みを伴い、そして精神を蝕む。彼らと私の違うところは経験の違いね。様々な苦難を乗り越えた私にはその猛威が最小限に収まったのかしら」

 

すると扉が勢いよく開かれ、そこにかの船長の凛々しい姿が現れる

 

北斗「凝光、緊急の連絡だ」

凝光「連絡なら付き人を通してほしいのだけれど」

北斗「そんな暇はないんだ。話を聞いてくれ」

 

北斗は凝光に要件を話し始める

その話はつい先程のことで璃月に来るはずの商船が来ず、北斗が調査したところ一隻の舟が璃月近くの海で漂流しており、その舟を見て見るとその舟の船員が倒れており、何者かにやられたような跡であった

だが争った形跡はなく、一方的にやられたような跡…そしてその船員を率いている船長の姿はどこにもなかった

そのことについて、北斗が倒れた船員に話を聞くと、運良く記憶も残っているが錯乱している船員を発見した

―その彼から聞いた話は雷鳴と共に赤き閃光が現れ、次々に襲われた。そして船長を荒れる海に投げ飛ばし、どこかに消えていった…とのことであった

 

北斗「そして最後に妙な事を言っていたんだ」

凝光「へぇ…それはどんな?」

北斗「手合わせ願いたい――降魔大聖がいるじゃない…ってな」

 

それを聞いた凝光は考える。その船員たちの症状。そしてその襲った者が何者かを察した

 

―それは近日噂になっているモノに襲われて時と同じような症状であり、業瘴に飲まれた者の末路でもあった

 

凝光は自分の部下を呼び、伝令を始めた

 

凝光「…直ちに旅人に伝令しなさい。かの降魔大聖の元へ急ぐように伝えるのよ」

 

その言葉を聞いた凝光の部下は千岩軍を通じて旅人にその内容が届くように手配する。早くしなければ璃月を影で護っている降魔大聖とそのモノが戦闘を始め、最悪の場合、降魔大聖が敗退してしまう危険性がある

もしものことに備えて璃月中に外出時には警戒するように呼びかけ、千岩軍も総動員して守りに徹する。その間、ファデュイに変な動きがあった場合には北斗や万葉が対応するような形を取ることにする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――旅人side――

 

一通り聞き込みを終えた蛍は瀞に話を聞く。新たなる証言などは手に入らなかったものの瀞の決意は確定していた

 

―彼女は確実に自らの力を調整している。そして今頃はもう制御が出来ているぐらいになっているだろう。そして長年業瘴に蝕まれていた瀞の体には山のように積まれた業瘴が留まっているため、かつての彼女よりも遥かに強くなっているのかもしれない

 

千岩軍「旅人さん。天権様から伝言があります」

パイモン「凝光から?なんだかこわいなぁ…」

千岩軍「ええ、実際そのようです。急ぎ降魔大聖の元へ向かい、例のモノから彼を守ってほしい―とのことです。例のモノというのは、おそらくわかっていると思われますが…」

瀞「…濫」

 

瀞は静かに呟く

その言葉にはまさか彼女がという感情ではなく、悔しさ。悲しさような感情が含まれており、瀞が思っていたことが本当に起こってしまったのだと

早くしなくては魈に危険が及ぶかもしれない。魈だから大丈夫という安心感はない

かの夜叉は魈の実力と比較したことはないが、今も業瘴に侵されている魈とその業瘴を糧に戦う濫。どちらが優勢かと言われれば一目瞭然だろう

 

瀞「行きましょう…早く行かなきゃ金鵬が…」

蛍「うん。急ごう」

 

蛍達は急いでその場を離れ魈の元へ急ぐ

早く行かなくては彼女にやられる危険性があり、また手がかりが消えるかもしれない




まだまだ伐難の伝説任務は終わりませんが、アンケートよろしくお願いします。また終わりそうになったら連絡しますが


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8話 誰かの記憶

「うっ……」

 

目を覚ますとそこは見知らぬ天井であった。否、"この体は"覚えている。ここがどこで、どんな場所なのか。誰が住み、誰が来るのか

しかし、その心は違った。複雑な感情の中、少女は体を起こす

 

「我は確か……」

 

何故ここに寝ているのかを思い出す。糸を手繰り寄せるように、その体から得られる記憶と心から得られる記憶。集中してその記憶たちを整理する

―少女の名は蒼炎。そして心で感じている者の名は申鶴。そしてこの場所は璃月のどこかにあるという仙人の里で、数多の仙人がここに住んでいる。留雲借風真君や理水畳山真君。削月築陽真君もここで過ごしているという記憶がその体にはある

 

申鶴(しかしどうして…この感じからするとここは過去なのか?それとも記憶なのか?)

 

蒼炎の体はまだ幼く、不思議な感覚もある

体を起こそうとしたら少し体が痛む。よくよく観察すると、体には包帯が巻かれており、どこかで怪我をしたのだと思い出す

すると、水色の少女が現れ、「どうして起きたの?」と一言。その少女は優しく接してくれて、看病してくれている人なのだろうと察する

 

申鶴『すこしお水を飲みたくて…』

 

少女の口が勝手に動く。申鶴は意識していなかった。おそらくこの世界、この見ている景色は記憶のものであるため、直接手出しは出来ないのだろう

――申鶴は看病してくれている少女に見覚えがあり、じっと見つめる。母のようなその笑顔、優しそうなその目…それはあの人に似ていた

 

申鶴(瀞…なのか?)

 

とても似ているのだが、少し幼さを感じさせる瀞は少女の目の前にコップを差し出し、その中に水をチョロチョロ…と入れてあげる

 

瀞「はい。ゆっくり飲んでね」

申鶴『ありがとう…青のお姉ちゃん』

 

少女はゆっくりと水を飲むと、体が少し軽くなり、痛みが引いていく

力が戻る感覚というのが表現として最適な感覚であり、飲んでいる水は一般的なものではないことがわかった。仙人の里であるからかその水も仙力を持っているみたいだ

すると、玄関の方から瀞によく似た少女が食べ物を持って入ってきた。しかし瀞とは違い、髪は黒で先にかけて赤くグラデーションされており、目つきは瀞とは反対で怖いという印象を持つ

 

―申鶴はその感覚をつい最近感じたのを思い出した

 

だが、その声はその時感じた恐怖とは裏腹に、安心できる話し方であった

 

黒瀞「起きたのね。ほら、これ食べなさい。今取ってきたものだから安心して」

申鶴『ありがとう黒のお姉ちゃん…』

 

感謝をした少女はその食べ物を食べる。その間、その黒い瀞について申鶴は考えていた。彼女は何者で、どうして瀞に似ているのか。そして以前感じた恐怖感と相対するその安心感。以前襲われたモノとは違うものなのだろうか

瀞について申鶴はまだ知らないことが多い。この体の記憶でも特に目立った記憶はない。近くの優しいお姉さんといった記憶。その隣の黒い瀞についても同様

 

黒瀞「でも不憫ね。その年で業瘴に見舞われるなんて…」

瀞「業瘴は体を蝕む…私達でも厳しいところはあるけど、蒼炎は――」

黒瀞「きついわよね。私もまだ未熟だから業瘴を引き受けることは出来ないし、時間が許してくれるならもっといい対応ができるのかもしれないけど、生憎今は力のある仙人はすこしでかけているし…私達がどうにかするしかないわ」

 

黒い瀞は少女の頭を優しく撫でる

その瞬間、少女に猛烈な眠気が襲ってきた。申鶴もその眠気に引き寄せられ、意識を保つことが難しくなってくる…まだあの空間にいたい。まだ瀞たちと話がしたいと心が言っていてもその体は休む事を願っている

 

瀞「眠たくなったの?……やすみ………で…」

 

瀞の声が徐々に消えていきやがて聞こえなくなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ…余計な事を」

 

『これ以上…あなたの好きなようには…させない―――!』

 

「でもどうやって我を止める?お前は我の業瘴に支配されている。それ故その制約を自らの手で解放することなど出来ないはずだ―ほら、どうだ?」

 

『っ―――』

 

「痛むだろう?大人しく我の言うことを聞くが良い。そうすれば、お前が望む世界を作ってやれる」

 

『わ…たしは…』

 

「瀞の苦しみがないような世界を作る。そのためには、徹底的に問題を排除しなければならない。これはお前の希望だろう?」

 

『ちが…そんな願いのために――私は彼女を守ってきたんじゃないわ…!』

 

「その決意もどこまでかな。すぐに我の業瘴に支配されるだろう。そうすればお前はその願いを叶えることができる」

 

『くっ……貴女を殺す――!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

申鶴(今のは……)

 

記憶の世界から戻ってきた申鶴は誰かが言い争うような会話を聞いた

それは聞き覚えのある声と聞き覚えのない声。聞き覚えのある声は記憶の中で会話した黒い瀞の声であったが、聞き覚えのない方は記憶の世界の記憶を辿っても判断がつかない。本当に知らない人である可能性が高いということであろう

 

申鶴(話の内容からして…黒い瀞が操られているような印象を受けたな。もしかしたら、我を襲ったのは操られている黒い瀞なのではないか…?)

 

助けてあげたいという意識はあるが目の前は真っ暗であり、何も見えない

それだけでなく、動かそうとする体も全く動かない。それはまるで凍った鎖に繋がれているような感覚とも言える

 

申鶴(くっ……力が抜けていくようだ…)

 

抵抗すればするほど体力が失われていく。抵抗せずに助けを待つのが最適なのだろうか

しかし助けは本当に来るかすらもわからない。現実はどうなっているのだろうか。襲われてからどうなったのか、それは申鶴にも他の襲われた人にもわからないことである

 

申鶴「助けに来てくれ………旅人」

 



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9話 偽り

私的な願望なんですが、youtubeで私が作った原神のMAD投稿してるので、よかったら見てもらいたい願望!
ほがみ⛩って名前です。見なくても別に先生は怒りません。見てくれたら嬉しいなってだけの話です

では本編へ














碧水の原の湖に浮かぶひとつの島。魈はそこでいつもと変わらずに妖魔の退治をしていた。月夜に照らされしその姿は、懐かしの仙衆夜叉のみんなと共に戦った時の姿のようであった

―妖魔を退治し終わり、魈は近辺の危険がないことを確認すると、その場に座り込み、瞑想を始める

 

最近は出来なかった瞑想。しかしやらなくては刻々と業瘴が体を蝕み、正気を保てなくなってしまう。瞑想をすることによって、自分は何者か。なんのために生きるのかを改めて実感させるのだ

 

魈(…………)

 

辺りには揺れる水面の音、風の心地よい声、草木が囁きあうかのような草の擦れる音だけが魈の耳に届く

―いつもは望舒旅館の頂上にて瞑想するが、今日は趣向を変えてその場で行っている。それも悪くは無いと魈は1人思う

 

すると、何者かの足音が聞こえ始める

 

人か。獣か。妖か

 

目を瞑った状態の魈には判断がつけにくい。頼れるのは、五感の2つである感覚と聴覚。それ以外は使えない

 

魈(…人型…1人か?…ヒルチャールよりも大きい…妖魔の気配が少しあるな…弱い妖魔に取り憑かれた人か?)

 

「魈」

 

突如呼ばれたその名に、魈はリアクションを返す。目を開いて目の前にいるモノの正体を確かめれば、それは見た事のある女性であった

仙衆夜叉が1人、水元素を使う夜叉伐難。数百年前と変わらず、その姿で魈の目の前に立っていた

 

だがしかし。魈は少し警戒していた

その伐難からとてつもないほどの業瘴を魈は感じ取っているから。少しならばまだわかる。魈でさえ積りに積もった業瘴を完全に封じ込めることは出来ないからだ

そう思いつつ、魈は警戒をしながら伐難に問いかけた

 

魈「…なんのようだ」

伐難「会いに来たくなっただけ。それ以外に理由必要ある?」

魈「…こんな夜中にか?」

伐難「夜の方が探しやすいし、心地いいから」

 

何気ないような会話

しかし魈にはわかっている。この伐難は本物ではない可能性が高いことを

そこで魈は少し探りを入れてみる。今目の前にいる伐難が本物なのかどうか…偽物であれば…

 

魈「心地いい?この前は夜は好きではないと言っていたのに、心地いいのか?」

伐難?「そ、それはね…」

魈「確かに今日は月が綺麗な日だ。だか、こういう日こそ妖魔は活性化しやすい。いくら夜叉とはいえ、1人で出歩くのは遠慮しておけ」

伐難?「大丈夫!私なら全部倒せるもん!」

 

自信満々に語る伐難に確信を突く問いを投げた

 

魈「私なら…か。業瘴の影響はどうした?」

伐難?「…え?」

魈「業瘴の影響でお前は本来の力を出すことが出来ないはずだ。その身に刻まれた業瘴は体を蝕み、かつての力も出せなくなっている。なのにお前は全て倒せると回答した。それも見栄をはっている用ではなく、心からそう思っているようであった」

伐難?「………」

魈「―問おう。"貴様は誰だ"」

 

魈が吐いた言葉はざわめく草木により姿を消す。そして虫の音が、魈と伐難の耳に届き、辺りが月が雲に隠れた影響で少し暗くなる

伐難は未だ不動。一言も話さず、そこにいるだけ。魈はその態度を見て確信した。これは伐難では無い

再び月が地上を照らすとき…伐難の瞳がギラりと輝いた。そしてニヤリと口角をあげ、八重歯を見せる

 

その姿は、伐難ではなかった

 

青かった髪は毛先にかけて赤く染まり、服もそれに乗じるかのように赤く染まる。優しさがあったあの瞳は血のように紅く、他者を見下すような鋭い目つきになっていた

 

伐難?「あーあ…バレちゃった。貴方って鋭いのね。でもいいや。貴方はここで死ぬ。それが運命」

魈「戯言を。貴様は所詮伐難の幻影。その力は夜叉には及ばず、ただの影でしか無い」

伐難?「本当にそうかな?」

魈「…何が言いたい」

 

ニヤリと笑った伐難に対し魈はさらに警戒を強め、手に和璞鳶を装備する

ここに来た理由は魈に会うため。そして伐難は「あなたはここで死ぬ」と言ってきた。つまりは、ここで魈を殺害するつもりだろう。その姿、その様子からして魈を殺すことなど簡単であるとでも言うかのようであった

 

伐難?「私は"私の力"を手に入れた。なんの制約もなしにね」

 

―なんの制約もない。つまり業瘴の制約を受けていない。それすなわち全盛期の伐難と同等。いや、それ以上なのかも知れない。かつての伐難は魈よりもすこし強いといった実力で、魈を倒すなんてことは出来なかった。なのに今、この場にいる伐難は確実に魈を殺せる算段がある―もしくは実力があるのかもしれない

 

伐難?「それじゃ、はじめましょ?あなたの最後の物語を――!!!」

魈「っ――!」

 

甲高い金属音が空気を震わせる

突如攻撃してきた伐難に魈は和璞鳶でその攻撃を弾く。伐難はその両手に大きな紅い爪を備え、次々に攻撃を魈に浴びせる。それは確実に魈を殺害しようとしているモノの姿であった

魈はひたすらに攻撃を弾き、伐難から距離をとろうとするも、すぐにその距離を詰めてきてまた同じ体勢になる

 

―押され続ける。このままでは負けてしまう

 

魈はどうにかしなければと思い、儺面をかぶり戦闘を始めた

 

伐難?「やっと本気になってくれた…うれしいわ!」

魈「はぁはぁ―貴様…何者だ…」

伐難?「私は伐難(あのこ)の裏の影―つまりはあの子そのものって言っても過言じゃない」

魈「そんなはずない…だって」

 

―伐難の実力は魈と互角であり、昔手合わせしたときも勝敗がつかなかった。その伐難の影であるのなら。伐難そのものであるのなら――実力はあまり変わらないはず…数値で表すなら、昔の伐難と魈は1:2くらい

しかし、今目の前にいる伐難と魈を数値で表すと…10:1。それも魈の素早さを含めた値であるため、変動することはない。目の前にいる者が本当に伐難の影ならば…彼女はそれほどに実力をつけていたということだろう

 

伐難?「あの子は弱かった。だから私がきたの!これなら…あの無名夜叉にだって勝てるわ!」

魈「無名―夜叉…?」

 

分からなそうに聞く魈に伐難はあざ笑うかのような笑顔を見せた

 

伐難?「知らないの?あの厄災のとき、層岩巨淵で最後まで人間と共に戦ってた無名の夜叉――自分の名前も自分の家族すら忘れて―無様な人。確か雷の力を使っていたそうな…」

魈「まさか…そんなわけは――貴様、ホラを吹くのもいい加減にしろ」

伐難?「なに?怒っているの?ならあなたに何ができるの?」

魈「貴様――???」

 

伐難に向かって歩もうとするも、魈は動くことができなかった

足元を見てみれば、そこには黒い水のようなものが魈の足に纏わりついていて、それが魈の行動を抑制しているようだ。と、その瞬間…魈は徐々にその黒い水に飲み込まれていく

それはまるで沼地のように…ズブズブと沈み込んでゆく。風の力を使ってそこから出ようとするも、何故かその水は拡散することはできず、魈は虚しく水に飲まれてしまった

 

伐難?「魈でさえこれほどのちからなのね…正直期待外れ。長年戦ってきた歴戦の夜叉でさえこんなんなら…現代の人が楽しめないのも納得だわ」

 

伐難は水溜りに手をかざすと、その水溜りから紅い水晶が現れる。それをよく見てみると、中には先程戦った魈が入っている。その水晶を月にかざすと伐難はこういった

 

「あなたに会うのが待ち遠しいわ―――瀞」

 

その後、何もなかったように伐難は消え、そこにはいつもの風景が戻ったのであった



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10話 痕跡

瀞「はぁはぁ…急いで!!!」

 

蛍の前で急いで走る瀞は、蛍に急ぐように促す

早くしなければ魈に危険が及び、最悪の場合、魈が行方不明となり、手がかりが何も失くなってしまうから。それだけは避けたいと蛍は思う。魈と濫が衝突する前に行かなくては―――

 

途中、ヒルチャールやアビスの魔術師、宝盗団などに襲われもしたが時間がないため好きを見て逃走し、宝盗団になすりつける…そんな行為を何度か繰り返していると、段々と辺りが暗くなってきた。いままであまり気にしていなかったが、もう月が出始めている。辺りは涼しげな風が吹き始めて、少し肌寒く感じる

―と、その風に乗るかのように、碧水の原のほうから金属と金属がぶつかる音が聞こえてきた。それも人と人の戦うのような音ではなく、もっと早い周期でぶつかりあう音

 

パイモン「この音は――!!!」

瀞「音はあっちから聞こえます!行きましょう!」

 

我が先にと走り出す瀞の後を追う蛍たち

その現場に向かっているとき、度々強い風が蛍たちに吹き付けられる。その風は自然に発生したのものではなく、魈のものであると走りながら蛍は思った。もう濫と魈は衝突している可能性が高く、早く助太刀に行けなければ―――

 

現場と思われる碧水の原についたとき、もうそれは終わっていた

気持ちの良いほど優しく吹く風に、何もなかったかのように鳴る虫の音。まるでそれは激しく戦った後などそこにはなかったと言い放っているようなその風景に瀞は少し嫌な感情を覚えた

 

パイモン「たしかにここだよな…でも…」

蛍「見当たらない…魈はどこに…」

瀞「―――辺りを調査してみましょう。できるだけ手がかりを…残しておかないと」

 

そう言って瀞は辺りを調査し始めた

それに続いてパイモンと蛍も近くを調査し始める

 

パイモン「―うーん…特に目立ったものはないな…」

蛍「これはどう?"折れた草"」

パイモン「いやどう見てもただの草だろ…―おっ!こんなのはどうだ!"モラの形をした石"!!」

 

自信満々に差し出すパイモンに呆れたように蛍はため息をつく

次に怪しそうな場所は…近くにある荷車。どこかの商人が放置したかのようなその荷車になにか手がかりがあるかもしれない

 

―ガサゴソとその荷車を漁る蛍だったが、特に目立ったものはなく、商品表やその商品のみだった

だがその中に奇妙なものが入っていることを蛍は見逃さなかった。それは書き殴られたような紙であり、くしゃくしゃになってその荷物の中に入っていた

 

蛍「…これは?」

パイモン「なんかの紙みたいだな。開けてみようぜ」

 

二人はその紙を開ける

――あのヒルチャールは俺の荷物を狙っていたんじゃない!あの魔物たちはすべてアビスの魔物が操っていた!だが――の――炎は――スのもの―――――助けてくれた人も―――まれてしまった――いち早くこの――(あとは汚れていたり焦げたような跡があって解読ができなさそうだ)

 

パイモン「これはアビスに襲われた人の手紙なのか?なんだが焦ってるみたいだけど…」

蛍「アビスの魔物が操っていた…でも”だが”って続いてるから、アビスじゃない。つまりは――」

瀞「旅人さん、少しこっちに」

 

考えているとき二人は瀞に呼ばれ、考えを中断する。おそらく濫関係のことであるから、突き詰めていけば必ずその紙のことも解決できるだろうと思ったからだ

そうして蛍が瀞の元へと向かうと、そこには消えかかっている黒い炎がゆらゆらとその身を揺らしていた

―普通の炎ではないこの炎。これは確実に以前見たあの炎と同じモノであり、異質なものであった

 

瀞「この気配を覚えれますか?」

蛍「気配?元素じゃだめなの?」

瀞「はい。これは元素とは違い、業瘴なんです。なので元素視覚や元素反応にはなんにも反応を示しません」

蛍「そうなんだ…やってみる」

 

蛍は目をつむりその炎の気配を感じようとするが、蛍にはなんにも感じることが出来なかった

すこし嫌な気配がする程度だが、その気配は気の所為とも言える気配で、あまり役に立ちそうにない。それを瀞につげると、瀞は「それじゃ、すこし目をつむって」といって蛍に目をつむらせた

―「すこし我慢してね」といった途端、蛍の頭に温かい水に包まれているかのような感覚に包まれる

 

瀞「目を開けてもいいですよ」

 

蛍が目を開けると、目の前にいたはずの瀞は消えており、代わりに黒い炎から禍々しいほどの嫌な気配を感じることができるようになっていた

何をしたのかと蛍が瀞に聞くと、「私が旅人さんに憑依したんです。今の私にはこのくらいのことしか出来ませんし…」と衝撃的な事を話してくれた

するとパイモンは不思議そうな表情を浮かべ、蛍に問いかけた

 

パイモン「旅人、なに独り言いってるんだ?」

蛍「え?」

パイモン「お前が目をつむった瞬間に瀞が消えて、お前が独り言言い始めたんだぞ」

蛍「いやでも確かに………」

 

そこで蛍は考えた。

瀞は今、蛍に憑依している状態なのだ。つまり蛍は今、特別な状態であり、パイモンはなにも変わらない状態であるのだ。おそらく瀞の声を聞けるのは蛍のみで、パイモンには聞こえないのだろう

 

蛍「大丈夫。瀞は私の中に入って、私のなかの瀞と会話しているだけだから」

パイモン「そうなのか…オイラに瀞の声が聞こえないのは少しさみしいな…」

 

落ち込むパイモンだったが、瀞が言うにそれを解決する方法はないのだそうだ

あくまで憑依できるのは現状一人であり、しかもパイモンは蛍よりも力が弱い(たぶん)であるため、いきなり瀞が憑依した場合、どうなるかわからないのだ

 

まぁそんなことは置いておき、瀞は蛍にその気配をたどるように指示した

 

瀞『おそらくその方向に濫はいます…そして行方不明の人たちも…』

蛍「うん。わかった」

パイモン「瀞はなんて言ってたんだ?」

 

蛍は瀞に言われたことをパイモンに話す。そして目の前の炎に繋がっている気配の流れをたどり、あるき始めた

気配は木の根のように1点を辿れば2つの分岐点が生まれ、そして根本に向かっているであろう先には木の根が太くなるようにもっと強い気配になっていっている

―分岐点の場所もただそこで分岐したという感じではなく、その場所は行方不明になった人たちが襲われた現場であることも判明した。考察として蛍が考えたのは……この気配の道は地脈のようなものでただ力が流れているだけではなさそうということ。そしてやはり…

 

蛍「うっ―――」

 

いきなり蛍の頭が痛む

それは外部的な要因ではなく、内部的な要因。使ったことのない瀞の力を使ったからか。あるいは長時間業瘴に触れているからか

―魈や六花、瀞もこんな痛みを耐えていたのかと、蛍はそう思う。しかし、次第にその痛みは引いていき、瀞の優しい声が聞こえてくる。「私が代わりに受けてあげるから、早く根本へ!」と

蛍はいつまでも瀞に頼っているわけにも行かないと、その根本へ行く速度をあげた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこはつい最近行ったばかりの場所であり、あの魔神と壮絶な戦いを強いられた場所であった

パイモンの目には何も映らないが、蛍の目には、遺跡が立つ岩山に巻き付く黒い植物。それはまるで木のようであった…そしてそれは璃月各地に広がっていた業瘴の地脈が全てそこに集結していた

―なんの因果か。瀞は心からそうおもう。なぜならそこは、六花がその胸を穿ったあの魔神が眠る場所で、瀞の身にまとわりついていた業瘴を与えたヤツが最期を迎えた場所であった

 

瀞『青虚浦…どうして…』

 

もうここには来たくないと思っていた。できることなら、あの悲劇を永遠に記憶のそこに沈めて置きたかった

あの人――かつてともに過ごした夜叉の一人の最期を自分の手で作ってしまったあの記憶を――

瀞は気持ちを落ち着かせた。今は感傷に浸る場合ではなく、一刻も早く濫を止めなければならない

 

瀞(っ…普段より業瘴の痛みが酷く感じる――精神体だから?でも昔はどうだったっけ…)

 

かつての瀞

 

その名を得る前の瀞

 

その隣にはいつも誰かがいた

 

今はなぜか曖昧で、思い出すことができそうにない

 

だけど、その記憶で唯一思い出せることがある

 

 

「あなたの苦しいことは、私が代わりに引き受けるわ。だってあなたは…」

 

 

その言葉は瀞の記憶の奥底にあった記憶を呼び覚ました

 

魔神戦争のときに出会ったと思っていた

 

帝君に名をもらってから仲良くなったと思っていた

 

だが実際はいつもそばにいてくれたのだ

 

いつもいてくれて知らぬうちに助けてくれていたのだ

 

苦しむはずの業瘴をその身に閉じ込めていて…

 

 

「私のただ一人の家族(いもうと)だもの」

 

 

 

その決意だけで彼女は瀞を助けていたのだ

 




黒の瀞は崩壊でいう黒ゼーレみたいなイメージです
ツンだけど優しいみたいな感じ
そういえば、崩壊の方で黒ゼーレ来てたの知らなくて絶望しました。水晶ねぇんだよ…なんで推し来てるんだよ…教えてくれてもいいじゃん…


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11話 業が見せた夢

あぁスカラマシュ。探索便利なスカラマシュ。まだ私のテイワットには来ないでおくれ。次のPUがディシアの可能性あるから私は貯めなければ行けないんだ













パイモン「お、オイラには見えないけど…なんだか異様な気配を感じるぞ…!」

蛍「これはただものじゃない…早く始末しなきゃ、璃月全体が危ない」

 

そう言って蛍はその木を注目し、弱そうな部分を見つけようとする

しかし近づこうとすればするほど、胸が締め付けられるように苦しくなる。まるで体の中の力を抜かれるように――蛍が近づくと同時に、その木も段々と自らは行きていると言わんばかりの煌々しさを放つ

それをみたパイモンは心配するが、パイモンにはなにがどうなっているのかあまりわからない

―とその時。木の方から何者かが歩いてこちらに向かってくる

かすむ目でその人を見ようとするが焦点が合わず、誰だか判断しづらい

 

「人の身でありながら…どうやってここまで?」

パイモン「お、お前は―!」

瀞(濫!?でも昔と違う…まさか…?!)

 

瀞は今できる全力を使って蛍にかかる業瘴を身に受けると、目のかすみが取れた蛍は間近でその人を目にする事になった

―その人は黒い瀞であり、目つきは鋭かった。そして黒い瀞の後ろの方に例の黒い炎はくすぶっていた

 

濫「問おう、人の子よ。貴様はどのようにしてここまできた」

蛍「残った痕跡を辿ってここまできた――」

濫「そうか…”この体”を完全には制御出来ていなかったか…なんともまぁ夜叉の体は複雑なものだな」

パイモン「この体って…業瘴は人格も乗っ取れるのか!?」

濫?「鋭いな小さき子。この体、濫という名の夜叉はもう存在しない。我の業瘴で完全に消え去った。もう少しすれば我も体を再生できるしな」

 

そう口にしてその女性は踵を返した

蛍はその女性を追いかけようとするも、体が思うように動かず、追いかけることが出来ない。それに気づいた女性はこちらを振り返りニヤリと口角をあげてこういった「行方不明になっているものを助けたければ、追いかけてくるがいい。できるものならな」と煽るように言い放った

 

瀞『旅人さん、一度深呼吸してください…業瘴を受けたまま行動するのは危険です。私も精一杯がんばりますが、私にも限りがあります…』

蛍「うん――すぅ………はぁ…」

 

深呼吸すると、少し気が楽になる。蛍の呼吸のタイミングに合わせて瀞は業瘴を消散しているようだ

それから何分か経ち、蛍の中に溜まっていた業瘴はほとんど消散した。落ち着いた蛍はその植物を観察すると、根本の部分に秘境の入り口のような門が見える

瀞の力を使って業瘴の気配をたどると、先程の女性が通ったと思われる足跡も見え、その門に向かっていることがわかる

 

蛍「あそこに行こう。パイモン、あれ見える?」

パイモン「ん?あそこは……昔に行った地下遺跡が崩れたところじゃないか?」

蛍「そうじゃなくて…なんか門みたいなのがあるの、見えない?」

 

パイモンはうーんと唸る。やはりパイモンには見えていないようだ

なにかパイモンにあっても悪いと思い、蛍はパイモンに後ろに隠れててもらってその門に向かって進み始めた。進めば進むほど体が重くなっていく。それはまるで体にドロがかかっているかであった

―間違いない。このさきにやつはいる。そしてあの言葉が正しいのなら…この先に行方不明になっている人たちがいるはず

門の目の前に立つと、その門に引き寄せられるかのような感覚が蛍を襲う。少しでも油断したら、深淵に引き込まれる。油断してはならないと、その心に決意した

 

―だが、そのときは突然だった

その深淵と例えるのに等しい扉が暗く光ったかと思うと、その門が突如開き、昔鍾離とクンジュともに行った若陀龍王の入り口に引き込まれるときと似ている感覚があった

 

パイモン「うわぁ!!な、なんだ?!引き込まれる!」

蛍「うっ――引き寄せられるっ――!」

瀞(これは――!)

 

その直後、三人はその門の中に引き込まれてしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――業瘴のセカイ――

 

 

 

 

 

 

突如引き込まれた蛍たちは禍々しい洞窟のような空間に放り出され、ドスンと尻もちをつく

イタタタとつぶやく3人。気づけば瀞もその身を得ていて、あの水の狐の姿はなくなっていた

 

瀞「どういうこと…なんで私…」

パイモン「なんだか気持ちの悪いところだな…旅人はこんなのをさっきからみてたのか?」

蛍「うん。見えてた――って、パイモンにもこの景色は見えているの?」

 

なんだか不思議なところだなと思う蛍だが、瀞のことも気になる。どうして今、瀞の体が戻ったのか。水の狐の体は精神体であるとも言っていた。その体ではなく、いつもの人の姿になっているということは、体を手に入れたということなのだろうか

そのことを瀞に聞くと、瀞もわからないといった表情を浮かべ、考える様子を見せた

 

瀞「…この体。まだ肉体ではないみたいです。精神体でありますが…かなり確立することができています。おそらくこの場所が私をそうしているのでしょう…」

蛍「業瘴が溜まる場所にある謎の秘境…業瘴が瀞の体を再構築したってこと?」

瀞「そう考えるのが妥当でしょう。とにかく先に進みましょう。早く行かないと――嫌な感じがする」

 

そう言って瀞は歩き始めた。その背を追うようにパイモンと瀞はついて行く

この黒と紅の禍々しい空間は、まるでナニカの口のようにその3人を飲み込んでしまった。その傍ら、先程蛍たちに顔を見せた女性は不気味にほほえみ、その光景を見ていた

 

?「―無様なものよ。自ら業瘴の海に飛び込むとな。このセカイから抜け出す方法はない。このセカイで我の力の糧となるがいいぞ…」

 

一つ。女性につながる管のような業瘴に力の塊が走ってきて、女性の中に入っていく

その瞬間、女性は酔いどれの心地の良い感覚と似た感情をその身に感じた

―あぁ。ついに念願の復活を果たせるのかと。再び自らが歌うこの"歌"をテイワット中に響かせることができる―その女性はその瞬間を心から待っていた。少し前に封印を解かれたものの、宿敵にその胸を穿たれ、その身を"この場所"で失った

幸い、伐難に付着していた業瘴が伐難の中に潜む濫と反応して、濫の体にて再び復活することができた…

 

?「この体ももう要らんな」

 

どさっ…と瀞の体が地面に落ち、代わりにその場に立っていたのは、赤髪で背が高く夕日を背負うような服を来た女性であった

その女性は自らの体をまじまじと確かめるかのように確認する。手を開いたり閉じたり。そして小さな声で発生練習したりと、いろんなことを試していた

 

?「ふぅ…やはりこの姿は落ち着くな」

 

そう言ってその女性は業瘴の壁に消えていった

 

 

残されたのは、横たわる瀞の姿。瀞の体には今何も入っていない

否、入っていたものはもう業瘴によって壊れてしまったのだ。長年瀞を支えてきたその体は消えかけの松明のようにか弱く、今はもう灰燼に帰すように燃え尽きかけているだけなのだ

 

―誰かがそこに新たな薪を焚べてあげなければ、潰えてしまう

 

彼女はもうそこまで付きかけている状態であった

長年の業瘴は瀞のためと思えば苦ではなかったが、今はその瀞もいない。願いは空回りし、その願いを叶えるための力のみが濫の体で燃え続ける

 

濫(…………)

 

意識はもうない。あるのはその心に残った燃えカスのような願いだけ

妹である瀞を幸せにするという願望のみが残っている。

 

そして彼女は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――夢を見た

 

――嫌な夢であった

 

―みんなで過ごした自分の故郷が侵略者によって燃え盛る思い出したくもない夢

 

しかしそれは確かな希望を持つ最初の種火であった

濫という名を持つ前の少女はただ一人の妹を護るためにその華奢な手を引いて安全な場所に連れて行こうとする

 

しかしその侵略者はただ己が願いの、私欲のためにその力を使っていた

 

―なにが神だ。なにが全ての人は救済されるだ。バカバカしい

本当に神がいるのであれば今ここで助けてほしい

この災厄の輪廻から私達を救い出してほしい

 

だがその願いは幾度叫んでも届くことはない

 

なぜなら神は"すべての人に平等"だから

一人に加担してしまえば、もうひとりに加担することはできない

一人に味方すれば、もう一人にしてみれば敵になってしまう

 

そう、"平等"は"機会”でしかないのだ

故に神はこの幼い少女達に救いの手を差し伸べることはできない

 

否、しないのだ

 

ならばどうするべきか。瀞の姉としてどうするべきか

 

そんなものとっくの昔に決意している

 

「神が助けないのなら…私が瀞を助ける―!もう悲しむことがないように――!」

 

―濫を蝕んでいた業瘴が濫に魅せた夢は、消えかかっていた濫の心の中に沈んでいた願望に再び熱を灯し、烈火の如く燃え始めた

それは濫が生きる証である炎で、業火であるが心優しい温まる炎であった



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12話 あの日みたあの炎は

お久しぶりです皆さん!(1ヶ月ぶり)
出したかったのですが、リアルでの忙しさと構想を練るとか、あとMAD作ってました( *ˊꇴˋ)エヘッ
こんなにも時間を開けると、話が分からなくなってしまいますよね…すみません…
本日は16:00ではなく、12時に投稿してみます






――暗い空間。体が縛られる感覚。見知った感覚…魈は一人その空間で孤独を感じる

あの謎の者から負けた。という敗北感が魈の心を侵食する

伐難であるが伐難ではない。しかし、伐難に負けたような感覚になる

六花にも挑み、度々負けているがそれは魈の中では負けでは無い。それは次に繋がる力になるものとして数えている

だが、先程の伐難に扮する者のから負けた時…そんなことは考えることができなくなっていた

 

こんな感情はあの日以来だなと魈は少し感傷に浸る

 

それは遡って厄災の時代よりも前の話。まだ仙衆夜叉が結成する前の話だ

―その時代は魔神が岩王帝君に破れ、その憎悪や亡骸が妖魔や病を生み出していた

苦しむ人々を救うため、岩王帝君は夜叉を集結させ、その妖魔や業を滅せよと命じたときの話

魈や伐難、六花もその同じ場所で戦い、ともに技を磨いていた

 

魈「ふっ!」

 

魈が振った槍が妖魔の核を穿つ。妖魔はその力を無くし、跡形もなくこの世界から消え去った

その所業は苦ではない。あの頃に比べれば。

とある魔神が魈を無理やり拘束し、残虐な行為を強いられていた

だがその魔神はもういない。岩王帝君との戦いでその身を滅ぼした。その魔神の亡骸も今や璃月を脅かす妖魔となっている。面倒な存在だと魈は心からそう思った

 

瀞「金鵬、少し休憩ー!」

魈「休憩だと?」

 

別の場所で戦っていた瀞と六花が魈に合流し、ずっと戦っているから休憩しないかと話を持ちかけた

しかし魈はその提案が少し不服のようで…

 

魈「休憩したいのならお前たちだけでしろ。我は休憩する暇などない」

六花「休憩したらどうだ金鵬。疲れ切っていては出せる力も出せないぞ」

魈「………勝手にするがいい。我は休憩などいらん。お前たちで勝手にしてろ」

 

そう言って魈はその場を去る

その様を見て、瀞は少し心配に思う。彼はいつもあんな感じで、一人孤高に生きている。他人の話を聞かず、自分がすべきことを淡々とやる…それは彼のかつての経験がそうしている

否、そうせざるをえないのだ

彼を縛っていたあの出来事から一変。その前に持っていた優しい感情、無邪気な彼はもういない

 

六花「…魔神による拘束の結果―か…」

瀞「私はその現場を知らないけど…結構悲惨な事件だったらしいね」

六花「そうだな。我もまだ主と共にいたときだが、その彼を一度見たことがある。あれは――歌の魔神のように残酷なものだった。魈の体の支配を奪い、永遠と殺戮を繰り返させた。好きでもない殺戮をな。そのときの彼は…見るに堪えないものだった」

 

体中魔物や人の返り血で染まり、目は何も見ることのない虚空を見つめていた

あんなことがあっては…昔の彼を取り戻すことは不可能であろう

 

瀞「…なきゃ…」

六花「ん?なにか言ったか?」

瀞「―金鵬は幸せにならなきゃ…」

 

悲しそうな顔を浮かべた瀞の頭に六花は優しく撫でる

瀞は優しい子だ。それ故他人に感情移入しやすい。それが彼女のいいところでもあるが、逆に悪いところでもある。

感情移入しすぎて、それが悪だと気づくことができず、それに手をかしてしまう事態になりかねない。ただ、今回のことは六花も思っていた。過去の悲劇を帳消しにすることはできないが、魈は幸せにならなければいけない

 

瀞「ちょ、ちょっと…」

六花「あぁすまない。少し考え事をしていた。さて、体も休んだだろう。金鵬のもとに向かうぞ」

瀞「…うん」

 

二人は先に向かった魈を追いかける形でその道を進む

 

 

 

 

魈はその先でとある魔獣と戦っていた

その魔獣は魔神戦争の残滓とも言える代物であり、体には魔の血が流れ、その心には目の前のモノを殺すといった本能が植物のように巣食っている

魈も負けじとその槍を構え、次々に攻撃を与えるも、魔獣はいともたやすくその攻撃をさけ、魈に攻撃を与える

 

魈「食らわ――っ…」

 

避けたと思っていたがわずかにかすっており、わずかであるがかなりの痛みが魈を襲う

―魔獣にはなにか特別な力があるのかと考えるものの、痛みにその意識を取られる。まるで無数の針で傷口をえぐられているかのようなそんな感覚を魈は耐える

しかし魔獣は魈の身に起こっていることなど気に留める様子もなく、次々に攻撃を仕掛けようとする

 

魈(このままでは…まずい!)

 

体を動かそうとする魈だが、その体はピクリとも動かない

体が痺れているかのような感覚――というより、もう感覚がない。まるでその体は自分のものでは無くなってしまったかのように――

それで魈は思い出した。思い出したくない記憶を思い出してしまった

その感覚は彼の純粋な心を奪い、代わりに残虐な感情を入れさせたあの魔神のことを

 

魈(まさか――こいつは―――)

 

魔獣の正体。魈にはそれがわかってしまった

その魔獣はかつて魈を支配していたあの魔神の骸を喰い、その身にその魔神の力を凝縮させてそこに立っている。そしてその意識は、その魔神の意識を引き継いでいるに違いない

なぜならその目は、まっすぐ魈のことしか見ていないから

 

魔獣「グルッッッッッ!!!!」

魈「くっ…!!!」

 

敗北を覚悟した魈は瞳を閉じる。魔獣はその牙をむき出して魈を喰らおうとする

しかし、魈にはいつまで立ってもその痛みは来ない。なぜかと思い、目を開けてみれば、そこには魔獣の牙を剣で押さえる六花の姿があった

六花はゆっくりと振り返り魈に「無事だったか」と声をかけた

 

六花「間に合って良かった。くっ…こいつ――」

瀞「雹蕾!手を貸すよ―――きゃっ!!!」

 

魔獣の背後を取り、攻撃しようとしていた瀞は、魔獣の尾に飛ばされた

瀞の身と魈の身を案じた六花は、手早く魔獣を倒し、魈の肩を支えて瀞の元へ行く。幸いふたりとも致命傷のようなものはないが…もしものことがあったら心配だと六花は思う

―瀞の力があれば…傷を治すことはできるが、六花にはその力がない

すると、魈が何やらつぶやく。

 

魈「なぜ…」

六花「なにかいったか?」

魈「なぜ我を助けた――我ならあいつを倒せたはず――」

六花「自分の力を過信するのはやめておけ。自らを苦しめるだけだ」

 

六花は何かを思い出すように言った

魈はその表情を不思議に思うが、今は体を動かすことに努力した。未だ体の感覚は薄れ、動かすこともままならない。あの魔獣にくらった傷は当分抜けそうにない

六花は魈に無理はするなと言い、できる限りの手当を行う――とその瞬間、とてつもない気配が二人を襲った。六花がその気配の方を見ると、目の前に倒したはずの魔獣が大きな口を開けていた

 

六花「っ…このっ――!」

 

剣を手に攻撃を防ごうとした六花だったが、地面に置いてあった剣がするりと手の中から抜ける

カランと音を鳴らす剣の音と、迫る魔獣。傀儡を使おうにも傀儡が形成されるまで時間がかかる。ジャンプという行動を行うのに膝を曲げるのと同じく、傀儡を使うのには力を込める時間と、形成される時間がいる

今、この状況で発動してしまえば、紛れもなく魔獣に三人とも食われるだろう。しかし、今この状況を抜けるには六花がどうにかするしかないのだ

 

―だが、どうやって抜ける?

抜ける方法が見つからず、六花は焦る。魔獣は口を開けて迫ってくる

そのとき、六花の背後から業火が魔獣を燃やし尽くす。炎はその魔獣の体内を流れる魔の血に反応して熱く、熱く燃え上がった

 

魈「この…炎は……」

 

その時に魈が感じた感情

自らの力では倒せなかったモノが他者から倒される。自らを卑下する感情――

先程六花が言った「自分の力を過信するのはやめておけ。」の意味がこのときわかった

過信すればその分返ってくる悲しさは非常に大きくなる

 

 

 

 

その記憶。感傷に浸った魈は目を開ける

依然目の前の空間は闇に包まれていて、体は縛られている

しかし、今回は違った。縛られているものに炎が灯り、空間に広がっていく

 

そう――あのときの炎のように



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13話 愚弄

アルハイゼン…次のキャラによってはナイハイゼンだな


暖かい炎の中、魈は現世に意識が戻った

魈を拘束していた業瘴は完全に消え失せ、簡単に動くようになる。それは生まれた時のように軽々しく、今までは重しを背負っていたかと思うほど

―誰のおかげかと思い、魈は辺りを見回す。すると目の前に、例の瀞によく似た少女が魈の目の前に手を突き出していた

 

魈「貴様――」

 

言葉を発そうとする魈はすぐさまにその言葉を消す

なぜなら、彼女からはもうあの時の気配を感じなくなっているから

 

伐難?「……金鵬…みんなを…地上に戻して―」

魈「お前は――」

 

魈の言葉は彼女に届くことなく、彼女は炎に飲まれ、その場から消えた

その声はまるで風前の灯火のようであり、自分にできる限りのことをしたという声であった

―あのときとは違う。魈と戦ったときとはまるで正反対。その傲慢さはなくなり、傲慢さの代わりであるかのように、皆を思う気持ちを感じ取れた

あの伐難は本当に襲ってきた伐難とは別物なのか。そうでも考えないと、心のなかに何かわだかまりがつっかえる。もし同じやつなのであれば、どうして助けてくれたのか。助けるように指示したのか

 

魈「もし同じなら―――我は許さない…」

 

倒して情けをかけるなど愚弄も良いところだ

魈はそう思うものの、その思いを断ち切り、彼女が言っていた"みんな”を地上に戻す努力を始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――旅人side――

 

奥に進むにつれて禍々しさは強くなっていき、旅人の体調もあまり良くなくなってくる

業瘴は蛍の体にも影響があるみたいで、めまいに近い現象が起きたり、起きなかったりする。そのたびに瀞の近くに行って回復しているのだが、洞窟内には業瘴の影響を受けた魔物がいるため、蛍が倒さなくてはならない。業瘴を受けるのは仕方がないことであった

―蛍はその魔物達に妙な感覚を覚えながらも、その戦闘を続けていたのだった

 

パイモン「奥に進んでくと…なんだか嫌な気配が大きくなるな…」

瀞「もう少しの辛抱ですよ。奥に近づくにつれてその彼女の力の強くなっています…」

蛍「――ねぇ瀞、さっき彼女と対立したとき…何か思ったことあるんじゃない?」

 

蛍にその言葉を言われた瞬間、瀞は足を止めた

 

瀞「……気づいていましたか」

蛍「うん。なんだかいつもと違ってたから。なにか気になることでもあるの?」

瀞「…はい。濫についてです。先程、私達と対峙した者ですが、濫ではないことは自白していましたよね」

パイモン「確かにそうだったな…"濫という名の夜叉はもう存在しない”――それってつまり、この体は自分のだってことだよな…」

瀞「そう考えて良いと思います。そこで、私はその正体について考えました」

 

そう言って瀞は一拍置いて話を始めた

その話し方はどこか悲しそうであり、寂しそうな話し方であった

 

瀞「”我の業瘴で完全に消え去った”それはつまり、濫は業瘴に負けてしまった。ならその業瘴の主は誰?」

パイモン「ん?業瘴に主なんているのか?」

瀞「基本的にはいません。ですが、彼女は自らその業瘴を操ることができる――業瘴は人々には害物質であり、到底操ることなんてできない。業瘴を使うことができるのは、私達夜叉…ですが操るなんて高度な事…できる夜叉は今までに見たことが無いです」

蛍(夜叉よりももっと業瘴に長けている…瀞の力―それは業瘴を背負い、体力を回復する。なら瀞の別人格である濫は?それと同じ?)

 

蛍の中で思考がぐるぐると回り、点と点を繋げていく

本当の濫にはあったことが無いが、蛍が実際に感じた感覚と知識、そして記憶を並べて整理していってもまだその書体にたどり着くことができない

そう考えているとき、瀞は話を始めた

 

瀞「業瘴を操って私の体を支配した――つまりは私の身の中にあった業瘴であると考える事ができます。つまりは、過去に私と戦ったことのあるモノ…そして私よりも強いものというと…」

蛍「―!まさか歌の魔神?!」

「――御名答―――」

 

蛍の声が終わると共に、凛々しい女性の声が洞窟内に響き渡った

声の出どころを探して見ると、前方の少し盛り上がった地面の上に赤い髪の女性が立っていた

その姿はつい先日のあの事件の首謀者、そしてあのとき瀞を業瘴で縛り、使役していた悪しき魔神と等しかった

だがその声は過去とは違い、鮮明に、そして見下すような声になっていた

蛍は危機感を感じ、剣を抜いて歌の魔神に剣を向ける

 

ミュルクス「我の正体を判明できるとはな。そう、我の名は歌の魔神(ミュルクス)

蛍「あのとき倒したはず!」

ミュルクス「確かに我はあのとき討たれた。しかしな、我が使役した夜叉の中には、我の業瘴が残っていることを忘れたか?」

瀞「っ――」

 

瀞は少し悔しそうな顔をして、ミュルクスを睨みつける

 

瀞「……濫をどこにやったの」

ミュルクス「あの小娘のことか?我の体には合わなかったから捨てた。今の我は全盛期の体を有している。ならば夜叉の体など要らぬ」

瀞「―――!!」

 

静かながら瀞が激怒しているのが蛍に見て取れる

まだ彼女とは会って間もない蛍だが、そんな彼女でも瀞が怒ることが珍しいと思える。優しく、人のためなら何でもやろうとし、何でも最善を尽くそうとする彼女が怒るなんて想像出来なかっただろう

―だが、実の家族を…夜叉を愚弄されたからには怒らないわけには行かない

 

瀞「…歌の魔神」

ミュルクス「なんだ小娘、貴様ごときに我の名を――」

瀞「あなたはもう生かしておけない。そしてこの世界に居てはいけない」

ミュルクス「ふっ…小娘が―自分の立場を弁えろ!」

 

そう言ってミュルクスは自分の回りに瀞のような黒い人形を生成し始めた

そんな中、瀞は蛍の近くに行き、少しばかり会話をする

 

瀞「旅人さん。」

蛍「?」

瀞「あなたに私の力を半分あげます。そして一緒に歌の魔神を倒してくれませんか?私一人の力では到底敵いませんが、あなたと一緒なら―――勝てると私は思います!」

 

その姿は自身に満ち溢れていて、絶対に行けるといった決意が見て取れた

蛍も最初から断るなんて選択肢は無く、喜んでその誘いを受ける。

―瀞は自分の前に手を差し出すと、手のひらに水の珠のようなものを作り上げ、それを蛍へ渡す。その珠はするりと蛍の胸の中に入っていき、心の芯から温まるような力を感じた

その力は六花の札とは違う力であり、業瘴による制約が消え、体が楽になるかのような感覚であった

瀞は手に水の鉤爪を作り、ゆっくりと深呼吸した

 

瀞(濫ならきっと…こういうことを思うはず…大丈夫――私が、私達が濫の気持ちを最後までつなげるよ)

 



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14話 浄化の炎

Twitterでこの小説書いてることを話したら、フォロワーさんがまさかの視聴者(?)だったんですよ!嬉しいです!


気味の悪い歌が洞窟内に響き渡ると同時に鉄と鉄がぶつかり合う高音の音も響き渡る

ミュルクスは依然歌を歌い続けて業瘴で作ったであろう人形は、攻撃を喰らえば溶け…そしてまた再生する。終わりのないように感じるその様は、瀞であっても厳しいものであった

―いつまで続くのだろうか。体力は瀞の力で減ることは少ないが精神的な部分が厳しい。倒しても倒しても尽きることはない

 

ミュルクス「無駄だ。この世界は我の業瘴で出来ている。貴様らの力では到底敵わない。諦めろ」

瀞「諦める…もんですか!濫を愚弄した罪…許されることではありません!」

ミュルクス「ほう――だがこの状況で何ができる?夜叉の力も貴様にはもう少ししか残っていないだろう?」

 

そう言われた瀞は歯を噛み締める。なぜならそれは事実とも言えることであるから

瀞の夜叉としての力はもう薄れて来ている。蛍をサポートするのもやっとなくらいに

 

蛍「っ…キリがない…このままじゃ体力勝負で負けちゃう…」

 

無造作とも言えるその人形に、どうしようにもない絶望を感じ始めてくる

人は魔神には勝てない。夜叉も力を失い、勝つ術は無くなっている。これからどうすれば良いのだろう

その時、洞窟の天井が崩壊し、そこから突風が吹き荒れて一人の青年が槍を地面に向けて落下してきた

 

―その様はまさに英雄そのもの。困窮したときに現れる救世主。彼の名は――

 

パイモン「魈!!!」

魈「…"みんな"というのにはお前たちも含まれるな?だが――」

 

地面に重く刺さった和璞鳶を軽々と地面から引き抜き、その矛先を玉座の方への敵意を乗せて怒りをぶつける

まるで反逆者の英雄が暴君の王に立ち向かうようなその様は、数々の困難を乗り越えてきた蛍であっても、ビリっとした感覚を肌で感じ取れる程であった

 

魈「―貴様は我ら夜叉を愚弄した。その罪、許されるものでは無いぞ」

ミュルクス「ふっ――たわけ。一度その身を我に囚われてもなお、その刃を我に向けようとするか。貴様らに我は倒せぬ」

 

黒い人形は魈に向かって一斉に攻撃を仕掛ける

 

魈「どうだかな――ふっ!」

 

一振り――それでその人形と魈の決着はついた

風に纏うように青い炎が燃え、それが人形を跡形もなく塵のように消し去ってしまったのだ

ミュルクスは今までにないような表情を見せ、バカなと一喝。自分の従者がやられるとは思ってもおらず、たかを括っていたミュルクスは焦るように人形を無造作に作りだす

 

―しかしどれも魈は一振りでその人形すべてを消し去り、その場には”業瘴に問わられることのない”全盛期の金鵬と同等の魈が立っていた

 

ミュルクス「なぜ我の従者を消しされる!貴様にはその力は無いはずだ――!」

魈「生憎だな。たかが夜叉と侮っていたが故にこのようなことが起きたのだ。そう、貴様が捨てた”あの夜叉”のせいでな」

ミュルクス「っ―――!!!」

魈「あいつにはお前の業瘴を払う力があった。我はその力を少し得ただけだ」

 

瀞の体内で長らくミュルクスの業瘴と戦っていた濫には、もうミュルクスの業瘴に対抗できる力が備わっていた。それはまるで、人の体内で活躍する抗体のように

その力の端を魈が目覚めたときに少し得ただけ。その力を魈は自身の元素で拡散し、それを増幅させて今に至っている

しかし、その力はミュルクスの業瘴を受けていない魈の体にも作用し、自身を縛っていた枷となる業瘴もかなり減ったのは、”濫という少女”が託した最初で最後の灯火が、瀞や魈の意思によって燃料を入れられたかの如く燃え盛り、すべての業瘴を滅する存在となったのだ

 

魈「伐難、旅人。今、その業瘴を解いてやる」

 

風と共に燃えた炎は二人に纏い燃え盛るも、熱さではなく心地よさがその体を纏い、随分と体が楽になった

瀞に至っては、精神体ではなくなり、実態を持てるようになったのだ

 

瀞「ありがとう金鵬」

魈「礼を言うのはこっちだ。お前がいなければ我はあの時死んでいた。その時の借りを返したまでだ」

瀞「?」

 

蛍は立ち上がり、魈に駆け寄る

―体の芯から力が溢れてくるのを蛍は感じる。二人――否。三人の夜叉の力を得た蛍は今、この場で一番強い者と言えるだろう

魈はかつての夜叉たちの顔が、蛍の顔と重なる。応達、弥怒、浮舎、銅雀。かの者たちと戦ったものは、今、目の前にいる魔神の残滓が引き起こした問題だった

その一つも今日で終わり。この魔神は未来永劫、この世界から消え去るのだから

 

魈「覚悟しろ、歌の魔神。我ら(夜叉)が貴様を潰す」

ミュルクス「っ――貴様らに…我が死すはずが無いだろう――!!!」

 

怒号と共に黒い人形は一斉に襲いかかる

その黒い人形も今までとは比にならない程に強くなっていたが、三人の力はそれより劣ること無く対等――いや、それよりも上回っている

魈が先陣を駆けぬけ、蛍がそれに続く。瀞は後衛で回復に徹するというバランスの取れた作戦でミュルクスに挑む

 

蛍「はぁっ!!」

 

蛍の攻撃がミュルクス本体に当たるとともに、ミュルクスは怯む。業瘴のシールドを貼っていたがそれも難なく突破。成す術がなくなったミュルクスは、持っていた業瘴すべてを自身にまとわせ、巨大な獣となる

洞窟の天井に着くほどの巨体は、力を得る前であれば恐怖に思えたが、今は悪あがきにしか感じない

 

ミュルクス「死ぬが良い!!!」

 

巨大な右足で踏み潰そうとしたミュルクスを魈は靖妖儺舞を使って防ぎ、その右足を伝って蛍は洞窟の天井に届くほど大きなジャンプをして、全身の力を込めた一撃をミュルクスに与えた

その瞬間――青い炎が爆発するかのようにその洞窟に一気に燃え盛り、禍々しい気配を一瞬にして消し去った

ミュルクスは青い炎によって浄化され、苦しむ声が洞窟内に響き渡る

―これでようやくこの事件が終わる。歌の魔神は塵と化し、この世界から消え去った

 

伐難「…終わったの?」

パイモン「そうみたいだな…」

 

安堵しているふたりに次に襲いかかったのは、洞窟の崩壊であった

 

グラグラと揺れる地面に、ゴトゴトと震える石。この洞窟―世界を構成する業瘴の主である歌の魔神を失った洞窟は崩壊現象が始まる。もし逃げ切れなかった場合、その体は永遠にこの業瘴に囚われ、生きて変えることはできないだろう。早くも脱出しなくては――!

 

魈「早く逃げるぞ!」

 

魈の声は崩壊を始める洞窟よりもはっきりとみんなに聞こえた




もう終盤に差し掛かってますね


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15話 姉だから

お久鰤ですね。皆さんスタレ楽しんでますか?それとも原神一筋ですか?
私は最近、どっちにも手がつけられてない状態でして…辛いです


崩壊を始める洞窟から逃げる四人。早く逃げなくては助かる者も助からないだろう

走りながら蛍は思い出す。行方不明の人はどこへいったのかと。もし、この場所に囚われているのならば、早く助けなくてはならないと

 

蛍「魈、この洞窟に捕まっている人を見なかった?」

魈「見たぞ。だが、安心すると良い。我が先に地上へ戻しておいた」

蛍「仕事が早いね…ありがとう」

魈「…別に。我は頼まれたからやったまでだ」

 

少し照れくさそうにつぶやく魈

しかしそんな中でも崩壊は進み、焦りが生じる。自由になった業瘴は次第に形を作り、蛍たちに襲いかかってくる。それはまるで逃しはしないと歌の魔神が言っているかのようで、恐怖さえ覚えるも、倒しつつ先に進んでいく

 

瀞「―往生際が悪い!」

魔物「ギャァ…」

 

倒した魔物からは何も出ず、ただ霧のように消えてゆく

 

魈「早く先に進むぞ」

瀞「うん!」

 

出口であろう場所に向かって頑張って走るが、なぜか来た時よりも複雑な道となっていて困惑する

魈が進んだ道も、蛍たちが来た道も全てなくなっていて、新たな道となっている

―不安はあるが進むしか未来はない。後方は崩壊していて、どうしようにもないから

 

『逃さぬ…逃さぬぞ…』

 

崩壊する音に紛れて聞こえる歌の魔神の声。

憎悪。執念。嫌忌―それらすべての思念は一つの集合体となり、業瘴に交じる。はるか昔からの魔神の野望は死してもなお潰えることなく旅人たちに襲いかかる

 

…正直言ってしつこい。例えるなら、別れたカップルの一人がもう結婚している人に復縁しようと呼びかけているようにしつこい

 

だが、それはもう終わる

この洞窟とともにその魂は永遠に青い炎で燃え続け、もう一生現世に戻ってくることはないだろう

――落下してくる岩石を左右に避けながら先に進む

徐々に来た道のように変化しており、もうすぐで出口だと直感が言っている

 

魈「…貸せ」

蛍・瀞「え?ちょ――!!!」

 

いきなり二人の手を取った魈は、蛍を抱えあげて瀞を方に乗せる状態になる

そしてかなりのスピードを出して後方の崩壊から差をつける

 

パイモン「もうすぐ出口だ!」

 

パイモンの声で一気に駆け抜ける

もうすぐ出口――と思ったのも束の間。たどり着いた先は何の変哲もない壁であった

それをみて瀞は思い出す。私達は物理的に入ってきたのではないことを

 

蛍「どうしよう…」

 

次第に崩壊は迫って来る

逃げ道のないこの空間をどのようにして逃げるか。魈は槍で壁を攻撃するが、謎の力で弾かれる。それを見た魈は察した。「この壁はここにいるものでは壊すことは愚か、傷をつけることすらままならない」ことを

―これは普通の壁ではない。業瘴で作られた壁だ。魈たち夜叉には妖魔を祓う力は有れど、業瘴を祓う力は無いに等しい。あったとしても自分の中に溜まった業瘴を祓う程度しか持てないだろう

 

魈「っ―――」

瀞「魈…それと旅人さん。あなた達だけでも逃げてください」

パイモン「え?!でもどうやって…」

 

瀞は両手を差し出し、目の前に大きな水の塊をつくりだす

それはまるで子を包む聖なる水のようで、目が惹かれるものであった

 

瀞「これに入ってください。これなら業瘴を弾いて外に出ることができるでしょう」

魈「…お前はどうする」

瀞「どうにかする。きっとどうにかなるから」

蛍「どうにかなるって…そんなの――」

 

―犠牲になるという意味――

 

そう蛍が言葉を発しようとした瞬間。頭上の天井が崩れてきた

ハッとしたのも束の間。考える間も無く次第に天井は迫ってくる。逃げるまでの時間は残り少ない。魈と旅人だけなら逃げれるかもしれないが、水の力を凝縮させた瀞もこの場に居るため無駄な動きは避けたい

―魈の攻撃なら天井を防げる?それは否。その天井が一枚の板のようなものであれば防げたかもしれないが、この天井は洞窟のようなもの。層岩巨淵のように業瘴が固まって出来た洞窟のような場所なのだ

故に魈がそれを防ぐわけにも行かない。だがこのままわけにも行かない。右往左往する思考を焦らせるかのように天井は迫ってくる

 

蛍「くっ…」

 

もうダメだと思い目をつむった瞬間――突如岩が砕け、崩れた天井から外の光が見えた

 

パイモン「なにが起こったんだ…?!」

「間に合って…良かった…」

 

声が聞こえた方を向くと、瀞によく似た姿の少女が立っていた

髪は毛先にかけて赤く、インナーは真っ赤に染まっている。しかし瀞のような優しい目ではなく、少し厳し目の目だが…

 

魈「お前は―――」

瀞「濫…!」

 

瀞は少女に駆け寄り、懐かしむように挨拶を交わした

 

濫「積もる話はあるけど―まずはここを脱出しなさい。みんな巻き込まれちゃ、元も子もないわ」

魈「だが我らは幽閉されている。以前と違ってこの不安定な業瘴を我は祓うことなど出来ないぞ」

濫「あなたに出来なくても私にならできるわ。私の力は業瘴を祓えるから。瀞、その水を貸しなさい」

 

そう言われて瀞は濫に水の塊を渡す。水の塊を手に取った濫はその水に自分の力を込めてその水に炎を纏わせた

水なのに炎で燃えているという不思議な現象。それはこの世のものとは思えないほどきれいなものであった

夜叉である彼女たちだからこそできる技なのだろう

―とその時。後方の方から勢いよく崩れてくる音が聞こえ始めた。もう時間は長くはないのだろう

 

濫「ここはもう沈むわ。だから早く逃げなさい」

瀞「濫はどうすn――ちょ―――!」

 

瀞が言い終わる前に濫は水の塊の中に三人を格納する

なにか言いたいように瀞は水の塊の中で声を上げるが、濫の耳には届かない。だけど、瀞の言いたいことはわかる。なんたって自分の妹なのだから

 

濫「そうだ、忘れないうちに渡しておくわね」

 

そう言って濫は手を差し出すと、手のひらが光輝いて、その光が瀞の胸の中に入っていく。光が完全に譲渡されると濫の体はすこし透明となり、今にも消えそうにそこに立っていた

光の正体は、瀞の肉体と濫の業瘴を祓う力の塊。つまり伐難としての力を完全に渡したと言うこと

その真意を悟った瀞は必死に水の塊から出ようとするも、濫が加えた炎によって遮られる

 

瀞『ちょっとー!濫!!!』

濫「ごめんね。助かる方法はこれしかないみたい」

 

そう言って濫は指をシュッっと上に切った

すると瀞たちが入った水の塊はふわりと宙を舞い、頭上の光を目指して上昇していく

―遠ざかっていく濫に向かって瀞は、必死にその水から出ようと藻掻くも、出ることは出来ない。魈も自分の力を使ってその水を発散させようとするも、一向に散る気配はなく、無惨に消えてしまう

 

魈『っ――二度も助けられたのに、我は助けられぬとは―!』

瀞『どうして…私のたった一人の妹なのに…―また失うなんて…』

蛍『……』

 

号哭は水に響く

濫を思って下を見た瀞は、業瘴が洞窟という形を成さずに波のようになって濫を飲み込んだを目撃する

その時の濫の顔はニコッと笑っていたのかもしれない。だが、瀞はそんなことよりも唯一人の妹を失った感情のほうが大きかった

 

瀞『濫―――!!!』

 

瀞は精一杯のちからで水の壁を押す

 

―失ったものを取り返さなくては

 

――もう二度と失いたくないから――

 

 

 

――『やめなさい。あなたは一人で生きれるでしょう』――

 

瀞「……うるさい」

 

――『私の役目は終わったの。これからはあなたの出番よ』――

 

瀞「…終わってない」

 

――『なんでわからないの?』――

 

瀞「…わかってないのはそっち」

 

――『優柔不断で罰を与えることも出来ないくせによく言うわ』

 

瀞「だからこそ――(あなた)が必要なの―!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、瀞が力をかけていた水の壁が壊れ、瀞は一人宙に放り投げられる

―これはチャンスだ。帝君が与えてくれたチャンスなのだという気持ちを持った瀞は一直線に欄がいたところに落ちていく

それをみた魈がまずいと思って後を追うとするも、蛍からそれを止められる

 

魈『どういうつもりd――』

蛍『行かせてあげよう。実の妹のために助けに行ったんだよ?』

魈『―――』

 

魈はなにも言わなかった

蛍が旅をする理由を知っているから。離れ離れになった兄を探して旅をしているという事実を知っているから何も言わなかったのだ

 

蛍『大丈夫、きっと戻ってこれるよ』



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16話 まどろみの中

沈む。濫は業瘴の海に沈み続ける。誰からの助けもなく、誰の声も届かない

私の旅はここで終わるんだと濫は心の奥底で思う。500年前とは違う自分の身が崩れるような感覚、そして意識の糸はもうほぼ切れかかっている

 

―最後まで瀞の夢を叶えることは出来なかった。逆に夢から遠ざけるような行為をしてしまった

 

反省しても、後悔してもその結果は変わることはない

魔神の業瘴の影響とはいえ、彼女が愛する者たちを傷つけ、魈にも酷いことを言ってしまった…それを謝れずにこの身が消えるのは、濫として忌避したいことだった

だが、その願いは叶えることがもう出来ないのかもしれない。幻境は力を保つことが出来ずに崩れ、濫は業瘴に囚われる…

 

濫「……瀞」

 

静かに沈む体の奥底から彼女の名前を吐く

共に生まれ、共に成長し、いつしか瀞を守りたいと思うようになり、帝君との契約を結んだ。彼女は幼い頃の記憶を失い、その事を忘れているが濫はしっかりと覚えている

―仙人の里に生まれ、安寧を謳歌していたが、その里を魔神に襲われたあの日のこと…そして瀞も頑張って応戦していたが、もう尽きそうだと思ったその直後、その魔神を岩王帝君がその魔神の心臓を穿ち、助けてくれた

そして名を与えられ、瀞と濫は岩王帝君と契約を結んだ

 

彼女が無意識に人を護りたいと思っているのは、その経験が体に染み付いているからであり、その恐怖をもう誰にも味あわせたくないと思っているから

そして濫もまた、瀞を守ろうと決意したのはその時の経験を瀞に味あわせたくないと思っているから

 

濫「…ごめん瀞。私はもう貴女を護ることは出来なそう。ごめんね…」

 

濫の瞳から冷たい一筋の雫が零れ落ちる

その雫は本当の濫のものであり、業瘴が関係しているものではなかった

しかし歌の魔神の業瘴はそれを許すことはしない。涙を流すから助けてやるなんてことはない。濫に再び油断があればその体を乗っ取り、再び璃月を危機に脅かすだろう

 

『―――濫』

 

沈みゆく濫に声が届く

それは懐かしい声で、今最高に聴きたい声であった

 

生まれた時からその声を聴き、共に楽しさを共感し、共に過ごしたその声

その子は、自らの力は危ういほど弱く、おっちょこちょいで心配になるほど。だけど誰かを守る時はそんな心配事もすべて無くなるかのように凛々しく、頼りがいのある姿になる

そんな彼女が――濫は好きだった。本当は復活したら真っ先に瀞に抱きつきたかった。業瘴がなければ真っ先に彼女と話をしたかった

 

水に飛び込むように業瘴に飛び込んだ瀞は濫に手を伸ばす

 

瀞『――濫、帰ろう?』

濫「どうして…私を現代に戻したら…また暴走するかもしれないわ―」

瀞『そんなの決まってるじゃん』

 

瀞は濫の手を強引に引き、優しく抱きしめる

それはまるで瀞が母であるかのような優しさで、瀞のその優しさが温かい

 

瀞『―濫は私の家族だから。家族だから私は助ける―濫がいなくなちゃったら私…もう立ち直れないかもしれない』

濫「私がいなくても貴女は――」

瀞『そんな事無い!』

 

瀞は抱きしめる力を少し強める

 

瀞『そんな事無いよ…私、知ってるの。私が業瘴に支配されないように頑張っててくれてたんだよね?濫がいなきゃ私、もうとっくも昔に業瘴に支配されてたかもしれない』

濫「―――」

 

濫は瀞が言った言葉に驚く

なぜならそれは瀞にバレるはずのない行為であったし、濫は瀞に取ってみればもう消失しているだろうと思っていたから。確かに濫としての体は消滅した。だが、精神は瀞の中で生存しておりと瀞に影響を及ぼす業瘴を取り除いていた

しかし瀞は自分の中で濫が生きていて、手を貸してくれている事を最近わかった。なぜなら濫は純粋だから。契約をしっかりと守る素直な子だから

 

瀞『―もし暴走しても助けてくれる。六花や魈、そして私達を助けてくれた旅人がいる。安心して――帰ろう?』

濫「――うん」

 

再び濫の瞳から一筋の雫が流れ出る

しかしそれは暖かなものであり、この冷え切った体を温めるようなものであった

こんな感情は今までに感じたことがない。濫はそう思い、瀞と一緒にこの業瘴の海から脱出することを決めた

―帰ったらみんなで料理を食べよう。あの日帝君から教示してくれたあの料理をみんなで食べよう。そして今日という日をもう誰も経験することのないように――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

濫「ここは逃げなさい!!!!」

 

瀞「いや!私は…この里を守る!!!」

 

濫「そんなこと言ったって――弱っちいあなたがあの魔神に対抗できるはず無いでしょう!!だから逃げるのよ!ここは私に任せて――」

 

瀞「いや!!!私は……みんなを助けたい!こんな私だけど…こんな時にしか役に立てないから!!」

 

そのいつもからは感じられないその凛々しく、頼りがいのある背中は濫の心を揺さぶる

大きな手を広げ、自らを犠牲にするかのように守ろうとする瀞をみて少しの危機感を覚える。下手したらどこまでも背負い込みそうで心配になる…

 

「仙人よ、ここで死ねよ」

 

瀞「っ――――」

 

濫「!!!!」

 

その瞬間、魔神の核となる部分は巨大な岩の槍で穿かれ、魔神は跡形もなく消え去った

何が起こったのか分からず呆然とする2人は、寄ってくる1人の見しれぬ男性に怯える

 

その男性が2人に手を差し出すと、濫はまるで犬のように敵意をむき出しにし、何があってもいいように備える

 

しかし、男性は優しく微笑み「大丈夫だったか」と声をかけた

 

「魔神の脅威は消えた。これから、この里で生き残ったものを集める。それまで休んでいろ」

 

男性はそう言ってその里に残った人々を探しに巡回を始める

 

瀞「たす…かった…」

濫「………なんなのかしら……あの人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「料理を教えてほしい?」

 

濫「ええ。あの料理、美味しかったわ。さっきの苦悩が無くなるくらいに」

 

「…俺は料理はあまり得意では無いが…」

 

濫「いいわよ。みんなに振るうものじゃなく、私とあの子で分け合いたいの」

 

「――彼女か。君にとって彼女はどんな存在なんだ?」

 

濫「――私の妹で…私の大切な家族よ。だから守ってあげなくちゃならない」

 

「大事な家族か――いいだろう。だが、俺の料理をマスターするには長い時間がかかるぞ。それでも良いのなら」

 

濫「いいわよ。これから彼女とそれよりも長い時間過ごすのだもの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし本当に俺が主でいいのか?」

 

濫「ええ。私たちはあなたに助けられた。なら私達もその恩を返さないと行けないじゃない?」

 

「…そうか。ならば名を授けよう。君の名は…瀞。清らかな心で人を守るという意味だ。そして夜叉の名を伐難。人の難を伐し、難を解せよ」

 

瀞「はい!これからもよろしくお願いします!帝君」

 

「それじゃあ君の名は…濫。もしみだれる道を踏んだとしても、その傍には支えてくれる仲間がいるという意味だ。夜叉の名は………」

 

 

 

ずっと忘れていた記憶。本当の濫が生まれた時の記憶

それは瀞と帰還する時に与えられた温もりから得たもので、1人では思い出すことのなかった記憶

そして本当の自分になれたその記憶は…

 

 

「夜叉の名を"喫焚(きつふん)"。その意味は、人の業を喫し、俗世の悪を焚せよ」

 

濫「ええ。帝君の意のままに」



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17話 水はどこまでも

留雲のプレイアブルまじで可愛い


一足はやく現世に戻った二人は、助けに行った瀞のことを心配しながらその場で待つ

業瘴の門は主が消えたことにより霧散。そこにはいつも通りの景色が広がっていた

 

魈「……」

 

崩れた門をじっと見つめる魈。何も考えていないように見えて、おそらく彼も瀞の帰りを心から心配して待っているのだろう

…青虚浦に流れる心地よい水の音が二人の耳に流れる。だが、その音は二人にとって悲しい様な音に聞こえる

 

「降魔大聖」

 

背後から魈の名前を呼ぶ人の声が。聞き覚えのある声に、魈はゆっくりと振り向く

そこにいたのは、人の姿となった留雲であった

 

魈「留雲…」

留雲「まず礼を言おう。妾の弟子の救助感謝する」

魈「いや…我は―――…我は仲間からの頼みを果たしたまでだ」

 

魈は少し悲観の声を漏らしながらそう答える

だが、留雲はその言葉を否定する。たとえ他人から頼まれたものであっても、魈がやった事実は変わらない

助けたのは他でもない魈なのだと

 

魈「…だが、我は助けられなかった…」

留雲「瀞のことか?」

魈「あぁ。あいつは脱出する最後に自身の家族を救うために業瘴の中に飛び込んだ。我は…」

留雲「悔やむ必要はない。あやつはそういう娘だ。妾でも止めることは不可能だっただろうな」

 

――出会いは帰離原を駆け抜ける風のように。

幾度の時を共に過ごそうとも、ふとした時に風は駆け抜けて自分の下から離れてしまう

それは仙人であれば避けられない事実。変えられない世界の天理。共に過ごした友人は塵と化し、姿が消えた友人を目にしてきている者たちではあるが、その事実を事実と認めたくない

 

「…あの、悲しんでるところ申し訳ないんだけど…」

 

突如足元から瀞の声が聞こえた

ふと足元を守ると、そこには蛍の手ほどの大きさの水の塊が青い光を点滅させて放っている

留雲はそれをヒョイッと拾い上げ、目の前に出してそれが瀞なのかを確かめるように話しけた。すると水の塊は、私こそが瀞だと言い放った

仙力を使い果たしたことによって、自分の姿を確立できなくなったためこのような姿になっているそうだ

 

瀞「少し安めば元の姿に戻ります。それと――”彼女”から言いたいことが――」

 

水の塊から青い光がすぅっと消えて、代わりに赤い光が灯った

そこから瀞と似たような声が聞こえてくる。優しげな瀞と違ってすこしきつめな声質が

 

「みんなごめんなさい」

留雲「その声は…濫か?」

濫「えぇそうよ。業瘴に飲まれていたとはいえ、私が傷つけたことには変わりない。ごめんなさい」

蛍「無事で良かった。それと…助けてくれてありがとう」

 

その言葉に濫は困惑する

なぜ自分がお礼を言われるのかわかっていないようだった

 

濫「…ありがとう…?―――お礼を言われるようなことはしてないわ。私はただ………」

魈「お前のおかげで我らは脱出できた。我からも礼を言う。二度の救助感謝する」

濫「……」

留雲「濫よ。業瘴に冒されたお主がやったことは夜叉として良くないことだが、そんな最中でもお主は人々を救った。それだけでお主の罪は晴れたのだ。もしそれでも自分を悔いるというのなら―――夜叉として人々を救えばよい。かつての帝君に誓ったようにな」

 

それを聞いた濫は黙り込み、次第に水の色が消えて瀞に戻った

留雲の言葉に感化されたのだろうと瀞は語るが、真相が定かではない

瀞を胸元にしまい込み、人の姿から鳥の姿に留雲は変身して蛍達に口いう

 

留雲「さて、妾はもう行くとする。申鶴のこともあるしな。瀞は妾のとこで預からせてもらうぞ」

パイモン「おう!お前も傷ついてたし早く休めよ〜!」

 

バサバサと大きな翼を羽ばたかせて留雲は自分の仙府へと帰っていった

魈も次第に帰るようで、色々あったから休んでほしいと蛍が言うと、魈は少し顔を背けて「お前もな」と言って去ってしまった

すべてが終わった青虚浦に流れる水の音がパイモンと蛍と包み込み、二人の行方を追いかけるかのようだった

 

パイモン「なぁ旅人!万民堂の料理食べに行かないか?」

蛍「唐辛子マシマシで頼もうか」

パイモン「げっ…それは厳しいかもな…」

 

一度翻った水はもとに戻ることはない。だが水は再び結合してまた新たな水になる

二人の命運は、その再び結合したところから始まっていくのだろう




もう一話で瀞の伝説任務を終了したいと思います


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