エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を (江藤えそら)
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Epilogue: 終焉、そしてハジマリの聖女
地球最後の見届人


前作についての話などは後ほど活動報告などで詳細にお伝えしようと思います。


 

 

 

 

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 ◆◆◆

 

 

 

 赤茶けた大地に朝日が差す。

 しかし、その光を享受する生物はいない。

 

 かつて豊饒の大地が広がっていた陸地には枯れ草が頭を垂れ、干上がった川は乾燥してひび割れた泥を晒すのみであった。

 どのような生物のものかも分からぬ骨が風化して空を舞う。

 

 

 ここは、”地球”。

 宇宙の奇跡が生んだ生命と繁栄の星。

 

 だが、繁栄を極めた生物種はもうどこにも残っていない。

 生物の痕跡も土に還り、やがて星の環境に同化していくのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつてこの地には”人間”がいた。

 数ある生物種の中で卓越した知性と団結を得たこの生物は僅か数千年で地上を支配し、地上に栄華を築き上げた。

 

 しかし、あまりにも優れたる知性は人間そのものを淘汰していった。

 知性と感情の弛まざる進化の果て、人間は一つの本質を得た。

 

 

 ―――”絶望”

 

 

 希望を求め、野望を抱き、渇望に溺れ、失望に震え、羨望に身を焦がし。

 ある者が笑い合うすぐ横で誰かが憎しみ涙し合う、歪な構造を本質に抱いたまま進化を続けた。

 

 そして限界を迎えた。

 

 災害、戦争、飢饉、自死。

 引き金は多々あれど、起こる過程は皆同様であった。

 

 危機的状況においても、なお人類は”絶望”に向かい続けた。

 互いを憎しみ、奪い、殺し尽くした。

 人類が種として団結を期す機会は、ついぞ訪れなかった。

 

 ―――これこそが、進化した”知性”の行き着いた結論だった。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 全てが死んだ空間で、少女は自らの息遣いだけを聞いていた。

 

 遠くの空でまた一つ、破滅の”光”が瞬いた。

 一瞬の閃光の後、長大なキノコ雲が天空へ向かって頭を伸ばしてゆく。

 しばらく後にその爆風が少女のいる空間にも伝播し、弱り切った少女の体は今にも吹き飛ばされそうになりながら地面に倒れ込む。

 

 爆風が通り過ぎると、少女はゆっくりと立ち上がり、うつろな目で前方に這いずり進む。

 ボロボロに破れた軍服も、砂にまみれて乱れ切った金色の髪もそのままに。

「応答………」

 少女はかすれた声でそう呟く。

 彼女がそう呼びかけた小さいタブレットの画面には、何も映っていなかった。

「応答を……」

 漆黒の画面のまま変化のないタブレットを砂の中に取り落とすと、少女は瓦礫にもたれかかるように座り込む。

 

 少女が空を見上げると、遥か高空を”文明の残りカス”が飛行しているのが見えた。

 操作する人間も指示する人間もなく、ただ敵とみなした相手を発見しては殺すだけの無機質なガラクタ。

 そのガラクタが彼女に気付かずして高空を通り過ぎていったのは、僥倖と言えるだろうか。

 

「アルバトロスより……CP……三中隊は既に壊滅……現在…単独行動中……指示を求む……」

 誰に呼びかけるでもなく、少女は呪文のように意味のない言葉を呟く。

「応答……応答を……」

 もう何度その言葉を繰り返しただろうか。

 

 

 三日前、最後の戦友が死んだ。

 少女より二つ下、14歳の子供だった。

 髪も歯も抜け落ちた顔に涙を浮かべ、何度も助けを乞う声はいつしか虚無に置き換わっていた。

 

 それが、彼女が最期に見た自分以外の人間だった。

 

 通信機器もインフラもとうの昔に破壊され、世界の現状を窺い知る手法すらない。

 ただ”文明の残りカス”から身を潜めて荒野を彷徨うだけの日々。

 

 この星にはもはや誰もいない。

 少女以外の何者も存在しない。

 

「……誰…でも……敵でも…いい……」

 乾いた頬を伝うはずの涙すら枯れ果てていた。

「誰か……誰…か………」

 

 絶望の狭間から絞り出された声は、虚空の中にかき消され―――。

 

 

 

 

*「さァて本日はこのようなところまでお集まりいただき、まことに感謝、感謝にございます」

 

 

 

 

 

 もう一つの声となって帰ってきた。

「…!??」

 少女は最後の力を振り絞って立ち上がる。

 呼びかけることもせず、ただ声が聞こえた方向に本能のまま歩みを進める。

 

*「皆様方、さぞかし遠い遠いところからおいでになられたのでございましょう。…私は家からここまで徒歩六分でございます」

 絶望的な状況とは裏腹な明るく快活な声が響き渡る。

 

 そこは、地面から天に向かって大きな鉄骨の残骸が突き出した廃墟の中心部。

 倒壊した建物の中、瓦礫に覆われた小さな空間の中に、その声の主はいた。

 

「生存者…………?」

 少女は目の前の光景が信じられないと言った様子で小さく呟いた。

 

 少女の軍服と同じように破れてはだけた和服に、砂と煤で薄汚れた肌。

 しかし満面の笑みで語り掛けるその姿に、少女はある種の恐怖と安堵を同時に感じていた。

 

 

*「さて、まずは私を知らぬお客様のために今一度名乗りを上げさせていただきましょう」

 

 その時、少女は気付く。

 笑顔で口上を述べるその女性の首元の皮膚が裂け、機械が露出していることに。

 

「アン…ドロイド……?」

 少女は自らが見つけたものが生身の人間ではないことに失望の念を抱きかけたが、すぐにそんなことはどうでも良くなった。

 そんな少女に対して、和服姿の女は口上を続けた。

 

 

*「私は吹屋喜咲(ふきや きさき)、巷にてありがたいことに”超高校級の噺家”の称号を頂戴しております女流噺家にございます」

 

 

「超高校級…? 噺家……?」

 聞きなれぬ単語の数々に少女は首を傾げる。

 

「ええ、噺家です!」

 スピーカーのように一方的に話していた女性が突如自分に話かけてきたことに少女は驚く。

「ご存じないですか? ええ、無理もないでしょうねえ。こんな世の中じゃまともな勉学だって積めるわけわけがありませんから」

「………?」

 少女には目の前の女性が自分とは一切一線を画す存在のように思えて身構えずにはいられなかった。

 感情を持つアンドロイド自体は彼女にとって珍しいものではなかったが、人間とアンドロイドという垣根以上の根本的な違いを感じてしまっていたのだ。

 彼女は、自分の知らない世界を無限に知っている。

 

「さて本題に入りましょう。ちょっと長くなりますがお耳を拝借。

 かつてこの世界は”希望”と呼ばれる英雄たちが”絶望”と呼ばれる存在に立ち向かい、世界に希望を取り戻させることに成功しました。もう千五百年以上も前の話です。いえ…むしろ、その人たちのおかげで()()()()()()()()のでしょう。人間の知性と感情というものは、自らを制御するにはあまりにも膨大で、自由過ぎたのです」

 

「この破滅は人間の宿命です。人間が知性と感情を持つ限り避けられぬ宿命なのです。もしそれを根本からひっくり返そうとしたら……それはそれは大変なことだと思いませんか?」

 

 何が言いたいのだ、と言わんばかりに少女は怪訝そうな顔をすると、吹屋と名乗ったアンドロイドはくすりと笑いをこぼした。

 

「私はこれまで、”絶望の脚本”と呼ばれるものを語り継いできました。さっきあなたが耳にした口上も、その”枕”にあたる部分です。私はこの脚本を語り継ぎながら、あなたが来るのをずっと待っていました。まだ希望が絶望に立ち向かっていた頃……千五百年以上前から、ずっと」

「私を……? 千五百年も前から……?」

「ええ。人類最期の生き残りが”聖女”となり世にもう一度希望を満たす時が訪れたのです。

 この空間の地下に、私達が千年かけて作り出した卒業制作があります。あなたは今から私が言うことをよく聞いて、余剰人類計画(プロジェクト・エクストラ)を発動するのです」

「聖女……? 卒業制作……?? プロジェクト・エクストラ……??? 待って、全然話が分からない…。あなたは何者で、私を使って何をしようとしているの?」

 吹屋が言葉を紡げば紡ぐほどに少女の顔は混乱に染まってゆく。

 

「あちきは…いや失礼、私はこの世界に絶望を語り続けてきたもの。そして、この世界に希望を取り戻すもの。理解などできなくても問題ありません。装置が起動すれば、私たちの”認識”は全てあなたの脳内に流れ込む」

「装置……? 地下に装置があるの? まだ稼働する先端機器が?」

 少女はここ数か月、人類の統制下で稼働する機械を見ていなかった。稼働できる機械は全て人間の管理を華ね、無秩序な破壊行動を繰り返すばかり。

 人類は戦争の果てに自らが生み出した機械の制御方法すらも失ったのだ。

 

「操作は簡単です。円筒の中に入って、たった一つのスイッチを押すだけ。そして私が教える合言葉を音声認識させれば、それですべてが始まる。……くすくす、全ては脚本通り、でありんしたね」

 吹屋はいつしか少女ではなく、赤茶けた虚空に向けて言葉を呟いていた。

 

 その時、爆風が二人を不意に包み込む。

「ッ!!!」

 少女は咄嗟に吹屋を抱えて地に伏せる。

 砂埃が二人の視界を覆いつくす。

 

 上空から”文明の残りカス”が囂々と駆動音を鳴らしながら荷電粒子砲を乱射していた。

「見つかった……!」

「あはは……思ってたより早かったでありんすね」

 狼狽する少女に対し吹屋は少し儚げな笑みを浮かべる。

 続けざまに撃ち放たれる光線は、しかし二人の肉体を捉えることはない。

 長い戦乱の果てに殺人兵器すらも既に寿命を迎えつつあるのだ。

 

「さ、もう時間がないでありんすね。ゆっくり説明したかったけど、早く地下へ」

「え、!?」

 吹屋の口調がいつの間にか変わっていることに少女は違和感を覚えていたが、それを問い詰める余裕はなかった。

「あ、あなたも早く!」

 呼びかける少女に吹屋は首を横に振る。

 そして柔らかな笑顔でこう告げた。

 

 

 

「お行きなさい、キリウ

 

 

「……!! どうして私の名前を?」

 少女の言葉が吹屋に届くことはなかった。

 着弾した光線が閃光となって二人の視界を包む。

 

 

 

 ”地下に入ったら、すぐに突き当りの右にある円筒の中へ”

 

 

 遠のく少女の意識の中で吹屋の声がこだまする。

 私はまだ生きているのか、と少女が自覚するよりも先に体が動き出していた。

 

 ”スイッチは一つだけ。押したらすぐに合言葉を”

 

 何故自分がここにいるのか、何故自分が生まれてきたのか、そんなことは少女には分からない。考えたこともない。

 けれど、今この瞬間に自分に役目を与えられると、不思議なほどに盲従してしまいたくなる。

 まるでそれが自分の生まれてきた意味であると理解しているかのように。

 

 ”合言葉は―――”

 

 吹屋はどうなったのだろう。この世界はどうなるのだろう。人類はどうなるのだろう。希望は。未来は。明日は。私は。

 そんな思考も全て置き去りにして時間は進んでいく。ただ刻まれる時間と共に無慈悲に物理現象が発生していく。

 

 

 

 ”『希望の蔓に絶望の華を』

 

 

 

 少女が吹屋の声に重ね合わせるようにその言葉を呟くと、突如として周囲の時空が歪む。

 頭に流れ込む。人類が数千年かけて生み出してきた技術と知恵、その先にあるもの。

 驚愕すらも追いつかないほどの速度で全てが構築される。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 少女には夢があった。

 小さな栄養食のカケラを齧りながら、昔の人間達が過ごしていたであろうありふれた生活を思い浮かべ、夢の中だけでもそこに混じって平和に暮らそうと、そんなことを日々考えていた。

 ”娯楽”という概念を知りたい。

 昔の人間は何を楽しいと思い、何をして笑っていたのだろう。

 

 笑いたい。笑わせたい。

 自分も他人も笑顔にできるような、そんな”聖女”になりたい。

 

 

 烏滸がましくも少女はそう思ってしまったのだ。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

『やっと会えたでありんすね―――人類最期の希望、終焉の聖女”キリウ”』

 

 

 

 今ここに、人類は死に絶えた。

 

 




七年ぶりに始まります。
あらすじと全然書いてる内容違うじゃないか、と不満に思われた方はゴメンナサイ。次回こそ皆さんが思ってた感じになる…はず。


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Prologue: Time for desperate "death"
Advance to the "extra"


 

 

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 ◆◆◆

 

 

 黒板にチョークで文字を刻む心地よい音を聞きながら俺は目を覚ました。深く深く熟睡していたようで、目を開けた後もしばらく脳が働いていなかった。ぼんやりと視界に移るのは、教卓に腰を掛けて黒板に何かを書く白衣姿の男性の背中だった。

 授業中だったのだろうか。いや、俺は。

 

 

「おう、遅かったな」

 その言葉は妙に俺の意識を研ぎ澄まさせ、現実に引き戻させた。その言葉を発したのは目の前にいる白衣の男だった。記憶にない顔だ。いや、そもそもここはどこで俺はどうやってここに来た?

「お前が起きねえから黒板が埋まっちまったじゃねえか。こんなことするのはガラじゃねえが、黒板に板書するってのはなかなか新鮮な気持ちになるな」

 男はひょいと教卓から飛び降りた。くせのある黒髪と顎の無精髭が一番に視界に入る。俺と同年代か、少し上くらいの人だろうか。黒板には何か複雑で学術的な内容がびっしりと書いてある。図のようなものも添えてあるが、内容はさっぱり分からない。

 

「………」

「うん~? ああ、何が何だか分からねえってか。安心しろよ、オレもだ」

 白衣の男は薄ら笑いを浮かべて俺の方に近寄ってくる。いろいろ思考したいし対話したいが、俺の頭はまだ半分寝ている。

 

「さて、名前が分からきゃ会話もできねえな。 オレは釜利谷三瓶(かまりや さんぺい)。”超高校級の脳科学者”だ」

「……釜利谷」

 ぽつりと反復したことに意味はなかった。だが、彼が発した言葉で俺はいくつか思い当たることがあった。”超高校級”。そうだ。俺は”超高校級の脚本家”としてこの学園に招かれたんじゃなかったか。

 

 

 

 

「はは、寝起きで脳が動いてねーのか? 脚本家さんよ。わりぃな、あんまり無防備だからコレ見ちまった」

 そう言って釜利谷三瓶と名乗った男性は胸ポケットから一枚の学生証を取り出した。俺の名前と才能が書いてあるこの学園の学生証だ。彼は特に執着も見せず学生証を俺が座っている机の上に置いた。

 

 

 ”超高校級の脚本家” 葛西幸彦

 

 そこには間違いなく俺の名と「才能」が書いてあった。こんな学生証を貰った記憶はない。俺はいつどうやってどんな経緯でこの学園に呼ばれて、どうしてここにいるのか。そうだ、この学園は―――。

 

 


 

 

―――『私立 希望ヶ峰学園』は、「希望」と呼ばれる高校生を集め、育成するための学園である。

 

 入学できる生徒は学園からスカウトされた人間のみで、その条件は二つ。

 

 現役の高校生であることと、各分野において超一流であること。

 

 


 

 

 俺が覚えている限り、希望ヶ峰学園はそんな場所だ。俺はこの学園に”超高校級の脚本家”として呼ばれたのだ。

 

 正直言って、才能の有無で人を区切るシステムはあまり好きではない。その才能というものも、不特定多数の人間が恣意的に決めたものに過ぎない。だが、才能を認可された俺がこんなことを言うのも、選出されない人達からしたら嫌味に聞こえるだろうか。

 そんなことを言いつつも、俺はこの学園の招待を承諾した。世の中のためになりたいとか、名誉や栄光が欲しいとか、そういう大きな展望はなかった。ただ才能あふれる”希望”達の中で自分がどれだけ輝けるか試してみたかった。それで折れるようなら自分はそれまでだったということだ。

 俺はただやりたいように脚本を書いてきた。この学園でもそうあれれば満足だ。

 

 

 ――そんな学園への思考が一瞬で脳内を通り過ぎ、机に無造作に置かれている学生証が俺を眼前の世界へと引き戻した。

 

「…こんな学生証、貰った記憶はないけど」

 俺は確かに入学を受理したが、学生証を貰った記憶はない。今こうして目の前にあるこれは一体なんだ?

「そうなのか? まぁポケットに入ってただけだからなぁ。寝てる間に誰かが忍ばせたのかもな…」

 釜利谷と名乗った男はわしゃわしゃと髪をかきむしりながら言った。知らない場所にいる知らない男だというのに、何故か敵意や違和感なく会話ができる。まるで慣れ親しんだ昔馴染みのような…。違和感がないこと自体が違和感だ。

 

「ここは…学校? 教室みたいだけど」

 俺は率直に気になっていることを尋ねる。ポケットに手を突っ込むがスマホも財布もない。私物がないのは一体どういうことだ。常に肌身離さず持っていたはず。

 

「ここは希望ヶ峰学園だよ。俺らが入学するはずだった場所だ」

 釜利谷君は平然な面持ちでそう言った。キュッキュッと音を立てて黒板消しを黒板にこすりつけ、自らが書いた複雑な板書を惜しみもなく消していく。

「…そうなの?」

 気の抜けた返事しか出なかった。

「ああ、そうだよ。廊下を出たところに案内板があってな。希望ヶ峰学園特別分校って書いてあった。ソイツを鵜吞みにするならここは希望ヶ峰学園ってコトだ」

 

 釜利谷君はやけに淡々とした様子でそう告げる。俺は希望ヶ峰に入学しようとしていたのだから、ここが希望ヶ峰なら納得ではある……いや、納得できるはずがない。そもそも俺は今朝どこで目を覚まして、どういう動線でここに辿り着いた? 何故教室で寝ていた? 何故私物がなくなっている? 俺の脳裏にはその答えとなるようないかなる記憶も呼び覚まされることはなかった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

「おっ、ここにいたのか」

 俺の思考は第三者の明るい声にかき消された。茶髪でぱっちりと大きい目をした青年が教室の入り口にいた。見知らぬ人物だが、漂う雰囲気からは不審者のようには思えない。

「もうみんな体育館に集まってるぞ。お前達も早く……ってこの人誰だ?」

 青年は俺の方を見て目をぱちくりさせる。俺も同じ気持ちだ。

「ああ、こいつはこの教室で寝ていたオレ達の仲間だ。”超高校級の脚本家”、葛西幸彦だとよ」

 釜利谷君が青年に向けて説明した。青年とは知り合いだろうか。

 

「ふ~ん。ここにも人がいたのか。俺も気付いたらここにいてさ。普通に怖いよな…。な~んか現実味がねえんだけど。とりあえず俺は前木常夏(まえぎ とこなつ)。一応才能は”超高校級の幸運”。よろしくな」

 彼は不安そうな顔を見せながらも、すぐに屈託のない笑みに切り替えて手を差し出す。幸運などという才能もあったのか。希望ヶ峰学園の選出基準はよく分からない。

「ああ…うん。よろしく…」

 言いたい紹介を全て釜利谷君に言われてしまったので、ぼそぼそと独り言のような挨拶しか出てこなかった。どうも初対面の人物との距離の詰め方が分からない。一人で籠りきりで脚本を書き続けていたせいか、人付き合いは得意な方ではないのだ。

 前木常夏と名乗った青年の手は細いが温かかった。

 

「そういうわけで体育館に行こうか、葛西」

 俺達の握手を見届けた釜利谷三瓶がそう切り出す。

「実はな、オレ達のようにいつの間にかここに連れてこられた生徒が結構いてな。同じ境遇の者同士、顔と名前くらいは合わせといたほうがいいだろ?」

 釜利谷君はすらすらと俺達が次に行うべき行動を告げてゆく。何故かこの男には俺や前木常夏という男……これからは前木君と呼ぶべきだろう。彼のような動揺や不安が感じられない。一体どうしてなのだろうか。

 

 教室を出ると扉が並ぶ廊下に出た。床も壁も白く、病院や高級オフィスのように綺麗で新しい。確かに希望ヶ峰学園というならそれくらい綺麗な校舎でもおかしくはないが、未だにここが希望ヶ峰学園であるとは俄かに信じがたい。

「こっち」

 と先導する前木君は迷いなく廊下の奥へと俺と釜利谷君を連れて行く。彼らは俺が目覚めるよりも前からこの建物の中を散策していたのだろうか。

 

 やがて俺たちはエレベーターの前に辿り着いた。体育館に行くと言っていたが、今俺達がいる場所は一階ではなかったのか。

 

「ここ、何故か階段がなくてさ。エレベーターで上下移動するしかないんだよ」

 そう言って前木は階層のボタンを押す。階層ボタンには「1F」「2F」…「4F」と続き、「4F」の上には「屋上」のボタン。そして「1F」の下に「体育館」というボタンがあり、さらにその下に何も書いていない空白のボタンが一つ。

 

「お前が起きる前にいろいろ試したんだが、1階と体育館以外のボタンは全部反応しなくてな。オレらが今の時点で行けるステージはこの二つだけってコトだ。ゲームみたいで面白いよなあ」

 釜利谷君が危機感のない笑みを浮かべる。そんな悠長に構えていられる状況なのだろうか。

「三ちゃんって不思議だよな~。こんな状況でそんなジョーク言えるかね?」

「”三ちゃん”ってのはオレのことか? はっ、そんな風に呼ばれたのは初めてだ」

 エレベーターの中の軽快な会話を俺はぼんやりと聞いていた。確かに不思議だが、その姿が自然にも見える。釜利谷君もだが、俺自身も何か既視感のようなものを持っているのだろうか。

 

 エレベーターの扉が開くと、薄暗い廊下の奥に大きな扉が開いていた。廊下の左右にはガラスに覆われた陳列台とその上に並べられた各種トロフィーが飾ってある。どれも世界大会レベルの表彰で、確かに希望ヶ峰学園なら持っていそうな代物ばかりだ。

 

「行こうぜ。みんな待ってる」

 釜利谷君が廊下の先へと歩き出す。前木君がそれに続き、俺も続いた。それ以上の会話はなく、はやる気持ちが体育館への足を早めさせた。

 

 

 開いている扉の向こうには、眩しいくらいの照明と広々とした空間。天井付近に鉄骨が走ったよくある体育館だ。エレベーターで来たということは俺が寝ていた教室の真下にあたる空間のはずだが、この建物の構造がよく分からない。ともかくその広く、少し肌寒い空間の中央に見慣れない男女が集まっていた。

 

「よォ、新入りだ。そっちも何人か増えてるな」

 釜利谷君が陽気に笑いながら彼らの方へと歩を進める。「ほら、自己紹介しようぜ」と前木君が俺の袖を引っ張って後に続いた。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

「へぇ~~、脚本家ね。なんかそんな人いるって聞いたことあるかも?」

 数分後。簡単な自己紹介を済ませると、キャップを被った水色の髪の少女が答えた。彼女のことは知っている。超高校級のダンサー、亞桐莉緒(あぎり りお)。イベントや動画サイト、SNSで非常に有名な人物だ。いきなりそんな人が目の前にいて動揺を隠せなかった。

「吾輩は知っておるぞよ~! いつも自作のストーリーの参考にさせてもらっておるのでな~」

 茶髪を三つ編みにしたベレー帽の少女が続く。言動と恰好から察するに漫画家…だろうか。顔は知らないが、彼女は俺のことを知っているらしい。

 

「…皆さんも、気づいたらここに?」

「その通り。上の教室や休憩室など、様々な場所で目を覚まされたとのことで…。この状況に全く心当たりがなく困っているのですよ」

 俺の問いかけに青いスーツで銀髪の青年が答えた。爽やかで清潔感のあるその姿、テレビかどこかで見たような記憶がある。彼も相当な有名人なのだろう。

 

「でもまあ? 同じ境遇の奴らがこんだけいるならなんとなく安心だな! なんてったって俺たちは”超高校級”なんだからな!」

 と、前木君がどや顔で言い放つ。全く根拠のない自信だが、確かに彼らの能力はある分野においてはずば抜けている。思えばこんなわけの分からない状態でも平然と自己紹介と雑談をしている時点でだいぶ肝の太い人達だ。この状況に対する答えが早めに見つかればいいのだが……。

 

 

 

「って思ってるとこ悪いんだけどさぁ」

 

 その空間に衝撃が走る。突然流れ込んできた声はここにいる誰のものでもない。体育館全体に響くスピーカー越しの声だったのだ。

 

「なんだ!?」と前木君が叫ぶや否や、それは起きた。

 

 

 ◆◆◆

 

 

 体育館のステージ中央に鎮座する台。校長先生が朝礼の時に前に立つような、ありふれたマイク付きの台。その台の後ろから、何かが高く飛びあがった。目を凝らす間もなくそれは台の上に着地し、両腕を高く掲げてポーズを決めた。そう、それには確かに腕があった。腕と足と、丸い耳に斑模様の入った目……。

 

「パンダ…?」

 俺は思わず呟いた。パンダの人形が台の上に悠然と腰かけている。片眼は黒くつぶらな、もう片方は赤く細い不思議な形状の瞳をしている。これは一体なんだ?

 

 

「呼ばれてないけど飛び出てじゃじゃじゃじゃじゃじゃーん!!」

 そのヌイグルミは唐突に甲高い声で語呂の悪い決めセリフを言い放った。「わっ!」と数人の驚く声が体育館に響き渡る。

「オメーラよく来たなあ!! テンポよくここまで集まってもらっちゃって助かっちゃったぜ! 冒頭のグダグダって毎回内容同じな割に長くて書くのめんどいからな!」

「何コイツ……コイツが喋ってんの?」

 水色の髪の少女――ダンサーの亞桐さんが怪訝そうな顔で言う。

「ボイチェンを介してリアルタイムでナレーターが話しているんじゃないかしら。こういう技術は見たことがあるわ」

 横に立つ黒髪で黒いコートを着た少女がそう告げる。そういえばまだ自己紹介の途中だったが、彼女もどこかで見たような顔をしている。

「それではこれから全校朝会を始めるぜ! 出席番号1番! 入間ジョーンズ!」

 ヌイグルミからは相変わらず高い声が響いている。誰かの名を呼んだようだが、この場にいる生徒の中でそれに答えたものはいなかった。

 

「…そんな技術があるとして、ここでヌイグルミが出てくることの説明にならないだろ。一体どういうことだ?」

 黒髪の少女の言葉を受けて前木君が口を尖らせて言ったセリフはまさにその通りで、俺を含め誰もがこの状況に混乱しているようだった。何一つ状況が読み込めない。

 

「えーっと、いろいろ分からないことはあると思うんだけど、人生ってのはある事象の答えが出るまでじっくり待ってくれるモンじゃなくて」

 戸惑う俺達をよそにそのパンダのヌイグルミは話し続けていた。一応俺達の喋っている言葉は認識しているようだが、向こう側に操作している人間がいるのなら会話もできるのだろうか。

「腰を据えて考えようとすればあっという間に終わっちまう、つまり答えの見えない事象こそがデフォルトであってだな」

「おい、質問に答えろよ! 引率の先生とかはどこにいるんだよ?」

「あー……だから答えを見つけるまで先に進まないってのは悪手で、何が何だか分からない状況だからこそガムシャラに前に進むのが若いうちは必要だなと」

 前木君が苛立たし気に尋ねるが、全く会話が嚙み合っていない。発展途上のAI技術か何かなのだろうか。希望ヶ峰学園が何か新しい発明品でも披露して俺達を迎えようというのか?

 

「もう!! いい加減にするでありんすよ!!」

 ヌイグルミよりさらに甲高い女性の声が響く。振り向くと、和服に身を包み、栗色の髪を(かんざし)で留めた女性が赤く染まった頬を膨らませて怒っていた。

「気付いたらいつの間にかこの学園にいて、ワケも分からないままヌイグルミに出迎えられて、生徒を何だと思ってるでありんすか!?」

 独特の口調で少女は拳を激しく震わせながら怒鳴りつけた。言い方は荒いが、思っていることは皆同じだろう。

 

「あ? ちょっと待て…」

 何故かその声を聞いて釜利谷君が眉をひそめた。「あ……?」と不可解そうに顎に手を当てている。俺達と同様にこの状況に混乱しているだけだと思ったが、和服の少女が声を出してから露骨に釜利谷君の動きが変わったようにも思う。知り合いか何かだろうか?

 

「えー、だからオメーラもアレコレ口答えやら質問やらする前に、まず恩師たるオイラの言葉と言いつけをよく聞いてだな、余計な自立心と自尊心は持たずにオイラ達の歯車として己の役目をただ黙々と」

「ダメだなコイツ話が通じねえ。とにかく先生とかどっかにいるだろ、探そうぜ」

「ほんとでありんすよ!! 天下の希望ヶ峰学園が聞いて呆れるでありんす!!」

 前木君と和服の少女は謎のヌイグルミとの対話を諦めて仲間達にそう呼びかける。皆不安と困惑を抱えつつも同意し、体育館の出口へと歩いていく。

「えー、夜時間は食堂と浴場が閉まるので、昼時間の間に用事は済ませ、ゴミ出しはトラッシュルームの」

 ヌイグルミはまだ何か言っていたようだが、もう彼の話を聞く者はいなかった。いろいろと不気味だが、とにかく話の分かる大人を探そう。俺も重い腰を持ち上げ、体育館を後にしようとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何が起きたのか分からなかった。視界に強烈な光が焼き付き、両耳を爆音が貫き、脳が震えた。あまりに一瞬で唐突な破壊的事象にリアクションを取る暇もなく、数秒遅れて誰かの悲鳴が聞こえてきた。

 

 

「っ!!?!?」

 

 この場で何が起きたのか。硬直していた肉体に強制的に指令を行き渡らせ、俺はぐるりと体育館を見回した。

 

 

 体育館の床に立つ黒い柱を見たことろで、俺はその場に急速に広がりつつある焦げ付いた臭いを感じ取った。その柱は1.6mほどで表面はザラついており、ゆらゆらと煙を放っている。

 そう―――それが何であるのか理解するのに数秒を要した。その柱から左右に突き出ている物体が”腕”であると気付くまで。

 

 

 

 先ほどまで生きて喋っていた和服の少女が立っていた場所に、一体の焦げた死体が現れた。一瞬の閃光と爆音の間に、生身の生きた人間の姿が黒い柱へと変貌したのだ。

 

 

 理解が追いつくよりも前に、ヌイグルミの甲高い声が再び響き渡る。

 

 

「はい、皆さんが静かになるまでに一人死にました」

 

 

 その声に反論するものも、その声を無視して歩き出すものもいなかった。今この瞬間、「ぼんやりとした非日常」は「確かな非日常」に変わったのだ。

 

 奇妙な目覚め。謎の学園と超高校級の生徒達。突然現れた喋るヌイグルミ。珍妙に思いつつもどこか現実味と共に危機感を持たずにいた俺達に突き刺さった一人の少女の死。その現実は、俺達に自身が置かれた現状を否が応にも認識させる上で十分すぎる効果があった。

 

 

「もう一回だけ言うからよ~く聞けよ。今から始まるのは超高校級の生徒達による絶対絶望の”コロシアイ学園生活”、そして」

 

 

 日常、平穏、変わらぬ日々。何も考えず、何も感じず、ただ当たり前のように続くと思っていた人生。それが突然にして崩れ去り、永遠に戻ってくることはないのだと、それだけははっきりと認識できた。まだ何一つ分からない頭でも、それだけは。

 

 

 何も分からないまま、何も理解できないまま、何も納得できないまま、俺達の人生の崩壊は始まろうとしていた。

 

 

「幾度とない試行錯誤の末に生まれた”究極の脚本”。希望の蔓へようこそ、絶望の華たちよ!!」

 

 

 

 

 

 

 人生とは、この世で最も奇妙な脚本である。

 

 

 

 

 




長い時を経て再び動き出した物語。
先は長いですが、諦めません。末永く宜しくお願いします


***********


【生徒紹介】

 ”超高校級の脚本家”
 葛西幸彦(かさい ゆきひこ)
 男子生徒/164㎝/51㎏
 【好きなもの】落ち着けるもの、漬け物
 【苦手なもの】押しが強い人、トマト
 【人称】「俺」「苗字+君」「苗字+さん」

  本作品における視点キャラクター。劇作家の父を持ち、幼少期から作品を発表する機会に恵まれ頭角を現す。その活動範囲は劇のみならずドラマ、映画、小説原案からプロレスのブックまで多岐に渡る。広い知識を持ち冷静沈着だが精神面・人生経験では年相応の青年である。創作者としての性なのか、言葉を話すよりも脳内で独り言を言って完結させてしまうことが多い。やや人見知り気味で、対人では気弱な態度を取ることが多いが、その実脳内では強気な口調で話していることも多い。


 ”超高校級の脳科学者”
 釜利谷三瓶(かまりや さんぺい)
 男子生徒/176㎝/67㎏
 【好きなもの】寝ること、楽しいこと、塩辛
 【嫌いなもの】めんどくさいこと、リア充
 【人称】「オレ」「苗字呼び捨て」

 白衣を着た天然パーマ気味の男子生徒。日本脳科学の権威である釜利谷尚瓶(かまりや しょうへい)医師の一人息子。13歳で父と共同論文を執筆。神童と称される才能で脳科学の発展に寄与したとされるが、その研究内容など詳細な活動内容は公開されていない。本人は至ってマイペースで面倒くさがりな性格をしている。何かを知っているような意味深な態度が目立つが、胡散臭さを除けば情に厚く頭の回転も早い頼れる兄貴分である。その性格ゆえか全くと言っていいほど恋には無縁であり、幸せそうなカップルを敵視している。


 ”超高校級の幸運”
 前木常夏(まえぎ とこなつ)
 男子生徒/170㎝/58㎏
 【好きなもの】楽しいこと、ノリのいい人
 【嫌いなもの】卑屈な人、酸っぱいもの
 【人称】「俺」「苗字呼び捨て」
 
 特に実績をあげているわけではないが、定期的に抽選で募集されている”超高校級の幸運”と呼ばれる生徒の一人。感性、人格共に至って普通の男子高校生であり、人懐っこく明るい性格をしている。あまり考え事や勉強は得意な方ではなく、どちらかといえば体育会系。よく言えば常に輪の中心にいる、悪く言えばスクールカーストの上位に位置するタイプ。年相応に思いつめたり悩んだりすることもあるが、基本的に深く突き詰めることはしない。周囲の超高校級に比べて特段才能がないことは認めつつも、”所詮は同じ人間”と捉えている節があるため、特段壁を感じずに絡むように心がけている。



 ”超高校級のダンサー”
 亞桐莉緒(あぎり りお)
 女子生徒/167㎝/54㎏
 【好きなもの】ダンス全般、おしゃべり、チョコレート
 【嫌いなもの】悲しいこと、協調性のない人
 【人称】「ウチ」「苗字呼び捨て」

 SNSでのフォロワー数は100万人を超えるという人気インフルエンサー。現役女子高生にしてダンスチームの一員として活躍する多忙な人物であり、世間での認知度も非常に高い。その知名度を鼻にかけることもない純真無垢で素直な性格をしている。若くして大人と関わる世渡りの厳しさを知っているため、等身大で会話できる同級生達には安心感を覚えているようだ。真面目な一面があり、どれだけダンスやタレント業が忙しくなっても勉強は人並みにちゃんとやりたいと思っている。頭はさほど良くないが人懐っこく仲間思いの性格で、この学園のメンバーの中では常識的な性格と言える。



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Hello, my little despair

 

 

「人って簡単に死ぬんだよな」

 

 全てが置き去りにされた世界で、ヌイグルミの高い声だけが響き渡った。

 少し遅れて、誰かのすすり泣く声が聞こえてきた。息ができない。あまりの衝撃に、感情と共に胸から空気が押し出されたまま吸い上げることができない。意識が飛びそうになった頃、唐突に大量の空気が肺に入り込む。堰を切ったように空気の塊が胸を満たし、またすぐ吐き出される。

 

 

「"コロシアイ学園生活"とは……一体なんだい?」

 張り詰めた空気を切り裂くように低い声が投げかけられた。見ると、古代ローマ人のような布切れを羽織った体格の良い男子生徒が生徒達より一歩前に出てそう尋ねていた。彼もどこかで見たことのあるような人物だが、自分の記憶の奥底を探っていられるような余裕は俺にはなかった。

 

「オメーラがこれから過ごすこの学園での生活のことさ。分かりやすく言うなら命懸けのデスゲームってやつ?」

 

「デスゲーム……嘘だろ………?」

 前木君がポツリと呟いた。

 

「ルールは簡単。この中の誰かが誰かを殺す。殺されたら学級裁判を開く。学級裁判ではこの中の誰がクロ……殺人犯なのかを話し合ってもらうぜ。そしてクロが見事他の全員を欺いて指名を逃れたら、晴れてこの学園から卒業できるぜ!!!!」

 

 まるでゲームか漫画のようなデスゲームのルールをヌイグルミは意気揚々と話す。しかしその言葉が冗談や喜劇でないことはすぐそこに立つ焼死体が物語っている。彼女は、先ほどまで生きて動いていた彼女は…落雷のような閃光と共に唐突に焼死体となった。

 

「もちろん外に出た後にクロが罪に問われることはありません! ()()()()()()()()()ね」

 

「そんなバカなことが……。僕たち同士で殺し合えと言うのか」

「その通りだよ、"超高校級の哲学者"夢郷郷夢(ゆめさと きょうむ)君」

 夢郷君と呼ばれた男子生徒に、ニヤニヤと笑いながらヌイグルミは答えた。

「コロシアイに勝つ以外でこの学園から出る方法はアリマセーン!! もちろんコロシアイ学園生活に期限もアリマセーン!! つまり『殺すか籠るか』の二者択一! 一生この学園に籠ってれば将来安泰、インフラ食料は無尽蔵、Wi-Fi無料にドリンクバーまで付いてる!! 殺さないで籠るのもぜ〜んぜんアリだと思うぜ」

 ヌイグルミが口にした言葉は、この学園で強いられることに対してあまりにも小さなリターンの数々だった。

「受け入れられるはずがない…。そんなことが……」

 夢郷君は敵意の籠った目つきで声を漏らす。

 

「だが、逆らえば今の雷が落ちてきて、ああなるってワケだ」

 釜利谷君が目前に立つ焼死体に向けて顎をしゃくった。その死体からは相変わらず焦げた臭いが立ち込めており、その悲劇がつい数分前のものであることを否が応にも思い知らせる。

「デスゲーム主催者がやりそうなコトだよなぁ。最初に一人見せしめで()って、言うことを聞かせると」

「そんな、漫画じゃあるまいし……」

「でもデスゲーム起こそうとするならそういう漫画とかを参考にするだろーよ。事実は小説より奇なりっていう言葉もあるけどな」

 釜利谷君は何故か俺の方を向いてそう言った。この状況で俺に何の同意を求める気だ?

 

 

「なんだよ、もっと絶望すると思ったのに案外平気そうじゃねーか。吹屋さんは殺し損だなぁ…。まあいいや。気を取り直して朝礼始めるぞ~。出席番号1番、入間(いるま)ジョーンズ君」

 ヌイグルミが誰かの名前を呼ぶ。先ほども読んだ名だが、あの時とは言葉が持つ意味も、重みも、まるで違う。いつしか俺の顎からは冷や汗が滴り落ちていた。

 

 

 

「えー、出席番号1番、入間ジョーンズ君」

 

「あっ、はっ、はいっ!!!」

 

 上ずった声でスーツ姿の男子生徒が声を上げた。一ミリも状況が飲み込めないながらも、このヌイグルミの言うことに応えなければ何をされるか、それだけは本能が察していたのだ。

 

「こっち来てくれー。電子生徒手帳渡すから。あと自己紹介も」

 

 ヌイグルミは先ほどと変わらぬ態度で表彰台の上に寝そべりながら手招きする。この場の誰もが息を殺して目前を見つめる中、入間君と呼ばれた生徒は震える足を一歩踏み出す。彼と表彰台の間には先ほどまで生きて動いて喋っていた和服の少女――だったものが立ち尽くしている。それへと近づくことを足が、本能が拒む。しかしそれ以上に、ヌイグルミの命令を拒めば彼女と同じ姿になってしまうかもしれないという恐怖が、その足を一歩、また一歩と進めさせる。

 

 

 

「えー、”超高校級の翻訳者”、入間ジョーンズ君。北欧系のハーフで幼少期から26ヶ国語を操る天才訳者。現在では操る言語の数は50を超え、外国要人との通話経験も多数。著名人からの著書・広告等の翻訳依頼は後を絶たず、本人の長身や美形もあって国内外を問わず大人気のインテリ男子」

 彼の到着を待ちきれなかったのか、ヌイグルミは表彰台の下から一枚の液晶タブレットを取り出してその画面に表示されている内容を読み上げた。

 

「入学おめでとう! このコロシアイ学園生活での更なる活躍を祈ってます!」

 彼が表彰台の前に辿り着く前に、雑にそう言い放ってヌイグルミはタブレットを彼めがけて放り投げる。彼の目の前でタブレットは大きな音を立てて床に落ちた。

 

「大丈夫だよ、ゾウが乗っても壊れないんだから」

 

 入間君は表情を凍り付かせたまま、ゆっくりと顔を下げて足元に落ちたタブレットを見ると、恐る恐る床に膝を付いてそれを拾い上げた。

 

 

「気になったんだけどよー、まだ()()()()()()()()()()()()がいるんだよな。それなのにおっぱじめるって焦り過ぎなんじゃねえか? デスゲーム慣れてないのか?」

「えー、出席番号2番、”超高校級の脳科学者”釜利谷三瓶君。脳研究の第一人者である父、釜利谷尚瓶(かまりや しょうへい)医師の元で英才教育を受け、中学生の時に記憶障害治療の手法について論文を発表。天才的な頭脳を持ちながらも生来のガサツで底の知れない人柄は近親者からも賛否が分かれるという」

 唐突に投げ込まれた釜利谷君の言葉を遮るようにヌイグルミはタブレットの内容を読み上げ、ポイとタブレットを彼めがけて投げ捨てた。

「んだよ、愛想悪ぃな。てかその近親者って誰だ?」

 そんなことをブツブツと呟きながら釜利谷君は足元のタブレットを拾い上げる。

 

 

「出席番号3番。葛西幸彦君」

 

 と、次に呼ばれたのは俺の名前だった。一気に全身に緊張が走る。

 

「は、はい…」

 

 絞り出すような声と共に自らを奮い立たせ、足を前に踏み出す。大丈夫、タブレットを投げ渡されるだけだ。殺されるわけじゃない。俺は震える足を一歩、また一歩と無理矢理前に進ませる。

 

「葛西幸彦君。映画、演劇、舞台、アニメ、ドラマ、プロレスに至るまでありとあらゆるジャンルにおいて脚本や台本の製作を行う若手脚本家。その作風は極限まで徹底されたリアリティ。現実世界と見まごうほどの完成度の高い世界をシナリオ上に創出することからネット上では”世界シミュレーター”とも呼ばれている」

 

 ヌイグルミがぶつぶつと呟く言葉など一切頭に入ってこなかった。前に進む俺の横には、先ほどまで動いていた少女の焼死体が立っている。入間君と呼ばれた彼の気持ちがよく分かった。彼はこんな恐怖の中歩いていたのか。

 

 訳が分からない。希望ヶ峰学園に入学するはずだったのに、全てが夢の中の話のようだ。俺はこれからどうすればいいのだ?

 

 

 

「ほい」

 短い声と共に俺の足元に一枚のタブレットが落ちてきた。俺は焼死体を視界に入れないようにしながら恐る恐るそれを拾う。既に電源が付いているそれには、「希望ヶ峰学園電子生徒手帳」と表示されていた。一瞬遅れてパソコンのデスクトップのような画面に切り替わる。画面上には何個かアイコンが並んでおり、「校則」「校内マップ」「生徒一覧」など各種情報を示しているようだった。

 

「そいつはみんなのコロシアイ生活を大いに盛り上げ、サポートしてくれる機能がたくさん詰め込まれたタブレット型電子生徒手帳だ! 大事に使ってくれよな! まあ大事にしなくても壊しようがねーからいいか!」

 

 ヌイグルミは上機嫌そうに笑いながら次のタブレットを取り出す。俺の相手は終わった。汗がどっと額から溢れた。何もしていないのに凄まじい圧を感じる。それほど数分前の処刑劇は凄惨に過ぎたのだ。

 

 

「えーっと、次は……」

 

 ヌイグルミがそこまで告げた時、突然がらりと勢いよく扉が開く音がした。神経過敏になっていた俺はその音に驚き、躓いてしまう。膝を床に強打し悶絶した。

「わっ! 痛っ……」

 激痛に膝を押さえながら背後を見る。体育館の入り口に立っていたのは、長身で筋肉質な男性だった。Yシャツとネクタイの上に黒く大きいコートを着ており、白い髪に褐色の肌。外国人のようにも見えるが、彼は一体……。

 

 

 

「!! っわっっ!!!!」

 その時、俺の右手に焼死体の足が触れたことに気付き、俺は悲鳴と共に後ずさりした。手に付着した黒い煤を何度も服にこすりつけて落とす。怖い。怖い。燃え尽きた人の一部に触れてしまった。

 

 

 

「……ここはどこだ? お前たちは誰だ?」

 そんな俺の様子と、怯えて体育館の隅で息をひそめる他の生徒達を順番に眺め、男はそう言った。その問いに応えられる者はおらず、代わりに壇上のヌイグルミが答えた。

 

「お~~!! よく来たな、出席番号4番、リュウ君よ!! オメーが来るのをず~~っと待ってたんだよな~! ほれ!」

 ヌイグルミは嬉しそうに両手を振り上げながらそう言うと、取り出したタブレットを目にも止まらない速度で投げた。俺の頭上を通り過ぎたタブレットの風圧が伝わるほどの速度。人間でも出せないような速度を何故こんなヌイグルミが?

 

 リュウと呼ばれた男は高速で飛来するタブレットを難なく掴むと、それを開くよりも前に再び口を開いた。

 

「そこの人形は誰が燃やした?」

 人形? その言葉を受けて俺や他の生徒は辺りを見回しただろう。だがリュウ君が見ている先はヌイグルミ、そしてその間にあるのはさっき燃やされた少女の遺体。燃やされたと形容できる物体はこの空間に彼女しかいない。

 

 

 

「えーっと、いちいち説明するのもめんどいので簡潔に答えるぜ! ここは希望ヶ峰学園で、ここにいる連中についてとここでオメーらがすることはそのタブレットを見ろ! あと、そこの子はこいつらが静かにしないから見せしめに殺した!! 以上ッ」

 

「見せしめ。 …人形で、か」

 彼が彼女の死体を人形と呼ぶ理由が分からないし、この状況に全く混乱していない理由も分からなかった。

 

 

「あーあ。バレちまったな。こうなりたくなかったからこいつが来る前に殺ったんだろ? 結局こいつが来てオジャンになっちまったがな」

 釜利谷君がニヤリと笑いながら言った。

 

「リュウ……だっけ? そいつが人形って……どういうことだよ」

 前木君が恐る恐る口を開く。彼女……名前も知らないままに死んでしまった、恐らくこの場に居合わせたであろう希望ヶ峰の入学生徒。彼女は生きて喋っていた。その所作に違和感はなかったし、人形には思えない。

 

「これは人間の体組織が焼ける臭いではない。どちらかと言えばシリコン系材質……それと機械油が混ざった臭いだ。マネキンとも少し違うようだが……少なくとも人間でないことは間違いない」

 リュウ君はそう言いながらつかつかと焼死体に歩み寄る。死体は全身が焼け焦げていて、見た目では老若男女すら判別できない状態だ。彼は至近距離で遺体を見つめると…。

 

「おい、勝手な真似すん」

 そう言いかけたヌイグルミの言葉も無視して、死体の腕に手をかけて捥をもぎ取ったのだ。

 

「キャッ!!」

 女性たちの悲鳴が響き渡る。彼の行動はあまりにも常軌を逸している。

 しかし、その腕から血が噴き出すことはなかった。腕を捥がれた死体からも。

 

「……なるほどな」

 そう呟いて彼はその断面を俺の方に向けて見せてきた。俺が顔を背ける暇もなくその断面は露わとなる。黒く焦げた表面の中には、銀色のカバーとピストンのような棒状の機構、そして様々な色の配線が……。

 

「へぇ、そうなってんのか。そこまでは分かんなかったぜ」

 釜利谷君が驚いたように声を上げた。話についていけない。これは…機械? 一体彼女はなんだったと言うんだ? 彼女は確かに違和感なく生きて動いていた人間……だったはずだ。

 

 

 

「オイ、勝手な事すんなって言ったよな? これじゃ見せしめの意味ねーだろ!!」

 ヌイグルミは壇上に立ちあがって怒りの言葉を喚き散らした。

 

「ホラ、焼肉とか行くと服に残るだろ? 何とも言えない独特なニオイがさ。タンパク質と脂肪組織が焼けるニオイってすぐ分かるんだよ。()()()()()()()()()()にはな」

 釜利谷君はそう言ってジロリとリュウ君を見た後、再度ヌイグルミに向き直る。

「人間は殺したくねーんだろ? 殺し合わせたいのに貴重な人的資源減らしたくないもんな。オレ達が気付かねーとでも思ってたのかよ、なあ?」

 ニヤリと笑って啖呵を切る釜利谷君。そんなに挑発して大丈夫なのだろうか。

 

「"超高校級"ナメんな、ヌイグルミが」

 

 

 

「オイラはモノパンダ先生だ!!!!!!!」

 

 突如、モノパンダと名乗ったヌイグルミは鼓膜を破壊しそうなほどの大きく高い声でそう叫んだ。

 

「オメーラさっきから調子乗り過ぎだぞ、あ゛ぁ゛!? 言うことは聞かねえわ、勝手に動くわ、オメーラの頭脳は幼稚園児以下か!!!?!?」

 

 モノパンダの声がさっきから打って変わって低くドスの利いたものになる。一瞬、俺達を恫喝するように大声を張ると、スピーカーに拡声された音がその場の空気を震わせた。

 

「オメーラはここでコロシアイをするんだよ!! コ・ロ・シ・ア・イ!!! 誰かを殺すまで永遠にこの学園から抜け出せないエンドレス疑心暗鬼生活!!! やるって言ったらやるんだよ!!! 二度とオイラに逆らうなぁぁぁ!!!!!」

 

「…………」

 あまりの剣幕に俺達は言葉を発せない。確かに先ほどのような雷を亜光速で落とされたら生き延びられる人間はいないだろう。あのヌイグルミにはそれだけの力がある。

 

 

 

 

 

 

 次の瞬間、先程起きたのと同じ閃光と爆音が俺達の視界と聴覚を支配した。

 

 

「キャー!!!!」

 

 

 耳鳴りと共に女子の悲鳴がうっすら聞こえる。俺は一瞬遅れて両耳を塞いだが、もう爆音は俺の頭蓋骨を振動させた後だった。二度目の雷鳴。それが意味するのは、つまり……。

 

 

「…………………」

 

 目の前には目を見開いたまま立ち尽くす釜利谷君がいた。体育館を見回したくない。もう一度誰かの死体を目にすることになるのが嫌だ。それでも、遅かれ早かれ目にすることになるのなら今見てしまった方が良い。そう思って俺は生唾を飲み込んで視界を横に動かす。

 

 モノパンダが座っていた壇上。そこには、真っ黒に焦げた何かの残骸があった。僅かに銀色の金属がチラリとのぞく黒い煤の塊。それが先ほどまでそこにいたモノパンダのものであることに疑いの余地はなかった。

 

「は? え? アイツ? え? な、なんで……?」

 亞桐さんが青ざめた声で混乱気味に言った。この空間で誰かを処刑できる権限を有しているのはモノパンダだけのはずだ。そのモノパンダが処刑されるという異常事態に誰もが言葉を発することもできずにいた。

 

 

 

 

 

フフ……へただなあ

 

 

 

 誰のものでもない声が聞こえてくる。一瞬体育館を見回すが、その声は最初のモノパンダのように体育館全体にスピーカーから発せられているのだとすぐに気付いた。

 

へたっぴさ……! 絶望の解放のさせ方がへた……!

 

 モノパンダのものとは打って変わって特徴的な濁声。一度聴いたら一生忘れられない声。恐ろしさの奥に何故か懐かしさを感じる。この声こそが、これから始まる長い長い絶望の象徴であると、俺の直感が告げていた。

 

 

 モノパンダの残骸を踏みつぶすように、クマのヌイグルミが飛び上がって壇上に着地した。

『きったね! どけよポンコツ!』

 新しいヌイグルミは腹立たし気にモノパンダの残骸を蹴って壇上から落とすと、俺達の方を向いてどっかりと腰を下ろした。

 

 

『あー、あー、マイクテス! マイクテス! あ、もういらないのか。初めまして、ボクはモノクマ。この希望ヶ峰学園特別分校ハンチョウ校長さ!』

 

 そう高らかに宣言するモノクマというヌイグルミは、モノパンダと違って斑模様がなくずんぐりとしている。見た目はモノパンダより鈍重に見えるのに、その瞳から感じる不気味さは比べ物にならない。

 

『マスコット暦めでたく10年を突破した世界のコロシアイマスコットとして、皆さんのコロシアイの責任者として着任できたのはとっても鼻が高いです! これから未来ある皆さんが健やかにその未来を削りあい喰らいあい燃やしあい天高~~~く羽ばたいてお空の彼方に昇って逝くことを祈ります』

 

「…………」

 あまりにも異常な光景に、皆が疲れを感じ始めていた。リアクションをすることすら億劫になり、それでも神経をとがらせ続けなければいけない。

 

『みんなそんなにポカーンとしていいの? もうコロシアイは始まっているんだよ? 開けた場所にいるの、危険じゃない? 姿勢は低くしなくていいの? 飛び道具が飛んでくるかもしれないのに? 床が抜けるかもしれないのに? キミが後ろを向いてる間に背中を刺すかもしれないのに?』

 その言葉を聞いてその場にいるほぼ全員が一斉に背後を見る。あんなことを言われたからって、すぐに人を殺すような人物がいるはずがない。それでも。「そんなわけない」はずでも、その僅かな可能性を警戒してしまう自分がいた。コロシアイは既に始まっている。この空間において、人の死という概念の重みは遥かに軽いものへと変貌してしまったのだ。

 

 

明日からがんばるんじゃない……今日……今日だけがんばるんだっ…! 今日をがんばった者……今日をがんばり始めたものにのみ…明日が来るんだよ……!

 

 

 この中の誰が明日を迎えられるのだろう。

 

 

 何度も脳内を反響する耳障りな声を、しかし一言一句聞かざるを得なかった。そこにいるのは、俺の短い人生で最も大きく底の知れない”敵”なのだから。

 

 

 

 

 

《生存人数:15人》

 

 

【挿絵表示】

 




リメイクまでしたのに初登場セリフがパロディって、そんなのあんまりだよ!

***********

 “超高校級の哲学者”
 夢郷郷夢(ゆめさと きょうむ)
 男子生徒/184㎝/71㎏
 【好きなもの】静かな時間、思考、女体
 【嫌いなもの】むさ苦しい人、うるさい場所
 【人称】「僕」「君」「苗字+君」

 高校生でありながら世界中の大学や学会で講演を行う若き思想家。元々は動画投稿サイトにて哲学に関する雑学や哲学者の紹介、哲学書への容赦のないレビュー等の活動を行っていた。若くして卓越した知識量、古代ギリシャ人を模した姿格好と長身美形の見た目、聞く人を惹きつける話術などから瞬く間に世間の注目を集め、非常に認知度は高い。マイナーなものまで数多くの哲学書の内容をほぼ暗記し、暗唱できる。常に無表情だが感情自体は豊かな方である。近しいものにしか言えないとある特殊な嗜好を持っているとされる。


 “超高校級の翻訳者”
 入間(いるま)ジョーンズ
 男子生徒/180㎝/64㎏
 【好きなもの】話好きの人、干し芋、難しい本
 【苦手なもの】話を聞かない人、ホラー系全般、高所
 【人称】「(わたくし)」「苗字+様」

 北欧系のハーフ。外交官の母と海外企業重役の父を持つ大家のお坊ちゃん。33か国語に通じる語学の天才。母の補佐として通訳作業、書籍の翻訳など多岐に渡る活動をこなし、数年前にはとある小国で起きた革命紛争を調停し平和裏な政権移譲を実現。数十万人規模の命を救うなど、世界的な活躍度合いはこの学園のメンバーの中で最も大きいと言えるだろう。正義感が強く真面目で穏やかな性格をしているが、育ちゆえかやや世間知らずで周囲に振り回されることもある。若さゆえの理想に溢れており、「どんな人間でも心を通わせて話し合えば絶対に分かりあえる」と性善説に近い考えを持っている。




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All you need is hope.

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 今更喋るヌイグルミが増えたところで驚きはしない。それよりもそのヌイグルミ―――目前の新しい”敵”から発せられている不気味で言いようのない嫌悪感の方が遥かに俺の神経を逆撫でた。

 

『で? 何? どこまで進んだの? え? 電子生徒手帳? あ~もうメンドクセーな、ほらほらほらっ!!』

 

 モノクマと名乗ったヌイグルミは乱暴にその場にいるメンバーにタブレットを次々と投げつけた。あまりに超常的な出来事に言葉を返す者もいない。

 

『で? 何ぼさっとしてんの? 解散解散! 入学式は終わり! さっさと部屋戻ってコロシアイの準備する! 君達人生で一番輝いてる時代なんだから! 青春は待ってはくれないんだよ!』

 

 そう言ってパタパタと手足を振り回す。その様子だけ見ている分には恐るべき敵のようには見えない。しかしその言葉の裏にはモノパンダという先ほどのヌイグルミよりも遥かに強い圧があった。

 

「従わない、と言ったらどうする?」

 そんなモノクマに、リュウと呼ばれた大柄な男子生徒が言葉を投げかけた。彼の表情に動揺らしきものは見られない。

 

『校則を破ればその場でオシオキ! 破らなければ何もナシ! それだけだよ。やってほしいことはネオゆとり世代のオマエラにも分かるように校則にぜ~んぶ書いてるから後はご自由に』

「……随分自信があると見える」

『もちのロン! こちとら十年以上マスコットやってんだから、リュウ君みたいな腕っぷしに自身のある超高校級もたっくさん見てきてるからね! そういう手合いを手なずけるのも叩き落すのもお茶の子さいさい大喝采!だよ』

 モノクマは面白くもない言い回しを満足げに言い終えると、どこからか取り出した笛をピ―と吹いた。すると、天井から一体のヌイグルミが落ちてきた。先ほど焼かれたはずのモノパンダだ。

「いだっ」

『ほら、入学式終わったんだからとっとと大ホール片付けろよアホパンダ! ゴミが散らかって大変だよ! ボクは超高校級のみんなの生活風景に密着するので忙しいんだから!』

「へ、へーい……了解でやんす…校長センセ……」

 天井から振ってきたモノパンダは渋々清掃活動を始める。当初の高圧的な態度はどこへ行ったのかというくらい腰が低い。心なしか口調も変わっている気がする。

 

『いや~、流石超高校級のみんな。入学式から波乱万丈の展開がザックザクでワックワクがドックドクだね! じゃあ入学式はこれで終了! 各自解散して明日に備えてね! もうコロシアイは始まっているんだから!』

 

 

 ◆◆◆

 

 

 いつの間にかモノクマは去り、体育館の隅で一人寂しく埃を集めるモノパンダと呆気にとられた俺たち生徒達だけが残された。理解を超えた現象の数々にリアクションを取ることもままならなかったが、時間が経つと少し落ち着きを取り戻した。

 

「なんなの、これ……」

 ”超高校級のダンサー”、亞桐莉緒さんがモノクマから乱暴に渡されたタブレットを振るえる指でいじりながら呟いた。俺はそんな画面を見る気にもなれなかった。まるで映画の中に入り込んだみたいで、未だに実感が湧かない。

「常人にこの状況を理解するのは難しいだろう。まずは深呼吸して目に映るものを一つ一つ認識していくといい」

 どっかりと体育館に腰を下ろしてリュウ君はそう述べる。

「なんと申しますか……リュウ殿はあまりにも冷静と言うか……。ひょっとして”こういうの”は初めてではないのでござりますか?」

 そう呼びかけたのは確か…。俺は渋々タブレットを起動して生徒情報を見る。彼は丹沢駿河(たんざわ するが)。”超高校級の造形家”…らしい。おかっぱ頭にメガネをかけた如何にもオタクっぽい小柄な少年だ。

 

「ここまで手が込んだものは初めてだ。施設そのものがこのために用意されたのであれば、相当大掛かりなものだ」

 リュウ君は平然とそう答える。丹沢君が述べた”こういうの”とは紛れもなくさっきヌイグルミ達が説明していたコロシアイというゲームの話なのだろう。まるで漫画や小説の世界を見ているようだ。

「……手が込んでないものはやったことがあるの?」

「ゲームを模した殺し合い程度ならな。参加したというより、させられたという方が正しいが」

 俺が発した素朴な疑問にリュウ君は恐ろしい答えを平然と返した。彼の情報欄を見ると、才能は”超高校級の???”と表示されている。才能秘匿ってこと? そんなことがあるのか? というか、あのモノクマとやらがちゃんと俺たちの才能を把握しているかも怪しいところだが…。

「なあ、お前の才能……なんで何も書かれていないんだ?」

 前木君も同じ疑問に行き着いたようだが、「しきたりのようなものだ」とリュウ君は返す。

「しきたり…? どういうことだ?」と怪訝そうな顔をする前木君に対し、リュウ君は平然とこう言った。

 

「俺の家に伝わる掟だ。知りすぎた者は殺さなければならないことになっている」

「……!? 殺すって……嘘!?」

 その場の空気が一気に張り詰めるのを感じた。先ほどのあの異常なルールを告げられた後に「殺す」などという言葉を平然と出されればこうなるのも必然のことだろう。彼の佇まいやオーラが、その言葉が決して悪い冗談などではなく本気で発せられているものだということを物語っている。第一、家の掟ってなんだ? どんな家なの?

「俺は不必要な嘘はつかない。俺の才能は人に明かすことができない……それだけは確かだ。だが、俺はお前たちの敵じゃない。それも確かだ」

「なんで………そんな……」

 ”ダンサー”亞桐さんが引きつった声を上げながら後ろに後ずさる。この空間において「殺す」という言葉が持つ意味はそれだけ大きいのだ。

 

「のっぴきならない事情があるようだね。この異常な空間において「殺す」という言葉を用いてまで脅迫を行うのだから、相当知られたくないのだということは分かったよ」

 ”哲学者”夢郷君が無表情のままそう答えた。

「そのうえで、君が僕達の敵じゃないことを証明することはできるのかい?」

「俺は誰も殺さない。そしてこのデスゲームを打破する方法を見つけ、提供する。つまりお前達に全面的に協力するということだ。それが証明だ」

「おいおい、協力って。さっきと言ってることが矛盾してるじゃんか。素性知ったら殺すんだろ?」

 リュウ君の眼前にひょいと顔を突き出したのは釜利谷君だ。彼は隈の浮かんだ目元を僅かに微笑ませてリュウ君にそう言った。

 

「例えば偶然、君の独り言を聞くなどして才能を知ってしまった場合なんかはどうするんだい? それでも君は手を下すのか?」

 夢郷君も畳みかけるように問いかけた。

「疑わしい気持ちはわかるが、そう気を尖らせるな。殺すといったのはあくまでも俺の家に伝わる掟だ。掟を守るか守らないかは俺の自由だ。だが、ルールは最初に伝えておかないとフェアじゃないだろう? あのヌイグルミもどきでさえそうしたのだからな」

「…………………」

「その……一旦落ち着こうよ。こんなところで喧嘩するよりもさ、みんなでやるべきことが他にあるんじゃないかな」

 ギスギスした空気を見るに見かねて俺は口を開いた。リュウ君は肩をすくめ、釜利谷君は「良いこと言うじゃん」と俺の肩をポンポンと叩いた。

 

「不思議と言えば不思議なのはお前の方だ、釜利谷三瓶」

 一呼吸おいてリュウ君は釜利谷君に向き直ってそう言った。

「この状況に直面する態度が明らかに他の連中と違うようだが」

「あ~…? オメーがそれ言うかよ。まあ俺は仕事柄死体とかよく見るし……つか超高校級なんてそんなモンだろ? 頭のネジ飛んだ奴の一人や二人珍しくねえ世界だ」

 釜利谷君は頭をガシガシと搔きながら答える。確かに常人とは異なる感性の人間がいてもおかしくはないが……。俺も自分で気づいていないだけで常人とは違う常識を持っているのだろうか。

「それだけであのヌイグルミに啖呵を切った説明にはならんな。あの状況で奴を煽る理由がどこにある」

「あ~メンドクセ。んなモンいちいち考えながら行動するかよ。ムカついたから口をついて出ただけだ」

「ともすれば我々の生殺与奪を握っているかもしれない相手でも、か。随分短絡的だな…」

「そりゃどーも」

 じろりと釜利谷君を見つめたまま視線を逸らさないリュウ君。結局またピりついた雰囲気になってしまった…。

 

「で、どーすんよ? まさかホントに殺し合いしましょ~なんて言う馬鹿はいないだろ?」

 釜利谷君はそんな空気を仕切り直そうと言わんばかりに俺達に向かって呼びかけた。

「と…とりあえずこの場にまだ来てない生徒もいるみたいですし……その方々を迎え入れるのが先決なのではないでしょうか…?」

 スーツ姿の男子生徒…”翻訳者”入間ジョーンズ君が答えた。彼が言うように、モノパンダは入学式の時に「この場に来ていない生徒がいる」と告げた。この場にいる生徒を数えてみたが…ざっと十人くらいだろうか。確かに一クラスにも満たない人数だが……。この建物のどこかに合流していない人間がいるのだろうか。

 

 俺は電子生徒手帳に書かれた情報に照らし合わせながら一人一人この場にいる生徒を数えていった。

 

 ”超高校級の幸運”前木常夏。

 ”超高校級の脳科学者”釜利谷三瓶。

 ”超高校級の???”リュウ。

 ”超高校級の哲学者”夢郷郷夢。…スルーしていたけど冗談みたいな名前だ。

 ”超高校級の翻訳者”入間ジョーンズ。

 ”超高校級の造形家”丹沢駿河。

 

 ”超高校級のダンサー”亞桐莉緒。

 ”超高校級の漫画家”安藤未戝……はそこで寝てる。寝てる?

 

「あれ、あの……安藤さん?」

 体育館の隅っこで見事に大の字になって寝ている茶髪を三つ編みにしたベレー帽の少女。確か最初にこの空間に入ってきた時に興奮気味に話しかけてきた人だ。

 

『吾輩は知っておるぞよ~! いつも自作のストーリーの参考にさせてもらっておるのでな~』

 

 俺のことを知っているみたいだったが申し訳ないことに俺は彼女のことを存じ上げなかった。しかし”超高校級の漫画家”と言われると確かにこんな名前の漫画家がいたようないなかったような…。高校生で連載を持つのは相当な運と才能、努力と恵まれた環境がなければできないことなのだろう。大物であるのは間違いないが……。しかしこんなところで、こんなシチュエーションで堂々と爆睡するのは流石に大物が過ぎる。

 

「ちょ、ちょっとみーちゃん!? 何やってんの!? 状況分かってんの!?」

 慌てて亞桐さんが揺さぶると安藤さんは目を擦りながら起き上がる。

「んあ~~……今何話目? もうコロシアイ起きたかのう?」

「不吉なこと言わないでよ! あと何話目って何!?」

「えっと…おはよう…なのかな。大丈夫……? 疲れてたの?」

 月並みな言葉しか出てこない。俺だったらいくら疲れていたってあの光景を目の前にしたら丸一日寝られる気がしないが。

「あぁ~~~またやってしもたの…。昨日のネーム作業が地獄だったのでつい…。この場にいない生徒を探しに行こうってトコまでは覚えてるぞよ」

「ガッツリ全部聞いてるじゃん!」

 なら話が早い……けど、じゃあ狸寝入り? なんで?

 

 

 気を取り直して残りの女子生徒を数えていく。

 

 えっと……あそこに残っている燃えた残骸…彼女も超高校級の生徒だったみたいだけど雷に焼かれて、でも実はロボット?で……。自分で言っていて訳が分からなくなりそうだ。

 彼女のことは後で整理するとして。

 

 えっと……あれ? 女子生徒これだけ? なんてことはないよな。体育館をぐるりと見渡すと、遠くに少女がしゃがみ込んでいるのが見えた。

「あの人、呼んでくるね」

「あぁ……俺も行く」

 そう言って付いてくる前木君と共に俺はその人の元へと駆け寄った。見ると、その少女は床に散らばったモノパンダの残骸を拾ってじっと見つめていた。壇上で雷に打たれた時に飛び散った残骸のようだ。オレンジのセーターの上に羽織っているのは作業着…だろうか。ベージュ色の髪を編み込んだ整った顔立ちの女性だ。

「何してるの? ヌイグルミの部品…?」

 少女は一瞬俺の方を見やると、軽くため息をついて拾った部品を作業着のポケットにしまった。

「おいおい、無視すんなよ。お前も生徒なんだろ? えっと…ミドウアキネ」

 前木君が電子生徒手帳の情報と少女の顔を照らし合わせながら彼女の名前を呼んだ。御堂秋音(みどう あきね)―――”超高校級のエンジニア”と呼ばれている少女。高校生にして自動運転AIや人型アンドロイドの開発に関与したと言われている天才女子高生。世間知らずな俺でも聞いたことがある名だ。恐らく超高校級の中でも花形に位置する立ち位置の人物なのだろう。

 

「勝手に人の情報を覗くな。薄気味悪いドブネズミめ」

 御堂さんはスッと立ち上がりながらそう吐き捨てた。その目つきは鷹のように鋭く、表情は氷のように冷たい。予想だにしない暴言を唐突に吐かれた俺は呆気に取られてしまったが、前木君はムッとして「ドブネズミってなんだよ」と言い返した。

「それ以外の形容があるか? 不愉快極まりないな」

 御堂さんはそれだけ言うとスッと立ち上がり、作業着をはためかせて悠然と俺達に背を向ける。

「ゲームはもう始まっているのだ。せいぜい早死にしないよう努力することだな」

「……君はそんな態度を取っていても生き抜ける自信があるの?」

 俺は思わず興奮気味にそう言い返した。”生き抜ける”という言い方をしたが、平たく言えば”殺される”んじゃないのか?というニュアンスだ。酷いことを言っている自覚はある。けど、こんな異常事態なのにあからさまに人を舐め腐ったような態度を取る彼女にはそう言わずにはいられなかった。

 

 結局彼女は俺に言葉を返すことのないまま、フン、と呆れたような笑いを残して去っていった。愚問、ということか…。ハナから俺達を自分と同じ土俵の人間と見なしていないようだ。

 

「感じ悪いな~、普通こんな状況であんなこと言えるかよ?」

 ムスッとして頭を搔く前木君をよそに、俺は黙って彼女の背中を見つめていた。ただの敵意というよりかは信じたくても信じられない、そんなニュアンスを彼女の視線や口調から感じ取らずにはいられなかった。脚本家をやっていると嫌でも人間観察力が上がってしまうのだ。恐ろしいほど細かい仕草とかに気付いてしまって自分が嫌になることもある。

 ともあれ、彼女と交流を築くのは相当な困難が伴いそうだ。 

 

 

「なんかダメそうだったな。お疲れさん」

「分かったなら助け船でも出してくれたらよかったのに」

 茶化すように呼び掛けてくる釜利谷君に俺は口を尖らせた。

「オレはああいうタイプが一番苦手なんだよ、分かるだろ? ま、気ィ取り直して他の奴探しに行こうぜ」

「ちょっと~!! みーちゃんまた寝ちゃったんだけど~!!」

 後ろでは亞桐さんが泣きそうになりながら騒いでいた。その横にはいつの間にかまた床に寝そべる安藤さん。一度寝るだけでも異常なのに二度寝って。

 

「はぁ、もうバカはほっといて行こうぜ」

 呆れたように言いながら釜利谷君はエレベーターへと続く廊下の方に歩いていく。とりあえず安藤さんのことは亞桐さんと丹沢君が面倒を見てくれるというので、俺を含む他のメンバーは釜利谷君に着いていくことにした。

 

歩くな!!!!!

「わっ!」

 

 釜利谷君が体育館の扉を開けて廊下に進もうとした瞬間、藪から棒に甲高い大声が響いた。釜利谷君は声を上げる暇もなく後ろに倒れ、その過程で思いきり俺とぶつかった。何? 何??

 

「ふぅ~、あやうく踏んづけちゃうとこだったわ」

 

 尻もちをついた釜利谷君の正面には、赤毛を長く伸ばした背の高い女性が腕を組んで立っていた。…なんだ? この人を見た瞬間におかしな胸騒ぎに苛まれた。

 呆気にとられる釜利谷君の足元を、小さなアリが歩いていた。彼女が踏んづけちゃうと言っていたのはこのアリのことか?

 

「ん? そこの人間さん!」

 

 ビシ、と俺に向かって指をさしながら彼女は言った。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 釜利谷達が体育館入り口の方に向かった後、丹沢駿河は恐る恐る焼け焦げた少女の残骸に近寄り、両手を合わせた。

 

「事情はよく分かりませんが……人間であろうがロボットであろうが少女は少女。ご冥福をお祈り致しまする……」

 

 彼女が何なのか、未だに分からない。分かることもないのだろう。数々のフィギュアを製作してきた彼だからこそ持てる、人の姿をした無機物への情。それが彼に複雑な思いを抱かせていた。もっと彼女と話したかった。人となりを知りたかった。刹那の間柄であっても、彼女は確かに同級生だったのだ。

 

 

 そんな彼の思いに答えるように、()()()()()()()()()()。……動いた?

 

 

「え?」

 

 




こんな調子じゃいつまでたっても完結しない! 頑張ります。


ゆきみん勝手にどこか行った?(前々話参照)

――――――――


 ”超高校級の???”

 リュウ

 男子生徒/195cm/95kg
 【好きなもの】推理小説、ニンニク、トレーニング
 【苦手なもの】傲慢な人、生魚
 【人称】「俺」「苗字+呼び捨て」
 
 才能とフルネームを明かさない謎の男子生徒。高校生とは思えないほど非常に大柄で筋肉質。”自身の謎を知ったものは殺さなければならない”という「一族の掟」を紹介し、詮索する生徒達を牽制。一方で「俺はお前達の味方だ」とも宣言し、生徒達からは賛否の目で見られている。しかし葛西は彼から敵意を感じることができず、一旦は同じ境遇の生徒として信頼することとしている。寡黙だが物腰は穏やか。独自の死生観や数々の修羅場を潜り抜けてきたことを匂わせる言動からただ者でないことだけは確かである。読書が好きで、本は電子よりも紙媒体のものを好む。


 “超高校級の造形家”

 丹沢駿河(たんざわ するが)

  男子生徒/155㎝/43㎏
 【好きなもの】美しい造形、健康食品、
 【苦手なもの】運動全般、味の濃いもの
 【人称】「拙者」「苗字+殿」

 小柄な男子生徒。おかっぱ頭にメガネと出っ歯が特徴的。主にアニメ・漫画のキャラクターを題材にしたフィギュア・ミニチュアを独学で製作・公開している。そのクオリティは会社が販売する本格的なものに勝るとも劣らないレベルであり、SNSで大バズりしたことが”超高校級”認定のきっかけとなった。人間の美少女だけでなく怪獣・魔物・妖怪など非人間的な造形も自在に製作可能。手先の器用さは世界一と呼んで差し支えないレベル。メガネをかけている割には視力が異常なまでに良く、爪の先ほどの大きさの模様を見て模写できる腕前の持ち主。ひと昔前のステレオタイプなオタクといった言動をするが、比較的常識的な性格のせいで割を食うことが多ければ頼りにされることも多い。


 ”超高校級の漫画家”

 安藤未戝(あんどう みざい)

 女子生徒/152㎝/45㎏
 【好きなもの】燃える展開、妄想、乳製品
 【苦手なもの】長文、海藻
 【人称】「吾輩」「名前呼び捨て」

 赤茶色の髪を三つ編みにした少女。有名漫画雑誌の新人対象に応募した作品「冥府作家ボーンズ」が編集者の目に留まり、小学生にして連載を持つ漫画家となる。その後、学業と並行して複数の漫画作品を連載。繊細なタッチの絵柄と情熱溢れる熱い展開により中高生を中心に根強い人気を誇る。非常にマイペースで鈍感な性格をしている。作品のために平気で徹夜する割には何でもない時に突然居眠りをしたり、誰でも知っているような常識を知らない割には雑学に詳しかったり、とにかく掴みづらい人間性をしており言動の予測ができない。仙人のような独特の話し方をするが、これは生まれつきとのこと。



 ”超高校級のエンジニア”

 御堂秋音(みどう あきね)

 女子生徒/155cm/45kg
 【好きなもの】機械いじり、謎解き、母親
 【苦手なもの】人間、英語
 【人称】「私」「フルネーム呼び捨て」

 オレンジのセーターの上に作業着を羽織った少女。可憐な容姿とは裏腹に非常に人当たりが悪く、他者を見下すような攻撃的な言動が絶えない。学園入学までの詳細な経歴は不明となっているが、数学・物理学・工学・プログラム等、ありとあらゆる理系学問を極限まで極めた圧倒的な知識量と精密機器を一瞬で玩具のように簡単に組み上げてしまう技術力を兼ね備えた正真正銘の天才少女。その人間性を差し引いても、この学園のメンバーの中では最も洗練された能力を持つと言っても過言ではない。他者と群れることを良しとせず単独で行動している。普段は冷徹に振舞っているが、やや舌足らずな喋り方をしたり感情を剥き出しにする場面があったりと、年齢よりも幼く見える時がある。


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No killing? No kidding!

こんなペースでプロローグ終わるのか?


 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「いえ……初めてお会いした……と思いますけど」

 と俺が答えるより早く、その女性はガバッと地面に伏せて釜利谷君の足元を歩くアリに顔を寄せる。

 

「はぁぁぁ~~~ん♡♡ 触覚の角度エグすぎィ♡♡ 良かったねぇ人間さん如きにその儚くも尊い命を散らさずに済んで……」

 恍惚の表情でアリに何かを語りかける赤髪ロングにメガネの彼女は、ドン引きする釜利谷君にギョロリと目を向ける。

「今回は未遂だから許したげるけど、次同じことしちょったらおまんの(タマ)獲ったるけぇのぉ!!!!!」

「なんで広島弁の輩風なんだよ」

 呆れながら立ち上がる釜利谷君は、電子生徒手帳を開いて彼女の顔と情報を照らし合わせる。

「”超高校級の昆虫学者”小清水彌生(こしみず やよい)……。ゴミを分解する虫とか排水を浄化する虫とかを品種改良で作った天才昆虫学者…だとよ」

「品種改良だなんて!!! こちとらそんな人間都合の事情で虫さんを弄るような真似してないわよ!!! 撤回なさい撤回!!! 私は虫さんが食料不足に悩まされないように手助けしてあげただけ!!!」

 今度はガバッと起き上がり釜利谷君に詰め寄る。何というか、思想の強そうな人だ。

「文句はこのプロフィール書いた奴に言えよ。お前はさっきの騒動にはいなかったみたいだが事情は分かっ」

「人間のクセにべちゃべちゃ喋らない!!! ぜ~んぶ知ってますよ!!! この電子生徒手帳に書いてあることならね!!」

 喋るのは人間だけなのに”人間のクセに喋るな”、とはどういう意味なのか。彼女は白衣のポケットから電子生徒手帳を勢いよく突き出して見せてきた。白衣同士なのに随分折り合いが悪い二人だ。

 

「の割には全然動揺してなさそうだけど…」

 俺と釜利谷君の後ろから前木君が怪訝そうに呟く。

「人間を殺し合わせることがそんなに変かしら? ただの人間社会の縮図じゃない。蟲毒の方がよっぽど残酷よ!!!! 蟲毒反対!!! 蟲毒を娯楽化する全ての人間に厳罰を!!!!」

 この少ないやり取りだけでも、かなりヤバい人であることがよく分かった。超高校級って本当に千差万別なんだな。なんだか自分が思いのほか常識人寄りだったことに安心すら感じている。

 

「ところでそこのあなた!! そこの生存能力薄そうな人間さんよ!!」

 小清水さんは俺の顔を指さして勢いよく呼びかけてきた。当たり前のように指さすのやめてほしいんだけど。しかも今しれっとディスられなかった?

「え……俺?」

「あなた、とてもいい目をしているわね!! 私の特級最重要研究助手に任命するわ! 明日から研究室の雑巾がけ、お願いね!」

 やたら肩書が多い役職に勝手に任命されたかと思えばその役職からは想像もつかないくらいのド雑用を命じられた。どこが最重要助手なの?

「えっと、言いたいことが色々あって。まずここはあなたの研究所ではありません。それと、俺は脚本家であって昆虫学の知識はまるでないのであなたの助手にはなれないです」

「えーっ、本当に!? 二つ返事で受け入れてくれるなんて嬉しいわ! これから宜しくね!」

 物凄くドライに断ったのにこの人は一体何を聞いていたんだ? 虫と会話しすぎて人間と会話できなくなっちゃったのかな。これ以上関わりたくないんだけど…。

 

「おお…なんか良かったじゃん、葛西。仲良くやれよ」

 前木くんが面倒ごとは嫌だと言わんばかりに俺を小清水さんの方に押しやった。世知辛い。助けてくれたっていいじゃないか。

「小清水さん…でしたっけ? その……研究熱心なのは良いことだと思うけど……今って緊急事態なワケで。それは分かってるよね?」

「ええ、もちろんよ! こう見えても私、今マンディブラリスフタマタクワガタさんくらいには気が立ってるんだから」

「うん、生きている間に2度と聞かないであろうクワガタの名前を喩えに出されても全く伝わらないんだけどね。かなりまずい状況ってことが分かってるなら協力してほしいんだよね。まずはその施設内に散らばったと思われる生徒達を見つけて、それで……」

「今後どうするか話し合う、が最優先なんじゃねーか?」

 前木くんが続けざまに言った言葉に俺は頷く。

「この施設がどこにあってどういう場所なのか、あのヌイグルミはなんであんなことを言ったのか、そしてどうしたらこの施設から出られるのか…。考えることは山積みだけど、とにかく今は考える頭がいる。曲がりなりにも"超高校級"の小清水さんならそれくらい分かるでしょ?」

「曲がりなりにも、てところは引っかかるけど。まあ仕方ないわね、誰かに殺されるのか警戒しながらじゃ虫さんと触れ合うことすら叶わないわ。早く片付けて、この施設中の虫さん達を幸せにしてあげましょう!」

 言い方を工夫してみたら何とか納得してくれた。頑張れば言いくるめることはできそうだがいかんせん関わっているだけで疲れる人だ。とりあえず俺たち四人は1階に移動するためエレベーターに乗った。

 

 

 初めて会うはずの人物だし印象も今のところ最悪なのに、彼女のことがなんとなく気になってしまうのは何故なのだろう。

 

 

「………!」

 エレベーターの扉が開く音がすると同時に、誰かの怒鳴り声が微かに聞こえてきた。廊下の先からだ。

「なんだぁ? どっかでドンパチやってんのか?」

 釜利谷君は頭をガシガシと掻きむしりながら廊下を見回す。前木君もそれに続いて廊下の先へと進んでいった。俺もそれに続こうとしたが…。

 

「でもクモ綱の中でもクモガタ類にはクモさんと近縁じゃない種もあってね、例えばザトウムシさんなんかは豆粒みたいな体に糸みたいに細長い足を八本持ってるから一見するとアシナガクモ系のクモさんに見えるんだけど、」

 離れようとすると小清水さんが物凄い力で腕を掴んできて離さない。そしてずーっとよく分からない虫の話をし続けている。めちゃくちゃ面倒くさい。顔は普通に美人なのに、こんなに女性に近付かれて嫌な気持ちになったのは初めてかもしれない。

 俺はさながら馬車を引く馬のように腕を掴んで離さない小清水さんを引っ張って声の元へと足を運んだ。

 

 

「ふざけんなってんだ! なんでオレっちがコロシアイなんざしなきゃならねぇんだい!」

 先ほどまで俺が意識を失っていた教室の中。そこで、作業着のような恰好をした体格のいい男子生徒がモノクマと言い争いをしていた。突然いなくなったと思ったらこんなところにいたのか、モノクマは。

「あぁん!? …うわっ、お前らもしかして…」

「怖がんなよ。そこのクマの被害者仲間だ」

 突如教室に入ってきた俺達を見て狼狽える彼に、釜利谷君が不敵な笑みと共に呼びかける。

 

『ちょうど良かった。どーもボクはこういう石頭のお世話は得意じゃなくてねー。君達の口からコロシアイのルールってやつをじっくりゆっくりビックリ教えてあげちゃって!』

「ビックリは余計だな」

「…と、とにかく! オレっちは世界で一番高いタワーを立てるためにこの学園に来たんだい! お前みたいな喋るヌイグルミにコロシアイしろって言われたところでそうは問屋が卸すかってんだ!」

『はいはい、そういう江戸っ子の前時代的むさ苦しいテンションは守備範囲外でーす。ボクはダウナーで無関心でナイーブな令和っ子だからね。あれ、リメイク前準拠だと今は平成?……あーわかんね! 現代っ子って言っとけば問題ないか』

 ぶつぶつとわけの分からないことを呟く不気味なモノクマを無視して俺は彼の元へと歩み寄った。電子生徒手帳の情報と照らし合わせながら…。

 

「”超高校級の建築士”土門隆信(どもん たかのぶ)……君で合ってる?」

 名前の下に書いてある経歴まで目を通す時間はなかった。俺は存じ上げていないが、恐らく建築関係で世間一般に評価されるような功績を上げているのだろう。立派な体躯を見るに、設計や管理だけでなく実際に体を動かしてもいそうに見える。

「おうよ! オレっちは……ってそんな胸を張って名乗っていられるような状況でもねぇか。ったく、変なとこで目覚めたと思ったら急に喋るクマは出てきやがるしよう…」

「まあそこらへんの状況のすり合わせとかは後でもできんだろ。とりあえず今はホラ、他に離れ離れになってるやつらを拾いに行こうぜ。一人にしとくと先走った奴に殺されるかも分からんからな」

「三ちゃん、サラッと怖いこと言うな…」

 釜利谷君の言うことはもっともだが、そんな恐ろしいことをあっけらかんと言うものだから怪しく見えてしまうのだ。

 

「お、おうよ……てことはお前らはほとんど集まってたってコトか?」

「ああ、さっき体育館で入学式済ませたトコだ。お前含め、何人か欠席者がいたみたいだが」

「そーだったのか!? オレっちはそんなこと全然知らねぇで歩き回ってたぞ」

「まあ、体育館に集まったのも流れというか、自然とそうなったってだけで誰かが号令したわけじゃないからね……」

「ところで土門さ、俺ら以外に生徒に会ったりした?」

「ん? ああ、オレっちは2階の教室で目を覚ましたんだけどよ、確か2階にはトレーニングルーム?みてぇな場所があってよ、そこで女がトレーニングしてたな。確か空手家だっけか」

「空手家……ああ、コイツか。”山村巴(やまむら ともえ)”……目覚めてすぐ状況も確認せずトレーニングかよ」

 そこはなとなく小清水さんや安藤さんに通じるヤバさをその人からも感じるのは気のせいだろうか。そういえば小清水さんは静かだけど何を…。

 

「小清水さん、何してるの?」

 彼女は教室の入り口の方でぼうっと立っていた。目線は壁の方。たぶんだけど…ダニか何かを見ているのだろうか。無理矢理引っ張ったらまた変なスイッチが入りそうだなあ…と渋っていたら釜利谷君が彼女の白衣の袖をグイと引っ張った。

 

「オイ小清水、行くぞ。次はその山村ってヤツを捕まえに行く」

「捕まえるて。言い方」

「ええ……何? 何か話してたの?」

「マジか。そこからかよ」

「ごめんなさい、私哺乳類の出す音は優先的に聞き取れない体質なの。どうしてもダニさんが壁を歩く音が気になっちゃって…」

「どんな特異体質だよ、生きづらすぎだろ」

「まあ、詳しい事情は後で葛西君からこってり小一時間聞くから大丈夫よ! よろしくね、葛西君に哺乳類さんに哺乳類さんに哺乳類さん!」

「葛西以外全員哺乳類呼びかよ! 名前くらい覚えろ!」

『ちょっとボクは!? れっきとした哺乳類クマ目クマ科なんですけど! シャケもしっかりつかみ取りできるんですけど!』

「クマ目なんて目はないけど」

『え!? そうなの!?』

「なにこの会話」

 

 ……頭が痛くなりそうだ。

 

 

 

「つまり、1Fと体育館はエレベーターでなければ行けないが、1Fと2Fはエレベーターでも階段でも行き来できる」

「そうそう。オレっちはエレベーターがあるなんて知らずにそこの階段から1階に降りてきたんだ。そんでそこの教室であのクマに出会って…」

 数分後、俺たちは1階の廊下でそんな会話をしながら歩いていた。モノクマは教室で『ボクは哺乳類なんだ~!』と騒いでいたので置いてきた。本当に殺し合いを強いられているのか疑問なくらい緊張感のない空間だ…。

 

ねえ、ところでさっきから後つけられてるんだけど誰?

「!?」

 小清水さんのあまりに唐突なカミングアウトに俺と釜利谷君はビクッと肩を震わせた。一方、先を歩いていた土門君と前木君は聞こえなかったようで階段を上がり始めていた。

「あ? なんだと? どこだ?」

「さっきから足音がひょこひょこ聞こえてうるさいのよね。そこにいるんでしょ?」

「哺乳類の音は聞こえないんじゃなかったのかよ」

 小清水さんは苛立たし気にメガネのずれを指で直しながら廊下の曲がり角へと歩いた。次の瞬間、その角から物凄い速度で小さな人影が飛び出してきたのだ!

 

「えっ?」

「わっ!!」

 その人影は一瞬で俺と釜利谷君の横を通り抜けると階段の方へ抜けていった。あまりの速さに顔は見えなかった。一瞬目に移ったのは綺麗なブロンドの髪だ。

「おい、そっち行ったぞ! 捕まえろ!」 

「え? 何を?」

 土門君がそう答えながら振り返った時には、その人影は既に彼の横を通り抜けようとしていた。俺と釜利谷君も慌てて階段のふもとまで来たが…。

 

「ぎゃっ!?」

「キャァッ!!」

 

 男女の鋭い悲鳴が踊り場から聞こえてきた。そして俺の視界に広がったのは―――。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 数秒の後、視界が真っ暗になった。一瞬のめまいの後、後頭部に激痛を感じた。何人かの俺を呼ぶ声が聞こえ、そこで―――。

 

 

 布。圧倒的、布。

 

 何故か俺は顔面全体で”布”を感じていた。顔にタオルを押し付けられているような感覚だ。そして両耳に温かい肌のような感触…。

 ゆっくりと目を開けると、そこには俺の理解を超えた光景が広がっていた。

 

 

 

 階段のふもとで、何故か金髪の小柄な美少女が俺の顔を跨いでいた。耳に感じる肌は彼女の太ももで、顔面に感じる布は、間違いなく彼女のパn………。

 

 

 

 

 ―――こんなところで(社会的に)殺されるなんて、冗談じゃない!

 

 

 

 




世界一アツくないタイトル回収。
次話でプロローグは終わりです。


―――――――


“超高校級の建築士”

 土門隆信(どもん たかのぶ)

 男子生徒/185㎝/75㎏
 【好きなもの】運動(水泳以外)、家族
 【苦手なもの】水、曲がったこと
 【人称】「オレっち」「苗字呼び捨て」 

 大手ゼネコン「土門建設」社長子息。中学生の頃には自力で大型建築物の設計に携わり、政府の新築庁舎にも彼が持つ土門建設の技術が取り入れられているという。幼少期から設計・施工・管理技術の英才教育を受けたエリートであるが、本人は身体を使った土木作業を好み、泥臭い仕事にこそ生きがいを見出している。昔気質の江戸っ子ではあるが堅物の気はなく、誰とでも柔軟に打ち解ける人の良さを感じさせる。情に厚いがゆえに曲がったことは人一倍嫌いであり、また自分が悪いと思った言動は見過ごせない。年頃の妹がいるらしく、意外と同世代の女性への気遣いが繊細である。




 ”超高校級の昆虫学者”

 小清水彌生(こしみず やよい)

 女子生徒/168cm/57kg
 【好きなもの】虫系全般、触手、羽音
 【苦手なもの】小動物、犬猫、鳥、人間
 【人称】「私」「苗字+君」「苗字+さん」

 明るい赤髪をロングヘアにした白衣の女性。なかなかスタイルが良い。昆虫に関する様々な論文を発表、また既存の虫の遺伝子を掛け合わせることでゴミを分解する虫や汚水を浄化する虫などを新たに生み出し、昆虫界に激震を巻き起こした。本人は過激とも言えるほど昆虫の保護に熱心であり、前述の品種改良も人間社会の為ではなく現代における昆虫の生息域を拡大するために行った研究である。ただしそれが良い方向に進む限り技術による遺伝子改良自体に抵抗は感じておらず、前述の改良をはじめ次々に品種改良した昆虫を生み出し、人間の淘汰圧を超越した昆虫の誕生を目指している。あまりにも思考が偏っており言動が極端であるため人が寄り付かない。一方で何故か葛西のことをとても気に入っており、特別助手に任命した。



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Re:たったひとりの最終裁判(けっせん)

よいお年を。


 

 

 ―――状況を整理しよう。

 

 俺は"超高校級の脚本家"として"私立 希望ヶ峰学園"に入学する予定だった。しかしいつの間にかこの謎の空間―――釜利谷君が言うには"希望ヶ峰学園"らしい―――に連れてこられた。いつ、どこから、どうやって連れてこられたのかは全く分からない。この場所には、俺と同じように連れてこられた生徒が多数存在していた。そこで俺達は謎のヌイグルミから"コロシアイ"を命じられて―――。

 

 頭から整理していたらキリがない。要するに、今俺は―――。

 

 

 "津川梁(つがわ りゃん)"と名乗る金髪の美少女と正座して相対していた。何、この状況。

 

 

「つまりお前は、1人で施設内を歩いていた時にモノクマからのメッセージをタブレットで受信。コロシアイのルールを見て怖くなり、他の奴らがどう動いているかチェックするために尾行していた、と」

 彼女が述べた言葉を前木君が分かりやすく整理して言い直した。

「ご、ごめんなさいなり!! 見せられるものはなんでも見せるし舐められるところはどこでも舐めますから命ばかりはお助けくださいなり!」

 独特の語尾で話す少女…津川さんはそう叫びながら勢いよく土下座した。

「普通にかなりアブないこと言ってねーか、コイツ」

「そんなことはどうでもいいのよ。何故私の第一助手である葛西君に求愛行動をしたのか説明してもらえる?」

 求愛行動なわけないでしょ、と俺は思わずツッコんだ。状況的には完全に事故だが、俺は彼女のパn……着用しているものに顔面を埋める形となってしまった。セクハラで済むのかどうかも怪しいレベルの行動だ。しかもそれを多くの生徒達にリアルタイムで見られたのだ。人生でここまで生きた心地がしないのは初めてだ。

 昔、友達に頼まれて書き下ろしたライトノベルでこういうシチュエーションを書いたことがあったな。あれを書いた時の俺は未熟だったと思う。実際に体験してみて感じるのはドキドキやワクワクなどではない、ただ純粋な罪悪感と恐怖だけだ。俺の人生終わったかも。

 

「その……尾行してるのがバレて…とっさにマズいと思って逃げようとしたら…そこの彼に階段の踊り場でぶつかって、それで……」

「運が良かったんだか悪かったんだか」

 それで奇跡的な態勢で俺の上に覆いかぶさってきたと。そんなことあるのか。前木君も踊り場で突然津川さんにぶつかられるなんて()()()()()。ただ、この事件がなければ彼女にも警戒されっぱなしで近づけなかったのかもと思うと複雑な気持ちではある。

 

「…俺は別に何ともないけど、お前はケガとかしてないか? 結構な高さから落ちたろ」

「リャン様は別に…。彼が下敷きになってくれたから」

 一人称も独特な彼女…津川さんは不安そうに俺を覗き込んだ。俺は背中全体を強打したものの、逆に背中全体で衝撃を受け止められたことで特定の箇所に大きなダメージを負ってはいなかった。背中がヒリヒリするくらいだ。

 

「ちょっと。まだ求愛行動の理由を聞いていないんだけど」

「だから求愛じゃないんだって」

「えっと…貴方は彼の付き人なりか?」

「そんなわけないでしょう。付き人は彼の方よ。付き人というより奴隷よ」

 俺が何も言い返さないからって好き放題言うな、小清水さんは。第一助手って奴隷なのかよ。

「ほえ…? よく分からない関係なり」

「安心しろ。オレ達も全然分かってねえ」

「えっと、俺と小清水さんのことはいいから。とりあえず俺達は君と同じくこの学園に閉じ込められて殺し合いをさせられようとしている被害者仲間だから、怪しむ気持ちは分かるけど協力してほしいんだ」

「………」

 津川さんは不安そうに俯く。合流した状態で殺し合いの話を聞かされた俺たちとは違って、一人でそれを聞かされた彼女の不安は計り知れない。他の生徒に警戒を抱くのも不思議はない話だ。

 

「気休めかもしれないけどよ、こうやって複数人で行動してれば変な気を起こすこともできないだろうよ。心配なら小清水の後ろにでもいればいいんじゃねぇか?」

「この人はヤダ」

 土門君の建設的な提案を一瞬で蹴る津川さん。土門君は女性同士ということで気を遣ったのだろうが、もうここまでのやり取りで小清水さんの印象が最悪になっている。

「…キミの後ろにいても、いいなりか?」

 代わりに、津川さんは俺の背中にぴったりとくっついた。他の感情よりまず先に困惑が訪れた。

「え? 君にあんなことしちゃった俺でいいの…?」

「…あれは事故だし。それに、キミはなんとなく…()()()()()を感じる…から」

 人柄の優しさのことを言っているのなら、前木君や土門君の方がありそうなものだが。何故彼女に気に入られているのかピンと来ない。小清水さんにも何故か目をつけられるし、これまでの人生で女性と関わったことなんてほとんどないだけに不思議な感じだ。

 

「あなたが葛西君と団体行動をするのは勝手だけど葛西君は私専属の奴r…第一助手なの。勝手に私の視界外に連れ出さないでよね」

「今また奴隷って言いかけたな」

「分かった、分かったから。…あ、そういえば君の才能についてまだ聞いてなかったね。生徒手帳に書いてある情報、見てもいい?」

 相変わらず面倒くさい小清水さんをいなしながら津川さんに許可を取ると、彼女は特に抵抗する素振りを見せることもなく頷いた。生徒手帳のプロフィールは誰でもいつでも見ることができるようだが、御堂さんにあんな言われ方をされた後だと勝手に見るのも気が引けた。

 

「えっと…”超高校級のコスプレイヤー”? 俺はちょっと聞いたことはないけど…きっとその界隈では有名人なんだよね」

「う~ん…たぶん、ディープなファンなら知ってるくらい?」

 と、津川さんは頬に指を当てながら呟く。コスプレ界隈というのがどれくらいの規模感なのか分からないが、人によってはテレビ出演するくらい成功している人もいる。彼女もそういった大スターの卵といえる存在なのかもしれない。さっきのハプニングのせいであまり意識できていなかったが、物凄い美人だ。人形のように丸く大きな瞳、透き通った綺麗な肌。それだけに余計にさっきの件での罪悪感が増すが…。

 

 

せぇいやぁぁぁぁぁぁ!!!!!

 

 津川さんのことを聞き出そうとしていたら藪から棒に大声が階段上から聞こえてきた。この施設は一体どうなっているんだ? 

 その場にいた全員がギョッと階段上を見ると、顔をしかめたリュウ君が階段の出口、二階の廊下にいた。大声を上げていたのは、彼に襲い掛かるセーラー服の女性だ。まだ見ない顔…ということは、彼女がここに集められた最後の生徒…”超高校級の空手家”、山村巴(やまむら ともえ)さんということになる。

 

「どうして避けてばかりなんですか!!! せっかく素晴らしい好敵手に出会えたんです、心地よく打ち合いを楽しみましょうよ!!!」

「ここは稽古場ではないし、俺は稽古相手ではない。時と場を考えろ……」

 リュウ君はさっき見せた底知れぬ強者感はどこへやら、あからさまに困り顔だ。山村さんはそんなリュウ君にお構いなしとばかりに正面に正拳突きを四、五発放つ。”超高校級”の名を冠するだけあってとてつもないスピードだ。リュウ君は最低限の動きでそれをかわし、なおも対話を試みる。

「お前は状況が分かっているのか? こんなところで油を売っている場合ではないぞ」

「そういうワケにはいきません!! 強いオトコを見たらまず殴り倒せとお師匠に教わったのです!!」

「どんな教育だよ!」

 思わず放った前木君の言葉で、リュウ君と山村さんはこちらに気付く。山村さんは怪訝そうな顔でこちらを一瞥し、そして……。

「ヒェッ!?」

 と、突然拳を体に引き込んで萎縮する。

「今度はなんだよ」

「すみません……私軟弱アレルギーでして。軟弱なオトコをみると蕁麻疹が出てしまう体質なんです」

「軟弱で悪かったな! どんな体質だよ!」

「いえ、あなたじゃなくてそこの座り込んでる彼です」

 山村さんが指さしたのは紛れもなく俺だった。え? 俺が軟弱すぎて蕁麻疹出してるのこの人は。

「あーなんだ、それなら良かった」

「良くないよ!!」

 小清水さんといいこの人といい、なんで初対面でこんなに人を舐め腐れるのか。俺はこんな超高校級にならなくて良かった。

 

 

「えーっ!!! コロシアイ!?!?」

 事情を説明すると、山村さんは分かりやすく飛び上がった。知らなかったのかよ…。そういえば土門君の言葉が本当なら彼女はずっと二階のトレーニングルームにいたんだっけ。モノクマが現れて説明することもなかったようだ。

「コロシアイってなんですか!? 私、試合は好きですけど殺すのは武道の精神に反しています!! 絶対嫌です!!」

「いや、俺らだって納得してねーよ。目が覚めてから何が何だか…」

「混乱しているのはみんな同じよ。でも助け呼ぼうにも俺らスマホとか私物も無くなってんだろ。だからこそみんなで集まって状況整理しようっていう話よ」

 取り乱す山村さんに釜利谷君が告げると、彼女は納得した表情で腕を正面に突き出した。正拳突きで返事するのが癖になっているのだろうか。

「それは良いですね! こんなことを強いる黒幕を見つけ出してボコボコにしましょう!」

「そう簡単にいくなりか…?」

「その間、葛西君は私の研究室の掃除をしてもらうわね!」

「俺だけ話し合いハブられるの?」

 相変わらず会話のテンポが狂うが、とりあえず全生徒の存在を認識することはできたわけで、ここからみんなでどうするか話し合うのが目下やるべきことになるだろう。

 

”ピンポンパンポーン”

 

「!?」

 だしぬけに大きな音が建物中に響いたので、リュウ君と小清水さん以外の全員がビクッと肩を震わせて驚いた。

 

『オマエラ! これから夜時間になります。夜時間は一部の施設が施錠されます! それと、個室以外での故意の就寝は禁止となります! それではまた明日もレッツコロシアイ! おやすみなさい』

 

 モノクマのだみ声が放送となってあちこちに設置されているスピーカーから聞こえてきた。生徒手帳を確認すると、夜時間というものの定義が記されていた。

 

・夜22時~朝6時の時間帯は”夜時間”となります。夜時間の間は食堂、大浴場など一部の施設が施錠され進入禁止となります。また、時間帯を問わず個室以外での故意の就寝は禁止されているので気をつけましょう。

 

「え? もうそんな時間だったのか?」

「そーいやこの建物窓もねーしな。時間感覚も無くなるぜ」

「食堂とか大浴場があったこと自体今知ったんだけど……どーする? みんなで集まれそうな部屋は軒並み閉じてるっぽいぞ」

 どうしよう。みんなで集まること自体は廊下でもどこでもできそうだが、個室以外での就寝禁止というのも気になる。全員で集合して寝たりしたら殺し合いが起きないからだろうか。

 

「今日は疲れちゃった。私は部屋戻って寝るわね」

「おいおいどこ行くんだよ。てか個室ってどこだよ」

「え? 一階の廊下曲がった先にあったじゃない。見てなかったの? じゃ、おやすみなさい」

 そう答えながら小清水さんは足早に一階の廊下を進んでいった。

「こんな状況でよくそこまで目が利くな」

「どうすんだい? みんなで集まるのは無理そうだぞ」

「部屋がちゃんと施錠できるなら、部屋の調査も兼ねて今夜は各自部屋で過ごすっていう形でもいいんじゃないかな」

 困惑した土門君に俺はそうアドバイスした。もし本当に個室が用意されているのなら、どんな場所か見ておきたい。

 

 1階の廊下の角を曲がると、左右にずらりと扉が並んだ空間に出た。扉にはご丁寧に各生徒の名前とドット絵がはめ込まれていた。一体いつこんなものを用意したのだろうか。

「施錠のことは心配するな。このタブレットでロックをかけることができ、一度ロックすれば俺の力でも容易に開けられるようなものではなかった」

 リュウ君が懐から取り出した電子生徒手帳をかざしながらそう言った。

「いつの間に確認したんだよ」

「目を覚まして真っ先にな。おかげで体育館に行くのが遅れた」

「なるほどな」

「そんなところにまで目をつけるなんて流石好敵手! ここから出たら真っ先にお手合わせ願います!!」

「断る」

「呑気か」

 相変わらず気の抜けた会話を背に受け、俺は電子生徒手帳を扉のドアノブにかざした。まるでホテルのドアのように、ピッという電子音と鍵の開く音がした。恐る恐る中を覗くと、これまたホテルのような小綺麗な個室が姿を現した。

 

「扉は普通に空いたね…。中も……ここから見る感じ普通に綺麗な部屋だ」

「気をつけろよ、何があるか分かんねえぞ」

 念のためリュウ君に扉を押さえて開けっぱなしにしてもらい、個室に入った。部屋の中にはゴミ一つない、それでいてどこから集めたのか俺が昔からよく読んでいる愛読書や俺が所有しているものと同じタイプのノートパソコンが置かれていた。…ネットには繋がらないようだが。

 

「わぁ~、綺麗な部屋だな……。これ、お前の私物か?」

 一緒に中に入った前木君が感嘆の声を上げた。

「そうみたい……だけど…なんでこんなところに」

「怖いな……ひょっとして俺らの部屋にもこういう私物が放り込まれてんのか?」

 モノだけなら同じ物を用意することができるかもしれないが、パソコンの中に入っている作りかけの脚本の資料なんかも正確に同じものだ。こればかりは再現などできるはずもない。このパソコンは間違いなく俺の私物そのものということになる。どうやってこれをこんなところに持ってきた。少なくとも俺の家に侵入できなければこんなことはできないはず…。

 

「マジかよ……一体どうやって?」

 気の抜けた会話ばかりで失いかけていた危機感と恐怖感が再度俺の背筋を撫でた。忘れてはならない。敵は底知れないヌイグルミ達であることを。奴らが一体何者でどんな力を持っているのか、俺は全く知らない。突然雷を落として人を殺したり、俺の私物をこんな場所に用意したり、俄かには信じられないような芸当ばかりだ。

 

「…とりあえず……部屋の中は安全ではありそう。監視カメラが気になるけど…」

 クローゼットには俺の私服や制服がずらりと並び、棚や収納にも私物が詰まっていた。その不気味さを除けば、危険物や不審者が部屋の中にいるということはなかった。トイレやシャワーも完備されているが、至って清潔で不審な点はない。唯一、個室内を俯瞰するように一個設置されている監視カメラの存在だけが不安を煽った。トイレとシャワーには流石に設置されていないとはいえ、生活空間すらもあのヌイグルミ(を動かしている何者か)に監視されていると思うと気が滅入るばかりだ。

 

「扉はリュウの言う通り頑丈っぽいし、部屋にいれば誰かに襲われるってことはなさそうだな。あのヌイグルミが変なコトしてこなければ…」

「一応インターホンはあるみたいだから、部屋にいて何かあったらすぐ呼んでね。頑張って起きるようにはするから。ところで、土門君と釜利谷君は?」

「ああ、あいつらは体育館とか施設内に残ってる奴らに声掛けに行った。とりあえず今夜は部屋に戻って、明日の朝8時くらいに食堂に集合ってコトで」

 生徒手帳のマップを開きながら前木君が告げる。食堂は今いる1階にあり距離も近いため迷うことはないだろう。体育館で見た面々が無事か気になるが……突然あんなことを言われて鵜呑みにして人殺しをするような人はいないと信じたい。

 

「じゃあ俺も自分の部屋行くわ。いろいろわけわかんなすぎて疲れた」

「うん……おやすみ。これからそうなるか分からないけど……よろしく」

 俺が手を差し出すと前木君は少し照れ臭そうに握手に応じた。こんな純粋な目をした好青年が殺し合いをするなんて思えない。こんなバカげた場所は早く出ていこう。助けは来る……来るはずだ。だってこんなに世間的に影響力の高い高校生達がいなくなったのだから。メディアも気付かないはずがない。

 

 居合わせたみんなとあいさつを交わし、戻っていく前木君を部屋の入り口から見守っていると、彼に続いて歩く津川さんが不意にこちらを振り返った。

「……?」

 彼女は何か言いたげにこちらを見つめていたが、何かを振り払うように首を横に振ると、微笑と共に小さく手を振り、部屋へと入っていった。彼女は、俺に何を伝えたかったのだろう。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 俺は靴を脱ぐと、大きなため息とともに勢いよくベッドに倒れ込んだ。ベッドはひんやりしていて柔らかかった。とても寝心地の良い高級品だとすぐに分かる。安眠を得るにはこの奇怪すぎる状況だけが唯一にして最大の障害と言えるだろう。

 

 何とか俺は起き上がって最低限の生活行為を行った。トイレもシャワーも、至って清潔で普通に使える。あのヌイグルミに監視されているのかもしれないと思うと使うのも気が引けるが、そうも言っていられない。

 

 再びベッドに転がって天井を眺めていると、この状況が本当に夢でないことを頭のなかで念押しする思考が何度も繰り広げられた。間違いなくこれは現実だ。意識も実感もある。だがその意識も、俺自身の疲労によって次第に眠気の濁流の中に押し流されていった。肉体的にも精神的にも、今日の出来事は普通の高校生が耐えられるレベルのものを遥かに凌駕していた。

 

 疲れた。今日はもうこれ以上考えるのはやめよう。きっと、きっと明日になれば何かいい方向に向かうはずだ。きっと……。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 居心地の悪い浮遊感を全身で感じる。これは夢なのだと自覚している冷静さが妙に不気味だった。俺はこの世界で、()()()()()()()()()()()()()

 

 夢の中で作られた偽りの記憶が脳裏に流し込まれる。その記憶は徐々に実体を形成し、固形化する。そこは、炎に包まれた()()()。俺は、()()()と対峙していたのだ。()()を握りしめ、対峙していたのだ。

 これは現実ではない。夢の世界だ。その認識ははっきりある。ならばなぜ、ここまではっきりと、まるで本当にそれを見ているかのようにそのイメージが浮かぶのだろう。夢というのはもっとぼんやりした意識の中で認識するものだと思っていた。

 

「ああ……足りない」

 ()()()は確かにそう言った。

「こんなものでは、世界をスクエナイ。そう思ったから、この脚本は()()()()()のでしょう。()()()()()()()には、こんな脚本では物足りないと」

 それに続いて誰かの怒鳴り声が聞こえてくる。()()()を責め立てるように、あるいは問いただすように、激しい何かが飛んでくる。その声にはなんとなく聞き覚えがある。この声の主は―――。

 

「スクッてよ」

 そんな声には応えず、()()()は今までとは違う少し苦しそうな、まるで助けを求めるような声でそう言った。

「スクいたいんでしょう、”全人類”を。ならスクッてよ、”全人類(たったひとりの私)”を」

 

 裁判場を包む炎が勢いを増す。その炎は()()()を包み込み、黒く焦がしてゆく。俺は何をしているんだ? ただ見ているだけ? 何も理解せず、何もできないまま? 

 炎が背を伸ばす音に紛れて聞こえてくるのは、()()()の断末魔。俺はまた、惨劇を傍観することしかできないのか。…()()

 

『もう全ての歯車は動き出しているんだよ』

 

 背後から聞きなれただみ声が俺の耳に突き刺さる。振り返ると、そこにはモノクマがいた。()()()のように偉そうに座ることも、悪意に満ちた嫌味を言い放つこともなく、じっと立ち尽くしてこちらを見つめている。

 

『ほら、しゃんとしなよ。()()()()()()()が君を待ってるんだから』

 

 この小さな白黒の喋るヌイグルミから発せられる言葉は、他のどんな人間のものよりも重みがあった。何故そう感じるのかは分からない。だが、それだけははっきりと分かるのだ。

 俺はモノクマから視線を離し、元向いていた方向に向き直る。そこにはもはや炎に包まれた裁判場はなく、静寂に包まれた暗い建物が広がっていた。ちょうど今、俺達が生活している空間と全く同じ場所だ。俺はその暗闇に向かって一歩、また一歩と足を進める。

 

『うぷぷぷぷぷ! どうぞ頑張ってね!』

 

『”たったひとりの最終裁判(けっせん)”は、まだ始まったばかりなんだから』

 

 その言葉を聞いて俺は、何故か自嘲するように寂しく笑った。その言葉に俺は一体何を思ったのだろう。そして、俺の意識は少しずつ揺らぎ、闇に溶けていった。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 翌日、俺は昨夜と全く同じ天井を見つめながら目を覚ました。残念ながら、この異常なコロシアイ生活は一時の悪夢ではなく現実そのものであった。

 

 結局、あの夢の意味も内容もほとんど分からなかった。だが、断片的に得た記憶と言いようのない感覚が俺の胸中に残り続けていたのは紛れもない事実だ。

「……うん?」

 俺は思わず声を上げた。自室の机の上に、見たことのないファイルが置いてあったからだ。寝る前にはこんなものはなかったはずだ。自室の扉は施錠していたはずだから、寝ている間にこんな悪戯ができるのはモノクマくらいだろうか。だが何のために?

 

 さらに不思議なのは、そのファイルが空っぽだったことだ。プラスチックの大きなファイルで、中には相当な枚数の紙を綴じられそうだが、その割にはそのファイルには一枚も紙が綴じられていなかった。モノクマを呼びつけたら何か分かるだろうか。それは後で行おう。とにかく俺達にはこれからやらなきゃいけないこと、確認しなきゃいけないことがたくさんある。

 

 何も綴じられていないファイルには、短いタイトルが刻まれていただけだった。

 そのタイトルの中にこれから俺達が歩む途方もないくらいの絶望が込められているようで、俺は戦慄せずにいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

【エクストラダンガンロンパZ 希望の蔓に絶望の華を】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

《生存人数:??人》

 





***********


 津川梁(つがわ りゃん)
 女子生徒/145㎝/42㎏
 【好きなもの】ファン、おばあちゃん、甘いもの
 【嫌いなもの】巨躯、しょっぱいもの
 【人称】「リャン様」「キミ」「苗字+くん(きゅん)」「苗字+ちゃん(たん)」

  背が低い金髪の美少女。SNSで引っ張りだこの有名コスプレイヤーだが、ニッチな界隈ということもあり世間での知名度は高くない。自分自身を一人のキャラとして認識し、キャラ付けの一環として独特の喋り方で話している。ありとあらゆる化粧品を使いこなすメイクマスターである一方、メイクに頼らずとも非常に端正な顔立ちをしている。あざとすぎるとも評されるその言動には賛否あるが、本人は至ってお人好しな少女である。オタク気質な部分もあり、私物がほとんど推しキャラクターのグッズで埋まっている。また、SNSなどを通じてアンチ、ストーカー等に絡まれた経験もあってか、稀に冷徹な人生観が垣間見える。何故か葛西に対する好感度が高い。


 山村巴(やまむら ともえ)
 女性生徒/166㎝/57㎏
 【好きなもの】稽古、スイーツ、死闘
 【嫌いなもの】軟弱な人、ムカデ
 【人称】「私」「苗字+君」「苗字+さん」

 セーラー服を着たポニーテールの女子生徒。中学時代から全国大会で複数回優勝を果たしている空手の天才少女。真面目な反面、脳筋気質。型だけの稽古ではなく相手のいる戦いを極めることに重きを置き、常に強い相手との死闘に飢えている。逆に軟弱な人間を見るとアレルギーが出るため、周囲の人間を全員強くしようとしている。私室や身だしなみはしっかり整える反面、服が汚れても気にしなかったりご飯を荒々しく食べたりと、繊細さと豪快さが同居している不思議な人物。時節別人のように口が悪くなることがあり、どこか情緒不安定。スイーツが好きだったりSNSでの”映え”を気にしたりと、年頃の女子高生らしい一面も覗かせる。非常に達筆。



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生徒・職員名簿
希望ヶ峰学園特別分校 生徒・職員名簿


〇注意〇
この生徒名簿にはプロローグまでのストーリーの情報が含まれます。あらかじめプロローグを読了した上で閲覧されることを推奨します。


 ”超高校級の脚本家”

 葛西幸彦(かさい ゆきひこ)

 男子生徒/164㎝/51㎏

 【好きなもの】落ち着けるもの、漬け物

 【苦手なもの】押しが強い人、トマト

 【人称】「俺」「苗字+君」「苗字+さん」

 

  本作品における視点キャラクター。劇作家の父を持ち、幼少期から作品を発表する機会に恵まれ頭角を現す。その活動範囲は劇のみならずドラマ、映画、小説原案からプロレスのブックまで多岐に渡る。広い知識を持ち冷静沈着だが精神面・人生経験では年相応の青年である。創作者としての性なのか、言葉を話すよりも脳内で独り言を言って完結させてしまうことが多い。やや人見知り気味で、対人では気弱な態度を取ることが多いが、その実脳内では強気な口調で話していることも多い。

 

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 ”超高校級の脳科学者”

 釜利谷三瓶(かまりや さんぺい)

 男子生徒/176㎝/67㎏

 【好きなもの】寝ること、楽しいこと、塩辛

 【苦手なもの】めんどくさいこと、リア充

 【人称】「オレ」「苗字呼び捨て」

 

 白衣を着た天然パーマ気味の男子生徒。日本脳科学の権威である釜利谷尚瓶(かまりや しょうへい)医師の一人息子。13歳で父と共同論文を執筆。神童と称される才能で脳科学の発展に寄与したとされるが、その研究内容など詳細な活動内容は公開されていない。本人は至ってマイペースで面倒くさがりな性格をしている。何かを知っているような意味深な態度が目立つが、胡散臭さを除けば情に厚く頭の回転も早い頼れる兄貴分である。ガサツな性格ゆえか全くと言っていいほど恋には無縁であり、幸せそうなカップルを敵視している。

 

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 ”超高校級の幸運”

 前木常夏(まえぎ とこなつ)

 男子生徒/170㎝/58㎏

 【好きなもの】楽しいこと、ノリのいい人

 【苦手なもの】卑屈な人、酸っぱいもの

 【人称】「俺」「苗字呼び捨て」

 

 特に実績をあげているわけではないが、定期的に抽選で募集されている”超高校級の幸運”と呼ばれる生徒の一人。感性、人格共に至って普通の男子高校生であり、人懐っこく明るい性格をしている。あまり考え事や勉強は得意な方ではなく、どちらかといえば体育会系。よく言えば常に輪の中心にいる、悪く言えばスクールカーストの上位に位置するタイプ。年相応に思いつめたり悩んだりすることもあるが、基本的に深く突き詰めることはしない。周囲の超高校級に比べて特段才能がないことは認めつつも、”所詮は同じ人間”と捉えている節があるため、特段壁を感じずに絡むように心がけている。

 

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 ”超高校級の???”

 リュウ

 男子生徒/195cm/95kg

 【好きなもの】推理小説、ニンニク、トレーニング

 【苦手なもの】傲慢な人、生魚

 【人称】「俺」「苗字+呼び捨て」

 

 才能とフルネームを明かさない謎の男子生徒。高校生とは思えないほど非常に大柄で筋肉質。”自身の謎を知ったものは殺さなければならない”という「一族の掟」を紹介し、詮索する生徒達を牽制。一方で「俺はお前達の味方だ」とも宣言し、生徒達からは賛否の目で見られている。しかし葛西は彼から敵意を感じることができず、一旦は同じ境遇の生徒として信頼することとしている。寡黙だが物腰は穏やか。独自の死生観や数々の修羅場を潜り抜けてきたことを匂わせる言動からただ者でないことだけは確かである。読書が好きで、本は電子よりも紙媒体のものを好む。

 

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“超高校級の哲学者”

 夢郷郷夢(ゆめさと きょうむ)

 男子生徒/184㎝/71㎏

 【好きなもの】静かな時間、思考、女体

 【苦手なもの】むさ苦しい人、うるさい場所

 【人称】「僕」「君」「苗字+君」

 

 高校生でありながら世界中の大学や学会で講演を行う若き思想家。元々は動画投稿サイトにて哲学に関する雑学や哲学者の紹介、哲学書への容赦のないレビュー等の活動を行っていた。若くして卓越した知識量、古代ギリシャ人を模した姿格好と長身美形の見た目、聞く人を惹きつける話術などから瞬く間に世間の注目を集め、非常に認知度は高い。マイナーなものまで数多くの哲学書の内容をほぼ暗記し、暗唱できる。常に無表情だが感情自体は豊かな方である。近しいものにしか言えないとある特殊な嗜好を持っているとされる。

 

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 “超高校級の翻訳者”

 入間(いるま)ジョーンズ

 男子生徒/180㎝/64㎏

 【好きなもの】話好きの人、干し芋、難しい本

 【苦手なもの】話を聞かない人、ホラー系全般、高所

 【人称】「(わたくし)」「苗字+様」

 

 北欧系のハーフ。外交官の母と海外企業重役の父を持つ大家のお坊ちゃん。33か国語に通じる語学の天才。母の補佐として通訳作業、書籍の翻訳など多岐に渡る活動をこなし、数年前にはとある小国で起きた革命紛争を調停し平和裏な政権移譲を実現。数十万人規模の命を救うなど、世界的な活躍度合いはこの学園のメンバーの中で最も大きいと言えるだろう。正義感が強く真面目で穏やかな性格をしているが、育ちゆえかやや世間知らずで周囲に振り回されることもある。若さゆえの理想に溢れており、「どんな人間でも心を通わせて話し合えば絶対に分かりあえる」と性善説に近い考えを持っている。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 “超高校級の建築士”

 土門隆信(どもん たかのぶ)

 男子生徒/185㎝/75㎏

 【好きなもの】運動(水泳以外)、家族

 【苦手なもの】水、曲がったこと

 【人称】「オレっち」「苗字呼び捨て」

 

 大手ゼネコン「土門建設」社長子息。中学生の頃には自力で大型建築物の設計に携わり、政府の新築庁舎にも彼が持つ土門建設の技術が取り入れられているという。幼少期から設計・施工・管理技術の英才教育を受けたエリートであるが、本人は身体を使った土木作業を好み、泥臭い仕事にこそ生きがいを見出している。昔気質の江戸っ子ではあるが堅物の気はなく、誰とでも柔軟に打ち解ける人の良さを感じさせる。情に厚いがゆえに曲がったことは人一倍嫌いであり、また自分が悪いと思った言動は見過ごせない。年頃の妹がいるらしく、意外と同世代の女性への気遣いが繊細である。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 “超高校級の造形家”

 丹沢駿河(たんざわ するが)

 男子生徒/155㎝/43㎏

 【好きなもの】美しい造形、健康食品、

 【苦手なもの】運動全般、味の濃いもの

 【人称】「拙者」「苗字+殿」

 

 小柄な男子生徒。おかっぱ頭にメガネと出っ歯が特徴的。主にアニメ・漫画のキャラクターを題材にしたフィギュア・ミニチュアを独学で製作・公開している。そのクオリティは会社が販売する本格的なものに勝るとも劣らないレベルであり、SNSで大バズりしたことが”超高校級”認定のきっかけとなった。人間の美少女だけでなく怪獣・魔物・妖怪など非人間的な造形も自在に製作可能。手先の器用さは世界一と呼んで差し支えないレベル。メガネをかけている割には視力が異常なまでに良く、爪の先ほどの大きさの模様を見て模写できる腕前の持ち主。ひと昔前のステレオタイプなオタクといった言動をするが、比較的常識的な性格のせいで割を食うことが多ければ頼りにされることも多い。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【女子生徒】

 

 

 ”超高校級の空手家”

 山村巴(やまむら ともえ)

 女性生徒/166㎝/57㎏

 【好きなもの】稽古、スイーツ、書道

 【苦手なもの】軟弱な人、ムカデ

 【人称】「私」「苗字+君」「苗字+さん」

 

 セーラー服を着たポニーテールの女子生徒。中学時代から全国大会で複数回優勝を果たしている空手の天才少女。真面目な反面、脳筋気質。型だけの稽古ではなく相手のいる戦いを極めることに重きを置き、常に強い相手との死闘に飢えている。逆に軟弱な人間を見るとアレルギーが出るため、周囲の人間を全員強くしようとしている。私室や身だしなみはしっかり整える反面、服が汚れても気にしなかったりご飯を荒々しく食べたりと、繊細さと豪快さが同居している不思議な人物。時節別人のように口が悪くなることがあり、どこか情緒不安定。スイーツが好きだったりSNSでの”映え”を気にしたりと、年頃の女子高生らしい一面も覗かせる。非常に達筆。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ”超高校級のダンサー”

 亞桐莉緒(あぎり りお)

 女子生徒/167㎝/54㎏

 【好きなもの】ダンス全般、おしゃべり、チョコレート

 【苦手なもの】悲しいこと、協調性のない人

 【人称】「ウチ」「苗字呼び捨て」

 

 SNSでのフォロワー数は100万人を超えるという人気インフルエンサー。現役女子高生にしてダンスチームの一員として活躍する多忙な人物であり、世間での認知度も非常に高い。その知名度を鼻にかけることもない純真無垢で素直な性格をしている。若くして大人と関わる世渡りの厳しさを知っているため、等身大で会話できる同級生達には安心感を覚えているようだ。真面目な一面があり、どれだけダンスやタレント業が忙しくなっても勉強は人並みにちゃんとやりたいと思っている。頭はさほど良くないが人懐っこく仲間思いの性格で、この学園のメンバーの中では常識的な性格と言える。

 

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”超高校級の漫画家”

 安藤未戝(あんどう みざい)

 女子生徒/152㎝/45㎏

 【好きなもの】燃える展開、妄想、乳製品

 【苦手なもの】長文、海藻

 【人称】「吾輩」「名前呼び捨て」

 

 赤茶色の髪を三つ編みにした少女。有名漫画雑誌の新人対象に応募した作品「冥府作家ボーンズ」が編集者の目に留まり、小学生にして連載を持つ漫画家となる。その後、学業と並行して複数の漫画作品を連載。繊細なタッチの絵柄と情熱溢れる熱い展開により中高生を中心に根強い人気を誇る。非常にマイペースで鈍感な性格をしている。作品のために平気で徹夜する割には何でもない時に突然居眠りをしたり、誰でも知っているような常識を知らない割には雑学に詳しかったり、とにかく掴みづらい人間性をしており言動の予測ができない。仙人のような独特の話し方をするが、これは生まれつきとのこと。

 

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 ”超高校級の薬剤師”

 伊丹(いたみ)ゆきみ

 女子生徒/158cm/50kg

 【好きなもの】ポエム、実験、剣道

 【苦手なもの】うるさい人、嘘、偏見

 【人称】「私」「あなた」「苗字+君」「名前呼び捨て」

 

 黒髪ショートヘアで黒のコートを羽織った少女。15歳にして海外大学から特別入学許可を受けるほどの薬学の天才。その頭脳は幼少期から発揮されており、単なる小学校の自由研究で「家庭で作れる対リウマチ薬」を編み出し、一瞬にして学会に注目される存在となった。その後、中学生にして世界的に流行した新型ウイルスへの特効薬の開発に参画、見事に成功を収めたという。常に物静かで冷静に振舞い、無駄や偏見を排除した合理的な思考を好む。特に科学者として真実を求める体質からか、嘘を極度に嫌う。その美貌から歳の離れた姉と共に隠れファンが多く、ファンクラブが存在しているが彼女自身は認知していない。所謂中二病な部分があり、黒ずくめの格好もクールな言動もキャラとして好んで演じている節がある。

 

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 ”超高校級のコスプレイヤー”

 津川梁(つがわ りゃん)

 女子生徒/145㎝/42㎏

 【好きなもの】ファン、おばあちゃん、甘いもの

 【苦手なもの】巨躯、しょっぱいもの

 【人称】「リャン様」「キミ」「苗字+くん(きゅん)」「苗字+ちゃん(たん)」

 

 背が低い金髪の美少女。SNSで引っ張りだこの有名コスプレイヤーだが、ニッチな界隈ということもあり世間での知名度は高くない。自分自身を一人のキャラとして認識し、キャラ付けの一環として独特の喋り方で話している。ありとあらゆる化粧品を使いこなすメイクマスターである一方、メイクに頼らずとも非常に端正な顔立ちをしている。あざとすぎるとも評されるその言動には賛否あるが、本人は至ってお人好しな少女である。オタク気質な部分もあり、私物がほとんど推しキャラクターのグッズで埋まっている。また、SNSなどを通じてアンチ、ストーカー等に絡まれた経験もあってか、稀に冷徹な人生観が垣間見える。何故か葛西に対する好感度が高い。

 

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 ”超高校級の昆虫学者”

 小清水彌生(こしみず やよい)

 女子生徒/168cm/57kg

 【好きなもの】虫系全般、触手、羽音

 【苦手なもの】小動物、犬猫、鳥、人間

 【人称】「私」「苗字+君」「苗字+さん」

 

 明るい赤髪をロングヘアにした白衣の女性。なかなかスタイルが良い。昆虫に関する様々な論文を発表、また既存の虫の遺伝子を掛け合わせることでゴミを分解する虫や汚水を浄化する虫などを新たに生み出し、昆虫界に激震を巻き起こした。本人は過激とも言えるほど昆虫の保護に熱心であり、前述の品種改良も人間社会の為ではなく現代における昆虫の生息域を拡大するために行った研究である。ただしそれが良い方向に進む限り技術による遺伝子改良自体に抵抗は感じておらず、前述の改良をはじめ次々に品種改良した昆虫を生み出し、人間の淘汰圧を超越した昆虫の誕生を目指している。あまりにも思考が偏っており言動が極端であるため人が寄り付かない。一方で何故か葛西のことをとても気に入っており、特別助手に任命した。

 

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 ”超高校級のエンジニア”

 御堂秋音(みどう あきね)

 女子生徒/155cm/45kg

 【好きなもの】機械いじり、謎解き、母親

 【苦手なもの】人間、英語

 【人称】「私」「フルネーム呼び捨て」

 

 オレンジのセーターの上に作業着を羽織った少女。可憐な容姿とは裏腹に非常に人当たりが悪く、他者を見下すような攻撃的な言動が絶えない。学園入学までの詳細な経歴は不明となっているが、数学・物理学・工学・プログラム等、ありとあらゆる理系学問を極限まで極めた圧倒的な知識量と精密機器を一瞬で玩具のように簡単に組み上げてしまう技術力を兼ね備えた正真正銘の天才少女。その人間性を差し引いても、この学園のメンバーの中では最も洗練された能力を持つと言っても過言ではない。他者と群れることを良しとせず単独で行動している。普段は冷徹に振舞っているが、やや舌足らずな喋り方をしたり感情を剥き出しにする場面があったりと、年齢よりも幼く見える時がある。

 

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 ”超高校級の噺家”

 吹屋喜咲(ふきや きさき)

 女子生徒/166cm/??kg

 【好きなもの】おしゃべり、マッチョな人、和食

 【苦手なもの】ビリビリするもの、暗い雰囲気

 【人称】「あちき」「あだ名」

 

 茶髪を(かんざし)で留め、和服に身を包んだ少女。特徴的な廓言葉(くるわことば)で話す。葛西達と共にコロシアイ生活開幕の場に居合わせたが、早々にモノパンダによって落雷を落とされ、殺害される。才能や人柄を含め、あらゆる情報が謎に包まれている。死後、リュウと釜利谷によってその肉体が機械でできているアンドロイドであることを暴露された。

 

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 ”希望ヶ峰学園特別分校教頭”

 モノパンダ

 70㎝/??㎏

 【好きなもの】絶望

 【苦手なもの】希望

 【人称】「オイラ」「オメーラ」「苗字+君」「苗字+さん」

 

 葛西達が閉じ込められた施設”希望ヶ峰学園特別分校”の教頭を名乗る謎のヌイグルミ。葛西達に狂気のデスゲーム”コロシアイ学園生活”を命じた。自立して行動・会話を行い、超速でタブレットを投げつけるなど人間を超えた身体能力を発揮するほか、落雷のような超常的な現象すら操る能力を持つ。性格は短気にして尊大。己の思うとおりにならないと癇癪を起こすが、校長たるモノクマには徹底的に平伏する小物ぶりを見せる。施設内の清掃やインフラの確保などの雑用全般を任されている。無数のスペアを有しており、破壊されてもすぐに代わりのモノパンダが現れる。

 

 

 ”希望ヶ峰学園特別分校校長”

 モノクマ

 70㎝/??㎏

 【好きなもの】??

 【苦手なもの】??

 【人称】「ボク」「オマエラ」「苗字+君」「苗字+さん」

 

 ”希望ヶ峰学園特別分校”の校長を名乗る謎のヌイグルミ。モノパンダの不祥事を収束させる形で登場し、モノパンダとの明確な立ち位置の差を見せつけた。短気なモノパンダに対し、”コロシアイマスコット10周年”を名乗るだけあって全ての言動に余裕と自信があり、底が知れない。しかしひょんなことで腹を立てたり悲しんだりすることもあり、感情表現はモノパンダ同様に豊か。

 

 




プロローグでモノパンダが出席番号をつけていましたが、あれは目に入った順に適当につけていただけで意味はありません。

リメイク前を読んでいただいた方のために、リメイクでの各キャラクターの話し方・性格などの変更点を簡単に記載します。シナリオ都合で変えた部分はネタバレ防止のため語れません。ここに記載するのはあくまで表の部分のみである点をご理解ください。

葛西幸彦:あまり変わりませんが、特にギャグ描写において脳内会話(地の文)がリメイク前よりも辛辣になっています。リメイク前はあどけなさや頼りなさが目立っていましたが、リメイク後はやや冷静で年相応の青年という雰囲気になります。

釜利谷三瓶:一人称の表記を「オレ」とカナ表記にした以外は恐らくほとんど変わっていないはず。

前木常夏:ほぼ変わりなし。リメイク前よりもほんの少し大人しくなりました。

リュウ:ほぼ変わりなし。この中で一番変わっていないかも。

夢郷郷夢:ほぼ変わりないですが、リメイク前よりもさらに冷静に、ある意味人間離れした雰囲気になりました。昔の哲学者ってこんなイメージ。

入間ジョーンズ:人称を男女問わず「~様」に変更。リメイク前の冒頭で発揮していたキザな態度はなく、全体的に落ち着いています。

土門隆信:一人称を「オレっち」に変更し、江戸っ子風の口調に変更。リメイク前から一人称が「俺」の男子生徒が非常に多く、差別化を図るためです。

丹沢駿河:ほぼ変わりなし。元々特徴があるキャラは変える意味がないのでいじってないです。

山村巴:二重人格設定を削除し、単に情緒不安定で口が悪くなりやすい設定に変更。とはいえ傍目にはあまり変わっていません。

亞桐莉緒:ほぼ変わりなし。相変わらず鋭いツッコミを入れてくれます。

安藤未戝:リメイク前は他人称が丹沢と被っていたため、リメイク後では「名前呼び捨て」に変更。ただの呼び捨てではなく、「ユキヒコ」とカナ表記になります。

伊丹ゆきみ:ほぼ変わりませんが、リメイク前の冒頭で見せていたようなトゲトゲした態度は取らなくなり、若干人当たりが良くなりました。また、リメイク前の番外編で見せていた中二チックな態度を本編でも見せるようになります。

津川梁:リメイク前はアイドルやマスコットのような立ち位置だったものの、リメイク後はよりコスプレイヤーとしてのキャラクターを明確化し、オタクっぽい態度やネット民のようなドライな態度を見せるようになります。

小清水彌生:リメイクで一番変わったかもしれない人物。リメイク前の常識的な態度はどこへやら、リメイク後は昆虫への愛や危険な思想を全開でまき散らす危ない女になりました。これからどうなるのやら…

御堂秋音:相変わらずトゲのある口調や態度は変わりませんが、リメイク前よりも口数が多く、出番も増える形になると思います。

吹屋喜咲:???

こっちが本編のようになってしまいましたが、引き続き執筆に励みますので気が向いたらご愛読宜しくお願いします。


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