もしもゲームのライバルキャラが全員転生者だったら~未プレイ主人公と既プレイ転生者の鬱ゲー攻略~ (紗沙)
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幼少期編
第1話 特典なしの異世界転生


気が付いたら赤ちゃんで、ファンタジー世界に転生していた。

 

「あら、目が覚めたの?ウリア」

 

視界いっぱいに入ってくる、まるで人形のような整った顔。

暗めの長い銀髪と蒼い瞳はどう見ても日本人でない。

 

まずは情報収集。

ここが一体どんな世界なのか、それを理解するためにお母さまやメイド達とお話をした。

 

まず、この世界は地球ではなく、ミストフィアと呼ばれていること。

このミストフィアには剣も魔法もあり、凶悪な魔物だっているということ。

 

「あなたはウーレリア・アルトリウス。愛称はウリアよ」

 

アルトリウス家はエディンバラ皇国における伯爵家だそうだ。

伯爵と言えば爵位の中でも上から3番目。かなり高い。

 

もし神様がいるのなら、貴族という身分での転生は配慮してくれたのだろう。

だが、身分はともかく、家族としては微妙なところだった。

今年で3歳になるが、なんとお父さまに会ったことが数えるほどしかない。

 

お母さまとお父さまは政略結婚で、その間に愛情はないみたいだった。

正確には、お母さまは愛しているけど、お父さまは愛していないような、そんな感じ。

 

「いよいよ明日は適性検査の日ね。お父さまの娘だもの。ウリアもきっと良い結果になるわ」

 

エディンバラ皇国の子供は3歳になると適性検査を受ける。

どの魔法に適性があるか、剣術は才能があるか、ということが分かるらしい。

 

「よい……適性が出れば、お父さまも喜んでくれますか?」

 

危ない危ない、思わずステータスと言いそうになった。

この世界のルールとして、前世の知識はNGらしい。

言葉でも文字でも、どんな方法でも、前世の知識を伝えようとすると酷い頭痛が起こる。

 

このミストフィアは前世のゲームやアニメ、漫画にはない世界なので、そこまで苦労はない。

けれども、ステータスやスキルといった横文字が使えないのはちょっと不便だ。

 

「そうね……あの人も、あなたのことを愛しているのよ。それは忘れないで」

 

お母さまは寂しげに微笑んで私の頭をなでる。

でも大丈夫。転生作品の主人公は特典を持っているはず。

強い魔法であったり、卓越した剣技であったり。

 

きっと私にもそれがあるはず。その力で大活躍して、お母さまにも喜んでもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウーレリア・アルトリウス様の適性は、以下の通りになります」

 

適性診断員の人が紙をお父様に渡す。

この日ばかりは一緒に来てくれたお父さまは、紙を見るなり顔をしかめ、それをお母様へと突き出した。

 

それを見た瞬間、お母様は目を大きく見開き、そして泣き崩れた。

 

「ウリア。お前の適性はすべて最低のFだ。平民にすら劣る」

 

……え?

突き出された紙を見ると、そこにはFという文字が並んでいた。

 

Fは適性としては最低ランクだ。

平民ですら、Eが普通。Fなんて1つあるだけでもその世代で最低の適性保持者となってしまう。

そんなFが、私の用紙には全て記載されている。

 

貴族は平民よりも代々ランクが優れているから貴族なのだ。

なのにこのランクでは、魔法や剣で活躍するどころか、魔法の発動すらできない。

 

どうして?転生特典は?

 

「大丈夫……大丈夫よ……一緒に頑張りましょう」

 

ショックを受ける私をお母さまは私を抱きしめてくれた。

それに救われ、抱きしめ返そうとしたとき。

 

「お前と結婚したことが、間違いだった」

 

お母さまの体が強張った。

お父さまは、私を冷たい目で見ていた。

私だけでなく、お母さまのことも。

 

その日から、お父さまは屋敷に帰ってこなくなった。

前世の私からしたら、血のつながりはない。

けれども、こんな親子関係になったことは前世ではなかった。

 

私はお父さまに愛されたかった。

そしてお母さまもお父さまに愛されて欲しかった。

それが前世でも経験した、普通の家族だと思っていたからだ。

 

お母さまはその日から、力なく笑うようになった。

元気もなく、食べる量も減り、体調を崩すようにもなった。

 

その間、私は必死に勉強した。

低い適性なんて転生特典によくある、最初はダメなやつだ。

私には、何か強い力があるはずだ。

それがあれば、お父さまも帰ってくる。お母さまも元気になる。

 

でも、私はどれだけ頑張っても魔法の一つ使えやしなかった。

魔法は仕事や勉強とは違う。やればできることじゃない。どれだけ頑張っても、魔法はできない。

それが悔しくて、もどかしくて、もっともっと努力した。

 

それでも、結果は変わらない。

 

「ウリア……あなたを……愛しているわ」

 

そして私が5歳の冬、お母さまはついにこの世を去った。

はやり病に抵抗できるだけの体力がなかった、そうメイドさんは言っていた。

 

母の冷たくなった体が、もうお母さまが戻ってこないことを告げてくる。

もうお母さまは私に笑いかけてくれない。

 

私が……私がいけなかったんだ。

私に普通の貴族と同じ才能があれば、私がもっと頑張っていれば、私が転生特典なんて期待していなければ。

私が……私のせいでお母さまは死んだんだ。

 

お母さまが死んで1年たっても、無能な私は魔法一つ使えなかった。

やがて屋敷からも、どんどん人が減っていく。

私の世話をしてくれていたメイドさんも居なくなってしまった。

 

「ウリア様、旦那様がお見えです」

 

不愛想なメイドさんが私の部屋を訪れる。

隠れて私のことを馬鹿にしている嫌な人。

でも、私は無能だから文句は言えない。

 

そんなことより、お父さまが帰ってきたそうだ。

正直、最後に会ったときのお父さまの冷たい目が忘れられないので、会いたくはない。

けれど、会いに行かなくては。

 

屋敷の玄関へと向かえば、たくさんのメイドさんや執事さんが慌ただしく働いていた。

お父さまは私に気づくと、あの冷たい目を向けてきた。

 

「来たか。お前に紹介しなければならない者たちがいる。無能なお前にアルトリウス家を継がせるわけにはいかない。そこで私は後継者として、優秀な者たちを家族に迎え入れる」

 

無能という言葉が心に突き刺さる。

しかしお父さまは気にしていないようで、1人の女性を呼んた。

 

目の前に現れたのは、赤い長髪に茶色い瞳をした綺麗な人。

しかし、その目には私に対する嫌悪感が見てとれる。

 

「お前の義理の母親になる、リリス・アルトリウスだ。言うことを聞くように。決して逆らうな」

 

目の前が真っ赤になった。お父さまはお母さまが苦しんでいる間に、別の女の人と……。

この人を母などと呼びたくはない。私のことを嫌っているのは態度から分かる。

 

「次に後継者であるグラム・アルトリウスだ。お前の義理の兄にあたる。決して邪魔だけはするな」

 

次に紹介されたのは赤い髪を短く切りそろえた美少年。

彼もまた、私を見下すような視線をしているし、態度も大きい。

 

近い未来の光景が思い浮かぶ。

新しい家族に、虐められる、そんな最悪な未来が。

もう、この家に私の味方はいない。

 

「最後にお前の妹になるエヴァ・アルトリウスだ。この子は同年代の中でも突出した才能を持っている。同じく邪魔をしないように」

 

エヴァ……アルトリウス?

義理の妹を見た私の頭を1枚の看板が横切った。

紅蓮のような赤い髪に、キリっとした勝気な瞳。

 

『お姉様にはふさわしくないわ。全部、私がもらってあげる』

 

そのキーワードで登場する、ゲームのライバルキャラ。

動画の広告でも見たことがある。なら、この世界はそのゲームの――

 

「お姉様!私、お姉様が欲しかったの!よろしくね!私はエヴァ!エヴァだよ!」

 

突然の衝撃で思考が中断された。

私の胸の中には、広告で見たキャラとは似ても似つかない、目をキラキラ輝かせた可愛い少女が収まっていた。

 

その目には義母や義兄にある見下した感じや、侮辱の感情はない。

お母さまが持っていた深い深い愛情の気持ちが、強く伝わってきた。

 




今まで二次創作小説を書いていましたが、今回一次小説にも手を出してみました。
皆様、よろしくお願いします。

もしも

「面白そう!」

「続きが気になる!」

と思っていただけましたら、下から「お気に入り登録」や「評価」をしていただけますと嬉しいです!
モチベーションにもつながりますので、よろしくお願いします!


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第2話 異世界を、義妹と一緒に

お父さまが新しい家族を連れてきて2年が経った。

妹であるエヴァを見たときはゲームの世界かと思ったが、どうやらそうではないようで。

 

そもそもあの広告のキャラクターの名前が本当にエヴァだったかどうかも怪しい。

広告1枚見ただけだし、ひょっとしたらエナとかだったかもしれない。

 

「お姉様!よく見ててね。火の魔法はこうやって使うの!」

 

椅子に座ったエヴァは火の魔法をゆっくりと発動してくれる。

魔力の流れや、どんなふうに魔法が発生しているのかが、とても分かりやすい。

 

「お姉様は光の魔法が得意だから、一緒にやってみよう!」

 

私の手を優しく握り、エヴァは私に魔法の手ほどきをしてくれる。

私が魔法を習得できるように、小さく魔力も流してくれている。

 

あの日やってきた家族の中で、エヴァだけが私を見てくれた。

玄関でエヴァに抱きつかれてからというもの、私とエヴァはずっと一緒だった。

食事の時も、寝る時も、お風呂に入る時も一緒。

 

お父さまは一度エヴァを力ずくで私から引き離そうとしたが、エヴァはそれを断固拒否した。

流石にエヴァに拒否されては強くは出れないのだろう。

 

『その子は無能なんだぞ!お前にまで悪影響を与えてしまう!』

『なんでお姉様にそんなひどいことが言えるの!お父様の馬鹿!』

 

あの時のお父さまの顔は今でも覚えている。

エヴァいわく、今まで逆らったことはないそうなので、流石に堪えたのだろう。

 

その後もお父さま、リリスお義母さま、グラムお義兄さまがエヴァと私を引き離そうとしたが、そのいずれもエヴァによって拒絶されている。

 

エヴァは私にさらに近づき、逆に他の家族には近づかなくなった。

エヴァとお父さま達の仲を心配するが、それ以上にエヴァがいなくなったら私は昔の無能な私に戻ってしまう。

そう考えれば考えるほど、私は彼女と離れることを恐れた。

 

エヴァは天才だった。エヴァ自身も優秀だが、教えるのがとてもうまい。

私が知らないことを、エヴァは分かりやすく教えてくれる。

そのおかげで私はついに魔法が使えるようになった。

 

「わっ!すごいよエヴァ!この前よりも光ってる!」

「さすがお姉様!こんなにすぐできるなんてビックリだよ!」

「あはは……エヴァの教え方がうまいからだよ」

 

エヴァは私が頑張ると褒めてくれる。

分からないときは、いろいろな方法で分かるまで熱心に教えてくれる。

 

そこにエヴァの深い愛情が見えて、私も頑張ろうと思えるようになった。

 

最初はエヴァが私の転生特典なのでは?と思ったが、それはエヴァに失礼だろう。

でも、エヴァのことを大切にしていこうと、そう強く思った。

 

「そういえばお姉様。こんど貴族のパーティがあるの。お姉様も一緒に行こう?」

「え?で、でも私なんかが行っていいのかな……」

 

そんなパーティに行っていいのかと不安になる。

エヴァは国内でも適性がトップクラスに高い。

一方で、私は平民にも劣る。

 

招待状を出した人も、エヴァだけに出しているはずだ。

私なんて、お呼びじゃないはず。

しかしエヴァは微笑みながら私の手を取る。

 

「一緒に行こうよ。私お姉様が行かないなら行かないし」

「え?それはダメだよ。せっかく招待してもらったのに……」

「そうだよね。だから一緒に行こう?」

 

妹のズルい言葉に負け、結局私は貴族のパーティに参加することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、私は皇国が用意したパーティ会場に来ていた。

エディンバラ皇国は8歳の子供を対象に、懇親パーティを行う。

 

とはいえ参加費はかかるし、エディンバラ皇国民限定のパーティとなっている。

実態は国内の貴族の交流を深める会ということだ。

 

「招待状を拝見いたします……アルトリウス伯爵さまですね。参加者はエヴァさまと……ウリア様ですね」

 

パーティの受付の人はお父さまから差し出された招待状を確認し、エヴァと私を見た。

招待状はその家に向けて出しているので、保護者と子供が揃っていれば問題はない。

ただ私の適性が最低なのは国中に広まっていて、それゆえに受付の人は言葉に詰まったのだろう。

 

お父さまも最初は私を連れていくことを渋っていた。

しかし、エヴァの強力なおねだりと、お姉様が行かないなら私も行かない、攻撃で撃沈した。

私は確かに適性が最低だが、エヴァはその逆で同年代でも突出した適性を持つ。

 

私を連れていくデメリットよりも、エヴァを連れていくメリットの方を取ったのだろう。

 

「エヴァ、はぐれるな」

 

お父様についていく。目は合わせてくれない。言葉もかけてくれない。

保護者と子供はまず、大きなホールに通される。

そこで皇帝から挨拶があった後、子供は子供のみの会場へと通されるようだ。

 

会場にはすでに多くの人が居て、私たちは一瞬で注目の的になった。

適性がとても高いエヴァを注意深く観察する人と、適性がもっとも低い私をさげすむ人。

 

私は思わず、エヴァのドレスの袖を握ってしまった。

すると指をエヴァの手が優しく包んでくれた。

 

「私のそばを離れないで。お姉様は私が守るから」

 

その言葉が温かくて、私は心が軽くなった。

 

お父さまは伯爵なので、色々な人が挨拶に来る。

仕事の軽い話からエヴァの話など、種類はさまざまだ。でも私の話はされない。

触れてはいけないタブーのような形なのだろう。

 

やがて会場の奥に設置された舞台の前に人が集まり始め、その上に一人の男性が立った。

輝く金髪をした、威圧感のある男性で、頭の上には王冠が光っている。

 

あの人が、このエディンバラ皇国の皇帝、ガイウス・フォン・エディンバラ様。

 

「みなよく集まってくれた。今年の懇親パーティでも多くの皇国の未来を担う者を見れて嬉しい。今日この場に多くの者が集まることこそが、皇国繁栄の証だ。そして私からも今年は未来を担う人材を紹介しよう。まずは私の息子、アーク・フォン・エディンバラだ」

 

ガイウス王の言葉で一人の少年が前に出る。

王と同じ輝く金髪を綺麗に切りそろえた、緊張した様子の少年だ。

 

アークと呼ばれた少年は一礼する。

挨拶をしないのは、この後の子供たちのパーティで交流を深めるためだとか。

 

「そして次に……こちらはみな知っているだろう。ロゼリア・フォン・エディンバラだ。ローズと皆は呼ぶように」

 

アークの後ろから出てきた少女の姿に、会場の全員の視線がくぎ付けになった。

輝く銀髪に、そこから覗く金の瞳。

 

幼いのにもかかわらず、綺麗と表現できるほど整った顔立ち。

頭には銀のティアラをつけたローズ姫が優雅にほほ笑む。

 

ローズ姫はこの国で一番有名な人だ。

この国の皇女でありながら、エヴァをも上回る適性を持つ。

その適性はすでに大人すら軽くこえているそうだ。

 

羨ましいと思うと同時に、世の中にはすごい人がいるんだなぁ、と感心してしまった。

 

「さて、子供たちは子供たちで、私たちは私たちで楽しむとしよう。皆のもの、向こうの会場に行くがいい」

 

そう言ってガイウス王は隣の大きな扉を指さした。

 

(あの会場で、子供たちだけで交流……帰りたい……)

 

分かっていたことだが、早くも私はこの会場から逃げ出したかった。

 



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第3話 この世界がゲームだと私は知っている【エヴァSide】

(最悪だ。よりにもよってこのゲーム……)

 

本番リリース前の残業続き。

終電で帰ってきた私はベッドに倒れこんで、そのまま眠りについた、はずだった。

 

次に目覚めたときには赤ん坊になっていて、わけが分からなくて慌てた。

泣いていると赤毛の女性が近づいてくる。

 

「エヴァ!?どうしたの?……お腹がすいたのかしら……」

 

エヴァ。そう彼女は言った。

よく見てみると、赤い髪に茶色い瞳のその姿に見覚えがあった。

隣のベッドから興味深そうにこちらを見ている赤毛の少年にも気づき、私は絶望した。

 

(エヴァラスかぁ……)

 

乙女ゲーム、Everlasting。通称エヴァラス。

乙女ゲームを大きく前面に出しながらも、実はRPGとの混合作品だったこの作品は、クソゲーとして知られる。

 

そもそも、乙女ゲームとRPGを混ぜて上手くいくわけがないのだ。

フラグ管理はめちゃくちゃ、RPGパートの敵のバランス調整も壊滅的、裏ボスに関してはチートを使用しないと勝つことができないくらいだ。

 

運営が間違いなくテストプレイをしていないにもかかわらず、一部のコアなファンが存在するクソゲー。それがエヴァラス。

 

かくいう私もそのクソゲーファンの一人である。

そのゲームの登場キャラであるエヴァに転生してしまったようだ。

それでは、私の転生したエヴァ・アルトリウスとはどんなキャラか。

 

『お姉様にはふさわしくないわ。全部、私がもらってあげる』

 

そんなキャッチコピーがつけられた彼女は乙女ゲームパートにおけるお邪魔虫。

つまりライバルキャラである。

 

主人公であるウリア・アルトリウスの義理の妹で、ウリアを徹底的にいじめるクズ女だ。

ウリアのものを全て奪い、やがては使用人以下の扱いをする。

本編では、学園での攻略対象との恋を何度も何度も邪魔をする。

 

そんな彼女の最期は、RPGパートで、敵キャラに無惨にも殺されるのである。

それも主人公ウリアのあずかり知らぬところで、である。

 

つまり私が原作のエヴァ通りの行動をすれば、必ず悲惨な死を迎えるということになる。

 

(そんなの、冗談じゃない!)

 

エヴァラスはクソゲーと言われているが、私は好きだった。

5周はプレイしたし、それだけ長くやっていれば主人公のウリアに対して愛着も湧く。

 

原作は救いがなく、多くの登場キャラクターは死亡するし、ウリアが死亡するルートがほとんどだ。

毎回ウリアを助けられなくて悔しい思いもした。

 

だからこそ、私がエヴァとして原作を変え、ウリアも助けたい。そう強く思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな気持ちがより強くなったのは3歳の適性検査のときである。

エヴァを始めとするライバルキャラは、ゲームにおいて適性がとても高く設定されている。

反対にウリアの適性はとても低く、成長で苦労した記憶も強い。

 

「素晴らしい!エヴァ!お前の適性は同学年でもトップクラスだ!」

 

ライバルキャラの適性は原作では見ることはできないが、この世界では見ることができる。

エヴァの適性は、学園を卒業したときのウリアよりも高いものだった。

 

この世界における適性は、その人の強さを示す1つの指標となっている。

 

適性は全部で11種類。

地水火風光闇と無属性の魔法7属性。

そして武器の扱いのうまさを決める武である。

 

加えて知力、技術力、速度で11種類となる。

それぞれの適性はFからSSSまで段階分けされ、SSSはゲーム内でも数えるほどとなる。

Fに関しても低すぎるという意味で数えるほどしかいない。

 

貴族は適性が高いのが特徴だ。

適性は訓練で大きな成長はしない。

 

ただし例外が一人だけいて、それが主人公であるウリアだ。

ウリアは全適性がF。

Fの適性を持っているキャラは他にもいるが、1つあるくらいだ。

全適性がFなのはウリアだけである。

 

ただし、ウリアは特殊な事情により、学園在籍時と卒業後で、適性を一気に上げることができる。

この恐ろしく低い適性を上げるのがゲームの目的の一つだ。

 

さて、それではエヴァの適性はどうだろうか。

 

『同一世代でもトップクラスのステータス』

 

ゲームでそう書かれていた通り、魔法の適性はほとんどがD。

そして火や地、武はCとなっている。

Dは学園に入学する生徒の平均値。Cは卒業生レベルである。

 

もしもウリアがこの適性でゲームスタートなら、あんなに育成で苦労はしなかっただろう。

 

まあ原作では、エヴァはその高い才能を存分に発揮し、ウリアを魔法の標的にしていた。

ウリアに負わせた火傷を放置し、消えない傷にしたのもエヴァだ。

才能があっても精神的にはクズ中のクズといえる。

 

「エヴァには魔法と剣の家庭教師をつけてやろう。将来、この国を代表する一人となるぞ」

 

目の前で大喜びするクズ親父、ウリアの父親ガゼル・アルトリウスに微笑を返しながら、内心では黒い感情を燃やしたものだ。

こんな風にエヴァを愛している一方で、ウリアを蔑ろにしていることを私は知っている。

 

クズ親父にウリアのことを言ってやりたかったが、このときエヴァはウリアのことを知らない。

そのため前世での知識に当たるとみなされ、謎の頭痛で伝えることができない。

流石エヴァラス。転生特典はくれないくせに縛りはくれる。本当にクソゲーだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして3年後、クズ親父は私たち家族を伯爵家へと迎え入れる。

馬車に揺られながら、微笑んでいるクズ親父も、幸せに胸を膨らませている母も、わくわくと輝いた顔をしている兄も、嫌いだ。

 

私は家族に作った笑みで対応しつつ、時折外を見つめる。

今すぐ、周りを気にせずに溜息をつきたい気分だった。

 

(結局なにもできなかった。ウリアを救うことも、彼女の母親を死なせないことも)

 

このあと、ウリアは更なる地獄に落とされる。

 

新しく家族になったエヴァは、ウリアの持っているものをすべて奪い、彼女をメイド以下として扱う。

ウリアはろくに服も与えられず、食事も食べられず、メイドの真似事をさせられてしまう。

 

ウリアは学園に入学が許されるまでの7年間、地獄のような生活を送るのである。

ゲーム開始時にウリアのステータスがF固定なのはここに理由がある。

 

彼女は教師も与えられず、本一冊も買い与えられず、義妹に魔法の標的にされる。

伯爵令嬢とは思えぬ扱いをされ、原作でも1,2を争う不遇な娘となるのだ。

 

(でも、そんなことはさせない。私が原作を変えてみせる)

 

私が生き残るために。ウリアがハッピーエンドを迎えるために。

 

そんな私の強い決意はウリアにあった瞬間にどこかへいった。

 

雑に揃えられた銀の髪。そこから覗く蒼い瞳。

そして、不安そうに私たちを見つめる、小さな小さなウリア。

 

次の瞬間、私はお姉様に抱き着いていた。

 

「お姉様!私、お姉様が欲しかったの!よろしくね!私はエヴァ!エヴァだよ!」

 

出会って数秒で、私はウリアの可愛さにやられたのである。

 



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第4話 最強のライバルキャラ【エヴァSide】

初めて会ったとき、私は堕ちた。

 

その後、私はお姉様にべったりになった。寝るときも一緒。なにをするにも一緒。

私のわがままで、お姉様は原作のような扱いを家で受けることはなくなった。

 

(私がいるから、家庭問題でお姉様が苦しむことはない)

 

私以外の家族はお姉様をどう扱っていいか分かっていない。

しかし、彼らは原作でも手を差し伸べなかっただけで、虐待などをしていたわけではない。

それはすべてエヴァのやったことだ。助けなかっただけで同罪だが。

 

(適性に関しても、なんとかできる)

 

魔法、剣技を習得したいお姉様を、私は原作の知識をフル使用でサポートした。

 

エヴァラスはクソゲーである。救いのない鬱ゲーである。

トゥルーエンドを迎えるために、周回プレイは必須だ。

 

条件を満たせば周回プレイで適性の一部を引き継げる。

まあ、私はゲームを5周しても裏ボスには勝てなかったのだが。

 

でも、この世界は一度きりだ。初プレイでトゥルーエンドを迎えられるほど現実は甘くない。

お姉様を死なせないために、可能な限り、剣も魔法も強化する必要がある。

 

この世界には11種のステータスがあるが、それを全て強化はできない。

原作でも育成の基本は魔法属性1つ、武、速度の合計3つが基本中の基本だった。

 

そしてウリアには実は適した適性がある。

それが光属性である。

 

それに加えて私も扱える剣の適性を組み合わせることで、お姉様を超絶強化しようというのが作戦だ。

 

適性がFの場合、育成は困難だ。しかし、今回は大きなメリットが2つあった。

まず1つは時間だ。お姉様が学園に入るまでの7年が育成に使える。

これは学園編の2倍以上の時間で、原作では1周程度のアドバンテージとなる。

 

そして2点目。これが一番大事なのだが、私が教えられるということだ。

自慢ではないが、私は誰よりもこの世界に詳しい。

どのように魔法を使うのか、どのように剣を振るうのか、それを誰よりも知っている。

 

ゲームの知識をフル動員して、ウリアを効率的に強化できる。

 

(前世の私と今の私、その2つの知識なら圧倒的に強くできる)

 

おかげでお姉様は少しずつだが魔法を使えるようになり始めた。

 

2年でこれだと進捗が微妙と思うかもしれないが、適性Fをなめてはいけない。

CからBに上げるのと、FからEに上げるのでは、後者の方が何倍も辛いのだ。

むしろお姉様はよくここまで弱音を吐かずにやっていると思う。

 

(今のところ順調……でも、不安もたくさんある)

 

まずは、他のライバルキャラをなんとかしなくてはならない。

 

皇国の皇女ローズ、エルフの姫ムース、月狼族の族長の娘ルナ、天才技師ミスト。

 

彼女達は間違いなく学園で邪魔をしてくる。

その邪魔に耐えられるように、お姉様には強くなってもらわないと。

 

「エヴァ!見て!ついに治癒魔法を発動できたよ!……えへへ、っていっても一番簡単なやつだけどね」

「すごいよお姉様!この調子で行けば世界一になれるよ!」

 

私が導かないといけない。

何も知らないお姉様を、トゥルーエンドの先の、原作には存在しないハッピーエンドへと。

胸の高まりを押さえつつ、私は強く決心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

8歳になると招待されるエディンバラ皇国の懇親パーティ。

原作でもあったが、過去の話なので文字で表示されるだけだ。

 

このパーティにはエヴァのみが招待され、ウリアは呼ばれてすらいない。

だが、私としてはお姉様の居ないパーティに参加する意味などない。

 

ただアルトリウス家としては参加しないという選択肢はないようで。

仕方なく私はお姉様が参加するという条件で参加を決めた。

 

パーティ会場ではお姉様が軽蔑の視線にさらされることもあった。

けれども、私はそれをにらみ返すことで、お姉様を守ってきた。

 

やがてパーティが始まり、ガイウス王が挨拶をする。

 

「紹介しよう。まずは私の息子、アーク・フォン・エディンバラだ」

 

そしてその後に紹介されたのが、エヴァラスの攻略対象の一人であるアークだ。

 

アーク・フォン・エディンバラ。

エディンバラ皇国の皇子。

しかし、彼は自分に自信がなく、出来損ないの皇子とも裏では呼ばれている。

 

そんな彼の傷を癒し、共に成長していくルートは人気だ。

ウリアとアークで似ている部分がある、というのも理由だろう。

 

(でも、今回は彼にお姉様を近づける気はないけどね)

 

前も話したように、エヴァラスはクソゲーだ。

難易度調整に失敗している。

 

普通にプレイした場合、お姉様は命を落とす。

実はストーリーにおいて攻略対象が必須な要素はなく、最善を目指すならば関わらない方がいい。

 

「そして次に……こちらはみな知っているだろう。ロゼリア・フォン・エディンバラだ。ローズと皆は呼ぶように」

 

エヴァラスにおける味方サイド最強キャラはだれか。

ゲームをプレイした人達に聞けば必ず返ってくるのが、ローズである。

 

エヴァラスは学園編、卒業後編と大きく2つに分かれており、卒業後編では世界各国で戦争が起こる。

それゆえに各国の最強戦力と肩を並べて戦うこともあるのだが、それを考慮してもローズがあげられる。

 

ローズとは学園編で出会い、一度だけ戦闘をする機会が与えられる。

というよりも、どの攻略対象を選んだかで、特定のライバルキャラと一度だけ戦闘をする。

 

もちろんウリアは最低ステータスなので、どのライバルキャラにも勝つことはできない。

いわゆる負けイベントというものである。

 

負けイベントであるが、ライバルキャラのステータスは全員一緒ではない。

イベント前までにウリアを極限まで育成することで、その違いをダメージから計測した人もネット上では話題になった。

 

その人いわく

 

『ライバルキャラの強さは特殊なミストを除けば、ムース<ルナ<<エヴァ<越えられない壁<ローズ。というか、ローズは多分何しても勝てない』

 

とのことだった。コメントで越えられない壁を使うぐらいなので、かなり高いのだろう。

チートを使用して計測した際には、ゲーム終盤の中ボスにも迫る強さとのことだった。

 

そんなローズは緊張した様子もなく、優雅にほほ笑んでいる。

ゲームにおける彼女の性格は、まさに冷酷な独裁者だ。

身分ではなく実力を重視し、力のないものは必要ないとまで考える徹底的な現実主義者。

 

低ステータスなウリアはもちろんのこと、自分の弟であるアークでさえ彼女は認めていなかった。

 

そんな一番の障害になると考えている彼女が参加するパーティにお姉様を連れてきたのには理由がある。

今の段階のお姉様と、学園入学時のお姉様を比べてもらい、評価を改めてもらうためだ。

 

興味を持たれる可能性もあるが、毛嫌いされて邪魔されるよりはよっぽどいい。

そのくらい学園でのお姉様さまの育成は大事だからだ。

一番は、他の生徒と同じだと断定してもらい、興味をなくしてもらうことなのだが……。

 

「さて、あとは子供たちは子供たちで、私たちは私たちで楽しむとしよう。向こうの会場に行くがいい」

 

ガイウス王の言葉で現実に戻された私は、隣に立つお姉様を見た。

お姉様はガイウス王が示した別室の様子が気になっているようだ。

その手をそっと握ると、お姉様は嬉しそうに微笑んだ。

 



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第5話 優しいエルフのお姉さん

「あなたがウリア・アルトリウス?適性が最低なのに、よくこんなところに来れたわね!」

「いきなり失礼じゃない。私が一緒に来てって言ったんだからいいでしょ!」

 

やっぱり、思ったとおりになった。

目の前で私に軽蔑の視線を向ける貴族の令嬢と、それに怒りの表情で返すエヴァ。

 

会場にいる他の令嬢、令息も同じようで、こちらをチラチラと見ている。

私のことを良く思っていないのが、伝わってくる。

 

「……エヴァ様も大変ですこと。出来の悪い姉をお持ちになって。いつも苦労してるでしょうに」

「……別に大丈夫です。姉と過ごす毎日は楽しいので」

 

他の令嬢もその流れに参加してくる。

私を敵意むき出しで非難するもの、エヴァに同情しつつ私を蔑むもの。

その全てを、エヴァは一人で対応していた。

 

「私達のことは放っておいてください」

「……どちらかというとウリアさまが空気を読んでエヴァさまから離れるべきですけどね」

 

奥で様子を見ていた令嬢がポツリと呟く。

 

「……どういう意味ですか」

 

その令嬢に対して、エヴァはとても低い声で答えた。

 

「エヴァ様はアルトリウス伯爵家の正統な後継者候補。それはアルトリウス伯爵が表明していますわ。そんなエヴァ様はウリア様に構っている暇などないと思います。エヴァ様の将来を考えるならば、ウリア様は身を引くべきです」

「それはアルトリウス家の事情です。あなたたちには関係ありません」

「ウリア様、あなたも本当は分かっているのではないですか?エヴァ様から離れるべきであることを。両親から見放されているにもかかわらず、見苦しいですわよ」

 

この令嬢の言いたいことも分かる。私のせいで、エヴァの時間が取られているのは間違いない。

その時間があれば、エヴァはもっと強くなれるはずだ。

でも、エヴァから離れたくない自分と、エヴァから離れるべきだという自分がいる。

 

そんな2つの思いが頭の中でごちゃごちゃになる。

目の前にあるたくさんの悪意の視線も、それに拍車をかけた。

 

「……ごめんエヴァ。私ちょっと出るね」

「お姉様!?こんな人たちの言うことなんて、気にしなくても――」

「疲れちゃった。一人にしてほしいの。ちょっと色々と考えたいから。ごめんね」

 

そういって私はエヴァを振り切って走り出した。

背中越しに、エヴァの大きな声が聞こえていたけれど、私はそれを無視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パーティ会場から出て、私は一人で庭へと出る。

外は暗く、庭の隅っこで私はうずくまった。

 

分かっている。エヴァは私にはもったいないくらい良い妹だ。

優秀で、優しくて、将来も明るい。本当は私になんかに構わない方がいいのだろう。

けれど、私は愛情を向けてくれるエヴァにどうしても甘えてしまう。

 

離れるべきなのに、離れたくない。

そんな思いが頭の中でずっと繰り返されて、胸が痛くなる。

 

「大丈夫ですか?」

 

ふと、後ろから声がかけられた。

ここは庭でも隅っこ。まさか見つかるなんて。

そう思って首だけを後ろに向けて見上げると、そこには一人の女性が立っていた。

 

黄緑の長いサラサラの髪を風になびかせた、神秘的な印象の女性。

蒼い目は宝石のようで、その目が心配げにこちらを見つめている。

服装からして警備の人のようで、腰には装飾の施された剣が携えてあった。

 

そして、黄緑の髪から尖った耳が見える。エルフさんだ。

エルフさんは私の隣にしゃがみ込んだ。

 

「何かありましたか?よければ、私に話してみませんか?」

 

私はエルフさんに、全てを話した。

私に適性がないこと。家族のこと。エヴァとの関係性のこと。

その話を、エルフさんは何も言わずに聞いてくれた。

 

話を聞き終わった後に、エルフさんは星空を見上げながら、ゆっくりと話し始めた。

 

「……実は私も家族とは上手くいっていないんです。私は家族に愛されたいけれど、妹の方が可愛がられてて……それに婚約者にも嫌われていまして……」

「そんな……エルフさん、すごく綺麗で優しいのに……」

「ありがとうございます。……でも、あなたは幸せだと思います。妹さんは、少なくともあなたのことを愛しているはずです」

 

エルフさんは私の手を取り、優しく包み込んでくれた。

 

「妹さんに聞いてみてください。あなたが不安に思っていることを全部。そして妹さんの気持ちも。その気持ちが一致しているなら、誰にもあなたたちを否定はできません。大切なのは、お2人の気持ちですよ」

 

その言葉に、私ははっとした。

そうだ。エヴァの気持ちを聞いていなかった。

 

私はエヴァのために離れた方がいいと考えた。

でも、エヴァはどう思っているのか。

それが一番大切なんだ。

 

「あなたの大切なものを一番に考えてください。それがあなたにとっても、妹さんにとっても幸せなことのはずです」

「……ありがとうございます」

 

エルフさんの優しさが、心に染み入ってきた。

沈黙が、辺りを包む。

 

「私の話も……聞いてくれますか?」

「……はい」

 

エルフさんはその沈黙に耐えかねたのか、ポツポツと語り始めた。

 

「私は家族や婚約者とあまり良い関係ではありません。けれど、今度重大な任務があります。家族も婚約者も期待していると……そう言ってくれました」

「その任務は……難しいんですか?」

 

そう聞くと、エルフさんの手が震えだしました。

 

「……はい。達成できる可能性はとても低いです。けれど、もし……もしも達成できれば私は……受け入れてもらえるんです」

「…………」

 

震えているエルフさんがどこかに行ってしまいそうで、私は思わずその手を握っていました。

 

「私は今日会ったばかりですけど……その任務がどれだけ難しいのか分からないですけど……エルフさんがどこかに行ってしまいそうで怖いです」

「…………」

「私は……エルフさんのことが心配です。もしなにか無茶なことをしようとしているなら、やめてください。エルフさんが居なくなりそうで……私、それは嫌です」

「……名前を」

 

エルフさんは驚いた表情で私を見ていた。

 

「名前を教えてください」

「え?……ウ、ウリア・アルトリウスです」

「ウリアさんですね。私はリフィル・フローディアです。ありがとうウリアさん、私のことを心配してくれて。そんな言葉をかけてくれたのは、あなたが初めてです」

 

リフィルさん……その名前を心に刻む。

彼女が悲しまないように、どうか無事でいられるように。

そんな思いを、願いを、リフィルさんの手にこめた。

 

「お姉様!」

 

そんなとき、声が響いた。

思わず振り返ると、エヴァがこちらに駆け寄ってきていた。

 

私は立ち上がって、エヴァと向き合う。

 

「エヴァ……あのね……私、ずっと思っていたの。このままでいいのかなって。エヴァと一緒に居る時間はすごく幸せ。でもエヴァの大切な時間を奪っているのが苦しくて……どうすればいいのか分からなかった。私はこのままエヴァに甘えていていいのかな」

「お姉様……」

 

エヴァは私の肩を両手でつかみ、目をじっと見つめてくる。

 

「お姉様。よく聞いて。お姉様が私と一緒に居るのが幸せなのは嬉しい。でもそれは私だって同じなの。他の人の言葉なんて気にしないで。私の言葉を聞いて欲しいよ」

「……そうだよね。私とエヴァが一緒に居たいってお互いに思えるんだから、それでいいんだよね」

「そうだよ!これからも一緒に頑張ろう!エヴァ先生に任せて!」

「ふふふ、よろしくお願いします。エヴァ先生」

 

そうだ。他の人は関係ない。エヴァと一緒に、頑張っていきたい。

これから先、エヴァに頼ることも多いだろう。

喧嘩することだってあるかもしれない。

 

でも、私たちは姉妹として一緒に居たい。

たとえ血がつながっていなくても、いや血がつながった姉妹以上に仲良くなりたい。

 

エヴァも同じようなことを思ってくれているのだろう。

彼女は優しい目で、私を見つめていた。

それが嬉しくて、心からの微笑みで私は返した。

 

そんな私たちの様子を見届けたリフィルさんが立ち上がる。

 

「良かったですね。ウリアさん。それでは、私はこれで。警備に戻ります」

「はい!ありがとうございました!また……会えますか?」

「……ええ」

 

リフィルさんはそういうと、微笑んで行ってしまった。

小さくなっていく背中に不安を感じて、私は彼女の身を案じた。

あのまま居なくなってしまいそうな……そんな気がしたから。

 

「お姉様……あの人は?」

「私のことを励ましてくれたの」

「ふーん……それなら私も挨拶しとけばよかったかな。なんていう人?」

「リフィル・フローディアさん。エルフの人で、今日は警備として参加していたらしいよ」

「…………」

 

エヴァは一瞬目を見開いた後、リフィルさんの後ろ姿をじっと見ていた。

 



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第6話 魔王と呼ばれる者たち【エヴァSide】

「疲れちゃった。一人にしてほしいの。ちょっと色々と考えたいから。ごめんね」

 

パーティ会場での心無いやり取り。

その全てに、完璧に対応していたはずだった。

 

その言葉で急に駆けだすお姉様。

まさかの展開に慌てて追いかけようとするものの、そんな私の手を誰かが掴んだ。

 

「エヴァ様!ウリア様から離れるべきです!彼女もそう思って、エヴァ様から距離を取ったのです」

「違う。あなたたちがあんなことを言うから、お姉様は……」

 

なにが身分だ。なにが才能だ。そんなもの、放っておけばいい。

私がお姉様のそばに居たいから、居るだけだ。

お姉様から拒絶されない限り、それを誰にも責める権利はない。

 

「離して」

「エヴァ様!私たちはエヴァ様のためを思って――」

 

全く話を聞こうとしない令嬢に、私の中で何かが切れた。

なにが、私のためを思って、だ。

 

「黙れ」

 

掴んでいた令嬢の体がビクっと震える。

周りにいた令嬢令息も息をのんだ。

目の前の彼女をにらみつけたときに、私は気づいた。

 

「……あなた――」

 

頭痛が走り、言葉が出なくなる。

思い出した。この令嬢、よく見たら原作のエヴァの取り巻きだ。

 

エヴァと一緒にウリアを虐める、名もなきモブキャラ。

おそらくここで出会い、私たちは行動を共にするのがストーリーの流れなのだろう。

 

手を振り払い、私は会場を後にする。

 

(決められたシナリオが、私の邪魔をしないで。私はエヴァじゃない!)

 

いらだちを隠すこともせずに、私は駆けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷内を探し回り、ついにお姉様を見つけた。

お姉様は庭の隅に座っていて、その横には見知らぬ女性が座り込んでいた。

 

駆け寄ってみれば、お姉様は私に自分の気持ちを告げてきた。

私と一緒に居るのは幸せだ。でもそれは、私の時間を奪っているのではないかと。

 

このとき、私は初めてお姉様に触れた気がした。

お姉様はこの世界ではゲームの登場キャラじゃない。

一人の……人間なんだ。

 

ゲームのウリアとは違う。

お姉様は笑うし、怒るし、悲しむし、悩む。

クリアだけを考えて、ゲームの駒のように考えていいわけがない。

 

原作のことを考えずに、ただの妹としてお姉様に触れる。

 

「お姉様が私と一緒に居るのが幸せなのは嬉しい。でもそれは私だって同じなの。他の人の言葉なんて気にしないで。私の言葉を聞いて欲しいよ」

 

私自身の気持ちをそのまま告げると、お姉様は思いなおしてくれた。

私と一緒に居ることを、強く願ってくれた。

本当の意味で、お姉様に近づけた気がした。

 

「良かったですね。ウリアさん。それでは、私はこれで。警備に戻ります」

 

お姉様の横に座っていたエルフの女性は立ち上がり、去ろうとする。

その姿に見覚えはない。

 

(……あれ?この人)

 

しかし、見たことがある気がする。

エルフでここまで綺麗な人がいるなら、主要キャラクターでもおかしくはない。

 

けれど、エヴァラスを5周もプレイして、見落としているキャラなどいるだろうか?

攻略本だって、攻略サイトにだって目を通したのに。

 

「お姉様……あの人は?」

「私のことを励ましてくれたの」

「ふーん……それなら私も挨拶しとけばよかったかな。なんていう人?」

「リフィル・フローディアさん。エルフの人で、今日は警備として参加していたらしいよ」

「…………」

 

お姉様の言葉に、私は返答ができなかった。

 

リフィル・フローディア。

私は彼女を知っている。

 

エヴァラスにおいて、ウリアは作中で1,2を争う不遇キャラだ。

なら、争っているのはだれか。

 

それが彼女、リフィル・フローディアである。

ウリアは適性がないために不遇な扱いを受けた。

 

一方でリフィルは逆で、適性が祖国ユグドラシルでは高いために不遇な扱いを受ける。

 

彼女の家族、そして配偶者はリフィルの才能など求めていなかったのである。

幼少より才能あふれたリフィルを待っていたのは、それに恐怖する両親と、羨む妹だった。

婚約者が求めたのは才能あふれるリフィルではなく、自分よりも下で夫を立ててくれる妹だった。

 

ウリアと同じくリフィルも優しい性格で、家族の愛に飢えていた。

だからこそ彼女は家族に、婚約者に認められるためにその身を、才能を捧げた。

 

そして利用するだけ利用されて、最後は殺害されるのである。

 

リフィルは強い。だがそれはエルフの国、ユグドラシルの中での話だ。

そんなリフィルに依頼された内容は、強敵の討伐である。

軍を率い、討伐せよとの依頼は、残念ながら王のものではなく、婚約者が偽装したものだった。

 

リフィルは強敵に敗北。軍の兵士も彼女を残して全滅した。

そしてその強敵が報復に来ると考えた国内ではリフィルに対する不評が高まった。

 

国内の不満を解消する方法はただ一つ。

「勝手に行動した」リフィルの首を強敵に差し出すことだった。

 

リフィルは捕らえられ、処刑される寸前、両親と妹の手によって真相を聞かされる。

愛されたいと願った気持ちを踏みにじられ、愛されたい者たちに否定され、(あざけ)られ。

自分自身を全て否定されたリフィルの気持ちを、推し量ることなどできはしないだろう。

 

全てに絶望した彼女はついに精神を壊す。

牢を抜け出し、ユグドラシル国と敵対することになる。

 

と、ストーリーだけを聞くとエルフがどれだけクズかが分かる。

しかし、リフィルの問題点はそこではない。

 

彼女は魔王の一人なのである。

 

エヴァラスには人間を越えたものとして、7人の魔王が登場する。

 

【原始】、【緋色】、【天】、【深淵】、【幻影】、【世界】

 

一人一人が普通では到達しえない強さを持つ。

そして最後の7人目の魔王。それが

 

【傾国】リフィル・フローディア

 

なのである。

自分の家族に、国に裏切られたリフィルは絶望し、怒りの力で我を失い、各国から魔王の指定を受ける。

 

彼女は3か国を相手に大立ち回りをし、それぞれの国に多大なる損害を与えるものの、殺害される。

エヴァラスの原作が始まる3年前の話である。

 

それではなぜ原作では故人となっているリフィルに既視感があるのか。

それは簡単で、原作では彼女と戦うからである。

正確には彼女ではなく、彼女の憎しみや恨みが集まった残滓(ざんし)と戦うことになる。

 

その姿は、真っ黒な(もや)のようなもので、今の生きているリフィルを黒く塗りつぶしたようなものだ。

 

学園編にて戦うものの、その強さは教師たちを軽く超え、ゲームオーバーするプレイヤーも多発した。

 

そんなトラウマメイカーが彼女、【傾国】なのである。

ちなみにリフィルは国から魔王の指定を受けたものの、ステータス的には他の魔王には及ばない。

 

全員と戦う必要はないが、リフィルよりも強い魔王があと6人も居る、それも大きな問題である。

 

「リフィル……フローディア……」

 

生前の彼女と会えるなんて思ってもみなかった。

本心で言うと、彼女が死なないのが一番良い。

でも、ただの8歳のエヴァではどうしようもない。

 

リフィルが死ぬことも伝えられないのだ。

彼女が死ぬ要因をなんとかすることも、絶対に無理だ。

 

「……お姉様、中に戻ろう」

「……うん、そうだね」

 

リフィルの後姿を見ながら、私は彼女に心の中で謝る。

ごめんなさい。あなたを救うことは……私にはできない……ごめんなさい。

 

『ありがとう……名も知らない人……彼女を……リフィルを止めてくれて』

 

ゲームでリフィルの残滓(ざんし)を倒したときに聞こえる声が、頭の中で思い返された。

 



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第7話 初めての友達は皇女さま

本日は昼と夜にも投稿予定です!


エヴァと合流し、私たちは会場へと戻る。

しかし子供たち専用の会場には戻らず、廊下の隅で時間を潰すようにした。

 

私たちで勝手に帰るわけにはいかない。

お父さまが出てくるまでは、ここで待っていないと。

 

待っている間、エヴァと色んな話をした。

お菓子の話や、洋服の話、魔法の話、これからの話。

その全てが、楽しい話だった。

 

やがて両方の会場の扉が開き、子供と大人が出てくる。

しかし、お父さまの姿はない。まだ話しているのだろうか?

 

「え?まだいたの?」

 

声をかけられて振り返ると、先ほど文句を言っていた令嬢が立っていた。

エヴァが少し前に出る。

 

その様子を見ていたのか、どんどん子供たちが集まってきた。

前世ではこんな視線にさらされることはなかったが、今なら分かる。

子供たちは、残酷だ。

 

「あんた、能力なしなんでしょ?貴族として恥ずかしくないの?」

「平民よりも力がないなんて、変なのー!」

「あなたみたいな人が来る場所じゃないのよ。早く帰りなさい」

 

本来なら伯爵家の令嬢に言っていい言葉ではない。

だが、お父さまは私のことをもう見棄てている。

それを知っているからこそ、この子たちは私に絡んでくるのだろう。

 

「お姉様は必ず強くなる。あなた達なんかよりも」

「でも今は弱いじゃん!」

「そうよ!出ていきなさいよ!」

「エヴァ……もういいよ……」

 

所詮は子供の言葉だ。

私にはエヴァがいる。それだけで十分だ。

そう思い、エヴァの袖を掴もうとしたとき。

 

「何の騒ぎです?」

 

凛とした声が響き、エヴァも、暴言を浴びせていた令嬢たちも押し黙る。

気楽に話してはいけない、そんな雰囲気が場を支配した。

現れたのは輝くような銀髪をアップにした髪型の少女。その頭にはティアラが乗っている。

 

「ローズ皇女殿下……」

 

先ほど遠くから見ただけの皇女さまが立っていた。

その視線は興味深そうに私たちを見つめている。

 

まさかの登場に一瞬時が止まったが、私を責めていた令嬢が皇女さまに声をかける。

 

「ローズ様。発言失礼します。ウリア様は伯爵家なのにも関わらず、平民よりも能力がありません。それゆえこの場を去った方が良いとお声がけしたのですが……」

 

その言葉に、皇女さまの目がつり上がる。

鋭い目が、私を捉えた。

 

「平民よりも能力がない?」

 

体が、震える。

私はまた責められると思い、目を伏せた。

 

「くだらない。今の実力が何になるというのです。実力は努力をすれば伸ばせます。むしろそんな理由で他人を見下すあなた達の方がこの場にふさわしくありません」

 

その言葉に、私は思わず顔を上げて皇女さまをまじまじと見てしまった。

皇女さまは、優しく微笑んでいた。

 

(あ……)

 

その笑顔が、エヴァのものと同じだと気づいた。

私自身を見てくれる、お母さまと同じ笑顔。

 

「ウリアさん、申し遅れました。私はロゼリア・フォン・エディンバラと申します。私、実は同年代の友達がいなくてとても寂しい思いをしていました。よろしければ、お友達になってくださいませんか?」

「え……えぇ!?お、皇女さま!?」

「まあ、そんなに驚かないでください。私はウリアさんが気に入りました。どうぞロゼリアとお呼びください」

「あ、ありがとうございます……私のほうこそ、よろしくお願いします」

 

う、嘘……皇女さまってこの国ですっごく偉い人だよね?

そんな人と、お友達?え、初めてのお友達が、皇女さま!?

 

私が混乱しているとロゼリアさまはエヴァを見て微笑んだ。

エヴァも皇女さまが急に来て驚いているのだろう、目をまん丸くしている。

 

「あら?あなたはウリアさんの妹ですか?よろしくお願いします。ロゼリア・フォン・エディンバラです」

 

ロゼリアさまは笑顔でエヴァに手を差し出す。

しかし、エヴァは固まったまま動かない。おそらく緊張しているのだろう。

私が腕をちょんちょんと指でつつくと、慌てて手を差し出した。

 

困ったように苦笑いをしている。分かる、私も同じ気持ちだったよエヴァ。

内心で妹に同情しつつも、初めての友達に、私はわくわくしていた。

その笑顔は苦笑いというよりも、ひきつっているようにも見えなくないけれど。

 

「私、同じような適性を持つエヴァさんと、その姉であるウリアさんが気になっていたんです」

「え?で、でも私の適性は……」

「先ほども言いましたが、適性なんて今は何の意味も持ちません。どのように成長するか、それはその人次第です。私はむしろ、低い適性でも頑張るウリアさんの心の強さに惹かれました。どうです?今度お城で一緒にお話ししませんか?もちろんエヴァさんも一緒に」

「よ、喜んで参加させていただきます!」

「…………」

 

皇女さまのありがたい言葉に私は食い気味に返してしまった。

なんて良い人なんだろう。心からそう思っているのが伝わってくる。

 

しかし、エヴァの様子が先ほどからおかしい。

まったく微動だにせず、固まってしまっている。

 

いくら皇女さま相手でも、ここまで驚くようなことだろうか。

その様子を不思議に思いながらも、私はロゼリアさまとお友達になった。

 

 

 

 

 

 

「なるほど、そんな風に教えるなんて、エヴァさんは詳しいんですね」

「……えぇ、まあ。お姉様のためですので」

 

後日。私たちは三人でお城の中庭に居た。メンバーはロゼリア様、エヴァ、そして私だ。

ロゼリア様は私たちのことをかなり気に入ってくれているようで、時間さえあれば私たちに会おうと連絡をくれる。

 

「ふむ……ですがウリアさんがこれ以上強くなるには、やはりテスタロッサは必要なのでは?」

「……見つかれば苦労はしません」

「まあ、テスタロッサは本当に運ですからね。一応城にいくつかあるので、試してみますか?」

 

テスタロッサというのは、使用者を強くしてくれる武器のようなものだ。

普通のものと、専用のものがあるらしく、どちらが手に入るかは運次第。

にもかかわらず、その運を試すのにも莫大なお金がかかるとか。

 

ロゼリアさまはもちろん、エヴァも専用のテスタロッサを持っている。

うらやましくは思うけれど、私は魔法もまだまだなレベル。

もっと先の話かと思っていたが。

 

「そ、そんな貴重なものを使っても良いのでしょうか?」

「まあ、起動させるだけなら価値はそこまで落ちませんし、大丈夫ですよ。もってこさせますね」

 

アルトリウス伯爵家でもエヴァの専用テスタロッサを引き当てるまで、かなりお金をかけたと聞く。

私なんかにそんな貴重なものを、と思ったがロゼリアさまはもうメイドに指示を出していた。

 

しばらくすると、丁寧に梱包された球がいくつかテーブルの上に置かれた。

テスタロッサは覚醒前はすべて同じ形をしている。

ここから専用のものになるかどうなるのかは、私の運次第だ。

 

その一つ一つを手に取り、テスタロッサを覚醒させていく。

ロゼリアさま曰く、「目覚めろ」というのが覚醒、および起動のキーワードなのだという。

 

「ダメですね」

「うん、ダメ」

 

槍や刀、剣といった様々な形に次々と変化していくテスタロッサ。

しかしそのどれもが最低等級のコモン級だ。

 

時折見たことのない珍しい武器に代わるが、それでもアド等級らしい。

ロゼリアさま達が狙っているのは、その上のエクセラ級だとか。

 

覚醒したテスタロッサはメイドさんの手により回収されていく。

私が起動することで、そのテスタロッサの価値が落ちているので、胃が痛い。

 

「これもダメですね」

「うん、次」

「え、えっと……私は適性が低いんだし、テスタロッサでさえあればそれだけで……」

 

先ほどからかなりの数を覚醒させているが、そのいずれもが成功していない。

流石におそれ多くなってきたので、遠慮したいところなのだが。

 

「ダメだよお姉様。……せめてエクセラを引き当てないと」

 

エヴァがそれを否定してくる。

途中で言葉が詰まったが、何かあったのだろうか?

 

「ウリアさん、よく聞いてください。テスタロッサは私たちの相棒です。命を預けると言っても過言ではありません。そしてそれはウリアさんだけでなく、ウリアさんの大切な人も入ります。ウリアさんは適当に決めて、それでエヴァさんが死んでしまっても、それでも悔やみませんか?」

「エヴァが……」

 

今まで考えもしなかったことを言われて、体が震える。

エヴァが、居なくなる……そんなの。

 

「ごめんなさい」

 

ロゼリアさまは優しく手を握ってくれる。

 

「でもそのくらい大事なことなんです。私もエヴァさんも、ウリアさんに傷ついて欲しくない。ウリアさんがエヴァさんにそう思ってくれているように。分かってくれましたか?」

「は、はい。私、頑張ります!」

 

勘違いしていた。それを言い聞かされ、私は深く頷いた。

エヴァを……それにおこがましいかもしれないけれどロゼリアさまを傷つけさせないために、頑張らないと!

 

「……てい!」

 

いつの間にか移動していたエヴァはロゼリアさまの手を軽くたたき、私にテスタロッサを手渡した。

 

「それじゃあ、順番にやっていこう!さあ、お姉様!」

「う、うん……」

 

妹の笑顔がなぜだか怖くて、私はテスタロッサ覚醒に集中した。

結局この日、ロゼリアさまとエヴァの納得のいくテスタロッサは見つからなかった。

 



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第8話 この世界がゲームだと私も知っている【ロゼリアSide】

締め切り日が迫る大学のレポートを必死に片づけて、それがある程度形になったところで、眠りについたはずだった。

明日になれば大学に行き、塾の講師のバイトをして。

そんないつもの日常を過ごすはずだった。

 

しかし、目覚めたときにはゲームEverlastingの世界に転生していた。

ただし、主人公のウリアではなく、ライバルキャラ筆頭のローズとして。

 

究極のクソゲー、Everlasting。略してエヴァラス。

ゲーム好きだった私はこのゲームにハマり、5周ほどプレイした。

確かにクソゲー要素は強いが、それでも面白いゲームだと私は感じていた。

 

ただ、転生するならこのゲームはやめてほしかった。

このゲーム、難易度が高すぎるのだ。

もっというと、転生するとしてもライバルキャラはやめてほしかった。

 

ライバルキャラ、ロゼリアの末路は死亡と決まっているからだ。

それを避けるには原作と同じ行動を極力避け、主人公と行動を共にするしかない。

 

学園でウリアとなるべく早く親しくなり、卒業後は彼女の所属する部隊に参加するのがベストだ。

欲を言うと、親友キャラの立ち位置を奪いたいところ。

 

とはいえ、主人公の部隊に入ったとしてもその先も地獄だ。

数々の強敵が、それこそ周回プレイでも厳しい敵が待っている。

学園に入る前までに、私自身の強化も必要だと考えた。

 

歩けるようになり、言葉を話せるようになった私は国王であるお父さまにおねだりし、城内の図書館に入りびたるようになった。

ゲームの知識は持っているが、その知識がこの世界でも通じるかを確認したかった。

 

不足している知識はあるものの、ゲームで得た知識が異なっているということはなかった。

これでこの世界がエヴァラスの世界であることが確定した。

 

次に私は原作知識の保管を考えた。人間なので、前世の知識は時間が経てばいつか忘れてしまう。

そうなっても良いように、紙に書き記そうとしたのだが。

 

「この頭痛……すごすぎます……」

 

度重なる頭痛で気分が悪くなり、ベッドに倒れ込んだこともあった。

言葉、文字、身振り、その全てで、前世の知識を出すことが不可能だった。

この世界の私に課されたルールのようなものなのだろう。

 

仕方なく書くことは諦め、私は毎晩前世の知識を思い出すことでなるべく忘れないようにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして3歳の時、私の適性が計測される。

原作ではライバルキャラの中でも最強と言われていたロゼリア、その評価はいかに?

 

「ロ、ロゼリア・フォン・エディンバラ様の適性は技術力、知力以外すべてBです……す、既に国の魔法部隊や騎士団の隊員並みの能力を持っています……」

 

うそ……私、強すぎ!?

知力は軍を指揮する能力や戦術を考える力なので、原作ゲームでも重宝されてはいなかった。

技術力はテスタロッサを調整する際に必要なものなので、ロゼリアには必要ない。

 

少なくとも3歳の段階で学園の卒業生と戦って、良い勝負ができるレベルということだ。

ロゼリア、恐ろしい子!!

 

自分の才能が怖くなりつつも、その後も私は満足することなく、熱心に勉強をした。

結果として8歳までに専用のテスタロッサとも契約し、適性もAにレベルアップし、かなり順調な強化を達成した。

 

というよりも、ロゼリアが強すぎて、ちょっと前世の知識を組み合わせるだけでどんどん成長してしまった。

ロゼリア、恐ろしい子!!

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな私に転機が訪れたのは8歳の時の懇親パーティだった。

国内の貴族が参加するパーティ。そこに、ウリア・アルトリウスの姿を見つけてしまった。

原作ではありえないことだ。

 

妹であるエヴァ・アルトリウスは確かにパーティに参加していた。

しかし虐げられているウリアは参加しなかったはずだ。

 

よく見るとエヴァはウリアを守るように一歩前に出ている。

私が知っているエヴァからは遠く離れたその在り方に、一瞬別人かと思ったほどだ。

ウリアもエヴァを信頼しているように見えた。

 

(私以外の……転生者?)

 

そうとしか考えられない。

このゲームを知っているなら、ウリアという人物がどれだけ重要か分かっているはず。

仮に私がエヴァに転生したとしても、今のエヴァと同じ行動をとるだろう。

 

子供たちの懇親会で、接点を作ろうと考えた。

しかし舞台挨拶を終え、大臣たちとあいさつを交わした後に遅れて会場に行くと、2人の姿はもうなくなっていた。

 

群がってくる貴族の子供たちの相手をしつつ、会場を見回す。

それでも、2人はどこにも居ない。

見間違えた?それならエヴァだけでも見つけられるはずだ。

 

しかし結局見つからずに、パーティは終わりを迎える。

主催として最後まで会場に残り、全員が出たのを確認した後で、会場から出る。

そのとき、声が聞こえた。

 

「そうよ!出ていきなさいよ!」

「エヴァ……もういいよ……」

 

見つけた。

私は微笑み、その集団に近づいていく。

 

「何の騒ぎです?」

 

その言葉で全員が私に注目した。

 

「ローズ様。発言失礼します。ウリア様は伯爵家なのにも関わらず、平民よりも能力がありません。それゆえこの場を去った方が良いとお声がけしたのですが……」

 

なるほど、ウリア達が居ない理由が分かった。

おそらく私が会場に着く前に同じようなことを言われたのだろう。

それゆえに会場から離れていたのか。

だが、これはチャンスだ。

 

「くだらない。今の実力が何になるというのです。実力は努力をすれば伸ばせます。むしろそんな理由で他人を見下すあなた達の方がこの場にふさわしくありません」

 

本心をそのまま告げる。

前世の塾でも、勉強ができない子は居た。

けれどそれは勉強の仕方を知らないか、あるいは勉強の時間が足りないからだ。

 

たった8歳でその人を判断するなんて、どうかしている。

人を構成するのは、適性だけではない。

それにその適性も、努力次第で伸ばせるのだから。

 

「ウリアさん、申し遅れました。私はロゼリア・フォン・エディンバラと申します。私、実は同年代の友達がいなくてとても寂しい思いをしていました。よろしければ、お友達になってくださいませんか?」

「え……えぇ!?お、皇女さま!?」

 

そのままの流れで私はウリアに近づく。

彼女に近づくために。

 

「そんなに驚かないでください。私はウリアさんが気に入りました。どうぞロゼリアとお呼びください」

「あ、ありがとうございます……私のほうこそ、よろしくお願いします」

 

反応は良い。どうやらウリアは転生者ではないようだ。

けれどその一方で。

 

「あら?あなたはウリアさんの妹ですか?よろしくお願いします、ロゼリア・フォン・エディンバラです」

 

あなたは絶対に転生者。

ウリアに優しいエヴァなんて、あのゲームがどう転んでも誕生しようがない。

 

今でも驚いているのがその証拠。

その驚きは皇女に話しかけられたからではなくて、ローズがウリアに優しくしているから、でしょう?

 

「私、同じような適性を持つエヴァさんと、その姉であるウリアさんが気になっていたんです」

「え?で、でも私の適性は……」

「先ほども言いましたが、適性なんて今は何の意味も持ちません。どのように成長するか、それはその人次第です。私はむしろ、低い適性でも頑張るウリアさんの心の強さに惹かれました。どうです?今度お城で一緒にお話ししませんか?もちろんエヴァさんも一緒に」

「よ、喜んで参加させていただきます!」

 

ウリアの瞳にやる気の炎が宿るのを見て、私は好ましく思った。

前世でも、やる気のある生徒は伸びた。

 

私だって人間だ。

熱心に教えを乞う生徒とやる気のない生徒では、やる気に満ちた生徒を可愛がってしまう。

 

ウリアはまさに、私が好きなタイプの子だった。

 

「…………」

 

そして、エヴァ自身も分かったはずだ。

お互いに相手が転生者であると理解したと。

 

けれど私たちはその情報を交換できない。

つまり私は私のやり方で、エヴァはエヴァのやり方でこのゲームを攻略する形になる。

 

けれど、これは面白いかもしれない。

私とエヴァ、2人でウリアの才能を限度なく引き出せると思うと、心が躍った。

 



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第9話 転生者がこの世界で生き残るために【ロゼリアSide】

懇親パーティの後から私たちは三人でよく集まった。

話す内容はウリアのことばかりだ。

エヴァは前世でかなりエヴァラスをやり込んでいたらしく、私から見ても可能な限りの育成をウリアに施していた。

 

だが、卒業後の魔王達まで考えると私も含め力不足は否めない。

 

「ふむ……ですがウリアさんがこれ以上強くなるには、やはりテスタロッサは必要なのでは?」

 

原作でもウリアのテスタロッサはゲームを攻略するうえで重要な要素だ。

良いテスタロッサを引くために、ウリアガチャとまで攻略サイトでは言われていたくらいだ。

 

私たちはまだ8歳。時間はある。

ウリアに強力なテスタロッサを引かせられれば、これ以上のアドバンテージはない。

 

しかしテスタロッサガチャは闇だ。

1周目で良いステータスのテスタロッサが出なかったらリセットする人も続出していた。

 

それはこのミストフィアでも同じようで、城にある未覚醒のテスタロッサを試してみても、そんな簡単には良いものは見つからなかった。

出てくるのは最低等級のコモン級か、良くてアド級。

 

ウリアの隠された特性を考えると、エクセラ級は欲しいところだ。

そう考えているのはエヴァも同じようで、覚醒したテスタロッサを見ては「次」と告げていた。

 

「え、えっと……私は適性が低いんだし、テスタロッサでさえあればそれだけで……」

 

やがて、ウリアは遠慮がちに呟いた。

ウリアの気持ちも分かる。テスタロッサは高価だ。

だけれども、正直城にあるすべての未覚醒テスタロッサを使ってでもガチャをする必要がある。

ウリアのテスタロッサは、世界を救うカギだ。

 

「ダメだよお姉様。……せめてエクセラ引き当てないと」

 

エヴァが同じように思ったようで、否定している。

途中で言葉が詰まったのは、前世のワードを出そうとしたからだろう。

ガチャか、リセマラか。けれど、それだけでは足りない。

 

「ウリアさん、よく聞いてください。テスタロッサは私たちの相棒です。命を預けると言っても過言ではありません。そしてそれはウリアさんだけでなく、ウリアさんの大切な人も入ります。ウリアさんは適当に決めて、それでエヴァさんが死んでしまっても、それでも悔やみませんか?」

 

なぜダメなのか。それを丁寧に教える。ウリアはまじめな子だ。そして優しい子だ。

丁寧に説明したほうが、ウリアの中での意識が変わる。

 

ウリアは私の言葉に目を見開く。

 

「ごめんなさい。でもそのくらい大事なことなんです。私もエヴァさんも、ウリアさんに傷ついて欲しくない。ウリアさんがエヴァさんにそう思ってくれているように。分かってくれましたか?」

「は、はい。私、頑張ります!」

 

私の説明に納得したのか。ウリアは強くうなずいた。

思わず熱くなって手を握ってしまった。

 

「……てい!」

 

しかし、次の瞬間にはエヴァにその手を軽くはたかれた。

 

「それじゃあ、順番にやっていこう!さあ、お姉様!」

「う、うん……」

 

不機嫌なのにもかかわらず、それを隠して優しくウリアに接するエヴァ。

それがちょっとおかしくて、私は口元が緩んでしまった。

 

けれど……もう少しウリアと手を繋いでいたかったなぁ、とちょっとだけ残念に思った。

少しの間だけ、自分の手を見つめてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日後、城の私の自室にエヴァだけを招待した。

 

「いらっしゃい、エヴァさん」

「……どうも」

 

不愛想にエヴァが私に応える。今回の集まりではウリアは不参加だ。

家に置いてきたウリアのことが心配なのだろう。

一応私の影に見張らせているので、危険が及ぶことなどないというのに。

 

無理を言ってでもエヴァを呼び出したのには理由がある。

どうしても一度、エヴァと私の2人だけで、確認する必要があった。

 

「エヴァさん、あなたは……っ」

「……言うまでもないと思いますよ」

「……ええ、それと2人きりのときは敬語は不要です。あ、私は癖ですので」

 

転生者なんていうワードを出せるわけがない。

けれど私が頭痛に顔をしかめたのを見て、エヴァは状況を読み取った。

骨の折れる確認作業だが、使えるパターンは限られるだろう。

 

「そう……私から言えることは一つだけ。今まで見てきた中でお姉様に優しくしたのは私だけ」

「私もですね」

「……そう」

 

これで他に転生者がいないことが判明した。

おそらくウリアが転生者ではないということも含まれているのだろう。

 

「……そういえば、城の警備にエルフの人を起用したんだね。お姉様がお世話になったよ。リフィル・フローディアさん、良い人だね」

「……は?」

 

エヴァの言葉に、思わず素で返してしまった。

【傾国】が会場に?流石に会場の警備者のリストなんて見ていない。

それに【傾国】が死ぬのは4年後のはずだ。

 

このタイミングでエヴァがこれを話したということは、【傾国】の存在と、【傾国】を助けられないか、という意味かもしれない。

一応その方面で考えてみる……

 

(……無理だ。どうしようもない)

 

私はこの国の皇女だが、まだ8歳。少なくとも他国に口出しできる立場ではない。

そもそも、リフィルの死は前世の知識だから、事情を伝えることすらできないだろう。

ただ死ぬかもしれない、という言葉だけをユグドラシルに伝えても、なににもならない。

 

そして死ぬ要因については、これこそ私の力ではどうすることもできない。

結論に行きつき、私は首を横に振った。

 

「……そう。他に話したいことはないよ。そっちは?」

「私もありません」

 

エヴァが転生者であることを最近知ったのだ。

私が知っている情報など何もない。

 

「それじゃあ私は屋敷に戻るね。お姉様が待っているから」

「……その優しさの少しでも他人に向けた方がいいと思いますよ」

「少なくとも皇女さまには恐れ多くて無理です」

 

心底嫌そうな顔をして、エヴァは部屋を出ていった。

私との関係性は微妙だが、ウリアを想っているのは間違いないだろう。

そういった意味では大きな目的は一致しているけれど、もう少し仲良くできないものかとその背中を見ながら思ってしまった。

 



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第10話 エヴァが悲しまないために

「エヴァ!家族で親交を深めたいという気持ちがなぜ分からないんだ!?」

「だから私とお姉様は屋敷にいるから、他のみんなで行ってきてくださいと言っているではないですか!」

 

エヴァとお父さまの大きな声が屋敷の中に響き渡る。

仲が悪いのはいつものことだが、今回は事情が違っているようだった。

 

「旅行に行くだけではないか!?」

「お姉様抜きでですよね!?そんなの認められません!」

 

私をのけ者にしたいお父さま達とエヴァの対立もよく見る構図だ。

最初の頃は申し訳なく思っていたが、私ももう11歳。

流石に5年も経験していると慣れてくる。最近はエヴァの言葉がちょっと嬉しいくらいだ。

 

「……分かった。ならウリアも含めて全員で行こう。それでいいだろう」

「……お姉様がそれでいいなら」

 

その言葉にお父さまは溜息を吐き、私の部屋に近づいてくる。

扉が開き、心底嫌そうな顔のお父さまが私を見た。

 

「ウリア。次の休みに家族で旅行に行く。準備しておけ」

「お姉様の許可を得てくださいって言いましたよね!?」

「……来てくれるか?」

 

すぐにエヴァに怒られ、お父さまは聞き方を変えた。

流石にこれ以上はこじれそうなので、私は二つ返事で了解する。

お父さまはこんなところに居たくないとばかりに、すぐに居なくなってしまった。

 

エヴァは部屋に入り、私に近寄ってくる。

 

「お姉様!どうして断らなかったの!?」

「いや……今回は流石に断れないよ。ずっと揉めてたし……」

「うーん……」

 

エヴァとしては不本意みたいだが、この旅行は長いことお父さまとエヴァで揉めていた。

そろそろ大きな問題に発展するのでは、と内心ハラハラしていたのだ。

 

「お姉様、どこか行きたいところある?国内だけど」

「私は詳しくないから、全然思いつかないかなぁ。エヴァが決めていいよ」

「ん……分かった」

 

エヴァは溜息を吐くと、そのまま私のいるベッドに倒れ込んだ。

その様子が可愛くて、頬を思わずツンツン指でつついてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数日後、私たちは馬車に揺られて移動していた。

空気は最悪で、エヴァとお父さま達は嫌そうな顔をしている。

私はというと、お父さま達の目障りにならないように小さく縮こまっているだけだ。

 

ただ、私を横抱きにするようにしてエヴァが全く離れないのだが。

 

「エヴァ。貴族の令嬢としてはしたないですよ」

「男の人に抱きついているわけじゃないので、大丈夫です」

「…………」

 

また空気が悪くなった。

外に視線を向けてみても、森の中なので木々が見えるだけ。

エヴァが選んだ旅行先は海に面しているらしいが、そこまではまだまだ遠そうだ。

 

と思っていた次の瞬間、馬車が急停止し、私たちは危うく投げ出されるところだった。

 

「なんだ!?何をしている!?」

 

お父さまが怒り、馬車から出る。

お義母さま、お義兄さま、そして私たちが順に馬車から出た。

馬車の前には、ガラの悪そうな男の人がいっぱい立っていた。

 

「貴族さまの馬車に出会えるとは、俺たちはラッキーだねぇ」

 

気づけば、馬車の周りを男の人達が囲んでいた。

伯爵家の騎士たちもそれに合わせて私たちを守るように前に出る。

私の前にはエヴァが出てくれた。

 

騎士の数も多いけれど、それ以上に男の人たちの数が多い。

男の人たちは皆武器を持っていて、嫌な笑みを浮かべている。

 

「馬鹿なことを」

 

お父さまはそう言って片手剣のテスタロッサを展開した。

お義母さまとお義兄さまも手のひらを男たちに向けた。

 

「……まあいいか」

 

エヴァはそう呟いたと思うと、右手にテスタロッサを展開した。

片手剣のエクセラ級テスタロッサ『オーバーライト』。

両刃剣で、刀身が赤く、柄の部分が豪華に装飾されている。

 

エヴァのオーバーライトを見たのはこれで二回目。

最初に見たときも思ったけど、本当に綺麗な武器だと思う。

 

そんなエヴァの様子を見て、男の人たちの空気が変わった。

 

「おい、普通じゃねえぞ。多分エクセラ級だ。注意してかかれ」

 

その言葉で、男の人たちが襲い掛かってくる。

この世界で、いや前世を含めても初めて経験する命を懸けた殺し合い。

男の人たちも、騎士の人たちも、皆傷ついていく。

 

その非現実的な光景に、そして私では何もできない恐怖に、震えるしかなかった。

けれど、エヴァは違った。

エヴァは攻撃を受けるどころか掠ることすらなく、男の人たちを次々と倒していた。

 

けれどその表情はどこか辛そうで、青白かった。

当たり前だ。エヴァはすごく強い。

でも、人を殺したことはおろか、傷つけたことすらない。

 

そんなエヴァの助けにすらなれない自分がもどかしくて、嫌だった。

私がもっと強ければ。

 

(違う。何かできるはずだ)

 

私は私が使える魔法を使った。

周囲を光らせる魔法。光の弾を相手にあてる魔法。光の刃を飛ばす魔法。

それぞれは威力が低すぎてダメージを与えることもできない。

 

けれど、その魔法が役に立つこともある。

あまりのしょぼさに侮った男の人たちを、エヴァの剣が捉える。

 

「お姉様、流石!」

 

エヴァは笑い、少しだが調子を取り戻してくれた。

テスタロッサすら持たない私では、いや仮に持っていても大したことはできない。

一人ならば、なすすべなく殺されていただろう。

 

けれど、ここにはエヴァがいる。

エヴァの助けに少しでもなるために、私は。

 

そう思い必死に魔法を使っていると、いつのまにか戦闘は終わっていた。

騎士の人たちは多くが傷を負っていた。

お父さまも深く息をしながら地面に座り込んでいる。

 

お義母さま、お義兄さまも同じくかなり疲れているようだ。

だがそんな状況でもエヴァは平然としていた。

やっぱりエヴァはすごい。

 

「おつかれさ――」

 

エヴァに声をかけようとしたとき、音が聞こえた。

茂みを素早くかき分けるような、そんな音が。

なにか嫌な予感がして振り返る。

 

茂みから、男の人が剣をもって飛び出していた。

その視線の先には、お義母さまがいる。

けれどお義母さまは疲れていて気付いていないみたいだった。

 

思わず、私は走り出した。

光の魔法を放つが、走りながらだと満足にコントロールもできない。

痛みすら与えることもないので、男の人は止まらない。

 

でも、距離は私の方が近かった。だから間に合う。間に合うけれど。

それで、どうする?

 

間に合って、でも私は何もできないから男の人たちを止められなくて。

だから。

 

次の瞬間、私はお義母さんに体当たりをするような形で衝突した。

お義母さまは衝撃で横に飛ばされる。

これで、お義母さまが傷つくことはない。

 

男の人が突き出した剣が横腹をえぐる。

今まで感じたことのない痛みと熱さに思わず声を出しながら、私は地面に投げ出された。

 

「お姉様!」

 

直後、気づいたエヴァが男を倒す。

その様子を見ながら、リリスお義母さまと目が合う。

お義母さまは傷一つないみたいだった。

 

それに安心して、私は意識を失った。

 



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第11話 部屋に出入りする、3人目

「うぐっ……」

 

体中に痛みを感じで、私は目を覚ました。

見覚えのある天井。体にかかる毛布。

伯爵家の屋敷だ。

 

「お姉様!?大丈夫!?私が分かる!?」

「……え……ヴぁ?」

 

覗き込んできたのはいつも見ていた妹の顔。

けれど心配そうな顔で、目には涙が浮かんでいる。

片方の頬が少し赤くなっているが、ぶつけたのだろうか。

 

「なんで……なんであんなことしたの……一歩間違えたらお姉様、死んでたんだよ!?」

 

その言葉で思い出す。

そうだ。旅行に行く途中で男の人たちに襲われて、私はお義母さまを助けるために……。

 

「お母様だよ?ずっとお姉様を無視してきた……嫌いなんじゃないの!?わけわかんないよ!」

「なんでって……」

 

別にお義母さまのことは嫌いではない。好きでもないが。

けれど、彼女はエヴァの母親だ。

 

「お母さまが死んじゃう苦しみは、嫌なの。あんな気持ちを、大好きなエヴァに味わってほしくなくて」

「……私の……ため?」

 

私はお母さまを死なせてしまった。

私が無能だったから。努力しなかったから。

だから私はエヴァに出会うまで、毎日が暗くて、痛くて仕方がなかった。

 

エヴァはリリスお義母さまと仲が良くない。

けれど、それでも家族だ。

リリスお義母様が死ねば、表には出さないかもしれないけれど、心を痛めるだろう。

 

「それでお姉様が死んだら……意味ないんだよ……自分をもっと大事にしてよ!」

「……そうだね」

 

痛いくらいに強く手を握ってくる。

その手はまるで縋るようで、祈るようで。

 

「絶対わかってない!……次こんなことしたら、絶対に許さないから……」

「うん……ごめんね……」

 

――あぁ、そうか。エヴァも私と同じなんだ。……ごめんね。

 

私がエヴァを失いたくないように。

エヴァも私を失いたくない。それが痛いほど分かった。

 

「元気になったら、強くなるために特訓だからね!」

「うん……次はエヴァみたいに倒せるようになるね」

「……いや、まあそれが一番なんだけどそうじゃないんだよなぁ……」

 

呆れたようなエヴァの声を聞きながら、私は笑った。

私はまだ生きている。

戦いを、痛みを思い出すと体が震えるけど、もっと強くなりたいと思った。

 

いつか、エヴァの隣で戦えるくらいには強くなりたい、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

改めて話を聞いてみると、私はそこまで重傷ではなかったらしい。

剣は横腹を裂いていたけど、致命傷ではなかった。

どちらかというとショックが強すぎて気絶していたそうだ。

 

ただ私がお義母さまを庇わなかった場合、お義母さまは間違いなく死んでいたそうだ。

私は体が小さかったから致命傷を外れた。

けれど大人のお義母さまならば、剣が体を貫いていただろう。

 

結果としてお義母さまは傷つくことなく、私も後遺症などは残らないそうだ。

これ以上はない結果だと言える。

あんな痛みや恐怖は二度とごめんだが。

 

私は二日ほど眠っていたらしく、エヴァはその間付きっ切りでそばにいてくれたらしい。

そして心配してくれたのはロゼリアさまも同じらしく、国内で優秀なお医者さんをすぐに手配してくれたそうだ。

 

「ところで……エヴァ、その頬どうしたの?」

「ん?あぁこれ?ロゼリアに叩かれたんだよ。あなたが居ながら、何をしているのです!って」

「えぇ!?」

 

あの穏やかなロゼリアさまからは想定できない。

 

「いや、でもそうなんだよね。私が気づくのがもう少し早ければ。……あ、お姉様次からは気づいたら走る前に私に声かけてね。私のほうが速いから」

「あ……うん」

 

私よりもエヴァの方が戦闘力は上だ。

確かにあの時、エヴァに声をかけていれば私が傷つくことも、リリスお義母さまが死ぬこともないだろう。

しかしエヴァはおかしそうに笑った。

 

「私のオーバーライトの固有能力、瞬間移動だから」

「……え?」

「話してなかったけど、お姉様が傷ついたとき一瞬で敵を倒したでしょ。あれが私の力。だから、私よりも速い人なんてこの世界にそんなに居ないから」

 

その言葉で、気が抜けてしまった。

最初からエヴァに言えば良かったのだ。

けれど同時に、エヴァの背中が遠く感じた。これは追いつくのは、大変そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家族旅行が終わった後に、変わった人が一人だけ居る。

今も扉の陰からチラチラとこちらを見ているひとりの女性。

エヴァの母にして、私の義母、リリス・アルトリウスである。

 

彼女はしばらく扉の前でこちらの様子をうかがっていたようだが、やがて意を決したように部屋に入ってきた。

その様子に、エヴァが警戒したようにリリスさんを見る。

 

しかしリリスさんは気にしないようで、私をじっと見ている。

そのとき、私は初めてこの家でリリスさんと目を長く合わせたと気づいた。

 

「……う、ウリアさん……その、何か必要なものがあれば言ってください……私に言うのが嫌ならエヴァを通してください。それと……ありがとうございました……」

 

リリスさんはそう言うと、部屋を後にしてしまった。

 

「……なにあれ?」

 

エヴァは不思議そうに扉を見て、呟いた。

 

「お姉様、何か欲しいものある?」

「え?……いや、エヴァが用意してくれているから、特にないかな」

「だよね」

 

エヴァの熱心な看病で必要なものはない。

しかし、リリスさんの不思議な行動はその後も続いた。

しばらく時間が経つと部屋の前に立って、扉からこちらの様子をチラチラとうかがっている。

 

さすがにその様子が気になりすぎたのか、エヴァはスタスタと歩き、扉を強引に開けた。

 

「お母さま、さっきから気になってしょうがないんですけど」

「え、えっと……その……」

 

リリスさんは言葉を詰まらせる。

 

「お姉様と話したいんですよね?だったら入ってくればいいじゃないですか」

 

リリスさんの背中を押して部屋の中に無理やり入れ、椅子に座らせる。

困惑していたリリスさんは、私を見ると心配そうに見つめてきた。

 

「あ、あの……その……大丈夫ですか?」

「え?ええ、おかげさまで」

「よ、良かったです……」

 

ぎこちない会話をリリスさんとする。

こうして私たちの部屋に、3人目がよく出入りするようになったのだ。

 



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第12話 おはよう、マリア

リリスさんは、あの事件以来、人が変わったように私に会いに来るようになった。

最初は微妙な空気が流れていたエヴァとの関係も、ある程度時間が経つと緩和しているようだった。

 

話すことはもっぱら私のこと。

けれどリリスさんはこれまでの負い目があるようで、かなり言葉を選んでいるのが分かる。

それ以上に感謝をしてくれているのも分かるので、悪い気持ちはしない。

 

「そういえば、ウリアさんのためにいくつか未覚醒のテスタロッサを手配したの。試してみてもらえないかしら」

「え?い、いいんですかそんな貴重なの……」

「ええ、ドレスとか宝石を買うお金を回しただけだから、特に問題はないわ」

 

それはそれで問題な気がするのだが、あえて言わないことにした。

差し出されたのは3つのテスタロッサ。それぞれを覚醒させつつ、エヴァに確認してもらう。

やはり今回も外れなようで、エヴァは首を横に振った。それが2回過ぎた後で。

 

「わっ!」

 

私は思わず声を上げてしまった。銀のフレームに赤い宝石の指輪が、右手の中指に収まった。

あまりにも綺麗な指輪で、驚いてしまった。

今まで見に見たことがないタイプだ。これは、ひょっとしたら?

 

そんなことを思っていると、エヴァは私の右手を取り、指輪をまじまじと見つめる。

 

いつもならすぐに「ダメ」というエヴァは、今回は驚いた様子で指輪をいろんな角度から眺めていた。

 

「…………」

 

やがて、エヴァは何かを考えこむように押し黙ってしまった。

その様子に私もリリスさんも顔を見合わせる。

 

「とりあえず、これでいいと思う。ただ、起動したときの状態が見たいから、お姉様が元気になったらロゼリア皇女を呼んで起動してみてほしい」

 

今までとは違う言葉に、ついにこのときが来たのかと私は目を輝かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。伯爵家の屋敷の中庭にロゼリアさま、リリスさん、エヴァ、私が集まっていた。

ロゼリアさまは私の指輪を見るなり、エヴァと同じような反応をした。

同じく起動が見たいとのことで、中庭に来たのだ。

 

「では、起動してみてください」

「はい」

 

私は中庭の真ん中に立ち、指輪を見つめる。

起動には、「目覚めよ」という言葉が必要だという。

けれどその言葉がなんだか偉そうで、私はあまり好きじゃなかった。

 

手を前に出し、じっと指輪を見つめる。

その指輪が、言葉を発したような、そんな気がした。

 

「おはよう、マリア」

 

その瞬間、光が私を包み、指輪が剣に変わる。

突然のことに落としそうになったが、とっさに手に取れた。

 

よく見てみると剣は白銀の刀身の両手剣で、エヴァのものと似ている。

オーバーライトよりもシンプルだが、同じ剣というのが嬉しい。

 

「お姉様!すごい綺麗だよ!」

「ええ、驚きました。武器と鎧の一体型でしょうか?エクセラ級と見て間違いなさそうですね」

 

よく自分の体を見てみると、胴体や腰回りを銀の軽装鎧が覆っているようだった。

意外と重さは感じず、今まで気が付かなかった。

 

「それに髪に赤い羽根飾りがある!似合ってる!」

 

思わず右手を伸ばすと、ふさふさした感触があった。

リリスさんが手鏡を持ってきてくれたので覗き込むと、確かに赤い髪飾りが乗っていた。

 

「ふむ……見た感じ、これ以上のテスタロッサはなさそうですね。名前はマリア、というのですか?」

「はい、この子が教えてくれました」

「……そうですか。私がテスタロッサを準備出来なかったのは残念ですが、とりあえずは一安心です」

「そうだね、私が用意できなかったのは悔しいけど、良いのが見つかって良かったよ!」

 

ロゼリアさまもエヴァも用意できなかったことを強調している。

けれど2人が時間と労力をかけてくれたのは知っているので、そこには感謝しかない。

 

「本当にありがとう。ロゼリアさまも、エヴァも。いっぱい探してくれて、嬉しかった」

 

その言葉に2人は息を吐く。

あれ?言葉を間違えた?

 

「まあいいでしょう。とりあえず能力を見ましょうか。武器は剣のようですが、魔法も強くなっているかもしれません。エヴァさん、相手を」

「え?私?」

「はい、私では怪我させてしまうかもしれないので」

「……ロゼリア、どんだけ強いの……」

 

最後のエヴァの声が小さくて聞こえなかったが、彼女は私から距離を取る。

そこで彼女は何かを思いついたように、ポンと手を叩いた。

 

「おはよう!オーバーライト!」

 

その言葉でエヴァの右手に剣が現れる。

エヴァは得意げな顔をロゼリアさまに向けた。

どやぁ、という効果音が聞こえそうなくらいだ。ロゼリアさまは無視だが。

 

「じゃあ軽く剣を振るってみるから、受けてみてね」

 

エヴァは少し前に出て、私に向かって剣をゆっくりと振るう。

それに合わせると、金属音が鳴り響いた。

エヴァは注意深くマリアを観察している。

 

「……特に何もないね。剣に魔力は流せる?」

「やってみる!」

 

右手に集中して魔力を流す。火や水では反応がなかったが、光の魔力を流すと刀身が輝き始めた。

といっても、本当にうっすらと光る程度だが。

 

「おぉ!光属性だね。お姉様にぴったり。光属性得意だったもんね!」

「得意って言っても、他のよりマシなだけだけどね」

「まあまあ、それじゃあ今度は攻撃してみて。全力で大丈夫だよ!」

 

エヴァの胸を借りるつもりで剣を振るう。

一応木刀で剣の練習はしたことがある。

とはいえエヴァのように綺麗には振るえない。見よう見まねだ。

エヴァはそれを軽々と受けると、感心したような声を出した。

 

「うん、普通の剣よりも威力というか、切れ味が上がっている気がする。でも、そこまで劇的ではないかな」

「そうですね。まあこれはウリアさんの実力の伸び次第ですね」

 

ロゼリアさまも遠くからじっくりと観察をして、助言をくれる。

まだまだ課題はあるが、それでも強くなっているのは間違いないらしい。

それが嬉しかった。

 

「じゃあ次は魔法を使ってみよう。私に向けて、色々撃ってみて」

「うん」

 

火から順に、空いている左手で基礎中の基礎の魔法を放つ。

火水風地、しかしどの魔法も特にいつもと変わりはなかった。

闇は習得が難しいので、使えない。なので次は本命の光。

 

「いくよ!……わっ!」

 

驚いて声を上げてしまった。

私が使ったのは光の球体を飛ばす魔法。

基本中の基本だが、私が使うとただ周囲を光らせるだけだ。

 

しかし、今回は違った。

いつもは小さな光の玉は2周りほど大きく、ちょっと速めにエヴァに飛んでいく。

エヴァはそれをなんなく防ぐが、「おー」と驚いた声を上げた。

 

「強くなってるね」

「うん、いつもより大きくなっている気がする。それにちょっと速いかも」

「いいねいいね。次行こう」

 

続いて発動した光の剣を生み出す基礎魔法。

それも剣が少し大きくなっていた。

 

そこまで確認して、ロゼリアさまは「ふむ」と呟いた。

 

「光だけですね。魔法は一つに絞って練習した方が一般的には伸びが良いので、問題ありませんね」

「うん、今までは他の属性もやってたけど、これからは光と剣だけで練習しよう。頑張ろう、お姉様!」

「はい!先生!」

 

私のことになるとエヴァとロゼリアさまは急に仲が良くなる。

そのことが嬉しくて、でもなんだかおかしくて、私は笑ってしまった。

 

「ウリアさん、お力になれてよかったです。けれど、無茶はしないでくださいね」

「はい!リリスさん、ありがとうございます!」

 

リリスさんの心配そうな声にも元気に返事をする。

この日、私はついに自分専用のテスタロッサを手に入れたのだ。

 

そしてその日の夕方、もう一つ嬉しいことが起こる。

 

「お久しぶりです、ウリアさん。これからは私、リフィル・フローディアがウリアさん専属の侍女となります。よろしくお願いします。身の回りの世話は任せてくださいね」

 

なんと、懇親パーティで出会ったリフィルさんが満面の笑みで我が家に来てくれたのだ。

けれど、専属侍女とは……いったい?

 



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第13話 アルティメット侍女、リフィルさん

「お久しぶりです、ウリアさん。これからは私、リフィル・フローディアがウリアさん専属の侍女となります。よろしくお願いします。身の回りの世話は任せてくださいね」

 

夕日がリフィルさんの髪を光らせる。

その髪を風になびかせながら、3年前とは少し違う笑顔で彼女は微笑んだ。

突然の来訪に、私もエヴァも驚いている。

 

「せ、専属侍女……ですか?」

「はい。アルトリウス伯爵には事前に話を通してあります。今日からよろしくお願いしますね。お嬢様」

 

お嬢様呼びにちょっとこそばゆくなる。

 

とりあえずリフィルさんを屋敷に招き入れることになった。

彼女には侍女たちの部屋にスペースを用意することになるかと思ったのだが。

 

「あ、私の寝床ですが、お嬢様と同室を希望します」

「え?えっと……」

 

突然の要望に、リリスさんも驚いている。

侍女が同室になるなんて、本来はないことだろう。

けれど、リフィルさんはこれだけは譲れないようだった。

 

「もしも同室が無理ならば、お嬢様の部屋の近くの部屋を貸していただけると幸いです。もし調節が必要ならば時間がかかっても構いません。金銭が必要ならば、私の方で手配します」

「た、確かにウリアさんの部屋はエヴァと一緒なので広いのですが……エヴァ、ウリアさん、それでいいのかしら?」

 

リフィルさんのまっすぐな瞳に、リリスさんはたじたじだ。

困ったように私たちに助けを求めてくる。

しかしエヴァはリフィルさんが来てからというもの、目を見開いていて動きがない。

 

リフィルさんが同室で過ごす。そのことをちょっとだけ考えてみた。

今までエヴァと2人きりの部屋に、リフィルさんが加わる。

きっとにぎやかになるだろう。楽しいはずだ。

 

「私は大丈夫です!」

 

ちょっと食い気味に返すと、リリスさんは苦笑いをした。

 

「そ、そうですか……それじゃあ部屋にベッドを入れさせますね」

「簡易的なもので構いません」

 

リフィルさんはそう告げると侍女の部屋に入ってしまった。

しばらくすると彼女はメイド服に着替えた状態で出てくる。

部屋の中からは、他のメイドさんたちの興味深げな視線が多かった。

 

「それではよろしくお願いします。お嬢様、エヴァさま、リリスさま」

 

そういってリフィルさんは完璧なおじぎをしてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。私たちは自室に集まっていた。

夕食の時はお父さまがリフィルさんを紹介したが、お父さまも少し困っているようだった。

本当にいいんですか?と何度も聞いていたくらいだ。

 

リフィルさんは部屋に新しく入れた椅子に姿勢正しく座り、息を吐く。

私とエヴァを見て、ゆっくりと語り始めた。

 

「まずは詳細な自己紹介を。お二人ともお久しぶりです。3年ぶりですね。大きく成長して、嬉しく思います。私はリフィル・フローディア。エルフの国のユグドラシル出身の軍人で、今は理由があってウリアさん……お嬢様の専属侍女となります」

 

パーティ会場に居たのでなんとなく予感はしていたが、リフィルさんは軍人さんだったようだ。

 

「まずお嬢様にお伝えしないといけないことは、以前お話しした任務は無事に完遂できました」

「そうですか……よかった……」

 

リフィルさんの言葉に胸をなでおろす。

あのパーティで感じていたリフィルさんの影は、今ではすっかり抜け落ちていたからだ。

むしろ自信に満ち溢れているようにも見える。

 

「実は私にはユグドラシルに友人らしい人が居なくてですね。家族仲も良くないので、どうせならこれも何かの縁かと思い、お嬢様の侍女になることを決めました」

「え?家族や婚約者に認められるために頑張ってたんじゃ――」

「それはもう昔の話です。今は目が覚めました。ユグドラシルには未練はありません」

 

はっきりとそう言い切るリフィルさん。

話を聞いた感じだと、ろくな両親や婚約者ではないと思っていたので、良かったのではないだろうか。

だが、それ以外にも聞いておかないといけないことがある。

 

「で、でもいいんですか?軍人だったんじゃ……お金とかもあると思いますし」

 

軍人から侍女って、そんな転職あるのだろうか?

それともミストフィアでは普通だったり?

 

「貯金ならあるので大丈夫です。それに伯爵家の給金って意外と良いんですよ」

 

そう言ってリフィルさんは微笑む。

その間、エヴァは何も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から述べてしまうと、リフィルさんはすごい人だった。

侍女としての作法は完璧。私の着付けやお世話など、完璧にしてくれる。

不思議に思い、聞いてみたところ。

 

「まあ、家では妹の奴隷のような扱いでしたから。お嬢様の侍女はそれに比べれば1億倍幸せですが」

 

という闇の深い返答が返ってきたので、それ以上もう聞くのはやめた。

リフィルにとってこの伯爵家が良い場所になっているなら、それでいい。

 

身の回りの世話だけでなく、掃除洗濯料理裁縫、おおよそ考えつくものはすべて完ぺきだった。

そんなリフィルさんがメイドさんたちの間でも人気になるのはあっという間だった。

 

そもそもこの国では珍しいエルフ特有の美貌に、優しい性格だ。

人気になる理由はそろっている。

そしてリフィルさんの凄いところはそれだけではない。

 

「お嬢様、光の魔法は気持ちに直結します。幸せな光景を思い浮かべて使うのがコツです。例えばエヴァさまとの夕食などですね」

「エヴァさま、まだまだ剣筋が安定していません。それでは学園はともかく、卒業後にやっていけません」

「ロゼリア皇女殿下、確かに殿下は優れた適性をお持ちです。しかし適性任せの戦闘は必ず頭打ちになります。さらにその先を見据えるのも必要です」

 

そう、リフィルさん、びっくりするほど強いのである。

あのロゼリアさまにさえ勝ってしまうリフィルさんは、私たちの中で教官の地位を確立していた。

 

教え方もうまく、将来をみすえた話や、エヴァやロゼリアさまからは聞くことができない話を聞かせてくれる。

とくに軍でのお話は知らないことが多く、とても参考になった。

 

「皆様、本当に才能のかたまりですね。とくにロゼリアさまは学園を卒業するころには私に追る勢いです」

 

装飾のついたレイピアを下ろしながら、リフィルさんはそう呟く。

リフィルさん専用のテスタロッサで、名前は『ストリーム』というらしい。

私たちのテスタロッサよりも一つ上のカタストロフ級らしい。

 

リフィルさんの凄いところはとどまらない。

 

「そうです、お嬢様。テスタロッサにはそれぞれ等級というのがあります。とくにエクセラ級以上のものは専用装備となり、同時に国への届出が必要となります」

 

なんとリフィルさんは知識もすごい。

どこから持ってきたのか、フレームの眼鏡をくいくい動かしながら、分かりやすく説明をしてくれる。

 

それにしてもこのエルフさん、ノリノリである。

けれどそんなリフィルさんの一番良いところは、優しいところだ。

 

「今日は寒いですから、3人で一緒に寝ましょう」

「いや、なんで」

「いいじゃないですか」

 

リフィルさんはそう言ってエヴァを巻き込み、ベッドへと入る。

私がエヴァを抱きしめ、私たちを包むようにリフィルさんが優しく抱きしめる。

2人の体温が温かくて心地よくて、私はすぐに眠くなってしまった。

 

ちょっと不満げだったエヴァも、寝るときには満足そうな顔で眠りに落ちていた。

 



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第14話 魔王リフィル・フローディア【エヴァSide】

『お久しぶりです、ウリアさん。これからは私、リフィル・フローディアがウリアさん専属の侍女となります。よろしくお願いします。身の回りの世話は任せてくださいね』

 

お姉様が寝静まったのを確認し、私はベッドに横になって考える。

 

意味が分からない。

なぜ【傾国】が生きている?なぜ【傾国】がアルトリウス家に来る?

その全てが私の知っている原作とかけ離れすぎていて、混乱した。

 

まず真っ先に思い至ったのは、リフィルが転生者ではないか?ということである。

とはいえ自分に置き換えて考えてみる。

もしも自分がリフィルならば、彼との戦いで生き残れるか?

 

転生してからどれだけの時間があるか不明だが、おおよそ不可能だと思える。

そのくらい彼は強い。

ゲームを周回し続けてようやく勝ち目が見えるような化け物だ。

 

そんなことを考えている間に、リフィルはお母さまと話し合って、どんどん伯爵家での待遇を決めてしまった。

彼女がここに来た理由がお姉様であることも、転生者なのでは?という疑問を強める。

 

3人で集まったときにも、リフィルはなぜここに来たのかを話してくれた。

任務を完遂したこと。家族仲が良くないこと。それゆえにここに侍女として働きに来たこと。

なにもかもがめちゃくちゃだ。お姉様は信じているけれど、私は説明が足りないと感じる。

 

なにをどうすればこうなるのか、リフィルに直接聞かなくてはならない。

 

私とお姉様の部屋の扉がゆっくりと開き、リフィルが入ってくる。

 

「ちょっと、話したいことがあるんだけど」

「はい、構いませんよ」

 

お姉様を起こさないように小声で会話し、私とリフィルは部屋を静かに後にする。

2人して別室に移動し、ベランダに出る。

私は気になったことを真っ先に聞いた。

 

「お姉様は納得しているけど、私は納得していない。どうしてリフィルはアルトリウス家に来たの?任務っていうのが関係しているんじゃない?」

「……エヴァさまは時々11歳とは思えないほど鋭いですね。分かりました。話しましょう」

 

リフィルは目を閉じ、ゆっくりと語りだした。

 

「私が完遂した任務は、魔王【天】の討伐です。魔王を、知っていますか?」

 

知っている。

リフィルは仕組まれたその任務に参加し、自分以外の兵士を殺され、彼女は命からがら逃げかえってくるのだから。

 

「うん、本で読んだことあるよ。……倒したの?魔王を?」

「いえ、倒していません。しかし、認められました」

 

魔王【天】ヒビキ。

数ある魔王の中でも戦闘力は突出している。

そんな彼を一言で表すなら、最強の侍である。

 

彼は刀一本で全てを変える。

魔法も、人も、国家も、世界でさえ彼を止めることはできない。

彼の刀術は、この世界の水準とは全く別の次元にある。

 

そんな彼は原作でも人気が高い。その理由は性格にある。

ヒビキは寡黙で、そして実力のあるものを潰そうとしない。

成長してさらなる強者となり、いつか自分の前に現れることを、彼は切望している。

 

そんな彼が作中で実力を認めた人物はただ2人だけ。

その一人が、お姉様こと、ウリア・アルトリウスである。

 

「認められるほど、リフィルは強いの?」

「いえ、私の実力では【天】に傷一つ付けられることなく死んでいたでしょう」

 

ここまでは、原作と同じ。なら、違いは?

 

「けれど死を意識したときに、私が思い浮かべたのは家族でもなく、婚約者でもなく、あの日パーティで出会ったお嬢様でした。これまでの人生で、初めてだったのです。ただ私のことを案じてくれた、居なくなってほしくないと言ってくれたのは。そんなお嬢様を思い浮かべると、奇跡が起こりました。私のテスタロッサが、覚醒したのです」

「…………」

 

私は頭を押さえたい気分だった。

良かれと思って、お姉様を懇親パーティに誘った。

その結果、まさかこんなことになるなんて。

 

リフィル・フローディアが使うテスタロッサは進化する。

最初はエクセラ級のテスタロッサ「ブリーズ」だった。

それが魔王になったときに、怒りでカタストロフ級の「ストリーム」にまで進化する。

 

しかし、これは。

 

「さらに、私のテスタロッサに不思議な力が宿りました。その力で、私は【天】と長時間戦い続けられました。そしてその力の発動中、私の右手はずっとあの時の……お嬢様に包まれた手の感触なのです」

「……お姉様の、隠された力」

 

そう、原作でその力によってウリアは目をつけられることになる。

だがそれはもっと先の話だ。学園卒業後の戦争での話だ。

 

「私は軍の兵士を一人も失うことなく、ユグドラシルに戻りました。兵士たちの言葉で、私は一躍国内で英雄のような立場になりました。けれど、あの力はお嬢様のものです。【天】もいつかそれに気づくでしょう。私はジルヴァ長老に相談し、エディンバラ皇国と秘密裏に交渉して、お嬢様の侍女になることにしたのです」

「……お姉様のその力を知っているのは、ユグドラシルのジルヴァ長老だけなの?」

「はい、エディンバラと交渉の際には出していません。部隊の皆は、私が実力で【天】とやりあえたと思っています」

 

詳しく話を聞いてみると、リフィルはジルヴァ長老から特殊な任務を受けたという名目でエディンバラに来ているようだ。

ユグドラシルの軍内部ではリフィルがどこの国に居るのかすら知られていないという。

とりあえずお姉様の力が知れ渡ってはいないようで良かった。

 

「じゃあリフィルはお姉様を守るためにここに来たんだね」

「はい。その通りです」

「……お姉様には、聞かせられないね」

「そうですね。絶対に知られないようにしてください」

 

ヒビキは殺人鬼ではない。彼には彼なりの思想がある。

だから、リフィルをすぐに殺しに来ることはない。

また、お姉様の力が原作通りなら、リフィルからお姉様にはたどり着けないはずだ。

 

もはや原作とはかなり違う流れになってしまったが、リフィルが生きていて、味方なのはかなり大きい。

今すぐヒビキと戦うような事態になるなら話は別だが、とりあえずは良い方向に進んでいる。

 

「分かった。ありがとう。この話、ロゼリア皇女にもしていい?」

「ロゼリア皇女殿下ですか?」

「うん。私たち、ロゼリア皇女と友達なんだ」

「……なるほど。皇女さまならば構いません。ただし、必要以上に多くの人には知られないようにしてください」

「大丈夫。ちゃんとわかってるよ」

 

リフィルはその言葉を聞くと頭を下げてベランダを後にした。

 

視線を王城の方に向けて、ロゼリアの部屋を見る。

遠くにある部屋は、肉眼では米粒ほどにしか見えない。

 

「おはよう、オーバーライト」

 

お姉様と同じ言葉を呟き、オーバーライトを右手に出現させる。

固有能力を発動し、ロゼリアの部屋のベランダまで一気に「跳んだ」

誰かに見られていたら大問題だが、この瞬間移動は目にもとまらぬ速さ。

 

窓ガラスを数回叩くと、薄い明りがついた。

しばらくすると、ケープを肩にかけた寝間着姿のロゼリアが現れた。

いつ見ても美人で、正直ちょっとうらやましい。

 

「どうかしましたか?こんな夜更けに」

「アルトリウス家にリフィル・フローディアさんがお姉様の侍女として来たよ」

 

2人きりの時は、私はロゼリアに敬語は使わない。

リフィルの登場に目を見開くと思ったのだが、彼女は眠そうな目をこするだけだ。

 

「はい、聞いていますよ。他国の軍人を専用侍女にするなんて、アルトリウス家はすごいですね」

 

ジトっとした目でロゼリアは私を見返した。

 

もしかして、私が手を回したと思っている?

そう思い、私は首を横に振る。

 

「今から話すことはこの国では私とリフィルさんしか知らない。リフィルさんは任務で魔王【天】に実力を認められた。お姉様の知らない力のおかげらしい。だからリフィルさんは、お姉様を守るために、お姉様の専属侍女になったみたい」

「……はい?」

 

普段のロゼリアとは思えない声に、少し笑いそうになった。

 

顎に手を当てて何かを考えていたロゼリアは、やがて合点がいったように「あぁ」と呟いた。

そして私を強く睨みつける。

 

「……8歳のときの懇親パーティですね」

「……すみませんでした」

 

ロゼリアの言いたいことが分かり、反射的に謝罪する。

家族での旅行のときにも痛感したが、この世界、思った以上にコロコロ流れが変わる。

こういった転生作品では原作の流れは絶対、というものもあるのだが、ミストフィアは違うようだ。

 

私がお姉様を懇親パーティに連れて行っただけで、リフィルは生き残り、魔王にならなかった。

私が旅行の行き先を決めただけで、お姉様とお母様の関係は良くなった。

あの旅行から、私は原作の流れを極力壊さないように言動を考えるようになった。

 

今は良い流れが来ている。しかし、いつ悪化するかが分からないからだ。

 

「ずいぶんと、ウリアさんに都合が良いように進みますね」

「……?私たちが介入しているんだから、そりゃあそうでしょ」

「……リフィルが……っ!……いえ、なんでもありません」

 

やがて押し黙ったロゼリアは息を吐き、深く考え込む。

おそらくリフィルやヒビキのことを考えているのだろう。

 

それに先ほどの反応、ロゼリアもリフィルが転生者なのではないかと疑っているみたいだ。

私から見てもその可能性は高いけれど、今は様子見と考えている。

 

「軍人であるリフィルさんがウリアさんの侍女になるのは良いことです。私たちでは教えられないことを、彼女ならば教えられるでしょう。お話はそれだけですか?」

「うん、もしまたお姉様に聞かせられないような話があれば、夜に」

「はい。……エヴァ、あなたは……いえ、なんでもありません」

「?」

 

最後のロゼリアの言葉が気になったものの、話すつもりはなさそうだった。

私は仕方なく踵を返し、アルトリウス伯爵家へと跳んだ。

そんな私の背中を、ロゼリアが微妙な表情で見ていたのには、気づかなかった。

 



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第15話 テスタロッサ調整技師、ミストさん

「やあああああ!」

「いい感じだよ!お姉様!」

 

リフィルさんが専属侍女になってからしばらく経って、私は12歳になっていた。

身長も伸びてきて、ちょっとだけ大人になれた気がする。

まあ、精神はもう大人なんだけど。

 

リフィルさんも加わり、訓練はさらに濃いものとなった。

私も本当に少しずつだけれど成長している。

 

テスタロッサ『マリア』の力もあって、魔法も剣も、マシになった。

とはいえ、同年代の人たちにはまだ追いつかない。

 

「ふむ。いい感じですね。お嬢様も順調に実力を伸ばしています」

 

リフィルさんからもそう言われ、やる気が満ちてくる。

 

「エヴァ、もう一回お願い!」

「うん!」

「ダメですよ。休憩の時間です。エヴァさんもOKを出さない」

「「えー?」」

「2人揃ってそんな不満そうな顔してもダメです!」

 

ロゼリアさまに止められ、エヴァと揃って2人不満げな顔を出すものの、怒られてしまった。

手でバツ印を作ったロゼリアさまは、断固拒否という雰囲気を出している。

私たちのそんな様子に、リフィルさんも、リリスさんも微笑んでいる。

 

ふと、何かを思いついたようにリリスさんは「あ」と声をあげ、私たちに近づいてくる。

 

「エヴァ、ウリアさん、近いうちにテスタロッサ技師の方がキルシュからいらっしゃるそうです。お二人と同じ年齢らしいですよ。仲良くできると良いですね」

 

キルシュというのはエディンバラ皇国の北にある、海が豊かな国。

テスタロッサの技術が発達していて、調整をする技師を多く抱えている国だ。

さらに観光にも力を入れていて、リゾート地も多いらしい。

 

テスタロッサは精密な機械のようなもので、使っていると消耗していく。

それを調整するのが技師の役目らしい。貴族は専任の技師と契約をするのが普通だそうだ。

このアルトリウス伯爵家でもお父さまやリリスさんはキルシュの技師さんと契約を結んでいるとか。

 

「……まってお母さま。私たちと同じ年?アルトリウス家の技師じゃないの?」

 

その部分は私も気になった。アルトリウス家の技師さんは気前の良いおじさんだったはずだ。

一年に一度くらいしか来訪しないが、普段見ない人が居るな、と思ったのでよく覚えている。

 

「キルシュ国は若い技師向けに奉公人制度があるんですよ。奉公人と言っても留学のようなもので、貴族の家に寝泊まりして、高位技師資格をお持ちの師匠の方と一緒に特定の方のテスタロッサを見るんです。私も若い頃は技師のお兄さんとお友達になりました」

 

なるほど、前世で言うところの、ホームステイのようなものかと納得する。

元々男爵家出身のリリスさまも、奉公人制度の経験があるようだ。

 

「なら、あの技師のおじさんも一緒に来るんですか?」

 

あのおじさんは気前が良くて好きだった。

同じ年くらいの娘さんがいるらしく、可愛がってくれた。

 

「いえ、それがですね、なんと今回の奉公人の方は高位技師の資格を持っているんです。だからアスタンさんは来ないようです」

「え?私たちと同じ年ですよね?」

「そうなんですよ!なんでもキルシュ国でも歴代最年少で難関の高位資格に合格した天才児らしいです!奉公先は奉公人が決められるのですが、まさか我がアルトリウス家を選んでくれるなんて、きっとエヴァやウリアさんが頑張っているからですね」

「す、すごい人なんですね……」

 

前世でも同じ年でスポーツ選手としてや俳優として活躍している人はいた。

まるで雲の上の人という感じだが、この世界でもそんな人に出会えるなんて。

まあ、よくよく考えるとロゼリアさまとかリフィルさんとか、雲の上の人なのだけれど。

 

2人を見ると、リフィルさんは不思議そうに首を傾げた。

一方でロゼリアさまはなにか考え込んでいる。少し苦笑いをしているようにも見えた。

 

「……お母さま……その……奉公人の人の名前って……分かる?」

 

エヴァが途切れ途切れで質問をする。

 

「ええ、ミスト・テスタメントという名前らしいですよ。よかったですね、また女の子の友達が増えますよ」

 

ミスト・テスタメント。どこか聞き覚えがある名前だ。

エヴァを勘違いしたゲームにそんな人が出てた気がする。

ただミストだったか覚えていないし、テスタメントとかではなかった気がする。

 

そのゲームにはロゼリアさまっぽい人も出てくるけれど、名前はローズだったはずだし、もっと高飛車で偉そうな感じだった。

こっちのロゼリアさまも他の人にはローズって呼ばれているけれど、とても穏やかで敬語口調が基本だ。

 

似ているゲームってあるんだなぁ、なんてことを思ってしまう。

漫画やゲームなんて星の数ほどあるので、それはそうか、とも思うけれど。

 

それにしても、同じ年齢の女の子なのは楽しみだ。

私の適性がないことを気にしない子だとすごく嬉しいのだけど。

できればテスタロッサのお話なんかも聞けたらいいなと思う。

 

「…………」

「…………」

 

技師奉公人のミストさんを楽しみにしていた私は、エヴァとロゼリアさまの悩んでいる様子に気が付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、ミスト・テスタメントです。体は小さいですが、テスタロッサ調整に関しては誰にも負けません。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。伯爵夫人のリリス・アルトリウスです。こちらがエヴァ・アルトリウスです。姉のウリアはそろそろ来るはずです」

 

その数日後、私は扉の前で待機していた。

エヴァ曰く、最初はリリスさんとエヴァで対処するから、自己紹介が終わってしばらくしたらリフィルさんと一緒に入ってきてほしいとのことだった。

 

なぜかリフィルさんと一緒に、を強調されたが、特に断る理由もないので了承した。

別にいっしょに挨拶すればいいと思うんだけど。

 

「ですが本当に我が家で良かったのですか?ミストさんならば公爵家だって、皇家だって選べたはずですが……」

「いえ、自分は同じくらいの年齢の同性の方がいた方が良かったので」

 

話を扉越しに聞いていると、ミストさんは礼儀正しい人みたいだった。

それに家を選んだのも私たちが居たかららしい。これはひょっとしたら仲良くなれるかもしれない。

 

そろそろかなと思い、私はリフィルさんを見る。

彼女は頷いて、扉を開けてくれた。ゆっくりと部屋の中に入ると、エヴァとリリスさん、そして見知らぬ少女が座っていた。

 

「紹介しますね。エヴァの姉でウリア・アルトリウスです」

「初めましてミストさん。ウリア・アルトリウスです」

「……は、初めまして……」

 

天才児だと聞いていたのでロゼリアさまのような凛とした美人をイメージしていたが、ミストさんはどちらかというと可愛い系だった。

栗色のふわふわした髪型に、黄色い瞳がまんまるに見開いている。

どちらかというとおっとりとした、そんな印象だった。

 

その宝石のような瞳が私の後ろをチラチラと捉えている。

後ろにリフィルが立っているのを思い出し、私は彼女を紹介した。

 

「後ろに立っているのは侍女のリフィルです」

「お嬢さまの専属侍女のリフィル・フローディアです。よろしくお願いします」

「……ご丁寧に……どうも」

 

動きが止まっているミストさんを不思議に思っているとコンコンとノックの音が響いた。

メイドの一人が扉を開き、ロゼリアさまが中に入ってくる。

 

「あら、丁度良いタイミングでしたね。初めまして。私はロゼリア・フォン・エディンバラ、この国の皇女です。ウリアさん、エヴァさんとはお友達なんですよ。私とも仲良くしていただけると嬉しいです」

 

この家では普通になりつつあるロゼリアさまの突然の来訪。

しかしミストさんからすると急に皇女が現れるのはびっくりするだろう。

見てみると、ミストさんは目を見開いて言葉も出ないみたいだった。

 

そんな様子がちょっとおかしくて、ミストさんと友達になれるかもしれないと思ってしまった。

 



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第16話 この世界が地獄だと、私は知っている【ミストSide】

幼いころからモノを作るのが好きだった。

それは大人になっても変わらず、僕はプログラマーの道を選んだ。

どうやら才能もあったようで、ハンドルネームもネット界隈では有名になった。

 

仕事のない日もシステムを作ったり、ゲームを改造したりして遊んでいた。

はまったゲームに関しては攻略サイトも更新していたくらいだ。

 

アニメも好きで、転生という設定に関しても見慣れていた。

だから自分が転生したときも、驚きはしたけれど今までにない世界への期待が勝った。

 

この世界がクソゲー鬱ゲーと名高いEverlasting、通称エヴァラスの世界で、しかも自分がもっとも不遇なライバルキャラ、ミスト・ライヘンリッツでなければの話だが。

 

『ハインズさまから離れてください……目障りです』

 

どこかおっとりとした見た目からは想定もつかない毒舌でプレイヤーの度肝を抜いたミスト。

けれどその見せ場は学園編までで、卒業後はとても悲惨な目にあう。

洗脳魔法で自分の意思を、体を好きに操られ、無理やり主人公たちと敵対させられ、そして絶命するのだ。

 

それも、どのルートでもミストは死亡する。

他のライバルキャラも皆どのルートでも死亡する。

 

しかしミストのように意思を奪われ、体を限界まで酷使され、死ぬようなキャラはいない。

そのことを再確認し、僕は0歳の時点で絶望したのだ。

 

しかし、落ち着いて考えてみるとこの絶望しかないミストの生き様を、変えられるのではないかと思いついた。

洗脳魔法で操られて死ぬなら、それをなんとかすればいいのだ。

 

とはいえキルシュ国に生まれた段階ですでに魔法にかかっている可能性は高い。

ならば、それを解除するしかない。原作でその魔法が解除できたのはたったの2通り。

 

強い闇魔法と、主人公ウリア・アルトリウスの持つ力だ。

ミストは特別な力を何も持たないために、情けない話だが他人の力を借りるしかない。

とくにゲームそのものを考えても主人公の近くに居ることは大きなアドバンテージだろう。

 

とはいえウリアとミストではそもそも所属している国から違う。

また謎のルールにより、前世の知識をどんな手段でも伝えることはできないみたいだった。

 

そのため、原作で出会っていない主人公の話を両親にする事すらできない。

エディンバラの学園に入学するまで手詰まりになった僕は、ひとまず技術を伸ばすことにした。

 

『攻略対象と主席を争うライバルキャラ』

 

そのキャッチコピーが表すように、ミストは技術の適性がとても高い。

技術はテスタロッサを調整する技術的能力を指す。

ゲームではその才能を買われて、エディンバラのローズ皇女にスカウトされていた。

 

ローズ皇女もライバルキャラで、主人公を嫌っている。

生き残るために、近づくべきではない。

 

できればウリア本人にスカウトされたいものの、原作におけるウリアはアルトリウス伯爵家で立場がないようなものなので、こちらも厳しい。

 

やはり、学園で友好を深めるしかないかと思った。

ゲームではウリアに技師はついていなかった

 

なので、専属技師として接触すれば断られる可能性はないだろう。

僕が生き残るためにも、主人公に貢献するためにも、技術を伸ばすのが今は得策だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思い、テスタロッサの勉強を始めた。

勉強を進めるうちに、前世でのプログラミングと似たところが多いと分かった。

完全に同じではないが、プログラミングを知っているのと知らないのとでは、理解に大きな差が出るだろう。

 

結果として僕は次々と知識を吸収し、キルシュの貴族界隈でもちょっと有名になった。

両親は努力する僕を心配しつつも、あり余るほどの愛情を注いでくれた。

僕はそれに甘えるように、専用のテスタロッサもねだった。

 

10歳でテスタロッサガチャに成功し、11歳で歴代最年少で高位技師の資格を取得した。

この時には僕はキルシュ国内で有名人になっていた。

 

天才児、なんて呼ばれるようになったのもこの時からだ。

実際には人生2周目なので、天才でも何でもないのだが。

 

名を、ミスト・テスタメントと名乗るようになった。

テスタメントは技術者としての名前だ。

 

ライヘンリッツ家は貴族なので、そちらで評価されてしまうことが多々あった。

それを不快に思って、両親に断って技師名を付けた。

 

そんな僕に転機が訪れたのは12歳の時だった。

 

「ミスト。技師奉公人制度だが、使わないのかね?お前ならば各国の王族でさえ選ぶことができるだろう」

「なんたって、キルシュ国歴代最年少ですからね。それに、他国とのコネクションは将来の仕事を考えると必要ですよ」

 

両親の言葉に僕は何のことか分らず、色々と聞いてみた。

ゲームにはなかったが、キルシュ国には技師奉公人制度というものがあり、若い技師が他国の貴族のところに、ホームステイのようなことができるらしい。

 

そのことを聞いて、僕はすぐにアルトリウス家を選択した。

これは願ってもない好機だ。キルシュ国から出ることができるだけでなく、ウリアと接点がもてる。

 

アルトリウス家からは、是非にという返答が返ってきた。

おそらくエヴァ・アルトリウスのテスタロッサで決めたと思われたのだろう。

確かにエヴァの持つテスタロッサはエクセラ級だが、エヴァはライバルキャラだ。

 

今も家でウリアをいじめているに違いない。

そんなウリアの助けとなり、彼女と友好を深める。

さすがにアルトリウス家も実績を出している僕の言葉を無視はできないだろう。

 

今後の計画に問題がないことを確かめ、僕はアルトリウス家へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「初めまして、ミスト・テスタメントです。体は小さいですが、テスタロッサ調整に関しては誰にも負けません。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします。伯爵夫人のリリス・アルトリウスです。こちらがエヴァ・アルトリウスです。姉のウリアはそろそろ来るはずです」

 

数日後、僕はアルトリウス家の一室で2人と向き合っていた。

一人はアルトリウス伯爵夫人のリリス・アルトリウス。原作ではウリアに対して無視をしたり、料理や衣服を与えないクズだ。

 

もう一人はライバルキャラのエヴァ・アルトリウス。

姉であるウリアの全てを奪い、彼女に使用人以下の扱いを強制し、魔法の標的にするような人格破綻者だ。

 

2人は貴族らしくドレスに身を包み、優雅に微笑んでいる。

この場にはウリアはいない。その差別に、怒りがこみあげてくる。

 

しばらく話したくもない相手と他愛ない会話をしていると、扉が開いた。

入ってきた人物に、僕は言葉を失った。

 

そこには、綺麗なドレスに身を包んだ主人公、ウリアの姿があった。

血色も良く、健康そうに見える。身長も年相応だ。

 

「紹介しますね。エヴァの姉でウリア・アルトリウスです」

「初めましてミストさん。ウリア・アルトリウスです」

「え……ええ、初めまして……」

 

ふと、僕とウリアの間に居るエヴァが笑った気がした。

慌てて視線を向けると、しかし彼女は無表情に戻っていた。

 

視線をウリアに戻す。その後ろに、どこか見覚えのある女性が目に入った。

間違いない、あれは。

 

「後ろに立っているのは侍女のリフィルです」

「お嬢さまの専属侍女のリフィル・フローディアです。よろしくお願いします」

「……ご丁寧に……どうも」

 

僕が凝視していることに気付いたのか、ウリアが紹介してくれた。

それに応じて後ろの侍女も頭を下げる。

間違いない。リフィル・フローディア。魔王【傾国】だ。なぜこんなところに?

 

原作では絶対にありえない光景に、僕はただ空返事をする事しかできない。

ウリアが健康で。侍女が魔王で。一体何がどうなっている?

 

頭がパンクしそうになった時に、扉が開かれた。

そちらに目を向けると、またしても見覚えのある女性が部屋に入ってきていた。

 

輝く銀髪に、この世の物とは思えない美貌の持ち主。

僕がウリアやエヴァと同じようによく知っている、冷酷な皇女。

ライバルキャラ筆頭の最強キャラの一人。

 

「あら、丁度良いタイミングでしたね。初めまして。私はロゼリア・フォン・エディンバラ、この国の皇女です。ウリアさん、エヴァさんとはお友達なんですよ。私とも仲良くしていただけると嬉しいです」

 

誰だ……これ……。

原作での冷酷無慈悲な皇女とはまるで違う穏やかな表情と仕草。

 

それらが、僕の知っているローズではないことをつきつけてくる。

僕は……エヴァラスの世界に転生したのではないのか?

 

そう思ったときに、少しだがローズの口角が上がっているのに気付いた。

とっさにエヴァを見る。彼女もまた、笑いをこらえるような顔をしていた。

 

(嘘!?エヴァもローズも、僕と同じ転生者!?)

 

この世界での自分以外の転生者に、ようやく僕は思い至った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、しばらくアルトリウス家で過ごしてみて、分かったことがいくつかある。

まず、エヴァとローズ、いやロゼリアは転生者確定であること。

 

そしてリフィルに関してはかなり怪しい線だと考えた。

一方でウリアが転生者である可能性は低い。

 

また、それ以外の者達、リリス伯爵夫人やアルトリウス伯爵も転生者ではないように思えた。

エヴァとロゼリアがこの流れを作り出したのだろう。

彼女達2人とも、僕と同じようにエヴァラスを何周もプレイしているはずだ。

 

けれど、熱心なプレイヤーであるという印象が強い。

少なくとも僕みたいに攻略サイトを編集したり、特殊Modを自作するような技術屋ではなさそうだ。

とくにエヴァに関しては知識に少し偏りがあるように思える。

 

どちらにせよ、この2人が味方なのはかなり心強い。

とくにエヴァが転生者であるおかげで、ウリアが準備舎から学園に通える可能性が高い。

 

前世の知識に関して意思疎通ができないのがもどかしい点だが、あの【傾国】を死なせることなく、味方に引き入れているのは素直にすごいと感じた。

これは僕も負けていられないな。そう気合を入れ直す、よい機会になった。

 



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第17話 エディンバラ学園準備舎

ミストがアルトリウス家に奉公人として来てからしばらく経った。

テスタロッサ技師であるミストとは話が合い、ミスト、ウリアと呼び合うくらいの仲になった。

 

私の適性の低さが不安だったが、話を聞いてみるとミストも技術以外の適性はさっぱりらしい。

それゆえに、私の適性に対してもとくに思うところはないとか。

 

どちらかというとミストは別のことに興味深々みたいだった。

 

「ミストー。いるー?」

「んー?」

 

エヴァのあとにアルトリウス家に作られたミストの部屋に入る。

ミストはベッドに座り、ぼーっとしていた。宝石のような黄色い瞳は、どこか眠そうにも見える。

 

「お姉様のマリアが少し強くなったみたいなの。見てほしくて」

「なんだって!?そこに座って!」

 

ミストは急に立ち上がり、テーブルを指さした。

眠そうだった瞳は見開かれ、顔も凛としている。

テスタロッサの話となるといつもこうで、今ではもう慣れてしまった。

 

私とエヴァは椅子に座り、私はマリアを指から外して差し出す。

ミストは手袋をはめて、小さなクッション台の上にそれを置いて注意深く観察している。

技師さんは専用の道具を使うらしく、それを熱心に弄ったり、マリアを見ている。

 

「いやぁ、僕が今まで見てきた中でも本当にマリアはすごいよ!何度見ても普通のテスタロッサとは違う!間違いなく特別なものだね!中身が普通のとは全然違うよ!」

 

早口で話すミストに苦笑いする。

親しくなってみて分かったのだが、ミストはその見た目に似合わぬ僕っ娘キャラだった。

ただし、テスタロッサを弄る時限定だが。

 

普段の彼女は無口で、静かなタイプだ。

好きなものだと一気に熱くなる、そういう天才タイプなのだろう。

 

けれどテスタロッサを弄っているときのミストも私は好きだった。

目が輝いていて、綺麗だと思えた。

 

「にしても、エヴァ君のテスタロッサは面白みがないねぇ。こうウリア君のマリアみたいに特別だったり、リフィルさんのストリームみたいにカタストロフ級にならないかな?」

「なるわけないでしょ!」

「だよねぇ。君のもロゼリア君のもエクセラとしてはトップクラスなんだけど、僕が見たいのは異常なテスタロッサなんだよ」

「あんた絶対おかしいわよ……」

 

そしてテスタロッサを語るときのミストは恐れ知らずだ。

皇女さまのことを君付けで呼ぶなんて、とてもじゃないけれどできない。

ロゼリアさまは笑って許していたけれど。

 

ミストは特殊なテスタロッサに目がないらしい。

私のマリアや、リフィルさんのストリームは毎日見ていても飽きないとか。

 

「いやー、オーバーライトもすごいテスタロッサだとは思うんだけどねぇ。でもオーバーライトは3日連続で見るとさすがに飽きる。でもマリアはずっと見てても飽きないんだ。こればっかりはしょうがないね」

「あんたにオーバーライトみせるの辞めてやろうかしら」

「待ちたまえよエヴァ君!今の僕以上にテスタロッサが調節できる人がいるかい!?居ないよね!?」

「……悔しいことにね」

 

ミストは時折エヴァやロゼリアさまをからかう。

私やリフィルさんにはしないけれど、逆にそれが羨ましく感じた。

 

「そういえば、来年にはもうエディンバラ学園の準備舎に行くんだね」

 

エヴァの言葉を聞きながら、私はマリアを手に取って指にはめる。

ミストは装置を片付けて、席に戻ってきた。

輝いていた瞳は、急に光を失って、表情もぼーっとした感じになっている。

 

「だね」

「準備舎かぁ、上手くやっていけるかな……」

 

私は準備舎について不安に感じていた。

エディンバラ学園は15歳から入学する3年間の学校だ。

しかし1年間だけ、事前に入学することができる。それが準備舎と呼ばれる場所だ。

 

エディンバラ学園と名付けられているが、校舎の場所は違う。

この準備舎は14歳から入学できる。

 

しかし費用はかなり高めに設定されていて、貴族達しか入学できない。

エディンバラ学園は学費が安く、平民でも入れるので、そこは大きな違いである。

 

8歳のときの懇親パーティのように、貴族たちの交流がメインの場となっている。

しかし懇親パーティとの大きな違いとして、準備舎は世界各地から貴族が入学する。

 

エディンバラ学園がそもそも世界各地から生徒を募っているので、準備舎も世界中から人が集まる。

集まるのはエディンバラ皇国、ネクステス連合王国、キルシュ国、ユグドラシル国、アズマの5つらしい。

 

ネクステス連合王国は複数の獣人の一族が集まってできた大きな国家。

キルシュ国はミストの母国で、テスタロッサの技師を多く抱えている観光が有名な国。

 

ユグドラシル国はリフィルさんの母国でエルフの国。

アズマは前世の日本のような、刀が普及している和風の国みたい。

アズマは貴族制度がなく、さらに広い海を隔てているから、準備舎に来る人は珍しいとか。

 

他国の人が参加するけれど、8歳のときの懇親パーティの延長ともいえる。

私はあの時よりも強くなったし、今ではエヴァだけじゃなく、ロゼリアさまやミスト、リフィルさんといった心強い友達もいる。

 

ちなみにミストはエディンバラの奉公人枠として参加し、学園入学後はキルシュ生として参加するらしい。

また貴族は侍女を一人連れて行くことができるらしく、私はもちろんリフィルさんを連れて行くつもりだ。

というよりも、私の侍女はリフィルさんしかいないからだが。

 

「準備舎ってどんなことをやるのかな?」

「学園の授業よりは密度は濃くはないみたいだよ」

「ん……貴族の交流がメイン」

 

学園の授業は夕方まであるらしいが、準備舎は午前中らしい。

どちらかというと午後は交流会がメインだとか。

 

「お姉様、不安かもしれないけど、私もいるし、ロゼリア様もいるから大丈夫だよ」

「僕もいるから……平気」

 

エヴァが微笑み、ミストも得意げな顔をする。

少し不安もあるけれど、皆といっしょならきっと楽しい準備舎になるはずだ。

 



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準備舎編
第18話 準備舎と新しい友達?


「教師の皆さま、1年間の短い間ではありますが、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします」

 

壇上に立ったロゼリアさまが、新入生代表のあいさつを終える。

14歳の今日、私たちはエディンバラ学園の準備舎に入学した。

私の横にはエヴァとミストも座っている。

 

入学前にクラス分けはすでにされていて、私たちは皆同じクラスだった。

適性が低い私が同じクラスになったので、家の格式によって分けられているのでは?と思った。

 

少なくとも、私一人だけ別クラスになるようなことはなかったので一安心だ。

違うクラスになったらどうしようと思っていたが、あっさりとクラス分けの紙が家に届いて拍子抜けしたのは良い思い出だ。

 

クラスへと移動し、席につく。

席は名前順で、私のすぐ後ろにはエヴァがいる。

残念ながらロゼリアさまやミストとは席が離れてしまった。

 

「みなさん初めまして。私はこのAクラスの担任のシール・グランテです。準備舎では主に座学の授業全般を担当します。来年の学園入学に向けてしっかりとサポートしていきますので、よろしくお願いします。それでは自己紹介をしましょうか。その後に授業などの説明をしますね。それではアーク君からお願いします」

 

担任の先生は優しげな雰囲気の男性だった。眼鏡をかけていて、知的だ。

学園でも準備舎でも、身分に対する考慮はなしになる。

完全になしではないものの、男性は「君付け」、女性は「さん付け」で呼ばれるのが普通らしい。

 

それは皇族であっても例外ではない。

アークくんはとくに文句を言う事はなく、自己紹介をした。

 

そして次は、私の番。

 

「ウーレリア・アルトリウスです。友達は皆ウリアと呼ぶので、そう呼んでください。この準備舎では勉強を頑張りたいと思います!皆さんよろしくお願いします!」

 

最初の印象は大事だ。大きな声であいさつをして、笑顔を忘れず、最後はお辞儀をする。

私の名前を聞いて、ザワザワと教室が騒ぎ始めた。

やはり適性が最低であることはクラス中に知れ渡っているようだ。

 

そのザワザワを遮るように、大きな音を立てて後ろのエヴァが立ち上がった。

 

「エヴァ・アルトリウス。さっき紹介したウリアお姉様の妹。よろしく」

 

私でも震え上がるような低い声で自己紹介をして、エヴァは不機嫌そうに椅子に座る。

その言葉と態度に、教室は静まり返った。

 

「えっと……それじゃあ次の方お願いします」

 

先生も少し困ったように笑っていた。

その後、しばらく自己紹介が続く。

 

「ミスト……よろしく……」

「え?ミ、ミストさん?そ、それだけですか……?」

「…………」

「えっと……次の方お願いします」

 

相変わらずミストはテスタロッサが絡まないと無気力だ。

本当に別人なんじゃないか、とさえ思えてくる。

 

「ロゼリア・フォン・エディンバラです。ローズと呼んでください。皇女ですが、そんなことを気にせずに仲良くしていただけると嬉しいです」

 

ロゼリアさま、それは私たちには難しいです。

しかしロゼリアさまは微笑んでいる。

長いこと友達なので忘れがちだが、この国でものすごく偉い人なのである。

 

自己紹介が終わり、シール先生が今日の予定についての説明をする。

事前に聞いていた通り、授業は午前中だけらしい。

午後は交流を深めたり、自習をしたりするのだとか。

 

「さて、皆さんの自己紹介が終わったところで、直前に受けていただいた適性検査の結果をお返しします。この検査は準備舎卒業直前にも行いますので、どのくらい自分自身がこの準備舎で成長したかの目安にしてくださいね」

 

そう言ってシール先生は紙を一人一人に配る。

私の適性を見てみると、なんと光属性と剣術がEになっていた。他のはもちろんFだが。

 

「エ、エヴァエヴァ!Eに、Eになってるよ!」

「よかったね。お姉様。この調子で頑張っていこう」

 

小声でエヴァと話すと、エヴァも喜んでくれた。

成長できるんだ。ここまで長かったけど、FとEは全然違う。

それに私はFの中でもかなり低い方のFだった。それがEになるなんて。

 

これは間違いなくエヴァたちのおかげだ。

もしエヴァたちが居なかったら、私の適性は上がることもなかっただろう。

 

この適性検査はテスタロッサは含まれていない。

なので、マリアの力を借りればもっと実力を伸ばせる。

入学して早くもやる気を持つことができた。

 

「皆さんお静かに。適性で喜ぶ気持ちも分かりますが、今後の大きなイベント予定をお話しますよ。……はい、静かにしていただいてありがとうございます。まず春の終わりになりますが、実技試験を行います。相手はエディンバラ学園の3年生です。先輩たちから教えてもらえるだけでなく、技術を盗むこともできる良い機会です」

 

なんと、学園の先輩たちと模擬戦闘ができるらしい。

これはとても良い経験になりそうだ。

 

「そして冬にはチームでのトーナメント戦を行います。まだ先ですが、学園に入った後に騎士団か魔法軍に所属した場合、4名から6名程度の小隊を組みます。これはその予行練習ですね。チームワークも重要になります」

 

皆と協力して戦うイベントもあるらしい。これも楽しみだ。

 

「大きなイベントとしてはそんなところですね。いずれにせよ、準備舎での経験は将来に大いに役に立ちます。ぜひとも真面目に、そして楽しんで過ごしてください」

 

シール先生の言葉に私は大きく頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

入学式の日は授業がないので、先生の説明が終わると少し早いけれど解散となる。

準備舎は学園と同じく寮が用意されているので、一回そこに戻ろうと考えた。

 

教室で友達ができればとも思ったが、令嬢たちはチラチラと見ているのが主なので、今日は難しそうだ。

 

そう思い、立ち上がろうとしたとき。

私は机の前に誰かがしゃがみ込んで私を見上げているのに気付いた。

 

短めの黒い髪に、紫色の瞳が輝いてこちらを見つめている。

頭の上には黒い狼の耳がついていて、それがピコピコと動いていた。

 

「わ、わわわ、私ルナって言います!ウリアさん!よければこの後一緒に準備舎を見て回りませんか!?」

 

ルナと名乗った獣人の彼女は、ひどく緊張した様子で、けれども感極まったようにそう言った。

 




読んでいただきありがとうございます!
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今回も

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第19話 この世界が天国だと私は知っている【ルナSide】

(エヴァラスだぁ……)

 

何の前触れもなくこの世界に転生してきて、いろんなことを知って、Everlasting、通称エヴァラスの世界だと知ったとき、私は喜んだ。

ゲームが趣味だった私にとって、このゲームは一番好きなゲームだったからだ。

 

転生した先はライバルキャラのルナ・アルスだったけれど、そこはあまり悲しまなかった。

 

(ルナとして、主人公を幸せにする私なりのハッピーエンドを目指そう!)

 

エヴァラスは過去に5周プレイした。

全ての攻略対象を攻略したけれど、トゥルーエンドを迎えても微妙な出来だった。

そのため、運営に続編か、攻略対象を増やしてほしいと要望を出したこともある。

 

もちろん受け入れられはしなかったが、そのくらいウリアのことは好きだし、思い入れもあった。

ウリアのグッズを買ったりもしたし、二次創作の小説も読み漁ったりした。

ウリアは私の推しだった。

 

そんなウリアに何としても近づきたい。

何も考えていなかった私は、それをひとまずの目標とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、私は恐ろしいことに気付いた。

ルナとウリアは学園で初めて出会うが、ウリアは第1寮、ルナは第3寮に所属する。

 

エディンバラ学園では各寮に対応したクラス分けが行われる。

第1寮ならば第1寮のクラスに、第3寮なら、第3寮のクラスに。

つまり、私は学園でウリアと同じクラスになれない。

 

なら第1寮に入ればいい、ということになる。

しかし、私の実家であるアルス家は代々第3寮出身。

魔法が使えない私が第1寮を希望したところで、両親からは「なぜ?」と聞かれるだろう。

 

(推しと同じ空気を吸って、親友の座を奪いたいからなんて言ったら娘がおかしくなったって思われちゃう……)

 

まあ、謎の頭痛でそもそも言えないんだけど。

 

今のままでは確実に実技特化の第3寮に入ることになる。

学園でウリアに会えなければ、そのあとに会うことは絶望的だ。

なんとしても、第1寮に入らなくては。

 

「いい、ルナ。闇の魔法は確かに難しい。けれど習得すれば大きな力となるわ」

「うん!頑張る!」

 

そのため魔法を勉強することにした。

幸いなことに私の母親はネクステス連合王国の4将軍の一人。

その中でも最強と言われるユエ・アルスである。

母親に甘えることで、私は魔法を彼女から教わることに成功した。

 

適性に関しては原作と同じく武の伸びが強い。

これに魔法の適性も加われば、第1寮入りは安泰だろう。

 

学園でウリアとも行動を共にできるはずだ。

エディンバラ学園にはエヴァやローズといった他のライバルキャラも居るが、そいつらに私の推しは傷つけさせない。

 

「頑張るぞー!おー!」

 

拳をつき上げる私を見ながら、母は不思議そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法も習得し、テスタロッサとも契約し、学園入学に向けて順調だった流れが急に変わったのは準備舎に入ったときだった。

エディンバラ学園の準備舎に、原作ではウリアは参加しない。

 

アルトリウス家で冷遇されているウリアに使われるお金などない。

そのために、彼女は15歳からの入学となる。

 

なので原作でも準備舎の様子はほとんど描写されない。

そういった施設がある、といった文での説明のみである。

 

この準備舎は貴族間の交流が主なので、エヴァやローズといった他のライバルキャラ達は入学する。

ウリアが居ないので、正直準備舎はどうでもいいが、他のライバルキャラとは交流しないようにしよう。そう思っていたのに。

 

「ウーレリア・アルトリウスです。友達は皆ウリアと呼ぶので、そう呼んでください。この準備舎では勉強を頑張りたいと思います!皆さんよろしくお願いします!」

 

推しが……推しが居る。

ウリアが、ウリアが準備舎に……。

 

ウリアの自己紹介を聞きながら、私は感動していた。

まさか準備舎で出会えるなんて……。

 

しかも実物のウリアはゲームやグッズのウリアよりもずっと可愛くて美人で完ぺきで天使で女神でこの世の至宝だった。

すごい……本物ウリアしゅごい……。

 

あまりの衝撃に、その後のことはあまり覚えていない。

気づけば先生の話は終わっていて、机の上には紙が裏向きに置いてあった。

 

立ち上がろうとしているウリアを見て、私はとっさに移動した。

獣人の力を無駄に全力で発揮し、ウリアの席の前に移動し、彼女を下から見つめる。

 

下から見る推しも、尊い。

そんなことをしたら当然ウリアも気づくわけで、彼女の蒼い目が私を捉えた。

あ、なにか。何か言わないと!

 

「わ、わわわ、私ルナって言います!ウリアさん!よければこの後一緒に準備舎を見て回りませんか!?」

 

とっさに出てきたのは、いきなりすぎる招待だった。

 

「え?えっと……その……お願いします……?」

「ほ、本当ですか!?よろしくお願いします!」

 

けれどその招待にウリアは応えてくれた。

それが嬉しくて、テンションが上がる。あぁ、推しの声も尊い。

 

しかし次の瞬間には、ウリアを遮るように一人の少女が視界に現れた。

 

「じゃあ私も一緒に行くね。よろしく、ルナさん」

(……え?)

 

なぜ急にエヴァが出てくるのか分からない。

彼女はまるでウリアを守るような行動をしていて……でもそれは原作のエヴァでは考えられない。

 

「それなら私たちも一緒に行きましょう」

「ん……僕も」

 

声がかけられたのでそちらを見てみると、ローズとミストが立っていた。

エヴァラスのライバルキャラで貴族。それゆえに準備舎に居ても不思議ではない。

しかし2人とも私の知っている2人の口調ではない。

 

「私はエヴァ」

「私はロゼリアです」

「僕は……ミスト」

 

「「「よろしく」」」

 

ウリアに夢中になっていた私は、私以外にも転生者がいることに、この時初めて気づいた。

 



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第20話 月狼族の長の娘とエルフのお姫さま

教室で友達になったルナに

 

「ルナって……ルナって呼んでください!」

 

と強く言われ、お互いに敬語を使わないことを条件にそれを受け入れた。

私の左にはルナがとても嬉しそうに歩いていて、尻尾がぶんぶんと振られている。

モフモフしていて、とても可愛い。

 

「……ルナはネクステスの月狼族?」

 

かなり不機嫌そうなエヴァがルナに質問をする。

教室のときも不機嫌だったが、今はさらに機嫌が悪い。

 

「うんそうだよ。月狼族らしく格闘にも自信があるけど、魔法も得意なんだ。学園では第1寮に入るつもり」

「……そう」

 

今ので、ますますエヴァの機嫌が悪くなった気がする。

そんな私たちは6人で行動を共にしていた。

 

「ありがとうございます。私も入れて頂いて」

「あ、全然大丈夫ですよ」

 

少し前に出てペコリと頭を下げた金髪の少女に、私は返事をする。

リフィルさんと同じエルフで、淡い緑の目を持つ優しげな雰囲気の、しかし芯の強さを感じるのは、ムース・ユグドラシルさんだ。

 

教室で準備舎を回ってみようと決めた私たち。

そこに入れてほしいと言ってきたのが彼女だった。

 

ムースさんはユグドラシル国のお姫様らしい。

つまりロゼリアさまと同じ、国でもっとも身分の高い人、ということだ。

けれど彼女はかしこまられるのが嫌いみたいで、ムースさん、と呼んでほしいとのことだった。

 

王族とか皇族の人は、皆こんな穏やかで優しい人が多いのだろうか?

よくよく考えてみると、ロゼリアさまの弟であるアークさまも穏やかな人だった。

 

「ムースさんは、魔法が得意なんですか?」

「はい。私はエルフなので風や地、水といった属性が得意なんです。これらの属性ならばローズ様にだって負けませんよ」

「まあ、これは私も研鑽を積まなくてはなりませんね。それに皆さんと同じで、ロゼリアで良いですよ」

 

ロゼリアさまとムースさんが他愛のない会話をする。

ロゼリアさま、あんなに強いのにまだまだ努力するなんてすごい。

 

私たち6人は他愛のない話をしながら、いろんな部屋を回る。

医務室や、ロゼリアさまが演説した大講堂、職員室など大まかな場所を覚えた。

 

その後、訓練場を訪れる。

 

準備舎の訓練場は学園のそれと比べると小さいらしい。

けれど設備としては十分な広さだ。

 

「ここで実技試験やチーム戦をするんですね」

「学園の先輩と戦えるなんて、すごい経験ですよね」

 

ロゼリアさまの言葉に、私は食い気味に返す。

まだまだ先だが、私の頭の中はそのことでいっぱいだった。

もちろん、毎日の授業も楽しみだが。

 

「お姉様、その日のために頑張ろうね」

「私も力を貸しますよ。ウリアさん」

「……マリアは任せて」

 

エヴァ、ロゼリアさま、ミストが温かい言葉をくれる。

その言葉に、私は大きく頷いた。

 

「ウリア、皆と一緒に訓練してるの?」

「うん。エヴァやロゼリアさまたちと一緒に訓練してるんだ」

「え?私も!私もそれに入れて!格闘や闇の魔法なら強いよ!」

 

闇の魔法という言葉に私は驚く。

魔法は無属性を除くと全部で6つある。

 

その中で、地水火風は強弱関係がある。

水は火に、風は水に、地は風に、火は地に強い。

 

火←水←風←地←火と1周回っているのだ。

一方で、闇は光に強く、闇はどれに対しても弱くない。

つまり、闇は弱点がない唯一の属性だ。

 

けれどその分習得は難しく、エディンバラ皇国内でも使える人は限られるという。

特別な才能を持つルナが、とても羨ましく感じた。

 

「あの……その訓練に私も参加してもいいですか?私も魔法は得意ですし、ロゼリア様達と訓練ができるのはまたとない機会だと思うんです。もちろんウリアさんの邪魔はしません」

「……私はどっちでもいいよ、お姉様」

「……そうですね。私も構いません」

 

ムースさんの言葉に、エヴァとロゼリアさまが判断を私に委ねた。

ミストも賛成のようで、眠たげな瞳で私を見た後に頷いてくれた。

 

「ルナ、ムースさん、よろしくお願いします!」

「やったぁー!」

「ありがとうござます」

「ふふっ、ルナ喜び過ぎだよ」

 

手を上げて喜ぶルナが可愛くて、思わずエヴァにやるみたいに頭を撫でてしまった。

手にルナの耳のモフモフが伝わる。あ、これすごい気持ちいい

 

「う、ううう、ウリア!?」

 

ルナは顔を真っ赤にして目をぐるぐる回している。

次の瞬間、手首を掴まれ、下げさせられた。それをしたエヴァはむすーっとした顔で横を向いている。

 

その様子がほほえましくて、私はエヴァの頭を撫でた。

まんざらでもなさそうに撫でられていたエヴァは、やがて我に返ると私の手を取って辞めさせた。

 

「つ、次の部屋行こう!」

 

そういって歩き出すエヴァに、苦笑いをしながら私はついていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい!準備舎とはいえこれだけの設備!学園に行けばどれだけのものが……あぁ、ここでマリアを調整する日が待ち遠しいよ!!」

「……誰、あれ?」

「……み、ミストさん?」

 

テスタロッサ技術室にやってきた私たちは、部屋に入った瞬間にスイッチが切り替わったミストに圧倒されていた。

私たちは慣れているけれど、今日初対面のルナとムースさんは驚いている。

 

「気にしないであげて。ミストはテスタロッサバカだから」

「む?バカとは失礼だね!僕はただテスタロッサを愛しているだけさ!」

「ま、まるで別人だけど……」

 

呟いたルナをばっと見て、ミストは彼女の手を取る。

 

「ルナ君!どうだい?君のテスタロッサ、僕に預けてみないかい?」

「え?いいの!?ぜひともお願い!」

 

ミストの名前は他国にも知られているようで、ルナは二つ返事でOKした。

そのままミストはムースさんにも顔を向ける。

 

「ムース君もどうかな!?」

「……ごめんなさい、私は侍女が専用の技師を兼ねているので……」

「そうか……それは残念だ」

 

がっくりと肩を落とすミスト。

その様子を見て、ルナがムースさんに話しかける。

 

「良いんですか?歴代最年少で高位技師資格を取得した天才ですよ?」

「私に対して敬語は不要ですよ。ルナさんも、皆さんも。私は癖ですが」

「無理ですよムースさん。私も8歳の頃から言っていますが、ウリアさんもエヴァさんも変わらないので」

 

ロゼリアさまが敬語なのに、私たちだけ敬語を外すなんて出来ない。

たまにエヴァは外れているときがあるけど。

ムースさんに対しても多分無理だろうなと、我ながら思う。

 

話を聞いていたミストは、流れを戻すように大きな声を上げた。

 

「んー、話が変な方向に行っているけど、テスタロッサは専属の技師が近くにいる場合は他の人に任せない方がいいんだよ!専属の人が混乱しちゃうからね!」

「あ、そうなんだ。でもそれなら私のは国の高位技師さんに前に調節してもらったけど……」

 

ルナはネクステス王国のアルス家出身。

アルス家は貴族なので、当然お抱えの専属技師もいるだろう。

しかし、ミストはそれでも平気だと告げる。

 

「ムース君みたいに専属技師がすぐそばにいないなら大丈夫だよ。ただ、これから先僕以外の調整が受けられなくなっても知らないよ?」

「すごい自信!!」

「ははは!僕はテスタロッサに関しては誰にも負ける気がしないからね!」

 

どんどん調子に乗るミストと、どんどん目を輝かせるルナ。

その2人のやり取りに、エヴァは頭を押さえていた。

 

「本当にテスタロッサに関しては右に出る者はいないから厄介なんですよね」

 

ロゼリアさまも苦笑いだ。

ムースさんも微笑んでいる。

 

ルナ、ムースさん、さっそく2人の友達が出来て、私はホクホクだった。

 



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第21話 適性の低いものたち

準備舎に入学して、私は充実した日々を送っていた。

午前中は授業に集中し、午後はエヴァ達と一緒に訓練をする。

その中にルナやムースさんが加わって、大変だけれども楽しい日々を送っていた。

 

それに変化が起きたのは、しばらく経ってからだった。

 

「ローズ様、私達も訓練に入れてください」

「どうか自分達もお願いします!」

「私達にも、ぜひともご指導を!」

 

ロゼリアさまの席に周りに集まる生徒たち。

私たちが放課後に訓練をしていることを知り、それに参加したいのだという。

 

「ごめんなさい。今はこれ以上人を増やすつもりはないんです」

「そんな!?特定の日だけでも良いので!」

「そういった問題ではなく……」

 

ロゼリアさまはあまり乗り気じゃないみたいだ。

 

やがて教室の扉が開き、職員室に用事で出かけていたエヴァが帰ってくる。

エヴァは囲まれているロゼリアさまを見ると、顔をしかめた。

 

「何をしているの?」

「……エ、エヴァ様には関係ありません」

「私達の訓練に参加したいそうですよ」

 

ロゼリアさまの言葉に、エヴァは鼻で笑う。

 

「おかしいこと言わないでよ。ロゼリア様の訓練には私も参加しているの。関係ないわけないでしょ」

「…………」

「なに?図星だから黙るの?ロゼリア様なら親切だし、優しいから行けると思った?悪いけど、あなたたちに使う時間なんてない」

「そ、そこまで言わなくてもいいじゃない!」

 

叫ぶ令嬢を一目見て、エヴァは睨み付ける。

 

「出来の悪い姉をもって大変ですね」

「っ!」

「ありがたい忠告は、一言一句違えることなく覚えているけど?」

 

睨み付けた令嬢の顔が、真っ青になる。

エヴァを支援するように、ロゼリアさまも低い声を出した。

 

「この場にいる誰がそういった言葉を吐いたのか。私も覚えています」

「……私達は、エヴァ様を思って……」

「どこがよ。お前たちがお姉様を受け入れられないだけでしょう」

 

歴代最低の適正値。それが私の適性。

高い適性を持つ貴族の子供たちにとって、私は紛れ込んだ異物なのだろう。

 

「分かっているの?私達と訓練するってことは、お姉様も一緒なんだけど」

「……エディンバラ皇国は実力至上主義のはずです」

「確かにその通りです。とはいえ、それは人の心まで決めるものではないですよ」

 

ロゼリアさまの低すぎる声に、子供たちはうつむく。

 

「……優秀な人間は……優秀な人間と付き合うべきです」

「なら……君達は優秀じゃない」

 

寝ていると思っていたミストが顔だけを向けて子供たちに告げる。

今まで聞いたことのない低い声に、彼女が怒っていることがよく分かった。

 

「…………」

「あんた達はあんた達で一緒に居なさいよ。私たちはお姉様と一緒に居る。お前達には関わらない。だから、お前達も関わるな」

「それがいいですね。相容れないのに、無理に付き合う必要はありません。私も、自分が優秀だと思い込んでいる人には付き合いきれませんので」

 

ロゼリアさまの言葉に、教室中が言葉を失う。

家の階級だけなら、アルトリウス家と同じか、それよりも高い家出身の令嬢、令息もいる。

エヴァだけならば、いくらでも言いようはあっただろう。

 

けれど、この国トップのロゼリアさまの言葉には逆らえない。

エディンバラ学園は確かに身分を重視しない。

けれどそれは教育の話であり、個人の心情までは変えられない。

 

言い合いをしていた数人の生徒は、悔しそうに顔を歪めて私たちから距離を取った。

けれど振り向き際に私をすごい目でにらんでいて、少し怖くなってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウリアさん、ちょっといいかい?」

 

その日の放課後、私は後ろから急に話しかけられた。

振り返ると、知らない生徒が立っていた。クラスメイトだったとは思うが、面識はない。

 

短めの黒い髪に、黒い瞳が私を捉えている。

黒髪黒目は、この世界で初めて見る。日本ではよく見たのだが。

 

「いきなり声かけてごめんね。僕はユウリィ・フェンデ。一応クラスメイトなんだけど、覚えているかな?」

「……何の用?」

 

私の前にエヴァが出て返事をする。こんな風に行動するエヴァは久しぶりだ。

とはいえ、ユウリィさんと面識はないはずだが。

 

「そんなに睨まないでよ。僕はこの準備舎で頑張りたいんだ。恥ずかしい話だけど、僕も適性がそこまで高くはないんだよ。でも僕以上に適正に恵まれていないのに頑張っている人がいる。僕はそんなウリアくんと一緒に成長したいんだ。ダメかな?ウリアくん」

 

ユウリィさんはまっすぐな目で私を見つめてくる。

その目には純粋な好意や尊敬が見て取れた。

けれどその一方で、その目には私しか映していないように見えた。

 

「申し訳ありませんが、私たちは先ほどクラスメイトにあのような態度を取ったばかりです。そんなすぐにあなたを引き入れるわけには――」

「僕はどちらかというと、ウリアくんに決めてほしいんだ。ウリアくんが嫌なら僕は身を引く。それに、ウリアくんがOKでも、他の人が微妙と思うなら、それでも身を引こう。ウリアくんがOKをしてくれたということがそもそも嬉しいからね」

 

私の中に不思議な気持ちが目覚める。

ユウリィさんを引き入れてもいい、そんな気持ちが。

でもそれはそう思わされているような、そんな不思議な気持ちだった。

 

「……構わない」

「私はちょっとなぁ……ウリアがいいなら別にいいけど」

「私としてはそういった理由があるならいいと思います」

 

ミスト、ムースさんは賛成派、ルナは私に任せる感じだった。

これだけ人数がいれば、意見も分かれるだろう。

 

「ウリアくん、どうかな?」

 

ユウリィさんが私だけを見て聞いてくる。

私と同じ境遇の人。低い適性に悩んでいる人。

この人といっしょなら、私はもっと成長できるだろう。

 

「……ごめんなさい」

 

彼女に向かって、私は頭を下げた。

なぜだか分からないけれど、私はユウリィさんをなんの理屈もなしに好んでいる。

それが気持ち悪く感じ、私は思わず断りを入れていた。

 



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第22話 サポートキャラ、ユウリィ【エヴァSide】

「いきなり声かけてごめんね。僕はユウリィ・フェンデ。一応クラスメイトなんだけれど、覚えているかな?」

「……何の用?」

 

エディンバラ学園の準備舎。

午前中に相変わらず実力至上主義の貴族の子供たちとやり取りをしたその日だった。

午前中に発したときよりも低い声で、私は目の前の少女に言い放った。

 

「そんなに睨まないでよ。僕はこの準備舎で頑張りたいんだ。恥ずかしい話だけど、僕も適性がそこまで高くはないんだよ。でも僕以上に適正に恵まれていないのに頑張っている人がいる。僕はそんなウリアくんと一緒に成長したいんだ。ダメかな?ウリアくん」

 

問題の少女、ユウリィ・フェンデはお姉様だけを見てそう言った。

その目には私たちの姿は映っていないようにさえ見える。

 

彼女は原作エヴァラスにおける、サポートキャラだ。

学園編では各攻略対象の情報をくれたり、成長に役立つアイテムをくれる。

 

彼女はその後、卒業後編でウリアと同じ魔法小隊のメンバーになる。

この卒業後編はRPGパートになる。ストーリーはあるものの、戦闘がメインだ。

そしてパーティメンバーは4人で、ユウリィは固定となっている。

 

つまり原作で、ユウリィとは最後まで付き合うことになる。

彼女はRPGパートでも大活躍だ。他のキャラが持っていない個性を、彼女は持っている。

ユウリィは頼れるキャラだと、そう思えるだろう。

 

しかしゲームを深くプレイすればするほど、ユウリィ・フェンデはプレイヤーを悩ませる。

エヴァラスはクソゲーであり、鬱ゲーだ。

鬱ゲーの原因を担っているのが、ユウリィなのである。

 

(けど……条件はそもそも破綻している。むしろ仲間に引き入れた方がいい?でも、準備舎だと早すぎる気も……)

 

原作でユウリィが鬱ゲーの原因となるのは、ウリアを「始めて」必要とした人だからだ。

この世界では、お姉様を最初に必要としたのは、もちろん私達。

だからこそ、原作の流れになることはない。

 

けれど、とはいえ安心しきっていいわけではない。

この世界はすぐに流れが変わる。原作にない流れで、ユウリィがお姉様にとって害になることもあるだろう。

 

ユウリィが転生者なら問題ないのだが、そうでないのなら扱いが難しい。

 

近くにおいて監視した方が良いか。

それとも遠ざけた方が良いか。

かなりの悩みどころだ。

 

「申し訳ありませんが、私たちは先ほどクラスメイトにあのような態度を取ったばかりです。そんなすぐにあなたを引き入れるわけには――」

「僕はどちらかというと、ウリアくんに決めてほしいんだ。ウリアくんが嫌なら僕は身を引く。それに、ウリアくんがOKでも、他の人が微妙と思うなら、それでも身を引こう。ウリアくんがOKをしてくれたということがそもそも嬉しいからね」

 

それを分かっているからこそ、ロゼリアも一度は断ろうとしたのだろう。

おそらくよく考えたうえで、後から仲間に引き入れるつもりか。

 

しかしユウリィは私たちなど眼中にないかのように、お姉様だけを見続けている。

効果はないかもしれないけれど、とりあえずお姉様に断らせるためにも、他のメンバーに意見を言わせたいところ。

 

「……構わない」

「私はちょっとなぁ……ウリアがいいなら別にいいけど」

「私としては、そういった理由があるならいいと思います」

 

……は?

私は耳を疑った。ルナの言い方は分かる。

考えていることは私やロゼリアと同じだろう。その上でお姉様を敬愛しているから、判断をお姉様に委ねている。

 

ミストに関してはユウリィを受け入れる理由もなんとなく読み取れる。

彼女は作中でもっとも悲惨な死を迎えるからだ。

 

それを回避するには強い闇の魔法か、お姉様が必要だ。

けれどその可能性をユウリィにも見出しているのだろう。

 

だが、ムースは分からない。

彼女が転生者なのは性格や口調から間違いない。

けれど、ムースはミストと違ってユウリィに期待する必要がない。

 

仮に受け入れるとしても、少しは悩むそぶりを見せるはずだ。

けれどムースの表情を見ると、歓迎しているようにさえ思える。

深いところまで、考えていない?

 

ムースがなぜユウリィの加入に全面的に賛成なのかは分からない。

だが、まずいことになった。

 

「ウリアくん、どうかな?」

 

私たちの視線がお姉様に集まる。

ユウリィを仲間に入れるかどうかは、お姉様に一任されてしまった。

そして原作での設定を考えるなら、お姉様はおそらく受け入れてしまう。

 

これは、しっかりとユウリィを見張る必要があるかもしれない。

それにムースについても少し気がかりだ。

そんなことを考えたとき。

 

「ごめんなさい」

 

お姉様が頭を下げて断った。

私も他の皆も、目を丸くしている。

ユウリィも言葉が出ないようだった。目を丸くしてお姉様を見つめている。

 

「そ、そうか。ごめんね無理言って」

 

そう言ってユウリィは気まずそうに去って行った。

流石に断られるとは思っていなかったのだろう。

私もお姉様が断るとは思っていなかった。

 

「お姉様、良かったの?やる気もあったみたいだけど」

 

思わず私はそんなことを聞いてしまっていた。

お姉様は私を見て、不思議そうに首を傾げた。

 

「エヴァ、反対じゃないの?」

「そ、そうだけど、お姉様は賛成するかなと思っていたから」

「あぁ……うーん、なんだろう。いろいろ理由はあるんだけど、私の事ばかりでエヴァたちの事を見てなかったからかなぁ」

 

原作で、主人公のウリアとユウリィは必ず親友になる。

それはゲームで決まっていることだ。

 

でもお姉様は自分の意志でユウリィを拒絶した。

ゲームではお姉様の周りには誰もいない。

けれど今は私たちが居る。その違いが、原作とは違う流れを生んだのだろう。

 

嬉しくはあるけれど、もうこの世界が原作とは違う流れになっている事を改めて知らされた。

だんだんと原作の知識が通用しなくなる気がして、少し不安になった。

 

(ユウリィが仲間にならない……かぁ……)

 

小さくなっていく彼女の背中を見ながら、私は考える。

逃した魚は大きすぎるように思えた。

 

仲間は少しでも多い方がいいけれど、今回ばかりは仕方がない。

攻略対象はストーリー的には居なくても問題がない。

けれど、ユウリィは貢献の度合いが違う。

 

彼女の抜けた穴を、私達で埋めなければならない。

 

私たちは14歳。時間はもう5年しかない。

今でもロゼリア達と訓練はしている。けれど、もっと力を手に入れるには。

私は脳裏に一組の男女を思い浮かべる。

 

まずは彼らに認めてもらうことから始めなくてはならない。

ポケットに手を入れて、その中にある便せんの感触を確かめながら、私は決意した。

 



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第23話 実技試験開始!

春の終わり。気温が上がり、暑くなってくる季節。

しかしエディンバラ学園の訓練場は水の魔法により、適切な温度に保たれている。

 

私たち学生はそこに集まり、緊張した面持ちで目の前の大人たちを見つめていた。

いつも実技を指導してくれるルイン・ゼルネス先生ともう一人、濃い赤髪に眼鏡をした男性が礼装姿で立っている。

 

「皆さん、今日は実技試験の日です。皆さんの試験を担当するのは学年の模範生達。学べることも多いでしょう。学園の先輩たちの胸を借りるつもりで、楽しんでください」

 

そう微笑んで告げたのはこの学園の学園長、ベリアル・アリアット・レストーア先生だ。

学園の最高権力者が隣にいることもあり、いつもはおおらかな態度なルイン先生も、緊張しているようだった。

 

「ベリアル学園長って……」

「あぁ、最初のトリリアントで、最強とも言われている人だろ」

「うそ……そんな偉人をお目にかかれるなんて……」

 

歴史上の偉人でもあるベリアル先生に、周りの生徒もざわついている。

トリリアント。私たちは皆、名前と家名を名乗る。

私なら名前がウーレリア。家名がアルトリウスだ。

 

そのため名前は基本的には2つのブロックから成るが、ベリアル先生のように3つから成る名前を名乗る人がいる。

これは2パターンがある。

 

まず国の王族の人たち。

例えばロゼリア様はロゼリア・フォン・エディンバラ。

3つ目は国名だ。

 

そしてもう一つがトリリアントと呼ばれる人たちだ。

最初は名前。次は家名。そして3番目は攻略したダンジョン名となる。

つまり、トリリアントの人たちはダンジョンを攻略した猛者ということになる。

 

エディンバラ学園にはトリリアントの教師たちも数人在籍しているらしい。

国として抱えているトリリアントの数も世界でトップクラスだとか。

 

ベリアル先生は最初にレストーア集落というダンジョンを攻略し、このトリリアントの制度を作った人だ。

もう80年ほど前との話だが、ベリアル先生はまるで年老いた様子がない。

 

目線を向けてみると、ニコリと微笑まれた。

ちょっと冷たい何かを感じた。

 

「よしお前ら。それじゃあ実技試験を始める。成績優秀者は第二訓練場に移動してくれ。それ以外のメンバーはここで行う」

 

クラス内で上位5名は成績優秀者と認定される。

ロゼリアさま、エヴァ、ムースさん、ルナ、アークくんが成績優秀者だ。

 

私やミストは入っていない。

私は実力が足りないし、ミストはそもそも戦闘要員ではないからだ。

 

成績優秀者の5名は時間の関係上、別の場所で別の試験官の先輩と対戦をするらしい。

羨ましいと思っていると、エヴァが名残惜しそうにこちらをチラチラと見ていた。

いつも仲の良いメンバーが私を置いて居なくなってしまうのが、心配なのだろう。

 

私はエヴァに小さく手を振ると、エヴァがもどかしそうな表情で手を振り返した。

その背中を、ロゼリアさまが引っ張っていく。

ふと、彼女の口元が動いた。

 

(頑張ってください)

 

それを読み取り、私は握りこぶしを作る。

ロゼリアさまは満足げに頷いて、微笑んでエヴァを連れて行った。

 

「よし、じゃあまずは試合を始めるぞ。最初はフィリップ対セレンだ。他の奴らもよく見とけよ」

 

ふと気づくと、すでに生徒の一人が先輩と対峙していた。

その手には剣が、そして目には獰猛な光が宿っている。

どの生徒もそうだが、この試験で結果を残したいという気持ちが強い。

 

一方でフィリップくんの対戦相手は女性で、弓を持ってはいるものの、構えてはいなかった。

けれど目はじっと生徒を捉えている。

彼女がセレン先輩。黒い髪を風になびかせた、クールビューティな女生徒だ。

 

「楽しみだね。ウリアくん」

「……ユウリィさん」

 

気づけば隣にユウリィさんが立っていた。

なぜだか分からないけれど、彼女のことは苦手だ。

けれどここ最近は皆がいないタイミングを逃さずにやってくる。

 

「そうですね。少しも見逃せません」

「…………」

 

そういって視線を試験の2人にくぎ付けにする。

ちょうど試験が始まるようだった。

 

「始め!」

「起きろ!」

 

ルイン先生が合図した瞬間、フィリップくんはテスタロッサを覚醒させ、セレン先輩に突っ込む。

けれど先輩はそれを容易く避け続ける。

 

「くそ!逃げるな!」

「……」

 

大きく振りかぶったところをセレン先輩が避けて背中に蹴りを入れる。

フィリップくんは前のめりになり、地面に倒れ込んだ。

矢を突きつけられ、勝敗は決した。

 

本当にすぐの決着だった。

 

「……あまりにも直線的すぎます。もっと相手をよく見て、動きましょう」

「……はい」

「次!アセロラとユアン!」

 

ルイン先生はすぐに次の組み合わせを発表する。

アセロラ嬢は先ほどのフィリップくんと同じくロゼリア様との訓練に参加したかった人だ。

8歳の時の懇親パーティにも参加していたので覚えている。

 

対するユアン先輩は槍を担いだ細身の男性で、少し眠そうな目が特徴的だった。

でもこういうタイプの人って強いんだよな。

 

「始め!」

「起きて!」

 

アセロラ嬢はテスタロッサを起動して弓を構える。

素早く弦を振り絞り、矢を放った。速い。

けれどユアン先輩は体を器用に動かして、最低限の動きでそれを回避する。

 

アセロラ嬢は連続して矢を放つものの、そのことごとくがユアン先輩に当たらない。

 

「くっ!」

 

このままでは決定打に欠けると思ったのか、アセロラ嬢は右手をユアン先輩に向けた。

そこに火の魔力が集まっていく。

 

「ファイア――」

「遅い」

 

魔法を発動しようとした瞬間、ユアン先輩は一気に間合いを詰めて槍をアセロラ嬢の喉元に突き付けた。

 

「魔法は確かに便利だ。けれど、長物を持っている相手にはまだ弓の方がいい。対戦相手に応じて切り替えるのも、大事だぜ」

「……は、はい」

「次!セントレアとグレイズ!」

 

その後もどんどん生徒と先輩の戦いが続いていく。

先輩は全部で3人。弓を使うセレン先輩に槍を使うユアン先輩。

そして剣を用いるグレイズ先輩だ。

 

3人ともとても強く、生徒たちを相手に余裕そうだ。

これが、エディンバラ学園の生徒たち。

その強さに憧れる。私も、ああなれるかな。

 

そんなことを思ったとき。

 

「次!ウリアとセレン!」

 

ついに私の名前が大きく呼ばれた。

 



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第24話 私の成長

緊張した面持ちでセレン先輩を見つめる。

セレン先輩は弓使い。遠距離での戦いは不利だ。

けれど接近戦を仕掛けたところで、中途半端な攻めではフィリップくんのようにいなされてしまう。

 

戦略を考えていると、ルイン先生が私たちの間に立った。

 

「よし、ウリア対セレン、開始!」

「……おはよう。マリア」

 

開始の合図でマリアを展開し、剣を構える。

その瞬間、周りの生徒がざわざわと騒ぎ出した。

 

「え?嘘でしょ?」

「エクセラ級?」

「なんであんなやつが……」

「才能ないくせに、良いテスタロッサ持ってるって……」

 

驚きの声とけなす声が多く響く。

けれど、私はそれを無視した。気にしている場合じゃない。

それに、ここで結果を出せばいいだけだ。

 

セレン先輩もテスタロッサを出して戦闘態勢を取っている。

お互いに距離を取り、出方をうかがっている状態だ。

 

「…………」

 

その瞬間、セレン先輩は素早く弓を構え、矢を放った。

目視した限りでは2本。1本はなんとか避け、もう1本は剣で弾いた。

 

「ふむ」

 

続けてもう1発。

今度はなんらかの魔法が付与されているように見えた。

剣で防ぐこともできたが、力負けすると考えて避けた。

 

私の後ろに矢は着弾し、燃え上がる。

火の魔法が付与された矢のようだ。

 

「よい目をしていますね。それに、強敵と戦い慣れている。それならこれはどうです?」

 

セレン先輩は私を褒めてくれた。

そのことをうれしく思った瞬間には、次の矢が飛んできていた。

さっきよりも速い。回避は、間に合わない。

 

「っ!?」

 

とっさに剣で防ぐものの、威力が強すぎて防ぎきれなかった。

後ろに飛び、威力を少し殺すものの、殺しきれずに少し吹き飛ばされた。

体勢を崩すほどではなかったものの、更に距離を取らされた。

 

「うーん……」

 

セレン先輩を見てみると、彼女は少し悩んでいるようだった。

その様子を見て、私はとっさに前に出る。

 

戦場において、1秒の隙を逃すことは敗北につながる。

リフィルさんから教わったことを、忠実に実行する。

 

セレンさんは私の姿を見て矢を放つ。

今度は3本。1本は避け、もう1本は掠り、最後の1本は剣で弾く。

それでも、動きの遅い私はまだセレン先輩との距離を詰められない。

 

ふと、セレン先輩が何かを呟いたのが見えた。

とっさに左手を動かして、光の剣を魔法で作り、投げる。

しかし、セレン先輩が放った風の魔法は、光の剣をかき消し、そのまま私を吹き飛ばした。

 

これで再び距離を取らされた形になる。

私はゆっくりと立ち上がり、回復魔法で傷を癒し始める。

 

「なにあれ」

「近づけてすらないじゃん」

「光の剣も小さすぎて全然だし」

 

周りの声が耳に入るが、頭には入らない。

私はそのくらい、セレン先輩に集中していた。

 

(楽しい)

 

そして同時に、嬉しさを感じていた。

セレン先輩はもちろん本気じゃない。

もっと強い魔法が使えるはずだし、回復魔法を使っているときも矢で妨害できたはずだ。

 

これは実技試験。私たちの実力を測るのがセレン先輩たちの仕事だ。

それでも、例え手を抜かれていても、強い人と戦えることが嬉しかった。

昔の私では到底できなかったことができるから。

 

「マリア、お願い!」

 

そう叫び、私は光の剣を左手に作り、投げる。

そして全力で走った。

セレン先輩との距離はかなり離れている。

 

「っ!?」

 

セレン先輩は先ほどよりも少し時間を空けて矢を放ち、私の光の剣をはじいた。

そのまま次の矢をつがえ、私に狙いを定めている。

 

「今!」

 

左手で事前に作っていた光の玉をセレン先輩向けて思いっきり投げる。

攻撃力のない、中身がスカスカの光の玉。

これの目的は攻撃ではなく、目くらまし。

 

軽い光の玉はすぐにセレン先輩に届き、先輩はまぶしさに目を細めた。

とっさに放った矢の軌道が少しブレたおかげで、余裕をもって避けることができた。

けれど、まだ距離が遠い。

 

私は、遅い。

剣を振るのも遅いし、移動するのも遅い。

もっと速く。速く。速く。

 

「マリア!もっと!もっとお願い!」

 

夢中で叫び、私は駆ける。

セレン先輩との戦いが楽しい。

だから、少しでも先輩に近づけるためにもっと、もっと力が欲しい。

 

速く。強く。

間合いに、入った!!!

 

「ああああああぁぁぁぁ!」

 

力の限りマリアを振りかぶる。イメージするのは私の目標であり、憧れの赤い髪の少女。

強く優しい、私の自慢の妹、エヴァ。

 

「……見事です。その諦めない気持ちは称賛に値します」

 

剣は、弓で防がれた。

セレン先輩が左手に持った弓だけで私の剣を止めている。

右手には風で出来た剣を作り、私の喉元に突き付けている。

 

私の……負け。

勝てるとは思っていなかった。けれど、これでもう終わりというのがすこし悲しい。

 

「……セレンのルール違反により、ウリアの勝ちとする」

 

ルイン先生の言葉が耳に届くが、理解ができない。

私の……勝ち?

思わずルイン先生を見ると、彼は溜息を吐いた。

 

「今回の試験では模範生は武器に対する強化魔法は禁止している。弓使いの場合は矢のみ許可するが、弓までは許可していない。よってこの試合はウリアの勝ちだ」

「ウリアさん」

 

ルイン先生の言葉を聞いていると、セレン先輩がテスタロッサを解除して話しかけてきた。

私も同じようにマリアを待機状態にする。

 

「魔法の出力や速さ、力に関しては正直まだまだ課題はあります。しかし今ウリアさんが持つすべて100%、いえ120%出し切ることができています。きっと良い師に巡り合えているのでしょう。これからも死力を尽くして、諦めない戦いを忘れないでください」

「は、はい!!」

 

先輩の優しい言葉に、私は感極まって返事をする。

今までのロゼリアさまやリフィルさんとの訓練がちゃんと成果につながっていて、嬉しかった。

 

「納得いきません!」

 

急に声を張り上げたのは、アセロラ嬢だった。

彼女は私を睨んでいる。よく見てみると、フィリップくんや、他の生徒も私を厳しい目で見ていた。

 

「なにが納得いかないんだ?」

「ウリアさんはそもそも魔法や力の出力が足りていません。それなのにウリアさんの勝ちというのは――」

「今回の試合で俺たちが良い評価をしているのはウリアの魔力や力そのものではなく、その使い方だ。それとも実際の戦いではそういった部分は不要だとでも言うつもりか?」

「ルイン先生の言う通りです。あなたにウリアさんと同じ実力で今の試合と同じことができますか?少なくとも私には無理です。だからこそ、称賛すると言っているんです」

「それは……」

 

ルイン先生とセレン先輩の言葉にアセロラ嬢は押し黙る。

 

「……確かに適性は実力の大部分を占める。けれど、学園に入ると適性だけが全てではなくなる。とくに、さらにその先の魔法師団や騎士団では適性だけでなく個人のテクニックや戦略、気持ちだって大事だ。覚えておけ。アセロラ嬢だけじゃない、全員だぞ」

「……はい」

 

アセロラ嬢の言葉に合わせて、フィリップくん達も首を縦に振る。

けれどその表情はどこか不服そうだった。

 

「……まあいい。試験を続けるぞ」

 

ルイン先生は気持ちを切り替えて次の試験を行う。

私が終了した段階で、半分が終わった程度。

さきはまだまだ長そうだった。

 

残りの生徒たちも試験を行っていく。

 

その後の試験は、流れが変わった。

というよりも、生徒たちの気持ちが変わった。

どの生徒も、色々なことを考え、最後まであきらめずに戦うようになった。

 

ただの実力に任せた攻撃ではなく、セレン先輩に、ユアン先輩に、グレイズ先輩に合わせた攻撃をするようになった。

今までの試合を見ていたからこそできることもあるのだろう。

 

けれど先輩たちも危なげなく生徒たちを無力化していく。

流石にルール違反が起こることはなかったけれど、一つ一つの試験時間は確実に伸びていた。

 



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第25話 成績優秀者【エヴァSide】

(お姉様……大丈夫かな……)

 

アークを含む私たち5人は第二訓練場で試験を受けていた。

アークの試験が終了し、今はルナが試験を受けている。

私はその戦いを横目に見ながらお姉様のことを考えていた。

 

もちろんお姉様の試験のことも心配だ。

けれどそれ以上にモブ連中やユウリィのことが気がかりだった。

できれば1人にしたくはなかったのだが。

 

そんなことを思っていると、ルナの試験がちょうど終了したようだった。

 

「あー!負けたー!」

「接近戦はなかなかのものだよ。でも、まだまだ力が足りないね」

 

試験として相手をしているのはマーガレット先輩だ。

原作には登場していない。すでに学園の3年生なので、ゲームでは会う機会がないのだろう。

青い髪を短く切りそろえた、ボーイッシュな女性だ。

 

ルナと入れ替わるように、次はムースが前に出る。

訓練では完全に把握できない、彼女の実力を知る良い機会だ。

 

「次はムース」

「はい」

 

成績優秀者の審判を担当しているのはびっくりするほど小さな少女だった。

薄い水色の髪に、青いメッシュが入っている。

身長はとても低いのに、その雰囲気は氷のように冷たい。

 

第1寮の寮監督であるアイリス・クラフト・キルレイン。

キルレインダンジョンを攻略したトリリアントだ。

 

エディンバラ学園の教師陣の中でも、オールマイティな万能型となっている。

私やお姉様の将来の寮監督、ということだ。

 

「始め!」

「起きてください」

 

ムースはすぐにテスタロッサを起動。

その両手に握られたのは、木の枝のような太い杖だった。

 

テスタロッサ名『世界樹の枝』。

ユグドラシル国にそびえたつ世界樹を模したテスタロッサだそうだ。

ゲームとは違うテスタロッサは、転生者であることの証明だ。

 

というか、原作以上に良いテスタロッサを引いているなんて、ガチャ運が良すぎて羨ましい。

 

ムースは魔法使いタイプ。

ゲームと同じなのは、あまり素早い動きを得意としないことくらいか。

 

「お願いします」

 

杖を胸に抱き、その先端で地面をトントンと叩く。

するとムースの足元から草木が生い茂っていく。

その草木はすぐに訓練場を覆いつくした。

 

「……カタストロフ級?」

 

遠くに立つアークが呟いた。

私たち転生者からすれば知っている知識なので、驚くことはない。

 

テスタロッサにはクラス分けがある。

カタストロフ級は一番上で、今のムースのように空間に対して影響を与えられる。

 

世界でも数えられるほどしかない。

この世界ではリフィルの『ストリーム』を入れて、見るのは2つ目だ。

 

「……驚いた。ユグドラシルにカタストロフはないはずだけど」

「ご安心を。やっていることはカタストロフ級ですが、これらの草木に力はありません。それゆえに、祖国ではエクセラ級として登録されています」

「へぇ」

 

マーガレット先輩の弩が強く光り輝く。

 

彼女は大きく飛び上がり、弩を斜め下に向けて構える。

その背後に、複数の矢が現れた。

 

狙いを定めた無数の矢が、雨のように降り注ぐ。

それをムースは木の巨大な根っこを目の前に出して防いだ。

 

しかしまだマーガレット先輩のつがえた矢は放たれていない。

その矢じりに赤い光が収束していく。

放たれたのは、火の魔法が付与された矢。

 

その矢は目にもとまらぬスピードで飛び、木の根に衝突する。

矢の威力と、燃え移る炎で木の根が溶けていく。

けれど、ムースには届かなかった。

 

マーガレット先輩は地面に軽やかに着地し、溜息を吐いた。

 

「すごい防御力だね。ここまでとは……っ!?」

 

そのとき、先輩は気づいた。

自分の靴に、ツタが絡まっているのを。

 

先輩は右手に火の玉を作り、それを地面にたたきつけた。

炎が絡みつくツタを焼き消していく。靴も一緒に燃えているが、構わないのだろう。

 

「え?」

 

私は思わず声に出してしまった。

ムースがマーガレット先輩の近くまで走ってきていたからだ。

その靴の下には草が生い茂っていて、足音を消す役割があるのだと分かった。

 

「えい!」

「え?」

 

ムースは杖を振り上げて、それを力の限り振り下ろしたのだろう。

しかしその動きはあまりにも鈍重で、マーガレット先輩は思わずその攻撃を手で受け止めた。

 

(実技が全然ダメなのは原作と同じか)

 

そう思った次の瞬間、ガクンッとマーガレット先輩の右足が沈んだ。

急な地形変化に体勢を崩したことを見逃さずに、ムースは仕掛ける。

口が素早く動き、なんらかの魔法を唱えようとする。

 

しかし途中で慌てたように後ろに下がって尻もちをついた。

さっきまでムースが居たところに、矢の雨が降り注いだ。

おそらくとっさにマーガレット先輩が放ったのだろう。

 

これでさっきと形成が一気に逆転した。

マーガレット先輩はその隙を見逃さずに、手に風の剣を握る。

そしてムースに接近しようとしたときに、急に大きな根が地面から生えて2人を隔てた。

 

その根は地面から出てくるたびに大きくなり、マーガレット先輩は慌てて距離を取る。

次の瞬間、その根が光へと還っていく。

ただの魔力となり、空へと昇っていく光。

 

そしてその向こうに、緑色の螺旋が収束する。

風の上位魔法「ストリームランス」

 

まるで巨大な槍のように、先端を鋭くした風の凶器。

ダメ押しとばかりに彼女の足にツタが絡まり、身動きを封じた。

 

「……なるほどね」

 

しかし、マーガレット先輩は慌てなかった。

ゆっくりとしゃがみ、弩を天に掲げる。

弩を光が包み、次の瞬間、彼女の身長を軽く超えるような巨大な弩が現れた。

 

マーガレット先輩はそれを地面に降ろす。

それは弩ではなく、もはや城壁を破壊するようなバリスタだった。

 

巨大な槍のような矢に、黄色い光が収束していく。

地属性の魔力がどんどん集まる。

 

先に放たれたのは、ムースの風の槍。

それに少しだけ遅れて放たれたマーガレット先輩の弾は、ストリームランスと衝突する。

2つはお互いを喰いあうように、じりじりと一進一退を繰り返す。

 

やがて衝突した場所で爆発が起き、2つの魔法は掻き消えた。

 

「そこまで!」

 

爆風が晴れた時、その中にはいつの間にかアイリス先生が立っていた。

 

「マーガレットのルール違反で、ムースの勝ちとする!」

 

アイリス先生の言葉で、試験が終わった。

流石にあの巨大なバリスタでの攻撃はルール違反だったのだろう。

アーク、ルナと敗北だったので、勝利したのはムースが初だ。

 

「ムースさん、すごい魔法だったね。とても準備舎の生徒とは思えないほどだよ。ルール違反と分かっていても、対応するしかなかった。私の負けだ」

「ありがとうございます。ですがあれでもまだマーガレット先輩は本気ではなかったはずです。次はさらに引き出せるように頑張ります」

「そうだね。次はルールなしでやりたいものだ」

「やめろ。試験を根本から否定しない」

 

アイリス先生はマーガレット先輩の横腹を軽く叩くと、そのまま手に持った紙を見た。

 

「残りはエヴァとロゼリアか。この2人に関しては、マーガレットではなく別の生徒に相手をしてもらう」

(このタイミングかぁ……)

 

なんとなくわかっていたものの、苦笑いを押さえられない。

 

アイリス先生の言葉で、一人の女子生徒が前に出る。

私たちと同じ戦闘着を身にまとっているが、ラインの色がマーガレット先輩と違う。

 

「最初はエヴァ対セリアだ」

 

エヴァラス最大の良心が、私の対戦相手らしい。



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第26話 私の課題【エヴァSide】

ムースの試合を見た私は、先ほどの魔法のことを考えていた。

最後にムースが放ったあの魔法は、「ストリームランス」

風の上位魔法で、学園はおろか、魔法師団でも使える人が限られる。

 

原作のエヴァラスにも存在するが、習得難易度が高い。

周回プレイを考慮しないなら、学園編から風の魔法をひたすら訓練して、それで卒業後編の最後の方でようやく使えるようになるくらいだ。

 

確かにムースは主人公のウリアより遥かに魔法の才能に恵まれている。

しかしライバルキャラの中ではムースはミストを除けば最弱の立ち位置になる。

唯一ライバルキャラとの対戦で勝つことができそうな立ち位置だ。

まあ、それでも勝つのは周回プレイ前提なのだが。

 

今のムースは原作のムースとは性格も言動もテスタロッサも違うので、転生者なのは間違いない。

だからといって、あそこまでの魔法を習得することができるのか?

ユウリィを仲間に引き入れても構わないような発言と合わせると、今のムースには不思議な点が多すぎる。

 

少し警戒して様子を見る必要性がありそうだ。

 

「最初はエヴァ対セリアだ」

 

アイリス先生の言葉で、現実へと思考が戻ってくる。

彼女もトリリアントでこの学園でトップクラスの実力者なのだが、今の問題はそこではない。

 

対戦相手であるセリア・ラーグウェイ。

原作では、彼女とは学園で初めて出会う。

主人公ウリアの1つ上の学年で、2年生で第1寮の寮長だ。

 

学園の寮長は、その寮で一番優秀な人物が就任する。

そのため普通はマーガレット先輩のような3年生が選ばれる。

にもかかわらずセリアが選ばれるのは、単純に彼女が強すぎるからである。

 

『エヴァラスの良心、セリアさん』

 

その言葉は某掲示板でずっと書かれていたことだ。

エヴァラスは卒業後編のRPGパートで4人のパーティを組むようになる。

 

主人公のウリア、攻略対象、ユウリィ、そして最後が部隊長であるセリアである。

セリアは最後の最後まで生き残るキャラであり、数々の強敵とも渡り合える。

 

学園においてはロゼリアという例外がいるものの、ロゼリアを除けばセリアが突出して強い。

それはRPGパートで一人だけステータスが高いことからも明らかだ。

 

彼女が良心と呼ばれるのは単に強いからというだけではない。

なんと彼女は主人公のウリアを差別しない。

むしろ頑張っているウリアにさまざまなアドバイスを与えたりしてくれるのである。

 

ゲーム発売当初こそユウリィが評価されていたが、時間が経つにつれて神キャラはセリアなのでは?という意見で溢れたくらいだ。

 

「よろしくお願いします。エヴァさん」

「よろしくお願いします。セリア先輩」

 

紫の長い髪を風に揺らし、15歳とは思えないプロポーションを持つ美女。

性格も容姿も実力も完璧な彼女とは、準備舎では戦わないはずだ。

 

ここで彼女が出てくるということは、おそらく私とロゼリアのせいだろう。

もう原作の流れをなぞることはできないが、セリアとこのタイミングで戦えるのは嬉しい。

 

「2人とも準備はいい?セリアは事前に伝えた魔法と固有能力は使用禁止だ。それじゃあ、始め!」

「おはよう、オーバーライト」

 

お姉様と同じ言葉でオーバーライトを起動する。

セリアも同じように愛用の剣を起動させた。

 

エクセラ級のテスタロッサ『スターダスト』。

真っ黒な刃に白い線が数本走っている。

 

セリアは剣を構え、恐ろしいスピードで駆けだした。

速く、隙が無い。

それに対して私はオーバーライトの能力を発動。

 

一瞬でセリアの背後に移動し、そのまま振り向きざまに一太刀を浴びせようとする。

しかしセリアはそれを見ることもなく背中に剣を回して防いだ。

そのまま体を縦に回転させ、剣ごと弾いてくる。

 

セリアはそのまま体の向きを変え、バックステップで距離を取る。

 

「瞬間移動能力ですか。でも何度も使えないみたいですね」

「……今ので決めたかったんですけど」

「それは無理ですよ。それに嘘を言われましても」

 

セリアの言葉に内心で舌打ちをする。

私も幼い頃から訓練は欠かさなかった。

 

けれど、セリアに対して余裕をもって勝てるほどは成長していない。

よくて、よい勝負ができるくらいか。

 

オーバーライトに火の魔力を通し、私は駆ける。

その行動を、セリアはただ見つめているだけだった。

左手を動かし、火の短剣を作り出し、投げる。

 

もちろんセリアには届かず、全てを一振りで叩き落された。

ここまでは想定内。剣を振り上げ、力の限り振り下ろす。

 

しかしセリアはその動きに合わせて剣を動かし、防いでくる。

かかった。

 

「ここ!」

 

一気に剣に魔力を流し、刀身を激しく燃え上がらせる。

力に任せて押しつぶそうとしたが、すぐにセリアは対応してきた。

 

「水よ」

 

その言葉でセリアの刃を水が包む。

力任せに押し勝とうとしたものの、失敗した。

 

次の瞬間腹部に衝撃が走り、私は吹き飛ばされた。

セリアが一瞬の隙を狙って、掌底を打ち込んできたのだ。

 

吹き飛ばされた私はすぐに態勢を立て直すが、直後に嫌な予感がして、後ろに跳んだ。

さっきまで私が立っていた場所に、投擲されたスターダストが突き刺さった。

 

さらにそれに呼応するかのように、石の槍が地面から突き出し、私を傷つける。

いつの間にか飛び上がっていたセリアは、落下と同時に右手のひらをスターダストの柄に叩き込む。

 

「まずっ……!」

 

石の槍が出てくるときにできた地面のひび割れから、火の粉が一気に噴き出した。

私は体にやけどを負いながら、距離を取ろうとする。

しかしセリアはそれを逃さない。

 

再び剣を握った彼女は地面から剣を抜き、それを横薙ぎに振るう。

突風が、まだ出ていた火の威力を上げ、私に襲い掛かってくる。

 

「させない!」

 

私もオーバーライトを振るい、火の魔法でその火の粉を防ぐ。

しかし、次の瞬間には空から降り注いだ無数の光の槍が、私の体を貫いた。

これは……無理……っ!

 

オーバーライトを杖にするように地面に突き刺す。

私は光の槍で身動きが取れない。

致命傷は外れているが、それは外されたからだ。そのことを、私はよく分かっていた。

 

「そこまで。勝者セリア!」

 

結果は、セリアの勝ち。

勝利宣言と共に光の槍が消える。

 

私はテスタロッサを待機状態に戻し、その場に座り込んだ。

負けた……か……。

 

「戦闘センス、威力、どちらも共に申し分ないです。ただ、火の魔法にこだわりすぎていますね。そこくらいが改善点でしょうか」

 

私の元に近づいてきたセリアがそう告げる。

それは、私自身もよく分かっている欠点だった。

エヴァは元々ステータスの伸びが偏ったライバルキャラだった。

 

いつどのタイミングでも、彼女は火の魔法しか使わない。

だがそれはセリアみたいなオールラウンダーからすれば、対処しやすいということだ。

 

「ありがとうございました」

 

座ったままだが、頭を下げる。

これでしっかりとした課題が分かった。

そしてそれに対する解決策も、もう夏休みには当てがつきそうだ。

 

お礼を言って、立ち上がる。

私の試験が終わったので、これで残っている試験を受ける生徒はあと一人だけ。

その一人に視線を向けると、彼女は微笑んだ。

 

余裕そうでちょっと腹が立つが、私としては興味がある。

原作では一度も戦わない2人の戦いからは得られるものも多いはずだ。

 

集団に戻り、それに入れ替わるようにロゼリアが進み出る。

彼女はセリアと対峙するように、位置についた。

 

「それじゃあ最後。ロゼリア対セリア。……まあ、なんとなく分かってると思うけど、今年だけ成績優等生を別会場にしたのはロゼリアの影響だ」

「あら、それはお手数をおかけしました。なら、それに見合うだけの試験結果は出して見せます」

「お手柔らかに頼むよ」

 

アイリス先生は苦笑いでロゼリアに言う。

原作でチートとも言われたロゼリアと、原作で最後まで死ぬことのないセリア。

公式の設定によれば、どちらも全ての魔法を十分に使いこなすオールラウンダーだ。

 

某掲示板ではセリアはロゼリアの下位互換という言葉が多かったが、ロゼリアの最終的なステータスが不明なので結局決着はつかなかった。

今の時点での勝敗になるが、その決着がつく。

 

心なしかルナもミストもムースも食い入るように戦いを見つめていた。

それはもちろん私だって同じ。

 

「それではロゼリア対セリア、始め!」

「覚醒せよ。R・O・F(リング・オブ・フェイト)」

 

原作において、ライバルキャラのテスタロッサは判明している。

ルナなら月光花、エヴァならオーバーライトだ。

 

彼女達は負けイベント戦にて、必ずこれらのテスタロッサを使用する。

しかしロゼリアだけは使用しない。

使用できないのではなく、しないのである。

 

これは主人公がテスタロッサを持っていても変わらない。

ロゼリアはその圧倒的なスペックで主人公のウリアをテスタロッサなしで完封するのだ。

ロゼリアの強さはそれにもかかわらずライバルキャラの中でぶっちぎり一位である。

彼女の強さがうかがえる。

 

そんな彼女の今世で初めて見たテスタロッサ。

 

それは大きな光輝く円。

それがロゼリアの背中に翼のように浮かんでいる。

その円には2つの鎖が繋がれ、それがロゼリアの持つ双剣のそれぞれの柄に結び付いている。

 

鎖と大きな円は小さな円で繋がれていて、外れそうはなかった。

間違いなく、エクセラ級。下手したらカタストロフ級の可能性もある。

異質なテスタロッサの登場に、セリアも驚いているようだ。

 

だがそこは秀才。すぐに凛とした表情に戻り、スターダストを構える。

一目も離せない戦いが、始まった。

 



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第27話 最強のライバルキャラ【エヴァSide】

ロゼリアとセリアの戦いが始まった。

2人は距離を取ったまま見つめあい、動かない。

出方をうかがっているのかと思ったが、違う。

 

ロゼリアは仕掛ける気がないのだ。

ただ笑みを浮かべたまま、セリアを待っている。

 

それはただの生徒ならば油断と捉えただろう。

しかしロゼリア相手ならば、話は変わってくる。

 

結局のところ、先に動いたのはセリアだった。

剣を逆手に持ち、それを地面に突き刺す。

 

さっきと同じく、地面から石の槍が飛び出す。

一つ一つが速く、鋭い。ただの生徒相手ならば、この魔法だけでも勝敗が決してもおかしくない。

 

しかしその石の槍は透明な障壁に阻まれた。

ロゼリアの展開した防御魔法はヒビが入るどころか、少しも揺らぎはしなかった。

 

ゲームでの彼女の適性は同年代で突出して高い。

攻撃も防御も、隙などありはしない。

下手な魔法師団の隊員よりも、今のロゼリアの方が強い。

 

「今度はこっちの番です」

 

右手の剣をセリアに向けて、ロゼリアはそう言った。

空間に存在する風の魔力が動きを変える。

 

ロゼリアが持つR・O・Fの右の剣先に、風の魔力が集まっていく。

刃が緑色に光輝き、その先に魔法陣が展開。

あれは。

 

「ムースさんばかり評価されるのも、心外ですし」

 

そう言って微笑んだロゼリアは、ムースが使ったのと同じ魔法を放った。

まるで巨大な風の槍のような風の高位魔法「ストリームランス」。

まあ、ムースに使えるんだから、ロゼリアにも使えるだろう。

 

ムースのものと同じサイズのそれが、セリアめがけて飛来する。

近づくだけで吹き飛ばされる、水平方向の竜巻。

正面から受け止めるのは、あまりにも無謀すぎる。

 

そう思ったであろうセリアはそれを高くジャンプして避ける。

判断としては正しい。正しすぎる。

 

ロゼリアにとってそれを予測するのが何の問題もないくらい、正しい。

次の瞬間には上空に紫色の魔法陣がいくつも展開した。

 

ロゼリアは魔法も、実技も強い。だが彼女の本当の強みはその洞察力にある。

訓練をすればするほど、ロゼリアには勝てなくなる。

彼女に情報を与えることは、彼女を勝たせることに他ならないからだ。

 

なら、原作キャラであり、プレイアブルキャラであるセリアのことなど知り尽くしているだろう。

 

ロゼリアは風に髪を靡かせながら、左手の剣を地面に突き刺す。

その様子を見て、とっさにセリアは地の魔力で防御を固めた。

けれど、見るだけでわかる。あれでは、国内最強は防ぎきれない。

 

大きな雷が落ちる。風と火を融合させた、強力な魔法。

その雷はセリアの防御をまるで紙のように貫いた。

純粋な魔力でのゴリ押し。防御を固めるなら、それ以上の攻撃をすればよいという、明確な答え。

 

結果、セリアは防ぎきれずに地面に叩きつけられた。

雷が追い打ちのようにセリアの体に降り注ぐ。

土ぼこりが舞い、地面に紫電が走る。やりすぎと言えるほどの、魔法の暴力

 

しかしそれでも、彼女はまだ戦えた。腕をゆっくりと動かし、体を起き上がらせる。

剣を杖にして、立ち上がろうとする。

 

この状態でも立とうとするあり方は、流石原作での生き残りと言えるだろう。

けれどロゼリアはそれすら許さない。

 

戦うなら徹底的に。

ロゼリア・フォン・エディンバラの代名詞である冷酷無比という言葉を思い出したとき。

セリアの周囲を、8対の光の剣が取り囲んでいた。

 

それはそれぞれがセリアの首に狙いを定めて浮遊している。逃げ場などない。

圧倒的な質、そして圧倒的な量をもって、ロゼリアは勝負を決めきった。

 

「……負けました。……制限付きの試験では手も足も出ませんね。」

 

セリアは悔しそうにつぶやく。

たった3手。たった3つの魔法。それだけでロゼリアは勝利した。

彼女は剣を使わなかった。純粋な魔力だけで、打ち勝った。

 

セリアの制限がなければここまで一方的にはならなかっただろう。

それでも戦いを見る限り、勝者は変わらない気がする。

 

少なくともそのくらい、2人には絶対的な差があった。

そしてそれは、私も同じ。

 

(こりゃあ、追いつくのは大変だ)

 

優雅に帰ってくる皇女殿下を見ながら、私は内心で溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、お疲れさまでした。試験ではありましたが、先輩たちとの戦いで色々と得られるものはあったはずです。同時に先輩たちも、後輩から学べるところもあったでしょう。これからも精進してください」

 

ベリアル学園長のあいさつが終わり、解散ということになる。

終わった瞬間、私はお姉様に突撃した。

 

「お姉様!試験どうだった?」

「わっ!エヴァ……うん、勝てたよ。って言ってもセレン先輩がルール違反だったから、ちゃんと勝ったわけじゃないけどね」

 

お姉様は突然のことにもかかわらず、私のことを受け止めてくれた。

暖かさが体を包み、ホクホクした気持ちになる。

結果としてお姉様の言葉を理解するのに少し時間がかかってしまった。

 

「え!?お姉様、勝ったの!?すごい!すごいよ!」

「ふふ、ありがとう。エヴァのおかげだよ」

 

原作でセレン先輩は出てこないので、どのくらい強いのかは分からない。

けれど、エディンバラ学園の3年生で模範生なのだから、実力は十分だろう。

そんな先輩を相手に、試験とは言え勝った。

 

お姉様の成長を実感できて、まるで教え子が成功したようで、嬉しい気持ちになった。

様子を見る限り、モブ達やユウリィから何かをされた様子はない。

とりあえずは一安心だろう。

 

(……まあ、モブ達は何か思うところがあるらしいけどね)

 

遠くでお姉様を睨みつけるモブ達を視界の隅に入れる。

そのまま視線を外し、私はお姉様と一緒に訓練場を後にした。

 



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第28話 友だちのつくりかた

季節が進み、夏が訪れた。

気温が一気に上がり、制服が夏服になっても、汗をうっすらとかくような季節。

私は学園の寮のベランダの椅子に座って、外を見ていた。

 

準備舎は夏休みだ。

アルトリウス家に帰ることも考えたけれど、夏休みは長いので、後半だけ帰省することにした。

のだが……。

 

「暇……」

「お嬢様……毎日言っています」

 

後ろに立つリフィルさんに、ついに言われてしまう。

そう、暇なのだ。こんなことならアルトリウス家に帰省すればよかった。

とはいえあの家はリリスさんくらいしか味方が居ないのだが。

 

色々と予想と違っていたことも理由の一つだ。

ルナとムースさんは自国に帰省してしまったし、ミストは自室にこもっているのがほとんどだ。

たまに部屋に遊びに行くが、毎日押しかけるのは迷惑だろう。

 

ロゼリアさまは公務もあるらしく、寮にはいない。

そしてエヴァに関しては、なんと夏休みが始まってから所在が不明なのだ。

一応彼女専属の侍女であるララさんも同行しているらしいので、心配はないらしいが。

 

夏休み初日に起きて、エヴァの書置きを見たときには焦った。

リリスさんに連絡してみると、アルトリウス家にも帰ってきていないらしい。

どこで何をしているのだろう。

 

「エヴァ様がお嬢様の近くに居ないのは珍しいですね」

「実はそうでもないですよ。リフィルさんは知らないと思いますけど、子供の頃はよく居なくなって屋敷が騒がしくなってました。いつの間にか帰ってきていたんですけどね」

「お嬢様、前から言っているのですが、私は侍女です。敬語もさんづけも不要です」

「いや……なんかもう癖みたいな感じなんですよね。リフィルさんを呼び捨てにするなんて、そんな」

 

そもそも元軍人で私よりも年上のお姉さんであるリフィルさんにそんな態度はとれない。

しかしリフィルさんは納得いかないようで、ことあるごとにさん付けと敬語を辞めることを要望してくる。

今回もリフィルさんはむっとした顔をした。

 

(これはまだまだ言われそうだな)

 

そう思っていると、リフィルさんは私の前に回ってきた。

足を私の椅子の空いているところに置き、逃げられないように手を顔の横に置いてくる。

リフィルさんの綺麗な顔が、目の前に近づく。良い匂いが、鼻をくすぐった。

 

「……いいじゃないですか。ウリアお嬢様?」

「ふわぁ!!」

 

耳元で囁かれ、私は真っ赤になる。

突然の行動に、頭がパニックになる。

 

顎を指でつかまれ、目線を無理やり合わせられる。

リフィルさんは私の唇をなぞりながら、微笑む。

 

「リフィルって、呼んでください」

「……リ、リフィル……」

 

大人の魅力に気おされ、私は思わず言われるがままにリフィルさんを名前で呼んでしまった。

リフィルさんは満足げに微笑むと、私から離れる。

 

「それではこれからはリフィルと呼び捨てにしてくださいね。お嬢様」

「!!??」

 

その瞬間、私はリフィルさんにからかわれたことを悟った。

 

「からかったんですか!?」

「申し訳ありません。でも、リフィルと呼び捨てにしてほしいのは本当ですよ」

 

リフィルさんがクスクスと笑う。

その余裕そうな態度が不満だった。私はこんなにもあたふたしているのに。

 

「むー!もう知りません!食堂にでも行きますよ、リフィル!」

「!。はい、お嬢様」

 

腹いせにリフィルと呼び捨てにすると、彼女は嬉しそうに笑った。

結局は言うとおりにしてしまう自分が悔しいけれど、リフィルが嬉しそうだから、まあいいか。

 

「……もう少しあのままでもよかったでしょうか」

 

少し離れていた私にはリフィルの危ない発言は届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準備舎の食堂に入り、お昼ご飯を注文して食べる。

リフィルの分も一緒に注文した。

侍女の分に関しても、要望があれば作ってくれるのは良いことだ。

 

とはいえ、食堂で侍女と一緒に食事を食べる人は少ない。

準備舎はそもそも生徒同士の交流の場であるためだ。

連れてきているのは、私くらいだろう。

 

今も周りから視線を感じる。

私たちのグループはクラスのみならず、準備舎全体で有名だ。

特に私は、よくない理由で名前が知れ渡っていた。

 

「ふむ。やはり食堂のご飯は美味しいですね」

「リフィル、よくこの状況で食べられますね……」

 

リフィルは満面の笑みで昼食を食べていた。

聞いた話によると彼女は家族からもあまり良い感情を向けられていなかったらしい。

一時期の私のように、あまり食べるものがなかった時期もあったのだとか。

 

「敬語も外してほしいんですけどね。……まあ、私は気にしません。周りにいる何もしてくれなかった人より、たった一人の救ってくれた人の方が大切ですから」

「あはは……」

 

リフィルはそう言っているが、私は何か特別なことをしたわけじゃない。

ただ話に乗って、彼女の心配をしただけ。

 

「ウリアくん、こんなところで奇遇だね」

 

声が聞こえたので首だけを向けると、ユウリィさんが立っていた。

その手にはお昼ご飯のトレイが。

 

彼女はそのまま、私の隣の席に座った。

侍女を連れていない人で、私に食堂で近づくのはこの人だけだろう。

私は、ユウリィさんがあまり好きではない。

 

「今日はエヴァくんは居ないのかい?」

「はい。いません」

 

食事をとりながら、ユウリィさんは他愛のない話をしてくる。

いや、他愛のない話ではなく、私に近づくために私の周りの人を話題にしている印象だ。

ユウリィさんは口調はミストと似ているものの、こういったところが彼女とは全く違うところだ。

 

なるべく早く彼女との会話を切り上げたい。

そういった意味では先に食べていて良かった。

 

「そういえば、ロゼリア殿下はセリア嬢に勝利したらしいですね」

「あ、そうなんです。エヴァから聞いた話ですけど、すごい戦いだったみたいです」

「勝利と言えば、ウリアくんだってセレン先輩に勝利したじゃないか」

 

リフィルと話していると、ユウリィさんが話に割って入ってくる。

以前からたまに絡むことがあったけれど、どんな話題でも私の話題に変えてくるので、最近はちょっと引いている。

悪い人ではないんだろうけど、私の気を引きたいっていう思惑が目に見えているというか……。

 

リフィルもそのことを知っているので、彼女もユウリィさんを無視して話を進める。

 

「師匠としては微妙なところですけどね。あのセリア嬢相手に圧倒だと、本当に近いうちに抜かれそうです」

「セリア先輩ってそんなに強いんですか?」

「ウリアくんだって成長しているじゃないか」

 

ユウリィさんがまた話に入ってくるけど、相手にしない。

 

「はい。セリア・ラーグウェイ嬢はお嬢さまの一つ上の学年で、同世代どころか学園内でも敵なしの人物です。お嬢様の世代がずば抜けているので見逃されがちですが、彼女もまた神童と言えます」

「そ、そんなにすごい人なんだ……って、セリア先輩って1年生ですよね?なのに実力派学園の先輩たちよりも上なんだ……」

「もし私と同じ時にこの学園に居たら、1、2を争っていたでしょう」

「え?リフィルはこの学園出身だったんですか!?」

「はい。準備舎には入っていませんが、学園では第2寮所属で、一応寮長でした」

 

エディンバラ学園における寮長はその学園の寮内で最も強い人が選ばれる。

それを務めていたということは、学生のころからリフィルは優秀だったのだろう。

 

ひょっとしたらと思っていたけれど、リフィルもすごい人だった。

リフィルと会話をしている間も、ユウリィさんは私の横で色々なことをしゃべっていた。

その言葉をもはや聞いてすらいなかったけれど。

 

「セリア先輩も、ロゼリア皇女も、適性が高くて羨ましい限りだけどね。ズルいと思わないかい?」

 

その言葉だけが、鮮明に耳に残った。

 

「なんでですか?」

「……え?」

「なんでユウリィさんはそういう事しか言えないんですか。いつもいつも私の話か、そうじゃなければ周りのみんなを悪く言うだけじゃないですか」

「それは……」

「私、ユウリィさんのそういうところが嫌いです。私だけを見て、私にだけ触れて、他は邪魔としか思ってない。私は私の周りの人だって好きなんです。もっと考えて――」

 

思わず強く言ってしまった。

しまったと思い、慌ててユウリィさんをみると彼女は目を見開いていた。

そのまま彼女は数秒硬直していたが、やがて頭を深く下げた。

 

「すまない。ウリアくんの言うとおりだ。君が君の周りの人を好いていたのは十分わかっている。けれど、結果として君を傷つけるようなことをした。深く謝罪する」

「そ、そこまで謝らなくても」

「いや、これだけは分かってほしい。僕は君に嫌われたくない。君の嫌がることはしたくない」

「どうして、そこまで……?」

 

正直、ユウリィさんの私への態度は異常だと思える。

彼女が私以外の人と話しているところを、私は見たことがない。

どうして彼女は、ここまで私に執着するのか。

 

「……僕は、ずっと友達がいないんだ。昔友達をなくしてから、怖くて作れないんだ。友達の作り方も、もう忘れてしまった。でもウリアくん達を見ていると昔の僕たちみたいに笑い合っていて……羨ましくなったんだ。だから……」

 

あぁ、そうか。

この人は不器用なんだ。ただ準備舎で一緒に過ごす友達が欲しかっただけなんだ。

けれどそれを言い出せないから、ただ私の機嫌を損ねないように話してたんだ。

 

「それなら……そんなこと言ったらだめです。友達になりたい人に、ユウリィさんの昔の友達を否定されたら、どう思いますか?」

「そんなの嫌に……あ……」

「そういうことです」

「ご、ごめん……ウリアくん……」

 

ユウリィさんは正直に頭を下げた。

 

「もっと言うと、お嬢さまの話に対して全く関係のない話をするのもダメです。友達というのは一緒に居て楽しいことを指します。あなたのように、一方的に意見を押し付けたり、誰か一人の機嫌を取るための集団ではありません。まあ、機嫌を取る対象がお嬢様なのは文句なしですが」

 

いや、文句しかないよ。

リフィルはそう言ってユウリィさんに釘をさす。

その言葉を、ユウリィさんはしっかりと聞いていた。

 

目線は下がっているものの、しっかりと頷いている。

その姿を見て、あの嫌な感じはなくなっていた。

今の彼女ならば。

 

「ユウリィさん、私と友達になろう?他の皆には私から説明するから」

「い、いいのかい!?」

「うん、でも他の皆と喧嘩しちゃダメだよ?ちゃんとみんなと向き合ってね?」

「も、もちろんさ!」

 

捨てられた子犬のようだったのでつい手を差し伸べてしまったのだが、エヴァ達になんと説明しようか……。

 



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第29話 天才技師はご飯を食べない

ユウリィが食べ終わるのを待ち、私、ユウリィ、リフィルの三人でミストの部屋へと向かう。

私の手には、お昼ご飯が乗ったお盆がある。

ミストはよく食事を抜く。

 

わざと抜いているのではなく、気づいたら食事の時間が過ぎているのだ。

テスタロッサ調整の天才であるミストは集中力が高く、よく夢中になってしまう。

 

そのため、私がミストの部屋に食事を持っていくことが多々ある。

今回も、その一環ということだ。ちなみにほぼ毎日行っている。

 

ミストの部屋に到着し、一応ノックをする。

とはいえ返事がないのはいつものことなので、扉を開けて中に入る。

 

ミストは部屋の奥で何か作業をしていた。

彼女は一人部屋なので、他に生徒は見当たらない。

 

エディンバラ学園準備舎の寮は1人部屋と2人部屋がある。

基本的には2人部屋になるが、皇族であるロゼリアさまや、ミストのように集中したいという生徒に関してはお金を多く払うことで1人部屋を使えるらしい。

ちなみに私はエヴァと2人部屋だ。

 

部屋の隅にはミスト付きの侍女さんが立っていて、私を見ると深く頭を下げてきた。

アルトリウス家が雇っている侍女さんで、ミストが選んだ人だ。

確か名前はマリーだったはずだ。

 

エヴァの侍女のララさんと同じく、私のことを悪く思わない人だ。

というよりも、そういった人を選んでいるとミストからは聞いている。

 

「ミスト、ご飯持ってきたよ」

「あぁ、ウリア君!すまないね、集中していてお昼を過ぎていたと気づかなかったよ!マリー君、どうして教えてくれなかったんだい!?」

「教えましたし、体にも触れましたし、なんなら腕も叩きましたが無反応でした」

 

ミストの言葉にマリーさんは無表情で答える。

あまり表情に変化がないマリーさんだけど、侍女としての仕事はばっちりらしい。

 

「え?仮にも主人のこと叩いたの?」

「私はアルトリウス家の侍女であり、ミスト様の侍女ではありません。それにウリア様やエヴァ様ならともかく、テスタロッサ馬鹿であるミスト様に敬意はありません」

「テスタロッサ馬鹿っていうな!ただ好きなだけだよ!!」

「いえ、馬鹿です」

 

マリーさんと軽口をたたき合いながらも、ミストは席について食事を始める。

 

「聞いてくれよウリア君、マリー君はいつもこうさ。もちろん、変に気を使ってくるよりはいいけどさぁ。最近は僕への扱いが雑なんだよね。侍女交換してくれない?」

「そうですね、私もこんなテスタロッサ馬鹿はお断りです。ウリア様は優しいですし、可愛いですし、侍女になれば――いえ、なんでもありません」

「は?何だよ急に――」

「ミスト様」

 

恐ろしいほど低い声が響き渡る。

ちらっと見るとリフィルが微笑んでいた。けれど、目はまったく笑っていない。

 

「それはつまらない冗談です」

「……え、あ、ご、ごめんなさい」

「マリーさん」

「は、はい!」

 

リフィルはマリーさんに顔を向け、笑みを一瞬で消した。

 

「ウリア様の専属侍女は私です。そこをお忘れないように」

 

無表情でそう言われ、マリーさんはコクコクと頷いた。

顔が青くなっている。

 

「と、ところでユウリィ君と仲良くなったのかい?」

 

このままではまずいと思ったらしく、ミストが話題を変えてくる。

私は後ろにユウリィがいたことを思い出した。

 

「うん、ちょっと話をしてね。お互いに勘違いしているところがあったから、そこを話し合って、友達になったんだ」

「へぇ、まあウリア君が良いならいいと思うよ。よろしくユウリィ君、僕はミストだよ」

「う、うん、よろしくミストくん」

「…………」

 

ユウリィと挨拶をして、ミストは黙り込んだ。

なにかあったのか?そう思ったが。

 

「……ユウリィ君、テスタロッサを僕に預けてみないかい?最高の調整をお約束するよ」

「……じゃ、じゃあお願いするよ」

 

ユウリィはそう言っておずおずと指輪を差し出した。

白のフレームに、白い宝石がはまっている、純白の指輪だ。

 

ミストはそれを手袋をはめて受け取ると専用の台に置き、さまざまな角度から指輪を眺める。

うんうんと頷きながらじっくりと眺めている。

 

「コモン級なんだね。コモン級で待機状態が指輪なのは珍しいねぇ」

「……そうなのかい?他の人は基本的にアド級だから、よく分からないんだ」

「能力は全能力向上かな?オーソドックスだね。まだ調整は必要なさそうだね。この感じだと、秋くらいに持ってきてもらえればちょうど良いと思うよ」

「ありがとう、ミストくん」

 

指輪を返しながら、ミストはそう言う。

返し終わると、まだ途中だった昼食に手を付け始めた。

 

「ウリア君はこの後どうするんだい?」

「まだ昼過ぎだし、図書室にでも行こうかなって。ユウリィも行く?」

「いや、僕はちょっと用事があるから今回は遠慮しておくよ」

「なるほど……昼食ありがとう。マリー君、悪いけどトレーを食堂に返しておいてくれ。ウリア君、いつもすまないね。準備舎が始まったら、しばらく昼食をおごらせてくれ。それじゃあ」

 

そういうとミストは作業に戻っていった。

マリーさんは溜息を吐きながらトレーを食堂に持っていく。

 

この状態になるとミストは声に反応してくれない。

とはいえ一応、音を立てないように扉を閉めて、部屋を後にする。

 

その場でユウリィと分かれ、私はリフィルと一緒に図書室へ向かう。

準備舎の図書室は図書室と言われているが、実際には図書館と言っても差し支えないほど広い。

 

図書室に到着し、扉を開けると、たくさんの本が出迎えてくれた。

ありとあらゆる書物が格納された図書室だが、規模は学園のよりも小さいというのだから驚きだ。

 

たまにここには来る。今日もまた、面白い本がないかなと思っていたところだ。

図書室の奥に入り、色々な本を見ていく。

良い本があればいいなぁ、と思っていたのだが。

 

ふと、足に本が当たった。

こんなところに本を落としておくなんて、礼儀がなってないな。

そう思い、拾い上げようとすると、その本以外にも本が落ちているのに気付いた。

 

というよりも、その本を見ると、さらに別の本が落ちているのに気付く。

そうやって目線を動かしていくと、目の前に信じられないものが現れた。

 

本の山。恐ろしいほど積み重なった本が、山をなしていた。

その前に、本を読んでいる少女がいる。

梯子を立てかけて、その真ん中に座って読んでいた。

 

「え?え?え?」

 

あまりに現実離れした光景に、私は思わず、声をあげてしまった。

 



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第30話 特殊な目を持つ少女

あまりの光景に、声をあげたのがいけなかった。

梯子の上で本を読んでいた少女は私のことに気付き、驚いた。

 

その驚きで彼女はバランスを崩した。

絨毯の敷かれた床に落ちていく。

 

「リフィル!!」

 

とっさに叫ぶと、リフィルは風の魔法で対応してくれた。

落ちる少女を風が包み、優しく絨毯へと降ろす。

 

私は少女に駆け寄って、手を差し伸べた。

 

「だ、大丈夫ですか?すみません、急に手を差し伸べてしまって」

「あ……ああ……」

 

手を差し伸べるときに、少女と目が合った。

珍しいピンクの瞳が、私を見つめていた。

 

遠くから見たときには眼鏡をかけているように思えたが、落下するときに外れてしまったらしい。

 

少女を起こして、その近くに落ちていた眼鏡も拾って渡す。

彼女はそれを慌てて掛けた。眼鏡をかけた姿に、見覚えがあった。

 

「あれ?同じクラスの……」

「あ、はい。オリーフィア・イグネアスと申します。危ないところを助けていただき、ありがとうございます。あの……なんともないんですか?」

 

そうだ、同じクラスのオリーフィアさんだ。

濃い紫の髪で目を隠した、いかにも文学少女な生徒。

貴族だが、8歳の懇親パーティでは会話をしたことがない。

 

また、クラスでもあまり人と関わるタイプではなく、一人でいることが多かったはずだ。

助けたときは眼鏡をはずしていたので、気づかなかった。

 

それにしても、なんともないというのはどういうことだろうか。

 

「え?な、なんともないですけど。なにかあるんですか?」

「…………」

 

私の問いかけにも答えず、オリーフィアさんはじっと私を見つめてくる。

その目はキラキラしていて、頬はすこし赤くなっていた。

まるで運命の相手に出会ったかのように熱に浮かされていた。

 

「あ、あの……とても失礼なんですけど、ウリアさんは適性が低いというのは本当なんですか?実はとても高かったりしませんか?」

「え?はい?」

 

最初の一言だけなら馬鹿にしているのかと怒るとこだが、その後に実はとても高かったり、と言われると正直戸惑う。

他の皆に知れ渡っているように、私は適性が低い。

 

「オリーフィアさんが知っているように、私は適性が低いですよ。別に高いことを隠しているわけではありません」

「あ、長いのでオリーでいいですよ。本当ですか?ならウリアさんはやっぱり……」

「失礼します。オリーフィア嬢、あまりにも失礼ではありませんか?」

 

今までやり取りを見守っていたリフィルが口をはさむ。

その言葉を聞いて、オリーさんは目に見えて焦り始めた。

 

「ち、違うんです!ウリアさんの悪口を言うような気持ちは一切ないんです!あの……その……秘密にしていただきたいんですけど、私、魔眼持ちなんです」

「魔眼?」

 

初めて耳にする言葉に、首を傾げる。

すると、すぐにリフィルが説明をしてくれた。

 

「特殊な目のことを魔眼といいます。持っている能力は魔眼次第ですが、発動条件は主に目を合わせることのはずです。オリーフィア嬢、あなたの魔眼はなんですか?返答次第では対処しなくてはなりません」

「わ、私の魔眼は……魅了です」

 

その瞬間、リフィルが右手にストリームを展開した。

慌ててそれを止める。

 

「ま、待って待ってリフィル!!わ、私なんともないから!」

「しかしお嬢様、魅了の魔眼は前例がありません。本人が意識しないうちにかかっているかもしれません」

「ち、違うんです!ウリアさんは通用しない人なんです!」

 

オリーさんは大声でリフィルの意見を否定する。

 

彼女によると、目を合わせると魅了が発動するのは間違いないらしい。

同性、異性問わず、目を合わせた瞬間からオリーさんが好きで好きでたまらなくなるらしい。

 

目を長い間合わせると、なんとしてもオリーさんを手に入れたくて仕方なくなってしまうらしく、彼女は家でも疎まれていたのだとか。

長い前髪や、眼鏡や人を寄せ付けない行動は、すべて魔眼のせいなのだという。

 

「魔力量が多い人には効きが悪いのですが、裸眼で目を合わせて大丈夫な人なんて今まで居ませんでした。ウリアさんが初めてなんです」

「えぇ?気のせいでは……?」

「いえそんなわけありません!この目のせいで誰とも友達になれませんでした!いつかこの目が台無しにすると思うと怖くて……でもウリアさんは違うんです!」

「う、うん……」

 

手を握って必死に訴えてくるオリーさんに、気おされてしまう。

けれど彼女が本気で私に感謝しているのは伝わった。

 

「オリーフィア嬢、お手数ですが、眼鏡をかけた状態で私と目を合わせていただけますか?」

「え?で、でも魔力が少ない人と目を合わせてしまうと、眼鏡越しでも――」

「大丈夫です。私の適性は平均Sですので」

「えぇ!?」

 

オリーさんは告げられた情報に声をあげる。

リフィルの適性は最高がSS。この値は一つあるだけでトリリアントに匹敵するらしい。

それが複数あり、かつ平均がSということは、リフィルは一人でトリリアント複数人を相手に出来るということになる。さすがアルティメット侍女、強過ぎである。

 

オリーさんは告げられた情報に頭がショートしていたが、やがて私を見た。

私が頷いたのを見ると、彼女は意を決したようにこぶしを握った。

 

リフィルは彼女に近づき、前髪をかき分ける。

そして眼鏡越しに、オリーさんの目をじっとみつめた。

 

そうすること数秒、リフィルさんはオリーさんから目線を外した。

 

「どうやら魅了の魔眼は本当のようですね。ただどちらかというと暴走状態にあるようです。制御する術を知らないのではないですか?」

「私の他に家族で魔眼を持っている人は居ませんし、魅了の魔眼の前例はなかったので……ただ、魔力量が上がると自然と制御できるようになるとは本にあったんですが、私はまだ足りてないらしく……」

「ふむ……結論から述べると、制御するにはオリーフィア嬢の体内の魔力を減らすことが大切です」

「……え?」

 

突然のリフィルの言葉に、オリーさんは戸惑った声を出す。

それを気にせずに、リフィルは話し続ける。

 

「魔力量が増えると魔眼の制御がしやすくなるのではなく、魔力量が増えることで漏れる魔力が少なくなり魔眼の暴走がなくなるのです。また魔力量が増えたときは軍などに所属している筈ですので、定期的に魔法を使っているはずです。それゆえに、今のオリーさんのように余分な魔力が十分すぎるほどあるという状況は起こらないのでしょう」

 

スラスラと説明をするリフィルに、驚きでなにも言うことができない。

彼女はどの書物にも載っていない、それこそ正式に発表すれば称賛されるようなことを他愛ない世間話のように話している。

 

黙って話を聞いていたオリーさんは、やがてすがるような声でリフィルさんに聞いた。

 

「それなら、魔法を使えば、私は魔眼に苦しまなくて済むんですか?」

「苦しむというのが具体的になにを指しているのかは分かりませんが、少なくとも魔眼の暴走はそれで収まるはずです」

「っ!すぐやります!」

「待ちなさい」

 

走り出そうとしたオリーさんの襟を掴み、リフィルは彼女を止めた。

制服のシャツが首にかかり、オリーさんが苦しそうな声をあげてその足を止める。

リフィルは本の山を指さした。

 

「片付けなさい」

「あ……」

 

魔眼のことで頭がいっぱいだったオリーさんは本のことを忘れていたらしい。

焦る気持ちを隠すことなく、てきぱきと本を片付け始める。

それでも本の数が多いので、時間がかかっているようだ。

 

一人でやると時間がかかりそうなので、リフィルにアイコンタクトをして、片付けを手伝う。

その様子を見て、オリーさんはありがとうと嬉しそうにはにかんだ。

 



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第31話 夏休み明けの楽しい雰囲気

夏休みが終わり、久しぶりのクラスみんなが集まる日。

私は椅子に座って授業が始まるのを待っていた。

時刻はまだ朝早く。私の後ろの席にはエヴァが座っている。

 

夏休みが終わる数日前に、彼女は急にアルトリウス家に帰ってきた。

リリスさんも私も一体どこに行っていたのかを聞いたが、教えてはくれなかった。

しかしエヴァの専属侍女のララさんが言うには、危険な場所には行っていないようだ。

 

それが世間一般的に危なくない場所なのか、エヴァが強すぎるがゆえに危なくない場所なのかは分からないけれど。

 

「おはようウリアー!」

 

教室の前の扉が開き、ルナが入ってくる。

久しぶりに見た彼女は変わりなく元気いっぱいで、私を見つけると挨拶をしてくれた。

それに対して微笑んで返事をする。

 

ルナは自分の席に荷物を置くと、私の机の前に来て、しゃがみ込んだ。

最近はよく見る姿勢だ。ルナは私の席で話すときは常にこの位置だ。

 

「ねえウリア!来年の夏休みはネクステスに遊びに来てよ!別荘に招待するよ!」

「……あんたの別荘に?」

 

ルナの言葉に反応したのはエヴァだった。

後ろで話を聞いていたのだろう。

目線を向けてみると、ジト目でルナを見ていた。

 

「うん!海がきれいなんだ!皆で泳ごうよ!」

「いいねそれ」

 

エヴァは相変わらずルナを軽くあしらうことが多いが、話が合うときもある。

こうして見ていると、実は相性が良いのではと思えてしまう。

 

「あら、それならユグドラシルもおすすめですよ」

 

いつの間に登校していたのか、ムースさんが席の隣に立っていた。

 

「あ、お久しぶりですムースさん」

「ええ、元気そうで何よりです、ウリアさん。ところで、ネクステスよりもユグドラシルの方がおススメですよ。自然も豊かですし」

「いやいや、ネクステスだって自然豊かだからね!」

 

ムースさんの提案にルナが反論する。

しかしムースさんはユグドラシルの方が良いと信じているらしく、一向に譲ろうともしない。

訪れる国という意味では、観光が有名なキルシュが一番だと個人的には思うのだが。

 

そんなキルシュ出身のテスタロッサ専門家は、教室の真ん中で机に突っ伏して寝ていた。

おそらく昨日も遅くまでテスタロッサを弄っていたのだろう。

 

ふと前の扉が開き、ユウリィが入ってきた。

彼女は私を見つけると、ぎこちなく「おはよう」と告げた。

それに対して私も「おはよう」と返事をする。

 

「……お姉様?」

「え?ウリアどういうこと?夏休みにユウリィさんと仲良くなったの?」

「そうなのですか?」

 

エヴァを始めとしてみんなが疑問に思っているようなので、夏休みにあったことを説明した。

ユウリィに関してはお互いに勘違いがあったことを。

 

エヴァ達は微妙そうな顔をしていたが、やがて「お姉様が良いなら……」と受け入れてくれた。

やっぱりユウリィが私しか見ていなかったことに気づいていたのだろう。

けれど、今のユウリィはちゃんと全員と向き合ってくれるはずだ。

 

やがて荷物を置いたユウリィが席の近くに来た。

 

「エヴァくんにルナさん、ムースくんだね。改めまして、僕はユウリィ・フェンデ。ウリアくんと友達になったから、ウリアくんの友達である君たちとも仲良くできればなって、そう思ってるんだ」

「ふむ、ウリアさんが良ければぜひとも。ところでユウリィさん、ネクステスとユグドラシルどちらが好きですか?」

「え?」

 

流石はムースさん。

彼女はユウリィの友達になりたいオーラを読み取ってすぐに会話を振った。

 

気配り上手な彼女がいて、本当に助かった。

急に質問を投げかけられたユウリィは戸惑っていたが。

 

「えっと……個人的にはユグドラシルかな。やっぱりいつ見てもあの世界樹は大きくて壮大だなって思うよ」

「ふふん」

「むー、なにそのドヤ顔!これだからエルフは!エヴァはどっちなの!?」

「お姉様がいればどこでも天国よ」

「それだと決まらないでしょ!」

 

エヴァの投げやりな返事に、ルナは文句を言う。

この状況でどっちにも流されないのは、逆にすごいとお姉ちゃんは思うけどな。

 

苦笑いをしていた私の目に、紫の長い髪が映った。

横目で目が合った彼女はペコリと頭を下げた。

私は小さく手を振る。

 

夏休みに図書室で出会ったオリーさんとはその後もリフィルを混ぜて付き合いがある。

一緒に食事をしたり、魔法の練習をしたりした。

リフィルの予想通り、魔法を毎日使うようになって、オリーさんの魔眼は弱まった。

 

今では裸眼で見つめ合わなければとくに影響はないくらいには制御できているらしい。

 

「オリーフィア・イグネアスさんだっけ?」

「あ、うん。夏休みで仲良くなったんだ。ひょっとしたら訓練に参加するかもしれないけど、受け入れて欲しいの。すっごく良い人なんだよ」

「まあ、お姉様が言うなら良いんだけどさぁ……」

「賑やかになりそうですね」

 

エヴァもルナも微妙そうな顔をしている。

ムースさんだけはいつも通りだ。

 

「ところで、来年の夏はユグドラシルということでよろしいでしょうか?」

「いやいや、ネクステスだって!」

「ユグドラシルで良いのではないですか?だって人数も――」

「おはようございます。皆さん。夏休みはすみません。公務でユグドラシルを訪れていまして、なかなか時間が取れませんでした」

 

言い争っていたルナとムースさんを遮るように、ロゼリアさまがやってきた。

いつ見てもお美しいが、やや疲れているように見える。

やはり公務は大変なのだろう。

 

「お疲れですね」

「ええ、公務はやはり苦手です。できればユグドラシルはしばらく行きたくないですね」

 

疲れたように頭に手を置くロゼリアさま。

その言葉にルナはここぞとばかりに食らいついた。

 

「ロゼリアさま、ならばネクステスはいかがですか?」

「ネクステスですか?まあ、今の気分ですと良いですね」

「ほら見なさい!ロゼリアさまをゲットしたよ!」

 

ロゼリアさまの登場で有利になったと確信して、ルナはムースさんにドヤ顔で宣言した。

ムースさんはそれに対して苦笑いで返す。

 

「公務が嫌なだけで、観光や旅行として向かうのは別だと思うのですが……」

「だとしても、来年はネクステスで決まりだよ」

「はいはい。それでは再来年はユグドラシルで良いですね」

 

他愛のない話をしていると、前の扉が音を立てて開いた。

顔を上げるとアークくんが怒った表情で入ってきていた。

彼はロゼリアさまの姿を見つけると、こちらに近づいてきた。

 

一歩下がり、私に寄ったロゼリアさまを見て、アークくんは足を止めた。

その顔は悲しげに歪んでいる。

 

「姉上……どういうつもりなのですか……?」

「…………」

「……放課後、時間を作っていただけませんか?納得できません。放課後、3階の一番南の空き教室で……待ってますからね」

 

アークくんはそう言うと、悔しげな表情をして自分の席へと向かっていった。

ロゼリアさまは、深くため息を吐いていた。

 



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第32話 破棄された王位継承権

太陽の光が照らす廊下を、ロゼリアさまとエヴァと一緒に歩く。

私たちはアークくんが待つであろう空き教室へと向かっていた。

ロゼリアさまは私に一緒に来てほしいと頼み込んできた。

 

私はそれをもちろん了承した。私だけでなく、他の皆も。

けれどロゼリアさまは首を横に振った。

国内の重要機密に関わってくるので、エディンバラ皇国国籍の者だけにしてほしい、と。

 

その言葉でムースさん、ルナ、ミストは一緒に行くことを諦めた。

それで一緒に向かうのがエヴァと私だけになったのだ。

 

私たちは空き教室に到着する。

エヴァが扉を開けて、その後に続く。

中にはすでにアークくんが待っていた。

 

「……姉上」

「それで、話というのは?なんとなく分かってはいますが」

 

アークくんは私たちを一瞥する。

なにか思うところもあるようだが、構わずに口を開いた。

 

「なぜ王位継承権を破棄したのですか」

「「え?」」

 

その言葉に、私とエヴァの言葉が被った。

ロゼリアさまが、王位継承権を破棄した?

 

「……すでにお父様にはお話しております」

「なぜですか……それだけの才があれば歴代でも最高の君主になれるはずです!僕は……僕はそんな姉上の助けになりたかったのに……」

「……アーク」

 

アークくんは思いをぶつけるように、叫ぶ。

 

「僕はそのために必死に勉強した!姉上はすごいです……僕では出来ないことを姉上は簡単にできる。僕にできて姉上に出来ないことなんてない。だからせめて姉上の補佐になれるように……そのために必死に勉強してきたのに……」

「エディンバラ皇国の皇帝は男子がなるべきです。女子ではなく」

 

アークくんが下した両方の手。

それが握りしめられ、震える。

彼のやるせない気持ちが、伝わってきた。

 

「この国は実力主義です。トップが皇女でなにが悪いのですか。性別なんて、大した理由ではありません!」

「私は……あなたが皇帝になるべきだと考えています。アーク・フォン・エディンバラ」

 

アークくんはその言葉に泣きそうな顔をした。

 

「なんで……そんな……」

 

ロゼリアさまは息を深く吐いた。

 

「アーク……お父様しか知らないことなのですが……私は男性を愛せないのです」

「……は?」

 

衝撃の告白に頭が真っ白になる。

 

「正確には、男性を恐れているのです。それは肉親でも例外ではありません。この空き教室にウリアさんたちを連れて来たのも、一人ではあなたと話すことすらできないからです。戦うときや、簡単なお話程度ならば大丈夫でしょう。ですが、男性と深い仲にはなれそうにもありません」

 

確かに思い返してみると、ロゼリアさまはずっと女性と一緒に居る気がする。

私たちも女性だし、皇城の訓練講師も女性だったはずだ。

今思い返してみると、ロゼリアさまに関連する人は女性しかいない。

 

「お父様はそのことを知っています。だからこそ私は政治に関する教育は一切受けてきませんでした。座学に関してはあなたの方が得意だったので、お父様から聞いているかと思っていましたが……知らなかったようですね」

「……将来はどうするつもりなのですか?」

「このエディンバラ皇国の将となるつもりです。この国が平和であるように。それに、先ほども言いましたが、私はあなたが皇帝になるべきだと考えています。私は男性が怖いです。ですが、お父様やあなたのことは好ましく思っています。少なくともあなたの頑張りを知っているくらいには。アーク、あなたは私を支えるために頑張ってくれたのかもしれません。けれどその根本にはこの国を愛する気持ちがあるのではないですか?」

 

ロゼリアさまの言葉に、アークくんは目を瞬かせる。

 

「……この国は好きです。けれど……僕にやれるでしょうか」

「私だって将としてやっていけるかは分かりません。けれど、大切なのは気持ちと、周りの人だと思いますよ」

「…………」

 

アークさんは納得した顔をして、胸の前で片手の拳を握った。

 

「……時間はかかるかもしれません。ですが必ずこの国をさらに豊かにしてみせます」

「期待しています。次期皇帝」

 

アークくんの雰囲気が、この数分で少し変わった気がする。

なんだか肩の荷が下りたというか、なんというか。

 

アークくんは頭を下げて空き教室から出ていく。

その後ろ姿を見ながら、ロゼリアさまはポツリと呟いた。

 

「頑張ってください。アーク・フォン・エディンバラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、教室内はロゼリアさまの話題で持ちきりだった。

彼女が王位継承権を破棄したことが公表されたからだ。

ロゼリアさま自身が将として国に仕えたいという意向も含めて公表された。

 

国内は騒然としたが、どちらかというと良い意味での反応が多めだ。

これで継承権一位はアークくんとなったが、彼も人気が根強い。

そのために、楽観的に受け入れられている。

 

そんな話題のロゼリアさまは、私の席の横の壁に背を預けて、疲れたような顔をしていた。

 

「直接言ってくるわけでもなく、よくこれだけ盛り上がれますね」

「まあ、有名人の噂ってそういうものですよ」

「別にいいんじゃないですか?悪いことじゃないですし」

 

流石に皇族であるロゼリアさまに公表された内容を聞きに来るような人はいない。

けれどどこに居ても自分の話が聞こえてくるというのは、微妙な感じなのだろう。

私も経験があるからよく分かる。私の場合は今もあるのだが。

 

「でもいいんです?一部では女性愛好者なんじゃないかっていうことも言われてるらしいですが」

「良いのではないでしょうか。事実ですし」

「……え?」

 

壁に背を預けていたロゼリアさまは、普段とは違う風に笑った。

穏やかな笑みではなく、いたずらっ子のような、そんな笑み。

 

「将来はウリアさんやエヴァさん達みんなを妻として迎え入れて、後宮を作るつもりです。任せてください。養ってみせます」

「「…………」」

 

普段のロゼリアさまからは考えられないけれど、言ってもおかしくはない内容にエヴァと2人で固まってしまう。

その様子を見て、ロゼリアは笑顔で告げた。

 

「もちろん冗談です」

「……心臓に悪いわ」

「ふふ、ごめんなさい」

 

口元を隠しながら微笑んだロゼリアさまは、笑みを浮かべたまま私たちを見た。

 

「後宮は嘘ですが、皆さんが幸せに将来生きられることが私の夢ではありますよ」

「……調子狂うわね」

「あら?照れてるんですか?」

「そんなことないですー」

 

そう言いながらも、エヴァの頬は少し赤くなっていた。

 



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第33話 最高のチーム……かもしれない

夏の暑さも少しずつ引き、秋の涼しさがやってきた今日この頃。

準備舎の教室では生徒達がざわついていた。

彼らが話すことはただ一つ、チームトーナメント戦についてである。

 

私も知っていることは少ないが、今から一か月後に行われるイベントだ。

教室内でチームを組み、他のチームと対戦をする。

勝った場合はトーナメントなので次のチームと、負けたらそこで終了という形だ。

 

みんなが話しているのは、メンバーのことだ。

 

「先生が決めるのかな?」

「私たちで勝手に決めるとかになるのかな?」

「でもその場合ローズ様が強すぎない?」

「うーん、制限がかかるとか?」

 

みんな思い思いの事を話している。

私もチーム分けがどうなるのかは気になるところだ。

 

先生が決める場合は、一緒に組んだ生徒と上手くいくかが不安だ。

とくにアセロラ嬢やフィリップくんなんかは私のことを嫌っているし。

 

逆に自分たちで組む場合も微妙だ。

すぐに思いつく組み合わせは私、エヴァ、ロゼリアさまだけど、ルナやムースさんだっている。

それに、エヴァとロゼリアさまが組んだら強すぎるだろう。

先生がそのことを考えていないとは思えない。

 

そんなことを考えていると、前の教室の扉が開き、シール先生が入ってきた。

彼は教卓に立ち、挨拶をする。私たちも一斉に朝礼をする。いつもの流れだ。

先生は、さて、といって周りを見回した。

 

「昨日も言いましたが、今日の最初の授業はチーム分けについて決める場とします」

 

その言葉に、教室がざわめく。

 

「お静かに。メンバーに関しては皆さんの方で自由に組んでいただいて構いません」

 

ただし、と言ってシール先生は眼鏡のズレを指で直した。

 

「成績優秀者同士が組むことは禁止とします。成績優秀者を含むチームは必ず5チームになるようにしてください。同一チームに成績優秀者2名以上は認めません。これは試合バランスを考えた措置です。さらに成績優秀者を含むチームは4名を上限としてください」

 

なるほど上手いこと考えたなと思った。確かにこれならば成績優秀者は分かれる。

ドリームチームのようなものを作らない措置だろう。

 

「また、テスタロッサ調整専攻の生徒に関してはトーナメントには参加できませんが、参加する生徒の調整を行うことは可能です。すでに特定の生徒のテスタロッサ調整を請け負っている場合は、その旨を今から配る紙に書いてください」

 

そういってシール先生は紙をミスト達に配り始める。

準備舎には将来、テスタロッサ調整を専門に学ぶ予定の生徒も在籍している。

ミストがそうだ。

 

具体的に指導内容が変わるのは学園入学後で、準備舎では基礎的なことを習うために私たちと同じ授業を受けている。

 

座学に関しては問題ないが、実技に関してはテスタロッサを見て、次の調整案などを考えるのが主な過ごし方だ。

私のクラスにはそういう生徒がミスト含めて5人居る。

 

ミスト達に紙を配り終えたシール先生は、再び教卓に戻り教室中を見回した。

 

「それじゃあ、皆、自由に立ち上がってチームを組んでください」

 

シール先生がそう言った瞬間、背中をつつかれた。

振り向くと、エヴァがニコニコと微笑んでいた。

 

「お姉様、一緒に組もう?」

「うん、そうだね」

 

もしも成績優秀者から一人を選べとなったらエヴァを選ぶだろう。

そう思っていた私はエヴァの誘いを快諾した。

ふと遠くを見ると、ロゼリアさまが恨みがましそうな目でこちらを見ていた。

 

苦笑いをしながら頭を下げると、溜息を吐いて困ったように笑ってくれたが。

ちなみにルナに関しては私を涙目でじっと見つめていた。

ちょっと罪悪感があるけど、ごめんねルナ。

 

「問題はあと2人か。どうす――」

「ウリアくん、エヴァくん、一緒に組まないかい?」

 

エヴァが言い終わる前に、ユウリィが私の席に来た。

ユウリィも成績優秀者に入っていない。

 

エヴァはユウリィを一瞥すると、何かを考えこんでいるようだった。

やがて教室を見回した彼女は、いいよ、とユウリィに告げた。

 

これで3人揃った。あと一人。

けれど私は最後の一人をもう決めていた。

立ち上がり、彼女の席に足を運ぶ。

 

「オリーさん、一緒にチーム組もうよ」

「はい、ぜひともお願いします!」

 

夏休みに仲良くなったオリーさんに声をかける。

長い紫色の前髪から、ピンクの瞳が覗く。

彼女は私の提案に、快く返事をしてくれた。

 

オリーさんが受け入れてくれたことで、これで4人組を組むことができた。

周りを見ているといくつかのグループができ始めているところだった。

 

私の後ろからエヴァがやってきて、紙をオリーさんの机の上に置く。

 

「初めましてオリーさん。私はエヴァ・アルトリウス。ウリアお姉様の妹だよ。よろしくね。とりあえずここに名前書いて」

「よ、よろしくお願いします!えっと、ここですね……」

 

オリーさんがペンを取り出して名前を書く。

紙にはすでにエヴァとユウリィの名前が書いてあった。

 

よく見てみると、あることに気付いた。

リーダーの欄が空白になっている。

 

あれ?でもエヴァもユウリィもオリーさんもすでに名前が書いてあって。

そんなことを思っているとぽんっと肩に手を置かれた。

首だけを動かすと、ユウリィはニコニコとした笑みを浮かべていた。

 

「頼んだよ、リーダーさん」

「ええ!?」

 

エヴァだと思っていたリーダーは、なぜか私になってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、私たちは食堂に4人で集まっていた。

話している内容はチームトーナメント戦のことだ。

 

「私とお姉様が前衛、ユウリィが補佐、オリーが後衛?」

「はい。といっても魔法は大の得意というわけでは……」

 

オリーさんはよく聞いてみるとムースさんのように魔法が得意なタイプらしい。

チームのバランスとしてはなかなか良いのではないだろうか。

当のオリーさんは不安そうだが。

 

「どうしたのオリー、あまり自信がないの?」

「いえ、ムースさんと比べちゃうと……」

「いや、あれは規格外だから気にしちゃダメだよ」

 

エヴァがオリーさんのフォローを行う。

口調は勝気だが、エヴァは基本的に相手に寄り添って考えられる良い子だ。

 

身内びいきで見ても、彼女はとても優しいと思う。

性格も外見も良い、自慢の妹だ。

 

そんな自慢の妹は不敵に微笑んだ。

 

「それに彼女なら私が止めるから大丈夫」

「問題はエヴァくんでも止まらない規格外の一人だよね」

 

ユウリィが頬杖を突きながら意地悪な声で告げる。

規格外の一人。エヴァ以上の適性の持ち主である、ロゼリアさまのことだろう。

エヴァは体をビクリとふるわせて、視線を私達から逸らした。

 

「うぐっ……い、いや、止められるし……」

「まあ、エヴァくんがどれだけできるかは置いとくとして、ロゼリアさまのことは考える必要があるね」

 

私の教室におけるワイルドカード、ロゼリアさま。

彼女のチームの他の3人とは面識はないが、当の彼女はメンバーに対してあまり良い感情は持っていないように見えた。

 

そんなロゼリアさまの話題を出したユウリィは考え込んでいるようだった。

 

「あまり詳しいことは分からないけれど、ロゼリアくんのチームはどちらかというと彼女特化のチームだと思う。他の3人に関してもロゼリアくんを見る目が輝いていたしね」

「なるほど、そこに活路があるってわけね」

「で、ですがそれだとルナさんやムースさんもなかなかの強敵なのでは……」

 

オリーさんの言葉に思い返す。

ルナはネクステス出身の人たちとチームを組んでいた。

内2人とはもともと知り合いだったらしい。

 

ムースさんに関してはユグドラシルの貴族さんが2人、ユグドラシルと縁の深いエディンバラの貴族さんが1人のチームだったはず。

彼女はどちらかというと親しみやすいタイプなので、こちらのチームも要警戒だ。

 

「オリーって、どの属性が得意なの?」

「あ、私は闇です」

「闇!?」

 

驚いたようにエヴァが声をあげる。

闇の魔法は使える人が少なく、弱点となる属性がないことで知られる。

まさかオリーさんがそんな才能の塊だったなんて。

 

しかし話題のオリーさんは慌てている。

 

「や、闇が得意ですが、攻撃魔法は一切使えないんです!私にできることと言えば、薄暗くしたり、見えなくする暗闇を作り出すくらいで……陰鬱ですよね」

「ああ、それで実技の授業では水の魔法を使っていたのか」

「は、はい、水は闇の次に得意なので」

 

ユウリィとオリーさんの会話を聞きながら横を見ると、エヴァは何かを考えているようだった。

やがて彼女は悪い笑みを浮かべ、ふふふ、と笑う。

 

「これ、オリーを手に入れられたのは予想以上の収穫かもしれない。私たち、暴れられるかも」

 

なにか悪いことを考え付いたような笑みを浮かべる。

そんなエヴァを見ながら私たちは3人、顔を見合わせた。

 



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第34話 初めての、強い怒り

私は固唾をのんで黒板を眺めていた。

黒板にはトーナメントの図が書き出されている。チーム名は書いていない。

今日はチームトーナメント戦の対戦相手を決める日だ。

 

チーム数は全部で8。3勝すれば優勝となる。

成績優秀者のチームが5、それ以外のチームが3だ。

 

成績優秀者に対して何か制限がかかるのでは?

そう思っていたが、シール先生はそういったことはしないと明言した。

 

「なら君たちは戦場で相手の方が強いから、手加減してくれというのですか?前回は試験だったので学園の模範生に制限を設けました。しかし、今回は違います。これは試験ではありません。もちろん死んだりはしませんが、れっきとした戦いなのです」

 

いつもは優しく丁寧なシール先生の真剣な表情と声に、教室中は静まり返った。

私も試験の一環と考えていたが、先生の一言で意識を入れ替えることができた。

 

「さて、それではくじ引きといきましょう。チームのリーダーはくじを引きに来てください。まずはアーク君から」

 

席順にリーダーの名前が呼ばれる。

呼ばれたアークくんは教卓においてある箱に手を入れ、紙を手に取った。

シール先生に提出すると、先生は紙を開き、黒板にチーム名を書いていく。

 

特別な名前はなく、リーダー名+チームだ。

アークくんならアークチーム、ロゼリアさまならロゼリアチームとなる。

 

「次、ウリアさん」

 

名前が呼ばれ、立ち上がる。

成績優秀者を有するチームで、リーダーが一般生徒なのは私だけだ。

 

「なんであいつが……」

「どうせいつものエヴァ様贔屓でしょ」

「でもエヴァ様は強敵だけど、残りの3人は大したことなさそうだな」

 

教室内の声を無視し、くじを引く。

その紙を渡すと、先生は黒板にウリアチームと書き込んだ。

 

アークくんのチームとは反対のブロックだ。

その後もさまざまなチームが黒板に書かれていく。

 

「次、ムースさん」

 

呼ばれたムースさんは立ち上がって教卓へと向かう。

その白魚のような手が箱の中に入り、一枚の紙を取り出した。

 

先生は紙を受け取って黒板に文字を書いていく。

ムースさんのチームは、私のチームと反対のブロックだった。

少なくとも決勝まで戦うことはなさそうだ。

 

その後もどんどんチーム名が埋まっていく。

様子を緊張しながら見ていた私は、なんとなく嫌な予感がしていた。

 

そして最後に2チームが残ったとき、その場所が問題だった。

一つは私のチームのすぐ隣。ここに入ったチームは準決勝で私のチームと戦う。

 

そしてもう一つは反対のブロックだ。

このチームはアークくんのチームと最初に戦うことになる。

 

「席順だからなんとなく嫌な予感はしていたけど……」

「うん」

 

エヴァの言葉にうなずく。

残ったチームは、ルナのチームとロゼリアさまのチームだ。

 

ルナが席を立ち、くじを引く。

シール先生は、黒板にルナチームの名前を書いた。

私のチームの、隣に。

 

これでうまく勝ち進めば準決勝はルナと。

そして決勝はおそらくロゼリアさまと戦えるだろう。

 

「さて、全チーム出そろいましたね」

 

シール先生は黒板を眺めながらそう呟く。

黒板には8つのチーム名が書かれていた。

 

私たちの最初の相手は、アセロラ嬢のチームだ。

 

「クラス内の小さなイベントですが、将来の小隊を考えると良い経験です。皆さん全力で取り組み、最善の結果を残してください」

 

シール先生の言葉に、教室の全員が頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、私たちは訓練場に足を運んでいた。

クラスごとにチーム戦は行われる。私のクラスは最後だ。

昨日一昨日で行われた別クラス内でのチーム戦はかなり盛り上がったらしい。

 

以前の試験のときとは違い、シール先生、ルイン先生、そして見覚えのない女性の先生が立っている。

 

「おい……あれ……」

「クリス教頭?」

「めちゃくちゃ厳しいって噂でしょ?」

「呪われているっていう噂もあるけど……」

 

エディンバラ学園の教頭、クリス・ラプラス・ギリアン先生。

トリリアントだが、ベリアル先生と違い、他の先生や生徒からは敬遠されている。

恐れられているともいえるだろう。

 

「よし、皆集まったな。今日はクラス内トーナメント戦だ。みんなこの日のために色々と準備をしてきたと思う。それを出し切ってくれ。まずはウリアチーム対フィリップチームだな。準備してくれ」

 

ルイン先生の言葉でチーム戦が始まる。

最初は私たち対フィリップくん達。

フィリップくん達のチームは5人だ。

 

クラス内の人数の関係から、成績優秀者以外のチームは5人になることがある。

人数が多いことが成績優秀者との差を埋める方法の一つなのかもしれない。

 

離れた場所に4人で立ち、向かい合う。

ルナやロゼリアさまと戦うために、ここは必ず突破しなくてはならない。

こっちにはエヴァがいるけれど、油断は禁物だ。全力で戦おう。

 

「準備はいいか!?それじゃあ始めるぞ!一回戦第一試合、ウリアチーム対フィリップチーム、始め!」

 

開始の合図で私はマリアを展開しようとした。

しかし次の瞬間には隣で地面が急に爆発し、吹き飛ばされた。

爆風で地面を転がる。

 

「おは……よう……マリア」

 

地面にうつぶせになりながら、なんとかマリアを展開する。

すぐにマリアは起動した。回復魔法を自分にかけながら、なにが起きたのかを確認する。

 

私たちが今まで立っていた場所が、煙に包まれている。

ちらっと目を向けてみると、アセロラ嬢たちは唖然とした表情でそれを見つめていた。

 

やがて煙が薄くなっていき、誰かが倒れているのが見えた。

 

「エヴァ!エヴァ!!」

 

倒れていたのは、エヴァだった。

慌てて近寄り、彼女に回復魔法をかける。

エヴァは体中ボロボロで、気を失っているようだった。

 

「エヴァ!目を開けて!エヴァ!」

「大丈夫、命に別状はありません。医務室に運びますよ」

 

気が付くとエヴァの近くにはクリス先生も居た。

先生が何かを唱えると、学園の建物から医務室の先生が慌てて出てきた。

その後ろには同じく白衣を着た救護班の人が続いている。

 

クリス先生は魔法でエヴァを優しく持ち上げると、持ちこまれた簡易担架にゆっくりと下した。

 

「お願いします」

「はい、お任せください」

 

そういって医務室の先生たちは足早にエヴァを医務室に運んでいく。

 

「なにをやってるんだお前らは!!」

 

その様子を見ていた私の背中に、ルイン先生の怒声が響いた。

慌てて振り返ると、ルイン先生と、シール先生が今まで見たことないような怒りの表情を浮かべていた。

 

「事前の魔法準備もどうかと思うが、それ以上にチームメンバー以外からも補助魔法を事前に受けていたな!?さすがに明確なルール違反だ!」

「あれだけの威力、10人以上に協力を要請しましたね。しかも何重にも強化をかけています。フライングの件と合わせて考えると、失格ですね」

 

シール先生の言葉に頭が真っ白になる。

失格?私の大切なエヴァにあれだけのことをしておいて?

 

エヴァを傷つけるだけ傷つけて、ただの失格で終わるの?

そんなの――。

 

「納得できません」

 

私は思わず口にしていた。

ルイン先生とシール先生が驚いたように私を見る。

 

「……ウリア、気持ちは分かるが恨みで戦っても――」

 

体の中で怒りがマグマのように沸々と湧き上がる。

けれどその一方で、頭は氷のように冷えて、冴えわたっていた。

 

「このトーナメント戦に関しては体調不良などを考慮して、3人でも戦闘が認められているはずです」

「しかしウリアさん、彼らはそもそもルール違反で――」

「構いません。試合の続行を許可します」

 

口をはさんだのは、クリス先生だった。

彼女はユウリィとオリーさんを見る。

 

「ただ、ウリアさんはともかく、そちらの2人には聞く必要がありますね。受け入れますか?」

「僕は構いません」

「……私も、このまま勝つなんて嫌です」

 

ユウリィとオリーさんも仕切り直しを受け入れてくれた。

2人ともその瞳には怒りが宿っている。

 

「エヴァ様に対して予想外の威力の魔法を行使したことは謝ります」

 

しかし、そこに異を唱える声が差し込まれる。

目線を向けてみると、ルール違反をしたアセロラ嬢が頭を下げていた。

フィリップくん達も申し訳なさそうにしている。

 

「けれど、ウリアさん達3人で私たちの相手をするのは無理だと思います。せめて他の成績優秀者を入れないと、なぶり殺しになってしまいます」

(……絶対に許さない)

 

どこまでも私たちを下に見る発言に、私は我慢ができなくなった。

 

「十分です」

「……はい?」

「あなたたちなんて、私たち3人で十分です」

 

アセロラ嬢の顔が、歪んだ。

 

「分かっているの?あなたたち3人じゃ勝負にもならないわ」

「……やってみないと分からないじゃないですか」

「…………」

 

アセロラ嬢だけでなく、フィリップくん達みんながむっとしたような顔をした。

 

「分かりました。それでは戦わせていただきます」

「……はぁ、じゃあ再戦な。2チームとも位置につけ」

 

ルイン先生とシール先生はそう言って私たちから離れていく。

私たちも所定の位置に戻ろうとした、そのとき。

 

「無能が……調子に乗らないでよね」

「強いやつに囲まれて勘違いしてるんだろ?分からせてやるよ」

 

アセロラ嬢とフィリップくんの言葉が耳に届いた。

その言葉を無視して、私はユウリィ達と合流する。

 

「さすがに許せないね」

「……私も、もう我慢できません」

「2人ともありがとう。力を貸して」

 

位置について、試合開始の合図を待つ。

 

「それじゃあ仕切りなおして、ウリアチーム対フィリップチーム、開始!」

 

絶対に負けられない戦いが、始まった。

 



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第35話 私が戦うたった一つの理由

「それじゃあ仕切りなおして、ウリアチーム対フィリップチーム、開始!」

「おはよう、マリア」

 

戦闘開始の合図と同時にマリアを起動する。

先ほどのような爆発は起きない。

そのことを確認して、私は敵を注意深く観察する。

 

(前衛が2人、後衛が3人)

 

フィリップくんを含む剣士が2人に、アセロラ嬢を含む魔法使いが2人、そして弓使いが1人。

人数面ではこっちの方が圧倒的に不利。けれど負けるつもりなど毛頭ない。

 

ユウリィから補助魔法を受け取り、私は走り出す。

目標はフィリップくんただ1人。

 

彼に近づき、剣を振るう。しかし、あっさりとマリアはフィリップくんに防がれてしまう。

 

「終わりだ!無能!」

 

横からもう1人の剣士の生徒が襲い掛かってくる。

相手は私たちより2人も多いのだ。それを狙ってくると思っていた。

 

左手を動かし、光の剣を発現させ、それを素早く投げた。

マリアの補助とユウリィの補助魔法。その2つで強化された光の剣は素早く飛ぶ。

それを、生徒は剣で受けるではなく、避けた。

 

流石に2つの強化が加わっていれば、私の得意な光の魔法なら人並みにはなる。

あるいは、前にセレン先輩との戦いで見せたから警戒したか。

 

「逃がさない!」

 

声を聞いて私は後ろに跳んだ。

先ほどまで私がいた場所に火の槍が降ってくる。

距離を取ったため、私は無傷だ。

 

『いいですかウリアさん。相手にもよりますが、叫ぶという行動は大きな情報です。それをするときは、攻撃をする可能性が非常に高い。とくに学生レベルならば、それを聞いてとっさにどこかへ逃げることも容易いでしょう』

 

ロゼリアさま、ありがとうございます。

飛んできた矢を剣で弾いて、私は内心で感謝を告げる。

 

「よくも……エヴァに放った魔法をまた撃てましたね」

 

私の怒りに、アセロラ嬢はびくっと体を震わせた。

それと同時に、横目でちらっともう1人の魔法使いの生徒を観察する。

彼女はこれまでの流れに驚いているようだった。

 

『戦うときは目の前の相手に集中しがちだけど、もっと視野を広くした方がいいよ!情報が多ければ多いほど有利だからね!』

 

ルナの言葉が頭の中でよみがえる。

私、ちゃんとできているよ。

 

マリアを握りなおし、私は再びフィリップくんに向けて駆けだした。

先ほどと同じ光景に、彼は鼻で笑う。

 

「何度やっても無駄だって分からないのか!」

「フィリップ!同時にやるぞ!」

 

二度目の攻撃に、2人は合わせてくる。

アセロラ嬢も魔法使いの生徒も、魔法を唱え始めた。

弓使いの生徒もまた、矢を放とうとしている。

 

全員が私を見ている。そう、私だけを見ている。

 

『魔法使いからすると、ウリアさんのような前衛の方はありがたいです。あなたたちがいるから、私たちは安心して魔法を準備できますから』

 

ムースさんの言葉を思い出しながら、私は足に力を入れ、後ろに下がろうとする。

フィリップくんたちは剣を振るっているので、その剣先が鼻先をかすった。

 

かろうじて戦えている。それはマリアの力とユウリィの力。

そしてなにより、相手が「私が無能」だと侮っているからだ。

 

「今度こそ!」

「いけぇ!」

 

火と水、そして矢が後ろに下がる私に襲い掛かる。

マリアで弾くことも考えた。けれど、今回はそれができない。

 

回復魔法を唱え、防御を固める。

流石に致命傷になる位置に飛んでくるであろう矢だけは必死に目で追う。

もう残りの魔法は仕方がない。

 

「っ!」

 

水の魔法は防ぎきれたが、火の魔法は体で受けた。

ギリギリで回復魔法が間に合う。

とはいえダメージは甚大だ。

 

(でも……間に合ったはず!)

 

私が地面に着地した瞬間、世界を闇が包んだ。

何も見えない。真っ暗な世界。

 

「な、なんだ!?」

「なに!?なんなの!?」

 

フィリップくんたちは突然の出来事に慌てている。

けれど私は止まらない。マリアを片手に、走り出す。

 

オリーさんは仕事をしてくれた。

彼女のもっとも得意な魔法は闇。だからこそ、エヴァはその力に目を付けた。

 

『オリーの魔法で視界を封じるの。それなら私達は一方的に敵を倒すことができる。流石のロゼリアでも、1対4なら勝てないでしょ!そのための時間は私が稼ぐよ!』

 

本当はロゼリアさまと戦う決勝まで残しておくはずだった。

まさかこんなことになるなんて。

でも、私はエヴァの代わりに時間を稼ぎ続けた。

 

(エヴァほど完璧じゃないけど……私、頑張るからね)

 

剣士の生徒に一気に肉薄し、剣を振るう。

まだ視界が戻っていない剣士の生徒は私のマリアに切り裂かれ、地に伏した。

 

あの程度の傷なら訓練場の自動回復機能で問題はないだろう。

そう思いながら私は走り、弓使いの生徒にも同じように一太刀を浴びせる。

 

『集団戦における大事なコツは1対4をするのではなく、1対1を4回することです』

 

リフィル、言うとおりだね。

これで、3対3。

 

「そうか……闇の魔法か!姑息な!」

「でも、もう見える!……きゃあああ!!」

 

オリーさんの闇の魔法の効力が切れ始める。

フィリップくんたちは視界を取り戻し、魔法使いの生徒は魔法を唱え始めた。

しかし、次の瞬間にはオリーさんの水の魔法により、体を貫かれた。

 

ユウリィの補助魔法は一人にしか効果がない。

だから、オリーさんの闇の魔法が発動した後はオリーさんにかけてもらっていた。

 

結果としてオリーさんは敵の1人を撃破。

これで、あと2人。

 

「調子に乗らないで!」

「うるさい!」

 

怒りに任せて光の剣の魔法を放つ。

 

「そんなの、見えてれば……なっ!?」

 

防ごうとしたアセロラ嬢の防御を、光の剣が打ち崩す。

その隙を見逃さず、ユウリィの放った光の弾がアセロラ嬢の頭に当たった。

彼女は衝撃で地面に倒れ、動かなくなる。

 

「ナイスユウリ――」

「お前たち、3人ともただですむと思うな!!!」

 

振り返り、とっさにフィリップくんの剣を受けた。

しかし体勢が不安定だったせいで、受けるので精いっぱいになってしまう。

少しでも気を緩めれば、もっていかれる。

 

「無能らしく、よく考えたじゃないか!こんな卑怯な手を使ってくるなんてな!!」

「……あなたたちだって……エヴァに卑怯なことを……したじゃない!」

「俺たちは力でエヴァ様を押しつぶした!!でもお前たちは力じゃない!一緒にするな!」

 

何を思ったのか、フィリップくんの表情が愉しげに歪む。

 

「俺達でも勝てるんだ。なにが成績優秀者だ。どれだけ適性が高かろうと、エヴァ様は……エヴァは負けた。あの女にだって、勝てるんだ!」

 

あぁ、こいつは……どこまで私を怒らせれば気が済むんだ。

 

『ウリア……いつかあなたにも大切な人ができるわ。……その人を、失わないように、護ってあげるのよ』

 

私、ようやくお母さまの言葉の意味が分かったよ。

エヴァやロゼリアさま。私の周りの大切な人を、護りたい。

 

皆強いから、大丈夫だって思ってた。

でも、それでも護りたいんだ。

 

「君はエヴァには勝てないよ」

「なんだと!?」

「人を傷つけることしか考えてない君に……私たちが負けるもんか!!」

 

力を振り絞り、剣を押し返す。

もっと。もっと強く。彼を打ち破れるだけの力を、私に。

 

「ああああああぁぁぁぁ!!」

 

刀剣が光り輝き、力が湧いてくる。

光の魔力が、噴水のように溢れてくる。

 

光輝くマリアはフィリップくんの剣を軽々と弾く。

そしてそのまま驚いた表情を浮かべるフィリップくん目がけて、力の限り振り下ろした。

 

剣が、彼の体を切り裂く。

フィリップくんの体はそのまま後ろに傾き、地面に音を立てて倒れた。

 

「そこまで!勝者ウリアチーム!」

 

ルイン先生の言葉が会場に響く。

勝った。勝ったんだ。やったよエヴァ。

 

「あり……がとう……マリア……」

 

視線を白銀の刃に向ける。

あんなに眩く光っていたと思っていたマリアは、その光を失っていた。

あれは……見間違い?

 

「あれ?」

 

視界が揺らぎ、平衡感覚が失われていく。

立っていることができなくなり、その場に座り込んだ。

 

耳鳴りがする。目が回る。

誰かが近づいてくるが、その姿がにじんでよく見えない。

 

(あ……もうだめだ……)

 

そう思い、私は地面に倒れこんだ。

誰かの声を遠くに聞きながら、意識を深い闇へと落とした。

 




目を覚ましたウリア「これぞ私の特別な力!(何も起こらない)」

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第36話 準備舎に別れを、そして学園へ

ゆっくりと目を覚ます。

白い天井が目に入った。ここは……学園の医務室?

 

「あ、起きたかい?でも動かない方がいい。魔力が体の中にほとんど残っていないらしいからね」

 

首だけを動かしてユウリィを見つける。

彼女は心配そうに私を見つめていた。

 

「試合……は?」

「勝ったよ。フィリップチームに、僕たちは勝った。といっても、頑張ったのはウリアくんだけどね」

 

首を横に振る。

あの戦いに勝てたのは、オリーさんとユウリィが居たからだ。

全員が、死力を尽くしたからだ。

 

「でも、残念だけどトーナメントは先に進めなかったよ。流石にウリアくんとエヴァくんを失った状態じゃ戦うこともできないからね。今はもう夜だけど、結局優勝はロゼリアチーム。準優勝はルナチームさ」

「っ!?エヴァは?」

 

ユウリィが指をさす。

反対のベッドに首を動かすと、そこにはエヴァが居た。

安らかな表情で眠っていて、傷はなくなっている。

 

「命に別状はないよ。僕たちが戦っている間に目を覚ましたらしいんだけど、すぐに寝てしまったらしい。どうやら、かなり無理をしていたみたいだね。寝れてなかったんじゃないかな」

「…………」

 

確かに、ここ数日エヴァは色々な作戦を考えていた。

私の方が先に寝る日がほとんどだった。

 

その作戦のほとんどを使う機会がなかったことが悔やまれる。

エヴァだって、ルナやロゼリアさまと戦いたかったはずだ。

 

「それとフィリップチームのメンバーだけど、全員退学処分になった。それにフィリップチームに手を貸した生徒も、数日の停学処分だよ」

「……え?」

 

突然の言葉に、驚いた声を出してしまった。

 

「訓練場の回復魔法機能でも回復しきれない程の威力オーバーな魔法。それにチームメイト以外からの補助魔法。魔法の事前設置に、テスタロッサ発動前のフライング攻撃、おまけに戦闘中の暴言。まあ、当然と言えば当然だね」

「……そう」

「僕らの戦闘での暴言は、もうこうなることが分かっていたからだろうね。本当、人間の内心っていうのは嫌になるほど醜いよね。少なくとも彼らはエディンバラ学園には入学もできない。それに学園から連絡が行って、皇家やアルトリウス伯爵家も相手の貴族家に働きかけるみたいだよ。……まあ、ここから先は僕にはどうなるか分からないけどね」

 

フィリップくん達の処遇について、思うところはとくにない。

当然だと思うし、彼らはそれだけのことをやったと思っている。

 

「……私ね、フィリップくん達が退学になったことはどうでもいいんだ。それよりも、あれだけ無能無能言ってた人たちに勝ったことが嬉しい。ざまぁみろって思った。人のことをさんざん馬鹿にしてるからだって」

「僕も同じさ。ちょっとスカッとしたよ」

 

私はユウリィと顔を見合わせ、微笑んだ。

結果は振るわなかったけれど、大きな勝利を手に入れたトーナメント戦だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、この1年間お疲れさまでした。皆さんならば来年からの学園生活でも有意義な時間を過ごせるでしょう」

 

時間は過ぎ春が訪れた。

準備舎に入学して一年が過ぎた。今日は卒業の日だ。

卒業の日と言っても式をやるわけではない。

準備舎と学園は繋がっているので、シール先生のお言葉があるくらいだ。

 

「あっという間の一年だったねぇ……」

「そうだねぇ」

 

後ろのエヴァに前を向いたまま答える。

エヴァはトーナメント戦の次の日に普通に起きた。

 

とくに外傷はなく、問題もなさそうだった。

フィリップくん達のことなど気にもしていないようで、どちらかというとロゼリアさまと戦えなかったことを悔しがっていたくらいだ。

 

『この怒り、どうしてくれようか……ロゼリアさま、模擬戦しよ?私たち全員対ロゼリアさま一人で』

『それはもはや模擬戦ではないのでは……』

 

そんなことをロゼリアさまと話していたくらいだ。

この借りは必ず学園で返すと言っていた。

 

一方で、フィリップくん達に勝った私たちもクラスである程度受け入れられるようになった。

停学から帰ってきた生徒たちは私たちに謝罪したし、最近は無能と言われることもない。

 

どちらかというと、私はマリアの光について聞かれる日々だ。

 

『ウリアさん!あの光ってどうやったの!?』

『あれ光の魔法付与でしょ!光の魔法は武器に付与するの難しいって聞いたよ!』

 

やはり見間違いではなかったらしく、マリアは光っていたらしい。

いつのまにか光の魔法付与ができるようになっていたのか。

そう思ったが、あのあと何度やってもできなかった。

 

(トーナメント戦のときは必死だったからなぁ……)

 

エヴァ達に相談もしたが、彼女達は「そのうちできるよ」と言って笑うばかり。

人が真剣に悩んでいるのに、まったく……。

 

「学園では皆さんは各寮に入ります。その寮で、新しい仲間を見つけて、素晴らしい時間を過ごしてください」

 

学園では生徒は5つの寮のどれかに入る。

私は第1寮だ。とはいえ、ほとんどみんな第1寮らしい。

例外はオリーさんくらいか。彼女だけ第2寮だ。

 

また、セリア先輩も第1寮らしい。

セレン先輩は第2寮らしいので、それは少し残念だ。

寮以外で先輩と会う機会はほとんどないのだけれど。

 

やがてシール先生の言葉が終わり、この教室で過ごすのも最後となる。

もちろん、シール先生の授業を受けることも、もうない。

 

荷物を片付けながら、私は呟く。

 

「思えばいろんなことがあったなぁ」

 

実技試験やオリーさんとの出会い、ロゼリアさまの王位継承権の話やトーナメント戦など、なかなかに濃い一年だった。

 

「来年くらいは、落ち着いて過ごしたいなぁ」

「…………」

 

そう呟いたけれども、後ろから返事は返ってこなかった。

ふと後ろを見ると、エヴァは苦笑いしている。

 

「まあ、いつものメンバー的にまた色々あると思うよ」

「……それはそれで、楽しいからいっか」

 

暖かくなってきた春の季節。

私たちは準備舎を卒業し、エディンバラ学園へと入学する。

 




エヴァ「(落ち着け)ないです」

読んでいただきありがとうございます!
以上で準備舎編終了です。
次回から学園編となります。
ある程度書き貯めてから投稿するので、今しばらくお待ちください!


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皆さんの応援が執筆のモチベーションにもつながりますので、よろしくお願いします!


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学園編
第37話 学園入学と、獣人族の王子


準備舎卒業から少しの休みを挟んで、私たちは教室に集まっていた。

ここはエディンバラ学園。私たちは第1寮の生徒として、入学した。

 

相変わらず入学制代表挨拶はロゼリアさまが務めた。

準備舎と大きく変わったところは制服くらいだろう。

準備舎は私服だったが、学園からは制服が支給される。

 

制服は学年でリボンの色が違うらしい。1年生は赤色だ。

また寮ごとに細かい違いがある。第1寮は剣と杖が×に交差している胸章がある。

 

「はぁ~、いつ見ても制服姿のお姉様、可愛い……」

「ウリア……素敵……」

 

私の席の後ろと真横から熱い視線が飛んでくる。

準備舎と違って、学園の席はランダムだ。

私の横はエヴァ、後ろはルナだった。

 

「いや、ほら、ロゼリアさまとかムースさんとか、似合う人は他にも居るよ」

 

困ったように笑いながら名前を出した2人を見る。

2人とも同じクラスで、少し離れたところで会話をしていた。

 

教室はかなり広く、生徒数も多い。

 

「にしても、準備舎と関わるメンバーは変わらなさそう」

「そうだね。まあ私はウリアがいればそれで!」

 

生徒は増えたが、ある程度グループはもう出来ていた。

とくに準備舎出身はグループに属している。

 

私たちも、一緒にいるメンバーは決まっているので、誰かと積極的に仲良くなろうという気はなかった。

ちなみに教室にいるのは私、エヴァ、ルナ、ムースさん、ロゼリアさま、ユウリィだ。

 

オリーさんは魔法特化の第2寮、ミストは技術特化の第5寮になっている。

 

「はい、始めますよー」

 

そんな声と共に、おっとりとした感じの先生が教室に入ってきた。

眼鏡をかけた、身長の低い女性の先生だ。けれど、アンバランスなほど胸が大きい。

 

先生は緑の髪に、ぶかぶかのセーターを着ていた。

袖が余っていて、手が見えないくらいだ。

 

「皆さんこんにちはー。私はこのクラスの担任のクローネ・マッシリアです。3年間よろしくお願いしますー。それじゃあまずは自己紹介から始めましょー」

 

準備舎のときと同じく、端の席から順に自己紹介が行われる。

とくになにか問題が起こる事もなく、全員の自己紹介が終わった。

 

クローネ先生はうんうんと頷きながら、手を叩く。

 

「はい、ありがとうございましたー。うーん、本当にいつ見てもすごい世代ですね。先生は今まで20年は教師をしていますが、ここまで優秀なクラスは初めてですー。これは寮対抗戦も楽しみですねー」

 

先生の言葉に驚く。

20年ということは、卒業後すぐに教師になっていても38歳だ。

先生はとてもそんな年には見えない。私たち生徒の姉と言っても通じるくらいだ。

 

「大きなイベントとして、冬に寮対抗戦がありますー。これは各寮から4人組のチームを各学年から1つずつ合計で3つ出して、それぞれ競う学園の大きな大きな行事ですー。これに勝つのが教師も生徒も楽しみの一つですー。去年はセリアさんのチームが勝ちましたが、これは今年もいただきですねー。むふふー」

 

準備舎でのトーナメント戦のようなものだろうか?

これまた大きなイベントだ。しっかりと勉強や訓練の糧にしなくては。

 

(にしても、4人か。ドリームチームを作るならロゼリアさま、エヴァ、ムースさん、ルナなのかな?……強すぎる。優勝も狙えちゃうよこれ)

 

クローネ先生の学園に関する話を聞きながら、私はそんなことをふと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは入学から数日たったある日、突然起こった。

急に教室の扉が開いたかと思いきや、一人の生徒が教卓に立った。

 

彼はネクタイの色を見る限り、2年生のようだ。

黒い髪に漆黒の瞳、そして黒い狼の耳が特徴的だ。

ルナにどことなく雰囲気が似ている気がした。

 

「この中にロゼリア・フォン・エディンバラはいるか」

「……はい、私がそうですが」

 

当然そう告げた男子生徒に、ロゼリアさまが応える。

彼はロゼリアさまの姿を認めると嬉しそうに笑った。

 

「そうか。突然だが――」

「失礼ですが、先に名乗るべきだと思いますよ、ラーク王子。我が国の品が疑われます」

 

急に遮ったのは私の後ろの席にいるルナだ。

いつもの彼女とは思えない口調で釘をさす。

というか、ラーク王子?

 

「お前は……」

「お久しぶりです。ルナ・アルスです」

「……ふむ、確かにお前の言う通りだな。ラーク・ヴォン・ヴァレンタイン、ネクステスの王子だ。俺様よりも強い女がいると聞いて、勝負を挑みに来た」

 

一国の王子らしく、かなり俺様系らしい。

私はこういう人あんまり好きじゃないんだよなぁ。

ちらっとロゼリアさまを見てみると、微笑んでいるが目は笑っていなかった。

 

「お言葉ですが、ロゼリアさまの強さは群を抜いています。少なくとも国内の同世代で最強ではないと挑んでも意味はないかと」

「……俺様よりも強いやつがネクステスに居るだと?」

「はい、居ますよ。あなた様の目の前に」

 

ラークさまの目が大きく見開かれる。

私も驚いた。ルナはこう言っているのだ。

自分よりも強くなってから出直してこい、と。

 

「はははははは!月狼族の長の娘如きが、王たる俺様よりも強いだと!?寝言は寝て言え!」

「ならやってみますか?4将軍最強のユエ・アルスの娘が本当の強さを教えてあげます」

「面白い!貴様をなぶってからロゼリアも倒させてもらおう!訓練場に行くぞ、付き合え!」

「……私のことを勝手にロゼリアと呼ばないでください。そう呼んでよいのは許可した人だけです」

 

ロゼリアさまが小声で文句を言うが、聞こえていないようだった。

彼女もそれを予想していたようで、二度は言わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業があるはずだが、私たちは全員で訓練場に移動する。

クローネ先生が慌ててやってきたが、ラークさまを見ると呆れたようにため息を吐いた。

 

「強い人を見つけるといつもああなんですよねー。去年もセリアさんとやり合ってましたー」

「え?どっちが勝ったんですか?」

「個人的な戦いではラーク君ですねー。ただ寮対抗戦ではセリアさんの勝ちでしたー」

 

なんと、あのセリア先輩よりも強いらしい。

そんな人相手に、勝てるのだろうか?

訓練場にはクラスメイトが全員勢ぞろいしていた。

 

ルナは訓練場に入ってラークさまと対峙している。

ラークさまは余裕の表情だ。

 

その間にロゼリアさまが入り、試合開始の合図をしようとする。

 

「それでは試合を始めます」

「ロゼリア・フォン・エディンバラ、準備をしておけ。次は貴様だ」

「……はい、始め」

 

とてもやる気のないロゼリアさまが、開始の合図をする。

その瞬間、ラークさまが吹っ飛んだ。

 

「ラークさま、あなたの相手はこの私です。敵を前にしてよそ見をしていいなんて、誰に教わったんですか?」

 

自国の王子を蹴り飛ばしたルナは、額に青筋を浮かべながら笑みを浮かべていた。




◆ルート開放条件
・ライバルキャラ「ローズ」および「ルナ」を学園入学時に仲間にしている

※原作では開放不可。



読んでいただきありがとうございます!
学園編スタートです。
ほぼ毎話、原作におけるルート進行条件をあとがきで記載する予定です。


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第38話 ネクステス王国最強の娘

吹き飛ばされたラークさまは起き上がると頭を押さえて首を横に振る。

ため息を吐き、こぶしを握った。

 

「だりいな。お前のような小娘が、俺様に意見してんじゃねえよ。起きろ」

「起きて」

 

ほぼ同時にテスタロッサを展開し、お互いに走り出す。

ラークさまのテスタロッサは、両手に装着する籠手だった。

おそらくルナと同じ格闘タイプなのだろう。

 

ラークさまの拳とルナの左手に取り付けられた刃が激突する。

ルナは力負けをし、吹き飛ばされた。

 

空中で体勢を立て直し、着地。

そのまま魔法を唱え、火の大きな槍を作り出してラークさまに投げる。

 

「無駄だ」

 

ラークさまはその槍を真正面から殴った。

魔法を正面から殴るなんて、見たこともない。

さらに驚くことに、次の瞬間、火の槍は砕け散るように消失してしまった。

 

「え?」

「ラーク君は魔法を消せるんですー。その力でセリアさんにも勝ったんですよー。まあ、一回に一つしか消せないんですけどねー」

 

なるほど。たしかにそれならさまざまな魔法を使うセリア先輩に勝てたのにも納得がいく。

というか、魔法使いの天敵のような存在だ。

ラークさま個人の力なのか、テスタロッサの力なのかは分からないが。

 

「なんだぁ!?大口叩く割には大したことねえなぁ!」

 

籠手に黄色い魔力を集中させ、ラークさまはルナに一気に肉薄した。

速い。それに籠手に集まっている地の魔力もとても濃密だ。

 

撃ち込まれる拳をルナは必死に受け止める。

しかし、受けきれずに少しずつ傷ついていく。

 

強い。これがネクステスの王子。

でも、ルナだって強い。一緒に訓練している私はよく知っている。

 

「大きな声をあげて攻撃しないって、習いませんでした?」

「雑魚相手にはそんなこと気にしなくていいんだ――っ!?」

 

急にラークさまの顔色が変わり、ルナから距離を取った。

 

「どうしました?私に……ネクステス最強の姿でも見ましたか?」

「お前……それ……」

 

ラークさまが顔を青くする。

ルナの籠手とレガースには黒い靄のようなものがまとわれていた。

 

「なんで母ができることが、娘にできないと思ったんですか……ね!」

 

ルナは素早くラークさまに肉薄し、拳を突き出す。

防御の構えを取ったにも関わらずラークさまは両手を使っても抑えるのが精いっぱい。

その隙に、ルナの右手がラークさまの脇腹を抉った。

 

「ぐぁ!?てめぇ!」

 

ルナから距離を取り、ラークさまは睨み付ける。

その視線に対して、ルナは闇の魔法で作った剣で返答した。

 

「くそ!!」

 

横に飛んでラークさまは避ける。

けれどその隙をルナに付かれ、インファイトに持ち込まれてしまう。

 

「ル、ルナすごい……」

「というよりも、相性が悪すぎましたね」

 

私の呟きに、後ろからロゼリアさまとエヴァが答えた。

 

「そうだね。多分無効化できるのは闇以外の魔法なんじゃないかな。それに武器に対する魔力付与も消せたんだと思う。だからこそ、ね」

「おそらくは。武器に対する付与が消せるなら、自分はそこまで濃い魔力を付与しなくてもいいですからね。おそらく鍛錬が足りていないのでしょう」

 

もしもロゼリアさまの言うことが本当なら、ラークさまにとってルナは天敵だろう。

闇の魔法を使いこなし、さらに接近戦が得意なルナの攻撃を受け止めるのは難しいだろう。

武器に対する魔法付与が苦手なら、なおさらだ。

 

ラークさまの訓練不足というか、能力に胡坐をかいていたことに気づいたエヴァは、呆れたように呟いた。

 

「接近戦における魔法の属性だけで考えるなら、魔法属性で弱点のない闇が有利だし」

「ルナさんの接近戦はオールマイティで魔法剣士であるセリア先輩相手には通用しないでしょうけど、同じ格闘という土俵ならば、ラーク様相手では有利です。勝負ありましたね」

 

2人の言う通り、そこからはルナの一方的な流れだった。

ラークさまの拳は全て受け止められ、ルナの攻撃は受け止められない。

 

闇の魔力を通した一撃を防ぎきる術を、ラーク様は持っていないようだった。

もう勝敗は、誰の目にも明らかだった。

 

(でも、楽しそう……)

 

一方的な試合でも、ラークさまの瞳には喜びが宿っていた。

自分と対等に戦える相手が現れたからか。それとも戦いそのものが好きだからか。

 

やがてボロボロにされたラークさまはルナに吹き飛ばされ、地面に転がる。

もう戦えないだろう。立ち上がる力も残っていなさそうだった。

 

一方でルナはまだ体力には余裕がありそうだった。

少し息切れしているが、倒れるほどではなさそうだ。

 

「勝負ありましたね。勝者ル――」

「まだだ」

 

ロゼリアさまの言葉が止まる。

驚いたことに、ラークさまは自力で立ち上がった。

ボロボロの体なのに、ゆっくりと体を起こしていく。

 

「まだ……終わらせんじゃねえ。せっかくあの女と同じやつと戦えるんだ。もっと……楽しませろよ……」

「ラークさま……」

 

ルナがポツリと呟く。

その表情はなんとも言えないような、そんな感じがした。

 

「は……お前も……あの女と同じ顔で……俺を見るのな……」

 

そう言ってラークさまは再び地面に倒れた。

もう意識を失っているようで、自力で立つのは無理なようだった。

 

「……勝者、ルナ・アルス」

 

ロゼリアさまの一言だけが、訓練場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいルナ!模擬戦だ!模擬戦しようぜ!」

「だから嫌だって言ってるじゃないですか!めんどくさいんですよ!」

「敬語なんかいらねえって言ってるだろ!お前を倒さないと先に行けないんだよ!」

「ああもう、うざいなぁ!私に関わらないでよ!!」

 

数日後、そこにはルナに対して言い寄るラークさまの姿があった。

あの模擬戦の後、ラークさまはルナに思うところがあったらしい。

学年が違うにもかかわらず、私たちの教室によく来る。

 

「ラークさまに関わってる暇があるなら、私はウリアと一緒に過ごしたいの!」

「はぁ!?そんな雑魚女のどこが――」

「「「は?」」」

 

とっさに私の名前に反応したラークさまはエヴァ、ロゼリアさま、ルナの3人からの威圧で縮こまる。

っていうか、私のこと雑魚っていった!?

 

「悪いけど、二度と近づかないで。この教室にも来ないで。私、ウリアを馬鹿にされるの絶対に許せないから」

「そうですね、今すぐ帰ってください。今後私たちの前に現れたらネクステス王国に正式に抗議します」

「国の王子様が差別発言かー。これは大問題だなー」

 

ルナ、ロゼリアさま、エヴァの発言に、ラークさまは顔を青くして教室を慌てて出ていく。

流石に国のことを出されると、ラークさまも逆らえないだろう。

私としても、苦手なタイプなのでできれば来ないでほしい。

 

(っていうか雑魚って……ちょっとひどくない?)

 

その後もラークさまはルナのことを遠くから眺めたりしていた。

しかし彼の言動でちょっと怒っている私は、その時だけわざとルナを甘やかしたり、甘えたりした。

 

その結果エヴァに脇腹をつつかれるようになるのだが、それでラークさまの悔しい顔が見れるなら安いものである。




◆ルート開放条件
・ライバルキャラ「ローズ」および「ルナ」を学園入学時に仲間にしている

※原作では開放不可。


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第39話 夏休みと、少しの不安

準備舎からエディンバラ学園に進学しても、夏休みは変わらない。

期間も同じだ。課題があるのも、同じ。

 

私はその課題を、エディンバラ学園の図書館で行っていた。

その隣には、ルナが座っていた。

いつも一緒だったエヴァは、今日は居ない。

 

「それにしても、今年も同じところ行ったのかな?エヴァ」

「うーん、どうだろうね?」

 

課題に取り組みながら、ルナはポツリと呟いた。

もう長いこと取り組んでいるので、飽きてきているのだろう。

 

エヴァは夏休みが始まるなり、私に「行ってきます」と告げて学園を出ていってしまった。

専属侍女であるララさんが一緒なので問題はないと思う。

おそらく行先は去年と一緒なのではないだろうか。

 

「にしても、ムースもなんだかなぁ、って感じだよね。せっかく今年はネクステスに皆で行こうと思っていたのに」

 

ルナの言う通り、春の段階では今年は夏休みにネクステスに旅行に行く予定だった。

準備舎の時の約束だったので、異議を唱える人はいなかった。

 

けれど夏休み前に急にムースさんが用事でユグドラシルに帰らなくてはならなくなった。

夏休みはまだ前半だが、すでにムースさんは学園にはいない。

ユグドラシルに帰省している。

 

「せっかくネクステスに旅行しようと思ったのに、いつ帰ってこれるか分からないなんて、なんだかなー」

「でもルナも後半は用事で国に帰るんだから、そんなこと言ったらダメだよ。用事だから、仕方ないでしょ?」

「……まあ、分かってはいるんだけどさー。エヴァはどっか行っちゃうし、ロゼリアさまも公務で城に戻っちゃうし。でも結果として私はウリアと一緒に居れるんだけどね」

 

えへへとかわいい微笑みを私に向けてくれるルナ。

その様子に、ふと気になることを聞いてみた。

 

「ねえルナ。どうしてルナは私に声をかけたの?」

 

ずっと気になっていたこと。準備舎のときにルナは私に真っ先に声をかけてくれた。

なんで私に声をかけてくれたのか、それが気になってはいた。

今まで2人きりになる機会がなかったので、聞くことはできなかったのだが。

 

「……え?」

 

そのとき、ルナの動きが止まった。

目を見開き、数秒停止する。その後に、目線をあちこちに動かし始めた。

 

「そ、それはウリアがお……っ!」

 

途中まで話していたルナは急に頭を机に思いっきりぶつけた。

事故でぶつけたのではなく、わざとぶつけたように見える。

 

「ル、ルナ?」

「……うぅ……痛い……久しぶりだったから油断した……」

 

額を押さえてルナは少し悶絶した後に、涙目で私を見た。

そして手を下ろし、真剣な目で私を見る。

 

「私ね、ずっとお姉ちゃんが欲しかったんだ」

「お姉ちゃん?」

 

そういえばルナは一人っ子だったはずだ。

兄弟も姉妹も居なかったはず。

 

「……準備舎に入ったときに、エヴァと仲良さそうに話してたでしょ?変な話だけど、エヴァが羨ましかったんだ。それで……思わずね」

「そうだったんだ……」

 

ルナの言い分に微妙なひっかかりを感じながらも、素直に嬉しい気持ちになる。

彼女は私のことをまっすぐに見てくれる。それは本当だ。

 

「じゃあ私がルナのお姉さんだね」

「……尊い」

「え?」

「ううん!なんでもない!」

 

なにを言ったのかはわからなかったが、ルナはもう一度言ってはくれなかった。

結局この後、私とルナは世間話を続けてしまい、課題はあまり進まなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日も落ちた学園寮の庭を歩く。

夏休みでは毎日恒例になっている、ミストのお世話だ。

 

学園で授業があるときは問題ないのだが、夏休みは自由な時間が多い。

テスタロッサ調整に夢中になってしまうミストがご飯を抜かしやすいときなのだ。

 

本来は第5寮の生徒がやるべきなのかもしれないが、ミストは私が良いのだという。

私としても別に嫌ではない、というよりも嬉しいので大丈夫だ。

 

「なんかこうしていると、ミスト様がお嬢様の妹のようですね。まあ、エヴァ様は食事を忘れることはありませんが」

 

ついてきてくれているリフィルの言葉が的を射ていて、つい笑ってしまう。

 

「そうだね。それならリフィルはお姉さんかな?」

「そうですね。お嬢様とエヴァ様が妹ならば、私はユグドラシルの家からは出なかったでしょう。私のものを欲しがることもなく、課題を代わりにやらせることもなく、両親にわがままを言って私の食事を抜かせることも。はぁ……」

「…………」

 

踏んでしまったリフィルの地雷。

次々に出てくる暗い過去に苦笑いをしながら、私はリフィルの手を握る。

 

彼女は私の手をしっかりと握り返してくれた。

 

「……ありがとうございます」

 

ボソッと呟いた一言に、少しだけ手に力を入れて握ることで返事をする。

 

そのまま第5寮の食堂に向かい、夕食を受け取る。

いつもなら私が手で持っていくのだが、今回はリフィルに止められてしまった。

 

彼女はトレイを回収すると風の魔法で持ち上げ、私の手を握り直した。

 

「さあ、行きましょうか」

「ふふ、そうだね」

 

改めて手をつなぎ直し、私たちはミストの部屋を目指す。

 

ミストの部屋は食堂から少し離れたところにあった。

手をつないでいない方の手で扉を開けて、中に入る。

ミストは部屋の中で熱心に書類を見つめていた。

 

「ミストー。ごはん持ってきたよー」

「おぉ、ありがとうウリア君!助かるよ。マリー君は食事の時間を教えてくれなくてさ」

「……もう何も言いません」

 

壁際で立っていたマリーさんは呆れたように呟く。

集中しているときのミストは私の声にしか反応しないらしい。

マリーさんもミストの専属侍女になって長いが、何をしても気づかないのだとか。

 

ミストはトレイを受け取って、テーブルに置いた。

 

「いやー、今日は何も食べてなかったから助かったよ」

「え?昨日から食べてないの!?ダメだよミスト!」

「あはは、ごめんごめん」

 

そういってミストは椅子に座る。

彼女はフォークを手に持ち、なにかを考えるように止まってしまった。

 

「……ミスト?」

 

フォークを置いて、ミストは私を見た。

その目はまっすぐで、表情は真剣だった。

 

「ウリア君……もし君が自分ではどうしようもない悩みを抱えているなら、君はどうする?」

「え?」

 

突然の質問に私は思わず聞き返してしまう。

けれどミストの顔は真剣で、いつものようにふざけている様子もない。

 

(自分では……どうしようもない悩み……)

 

自分の適性が、最低値であること。

それは今でも私の悩みだ。どうしようもないけれど、その悩みは今では小さくなってきている。

 

なら、その悩みを小さくしてくれたのは。

 

「私の場合は、エヴァが……皆が助けてくれたから……」

「適性の話だね」

 

ミストは納得がいったように頷いた。

けれど私の答えは、彼女の望んだものではなかったようだ。

 

私はもう一度考える。

自分ではどうしようもなかったこと。

どれだけ頑張っても、無理だったこと。

 

(……あ)

 

思い当ってしまった。

たった一人で、どうしようもなく無力だったあの時のこと。

 

自分のせいで、お母さまが亡くなってしまったこと。

気持ちが一気に沈む。あの時の私は……。

 

「…………」

「……僕は、本当にどうしようもないことは、文字通り、どうすることもできないんじゃないかと思ってしまう」

 

ミストの言葉に、違うと言いたかった。

一人ではだめでも、皆なら大丈夫。そんな言葉を投げかけたかった。

けれど、何も言えなかった。

 

私とミストの間に、沈黙が流れる。

 

「……やっぱり一人ではどうしようもないんだ。君のマリアを解明するのは」

「……え?」

 

マリア?解明?

 

「なんとか一人で頑張ろうと思った!できれば誰にもマリアを見せたくない!僕以外の誰かが観察するなんて嫌だ!だけど一人じゃ解明は難しいんだよ!」

「あー、そういうことね」

 

深刻な悩みかと思えば、ミストの悩みとはマリアのことだったらしい。

思えばミストはテスタロッサ第一主義だった。

 

「ミスト以上にマリアを見れる人が居るの?」

「悔しいことに、第5寮の寮監督であるサザンクロス先生は僕以上の天才だ。悔しいけれどね!」

「あはは……先生に嫉妬してどうするのさ」

 

いつもの調子のミストに苦笑いをしながらも、どこか腑に落ちなかった。

あの時のミストの言葉は、本当に私のマリアを指したものだったのだろうか。

 




◆ルート開放条件
・ライバルキャラ「ルナ」「ミスト」を仲間にしている※
・「ミスト」の魔法が解除されていない

※原作では開放不可。


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第40話 豪雨の中の涙

「あれ?ムースさん?」

 

夏休みも終わりが近づいたある日。

ルナも自国へと帰省してしまい、課題も終わらせてしまった私は暇を持て余していた。

そんな時、ふと窓の外を見ると、見知った馬車が目に入った。

 

ユグドラシル特有の紋章が入った女性用の馬車。

それに乗ってユグドラシルへ出かけたのは、ムースさんだったはずだ。

外が土砂降りの雨のため、馬車は学園寮の玄関に限りなく近づいて止まった。

 

ちょうど死角になっていて、ムースさんは見えない。

けれど、帰ってきたのだろう。

 

「リフィル、出迎えに行こう」

「かしこまりました」

 

リフィルに声をかけて、私は自室を後にする。

久しぶりにミスト以外の友人に会えると思った私の足取りは、軽かったことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムースさーん!」

「あ、ウリアさん」

 

ムースさんの後ろ姿を見て、遠くから声をかける。

彼女は私の声に反応して、振り返った。

笑顔で答えてくれたが、一瞬泣きそうな顔をしているような気がした。

 

「ム、ムースさん?なにかありました?」

「え?な、何もないですよ?」

 

私の問いに、ムースさんは何でもないと答えた。

先ほどのは勘違いだったのだろう。

 

「そうですか。それにしても良かったです。誰も居なくて寂しかったんですよ」

「あら、それなら早く帰ってきて正解でしたね」

「ふふふ。ありがとうござ……え?」

「え?」

 

そのとき、私は気づいてしまった。

ムースさんの目から、一筋の涙が流れたのに。

彼女も今気づいたのか、目を丸くしている。

 

涙が頬を伝って、床に落ちた。

 

「っ!」

「ムースさん!」

 

まるで私を振り切るようにムースさんは走り出した。

私の左を通り抜けて、土砂降りの中、寮の中庭へと駆けていく。

 

突然の出来事に私は驚いたが、視界の隅に映ったのが涙だったと思い出した。

追わなくては。そう思った。

 

外は土砂降り。中庭に出れば私も濡れてしまうだろう。

けれど、今はそんなことは関係ない。

扉を開けてムースさんを追うように、私は外に出た。

 

(っ!……すごい雨……)

 

外は強すぎる雨だった。

走っているにも関わらず、全身がずぶ濡れになる。

 

目的の人は、ちょうど中庭の真ん中に居た。

ただ立って、雨雲の空を見上げている。

 

「ムースさん!」

 

私の声に、ムースさんが振り返る。

土砂降りの雨の中でも、彼女が泣いているのがはっきりと分かった。

 

「ご、ごめん……なさい……きゅ、急に……」

「何があったんですか?」

「だい……じょうぶ……だか――」

「大丈夫じゃないです!!」

 

大丈夫なわけがない。

こんな雨の中、中庭に出て、そんなに涙を流して。

 

「ウリア……さんに……話しても……仕方ない……ですから」

 

なら、なんでそんな顔で泣いているの?

どうしてそんな辛そうな顔なの?

それなら、どうして。

 

「それならどうして、私と話しているときに涙を流したんですか!?」

「っ……それは……」

「なにかあったから……だからじゃないんですか!?」

「なら!!」

 

両手を力の限りに握りしめてムースさんが叫ぶ。

普段のムースさんからは想像もできないほどの大声。

その叫びは、悲痛に掠れていた。

 

「ならウリアさんに話せば、解決するんですか!?」

「そんなの分かんないよ!!」

 

分かるわけがない。だって、どんな悩みなのかすら分からないのだから。

 

「ムースさんが何で悩んでいるか、言ってくれないと分かんない!そうしないと、何もできないよ!」

「そん……なの……」

「でも!」

 

もう敬語も何もかもかなぐり捨てて、私は叫ぶ。

ムースさんに届くように、彼女に響くように。

 

「でも……教えてくれたら絶対なんとかする。全力で、なんとかするから。だから……教えてよ……」

「ウリ……ア……さん……」

 

お願い。届いて。

その気持ちが届いたのか、ムースさんは崩れ落ちた。

膝をつき、うな垂れる。

 

慌てて近寄り、しゃがみこむ。

背中に手を置いて摩ると、いつもは大きな背中が、ひどく小さく見えた。

小刻みに震えているのが、痛々しい。

 

「助けて……助けてよぉ……」

「ムースさん……」

「死にたくない……死にたくないよ……」

 

私は気持ちを堪えられずに、彼女を抱きしめた。

落ち着けるように、強く、強く。

 

「お嬢様、ここは冷えます。とりあえず中に入るのが良いでしょう」

 

ふと声が聞こえた。

首だけを向けると、リフィルが立っていた。

その姿は雨が降っているにもかかわらず、濡れていない。

 

よく見ると、私たちの上に風が集まって、雨を防いでいた。

優しい侍女の言葉に、私はしっかりと頷いた。

 




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第41話 神樹と世界を滅ぼす災厄

第1寮の自室。

そこに戻ってきた私たちは、ずぶ濡れの状態だったのでシャワーを浴びることにした。

そのままでは風邪をひいてしまうので、びしょ濡れの服を脱ぐ。

 

雨に濡れた服は脱ぎにくく、少し手間取った。

ムースさんを見ると、泣き疲れたのか動きが少し遅い。

手伝うと、小声で「ありがとう」と呟いた。

 

脱いだ服を籠に入れて、浴室に入る。

リフィルには事前に頼んであるので、服は回収して乾かしてくれるだろう。

今は体が冷えているので、まずは温めないと。

 

ムースさんの手を引き、シャワーの近くまで連れていく。

ノズルをひねれば、あったかいお湯が斜め上から私たち2人に降り注いだ。

ムースさんを中心にお湯に当たるようにする。

 

すると、私の腕をムースさんがしっかりと掴んだ。

というよりも、抱え込むようにしている。

 

「ごめん……今はこのままで……」

「うん。大丈夫」

 

そのまましばらく、私たちはシャワーを浴びながら身を寄せ合っていた。

 

ある程度体が温まったところでシャワーを止める。

浴室から出るとすでにバスタオルが用意されていた。

 

リフィルに心の中で感謝しつつ、濡れた体をタオルで包み、拭いていく。

大きすぎるくらいのタオルは、私の体についた水分を逃すことなく吸収してくれた。

バスローブに身をつつみ、ムースさんの方を向く。

 

ムースさんを見ると、体は拭いたようだが、髪はまだ濡れていた。

 

「髪を拭かないと風邪ひくよ」

「ん……」

 

普段の彼女ならばテキパキとやるのだろう。

しかし今の彼女は弱っている。その姿を見ていると、エヴァの世話などをたまにする私の姉心が出てきてしまう。

 

ムースさんのバスタオルに手をかけ、髪を拭いてあげる。

前髪を拭いていると、近い位置でムースさんの顔を見ることができた。

 

(すごい……綺麗……)

 

バスタオルで前髪を上げた形になっている。

エルフはリフィルもそうだが、私達人間とは根本的に違う美しさがある。

女の私でも、間近で見るとドキドキしてしまいそうだ。

 

まあ今となってはドキドキよりも、心配で胸が張り裂けそうなのだが。

 

バスタオルで髪を軽くふいた後に、バスローブを着せて腕をひく。

脱衣所から出た後に、リフィルが待つ寝室に向かう。

すでに寝室ではリフィルが目を閉じて待機していた。

 

私のベッドに2人で腰かけると、リフィルはいつものように私の髪を乾かそうとした。

 

「ごめんリフィル。ムースさんからでいいかな?」

「かしこまりました」

 

返事をしたリフィルはムースさんの髪に風魔法を優しくかける。

私もいつもやってもらっている髪の乾かし方だ。

精細な魔法操作ができるリフィルだからこそできる技。

 

それに身を任せているムースさんの左手を、両手で包む。

ムースさんは握り返してくれた。

 

「ありがとう、ウリア」

「ううん、大丈夫だよ」

 

気づけばお互いに敬語が外れていたけれど、気にしている余裕はなかった。

 

「話すね……ウリアは……ユグドラシルの世界樹は分かる?」

「うん、中心にそびえる大きな樹だよね」

「……私はね……その世界樹の巫女なんだって。4歳からずっと。巫女っていうのは、神樹様と融合した人のことを指すみたい。私の中に、神樹様が溶け合っているって」

 

ムースさんの話だと、4歳で世界樹に触れ続けた影響で巫女になってしまったという。

彼女の持つテスタロッサも、世界樹から与えられたものであるとか。

 

「それでね……ユグドラシルに帰ったときに、神樹様に触れたの」

「うん」

 

先ほどからムースさんは世界樹ユグドラシルのことを神樹と呼んでいる。

どちらが正式な名前なのかは分からないが、おそらくどちらも同じものを指しているだろう。

 

「そのとき……私は自分が近い将来に、消えちゃうんだって教えられた。世界を滅ぼす災厄を封印するときに、神樹様と一緒に。巫女である私は、神樹様よりも小さいから、仮に神樹様が消えなくても、私は……消えちゃうって……」

「なに……それ……」

 

話のスケールが大きい。

けれど、それが嘘であるとは思えない。

勝手に巫女にして、勝手に犠牲にしようとする世界樹に、怒りが沸いた。

 

「神樹様は謝ってくれた。……でも、謝っても何も変わらない!私はいつか死ぬ!私が死ななきゃ……ウリア達が死んじゃう……」

「ムースさん……」

 

思わずムースさんを強く抱きしめる。

強く強く。彼女が少しでも安心できるように。

 

なんとかしたい。なんとかして、ムースさんを助けたい。

 

「ムースさん、その災厄はいつ起こるの?」

「私も……詳しくは……でも、少なくとも……10年以内には……再封印しないとって……」

「再封印?」

 

ということは、一度封印されているということだろうか。

なんとかするには、情報が足りなすぎる。

 

「その災厄は……なんなのかな?」

「神樹様は、魔王アインって言ってた」

「魔王……アイン」

 

聞いたことがある。世界に存在する超越者、魔王。

その魔王の中でも最も昔から存在する1人。

魔王【原始】アイン。だが、それは。

 

「ロスヴェイル国の、王様なんだよね?」

 

エディンバラ皇国から見て北西の果て。

どの国とも外交を断絶している国、ロスヴェイル国。

その国を1000年前から支配しているのが、魔王【原始】だ。

 

各国で行われる首脳会議。

それに対して、どんな魔法を使っているのか映像のみで参加し続けている。

一言も話すことはなく、ただ参加しているだけ。それがロスヴェイル国。

 

「それが……神樹様が言うには復活していないから、魔王アインと魔王【原始】は違うらしくて……もうよくわかんないんだけど……」

「えぇ……なんてややこしい……」

 

より詳しい話を聞こうとしたものの、ムースさんは神樹様と直接触れ合わないと会話ができないらしい。

つまり、ユグドラシルに行かなくては、細かいことは分からない。

さらに、神樹様は力が弱まっているらしく、話すことも少ししかできないという。

 

「……なるほど」

 

ムースさんを抱きしめたまま、私は考える。

スケールが大きすぎて、どうすればいいのかなんてわからない。

けど、私はこの話を一人で抱え込むつもりはなかった。

 

「ねえムースさん、この話をエヴァ達にしてもいい?スケールが大きすぎるし、エヴァ達の意見を聞きたいんだ」

「老婆心ながら、私もそのほうが良いと思われます」

「……え?」

 

私の大切な人たちにも話を聞いてみようと思った。

それ自体はリフィルも賛成してくれた。

けれどムースさんは戸惑った声をだした。

 

顔を覗き込んでみると目をまん丸くしていた。

エヴァ達には話さない方がよいのだろうか。

 

「信じて……くれるの……?」

「え?」

 

どうやらムースさんが気にしているのは全く別のことみたいだった。

 

「こんな……変な話を……信じてくれるの?」

「うん、信じるよ。だって、ムースさんの言うことだから」

 

確かに作り話かと思うくらい、話は大きい。

でもムースさんが嘘を言っているようには思えなかった。

少なくともあの涙は、本物だと思ったから。

 

信じていると告げると、ムースさんはまた涙を流して泣き始めてしまった。

その涙に、慌ててムースさんを強く抱きしめる。

 

結局泣き止むまでに、しばらく時間がかかった。

やがて泣き止んだムースさんは、私の腕を両手で抱え込むように掴んだ。

 

「ありがとう……でも……私のことはムースって呼んで。私もウリアって、呼んでいい?」

 

ムースの呼び方が、そしてムースとの距離が、この瞬間に変わった。

 




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第42話 私の最高の友達

夏休みを終え、新学期に突入した朝の教室。

早めに登校した私たち3人は、席で他のメンバーが登校するのを待っていた。

 

「なに?なんなの?本当に意味が分からないんだけど。お姉様は夏休みが終わると世界を変える魔法でも使えるの?」

 

そう心底不機嫌な声で聞いてきたのは妹のエヴァだ。

昨日帰ってきたエヴァは、寮の自室に入るなり荷物を床に落とした。

自分の部屋に、姉と友人が一緒に居たからだろう。

 

あの日以来、ムースは自室に帰ることなく私の部屋に泊まっていた。

リフィルを入れた3人の自室も賑やかで楽しかった。

 

そんなムースは今、私の腕の中にいる。

私が椅子に座って、ムースが床に座って腕の中に納まっている形だ。

 

「その件も含めて、今日の放課後に話してくれるんだよね?お・ね・え・さ・ま?」

「う、うん、もちろん」

 

エヴァが怖い。

その圧に負けて、思わず頷いてしまった。

 

3人で時間が経つのを待つ。

始業時間が近づいてきたときに、ムースは私の腕から抜け出して後ろに立った。

まだ私たち以外に生徒はいない。

 

腕から離れたムースだが、私との距離は変わらずに近い。

私に触れそうな位置に立っている。

 

やがて、ロゼリアさまとルナ、そしてユウリィが登校してきた。

3人は久しぶりという挨拶をすると、不思議そうに私たちを見つめた。

私たちが早い時間から、3人で揃っていることは今までなかったので珍しいのだろう。

 

私は3人に事情を説明しようと思ったが、そのタイミングでムースが私の腕を摘まんだ。

 

「お願いがあります。今日の夜、私の部屋に来てくれませんか?」

 

突然のお誘いに、3人は顔を見合わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、私たちはムースの部屋を訪れていた。

あの後、第5寮のミストにも声をかけた。

ムースの部屋は一人部屋だが、十分な広さがあり、私たち全員が入ってもまだ余裕がある。

 

部屋主であるムースは、ソファーに座って私の手を握っている。

しばらく気持ちを落ち着かせていたムースだったが、やがてゆっくりと話はじめた。

 

「ユグドラシル国には、世界樹ユグドラシルがあります。ただし、私はこれを4歳のころから神樹と呼んでいます」

「世界樹じゃなくて、神樹?」

 

エヴァの疑問に対し、ムースは深く頷く。

 

「というよりも、あの樹は神樹という名前なのです。そう、神樹様は教えてくれました」

「……どういうこと?」

 

ルナの疑問は当然だろう。

ムースはゆっくりと、自分の過去を話し始めた。

 

「私はユグドラシル国の姫として生まれました。私は幼いころから世界樹ユグドラシルに触れ続けました。そして数年が過ぎたときに、私は世界樹ユグドラシルに呼ばれました。そして私は、世界樹ユグドラシルが神樹だと教えられたのです」

 

そういってムースはテスタロッサを展開する。

彼女が持つエクセラ級のテスタロッサ『世界樹の枝』だ。

 

「このテスタロッサも、神樹から与えられたものです。そして私はこの前の夏休みにユグドラシルに帰り、神樹と会話をして、自分の中に神樹の一部があることを知りました」

「……ムースさんの強大な魔力は、その神樹から来ているということですね」

 

ロゼリアさまの言葉に、ムースはゆっくりと頷いた。

 

「神樹は1000年以上を生きています。そんな彼が、近いうちに……10年以内に、世界を滅ぼす災厄が目を覚ますと伝えてきました」

「世界を滅ぼす……災厄……」

 

その言葉は誰のものだったか。

 

「その災厄は必ずまた封印しなくてはならない。……けれど封印をすれば神樹は消えます。……そして……私も……一緒に……」

 

ムースの体が震える。

その姿に、私は横から彼女を抱きしめた。

 

「災厄っていうのは……なに?」

「魔王アインらしいよ。教科書で習った、【原始】とは違う魔王」

 

とてもこたえられるような状態ではないので、ムースの代わりにミストの質問に答える。

 

「また封印ということは、今は封印されているのですか?」

「詳しいことは分からないけど、多分そうだと思います。もしも解かれていたら、世界が滅んでいるはずなので」

 

ロゼリアさまは私の答えを聞いて、「たしかに」と呟いた。

 

「神樹と私たちが話すことはできますか?」

「神樹の一部が体内にある、私しか無理なようです」

 

今度の質問にはムースが答えた。

 

「魔王アイン……再封印……神樹……会話はできない……」

 

ロゼリアさま達は深く何かを考えているようだった。

話の内容が突拍子すぎて、理解に時間がかかっているような、そんな印象だ。

 

これは、信じてもらえないかもしれない。

そんなことを思ったとき。

 

「うーん、どうするかなぁ」

「10年って意外とすぐだよね……」

「そもそも……前に封印したのは誰なのでしょうか?」

 

皆は思い思いに話を始めた。

その会話を聞きながら、唖然としてしまう。

 

「あの……私が言うのもなんなんだけど……信じてくれるの?」

 

その様子を見て、思わず私は聞いてしまった。

エヴァがこっちを向いて、首をかしげる。

 

「え?そりゃあ信じるよ。まあムースさんだけなら信じないけど、お姉様が信じてるんだからね」

「その通りですね。ムースさんだけだと微妙ですが、ウリアさんが言うなら信じます」

「ふふ、なにそれ」

 

ムースのことを信じているのに、それを隠すように私を引き合いに出しているのだろう。

まったく、私の友人たちは最高だ。

 

「にしても……どうする?」

 

友人に対して微笑ましい気持ちを抱いていると、ミストが質問した。

結局は、ここに行きつく。

悩みは分かったけれど、どうすればムースを助けられる?

 

封印をするときに、ムースが犠牲にならないようにする?

前に封印をしてくれた人を探して任せる?

封印以外の方法を探す?

 

封印以外の……方法?

 

(あ……そういうこと?)

 

意外と簡単な答えにたどり着き、私はポンと手を叩いた。

 

「なら封印しなきゃいいんじゃない?封印が解けたら、魔王アインを倒しちゃえばいいんだよ」

「「「「…………」」」」

 

私の言葉に、部屋が静まり返った。

とくにエヴァ、ロゼリアさま、ルナ、ミストは目を見開いて私を見つめている。

あれ?なんか変なこと言った?

 

「ほ、ほら、それが出来れば封印しないからムースも消えないし、災厄も起こらない!」

「いや、ウリア。多分だけど倒せないから封印したんじゃないかな。倒せるなら最初から封印してないと思うんだけど」

「あ……それは……確かに……」

 

よく考えればそうだ。封印をしているのは、倒すことができないからだ。

ムースの指摘で根本から間違っていることに気づき、少し恥ずかしくなった。

 

「いえ、アリだと思われます」

 

しかし、ロゼリアさまは賛成の意を示した。

それにエヴァが続ける。

 

「私もそう思う。封印って、1000年も前の話なんでしょ?それなら、今の時代ならなんとかできるかもしれない。前は封印するのが精いっぱいでも、今回は倒せるかも」

「今の段階ではこんな話を他人にしても信じてはもらえないでしょう。ですが私たちが10年の間に実力をつけて、私たち自身が信頼されるようになれば、もっと多くの協力が得られるはずです。本当に信頼できる人を増やすのも良いですね。可能性は十分にあるかと」

 

ロゼリアさまが心強い言葉をくれる。今の時代なら、もっと力をつければ。

ルナが首を取れそうなくらいに縦に振る。

 

「そうそう。そのために、魔王アインに関する情報を集めないとね。敵を知らないと、勝てないし」

「……敵を知れば……100戦危うからず」

 

ミストも乗り気なようだ。

 

「どうなるのかは分からないけど、どうせ目指すなら最善を目指すべきだね。ムースくんも世界も全部救うってことで、いいんじゃないかな」

 

ユウリィも楽しそうに笑っている。

まだ悩みが完全に解決したわけじゃない。

分からないことだって多い。

 

でも、皆が居れば何とかなるような気がした。

 

「じゃあ皆は日々の訓練を頑張りながら、魔王アインの情報を集めるってことで。ムースさんも神樹が他に詳しいことを知らないか聞いてみて」

「は、はい……」

 

エヴァの言葉に、ムースが答える。

その目には少し涙が浮かんでいたが、目は輝いていた。

 




エヴァ「これがお姉さまの固有魔法、人たらし……」


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第43話 私が知っているのは少しだけ【ムースSide】

決して恵まれた家庭環境ではなかった。

両親は私に興味がないし、実の兄は毎日のように違う女性を部屋に連れ込んでいた。

そんな劣悪な環境の中、私はゲームに没頭するようになった。

 

受験だって、もうどうでもよかった。

学校にも行かなくなった。クラスのみんなは私を馬鹿にしてくるから。

 

家族からも、友達からも、全部逃げた。

自分の部屋に閉じこもって、嫌なものは見ないようにした。

 

そしたら、気づいたら別世界に居た。

アニメやゲームの世界に転生するなんて、夢のような出来事だ。

きっとこれからは明るい人生が待っている。

 

これまでの人生とはおさらばして、幸せに暮らすんだ。

そう思った矢先、私は自分がムース・ユグドラシルだと知った。

神様は、私のことが嫌いなんだと思った。

 

だって、私はこのゲーム、Everlastingを少ししかプレイしていないから。

 

どうして他のゲームじゃないの?

なんで少ししか知らないエヴァラスなの?

こんなの、全く知らない世界と変わらない。

 

でも、それでもまだ前向きに生きていこうと思っていた。

私はムース・ユグドラシル。ユグドラシル国のお姫様。

少なくとも、前世よりは良い暮らしができている。

 

普通に生きて、普通にエヴァラスのストーリーをなぞって、普通にエンディングを迎える。

それが私の目標。

 

そんな私の日常が変わったのは、3歳の時だった。

適性検査を終えた私は、外に出ることが許された。

そこで私は、ユグドラシル国の中央にそびえる世界樹に遊びに行った。

 

(すごく大きくて……綺麗……)

 

初めて世界樹を見たときの感動は忘れられない。

私はそれから、世界樹のそばで過ごすことにした。

長い時間を一緒に過ごすうちに、声が聞こえた。

 

『少女よ……聞こえるか……少女よ』

 

私と世界樹が初めて触れ合った。

思えばこれが、私が神樹の巫女となった瞬間だったのだろう。

神樹は、とても親切だった。私が強くなるための情報をくれた。

 

私は神樹のアドバイスをもらい、自分の実力を伸ばした。

専用のテスタロッサも授かった。

 

(なんて親切なんだろう。神樹様は、私に力をくれる)

 

このとき私は自分を強くしてくれる神樹を、文字通り神様のように崇めていたのだ。

そんな私を、今は殴りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数年後の準備舎にはウリアが居た。

それになぜか、ライバルキャラが皆、転生者になっていた。

少し混乱はしたけれど、困りはしなかった。

 

(全然分からないけど、他にも転生者がいるなら、その人たちが何とかしてくれるかも)

 

私は学園の前半のシナリオしか知らない。

けれど、それ以降のシナリオを知らないという問題が解決しそうで助かった。

一番重要なウリアが転生者かどうか、分からなかったけれど。

 

準備舎にはユウリィも入学していた。

彼女はゲームでのお助けキャラだ。彼女にはゲームで助けられた記憶がある。

 

なぜか転生者達は遠ざけようとしていたけど、私はよくわからないので仲間に入れても良いのでは?と言ってしまった。

話だけでも他の転生者に合わせておけばよかったかもしれない。

 

(前の世界は一人で寂しかったけど、この世界は楽しくていいな)

 

今の世界には皆が居る。

他の転生者に合わせて行動していれば、将来も安泰だろう。

 

やっと幸せに過ごせるようになった。

そう思っていたのに。

 

エディンバラ学園に入学した年の夏休み、私は神樹から恐ろしい話を聞かされた。

 

この世界を10年もしないうちに災厄が襲うこと。

その災厄を封印しなくてはならないこと

封印するのに、神樹が犠牲になるということ

巫女となってしまった私も、同じように消えてしまうこと

 

それらの情報に、私は頭が真っ白になった。

 

『すまぬ……お前と私の親和性が高すぎたばかりに……本当にすまない』

 

ふざけるな。お前が私の中に入らなければ、私は死なずに済んだのに。

そう叫んだけれど、神樹は「すまぬ」と言い続けるだけだった。

 

なんで?どうして?

前世であんなに苦しい思いをしたのに、寂しい思いをしたのに。

なのになんで今回も、私は苦しまないといけないの?

 

私は堪えられなくなって、ユグドラシルから逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園に戻るまでの記憶はない。

気づけば私はウリアに声をかけられていた。

 

私は……ちゃんと笑えるはずだった。ちゃんと話せるはずだった。

でも、ウリアを見ていると私は無意識に涙を流していた。

だってウリアとだって、もう会えなくなってしまうのだから。

 

泣くつもりはなかった。

でも、見られた。よりによって、ゲームの主人公のウリアに。

 

私は駆けだした。

けれどもウリアは中庭まで追ってきて、私を逃がしてはくれない。

 

しつこく聞いてくるウリアに、私はついに言ってしまった。

 

「ならウリアさんに話せば、解決するんですか!?」

 

私はゲームの主人公じゃない。

ただのライバルキャラだ。

そんな私が救われるような仕組みなんて、用意されているはずがない。

 

そう思っていたのに。

 

「そんなの分かんないよ!!ムースさんが何で悩んでいるか、言ってくれないと分かんない!そうしないと、何もできないよ!」

 

なにが……できるの?

ウリアに頼れば……あなたが救ってくれるの?

漫画のヒーローみたいに、私を。

 

「そん……なの……」

「でも!でも……教えてくれたら絶対なんとかする。全力で、なんとかするから。だから……教えてよ……」

「ウリ……ア……さん……」

 

私はずっとみんなと一緒に居たい。

せっかく一人じゃなくなったんだ。

ようやくあの暗い部屋から出られたんだ。

 

「助けて……助けてよぉ……」

「ムースさん……」

「死にたくない……死にたくないよ……」

 

だから、お願い。助けて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、私が消えてしまう件を、今すぐ何とかすることはできなかった。

でもウリアに話したことで、ウリアは考えてくれた。

エヴァ達にも聞いてくれた。

 

彼女に相談したから、不安が和らいだ。

 

解決したわけじゃない。

見方によっては、少しも前に進んでないかもしれない。

 

でもウリアと一緒なら、何とかなるかもしれない。

ウリアと一緒なら、魔王アインを封印せずに、倒せるかもしれない。

何の根拠もない。けれど、ウリアは真っ暗だった私の心に、一筋の光を射してくれた。

 

(主人公じゃなくて……ヒーローだったのかもしれない)

 

微笑むウリアを見ながら、私はそんなことをふと思った。

 



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第44話 寮別対抗戦と1年の終わり

冬の寒い時期、エディンバラ学園での一年の大きなイベントが寮別対抗戦だ。

エディンバラ学園には第1寮から第5寮までが存在する。

それぞれ、以下のような特徴がある。

 

第1寮:オールマイティ、あるいは器用貧乏の生徒が集まる

第2寮:魔法が得意な生徒が集まる

第3寮:剣、槍、弓、格闘などが得意な生徒が集まる

第4寮:軍略、戦略が得意な生徒が集まる

第5寮:テスタロッサ調整が得意な生徒が集まる。

 

これらの内、第1寮から第4寮から3チームづつ、計12チーム出し合い、トーナメント戦を行うのが寮対抗戦だ。

第5寮は別の寮の出場者のテスタロッサを調整するために不参加となっている。

 

各寮から3チームづつ、というので分かると思うが、各学年から1チーム出場するという流れだ。

そのため、第1寮の1年生から1チーム、つまり4人を選ぶことになる。

 

「1年生に関してですが、ロゼリアさん、エヴァさん、ルナさん、ムースさんの4人で大丈夫ですかー?」

 

クローネ先生の言葉に、誰も意見を言わない。

隣に座るエヴァはめんどくさそうな顔をしているし、後ろのルナに関してはポツリと「嫌だなぁ」と呟いていた。

 

エヴァはこういった大きなイベントはあまり好きではないと思うし、ルナに関してはおそらくラークさまのことを考えているのだろう。

 

とはいえ、私的にもこの4人で確定だろうと思う。

ドリームチームともいえるし、優勝だって狙えるだろう。

 

「ふむ……一応チームとしても考えてみましょうかー。チームの基本は前衛と後衛ですー。前衛はルナさんとエヴァさんですよねー?」

「先生、一応私も前衛はこなせます」

 

クローネ先生の質問にロゼリアさまが答える。

ムースは前衛ではないけれど、ロゼリアさまなら問題なくできるだろう。

 

「えっとー、あとは回復魔法や補助魔法ですねー。ヒーラーは必要ですー」

「私は魔法全般得意ですので、問題なくできます」

「ムースさんほどではありませんが、私もできます」

「えー、問題なさそうですねー。はい」

 

クローネ先生は諦めたように話を終わらせた。

確かによく考えてみると、この4人が第1寮に集中しているのが奇跡のようなものだ。

 

「ところでー、テスタロッサの調整に関してですが、4人は誰に頼んでいるのですかー?」

「私たちは第5寮のミストさんに普段依頼しているので、今回もそのつもりです」

「あ……なるほど……」

 

戦力的に強い4人のテスタロッサを調整するのが天才技師であるミスト。

この情報に、ついにクローネ先生はいつもの口調を辞めてしまった。

 

ムースは専属の技師と契約していると言っていたが、実際には契約はなかったようだ。

聞いた話によると、神樹から授かったテスタロッサなので調整を依頼しなかったとのこと。

夏休み明けのムースの部屋での件から、彼女は調整をミストに依頼していた。

 

神樹から授けられたレア中のレアであるテスタロッサの調整。

それを依頼されたミストの反応は言うまでもないだろう。

 

『すごい!すごすぎる!これが神樹のテスタロッサ!素晴らしい!ずっと見ていられる!』

 

その様子を見ていたムースは苦笑いをしていた。

けれどその後も継続的に依頼しているので、特に問題はなさそうだった。

 

「お姉様、私たちの活躍、見ててね」

「う、うん……しっかりと見ておくよ」

 

話がまとまりかけ、隣に座るエヴァからそう言われた。

活躍を見るというよりも、活躍しかないような気がするのだが。

そんなことを思いながら、私は苦笑いで返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後のトーナメントに関しては、学園の歴史に残るようなワンサイドゲームが展開された。

私たちのクラスから選ばれたロゼリアさまのチーム、別名チームロゼリアは1年生のためにもっとも対戦数が多い場所に配置された。

 

優勝するためには全部で4回勝利する必要があるのだが、その全てをチームロゼリアは歴代最短かつ誰一人戦闘不能になることなく勝利したのである。

 

一回戦では1年生の他寮のチームを蹂躙。

二回戦では相手が3年生のチームなのに、圧倒的に勝利。

この段階で会場は大いに盛り上がっていた。

 

『おぉーっとチームロゼリア、強い!強すぎる!去年のセリアチームを思い起こさせる強さだ!』

 

寮対抗戦はとても大きなイベントなので巨大な会場で行われる。

全寮生が見るのみならず、ナレーションや実況解説まであるくらいだ。

 

皆の声援を受けたチームロゼリアは準決勝でセリア先輩のチームを苦もなく撃破。

そして決勝でラークさまのチームを撃破した。

流石に準決勝と決勝は強敵だったらしく、少し苦戦はしていたように感じた。

 

『個人としての強さが際立っているのは言うまでもないでしょう。ですがそれ以上にチームとしての練度が高い。油断なく練習したのは褒められる点ですね』

 

隠れてこっそりと観戦していたらしいリフィルもそう言っていた。

個人個人の力に任せた戦いなら、負けることはなくても誰か一人は戦闘不能になっていただろうとのことだった。

 

こうしてチームロゼリアは優勝し、第1寮は去年から数えて2連覇となった。

クローネ先生はそれはもう大喜びで、4連覇も夢ではないと意気込んでいた。

すぐにロゼリアさまによって、来年は寮別対抗戦はありません、と訂正されていたが。

 

寮別対抗戦の後、しばらくラークさまはルナに付きまとっていた。

かなりしつこかったようなので、私とエヴァの方でお話をしたくらいだ。

流石にネクステスの王子がストーカーでは問題がある、と警告したところ、渋々引き下がっていた。

 

アークくんはロゼリアさまを敬意の目で見ているし、エヴァは1年生の中で人気者になった。

ムースも親切な性格から人気が高い。

友人たちが学年から人気で、私も鼻が高い。

 

冬を越え、春を迎える。

エディンバラ学園での1年が、そろそろ終わる。

 

「あ……え、エヴァエヴァ!見て!」

「んー?……あ、お姉様、ついにDランクがあるよ!」

 

年度終わりの検査で、光の適性がついにDに上がった。

Dは学園入学時の平均的な生徒の値だ。

 

1つだけとはいえ、ここまで来れたのは感慨深い。

1年遅れではあるが、こうして成長していくのはとても嬉しい。

 

「ありがとうエヴァ……本当にエヴァのおかげだよ……」

「ふふ……お姉様が頑張ったからだよ。もっと頑張って、次はCを目指そうね」

「うん!」

 

日々の成長を確かめながら、私たちは2年生になる。

 




◆ルート開放条件

・とくになし


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第45話 ユグドラシル王子は元婚約者

エディンバラ学園の2年生に進級した。

クラスは1つしかないので、クラス替えはない。

ただ第2寮や第3寮からこちらの寮に移動してきた生徒は何人かいる。

 

とはいえ、私たちには関りがほとんどない。

相変わらず真面目に授業を受けて、エヴァ達と訓練をする日々だ。

 

そんな日々が変わったのは、ある春の朝のことだった。

その日、私は教室がざわざわし始めたことに気付いた。

 

前の扉を見てみると、金髪の男子生徒が入ってきていた。

ネクタイの色を見る限り、ラークさまと同じ3年生のようだ。

金の髪に、緑の瞳、そして尖った耳。

 

ユグドラシル国における第二王子、ソラス・ユグドラシルさまだ。

ムースのお兄さんでもある。

彼はムースの姿を見つけると、彼女のもとに歩きよった。

 

「ムース、話がある。放課後時間を作ってもらえないか」

「え?構いませんよ。では放課後にお兄様の教室に伺いますね」

「ああ、頼むよ。それじゃあ授業頑張って」

 

少し会話をしたソラスさまは教室を後にする。

ソラスさまがいなくなったあとも、教室の女子生徒は色めき立っていた。

 

ラークさまが俺様系のイケメンだとしたら、ソラスさまは白馬の王子様だ。

人気があるのも納得できる。私はどちらも好みではないが。

 

ただ今まで彼がムースを訪れることはなかった。

なにか、嫌な予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その嫌な予感が現実のものになったのは、次の日の朝だった。

私はエヴァと一緒にムースに呼び出された。

教室を出て、廊下で話をする。

 

「えっと……なにから話したものか……私の兄を知ってる?」

「ソラスさま?」

「あ、いやソラスお兄様ではなく、もう一人の兄、ジラルド・ユグドラシルの方」

 

ムースにソラスさま以外にも兄がいたなんて知らなかった。

エヴァも同じようで、首を横に振っている。

 

「ジラルドお兄様はもうこの学園を卒業してるからね。実はソラスお兄様を通してジラルドお兄様から言伝があって……」

「え?ジラルドさまから?」

 

ムース、ソラスさまのお兄さんということはユグドラシル国の王子様ということだろう。

そんな人が私たちに何か用事だろうか。

 

「ウリアにじゃなくて、ウリアの専属侍女であるリフィルさんに、なんだけど」

「リフィルに?」

「うん。あの……言われたことをそのまま言うから怒らないでね?私が思ってるわけじゃないから……こほん。リフィル・フローディア、俺様の婚約者に戻してやる。だからエディンバラの貴族の侍女なんていう真似は辞めろ……だそうです」

「えぇ……?」

 

言われた内容がよく分からなくて、頭を抱える。

リフィルが私の専属侍女になってからもう5年が経っている。

それにユグドラシル内でちゃんと話をしているはずだが。

 

「知らないと思うんだけど、実はもともとリフィルさんとジラルドお兄様は婚約を結んでたの。だけど2人は5年前に正式な婚約解消を行っているはず。なんで今更……」

 

ムースの言葉に記憶を思い返す。

確か懇親パーティで初めて会ったとき、婚約者にも嫌われていると言っていたような気がする。

 

「ジラルドお兄様は性格にちょっと難があってね。元婚約者であるリフィルさんには勿論のこと、ソラスお兄様や私にも上からモノを言ってたんだ」

「なにそれ、感じ悪い」

「エヴァさんの言う通りだね。……一応リフィルさんに伝えてもらえるかな?」

「うん、わかった」

 

ムースと分かれ、もやもやした気持ちのまま私たちはその日の授業を受けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。いつものように訓練を終わらせ、寮の自室に帰る。

座ってエヴァと一緒に休みながら、リフィルに朝のことを話した。

 

「……最悪ですね」

 

話を聞いたリフィルは忌々しそうにつぶやいた。

 

「ジラルド王子ってどんな人なの?」

「そうですね……ウリアお嬢様と正反対の人です。自分勝手、暴力的、他人蔑視、暴言だけ豊富と悪い点はいくらでも出てきます」

「リフィルよく我慢できたね……」

 

強い嫌悪感を隠そうともしないリフィルに、ジラルド王子がかなり酷い人だということが分かる。

そんな人を婚約者にして、好かれようとしていたなんて。

 

「お嬢様と出会う前の私は、誰かに愛されることに飢えていましたからね。今となってはあのとき手を差し伸べてくれなかった人達などどうでもよいのですが」

 

初めて会った時に比べると、リフィルはかなりドライになった気がする。

というよりも、感情の向ける先が私たちに向いているだけか。

 

「で、どうするの?返事するの?」

「無視しますよ。めんどくさいですし」

「まあ、そうだよね」

 

予想通りのリフィルの返答に、私は苦笑いをした。

向こうから何か言ってくるまでは、無視するのが一番だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事態が動き始めたのは、一週間後だった。

とくに何もなかったので忘れていたくらいなのだが、寮の入り口で出会ってしまった。

 

「……お嬢様」

「あ?こいつがお前の主か?」

 

入り口に居たのは洗濯籠を持ったリフィルと金髪の長髪の男性だった。

長い耳に緑の目、おそらくムースのお兄さん、ジラルド王子だろう。

 

「なにしてるわけ?ここ学園の寮だけど」

「あ?てめえには関係ないだろ」

 

エヴァの質問に対し、ジラルド王子が暴言で返したためにむっとした。

なんだこの人。ラークさまよりも数倍感じが悪い。

 

「失礼、お久しぶりですねジラルド殿下」

「ロ、ローズ皇女殿下……」

 

しかしそれを見かねたロゼリアさまが声をかける。

知り合いなのか、ジラルド殿下は驚きつつ、機嫌をうかがうような態度へと変わった。

 

改めて私たちを見て、めんどくさそうな顔をしている。

 

「学生への干渉は禁止されている筈ですが」

「申し訳ありません。用があるのは生徒ではなく侍女の方です。許可の方はガイウス王より頂いております。……リフィル、さっき言った通り、絶対に来いよ」

 

ジラルド王子は逃げるように私たちの前から消えた。

その背中を、リフィルはひどく冷たい目で見ていた。

 

「いったい何があったのですか?」

 

事情を知らないロゼリアさまはリフィルに聞く。

リフィルは頭を一度下げると、事情を話し始めた。

 

「詳しいことは分からないのですが、私との婚約について話があると。詳細は週末に城下町のカフェで話をするとのことです。すみません、寮の前であのような失態を……」

「いえ、それは構いません。にしても、婚約者ですか。王子の婚約者ということならば地位的にはかなりの好待遇ですが、どうするのですか?」

「私は地位や権力には興味がありません。それに、ジラルド王子のことは嫌いです」

「ふむ……」

 

リフィルから話を聞き、ロゼリアさまは考えるそぶりをする。

やがて何かを思いついたように、私を見た。

 

「ウリアさん、週末のリフィルさんとジラルド王子の話し合いに同席していただけませんか?私の予想が正しければ、面白いものが見れるかと」

「……え?まあ、いいですけど」

 

リフィルとジラルド王子の話し合いに私が居て意味などあるのだろうか。

そんなことを思いながらも、ちょっと心配だった私はロゼリアさまの要求を快諾した。

 




◆「ユグドラシル王子襲来」ルート開放条件
・リフィルが魔王【天】との戦いで生存する
・リフィルがウリアの専属侍女になっている
・リフィルがユグドラシルに5年以上帰国していない

※原作ではルートが存在しません


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第46話 ユグドラシル王子の、不穏な空気

週末を迎えた。休日なので学校は休み。

私はリフィルを引き連れて城下町を歩いていた。

寮監督であるアイリス先生には外出許可書を提出している。

 

事前に聞いたカフェの看板が見えてくる。

すると、リフィルの歩みが少し遅くなった。

振り返ってみると、心底いやそうな顔をしている。

 

彼女の不安を取り除くために、手を握る。

するとリフィルは私を見て、安心して微笑んだ。

 

「ここだね」

「はい」

 

目的のカフェに到着し、扉を開ける。

店員さんに奥に案内されると、そこにはジラルド王子が座っていた。

 

彼は私たちに気付くと、顔を顰めた。

 

「一人で来いと言ったはずだが?」

「申し訳ありません。私はお嬢さまの傍を離れるわけにはいきませんので」

「はぁ?」

 

舌打ちをしたジラルドさまは顎で席を示す。

席は2つしか用意されていなかったので、リフィルは自分で近くの席を移動させた。

着席し、言葉を待つ。

 

「言いたいことは一つだ。リフィル、お前もう一度俺の婚約者になれ」

「……意味が分かりません」

「お前、自分が今ユグドラシルでなんて呼ばれているか知っているか?」

 

リフィルは首を横に振る。

5年以上彼女と一緒にいるが、リフィルがユグドラシルに帰ったことはない。

 

「……戦乙女だよ。笑えるだろ?……でもそれが民の総意だ。魔王を退けたお前は英雄なんだよ。それこそ国を二分するくらいのな。そんなお前が王族との婚姻を破棄し、他国へと身を寄せた。これがどれだけヤバいことか分かるか?」

「言いたいことは分かります。ですが私は事前にジルヴァ長老から許可を取っています。国内に関しても、彼の方でなんとかすると聞いています」

「そんなもんは昔の話だ。現にあのクソジジイではどうしようもないから、俺がわざわざここまで来たんだ。戻ってくれるよな?」

「お断りします」

 

はっきりとしたリフィルの拒絶に、ジラルド王子の顔が怒りに染まる。

 

「……理由は?」

「私はお嬢さまに全てを捧げると決めました。ユグドラシルがどうなろうと知ったことではありません」

「祖国が二分されてもいいってのか?」

「はい」

 

ジラルド王子は声をあげて笑い、リフィルを睨み付ける。

 

「何年か前までは俺の顔色をうかがって、はいしか言わなかった人形がなに逆らってやがる。何が不満だ?ユグドラシルの王妃になるんだ。今みたいな貴族の侍女なんかと比べ物になるかよ。金も地位も名誉も、すべて手に入るんだぞ!?」

「私はアルトリウス家の侍女に固執しているわけではありません。それに王妃という地位にも興味がありません」

「ならそこのパッとしないクソガキか!?なにを吹き込まれた!調べたぞ、大して実力もない――」

「黙れ」

 

空気が重くなる。

意気揚々と話していたジラルド王子は顔を青くしながら、冷汗をかいている。

その首元には、細剣が突き付けられていた。

 

「他のことはどうでもいいです。私のことも構いません。ですが、お嬢様のことを悪く言うことだけは許さない」

「……なんだよ、結局顔色をうかがう相手が俺からそいつに変わっただけかよ。あぁ、悪かった、撤回する。……お嬢さん、すまなかったな」

 

ジラルド王子は私を一瞥して謝罪した。

しかし、その言葉には気持ちが全くこもっていない。

この人、謝るつもりなんて毛頭ないんだ。

 

リフィルは剣をしまい、再び席に着く。

ジラルド王子は溜息をつくと、立ち上がった。

 

「気持ちはよく分かった。ただ、ユグドラシルとしてもお前をこのままにはしておけない。……来週末、時間あるか?」

「……あります。ですが――」

「なら、もう一度ここで話し合わせてくれ。ジルヴァ長老も交えて話をしよう」

 

急にしおらしくなるジラルド王子。

その様子に、何か嫌な予感がした。けれど。

 

「分かりました。それでは同じ時間にもう一度話し合いましょう」

「ああ、……だがユグドラシルの機密情報に関わる。悪いがお嬢さんは――」

「いえ、行きます」

「……好きにしろ」

 

リフィルは次の週末の話し合いを受け入れてしまった。

流石になんとかしなくてはと思い、私も参加を表明した。

 

ジラルド王子はそれに対して忌々しそうに返した。

やっぱり、この人とリフィルを2人きりにしてはいけない。

私の頭がそう警告している。

 

立ち上がり、リフィルの手を取る。

カフェで飲んだコーヒーの代金を机に置き、手を引いてその場を後にした。

 

少しでも早く、この気持ち悪い空間から抜け出したかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、私はムースの部屋を訪れた。

今日の出来事について、少なくともムースには話をしておいた方がいいと思ったからだ。

 

彼女は部屋に居て、私を迎え入れてくれた。

ソファーに座り、今日の出来事を話す。

ムースは話を聞きながら、何かを考えているようだった。

 

「私もユグドラシルにはたまにしか帰らないけど、リフィルさんを英雄視する意見は確かに多い。でも、その結果、国が二分するっていうのはちょっと。お父様の考えまでは分からないけど……」

「……エルフの人たちは、そんなリフィルがエディンバラ皇国の貴族の侍女になっているってことに怒ったりしないのかな?」

 

ふと、話を頭の中で整理していて思ったことだ。

国を二分するほどのことがあるなら、その英雄であるリフィルが私なんかのところにいるのは、エルフさんたちが怒りそうなものだが。

 

「怒らないんじゃなくて、怒れない、だね。ユグドラシルでリフィルさんがウリアの侍女だって知っているのは数えるほどしかいないから」

「え?そうなの!?」

「うん。私もこの学園でウリアと出会って初めて知ったよ。びっくりしたなぁ、昔見た人がメイドの姿で同級生の後ろに居るんだもん」

 

クスクスと笑うムース。

しかし次の瞬間には、その笑顔は消え、不安そうな顔になった。

 

「でも……このことが国中に知れ渡るとそれはそれで不味いと思う。国が二分するまでは行かなくても、反発することはあるかも。ジラルドお兄様がそこまで気付くかは分からないけど……」

「……ムース、次のお休みの日の話し合い、一緒に参加してくれないかな?」

「うん。その方がいいと思う。場所と時間を教えて?」

 

ムースに時間と場所を共有して、部屋を出る。

心強い味方を得て、少し安心した。

 

部屋に帰る途中で、ロゼリアさまのことを思い出した。

彼女は今日の話し合いに私とリフィルだけが参加することで、面白いことになると言っていた。

 

結果として面白いことは起きなかったのだが、ロゼリアさまには話しておいた方がいいと考え、目的地を変える。

ひょっとしたら、なにかまたアドバイスがもらえるかもしれない。

 

そう思いロゼリアさまの部屋を訪れたものの、彼女は不在のようだった。

こんな時間に居ないなんて、王城に行っているのかもしれない。

残念に思いつつも、私は自室へと戻り、明日へと備えた。

 



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第47話 こんな家族に、リフィルを好きにはさせない

次の週末を迎えた。

あのあと、学園でロゼリアさまに会って話をしたけれど、

 

「なるほど、分かりました。ウリアさんは予定通り、次の休みにリフィルさんに付き合ってください」

 

と言われただけだった。

ロゼリアさまのことだから、なにか考えがあるような気がするけれど。

 

一抹の不安を感じながら、私はリフィルと一緒に寮を出た。

部屋でエヴァに「ついていこうか?」と言われたものの、エヴァまで一緒に来てしまうと、ユグドラシルに関係ない人が増えてしまい、話し合いそのものが行われなくなってしまうかもしれない。

そう考え、やんわりと断った。

 

寮を出て、前と同じカフェに向かいながら、ぼんやりと考える。

 

(ムースと一緒に寮から行けばよかったなぁ)

 

ムースには場所と時間だけを伝えていた。

どうせならば一緒に行けばよかったのだが、そこまで頭が回らなかった。

 

後悔しつつ街を進み、目的地へと到着する。

中に入り、昨日と同じ席へ。

そう思い店内を進んでいく。

 

一番奥のテーブルには、ジラルド様の他にも数人が着席していた。

 

「遅いよお姉様!待ちくたびれたじゃない!」

 

向かいの席に座っている緑色の髪の少女が甲高い声で叫ぶ。

その横に座る男女もうんうんと頷いているようだ。

 

(この人達……誰?)

 

今日この場に来るのはジルヴァ長老というユグドラシルのお偉いさんのはず。

どう見ても人数が多い。

それにお姉様って……?

 

リフィルを振り返ってみると、彼女は目を見開いていた。

拳が小刻みに揺れ、動揺しているのがよく分かる。

 

「リース……お父様……お母さま……」

「遅かったじゃないか。まあ、座れよ」

「……ジラルド様、どういうことですか?今日はジルヴァ長老が来られる――」

「うるさいぞ!王子の御前だ!とっとと座らないか!」

 

ジラルド様に話を聞こうとしたとき、急に壮年のエルフに怒鳴られた。

意味が分からずに困惑していると、彼はまくしたててくる。

 

「わざわざエディンバラ皇国にまで足を運んだんだ!お前に取る時間などない!とっとと座れリフィル!」

「……はい」

 

おとなしく座るリフィル。

流石に立っているままではいられないなので、私も席に着いた。

 

(どうなってるの?一体何が……)

「悪いねお嬢さん。今日はジルヴァ長老は来ない。でも代わりに懐かしい人を連れて来た。リフィルも嬉しいだろう?家族に会えて」

 

ジラルド王子が意地悪そうな顔を浮かべた。

彼はリフィルをじっと見て、机を叩く。

 

「リフィル、返答を聞かせてもらおうか。婚約、結びなおしてくれるよな?」

「それがいいわ!お姉様がジラルド王子ともう一度婚姻を結びなおせば、ユグドラシルは安泰だわ!」

「そうよそうよ!」

 

リースさんとリフィルの母親が賛成だと大きな声で叫ぶ。

その声は甲高く、耳がキーンとした。

 

「……お断り……します」

「馬鹿者!!王子の誘いを断るとは何事だ!お前の返答は、はい以外ありえん!」

「し、しかし……」

「貴様、私に逆らうのか!?育ててやった恩を忘れたのか!?」

 

あまりの言い分に、私はかっとなった。

 

「待ってください!婚約者を決める権利はリフィルに――」

「うるさい!年下は黙っていろ!お前には関係ない!」

「な……関係なくなん――」

「年下が話に割り込んでくるなと言っている!」

 

返ってきた言葉に、私は唖然としてしまう。

なに、この人?話が通じない。そもそも話す機会を与えてもくれない。

すぐ大声でかき消されてしまう。

 

(……これはムースに来てもらってから――)

「ムースは来ない。あいつは足止めしてある。それに、家族水入らずの話し合いに、あいつは不要だ」

「な……」

 

やられた。まさかムースのことを妨害してくるなんて。

私が彼女に声をかけることまで予測していたのか。

 

「お姉様がジラルド王子と結婚すれば私たちは王族の仲間入りよ!」

「そうね。それなら落ち目の家も建て直せるわ」

「リフィル、いつも言っていただろう。お前は家のことだけを考えなさいと。それがお前の使命だ!」

「…………」

 

次々とリフィルの意見を無視して進められる彼らの会話。

それを聞いて、私は困惑していた。

 

(なに……この人たち……)

 

意味が分からない。彼らはリフィルのことなど何も考えていない。

あるのはただ自分たちが幸せになるだけ。自分たちの欲望を満たすことだけ。

なんでそんなことができるの?リフィルは、血のつながった家族じゃないの?

 

その在り方が、私の知っているエヴァやリリスさんとは違っていて、気持ち悪くなった。

こんなものが……家族?

 

「リフィル、分かっただろ?お前の家族も婚約を応援してくれている」

 

違う、彼らはリフィルのことなんて考えていない。

応援しているんじゃなくて、命令しているんだ。

 

「そうよ!私たちは幸せになってほしいの」

「リフィル、私たちはいつでもあなたのことを考えているわ」

「そうだ、これがお前が一番幸せになる道なんだ」

 

彼らは、リフィルのことを家族と思っていない。

ただの都合の良い、駒としか考えていないんだ。

 

そんなの……そんなの認められるわけがない。

こんな人たちに、リフィルを渡さない。

 

「すぐにユグドラシルに帰るぞ。支度をしろ。今日中にはこの国を――」

「お断りします」

「……お嬢様?」

 

渡すものか。

 

「貴様、口を出すなと何度も――」

「お断りします!!!」

 

大声ではっきりと拒絶する。

その声に、今まで私の意見をかき消していたリフィルの父親は面を食らったような顔をした。

 

「……お嬢さん、昨日の話を聞いていただろう。リフィルがユグドラシルに戻らないと国が二分するんだ。だから――」

「知りませんし、どうでもいいです。するならすればいい」

「……侍女がその人に仕えるかは侍女次第だ。リフィルにはユグドラシルに来るという意思が見受け――」

「知りません。なにを言われても、なにをされても、私はリフィルを手放す気はありません」

 

まっすぐとジラルド王子を見て、一言一言を潰していく。

絶対に退かない。そんな思いだけで、私は会話をしていた。

 

ジラルド王子は舌打ちをして、私を睨み付けてくる。

 

「……お前のエゴでユグドラシルを滅ぼすことになるんだぞ。それにお前は部外者のはずだ。なんでそこまでリフィルに入れ込む?」

「リフィルが私の専属侍女だからです。彼女は私を求めてくれた。ならそれに応えるのが、主人としての役割です」

「これは国としての意見だ!一貴族の令嬢如きが、口を出すな!」

「お断りします!例えなにをされても、リフィルは渡しません!!」

 

白熱する私とジラルド王子の話し合い。

その意見はどこまで行っても平行線だった。

 

「っ!貴様!」

 

ジラルド王子が立ち上がり、拳を振り上げる。

リフィルが思わず反応しそうになったが、それを手のひらで静止した。

暴力に訴えたければ、そうすればいい。そんなことで、私は意見を曲げない。

 

「そこまでじゃ。ユグドラシルとしては、エディンバラ皇国と戦争をする気はない」

 

しかしその拳は、私に当たる前に止まった。

響いたのは、年老いた、けれども威厳のある声だった。

そしてそれに続くのは、私の親友の、頼もしい言葉。

 

「あら、そうですか?私としては構わないのですが……」

「勘弁していただきたい、ロゼリア皇女殿下……」

 

急に景色が歪んだかと思うと、テーブルの横に、急に2人が現れた。

それは私の親友にして、この国の皇女ロゼリアさまと、白髪の老人だった。

 




◆「リフィル争奪戦」ルート開放条件
・「ユグドラシル王子襲来」ルート開放済み
・ローズの好感度が100以上である

※原作ではルートが存在しません


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第48話 専属侍女と風の誓い

突然の2人の登場に、私たちは驚いて声が出ない。

そんな中で、最初に正気に戻ったのは、ジラルド王子だった。

 

「ク、クソジジイなんでここに!?」

「ウリア!」

 

ジラルド王子の声を遮るように、大きな声が店内に響き渡る。

振り返ると、ムースがこちらに駆け寄ってきていた。

その後ろにはソラスさまの姿もある。

 

ムースは私のものにつくと、息を整えてジラルド王子を睨み付けた。

 

「急にユグドラシルから用事があると言われて話を聞いていましたが……いったい何をしているのですか?ジラルドお兄様」

「ムース、ここは儂に任せてほしい」

 

詰め寄ろうとするムースを制止したのは白髪の老人エルフだった。

恐らくこの人がジルヴァ長老なのだろう。

 

「ついにやりおったなジラルド。あれだけリフィル・フローディアに接触するのは禁止だと言ったはずだ!」

「ちっ……どうなってやがる……」

 

顔を青くしながらうろたえるジラルド王子。

その質問に答えたのはジルヴァ長老ではなく、ロゼリアさまだった。

 

「私は2週間前にウリアさんから話を聞いてすぐにユグドラシルに連絡をしました。考えうる限りの最短の日程でジルヴァ長老に来ていただいたということです。ちなみに先ほどの会話は私の魔法で隠れてすべて聞いていました。リフィルさんに対する言動も含めてです」

「リフィル嬢の話を全然聞かないではないか。あれでは話し合いではない、命令だ。どうせ私が関知しないうちにリフィル嬢と婚姻を結びなおす算段だったのだろう」

「時間をかけて一体何を考えているのかと思いましたが、リフィルさんの家族を連れてくるなんて……本当に長老に声をかけておいてよかったです」

 

なんとなくそんな気はしていたが、ジラルド王子はジルヴァ長老から許可を得ずに婚約を結びなおそうとしていたらしい。

こうなってくると、ユグドラシルの話についても怪しいところだ。

 

ロゼリアさまの機転に感謝していると、彼女は私の視線に気づき、微笑んでくれた。

 

「それにリフィル嬢と結婚しないと国が二分するだと?バカを言うな!そこまで弱ってはいないわ!仮に結婚させるにしても、貴様ではなくソラスにするわ!」

「お父様?」

「……いや、仮にだ。仮に。リフィル嬢の意見が第一に決まっておろう」

 

ジルヴァ長老を睨み付けたムースはため息を吐いて、リースさんを見た。

 

「記憶が正しければリースさんとジラルドお兄様は恋仲だったはずです。にもかかわらず姉であるリフィルさんの結婚を祝福するなんて、おかしな話ですね。……まるで正妃はリフィルさんで、側室にリースさんを迎え入れたいようにも聞こえます。仕事をリフィルさんに丸投げして、自分は側室と愛を育むのですか?吐き気がしますね」

「……先ほどの話を聞く限り、やってもおかしくないじゃろう。まあ、こんな問題を起こしてはジラルドから継承権をはく奪するしかないが」

「な、何を言っているクソジジイ!」

 

それに対して身も凍るような笑顔で答えたのはロゼリアさまだった。

 

「「我が国の」貴族令嬢の侍女を勝手に婚約者としたい、と「我が国で」交渉した挙句、貴族令嬢を「我が国で」愚弄し、加えて暴言、会話を遮るといったことを「我が国で」行ったのです。抗議をするのは当然ですし、そう言った人が次の長老になるなら外交については考え直さないといけないでしょう。最悪の場合、戦争に発展することもあるかもしれませんね」

 

我が国、を大きく協調をして、ロゼリアさまは理由を話す。

彼女が口にすればするほど、ジラルド王子とリフィルの家族は顔が青くなっていく。

ジルヴァ長老も、ひきつった顔をしている。

 

「……ロゼリア皇女殿下、最悪の話はやめてくだされ。ジラルドは元々素行に問題があった。それゆえに次期長老はソラスとする」

 

ジルヴァ長老の言葉に、ロゼリアさまはにっこりと微笑む。

 

「あら、ソラス先輩ならば品行方正ですし、問題はなさそうですね」

 

ソラスさまは無言でロゼリアさまに会釈をした。

 

「また、リフィル嬢を除くフローディア家についても貴族位をはく奪するものとする」

「ま、待ってください長老!私たちは――」

「馬鹿者!貴様らが一番悪いわ!リフィル嬢、およびアルトリウス家の者に関わらないように監視をつけるものとする!もう好き勝手出来ると思うでないぞ」

 

ジラルドさま、およびフローディア家の処遇が決まる。

しかし、彼らはそれに納得がいかないようだった。

 

「なんでよ!ジラルドさま言ったじゃない!あいつを婚約者に戻せば、もっと裕福になれるって!そのためにわざわざエディンバラまで来たのよ!?」

「なっ、俺のせいだというのか!?お前だって賛成していたじゃないか!」

「あなた、私平民なんて嫌です!」

「俺だって同じだ!なぜこんなことに……」

 

彼らは彼らで醜い争いを始める。

誰が悪いかなんて一目瞭然だ。全員悪いに決まっている。

その様子を見ながら、ジルヴァ長老は低い声で呟いた。

 

「……あっけないものじゃのう。連れて行ってくれ」

 

ジルヴァ長老の声で、店内にエルフの兵士たちが入ってくる。

彼らはジラルド王子とフローディア家を拘束する。

 

全員最後まで抵抗していたが、言っても聞き入れてはもらえない。

そのまま店の外に連れ出された。

もう二度と会うこともないだろう。

 

激動の数分だったが、それがようやく終わった。

疲れが急に出てきて、椅子に深く座り込む。

 

「お嬢様……」

「はは……リフィル良かったね」

「はい。これで……」

 

最後の方は小声だったので聞き取れなかった。

 

「ウリアさん、素晴らしい発言でした。カッコよかったですよ」

「ロゼリアさま……」

 

ロゼリアさまは私の肩に手を置き、微笑んでいた。

そうか、ロゼリアさまは魔法で透明になっていたと言っていた。

それならば私のあの発言も。

 

「聞かれていたんですよね……ついカッとなっちゃって……ちょっと恥ずかしいです」

「ごめん、私の兄が……それに間に合わなくて……」

「ううん。ムースもありがとう。助かったよ。一人だと押し切られていたかもしれない」

 

ロゼリアさまが来てくれたこともだが、ムースが駆け付けてくれたことも大きな助けとなった。

ほっと胸をなでおろしていると、ジルヴァ長老が声をかけてきた。

 

「ウリア・アルトリウス伯爵令嬢、初めまして。儂はユグドラシルの長老ジルヴァ・ユグドラシル。よろしく」

「あ、よろしくお願いします」

 

真剣な顔をしていたジルヴァ長老は、急に顔を笑顔にした。

 

「いやぁ、それにしてもすごい気迫でしたな。儂は感動しましたぞ!」

「お父様?」

「んん!」

 

ムースに睨まれて、ジルヴァ長老は姿勢を正した。

 

「まずは謝罪を。儂の息子が迷惑をかけた。リフィル嬢も、すまんかった。ジラルドは継承権をはく奪したうえで、離れに軟禁とする。もう君たちが会うこともないじゃろう。ソラス、およびムースにはリフィル嬢の意見を尊重するように、と言い聞かせておる。君たちが望むなら契約書を交わしても良い。儂らはリフィル嬢を英雄と思っておるが、ユグドラシルに縛り付けたいわけではないことを分かってほしい」

 

文句のつけようもない処遇だ。

 

「分かりました。色々と配慮、ありがとうございます」

「……ありがとう」

 

話がまとまり、ひと段落。

けれどジルヴァ長老は私のことをじっと見てくる。

その瞳は、何かを観察しているようだった。

 

「長老、あまり淑女の体をじっと見るものではありませんよ」

「いや、そうではない。清らかな心をしておる。ムースやロゼリア殿下が入れ込む理由も分かる、そう思っていただけじゃ」

「そうですね。もしもリフィルさんの仕えている主がウリアさんでなければ、ここまで素早くは進まなかったでしょう。……さて、そろそろ私たちも出ましょうか。ジルヴァ長老は城で引き続き来賓としてもてなします。ソラス先輩、ムースさん、お手数ですが、手を貸していただけますか?」

「はい」

「かしこまりました」

 

ユグドラシルのお偉いさんたちと言葉を交わしたロゼリアさまは私の方を向いて微笑んだ。

 

「お疲れさまでした。今日は家でゆっくりと休んでください。とくにリフィルさんはようやく家族の鎖から解放されたことですし」

「ご配慮、ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 

私の感謝の言葉を聞いて、ロゼリアさまは溜息を吐いた。

 

「はぁ……ウリアさんに関しては敬語はいらないといつも言ってるんですが、もう直りそうにありませんね……。ムースさんが羨ましいです」

「あ……あはは……」

 

こんなお偉いさんと普通に話していて、王者の風格を持つロゼリアさまと敬語抜きで話すなんて恐れ多いことだ。

ロゼリアさまが敬語を使っているのだからなおさらだろう。

 

ムースに関しては、なんというか、あの一件以来とても近くに感じてしまった。

とくに2人きりになると甘えてくるので、どうもこれまでの落ち着いたイメージがないのだ。

 

ロゼリアさまたちと別れて屋敷へと向かう。

その間、私はずっとリフィルの手を握っていた。

 

日の光に照らされたリフィルの表情は明るく、憂いがなくなったと感じた。

 

寮に戻り、玄関で右往左往していたエヴァに声をかける。

全て良い結果になったと話すと、彼女は大きく喜んでくれた。

 

「ロゼリアさまが色々と手を尽くしてくれたんだ。おかげでリフィルはまだ家の侍女でいられるよ」

「正確にはお嬢さまの侍女です」

「ま、まあそうだね」

「ふーん……ロゼリアさまが……ねぇ」

 

ただ、ロゼリアさまの話を出すとエヴァはふてくされたような顔になった。

昔からそうだが、エヴァはロゼリアさまをライバル視している傾向がある。

ロゼリアさまもまんざらでもなさそうだ。

 

それでも仲が良い関係性が、ちょっといいなと思う。

 

「まあいいや、私からもロゼリアさまには感謝の言葉を送っておくね。それじゃあ部屋に戻ろう。私心配し過ぎて疲れちゃったよ」

「そうだね、ちょっと休憩しようかな」

 

エヴァの話に賛同して自室に向かおうとしたときに、リフィルが声を上げた。

 

「お嬢様、少しだけよろしいでしょうか?中庭の方に足を運んでいただけませんか?すぐに終わりますので」

「え?うん、いいけど」

 

特に断る理由もないので、リフィルの言葉にうなずき、エヴァを引き連れて中庭へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学園の寮の中庭。

夕日が照らすその中央に私は立っていた。

 

目の前には、跪いているリフィルが居る。

エヴァは遠くからその様子を見ていた。

 

「お嬢さま、私が剣を掲げて言葉を話し終わったら、一言「許可する」と言っていただいてよろしいですか?」

「う、うん?わ、分かったよ」

 

リフィルは右手にストリームを展開し、それを地面と平行に両手で持った。

左手を剣の柄に、右手を剣の刃に添えている。

細剣を私に向かって掲げているような形だ。

 

「私、リフィル・フローディアはウーレリア・アルトリウスさまを主とし、護ることを誓う。主よ、この風を受け取ってください」

 

リフィルの言葉をはっきりと理解し、私は涙が出そうなほど嬉しくなった。

 

騎士の誓い。本で読んだことがある。

騎士は主に仕える際にこういった行為を行い、忠誠を示す。

おそらくユグドラシルにも同じような習慣があるのだろう。

 

これまでもリフィルは私のことを認めてはくれていた。

けれど今回の一件で、さらに信頼してくれた。

そう思って、いいのだろう。

 

「はい。許可します。これからもよろしくね、リフィル」

「……はい」

 

リフィルとの距離が、ぐっと近くなった気がした。

 

「ユグドラシルにも騎士の誓いみたいなものがあるんだね。カッコよかったから、絵とかにおさめられれば良かったなぁ」

「もう、エヴァったら」

 

遠くで見ていたエヴァがこちらに近づきながら言う。

 

「……風の誓い、というものです。専属侍女としてお嬢様に使えていましたが、そう言えば騎士としては仕えていなかったなと思い出しまして」

「そうなんだ。でもそれがなくても私はリフィルのこと、信頼してるよ」

「ありがとうございます。私の気持ちの問題ですので、お手数をかけてしまいましたね」

「ううん、大丈夫だよ。それに、嬉しかったし。ありがとうね」

 

リフィルと微笑み合う。

無事に騒動はひと段落し、また私の周りには平和が戻ってきた。

これからもこんな日々が続けばいいなと思う。

 

私はリフィルと結んだ風の誓いの本当の意味を知らないまま、日々を過ごしていく。

 




◆「風の誓い」ルート開放条件
・「リフィル争奪戦」ルートをクリアする
・リフィルが依然として専属侍女である
・リフィルの好感度が100以上である

※原作ではルートが存在しません

◆風の誓い
ユグドラシルに伝わる儀式。
かつてエルフの姫を守るために、一人の騎士が剣を捧げ、一生を伴にする誓いを果たした。
結果、彼らは結ばれ、死が二人を分かつまで幸せに過ごしたという。
ユグドラシルでは、男性から女性に結婚を申し込む際の古い慣習となっている。
現代ではこの慣習を行うエルフはほとんどいない。

※エヴァラス設定資料集(非売品)から引用


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第49話 ミストフィアの絶対なる強者、魔王

夏休みが近づいてきたある日の朝のこと。

いつもの時間に登校した私とエヴァは、珍しくミストとルナが机で話しているのを見つけた。

 

ミストはたまに第1寮の教室に顔を出す。

けれど、こんなに早くから居るのは珍しいことだ。

 

朝の挨拶をして荷物を置くと、私は二人に何の話をしていたのかを聞いた。

 

「……夏休みの……予定。……ルナの家に……遊びに行かないかって。……ウリアも……一緒に行こう?」

「今日急にミストから話をされたんだ。よければ2人もどう?別荘に招待するよ」

 

夏休みはいつも通り前半は学園で過ごし、後半はアルトリウス家に帰る予定だったので、前半ならば時間はある。

それに、ネクステスに旅行に行くという話は前からしていた。

 

「うん、私は大丈夫だよ」

「あー、ごめん、私はちょっと用事があって無理かなぁ」

 

私は問題ないのだが、エヴァは断っていた。

彼女は準備舎の頃から夏の長期休みに姿を消す。

毎年なにをしているのか聞いているのだが、教えてはくれなかった。

 

危険なことをしているわけではないし、専属侍女のララさんも連れているから大丈夫だと思うのだが。

 

「エヴァ、今年も?一人で大丈夫?……いや、まあ大丈夫なんだろうけど、なんかこう、心配というか……」

「大丈夫だよお姉様!私もう16歳だよ?」

「うん、まあ、そうなんだけどね」

 

どちらかというと妹離れ出来ていない私の方の問題だったりする。

なんとも言えない気持ちになるが、これに関してはエヴァは行くことをやめない。

準備舎の頃から、それはずっと変わらない。

 

そんなことを思っていると、ロゼリアさまとムースが登校してきた。

彼女達も荷物を置いて私たちの席に集まってくる。

 

「ミストさんがこんなに朝早くからいるなんて珍しいですね」

「あ、ロゼリアさま、ムース、夏休み、私の家の別荘に行きませんか?今のところミストとウリアが参加する予定なんです」

「ごめんなさい、夏休みはちょっと忙しくて、参加できそうにないんです」

「私は大丈夫ですね。お邪魔します」

 

ロゼリアさまもエヴァと同じく夏休みは用事があるようだ。

去年は学園にいたようだが、あまり会う機会はなかった。

王位継承権がなくなったとはいえ、将来的に国の中核を担うことは確定なので、することは多いのだろう。

 

「ロゼリアさまは不参加で、ムースは参加ね。ふふふ、ムースにネクステスのすばらしさを味あわせてやるわ」

「いや、ネクステスが素晴らしい国だというのは分かっていますよ。まあ、ユグドラシルには負けますが」

「なにをー!」

 

この2人もいつも通りだ。

ルナがつっかかり、ムースがあしらう。それが仲良く見えて、ほほえましくなっていく。

そんなことを思っていると、ミストがゆったりとした動作でルナの制服の袖をつまんで引いた。

 

「ルナ……ユエさんに……会わせてほしい……テスタロッサ……見たい」

「お母様に?いいけどお母様は専属の技師さんがいるよ?」

「うん……構わない……見れればいい」

 

テスタロッサの天才であるミストが興味を持つルナのお母さん。

そういえばルナは自分の母のことをネクステス最強だって言ってたような気がする。

 

「ルナのお母さんって何者なの?」

「何者って、ユエ・アルスだよ。……って、世界情勢に関する授業は夏休み明けからか。えっとね、ネクステスの4将軍って分かる?」

「うん、聞いたことあるよ。ネクステス連合王国ですっごく強い四人の将軍でしょ?」

 

ネクステス連合王国は軍があり、その最上位に4人の将軍が位置するらしい。

エディンバラ皇国は魔法軍と騎士団に分かれるが、ネクステス連合王国は軍のみなので、そこが大きな違いだ。

 

そしてその四人の将軍のことを4将軍と呼ぶ。

まさかそのうちの一人が。

 

「そう、そのうちの一人が私の母、ユエ・アルスだよ。4将軍最古参にして、最強。国内にはファンもいっぱいなんだよ。私からしたら、普段は優しいお母様なんだけどね。まあ、訓練のときはめちゃくちゃ厳しいけど」

「すごいね。ネクステスで一番強いんだ」

「他の4将軍3人がかりでも勝てないらしいからね。ラーク王子も厳しくしごかれてたよ」

 

あぁ、だからルナと戦ったときに、ユエさんの話を出して動揺していたのか。

ルナの母親ということは、ユエさんも闇の魔法を使うのかな?

 

「ユエさんもルナと同じで闇の魔法を使うの?」

「闇と火がメインだね。武器は鎌だからそれは違うけど」

「ユエさんの闇の魔法の実力は世界でも指折りだと言われています。まあ、魔王を除けばですが」

 

ロゼリアさまの言葉に感心する。

難しい闇の魔法を使いこなす上に、世界でもトップクラスだなんて。

 

(にしても、やっぱり魔王は別格なんだ)

 

強い人の話をすると必ず出てくる魔王。

トリリアントや世界有数の実力者、という表現はよく聞く。

けれど、魔王は格が違うように思える。

 

「魔王がすごく強いのは分かるんだけど、魔王より強い人たちって居ないの?」

 

ふと気になって、私は質問した。

すると、ロゼリアさまは考え込む。

 

「どうでしょう?魔王については分かっていないことが多すぎますからね。しいて言うなら、伝説上になってしまいますが神や勇者とかでしょうか?」

「神?勇者?」

 

ロゼリアさまの言葉に首を傾げる。

そう言えばそんな話を、なんかの本で読んだ気がする。

 

「1000年以上前の伝説だね。神は世界を創り、勇者を遣わせて世界を平定したっていうやつ。まあ、神話だから当然現実にはいないよ」

「あぁ、そういえばそんな内容だったね。テストに出てたなぁ」

 

エヴァの言葉に当時に習った内容を思い出す。

 

「まあ、いずれにしてもそんな伝説上の存在を出してこないと勝てないくらい魔王っていうのはやばい連中ってことだよ。とくに私たちが目的としているやつはね」

 

そうだ。エヴァの言うとおりだ。

私たちが倒さないといけない魔王アインもその名の通り、魔王だった。

 

「……そろそろ……戻るね。夏休み……よろしく……」

 

ミストはそう言うと教室を出て行った。

しばらくして鐘がなり、クローネ先生が教室に入ってくる。

 

先生の話を聞きながら、私は授業に集中した。

 




◆ルート開放条件
・ミスト、ルナが仲間になっている※
・ミストの洗脳魔法が解除されていない

※原作ではルートが存在しません


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第50話 天才技師を蝕む魔の手

太陽の光が眩しい夏。

私たちはネクステス連合王国の首都、ガーネリアを訪れていた。

 

メンバーは私、ルナ、ミスト、ムース、リフィルだ。

ルナの案内で、ガーネリアの郊外にある別荘に来ている。

 

別荘はとても大きく、南の海で遊ぶこともできるという。

 

「お母さまはそのうち来ると思うから、それまで中でゆっくりしてようか」

 

外から別荘を簡単に紹介したルナは私たちを中に招き入れる。

別荘の中は手入れが行き届いていて、獣人のお姉さんたちがメイド服を着て私たちを迎え入れてくれた。

 

荷物を渡し、部屋へと案内してくれる。

階段を上り、奥が寝室のようだ。

 

「とりあえずベッドある大きな部屋を一つ用意したから、そこで寝泊まりはすればいいと思う。別荘の中の設備は好きに使っていいよ。使用人たちには言ってあるから、声をかければ色々と教えてくれると思うし」

 

ルナの言葉を聞きながら扉を開けて部屋へと入る。

部屋は広く、床には絨毯が、そしてベッドが複数置かれていた。

奥には大きな窓もあり、そこから海が一望できるようだった。

 

しばらく、ミスト達と一緒に部屋で話をしたり、別荘の中を探索したりした。

ある程度歩き回り、部屋でベッドに座って感触を楽しんでいると、ノックの音が響いた。

 

メイドさんが扉を開けて中に入ってくる。彼女は一礼した。

 

「皆さま、遠路はるばるお越しいただきありがとうございます。奥様も先ほど到着したようです。一階で食事の準備も出来ていますので、どうぞいらしてください」

 

メイドさんの言葉に従って一階に降り、大広間に入る。

そこには私たち全員が席についてちょうど良いサイズ感のテーブルと、その一番奥に黒い長髪の女性が座っていた。

 

ウェーブのかかった髪に、紫色の瞳。

凛とした表情は、まるでルナをそのまま大人にしたようなイメージだった。

 

この人がユエさんだろう。

彼女は立ち上がり、私たちに微笑みかける。

 

「ルナがいつもお世話になっています。母のユエと申します。本日はどうぞよろしくお願いします。さあさあ、皆さん席について」

 

ユエさんの言葉に、私たちは席に着く。

リフィルも使用人だが、食事をとらねばならないので、遠慮がちに私の隣に着席した。

 

「ウリアさんにムースさま、ミストさんにリフィルさんね」

「ユエさん、私に王位の敬称は不要です。ここはユグドラシルではありませんし、ユエさんはネクステスの方ですから」

「あら?ジラルド元王子よりも融通の利く方なのですね。安心しました」

「私もソラス王子もネクステスとは有効な関係を築いていきたいと思っています」

「そうですね。ただここはあくまでも非公式の場、堅苦しい話はなしにしましょう。ところで……」

 

そこまで話してユエさんはリフィルを見た。

その眼には好奇の色が宿っている。

 

「……どこかで会ったことはないでしょうか?」

 

ユエさんはネクステスの将軍。

同じく過去に軍を率いていたリフィルと、面識があるのかもしれない。

けれどメイド服を着ているリフィルと、過去の姿が一致しないのだろう。

 

「私はウリアお嬢様の専属侍女です。お会いしたことはないと思います」

「……そうですか。それでも、十分な実力の持ち主のようで……」

「申し訳ありませんが、模擬戦などをするつもりはありません」

「お母さま、ウリアたちの前で恥ずかしいから辞めて」

 

ルナの言葉にユエさんは困ったように笑う。

 

「ごめんなさいね、強い人を見ると獣人の血が騒いでしまって……ところで、あなたがミストさんね、話は聞いているわ。キルシュが誇る天才技師だと」

「ありがとう……ございます……」

「…………」

 

ユエさんはそう言ったきり、ミストをじっと見つめる。

その眼は険しい。だがミストではなく、ミストを通して何かを見ているような感じだった。

 

彼女は顎に手を添え、何かを考えている。

やがて、おずおずと質問をした。

 

「ミストさんは……技師よね?闇の魔法が得意とかではなく?」

「!?」

 

ミストの目が、大きく見開かれた。

その瞳は動揺して揺れている。

 

しかし次の瞬間には無表情になり、首を横に振った。

 

「僕は……闇の魔法は……使えない」

「でもさっきの反応、何か思い当たる節があるのではないかしら?」

「……最近、自分じゃないような……そんな気がする……」

 

ミストの言葉に私は耳を疑った。

ユエさんは「それなら」と深刻な声色で告げる。

 

「ミストさん、あなたは闇の魔法にかかっています。けれどそれが具体的にどんな魔法なのか、私には分かりません」

「お母さま、どういうこと?」

「うっすらとだけれど闇の魔法の痕跡が見えるわ」

 

衝撃の一言を告げたユエさんはじっとミストを見つめる。

何かを探るような、そんな目だ。

 

「……精神に干渉する魔法と、魔法そのものを隠す魔法、どっちも見たことがないくらい精度が高い。けれど、ほころびが見えるわ。まるで長い月日が魔法のベールを少しずつ剝がしたように見える」

 

ユエさんはルナに説明をする。

その説明を聞きながら、私はユエさんに質問をした。

 

「せ、精神に干渉する魔法って……大丈夫なんですか?」

「詳しいことは調べてみないと分かりません。食事はいったん中止して、私の部屋に来てもらっても良いですか?」

「お願いします!」

 

いつものミストとは思えない大きな声に驚きながら、私はうなずく。

ムースも同意し、私たちはユエさんの部屋へと足を運んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「恐ろしいくらい精度の高い魔法です。私の闇の魔法の適性でギリギリ見えるくらい。もしももっと早く会っていたら、見落としていたでしょう……」

 

ペタペタとミストに触りながらユエさんは恐る恐る口にする。

 

「秘匿魔法の方はずっと機能していますね。それこそ15年は経っているでしょう」

 

私たちは今年で16歳になる。

つまり、生まれてから今までミストはずっと魔法にかかっていたことになる。

 

私は不安な気持ちをおさえつつ、恐る恐る聞いた。

 

「精神に干渉する魔法は……発動しているんですか?」

「いえ、そちらは今まで一度も発動していませんね。ずっと準備段階にある……これは、おそらく洗脳系統の魔法でしょうか?こんなの……見たことがありません」

「ま、待ってお母さま、ということはミストは生まれたときに洗脳魔法をかけられて、それをずっと隠されていたってこと?それって……ミストの両親が?」

「……可能性が一番高いのはそうだけど……ミストさん、ご両親は魔法の秀でた方ですか?」

 

ミストはフルフルと首を横に振る。

 

「それに両親は……そんなこと……しない」

「魔法に適性がないなら不可能ですね。この魔法をかけるなら、少なくとも私以上の実力が必要でしょうから」

 

ネクステス最強のユエさん以上の実力者。

それを聞いて真っ先に思い浮かんだのは、「魔王」だった。

 

「ユエさんよりも強いってことは……魔王ですか?」

「可能性はありますが、どちらかというと他国のトリリアントか、あるいはまだ表に出てきていないトリリアントクラスの実力者の方が可能性が高いですね。キルシュの席次持ちには、闇魔法のスペシャリストも在籍していたはずですし……それと、残念ながら解除も難しそうです。下手に弄るとなにが起こるか分かりません」

 

各国の情勢はわからないが、ミストが生まれた時ということは、母国であるキルシュが怪しいということになる。

とくに席次?に闇の魔法のスペシャリストがいるなら、その人の仕業である可能性が高いだろう。

 

そんなことを思いつつも、ユエさんは何かを考えこんでいた。

不思議に思ったのか、ムースが声を上げた。

 

「どうかしたんですか?」

「いえ……その……実は、どちらの魔法もかなり弱まっています。魔法の劣化具合が激しいので、放置していても数十年規模の長い時間がかかりますが、消えるとは思います。ただ……なぜ弱まっているのかが分からなくてですね。ミストさん、なにか特別なことをしたりしましたか?」

「僕は……テスタロッサを調整していた……だけだから……」

「テスタロッサ調整が闇魔法に影響を与えるなんて聞いたことはありませんね……。ふむ、これ以上は考えても無理そうですね。とりあえず今の段階では手の打ちようがありません。……食事に戻りますか」

 

ユエさんの言葉に、私たちはうなずいた。

その後、食事をとってルナ達と他愛ない話をした。

 

けれどその間、私は頭の中で別のことを考えていた。

どうしてもミストの闇の魔法が頭をよぎってしまう。

 

(闇の魔法……洗脳魔法……ミストがミストじゃなくなっちゃうの……いやだなぁ……)

 

私はそんなことを思いながら、眠りについた。

 



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第51話 あぁ、やっぱり君は【ミストSide】

時間が経てば経つほど、僕は焦っていく。

ミスト・ライヘンリッツは死ぬ。

洗脳魔法を解かない限り、それが運命だ。

 

けれど16歳になっても、僕は何の成果も得られていなかった。

魔法をどうかするどころか、洗脳魔法にかかっていることすら、周りに伝えられなかった。

 

何もしなかったわけではない。このミストフィアで闇の魔法に詳しい人物は3人いる。

 

ネクステス連合王国所属、ユエ・アルス・ザクセン。

エディンバラ皇国所属、クリス・ラプラス・ギリアン。

キルシュ国所属、ハンス・ナインズ・エーデルハイム。

 

これらのうち、ハンスに関してはキルシュ所属なので接触できない。

僕に魔法をかけたのは、キルシュの関係者だからだ。

 

(だからまずはエディンバラ学園で出会えるクリス教頭に接触した。去年の夏休みに、彼女と長い間顔を合わせた。けれど……)

 

クリス教頭は僕にかけられた魔法に気づかなかった。

闇の魔法に強いものなら、気づけるかもしれない。そんな淡い希望が消え去った。

 

(闇の魔法が高ければ洗脳魔法に抗える……それしか原作には書いてなかったじゃないか!)

 

ここにきて僕は致命的なミスに気付いた。

そもそも3人が洗脳魔法に気づけるなら、原作においても早い段階で判明しているはずだ。

にもかかわらず大惨事になるまで気づかれないなら、それはその魔法が発動するまで分からないからだろう。

 

つまり僕の死の運命は変わらないということになる。

 

この運命を変えるために、幼いころ、ウリアに近づいた。

彼女は友人として、とても素晴らしい女性だった。

そのやさしさに救われたこともある。

 

けれど、ウリアには僕の地獄を伝えられない。

 

(リフィルを救ったその力で、僕も助けて……)

 

なんどそう思ったか分からない。

けれどウリアは僕の地獄には気づかない。

それが辛くて、苦しくて、将来が不安で仕方がなかった。

 

いつか洗脳魔法が発動したとき、僕は死ぬ。

でもそのとき、僕はウリア達を殺そうとするだろう。

 

自分の意識がある状態で、大切な人を、自分が手にかける光景を見せられる。

それは想像を絶する地獄だろう。

 

(やだよ……もっとみんなと一緒にいたいよ……)

 

最後の望みをかけて、夏休みにルナの別荘に行くことをお願いした。

目的はルナの母親であるユエだ。

 

けれど、僕は半ばあきらめていた。

攻略サイトを編集していたから知っているが、ユエの闇の魔法の練度はクリス教頭と同じくらいだ。

クリス教頭に分からないなら、彼女にだって分かりっこない。

 

いや、もう僕の地獄を分かってくれる人はいないのかもしれない。

そう諦めかけた。

 

「ミストさんは……技師よね?闇の魔法が得意とかではなく?」

 

だから、ユエからそう言われたとき、何を言われているのかすぐに理解できなかった。

その意味を頭の中で反復させて、喜びが体を満たした。

ユエが神様に見えた。

 

「恐ろしいくらい精度の高い魔法です。私くらいの闇の魔法の適正でギリギリ見えるくらい。もしも早く会っていたら、見落としていたでしょう……秘匿魔法の方はずっと機能していますね。それこそ15年は経っているでしょう」

 

けれど、話を聞けば聞くほど不思議な気持ちになる。

早く会っていたら、見落としていた?それではまるで魔法が弱まったみたいだ。

けれどそんな描写は原作にはなかった。

 

「いえ……その……実は、どちらの魔法もかなり弱まっています。魔法の劣化具合が激しいので、放置していても消えるとは思います。ただ……なぜ弱まっているのかが分からなくてですね。ミストさん、なにか特別なことをしたりしましたか?」

「僕は……テスタロッサを調整していた……だけだから……」

(あぁ……そういう……ことだったんだ)

 

僕は同じテーブルに腰かけているウリアを見る。

他のキルシュ国民がやっていなくて、僕だけがやっていること。

原作のミストがやってなくて、僕がやっていること。

 

(ウリアのテスタロッサが……ウリアが助けてくれたんだ)

 

ウリアは主人公だ。だからこそ特別な力を持っている。

原作で洗脳魔法を解いたのは、全部で2つ。そのうちの一つはウリアの力だった。

 

そのことは飛び上がるほど嬉しい。

けれど。

 

「これ以上は考えても無理そうですね。とりあえず今の段階では手の打ちようがありません。……食事に戻りますか」

 

ユエの言葉に僕は顔をしかめた。

だめだ。それじゃあ間に合わない。洗脳魔法が発動するまでもう3年もない。

 

これじゃあ根本的な問題は解決していない。

その後の食事でも、他愛ない話でも、僕はずっと考えていた。

 

(どうすればいい?どうすればこの魔法を解ける?発動したときに、ウリアが解除してくれる?でも、そんな不確定なことなんて……)

 

考えて考えて、でも答えは出なくて、その精神状態は夜まで続いた。

けれど、寝れるわけもなく僕は寝返りを打つ。

死にたくはない。そんなの当り前だ。でもそれ以上にウリア達と敵対したくなかった。

そのくらい、僕は今の居場所を気に入っていた。

 

ふとそのとき、僕は感じた。

体から何かが消える感覚。重苦しいなにかから解き放たれる感覚。

 

慌てて上体を起こす。

僕には闇の魔法の適正なんてない。だから、分からない。分からないけど。

 

(き……えた?)

 

確信がある。洗脳魔法が消えたと、分かる。

視線をウリアに向ける。このタイミングで、洗脳魔法が消える。

こんなことができるのは、一人しかいない。

 

僕はベッドから出て、ウリアに近づく。

彼女はすでに寝てしまって、横向きに寝顔をさらしている。

 

(あぁ……やっぱり君は……僕の主人公なんだね)

 

ずっとプレイしていた。隅々まで知っている。

そのステータスも、性格も、容姿も、隠された能力も。

 

けれど数字で見れるもの以上に、ウリアは僕の主人公だった。

その手を片方だけ取って、両手で包み込む。

 

言葉には出さない。彼女が起きてしまうかもしれないから。

ただ心の中で感謝をして、涙を流しながらその手に縋りついた。

 

(ありがとう……ありがとうウリア……君のおかげで、僕は……【深淵】の魔法から解放されたよ)

 

この時、僕はようやく地獄から抜け出せたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いったい何が起きたのか分かりませんが、完全に消えています。秘匿魔法も、洗脳魔法も……ど、どういうことですか?」

 

次の日、ユエに確認してもらい、洗脳魔法が消えたことを確認してもらった。

ユエは戸惑っていたが、ウリア達は大喜びだ。

 

「消えたならいいこと!やったねミスト!」

「ルナ、これはとても珍しいケースですよ。それこそ学会などに提出するような――」

「でもミストの魔法は消えたんだよね?それを実証するのは難しくない?」

「そ、それはそうだけど……」

 

ユエの提案もルナが代わりに突っぱねてくれた。

思わず彼女を見ると、ルナは私にウインクをしていた。

 

彼女も転生者なのだから、私の事情も知っているだろう。

 

「さて、とりあえず私たちは自由に過ごしますか。ミストさんはユエさんのテスタロッサの観察ですか?」

「うん……ユエさん……お願い」

「え?ま、まあ構いませんが……」

 

ムースも話題を変えてくれる。

けれどそれ以上に微笑んでいるウリアが居ることが幸せだった。

 

その後ろに立つリフィルは無表情だが。

まさかと思うけど、昨日の夜のやつ、見られてた?

 

「これが私のテスタロッサ、新月です」

「すごい!カタストロフ級じゃないか!!素晴らしいよ!この力、このフォルム……愛人として囲いたい!!」

「…………」

「お母様、あれいつものことだから気にしないでね」

 

言葉を失うユエを横目に、僕は新月を観察する。

もう不安も何もない。思う存分テスタロッサを観察できるし、ずっとウリア達と一緒に居れる。

 

この時、僕は人生で一番の幸せを感じていた。

それは夏休みが終わっても続いた。

 

この先、いろんなことがあるだろう。

けれど、みんなと一緒なら乗り越えられると、そう思っていた。

 

夏休み明けのエディンバラ学園、大講堂に集められた僕たち生徒一同は。

 

「皆さんに伝えないといけないことがあります。A組の担任であるクローネ先生が自ら命を絶ちました。悲しいですが、彼女の冥福を祈りましょう」

 

ベリアル学園長の言葉に冷や水を浴びせられたような気持ちになった。

 




◆ルート開放条件
・ミストの洗脳魔法を学園卒業前に解除する

※原作ではルートが存在しません


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第52話 新しい先生は人気者

夏休み明けのエディンバラ学園。

そこで私たちは衝撃の事実を聞かされた。

 

クローネ先生が、死んだ。

信じられないという気持ちが強い。

クローネ先生はおっとりとした話し方で、なにか悩みを感じている風には見えなかった。

 

ショックを受けていると教室の前の扉が開く。

入ってきたのは、見覚えのない男性の教師だった。

 

「こんにちは皆さん、クローネ先生の代わりにAクラスを担当することになったロッド・サイモンです。よろしくお願いします」

 

教卓に立ってそう言った先生は黒板に名前を書いていく。

ロッド・サイモン先生。この学園の先生は何人か知っているが、聞いたことのない先生だ。

新しく赴任してきた先生だろうか。

 

「得意魔法は全魔法です。一方で実技は得意ではありません。クローネ先生と同じく魔法の座学を全面的に担当する予定です。ちなみにここに赴任する前は国内の魔法師団で研究職をしていました」

 

すらすらと自己紹介をするロッド先生。

彼は眼鏡をかけた細目長身の男性だった。常にほほえみを絶やさない、接しやすいタイプのように思える。

そんな彼が、残念そうに首を下に向けた。

 

「……クローネ先生のことは残念に思います……しかし、私は彼女の分も熱心に皆さんに指導していきます。よろしくお願いします」

 

最後に深く頭を下げて、ロッド先生は自己紹介を終えた。

準備者の時のシール先生と同じく、私たちに寄り添ってくれる先生のように思えた。

 

しかし横を見ると、エヴァはじっと先生のことを見ていた。

後ろに視線を向けてみると、いつもは退屈そうな表情をしているルナも険しい表情で先生を見ている。

 

「さて、それでは授業の方を始めていきましょうか。とはいえ今日は集会もありましたので、深くはできませんね。どなたか、以前の授業ではどこをやったのか教えていただけますか?」

 

2人の様子が少し気になっていると、ロッド先生が授業を開始した。

生徒の一人が教科書のページを教えると、先生は頷いて教科書を確認した。

 

「なるほど、ウインドランスの魔法ですか。風の中級魔法ですね。では皆さん、いったん教科書は閉じてください。……閉じましたね?」

 

先生は私たちに教科書を閉じるように説明する。

私は言われたとおりにすると、先生は手をたたいた。

 

「さて皆さん、魔法を扱う上で最も大事なものは何ですか?自分の魔力の大きさ?その制御力?それとも魔法のイメージでしょうか?」

 

先生の言葉に少し考える。

私は、イメージが大事だと思っている。というよりもリフィル達からもそう習っているからだ。

けれど先生は首を横に振る。

 

「確かにこれらはとても大事でしょう。けれど一番大事ではない。最も大事なのは、その原理です。魔法はどうやってできているか。知っていても行うのは難しい」

 

先生はそこまで説明して右手を開いた。

 

「大事なのは原理を知ったうえでそれをイメージして、さらに実行することです。魔法は私たちの体内の魔力を使用して発動します。自分の奥底にある大きな海。そこからバケツで水を汲むイメージです」

 

先生の言うとおりに手を開いて、目をつぶってイメージをする。

 

「その水を手まで運んでくる。運んできた水はバケツから飛び出し、鋭利な刃物になります。崩れないで……その水は皆さんのイメージ。この世界は夢の世界です。水は、地面には落ちない」

 

言われたとおりに想像を膨らませる。

真っ白い水を、透明なバケツに入れて運ぶ。

その水が次第に浮かび上がる。

 

手のひらがざわつくのを感じる。

魔力を制御しながら、頭の中に刃のイメージを作り上げる。

私のテスタロッサ、マリアの刃を。

 

「素晴らしい!」

 

先生の言葉に私は目を開けた。

そこには風の刃が天井を向いていた。

いままでウインドランスは練習したことがあったけど、ここまで安定したのは初めてだ。

 

周りを見回してみると、教室内の全生徒が成功しているようだった。

 

「バーネット君、もっと気持ちを落ち着かせて!」

「ヤードさん、もう少し出力を上げてみよう!ただし、上げすぎないで!」

「アルスさん、それでは威力は高いものの、消費の魔力が大きくなりすぎてしまうよ!」

 

ロッド先生は教室内を回りながら生徒にアドバイスをしていく。

そのどれもが効果的で、アドバイスを受けた生徒はウインドランスのレベルをどんどん高めていく。

 

「素晴らしいねアルトリウス姉妹!妹さんは完璧、お姉さんは小さいながらもすごい密度だ!」

 

ある程度のアドバイスを終えたロッド先生は教卓に戻る。

その表情は心底楽しそうで、とても好感が持てた。

彼は手を叩き、教室中の注目を集める。

 

「みんな流石だ!よく勉強しているね!それじゃあ最後だ!魔法は作り出したらどうしたい?そりゃあ放ちたいはずさ。なら最後は、これしかない!」

 

先生はハイテンションで右手の人差し指を振る。

すると先生の目の前にたくさんのパネルが現れた。

私はその並びを見て、この教室の席の見取り図だと気づいた。

 

「この大きなパネルの一つ一つが君たちの席と対応している。遠慮はいらない。僕はこう見えても魔法に関してだけは自信がある。さあ遠慮なく打ち込んで威力を確認したまえ。こんな風にね!」

 

右手をパネル群の一番上、教卓のパネルに向けて魔法を放つ。

先生の放った魔法はパネルに激突し、大きな音を響かせた。

 

それに倣うように、たくさんの生徒が魔法をパネルに向けて放っていく。

私も自分の席のパネルに向けて魔法を放った。

ウインドランスは今まで聞いたことがないような大きな音を立てて、霧散した。

 

「エクセレント!いいね!」

 

ロッド先生はそう言って手を叩き、ニコニコとしながら口を素早く動かす。

 

「さて、もっとと言いたいところだけど今日はここらへんまでだよ。また明日、楽しい魔法の理論を学ぼう。それじゃあ皆、実技の授業へ行っておいで」

 

こうしてロッド先生の初回の授業は幕を閉じた。

教室中は大熱狂で、興奮冷めやらぬ様子だった。

私自身も、今までにないウインドランスの威力に舞い上がっていた。

 

だからこそ、エヴァ達の先生に向ける厳しい視線には気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロッド先生の授業を終えて、私たちは実技の授業へと移動する。

更衣室で動きやすい服に着替えながら、エヴァに話しかけた。

 

「すごい分かりやすかったね。ロッド先生の授業」

「……そうだね。今までにないタイプの授業だったよ」

 

服を着替えながら、エヴァは答える。

どこか抑揚がないその返答は、彼女が何かを考えているときの癖だ。

 

「国内の研究機関と言っていましたね。おそらく魔法理論を研究する部署だと思います。そういった研究機関があると聞いたことがありますので」

 

着替え途中のロゼリアさまの言葉に彼女を無意識に見る。

17歳とは思えない彼女のプロポーションは見ていてこっちが恥ずかしくなってしまうくらいだ。

みずみずしい肌に白い下着がまぶしくて、思わずすぐに目を背けてしまった。

 

「でもウリアのウインドランス、すごい密度だったよ!あれ大きくなればかなりの威力なんじゃない?」

「う、うん。大きくするのが大変なんだけどね」

 

後ろから着替え終わったルナが抱き着いてくる。

そのまま彼女に服のジッパーを上げられてしまう。

 

一言ありがとうと礼を言って、私はロッカーのズボンに手をかけた。

 

「けれど、あのクローネ先生が自殺すると思いますか?どちらかというと自殺とは程遠い人のように思えるのですが」

「あぁ見せていただけで、実はいろんなことを考えている人だったとか?ムースもよく人は見かけによらないって言うじゃん」

「まあそれはそうですが、クローネ先生の場合は別というかなんというか……」

「……うーん、まあ言われてみればそうだよね。っていうかムース、早く着替えちゃいなよ」

「あ、失礼しました」

 

緑色の下着姿で考え込んでいた彼女は顔を真っ赤にして手を素早く動かして着替えを続ける。

私たちの友達は皆、深く考え込むと他がおろそかになってしまうようだ。

 

「まあ、考えたところで仕方がないんじゃないかな。クローネ先生は亡くなってしまったんだからさ」

 

ユウリィの言葉に私は頷く。

私たちはただの学生だ。事件を解決する騎士団でもないし、秘密を解明する探偵でもない。

クローネ先生のことを頭から追いやり、私はみんなと一緒に更衣室を出た。

 




◆ルート開放条件
・■■【■■】により、クローネ・マッシリアが死亡している

※原作ではルートが存在しません


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第53話 それは、亡霊の影か

「あ、ルナさん。お手数ですが、手伝ってもらいたいので職員室まで来てもらえますか?」

 

ロッド先生が赴任してから数週間後の放課後。

授業が終わるや否や、彼はルナに頼みごとをしてきた。

 

「えー。なんで私ー」

「まあまあ、私も手伝うから」

「お姉様が行くなら私も行くよ。先生、いいですか?」

 

めんどくさがり屋のルナのフォローをしているとエヴァが先生に都合をつけてくれた。

先生は大きく頷いて、助かります、と一言呟いた。

 

「それならば私達もご一緒しましょう。人手は多い方がいいでしょうし」

 

ロゼリアさまがムースとユウリィを連れて合流する。

あまりの多さにロッド先生は口を一瞬つぐんだが「お願いします」と言った。

 

先生の後に続くように、全員で移動する。

その背中を見ながら、私は今日の授業について思い返す。

 

(今日の授業もすごかったなぁ……)

 

ロッド先生が赴任してから時間が過ぎたが、その人気はとても高い。

どの授業もレベルが高く、分かりやすいからだ。先生の人柄の良さも理由だろう。

事実、私の魔法のレベルも、この短期間で着実に伸びている。

 

「……そういえば、皆さんは放課後に全員で訓練をしているのですか?」

「え?あ、はいそうです。みんなで頑張っています」

 

急に振られた質問だが、実際にその通りなので肯定する。

すると先生は顔だけをこちらに向けてきた。

 

「もし何かわからないところがあれば聞いてください。魔法理論であればお教えしますよ。熱心な生徒は好みですので」

「あ、ありがとうございます!」

 

先生は微笑んで再び前を向いた。

彼の心配りに感動していると、間もなく職員室へと到着した。

 

職員室の中でプリントとなにかの器具を分かれて持つ。

先生も器具を手にして、職員室を後にした。

 

「すみませんね、こんなに人数がいると軽すぎるくらいでしょう」

「いえ、大丈夫ですよ」

 

すまなそうに目じりを下げた先生にロゼリアさまが返事をする。

すると先生は何かを思い出したように、そういえば、と呟いた。

 

「風のうわさで聞いたのですが、皆さんはテスタロッサの調整は第5寮のミストさんにやってもらっているんですか?」

「「「…………」」」

「……あ、はい、そうです」

 

珍しく誰も返事をしなかったので慌てて返答する。

私たちとミストの仲が良いのは周知の事実だ。ミストが私たちのテスタロッサを調整しているのも有名な話だった。

 

「いいですね。学生のうちからテスタロッサの調整ができる人とコネクションがあるのは良いことですよ。私もテスタロッサ調整はさっぱりで、専属の人と契約をしていますので」

「ロッド先生は、ここに赴任する前は魔法師団の研究所に居たんですよね?そこでもやはり魔法理論を?」

「え?ああ、はい。そうですね。特に制限などは設けずに、全部の魔法の理論を研究していました」

 

突然のロゼリアさまの質問にロッド先生は一瞬驚いたが、すぐに返答した。

彼は懐かしむようにつらつらと話を続ける。

 

「魔法がどのようにして成り立っているのか。どうして人それぞれで魔法の細かい部分が変わるのか。そういった細部を研究していました。あれはあれで楽しかったですよ」

「なら、なぜ教職に?」

「人に教えるのも好きだったからですよ。よく後輩の面倒も見ていましたからね。知識を皆さんに吸収してほしい、それだけですよ」

 

先生の言葉は本当のように思えた。

ロゼリアさまはその後はなにも言わず、私たちは教室に到着する。

プリントや器具を置きながら、私は書かれている内容を確認した。

 

「これ、明日の授業のプリントですか?」

「はい、そうですよ。明日はファイアボールですね。初級魔法なので皆さん習得していると思いますが、それの後押しです。どうせなら出力が大きくなっていることも確認できればと、器具も借りてきました」

 

先生の熱意はすごい。

書かれている内容も、かなり分かりやすい。

ここに先生の説明が追加されるなら、理解はさらに進むだろう。

 

(これは明日も楽しい授業になりそうだ)

 

そんなことを思っていると、同じようにプリントを手にしていたロゼリアさまが興味深そうに聞いた。

 

「魔法師団の研究所が提唱している内容からは随分と離れているんですね」

「……まあ、自分は研究所の中でも異端でしたからね。すでに知れ渡っていることを、さらに深く研究する変人として。けれど、分かりやすいでしょう、ウリアさん?」

「はい」

 

先生の言葉に私はコクコクと頷く。

研究所の提唱している内容は教科書とほぼ同じだが、なんというか、堅苦しい言葉回しが多くて理解が難しいのだ。

 

それに比べれば、ロッド先生の授業は天と地ほど差があると言えるだろう。

 

「教科書や研究所の内容なんかよりも、生徒が成長できれば私はそれでよいと思いますよ」

 

先生は持っていたプリントを戻し、私に視線を向けた。

 

「皆さんは、この後も訓練を?」

「はい」

 

そう答えたとき、私は奇妙な感覚に襲われた。

ロッド先生の細い目の向こうから、黒い瞳が私を見ているような、そんな錯覚に襲われた。

体中が寒くなるような、そんな感覚。

 

「そうですか。頑張ってください。ただし、あまり無理はしないように」

 

しかし次の瞬間にはその寒気は消えていた。

ロッド先生の目は細められていて、その隙間は見えない。

視線は外していないし、瞬きもしていない。

 

(……見間……違い?)

 

そんなことを思っていると、ロッド先生は私の横をすり抜けて教室を出て行ってしまった。

私の勘違いだったのかもしれない。次の瞬間には、そのことも忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数週間後の朝、教室について荷物を整理していると、ミストが入ってきた。

彼女は私の姿を見つけると、一直線に歩いてくる。

その顔を見て、私は驚いた。

 

「ミスト、どうしたのその顔?」

 

ミストの顔はそれはもう酷いものだった。

顔色はとても悪く、目の下にはクマができている。寝てないのは明白だった。

 

テスタロッサ弄りに夢中になることはこれまでもあったが、睡眠に関してはきちんと取っていたはずだ。

ミストは縋るような目を向けて、答えた。

 

「クローネ……先生を……見た……」

「え?」

 

ミストの口から飛び出したのは、絶対に見るはずもない人の名前だった。

 



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第54話 学園で、なにかが起きている

「クローネ先生を見たって……そんなわけなくない?」

 

いったんミストを落ち着かせ、皆が登校するまで背中をさすっていた。

全員が揃ったところで私からミストの話を伝えると、ルナはそんな馬鹿なという顔をして聞き返してきた。

他のメンバーも同様の反応だ。

 

「クローネ先生はすでに死んでいます……ミストさん、どのように見たのですか?」

「昨日の……夜……部屋に忘れ物を取りに……調整室を出て……途中の廊下で……」

「……ふむ。クローネ先生はどのような姿でしたか?顔も確認しましたか?」

 

ロゼリアさまの質問に、ミストは首を横に振った。

 

「後ろ姿だけだったから……服はよく着てた……やつだと思う……」

「ふむ……」

「ひょっとしたら……ただ疲れてただけで……見間違いかも……」

 

考え込んでいたロゼリアさまはミストの言葉に、「いえ」と切り出した。

 

「ミストさんがどれだけテスタロッサに集中していても、幻覚を見るようなことは今までなかったはずです。どちらかというと何かが起こっていると考えた方がよいでしょう。ミストさんがクローネ先生を見た場所をもう少し詳しく――」

「ミストさん」

 

話している途中で、誰かが話に割り込んできた。

顔を向けてみると、見知らぬ生徒が立っていた。

学生服を見る限り、第5寮の生徒のようだ。

 

「ミストさん、そろそろ先生が来るよ。教室に戻ろう」

「…………」

 

ミストは驚いたように目を見開いている。

この生徒を見るのは初めてだ。ミストと親しいという話も聞いたことはない。

 

とはいえ、先生がそろそろ来る時間なのは間違いない。

ミストは名残惜しそうに教室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の放課後、私たちはすぐに第5寮の教室に向かった。

教室にはまだミストは座っていて、その顔色は朝と同じく悪そうだった。

 

私たちは中に入り、ミストを支える。

 

「ミスト……今日は訓練を中止して医務室に寄った後に寮に戻ろう」

「……うん……そうする……ありがとう」

 

ミストを右から支え、エヴァが左から支える。

ゆっくりとした歩みで、私たちは医務室へと向かう。

 

「考えてみたけど……やっぱり見間違い……かも。一瞬しか……見てないし」

「ひとまずその件は忘れましょう。いずれにせよミストさんの体調が悪いのは間違いありませんからね。休養が一番です」

 

クローネ先生の話をしつつ、私たちは医務室に到着し、中に入る。

いつもいるはずの保険医の先生は、居なかった。

 

「とりあえず先生が来るまではベッドに横に――」

「おや?皆さんどうしたんですか?」

 

振り返ると、扉を開けて中に入ってきたのはロッド先生だった。

 

「ロッド先生?どうしてここに?」

「書類を届けに来たんですよ」

 

ムースの質問に答えながら、ロッド先生は机の上にプリントを置く。

すると先生は座っているミストに気づいた。

 

「どうしたんですかミストさん、顔色が悪いようですが」

「実は、体調が悪いみたいで」

「ふむ」

 

すると先生はミストに近づき、しゃがみこんで顔を覗き込んだ。

 

「目のクマがひどいですね。顔色も悪い。眠れていないような気がしますね。ミストさん、いったい――」

「あら?」

 

ロッド先生の言葉をかき消すように扉を引く音が響く。

入ってきたのは白衣を着た保険医の先生だった。

 

「どうしたの?体調でも悪いの?あ、ロッド先生書類ありがとうございます」

 

保険医の先生はボードのようなものを机に置くと、ミストに近づく。

その途中でロッド先生に「女生徒に近づきすぎですよ」と牽制した。

 

保険医の先生はミストの顔に触れつつ、様子を見る。

 

「……完全な寝不足ですね。睡眠導入剤を渡しておきましょう。効果は弱いですが、多少はましになるでしょう。あとは寝る前にテスタロッサの調整は控えてください。眠れなくなりますからね」

 

先生はそう言って薬をミストに渡す。

ミストはコクコクと頷いた。

 

私はそんなミストを支えるようにして医務室から出ようとする。

 

「大丈夫ですか?皆さんとミストさんでは寮が違うようですが、私が運びましょうか?」

「いえ、大丈夫です。私たちが第5寮まで運びます」

「そうですね。大変だと思いますが、よろしくお願いします」

 

相変わらず過保護なロッド先生をエヴァが断り、私たちはミストを寮に送り届けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、私は大きな音を聞いて目を覚ました。

上体だけを起こすと、辺りは真っ暗だった。

けれど遠くから音が聞こえる。

 

場所は第1寮の中だろうか?なにか魔法を放つ音が聞こえる。

 

(エヴァは……寝てる)

 

目線を隣のベッドに向けるが、エヴァは熟睡していた。

そのあどけない寝顔を見て微笑ましくなりつつも、耳を傾ける。

まだ、音は続いている。

 

(なんだろう?)

 

確認しようとベッドから出ようとしたとき、視線を感じた。

ふとそちらを見てみると、侍女との部屋を隔てる扉から、目が覗いていた。

 

「ひっ……あ、り、リフィル……」

 

一瞬怖くなり悲鳴を上げそうになったが、その正体を知って何とか落ち着いた。

リフィルは扉をゆっくりと開け、こちらに近づいてくる。

 

「……驚かさないでよ、リフィル」

「申し訳ありません。ですがお嬢様……聞こえますか?」

「うん……魔法の音かな?」

「気になると思いますので、代わりに確認してきましょうか?」

 

少し考え込んで、このままでは寝れないと思い、リフィルを頼ることにした。

 

「うん、こんな夜遅くだけど、お願いしてもいいかな?」

「はい、お任せください」

 

そう言ってリフィルは部屋を出ようとする。

その横顔を見ながら、私は背筋が凍るような感覚に陥った。

 

気づけば、リフィルのメイド服の袖をつまんでいた。

 

「待って……やっぱり行かなくていいよ。ううん……行かないで」

「お嬢様?」

 

リフィルが驚いたように私を見る。

けれど止めないとだめだと思った。一生後悔すると思った。

 

「わかりました。それでは気になるかもしれませんが、今日は寝ましょう。お嬢様、寝れそうですか?」

「うん、大丈夫だよ」

 

リフィルは部屋を出るのをやめ、私に微笑みかけた。

嫌な予感は消え、安心した私も返事をする。

 

「もし何かあれば呼んでください。すぐに向かいます」

 

リフィルはそういうと廊下へとつながる扉を一回だけ見て、この部屋から繋がっている侍女の部屋へと戻っていった。

相変わらず魔法の音は聞こえていたけど、音はかなり小さくなっていて、かろうじて聞き取れるくらいだった。

 

私はベッドに寝そべり、目を閉じる。

間もなく、私は眠りへと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、目を覚ます。

昨日のことが気になって、すぐに侍女の部屋を覗いてみたけれど、リフィルの姿はなかった。

 

もしかして、あの魔法の音を確認しに?

リフィルを失うかもしれない恐怖が一気に襲ってきて、手が震えた。

慌てて探しに行こうとしたところで廊下とつながる部屋の扉が開き、リフィルが入ってくる。

 

リフィルの無事を確認して、私は胸をなでおろした。

 

「よかった。昨日の音を探りに行ったのかと……」

「……お嬢様が行かないでと言ったのですから、行きませんよ」

 

リフィルはそう微笑む。

彼女がいることに安心して、朝にどこに行っていたのかに関してはすでに頭から抜け落ちていた。

 

その後、エヴァと朝食をとり、寮前でみんなと待ち合わせをする。

いつもの朝の日常。今日もまたいつも通りの一日が始まる。

そう思って学園に向かって歩き始めたとき。

 

(っ!?)

 

急に体中を襲った寒気。

とっさに振り返ると、そこには誰もいない。

 

けれど上を見てみると、窓からこちらを見ているリフィルと目が合った。

彼女は微笑むと私に向かって手を振ってくる。

 

(勘……違い……?)

 

確かに感じた寒気に戸惑いつつも、私は窓の向こうにいるリフィルに手を振り返した。

 




◆ルート開放条件
・■■【■■】がエディンバラ学園に潜入している

※原作ではルートが存在しません


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第55話 突然の凶行

朝の教室はざわついていた。

その騒ぎようは、ロゼリアさまの王位継承放棄事件と同じくらい大きなものだ。

 

けれど話している内容は、かなり物騒なものだった。

 

「知ってる?行方不明の生徒が出ているって」

「それに寮内で魔法の発動の痕跡があったんでしょ?」

「嘘だろ?夜寝てたけど、魔法の音なら起きそうなもんだけどな……」

 

周りの声に耳を傾けると、どうやら昨日の夜に私が聞いた音は間違いではなかったようだ。

エヴァ達も険しい様子で何かを考え込んでいる。

 

やがて教室の扉が開き、ロッド先生が入ってきた。

先生は珍しく真剣な表情で教卓に行くと、私たちを見渡した。

 

「皆さん揃っていますね。もう噂にもなっていますが、1寮から5寮までで魔法の使用の痕跡が発見されています。さらに、行方不明の生徒も何人か出ています。幸い第1寮ではまだ行方不明者は出ていません。この件について、なんでもいいです。情報を持っている方はいませんか?」

「…………」

 

ロッド先生の言葉に教室中が静まり返る。

私は思い当たる節がある。けれど、今この場で話していいのか、少しだけ悩んだ。

 

「もしも言いにくいことだったら、後ほど個別に私を訪ねてもらっても構いません」

「先生、私昨日の夜、魔法の音のようなものを聞きました」

 

後で先生の所に行っても良いかと思ったが、別に後ろめたいことはないので発言する。

先生は驚いたように私を見た。

 

「本当ですか?もう少し詳しくお願いします」

「聞いたと言っても大きくはなかったです。寮内だとは思いますが、かなり離れたところでの音でした。私の侍女も同じ音を聞いています。魔法の音は気になりましたが、部屋からは出ませんでした」

「ふむ……寮内は広いですからね。少なくともウリアさんの部屋の近くではないということでしょう。なんにせよ部屋を出なかったことは素晴らしいです。もしそれでウリアさんの身に何かあれば深刻ですからね。ちなみに同室の方は妹のエヴァさんでしたね」

 

先生はエヴァにも視線を向ける。

しかしエヴァは首を横に振った。

 

「私は聞いていません。私、眠りは深い方で、寝ると途中では起きないので」

「なるほど。分かりました。ウリアさん、貴重な情報ありがとうございます。……他に何か知っている人はいませんか?」

 

先ほどと同じように教室が静寂に包まれる。

ロッド先生は皆の顔を見て、息を吐いた。

 

「皆さんもウリアさんと同じく、なにか音を聞いたり、犯人らしき人を見たとしても独断で追ってはいけませんよ。必ず私たち教員を頼ってくださいね。皆さんが巻き込まれることが最悪であるとよく覚えておいてください」

 

ロッド先生の言葉に、私たちは深く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

事件が大きく動いたのは、その翌日だった。

その日、私たち生徒は教室ではなく大講堂に集められた。

 

ここに集められるのはクローネ先生が亡くなったと知ったとき以来だ。

壇上にはベリアル学園長が立っている。

 

「行方不明になっていた生徒が見つかりました」

 

学園長の言葉に、生徒達がざわつく。

 

「さらに、魔法を彼らが使用したことも分かっています。……しかし、彼らは事件当時の記憶を失っていました。学園はこの事態を重く受け止め、事件として対処することに決めました。全生徒の皆さんはしばらく寮内で待機、全教員は原因の追究と、今なお見つかっていない行方不明生徒の捜索にあたります」

 

そこまで話して、ベリアル学園長は一瞬話すのをためらうそぶりを見せた。

しかし、息を吐き再び口にする。

 

「……行方不明の生徒は記憶を失う直前にクローネ先生の幽霊を見た、と口を揃えて言っています」

(……え!?)

 

突然出てきた言葉に私は内心で驚いてしまった。

クローネ先生の幽霊。それはミストが悩まされていたものだ。

 

思わず彼女に視線を向けたが、遠くに立っている彼女はうつむいているだけで、様子は分からない。

 

「クローネ先生の幽霊や様子のおかしい生徒を見つけた場合は、決して近づかずに教員に報告してください。絶対に一人で解決しようとしないように!」

 

ベリアル学園長の言葉が大講堂内に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか、大変なことになったね。訓練どころじゃなくなっちゃった」

「……ウリアって、本当に訓練が好きだよね」

 

訓練ができないことを残念に思い、呟くと、ムースに苦笑いされた。

そんなこと言われても、生まれてこの方訓練をしない日の方が珍しいのだから仕方がない。

 

「まあ、とりあえずミストを回収しようよ。遠くから見てたけど、あれ絶対寝てないって。最悪私たちの部屋で一緒に寝るのも考えた方がいいくらいだよ。いいでしょお姉様?」

「うん、そうだね。私もちょっとミストが心配かな」

 

他のみんなも賛成のようで、私たちは第5寮の教室に向かう。

第1寮の教室からは遠く離れているので、中庭を通らなくてはならない。

 

学園内は生徒たちが寮に移動しており、少し騒がしかった。

中庭を通り過ぎて少し進むと、第5寮の教室から出てくるミストを見かけた。

 

「あ……」

 

ミストはこっちに気づいて歩み寄ってくる。

相変わらず悪い顔色に、思わず駆け寄ってその手を握った。

 

「あんたねぇ……また寝てないんじゃない?」

「うん……寝れなくて……」

 

エヴァの質問にミストは小声で答える。

その体にルナが抱き着いた。

 

「なら、もう全員でお泊りパーティしちゃう?寮に居ればいいなら、一つの部屋に皆居ても大丈夫でしょ」

「いや、さすがにそれは無理なんじゃないかな。先生たちが僕たちを苦笑いで見るのが目に浮かぶよ」

 

困ったように笑うユウリィに咎められ、ルナは口をとがらせる。

そこで手を叩いたのはムースだ。

 

「全員は無理でも、ウリアの部屋にミストさんを泊めるのはありかもしれませんね。もしそれができなくても一人部屋であるロゼリアさまや私の部屋でもいいと思います。いずれにせよ、戻りながら考えましょう」

「そうですね、ここにいては先生方に早く寮に戻れと怒られてしまうでしょう」

 

ロゼリアさまもそれに賛成し、私たちは中庭を再び通って寮に戻ろうとする。

この後はどうしようかな、なんてことを考えていると、目の前に数人の生徒が急に現れた。

 

行く手をふさぐ彼らを見て首をかしげると同時に、エヴァが私の前に出た。

 

「……行方不明になっていた生徒達が、なぜここに?」

 

ロゼリア様の言葉に答えるように、生徒たちは魔法を放ってくる。

突然のことに驚いたが、戦えないミストを守るように私はマリアを展開した。

 

しかし、生徒たちの魔法は私に届く前にエヴァやルナ、ムースさんにより弾かれる。

その魔法を見てロゼリアさまは不思議そうにつぶやいた。

 

「……おかしいですね。いつもよりも出力が上がっている気がします」

「まさかと思うけど、君は全生徒の魔法の実力を記憶しているのかい?」

「え?はい、そうですが……」

 

ユウリィの驚いたような質問に、ロゼリアさまは当然のように返した。

相変わらずオーバースペックなロゼリアさまに苦笑いをしていると、足音が聞こえた。

 

「皆さん、大丈夫ですか!?なぜここに……それに行方不明になっている生徒まで……」

「ロッド先生!」

 

私の後ろから駆けつけてくれたのはロッド先生だった。

彼は杖のテスタロッサを展開すると、牽制目的であろう火の魔法を生徒に向かって放った。

 

(とりあえず、先生が来たから安心――)

 

次の瞬間、私は急に突き飛ばされた。

油断しきっていた私は前に倒れこみ、すぐに顔を後ろに向けた。

 

冷たい瞳が、細い目の奥からこちらを見据えていた。

光のない、深い闇……深淵のような暗さの瞳が。

 

ロッド先生は私に手を伸ばすミストになにか魔法をかけて、彼女を眠らせた。

それを確認したところで、私たちとロッド先生を隔てるように炎の壁が地面から沸き上がった。

 

「なにを!」

 

炎の向こうでロッド先生がミストを抱えて走り去っていく。

彼を止めたい。でも炎の壁が邪魔で近づくこともできない。

 

すると不意に地面が盛り上がり、炎に覆いかぶさった。

それを行ってくれたムースはエヴァに叫ぶ。

 

「エヴァさん!」

「なに……してんのよ!」

 

オーバーライトを構えたエヴァが跳ぶ。

固有能力の瞬間移動で一気にロッド先生に肉薄したエヴァ。

 

しかし次の瞬間にはまるでそこに来るのを予感していたように、風の刃がエヴァを襲った。

 

「うそでしょ!?」

 

エヴァは咄嗟に防御を固めたが、風の刃はエヴァを力任せに吹き飛ばした。

このままじゃ、エヴァが地面に激突する。

 

「エヴァ!」

 

私は駆け出し、エヴァを体全部で受け止める。

威力を殺しきれずに地面に倒れこんだが、ダメージはマリアがある程度吸収し、吸収しきれない分は癒してくれた。

 

「まずいよ!」

 

ルナが叫ぶ。ロッド先生は既に中庭を抜け、学園の中へと入ってしまった。

 

「追いますよ!」

「ごめんお姉様、助かったよ!ありがとう!」

 

ロゼリアさまの言葉に呼応するようにエヴァが立ち上がる。

彼女の手を引いて私も立ち上がると、すぐにロッド先生を追うために走り出した。

 

(なんでロッド先生が……ミストを?)

 

分からないことだらけだが、今は先生を追うのが先決だ。

だからこそ、私たちは最初に襲い掛かってきた行方不明の生徒たちがもう中庭にはいないことに気づかなかった。

 




◆ルート開放条件
・■■【■■】がエディンバラ学園に潜入している

※原作ではルートが存在しません


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第56話 この一連の騒動の黒幕

「どこにいった!?」

「分からないわよ!あのロリコン教師、絶対に許さない!」

 

ロッド先生を追いながらも、出遅れた私たちは彼の行方を見失っていた。

ルナとエヴァが苛立つように叫ぶ。エヴァに関しては先ほどのオーバーライトの奇襲が成功しなかったのが原因な気もするが。

 

そんなときに、遠くに人影を見た。

その人影は後ろ姿で、けれど見覚えがあった。

 

「ねえ……あれ……」

 

私の声に反応して皆が彼女を見る。

先ほどまで騒いでいたエヴァも、言葉を失っていた。

 

間違いない、彼女はクローネ先生だ。

まるでぼやけたような輪郭だが、はっきりとわかる。

 

そんな彼女が、右手を上げて方向を示す。

すると次の瞬間には霧のように消えてしまった。

 

「……きっと向こうなんだ!行こう!」

 

クローネ先生が力を貸してくれている気がして、思わず彼女のさす方向へ進もうと決めた。

いや、正確にはもう頼れるものがクローネ先生しかいなかった。

 

皆も同じようで、クローネ先生が示した通路を進んでいく。

クローネ先生は私たちの前に何度か現れては、道を示してくれた。

 

「これ……大講堂の方?」

「みたいですね」

 

走りながら、行く先が大講堂だと気づいた私たち。

予想通り大講堂にたどり着き、その扉を思いっきり開けた。

 

大講堂の真ん中には、ロッド先生が居た。

その腕の中にはミストを抱えている。

 

「覚悟!」

「だめですルナさん!殺してはいけない!無力化してください!」

「えぇ!?そんなの無理に……わわわ!」

 

果敢に襲い掛かったルナだが、ロゼリアさまに止められ困惑した声を出す。

その間にロッド先生は反撃を行い、放たれた魔法にルナは避けるしかなくなった。

 

「ちょ、ちょっとロゼリアさま、先生ですよ!?本気でやらないと無理に――」

 

文句を言おうとしたルナは何かを感じてとっさに私たちの方に跳んだ。

突然の行動だが、次の瞬間には突風が巻き起こり、ロッド先生を吹き飛ばした。

 

「ミ、ミスト!?」

 

突然の攻撃にミストの安否を心配したが、彼女は風に包まれて守られていた。

結果としてロッド先生のみを風は攻撃し、彼を大講堂の壁に叩きつけた。

 

(この……風……)

 

この魔法の感触をよく知っている。丁寧なのに密度が濃く、それでいて過激。

こんな高度な魔法を使えるのは。

 

「探しましたよ、お嬢様」

「リフィル!?」

 

大講堂の扉を開けながら、メイド服のリフィルが入ってきた。

 

「ちょっとロゼリアさま、どういうことですか?」

「すみませんルナ、ですがロッド先生は真犯人ではないのです」

「はぁ?ロッド先生がミストを攫ったのも見たじゃないですか」

「犯人はロッド先生ではなく、あちらの方です」

 

ロゼリアさまはルナを抑止しつつ、壇上を指さした。

そちらをみると、クローネ先生がこちらを見て微笑んでいた。

 

後ろ姿ではないためにはっきりとクローネ先生だとわかる。

けれどその体は透けていて、まさに幽霊といった感じだった。

 

「ま、待ってくださいロゼリアさま。犯人って、クローネ先生はここまで私たちを案内してくれたんですよ?」

「逆ですよ。案内していたのではなく、誘い込んでいたんです」

「え?」

 

ロゼリアさまの言葉に思わずクローネ先生を見る。

しかし彼女は相変わらず微笑んでいるばかりだ。

 

「この肌を刺すような感覚……【天】と対峙した時と同じです」

 

リフィルの言葉にロゼリアさまは頷き、クローネ先生と向かい合う。

 

「まさかと思いましたが……追い詰めましたよ、魔王さん」

 

壇上に立ったクローネ先生は微笑んだまま拍手をする。

無機質な音が、講堂内に響き渡る。

 

次の瞬間、クローネ先生の姿がブレ、急に青年の姿になった。

黒い長髪をポニーテールのように束ねた、眼鏡をかけた男性。

漆黒の魔導士のローブが風に揺れ、その体は床からは浮いている。

 

(……この人が……魔王……)

 

生まれて初めて対面する魔王に、私の体が震えをあげる。

これが、この世界の超越者の1人。本物の魔王。

 

(この感覚……やっぱりあの冷たい視線は……)

 

それと同時にこれまで一瞬だけ感じていた凍えるような視線が、彼のものであることも理解した。

何もしていないのに分かる。この人は強い。

私が今までに出会った誰よりも、ずば抜けて強い。

 

「素晴らしいですね、ロゼリア皇女。いつ気づいたのですか?」

 

その声は透明感があり、耳に残るような声だった。

一言一言に抗えない力がこもっているようにも思える。

 

「気づいたのはすぐでした。クローネ先生が自ら命を絶ち、ロッド先生が代わりに赴任した。けれど私はクローネ先生が自殺するような人には思えませんでした。だからロッド先生を調べました。彼は確かにエディンバラの魔法師団に所属していました。研究もしていた。彼の言動や魔法知識は調べた通りでした。だから私は彼が本人だと思いました」

 

ロゼリアさまは強い目で魔王を見ながら答える。

裏でそこまで調べていたロゼリアさまの調査力に私は驚いていた。

本当にロゼリアさまは、すごい。

 

「ロッド先生が怪しくないなら……もう怪しいのはクローネ先生の霊しかないでしょうから」

「ふむ……でもそれでは誰かが完璧にロッドに変装をしているという点が抜けていますね。そこを考慮に入れないのは減点でしょう」

「いいえ」

 

首を横に振ったロゼリアさまは不敵に微笑んだ。

 

「私は今回の一連の騒動が、ミストさんにかけた洗脳魔法が解けたところから起きたと考えています。そしてそんな卑怯な魔法をかける人が、解いた元凶がいるであろうこの学園に、ロッド先生なんていう分かりやすい方法で潜入するとは思えませんでしたから」

「……なるほど、ではこの事件の犯人が私であることも読んでいたのかな?」

「はい。聞いた話ですが、ネクステス最強のユエさんでも見抜けるのがやっとだった闇の魔法。そんなものを使いこなせるのなんて、世界に魔王しかいないでしょう?」

 

そうか。この人が……ミストにあんな魔法を。

ふつふつと怒りが湧き上がってくる。こいつのせいで、ミストは苦しんだ。

今だって、苦しんでいる。許せない。

 

「その通りです。素晴らしい推理力ですね。それに、思わぬ収穫もありました」

 

魔王はリフィルを見て興味深そうに目を細める。

 

「ヒビキを退かせたエルフの小娘が、まさかこんなところにいたなんて……まあいいでしょう。いずれにせよ正体を見破ったのはダメでしたね」

 

彼の手に、黒い杖が出現する。その杖は真っ赤な宝石を抱き、禍々しい雰囲気を出していた。

 

「魔王【深淵】のクロムウェルです。クロムでいいですよ。……まあ、覚えたところで君たちは全員ここで終わりですが」

「聞いていませんでした?追い詰めたといったんですよ。覚醒せよ、『R・O・F』」

 

ロゼリアさまがテスタロッサを展開し、私たちもそれに続く。

数はこっちの方が圧倒的に有利。けれど、今までのどの戦いよりも厳しいものになる予感がした。

 




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・魔王【深淵】がエディンバラ学園に潜入している

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第57話 魔法の神髄、深淵なる魔

クロムは杖で床を叩き、音を講堂内に響かせる。

それは教室で先生が自分に注目を集めるようなやり方に似ていた。

 

「ここは学園らしく、授業でもしましょう。第1回の授業は、基本の魔法から。ウインドランス」

 

クロムの目の前に、風の槍が作り出される。

それは一般的な大きさのもので、濃度は濃いものの、それ自体がとてもレベルが高いわけではなかった。

 

「の多重展開」

 

次の瞬間、私たちを中心に講堂のほとんどの空間を埋めるように風の槍が出現した。

それぞれが、私たちを狙っている。

 

これだけの魔法を、たったこれだけの時間で。

どれだけ膨大な魔力と、精密な魔力操作力を持っているのか。

 

発射。数えきれないほどの槍が私たちに襲い掛かる。

それを見える限りマリアで弾くけれど、あまりの数の多さに対処ができない。

 

数の暴力に、押し殺される!

 

「お嬢様」

 

しかし次の瞬間には黄緑の長い髪が視界に映る。

リフィルは私が対処できなかった風の槍をすべてストリームで斬り伏せてくれた。

 

「あなたの騎士が、お守りします」

「うん、ありがとう」

 

周りを見ると、みんな無事なようだ。

けれど、すごい魔法だった。

たった一回の魔法だけで、クロムの強さを思い知らされた。

 

「では、第二回」

 

しかし彼は止まることを知らない。目の前に恐ろしいほど大きな魔力を集中させる。

やがてそれは大きな大きな、槍へと変化していく。

 

「ストリームランス」

 

それは以前、訓練にてムースが放ったことのある魔法。

通り過ぎた後になにも残らない、必殺の上位魔法。

しかし、クロムが使用した魔法はムースの何倍も大きい。

 

その魔法の威力も、測り知れないほど大きいだろう。

それはもはや、災害級の風の魔槍。

 

放たれた魔法は、私たち全員を巻き込むために飛来する。

当たればひとたまりもない。

 

「面白い」

 

しかし、ここでも動いたのはリフィルだった。

彼女は細剣のストリームに魔力を流し込み、風の槍に向けて突きを繰り出す。

 

リフィルのストリームには風の魔力の他に、白い魔力が絡みついているのが見えた。

恐ろしい威力の魔槍を、正面からリフィルは受け止める。

流石リフィル。魔王相手でも、渡り合えている。ギリギリだが。

 

次の瞬間にはロゼリアさまが高く飛び上がる。

その両手には、両刃の剣が。

それを全体重をかけて、リフィルと拮抗していたストリームランスに叩きつける。

 

リフィルとロゼリアさまの2人により、ストリームランスはついに砕けた。

 

(なんとか対応できている……けど!)

 

正直みんなの力を頼っても防ぐのが精いっぱいだ。

 

圧倒的な魔法の才能の差を、思い知らされる。

数を集めても、たとえそれが精鋭でも、まだ届かない。

 

クロムに近づくなんてとてもじゃないができない。

皆、余裕がないくらいには追い詰められている。

 

「第三回」

 

しかしクロムにはそんなことは関係がない。

ストリームランスが防がれたことなどまるで気にしないように、彼の魔力が吹き上がる。

 

「ウインドレイン」

 

それは、見たこともない魔法だった。

天井を風の魔力が覆い、そこから風の雨が降ってくる。

 

聞いたことはある。けれど私達では発動すらできないほどの風の最高位魔法。

降り注ぐ雨は持続時間が長く、厚さも普通ではないだろう。

その総合的な威力は、最初のウインドランスすら越えるだろう。

 

今回は、防ぎきれるかどうか。

それに防ぎきったところで、リフィルにかけてしまう負担の大きさは計り知れない。

 

けれど、その風の刃の雨は私たちに降り注ぐことはなかった。

突然、地面から噴き出した噴火がそれをかき消したからだ。

 

風に対しては火は属性的に有利だ。

けれどこの噴火の魔法そのものがすごい魔力だ。

クロムの魔法を打ち消せるほどの実力の持ち主は、この学園にたった一人。

 

「言ったはずですよクロム、追い詰めましたと。私たちは生徒です。なら、教員には頼るべきです」

「そういうことです」

 

ロゼリアさまの言葉に答えるように大講堂の扉が開き、最強のトリリアント、ベリアル学園長が入ってくる。

その後ろにはクリス先生やアイリス先生など、多数の教師が続いていた。

 

援軍の到着に、私は安心した。

これなら、クロムだって。

 

「うーん、トリリアントをどれだけ集めても、私達には届かないのですが、分かりませんか」

 

しかしクロムは余裕の表情だ。

これだけの人数、これだけの戦力を前にしても、彼は余裕の笑みを崩さない。

魔王というのは……どこまでの力を……。

 

「私の学園で好き勝手している人を見過ごすことはできませんからね」

 

ベリアル先生は火の魔法を放つ。

彼ほどの魔法を行使できるのは、この場にはいないだろう。

誰であれ、業火の魔法を防ぐことはかなわない。

 

たった一人を除けば。

クロムは腕を軽く動かすだけで、それを弾いた。

 

「ほう?なかなかやるようですね。あなたが最初のトリリアント、ベリアル・アリアット・レストーアですか。興味深い」

 

最強のトリリアントも、クロムにかかれば魔法の実力を測定する材料にしかならない。

1対1の魔法戦で、彼に勝てる人なんて、この世にいるのか。

 

そんな絶望的な考えが私の頭をよぎっているうちに、アイリス先生とセツナ先生が駆ける。

セツナ先生も最年少でトリリアントとなった実力者だ。

アイリス先生だってトリリアントで相当な実力者。

 

ベリアル学園長を含めて、トリリアント3人がかり。

けれど2人の剣はクロムに届かなかった。

彼が回避行動をしたからではない。ただ彼の体に、剣が届かなかった。

 

そしてそれは少し遅れるようにして繰り出されたジン先生とルナの攻撃も同じだった。

盾の魔法や手にする杖に弾かれるならまだわかる。

けれど彼らの攻撃はクロムの体に弾かれている。

 

「どう……なって!?」

「うそ……でしょ!?」

 

セツナ先生やアイリス先生が驚きの声を上げる。

今クロムに斬りかかっている4人だけで、接近戦では学園内でもトップを独占するだろう。

 

そんな彼らの攻撃も、届かない。

 

「【天】の野郎の時も思ったが……本当に魔王ってのは化け物揃いだな!ハリス先生!」

 

ジン先生の声で、四人が一気にクロムから離れた。

次の瞬間、巨大な火柱がクロムを包んだ。ベリアル学園長の先ほどの魔法を越える、一撃。

第2寮監督のハリス先生の攻撃だ。

 

学園内でも突出した火の適正を持つハリス先生の魔法は、クロムを焼き尽くした、はずだった。

 

「ふむ……何人かは及第点の人もいますが、まだまだですね」

 

クロムは無傷だった。それを見て私たちは唖然とするものの、リフィルは駆けだした。

それに合わせるように、ベリアル学園長も魔法を放つ。

 

クロムはベリアル学園長の攻撃を別の魔法で相殺させ、リフィルの攻撃を盾の魔法で防いだ。

心底退屈そうに、クロムは呟く。

 

「及第点なのはそこの教師と、ベリアルとエルフの小娘くらいですかね。あとは落第です。トリリアントでしたっけ?その文化自体は反対なんですよね」

 

魔法使いにとって苦手なはずの接近戦。

それを行いながら、クロムはつまらなそうに私たちを見回して、嘲るような笑みを浮かべた。

 

「私達からしたらトリリアントもそれ以外も同じです。相手にすらならない。だから――」

 

次の瞬間、後ろにテスタロッサで跳んだエヴァを、クロムは見もしなかった。

エヴァのオーバーライトがクロムに叩きつけられるが、傷つけることはできない。

誰の刃も、クロムの体を包む防御魔法を貫けない。

 

リフィルとベリアル学園長の攻撃は、完全に対応されている。

その防御を、崩せない。

 

「何度やっても同じだとわからないんですかね?」

 

クロムの足元から水の魔力が湧き上がる。

エヴァが吹き飛ばされる光景が、頭をよぎった。

 

けれどエヴァはクロムの言葉に、はっきりと笑みを浮かべた。

 

「ファイアボール」

 

白い光が、弾ける。

その光はクロムの体のオーラを貫通し、彼の左腕を焼き尽くした。

突然の出来事にクロムは目を見開き、瞬時に魔法で移動した。

 

少し離れたところで、クロムは左腕を押さえてエヴァを見つめていた。

その顔は驚愕に染まり、信じられないと物語っている。

 

「な、なぜ……」

 

声は震え、その眼には先ほどまでの私たちを下に見るような感情はない。

ただ現実を理解できない、認めたくないという気持ちだけが伝わってきた。

 

「なぜお前が【世界】の魔法を使える!?」

 

叫ぶようなクロムの質問に、魔法の爆風で深紅の髪を揺らしたエヴァは得意げに笑った。

 

「覚えた」

 

エヴァのシンプルな一言に、クロムの顔がはっきりと歪んだ。

 




【ステータス】
名前:クロムウェル
称号:魔王【深淵】
魔法(闇以外):SSS
魔法(闇):EX
武:F
知:SSS
速:F
技:F

※原作設定資料集より引用
※EXランクは一部の魔王のみ所持。SSSとは一線を画する


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第58話 越えるために【エヴァSide】

エヴァラスでトゥルーエンドを越えたハッピーエンドを迎える。

そのための障害は、魔王をどうするかだ。

 

エヴァラスには人知を超えた存在として魔王が登場する。

全員と戦うわけではない。けれど、最低でも5人には勝たなくてはならない。

それをはっきりと認識したのは準備舎に入ってすぐだった。

 

(魔王に勝つなら……魔王の力を手に入れるしかない)

 

だからこそ私は彼らに手紙を送った。

魔王【世界】のテスタ・ワーグナーとその妻、エリア・ワーグナーに。

 

当然だが14歳の少女が送ってきた手紙など、【世界】は一蹴した。

けれど、私はあきらめるつもりはなかった。

どれだけ時間をかけても、【世界】に認めてもらうつもりだった。

 

送った手紙の数は、もう数えるのをやめてしまった。

毎年の長期休みは【世界】の家を訪問した。

 

【世界】の家はエディンバラから見て西のネクステスのさらに向こう、コンウェル国の果てにある。

そこまで行くのでも一苦労だ。

 

けれど何度も手紙を送り、そして何度も訪れたエディンバラ学園1年の終わり、ついに私は【世界】に弟子入りが叶った。

 

「……約2年も手紙と訪問を繰り返しやがって。頭おかしいんじゃねえか?」

「あらあら、そんなこと言って。あなたも最近はエヴァちゃんが来るのを楽しみにしてたじゃないですか」

「そ、それはエリアがこいつを気に入ってるからだ!」

 

目の前で惚気話をする師匠たちに呆れたが、その日から地獄のような訓練が始まった。

ロゼリア達との訓練とは次元が違う。

この世とは異なる魔法を習った。

 

師匠の魔法は普通とは違う。

例えば、ファイアボール。

 

火の初級魔法なので、普通なら名前の通り火の球を作り出し、それを放つ。

しかし師匠のファイアボールは光の球体を作り出し、それを爆発させて近距離の相手に大ダメージを与えるものだ。

 

そこにはファイアの要素はなにもない。

けれど師匠はこれこそがファイアボールだという。

 

「俺の使う魔法はそもそもが違う。普通の魔法がファイアボール、ファイアランスと進化するのに比べて、俺の魔法は全く違う次元にいる。ウィンドなのに水になったり、アースなのに雷になったりだ。でもこれが古代魔法なんだよ。言葉なんて意味がない。それが失われた魔法だ」

 

師匠達以外の人はこの魔法を理解することができないという。

どれだけ仕組みを説明しても分からず、分からないから発動もできない。

 

師匠の魔法は異質だ。

その証拠に、普通のファイアボールは防御魔法で防げるけれど、師匠のファイアボールは防御魔法が通用しない。

全く別の構造物を、普通の魔法を防ぐ魔法では防げない。

 

「にしても……なんでお前は理解できるし、発動できるんかね?ひょっとして、実はエンシェントエルフだったりするのか?」

「いえ、ちゃんと人間です」

 

理由なんて一つしかないだろう。私が転生者だからだ。

エヴァ・アルトリウスは理解できないだろう。けれど私は理解ができる。

とはいえ、分かると出来るは違うのだが。

 

「……1年かけて初級魔法も完全に覚えられないので、まだまだです」

「いや、この魔法を一つも習得できないのが普通なんだよ」

 

これまで、普通の魔法ならば1年もあればかなりの数を覚えられた。

それがエヴァとしてのスペックの高さだった。

 

けれど師匠の魔法は全然うまくいかない。

理論も難しいし、それを発動することも難しい。

 

「まあでも、順調だとは思うぜ。この調子で頑張れよ、弟子」

「エヴァちゃん、頑張ってね」

 

そんな風に師匠達から励まされたのが2年生の夏だった。

長期休みを終えて帰ってきた私は、クローネ先生が亡くなったことを知った。

 

それと同時に、ミストにかかっていた洗脳魔法をお姉様が解除したことも知った。

 

(まずい……これやばいって……)

 

夏休み明けの教室で深刻な顔をしていたのは私だけではないはずだ。

ミストに洗脳魔法をかけているのは魔王【深淵】だ。

 

そして原作ではクローネ先生は死ぬことなく、3年生まで第1寮のクラスの担任だ。

さらに言えば、ロッドなんていう先生は原作には登場しない。

 

間違いなくやつが関わっている。

 

魔王【深淵】クロムウェル。

エヴァラスにおける魔法最強キャラ。

彼は700年前から暗躍しており、キルシュ国の全国民に洗脳魔法をかけているような生粋の悪だ。

 

そんなクロムとは原作で戦うことができる。

ただし、それはクリア後のEXボスとしてだ。

その力はすさまじく、周回プレイをしていても勝てるかどうか微妙なラインである。

 

つまり、クロムと戦うのはゲームを何周もプレイした後なのだ。

何周も周回プレイをして、それでも勝てるかどうかが分からない。

 

そんなクロムが学園に潜入している。

何とかしなくてはならない。それを感じているのはロゼリア達も同じだった。

 

結果として、ロゼリアの活躍によりクロムをあぶりだすことには成功した。

ロッド先生がクロムじゃなかったことには驚いたが、そんなことはどうでもいい。

今問題なのは、目の前にいる最強の男をどうするかである。

 

「魔王【深淵】のクロムウェルです。クロムでいいですよ。……まあ、覚えたところで君たちは全員ここで終わりですが」

 

吹き出す魔力の大きさ、そして操る魔法の規模。

それらが、彼が圧倒的強者であることを示している。

 

これが、魔王。私たちが越えなくてはいけない、高い壁。

ロゼリアの機転もあり、ベリアル学園長たちも味方に引き入れ、数では圧倒的有利の戦いを行う。

 

けれどこれだけの数を相手にしてもクロムは傷一つ負わない。

トリリアントが複数人居るのに、届かない。

 

(でも私なら……届く!)

 

オーバーライトでクロムの背後に跳び、剣を叩きつける。

それとほぼ同時に、師匠の魔法を放った。

 

師匠ほどの威力は出ないけれど、クロムを傷つけるのには十分だ。

私が師匠の魔法を使うと思ってもなかったであろうクロムは、驚いた様子で距離をとる。

 

「なぜお前が【世界】の魔法を使える!?」

 

突然だが、前世の世界では魔王の強さ議論スレというものがあった。

全部で8人居る魔王の強さ、その順序を決めるものである。

 

不動の一位が魔王アインであったり、国から認められて魔王になった【傾国】リフィルを最下位にするというのは決まった流れ。

けれどその議論の中で、【深淵】クロムは【世界】テスタに勝てないというのが結論だった。

 

【深淵】クロムはミストフィアにおける魔法の遥か高みにいる。

けれど【世界】テスタはその魔法のピラミッドからはそもそも外れる。

 

原作でも、多数のキャラがクロムと戦ったが、最終的に彼を退けたのはテスタだった。

 

「覚えた」

 

だからこそ、師匠の魔法はクロムに対しての特攻を持つことになる。

他の魔王には通用しないだろう。

けれどクロムに対しては、私は圧倒的な優位を取れる。

 

「2年をかけて、あの鬼師匠から」

「あ、ありえない!僕ですら一つも再現できない魔法だぞ!?それをたった3年だと!?嘘をつくな!」

 

クロムは本来、自分のことを僕と呼ぶ。

一人称が変わったのは焦っている証拠だ。

勝てる。そう確信した。

 

「本当だよ。まあ2つしか習得できなかったけどさ。スプラッシュ」

 

クロムの立つ床が突然割れ、闇の手が噴き出す。

彼は防ぐのではなく、回避を選択した。闇の手がクロムの体を掠り、傷を与えていく。

 

その様子を見て、私は不敵に笑った。

 

「聞いた通りだね。師匠の魔法なら【天】には通用しないけど、【深淵】にとっては天敵だって」

「……ええ、素晴らしい。君は僕とはどうやら次元が違うようだ」

 

落ち着いたであろうクロムが私に対して称賛の言葉を投げかける。

もう少し取り乱してほしかったけれど、流石は魔王といったところか。

 

「決めました。エヴァ・アルトリウス。君を殺しましょう。絶対に」

「エヴァさん!」

 

次の瞬間、爆音が頭上で響く。

上を向いてみると、木の根が私の頭上を覆っていた。

ノータイムで繰り出された魔法を、ムースが護ってくれたのだろう。

 

ならば、とムースを狙って繰り出されたクロムの魔法を、リフィルが叩き斬る。

アイリス先生たちもクロムに攻撃を繰り出すが、いずれもダメージを負わせることはできていない。

 

「生徒ごときが、僕の邪魔をするな!」

 

アイリス先生たちを風の魔法で吹き飛ばし、クロムはムースを狙って攻撃を開始する。

しかしそのいずれもが、リフィルとベリアル学園長によって防がれる。

 

その間にクロムに肉薄したのは、ルナとロゼリアだった。

闇の魔法を纏ったルナの攻撃はクロムの体を傷つけられない。

けれどロゼリアの攻撃が、ついにクロムに傷を与えた。

 

それは、今までになかったこと。

クロムにダメージを与えられるのは私とベリアル学園長とリフィルだけだったはずだ。

その中に、ロゼリアが入ってきた。

 

ロゼリアのテスタロッサR・O・Fの固有能力は知らない。

けれど、彼女の背にある円は、高速で回転して光り輝いていた。

時間で威力が増すタイプだろうか。

 

(このチャンスを逃すわけにはいかない!)

 

そう考えたのはベリアル学園長も同じだったのだろう。

彼の放った土の魔法はクロムに直撃し、彼の注意をそらした。

 

跳ぶなら、ここ。

 

私の考えに呼応するようにオーバーライトは輝き、瞬時にクロムの背後を取る。

しかし背後を取ったはずのクロムと目が合った。

 

クロムは、私が仕掛けてくることを読んでいた。

体を翻し、闇の魔力でできた剣を私めがけて突き出してくる。

彼の持つ闇のランクは測定対象外のEX。

 

EXは魔王のみが持つ、特殊なランク。その強さは、SSSとは一線を画する。

そんな攻撃を受けたら、ただでは済まない。

けれど私は余裕の笑みを崩さなかった。

 

「2つなわけないでしょ、ばーか。アースソード」

 

アースいう名前だが、それは地属性ではない。

次の瞬間には空から降り注いだ雷の槍が、クロムの左腕を貫いた。

クロムは左腕を切断され、痛みに顔をゆがめる。

 

「く……そ……」

 

闇の魔力の奔流がクロムから流れ出す。

まずいと思った私は、すぐに彼から離れた。

他のみんなも、闇の魔力の暴力に近づけずにいる。

 

クロムは私を睨みつけると、目を見開いて笑った。

その顔は、狂気に満ちていた。

 

「エヴァ・アルトリウス!必ず僕が殺す!お前の大切なものを全て、壊してやろう!」

 

闇がクロムを包んでいく。

それはクロムの姿を覆い、卵のような形を取った。

 

あれがどのような魔法かは分からない。

けれど逃げるための魔法であることは分かった。

ここでクロムを逃したら、流石にまずい!

 

(オーバーライトはまだ使えない!今ここにいるメンバーじゃ、あれを止められない!)

 

そう思ったときに、私は駆けだす銀色を見た。

お姉様が、闇の嵐に負けずに、立ち向かっていった。

 



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第59話 深淵から引き出された者

闇の風に負けないように、私は走る。

クロムの姿が、闇に隠されていく。

 

このままでは、クロムがまた深淵に隠れてしまう。

そんなこと、させない。ミストにやったことを、許しはしない。

 

「はあああああああ!」

 

逆風に負けず走り、私はマリアを突き出す。

マリアの切っ先は闇のベールに激突する。

 

いや、その切っ先が闇のベールに触れただけだ。

それだけで、クロムを逃がそうとした闇の魔法は音を立てて、割れた鏡のように消え去った。

闇の破片の向こうに、クロムの姿が見えた。

 

「逃がさ……ない!」

「そうか……お前が……っ!?」

 

私に邪魔をされたと分かったクロムが闇の魔法で作り出した刃で私を害そうとする。

マリアを突き出した状態の私は、それを避けることができない。

 

しかし、その闇の剣ごと、私とクロムの間に急に現れた光が斬り裂いた。

それは光の靄だった。姿が半透明な、金の甲冑を着た騎士のように見えた。

 

その光の騎士は私を守るようにクロムの闇の剣ごと、クロムを斬り裂いた。

クロムは目を見開きながら、光の騎士を見つめている。

 

「なんで……【幻影】が……っ!」

 

気になることをクロムが呟いた気がした。

しかし次の瞬間には彼は辺りを見回していた。

 

やがて何かを見つけた彼は、それ目がけて瞬時に移動した。

慌てて姿を追うと、クロムの目の前に気絶したミストが。

 

「まずっ……」

 

クロムの思惑が手に取るようにわかる。

ミストに再び洗脳魔法を使い、人質にするつもりだろう。

 

彼が手のひらをミストに向けて、洗脳魔法を発動させようとする。

その背中にベリアル学園長の魔法が直撃するが、それでもクロムは止まらない。

 

洗脳魔法が、ミストを襲う。その瞬間。

 

「おはよう……私だけの世界(ディア・マイ)」

 

薄目を開けたミストの姿が消える。

唖然としたクロムの体を、エヴァとリフィルの剣が前後から貫いた。

 

口から血を吹き出し、クロムは笑う。

 

「全員のテスタロッサは……調べていたんですがね……まさか異空間系の……テスタロッサを隠し持っていたとは……」

 

そのままクロムは私に視線を向け、嘲るような笑みを浮かべた。

 

「エヴァではなく……君が鍵の持ち主だったんですね。可哀そうに。何も知らな――」

 

そこまでしゃべったところで、エヴァが剣をさらに深く突き刺した。

致命傷を負い、クロムの言葉が途切れる。

2人が剣を抜くと、彼は仰向きに倒れた。

 

天井を薄くなっていく目で見つめながら、彼は呟く。

 

「すまない……ヒビキ……君との約束……果たせそうにない」

 

それが、魔王【深淵】の最後の言葉だった。

彼は目をつむり、静かに息を引き取った。

 

(終わった……)

 

そう思った瞬間、ミストが急に現れた。

今まで聞いたことはなかったが、専用のテスタロッサをミストも持っていたということだろう。

けれど、それがあったからこそ最後の最後にクロムを倒すことができた。

 

この日、私達は魔王【深淵】を倒すという歴史的な出来事を達成した。

それは700年間、誰も達成できないことだった。

 

けれど私は、クロム討伐を喜ぶエヴァ達を見ながらも、先ほどの彼の発言が気になっていた。

 

『君が鍵の持ち主だったんですね。可哀そうに。何も知らな――』

(鍵って何……?何も知らないって……何を私は知らないの?)

 

意味深な言葉と、私を助けてくれた光の騎士。

魔王【深淵】が死んでも、それらの謎は私の頭の中でぐるぐると回っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クローネ先生が亡くなり、ロッド先生も操られていた。

彼が起こした事件は、彼から教員資格をはく奪した。

ロッド先生が自分の意志で起こしたことではないとはいえ、仕方ないことだろう。

それゆえ私たちのクラスの担任には3年生と掛け持ちになるが、アイリス先生が選ばれた。

 

今年は1年生の時にあった寮対抗戦はない。

エディンバラ学園は3年に一度、寮別対抗戦の代わりに個人トーナメントが行われる。

 

個人トーナメントの参加は任意だ。

自信がある生徒がエントリーすることになる。

私はそこまで自信があるわけではないので、エントリーしなかった。

 

出場したのは、私の知り合いではエヴァ、ロゼリアさま、ルナ、ムース、そしてセリア先輩とラーグさまだ。

結果、優勝を手にしたのはロゼリアさまだった。

 

けれど、決勝戦におけるエヴァとロゼリアさまの戦いは接戦だった。

もしもエヴァがクロムとの戦いで使っていた、特殊な魔法を使っていれば勝負はわからなかっただろう。

 

いずれにせよ、個人トーナメントは私たち生徒の中に、大きな興奮を巻き起こした。

それは生徒達からクローネ先生の死を、私たちの中からクロムの事件を薄れさせるものであった。

 

「さて、皆一年間お疲れさま。といっても私が受け持ったのは本当にわずかな時間だったが……」

 

教卓の上で、アイリス先生が挨拶をする。

今日は終業式。私たちは2年生を終え、最終学年の3年生になる。

 

「クラスのメンバーはほとんど変わらない。3年生でもよろしく」

 

そういってアイリス先生はウインクをする。

童顔なことも相まって、とても可愛らしい。

そんな先生を見ながら、私はこの一年に思いをはせる。

 

(いろんなことがあったなぁ……)

 

リフィルのお家騒動から始まって、ネクステスへの旅行。

そして大きなものとしては、クロムとの戦い。

 

来年は、落ち着ければいいなと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けれど、そんな私の願望は、3年生になる前に実家から届いた手紙でもろくも崩れ去ることになる。

 

「……え?」

 

寮の一室に届いた手紙を見ながら、私は間抜けな声を出した。

手紙には、こう書いてあった。

 

『エヴァとウリアに話があるので、3年前の長期休みに帰ってくるように』

 




(以下、原作設定資料集から引用)
◆実績
深い淵のさらに底

【解除条件】
EXボス、魔王【深淵】クロムウェルを撃破する

【実績テキスト】
最悪の知、そして最強の魔。
世界を恐怖に陥れ、人の心をどこまでも弄んだ絶対なる悪を滅ぼした証

※一部条件を満たしていないために、解除できませんでした


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第60話 意外と将来は明るいようです

2年生が終わり、3年生になる前の長期休暇。

私とエヴァとリフィルは3人で、実家であるアルトリウス伯爵家に帰ってきていた。

 

しばらく久しぶりの自室で過ごした後、メイドさんに呼ばれてお父様の私室に足を運んだ。

扉の前で立ち止まり、開けるのをためらう。

 

(お父様……)

 

もうお父様とは長いこと親子のような会話をしていない。

エヴァやリリスさんの影響で多少は話すようになったが、それでも一言二言会話した程度だ。

 

(……どうせ今回も、エヴァの話がメインだって分かってる。けど……手紙には私の名前もあった)

 

右手をぎゅっと握り、扉に手をかける。

お父様の部屋の扉は、なぜだか重く感じた。

 

部屋の中では、お父様がすでにソファーに腰かけていた。

その横にはリリスさんも座っている。

 

「……来たか。そこに座れ」

 

テーブルを挟んだ向かい側の席を指で示され、私たちはそこに座った。

リフィルは私の後ろに侍女として立った。

 

お父様はエヴァをじっと見つめると、静かに、けれど厳かに話し始めた。

 

「エヴァ、お前は将来、どうするつもりだ?魔法師団か?騎士団か?」

「……私は魔法師団に進むつもりです」

 

エヴァはお父様の目を見て、はっきりと答えた。

エディンバラ学園卒業後の進路はいくつかある。

 

けれど成績優秀なエヴァは、その力を求められるだろう。

この国には2つの軍隊がある。

 

魔法をメインに武器とする魔法師団。

そして剣や槍などをメインに武器とする騎士団だ。

 

エディンバラ学園でいうところの魔法特化の第2寮は魔法師団、実技特化の第3寮は騎士団が上位組織にあたる。

オールマイティな第1寮の卒業生はどちらかに属するのが普通だ。

 

「ふむ……お前ならば実力は申し分ない。アルトリウス伯爵家としてもこれ以上の場所はないだろう」

 

お父様の言う通り、剣も魔法も扱えるエヴァは魔法師団が向いているだろう。

騎士団でもやっていけると思うが、どちらかというと実技寄りの側面が強いと聞く。

 

「……ありがとうございます」

 

エヴァは無表情のままで告げる。

それに満足そうにうなずいたお父様は私を見た。

 

その瞳は冷たく、何を言われるのかと不安になってしまう。

 

「ウリア……お前は……」

 

私も魔法師団に行きたい。エヴァと一緒に、仕事をしたい。

そう答えようと、強く決心し。

 

「エディンバラ学園で頑張っているようだな。他の貴族からも評価が高い」

 

急に言われたので、戸惑ってしまった。

 

(お父様が……認めてくれている?)

 

一瞬嬉しさを感じたが、すぐになにか嫌な予感がした。

お父様は、まだ私を冷たい目で見ていた。

 

「喜べウリア。お前を欲しがっている家は多い。アルトリウス家の役に立てるぞ」

 

急に冷や水を浴びせられたような感覚に、私は言葉を失う。

手が、震える。

 

お父様の言葉が、頭の中で繰り返される。

それは……つまり。

 

「あなた!いくらなんでもあんまりです!なぜ私に事前に話を通さないのですか!?」

 

テーブルを叩いてリリスさんが立ち上がり、お父様に怒鳴る。

だがそれ以上に、怒りに狂いそうな人物が居た。

 

「お父様……もう一度言って頂けますか?お姉様を、どうすると?」

 

エヴァは人を殺せそうなほどの眼力でお父様を睨みつけている。

それに、私の後ろでは風の魔力が漏れ出ていた。

リフィルも、激怒している。

 

「……仕方がないだろう。こればっかりはアルトリウス家ではどうしようもない。だが、私としてはこの3家のうち、どれかは選んでもらわねば困る」

「へぇ?どこの貴族です?私、気になるなぁ」

「……なんでそんなにお前は怒っているんだ。お前も友達だろう。エディンバラ皇家とユグドラシル王家とアルス公爵家だ」

「「……は?」」

 

聞き覚えのある3つの家名に、私とエヴァはほぼ同時に聞き返してしまった。

 

(え?どういうこと?アークさまとソラスさまってこと?え、誰とも接点ないんですけど……っていうか、ルナって一人っ子の筈じゃ……)

 

困惑する私たちを不思議そうに見ながら、お父様は言葉を続ける。

 

「リリス、お前も事前に言ってくれというが、そもそも賛成だと思ったのだが……エディンバラ皇家からは皇女様が将来受け持つ師団の一員として、ユグドラシル王家からは姫様の近衛隊の一員として、そしてアルス公爵家からは4将軍直属の部隊の一員として、是非にと来ているのだ。……まあ、どれにしようか迷うのは分かるが、まさかどれに対しても反対なわけではあるまい?」

 

お父様の言葉を頭の中で何回か繰り返し、その意味をゆっくりと理解する。

エディンバラ皇家はロゼリアさまが将軍を務める軍の一員として、ユグドラシル王家はムースさんの近衛隊の一員として、そしてアルス公爵家はルナが将来継ぐであろう4将軍の軍の一員としてスカウトしているということだ。

 

それらの意味を理解して、私とエヴァは同時に聞き返した。

 

「「政略結婚ではなく?」」

「……お前たちはなにを言っている?エヴァの将来が魔法師団という話をしたのだから、ウリアの話も将来の職業についてに決まっているだろう」

 

確かに言われてみればお父様の言う通りなのだが、流石に言い方が悪いと思う。

 

(あんな興味がない感じで、あんな風に言われたら、政略結婚なのかなって思うよ!!)

 

実際、エヴァも勘違いをしていたくらいだ。リリスさんもそうだろう。

エヴァは苦笑いをしているし、リリスさんは顔を真っ赤にして向こうを見ている。

 

「もうお父様ったら、やめてくださいよ。お姉様に政略結婚を打診している貴族が居るのかと思って、焦っちゃいました」

「はい、本当に」

「…………」

 

ここに来てエヴァとリフィルが怒り狂っていることを理解したのか、お父様は顔を青くして押し黙った。

 

(……多分、打診はあったんだろうな)

 

それをかき消すくらいのインパクトを出してくれた3人の友人には感謝しかない。

内心でロゼリアさま達に感謝を告げていると、お父様は「それで」と繰り出した。

 

「どれにするんだ。正直どれを考えてもこれ以上ない待遇なのだが……」

「……お父様」

 

3人が誘ってくれたことは嬉しい。

けれど、私はエヴァと一緒に居たい。

 

その結果、望まない結果になるかもしれない。

アルトリウス家のことを考えているお父様とは衝突するかもしれない。

 

「私は、エヴァと一緒に魔法師団に行きたいと考えています。私はそこで、もっと学びたい。もっと強くなりたいんです」

「…………」

 

でも、この気持ちを止めることはできなかった。

 

結果として3人の提案を蹴ってしまうのは心苦しい。

お父様も反対する。そう思ったのだが。

 

「…………」

 

お父様は困ったような顔で頬を掻くばかり。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

私とお父様の間で、沈黙が流れる。

 

「いや、それは大丈夫だ。聞いているのは魔法師団で3年程度務めた後のことだ……まあ、急ぎではないのだが、この3つのどれかにはしてくれないだろうか?」

「……え?」

「3家ともお前の意思を尊重する。その上で魔法師団か騎士団に3年程度務めた後の進路として、是非にと言ってきているのだ。どれにするかは団在籍中に決めればいいと思うのだが、この3つ以外となると――」

「いえ、その3つから選びます!」

「おぉそうか!やはり学園での友は大切にすべきだな。これからも友人関係を意識しつつ青春を送りなさい」

 

何もかもが私にとって都合の良い提案だと知った私はその話に食いついた。

お父様は、今までに見たことがないほど笑顔だった。

私個人ではなく、アルトリウス家にとって良いかどうかで態度が変わっているので、少し不満はあるが、文句はない。

 

「お父様、お話は終わりですか?」

「ああ、時間を取って悪かったな。学園が始まるまでは屋敷にいるといい。必要なものがあればエヴァもウリアもメイドに言いなさい」

「はーい。じゃあお姉様、行こう?」

「うん」

 

エヴァに手を引かれるようにして、お父様の部屋を後にする。

家族としての関係は微妙だが、屋敷が少し居心地がよくなったと、そう感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、3つの内どれにしようっていうのは考えてるの?」

「うーん、どうだろう?やっぱりロゼリアさまのところかなぁ。他国に住むのは少し抵抗があるし、ユグドラシルはリフィルが嫌なことを思い出しちゃうかもしれないからね」

「お嬢様、私はお嬢様が居るならば、どこでも大丈夫です」

 

自室に戻り、部屋でエヴァと話し合う。

とは言ってもまだまだ先のことだ。どうなるかなんてわからない。

 

「やっぱりそうだよねぇ……」

「まあ、でもどうなるか分からないよ」

「そうだね。どこ行くか決めたら教えてね。私もそこ行くから。空いてなかったらねじ込んでやる」

「ロゼリアさま達相手にそんなこと考えられるのエヴァだけだよ」

 

エヴァの冗談に笑いながら、私は幸せなひと時を過ごしていた。

 




◆ルート開放条件
・「アーク」、「ソラス」または「ラーク」のルートに入っている
・学園を卒業していない
・攻略キャラの好感度が100を越えている

※学園卒業でフラグ消滅
※原作では条件の好感度数値が達成できません

一部条件に変更がありました。
◆新規ルート開放条件
・「ローズ」、「ムース」、「ルナ」全員の好感度が■■■を越えている。

※原作ではルートが存在しません
※エラーにより、条件の好感度数値が読み込みませんでした。


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第61話 3年進学と謎の編入生

3年生になった初日、私とエヴァはいつも通り早めに教室についていた。

学年が上がると教室は変わるが、広さなど細かいところは変わらない。

 

またアイリス先生は教室の管理には無関心で、席替えなどは行わない。

そのため、2年生の時と同じ席にクラスメイトのみんなは座っていた。

 

「そういえば、2年生の時もあったけど、クラス移動の人とか居るのかな?」

 

自分の席に荷物を置きながら、エヴァは私に聞いてきた。

2年生になったときは、別のクラスから移動してきた生徒が居た。

 

ただそれは1年生から2年生という学園に入ってきてまだ早い段階だったから。

3年生になるタイミングでは数は少ないのではないかと思う。

 

「どうだろうねぇ。ひょっとしたら居るかも?」

「おはよう、2人とも」

「おはようございます」

 

ルナとムースがちょうど登校してきたので挨拶を返す。

 

「ルナ、今日もジン先生のところ行くの?」

「うん、セツナ先生との模擬戦は良い刺激になるからね」

 

クロムと戦ったあの事件以来、ルナは思うところがあるのか、第3寮の寮監督であるジン先生に稽古をつけてもらっている。

ジン先生は東の島国、アズマの出身で、そこで元々道場をやっていたらしい。

 

セツナ先生はエディンバラ学園の実務担当の非常勤講師だ。

ジン先生の元弟子であり、最年少でトリリアントになった記録を持っている凛とした女性だ。

 

「あまり根を詰めすぎてはだめですよ。休みもずっと訓練だったじゃないですか」

「大丈夫大丈夫」

 

ルナは軽い感じでムースに返答する。

ふとムースが、なにかを思い出したように私を見た。

 

「そういえばウリア、実家でユグドラシル王家からの提案について聞いた?エディンバラの貴族がウリアに興味を持っているって話を聞いたから、慌ててお父様を説得して話を出したんだけど、間に合った?」

「さすがにロゼリアさまとムースと私の家からの提案なら、断れないと思ってるんだけど……」

 

やはりあの提案はロゼリアさま、ムース、ルナにより行われたものだったらしい。

エヴァは微笑んで、私の代わりに答えてくれる。

 

「あんたたち、文句なしの提案だったわ。おかげでアルトリウス家は3家のうちどれかを受けるつもりよ。どれを受けるかはお姉様次第だけどね」

「うん、2人ともありがとう」

 

2人に頭を下げると、問題ないという感じで笑ってくれた。

将来に対する心配はほとんどなくなったので、本当に感謝しかない。

 

しばらくそのまま他愛のない話をする。

そこにユウリィも加わり、訓練の話や、魔法の話など、話題が広がっていく。

 

そのとき、ふとロゼリアさまが居ないことに気が付いた。

 

「ロゼリアさま、今日遅いね」

「そういえばそうだね。いつもならこの時間には居るはずなんだけど」

 

時計を見ながらエヴァが返事をする。

ロゼリアさまはどちらかというと時間ギリギリで登校するよりも、余裕をもって朝早くからいるイメージだ。

 

時間はもう、アイリス先生が来るころだ。

そんなことを思っていると、ちょうど扉が開き、ロゼリアさまが教室に入ってきた。

 

「あ、ロゼ――」

 

声をかけようと思ったが、その声は途中で止まってしまった。

彼女は顔色が悪く、なにかを真剣に考えているようだった。

 

今まで見たことがないロゼリアさまの表情に、心配になる。

しかし、ロゼリアさまの後ろに続くようにアイリス先生が入ってきてしまった。

 

流石に先生のいる前で会話はできない。

 

「おはよう。今日から3年生だな。本日はまず、新しくクラスに参加する生徒を紹介する」

 

教卓についたアイリス先生はクラス移動の生徒を紹介する。

生徒は全部で2人だという。2人とも教室の外で待機している。

 

1人の生徒は男子生徒で、第2寮から移動してきた生徒だそうだ。

その生徒を紹介した後に、もう1人の紹介となった。

 

「最後にもう一人、転入生を紹介しよう。レティシア・アンドロメダさんだ」

 

アイリス先生の言葉で、一人の生徒が教室内に入ってくる。

彼女は教卓の隣まで進み、私たちを見回した。

 

(綺麗……この世の人じゃないみたい……)

 

私は彼女を見てそう思ってしまったくらいだ。

 

今まで見たことがない真っ白な長髪を肩くらいで2つに分け、黒いリボンで留めている。

透き通るような白い肌に、あどけない表情。幼い印象を持つ顔つき。

 

そして、それと対照的に驚くほど黒い瞳をしていた。

1点の光もない、真っ暗な深い闇のような瞳。

 

存在そのものが綺麗だと思うと同時に、この世のものではないような異質さを感じた。

 

「皆さんこんにちは、レティシア・アンドロメダです。レアと呼んでください。アンドロメダ子爵家の娘です。分からないことも多いですが、よろしくお願いします」

 

彼女の声は透き通っていて、心に染み込んでくるようだった。

レアさんはロゼリアさまをまっすぐに見つめていた。

 

(え?ロゼリアさまの知り合い?)

 

そう言ってロゼリアさまに目線を移すものの、彼女はレアさんを見て顔をひくつかせている。

 

「それでは授業を始める」

 

2人の新しい生徒を席につかせて、アイリス先生は授業を始めた。

授業中、私はレアさんのことが気になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法座学と実技の授業が終わり、放課後を迎える。

私は集まって今日の訓練について話そうと、ロゼリアさまの席に近づく。

 

「ロゼリアさま、今日の訓練なんですけど――「ロゼリア」」

 

その声を遮るように、レアさんが横からロゼリアさまに声をかけた。

彼女は私を一切見ることなく、ロゼリアさまの席に向かう。

 

「……ロゼリアさま、レアさんと知り合いなんですか?」

「ええ、彼女の家アンドロメダ家は新興貴族ですが、レアさんは優れた適性の持ち主ということで、私がスカウトしたんです」

「誰?ロゼリア」

 

そこで初めてレアさんは私を見た。

深い闇の瞳が、私を射抜く。

 

「私の友人で、ウリア・アルトリウスさんです。子供のころからのお友達で、ずっと仲が良いんですよ」

「……へぇ」

 

そう声を上げるものの、レアさんは私には微塵も興味が無いようだった。

私とロゼリアさまの会話を聞いて、他のみんなも集まってくる。

 

「他の皆さんも紹介しましょう」

 

ロゼリアさまは他のみんなも次々紹介する。

けれどレアさんは表情を変えず、ただ無表情で聞いているだけだった。

 

ユグドラシル王族のムースや、ネクステス4将軍の娘であるルナのことを聞いても、何の反応もなかった。

 

「訓練をするの?」

「……え?」

「さっき、その子が言ってたから」

「あ……その予定ですが」

 

レアさんは話を私たちの訓練へと変えた。

彼女は私をじっと見てくる。

 

「あなたは弱いのに訓練をする意味があるの?」

「え?……」

 

突然言われた一言に、私は固まってしまった。

周りのみんなも言葉を失っている。

 

最初は馬鹿にされているのかと思ったが、レアさんの目や表情からはそういった感情は読み取れない。

純粋な疑問として聞いているのだろうか。

 

「……うん、するよ。私が少しでも強くなれば、大切な人を護れるから」

「護る?……強くなるのは、敵に勝つためじゃないの?」

「……私は、護るために強くなりたいと思ってる。でも、レアさんみたいな考え方も間違ってないと思う」

 

私の言葉に、レアさんは何も答えなかった。

ただじっと、私を見つめるばかり。

 

「……そう。ロゼリア、私もその訓練参加していい?」

「え?ええ、構いませんよ」

 

レアさんはそう言って訓練に参加するのを決めたようだ。

彼女は話しかけられた時以外は自分から声をかけることはないみたいだ。

 

少しづつ仲良くなれればいいなと、そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

訓練所に移動して、私たちはいつもの訓練を始めようとする。

その際に、ルナがレアさんに声をかけた。

 

「レアさんって、強いの?ロゼリアさまいわく、すごい適性の持ち主なんでしょ?」

「うん、そうだよ。私が世界で一番強い」

「え?」

 

まるで当然のように放たれた言葉に、ルナは目を見開いてしまった。

ここにいるメンバーは誰もが同年代でトップクラスの力の持ち主だ。

 

にも関わらず、レアさんは自分の実力を微塵も疑っていないようだった。

そうなると気に食わないのはルナである。

 

「へぇー。じゃあさ、レアさん、私と模擬戦しようよ」

「あなたと?」

「うん、私も自分の実力には自信があるんだ」

「……分かった」

 

ルナはレアさんとの模擬戦をするようだ。

彼女はエヴァ達に目を向けて、視線のみで何かを伝えあっていた。

 

(私には目を向けなかったけれど、どういう意味なんだろう?)

 

そんなことを思っていると、2人はもう位置についていた。

ルナの強さはよく知っている。一方で、レアさんの自信も、過信のようには思えない。

 

この模擬戦は、すごい戦いになるだろう。

わくわくした気持ちで、私は模擬戦を今か今かと待ち望んでいた。

 




◆ルート開放条件
・学園編にて、魔王【深淵】クロムを撃破する

※原作ではルートが存在しません


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第62話 最強の少女、レア・アンドロメダ

ネクステス4将軍最強の娘、ルナ・アルス。

そして謎の転校生、レティシア・アンドロメダ。

 

2人は向かい合って、テスタロッサを開放する。

ルナは月光花を、そしてレアさんは無表情のまま呟いた。

 

「■■■■■■■■■」

 

彼女が何を言ったのか、私には分からなかった。

少なくとも私たちが普段話している言葉ではない。

 

次の瞬間、レアさんの体を灰色の外套が包んだ。

ボロボロで、汚れた外套。初めて見る異質なテスタロッサだ。

 

「それでは、両者……初め」

 

ロゼリアさまの開始の合図と同時に、天空から火が降り注ぐ。

かつてのエヴァを急に襲ったような火柱が、ルナのいた場所に。

 

あの時、アセロラ嬢はルールを違反して多くの人物から強化魔法を受けていた。

その数は何十人にも及んだ。そのアセロラ嬢と同じくらいの威力。

 

「くっ……」

 

とっさにその場を離れたものの、逃げ切れずに炎に巻き込まれる。

焼かれながらも、ルナはなんとか耐えていた。

けれど炎が消えた次の瞬間、レアさんはルナの後ろに移動していた。

 

(嘘……エヴァと同じくらい速い!?)

 

瞬間移動を使ったエヴァと同じくらいのスピードで移動したレアさんの攻撃は、拳によるものだった。

けれどそれはルナのような格闘技を習ったようなものではなく、どちらかというと戦い慣れているような、そんな攻撃だった。

 

ルナはそれを月光花で防御するものの、あまりの威力に吹き飛ばされた。

地面を転がり、土ぼこりが舞う。

体勢を立て直しながら、ルナは汗をぬぐった。

 

(すごい……強い……)

 

たった少しの交戦を見ているだけでわかる。

流石に魔法ではあの魔王クロムには叶わないだろう。

 

けれど魔法と格闘の組み合わせのバランスではロゼリアさま以上だろう。

世界で一番強い。その言葉も間違いではないように思える。

 

(けど……どちらかというと力の暴力みたいな……)

 

レアさんは魔法も力も制御していない。

制御できないんじゃない、制御する気がないんだ。

 

レアさんは手のひらをルナに向けて、魔法を放つ。

見覚えのある魔法だ。クロムも使っていた、ウィンドランス。

 

クロムのように大量に発動させるわけではない。

ただ1つの風の槍に、収まりきらないほどの魔力を投入している。

あんなの……当たったらひとたまりもない。

 

風の槍は射出され、恐ろしいスピードでルナに迫る。

ルナは駆け出し、その風の槍を体を翻して避けた。

 

「ああああああぁぁぁぁぁ!」

 

咆哮し、ルナは素早くレアさんに迫る。

そのスピードは速いが、レアさんはルナの攻撃を外套を使って正確に防ぐ。

 

しかし、闇の魔力を纏ったルナの攻撃は鋭く、少しづつだがルナが押し始める。

接近戦はルナの得意な間合いだ。

 

この間合いに入れたなら、流石にルナの方が有利。

この距離なら、対ロゼリアさま相手だとしてもルナの方が勝率は高い。

 

「接近戦、強いね」

 

けれど、押されているはずなのにレアさんは表情が変わらない。

戦っていても、ずっと無表情だ。

 

そんな彼女が、一言ぽつりとつぶやいた。

纏う外套が光り、地面から岩の刃がせりあがり、ルナを傷つける。

 

魔法の攻撃で攻撃の手が止まったルナのお腹に、レアさんの拳が撃ち込まれる。

 

「がっ……」

 

拳は直撃し、ルナは背中をレアさんが出した土の刃の腹に強打した。

意識を失ったルナが、地面へと体を傾ける。

遠くから見ていても分かる。さっきのが勝負を分ける一撃。

 

「そこまで!」

 

ロゼリアさまがその様子を見て試合終了の合図を出す。

しかし、レアさんは止まらずに、右手に光の刃を作り出し、ルナに突き刺そうとした。

 

模擬戦は相手の気絶か、致命傷を直前で止めることで勝敗を決する。

レアさんの攻撃は明らかなやりすぎである。

ルナに光の刃を受け止めることはできない。

 

「審判の声、聞こえなかった?」

 

エヴァの声が訓練場に響く。

オーバーライトを展開したエヴァは瞬時に跳び、レアさんの光の剣を受け止めていた。

レアさんが片手のみなのに対し、エヴァは両手でオーバーライトを握り締めている。

 

またルナを包み込むように木の根が地面から生えている。

ムースもとっさにルナを護ってくれたのだろう。

 

「…………」

 

レアさんは何も言わなかった。

やがて彼女は光の剣をかき消し、手のひらをルナに向けた。

ルナの体を光が包み、傷が癒えていく。

 

「…………」

 

無言だが、ルナを回復してくれた。

少しだが、レアさんの優しさが垣間見れた。

彼女はルナの回復を終えると、ロゼリアを見た。

 

「……これで、実力は十分?」

「初めから私はレアさんの実力を怪しんではいません。……ですが、他のみんなも今ので分かったとは思います」

「そう……なら、私も訓練に参加していい?難しいことは分からないから、模擬戦くらいしかできないけど」

「え?」

 

レアさんの言葉に私は反射的に声を出してしまった。

彼女は顔をこちらへと向けてくる。

 

「……なに?」

「あ、ち、違うの。逆にレアさんはいいのかなって……」

「私は構わない」

 

無表情だが、レアさんは訓練に参加しても構わないそうだ。

さっきの模擬戦の結果だけを見ると、レベルが低いと言われそうな気もしたが、無表情なだけで優しい人なのかもしれない。

 

そんなことを思いながら、訓練へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごかったね、レアさん」

「……そうだね、かなりの実力者だった。それこそ、ロゼリア以上かもしれない」

 

訓練を行う皆を離れた場所で見ながら、私とエヴァは休憩をしていた。

先ほどの模擬戦を思い出しながら、2人で話し合う。

 

エヴァもレアさんの実力は認めているらしい。

レアさんの適性は知らない。

けれど、相当高いのではないかと思う。

 

「やっぱり、適性ってすごいね。技も何もなくても、正面から打ち破っていける」

「お姉様、適性のこと、引きずってるの?」

 

エヴァが気遣うように声をかけてくる。

2年生の最後には、1年生の時と同じく適性の検査があった。

 

結果は、全く変わらず。

 

1年訓練をした。魔王クロムという強大な敵とも戦った。

もちろんこれまでの人生で適性が成長しないのはほとんどだった。

むしろ成長した1年生の時が特別だったのだろう。

 

「うん……もちろん強くなることを諦めたわけじゃないよ。でもちょっとショックだったんだ。みんなに追いつけるかなって思ったんだけどね」

「お姉様……」

 

もちろん、適性が全てでないことは分かっている。

だからこそ、ちょっとショックではあるが、そこまで思いつめてはいない。

 

私は首を振って、エヴァに笑いかけた。

 

「それに、適性はテスタロッサを考慮に入れてないからね。マリアを起動すれば、1年生の時よりも今の方が格段に強くなってるから、大丈夫!」

「……うん、そうだよ!お姉様はマリアの力を最大まで引き出すんだもん!私でもテスタロッサはそこまで使いこなせないからね。だから適性じゃなくて、普通に強くなっていこうね!」

「うん!」

 

気合を入れなおし、皆の訓練を観察する。

強さは適性だけじゃない。テスタロッサの技量や、戦いでの判断などさまざまだ。

私は私にできることをやる。それだけだ。

 

ふと、遠くに立つレアさんと目が合った。

彼女は相変わらずの無表情で、私とエヴァが話しているのを見ていたようだ。

 

距離的には会話は聞こえていないだろう。

彼女は私としばらく目を合わせた後に、模擬戦相手であるルナと向き合っていた。

 



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第63話 陽気なおじさん、ジン先生

休日の今日、私はリフィルを連れて学園を訪れていた。

 

3年生になってから夏休みが終わるまで、これといった事件は起こらなかった。

逆に言えば、これまでは事件が起こりすぎていたのだろう。

平穏な日々が、ありがたかった。

 

本当ならば夏休みにユグドラシルに行くつもりだったのだが、今年は皆の予定が合わなかった。

それゆえに、旅行はなしになってしまった。

 

いつか行く機会があれば良いなと思う。

 

「それにしても、急に訓練を見学してもよいのでしょうか?」

「ルナからは許可を得ているから、大丈夫だよ」

 

リフィルの言葉に答え、私たちはどんどん進んでいく。

休日にもかかわらず私たちが学園に居るのは、ルナの訓練を見学するためだ。

 

学園で授業のある日は私たちと訓練をしているので、ジン先生たちとの訓練は休日に行っているという。

先生との訓練から学べるものもあるかなと思い、ルナに頼み込み、許可を得た。

 

学園を進み、訓練場が見えてくる。

そこではルナと先生が訓練をしていた。

 

黒と桜色が、大きな音を立てて衝突を繰り返している。

その様子を見ていると、紺の浴衣を着た男性が私に気づき、手を上げた。

 

「おう、アルトリウス家の姉か。ルナの訓練を見に来たのか。すげえぞ、見てけ見てけ」

 

心底楽しそうに笑うのは第3寮の寮監督、ジン・シノノメ先生だ。

黒髪に白髪が混ざった壮年の男性で、実技の授業も担当している。

 

2本の刀を腰に差すその姿は、まさに侍と言えるだろう。

厳格というよりも、陽気なおじさんという印象の方が強いが。

 

「ジン先生、こんにちは。ルナと……セツナ先生の模擬戦ですか」

「妹と違って姉の方は本当にお淑やかだな。……あぁ、最近は特に多いな。アンドロメダの嬢ちゃんと模擬戦をするようになってから一気に強くなった感じだ。今じゃセツナともいい勝負をしているぜ」

 

ジン先生の言う通り、ルナは桜色の衣を羽織った薄い紺色の着物の女性と戦っていた。

黒い短髪に、凛とした若い女性。

 

エディンバラ学園の非常勤講師である、セツナ・トキトウ・テノ先生だ。

最年少トリリアントにして、ジン先生の数多くの弟子の中で最強と言われている。

 

素早い動きは目にもとまらぬ速さで、攻撃は苛烈だ。

それに何とか付いていけているルナも相当なものだ。

 

「……大講堂の時も思いましたが、彼女は相当なやり手ですね。私ともいい勝負ができそうです」

 

その様子を見て、ポツリとリフィルが呟いた。

リフィルと良い勝負ができる。ジン先生が天才と評価するのも分かる強さだ。

 

「……前から思ってたんだが、姐さんは何者なんだ?エルフってことはユグドラシルの軍人か何かかい?」

 

リフィルの名前は学園では知れ渡っていない。

ネクステスのユエさんのようなバリバリの軍人なら見覚えがあるかもしれないが、教師であるジン先生は知らないのだろう。

 

リフィルは先生の質問に目をぱちぱちとしながら答えた。

 

「私はウリアお嬢様の専属侍女です」

「……聞きたいのはそういうことじゃなくてだな」

「専属侍女です」

 

言い張るリフィルに対して、ジン先生は苦笑いをしている。

これ以上話しても無駄だと思ったのか、ジン先生は私に声をかけてきた。

 

「アルトリウス家のお姉様は、俺の教えを受けるつもりはないかい?」

「あの……私はウリアという名前があるのですが」

 

エヴァは私のことをお姉様と呼ぶ。

そのため、ジン先生から名前ではなく特殊な呼び方をされていた。

 

そのことに苦笑いで返すものの、リフィルが前に進み出た。

 

「必要ありません。私の方で教えられることは教えています」

「……まあ、そうだわな。今から新しい型を仕込むのはおススメできないねぇ」

 

ジン先生も初めから真剣に勧誘しているわけではないのだろう。

すぐに諦めて、模擬戦へと目を移してしまった。

 

私は、以前から気になっていたことをジン先生に聞いてみることにした。

 

「ジン先生、大講堂でのあの戦いの時、まるで他にも魔王を知っているような口ぶりでしたが……」

「ああ、俺は魔王【天】と戦ったことがある。結果は惨敗だったけどな」

 

ジン先生はトリリアントではないものの、相応の実力を持っている。

以前生徒の一人がセツナ先生の方がジン先生よりも上なのでは?という質問をしたときに、セツナ先生が恐ろしいほど怒っていた。

 

セツナ先生からしても、実際に授業を受けている身からしても、ジン先生がトリリアントであるセツナ先生やアイリス先生に劣っているとは思えない。

そんなジン先生が、惨敗する相手。

 

「……ウリアちゃん、よく聞きな」

「え?」

 

声をかけられて見上げると、ジン先生はいつもとは違う真剣な表情で私を見つめていた。

 

「魔王っていうのは人外の化け物だ。トリリアントが何人揃ってても勝てやしねえ。……俺たちは魔王【深淵】を倒した。けれどあれは運が良かっただけだ。……ウリアちゃん、絶対に魔王に手を出すな」

「……ジン先生は……手を出したんですか?」

 

まるで経験があるような語り口に、私は思わず聞いてしまった。

ジン先生は遠くを見て、ぽつぽつと話し始めた。

 

「もう何十年も前の話だ。当時、俺はアズマっていう国にいた。自分こそが最強の侍だと思っていた。笑っちまうよな。今では学園長を初めとして、俺よりも強いやつなんざいくらでもいる。けれど若い俺は、自分こそが頂点だと思っていた」

 

今のジン先生からは想像もできない若い時代。

そんな先生が、自信を折られるとしたら、それは。

 

「でも俺は本当の頂点に出会った。魔王【天】は別格だった。あの野郎、自分のテスタロッサではなく、一般的な刀型テスタロッサである『普刃』で俺に勝ちやがった。俺は家宝のエクセラのテスタロッサまで使ったっていうのにさ」

「……じゃあ、ジン先生が普段『普刃』を使うのは……」

「ああ」

 

ジン先生は普段の戦闘で腰に差している2本の刀のうち、『普刃』の方を使う。

『普刃』はコモン級のありふれたテスタロッサだ。

もう1本は使っている姿を見たことがない。

 

「【天】にも言われたよ。お前は侍ではなく、指導者に向いているとな。その通りだと思ったよ。俺には戦いは向いていない。できるのは……セツナのような後進を全力で育てることだけだ。けど、感謝しているところもあるんだ。【天】のおかげで、指導者の道を進めたんだからな。嬉しいもんだぜ、手塩にかけた教え子が活躍するってのはよ。……お、そろそろ決着か?」

 

ジン先生の言う通り、ルナとセツナ先生の模擬戦がしばらくして終了した。

セツナ先生の刀の切っ先がルナの首に突き付けられている。

 

ジン先生は試合終了の合図を送ると、拍手をしながら2人に近づいた。

私もその後を追う。

 

「良い戦いっぷりだ。セツナに専用のテスタロッサを使わせないという制約があるとはいえ、ここまでできれば文句はないだろう。セツナ」

「はい、師匠。ルナちゃんは日に日にどんどん速くなっているし、攻撃も鋭くなっています。そろそろ私も『夜姫』を使いたいところですね」

 

セツナ先生は傷こそ少ないものの、かなり息が荒く、消耗しているのが目に見えた。

その手には『普刃』が握られている。

 

私はボロボロになっているルナに近づいて治癒魔法をかける。

傷を癒すことはできるが、訓練で疲れているのか、ルナは起き上がることはできなかった。

 

「セツナ様、どうぞ」

「え?あ、ありがとう」

 

声の方を見てみると、リフィルがセツナ先生に飲み物を手渡していた。

その様子を見て、ふと気になったことを聞いてしまった。

 

「……セツナ先生も魔王【天】と戦ったことがあるんですか?」

「あ、おい馬鹿」

「ないわ」

 

セツナ先生から発せられた言葉は氷のように冷たく、怒気が含まれていた。

その声に、一瞬体を震わせてしまったくらいだ。

 

睨みつけるような視線を向けていたセツナ先生は、慌てはじめた。

 

「ご、ごめんなさい。……【天】は私にとっては許せない人物なの。彼がいなければ、師匠は最強の侍になっていたはずだもの」

「あのなぁ……そう言ってくれるのはありがたいが、俺は自分でもなれないと思うし、【天】にも先は見えないと言われたと何度も話しただろう」

 

先は見えない?

どういう意味だろうか。

 

「先は見えないってどういう意味ですか?」

「あぁ、一般には知られていないんだったな。魔王【天】はその眼で人の強さの先が見えるんだとよ。本人がそう言うんだから、そうなんだろう」

「ですが……見えるからこそ、脅威になりそうな師匠を排除した可能性も……」

「お前は本当に……ずっと言ってるだろう、そんなことをするような奴じゃなかったって。それに、教育者としての俺も悪くはないと思うぜ。少なくともお前のような弟子を持てたんだからな」

「そりゃあ師匠は素晴らしいですよ!ですが……」

「あぁ、もう話はここまでだ。これ以上俺に関する話はなしだ。もしもの話をしても仕方ないだろ」

 

ジン先生とセツナ先生がちょっともめ始めたために、少し話題をずらそうと考える。

違和感のない話題と言えば。

 

「魔王【天】は侍なんですか?」

 

先ほどから話題に出ている魔王【天】について、私は聞くことにした。

 

「あぁ、魔王【深淵】が知っての通り魔法のスペシャリストなら、魔王【天】は刀のスペシャリストだ。剣の頂っていうのが通称だ」

「……剣の……頂……」

「……さて、休憩もここまでだ。訓練を続けよう。アルトリウス家のお姉様はまだ見ていくんだろう?学べるものも多いはずだ。見ていけ」

「あ、はい」

 

ジン先生の言葉で、私は下がる。

その横にジン先生が並び、彼はポツリと呟いた。

 

「ウリアちゃん、さっき俺が言ったこと、忘れるなよ」

「……はい」

 

ジン先生の言葉を聞きながら、さっきの発言を思い出す。

 

『絶対に魔王に手を出すな』

 

なら、自分の大切な人が危険にさらされているときに、黙ってみていろと言うのか。

私にはそれだけは、どうしてもできないと思った。

 




◆ルート開放条件
・「ルナ」を仲間にしている
・戦闘において、ルナが敵にとどめを刺していない

※原作ではルートが存在しません


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第64話 ルナの覚悟と、謎の魔王

「すごい訓練だったね」

「うん、今日は一段とハードだったよ」

 

ジン先生、セツナ先生との訓練を終えたルナとともに、私は寮へと向かっていた。

昼前から始まっていたであろう訓練は、日が沈みかけたさっきまで続いていた。

かなりの長時間だ。

 

ルナはシャワーを浴び、身綺麗になったが、足取りは重い。

やはり疲労はすぐには抜けないだろう。

 

「明日も訓練?」

「うん、でも明日はちょっと軽めにするつもりだよ」

 

私達との訓練だけでなく、ジン先生との訓練。

夏休みには、ユグドラシルに皆で旅行に行った後は、ネクステスに戻ってユエさんに稽古をつけてもらっていたらしい。

 

ここまで濃密な訓練をするようになったのは、去年のクロムの事件以来だ。

 

「ルナ……ここまで訓練するのって、やっぱり……」

「ウリアだって頑張ってるじゃん……でも、そうだよ。あの事件がきっかけ。私は……何もできなかった」

 

空を見上げ、ルナは溜息を吐く。

あの事件……魔王【深淵】との、大講堂での戦いのことだろう。

 

「私ね……舞い上がっていたんだ。叶えたいことがあった。それは叶った。でも、そのあとのことを考えていなかった。だから、あのとき何もできなかった」

「……ルナは、クロム相手に精一杯戦って「違うよ」」

 

ルナは私の言葉を遮るように言葉を発した。

 

「ロゼリアはクロムの正体を見抜いたし、彼に傷を負わせた。エヴァは【世界】の魔法でクロムを倒した張本人。そしてムースはそんなエヴァを護りぬいた。ね?私だけ何もしてない」

「そんな……こと……」

 

そんなことないと言いたかった。

私だって、クロムに傷一つ与えていない。

けれど、それを言うのは違う気がして、何も言えなかった。

 

ルナはふるふると首を横に振り、力なく笑う。

 

「そんなことあるんだよ。でも……」

 

急に真剣な表情と声色になって、ルナはこぶしを握り締めた。

 

「クロムは魔法使いだった。けれどこれから先、彼以上の強敵にだって出会うかもしれない。それに、いつか魔王アインと戦うなら、前線を張るのは私。ロゼリアでもエヴァでもない、私だから。だから、その時に皆を護りたい。敵を止めることで、敵を倒すことで、後ろのみんなを護りたいんだ」

「ルナ……」

 

ルナの瞳は、輝いていた。

 

「いつか、ロゼリアやレアだけじゃなくて、ジン先生やセツナ先生、果ては魔王にだって勝ってやるんだから!」

「うん、その意気だよルナ!」

 

気合を入れるルナと、二人で笑いあう。

その様子を後ろから見つめていたリフィルが、微笑んだ気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、私とエヴァは2人でお茶を飲んでいた。

近くにはリフィルがいて、ふと思ったことを聞いてみた。

 

「そういえば、エヴァのお師匠さんは魔王なんだよね?」

「うん、前も話したけど、魔王【世界】だよ。テスタ・ワーグナーが本名」

 

クロムを倒した後に、エヴァは使った魔法が【世界】のものであると説明してくれた。

私たちの知っている魔法とは全く違う魔法を操る魔王。

その力で、私たちはクロムに勝つことができた。

 

「魔王って分かってないことが多いと思うんだけど、テスタさんはクロムより強かったってことだよね?」

 

教科書でも魔王についてはやるものの、全員の俗称が出てくるだけで、本名や実力などは記載されていない。

魔王【世界】の本名についても、私はさっき知ったくらいだ。

 

「うん、そうだと思う。師匠は数百年前にも【天】【深淵】と戦ったらしいけど、【深淵】一人なら苦労しなかったって言ってたし」

「え?テスタさんってクロムと【天】と戦ってたんだ。クロムはなんだか知ってるような口ぶりだったけど」

「お嬢様、魔王と呼ばれるものがどうして6人しかいないかご存じですか?」

 

突然のリフィルの言葉に、私は考える。

 

「そんなの、魔王の実力を持つ人が6人しかいないからじゃ?」

「半分正解です。答えは、魔王を名乗った者は【深淵】と【天】の手により殺されているからです」

「え?」

「言い伝えの部分もありますが、この数百年、魔王を名乗るものは多くいました。しかし魔王を名乗ると間もなく【深淵】か【天】により殺害されます。よって魔王の数は6人のみなのです」

 

待ってほしい。もしそうならば、今存在している6人の魔王というのは。

私の考えが分かったのか、エヴァは深くため息を吐いた。

 

「お姉様の思っている通りだよ。【深淵】と【天】を除く4人の魔王はこの2人に勝っていると言われているんだ」

「あるいは【緋色】【幻影】のように正体がそもそも不明か、いずれかですね」

 

そういってリフィルは紙を取り出し、机の上に置く。

その紙の上に、上から順に原始、緋色、幻影、世界と記載した。

 

「ここで少し魔王について復習しましょう。【深淵】と【天】を除くと、残り4人の魔王はこれらになります。このうち、緋色と幻影は名前こそ出ていますが、見た人はいません」

 

そう言って緋色と幻影の横にリフィルは「?」マークを書き込んだ。

次に彼女は世界に下線を引く。

 

「彼についてはもうわかっていますね。テスタさんです。西にあるコンウェル国の南方に住んでいます。唯一居場所がはっきりしている魔王と言えるでしょう。訪れるのはエヴァ様くらいだと思いますが」

「まあ、実際には【世界】は師匠とその妻であるエリアさんのコンビのことだと思うけどね。あの魔法、エリアさんが居ないと師匠は満足に使えないらしいし」

 

夫婦で魔王というのもすごい組み合わせだ。

誰も知らないであろう【世界】の秘密を聞きつつ、リフィルは原始の文字に丸をした。

 

「【原始】に関しても分かっているのはロスヴェイル国を支配しているということだけです」

「ロスヴェイルって北西のずっと先にある国だったよね。詳しいことがあんまり分かっていない、謎の国」

 

ロスヴェイル国は西の果て。

それこそエディンバラから見てユグドラシルすら超えた先にある。

位置的にはコンウェル国のはるか北という位置だ。

 

国交は何百年も断絶していて、どんな人がいるのか、どんな町があるのかすら分かっていないという。

ロスヴェイルは各国との国境をアリュート絶海、死の森、オリエント荒野という環境の厳しい地帯で分断されている。

それも国交が断絶している理由だろう。

 

「でも、なんで急に師匠の話を?」

 

エヴァは不思議そうに私を見ていた。

 

「あ、うん、今日ルナの訓練を見に行ったんだけど、その時にジン先生から話を聞いたんだ。ほら、覚えてる?クロムとの戦いのとき、ジン先生が他の魔王を知っているようなことを言ったの」

「ああ、そんなことがあったかな」

「そうなの。それで聞いてみたら、【天】と戦ったことがあるんだって。知ってる?【天】は侍なんだって。【深淵】とは真逆なんだよ」

「へぇ、そうなんだ」

 

エヴァは興味深そうに呟いた。けれど、あまり驚いているようには見えない。

一方で、横に立っているリフィルは紙を片付けていた。

 

「なんか、その人の成長の先が見えるらしいよ」

「すごい目の持ち主だね」

「お嬢様、お茶のおかわりはいりますか?」

「あ、お願い」

 

リフィルに促され、カップを差し出す。

彼女はそこに紅茶を入れてくれた。

あまり飲みすぎると眠れなくなるので、ここらへんでやめておこうかな、と考える。

 

ふと紙に目を向ける。

視界に、「【幻影】?」という文字が映った。

げん……えい……。あれ?そういえば。

 

「ねえリフィル、【幻影】はどんな魔王なの?正体が分かっていないらしいけど」

「【幻影】ですか?これに関しては本当に分かっていないのです。男なのか、女なのか、若者なのか、老人なのか。姿を見た人はいません。けれど名前だけがある、そんな魔王です」

 

リフィルの返答を聞いて、少し考える。

けれど、あのときクロムは確かに。

 

「ねえ2人とも、クロムと戦ったとき、最後に助けてくれた光の騎士のこと、覚えてる?あの騎士を見て、クロムは【幻影】って呟いたんだ」

「本当ですか?」

 

あのとき、クロムの近くには私しかいなかった。

だから、あの呟きを聞いたのは私だけということになる。

 

2人も聞いていなかったようで、目を見開いている。

 

「なぜ【幻影】が私たちを?」

「【幻影】もクロムのことを倒したかったってことかな?」

 

エヴァの言うことが、一番的を射ている。

けれど。

 

(でもあれはクロムを倒すというよりも、私を助けてくれたような)

 

そんな気がした。




◆ルート開放条件
・学園編終了までに、半数以上の魔王に接触する

※原作ではルートが存在しません


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第65話 母の命日と降りかかる火の粉

季節は冬になり、厳しい寒さがやってくる。

私は教室の席から外を見ながら、もう1年が過ぎたことをしみじみと感じる。

もうすぐ、お母さまの命日がやってくる。

 

エヴァがアルトリウス家に来てからは、毎年お母さまの墓参りをしていた。

最初はエヴァが付き合ってくれていたけど、リフィルが来てからはリフィルに同行してもらっている。

 

『うーん、私は今回はいいかな。リフィルと一緒に、ゆっくり行ってきなよ』

 

彼女はリフィルがアルトリウスに来た年にそう言ったが、私が一人で墓参りができるように気遣ってくれたのだと思っている。

 

「あれ?そのアクセサリー」

「あ、これ?自分好みのアクセサリーが作れるっていう、ハイランド商店の品なんだ」

 

声の方に目を向けてみると、女子生徒たちが集まってアクセサリーを見せあっていた。

エディンバラ学園の校則はかなり緩い。

親からプレゼントされた宝石類を身に着けている生徒も多い。

 

「あぁ、その商店か。お母さまへのプレゼントを考えているときに、お父様から紹介されたなぁ」

「プレゼントしたの?」

「うん、いつもお世話になっていますってね」

 

その話を聞きながら、私は例年の流れについて考える。

いつもは首都エルスアリヤの城下町で花を買って、お母さまのお墓へと行っていた。

 

今回はそれにプラスして、ネックレスを供えてもいいかもしれない。

もしもお母さまが生きていれば、渡したであろうネックレスを。

 

「……ハイランド商店……か」

 

小さな呟きは、誰にも聞かれることなく消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

母の命日。

私はリフィルを引き連れていつものお花屋さんで花を買った。

その後、教室で話題になっていたハイランド商店へと向かう。

 

ハイランド商店はお花屋さんからは少し離れた場所に立っていた。

立派な外観で、大きな建物だ。

 

お花屋さんのものよりも大きな扉を開き、中に入る。

すると、待っていたのかすぐに店主さんが私に気付いた。

 

「これはこれはウリア・アルトリウス様、ようこそおいでくださいました」

 

この商店には事前に手紙で今日伺うことを伝えてある。

さらに、イメージしているネックレスの情報も、手紙に書いていた。

 

「ウリア様のイメージを元に、いくつか候補を作りました。奥に専用の部屋を用意してありますので、そこでじっくりとお選びください」

 

こういったときに、アルトリウス家の権力は本当にすごいと思う。

私自体は大した才能もないけれど。

 

店主さんに案内され、奥の部屋へと入る。

その部屋はかなり頑丈な扉があり、開けるのに店主さんも苦労していた。

 

彼の後に続いて中に入る。

そこには大きなテーブルが置かれていた。

 

「あの……ネックレスは……」

 

しかしテーブルの上には何も置かれていなかった。

店主さんは指を鳴らすと、隠れていたのか、大勢の男の人たちが中に入ってきた。

 

数は10人を優に超えている。その全員が、私を嫌な目で見ていた。

店主は笑顔を歪める。

 

「馬鹿なお嬢ちゃんだ。護衛も連れていないなんて。……おとなしくしてもらおうか。なに、ちょっと眠るだけさ」

 

店主さんはナイフを取り出し、私に向ける。

周りにいる男の人たちも、剣やら杖やらを取り出した。

 

目線をリフィルに向けた店主さんは、警戒しつつも笑みを崩さない。

 

「そっちの侍女は相当やるみたいだな。けれど、これだけの人数を相手に、この狭い空間だ」

「狙っているのはお嬢さまですか?」

「……は?」

 

その店主に対して、リフィルは無表情のまま質問した。

声は透き通り、部屋中に響き渡る。

 

「狙っているのはお嬢さまですか?」

 

全く変わらない二度目の質問。それに対して、店主は鼻で笑った。

 

「当り前だろう、何を言って――」

「なるほど」

 

言葉を、風が遮る。

リフィルは一瞬にして『ストリーム』を展開し、風を纏った。

親しみのある風が、私のことも守ってくれる。

 

「……お前、何者だ?」

 

ここに来て店主さん達の様子が変わった。

気づいたのだろう。

リフィルは「相当やる」程度ではないことに。

 

「私はお嬢さまの専属侍女です」

「っ!やっちまえ!」

 

店主さんの一言で、男の人たちが襲い掛かってくる。

剣に魔力を通したり、強大な威力の魔法を使用したり。

狭い室内の戦闘に慣れているような動きだった。

 

けれど、その全てをリフィルは剣一本でおさえこむ。

襲い掛かる刃は弾き、魔法は同じような魔法で相殺する。

 

男の人たちが弱いのではない。少なくともエディンバラ学園の生徒よりはずっと強い。

けれど、リフィルが強すぎる。

 

「ふむ、軍人崩れですかね。訓練についていけなくなりましたか?確かにこれだけの実力者を数十人集めれば、普通の護衛ならば問題ないでしょう。ですが」

 

斜めに振り上げられたリフィルの剣は一人の男の人の体を捉えた。

明らかな致命傷に、男性は体を傾け、床へと沈む。

 

剣の血を払い、リフィルは溜息を吐いた。

 

「私をなんとかしたければ、世界中のトリリアントを全員連れてきなさい。それでも、お嬢様には指一本触れさせませんが」

「っ、てめぇ!!」

 

リフィルの言葉に激昂した男の一人が、私に向かって走り出す。

侍女がダメなら、その主人をということなのだろう。

人質にして、リフィルに勝つつもりか。そんなこと、させない。

 

『マリア』を展開しようとするが、その前に、私を守っていた風が牙をむいた。

風は刃を作り出し、鎌鼬が男を襲う。

 

咄嗟に彼は防御を固めたものの、吹き飛ばされ、私に近づくことはできなかった。

 

「聞こえませんでした?お嬢さまには指一本触れさせません」

 

そこからは一方的だった。

私は風で護られている。リフィルには剣も、魔法も通用しない。

この空間で一番の実力者はリフィルだった。それも、圧倒的に。

 

数十人居た男の人たちは全滅。

最初は余裕の笑みを浮かべていた店主さんも、今では腰を抜かして座り込んでしまっている。

 

「き、聞いてないぞ!こんな……こんな化け物だなんて!ウリア・アルトリウスの侍女はただの元軍人じゃないのか!?」

「……アルトリウス家の元使用人にでも聞きましたか?」

 

呆れたようにリフィルは呟く。

確かにリフィルは元軍人だ。けれどユグドラシル最強、がその前につく。

 

リフィルはアルトリウス家ではただの侍女として働いている。

私たちとの訓練を使用人が見ることはできないので、実力が分からなかったのだろう。

あるいは、訓練を盗み見ていたとしても予測できなかったのかもしれない。

 

「いずれにせよ、城への連絡は必要ですね。ロゼリアさま辺りに連絡を……あら?」

 

今後のことを考えていたリフィルが、部屋を見渡してあることに気付く。

店主さんの後ろ、黒いカーテンがかかっている部分を見つめ、彼女はそこに手をかけた。

 

カーテンを引くと、扉が現れた。

私たちが入ってきたのとは違う、裏口という奴だろうか。

 

「ふむ……お嬢様をここで無力化し、誘拐……となると」

 

扉を開け、リフィルはその向こうを確認している。

その様子を見ていた店主は、好機とばかりに立ち上がった。

 

「馬鹿――」

「馬鹿はあなたです」

 

立ち上がり、腰から隠していたナイフを取り出そうとした店主。

私に襲い掛かるよりも速く、リフィルの風が彼を吹きとばした。

 

リフィルは扉の向こうを確認し終わると、部屋に視線を戻した。

なにかを唱えると、彼女の肩辺りに、緑色の鳥が出てくる。

 

「精霊……魔法?……お前、何者だ……」

「私はお嬢さまの専属侍女です」

 

ふふん、とドヤ顔で言い張るリフィル。

店主さんが聞きたいことはそう言うことじゃないと思うよ。

 

「お嬢様、いったん私とともに大通りに出て兵士に連絡しましょう。あ、ここから出ようとしても無駄ですよ。監視用にこの子を置いていくので。部屋から出ようとしたらあなたの首と胴体は……悲しいことに永遠にお別れとなります」

「ひぃ!」

「さあ、行きましょう」

 

リフィルに促され、一緒に部屋を出る。

どうやら、長い一日になりそうだ。

 




◆ルート開放条件
・ローズが王位継承権を放棄している

※学園編終了でルート消滅
※原作ではルートが存在しません


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第66話 私ってそんなに分かりやすい?

黒いカーテンの奥の扉は、店の裏口に繋がっていた。

その先は裏通りで、人通りはほとんどなかった。

そこからリフィルの腕につかまりながら大通りへと出た。

 

日の光が強く、人通りが多い。ようやく、安心できる場所に来れた。

大通りには兵士が常駐している。そのうちの一人に、名前を出してロゼリアさまを呼んできてほしいと依頼した。

 

城でも私とロゼリアさまの仲が良いのは知れ渡っている。

兵士さんは敬礼をすると、ただちに城に向かおうとした。

 

「あ、少し待ってください、この紙をロゼリアさまに渡してください」

 

リフィルはその背中を呼び止め、先ほどからずっと書いていた紙を手渡した。

兵士さんは不思議そうにするものの、中身を見るということはせずに、城に走っていった。

 

「お嬢様、精霊から報告がありました。先ほどの店主はあの部屋からは動いていないそうです。怖い思いをしたなら、ここでロゼリアさまと待ち合わせをするのが良いかと」

「ううん、私たちにできることをしよう。部屋に戻って、なんで私を狙ったのかを聞きたい」

 

それに、恐怖心はない。私には、最強の騎士が居るから。

 

「かしこまりました。お嬢様、ご安心ください、必ず守ります」

「リフィルは私の騎士だもんね」

「はい」

 

大通りで待っていても良いが、店主さんは私を狙っていると言っていた。

エヴァでもなく、リフィルでもなく、おそらくアルトリウス家の娘ということでもないだろう。

なぜ私を狙うのか、それが気がかりだった。

 

再び裏通りを通って、店へと裏口から入る。

部屋の中は、数分前と変わってはいなかった。

ただ、リフィルの鳥が部屋中を飛び回っているくらいだ。

 

リフィルは倒した男たちを一か所に集め始めた。

私も手伝おうかと思ったが、厳しく反対されたので隅でおとなしく見ている。

 

数が多く、時間がかかったが誰一人逃げようとはしなかった。

賢明な判断だ。

 

店主さんも含めて一か所に集めると、リフィルは剣を取り出して店主さんの喉元につきつけた。

 

「さて、吐いてもらいましょうか。どこの所属ですか?誰の指示でこんなことを?」

「…………」

「少し痛い目を見ますか?」

「……俺たちは、何でも屋だ」

 

何でも屋?

聞いたことのない名前に、首を傾げる。

 

「金さえ積まれれば何でもやる。それが俺たちだ」

「……後ろ暗いことも、ですね」

 

そこまで聞いたところで、扉が開き、ロゼリアさまが入ってきた。

後ろには数人の兵士が立っている。

 

「ウリアさん、大丈夫ですか?」

「はい、リフィルのおかげで無事です」

 

ロゼリアさまは私の様子を真っ先に確認してくれた。

どこにも傷がないことを確認すると、安堵のため息を吐いた。

 

次に、鋭い目をリフィルに向ける。

 

「この人たちは?」

「何でも屋、とのことです。金で雇われただけのようですね」

「ふむ……ウリアさんをどうするつもりだったんですか?」

 

この国のトップであるロゼリアさまの質問。

これには店主さんも冷汗をかき始めた。

 

「お、俺たちは……ウリア・アルトリウスを連れて来いって……」

「誰に?」

「し、知らねえ……本当だ!俺たちは大金を積まれただけで、そこのお嬢さんを特定の場所に連れて来いとしか言われてねえ!」

「ロゼリアさま」

 

店主の言葉に、リフィルが何かを思いついた様子だ。

彼女はロゼリアさまに声をかけ、2人で話し合う。

やがて頷きあった2人は、揃って店主さんを見た。

 

「その場所まで、あたかもお嬢様を誘拐できたように行ってください」

「そうですね、取引をしましょう。もしも協力してくれれば、今回の件については減刑を考えましょう」

「な……そ、そんなこと……」

 

ロゼリアさまの言葉に、驚く店主さん。

けれど、まだ従うかどうか逡巡しているようだ。

 

「私は皇女です。それくらい造作もありません。それに……親友を傷つけられそうになったのです。もし断られたら、この場でなにをするか分かりません」

「そうですね。敬愛するお嬢様の体に傷がつくかもしれなかった。そう考えると怒りで我を失いそうです」

「あらあら、ダメですよリフィルさん、協力してくれると思いますし、我慢してください」

「はい、協力してくれるなら大丈夫そうです」

 

目の前で恐ろしい茶番が繰り広げられる。

2人とも微笑んでいるのに、目は笑っていない。

 

それを正面から見せられた店主さんは可哀想なくらい震えていた。

 

「で、協力しますよね?」

 

先ほどまでのにこやかな笑顔はどこへやら。

急に真顔になり、絶対零度の視線で店主さんを睨み付けるロゼリアさま。

 

店主さんは首が取れちゃうのでは?というくらいに縦に振っていた。

 

「私たちは魔法で隠れていきましょう」

「お嬢様、私たち含め、全員裏口からしか出ていません。さらにロゼリアさまには必要最低限の兵士のみを同行してもらいました。おそらく待ち合わせ相手は、お嬢様が問題なく引き渡されると思っている筈です」

 

なるほど。

さきほど兵士さんに持たせた紙には、目立たないための対策を書いていたのだろう。

それをロゼリアさまも理解し、裏口から入ってきてくれた。

 

2人とも、ここで元凶を断つつもりなのだろう。

一人ならばどうしようもないが、リフィルとロゼリアさまがいるなら、なんとかなる気がする。

 

「うん、行こう」

 

私は深く頷き、ハイランド商店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい!依頼された商品を連れて来たぞ!どこだ!」

 

エディンバラ首都エルスアリヤ。

ハイランド商店からは少し離れた場所にある使われていない倉庫で、店主さんが叫ぶ。

彼の後ろには、人がすっぽり入りそうな麻袋が2つ転がっている。

 

人が入っているように思えるが、中に入っているのは人形だ。

店主さんの叫びに、しばらくして靴音が答えた。

 

現れたのは、3人の男性。

 

「遅かったな。ウリア・アルトリウスの侍女に手間取ったか」

「あぁ、流石に元軍人だけあって苦労したぜ。けれど、一人だったのが……な」

「ふっ……情報をアルトリウス家の元使用人から聞いておいてよかったな。流石に元軍人でも、数には勝てない」

 

いや、数では勝てなかったんですけどね。

そんなことを思ったが、店主さんは後ろを指さした。

 

「そこに転がっている。侍女も一緒だ」

「ご苦労。ウリア・アルトリウス家の侍女はエルフだったな。それならユグドラシルの軍についての情報が得られる可能性がある。殺さず丁寧に連れていけ」

 

男が指示を出し、麻袋を持っていこうとする。

そのタイミングで、ロゼリアさまとリフィルは頷きあった。

 

「こういう時に、ユグドラシルの排他的な性格は役に立ちます。かの国では名前が知れ渡っている私も、この国ではただの専属侍女ですから」

 

そういって、リフィルは店主さん達の前に出てくる。

ユグドラシルの英雄の名前はユグドラシル以外には広まっていない。

エルフは排他的な性格が多く、情報が国外に漏れにくいという。

 

さらに、広まっているのはリフィルという名前ではなく、『戦乙女』という名前だ。

本人はその響きが好きではないというが、私はピッタリだと思う。

 

リフィルの後にロゼリアさまも姿を現し、隠れていた兵士に指示を出す。

突然の出来事に、その場にいる全員はすぐに制圧された。

 

「なにが……どうなって!?」

「皇女さま!約束は守りました!どうか、どうかご慈悲を!」

「お前、裏切ったのか!?」

 

店主さんと男の人が喧嘩を始める。

それを止めるかのように、ロゼリアさまが間に立った。

 

「さて、聞きたいことがいくつかあります。あなたはどこの所属ですか?」

「…………」

「まあ、言うわけはありませんよね」

「この国の者ですか?」

 

正体を吐かないだろうとロゼリアさまは質問をすぐに切り上げた。

しかし、リフィルはそれを無視して質問をする。

男の人は、何も答えなかった。

 

「他国の間者ですか?ネクステス?キルシュ?アズマ?」

「…………」

 

質問が矢継ぎ早に出される。しかしそのどれにも、答えない。

 

「エディンバラ王国の王族と関係がありますか?貴族と関係がある?」

「…………」

 

答えない男。けれどまるでそれが見えていないかのように、リフィルは質問を続ける。

 

「雇っているのは貴族ですか?貴族とは関係があるだけですか?」

「…………」

「表には出ない、裏の組織として活動していますか?」

 

そのとき、はっきりとした変化が現れた。

一瞬だが、男の人の目が見開かれた。

 

「その組織はアジトがありますか?それはこのエディンバラにありますか?他国にありますか?」

「…………」

 

その後も、リフィルの質問は続く。

ロゼリアさまと私は、その様子を固唾をのんで見守っていた。

 

「エディンバラ都内ですか?郊外ですか?ここから遠いですか?」

「…………」

「北?東?南?西?」

「…………」

「南ですね」

「っ!?」

 

首だけを動かして、リフィルを見る男の人。

その目は驚愕で見開いていて、少しの恐怖の色が見えた。

 

リフィルは地図を取り出し、次々と地名を言っていく。

次に質問は施設の名前に移る。どんどん、場所が特定されていく。

 

「……南の郊外にある孤児院が裏組織のアジトみたいですね」

「な、なんで……どうなって……」

「考えていることで合っていますよ。動揺する様子で本当かどうか判断しています。隠そうとしましたが、私は風の魔法で心音を聞いていますので、無理ですよ」

 

予想外の方法でアジトの場所を導き出したリフィル。

その様子を見ながら、私はジト目でリフィルに聞いた。

 

「まさかと思うけど、私たちにも、それ……」

「これは心音で判断するだけですので、質問を繰り返さないと意味はありません。それに当然普段は使っていません」

「図星がリフィルには丸分かりってことなんだ……」

「ご安心を。お嬢様はこの力を使わなくても丸分かりです」

「え!!??」

 

衝撃の一言に思わず声をあげてしまう。

その様子に笑いながら、ロゼリアさまは兵士に指示を出していた。

 

「ふふふ……と、とりあえずアジトに行きましょう。そんな物騒な組織、野放しにはできません」

 

そう言って、ロゼリアさまは兵士を連れて倉庫を出てしまった。

私とリフィルは倉庫に残る。

 

(え!?私って、丸分かりなの!?)

 

再起動するまでに、少し時間がかかった。

 



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第67話 そこに確かに居たはずの誰か

ロゼリアさまが応援の兵士を要請し、その後私たちは町はずれの孤児院へと向かう。

エルスアリヤの郊外にある孤児院は廃棄されていて、中にはもう人がいないとのこと。

 

逆に言えば、アジトの場所としてはうってつけだろう。怪しい匂いがする。

本来私たちはアジトに向かう必要はないのだが、せめてどうなるのかは確認したい。

その旨を申し出ると、快くロゼリアさまは受け入れてくれた。

 

孤児院は、閑静な住宅街の先にあった。

周りは木々に囲まれている。施設には草木が生い茂り、廃棄されて長く時間が経っているようだ。

 

しばらく遠くから様子を観察する。人の出入りはない。

けれど、扉は意外としっかりとしている。少なくとも、中を見放題というほど荒廃はしていない。

 

(……あれ?)

 

一瞬、孤児院の陰に女の人の後ろ姿が消えていった。

日差しを受けて光り輝く、橙色の長い髪。

 

「どうかしましたか?」

「今、あそこに橙の髪の女の人が……」

「……居ませんよ?」

 

ロゼリアさまに話しかけられ、見たことをそのまま説明する。

けれど、指さした先には誰もいなかった。

 

「ひょっとしたら組織の一員かもしれませんね。人の出入りがあるのは確実でしょう」

 

ロゼリアさまはここがアジトだと確信し、この後の流れを考えている。

リフィルも周りを警戒中だ。だからこそ、言えなかった。

 

さっき見た、橙色の髪の女性。

そしてその向こうに、真っ白な髪が映った気がした、ということを。

 

やがて兵士が到着し、突入の準備が整った。

 

「兵を2つに分けます。1つは地上で付近の捜索。隠された抜け道があるかもしれません」

 

兵士たちは頷き、各々が準備をする。

ロゼリアさまは孤児院をしばらく見つめた後、私たちに向き直った。

 

「お二人はここでお待ちください。流石に突入までご一緒させるわけにはいきませんので」

「はい」

 

当然のことを言われ、深く頷く。

元からそのつもりだ。私たちはここで、どうなるのか見守るとしよう。

 

「それでは、向かいます」

 

緊張の瞬間。ロゼリアさまが兵士を引き連れて、正面から突入する。

私たちの周りにいる兵士さんも緊張しているのが分かる。

 

裏組織の人たちも抵抗するだろう。

けが人だって出るし、死者も出るかもしれない。

 

不安な気持ちでじっと孤児院を見つめる。

しかし、いつまで経っても戦いの音は聞こえてはこなかった。

 

「おかしいですね。突入してからだいぶ経ちます。何らかの騒動が聞こえてもおかしくはないのですが……」

 

リフィルも不思議そうな顔をして孤児院を見つめていた。

周りの兵士さんも、落ち着きがない。

 

(あ……れ?)

 

ふと鼻を、甘い香りが一瞬くすぐった。

その香りは、少しづつ消えていく。

 

次の瞬間、私の右に風の刃が天から降ってくる。

それは地面に深く突き刺さるものの、誰かを捉えることはなかった。

 

「すみませんお嬢さま、気のせいだったみたいです」

「う、うん……大丈夫だよ」

 

すぐに剣を放ったリフィルが謝罪する。

彼女は気のせいだったといった。けれど私が感じた匂い、そしてリフィルの直感。

 

(居たはず……誰かが……確実に……)

 

けれどその匂いを今は感じない。

リフィルも、孤児院を見つめているだけだ。

 

「ウリアさん」

 

孤児院とは正反対の方を見る私に、声がかけられる。

振り返ると、ロゼリアさまが孤児院から出てこちらに歩み寄っていた。

 

その姿には傷はない。一安心だ。

 

「ロゼリアさま、大丈夫ですか?」

「はい、問題はありません。ウリアさん、ここから先は私の方で引き取ります。本日は城下町に来ているということは、何か用事があったのではないでしょうか?長らく付き合わせてしまい申し訳ありませんでした」

「あ、いえ、大丈夫です!」

 

そうは言ったものの、時間はもう夕暮れ時。

今からお母さまの墓参りに行って、ギリギリだろう。

これ以上付き合うのは、厳しいという感じだ。

 

「すみません、それでは私はこれで……」

「はい。ウリアさん、明日もしお暇なら王城へいらしてください。今回の件について調査が済んでいると思われますので、報告します」

「あ、わかりました。必ず伺います」

「はい、いつでもいらしてくださいね」

 

ロゼリアさまは微笑み、手を振る。

それに手を振り返し、私はリフィルを引き連れてその場を離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえリフィル、さっきの風の剣の魔法だけど……」

 

お母さまへのお墓へと向かう途中、私はリフィルにさっきのことを聞いてみた。

 

「はい、何かが通ったように感じたのですが、気のせいだったかと」

「ううん、実はあのとき、甘い匂いを感じたの。本当に一瞬だけど」

「……つまり、確実に誰かが居たということですか?」

 

リフィルは深刻な顔で聞き返す。

私は深く頷いた。

 

私一人なら勘違いかもしれない。

けれどリフィルが感じたならそれはおそらく、気のせいではない。

その位、私はリフィルのことを信用している。

 

「もしもそうなら、相手は私ですら捉えられないほどの使い手ということになります。それこそ、ロゼリアさまと同じくらいの光の魔法は使えそうですね」

 

ロゼリアさまは全適性がSを越えている。

同じくらいの光の魔法を使える。

 

けれど私には、それだけではないような気がした。

リフィルの風の剣の魔法は、おそらく相手を捉えていたはずだ。

そこから逃げ出したとしたら、その実力は。

 

「あ、見えてきましたよ、お嬢さま」

 

私の考えはリフィルの声でかき消される。

そうだ、少なくとも今は、お母様のお墓参りに集中しよう。

 

(ネックレスは用意できなかったけど、また今度、オリジナルを持っていきますね)

 

夕焼けに映るお母さまのお墓に、私は心の中で語りかけた。

 



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第68話 彼女たちが、答え

翌日、私はリフィルを引き連れて王城を訪れていた。

城門の兵士さんに声をかけて自己紹介をすると、すぐに準備をしてくれた。

 

スムーズにロゼリアさまと面会ができるのはありがたいけれど、私のせいで兵士さんの仕事を増やしてしまうので、そこは申し訳ないところだ。

兵士さんに案内され、お城の一室へと通された。

 

ロゼリアさまの執務室。

何度か遊びに来たことのある部屋の奥の机に、ロゼリアさまは居た。

 

「ウリアさん、寮からわざわざありがとうございます」

「あ、いえ、大丈夫ですよこのくらい」

 

エディンバラ学園の学生は休日は寮に居るのがほとんどだ。

ただロゼリアさまはどちらかというと王城にいる方が多い。

 

学園から王城は離れているものの、そこまで遠いわけではない。

昼食後の、よい運動になるくらいだ。

 

執務室の中にあるソファーを示され、私はそこに座った。

リフィルは後ろに立とうとしたが、私が無理やり座らせる。

 

公式の場ではこんなことはしないが、少なくとも友人の部屋では隣に座らせるのが昔からのルールだ。

毎回リフィルは後ろに立とうとするが。

 

「昨日はご協力ありがとうございました。おかげで裏組織は壊滅しました」

 

反対のソファーに座ったロゼリアさまがメイドにお茶を要請する。

そのまま昨日の事件について話し始めた。

 

突入したときは少し様子がおかしかったが、壊滅はしたようで一安心だ。

 

「そうですか。よかったです」

「はい、それは良いのですが……不自然な点が多くてですね。まず、アジトの中にいた組織の人間ですが、全員死んでいました」

「……え?」

「アジトに突入したときに、戦闘音などが聞こえなかったと思うのですが、あのときにはもう、息絶えていました」

「み、皆亡くなっていたのですか?」

 

ロゼリアさまは頷き、一枚の紙をテーブルに置いた。

なにかの建物の間取り図のようだ。

 

「あのアジトには思った通り、隠し通路などが多くありました。赤く塗りつぶしてあるのがそれです。けれど、そのどれも最近使われた形跡はありませんでした。使われたのは私たちが突入した入り口のみです。そういった点から、全滅で間違いないかと」

 

息を吐き、頭に手を置いてロゼリアさまは悩まし気な様子を見せる。

 

「けれどおかしな点が多いんです。まず組織の人間ですが、抵抗の様子なく殺されています。組織内での裏切りかと思われましたが、それにしては全員が離れた場所で死んでいます。まるで一瞬で殺害されたかのように」

 

その後、ロゼリアさまは見取り図を指さす。

 

「また、アジトの部屋の内、こことここ、そしてここの部屋が破壊されていました。それも原形をとどめないくらいに徹底的に。その部屋に何があったのかは、分かりません。さらに、一部の資料についても意図的に消失しているということが分かっています」

 

そして、と一泊置いて。

 

「ウリアさんが見たという橙の髪の女性ですが、見つかっていません。というよりも、男性でも女性でも橙の髪の人は居ませんでした。塵も残らないくらいに殺されているなら話は別ですが……」

「え?見つかっていないんですか?」

 

私は確かに橙色の髪を見た。

後ろ姿だったから間違いない。なのに、居ない。

 

(……白い髪のことは、言わない方がいいかも)

 

見た確信がない白い髪を言うと、レアさんに迷惑がかかる可能性がある。

この状況なら、間違いなくロゼリアさまはレアさんを調べるだろう。

 

「ちなみにですが、ウリアさんを狙った理由はアジトを調べて分かりました。組織はウリアさん個人を支配下に置くことで、各国に対して圧力をかけようとしたようです」

「……え?」

 

私を支配下において、各国に圧力。

あまりにも意味不明なキーワードが並び、私の頭は混乱した。

 

「ウリアさんは交友関係が多国に及びます。エディンバラでは伯爵家に身を置き、皇女である私と親友です。キルシュの天才技師ミストさんとは専属の技師契約をしています。ネクステスの4将軍の娘であるルナさんはあなたにぞっこんですし、ユグドラシルの姫であるムースさんとも良好な関係を結んでいます。アズマとは関係はありませんが、ここまで多くの国の要人と関わっていれば、それに目をつける輩もいるでしょう。私とムースさんとルナで今後の打診をしたのも、目立つ一因でしたね」

 

今になって思い返してみると、準備舎からの付き合いである皆はお偉いさんだ。

私の将来を簡単に準備できるくらいには。

 

そのことをはっきりと理解するものの。

 

(でもロゼリアさまは頼れるお姉さんだし、ルナは甘えん坊だし、ミストはマイペースだし、ムースはほんわかだし、エヴァはエヴァだしなぁ)

 

あまりそう言った目で見れないのも事実だ。

お偉いさん、というよりも、気の知れた友人という印象の方が強い。

 

「今回のことを考えると、これから先外出するときは誰かと一緒の方がいいかもしれません。リフィルさんがいれば問題はないと思いますが、念のために」

「はい、そうですね」

 

今は寮に居るのが基本だし、通学は皆と一緒だ。

アルトリウス家に戻るのはエヴァと一緒だし、お母様のお墓参りを誰かと行けば、もう大丈夫だろう。

 

「ちなみに支配下に置く方法ですが、ウリアさんに精神支配系の呪いをかけて自我を封じた後に、体に自爆式魔力弾をつけさせて私たちの言うことを聞かせるつもりだったみたいです。……むかついたので資料も、用意されていた呪い用の魔法陣も爆弾も全部破壊しておきました」

「え……怖すぎるんですけど……」

 

もしリフィルが居なかったらと思うとぞっとする。

私は爆弾付きの人質として、言いように使われていただろう。

ありがとうリフィル。本当にありがとう。

 

彼女の手をそっと握ると、上からもう片方の手でリフィルは握り返してくれた。

少しだけ安心しつつ、息を吐く。

 

「にしても、3年生は大きな事件がないと思っていたのですが、まさか最後の最後でこんな大きな事件が起こるとは……」

 

ロゼリアさまの言葉に私は頷く。

もうかれこれ一年以上ドタバタはなかったので、ちょっと疲れてしまった。

 

「ロゼリアさま、今日はもう帰るね」

「はい、そうですね。お疲れさまでした、ウリアさん。また明日、学園で。すみませんが、私の友人を学園の寮まで警護してください」

「はい」

 

ロゼリアさまが近衛の兵士さんに声をかける。

女性の兵士2名が返事をして、私の後ろについた。

 

ロゼリアさまと軽く挨拶を交わして、執務室を出る。

仰々しい敬礼を兵士さん達にされながら、私たちは王城を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王城からの帰り道は、城下町を通る。

今回はとくに用事がないのでまっすぐ寮へと帰る。

近衛の兵士さんも居ることだし。

 

ふと、通りの向こうから白色が歩いてくるのが見えた。

 

(あ……)

 

ついさっき考えていた人のため、思わず立ち止まってしまう。

向こうから歩いてきたのは、レアさんだった。

 

白い髪を風に靡かせながら、彼女は無表情で歩いている。

その目線は、私を確実に捉えていた。

 

「奇遇だね」

「レアさん、こんにちは」

 

レアさんに挨拶をするものの、私の目線は彼女の後ろから離れない。

侍女の格好をしたポニーテールの綺麗な女性。

 

「そういえば紹介してなかったね。彼女は私の専属侍女のシンシア。そっちはウリアの専属侍女?」

「あ、はいそうです。リフィルです」

「そう。奇遇だね。それではごきげんよう」

 

そういってレアさんは私の横を通り過ぎる。

その後をシンシアさんが続き、甘い香りが一瞬私の鼻をくすぐった。

 

慌てて振り向くと、レアさんは首だけを半分こちらに向けていた。

そのまま人差し指を立てて、唇の近くに持っていく。

 

(やっぱり、あの時居たんだ……)

 

彼女は歩き去っていく。

その後ろに、「橙色」の髪の侍女を連れて。

 

「お嬢さま」

 

後ろから声をかけられ、私は振り向く。

リフィルが、レアさんを見つめていた。

 

「レアさまの侍女ですが……エルフです」

 

その言葉にハッとする。

さっきレアさんが言った奇遇ですね、というのはそういう意味だったのか。

奇遇にも同じエルフを専属侍女としている、という。

 

「ですが……あの年齢のエルフにしては見たことがありません。もちろん私もユグドラシルの全エルフを知っているわけではありませんが。ユグドラシル以外の集落出身のエルフか、あるいは……」

「リフィル?」

「……あぁ、すみません。いずれにせよ、なぜ人間のふりをしているのか。差し出がましいようですが、髪色も橙ですし、レアさまには十分気を付けた方が良いかと」

「うん……そう……だね」

 

レアさんの最後の仕草が頭を過ぎる。

リフィルの言いたいことは分かる。

 

こうして、3年生の「最初の」騒動は、私の中に不安を残して終了した。

 



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第69話 だからこの世界は嫌いなんだ【エヴァSide】

(だからこの世界は嫌いなんだ)

 

寒くなってきた冬のある日。

雲の広がる空を窓越しに見上げながら、私はため息を吐いた。

 

少し前、お姉様がエディンバラのよく分からない組織に襲われた。

それ自体はリフィルが居たので、大事にはならなかった。

 

けれどそんなイベントは、ゲームには存在しない。

それどころか、エディンバラの組織なんて、ゲームには出てこない。

 

(もう原作とは大きく流れが変わってきてる。まあ、分かってたことだけど)

 

クロムの登場や、彼女の転校、そして今回の謎の組織。

もうこの世界はゲームではなく、一つの新しい世界だ。

なんとかすることはできない。なんとかなる、方に持っていくことくらいしか。

 

「さて、それじゃあ今年の寮別対抗戦の話だけど……メンバーをどうするか」

 

アイリス先生は今年の寮対抗戦のメンバーについて考えている。

メンバーが不足しているのではなく、今年は余っている。

私、ロゼリア、ムース、ルナ、そしてレア。

 

「正直、どの4人が選ばれても優勝は確実なんだけどね」

 

先生の言う通りだろう。私たちは3年生。

よってセリア先輩やネクステスの王子も、もう卒業している。

同学年、後輩から、私たちのクラスに勝てる生徒など居るはずもない。

 

寮別対抗戦は1年生の時に経験した。

2年生の個人トーナメントではそれなりの成績も収めているので、今年のような勝敗が分かり切っているイベントに参加するつもりはあまりない。

 

「先生、私は辞退しても構いません」

「私もです」

「え、私は出たいかなぁ」

 

同じことを思っているであろうロゼリア、ムースが辞退する。

戦闘が大好きなルナは、出たい出たいとはしゃいでいた。

いや、あんたは出れるよ。

 

溜息を吐き、私は手を上げる。

アイリス先生は私の名を呼び、発言を許可した。

 

「5人のうち、役割がかぶっているのは私、ロゼリアさま、レアさんです。レアさんは転校生なので出ると考えると、私が辞退してロゼリアさまが出るのが一番良いと思います」

「……まあ、そうね。ロゼリアさん、それでいい?」

「はい、構いません」

 

私がいくら強いとはいえ、学年最強であるロゼリアには敵わない。

他の3人からもとくに反対意見もなく、寮別対抗戦のメンバーが決定した。

手を叩き、アイリス先生が話を終わらせる。

 

「さて、それじゃあ寮別対抗戦の4人はいろいろと決めることがあるから、この後私についてきてね」

(お、これは)

 

頬杖をついて話を聞いていたが、アイリス先生の言葉であることに気づいた。

いつものメンバーが寮別対抗戦のお話でいない。

つまり、私はお姉様を独り占めできるということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんねエヴァ、付き合ってもらっちゃって」

「全然大丈夫だよ!」

 

暗くなった廊下をお姉様と2人で歩く。

ロゼリア達が訓練に参加できないことと、雨が降るかもしれないとのことで今日の訓練は中止となった。

けれど熱心なお姉様は、第2寮の寮監督であるハリス先生に教えを乞うために職員室に向かっていた。

 

ハリス・イーストン先生。魔法を得意とする第2寮の寮監督。

濃い青髪に眼鏡をかけた落ち着いた印象の男性教師。

にもかかわらず、火の魔法が得意という変わった設定を持つ。

 

ロッド先生の影響で魔法の理論に興味を持ったお姉様は、

光の魔法の理論に関してハリス先生に質問をするようになった。

 

「失礼します」

 

職員室に到着し、お姉様が扉を開ける。

教室の中に入ると、扉近くで書類を見ていた桃色の髪の女性が振り向いた。

 

「おやぁ?誰かと思えばうちのミストをたぶらかす姉妹じゃないか」

 

青い瞳が輝き、私たちを上から下まで嘗め回すように見つめる。

第5寮の寮監督、サザンクロス先生だ。

テスタロッサ技師としても優秀で、ミストのことをとくに気に入っている。

 

「ハリス先生をお探しかい?彼ならもうすぐ……ほら来た」

「おや、ウリアさんようこそ。今回も魔法理論ですか?」

 

振り返ると、ちょうどハリス先生が職員室に戻ってきていた。

彼は書類を自分の机に置いた後に、椅子を持ってきて、私たちに指し示した。

 

指示されたとおりに座ると、ハリス先生は心からの笑顔で話し始める。

 

「それにしてもウリアさんは本当にやる気がありますね。第2寮に欲しいくらいだ。おっと、これ以上はアイリス先生に怒られてしまいますね。それでは質問をお聞きしましょうか」

「その……今回は魔法理論ではなくてですね……適性についてなんですけど……」

「ふむ、ちょっと待ってくださいね」

 

ハリス先生はそう言って離れた場所に移動し、何かを探し始める。

やがて彼は一枚の紙を持って戻ってきた。

 

「なるほど、確かに適性という意味では良いとは言えませんね」

「もちろん適性だけがすべてではないというのは分かっているんです。けれど、できれば適性も上げていきたいなと」

「ふむ……」

 

お姉様の言葉に、ハリス先生は考え込んでしまった。

それが難しいことを、彼も分かっているからだろう。適性はそんなにすぐは上がらない。

私がアルトリウス家に来てからもう10年以上経つが、それでも伸び悩んでいるのが証拠だ。

 

それに、お姉様の本当の力は適性にはない。

 

「私としては、どちらかというとテスタロッサの方を考えるべきだと思うがね」

「『マリア』を、ですか?」

 

話を聞いていたであろうサザンクロス先生が声をかける。

彼女も教職者。お姉様のテスタロッサが普通ではないことに、気づいているはずだ。

 

「うむ。君の適性は最大でもD。けれどテスタロッサを考慮した実戦での適性はB、もっと言えばAにも迫る勢いだ」

「え?ウリアさんって適性最大でDなんですか?」

 

サザンクロス先生の言葉に反応したのは、近くで書類仕事をしていたセツナ先生だ。

非常勤講師だが、私たちの実技の授業を担当してくれている。

実技に関しては学園でも最強の、トリリアントだ。

 

「実技の授業でも優秀だったので、てっきりBはあるのかと……」

「セツナ先生の言う通りだ。まあ君の妹を初めとして、クラスには恐ろしい適性の持ち主が多い」

 

好奇心に満ちた笑みを浮かべながら、サザンクロス先生はお姉様を見つめる。

 

「けれどそれで霞んでいるからで、君も私からすれば興味深いよ」

「私が……ですか?」

「知らないようだから教えておくと、今まで世界中で見つかったテスタロッサのうち、術者の能力を数段階上げるようなものなど存在しない。ましてやDからBにまで上げるなど、普通ではない」

「本当ですよ、ウリアさん。テスタロッサは確かに私たちを助けてくれます。けれど、適性を2段階も上げるなんてことはあり得ないんです。普通なら1段階すら上がれば良い方です」

 

目を見開いているお姉様に、ハリス先生が補足を加える。

 

「テスタロッサ技師の問題も考えたが、ミストは君だけでなく君の妹や他の生徒の調整も行っている。あのミストがテスタロッサに関してたった一人だけ贔屓をして、他を蔑ろにするはずがない。つまりテスタロッサそのものの力か、あるいは」

 

そう、それは『マリア』によるものでもない。

お姉様の特異性、主人公特権ともいえるそれは。

 

「君自身の力だ」

 

テスタロッサの能力を最大限引き出すこと。

そもそもゲームにおいて最低ステータスであるウリアがたった3年でステータスを大きく上げられるのはこの力によるものだ。

エヴァラスのステータスはおそらく、適性+テスタロッサの力で決定している。

 

この世界で主人公であるお姉様は、テスタロッサの扱いに関して世界一である。

テスタロッサそのものに愛されていると考えて良い。

 

とはいえ、これ以上話したところでお姉様の真の力が明らかになるわけもない。

 

「お姉様が強いことには変わりないんだから、良かったじゃん!この調子で訓練して強くなっていこうよ!」

「う、うん……そうだね……」

 

何も知らないふりをしてお姉様をこの話題から引き離す。

こういった言動も、もう慣れたものだ。

 

「姉はこんなに真面目なのに、なんで妹はこんなに不真面目なんだか」

「そんなこと言っても、サザンクロス先生でもお姉様の力は解明できないんでしょう?」

「おや?なかなか生意気なことを言うねえ。君のお姉さんを解剖してもいいなら、必ずや解明してみせよう」

「え、い、いやです……」

 

マッドサイエンティストなことを言い始めたサザンクロス先生。

原作でも変わり者だったけれど、実際に目にすると身震いするほどだ。

お姉様の手を取り、私たちは立ち上がる。

 

「それじゃあ私たちはこれで失礼します」

「あ、失礼します」

 

2人でお辞儀をして、職員室を出る。

まだ窓の外は、雨は降っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても、やっぱり『マリア』ってすごいんだ」

「お姉様が強いってことだよ」

 

さっきの職員室での話をしながら、私たちは学園の玄関を出て寮へと向かう。

空は雲が厚くなり、灰色に染まっていた。

雨が、降りそうだ。

 

「お姉様、早く寮に帰ろう」

「そうだね、降りだしたら濡れちゃうよ」

 

そう言って一歩生み出そうとしたとき、私は視線を感じた。

校門の方を見ると、ひとりの男性がこちらに歩いてきていた。

その姿を見つけ、誰だろうと目を凝らしたとき。

 

私は思考が停止した。

まるで表情が抜け落ちたような、そんな顔をしていたのだろう。

 

「エヴァ?どうしたの?」

 

お姉様が心配そうに私に声をかける。

だが、私は、それどころではない。

 

「見つけたぞ」

 

声が、風に乗って耳に届く。

 

「お前か」

 

黒い短髪に黒い着物。その上から、裾がボロボロな白い羽織が風に揺れる。

 

その姿を、私は何度も見た。

そして何度も戦った。

 

「不可解なその力、斬ってくれる」

「逃げて!!お姉様!!」

 

何度戦っても、勝てなかった。

原作、エヴァラスにおける最強の一角。

学園では会うには早すぎる。

 

(だからこの世界は嫌いなんだ)

 

魔王【天】の金の瞳が、お姉様を捉えた。

 




◆ルート開放条件
・学園で魔王【深淵】クロムを倒している
・リフィルが魔王【天】との戦いで死亡していない

※学園編終了でルート消滅
※原作ではルートが存在しません


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第70話 剣の頂【エヴァSide】

魔王【天】

本名は、ヒビキ。

そんな彼を相手に、私ができることは。

 

「オーバーライトぉおおおお!」

 

右手にオーバーライトを発動し、私は駆け抜ける。

あいつは言った。見つけたと。不可解な力と。

 

その力を持っているのはお姉様しかいない。

お姉様を、殺させはしない。

 

駆け抜ける私を見ながら、ヒビキは空間から一般的なテスタロッサ『普刃』を取り出す。

ヒビキは原作でも2段階あるボスだ。今の一段階目でさえ、私は倒したことが数えるほどしかない。

けれど、ここで私が負ければ、お姉様が死ぬ。

 

決死の覚悟でオーバーライトを振るう。

それはいとも簡単に普刃に防がれ、その瞬間、私の全身の毛が逆立った。

来る!

 

「跳んでぇぇぇええええええ!」

 

強い思いで叫び、オーバーライトの力で後ろに跳ぶ。

そうしなければ、今頃私の体は細切れになっていただろう。

事実距離を取ったにもかかわらず、体中に浅い切り傷ができている。

 

オーバーライトの力をもってしても、避けるのが精いっぱい。

クロムの時も思ったけれど、魔王は次元が違う。

一人で到底かなう相手じゃない。

 

「エヴァ!」

 

逃げろと言ったのに、お姉様が駆け寄ってくる。

今だけはその正義感を恨んだ。

 

「なんてことを……絶対に許さな――」

「ダメ!お姉様!」

 

すぐにお姉様を抱えて横に跳ぶ。

今まで私たちが居たところを、斬撃が通り過ぎた。

 

お姉様は分かっていない。ヒビキの狙いは、私じゃない。

 

「赤髪、お前には興味がない。若い芽を摘むのは主義に反する。そこをどけ」

 

頭が沸騰しそうになる。

こいつは私に対して、私の目の前でお姉様を殺し、そして何もせずに見ていろと、そう言ったのだ。

 

「どくわけないでしょ!私の大切な姉に触れるな!」

 

立ち上がり、駆ける。

私のすべての力をもって、最大限の時間を稼ぐしかない。

この騒動を、誰かが気付いてくれるのを、待つしか。

 

駆けながら私は魔法を唱える。

剣ではヒビキの足元にも及ばない。

けれど同じ魔王の魔法なら。

 

師匠の魔法であるスプラッシュを発動。

地面が割れ、そこから闇の手が這い出てくる。

その手が、ヒビキの体を傷つける。

 

「見た」

 

そう言ってヒビキは刀を一閃。

スプラッシュの魔法ごと、斬り裂いた。

クロムには通用した師匠の魔法が、通用しない。

 

次の瞬間、体中が熱くなる。

気づけば目の前が真っ赤に染まっていた。

立っていることが、できない。

 

「いやああああああああ!」

 

体が傾く中で、お姉様の声が響いた。

ここで初めて、私は自分がヒビキに斬られたことに気づいた。

 

「【世界】の魔法?だいぶ威力が控えめだが……」

 

ヒビキの声を遠くに聞きながら、私は無力を感じる。

 

(魔王相手に……勝てるわけがないんだ。ここまで時間を稼いだだけでも……十分……)

「お前ええええええ!」

 

お姉様の声が聞こえる。

初めて聞く、怒りに満ちた声。

 

(ダメ……殺される……)

 

今のヒビキにお姉様は絶対に勝てない。

一刀のもとに斬り伏せられるだろう。

それだけは、させない。

 

「っ!?」

 

視界に映ったヒビキの足を、しっかりと握る。

次の瞬間には金属音が響き、遠くで何かが落ちる音が聞こえた。

 

「……普刃とはいえ、俺の攻撃で傷一つつかないテスタロッサだと?」

 

手を振り払われる。

首だけを動かすと、遠くで右手を押さえるお姉様が目に入った。

激痛に顔をしかめている。おそらく、折れているのだろう。

 

そのお姉様に向かって、歩むヒビキ。

殺されるのは時間の問題だ。

 

「させ……ない……」

 

オーバーライトの力で上空に跳び、そのまま重力の力で剣を振るう。

もちろん、こんな攻撃がヒビキに通じるはずはない。

当然のように防がれる。

 

けれど、本命はこっちではない。

 

「ファイア……ボール」

 

自分をまきこむように師匠のファイアボールを発動。

光が爆発し、私とヒビキを吹き飛ばす……はずだった。

吹き飛んだのは私だけで、ヒビキは爆風さえも斬り伏せてしまった。

 

「すさまじいセンスだな。そこまで傷を負っていながら、まだ能力を使い、さらに自分を巻き込んででも俺を止めるか」

 

その言葉が、やけに鮮明に聞こえる。

オーバーライトを握り締め、地面に突き刺す。

全身を奮い起こし、ゆっくりと立ち上がる。

 

「せっかく……良い感じなのに……」

 

降り注ぐ悪意をすべて防いだ。

強敵も倒した。

お姉様も、成長した。だから。

 

「邪魔を……するなぁ!!」

 

全力で走り、両手で剣を振るう。

オーバーライトに火の魔力を全力で通した、本気の一撃。

 

「学生にしては、十分すぎるほどだ」

「う……ぐぁ……」

 

けれど、それすらも届かない。

次の瞬間には左手に激痛が走り、私は膝をついた。

 

「左手を折った。もう剣も振れまい。これ以上は無駄だ」

「だ……れが……」

 

手放した剣を右手で広い、私は膝に力を入れてゆっくりと立ち上がる。

右手で剣を振るったところで、左手ほどの力は出ない。

それに、激痛でまともに戦えない。

 

けれどお姉様が死ぬくらいなら、こんな痛み、どうってことない。

ヒビキは、目の前で大きくため息を吐いた。

 

「……警告はしたぞ」

 

その一撃は、しっかりと見えた。

ヒビキの刀が、私の体を捉えた。

なにかが、私の中から消えていく。

 

「あ……」

 

立っていることもできなくなり、私は地面に倒れる。

なにかが無くなったような、大きな欠如感がある。

 

「お前の固有能力である瞬間移動を斬った。これでしばらく能力は使えん。眠れ」

 

あぁ、そういえばヒビキは概念を斬ることができた。

原作ではこの力で不死の属性を斬っていたっけ。

 

もう体は動かない。

左手は折られて、オーバーライトの力も使えない。

師匠の魔法も通じない。

 

体だって深く斬られて、全身が痛い。

それに目だってチカチカする。

 

(もう……ダメかな……)

 

原作でもEXボスとして君臨していたヒビキを相手に、一人でここまで戦えたんだ。

それだけでも、十分じゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エ……ヴァ……待ってて……すぐ……助ける……から……」

 

諦めた私の耳に、お姉様の声が届く。

自分だって腕を折られていたいはずなのに。

次は自分の番なのに。

 

お姉様は、ただ私の心配だけをしてくれている。

 

左手は、動かない。

右手も、動かない。

動かそうとすれば、激痛で脳がストップをかける。

 

ここで起き上がっても無駄。

どうせ私はヒビキには勝てない。

そんな思いが、頭の中でぐるぐると回る。

 

でも、それでも。

 

(お姉様が……そばにいるから……)

 

右手の痛みを無視して私は動かす。

見えているわけじゃない。けれどそこに、あると感じた。

そして私の右手は、ヒビキの足を掴んだ。

 

「お……前の……相手……は……」

 

体は動かない。けれど、それがどうした。

肘を使い、ゆっくりと上体を起こす。

左手は動かない。けれど右手も、足も動く。

 

体は痛いけれど、勝てはしないけれど。

それで戦わない理由には、お姉様を護らない理由にはならない。

 

「なぜ立ち上がろうとする?もう限界のはずだ。ただ伏して、待っていればいい」

「遠く……から……見てろって……?笑わせないで……ずっと見てただけだった……けど……けど私はここにいる!今は、お姉様を護れる!!」

 

ただのプレイヤーではお姉様を護れない。

ヒビキと何度も戦った。何度も負けた。そのたびに、地面に倒れるお姉様を見た。

 

けれどこの世界なら、お姉様を護れる。

見ているだけじゃなく、自分の手で。

 

「お前に何ができる?倒れ伏し、俺の歩みを止めることしか――」

 

風が、吹いた。

ヒビキは私の目の前から左へ飛ぶ。

先ほどまでヒビキが居た場所に、緑色の剣が突き刺さった。

 

「なにをしている」

 

その剣が光となって消える。

目の前に、黒い布が舞った。

暖かい光が、私とお姉様を包む。

 

「なにをしていると聞いた。魔王【天】」

「遅すぎるよ……リフィル」

 

黄緑の髪が風に揺れる。

蒼い瞳が、怒りに染まっている。

 

「貴様、エヴァ様に傷を負わせ、お嬢様を悲しませたな?」

 

お姉様を何とか護れたことに安堵し、ようやく私は緊張を解くことができた。

 




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第71話 その刀は天さえも斬り伏せる

災害は、前触れなく訪れる。

それはこれまでの幸せな、平穏な日々を全て終わらせる。

人には、どうすることもできない。

 

前世では、私は災害にあったことがない。

恐ろしい台風や、大きな地震にみまわれたことはない。

これはあくまでもテレビで聞いた話だ。

 

けれど、災害というのはこういうものなのだろう。

 

彼はたった数分で、エヴァを圧倒した。

エヴァのオーバーライトの瞬間移動も、特殊な魔法も、手も足も出なかった。

まともな傷を負うことすらなく、彼は私たち姉妹を圧倒した。

 

目の前で、エヴァが傷ついていくのを見せられた。

癒すことも助けることもできず、ただ無力だった。

だからこそ、リフィルが助けに来てくれて、安堵した。けれど。

 

「なにをしていると聞いた。魔王【天】」

 

魔王【天】。

あまりにも強い彼の正体を聞いて、私は言葉を失う。

ジン先生から聞いてはいたが、聞くのと見るのでは全然違う。

 

同じ魔王であるクロムを倒すのには、数多くの助けがあった。

私たちにリフィル、先生たち。

エヴァの魔法が効果的だったのも大きいし、謎の光の騎士も手助けしてくれた。

 

それと同じ魔王に、リフィル一人。

戦力としては、足りない。

 

「久しいなエルフの娘。10年ぶりか」

「私はリフィル。お嬢さまの専属侍女です」

「ふむ。あのときは名乗ってなかったな……俺はヒビキだ」

 

10年.それは私とリフィルが出会ってからの期間。

リフィルは魔王【天】、ヒビキと10年前に戦っている?

 

私の疑問をよそに、リフィルは駆けだした。

エヴァよりも速い。一瞬でテスタロッサを展開し、ストリームを振り下ろす。

その剣を、ヒビキは普刃で受け止めた。

 

(ダメ!不用意に斬りかかっちゃ!)

 

エヴァはヒビキと剣を交えたときに、オーバーライトの力で逃げた。

瞬間移動を使用した、最速の回避。

にもかかわらず、エヴァは全身を浅く斬られた。

 

血の海に沈む最悪の光景を予想して、恐る恐るリフィルを見る。

しかし、リフィルの体が傷つくことはなかった。

目を凝らしてみてみると、風がリフィルの周りを囲んでいる。

 

あの風で、ヒビキの斬撃を防いでいるのだろう。

何回かヒビキと剣を交えているが、返り討ちにあっている様子はない。

とりあえずは一安心。

 

「くっ……」

 

しかし、その剣での戦いはヒビキが押しているように見える。

涼しい顔をしているヒビキに対して、リフィルは苦しそうな表情だ。

 

「どうした?10年前の方がまだ出来たぞ?まあ、種はもう割れている。あの娘っ子が何かをしたのだろう」

「……だとしたら?」

「決まっている。その不可解な力を斬る」

「させるものか!」

 

ヒビキの言う娘っ子とは私のことだろう。

私が、リフィルに何かをしている?

 

リフィルの回復魔法が効いてきたのか、腕の痛みが和らぐ。

落ち着いて、2人の戦いを観察することが出来そうだ。

本当ならば、リフィルに手を貸したい。けれど悔しいが、私では力不足だ。

 

「本気を出したらどうだ?」

「……っ!」

 

力負けしたリフィルが剣を弾かれる。

その隙を、ヒビキが見逃すわけがない。風の力で体を逃がしたものの、浅く斬られてしまった。

ヒビキから距離を取り、リフィルは私の横まで飛んでくる。

 

「リフィル!」

 

慌てて近づき、治癒魔法をかける。

まだ腕は痛むものの、それを堪えてかけ続ける。

 

「今のままでは普刃で十分すぎるほどだな。弱すぎる」

 

遠くでこちらを見ているヒビキは呆れたように吐き捨てた。

少しづつこちらに歩いてくる。それが、死神のように見えた。

 

「お嬢さま」

 

魔法をかける手を急に握られる。

リフィルの方を見ると、彼女は真剣な瞳で私を見ていた。

 

「信じてください。あなたの騎士を。必ずあなたを護ってみせます」

 

そう言って、まだ傷が治りきってもいないのにリフィルは立ち上がる。

リフィルが、信じてくれと言った。

それなら自分にできることは、信じることだけ。

 

(大丈夫。リフィルは勝てる。負けない)

「10年前の続きでもするか?」

 

挑発的な一言をヒビキが告げる。

それに対するリフィルからの返答はない。

けれど彼女は息を吐いて、蒼い瞳を輝かせた。

 

「おはよう、『ストリーム』」

 

エヴァ、リフィル、私の体の周りを風が包む。

リフィルの周りの風が厚みを増し、暴風と化す。

ストリームの刀剣が緑に輝き、それに呼応して空の雲が厚く、黒くなる。

 

雨が降り注ぎ、風が強くなる。

風が砂塵を巻き上げ、嵐となる。

テスタロッサや術者だけでなく、周りに影響を与える。

 

「ほう、テスタロッサをカタストロフ級にまで上げたか」

 

雨に打たれながら、ヒビキは感心したように声を上げた。

風の力を纏ったリフィルは、ヒビキに突撃。

テスタロッサの力を最大まで解放したリフィルの攻撃は速く、そして鋭い。

 

その攻撃に合わせて、ヒビキは落ちてくる雷を避けながら前進。

普刃でリフィルの剣を、あっさりと受け止めた。

最大まで強化された、あのリフィルの剣を。

 

「天候を変えるテスタロッサか。カタストロフとしても上位だろう。だが、それでは俺は止まらんぞ」

 

体をかがめ、刀の角度を変え、ヒビキは横なぎにリフィルの胴体を切断しようとする。

その斬撃を、リフィルは防御魔法で防いだ。けれど防ぎきれない。

障壁にヒビがはいる。砕ければ、リフィルは負ける。

 

障壁は耐え切れずに砕け散った。

だがその瞬間に、ヒビキを雷が打った。

 

それは、自然が偶然私たちに味方してくれた一撃。

テスタロッサの力でも、魔法で作り出したものでもない。

純粋な災害の攻撃。

 

「今のは……効いたぞ」

 

ヒビキの体に電撃が走っている。

しかしその状態でも、ヒビキは直立不動。むしろ状況を楽しんでいるような雰囲気だ。

一方で、リフィルは目を見開き、ヒビキを見つめている。

 

「なぜ……雷ですよ!?打たれて平然としているなんて――」

「人間は災害には勝てない」

 

驚き、叫ぶリフィルに対し、ヒビキは雷に打たれたと思えないほど冷静に答える。

左手を持ち上げ、握りしめる。

 

「しかし、魔王は勝てる。それだけだ」

 

圧倒的な力の差を見せつけられる。

誰が雷に打たれて平然としていられるだろうか。

私の知り合いの誰でも、できはしないだろう。

 

ヒビキは左手を脱力し、気だるげに空を見上げた。

雨で濡れた髪で、ヒビキの瞳は見えない。

 

「それにしても……邪魔だな」

 

何気なくつぶやいた一言。

彼をじっと見ていると、ヒビキは右手の刀を左に持ってくる。

そのまま力の限りに振り上げた。

 

まるで空を斬るような、一閃。

 

次の瞬間、飛翔した斬撃は雲にあたる。

それは雲を裂き、雨を、風を、彼方へと吹き飛ばす。

 

先ほどの悪天候はどこへやら、空には雲一つなく、太陽が輝いていた。

 

「やはり、天気は晴れがいい」

 

目の前で天候すら斬った男は、すがすがしい笑みを浮かべる。

それがどれだけ異常な行動であるのか、彼は理解すらしていないのだろう。

 

ヒビキが右手に持つ刀に、ひびが入る。

その日々は次第に大きくなり、彼の持つ普刃は粉々に砕け散ってしまった。

テスタロッサが、自壊する。見たこともない光景に、唖然とした。

 

ヒビキはその刀を投げ捨て、空間からまた普刃を取り出した。

 

(あぁ……この人にとっては、テスタロッサは使い捨てなんだ……そのくらい、強いんだ)

「次は何をする?噴火でもさせるか?津波でも起こすか?好きにするがいい。そのすべてを、俺が斬り伏せてやろう」

 

ヒビキは挑発的な笑みを浮かべる。

ダメだ。この人は、止められない。

 

「ウリア!」

 

声に反応して振り返ると、ルナ達が駆け寄ってきていた。

彼女たちは私とエヴァを護るように前に出る。

 

「どけ、学生。俺は魔王【天】。すでに学んでいるだろう?ここで若い芽を摘むつもりはない」

「何が目的なの!?」

「そこにいる娘に用がある。だからどけ」

「断る!私達はウリアの友達だ!友達が危険にさらされているのに、黙って見ているわけにはいかない!」

 

ルナの言葉に、胸が熱くなる。

でも、だからこそ友達を巻き込みたくはない。

 

ふとヒビキを見ると、彼は目を見開いてルナを見つめていた。

彼はゆっくりと目を伏せる。

 

「……そうだな。友を思うその気持ちは素晴らしい」

 

ヒビキの様子が……少しおかしい。

そのことを不思議に思っていると。

 

「魔王……【天】」

 

後ろから、声が聞こえた。

首だけを動かしてみてみると、校舎の玄関口にレアさんが立っていた。

 

彼女は目を見開いて、ヒビキを見つめている。

その瞳は、なぜか揺れていた。

 

ヒビキの方に目を向けてみると、彼はレアさんを見て目を細めている。

その目が次第に見開かれる。

 

「貴様……まさか【緋色】か?」

 

ヒビキの声が、私の耳に届いた。

 




【ステータス】
名前:ヒビキ
称号:魔王【天】
魔法:F
武:EX
知:A
速:EX
技:F

※原作設定資料集より引用
※EXランクは一部の魔王のみ所持。SSSとは一線を画する

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