◯◯◯◯があって今にも死にそうなんだがどうすればいい? (電脳図書館)
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第一章 目覚め
幼馴染+一人に剣を向けられて今にも死にそうなんだがどうすればいい?


ハーメルン初めての投稿がこんな出来でいいのか?とも思いますが折角の波に乗りたかったので投稿させて頂きました。三次創作を許可して下さった貴司崎様には感謝を。ガバや設定忘れもあると思いますがよろしくお願いします。


うーんどうしよう・・・俺こと神木狩谷(カミキカリヤ)はそう心の中で溜息を吐きながら目の前の現地人美少女二人を見つめる。

その美少女達も俺に視線を向けている。他の【俺ら】がここまでのことを知ったら羨ましがられるか嫉まれるかのどちらかだろう。まぁそんな都合のいいことはないのだが。

 

「なぁ色々やる前にちょいと時間くれないか?最後に身内にメッセージを残したいんだ。携帯で済ませるからよ」

 

苦笑いを浮かべながら美少女の片割れ、久々に再会した”幼馴染”に聞くと無言の肯定が帰って来た・・・まぁただのメモじゃなくて【俺ら】の掲示板に書き込むのだが同郷であるあいつらには身内意識があるので嘘は言っていない。携帯を操作して最新の掲示板に端的に、それでも少々長いレスを投稿する。

 

 

【雑談】メガテン転生者の近況報告&相談解決スレpart24

 

124:名無しの転生者

>>122 ここは近況報告や相談したいことを皆で解決スレだ!是非利用してくれよな!

 

125:名無しの転生者

突然すまない

【教会で、幼馴染+一人に明らかにヤバい剣を向けられて今にも死にそうなんだがどうすればいい?】

 

 

時は夏休み前に遡る。暇なのでネットサーフィンをしているときに何と自分と同じ転生者の者達が集まる掲示板を見つけたのだ。書かれている内容が明らかに前世の事柄が多くこの世界にはないものだったことが決定的だった。それに気づいたときは思わず歓喜して

 

「マジかよ(ほくそ笑み)」

 

と思ったのだが如何やらこの世界が前世のゲームの一つ、所謂メガテン系列の世界だと書かれていて転生者同士の互助組織的なものもあるらしい・・・俺はペルソナなどの派生作品は兎も角真・女神転生作品はそれなりにやっていたので単語も問題無く飲み込めたが

 

「マジかよ(白目)」

 

同時に絶望しかけ、ついさっき吐いたセリフをまた吐いたが同じ内容なのに気持ちとしては真逆である。しかも原典よろしく大破壊という世界規模の災厄も起こるとのことだ。現在高2で第二の人生を精一杯謳歌しようと思っていた矢先の青天の霹靂である。

 

とはいえ行動を起こさなければ死か最悪転生者の身体を実験材料(何でも相当いい素材らしい)に色々やられるかの二択である。この世界でもメシア教はメシア教だったようだ。

掲示板の皆さんの勧めで覚醒ということをすることに決めた。これが無ければそもそも悪魔が見えないらしい。組織の本拠地である博麗神社(幻想郷はないらしい)に行くために富士山登山ツアーに偽造された覚醒修行を夏休みを利用して受けることになった。家族に相談して色々あったがツアーの話を信じて快く送り出してくれた。今世の両親は放任主義な所があるが、きちんと面倒を見てくれる良い両親だ。家を出るときには義妹が手作りのお守りを渡してくれて帰りに土産を買う事を約束し、一か月に及ぶ必死の修行の末無事覚醒、そして多少のレベル上げも出来た。実は旅行に際し今まで貯めていた貯金と神社でのバイト代(修行だけというのもアレだったので受けた)、そして旅費として多少多めに両親から巻き上げたお金を合わせて最低限度の装備、消耗品を購入して覚醒初心者用の異界(要はダンジョン。リーダーの巫女さんが難易度を下げた異界を維持していてもしもの時の備えも万全とか純粋に凄いと思う)に最初は野良PTを組んで潜ってレベル上げとマッカを稼いでいた。

 

「うーんやっぱり人型がいいよな。接しやすいし、人間用の礼装をそのまま装備出来るのが強いわ」

 

宿泊所の自分の部屋でカタログを見てぼやいているのは訳がある。マッカを稼いでいるのは自分用のシキガミの為である。これまたあの巫女さんを中心に製造されるシキガミは詳しい仕組みや製造方法は省くが安心安全、主人に絶対服従の頼りがいのある仲魔になってくれる。成長もするし様々なカスタマイズ要素の有るシキガミはPTを組んでいる時も見かけたが強そうだったな、勿論ちゃんと育ててこそだけど。

 

「それにしても人型に美少女やイケメンが多くやたらと凝ってるのって・・・いや何も言うまい【俺ら】だしな。それにしても高いな人型、まぁしょうがないが」

 

カタログの値段に若干たじろぐ。戦闘力のないものもあるが今は何より武力が欲しいので外させてもらう。

 

「取り敢えずレベリングしながらマッカと現金を同時に集めるか。俺の身体の一部と悪魔の死体を提供すれば性能が良くなったりもするらしいし」

 

その後無事にレベル7まで成長出来た。スキルなども7つ+それとは別に天使対策のムドを覚えようとしたが呪殺耐性をなぜか修得した。特訓をすればムドとハマはよほど尖がった才能でもない限り修得出来るらしいんだけどな・・・そんなこんなで滞在期間ギリギリで金とマッカが貯まりシキガミを注文して、次の休みに神社に取りに行くことで話がつき実家に戻ったのだが課題もある。

 

「当たり前だがここら辺に狩場になる異界はないし、あったとしても他に管理者がいるからな。【俺ら】の組織もまだ名前も決まっていないから交渉も儘ならんだろうな」

 

地元にいながらレベリングの方法があまりなく、どうしたものかと自室で頭を捻っている。終末まで時間があまりない以上早急に力を付けたいのだが・・・

 

「狩谷!電話よー、ほら幼馴染のイリナちゃんからよ!」

 

「分かった御袋・・・イリナ?わざわざ国際電話とは」

 

一瞬誰の事か分からなかったが今世の小学生までの幼馴染紫藤イリナだ。たしか父親の仕事で海外に行ったはずだ。不思議に思いながら一階に降りて電話を受け取る。

 

「もすもすひねもすー狩谷です」

 

「狩谷君久しぶり!!ふふ、電話でのその挨拶変わらないね!」

 

ふむ、幼い頃に前世が懐かし過ぎてやりまくったこのネタが通じるという事は本物だな。

 

「おー本物のイリナだ。どした久々に」

 

「う、相変わらずあっさりしてるなー・・・ふふ、実は今日本というか町に戻って来てるんだ!!」

 

「え、親父さんの仕事は?それが原因で海外に行ったはずだが」

 

「うん、今私はその手伝いをしててね。こっちに新しい拠点を作ることになってそれならって私も付いて来たの!!地元の学校にも転入するの」

「ほーということは前と同じように遊べるのか?」

 

「お仕事もあるけどいつもじゃないから一緒に遊べると思うよ!・・・それでね。もし良かったら今日このあと時間ある?他にもこの町に着任した人達がいるんだけど狩谷君のお話をしたらあって見たいんだって!どうかな?私も久々に会いたいし!」

 

その拠点の場所を教えてもらうと意外と近くにあったこともあり快く了承して家族に断りを入れ、教えて貰った道順で向かうと

 

「郊外に向かうと立派な教会が!!・・・えぇ」

 

教会、それは全【俺たち】にとっての鬼門、出来ればいや絶対攻め落とすときでも無ければ近づきたくもない場所だ・・・現在の最大宗派的にイリナはもしかすると

 

「あ、来た来た!狩谷く~ん!」

 

そう走ってきて抱き着いてくる彼女にも何のリアクションも取れない。畜生、見た目と体つきは子供の時の男の子よりの容姿とは比べ物にならないほど女の子らしくなっているのに素直に喜べねぇ!!

 

「・・・狩谷、くん?」

 

「あ、ああすまんすまん。いやーすっかり美人になってびっくり・・・ん?」

 

今度はイリナの様子がおかしい、雰囲気が変わったような?不思議に思い顔を覗き込む・・・なぜだその目は、まるで

 

そう思った直後身体が本能で動いていた。文字通り紙一重で先ほどの攻撃を躱す。そう、確かに俺は何らかの攻撃を躱したのだ。

 

「・・・ずいぶんな挨拶だなイリナ」

 

「・・・残念、本当に残念だよ狩谷くん。狩谷くんも覚醒者なんでしょ?しかも悪魔の匂いが沢山ついてた。血の量も尋常じゃないよね。」

 

まずい、確かにその通りだ。修行や金策で狩りに狩りまくった。しかしそれだけならまだ誤魔化しようがある。

 

「少し待てイリナ、これはな」

 

「イリナ?どうしたんだ」

 

教会の扉が開かれ見たことも無い青髪の美少女が出て来た。

 

「ん、ああ彼が神木狩谷か?私は」

 

「ゼノヴィア、構えて。彼も覚醒者だったみたい」

 

「な!?・・・いやだがまだ敵だとは限らないだろう」

 

まだ彼女はまともの様だ。彼女を巻き込むのは悪いが利用してでも

 

「教会の友人か?ここまで来てくれるとは仲良くやれてるじゃないか」

 

「ええ、親友だって紹介したかったのだけど・・・ああ、主よこれも試練なのでしょうか?・・・ああ、素晴らしい試練をありがとうございます!」「はぁ?」

 

・・・その後もしばらくの間自身の信仰に酔ったように神の感謝を告げているイリナを見てうすら寒いものを感じる。

 

「・・・でもゼノヴィアのいう事も一理あるわ、それじゃ狩谷君。おばさん達と一緒にうちに帰依しない?その方が安全」

 

「断る」

 

もう間違いないだろう。イリナの様子と今の教会勢力から見てイリナはメシア教徒、しかも裏を知ってるものだ。恐らく海外の仕事も教会関連だったのだろう・・・そこで彼女は・・・。

 

「俺はお前達の所にはいかない。家族に手を出すなクソ邪教!」

 

他宗派と名前に使われているモノホンメシアに謝りやがれ、俺はゲームではあるがあいつらの所業を知っている。あいつらと天使はクソだ。異教は勿論、同胞すら目的の為に平気で食いつぶす。無印をプレイしていたときに子供が贄になることを怖がらず寧ろ喜んでいる。そのシーンを見たときからかもしれない。メシア教が絶対の敵になったのは。

 

「・・・そうか残念だ」

 

青髪の美少女、ゼノヴィアが背に揃った荷物から

大きな大剣をイリナは身に着けていた紐状のリボンを剣に変えて取り出す・・・あれ何かオーラ凄くね?

 

「幼馴染としてこの”エクスカリバー”でアーメンしてあげる!」

 

うんうんアーメン、はえ?

 

「エクスカリバーだぁ!?」

 

「そう教会が誇る七本のエクスカリバー内の二振り破壊の聖剣、擬態の聖剣で君を捌こう」

 

「え、複数あるんですか?」

 

以上走馬ゲフンゲフン回想終了。

 

どうしよう。掲示板の状況を見ながら頭を回す。幸い武装と消耗品のいくつかは常に携行しているから戦闘は可能、しかしアナライズする隙はないので半分以上勘だが二人とも格上。武器に関しては比べるまでもない。だがその武具と消耗品、修行で得た技術とスキルや魔法でこの窮地を乗り越えるほかはないだろう

 

「狩谷君、少し時間かかり過ぎじゃない?・・・まさか救援とか「財産分与」へ?でもおじさんがいたよね?・・・え、もしかしておばさんは何も言ってなかったけど何かあったの?」

 

少し混乱しているようなのでこの隙に作戦を立てる・・・穴が多いが一応は形になったかな。

懐からバラバラになっている組み立て式の武器を素早く組み立てる。修行中は勿論一人で部屋にいる時には大体練習を繰り返して出すも仕舞うも1秒未満に出来るようになっている。そうして完成したメインウェポンたる槍を構える・・・うーんこれもちゃんとした霊装だし、耐久を含めて色々強化して貰っているとはいえ相手に比べて武器の格落ち感が半端ないんだけど。

 

「中々の練度のようだな。イリナここは」

「分かっているわゼノヴィア。聖剣コンビで確実に行きましょう!」

 

「うわ、会話的に連携も手慣れてるよ。スクカジャ」

 

魔法で命中と回避を上げて、挟み込むように切り込んで来る二人の迎撃に入るのだった。

 

 

教会前では金属音が鳴り響く。それはつまり俺がまだ死んでいないことを意味している。それは俺の戦闘スタイルがカウンター型であることに由来する。受け止めるのではなく槍でいなし、逸らし回避する。とくに大剣である破壊の聖剣はやはりというか攻撃力が高い。俺の槍じゃ一回目でギリギリ受け止められるかどうかだ。二回目で粉砕されるだろう。よって全力を以て回避する。幸い速が一番延びている分野なので問題なく避けられている。しかし擬態の聖剣が厄介だ。

 

「ち、単純に攻撃するだけじゃなくてワイヤー状に拘束してくるか!」

 

「拘束というか切り刻むだけどね!」

 

ゼノヴィアの隙を埋めるように、こちらの動きを制限するように剣を振るってくる。

 

「いなす技術と回避力は目を見張るがそれだけか!!」

 

ゼノヴィアが煽って来る・・・だが確かにその通りだ。このままでは地力が上の二人にいずれ崩される。仕方ない限界まで重ね掛けたスクカジャ以外の手札もそろそろ使うとしよう。

 

「く!?」

 

ゼノヴィアの攻撃を躱す、しかしそこで俺の身体は動きを止める。なるほど視認出来ないほど細い形状にも出来るのか。

 

「一定のパターンを仕掛けて置いて隙を突いて罠を張る。昔ゲームで教えてくれたよね?」

 

「・・・ああ、懐かしいな。だからその”対策”も講じている」

 

知っているさ。お前が存外俺の言葉を覚えていることも。剣の拘束といえど物理的な攻撃を受けたことに変わりなし、自動スキルである第一の手札の猛反撃が発動、ノータイムでイリナの腹を突く

 

「ふぐ!?」

 

「逃 が さ ん !」

 

体制が崩れたイリナを見て限界まで細くされていた聖剣を巻き取りこちらに引き寄せる。イリナは目を見開く。それは一種の自殺行為に等しい、だが俺の手札の二枚目『物理無効』の前では意味を成さない、この隙を作ることと一つの懸念事項の為に敢えて攻撃をいなし、回避に勤めていた。そしてそのまま槍で再度突く・・・と見せかけて

 

「返すぞ?」

 

「な!?」

 

背後に迫っていたゼノヴィアに向けてアンダースローでイリナを投げつける。聖剣の盾にもなって一石二鳥である。

 

「ぐうう!」

 

「痛った!・・・ゼノヴィア大丈夫?」

 

「問、題ない!」

 

ダメージを負ったイリナを受け止めたゼノヴィアが一旦距離を取る・・・実に予想通りだ。手を掲げる。照準合わせ、術式構築。ゼノヴィアがバックステップでイリナという重りを抱きかかえ飛ぶその瞬間を狙う。先ほどの猛反撃の感触で何らかの装備で物理耐性を獲ていることは把握している。恐らく他にも何らかの耐性はあるだろう。例えムドを今撃っても多少の苦痛を与えて動きを一瞬止めるだけだろう。まぁそもそも耐性だけで使えないけど。よって第三の手札を切る。

 

『メギド』

 

万能の魔力の波動が、爆撃が二人を包む。

自身が唯一使える攻撃魔法にして範囲攻撃を放つ。作品によっては火力が足りてないだの弱点を突ける悪魔を使えばいいだの言われている万能属性の魔法だが一部例外はあるが耐性無視、反射無視の攻撃はこの世界では貴重である。そもそも悪魔との契約や合体がほいほい出来ないのだから有用度は上がっている・・・はずだ。まぁでも格上なので倒せていないと思うので追撃を加える。

 

元々速が一番秀でていたのとスクカジャの重ねがねもありこと機動力に置いては二人を凌駕していた。まだ噴煙が舞う中を突っ切る。目の前にはイリナが見えた。言い忘れていたが自分はメギド以外にも貫通技を持っている。

第四の札である貫通撃、槍の場合は突き技として発動し、派手ではないが発動の隙が少ない物理攻撃技だ。そうして突こうとしたときに

 

「うわ、擬態ってそこまで出来るのか」

 

打ち込む少し前に気づく。長らく離れて居たが幼馴染特有の感覚で『違う』と感じ取る。偽物かよ。

とっさに槍を真横に向けるとゼノヴィアが破壊の聖剣で切りかかる。

 

「はぁ!!!!!」

 

「くううう!!な、めるな!」

 

ガキンと如何にか受け流すがバキと嫌な音が槍から聞こえた。次は折られるだろう。そして物理無効を知ってもなお物理攻撃をして来た時点で一つの懸念が当たったことになる。

 

「その聖剣、貫通か!!」

 

そして攻撃を貰ったため猛反撃が起動

 

「日本にはこんな言葉があると聞いた。肉を切らせて骨を断つと!」

 

「!!」

 

やろう、防具を頼みに無理やり攻撃する気か・・・上等!ここで猛反撃の攻撃に合わせて"貫通撃"を乗せる。

 

「何!?」

 

しかし流石というか咄嗟に聖剣を盾にされる。

 

「ち、威力を大分殺されたか」

 

「・・・神木狩谷、今のは」

 

「ん?ちょっとした裏技だ」

 

視界が完全に晴れ良く見えるになって見つけた本物のイリナも驚いている。二つの物理攻撃を合わせて使えたのは第五の札というよりは覚醒した時に得たスキル、武道の素養にある。大体の効果はD2のときと同じで物理攻撃技のMP消費削減が1割と数字が具体的になったくらいだが隠れた能力として、汎用スキルである武術系スキルがそれに対応した武器を使い続ければ修得出来る点とある程度敵の動きや技の初動を見破りやすくなるのだ。そして相手の動きが分かるということは自分の動きはより分かるということでもある。要するに猛反撃と貫通撃、同じ突き技でも違いがあること。逆に一部被る動作があることも見て取れた。ならば合わせて使えない道理はない。原作より強くなり過ぎじゃないかこのスキル?と思わなくもないがそうじゃなかったら見切りの能力や武術の成長分も合わせてとっくに二人に切り捨てられているので文句は言えないのだけども。だって普通にレベル、武具、連携(自分は一人)、でも向こうが上なんだから生き残るためにズルくてもやるしかないのである!

 

「・・・というかそろそろきついんだが」

 

ぼそりとつい愚痴が出る。もう出していない札はタイミングを選ぶ一枚と多少の消耗品。うん、不味いですね!(白目)

 

「仕方がない、イリナ離れて居ろ!」

 

「!?使うのねゼノヴィア!」

 

「え、まだ切り札あるんですか?」

 

まずい内容次第では詰みかねない。内心でどこぞのリアクション芸人の如くヤバイよヤバイよと思っていたのだが

 

「待ってもらおうか」

 

三人以外の声が静止を掛ける・・・どうやら相手の戦闘不能以外の勝利条件が来たようだ。

 

【雑談】メガテン転生者の近況報告&相談解決スレpart24

 

135:名無しの転生者

座標はさっき乗せた通りだ・・・誰か応援に来れない?

 

136:名無しの転生者

>>135

正直で草・・・まぁ現実的にどうする?

 

137:名無しの転生者

>>135

ええい、仕方ない。ちょうど近くにいるからそこまで耐えとけ!!

 

138:名無しの転生者

>>137

は、アンタは!OK全身全霊で耐えるわ!!

 

もう一つの勝利条件、それは俺より強い二人よりも強い味方の応援が駆け付けること!つまり我が組織(名前はまだ無い)の幹部のご登場である!!

 

「「「神父ニキ(枢木神父)!!・・・え?」」」

 

あれ何で二人が神父ニキ、しかも本名を知っているんだ??

 

「・・・神木、こいつらはな"プロテスタント"と"カトリック"だ」

 

「・・・へ?・・・」

 

思わずイリナとゼノヴィアを見る。突然のことに唖然としているようだが頷いてはいる・・・え?

 

「あとイリナ、ゼノヴィア。神木は正式名称はまだ決まってないが俺たちの組織の者だ。メシア教とかダークサマナーじゃないから」

 

「な!?」

 

「え」

 

巻き込まれて戦うことになったゼノヴィアが思わず呆けているイリナを見る。

 

「「・・・」」

 

イリナと互いに見つめ合う。えーとつまり今回の戦いって…あ、ふーんナルホドネ。

 

「「・・・あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーー!?!?!?」」

 

その後同じ結論にたどり着いた幼馴染二人の甲高い絶叫が当たりに響き渡ったという。




最後までお読みくださってありがとうございました!第二話もよろしくお願いします。え、お借りした神父ニキ以外の登場人物が全体的にバカっぽい?・・・作者の頭の差だと思います、はい。


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信者と天使と神○○

やべー前回誤字脱字多すぎやろ。自分で確認出来た所は直したけど今回はどうかな・・・。という訳で割と作りが雑な今作の第二話、お楽しみください!


「で、そうなったと」

 

「はい、まさか枢木神父の身内だったとは」

 

ゼノヴィアは申し訳なさそうに頭を下げる。説明を受けた神父ニキは視線を別の方向に移すと溜息をつく。その先には

 

「お前ノータイムで攻撃とか疑われることすんなよ!!」

 

「そ、そんなこと言ったら狩谷君こそあんなに悪魔の血の匂いぷんぷんだったじゃない!!」

 

幼馴染同士の喧嘩である。

 

「しゃーねーだろ装備やらシキガミは意外と高いから稼がないと!」

 

「お金お金って卑しいこと言わないで!?」

 

「こちとら命掛かってんだ!金で安全が買えるなら安いもんだろ!!」

 

「うう、でも幼馴染の宗派くらい覚えててよ!」

 

「宗派の違い何て素人に分かるか!!あとメシア教でもないのに狂信してんじゃねーよ!!」

 

ワーキャーワーキャー互いに口喧嘩を繰り広げている。

 

「何よ!こっちに帰ってきたら幼馴染が悪に染まってたと思った私の気持ちも知らないで!・・・でもそうじゃなくてよかった!!」

 

「だからそれ勘違いだろ!そんなん言ったら俺だって久々にあった幼馴染に命狙われて凄いショックだったんだからな!!・・・俺も殺さずに済んでよかったよ!」

 

喧嘩をしていた両者だがついに感極まって互いに泣きながら抱き合うという光景が展開される。

 

「殺し合ったのに勝手に仲直りしてる(白目)」

 

「うん、うん良かったなイリナ。アーメン」

 

「・・・え、この展開について行けてないの俺だけ?」

 

泣きながら抱き合う二人を見て思わず涙をこぼすゼノヴィアに見守っていた神父ニキは一人だけ置いて行かれている現状に愕然とするのだった。

 

 

「で、何で神父ニキのことを知ってたんだ?」

 

「え、切り替え早すぎないか?」

 

「狩谷君は相変わらず感情の切り替えが激しいわよね」

 

                 

                  ・・・神父ニキ説明中・・・

 

 

「つまりメシアの糞野郎共のせいで居づらくなった他の宗派の信者たちを日本で受け入れていてこの町も滞在地になったと。神父ニキはその窓口役なんですね」

 

「ざっくり言えばそういうことだ」

 

「ですが枢木神父、それなら神木狩谷のことを教えて下されば問題が起きなかったのでは?」

 

「!?そうですよ、何で教えてくれなかったんですか!!」

 

「イリナ落ち着け・・・やっぱり伝わってないようだな」

 

「「「ん?」」」

 

「シスターに先に伝えていたんだが・・・というかあのバカはどこにいるんだ?」

 

「シスターでしたら午前中から出かけたままですが?」

 

「俺のことを伝え忘れている・・・緊急事態でもあったのか?」

 

どうやらこの教会はイリナ達エクソシスト二人とシスター一人でやっていくようだがもしやメシア教の追手が?と心配していたのだが・・・

 

「帰ったわよ!!イリナちゃん、ゼノヴィアちゃん可愛い衣装がいっぱいあったわ!特に魔法少女の衣装がおすす「「くたばれ!!」」ぎゃふん!」

 

理由がバカバカし過ぎて神父ニキと一緒に腹パンした。

 

「紹介するこのバカがシスターワシリーサだ。こんなだが覚醒者で仕事では有能だ」

 

「いたた、酷い出迎えね。確かに私の伝達忘れがあったことは、認めるけど初対面の神木君まで殴らなくても」

 

「殴ったのが顔じゃないだけありがたいと思え」

 

「君も大分辛辣なんだな」

 

「狩谷君は男女とか関係なく殴る時は殴る人だからね・・・」

 

イリナが懐かしそうに頷いている。暴力もときには必要なのだよ。

 

「それで自分がこいつらの手綱を握れと?」

 

「あーそうなるな。本当ならシスターの役目だが、ダメそうだし」

 

「さいですか・・・あ、そういえば何でエクスカリバーが七つもあるんです?」

 

「ああ、ほらメシア教って昔っから世界各地の霊地を確保する様に動いていたろ?そこにエクスカリバーを持ち出してな・・・ただ当然アーサー王程使いこなせないし管理者であったヴィヴィアンを出し抜いて強奪したから。正式に譲渡されていない以上元々の性能に制限があったそうだからな。で、侵略しようとした地域を守護していた神性に折られた」

 

「ハハ、ざまぁ!!」

 

「まぁそのあと使い手は責任を取らされ処刑され、エクスカリバーの残骸だけヴィヴィアンに返却されたのだが、そのあと他の宗派に所属する錬金術師達が欠片から七本の聖剣が作られたんだ」

 

「しかもようやっと完成した七本の聖剣を嗅ぎつけたメシア教は「エクスカリバーはメシア教が所有すべき」とか言ってきたのよ!!」

 

「クズ過ぎて草も生えない。当然反発したよな?」

 

「勿論!抗争に発展したのだけど武力はメシア教の方が強くてね。結局負けに近い引き分けになっちゃったの」

 

「結果的に七本の内三本がメシア教、プロテスタントが擬態の聖剣、カトリックが破壊の聖剣を所有することになりました。もう一本、七本の中で一番強力な聖剣は抗争の中で紛失してしまったそうよ」

 

「あれもう一本は?」

 

「和平中に何者かに強奪されたの。今もどこにあるか」

 

皆から説明を受ける。まぁあれだ

 

「改めてメシア教は糞だと分かりました」

 

あとヴィヴィアンとアーサー王に謝れ。

 

「あ、仕事抜けて来たから帰らないと」

 

「そういえばこの近くにいたのここの教会の手続きして、別の仕事に行こうとしていた時でしたもんね。ありがとうございました。巫女さんにもよろしくお伝えください」

 

「ああ・・・割と心配してたしな」

 

そう言うと神父ニキは仕事に戻って行った・・・あの人社畜にならないといいが

 

「さて、俺も帰って夕食を食べるか」

 

「あ、夕食と言えば私達も食材を買いに行かないとな」

 

「そうね、シスターワシリーサ買いに行きましょう」

 

「ふふ、そうねここの教会に越して来た初日だし豪勢に・・・あ」

 

「・・・どうした?」

 

「えーと・・・足りない」

 

「「「はい?」」」

 

「その、今月掛かるであろう光熱費や電気代を考えると・・・食費がありません(てへ♪)」

 

「「「はぁぁぁぁ!?!?!?」」」

 

何で越して来た当日に足りなくなるんだよ!!いやまて、そう言えば帰って来た時に

 

「ま、まさかアンタ二人に着せる衣装とか小道具に!?」

 

「お店の方のセールストークが上手くてね」

 

「上手くてね、じゃないわ!!悪魔の口車に乗りやがって!」

 

「ど、どうするイリナ!!」

 

「む、無理よ!質素な生活にはご飯が数少ない娯楽なのよ!!それが一か月ないとか無理!というかそもそも生きていけないわよ!?」

 

「く、しかし流石に一か月の食事の施しをしてくれるところなどどこにも・・・」

 

「そうね、そんな優しい人なんてそうそう・・・あ」

 

「おいバカやめろ、こっちを見るな」

 

くそ、こっそり逃げようとしたのに!!って他の二人も超見て来るし!!いやいや今日一日なら兎も角一か月は流石に無理、というかにじり寄って来るなー--!?

 

 

 

「おじさん、おばさんお久しぶりです」

 

「イリナちゃんお久しぶりね、親御さんは元気?」

 

「はい、両親とも元気にアーメンしています!」

 

「元気にアーメンって何だよ」

 

結果、夕飯時に家に教会組が押しかけて来ました。前世からの欠点として身内に弱いのだ。まぁアイツらも飯の支度の手伝いはしたけど

 

「おお!!これが日本料理か!美味しそうだな」

 

「白米と味噌汁!日本に帰って来たって感じね!唐揚げも楽しみ」

 

「やけにテンション高いなおい」

 

「おじ様、よければお酌させていただきません?」

 

「はは、シスターさんにお酌して貰えるとは新鮮ですな。そちらも如何ですかな?」

 

「あら、ではご相伴に預からせて頂きますわ♪」

 

「こ、この聖職者飯たかりに来ただけじゃなくて酒まで飲む気か・・・!」

 

厚かましい程感情豊かな教会トリオは当然の如く俺の義妹にも絡んでいく

 

「あ、貴女が狩谷君の義妹の子ね?話は聞いてるわよ」

 

「・・・そう」

 

「む、義妹なのか?」

 

「うん、何でも隣の家に住んでいてよく遊び相手になってたそうなの。それでその子のご両親に不幸があって神木家で受け入れたって聞いたわ」

 

「イリナには教えてたな。自己紹介をするといい」

 

「・・・"今"は神木折紙。よろしく」

 

我が義妹白髪寄りの銀髪をはためかせて教会組を多少の挨拶だけで華麗にスル「可愛い!!!」ー・・・へ?

 

「可愛いわー折紙ちゃん!!!良かったら可愛い衣装を着ない?魔法少女やゴスロリもあるわよー--!!!」

 

「・・・兄さん」

 

「おいバカやめろ」

 

ドン引きした義妹のSOSを聞き二人の間に入ってワシリーサを押さえつける。こいつ本当に聖職者か?あと親父と御袋は笑ってないで手伝え!

 

                   ・・・2時間後・・・

 

「漸くかえったなあいつら。ワシリーサの奴ベロンベロンになりやがって」

 

「疲れた。何で連れて来たの?しかも一か月と聞いた」

 

騒がしい夕食を終えてワシリーサを担いでゼノヴィア、イリナが帰宅するとぐったりした俺と折紙は共に共同で使っている俺達の部屋でベットにダイブしていた

 

「経緯は分かってるだろ?教会の前からずっと"スマホを通話状態"にしていたんだから。ちゃんと利益はある」

 

「この町周囲の異界共同討伐、聖剣を保有する教会からの事後承諾可能の戦力の借り受け、キリスト教の対悪魔装備、消耗品の購入権利・・・確かに有用だと思うけど気を付けて」

 

「はい・・・まぁそれはそうと色々話してもらうぞ?」

 

「分かってる。と言うより帰って来たその日に騒動に巻き込まれたカリヤが悪い」

 

そんなこと言われても・・・因みに呼び名が変わっているのは単に普段がこちらで、切羽詰まった時などは兄さん呼びになるだけである。ワシリーサの性癖は緊急事態に該当したんだろうな。

 

「それを脇に置いて、話してくれ。折紙の前世について。"悪魔"の転生者のな」

 

悪魔の転生者、どういうことかと思うかも知れないがぶっちゃけ【俺ら】より歴史は古い。特にパワーインフレと名高いインド神話が有名で、神様が人に転生する神話は世界に数多い。折紙はそういう意味での転生者だ。

 

時は俺が修業に出発する前日に遡る。

 

『それじゃお兄ちゃん行ってくるわ!お土産は何がいい?』

 

『特にいらないその代わり話を聞いて欲しい・・・カリヤ、いや兄さんは転生者?』

 

『・・・どうしてそれを?』

 

『否定はしないの?』

 

『お前が問い詰める時は証拠もバッチリ揃えてるだろ?俺と同じご同輩・・・という雰囲気じゃなさそうだ』

 

『正解、私は神話で語られるような転生者』

 

『まさか・・・悪魔が人に?』

 

『流石察しがいい』

 

普段はキリっとした顔が妖艶な笑みを浮かべたのを今でも覚えている。

 

「覚醒したら詳しく話すとのことだったが」

 

「覚醒していなければ危険。私だけじゃなくてカリヤにも言えること」

 

「まぁ其処ら辺は分かるけどな」

 

「それから契約をして欲しい。私はとある存在が緊急避難目的で転生した転生体」

 

「なるほど、健在だとバレる訳にはいかないと」

 

「その通り、だから契約してくれると約束してくれるなら今話せる範囲を話す」

 

「話せない所もあるのか?」

 

「今私は力の大半、正確には本来の私に特に強く紐づいた力を封じている。これは敵対存在に私の存在を隠し、誤魔化す為。その都合上私の真名も封印している。他者に漏らすと封印が緩みかねない」

 

「本来の自分のことは話せないと。種族もダメなのか?」

 

「それなら大雑把になら大丈夫」

 

「ふむ、では種族は?」

 

「天使」

 

「・・・はい?」

 

「高位の天使」

 

「グレードアップしろとは言ってない(白目)」

 

ちょおおおおお!!!!天使とか完璧地雷やんけ!?

 

「・・・何で転生を?」

 

「四大天使との戦いに敗れて」

 

「・・・ん?どゆこと?」

 

                  ・・・義妹天使説明中・・・

 

「なるほど。つまり天界でメシア教派の天使達と対立していざバトって見たら穏健派連中は傍観、着いて来てくれた他の天使も少数。そして要のお前もとある理由で不調で苦戦していた所に不意打ち気味に四大天使が正式にメシア教側に着いてその勢いで倒され封印 or 洗脳の二択だったので一か八かの人間に転生か」

 

「念の為転生の準備をしていたのが功を奏した。ただ咄嗟の転生だったから色々と調整不足、本来なら高位分霊としての転生を計画していたが"本霊"ごと転生することになった。この場合力の総量は遥かに大きいけど存在を隠すには分霊の名前では役不足。なので大幅の弱体化になるが真名を封印している。固有能力以外なら多少ではあるが天使としての力も使えなくはないけど」

 

確か人間界に来てるのが魔界などの本霊から分離した分霊だったか。

 

「本霊、つまりお前その天使本体かよ・・・」

 

「そう、だからメシア教側に着いた天使に捜索されているはず」

 

「見つかったらやっぱヤバいんだよな?」

 

「・・・そこらの天使なら兎も角大天使クラスになると封印を解いたとしても現状だと五分が良い所。それ以上力を引き出そうとするとこの身体が持たない」

 

「まぁ人間になった時点で大幅な弱体化みたいなもんだからな。不調だったとはいえ本来の姿でも勝てなかった戦力相手は流石に無理か」

 

「でも手がないわけではない」

 

「え、マジで?巫女さん達の組織を頼るのか?」

 

「将来的には力を借りたい。でも今はまだ頼れない」

 

「何で?」

 

「信用が足りない。特に天使の」

 

「ぐうの音も出ない正論」

 

「まずは信用を積み重ねる必要がある・・・自分で言うのもあれだけどカリヤは何でこの話は本当だと信じるの?」

 

「ん?そりゃキリスト教だからメシア教と同じ訳じゃないのは神父ニキから聞いてたし、あと折紙緊急時や重要な話するときは兄さんっていうじゃないか。昔はお兄ちゃん呼びだったけど」

 

「・・・そうなの?」

 

「お前兄妹になってもう5年になるだろうに気づいて無かったんか・・・」

 

「コホン、それはそうと話した以上契約はして貰う」

 

「いやいや確かに聞いたけどお前がベラベラ喋ったんだろうが!!お前はバトル前に計画を説明して『計画を知った以上生かしては置けない』とか理不尽なことを言う悪役か!・・・一つ聞きたい」

 

「何?」

 

「5年前、折紙が鳶一折紙だったときの両親が亡くなった事故・・・あれはもしかして悪魔関係じゃないのか?その時はこんな世界だと知らなかったが、今思うと不自然な点がある」

 

「・・・今は言えない」

 

「ということは何かあるんだな?お前が力を使えなかった理由が。ならいいよ」

 

「どうして?責められてもおかしくないのに」

 

「おいおい伊達にずっとそばに居たわけじゃないんだ。元がどうだろうと義理だろうと最初から自分の妹を信頼しない兄はいないのよ」

 

笑顔を浮かべながら折紙の頭を撫でる。

 

「そういえばずっと一緒にいたのも意味あったのか?」

 

「あると言えばある。高い霊的資質を持っていたカリヤの護衛、この家は私が結界を貼っていて悪魔に目に付かれ難いのといざと言う時の防御にも役に立つ。基本一緒にいたのは外では近くにいたのはそれと同じ効果のある簡易結界の都合上。でも外出時だけじゃ不自然だから家の中でも一緒にいた」

 

「え、それじゃ俺と同じ中高一貫の学校に行ったのも?」

 

「そう」

 

「移動教室でいつの間にか現地にいて一緒に回ったのも?」

 

「そう」

 

「それぞれ部屋を貰えるようになったのに頑なに俺との二人部屋を希望して同じベットでいつも寝てるのも?ついでに寝間着も色違いだし」

 

「そう」

 

「折紙が中二なっても未だに一緒にお風呂に入ってるのも?」

 

「そう」

 

す、すげー、全部真顔で肯定しやがった!?正直ベットや風呂の件はする必要はあるのか分からないが多分天使的に風呂とベットを一緒に入れば仲は親密だ的なズレた思考なんだろう。そうか・・・

 

「そうか、てっきり兄として好かれているかと思って「特に冷遇されてもいないのに嫌う理由はない」そ、そうか?なら良かった」

 

食い気味に来たなオイ。

 

「というかそもそも俺は何をすればいいんだ?」

 

「さっき手がないわけではないと言った。つまりその手があなた」

 

「んん?しかしな・・・俺如きにそんな大層なことでき『お願い、お兄ちゃん!』おっしゃお兄ちゃんに任せなさい!!・・・あ」

 

つい言ってしまった一言を聞いた真顔だった折紙が小悪魔の様に微笑む、おのれ天使の癖に!!

 

「ず、ずっりぃぃ!!久々にお兄ちゃんとか言われたらこう言っちゃうだろ!!」

 

「カリヤは身内に弱いことは把握済み。さぁ契約を」

 

「おいおい迫って来るなそれと某魔法少女の糞生物と同じことを言うんじゃありません!!今思えばあれこの世界で作ったの多分同胞だろうな!?」

 

「私と契約して○○○になってよ」

 

「言うんじゃありません!!というか○○○って何!?三文字?俺三文字の何かになるのー-!?」

 

「兄さん・・・お願い」

 

「・・・そんな潤んだ目を向けて来るなよ・・・あーもう分かったよ」

 

覚悟を決めろ。多分絶対間違いなく厄ネタだがやるしかないのだ!!俺はお兄ちゃんだぞ!!

 

「ありがとう、それじゃ顔をこっちに」

 

「はいはい」

 

「うん、そのまま・・・ん」

 

そのまま顔を固定され折紙が顔を近づけて・・・はえ?

 

「んん~~~!?ぷはぁ!?おおおおお、折紙さん!?何故にキスを!」

 

舌まで絡ませて来たのだが、俺達義理とは言え兄妹なんですけど!!

 

「これで契約は完了、内容は二つ。一つはメシア教との戦い、そして本命の二つ目はとある存在をその本霊ごと殺すこと」

 

「あ、あれ?本霊って確か殺せないはずじゃ、精々ダメージを与えられるかどうかだった・・・気・・・が?」

 

身体が、熱い・・・頭もフラフラして、意識を保てない・・・

 

「お、お、り、が、み?」

 

「大丈夫、今は眠って。身体を少し作り変えられているだけだから。朝には全部終わって目を覚ます」

 

いやいや、ヤバいってそれ!?身体を一部とはいえ作り変える程のこと・・・悪魔、本霊、殺す、人間、三文字、なんだ何かを忘れている様な。人間が"神すら内包する悪魔"を殺し切ることが出来る。たしか、それはと僅かに動く眼だけを折紙に向ける。イリナ達を見送った開いた窓からは綺麗な満月が見え、それを背にし月の光を帯びた義妹の姿は神々しさすらあった。

 

「神木狩谷、私の義兄。その名の通り神すらも狩り殺す為に」

 

深呼吸をするように一拍置いて再び天使/義妹が言葉を紡ぐ。

 

「私の"神殺し"になって」

 

ああ、糞、やっぱり天使が持って来る案件なんて厄ネタじゃねーか。引きつった笑みを浮かべながら一言も発することすら出来ずに俺の意識は闇に溶けて行った。




簡単なキャラ紹介

【神殺し 神木狩谷 Lv8】
ステータスタイプ:速・魔型
本作の主人公。17歳男性で高校二年生、因みに住まいは東京都中野区。場所のせいもあるが作者の腕の都合上これから作中時間週一ペースで死に掛けることが確定している苦労人。因みに作中よりレベルが上がったのは教会でのバトルの影響。その時使わなかったスキルと今回のレベルアップで取得したスキルは後日お披露目。
防御相性:破魔無効 呪殺耐性 火炎・氷結・電撃・衝撃耐性(加護により取得) 睡眠・混乱・魅了・幻惑・封技・毒耐性(加護により取得)
能動スキル:【貫通撃】【メギド】【スクカジャ】【???(未使用スキル)】
自動スキル:【武道の素養】【猛反撃】【物理無効】【???(レベルアップで取得)】【万能プレロマ(加護により取得)】
汎用スキル・その他:【槍術】【格闘技】【剣術】【盾術】【無名天使の加護】【神殺し】

・加護の効果が色々おかしいが与えた本人曰く真名を封印している為無名になり、加護で与えられるスキルの数、質が低下しているとのこと。
・神殺しは作中や原作で語れた力の他に恒久的に全パラメーター+5という能力。その代わり神性関係の悪魔の目を付けられ安くなる。やったね(白目)
・武器は組み立て式改造霊槍。狩谷はこれを1秒未満で組み立て、バラしが可能。

【元天使 神木折紙/■■■■■ Lv■■】
ステータスタイプ:■型
本作の主人公の義妹。詳しくは本編参照だがまだ謎が多い。因みにモデルはデート・ア・ライブの鳶一折紙で姿も酷似している。元天使でその正体が今作の謎の一つ(迫真)。いやー元ネタ的に元とはいえ仇である精霊達が使う天使にするとかちょっと鬼畜やったかな?(折紙が奮闘するアニメ一期、二期を見ながら)
詳しいステータスは現在封印中の為アナライズ系の能力でも閲覧不可となっている。


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運命とは良くも悪くも容易く変わるものである

まだまだな所が目立つ当作品ですが今回もどうぞよろしくお願いします。第三話をお楽しみ下さい。先に上がっている本家様の最新話で取り上げられた内容も一部含んでおります。


ガタンゴトン、ガタンゴトンと前世と変わらない電車が線路を走る音を聞きながら目の前の向かい席で駅弁を食べている歳が三つ下、今年で14歳になる義妹を見やる。一昨日神殺しとなって折紙からの加護も合わせて色々強化された訳だが現在俺達は博麗神社に休日を利用して向かっている。

 

「どうしたの?」

 

「いやー何というか同胞たちに罪悪感というか」

 

「仕方がない。信用がない以上身分を偽らなければ彼らの輪に入れなかった。それは今後を考えるとマイナス」

 

そう実は折紙は転生者として組織に登録する為について来たのだ。とはいえ同じ転生者でも【俺ら】といささか違う経緯な為すぐばれるだろうと思っていたが。

 

「まさか同じ転生者の規格を利用して、掲示板の判定をすり抜ける術を見つけるとは・・・」

 

「カリヤがあの掲示板との縁があったお陰で潜り込めた。それにあの掲示板はあの組織や話に聞く巫女とは別口で開発されている。恐らく大本の製作者以外詳しくは調べられないと思う」

 

「そうなのか?でもそんな奴・・・いやいるな」

 

車椅子とか赤スーツとか眼鏡とかスティーブンとか、うん?全部同じか。と言う訳で多少偏ってはいるが俺の話や掲示板である程度の前世の話とメガテン系列のゲームは把握しているのだ・・・下手すると戦犯になりかねないな、うん。

 

「それで神社で登録したらレベリングするんだっけ?」

 

「そう、この肉体のレベルを上げれば封印中でも天使の力を引き出しやすくなる」

 

「まぁ確かにアナライズして見てもレベル1の覚醒者だったしな」

 

「真名封印はペナルティが重い分アナライズ系統の殆どを誤魔化すことが可能」

 

「巫女さんにバレないか?」

 

「問題ない。確かにあの神社に祭られている神とは相性は悪いけど、それは攻撃や防御の話。解析、情報収集などの分野には及ばない。というかそれが出来るなら今頃メシア教の内情を丸裸に出来ているはず」

 

「なるほど確かに」

 

「それよりお守りは持っている?」

 

「ん?そりゃ貰ったものだし持っているが、あれは非覚醒の時の備えじゃないのか?」

 

「確かに主目的はそれ。でも覚醒者だとしてもある程度有効、他宗教の術式に見えるように隠蔽性能も高い。色々調べて作った物だから出来れば大事にして欲しい」

 

何でもキリスト教の術式や天使の力と分からない様に神道系のお守りに見えるように作る為に年単位の時間が掛かるとのこと。マジか全然気づかんかった。

 

「そうだったのか、ありがとうな」

 

笑顔で頭を撫でると少し嬉しそうな顔をしてくる・・・うーんこういう所は人間らしいな。

 

「・・・それよりもカリヤのシキガミが気になる」

 

「それの受け取りもあるからな。一緒にレベル上げをしたい所だ。」

 

「高級、量産とあるみたいだけど高級は高いし、まだレベルは足りないから量産型?」

 

「うーん・・・試作型?」

 

 

「おお、狩谷さん!例のシキガミの受け取りですかな?おや、そのお嬢さんは」

 

「ロボキチニキお久しぶり。こいつは折紙、俺の義妹で転生者だ」

 

この人はロボキチニキことエルネスティ・エチェバルリアさん。試作型シキガミの提案をしてきた神父ニキと同じ幹部と言われている人だ。

 

「先ほど登録してきた。よろしくお願いする」

 

「よろしくね折紙さん。それじゃ早速お披露目だ!!」

 

「ロボット関係のシキガミと聞いている」

 

「そうなんです!!!ロボット系のシキガミを私と同志たちで作っているのですがまた新たな部門が出来たのです!!今までもスーパーロボット派、ガンダム派、鉄人派など色々ありましてな!!」

 

「なるほど」

 

普通の女子なら引くところだが流石は元天使である折紙。色々ズレているだけあり俺の影響もあって特撮やロボット系のアニメなどもよく見ているのだ。いい笑顔だ。ふふ、シキガミを美女にしたら折紙から冷たい視線を貰いそうだからな。なればこそ別の浪漫を突っ走るこの提案に乗ったのだ!!面白そうだったしね!シキガミも気に入られて兄の面目も立つし、浪漫でもある。完璧な作戦だ(心の中でドヤ顔)

 

「そしてこれこそが新進気鋭の作品です!!」

 

部屋の奥から出て来たシキガミはオーダー通りの人型。見た目はスレンダーですらっと伸びた足、戦闘用と思われる身体のプロポーションを強調させるスーツに映える長い青い髪・・・ん?

 

「・・・おいおい!どう見ても見た目人間じゃねーか!?!?しかも美少女!!」

 

完璧な作戦はどうした!?まだ自我は薄くて会話は出来ないみたいだが兄の威厳が!!

 

「はい!今回主導したのがロボ娘派なので」

 

「な、何だと!?い、いやいや!ロボ娘ってロボティクスと一体化している女の子のことを言うんじゃないのか!?そうだよな!」

 

「本来ならそうなのですが上から『管理がメンドイ』と言われましたので似ている細かな派閥は統合されておりまして・・・この子を開発したのはロボ娘も好きですがロボットに搭乗したり、身に纏ったりする女の子も大好きな奴らでして」

 

「え、細かすぎるんだが・・・つまり戦闘でロボットに搭乗するか身に纏うかすると。IS的な感じか?」

 

「はい、まぁそもそも機械と悪魔の常時一体化はまだ技術的ハードルがありまして、まずは機械との親和性を測るということになりますね。要望通りキチンと高機動型にカスタムしてますぞ!武装は飛行しながらの狙撃銃による攻撃で魔法を弾として放てるのです。今はブフ系しか覚えていませんがこれから他の属性も覚えていくでしょう!」

 

熱く語られそれにツッコミを入れるを繰り返していると真後ろから絶対零度の視線が突き刺さる。

 

『・・・嘘つき』

 

『ちょと待って!!!これ事故だろ!?』

 

念話、俺達は契約したことで相互に念話を送り合えるようになっている・・・まさか初めて使うのがこんな状況とはな。

 

「でも性能は高いですよ?特に使用させて貰った狩谷さんの肉体の素材は竜や蛇の悪魔との親和性が高いのでその系統の素材を沢山使いましたから。それらの悪魔のスキルも発現しています」

 

「う、う~~(カタログスペックを見ながら)・・・背に腹は変えられない、採用!!」

 

スペックの誘惑に負けた。因みに名前は青い髪と戦闘時身に纏うロボットとパワードスーツの間の子みたいな武装の名前がファフニールとのことなのでスペイン語で青を示す言葉と合わせてアズルニールとなった。直訳すると輝く青という意味だ。まぁ普段は短くアズールと呼ぶことにしよう。

 

「毎度ありがとうございます。定期的にレポート提出をお願いしますね。まぁあの大量のレポートを送って来た狩谷さんなら大丈夫だと思いますが」

 

「大量のレポート?」

 

「ああ、あのポップ狩り耐久か」

 

俺が覚醒し、初心者用異界野良PTで悪魔を余裕を持って狩れるようになったころ。悪魔が魔界から異界に現れやすい場所、マグネタイトや地脈などが堆積したり、乱れたときに生まれる通称魔力溜まりについて聞いたのが始まりだった。そこそこレベルを上げたが装備に不安を覚えた。しかし更新するには如何せん金が足りない。何とかなんないかと思っていたときに受付の人が教えてくれたのだ。まぁその人はPT組んでいってねという気持ちだったのだろうが金に飢えていた自分には届かなかった。巫女さんが管理しているので魔力溜まりの位置や出現する悪魔の大体のレベルは分かる。そうと決まれば行動開始である。

店から色々買い込んで宿泊している部屋で工作開始。道具を作成したら早速手頃な魔力溜まりに向かい、少し離れたところに異界に生えている木などで簡易拠点を作って魔力溜まりの周辺に罠を張り巡らせる。あとは異界を訪れた悪魔が罠に掛かる、ぶち殺すを延々と朝昼晩を魔力溜まりの場所を変えつつ数週間やっていたのだ。途中で脅しで取れるマッカやマグネタイトが美味しいと気付き財を差し出すか、死か的な問を設けたけど。

 

『財を差し出すか死か、どちらがいい?ふむ200マッカか。行ってよし!』『財がない?では素材となれ』『魔石一つ。少なすぎ、しかも隠しているのが丸分かりなので素材行きだ』

 

『行ってよし!』『素材』『行ってよし!』『素材』『素材』『素材』『行ってよし!』『行ってよし!』『素材』『素材』『行ってよし!』『行ってよし』『行ってよし!』『素材』『行ってよし!』『素材』

 

それと小遣い稼ぎに悪魔のデータを提供して認められれば多少の謝礼が出るとも聞いたので、悪魔ごとの落ちるアイテム、脅しでもらったマッカなどの内訳や比率、悪魔ごとに有効な脅し方の傾向、そしてそれぞれの月齢との関係。加えて各魔力溜まりで出現しやすい悪魔の種族などを詳細にレポートとして纏めて提出したりもしたのだ。

 

「でもこの方法だとマッカやマグネタイト、アイテム、素材は集まってもレベルは上がりにくいんだ。数週間で2つ上げれただけだったし。弱い相手だと数を重ねても魂の研磨と言われるレベルアップは厳しいからな…どうした?」

 

若干アズールや折紙に引かれた気がする。

 

「無理もありません。初心者だった狩谷さんがこんなレポートを提出してきて見ることになった担当と一部の幹部メンバーはドン引きしたんですから。狩りの様子を見かけた人も『まるで冷酷な審判者を見ているようだった』とか言ってますし」

 

「帰る少し前にレポートを見た神父ニキに呼び止められましたからね。そのときも話しましたが前世で田舎に住んでる父方の祖父が地元の猟友会のメンバーでして、自分も田舎に遊び行ったときに狩りによく付いて行ったんです。流石に猟銃は撃たせてもらえませんでしたが、実際に持ったりはしましたし罠を仕掛けたりナイフで獲物に止めを刺したり、解体したりもしたので敵対しても倒せる悪魔は大体獲物に見えちゃうんですよね。人型でも最初はちょっと気持ちは良くなかったですがすぐなれました」

 

「聞いてますよ。実際前世で命のやり取りに関わった人は最初から悪魔を殺すことにあまり嫌悪感を感じないようです」

 

まぁこの方法はどこでも出来る訳ではない。これほど上手く言ったのは各魔力溜まりの場所が分かっていることと、異界に出る悪魔が巫女さんの力で低レベルになっていることも要因だ。他ならレベルが明らかに高い悪魔が偶然来る可能性もあるので危険なのだ。

 

「そのレポートを参考に『初心者用異界のガイドブック』が出来るほどですからね。特にまだ駆け出しの転生者には経験値とマッカなどの収集効率が上がっています」

 

「役に立っていたのなら幸いですよ。今回は明日までの滞在で連携の確認とレベリングもあるのでこの狩りはやりませんけど」

 

「…もしかしてあのエクソシストが言ってた血の匂いってこのせい?」

 

「ストップだ折紙、これ以上はいけない」

 

その後防具と消耗品を買って(武器は俺のサブ武器の剣と盾を使うらしい)、初心者異界でレベリングをそこそこしたら宿場で部屋を借りて休んだ。え、戦闘描写?俺が敵を止めつつ冥界破でぶっ飛ばし、折紙がメギド、相手によってはマハンマで沈めるだけだ。それとアズールも狙撃銃でブフを魔弾に変えて狙撃している。この場合魔法の属性だけではなく銃属性も付加される様だ。どうやら俺の武道の素養が影響してか極・物理見切りを獲得していて回避はもちろんかなりの高精度で相手の動きを読んで狙撃が出来ている。俺としては勝手知ったる場所なので効率よくレベリングが出来たつもりだ。

にしても折紙が一番レベル低いのに元々の基礎パラメーターの差でレベル的には格上の悪魔を魔法一発で吹き飛ばしたのには驚いたな。前世で聞いた『ゴブリン Lv100でもドラゴン Lv1には敵わない』を実演しているようだった。遠距離が得意な二人だが近接もやれる。折紙は高いパラメーターの能力でごり押しでぶった切り、アズールは俺から剣術のスキルを受け継いでいるのか技でいなしてカウンターで切ると同じ剣でも戦い方は違うようだ。そんなこんなありつつ二日目のレベリングは昼頃で切り上げたのだが・・・

 

「巫女さんどうしたんだろうな?急に呼び出されたけど」

 

「分からない、でも一度会って見たかったから丁度いい」

 

神社の本殿に来るように言われたの待っているとしばらくして巫女さんがやってきた。

 

「お待たせ。造魔の製造依頼で忙しくてね」

 

「あーお疲れさまです」

 

最近は造魔作りが出来る人も出始めたようだけど未だ人材不足と聞いている…そんなときにわざわざ何の用だろうか?

 

「あ、そうだこっちは義妹の折紙と試作型造魔のアズール」

 

「神木折紙、よろしく」

 

まだ会話ができないアズールもお辞儀をする。

 

「あなたが妹さんね」

 

「はい、髪の色は黒と銀で全然違いますし血もつながって無いですけどね」

 

「あなた達の戦闘を見たけどまだまだ低レベルなのに妹さんの魔法の威力はなかなかのものだったわよ」

 

「いやーありがとうございます」

 

「流石は元天使ね」

 

「はは、全くですよね。種族の差ってデカ…い?」

 

あれ今巫女さん元天使って言わなかったか?折紙を褒められ緩んでいた顔が引きつる。思わず折紙の方に顔を向けると先程まで真顔であるが自分には少し嬉しそうにしてるように見えていた顔を呆けている様子の顔になってこちらを向く…いやいやいや!?!?!?

 

「ま、待ってくれ何を根拠に「掲示板よ」はい?」

 

「…確かに他者との連携のやり方を聞いたことはある。だがそれだけでは」

 

なるほど、人間との共闘の仕方を学ぼうとしたのか。そう行って携帯を取り出し書き込んだであろう掲示板を開くのだが…え!?あの折紙が驚愕の表情浮かべた…だと?

 

「…これを見て」

 

「例の掲示板か、どれどれ」

 

【初心者歓迎】悪魔との戦い方講座part104

 

 

 

124:名無しの転生者

 

悪魔は兎も角メシア教は殴って来たらためらいなくヤレ

 

 

 

125:名無しの転生者→義妹天使

 

今日博麗神社に来たばかり。他者との連携の仕方を教えて欲しい

 

 

 

126:名無しの転生者

 

>>125 お、初心者さんか。確かに戦闘の連携って最初は何やっていいか分からないよな

 

 

 

126:名無しの転生者

 

高レベルになるほど連携は大事ですな。ゲームの様にはいかないことが多いし、前衛後衛にちゃんと分かれているだけじゃまだまだですぞ!

 

 

 

「ふむ、意外と普通…あ」

 

コテハンが何か変わってね?何だよ義妹天使って

 

「これは後から変えられたものよ。因みに私達じゃないわBANしか出来ないしあの掲示板はこの世界に元からあったものだしね」

 

とすると…そういえばこっちに来る前に折紙が言っていたな

 

『カリヤがあの掲示板との縁があったお陰で潜り込めた。それにあの掲示板はあの組織や話に聞く巫女とは別口で開発されている。恐らく大本の製作者以外詳しくは調べられないと思う』

 

・・・・・・

 

『恐らく大本の製作者以外詳しくは調べられないと思う』

 

「お、おのれ車椅子赤スーツ眼鏡不審者ーーーー!!!!嫌がらせか貴様ーーー!?」

 

※なお彼が作ったという証拠は特にない。メガテン作品群に置いてプログラムやネットでやらかしたり、その原因、要因になったりするのはあの車椅子赤スーツ眼鏡不審者だと狩谷に刷り込まれているだけである。

 

「理由はどうあれ隠し事をしていたのは事実、何か申し開きはあるかしら?」

 

そう言われ互いに念話すら介さずに無言で頷き合い正座の状態から二人揃って両手を床に付け頭を全力で下げる謝罪の奥義を行った。

 

「「黙ってて申し訳ございませんこれには深い事情がありまして、何卒兄さん/義妹だけはご容赦を!!」」

 

土下座である。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!?別に罰とか与える気はないから!事情とか話して欲しいだけだから!!」

 

土下座に嫌な思い出でもあるのか、何か引かれた。なぜだ?二人で首を傾げながらも念話でやり取りをして

 

『おい、どうする折紙。ぶっちゃけもう言える範囲はゲロった方がいいと思うが。争いたくはない』

 

『…確かにここで話さないのは印象を悪くしかねない』

 

罰を与えないとのことなのでこれまでの経緯や折紙の正体を封印に触れない範囲で話すことに決めた。

 

…転生人間天使義兄妹説明中…

 

「なるほど…はぁ面倒なことになったわね」

 

「いつも大変なのに胃痛の種を増やしてすみません」

 

「これが最善だった。だが迷惑を掛けるのは事実、申し訳ない」

 

「この義兄妹やらかす割に意外に素直ね。確かに天使に嫌な感情を持つ奴もいるでしょうけど私は危害が加えられなければ別にいいと思うわ。但し、アンタを信じてかばってくれている兄貴を裏切るような真似はするんじゃないわよ」

 

「分かっている」

 

こうして元天使の折紙は【俺ら】の組織に受け入れられた。掲示板で発表され当初はかなり賑わったのだが、詳細は誤魔化されたことと悪魔召喚プログラムが持ち込まれたことで一気に下火になった。まぁこちらとしては好都合だ。現在は教会でのイリナ達との手合わせや小規模な異界を潰したりはしているがようやっと落ち着いたハイスクールライフを送れ

 

「狩谷君!エクスカリバーの一本を強奪した犯人が見つかったって!!」

 

…そうにないのである。




読了ありがとうございます。アズールのステータスは次話で少し時間が飛ぶのでそのときにでも現時点での狩谷、折紙のステータスと合わせて公開します。外見イメージは最弱無敗の神装機竜のクルルシファーです。え、名前の面影がない?クルルとかルシファーとかが名前にあるせいです。初見時にびっくりした閣下と黄色いカエルが思い浮かんだんだもの。

以下小話

・神殺しと認識
神殺しの力が本霊をぶっ殺せるのは前回も話した通りです。しかし狩谷の認識では今回レベリングで狩った悪魔達は"敵"ではなく"獲物"となっている為殺意はあれど本霊を殺すことはありません。まぁ一体やられるごとに足の小指をタンスの角に勢いよく激突させるクラスの痛みは味わったかも知れませんが。

・今回の引きについて
次の話で本格的に聖剣が関わってきます。ついでにすでに本家の時間軸では知り合いになっているみたいなので漫画家天使人間さんにも出て頂く予定です。

・神木狩谷の前世について
ネタバレになるのであまり言えませんが祖父関係で罠の張り方や動物の解体の仕方を覚えました。調理する料理もジビエが得意だったりします。その為獲物の素材部分をなるたけ傷つけずに倒し、解体も丁寧な為高品質な素材として高く買ってもらっています。ポップ狩り耐久では食べられる種類の悪魔の肉でバーベキューもしたりしていて、ついでに初心者用異界に出て来る各悪魔ごとの上手な解体の仕方を見つけ出し、過程の写真付きでこれまたレポートとして提出しましたが、ちょっと刺激が強く確認した人達の一部がしばらく肉が食えなくなってしまったのでガイドブックには乗せていなかったり。

・時間経過について
次話は悪魔召喚プログラムの存在が広まって少し後、漫画家天使人間さんがまだメシア教に捕まっていて、悪魔召喚プログラムの解析、研究が始まった辺りの時間軸です。

・前回言っていた週一死に掛け云々
時間経過しているのに死に掛けてなくね?とお思いの方もいるでしょうが実は今回の巫女さんこと博麗霊夢の面通しイベントがあるかどうかで世界線が大分分岐します。巫女さんとの敵対は余程アホなことしなければ大丈夫なのですが、折紙の正体を今話のタイミングで公開しなかった場合後々バレた場合は勿論自分達から公開した場合でもかなり面倒なことになってました。というか当初はその予定で執筆していたのに本家様の最新話で組織の正式立ち上げ前に既に巫女さんと面通ししていて正体は公開されている扱いにしてくれやがったお陰で本来辿るはずだった世界線が変わり、狩谷の幾つかの死亡フラグ&EDが事前に回避されやがりました。畜生(いいぞ、もっとやれ)!!・・・これもまた同世界観で作られる作品の醍醐味と言えるかも知れませんね。本編設定的にはそんなフラグやEDを知っている第三者が気を効かせた感じになっております。

「ふふ、今回はレアケースだからね。この世界線の"彼ら"にはまだまだ頑張って貰いたいものだよ」

それでは次の話もまたお楽しみ頂けるように努力いたします。


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第二章 転生の魔
三人目の幹部


いよいよ物語が動き出す第四話。新章一発目をお楽しみ下さい。


あっさり折紙の正体と神殺しのことがバレ色々と経緯をぶっちゃけてアズールをつれて帰ってしばらくは教会でのイリナ達との手合わせや小規模な異界を潰したりするくらいで割と平穏なスクールライフを送ってた・・・因みにアズールは俺達がネットで知り合い、日本に留学してきたので家にホームステイすることになった無口な少女と説明している。勿論折紙が多少の暗示を掛けてくれたのだがすぐに馴染む様子を見て両親が心配になったけど。

 

「どうだ、そろそろ高校にも慣れたか"ゼノヴィア"」

 

「ああ、狩谷とイリナのお陰で何とかやれているよ。クラスの皆も色々教えてくれるからな」

 

お昼休み。隣の席に座っているゼノヴィアに最近の様子を聞くと仲良くやれている様でよかった。そう、実はゼノヴィアとイリナが少し前にうちのクラスに転入した来たのだ・・・学校くらいはゆっくり日常を過ごせるだろうと思っていた俺は転校初日にこれからの苦労を想像して胃にダメージに受け保健室に運ばれたけど。

 

「なら良かったよ。そういえばイリナは?」

 

「さぁ?先ほどトイレに行ったっきりだ」

 

俺の後ろの席になったイリナは現在教室にいない。転校して来た日から中等部の折紙を交えて情報交換もしつつ4人でお弁当を食べるのが常だったんだが。

 

「あ、いたいた!!狩谷君、ゼノヴィアさっき枢木神父から連絡があったの!」

 

「神父ニキから?何だろう」

 

ゼノヴィアと共首を傾げるが取り敢えず話を聞こうと途中で中等部によって折紙と合流して屋上に向かった。

 

「ん、これでよしっと」

 

「遮音だけじゃなくて認識阻害の結界も張っている。余程重要な案件と見える」

 

「分かりますか?流石は折紙"様"です!」

 

「・・・」

 

折紙がやりずらそうだな。当然と言えば当然だが折紙の事情は既に教会組に伝わっている。それからというものも味方してくれる高位の天使が貴重と言うこともあって、こうして崇められているという訳だ。まぁ現状知っているのはイリナ達三人と神父ニキの部下であるテンプルナイトあとはメシア教と敵対するキリスト教各宗派の実力があるトップ達になる。因みに俺も同じように崇められそうになったのだが土下座してでもやめて貰った。俺は神殺しではあっても聖人ではないのです。

 

「それでイリナ、神父ニキは何だって?」

 

「あ、ごめんなさい」

 

えへへと笑うイリナだったがすぐに真面目な顔になると

 

「狩谷君!日本でエクスカリバーの一本を強奪した犯人が見つかったって!!」

 

「マジか!」

 

「何!?」

 

「・・・!」

 

俺も含めて三者三様の驚き方をしてしまう。そうか見つかったのか強奪犯

 

「やったじゃないか・・・まぁ多分奪い返すのが大変ってパターンだろうけど」

 

「そうなのよね・・・強奪犯はフリード・セルゼン、嘗て教会を裏切ったはぐれ神父よ」

 

「神父なのにはぐれとはこれ如何に?」

 

「メシア教ですら持て余し、破門された異端だ」

 

「え、マジで?どんだけヤバいんだよ・・・」

 

「剣技に秀でたエクソシストだったのだが何度も高難度の悪魔討伐に乗じて仲間であるエクソシストやシスターを手に掛けていてな。同行していたエクソシストの一人が自身の命と引き換えに教会に情報を送ったことで露見してな。その時は件の聖剣の所有交渉でゴタゴタしているところだったんだ」

 

「それで破門と合わせて強奪か・・・ん、でもおかしくないか?」

 

「私が言うのもあれだけどメシア教だと洗脳などいくらでも従わせる方法はあるはず」

 

「「「確かに」」」

 

詳しい説明は放課後教会でということらしい・・・何かあの教会が東京中野支部的な立ち位置に成ってないか?

 

 

「今回は集まってくれて感謝する」

 

「神父ニキお久しぶりです。横にいるのは前に聞いた造魔のナノハさんかな?」

 

「うん、よろしくね!」

 

「よろしく、でもってここまでは分かるけど・・・」

 

「初めまして狩谷さん、折紙さん。時崎狂三と申しますわ、周回ネキと言われていますわ」

 

「そうか貴女が幹部の・・・でもなぜ?」

 

「勿論説明させて頂きますわ」

 

                 ・・・周回ネキ説明中・・・

 

ふむふむなるほど。周回ネキはその名の通りこの世界と似通っているメガテン世界を周回している幹部である。その周回知識で非合法非人道的な実験を行っているメシア教会の施設を潰して回っている時にそこに出入りしているフリードを発見したと。

 

「分かたれたとはいえエクスカリバー、使い手もゲスとはいえ腕は確かと来れば私といえども万が一がありますので」

 

「特に今回の施設は他の施設よりも規模が大きくて警備レベルの高いということもありこちらにも援軍要請があったのだ」

 

「なるほど・・・お任せ下さい。聖剣は元々こちらの案件、しかもそちら【万神連合ネオベテル・ウルトラスープレックスホールド】の皆さんには日頃お世話になっていますので喜んでお手伝いしましょう」

 

「そうね【万神連合ネオベテル・ウルトラスープレックスホールド】の皆さんの中には私達に懐疑的な方もいますし、頑張って実績作らないとね」

 

「あらら、責任者は私なのだけど・・・確かにここで【万神連合ネオベテル・ウルトラスープレックスホールド】に役に立つことを示すことが大事よね。後々合流してくるはずの同志たちの身の振り方も変わりますでしょうし」

 

「・・・ありがとう」

 

神父ニキの顔が引きつる。【万神連合ネオベテル・ウルトラスープレックスホールド】・・・こんな合体事故としか言いようがない名前が【俺ら】の組織名である。その三連チャンにまだ慣れていない神父ニキはさぞ言いたいことがあるのだろう。因みにその様子から絶賛目を逸らしている俺と折紙はこの名前付いてとやかく言うつもりも権利もない。なぜって?それはな・・・

 

『お、等々組織名が決めるのか・・・って安価かよ大丈夫か?』

 

『神道的な意味もあるみたい。折角だからコテハンも元の名無しにして参加しない?』

 

『つまり匿名か、いいなやって見よう。俺は・・・【ジャッジメント】にするか』

 

『ふむ、ならば私はこれ』

 

『どれどれ、ぶふ!?お前これって何でだよww』

 

『プロレスは淑女の嗜みとクラスメイトが教えてくれた』

 

『誰だそいつは』

 

『ま、まぁいいか。それじゃタイミングを見て投稿だ』

 

『万が一私のが当たったら軽い祝福が掛かるようにしよう。多分ないとは思うけど』

 

俺達は悪意などなくイベント的なノリで軽い気持ちだったんだ・・・その結果

 

 

97:名無しの転生者

 

ジャッジメント

 

 

 

104:名無しの転生者

 

ウルトラスープレックスホールド

 

 

 

112:★名無しの巫女サマナー

 

はいここまで

 

組織名は【万神連合ネオベテル・ウルトラスープレックスホールド】に決定しました

 

 

『『( ゚Д゚)( ゚Д゚)』』

 

『『(;'∀')(/ω\)』』

 

『『・・・』』

 

『『\(^o^)/\(^o^)/』』

 

 

以上である。このことは兄妹だけの秘密として墓場まで持って行くことになるだろう。祝福の効果でネオベテル(略称)が作る天使型の造魔や浄化系のアイテムの生産効率や性能がちょっとだけ上がるらしいのでそれで如何にかして欲しい・・・。

 

「狩谷君達はどうするって目を逸らしてどうしたの?」

 

「「いや、何でもない。行くのはいつ(だ)?」」

 

我ら神木兄妹、義によって助太刀いたす(白目)!

 

「お、おう乗り気だなお前たち…作戦は次の日曜日だ」

 

真顔で言ったからか神父ニキに引かれたが些細な問題だ。それはそうと気になることもある。

 

「聖剣持ちが出入りしているからやっぱ研究もそれ関係?」

 

「いいえ、どうやらそのフリードという男はその施設を守護する任が与えられているようですわ」

 

「それほど重要なのか?というかフリードって破門されてなかったっけ?」

 

「正確には今回はメシア教の過激派の一部の暴走ですわ。もしかするとそこで繋がりを持ったのかも知れません。あるいは強奪そのものが過激派と示し合わせていたものだった可能性も…研究内容はこれですわ」

 

そう言って周回ネキは懐から何かを取り出した…こいつは

 

「「「「「チェスの駒?」」」」」

 

教会組と俺たち兄妹が揃って首を傾げる。

 

「ええ、これはただのチェスの駒ですわ。しかし本物は恐ろしい能力を持っていますの」

 

「人を悪魔に変える駒。通称悪魔の駒ですわ」

 

 

 

「思ったより人数が多いな。俺達以外にも援軍がいるのか」

 

「恐らく陽動が目的」

 

「なるほど」

 

約束の日。集合場所である施設近郊の森に向かったのだが俺達と神父ニキ達幹部以外のメンバーもどうやら援軍に来ているようだ。ここで今回のこちら側の戦力を確認しよう。流石に詳細は面倒なのでアナライズで見たレベルだけになる。因みに現行のアナライズ機器で図れる上限を超えている幹部達は自己申告の数値だ

 

幹部

【ペルソナ使い 時崎狂三 Lv45】

【神父 枢木朱雀 Lv35】

【造魔 ナノハ Lv33】

この方々が負けたら撤退以外の選択肢が消えるレベルの主力。

 

神父ニキ配下のテンプルナイト

 

騎士団長【覚醒者 ファナティオ・シンセシス・ツー Lv14】

団員は約20名、平均はLv7~9で団長以外にも二桁台は少数いる。団員の中でも戦闘経験が豊富な精鋭達が本作戦に参加する。あと団長さんは神父ニキにほの字だが全然気づかれていないらしい(とある団員からの情報提供)

 

教会組

【聖剣使い 紫藤イリナ Lv14】

【聖剣使い ゼノヴィア・クァルタ Lv15】

 

連携抜群な聖剣コンビでこちらのエクスカリバーの担い手達。因みにシスターワシリーサは俺達の街の守護で留守番だ…イリナ達曰く元凄腕のエクソシストで現在でもエクスカリバーを使ってもタイマンではまず勝てない、2対1で挑んでも勝率は2割から3割らしい…え、強くない?

 

神木家

【神殺し 神木狩谷 Lv19】

【覚醒者 神木折紙 Lv18】

【造魔 アズルニール Lv18】

【?? ????? Lv??】

 

転生者とその血肉から作られた造魔特有の高い成長速度で急速にレベルを上げている。そして実はもう一体仲魔が出来たのだが、見た目の関係上一般人に見られる訳にはいかないので施設強襲後俺が覚えたサバトマで参戦予定。折紙のレベルは真名封印による偽装だが天使の力を使わない人間の力のみだとこのくらい、天使の力を引き出すとレベルが大幅に上昇するが、それでも真名封印と脆い人間の身体な為天使時代の全盛期には遠く及ばない。

 

「いくら規模がデカいとは言えここまでの戦力なら問題なく攻略は可能…まだ不安なのか?」

 

「戦力としては十分なのは私も同意見…ただその施設で行われている研究の目的が不明瞭。悪魔に転生させて戦力に加えることが目的だと仮定しても戦力が欲しければ天使を召喚すればいい話で、上位の悪魔の力が欲しい場合でも暴走のリスクを考えると長時間の儀式の手間暇を考慮にいれても高位の天使召喚の方が確実」

 

「なるほど、リスクとリターンが見合ってないと。周回ネキも本当の目的は知らないみたいだったからな。何でもあの施設を過去の周回で落としたときと現在で研究の進み具合が大分違うらしい。トップと目される人物も違うようだし、最終目的が変化している可能性はあるな」

 

「そしてエクスカリバーもこの件については過去の周回で関わって来なかったと言っていた…前提条件がかなり違って来ている。クルミ本人も言っていたけど彼女の周回知識はあくまで参考に留めて置いて」

 

「何か有ったら臨機応変に対応ってことで行くとしよう」

 

色々懸念事項があるこの作戦に一抹の不安を覚えるが、放置は下策と分かっているので今のうちに処理するしかない。そんな俺達の様子を側に付いているアズールは心配そうに見つめるのだった。




読了ありがとうございます。今回から聖剣が色々絡み始めていきます・・・エクスカリバー争奪戦になりそうな予感・・・。

第四話時点での神木家

【神殺し 神木狩谷 Lv19】
ステータスタイプ:速・魔型
防御相性:破魔無効 呪殺耐性 火炎・氷結・電撃・衝撃耐性(加護により取得) 睡眠・混乱・魅了・幻惑・封技・毒耐性(加護により取得)
能動スキル:【貫通撃】【メギド】【スクカジャ】【???】【冥界破】【サバトマ】【???】【???】【???】
自動スキル:【武道の素養】【猛反撃】【物理無効】【???】【万能プレロマ(加護により取得)】【???】【???】【???】
汎用スキル・その他:【槍術】【格闘技】【剣術】【盾術】【無名天使の加護】【神殺し】【???】【???】【???】

・主人公はまだ劇中で言及されていないスキルなどは非公開で行こうと思っています・・・全部決まっていないからとかじゃないよ(棒)
・因みに容姿は黒髪黒目で長身。イメージとしては真女神転生Ⅱのザインの若くした容姿にしてより日本人風にした感じ。

【覚醒者 神木折紙 Lv18】
ステータスタイプ:魔型
防御相性:破魔無効 呪殺耐性 火炎・氷結・電撃・衝撃耐性
睡眠・混乱・魅了・幻惑・封技・毒耐性
能動スキル:【メギド】【マハンマ】【アナライズ】【ディアラマ】【タルカジャ】【マカカジャ】【コンセントレイト】【パトラ】【トラポート】
自動スキル:【万能プレロマ】【大魔脈】【勝利のチャクラ】
汎用スキル・その他:【格闘技】【剣術】【盾術】【無名の天使】【護符作成】【料理】【結界術】【変装術】

・このステータスは天使の力を引き出していない段階の力。元々持っていたスキルが弱体化して、一部発現している。中には人間となって初めて獲得したケースもある。
•トラポート
最近覚えたトラポートを使えば一定以上の霊地に跳ぶことが出来るので今話で判明した仲魔も一緒に来れるのだが、この施設の近くの霊地は街の真ん中だったりと一緒に転移出来ない。
・無名の天使
本来なら何らかの天使の役職や位の名称が入るのだが真名封印の効果で喪失しているのでこの名称になっている。現状では何の役にも立たないスキル

【造魔 アズルニール Lv18】
ステータスタイプ:魔・速型
防御相性:破魔耐性 呪殺耐性 氷結無効 電撃・衝撃耐性
睡眠・混乱・魅了・幻惑・封技・毒耐性(祝福で獲得)
能動スキル:【ブフ】【マハブフ】【ヤブサメショット】【マハザン】【ジオ】【テンタラフー】【ムド】【絶命剣】【テトラカーン】【ブフーラ】
自動スキル:【氷結プレロマ】【魔脈】【極・物理見切り】【龍眼】
汎用スキル・その他:【魔弾作製】【固有武装】【格闘技】【剣術】【銃技】【無名天使の祝福】【竜の因子】【擬似魂魄保護術式/■■■■の加護】【■■■■】

•まだ会話が出来ないお陰で影が薄い。しかし自我は芽生えて来ている。
・魔弾作製と固有武装
魔弾作製のスキルで魔法を弾として生み出し銃撃を可能にしている。試作機ということもあり様々な魔弾が作製出来るよう、様々な属性の攻撃魔法を獲得するように意図して作成された。固有武装はファフニールのこと。
•竜の因子
竜や蛇関係の悪魔が多く使われていている為に獲得した。竜の力を得やすくなるが竜殺しの力には弱くなる。因みにコアには雪の妖精が使われていて弱点だった氷結属性が無効になっている。
・無名天使の祝福
狩谷の身体の一部から生まれた為祝福にグレードが落ちるが一部状態異常耐性程度の恩恵を付与することが出来た。
・■■■■
現状不明。作成時にすでに獲得していた。条件を満たせば解放可能


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死戦・・・?

第五話です。今回の話はシリアスの予定でした。


作戦当日の日曜日の早朝。結界で覆われ隠され、守られて来たメシア教の悪魔の駒を研究する施設。朝を知らせるのはいつも通りの鶏の鳴き声…では無かった。

 

『パリン!!』

 

ガラスがけたたましく割れるかの如く結界が破壊された音が朝を知らせることになった。

 

「な、結界が!?何奴!!」

 

当直であった神父が叫ぶ。何故なら如何にも怪しい集団がこちらに向かってきているからだ。

 

「【万神連合ネオベテル・ウルトラスープレックスホールド】所属一神教カトリックの神父兼エクソシスト枢木朱雀である!ここが違法な人体実験を行っていることは分かっている。抵抗するなら配下であるテンプルナイツと共に力尽くでも制圧する」

 

「何?あのふざけた名前の組織か!?聖書のお言葉をも愚弄する異端者共め!者共賊が現れたぞ、であえであえーーー!!!」

 

ここだけ見ると割とまともなことを言ってそうな推定時代劇ファンの神父の呼びかけに答えるように、施設のエクソシスト達が飛び出してきて神父ニキ達の迎撃に当たったのだった。

 

 

「陽動成功」

 

「神父ニキとその配下のテンプルナイツ達がうちの一番大規模の戦力だからな。人数的な意味でだけど」

 

「こちらはこちらの仕事をこなすとしよう」

 

「そうね、折紙様結界の維持お願いしますね」

 

「分かっている」

 

神父ニキ達が地上で暴れる間に他の者達が本命である地下に侵入する今回の作戦。出だしは順調だ。陽動には引っかかってくれたし折紙が移動式認識阻害の結界を張ってくれているので見つかりにくい。

 

「では陽動が上手く言っているうち地下に参りましょう。私が案内しますわ」

 

周回知識を持つ周回ネキの先導の元俺達は建物内部に入ることとなった。

 

 

「まぁ流石にずっと隠蔽は無理か!!」

 

「建物内はメシア教のフィールド。レベルが高めの者が目視すれば破ることは可能」

 

「どのみち地下へ続くカードキーを持った信徒を探して倒すことが必要なので誤差の範囲ですわ」

 

そう言いながら敵が召喚したエンジェルの頭をアズールと共に撃ち抜く周回ネキ。因みにそのカードキーを持った奴の人相も分かるとか。周回知識様様である。ゼノヴィア達も擬態の聖剣で拘束してからの破壊の聖剣での一撃、というコンボを上手く決めている。そうして順調に探索を続けていたのだが

 

「ん、あれは・・・天使ではないな!」

 

「ガキ、オバリオン、ツキグモ、その他より取り見取り・・・周回ネキこれってもしかして」

 

「ええ、恐らくは悪魔の駒の実験体ですわね・・・折紙さんは大丈夫そうですがイリナさん、ゼノヴィアさん、狩谷さんは大丈夫ですの?」

 

「うん、死ぬのが救いなんて言いたくないけどこのままにはしておけないわ!」

 

「大丈夫だ。私達もエクソシスト、似たような状況は経験済みだが狩谷は行けるか?」

 

「あーうん、そうだな。確かに元が罪のない一般人と考えると思う所はあるし、恐らく後で吐くだろうけど。俺が同じ立場だったら楽にして欲しいと思うはずだからな」

 

槍を構える。もしも相手と同じ立場だったら、そんな前世のことから知っている相手を思う当たり前のことを今世ではよく考える。それは死からの転生と言うオカルトを経験したからか、転生したのがこんな世界だからか、あるいは前世からの後悔か。転生の際に失われなかった記憶の一部に思いを馳せながら元人間の悪魔を貫いていく・・・やっぱダメだな"敵"にも"獲物"にも分類できない相手を殺すのは想像通り気が滅入る。吐き気を未来に先送りにして迅速に処理をしていくと

 

「実験体を出しても止まらぬか!ならば致し方あるまい!!例え悪魔に堕ちても信仰は死なぬ!!グオオオオオオ!!!」

 

悪魔の駒を自分の身体に使用する神父も現れた。

 

「一番偉そうなやつが悪魔の駒を使いやがった!Lv23のツチグモか」

 

「あの駒はルークですわね。物理耐性、物理ブーストか物理プレロマを追加で獲得しますわ」

 

「流石は戦車ってか?周りの悪魔も多いが、範囲攻撃出来る奴も多し物理耐性も貫通や魔法で攻めれば問題ない。周回ネキもいるし悪足掻きだな」

 

「ああ、切り払うぞ!!」

 

神父の一人が悪魔化しようともこの戦力を止められる程ではない・・・のだが。

 

「・・・妙だな。曲がりなりにも防衛部隊を指揮していた奴がこんな無駄な事をするのか?」

 

「妙って?」

 

「ああ、信仰は兎も角あいつの指揮はまともだった。コントロール出来ない実験体を壁や攪乱の鉄砲玉にして、仲間や天使で攻める・・・そんな戦局を見れる奴がこんな無駄な手を打つのか?」

 

「何か考えがあるってこと?でももうゼノヴィアが止めを刺すみたいだし」

 

確かにもう虫の息のツチグモに止め刺そうとゼノヴィアが破壊の聖剣を振り上げ・・・て?

 

違和感を感じたのは偶然だったのだろう。或いは前世での経験か、ツチグモの顔がまるで怪しく笑う様に見えたのだ。

 

「っ!?ゼノヴィア!!」

 

「な、狩谷!?」

 

幸いまだ効果が続いていたスクカジャの効果もありギリギリのところでゼノヴィアを突き飛ばせた。

 

「って糸だと!?」

 

ゼノヴィアを庇って受けた攻撃だったが如何やら糸を使った拘束らしい、だが俺には緊縛耐性もあるので大丈夫・・・とか思っていたら

 

「あくまで片腕に巻き付けるだけに留めただと!」

 

緊縛耐性は複雑な拘束方法なほどその効果は発揮される。それを見越してごく一部に限定することで耐性を超えてきたか。だがこれだけでは意味があるようには?

 

「く、聖剣使いを捕えたかったがこの際贅沢は言わん!共にあの世に行こうぞ!」

 

ツチグモはそう叫ぶと最後の力を振り絞った【バウンスクロー】を放つ!・・・地面に

 

「へ?」

 

当然の如く地面のコンクリは割れるのだが・・・あれ?

 

「空・・・洞?」

 

「「「「え?」」」」

 

呆気に取られているとツチグモと共に空洞に落ちていく

 

「ちょー----!?!?」

 

 

「は!?死んだかと思った!!」

 

気が付くと瓦礫やツチグモと一緒に施設の地下に叩き落とされていた。ツチグモは・・・物理耐性持ちとはいえ死んでいるか・・・

 

「ふぅ物理無効が無かったら死んでたな。結果的にだがゼノヴィアをかばったのが俺で良かった」

 

おっと行けない地上と連絡…あれ?

 

「携帯は仕方ないとして、術式対策のある無線や折紙との念話も繋がらない…何でだ?」

 

小首を傾げて、取り敢えず周りを見渡して確認すると

 

「これは…おお!?やっぱりポーンからクィーンまでの悪魔の駒一式じゃないか!」

 

周回ネキが辿ったルートでは王の駒は結局完成しなかったとのこと。この世界ではどうだかは分からないが流石に今はまだ開発出来ていないはずなのでこれで一式となる。その一式が入った小箱を見つけたのだ

 

「あれ?でも何でこんな地下に置いてあるんだ?…あ、そうか確か一番重要な施設や機材は地下にあるとか言ってたっけ…とすると?」

 

「とすると当然そこを守る最大戦力と戦うことになる。といったところかね?」

 

落ちた部屋の先の通路から一人の男の声が聞こえた。その瞬間俺はそちらに振り向くのではなく真後ろを槍で薙ぎ払う。ガキン!!と金属音が鳴ると神父服の男が最近いい加減見慣れてきた聖剣で切りかかって来ていた。

 

「ありゃ?運は悪くても感は鋭いんですねぇ!!」

 

先程の男と違いやたらとテンションが高いな。通路からその男も出て来たが神父服を来た初老の男性だった。

 

「危ない危ない・・・じいさんがここのトップであるバルパー・ガリレイ神父、そしてそちらは・・・エクスカリバーを持っている所からフリード・セルゼンか?」

 

【覚醒者 バルパー・ガリレイ Lv20】

 

【聖剣使い フリード・セルゼン Lv23】

 

「如何にも」

 

「おー俺ちゃんも有名人になりましたなぁ!」

 

「悪名だけどな」

 

「そうであろうな」

 

「悪名も名声ってことで!」

 

「さて、初めましての談笑もそろそろ良いだろう。それにここに来た以上命を取られる覚悟もして来ているだろう」

 

待ってましたとばかりにフリードは聖剣を構えて戦闘態勢に入っている。こちらも槍を構えるが、一応聞いて見るか。

 

「その前に一つ聞いていいか?」

 

「なんだね?」

 

「悪魔の駒を作る理由は何だ?メシア教は悪魔を量産でもする気か?」

 

「いいや?私の目的は違う、それに悪魔化はあくまで研究の途中過程だ」

 

「過程だと?」

 

「そうです!バルパーのじいさんの目的は聖剣でさぁ!」

 

「聖剣?え、悪魔と関係あるの?」

 

「元々私は聖剣の研究をしていてね。確か君の仲間にも聖剣使いがいただろ?聖剣の因子を体内に宿している人間が聖剣を扱えるが個々人でその量、質は違っていてね、そこで私は足りない分を補うために他者から因子を取り出す研究を進めていたんだ。結果は成功、実際他宗派でも同様な事をやるまでになった」

 

他の宗派、ということはイリナ達も同じ方法で聖剣使いになったのだろうか?だが他宗派でも採用されているとなると言うほど外道ではないのか?

 

「まぁうちは取り出す人間をぶち殺してから因子を取るんですけどね?その方が効率がいいんすよ!」

 

「やっぱりメシア教はメシア教だなオイ!」

 

「ただそれでも私の夢には・・・聖剣使いになるという夢は叶わなかった。私はその因子を受け付けない先天性的な欠陥があったのだ。聖剣使いは産み出せても自分は成れないなど皮肉が効いているだろ?」

 

こいつは生まれながらの体質で歪んだということか・・・しかし悪魔化とどう関係するんだ?

 

「「それが悪魔化と関係があるのか?」という顔だね?勿論あるとも!私がここで研究していたのは天使化なのだから」

 

「は!?」

 

「何でも古今東西悪魔に堕ちた人間の話はあるじゃないですか?でも逆に天使に昇格する例はとびっきりのレアケースな訳でございまして、なら先に比較的に簡単な悪魔化する方法を見つければ天使化の足掛かりになるという訳でございますよ」

 

「悪魔とは天使の対極にあるもの、それ故に分かり易いと言える。種族を超えて転生する方法が確立されれば悪魔化させる術式の対極を研究すればいいだけのこと!!そしてあの方はおっしゃった!!聖剣の因子とは純粋な聖のエネルギーで出来ている!ならば!天使に至れば聖剣が使えるようになるのは必然!!!」

 

「まさか…それだけの為に関係ない一般人達を?」

 

「大義の為の犠牲と言う事だ。それに研究が実った暁には聖剣を携えた天使が量産できよう。そうすればより多くの者達を救えるというもの」

 

「・・・フリード、アンタは?」

 

「俺様がエクスカリバーを強奪するように頼んだのがバルパーじいさんでしてね、何でもエクスカリバーを集めて統合するとか言われてね!因子を貰って聖剣使いにもしてもらっちゃってそれを振えるっていう取引があったのよ!」

 

「つまりメシア教じゃなくてバルパー個人についているのか」

 

聞いていた通りメシア教内での独断専行と言う奴なのだろうか?あの方というのが気になるが一体誰の事だ?

 

「さて、おしゃべりもここまでで良いかね?フリード私は戻って選別した個体に天使化を促す。お前はあいつを始末しておけ」

 

「アイアイサー!!!おら出てこい天使共!!」

 

バルパーが去り、フリードが叫ぶと召喚陣が展開。そこから新たな天使が二体現れた

 

【天使 アークエンジェル Lv18】

 

「ほぼ同格の天使が二体、格上のエクスカリバー持ちが一人。しかも天使化実験の時間制限付きか!」

 

「3対1でどう立ち回りますか?お兄さんよ!!」

 

「・・・そうだな、まずは1対1、2対1にするかな!!サバトマ!」

 

こんな時に為に取って置いた【サバトマ】も使い仲魔を一体こちらに呼び寄せる。同じ戦場の地域にいる為アズールは呼べないがこの場面で適任の仲魔は別にいる。

 

「来い、スパルトイ!!」

 

「漸く出番か、待っていたぞ」

 

【闘鬼 スパルトイ Lv17】

 

スパルトイ、嘗て異界攻略で遭遇し決闘形式で戦い勝利することで仲魔にした悪魔だ。竜に関係する悪魔故か以外に俺との相性は良かったりする。

 

「ほう、まだ手駒がいてやがりましたか!」

 

「手を隠してる奴はお前らだけじゃないってことだ!スパルトイ、アークエンジェルを一体頼む!!」

 

「承知!」

 

「ぬう!?」

 

俺の命令を聞いたスパルトイは【タルカジャ】を自分と俺に掛けると【突撃】でアークエンジェルの一体に突進し、部屋の外壁を突き破って消えて行った。

 

「正直格上と単独で戦いたくはないんだが生き残る為には、やるしかないみたいだな!!」

 

自身に【スクカジャ】を掛けると下種な笑いを浮かべるフリードと腐れ天使に突貫していくのだった!!

 

                    十数分後

 

「どうしたお兄さん!その程度かよ!!」

 

「ちょっと早すぎ!!!」

 

絶賛旗色が悪い劣勢状態です。まぁうん、何となく分かってた。だってあれだもんアイツ持ってるエクスカリバー、外見特徴的に使用者のスピードを底上げする天閃の聖剣だもん。ただでさえ格上なのに唯一通用する機動力でも負けるとか勝てる訳ないだろが!?え、それじゃなんで今も戦ってられるのか?それは唯の相性のお陰である。

 

「ち、物理無効とテトラカーンがうぜぇんだよ!!」

 

「いや、これ無かったら死ぬんだけど!?」

 

そう、実はあのイカレ神父と天使は俺の【物理無効】を突破する手段がないのである。あいつらは攻撃魔法がハマ以外使えない様で、こちらの攻撃は物理魔法共に当たらない、あっちの攻撃は効かないと現状千日手状態だ。あ、因みにアークエンジェルはいつの間にか戦闘の余波で死んでた。

 

とはいえこちらには制限時間がある以上不利なのは断然俺である。どうしたもんかと聖剣の一撃を盾代わりの左腕で受け止め槍を突き出し【貫通撃】を放つが素早く離脱したフリードには当たらない・・・え、どうすんのこれ?【テトラカーン】はあるけどタイミングを毎回合わせられないしな。

ぴょんぴょん跳ねるあいつを捕まえる・・・跳ねる?

 

「やって見るか?」

 

思い付いたら早速行動。自身の足元にテトラカーンを展開、そして足から冥界破を発動してその衝撃を反射しその勢いに任せて槍を構えて突進する。

 

「は!?」

 

フリードの不意は突けたがコントロールが上手くいかず肩を切りつける程度で壁に衝突する。

 

「よし、行ける」

 

「いやいや、何やってのオタクは!?全然コントロール出来てねぇですよ!?」

 

「跳ね返る攻撃も壁への激突も物理無効で無効化出来るから戦いながら調整するわ」

 

「嘘!?」

 

そのままミサイルの如く突撃、衝突をしまくると段々と簡単な高速機動なら出来てきた。このまま行って見よう。

 

「いや簡単な高速機動って何!?グホ!」

 

「あ、届いた」

 

 

「ふむ派手に戦っているようだな。存外粘る」

 

この実験室外の戦闘音の激しさから神木狩谷の戦闘能力の評価を上げながら準備に時間は掛かったが、ようやっと天使化を行う実験に入る。バルパーは目の前で仰々しい機械に裸で拘束されている女性を見て笑みを浮かべる。勿論その目や笑みには恋愛や性欲などといったものは存在しない、あるのは研究者らしい渇望と欲望だけである。

 

「これより実験体No.2:シスターこと本条二亜の天使化実験を行う…分霊とはいえ大天使様と融合実験の成功例である君ならきっと良き天使に成れるだろう」

 

本当なら真っ先に自身で試したいのだが、この施設の研究者、職員、実験体の中では霊的素質や先の実験のこともあって一番可能性が高いのはどう考えても彼女だ。ましてやバルパーの身体には特異体質という名の先天性的な欠陥がある。その体質に適した調整を行う為にも一度他者で試しデータを取る必要があった。彼女の才能をバルパーは一瞬羨ましくなったがすぐに頭を振って雑念を振り払い、懐からスペードのエースの絵柄が描かれた一枚のトランプを取り出す。これこそが悪魔の駒のデータを元に先日漸く1枚だけ作成することに成功した通称『天使のトランプ』だ。尚当たり前のように転生後反抗されない為に洗脳効果も内蔵されているのは流石はメシア教と行った所か。

 

「さぁ転生の時だ!」

 

トランプを掲げ二亜の身体に触れさせようと手を動かす。この時ばかりは先程思っていた嫉妬も霧散する研究者にとって長年の実験の成果が実る時は善悪関係なく歓喜に震える至福の時なのだ…だからこそそれなりのレベルであるはずのバルパーは気づけない、今まさに人間ミサイルとなった狩谷がフリードを盛大に巻き込みながらこの部屋に突入して来ることなど気づけるはずもましてや予想出来るはずもなかったのだ。

 

ドゴーーーン!!!

 

「な!?」

 

派手な破砕音を響かせて壁をぶち壊し、狩谷とフリードが実験室飛び込んでくいる。フリードは槍で穿たれる寸前にギリギリで致命傷を逃れるように身体を捻った為壁を突き破った衝撃で穂先から外れ更に別の壁にぶつかっていった。狩谷は勢いを殺すこと無く直線に飛んでいて、バルパーが掲げていた手を"掠める"ように通り過ぎてこれまた別の壁に衝突した。

 

「あ、ぐ…糞槍使いが!やってくれるじゃーないの!?」

 

「まだ喋れるのか、すごいな。ってこの女性は実験体か!」

 

フリードは持ち前のタフさでまだ喋るだけの余裕はあるようだが流石にすぐには起き上がれないようで、瓦礫を押しのけるだけに留まるが無傷の狩谷はすぐに立ち上がってフリードのタフさに呆れながら周囲を確認し、先程すれ違い尻餅をついているバルパーと実験体と思われる拘束された女性を確認する。

 

「救出は後だな。バルパー、フリード共々まずはお前を倒してから!……あれ?」

 

「じ、じいさん?」

 

啖呵を切っていざ戦闘再開、と思っていたが何故かバルパーが呆然とした様子で一点を見つめている。俺は勿論上半身を起き上がらせたフリードも揃って困惑しているとその視線が槍に向けられていることに気づき、自分達も槍を見る。先程の人間ミサイルで負担を掛けてしまったが、貫通撃も発動させているので物理的な耐性を無視出来ていたのである程度負担や消耗を減らせただろう。そして穂先の方も刃毀れとかも無く、穂先にトランプのカードが真ん中からぶっ刺さってるだけである……。

 

「「あ」」

 

それを認識した瞬間そのトランプの概要を知るフリードと知らない狩谷は理由違えどバルパーと同じように唖然とする。

 

「あ、ああ…あああああああーーーーー!?!?!?」

 

突拍子の無いバカの思いつきのお陰で、バルパーの夢と研究はそれを活かす直前のタイミングで本人の目の前で槍に貫かれ絶叫と共にものの見事に砕け散ったのだった。

 

「どういう状況だこれは…」

 

因みにアークエンジェルを倒し、その一連の流れを見ていたスパルトイも同じく後方から唖然としていた。




読了ありがとうございます。いや、うん何で自分はシリアスで行こうと思ったのに終盤辺りでギャク方面に走るんだろう…元々シリアス描写が苦手ということもあるんだろうけど。

闘鬼 スパルトイ
小規模の異界を潰していたときに出会った武闘派の悪魔。純粋な剣術では狩谷より上。ただ待機場所に困った狩谷が、一旦スパルトイの装備を外して『通っていた小学校の骨格標本が破棄されることになったけど思い出があるから貰って来た』というバレバレの作り話を両親があっさり信じ、狩谷と折紙の部屋に置物として置かれることになった時から仲魔一番の苦労人ポジションが決まった。今回もアークエンジェルを倒して意気揚々と戻ってきたら契約者がミサイルの如く敵ごと壁に衝突する謎の光景を見せられSAN値が減って骨格標本の時と同じように唖然とした可愛そうな戦士。因みに今回担当したアークエンジェルはアギを使える個体だったので何気にファインプレーをしていたりもする。

人間ミサイル(仮)
シリアスな描写の表現で四苦八苦していた時に息抜きでワールドトリガーを視聴していたら登場人物達が使うトリガーの一つ、グラスホッパーの物理を跳ねかす特性を「あ、何かテトラカーンと似てるな」と思ってしまったが故に考えついてしまったバグ技。こいつを思いついたせいでシリアスが壊れた。因みに【物理反射】では互いに攻撃が跳ね返り飛ぶことは出来ない為【物理無効】持ちだったからこそ出来る技になっている。

ツチグモ神父
多分今回一番頑張った人。元々武闘派だが勝てないと悟や否や自身の命すら捨て、替えの利かない人材一人を道連れにすることにのみに注力した覚悟ガンギマリの方で地下に落としたのも例え落下で生き残っても一人なら地下施設の戦力で十分倒せると計算してのこと。一番替えの利かない周回ネキを狙わなかったのは隙きがそもそもなかったのと、例え地下に落としても逆に地下施設の戦力を壊滅させる危険性があると長年の経験から来る直感で感じ取り、候補から外していた為。聖剣使いが良かったと言っていたのは上司であるバルパーがエクスカリバーに執着し、集めていたこともあり世話になった礼として最後の置き土産にしようとしたからだったりする。


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ボス戦が終わったと思ったら負けイベント的なボス戦が始まって今にも死にそうなんだがどうすればいい?

第六話です・・・ついつい長く書いてしまった!2話でいいだろこれ

※本条二亜の存在忘れてた!?多少描写を増やしました。


「・・・あちゃー」

 

「えーと・・・何かごめん」

 

瓦礫から這い出て来てフリードは頭に手を置いて、狩谷も穂先に刺さったトランプを見ながら何処となく申し訳なさそうにする。

 

「おお・・・!!」

 

「やっぱこれ大事なもんなん?」

 

「さっき言ってた研究成果の今のとこ唯一の成功例っすね」

 

「あ(察し)」

 

項垂れているバルパーを見ていると物が物なので壊したことに後悔はあるはずもないが、それにしたってせめてもうちょっとちゃんとした壊し方があるというものだろう。

 

「・・・フリード」

 

「はいにゃ?」

 

「殺せ、その男を、殺せー--!!!!!」

 

血走った目でバルパーが叫び声を上げる。

 

「ぶちぎれた!?」

 

「はいにゃ!って言いたい所なんですけど」

 

「そうはさせんよ」

 

あ、スパルトイ!戻って来たんだな、気づかなかったよ。

 

「その顔気づいていなかったな?」

 

「いやー、そのほれ、さぁ戦おうぜ!!・・・あれ、お前聖剣は?」

 

目を逸らしながら露骨に話題を変えようとするが

 

「ここに飛び込んだときにいつの間にかなくなってまして!」

 

「「「はぁ!?」」」

 

マジでか!?思わずバルパー、スパルトイと共に驚いてしまうだが確かに辺りを見渡しても確かに欠片もその姿がない。

 

「く、使えん!だが私とお前が組めば問題はあるまい」

 

「ま、そうっすね。バルパーのじいさんは魔法攻撃手段豊富だし?・・・まぁちと遅かったみたいですがね!」

 

と言うや否やバルパーを抱え上げ逃走を図った・・・はい!?

 

「おい、お前何逃げてんじゃコラ!!」

 

「フリード!?」

 

「流石に援軍があったら厳しそうなんでね!」

 

「援軍だと?」

 

え、援軍?と首を傾げているとまだ壊されていなかった壁が破砕音を響かせる。

 

「おお、いたぞイリナ!」

 

「うん、狩谷君ー!ってフリード・セルゼン、バルパー・ガリレイ!」

 

「ゼノヴィアとイリナか!援軍ありがとよ!」

 

「やっぱりいらっしゃいましたか!聖剣の気配で分かってましてよ?本当なら組み伏せて楽しんだあと切り刻むんですけど流石に獲物がない中で数的不利、エクスカリバー持ち二人のお相手はごめんでっせ!あとのことはあの方に任せるとして、撤退する詫びに置き土産をどーぞ!」

 

あ、あいつ撤退のついで天使を大量に召喚しやがった!!低レベルのエンジェル共だが数が多いわ!三桁くらいいない?

 

「どうせ逃げるからと大判ぶるまいか!」

 

「数は多いがそれだけだ!一気にいくぞ、【チャージ】からの【冥界破】!」

 

「了解!あんな天使擬きの悪魔切り刻んでやるわ!!」

 

「あ、お前達もそういう認識なのね?」

 

「人間とは単純なものよ」

 

取り敢えず数を減らす為に俺は【冥界破】と【メギド】、ゼノヴィアは【金剛発破】、イリナは【バインドクロー】、スパルトイも【突撃】での突進で複数人を巻き込む様に動いてくれている。

 

「毎度思うがエクスカリバーズルくねぇ?」

 

「破壊の聖剣は持っているだけで貫通と物理プレロマを付加させ加えて本人がその2つのスキルを持っていた場合効果が重複する。擬態の聖剣はその変幻自在な刃や擬態能力など使い手の技量しだいで化けるか、確かに霊装としては破格だな」

 

「俺も何も聖槍、魔槍とか贅沢は言わないけどもうちょい上位の槍が欲しい」

 

「ネオベテルも上位の武器型霊装は剣が多いようだからな。羨ましいか?」

 

「多少はな。だがあいつらもそんな聖剣に見合うように努力はしているさ、性格はちょっとズレてるけど」

 

「…ズレているのはあの二人だけでは無いと思うがな」

 

スパルトイと多少の愚痴を言い合う余裕もあり、また四人とも増援への警戒も忘れていなかった…ただ。

 

「ほう、あの量のエンジェル達を全滅させましたか。聖剣を紛失したとはいえバルパー神父達が撤退を決める訳ですね」

 

「な…に?」

 

ただその増援が、想定していた格上どころの騒ぎではなかった。というだけの話だ

 

突如現れた一体の天使に俺達四人の目は釘付けになる。教会組は別物と割り切っているとは言え信仰対象である神に親しい存在であったが故に、スパルトイは戦士としての直感で感じた力量差に、俺はなぜお前がここにいるのだという驚愕に支配され身体を動かせなかった。

 

「お見事でした人の子とその仲魔よ…その褒美です。せめて苦しまず滅して上げましょう」

 

忌々しいという気持ちを微笑みで隠し、黒い羽を広げた"大天使"マンセマットは己のオーラを攻撃的なオーラに変えていく。

 

「「!!」」

 

その言葉を聞いて真っ先に動いたのはスパルトイ、戦士としての本能が即座に天使と俺達三人の間に割り込み【ラクカジャ】を全員に掛けて盾を構える。やや遅れて他の二人と違い一神教を信仰していない狩谷も動く。ゼノヴィア、イリナの前に立ち【マカラカーン】をスパルトイの前に貼ると二人を守るために受けの体勢を整える。

 

「【マハザインダイン】」

 

あのぺ天使が両手から放つハリケーンに匹敵する暴風、一発目は【マカラカーン】によって反射するが向こうの耐性も反射なため対消滅。しかしもう片方の手から生まれた二発目のハリケーンは耐えなければならない。その暴風にスパルトイと耐性を持つ狩谷が抵抗体となり威力を幾分か削ぐが完全には殺しきれずゼノヴィアとイリナにも襲い掛かかっていく。

 

 

私はつくづく恵まれている人間だと思う。

 

両親を早くに無くし教会で育てられた身だが親代わりになってくれる方とも出会え、恩返しと信仰の為にエクソシストになったがイリナとは違い稀な"生まれながら"の聖剣を扱えるほどの因子に恵まれ破壊の聖剣ともう一振りの聖剣を授かり、イリナと言う頼りになる相棒にも巡り合えた。メシア教の勢力に押されイリナの故郷に身を寄せることになったが・・・ここでも私は人の縁に恵まれた。神木兄妹と出会い特にイリナの幼馴染である狩谷には公私共々助けられたな。

 

『狩谷、イリナこの漢字はどう書くのだ?』

 

『外国人には難しいものね。ここはこう書くの!』

 

『いや、イリナお前書き順間違えてるぞ。正しくはこうだ』

 

『え、嘘!?』

 

 

『学校でも裏の活動が出来るように部活を立ち上げるべきだと思うの!』

 

『おお、イリナにしてはまともな提案』

 

『それどういう意味よ!?』

 

『部活の目的はどうする?』

 

『主な仕事は学内のボランティア活動ね。色々な所を回れるでしょう?』

 

『ふむふむ、因みに部活名は?』

 

『良くぞ聞いてくれました!私達の部活の名前は『紫藤イリナの愛の救済クラブ』よ!』

 

『え?』

 

『む、イリナそれではダメだぞ』

 

『・・・は!?ゼノヴィア、やっぱお前まと『『紫藤イリナ、ゼノヴィア・クァルタ、神木狩谷、神木折紙の愛の救済クラブ』にしなくては!』も・・・』

 

『あ、そっか!』

 

『あ、そっかじゃねー----!!!!』

 

学生生活など初めてだったから色々迷惑も掛けただろうが、それでも一度は殺し合った私達と友人になってくれたことには感謝している。だからこそ

 

「・・・ん、ぐ!」

 

だからこそ、今、立ち上がらなければ!

 

「い、イリナ!」

 

「まだ大丈夫・・・二人は!?」

 

私達が正面を見ると悠然と佇むマンセマットが見下ろしている場所に二人はいた。私達の文字通りの盾になったスパルトイは前のめりに倒れてピクリとも動かない。しかし消滅する様子が見えないことから【食いしばり】で九死に一生を得たようだ。二つのハリケーンのうち片方を反射した狩谷はスパルトイの盾と持ち前の耐性のお陰で片膝をついているが、意識は辛うじてあるようだ。

 

「ほう、耐えて見せましたか。素直に称賛を送りましょう」

 

「よく・・・言う。そもそも今のお前は劣化分霊だろ?大天使が今程度のGPで現界出来る訳がない」

 

「ええ、本来の私なら全員纏めて今ので終わっていたでしょうね」

 

まるで私達のことはものの数に入っていないかの様に扱われている。無理もないと思う。先ほど私達は動けなかった。大天使の気配と威圧だけで動けなくなってしまった私達など警戒する必要もない。あの大天使にはエクスカリバーの欠片だけでは足りない、周りを巻き込む可能性、暴走などの危険性を一旦忘却し覚悟を決める。

 

「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウ、そして聖母マリアよ」

 

「っ!!やるのねゼノヴィア」

 

聖言紡ぐ私を守るようにイリナが前に出る。あの大天使はありがたいことにまだこちらに興味を持っていない。いや、狩谷は何かする気だと気づいて話を長引かせているのか

 

「我が声に耳を傾けてくれ!」

 

マンセマットが私を見て訝しむ、流石に怪しまれて来たようだ。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において我は解放する!」

 

手元の空間が歪むそこに躊躇いなく手を入れる。何かする気だと漸く気づいたマンセマットは再び魔法を放つ構えを取るが

 

「やらせないわよ!!」

 

イリナの擬態の聖剣が魔法を放つ手を一時的に拘束して時間を稼いでくれる。そして私は歪みの先にある二本目の聖剣を手に取り引き抜いた!

 

「デュランダル!!」

 

 

その剣の刀身は青く、刃は黄金に染まっている。その力はエクスカリバーの欠片程度軽く凌ぐ数少ない上位聖剣の一振り。

 

「デュランダルだと!?」

 

あのぺ天使の声が響く。以前からゼノヴィアが持つ切り札の存在は知っていたがまさかかのシャルルマーニュ十二勇士伝説に連なる英雄が持っていた聖剣だったとは思わなかった。

 

「これが私の、いやカトリック教の数少ない切り札の一つさ」

 

「・・・かっこいいじゃないの」

 

「ありがとう、さて反撃と行こうか」

 

笑顔で礼を言いながら俺のすぐ隣に陣取るゼノヴィア。聖剣の二刀流は実に様になっていた。

 

「バルパー神父の研究ではデュランダルを使える領域まで達していなかったはず・・・まさか」

 

「ああ、私は生まれつきの聖剣使いだ」

 

「やはりそうですか、残念です。我が主に祝福されこの世に生を受けたあなたが私達と主の敵になるとは」

 

「生憎だが私が崇める神とそちらの神は別物だ。少なくともこんなバカげたことをする天使を容認するような神はな」

 

「おー辛辣」

 

「いいいでしょう・・・たかが人間の分際でこの私を愚弄したことを後悔させてあげましょう!」

 

そこで神では無く自分のことが先に出る辺り程度が知れるのだが、イリナの拘束を無理やり破り再び二連【マハザインダイン】を放つ。しかしゼノヴィアは微塵も慌てず

 

「狩谷、片方を頼む」

 

「了解、【マカラカーン】!」

 

片方を【マカラカーン】で反射するとゼノヴィアはデュランダルで一閃、魔法を切り裂き無効化してしまった。

 

「いや、何でもありかよ!?」

 

「まだ未熟な私でもこれくらいは出来るさ」

 

「な!?・・・ですがいくら強力な聖剣でも力量差を覆せるほどではない!」

 

「そうだな、さっきアナライズ機材で測って見たら壊れたから最低でもレベル40代はあるぞ?」

 

「なに、手はあるさ。イリナ!」

 

「分かったわ!」

 

イリナはその声に答えるように擬態の聖剣を掲げ、ゼノヴィアもデュランダルと破壊の聖剣を掲げる。するとまるで三本の聖剣が互いに共鳴して力を増幅させている。

 

「聖剣の共鳴現象!?これが狙いか、舐めるな人間風情が!!!」

 

そう吠えるとマンセマットは即座に結界を張る。おそらくだが【貫通】の力を持っているだろうデュランダルの攻撃を防ぐのではなく逸らす為の結界のようだ。

 

「面白い、デュランダル!!」

 

元の大きさから数倍大きくなったデュランダルを振り下ろし、光の斬撃がマンセマットに叩きつける。結界の攻撃を逸らす力と拮抗する斬撃、しかしその均衡はすぐにでも崩れ去る。

 

「私達も!!」

 

「ブチかませゼノヴィア!!」

 

デュランダルの柄を駆けよって来た俺とイリナがゼノヴィアと共に握る。同じ聖剣使いであるイリナが柄を握ったからかデュランダルの出力が上昇し、結界に食い込んでいく。

 

「よし来た!!」

 

「行けるわよゼノヴィア!」

 

「ああ、行くぞ!!」

 

「ぐうう、人間ごときに!!「ならば人間でなければいいのか?」な、お前は!?」

 

地面に両足で踏ん張っているマンセマットを嘲笑うように動き出したスパルトイが【暗夜剣】による二連撃を同じ足の同じ場所に寸分の狂い無く叩きつけ身体のバランスを崩させた。

 

「しまっ!?」

 

「「「うおおおおー-----!!!!」」」

 

チャンスとばかりに三人沿って声を張り上げて結界をマンセマットの左腕ごと切り裂き、勢いを其のままに光の斬撃は天井に大穴を開ける。

 

「があああ!?」

 

「如何にか一矢は報いたか」

 

「あれ、でもこのあとどうすんのこれ?流石にさっきの一撃もう一発は無理だぞ?」

 

マンセマットは左腕を切り落とされて重傷だがまだ戦える様に見える。

 

「大丈夫!別に倒す為に攻撃したわけじゃないから!」

 

「ああ、大きい破砕音でここの位置を知らせるのと・・・マンセマットがこの地下に行使していた通信阻害の様な結界を破壊するのが目的だ」

 

「おーなるほど・・・ということは」

 

「ええ、あの方が真っ先に来るでしょうね!」

 

「ああ、確かにな」

 

「あの方・・・だと?」

 

痛みにも慣れたのか憤怒の表情を隠さないマンセマットが今の会話の疑問を口にする。それに応えようとしてやめた。もう意味のないことだ。

 

「・・・悪い心配かけた」

 

まるで誰かと会話しているかの様に独り言を呟く俺にマンセマットは眉を顰めるが

 

「迷惑を掛けるのはいい、家族だから。でも心配はさせないで」

 

凛とした声が部屋を響かせる。その声と気配に含まれる聖なる力にハっとしてマンセマットが顔を上に向ける。そこには神々しいオーラを纏いまるで天から降りて来るかの様に大穴から純白のドレスの霊装と羽をはためかせ地上に舞い降りる我が義妹の姿があった。

 

「ほう、それが天使の力を引き出した状態か・・・綺麗だな」

 

「ありがとう」

 

何処となく嬉しそうに笑顔を浮かべて誉め言葉を受け取ると再び固まっている教会コンビとスパルトイの方を向いて

 

「皆ありがとう。お陰でカリヤを見つけられた。あとは任せて」

 

手を掲げると俺とイリナ、ゼノヴィア、スパルトイの真下に【トラポート】の魔法陣が展開され転移が始まる。

 

「全員、これで地上に帰って」

 

「な、行き成りですか!?」

 

「あ、ちょ折紙様!!」

 

「・・・他の者達は?」

 

「地下に一緒に来た人たちは実験の生存者と共に先に【トラポート】で地上に戻している。そこの女性もお願い」

 

「え、あ、はい!」

慌てている二人を他所に折紙はスパルトイの疑問に答え、実験体の女性を拘束する機械を指パッチンで破壊するとふわりと身体を浮かせて引き寄せ、イリナに預けると俺に再び顔を向けて来た。

 

「ここは任せて」

 

「おう、こっちは任せな」

 

その会話を最後に俺達はこの施設の地下から掻き消えた。

 

 

カリヤ達が無事転移したことを確認し、視線をあのゴミに向ける。

 

「な、な・・・なぜあなたが!!」

 

「流石にこの状態だと近しい立場の大天使なら気づくか。私の件は四大天使から聞いているはず、いや聞いていたのを"思い出した"が正確」

 

「っ!?そうだ私はなぜ今まで忘れて・・・!」

 

「無理もない、この身に転生する直前まで私と対峙していた四大天使でさえこの私に関しては漠然とした概要の輪郭を覚えているかという程度のはず。そんなことでは捜索も満足に出来るはずもない」

 

「何を言って?・・・あなたほどの、あの"大天使"■■■■■を四大天使が忘れるな・・・ど?まて、今私は何といった??」

 

「碌に言えてない、当然というより忘れているのに名の文字数を覚えていただけ大したもの」

 

「・・・バ、カな・・・あなたがどういう存在かは"覚えている"しかしそれを言葉にするほどの内容がない、いや忘れているだと!?名前だけでは無くあなたがして来た活動や役割すら思い出せないなどありえない!!」

 

「名前ならある。神木折紙又は鳶一折紙が今の名だ」

 

心底驚愕している顔を浮かべる愚か者はその言葉で答えに辿り着いたのか呆けた表情になる。曲りなりにも大天使、能力だけは優秀の様だ。

 

「ま・・・さか、真名・・・封印?人間が通常行うような名前だけ同じの紛い物ではなく本当の意味での?」

 

「そういうこと」

 

淡々と答えると有り得ないものを見るような顔をされる。それは同じ天使だからこその驚愕なのだろう。

 

「有り得ない、有り得ない!?あなたは自分が何をしたのか分かっておいでか!!真名封印とは我らが主の大本である"宇宙の大いなる意志"への個の返還!過去、現在、未来に置ける自身そのものの返還に等しいのだぞ!!」

 

「口調が崩れている。しかし責めるつもりもない、この封印は我が神を含めたすべての大本である"宇宙の大いなる意志"へ自身をその過去、現在、未来ごと一時的にとはいえ返却する行為。余程の強い執着が無ければ無に返り、封印の解除も"宇宙の大いなる意志"側以外では特定の条件を満たす必要がある。つまり実質一度行えばその対象は無に返ることと同義」

 

「過去、現在、未来が無くなれば当然文献や人間の記憶からは勿論我らの記憶、神話からすら掻き消える・・・」

 

そう、クルミの言葉を借りるならこの世界線に置いて大天使などごく近い立場にいたか余程強力な存在以外の全ての存在からの記憶、記録、文献、神話から大天使■■■■■は抹消されている。それは転生者といえども例外ではない。つまり転生者が言うこの世界と似たゲームや小説での私の記憶も無くなっている。例外があるとすればカグツチと契約を交わす巫女とクルミは違和感は覚えているかもしれない、特にクルミは別の世界線で元の私と会っていればそこだけ虫食いの様に記憶も消えているはず。

 

「そ、そんなことをしてまで・・・何を成そうと言うのだ!隠れる為だけではないはずだ!!」

 

愚か者がうるさく捲し立てる。能力はあったからゴミから言い方を変えたがもう一度戻すか?そもそもではあるがマンセマット、あなたに

 

「何かを意見する権利はない」

 

【コンセントレイト】を起動し魔力を掲げた手に集め高濃度に圧縮する。急な攻撃に驚くゴミは酷く滑稽だ。今までの会話は私の考察の確認を攻撃で影響が出る可能性のある地上の避難が終わるのを待っているついでに行っただけというのに・・・何よりもボロボロのカリヤを見た時から胸を支配する怒りの感情を我慢できるほど今の私は我慢強くないのだ。相手が防御に入るが無駄な事、自身の感情の赴くがままに鉄槌を下す。

 

「【メギドラ】」

 

地下だけでは無く地上の施設全てが白く染まって・・・消滅した。色々な研究資料や機材ごと

 

 

「・・・あ」

 

視界が晴れると天に上り事態を把握。特に重要な資料や情報の確保、救助対象の救出確認などはしたのだが、元天使故の激しい感情に身を委ねることの経験不足も相まってやり過ぎてしまった。あとで怒られる未来が容易に思い浮かび憂鬱な気分になるが溜息を吐くと直後に真上から自身の真横を真下に向かって落っこちる形で通り過ぎる人影に向けて一言。

 

「ここは終わった」

 

「ああ、こっちも終わらす」

 

先の【トラポート】で一人だけ直上の空に転移させた義兄に最後の締めは任せるとしよう。

 

 

「さて」

 

先ほどの転移の直前まで交わしていた念話の作戦通り槍を構える。折紙がぺ天使と何を話していたかは知らないが向こうが大分劣化しているとはいえ大天使である以上折紙の正体に感づかれ分霊を倒しても本霊にある程度情報が渡る可能性がある・・・ならばどうするか?・・・決まっている。

 

「わざわざ劣化して出て来てくれたんだ。ここで本霊ごと葬る」

 

やりすぎと言いたくなるほど蹂躙された地上と地下を抜けていきほぼ消滅しかかっている胴の半分と頭だけになっているマンセマットを発見。こちらを見て驚いている。まぁこのままでも分霊は死ぬからな。

 

「【チャージ】・・・先輩、力をお借りします」

 

先ほどの共鳴現象、なぜか自分も聖のエネルギーに当てられたのか、胸を中心に身体が温かくなり新たなスキルを獲得した。このスキルが意図するものは何なのだろうか?ただの偶然か、聖エネルギーによるものか、あるいは厳密に違えど同じ業を背負うものとして、力を貸してくれたのか。だがこれ以上今の場面に相応しい力はないだろうと落下する勢いを乗せてマンセマットの胸に槍を突き刺す。

 

「【ゴルゴダの突き】!!!」

 

「そ、その技は!?いえ、そもそもあなたは、グアアアアアア!!」

 

そう、嘗て神の子を貫いた俺のとは意味の違う神殺しという名を背負った猛将の技。ゲームでは敵を「感電」させる強力な突きという程度だった技。しかしゲームが現実であるこの世界に置いてそれは神殺しの技であり、またその技を放つ槍もまた疑似的なロンギヌスの槍という一種の概念、哲学の兵装と化す。

 

「神殺しの技、武器、そして根底、性質は違えど同じ神殺しと呼ばれる力を持つ俺自身、これほど揃って神ですらないその僕であり劣化して現界した大天使風情」

 

加えて俺の神殺しは認識の力。人の認識の代弁者、そんな俺がここまで揃えこう思い認識出来たのなら

 

「殺せない訳がないだろうがあああああああああああ!!!」

 

その槍は分霊の奥にいる本霊の命にさえ届きうる。

 

 

「まさにジャイアントキリングという奴ですわね?」

 

皆から一人別れた狂三は施設の方角を見つめ狩谷を称賛すると、狩谷の影に潜り込ませていた自分の分身と合流してギリメニキからネオベテルに渡された方のオリジナルのCOMPを開き今回の作戦に置いての狩谷の録音録画された記録と遭遇した悪魔のアナライズの情報を見る。

 

「とはいえ"全員"という言い方から折紙さんにはバレていたようですが。戦闘能力をほぼカットして隠密能力を高めましたのに流石ですわね・・・わざと見逃して信用を得ようとしたのか、何を探りたかったのか探る為かあるいは・・・いえいえ」

 

一つあまりにも突拍子のないことを思い付く。しかし流石に荒唐無稽だと頭を振って否定する。

 

「確かに大事なことではありますがそれだけの為にこれだけのことをするなんて、リスキーにも程がありますわね・・・それにこちらの対応が先でしょうし」

 

アナライズの情報を再度確認して目を細める。仲間を疑うという周回で何度経験しても慣れそうにない苦痛を心の底に押し込めながら。

 

【大天使 マンセマット Lv50】

 

【無名天使 神木折紙/■■■■■ Lv78】




読了ありがとうございました。色々設定が出て来ましたがただでさえ本編が長いので解説の殆どはまた次回以降に回します。

折紙の天使化
レベルがぶっ飛んでいるが、肉体の負担やこんな高レベルの天使が急に現れたらGPが一気に増えて霊脈や地脈が乱れるのであまり使いたくない手。今回は元々天使と相性のいい霊地の管理がされていたのと、メシア教側の結界を破壊したあと逃がさない為にネオベテル側が地上で結界を張った為結果的にGPの上昇が抑えられている。少なくとも絶賛色々狂っている恐山でやればもっと面倒になることは間違いない。

大天使マンセマット
多少レベルが落ちても今の戦力なら問題なく対処出ると現界して色々やっていたのだが、ネオベテルが立ち上がるわ幹部以上はマジで強いわ、そこを警戒して幹部がいない戦場で力を示そうとしたら人間に転生した大天使&神殺し&デュランダルという横っ腹に痛いじゃ済まない一撃を喰らいもののみごとに死んだ天使。本霊も消滅したので天界じゃ割とパニックが起こるがまだ疑念段階だが神殺しがいる可能が浮上している。まぁ神殺しだけの対策をしても力を貸している悪魔に横槍をほぼ確実に入れられるのでそこをまず調査しなければならない。まぁ真名封印の影響で折紙を調べても真名はすでに"宇宙の大いなる意志"に預けているのでそっちに喧嘩を売らなければならないというムリゲーが始まる。


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聖剣の行方

第七話です。これにてこの章は終了です。勿論聖剣関係の話はまだまだ続きますよ!


「うんしょこらしょっと」

 

狩谷がマンセマットを倒したその頃、フリードはバルパーを背負って地下から地上に上がり逃走を図っていた。

 

「うんしょこら・・・うん、まぁ張り直した結界の外は警戒しているっすよね!」

 

「そういうことだ観念して貰おうか?」

 

「抵抗するのなら拘束させてもらいます!」

 

万が一結界をすり抜けて逃げ出すことも考えて警戒していた神父ニキとその造魔ナノハと共にフリードの前に立ちふさがる。

 

「まぁ確かに格上相手ですし?ここは投降するのが筋なんですけどね?」

 

「ダメだフリード、碌な事にならんぞ」

 

「ですよねー!」

 

バルパーが背中から起き上がり、その考えを嗜むと本人もないだろうと思っていたのですぐに意見を撤回する。

 

「とはいえこのままで殺されるのは確実、ここは情報提供で見逃して頂けないかな?」

 

「情報・・・だと?」

 

フリードの背中から降りた(漸くショックから立ち直った)バルパーは生き延びる為に交渉に入る。

 

「ああ、例えば・・・なぜフリードが私に手を貸している理由についてならどうだろう?」

 

「それはエクスカリバーの復元品が報酬だからではないのか?」

 

「お、情報は届いているみたいなら話ははやいでさぁ。勿論そうですがよく考えれば言いたいことは分かりますわよ?」

 

「・・・っ!?まさか分かったのか!」

 

神父ニキが何かに気づいたように驚愕の顔に染まって、ナノハも表情をこわばらせる。

 

「そうなんですよ!遂に見つけたんっす!過去の戦争で行方不明になっていた"支配の聖剣"を!!」

 

「支配の聖剣・・・分かたれたエクスカリバーの中で最も強い聖剣。その力は魔法や物理法則、強大な悪魔すら支配し操ると言いますが」

 

「お、口調が変わりましたな魔法少女ちゃん!・・・まぁあくまでこの日本にあるってことが分かってるだけ何ですけどね?」

 

「如何に我々の本国であるアメリカの国土よりは小さいとはいえ日本列島全域を草の根分けて探し出せとは言えぬからな」

 

「効率悪いしストライキもんだもんな・・・まぁ聖剣の探知用魔法がもうちょっと精度を上げられれば分かりませんけどね?」

 

「今後はメシア教側のエクスカリバー持ちが続々とやって来るだろう。警戒すると言い」

 

「聖剣の争いがこの国で起こるのか・・・」

 

苦虫を噛んだような顔になるナノハ、本霊は聖剣を巡る争いを見て来ただけに思う所がある様子を見せる。

 

「さて、情報提供はもう十分だろう。そろそろお暇させてもらおう」

 

「素直に応じるとでも?」

 

神父ニキは武器を構え攻撃の体勢を取る。明らかにやばい連中の言うことなど知ったこっちゃないというようにこのまま捕らえるつもりの様だが・・・。

 

「別に約束を守って貰う必要はない。こちらが勝手に履行する」

 

その言葉と共にバルパーとフリードの魔法陣が現れる。

 

「何!?転移系の魔法か!」

 

「警戒をしていましたがいつの間に・・・」

 

「それほど大したことではありませんよ大天使様。身振りや仕草、言葉の一つ一つが術式の一部として機能させる小手先の技術でございます」

 

ナノハの正体に気が付いていたのか丁寧語で応対するバルパーだがその言葉には一種の嘲りが含まれている。転移魔法を妨害しようと試みるが残念ながら二人ともそれを邪魔する専門的技術を持っていない、無理やり転移系の魔法や能力を妨害する場合専門的技術を持っていない場合多くの危険を伴ってしまう。転移後の場所が抉れるなど序の口で周囲一帯が異界化するリスクもある。ましてや今回の様に即席の術式ではそのリスクも通常より上がってしまう為見逃すしかないのが現状だ。

 

「それではまた会おう」

 

「あ、あのクソ人間ミサイル野郎にいずれぶっ殺すからって伝えといてねー!!」

 

「「人間ミサイル野郎??」」

 

その後やらかしたバカ兄妹の話を聞いて胃痛を覚える数十分前の出来事だったりする。

 

 

「まぁ・・・うん、如何にか片付いたな。とんでもなく綺麗に」

 

更地になった建物の影の形もない施設跡を見ながら神 木 狩 谷(人 間 ミ サ イ ル 野 郎)は溜息を付く。

 

「・・・そもそもカリヤが逸れたのが原因。それに人間ミサイルなんて実戦で思いついてすぐに実行した狩谷が一番変」

 

目の前の光景から目を逸らした神 木 折 紙(施 設 爆 破 犯)は別の話題を持ち出して誤魔化そうとしていて、周りは苦笑いで二人を見る。

 

「「・・・うん、コラテラルダメージということで。OK!」」

 

「「いやOKじゃないから!!!」」

 

バカ兄妹が揃って責任逃れをしようとするが合流した神父ニキとスパルトイに二人揃って怒られるのだった。

 

 

「「ごめんなさい」」

 

折紙と共に謝罪をしながら合流した皆と情報を共有するとマンセマットの登場には驚いていたが、俺の人間ミサイルと折紙の施設消滅がインパクトが強すぎて反応が薄かったな。

 

「しかし、まさか周回ネキの分身が俺の影にいたとはな」

 

「きひひ、許可を取らずに申し訳ありませんわ。狩谷さんが落ちる時に咄嗟に分身を仕込んだもので、しかも主にビーコン代わりに生成したので戦闘能力も無くなっていましたのにマンセマット程の高レベル悪魔が張っていた結界のお陰で肝心のビーコンの役割も果たせず仕舞いでしたし」

 

「いえ、それに零れた天閃の聖剣も確保して頂いたようで。教会側としても助かりました」

 

「そうですよ!狩谷君から話を聞いたときはてっきりまた紛失したかと思ってましたから」

 

「・・・本当にそれだけだったらだけど」

 

フリードが手放していた天閃の聖剣は俺の影に居た周回ネキの分身が確保してくれていたらしく、一旦イリナ達に預ける形で扱いは保留になっている。無断で分身を忍ばせた件については状況的には仕方なく、向こうの撤退の理由の一つにもなったので普通に感謝している。それにしても折紙は終始周回ネキをジト目で見ていたけど何だったんだろうか?あとは神父ニキから支配の聖剣のことが話されたが真偽不明ということで裏取りの為の調査が行われる様だが個人的にはこの話は本当な気がする。邂逅は短かったがあの二人はその場凌ぎの嘘を吐かないタイプだと思えるし、何より聖剣に強い執着を見せるバルパーも認めて居たのだから間違いないのだろう。もしかするとこの情報の調査や後の聖剣の捜索に人手を割かせて、追手を減らす狙いもあったのかもしれない。しかし取り敢えず今は被害の報告や情報整理、実験体生存者の治療などを行いながら撤収の準備を進めている。・・・それはそうと

 

「・・・」

 

折紙、周りの人間は知らないがいくらポーカーフェイスで誤魔化そうと兄である俺には動揺や考え込んでいる様子なのがモロバレだぞ全く。

 

 

結局あの作戦から数日がたったが時折考え込むことが多くなっているように見える。如何にか気晴らしでもさせてやろうかと思っていると神父ニキの呼び出しで地元の教会に兄妹二人で足を運ぶこととなった。要件は確保した天閃の聖剣の処遇に付いて決まったとのこと、まぁこちらも負担を掛け過ぎた槍がぶっ壊れ修理を頼んでいるので暇だからいいけど。

 

「ふーん、ネオベテル預かりになったんですね」

 

「ああ、カトリック、プロテスタントのどちらかに渡すと戦力バランスが崩れかねないからな」

 

「こちらとしては信頼の担保が代わりと言う事ね。それにメシア教のエクスカリバーに対抗するならエクスカリバーが一番手っ取り早いのよね」

 

神父ニキとワシリーサが説明してくれたが確かに一本持っておくのはいいかもしれない。手に入れたのが性能としてはシンプルな天閃の聖剣だったことも大きいのだろう。

 

「で、誰が使うんです?置いとくだけじゃ意味はないだろ?」

 

「その通り、そこでだ狩谷。お前が良ければ聖剣使いになって見ないか?」

 

「はい!?」

 

「!!」

 

俺と声には出してはいないが折紙も驚いている。あれ、でも聖剣を使うには因子が必要なはずだ。そのせいでバルパーは狂ったわけだし、もしそれが解決していたのならバルパーがいくら何でも不憫すぎる。

 

「その件だが狩谷、覚えているか?デュランダルを共に握った時出力が上がっていただろう?あれは聖剣だけでは無く使い手の因子の共鳴で起こった現象だ」

 

「でもそれイリナのことじゃないのか?」

 

「うん、私達も最初はそう思ったんだけど後々訓練中に私だけの共鳴ではあの出力を出すには足りないことに気づいたの」

 

「んー?でも天閃の聖剣が返された時に触れたが何ともなかったぞ」

 

「それは君がイリナと同じ、因子は持っているが補填が必要な人工聖剣使い予備軍だったからさ」

 

イリナとゼノビアの話を聞いて納得する。スムーズにやれたのは普段から訓練してたからなんだな。

 

「まぁ断ってくれてもいい。そちらの戦力は増えるが面倒事も多くなるしな。ただ使えるならフリード・セルゼンを倒したお前に真っ先に所有権があると思っただけだ。無論普段から好きに使ってくれて構わない」

 

「なるほど、折紙はどう思う?」

 

折紙の意見を聞くとブツブツと小さく呟きながら考えてくれて

 

「・・・確かにリスクはあるけど強くなれるうちに強くなっておいた方がいい、今回の件で神殺しがネオベテルにいると相手が気づくのは時間の問題。幸い天閃の聖剣はシンプルで使いやすいし、スピードの底上げはカリヤの戦い方にも合っている」

 

ふむふむ、剣術の一般スキルもあるので実際に振るうことも出来るだろうし腰に差して置けば槍での戦闘でも効力を発揮してくれるだろう。

 

「・・・分かった。その聖剣があればって後々後悔したくないしな」

 

「ではこれを・・・この因子をくれた者達に恥じないようにな」

 

俺が頷くと神父ニキからまるで小瓶の様な物体を渡される。この中に因子があるのだろうか?

 

「それでは儀式を執り行う。「これどう使うの?」「胸に押し当てればいいの」ああ、そうだ。儀式はあくまで形式的なものだから気負わなくて「あ、本当だ光って身体に吸い込まれたわ」そうそう・・・おい!?これから聖言とか唱えて色々やる予定だったんだが!?」

 

「いやーだって形式的な物だって言うし、俺んち無教徒で一神教信仰してないからなー」

 

因みに前世は実家が仏教徒だったので靡くのならそっちである。経典とかも幾つか読んだっけなー懐かしい。

 

「むむ」

 

「はぁスザク」

 

神父ニキがまだ何か言いたそうにしていると折紙が見かねて一言

 

「信仰の押し付けはメシア教と同じ」

 

「・・・!?グハ!!」

 

あかんそれは致命傷だ!

 

「ちょっ!?神父ニキが余りにもショックな一言言われて口から血を流して気絶したんですけど!!!」

 

「ス、スザクくーん!?戻ってきてー!!!!」

 

ナノハの悲鳴が教会中に響き渡ったりしたが無事、聖剣の譲渡は完了したのだった。さて使いこなせるかどうか・・・まぁ俺次第か。

 

 

 

 

「あ、今修理中の槍の強化素材にすればより使いこなせるじゃないか。もしもし魔女ネキ?」

 

帰り道に思いついた画期的策で先の懸念はほぼ払拭されることとなる。尚その代わりこれをあとで知った神父ニキと強化素材が何だったのかを強化改修後知った魔女ネキの胃は死んだ。




読了ありがとうございます。章のエピローグの様なものなので短めです。次から新章に入ります・・・え、短い間に2名の幹部の胃が死んでるって?全部好きに使えとか言った神父ニキのせいです、はい(白目)。

霊槍と聖剣
ただでさえ消耗していたところに疑似的なロンギヌスの槍になるなどの負担に耐え切れず折れてしまった槍。元々武装の強化をしたかったので狩谷的には天閃の聖剣の入手はありがたかった。その為に幹部の胃が二つほど犠牲になるが原作から強化パーツみたいな扱いされてるし大丈夫だろう。因みにここで聖剣を扱う因子を取り込むか否かは何気に大きな運命の分岐点の一つになっている。


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第三章 霊地漫遊
信仰の定義


第八話になります。今回は少し地味かも知れませんがこういう回がアニメとかでも好きなんですよね自分。


新武器作成の為に幹部二人の胃袋を無自覚に将来的に生贄にしたあと俺と折紙はとある病院を訪れている。ここの院長はネオベテル所属の転生者でよく構成員が悪魔関係で負った怪我や病を癒しているんだとか。そのお陰か実質幹部扱いで冥土帰し(ヘブンキャンセラー)の二つ名が付いている。

 

「病室はっと」

 

「280号室・・・あった」

 

見舞いに来た患者がいる個室の病室を見つけると、ドアにノックしてからドアを開ける。

 

「やぁ、いらっしゃい少年!」

 

「お、ちょっとは体調が良くなったか?あと俺達はほぼ全員精神年齢おっさん、おばさんばっかだろうが」

 

「うぐ、痛い所を・・・そ、それは置いておいて、折紙ちゃんも来てくれてありがとう~!」

 

「元気そうで良かった」

 

手を振って出迎えてくれる先の作戦で救出した女性、本条二亜。その後ここで治療されていた彼女とは何度か電話で話をしていて今回が初対面(彼女的には)となる。なぜ彼女がこんな親しいように接してくれているのかと言うと自分を助けてくれたということと彼女自身転生者とのことだ。

 

「まぁ私の場合は実験のショックで思い出したからちょっと素直に喜べないけどね」

 

「普通に赤子の頃から自覚していた人もいる訳だしな。俺は二亜と同じタイプで確か五年ほど前に思い出して・・・あれ、そういえば何が切っ掛けだったっけ?」

 

「記憶を取り戻す過程は様々。GPの上昇やちょっとした前世とのデジャブで思い出せた例もあるらしいから多分カリヤはそっち」

 

「なるほど?」

 

うーん少し引っかかるが、イリナや両親を覗けば折紙が一番俺と一緒にいたから間違いないか。

 

「あ、これ見舞いの果物と頼まれてた漫画だ」

 

果物籠とともに頼まれていた漫画を詰めた紙袋を手渡す。二亜が目を輝かせて飛びつく

 

「おお!ありがとう!!いやー軟禁されてから見れてなかったんだよね!でも学生なんでしょ?お金は大丈夫?」

 

「心配すんな、命張る分稼げてるから。見舞い品の金を求めるなんてしないさ」

 

そもそも前世でもそんなことしなかったし。それをやるのは人としてどうかとも思う

 

「大人だなー、そうだ!なら私のサインを書いてあげよう!前世同様漫画家となるであろう私のね!」

 

「あー前世は漫画家だっけ?」

 

「でも今のところは無価値のはず」

 

「こら折紙、本当のことは言わないの。気持ちが籠もっていれば無名の人が紙切れに書いたサインでも嬉しいもんだぞ?」

 

「・・・君達って悪気とか一切ないのに辛辣だよね、未来を見なさい未来を」

 

引きつった笑みを浮かべる二亜に兄妹揃って首を傾げる。うーん事実を言っただけなんだがな

 

「でも漫画家になるまでの食い扶持はどうするんだ?真面目な話」

 

「うん、今世の両親は悪魔関係の事件で殺されちゃったしね。・・・ねぇ少年」

 

突然先ほどのおちゃらけた雰囲気はなりを潜めどこか悩んでいる様な顔をしている。

 

「どうした?」

 

「私、今世もだけど前世も家族揃って一神教の信者だったんだよね。まぁ前世にはメシア教なんて無かったから別の宗派なんだけど・・・それでも今世ではメシア教を信じていて、悪魔関係の事件から助けてくれたのもまともなメシア教徒の人でますます信じこんじゃってさ。当時は前世の記憶が無かったから恩を返そうと頑張って、頑張って・・・裏切られていたことに気づいたのは大天使の融合実験の直前。天使と直接会って私達が信じていたものが砕かれて、終いには前世の記憶でメシア教がどういうものか思い出しちゃってさ!・・・こんな簡単に壊れて、利用されて、汚されて、信仰って何なのかな?」

 

「・・・」

 

「いや、分かってるよ?私と同じで前世から信仰しているそれを貫いてる神父ニキやその部下のエクソシストの皆さん、まともな天使だっているし、私を助けてくれた人の様にメシア教でもまともな人はいる。そこは分かってる・・・でもさ、私は・・・」

 

手に取った漫画の表紙にポタポタと涙が落ちている・・・なるほどずっと胸の奥に押し込んでいたのか。前世も絡んで来るから現地人には話せない、しかし同じ転生者の知り合いは俺と神父ニキ、周回ネキ、この病院の院長くらい。周回ネキはペルソナ関係で忙しく、院長もあくまで医師としての立場がある信仰云々聞くなら神父ニキが一番だろうけど…信仰を貫いている相手にそれは意味があるのかと聞きにくいだろうな。

 

「信仰か・・・俺の今世は無教徒だけど前世は仏教の家だったから少しは分かる」

 

「そうなの?」

 

「そうなの…でもさ俺は別に教義を信じることだけが信仰だとは思っていないんだ。確かに教えを曲解して間違いを犯す奴はいるし、宗教関係者だからと変な目で見られることも無いわけじゃなかった」

 

二亜にも覚えがあったのか顔を伏せる。祭り何かは宗教のごった煮状態の日本でも宗教そのものに拒否反応を示す人はそれなりの数が存在する。実際一部のカルトはマジでヤバイし、真っ当な所でも人が大勢集まる組織である以上例え悪意を持っていなくてもトラブルは起こってしまう。それでも…

 

「それでもさ、楽しかったこともあったろ?俺の場合は近所の同じ宗派の人達が一ヶ月に一回集まって経文を読んだり、集まった人たちの体験を聞いたりさ。俺は二世であんまり熱心じゃなかったし子供の頃は経文とかちんぷんかんぷんだったけどお菓子食べながらワイワイと話したり、褒められたり…俺はそういう人の和も信仰の一部だと思うんだよ」

 

前世でいた弟と子供の時に周りが話していた経文の内容に揃って?を浮べてジュースを飲んで眺めていたこと、それだけじゃ暇すぎるから会の進行の手伝いをしたら褒められたこと、誰かの人生の体験を聞いて様々な感情が湧いたこと、その会が終わった後に皆でお菓子を食べながら信仰のことやそれ以外の学校や子育て、新しく出来たお店のお菓子が美味しいだのとどうでもいいが楽しいお喋りをしたりしたこと。人生色々あって中には壮絶とも言える過去を持った人もいたが…自分には大半が気のいいおばちゃん、おじちゃんに見えたものだ。そして教義は兎も角そういう人たちのことは好きだったんだと今でも思っている。どれほど情があったのかは分からないが少なくとも概要だけを聞きかじって知った気になったり、一部の問題を起こした人を取り上げて宗教組織自体を非難するなら兎も角、その他の信者全体を巻き込む理由も無く非難しカルトの信者呼ばわりすることに不快に思い、実際そうなのかと友人に聞かれたときに反論してしまう程には情はあったのだろう。

 

「前世と今世でニ亜にだってそういった場面はあったはずだ。家族と一緒に聖書を読んだり、知り合いと一緒に聖歌とかを歌ったりな…その毎日をあんなクソッタレ共に踏み荒らされて、他の奴らに同一視されてムカつかないか?ニ亜や前世と今世の両親はあんな奴らを信仰していたのか?」

 

二亜が伏せていた顔を上げる。その目には明確な否定の意思と怒りの感情が見えた気がした。

 

「違う!…でも続けて良いのかな?」

 

「宗教なんて本人が信じたいかどうかさ。心が弱いから宗教に頼るとか言う奴らもいるがほっとけそんなの!例えその通りだったとしてもその弱さをどうにかしたいと行動してる時点で、それを笑ってる奴らよりよっぽど先にいるんだからな!…それに信仰を捨てる理由はあれど"絶対"に信仰を捨てなきゃいけない理由は無くて信仰を続けたい理由もあるんだろう?」

 

俺も今世では無教徒だが前世での仏教感を捨てた訳じゃない。今でも鐘の音と共に思い出す前世での死の瞬間最後に頭を過ったのは輪廻転生という単語だった。もし次があるのならもう"間違い"を繰り返さないと誓ったことは・・・まぁ結果的にメガテン世界に転生なのだからそう願うなら命賭けろよと世界から言われているようだよな。唯で叶う誓いも願いもないってことなんだとは思うが。

 

「うん、そうだね。ありがとう少年、何だか道が見えて来た気がしたよ」

 

「それは何よりだ」

 

笑顔になった二亜に釣られて俺も笑顔になる。その後二人分のサインを押し付けられるも苦笑して受け取るのだった。病室を出た後先ほどから黙っていたのが気になったので訪ねてみる。

 

「にしても折紙は何で黙っていたんだ?信仰に関しては一家言あるだろ」

 

「悪魔の中でも天使や神の力の源の大部分は信仰の力なのは確か。でもそれは人間達が決めて行くべきこと。私達天使はあくまで教えを与えるだけに留めるべき・・・昔はその考えが主流だった。あの四大天使もそう・・・していたはずだったのだけど」

 

「そうなのか」

 

窓から見える青空を遠くを見つめ、懐かしむように眺めている。遥かな過去を思い出しているのだろうか。どうやら俺達人間が昔から変わったように人間に認識されている天使達も昔とは変わっているらしい、これも信仰の力が関わっている様な気がする。

 

「まぁあいつの信仰はどうなるのか、見守ろうじゃないか。信仰、宗教はそれを支えに未来を歩く為にあるものだから」

 

願わくば彼女の選択が前に進み未来へ向かうものであれ

 

 

『あ、少年!私退院後はメシア教のままエクソシストとして頑張ることにしたよ。漫画のネタ探しと私が好きな漫画のめちゃんこイケメンな造魔を手に入れる為に!!!!!』

 

「ウッソだろお前!?」

 

数日後神父ニキが進路の一つとして提示したエクソシストの道に主に造魔関係の説明を受けて物凄い乗り気で進むことになったニ亜から電話を受けた。あれだけ語らせて置いて切っ掛けがそれかい!信仰の云々の悩みはどこ行ったの!?

 

「100歩譲って前者は職業病で納得するとしても後者の理由がひど過ぎる(白目)」

 

「まぁ・・・なんだ。前に進んでるようで良かったではないか」

 

電話を切った後ポンと狩谷の肩に手を置いて諫めるスパルトイの姿をアズールと折紙は見ることになるのだった。

 

 

「さて、そんなことより話さなければならないことはあるだろう?」

 

「そんなこと・・・」

 

「諫めて置きながら切り捨てるとは中々高度な攻め方」

 

ある程度諫めたら俺を切り捨て今日の本題に入ろうとするスパルトイ。あ、アズールは膝枕してくれるの?ありがとうアズール。まだしゃべれないけどいい子だな、報告書にも書いておくよ。お言葉に甘えて膝枕をされながら俺達の部屋にアズールとスパルトイも集まって神木家パーティーが集結している。因みにここに教会コンビが入ることで中野支部パーティーに名称が変わったりする。偶にワシリーサさんも入って来るけど。

 

「重要な案件だからな。それにあの女も所属希望先はイリナ達の教会なのだろう?この町に住むのなら感謝はしているのではないか」

 

「まぁそうかもだけども」

 

二亜が加われば教会トリオになるのかと考えながら机の上で起動しているPCの画面に映っている掲示板が映されている。つい最近ヤタガラスとの協力関係を締結することに成功し、それを祝ってガチャが開催された。試作品とはいえネオベテル製のCOMPも景品にあったのでデータを取ったら本格的に販売が始まるだろうと俺達の仲でも話題になっていた。で、問題は試しにとガチャを回して入手した景品だ。

 

「クソ高いガチャだったから槍の強化料金を考えると俺と折紙で一回ずつ引けただけだけど」

 

因みに俺が引いたのは七等:各種装備からランダムに一つだ。ランダムのそこそこ良い装備が引けたので今度槍と一緒に神社で受け取ることになっている。

 

「まさか二等が当たるとは」

 

折紙自身も驚いていて手に持っているのは二等:【ラスタキャンディ】スキルカードだ。予想外に強力なスキルを手に入れたので誰が覚えるかの相談をすることになった。

 

「とはいえスパルトイかアズールの二択なんだけどな」

 

「だが我は戦士。補助魔法もカジャ系を掛けるので手一杯だぞ?攻撃魔法スキルなら物理、呪殺に強い相手対策に属性が違う一つ二つくらい覚えるのはありかも知れんが」

 

「だとするとアズール?あれ何か微妙そうな顔をしている」

 

「恐らく後々のことも考えているのだろう。現状はほぼ常に一緒に行動しているがその内会話が可能になれば情報伝達がよりスムーズ且つ正確に行えよう。そしてアズールの本業は狙撃手。装備の中にも霊装型の無線がある以上単独行動で遠距離からの狙撃による援護をすることが多くなるはずだ。自バフとしてだけでも使えなくはないし、集団戦も全くし無くなる訳でもないが・・・」

 

「確かに勿体ないか」

 

主にスパルトイとあーでもないこーでもないと相談していると折紙が手を挙げて

 

「なら私が使ってもいい?」

 

「え、使えるの?」

 

「天使の力の一部を一時的に開放して天使の側面を強めれば問題なく取り込めると思う」

 

「ほう、それが可能なら確かに火力と全体補助&回復を兼ねる妹君の方が上手く使えるか。こちらとしては異存はない」

 

スパルトイも認めてアズールも頷く形で同意を示す。ということで折紙が【ラスタキャンディ】を覚えることになった。幸いこの家と土地には何年も掛けて折紙が掛け続け整えて来た結界や霊脈があるので一時的な天使の力の解放なら外に影響を及ぼすこともなかった。というか俺を神殺しにする時も一部解放していたらしい、あの時感じた神々しさはその影響だったんだな。今度取りに行く装備のことも含めればちゃくちゃくと戦力が向上して行ってると言える。しかしゲームとかでもそうだが大抵こういう時に限って厄介事が起きる気がするのだが気のせいだろうか?




読了ありがとうございます。自分は家が仏教徒なので自分が感じた二世の気持ちを書かせて頂きました。え、その割には落ちがギャグ?いやー公式設定には従いませんと(目逸らし)!


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新装備と過去の残滓

第九話でございます。本家様でも丁度海外の転生者のことが話題になっていたので作成中に驚きました。


今日は装備が出来たという訳でガチャで出た装備と共にを受け取る為に博麗神社に折紙、アズールと共に訪れている。

 

「まずはガチャで手に入れたアイテムを受け取るか」

 

「ライフリングだっけ?」

 

「おう、歩いたり走ったりしないといけないが自動回復が出来るのはありがたい。ついでにスピードリングⅡも買って行こう」

 

「速度を強化する聖剣と相性はいいからいい選択」

 

細々とした消耗品も買い足しつついよいよ本命の新武器を受け取る為魔女ネキの工房へ赴く。

 

「良くお越し下さいました」

 

「あ、来たわね。出来てるわよ」

 

「おお、これが・・・?」

 

魔女ネキと造魔であるライカの歓迎を受けるが、そこにあったのは一振りの聖剣・・・剣?あれ俺槍頼んだけど。見た目はめっちゃかっこいいんだけどな。確かに天閃の聖剣の面影はあるけども。

 

「あなた剣も使えるんでしょ?ちょっとしたギミックの仕込んだのよ」

 

「ん、ギミック?」

 

魔女ネキのレクチャーを受けながら操作をすると刃にもなっている柄の一部と刀身を取り外し、反転させ再度残った柄に取り付けると刀身とグリップが大きく伸びて槍の形状に変わり三叉の聖槍となった。

 

「おお!なんかこれ前世の仮面ライダーで見たことあるぞ!仮面ライダーデュランダルの聖剣だっけ?」

 

「狩谷も見てたんだ仮面ライダー。そっちにはデュランダル持ちがいるんでしょ?ふと思い付いちゃってね。それに狭いところでは聖剣状態の方が都合がいいはずよ」

 

「銘は聖槍ライトスピード。大切にしてね?」

 

「なるほど・・・ありがとう。流石ネオベテルの幹部だな」

 

「今度は私の武装もお願い」

 

「どういたしまして。オーダーお待ちしているわ折紙ちゃん。アズールはロボキチニキの方に装備を頼んでね」

 

生産に秀でているが幹部なだけあって戦闘での立ち回りも考えてくれている。ありがたいことだ。魔女ネキに礼を言って去ろうとするとまた来客が来たようだ。

 

「あ、狩谷先輩、折紙氏、アズール氏ここにいたんですね。いらっしゃっていると聞いて探しましたよ」

 

「え、俺の来客?ってエイナか」

 

ネオベテルの受付を行っているエイナ・チュール。俺が最初にこの神社を訪れた時に互助組織の窓口になってくれた人だ。正式に組織として発足したあとも自分とそのパーティーの担当をしてもらっている。

因みに前世、今世共にエリートで今世の故郷であるアメリカで世界的に有名な大学に通っていたらしいがここがメガテン世界であることを知って、メシア教の総本山があるアメリカから家族揃って前世の故郷である日本に移り住んだとのこと。~氏と呼ぶのは前世からの癖だ。因みに俺が彼女を呼び捨てにしているのは前世で彼女より先に生まれた先輩だからだ。え、じゃ何で向こうは~氏じゃなくて先輩呼ばわりしてくるのかって?

 

「エイナが先輩って言うのも新鮮ね。まぁ前世からの知り合いなら距離感も違って当然だけど」

 

「造魔の私達にも同様に扱ってくださっています」

 

「はは、先輩には色々お世話になりましたから」

 

そうあのメシア教施設爆破・・・ではなく襲撃作戦のことを報告して説教を受けていた時にその様子を懐かしく思っていたらぽろっと前世のエイナの名前を呟いてしまったことが切っ掛けである。

 

「まぁ俺が務めていた商社に入って来たばかりのころ教育係で1年、そのあとは後輩として1年の計2年間くらいしか面倒見てないけどな。優秀過ぎてヘッドハンティングされたし」

 

「うう、その話はちょっと…!」

 

「どうしたの?喜ばしいことでしょう?」

 

「カリヤの前世の葬式に不参加」

 

「へ?」

 

「ぐふ!?」

 

エイナが噴き出す。このことが発覚して以来俺に罪悪感を覚えているのだ。

 

「というより今世で再会するまで俺が先に死んでたことすら知らなかったからな。忙しいのか連絡一度も寄こさなかったし、だから男も出来ずに過労で死ぬんだよ」

 

「優秀なのも考え物ね・・・でも元職場の人から連絡はなかったの?」

 

「・・・(目を逸らす)」

 

「エイナ?」

 

「うん、なんだ・・・こいつ前世でも海外の有名大学を優秀な成績で卒業しててな。俺達が務めてた商社も一応上場はしてたんだが入った当初はエリート気質むき出しでな・・・そんでもって元々仕事人間ってこともあって性格が丸くなって愛嬌が出て来たときには俺以外の奴らと大分距離出来てて、しかも直ぐヘッドハンティングされたからな」

 

「あ(察し)」

 

まぁ俺も出来れば残って欲しいと思ってるとは言ったが最終的に本人の意志に任せたからあんま強く言えんが。あ、涙目になってる。

 

「よし、久々の後輩弄りは終わりにするか。で、何で探してたの?」

 

「は!?そうでした!!先輩のパーティーに是非ご依頼したいことがありまして!」

 

                   ・・・後輩説明中・・・

 

「ほうほう、ヤタガラスとの合同任務?」

 

「というより鍛錬?」

 

話を纏めるとヤタガラスと協力体制は取って交流・・・正確には互いの陣営の調査が裏の目的だろうが。ただ今回はヤタガラス内でも若い連中と組むことになるようだ。まだ未熟な面もあるだろうから鍛錬の為にというのも間違ってはいないだろうけど。

 

「それもあるだろうが、最悪裏切られて全滅させられても替えが効く連中か」

 

「はは、はっきり言うね。でもただでさえ人手不足なんだからそうなったら向こうもつらいだろうけどね」

 

「異界ですからそうしたとしてもイレギュラーが起きたことにしてしまえば意味がないのでは?」

 

「ああ、だから最低一人はヤタガラス側と連絡、或いは撤退出来る手段を持っているだろうな。まぁそんなことするつもりは無いから問題ないけどな」

 

「ということは受けて頂けるんですね?」

 

「こっちもヤタガラスがどんな奴らか知れるチャンスだからな」

 

「それはそれで追加報酬を求む」

 

ビシッと片手を伸ばして追加の報酬を求める折紙。元天使だが人間になって十数年こういうことも覚えて来た様だ。

 

「えーと報酬に不満が?」

 

引きつった笑みを浮かべるエレナ。よしやっぱ黒だな。お前感情が直ぐ顔に出るんだよ!

 

「おうおう、エイナも分かってんだろ?こう言ってはアレだが幹部程じゃなくても俺達高レベルなパーティーに頼むってことは力の差を見せつけてマウント取ってこい!とか情報探ってこいとかあるだろう?」

 

「いやーそんなことは・・・」

 

「先輩が後輩の隠し事くらい察せない訳ないだろ。武士の情けで詳しく問い詰めるのはやめて置くから追加報酬をだな」

 

「ま、待って下さい!!私にそんな権限「COMP」は、はい?」

 

「COMPが正式発売されたら第一次生産分を俺が買えるように書類をねじ込んでくれ。これなら出来るだろ?無論ちゃんとお金は規定額通り払うから」

 

「ええ!?た、確かに物理的には出来るとは思いますけど・・・そ、それなら別の方に依頼を持って行きます!!」

 

なるほどそう来たか、だがな可愛い後輩よ。俺にはお前特攻の伝家の宝刀があることを忘れたか?

 

「そっかー・・・それじゃ仕方ないな」

 

「ほ、分かってくれたようで「でもなぁ俺また早死にするかもな」・・・へ?」

 

「いやーほら俺神殺しじゃん?ぶっちゃけこれから数多くの修羅場を潜り抜けなきゃいけないだろ?だとするとCOMPのあるなしでかなり生存率変わるんだよなー」

 

「掲示板を見ただけでも霊装として破格なのは明らか。でも恐らく狩谷のことだから第二次まで待つと多分死に掛ける事件に一度は巻き込まれる可能性は高い」

 

「で、ですが」

 

「俺がもし死んだら・・・そのときは今度こそ葬式に来てくれよ?流石に"二度"も可愛がっていた後輩が来てくれないとなると死にきれないな・・・」

 

「うぐ・・・!」

 

「流石に今世で死んだことが伝わないことはないと思う。でも受付の仕事が急がしくて数日気づかれないはあるかも」

 

「そうだよな、折角前世とは違ってもっと積極的にエイナと交流を深めようとしてたのになー」

 

「え、エグイわね結構・・・」

 

兄妹でエイナの弱みをつついて行き半泣きにさせていると見守っていた魔女ネキとアズールにそろって引かれたが今はそれどころではないのだ。

 

「わ、分かりました!!COMPの件は請け負いますから!その代わりにちゃんと依頼を終わらせて帰って来てください!」

 

「おう、任せとけ!」

 

「最近リカームも使えるようになったから問題ない」

 

もう!とぷんすか怒りながらエイナは工房を出て行ってしまった。うーんやっぱあいつ弄るの楽しいな

 

「やったぜ」

 

「なしとげた」

 

「手加減して上げなさいよ?可愛い後輩なんでしょう」

 

折紙とハイタッチを行うと魔女ニキから苦笑いをされた。まぁ身内限定の行いだしなこれ

 

「はは、これぞ先輩特権ってもんだよ」

 

「・・・エイナもだけど貴方も素直じゃないわね。自分の死を弄るネタに使う事でエイナが持っている罪悪感を減らすのが目的でしょう?」

 

「さてな。COMPをいち早く欲しいのは本当だが・・・取り敢えず帰って準備するか。折紙、アズール帰るぞ」

 

2人も頷いて折紙がトラポートを唱えようとしていると、ライカが声を掛けて来た。

 

「狩谷様、失礼を承知でお伺いします。若くして亡くなられたとのことですが・・・前世の死因はなんだったのでしょうか?」

 

「ああ、そういえばエイナにも死因を言ってなかったっけ」

 

苦笑をしながら何で教えてくれなかったのかと文句を言うエイナを想像する。単に忘れていただけなんだけどな過程はやや複雑だが死因自体は単純なもので一言で済む。

 

「刺殺だよ、つまり他殺だな」

 

 

依頼を受けてから数日後の依頼当日。ここ数日イリナ達のアドバイスや稽古もありある程度聖槍モード、聖剣モードの両方の形態になれることが出来た。素早い形態の切り替えは組み立て式の槍を愛用していたからか最初から言うこと無しと言われたけど。

 

「にしてもトラポートの習熟度が増して霊地の管理者から許可を取っていれば行った事がない所でも飛べるようになったのは大きいよな」

 

「お陰で効率よく鍛錬と依頼の遂行が出来るというものだ」

 

スパルトイとトラポートの使い勝手の良さを語り合う。因みに今回は人があまりいないエリアでの泊まり掛けの異界攻略なのでスパルトイにも最初からついて貰っている・・・にしても荷物の一部を持ってもらっているが大きなリュックを背負ったスケルトンとか未だ嘗て見たことのない光景である。

 

「こっちも準備OK」

 

折紙とアズールの準備も終わり、集合場所に指定されたヤタガラス所有の霊地にトラポートで飛ぶ。其処には事前の話通り今回の合同任務のヤタガラス側のパーティーメンバーの一人が迎えに来てくれている。

 

「おお、これがトラポートですか・・・は!?失礼しました!事前に聞いてはいましたが何分初めて見たものでした」

 

「そっちはトラポートは貴重だったか。気にすんなこれから行動を共にするんだ。俺は神木狩谷、そしてパーティーメンバーだが義妹の神木折紙、造魔のアズルニールことアズール、闘鬼のスパルトイだ」

 

「これはご丁寧に、私は大和命と申します。皆さま今回はよろしくお願いいたします」

 

「こちらこそ」

 

「よろしく」

 

「うむ」

 

自己紹介を終えるとリーダーである俺と握手を交わす。見た所和服姿だが所々防具で補強しているが軽装、小刀を装備していることから俺と同じ機動力タイプか。というかくノ一って奴か?

 

「もしかしてくノ一なのか?」

 

「お判りになりますか。普段は諜報活動などもしております。とはいえ戦闘でも遅れは取りませぬ」

 

「なるほど、索敵も任せて良さそうだな。頼りにしているぞ」

 

「お任せ下さい!では残りのメンバーの場所までご案内いたします。皆歓迎してくれるはずです」

 

それは良かったと頷きながら命の後をついて行く。多少の疑念程度なら兎も角最初から不信感マシマシだと中々面倒だからな。と思っていたんだけど

 

「俺は鹿島桜花という。いきなりで悪いが【万神連合ネオベテル・ウルトラスープレックスホールド】所属の者よその力を見せて欲しい。一騎打ちを願い出よう」

 

「あ、歓迎ってこういうこと?」

 

「違いますよ!?」

 

探索の前に色々面倒があるみたいだ。にしても何で前世から割と厄介な人間と巡り合うんだろうか?




読了ありがとうございました。本家様もいい具合にごちゃまぜになっているので今作も好きな作品を投下していきますよー。今回はダンまち勢の参入です。

エイナ・チュール
20代前半のネオベテル所属の優秀な受付嬢。そのルックスと人間性から看板娘的な扱いを受けているが前世のこととはいえ元々はエリート気質むき出しだったためその人気に素直に喜べないでいる。前世は上場企業の商社で狩谷が教育係、その後部下となったがヘッドハンティングされ海外に渡ったのだがハードな仕事で40代前半あたりで過労に倒れ亡くなってしまう。今世では海外に行ったことは今の所後悔とまでは行かないがそのまま慕っていた狩谷の部下でいたらどうなっていたのだろうと考えることもある。因みに覚醒者で可愛い白兎の造魔を連れている・・・因みに彼女のポジションはゲームで言う所の『前作ヒロイン』。この場合のヒロインは主人公と言われる人間の恋人というより運命の分岐点に成り得る存在の事を指す。今世のヒロインが折紙達ならエイナは前世のヒロイン、しかし今現在に置いてもその自覚は無く彼女の選択が狩谷の前世に置いて大きな分岐を齎した。それが幸福かはたまたそれ以外か、今のエイナには知るよしもない。


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烏の羽根達

第十話でございます。掲示板要素が最近ないことに気づいて入れて見ました。まぁその代わり本編部分の尺が減りましたけどね!


【報告会】ヤタガラスとの合同依頼スレpart15

 

 

324:名無しの転生者

で、総合すると向こうの人達はどういう感じ?

 

325:名無しの転生者

基本的にはこちらが誠実に対応すればあちらも誠意をもって接してくれる感じ

 

326:名無しの転生者

まぁ向こうもアレな人は寄こさないか

 

327:名無しの転生者

でも囲い込みや種目的で女性が迫ってきたりとかされなかったか?俺地元の霊能組織を助けたときにそれされてめっちゃ怖かったんだが・・・

 

328:名無しの転生者

うーん交流をする程度に止まっているな。其処ら辺はヤタガラス側も気を付けているみたいだ

 

329:★名無しの巫女サマナー

事前にそういうことは無しでって釘を刺したからね。あくまで組織的にってだけど個々人でのつながりは規制するつもりはないわよ

 

330:名無しの転生者

あ、脇巫女ネキだ。ということはヤタガラスの女性霊能者とお近づきに・・・!!

 

331:名無しの転生者

>>330 そう言ってる奴はお近づきになれないんだよな

 

332:義妹天使

少し相談したいことがある

 

333:名無しの転生者

お、珍しいな神殺しニキの妹ちゃんか。どうしたの?

 

333:名無しの漫画家天使人間

天使ちゃんだ!・・・あれでも何で名無しが付いてないの?

 

334:義妹天使

詳しくは分からないけど多分私がネオベテルの言う転生者とは違うのが原因。コテハンはこれと匿名しか使えなくなっている。

 

335:名無しの漫画家天使人間

へーどういう意味があるのかな?ってそれよりも困ったって何があったの?

 

336:名無しの受付嬢

あのもしかしてこの前そちらに依頼したヤタガラス合同依頼の件でトラブルがあったのでしょうか?

 

337:義妹天使

うん、端的に言えれば若い霊能者たちと異界攻略をしようとしたらヤタガラス側のリーダーがこちらの力がちゃんとあるか如何かを知りたいと言って一対一で戦いたいって言われて現在義兄が戦闘中。

 

338:名無しの漫画家天使人間

おうおう・・・それまた厄介のと当たったね。うーん神殺しニキが負けるとは思えないからヤタガラス側から何か言ってきたときの対処をお願いしたい感じかな?

 

339:義妹天使

相手曰く組織名がちょっと信用するのが・・・という心境が先入観になってるみたい

 

340:名無しの漫画家天使人間

 

341:名無しの転生者

正論で草

 

342:名無しの受付嬢

ここでもトンチキな名前の被害が・・・!因みに先輩は今どんな様子でしょうか?

 

343:義妹天使

機嫌よく指導をしながらボコボコにしてる・・・ボコボコにしているから嬉しいとは違うような気もする

 

344:名無しの転生者

ん、先輩?受付嬢ネキって神殺しニキより後にネオベテルに入ったの?確か年上だったはずだし

 

345:名無しの転生者

ああ、何でも前世で神殺しニキの部下だった時があったんだと。新人時代の教育係でもあって所謂恩師的な立ち位置らしい、ファンクラブが歯噛みしてたわ

 

346:名無しの漫画家天使人間

まぁ恩師だったら下手な事ファンも言えないしね。神殺しニキがいなかったら今の受付嬢ネキはいない訳だし。それよりも神殺しニキハッスルしてるね

 

347:名無しの受付嬢

あーやっぱりそうなってますか・・・昔から厄介な人材を上司や社長から押し付けられることが多かったので教育係になったら初手で相手の自尊心を叩き壊して、天狗の鼻を骨ごと抉ることをしてましたし

 

348:名無しの転生者

こっわ!?え、でも何で今回は嬉しそうなの?

 

349:名無しの受付嬢

恐らくですが相手がこちらへの不信につながる事柄がまだ理解出来ることだったからでしょうね。私が拗らせていたエリート気質が先輩曰く「俺が今まで担当した中でお前が一番マシで素直だった」とか言われたので・・・自分で言うのもなんですがバリバリ敵を作ってたり言う事聞かないし傍から見ても不快だと思う性格だったのに全然マシなレベルらしいです。

 

350:名無しの転生者

えぇ…

 

351:名無しの転生者

そんな人材ばっか下に付かせたのか前世の会社の上司や社長さんは・・・

 

352:義妹天使

あ、勝負が着いた

 

353:名無しの転生者

どんなバトルだったんだろうか

 

354:義妹天使

・聖剣、物理無効、魔法を不使用。聖剣は開始早々地面に突き刺して放置

・パワータイプの相手の斧での攻撃を悉く見切ってギリ回避を繰り返しながら攻撃の指導

・相手がばてて来た所でスタミナ管理や防御、回避の甘さを指導しながら殴る蹴るで吹き飛ばす

・一か八かの全力攻撃を敢えて力強くで防ぎパワータイプにパワー勝ちして投げ飛ばして駆け引きの指導

・止めの一撃の拳を顔面に食らわせ、自分が物理無効を切っていたことを伝えて手加減をしまくっていたことを分からせる。

 

因みに戦闘スタイルは事前に伝えていたので魔法を使われず大して上げていない力で押し負けたことを向こうも理解しているものとする

 

355:名無しの漫画家天使人間

想像より大分エグイ件について

 

356:名無しの転生者

わざわざパワータイプにパワー勝負挑んで勝つ辺りに自尊心を徹底的に壊すという意志を感じる

 

357:名無しの受付嬢

ほ、私達のときはさらに言葉での追撃が入りましたが今回は相手が比較的まともなのでここまでで済んだんですね。よかったです

 

358:名無しの転生者

これでまだいい方なのか(白目)

 

359:★名無しの巫女サマナー

相手側とは険悪になってないかしら?多少やりすぎかもしれないけど向こうが原因だし、弁護も出来るけど。

 

360:名無しの受付嬢

それは大丈夫かと、先輩はその手の感情の調節は上手いですから

 

361:義妹天使

というより仲良くなっている。素直に謝って来たから義兄が物凄く感動している

 

362:名無しの受付嬢

前世では教育が終わるまで素直に謝る人間なんてほぼほぼ皆無でしたからね

 

 

363:名無しの漫画家天使人間

神殺しニキってもしかして社畜の類だったりしない?

 

 

戦闘後素直に指導のお礼と謝罪をして来た桜花に前世ではありえないことなので感動を感じていると折紙から急かされた。あ、そうだこれから異界攻略だった。回復をしてもらうと互いに自己紹介を行った。

命と桜花はもういいとして他のメンバーは日立千草、三条ノ春姫というのだという。しかし後者の春姫の正体を知り驚くことになる

 

「あれ?狐耳?」

 

「はい・・・私達の一族は狐人といいます。かつて稲荷大明神様の眷属である狐様と人間が交わり生まれた一族と伝えられています。あ、勿論お互いに愛し合った上でございますよ?眷属の狐様は人に化けれられたとのことですし!」

 

「あ、うん。互いに愛し合ってるなら別に人外と人が結ばれるとかもいいと思う派の人間だから気にせんでくれ」

 

あわわしている春姫を落ち着かせていると段々と桜花の心理状態が分かってきた気がする。ただでさえ上司達が警戒している相手なのに加えて男は自分だけ、男の自分が守らねばと思ってしまうだろう。加えてその一人が高貴な身の上とくれば普段よりも警戒心が高くなっても仕方がないだろう・・・彼女曰く前線に出るのは幼馴染である命達の力になりたいとのことで狐人自体も妖術と才のあるものなら神通力を扱える様になるという後衛として申し分ない種族の為許可が出たと喜んでいるようだけど。

 

「だとしてもまだ新米の彼女を合同任務に参加させるのはリスクが大きい」

 

「ああ、恐らく撒き餌だろう。下手な欲を見せないかのな」

 

「組織内政治という奴か。難儀な事だ」

 

折紙、スパルトイ、アズールと一緒に溜息を吐くと仲間の方に戻っていた春姫から小首を傾げられた。思う所はあるが俺達がうだうだ言っても出来ることはないか。

 

「さて、それじゃ色々ゴタゴタはあったが異界攻略と行こうか」

 

パンパンと空気を入れ替えるように手を叩くと皆も頷き等々異界へと足を踏み入る。この異界は最近になって急に現れたらしく現地の霊能力者では手に余るとされ、ヤタガラスに依頼が舞い込んだらしい。わざわざ鹿児島県に来るのかと思えば合同依頼の話が無ければ人材不足で受けれなかったとのこと。どこも人材不足のようだ。

 

「因みに事前調査とかされてるのか?」

 

「はい、地元の霊能者曰くオニとモムノフが集団で闊歩しているとのことです。」

 

「オニもいるのか。そういえば少し前に狩ったな」

 

そう言って装備している鬼神の小手を撫でる。呪殺対策の為に別の異界でオニを狩りまくったことを思い出すなー。

 

「モムノフもそうだが物理耐性が厄介だな。こちらは貫通スキルと魔法で対処するがそちらは?」

 

「こちらは残念ながら貫通スキルはありませんが魔法ならグライ系を私が。桜花殿と千草殿は斧と弓で物理のみですが耐性程度なら春姫殿の固有スキルでの補助で押し切れるかと」

 

「固有スキル?」

 

「は、はい・・・とはいっても現状それしかまともに使えないのですが」

 

折紙がどんなものかと視線を向けると自嘲の笑みを浮かべながらも説明をしてくれた。魔法スキル【ウチデノコヅチ】なんでも狐人という種族由来では無く春姫だけが使える固有スキルで今現在は一人に限定してだが一定時間の間レベルを+10することが出来る破格の性能だという。

 

「え、マジで?」

 

「それは確かに破格の性能」

 

「ほう、興味深いな」

 

「で、ですが自身には使えないので足手纏いに成りかねないかと」

 

「そこは俺達がフォローすればいい」

 

「そうですよ。頑張りましょう!」

 

「えぇ春姫殿の身は私が護ります故!」

 

俺達が春姫を褒めると本人は卑下するが命達がフォローするという。俺達もそれとなくフォローするとしようか。

 

「取り敢えず最初は小規模の奴らを攻撃して互いの連携を確認するか」

 

「了解した。それで行こう命索敵を頼む」

 

「アズール、お前は上空からだ」

 

「承知しました桜花殿!」

 

桜花と打ち合わせをして地上は命、上空はアズールにそれぞれ索敵を指示して異界攻略を開始したのだった。




読了ありがとうござます!今回で異界攻略に入りたかったんだけどなー・・・これからは掲示板要素もまた盛り込んで行きたいですね。【ウチデノコヅチ】はダンまちでは1レベルの差が大きそうだったので1レベル=10レベルとして表しました。つまりダンまち基準だと巫女さんは12、13レベルという意味でもありますけどね(白目)

狩谷の前世の職場
上場企業の商社に勤めていた。30代で課長になるなどそこそこ優秀な業績を収めるが厄介な人材が部下になりやすくそれを教育していく間に上司や社長からどんどん厄介な人材を押し付けられることになる。しかし会社自体はホワイト企業よりであり何故か厄介な人材が多く集まってしまう為に起こった出来事(そういう者達に限って能力が高かったり、バックにいる人物が高い社会的地位がありクビにしずらかったという事情もある)。其の為狩谷の給料とボーナスに色を付けたりと便宜は図ってくれた。

名無しの受付嬢がトラウマになっている教育方法(裏も含めて)
・事前に自身と面識がある会社の社長の中から新人が怒らせる確率が高く自身が動けば場が収まり、きちんと謝れば許してくれる相性の人物を選んで担当させて一回失敗させる。
・目の前で新人が下に見ていた自分がフォローをすると共に諭すことで自尊心を崩す。必要があれば言葉による指摘という名の追撃も加える。
・以上で改心すればよし、ダメなら連続でより失敗しやすい企業を選定してぶつけてこれを繰り返す。
・改心したあとはきちんと謝らせたあとは比較的新人と相性のいい企業を相性の低い順に担当させて自信を付けさせていく。
・他の教育法もあるようだがこれは受付嬢の様にまじめな奴には効く教育法とのこと
・因みにこの教育法の裏を知っているのは狩谷の上司と社長を含む一部の人間のみで裏の事情を知らない社員は教師に、裏を知る物は詐欺師に向いていると思われていた。


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異界攻略とお悩み相談

第十一話になります!・・・早いとこ原作に追い付きたいがそれまでにやりたいことが多すぎる(白目)


オニとモムノフの中規模混成部隊が異界内を移動している。当然だが誰一人として油断するものは皆無、異界内の他の悪魔、外から来た霊能者が個人或いは集団で襲って来た時に備え警戒を怠らない。互いの死角を埋める様に注意深く周囲(・・・・)を隈なく索敵の目を光らせる。そう、あくまで彼らが警戒しているのは周囲(・・・・)のみ・・・だからこそ距離が離れた上空から放たれる攻撃には気づけない。上空のアズールは氷の様に冷徹に自らが最も得意とする魔弾を狙撃銃に装填し、発射する【コンセントレイト】【氷結プレロマ】【初段の賢魔】【二段の賢魔】【龍眼】【マハブフダイン】。狙撃銃といえでも魔銃と魔弾にその常識は通用しない。マハ系の魔法を弾に込めればそれは狙撃銃からグレネードランチャー、狙撃から爆撃へと銃撃の種類は変化する。

 

殺気すら感知出来ない遠方からの魔弾が着弾する氷結の冷気が部隊を包み込み、これだけで半壊するほどの被害が出ているが、部隊の混乱を鎮めようとリーダーのモムノフが指示を出し混乱を鎮めようとする。

 

「リーダーみっけ」

 

ニヤリと笑うと俺も仕事をする為に駆けだす。事前に掛けた補助魔法と装備、聖槍でブーストされたスピードに【初段の猛速】【二段の猛速】【物理アクセラ】でさらにスピードを増強させ隠れていた茂みから駆け出す。そのスピードは嘗て今の聖槍の元になった天閃の聖剣を所持していたフリードを優に超えるスピードで混乱している敵部隊の合間を縫い、聖剣モードで敵リーダーに【チャージ】【物理プレロマ】【物理サバイバ】【コロシの愉悦】【武道の素養】【初段の剛力】【物理アクセラ】【貫通撃】 のスキルを発動し、攻撃を加えリーダーとその周囲にいた数人のオニとモムノフの首を斬り飛ばす。

 

「な、貴様!?」

 

「集団の頭から先に落とすのは常道だろ?あと俺だけに注目してていいのか?」

 

「何?」

 

まだ頭が回っていない部隊を笑って注意を引き付けていると彼の背後から命が飛び出してくる。

 

「動きを封じさせて頂きます!【マハグライ】!」

 

魔法で起こした重力でダメージを与えると共に動きを封じてその後をスパルトイ、桜花が千草の弓の援護を受けて春姫の【ウチデノコヅチ】でのレベル上昇で向上した攻撃力で【脳天割り】を発動する。

 

「はぁ!!」

 

それを受けた元々手傷を負っていたオニは倒され、スパルトイもモムノフ二体を【チャージ】【物理プレロマ】【暗夜剣】で仕留める。これでこの部隊は壊滅したが、これで終わらないのがこの異界の厄介な所だ。

 

「っ!皆さん来ました!」

 

高い木の上から弓を放っていた千草が気づき別の部隊が来ていることを知らせる。この異界は特に部隊同士は仲間でもないくせに頻繁に増援が来るのだ。よって速攻が望ましい、次に対処しやすいからだ。

 

「さぁ頼むぜうちの最強戦力」

 

既に俺達の上空にはアズールが戻って来ていた彼女に抱えられていた折紙が補足した敵部隊に向けて魔法を放つ。【コンセントレイト】【万能プレロマ】【万能サバイバ】【初段の賢魔】【二段の賢魔】【三段の賢魔】【メギドラ】

 

「吹き飛べ」

 

一瞬の燐光が光り輝きこちらに向かっていた部隊を文字通り消滅させる。神木家の最大戦力(戦術兵器中学生)は今日も健在のようだ。

 

「やはり何度見ても折紙殿の殲滅力は凄いですね・・・最初は最大戦力と聞いて驚きましたが納得ですね」

 

俺の隣に命が来ると魔法スキルを使うことが出来るからか自身との差を理解出来たのだろう。

 

「中学生が最高戦力とか兄としても情けないけど実際こと殲滅力ならレベル以上だし回復、補助もしてくれてるから足向けて寝られないな」

 

まぁ一緒に同じベッドで寝ているから足向けるも何もないけど。勿論ある程度連戦も行っているが休憩を取る時などは、援軍を一度一気に殲滅して他の部隊に気づかれない様にしている。要するにあれである。

 

「よし皆、夕食だ!!」

 

飯の時間だ!!!

 

 

身を隠しやすい森、その中でも夕方までいくつもの部隊と戦い悪魔達の行動ルートから外れているポイントを選んで今夜の野営を行う。幸いこの異界は動植物共に外と変わらない生態系らしく川辺に拠点を立てれば水と食料は問題ない。今は料理が出来る組である俺、命、千草、春姫で料理を作ることになった。他の者達は食器を並べなどをしてくれている。因みにスパルトイは身体が骨なので飲み食いはしない為周囲を警戒してくれている。

 

「三人共調理が上手いな」

 

「料理は教養で学んでおります」

 

「私はくノ一としての各所に潜入する時など家事が出来た方が便利ですので」

 

「え、えっと私は・・・花嫁修業です。はい」

 

「花嫁修業?・・・お相手はいるのか?」

 

「え!?」

 

相手はいるのかと聞いて見るとめっちゃ動揺している。ふむふむこれは気になる!

 

「で、相手は誰よ」

 

「ええ!?そ、それはその・・・」

 

「「桜花さん(殿)です」」

 

「ふぇ!?命ちゃん、春姫さん!」

 

そっこーでバラされて顔赤くしている千草に俺達は笑ってしまい、同胞である命と春姫にはポカスカと可愛く拳を振るって抗議をしていて俺もちょっと睨まれてる。そんなこんなで比較的和気藹々の空気で調理が終わり夕食の時間となる。因みに今夜のメニューはジビエは任せて置けということで猪のシチューだ。猪は臭みもあるが上手く解体及び肉の処理をしたり、途中で採取したハーブや俺が持ち込んだ香辛料で臭みを消している。前世の祖父こと爺さんに教わった料理だが今世では初めて調理する事になったが中々の出来だ。流石異界で生き残っていた猪、身が引き締まっていたな。お陰でお肉は食いごたえがありながら柔らかく表面を軽く焙ってから煮込んだので肉汁も噛めば溢れて来る上質な肉だ。これ以上となると人が飼育している個体くらいなものだろう。

 

「おお、美味しそうですな!」

 

「・・・ジュルリ」

 

「折紙、涎出てるぞ」

 

アズールが折紙の涎をハンカチで拭いているが好評で何よりだ。

 

「三人の補佐があったお陰さ」

 

「いえいえ、解体から肉の処理や臭み消しまで知らないことが多かったので勉強になりました!」

 

「うんうん!」

 

「狩りになれている様子でしたが誰から教わったのでしょうか?」

 

「昔(前世の)爺さんに少しな」

 

「なるほどお爺様直伝でしたか」

 

少し喋っていたら折紙が限界そうだったので、実食となったが味の方も喜ばれたようで何よりだ・・・モグモグ。うーんやっぱ俺には爺さんが調理したシチューの方が上だと感じるな。隠し味とかないはずなんだけど年季の差かね?

 

食後はスパルトイも戻ってきてローテで見張りを交代しながら就寝となる。まぁ折紙が結界を張っているのでレベル以下の悪魔は近づけないしあのレベル詐欺パラメーターのお陰で折紙以上のレベル(天使の力不使用時のレベル換算)でもある程度までなら全力で攻撃しても尚無傷という理不尽な仕様なので必要かは正直疑問だが訓練ということで納得するか。あ、ちゃんとテントは男女別なのでご心配なく、折紙が俺達のテントに来そうになったがアズールに抑えて貰っている。

 

「それにしても素晴らしい結界ですね・・・まるで機械の様に一部の隙もない」

 

「本人にも言ってやってくれ。自慢の妹だよ」

 

今夜の俺の見張り番は春姫と一緒なのだが結界のお陰もあり互いにお茶を啜りながら雑談に興じている。

 

「はい、勿論です・・・はぁ私は折紙様の様になれるのでしょうか?」

 

「うーん、春姫は【ウチデノコヅチ】から考えて補助魔法の方が得意そうだが?」

 

「それはそうですが・・・攻撃魔法や結界以外にも補助魔法もこなせるではありませんか。私もせめて得意分野くらいはと思っているのですが」

 

なるほど、自分の苦手な所だけでは無く得意な分野までそつなくこなす年下の折紙を見て情けなく思っている様だ。うーん何て言うかな、ぶっちゃけ高位天使の転生体だからと言えば全部解決するんだけど現状折紙の正体はネオベテルの転生者達、あとはイリナ達を含めた所属している一部の現地人しか知らされていない為それを言う訳にも行かんしなー。

 

「そうだな、確かに現状では【ウチデノコヅチ】以外は折紙の方が上だろう」

 

「・・・そうですよね」

 

「でも折紙も完璧って訳じゃない。あいつ範囲火力は凄いけどその範囲がデカすぎて偶に俺達巻き込まれて死に掛けるからな」

 

「え、そうなのですか!?」

 

「ああ、細かい調整が苦手なんだよ」

 

やはり元天使と人間では感覚的に違う所が多いのだろう。折紙曰く幼い頃はコップ持ったら粉砕してたらしいし。

 

「それに春姫にはさっき言った固有スキルがあるじゃないか。その練度を高めたり派生させたりやれることは多いさ。というかちょっと贅沢な悩みだぞ!」

 

「ひや!?すみません!」

 

頭をワシャワシャと撫でてやると暗くなっていた顔も少しはマシになったようだ。ただ恥ずかしがっているだけかも知れんが。

 

「皆自分には何が他人より出来るのかなんて分からない方が普通さ、自分以外に出来ないことがある俺達は恵まれてる方だし更にそれが自分のやりたいことと合致するなら尚のこと幸運だ」

 

「自分の・・・私のやりたいこと」

 

「春姫は誰かを支える方が好きだろ?それくらいは今日初めてあった俺でも見てて分かる」

 

「好きかは分かりませんが、やりがいは感じています」

 

「ならそれを伸ばして行けばいいさ。自分の出来ること、好きなことをな。勿論命のやり取りをする仕事に就いている以上仲間に配慮する場面もあるだろう。でも幼馴染のあいつ等に今更遠慮は失礼ってもんだ。信頼しているならきちんと話せば受け入れてくれるさ。春姫もそうするだろう?」

 

「命ちゃん達が相談して来たらですか。そうですね私なら受け入れると思います・・・私も頼っていいんですね」

 

後半は小声だったが恐らくそこが肝だったのだろう。幼馴染だとはいえ身分差があり実力も一番低い、頼ると迷惑を掛けてしまうという先入観があったわけか。

 

「あ、すみません狩谷様すっかりお悩み相談みたいになってしまいまして」

 

「気にしないの戦友の悩みを聞くくらい普通普通。それに割と慣れてるしな」

 

前世も部下や同僚、上司の悩みを良く聞いたもんだ。俺は話しやすいのかね?

 

「まぁもし何か思うことがあるなら将来さっきまでの春姫みたいに悩んでいる奴が居たら話だけでも聞いてやってくれ。それだけでもそいつは楽になるだろうから」

 

「・・・はい!」

 

笑顔で返事をする春姫に少しだけ手の掛かったかつての厄介な部下達の姿を重ね合わせて、月光に照らされながら再び他愛もない雑談に興じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「やはりおかしい」

 

同じ月光に照らされている折紙はテントを抜け出して外に出て霊脈、龍脈を調べていた。

 

「一神教・・・いやメシア教の術式のせいで変質している?少なくともただの異界ではない」

 

嫌な予感を感じ取るが今回は放置を選択した。"カリヤ"の成長に繋がると考えたからだ

 

「もっと強くなって貰わないと・・・私の目的の為にもまた(・・・・)飲み込まれない為にも」

 

折紙とて自ら義兄と称する人間を愛していない訳が無い。しかしその愛は人間に寄ったとはいえやはり天使基準の愛なのだった。




読了ありがとうございます!ちょっぴり天使の側面が出た義妹。これから度々こういうことがありますのでご容赦の程を

【ヤタガラス組のレベル】

桜花:Lv11
命:Lv10
千草:Lv8
春姫:Lv4

尚現在は全員レベルアップしていますが異界を攻略完了する頃にはさらにレベルが上がるのでこれは突入時のレベルになります。最終レベルは最後に纏めて表記すると思います。


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神の狂雷

第十二話になります!色々ネタを詰め込みたいが回収出来ない可能性があるのが怖い。FGOで無償石分でアルクウェイド×3、水着イベで呼び符×10でレディ・アヴァロンを引きましたが水着伊吹童子ガチャで爆死しました。エリセは如何にか3枚引けたけど・・・


あれから数日間俺達は異界の攻略に勤しんだ。その間に春姫は桜花達と話したのか初心者特有のぎこちない動きも直ってきて視野も広がりのびのびと動けている様だ。

 

「まぁまだ危なっかしさはあるけどな」

 

「少し前までカリヤも似たようなものだった」

 

「う、まぁ確かに・・・にしてもそう言えば俺覚醒してからまだ三ヶ月も経ってないんだな」

 

色々濃すぎだろと苦笑しながら先に進むが、この異界の霊脈などが一か所に集まる地点。恐らく異界のボスが陣取っている所に進むに連れて悪魔の平均レベルは上がって行きさらにはラクシャーサやヨモツシコメまで出て来ている。

 

「流石に難易度が上がって来たな。俺達はまだ余裕があるが・・・【ウチデノコヅチ】で如何にかか」

 

「えぇ、正直想像以上でした。とはいえあれは春姫殿の負担を考えると乱発は出来ません」

 

「だ、大丈夫です。皆に守って貰っているんです。多少の無理くらいはできます!」

 

「そうか、分かった。ただ無理はしても無茶はするなよ?」

 

しっかり釘を刺しながら進んでいく。上手く行っているときが一番落とし穴に掛かり易いからな注意しとかんと

 

「それにしても風景は森や平原多くて本当に進んでいるか分かりづらいな」

 

「でもちゃんと進んでいるんだろ?」

 

「はい、私のスキルでも敵が多くなっているのが感じ取れています」

 

命が桜花と俺の言葉にそう応える。敵探知系のスキルを持っているらしく奥に行くほど敵の数や質が多く、高くなっているらしい。

 

「となるとやっぱこのままでいいのか、ここの主は何者なんだろうな?」

 

前兆もなく急にポンと現れた異界の主か・・・どう考えても厄介事の匂いしかしないが

 

「あれは?」

 

「社?」

 

出て来る悪魔をなぎ倒し、時折休息を取りながらしばらく進むと割と立派な神社のお社が見えて来た。千草と俺が小首を傾げて疑問符を浮かべる。ここの主は神道系の神様なのかしら

 

「取り敢えず調べて見るか?」

 

「はい、この異界の主のヒントがあるかも知れませぬ」

 

そうして各自警戒しつつも神社を調べ始めた。俺はあまり詳しくないが国内最大勢力であるヤタガラスの構成員なので其処ら辺は詳しいはずだ。

 

「うーん、素人感想だが一見普通だが・・・何か違和感があるんだけど?」

 

前世では近場にあることもあり、初詣や待ち合わせなどでちょくちょく神社には行っていたので何となくだが違和感を感じるんだよな

 

「確かに不自然ですね。神社は神様を奉るだけでは無く互いに交信する場でもあるのですが、ここの作りはまるで奉っている神様を神社内部に閉じ込めているような気が」

 

春姫の言葉に感じた違和感の正体に気が付いた。確かに他の神社よりも閉鎖的な印象を受ける。

 

「とすると悪魔、というより神様を封印する役割でもあったのか?」

 

「その封印が解かれたことで異界が出現した。筋は通りますが・・・」

 

「ああ、唯の経年劣化ならいいがそうじゃ無ければ誰かが意図的に解いたことになる」

 

封印を解いたのが人間か悪魔か、いずれにしろかなりの使い手だろう。

 

「それに見た所作りは丁寧ですが短期間に作られた様に見受けられます」

 

「短期間・・・そういえば過去の大戦後メシア教の手で日本固有の名の通った悪魔は討伐されたか封印されたかしたはずだが、もしかしてここが?」

 

「可能性がないとは言わないが確かそういう封印場所には封印を守る天使がいるはずだ」

 

「はい、悪魔の強さによってレベルの高さは変わってきますが最低でも悪魔の封印の異常がメシア教側に伝わるまで足止めが出来るクラスの天使が守護を任されているはずです」

 

桜花と千草曰く俺の考察通りならばそもそも異界化が起こった時点でメシア教が気づいて行動を起こしてなければおかしいのだとか。

 

「確実な事実を総合すると悪魔の封印が解けて異界発生、復活に際しこの神社の霊的機能が失われたって所か」

 

「少し違う」

 

「ありゃ違うの折紙?」

 

「霊的機能は完全には失われていない。ギリギリ封印されていた悪魔が神社外に出ない様にする結界は生きている」

 

「ふむ、妙な感覚がしたが結界の類か」

 

スパルトイとアズールも感覚的に感じ取っていたのか辺りを見回している。なるほど三人とも悪魔由来の感覚で感じ取っていたということか・・・

 

「「「「「あれ?でもそれってつまり」」」」」

 

俺達純人間組の表情が固まる。外に逃がさない結界は機能している。ふむ

 

「おい、それ俺達のいる境内にボスがいるってことじゃねぇかよ!?」

 

直後巨大な雷が俺達の元に降り注いだ。

 

 

「あっぶね!?」

 

落ちて来る雷を聖槍で【冥界破】を発動して受け流す、恐らく【ジオダイン】なのだろうが威力がおかしいんですけど!

 

「おいおい俺と聖槍でも受け流すのがやっとかよ!!」

 

「っ!?皆あそこに!!」

 

命がスキルで敵を感知し、いち早く警告を飛ばす。そちらの方向に目を向けると神社の上でこちらを見下ろす影が再度雷を放とうとしていた。

 

「おっとやらせねぇ!!アズール!!」

 

上空に待機していたアズールが魔弾で攻撃を加えると即座に跳躍し地面へと降り立った。

その姿は人型で引き締まった身体は炎の様に真っ赤に染まっていて武器である剣をこちらに向けている。

 

「あんたは・・・折紙アナライズだ!!」

 

「既にやっている」

 

俺の考えは折紙も同じだったようでアナライズはすでに終えていた。しかしその目は珍しく驚きで見開いている。

 

「種族・・・天津神Lv57 タケミカヅチ!」

 

「くそ!よりによってその個体か!!」

 

目の前のタケミカヅチを睨む。その悪魔は作品によって立ち位置が変わる悪魔だ。普通ならレベルは40台辺りだが50を超える個体は育成した個体、というより分霊はその登場作品で重要な意味を持つ名を有している。そしてゲームは兎も角現実ではその名はレベル以上の力を悪魔に与えるのだ。なぜこんな所で遭遇するのか、或いは俺が神殺しだからなのか

 

「"必殺の霊的国防兵器"!!ちくしょうまたレベル50台とかふざけんな!つい最近やりあったばかりだっての!!」

 

嘗ての大戦時に召喚された日本を守護する大悪魔達。敵対する存在のスケールのデカさゆえに本霊自体は勿論召喚者である人間側も出来得る手を全て打ち文字通り最高の状態で召喚された悪魔達は通常の分霊個体とは隔絶した強さを持つ。レベルが高いこともそうだが何より最終的に負けたとはいえ【必殺の霊的国防兵器】という日本の霊的守護の最高位の名が、逸話がその力をさらに押し上げている。恐らくレベル的には格上の万全のマンセマットでも特に強い一部を除いても1対1で如何にかギリギリ、弱体化した分霊ではとてもではないが勝ち目がない程の強さを誇る。

 

「ウオオオオオオオオ!!!」

 

「く、来るか!!お前ら散開、いや各個撃破されないように固まれ!!」

 

「な・・・」

 

まだ目の前の悪魔の存在感に気圧されている命達は身体が動けていない。それを見て内心仕方ないと分かっていても舌打ちして、自分が出せる全速力を以て先に命達を仕留めようとしたタケミカヅチの一閃を受け止める。

 

「痛っ!!!!【物理貫通】持ちか!タケミカヅチ様、ちょっと話合いを「ウオオオオオオオ!!」あ、ダメそう!」

 

交渉にすら入れない、今日はフルムーンかこの野郎!!と思っているとタケミカヅチの頭部が【メギド】で爆破され体勢が崩される。そこにアズールの氷結の魔弾で一時的に動きを止めてくれたので一旦距離を取る。

 

「ナイスだ折紙、アズール!」

 

「うん、恐らくあの悪魔は現在狂乱状態」

 

「狂乱だと?封印の事と言いやったのは並み外れた実力者だな。何故そんなことをする意図は分からんが」

 

「本当だよ!・・・守護している天使が来る気配がないな。これは封印を解いた奴に既に倒されたということか」

 

しかも周りに悟らせることなく仕留めたことになる。いやマジで誰やねんと神木家一同あーだこーだと言い合う。とはいえ解決策はシンプルだ。

 

「あいつを倒すか、依代を奪取するかだな。依代から遠くには離れられないはずだ」

 

原作のコウガサブロウも出るのはトウキョウばかりでミカド国には現れなかったはずだ。まぁ逆に言えば首都一個くらいの中なら好きに移動できるとも言えるのだけども。だがそもそもの問題がある

 

「原作にタケミカヅチの依代が出てこないんだよな・・・」

 

依代が分からないとどうにもならないので、結局殴り倒すしかないのだ。

 

「春姫は【ウチデノコヅチ】を俺に、少しでも差を埋めたい。あと桜花・・・お前が緊急撤退手段持っているんだろ?」

 

「な、何故それを!?」

 

他の三人も驚いているが別に驚くことでもない唯の消去法だ。前に言ったがヤタガラス側のメンバーの中に異界内であっても外に連絡、或いは脱出手段を持っている者が一人はいる可能性は高かった。となると誰がそうかと考えた時に真っ先に外れるのは春姫だ。【ウチデノコヅチ】という固有スキルを有するが、自他ともに認める半人前で本人もそれを嘆いていた。その言葉に嘘がない以上そう言ったスキルを持ってるはずがない、彼女が悩んでいたのは直戦闘能力では無く自身の果たせる役割が"少なすぎた"ことなのだから。色々応用が効いて緊急時に仲間の命を左右する力を持っていたのなら彼女の性格上抱く悩みは自身の役割を無事"果たせるのか"という悩みになるはずなのだ。それに彼女の役割はこちらへの餌である以上役割を重複させるのは愚策だ。

 

次に外れるのは命だ。彼女の対応範囲は近接戦闘、魔法、索敵、隠密と総合力なら一番レベルの高い桜花より上だろう。だが逆に言えば命のレベル帯では総合力が高すぎて【俺ら】の様な霊的才能SSRか特殊な加護でも無ければ他の特殊性のあるスキルなどが入り込む余地というか余裕がないのである。

 

残るは千草と桜花になる訳だが・・・多少正確性に欠けるがスキルの適正率で見た結果だ。発現するスキルは個々人の才能や精神性、行動が大きく影響する。では緊急時に活用出来るスキルの適正とは何か、専門家でもない為非常に主観的な意見になるがそれは危険察知能力と決断力だと考える。これは実際に感じる明確な危険以外にも危険になりえる存在、事柄を直感的に捉えられることとそれに対して迷いなく決断出来る判断力を桜花が持っているのは初日のゴタゴタで分かっていた。ただ本人にその自覚は無い為その才能を伸ばせておらず中途半端になっていることからあんなことになったのだろう。

因みに連絡ではないと思ったのはそんな手段があるなら定期的に本部と連絡を取るはずだがその様子が全く無かっただけである色々お喋りとかしてたし。

 

「とまぁそういう訳で頼むよ」

 

「しかし・・・」

 

「他の戦闘中も俺らより命達に視線や意識を向けてただろう?こういう事態は想定していたはずだ」

 

「それは、そうですが」

 

「で、ですが狩谷殿!相手は難敵、ここは力を合わさせて・・・!」

 

「だからこそだ。残念だが今のお前らじゃ足手まといだ」

 

はっきり、そう言い切る。4人とも一瞬驚くが理解はしていたのか悔しそうな顔をする。

多少罪悪感を覚えるも事実である為言葉を濁さず伝える。マンセマットの時とは事情が異なる。イリナ達はレベル的には命達より少し高い程度だったが元々メシア教や天使との戦闘には慣れていてそれ用のメタ装備をしていたこと、何より聖剣の力がレベル以上の力を発揮することが出来た。それでも尚足りなくてデュランダルや聖剣の共鳴、折紙の天使化、神殺しの力で如何に倒したのだ。正直【ウチデノコヅチ】しか有効な手がないヤタガラスメンバーではレベル差で押しつぶされる。流石に俺達もフォローしきれないレベル差だ。俺達にとっても格上だし

 

「なーに、置き土産代わりに【ウチデノコヅチ】を貰うからさ。だから気にすんな」

 

「・・・分かりました」

 

春姫が覚悟を決めた顔をすると【ウチデノコヅチ】の詠唱を始める。アズールが氷結の魔弾を連射してタケミカヅチの動きを阻害する。本当理性が無くて良かったよ攻撃一辺倒だし、まぁそれで時間を稼げるのは後少しだけど

 

「ああ、それでいい。自分のやりたいこと、できることをやればいい」

 

「~~・・・はい、【ウチデノコヅチ】!!」

 

詠唱が終わり俺の頭上に打ち出の小槌が出現し、振り下ろされる。おー何か一気に身体能力が上昇した気がする。初めてかけて貰ったが凄いなこれ

 

「ありがとうよ。やっぱすごいなこれ。よし桜花」

 

「分かりました!【トラエスト】!」

 

「狩谷殿、折紙殿、スパルトイ殿、アズール殿御武運を!」

 

「外で待ってますから!!」

 

「どうかご無事で!」

 

激励も送られ命達の姿が掻き消える。にしても【トラエスト】とは良いもの持ってんじゃないか、てっきり【トラフーリ】かと思ってたが。

 

「おっと自分に【ジオダイン】か。無効だし普通に暴れるより効率がいいな」

 

「とはいえ狂乱で知性が飛んでいる様で助かる。本来なら即座に【ジオダイン】を使っているはずであろう」

 

「さて、どうするか。取り敢えず折紙は皆に【ラスタキャンディ】重ね掛けと天使化はどうする?」

 

「【ラスタキャンディ】・・・行き成り天使化はやめて置きたい。恐らく見られている」

 

「うわ黒幕か?戦力調査にしては駒が豪華過ぎだろ。お陰で死に掛けないといけないんだけど」

 

「他にも目的はあるのかも知れんな・・・不測の事態の為には妹君の力は隠して置く他無いか」

 

「うーん、やっぱこれ前回のマンセマットより条件厳しくないか?」

 

「仕方があるまい。アズールは後方支援の弱点属性での狙撃、妹君は補助と回復をしつつ魔法攻撃を。我は盾役で引きつけつつ主が遊撃でどうだ?」

 

「いいんじゃないか?・・・というか俺達戦法が大体ワンパターンじゃない?全体的にゴリ押し感が凄いんだけど」

 

「特殊な状況でもない限り汎用的な戦術だと私達はこれしか出来ない」

 

「基本物理だろうと魔法だろうと我々は脳筋だからな」

 

「これはCOMP買ったら新メンバーを迎えないといけねぇかな」

 

そんな感じに俺達3人と会話は出来ないが苦笑しているアズールはいつも通り駄弁りながら作戦を決めると各々武具を構えて氷を完全に破壊し雄たけびを上げるタケミカヅチに立ち向かっていく。

 

「ウオオオオオ!!!」

 

「うるっさ!?勝手に起こされて狂わされたことには同情するが、取り敢えず殴って沈めて落ち着いて貰おうか!!」

 

「作戦開始」

 

「おう!・・・やっぱり脳筋では無いか我々」

 

「コラそこ余計な言わないの!アズールも溜息吐かない!」

 

「相も変わらず締まらない」

 

それが我々のパーティーであるのだから仕方がないのだ。




読了お疲れ様でした!主人公達のレベルはレベルアップのあるので異界攻略後公開いたしますが、今現在では一番高い狩谷ですら30台には届いていません・・・何でこいつら毎度ボスがレベル50以上とかになっているんだ?インフレおかし過ぎだろ本家様や元祖様を見習えよ(作者のせい)


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力押しvs力押し

第十三話!異界攻略は一区切りです。あ、因みにこの章はまだまだ続きます。


どうもどうも狩谷です。今現在絶賛戦闘中なんですが・・・

 

「どわ!?あぶね掠った!」

 

「気を付けよ、理性や知性が無い分隙が大きいが我以外が一度でも攻撃が当たるとそこから崩されるぞ!」

 

「分かっている。防御が得意なお前でも数発が精一杯だしな」

 

スパルトイからの忠告を受けつつタケミカヅチの相手をしている。技術も糞もない暴力の嵐だが高スペックのゴリ押しがきつく俺達前衛はギリギリ保たせている状態だ。

では後衛は安全かと言えるかというとそうでもないんだなこれが、あいつの【ジオダイン】は通常の様に自分から放つパターンだけではなく頭上に雷雲を発生させて放つパターンもあるようでアズールも高機動型のスピードで後者のパターンの【ジオダイン】を躱しつつ狙撃してくれているが攻撃頻度は少なくなってしまっている。折紙は結界術で敵の攻撃を防いでいるが元々の耐久度がレベル詐欺とはいえ天使化していない折紙の結界では大幅に格上のタケミカヅチの攻撃を何発もくらえば破られてしまう。しかし元々のスペックと【魔脈】【一分の魔脈】【ニ分の魔脈】でレベル詐欺の如く最大値が大きく増えている膨大なMPで破られる傍から結界を再度展開する力技でその結界の範囲は要塞と化している。さらに戦況を見極め回復、補助、攻撃を冷静な判断で臨機応変に行使している。間違いなくこの戦闘で一番頭を使っているが機械的にかつ臨機応変な動きが出来るのは天使故だろう。

 

「とはいえ膠着状態だ。妹君のMPの負担も大きい、もしMPが切れたら一気に苦しくなるぞ?」

 

「確かに・・・ならアズールと折紙がまだ動けるうちに手は打っておくか!プランTでいくぞ!」

 

「うむ!」

 

「了解」

 

この作戦の肝はアズールだ。今まで特に欠点らしい所がない優秀さだがそこは試作品、やはり設計通りには運ばないこともありその一つに魔銃がある。本来なら銃属性も攻撃属性に加わるのでその手のパッシブスキルも発動するはずなのだが魔銃では魔法の比重が大きいらしくし出力不足故発動されないのだ。そこで解決手段をロボキチニキと開発班と共に頭を捻った結果考え付いたのがフルチャージシステムだ・・・システムとか言っているが要はエネルギーを限界ギリギリまでチャージして銃撃系のスキルが発動する為の出力を底上げして無理やり発動させるというこれまた頭の悪い方法である。

詰まる所プランTとはまず前衛が敵を足止めしている間に折紙が安全圏にトラポート。今回の場合は俺達の町の上空だがそこで限界までエネルギーをチャージさせて

 

「隙を作った所で【サバトマ】!」

 

俺とスパルトイの攻めで出来た隙を見逃さずに【サバトマ】で再度召喚することで不意を突きつつ安全に最大火力を叩き出せるという戦法だ。因みにTは【トラポート】と【サバトマ】で共通する瞬間移動、つまりテレポートの意味である通称はトラポート戦法。

 

「ぶちかませアズール!!」

 

【コンセントレイト】【衝撃プレロマ】【初段の賢魔】【二段の賢魔】【龍眼】【ザンダイン】【トリガーハッピー】【銃撃ブースタ】

 

タケミカヅチのどてっぱらに狙撃というより砲撃と呼べる一撃が突き刺ささり、神社の社にぶっ飛んで行く。例え理性や知性があってもこの攻撃は避けられなかっただろう。まぁそれでも剣で受け止めたり受け身を取ることは出来たのだろうが今の状態ではモロに喰らうようだ。

 

「だがまだ倒れないか」

 

「ウオオオオオオ!!」

 

腹に風穴が空いてもタケミカヅチは倒れない。Lv57の高いレベルのパラメーターとスキルに加えて異界のボスということもありその分も強化も合わさることで最大HPが俺達と比べて桁が違うのだろう。

 

「ダメージは確実に稼げている。ならまだまだ!【ウチデノコヅチ】の効果時間は後3分、畳みかけるぞ折紙!」

 

「分かった」

 

アズールの狙撃銃はフルチャージの影響で冷却が必要な為しばらく使えないので同じ手段は取れない。折紙でもいけなくはないが範囲が広すぎてこっちもダメージを喰らう。しかし折紙との合体技みたいなものはないわけではない、そもそもプランTを見ても分かるように俺達の戦い方はアズール以外が敵の弱点属性を上手く突くスキルが乏しい為貫通するスキルの火力をパッシブ、補助スキル等で底上げした火力を上手い事敵にぶつけることが重要になって来る。とはいえこのタケミカヅチの様に単純な力押しでは地力の差が開き過ぎてまず無理だろう。ならどうするか?

 

「「ユニゾンレイド!!」」

 

無論さらに強い力押しである。ユニゾンレイド、魔法系列の特殊技能で二つの魔法を組み合わせてより威力と攻撃範囲を高める技術であるが基本的に複数人で行なう為魔法自体は勿論行使者同士が上手く同調する必要がある高等技術だ。その為本来は難易度が高いはずなんだが何故か俺と折紙は初めての挑戦で出来た。俺達二人がユニゾンレイドの適正が高いのかと思ったが他の人間や悪魔では出来なかった為俺達限定で同調がずば抜けてしやすいと分かったがなぜそうなのか今でも分かっていない。神殺しの力の繋がりのせいなのか義理とはいえ兄妹だからか、その両方かは分からないが俺と折紙は互いに強く同調、共鳴する何かがあるのだろうか?

 

【コンセントレイト】【万能プレロマ】【万能サバイバ】【初段の賢魔】【二段の賢魔】【三段の賢魔】【虐殺者】【メギドラ】

 

【コンセントレイト】【万能プレロマ】【万能サバイバ】【初段の賢魔】【二段の賢魔】【メギド】

 

二つの万能属性のエネルギーが混じり合い、威力を高め攻撃範囲だけならより上位の【メギドラオン】すら超える一撃を放つ。

 

タケミカヅチを中心に着弾、自分達の戦闘場所だった神社一帯を光が包み消滅させた。

 

「これ攻撃範囲なら核超えてるんじゃないか?」

 

「実際は放射能の拡散で被害規模はもっとあるだろうが爆発範囲なら上であろうな」

 

「うーん我が妹ながら恐ろしい」

 

魔法を放った後即座に折紙に集まって結界を張って貰いやり過ごす。まぁ普通に考えてこれで死なないのはおかしいのだが今回は相手がそもそもおかしいからな。

 

「でも仕留め切れていない」

 

煙が晴れると神社は綺麗に消滅。しかしタケミカヅチは盾にしたであろう剣と両腕を失ったがまだ生きている。流石に他の部位もダメージは入ってると思うが硬すぎやしないかね?

 

「グウウ」

 

「さて、止めの一手だ」

 

俺は自身の聖槍に聖剣使いの因子を集中させて、更に折紙の天使の力を聖槍に込めて貰うと輝きがさらに激しく光り輝き力が高まる。

 

「聖槍よ力を貸してもらうぞ!【チャージ】【物理プレロマ】【物理サバイバ】【コロシの愉悦】【武道の素養】【初段の剛力】【物理アクセラ】【鬼神楽】」

 

持ち前のスピードで即座に接敵して攻撃を叩き込もうとするが

 

「グオオオ!」

 

「おいおい、まだ元気に動くな!?」

 

野郎、残った足で回し蹴りや足撃で迎撃してきやがった!タフ過ぎるやろ!!

 

「だが、動きは鈍っている!!」

 

ダメージは完全に隠せていない・・・慎重に見極めれば活路は見える!

 

「スパルトイ!」

 

「分かっている行け!」

 

追い付いて来たスパルトイに一撃を受けて止めてもらい、その隙に聖槍を顔面に叩き込む!

 

「お願いしますこれで終わってください!」

 

懇願しつつ放った聖槍は・・・

 

「グア・・・わりぃな迷惑掛けてよ・・・」

 

相手の謝罪の声と共に地に伏した悪魔を見るに役割を果たしてくれたようだ。

 

 

 

「で、被害状況は?」

 

「スパルトイのHPが7割MP6割、アズールが5割でMPが8割、私はHPこそ無傷だけどMPが5割強削られた。狩谷も削られたHPは2割くらいだけどMPがすっからかん」

 

「俺の場合一撃でもまともに喰らったら後が無かったからな。特に貫通してくる物理」

 

「やはりさらに強い力押しは消費が激しい。こちらも適宜回復アイテムを使っていたが大分消耗したぞ」

 

「とはいえこれが一番俺らに合ってるしな」

 

「やはりそうそうに新戦力がいる・・・あれは?」

 

タケミカヅチ戦後被害を話しているとタケミカヅチの身体は消滅し、そこには一振りの刀が残されている。折紙にアナライズを頼むと

 

「布都御魂剣・・・タケミカヅチの神器。恐らくこれが依代」

 

「あいつ自身が持っていたのか・・・取り敢えず命達に合流して帰還するか、神社を調査するかだが」

 

全員が目の前の惨状を見る。うん、物の見事に草木一本生えていない荒野になっているな!

 

「帰るか」

 

「「うん」」

 

スパルトイの言葉にアズール共々頷く事しか出来ない我々だった。

 

 

 

 

 

 

異界外の遥か上空。狩谷達が命達と合流し、異界が消滅していく姿を眺めている二体の悪魔がいた。

 

「何とか攻略したようだな。レベル差を考えれば一見余裕がある様に見えるが」

 

「そうだね、確かにあの大火力三連撃は見事だったけど逆に言えばそれを耐えられてしまえばそれまでだ。あの天使が力を一部解放すれば難なく勝てただろうが神殺しが力を付けられないし、何よりただでさえ別系統同士の術式が複数混在していてその影響を受けている霊脈や龍脈が荒れていく中で高レベルの天使の力なんて使ったらより乱れを加速させてしまっていただろうね」

 

「実際、貴様に暴走させられる前のあの神なら例えユニゾンレイドを受けたとしても精々持っていけて片腕一本といったところか」

 

「そうなると残量MP的に厳しい戦いを強いられただろうね」

 

「・・・この策を聞いたときにも思ったのだがまだあの神殺し達にあやつらをぶつけるのは早すぎたのではないか?」

 

「確かに万全の彼を倒してくれた方がより成長出来たかも知れないけど、今のうちに必殺の霊的国防兵器をいくつか神殺し側に確保してもらった方が都合がいいのさ」

 

そう堂々と言い切る一方の悪魔を見てもう一人の悪魔はまだ納得はしていない顔をする。

 

「それは分かるが・・・む」

 

「君の娘達からの念話かい?」

 

「ああ、無事こちらに向かっていた"メシア教徒"共は殲滅したそうだ」

 

「本当君の娘達は優秀だねオーディン(・・・・・)

 

「抜かせクリシュナ(・・・・・)。しかしこのことで幾ら情報操作をしているとはいえそう遠くないことに我らの存在はバレるぞ?」

 

「構わないよ。そろそろ僕達も表に出ないとね、彼らが恐山を攻略した後にでも宣言するとしようか」

 

「まぁ他の必殺の霊的国防兵器の封印場所も大体掴めているし、問題はないか」

 

「それにガイヤ教に潜入して貰っているミロク菩薩にも待ちわびてるしね」

 

「あれは普通に文句だと思うがな」

 

オーディンは溜息を吐くと帰り支度を始める狩谷達を再度見据え一言

 

「いずれ我々"多神連合"と相見えることになるだろう。それまで精々力を付けて置け、神殺し」




読了ありがとうございました!力押し一辺倒のパーティーですが次回COMPと悪魔召喚プログラムで新戦力が加入します!どうなるんでしょうね?

多神連合
主要人物は大体原作通り。今まで隠れて活動しており、恐山攻略後から徐々に名前が広まって行く予定。しかし原作と違い幹部達は割と連携出て来ており多少の冗談などを交わせる中になっていて人間に対しても基本的には比較的人道的に接しているとのこと(勿論害を齎す者は例外、メシア教の狂信者エクソシストとか)。加えて原作にはなかった議長的ポジションの盟主がいるらしいが、現在は不在らしく正体も極秘になっている。


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COMPと悪魔召喚

第十四話になります!え、前回も言った?あれは第十三話でした・・・(修正済み)。
という訳でこの章の後半戦突入です。


異界攻略後命達と合流してことの次第をそれぞれの組織の上層部に連絡を取る。普通の合同任務のはずが必殺の霊的国防兵器絡みの事件になってしまい両組織の幹部陣は頭を抱えたそうだが結局ネオベテルの人員のみで相手をしたということもあり、依代の管理は巫女さんが行うことになったようだ。因みにタケミカヅチは依代の中で再生中とのことで厳重に管理しつつ、より早く再生が完了する様に促すとのことだ。ほぼほぼ上司に丸投げされた形になるがそれが上の者の仕事なので頑張って欲しい(前世で経験アリ)。封印を解いた存在は折紙によって神社そのものが消滅した為分からず仕舞いだった・・・そう言えば折紙が帰り道上空によく目を向けていたがなんだったのだろうか?

 

「ということてがあってな」

 

「あってなって狩谷君色々ハチャメチャだよね」

 

「まぁ相手が相手故仕方ないのか?」

 

「枢木神父がまた胃を痛めそうね」

 

「いやお前には言われたくないと思ぞ変態シスター」

 

上に仕事を投げて帰還してから数日後教会を訪れイリナ達にも合同任務のことを話している。

 

「ヤタガラス側からは何か言ってこなかったの?」

 

「特になしだ。寧ろ礼を言われたな、今回俺達と行動を共にしたメンバー達もいい奴らだった。機会があれば挽回のチャンスを下さいとまで言われたからな」

 

依頼で何度かメシア教と衝突したことがあるが同じ霊能組織でもここまで違うのかと感動してしまった。

 

「ふむふむ性格は良しと、因みにイケメンは居たかな少年?」

 

「退院そうそう聞くことがそれか。体格の良い漢って感じの奴がいたがそいつに思い寄せている子もいたからやめとけ」

 

「あら残念」

 

残念と言いつつも本気では無かったのか笑っているのは以前の事件でネオベテルが保護した本条二亜だ。彼女は俺が異界攻略中に退院し、この中野の教会に配属を希望して引っ越して来ていた。しばらくはこの教会で生活し、エクソシストの仕事でお金を貯めたらマンションなどで部屋を借りて機材を買い漫画家としての仕事をしたいのだそうだ。

 

「その前にイケメンの造魔を作って貰ってからだけどね!」

 

「ブレないなお前」

 

再び前を向く原動力がそれで良いのかと思わなくもないが悲観になられるよりはマシなので仕方ない

 

「まーねー。そういえば折紙ちゃんは?」

 

「今日はクラスメイトの女子数人とお出かけだってさ。曰く女子会らしい」

 

「折紙様も人間の世界にすでに慣れているようだな」

 

「ワシリーサを避けた可能性もある」

 

「ええ!?そんな!」

 

「ああ、有り得そう」

 

そんな雑談を続けていると俺と二亜の携帯が鳴る。ワンコールだからメールの様だが送り主はネオベテルからのようだ

 

「何!?COMP第一次生産分が販売開始だと!」

 

「うわ、その内だと思ってはいたけど等々発売されたか~。ネオベテル構成員なら9割引きだけど・・・それでも高い!いや、性能的に考えれば凄い安いんだろうけど!」

 

俺と二亜が騒いでいると他の三人もピンと来た様で話に加わる。

 

「COMP、確か悪魔召喚プログラムを使用出来る機械だったか」

 

「あ、知っているんだ」

 

「枢木神父から話は聞いているからな。こちらも割引価格で買えるとのことだ」

 

「それはまたデカい戦力向上だな」

 

「うーんでもまだ少し怖いのよね」

 

「デビルサマナーになるということはある程度魂が悪魔に寄ることになりますからね」

 

イリナ達は戦力としては理解があるようだがデビルサマナーになるリスクで悩んでいる様だ。サマナー自身も使役する悪魔相応のレベルが必要になる。あ、因みに今回の異界攻略で俺達もレベルが上がっている。具体的には

 

【ヤタガラス組のレベル】

 

桜花:Lv11→Lv14

命:Lv10→Lv13

千草:Lv8→Lv11

春姫:Lv4→Lv8

 

【神木家のレベル】

 

狩谷:Lv27→Lv33

折紙:Lv25→Lv33

アズール:Lv24→Lv32

スパルトイ:Lv22→Lv30

 

ついでに教会組は

 

【教会組のレベル】

 

ゼノヴィア:Lv25

イリナ:Lv23

二亜:Lv10

ワシリーサ:Lv36

 

神木家の中で俺だけ上昇分が少ないのは【ウチデノコヅチ】を受けたことのデメリットでボス戦の獲得経験値が半減しているからだ。ある種のボーダーラインである30レベルを超えた訳だが一気に上がり過ぎて感慨深さがないな。まぁそれはそうと

 

「あ、エイナ?うんうん、そうそう。仕事だぞ」

 

 

 

「という訳で第一次生産分のCOMP(スマホ型)をゲットした訳だが」

 

「あの受付の者はゲッソリしていたがな」

 

翌日俺とスパルトイは折紙に【トラポート】で送って貰って博麗神社にいる。消耗品を買い足したりCOMPも買うことが出来た。今回はそのまま悪魔召喚プログラムもインストールすると召喚する為の召喚場まで足を運んでいる。

 

「それで何体召喚するのだ?」

 

「二体だな。アズールとお前を入れて合計四体だろ?」

 

「なるほど【サバトマ】を併用しての同時召喚の限界までか」

 

「そうそう、それにいきなり沢山召喚しても持て余すだけだしな」

 

「それもそうか。確かランダムな召喚なのだったか?」

 

「基本はな。出来ればデバフ要因とか搦手が出来る奴が来てくれ!」

 

「うちは脳筋ばかりだからな」

 

スパルトイと共に希望通りの悪魔が来てくれるように祈りながら召喚を行う。まるでガチャだな

 

一回目

 

COMPの悪魔召喚プログラムの召喚機能を使用して目の前に魔法陣を発生させる。その光が最高潮になったタイミングで悪魔が召喚される。

 

「軍神 ヴァルキリー、個体名ロスヴァイセ召喚の求めに応じさせて頂きました!」

 

【軍神 ヴァルキリー Lv33】

 

召喚されて来たのは銀髪の白銀の鎧を身に纏う女性の悪魔だった。

 

「おお、ヴァルキリーか。軍神だと丁度俺のレベルと同じか」

 

「しかし確かヴァルキリーは物理アタッカーだったはずだが」

 

「あ、そういえば」

 

「ご心配は御無用です」

 

欲しい人材ならぬ悪材ではないので少し残念がるとロスヴァイセ胸を張って大丈夫だと主張する。

 

「こう見えてもルーン魔術が使えますし、私が生まれた時期は物理ではなく魔法を重点を置いていました」

 

「オーディーンが生み出したんだっけか」

 

「はい!特に私世代の個体は防御系の魔法を得意とするようにデザインされています」

 

なるほどバッファーか、元が戦士系なので魔法使いよりの魔法戦士として前衛もこなせるだろう。スパルトイも多少は出来るとは言え殆どの負担を折紙に背負わせてばっかりだったから丁度良いのかもしれない。

 

「なるほどつまりロスヴァイセは防御魔法が得意「あ、いえ攻撃魔法が得意です。ほぼ特化に近いですね」いやなんでだよ!?防御魔法が得意になるように設計したんだろ!」

 

「え、えーとその突然変異的なアレでして。適性がないわけではないのですけどそれ以上に攻撃魔法の適性が飛び抜けていまして」

 

ははと苦笑するロスヴァイセを見て頭を抱える。多彩な属性を使用できるのと機動力はそこそこだが身体が頑丈なこともあって折紙、アズールと差別化出来る点だろうか。おのれ火力役は間に合ってんだよ!!

 

「オーディンめ、ちゃんと設計調整をやっとけ!」

 

設計担当(オーディーン)に文句を言うと来てしまったものは仕方ないと諦め、二回目の召喚に賭けよう。

 

「お願いします!脳筋な悪魔以外、搦手が得意な悪魔来てください!!」

 

二回目

 

「我が名は邪神 バフォメット!我が呪殺の力汝に扱「「違う、そうじゃない!呪殺も搦手だけど違うって!!」」…え?」

 

【邪神 バフォメット Lv27】

 

呪殺による搦手(火力)に秀でたバフォメットを召喚してしまいスパルトイと口を揃えてツッコミを入れるとロスヴァイセはおろおろ、バフォメットは目を点にするという珍事が起こったのだった。

 

予定

デバッファーかバッファーの悪魔を召喚して対応力アップ!

 

結果

アタッカーを二体召喚してパーティーの火力が更にアップ!

 

「結局脳筋パーティーのままじゃねーか!!!」

 

 

 

同時刻の別所

 

「オーディン、あの神殺しの元に送り込んだヴァルキリーもっと潜入向きな子はいなかったのかい?」

 

「言うなクリシュナ。あの神社の結界や細工を考えると地脈や龍脈を使って召喚に干渉すれば弾かれた上に逆探知されかねん」

 

「しかし召喚という縁を結ぶ儀式が出来る以上神殺し個人の縁全てを排斥することは不可能。それをしてしまえばそもそも召喚自体が行えませんからね。まぁ縁全てを一時的にとはいえ断つなど難易度が高いのに加えてただの自殺行為ですが、生きることは縁を紡ぎ続けることと同義ですので」

 

「ミロクか。だからこそあの巫女も縁を阻むというよりも介入自体を防いだり逆探知を行える術式に力を回しているのだろう」

 

「しかしそれはさっきも行ったが地脈や龍脈を利用した介入の防御手段。元々あったいや、あるはずの無い我々との縁(・・・・・・・・・・・・・・・・・)を通して介入するなら問題ない」

 

「ただ不安定なものでな。どうにかヴァルキリーを一体送り込めるようにはしたがランダム性が強いものになってしまった。当世風に言えばヴァルキリー確定種別ランダムピックアップガチャという奴だ」

 

「幸いヴァルキリー達にはあくまで神殺しに力を貸すようにとだけ言って置いて良かった。下手にこちらと連絡を取ろうとすると側にいるあの天使が気づき兼ねないからな…あとロスヴァイセは能力と頭は悪くないのだが異端な上その…バ、天然な所があるからな」

 

『今絶対バカって言おうとしたね(しましたね)?』

 

神々と菩薩の緩い会話。

 

 

 

またまた同時刻の狩谷達が通う中高一貫校のとある部室

 

「・・・」

 

「おやだんまりかね?我が友よ」

 

「黙秘権はありませんわ折紙さん!」

 

「ライネスとルヴィアには関係ない」

 

「関係なくはないさ。君のクラスメイト兼友人、そしてこの【オカルト探偵クラブ】の部長、副部長としても名家のご令嬢兼魔術師としても大変気になる話だ」

 

部室で友人のクラスメイトの探偵二人に詰め寄られながら尋問され珍しくたじろぐ元天使。狩谷とスパルトイが召喚結果に頭を抱えている間にも世界は動いているのだ。

 

 

「待たせたな!さぁきなこパンを沢山買って来たからこれを食べて真実を吐くのだ!」

 

「それ君が食べたいだけじゃないのかい?ミス・十香?」

 

「この場合普通カツ丼では?」

 

「そこは関係ないでしょうに。意外と余裕ありますわね折紙さん」

 

…訂正探偵は三人いたようだ。




読了ありがとうございます!新しい仲魔とキャラが色々出て来た回でしたね。未来の自分はこのキャラ達をどうしてくんだろうね(未定)?出したいキャラをつい出しちゃうんだ(白目)。

探偵三人組
詳しいことは次回だが原作と年齢を変わっていて折紙と同じ中学2年生(13、14歳)となっている。因みに最後に出てきたキャラは本家様に今現在では設定でのみ出て来ているキャラですが引っ越し先が明かされていないのでこれ幸いと便乗しました。あ、本文にある通り三人目の探偵?というだけで他二人と違い魔術師ではありません。


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探偵の魔王様

第十五話になります!自分は戦闘よりも会話とかの方が筆は進むんですよねー


召喚を終え、さぁ折紙に連絡取って帰ろうと思っていたのだがロスヴァイセが主人である自分が所属する組織の概要や実態、制度などを知りたいと願い出て来たので取り敢えず受付のエイナに説明を頼んだ。最初ロスヴァイセはキチンと内容を精査する出来る役人みたいな雰囲気で資料を見ながら話を聞いていた・・・のだが

 

「なるほど、このネオベテルという組織は霊能者だけではなく仲魔のサポートも手厚いのですね・・・すばらしいです!保険なども北欧と比べてもきちんとしていて~~~これはどうなのでしょう?」

 

「は、はいそれはですね~~~~~~となっています」

 

「な、本当ですか!?そんなにお得に!?」

 

気づけばすっかりキラキラした目でエイナの手厚い制度や保険などの説明を聞いている。

 

「なんかまるで仕事に疲れたOLが転職して新しい職場と元の過酷な職場との環境の違いに戦慄している光景を見ているかの様な・・・いやまんまだわこれ」

 

「北欧神話も世知辛いのだな」

 

「やけに具体的だな我が主よ」

 

そりゃ前世でいっぱい見たからね。サラリーマンの中にもいたけど

 

「狩谷様!ここはすごくサポートが手厚いすばらしい霊能組織ですね(満面の笑み)!」

 

「あ、うんそうだね(白目)」

 

本人が納得してくれたなら良かったよ。あと他の姉妹達も連れてこれないかしらとか言ってるけどそんなに業務環境悪いの北欧神話って?・・・何故か「んなことないわ!!」と反論する北欧の主神の姿が頭に浮かんだが果たして気のせいなのかなこれ。

 

「まぁ何だ・・・ロスヴァイセとバフォメットもだがコンゴトモヨロシク」

 

「「はい(うむ)!」」

 

 

 

そんなすったもんだもありつつ取り敢えず3体ともCOMPの中に入ってもらって折紙と連絡を取りトラポートで迎えに来て貰ったのだが様子がちょっとおかしい。バツの悪そうな顔をしている。何かあったのかと首を傾げていると

 

 

「ごめんなさい」

 

「へ?」

 

そう一言だけ告げられて一緒に転移した。転移した場所はいつもの自宅…ではなかった?

 

「あれどこここ?」

 

「ここは私達の部室さ。神木狩谷」

 

その声にとっさに折紙を抱いて距離を取る。この時に自分では特に意識していなかったが人間が瞬間移動みたいに現れたことに動揺した様子のない声で声をかけられたことで頭が戦闘モードに切り替わり腰の聖剣モードの聖槍を抜刀しようとする

 

「お待ちなさい!私達は争うつまりはありませんわ」

 

「え、そうなの?」

 

「そうです。ライネスもからかうのもほどほどにしなさい、こちらの事情も話さなくては」

 

「これぐらいは挨拶さ。それに見事な反射神経だ」

 

待ったを掛けたのは中等部の制服を着ていながら背丈が高く長い金髪の少女が、まるで小悪魔の様な笑顔を浮かべる少女を窘めている。

 

「どういう状況だこれ?」

 

「まぁまぁ取り敢えずきなこパンを食べるのだ」

 

いや、取り敢えずじゃないが?紫色のツインテール、君も君だがその大量のきなこパンはなんだ。この学校には時々きなこパンが購買から在庫含め全部無くなるという怪談があるけどさては君のことだな?折紙も疲れた顔をしながら目を逸らす…色々話したり聞かなければならないようだ。まぁ何はともあれ

 

「いただきます」

 

勿体ないからきなこパンを食べながら考えよう。

 

…魔術師金髪少女説明中…

 

「という訳なのです」

 

「「「モッキュモッキュ」」」

 

「ってきなこパンを食べるのに夢中になってませんわよね!というか十香も一緒になって食べるとかライネスが言ったように自分も食べる為に買ってきましたわね!?」

 

「いやいやちゃんと聞いてたから…ここに通って結構経つが初めて食ったな。あと意外と美味い」

 

「きなこの甘さとパンの相性がなんとも言えない」

 

「そうだろうそうだろう!」

 

「ほう、確かに思ったよりいけるな。きなこが上質なのかな?」

 

「やはり聞いていない!というかライネスも何を・・・もうこうなった私も食べますわ!」

 

さて、何故か全員で大量のきなこパンを食べている間に今聞いた話を整理しよう。

この部室は目の前の小悪魔美少女ことライネス・エルメロイ・アーチゾルテを部長として副部長のルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト、役職持ち以外の唯一の部員である夜刀神十香。この部活はオカルト、というか霊的現象を調査する部活なのだそうさ。当然なぜこんなのを作ったのか、そもそもマジで霊的現象にかち合った時大丈夫なのか?という疑問もあったのだがライネスとルヴィアはイギリスの時計塔の魔術師なのだそうだ。しかも両者とも中々の名家でライネスの家は時計塔のトップであるロードを務める人物がいるらしい・・・まぁ色々あって今は義理の兄が代理を務めていたり、借金があるみたいだが名の有る家であることは間違いない。で、そんなところのご令嬢が何で日本に居てうちの学校に通っているかということなのだが

 

「まぁ詳しくは聞かされていないんだけどね」

 

「そうなの?」

 

「ええ、取り敢えず安全な日本に渡れと。この町にはエーデルフェルト家の別荘がありますので最寄りのこの学校に通っているのですわ」

 

「で、そこを間借りしている私も同じ学校に通うことになったわけだ。因みに私は義兄上に言われたのだがね」

 

「・・・時計塔やイギリスに何か有った、いやありそうだから逃がしているのか?」

 

「だろうね、実際私達以外にも何人か名家の子息子女がこちらに渡っているよ。いやはや前代未聞さ」

 

どう考えても厄ネタの匂いしかない状況に聴こえるな。それで十香はどうかかわって来るかというと

 

「私がちょっと厄介なオカルトに巻き込まれたんだ。でも二人の協力もあって無事だったのだ!」

 

「あれは君の力によるものが大きいと思うけどね」

 

そのことが切っ掛けで仲良くなり、この様な部活を立ち上げたそうだ。半分くらい

 

「因みに狙われた理由は十香の豊富なマグネタイトと優れた霊的素質ですわ。こちらの伝手で調べて見た所元々彼女の家系は戦前まで"まともな"一神教のエクソシストの家系だったそうですわ。戦後こちらに帰依して四国の香川県に根を張ったそうですがその時にはほとんどの知識、技術が失伝していたようですわね」

 

なるほど、現代では一般家庭とほぼ同じ生活をしていたようだ。しかし、元の実家で祖母の死後霊的現象が多発、まぁ軽いポルターガイストレベルのものだったそうだがこの中野に数年前に越して来たのだそうだ。

 

「あれ、それ元実家大丈夫?」

 

「四国には規模の大きい組織の大社がある。軽いポルターガイストレベルなら大丈夫だろうさ、実際件の土地は大社預かりになっていたしね」

 

「ポルターガイストも沈静化しているようですわ。まぁこちらは特に魔術協会の代表でもないので下手に介入は出来ませんが」

 

「今ゴタゴタしてるみたいだもんな。本人はどう言ってる?」

 

「十香的には小さすぎて祖母のことをうっすら覚えてる程度だから祖母は兎も角家自体には特に思い入れはないらしい」

 

「モキュモキュ。ん?おばあちゃんのことか?おばあちゃんはよくお菓子くれたり頭を撫でてくれたのだ!」

 

記憶は朧気ながらも祖母には好意的な様だ。彼女としては思い入れの薄い元実家にこれ以上首を突っ込ませて友達に迷惑を掛けたくないという思いもあるのだろう。

 

「それはさておき、何で俺達のことをバラしたの折紙?」

 

「・・・嵌められた」

 

「へ?」

 

「まぁ説明すると私の目が魔眼でね。とはいっても大したものじゃなくて魔力に反応するってだけなんだが、探偵稼業では便利でね魔術や魔法の痕跡や魔力が籠った品を見分けたりできる」

 

「マジか・・・それでバレたのか?」

 

「いいや?物品は身に着けている間は結界や隠蔽の道具なんかで魔力を隠してたみたいだけど・・・流石に魔術的じゃなくて科学的な盗聴には気が付かなかった。盗聴と言うよりはボイスレコーダーの様なものだけど」

 

ライネスが机に置いたのは一つのビデオカメラ。もしかしてこれに仕込んでたのか?

 

「ビデオカメラを修理に出した時期があったがあのとき」

 

「お前のは故障してたのか、まぁ普通友人にボイスレコーダーでの盗聴機能が付いたビデオカメラを渡すとは考えないか」

 

「うん、完全に虚を衝かれた。二人は魔術師なのは分かっていたが、魔術師が一般社会に溶け込むのは普通のこと。やぶ蛇になるかと思って追求をしなかったことが悔やまれる。それに科学的アプローチは計算外だった」

 

「(科学を使うのは)義兄上の教えと言っておこうか」

 

「えぇ…」

 

折紙は気づいていた分悔しげな顔をしていて十香も申し訳なさそうにしている。盗聴されていたらそれはバレるわと思うが同時に盗聴を教えた(勘違い)義兄上とか引くんだけど…だがそれが本当なら疑問も生まれる。

 

「そもそも何で俺達に目を付けたの?」

 

「切っ掛けは正直カンですわ。折紙の義兄であるあなたがあるときから纏う雰囲気が変わったので。あれは命のやり取りをした者特有のものでした」

 

「そして転校生である紫藤イリナ、ゼノヴィア・クァルタは実は時計塔でもエクスカリバーの持ち主として名がそこそこ知られていてね。加えてメシア教の台頭もあり日本に拠点を移したという噂も入ってきていた。まぁその後すぐ高等部に編入されたと聞いたときは驚いたけどね」

 

「怪しんで調べて見れば最近立ち上げられた【万神連合ネオベテル・ウルトラスープレックスホールド】の一神教派閥に合流したとのこと。しかしメシア教のこともありますから信用がまだない彼女らを単独でこの街の拠点を任せるとは思えません。当然現地のサポート役兼監視役がいると踏みましたわ」

 

「なるほど。それでイリナと幼なじみであり、接点が無いはずのゼノヴィアが転校初日でも俺に知り合いのように親しくしてたのを見て怪しんだと」

 

そういうことだと二人の魔術師はうなずいた。よく見てやがる少々迂闊過ぎたようだな、とはいえ高真正面から切り出したというのはそういうことか。久々だなこういう本格的な交渉は前世以来か?

 

「俺達の正体を見破った経緯は理解した。ではそのカードで何をこちらに要求する?」

 

「…要求か、なんでそう思ったんだい?」

 

「よく云う。お前らはどこまで知っているんだ?」

 

折紙の数少ない趣味の一つがビデオカメラによる撮影だ。当然いつも携帯しているのだが盗聴機能が本当なら俺達やネオベテル側の事情のことをある程度範囲は絞られるが知られている可能性がある。ただ異界での出来事は下手な術式を積めば折紙に看破されるはずなので異界の法則から保護する術式が使えない以上盗聴できていないはずだ。ここで厄介なのはある程度は絞れるがライネスが手に入れた情報がどれだけあるのかわからない点だ。例を遊戯王で表すとライネス側の山札の枚数はルールで規定されているが今現在山札から引いたライネスの手札に何があるかは勿論、手札の枚数すら分からない状態だ。しかも手札が見えていない以上ブラフもまた有効。原作のようにリストバンドから追加の手札をイカサマで持ってきてそれっぽく言うことも出来る訳だ。

 

「私は知っていることだけ知っているよ。それを他人に言うかは別問題だが」

 

小悪魔の様な笑みを浮かべる。色々知っているが黙る代わりに交渉に応じろということか…ふむ

 

「別に言っても構わんぞ」

 

「うん、うん…へやぁ!?」

 

自身たっぷりの様子から一点して焦りだすライネスと一瞬唖然とした表情のルヴィアを見て思わず笑ってしまいそうになりながら何とか我慢する。不利な交渉など交渉するだけ譲歩を引き出され相手の思う壺、いっそ最初から相手の交渉材料を自ら手放して交渉そのものをひっくり返せば被害は最小限ですむ。先ほどの例で言えば手札が見えなくても手札抹殺なので全部墓地に送ってしまえばいいのだ。そしてこういう交渉をしてくる相手は捨てた物を対価として通したい要求がある。つまり相手は引けず逆にこちらが譲歩を引き出せるのだ。『最小限の損失で最大限の利益を得る』交渉の基本だ。

 

「いいのかい、君達や組織に情報が流出するぞ?」

 

「別に構わないさ。特に機密に関わっているわけじゃないしな」

 

自分はどちらかというとこの世界の住人達との方が関わり合いが深い。幹部と交流があるから勘違いするかもしれないが俺が知っていることなど他の構成員も知っていることが大半で外にいずれ漏れることは既定路線と言ってもいい。敷いてあげれば必殺の国防兵器絡みだが、そもそも異界で大半のことが記録されていないこととそもそもその時折紙が携帯していたビデオカメラは修理から帰ってきた自分の物の可能性が高いからだ。修理に出していたことを知らない以上戻ってきた日も知らないがもし借り物だった場合純粋に精査する時間が取れないのだ。異界攻略後は事後処理の聴取なので博麗神社に数日いたし、帰ってきたときもその日のうちに教会に顔を出して翌日に神社でCOMPを購入したのだ。こんな自由にしていることからわかるように学校は休日だ。そのため事前に返しているとは考えにくく、折紙を今日呼びつけて返してももらったとしても半日あるかどうかの時間で中身を精査し、交渉に挑むなどするわけがない。多少時間を掛けて精査したあとで交渉すればいいいだけなのだ。

 

「それに私生活でも恥ずかしい振る舞いは特にしてないし」

 

「豪胆だね。だが君達の素性は…」

 

「どうだろうな、信じるものがどれだけいるか」

 

【俺ら】の素性なのだが、異世界転生してきた奴らが全員霊能者の素質が高く組織を作るほど数多くいるなど普通は信じない。そもそも前世の話題の大半は喋る必要のない掲示板で情報をやり取りしているのでそれを示す情報などは少なくホラ話としか受け取られない。神殺しと折紙が元天使という事実も先程行った通り組織内で広く知られているためいずれ漏れていた情報な為誤差の範囲だろう。というか俺は彼女達が俺達をどうこう出来ないことなど初めから分かっている。

 

「どうこう出来ない?何故そう思うのかな?」

 

「いやだってここに十香がいる時点でそうだろう」

 

この子の純粋さは今日初めて会った俺でも分かるほどだ。その彼女の前で友人を騙したと言えば性格上怒るのが普通なのだが申し訳なさそうにするだけであった所を見ると事前に話を通していたと考えるのが自然だ。しかし彼女が聞かされたときに反対し、阻止しようとするはずだ・・・それが無かったことを考えると

 

「交渉内容は十香絡み、しかも下手すれば周りを巻き込む・・・といったところか。そうすると十香が巻き込まれた事件で覚醒した力が本題と見るべきか」

 

そう言うと観念したように溜息を吐かれた。やはり優しいな、そんな彼女達が友人である折紙を害することはないと思える。少し甘いと思うけどな

 

「やれやれ、全く君が部活に入って無かったら勧誘していた所さ。ご明察通り十香絡みだよ」

 

「お前達手を焼くのか?名家の令嬢だけあって二人も中々の手練れ・・・ああ、なるほど」

 

「どうしたのだ狩谷?」

 

「いや、お前も大変だなってな」

 

十香の頭を撫でながら考えを整理する。二人も手練れの魔術師がいながら十香が巻き込まれた事件では二人が頑張って、ではなくあくまで協力に止まっている。というかライネスが十香の力が大きいとか言ってたし・・・しかしそれほど強力な相手ならこう言ってはあれだが十香が覚醒しても碌に使いこなせていない力では焼け石に水というものだ。恐らく十香本人が何とかしなければならない問題なのだろう。しかしそんな大きなことがあればこの町の霊脈、龍脈、地脈といったものを掌握している折紙が気づかないはずがない。折紙が気づかず、かつ十香本人が何とかしなければならない事象、この世界がメガテン世界である以上思いつくのは一つだ。

 

「十香の力はペルソナか。認知異界に引き込まれたときに自らのシャドウに会い覚醒したんじゃないか?」

 

「おお、当たってるぞ!凄いな」

 

「なるほど!」

 

十香が言い当てた俺を素直に褒めて、折紙も納得が言ったように頷いた。折紙といえど何の事前準備や情報もなしに認知異界を察知するのは難しいからだ。

 

「初対面でいきなり力を言い当てられるとか普通は怖いものなのですが・・・えぇその通りですわ。貴方に声を掛けたのはそのぺルソナに問題が生じているからですわ」

 

「おいおい、勝手に進めるな・・・まぁここまで見破られたのなら素直に話す方がいいか。十香のペルソナは強力なのだが十香本人が全くコントロール出来ていないんだ。RPGゲームで言えば本人のレベルは足りないのに高レベル装備を無理やりきている感じが近いかな」

 

「うーんレベルに見合わない力が出せるものなのか?」

 

「普通の霊能力者や魔術師の家系なら余程異端の力に目覚めなければその様な事はありません。ただこれはまだ憶測なのですが夜刀神家の事情を鑑みるに十香は所謂先祖返りの可能性が濃厚ですわ。この場合最初から強い力が発現することがあるのだそうです」

 

「ふむ、交渉の内容は彼女を鍛えることか?・・・いや違うな。だとすれば普通に頼めばいいだけだ」

 

「そう、十香のペルソナの強さを考えると魔術協会としてはコントロール出来ない現状処理されてしまう可能性が高い。だから幾らか情報を操作しているが、ここで君達ネオベテルと繋がっていることがバレると色々まずい」

 

「情報操作ってのは大概パッと見て違和感を覚えさせず調べさせないことが主な目的だからな。情報の専門家が精査すればボロは出るわな」

 

「・・・そして情報を秘匿する最も簡単なことは知ってい人間を少人数に限定すること。ネオベテル、魔術協会に十香の力と鍛えてることを伝えなければいい訳か」

 

巫女さんから前に神殺し関係で釘を刺されたこともあるから隠し事はしたくないのだが、魔術協会がどう思うかだしな。情報はいずれ漏れるものとは言えせめてそれまでに自身の力を扱える程度にしなければ危険だ。で、そんな暴走しまくる力を抑えられてある程度信用できる存在として友人の義兄として俺が上がったわけか。

 

「分かった・・・ただ十香の力が制御出来るようになったらネオベテルに事後報告はさせてもらうぞ?そしてネオベテルの依頼で助力を頼むことも許可してくれ。ペルソナ使いは人材不足だからな、勿論報酬はキッチリ払ってくれるはずだ。あとはライネスとルヴィアには魔術協会の繋ぎと情報提供を要求することになるだろう。こっちもそっちで起こっているゴタゴタは把握しておきたい」

 

「なるほど、こちらとしては構わないよ」

 

「妥当な所でしょうね」

 

「う、うん?」

 

何か一名話の中心人物なのに分かっていない奴がいるが話がまとまり掛ける。これなら緊急避難的な感じであ、そうそう

 

「魔術協会の裏市場では高価な素材なんかが金やコネ次第で手に入るそうじゃないか。その市場にネオベテルが入れるように都合をつけてくれるか?勿論鍛えた後で構わない」

 

「抜け目ないね先輩は・・・」

 

「誉め言葉として受け取って置こう。最後に十香のペルソナを教えてくれるか?碌でも無さそうだが」

 

「ああ、勿論碌でもないさ」

 

ライネスは一呼吸置いて十香のペルソナとアルカナと教えてくれた。

 

「戦車 ナへマー。魔王様さ」

 

うん、厄介そうだな!

 

 

 

「所で家での折紙はどういう感じなのだ?」

 

「お、なら今度折紙の写真を集めたアルバムを見せてやるよ!小さい頃から現在まで数冊分あるけど」

 

「「えぇ・・・」」

 

契約を結んで早々早速約二名に引かれた気がする。




読了ありがとうございました!十香ちゃんは本家様では同じ姿で反転体に近い性格や口調をしている天使がいますので、ここの十香ちゃんは反転体の力は持つ表の人格の子になっています。そのお陰で現状まるでコントロール出来てないですけどね


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魔王への戒め

第十六話になります!文字稼ぎという名の掲示板も少しあります


交渉を終えると早速その力を見ようということになり、学校の裏山に向かって折紙に結界を張って貰ったのだが・・・

 

「君達、ちょっと結界の範囲が広すぎやしないかね?」

 

「私は指示通りやっただけ」

 

「これくらい必要ですわ。安全の為に」

 

「直ぐに分かるさ」

 

「えぇ・・・」

 

そんなにヤバいの?と思いながら取り敢えず聖槍を聖剣モードで構える。

 

「いつでもこーい!」

 

「う、うむ!来い【戦車 ナへマー】!!」

 

【ペルソナ使い 夜神刀十香 Lv10】

 

ペルソナの名を呼ぶと紫色の光が輝き十香の身体に露出度は高いが鮮やかな紫色のドレスのような鎧が装着されていく。そしてその手には禍々しい魔剣が握られている・・・何か本人の性格と著しく似合わない気がするな。

 

「おお、禍々しいけど意外とかっこいいな。ん、どうした?」

 

「うぐ・・・!」

 

十香が苦しむような顔をすると手に握った魔剣をこっちに振り上げて・・・っておい!?

 

「行き成りかよ!!」

 

「す、すまん!意識はあるのだが身体が勝手に動くのだ!」

 

言葉の通りの様で魔剣をやたらめったら振るってきて魔力が込められた斬撃を周囲に放ってくる。結界があるので外には被害は出ていないが内部は地面や木々などがバッサバッサと切り刻んでいていくので躱していく。

 

「おいおい、何だこれ!?暴走とかそういう次元じゃなくてバグったコントローラーで動くゲームキャラや消防のホースが暴れてるみたいじゃないか!」

 

「そう言われてもコントロールが出来ないのだ!」

 

「あぶっね!!」

 

急に接近して魔剣で切りかかって来るがそれを聖剣で受け止めて鍔迫り合いになる。幸いレベル差があるので押し負けることはないが、それでも簡単に弾けない膂力を持っている。

 

「純粋な斬撃なら物理無効でどうとでもなるが、あの魔力の籠った飛ぶ斬撃は万能属性か!」

 

「う、腕が勝手に!?」

 

「そうくるか【スクカジャ】」

 

十香は一旦距離を取り飛ぶ斬撃を何十発も放って来た。聖剣を聖槍モードに組み替えるとそのすべてを迎撃或いは逸らしていく。確かに攻撃力は高い、危険性はより高いだろう。しかし動き自体は十香自身が動かしていないからか単純で技術も未熟、ゴリ押しが出来ない相手には弱く技術の低さが露呈するだろう。あのタケミカヅチも知性は消えていたが武が魂に刻み込まれていたのか攻撃一辺倒ではあるがまだ効率的に動けていたぞ

 

「おお!全部弾いているぞ!・・・でも決着付かないのではないか?」

 

「安心しろそう時間は掛からない」

 

攻撃している相手とこういう会話するの新鮮だなーと思いながら時を待った。そして少しすると飛ぶ斬撃が止んだ意外と早かったな

 

「諦めたのか?って何だこれは!?」

 

「攻撃が通じないとなると一発逆転の大技。単純なプログラムみたいな判断だな」

 

魔剣が一部変形し、魔力を収束させていく。まぁこの大技を躱す手なら幾らでもあるのだが刃を交えて気づいたことがる。

 

『あ、こいつ(ナへマ―)調子乗ってるわ』

 

何となくではあるが俺の長年(前世)の中間管理職としての直感がそう告げている。こういう風にぱっと見はそう見えないけど実はって奴が一番やらかすんだよ!!

 

「さぁ教育の時間だ」

 

「か、狩谷どうしよう!」

 

「気にするな、そのまま撃て!!」

 

「分かった!【終焉の剣(ペイヴァーシュヘレヴ)】!!」

 

十香は意を決して魔剣を振り下ろす。恐らく固有スキルか何かであろう高い魔力の剣ビーム迫りくる・・・ああ、全くまだまだ未熟にも程がある。火力に優れている様だがあまりにも足りない、勿体ないとしか言いようがない。

 

「火力型なら・・・補助やパッシブスキルを盛りやがれ!!!【チャージ】【ダークエナジー】【物理プレロマ】【物理サバイバ】【コロシの愉悦】【武道の素養】【初段の剛力】【二段の剛力】【物理アクセラ】【■■■】【貫通撃】【ゴルゴダの突き】!!」

 

故に真正面から対処する。曲がりなりにも火力型を名乗るならもっと火力を盛りやがれ!もはや砲撃レベルのビームの中心に聖槍が突き刺さる。純粋な物理攻撃スキルの威力は二つのスキルを合わせて漸くどっこいだろう。しかし覆しようのないレベル差とそれによるパラメータの差、補助、パッシブスキルの修正が加わりもはや比べ物にならない威力の差となりビームを裂き十香を避けてペルソナの本体である魔剣に突き刺さる。そしてその奥にあるペルソナのコアに神殺しの力をあと一歩の所まで届かせて

 

「余り調子に乗るなよ?魔王の影風情が、我の妹の友の身体を好きにしようなどと度し難い!」

 

相手に要求を呑ませる方法の一つ、脅しを行いコアを破壊しないまま魔剣を壊しペルソナを解除させる。

 

「うう」

 

「ふぅ、大丈夫か十香?ペルソナの強制解除は精神にダメージが入るらしいが」

 

「少し辛いが動けない程じゃないぞ」

 

「そうかでも俺の肩を貸すよ」

 

十香に肩を貸しながら結界を解除した折紙達の元に歩いていると魔術師女子中学生が呆れた顔をしていた

 

「お疲れ様」

 

「わざわざ真正面で戦わなくてもいいでしょうに」

 

「十香を更なる火力で制圧は流石に想定してなかったが・・・まぁこれなら鍛錬も任せて大丈夫だろうね」

 

「何か凄い呆れられてる。ナへマーの心を折るには効率的だと思ったんだがな」

 

「「そうだけど違うだろう(違いますわよ)」」

 

せやろか?

 

「それはそうと、よろしく頼むぞシショー!」

 

「お、何か良い響き」

 

そんなこんなで無事十香の師匠に就任したのだが、偶にルヴィアとライネスも顔を出すとのことだ。にしてもデスクワークや営業、交渉見たく前世の仕事なら教えられるが霊能者の鍛錬ってどうやるんだろう?基礎的な事はライネス達がもう教えてるだろうし・・・あ

 

【地獄】脇巫女ネキの個人鍛錬スレpart125

 

135:名無しの転生者

 

き、今日の分は終了・・・きつい

 

 

 

136:名無しの転生者

 

混じりっ気のない死の予感を感じた

 

 

 

137:名無しの転生者

 

という死んだよ!蘇生されたけど!

 

 

 

138:名無しの転生者

 

ためにはなる、知識的にも武力的にもやった方が強くなるのは間違えない、でも死ぬ

 

 

 

139:名無しの転生者

 

いやあれで強くならなかったら虚無過ぎるんだけど。受けた全員技術は勿論レベルもかなり上がるだろ

 

 

 

140:名無しの転生者

 

それくらいの報酬がないとやってられないだろ・・・

 

 

 

141:★名無しの巫女サマナー

いや、それがそうでもない奴が一人いるのよ。神殺しニキって言うんだけど、まぁその時は神殺しじゃ無かったんだけどね

 

 

 

142:名無しの転生者

 

ひぃ!?脇巫女ネキ!・・・え、あの神殺しニキ?

 

 

 

143:★名無しの巫女サマナー

そうそう、あいつ私の個人鍛錬を最初から受けてて最初の一週間で覚醒したけど滞在期間の約一か月間特訓を続けたのよ。午前中は私の鍛錬の課題を終わらせて、午後は一人や野良パーティーで初心者異界でレベル上げしてたわ。例の報告書を作り始めてからは私の方からキャンプ場所に訪ねて鍛錬を課してて悪魔が湧いたらいったん中断して悪魔を一人でポップ狩りしてたわ。でも結局Lv7までしか上がらなかったし

 

 

 

144:名無しのギリメカラ系兄

はぁ!?マジかよ!!アレを一か月やってそこまでしか上がらねぇのかよ・・・

 

 

 

145:名無しの転生者

ギリメニキも驚愕しておられる。でも何で?課題を午前中で終わらせてる上に午後も戦ってるのにレベル上がらないのおかしくね?それをやる体力と気力もドン引きだけどよ

 

 

 

146:★名無しの巫女サマナー

前にも言ったかも知れないけどレベルを上げるってのは魂の研磨のこと、それじゃその研磨をしたのかってどうやって判定されるのかということになるのだけど主に自身と世界の認識によって決まるのよ、後者が分かりずらかったら他者の評価的なものだと思って。通常は後者の方が比率は大きいのだけど・・・何故か神殺しニキは自身の認識の方が比重が極端の大きいみたいね。今思えばその認識能力の高さも神殺しになる要因だったのかもね

 

 

 

147:名無しのギリメカラ系兄

それが何でレベルが上がりにくいことに繋がるんだ?楽になる気がするんだが

 

 

 

148:★名無しの巫女サマナー

認識といっても深層心理的な所だからね。鍛錬である以上普通は試練とかそういうのを想像するじゃない?でも彼の場合その試練をこなす内に自身でそれを突破する最適解をすぐ見つけてしまうの。要はRTAみたいなものでそうなればポップ狩りみたいに作業に成り下がるわ。私も色々考えたのだけど意味が無くてね・・・作業を繰り返しても魂の研磨であるレベル上げの効率は悪くなるのよ。その分効率よく学んだ技術の伸びは凄まじかったけど。彼が大きくレベルを上げるのはRTAが出来ない圧倒的な格上を倒したときくらいでしょうね

 

 

 

149:名無しの転生者

よくそれで頑張れたよな

 

 

 

150:★名無しの巫女サマナー

サラリーマンの上がらない給料よりはマシらしいわ

 

 

 

151:名無しの転生者

急に世知辛い!?

 

 

 

「よし、明日からの鍛錬頑張ろうな!」

 

「おー!」

 

俺と十香は笑顔で拳を突き上げる!ほぼ一から何かを教えるのは前世以来だな師匠として張り切るとしよう

 

「あ、朝は裏山に5時集合だから」

 

「お、おお…!」

 

何か頭を抱えているが、最初のうちは巫女さんがやる個人鍛錬のレベルと合わせてやるか

 

 

 

その日の夜、狩谷が眠りに着いた時刻。いそいそと折紙がベッドから出て彼女の化粧台の前に経つ。ネオベテルに入っていても消耗品や武具など最低限買い物をしていないように見えるが、この鏡は魔鏡になっていて特定箇所を指でなぞれば折紙の顔を写していた鏡は変化しビデオカメラのカセットが並んでいる。四次元ポケットとまではいかないが別次元に収納ペースを作れるのだ。これをネオベテルより購入し、元の鏡と取り替えている。因みに運動会など家族に見せて構わないものはリビングに、悪魔討伐の記録などはこの部屋の棚に収納されている。

 

「今日も良かった」

 

ビデオカメラからカセットを取り出し、その背にタイトルをマジックで書く

 

【狩谷の食事風景集 第2555巻】

 

そのカセットを鏡の中にある棚に収納して、さらに鏡の中にも似たようなものがある。

 

【狩谷の寝顔集 第1987巻】

【狩谷の授業風景集 第1594巻】

【狩谷の笑顔集 第3021巻】

【狩谷の遊び風景集 第2358巻】

【狩谷と折紙の共同作業集 第5072巻】

 

など他多数である。中にはいつ撮ったんだ?というものがあるので盗撮の技能が相当高くなっているはずだ。これらの記録を一人の時に悦に浸りながら見るのが彼女本来の趣味である。このことは折紙本人と今回の件で色々と知られたライネスのみであり、他の二人は気づいていないが暗にこのことで脅され要求通り狩谷を強制的に召喚したのだ。

 

「ふふ、これでよし。明日も良いのが撮れることを期待する」

 

再び鏡を指でなぞると通常の鏡に戻す。その後ベッドと狩谷の腕の中に戻って眠るというサイクルを毎日繰り返している…まだ写真のアルバムの方が何十倍も可愛いものである。




読了ありがとうございました!因みに狩谷は掲示板は必要な情報を閲覧したり、書き込むことしかしてないので巫女さんの個人鍛錬がネオベテルの登竜門のようなデフォルトだと勘違いしています。最後は・・・麗しい兄妹愛デスネ!


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異界行脚

第十七話になります!次回からは新章に入ります


十香の師匠役引き受けて数日。取り敢えず扱う武装は魔剣なので剣術と身体捌きや受け身を取りやすくするために体術の基礎を教え込んだ俺は週末に折紙と共に十香と新しく仲魔となったロスヴァイセとバフォメット、ついでにライネスとルヴィアを連れて小規模の異界に来ていた。修行ついでに二体の悪魔の性能調査も兼ねている

 

「真東と北西より悪魔の小集団接近中。ご注意を」

 

「聞いての通り追加だ!というか、ちょっと増援タイミングが早くなってないか!?」

 

「まだ全滅しきっていませんのに!トリムマウどれくらいの時間で接敵するか分かりますの?」

 

「あと約5分後でございますルヴィア様」

 

「おお、それではこの集団を早く倒さなければ!でも中々にタフだぞ」

 

「レベルが高めなのと物理耐性がある悪魔だからね、他の相手も耐性持ちや弱点の属性がバラけている者ばかりだし手強い敵だ」

 

今現在十香とついでにライネスとルヴィアも修行に巻き込んだ。ライネスの礼装である水銀のゴーレムメイドであるトリムマウが異界の悪魔達に囲まれている。無論これも特訓の一つなのだがいざという時の為に少し離れた所で待機している。

 

「どうだ折紙、この異界の運用は」

 

「乗っ取りは問題ない。根を張る訳ではないから即席の接続でも異界内の悪魔を誘導することくらいは可能」

 

この異界のボスは事前に俺達が討伐済みだ。まぁ適正レベルが十香達よりそこそこ上程度なので余裕でぶっ飛ばせた訳だがそのあと消滅するはずだったこの異界を折紙が乗っ取りMAGのラインを接続することで異界を維持、運営している。本来なら多少の儀式がいるのだが折紙の力をもってすれば短期間であれば即席でつなぎ止められるのだがら器用なものである。

 

「それにしても本当に暴走の気配がないな。ただ出力は今の十香が扱える程度まで落ちてはいるが・・・ペルソナに何らかの制限でも掛かっているのか?まさか俺にビビってる訳でもあるまいし」

 

「やはり狩谷様に発現した固有スキルが関係しているのでしょうか?」

 

「確か"二つ"発現したのだったな、どちらだ?」

 

「恐らく文字化けしている方だろうな。もう片方の内容は分かってるし」

 

俺の疑問に答えたのは同じく待機しているロスヴァイセとバフォメットだ。最初に気づいたのは折紙なのだが片方は名前と効果共に読み取れたのだが、もう片方は文字化けしていて効果も読み取れなかった。折紙曰くまだ完全に発現しておらず特定の条件でなければ発動出来ないからだそうだ。その制限も分からなかったりするのだけど・・・おっと

 

「次に来る一団はちょっと今の乱戦下で相手取るのはちょっと厳しいな。ロスヴァイセ、バフォメット排除してくれ」

 

「お任せを」

 

「良かろう」

 

ロスヴァイセは一礼をし、バフォメットは不敵に笑うと迎撃に向かった。ボス戦のときに力を見せて貰ったが戦闘のデータは多い方がいいしな。

 

「先に我が数を減らすとしよう【呪殺プレロマ】【マハムド】!」

 

「「「「「ぐは!?」」」」」

 

「ふむ、即死も合わせて半数は仕留めたか」

 

呪殺の力で一団の半数を沈めると共に残った敵にもダメージを与えている。残った敵を漸く二体を視認して反撃を加えようとするが

 

「あとはこちらが、すでに準備は終えています!

 

「あとはこちらが!【初段の賢魔】【二段の賢魔】【原初のルーン】【火炎プレロマ】【氷結プレロマ】【電撃プレロマ】【衝撃プレロマ】【マハラギオン】【マハブフーラ】【マハジオンガ】【マハザンマ】!!」

 

「「「ゴオオオオオ!?!?」」」

 

消費MP削減、複数同時詠唱、威力増強など様々に応用が利く【原初のルーン】で複数の広範囲同時攻撃による飽和攻撃を行う。・・・やっぱり火力に特化し過ぎてないか?

 

「悪魔の使役も板に付いて来た」

 

「そうか?ただ仲魔に恵まれただけさ。造魔のアズールは勿論、戦士のスパルトイ、元々主人に仕えるように生み出されたヴァルキリーのロスヴァイセ、バフォメットは・・・何故か俺の身体は竜・龍だけではなく邪神とも親和性が高いから問題無くコミュニケーションが取れたからな」

 

「そう・・・いずれにしても戦力が増えるのは言いこと。特に大きい作戦の前は」

 

「恐山か、探偵組は別組織だから中野区から出撃するとしたら俺達と教会組になるな」

 

「あとは協力関係のヤタガラスも参加する可能性が高い」

 

恐山の状況が等々やばくなって来たので上層部が介入する準備を進めているという話は聞いているので、そう遠くない内に召集が掛かると掲示板で噂されている。

 

「命達がさらに強くなってくれてると助かるな。俺達のレベル上げもやりたいが、何でか格上倒さないとレベルがほぼ上がらんしなー」

 

「・・・でも幸い固有スキルのお陰で多少はマシになるはず」

 

「だといいが、おっと終わったようだな」

 

双方の戦場とも敵を殲滅し終えた様でこちらに戻って来る。十香達は息も絶え絶えだけど

 

「皆ご苦労さん、そんでもって総評だが・・・まず十香だがペルソナのコントロールは問題ないな。その分火力などは落ちてるがそこはレベル相応ってことで。ただ大技を無駄に連発しなかったのはよかったが遠距離攻撃が有効なタイミングでも接近して斬る癖があるな。遠距離攻撃手段があるならそういう戦法の切り替えも頭に入れとけ、そうすれば後半見たく体力や気力不足の息切れも大分抑えられるはずだ」

 

「なるほど・・・切り替えか。節約術みたいなものか?」

 

「そうそう、戦闘も経営も節約が大切だからな。でもってルヴィアはお前達三人の中で総合力はトップだな魔術師は近接戦闘が苦手な者が多いがプロレスを基礎とした格闘術で其処ら辺を克服しているのは素晴らしいし、宝石魔術を用いた遠距離戦との使い分けもいい。強いて言えば多少の狡猾さがあれば文句はないんだが」

 

「一流は正々堂々と敵を打ち破るものですわ!」

 

「そんな奴の家が何で『地上で最も優美なハイエナ』とか言われるんですかねぇ?」

 

「何事も例外はあるものです」

 

「まぁ堂々とそう言えるなら大丈夫そうか」

 

十香とやけに堂々としているルヴィアに指摘する所を指摘した所で・・・三人の中である意味一番問題のライネスの評価に移る。

 

「えっとライネスだけど・・・いや、うん参謀みたく作戦とか立てたり攻防や索敵も出来る優秀なゴーレムのトリムマウの操作は見事だったけど・・・本体が雑魚過ぎるな」

 

「ありがとうございます」

 

「ざ、雑魚とは言ってくれるじゃないか!というかトリムマウ否定してくれ!」

 

「いや雑魚だろ。単純な魔力弾しか撃ててないし、トリムマウと分断されたら普通に死ぬぞ?」

 

「そ、それは・・・そうかも知れないが!」

 

「だが安心しろ。魔術は一朝一夕には行かないがきっちり武術を教え込んでやるからさ」

 

「いや待ってくれ!君の武術の鍛錬は十香が文字通りぶっ飛ばされて気絶させられては回復して起こしてさらにぶっ飛ばして身体と魂に刻み付けるものだったはずだが!?」

 

「え、そうだけど。なぁ十香?」

 

「・・・ら、ライネス、空は青いし地球は丸いぞ(震え声)」

 

「やっぱり怯えてるじゃないか!?思いっきりトラウマになっているぞ!」

 

ぎゃんぎゃん言ってくるライネスを無視しつつ、新しく仲間になった二人に向き直る。

 

「バフォメットはデバフ系のスキルもあるから単純にパッシブスキルを増やして火力の底上げ、ロスヴァイセは・・・ちゃんと補助スキルと防御系のスキルを取れ、種族としての防御力だけに頼るんじゃありません!折紙に教われ」

 

「ふむ、火力か」

 

「はう!?わ、分かりました。折紙さん願いします」

 

「了解」

 

ロスヴァイセが頭を下げて指導を頼むと折紙は真顔でピースという初見では中々威圧感のある返し方をした。俺には可愛く見えるけどな、胸を張ってる感じで

 

「ま、まぁ取り敢えず今日はこの辺りで」

 

「お、通信だ。そっちはどうだ?」

 

『こちらも準備は完了した。いつでもいいぞ』

 

COMPの通信機能でアズールの通信機から連絡が来る。本人はしゃべれないから通話相手はスパルトイとなる

 

「OK!折紙次が準備出来たって」

 

「了解、この異界を消滅させて次の異界に転移する」

 

「「「「「え?」」」」」

 

「ん?ああ、スパルトイとアズールは事前に【トラポート】で飛ばして次に行く異界の攻略をしてもらってたんだ」

 

そういうと何故か新人仲魔と探偵組の顔が凍り付く。あれ?

 

「次・・・ですの?」

 

「そうだぞ?ちょっと大きな仕事がありそうだからそれまでに色々仕込みたいからな。それまで平日は放課後、休日はがっつりやるぞ。幸い小規模な異界なら最近ぽこじゃ出来てるから特性の違う異界や悪魔の対処が出来るぞ!」

 

「「「お、おお・・・」」」

 

「た、大変ですね」

 

「う、うむ精進するといい」

 

探偵組がさらに頭を抱え出した。トリムマウは変わらずすまし顔なのだから見習って欲しいものだ。

 

「あとお前達二人はスパルトイ達と一緒にネオベテルからいくつか依頼された高レベル異界に行くぞ」

 

「「え?」」

 

「折紙が異界に居ればいいからな。俺はフリーだし、それに度々戻って指導するから心配すんな」

 

「私とカリヤは念話での会話と新しく視覚、聴覚の共有が出来るようになったからカリヤの指摘を私経由で伝えられる」

 

「で、ですがそれでは狩谷様の固有スキルの効果が・・・」

 

「大丈夫!事前に試したらちゃんと効果出てたから」

 

「事前に試す・・・あ」

 

『まぁ・・・そういうことだ』

 

「だってこの方法なら俺達全員をレベル上げ出来るだろ?あと効率的だし(効率廚)」

 

「急速に力を付けたいならこれくらいしないと無理、それに異界潰しも出来る。あと効率的だから(天使特有の機械的思考)」

 

「「「「「えぇ・・・」」」」」

 

皆の頭の中にはスパルトイとアズールが疲れた顔をしたように聞こえたらしい。あと何か引かれた

 

「はいはい、小規模の異界だから攻略後は直ぐ崩壊するからさっさと向かうぞー!」

 

「異界とのライン切断。【トラポート】」

 

「了解しました狩谷様」

 

「「「「「え、あちょっま!?」」」」」

 

崩壊が始まった異界から折紙の【トラポート】で転移する。折紙とトリムマウ以外からは文句を言われるが構わずレッツラGO!だ

 

 

 

脇巫女ネキと狩谷の指導方針に明確な違いはない。同じくスパルタ方式な為似通っている部分が多く、レベルと技術を双方鍛えることが大切だとしている。強いて違いを上げるなら脇巫女ネキは相手の限界以上の難題を与えときには死ぬ確率が高い修行を課して、逃げ出さなかった者の限界を確実に大幅に突破する。狩谷は相手が許容出来ないギリギリのギリギリのギリギリのギリギリを見極め試練や修行の難易度をそこに合わせて調節することで脱落者を"一人も出さず"成長を促している。この手法で大幅に限界を突破するのは相手の資質に左右されてしまうが修業を受けた全員の限界の突破することが可能だ。この二つの手法はどちらが優れているという訳でもなく前者は少人数をぶっ飛んで強くする、後者は大人数を大幅に強化して全体の平均値を底上げする。狩谷の指導方針は前世の経験が大部分を占めているので現代社会の教育に置いてなるべく脱落者を出す訳にはいかないという事情が脇巫女ネキの指導方針との差異になっている。どちらも一長一短ということになるだろう

 

「お、今度は携帯の方か・・・え、イリナとゼノヴィア、二亜も一緒に修行したい?おうおう来い来い!」

 

「「「「「『あ(察し)』」」」」」

 

更に被害者を増やした修行を開始して約二週間後、等々恐山攻略作戦がネオベテル内で広く告知されることとなる。




読了ありがとうございました!・・・よ、ようやっと恐山まで来れました。多少カットした話もありますが辿り着くまで長かった!新章の恐山編もよろしくお願いします

【神木狩谷】の固有スキル

【試す者】
スキル保有者が課した試練の突破するときの対象の成長速度、獲得経験値量、スキル発現確率、レアスキル発現確率、レベル上限突破確率を上昇させる。尚スキル保有者が対象に的確に指導や指摘を与えればさらにそれらが上昇する。そして試練を突破した対象の質や人数、課した試練に応じてスキル保有者は経験値を獲得できる。これらの効果は条件さえ満たしていれば距離の制限などはない。

【■■■】
詳細不明


この二つの固有スキル前世では無く今世の【神木狩谷】の本質に由来するスキル。前者だけいち早く発現したのは前世での教育、指導経験があった為。因みに試練を与えることによる経験値は戦闘で獲得する経験値の様に減少する様子はない、これは狩谷が人を導くことは下手なボス戦よりも難易度が高いものと考えていることに起因する。


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第四章 恐山攻略作戦
開戦の朝日


第十八話になります!少し短いですが今回から新章に突入です


鳥のさえずりが聞こえる早朝。実は両親とも共働きなのだが昨日の夜から帰ってきていない、家電に出たという折紙曰く仕事があり今日の夜遅くに帰宅するとのことなので家には俺達兄妹と仲魔達だけとなる。

 

「ふぁ…折紙、朝だ」

 

「ん、おはようカリヤ」

 

「おはよう。着替えるぞ」

 

目が覚めて起き上がると俺の身体にしがみついて胸を枕にしていた折紙に声を掛けて起こし、着替えを済ませると二人で目を擦りながら一階に降りて洗面台で顔を洗いリビングと併設しているキッチンに向かう。

 

「おはよう、アズール。準備しててくれたのか?ありがとう」

 

「おはよう、朝からご苦労様」

 

「お前らも今日は両親居ないし、もう出てきていいぞ」

 

「ああ、おはよう」

 

「おはよう。ふふ、今日はいよいよだな」

 

「おはようございます狩谷様、折紙さん。良ければ手伝いましょうか?」

 

唯一普段から外に出しているアズールは早めに起きて皿並べや食材などを冷蔵庫から出している所で俺達の挨拶に笑顔で答えてくれる。そして俺は懐からCOMPを取り出して、悪魔を呼び出す。普段は両親がいるので朝それぞれ仕事に向かった後に呼び出して朝食を振舞ったりしている。因みにアズールはスキルカードで食事、調理のスキルを得ていて、ロスヴァイセも調理を学んでいる最中とのことで少しぎこちないが手伝いには十分だろう。因みにアズールにスキルカードで会話を覚えさせないのはロボキチニキから「うーん、他の試作シキガミ達はレベルアップと日常的なコミュニケーションを取っていれば自然と獲得していったのですが・・・何かあるのかもしれませんのでこのまま経過観察してもよろしいでしょうか?」という要望があったからだ。それも気になるが今は朝食を作るとするか。今日はご飯と味噌汁、鮭と昨晩漬けたキュウリの浅漬け、後は卵焼きだが十香の為に甘く作るとするか。

 

「ありがたい、今日はちょっと大人数だからな。アズールも手伝ってくれ」

 

両者が了承すると早速三人で調理に掛かる。今日は食卓を囲む人数が多い為少し調理時間は長くなっていいると『ピンポーン』おっと今日のお客さんが来た様だ

 

「折紙」

 

「分かった」

 

折紙が玄関に向かって少しすると折紙がお客さんを連れて来る。

 

「おはよう狩谷、今日はよろしく頼む」

 

「朝ご飯までお邪魔しちゃってごめんね?」

 

「いやー少年、ごっつぁんです!」

 

「ほう、意外といい所に住んでいるじゃないか」

 

「きなこパンも買ってきたぞ!」

 

「こんな早朝からやっているパン屋ってあるんですの?」

 

朝から騒がしいことだ。訪ねて来たのは教会組のイリナ、ゼノヴィア、二亜、探偵組のライネス、トリムマウ、ルヴィア、十香といういつものメンツである。

 

「この鮭美味しいのですが骨を取るのが難しいですわね」

 

「これはこうやって取るのだ!」

 

「なるほど!というか詳しいですわね?」

 

「食べることは大好きだからな!」

 

「確か『好きこそものの上手なれ』だったかな?確かにそれなら納得だ」

 

「早朝に来てくれてありがとう、朝飯も楽しんでくれている様で何よりだ。取り敢えず朝食を食べながら昨日ワシリーサと話し合った恐山攻略作戦中の動きを説明しよう」

 

出来た朝食を並べ、席に付き食前の挨拶をして朝食に手を付けながら説明を始めていく。

 

「まず今回の作戦に参加する攻略組は俺、折紙、ゼノヴィア、イリナ、二亜の計五名とその仲魔達。ワシリーサは過激派のメシア教を牽制する部隊に参加している。外部からの介入を予防する為だな、ある程度効果はあるだろうが中には乗り込んでいく奴もいると思うから各自注意しててくれ」

 

「了解」

 

「ああ」

 

「分かったわ」

 

「了解―!」

 

「うむ」

 

「我に任せよ」

 

「お供致します」

 

それぞれが返事をするのを確認すると、待機組である三人に視線を向ける。

 

「そして待機組、とうか中野区の防衛メンバーはライネス、ルヴィア、十香だな」

 

「私達はあくまで別組織の人間だからね。プライベートや偶然居合わせての共闘などは兎も角正式にネオベテルとヤタガラス、恐山のイタコ達の共同作戦にまで参加する訳にはいかない」

 

「フリーの魔術師や魔術使いなら問題ない思いますが私達の場合魔術協会のメンツもありますからね。その代わりかなりのパワーレベリングをされましたが・・・本来この言葉は楽にレベルアップする用語だったと習ったはずですのに」

 

「はは、そっちもそうなんだ・・・私も参加した時はLv5だったはずなのに終わって見たらLv15になってたんだけど(白目)」

 

白目を剥く二亜無視するとして溜息を吐いているルヴィアだがその甲斐があり三人ともLv10ほどだったのが、今では全員Lv20前半までレベルアップしたのだからいいと思うんだけど・・・というか其の為に修行を付けたし、因みにトリムマウは元々故人であるエルメロイの前当主の頃から使われていた(姿をメイドにしたのはライネス)ので元々レベルが高くレベリングの結果、俺よりも高いLv40越えを果たした。本来ならライネスには扱えないのだが、ライネスを守るのを至上命令としているのだそうだ。トリムマウの在り方が使役を可能としているのだろう真Ⅰでも主人公が最序盤で短期間とはいえ飼い犬が元のケルベロスを使役していたのがいい例だろう。

 

「モグ、モグモグ!!」

 

「十香、食べるか喋るかどっちかにしろ」

 

「・・・モグモグ」

 

「食べる方を選ぶのか(白目)」

 

朝飯を気に入ってくれたのか十香は夢中で食べている。大丈夫かこいつ?

 

「ライネス、ルヴィア頼むぞ。こいつの御守」

 

「まぁ・・・うん」

 

「・・・分かりましたわ」

 

「二人まで呆れている」

 

そのまま朝食を終えると全員で片付けや歯磨きをして、攻略組はそれぞれ武装や装備、消耗品の確認を行う。自分も聖槍、防具、アクセサリー、消耗品、COMPの確認を終えて全員で家を出て戸締りをすると皆に向き直って

 

「そんじゃ作戦時はバラけることもあるかもしれんが、作戦成功して生きて帰って来よう。待機組もな?・・・よしいっちょやったるぞ!」

 

『おおー--!』

 

全員で掛け声を上げると攻略組は折紙の【トラポート】で恐山に飛ぶ。これが攻略戦当日の朝の風景だ。えらく普通というか日常的な風景だが、変に片意地張らずにいつも通りの準備をして挑むのが俺達らしいというものだろう。

 

【攻略組】

 

【神殺し 神木狩谷 Lv37】

【覚醒者/無名天使 神木折紙 Lv37】

【造魔 アズルニール Lv36】

【闘鬼 スパルトイ Lv34】

【軍神 ヴァルキリー Lv37】

【邪神 バフォメット Lv31】

 

【聖剣使い ゼノヴィア・クァルタ Lv31】

【造魔 聖光の宣告者Lv22】

【聖剣使い 紫藤イリナ Lv30】

【造魔 サイバー・エンジェル-弁天- Lv22】

【悪魔変身者 本条二亜 Lv15】

【造魔 ジム・ガードカスタム Lv14】

【造魔 虹光の宣告者 Lv13】

 

※ゼノヴィアとイリナもCOMPを買いましたがまだ悪魔との契約は消極的で造魔とだけ契約している。イリナ専用に作られた造魔サイバー・エンジェル-弁天-は仏教の要素がある為か中に入った守護天使と拒絶反応を起こし、暴走したのだが・・・何故か途中で正常に動くようになった。弁天自身に聴取するとその証言から仏教系列の高位悪魔が遠方から干渉し、守護天使と拒絶反応が起こらない様に調節したという線が濃厚。しかしそれ以前の儀式サイバー・エンジェルシリーズは勿論それ以後に作成された同系列の造魔では例外なく暴走、件の高位悪魔の干渉も無かったことから干渉したのは何か理由があるのではと議論されている。

 

その後三人共造魔を受け取った当日に興奮のまま狩谷から聞いていた修行に参加・・・してしまった。




読了ありがとうございました!次回から本格的に攻略に入って行くと思いますので宜しくお願い致します。感想や評価など歓迎です!出来ればいい感想や評価だとありがたいのですがw


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偵察任務(物理)

第十九話になります!恐山の攻略が始まります


恐山、折紙曰く霊脈や地脈、龍脈が嵐の様に暴れているんだそうだ。何それ怖い。そんな日本有数の霊地で俺達は偵察任務として先行して、恐山に入っているが俺と折紙以外のメンバーはほぼ隠密行動が出来ない。必然的に真正面から挑むことになったのだが俺の隠密は狩猟の要領なので勝手も異なり、折紙も結界による隠密の為MPの消耗があるのでこちらも助かるのだけども。あ、ヤタガラスの皆じゃないか!所で命をちょっと借りていい?ありがとうね。それじゃ命、走ろうか?

 

 

 

「オラララーー!!死にたい奴だけ掛かって来いや!!」

 

「ぐわー--!?」

 

「な、何ごとぐふう!?」

 

「いや、掛かって来なくても消し飛ばしてるじゃないのってキャー---!?」

 

俺達は今恐山をまるで槍の様に真っ直ぐにダッシュや飛んだりして文字通りあらゆる敵悪魔を薙ぎ倒して進んでいく。命がスキルで索敵し俺の直感と百太郎で不意打ちを防ぎ折紙のアナライズを挟みながら雑魚は俺、スパルトイ、命が物理でぶっ飛ばし、面倒な相手や数が多い場合は距離がある内に俺、折紙、ロスヴァイセ、バフォメットの範囲攻撃とアズールの狙撃で消し飛ばし、耐性が優秀な奴は俺と折紙の貫通攻撃で無理矢理制圧。生き残ってたら接近した物理組で止めを刺す。

 

「!!この先マガツヒが多く集まっている。龍脈なども異常に活性化を確認」

 

「よし、左方向に転進!」

 

しばらく奥に進むと龍脈の動きが分かる折紙をセンサーにしてボスエリアギリギリの所で避ける様に突き進む方向を変えて、足を止めずに駆け回る。飛べるロスヴァイセとバフォメット、アズールは言うに及ばず俺とクノイチの命は勿論スパルトイも骨だけだがらか意外とスピードはある。唯一ネックは天使化しないと飛べない折紙だが、今回は恐山の状態が悪すぎる為使えず俺の背におんぶする形で太い紐で背中に固定して移動砲台の様に立ち回っている。中には勿論俺達と相性の悪い悪魔も居たが弱点攻撃技と貫通攻撃のオンパレードで何もさせない内に火力で消し炭にする。え?そんなにMP使って大丈夫なのかって?ご安心下さい!俺達のパーティーはこの攻略戦に備えて一番得意な属性のプラーナを全員(・・・・)が獲得しているのだ!!よって戦闘するごとにMPを回復し続けているので問題なかったりする。命はMPを温存しつつ戦ってもらう代わりにマッピングをして地図を作って貰っている。

 

「まぁ最悪命がMP切れたら買い溜めしているチャクラドロップを舐めさせまくればOK!」

 

「OKでは無いですよ狩谷殿!?」

 

「大丈夫、ほんの数時間だから」

 

「あ、あの数時間は流石に無理ですよ!」

 

「大丈夫大丈夫、命はくノ一じゃん」

 

「くノ一なら行ける行ける」

 

「それは忍びへの幻想と同じです!な、仲魔の皆さんは文句言わないのですか?」

 

そう言って命がアズール達の方に顔を向けると全員苦笑をしているがもはや慣れた扱いの様だ。

 

「いつもの事だからな」

 

「我らは最近仲魔になったばかりだが・・・もはや諦めたぞ(疲れた顔)」

 

「あの異界マラソンってこの為の持久力を付ける為だったんですね(死んだ魚の様な目)」

 

「異界マラソン!?」

 

命が愕然としたような顔をする。ただの効率優先の結果なのだが何か不思議な事でもあるのだろうかと折紙と顔を見合わせて首を傾げる。

 

「・・・お似合いの兄妹ですね」

 

「義兄妹とはいえ兄妹か」

 

「そんな呆れんでも・・・ん?」

 

和気藹々と蹂躙していると奥からこちらに駆け寄ってくる…あれはアルケニーか?見たところ中々の強さだから中ボスかな?

 

「すみませーん!って違う違う!!敵じゃありませんから武器を向けないで!?」

 

「お、おう?」

 

「怪しい始末するべき」

 

「折紙殿の言う通りかと」

 

「私が仕留めましょうか?」

 

「いや我が呪殺で一瞬で楽にしてやろう」

 

「全然聞き耳持ってもらってない!?」

 

俺とスパルトイ以外の容赦のない殺る発言で涙目になるアルケニー…どういうことだ?

 

「お、お願いです!お命だけはご勘弁を!!!」

 

下半身が蜘蛛だと言うのに一瞬で小器用に身体を地面に伏せ手と頭も地面に付けるこの姿はまさか土下座か!?この一瞬でここまで綺麗に決めてくるとは

 

「素晴らしいまでの土下座。これは元社会人として話を聞かねば」

 

「それで良いのかお前は」

 

「あ、ありがとうございます!やったことなかったけどドラマやアニメで土下座を見ててよかった!」

 

元とは言え社会人足るもの土下座されて無下にすることは…あれ?今ドラマやアニメって言った?

 

「折紙殿?急に私の耳を塞いでどうしましたか?」

 

「ちょっとね」

 

「え、お前まさか元日本人の転生者?」

 

「え、ということは貴方もですか!?良かった私だけじゃなかったんだ!!」

 

命の耳を閉じさせている間に話を聞くと何と彼女は蜘蛛の悪魔に転生して、生まれてこの方この恐山で生活してきたのだという。洞窟の中で暮らしていて、悪魔変化を繰り返しながらようやっと人の要素があるアルケニーに変わることができ、外に出てみたら悪魔を殴り倒す格上の俺達がいて命乞いをする為に土下座したとのことだ…他人事だが運が無いとしか言えない経歴だ。今世の名前は白織というらしく自分の姿とそっくりな姿のラノベのキャラの主人公の名前から付けたのだそうだ

 

「流石に原作の主人公程チートじゃないですけど、驚きのバックボーンもありませんし」

 

「蜘蛛が主人公なのか・・・うーん記憶にない。年代的には見ててもおかしくないんだけど」

 

「アニメもやってましたけど深夜アニメですからね、知らないのも無理は無いかと」

 

「巫女さん曰く元々メガテンはサブカルチャーだからその知識や記憶を所持している以上他のサブカルチャーの知識や記憶も所持して転生しているはずとは言ってたから他の記憶と違い転生の結果摩耗するという可能性も低いし、知らなかったんだろうな」

 

「巫女さん?」

 

「ああ、皆は脇巫女ネキって呼んでいるけどな・・・俺的には上司のトップをネキ呼びするのは気が引けて巫女さんと呼んでるけども」

 

「インターネット語を現実で、しかも上司に使うには勇気いりますね」

 

白織から同情されつつ次はこちらの事情を話していく。彼女もメガテンの世界だということは認識していたので用語なども通じて楽だったが色々ツッコミをして来た組織の名前は特に。まぁ是非もないのだが、今回の作戦の話になるとえらく動揺して再度命乞いをされた。

 

「お、お願いします!!まだ死にたくありません!確かに前世は根暗オタクボッチ女子高生なので家事とかは掃除とかしか出来てませんでしたし、今世でも精々自分が出す糸での手芸くらいしか家事スキルは持っていませんけど戦闘も出来ますから!ドルミナーやマリンカリンや糸の巻きつきとかデバフも出来ますから!!」

 

「ち、ちょっと落ち着け!後その割とデカい身体ですり寄って来るな潰れる潰れる!?」

 

「何でもしますからお願いします殺さないで下さー---い!!!!!」

 

「分かった、分かったから!俺のCOMPの仲魔の枠はまだ空いているから契約しよ?」

 

「はい!・・・ああ、でも貴重な枠を私に使って貰っていいのでしょうか?」

 

「構わないよ人命救助みたいなものだ」

 

「ありがとうございます・・・あ、悪魔合体の素材にするのも」

 

「やらんわそんなこと!?」

 

【鬼女 アルケニー Lv32】

 

命を離して伝えれる状況だけ伝えたが直ぐ無警戒とは行かない、俺達の顔を立てて同行は認めてくれた。

 

「ただし不信な行動を取りましたら即座に斬りますのでお忘れなきよう」

 

「は、はい!!!」

 

「いや、白織の方がレベル的には上だからな?ビビり過ぎだって」

 

そんなビビりだからここまで生き残れたのかも知れないけど

 

「また変わった新入りが入ったものだ・・・とはいえこれで我が抜けても問題はないか」

 

「ん、どうしたスパルトイ?」

 

「何でもない、少し先の話を考えていただけだ」

 

後半は小声で聞こえなかったが気にするなということで取り敢えず任務を切り上げて報告の為に戻ることにする。その後掲示板などに報告したり白織の転生者登録やCOMPでの契約を無事果たすことが出来た。でもっていざボス戦へ!!・・・という事だったんだけど

 

 

 

 

「ん?・・・あーこれは死んだな。呪殺無効の装備してたが貫通されてクリられて即死とは」

 

走馬灯の様に前世の自分とその家族を見て過去の罪を改めて確かめることとなる。




読了ありがとうございました!という訳で主人公の過去話が入りますが大して需要は無いと思うので1、2話で終わる予定ですのでご安心の程を、そして初登場の白織さんですが見た目はまんま『蜘蛛ですが、何か?』の主人公のアラクネの姿をしています。本家様の最新話でスライムニキ以外人外転生者は見かけなかったとありますが・・・うん、自分が最近買ったスイッチとメガテン5やってて書くのが遅れたせいだね!まぁ多分コミュ症だから話題に出なかったんでしょう(目逸らし)・・・因みに狩谷も前世で良く土下座(部下の尻ぬぐい)でやっていたので割かし同情していました。巫女さんにも折紙の件で速攻で土下座してたのが伏線だったり。

白織
掲示板のコテハンは【根暗オタク蜘蛛女郎ネキ】。前世は本編に出ていた通りのダメダメ女子高生だったが今世の恐山メガテンサバイバルで根性が叩き直され、ビビりヘタレは完全に治っていないがいざ戦闘になると思いっきりが良くなり、毒などのデバフと蜘蛛糸で相手の行動を封じて蜘蛛の俊敏性で這い寄り意外と高い近接戦闘能力で急所を攻撃する暗殺者スタイルで首を取りに行く。真正面戦闘もいけるそうだが回復が難しいサバイバルに置いては如何に自身を傷つけず、消耗せずに相手を仕留めることが重要だったので現在でもその戦闘スタイルを好んでいる。蜘蛛糸は美しく高級なスパイダーシルクとなりそれで防具を作れば軽くて丈夫、しかも彼女の糸は彼女自身が火炎耐性を習得しているからか炎にも強く高確率で装備にもその耐性が付加されるということで高級品だがネオベテル内外でも需要は絶えない。因みに売り上げとスパイダーシルクの反物の一部は神木家に定期的に収められていて、中野区チームの防具の強化をしてくれるなど恐山戦後はかなり重宝されていたりする。

因みに前世の死因は新作ゲームを買いに外に出たら久々の日光の光で目を眩ませ、階段から足を踏み外して頭を強打したことらしい。


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ボスに意気揚々と挑んだら呪殺貫通即死をくらって死んで急に過去編が始まったんだがどうすればいい?

第二十話となります。偶々ですが、切りのいい数字で過去編入れて良かったです、基本過去編の二話はシリアス路線で行きますが前編はタイトル見ても分かるように比較的軽めなのと長くなってもアレなので基本的に過去編はダイジェスト的な感じで進みます。


これは前世の狩谷が晩年辿った人生の一部にして、早すぎた終着点。そして自身が犯した罪の記録。とはいえ彼にとっては心に深く刻まれ忘れていない記憶を悪戯に呼び起こされた無意味な走馬灯。もう終わってしまったお話だ

 

「全く、それを第三者視点から見せられるなんて嫌がらせというか悪趣味というか」

 

走馬灯を見せて来る神様でもいるんなら後でボコすと密かに思っているものの、まるで逃げるのは許されないとばかりに走馬灯から顔を背けようとする素振りを見せることは無かった。

 

 

 

「兄さん聞いているのか?」

 

「ん、ああ悪い考え事してたわ」

 

少し小洒落たカフェでマイペースに緑茶を飲んでいると弟こと誠人から声が掛かる。そうだった相談があるとここに呼び出されたんだったな

 

「しっかりしてくれよ…」

 

「悪い悪い霧衣が海外の行った穴埋めと人員の補填やら引き継ぎやらがようやっと終わったばかりだから疲れが出ていたみたいだ」

 

「お疲れの所すみません」

 

呆れている弟に代わり頭を下げて来たのはつい最近弟の婚約者として紹介され、年内に結婚する予定の優里さんだ。弟よりも若くて美人な女性でしかも弟の努めている会社の役員の娘さんらしく紹介されたときはよくこんな美人さんと婚約出来たなと驚いたものだ。

 

「気にしないでくれ、それで要件は?」

 

「実は私、ストーカーされているみたいなんです」

 

彼女曰く少し前から社内どころか帰り道にすらずっと見ているような同じ視線が付き纏われている感覚がするらしい。最近では写真を撮られているようなシャッター音も聞こえるらしい

 

「また重いのが…彼女のご両親と警察には?」

 

「勿論伝えてあるし、通報もしたけど警察の方は巡回強化はしてくれるそうだが実害がないと動けないらしい」

 

「撮られた写真の現物もないしな・・・まぁ取り敢えず一人にはして置けないよな」

 

「ああ、だから俺のマンションの部屋に今は退避してるんだ」

 

聞いていただけでも段々とエスカレートしているのが伺える。恐らく自宅も把握されているだろうし、別の場所に移れるのなら移った方がいいだろう。

 

「妥当な所だな・・・会社じゃなくて俺に相談して来たということは」

 

「・・・恐らく社内の人間の犯行だと思う」

 

「やっぱりそうか」

 

社内からストーキングしている以上そうなるよな、優里さんの表情も沈んでいる。身内にストーカーされているのはより怖いし、心苦しいことだろう

 

「ストーキングされている時間帯は分かるか?」

 

「それは勿論」

 

「ならお前が会社内でそれとなく『昨日その時間に何をしていたか』を聞いてこい。短期間でやろうとすると怪しまれるから一度話したら日数を置けよ?日常会話の中に紛れ込ませろ」

 

「・・・分かった」

 

少々難しい注文だが弟は受けてくれた。社内の人間の犯行なら結婚の話も知っているはず。エスカレートがピークに到達するのは結婚式直前だ。せめてそこまでに容疑者を絞りたい所だが・・・

 

その話し合いから2週間、ストーカーの件は会社では上層部しか知らない為情報を得るのに苦労した様だが集めた情報を照らし合わせて見ると・・・一人怪しい人物が上がった。

 

「大原仁志 45歳 独身。ストーキングがあった時間帯は料亭で取引先の接待をしていたか、誠人は外面を気にして八方美人に振舞うからな。グレーゾーンの接待を上司に直接聞くことはないと踏んだか」

 

まぁ八方美人として振舞っているストレスを発散する為に良く俺含めた家族にちょっとしたことでキレて当たっていたものだ。社会人になってからは流石に両親に対しては減ったが俺に対しては変わらずマウントを取って来た。因みに俺達が勤務するそれぞれの会社は大体同じ規模で俺が課長、あいつが部長という肩書きだ。日頃からやれ課長より部長の方が大変だとネチネチ言ってきているが長い付き合いの俺達だからいいが優里さんや生まれて来る子供に当たらないか心配だ。

 

「そういえばこの前そう言った注意をした時に言いよどんでいたな。せめて当たるのは家族までにして置けと言い聞かせて来たが結婚して変わって欲しいもんだ」

 

その後俺が取引先と料亭双方と顔見知りだったので連絡を取り嘘であることが判明している。まぁそもそもあそこは弟が良い接待先は無いかと聞いたときに教えた店だ。加えて取引先の幹部の一人は俺が嘗て色々と仕込んだ問題児の部下達の一人なので証言の信憑性は高いだろう。この情報は上層部と警察に伝えたが家宅捜索の前に失踪したそうだ。部屋から例の写真も出て来ているからほぼ黒だろう。そしてここは捕まるまで結婚式は延期に・・・したかったのだが

 

「何?予定を変えない?」

 

『そうだ。ちゃんと警察が式場周囲を見張っていてくれるから』

 

「だとしても捕まえるまでは延期をしておくべきだ」

 

『良いんだ!兎に角予定通りこのままで行く』

 

「・・・ならちょっとそっちの会社に行っていいか?少し気になることがあってな」

 

『何言ってんだ!もう犯人が分かったからもういいだろ!向こうに親御さんに心配させて式を延期させるわけには』

 

電話を掛けて来たと思ったらそう捲し立てる弟に違和感を持つ。性格は少々悪いがここまでバカではないはずなのだが。向こうに知られたら不味い事でもあるのか?浮気はあり得ないし、向こうが出して来た結婚の条件もそう難しいものじゃないはず。精々遺産の相続などを混乱させない様に・・・まさか

 

『まさか誠人・・・お前もう(・・)子供がいるのか?」

 

『!?』

 

息を飲む弟の声がスマホ越しに聞こえる。あいつデキコンだったのか。優里さんは社会的に見て良い所の出なのでそういうことに厳しい。今時デキコンにゴタゴタ言うなと思う奴もいるだろうが社会的地位の高い家が其処ら辺に厳しいのは世間体だけでは無くもし結婚前に何かトラブルが起きて別れた場合遺産相続などで『実は子供が出来ていた』というあからさまにゴタゴタの元になることを防ぐための意味合いも大きい。それに弟は誠実さをかわれて婿となる為間違いなく心証は悪くなってしまうだろう。

 

「もう婚姻した後だから本来なら問題はないが、婚姻したは一週間前、結婚式は一か月後・・・婚姻後に身ごもったのならまだ一か月後ならお腹周りや妊娠によって現れる症状はそこまでじゃないし、決まりは守った以上どうこう言われる筋合いはない。でも結婚式を急かすということは現在進行形で症状が出ているな?」

 

『そ、それは・・・』

 

言い淀む弟に内心舌打ちをしてしまう。今から症状が出る様なら延期をしてしまえばもはや手遅れだ。いつ捕まるかは分からない事に加えて逮捕後も式場側と連携してどれだけで急いでも式のプログラム、料理の手配、招待客の手配を再度行うことになり一、二か月はまず間違いなく掛かる。その頃には目に見えて妊娠しているのが分かる。そして病院に行けば当然プロの医者が妊娠した期間を特定してしまう。恐らく妊娠が発覚したとき行った病院は口止めをしていると思うが、別の病院に行かされたりすれば発覚することだ。

 

「こうなったら俺も一緒に謝りに行ってやるから『そ、それはダメだ!』・・・そんじゃどうするよ」

 

『だ、だってバレてしまったら折角今まで気づいた信用や会社の地位だって!』

 

「落ち着け!お前は優里さんを上に上がる道具として見ているのか?違うだろ!」

 

『っ!そ、そうだ決してそんなことはない!』

 

慌てて否定する声がスマホより響いてくる。別に弟は根っからのクズではない、ただここぞという時に優柔不断で無意識に人を自分に有用な物として捉えそれを言動に出してしまうことがあるのだ。そのことは本人も自覚していてそういう言動はしない様に気を付けている。しかしここ最近イレギュラーの多発でボロが出て来てしまっている様だ。

 

「そうだ。愛しているなら尚のことちゃんと謝った方がいい、幸い優里さんも同意の上ならまだいい訳も」

 

『・・・』

 

スマホ越しの弟が黙る・・・え?

 

「お前・・・まさか一方的に?」

 

『ち、違う!!確かに言い出したのは俺からだが最初は渋っていたけど最終的には同意してくれた!それも一回だけだ!』

 

「・・・」

 

今度はこちらが黙ってしまった。弟にレイプする度胸はないし、言った通り最終的には同意したのだろう。しかし言うまでもないが最初から互いに同意して行為を行ったのと、相手が渋っていたにも関わらず行為を迫って折れさせて行ったのとでは聞いたときの印象など雲泥の差がある。こんなの相手が一般家庭出身でも親御さんから反発され離婚届けを突き付けられるというものだ。家族で懸念していた結婚相手や子供にストレスの発散としてイライラをぶつけることよりもひどい行為をしてしまっている。

 

「こ、このバカやろう!何でお前は頭いい癖にこうなんだ!」

 

つい絞り出すように愚痴が漏れた。とはいえこれくらい言わないとこっちが頭に血が上りそうだったのだ

 

『・・・バカだと?』

 

「いや、どう考えてもバカ」

 

『ふざけんな!五年早く生まれただけで偉そうに説教しやがって!お前俺より下の課長だろうが!そもそも一回で妊娠するなんておかしいだろ!!ちゃんと避妊具も使って危険日も避けてたのに!」

 

「危険日なんぞ気休めだアホ!避妊具も絶対じゃないだろうが!保健体育で学んだこと忘れたか!」

 

弟の暴走が始まった。大人になってからは無かったことなのでいい加減治ったかと家族一同安心していたのだがどうやらただ溜め込むのが上手くなっていただけのようだ。弟は子供の頃から誰かに上から目線で対応されると激しくストレスを溜め込みイライラを他者にぶつけてしまう悪癖があった。これが兄や両親だけなら良くある話だが弟の場合は学校の先生、校長、先輩、職場の上司、社長、助言をしてくれるご老人など明らかに立場が上の人達が善意で言ってくれることでもストレスを溜め込んでしまう。昔そうなったときに言っていた『上から目線の人間は誰であろうとムカつく』を地で行っているのだ。

 

『取り敢えず結婚式は予定通り行う!向こうの両親に言って見ろ自慢の婿と問題児の部下を抱える弟よりも格下の兄のどっちの言うことを信じるか何て火を見るより明らかだぞ!』

 

さらっと嘘言います発言をして電話を切られた・・・この分だとしばらく時間を置かないと話すことも出来ないな。

 

「くそ、こうなるんだったら爆弾を調整するんじゃなくてもっと昔に無理矢理にでも解体するべきだったか?いや、しかし必要以上に踏み込めば何やらかすか分からないし・・・!」

 

弟を爆弾に例え頭を抱えながら唸る。この騒動で一時的にとはいえストーカーの件が薄れる程の衝撃を受けたがそのせいで収集した証言を見た時に思った違和感が頭の奥底に押し込まれてしまった。

 

 

 

「まぁこの時に思い出して対処しても誠人は取り合わなかっただろうな」

 

頭を抱える前世の自分を見て苦笑する。今思い出しても問題児だった部下達を指導する方がまだ楽だったなと思う。

 

「でも・・・もしここで確信を掴んでいれば、もっとマシな結果になったんだろうか?」

 

その問いに答えられる者は誰一人していないのだろうけど。




読了ありがとうございます!今回女神転生要素が皆無の回でしたね!あともう一話でいつもの雰囲気に戻りますのでご安心下さい。因みに主人公が考えていたように無理矢理爆弾を解体しようとすれば弟は自殺していました。しかも家族全員巻き込んでの心中という爆発を高確率で起こすのでマジでストレスを調整しながらの現状維持が最善手だったりします。本当折紙を可愛がる訳です。まぁでもその数十年のお陰でコミュ力が上がって仕事と今世に活かせてよかったね(棒)。


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愛の十字架

第二十一話となります!うん、案の定前回投降後に評価が下がりましたね(白目)。まぁ予想通りでしたがこの過去編をやっとかないと多少張ってた伏線や後々の主人公の行動や心理などが意味不明なことになるのでやるしかないということで評価はこの際度外視でやります・・・でも高評価が欲しくないと言えば嘘になりますが。という訳で過去編の後半が始まります。


あの【実はデキコンだった事件】から時間が経ち何ともう結婚式当日だ。あの後優里さんの取り成しもあり再び話し合った(弟は怒りの感情自体は直ぐ冷める。その代わりずっと覚えていてネチネチと年単位で言ってくるけど)のだが結局弟は意見を変えることは無かった。

 

「昔から頑固だからな・・・一応手は打ってはいるけど」

 

万が一デキコンがバレたときの為に「互いに勢い余ってやっちゃった」という風になるように優里さんの了承もあり口裏合わせや多少の隠蔽工作も行わせて貰った。プロが調べれば分かるだろうが、流石に二人がバレた時にキチンと謝ればそこまですることはないだろう。弟が少し心配だが恐らく八方美人モードで対処してくれるはずだ。

 

「あと懸念材料はストーカーがまだ見つかっていない点と例の違和感か」

 

前者に関しては式場周囲を警官がそれとなく警備してくれるそうなので何とかなりそうだが・・・後者に関しては残念ながら何処に違和感を持ったのか分からなかった。というより隠蔽工作や仕事や結婚式の準備などで確かめる時間が無かったのだが。

 

「にしても本当にいい子だな優里さん」

 

俺と弟を取り成してくれた優里さんだが如何やら電話の件を聞いていたのか派手に喧嘩したそうだが、それでも嫌いになれなかったらしい・・・あの姿を見てもそう言えるならイメージと違う事で別れることはないだろう。俺も大人になってからそれぞれ自立したことで機会は減ったが子供の頃は癇癪を起す弟を諫めながら一緒にお笑い番組で笑ったり、一緒に飯食ったりと日常を共に過ごしていて良いところもあるところを知っている。あの心根を如何にかすれば普通に好かれる方だと思うんだがな、寝顔とか大人になっても可愛いし。

 

「あ、もう時間か。結婚式場がある町の駅前で花は買うとして準備しないと」

 

家を出る時間になったのでスーツに着替え始める。懸念材料はあるがもうどうにも出来ない・・・何処か嫌な予感を覚えつつ結婚式場に向かった。

 

 

 

 

「うおおおおお!!なぜどの花屋も花がねぇんだよ!?」

 

もうとっくに結婚式場の着いているはずの時間だが今現在俺は花屋を渡り歩いていた。それもこれもどの花屋も花が売り切れていたからだ。

 

「仕方ないさね。今日だけで葬式が5件、結婚式が10件あるんだ花も足りなくなるさ」

 

「式が多すぎるわ!?おめでたいのかそうじゃないのか分からねぇじゃねーか!!」

 

遅刻を覚悟して入った最後の花屋の店主のおばあちゃんにツッコミを入れながら漸く花を見繕って貰っている。

 

「なるはやで頼みたいんだけど!」

 

「なるはやってもうそれ死語に近いんじゃないかい?・・・これとかどうたい?」

 

「おお、綺麗な形の鬼灯ですねってこれ墓参りするときに持ってく奴じゃねーか!!」

 

「冗談だよ・・・はいこれ」

 

「おお、真っ白な綺麗な薔薇・・・ってもうボケは良いんだよボケは!」

 

「ボケじゃないよ」

 

「…マジで?」

 

白薔薇

 

花言葉:心からの尊敬、無邪気、純潔、相思相愛、約束を守る、私はあなたにふさわしい、あなたの色に染まるなど

 

え、これを新郎の兄が持っていくの?控えめに言ってキモいんだけど…

 

「あ、あのー出来ればこれ以外のものが「あと赤薔薇もあるけど」これ買います!」

 

赤より白の方がマシだ。二人の為に買って来たということにしよう…これ俺の弟じゃなくても嫌われそうなんだなと何本か束ねて貰い店を出ると式場までダッシュで駆けていく。

 

「あ、待ちな棘を抜いてないよ!」

 

何か花屋のおばあちゃんから声を掛けられた気がしたが、急いでいるので振り返ること無く結婚式場に向かう。

 

「く、時間的にスピーチには間に合わないか!?すまん親父!」

 

家族のスピーチは俺が担当だったが、俺が来ていないことによる台本なしのピンチヒッターは多分親父に振られることを思うと心苦しいがどうにか場を繋いでくれ!!そう祈りながらひたすら走り、周りを警備してくれている警官さんに会釈もしつつどうにか結婚式場がる場所の階段前広場に辿り着いた。無駄に段数が多いが行くしか無い!そう思っていたときに同じく遅れたのか今頃になって結婚式場に向かっている一人の男性の肩にぶつかってしまった。

 

「あ、すみませ…!?」

 

謝るために相手の顔を見ようとする…その瞬間目を見開いて驚いた。思考が一瞬止まるが、幸いいつも通り俺の身体はその場に置いての最適な行動を取る。

 

「な!?ぐぅ!!」

 

今度は相手が驚いた。まぁ急に顔面パンチをされたら驚くのは当たり前だが驚くのはこっちだ。

 

「何でいやがる大原仁志!」

 

「ああ、そういえばお兄さんがいるんだったな。ムカつく顔がそっくりだよ!!」

 

懐から果物ナイフを取り出してこちらに突進してくる。幸いだがナイフの穂先はブレ、突進自体も安定していない・・・どうやら武術やケンカは素人だな。あとな

 

「俺は弟と違って母親じゃなくと父親似だボケー!!」

 

相手の突進が届く直前に避けて、その顔面に拳をめり込ませる。

 

 

 

因みに言っておくが俺もストーカー野郎と同じ様に武術とかの技術は無い。精々中高のときに授業で空手の基本の型をやっただけだ。だが祖父やその仲間達と共に動物の狩猟を何度かしたことがある。そのときに見た猪の突進に比べれば脅威に感じない。相手の突進や斬り付けを直前で避け続けスタミナが切れ動きが鈍ったところを殴る。この繰り返しを淡々と行う。もし相手が武術の心得があればフェイントなどで素人の先読みくらい軽く外して刺してくるなりしただろう・・・ただ同時に不審に思う。この繰り返しをして既に数分は経っている。なのに何故警備する警官が来ないのだろうか?ただの聴衆ならこの結構式場が郊外にあるから元々通り掛かる人達が少ないからだで納得できるのだが

 

「避けんじゃねぇ!!」

 

「避けるわ。というかお前どっから来た?警察の警備を無理やり突破した訳じゃないだろ!」

 

「さぁなぁ!!」

 

はぐらかされたが取り敢えず警察が来るまで時間を稼ぐ必要がある。こちらのスタミナも有限だからな

 

「もう優里さんは相手を決めたんだ。なんでそれが分からねぇ!!」

 

「煩い!・・・ずっとずっと好きだったんだ!なのにあんな八方美人野郎と・・・!」

 

「八方美人野郎は否定しないがそれも彼女は受け入れている。大体彼女が会社入ってまだ数年だろ?なのにずっとか宣いやがって!!」

 

彼女曰くストーカー野郎とはあまり話したことはないらしい。恐らく顔や身体、親の地位が目的なのだろう。ふざけた話だ。確かに弟もそう言った目的があったのかもしれない、だがあの弟も過去に好きな子が出来た時に告白して断られたことがあったが俺達に当たることはあっても本人を困らせることはしなかった。曲がりなりにも好きだった相手を思う気持ちくらいはあるのだ。今回取り成しにも応じたしな・・・弟も問題児だったがまさかそれ以上の奴が近場に存在するとか想定なんて出来る訳がない

 

「元々両思いでもなく告白もせずに取られたとか抜かすんじゃねぇ!!」

 

伸ばして来た腕を抑えつけ足蹴りでナイフを落とす。取っ組み合いが始まるが時間を稼ぎたい俺にとっては望む所だ。このまま時間を稼ぐ、或いはスタミナの消耗具合によっては取り押さえることも出来るかもしれないと思った。もしかするとその勝ったという考え自体が油断に繋がったのかもしれない

 

「今だとっととやっちまえ!!」

 

「何を・・・!?」

 

突然背中の一部が熱を持った。何か冷たい異物が身体に入りこんだ。少し振り返る・・・如何やら刺されたらしい。後ろにいつの間にかいた一人の女性に。

 

「そうか、そういうことか」

 

前に持った違和感、それが氷解していくような感覚がした。弟が情報集の報告の際几帳面なあいつはその前後で行なった雑談の会話まで文章で送って来てくれた。そのとき一人の社員の言葉が気になった。弟について話す内容がやけに詳細で、他の社員が気づいていないことにまで気づいていたことだった。これだけならただそういう観察眼が優れている人という印象だったのだが他の社員の話に話題が移るとそこまででは無かった。この違いは何なのだろう?違和感というより疑問を持っていた。特に親しい人間という訳でもないというのもその要因の一つだ。その社員の名前は

 

「関口萌恵・・・さん」

 

「・・・名前を知っているのね?あの人から聞いたのかしら。私のことを見てくれていたのね」

 

弟を通して知ったことを察すると彼女は笑顔になった。とはいえ歪んだが枕詞に付くほど碌な物では無かったが。弟は八方美人だったのだ会社内で弟に好意を抱いている人間はいるかもしれないとは思っていたが・・・大して親しくもしていなくて告白もしていない癖に誰かと一緒になるのを寝取られたと思って結婚式場にナイフを持ってカチコミ掛けるなんて弟でも考えもしない暴挙をやらかす人間が同じ職場に二人もいるとか普通考えるかバカ。

 

「ストーカー野郎ならぬ女郎とか、想定してねぇよ・・・!」

 

ナイフは既に抜かれている。傷口を抑え倒れ込む。夫婦それぞれにヤバイストーカーがいるとかどんな偶然だ。幸い内臓は刃から逃れ致命傷ではない、しかし太い血管を切られたのか血が止まらない。ストーカー野郎が落としたナイフを拾い反撃かと覚悟したがそのまま結婚式場に向かう用だ・・・目標優先とは聞こえはいいが俺が通報することが頭にないのか?ここまで逃げ延びたり、ここに入りこめたのはストーカー女郎の手引きだと思うが

 

「いいのか?俺を生かしたままで!」

 

「別に貴方はもう動けないでしょう?それに通報されたとしてもどうでもいいわ」

 

「あの女と生意気な男をぶっ殺せればそれでいいんだよ!」

 

それらの言葉だけ述べて階段に向かって二人は歩き出す。あいつらは八方美人の弟しか知らないはずだ。弟の悪意が他者に向いていないのは昔から分かっていた。だが愛していないという訳ではない、弟は生まれながらに愛情を悪意でしか表せない(・・・・・・・・・・)。環境や親の教育がどうたらでは無い。そう生まれついてしまった以上変えようがない、だからこそそれを違えたりもしない。つまりあいつらは唯の嫉妬や身勝手な愛憎でことを起こそうとしているのだ。正当な理由のない悪意で弟の幸せを潰そうとしている。性格が悪い弟だがそれ故に不器用で、ズルも不正も出来ずただ努力し、積み上げるしか出来なかった弟の幸せが、小学生の頃から夜遅くまで勉強をしていた弟の幸せが、頼まれたことを断れずイライラしながらも複数の頼まれ事を喚きながらもこなして来た弟の幸せが、一緒に同じ飯を食い同じTVを見て笑い同じ家で眠った弟の幸せが、俺が愛すると決めた弟の幸せが奪われる・・・ダメだそれはあってはならない。俺は愛した者としての義務、責務として弟の過ちを最悪その弟の命を奪ってでも止めなければならない、そして不当に弟を貶める奴らから弟を守らなければならない。

 

「・・・」

 

本能が死なない様に痛みを発し、理性が身体を動かさない言い訳を無限に作り出す。だがそれとは無関係に俺の身体は動く。先ほどストーカー野郎を出合い頭に殴った様に俺の身体は思考と本能と理性とは関係なく身体を動かして行く。出血多量の死の警告さえも関係なく動く・・・ふと数年前に亡くなった祖父のことを思い出す。生前から何故俺だけを狩りに連れ出すのか不思議だった。弟もそこまで嫌がっていなかった。その理由を聞いても教えてはくれなかったが、遺品整理をしているときに祖父の日記を見つけ読んでみたことで分かった。祖父曰く俺はことを起こす前後で悩み、引きずることはあるがことを起こすときはそういったことを考えずに迷いなく実行できるらしい。そして起こった出来事に思う事はあっても後悔することはないのだそうだ。そして祖父は・・・かつて第二次世界大戦時に日本軍に従軍していた祖父は気づいていた。それが"殺し"の才能に繋がることであると。だから否定したかったのだろう。自分の孫が、この平和な世の中でそんな才能を持って生れて来たのだと認めたくなかったのだ。

 

もっともその希望は狩りの前に多少は渋っていた動物を殺すという行為を実行する段階になったときに猪の首に迷いなく鉈を振り下ろし、仕留めその後初めて気分が悪くなった自分を見て潰えた様だ。その日記の最後には締めくくりにはこう書かれていた。

 

『どうか、私が愛する孫の一人の才能が日の目を見ないことをただ願う』

 

 

「行かせない」

 

その時俺は人生で初めて"敵"を認識した瞬間だった

 

 

 

「・・・」

 

空は雲一つない晴天だ。しかしことが終わった後の俺の頭は逆にぐちゃぐちゃで、それでも後悔することだけは出来なくて

 

悪いな爺ちゃん・・・どうやら最後の最後にその才能が

 

「花、開いちゃったみたいだよ」

 

心臓にナイフを突き立てられた身体で、目の前に奪ったナイフでそれぞれ首筋を一度だけ切り付けられ生き物から物体へと変わったものが二つ横たわっているのを見る。

 

「まぁ・・・俺も、長くは、ないけどな」

 

苦笑し、ふらつき倒れる。視界が霞む、音が遠のいていく、近くにある白い何かが視界に映る・・・

あれは何だったかと思っていると

 

「か、ね?・・・!?」

 

ゴーン、ゴーンと鐘の音が周囲に木霊する。そして景色のピントが僅かに合いその白い何かが白薔薇だと認識した瞬間、遠のく意識が覚醒する。

 

「だ、め、だ!」

 

その花束を掴む。元々血を流していた血と掴んだ時に棘で出来た切り傷から漏れた残り少なった血で薔薇が赤く染まって行く。立つ余力はない、地面を這い階段へと向かう。まだ死ねないと俺の魂が叫んでいるのを感じ取る。俺は弟の、家族の、愛した者の幸せの為に戦ったのに…俺が死んでしまったらこの祝福されるべき日が血で汚される。そして俺の為に悲しみ幸せが崩れ去ってしまう。「俺が死んでも悲しむ奴何ていやしない」という台詞を創作物ではよく見るが、そんなの驕りと相手への侮り以外の何物でもないと分かっている。分かっていながら俺はあの戦闘中自身の命を考慮に入れなかった。一瞬弟達の、他所の考えを想像すれば思い出せたことなのに。

 

「幸せ、を、くず、させ、ない!」

 

先ほどは肉体が精神を凌駕したが今度は精神が肉体を凌駕する・・・しかしそれが長く持つはずもない

 

「~~~!?~~~~!!」

 

後ろで誰かが電話をしている声が聞こえる。声的に女性だろうか?内容は聞こえないがようやっと通行人が通報でもしているのだろう。その後後ろからこちらに走って来る声が聞こえる。

 

「だ、大丈夫・・・じ、じゃない、です、よね?」

 

怯えながら、怖がっているというより人と話すことが鳴れていない様子で声を掛けてくれた。目元は前髪が伸びすぎて見えないが・・・優しそうな目をしているのだろうなと直感的に考えてしまう。

 

「こ、れ、を」

 

「こ、これは赤薔薇?」

 

手渡して初めて気が付いたがもうすっかり赤くなってしまっている。自身の血で染まった赤薔薇を送る兄・・・普通に赤薔薇買って送るよりも遥かに気持ち悪いな、全く。

 

「弟と・・・義妹・・・子供・・・に」

 

「!?お、おじさん起きて、寝ちゃダメですよ!!」

 

瞼が重く落ちていく。となりの女性、いや歳的に少女かな?その声も身体を揺らす振動も感じられなくなっていく・・・結局俺は失敗してしまった。爺ちゃんにあの世で怒られることが増えてしまったな・・・いや、うちは仏教だから会う前にお互い輪廻転生しているのかな?それはあの世に行って見ないと分からないだろうけど、もし"次"があるのなら・・・今度こそ必ず・・・愛した者の幸せを・・・守って

 

ほぼ叶う見込みのない誓いを立てた男は根暗だが心優しい少女に見送られる。少女に家族に向けて渡す様にと頼んだ薔薇は真っ赤に染まっていて、皮肉にもその赤薔薇がこの日が血で穢れた証拠であり、とある男の愛情の深さの証拠になってしまったのだった。

 

 

 

 

 

「幸せを守ってハッピーエンドを目指すと誓ったんだがなー」

 

あとやっぱりあの赤薔薇はキモイと思う。偶然とはいえ重いってアレ!ごめんな弟よ

 

「よりによってこんな世界に転生する何て運がないわね」

 

「本当だよ、知った時軽く絶望したもん」

 

過去の俺が死んだことで幻想の世界が静止する。いや、本当ただでさえ普通の世界でもムズイのにメガテン系列の世界で愛する者の幸せを守るって糞大変なんだけど。難易度ルナティックだよ全く

 

「それにしても中々面白い愛情の価値観ね」

 

「そうか?愛というのは損得勘定とは別離にあるものだ。そして理論上は愛情はなくても経済や食料を回せれば生きることは出来る。例えば愛情を注いでいる作ったご飯と愛情はないけど親の義務感だけで作ったご飯、どちらも食べれば生きることは出来るだろう」

 

「だが、肉体は保っても精神はそうは行かない。生物というのは愛情が無くても生きられるのに、それが無ければ生きられないという矛盾を抱えている。だから愛情に義務こそあれど見返り何て存在しない、サービス残業やボランティアと本質は変わらんさ」

 

「やる義務もないことをやるのだから見返りは無くて当然、しかし手を出した以上義務は負う。なるほど確かに損得勘定と相いれないわね・・・それじゃ愛さない方がいいのかしら?」

 

「そうした結果どうなるかは自己責任だけどな。大抵碌な末路じゃないだろうけど、どの未来を選びどんな義務や責任、権利を背負うかは選ぶ当人の自由だ」

 

俺が選んだのがああいう道だっただけだ。例え損しかないことだったとしてもそこに意味を見出して、愛を注ぐ。その愚かしいあり方がこの上無く愛しくて。

 

「悪意をぶつけられても、裏切られても、愛し続けるの?」

 

「当然。愛することをやめる理由はあれど、愛してはならないという理由はないからな」

 

「その上で過ちを犯したら殺してでも止めると、なるほど弟さんとはとある意味反対ね。弟さんは愛を求めるけど悪意でしか返せない人(・・・・・・・・・・)、あなたは愛を求めないけど無償の愛を与える人(・・・・・・・・・・)・・・果たしてどちらがより異常なのかしらね?」

 

「異常って言うならお前も似たようなもんだろう?」

 

先ほどお喋りをしていた存在に振り向く。俺しかいないはずの深層心理に違和感なく入り込める奴は今の所直接パスを通している折紙か、もしくは俺の肉体の一部が使われている存在くらいなものだろう

 

 

 

 

「喋れるじゃねーかアズール」

 

「お陰様でねマスター」

 

この幻想の世界を作り出した黒幕が、以前は見せなかった妖艶な笑みを向けて来た。




読了ありがとうございました!え、内容詰めすぎ?過去編を2話で締めるとこうなってしまった・・・これでも大分削ったんですけどね。特に設定

爺ちゃん
過去編の時間軸時点では既に故人で第一章でも設定だけですが登場済み。元陸軍の中隊長で実は狩猟中には嘗ての部下達も居たりする。主人公の戦いや戦闘指揮の才能は彼からの遺伝と今世の狩谷の肉体の才能と掛け合わさった結果成り立っている。しかし前世では主人公のぶっそう過ぎる才能の開花を恐れて武術を仕込んだりなどはしていない。しかし実は彼が思っている主人公の才能と実際の才能は異なったものであり、誤認している。そして日記を見た主人公自身も多少の違和感は持っているが同様に誤認している。因みに彼が犯した殺人は1対2だったこと、実質相打ちだったこと、相手が本人だけではなく家族を害そうとしていたこと、ダメ押しの通報した少女の証言もあって正当防衛が成立している。武術の心得があれば相打ちになることは無かったがそれは所詮結果論に過ぎないでしょう。

弟夫婦
当然兄がいなくなったことで奥さんの負担が増えることになりますが本人もこんな弟を好きだとかいう変人なのでまだ芽はあります。今は長年兄から言われていたこともあり弟も悪意をぶつけることを堪えていますが、いずれ限界が来てそこからが本番。生まれて来る子供が夫婦のキーマンになるでしょうがこの作品に置いて彼らのその後について語ることはありません。彼らが幸福になりえたかいなかを知ることが出来ないというのが義務を果たせなかった主人公の最も大きな罰なのです。これらが今世に置いても義妹の折紙など組織よりも家族を優先させる理由の一つになっています。

両親
出番は全然ないが、この過去編に置いて最大の被害者。ごく普通の一般家庭で教育や育児、遊びなどを真っ当に行い、育て自立させたのに兄弟の生まれながらの精神性のお陰で大変な苦労をする羽目になった。しかし兄弟がその精神性でありながら一般社会に溶け込めていたのは子供達から逃げずに向き合い続けたこの両親無くしてはあり得ませんでした。あと台本無しのピンチヒッターになった父親は過去に同僚の結婚式に呼ばれ述べた祝辞を脳内で一部内容を編集して述べたことで難を逃れています。

ストーカーコンビ
今回の話の尺を削る際に「この話の主軸は犯人の動機じゃないな」ということで一番動機などの設定を削られた結果弟を超えるヤベー奴らが二人も弟と同じ会社にいたということになり、それすら上回るヤベー奴(兄)の餌食になったというトンデモ話になってしまった。あと語ることがあるとすれば第二章で狩谷が語っていた獲物と敵とそれ以外の交戦対象の認識の違いとして上げた敵は本来前世では出会う事はほぼ無く、敵性悪魔もほぼ獲物としか見ていないのでメシア教信者と対峙してときに出来た認識だと思わせる書き方をしましたが実際は前世の彼らがその認識を作った切っ掛けであり、最初の対象だったりしました。

霧衣と通報した少女
実は霧衣は受付嬢ネキ、通報した少女は女郎ネキ(長いから省略)の前世。霧衣は前に前世のヒロインだったと語ったが彼女が主人公の元に残っていればストーカーに件で相談され、その有能さと物怖じしない性格から事件が起こる前に主人公と共に事前に解決することができ、その結果本編の世界に転生することも無かった可能性が高い。少女の方はこの事件が切っ掛けでさらに外に恐怖心を持つようになりさらに引きこもってしまい、死因の遠因になっている。だが転生後は逆に最後まで生きようと足搔いていた主人公の姿を思い出し、この世界で生きるために奮起するので一概に悪い事ばかりでは無かったが。因みに彼女は弟夫婦や両親とは証言する際に対面しているが、その後さらに引きこもってしまった為受付嬢ネキ同様彼らのその後は知らない。狩谷は受付嬢ネキが残った場合上手くいったかもしれないとは考えているが本人に言うつもり毛頭ない。ただし今は互いに気づいていない女郎ネキの方は前世の繋がりが明らかになれば土下座をすることになるだろう。

殺しの才能(誤認)
祖父は「ことを起こす前後で悩み、引きずることはあるがことを起こすときはそういったことを考えずに実行できる」と見ていたが第二章で実験体相手に気分を悪くしながらも戦っている。つまり主人公の才能は「ことを起こす前後で悩み、引きずることはあり、ことを起こすときも迷うがそれでも淀みなく実行できる」ということだ。とはいえまさか「殺したくないな、可哀そうだなと思いながら一切顔に出さず練習通り全く迷いや淀み無く鉈を猪の首に振り下ろし仕留める」とか傍から見てても分かる訳も無く誤認しても仕方ない状況だった。主人公が抱いた多少の違和感はこのことなのだが祖父の軍歴も知っている為「この手の事に詳しい爺ちゃんがそう言うんならそうなんだな」と深く考えずに納得している。因みこの才能の伏線は第二章だけでは無く第一章時点で敵だと誤認してショックを受けながらも目標は援軍到着までの時間稼ぎとはいえ修行して、悪魔殺しもこなしたとは言っても最近まで前世も含め一般人だったのに普通に幼馴染のイリナを殺しに行ってたりなどで表していました。感想などではエクソシスト二人のぶっ飛び具合に目を奪われて隠れていましたが、狩谷自身もその時から十分ぶっ飛んでるんですよね。

PS.最後の赤薔薇ですが色だけでは無く棘の有無や本数でも花言葉があるそうですよ?是非調べて見て下さい(ニッコリ)。


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造られし魔に潜む者

第二十二話となります!今回から元の調子になります。つまりギャグです


アズール曰く俺の深層心理の中らしい、静止した幻想の世界でベンチに座って待っているアズールの元に戻る。

 

「お帰り、何を持ってるの?」

 

「焼き鳥」

 

レジ袋の中から焼き鳥の袋を取り出して見せて見る。

 

「・・・さらっとコンビニで焼き鳥をかっぱらって来たのね」

 

「ここは俺の深層心理なんだろう?俺の世界で現実じゃないのならいいだろう」

 

「まぁそうね。でも自分の死体が目の前にいるのに食べられるの?」

 

「本物の死体じゃないし、大切な人の死体とかなら兎も角所詮俺の死体だし。食べる?」

 

「割り切りの良さは今世も変わらずなのね。一本貰うわ」

 

「ほい」

 

一本渡して俺の死体の身ながら一緒にモグモグと食べながら聞きたいことを聞くとしよう。

 

「で、今回はそもそも何がどうなってるんだ?別に忘れてた過去を思い出すイベントでもないし」

 

「それは私が話せていること?それともこの世界のこと?」

 

「両方」

 

「ならまずは私が何故急に喋り出したのかを話した方が良さそうね」

 

こちらとしてはどっちも知りたいので順番はどうでもいいのだが、わざわざそう言うということはもう一方の話にも関わることなのだろう。頷いて先を促す

 

「そもそもの始まりは言うまでもなく私を創った時にマスターの血肉と竜の因子を持つ悪魔の素材を使った事よ。その時点で私の本霊となる悪魔は確定したといってもいいわね」

 

「竜系の悪魔なのか?」

 

「元々は竜とは関係ない悪魔よ?ただ長い年月で人間の認識によって姿が歪められて姿は竜になってしまったけど種族は邪神よ」

 

「そっちか」

 

「ええ、竜と並んでマスターと相性の良い種族ね。最初は造魔を通して干渉しようとしたのだけど造魔にはカグツチの力、マスターの身体と魂はあの天使の加護で守られてるお陰で干渉出来なくなっていたから手間取ったわ」

 

本霊からの干渉は確かカグツチの力を用いた術式のファイアウォールで防いでいたはず。俺の本人のへの干渉は折紙の加護が防いでくれていたのか。

 

「あれ?確か素材した俺の一部は個人情報とかは消去してるんじゃなかったっけ?」

 

「そこはそれほど関係ないわ。ただ単にマスターの個人情報を消去だけでは私との縁を切るのに足りないというだけよ。まぁ前者二つの守護のせいで元々本霊の意識が強く出す予定で送り込んだ分霊に機能不全が出てしまったのだけど」

 

「ふむ、喋れなかったのはそういうことか。だが今は思いっきり干渉しているだろう?」

 

「そこが大変だったのよね。機能不全のお陰で先ほどまで自身の本霊が何なのか分からなかったわ」

 

困った様な顔を浮かべるアズールの話で今までと雰囲気などが違っていたことに納得が行く。記憶喪失的なことだったのだろう。

 

「でも何で今干渉出来てるんだ?」

 

「いくつか理由があるわね。一つ目はレベルが上がって私自身が強くなったこと、二つ目は長い間契約して共に過ごしたことで元々高かった私とマスターの霊的親和性がさらに高まったこと、三つ目は造魔としての私が試作作品だったことね」

 

「んー一つ二つ目までは分かるが三つ目の理由はどういうことだ?確かに試作品でもカグツチのファイアウォールは正常に起動しているはずだが」

 

「そうね、確かに完璧に作動していたわ・・・もっとも正式名称にまで試作と名付けたのは失敗だったわね。試作とは不完全という意味、例え完璧なシステムだったとしても何らかの改善点、不備が生まれてしまうものよ」

 

「うっげー、そこ突いて来たの?こっわ!?」

 

マジかー、ロボチキニキとか○○試作機とかっていう名前の響き好きそうなのに可哀そうだな。というか他にも作ってんじゃないか?

 

「まぁ他にも要因はある訳だし、それを満たした私も本霊との接続が正常に戻るのに時間が掛かって今日漸くって感じだったから流石にそうそうないと思うけど報告して置いた方がいいかもね。」

 

「作戦終わったら報告するか・・・造魔に干渉出来た理由はそれとして俺自身に干渉出来たのは何でだ?いくら本来の力は無いとはいえ、折紙の加護にそういう隙は無さそうだが」

 

「そっちはもっと簡単。彼女の加護が防ぐのはあくまでマスターに悪意があったり害そうとする力が主よ。エジプト神話で嵐と悪意、戦争を司る神(・・・・・・・・・・)とされている私対策ね。切っても切れないものな訳だし。だけどその悪意の主観は加護対象に委ねられる。まぁ天使と人間での視点の違いはあるから普通ならそれでいいのだけど・・・マスターは悪意だったとしてもそれを与える対象が愛する者なら受け入れ、それでも愛することを辞められない」

 

俺を指刺して、俺の主観が大きいな要因だと語る。なるほど、俺が悪意を司るアズールを愛していることが加護の効力を弱らせていたのか。主観の違いを無くそうとしていた策のデメリットってことか

 

「とはいえそれらを用いてマスターに干渉しようとしても、彼女は常に傍にいることですぐさま妨害を行える。戦闘中でも例外じゃないし、それじゃ意味がないわ・・・だから彼女が唯一動揺し、一つのことに集中する機会を待ったのよ」

 

「・・・俺が死ぬことか。今回が今世では初めてだったしな」

 

「そう、彼女普段の真顔が崩れて慌てて【サマリカーム】を唱えてたわよ?慌てていたと言っても心の動揺というだけでスキル行使自体にミスは無かったからそこは流石といった所ね」

 

折紙が動揺か。リカーム系があったとしても初めて、しかも目の前で兄妹が殺されれば普通はそうなるが元天使である義妹が動揺するとはな。精神性も人間に近づいているということなのか

 

「ということは俺はもう蘇生しているのか?」

 

「その途中段階ね。ほら内と外では経過する時間も異なるとか良くある話でしょう?」

 

「確かに割と良く使われている設定だよな。察するに俺のことを知りたくてわざわざ深層心理にまで覗きに来た感じか?」

 

「ご明察、思っていたよりも面白いことになっていて有意義な時間だったわ」

 

流石は邪神というべき悪趣味な一面を垣間見て苦笑してしまう。そのまま焼き鳥を食べ終わると近くのゴミ箱に櫛や袋を捨てるとクルリと彼女が振り返る

 

「でも一つだけ分からない、いや隠されていることがあったわ・・・5年前。そう彼女の両親が死んだ日のことよ」

 

「何?」

 

5年前、弱体化していたとはいえ折紙が天使の力を使わなかったことは気になっていたが、やはり何かあるのか?

 

「マスターはほとんど何も覚えていないのでしょう?」

 

「ああ、あの時は俺の家にも被害は飛び火して一人留守番していた俺は負傷・・・病院で目覚めたときには既に終わっていて・・・」

 

「ええ、そこは私も見たから知っているわ。でもそれってちょっとおかしくないかしら?」

 

「え?」

 

「だってそれじゃ"鳶一家を襲って来た悪魔"を撃退出来る存在がいないでしょう?」

 

「・・・」

 

それはそうだ。俺と折紙以外で悪魔を撃退できる可能性がある者なんてあの場にはいなかった・・・だが折紙は天使の力を使わなかった・・・俺も怪我で意識がない為悪魔を撃退することは出来ないはず。というより俺は何でその時襲撃して来た悪魔が"撃退された"と考えていたんだ?

 

「撃退"した"はず・・・した?したって何だ?それじゃまるで」

 

頭を抑える。記憶にない赤色の光景が瞳に映る。まるで前世の様に、前世よりも凄惨に・・・俺は何かを忘れているのだろうか?

 

「そうよ、その違和感を忘れないで。あの天使は確かにマスターを思ってはいるけど・・・同時にそれはマスターを縛り付ける鎖。それを破るか、破らないかはマスター次第ね」

 

破るか、破らないか。信じるか信じないかと言うことか・・・なら答えは決まっている。

 

「隠し事があることは知っていたさ。隠し事がある奴は一見他人を信用していないと思われることが多いし本人もそう思っている。だけど心の底ではそんな自分でも信じて欲しいと、虫がいいと分かっていてもだからこそ理解して欲しいと願っているもんだ」

 

隠し事をする時のあの悲しそうな表情を思い出す。前世からそうだが千差万別な問題児をよく抱える俺だったが昔からその手のことを隠すのは下手な奴らばっかだった。

 

「折紙が信じて欲しいと願うなら俺は信じ、手を伸ばそう。それが兄貴として、愛した者としての義務であり責務だ。それだけは揺るがない」

 

妹を含め信じて欲しいと願うなら俺は手を伸ばそう。裏切られたら俺が責任を取れば良い、何より愛すると決めて置いて途中で放り出すことなどあってはならないのだから

 

「縛られていたとしても愛するものを信じる・・・混沌よりの私としては不満はあるけどその道に後悔がないことを祈るわ」

 

ダメだこりゃといわんばかりに苦笑する彼女に少し申し訳無さを抱いてしまうな

 

「だが忠告は感謝するぜ、案外気遣い出来るんだな。作品ごとにえらく扱いが違うけども」

 

「それは言わないで!初期までは中々良い見せ場があったのに段々出番が減らされてⅤなんか台詞無くてほぼ番犬扱いじゃないアレ」

 

「はは、俺もやってて『え、割と序盤から姿見えてたのにこんだけ?』とか思ったもんだ」

 

「本当よ。その様子じゃ私の本霊がなんなのかは答えなくてもいいかしらね」

 

「あーでも様式美だしやって置こうぜ?そろそろ時間みたいだしな」

 

自分の身体が発光を始める。普通なら不気味だが折紙の気配を感じるので【サマリカーム】が効いてきたのだろう。それを察してか彼女も頷いて居住まいを正す

 

「私は【造魔 アズルニール】、本霊は【邪神 セト】。改めてコンゴトモヨロシク」

 

「ああ、よろしくな」

 

 

 

 

 

「よし、続きだ。折紙【サマリカーム】ありがとう。作戦だが」

 

『生き返って早々まだやる気だこの人!?』

 

「え?」

 

「え?じゃないわよ!普通蘇生して起き上がった思ったら急に次の作戦を話し出すとか怖いわよ!?」

 

「状況を説明する間も無かったな。見ていたのか?」

 

「いやいや、常識的に考えろよ死んでたら今の状況なんて分からんだろ」

 

「まぁそれはそう「ちょっと前世の自分の死体を見ながら焼き鳥喰ってただけだ」・・・常識とは???」

 

周りが宇宙猫の様な表情をしているが幹部の皆様方が戦闘をしている中ショッカーや戦隊物の上級戦闘員程度(自称)の存在である我々がサボる訳も行くまい

 

「俺とスパルトイ、イリナ、ゼノヴィアは前衛でダメージを与えつつ幹部の支援、白織は動き回って敵にデバフは掛けてやれ。他は折紙以外火力支援だ!」

 

「・・・私は補助と回復?」

 

「うん、お前が火力支援に回ると支援とかいって核爆弾ミサイル撃つようなもんだからな。敵も吹っ飛ぶがこっちの前衛も吹っ飛ぶ」

 

「むー」

 

折紙は不満そうだがマジでやめてくれ。過去にそれで俺とスパルトイは死を覚悟したことがあるんだから

 

「作戦は決まったか!!ならこっちに早く加勢を頼む!」

 

前方で戦っている神父ニキから催促が来た。パンパンと手を叩いて気持ちを切り替える

 

「了解だ神父ニキ!俺の【メキド】を目くらましに【イタコ祖霊】に再度アタックだ!気合入れ直せ!」

 

「調子を崩した奴が良く言うわ」

 

「はい、そこ本当のこと言わない!という訳でいくぞ【メギド】!」

 

再びアタックを掛ける為にパッシブスキルを山盛りで派手にぶっ飛ば「カリヤ」ん、どうしたんだ?

 

「それ【メギド】じゃない、【メギドラ】」

 

『・・・え?』

 

「何かあったかってまてまて!?!?ぐはぁ!?」

 

『あ』

 

「し、神父ニキー--!?!?」

 

熟練度が上がって【メギド】だと思って発動した【メギドラ】に神父ニキが巻き込まれて吹っ飛ばされた

 

『・・・』

 

「・・・折紙、神父ニキの回復を頼む。前衛組は突撃!!」

 

『ご、誤魔化した!!無理矢理話を切って誤魔化したよこの人!?』

 

「うぉおおお神父ニキの仇は討ってやら!!!」

 

「いや、まだ死んでないし、お前のせいであろう!!」

 

言動や行動はぐだぐだだが陣形は如何にか保ったまま突撃を行う我らが前衛組、後で神父ニキには土下座しようと思いつつ駆け出していく。さて【イタコ祖霊】には申し訳ないが空気を換える為にちょっとボコられて貰おう。アズールの説明を巫女さん、ロボキチニキにするだけでも頭が痛いのだ。取り敢えずぶん殴る奴をぶん殴ってから色々考えよう・・・現実逃避では断じてない

 

 

「こっちに帰って来てそうそうトラブルとかマスターらしいわね」

 

「はは、問題児がどうとか良く言ってますが本人も相当ですよね」

 

「あれだな、類は友を呼ぶとはこのことだな」

 

「自業自得・・・ん?」

 

「どうしたのかしら?」

 

『・・・シャ、シャベッターーーー!?!?』

 

よって後衛組の叫び声も一旦無視である。

 

 

その後どうしようもない貫通即死で何度か死にながらも全員の頑張りもありどうにか【イタコ祖霊】を沈めることに成功した!・・・まぁその後神父ニキへの謝罪と折紙にアズールの件での尋問(セトだと言ったら凄い顔された)、巫女さんへの説明(セトだと言ったら凄い顔された)の方がよっぽどラスボスだったと感じるとは本当この世界命が軽いなと再認識した作戦だった。




読了ありがとうございます!次でこの章も終わりです。次の章からはようやっと本家様と同じ時間軸でのお話に入れると思います。


アズールの扱い
アズールについては狩谷的には今まで一緒に戦って来たことと忠告もしてくれたということで折紙の次くらいには信頼しています。ただもし人類の敵になるなら容赦なく殺すと決めています。組織的にもトップの巫女さんにそのことをそのまま伝えましたが、当然懐疑的な人もいました。しかし試しに加護の幻術系の防御を切った上で巫女さんの幻術でアズールが人類を裏切ったと思わせたらどういう行動を取るのかと折紙、アズールの協力の元テストをしたらマジで速攻で首を取ったので観察していた懐疑的な人たちもドン引きさせて黙らせることに成功したりしてます。アズールはその後蘇生されましたが「本当に敵となった瞬間首を取られて全く反応出来なかった」とアズール所か本霊のセトや巫女さんもビビらせたとのこと。


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報酬の使い道

第二十三話となります!今回でこの章は終わりとなります・・・駆け足気味だけど如何にか本家と同時間軸にたどり着けました。


【イタコ祖霊】を諫める(物理)は成功し、現在はこの霊地の安定化作業に入っている。俺も簡易拠点の撤去を手伝おうとしたのだが

 

「・・・」

 

「お、折紙?怒っているのか?やっぱ死んだことか?」

 

「・・・確かに思うことはあるけど、戦闘のこと故仕方ない・・・仕方ない」

 

あ、これ絶対に気にしている奴だ。

 

「それよりも」

 

「あら、どうかしたの?」

 

折紙が威嚇するような目付きをしてアズールを見るが当人は平然としている。おかしいな戦はもう終わって恋愛要素もないはずなのに何で修羅場ってるんだ?

 

「説明は先ほど聞いたでしょ?」

 

「・・・失敗だった。もっと私の力を届かせて深層心理も支配していれば・・・!」

 

「内容が物騒!?」

 

ブツブツと折紙が珍しく苛立ち怒りや憎悪に染まった表情を浮かべている。支配ってのもやりすぎだし俺が何度も死んだことや邪神セトの件で想像以上に気が立っている様子だ。

 

「と、取り敢えず今は勝利を喜び「少し黙ってて処女ヴァルキリー」ひ、ひどいです~~~~~!?」

 

「お、折紙ちゃん少し落ち着いて「オタク根暗喪女」ひぅ!?(白目を剥いて気絶)」

 

「「「うわ・・・」」」

 

折紙の不機嫌っぷりにアズール以外の女性仲魔陣が撃退され男性仲魔陣と俺はその様子に引いている。とはいえそろそろ諫めないとマズイな、唯声を掛けるだけだと無意味そうなので中腰になり背中から抱きしめて頭を撫でる。

 

「そんなかっかしない、一番はお前だぞ~」

 

「む・・・ん////」

 

「ちょろいな・・・」

 

「それでいいのか元天使よ」

 

スパルトイとバフォメットが呆れているが目を細めて撫でられている折紙も機嫌が直った様で何よりだ。

 

「え、何この状況」

 

「あ、神父ニキと教会トリオ」

 

「「「トリオ!?」」」

 

俺らが騒がしくしていると神父ニキとイリナ、ゼノヴィア、二亜が合流して来た。如何やら報酬の話がまとまったらしい・・・神父ニキはこのカオスな状況に唖然としてたが

 

「ま、まぁ取り敢えず報酬の件だ。現金とマッカはこれくらいだな」

 

「あ、この紙に書いてるのね。ふむふむ・・・え、多くね?」

 

「多いも何もそもそも偵察任務、恐山攻略、ボス戦とそれぞれに仕事を割り振って報酬を用意したのにそれらすべてに参加してるパーティーなんぞお前らだけだからな」

 

「私は兎も角イリナ、ゼノヴィアは恐山攻略は休んだのに、いくら継続戦闘能力があるからって働ぎ過ぎだよ少年」

 

如何やら頑張り過ぎた様だ。前世からの社畜根性は恐ろしいな・・・でもこれ何に使えばいいんだ?うーんと俺が考え込んでいると

 

「それほど悩むなら高級造魔でもオーダーしたらどうだ?レベルも超えているはずだし、確か割引制度はまだ使っていなかったよな?」

 

「あ、そうか。アズールは試作品だったしまだ高級造魔は作って無かったな」

 

「ふーん・・・漸く私が正常起動したのに直ぐ新しい子を作るのね?」

 

「え、あのアズール?」

 

つーんとアズールがそっぽを向いてしまった。弱ったな、女性の心の機微に疎い俺でもここで「別に美少女型にしなければ問題ないだろ?」とか言ったら殴られるというのは分かるぞ。

 

「でも使わないと勿体ないしな」

 

「カリヤ、ならその高級造魔と契約するのは私ということならいいのでは?」

 

「折紙がか?でもその場合肉体素材は」

 

「無論私のものを提供する。それに私もいい加減仲魔が必要だと感じている」

 

「・・・分かった。確かに俺達が分断されたときの対策にもなるか。COMPはどうする?」

 

「問題ない、そもそも私なら自身で悪魔召喚プログラムなしで契約や召喚、送還を行える」

 

「え、マジで?」

 

流石は元天使というか、悪魔召喚プログラムに頼る必要がないとは人修羅みたいな感じなのかな?神父ニキも興味深そうに聞いている。

 

「やっぱり折紙は凄いな」

 

「それ程でもない。でもまだ大幅に余っている」

 

「ふむ、後はいつもの貯金「あのー」って白織復活したのか」

 

「は、はい。あのー私一応元人間なのでずっとCOMPの中はキツイなと」

 

「ああ、確かに」

 

昼間ずっとCOMPは気が滅入る可能性が高いか。というかそもそも割とデカい彼女の身体を考えると家自体が狭いかもしれない。

 

「いっそ引っ越すか、立て替えるか」

 

「それなら結界の都合もあるから後者がいい」

 

「だよな。でもそうなると・・・両親にこちらの事情を話す必要があるな」

 

「・・・うん」

 

今まで誤魔化して来たがこうなってくると話さない訳には行かないな。受け入れてくれたら嬉しいのだけど。

 

「大丈夫狩谷君!私達も説得するから!」

 

「幼馴染のイリナは兎も角私がどれだけ力になれるか分からないが言葉を尽くそう」

 

「まだまだ子供の二人が頑張っているのにお姉さんが参加しないのは大人げないね、私もフォローするよ少年」

 

「イリナ、ゼノヴィア、二亜・・・ありがとうな」

 

三人も協力してくれるのは素直にありがたい。俺と折紙以外で説得出来そうな常識人のスパルトイは見た目がアレだし、流石に初見で骨人間はキツイだろうから一緒に説得してくれる人が多いのは助かるな

 

「もし理解して貰ったら連絡してこい。業者を紹介してやる」

 

「ありがとうございます」

 

「あの・・・私のこと忘れてません?」

 

『あ』

 

ごめんロスヴァイセ、素で忘れてた。

 

 

 

 

その日から約二週間後、満を持して挑んだ説得は拍子抜けするほど上手くいった。元々親父は考古学者で少し前までは海外の遺跡などを回っていたのでオカルトにも理解はあって、そんな親父を好きになった御袋も同様だったのだろう。折紙立ち合いの元各人の要望も聞き設計について話し合い来週にも着工する予定だ。因みに工事中の仮住まいだが共働きの両親は職場に泊り、俺達は後輩であるルヴィアの別荘に泊らせて貰う予定だ。因みに探偵組だがやはりというか主力が居なくなっている内にメシア教が来ていたそうだが、彼女達の手で始末したらしい・・・魔術師の二人は兎も角初めて人を殺したであろう十香を心配したが意外と平気そうだった。これも血筋故なのだろうか?

 

「手伝いに来たぞ!」

 

「おお、悪いな。というかライネス達も来たのか」

 

「十香が手伝いに行くと聞かなくてね。まぁ力仕事はルヴィアと十香、トリムマウに振ってくれたまえ」

 

「お任せを」

 

「いや貴女も手伝いなさい!」

 

手伝いというのは家の中の私物や家具を運び出したり整理する手伝いのことだ。これは人手が多いほどいいからな。

 

「あ、ライネスちゃん達も来てたんだ」

 

「おやイリナ先輩、教会の人達も来てたのかな?」

 

「うん、元々手伝う気ではいたけど地下室を支部として使っていいって言われてね。教会じゃ出来ないことも出来るしこちらとしてもありがたいわ」

 

「なるほど、教義を守るのも大変だ」

 

「魔術協会に労われるなんて世も末ね。あ、狩谷君ゼノヴィアがおじさまの書斎の資料は何処に持って行けばいいのか教えて欲しいんだって」

 

「了解、親父の資料という事は考古学の学術書や研究資料とかかな?ちょっと指示出してくる。イリナはライネス達に仕事を割り振っといてくれ」

 

「分かったわ」

 

ライネス達のことはイリナに任せゼノヴィアが担当している書斎に向かい二人で資料を仕分けていく

 

「色々な資料があるな。一神教系の資料以外は良く分からないが、遺跡や発掘品を取った写真も多くて見るだけでも面白いな」

 

「親父は五年前まで色々世界回ってたからな。今は折紙のこともあるし、国内での研究が主だけど」

 

ゼノヴィアは資料の内容はほぼ分からない様だが、出土した昔の硬貨、壺、彫刻、古剣などの写真は面白い様で親父から昔聞いた知識を元に解説を入れながら片付けていく。因みに他のメンツだが折紙は工事中結界に影響が出ない様に調整、アズールはバフォメットと共にリビングとキッチンの家具や家電の運び出し、ロスヴァイセと二亜は別荘で使うであろう日用品の買い出し、白織は出す蜘蛛糸で作った雑巾でワシリーサと一緒に家中を雑巾掛けして掃除したりと全員働いて…あれ?

 

「スパルトイはどこだ?今朝から見てないな」

 

「そうなのか?しかし彼の性格上サボったとは思えないが」

 

俺達の中でも屈指の常識人であるスパルトイが仕事をサボるとは考えにくい。何か緊急自体が起こったのか?最近少し様子が変だったしな…先週なんてウィスパーイベント的なものでいくつか俺にスキルを覚えさせられたし。そういえば最近周りより成長が遅くなってきたことについて悩んでいたような

 

「確か昨日は裏山で一晩明かすと言っていたが…あ、【サバトマ】で呼び出せばいいんだ!」

 

「それは良いかもな」

 

思いついたら即実行。早速【サバトマ】を使って呼び出して…

 

「「え?」」

 

「あ、主…わ、()…」

 

呼び出したスパルトイを見て俺とゼノヴィアは呆けてしまう。本人もプルプルと半分近く縮み、健康的な褐色の肌を持つ身体(・・・・・・・・・・)を震わせている。まさか、そんなあのスパルトイが!

 

「「か、か…褐色幼女になってる(なってたのじゃ)ーーーーー!?」」

 

【地母神 カーリー Lv40】

 

「しかものじゃロリ系だ…と!?TSだけでも度し難いというのに!というか鬼女じゃなくて地母神かい!どの道レベル足りないんじゃないか!?腕も二本だけじゃん!」

 

「妾に聞くな!朝起きたら悪魔変化してたのじゃ!口調は喋ろうとすると自然とこうなるし、腕は出そうと思えば追加で生えて来るのじゃ!!」

 

「こ、これは凄いな」

 

ゼノヴィアが関心し、俺とスパルトイ…もといカーリーのてんやわんやの混乱騒ぎは騒ぎを聞きつけた皆が書斎に集まるまで続いた。あと地味にまたうちの女性人口が増えることとなった。

 




読了ありがとうございます!次回は新章で、本家様の最新話と大体同じ時間軸になると思います。それはそうと長らく仲魔内の常識人枠だったスパルトイがTSしてカーリーになっちゃいました(白目)。姿はまんまダンまちのカーリーですが性格は多少おとなしめです。

カーリー(元スパルトイ)
スパルトイがTSし、褐色のじゃロリになった姿。普通のカーリーではなくこの姿になったのは元のスパルトイの性格やLvの影響を受けた結果だったが、詳しくはさらっと次回辺りに書く予定。恐山攻略の少し前から成長が遅くなり始め、そろそろ悪魔合体か魔晶変化をしようと考えスキルなど残せるものを残し、建て替えが終わったら打診するつもりだった。まぁそんなことは知らないとばかりに悪魔変化してしまったのだが。地母神なのは仏教の大黒天女の要素が混ざっているからで一部固有スキルも使用できる。実は仏教陣営は狩谷に割りと関わって来る為この悪魔変化も仏教陣営の干渉によって起こったことだったりする。


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第五章 戦乱の幕開け
新居とこれからのこと


第二十四話となります!新章となります。さぁ時間軸も追いついたことですし、本格的に暴れるとしますか。


やぁ皆さん久しぶり狩谷です。え、久しぶりじゃない?こっちでは意外と時は経ってたりしてます。その間に別荘での生活、スマブラで対戦してたら折紙が「弟、いや妹の反応を四国で感じる」とか意味の分からないことを言ったり、高知でメシア過激派が幅を利かせていると聞いたりと色々あったがそれはまた別の時に語るとして、現在は新居立て替えイベントとTS騒動から月日が経ち無事家も新居に建て替えた所だ。後ついでに俺達も進級して俺は高三となり前世では大学入試にひいこら言ってた所だったが曲がりなりにも前世は上場企業の課長。元々学力はそこそこある方なので社会人生活で忘れていた知識を復習すればよっぽどぶっ飛んだ偏差値の所じゃなければ合格出来るだろう。折紙も中三だが中高一貫な為入試試験などはないのでこの時期もゆったり過ごせるというものだ。

 

「にしても広いなここ、住み始めて数日経つけど全然慣れないな」

 

「妾も含めた主達の稼ぎで建てたのだじゃ、どっしり構えておればよい」

 

「いや、一番慣れないのはお前だからなカーリー。というかお前自身が一番慣れてないだろ」

 

「う・・・戦闘ではそうでもないのじゃがな。普段の生活となるとの」

 

広くなったリビングでス・・・では無くカーリーと一緒にソファに座って茶を飲みながらやけに広くなった家に住み慣れないとこぼしたのだが・・・カーリーになってそれなりに立つが違和感はこっちの方がある。本人も自覚しているのか苦々しい顔をしている。とはいえ戦闘に関しては違和感は無く、普段の生活に関しても大分マシになってきているので違和感が無くなるのも時間の問題だろうな。

 

「まぁ前の身体が身体故新しく作った風呂場の女湯に入っても何ともないのは助かるのじゃがな」

 

「骨に性欲も肉欲も無かっただろうしな」

 

今は肉体を持ったからか多少は感じる様になったらしく本人申告では女性が抱く欲求の方とのこと。性別と精神の不一致は何かと苦労が多いから幸いだったと言える。

 

「・・・暇じゃな」

 

「折紙とバフォメットは家自体が霊的防御、迎撃に適したものに建て替えたからノリノリで結界などの防御だけじゃなくて迎撃用の術式を敷きまくってるし、白織はスパイダーシルクを売り物にする為に布を織ってるから何かお前もやってみたら?」

 

「しかし妾は所詮戦うことしか出来ぬ。この姿になっても大黒天女の加護で多少商売繁盛効果がある程度であまり変わらん」

 

大黒天女、もしくは大黒天は諸説あるがカーリーと同一視される。その権能の一部を目の前のカーリーは有している。姿が幼女なのは相談した巫女さん曰く純粋なLv不足による弱体化と霊基の不足分を大黒天女の力で無理やり埋めたことによるバクだそうだ。阿修羅とかで良かったのにと本人は言っているが、常識人が破壊神になるのはそれはそれで無理そうな気がする。戦士としての側面と天女としての側面が同時に発現したのもその為だろう。スパルトイとカーリーでは登場する神話が違うのでは?という疑問も出るがそもそも骨の身体で動く悪魔など古今東西どの神話を問わず結構いるので大した障害にはならないとのことだ。

 

「ならば模擬戦などをしては?」

 

「ロスヴァイセ、折紙達を手伝ってたんじゃないのか?」

 

「私がやったのは【原初のルーン】による補助程度のものでしたので・・・それに守りの魔法は苦手ですし」

 

「ヴァルキリーならただの攻撃一辺倒では問題であろう。北欧では何をしておったのじゃ?」

 

「・・・お、オーディン様の護衛とか」

 

「「え、守りの魔法とか使えず攻撃するしか出来ない奴が護衛(じゃと)??」」

 

「ひぃん!?そ、それを言わないでください~~!」

 

半泣きになるロスヴァイセを見下ろしながら意外とエリートだったことに驚くが護衛としては人選ミスな気もするのがどうなんだろうかオーディンよ?と心の中でツッコミを入れる俺達だった。

 

 

十数分後漸く立ち直ったロスヴァイセも連れて家の地下施設の一つである鍛錬場を訪れる。自己修復機能付きで何と天使の力を限定解放をしなかったとはいえ折紙の全力【メギドラ】を耐える耐久性を見せている。まぁその後再生したのを見計らって俺が【メギドラ】を覚えたことで数段威力の上がった【ユニゾンレイド】をやろうとしたら立ち会ってた業者の人に止められたけど。

 

「お相手は私でいいのですか?」

 

「うむ、主とはこの身体になった時に増えた腕に慣れる為に何度かやったからの」

 

「なるほど、ではマスターには審判をお願いします」

 

「了解。ルールは殺害は無しで気絶或いは戦闘不能もしくは降参で決着だ・・・消耗品などは無しで己の力と武装で戦う様に」

 

「は!(うむ!)」

 

身内の模擬戦一つで消耗品を浪費するのもアレなのでこういうルールにした。因みに彼女達の武装は一部召喚、変化した際に持っていた武装から変更されている。理由としてはシンプルに純粋にネオベテルで売られている業物武器がさらに高性能なものがあったからだ。とはいえ元々持っていた武装にも利点はある。使い手である悪魔本人と結びついているので霊体化させて、いつでも取り出すことが出来るうえ例え欠片一つ残さず壊されても悪魔本人のMAGで自然再生することも出来るからだ(消費MAG量と再生時間は破損具合と武装自体のランクによって比例する)。彼女達もそれらの利点も把握していて対峙する相手ごとに切り替えている様だ。因みに俺が彼女達に与えた武装(消耗品などは各自に与えている)はカーリーは六本の腕に対応する武器、ロスヴァイセは特殊な装飾品だ。数ではカーリーが多いが殆どはネオベテル製の銘の無い業物程度で左手と上の右手、左手、下の右手、左手にはそれぞれシミター、片手斧、片手槌、長槍、短槍が該当するが唯一右手は過去の異界探索で発見したデスブリンガーを装備している。ロスヴァイセは通常剣の二刀流がヴァルキリー主流だが【原初のルーン】や魔法を使う為に片手を開けていてその指には吠える竜印の指輪が輝いている。え、これダクソ装備じゃないかって?俺も驚いたがこれはこれまた別の異界攻略で発見した品だ・・・これがあるということはダクソの敵も出て来るのではないかと考察しているが・・・まぁ上に報告して投げたから後は任せよう、うん。

 

何てこと思っていたら両者とも既に準備を始めていた。カーリーは追加で生やして腕も含めて武器を取り構え、ロスヴァイセも同様に構えるが彼女の場合普通のヴァルキリーと同様に駿馬を召喚してそれに騎乗する。・・・基本後衛だったので活躍の機会が無かったこともあって馬が張り切っているように見えるのは気のせいではないだろう。

 

「準備は出来たな?それじゃ・・・始め!!」

 

「先手を打たせて頂きます!!【初段の賢魔】【二段の賢魔】【原初のルーン】【火炎プレロマ】【氷結プレロマ】【電撃プレロマ】【衝撃プレロマ】【マハラギダイン】【マハブフダイン】【マハジオダイン】【マハザンダイン】!!」

 

先手はロスヴァイセから仕掛けた。【原初のルーン】と魔法を組み合わせアギ系、フブ系、ジオ系、ザン系などの多数の魔法を同時展開してカーリーに襲い掛かって行く。

 

「はは!壮観じゃの!・・・だがまだまだじゃ!!!」

 

魔法の雨あられに晒されてもカーリーは獰猛な笑みを作る。スパルトイの時も戦いを楽しむ性格だったがカーリーになってからはそれがより顕著になっているようだ。魔法全てを避け切れるほどのスピードも全て受け止める耐久力もないカーリーは文字通り物理的に退ける選択肢を取る。

 

「【タルカジャ】、行くぞ!【初段の剛力】【二段の剛力】【三段の剛力】【チャージ】【物理ギガプレロマ】【ミナゴロシの愉悦】【千発千中】【殺戮の母神】【暴虐なる舞踊】!!」

 

攻撃力を底上げすると続く乱舞で魔法を切り裂き、殴打し、貫くことで霧散させていく。元々防御よりの戦闘スタイルだったことで最低限の動きで魔法を無効化することに成功している・・・とはいえそんなことはロスヴァイセも百も承知だろう。本当の狙いはカーリーの足を止めさせることだ。

 

「流石ですね、ですが足は止めました!」

 

馬の機動性を生かし移動しながら連続で魔法を浴びせていく。物理特化のカーリーとでは近距離戦に置いて勝機が薄いと判断したのか遠距離で戦い、まずは魔法を打ち消すカーリーのスタミナを削るのが目的なのだろう。

 

「このままスタミナを削る気か。そうはいかんぞ!!!【雄叫び】」

 

「な!?そう来ましたか!」

 

「今度はそちらが足を止めたの!!」

 

カーリーの【雄叫び】が響き渡る。高レベル悪魔の【雄叫び】にはモンハンの大型モンスターのバインドボイスの様に聞いた者を怯ませる効果もある。ロスヴァイセ自身のレベルはカーリーとほぼ同等な為怯みも一瞬で立ち直るが、乗っていた馬の方には効果があり怯みによって足が止まる。それを見逃さず攻撃魔法の間を縫ってカーリーが駆けて来て攻撃を喰らわしていく。ロスヴァイセも応戦するが数合耐えるのが精一杯だが、ここで終わってはヴァルキリーの名が廃るというものだ。

 

「ぬ、これは・・・ルーンか!」

 

「はい、拘束させていただきます!」

 

【原初のルーン】の力でカーリーの足元の地面を沼に変え、更に植物を操りカーリーの身体を拘束してく。以前より【原初のルーン】の力が強まっているがそれはあの指輪が魔法だけではなくルーンなどの魔術も強化してくれているお陰だ。この性質のお陰で指輪はロスヴァイセが装備することになったのだから

 

「指輪の力で効力を引き上げておるのか、だがしかし!」

 

六腕を拘束しようという植物を自身の口で喰らい付きかみ砕き、植物を引き離すと緩んだ拘束を解いて沼になった地面から脱出した。

 

「っとまた距離を稼がれたのじゃ」

 

「このまま持久戦で参ります」

 

「やれるものならやってみよ!!」

 

距離を取ったロスヴァイセに再度接敵を試みるカーリーを阻む様に魔法が掃射される。恐らく何度かこの場面は繰り返されると思われる。

 

「ここにいた」

 

「折紙か、そっちは終わったのか?」

 

「バッチリ、元々霊的防御力なら教会より上だったけど今では物理、霊的の防御能力だけじゃなくて迎撃能力も教会より上」

 

「うわー、まぁいざとなればイリナ達もこっちに来れる様にはしてあるしな」

 

この町の霊的防衛の要はこの家と教会の二つだ。折紙曰くこの地域の霊脈、地脈、龍脈をその二つの拠点に集約させているらしい。そして緊急時に互いを行き来出来る隠し通路も備わっている。

 

「他には白織のスパイダーシルクの布や防具も売り上げ的には上々。カグツチの力で個人情報を焼くから流通は個人的譲渡を覗けばネオベテル内限定だけど掲示板でも好評」

 

「でもその代わり折紙が作る護符はネオベテルだけじゃなくて魔術師の市場にも流しているんだろう?」

 

「魔術師の市場から素材を仕入れてそこそこの数を作れるようになったから。前までなら素材が無くてカリヤに作った物以外だと多少の魔除け程度の物しか作れなかった」

 

素材を手に入れた折紙の手で簡単な結界を張ったり出来る護符や一定値以上のダメージを肩代わりする護符、効果時間中一定レベル以上の悪魔が近づいて来なくなる護符などを作っているが俺のとは違い、コストの問題で大体が使い捨てで効力の強く物程高額に設定しているらしいけど。

 

「まぁ程々にな?うちの支部は元々収入が少なかったから嬉しいけども。割と複数の勢力が入り混じってるからジュネスを建てれるかどうか微妙だったし」

 

「ジュネスより商品の数は少ないけど個々の商品の単価が高くて需要も高いから私達の規模ならこのスタイルで問題ない」

 

「人件費も小遣いと衣食住程度でいいから安上がりだしな。あ、そういえばここの拠点が出来てからで良いって言われてたんだが」

 

携帯を取り出し魔女ネキからのメールを見せる。

 

「魔女ネキの紹介で各支部に保護した魔女達を派遣しているらしいんだがうちでも雇わないかと相談されているんだがどうする?」

 

「また女性人口増えるけど大丈夫?」

 

「あー、うん。何だかもう感覚が麻痺して来たから」

 

うちのメンツでは俺とバフォメット以外だと女性か無性の造魔で構成されているからな・・・これバフォメットも女性悪魔になるフラグじゃないよな?同性でお喋りしながら入る為に男湯と女湯の風呂場を大きく広くしたのに一人で入るとか寂し過ぎるんだけど。

 

「それに戦力は揃えられる内に揃えた方がいい。信用の置ける人間からの紹介なら特に」

 

「最近過激派メシアの攻勢が激しいからな。こちらもヤタガラスだけじゃなくて大社って言うデカい霊能組織と同盟結べたから良かった部分はあったが」

 

「あれは僥倖だった。まさか神樹が転生者とは思わなかったけど」

 

「ただ他にもファントムが悪魔召喚プログラムを狙って来たり他勢力も動いて来てるからな。今年は荒れそうだ」

 

「その件で掲示板に報告が上がっていた」

 

今度は折紙が携帯を操作し、こちらに画面を見せて来る。

 

「これは・・・問題になっていた高知の過激派メシアが多神連合と衝突だと?」

 

多神連合、原作では悪名高いあの勢力だったがこの世界ではまだ実態が掴めていない。それが今回本格的に介入して来たと掲示板では話題になっていた。

 

「どうやら高知の過激派メシアは神霊を呼び出そうとしたみたいだけど・・・」

 

「それを妨害する為に衝突したと。高知は唯一神に連なる神霊を召喚する為に確保していたのか?」

 

「分からない。他にも目的はあるかもだけど神霊の召喚が主目的の一つである可能性は高い」

 

多神連合には警戒が必要だが今回ばかりは助けれた形になりそうだ。勿論あいつらにも邪魔だったから潰しただけなのだろうけど。

 

折紙と喋りながらカーリーとロスヴァイセの戦闘を見守る。結果はカーリーが勝利したが防御すると見せかけて魔法を喰らいつつ浴びせた攻撃による博打の様な決着なのでそれほど戦闘能力の差はないだろう。仲魔の戦闘力も上がって来ている。こういう内情が改善されて行くほど厄介事が多くなるのが前世の常だったがこの世界ではそうならないことを祈りたいものだ。

 

 

 

 

 

夕食後私は屋上に出る。カリヤに見せた掲示板を開き新しい情報が無いか確認するけど特にない様子。

 

「無駄なことを。他の神霊ならいざ知らず唯一神に連なる神霊など四大天使すら協力を取り付けられていないというのに」

 

天使と神霊は同一規格で動くことはない。天使側が忖度するなら兎も角神霊側から合わせることはあり得ない。その為現在神霊達は独自の判断で活動を停止しており召喚の儀式が上手く運んでも呼び出される可能性など皆無である。別の目的もあるのかもしれないがこの作戦に限って言えば無駄骨だ。

 

「もっとも・・・その内の一柱はもう少しで動くかもしれないけど」

 

先ほどの掲示板とは違うとあるメールを開きながら呟いていると屋上から見える庭に出て涼みに来た風呂上がりのカリヤを見て頬が緩む。まぁ先の話は今はいい、今はただ

 

「録画開始」

 

ビデオカメラによるいつもの日課の撮影(盗撮)をすることの方が重要なのだから!




読了ありがとうございました!いやーシリアスの空気を感じるとギャグを混ぜたくなる衝動に駆られています。因みに周回ネキが辿ってきた世界線では高知ではないけれど唯一神に連なる神霊は儀式に瑕疵や妨害が無ければ無事に召喚されています。神霊が天使やメシア教による召喚や協力を拒否ってるのはこの世界線独自の現象です。因みにカーリーの大黒天女関係のスキルには商売繁盛系のものがあり、スパイダーシルクや護符、教会組の聖水などの売り上げに地味に貢献しています。


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メシア教vsガイヤ教vsファントムソサエティvs何も知らない神殺し

第二十五話となります!今回は久々に敵キャラのネームドが出て来ます。


ある日の中野区某所。とある街中、住宅地にほど近くスーパーやコンビニなど各店が立ち並び普段は穏やかな時が流れる日常の象徴とも言える場所なのだが・・・今日は店員や客の姿はない。それはこの町に招かれざる客達が来ているからだ。

 

「異教徒共を殲滅せよ!!」

 

「アレを奪われる訳にはいかん!殿部隊を残して別ルートで輸送する!ターミネーター共も前に出せ!」

 

「「「エェイメン!!!」」」

 

 

「逃げる気か!?おのれ逃がさぬ!」

 

「意志の無い人形や惰弱な天使共など何する者ぞ!!」

 

「「「ウオオオ!!この世に混沌あれー!!」」」

 

 

「メシア教とガイア教が潰し合っているのはありがたい」

 

「この混乱に乗じて例のものを頂く・・・漁夫の利だ!」

 

「「「我らの大いなる存在の為に!!」」」

 

メシア教、ガイア教、ファントムソサエティが当たり前の用に三つ巴で殴り合っているからだ。人間、天使、その他悪魔が殺し殺されを繰り返して乱戦になっている。その中でもメシア教は大きいケースを守り逃げられる可能性を探っていて他の陣営はそのケースを狙っている素振りを見せる。まぁ最も

 

「・・・え?」

 

用事を片付ける前にスーパーに夕飯の材料を買いに来たら各組織の抗争を目撃した狩谷には分かるはずの無いことだが。

 

 

 

「とまぁそんなこんなで横槍入れて三勢力を撃退して手に入れた品がこちらになります」

 

「いや、こちらになりますじゃないですよ!?」

 

三勢力を撤退させたあと奪い取ったケースを持って取り敢えず帰宅。一神教絡みの品だろうと当たりを付け折紙に見せるとロスヴァイセがツッコミを入れて来た。結婚と酒以外はまともな奴なんだがな。因みに家には念のため全仲魔を集結させている。両親は仕事に出ている

 

「だって人払いしているとはいえ街中で暴れるのも厭わないってどう考えてもヤバい代物だし」

 

「それは正解。かなりに強固なプロテクトが掛けられてる」

 

「やっぱりか解けそう「解けた」かって早や!?」

 

「ふむ、元々一神教の術式は天使から齎された。元天使である妹君にとっては簡単に解けるもの

なのかもしれんな」

 

バフォメットの解説に同意する様に、そして若干ドヤ顔気味に笑みを浮かべる折紙。うん、可愛い!

 

「そんなことより、中身は見なくていいの?」

 

「む」

 

「あ、そうだな」

 

思わず折紙の頭を撫でようとしたが俺と折紙の間にアズールが割り込み、話を戻そうとしてくる。危ない危ない忘れる所だった。折紙は不満そうにしているがここは我慢してもらおう。

 

「ではでは、ゴマダレーー!!」

 

「何じゃそれは」

 

「剣・・・ですかね?」

 

俺が行った御約束を半目で見るカーリーをスルーしていると白織がケースの中身を見て首を傾げている。

 

「また持ち難い剣だな」

 

「いや、これは剣じゃない!」

 

「馬鹿な!?何故これがこの日本にあるのだ!」

 

「何か知っているのですか?」

 

折紙とバフォメットが珍しく驚愕した顔を浮かべる。え、どうしたんだ?そんなヤバいのこれ

 

「これは剣じゃない・・・クローチェディピエトロ又の名をペテロの十字架!一神教の宗派であるローマ正教の聖霊十式の一つ!」

 

「え、ローマ正教?エクスカリバーみたく盗まれでもしたのか?」

 

「今は盗まれた云々を議論する場ではない!!これは霊装の中でも戦術兵器に相当する!・・・だがこの効果はローマ正教に有利になる力のはずだが・・・!?」

 

「っもう来た!」

 

バフォメットが考えを纏めようとするが、まるでそんな時間は無いとばかり高密度の力を波動を外から感じ取り窓に目を向けると巨大な光の柱出現している・・・この感覚は

 

「エクス、カリバー?」

 

その光の柱は無慈悲にも俺達の家に振り下ろされた。

 

 

 

「命中を確認しました。ジャンヌ様」

 

「取り敢えず一発叩き込んだけど霊装は大丈夫かしら?」

 

「曲がりなりにも聖霊十式に数えられる霊装です。あっても多少の破損程度で十分に修理可能なはずです」

 

 

神木家を聖剣の力で薙ぎ払ったのはかの聖女ジャンヌ・ダルクの魂を引継ぎエクスカリバーの一つ祝福の聖剣と生来から宿している神器である【聖剣創造】で作り出した聖剣による合わせ技だ。彼女はメシア教の部下と天使を率いてペテロの十字架を奪い返す任務を受けている。

 

「後は瓦礫から見つけるだけ・・・あら?」

 

もう勝負が着いたと思っていたジャンヌだったが土煙が晴れた先にあったのは・・・攻撃する前と微塵も変わらない立派な屋敷がそのまま鎮座していた。

 

「これはまずいかも!」

 

咄嗟にジャンヌと勘や頭が良かったり、咄嗟に彼女の動きを真似た者達が地面に伏せる・・・そしてそれが伏せなかった者達との命運を分けた。

 

突如屋敷の周りに展開される魔界式、天界式、北欧式の魔法陣。そして間髪入れずに無数の各属性の攻撃魔法が放射されていく。

 

「迎撃術式!?ぐああ!!」

 

「馬鹿な、聖剣で無傷といい下手な要塞以上の防備だと!?」

 

驚愕する天使や教徒達を尻目に伏せ損ねた者達を次々と屠って行く。

 

「幾ら本拠地の屋敷だからって硬すぎよ!」

 

ジャンヌは文句を言いつつもサイズの大きい聖剣を量産し、身を守る為に壁の様に展開した。これにより身体を起こすことが出来る様になったのだが

 

「邪魔じゃ!!!【初段の剛力】【二段の剛力】【三段の剛力】【チャージ】【物理ギガプレロマ】【ミナゴロシの愉悦】【千発千中】【殺戮の母神】【暴虐なる舞踊】!!」

 

褐色の子供?様な悪魔が放った連続攻撃の斬撃で壁となった聖剣が切り払われた。ジャンヌが驚いたような顔するがそんなこと知ったこっちゃねぇとばかりにその奥から鋭い聖槍による突きを行う狩谷が現れる。咄嗟に持っている祝福の聖剣を盾にするが。

 

「きゃ!!」

 

「吹っ飛べ!!」

 

文字通り壁に激突させられるジャンヌ。少なくないダメージを受けて多少ふら付きながらも起き上がると攻撃して来たまだ高校生くらいの黒髪の少年に視線を向ける。

 

「もーお姉さんに容赦なく突いて来て」

 

「それ別の意味に聴こえるからやめてくれます?」

 

溜息付く少年を見て見た目に似合わず落ち着いている印象をジャンヌは抱く。周りは既に狩谷の仲間が展開していてカーリー、バフォメット、アズールが天使、教徒達を殲滅していき後者二人は飛んでいる為慌てて上空に天使が集うが、次の瞬間上空で魔力が弾け陣形を取ろうと密集した者達が消滅させられていく。被害を気にしなくていい上空ということもあって折紙の攻撃も容赦がない。

 

「それにしても一瞬で良くここまで役割分担が出来てるわね」

 

「こうなった時の為の訓練はしているからな」

 

「うんうん、良いわね。そういうキチンと考えている人はお姉さんの好みよ♡」

 

ウィンクをして少年を褒めるが何故か少年は微妙な顔(お姉さんと言われたが実年齢は自分の方が上な為)をされたが触れることは無く祝福の聖剣と神器が作った聖剣を構える。

 

 

「あれが神器とエクスカリバーか。折紙の言った通りだな」

 

「さっきの一撃でそこまで推理していたのね。ネオベテル所属だったかしら?良ければ兄妹揃ってこっちに帰依しない?お姉さんが色々面倒を見て「黙りなさい!マスターを貴女如きに渡す訳がありません」あらら」

 

少年のすぐ横に現れた銀髪のヴァルキリーことロスヴァイセが強い気迫で睨んでいる・・・ここで何を思ったかジャンヌが口を開く。

 

「あらそれじゃ聞いて見ましょうか?魅力的なお姉さんの私か妙に硬くて恋愛経験がゼロそうなヴァルキリーちゃんのどっちとデートしたい?」

 

「ちょっと!?」

 

「考えるまでもない」

 

「え?」

 

ロスヴァイセは驚いているが何を当たり前なことに驚いているのだろうか。

 

「確かにこいつはぱっと見きちっとしている様に見えるがポンコツで酒癖悪いし、恋愛クソ雑魚だし、メンタル弱いし、『え、こんなのが北欧の主神の護衛?』とか思ったりしたけども」

 

「それ褒めてないですよね!?貶してますよね!?」

 

「だが少なくとも勝手に人の街で乱闘したり、初対面で聖剣ブッパしたりはしない。デートするならロスヴァイセだな」

 

「ふぇ?」

 

意思表示の為狩谷は横にいたロスヴァイセを抱き寄せるが・・・彼女は顔を赤くして目を回している。

 

「えへへ///」

 

「キモい」

 

「そんなー!?」

 

だらしないの無い笑みを浮かべるロスヴァイセを一括すると、ジャンヌからも笑いを引き出していた。

 

「はは!!面白い主従ね。良いわ貴女も貰ってあげるわ。私ベッドで相手が女性でも大丈夫なのよね」

 

「おいこいつ糞ビッチじゃないか、聖女の魂が泣いているぞ現代の【ジャンヌ・ダルク】」

 

「こう見えてもお姉ちゃんは善意で行っているのだけどね【神木狩谷】」

 

やっぱりと言うか、ジャンヌも狩谷達を調べて来た様だ。

 

「良く言いますね。後私は普通に男性が好きですから!!」

 

その啖呵・・・啖呵?の勢いのまま距離を詰めようとするが、狩谷が強い力を込めた手でロスヴァイセは動くことが出来なかった。

 

「あ、あのマス『ヒュン!』え?」

 

風が切れる音が聞こえるとロスヴァイセの鼻先すれすれに投げナイフが投擲されていた。

 

「ちゃんと周りを見た方がいいぞ?なぁガイアさん?」

 

そう挑発する様な言動をすると即座に狩谷に向かって数本の投げナイフが投擲されるが白織が割って入り、全て糸で絡め取り防ぐ。

 

「・・・その技術はお見事」

 

「これと隠れる技術だけは得意なので!!」

 

逆に他はダメだという事を晒し、最近ゲームを買い漁りお鍛錬や任務、生産作業以外は引きこもっていた白織だがお陰でたった一人でこの戦場に立っているガイア教徒の姿が露わになる。姿は般若の様な仮面をかぶり暗殺者の様相を呈す少女の様だが・・・。

 

「三勢力の三つ巴かしら?面白そうじゃない!」

 

「笑顔を見せるなジャンヌダルク。ロスヴァイセ、家の中にいる折紙は?」

 

「はい、大火力が上空以外使えない為現在は補助と防御機構の持続に力を割いています。イリナさん達やライネスさん達の援軍要請やネオベテルの掲示板への報告とビデオカメラを通したライブ映像も配信出来ています」

 

「うーん流石は俺の妹、優秀だわ」

 

「・・・如何やら時間もあまりないらしいな」

 

仮面の少女は狩谷が聞いた内容の全てを把握出来ていないが増援が来ることは分かった為そうそうに勝負を決める構えだ。

 

「おいおい落ち着けガイアさんや。まだ役者は出そろっていないぞ?」

 

「・・・ファントムソサエティ」

 

「そういうこと」

 

聖槍を奥の道路に向けるとそこには多数のダークサモナーを連れたサングラスの渋い男性が煙草を吹かしながらやって来ていた。

 

「おっと如何やら部隊の編成をしていたらお待たせしてしまった様だ。申し訳ない」

 

「別に来ないなら来ないで良かったんだがな。だが何でお前さんらまでアレを狙っているんだ?」

 

「何、そう難しい話ではない。あの十字架をメシア教の概念に染め上げた後使用する場所の情報を掴んだが、そこからの効果範囲内に私達の支部や施設が多数含まれていたというだけの話だ」

 

「良く知ってるわねおじ様」

 

「ネズミは何処にもいるということだ。精々気を付けるといい」

 

そう言うと自身はベルセルク、部下達も次々と悪魔を召喚してアズール達が暴れている所に投入していく。

 

「うわーこれだからサマナーは厄介だ」

 

「それを君達が言うかね?」

 

COMPや悪魔召喚プログラムのことを知っているらしく呆れた顔を狩谷に向ける。

 

「ロスヴァイセ、アズール達に加勢して片付けろ。最悪援軍が来るまでに持ちこたえてくれればいい」

 

「マスターは?」

 

「ちょっとバトロワして来るわ!」

 

ロスヴァイセに手を振って目の前の三人に歩み寄る。

 

「ほう、仲魔はいいのかね?」

 

「あんたもあっちに投入したじゃないの。フェアにって訳じゃないがこのやり方の方が効率がいい」

 

「私達の四人のバトルロワイヤル?・・・いいわね面白そう!お姉さんはやるわよ!!」

 

「どうでも良いがサマナーでもない私に取ってはやることは変わらないな」

 

「で、どうするよファントムさん?」

 

「ふ、遅参した身だ無論受けよう。私好みでもあるしな」

 

「そりゃよかった・・・もしメシア教だけだったらあの十字架を盾にしたり壊す素振りを見せて脅迫すれば直ぐだったんだけど」

 

「え、ちょ怖い事言わないでよ!!」

 

流石に十字架を壊されるのは信仰者であるジャンヌは容認出来ないのか声を荒げる。

 

「安心しろやらないって、それに他二人は確保はあわよくばでぶっ壊してもいいっぽいしな」

 

「まぁそうだな。こちらに取っては害しかない」

 

「・・・」

 

サングラスの男性はあっさり認めたが仮面の少女は無言を貫くがそれは無言の肯定と同義だった。

 

「さぁ時間も無いことだからとっとと始めてしまおう・・・ただ流石に組織名で呼び合うのも不便か」

 

ふぅーと煙草の煙を吐き出すとまじめなのか態々携帯灰皿に入れてから構えを取る。

 

「ファントムソサイエティ所属【ダークサマナー フィネガン】」

 

【ダークサマナー フィネガン Lv44】

 

趣旨を理解したジャンヌが続いて聖剣を構える。

 

「メシア教所属 聖女 ジャンヌの生まれ変わりにして聖剣使い【聖女 ジャンヌ・ダルク】」

 

【聖女 ジャンヌ・ダルク Lv42】

 

肩を透けながら狩谷は聖槍を構え、その流れに乗る。

 

「ネオベテル所属 聖槍使い【サマナー 神木狩谷】」

 

【神殺し/サマナー 神木狩谷 Lv45】

 

彼女に取って馴染の無いやり方だがバトロワ故ヘイトを受け過ぎるとマズイ為不本意そうに戦闘態勢を整えると少女は流れを受け入れた。

 

「・・・ガイア教所属【暗殺者 トキ】」

 

【暗殺者 トキ Lv43】

 

互いに名乗り終えるとフィネガンは一瞬満足そうに笑みを作り・・・それを合図としてそれぞれの組織の幹部クラスの四人によるバトルロワイヤルが開始された。脈略も無く始まった二つの戦場における戦い。皆己の目的の為に、後この戦いを隠蔽したり被害を補填するであろうこの街の行政にちょっと同情しつつ武器を振るう。

 

 

因みにライブを見ていたネオベテルの掲示板民はもう一つ思っていることがあったりする。それは

 

『敵の三人ネームドキャラじゃねーか!?ガイアとファントムに至っては原作キャラだし!!あと神殺しニキ絶対トキちゃんを殺すなよ!!』

 

・・・こんな状況でも【俺ら】は【俺ら】だったのだった。

 

 

 

 

尚狩谷が食材を買った後片づける予定だった新人の迎えのことは狩谷達の頭からすっかり忘れられている。

 

「駅前で待っててって電話で言われましたけど遅いですね。ねぇゴッくん?」




読了ありがとうございました!・・・書き上げて見ると大分自由にやってんな自分。因みに神器の設定ですが原作のシステムとほぼ同義ですがメガテンには一神教的には天国か地獄に行くため生まれたときに人間にランダムに付加される仕様です。多分転生者内にも所有者がいるかもですね。ジャンヌについては悪魔となっているように完全に受け継ぐというよりは魂の一部を受け継いでいる感じです。人間としての彼女は天国か英霊の座に居そう。

フィネガン
比較的フェアな戦いで皆乗ってくれてちょっと嬉しくご機嫌。

ジャンヌ
ノリが良くこういう趣向も嫌いじゃない。

トキ
本来の彼女なら拒否する所だがヘイトを買う為しぶしぶ乗った。

狩谷
ぶっちゃけペテロの十字架の効果を聞く前に戦闘になって何でみんな必死なのか分からないけど、空気を呼んで且つ妹の頼みや警告もあって全力で戦っている。つまりこの戦いの意義とかも何も分かっていない。

新人
忘れ去られた人。前回言った通り魔女なのでいずれそこそこ大きい規模の戦闘が起こっていることに気づくだろう。


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中野区の戦い

第二十六話となります!今回は狩谷の出番はありません。それとカーリーとロスヴァイセの装備品はネオベテル産のものは悪魔用の調整を受けていて、あの剣と指輪は異界で発見した装備品の為悪魔でも装備出来る感じです。・・・まぁ悪魔は装備品を装備出来ないというルールを本家様を読み返した時に思い出しただけ何ですけどね、ええ(白目)。


外を見下ろすと既に複数の戦線が出来ている。先ほど隠し通路から急行した教会組も合流して来てカリヤの戦い以外ではこちらが優勢になっているけど・・・まだ油断は禁物。

 

「ニア、状況報告」

 

【覚醒者 神木折紙 Lv45】

 

「はいはーい!【ラジエルの書】お願いね」

 

【悪魔変身者 本条二亜 Lv25】

 

ニアはレベルが他より低いこともあって私の傍で全体のサポートを行って貰っている。

 

「今戦っている戦線は三つだね。一つ目は白織ちゃんとワシリーサさんがこの家の結界の出入り口である門の防衛だよ」

 

【神木邸門前】

 

「【マリンカリン】!あ、あの援軍に来てくれてありがとうございます!!」

 

【妖虫 アルケニー Lv45】

 

「気にしないで白織ちゃん・・・それはそうと後で頼みたいことがあるのだけど」

 

【超人 ワシリーサ Lv50】

 

「頼みですか?」

 

一見するとただの雑談だがワシリーサは【衝撃ギガプレロマ】【マハザンダイン】、白織は【初段の剛力】【二段の剛力】【物理ギガプレロマ】【物理サバイバ】【狂い咲き】【呪いの還元】【猛毒使い】【毒追撃】【獣眼】【ベノンザッパー】で門に寄って来た敵を一掃しながらの会話だったりする。

 

「貴女のスパイダーシルクでイリナちゃん達の魔女っ子衣装を作って欲しいのよ!」

 

「はい!?」

 

襲って来た悪魔の顔面を拳で砕きながらこんなふざけたことを言うのだから余裕はあるのかもしれない。

 

「それいいんですか!?」

 

「この前買った衣装は戦闘に耐えないって理由に来てくれませんでしたから。戦闘用に作って欲しいのです!」

 

「えぇ・・・でもやっぱり「それじゃ白織ちゃんが着る?」お任せください!!」

 

この女、自分を巻き込まれない様に速攻で身内を売った。まぁいい歳して魔女っ子になるなんて拷問以外のなにものでもないのだろう。

 

「嬉しいわ。さぁ早く制作作業に入る為にもちゃっちゃっと片付けましょう!」

 

「・・・ハイ」

 

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

【ラジエルの書】で得られる情報には会話内容も含まれる。つまり私はこれからニア達が辿る運命を知ってしまった様だ。私は彼女に肩に手を置いて

 

「どんまい」

 

「こ、この歳で・・・魔女っ子・・・!?」

 

コスプレは自由だが流石に一部は常識的に適正年齢があるのだと項垂れるニアを見てこの時初めて知ったのだった。

 

 

「き、気を取り直して次行こうか!」

 

「空元気」

 

「ちょそういうこと言わない!次の戦線はカーリー、ロスヴァイセ、アズール、バフォメット、ゼノヴィア、イリナだね。上空は抑えてるし三つの組織を分け隔てなくぶちのめしてるよ」

 

【神木邸上空】

 

「空は完全に抑えたな」

 

【邪神 バフォメット Lv42】

 

「えぇ、こちらも地上を援護しましょうか」

 

【造魔 アズルニール Lv44】

 

「主にはいいのか?」

 

「邪魔するのは悪いわ」

 

バフォメットの提案をアズールが却下する。基本的に造魔は主人を守る為に戦うと狩谷から聞いていたので訝し気な表情と共に疑問も湧く。

 

「ほう、造魔なのに主を思わないのか?」

 

「まさか」

 

【コンセントレイト】【初段の賢魔】【二段の賢魔】【三段の賢魔】【氷結ギガプレロマ】【氷結サバイバ】【氷結プラーナ】【氷結エンハンス】【龍眼】【フブダイン】【トリガーハッピー】【銃撃ブースタ】など相手ごとに属性を変えて弱点を突ける様に狙撃しながら笑みを作る。

 

「でも幹部クラス三人と同時に戦える何てまたとない機会よ。強くなるために利用しない手はないわ」

 

「・・・前から思っていたが何故貴様と妹君は主を強くすることに拘るのだ?我らに隠していることがあるのではないか?」

 

【コンセントレイト】【初段の賢魔】【二段の賢魔】【三段の賢魔】【呪殺ギガプレロマ】【呪殺サバイバ】【呪殺プラーナ】【呪殺エンハンス】【マハムドダイン】を片手間に行いアズールの疑いの目を向ける。

 

「意外にも主人思いなのね・・・確かに隠していることはあるわ。でも今は話す時じゃないというだけのことよ」

 

口元に人差し指を立ててアズールはそれ以降口を噤むのだった。

 

【神木家周囲の道路】

 

「ゼノヴィア!」

 

【聖剣使い 紫藤イリナ Lv36】

 

「お、おのれ異端者が!!」

 

イリナは【緊縛追撃】【狂い咲き】【物理プレロマ】【バインドクロー】でダメージを与えつつプリンシパリティを拘束することに成功すると止めの一撃をゼノヴィアに託す。

 

「貴様らにだけは言われたくはない!!」

 

【聖剣使い ゼノヴィア・クァルタ Lv37】

 

プリンシパリティの言葉に怒りを抱くと【物理ギガプレロマ】【物理貫通】【物理サバイバ】【怪力乱神】を発動させデュランダルで両断する。

 

「それにしても敵の数が多いな・・・」

 

「そうね、私達を含めて四勢力の乱戦だし」

 

自身の顔に浮かぶ汗を拭うゼノヴィア、イリナも次々と敵が襲い掛かる現状に辟易しているがまだ両者共目は死んでいない。

 

「でも狩谷君やその仲魔も頑張っているんだから負けてられないわ!」

 

「ああ、その意気だ!」

 

呼吸を整えると迫りくる天使やエクソシスト達に今度はこちらから攻め立てて行く。

 

【神木邸周囲のコンビニ前】

 

「ああ、勿体ない!?」

 

【軍神 ロスヴァイセ Lv43】

 

ロスヴァイセはファントムソサエティのダークサマナーとその仲魔と対峙している。こちらも数では優に相手が勝っているが原作と違い相手にCOMPが無い分数はまだマシと言えるだろう。

 

「このコンビニ今日は肉まん30円引きだったんですよ!!」

 

『いや、知らねぇよ!というか勿体ないってそれのことかよ!?』

 

肉まんのケースに魔法で吹き飛ばしたダークサマナーが頭から突っ込んで台無しになった自体にショックを受けたロスヴァイセにツッコミを入れるダークサマナー達。そして悲しみは段々と怒りに変わっていき

 

「もう許しません!これ以上この街を無茶苦茶にさせませんよ!!」

 

この部分だけを見るとまるで正義の味方の様に怒りをあらわにする。

 

「えぇ…」

 

「字面だけ見れば正しいこと言ってるんだけどな」

 

「さっきので意味変わってくるよ!」

 

「美人だけど嫁にしたくないタイプだ・・・」

 

それを見て先ほどと同じノリでツッコミを入れるダークサマナー達。しかし最後の言葉がロスヴァイセの逆鱗に触れてしまった。

 

「嫁に・・・したくないですってーーーー!!!!」

 

「おい、街云々の時よりもキレてるぞ!?」

 

「だまらっしゃい!ヴァルキリーの妹達(後続機体達)からは『美人で頭脳明晰でお強くて素敵です』と言われて、ちゃんと戦闘だけじゃなくてお化粧とか美容、作法とかも勉強しているのに!!!何で故郷では勇者の一人もものに出来ないの!!」

 

故郷のトラウマを刺激されたロスヴァイセはいまだかつてないほど荒れていた。それにたじろぐダークサマナーとその仲魔達。

 

「い、いやほら。自分から告白するのも「しましたよ!!大昔ですけど!」あ、したの?」

 

「勿論幾らこっちが好きだからって何もせず思いを伝えるとかの愚行はせずに事前に何度もアピールしてから告白しましたよ!それなのに『え?・・・ごめんそんな目でお前を見たこと一度も無かった』とか言われたんですよ!?!?」

 

「うわぁ」

 

「一番辛い奴じゃないか」

 

「しかも『今は武しか興味がないんだ』とかかっこつけて振った癖に半年後私と同期で友人のヴァルキリーとデキコンしてぇーーーー!!」

 

『お、おう・・・』

 

最早泣き声になっているがリアル過ぎる恋愛歴にちょっと引かれながらも敵からも同情されてしまっている。

 

「ぐす・・・何ですかその顔は・・・どうせそんな泣き言言う性格だから振られたと思ってるんでしょう!!」

 

『思ってないから!?』

 

「いいですよ・・・こうなったら覚悟を決めました!初対面から考えていましたが・・・マスターをものにして今度こそ恋人作って結婚してやりますよ!!」

 

「そ、そうですか」

 

「その為のアピール・・・あの勇者にやったのだけじゃ足りない。もっと印象強く・・・!」

 

「えっとそういうのはこの戦いの後に」

 

「そうですね・・・では戦いに置いてのアピールをしましょう」

 

『へ?』

 

戦いに置いてのアピール?と小首を傾げている敵を尻目に上空には無数の魔法陣が浮かび上がる。

 

「同じPTだけで考えても単純な魔法火力と仲の深さでは折紙様に及ばず、射程と距離感の詰め方ではアズールさんに勝てず、妨害能力と生産能力では白織さんの足元も見えず、物理火力と頼もしさではカーリーさんとは勝負にもなりません」

 

「め、目が超ギラついてるんですけど!」

 

「私の強みは・・・プライベートではまだ思いつかないけど戦闘に置いてなら分かるわ!」

 

【初段の賢魔】【二段の賢魔】【三段の賢魔】【魔術の素養】【原初のルーン】【火炎プレロマ】【氷結プレロマ】【電撃プレロマ】【衝撃プレロマ】【火炎プラーナ】【氷結プラーナ】【電撃プラーナ】【衝撃プラーナ】【マハラギダイン】【マハブフダイン】【マハジオダイン】【マハザンダイン】

 

「私の強みは複数の属性魔法攻撃を多重発動と!」

 

『ギャーーーー!?!?』

 

「その魔法のコントロール力よ!」

 

ダークサマナーとその仲魔達を吹き飛ばしていたが、周りの建物や道路の被害はかなり少なかった。ロスヴァイセの魔法コントロールの高さが伺える。

 

「・・・でもプライベートじゃ家事も覚えたて出し、唯一マシな外見もそもそもマスターの周りにいる女性達のレベルが高い・・・はぁ」

 

狩谷が恋愛に鈍感なこともあって難儀な道だなと溜息を吐くのだった。

 

【神木邸の近所にある川の橋】

 

「こんなものか?」

 

【地母神 カーリー Lv44】

 

メシア教のエクソシストと天使を退けたカーリー。悪魔変化する前は仲魔達の中で置いて行かれると心配していたが現在では戦闘能力ならトップに立っている。まぁ折紙には接近される前に吹き飛ばされてしまったりする訳だが。

 

「見た目にそぐわずやる様だな」

 

「む・・・そなたは」

 

橋の向こう側からベルセルクを先頭にファントムソサエティの悪魔達が迫るがカーリーは寧ろ笑みを浮かべる。ただでさえ悪魔変化で好戦的になっていたが度重なる戦闘でさらに熱くなっている。

 

「我が名はベルセルク、その首を頂きに来た」

 

【妖鬼 ベルセルク Lv40】

 

「ほう?女子である妾相手にこれほど数を揃えるとは英雄の名が泣くぞ」

 

「抜かせ、背後に天使とエクソシストの山を築いて置いて良く言う。私と言えどタイマンでは倒されるだけよ・・・とはいえ不本意なのは事実だがな、主の命令だ。任務達成を優先させて貰おう」

 

「一人だけレベルが突出しておる所を見るに途中で見かけたそちらの幹部の仲魔じゃな?よいよい、戦とは常にそういうものよ・・・それにの」

 

合計六本の腕と武器を構えると相手が仕掛ける前に先手を取る。

 

「それくらい跳ね飛ばせねば主の仲魔は務まらんわ!!」

 

古株なのと壁役だったこともあって嘗て二度あったレベル50以上のボス戦を仲魔内で唯一二度とも戦わせられた苦労人さながらの自虐も混ぜながら突貫していく。

 

「吹き飛べぇ!!」

 

【初段の剛力】【二段の剛力】【三段の剛力】【チャージ】【物理ギガプレロマ】【物理プラーナ】【物理エンハンス】【ミナゴロシの愉悦】【千発千中】【殺戮の母神】【暴虐なる舞踊】

 

初手の一撃より二段階上の威力の乱舞をベルセルクと率いられた悪魔達に繰り出す。

 

「貫通である以上防御は無意味!迎撃せよ!」

 

【物理ギガプレロマ】【コロシの愉悦】【狂気の暴虐】

 

ベルセルクを中心に物理、魔法攻撃で相殺を狙うが迎撃仕切れずダメージを与える。

 

「ぐうう!!止められんか!?」

 

「基礎(パッシブスキル)が違うのじゃ基礎が!!」

 

『基礎ってそういうことじゃないよ!』と掲示板でツッコミを受けているとは露知らず獰猛に笑いながら殺戮を繰り返す。

 

「回復を回せ!補助もだ!・・・今の一撃、連撃だったとはいえこちらの戦力が四割減だと・・・!」

 

すぐさま回復と補助スキルが掛けられるが暴れているカーリーのせいで、蘇生まで行っている余裕はない。しかしカーリーは四割という言葉を聞いて不機嫌そうになっていて

 

「四割?五割は減らすつもりだったのじゃが、やはり優秀な頭がいると先ほどの様な有象無象共とは違う様じゃな」

 

「余裕だな。だが回復と補助なら数がものを言う。蘇生も動けるものが時間を稼げばいい!」

 

「ふむ、確かに面倒じゃの・・・ならばこちらも回復と補助を貰おうかの」

 

「・・・何?」

 

【回復ギガプレロマ】【魔術の素養】【ディアラハン】【ラスタキャンディ】

カーリーの身体に刻まれた傷が癒され、補助により強化されていく。

 

「うむ。感謝するのじゃ」

 

「馬鹿な、どこから?」

 

「そんなの決まっておるじゃろ?我らの家におる妹君じゃよ」

 

「有り得ん!術を掛けるには離れ過ぎている!」

 

「知らんのか?この地の霊脈、龍脈、地脈は妹君が管理し、整え、支配しているのじゃ。それらは妹君の手足とほぼ同義(・・・・・・・・・・)。手足を通して術を掛ければこの街、地区にいる限りどこでもその恩恵を受けられるのは当然じゃろ?・・・無論一度捕捉出来れば攻撃を飛ばすことも出来るしの。まぁ妹君の攻撃は広範囲に影響を及ぼすからそれは最後の策じゃがな」

 

「なん・・・だと?では我が主は」

 

「ああ、安心せい。今回の四人による戦いは主から言いだしたこと。介入は主とて望んでおらんし妹君もやらんじゃろうて」

 

ベルセルクの疑念をカーリーが一蹴する。そこには自身の主とその妹を深く理解している証しであった。

 

「といっても他の戦場ではバンバン支援してると思うがの・・・お主らの一番の失策はよりによってこの街で、妹君の手の平の上で我らに喧嘩を売ったことじゃ」

 

 

 

「う、うん全体的に優勢かな?」

 

「?」

 

冷や汗を掻く二亜を不思議に思い首を傾げる。何かあったのか

 

「(流石にブラコンの折紙ちゃんには後半のロスヴァイセちゃんのことは話せないよね・・・)」

 

報告を聞いた限り問題ない様に思える。少しロスヴァイセのことが後半早口になっていたような気もするけど

 

「それで本命のカリヤの戦場は?」

 

「あ、ああうん。少年の戦場は・・・!?」

 

ニアが【ラジエルの書】で検索しようとしたとき唐突に外から大きい力の波動を感じ取った。

 

「この力の波動・・・聖剣の聖エネルギー?破魔属性?でもそれだけじゃないような」

 

ニアは考え込んでいるが私には分かる。そうかやはりあの生まれ変わりは至っていたのか

 

禁手(バランス・ブレイカー)・・・!」

 

またの名を禁手化(バランス・ブレイク)。遠くの戦場から竜の咆哮が木霊する。




読了ありがとうございます!バトルロワイヤルは次回描写しますね。因みに折紙は本文にある通り霊的に街とその周囲を支配していますが感知能力は左程でもないのでオーラを垂れ流すことなど分かりやすいことをしなければ目視で無ければメシア教か如何かとか覚醒者かどうかは潜入されても分かりません。つまり彼らは狩谷達が博麗神社にペテロの十字架を移送する時に襲うのが最適解でした。少なくとも難度は大幅に下がったはずです。え、なら最初の移送中に中野区に入ったのが間違いだって?ま、まぁ幹部クラスの三人は狩谷に撃退された後に取り戻すよう命令が下っていたのでしゃーないしゃーない(白目)。後何か全体的にレベルアップがバクってる気がしますがこれも全部狩谷の固有スキルが悪いんや、スキル獲得もですけど。


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禁手

第二十七話となります!ポケモンのスカーレットを買ったから更新頻度が落ちないか心配だぜ。


【中野区某公園】

 

小学校の遠足先にもなるそれなりの広さを誇る公園。普段なら平日でも親子連れが多く来る憩いの場だが今日この時ばかりは戦場となっている。

ここだけではなく中野区全体で仲間と仲魔達が戦っている気配を感じる。俺が目の前の戦いに集中出来るのもあいつらのお陰だと内心で感謝をしながら恐らくこの戦いの趨勢を決めるであろう戦いに身を投じている。

 

短く息を吐く音と共にメリケンサックのマジックアイテムで武装した拳が迫る。こちらが【物理無効】持ちだと早々に分かってから俺に対する物理攻撃は【貫通撃】にのみに限定されているがその一撃は鋭く重い。俺はそれを聖槍で受け止め受け流す

 

「拳が重いって!!」

 

「そうでなければ悪魔を御すサマナーは務まらんよ」

 

受け流して追撃を突こうとするが投げナイフが足元に突き刺さる。受けたとしてもダメージにはなりえないが進路上に突き刺さった為思わず足を止めると背後からトキが【鎧通し】で攻撃を加えて来る。ダメージはそこそこで防御力低下・貫通効果を持つ優秀なスキルだ。しかし普段から鍛えている察知能力と直感、COMPのアプリである【百太郎】も合わせて360度全方位を警戒でき、前世での経験で戦闘中は警戒を一度も解かない様にしてのもあって即座に対応する。

 

「っ!?銃!」

 

「最近ネオベテルで扱い始めてね!」

 

懐から取り出した拳銃をトキに向けて発砲する。自衛隊にレクチャーを受けたがトキの様に敏捷に優れた相手に当てるのは至難の技だが攻撃アクションの瞬間に合わせて発砲すれば動きを予測できる分遥かに当てやすい。しかし唯の鉛玉では実力者には意味はない為属性弾を使うことになるが狩谷は拳銃はあくまで牽制、防御崩し目的に絞って運用しているので属性弾は与えるダメージは他の属性弾よりも少し劣るが足止めの効果が大きいグライ系、通称重力弾を愛用している。トキも咄嗟短刀で銃撃を防ぐが命中した対象の重力を重くする効果はダメージと関係無く発動する。

 

「重力・・・か!」

 

「その通り!」

 

「・・・が!?」

 

重力の増大で一時的に動けない状態のトキに聖槍を手首を回転させ穂先を向けて突きを放つ。【物理ギガプレロマ】【物理サバイバ】【ミナゴロシの愉悦】【武道の素養】【初段の剛力】【二段の剛力】【三段の剛力】【物理プラーナ】【物理アクセラ】【貫通撃】

のスキルを乗せた一撃をトキは辛うじて短刀を盾代わりにして威力を削ぐが数多くパッシブスキルの暴力により吹き飛ばされる。ここに【チャージ】や【ダークエナジー】が組み合わさっていれば命を奪えた可能性はあるがこの戦いはバトルロワイヤル。タメを作る時間は無く実際聖槍より逃れたフィネガンが反撃を加えようとして来ていた。迎え撃つ為【物理ギガプレロマ】【物理サバイバ】【ミナゴロシの愉悦】【武道の素養】【初段の剛力】【二段の剛力】【三段の剛力】【物理アクセラ】【鬼神楽】を用いた蹴撃で発つ。フィネガンそれを避けることも出来たが・・・

 

「雷の聖剣よ!」

 

「卑しいな!」

 

ジャンヌが神器の【聖剣創造】で創り出した雷の聖剣の力で聖なる雷を俺とフィネガンがいる地点に落とされる。その瞬間フィネガンは俺の攻撃をガードし、その勢いで離脱するか俺の攻撃を躱してノーガードで受けるかの二択を迫られる・・・フィネガンが選んだのは前者だった。

 

「うぐ・・・!」

 

「範囲内は俺だけか。【マカラカーン】!」

 

「対応力も中々ね」

 

頭上に【マカラカーン】を展開して、雷を反射してジャンヌに反射するが雷の聖剣で相殺される。この様な感じで比較的拮抗しながらやや俺有利というのが現状だ。

 

「まぁそれが魔法戦士スタイルの強みだからな」

 

さて、多少優位に立っているから更に押し込んで行きたいのだが・・・ん、この気配は

 

「ナへマー!!」

 

【物理ギガプレロマ】【物理サバイバ】【コロシの愉悦】【終焉の剣】

 

公園の周囲に散っている悪魔を吹き飛ばし俺達の家に向かう十香、ライネス、トリムマウ、ルヴィアが見える。ライネスの指揮の元トリムマウとルヴィアがサポートしながら十香の火力で進軍しているのか。あいつらが加わればあちら側は盤石と言っていいだろう・・・それは他の三人にも容易に想像が付いたはずだ。このまま持久戦を続けては例え勝ったとしても他の中野区メンバーに囲まれて倒されてしまうだろう。よって動くなら今だ

 

「うーん、このままじゃ不味いかな?もう少し削ってから使いたかったんだけどね」

 

「まだ見せていない手があるのか?」

 

「ええ、お姉さんの神器の真価を見せてあげるわ!」

 

ジャンヌがドデカい大剣の聖剣を作り出しその姿を変えて行く。

 

「禁手化!!」

 

大剣はドラゴンへと姿を変えてこちらを見下ろす。

 

「これが・・・世界の均衡を崩す力か」

 

「そう、これがお姉さんの禁手。【断罪の聖龍】よ。正確に言えば亜種なんだけどね」

 

『グオオオオオオーーーー!!!』

 

【龍神 断罪の聖龍 Lv50】

 

「さぁ私の可愛いドラゴンちゃん!異教徒に断罪を!」

 

早速ドラゴンをけし掛けてきたな。その巨体が迫る・・・俺に貫通以外の物理攻撃は効かないが押しつぶし拘束することは出来る。ここは避けるに限るな!

 

「だがスピードではこちらが上だ!」

 

「あらら、やっぱり単純に突撃だと逃げられちゃうわね。でもドラゴンと言えばブレスだぞ♪」

 

「え、ブレス吐けんの!?」

 

口に破魔属性の魔力が充填されている。ここには人間しかいないのでここで破魔属性の攻撃とか絶対貫通・準貫通スキル持ってるだろ!!フィネガンとトキもそのことに気付きブレスを潰そうと攻撃を加えるが身体自体が聖剣で構築されている為損傷を与えるのも難しい、その上二人にはドラゴンの爪などの物理攻撃は脅威になる。ならばと俺自身も攻撃を加え罅を入れるが

 

「そんな半端な攻撃じゃ倒れないよ!」

 

「罅が治って行く・・・再生か!?」

 

恐らくジャンヌのMAGを消費して回復させているのだろう。流石に壊し続けていけばジャンヌのMAGが枯れて破壊できるかも知れないがどう考えてもブレスを放つ方が遥かに早い!

 

「皆吹き飛ばしなさいドラゴンちゃん!!」

 

主の言葉と共にブレスが放たれる。その威力は通常時の折紙の【マハンマダイン】に匹敵する為残念だが防御は装備、耐性、カーン系に頼っている俺には防ぐ手段はない。ならば攻撃により相殺するのみだ

 

「力を寄こせライトスピード!」

 

聖槍に因子を集中させ力を高めると【チャージ】【ダークエナジー】【物理ギガプレロマ】【物理サバイバ】【ミナゴロシの愉悦】【武道の素養】【初段の剛力】【二段の剛力】【三段の剛力】【物理プラーナ】【物理アクセラ】【貫通撃】【ゴルゴダの突き】を発動。ブレスに向けて突きを入れる!

 

「こん・・・なの!偶に巻き込まれて吹っ飛ばされる折紙の【メギドラ】に比べれば!!」

 

「!?ドラゴンちゃん!」

 

ドラゴンのブレスを文字通り割り、そのままドラゴンを貫くが直前にジャンヌが回避を命じたことで貫き破壊した箇所は左腕と左羽までに留まってしまった。それに割れたブレスが周囲にあった遊具や塀、木々を蒸発させて公園の外の建物も吹き飛ばされてしまっていたが・・・市長には是非隠蔽作業を頑張って頂きたい(白目)

 

「今のは・・・ロンギヌスの槍ね?」

 

「さぁてな・・・!?トキか!」

 

スキルの反動で動きが鈍った俺にトキが【闇討ち】で迫るが先ほどと同じように受け止めるが、受け流すには至らず連続攻撃を聖槍で受け止め続ける。【猛反撃】で向こうもダメージを負うが怯むこと無く攻撃を行ってきておりダメージレースでは負けているだろう。

 

「攻撃直後ならと思ったが・・・やはりガードが堅いな。だがこのまま削り切る!」

 

「ちょっま!?嘘だろ!」

 

「ならば私はジャンヌを抑えるとしよう」

 

俺達の攻防の横でフィネガンもトキと同様先ほどの攻撃の影響を受けなかった為ジャンヌに殴り掛かり受け止めた聖剣と金属音を響かせ合う。

 

「いやーまさかブレスを割られるとは・・・部位欠損共なると再生にMAGを結構持って行かれるのだけど」

 

「ほう、ならばあの禁手もそう長い間保せられないのではないか?」

 

「うーんおじさんの言う通りね。だったらこんなのはどうかしら?祝福の聖剣よ!」

 

エクスカリバーを輝かせ、俺の様に力を引き出すと何と瞬時に再生が行われドラゴンが復帰する。そしてその爪がフィネガンに振り下ろされる。

 

「何!?ぐううう!」

 

流石に予想外だったのか咄嗟に身を翻すも回避しきれず爪の一つが胸を抉る様に切り裂かれ血が飛び散る。

 

「祝福の聖剣は十字架や聖水、聖なる儀式の力を大幅に引き上げることを可能とする。禁手と違って戦いでは使わずにペテロの十字架用に温存していたけど・・・流石に舐めすぎてたわね」

 

「力の引き上げ・・・そういうことか!?」

 

「勘が鋭いわねおじさん。その二つ程じゃないけど"聖なるもの"の括りにあるものなら強化も可能よ。、元は神器産の聖剣であるドラゴンちゃんも強化出来るし、聖剣同士の共鳴による強化も重複するわ!」

 

「「え、マジで(本当か)!?」」

 

その言葉に鍔迫り合いをしていた俺とトキも反応する。うわマジでドラゴンのオーラが凄まじく上がってる!あれ以上とか流石に相殺しきれないんですけど!?

 

「ドラゴンちゃんさっきの攻撃を倍返しにしなさい!」

 

「いや、どう見ても倍返しじゃ済まないじゃねーか!トキ、対処に付き合え!」

 

「断、ってなぜ身体を抑えるやめろ狩谷も巻き込まれるぞ!?」

 

「どうせ巻き込まれるなら道連れだバーカ!嫌だったら協力しろ!」

 

「こ、この・・・!後で覚えておけ!」

 

光弾を連続で吐き公園を破壊しながら先ほどの倍以上のスピードで迫るドラゴンを尻目に取っ組み合いを行い、目論見通りトキを道連れにドラゴンと戦うことに成功する。戦場の主導権はジャンヌが握ることになったがMAGの消費が激しく、また打てる手は全て打ってしまっていて後がない。フィネガンもダメージが重く回復アイテムを用いても完全には回復しきれないでいる。まだまだ決着は付かないと俺も含めた四人はそう思っていたが・・・そう時間を置かずとあるイレギュラーが加入することになるとは誰も思わなかった。

 

 

 

狩谷達が戦う公園を遠くから見つめる大男が携帯端末に偽装した通信用の魔術礼装で会話を行っている。

 

「目標を視認した。もう間もなく交戦に入る・・・ふむ、目標の他に各組織の幹部クラスの実力者か」

 

公園で交戦している人物の特徴伝え、通信越しの相手から情報を貰った様だが些かも戦意が揺るぐことが無い。

 

「情報提供は感謝する。だが問題ない、私は聖人であると同時に神の右席(・・・・)でもあるのだから」




読了ありがとうございました!今回は禁手回でしたね・・・え、最後に出て来た奴の方がよっぽどバランス・ブレイカーだって?まぁ・・・うん多分未だかつてないほどの無双を見せるかもしれないねこのキャラは。

祝福の聖剣
ペテロの十字架をメシア教の概念に染める儀式のブースターやその後十字架自体のブースターとして日本での支配領域を大幅に増やす為に持ち出された。使い手であるジャンヌも支配の聖剣捜索の為日本に来ていたので都合が良かったのだ。因みにこれが成功していれば原作の効果範囲の軽く十数倍の範囲がメシア教の領土となりメシア教に都合よく物事が展開していく地獄絵図になっていただろう。そもそも何でメシア教がペテロの十字架を奪取出来たのかは次回触れます。


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戦乱の五重奏

第二十八話となります!この作品はノリと勢いと思いつきで成り立っています。


ジャンヌ・ダルクの禁手である断罪の聖龍を俺と(巻き込んだ)トキとで攻略することになった訳だが、基本はトキが罠や【鎧通し】で動きを止めつつ防御力を下げ俺が壁役と攻撃役に徹するというシンプルなものだ。初対面で精密な連携とか無理だからな。

 

「よ、は!ちょ重!?」

 

四苦八苦しながら聖竜の攻撃を受け流していく。唯の物理攻撃ならダメージはないのだが質量が大きい分ふっとばされかねない。そして攻撃の中に【白龍撃】を時折混ぜて打ち込んでくるので唯でさえ質量の差故に難易度が上がっている聖槍での受け流しも一苦労だ。

 

「ぬぬ…!な め る な ーー!」

 

一際大きい音を響かせて聖竜の身体にもヒビを入れる程の力で相手の身体を仰け反らせる。

 

「隙きが出来た!トキ!!」

 

「分かっている!」

 

聖竜が体制を立て直す前に俺の背にいたトキが飛び出し、小柄な身体と高い敏捷性で聖竜全体を飛び回って【鎧通し】で切り裂き防御能力を下げて行きながら極細のワイヤーでまるでイリナのように雁字搦めにして動きや移動を一瞬だが制限してくれた。

 

「よっしょぶっ壊れろ!」

 

【チャージ】【ダークエナジー】【物理ギガプレロマ】【物理サバイバ】【ミナゴロシの愉悦】【武道の素養】【初段の剛力】【二段の剛力】【三段の剛力】【物理プラーナ】【物理アクセラ】【鬼神楽】

 

多数のスキルを合わせた一撃を放ち、見事聖竜を半壊…とはいかない。

 

「ダメか」

 

「また再生か!?半壊させても復元するとはスゲーな」

 

「でもお陰でMAGはカツカツになったけどね!」

 

「っと!回復はまだ完全に終わっていないじゃないのか?」

 

「そうね、でもこのままだと聖竜の再生が追いつかなくなりそうだから止めに来たわよ!!」

 

後方で回復していたジャンヌが炎の聖剣で斬り掛かって来たので迎撃すると、再生が完了した聖竜がワイヤーを引きちぎりジャンヌの援護に入る。一人と一体の連携は手慣れていて互いの攻撃の邪魔はせずこちらの攻撃は再生出来る聖竜が自ら盾となり主人を守っている。

 

「うわ連携されると更に面倒臭い!」

 

「お姉さんとしては褒め言葉っと危ない!トキちゃんも積極的ね」

 

「そうさせたのはそっちだろ!狩谷この聖女の相手は私がする。お前は聖竜を押さえろ!」

 

「了解連携が巧みな奴はバラすに限る!」

 

デカブツよりも対人型戦闘の方がトキは得意そうなのでジャンヌは任せても良さそうだ。ならこちらの仕事もしないとな!

 

【チャージ】【ダークエナジー】【物理ギガプレロマ】【物理サバイバ】【ミナゴロシの愉悦】【武道の素養】【初段の剛力】【二段の剛力】【三段の剛力】【物理アクセラ】【ジャベリンレイン】

 

聖槍から放たれる光の槍の数々を上空に放つと同時に突貫。拳銃を構え装填されている重力弾の半数をばらまくがトキに使った時にその脅威度を知ったからか優先して回避する様に設定されているようだ・・・しかしそれは囮だ。躱し切った直後、すぐさま回避行動が出来ないタイミングで【ジャベリンレイン】が次々と上空からヒットし、地上に落とす。先に上空に放ち放物線を描くように着弾までの軌道を設定することで一人時間差攻撃が可能になる。

 

『グオオオオ!?』

 

苦痛を訴える声を聞き流しながら残った半数の重力弾を使い切り動きを止める。

重力弾の囮と【ジャベリンレイン】による牽制で地面に落とし、残り半数の重力弾で地に縫い付けるというのが今回の作戦だハメ殺し気味だが勝てばいいんだよ勝てば。とはいえ重力弾は本来のグライ系の魔法程効果時間は長く無い。早々に決める為念の為リロードを済ませてから再び走り聖槍を突き立てようとするが

 

「ほう、首だけでも動かせたか!」

 

こちらを睨む聖竜は首と口をギリギリで動かし聖槍を受け止めたのだ。神器で作られたとはいえただの聖剣とエクスカリバーの一振りを材料にしている聖槍には明確な格差があり、噛み砕くことは出来ないが純粋に力では聖竜の方が上なので身体をほぼ動かせない状態でも拮抗状態になってしまった。

 

「意地を見せたか、聖剣の紛い物でもドラゴンってことだな・・・だが残念俺は"魔法戦士"なんだよ!」

 

【コンセントレイト】【万能ギガプレロマ】【万能サバイバ】【初段の賢魔】【二段の賢魔】【三段の賢魔】【メギドラ】

 

聖槍の穂先から最大火力の【メギドラ】を聖竜の内部に解き放つ。

 

『ーーーーー!?』

 

「ドラゴンちゃん!?」

 

「余所見をするな!」

 

聖竜は唯一動かせる首が暴れ口からは万能の光が漏れでている。ジャンヌも流石に焦っているようだがトキの攻撃の対処で動けていない。後は聖竜の再生力とこちらの【メギドラ】の持続火力との勝負だ。そして俺は望む所とばかりに自身の身体に漲っているMAGという燃料を容赦なく聖槍に注ぎ込み【メギドラ】を維持する。

 

「俺のMAG量を舐めるなよ?伊達に距離が離れているのに造魔含めた仲魔五体にMAG配給しながら戦闘してないんだ!!!」

 

理由は分からないが俺はMP量はそこそこある程度なのだがMAG自体の量は同じ転生者から見てもかなり多く、自然回復も早いらしい。その為それなりの距離が離れていて仲魔の数が多くてもMAGの配給や指示は問題なかったりする。実際俺は今まで体力切れはあってもMAGが枯渇したことは今まで無かったしな・・・その膨大なMAGを一点集中で込めているのだ再生のスピードよりも破壊速度が勝っている。

 

「そのまま寝とけ!!」

 

内側から聖竜が崩れて行く感覚が分かる。再生のスピードを上回る為には聖剣由来の頑丈さも攻略しなければならないが、やはり外側は兎も角内側は脆くなっているようだ。聖剣で出来ているのにこんな弱点があるのは恐らく生物、しかも幻獣の頂点たるドラゴンの形を取ったことによって出来たのだろう。古今東西の神話や伝説で『外側から攻撃が効かないから内側から攻撃する』というのは良く描写されている。特にドラゴンなどの超常の存在ならそれが顕著だろう。俗に言う神話再現だがこればかりはやられる側は対処が難しい・・・最もこれが純度100%の科学の巨大ロボットなら神話再現も糞も無いので内側も丈夫に作っておくだけで解決するのだろうけど。

 

「それでも竜殺しの力とかの直接的な要因の方が有効だけどな」

 

そんな要因もあって聖竜を内部から崩壊させ粉砕させることに成功した。引き付けてくれたトキには感謝『兄さん!!二人の後ろ!』え?

 

「・・・これは不味いかしら」

 

「漸く余裕を崩したか、狩谷畳み掛けるぞ!・・・どうした狩谷!?」

 

「あら?」

 

トキとジャンヌがこちらに振り向くがお前らが向くべき方向はこっちじゃねー!!!

 

「二人とも後ろだ!!」

 

「「っ!?」」

 

咄嗟に二人が後ろを振り向く・・・そこには俺も折紙から知らされて初めて気づくことが出来た巨大なメイスを持つ大男が立っていた。

 

「気づいたか、だが・・・遅い!」

 

「やらせ、ガハ!」

 

「何!?」

 

大男が武器を振るう。ジャンヌは即座に無数の聖剣で壁を作るが容易く粉砕されトキを巻き込みながら吹き飛ばされる。

 

「糞が!!」

 

【物理無効】を持つのでダメージは無いが二人を受け止めた衝撃は受ける為聖槍を地面に突き刺し勢いを殺そうとするが、殺しきれずそのまま壁に衝突してしまう。

 

相手は当然即座に追撃を掛けようとするが、その前に銃撃され銃弾を回避する為に追撃を中断させられた。

 

「・・・ほう、ファントムソサエティはネオベテルに味方するのか?」

 

「そんなことはない。ただ急に勝負が外野から台無しにされるのも気分が悪い」

 

「フィネガン!?・・・助かった」

 

「気にするな元々お前の銃と弾だ」

 

そう言うと拳銃を投げて寄こしてくれた。ああ、なるほどさっき受け止める時に咄嗟に手放してしまっていたのか。

 

「二人の様子はどうだ?」

 

「トキはお面が半分割れているが直撃を受けていない分まだマシだ。酷い打撲と骨にひびが入っている程度だな。ただ直撃を受けたジャンヌはヤバいな・・・辛うじて意気はしているが両腕は砕けている。臓器もいくつかやられてるな」

 

不意打ちとはいえ一撃でこれか・・・

 

「流石は神の右席と言った所か」

 

「本当だよ。しかもよりによって神の右席の中でも厄介な奴が来やがったしよ」

 

「ほう?この極東でも名が知られていたか、有名になるというのも困りものだな」

 

「仕方ないだろこの業界は情報が命なんだから!」

 

「なるほど最もな言い分だ」

 

【超人 ウィリアム=オルウェル Lv75】こと後方のアックア

 

「ローマ正教のリアルターミネーターが何のようだ?」

 

「ターミネーター?・・・ああ、映画の方か」

 

「そうそう」

 

言うまでもないがこの世界のターミネーターシリーズも【俺ら】の誰かが作ったのだろう。・・・あれ?

 

「知ってんの?」

 

「現在のローマ教皇はサブカルチャーに理解が深くてな。教義だけでは無くそれらも布教しているのだ」

 

「「ええ・・・」」

 

俺とフィネガンは軽く引いてしまった。何者なんだその進んだ教皇は

 

「要件は二つだ。一つはペテロの十字架の回収だ」

 

「まぁそうだろうな。というか返すだけなら別に「やめて置け、メシア教が盗み出したのも使用される素振りを見せたからだ」ダメじゃん!」

 

「まさか司祭クラスにも間者がいたとはこちらとしても迂闊だったがな」

 

「ということはもう処理したんですね?」

 

「当然だ」

 

動きが早いな。しかしローマ正教に使われてもヤバい代物なので返せないよ。というかこんな色々悪用されるなんて元々の持ち主のペテロさんに謝れ

 

「それで二つ目は?」

 

フィネガンが続きを促すと視線を俺に向ける・・・ん?

 

「二つ目・・・といいつつもこれが第一目標になるけだが」

 

え、そうなの?ペテロさんは次いでかよ!

 

「"神殺し"である貴様の討滅だ。神木狩谷」

 

ほうほうなるへそ・・・あれ?何でバレてんの???




読了ありがとうございました!予告通りアックアの無双シーンをやろうと思ったら聖竜攻略で尺が足りなくなったので本格的な戦闘は次回になります。因みにアナライズをされたとしても折紙の特性お守りの効力で神殺しとは表示されず本人か折紙が直接事情を話すまで偽造された表記になっています。

ローマ教皇
今回ちょっとだけ会話に出た現在のローマ正教のトップ。原作通りの姿で有能、しかも原作よりも魔力などの霊能力は上らしい。サブカルチャー(特に日本のものの)大ファンで、ローマ正教の施設には孤児院に至るまでゲーム機や漫画、ラノベが備え付けられているとのこと。お陰でローマ正教の教徒にサブカルの話をすると喜々として乗って来るらしい。因みにアックアは根っからの教徒ではないのでは無い為サブカルチャーの理解度は有名どころ以外は低いがその中で好きな作品は「アンパンマン」らしい。


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神殺しと後方の守護者

第二十九話となります!細かい戦闘描写は今だに苦手です


「"神殺し"だと?」

 

フィネガンが訝しむ。この世界に置いて神殺しとは安い二つ名ではない。低級の土地神の悪魔を倒して程度自称するのであれば周りからは嘲りと冷笑を返されるのが落ちだ。そう名乗るからにはそれ相応の格の神の悪魔を倒さなければとてもではないが名乗れない。

 

「ああ、とは言っても聖ロンギヌスなどの世間一般的な神殺しとは根本的に異なるがな」

 

「世間一般的な…神殺しなど、あって堪るか!」

 

「トキ!動けるのか?」

 

「かろうじて…っ!?」

 

トキの方は目を覚ましたが腕を中心に骨に罅が入っている為起き上がろうとすると苦痛に顔を歪める。

 

「無理すんな。そんでアックア、何で俺が神殺しということになるんだ?」

 

なぜ俺が神殺しであるかことを知られている?内通者がいるとしても折紙は論外、ネオベテルの者が売ったとも考えられない。ライネスも知っているのは転生者のことまでで神殺しのことについては知らないはずだ。そもそも売ればどうなるか理解出来ない彼女ではない。

 

「・・・どうやら貴様は"神殺し"というものを完全には理解していないようだな。問答無用に叩き潰してもいいが、殺される理由くらいは教えてやる」

 

あ、教えてくれるんだ。問答無用でやられるかと思ったがやっぱそんなことするのはメシア教くらいなんだな。

 

「今から数ヶ月前とある大天使が本霊ごと消滅した。かの大天使はメシア教に着いていたとはいえ元々は同じ教えを受けた宗教組織だその消滅は我々ロシア教会からも観測で来ていた」

 

「そこでわーい敵が減った!・・・とはならないと言うのはまぁ分かる」

 

強力な力を持った悪魔が本霊ごと殺されたのだ。観測出来たのなら調査しない方がバカだと思う。アックアは俺の言葉に頷いて話を進めて行く。

 

「当然原因の調査が開始された。しかしメシア教の施設をネオベテルが襲撃した所までは直ぐに判明したがそちらが上手く隠滅したのかその施設が跡形も無く消失していたのでな。流石に材料が何もない状態では我々と言えどもそれ以後の調査は難航していた」

 

「あーうん、なるほど」

 

折紙がうっかりやっちゃった奴ですね・・・そりゃ何も残らなかったからな調査も難航しますわ。調査班の人達はさぞ頭を抱えたことだろう。

 

「だが調査班の努力により如何にかその襲撃作戦に関わっていたネオベテルメンバーの素性掴むことが出来たのだ」

 

「え、普通に凄い」

 

「ローマ正教の調査能力はメシア教を上回るという噂は本当だったようだな」

 

「・・・それで何故この男が神殺しだと分かる?」

 

俺とフィネガンは純粋に褒めるがトキが話を元に戻して来れる。トキってツッコミ体質なんだな

 

「初めはただの消去方だ。他のメンバーは貴様よりも有名過ぎた」

 

 

なるほど、事前知識のあったネオベテル幹部周回ネキと神父ニキ、テンプルナイトの皆さん、イリナ達聖剣使いを候補から外すと確かに俺と折紙しか候補に残らないか。

 

「そうやって俺と折紙を割り出したのはいいとして良く俺だと分かったな?」

 

「それほど難しい話でもない。神殺しとその加護を与える悪魔・・・貴様の義妹は後者なのだろう?」

 

「な、いやそうかもしかしてメシア教側にもいたようにローマ正教側にもいるのか?」

 

「察しがいいな。我々が曲がりなりにもメシア教に次ぐ規模の一神教組織でいられるのも"大天使"の助力があってこそだ」

 

ローマ正教側に着いた大天使が居たのか・・・まぁ戦力だけなら神の右席だけで十分の様な気もするがただ戦闘力が高いだけでは勢力は維持できないだろうしな。マンセマットの様に大天使クラスなら折紙の隠蔽も看破して真名が分からずとも高位天使の転生体だと見抜けるのだろう。

 

「・・・割り出したのはいい、それが何故狩谷の排除に繋がる?」

 

腕の中のトキが無理矢理上体を起こして睨むように訪ねる。確かにここまでなら利用しようとはしても排除する理由にはなりそうないが。

 

「先ほど言った通りだ。貴様は神殺しの力を真に理解していない・・・かの大天使マンセマットを滅ぼした日。メシア教では御使堕し(エンゼルフォール)と呼ばれている事象として記録されている」

 

「マンセマットを滅ぼしたから御使堕しか」

 

「それだけではない、貴様も知っている様にマンセマットはメシア教側に精力的に協力していた。当然分霊として多数の天使達を生み出しその総数はメシア教が保有する天使の戦力の一割に上る。加えて天界にいる天使達も含めると更に数は増えるだろう」

 

一割というとメシア教の規模からするとそれでも万は行きそうだな。生み出し過ぎだろあいつ・・・あれ?でも本霊が死んだら分霊って・・・あ

 

「まさか・・・!?」

 

フィネガンも気が付いたようで驚愕の表情でこちらを見る。トキはまだ理解出来ていない様で困惑している。

 

「そうだ"御使堕し"とは大天使マンセマットの消滅から端を発したメシア教天使戦力の1割を占めるその分霊の天使達の殆どが地上天界にいた個体問わず消滅した事件を指す呼称だ」

 

「・・・マジか」

 

開いた口が塞がらないとはこのことである。そりゃ殺しに来るわ、危なすぎるもん。

 

「納得したようだな。幸いマンセマットの分霊は皆メシア教に着いていた為今回は被害の大部分は免れた。しかし天界の混乱は一神教全体に波及する問題。加えて貴様は神殺しだ。背後にいる悪魔・・・天使の意向によってその槍の穂先を向ける相手を変えることはあっても納めることは出来ない運命にある」

 

つまり俺か折紙の意志次第でいつでも俺は終末要因になれるということである。他の神話の悪魔達にも有効だからね神殺しは。個人の感情で終末要因になりえて悪魔では無く人間が対処しないと摘むとかなんだこの危ない奴(自己紹介)

 

「あーうん、取り敢えず俺を殺したい理由は分かったよ。信用して欲しいけど付き合いが無い相手を信用しろとか無茶だしな」

 

「理解感謝する。だが大人しくやられるつもりはないようだな?」

 

「当然だ。アンタらが俺を殺す理由はあっても俺が生きることは諦める理由(・・・・・・・・・・)は無いからな!」

 

「なるほど確かにそれは当然なことだな」

 

俺が苦笑するとアックアの顔も僅かに笑みを作る。何となくだが悪い奴ではなさそうだ・・・出会い方によっては友達にも成れたりしてな

 

「御三方、ジャンヌは倒れてるから御二方はどうする?」

 

「戦力的には撤退だが・・・ローマ正教の元に戻ったとしても都市圏でペテロの十字架が使われることに変わりはない。プロというのは辛いものだな」

 

「私はペテロの十字架の奪還もしくは破壊の命令を果たすだけだ!」

 

「お、おう」

 

フィネガンとトキの覚悟ガンギマリ具合にドン引きしてしまう。あいつ相手にも撤退出来ないとかヤバくね?やっぱネオベテルが一番だぜ!

 

「まぁこちらとしてはありがたいがな。そんじゃ折紙頼むぞ!」

 

【回復ギガプレロマ】【魔術の素養】【ディアラハン】【ラスタキャンディ】【テトラジャ】【バリア】

 

俺が妹を呼ぶと俺とフィネガン、トキに回復と補助魔法が掛かる。トキは骨に罅が入っていたがこれで完治したことだろう。

 

「ほれ、こっちも援護してやるから協力頼むぜ?」

 

「いいだろう」

 

「成功率はその方が高いか」

 

2人の了承を確認するといの一番に突撃を開始する。

 

 

 

 

ジャンヌを除いた狩谷、フィネガン、トキ対アックア戦。その経過は当たり前というか一方的なものになっていた。

 

正面はスピードと武器での受け流しに長けている狩谷が抑えている。しかし圧倒的なレベル差にスピードは補助を貰っても如何にか五分五分、受け流しも完璧には出来ておらずダメージが蓄積していく。当然防御に徹している為攻撃などしている暇はない

 

「当たり前の様に【物理貫通】持ちかよ!」

 

「昔ギリメカラと交戦したことがあってなそこで修得した」

 

「ギリメカラを倒したのかよ!?」

 

「残念ながら死闘を終えた後での修得だ。当時は微妙な気分になったものだ」

 

アックアが余裕そうに対処していると俺の防御の邪魔にならないようにフィネガンが隙間から【ショートジャブ】、【電撃裏拳】で細かく攻撃を加えようとするが、フィネガンの拳をアックアは片手で受け止め握り潰そうと力を込める。もう片腕で狩谷に攻撃を加えているのだから文字通り赤子の手を捻っていると言える。

 

「良い拳だ。だがキレはあってもパワーが足りん」

 

「純粋な握力で。これか!」

 

ミシリとフィネガンの拳の骨が軋むが潰される前に両手が塞がっているアックアの背後から首筋に向けてトキが攻撃するがアックアは両手はそのままに片足の回し蹴りでトキを吹き飛ばす。

 

「っあぁ!?」

 

「トキ!?感知能力も高いなおい!」

 

「一瞬とは言え片足だけで私達の攻撃も微動にせずか!」

 

しかしお陰で手が緩んだのかフィネガンの拳が引き戻される。トキも壁に衝突するがすぐに折紙の回復が入り即座に立ち上がる。

 

「すぐさま立て直して来るか」

 

「これがなかったら俺達とっくに倒れてるけどな!」

 

取り回しを重視して狩谷は聖槍を聖剣モードに移行、片手の拳銃を構え銃撃で牽制し斬り掛かろうとするが銃弾はアックアの魔術で公園内の噴水の水を操作し受け止められる。

 

「弾丸一つ一つを水球で受け止めた!?」

 

「霊装である銃も中々侮れん。ただ水の膜を張るだけでは乱射されると破られてしまうからな」

 

「これアサルトライフルとかじゃなくて拳銃何ですけど!!」

 

「弾丸に弾丸をぶつけて加速させて攻撃する芸当をしてくる者もいるのでな。用心というものだ」

 

「いや、そんな奴早々いなギャフン!」

 

ツッコミの途中で急加速してきたアックアに対応出来ず咄嗟に盾にした聖剣ごと打撃と刻まれているルーンの爆発で吹き飛ばされるがこう見えても修行時代は巫女さん、現在は折紙に吹き飛ばされて来たのだ。狩谷は身体が吹き飛ぶことには慣れている為空中で身体を回転させて体勢を立て直して着地するとアックアも着地するタイミングを狙って鉄をも穿つ水の散弾を放つ。

 

「【マカラカーン】!最近相手しているのが主攻撃が大概貫通してくる奴ばっかだったから久々に使ったわ!」

 

「運がないな貴様も」

 

フィネガンは拳で迎撃し、トキもその小さな身体を利用して遊具などを遮蔽にして散弾をやり凄す。因みに跳ね返した魔法は巨大メイスでかき消されている。

 

「にしてもやっぱ真っ向から受けると力負けするなこりゃ」

 

「攻撃力、防御力、スピード。どれも抜きんでている。策が無ければどうにもならんぞ?」

 

「つっても俺の神殺しは人間相手にほぼ意味無いしな」

 

「お前が使っていた【メギドラ】はどうだ?」

 

「銃弾でも反応されるんだ。俺の【メギドラ】じゃ魔力を感知されて回避に徹せられたら簡単に回避されちまう」

 

折紙の様なバカ広い範囲攻撃なら回避しても巻き込めるが狩谷では無理だ。

 

「だが・・・攻めないとやられるのも事実か。少し耳かせ」

 

狩谷がトキとフィネガンに作戦を伝えると驚かれた・・・というか引かれた。

 

「いいのか?」

 

「正気かお前は?」

 

「おいおい何言ってんだよ御二方、デビルサマナーなんてやってる奴が正気な訳ねぇだろ」

 

霊能力者自体正気な人間がどれだけいるのか?というのは聞いてはいけない。




読了ありがとうございました!御使堕しで消滅を免れた個体もいますが神殺しの性質上より本霊であるマンセマットと繋がりが深い、つまり強い個体程逆に消滅を避けることは出来ないので生き残ったのもエンジェルなどの下級天使達です。とはいえ咄嗟に自身が他の大天使も作り出せる量産型の天使であることを逆手に取って本霊を別の大天使の本霊に変更するという機転を働かすことが出来た個体などで普通の下級天使よりは使える個体です。


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聖人は聖人である前に人間である

第三十話となります!今回ウィリアムがあんまり無双出来なかったな、まぁ今回の攻略法を思い付いちゃったからだけど。


作戦の伝達も完了。まぁ当たり前のように引かれたが仕方あるまい、俺だってこんな作戦やりたくはないのだが相手が強すぎるので仕方がない(・・・・・・)のだ。若干憂鬱になるも懐から取り出したものを口に放りこんで気分を変える。うーんやっぱミント味は頭がすっきりするな。

 

「作戦会議は終わったか?」

 

「ああ、待たせたな。少し付き合ってもらうぞ!」

 

俺が真ん中、フィネガンとトキが左右から挟撃する形となる。それをアックアは取り回しにくいはずの巨大なメイスで捌いて行く。

 

「無駄だ。即興の連携で崩せるほど私の防御は甘くないのである!」

 

突如として地中から水柱が噴き出す。地中に水を染み込ませていたか!当たれば痛そうだが派手な分躱し安いがこちらの逃げ場は少なくなっていく。

 

「ふん!!」

 

「まぁそう来るか!【メギドラ】!!!」

 

案の定こちらの回避ルートを絞り込み急速に接近してくるアックアから逃れる為いつもの色々マシマシの最大火力では無く威力は小さいが即座に放てる様に調整して発動させ水柱を幾つか蒸発、霧散させることでスペースを作りそこに飛び込むことで如何にか回避に成功する。別にアックア本体に当ててダメージを与えることに固執しなげれば【メギドラ】にも使い道は出て来る。アックアも直ぐ追撃に移ろうとするがすぐそばに迫っていたトキとフィネガンの連撃の対処で一瞬足を止める。

 

その隙に聖剣を聖槍モードに移行、そして【ゴルゴダの突き】の準備に入る。手元の聖槍を土台にロンギヌスの槍のレプリカが形作られる。対神兵装はそのまま神の力を用いる対聖人兵装としても機能する。当然アックアとしては捨て置けず多少ダメージを負ってでも無理矢理振りほどきこちらに再度接近される。

 

「その技はやらせん!」

 

「ダメか?OKならやめてやろう」

 

「何!?」

 

アックアが最接近したタイミングでロンギヌスの槍を構成するエネルギーをわざと狂わせ暴走させる。アックアも巻き込まれたがまぁ所詮これはあくまで目くらましだ。咄嗟に防御した様だし軽い火傷で済むだろう。俺は聖槍を手放さない様に握っていたので【火炎耐性】のお陰で火傷は負っていないがエネルギーの拡散の影響で両腕の皮膚がめくり上がって筋繊維がむき出しになっているけど。とはいえこれからやることを思えばまだまだ軽傷(・・・・・・)だろう。

 

「そんじゃよろしく!」

 

「・・・OK!お姉さん頑張っちゃう!」

 

俺の言葉に応える声にアックアの意識が僅かな驚きと共に応えた人物に割かれる。その隙に直線状から外れる様に移動すると直後に背後から聖剣の剣山が迫る。

 

「メシア教と協力だと!?」

 

「悪いが俺は有用なら基本何でも使う主義だ」

 

まぁこの性格のお陰で悪魔の本霊達に色々干渉されている節はあったりする。聖剣を生み出しているジャンヌとはアックアに交戦する直前に既に協力させるつもりだった。折紙に念話で回復も頼んでいたがメシア教と協力するというある種の不意打ちを狙う為に回復も少しづつ行い、ここぞという時に動いて貰おうと考えていたのだ。そして最初に倒れたジャンヌを降ろす時に実は意識だけは保ってることに気付きこの話を伝えた後、詳しい作戦は先ほどの伝達時にすぐ後ろに倒れていたジャンヌにも聞かせていたのだ。俺が先頭になって戦っていたのもジャンヌのことを隠す為でもあった。しかしここで問題が一つ。

 

「だが聖剣など叩き折るまでのこと!!」

 

アックアもメシア教と組むことは読めなかったようだが、倒れていたジャンヌにも警戒率は低くても注意を怠っていなかった。即座に巨大なメイスを振り抜き迫って来る聖剣の剣山を叩き折ろうとする・・・ああ、実に予想通りだ。

 

 

 

 

聖剣の剣山があのおじさんのいた位置に到達する。やっぱり私にも注意を払ってたみたいね、抜け目ない人・・・でもそんな用心深い人程この策は有効なのよね。

 

「な・・・」

 

「おう、どうした・・・さっきから・・・驚いて・・・ばっかだぞ?」

 

アックアが言うには神殺しである狩谷ちゃんはほくそ笑んでいるけどこの状況で笑えるとか私でもビビるわよ。"巨大メイスの攻撃を防御して聖剣の剣山を守って自分ごとアックアを貫かせる"なんて普通の頭で思いつかないわよ。

 

「流石聖女だ・・・良いコントロールだった」

 

「口から血を垂らしながらお礼を言われても怖いだけよ?一応受け取って置くけど」

 

律儀にお礼を言う狩谷ちゃんが貫かれている箇所は私がコントロールして急所は外している。私の腕なら狩屋ちゃんを躱して攻撃することも出来たけどここで重要なのはアックアに対応をさせないこと。それを味方ごと貫いたことに対する驚きとギリギリまで聖剣が狙っている場所を悟らせないことで解決した。直前に狩屋ちゃんが聖剣を躱す様に見せかけたのは今は私と狩屋ちゃんが協力関係にあることを印象付ける為。私達が同じ組織なら必要の過程なのだけど敵対組織同士だから狩谷ちゃん達ごと倒すこともおじさんなら想定してそうだからワンクッション挟んだという感じね。

 

「何故この様なことを・・・?」

 

「そりゃ・・・お前が悪魔では無く、かと言ってどこぞの悪魔の実の能力者とか某怒り王子とかじゃなくて・・・肉体に関してはせいぜい"頑丈な肉体"程度でしかない人間だからさ」

 

・・・例えは良く分からないけど言った通りアックアは人間。神の右席とか聖人とかあるけど悪魔や特殊な性質のある肉体という訳でもない。頑丈なだけの人間なら各種属性を揃えた聖剣である特定の場所を貫くことは出来る。そう、例えば腕と足の関節を貫いて動きを止めたりね。

 

「お前は人間だ。骨格も当然人間のもの・・・だったら骨格的に動けなくなるように関節を縫い留めればいい!」

 

おじさんは今身体は動かせない、聖剣で押し出されて今は宙に浮いてる状態だから踏ん張ることも出来ないはず。まぁおじさんがどんな耐性持っているか分からないから狩谷ちゃんも物理属性特化の聖剣以外には貫かれちゃってるけどね。

 

「だが貴様自身もダメージを、いや明らかに私よりも重症だろ!」

 

「格上の動きを止められるなら十分アドは取れてるさ」

 

「く、まだだ!」

 

「水が集って!?」

 

公園中の水を集め自分ごと押しつぶす気!?おじさん自身も無傷じゃ済まないけどこの状況よりはマシってことね。

 

「おっと私達がいることも忘れて貰っては困る」

 

「そう簡単には通さん!」

 

「く、やはりそうなるか」

 

激流をフィネガンのおじさんとトキちゃんが真正面から潰する。自由動ける二人狩谷を守るガード役になっている。後は狩谷ちゃんが決めるだけだけど・・・防御に入る時に片手でも扱いやすい様に聖剣に戻しているのは抜け目ないわね。

 

「こっちもキツイ、そうそうに決めさせて貰う!」

 

【チャージ】【ダークエナジー】【物理ギガプレロマ】【物理サバイバ】【ミナゴロシの愉悦】【武道の素養】【初段の剛力】【二段の剛力】【三段の剛力】【物理プラーナ】【物理アクセラ】【絶命剣】

 

強烈な斬撃がおじさんに直・・・ってあれは防御魔術!!聖剣同士の共鳴による威力の増強で今の状態でも十分な威力が出ているはずなのに!

 

「これは・・・ルーンか。多少肩に刃が食い込む程度か」

 

「この国では備えあれば憂いなしと言うであろう?」

 

「てっきり舐めてるかと思ってたぜ」

 

「敵の戦力に応じて準備するのと、舐めて準備を怠るのとは天と地ほどの差があろう」

 

これは不味いかしら・・・狩谷ちゃんも長時間あんなこと出来ないだろうし、その前におじさんが脱出しそうというか私のMAGが持たないわね。狩谷ちゃん以下の火力の二人だとルーンの防御は抜けないからこのままだと「しょうがないプランBで行くか」え、まだ何か策あったの?

 

 

 

 

 

『折紙、サポート頼むぞ』

 

『・・・了解』

 

あ、メッチャ不機嫌だ・・・後で謝ろう。

 

【絶命剣】をルーンの防御が弱まっている同じ傷に再度放つ、傷が僅かだが深まった。当然俺に刺さってる聖剣が"ズブリ"という音と共に更に深く刺さり出血も多くなる。このままだと不味いがすぐに折紙の回復が入るしかも唯の回復では無く聖剣が肉体の再生に巻き込まれないように傷を塞ぎHPを回復するという中々の離れ業だ。流石は我が義妹、魔法攻撃の方ももうちょっと繊細にコントロール出来るようになって欲しいんだけどな・・・。後はこの繰り返しで一定時間であるがこれで問題無く攻撃が出来るだろう。血に関してはさっきのみ込んだ魔女ネキが販売しているミント味の造血剤で多少は持つはずだ。MAGやMPもまだまだあるので俺はまた【絶命剣】を放つ、両方共傷が深まったが、俺の傷は折紙が回復する。

 

斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る、深まる、回復する、斬る・・・お!

 

「まずは左腕だ」

 

漸く聖剣の刃が通り切りアックアの左腕が切断される。うん、流石聖剣こんな斬り方でも肉や骨の断面が綺麗だ。




読了ありがとうございます!最初狩谷のもう一つの固有スキルが完全発現して対抗する・・・はずだったのですがそんなポンポン新スキルで解決するのってどうなの?とバカなりに考えて居たらこの攻略法が天から降って来ました。まぁこのスキルに関係あるイベントとかは少し先送りになりましたけど。

今回の話

狩谷「せや、身体が伸びたり、バラバラになったり、水になったりしないんだから足を地面から浮かせつつ関節全部貫いて動き封じて防御を壊すまで殴ればいいんだ!皆魔術や回復お願い!あ、左腕斬れた!!」

アックア達「えぇ・・・」

折紙「・・・(# ゚Д゚)」

因みにループに入った時点で現場にいたアックア含めた他4人は目を見開いてドン引きして思考を停止させていたので魔術への対処とか妨害とかやらずに棒立ちしているだけだったりします。


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演舞終幕

第三十一話となります!次話がこの章の最後です。
※エネミーソナーじゃなくてエネミーサーチでした。既に訂正済みです


「ぐうう!!」

 

流石に左腕の切断はアックアにしても激痛だったのか顔を歪める。更に追撃を加えたいのだが。

 

「オオオ!」

 

更にアックアは体内の魔力をわざと暴走させることで刺さった聖剣を粉砕し、俺も吹き飛ばされる。先ほどとは逆にジャンヌとトキに受け止められるが拘束は全て外されてしまった。とはいえ暴走の影響でアックアもそれなりのダメージを受けているはずだ。

 

「いてて・・・如何にか片腕は持っていけたな」

 

「・・・お前は・・・いいや、私が言うべきことではないか」

 

「少しは自分の身体を考えろ!」

 

「はは、確かにお姉さんもあれはどうかと思うよ?」

 

「すまん」

 

敵であるはずの二人からも叱られてしまった。多分フィネガンも似たようなことを考えていると思う。折紙の回復が即座に入るが傷が深い為か治りが遅い、皮膚がめくれた両手くらいはもう治っているが体内のダメージ回復はまだ掛かるだろう。

 

「その狂気的な精神・・・なるほど貴様が神殺しになったのは偶然では無く元から素養があったと言うことであるか」

 

「いや多分それは関係ないから」

 

原作主人公は真っ当に強いからここまでやんないし・・・ルートによっては仲間を皆殺しにするけど。

 

「ならば運命がそう導いたか。いずれにせよ私の片腕を切り落としたことは事実、であれば私としてもそれなりの返礼を返さなければな」

 

「え、えっとお礼だったらそんな魔力を練らずに帰って欲しいんですけど!」

 

俺の心からの叫びはアックアは届かずアックアは跳躍すると滞空時間を魔術により伸ばし巨大メイスを真下に向けると明らかにヤバい詠唱に入る。

 

聖母の慈悲は厳罰を和らげる(T H M I M S S P)

 

「やばいやばい!こっちは迎撃手段もうないんですけど!?」

 

「流石にあれをさっきの激流と同様に相殺は無理だからな!」

 

「聖女!聖剣で防御出来るか!」

 

「無理無理!耐久度が足りないしもう作成する為のMAGが残ってなわよ!!」

 

時に、神の理へ直訴するこの力。(T C T C D B P T T R O G )

 

「MAGが足りない?・・・よしなら俺のMAGを注いでやる!それで禁手化して聖竜を盾にしろ盾に!」

 

「え、ちょダメダメ!そもそも特殊な儀式とかじゃない限りMAGの譲渡とか変換効率もの凄く悪いわよ?100譲渡しても1になるレベルよ!?」

 

「なら100になるように10000くらい譲渡してやらぁ!心臓に近い所の方がいいから襟首出せ襟首!」

 

「流石にそれはお姉さんはずか「トキ、脱がせろ!」え、ちょトキちゃん無言で鎧を脱がせに掛からないで!!ふぎゃん!?」

 

慈悲に包まれ天へと昇れ!!(B W I M A A T H)

 

「よしイケイケ!!」

 

「うう・・・禁手化!!」

 

『グオーーーン!!』

 

聖竜を出現させると祝福の聖剣で強化させるとアックアの元に突撃させ、上空から勢いよく落下してくるアックアの攻撃の威力を減退させたが・・・やっぱり足りないか!

 

「威力減少が良い所か、でも全力回避すれば生き残れそうだが俺もう一歩も動けないな」

 

「お姉さんも・・・貰ったMAG全部使っちゃったし動けそうにないわね」

 

「だよな。トキ、フィネガン逃げるなら今の内ってこれは!?」

 

「結界だと!?」

 

「ほう、かなり強固な結界を三重に張っているのか」

 

このMAGの波動は折紙か!流石は俺の妹!サポートが行き届いてるぜ!!まぁ聖竜は巨大メイスと結界の板挟みにあって大分ひどい事になってるけども。

 

「オオオオオオ!!!」

 

アックアが結界を破ろうと再度力を込めると一層が突破され、二層も多少は耐えたが突破される。

 

「よし、これで何とか・・・何とか!・・・な、なりませんねコレ!?」

 

「最後の結界が一番強固な様だが・・・前二つより保っているが時間の問題か」

 

「はは、流石にここまでかしらね?威力は大分削がれているから直撃しない以上今の状態でも死なないでしょうけどしばらく動けなくはなるでしょうね」

 

「しかしアックアはまだ戦闘可能だろうな・・・先ほど私達二人に逃げろと言っていたがこのことを見越していたのか足を負傷させられている。戦闘なら技術で誤魔化せるが逃亡となると今からでは難しいな」

 

フィネガンが結界越しのアックアを睨み、トキは一矢報いようと短剣を構えジャンヌは祝福の聖剣を杖代わりに如何にか膝を付く。因みに俺はさっきの譲渡でMAGを一度に大量に譲渡したので仰向けに倒れてます。まだMAGの危険域ではないのだが、一度にここまでのMAGを使った事が無かったので思ったよりも消耗してしまっていた。

 

『カリヤ』

 

『折紙か、悪い今回はマジでヤバそうだ。せめて相手が同レベルの悪魔だったな・・・』

 

『問題ない』

 

「え?」

 

思わず口に出してしまった。どう見ても問題しかないんだがどういうこと?

 

『この街にはまだネオベテルの戦力が残っている』

 

え、誰それ?と疑問に思っているとアックアの横から巨大な魔法陣が浮かび上がる。しかし当然アックアも気づいたのか攻撃を中断せずに霊的防御を固めたようで並みの魔法、魔術では妨害も出来ないぞ?

 

『【マッスルパンチ】!』

 

「何!?」

 

「「「「まさかの物理!?というか拳がデカい!」」」」

 

如何にもそれっぽい魔法陣から出て来たのは透明な糞デカい拳だった。圧倒的な質量からの物理攻撃は想定していなかったのか、真横から殴られたこともありそのまま公園のすぐ近くにある民家まで吹っ飛ばされた。あれは召喚陣的なものだったようでアックアを殴った巨人が魔法陣を通って姿を現す。

 

「え、あれゴクマゴクやんけ!?」

 

【地霊 ゴクマゴク Lv60】

 

『ボクヲ知ッテルノ?ナラ話ガ早イネ。ヨロシクー!』

 

「え、お前そんなキャラだっけ?後ネオベテルにゴクマゴク何ていたっけな?」

 

前世での記憶より幼い口調なゴクマゴクに驚きつつも覚えがなく首を傾げる。

 

「それはゴッくんは私の使い魔だからです!」

 

「いや、こんな物騒な使い魔とか普通いない・・・誰!?」

 

「誰じゃないですよ!言われた通り駅で待ってたのに迎えに来てくれないじゃないですか!仕方ないから戦闘に気づいて自力で飛んで来ましたよ!まぁこの状態じゃ仕方ないと思いますけど」

 

迎え?駅で待ってる・・・あ

 

「まさか今日から入って来る新人魔女!?すっかり忘れてた!スーパーに買い出しに行ったのは歓迎会の為だったのに!」

 

「そうですそうです!元【黄金の夜明け団】、現【万神連合ネオベテル・ウルトラスープレックスホールド】所属のルフェイ・ペンドラゴンです!相沢梓さんのご紹介に預かり本日より中野支部に着任しました!」

 

【魔女 ルフェイ・ペンドラゴン Lv37】

 

「組織の正式名称を言うんじゃない、それは俺に効く。あと助けて貰ったからあまり言いたくないけどあんなペット飼ってるんだったら履歴書に書きなさい履歴書に採用したあとに内容と食い違いがあったら事務処理が大変なんだぞ!?」

 

「あ、はいすみません」

 

俺とルフェイがコント地味たやり取りを交わしていると崩れた民家からアックアが姿を表す。

 

「とんだ隠し球が出てきたようであるな。しかし例え片腕を失おうとも戦力差はまだこちらが上である!」

 

「それはそうですが防御に徹したゴッ君は厄介ですよ?私も支援しますし、"足止め"には十分です」

 

「足止めだと?」

 

アックアが怪訝な表情を浮かべると何かに気付いたのかルフェイが飛んで来た方向を見る。その時俺のCOMPのエネミーサーチに反応があった・・・ここに高速で向かってくる反応が3つ?というか内二つは身を覚えがあるぞ!?

 

「この反応、二つは寺生まれニキとアーゼウスか!」

 

「・・・いや、それだけでは無いな。来たかライドウ」

 

「「「「え、ライドウ来るの?」」」」

 

アックアの言葉に俺と敵対組織幹部の三人が素になって驚いてしまう。でも確かに東京都圏内で敵対組織四つの幹部が集ってドンパチやるとか今思えばどう見てもライドウ出動案件だったわ!

 

「万全なら兎も角この状態では厳しいか・・・仕方がないのである」

 

アックアが再び公園に降り立つと落ちている片腕を回収してすぐに姿を消す。まだそんな余力があったのか、いったいどこから不意を打ってくる気だ?・・・・・・・あれ、全然気配しないしエネミーサーチも反応が消えてる。

 

「「「「あ、あいつここで逃げやがった!?」」」」

 

「うわ、決断が早いですね」

 

流石元傭兵。引き際は間違わないってことなのか?取り敢えず俺は助かりそうだ。

 

「まぁお前らは分からんけど」

 

「この状態でネオベテル幹部とライドウは流石に相手出来んな・・・狩谷お前達はあの十字架を使わないのだな?」

 

「そりゃ使わないけど」

 

「よし、ならんば実質任務達成だな!この町に来ているファントムソサエティ全構成員につぐ。これより全部隊帰還する!動けるものを退避しろ!私は逃げる!」

 

「おいプロ!?ガバガバ過ぎるぞ!!!」

 

「使わないのならこちらは何でもいいからな!では失礼する!」

 

部下のダークサマナーが公園に寄こした車の荷台に乗り込み悠然と去って行く。こいつ撤退慣れしていやがる!

 

「あのおじさんもですか、ベテランは判断が早いですね。どうします狩谷さん?」

 

「どうしますって流石にこの身体じゃ車を追えないしな・・・他二人はどうする?ジャンヌは動けないけど」

 

「うーんこのまま帰れても率いた部隊は多分全滅、十字架も取り戻せて無いから下手すれば粛清良くて天使の孕み袋って所かしら」

 

「相変わらずメシア教はそういうのばっかだな!因みに後3分くらいでライドウ達来るけど「投降するわ」ほへ?」

 

「投降よ投降。純粋な生存率の話よ」

 

「殺し合いしていた敵側に投降する方が生存率高いってどういうことなの(白目)」

 

メシアクオリティにドン引きしながら取り敢えず武装を解除させ祝福の聖剣を確保する。拘束するものは持ち合わせがなかったがルフェイが拘束の魔術で捕縛してくれた。

 

「拘束出来ましたよ」

 

「ありがとうルフェイ。で、トキはどうするんだ?ジャンヌと同じく仲間全滅してるけど」

 

「・・・失敗はしている以上唯では済まないだろうがメシア教よりはマシな罰のはずだ。そもそもガイア教は集団より個人の強さに重きを置いている。わざと全滅させたなどと言った場合は別だがあまり重い処分にならないだろう」

 

「そうかそうか、今回は助かったよ。中野区でドンパチやったのは許さんけど」

 

「私が中野区で争いを起こした訳ではないのだがな。そもそも所属も違うし」

 

「あ、そうなの?何処所属なんだ?」

 

「・・・元々は私を実の両親から引き取った双子の老婆が率いる派閥に所属していたが数年前にミロク菩薩が率いるミロク派に吸収されてしまった」

 

「え、よく無事だったな?」

 

「別に相手に殲滅するつもりが無ければ私を含めた強者は自然と生き残るものだ。もっとも吸収した目的は今だに見えないがな」

 

「復讐はしたくないのか?」

 

話終えるとここから立ち去る為俺達に背を向けたトキに復讐について問いかける。だからといってこちらとしては復讐はするなとは言うつもりは毛頭ないが。

 

「ふむ・・・自然とそう言う気持ちは無いな。先ほども言ったがガイア教は弱肉強食、戦いの結果に文句言うつもりはない」

 

「割り切ってるな。もしミロク派がアレだったらネオベテルに駆けこんでもいいぞ?最初は捕虜待遇で歓迎してやる」

 

「ふっ、そうか。なら今度私と会うのが戦場では無くお前達の拠点の独房であることをせいぜい祈っているといい」

 

「敵味方同士が認め合う。いいですね!」

 

俺が笑みを浮かべるとトキも半分に割れた仮面から見える口元が僅かに笑みを作った。ルフェイの言う通り敵同士だとしても一部くらいなら分かり合うことが出来るという事だな・・・まぁ争いを辞められない以上あくまで一部という部分に止まるのだが。そう思いながら"巨大な影を作り二人の青年を肩に乗せたロボット"のいる上空を眺める。

 

 

 

 

「「「え?」」」

 

「お、アーゼウスと寺生まれニキだ。もう一人いるのがあのライドウかな?おーい!」

 

「ば、バカなまだ多少到着まで猶予があったはずだ!」

 

トキが慌てている。彼らが来てしまったのなら幹部クラスのトキと言えども手負いの身で逃走など不可能なのだから当然だ。というかそもそもトキとジャンヌは何でまだ到着まで猶予があると思ったのかね(すっとぼけ)?

 

「あ、もしかして」

 

「も、もしかして・・・!?」

 

「・・・ま、まさかお前!?」

 

三人が何かに気付いた様にこちらを見る。俺はそれを無視してCOMPを再度目の前で開きエネミーサーチを見ながら頭を手で押さえる。

 

「あ、やっべー!激戦の疲れからか到達時間"一分"くらい遅く見積もってたわ(棒)!」

 

やってしまったという表情をしながら自らの失敗を二人に伝える。いやーやっちゃったわー、申し訳ないわー(棒)。やっぱ格上との激戦後は疲労がどっと出ちゃうわー(棒)。

 

「マジですか・・・」

 

「うわぁ・・・流石にお姉さんも軽く引くわよ?」

 

「お、おま、き、きさ、貴様、貴様、貴様ーーー!!!」

 

三人にドン引きされながら、特にトキには詰め寄られるが既にライドウと寺生まれニキはこっちに向かってアーゼウスから飛び降りている。彼女とてこれからのことを考えれば暴力的な行動には移れない。短剣を向けられても刺さなければ気にする必要などないのだ。

 

「いやーさっき祈ったばかりのことがいきなり"偶然"かなちゃったわー!これも日頃の行いがいいからかな?二人共次はネオベテルの施設の独房で会おう!」

 

「か、神 木 狩 谷 ーーーー!!!!!」

 

ジャンヌとルフェイの引き攣った顔を背景にトキの魂の叫びが公園中、いや中野区中に響き渡ったのだった。




読了ありがとうございました!やっぱり逃げる時に脱兎の如く逃げられるのはベテランの証しですよね。次回はこの事件から一週間程経って捕虜となった二人の処分が決まった辺りの話をやります。多分掲示板でも議論になったと思いますが狩谷も人情が無いわけではないのでアックアと共闘してくれたことは話すと思います。

ルフェイ・ペンドラゴン
イリナ達と同じ現地人SR枠の魔女。実の兄であるアーサー・ペンドラゴンも含め概ね原作と同じ経歴だがこの世界では支配の聖剣は兄の手にはない。原作と同じ様に兄を追ったが途中メシア教とひと悶着を起こし、転移魔術で逃亡を図ったがメシア教側が無理に割り込もうとしたので亜空間に飛ばされてしまうがそこは【地霊 ゴグマゴグ】が封じられている亜空間であった為ゴクマゴクを解放し、意気投合。そのまま契約すると協力してどうにか現世の帰還に成功して、元々所属していた【黄金の夜明け団】が魔女ネキと繋がりがあったこともあってメシア教対策で庇護下に入った。因みに履歴書にゴクマゴクが記載されていなかったのはルフェイが魔女ネキに言い忘れてただけだったりする。今回の事件で「あれ、もしかして私の上司ってヤバい?」と早くも気づき始めた。本当はもうちょっと活躍する予定だったが最後のオチが思いついてしまったので結果的に削られてしまった。


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今世でも社畜になって死にそうなんだがどうすればいい?

第三十二話となります!・・・にしてもやっぱ本家様の設定序盤のものは忘れてしまいますね。前回のエネミー・ソナーもエネミーサーチだ!と思って変えたら追加アプリでありましたし、今回登場した神の右席もメシア教勢力っぽい書かれ方してました。でももう原作通りのローマ正教勢力として出しちゃった如何にか無理矢理理由をこじ付けて見ました。詳しくは本編にて

※ペテロの十字架のことをうっかり本編で書き忘れたので末尾に補足設定を書きました。こんなんが章のラストでいいのかよ!


中野区という東京都だけど田舎っぽい雰囲気もあるどっちつかずな街で行なわれた【俺ら】ことネオベテルとメシア教、ガイア教、ファントムによる四つ巴・・・いいや、アックアが所属するローマ正教も含めれば五つ巴の戦いはこの一週間の間にネオベテル内は勿論のことこの件に関わった他四つの組織、救援に来てくれたライドウが所属するヤタガラスに轟きそこから裏の世界全体に情報の正確性や大小は様々だが広まっていて今では【中野区事変】と呼ばれている。そんな激闘を終えて今に至る訳だが幸いな事に俺の身内はほぼ全員が軽傷、重傷になっているが全員無事に生還し、治療も寺生まれニキが呼んでくれていたのかネオベテルの医療班と折紙の精密な回復魔法で完了している。因みに一番重傷だったのは勿論俺である。お陰で身内からは人間、仲魔問わずお叱りを受けてしまったが他に手は無かったとはいえ心配掛けたのは事実なので素直に受け入れた。ライドウや寺生まれニキにも何か言われるかと思っていたのだが

 

『もう身内から叱られているのなら俺から更に何か言うことなんてない。しかも他に代案があったかと聞かれても答えるのが難しいからな今回の件は』

 

『寧ろ申し訳なく思っている。ローマ正教は兎も角本来なら我々ヤタガラスがメシア教、ガイア教、ファントムの幹部クラスの者を監視していなければならなかった』

 

という風に穏便に終わっている。ライドウ曰く今回投入されたジャンヌ、トキ、フィネガンの三名は互いに牽制し合っている状況でも動かせる幹部クラスの遊撃戦力だった可能性が高いとのことだった。言われて見ればジャンヌは本国から【トラポート】で来た様だし、トキも暗殺を主に行う特性上足取りが掴みにくい。反対にフィネガンはファントムの幹部として有名だったそうだが別場所で別の幹部が騒動を起こしたのを隠れ蓑に中野区まで来たらしい。ペテロの十字架の存在を知り早急に動いたからかファントムの動きが若干おざなりだが、実際にライドウと寺生まれニキがその対処で中野区の情報が届くのが遅れたとらしいので戦術面でも中々に柔軟性があるようだ。それでも寺生まれニキには借りが出来てしまった形になる・・・まぁでも。

 

「だからといって帰る時にしれっと黒箱を置いていくのはどうかと思うぞ。あるの気づいたの翌日だったからな?」

 

『脇巫女ネキの命令だ。こちらとしても悪いとは思っている』

 

音声のみだが寺生まれニキの謝罪から今回の幹部会議が始まった・・・始まってしまったのだ!黒箱から分かるように如何やら俺は盟主権限で正式に幹部にさせられてしまったようだ。本部の要職に付いている訳でもなければ地方を代表している訳でもないのになぜなのだろう?

 

『そりゃ貴方が方々で色々やらかすからでしょう?大天使、必殺の霊的国防兵器、各組織の幹部との戦闘・・・これ以上やらかすと一般メンバーじゃ手が回らなくなるわ。だったらいっそ幹部にしちゃった方が権限とかの兼ね合いで色々都合がいいのよ』

 

『それに戦績もさっきの三つの戦いで大物を仕留めたり、メシア教の天使を一割減らしたり今回はメシア教、ガイア教の幹部クラスを捕縛したりと活躍していたし十分だと思うわ・・・私が作った造血剤ああいう風に使うのはもうこれきりにして欲しいけど』

 

「あ、はい。ごめんなさい」

 

巫女さんの説明は兎も角魔女ネキの苦言には頭を下げるしかない。あの人は薬は規定運用が絶対と言っていたからな。

 

『まァ取り敢えず議題に入ろう。通信越しとは言え集まった訳だしなァ』

 

『とはいっても神殺しニキが関係していることなんですけどニャー。確か捕縛した二人の幹部の処遇だったはずじゃないかぜよ?』

 

ギリメニキとメイドスキーニキ、フェローサンキュ!

 

『ああ、俺と神殺しニキで尋問したが各組織の機密情報こそ吐かないがそれ以外の情報提供や会話には応じたりと思ったより抵抗はなかったな・・・トキは神殺しニキを睨んでいたが』

 

「まぁしゃーねーよ神父ニキ。で、あいつらの処分はどうなりそうなんだ巫女さん」

 

『今の所いくつかの制限を設けて専用の施設で軟禁しているけどそろそろ決めないとね・・・掲示板ではトキは兎も角ジャンヌの方はメシア教だから即刻処断すべきって声も出ているわね』

 

「だが経緯はあれだが戦争時の捕虜みたいなもんだろ?比較的素直にしている人間を即刻処断って出来るのか幾ら裏稼業っていっても」

 

『確かに過去の周回でもやたらと処断していたら周りが敵だらけということもありましたわ』

 

『表沙汰になっていないことなら兎も角今回は関わる組織が多すぎてかなり広く広まったからな。問題にする霊能組織も出て来るだろうし、そうじゃなくても警戒を抱かせかねないからその手は無しだろう』

 

『というか彼女は良く投降したわね。ガンギマリのメシア教信徒だったら自害とかしそうなのに』

 

『それは彼女の信仰心がメシア教というより前世の聖女ジャンヌ・ダルクに向けられていたからだろう。メシア教に入ったのも神器のせいで生まれながら周りから爪弾きにされていて拾われたのが偶々メシア教だったというだけだったはずだ』

 

「寧ろ洗脳とかには否定的だったな。実際あいつが率いてたメシア教のエクソシストの中にはターミネーターが居なかった」

 

『むぅ、意外とまともなのね。資料によるとジャンヌダルクへの信仰心は狂気入ってるっぽいけど』

 

そんな感じで議論が巻き起こるがイマイチこれという案が机上に浮かばずにいた・・・のだが。

 

『・・・実は今回の件で有識者から意見を聞いたのだけど』

 

『有識者?』

 

『ええ、何でも「面倒な人材ですか?取り敢えず先輩の部下にでもすればかなりマシになりますよ」という意見よ』

 

「有識者ってエイナじゃねーか!?あとそれは面倒な人材に頭を抱えた前世の会社の社長、副社長、部長が脳死で勝手に社内マニュアルに載せた内容じゃないか!それのお陰で面倒な人材を押し付けられる件数が倍増したんだぞ!!」

 

あとあいつら一応捕虜なんですけど!?あいつらはギリギリ犯罪とかはしてねぇんだよ(何だかんだで部下思い)!

 

「第一トキは俺のことを嫌って『今スライムニキ経由で二人にこの話したら意外と乗り気らしいわ』おいトキ!?そこはごねろよー!!!」

 

『勿論制限をかなり付けると言ったのだけどジャンヌは「面白そう」トキの方は「一番お前が苦しむ方法を考えた。私達を傍に置いてメシア教、ガイア教の面倒事に継続的に巻き込まれてしまえ!!」とのことよ』

 

「ダメじゃん!後者は完全に悪意しかないじゃん!前者も軽いけど!」

 

『今までは神父ニキにメシア教、魔女ネキにガイア教の面倒事の対処を任せっきりにしていたから分散させるられるというメリットもあるのよね』

 

「いやいや!例え負担がそれぞれ数字に表して10とすると半分に分散しても俺の負担が5+5で10になるんですけど?別に高負担な人物が生まれるだけだよそれ!気づいて!!」

 

またか?またなのか?俺はまた部下の矯正教育しなきゃいけないのか?俺前世で課長になってから取り組んだ仕事で覚えてるのほとんど部下の矯正教育のことしかないんですけど?

 

「転生までしたのにまた社畜(部下関係限定)に戻りたくなーい!!!!」

 

数日後、俺は晴れて今世でも社畜になったのでした。・・・あと俺的にはどうでもいいがローマ正教には巫女さんから正式に今回の件について抗議をしてみるそうだ。まぁ俺は今それどころじゃないんだけどね!

 

 

 

【聖ピエトロ大聖堂】

 

ローマ正教の総本山である聖ピエトロ大聖堂。そこでアックアはとある人物に呼び止められた。

 

「アックア、左腕の具合はどうだ」

 

「問題ない。元々断面が綺麗だったこともあってか教皇の回復魔法で万全の状態に戻っている」

 

「そうか、まぁ回復魔法、支援魔法は数少ないお前達【神の右席】以上の私の長所だからな」

 

【ローマ教皇 マタイ=リース Lv72】

 

「・・・貴方の霊的才能なら少なくとも私達よりもレベルでは上回れるはず「それじゃちょっと書類仕事代わりにやってくれるか?」・・・教皇という立場も大変なようであるな」

 

「全くだ。オチオチ新作のゲームも出来んよ」

 

ローマ教皇が大のサブカル好きなのは有名で彼が教皇に就いて数十年、布教のお陰かすっかり信者にもサブカルが浸透してしまっている。

 

「ゲームであるか。確かネオベテルでも精神の均衡を保つ為にも推奨されていたのだったか」

 

「実際有効だとうちの実験でも結果が出てるしな」

 

「所で本当に良かったのであるか?神殺しを見極めてこいなどと言われて引き受けた私が言える立場ではないが彼の組織との折り合いが悪くなるのではないか?」

 

「それについては前に言ったはずだ。原作の女神転生シリーズ(・・・・・・・・・)に置ける神殺しの重要性、危険性は高い」

 

さも当たり前のようにゲームの女神転生の話を持ち出し、現地人であるアックアに話すが彼はその意味を理解しているのか頷く。

 

「無論だ。だが友好的な手段で知ることも出来たのではないか?」

 

「それで分かるのは表面上のものだけだ・・・人間の本性は危険や死に近づいたときにこそ明らかになる。それに神殺しの場合力を与えている悪魔の操り人形になっている可能性もあったからな。それを確かめて貰う意味合いもあった」

 

「少なくとも操られている様子はなかったのである。操られているのであるなら敵対組織の幹部達を一時協力させることも不可能であったはずだ・・・ただ」

 

「ただ?」

 

「単純な狂気というだけではない、もっと冷たい様な、彼の奥底にある何かを感じたのである」

 

「そうか・・・あ、そういえばネオベテルの盟主から抗議が来たぞ。テレビ電話越しだったけど」

 

一瞬考えこむ姿を見せるがすぐにいつもの表情に戻して話題を変える。

 

「やはりか、してどうした?」

 

「それは勿論土下座だ。「御使堕しが起こり次はローマ正教が標的になるかもしれないと焦ってしまった。申し訳ない」とな。他には停戦協定やネオベテル側に有利な通商条約的なものも結んだわい、賠償金も結構取られたのー」

 

手痛い出費で失態のはずだが本人もしめしめという表情に一瞬訝し気な表情を浮かべるアックアだがすぐに疑問が晴れた表情に変わる。

 

「そうか、私に幹部達の前で神木狩谷が神殺しであることを言及させたのもネオベテルが神殺しを隠していることを印象付ける為であるか」

 

「その通りだ。無論隠し玉は隠すのが道理、だが隠している以上後ろ暗いことがあると考えてしまうのも道理であろう?」

 

「道理である以上此度の襲撃も許すかどうかは兎も角理解はされる。そしてその組織のトップがプライドを捨て土下座をし、ネオベテル側に大きく有利な条約を交わした。もしこれを突っぱねたり更に非難を重ねようとすれば逆に白い目で見られるか」

 

「新興組織故の脆さじゃな。実態に権威が付いて来ていないのじゃ。まぁあ奴らなら直ぐ権威も得るだろうがもう少し先の話よ。もっともそれをカバーする為にその手の事はヤタガラスに任せて居た様じゃが」

 

「逆にそれが仇となりその方面での経験値が足りていないということか・・・相変わらず表と根っこは善人だが裏は腹黒いな」

 

アックアが肩をすくめると二人の直ぐ真後ろに清浄なオーラを纏った存在が姿を現す。

 

『しかしそれではお前の権威が損なわれるのではないか?』

 

「む、"スラオシャ"か。よいよい、所詮老いぼれよ。元々後継者に教皇の席とお前との契約を引き継いで引退して余生を過ごそうとしていたのだ。今の情勢でそれが無理になったが例え未来で私の評価がボロクソに酷評されたとしてもネオベテルとの関係は律儀に契約を守っていれば時間によって次第に改善されること。あの組織はこれからの世の中心となるであろう。ならばこういう形でもパイプは作って置くに限る」

 

『やはり変わらんなお前は』

 

【大天使 スラオシャ Lv80】

 

そうじゃろうそうじゃろうと二人に改めて向き直ると笑いながら告げる。

 

「それにそんなことを成す対価が老いぼれ一人の顔という権威が損なわれる程度で築けるのなら安かろう?これからの若者にはこの老いぼれを体のいい踏み台にして欲しいものよ!」

 

こと組織に置いて現在を重視する博麗の巫女と自身のことには頓着せず組織の未来を重視するローマの教皇。これはどちらが正しいという訳では無い。単純に価値観が違うというだけのこと。

 

かの教皇は元々小規模宗派だったローマ正教を一代で立て直し、メシア教に次ぐ規模に発展させた。その中で大天使と殴り合って盟友&仲魔にしたとか後に神の右席になるものの一人を世界中連れ回したり、別の一人の弟を死から救ったり、別の一人を見習いから心身ともに鍛え上げたり、別の一人とは戦場で偶然出会い背中合わせで戦ったりしたなど嘘か本当か分からない噂が広まっているがそれ以上に教皇の座に数十年留まっており、ローマ正教の信徒を全員にサブカルを布教し、そろそろ引退を匂わせていたら世界がヤバくなり始めて、慌てて【神の右席】を表に出したらメシア教が対抗して過激派が頭になってしまったりして逆に引退するタイミングを逃したなどと言った世界一破天荒な教皇、教皇の革命家と言った二つ名が付く程のローマのヤベー奴でもある。

 

「よし、皆のもの。今日も聖ピエトロ大聖堂から配信しているローマ教皇じゃ、今日は今年行われる毎回信徒の六割強が参加している二年に一度のゲーム大会「ローマ天下一ルネッサンス」の最新情報じゃ。優勝賞品はなんと今年、来年発売される有名ゲーム企業のゲームソフト、ゲーム機の全てじゃ!そして行われるゲームはあの日本の【花札屋】製の最新ゲーム機【ゲームキューブ】で遊べる【大乱闘スマッシュブラザーズDX】でのオンライン勝ち抜けトーナメントじゃ!私と本部の幹部(神の右席とスラオシャも含む)も偽名で参加するから覚悟するのじゃぞ?」

 

まぁ実態は"前世"と変わらずただのゲーマーで、安心してサブカルを楽しめる世の中にしたいだけの【俺ら】が孤軍奮闘して爺さんになるまで頑張ったというだけだったりするのだけど。




読了ありがとうございます!うん、色々筆が、いや指が乗ってとんでもない話を書いた気がするがまぁ本家様もどんどん来ていいですよとか言ってたし大丈夫しょ(白目)!因みに神の右席は全員レベルは60以上でスラオシャと同様皆教皇から自分は転生者であることとこの世界、女神転生シリーズのことを聞かされています。

ペテロの十字架について
本編でうっかり書き忘れていましたが、教皇は本当に十字架を使うつもりはなくそれっぽいを流してローマ正教内の過激なやからを炙り出す餌にして、ついでに危険な十字架をやむ負えずという体で破壊しようとしていたが司祭の一人ががまさかのメシアのスパイでぶん取られた。という設定だったりします。こんなうっかりな所は実に【俺ら】らしいですね。そして丁度神殺しと目される狩谷のいる中野区で事件が起こったのでこれ幸いとアックアに狩谷を見極めさせに行かせたという経緯です。ネオベテル側には前者しか話してはいなかったりしますが。十字架は博麗神社で保管、封印されています。


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第六章 護国の心
歓迎会とその裏で


第三十三話となります!今話から新章となります。FGOの新章開始前に出せて良かったぜ!これで集中出来るというもの。


「えー先の襲撃で色々ありまして事後処理とか諸々があって遅れましたが新人歓迎会を始めたいと思います!・・・まぁ今日までずっとうちの地下ネオベテル施設にある宿舎に住んでたから皆自己紹介は終えていると思うがここは挨拶して貰おうか」

 

冒頭の挨拶を終えると隣に立っていた新人であるルフェイにマイクを渡す。今日はうちのリビングで新しく迎え入れたメンバー"達"を向かい入れていた。

 

「はい!もう自己紹介はしているので細かいことは省略しますね。改めて元【黄金の夜明け団】所属のルフェイ・ペンドラゴンです!魔術の行使や知識、研究で皆さんを助けられればと思っています」

 

ルフェイの自己紹介に俺も含めた全員が拍手を送る。彼女は一礼をすると隣にいる次の新人にマイクを渡す。

 

「次は私の番ですね。狩谷先輩のパーティーの皆さんとは面識があると思いますが私はエイナ・チュールです。先日本部の博麗神社から派遣されました。一応覚醒者で造魔もいるので戦闘も出来ますが基本事務を担当させて頂きます」

 

同じく新人のエイナが挨拶を行い同じように拍手で出迎えられる。彼女は事務処理要員として来てもらった・・・イリナ達は厳密には別部署みたいなもんだし、ライネス達は完全に別組織だしな。仲魔の中にも事務出来る奴はいるんだが人間の組織なのだからそういう部分は人間が管理するべきって言われたからな。しかしそうすると俺と折紙しか事務処理出来る奴がいないので気心知れてるエイナに声を掛けたのだ。正直給料自体はちょっと減るし、設備に関しては本部の方が遥かにいいので俺達が生産しているスパイダーシルクを使った装備や折紙製の護符何かを交渉材料に使ったのだが以外にも割とすんなり了承してくれた。ネオベテル内での昇進にも影響しそうだったが『前世はそれに注力するあまり過労死してしまいましたからね。それにオタクが集うネオベテル内で其処まで出世に拘る理由もないですから・・・それに先輩からいの一番に声を掛けて貰ったのは嬉しかったので』と笑顔で答えてくれた。因みにエイナも地下の宿舎に引っ越して来ている。すんなり行き過ぎて若干拍子抜けだったがまぁこちらとしては文句がある訳がないのでいいのだけど。

 

「そんでもって後は半分捕虜待遇でジャンヌとトキも来たからよろしく」

 

『はーい!』

 

「「あ、扱いが軽い!!」」

 

「うっさい」

 

ジャンヌとトキがツッコミを入れて来た。前回の会議で不本意だが預かることになった元メシア教、ガイア教の幹部である。そんなことになった元凶はこの場にいるがニコニコ笑顔でこちらを見ていやがる。

 

「第一捕虜を身内と同ランクに扱う訳が無い」

 

「まぁそうなんだけど」

 

「もう少し何かあるだろう・・・警戒しないのも問題だとは思うが」

 

「といってもな」

 

警戒ねと二人の首に巻かれているチョーカーを見る。これは巫女さん、魔女ネキ、ロボキチニキの合作で名前はシンプルに『カースチョーカー』。こちらに敵対行動や正当な理由以外でも命令不履行、チョーカーを許可なしに外そうとするなど違反を犯すとチョーカーから強力な呪詛と致死性の猛毒を流され更に頭部を爆破して物理的にも殺すという殺意の固まりの様な呪物である。一応警告として首が締まったり、致死性はないが身体機能を低下させる毒が流れる様にもなっているのでちょっとしたことで即座に即死という訳ではないけどな。

 

「幾らチョーカーがあるとはいえ寝首を掛かれないように注意するとかだな」

 

「鉈でか?」

 

「・・・そうだ!というか仕込み毒の類は没収するのは分かるが何故鉈の二刀流をしないといけないんだ!ネオベテルめ・・・!」

 

言うまでもなく前世でトキファンだった者達の犯行だ。性能は良いから頑張って欲しい

 

「お姉さんの場合は神器の制限ね。あの巫女さんと一部幹部、狩谷君か折紙ちゃんの許可がないと禁手化出来ない様にロックが掛けられちゃったし」

 

「安心しろ。あれは移動や壁役やら便利だからな多分頻繁に許可出すと思うぞ」

 

「え、でもそれ便利使いしまくる「そ、そろそろお腹の我慢が限界だぞ!」「OKでは乾杯!」ちょっと!?」

 

歓迎会という事でご馳走を拵えたせいか我慢できなくった十香の声を受け食事を始める。ジャンヌが何か言ってるけど周りの盛り上がりで聞こえないね(棒)。

 

「いただきます!おーこのお肉柔らかくて美味しいのだ!きな粉パンもあるようだし最高だな!」

 

「それはローストビーフだな・・・というか用意してたのかきな粉パン」

 

「最近ネットの掲示板でうちの学校にきな粉パンを押し付けて来る妖怪がいると書かれてましたわ」

 

一般の掲示板で最近妖怪と間違えられている十香の食いっぷりっりを呆れて見ているライネスとルヴィア。因みにトリムマゥは配膳を手伝ってくれている。

 

「魔女とのことですが納められている魔術は何式なのでしょうか?」

 

「私は黒魔術、白魔術、北欧式、精霊魔術、魔界式魔法ですね。ロスヴァイセさんはやっぱり北欧式やルーン魔術ですか?」

 

「ええ、原初のルーンと北欧式ですね。ルフェイさんは多彩な魔術を扱えるなんて凄いですね」

 

「地道な研究の成果ですね。それはそうと原初のルーンですか、よければ詳しく聞かせてくれませんか!」

 

「勿論、私にも是非ルフェイさんの魔術を聞かせて欲しいです!」

 

魔術談義に花を咲かせるロスヴァイセとルフェイ。

 

「聖ジャンヌダルクの魂を受け継いでいるとのことですが本当なのですか!」

 

「勿論お姉さんはジャンヌダルクの転生した存在なの」

 

「いつ頃から自覚していたんだ?」

 

「生まれた時から!って言いたいけど幼い頃からジャンヌの記憶を夢で見ていてね。私がそうだと自覚したのは神器が目覚めてメシア教に所属した頃に調べて分かった感じなのよね。憧れは前からあったけどね」

 

「ジャンヌちゃんみたく英雄の血縁や末裔とかで魂を継承している人の話は昔から報告されているわよ」

 

教会独特の会話するイリナ、ゼノヴィア、ワシリーサとジャンヌ。

 

「所で前から思っていたのだが貴様はカーリーなのだろ?ガイア教でその分霊を自称する悪魔は結構見て来たが大人し過ぎないか?」

 

「私は悪魔変化してカーリーになったのじゃ。前の悪魔だったときの意識も残っているからの、これでもカーリーに寄って来たのだがやはりそう見えるか。別に困ってる訳じゃないからええじゃろ」

 

「そうか、大人し過ぎて少し拍子抜けしたのだが「あ、もし主に反旗でもしたら妾が首を斬ってもよいぞ?」・・・あ、うん」

 

「小さな女の子同士が牽制し合う・・・絵になるね!」

 

割と物騒な会話を繰り広げるカーリーとトキ。あとそれを漫画のネタに使おうとしている変態(二亜)

 

「折紙氏は元とはいえ悪魔ですから事務はこちらに任せるべきでは?戦闘は兎も角事務処理なら私の方が先輩を支えられますよ」

 

「・・・今の私は人間でカリヤの義妹。よって義兄を支えるのは当然であって人間だから事務をやっても問題ない。これはカリヤも認めていること」

 

「まだ身体は中学生なのですから気を付けた方がいいですよ?私達"二人"でも私が来る前よりも効率的に処理出来ますからお気になさらず」

 

「二年間部下だった"程度"の繋がりよりもこちらは約六年間兄妹として過ごしそれより前から付き合いがある。その分繋がりが強いから効率はこちらが上」

 

「繋がりの強さって時間だけで決まらないんですよ?十数年人間社会で生活しても"まだ"分からないのですか?」

 

「「・・・」」

 

こっちもこっちで段々物騒な言葉の応酬になって来た真顔の折紙と笑顔のエイナ。三人でやった方が効率がいいと思うんだけどな

 

「早速バチバチやっているわね」

 

「はは・・・それにしてもものすごく今更ですけど私達全員大体召喚状態にしてて狩谷さんのMAGって尽きたりしないんですか?」

 

「主曰く『自分も含めて全員全力戦闘でもない限り自然回復量の方が上回っているから問題ない』とのことだ。それにいざとなれば神殺しとしてのパスのある妹君とMAGを融通し合えるらしい。流石にHPとMPの融通は無理な様だがな」

 

「え、それヤバくないですか?」

 

「普通だと有り得ないわね。実際格上のネオベテルメンバー幹部のトップ全員の総MAG量よりもかなり多いわよ?ちゃんと計った訳じゃないけど盟主の博麗の巫女の次くらいにはあるんじゃないかしら?腕はまだまだ及ばないけど総MAG量とMAG自然回復量ならそう時間を置かずに抜くでしょうね」

 

契約主である俺の話で盛り上がるアズール、白織、バフォメット。所でアズール、人より多いとは聞いていたけど幹部のトップ連中の合計より高いだのそう時間を置かずに巫女さんを抜くとかは初耳なんですけど?

 

「少し懸念材料があるけど盛り上がってるならいいか」

 

若干現実逃避をしながらもその光景を目に焼き付ける。準備は大変だったが特に記念日じゃない日でも偶に集まって食事するとかはしてもいいかもな。そう思うと俺も話に混ざる為料理を突きに行くのだった。

 

 

 

【とある異界】

 

「お帰りオーディン。高知はどうだった?」

 

多神連合が本拠地としている異界にある拠点。その中に帰還したオーディンをクリシュナが出迎える。

 

「ああ、戻ったぞクリシュナ。北欧の主神故ヴァルキリー達とは違い長期間高知には居られないからな。戦線はこちらに多少優勢という所だが取り敢えず洗脳されている者達は捕らえて来た。洗脳が行きついてしまったものは介錯するしかないがまだ間に合う者達もいる。幸いお前に頼まれて捕縛した元々高知のメシア教の代表だった穏健派の人間は後者だったぞ」

 

「それは良かった。後々使えそうだからありがたいよ・・・それで君の後任だけどもう決まっているよ」

 

クリシュナの言葉を待っていたのか彼の後ろからとある悪魔が姿を現す。

 

「ほう、説得には成功したか。封印を解いてからそれなりに掛かったな」

 

「・・・まだ完全に飲み込めて無いけどな。だがあんなの(・・・・)を見せられたら黙ってる訳にもいかねぇだろ」

 

悪魔の言葉に頷く二柱の神。そして悪魔も確認したことがあるのか更に口を開く

 

「そういえば"俺達"の中で目覚めてるのは俺とタケミカヅチの旦那だけなんだな?」

 

「そうだよ。他の者達の封印場所は特定してるけど僕達の勢力範囲からは遠いからね。まだ監視を付けて要る程度さ。そのタケミカヅチもあの巫女ならもう霊格の修復は終えているだろう。次恐山クラスの大規模作戦があったら投入されると思うよ」

 

「そうか。まぁ元気そうならいいか」

 

「やはり仲間意識はあるのか?」

 

タケミカヅチを気にしてる様子の悪魔にオーディンが質問を返す。悪魔は少し返答を考えたのち答えた。

 

「そりゃ多少わな。曲がりなりにも昔共に戦った戦友だしな」

 

「そうか・・・でもそろそろ他の者達にも起きて貰わないとね。ネオベテルに力が集中しないようにヤタガラス側にも1、2体確保させるように流れを作らないとね。噂でも流して見るかな?」

 

「ヤタガラス側に封印場所を発見させてネオベテルに依頼し、共に攻略する形にするのか」

 

「うん、それならタケミカヅチの時と違ってヤタガラス側にも依代の所有権を主張出来るしね」

 

「でもそれだと唯でさえギリギリなヤタガラスの連中の財政が高額の依頼料の支払いで一気に傾きそうな気がするんだが」

 

「「それは必要経費という奴だ(よ)」」

 

自分達が払う訳じゃないからバッサリ言い切りやがったと内心でヤタガラスの面々に黙祷をする悪魔。

 

「取り敢えずそれはそれこれはこれと言う事で私の代わりに高知を頼むぞ」

 

「タケミカヅチと並ぶこの国の切り札、"必殺の霊的国防兵器"の力を見せて貰うよ」

 

異教とはいえ二柱の神に期待され悪い気分はしなかったのかその悪魔は笑みを浮かべる。

 

「おう、封印を解いて貰った恩もあるしな。この"コウガサブロウ"に任せときな!」

 

【龍神 コウガサブロウ Lv77】

 

後日高知での多神連合とメシア教の戦線がコウガサブロウの活躍で大きく前進を果たすことになる。だがこれはまだこれから起こる戦乱の始まりに過ぎない。




読了ありがとうございました!今回から多神連合を本格的に動かす予定です。まぁ高知の設定は本家様しか知らないのでそっちの情報待ちになりますけどね!因みに話に出ていた穏健派の人はゆかりさんが話していた人です。


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そうだ傀儡組織を手に入れよう!

第三十四話となります!今回の話を作っている時に本家様の最新話の設定が使えそうだと思ったので途中で構成を多少変えたりしました。というか過去一長くなったな。


「何見てるの?」

 

「折紙か。掲示板だよ」

 

「・・・なるほど。新しいオカルトシステム構築がネオベテルの当面目標ということ?」

 

「らしいな。既に市場に流入しているネオベテル製のアイテムやネオベテルが直接販売しているCOMPもその一環だったんだろうな」

 

リビングで携帯を見ていると折紙が興味ありげに聞いて来たので画面を見せると少し考える素振りを見せる。

 

「これは使えるかも」

 

「使える?」

 

「先の戦いで私達にも課題が見えて来た。いくつかあるけど一番の理由は人材不足」

 

「人材・・・それは俺が新しく仲魔を増やしたりもうじき完成する高級造魔で解決は出来ないものなんだな?」

 

「そう。アックアという例外が無ければ私達だけで防衛出来たことも考えると戦力が不足しているという訳では無い」

 

戦力が足りていない訳でもないが人材不足。そしてネオベテルに頼らない所を見ると・・・あ、なるほど!

 

「ようはヤタガラスみたいな組織力がないという訳か」

 

「正解。戦闘は問題無くても情報を調べたり、研究したりするには専門知識を学んだ組織の人員が必要」

 

「そりゃそうだがその方向性だと別組織のライネス達や戦闘に特化しているイリナ達には頼れないな。一応二亜がいるが研究というより分析だし。でも大丈夫かそれ?」

 

研究とかが頼れそうなライネス達に頼れないかつ求めるのが一人の天才では無く優秀な集団である以上外部組織との協力が必要になるだろう。ネオベテルでも其処ら辺の人材は不足しているはずだから俺達の利益とネオベテルの利益をそれぞれ見込める訳か。しかし裏の分野に詳しい研究機関とか碌な所じゃなさそうなんだが?

 

「問題ない。そもそも対等な協力関係を結ぶつもりは最初からないし、取引をするならライネス達としたほうが確実。今欲しいのは取引などに時間を使わずに動かせる組織」

 

「ふむふむ、ということは外部組織に協力するんじゃなくて傘下に収める感じか。でも諜報組織の方が必要そうな気がするが」

 

「残念だけど研究機関と違って諜報機関が独立していることはそうそうないのに加えて諜報活動自体諜報員との信頼関係や裏切られることも考慮に入れる必要があるなどシビア。唯でさえ組織の運営が初心者の私達が安易に手を出していい分野じゃない」

 

「確かにルフェイやロスヴァイセも魔法の研究してるし、やるなら多少はノウハウがある分野が良いか」

 

研究や諜報は両方共大事だが危険度の高い諜報よりもまだ運用しやすい研究を取るということだ。

 

「となればエイナに調べて貰うのが一番か、ネオベテルのデータベースから霊能組織の情報を引っ張って来てもらおう。所で傘下にする算段とかあるのか?」

 

「このご時世財政が傾く霊能組織なんて星の数ほどある」

 

「うんうん」

 

「幸い私達は私の護符や白織のスパイダーシルク。魔術師の市場とネオベテルの市場でそれぞれのアイテムの転売業で金とマッカはある。これを使ってまずは協力関係を結ぶ」

 

「ほうほう」

 

「そして神殺しであることが知られたカリヤには敵が多い」

 

「ん?うん」

 

「当然カリヤに好意的なネオベテルを含めた組織は同様に敵視される」

 

「お、おう」

 

「つまり今回金とマッカに釣られた弱っている組織も標的になる。こんな餌に釣られる組織にそれらに対抗できる余力何て存在しない」

 

「え」

 

「しばらくすれば危険から身を守る為にはカリヤとネオベテルの庇護下に入るべきと気づく勝手に向こうから傘下に入る。これでパーフェクト」

 

「いや、それ完全に悪質な投資会社とかの所業ですよね?」

 

二人での会議はその後も続いたのだが結局「でもそんな餌に容易に掛かる奴らを傘下にした所で使えるのか?」という結論に達してしまい取り敢えずエイナに条件に合う霊能組織を探して貰うことにした。まぁ引かれたけど仕事はしてくれた。

 

「お、ここいいやんけ。日本人がトップでアメリカに本社があったけどメシア教の影響で日本に戻って来たのか」

 

「でもアメリカでは黒い噂もあるけど?」

 

「研究者なんてそんなもんさ・・・へーこれ企業が霊能組織を兼ねているのか。ダミーじゃないとは珍しい」

 

株式会社の体だから株主の情報もあるな。おっとこれは

 

「折紙、主要株主の欄を見ろ」

 

「・・・これは全員が霊能力者」

 

「企業主体の霊能組織特有だな。面白いじゃないか、貯めてた金とマッカはこいつらに使うか」

 

「そう簡単に手放すとは思えないけど。あとここで使ったら手土産はどうするの?決めたら一週間ほどしか話し合いまでに時間は作れない」

 

「何やりようはあるさ。ポイントはこいつら全員異界を封じている家系だけど方が来ているって所だ。まぁそこを漬け込んで日本での後ろ盾に使っているんだろうがこれは利用できるぞ」

 

普通の霊能組織の交渉なら素人だが企業との交渉は一家言あるんだ。新しく用意する手土産とその付加価値を高める為にもご協力を願おうか。久々に社会人の俺を思い出せそうだと目を付けた『アルケミスト社』の資料を見ながら自然と笑みを作っていた。やることは多いが一週間後が楽しみだ

 

 

 

【アルケミスト社 元日本支部研究所 現本社研究所】

 

私はもはや持病と言っても差し支えない頭痛に頭を押さえながら会議室でとある来客をこの会社のCEOである母親である杉波朱雀、異父姉妹である杉波斑鳩と共に待っていた。これも一週間前にヤタガラス経由で持ち掛けられた話のせいなのだが立場上持ち掛けられた提案を先方と話し合いもせずに断ることが出来なかった。

 

「伊砂、そんな怖い顔をしていたらお客様に悪印象を抱かれてしまいますよ?」

 

「本当本当。この私でもそんな顔はダメだって知っているのに外部の人間との交渉に慣れている伊砂がそれやっちゃってるってどうなの?」

 

「お母さまなら兎も角お前に言われる筋合いはない斑鳩」

 

互いに同じ作られた存在で研究の興味は似ている癖に私と性格がまるっきり違う斑鳩の言葉に反論するが取り敢えずいつもの顔に何とか戻すとまるで見計らったかのようにドアからノックが聴こえて来る。

 

「どうぞー」

 

気の抜けた声で来客に入出を促すと一人の青年と少女が入って来る。青年はスーツ姿で少女は制服姿だが確か彼らは義兄妹で両方共学生だったはずだがあの青年はスーツ姿が妙に似合うのが不思議だ。

 

「本日はお時間を作って頂きありがとうございます」

 

「いえいえ、こちらとしても利益のある話ですから」

 

一見すると可愛い幼女の様な外見の笑顔に騙される者が多いのだが両者共特に表情に変化は見られなかった。まぁこの業界で外見で判断するなど愚か者もいい所のなので当然と言えば当然かも知れないが。

 

「改めて【万神連合ネオベテル・ウルトラスープレックスホールド】所属の神木狩谷です。こちらが義妹の神木折紙」

 

「よろしく」

 

「ええ、よろしくお願いしますね。私がアルケミスト社CEOの杉波朱雀。そして私の娘の研究主任の杉波斑鳩、研究主任補佐の杉波伊砂です」

 

「よろしくー」

 

「・・・よろしくお願いします」

 

斑鳩の緩い挨拶に再び頭痛を覚えながら挨拶を返す。今は彼らの目的を探ることが大切だ

 

「この日本で急拡大中のネオベテルの幹部直々のお声がけ光栄です」

 

「おや二つ名は兎も角幹部になったのはつい最近なのですがもう知られているので?」

 

「ふふ、こちらにも伝手はありますので。それに狩谷さんのように現在レベル50を超える方は今情勢でも稀ですので説得力もありますしね」

 

【神殺し 神木狩谷 Lv55】

 

二つ名の方はもう知られている為隠す必要はないのは分かるが軽い【アナライズ】でもレベルが容易に見破れたが反対にスキルなどは隠蔽が掛かっている為アナライズをしてくるのは事前に予知し、牽制の敢えてレベルは見せる様にしているのだろう。

 

「まだまだ未熟の身で恐縮の限りです」

 

「ご謙遜を・・・して今回は我々に援助をして頂けるとのことですが?」

 

「御社の製品や研究に大変興味がありましてね。そして【中野区事変】を経験いたしましてもっと組織力の強化が必要との結論が出ましたので有力ながらメシア教に経営基盤となっていたアメリカを追いやられ苦しくなっているであろう御社にご支援をと」

 

「まぁそこまで評価していただけるとは!我らで良ければ勿論"協力"関係を結ばせて頂きますわ!」

 

即座にお母さまは協力関係の構築には同意を示す。早計に思えるが今の日本でネオベテルやその幹部との繋がりを持てるなら協力関係は願ってもないことだ・・・もっとそれだけが目的だと思っている人間などこの場には存在しないのだが。

 

「ありがとうございます。しかし私が求めるのは単純な協力関係ではありません。私は貴方達アルケミスト社を傘下に加えたくここに参りました」

 

「やはりか・・・しかし残念ながらこちらは企業の体裁を取っています。伝統を重視している訳ではありませんが株主達が納得をするとは難しいかと。どう説得されるのですか?」

 

いきなり支援するから傘下に加われと言われて納得する訳がない。それは向こうも承知のはずだが・・・

 

「勿論承知していますよ?ですがその疑問に答える前にこちらの支援の内容をお話しましょう」

 

こちらの疑問には直ぐには答えず指を鳴らすと彼の周りの空間が歪み二つの穴が開く。これは【サバトマ】か?二つのジュラルミンケースとそれより一回り大きい保存用のケースが1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11って多いな!?

 

「こ、これは?」

 

「これらは手付金代わりですよ。折紙」

 

「了解」

 

「「「な!?」」」

 

ケースを次々に開けて行くがジュラルミンケースの方は大量の現金とマッカ。保存用ケースの中身は希少なフォルマと素材がケースごとに大量に詰められていた。

 

「現金は取り敢えず5000万、マッカは50万に揃えています」

 

「5000万と50万だと!?」

 

思わず声が出てしまったが他の二人も驚いた表情のまま固まっている。こんなの個人がもっていい資産じゃないだろ!!

 

「あ、あとこれが支援の目録です」

 

こちらの反応をスルーして配られたプリントには当たり前の様にネオベテル製のアイテムや幹部権限でのネオベテルの階級を示すカードを全研究員に発行し、私達3人に至っては最初からゴールドカードの発行をすること。そして簡易造魔とCOMPの購入権などと盛り沢山と言ってもいい内容だ。

 

「これ、本気なの?」

 

「優秀な研究者達にはそれに則した環境を。当然ですよ」

 

あの斑鳩すら真剣な表情で確認を取る程破格の条件だ。だが何故ここまで肩入れする理由が本気で見当たらない。私達姉妹は頭の混乱を落ち着かせてお母さまの判断が気になる為視線を向けるが・・・その表情を見て絶句してしまう。

 

 

「・・・大変ありがたい申し出です。しかし伊砂の言う通り我々は企業「良く言うぜそんな顔してて」・・・そんな顔ですか?」

 

「気づいていないのか?お前笑っているぞ(・・・・・・)

 

「あらー」

 

表情筋を触ると本当に笑っていると分かり困った顔をする。

 

「製品の販売は単純に研究の資金目当てだろう?かの国では表の人間には手を出していないが裏の業界の者を非合法、非人道な実験をしていたお前らだ。それは建前でしかないことは想像に容易い。まぁ大抵のその手の研究をやってからこちらに戻って来たみたいだから別に俺は追求しないがな」

 

こちらの情報はある程度掴んでいる様だ。口調も変わっているが確かに日本に移る時にヤタガラスが目を光らせていたのでその手の実験や研究はアメリカであらかた終えている。

 

「それにそもそも株主を気にする必要もない」

 

「何?」

 

「本人達には口止めをしていたが既に外部販売していた分の株は俺が譲り受けている。一般の者達は貯め込んでいた金で。事情知る霊能力者の者達は抱えていた異界を消滅させる対価として頂いた」

 

まさかとは思ったが株が問題になるならほぼ全部買い占めればいいというものすごく頭の悪い作戦ではないか!

 

「残りの株はお前達身内の三人が持っている分だけだ。社内では権限統一の為身内にしか買えない様にしているのは把握している」

 

「・・・黙っておくことも異界攻略の対価の内ですか。彼らは異界に苦しめられていますがそれだけのお金を使ってもまだ目の前のものを揃えるだけの蓄えがあるとは」

 

「え、流石に無いよ?」

 

「「「はい?」」」

 

流石に無い?では目の前の手付の金とマッカ、素材の山は一体・・・。

 

「別におかしくないさ。攻略した5、6個の異界から絞る取ればこれくらいは稼げる」

 

「搾り取る?」

 

搾り取るという意味が分からず困惑していると非常に分かりやすくかつ頭が痛くなることを説明された。有力な株主が持て余している異界Aで出現する悪魔を異界ボスを残して"一旦"殲滅する→神木折紙の【トラポート】で別の有力な株主の異界Bへ移動→そのままC、D、E、Fと同じ様に殲滅してAに戻る→また悪魔が出現しているので殲滅して同じく回復した異界Bへを繰り返す→文字通り異界のリソースを吸い付くし一番実りのある異界ボスが弱り霊格が下がり掛けるギリギリを狙いボスを撃破する→フォルマなどの素材やマッカを大量ゲット!→現金や足りない分のマッカは希少性の低いドロップアイテムや素材を大量に売却したり事前に受けていたネオベテルの納品や特定の悪魔の討伐依頼の報酬で賄う。・・・正直言って私達が言うのもなんだが正気の沙汰では無い。ある程度休息も取っていて元々格下異界ばかりだったことや事前に情報を精査してネオベテルの同時達成できる別の依頼を受けていたとはいえ学業と平行して一週間休まず異界攻略で稼ぐなど常識が成層圏の彼方にぶっ飛んでいる。

 

「学校から帰ったら異界攻略に行って異界に泊って登校時間に学校に行っていただけなんだけどな」

 

「だからそれが非常識なのだ!第一なぜそこまで我々に拘る!」

 

立場もかなぐり捨ててツッコミ入れてしまう。斑鳩も珍しく呆れ顔を浮かべるほどの非常識なことをしてまで手に入れようとする理由・・・まさか

 

「まさか私達の身体でも求めて「「え、違うけど?」」・・・そ、そうか」

 

「いや落ち着きなさいよ伊砂。そんなことでここまでしないでしょ?」

 

今度は私の言葉が逆に混乱を呼んでしまった・・・よくよく考えれば幾ら何でも私達姉妹や夫は架空の人物を書類で偽装し、もう離婚もしているお母さまが美女とはいえ目の前の支援に見合う対価などと言えるはずもなかったな。混乱していて思考が飛躍し過ぎたようだ。あと義妹の方に睨みつけられた

 

「ですが確かになぜ我々を気に行ったのかは気になりますね」

 

「そりゃ勿論お宅らの狂気にだよ」

 

「「「!?」」」

 

「正確に言えばその狂気の手綱を握れる精神にだな」

 

狂気・・・確かに私達杉波の狂気は社内では有名な話だ。私達の生まれがその最たる例だがそれを肯定するというのか?

 

「私と伊砂の生まれは知っているのでしょう?その狂気を肯定するというの?」

 

斑鳩も同じことを思ったのか思わず立ち上がっていた。

 

「別に誰かを犠牲にして生み出された訳でもあるまい?ただ見込がない場合使い捨てるのは改めて欲しいがな。他の実験も表の人間は勿論真っ当な裏の人間は使っていないなら十分その狂気の手綱を握っているといえるな。第一さっきも言ったがヤタガラスに配慮して日本ではその手のことをやってないようだしな・・・だが俺の傘下に入れば四つのことを約束をすれば成功失敗の是非は勿論、予算に糸目はつけないしお前達の思うがまま自由に研究することを許すぞ?」

 

「約束?」

 

「一つ 神木狩谷及び【万神連合ネオベテル・ウルトラスープレックスホールド】とその協力関係にある人物、団体に敵対する組織や疑惑のある人物、大体との取引、一方的な提供、研究協定などと言った背信行為に繋がる行動を禁じる。

 

二つ 各種実験に人間を用いる場合いかなる場合であっても表の人間を使用することは禁じ、裏の人間であっても神木狩谷が選定した人間以外は使用しないこと。

 

三つ アルケミスト社の製品の販売は第一に神木狩谷、第二に【万神連合ネオベテル・ウルトラスープレックスホールド】、第三に前述の団体と協力関係にある人物、団体、第四にそれ以外の人物、団体という順に優先権があるものとする。尚研究の依頼は第二までの人物、団体のみ可能とする。

 

四つ 研究内容は事前に全て神木狩谷に開示じ、承認を受け経過とその結果も報告すること。其の為毎月に会議も兼ねた報告会を実施すること。」

 

「これらを守れば自由に研究してくれて構わない・・・まぁ程度にもよるがもし破れば俺が責任を取って直々に潰すけどな」

 

義妹の言葉を引き継ぐと一瞬だけ鋭い視線をこちらに向けるがすぐに笑みを作る。

 

「でもな俺は見て見たいんだ。狂気を理性や叡智でコントロールする者を排斥するのではなく支えた先にその者達が一体何処にたどり着くのか。だから俺はお前たちの狂気を受け入れよう」

 

勿論実利的な理由もあるのだろうもしかするとそれが始まりなのかも知れない。だが今彼を動かしているのは純粋なまでの興味。傍から見たら不快だが研究者である私達はそれを否定することが出来ない。興味というのは全ての研究の根幹を成すものだからだ。

 

「普通は戯言だと笑うのが正しいのだろうな」

 

しかしそれは目の前の手付金と彼が保有する株に否定される。

 

「私は受けるに一票。こんな好条件は他にないし、何より初めてでしょ?うちの狂気を受け入れてくれる出資者なんて」

 

斑鳩の言う通り出資者は確かに今までもいたが私達の狂気を知った途端手を切るか、敵対、約定で雁字搦めにするかの三択で自由に伸び伸びと研究を行ったことなど一度も無かった。それ故に狂気を受け入れるという彼の言葉が胸に染み渡る。後になって思ったが彼らが色々動いたのは言葉に信憑性を持たせる意味合いもあったのかも知れない。まぁどの道私の答えは決まっていたが。

 

「不安要素が無いとは言わないが・・・それでもここまでしてもらって置いて全く信じないというのも合理的ではない、な」

 

私達姉妹の意見は一致した。後は先ほどから黙っているお母さまの選択次第だ確実に心は揺らいでいると思うのだけど。

 

「あ、そうそう。実はゴールドカードの発行なんだけど実は三人共レベルはクリアしてるけどネオベテルの高難度オカルト依頼の達成の条件は満たしてなくてさ。幹部権限でもせいぜい功績の前借が限度なんだよ」

 

ということは発行後に高難度依頼をこなす必要が出て来るのか。・・・ん?なぜその話を今する?

 

「という訳でもし傘下の話を受けてくれたら頼みたい依頼があるんだけど」

 

懐から小箱を取り出す。何故だろう、初めて会ってからまだ1時間も立っていないに彼の様子からただ事ではないと分かってしまうのは。

 

「はい、これ。昔俺がとある"大天使"を葬った時にドロップしたフォルマなんだけどこれを自由に研究して何か成果出してくれればいい。同じ物をネオベテルと山分けしたけどまだ俺の取り分は残ってるから必要だったらまたその時に依頼するから今回の分は好きに使ってくれ」

 

あ、それはズルいと私達姉妹の心は一致したと思う。唯でさえ揺らいでいるのに今だに濃いオーラを纏う"大天使"の天使の羽根という最上級のフォルマを渡されたら生粋の研究者はどうなるのか?勿論答えは決まっている。

 

「ええ、お任せ下さい狩谷"様"!このアルケミスト社の総力を持ってお役に立たせて頂きます!!」

 

この日からアルケミスト社と私達の運命は大きく変わることになった。かなり力技で変えられた気もしなくもないのだけど。




読了ありがとうございます!「やっぱ正攻法で攻めるのが一番だよね!」という回でした。今回出て来たキャラ(三人共覚醒者です)の詳細は尺が大きくオーバーしたので次回に回します。え、多神連合?この章の後半で活躍するから!多分、きっと!


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取り敢えず一回カロンに会って来い

明けましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします。という訳で第三十五話をお楽しみください!


アルケミスト社をかなり無理矢理、豊富な資本と希少な素材でのゴリ押し交渉で傘下に治めることに成功してから数日。ここ数日は頻繁にアルケミト社に顔を出している。この数日の間に裏業界にそこそこの影響力を持つこの会社の力を使って参加した理由の一つであるネオベテル式の新オカルトルール的なものも広めて貰ったり、低レベル覚醒者にはアイテムの値段を割引にするセールもしてもらっている。

 

「お、伊砂か。研究は順調か?」

 

「狩谷・・・様か、おかげさまでな。折紙様は?」

 

「折紙は博麗神社に用があって別行動。後呼びにくかったら様とかつけなくていいぞ?」

 

トップの親子を探していたら休憩室で資料を見ながら紅茶を飲んでいる伊砂を見つけて声を掛けるが挨拶に硬さを感じた。別に様とか付けなくていいのにな。

 

「とはいえ立場というものがあるからな。私達は狩谷様に多大な支援を貰っている身だ」

 

「いやでも斑鳩には呼び捨てにされてるから」

 

「それはあいつの方がおかしい・・・まぁさん付けまでなら」

 

「まぁいいか」

 

溜息を吐いているが妥協してくれたので取り敢えずこれで良しとしよう。よくよく見れば目に隈も出て来ている。

 

「それはそうとキチンと寝ているか?目に隈が出ているぞ」

 

「最低限必要な休息は取っている。だからここにいる訳だしな、お母さまと斑鳩はずっとハイテンションだったが」

 

「無茶すんなよ?倒れられちゃこっちも困る」

 

「分かっているわ。それにそろそろ試作品が出来る予定よ」

 

「お、マジで?」

 

存外早く結果が出たことに驚くと一見表情を崩さないように見えるが伊砂が誇らしげにしているのが読み取れる。二十四時間真顔の義妹と生活して来たのだ例え表情を変えずとも感情を読み取るくらいは造作もない。このまま会話を続ければ距離が縮まると考え他にもこの会社で開発、生産されているアイテムなどの詳細を聞き出す。交渉の前にある程度調べ契約後には資料も送られてきて目を通しているが開発した本人から聞いた方が有意義だろうという判断だったが自社製品のことになると饒舌になるのか聞いていないことも色々教えてくれたのを考えるとやっぱり本人から聞いた方が色々お得だ。

 

「なるほど現状ここの製品の【ドラグーン】は覚醒者用なんだな?」

 

「そうなるな。ネオベテルが開発したデモニカと違って未覚醒者では悪魔を視認する所か動かすことも出来ない。それにあくまで低レベルから中堅レベルの覚醒者には使えるだろうが数を揃えても上位レベルになると流石について行けないな。武装自体は霊的加工が施された銃とその弾丸が主で、ある程度距離を保て戦えればそこそこ優秀ではあるのだがな」

 

「機体も大きいから大型の悪魔相手でも戦えそうだな」

 

実際アメリカに居た頃は軍の対霊部隊の武装として採用されたこともあるようだ。とはいえ元々人口の母体数が違うので練度を問わなければそこそこの人数覚醒者を用意出来るアメリカとは違い日本の自衛隊では人数は揃わないわ今だに一部上層部や現場の者達がオカルトに懐疑的なので配備の話は無いらしい。確かに五島陸将率いる対霊歩兵部隊だけだったらレベルアップなどの成長要素もあり、小回りも利くデモニカの方がコスパ的にも、実用的にも良さそうだ。尚まだそのデモニカも原作並みの性能には及んでいないというのだから原作人類の技術レベルの高さが伺える。あれ原作では基本性能は純然たる科学なんだから頭おかしいって・・・。

 

「実際レベルは低いが数機で大型を仕留めた記録もあるからな・・・済まない付き合わせたな」

 

「いいってことよ」

 

頭が良いので俺の気づかいには気づかれてしまったがこの場の雰囲気が少し和らいだのでやる意味はあっただろうと思っていると休憩室の自動ドアが開かれ斑鳩が欠伸をしながら入って来た。

 

「ふぅわ・・・あら伊砂だけじゃなくて狩谷も来てたのね」

 

「おう、ちょっとあいつ(・・・・)を本格的に鍛えようかなって」

 

「そう。あ、そういえば後で報告しようと思っていたのだけど」

 

斑鳩が懐から階級章の様なものを取り出した。デザインは天使の羽根をイメージしたもののようだが?

 

「む、完成したのか?」

 

「一応ね。とはいえ使い捨てアイテムだけど」

 

「使い捨て?」

 

「【エンジェルオーダー】。使用者の一定範囲内にいる大天使の位未満の任意の天使を強制的に一定時間緊縛状態するアイテムよ。天使の位の概念を用いた効果だから【状態異常無効】を持っている天使にも効果があるわ」

 

「え、何それ凄い」

 

「とはいってもあの大天使のフォルマを丸々使って如何にか一つ作れるくらいだからコスパが良いとは言えないがな」

 

俺が素直に称賛するが伊砂、斑鳩は不満げだ。貴重なフォルマを使い捨てにするほど極端なアイテムで、無ければそれに秘められた力を扱えないのだから研究者としては自身の未熟を突き尽きられているようなものだろう。よしよし頑張る配下にはご褒美をやらねばな!

 

「いやいや、使い捨てでも結果を出したんだから技術力の証明には問題ないさ。それに追加で大天使のフォルマを三つ持って来たからじっくりやればいい!」

 

「本当!?」

 

「ぶふ!?」

 

目の前に三つのケースを置くと伊砂は紅茶を吹き出したが、斑鳩は目を輝かせているのでこれからも頑張ってくれるだろう。

 

「いいのか?こんなポンポン与えて?」

 

「いいいのいいの。結果出してくれてんだからさ。それに今そっちの手元に研究し甲斐のある素材も特にないんだろ?」

 

「確かに【ワイバーン】は今だに起動も出来ていないし、【ロストマトリクス】も見つかっていないが・・・」

 

「相変わらず硬いわね伊砂は。それはそうと早速お母さんの元に・・・っ!」

 

「おいおい大丈夫か?」

 

フォルマを取ろうとした斑鳩の足元がふらつき倒れそうになった所を支えるが、少し顔色が悪い。

 

「はぁだから休憩しろと言ったんだ。いい加減休め、フォルマは私が持って行ってやる」

 

「お前が休憩してなかったのね。そんな焦ってやる必要もないだろうに」

 

「うーんそう言う訳じゃないんだけどちょっと張り切り過ぎたかしらね?・・・でもミスしてフォルマを無駄にするのもアレだし少し眠るわ」

 

「おうおう、そうしろ・・・何か膝枕にされてるんだが」

 

「おい!?お前は立場というのが分からないのか!」

 

伊砂がまた斑鳩に怒鳴るがサラリーマン的に考えると同僚が取引先でしかもお得意様の社長の膝を枕にしているのだからある意味当然の反応だろう。

 

「まぁ別にいいけど。折紙にもしたりされたりしているし」

 

「いや折紙様・・・さんももう来年で高校生だろ?シスコンにも程があるだろう」

 

「それが何か?シスコンで何が悪い!」

 

「「こ、こいつ無敵か!?」」

 

尚後日折紙にもブラコンと言い換えて同じことを言ったらほぼ同じ返答をされたらしい。この義兄妹は・・・と二人共に呆れられたが。伊砂が頭を押さえながらフォルマを三つ共研究室に持って行ったのを見送ると膝の上に頭を乗せている斑鳩に視線を戻す。

 

「全く伊砂の言う通りちゃんと休めよ?それともあのことを気にしてるのか?」

 

「そうね・・・色々無茶言ったからその分頑張らないとって気持ちはあったかもね」

 

「そりゃ予定してたよりも早く傘下に治める必要が出来たけどお前の情報提供や根回しのお陰で株が効率的に回収出来たからトントンだっての。それに研究者は忍耐強くないとな?"カナリア"の為にも」

 

「ええ、鍛錬も付けてくれて感謝してるわ。この後もやってくれるみたいだし」

 

「そういう約束だしな。だからカナリアだけじゃなくてお前の胸にあるもののことについてのことも任せな」

 

俺がそう言って微笑むと斑鳩は安堵の表情を浮かべそのまま寝息を立てて数時間の休息を取った。

 

 

【アルケミスト社 本部 試験ルーム】

 

「あ、斑鳩と狩谷・・・先生!」

 

「おう、カナリア。呼び方も分かって来たな」

 

休憩後この研究所の試験ルームで待ち合わせていたカナリアという少女と落ち合う。しかし彼女通常の人間と違いエルフ耳をしている。これは装飾品でも何でもなく本物の耳で彼女は嘗て採取されたエルフの細胞から生み出されたクローン体。要するに人造悪魔なのだが彼女にはとある欠陥があった。

 

「カナリア、今日から本格的な鍛錬に入るそうよ?」

 

「え、本当!?さぁ早くやろう!」

 

斑鳩の言葉に驚き彼女が先ほど大天使のフォルマを見ていたように目を輝かせながらこちらを見る。こうも期待されるのは俺がここ数日カナリアに時間を割いてオカルトの講義や戦闘術の基礎を実技も交えて教えて来たからだ。どうも講義の部分だけ見ても斑鳩に教わったものよりも分かりやすかったらしいがそう言われた斑鳩の心にも配慮してやって欲しい。まぁ前世で散々後輩の育成をしていたので単純に経験の差と相手の目線に合わせることを覚えれば俺より頭が良い分良い教師になると思うんだけどな。因みに俺のことを先生と呼ばせているのはこの鍛錬の時間だけで普通の時は呼び捨てでも許可している。別に呼び方は先生でも師匠でも良いのだが教わる人には敬意を持って接することを徹底させているということだ。これには俺をシショーとも呼ぶ十香にも当てはまる。

 

俺の鍛錬は厳しいだの色々身内から言われているが基礎をキッチリ積んでいることが前提だ。カナリアはその基礎するおぼつかなったので先に基礎を教えていたが今回から本格的に鍛錬に入っても大丈夫だろう。

 

 

 

カナリアと狩谷が模擬戦を始めて僅か一分。たったその時間でこの戦いの趨勢は決まっていた。

 

「基礎はちゃんと反復練習しているようだな」

 

「うう・・・」

 

狩谷はカナリアの動きに満足しているようだが無傷で、カナリアは先ほどお腹に受けた"通常攻撃"でうずくまる。

 

【神殺し 神木狩谷 Lv55】

人造悪魔(クローンエルフ) カナリア Lv15】

 

幾ら狩谷が聖槍を私に預け、【物理無効】を切り、急所は外し無手で威力も抑えているとはいえ二人には歴然たる差が存在している。それは私は勿論カナリアだって分かっていた。

 

「ま、まだ!」

 

訓練用のゴム弾を装填した拳銃を乱射するが真正面は片手でゴム弾を次々掴み取り無効化し、動き回って発砲しても最小限の動作で躱される。無駄だと分かるとカナリアは銃弾を牽制に回して訓練用の片手剣で物理スキル【スラッシュ】を発動して斬り掛かる。

 

「よっと」

 

かんっと音が鳴り片手剣の腹の部分に手を当てて片手剣のバランスを崩し、刃を逸らす。カナリアは目を見開くが負け時と【スラッシュ】を連発するが全て逸らされる。これにはレベルだけでは無く戦闘技術の差も痛感せずには要られない。

 

「こらこら、破れかぶれにならない。唯でさえお前は魔法が"使えない"だ。手札が少ない分頭を回せ!」

 

「っ・・・!?」

 

刃を逸らし続けて隙が出来るのを待っていたのか即座に接近するとカナリアの頭を掴み地面に叩きつけた。彼女は私がとある目的の為にわざと不完全に作り出したエルフ故魔法の才はあっても魔法が先天性的に使えなくなっていた。折紙曰くRPGで言えばエルフはほぼ肉体的な能力の数値を人間より低い代わりに魔の数値が高い。しかし彼女の場合魔法そのものが使えないので魔に高く振られた能力値が完全に無駄になっているという。だから現状は唯一まともなスピードを重視する戦い方をしている。

 

「か。カナリア!!」

 

思わず声が出てしまう。過保護と狩谷は言うだろうが心の衝動は止められない。カナリアも本当に痛いのか身体を震わせ一言も発さない。

 

「どうした?この程度か・・・まぁ寧ろ自分の異能に気付かずにやって良くここまでやれたと褒めるべきだな」

 

「ゲホゲホ!・・・え、異能?」

 

「異能?カナリアは生まれながらに覚醒者だったけど他の異能なんて知らないわよ」

 

「当然だろ。こいつの異能はこの世界屈指の生存能力を持つが強くなるにはいくつもの死線を潜り抜けなければならないものだ。甘やかすからだぞ?」

 

確かに甘やかしている自覚はある。だけどそうまでして仕様が矛盾している異能ってなんなのよ!

 

「で、でも全然分からないよ!」

 

「だよな。特に生まれながらだと気づきにくいだろうし、だからさ」

 

片腕を振りかざす。勿論全力には程遠いが明らかに先程と力の入れ具合が異なっている!

 

「カナリア避けなさい!」

 

「あ」

 

「取り敢えず一回カロンに会って来い」

 

【物理ギガプレロマ】【貫通撃】

 

スキルを起動させた攻撃を受けカナリアが弾け飛び、試験ルームの壁に衝突する。当然カナリアは動かない。当時の私の顔は絶望一色に染まっていたのかも知れない。

 

「ああ・・・なんで・・・アンタ、カナリアのこととこれは任せろって言ってたじゃない!!」

 

自身の胸に手を翳して怒りを露わにする。

 

「ん、別に嘘なんて付いてないさ。あいつを真に覚醒させるにはこうする方が手っ取り早い」

 

「・・・殺すのが手っ取り早いですって!!!」

 

そのもの言いに今まで使わない様にしていた力を解放しようとするが、直後衝突した壁から物音が聴こえてその発動を止める。

 

「え?・・・そんな、耐えたというの?」

 

「何を驚いている?あいつがこんな一撃で終わる訳がないだろう。母親代わりのお前が信頼してやらずにどうすんだよ」

 

「それはそうだけど、その笑みはムカつくわね」

 

狩谷はカナリアのことを信じ切っていたようで笑みを浮かべる。色々助けられている身だけどちょっとイラっと来てしまう。彼は悪い悪いと謝ると改めて立ち上がろうとしているカナリアに向き直る。彼女の身体の傷はいつの間にか全快している。

 

「でも最初は作成者にすら目的を果たす為の道具としか見られず、欠陥を持って生まれ誰からも相手にされなかった彼女が改心した母親の愛を受け、足搔いた出来損ないのエルフの意地はそれを守りたいと思う奴らを引き寄せた!その異能を得たのが先天的か、後天的かはどうでも良い!親子の愛と娘の意地を俺は賞賛しよう!それは無駄では無く確かに結果に結び付いたのだと俺は思う!学校と学友の為に立ち上がった彼らの様に!」

 

成長したカナリア()は立ち上がる。その背を守る頼もしい守護者を伴って。




読了ありがとうございます!次回はカナリア視点のお話になります。原作で出来なかったことをやるのが二次、三次創作の醍醐味だぜ!

【達人 杉波朱雀 Lv42】
アルケミト社の社長。何度も殺されているとのことだがいつの間にか復活しているらしい。その為か長生きであるらしくまたの名を【再誕の魔女】。この場合の魔女はルフェイなどの本物の魔女とは違い異名に近い。斑鳩と狩谷の密約に気付いている様な素振りを見せているが恵まれた研究環境を与えてくれた為特に言及することは無く狩谷もバレていると察しながらもスルーを決め込んでいる。実は周回ネキの周回の中で度々やらかして終末を早める厄介な人物だったのでネオベテルにマークされていたがそれを知らないエイナが情報を持って来て傘下に入れたのだから運命とは分からないものである。尚報告を聞いた周回ネキと巫女さんは飲んでたお茶を噴き出した。

【覚醒者 杉波伊砂 Lv25】
アルケミスト社の研究主任補佐。原作では割と序盤に退場したので割と語ることが少ないので後々色々盛られる。強いていうなら原作と違い斑鳩が一緒にいるのでメンタルは安定していて再調整もされていないが斑鳩のやらかしの尻拭いをしていたら持病として頭痛を発症した。しかし過去の周回では結局離反し毎回転生者の組織に駆けこむのでメンタルが不安定になり原作と同じ様なことを転生者の組織に仕掛け、アルケミスト社と転生者組織の最初の揉め事を起こし大体原作と同じ様な結末を辿る・・・この世界線での彼女の頭痛の痛みは狩谷達の介入で更にましていくがそれが幸せの悲鳴であることを知っているのは周回ネキや巫女さんなどの一部ネオベテルメンバーだけに限られる。

【覚醒者/■■■■ 杉波斑鳩 Lv27/Lv■■】
アルケミスト社の研究主任。原作とは違いアルケミスト社の本拠地がアメリカにあり、メシア教の存在もあっておいそれと離反出来なかったので過去の周回でも離反時期にズレが生じている。その為周りから白い眼を向けられるカナリアを守りながら育てていた。しかし本来なら信用出来る転生者の組織が出来たことでそちらに移る・・・はずだったのだが狩谷の介入によってカナリアの廃棄は撤回され母親の朱雀も満足しているので離脱する理由が消えてしまった。家族にも隠している奥の手を使えばLvや戦闘能力を一時的に引き上げることが出来るがバレると不味いので滅多に使うことはない。今回は信頼し始めていた狩谷に裏切られたと思って使用仕掛けたが彼が言った通りカナリアが復活したので使用をやめた。後日の話になるがあれはカナリアだけでは無く自分が彼女をどれくらい思っているのかを測る意味もあったのではないかと考えるようになった。因みに離反しずらい時期にオーダーがあったからと言って何故不完全だと分かっていながらカナリアを作った理由は原作と同様だが、その時は偏った知識や情報しか与えられていなかった為いざ離反しようと外の情報も集め始めたら割とこの世界はヤバいと後になって気づいてしまったから。

【周回ネキと巫女さん】
アルケミスト社がこの世界にもあった時点でほぼ毎回騒動を起こすので注意しつつ毎回離反してくる斑鳩の受け入れ準備も整えていたが周回知識故一般メンバーには秘密裏にする為に情報は共有せずこの会社の資料も下手に隠すよりも塩漬けにする方が隠し事がバレないだろうと書類の底に埋めていたのだがエイナが割かしごっそり資料をコピーして持って行ったので狙い済ましたかのように何も知らないネオベテル一の問題児の兄妹がフィッシングして意外と上手くやれている現状に困惑している。というかカナリアの異能についても初めてのケースなので色々と頭が痛くなってしまった。

カナリアの詳細設定は次回ですがまぁ判明した異能は分かりやすかったと思いますけど。過去周回では苦労したけど報われた結末かさんざんな目に遭って悲劇的な結末のどちらになるかは半々だったりします。


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カナリアは青空を飛ぶ

第三十六話になります!最近ネタは思いつくけど狩谷達の設定と合わないなというのが多いな。外伝を作るのも手かな?基本一、二話で登場人物変わるだろうけど。


私の生まれは・・・まぁお世辞にも良かったとは言えないだろう。私のお母さんは厳密にはこの世に居ない。アルケミスト社が入手した太古の遺産『ロストマトリクス』。かつて存在したダークエルフの王族のDNAと力が込められた宝玉なのだそうだが正直なんでそんなものを昔のエルフが残したのかはよくわかっていない。悪魔として呼べる言わば現代のエルフにも話を聞いたが『何かそんな王国が大昔に魔界にエルフの種族ごとにあったらしいですね。とはいえ全部滅びましたけど、今はその末裔がそれぞれ生きてるくらいですよ。しかも断絶した血筋も多いですし』とのことだ。

悪魔換算で大昔である、数百年単位では利かないだろう・・・え、私がそのダークエルフの王族と関係があるのかって?うーんあるような無いような?という微妙な所だ。ロストマトリクスがあった廃城の様な遺跡で採取されたエルフ・・・正確にはウッドエルフのDNAを元に足りない分を人間のDNAで補完して作られたクローンだ出来損ないだけど。いや何でダークエルフの遺跡で採取されたDNAがダークエルフじゃないねんとか、そもそも何故魔界の王国の遺跡が人間界にあるんだよとか言いたいことは沢山あるがまとめると『ロストマトリクスの元になったダークエルフの王族と何らかの関係があったウッドエルフの出来損ないのクローンハーフウッドエルフ』という私自身から見ても意味が分からない肩書だ。もっとも赤子の頃を私はそんなこと分からなかったのだけど。分かっていたのはエルフの最大の特徴の一つである魔法を使えないということだけだ。MAGやMP、魔力をエルフ故の感度の高さで感じることは出来ても肝心の魔法が使えなければほぼ意味を無くす。

 

其の為『エルフでありながら魔法が使えないとは』『出来損ないめ』『廃棄処分にするべきでは?』などと周りから常に言われ、その度に部屋の隅に縮こまって泣いていた。

 

『なぜ出来損ないで生まれて来てしまったのか?どう生きればいいのか?』その疑問が胸の中に渦巻いていた。

 

作成者である斑鳩に全ての事情を説明されたのは私が五歳になったときのことだった。彼女はずっと出来損ないの私を育ててくれる優しく常に堂々とした女性・・・そういう印象だった。

 

「ごめんなさい・・・本当にごめんなさい!貴女を自分勝手に作り出して」

 

斑鳩曰く彼女と伊砂は朱雀の卵子を元にしたデザイナーベイビーらしい。求められたのは研究者としての才能で幸い二人共その才能には恵まれていた。しかし斑鳩はとある絵本を呼んで外の世界に興味を持ってしまった。だが二人は研究所から外に出られず入って来る情報も限定的でその環境は彼女の好奇心を高める結果になってしまう。その欲求が限界を超えるのは意外と早かったらしい。彼女は任されていたウッドエルフのクローン研究で失敗すると分かっていながら私を作り出すことでお払い箱になることを狙ったのだとか。直ぐに脱出するつもりだった用だけど秘密裏に外の世界の情報を集めた結果フリーでは野垂れ死に、勢力に所属仕様にもメシア教という外からの情報が限定されている研究所の中でも良く噂を聞きき、デカい組織だが碌でもない勢力と認知されている勢力がアメリカの大半を握っていると知り、逃げ出すことなんて出来なかったらしい。

 

謝罪しながら涙を流す斑鳩に告白されたことには驚いたが別に彼女を拒絶する程では無かった。だって出来損ないだと分かっていた私を見捨てずに育ててくれた何よりその・・・。

 

『お、お母さんのこと大好きだから///』

 

顔を赤らめ抑えていた私の気持ちを斑鳩に伝えた。絵本を呼んでくれたこと、教えるのは下手だったけどそれでも頑張って勉強を見てくれたこと、一緒に食堂でオムライスを食べたこと、私を避けていた伊砂を私の部屋に連れ込んで三人で遊んでくれたこと。最初は愛情を持ってくれては無かったのかも知れない、でも今は愛情を注がれていることは幼いながらにも分かっていた。そして研究所は窮屈ではあったがそれでも楽しい思い出があると言ったら泣きながら抱きしめてくれた!これがお母さんのぬくもりなんだと実感することが出来た。

 

『ありがとう・・・絶対いつか、絵本のようにカナリアを外に連れ出して見せるから。この籠から青空を自由に飛べるようにして見せるから!』

 

『うん!その時は斑鳩と伊砂・・・お母さんとお姉ちゃんを背中に乗せて飛んであげる!』

 

お母さんと結んだ約束。名前の由来になった鳥の様に青空を飛ぶことがその時から私の夢になっていて、それを叶えるためなら何でもすると誓った。

 

だから

 

『身体も成長しましたね。では廃棄処分か、我々の実験に協力するか。好きな方を選ばせて差し上げます♪』

 

二人のお母さんの問の答えに私は生きることを選んだ。もっとこのぬくもりを感じていたいから、一緒に美味しい物を食べたり、勉強したり、遊びたいから。

 

実験にもただ耐えて来た。エルフの対魔法防御力、生きながらの半解剖、対物防御力、、薬による感覚器官の活性化と副作用、戦闘、過剰ストレスによる精神への負担、魔法では無く物理的な炎、電気への耐久度、麻薬投与とその経過などの実験を散々行わされた。でも斑鳩、お母さんの顔を曇らせたくないと傷一つなく回復してくれること相まって実験のことは伏せていた。でも流石に疲労が隠せなくなった頃伊砂が私の異変に気付き止めようとしてくれたが・・・残念ながらお母さんと違いこの会社が唯一の居場所だと思っている彼女は逆に実のお母さんである朱雀に逆に追い詰められ実験の手伝いをさせられてしまう。泣きながら私の実験を手伝う彼女を見ると胸が締め付けられた。そして私に配慮してくれたのか私を使って行う予定だったという人間・獣・悪魔との性交実験を止めてくれた。それだけでも私は嬉しいとお礼を言うと泣きながら抱きしめてくれた。お父さんは違うとのことだがやっぱり姉妹なだけあってかお母さんと同様に抱きしめられるととても安心出来た・・・斑鳩がお母さんなら伊砂はまるでお姉ちゃんのようで。一歩引いた所にいても何かと気にかけてくれて世話を焼いてくれた優しくて厳しいお姉ちゃんだ。私達三人の穏やかとは言えないけど、楽しい日々が出来るだけ長く続いて欲しいと願っていた。

 

でもそれはある日を境に唐突に砕かれた。

 

『おお!やもやこの異端の研究所にエルフがいようとは・・・どうも混ざりものの様ですが正しき心の持ち主であることは分かりますよ!人間では無い故聖女には出来ないでしょうがテンプルナイトには十二分でしょう!』

 

ある日アルケミスト社の本社がメシアの襲撃を受けた。もともと異端として目を付けられていたが、過激派の勢いが増したことによって実行された異端狩りの標的にあったようだ。その襲撃で私は天使にメシア教の施設に拉致されてしまったのだ・・・そこで見た光景は話したくない。私自身かなり非人道的なことをされて来た自覚はあったが元居た研究所の方が例えお母さん達を抜きにしてもはるかにマシだったのだから。生きながら死んでいる人ですらなくなったモノを見て最初に思い心配したのはお母さん達の安否だけだった。私自身の結末は分かり切っていて心配すらしなかったと思う。少なくとも私が見たモノより悲惨なことになることくらいは予想がついていたからだ。

 

頭に装置が取り付けられる。魔法の技術の一つなのかも知れないが科学的な方法で改造するのかと場違いなことを考えていた。もっともその余裕は直ぐ無くなり頭に様々な知識が流れ込んで私の認識を歪めようとしてくる。

 

『う・・・!』

 

だがこの程度なら耐えられる。伊達に日頃から実験に使われて訳じゃない、この手の認識を歪めたり、過度なストレスを与える実験も耐えて来た。お母さん達のことを思い出しながらじっと耐えれば乗り越えられない辛さじゃない!

 

『ふむ、祝福(天使の羽根)を与える為に正しい志を享受する装置なのですがエルフの魔法に対する耐性を込みでもここまで上手くいかないのは妙ですね・・・ああ、なるほど記憶の奥底にある親しい者との愛情。それが自身の変容を拒絶しているのですか・・・』

 

『幻滅・・・した?』

 

死ぬにしてもせめて私のまま死にたい。このまま幻滅して殺してくれれば

 

『素晴らしい!!!』

 

『正しき教えを知っても尚揺るがぬ愛情!なんと素晴らしいことか!!人間やエルフという種族の問題ではない!並みの存在では即座にその愛情を捨て去ってしまったでしょう!!勿論異端に抱く愛情は罪深い!ですがその気高さは我々の一員となり真の祝福と救済の対象となるには十分でしょう!!』

 

天使は歓喜に震えた様の笑みを浮かべこちらを見下ろす。天井が吹き抜けになっているので青空を背に微笑むその姿はまさしく神話の一ページに相応しい光景だが私にはそれがとても薄気味悪く映った。

 

『ではその記憶を消去しましょう』

 

『は?』

 

今なんて・・・?記憶の消去?

 

『異端にこれほどの愛情を抱けるのです。異端の記憶を消去し、正しい教えを齎しせばより正しい、崇高な愛情を我らが主に抱くことでしょう!!』

 

『ま、まってそれだけはやめて!』

 

『ご安心を、苦痛は一瞬ですから』

 

初めて身体が震えた今までの記憶、思い出が奪われる。それは私が人間でもエルフでもないモノになったとしても

 

『いやいや!せめて記憶だけは、思い出だけは奪わないでよ!!』

 

泣きながら懇願するが天使は笑みを崩さず手を翳す。その瞬間私の心が何かに犯される感覚を感じた。徐々に心に浸透するその感覚は奥まで到達させてはならないと本能が告げていた。

 

『ああああああああああーーーーーー!!!!!』

 

その感覚が怖くて仕方なくなって、大切なものが犯されていく苦痛に耐えられなくて。

 

天井に見える青空に手を伸ばす。その青空は皮肉の様に雲一つ無くそこにあって、私の夢を約束を思い出させた。

 

『約束・・・守れなかったな』

 

意識がもう戻れない闇に沈んでいく、瞼が閉じ暗闇しか感じられない。私の意識はこの闇に包まれ消えて行く・・・はずだったしそう思っていた。

 

『え?』

 

その闇を神々しい光によって切り裂かれるまでは。

 

『な、なんだあの光の柱は!?』

 

闇が晴れ天使の叫びで意識が有り得ないはずの浮上を果たす。天使の驚愕に満ちた顔が見ている方向に視線を向けると東の空に太い光の柱が天を貫く様に現れていた。その光は先ほど闇を切り裂いたものと同質のもので、美しいのにまるで何かが滅んだことを連想させた。

 

『こ、これは・・・まさか私の本霊である大天使様になにか、グハ!?』

 

天使の表情が苦悶の表情に変わる。そしてその身体が解れて消えていく

 

『ば、バカな!?大天使程の高位の本霊を滅ぼすなど出来る訳がない!それにまだ私は使命を果たして、ぐあああああああああああああーーーーー!!!』

 

等々身体を保てなくなったのか天使は私の目の前から消滅した。私はただ唖然とその姿を眺めているだけで何があったのかまるで理解が出来なかった。その直後部屋のドアが吹き飛んだことで我に返るとそこにはボロボロになってもこちらに走ってくるお母さんの姿が霞む目にもはっきりと見ることが出来た。ただ私を抱き留めてくれたお母さんの肌が一瞬やけに黒かった気がしたが心労と安心感で今度こそ私は意識を手放した。

 

その後アルケミスト社はアメリカから撤退し日本に拠点を移すことになる。そしてあの日に起こったことがとある組織に所属する"神殺し"であることを知り、更にその当人と出会うことになる。

 

まぁもっとも

 

『あ!?自動販売機の底に500円玉落とした!俺の腕じゃ太くて入らないんですけど!?』

 

『何やってるのよ狩谷』

 

『いやお前が連れを連れて来るまで暇だから飲み物を飲もうと思ってたら小銭が!』

 

『えっと・・・手伝いいる?』

 

『え、いいの!?ありが・・・え、エルフ!?!?』

 

研究所の廊下で地べたに這いつくばっていた人がそうだとは思わなかったけど。

 

 

 

「で、色々基礎を教わりいざ本格的な修行に入ったと思ったら文字通りぶっ飛ばされてここまで来たと」

 

「はい、そうです。飛びたいとは願ってましたがこういうことじゃないんだけどな・・・」

 

大きな川を背に私に同情の視線を向けるおじいさんに苦笑を漏らす。前言っていた「何か俺の指導ってスパルタとか言われるから優しいって言われるのって新鮮だわ!」とかは教わっていたのが基礎の段階だったからなんだなと遠い目をしながら考える。

 

「ネオベテルはおかしい奴らばかりじゃしな」

 

「知ってるんですか?」

 

「あやつらリカーム系や蘇生アイテムがあれば修行で死ぬのは普通とか思っとるからな。頻繁に構成員がこっちに来ては蘇生待ちでくつろいどるわ」

 

「えぇ・・・」

 

溜息を吐くおじいさんを見て今度はこちらが同情してしまう。

 

「ということは先生も?」

 

「うむ、覚醒して間もなくの頃は良く待ち時間に将棋とか一緒に指したわ。まぁ神殺しとなってからは魂はあやつの義妹に掌握されているから死んでも来ておらんがな」

 

「は、はぁ。えっとそれで私は蘇生出来るんですよね?」

 

「出来るぞ。お主の場合は自らの異能によってじゃがな。さて、空から降って来てワシにぶつかって来た理由は聞けたからのそろそろ始めるとしよう」

 

「お願いします」

 

おじいさんが立ち上がると私にいつの間にか取り憑いていた【魔獣 ケットシー Lv11】が現れる。私は今までこの異能のことは知らなかったけどずっと見守ってくれていのだろう。

 

「ありがとう。もう大丈夫だから」

 

ケットシーの頭を撫でると嬉しそうな顔をして頷いておじいさんの元へ向かう。

 

「いままでご苦労じゃったな。では『戦いに倒れたる者よ 案ずるな また新たな光が 汝を護らんがため やって来る……』」

 

おじいさんが改まった口調でそう言うと川の中から新しい悪魔が現れる。

 

「『さあ 陸へ戻られい 再び立ち上がった時 汝は光の力もて 生まれ変わるのだ……』」

 

悪魔、いや守護霊が私に取り憑く。

 

「これからよろしくね・・・お世話になりました」

 

「よいよい、これから長い付き合いになりそうじゃしの。後注意事項は忘れない様に」

 

「はい!それじゃ行ってきますカロンおじいさん!」

 

「うむ!狩谷によろしくじゃ、達者での!」

 

おじいさんに見送られ三途の川から現世に帰還する。ちょっとふらつくけどまだ身体は動く

 

「お帰り。カロンに会えたか?」

 

「うん!お陰で私の異能のことが良く分かった。ってせめて一言言ってよ先生!びっくりしたよ!」

 

「いやーこの方法が簡単だったからつい。一応カロンの元に行けるように念じて殴ったから大丈夫だとは思っていたけど」

 

「え、それでいけるの?」

 

「"神殺し"の認識の力の応用でいけるいける」

 

そこまで便利使い出来る能力なのかな神殺しって?でも先生本人が言ってるしな。

 

「まぁ取り敢えず身体の回復は済んでるみたいだし、仕切り直しといこう。見せて貰うぞ"ガーディアンシステム"の力を見せて貰おうか」

 

「言われなくとも!力を貸してケライノー!」

 

【妖鳥 ケライノー Lv22】

 

「鳥か、らしいじゃないか」

 

先生の笑みにこちらも笑みで返す。まだ模擬戦は始まったばかりだ!一発はまともに当ててやる!




読了ありがとうございました!カナリアは青空を飛ぶ(物理的衝撃)。うん、やっぱ主人公を半分ギャグキャラにしてよかったよ。シリアスだけじゃ自分のメンタルとか文章とか持たない!

ガーディアンシステム
概ね原作と同じ仕様だが、原作主人公の様にアビリティ補正のみの場合とパートナーの様に魔法などを継承できる場合もありますが原作と違う部分もありますが主人公仕様の場合はアビリティ補正の計算は途中までは変わりませんが算出される補正値をそのまま加えるのではなくそこから元々のステータスにプラスになるなら×2、マイナスになるなら÷2になる仕様です。そうじゃないとパートナーの仕様の下位互換になってしまいますしね。

「新しいガーディアンの数値-元々の数値÷2」だったのがプラスの場合「新しいガーディアンの数値-元々の数値÷2×2」マイナスの場合「新しいガーディアンの数値-元々の数値÷2÷2」という感じ。

この世界では主人公の仕様をアビリティ補正特化型、パートナーの仕様を魔法継承型と分けられます。


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アルケミスト社とネオベテル

第三十七話になります!本家様はまた大規模な異界討伐があるようなのでこちらもそれに合わせてお話の構成を変えたりしています。イベントには乗らねば!

※投稿をミスったので再度投稿しました。


先手はカナリアに譲ると先ほどとは数段違う速さで狩谷に迫る。先ほどよりも上位のガーディアンが憑いたことで元々の持ち味であるスピードを更に伸ばすことになった。

 

「(まずは動き回って相手に狙いを絞らせない!)」

 

狩谷から習ったことを活かす様に一直線では無く不規則に走りながら訓練用の弾を詰めている拳銃で銃撃を行う。とはいえこれで倒せるのなら苦労はしない。あくまで狩谷の動きを止める為の牽制だが先ほどとは違い手が届かない場所も狙って弾をバラまく。

 

「そうそう、銃がサブ武器ならそう使わないとな」

 

銃弾を避ける狩谷だがカナリアに立ち位置を誘導される形となった。そのまま距離を詰めたカナリアは【スラッシュ】のスキルを発動させ短剣(実は狩谷が送った品でありネオベテル製)で斬り掛かる。

 

「いやーー!!!」

 

「っとあぶね!」

 

「ここ!」

 

狩谷は擦れ擦れのタイミングで躱そうとするがそのタイミングで短剣の特殊効果により刀身が炎に包まれその炎が狩谷に燃え移る。

 

「あっち!?いやらしい使い方だなおい!」

 

「肌がちょっと赤くなってる人に言われたくない!」

 

「耐性持ちだからね!でも・・・だけどまだ異能に振り回されてるな重心がぶれてるぞ!」

 

いきなり身体能力が上がったのでまだ身体の感覚が追いついていない為か重心がぶれている。急なパラメーターの上昇に身体が付いて行けていない証拠だ。だがガーディアンシステムの特性上斬撃の合間を縫って拳を腹にねじ込んで、膝を突かせる。

 

「うう!やっぱり新しいガーディアンの力を借りても届かないか」

 

「そりゃ流石に新しい異能に目覚めたからって楽勝で勝てるなんてこともないしな」

 

「やっぱり感覚を慣らさないとダメか、でももう一本「はい、ここまでお昼ご飯の時間よ」ええ!?」

 

「おっとそんじゃ飯食いに食堂に行くか」

 

「もうちょっと訓練して欲しいんだけど・・・」

 

「ダメダメ、ようやっとまともに飯が食えるようになったんだからキチンと喰う!身体ができないぞ?」

 

訓練よりも美味いご飯が優先、特に転生者に見受けられる傾向にある。博麗の巫女直々の短縮覚醒修行でも断食が入るほど「俺ら」に取っては常識である。

 

「それはそうとガーディアン云々は私にも一言言っときなさい!【メギド】!」

 

「いやだってお前絶対拒否ぐは!?」

 

「うわ・・・」

 

 

顔を爆撃された俺だが幸い頭はアフロにならず斑鳩から聖槍を受け取ると彼女と共にまだ訓練をしたいとぐずっているカナリアを引っ張っていく。

カナリアは今まで斑鳩と伊砂の計らいでギリギリ実験動物扱いで生きていたという生活環境だったので食べ物も必要最低限だったのだが今現在はそんな制限をとっぱらっているのでお腹いっぱい食えるのだ!実際寄せ気味だった身体の肉付きは良くなり肌の血色も良くなっているのでヨシ!

 

「まぁ狩谷が来る前はここの食事は不味かったからどの道あまり食べなかったと思うけど。今日はカレーにしょ」

 

「だからって大天使のフォルマ以外で真っ先にこの会社に口出したのが食環境の悪さなのはどうかと思うけどね。私はうどんで」

 

「そういって今の体勢になってからは毎回美味しそうに食ってる癖に。美味い飯は高いパフォーマンスを発揮するのには必須です!あ、俺はラーメンで」

 

それぞれ食堂の受付で料理を頼み同じテーブルについて食べ始める。うむ、麺だけじゃなくてスープもコクがあって美味いな。互いによく絡んでるし

 

「ズルズル~!よし、ちゃんと美味いな!」

 

「設備だけじゃなくて調理担当も鍛えてたし、それに狩谷の固有スキルが戦闘の鍛錬じゃなくて調理とかの生活面の鍛錬でも有効ってどういうことよ?」

 

「それは知らんし第一一番驚いたのは俺だ。」

 

「狩谷が教えてくれると良く分からなかった数学の公式から戦闘技術まですっと頭に入るんだよね。戦闘技術の感覚的な部分も自然と出来る様になるからある意味怖いよね。直感的に「あ、こうすればいんだ!」って分かるんだもん。更に成長率やら限界突破やらスキル、レアスキルの発現率上昇とかもあるんだから色々とおかしいと思う(白目)」

 

どうやら俺の固有スキルも一つである【試す者】は色々汎用性が高く、自身が習熟しているものなら特に制限なく効果の対象内だったりする。

 

「この前ヤタガラスの友人と近況を報告してたら新人の子の武術の肩をテレビ電話で見る流れになってな。試しに色々アドバイスしたんだけど後日異界の攻略で活躍出来てレベルアップ&レアスキルを獲得することが出来ました!って報告されたときは「あ、距離の制限ないってこれ別に一度も相手に直接会う必要すらないのか」と内心戦慄したね(白目)!」

 

「「えぇ…」」

 

因みに俺の固有スキルのことを知っているのはネオベテルメンバーと中野区メンバーを除けばこのアルケミスト社だけだ。まぁ中野区メンバーには別組織の者もいるが俺が鍛えてもいるのでほぼ身内みたいなものだし、そもそもヤタガラスの例は異界攻略というイベントと指導を受けたことが初めてだったこともあり誤魔化せたが長く指導していると明らかに以前との成長スピードの差やスキル獲得率の上昇、昨日限界レベルまで上がったと思ったら今日もう限界突破してた等々などがあり流石に誤魔化せないのだ。

 

「教育本やビデオでも売ってみる?」

 

「いやー相手個々人にそれぞれ専用のものを用意しないと多分意味ないと思うわ…恐らく、きっと」

 

「ちゃんと言い切りなさいよ」

 

「試してないことは言い切れなからね。まぁ試してマジで効果あったら色々やばいんだけど」

 

「もしそうだったら狩谷の影響力が凄いことになりそうだけど」

 

「例えそうだったとしてもメシア教過激派を筆頭に色々な奴らから狙われそうだからやらないけどな!」

 

「「でしょうね(だよね)」」

 

固有スキルのことを知るネオベテル内でも俺の身内の現地人らしからぬレベルのインフレ具合が話題に上がることがあるのに外部に漏れようものなら前回の事件よりも大規模な戦火が中野区に襲い掛かることだろう。というかアックアクラスが他にも来るとか怖いんですけど!

 

「狙われそうと言えば貴方、結婚話とかはないの?ネオベテルの構成員にはそういう話が多いって聞くけど?」

 

「あーそれな?メシア教穏健派や他の一神教の縁談はイリナ達教会組がシャットアウトしてくれてるし、繋がりのある魔術協会側も落ち目とはいえロードの家系であるライネスがいるし、その他地方霊能組織の依頼のときは折紙とアズールが常に近くにいるから縁談を持ちかけられるのを防いでくれるんだ!本当ありがたい。やっぱ持つべきものは友達だな!」

 

「「(それは多分囲われてるだけでは・・・)」」

 

彼女達の頑張りで幸いにもそう言った面倒事には巻き込まれていない!その代わり戦闘での厄介事は多いけどね(白目)!・・・二人に生暖かい視線を向けられているのがよく分からないけど。

 

「所でこの後は予定はどうするの?」

 

「ああ、ちょっと朱雀に頼んで実験室を一つ借りさせてもらってな。そこでちょっと調べることのある奴が居るんだ」

 

 

【第十実験室】

 

実験室前には事前に連絡し、用事を頼んだ折紙と連れて来てもらった十香が待っていた。

 

「折紙ー、悪いな本部の帰りにこっちに寄らせて」

 

「気にしてない。言われた通りトオカを連れて来た」

 

「うむ、私に用とはなんなのだ?」

 

「十香のペルソナについて少しな・・・あ、紹介するよ斑鳩とお前の妹弟子のカナリアだ」

 

「よろしく」

 

「え、えーとカナ「おお!!シショーが言っていたのはこの子のことか!よろしくなカナリア!」手をブンブン振らないで―!?」

 

この前話したときから会いたがっていたので嬉しそうにカナリアの手を握って激しく上下に揺らして困らせている。カナリアは困っているが斑鳩が微笑まし気に見ている様子から本当に嫌がっている訳ではないのだろう。今回はペルソナの件で呼んだが元々カナリアに年の近い同性の友人候補として紹介するつもりだったが、俺の目に狂いはなかったようで何よりだ。

 

「それからカナリアこれを」

 

「ん、カード?ってこれ斑鳩と同じ奴だ!色は違うけど」

 

「それはブロンズカードだ。カナリアの場合斑鳩達と違ってまだレベルや依頼の条件を達成していないからな」

 

「へー、あれでも朱雀は兎も角斑鳩と伊砂はレベルが足りなくない?ゴールドは30以上とかだよね?」

 

「二人のレベルは確かにまだ足りないけどマジックアイテム作成の腕と研究者としての脳みそでクリアしている。作成したアイテムや研究の内容が30レベル相応以上の場合に認められる特例だな、一応オカルト系の作成作業や研究でもレベルは上がるけど効率は悪いから」

 

「因みに私は正確には魔術協会所属になっているから最上位のゲストパスを持っているぞ!一部権限以外はシルバーカードと同等だな。半年ごとに更新の必要はあるけど便利だぞ!」

 

「色々決まりがあるんだね」

 

因みに我ら中野区のネオベテル所属カードやゲストパスの割合は

 

ブラックカード:狩谷、折紙、二亜、白織、エイナ

ゴールドカード:ワシリーサ、イリナ、ゼノヴィア、ルフェイ

シルバーカード:ジャンヌ、トキ

最上位ゲストパス:ライネス、ルヴィア、十香

 

という感じになっている。白織は悪魔ではあるがスライムニキと似たような例ということでブラックカードを持っているのはいいとして多少揉めたのは折紙の方だ。転生と言っても「俺ら」では無いので良くてもプラチナカードだろという意見があったのだがブラックカードには常時では無いものの位置情報が本部に送られる仕組みがあるので、折紙自身がそちらが監視するのに都合がいいはずと主張したことで一部権限の使用不可並びに非常時を除きブラックカードから一定距離離れると本部に通報されるというアラート機能を付けるという条件で所持が許されている。ジャンヌとトキに関してはレベルは十分だが元々敵対組織に所属していたこともあって必要依頼数がマイナスからのブロンズスタートだったが割とすぐシルバーに上がれたのだから流石と言った所だ。そしてここにアルケミスト社社員が入って来る。

 

ゴールドカード:朱雀、斑鳩、伊砂

ブロンズカード:カナリア、戦闘員五名(ドラグーン部隊)、研究員三十名、製造部門百名

アイアンカード:営業、広報、人事、警備部門などの一般社員(オカルトの知識あり)が二百名

 

この会社は全社員オカルトの知識はある(入社試験の段階で適正を見られ入社後研修が行われる)ということなので元々規模の割に社員数は少なめだったそうだが件のメシア教過激派襲撃後死亡者や行方不明者、退社した者(流石にアメリカには居られないので日本で別の仕事に付いているらしい)がいる為更に減ってるとのこと。特に戦闘員はレベル一桁が大半とはいえ覚醒者が数十人は在籍していたらしいが現在は各部隊の生き残りを集めてギリギリ一部隊出来る程度なので当時の戦闘の激しさが分かるだろう。せめてもの救いはその戦闘を生き残っただけあって平均が十数レベルであったりドラグーンなどの装備が現地人の霊能組織にしては整っているので人数の割に優秀な部隊だということだ。

 

「そんじゃさっき言った通り斑鳩と折紙は計器のチェックを頼む。カナリアは見学しとけ」

 

『はーい!』

 

『任せて』

 

『ペルソナ使いのデータは貴重だから心配せずともデータは取るわよ』

 

実験室内、取り敢えずデータは外から取って貰うとして部屋の中には俺と十香のみが入室している。

 

「今回は簡単に言えば十香のペルソナのリミッターを上げることが目的だ」

 

「リミッター?・・・ああ、確かあのとき固有スキルで出力制限をしたとか言ってたな」

 

「そうそう、あの後巫女さんや周回ネキにも話を聞いたんだがやっぱ解決の仕方があれだったみたいでな」

 

「自分で言うのもあれだがかなり力技だったからな・・・」

 

何でも十香のパレスに発現時に丁度十香と合流しようとしていたライネス、トリムマウ、ルヴィアが巻き込まれた。ライネス曰く「魔術で対応出来なくはないけどやっぱりペルソナじゃないと肝心のシャドウは倒せない、せいぜい体力を削る程度であとは説得と十香の霊的才能によるパレスごと封じ込めのゴリ押しで対処したよ」とのことだったのだが、まぁそんな結末をシャドウが納得する訳もなくあくまで手に入れられたのはペルソナの力の欠片みたいなものなのだそうだ。しかしシャドウの嫌がらせか出せる出力は完全なペルソナ状態で漸くコントロール出来る100%オンリーというクソ仕様になったのではとのこと。そんなときに俺の固有スキル【■■■】の効果で20%くらいまで出力制限が掛かっているらしい。

 

「という訳で出力制限を40%まで上げるぞ。技術的にもそれくらいなら身に付かせたし、レベルもある。ネオベテルの依頼もこなして実績も十分だしな」

 

【ペルソナ使い 夜神刀十香 Lv33】

 

「ふむふむ、火力が上がるのはいいな!でもどうやるのだ?」

 

「俺の【神殺し】の認識干渉能力で十香が封じ込めたパレスを再度展開させシャドウをぶん殴ゲフンゲフン交渉しに行く。後俺の固有スキルの実態も掴めるなら掴む」

 

「でもそれならいっそ攻略をしてしまうのはどうだ?」

 

「いや、多分お前のシャドウ絶対拗らせてるから無理だぞ(前世での体験談)」

 

「・・・きな粉パンでもダメか?」

 

「ダメだと思う。何度も交渉するしかないな」

 

「そうか・・・」

 

「うん、一緒に頑張ろうぜ」

 

残念そうに肩を落とす十香を励ましつつ互いに準備を済ませいよいよ実験開始である。

 

「行くぞ・・・来いペルソナ!!【戦車 ナへマー】!!」

 

「よしよし、それじゃやるか」

 

「頼むぞシショー!」

 

自身の聖槍を十香の胸に突き刺し意識を集中させる。この聖槍ライトスピードはこの前手に入れた祝福の聖剣も強化素材として使用しているので聖槍の力が増している。これなら十香の奥にまで聖槍の力を浸透させることが出来る後は聖槍の力に神殺しの力を合わせるのだが【ゴルゴタの突き】を行使するときのロンギヌスの槍のレプリカを顕現させる原理とほぼ同じな為問題無く力同士を掛け合わせて浸透させることが出来た。そして心の中に封じられているパレスと心其のものと集団的無意識に干渉し、封印を解除していく。神殺しとて万能ではなく認識や心に干渉する程度でパレスを生み出したりすることは出来ないが、封印の解除くらいは行える。

 

「お、開けた」

 

『こちらも認知異界の反応を感知したわ、ただ反応は少し弱いみたいだけど』

 

「一度攻略されているからか?まぁ展開させて見れば分かることか、行くぞ十香!」

 

「いつでもいいぞ、今度こそもう一人の私と仲良くなるのだ!」

 

「その意気だ!」

 

十香もやる気を漲らせている。俺も負けない様にサポートしないとな!と思いながらパレスを展開させる。

 

 

【十香のパレス内】

 

「・・・これは城か?にしても色々壊れているが」

 

「あれは最初の攻略の時の戦闘跡だな。それより雑魚シャドウも湧いて・・・いないな?」

 

十香のパレスは古城の様な場所で全体的に寂しげで破損や風化が目立っているのが印象的だ・・・まぁきな粉パンだらけじゃないだけいいけど。

 

「罠の類も解除或いは作動し終えて無効化されているな。十香道は分かるか?」

 

「ここは私の心の中で攻略済みだからな、まかせるのだ!」

 

得意げに胸を叩く十香に和みながら古城の内部を進み問題無く最深部のボス部屋に辿り付けたのだが。

 

『ほう・・・パレスが再度展開されたのは感じてもしやと思ったがまたここに来たかもう一人の私よ』

 

「「・・・」」

 

『・・・どうした。何故黙っている?』

 

「「・・・趣味ですか?」」

 

『ちっがーう!?!?この姿は神殺しの仕業であろう!!』

 

「え、そうなの?」

 

遭遇したナへマ―は体中を黒い鎖で雁字搦めにされて動けない様だ。どうやら俺のせいらしいが固有スキルのことだろうか?

 

『ごほん・・・それはそうと男連れとは私に似て来た様だな?』

 

「露骨に話を変えたな・・・似て来たとはどういうことなのだシショー?」

 

「ああ、目の前のナヘマーことナアマって悪魔はなイブと喧嘩して別れたアダムとイチャイチャしたり、あのシェムハザとアザゼルを堕落させたり・・・要するにビッチだ」

 

「び、ビッチ!?ライネスから聞いたことがあるぞ!心の底から愛している訳でもなく、そうしなければならない理由や必要性もないのに多数の男性と関係を持つ女性のことだと!」

 

「あいつ何教えてんだ。間違ってはいないけど」

 

ボス部屋で遭遇した自身のシャドウであるナヘマーの実態を聞いてドン引きする十香。後日ライネスにこのことで問い詰めて見るとしよう。

 

「うう・・・【終焉の剣】というスキルやこの鎧や魔剣から考えてもっとカッコいい悪魔かと思っていたのに!」

 

「あーよしよし、お前コントロール出来なくても魔剣や鎧がカッコいいって言ってたもんな」

 

『勝手に失望するな!高位の悪魔なことに違いはないであろう!!』

 

「いや、でも自分の姿と似ている奴がビッチとか普通に泣きたくなるだろ」

 

ナへマ―の姿は十香をより大人っぽくした姿で十香の鎧とデザインが似ていることもありぼっきゅぼんのセクシーで綺麗な大人の女性・・・なのだがビッチだと思うと何となく不純にしか見えなくなってしまう。俺でさえがっかりしているのだから姿が似ている十香のショックの大きさが良く分かるというものだと胸元で泣いている彼女の頭を撫でながら溜息を付く。例えあいつの言った通りリリスと同様に悪魔の母と言ってもいい存在だとしても受け入れられないだろうな。

 

『ぐうう・・・!そこの男とて周囲に多くの女性がいる気配を感じるぞ!』

 

「む、シショーのことを悪く言うな!確かに回りに女性が多いがまだ誰ともそういう関係を結んでいないし折紙が「カリヤなら複数人でも愛を持って養ってくれる」と言っていたぞ!」

 

「おい、それ初耳なんですけど!?変な事言わないでくれ折紙ーーーー!!!」

 

十香のパレスに俺の切実な叫び声が響き渡った。




読了ありがとうございます!因みに本編の十香は両親がちゃんといるのと狩谷、ライネス、ルヴィアの教育のお陰で原作より名前をちゃんと言えたりちょっと賢くなってます。え、天然度?多分より酷くなってますね。


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罪を背負うもの

第三十八話になります!なんか気づいたらシリアスになってた。


「ふう、開幕精神攻撃をしてくるとはやるじゃないか。無効装備も貫通してくるとはな!」

 

「流石もう一人の私。容赦ないのだ」

 

『いや普通にお前達が互いにダメージを与えただけであろう・・・』

 

「取り敢えず殴って黙らせるか」

 

「抵抗出来なくさせてからの交渉は基本だからな!」

 

『まてまてまてー!?そうやってすぐに暴力に頼ろうとするな!』

 

開幕精神攻撃を繰り出して来たナヘマーが必死に戦闘行為を避けようとする。まぁこんな状態で戦闘が出来る訳が無いので当たり前なのだが。

 

『こういう時は説得などでどうこうするのがペルソナ使いってものでしょう!?』

 

「シャドウのお前から言うんかい!闇の側面なら闇の側面らしくしろ!」

 

『・・・いいだろう。ならシャドウらしいやり方でやらせて貰おう!』

 

「パレスが揺れて!?」

 

「ぬお!?流石にパレスを操ることは出来るか!十香手を離すなよ!」

 

ナへマーの叫びにパレス内部が変容していく。意識が一時的に断たれる直前に十香の片手を掴み離れないようにすると視界が暗転した。

 

 

 

私が気が付いたのはとある教室だった。最初は今通っている学校の教室かと考えたがすぐに違うと分かった。それは内装もそうだが何よりわざとなのか他のクラスメイトの視線とヒソヒソ話が聴こえて来る。

 

『あの子が幽霊を見たって子?』『そうそう、顔はいいけど嘘つきはね』『この前となりのクラスの子が怪我したのってあの子のせいなんだよね?』『怪我した子が廃墟で肝試しようとした所を無理やり止めたんだって?』

 

「・・・っ」

 

まだ私が香川県に居た小学校低学年のころのクラスメイトだ。シショーこと狩谷が調べてくれたのだが私達の家系は一神教系の霊能者の家系だったらしいがとっくの昔に没落していておばあちゃんの代ですら精々昔話程度しか伝わっておらずその手のオカルトの知識や力などは受け継がれてはいない。ただ私は一種の先祖返りに近いらしく並以上の霊能者としての才能があったらしいが、当然その手の知識が無い私達にそれを知るすべは無く逆にリスクばかり背負った形になってしまっていた。狩谷曰く覚醒をしていないが霊的素養の高い人間は悪魔からすればご馳走の様なもので今の日本の状態で私に直接的な被害が無かったのはただ単に住んでいた場所が良かっただけなのだそうだ。香川県と東京都、どちらにも地元を守護する霊的組織があり、神樹や帝都結界などの力が悪魔を遠ざけてくれて居たらしい。だがその代わり私は命の危険以外のデメリットを強く受けてしまっていた。

 

『お前/私は覚醒せずともその才能で霊視を行えていた・・・もっともオカルトの知識がない以上コントロールが出来ずに常時霊視状態の様なものだったがな』

 

「・・・街の中や遊びに行った場所で朧気ながらモヤの様なものが見えてはいたぞ。何となくだけど嫌な感じがしていた」

 

頭にナへマーの声が響く。明らかにこちらの動揺を誘っているのは分かる・・・大丈夫、狩谷やライネス達からシャドウの対応の仕方は学んでいる。気をしっかり持つのだ!

 

『周りに話しても、危険からクラスメイトを守っても理解されずバカにされて来た』

 

「でもそれは私と違ってモヤが見えないだけで!別に恨んでいるとかそういう訳じゃないぞ!」

 

『そうだろう。お前/私が本当にショックだったのはその後の両親の対応だ』

 

「っ!?」

 

ナへマーの言葉に思わず後ずさる。クラスメイトの姿が消え現在よりも少し若い姿の両親が現れた。

 

『大丈夫、十香が嘘を言う訳ないもんな?お父さんとお母さんは十香のことちゃんと分かってるから』

『お父さんの言う通りよ。少し勘違いしちゃっただけなんだもんね、私達だけは十香の味方だから』

 

優しい両親の声、だけどそれは私の言っていることを信じている訳じゃなくて、私を思ってくれているとは分かっていても私の言うことは子供の言うことだからだと真に受けてなくて・・・それはとっても

 

『気持ち悪かった・・・だろう?お前/私のことを分かっている、味方だと言っていながらこちらの言葉は信じず、内心では子供の戯言だと思っているくせにと思っていたはずだ』

 

「そ・・・そんなことは・・・」

 

『否定しても無駄だ。お前は私なのだからな、結局香川県でいい思い出といえば物心着く前のまだ霊が見えていない頃の朧げな祖母との記憶が精々であろう?祖母の死後は周りの視線や霊に怯える生活だったものな?』

 

「・・・確かにあそこではあまりいい思い出はないかも知れない」

 

或いはそのとき大社が接触してくれれば何か違っていたのかも知れないが、ライネスによると良くも悪くもクラス内部で騒ぎが収まってしまったのが悪かったのだと言う。担任の先生や親達にバレる程派手なことはまだ幼いこともあってされることは無かったからだ・・・ライネスはそれを皮肉なことだと言っていたけど。

 

「でも今は違う!ライネスやトリムマゥ、ルヴィア、狩谷、折紙、イリナ、ゼノヴィア・・・皆んながいる!この街は私を受け入れてくれたんだ!」

 

左手に握っているはずの狩谷の右手を見る・・・何故か狩谷自身の声や姿は見えないから空を掴んでいる様な感じに見えるが手そのものは見えず、感触は無くても僅かながらの暖かさを感じる。大丈夫、ここでも一人じゃない!と思える程心強い暖かさで。

 

『なるほどね、でもまるで環境のせいみたいに言っているけどまさか自分は被害者で何の罪も無いとでも思っているのか?』

 

でもその暖かささえ掻き消えてしまうようなことを言われてしまう。

 

「な、何のことだ!」

 

思わず狩谷の手を更に強く握る。さっきの両親のことは自覚があることだったが、罪というのはまるで覚えがない・・・無いはずなのに。まるで覚えがあるように背筋から全身が凍てついていく様で、少しでも暖かさが欲しくて強く手を握る。

 

『そもそもこの街に来ることになった要因はもう知っているはずだな?』

 

「あ、ああ狩谷から香川県で支部建設時に起こった出来事は聞いているぞ。おばあちゃんの魂が認知異界に囚われていたと」

 

『認知異界、あそこで確認されているのはマヨナカテレビだけどあれはテレビと死者の魂を媒介にして出現する。しかしそれは認知異界を作る条件であり、マヨナカテレビを作り出した黒幕の目的とは限らん』

 

「マヨナカテレビの黒幕の目的を知っているのか!?」

 

『流石に全容まで知らんがあの家をターゲットにした目的は十中八九お前だったからな。正確に言えばペルソナ使いに至る素養を持つ者の魂を求めていたからだが』

 

「ペルソナ使いに至る素養を持つ者の魂?」

 

『文字化けのシャドウ、何故そうなったかの過程はネオベテルで議論されて居た通りだろう。だがそもそものきっかけは黒幕がシャドウとペルソナ使いの魂を掛け合わせようとしたことが発端だ。対ペルソナ使い用であり、いずれは認知異界外でも活動出来るシャドウを作り出す為の実験作のようなものだったのだろうな』

 

確かに文字化けのシャドウは現実に現れペルソナ使いではない異能者に倒されたという話は聞いている。今思えばそれらはペルソナ使い以外の異能者に倒される所までが全て黒幕のテストだったのだろうか。

 

「だがそれと私の罪とは関係があるのものなのか?」

 

『無論多いにあるとも。先程言った通り黒幕はペルソナ使いの素養を持った魂を求めていた・・・だが祖母はそもそも異能者や霊能者としての才能はない。本来文字化けのシャドウになど成れる訳がないのだ。しかし祖母はそれを無理矢理可能にしたのだ、孫を思う気持ち一つでな。直感から本命はお前/私だと思っていたのだろうな、取り込ませない為にポルターガイストじみた現象を引き起こし残った家族を家から追い出した。ああ、素晴らしい美談だな』

 

言葉を区切るナヘマーに心臓の鼓動が増していく。忘れて居た何かが顔を出す恐怖がそこにあった。

 

『お前/私が本当に孫と言えるのだったらな?そうだろう精霊の姫よ』

 

「精・・・霊?わ、私は人間で・・・」

 

『身体は人間だ。しかし胎児のときに精霊が宿った・・・黒幕が産んだ精霊がな。当然それは胎児のまだ弱い魂を上書きして余りあった』

 

『つまりお前/私はマヨナカテレビの黒幕である存在の子ということだ。そうとも知らずに健気に守ろうとした祖母は哀れだな』

 

「私が・・・黒幕の・・・子供」

 

『そうだ。夜刀神家が巻き込まれたのはお前がその家に生まれたからだ。黒幕によって産み出されまだ意志の無い精霊だったお前/私は現世に送られ、人として生まれる為に適合する母体と胎児を探し憑依したということだ。今まで忘れていたようだがな』

 

マヨナカテレビの被害は日々増えていると狩谷は言っていた。当然被害もそれ相応に増えているはずだ。そんな奴が私の本当の親?・・・シャドウを受け入れるということを自分の闇の部分、自身の全てを受け入れるということ・・・つまり私が人間ではないことと・・・お母さんの本来の子供になるはずだった"夜刀神十香"を殺し成り代わったことを受け入れること。

 

『さぁこれを聞いた今でも自分に罪はないと思うか?私を受け入れられるか!』

 

「あ・・・ああ!?違う!私は人間・・・で!」

 

認めたくない認めたくない、だって認めてしまったら生まれたこと自体が罪だと認めてしまったら・・・今までの頑張って来たことや皆との思いでが全て覆って、本物の夜刀神十香が歩むはずだったものになってしまって・・・ワタシは

 

「ワタシは偽物なんかじゃない!」

 

動揺からか目の前の教室の光景さえあやふやになっていく。目が白い光でチカチカしていくもう狩谷達が教えてくれたシャドウ戦での注意事項すらもう頭に無くて。いつもの間にか目の前に現れたナへマーに言ってはいけない一言を・・・。

 

「お、お前なんて私じゃ!・・・へ?」

 

『ちょアイツマジでやる奴がいるかーー!!』

 

言えなかった。すぐそばで起こった爆発にナへマーと揃って吹き飛ばされたからだ。気絶する直前ふと思う。

 

「あのチカチカしていた白い光・・・シショーの【メギドラ】だったのか・・・ガクリ」

 

 

 

「おーい起きろ十香!ダメージ覚悟のゼロ距離【メギドラ】までしたんだから起きてくれー!」

 

「う、うーん・・・は!?死んだかと思ったのだ!シショー、急に【メギドラ】はやめるのだ!」

 

「いやだってずっと棒立ちしてて声を掛けてもアムリタソーダ使ってもうんともすんとも言わないからもうこれは爆破するしかないと・・・後ナヘマ―の煽りがウザかったし」

 

狩谷に頬を手でペシペシと叩かれ目が覚める。如何やら狩谷なりに私を助けようとしてくれたようだけど。

 

「・・・私のことを聞いたか?」

 

「ああ、煽られながら」

 

「そうか。私は偽物だったようだぞ」

 

思わず苦笑が漏れてしまう。私の思いも経験も友達とのコミュも本物の夜刀神十香が本来持つ筈のものを私が奪ってしまっていたのだ。シショーの狩谷も本来なら偽物の私ではなく・・・

 

「偽物って俺があったことがある夜刀神十香はお前だけだぞ?本物も偽物もないだろうが」

 

「だ、だが本来なら!」

 

「だから俺もライネス達もそんなifは知らないって!・・・十香がそれを罪だと思い背負うのは自由だ。だがなだからと言ってそんなifを持ち出して今までのことを否定すればそれはお前と共にあった俺達を侮辱することに等しい!後今までの人生を本物が現れたらポンと譲るのかお前は!」

 

普段とは違い有無も言わせぬ勢いだった。正直悩んでいたことをそんなこと扱いされて唖然となってしまう。

 

「俺達は今のお前だがら友人になったし、今のお前だから俺は弟子に取ったんだ!成り代わったのが罪だと思うならそれは自分で背負え、他人にまで背負わせるんじゃねぇ!・・・その代わり今の十香を俺達はいくらでも肯定してやる!」

 

「一人で背負え・・・か」

 

「ああ、罪は確かにときには誰かと一緒に背負ったりすることも出来るがその身体に憑依した経緯がどうあれ自分の意識ならその罪を自身だけで背負わなければならない。だってそれは自分が生きたいと思ったから犯した罪だろ?生き物に取って罪とはその生き物が生きてきた足跡であり、証だ。そもそも生き物は皆罪を背負ってるんだから俺は十香に罪がないとは言わない、罪を奪うということは、その存在の生き方や在り方を奪うことになるからだ。勿論冤罪とかは別だけどな」

 

罪とはその存在の生き方であり在り方である。だからこの罪は私だけが背負うべきものであり、他人に背負わせても他人が奪ってもいけない。小難しいことを言っているが何故が胸にスッと入ってくるのだから不思議なものだ。何よりも今の私を否定しないでいてくれたのが堪らなく嬉しかった。

 

「手厳しいなシショーは・・・でもありがとう」

 

「おう、誰が何と言おうがお前は俺達の友人で俺の弟子の夜刀神十香だ!」

 

狩谷の手が頭に伸び撫でてくれる。・・・確かに今まで人生を誰かに渡すというのは・・・なんか嫌だ。例えそれが本物の私だったとしても渡したくはないとそう思えた。

 

 

 

『おい、私の存在忘れてないだろうな?』

 

「「あ」」

 

ナへマーのことを忘れてた。




読了ありがとうございました!十香の正体は古代日本にもあった精霊の概要を見て「あ、黒幕の悪魔と設定が符合するな」とか思って付け足したりしました。


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妄想と考察

第三十九話になります!書いている間に色々設定が生えて来ました。そのキャラを初めて出した時そんな設定欠片も考えて無かったんですけどね、何でやろな(白目)?


『私を忘れて感動的な雰囲気を出すな!』

 

「いやごめんて」

 

うっかり放置してしまい拗ねてしまったナヘマーに謝りつつ話を詰めていく。

 

「それで十香はきちんと背負うと決めた訳だが…まだ不満か?」

 

『確かに前よりはマシになったようだが、ぐぬぬ』

 

「頼む!罪を背負って誰かを助けるには力がいるのだ!もう一人の私よ力を貸してはくれないか?」

 

俺と十香の説得に何かと格闘するかのように悩むシャドウ。正直査定が厳しすぎるような気もするのだが何か理由でもあるのだろうか?

 

『…こちらの試練を突破した以上多少なりとも力を貸してやる。但し!100%お前/私に力をやる訳では無い!私の全てが欲しいならその言葉を実践して貰おう』

 

「「実践?」」

 

『そうだ。確か香川県の近くに大型異界【鬼ヶ島】が確認されたのだったな?ならその攻略作戦にお前/私も参加せよ!…先程の言葉が真実ならトラウマの地であってもその地を守る為に我が魔剣を振るえるはずだ』

 

「…攻略に貢献出来れば認めるのだな?」

 

『無論、契約を違うことはしない』

 

「分かったそれで構わないぞ」

 

「そっか、お前達が決めたのなら俺からは何も言わないよ」

 

二人の契約を俺は黙って見ていた。少し危険ではあるがこれは二人で決めることだ。それにペルソナ絡みの事件は大抵本人にしか根本的解決が出来ない、周りの人間は所詮サポートや助言をする程度しか出来ないのだから。

 

『後ほぼ毎食、おやつなどできな粉パンばかり食いすぎだ!少しは別のも食べろ!』

 

「な!?きな粉パンは至高だぞ!」

 

「おい、色々台無しだぞ!でも確かに十香はもうちょっと色々食べなさい!」

 

「シ、シショーまで!・・・むうそれでは何を食べて欲しいのだもう一人の私!」

 

「あ、確かに好みは聞いて置きたいな」

 

『そ、それは・・・』

 

同じ自分な為十香とある程度感覚を共有しているのかずっときな粉パンを食っているのを抗議するのは当然だが・・・好みの話になるとナへマ―が顔を赤くして恥ずかしそうにこちらを見る。

 

『前にそこの男から貰っていた・・・ツナマヨおにぎりだ!』

 

「え、そんなんでいいの?」

 

「そういえばお弁当にあったものを貰ったことがあったな。確かにあれも美味しかったな!好物になるのも分かるぞ!」

 

「もっと凝ったものを要求されるのかと思ったが・・・分かったなら定期的に作ってやるよ」

 

『いいのか!?ま、まぁどうしてもというなら受け取ろう。これも貢物というものに入るからな!』

 

おにぎり一つが貢物になるのか分からないがナへマ―の機嫌が良くなったので大丈夫だろう。好物への情熱は十香と共通なのは流石もう一人の自分と言った所か、そう思うと大人びた姿も少し背伸びした十香に見えるのだから不思議なものだ。

 

「おう、任せとけ」

 

『な、ちょ頭を撫でるな!流石に馴れ馴れしいぞ!』

 

「む、シショー私も撫でて欲しいぞ!」

 

「はいはい『パキン』・・・ん?」

 

「『え?』」

 

そのまま二人の頭を撫でていたらナへマ―を拘束していた鎖の半数が自壊してしまった。これには俺は勿論十香とナへマ―も想定外のことの様だ。

 

『こちらとしてはようやっと両腕が使えるからいいのだが少し不気味ではあるな。というかまだ鎖は残ってはいるのだが』

 

「シショーのスキルなのか?」

 

「恐らくそうだろうな。ただ完全には発現していないから発動条件とか効果とかが分からないんだよな。多分特定の条件を満たしたから鎖が外れたんだろうけど・・・何か情報とか無い?ずっと拘束されてたナへマ―さん」

 

『一言余計だ・・・これは私見だがこの鎖には悪魔の力を感じたぞ。具体的にこれだ!というのは分からんがな』

 

「悪魔ね。俺に悪魔変身者の素養でもあるのか?」

 

結局俺のもう一つの固有スキルについてはあまり良く分からないが人間由来のものでは無さそうだ。その後はパレスを展開させたのと逆の方法で再度封印を行う。今度訪ねるのは【鬼ヶ島】攻略後となるだろう・・・ただ明らかにパレスに入る前より十香に懐かれたので折紙に冷たい視線を向けたけど。

 

 

【アルケミスト社屋上】

 

ヘリポートのある屋上で携帯に掛かって来た友人からの電話を受け取る。

 

「・・・なるほど、それはそっちの正式な依頼なんだな?OKただパーティーメンバー以外で何人か連れて行くからそのつもりで」

 

向こうが了承すると電話を切る。やれやれまた厄介事を頼まれたもんだ。

 

「受けるの?」

 

「まぁものがものだからな。幸いヤタガラス側からも命達だけじゃなくてもっと手練れも寄こすそうだから前みたく事故で遭遇して俺達だけでやり合うなんてことは無さそうだ」

 

「分かった。幸い今日私の高級造魔を受け取って来た・・・それも使えば格上相手にも十分立ち回れる」

 

「基本狩り以外じゃ格上しか相手にしていないような気もするが。お、来たか」

 

「ご歓談中でしたか?」

 

屋上に来たのはここにある人物を呼び出したからだったりする。その合間に依頼が来たけど。

 

「いや、呼び出したのはこっちだから気にするな朱雀。悪いな忙しいのに」

 

「嬉しい悲鳴という奴なのでご心配なくー。それよりお話とは何でしょうか?」

 

「それなんだが正確には俺達じゃなくて"同僚"からお話があるそうだぞ?」

 

「同僚?・・・ああ、なるほど」

 

朱雀が後ろを振り返ると俺の同僚、同じ幹部である時崎狂三こと周回ネキが朱雀に長銃を向けて立っていた。折紙が本部からこちらに来るときに同意を貰って影の中に潜伏し、この会社の警備システムを掻い潜って来たのだ。

 

「キヒヒ、急な訪問失礼いたします。ネオベテル所属の時崎狂三と申しますわ以後お見知り置きを」

 

「狩谷様と同じ幹部の方ですね、お噂はかねがね。それでお話とは?」

 

「ええ、そちらもお忙しいでしょうから単刀直入にお話しますが・・・アメリカでの御社へのメシア教の襲撃、あれは貴女自身の差し金ではありませんか?」

 

「・・・えー私共かなりの痛手を受けているのですが何故そう思いに?それとも証拠でも?」

 

「物的証拠は残念ながら。しかし状況証拠なら結構ありますわよ?例えばメシア教が粛清に本腰を入れるギリギリのタイミングで何故か御社の情報が匿名でリークされ結果的に被害を抑えられたことや亡くなられた役員、重役が貴女に反抗的だった人物ばかりですとか、処分することを考えていたカタリナさんを餌にすることが前提の様な撤退の仕方ですとかまだまだありますわよ?」

 

「あらあら、日本の霊能組織が良くこんな情報調べられましたね。海外の組織と繋がりがあるので?」

 

実際その通りである。この情報は周回ネキが同じアメリカで活動している鉄人ニキに頼み調べて貰った情報だ。それでも物的証拠を残さない辺りは流石だけど。

 

「それはお答えする必要はありませんわ。それに魔女相手に手の内は明かせませんし」

 

「それって【再誕の魔女】っていう二つ名のことですか?あれ他人が勝手に言ってるだけなので本物の魔女の皆さんに申し訳ないですよねー」

 

「あら、そんなこと無いと思いますわよ?彼女達もあの有名な魔女である"ギザイア・メイスン"なら多少大仰な二つ名でも納得されますわ」

 

「・・・へぇ?」

 

周回ネキが確信を突く一言を告げると明らかに朱雀の雰囲気が変わった。しかし不機嫌になった訳では無く愉快そうに不気味に笑っていた。ギザイア・メイスン・・・魔女裁判により牢に繋がれるが、空間・時空の移動というアグレッシブ過ぎる方法で脱獄することに成功し、さまざまな時代で目撃情報がある有名な魔女だ。

 

「さっきの状況証拠もそうだけど私がそれだと当たりを付けていなければ

分からないことだと思うけど・・・どう絞ったのか気になるわね?」

 

「うわ口調も変わってるじゃないか。まぁ独自の情報源があるんだよ」

 

周回知識なんですけどね。そこから裏付けしたのだろう。

 

「狩谷様、折紙様は知っていたのでしょうか?」

 

「え、全然。今聞いて知ったからな」

 

「何かあるとは思っていた」

 

「その割には反応が薄いような「別に朱雀の過去とかどうでもいいし」・・・それはそれで悲しいわね」

 

「私も貴女と言うより関係しているあの邪神を警戒していますわ」

 

ギザイヤと繋がりのある神となると・・・まぁあの外なる邪神様だろう。様々な迷惑を振りまくあの邪神に周回ネキも過去の周回で色々あったのだろうな。

 

「なるほど、確かに今の状況はあの神なら楽しんでいるでしょうね。でも私が"この時代"で接触したのは一度だけよ。ただどうやら目を付けられた人間はいたようだけど」

 

「それはまたご愁傷様だな。あれでもお前遺伝子的に日本人じゃなかったっけ?それも嘘?」

 

「そうとも限りませんわ。ギザイア・メイスンの姿は各時代ごとに異なります。一説には精神体になって時を渡りその時代の適合者に憑依するなんて考察もされているほどですわ。それに時空移動に関しても言えますが魔術などの類は法則はあれど基本何でもありな分野ですから」

 

「あー確かにロスヴァイセやルフェイ、アックアも色々やれてたな。で、そこどうなん?確か時空移動の方法はある程度調べられてたけど?」

 

「確かに時空移動に関しての考察は大体合っていますね、とはいえその魔術を制御出来るかは別ですが。そしてこの身体についてですが・・・」

 

如何やら時空移動には特殊な図形を描くことなど判明していること以外のプロセスがありそうだ。身体のことについては俺に熱い視線を向けているが・・・対価出せってことなんだろうな。

 

「ぼったくられそうだから聞かないよ。こちらとしてはあの邪神の情報と朱雀がネオベテルに牙を剥くのか聞きたいだけだと思うぞ?」

 

「そうですねある程度ならお教え出来ますよ?後者に関してはそもそも契約がありますので、狩谷様が最大の支援者であり続けて下さる限りこちらも誠心誠意お力添えいたします♪」

 

「笑顔で言ってるが逆に言えば他に一番が出来たら契約の裏をかいて乗り換えるって言ってない?」

 

「そうなりますね、とはいえ何のお知らせも無しに乗り換えることはしませんけど。流石にそれは不義理ですし」

 

「裏切る時点で不義理」

 

呆れるように折紙が呟くと俺の携帯が再び鳴る今度はメールの様だ。ここに来る前に食堂の厨房を借りて大量にツナマヨおにぎりを十香とカナリアに与えて丁度小腹を満たしに来た伊砂に預けたのだが、ツナマヨおにぎりのお代わりを求めて来ているらしい。カナリアはさっき昼飯食べたばかりのはずなんだがな。しかしお代わりを求めているのは三人とあるが斑鳩お前もか。

 

「・・・こいつらもこいつらだな」

 

「ふふ、如何やら狩谷様にはご予定が出来たみたいですね。あの神のお話でしたらいつでもお聞きください、今日は仕事もありますのでお暇させて頂きます。・・・ある意味で私に近しい時崎さん、またお話出来る日をお待ちしていますね」

 

最後に元の口調に戻ると朱雀は正体を見破られたのに機嫌良さそうに屋上から去って行った。

 

「あの様子だと周回ネキの周回のことについて察しているのか?」

 

「曲がりなりにも時空・空間に干渉できる魔女ですからね、実際過去の周回で出会ったときにも見破られたことがありますし」

 

「カリヤ、恐らくスザクはレベルも偽っているはず。手綱はしっかり握って置いて」

 

「私からもお願いしますわ・・・それはそうとまずは受けた依頼からでしょうけど」

 

「おう、ヤタガラスからの依頼で"必殺の霊的国防兵器"の内一体の封印場所が見つかったんだと」

 

今回はその攻略を手助けして欲しいという依頼である。後日ネオベテル側から正式に指名依頼を受けるだろうが、準備は早めにしときたい。・・・しかしこの手の話に縁があるな本当。

 

「必殺の霊的国防兵器か・・・最近急に姿を見せてきたがこれもGPが上がった影響か?それとも第三者の介入か、両方共か・・・それにマヨナカテレビの黒幕も玖番目の女神と同じ・・・そもそも認知異界に黒幕の悪魔が発生したのが原因と発表されたがそれは何時頃なんだ?もし戦後だとしたら・・・というかそんな都合よくあの悪魔が湧くのか?シャドウと悪魔の合体も普通の発想じゃない、もし黒幕本人がその"最初の個体"だったとしたら・・・だがそもそも玖番目は依代そのものに問題が・・・」

 

「・・・狩谷さん?」

 

「・・・」

 

俺は周回ネキの呼びかけと折紙の視線に気づかず思考の海に浸る。今までの傾向から黒幕が現実世界に顕現しようとしていることに疑いの余地はない、だが幾つもの疑問もまた存在している。第一に黒幕は何故十香の正体である精霊、いや神性を産んだのか。そしてそれを人間として生まれ直すように仕向けたのか。そして神性である以上何らかの権能を有しているはず・・・しかしそんな権能は今の所発揮されていないし、俺の考察が正しければ玖番目の依代の問題が解決していない。あの女神の特性上依代は適正のある人間を依代にしなければならないが顕現出来るのはその依代が死んだときだ。だが人間の依代は大抵意志や人格は兎も角生物的に生きている身体で運用されることがほとんどだ。それはつまり生きている依代で無ければ不都合があるからだ。そのことから考えると恐らく原作で顕現した玖番目は本当の意味で万全では無かったのだろう。だが依代が死んでいなければ顕現することも出来ない、この矛盾を解決するにはどうすればいいのか?・・・仮定に仮定を重ねることになるがもし十香に与えられた権能が生と死を"繋げる"、或いは"反転"させる何かだった場合・・・人間として生まれ直させたのは・・・。

 

「まさか、十香が・・・玖番目の・・・?」

 

俺が苦しそうに顔をしかめていると両頬に柔らかな手が触れる。一瞬折紙かと思ったが手の感触が違う。頭を起こすとやはり目の前にいたのは折紙では無く周回ネキだった。

 

「如何やら何か悩んでいるご様子・・・そういうときこそ私達に頼ってくださいまし」

 

「いや、その・・・正直かなり飛躍した考察というか半分以上妄想に近いんだけど」

 

「それでもです。私達は転生者の互助組織ですし、そもそも大半の【俺ら】がオタクですわ。半分以上妄想の考察?そんなものオタクなら幾らでも考えたことはあるはずですわ!」

 

「・・・何だそりゃ」

 

俺の両頬から手を離した周回ネキは自信満々にビシッと俺に指を指しながらそう断言する様子を見て「ああ、周回しててもこの人もやっぱ【俺ら】なんだな」と理解してしまい思わず笑ってしまった。

 

「トオカのことを呟いていた。友人として私も放って置けない」

 

「そうだな・・・分かった。ちょっと今回相手する必殺の霊的国防兵器に聞きたいことを聞いたらレポートに纏めてネオベテルには提出することにするよ」

 

「キヒヒ、そういう所は相変わらず真面目ですわね」

 

「まぁ前世で長い間中間管理職やってた人間の性みたいなもんだから諦めてくれ」

 

「かも知れませんわね」

 

俺がそういうと周回ネキも笑ってくれた。さて、心配掛けないようにちゃっちゃっと依頼をこなしてレポートを提出するとしよう。

 

 

 

 

 

 

「それはそうと食堂の方はいいの?」

 

「あ、やべ忘れてた!?」

 

「キヒヒ、良ければ私もご相伴に預かっても?十香さん達とお話してみたいですし」

 

その後周回ネキも連れて食堂に向かうと遅くなったことで十香達と伊砂に叱られてしまい、ツナマヨおにぎりとついでにきな粉パンを大量に作らされた。皆喜んでくれたからよかっけど・・・でも斑鳩に怒られるのはおかしくない???

 

「というか十香、何でお前周回ネキを警戒してるんだ?俺からも離そうとするし」

 

「良く分からないが狂三は危険だと本能が囁くのだ!」

 

「まぁまぁ・・・青春ですわね♪」

 

「なるほどナへマ―のせいか」

 

『違うのだが!?』という声が何処からか聞こえて来た気がするが無視する俺なのであった。




読了ありがとうございました!朱雀の設定は元ネタとは違いオリジナル要素です。「何かニャルっぽいな」と思ったのが理由ですね。流石にご本人は面倒なことになるので関係者にしましたが。十香については無理言ってんなと自分でも思いますが面白い設定を考え付いたのでついぶち込んでしまいました。本家様ごめんね!


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日光山攻略作戦

第四十話となります。今回から異界の攻略・・・攻略?に入ります(プロットを見ながら)。ただ攻略するのも面白くないのですんなりは行きませんけど。


【日光山輪王寺】

 

ヤタガラス以外の依頼を受けてから数日後。俺達は住職に挨拶した後ヤタガラスのメンバーとの集合場所である日光山輪王寺の前で待機していた。

 

「ヤタガラスから貰った資料によると今回の異界を発生させた必殺の霊的国防兵器はテンカイと。この寺や日光山との縁を考えれば当然だけど」

 

「二週間程前に異界が現れた。【必殺の霊的国防兵器】の一体、テンカイこと天海大僧正の墓石を中心に日光山全体が異界化、日光山輪王寺が調査しようとしたが序盤から平均Lv20台後半が跋扈していて調査を注意を中止したらしい」

 

「平均レベルよりちょい上くらいか、確かに輪王寺単体じゃキツイわな」

 

「かといって妾達だけでは手が足りぬしな。ここは中野ではない以上先日の事件のように契約している悪魔全召喚も無理だからなおさらじゃ」

 

中野の地は折紙によって龍脈、地脈などが掌握され調整されている。そのお陰で折紙と深い繋がりのある契約を行っている俺もその恩恵を受けている。更に折紙本人だけではなく俺にも霊質が合うように調整してくれているので各仲魔との霊的ラインをより強く保つことが可能になっている。COMPが3体までの召喚制限が在るのは安全に制御する為の制限と消費MAGの増大が主な理由だがこれらは極端な話強固な信頼関係と豊富なMAGが無視できることではあるのだが、制限を超える召喚を行うと各悪魔との霊的ラインが弱くなりMAG配給が滞ってしまうというデメリットはCOMPやプログラムのアップデートを待つ他ない、古典的な悪魔召喚は術者が一から手を入れられるので技術や実力(巫女さんや歴代主人公&ラスボスレベル)があれば対処出来るのかも知れない。【サバトマ】はある意味では別の手段での召喚法なのでここでは除外する。今回の作戦に参加する仲魔は【サバトマ】枠も入れてカーリー、ロスヴァイセ、白織、アズールの四体だ。因みにバフォメットが外されたのは

 

『テンカイ?絶対そいつの異界なんぞ仏教系の悪魔や僧侶の悪魔とかが沢山出るのだろう?奴らは破魔の力こそ一部を除いて天使共のものより少し弱いが、その分呪殺が弱点じゃ無かったり、耐性・無効とか持ってたりしているではないか!そんな奴らが跋扈する異界に我を召喚して見ろ・・・死人が出るぞ?』

 

『誰が死ぬの?』

 

『無論我である!』

 

※破魔弱点

 

『ですよね!』

 

という感じで現在はCOMPで待機して貰っている。とはいえカーリーの言う通り俺達のみでは手が回らないのでPT以外からも戦力を召集した。

 

「私がいるから安心していいぞシショー!解放した力を試すいい機会だ!」

 

「本当はライネス達も呼びたかったんだが、あっちは【鬼ヶ島】攻略に魔術協会所属の十香が参加する出来るように工作してくれているからな」

 

「彼女の場合故郷の救援という大義名分があるからそれほど難しくはないでしょうね」

 

「ああ。後のメンツは・・・研究職もいいが偶には戦闘もこなして貰うぞ?」

 

「はいはい、スポンサー様には従うわよ」

 

「なぜ私達が・・・」

 

「【鬼ヶ島】にはお前達も連れていくからだよ・・・まぁ今回の異界は難易度が高いからレベルの低いカナリアとドラグーン部隊はルフェイとエイナが引率で別の依頼をやって貰っている」

 

「まぁカナリアは兎も角山の地形で、ドラグーン同士の連携は厳しいから仕方ないわね。かと言って単体運用するには弱いし」

 

研究職ではあるが戦闘も行える斑鳩、伊砂も参加する。他のアルケミスト社メンバーもエイナとルフェイの引率の元レベル上げに励んでいることだろう。

 

「とはいえお前達も30レベルはいってるし、ここでもある程度は通用するだろう。朱雀はいないがアイツは40台後半だから急いでレベルを上げる必要もないだろう・・・問題はお前だお前!本条二亜!」

 

「ひぐ!?やっぱり?」

 

「黒札なのにこの中で一番レベル低いって自覚あるか?」

 

「いやーその・・・造魔購入の為にお金とかマッカを稼げる仕事ばっかり受けててね、【ラジエルの書】を使えば探索系や情報収集の依頼が楽に終わるから」

 

「つまり戦闘は?」

 

「あんまりしてません!あっても大体格下です!」

 

「ダメじゃねーか!?造魔の護衛がいるとはいえ最終的に頼りになるのは自分の力なんだよ!という訳で【必殺の霊的国防兵器】を殴ってレベル上げしましょうねー!」

 

「レベル上げの対象がおかしいんですけど!?」

 

「これくらい格上じゃないと俺のレベルが上がらないんだよ!!アルケミスト社を傘下に加える時に複数の異界を限界までリソースを搾り取って、攻略したのにレベルが1しか上がらなかったんだぞ!?そのくせカナリアと十香の件を終えたらそれだけレベルが上がったし!確かに二人にとって重要な試練だったかもしれないけど戦闘して入手する経験値と【試す者】の効果で入手する経験値との差が開き過ぎだろ!!絶対レートおかしいって!」

 

幾ら俺の認識が他者より自身の認識の方が強いからって差が露骨過ぎるだろ・・・何でRPGの終盤でレベルが高すぎて敵を倒しても全然レベルが上がらない現象がたかがレベル50台で起きているのだ。

 

「狩谷どうどう。でもニ亜さんもレベルは上げといた方がいいよ?狩谷の言っていることは間違ってないから」

 

「う、オタク仲間の白織ちゃんからも言われた・・・分かったよ。その代わり今度私が受けた依頼も手伝ってね!」

 

「よしよし。本当はワシリーサ、イリナ、ゼノヴィアにも声を掛けたかったんだが。あいつら今海外にいるからな」

 

「一神教関係の任務だっけ。でも時間は掛からないから直ぐ戻って来るって言ってたよ?向かった先は確か・・・あ、来たみたいだね」

 

そんな雑談を続けているとヤタガラス側のメンバーが到着したようだ。まずは見知った顔である命、桜花、千草、春姫が挨拶に来てくれた。

 

「お久しぶりです狩谷殿。とはいえ電話越しで頻繁に連絡を取り合っていたのでそんな気はしませんね」

 

「まぁ確かにな・・・順調に成長している様だな」

 

「ああ、今回は前回の様に狩谷達ばかりに押し付けんさ」

 

「頼もしいな。あと千草そのガントレットってもしかしてCOMPか?デビルサマナーになったのか」

 

「はい、春姫さんと一緒に。出来ることを増やしたくて」

 

「私もです。あ、勿論【ウチデノコヅチ】も成長したんですよ!」

 

「期待してるよ」

 

春姫もスマホ型のCOMPを見せてくれる。すっかりヤタガラスにも広まっている様だ。どんな仲魔を連れているのか楽しみだな。

 

「で、初めましてでいいのかこの場合?」

 

「今まで電話越しでしたからなぁ・・・改めて五条ノ輝夜と申します。以後もよろしゅうお願いします」

 

「神木狩谷だ。これからもよろしく」

 

俺に自己紹介をしている黒髪和服の大和撫子は前に言っていた俺が電話越しに指導したヤタガラスの新人其の人である。新人とは言っても五条家は春姫の三条家と同様に高貴な貴族の家系らしく霊的才能が高い人間が生まれやすいらしい、更に五条家は暗部での仕事を担当しているらしい。本人はそれが嫌だったからヤタガラスに身を置いたそうだが。

 

「防具もお祝いで頂きましたからな。それに見合う働きはさせていただきます」

 

「俺はその和服の反物を用意しただけで、作ったのはネオベテルの制作班だけどな。その反物も白織が自身のスパイダーシルクで作ってくれたものだから俺がやったのはマッカを払ったことくらいだ」

 

命達に比べてややレベルが低いので、輝夜が参加した初異界攻略後にスパイダーシルク製の和服を送ったのだ。性能としては制作班の腕が発揮され和服とは思えない防御力は勿論、元々あった【火炎耐性】【毒耐性】【緊縛耐性】が【火炎無効】【毒無効】【緊縛無効】にグレードアップしてたりとちょっとやり過ぎ感が無くも無いが何となくだが、輝夜には前世のエイナのような危うい所があるように見えてしまう。その分お節介を焼いてしまうのだろうな。さて、ここまでは交流があるメンツだがこっからは初見の方々だ。

 

「皆さん仲がよろしいようで何よりです。主の名代として狩谷さん、今回はよろしくお願いします」

 

「お、貴方が慎次さんか。ライドウさんから話は聞いてたぜ、頼りになる部下だって。16代目の懐刀がご一緒とは心強い」

 

「そう言って頂けるとありがたいですね。索敵は私と命さんにお任せを、そして彼女は」

 

「貴方が噂の"神殺し"ね?一度会って見たかったのよ!私は更識楯無、同い年みたいだし呼び捨てでいいわよ?よろしくね!」

 

「楯無・・・更識家の17代目か、こちらこそよろしく楯無。こちらも呼び捨てで構わないぞ」

 

慎次さんから紹介された水色髪の女性はヤタガラスと協力関係にある名家と記憶しているがその17代目が俺とタメか・・・しかし肩書に実力が伴っているのは【アナライズ】せずとも彼女が自然と纏う存在感から分かる。

 

「同じ獲物を使うみたいだし、槍使い同士異界攻略の合間で御手合せして貰ってもいいかしら?」

 

「槍使いっていっても俺は魔法や剣も使うからな。レベル差のゴリ押しが効かない技術とかになると専門程じゃない(なお技術だけなら格上幹部と並ぶことを知らない)満足して貰えるかは分からないぞ?」

 

『え?』

 

「命ちゃん達凄い顔してるわよ」

 

「いや、俺より強い奴なんてこの世に沢山いるからな?俺なんて特撮の敵組織の上級兵士・・・あーでも幹部になったからちょい上がって、正義側に一番初めに倒されて意味深なこと言って爆散する敵幹部が精々だろ」

 

「序盤の敵幹部が"神殺し"ってその作品序盤から早速インフレしてるじゃない!?」

 

「基本特撮なんて後半インフレ起こるんだから序盤からやっても大丈夫だろ」

 

「・・・人選に間違いは無かったようですね。皆馴染めています」

 

「そうみたい、カリヤそろそろ異界に向かおう」

 

「おっとこのままお喋りも楽しいけど仕事はしないとな。最終確認が終わったら出発しよう!」

 

とまぁ割と緩い空気の突入になったが皆だってプロだ。意識の切り替えは問題ないだろう・・・さて、テンカイはどんな奴かな?原作通りなら話は通じそうだが、タケミカヅチの例もある。気を付けて進もう・・・と思っていた・・・思ってたんだけどな。

 

【異界内部】

 

「穢れし魂よ、浄化され我らの神の元に行くがいい!」

 

「ふざけるな!こうなったの貴様らのせいであろう!例え悪魔になろうとも復讐は果たさせて貰う!!」

 

異界内はメシア教徒(ターミネーター)、天使と僧侶(悪魔)、仏教系悪魔が宗教戦争の如く其処かしこで激しい戦闘を起こっていた。

 

『なーにこれ?』

 

仲魔含めた俺達の心境が一致した瞬間である。いや、なんでこの異界にこんな大量にメシア教がいるんだよ話が違うぞ住職ーーーー!?




読了ありがとうございました!神殺しが出向いて想定外が起こらないなんてことはないんですよ、異界ならなおのこと。

今回の攻略メンバー(仲魔は狩谷のものだけ記載)

【神木家メンバー】
【神殺し 神木狩谷 Lv56】
【超人 神木折紙 Lv56】
【造魔 アズルニール Lv56】
【地母神 カーリー Lv54】
【妖虫 アルケニー Lv55】
【軍神 ロスヴァイセ Lv52】
【邪神 バフォメット Lv52】(控え)
狩谷の【試す者】の効果は仲魔にも容赦なく効果を発揮するため、黒札である狩谷、白織、悪魔転生者の折紙、造魔のアズールに一歩遅れる程度で普通に成長が追い付いている辺り、色々ヤバイ平均レベル50以上のPT。弱点だった搦め手やデバフ方面も白織とバフォメットがカーバーしてくれるようになったので、次は回復役の不足が目下の悩み。

【身内メンバー】
【悪魔変身者 本条二亜 Lv28】
【ペルソナ使い 夜刀神十香 Lv37】
【達人 杉波斑鳩 Lv32】
【達人 杉波伊砂 Lv30】
狩谷の身内達。天性の才能と努力、【試す者】の効果もあって黒札である二亜を除いた現地人のレベルが基本30を超えるというインフレが始まっているが代償として狩谷のレベル基準の事件にしょっちゅう巻き込まれる羽目になる。ただいくら固有スキルのブーストありでも黒札の成長率には敵わないはずなので、ニ亜のレベル上げサボりがバレた。

【ヤタガラスメンバー】
【覚醒者 大和命 Lv26】
【覚醒者 鹿島桜花 Lv25】
【覚醒者 日立千香 Lv24】
【覚醒者 三条ノ春姫 Lv22】
【覚醒者 五条ノ輝夜 Lv20】
【達人 緒川慎次 Lv47】
【達人 更識楯無 Lv42】
距離の概念とか関係がない【試す者】の効果で命、桜花、千香、春姫、輝夜の成長率がブーストされている為ヤタガラス内でも「優秀な若手のエース達。いずれ組織の中核になるかもしれん・・・でも何でこんな成長が早いんだ???」とか思われている。慎次さんについては本家様をご覧ください。楯無は原作と同様に姉にコンプレックスを持ったオタクの妹がいる設定、だから楯無は本編でも特撮の話についてこれてたりします。まぁニワカレベルですけどね。


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彼岸に咲く白き花

第四十一話となります。まだ異界の入り口付近から全く話が進んでないけど大丈夫かこれ?


意気揚々と異界に挑んだ俺を待っていたのは正しく一神教と仏教の宗教戦争と言える光景だった。

 

「え、ナニコレ」

 

 

「・・・慎次さんや、住職の話と違くないかね?」

 

「・・・その様ですね。ちょっと頭痛くなってきました」

 

 

「先手必勝で広範囲攻撃で纏めて吹き飛ばす?」

 

「いえ、折紙さん流石に行き成りそれは・・・」

 

「「む、何者だ!もしや敵側の新手か・・・返り討ちにしてくれるわ!(天使&僧侶)」」

 

『あ、ダメだこれ話が通じない』

 

そんな感じで俺達もものの見事にこの戦争に巻き込まれることとなる。こういう状況が分からない時は争っている全員を殴るに限る。

 

「仕方ない、まずは出鼻を挫く。折紙!近づいてくる前に一発お見舞いしてやれ!」

 

一神教、仏教勢力の悪魔達がこちらに迫る。ただこちらに突撃しつつ時折殴り合って数を減らしているのだからギャグ漫画に見えてしまう。という訳でギャグらしくまずは敵に吹っ飛んで頂こう。それに折角の折紙の高級造魔のデビュー戦だ。派手にやらせてやろう。

 

「了解【天使式召喚陣】起動、召喚"ホワイト・リコリス"!」

 

 

『マスター折紙の命令受諾。【造魔 ホワイト・リコリス】起動完了』

 

【造魔 ホワイト・リコリス Lv56】

 

「装着完了。攻撃を開始する」

 

折紙が召喚したのは恐山攻略後に作成を頼んでいた武器型の高級造魔だ。しかも機械音声(女性声)だが喋る。武器と言っても折紙の身体に装着して運用しているが、これはアズールの【固有武装】であるファフニールから取れたデータも造魔作成に用いられているからだったりする。とはいえサイズが大きい為俺の家の地下の格納庫から召喚する形を取っているので、折紙はCOMPを持っていない・・・ネオベテルへの配慮なのだろうか?あとこの召喚陣は天界から天使を呼び出すことも出来るが、呼んだ所で大半がイカれた天使なのでそっちの機能は使用しないとのこと。

 

『命令受諾。全兵装起動、安全装置解除、戦闘を開始します』

 

「まずは主砲で風穴を開ける」

 

『了解、50.5cm魔力砲〈ブラスターク〉照準合わせ。対象補足』

 

【コンセンレイト】【霊魔集中】【同時発動(チャージ)】

 

「第一射、発射!討滅せよ〈ブラスターク〉!」

 

【万能ギガプレロマ】【万能サバイバ】【万能エンハンス】【万能プラーマ】【初段の賢魔】【二段の賢魔】【三段の賢魔】【虐殺者】【メギドラ】

 

ホワイト・リコリスのスキル【同時発動(チャージ)】はゲームで言うと1ターンに2つまで同系統のスキル(全く同じスキルは不可)を同時発動することが可能というスキルだ。ホワイト・リコリスの場合は【コンセンレイト】【チャージ】などのチャージ系のスキルに適応される。因みに俺もチャージ系のスキルを組み合わせることが出来るが、それは【武道の素養】の効果(覚醒初期のことは知らなかったが同じスキルを持つ神父ニキは出来ないそうなので元々のスキルから成長、派生している可能性が高い)によるもので発動条件が同一の物理系スキル限定であり、魔法系列のスキルである【コンセンレイト】と別の魔法系列のチャージ系スキルを組み合わせるという事は出来ない上、キッチリとチャージ系スキル分のターンは経過する(二つのチャージ系スキルを使用した場合三ターン目に攻撃を行う)。まぁつまりどういうことかと言うと・・・。

 

「「「「「「グワーーー――!?!?」」」」」

 

「「「「「ば、万能属性ギャーーーーー!?」」」」」

 

『うわー・・・』

 

「お、折紙ちゃん凄いわね・・・正面の敵が吹っ飛んだわ「第二射、発射!」え、それ連射出来るの!?」

 

チャージ系スキルを造魔側が行っているので、折紙側は波動砲の如く敵を薙ぎ払いクレーターを作り出した砲撃を連射することが可能になっている。これはロボチキニキのアイデアで「主砲打つ時は造魔はチャージに集中して、折紙さんが撃って貰えばいいのでは?パッシブスキルと魔力の関係でその方が威力が上がるでしょうし!」とのことだ。そのまま主砲の連射で双方の陣営の勢力を削って行く。

 

「これ主砲の連射で全部終わるんじゃないの?」

 

 

「面白いくらいに敵が吹き飛んでいるが・・・攻撃が止んだ?」

 

「あー一応ホワイト・リコリスにも幾つかの欠点があってな。幾ら連射出来るとはいえやり過ぎると主砲の砲身がオーバーヒートを起こしてしまうから攻撃を辞めて冷却する時間がいるのさ。まぁ他の武装は使えるけど」

 

「ですがこれでは折紙殿に攻撃が集中してしまうのでは!?」

 

「ば、化け物が!?攻撃が止んだうちに反撃を加えよ!デバフもだ!」

 

「やはり!折紙殿!!」

 

斑鳩と伊砂にホワイト・リコリスを解説していると命の懸念通り敵の物理・魔法での遠距離攻撃と【マハタルンダ】【マハデクンダ】が折紙とホワイト・リコリスに集中してしまう。しかし・・・。

 

『障壁展開』

 

「【デクンダ】。デバフの打消しと障壁の強度は問題なし、攻撃を再開する」

 

残念ながら折紙はうちのメイン魔法アタッカー兼メインバッファー兼メインヒーラーである。デバフにも自前や装備などで耐性・無効になっていて掛かりにくく、能力低下系は【デクンダ】一発で解決である。・・・うん、折紙の負担がやっぱデカいな。今度は新たなメインヒーラーを探さないとな。流石に各種状態異常回復までには手が回っていないし、状態異常回復アイテムを多く確保したり、俺と折紙はそういう種類のものを無効する耐性装備(特にアイテムも使えない様になる類のヤバい奴)を異界攻略巡り(周回)で揃えたりして対処しているからな。なおその周回でも俺のレベル上げの効率は相も変わらず糞悪かったと明記して置こう。

 

「【デクンダ】は兎も角あの障壁は・・・折紙様の結界と似ている?」

 

 

「ああ、流石だな春姫気づいたか。あの障壁はホワイト・リコリスの【防性随意領域(テリトリー)】というスキルで発生させているが、折紙の【結界術】のデータを元に作られているから似たような感じになっているんだ」

 

「低い機動力を防御力で補っているってことか・・・機銃っぽいのも見えるし、まるで空中の移動要塞ね。でも敵にまとわりつかれると厄介よ?ある程度は近接武装と障壁でどうにかなると思うけど」

 

 

「そ、そういうときの為に私達がいるんですよ楯無さん!」

 

「千草の言う通りだ!もう少し近づいて遠距離から「はいちょい待ち」グハ!」

 

空の敵に機銃で牽制している折紙の為に接近して、遠距離攻撃で援護しようとした桜花の襟を掴んで向かうのを止める。それは後でね、今行くと巻き込まれるから。

 

「妹さんを助けには行きませんの?」

 

「何言ってんだ輝夜、勿論行くよ?折紙が"ミサイル"撃った後に、だけどな」

 

「おお!ミサイルか!確かにそれなら撃ってから向かった方が安全だな!・・・ミサイル?」

 

 

『ミサイル!?』

 

『〈ルートボックス〉展開、魔弾型誘導ミサイル照準合わせ。全対象補足』

 

「魔弾型?あのミサイルはどういう・・・ああ、私から得たデータを使ってるってそういうこと」

 

「そうそう、装着機構だけじゃなくてアズールの【魔弾作製】も組み込まれている。仕様は違うけどな」

 

十香達がミサイルという物騒な品物に驚愕しているがアズールが気が付いたようにあのミサイルは本物ではなく【魔弾作製】スキルで作られた魔弾である。というか流石に本物ミサイルは自衛隊が黙ってないって!それにアズールのライフル弾型と違いサイズと威力が大きいミサイル型には前者に無かった欠点が存在する。

 

「航空戦力は動きを封じてから叩く」

 

『了解、反転障壁展開』

 

「こ、これは障壁に覆われている?・・・!?いや、これはまさか!」

 

「そう、通常障壁はうちの攻撃は外に逃がし、外からの攻撃は阻む性質を持つ・・・即ちその反転とは」

 

「障壁で敵を閉じ込めた!?これで相手は勿論爆発の威力の逃げ場も無くしている・・・」

 

「全ミサイル一斉射!!」

 

【刹那五月雨撃ち】【銃ギガプレロマ】【トリガーハッピー】

 

「ま、まてーーー!!!」

 

天使共が叫ぶが一切容赦ないミサイルによる爆撃で文字通り跡形も無くなる。

 

「うーん流石我が妹容赦がない」

 

「爆風とか諸々障壁で内に籠るからなのか灰一つないんですけど!怖いなオリリン!」

 

 

「オリリン?」

 

「ああ、最近ニ亜が呼び始めた折紙の渾名。よしでは皆行こうか、残った敵は少数になったけど増援も来るだろうし」

 

「は、はい!・・・狩谷さん、あのミサイルにも欠点があったりするの?」

 

「勿論ある!アズールなら分かるだろう?」

 

「ええ、私の【魔弾作製】は一度の発動でカートリッジ一本分の魔弾を作製出来るけど彼女の場合は魔弾のサイズと威力的に考えて作製は一発ずつ、しかも作製に時間が掛かる感じかしら?」

 

 

千草の疑問をアズールが考察した通り、一発ずつ作製していくのでアズールとの作成速度の差は一発分なら兎も角全弾分となると無視できない差となってしまう。加えて【魔弾作製】はMPを消費して発動するスキルだが、ミサイルの方が消費MPも嵩んでしまう。まぁ同じ造魔でもMP総量はホワイト・リコリスの方がずっと上なのでコストなどは単純に比べられるものではないけどな。因みに機銃は実弾である。制作班では「こっちも魔弾にした方がローコストだろ!?」「機銃は実体弾以外認めぬー!!」という論争があったそうだが、これは蛇足だろう。

 

「ということはずっと使える武装は機銃と近接装備、障壁くらい?意外と制限が多いんだね?」

 

「その近接装備の〈クリーヴリーフ〉も攻撃だけじゃなくて、お前の蜘蛛糸みたいに伸びて敵に巻き付き動きを制限したりと使い勝手が悪い訳じゃないけどな」

 

「それなら妾達も活躍出来そうじゃ「【メギドラ】!」・・・えぇ」

 

「そうですよね、武装が使えなくてもそもそも元からか火力が凄い折紙様自身が魔法使えばいいだけですもんね」

 

仕事があると意気込んでいたカーリーとロスヴァイセが白目を剥いている様にホワイト・リコリスの欠点の一部を自身のスペックで潰せる辺り元高位天使らしく化け物染みている。

 

「というか、各種兵装を個別で運用してそれで連携取って戦うという軍隊スタイルが強いのにそれを一体に盛り込んだとかいう頭おかしい設計をしているからな。あの造魔は」

 

「ですがそれだと身体だけでは無く、頭が追いつかないのでは?」

 

「ご心配は無く、折紙は特別でな」

 

慎次さんが懸念した通り、通常の人間の脳の情報処理速度では脳に負担が掛かり過ぎてシュミレーションでも廃人待った無しな数値を叩き出してしまっているが、ヤタガラス側は知らないが折紙は元高位天使の転生者。人間と比べて脳の情報処理速度が圧倒的と言われるほどの差があるので普通に運用が出来ているのだけなのだ。折紙曰く「ちょっと頭を使う脳トレ」的な感覚らしく、更にメシア側に着いた名のある天使程狂っているように見えるのは無駄に強い情報処理能力による思考がどんどんドツボに嵌って拗らせている場合が多いとのことだ。因みに対処法も幾つかあるそうで、折紙の場合は「日常生活ではメインに思考すること以外にもサブとしてどうでも良いことを無数に思考して、普通の人間との差を出来るだけ埋めている」とのことだ。特に高位天使はどうでもいいことに思考を割く意義と言うのが理解できないらしい。逆に一個人を守護する最下級の天使などは普通の人間より情報処理速度が若干高い程度がデフォルトなので、問題にはならないらしい。分霊としてそれらが人間に遣わされることが多いのも其の為なのだろうか?

 

「さて、主砲とミサイルでごっそり減って増援が来てもすぐに立て直せなくなったな。こっからが前線組の出番だ。後衛組に補助を貰ったら突貫する・・・遅れずに付いて来いよ!!」

 

『了解!』

 

後ろからは頼もしい仲間の声、前方からは敵の増援の鬨の声を聞きながら日光山攻略の本格的なスタートを切るのだった。




読了ありがとうございます!前から話に出ていた高級造魔ことホワイト・リコリス参戦です。
メガテンの設定と合わせる為一部機能などがよりオカルト的な機能に変わっています(例えば【防性随意領域】がバリア的なものになるのは一緒でも原作とは異なり【結界術】の技術が元なので原作で可能だった一部能力が使えなくなっているがその代わり魔術・魔法的な結界としても使えるようになっているなどの違いがある)。
原作では高性能過ぎて元の折紙でさえ使用に時間制限があり、人類側でこいつについて行けるのが姉妹機のスカーレット・リコリスとウィザードのトップ層くらい(魔王の力を取り込むお方は例外枠)という軍隊運用がそもそも考慮に入れられていない欠陥品でしたが、この作品では折紙は基礎スペックからして精霊どころではなく制限時間が無いのと普通に高レベルの者達なら戦闘に付いていけ、ホワイト・リコリスも軍隊運用に平然と組み込めるというパワーインフレ極まる環境なので折紙が使えばちょっとピーキーな仕様の機体程度で収まってますけど。因みに一部仕様変更があるとはいえ、ホワイト・リコリス単体の基礎スペックもこちらの方が本霊がとある"神霊"ということで上だったりします。


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二界合一

第四十二話となります!本家様が更新止まってる間に【必殺の国防兵器】を回収していきたいのですが下手に時間軸進められないのでまだレベル的に挑める奴らが少ない・・・1、2体別格がいるなら兎も角何でこんなレベル格差があるんだろう。


折紙とホワイト・リコリスの砲撃を合図として戦闘に入った俺達は文字通り悪魔、天使、人間をなぎ倒しながら異界になっている日光山を登って行く。

 

「【ハイ・アナライズ】の結果が出たよー!メシア教側はヴァーチャー×6、パワー×12他プリンシパリティ、アークエンジェル、エンジェル、ターミネーターがいっぱい!仏教側はグリフォン×10、ヤクシニー×15、ハンサ、スパルナ、アプサラス、はかいそうがいっぱい!というこれ最早インド神話じゃない?」

 

 

「インド神話は仏教の元になった神話の一つだしな。基本異界は其処ら辺の基準とかはガバガバなんだよ」

 

「そう言うもんか、そんじゃ私は火炎耐性がある敵に【シャッフラー】して置くね!ロスヴァイセちゃんとアズールちゃんが楽になるだろうし」

 

「ああ、ついでに回復とかもな。お次はデバフだな頼むぜ慎次さん、白織、伊砂」

 

「お任せを」

 

【闇夜の閃光】

 

 

「はーい、それじゃ拘束いっきまーす!」

 

【狂い咲き】【マハシバブー】

 

 

「まだ連戦は続くだろうから消耗は抑えるがな」

 

【マハラクンダ】

 

俺の号令に合わせて慎次さんが敵全体の目を一時的に潰し、相手が対処する前に白織が行動自体を束縛。伊砂はおまけとばかりに防御を低下させる。

 

「うーんエグイ。続いてバフを頼む」

 

「承りました!スダマちゃんお願い!」

 

「アイサー!」

 

【マハマカカジャ】

 

 

「虹光の宣告者やっちゃって!」

 

『リョウカイ』

 

【バリア】

 

「こっちも主砲の冷却と魔弾の補充が完了次第砲撃を行う」

 

【ラスタキャンディ】【テトラジャ】

 

続いて春姫が契約しているスダマ、二亜の虹光の宣告者、折紙からバフを受け取る。春姫は自身の固有スキルに特化しているので仲魔で他の支援を行うというのは良い選択だ。因みに同じくサマナーになった千草が契約しているのはモムノフである。

 

「よし、デバフが切れない内にやるぞ!十香、援護してやるから切り込んでいけ!」

 

【物理ギガプレロマ】【物理サバイバ】【ミナゴロシの愉悦】【武道の素養】【初段の剛力】【二段の剛力】【三段の剛力】【物理アクセラ】【ジャベリンレイン】

 

「うむ、行くぞナへマ―!」

 

 

【物理ギガプレロマ】【物理サバイバ】【物理アクセラ】【コロシの愉悦】【終焉の剣】

 

十香が魔剣を持って突撃し、大上段から魔剣を振り下ろす。通常は大上段からの一撃などは隙が大きいのだが今相手はデバフにより動くことが出来ず、そして魔剣の一撃の範囲外に居た者は自分の聖槍より放った魔槍達によって串刺しにしていく。

 

「ロスヴァイセ、アズールは上空で折紙の護衛をしつつ援護、カーリー、桜花、俺、モムノフ、楯無、輝夜は十香に続くぞ。慎次さん、命、白織は背後や側面から攻撃してくれ、斑鳩、伊砂、千草、ジムは後方から援護・・・春姫のアレは今は温存で」

 

ざっと指示を出すと駆けだしていく。敵の数が多いのでこの初手でどれだけ数を減らせるかが重要だ。

 

「カーリー、まずは選別だ。合わせろ!」

 

「よし来た、行くぞ主!」

 

【初段の剛力】【二段の剛力】【三段の剛力】【チャージ】【物理ギガプレロマ】【物理サバイバ】【物理プラーナ】【物理アクセラ】【ミナゴロシの愉悦】【武道の素養】

 

【初段の剛力】【二段の剛力】【三段の剛力】【チャージ】【物理ギガプレロマ】【物理プラーナ】【物理エンハンス】【ミナゴロシの愉悦】【千発千中】【殺戮の母神】

 

「「【冥界破】!!」」

 

敵の群れにタイミングを合わせて発動した【冥界破】は相乗効果で威力と範囲をましている。その衝撃破は先程の攻撃でダメージを負っていた悪魔達を薙ぎ払う。残りはヴァーチャー×3、パワー×2、グリフォン×5、ヤクシニー×4と言った所か。そして敵の悪魔も動き出すが・・・

 

「こっちを見ろ!」

 

桜花が斧を片手に持ち、新調した大盾を構えながら【挑発】を発動し、敵の防御を更に下げつつタゲを集める。敵の視線と攻撃が桜花に集まる隙を突いて輝夜、楯無、モムノフが懐に入り込むと次々に攻撃を加える。

 

「流石に格上だけあってただ攻撃するだけでは防がれますなぁ・・・まぁ狩谷先生達からのダメージがある以上悪足掻きやけどなぁ!!!」

 

【物理プレロマ】【コロシの愉悦】【五月雨斬り】

 

ヤクシニーを相手にする輝夜は数度刃を打ち合うとダメージの蓄積で反応が鈍くなっているのを見破ると斬撃のタイミングをずらして【五月雨斬り】で四脚を切断して撃破する。

 

「張り切ってるわね輝夜ちゃん。それじゃ私も格好いい所を見せないとね!」

 

 

【氷結ギガプレロマ】【ミナゴロシの愉悦】【リストア】【氷龍撃】

 

楯無は槍に水を纏わせると二体のパワーを串刺しにする。その際パワー達の体内に攻撃性のある水が浸入、体内をズタズタに切り裂くとそのまま氷結し、体内から体中を凍りつかせ脆くなった身体を粉砕撃破する。モフノフも回りより実力が劣っていることを理解しているのか、ダメージで動けないヤクシニーに【チャージ】【絶命剣】で止めを刺すなど確実に倒せる相手に攻撃を繰り出している。

 

「皆さん流石ですね。正面に注目が集まっているお陰で安心して側面から攻撃出来ますね」

 

「はい!私達も強くなりましたので・・・ネオベテルの方々も更に強くなっていますが」

 

「まぁそれは掻い潜って来た修羅場(と黒札の才能、固有スキル補正)のレベルが違うという事で」

 

正面に注目が集中している間に慎次さん、命、白織が側面から攻撃を加え更に数を減らす。数体は空に逃げるが安易に空を飛べば遮蔽物が無いことを良いことに折紙、ロスヴァイセ、アズール、ジム・ガードカスタム、斑鳩、伊砂、千草の魔法攻撃、射撃攻撃の的になって撃墜されていく。グリフォンの一体がダメージを受けながら致命傷だけは避けて折紙に接敵しようとしたが、接近戦も可能なロスヴァイセが駿馬を駆りブロックしている間にアズールの弱点属性狙撃によるヘッドショットで同じ様に地に落とされた。

 

「さて、やっぱりこれの方が手早く済むか」

 

「な、何を!?」

 

聖槍を仕舞うと両腕でヴァーチャー、グリフォンの喉を掴み地面に引き倒す。二体は暴れるが【物理無効】を持っている為ダメージは受けない、そのことに気付きヴァーチャーが【ジオンガ】を行使しようとするが・・・遅いな。

 

「折紙!」

 

「了解」

 

『〈ルートボックス〉展開、魔弾型誘導ミサイル照準合わせ。対象補足』

 

「発射!」

 

 

【刹那五月雨撃ち】【銃ギガプレロマ】【トリガーハッピー】

 

ミサイル全弾分の【魔弾作製】を終えたホワイト・リコリスからミサイルの集中砲火が俺を巻き込む形で行なわれる。しかし魔弾と言っても属性は物理などで【物理無効】を持つ俺を害さず、また敵を組み伏せる姿勢の為爆風で身体が持って行かれることもない。その代わり目の前の悪魔二体は目の前で吹き飛び身体に血と肉片が掛かるが、後で着替えて洗濯すればいいので気にはならない。因みに相手が俺と同じ【物理無効】や【物理反射】相手には物理属性の魔弾しか作製出来ない代わりに【ヤブサメショット】といった貫通弾を作製出来るのでそれで対処することが可能だ。この魔弾ミサイル系統の能力は造魔のホワイト・リコリス由来なのでホワイト・リコリス単体運用でも使える。逆に折紙が主体となる主砲は単体だと使えない。

 

「ふむ、これで終わりか。そんじゃ戦利品片付けたら先に進むか」

 

「でも今やったやり方だと戦利品の素材の質が悪くならない?」

 

「いや、斑鳩他に言うことがあるだろう」

 

「皆さんお疲れ様です!」

 

後衛組が合流して早速いつも通り斑鳩達の漫才を見るが、千草が労ってくれた。

 

「そっちもお疲れ。所で二亜【ラジエルの書】は使える様になったか?この混戦状態になった理由を調べて欲しいのだけど」

 

「うーんダメ、大雑把の敵の配置くらいなら探れるけど具体的な所は読めないね。メシア教のことも調べきれないとなると」

 

「第三者の妨害か、勘弁して欲しいな。やっぱボスの所まで行って見るしかないか」

 

結局分からんもんは分からんと結論を出すと、その後数回の戦闘(悪魔との邂逅はもっとあったが大抵は少数で折紙とホワイト・リコリスの攻撃で会敵直後に蒸発したけど)を行いテンカイのお墓近くに来られた・・・のはよかったのだが。

 

 

 

 

「雑兵ごときで止められると思うな!」

 

「ヒルド、オルトリンデこのまま上空からテンカイと正気の仏教勢力を援護します」

 

「了解。パッパと片付けよー!」

 

「油断は禁物ですよヒルド」

 

ボスエリアに着くとテンカイが仏教勢力を率いて、別の仏教勢力とメシア教と戦闘しており北欧勢力であるはずのヴァルキリー三体がそれを援護している・・・。

 

『ナニコレ』

 

俺達の頭の中が再び宇宙猫になる光景が広がっていた。メシア教は良いとして何で同じ勢力同士で殴り合ってるの?しかもここで北欧勢力も出て来るんかい!?カオスもいいとこだぞふざけんな住職ーー!!




読了ありがとうございます!今回は二界(二勢力を)合一(纏めて叩き潰す)回でしたね。まぁラストで更にカオス率が高まりましたけど・・・如何やら侵入していたのはメシア教だけでは無かったようですね住職?


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多神連合との邂逅

第四十三話となります!いよいよ多神連合が狩谷達と接触しますが・・・影が薄いかも。


異界ボスであるテンカイが配下の仏教系悪魔を率いてヴァルキリー達と共に同じ仏教系悪魔と天使、ターミネーターをしばき倒しているというこれまた謎の光景に出くわして困惑している中向こうの戦闘は片が付いたようだ。

 

「えーとこれどういう状況なんだ?」

 

「む、貴様らは・・・そうか外界の霊能組織の者達か!」

 

良く分からないが何か友好的に話が出来そうだぞ?取り敢えず敵意はないようなので、ここは一旦休戦して俺達が代表として話を聞くことになった。

 

                ・・・必殺の国防兵器説明中・・・

 

「という次第だ」

 

「・・・なるほど」

 

「話を纏めると今回テンカイさんを解放したのはメシア教側。正確に言えばテンカイさんの依代が目的で此処を封じていた天使と協力して手中に収めようとしたらこの封印場所を監視していたヴァルキリー達の助太刀してくれて、復活した瞬快操られる展開は避けられたと」

 

「うむ、ただ一つ不可解なのは何故あのようなターミネーターと天使の大部隊が日光寺の目をすり抜けられたことだ」

 

「何か心当たりがあるのか?」

 

「実はこの日光山の霊脈の収束地がメシア教に占拠されているのだ。最初は単純に拠点に適していたからだと思っていたがもしかするとそれほどのエネルギーが必要な何かがあるのかも知れん。実際その収束地は現在異常に活性化しておる」

 

「それがあの大部隊に関係しているかということか。仏教側の悪魔達や僧侶の大多数が暴れているのはなんでだ?」

 

「元々メシア教が色々恨まれてるってだけじゃなさそうだよね?」

 

「恐らく収束地が異常に活性化している影響であろう。収束地である故にこの日光山中の霊脈に影響が伝播している。暴れている者達はその活性化の影響に当てられメシア教への憎悪が増幅されているのだろう。今まともなのは高位の霊格を持つ我か、メシア教の被害に直接はあっていない為憎悪が比較的少ない者達だけだ」

 

「二亜、その収束地の場所って」

 

「うん、確かめてみたけど私が【ラジエルの書】で割り出した大雑把の敵の配置の一つに重なるね。ここが拠点か」

 

 

テンカイから教えられた座標と二亜が調べた配置の一つの座標が一致したのを確認する。テンカイからの情報で今回のことのあらましが朧気ながら見えて来た。それをより鮮明にする為にもロスヴァイセと話しをしているヴァルキリー達の元に向かう。

 

「久しぶりですスルーズ、ヒルド、オルトリンデ」

 

「ロスヴァイセ、神殺しとは上手くやれているようですね」

 

「で、関係はどこまで進んでいるの?」

 

「あ、あの行き成りそれを聞くのは」

 

「・・・まぁその・・・良くして頂けてますよ。ハイ」

 

「「「あ(察し)」」」

 

・・・仲が良さそうで大変よろしい(白目)

 

「あーちょっといいか?」

 

「マスター、そちらの話は終わりましたか?」

 

「取り敢えず情報共有はな。それで次はそちらから話を聞きたいんだけど」

 

「・・・はい、私達に答えられる事でしたら」

 

俺が話を聞こうとするとスルーズが一拍間を置いて情報の提供に応じてくれるようだ。

 

「まずは自己紹介だ。神木狩谷、ネオベテル所属で神殺しだ」

 

「我らの固有名は私がスルーズ、左がヒルド、右がオルトリンデです。製造年数はこの中では私が一番古くオルトリンデが一番新しいですね。因みにロスヴァイセは私とヒルドの間の期間に製造されています」

 

「あ、そうだったんだ。さて、質問に入るが答えられないことは答えなくていい」

 

                   ・・・神殺し質問中・・・

 

「ここの監視はお前達の主神からの命令、緊急時には介入することも許されていて自己判断でテンカイを助けたと」

 

「はい、とはいえ我々は意識を同期させているのでヴァルキリー全体の総意でもありますが」

 

「もっとも個別にサマナーと契約しているロスヴァイセとかのヴァルキリーは同期は切れてるけどね」

 

「ふむふむ、だが命令されたのはその事だけだけどどんな意図があるかは知らないと」

 

「その通りです」

 

良くある上層部だけ機密を握ってて現場は知らない奴だな。確かに現場の情報を制限する方が動かしやすいが現場の上層部への信頼と上層部が有能で無ければ悪手だ。しかしオーディンとヴァルキリーなら特に問題にはならないだろう。

 

「因みにその指示は北欧勢力の主神としてのオーディンか?それとも・・・」

 

「ご想像の通りかと。オーディン様は現在多神連合の幹部として手腕を振るっています」

 

やはりか、原作でもオーディンは多神連合に参加していたからな。この世界でも高い確率で加わっていると予想はしていた。でもそうすると

 

「それはつまりロスヴァイセも「た、多神連合?どういうことですかスルーズ!オーディン様が加入していたとか初耳なのですが!?」・・・えぇ」

 

「その・・・私達にオーディン様が多神連合のことをお話下さったのはロスヴァイセが貴方に召喚されたあとですので」

 

「ロスヴァイセ・・・」

 

「ひ、酷い!?私オーディン様の護衛役だったのに!!というか私に黙って多神連合の幹部として動いていたのなら単独で動いていたのですよね!護衛役の意味は!?」

 

「「「・・・」」」

 

「うう・・・あのジジイーーーー!!!!!うわーん!!」

 

うわ、ヴァルキリーの三人が気まずそうに顔を逸らしやがった。まさか誤魔化しやすいロスヴァイセをいつも傍に控える護衛役にして配下達に自分が話す時まで気づかせないようにして情報が漏れないようにしていたのでは・・・。ま、まぁ取り敢えず泣き崩れているロスヴァイセのフォローは後にして霊脈を調べている折紙の元に向かう。

 

「折紙そっちはどうだ?」

 

「やはり霊脈を操って拠点を無効化は難しい。既にその地点はメシア教が掌握していて私は勿論異界の主であるテンカイにも無理」

 

 

「異界の範囲内にあるからテンカイ自身が乗り込んでいけるが」

 

「そうするとここの守りが足りなくなる。俗に言うボス部屋は異界の中心点。依代が安置されていることもあるし明け渡す訳にはいかない」

 

「だよな。二亜、拠点の情報は調べられるか?」

 

「戦力なら警護している天使程度なら・・・ただターミネーターとかメシア教徒の動向までは分からない。メシア教関係ならかなり詳しく分かるはずなんだけどな。あ、ただ施設の役割は分かったよ」

 

「お、マジで?凄いじゃん」

 

「へへん!なんでも【トラポート】を使用する霊能者の力をブーストする役割があるみたい。原理までは分からないからブーストする機材を直接見る必要があるかも」

 

 

「OK、天使、ターミネーターの軍勢を大量に呼び寄せられた理屈は理解した。小数精鋭で侵入して拠点を建てた感じだな」

 

「多分ね。不安は残るけど」

 

また第三者の介入・・・なのか?メシア教、ターミネーター・・・あれ何か繋がりそうな感じがする。うーんなんだろう。

 

「モグモグ、結局どうするのだ?」

 

 

「十香は平常運転だな。やっぱ拠点を攻略する必要はあるだろう」

 

「守りも必要なら私達が行くのか?」

 

「ああ、俺達は防衛戦よりも攻略戦が得意だからな。ただ防衛側と連絡も取りたいから」

 

ロスヴァイセを慰めているスルーズ、ヒルド、オルトリンデに再度話しかける。

 

「うう、マスター~慰めて「スルーズ、ヒルド、オルトリンデ。お前たちの力を貸して欲しい」・・・ふぁ!?」

 

「それは構いませんが」

 

スルーズがロスヴァイセを気にするように視線を向ける・・・どうしたんだろう。

 

「あ、あの私もヴァルキリーですし、私を頼って欲しいのですが・・・あ、もしかして単純な頭数とかそういう「え、違うけど」・・・」

 

「まぁ確かに頭数は欲しいけど、ロスヴァイセじゃなくてこの三人じゃないとダメなんだ(同期による情報共有的な意味で)!」

 

「・・・ぐふ!?」

 

「血を吐いた!?え、何で!?」

 

「いや、今のはシショーが悪いと思うぞ!」

 

 

「ロスヴァイセが考えていることは全く意図してないと思うけど、相手が私じゃないんだから紛らわしい言い方はしなくていい。誤解が起こる」

 

「うーんやっぱり鈍感なのかな?」

 

「鈍感というよりも言葉足らずなだけな気もしますが」

 

「ロスヴァイセにはダブルパンチ(恋愛&仲魔的な観点から)になってますね」

 

「ん???」

 

紛らわしい?はっきり言ったんだけどな。あ、そうだ!

 

「後状況に寄るけどロスヴァイセはバフォメットと交代するから(天使の拠点周辺なら仏教系悪魔が出ないから呪殺が刺さる&弱点を突くという意味では限定的な相手に限るが役割が被るという意味で)」

 

「こ、交代!?!?」

 

「「「「まさかの追撃!?もう止めて上げて下さい!!」」」」

 

「・・・はぁ」

 

 

折紙に呆れられながら溜息吐かれ、周りから総ツッコミを喰らった。解かせぬ。




読了ありがとうございました!狩谷達は初めて多神連合と接触した回ですがまぁ幹部と関わっていないのであっさり気味でしたね・・・ロスヴァイセがどんどん残念美人になって行く件について、いやまぁ原作からそうなんだけどね?


【誤解を解いた後】

「いやいや、そもそも初対面で得体の知れない組織の奴らに色目何て使わねぇよ。第一失礼だろ?一目惚れだったとしてももっと上手くやるわ!常識的に考えろよ」

「そ、それはそうなんですけど」

「おお、シショーが常識を説いているぞ・・・神殺しの常識ってなんなのだ?」


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作られし神兵

第四十四話となります!最近嬉しかったことは、まるでこの作品を応援するかのようにD2にロンギヌスが来てくれたことです!いやーまさか来るとはなあの元祖神殺し。固有スキルを二つも引っ提げて来ましたが・・・イベントストーリーは面白かったんだけど君ってそういう性格なのね。途中までは苦悩する強者って感じでかっこよかったんだけど、やっぱり元人間ってことなんすかんね。最後にうっかちというかポンコツ属性も盛られるとはこの私の目を(以下略)・・・スキルとかも面白そうなので本編に取り入れることは確定してたりしますがまだ登場は先になりそうです。


その後もテンカイと話し合い人界に迷惑を掛けるのはテンカイも本意ではないとのことなのでメシア教のl拠点攻略後はこの異界そのものをヤタガラス、ネオベテル双方の監視下に置き、依代の所有権は後日ヤタガラス、ネオベテルのトップ陣が話し合う(丸投げとも言う)ということを決め、テンカイと協力関係を結び彼に防衛を任せ俺達攻略組でメシア教の施設を攻め落とす作戦が決行された。

 

「でも良かったのか?そっちも依代の所有権を主張出来たと思うが」

 

「構いません。私達に命じられたのはこの異界の監視と緊急時の限定的な介入だけですので」

 

「そういうものかね」

 

相互の連絡を取る為ヴァルキリーの三人のうちスルーズだけ俺達攻略組に加わっている。作戦はいたってシンプルで相手が防衛側に攻撃する時に合わせて四方向から強襲するというものだ。これで攻撃部隊分の戦力が低下し、その攻撃部隊が防衛組と戦闘に入り容易に戻れ無い状態で仕掛けることが出来る。

 

「まぁ本来なら四方向で囲うんじゃなくて一つ穴をあけてそこから逃げた奴らを追撃!の方が戦術としては正しいんだろうけど」

 

「相手が相手。狂った天使とターミネーターが逃げ出すとは思えない」

 

 

「寧ろこっちを道ずれにしようと死ぬまで攻勢駆けて来るのがデフォだしな」

 

「本当狂信者って面倒よね」

 

現在の布陣は真正面の北が俺、折紙、ホワイト・リコリス、スルーズ、斑鳩、東が命と楯無以外のヤタガラス組と二亜とその仲魔達、西が命、楯無、十香、伊砂、南が俺の仲魔達だ。因みにロスヴァイセは一旦交代でバフォメットを出している。攻撃部隊が拠点から離れてから配置を終えてそこそこ立つのでそろそろ頃合いか。

 

「ヒルド、オルトリンドからの同期を確認。防衛組が攻撃部隊と接触、交戦に入りました!」

 

「待ってました。それじゃ折紙、ホワイト・リコリス陽動兼合図の砲撃を派手に頼む!」

 

「了解」

 

『お任せを』

 

 

 

 

 

メシア教の拠点内では天使達が今後の方針を話し合っていた。曲がりなりにも必殺の国防兵器の一体であるテンカイとその手勢、嘗て敗れ去った者達とはいえ嘗めることはせずこの地の封印を守っていた【天使 ソロネ Lv64】と共に作戦を練っていた。継続的に削ってはいるものの途中から参戦して来た北欧勢力のこともあり更なる増援を呼ぶべきかと結論が出たあたりで自分達の拠点の正面から特大の魔力が収束されている気配を感じ取る。

 

「これは!?まさか攻めて来たのか!」

 

「しかし本拠地をもぬけの殻にするなどありえるのか!?」

 

「落ち着きなさい!この魔力規模なら攻撃までわずかながら猶予があるはず!他の天使に念話で連絡を取り結界防御の強化とターミネーター達の退避を」

 

他の天使が慌てる中ソロネが一括し、混乱を収めようとする。天使達が守りを固め人間を逃がすという何も知らなければ感動ものの一幕だが、ただ単純にターミネーターでは結界の強化など出来ず天使より脆い為戦力を減らさない為の退避でしかないのだから酷いもんである。しかしこの指示は無為に終わる。たしかにこの規模の攻撃をするにはゲーム的に3ラウンドの時間が最低でも必要だっただろう・・・しかし制作班の変人共が作り出した造魔がその常識を塗り替える。

 

「主砲発射」

 

『50.5cm魔力砲〈ブラスターク〉発射します!』

 

 

ホワイト・リコリスの力により即座に発射された【メギドラ】は拠点を覆っている結界と衝突する。この手の結界は【テトラカーン】【マカラカーン】の様に攻撃を反射することは無いがその代わり純粋な耐久度と防御能力が高く、また結界破壊などの特殊な手法以外では貫通や万能だろうと耐久度以上のダメージを与えなければ壊れることはない。だが逆に言えば普通に物理攻撃で破れるということでもあるので過信は禁物だったりする。加えて今回は臨時の拠点に張った為即席よりも多少マシ程度の強度しか無い・・・ま詰まる所。

 

その程度の結界で折紙とホワイト・リコイルの砲撃に耐えられるはずがないのだ。

 

頑丈な正門ごと結界をぶち抜き正門近くにいた警備の天使とターミネーター達に甚大な被害を出したがソロネ達がいた場所はギリギリ射線上から外れていたが爆風で吹き飛ばされ多少のダメージを受ける結果となった。

 

「こ、これは一体・・・!」

 

「ソロネ様!今お傍に!」

 

周りの天使達がソロネの元に集おうとする。仮設の建物からも天使が何事かと出て来る様子を見てソロネに違和感を覚える。

 

「混乱している今が突入の好機なはず、ですが接近する敵影はない。戦力が集う前に攻撃を加えないのは・・・まさか!?皆さん今すぐ散開しなさい!」

 

 

 

「ほう、気づくか。曲がりなりにも上級天使なだけはある・・・が、数手遅いわ!」

 

【コンセントレイト】【初段の賢魔】【二段の賢魔】【三段の賢魔】【呪殺ギガプレロマ】【呪殺サバイバ】【呪殺プラーナ】【呪殺エンハンス】【マハムドダイン】

 

南に側に隠れていたバフォメットが飛び立ちその視界目一杯に天使、ターミネーターを見据え得意の呪殺を放つ。呪いとは対象を捕えているか如何かで効果が増減する。例えそれが広範囲攻撃だとしても同様なことが言えるだろう。実際バフォメットの呪殺で即死する天使が数多く出ている。

 

「とはいえ流石にターミネーター共は呪殺の耐性装備を持っているか、ある程度は即死したがダメージだけではすべては倒しきれんな。ソロネも咄嗟に張った【テトラジャ】でダメージを受けただけに留めたか。まぁ良い我の目的は果たした」

 

バフォメットの役割は敵の間引きと主戦力の位置の把握だ。流石に簡易とはいえ結界が張られている拠点を遠隔で霊視で位置の把握は厳しい。というか下手すれば呪術のカウンター受けるわ、隠れている俺達の存在がバレるわで碌な事にならない・・・まぁ霊視とかに一点特化してるとかだといけるかも知れんがそんな人材はうちに居ないのでまず初撃で結界を破壊し、間引きをして敵戦力が混乱し指示を仰ぎに戦力が集まる場所・・・即ち主力或いは指揮官がいる可能性が高い場所を見つける。後は簡単、俺の義妹とその造魔の主砲は"連射"が出来る。

 

「お、ふむふむ・・・了解。折紙射線を30度くらい右に」

 

「了解」

 

『誤差修正。発射』

 

契約のラインでバフォメットから主戦力の主な位置を把握し、主砲の射線を調整する。大雑把な情報しか伝達することはできない、しかし緯度やら経度など詳しい座標までは無理だが角度の誤差を修正することくらいは出来る。そして第二射が放たれる。

 

「よし、後は生き残りを狩るだけだな。次の天使共が呼び出される前に四方向から囲んで叩き潰すぞー!」

 

事前に第二射の着弾が合図となり四方向から進軍することを決めていたので狩谷達も駆け出していき、破壊した正門を超えて拠点内に侵入するその過程で生き残りを数名見つけたがダメージを喰らい混乱した敵など文字通り瞬殺していき中心部に歩を進める。

 

「少し遠くに戦闘音がしてるな。段々近づいて来てるから順調そうだな」

 

「防衛戦の方も順調です。一部こちらの襲撃に気付いた個体がいましたが機動力の高いヒルデ、オルトリンデが積極的に潰しているようですね」

 

「というか何で私はこっちの班にいるのかしら?」

 

「斑鳩を連れて来たのは本気を出して貰う為さ。実戦で見る丁度いい機会だ」

 

「そういうこと、確かに伊砂がいたんじゃ無理ね。分かったわボスクラスの奴と出くわしたら使うから」

 

「頼む。折紙、ホワイト・リコリスのセンサーに反応は?」

 

「【デビルセンサー】はここ周囲に敵性悪魔はいない。ただこれは悪魔に対しては【エネミーソナー】以上の精度と範囲で索敵出来るけど一応人間のターミネーターは対象外だから注意して」

 

 

「了解、ターミネーターの動きはこっちで見とくか・・・ん?」

 

【エネミーソナー】から電子音が鳴る。目標は一体・・・一瞬ソロネかと思ったがそれなら【デビルセンサー】に反応があるはず。しかし一体だけというのは気掛かりだ。

 

「前方から一体接近。こっちにしか反応してないからターミネーターだと思うが」

 

「一体だけなの?」

 

『ターミネーターの仕様から考察。自我がない以上錯乱している可能は低いと予測』

 

「ああ、そもそも自発的に動かないはずだから命令されて襲って来たはずだ」

 

「不可解、一体だけでは足止めにもならない」

 

状況の不可解さに眉を潜めていると前方の瓦礫が弾け飛ぶ。派手な登場だなと思いつつ臨戦態勢を整える。そして土煙から出て来たのは背丈の高い大男。見た目は窮屈そうだが対弾性があると思われるコートを着込み、頭が剥げていて地肌が灰色。目に至ってはまるで機械の様に冷徹。まるで某ゾンビゲーのあの強敵を思い出させる風貌だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

【人造神兵 タイラントT-103型 Lv66】

 

「いやこれまんまタイラントじゃねーか!?」




読了ありがとうございます!最後に出て来たタイラントは見た目と一部能力は原作と同じですが、メガテン世界なので中身は別もんです。え、Tウィルスという何でもありな設定なしで大佐もいないこの世界でどう作るのかって?詳しくは次回の本編とその後に投稿予定の外伝に書きますが・・・実はこのタイラント世界的種別は人間判定がなされています。悪魔というか造魔ですらないんすよコイツ・・・まぁその、そういうことだよ(白目)。Tウィルス自体もそうですがそれに完全適合する大佐のクローンという高適合率確定ガチャってやっぱすごいんだなって改めて思いました。性能的にも生産効率的にも


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暴走は大抵碌でもない、それをコントロール出来る場合は別として

第四十五話となります!章ボスであるタイラント戦は今話で決着です。まぁそっからが本番なんですけどね。


まさかのタイラント登場に思わずツッコミを入れてしまったが、すぐに立て直して戦闘に入る俺達だったのだが・・・。

 

「まぁこの編成だったらこうなるけど・・・タイラントの壁役俺だけはきついって!人間判定だから【神殺し】の特攻対象にならないし!」

 

折紙、ホワイト・リコリス、斑鳩は後衛なので論外。スルーズは前衛だけど機動戦が主体、回避楯なら出来るけどタイラントを真正面から受け止めることは出来ない。しかし壁役の前衛がいないと後衛を潰しに来てしまうので見た感じ格闘戦が主体な様だから【物理無効】を持つ自分が壁役になるのは理にかなっているのだが自分のステータスや装備は機動戦をする為のものなのでタイラントの重量級の攻撃で吹き飛ばされかねない。

 

「私達も援護する。保たせてカリヤ」

 

 

「言ってくれるなおい!援護は頼むぞ!」

 

【ラスタキャンディ】を掛けてもらい後の援護も任せてタイラントの攻撃を聖槍で受け流していく。ダメージというより衝撃を受け流す感じだ。とはいえ流石は原作でB.O.W.の傑作と称されるだけあって知能も中々に高く、単純な物理攻撃が効かないと見るとそれらは衝撃で俺の体勢を崩すことを目的として繰り出されていて、少しでも体勢を崩すと

 

「!!」

 

 

【チャージ】【電撃ギガプレロマ】【電龍撃】

 

このように【物理無効】を突破する攻撃を用いて来る。基礎スペックの高さと知能の高さから来る戦闘技術で小細工なしの真っ向勝負で相手を叩き潰すのがタイラントの持ち味、流石にまともに喰らえば【電撃耐性】を持つ俺でも大ダメージは免れない。だが当然ながら弱点もあり、その知能の高さは戦闘技術に置ける基礎技術に限定される。もしタイラントに原作シリーズの各種ステージギミックを解けと言っても首を傾げることしか出来ないだろう。そして戦闘技術に置いても習熟しているのはあくまで基礎、それを応用技術に発展させたり、それに対処するにはまだ知能が足りていないのだ。

 

「こういうのには対応出来ないだろ!」

 

足元に【テトラカーン】を展開すると足で【冥界破】を発動、何時ぞや使った戦法人間ミサイルという奇策で上空に逃れる。しかし体勢は崩れたままなので整える為に聖槍を鉄棒に見立て支えにすることで前転し、その勢いのままタイラントの頭部に踵堕としの要領で攻撃を加えた。

 

【初段の剛力】【二段の剛力】【三段の剛力】【物理ギガプレロマ】【物理サバイバ】【物理プラーナ】【物理アクセラ】【ミナゴロシの愉悦】【武道の素養】【貫通撃】

 

「!?」

 

「浅いか、だがスルーズ!」

 

「問題ありません!」

 

空中に待機していたスルーズが神槍で【物理プレロマ】【絶命剣】で俺の攻撃でバランスを崩していたタイラントを転倒させる。

 

「離脱しろスルーズ!」

 

「御武運を!」

 

スルーズを再度離脱させるとタイラントの後ろに回り込み首に聖槍を差し込み、両腕で聖槍を引っ張り上げ窒息させようとする。まぁこれで止まる訳がないのは分かってるが敵の行動を阻害するのには十分だろ。

 

「おお、意外と暴れるな!やっぱ呼吸出来ないのは不味いか!・・・よーし折紙、ホワイト・リコリス、斑鳩。俺事やれ」

 

「了解」

 

『【防性随意領域】展開、主砲の準備も完了しています』

 

「・・・いくら障壁が守られるとはいえ躊躇い無く自爆戦術をするのは一種の才能よね」

 

「だってこれが最適解だし」

 

【防性随意領域】の障壁が俺の身体を包み守護する。このスキルのお陰で「自爆覚悟で行けば何とかなるし、手っ取り早いけど流石にちょっとな」という場面でも躊躇いなく自爆戦術を行えるのは大変助かる。まぁ流石に仲魔達にやれと言うのは気が引けるのでサマナーである自分が自爆するのだけど。

 

「まぁ伊砂達の眼が無いから久々に本気でやってあげるわよ!」

 

 

【魔人 杉波斑鳩/ダークエルフクィーン LV50】

 

そう言うと斑鳩の胸に宝石のような宝玉が浮き出て、更に肌が灰色に近い黒色に変わる。いつぞやに行っていたアルケミスト社から強奪された『ロストマトリクス』だ。実はこれを強奪したのは斑鳩だったりする。彼女としてはもしものときの交渉材料か、第二のカナリアが生み出されないようにする為なのだろう。・・・まぁしれっと取り込んで自分のDNAをダークエルフの女王のDNAに書き換えるナノマシンを生み出す辺り根っこは研究者なのだろうな。俺も俺で秘密裏にまだ未完成のそのナノマシン開発に金出してるけど・・・アルケミスト社の買収に有用な内部情報を貰ったりしていたので必要経費必要経費。

 

「イカルガ続いて。討滅せよ〈ブラスターク〉!」

 

 

『主砲〈ブラスターク〉二門同時発射』

 

「ええ!」

 

【コンセンレイト】【霊魔集中】【同時発動(チャージ)】

 

【万能ギガプレロマ】【万能サバイバ】【万能エンハンス】【万能プラーマ】【初段の賢魔】【二段の賢魔】【三段の賢魔】【虐殺者】【メギドラ】

 

【コンセンレイト】【万能ギガプレロマ】【万能サバイバ】【至高の魔弾】

 

二門の主砲とダークエルフクィーンに悪魔化している状態限定で発動できる【至高の魔弾】がタイラントに着弾する。俺は障壁を集中展開されたことで事なきを得たが、タイラントはまともに喰らったはずだ。因みにミサイルを使わないのは最初に使った時に両手とはいえ掴まれて投げ返されたからだ。お前はウェスカーか。

 

「どう考えてもロケットランチャーよりも高い威力の攻撃を浴びたわけだが・・・本当タフだなお前!」

 

タイラントは生きていた。唯割とギリギリだったようでコートは当然塵一つ無い、身体も重度の火傷が見立ち皮膚の下の肉がむき出しになり抉れている箇所が多く腕に至っては左腕が欠損している。顔も例外ではなく更に左目が潰れている。左側の欠損が目立つので咄嗟に左側に身体を捩り右側を庇ったと思われるが、普通だったら身体を満足に動かせず詰みなのだがタイラントには奥の手が存在する。

 

「ーーーーーーー!!!!」

 

 

「おっと!」

 

声にならない雄叫びを上げ、俺が取り押さえるのを辞め離脱すると一定のダメージと拘束用でもあったコートの喪失による暴走又の名をスーパータイラントと化す。筋肉が盛り上がり、更に岩の様に硬質化していく。

 

「うーんスペックは大分上昇したか?・・・まぁ関係ないがな」

 

「ちょっと狩谷来るわよ!」

 

斑鳩が俺に突貫するスーパータイラントを見て声を荒げるが問題は無い。相手の拳は確かにさっきより強力で真っ直ぐだが、ストレートしか撃って来ない木偶の某など後方に下がりつつ直前回避などであしらうのは簡単だ。

 

「強みだったスペックだけではない基礎戦闘技術の高さがこのざまとはな。あの姿になって知能が下がったか?残念だが今の段階ではスーパーではなく唯の暴走と変わらんよ」

 

暴走タイラントの左側に回り込むと左目が無いのでこちらを直ぐ捕捉することが出来ず、捕捉しても左腕も無いので反対側の右手や俺が後ろに常に下がっているので追いかける為に常に動かしている両足のいずれかを用いなければならないが、攻撃に移るのにどうしても一拍の間が必要になり更に容易に回避出来る。暴走前なら下手に追いかけず待ちの姿勢からのカウンターで戦う選択肢を取るのだろうが・・・。

 

「幾らがスペックが上がっても強みを殺して、弱みを伸ばしたら意味ねぇよな!」

 

左側から聖槍による突きを放つ。槍の突きは槍の攻撃方法の中で最速だが流石に直感で殺気に気付き最速の攻撃にも高いスペックで無理矢理対応出来る。この時の選択肢は防ぐ、躱すの二択になるが攻めに思考がロックされている暴走タイラントには前者を選択し、眉間ギリギリの所で右手で聖槍の穂先を掴み突きが止まる。右手の手のひらから当然血は出るが眉間を貫かれるより遥かにマシである。

 

「通常時は兎も角暴走状態だと片腕だけでもタイラントの方が力は上か・・・まぁ鼻からそんなことするつもりは無いけど」

 

徐々に押し返される中聖槍の穂先の先端に魔力が集わせる。

 

「言っただろ?弱みが伸びてるって!ド頭吹き飛べ!!」

 

「!?」

 

 

【コンセントレイト】【万能ギガプレロマ】【万能サバイバ】【万能エンハンス】【初段の賢魔】【二段の賢魔】【三段の賢魔】【メギドラ】

 

嘗てジャンヌの禁手である聖竜にやったように聖槍を通して集中レーザーの様に【メギドラ】を放つ。先程も言ったが暴走タイラントの眉間と聖槍の距離はほぼ無いに等しいので、其の状況下で咄嗟に大きく首を傾けたり、仰け反ったりなどそんな超人的な躱し方を唯でさえ通常時でも応用や奇策の対応が不得手だったタイラントが暴走状態で出来る訳も無く万能属性の魔力の本流が暴走タイラントの頭部を飲み込み、相手は目を見開き口を開け驚愕することしか出来ず断末魔も上げることも出来なかった。

 

「じゃあなタイラント。俺は暴走する前のお前の方が手強く感じたぞ」

 

頭部を消失したタイラントの身体は背を向けて地面に倒れ伏す。タイラントに別れを告げ念の為人体の頭と並ぶコア部分の心臓も聖槍を突き刺し、潰して置く。

 

「ふむ、悪魔要素が無いからMAGに分解されないのか?そんじゃ残った身体はネオベテルの制作班や研究班に引き渡してアルケミスト社にもサンプルとして一部が貰えないか交渉するか」

 

「戦闘終了、お疲れ様です・・・しかし悪魔の要素無しでここまでの兵士を人造で作り上げるとは」

 

「うーん、流石に魔法や魔術は制作時に使ってると思うけど人間の要素だけでここまで魂と肉体の強度を高められたのかは研究者として気になるわね」

 

 

「はいはい、研究もいいけどまだメシアの拠点を制圧仕切ってないだろ?折紙、ホワイト・リコリス他の奴らは?」

 

「大丈夫全員の気配は感じ取れる。そしてソロネの気配が消えてるから何処かの組が倒したと思われる」

 

「え、普通に凄くない?手負いとはいえレベル64を倒すとか」

 

「それだけ皆が成長している証拠」

 

 

『恐らくそう時間を置かずに中央で合流出来るかと。ミススルーズ防衛側はどうなりました?』

 

「少しお待ち下さい・・・同期完了、防衛側も敵殲滅に成功したとのことです」

 

「なら早く拠点を完全に抑えましょう。メシア教の天使召喚は手動だと思うけど、連絡が付かないと召喚陣を通して向こうから来られても面倒だし」

 

「了解、手早く済ませよう」

 

最後は割とあっさり片が付いた拠点攻略。しかし俺達はここに残された物やタイラントの遺体からメシア教の過激派の碌でも無さを何故【ラジエルの書】が力を発揮できなかった理由と共に再確認する羽目になる。これも神の思し召しだとでも言うのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁお帰りタイラント。魂だけで帰って来たのは残念だけど大丈夫、身体はまだあるからね」

 

そしてここからが暴君の悪夢の始まりであった。




読了ありがとうございます!最後はあっさりでしたが、個々人によるかもしれませんがアクションRPGのボス戦で隙が出来るけど高威力の大技を連発してくる第二形態より威力は控えめだけど隙が無い小技を多用する第一形態の方がやり難かったことありませんか?そんな感じを表して見ました!え、ナレ死したソロネ?・・・まぁ流石にHP6割強削られて回復手段無しで弱点を突かれつつ袋叩きにされれば、はい(白目)。


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ラジエルの盲点

第四十六話となります!今回は独自解釈がなされている部分が多いです。


無事にメシア教勢力を一掃した俺達。俺達の班が取り敢えず拠点を回って天使の召喚陣を見つけると折紙が手早く停止させる。その捜索中に幾つか気になる物を見つけたが、どんなセキュリティがあるかは分からない、折紙もメシア教の魔術は兎も角科学技術まではそこまで詳しくないので他の班の到着を待って調べ物の専門家である二亜の力を頼ることになった。

 

「頼むぞ二亜」

 

「了解!ラジエルお願いね」

 

 

【ラジエルの書】のスキルを使用してメシア教の物品を解析していく。毎度思うが便利過ぎないかこのスキル、一神教関係以外では大分制限が強いみたいだが。

 

「うーん見た感じ魔法の力の増幅装置みたいだね。この五つの缶に接続させているみたい・・・あ、やっぱり魔術だけじゃなくて科学的なセキュリティもあるみたい」

 

「やっぱりか解除方法は分かるか?」

 

「問題なしだよ!・・・ただ機密保持の為なんだろうけど科学的なセキュリティは正しい順序で開閉しないと"内部を高温で焼く"ってことみたいなんだ。普通に爆発とかデータ消去とかじゃダメだったのかな?」

 

二亜が首を傾げているが確かにそれの方が手っ取り早く隠蔽出来る気がする。とすると爆発やデータ消去では隠滅出来ないものになる訳だが・・・まさか!?

 

「二亜その缶の内部をもっと調べてくれ!」

 

「うん勿論そうするつもりだけど・・・え?これって・・・人の脳?」

 

「・・・やっぱり生体パーツが組み込まれていたか」

 

生体パーツなら爆発やデータ消去では処分方法が不十分だから。俺達転生者が自分の身体の素材はカグツチの炎で個人情報を消去しているようにそのパーツの一欠けらでも残ってしまえば色々探られてしまうだろう。だが流石に炭化させられてしまえば探るのは難しくなる。

 

「正確には大脳みたいだけどやっぱりって?」

 

「恐らくこいつらは【トラポート】などの転移スキル持ちの霊能者だろう・・・この缶は機械的にその能力を使わせる感じか?それは増強装置で力を高めて転移陣を展開していたというところか」

 

脳の一部しか使用していないのを見るに一部の能力だけ使用できる感じなのだろうが、それでも機械的に魔法やスキルを行使出来る恩恵は大きい・・・無駄に技術力があるところが過激派は厄介だ。

 

「そんな、まるで人を道具みたいに・・・!」

 

「道具、なんだろうな。過激派共にとっては」

 

二亜が顔を歪ませる。過激派の外道さを良く知る彼女でもメシア教に身を置き続けている彼女にとって辛いものがあるのだろう。しばらく動く様子が無かった二亜だが再び【ラジエルの書】を開いていく。

 

「どうした?」

 

「せめて犠牲になった人達を供養したくて、個人情報だけどせめて家族がいたら返してあげたいんだ」

 

「・・・そうか」

 

そうして調べて行くが結果は芳しくない。

 

「予想はしていたけどあまり詳しくは調べられなかったね。性別と歳、名前くらいなら分かったけど」

 

「まぁターミネーターと違ってこういう加工をするなら信者は使わないだろうな。敵を捕らえて使う方がよっぽど効率的だし、こう言ってはあれだが勿体なさすぎる」

 

一神教以外では精度が下がるスキルなので一神教に属していない人物を調べるとその精度も低下する。忠実な信徒を脳缶に加工するのは無駄も良い所なのである程度予想していた結果ではあった。

 

「狩谷殿、二亜殿調査は終わったでしょうか?折紙殿からお話があるようです」

 

「オリリンが?何だろう」

 

「分かった戻るぞ」

 

命の言葉を受けて俺達が皆の元に戻ると折紙がターミネーターとタイラントを調べて難しそうな顔をしている。・・・あっちも厄ネタがあるのか。

 

「戻ったぞ折紙、こっちも碌でもない報告があるが・・・そっちも碌でもない報告がありそうだな」

 

「うん、まずは情報交換」

 

折紙の要望通り全員で一度集まって報告をし合うことになった。こちらの報告に皆一様に顔を顰めていたが、ヤタガラスの皆曰くこう言った脳缶は数年前から確認されていたものらしく後処理の仕方も心得ているというのでお任せしたのだが・・・。

 

「ターミネーターがメシア教過激派の信徒じゃない?タイラントもか?」

 

「残留MAGの匂いから少なくともメシア教を始めとした一神教に属していた人達では無いみたい・・・タイラントは良く分からない。複数の匂いが混じっている」

 

「複数?」

 

「ちょっと待って調べて見る・・・何これ」

 

二亜が信じられないような目で【ラジエルの書】を見ている。俺と折紙も覗いて見るがそのページに書かれていたのは性別と歳、名前が複数人混線し螺旋に渦を巻いている。

 

「折紙これってもしかして」

 

「うん、このタイラントが作られる過程で複数人の人間が掛け合わされている」

 

 

「・・・そうだよねやっぱり」

 

「だが利点はなんだ?ここまでのコストを掛けてターミネーターの強化版を出したところで・・・それになぜ頑なにメシア教どころか一神教以外の、異教徒が素材にされているんだ?これじゃメシア教過激派の純粋な勢力は天使共だけだぞ?」

 

「天使だけ・・・ニア、ここにいた天使も調べて。ソロネも含めて」

 

「う、うん」

 

折紙が何か思いついたようで先程の俺と同様二亜に指示を出す。慌てて調べ始めたが先程違い天使達の情報は深く探れたようだ。

 

「あれ?この天使達ソロネを解放してテンカイを確保するってことを考えていたみたいだけど事前に作戦とか考えていないみたい」

 

「え、どういうこと?全くのノープランで戦ってたってことか?」

 

「ノープランと言うか復活したソロネに作戦とかは任せてたみたい」

 

「うーん?それってソロネの奴復活してそうそう「この異界を攻略してテンカイを確保する任務で参りました!あ、作戦や指揮とかはソロネ様が頑張って下さい!」って言われたってこと?」

 

「そう、見たい」

 

「えぇ・・・」

 

つまり大仕事終えて長期休暇を取ってた人が休暇が終わり、久々に出社したら後輩共に「あ、先輩!また大仕事が入ったんでプラン作成や調整その他もろもろよろしくお願いします!俺達は何も考えないですけど責任は先輩持ちで!」とか言われたような感じだよな・・・うっわ、ちょっとソロネに同情するわ。

 

「ニア、カリヤちょっとこっちに」

 

「「ん?」」

 

折紙が周囲の仲間から話す様に物陰に俺達を連れ込む。

 

「ニアそのラジエルの力今までどれくらい使った?」

 

「どれくらい?私の理想のシキガミを手に入れたいから大体の任務で使って来たよ?専用の依頼も回されて結構ホクホクだったんだけど」

 

「・・・ごめん私の想定が甘かった」

 

 

「折紙?」

 

唐突な謝罪に俺と二亜が困惑する。しかしその困惑を吹き飛ばす一言が呟かれた。

 

「これは多分、ニアの【ラジエルの書】の対策だと思う」

 

「え・・・私の対策?」

 

「な!?二亜の能力がバレたのか?まさかあのバルパーの奴が」

 

「違う。ニアの存在がバレた訳では無いと思う・・・あの計画を率いていたバルパー・ガリレイ一味は過激派からも離脱していた。それに自分の研究に固執する彼がニアのことを過激派に話す可能性は低い。でも何度もピンポイントで情報を抜かれ続ければそれを可能とする何かがあると考えても不思議じゃない」

 

「それで対策か。だが情報を抜く方法を特定しないと対策なんて出来ないだろう?疑うならスパイとかじゃないか?」

 

「ニアのスキルはいつでもどこにいても調べられるものじゃない。調べられる範囲が決まっている以上調べる対象の現場かその近くいなければならない。それはメシア教過激派の上層部を介さない現場の判断すら読んで裏を掛けたり、知れたりすることも出来るけど」

 

「逆に・・・知り過ぎた?上層部も知らないような現場の判断にも即座に対応したり、知られてしまっていることに気付いた奴がいたのか!?」

 

二亜の【ラジエルの書】は一神教関係の情報収集能力としては一級品だ。実際作戦中に奇襲を掛けようとした過激派部隊を見破って返り討ちにしたり、現場の判断や作戦を調べ上げ逆算で上層部の目的を看破したこともあると前に自慢する様に語っていたことを思い出した。

 

「そしてメシア教過激派の工作の中には関係の一般人を裏で操ったり、煽ったりしてテロ行為をさせるケースもある。でもそれらは【ラジエルの書】の仕様上深くは探れない、あるいはその手の依頼は受けてすらいないのかも知れない。そこから生じる対応の差も見破られたのだとしたら」

 

「情報を調べたり、探る、知る手段自体はオカルト的な手段でも占術、託宣、幻視、未來視etc。どれも100%確実とはいかずとも有効な手段であることも間違いない・・・そして【ラジエルの書】がそうな様にこの手の能力は対象が絞られたり、限定して行使すれば精度は高くなる!」

 

「恐らくその手の能力で敵対者がメシア教或いは一神教に特化したものを開発した可能性に行きついた可能性は高い。でもカリヤの言う通り具体的にどれかを特定しないと有効な妨害は難しい。ならいっそのこと」

 

「最初から情報を抜かれるのを前提で・・・メシア教以外の"何も知らない"駒を使えばいい」

 

「それじゃ、最初私が過激派の情報を探っても曖昧な情報しか手に入らなかったのもそういう?」

 

先程から気分を悪そうにしていた二亜の顔が今ではこおりついてしまっている。そして折紙が頷き話を進める。

 

「流石にメシア教過激派に繋がるものを全て使用しない、というのは現実的じゃない。ターミネーターの技術もそうだし今の技術じゃタイラントという例外を除いた彼らでは臨機応変な判断が下せない以上天使もいるから。それに今回はソロネに作戦を立案させていた以上バレる可能性もあったことも考えるとまだ試作運用段階なのだと思う。多分あの脳缶や増強装置を運んだのはタイラントだろうし」

 

「なるほど、何でこの大軍見逃してんだ住職とか思っていたが・・・Lv60台の隠密での侵入は気づけねぇか。結界も対悪魔の奴はあったけどタイラントは人間判定だったからな」

 

「今回の目的はタイラントの作戦遂行の精度、戦闘力、知性のテストと脳缶を使った転送陣、天使達が大雑把な命令しか下されていない状況でどう動くかのテストとか複数の試験を兼ねていたのかも知れない。もしかすると将来的にタイラント個人で作戦の立案、指揮を行えるようにすることも計画しているのかも」

 

「・・・」

 

俺と折紙が話している中殆ど喋らないでいた二亜は顔を青くしている。お気楽そうに見えるが責任感もちゃんと持っている彼女のことだ。今回改造された被害者のことを考えて自分のせいだと思っているのだろう・・・巫女さんへの報告は後回しだな。




読了ありがとうございます!二亜に重めの精神的負担がのしかかりましたがいつぞやの様に次回狩谷がメンタルケアに挑みます。自分で書いててこれケア出来るのか?と思ってしまいますが・・・まぁ何とかします。因みに狩谷達も魂を回収してクローン体に定着させて再利用してるとかは分かっていないというか、想像すらしてません。回収する術式は発動後自動消去しているのもありますがあまりにも常識から外れているからです。博士が言っていたむちゃぶりというのは方法は分からないけど探られているからなんとかしろってって内容でした・・・その答えが今回の話です。まぁこんな外道な力技の解決法を思い付く辺り博士もどっこいどっこいですが。


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罪と償い

第四十七話となります!次回辺りでこの章は終わりに・・・出来たらいいな(白目)


テンカイを含めた防衛班がこちらに合流する為に向かっているというので少しの間この場で待機することになった。折紙に現場を任せると二亜を呼び止め少し話があると折紙達から少し離れた場所に連れ出した。

 

「急にお姉さんを連れ出してどうしたのかな少年?逢引かな!」

 

 

「違うわバカ、第一前世だと俺達大体同年代だろ流行ってた漫画的に考えて!・・・無理はするな」

 

「・・・なはは、やっぱり少年。いや狩谷には分かっちゃうか」

 

「慎次さんや折紙は気づいてたと思うぜ?まぁ俺も前世は商社の課長だから周りの人間の心の動きに敏感って所はある。上司の意図を察したり部下の指示やフォローとかで必要だしな」

 

「そっか」

 

納得したような顔をしてポツポツと話し始める。やはり今回のことはかなり堪えたようだ。

 

「狩谷に背中を押されて柄にも無くやる気になってたんだけどな」

 

「あれ、お前イケメン造魔の為に頑張るとか言ってなかったっけ?」

 

「勿論それもあるよ?でも自分なりの信仰を貫こうって思っていたのも本当・・【ラジエルの書】の力を使い続けてこうなっちゃったけどね」

 

「対策はされて当然だ。あいつらだって普通の探知や占術などを妨害する結界とかは試したんだろうが、【ラジエルの書】はそれらの効果は受けないからな。二亜の素性がバレなければ大丈夫と思っていたがそれが甘かったな」

 

相手は糞外道のメシア教過激派、もっと血も涙もない手法で対策することを想定していなかった俺達ネオベテルの失態でもあると言えよう。

 

「ねぇ狩谷・・・私このスキルを使い続けて良かったのかな?」

 

「当たり前だ。現地人は勿論俺達転生者だって散々助けられてきたしな、二亜の力で命を拾った奴も多いはずだ!」

 

思考が卑屈方面によっているので確かな功績を示す。功績を過剰に誇るのは問題だが自身の功績を忘れ自分を低く見積もるのも問題だからだ。

 

「でも!今回私のせいで実験で・・・何人、何十人が犠牲になったのかとかを考えると・・・震えが止まらない。私の信仰はただのエゴなんじゃないか、私が助けた人達はいてもそれよりも犠牲になった人達の方が多いんじゃないかって!これじゃ私は・・・悪戯に罪を重ねているだけなんじゃないかって!!」

 

二亜が普段は見せない強い語気で叫ぶ。物語の主人公とかならここで「悪いのは過激派だ!」「お前に罪は無い!」とか言えるのかも知れないが、いや前者は間違いなくそうなのだけど・・・俺に二亜には罪が無いとは言うことが出来ない。俺も前世で犯した罪があるからな。

 

「そうだな・・・元凶は過激派でも二亜に何の罪も無いとは俺にも言えない。勿論ネオベテルの失態でもあるから俺の責任もあるけどな」

 

「・・・こういう時って普通「お前に罪は無い」とか言って慰めるもんじゃないの?」

 

「残念ながら罪を犯したと思ってる相手にそう言っても実は全くの冤罪でした!とかでも無い限り慰めにもならないことは知っているからな」

 

「はは、手厳しいね」

 

「事実だろ?まぁ表裏の情報網でメシア教過激派による人間の大量拉致というのは噂すら流れていないことを考えると表裏にも情報が流れない様に実験で使った人達は其処らで拉致した人達では無くメシア教過激派の手中にあった人達なんだろうな。元々実験用に確保していたか或いは利用出来るように勢力圏に組み込んでいた土地からとかか、そうなって来ると正直二亜対策の実験が無かったとしてもいずれ消費された人達である可能性は高いが・・・だからと言ってしょうがないで割り切れないよな」

 

「・・・」

 

黙って俺の話を聞く二亜の目は罪悪感、不安、期待と言った感情は混じり合った目になっている。前者二つは言うに及ばず三つ目は・・・。

 

「悪いが期待されても俺は二亜の罪を許すことも紛らわすことも出来ないぞ」

 

「え?」

 

「その様子じゃ自覚は無かったか。俺如きが許せる罪なんざ俺自身が被害者になった罪くらいなもんだ」

 

「それは、そうだけど」

 

「だが道を示すことは出来る。罪を犯した先輩としてな」

 

「道?」

 

一つは何もかも投げ出し罪を忘れる代わりに今までの自分や関わった人達を見据える道、二つ目は進む歩幅は小さくても罪を償おうと足搔く道だ。俺と十香は後者を選んでここにいる。

 

「忘れるか、償うか」

 

「忘れようとするのは碌でも無いことだが、償い自体も碌でも無いぞ?償うと決めればそいつに後退は許されない、偶に立ち止まったり仲間に支えられたりすることはあっても前に進むことを余儀なくさせる」

 

「償いって私はどうすれば?」

 

「簡単だ。その力で戦え、一人でも多く救って見せろ!そしていつの日かこんな馬鹿げたことを考えた奴をぶっ飛ばせ!命は同じ命以外に等価は存在しない。だったら等価の命を救ったり、犠牲者を出ない様にすることが二亜が行える償いだ」

 

「戦って救う」

 

「ああ、お前の罪は俺にも誰にも背負えない。だがお前の背中を支えたり、罪自体は無理でもその重みの一部を一緒に背負うことは出来る」

 

二亜の罪そのものを如何にかすることは俺には出来ない、出来ることと言えば懸命に償おうとする奴を支えたり手助けしてやることくらいだ。

 

「突き放して置いて手伝いはするって卑怯じゃない?」

 

「確かにそう見えるがそれじゃ俺がお前の罪を引き受けるとかいうのも違くないか?」

 

「それは、うん」

 

頷くと再び黙る二亜。心が弱い人間なら理不尽に背負わされた罪を突き付けられれば精神を病んでしまったとしてもおかしくは無い。だが俺は彼女は見た目に似合わずタフなことを知っている。そうじゃ無ければあの大天使の実験で理性を残すことは出来なかっただろう。

 

「二亜、お前の中には無いのか?また立ち上がる理由は」

 

「立ち上がる理由?」

 

「深く考える必要は無い。頭を空っぽにして真っ先に思いついたものとかでもいいし」

 

「そんな適当でいいの!?」

 

それでいいのだと頷いて応えて二亜に手を伸ばす。

 

「お前はどちらを選ぶ?」

 

「・・・私は狩谷みたく覚悟も決まってないし、狩谷が言った償いを達成しても罪を償えたと思えるかは分からない。でも」

 

少しの間考えていた二亜が俺の手を掴む。その目は二亜なりに覚悟を決めた強い目だった。

 

「このままで終わるのは・・・私は嫌だから!」

 

「うん、立ち上がるには十分な理由だな」

 

理屈云々は関係無くただ納得いかない、嫌だからという如何にも【俺ら】らしい理由を二亜は自身の覚悟に据えた。容易に諦めが付き安く貫き通すのは難しい理由を・・・やっぱりタフだよお前は。

 

 

 

 

「まぁ俺が今回やったこと何て罪と向き合うか如何かで揺れている二亜に罪を突き付けて、償うという決断と立ち上がる理由をあいつの中から引き出しただけなんだけどね!」

 

「そうなの?」

 

十香達に心配を掛けたと謝りながら元気におしゃべりをしている二亜を折紙と一緒に眺めている。折紙は不思議がっていたが下手をすれば前回した信仰の話よりも俺がした仕事は些細なことだ。

 

「そうなの。だって二亜あの時と違って泣かなかったしな。罪を突き付けられるという衝撃的なことをされても驚きはしては涙を流すことが無かったということは心のどこかで自覚があったということの証左だ。そして罪を認めているということはよっぽどのクズじゃ無ければそれを償うことにも思考が向かう。俺はその思考を本人が自覚するくらい表に出してやっただけだ」

 

「もう一方は?」

 

「立ち上がる理由か?それこそ殆ど何もしてないぞ。さっきのと違って本人も自覚してたし、とはいえニ亜はもっと上等な理由を探したりそれを理由にしていのか分からなかったりしていたようだけどな」

 

【ラジエルの書】の件で失敗したからか自分で物事を決めるのを怖がってしまったのだろう。でも複雑に考えるよりシンプルに考える方がやり易いことはある。

 

「つっても俺なんかが色々語る資格はないけどな。俺も前世でやらかしてるし」

 

「カリヤ・・・」

 

 

苦笑していると折紙に何かしら思う所があったのか俯く。心配かけちゃったかな。

 

「さて、気を取り直して最後の仕事をやりに行きますか。おーい十香ちょっと付いて来て」

 

「む、何かあったか?」

 

「あったかってお前が来たのそれが目的だろうに」

 

「あ!」

 

 

「おい!?」

 

忘れていやがったなこいつ!?十香の首根っこを掴んで先程合流したテンカイの元に行く。

 

「テンカイ、少し話を聞いて欲しい・・・同じ『必殺の霊的国防兵器』の玖番の所在と十香のことについてだ」




読了ありがとうございます!ニ亜のお話でしたね。若干あっさりした解決でしたが、それだけでいいと言える程ニ亜も精神的に成長しているということですね!


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打ち上げの宴

第四十八話となります!ワルキューレのAAを見つけたけどちょっと遅かったな。


テンカイから情報を聞き出しこの異界の処遇を決める。幸いメシア教が全滅し地脈が落ち着いたこともあり、暴走していた僧達も正気を取り戻しており慎次さんがテンカイと話し合いヤタガラス本部と連絡していたが、どうやらこの異界は拡大しないことと有事の際はテンカイと僧達の力を借りるということで決まったのだけど・・・。

 

「お前らもう帰るのか?」

 

「ええ、私達の任務は封印の監視ですので。役目を終えれば帰還するだけです」

 

 

「もうちょっとお話したかったんだけどね!」

 

 

「ふむ、ならこれから異界内でちょっとした宴会やるんだけど食べてくか?住職からたかゲフンゲフン提供頂いた食材で鍋作ろうと思ってんだけど」

 

「え、いいんですか!?」

 

 

「勿論だ」

 

「オルトリンデ!?いや、その私達は」

 

「多神連合だろうと義理は通すさ。お前達も功労者なんだから遠慮しないの!」

 

この様に強引に宴会に誘いこみ鍋を振舞う。因みに場所が場所なのでお肉だけではなくお酒もないので餅を入れたり、お稲荷さんも出したりとお腹に溜まるものを拵え皆で歓談しながらの食事となった。

 

「このお稲荷さん美味しいです!」

 

 

「お鍋よりも先にお稲荷さんを頬張る辺り狐っぽいな。あ、二亜から聞いたけど【ウチデノコヅチ】が五人に掛けられるようになったそうじゃないか!これで戦略の幅も広がるな」

 

「はい、でも【ウチデノコヅチ】は切り札なので普段使い出来る能力があれば嬉しいのですが・・・」

 

「まぁ燃費も悪いからな」

 

ネオベテルでも仲魔を使役しつつ自分も前線で戦うことの出来るサマナーは意外と少ない。ただ流石に棒立ちしている訳では無く指揮や魔法・アイテム・銃撃など後方からの援護くらいは低レベルサマナーでもほとんどこなせるだろう。前線で戦う俺みたいなタイプも何らかの魔法や物理攻撃スキルを習得しているので春姫のようにアクティブスキルが切り札一枚だけというのも厳しいと思ってしまう。基本的に悪魔の方が素の身体のスペックが人間よりも高いのでスキルなどでその差を埋める為だ・・・え、メガテン主人公の一部はそういったスキルや魔法が無くてもアイテムと武器片手に世界を救ってるって?それはあいつらがおかしんだ。

 

「魔剣とかがあればいいけどそうそう手に入らんし、銃でも使うか?」

 

「銃ですか?・・・そうですね自衛手段は必要ですし」

 

お酒が入っていないからか比較的真面目な話題を話していると命達も話題に入って来る。

 

「確かに私も弓を使っているから自衛手段はあった方がいいかもね」

 

「持つのなら取り回しの良い拳銃がいいでしょうね。咄嗟に取り出せます」

 

「最近はネオベテル製の装備もヤタガラスで販売されるようになりましたから帰ったら選んで見ましょうか?」

 

「とはいえ費用もそれなりに掛かるが・・・あ、勿論それでも耐性装備など優秀なものが多いので助かっているがな」

 

「それは仕方ないですよ桜花殿。装備と言えば狩谷殿は耐性や毒沼などの地形対策はどうしているのですか?」

 

「うーん(ぶっちゃけ折紙の加護で大抵の属性で耐性はあるんだけど)基本は装備だけど【物理無効】みたくスキルで獲得しているものもあるな。因みに装備で獲得している耐性は【呪殺無効】【炎無効】【緊縛無効】【毒無効】【精神無効】、スキルは【物理無効】【奈落のマスク】だな」

 

本当はペルソナで出て来る珍しい属性の耐性装備が欲しいがそれらの装備はまだ数が少なく、その属性攻撃をしてくるシャドウとよく遭遇するペルソナ使いのメンバーに優先で回されているので手に入れるのが難しいのだ。

 

「私のこの着物の防具も先生に貰いましたしな。今回の戦でも助かりましたわ」

 

「輝夜ちゃんソロネの【マハラギダイン】に突撃して無傷で切り抜けてソロネをぶった切ったりしてたのよ?着物の防具に【炎無効】があるからって度胸が凄いわ」

 

「マジか?随分と思い切ったな!中々できることじゃないぞ!」

 

『それは本気で言っているのか?』

 

おかしい、何故皆ツッコミして来るのだろうか?輝夜を褒めただけなんだけどな。

 

「主はもうちょっと自分のことを顧みて欲しいのじゃがの」

 

「だって効率的だし、そん時他に方法あったか?」

 

「狩谷さんの質が悪い所は命を投げ捨てる行動に出る時って「じゃ代案だしてよ」って言われると返答に詰まる場面ばかりなのであまり強く責められない所なんですよね」

 

「そりゃお前常日頃から命投げだす行動するとかただのバカじゃないか」

 

『こ、こいつは・・・!』

 

おかしい、何故皆若干イラっとしているのだろうか?常識を言っただけなんだけどな。

 

「あ、そうだ忘れていた!」

 

「どうしましたテンカイさん?鍋のお代わりですが?」

 

「そうではなく・・・ああいやお代わりは貰うが報酬の話を忘れていたのだ!」

 

「へ?俺達はヤタガラスから貰う予定なんですけど」

 

「それはヤタガラス側からの報酬であろう?我からの助力の報酬は別に渡すのが筋というもの。ヤタガラスには依代を預けるということが報酬として相応しいがお前達には渡していなかったのでな」

 

という訳で別途報酬が発生した。ただ組織単位で渡しているので俺達にも渡す報酬は一つが筋だろう。この場でこの報酬の内容を決められる権利を持つのは俺と折紙、十香、斑鳩、伊砂の五人だ。

 

「で、どうするよ?」

 

「私は別に要らないわよ?こっちの取り分の悪魔素材で十分元が取れるわ」

 

「そうだな、仏教系の悪魔の素材を使って試したい実験や研究もあったから私もそれで構わない」

 

「私もいいぞ。テンカイには色々教えて貰ったからな!」

 

「カリヤに任せる」

 

「普通なら揉める所なのに速攻で決まる辺りうちは変わってるよな」

 

他の四人から報酬を任されたので少し考えて見る。ぱっと思いつくものだと

 

・希少な悪魔素材

・高性能な装備又は道具

・強力な仏教関係の仲魔

 

こんな所か。希少な悪魔素材は言わずもがな、仲魔を選ぶとレベルの目安的に今回の作戦でLv58になったのでそれ以下のレベルになるだろう・・・テンカイとやり合ってたらLv60は行ってたんじゃなかろうか?ちょっと惜しい気もあるがまぁ仕方ない。装備に関しても先程言った希少な属性に耐性のある装備があれば貰うのもいいだろう。便利道具辺りもあればあるほど嬉しいからかなり迷うがここは汎用性を取るか。

 

「ならばもし良ければ友好的な仲魔を一体欲しいですね。テンカイさん関係だと仏教関係の悪魔になるか」

 

「仲魔か・・・この異界内にはお主のレベルに見合う悪魔は居らぬな。では我が呼び出した悪魔と契約するというのは如何か?」

 

「ああ、それでいい。ランダムなのか?」

 

「ある程度は決められる。どんな方面に秀でているかなどな、レベルに関しては狩谷の縁を辿った召喚故適正レベルの悪魔を召喚出来るはずだ」

 

「それなら拠点防衛に秀でた悪魔で頼む。この前地元で俺とメシア教、ガイア教、ファントムソサエティ、ローマ正教が殴り合ったことだし」

 

「五勢力が争うなどどうなっているのだお主の地元は・・・」

 

テンカイに呆れられながら術式の準備に入る。やはりというかその術法ネオベテルとは別物なのだが、まぁ専門知識が無い俺は感覚的に違うとしか分からないのだけど。

 

「では始めるぞ!」

 

「バッチコーイ!」

 

 

テンカイが経を唱えだすと召喚陣に光が灯り輝き少ししてその光が一段と強くなり、俺の目の前に悪魔を呼び出した。

 

「ほう、こちらの私を呼び出すとは珍しいサマナーも居た者だ」

 

【鬼神 クベーラ Lv58】

 

「おお、無事召喚出来たか!俺は神木狩谷だ。これからよろしくなクベーラ!・・・名前は聞いたこと無いが頼もしそうだ」

 

「ふむ、私を知らないということは狙って呼び出した訳では無いのか。ならば狩谷お前は運がいいぞ!」

 

「そうなの?」

 

「クベーラ、クベーラ・・・何かのゲームで出て来た様な」

 

「召喚に用いた術式の関係上仏教関係の悪魔だとは思いますが・・・?」

 

「気配的にそこまで邪悪な存在では無さそうだ。ニュートラル・カオスと言った所か」

 

クベーラの言葉に俺と白織、ロスヴァイセ、バフォメットが頭を捻りながら考えているとテンカイとカーリーが気付いた様だ。

 

「まさか貴方様を呼ぶことになろうとは」

 

「有名な方の側面ではまだ主のレベルでは使役出来ないはずなのじゃが、条件に合っていたクベーラの側面を呼ぶことで霊格を少し下げて使役可能になったのじゃな」

 

「有名・・・なるほど彼だったか。神話の違いで呼び名が変わるから知らなくても無理はない」

 

「彼ということは本来なら男神。でもどう見ても女性見えるのだけど」

 

折紙も気づきアズールは分からないようだが誰もが気になっている疑問を問う。

 

「それは分からんが大方私の本霊が空気を読んだんじゃないか?」

 

「空気を読んだ結果が女体化って何じゃそりゃ!拠点防衛力強化の為に呼んだんですけど!」

 

「拠点防衛力強化、なるほどそれで霊格を下げる為とはいえ多聞天ではなくこちらが選ばれたのも納得は出来るな」

 

「多聞天・・・おいそれってあの仏神の別名やんけ!?」

 

「そちらの名は知っていたか。察しの通り私の本霊は多聞天こと"毘沙門天"!狩谷次第でその霊基を得ることもあるかも知れんな?」

 

「わーおやっぱり(白目)!うちのメンツも人外魔境になったもんだぜ」

 

 

「それではお先に失礼いたします」

 

「いやー思ったよりごちそうになっちゃったよ!」

 

「ヒルデが一番食べていたもんね」

 

「相変わらず遠慮がないわね」

 

「気にするな俺も楽しめたよ」

 

ワルキューレ三姉妹が一足先に帰るということで盛り上がっている宴会場から離れ俺と折紙、ロスヴァイセが見送ることにした。帰りは転移で変えるとのことだ。

 

「今回は助かった。先に三人が助けに入って無ければ反撃する戦力的余裕がテンカイ側に無かったかも知れない」

 

「いえ、それにそちらの援軍が無ければジリ貧でしたでしょうし・・・それにロスヴァイセが一部を除き上手くやれていることを知れましたし」

 

「ぐ!?そ、それはその・・・!」

 

「酒癖か?」

 

「惜しい」

 

「それもあるけどねっとそろそろ時間時間!」

 

「そうだね。それじゃまた・・・今度も敵同士じゃ無ければいいけど」

 

「はは、それはそっちの上司に言ってくれ。そうだろ?」

 

「ええ、結局はそうなります。それでは失礼します狩谷、折紙、ロスヴァイセ」

 

三人がルーンによる転移魔術を行使し、その姿が透けていく。

 

「さよならだ三人共、また無事に会ったら他の姉妹達にも料理を振舞ってやるからさ!」

 

「っ!・・・ありがとうございます」

 

そのやり取りを最後に三人は転移し、姿を掻き消した。最後スルーズが俺の言葉に僅かな動揺を見せた気もするのだが・・・。

 

「まぁ分からんことを考えてもしょうがないな。折紙、ロスヴァイセ逆探知(・・・・)は?」

 

「ダメですね。この異界から少し離れた外に飛んだことは分かりましたがそこまでです」

 

「こちらも地脈から追ったけど同様。転移以外の撤退手段があったみたい」

 

「そっか、当たり前だが転移で一気に本部までは戻らなかったな。それにしても今回来た三人がまともで良かったぜ」

 

「最悪多神連合と行き成り戦端を開くことになっていた可能性もあった。だからあまり深く探らなかった訳だしなお互いに」

 

「ですね、彼女達の言動からオーディン様はまず間違いなく所属しているようですし戦力がどれほどのものかはかり知れません」

 

「そういうロスヴァイセはいいのか上司を相手することになるかも知れないぞ?」

 

「どうでしょう?実際にぶつかるかはオーディン様のお考えに寄りますが・・・ただ今の私はマスターの仲魔であり、ヴァルキリーです。それだけは覚えて置いて下さい」

 

同郷の者達とやり合うかもしれないという俺の懸念はロスヴァイセの覚悟の礼を見れば杞憂だったようで何よりだ。

 

「万が一敵対したら私も全力を出さないといけない」

 

「真名封印で固有能力が使えない折紙の全力、天使化だけじゃ足りないだろうな。だからホワイト・リコリスを作って貰ったんだから。そう考えればあいつらに切り札の情報が渡らなくて良かった」

 

「ホワイト・リコリスの本来のコンセプトは天使化時にこそが真骨頂ですからね」

 

「ああ、だから切り所を間違えたくないな。特に初見はな」

 

ホワイト・リコリスの本霊の力を借りる俺達の切り札の情報が洩れなかったのは大きい。いつまで隠せていられるかは分からないけどな。

 

「もしもの時はお前が頼りだ頼むぜホワイト・リコリス・・・神霊エンシェントデイ(‥‥‥‥)

 

月を眺めながら警戒しつつも頼りにしている折紙の造魔の仲魔にそう告げるのだった。




読了ありがとうございます!次回から新章です。本編で新たに仲間になった鬼神は次回辺りに持っているスキルなどを明かしていきたいと思います。神霊のことについてはもっと後になりますね切り札を切るタイミングで明かす感じになると思います。


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海外遠征 バチカン編
ラ◯ュタだ!これラ◯ュタだ!?


第四十九話となります!新章でございます。海外編とか行ってますが出国するのはもうちょっと後からです。


イレギュラーもありつつ依頼を達成した俺達はそれぞれの家に戻っていた。ヤタガラスの奴らは向上心が強いのかもっと強くなるとか気合い入れてたな・・・若手が生き生きとしているのはどの業界でもいいことだ。あと慎次さんにはクズノハ、ヤタガラス上層部にタイラントの報告と調査を頼んだ何かあったら協力するとも言っているのでいずれ連絡が来るだろう。俺も一応ネオベテルの幹部と巫女さん達に伝えたが諜報力ではあちらの方が高いので期待はしている。あ、そういえば楯無から今度家に遊びに来てくれと言われたんだっけか、色々あって結局手合わせとか出来なかったからな次は御手合せを願いたいものだ。まぁそんな約束もしつつ家に帰って早々俺達はクベーラ主導でリビングで駄弁りながら自宅改造計画その2に取り掛かってた。

 

 

「ぶっちゃけその1で要塞レベルに強化したのに何処ら辺を強化するんだ?」

 

「ああ、ざっと見させて貰ったが中々よく出ている。防衛力だけならメシア教、ガイア教の重要拠点にも匹敵か超えているだろう!」

 

「むふー!」

 

「気合い入れて作りましたから!」

 

「当然である!」

 

「だが・・・来るべき終末に備える為にはまだまだ足りないものが多すぎる!」

 

 

「「「な、何!?」」」

 

 

現在の自宅に改造した立役者である折紙、ロスヴァイセ、バフォメットが自身満々に胸を張っていたがクベーラの指摘にショックを受けてしまった。

 

「うーん確かに設計時は別に終末に向けてどうのこうのとかは考えて無かったからな」

 

「であろうな。唯一通用するであろう防衛力もこの地の霊脈や地脈などから得られるMAGが前提なもの

になっている時点でそれは明らかだ。しかし今は折紙が掌握しているとはいえ終末でそれらが狂う可能性が高い!だからいざという時この地のMAGに頼らず自活する必要が出て来る。他にも最低限食料や水を自力で賄えれば取り敢えずは大丈夫だろう」

 

「ノアの箱舟かな?因みにどのレベルを目指している訳?」

 

「ヴィマナの空飛ぶ宮殿レベル」

 

「それヒンドゥー教の神器クラスやろがい!?要求スペックが高すぎるわ!!・・・あれでも帰って来てから少し調べたけどお前が譲り受けたプシュパカ・ヴィマナって空飛ぶ戦車じゃ無かったか?」

 

ヴィマナとはヒンドゥー教やサンスクリットの叙事詩に登場する「神々の車、或いは戦車、または空を飛び自動で動く乗り物」と定義されている宝である。クベーラもブラフマー神からプシュパカ・ヴィマナを授かっていたはずだ。ただあれは空飛ぶ戦車だったはずだが?

 

「有名なのはそうだな。だが「ラーマとシータを乗せてランカー島を去るプシュパカ」や「空を飛ぶ船のようなプシュパカ」などの同じヴィルマだが別の姿の逸話も多い・・・その影響で私は「プシュパカ」と名の付くヴィマナを使用出来る権能を持っている!」

 

 

「おーマジか。あれでもそれなら普通に召喚とかした方が早くないか?」

 

「それはそうなのだがなー、戦車は船程度なら兎も流石に宮殿の様な大掛かりなもの魔界から召喚すると下手をすればそれだけで無駄にGPを上げてしまう要因になりかねないのだ」

 

「ああ、そりゃダメだわ」

 

「下手すればライドウが乗り込んで来るからの」

 

 

「あの巫女さんからも絞られるでしょうね」

 

 

安易に宮殿を召喚したらライドウ、巫女さんに制裁を受けそうだなとカーリーと共に遠い目をしてしまう。アズールは笑っていたけど。

 

「という訳で実際にこの家を宮殿レベルに改造して、そこに宮殿のプシュパカを憑依させ概念装備として機能させればこの家が現代に生まれた新たな「プシュパカ・ヴィマナ」となろう!」

 

「えぇ!?そんなのありなの!?」

 

「所有者の私が言うのだから問題はない。勿論それ相応の宮殿で無ければ憑依の器足りえんがな」

 

「まずは入れ物か・・・ここは狩谷君の家だから本人次第だと思うけど」

 

「ふむ、両親は多分こういうロマンあふれた話は引き受けるだろうけど・・・取り敢えず設計図見てから「なら見て貰おうか!」もう用意済みだと!?」

 

「用意が早い!?」

 

俺と白織があまりの仕事の速さに驚いているとホワイトボードに設計図を貼りだす。その内容はある意味予想通りだが色々とんでもないことが書かれていた。

 

「うわ宮殿だから何だと思ったらデザインが現代っぽい!」

 

「どうせ作るなら当世風のものの方が良かろう?」

 

「な、これ空飛ぶのか!GP云々はどうしたのじゃ!?」

 

「ラ◯ュタだ!これラ◯ュタだ!?」

 

「マスターが見ていた映画のアレね。確かに似てるわね」

 

「この世界の材料で出来た宮殿の器にすればGPは勿論狩谷が払うMAGも大幅に軽減出来るから心配いらん。あとラ◯ュタとはなんだ狩谷?」

 

「・・・これ異界化してない?」

 

「してますね。悪魔は生まれない様にしているようですが」

 

「ああ、終末を考えると異界化の方が都合が良いだろう。その方が空間を拡張して色々設備も揃えられるからな!」

 

設計図を前にクベーラと俺達は議論を重ねた。ツッコミだけではなく何人かは「この設備を設置できるか」とか要望を出している辺り抜け目がない。

 

「大体疑問は聞き終えたか、一部要望が混じっていたが・・・とはいえ最終判断を下すのはサマナーである狩谷だ。この改造計画を承認するか?」

 

 

「・・・いい案だと思うがここまで大規模だと俺達だけで勝手にやる訳にはいかないだろう。同居人であるエイナ達の同意がいるし、教会組や魔術師組にも話を通さないといけない。更に宮殿の材料を揃える上で入手難易度が高い重要なパーツが足りてねぇ」

 

「ジェネレーターじゃな?通常の異界は地脈や霊脈からMAGを得られるがそれらから独立すると独自にMAGを生産する必要があるからの・・・というかこれどうやって手に入れるのじゃ?いくらアルケミスト社やネオベテルでも新造は難しいぞ?」

 

「無論無いなら奪うまでだ。遺跡型の異界なら警備システムなどの為にジェネレーターや動力炉の一つはあるだろう。それらを改造して取り付ければ問題ない・・・まぁ手早く済ませたいならメシア教、ガイア教のそこそこ重要な拠点を叩けば奪えると思うがな」

 

 

「流石にそんな理由で喧嘩吹っ掛けるのはダメです」

 

拠点強化の為だけに他人の拠点を襲うとかどこぞの世紀末ゲームみたいな所業をするのはいくら何でも良心が痛むというものだ。

 

「因みにあっちから手を出して来たとか乗り込む大義名分が出来たら?」

 

「報復して遠慮なく略奪するけど?」

 

「うーんこのカオス思考」

 

「た、確かに仲魔はカオス系の悪魔に偏ってますね」

 

「これでアライメントはニュートラルじゃからの」

 

「フフ、こちらとしてはやりやすいからいいがな」

 

「そうね造魔の私も伸び伸びやらせて貰ってるわ」

 

「今用意できるのは・・・まぁ周りの土地くらいだろうな。最悪頓挫しても別の使い方をすればいいし」

 

曲がりなりにも東京の土地なので普通は高いのだが、例の六年前の事件で不吉がられて自宅周囲は空き地や空き家が多いのだ。其の為割と安価に買えたりする。

 

「そうじゃの。それに皆から了解を得たとしてもそうそうジェネレーターが手に入る訳じゃない以上気長に取り組むとするかの」

 

この時は皆年単位の計画になるとか思っていたのだが意外や意外、二週間もしない内にそれを手に入れる機会が訪れたのだから世の中不思議なものである。あ、因みに宮殿化の許可や承認はそう時間が掛からず取れた・・・皆曰く「リアルラ◯ュタとか見たい!」とかが理由とのこと。ネオベテルは兎も角他の奴らも浪漫に生きているようだ。




読了ありがとうございます!自分から身勝手に殴りにはいかないが相手から殴って来たのなら遠慮なく殴り返して略奪をする・・・正当防衛ですね(白目)!

【鬼神 クベーラ Lv58】
ステータスタイプ:力・体型
防御相性:火炎無効、氷結弱点、破魔無効
主なスキル:【裁きの雷火】【マハタルカジャ】【冥界破】【ディスコード】【怪力乱神】【貫通撃】【マハラギダイン】【アギダイン】【食いしばり】【物理プレロマ】【火炎プレロマ】【物理サバイバ】【火炎ブロック】【奈落のマスク】etc
備考
スキル以外にも本編に書いた様にプシュパカ・ヴィマナと呼ばれたヴィルマを召喚する能力。富と財宝の神としての権能で財宝が集まる流れを作ったり、加護を与えた個人や建物での強奪などの盗みなどを無効化する権能を持っています。


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中野区で日常とコミュ1

第五十話になります!現状主人公と絡むのが減っている地元メンバーがいると思いコミュ話を数話に掛けてやっていきます。


神木家改造計画以外はこの中野区に置いては平穏・・・平穏?な日常はが流れている。今回は中野区の日常とコミュを見て行こう。

 

【カーリー編】

 

「カーリーそっちは終わったか?」

 

「うむ、なます切りにしてやったわ」

 

俺とカーリーは日常業務として定期的に湧いて出る悪魔を使役するカルト集団を狩っていた。カーリーは悪魔と教団員を区別なくぶった斬り、俺も悪魔と教団員を聖槍で纏めて貫いていた。

 

「折紙ー、他は?」

 

『残敵掃討。他に敵性反応無し』

 

「よしよし・・・にしてもこの手の奴らすぐまた湧くよな。頻度も増えてないか?」

 

「それほど終末に近づいておるのじゃろうな。とはいえ最近は中野区にちょっかいを掛ける輩も減っては来たがの」

 

「先の五つ巴の戦いとここじゃ何か小さな儀式でも起こす準備をしたら即日「こんにちは、神殺しです」されるからな」

 

前から言っていることだがこの中野区に流れる龍脈、地脈、霊脈といった土地を流れるMAGの元は今念話している折紙が完全に掌握している。少なからず儀式というのはそれらに接続っして行うので接続しようとした瞬間に折紙にモロバレになってしまうのだ。しかもそこから逆算されて拠点はバレるはその儀式を試みようとした人間、悪魔をマーキング出来るのだから相手からしたら堪ったものではないだろう。

 

「何度考えても妹君を敵に回したくはないのじゃ」

 

「基本クソゲーだもんな。といっても流石に折紙も中野区に覚醒者や悪魔が入って来るのはよほど派手に来なければ感知出来ないんだろ?」

 

『力を感知能力に多く割り振ればある程度は感知は出来るようになると思うけど』

 

「それやるとこの土地の霊的防御力とかが下がっちまうだろ。別にネオベテルやヤタガラス、クズノハ以外の覚醒者や悪魔を全部排斥しようって訳じゃないんだ。一般人に迷惑掛けずにこっちに筋を通してくれれば滞在してくれても問題無い」

 

「ああ、そういえば少し前に挨拶に来た奴が居ったの。確かフリーのデビルサマナーの・・・マヨーネという名前じゃったか?」

 

「あいつか、前世の原作ではファントムソサエティに所属していたから警戒してトキに調べて貰ったけどフリーだったんだよな・・・若干ダークサマナーよりだったけど」

 

『カリヤが原作というゲームでは悪魔召喚プログラムやCOMPはファントムソサエティが主に用いていた。でもこの世界ではネオベテルが主導している以上原作よりも組織の規模は小さくなっているのかも知れない』

 

 

「確かにあのプログラムとCOMPは凄まじいからの。あれらが無いだけで組織の力はかなり違うじゃろうな。そして規模が小さい分本来なら抱えていたはずの人員がこちらではフリーや他の組織に所属していてもおかしくはないの」

 

原作のゲームシリーズとこの世界との差異は小さい様で大きい。思い込みで行動したら足元を転ばされてしまうだろう。味方に出来るならその方が良いと俺の伝手でネオベテルとの繋ぎという名の首輪を着けた・・・ブロンズカードからのスタートだしCOMPを買えるようになるまでまだ掛かるだろうが原作でもサマナーとして上澄みの方だろうしシルバーカードに上がるのにそう時間は掛からないはずだ普通のネオベテル製の装備品は買える訳だしな。

 

「しかし良かったのか?ダークサマナーに限りなく近かったんじゃろ?この町に住むらしいし、首輪を着けたとはいえちょっと心配

なんじゃが」

 

「一応折紙にマーキングはさせている。それにダークサマナーといっても報酬がちょっと暴利だけど依頼人が財政破綻するラインは超えないようにしてたし、マッチポンプとか阿漕な事はせずに依頼自体はキッチリこなすからまだマシな方だろう」

 

「主が良ければ妾は何も言わんが・・・もしもの時は対処するぞ?」

 

「悪いなカーリー・・・神話とはえらい違うけど身体とか精神性とか色々」

 

「当然じゃろ妾は主の仲魔である『カーリー』であってシヴァ神の伴侶である『カーリー』ではないからな」

 

「うーん悪魔変化した結果とは言えここまで個別に意識が分かれるもんなのか?干渉とかされない?」

 

「あー実は最近カーリーの本霊から夢で『血に狂え』『戦いに身を委ねろ』『シヴァを愛せ』とか色々言われてはいるが」

 

「おもっくそ干渉されてるやんけ!?そういうのはもっと早く言いなさいよ!」

 

「すまぬ・・・ただ毎度別側面のパールバティが介入して『今夜もすみません』とカーリーの干渉を引っぺがしてくれるので問題は今の所なかったのでな。それに新しく獲得したスキルのお陰で更にマシになっておる」

 

【主への忠節】

主と認める者への忠誠心がある限り【精神無効】【暴走無効】【不屈の闘志】の効果を得て、戦闘ごとに付き一度だけ距離などの物理的障害を無視して主が受けるダメージを肩代わりすることも出来る。

 

「え、これそんな経緯で手に入れたの?初めて聞いたときの感動を返して!」

 

『このスキルを獲得するには『洗脳などが一切関わらない深い主従関係』が第一条件だから感動したのも間違ってはないはず』

 

「そうじゃそうじゃ・・・しかしそれだけなら他にも獲得している者が多そうなのじゃが?」

 

『第二条件に『神話・伝承に由来する本来なら起こるはずの暴走、害意、悪心などをその忠誠心で抑え込んだ』というのがある。神話に置いてカーリーがアスラ族を倒したときの勝利の舞で世界を滅ぼし掛けたエピソードが暴走と捉えられたのだと思う。実際分霊にも暴走のリスクはカーリーである以上出て来てしまうから・・・分霊である以上周辺地域が滅ぶ程度だと思うけど』

 

「「いや全然"程度"ではないんだけど(じゃが)?」」

 

【暴走無効】ってそういうことかい・・・害意や悪心を押さえたら【害意無効】【悪心無効】などになるということなのだろうか?

 

「でも何で俺の仲魔のカーリーはそうなったんだろうか。やっぱ悪魔変化だからか?」

 

「スパルトイ時代も戦士としてほぼ100%の勧誘経緯じゃったし、色々大変じゃったが仲魔になる前と比べるべくも無く充実して居ったから反感など一欠片も無かったとはいえそれだけで抗えるなら苦労せんじゃろう。サマナーの性質に引っ張られた可能性もあるがいくら何でも劇的過ぎじゃしの」

 

『・・・データ不足だけどカリヤが神殺しであるのと関係しているのかも。カリヤはカーリーをスパルトイ時代からどう思っている?』

 

「『真面目だけど意外と柔軟な忠節厚い戦士』?イメージだけどな」

 

『恐らくそのイメージ、認識を持っていたことで人間の『観測の力』で存在認識に介入する神殺しの性質で『神木狩谷の仲魔である嘗てスパルトイと名乗り現在はカーリーを名乗る悪魔』の本質、存在認識を固定化させることになったのだと思う。複数の存在認識が混じる悪魔合体で生み出した個体では無く、元のパーソナリティ、すなわち存在認識の大部分を引き継ぐ悪魔変化で再誕した個体であるのも影響しているはず』

 

「妾を妾と認識出来ているのは主のお陰ということか。主の固有スキルの一つである【試す者】には試練を設け限界突破や悪魔変化を発生させる確率を引き上げる効果もあるが『試練を突破する行為そのものが存在認識の補強ないし強化』に繋がっているからなのかも知れんな」

 

「限界突破や悪魔変化の本質は当人の内側、自身の存在認識に自身や世界が合わせた結果よりその認識に相応しい存在に昇華するってことなのかもな。この二つ程では無いにしてもレベルアップにも言えることなのかな?でもこういう場合って逆もありそうなのが怖いけども」

 

『内側の存在認識の結果自身を昇華させるか堕落させるか或いは周囲や世界の認識で昇華、堕落することは普通の人間にもあり得ること。それに唯一神も他の神々の周囲や世界の認識を歪めて悪魔として貶めていることからも見て取れる』

 

「そう考えるとあの四文字本当碌な事してないな」

 

『かくいうその唯一神のこの平行宇宙の『大いなる意志』から送り込まれた端末の一つに過ぎないというのだから滑稽だけど』

 

「高位天使の妹君もそういうのか」

 

勿論限界突破、悪魔変化、レベルアップこれらの本質がこれだけだと言い切るつもりもないがその一端には触れることが出来たのかもしれない。

 

「まぁ何はともあれ、これからも変わらずよろしくな"俺の"カーリー」

 

「心得て居るわ!"妾の"主よ」

 

互いにいい笑顔見せ帰路に付く。造魔であるアズールが仲魔達の中で一番信用出来る仲魔ならカーリーは一番信頼出来る仲魔なのかも知れない。

 

 

・・・なお二人揃ってルンルン気分になった帰路で警官の方々に幼女を連れた上機嫌な不審者として職質を受けたがライネス直伝の暗示の魔術で危機を脱したりしたのは完全な蛇足である。

 

「何で俺って最後までシリアスで終われないんだろう?」

 

「そういう星の元に生まれたんじゃろ」

 

『哀れな・・・』

 

割と便利な神殺しの力もこんな時には糞程の役にも立たないなと思ってしまう俺なのだった。




読了ありがとうございます!という訳で平穏?な日常回に入ったのですが、タイムリーだったから筆が乗ったとはいえカーリーの話だけで一話使っちゃたよ。これからは詰めてかないとな。カーリーはもっと深い理由忠誠の理由とか考えたりもしたのですが「そんなのがない」のがらしいと逆に思ったのでこのままにしました。・・・今回のコミュでは印象を深めるために主役キャラ以外人物のAAは使わない方針なのですが今現在の姿であるダンまちの「カーリー」のAAがないので非常にあっさりしたものに・・・誰か作ってくんないかな(他力本願)?あと今話は4fでの四文字戦と旧ダグザのことにも通づるものとして書いています。特に後者は存在認識、存在理由の固定化の対比にもなっていたりします。


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中野区で日常とコミュ2

第五十一話になります!よし、今話は仲魔二体分詰めたぞ!・・・先が長いな!


【白織編】

 

「狩谷さん、私ブランドを立ち上げたいんです!」

 

 

「急にどうした」

 

白織に自室に呼び出された俺は起業の相談をされた。

 

「今でも十分に需要があるんじゃないか?後ブランド化して手を広げたらそれこそ手が足りなくなるだろう」

 

「むー、そういうものなの?」

 

「当然だ。ブランド化、通称ブランディングで利益を上げていくには継続力と高い品質管理は不可欠。今までは個人業だったから必要な時に作って売ればよかったがブランド化をすれば継続的に商品を売り出すことになる。だが白織は俺の仲魔だからずっと生産活動に注力は出来ない。というかそもそも今以上の需要は個人でどうこう出来んぞ?」

 

「マ、マッカはあるからバイトを・・・」

 

「いやいや、ネオベテルの技術の機密性から外の人間は雇えんしさっき高い品質管理も不可欠って言っただろ?ネオベテルのメンバーで白織並みの腕を持つ奴なんているのか?言っておくがいつも糞忙しい開発部から引き抜くのは無理だからな?」

 

「ぐふ!?」

 

 

真正面から正論を叩きつけられたからか胸を押さえて崩れ落ちる白織。厳しい様だが元商社の課長として言わなければならないことは言わせて貰うつもりだ。

 

「因みに何でブランド化?単価を上げたいとか利益目的でもないんだろ?」

 

「い、いやーその・・・アマチュアとはいえ装備を作るものとしての憧れが」

 

 

「まずは地盤を固めよ?」

 

まぁ最初の頃とは違い装備のデザインや制作も行う様になってから色々凝り出したからな。購入者からの評判も悪くない、質こそ開発部に劣るがネオベテル製以外の装備に比べれば遥かに高性能だし、何よりデザインがすごいまともなのも好評の理由だ・・・ネオベテル製でもまともなデザインはあるんだけど高性能なほど少数派になるのがなぁ。実際俺の装備のデザインは白織にやってもらってるし。取り敢えずこの時はゆっくりやって行こうと説得しようとしたのだが・・・。

 

「あ、そうだ!狩谷さんって商社の課長だったんですよね!なら私のことのをプロデュースしたり、ブランド化についても色々教えて下さい!元引きこもりを助けると思って!」

 

 

「・・・ほう?本気か?」

 

「勿論です!」

 

この一連の会話をもしエイナが聞いていたら絶叫しながら白織を止めていただろう。狩谷の教育方針は基本スパルタである。前世の教育対象だった後輩問題児達と今世で覚醒者のあれこれを教育してくれた巫女の影響なのだが白織だってバカでは無い、今までの付き合いでその辺のことは分かっているので覚悟を決めて頼んでいる・・・もっともそれが足りているかは話が別だ。

 

「いいだろう。久々の新人研修、後輩教育をやってやろうじゃないか!!なぁに前世と違い【試す者】の補整がある以上死ぬ気でやれば一月、いや半月で係長レベルの仕事が十全に務まるように扱いてやるよ!!」

 

「へ?」

 

【試す者】による補正の発生は所持者が試練を与える分野に置いて一定程度の熟達が条件だが、補正そのものの強さはその所持者の熟達の練度×与える試練のレベルで求められる。では狩谷が熟達している能力、技術で一番熟達の練度が高いものはなんだろうか?ネオベテルの大半は戦闘技術と答えるだろうがエイナは否定するだろう。なぜならそれは文字通りこの世界に転生し、覚醒してから一、二年で身に着けた技術とはものが違う。

 

「心配することはない。たかがここ一、二年で修得した戦闘技術でさえ【試す者】の効果は大きかったんだぞ?前世で数十年間掛けて修得し、鍛え続けた分野への補整はもはや比べ物にならないぞ?」

 

「・・・(唖然)」

 

 

額面通り受け取れば良いことづくめに見えるが白織は直感していた・・・『やらかした』と。事実その通りで今回教える分野は今までの戦闘技術と異なる部分は単純な時間だけではない。ぶっちゃけ戦闘技術の師はあの巫女なので狩谷が真似出来ることなので少なく、教育に関しては大部分を狩谷自身の考えや経験などで積み重ねた教育論を元にしている。が、今回の分野の師は前世の先輩であり当時係長だった部長なので会社で培われた教育の基礎というものを十全に受け継いでいる。基礎を理解していれば色々無茶な調整も出来き、その結果後輩問題児達に合わせてスパルタ方式に大幅に調整したものが今の狩谷の教育論である。基礎がしっかりしているからこそそれを数十年間で無数のトライ&エラーを繰り返し精度を高めたその分野の狩谷自身の能力と技術、教育の力は今世で身に着けたものよりもはるかに練度が高い。で、当然それだけ差があると与える試練の難易度もかなり変わっていく、試練自体の精度の向上や試練を受ける者の限界をより明確に見極めることが可能となってしまうからだ。

 

「『商社のサラリーマン、OL』という分野なら白織の限界ギリギリ且つより精度(難度)の高い試練を用意してやるぜ!」

 

「・・・(白目)」

 

こうして狩谷による白織の『新人研修』が始まった。勿論通常の業務や鍛錬と並行で。

 

【バフォメット編】

 

「これより悪魔変化の儀式を行う!」

 

 

「急にどうした」

 

バフォメットに空き部屋に呼び出されると急にこんな言われた。お前も何かやるのか。

 

「ほらアレだ主よ。前から倒した悪魔の素材を幾らか融通してもらったであろう?」

 

「ああ、何か入用だって言ってから渡していたが・・・よくよく見ればここは儀式場にしているのか」

 

「その通りだ。普通は手っ取り早く強くなるなら悪魔合体をするのだが主の固有スキルで悪魔変化を起こす確率が上昇しているのならこちらの方がよい」

 

部屋を見渡すと床に魔法陣や贄となる加工された悪魔素材が配置されている。悪魔変化と言っていたが黒魔術的な儀式でもするのだろうか?

 

「にしても随分時間かかったな」

 

「元々いつかやる為に貯めていただけだからな。しかし敵が強くなってきている昨今そろそろ強化するべきと思ってな。レベルも初期よりも大分上がったから成功確率が現実的なものになったというのもあるが」

 

「あ、失敗する可能性もあるの?」

 

「少しな、単純にパラメータの強化で終わるか合体事故の様に想定とは違う変化が起こる程度だ。スライムになる訳では無いから安心するがいい」

 

「言い方的に悪魔変化の方向性を決められるのか?」

 

「うむ、種族を事前に決定することが可能ぞ!・・・まぁ変化したい種族ごとに贄や儀式のやり方も異なる上魔人とかは無理だし、そもそもどんな悪魔になるかまでは分からん。まぁ変化前のレベル以下の悪魔にはならない・・・と思う」

 

「曖昧!?」

 

思ったよりランダム性の高い儀式だな・・・もうちょっと何とかならないか?

 

「贄に無垢な人間を使わせて貰えれば「よし、悪魔変化ガチャ行って見よう!」やはりこうなるか」

 

「流石に無垢はダメよ。敵対した悪人でも使えば?」

 

「無垢じゃないとちょっと無理でな。狙っとるのは女神だからな純粋な悪人は相性が悪い」

 

「女神?・・・お前女になる気か!?大浴場の男湯俺だけ入らせる気か!あの広い空間に一人とか寂し過ぎるわ!」

 

「殆ど部屋に備え付けの風呂で義妹と一緒に入っている奴が何を言う!それに我とていい加減生身で外に出たいのだ!だから美女人型悪魔になるぞ!邪神じゃ無くて安牌の女神を選んでやったのだからいいであろう!」

 

「そこは別に今まで通り男性悪魔でいいじゃねぇかよ!!」

 

「この女所帯で何でわざわざ人型男性悪魔になる訳がないであろう!肩身が狭いわ!!という訳で儀式開始!!」

 

女体化悪魔変化儀式を開始しやがったバフォメットは魔法陣を起動させる。この部屋のMAGが魔法陣の上のバフォメットに収束していき身体の変容が始まる。はてさて何に変化するのだろうか?

 

「来た来た!!今こそ進化の「狩谷教官!課題が終わりました!」へ?」

 

「ん?」

 

「あれ?」

 

白織が大事な儀式中に俺が与えた課題を終わらせたことを急いで伝えに部屋に乱入して来た・・・顔が超焦ってるのは何故だろうか?確かに課題の期限時刻は過ぎているが、まぁ今はそれよりも。

 

「なぁ贄の配置が白織の乱入で崩れたんだけど大丈夫か?」

 

「贄?あ、部屋に雪崩れ込んだときに幾つか物を蹴っ飛ばしたけど・・・」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーー!?」

 

儀式というのは精細な準備や作業、段取りで行なわれる。贄そのものは無事だとは言えバフォメットが完璧に計算して配置したであろう位置からは大幅にズレた。儀式に置いてこれは致命的である実際魔法陣の挙動がおかしい。

 

「この引きこもり蜘蛛女がーーー!!はぎゃーーーー!?」

 

「ご、ごめんなさーい!」

 

「バフォメットーーーーー!?」

 

明らかに出してはいけない叫び声を上げながらまばゆい光と共に悪魔変化を終える・・・魔法陣の上に現れた悪魔の姿は・・・。

 

 

 

 

「「「・・・少女だ!?幼女ではギリ無いけど、中学生くらいの背丈だこれ!?」」」

 

「少女・・・少女か、幼女よりはマシだけどこれじゃ外でお酒を楽しむのも無理そうね」

 

「外で飲みたかったんだ」

 

「家飲みもいいんだけどやっぱり色々なお酒を楽しみたいじゃない?」

 

そう言えばロスヴァイセと同様にお酒好きだったっけ、ロスヴァイセは直ぐ潰れるけど。

 

「まぁそれはそうかもだけど。で、何に成ったの?」

 

「えっとちょっと待って・・・種族は邪神のままみたいね・・・え゛」

 

「「え?」」

 

元バフォメットが凄い顔をしている。え、そんなヤバイ悪魔になったの?取り敢えずCOMPでアナライズしてみるかどれどれ。

 

【邪神 シュブ=ニグラス Lv65】

 

「「「・・・」」」

 

 

もう一度見る。

 

【邪神 シュブ=ニグラス Lv65

 

 

あっれ~~~おっかしいぞ?

 

「「「邪神は邪神でも外なる神じゃん!?というかサマナーのレベルを超えてるんですけどーー!?」」」

 

そんな合体事故ならぬ変化事故が起こった後日巫女さんに相談したら呆れられつつも合体事故や悪魔変化で生まれた悪魔はサマナーのレベルを超えていても原作同様従ってくれるらしい。それにシュブ=ニグラスは反抗する気はないようなので一安心だ・・・三つの固有スキルがその分ヤバいのだけど。特に【千匹の仔を孕みし山羊】はMAGを消費すれば悪魔を生み出せるそうだ。ただ基本的に種族、レベル帯だけ指定出来て基本的にガチャなのだがあの黒い仔山羊だけは選べば確定ガチャになるそうだ(一部パラメータと所持スキルに違いはあるらしい)。単純な戦力強化は勿論MAG消費は最低限で戦闘力はほぼ皆無だが種族フードの悪魔も生み出せるので自宅改造計画改めラ◯ュタ計画の食料問題の一部を改善することに成功した。巫女さん曰く種族フードは食材という概念を持つので普通の料理の様にキチンと処理、調理をすれば未覚醒者でも食べられるのだそうだ。あとの二つだが【黒き豊穣の女神】は効果はヤバいが戦闘用のスキル的なものなのでまだ大丈夫だが【狂気産む黒の山羊】は時間は掛かるが人間を悪魔或いは悪魔人間に、悪魔人間を人間に産み直せるらしい・・・悪用したらヤバそう。因みに試しに種族フードの悪魔を産み出して貰ったが人の様に出産する訳では無く(やろうと思えば出来る)彼女の体内から光球が出て来てそこから生まれる感じだったのでまだ処女らしい。

 

「まぁこうなったら開き直りましょう!そういうことでコンゴトモヨロシクね・・・何て呼ぼうかしら?ご主人様?」

 

 

「狩谷でいいよ。お前の今の姿でご主人様と言われたら俺が社会的に死ぬ」

 

「でもカーリーも主とか言ってるじゃない」

 

「あいつは一般人の前じゃ主とか言わないんだよ」

 

「相変わらずカーリーらしからぬ常識人っぷりね・・・でも私はあなたよりレベルは上なのだし少し悪戯してもいいわよね?」

 

「・・・ピクシーレベルでお願いします。あと状況も考えてね?」

 

不敵な笑みを浮かべるシュブ=ニグラスを見て「やっぱこいつも邪神なんだな」と思いつつも出来るだけ被害を減らそうと試みる。

 

「はいはい、それじゃこれで許して上げるわ♪」

 

「お手柔らかに・・・?」

 

 

「??????」

 

唇に柔らかな感触を感じ、シュブ=ニグラスが自分に入って来るかのような高揚を覚える。今世では二度目(赤ちゃん時代を除く)のキスに思わず硬直してしまう。

 

「ふふ、それじゃちょっと出かけて来るわ。夕食には戻るから」

 

「ア、ハイ。イッテラッシャイ」

 

「いってきます・・・言い訳考えといた方が良いわよ?」

 

「はい?」

 

悪戯成功とばかりに笑みを浮かべて外に出かけて行くシュブ=ニグラス。言い訳って誰にするのだろうか?

 

 

 

「カ リ ヤ ?」

 

「ちゃうんすよ!」

 

物陰から見ていた折紙のことでした。そして以後度々シュブ=ニグラスの悪戯に振り回されることになったりする。




読了ありがとうございます!変化事故でシュブ=ニグラスに進化したぞ!邪悪度もバフォメット時代より上がっているぞ!あ、因みに白織はペナルティで課題を三倍に増やされました。

【邪神 シュブ=ニグラス Lv65】

ステータスタイプ:魔・体型
防御相性:物理吸収、火炎吸収、氷結吸収、電撃吸収、衝撃吸収、破魔弱点、呪殺無効、精神無効
主なスキル:バフォメット時代のスキル+【地母の晩餐】【万能ギガプレロマ】【ディアラハン】【メディアラハン】【回復ギガプレロマ】【サマリカーム】【ランダマイザ】【常世の祈り】【大活脈】etc
固有スキル:【黒き豊穣の女神】【千匹の仔を孕みし山羊】【狂気産む黒の山羊】
備考
変化事故で誕生した悪魔。アザトースから生み出された闇から生まれたという性質から破魔、呪殺以外の主な属性を吸収することができ、狩谷パーティーに足りなかった回復役でもあるがバフォメットから引きついだ状態異常スキル、呪殺スキルそして新たに獲得した【地母の晩餐】でそこそこの妨害能力と火力もある。ただしバフォメット時代より邪悪度は増していて悪戯好き。固有スキルで戦闘以外でも活躍出来る。

本編で解説しなかったもう一つの固有スキルの解説
【黒き豊穣の女神】
パッシブスキル。HP回復スキルの消費MPを半減し、最大HPの上限を超えて回復することが可能。HPを全快させる効果を使用した場合自身の魔力+回復プレロマ、ブースト系の値分更に回復する。そしてHP上限を超えて回復するごとに自身の全能力を1段階上昇させる。


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中野区で日常とコミュ3

第五十二話になります!ちょっと筆が乗ってしまった・・・あとロスヴァイセAAがねぇ!!


【ロスヴァイセ編】

 

「悪い悪いお待たせ」

 

「い、いえ大丈夫ですマスター!」

 

今日はマスターとのデートの日。以前のデートは皆さんから散々な評価でマスターに至ってはデートとすら認識されませんでしたが今回こそは少しでも意識して貰わなければ!

 

「お、今日はジャージじゃないのか。まぁデートでジャージで来る奴なんていねぇか」

 

「そ、ソウデスネ」

 

ジャージを着ていた前回もデートのつもりだったなんて言えない!今回は私がデートをしましょうとはっきり言ったお陰で勘違いされずに済んでいます。

 

「布から見て白織のスパイダーシルクか?デザインもいいし、結構掛かったんじゃないのか?」

 

「はい、本来なら普通の服でもそれなりのマッカが掛かるはずなのですが、ブランド化したときに売り出す商品の習作ということでお安くして頂きました」

 

「なるほど」

 

会ってそうそうお金の話もどうかと思いますが、どれだけ服に詳しくないものでもお高い布が使われているのが分かってしまうので気になってしまうのも当然ですね。デザインも白を基調としながら清楚感があって好みなのですが・・・少し胸の露出が大きいような気が。でもそれでも清楚に見えるってどういうことなんでしょうね?

 

「うーんデパートに来たから買い物もしようと考えてたけど流石にそれ以上の服は無いな・・・まぁ今回はデートにかっこつけた視察みたいなもんだからおいおい決めるか」

 

「は、はい!・・・はぁ」

 

え、普通のデートじゃないのかって?・・・最初はデートだけのつもりだったのですが、そのデートに行きましょうと言ってた後に恥ずかしさに耐えられずに『で、デートというなの視察です!』とか余計な言葉を付け加えたのです。これじゃ恋人のデートじゃなくてただ男女の友人で遊びに行くデートと判断されても文句が言えません、だって付き合いの長い恋人や夫婦ならいざ知らずこれから恋人になりたいと思っている本命とのデートを視察という仕事と並行してやろうなんて思いませんよ。

 

「にしても意外と盛況で驚いた」

 

「それだけフリーランスの方々に需要があったということでしょうね」

 

今回の視察でこのデパートを訪れたのはここのテナントに入っているお店の特殊性にあります。とはいえ別にここにある店はネオベテルの『ジュネス』と異なり100%表の店しかありませんがその店は一店舗残らず従業員がフリーランスのデビルバスター、サマナーなどの業界人なのです。というのもマスターはここ中野区に不埒を働く者達を悪魔、人間問わず排除して来ましたがそれ以外の方々、特にフリーランスには一種の安全地帯となっているのです。これには先の【中野区事変】の影響が大きく、五大勢力が争う中中野区を守り通したという実績があるからというだけでは無く非常に優れた立地条件にあるからです。そんな我らを制圧するには並大抵の戦力では返り討ちにあい、もっと戦力を向かわせようとしても戦力が大きすぎると日本への渡航の際にヤタガラスの監視網に引っかかってしまいます。かといって気づかれないギリギリの戦力では我らを制圧するに足りるのか分からず粘られでもされれば他のネオベテルの戦力や最悪ライドウが出張れる距離な為組織による干渉を嫌うフリーランスの拠点にピッタリになっています。それにマスターはフリーランスの方々にも依頼を回していて仕事にも困らない・・・はずだったのですが。

 

「まさか裏の依頼の供給を超える人数が集まるとはな」

 

「フリーランスの方々に配慮したルールを敷いたら口コミで広がって更に人を呼びましたからね。それで裏の依頼を逃した人が激増したのを『そうだ!丁度寂れたデパートがあったからそれを買い取ってフリーランスの奴らに店をやらせて表の仕事をさせよう』とか普通は考えませんよ」

 

「でもここまで当たるとか予想出来ねぇよ」

 

当初はあくまで裏の依頼が行き渡らない為の救済手段で、業界の仕事の報酬を考えると表の仕事はやりたがらないと高をくくっていたのですが『我らネオベテルや中野区に不利益を齎そうとしなければ経歴一切不問。希望すれば審査の結果次第で初期費用の融資もあり』という寛容すぎる条件でテナント募集を掛けた所、フリーランスにも色々あるようで中には諸事情あって裏に身を置くしかなかった人達やいずれ表の仕事を持って平穏を得たかった人達、経歴や脛に傷を持つ人達など"表の日常を諦めた&求めている"人達の心をがっちり掴んで離しませんでした。因みに裏の店こそ禁止しているが各店舗にはオカルト対策として霊的防御の仕掛けを作ることはこちらの監査こそあれど許可されています。それにこちらが把握している中野区のフリーランスの方々は折紙様にマーキングされているのでもしもの時も安心です・・・このことは彼らに言っていませんが、事前に裏切った場合の警告はちゃんとしているのでそうなったら自業自得ですね!

 

それから暫く私達はお店の視察に時間を費やしました。マッチョな店長が営むジム、少しイカレた科学者が暇つぶしに開いている薬局、凄腕ハッカーが趣味の結晶であるネカフェ、ダンディなおじ様がマスターの喫茶店兼バー、人見知りですが本物の魔女が占う占い屋、裏の依頼の報酬をプラモにつぎ込む生粋のプラモマニア自慢の品々が並ぶプラモ屋、覚醒するまではプログラマーをしていた店主が当時の伝手でレア物も仕入れるゲーム屋、元モデルである店主がデザインしたアクセサリーが販売されているアクセサリー店などど一般のデパートのテナントに比べれば濃い内容ですがそもそも店主は勿論デパート自体のオーナーも一般人ではないので当たり前なのかも知れませんが・・・あ、視察だけじゃ無くてちゃんとデートも頑張ったんですよ!そのお陰で関係が進んだのですから!

 

「ふふふ♪」

 

「ご機嫌だな・・・」

 

「デートですから!」

 

幸せを確かめるように右手をにぎにぎすると右手がとても暖かく柔らかい感触に包まれます。

そう!私は今、マスターと手を握っているんです!!

中々進まなかった私の恋人への道も大分進んだと言えますね!!

 

「手を繋いだだけなんだがな・・・(ボソ」

 

「何かいいましたかマスター?」

 

「ナンデモナイヨー」

 

よかったマスターも今回のデートを楽しんで頂けたようです!まぁこう見えてもオーディン様に生み出されてから軽く数百年は超えてますからね。大人の女性としてマスターをリードするのは当然「あ、そうそう」はい?

 

「折角のデートだからな。記念のプレゼントだ」

 

「・・・へ?」

 

私の頭に付けて下さったのは小さな白い花が連なっているデザインの髪飾り。明らかに今来ている服と合わせているのを見て視察で訪れたアクセサリーのお店で買って下さったのだと分かります。そのことに気付いた私は・・・。

 

 

 

 

「はう!?」

 

「え、髪飾りで!?」

 

嬉しさと気恥ずかしさのあまり顔を赤くして気絶しました。

 

【クベーラ編】

 

「小学生とデートしている気分でした」

 

「そうだろうな・・・ロスヴァイセは恋愛観が幼過ぎる」

 

 

とある個室で互いに溜息を吐く。ラ◯ュタ計画を主導しているクベーラだが実はロスヴァイセにデートを決行させた張本人であるまぁ元々デートを計画してたロスヴァイセの背中を押した感じだが。

 

「というか狩谷が襲えば解決なのだがな。ロスヴァイセの好意に気付いているだろう?」

 

「前も言ったがそれやったらロスヴァイセの為にならないんだよ。ただでさえそれだけじゃ足りないのに」

 

俺は色恋に敏感な方では無いが流石にロスヴァイセの露骨な好意には気づいている。しかし俺からでは無くロスヴァイセの方から告白して貰わなければならない事情がある。

 

「ロスヴァイセの好意はヴァルキリーの勇者に奉仕するという本能、いや機能による所が大きい。別にそれ自体は否定はしない、政略結婚みたいなもんだし一昔前は人間も似たようなことやってたからな。問題なのは俺の方から求めてしまえばあいつはヴァルキリーという規格から外れることが出来なくなってしまう。それこそ勇者であると定めた俺にただ従順な存在になってしまう可能性がある」

 

「なぜそう思う?」

 

「ヴァルキリーはオーディンに作られた云わば量産型の元祖神造魔人。ただ量産型ゆえ統一の規格を持って生み出されている。ある程度作成時期によってマイナーチェンジはしているみたいだけどな。その場合どうしても規格を逸脱した行動は取れなくなる。かのブリュンヒルデは愛だけではなく初期型故の不備が重なったバグに近い感じなのかもな」

 

「つまりそのブリュンヒルデ同様規格から外させたいのだな?」

 

 

「ああ、掲示板での情報だが高知での多神連合とメシア教過激派との衝突の際オーディンが多神連合の戦列に加わっていたそうだ。となるとネオベテルが多神連合と敵対する場合高確率でオーディンとぶつかるだろう・・・悪魔召喚プログラムがある以上裏切られることはないが、主神と敵対することでロスヴァイセに深刻なエラーを齎す可能性がある」

 

「オーディンが作った規格の強制力はそれほど強いということか」

 

クベーラの指摘に頷くと脳裏に浮かぶのはガチャでロスヴァイセを召喚したときに判明した欠陥だ。ロスヴァイセは恋愛はクソ雑魚だが仕事が出来るそれなのに同期のヴァルキリーと違い攻撃ばかりで防御や補助が不得手という欠点をそのままにしておくはずがない。だが実際俺に召喚され改善する様に言われるまでその欠点を残したままにしていた。つまりヴァルキリーという種族は・・・。

 

「ヴァルキリーに成長という概念はあっても自身を改善するという発想がない、なぜなら全能である主神によって作られた以上生まれ持った能力こそがヴァルキリーとして最適の能力だと無意識に思ってしまうからだ。自分より多少格上程度なら集団で当たるか自身の能力を上げて対処する。しかし順当な成長でも勝てない相手の場合そもそも自分達が戦うことを想定されていないと判断して倒すのは英雄や北欧の神々だと割り切ってしまっている」

 

「思考や人格にも規格は影響を与える以上主神へ牙を向けるのは危ういか。そう言えば悪魔変化をしたヴァルキーの話は聞いたことが無いな」

 

「ああ、規格が定まっている分悪魔変化しずらいんだろうな。だがロスヴァイセは変異種、最初それは能力だけかと思っていたがそれ以外にも理由がある。それは・・・」

 

愛だ!

 

「なぜそこで愛!?」

 

 

「それがヴァルキリーについて調べたんだけどどうもブリュンヒルデ以降のヴァルキリーは基本的に男性から求められることで初めて相手に異性としての愛を覚えるみたいだ。仮設だけど初期型のブリュンヒルデが愛で色々かっとんだから愛そのものを制御しようとしたんだと思う。規格そのものに愛に関することを定めた感じだな」

 

「ん?だがロスヴァイセは狩谷が召喚する前は確か同期の友人に男を取られた負けヒロインでは無かったか?」

 

クベーラの言う通りロスヴァイセの恋愛がクソ雑魚だったばかりに意中の男性にアピールしていたことにすら気付かれず同期とデキコンされるという悲惨な過去を経験している。だが俺としては最近のアピールは"小学生"レベルとはいえ好意自体には気づくことが出来るレベルだと思う。あの恋愛クソ雑魚が何かを変えているとも思えないし相手である俺に理由があるのだ。

 

「恐らくロスヴァイセは"勇者と認める相手から求められたとき愛が芽生える"という機能が変質或いはバグを持って生まれたんだろう。だから相手から求められていなくても愛を持つことが出来た・・・が、奉仕する種族であるヴァルキリーの規格の縛りのお陰でそれが上手く行動に反映することが出来なかったと考えれば性欲旺盛であるはずの勇者ですら欠片もアピールに気づかなかったことに説明が付く」

 

「なるほど恋愛クソ雑魚になってしまったのにも理由があったわけか。そう考えれば同期の友人に男を取られたのも男の方から求めてそれを受け入れただけかも知れんな・・・だからデキコンでくっ付いたのか」

 

「夜戦に突入したら出来ちゃったんだろうな。まぁこの件は置いておくとして肝心なのはロスヴァイセが小学生レベルとは言え俺がちゃんと気づける程アピールが出来た理由だ。あの恋愛クソ雑魚が急激にレベルアップしたとは思えないから理由は俺にあると思う」

 

「ロスヴァイセの変化の理由・・・いや、狩谷で変化と言えばあの固有スキルか!」

 

「そう、俺の固有スキルの一つ【試す者】の効果の一つに悪魔変化の確率の上昇がある。恐らくそれがヴァルキリーの規格を変質させているんだ」

 

少し前にカーリーと折紙とで話したことを思い出す。『限界突破や悪魔変化の本質は当人の内側、自身の存在認識に自身や世界が合わせた結果よりその認識に相応しい存在に昇華する』この仮説が合っているのならヴァルキリーの本質であるオーディンが定めた奉仕する種族という規格に【試す者】の干渉が及ぶということだ。

 

「だからロスヴァイセが告白するだけじゃなくて規格を逸脱する行動・・・"もっと露骨過ぎるアピール"が出来るようになれば規格を本当に破る、なんならそのまま悪魔変化を起こす可能性が高い!」

 

「ようは狩谷を夜這いしたり襲ったり出来るようになれば解決だな!」

 

「そうだよ!?折角オブラートに包んだのに言うんじゃないの!」

 

「そういうことなら話は簡単だ!」

 

凄い自信満々に胸を張るクベーラ。なんか嫌な予感がするのは気のせいだろうか?

 

「私を抱けばいい!」

 

 

「急にどうした」

 

意味不明なことを言われ困惑する俺にクベーラが畳み掛けて来る。

 

「ロスヴァイセの変化を促す為に規格から逸脱させる行動を促すのだろう?ならばそれ相応の出来事による刺激を与える必要がある」

 

「うん、それは分かる」

 

「そしてロスヴァイセにとって意中の男が自分以外の女を抱いた事実はこの上ないほどの刺激になるはずだ!」

 

「待て待て待て!!そりゃ確かにこの上ない刺激になるけど恋愛クソ雑魚なロスヴァイセがそれ受けたらショック死しちゃうじゃないか!?」

 

ある意味同僚の友人の一件よりもトラウマになるわボケ!!とツッコミを入れるがそんなことお構え無しにクベーラは話を続ける。

 

「安心しろロスヴァイセには『お前の席も空けている』と話せば問題はない。どの道狩谷はいずれ複数人の女と関係を結ぶことになると言っていただろう?」

 

「そりゃ言われたけど」

 

クベーラは他の仲間、仲魔が敢えて触れていない俺の婚姻について積極的だ。ヤクシャ族の王故婚姻の重要性を俺達の中の誰よりも理解しているからだろう。実際俺もロスヴァイセの件も含めその手の話題を相談していて余程な相手に問題が無ければ政略結婚も致し方なしとも思っているし、ネオベテルの幹部兼地元霊能コミュニティのトップとして将来的に身を固めたる必要性も分かる。それに業界では重婚は良くあることも考えると他の組織からの結婚相手の押し付けを躱す為に気心知れた女性達を娶り脇を固めるというクベーラの考えももっともだと思う。でもこれは無いだろ!

 

「私情を挟まずに考えてもラ◯ュタを制御する私を含めて仲魔を嫁に貰うのはやって置いた方がいいぞ?幸い全員女性だし他の者達も拒否しないと思うしな。特に終末後となれば尚更だ」

 

「それは・・・そうだけど」

 

「だから私で慣れておけ♪」

 

 

「ちょっお前絶対楽しんでるだろふごおおお!?」

 

く、ヤバい俺も何だかんだで一人の男。胸を押し付けられて何も感じない訳がない!というかあそこの反応がヤバいって!!

 

「ちょうど個室なのだ遠慮する必要は「・・・がみ」ん?」

 

「おーりーがーみー!!!」

 

大声で愛する義妹兼我が家のセコムを呼びよせる!

 

「ふ、この部屋の窓とドアは既に私の結界でふさいでいるし転移や念話も「カリヤ来た!」ぐはぁ!?通気口からだと!?」

 

 

通気口からこの部屋に突入して来た折紙の飛び膝蹴りでクベーラを吹き飛ばし俺を解放してくれた!俺が叫べば家の中限定だがいつでもどこでも折紙は駆け付けてくれるのだ!俺達の中では通称折紙セコムと呼んでいる。クベーラは新人だから気が付かなかったようだな!!

 

「よく来てくれた折紙!クベーラを抑えるぞ!!」

 

「了解、制圧する!」

 

「く、止められるものなら止めて見るがいい!」

 

この後神木兄妹vsクベーラの俺の貞操を掛けたバトルが巻き起こった・・・最後は暴れている所をエイナに見られ三人共正座させられて説教を受けてうやむやになったのだけど。あと折紙の要注意警戒リストにクベーラが乗ったそうな。




読了ありがとうございます!ロスヴァイセの回がちょっと短いですがクベーラの回でも話題に出してるのでトントンですね!


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中野区で日常とコミュ4

第五十三話になります!如何にかサバフェス2が始まる前に投稿出来たぜ!


【アズルニール編】

 

人どころか動物さえいない静寂が支配する町の唯一の住人とも言える女性・・・アズールは、あの式場近くの喫茶店で紅茶を楽しんでいた・・・お茶葉とか無くなったりしないのだろうか?と割と如何でもいいことを考えながらその店のドアを開く。

 

「あらいつでもこっちに来れるようになったのね」

 

 

「まぁな」

 

俺はいつぞやの自分の心象世界に訪れていた。目の前のアズールは現実のアズールが作り出した超劣化分霊だ。本人曰く戦闘力はほぼないらしい。

 

「というかこと細かく作り過ぎだろここ。この喫茶店のチラシまで再現とか俺そこまで覚えてないんだけど」

 

「心象世界は本人の心・・・即ち魂に刻まれた世界。記憶が無くても魂が覚えているものよ」

 

「なるほどね。そういえば思い出せない記憶も別に失われた訳じゃないとかどうとか聞いたことあるな」

 

とはいえ人間や動物は再現されないみたいだ。植物は再現されているが、少し触れればそこに命が無いというのは直ぐに分かる。

 

「折角ここに来たのだからお茶しない?淹れるのは私だけど・・・聴きたいことがあるのでしょう?」

 

 

「そこまで時間は掛けないつもりだが、そうだな折角だし貰うよ」

 

俺の用件は察してくれているようなので話が早い。アズールが淹れてくれた紅茶を飲みながら俺は回りくどいことを抜きに聞いてみることにした。

 

「アズール、お前は何がしたいんだ?」

 

「いきなりストレートに聞いてくるのね。でもマスターらしいわ」

 

「いや、だってお前表立ってはまだ何もしてないけど俺の深層心理の世界に超劣化分霊を送り込んで何か調べているみたいだし、折紙とシュブ=ニグラスが露骨に警戒していたぞ?」

 

「そのようね。シュブ=ニグラスも儀式を行ったのはもしものときに私に対抗する為でもあるでしょうから」

 

「ああ、やっぱりそういうことだったのか・・・お前も造魔のはずなんだけどな?」

 

「勿論私は造魔よ。常にマスターに忠誠を誓っているわ。本霊でもマスターを害するなら対立するでしょうね」

 

「その言い方だと本霊のセトも俺を害する意識はないのか?」

 

「ええ、だからこそ私も乗ったのよ。全てはマスターの為ですもの」

 

うーん造魔の性質上アズールが主人である俺を裏切ることはない、ただ主人を助けるために本霊と協力したり力を分けて貰うことがあるというのはネオベテルに報告が上がっている。それを含めて考えるとアズールとセトは俺を助けるために動いているが折紙とシュブ=ニグラスはそれを止めたがっている感じになるのか?

 

「義妹さんは兎も角流石にシュブ=ニグラスは私がどういうことをしようとするかまでは知らないと思うわ」

 

「でも手を打ってるということは邪神的感性で感づいてるのか?」

 

「私の本霊が同じ邪神だから対抗心を燃やしているだけかも知れないわよ?」

 

「え、そんな理由!?」

 

いや流石にそれは・・・あーでもクトゥルフ神話って親族内ゲバする神格多かったしなーどうなんだろ?準備自体はバフォメット時代からやってたから関係ないのかな?

 

「・・・まぁシュブ=ニグラスのことは一旦置いといて目的をはよ言え」

 

「言ってもいいけど多分意味ないわよ?」

 

「え」

 

アズールの言葉に小首を傾げていると紅茶を飲む手を止めて語ってくれた。

 

「私の目的はマスターを義妹さんからの■■からの解■。その為にはマスターに埋め込まれた■■の■剣を奪取して、マスターの奥底に眠る私の本霊邪神セトの■身である■■■■■■を呼び覚ます必要があるけど」

 

 

「はい?え、所々聞こえなかったんですけど???」

 

「やっぱりもしもの時の為に対策が取られていたか。特定のワードに対する認識阻害のファイアーウォールってところね。マスター、どれほど聞き取れたのかしら?」

 

「何か所々の単語が聞こえなかったな。幾らかは一文字くらいなら聞こえたけど」

 

「一部とはいえ聞こえている・・・ということはそろそろか」

 

俺の聞き取れた範囲を答えるとアズールは何かに気づいたようだ。本来サマナーって仲魔の手綱を握らないといけないのこいつら俺が知らない秘密が多過ぎである。皆白織みたいに素直なら良いんだけどなー!

 

「そろそろって?」

 

「そうね、恐らくあと一回死戦を超えたときにマスターは覚醒者として今より一段階上の存在に至るだろう。そうなれば私の干渉もあってマスターに施された■■と■■に綻びが出て来る」

 

「綻び・・・ダムみたいに一気に崩れたりしないかそれ?」

 

「ダムも一か所の亀裂で致命的なことにはならないわ。幾つかのチェックポイントにも亀裂がいる・・・つまりは分岐点ということよ」

 

「綻びを無視するかそれを広げるかってことか。まぁすぐまた死戦に陥ることはないやろ!まだテンカイの件から一週間経ってないしな!うん、綻びが出来たときに考えよ!」

 

「いいの?私の干渉が無ければ綻びは生じないし、私は造魔だから干渉を止めろと言われれば従うけど」

 

「でも今のままじゃ不味いから色々やってるんだろ?止めさせたら良くて問題の先送り、最悪悪化するじゃねーか」

 

分岐点の決断を先送りにした俺が言える台詞では無いがアズールが俺の為に色々動いてくれているのに邪魔するとかどう考えても将来的にツケを払うことになるのでそれは避けたい。

 

「・・・前も思ったけど良く私を信頼出来るわね。私が裏切ったり失敗したらどうするつもりよ」

 

 

「多少の失敗くらいは今後の成長の糧だろ。それに忘れたのか?前にも言ったがもし取り返しのつかない失敗や裏切りをしたときは」

 

 

 

「どんなことがあってもお前を"殺し"、俺も責任を取ってやることやったら"死んでやる"」

 

「・・・ええ、覚えているわ」

 

一拍置いてアズールは覚えていると頷く。

 

誰かに重要な仕事を割り振るということはその者を信頼するということであり、割り振った以上その責任を果たすのが人の上に立つということ。今世の俺の立場を考えればその責任の取り方が自身の命となるのは当然だろう。ましてや自分の血肉を分け与えた存在が関わるなら尚のことだ。

 

「お前は他の仲魔と違って色んな意味で特別だからな。もしものときは俺と一緒に責任を取って貰うぞ」

 

「勿論。それに特別ね・・・その言葉取り消させないわよ?」

 

 

「お、おう?」

 

割と重いことを言ったつもりなのだが凄く嬉しそうにしている。若干地雷踏んだ予感がしたがその感覚を紅茶で飲み干してその後は普通にアズールとのお茶会を楽しんだ。この世界は外とは時間がズレているのでちょっとした隙間時間に精神的な休憩をするのに便利かも知れない。

 

 

しかしその日以来俺に特別扱いされていることを仲魔内でのマウント取りで主張したり、自慢したりするのでアズールと対峙するときの他の仲魔や折紙含めた一部の仲間からその場に流れる空気が少し・・・それなりにギスってしまうようになってしまったのを見てやっぱ問題の先送りは悪手だなと再確認出来ました(白目)。




読了ありがとうございます!仲魔内で一番の重要キャラだとはいえ一キャラで一話使っちゃうか・・・これは折紙の回も一話使うなこりゃ。


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中野区で日常とコミュ5

第五十四話になります!今回はトキとジャンヌの回になりますが、トキのAAはやる夫スレ伝統の別のキャラの差し替えを行なっています。ジャンヌはわざわざ別の原作から出したので差し替えとか意味無いですしね。


【トキ編】

 

「そろそろこの支部の諜報事情をどうにかした方がいいと思う」

「あ、やっぱり?」

 

トキから諜報関係の報告書を提出されたときにトキからこの支部の諜報機関についてもの申された。まぁ無理もないだろうなんせ・・・

 

「諜報員が捕虜の私だけっておかしいだろ!?」

「それはそう」

 

「諜報機関の運用ノウハウがないから大規模にやれないのは分かるがせめて正規の人員を一人でもいいから配置するべきだろ!現状諜報関係全部私に丸投げされているんだぞ!捕虜の私に!」

 

「そりゃ俺だってそうしたいけど人材がいないのよ」

 

先の戦いで捕虜になったメシア教過激派、ガイア教の幹部クラスの実力を誇るジャンヌとトキは俺預かりでこの支部で働いている。元所属が所属だっただけに反発が起きそうなものだがジャンヌはメジアンというより元祖ジャンヌダルク好き好きのオタクだし、トキはより強い者に従うというガイア教のルールに素直に従っているのでほとんど反発も起きずにもうすっかりこの支部に順応してしまっている。最初のうちはとりあえずネオベテルカードのシルバーカードを目指してもらっていたので悪魔討伐系の依頼や異界攻略をさせていたがそれを達成後はジャンヌは一神教徒ということでイリナ達が住んでいる地元の教会を手伝わせたり、トキは暗殺者として鍛えた隠密、諜報能力を駆使して諜報活動に出させている。ネオベテルからそういった情報は降りて来るが、ネオベテルという組織自体その手の活動が出来る人員が少ないのでどうしても広く浅い情報になってしまうのでより深い情報を得たいからだ。ただあくまで彼女の本分は暗殺なので諜報能力は本職の諜報員に劣るそうだが元々の能力の高さもあって下手な諜報員よりも活躍してくれている。だが本来なら捕虜であるトキを監視する人員も付けたいのだが残念なことにこの支部に彼女以外まともな諜報要員など皆無に等しい。俺が前世での狩猟の経験や巫女さん仕込みの覚醒修行の影響で隠密が辛うじて出来るという具合である。それも主に戦闘に置ける奇襲、逃走に基づくものであるので都市部のコンクリートジャングルではほぼ意味のないものだ。あと隠密以外の諜報能力は持ち合わせていないので普通に候補外になる。

 

「人材がいないなら育てるんだが諜報とかは才能もそうだが性格的な適正も必要だしな。普通の修行みたいにトキが技術叩き込んで実戦経験を積ませればOKって話じゃないし」

 

「そうだ。そして残念だがこの支部と狩谷が従えている仲魔に適正者はいない」

「育てるのがダメならどっから引っ張って来るしかないな。でもネオベテルにそんな人員はそんな多くないし、いるなら本部の諜報班に所属させるはず。かと言って一支部にヤタガラスとかの他組織の諜報員を借り受けるとか難しいし、第一他組織の人員を諜報に回すとか色んな意味で怖いわ」

 

「情報の横流しなど新しいリスクが増えるだけだからな。かと言ってフリーというのも考え物だが」

 

「信頼性がないしな。だから俺達はフリーを受け入れる体制を整えると共に身元とか抑えている訳だし」

 

「お婆達の苦労が良く分かるというものだ。私は現場だけだったから実感したのはつい最近だが」

派遣もフリーもリスクがあるとなるとどちらかを許容する必要が出て来るだろう。そう考えるとどちらがそのリスクに対処しやすさで考えるか。

 

「フリーにするか。どの道大量増員なんて無理なんだし5人程度の人数なら詳細な身辺調査も可能だろう」

 

「了解した。人を見る目は狩谷の方があるからな人選は任せる・・・しばらくは捕虜の下に就くことに同意してくれる者がいてくれればいいのだが」

 

「そんときは説得(物理)よ」

 

「実力差を示して置くのが一番か、分かったその時は任せて置け」

ガイア教にいたトキにはその方がやりやすいだろう。最上とまではいかないが部隊の統率を取ることが出来ないことに比べればはるかにマシというものだ。

 

「まぁこの件はこれでいいとして休息を取ったら次はこの仕事を頼む。ヤタガラスからだ」

 

「ふむ・・・今回は"本業"か」

「詳しくは渡した資料を確認して欲しいが端的に言えば悪魔の力で作った薬物を流通させようとしている集団がいる。とはいえ小物だから俺が出向け直ぐ潰せるレベルなんだが・・・バックにこの国の議員がついている。中堅だけど」

 

「なるほど、汚職で各方面に便宜を図って成り上がろうとしているのか。愚かな」

 

「中堅で満足出来なかったんだろうな。とはいえそこそこ影響力はあるし、流通もまだしていないからヤタガラスは動き難い・・・しかし薬物ってのは下手な悪魔より厄介だ。ましてや悪魔の力を使ったものなら尚更だ」

 

「だから芽の内に摘むということか。ヤタガラスからの依頼なら後始末は奴らに任せても?」

 

「ああ、そう聞いている。議員さんをやったら証拠は残さず帰って来いまぁ出来るだけ身体の破損は少ない方が良いけどな」

 

「なら無難に毒物でいいか。通常の科学捜査では検出されない毒などこの業界には溢れている」

 

「良く刑事ドラマで"犯行には必ず証拠は残る"と言われているけど証拠はあってもそれを見つけ出せなければ無いのと同じだからな」

 

前世や今世でも刑事ドラマで良く聞くこの台詞だが科学で逃げきれないならファンタジー由来のものを使えばいいだけだ。この手の事情を知らない者なら体よく騙されてくれるだろう・・・主人公レベルで鋭い者がいれば記憶を弄れば解決だ。メシア教過激派みたいであまりやりたくはないがこの世には世間に秘されなければならないことが多いのだから仕方ない。

 

「決行は狩谷が薬物製造現場に踏み込むのと同日同時刻か、決まったら教えてくれ」

 

「分かった。終わったら合流してどこか食いに行くか?襲撃する拠点と議員の事務所や自宅は同じ地域だし」

 

「ふ、奢りならな」

「ちゃっかりしてるな。いいけど」

 

暗殺のことを話しているとは思えない和やかな雰囲気だがこれくらい出来ないと暗殺者は出来ないだろう。取り合ず依頼の準備とその地域の飲食店を調べて置くか。

 

 

数日後朝のニュース番組でとある薬物組織の拠点に警察が乗り込みメンバーを全員逮捕し、薬物を押収したというニュースが放送されそこそこ話題になったが流通する前で被害者がいないということもあって直ぐに世間から忘れ去られた。同日心筋梗塞でとある議員も亡くなったが新聞の隅っこの欄に一度載っただけで世間からは気にも留められなかったとか。あ、それはそうと老舗のウナギの蒲焼き美味しかったです。

 

【ジャンヌ編】

 

「うー、イリナちゃん達がいないと退屈よ!」

 

「だからって支部長の俺をその程度の理由で教会に呼び出すなよ!」

 

ジャンヌに携帯で呼び出された時は何事かと思ったが単に話し相手欲しさに呼ぶってこいつは捕虜という立場をどう思っているのだろう?チョーカーの首締まり機能を使ってやろうかと思ったがギリギリ思い止まる。イリナ達は現在一神教関係の所要でバチカンに滞在している。度々連絡をくれるので寂しさは余りないのだが二人を気にいっていたジャンヌにとって彼女達の不在は堪えるようだ。

 

「一応教会には二亜がいるだろ?今日は秋葉原に行ってるけどな」

 

「二亜ちゃんも可愛いけど毎度上手くいなされちゃうのよね・・・まるで年上を相手しているみたい」

 

そりゃ前世含めれば年上だからな、とはいえないので溜息を吐いて呆れるだけに留める。因みにいなされているとは言うが別に二人の仲が悪いという訳ではないと明言して置こう。

 

「まぁ依頼以外じゃあまり遠出出来ないから色々買ってくれるのはお姉さん的に嬉しいんだけどね!」

 

「何を買って来て貰うんだ?」

 

「各種アニメ、ゲームのジャンヌ関係グッズや同人誌」

 

「やっぱりかこのジャンヌオタク!」

 

「いーじゃない!英雄に憧れるなんて普通でしょ?」

 

「そうだけどお前の部屋整理整頓はされてるけどその手のグッズで絵面が凄いことになってるじゃないか!」

 

「散らかって無ければいいのよ!」

 

俺だってあまり人の趣味にどうこう言いたくないが前に部屋を訪ねたときにあの異常な空間を見てしまった手前支部長としてどうにかしないといけないと思ってしまうのだ。

 

「分かった分かった。ただ部屋に客を呼ぶときは隠すなり置き場所を移動するなりしろよ?初見の人にあれはキツいって」

 

「むむ・・・はぁ分かったわよ。来客のときは隠すようにするわ」

 

ジャンヌの中で葛藤があったようだが渋々了承してくれた。オタクじゃない人間もいるので来客のときくらいは普通の空間になってくれることを願おう。

 

「あ、そういえばまたお見合いや合コンの話がまた来てたわよ?」

「またか、まぁまだ身を固めてないから当然か」

 

この教会には一神教系列の宗派から黒札でありネオベテルの幹部である自分あての縁談が数多く持ち込まれている。しかし思いっきり俺の戦力や子種目的なものが大半なのでイリナ達が突っぱねてくれているのだが、今回はイリナ達が不在なので最初の頃の様にお誘いが激しくなっている。

 

「結婚がそんなにいや?お見合いが重いなら合コンもあるけど」

 

「だってどう考えても宗教のゴタゴタに巻き込まれるしな・・・因みに合コンの男女比は?」

 

「狩谷君入れて10人参加で男女の比率は・・・1:9ね」

 

「それ合コンじゃ無くて美人局だろ(白目)。俺以外全員女性じゃねーか!」

 

「あ、でも全員お持ち帰りOKってあるわよ?」

 

「いやダメだろ教義的に!普段から信仰信仰言ってんだから教義ちゃんと守れよ!」

 

「そんなこと出来たらメシア教過激派なんて生まれないわよ」

 

「そうですね!!」

 

元の職場だけあって実感が籠っているじゃないか。ホンマメシア教はメシア教だよ!

 

「あ、それじゃいっそお姉さんと付き合うってのは「はっ!(嘲笑)」ちょ何で笑うの!?こう見えても結構美人だし、身体のケアだってしてるわよ」

 

「確かに性格が妙にウザかったり、面倒な所があるけど傍から見たら真っ当に美女だと俺も思うでもな」

 

「でも?」

 

「それ以前にお前の今の立場捕虜だからな?俺はお前達を見張る立場でもあるのに手なんて出せねぇよ。刑務所の所長と受刑者が通じてるみたいになっちゃうじゃないかだろうが」

 

「真面目ねぇ。あ、もしかして無理矢理系がお好み?シチュエーションプレイなら付き合うけど」

 

「何でそうなるだよ!?まずお前らは捕虜の立場から出世しないと自由に恋愛も出来ないつってんの!飛躍した思考をしない!」

 

結局夕方に二亜が帰って来るまでジャンヌの駄弁りに付き合わさることになった・・・うん、こいつやっぱり変だけどメシア教向けの性格じゃないな本当に。あと結局縁談の資料は押し付けられた・・・いやだがせめて目を通すのが礼儀と言われれば頷くしかないじゃないか。

 

 

「あれジャンヌさん、それ少年に来ていた縁談の資料の一部よね?資料は少年に渡したんじゃないの?」

 

「ん、ちょっと"論外"なものだけ事前に弾いただけよ。あ、お姉さんちょっと明日からお出かけするから丁度いい依頼を紹介してくれない?」

 

「依頼があったら遠出出来るからね。こっちは真面目に仕事をしてくるなら別にいいけど、行きたい場所はどこかな?」

 

「えーと、こことここ。それから~~」

 

後日複数の依頼を掛け持ちして遠出していたジャンヌが次いでとばかりにほぼカルト化していた一神教系列の新興宗教を幾つか潰して帰って来た。本人曰く偶々見聞きしたから乗り込んだらしい・・・偶々が重なり過ぎだと思うが悪いことはしていないし、潰した中で酷い所では一神教なのにサバトをやってた所もあったので生贄を救った功績で深く聞くのはやめて置こう・・・この話を聞いた反応的に何か知ってそうな二亜も含めて。




読了ありがとうございます!トキのAAはパライソになりました。仮面要素もある静謐と迷いましたがAAの量と般若の仮面が似合いそうなキャラを考えて決めました。基本的に裏の仕事中は仮面被ってると思ってください。


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中野区で日常とコミュ6

第五十五話になります!いよいよ来週にポケモンsvのDLCが来るぜ!!めっちゃ楽しみ!


【ルヴィア編】

 

「お、今日の荷物持ちが来たね」

 

「曲がりなりにも師匠ポジの俺を荷物持ちに呼び出すとかキレていい?」

 

「ごめんカリヤ」

 

「狩谷落ち着くのだ。お昼ご飯は私達が奢るのだ!」

 

「全く、毎回貴方が合流したら騒がしくなりますわね」

ある日俺がライネス達にオーナーを務めるあのデパートに呼び出されると、ノータイムで荷物運びをさせられることになってしまった。まぁ折紙と一緒にショッピングなどを楽しむとのことなので、大目に見てやるか。

 

【3時間後】

 

「だからってもうちょい加減して欲しいんですけど?」

 

「まだ午後もありますわよ?」

 

「えぇ・・・」

 

お昼時のフードコート、既に料理を取って来た俺とルヴィアがテーブル席に座って待っているが、その横には大量の箱や紙袋が積み重なっている。

 

「一般人なら兎も角覚醒者なら大した重さではないでしょう?」

「重さじゃ無くて、持ち運びの面倒さだ。崩さないように持つって結構大変なんだぞ?」

 

「まだ鍛錬用の巨石の方が簡単ということですか」

 

「そういうことだ・・・こっちは見ての通り順調だがイギリス、時計塔の様子はどうだ?」

 

「デパートを開くくらいですものね。こちらは正直芳しくはありませんわ」

ルヴィア曰く最近時計塔講師の殺害や失踪が連続で起こっているらしい、ただロードの様なトップや

有力な講師は被害に遭っていないそうだ。

 

「そういうことで、この件は中々捜査が進まないのですわ」

 

「捜査しているのも魔術師だからメリットがないと動かないか。木端の講師の全力で捜査なんてしないだろうし」

 

「そう考えると犯人も上手くやっていますわね。まぁそういった方々は魔術師として戦闘にも長けているのでその点から避けている可能性がはありますが」

 

「いやいや、一人いるだろうライネスの義兄」

 

「エルメロイⅡ世のことですの?・・・ということは狙われていないのは地位や影響力が関係していると?」

「仮説だけどな?後は影響力を受ける人をピックアップしていって調べて、範囲を狭くしていけば・・・素人の俺がここまで考えられる時点であの名探偵なら解けてるだろ」

 

「案外もう関係者を呼んで犯人を当てていそうですわ」

 

時折ライネスの義兄ことエルメロイⅡ世が、巻き込まれた事件を談笑の肴にするのは俺達の日課である。

因みに今回は別に彼が巻き込まれたとという情報はないが「まぁ巻き込まれてるだろⅡ世のことだし」という共通認識がある為だ。

 

「所でそろそろ突っ込んでいいか?お前が買ってきたものについて」

 

「何ですの?・・・主食と一緒に最初からデザートのパフェを買って来たことですか?これくらい個人差ですわよ?」

「うん、まぁそれはそうなんだけどさ・・・トッピングが多すぎるわボケ!!」

 

座っているルヴィアの座高とほぼ同じ高さってやり過ぎだこの野郎!

 

「買ったお店でやっていた一定の額を払えば器に入り切る限りのトッピングは無料というキャンペーンに参加しただけですわ。糾弾されるいわれはないですわ!」

「守るべきモラルはあるだろ!これどう見ても無理に詰め込んだだろ!ほら見て見ろその店の店主泣き崩れてるぞ今日新装開店なのに!!」

 

「盛れるものは盛るのが私の心情ですわ!」

 

「ちょっとは慎みを持たないと後々痛い目を見るぞ!」

 

「私がそんなミスをするとでも?」

「あ゛!?お前言ったな?吐いた唾は飲めんぞ!!」

 

 

 

「おお、ライネス!二人が喧嘩しているぞ!」

 

「いつものことだ。どうせすぐいつも通りになる」

 

「喧嘩する程仲がいいの古典」

 

年下の外国人の少女と対等に口喧嘩する男性はさぞ目立ったそうな。とはいえ年下でも対等に喧嘩する姿勢は少女的には接しやすいそうだが。

 

因みに原作のスピンオフ補正でも働いたのか、この少女は後日派手にやらかすのだが・・・それはまた別の話だろう。

 

【ライネス編】

 

「実家に送る贈り物選びとかお前そんな殊勝な奴だっけ?」

 

「レディにいう事じゃないな。それにルヴィアも買うのに私が買わないのはおかしいだろう?」

デパートの店を巡りながらルヴィアとライネスが実家の人間に送る贈り物を選ぶと言うことで、俺達も一緒に回っている。

 

「それはそうだけど、因みに何を買う予定なんだ?ルヴィアは俺と一緒にアクセサリーを幾つか選んだが」

 

「君達先程まで言い争ってなかったかい?」

 

「え、別にあれはフードコートでのことだし、ルヴィアが盛ることでやらかしたときに正式に謝罪するということで手を打ったんだからもうノーサイドだろ?」

 

「ああ、うん。その切り替えの速さは二人共流石だな」

ライネスに呆れられた。解かせぬ、いや今はそういう事では無くて!

 

「そんなことより義兄にも送るのか?」

 

「いつも頑張っているお義兄様に、可愛い義妹が労いの贈らない訳がないのではないかね?」

「うわー麗しい兄弟愛だな(棒)」

 

結局一緒に選んでると、いい感じのティーセットを購入することが出来た。俺もエルメロイⅡ世に日本の良い胃薬を買って一緒に同封して貰らったが、何故かライネスは笑っていたけど。

 

「あ、義兄と言えば時計塔でまた事件が起こったんだっけ?」

 

「講師の殺人のことか?それならさっき解決したと電話が来たぞ」

「やっぱり巻き込まれていたか・・・なぁやっぱりお前らがこっちに来てから事件の発生率が増えてないか?」

 

「実際不自然なレベルで増えているからな。裏でそれを助長させている者でもいるのだろうね、義兄もそれを察知して私とルヴィアをこちらに寄こした訳だが、ここまで広がると日本にまで飛び火してしまうかもしれないね」

「そん時はいつでも言え、組織は違っても火の粉を払うくらいはしてやる」

 

「勿論、その時は頼りにさせて貰うさ。それに私は君達の秘密も知ってるしね?」

 

「はいはい、実は碌に脅す材料にもしない身内に甘い奴にそう言われても怖くないですよ」

 

「むむ、反応が詰まらないな」

俺もライネスのキャラは分かって来たので、こちらをからからって来てもいなすことが出来るようになってきた。ふくれっ面になっているが、それでも絵になるだから美人はいいよな。

 

「で、他に買う物は?」

 

「・・・もう一人分適当に買うか。あの人なら適当なアニメグッズでいいだろう」

 

「え、そんなんでいいの?」

 

「叔父の一人が大の日本のサブカルファンなのさ、変わっているだろう?」

「魔術師って良くわからんな・・・まぁいいか、それじゃアニメグッズ関係はあっちだ」

 

「案内頼むよ」

 

「へいへい」

 

ライネスを先導して目的のコーナーまで歩く俺の頭は、『サブカル好きの魔術師って何だよそれ』とかその魔術師を想像することに意識を割いていたのだが、其の為ライネスが呟いた独り言を聞き逃していた。

 

「全く・・・アレで我が家一の魔術師で、元ロードなのだから世も末だよ」

 

トリムマウを入れた試験管を見ながらライネスは苦笑していた。




読了ありがとうございます!最後の見て頂ければ分かると思いますがこの世界線に置いて、あの方は生きております。ただ原作と違いサブカル好きらしいですよ何ででしょうね(棒)?


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中野区で日常とコミュ7

第五十六話になります!DLC楽し過ぎてやっぱペース遅れたぜ


【十香編】

 

デパートでの買い物を終えた翌日。俺はまた十香を鍛えていた・・・とはいえそろそろ剣術に関しては俺と互角の所まで来ているので【試す者】の効力も弱くなってきている。レベルを上回れている訳では無いので効力が無くなることは無いが、感覚的に効力が減っていくのが分かるので【アナライズ】などでは分からない技術方面での成長をより実感出来る。因みにゼノヴィアとイリナも俺と剣術の練度の差はほぼ無いので、そっち方面での【試す者】の効果は薄かったりする。その為新たな修行を課すことにした。

 

「それじゃ行くぞー!」

 

「う、うむ!」

 

【チャージ】【ダークエナジー】【物理ギガプレロマ】【物理サバイバ】【ミナゴロシの愉悦】【武道の素養】【初段の剛力】【二段の剛力】【三段の剛力】【物理プラーナ】【物理アクセラ】【ゴルゴダの突き】

 

前にも言ったが、十香は身体は人間でありながらまだ母親の腹にいるときにまだ魂宿る前の赤子(恐らく肉体が人型になっていない初期の時期だと思われる)に憑依し、人間に産み直されたイザナミが新たに生み出した精霊・・・古代日本的に解釈すれば神だ。人間となった今でも本質は神性の属性に大きくよっているので、疑似ロンギヌスを形成し、神性特攻と言える【ゴルゴダの突き】と俺の【神殺し】の力はポケモンで言う所の弱点4倍ダメージみたいなものである・・・まぁ人間の身体を持っている十香だからこの程度で済んでいて、本当なら4倍ダメージ所じゃ済まないらしいけど。

 

それを一切の加減なく愛弟子の十香に放つ、当然殺気も本気で込めている。聖槍の一撃は十香の真後ろの岩をその周囲を粉砕し、更地に変える。例え格上のあくまでもまともに喰らえばただ死ぬだけでは済まない一撃を前に十香は・・・。

 

「・・・おぉ・・・」

「お、初めて回避するのでも無く、防御しようとするのでも無く、気絶もせずに不動のままでいられたか」

 

「あ、足がものすごく振るえるのだ・・・もう少し手加減をして欲しいのだが」

 

「お前がテンカイから聞いたナへマ―の力を使いこなした"先の力"を欲するならこれくらいしないとな」

 

日光山攻略作戦後にテンカイから色々話を聞けたのだが十香関係の俺の考察も話して意見を聞いたのだ。

仮説としては『人として生み直した十香だが、元々の彼女である精霊はイザナミの分霊とも言える。ならば今は認知異界の奥底に籠っている本体に現実世界に再誕する為の触媒に利用される可能性がある』というものだ。わざわざ人として生み直されるという過程を踏んだのは、死んだ神としてではなく新生した神として現実世界に現れる為だと考えれば納得がいく。この仮説にテンカイは

 

『ありえなくはないが・・・まだ情報が少なすぎる故可能性の一つとして考え程度に留めるのが良いであろう。だが、その少女の元の精霊がイザナミの分霊というのは恐らく合っておる。かの女神の気配を微か感じるのでな。しかし狩谷の考察があっていた場合でもまだそ奴は自身のペルソナすらその力を引き出し切れていないことを考えると介入してくるのは、ペルソナを使いこなしイザナミの分霊としての力を引き出せるようになった後であろう』

 

とのことだった。最悪十香をこのままの状態にすれば大丈夫・・・なはずなんだがそれするとどっちも得しない結果になりそうなんだよな、勘だけど。

 

「あと色々文句も言いたいから殴り込みに行くためにも力を引き出したいぞ!」

「まぁ今あったらあった瞬間死にそうだけどね。常に呪殺の力を纏ってそうだし」

 

「普通に耐性・無効を突破してきそうだぞ」

 

「本当にな。それに初見殺しとかも多いしな呪殺を主力にする敵は」

 

「今回はそれに対応する修行とのことだが・・・」

「正確には直感による判断能力を鍛える訓練だけどな」

 

直感は当人の膨大な知識や経験から導き出すことで、意識して考えて対処する様に素早く正確に動ける。そしてこれは初見の行動の対処にも使えたりする。

ただこれをするには、生命の防衛を優先する本能に根付く行動が非常に邪魔というか競合する。

其の為に本能を理性で制御し、これを無意識で行なって初めて相手の行動を分析、対応する修行を行えるのだ!

 

「其の為に特攻効果のある最大火力を弟子に使うのはどうかと思うのだが・・・最初とか咄嗟に回避しちゃったぞ!?」

「事前に当てないって言ってたんだから根性で踏ん張れ、まぁ防御では無く回避を選べただけまだマシだが」

 

「防御を選んでたら「神性持ちの防御とか神性特攻の攻撃の前では概念的な関係で襖より脆いぞ」うん、大体わかったのだ(白目)」

「白目を剥くな、理性での制御が修得出来たらあとはそれを無意識でやれるように鍛えるぞ」

 

「本能を理性で制御するのを無意識でやるってすごい矛盾してる気がするのだ!」

 

「俺も言っててそう思うが、上位陣の連中は普通にやってくるから先に進むには修得するしかないんだよ!」

 

「えぇ・・・」

 

珍しく十香は引いているが、俺も出来ることだし多分あのアックアやライドウもやれるはずだ。

 

「という訳でこれからほぼ同モーションで【貫通撃】と【冥界破】をランダムに放っていくから直感で適切に対処しろ。最初は10分からスタートで、出来るようになったら増やしていくから」

 

「えちょ「では開始!!」ままままって!?」

そんな感じで今日も今日とて俺は十香を鍛えるのだった!あ、範囲攻撃の【冥界破】相手に回避を選択して間に合わずぶっ飛ばされてら。




読了ありがとうございます!仕事が忙しくなって来たのでまたペースが落ちるかもです。


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中野区で日常とコミュ8

第五十七話になります!コミュ回が8回に渡り続いている・・・海外に中々いけねぇ!


【杉波朱雀編】

 

東京の某所にあるとある高級レストランの個室で、男女の二人組が食事を取っている。これだけならただのカップルがデートで奮発したのかと思われるだろうが、場の空気はそう言ったものではない。かと言って剣呑な雰囲気でも無い。

 

まぁ俺達の事なんだけども。

 

「お味はどうですか?」

 

「うーん、流石アンタの目利きだけあって美味い!特にこのローストビーフ」

 

「それは何よりです!」

 

現在俺は傘下のアルケミスト社のCEOの杉波朱雀から会食という名の接待を受けている。彼女の娘である斑鳩達とは頻繁に会ってはいるが、彼女自身とはそんな頻繁に会っている訳では無い。そんな中会食をするということは何かあるのだろうか?

 

「で、そろそろ本題を聞いていい?」

 

「いきなりですね。こちらも気兼ねなく言えるのでいいのですが・・・かの黒き豊穣の女神を従わせたとか。それからご自身の異界を作ろうとしているとも」

 

「異界の方はまだ土地と一部施設を立ててるだけだけどな。ただシュブ=ニグラスが産み出した悪魔は従順だからCOMP枠を圧迫しない戦力としてはありがたい。黒い仔山羊と言った擬態能力のある悪魔で警備も出来るからな」

 

「平然と悪魔に警備させているとは中々にイカれていますね」

 

「あんたには言われたくないな魔女さん。何だ異界にも一つ噛みたいのか?」

 

「ふふ、いえいえ」

 

異界の利権に絡みたいのかと思ったが、あの笑みは少し違うのか?そう考えていると朱雀が立ち上がりこちらに一礼をして嘆願するかのように口を開いた。

 

「我らアルケミスト社一同神木狩谷様にお供させて頂きます」

 

「・・・本社をうちの異界に移すのか。元々支部に過ぎないあそこじゃ限界が来ているとは二人から聞いている」

 

「話が早くて助かりますわ。狩谷様のご支援やコネクションのお陰でこの国の霊能業界にも大分食い込めて来ましたが、それ故に嫉むものがいるのも事実。それに終末のことを考えると会社そのものを異界に隔離した方が安全ですし、勿論警備の協力は当然として、これまで以上に狩谷様達をお支えしますよ」

 

「それはいいな」

 

これが普通の霊能組織なら素直に喜べるのだけどな。もう一方の顔を知っていると素直に喜べない。

 

「CEOとしてのお前の理由は分かった。次は魔女としてのお前の理由を聞こうか?」

 

「・・・そう小難しい理由はありませんわ。ただ貴方の運命をより近くで見て見たくなっただけですから。同じ外なる神に見初められた者として私と違いどういう道を辿るのかを」

 

「それ破滅の道だろ。というかそういう奴を今までも見て来たんじゃないのか?」

 

「見て来ましたが、少なくとも契約した外なる神に『お前今日からうちの警備主任な!』とか言ったのは狩谷様が初めてなのですが?」

 

「だってあいつ産み出した悪魔と霊的ラインが繋がってて、連絡を相互に出来るから警備のトップに据えた方が色々やり易くて」

 

警備の悪魔が侵入者を発見した連絡とか命令送るのに便利だし、だったらわざわざ別系統の命令系統を作るよりも一本化した方がやり易いだもん!

 

「裏切りは考えないので?」

 

「その時は責任取って神殺しの出番だな」

 

「あ、はい」

 

身内だろうと裏切ったら制裁は受けて貰う・・・まぁその内容は裏切りの理由次第だけどな。

 

「にしても理由が俺への興味か、魔女という研究者らしいというか何というか。因みに支えると言っていたがどういうことを考えているんだ?」

 

「分かりやすいものだと狩谷様が社会人となった際に表向き顔として、相応しいポストをご用意いたしますわ。もっともこれは社会人になる前に終末が来てしまったらあまり意味が無いものとなりますが」

 

「終末来たら表向きも糞も無いもんな」

 

「ええ、ですので私の娘二人もお付けしますわ」

 

「(付ける?・・・ああ、部下としてって意味ね。有能な部下は助かるな)それはありがたいが、ただ朱雀に対する命令権も欲しいな。狂三とかお前を警戒している人に向けて首輪を着けているってアピールしないとな。CEOや研究とかもあるだろうし、頻繁には使わんからさ」

 

「なるほど、外部には逆に取り込まれた様に見えてしまいますのものね。お助けできるかは予定次第となりますがそれでよろしければ何なりと」

 

「おう、頼むぞ」

 

あ、そういえば今の朱雀ってレベル偽ってるんだっけ。本気はどれくらいなんだろうか?

 

「私の本気ですか?そうですわね一度お見せしましょうか」

 

【魔女 ギザイア・メイスン Lv95】

 

割とあっさり偽装を解いてくれるのかって姿変わってね?というかレベル!?

 

「偽装を解くと姿も変わるようにしていますわ。戦闘用の身体ですわね、私の最初の身体を模しているので娘達とは似てはいないでしょうが」

 

「・・・いや割と似てると思うぞ?あとどう見てもレベルがおかしいのですが」

 

Lv95ってなんだよ!こんなん気軽に仕事頼めねぇよ!

 

「ふふ、それはそうと男性は胸に視線がいってしまいますわね。いっそ娘達と親子丼にしますか?」

「はは!ナイスジョーク!」

 

怖くて抱けるか!?それに冗談とは言えこんなことで母親に売られる斑鳩達が哀れだ・・・あれ、あいつに親子の愛ってあるのか?

 

【翌日】

 

「お母さまにこっちに住めと言われて来たわよー!」

 

「言われた当日に引っ越し・・・まだやり残した仕事が!」

 

斑鳩達が俺んちに住むことになりました。やっぱあいつに親子の愛とか無いかも知れん。

 

「あ、私も定期的にお邪魔しますね!・・・もしよければこのまま親子丼でも「今夜の献立のリクエストは親子丼だな!分かった材料買ってくるぞ!!」可愛いですね」

 

早速弱みを握られたような気がするが、俺に飽きない間は変なことしないだろうし必要経費と思う様にしようと思いながらスーパーに駆け出す俺なのだった。




読了ありがとうございます!転生者と言っても数百年以上生きる存在に人生経験とかで勝てる訳がないという回でした。


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中野区で日常とコミュ9

第五十八話になります!久々にAAをいっぱい使いたかったので書いて見ました。今回は狩谷の仲魔もAA付です。一体しか出ませんけど。


【フリー霊能者編】

 

「おー結構集まったな!それじゃそろそろ説明を始めるぞ!」

 

狩谷が所有し、裏の人間が表の店を出しているショッピングモール「エデン」。その地下には、いざというときに逃げ込める高い霊的防御能力があるシェルターが存在するが、普段は立ち入り禁止のそこに今日はかなりの人の賑わいを見せている。しかしこれは緊急事態があったから避難して来たという訳では無い。

 

「本日は俺主催、ネオベテル、アルケミスト社協賛の"異界の悪魔ぶっ潰そうぜ祭り"こと異潰祭にご参加しただきありがとう。さて、今回の祭り開催に際しルールとかは大体既に告知しているが、開始前に俺の口から説明するのとその内容に質問や疑問があれば対応する為にこの場をもう受けた」

 

「「「「な、名前それでいいのかな?」」」」

 

「こういうのは変に捻んない方が良いんだよ」

 

参加者が誰もが思ったことを一蹴し、説明を続ける。

 

「今回の祭りの趣旨は、参加者的にはこの中野区を拠点としているフリーの霊能者の戦力底上げ、主催者的には人工異界の作成、その運用などいくつかの実験データを取ることが目的だ」

 

現在このシェルターに集まっているのは、狩谷が話した通り中野区を拠点としたフリーの霊能力者達。このイベントはフリーの霊能力者の受け皿になるように動いていた狩谷達が、数も集まって来たけど、それらの戦力をどう底上げしようかと思っていたときにいずれクベーラの力で生み出すラ◯ュタもどきの精度を上げる為の実験データも同時に取ろうと思い、立案したものだ。

 

「ルールはシンプル。俺達が作り出した人工異界内部に湧いている悪魔達をより倒し、スコアが一番大きかった者が優勝者だ。ソロで挑むもよし、パーティで挑むのもいい。当然ソロとパーティでのランキングは別で決めるから開始時間までに人工異界入り口付近に設置した事務所で申請してくれ。五位以上で賞品もあるぞ!」

 

「「「「おおおおーーー!!!」」」」

日本に名を轟かせているネオベテルと最近勢いを増しているアルケミスト社の協賛ということもあってか賞品に期待が高まっているようだ。とはいえ賞品にばかり目を向けずに質問してくる者も当然いる。

 

「はい、はーい!!そのスコアってやっぱり強い悪魔を倒した方が高くなるんだよね?」

「勿論だレヴィ。ただ力量に見合った相手と戦えよ?ディアーチェも王様ってんなら臣下の手綱ちゃんと握ろよ!」

 

「も、勿論だ!・・・だが下手な悪魔退治より苦労しそうなのは我の気のせいか?」

「安心しろ多分気のせいじゃない。シュテルとユーリはファローしてやれ」

 

「は、はい!」

「つまりはいつも通りですね」

彼女達は『マテリアルズ』というチームを組んでいるフリーの霊能力者達だ。狩谷と気安そうに話しているが、それは彼女達が元々メシア教過激派のとある研究所が作り出したデザイナーズチャイルドで過酷な実験を受けていたときに狩谷がその研究所を潰した際に保護した経緯があるからだ。

 

わざわざ作り出した(ユーリ以外の三人は有力な霊能力者の遺伝子が使われているらしい)だけはあり、総じて能力は優秀だが、年齢的には小学生ということもあり狩谷はすぐに手元に置かずにいる。

 

敢えてフリーにすることでこの世界のことを学ばせ、彼女達それぞれの道を考えさせようとしているという意図があるからだ。

 

「私もいいかしら。人工異界内でのスコアの集計はどうやるのかしら?あと内部の広さによっては悪魔と全然遭遇しないという状況もあると思うのだけど?」

「良い質問だマヨーネ。だがこの説明は俺の仲魔兼今回の人工異界の主であるこいつから説明して貰おう」

「そうね、私の子供達のことだものね」

中野区に集まったフリーの中でも上位の実力を持つマヨーネの質問に答える為に狩谷が召喚した見たことも無い悪魔を見て、ざわつかれているが彼女は面白そうに挨拶をする。

 

「この悪魔は・・・またとんでも無いものを従えたわね」

 

「ふふ、この姿では初めまして。でも以前の姿なら知ってる人もいるかしら?バフォメットから悪魔変化して今はシュブ=ニグラスよ。スコアの確認は私が産んだ悪魔達が担当するわ。黒子の衣装を着せてるから直ぐに分かると思うわよ?内部の悪魔については生まれる時に好戦的になるように設定しているから直ぐに皆の居場所を嗅ぎつけて来るわ。その代わり交渉は全然出来なくなったけど・・・それと一応救助とかの用意はしているけど戦闘をする以上もしもの覚悟はして置きなさい」

可愛い顔から怖いことを言うシュブ=ニグラスに冷や汗を流す参加者達。祭りとは言ってもこの業界では万が一があり得るのだ。緩んでいた空気も程よく引き締まっていったのを確認すると狩谷が締めに入る。

 

「他に質問は無いな?因みにランキング上位者の賞品については、それぞれ必要としているものが違うと思うのでメンバーが決まり次第こちらがそいつらに合ったものを用意しよう。この業界では価値があるものでも人によっては無用の長物なんてことは良くあるからな」

 

「折角いい成績を出してもそうなったら可哀そうなことになるものね。あ、最後に注意事項だけど参加者同士の戦闘や殺人、黒子悪魔達に攻撃を加えることは禁止よ?前者はこのイベントの趣旨から外れるし、後者はイベントの邪魔にしか成らないわ。破った悪い子は即座に失格になるし、ペナルティもあるから良い子にしている方が良いわよ」

 

「そういうこった。それじゃ開始時間までには所定の位置にある人工異界の入り口に集合するように!それまで解散!」

 

「「「「「「おおおおおおおーーーー!!!!」」」」」」

 

その後丸一日使って行われた初回の祭りはシュブ=ニグラスが産み出し配置した中ボスクラスの悪魔にイキってソロで動いていた中級以下の奴らがボコられたり、そいつらをソロでも問題無く倒せる上位陣に対して徘徊型の大ボスクラスの悪魔が戦闘中に乱入して来て三途の川を幻視させたり、「あ、これ戦闘はダメだけどそれ以外の妨害に関しては言及されてないじゃん!」ということに思い至った一部の参加者達が別の意味で暴れたりと色々伝説を作った。ネオベテルの掲示板でのライブ配信も好調だったが、何人かに少しトラウマが出来たようだ。

 

「まぁランキング上位者の賞品や、中ボスと大ボス悪魔を倒したら獲得スコアは勿論ドロップアイテム、経験値共に豪華だから次の開催も要望されてるけどな」

 

「入賞に届かない人達も大ボス悪魔は兎も角中ボス悪魔は、キチンとしたパーティを組めば倒せなくはないって設定にしたからそれ目当てで参加する人も出て来るでしょうね。ふふ、狩谷が伝えたかったことの一つよね?」

「ああ、中途半端な奴がソロでやっても死ぬだけだからな。サマナー以外なら尚更だ・・・祭りでは仲魔もパーティメンバーに数えているけどな」

 

「それにわざと作ったルールの穴も付いた戦法も何人かしていたわね。戦闘以外の妨害はそれなりに思いついた人たちはいたけどパーティ同士やソロ同士、パーティとソロでの協力はあまり無かったわね。参加者内での情報共有や取引はあったけど」

 

「わざわざ分けてランキングするとか言ったし、基本的に他の奴らは競争相手だからな。中々そういう発想には至らなかったんだろう。必要に応じて現場で野良パーティを作れるようにする為でもあるからな」

 

「かなり遠回りな啓蒙だけどフリーの人達は強制とかは嫌いそうだし、自主的に学ばせないといけないものね。でもこれだとパーティの一人をソロ枠に回して実質ダブル入賞とか出来るんじゃないの?それにパーティの人数は六人までだけで同じ手法で実質のパーティ人数が上限以上にも出来るけど・・・」

「この祭りは注意事項を守れば基本何でもありだ。それをやれるってことはそれなりに準備して来たってことだし、人数が多いほど悪魔達は寄って来るし、大ボスも人が多い所を狙う様にも設定しているからただ数を集めただけじゃ無理だ。その大人数をまとめ上げる優秀な指揮官がいるなら別だが・・・そこまで出来るなら文句はねぇよ」

 

「あーそういうこと・・・ふふ、こうして見直していると次回にしたいことがドンドン浮かんで来るわね!」

 

「だろ?だから次回も人工異界の主として一緒にやろうぜ!思ったより楽しそうだし」

 

「ええ、ええ!勿論喜んでその誘いをお受けするわ!我らが主様!」

その様に二人して盛り上がる様子を見ていた折紙や他の仲魔一同は『あ、これ次回はより酷いことになるな』と確信したそうな。




読了ありがとうございます!ネタが思いついたのでぶっこんで見た!因みに人工異界があっさり作れているのは中野区とその周辺の龍脈などを支配下に置いている折紙の協力があったりしたからです。シュブ=ニグラスが生まれてから一週間立つかどうかで、バフォメット時代より仲良くなってたりします。少女の姿ですし、元々龍や邪神とは相性良いという設定がありましたしね。


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中野区で日常とコミュ10

第五十九話になります!今回はほぼほぼ空気だった狩谷の高校生活の話になります。まぁ視点は狩谷とは別になりますが。



【クラスメイト編】

 

「良く集まってくれた諸君」

 

放課後、本来なら下校か部活に行く時間だが今日は生徒達は誰も出ていく様子も無く、妙に芝居がかった台詞を言い、黒板前の壇上に立つ狩谷に私を含めた教室の皆の視線が集まる。

彼はこの3-A組の委員長(中学時代インフルに掛かって休んだときに押し付けられたらしい)だからか壇上に立つ姿は意外と様になっている。

 

「部活がある奴も多い中今日この時間を空けてくれたことに感謝を」

 

「・・・そんなことは良いじゃねぇか狩谷。前置きは要らないから本題を話そうぜ」

「確かに問題の対処に時間的余裕はないからな・・・ならば早速本題に入る!」

 

クラスメイトの意見を受け入れ、狩谷は黒板に議題を書き上げる。今回私達3-Aの生徒達が集った理由・・・それは

 

 

 

「これより転校のタイミングのせいで修学旅行に行けなかったゼノヴィア、イリナ達の為、あと折角だから皆との最後の思い出に卒業旅行も兼ねるか!的な動機で行なわれる『割り勘修学旅行』の候補地を決めるクラス会議を行う!思い至る候補地がある奴は手を挙げろ!!!但し予算的日程的都合により国内限定だぞ!!」

 

「「「「「「「「「「はい!はい!はい!はい!」」」」」」」」」」

 

狩谷の開始宣言に応える様に大半のクラスメイトが手を挙げる。ゼノヴィアさんとイリナさんは夏休みの後に編入して来たため夏休み前にあった修学旅行に参加出来ていなかった。それを可哀そうに思った狩谷が計画したのだけど・・・本当に学校から一週間の修学旅行期間を引き出したのね。

 

「ええい、煩い!順番に聞くから落ち着け!まずは甲児からだ!」

 

「おう!俺はやっぱ修学旅行でも行った沖縄が良いと思うぞ。行けなかった修学旅行の代わりなんだこの学校で体験出来たことをやれせてやることも出来るし、俺達だって沖縄を遊び尽くしたって訳でもないから退屈はしないだろ」

「うん、相変わらずキャラに似合わない滅茶苦茶模範的な回答だな!」

 

兜甲児、普段は熱血漢な所が目立つが世界的に有名な科学者である父親を持つだけあってか頭も回る。

 

「次は曹操!おら宣言通り一週間もぎ取って来たぞ!」

 

「まさか本当にもぎ取って来るとはね・・・幾らこの逢魔学園が進学校でこのクラスの大半がもう進学や就職が内定していることを考慮してもよくやったわ!」

「確かお前は大学卒業したら起業するんだっけ?」

 

「ええ、その時はこのクラスのメンバーにも声を掛けるつもりよ。そして私のおすすめは大阪よ!そもそも沖縄の最大の売りは海でしょう?この時期じゃ海開きしていないじゃない!それなら大阪城や本場のたこ焼き屋やお好み焼きを楽しんだ方が得ってものよ」

「むむ!た、確かに一理はあるけどよ!」

曹操、三国志に出て来る英雄と同じ名を持っているのは両親が大の三国志ファンだかららしい。彼女はその名を寧ろ誇っている節があり、その名に恥じない生き方を心掛けているので成績だけを見れば優等生なのだけど・・・。

 

「あ、ホテルは当然男女別よね。大部屋かしら?2人部屋かしら?どちらにしても大歓迎よ!複数でも、一対一でもそれぞれ違った魅力が「残念だが例年通りお前は俺と同じ2人部屋だ。まぁ部屋割りは皆2人部屋になると思うが」ちょなんでよ!?今回は学校行事じゃないでしょ!!!」

「お前を除いた女性陣の総意と許可を出してくれた学園長の意向だ。諦めろ」

 

「むぎゃーーー!!!」

彼女はレズなのよね。それだけならまだしも学校外に複数人の相手がいるやり手、幸いこの学園の女生徒は教師陣と狩谷を筆頭にした一部生徒達がガードしていたから被害はなかったけど。

それもあって外泊する行事では彼女を抑えられる狩谷が毎回同室になるのが暗黙の了解になっている。

 

「毎回毎回貴方と同室とか新鮮味が無いわよ!!良いじゃないの最後くらい!!」

「そう思うんだったらせめて節操というものを覚えろ!!!はい次アナスタシア!」

 

「私は福岡が良いと思うわ」

「福岡?・・・貴様さては本場の博多ラーメン目当てだな!?」

 

「そうよ!」

「言い切ったぞこいつ・・・!!」

 

アナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァ、ロシアから両親と共に日本に移住して来たロマノフ王朝の王家の親戚筋に当たるという正真正銘のお嬢様・・・だったのだけど見ての通りすっかり日本の食文化、特にラーメンに毒され残念な子みたいな感じになってしまっている。

 

「あの二人も美味しいラーメンが食べられて楽しい思い出が出来るはずよ!」

「ラーメン以外のアピール要素も出せや!あと会議中にインスタントラーメン食ってんじゃねぇ!?」

 

因みに彼女がラーメンに嵌ったのは、アナスタシアが日本にまだ慣れて居なかった中学時代に狩谷が行きつけのラーメン屋でラーメンを奢ったのが切っ掛けらしいので、自業自得な気もする。

 

「はぁ、何事かと集まりに応じて見れば、観光名所だの食事だのと下らぬ戯言をとんだ時間の無駄じゃな」

「相変わらずズバッと言うな羽衣」

 

会議が紛糾する中常に上から目線の物言いをする羽衣乙女が溜息と共に放った一言が場を一気に鎮める。そして憤慨の表情を見せながら席を立ち上がり、教室から去る・・・

 

「旅行地など京都以外にありえるものか!!無論宿は京都一の旅館と誉れ高い『狐の宿屋』じゃ!」

「「「「「「「「「「そこお前の実家じゃねーか!!!」」」」」」」」」」

 

などと言うことはせずちゃっかり自分の生家である旅館を宿泊地に押す辺り実に強かだ。この性格で旅館を継げるのか心配だが、お客の前では旅館の後継者としての仮面を被るのだから器用だと思う。

 

「本来なら宿泊費をこちらで全額持ってもいいのじゃがな」

「いや、それはダメだって計画立てる初期段階で決まったじゃんか!一部の奴に負担を掛けるのは不味いって!」

「分かっておるわ遊馬よ。じゃがあそこならわらわの顔は聞くのも事実、宿泊費用も抑えられよう。それにゼノヴィアは金閣寺と銀閣寺を見たがっておったぞ?」

「予算の節約とゼノヴィアさんの希望を同時に叶えられる案ですか、これは強いですね」

この学園で一番のカードゲームの腕を持ち、菩薩メンタルとも呼ばれる九十九遊馬と冷静に羽衣の提案を分析する面倒見のオニ、ペンチメンタルなどと言われる自称凡人こと三雲修。私は彼らとは違いそこまで煽り耐性が高い訳ではないので良く参考にしている。

 

「「「むむ!!」」」

 

意見を言った三人が思わずうなっているがこの様子だとまだ掛かりそうだ。

 

「うーん、お前はどう思う都?」

 

「私は・・・」

急に話を振られてどこに行きたいか考えて見る・・・京都とは不味いことが無い訳ではないが、表の事が裏から突き上げられることもあまり無いはずだ。とすると

 

「・・・私はどこでも良いわよ。このクラスで旅行に行けるなら」

「あー、俺は宴会場とかで演奏とか出来たら文句はねぇな」

「私も皆と過ごせればいい」

他のクラスメイトは私と怖い話させたら稲川淳二レベルの閻魔あいを含めたクラスで遊べればOK勢、プロ歌手を目指している熱気バサラの様に特定の希望が叶えられればどこでもいい勢に別れていた。

 

「そうか、それじゃ希望がある程度満たせる場所を選ばないとな。メアリ、いすずちょっと選定手伝って!」

 

「えぇ、複数県のチェックは一人だと大変よね」

「役割分担をした方が効率が良いわ。私が宿を調べるからメアリは観光名所、狩谷は移動ルートとそれに掛かる交通費の計算をお願い」

狩谷は自分一人では捌き切れないと感じたのか、副委員長のメアリ・クラリッサ・クリスティと高等部の風紀委員長を務める千斗いすずに応援を求める。基本的にこのクラスで生徒側が事務処理をするときはこの三人を中心に動いていたりする。

 

「私も手伝った方がいい?」

「悪いな都。なら書記を頼めるか?ちょっと黒板に書く余裕が無さそうだからさ」

 

「これぐらい大丈夫よ」

狩谷からチョークを受け取り、黒板に会議の内容を書いていく。

皆は知らないだろう。こんな平穏な営みが全て狩谷の尽力によるものだと言うことを、そして狩谷も私がヤタガラスの機関の一つ『ジプス』の長であることを・・・ましてや私が京都の老害共から彼を監視し、必要なら『処理』するように言われていることなど想像もしていないだろう。

 

京都のヤタガラスと関東で活動しているヤタガラスの仲の悪さは有名だ。その為情報が共有されないこともしばしばある。老害共は、神の右席の一人であるアックアを派遣したローマ正教のように事前に神殺しが誰かを特定していたが、その情報を秘匿していた。老害ではあるがなまじ能力は優秀なのが始末に負えない。

 

私はこの学園に転入する前にジプスを立ち上げる際、京都のヤタガラスの力を借りてしまった・・・大きな借りがある以上彼らからの『お願い』はある程度聞かなければならない。立ち上げた当時は根底に護国の心はあっても出世に拘って積極的にお願いを聞いて表の生活など煩わしいと思っていたが・・・今の私は表と裏どちらを煩わしいと思っているのだろうか?私自身のことであるがこっちと言い切れるだけの自信が無い。

 

「ん、どうした都。手が止まっているぞ?」

 

「え・・・ごめんなさい少し考え事をしてたわ」

「珍しいな、何かあったら言えよ。出来ることなら手を貸してやる」

 

だからどっち付かずの私にそんな笑顔を見せないで欲しい。貴方がこの町を守る為に日夜頑張っていることを知りながら手伝いもせず遠方からただ見ている私に、名義を隠しヤタガラスの指名依頼を貴方に出すことでしか支援出来ない私に・・・五勢力が十字架を巡って争ったときも監視者の立場を考えて何も出来なくて、貴方が命を掛けた特攻を見て漸くそんな考えを捨てて行動出来たときもその場に駆け付けるのではなくライドウに泣きながら救援を願う連絡をすることしか出来ない私に、自分可愛さしかない私に、こんな事情を言い訳にしてただ『嫌われたくない』という本心を押し殺している私に

 

「・・・ええ、ありがとう。大丈夫よ」

そんな優しさを向けないで・・・。

 

 

 

 

 

 

会議が踊る中、一人さまざまなものに押しつぶれそうな少女を教室外から見下ろす影が一つ。

 

「ホウツウインミヤコ・・・貴女がカリヤの利益になり続けるのなら私は貴女を尊重する。だから貴女の事情も正体もカリヤに伝える気はない。それは貴女自身の思いであり、私達にとっても一番利益になることだから」

神木兄妹は愛する存在とそれ以外の存在に対する対応の差があることは共通している。

そして例え後者であっても誠意を見せる相手のことを尊重する心も両者共持ってる。

ただ明確に違うのはその愛する存在の範囲と"尊重"するという行為が人間視点によるものか、天使視点によるものかということだけなのだ。




読了ありがとうございます!クラスは狩谷、ゼノヴィア、イリナを入れて男女15人ずつで計30人くらいいたりします。これはいずれやる割り勘修学旅行編で全員出す予定です。あとはジプスのトップである峰津院都がクラスメイトでめっちゃ絆されてるという中々に挑戦的な設定をぶち込みました。

桜花達と出会ったヤタガラスの指名依頼やライドウが救援に駆け付けたのも彼女のお陰です。まぁライドウはその内来たでしょうが、個人的に連絡して来た彼女の懇願を受けてもろもろの手続きを後に回して丁度ヤタガラス本部に顔を出していた寺生まれニキと共に急行したという経緯になっています。

狩谷が彼女の正体に気づかなかったのは書類などはヤタガラスが隠蔽しており、彼女自身覚醒者だということを隠す霊装を持っていてそれすらも見抜ける折紙が教えていないことが挙げられます。折紙的には彼女が監視者の役目から外れればそれこそこちらに情などが無い者が新たな監視者として派遣されるだけなので今の状況では、この形がベストだと考えているからです。


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中野区で日常とコミュ11

第六十話になります!今年もよろしくお願いします!今回も作中視点が主人公とは違います。


【カナリア&ドラグーン部隊編】

 

アルケミスト社の仮初の本部だった日本支部からの移転作業は順調に進み、私こと篁唯依が率いるドラグーン部隊も新たな本部となる場所に建てられた兵舎に移っている・・・まさか将来的にリアルラ◯ュタをするとは思わなかったが。

 

ドラグーンとは一言で言えば覚醒者が使う事を前提とした駆動兵器だ。低レベルのものでも装備した兵装(勿論見た目が質量兵器なだけの中身はオカルト兵器)で、上位の悪魔を倒すことを目標に制作されたが・・・正直後にネオベテルが開発した非覚醒者もある程度戦えて、覚醒者が使っても強いデモニカの方が使いやすく、最終的には強くなる気がする。

 

ではなぜアルケミスト社はドラグーン部隊を維持しているのか?理由の一つに私達を支援している黒札の狩谷様が「人型ロボットで戦うのカッコいい!」と思ってくださっているというかなり個人的なこともあるが、大型悪魔に対して有効なのと巨大な人型ロボットが出て来るアニメや特撮に度々描かれるが大きな人間とも言える機体が役に立つ場面が以外にも多いからだ。特に本国でメシア教過激派に襲撃され私を含めて部隊が僅か五名に減ってしまったので、戦闘よりもそれら工作方面の仕事が多くなっている。

 

それに技術の進歩も無い訳では無く、COMPと接続することでその中にあるアプリがドラグーンでも使える様になり、索敵能力、戦闘補助性能が飛躍的に上がるなど日々性能が上がっている・・・そして性能の向上は当然私達個人個人にも求められる訳で。因みにCOMPも狩谷様から提供頂いた物だ。

 

「お嬢様が狩谷様を引き付けてくれている間に弾幕を集中して浴びせる!分かっていると思うが弾は属性弾を使え!」

【覚醒者 篁唯依 Lv15】

ドラグーン部隊の隊長、私のことだ。ドラグーン自体の研究もしていて武器開発に携わっている。

 

『確か火炎と呪殺は装備で無効化しているんだったわよね?』

【覚醒者 プリンツオイゲン Lv12】

優秀だが調子に乗りやすい面があり、それが今回の模擬戦を行う要因になった。

 

『ああ、もっとも妹様の加護のお陰で万能以外のほぼ全ての属性に元から耐性を持っているがな』

【覚醒者 エンタープライズ Lv14】

元海軍の軍人で副隊長。常に冷静な彼女にはいつも助けられている。

 

『それでも聞かないよりはマシです。少しずつ削りましょう』

【覚醒者 アリサ・イリーニチナ・アミエーラ Lv10】

一番若く未熟だが、才能はあり将来は有望。偶々狩谷様と一緒に彼女の私服を初めて見た時に二人で彼女の情操教育をして行こうと決めた。効果はあまり出ていない。

 

『普通は弾幕は張るものなんですけどね』

【覚醒者 ヴラディレーナ・ミリーゼ Lv14】

エンタープライズと同じ元軍人、しかし彼女と違って陸軍出身。気が付いた時には狩谷様の信者になっていた。狩谷様自身そうなった理由に覚えはないらしい、信者モードのときの彼女はちょっと引く。

 

私の通信による指示に従って部下達が私を中心に扇状に囲み銃火器を構える。なぜ弾幕を集中させるのかというと一発重視だと狩谷様の【テトラカーン】で逆に返されてしまうので弾丸の数で制圧するしかない。

 

「陣形展開完了。お嬢様!」

「っ!!」

 

私の声にお嬢様ことカナリア様が咄嗟に武器を撃ち合っていた狩谷様から離れる。

 

「撃て!!」

それを合図に私が操る機体を含めた五機から放たれたそれぞれ別の属性弾の弾幕が狩谷様に集中する。

これまでの模擬戦ではここまで持って来ることも出来なかったので、以前までならこのまま弾丸を受けて、「ちょっと痛いな。でも合格!」と認めてくれたかも知れない。もっとも

 

「おー、やっぱ壮観だなこれ。前までならこれで合格!で良かったんだけど・・・ギア上げるって言っちゃったからな!」

 

あの方がギアを上げて居なかったらの話だが。

 

聖剣を持つ右手では無く左手を掲げる。ニコニコ笑顔の様子を見て何となくだが作戦の失敗を予測した。

 

「空間ごと薙ぎ払え!【メギドラ】!!」

『はぁ!?』

 

放たれた万能の光は弾幕の五割を吹き飛ばす。そして当然五割も吹き飛ばされたら私達の方向に真っ直ぐ弾幕の無い道が出来てしまう。

 

「【スクカジャ】【スクカジャ】!オイゲン驚いてるだけじゃ駄目だぞ?」

 

『そんなこと言われてもって【スクカジャ】掛けながら凄い速さでこっちに来てる!?』

「っ!再度弾幕を集中!寄せ付けないで!」

『し、しかし咄嗟では弾幕の密度が!』

『いや、やらなければ立て直す時間も捻出出来ん。隊長の言う通り撃て!』

『了解!』

『ああ、分かったわよ!』

再度弾幕を集中させれるがやはり弾丸の密度は先程より低く迎撃される可能性がある。それでもライフルの弾丸の様に突っ込んで来る狩谷様は先程のように【メギドラ】は撃てないはずなので、迎撃されるにしてもこれで如何にか足止めが出来れば・・・!

 

「【スクカジャ】・・・弾幕薄いよ、何やってんの!だったか?スペースが空いてるし、作り出せるぞこれじゃ」

 

『お見事!まるで神話の英雄の様な活躍ぶりです狩谷様!はぁはぁ、アプリのカメラ・・・ああ!?残像しか映らない!!』

『化け物が・・・!』

『『・・・(唖然)』』

 

「・・・黒札ってつくづく理不尽ね」

狩谷様は止まらない。弾幕の中の身体が入り込めるスペースと聖剣である程度弾丸を弾けば身体を入れられるスペースを見つけ、其の中でもこちらへ来るのに最短なルートを見つけ出し変わらぬスピードで進み続けている。皆は悪態をついたり唖然としたりしているが、私も思わず素の口調が漏れてしまう。信者はいつも通りだ。

 

お嬢様は救援に来れない。理由は単純に狩谷様が突っ込んで行った弾幕があるからだ。流石に私達と違い先日レベル20に達したとはいえ、狩谷様と同じ様なことをして追いかけてくれとか口が裂けても言えないし、大回りして駆け付ける時間的余裕はない。と言ってもここで戦線を作らないとマズい!

 

「ここは私が止めるから貴女達は体制を立て直して!」

『本気か隊長!?』

私だって数秒ももつかどうかも怪しいと思うが、部隊の中で一番近接戦が出来て機体もそれ用にチューニングしている私以外では秒単位すらもたせられない。

※篁唯依が乗る隊長機【武御雷】

 

「【スクカジャ】!まぁやっぱそうなるか。でももうこの距離まで来ればあと一歩なんだよ『聖槍に宿りし祝福よ。同じく宿る天閃に力を』」

「あ」

 

狩谷様が持つ聖剣、正確に言うと聖槍には、二振りのエクスカリバーが組み込まれている。その一つである祝福の聖剣は、倍率こそそれぞれで違うものの聖なるものの力を高める効果を持っている。そして実は一つに統合されているもののエクスカリバー的には聖槍とそれぞれの聖剣は独立しているようで、祝福の聖剣自体に祝福の力は使えないが一つとなっている聖槍と天閃の聖剣を対象に祝福の力を行使出来るらしい。

 

つまり今やったのは持っているだけでスピードを大きく底上げする天閃の聖剣の力を更に祝福の聖剣で倍増させたということだ。更に【スクカジャ】を限界まで掛けているし、レベルや速のパラメータも圧倒的に負けている相手の動きに果たして私達が対応出来るだろうか?と何故かそんなことを疑問形で、今にも飛び出そうとした私の機体の目の前にいつの間にか来ている狩谷様を見ながら考える。

 

『・・・あの、すみません、もう調子に乗らないので顔に傷だけは勘弁してください・・・』

この模擬戦はオイゲンが「私達も全員レベル二桁に到達したし、お嬢に至ってはレベル20になったんだから今までの訓練なんて余裕だわ。【物理無効】があっても属性弾で弾幕を浴びせれば問題なしね!」と調子に乗った発言を狩谷様にぶつけて「そんじゃ訓練のギアを上げるか」と判断なさったことが始まりだった。部隊では連帯責任が基本だが個人的に後で締めようと思う。

 

「努力はする【冥界破】!」

全体攻撃の斬撃の衝撃波は容易く五機全機の機体を上下に分割した。努力とは?と一瞬思ったが、幸いコックピットより下で斬ってくれたので私達は五体満足のままだ。

 

「よし、じゃ最後カナリナだな」

 

「先生・・・降参してもいいですか?」

 

「安心しろ。降参って言う前にお前は動けなくなるから」

 

「ワーイ(白目)」

 

その後数秒もしない内に勝敗が決まったのは言うまでも無い。お嬢様のガーディアン?勿論模擬戦後は変わってましたよ、はい。

 

し、しかし幸い今回はオイゲンが調子に乗ったから起こった出来事だ。そうそう同じ目に合う事は無いだろう。

 

「あ、今回動き良かったから定期的にギアを上げた訓練やるからよろしく。今までの訓練の難易度も少し上げるか」

 

「え、あの今回の模擬戦はオイゲンの伸びた鼻を折る的なことでやったのでは?」

「そうだけど別に本気じゃないし、これも訓練に加えようかなって」

 

「本気・・・では無かったのですか?」

本気じゃない、この言葉にエンタープライズが思わず声を上げる。

 

「え、うん。祝福の聖剣の力の出力は本気の半分程度だし、移動も走るというより早歩きのイメージだったし、聖剣同士の力を共鳴させても居なかったからな。共鳴させれば聖槍、祝福の聖剣、天閃の聖剣の力が大幅に強くなった上で倍率が上がった祝福の聖剣の力を使う!とかいう倍々ゲームみたいなことも出来るぞ?」

 

「やっぱ先生って人間止めてない?悪魔になってない?それとも神様?」

 

お嬢様の言葉に私以外の部隊員も内心で同意しているだろう。

 

「いやいや、そんな大したもんじゃないって。さっき言った状態はあんま長時間維持は出来ないし、そもそも本来なら複数人でやることを一人でやるから本来なら分け合う身体に掛かる負担を一人で背負うから出来ればやりたくないくらいなんだけど」

 

「嘘、じゃないんだろうな・・・・・・」

狩谷様信者なヴラディレーナが、信者モードを強制解除され思わず頭抱えて黙るほどの化け物の様な会話にこの業界の強さの果ての無さを痛感する。オイゲン?あいつは彼女の隣で気絶している。

 

「対策・・・出来るのかしらこれ?」

「アドバイスはしてやるから頑張れ!」

 

思わず零した一言に返事をしたのは物凄く良い笑顔でサムズアップしてくる元凶だけだった。




読了ありがとうございます!新しく初めてカオ転三次小説もよろしくお願いします!
必要な予算ならバンバン出してくれるので狩谷に対するドラグーン部隊のメンバーの好感度は意外に高かったりします。レベルも模擬戦後は狩谷の固有スキルの力もあって三レベル、カナリアもニレベルくらい上がってるかと。試練は勝利だけ設定できるという事でも無いので。

Q.何か他にも隊長みたいなキャラ多くね?

A.メシア教過激派の襲撃を生き残れた五人は幸運でしたが、最低限度部隊長クラスの実力がないと幸運を掴むことに挑戦することすらも出来なかっただけです。性格的に向いてない人もいますけど。


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中野区で日常とコミュ12

第六十一話になります!ポケモンの新作とまさかのガンダムブレイカーの新作に驚きを隠せませんがこちらも頑張って更新していきますよ!・・・ジガルデ、ブレイカーお前ら生きてたんだな。


【エイナ&ルフェイ&斑鳩&伊砂編】

 

「という訳で新本社移転後一発目の実験をやるわよ」

「おー!!」

 

「移転祝いに顔を出したら実験場に連行されたでござる」

 

「あ、来ましたね先輩!」

「また頭痛が…!」

 

本社が中野区に移転したので、お祝いの挨拶に来てみれば斑鳩とルフェイに連行された俺。

屋外用の実験場にはエイナと伊砂も待機していた。

 

「伊砂は兎も角エイナも?」

 

「はい、今日は支部ではなくネオベテルの事務員としてのお仕事です」

「どういうこと?」

 

「ドラグナーの件で進展があり、ネオベテルにも報告する為ですね。採用するかは上層部が決めるんですけど」

「実験ってドラグナー関係か、従来機種はネオベテルだと研究サンプルくらいしか需要なかったしな」

 

ネオベテルに広まらなかったのは、覚醒者しか運用出来ない&性能の問題があるのに加えデモニカというほぼ上位互換な装備が存在しているのが大きい。ましてや黒札なら普通に生身で強くなるから余計に需要がないのだ。自衛隊には数機採用されたらしいが。

 

「それがちょっと悔しくてね。仕事の合間合間に色々研究してたのよね~」

 

「私も協力してたんですよ!内容が内容だったので!」

 

「ほうほう。割とろくでもないなこれ?」

 

「どこぞに喧嘩売ってると言われれば売っているからな」

 

「えぇ・・・」

 

伊砂の言う喧嘩売っている技術ってなんだよと思っていると自分の目の前にシートを被った大きな物体があることに気づく。

 

「あれが新しいドラグナーか?というかルフェイが関わる内容って魔女・・いや俺もいるとなるとまさか」

 

「はい、アーサー王関係ですよ!」

 

「やっぱりか!!」

 

ルフェイは直系ではないとはいえアーサー王の血を継ぐ家系の出身。魔女としても研究者としても有能なのでその手の研究に参加するのも分からなくはない。

 

「ルフェイと貴方を触媒にして儀式を行うのよ。魔界からアーサー王を召喚する為にね」

 

「え、マジで?俺のレベルでも制御出来るか怪しいぞ?」

 

「分かってるわよ。だからアーサー王をただ召喚するのではなく"憑依"させるわ」

 

「・・・まさかドラグナーに?悪魔は情報生命体だからいけるのか?っていやいや!アーサー王切れるだろそれ!!」

 

「アーサー王そのものを憑依させたらそうなるでしょうけど能力だけを憑依させればいいのよ」

 

「???」

 

斑鳩曰くルフェイの血でアーサー王との縁を繋ぎ、分割されたとはいえアーサー王ではないがエクスカリバーの使い手である自分を触媒にすることで"アーサー王"としてではなく"エクスカリバーを使う英霊"というガワをドラグナーに憑依させるのだそうだ。

 

「流石にスペックは落ちるけどコストや制御面でかなり楽になるわ。それに人格とかないから遠慮なく使い倒せるし」

 

「斑鳩、お前大分マッドだな」

 

「杉波の研究者だからね」

 

当たり前のようにマッドを認めるんじゃねーよ。

 

「さり気なく私も同類にするのはやめてくれないか?」

 

「「「「そうか(そう)(そうですか)(そうなのでしょうか)?」」」」

 

「え」

 

斑鳩と本気で同類の扱いをされていたことに伊砂がショックを覚えているが、そんなことは置いておいて話が進んでいく。

 

「で、具体的にはどうすればいいの?」

 

「そこの魔法陣の中心に聖槍を聖剣モードにして立ってなさい」

機材の最終調整をしている斑鳩の指示で魔法陣の中央に立つ。

 

「はいはいってこれもしかして血で魔法陣描いてる?」

「あーそれはですね・・・」

「ん?」

 

血の匂いを嗅ぎつけるとエイナが微妙な顔をしてルフェイを見る。おいおいまさか

 

「確かにルフェイの血を云々とは言ってたがマジで血を使うんじゃねぇよ!伊砂も止めてくれよ」

 

「え?でもあれは」

 

「止めるも何も私の発案だが?」

 

さも当たり前のようにマッド行為を真顔で自分の発案だと言う伊砂。

 

「・・・うん、やっぱり同類じゃないか」

 

「なんだと!?」

 

否定して数秒でマッドの証拠が出るのやめてくれます?

 

その後儀式自体は無事成功したが・・・召喚する瞬間誰かに会ったような気がするがあの感覚はなんだったんだろうか?

「まぁ分からないことは置いておいて・・・エイナ、この素体にしたドラグナーって」

 

「はい、御想像通りかと」

改めてそれを見ると機体の色がトリコロール、背中に背負った巨大なランチャーと展開するとⅩになるパネルが装着されている。

 

【マシン エインヘリヤル Lv50】

「おいこれどう見てもガンダムⅩやんけ!?絶対ネオベテルの開発部と共同で作っただろ!!主犯はロボキチニキだな!」

 

「おっしゃる通りです」

「サテライトキャノンがエクスカリバーってか!!この世界の月面にマイクロウェーブ送信施設なんてねぇぞおい!」

 

「説明書によると月の魔力をリフレクターパネルで受けることでチャージが可能になるらしいです。昼間も展開したパネルにはオカルト仕様のソーラパネルも内臓しているので太陽光でもチャージ出来るとのことです」

「ビルドファイターズ要素もあるのか!?確かに月は悪魔と大きく関係あるし、太陽も神聖視されてるけどさぁ!」

 

色々大丈夫なのか心配になるがまぁそうそう使う機会はないはずだ。ないよね?

 

「よし、このデータを元にほかの英霊の機体も作るか、無理でもアーサー王の機体を量産すればいいかしら?早速この兵器通称【エインヘリヤル】を量産してネオベテルに提供を「ダメです。スポンサー権限で却下します」ちょっと何でよ!?」

 

「暴走を起こす未来しか見えねぇからだよ!!」

 

押し問答の末各英霊一人に付き一機ずつしか作らないという妥協案で纏められ、ネオベテルから求められたときはこちらから貸し出すということになり、数年後には日本全国に白い巨人の都市伝説が流行することになったりしちゃうのである。




読了ありがとうございます!あとはニ亜以外の教会組と折紙で中野区キャラコミュ回は終わりになります。思ったより長くなりましたがそれらが終われば本格的に海外編が始まるのでお楽しみに。


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中野区で日常とコミュ13

第六十二話になります!真5の完全版楽しみですね・・・結構シリアス成分多めみたいですし・・・え、うち?7割くらいギャグですけど?


【折紙編】

 

「ふぃー、今日も疲れたな。ここ二週間平和だったけど」

 

「・・・色々あった気もするけど五勢力の抗争よりはマシ」

家を建てるときに自室(義兄妹共用)に備え付けた檜風呂にいつも通り二人で入る。昔折紙が中学に上がったタイミングで一緒に入るのを辞めようかと思っていたのだが、折紙が物凄く拗ねた為今も一緒に入浴している。

 

「はは、でも結果的に良い戦力強化にもなったしイリナ達が帰ってきたときに面白い話をしてやれるだろう」

 

「戦力強化した結果もっと厄介ごとに巻き込まれるフラグ?」

「ありそうだから止めて」

 

他愛もない会話を湯舟でしながら二人して温まる。偶に地下の支部に備え付けた大浴場を使うこともあるが、ここは折紙と二人で寛げる場所の一つなのだ・・・それ故に本音もこぼれていく。

 

「それにしても短期間に随分遠くまで来たもんだ。厳密には六年前のあの事件からだからそんな短期間じゃないけど」

 

「・・・うん」

 

今までを振り返っていると折紙が急にしおらしくなる。六年前の事件のことで隠していることがあるからだろう・・・責任感の強い奴だ。

 

「大丈夫だ。前に行ったろ?お前を信頼してるって」

 

「っ!?・・・カリヤの為だけじゃなくて私自身の保身の為でもあるのに?」

「別に保身が入っててもいいじゃないか。誰だって嫌われたくはないもんだそれが家族ならなおさらさ」

 

「・・・もし、互いに譲れないことで戦うことになっても同じことが言える?」

 

「ふむ、お前が抱えてることは俺と殴り合うことになるかも知れんのか」

 

ここでそんなことにはならないと言えれば楽だが、内容どころか概要も知らないくせにそんなことを言っても意味はない。ならばいっそのこと

 

「いっそのことその時は全力で殴り合えばいいさ。兄妹喧嘩なんて珍しくもない、前世ではしょっちゅうしていたもんさ」

 

「兄妹喧嘩?」

目を見開いて俺を見る折紙。そういえば折紙との兄妹喧嘩は多少言い合うくらいで互いに手が出ることは無かったけ。

 

「ああ、口だけじゃなくて手も互いに出してさ・・・褒められたことじゃないとして互いに全力を出すことで理解できることもあるもんだ。だからその時は互いに恨みっこ無しの兄妹喧嘩をしよう!全力でな!そんでもって終わったら仲直りをすればいい!今までの口だけの兄妹喧嘩もそうだったらだろ?」

 

「・・・ありがとうカリヤ」

折紙の頭を撫でながら俺の気持ちを伝えるとしおらしくなっていた顔もいつもの表情に戻っていく。

例えいつか戦うことになったとしてもその先で理解しあえ、仲直り出来ることを信じているからだ。

 

「はい、それじゃこの話は終わりだ!風呂上がったらアイス食べようぜアイス!」

 

「なら私はバニラ」

「俺はストロベリーにするか」

 

「・・・少しバニラあげる」

 

「マジで?なら俺もストロベリー少しやるよ」

 

「うん♪」

折紙の笑みを見ると気持ちを切り替えられたようだ。やっぱり我が義妹には笑顔が似合うな!

 

風呂から上がった後は互いにアイスを食べさせあったりして就寝まで実に和やかな時間を過ごすことが出来た・・・何か通りすがりのロスヴァイセが俺たちの様子を見てダウンして他の仲魔達が介抱したりしてたけど。

 

「はい、あーん!美味しいか?」

 

「うん・・・カリヤもあーん」

 

「それはよかった・・・うん、王道なバニラもやっぱりいいな!美味しい!」

 

「やはりアイスはバニラが至高」

「昔からバニラが好きだもんな」

 

まぁ今は折紙の笑顔以外どうでもいいか。

 

【イリナ&ゼノヴィア&ワシリーサ編】

 

「ということがあってさ」

 

『うーん、流石は狩谷君が住んでいる町。一ヵ月くらい離れただけで色々起こっているわね』

『だが相変らず退屈はしなさそうな町だ。早く帰国したいものだ』

 

『・・・むぅ』

 

もうすぐイリナ達の用事が終わるということで互いの情報共有も兼てテレビ電話で連絡を取ることにしたが、ここ最近の出来事(折紙との風呂での会話など一部を除く)を話したらやれやれみたいな雰囲気を出されてしまった。

 

「なんだよその反応はー・・・どうしたイリナ?むすっとして」

 

『ロスヴァイセさんとデートしたんだ・・・』

 

「え、うん。視察ついでだったけど」

 

『むむ!・・・狩谷君帰ったら私もデートに連れてってね!場所は任せるから!』

イリナがテレビ電話越しに詰め寄ってくる。よく分らないが俺からの返しは一つだ。

 

「え、めんどい」

 

『めんどい!?』

「最近色々仕事を抱えてるから夜くらいしか時間がないしな」

 

『よ、夜!?さ、流石にそれは早いよ!えへ~//』

顔を赤くしてテレまくったイリナが画面からフェードアウトしていく。

 

「何を言ってんだこいつは。イリナは放っておいてゼノヴィア仕事で何かあったか?」

 

『仕事以外か・・・ああ、そういえばシスターの友達が出来たぞ!』

 

『アーシアちゃんね!聖女って呼ばれてるけど良い子でとても親しみやすい子よ!』

「へーシスターの友達か。良かったな!」

 

メシア教以外のシスターなら仲良くしても問題はないだろう。同じ一神教徒同士で通じるものもあったのだろう。

 

「あ、ワシリーサさん変な服進めてませんよね?」

 

『え、いやーその・・・』

 

『教会の神父さんがガードしてくれたから被害はないぞ』

 

「グッチョブ名も知らぬ神父さん!あとワシリーサさんは帰ったら懺悔な!」

 

『ちょっ狩谷君の懺悔って懺悔(物理)じゃない!それだけはやめてぇ~~!?』

 

そんな報告というより雑談をしていると画面から消えていたイリナが慌てた様子で戻ってくる。

 

『た、大変大変!!』

 

「どうしたイリナ、そんな慌てて」

 

『そ、それがアーシアちゃんが!アーシアちゃんが!』

 

「ああ、さっきゼノヴィアから聞いたシスターの友達か。その子がどうかしたのか?」

 

『あ、悪魔に誘拐されたって!!』

 

「何!?」

 

『本当かイリナ!?』

 

『ちょっと護衛は何やってんのよ!』

 

聖女を誘拐とかメガテン的に碌でもないことになりそうだが・・・くそ場所がバチカンだから手出ししずれぇ!!

 

「手を貸してやりたい所だから・・・外国、しかも一神教の総本山のバチカンだと不都合が多すぎる」

 

『それは仕方ないわ。狩谷君はネオベテルの幹部ですもの』

『手を借りれないのは残念だがそれで狩谷に迷惑は掛けられないからな。アーシアの件はこちらで対処しよう』

 

ワシリーサとゼノヴィアが気遣ってくれる。やはりまだまだ力が足りないな・・・。

 

「すまん、こっちからでも出来る限りの援護を「あー、もう!あのストーカーの仕業じゃないでしょうね!」・・・おいイリナ。今なんつった?」

 

『え、だからストーカー・・・は!?待って狩谷君!まだ確定情報じゃないから!落ち着いて!』

 

ストーカー、ストーカーか・・・うん。

 

「15分だ」

 

『『『え?』』』

 

「15分で戦力揃えて そ っ ち に 行 く 」

 

『ああああ!ダメだったーーー!?!?』

 

イリナの叫び声を聞きながらテレビ電話を切りエイナに携帯で電話を掛ける。

 

「エイナか。俺の及ぶ権限全て使って町にいる戦える奴らを招集しろ15分以内にな。そのあと折紙の【トラポート】でバチカンに飛ぶ。天使の力を解放すれば行けるはずだ・・・防衛?防衛義務のあるデパートの店舗持ちの霊能者がいるし、フリーの奴らも幾らか使えるはずだ。あとはちょっとレベル的には行く先を考えても動かせない朱雀に指揮を取らせろ。ドラグーン部隊は町中じゃ使えないからいつでも出られるように本社で戦闘準備させて待機させとけ・・・何をしに行くのか?そりゃおめぇ」

 

獰猛な笑みを浮かべながら少し怯えてる電話の向こうの後輩に応える。

 

「ストーカー狩りだ!」

 

ストーカー死すべし。慈悲はない!!!

 

のちに様々な国際問題に発展する今回の事件はこうして幕を開けたのである。




読了ありがとうございます!多少巻きましたがようやくコミュ回が終わりました!こんだけ続いたなら章を分けてやるべきでしたね。次回から本格的に海外編が始まりますのでお楽しみに!


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外伝
縛りプレイを強いられた一般転生者(自称)とクソ雑魚夜魔二人娘の場合


という訳で外伝です。基本的にネタがここのキャラは本編に出る予定もあります。本家様もどうぞ使ってやって下さい。


どうも後藤道長です。前世、今世共埼玉県出身の高校二年生あだ名はメガネの一般転生者だ!・・・一般の転生者ってなんだろう?まぁ俺のことは今はいいのだ。問題は今俺が廃ビルで対峙している目の前にいるあいつだ。

 

「イヒヒヒ、まさか素直に来るとは思わなかったぜ!」

 

「・・・お前が俺をここに?」

 

「まぁな!ちょいと魔法の痕跡で誘導してだなってやっぱあいつらに聞いた通りこの俺様インキュバスのことが見える見てぇだな?よしよし」

 

「インキュバス・・・ん、あいつら?」

 

まさか他にもいるのかと辺りを警戒する。するとインキュバスが嘲笑う様に笑みを浮かべる。

 

「分からないか?なら今日の為に頑張ったあいつらも報われるってもんだ!おら出て来な下僕共!」

 

その呼び声に応える様に廃ビルの影から三人の人影が現れる・・・あ!あいつらって!?

 

「ミカヤ、薙切お前ら何でいるの!?」

 

人影は俺の学校の有名人の姿に変わる。二人共派閥だの取り巻きに常に囲まれている影響力のある人間だが・・・。

 

「くくく!そうお前の学校の学友だ!だがそれ以上に意外と一途な奴らでな・・・告白を断られたことくらいで我慢できねぇそうだ」

 

「そうか・・・貴様傷心の彼女達をたぶらかしたのか!」

 

確か彼女達は最近学校を体調不良で休んでいると聞いていたがここにいたのか!学校ではフラれたことが要因じゃないかと噂されていたがやはりか。

 

「おいおい俺だけのせいにするなよ?こいつらが無理矢理にでも意中の相手をものにしたいって言うから俺の力とMAGで同胞に迎え入れたわけよ。確か人間では悪魔化って言ったっけな」

 

「え、あいつらから言い出したの?」

 

「俺も最初はただ魅了の力を貸す程度の契約なつもりだったんだがな・・・さて、あまり彼女達を待たせるのも悪いからな。ほら契約通り連れて来てやったぜ!思う存分魅了し、精気とMAGを吸い付くしてやんな!」

 

『嫌よ』

 

「・・・え?」

 

笑い声を挙げながらインキュバスは彼女達に指示を出すが普通に拒否られインキュバスの顔が固まる。

 

「あのー」

 

「ん、なんだよ?」

 

「いやそのさっきの言い方だとまるで俺が二人の意中の相手に聴こえるんですけど」

 

「聞こえるも何もそう言った「はぁ!?こいつが意中の相手ですって!?違うわよ!というか誰かも知らないし!」・・・はぁ!?」

 

インキュバスの言葉に薙切がキレ気味に反論する。まぁ確かにその通りなのだがもうちょっと言い方を優しくして欲しい。

 

「え、でも黒髪の男性で霊が見えるほどの高いMAGの持ち主はあの学校でこいつだけだったぞ!」

 

「それだけでの情報しか教えて無かったのかよ!?もっと詳しく容姿とか教えてやれよ!」

 

「慎吾が霊が見えるという情報は同じクラスの薙切が持って来たはずだが」

 

「そんな、移動教室で沖縄に行ったときの肝試しであいつ確かに霊が見えるって」

 

「ああ、それ多分冗談だぞ」

 

「え、そうなのか?」

 

ミカヤ先輩と薙切に俺が即座に否定するとミカヤ先輩が驚いた顔をこちらを見る。

 

「いやだってあいつが「この先に霊の気配を感じる!」とか言ってたとき背後で日本兵の霊が微笑まし気に見てたし」

 

『マジで!?』

 

「マジマジ、多分見守っててくれてたんだろうな。俺が見ていることに気付くと帰りに敬礼してくれて俺も返したな・・・いい人だったよ」

 

なるほど、その時のことを誤解してインキュバスに伝えたからこうなったのか。確かに魔法の痕跡なら他の人間に気付かれず霊感の強い奴を対象におびき寄せられるということなのだろう。

 

「敬礼・・・ああ、あんたメガネ?そういえば敬礼をしていたわね。まぁ興味が無かったから忘れてたけど」

 

「せめて同じクラスの奴の顔くらい覚えてくれよ」

 

「覚える価値がない人間だってことではないのか?」

 

思い出してくれたようだが認識が割と酷いな。おい!

 

「一応後藤道長って名前があるんですけど」

 

「は?何で私達が貴様の名前を覚える必要があるの?慎吾の友人Aの認識で十分でしょ、寧ろあだ名で呼ばれていることを光栄に思いなさい」

 

「そもそも慎吾以外の人間の記憶はあまり鮮明ではないがな。家族も怪しい」

 

あれ?こいつらってこんな性格悪かったっけ?キャラは濃かった覚えはあるがここまで悪い意味で酷くはないはず。いやまて落ち着け俺、どうみても記憶障害が起きているし、恐らく悪魔化した影響とかで精神が悪魔寄りになっているのだろう。

 

「だが流石に生きては返せないぞ?」

 

「そうね。モブとはいえ間違って連れて来ちゃったし訳だし痛み無く終わらせてあげるわ」

 

まるで部屋に入って来た羽虫に見せる慈悲の様に薙切が俺を殺そうと【ムド】を行使する。特に親しくしていなかったとはいえここまでぞんざいに扱われると少々傷つく。

 

「まぁダメージ的には効かないけどな。一応いたぶらず殺さないだけまだ人の心が残ってるってことで良いのかね?」

 

「な、なんで無傷!?」

 

「何でも何も、呪殺対策は必須だから。この業界は」

 

「!?お前まさか!既に覚醒して!」

 

インキュバスが焦った顔に変わる隙にポケットに入れていたマハジオストーンを床に落として発動する。

 

「ぐわーーーー!?こ、これは雷属性の!」

 

「悪いなこっちは耐性持ちなんだ!先手必勝でいくぜ!こいバッファ!」

 

そしてCOMPから俺専用の造魔型デモニカであるバッファを装着し、インキュバスに突撃し壁に衝突する。

 

「が!?お、お前は!」

 

『ZOMBIE···(wooooo···)』

『READY FIGHT』

 

「仮面ライダーバッファってな!でもやっぱ仮面ライダーならベルトで変身したーい!」

 

【覚醒者 後藤道長 Lv25】【造魔 バッファ Lv20】

 

説明しよう!システム上COMPで召喚と共に装着するので原作通りの様にベルトで変身とはいかないのだ!勿体ねー!

 

「切り裂けゾンビブレイカー!!!」

 

【物理プロレマ】【コロシの愉悦】【毒追加】【絶命剣】

 

不意打ちでこのデモニカ専用武器であるゾンビブレイカーを振り下ろす!

 

「いだだだだーーー!!」

 

「今日はあの二人のこともあるし、ジオストーンを惜しみなく使ってやるぜ!」

 

「はびゃー!?」

 

ゾンビブレイカーで動きを止めながら懐のインキュバスの弱点を突けるジオストーンを連発して速攻で潰す。

 

「ぐ、流石に耐性があるとはいえちょい巻き込まれダメージがキツイが二人は【バインドクロー】で捕まえ・・・あれ?」

 

壁から這い出ると目の前には二人が倒れてる!?え、何で?と、取り敢えずCOMPでアナライズと。

 

「【夜魔 ミカヤ・シェベル Lv2】、【夜魔 薙切えりな Lv2】・・・レベルひっく!?あいつらこんなのでイキってたのか!?」

 

やばい、流石にこんなレベルでマハジオストーンなんて受けたら普通に死ぬ。というか死んでる!早く【リカーム】せねば!

 

『待つのだ道長よ!』

 

「は、この声はハデスさん!」

 

俺が慌てて【リカーム】をしようとすると長い付き合いのギリシャ神話の神であるハデスさんから神託が届く。実は俺は冥界などの要素と相性がいいらしく割と覚醒して最初のころに加護を貰ったのだ。ついでに最近造魔型のデモニカにも加護を貰いレベル上限を上げて貰ったりしている。

 

『この娘達はお前と比べるとびっくりするほど霊能関係の才能がない!その為霊的耐性が低いお陰で大分悪魔化が進行してしまっている。幸いまだギリギリ人間の肉体を保っているがこのまま蘇生させてしまえば神話再現でレベルが上がり完全に悪魔になってしまうぞ!』

 

「マジでか!?そんじゃどうすればいいんすか!」

 

『案ずるな、早い話魂と肉体を人間側に引っ張ればいいのだ。意味は分かるな?』

 

人間側に引っ張る?何かそんなこと昔聞いたことがある様な・・・あ、なるほど!

 

「つまり悪魔召喚プログラムでの契約ですね!」

 

『その通りだ!悪魔を使役する契約は悪魔側、人間側双方の存在に影響を与える。人間が悪魔に寄るリスクもあるが逆に悪魔を人間側に寄らせることも出来るのだ!』

 

「よし、では契約を!・・・あの契約って死んでても出来るんですかね?」

 

『あ』

 

「ちょもおおおおおお!!!」

 

ハデスさんあんた冥界の神のくせにそこ忘れんなよ!!

 

『契約契約・・・私の加護で与えたゾンビ化と使役能力で疑似的に蘇生させてCOMPで契約させれば・・・あーしかしゾンビ化が解けんか!』

 

「やばいよやばいよ!どうすれば『お困りの様ね!』『は、その声は!?』あ、貴女は!」

 

「『ベルセポネ(さん)!?』」

 

『お久しぶりー道長。少し駄弁りたい所だけどちょっとそれどころじゃないから行き成り本題、貴方私の加護も受け入れなさい。そうすれば限定的ではあるけどザクロの権能が使えるはずよ』

 

「ザクロ?え、でもそれ神話的には割とデメリットある果実でしたよね?」

 

『それを利用するのよ。私の神話は知っているわね?私はザクロを口にしたことで一定の期間は冥府でしか生きられないようになってしまった。正確には冥府の食べ物ならどれでもいいのだけどそれでもザクロはその神話を発端に神秘を帯びた。存在出来る境界を定めるという神秘がね、なら私の加護と夫であるハデスの加護を併せ持った貴方が人間界で取れたザクロを与えれば』

 

「一種の神話再現で人間界に存在するものとして定められる!それから蘇生すれば人間界との繋がりの強さでギリギリ完全な悪魔にはならないと。死体に食わせる感じで大丈夫なのか?」

 

『大丈夫よ、元々冥府の食べ物であるザクロは死者の為のもの。死体に用いても問題はないわ』

 

『流石は我が妻見事な作戦!だが限定的な権能の行使故ザクロの権能の有効時間も短時間な筈だ。蘇生したら問答無用で即座に契約を行え!』

 

「な、何か色々こじつけが凄い気がするんですけど!」

 

『気にするな!悪魔関係は大体概念バトルの様なものだ!それよりも早く行動を起こさねば娘達がMAGに還元されてしまうぞ!』

 

「考えてる時間もないか、そんじゃまずは・・・ザクロ買って来ます!」

 

変身を解除して急いで近場のスーパーでザクロを二つ買い急いで戻る。

 

「よし戻ったぞ。早速加護を貰ったら食わせて『その前に一つ』はい?」

 

『貴方が今やろうとしていることには手痛い代償を貴方に求めるわ。しかも本来同じ学校で顔を知ってる程度の繋がりの相手に支払うには明らかに釣り合わないもの。それでもやるの?』

 

代償・・・パッとは思いつかないが彼女が言ったことだ何か確信があるのだろう。引くなら今ということなんだろうな。でも・・・

 

「昔俺は人生のどん底を味わいました。助けを求めて手を伸ばしても振り払われ、騙されて。でもそれでも救いがあると足掻いて足掻いて足掻き切りました。まぁ結局助けてくれる救いの手なんて現れてくれませんでしたが・・・多分程度が違うとはいえ彼女達の人生のどん底の一つは今なんです」

 

恋に敗れて荒れるなんて男女問わず良くあること。ただ運が悪かったのは俺の様に掴んだ手が碌でもなかったことだ。だが前世の俺とは違いまだ彼女達には希望が残っているし、何より同じ目にあった俺が救いの手を差し伸べられる立場にいる。

 

「ならその絶望を知るものとして彼女達に手を伸ばしたい。救いの手なんて言うつもりはないですけど・・・ここで何もしないのは過去の俺を否定することだ」

 

彼女達なりに足掻いた結果が今なのだ。だったら悪足掻きの先輩として後輩に手を伸ばしてやらなきゃな。

 

『なるほどね、いいわその覚悟をかいましょう!持っていきなさい私の加護を!』

 

「ペルセポネさんのお力お借りします!ザクロの二人の口にシュート!からの【リカーム】×2だ!!!」

 

「「う、ここは・・・」」

 

「目覚めたか二人共!」

 

「貴方は・・・確かメガネ君?」

 

「ああ、慎吾と一緒にいる所を何度か見たな」

 

うん、本名を知らなかったり何か慎吾の次いでみたいに覚えられてたが言動と記憶が元に戻ったからヨシ!

 

「今は俺のことはどうでもいい、まずはお前ら自分がどういう状況になっているか自覚はあるか!」

 

「えっと・・・確か告白を断られて」

 

「小柄な男に話しかけられて・・・っ!そうだその男、いや悪魔と私達は契約を!」

 

「そこまで思い出せたなら自分達が完全に悪魔化しかかっているのは分かるな?元には戻れ無くても人間でいたいなら契約しろ契約!!」

 

「ちょちょっと待ちなさいよ!契約っていったい」

 

『ザクロの効果が切れるまで後一分』

 

「ちょっとじゃないの!時間が無いからとっとと契約してくれお願いだからー!!!」

 

その後俺の剣幕に押されたのか契約を結ぶことはでき、如何にか二人の悪魔化は進行が停止した。そして掲示板でスライムニキにこの件を報告し、【トラポート】で博麗神社まで飛ばして貰い二人を医療班に預け体調をチェックして貰ったことでこの件は終了した。まぁその後の後始末の方が大変だったのだが

 

「医療班からの報告だと幸いインキュバスに悪魔化以外では何もされていないらしいわ。それにゾンビ仮面ニキとの契約が続いている限り悪魔化の進行は抑えられるそうよ・・・まぁ言いたいことが無い訳じゃないけど彼女達の様子からして私が対応するにしても間に合わなかったでしょうし、その場で出来る最善の策だったから今回はお説教は見逃してあげる」

 

「すみません脇巫女ネキ。デモニカの件といいご迷惑をお掛けして」

 

「デモニカの件は私よりも制作班が主体だから気にしなくていいわよ。で、こっからが本題なんだけど」

 

脇巫女ネキが入って来なさいと声を掛けるとミカヤと薙切が入って来る。

 

「あ、二人共無事で何よりだ」

 

「道長殿、仔細は医療班の皆さんから聞き及んでいる。今回の件巻き込んだことと悪魔化していたとはいえあの言動・・・どれだけ謝罪しても足りないだろう。その上私達を助ける為に尽力して下さった御恩は一生忘れぬ!」

 

「・・・借りを作ったわね。ありがとう」

 

ミカヤが頭を下げ薙切もぎこちないながらもお礼を言ってくれる。それを見て助けられた安堵と前世の俺とは違い助けられたことにほんの少しの嫉妬を抱く。全く俺自身で助けて置いて嫉妬もなにも無いだろうに。

 

「感謝しなさいよ?インキュバスがもっと悪質な場合や道長がCOMP持ちじゃなかったら助けられなかっただろうし」

 

実際インキュバスに性的な意味で犯されていればとっくに悪魔化が完了していただろうしな。巻き込まれたのが俺がCOMP買った帰り道であったこともあってちょっと前にずれていたら人間としては死んでいただろう。

 

「脇巫女ネキ本題本題」

 

「おっとこのまま説教しちゃう所だったわ。三人を返す前に今回の件でゾンビ仮面ニキこと道長が負った代償のことについて話さないとね」

 

「代償ですって?」

 

「そりゃそうよ。この業界では何事にも代償が付き物・・・特に今回は道長の人生に関わることだしね」

 

「「っ!?」」

 

俺の人生に関わることと聞いて二人共驚いたような、困惑するような視線を向ける。まぁ傍からみたら特に親交もないのにここまで重い代償を払うとか不審がられても仕方がない。

 

「まずは一つ目は・・・元々貰っていたハデスの加護に続いて伴侶であるペルセポネの加護も与えられてしまった。冥界の神二柱の加護を受けた以上まず間違いなくあなたが死んだらギリシャの冥界に魂は渡るわ。つまり貴方が死後両親と再会することは出来なくなったわ」

 

「あーやっぱりか」

 

今世の両親は既に死別している。息を引き取る時に約束したあの世でもう一度会うという約束は果たせなくなったが俺が転生者であることを信じてくれた両親なら分かってくれるだろう。

 

「二つ目は悪魔召喚プログラムの仕様の問題なのだけど・・・道長はこれから一生貴方達に召喚枠を二つ使うことになるわ。人間の身体はCOMPには格納できないからね。因みに二人は知らないから教えとくと一度に召喚出来るのは"3体"までで道長が着ていた鎧、造魔型のデモニカを使用するのにもう一枠使うわね」

 

「な、巫女殿・・・それはつまり!?」

 

「ええ、つまりデモニカの分を入れればもう彼は悪魔を召喚出来ない、実質仲魔を増やせないと言っているようなものね。しかもあなた達二人は霊能の才能が正直いって低いわ、当然道長の戦いにはついてはいけない・・・分かる?この終末が近づく現状で彼はサマナーとしての道を投げ売って自分とデモニカ、実質単身で戦い抜くことを決めたということよ?」

 

「「・・・」」

 

「それに召喚もただじゃない。まだ人間の肉体が残っているからマシとはいえ二人分の召喚に必要なMAGを常に払い続けることになる。道長のMAG量は平均(転生者基準)だからそれなりに重い出費のはずよ」

 

絶句する二人。後で知ったことだが今回対峙したレベル20ちょいのインキュバスが現在の野良悪魔の平均レベルより下だと医療班の説明で聞いていたらしくそれよりはるか格上の悪魔に対峙しても味方を呼び出せない俺の状況を理解して背筋に冷たいものが走ったのだそうだ。

 

「ほ、他に仲魔を呼ぶ手段とかはない・・・の?」

 

「管狐とか無いわけではないけど直ぐには無理ね。あれを扱うのに覚えなきゃならないこともあるし譲渡にも少なくない費用が掛かるわ」

 

「というかCOMPを買うのに貯金叩いたから最低限の消耗品を買い足す費用くらいしか手元にないしな!」

 

「この組織の仲間に応援を頼むのは無理なのか?」

 

「厳しいわね、今戦える人材は地方に回してるしそもそもその人達だって守るものがあるわ」

 

「まぁこれでも融通してもってる方なんだぜ?東京都の霊脈に引かれてレベル高めの悪魔が来るときがあるが帝都結界で東京都圏内に入れないからその周辺をうろうろしやがるからな。おかげでこの前レベル40台の悪魔と出くわして死に掛けたし、ギリギリ勝ったけど建設中のビル倒壊させちゃったから「貯金も貯まったからCOMP買わないとそろそろ死ぬんじゃないか?」と考えて買いに行ったわけだし・・・こうなっちゃったけど」

 

「40台!?」

 

「建設中のビル倒壊って全国ニュースになってたあれ!?」

 

「はは、如何せん俺達の街周辺には俺以外のネオベテル所属の霊能者は勿論他の霊能組織すらないので一人で頑張るしかないのだよ(白目)」

 

現状の状況の悪さを理解出来たのか思案するに険しい顔を作る。俺としては二人の診断中に考えていたこととほぼ一致していたので特に言う事はない。

 

「別に二人は日常に戻ってくれて構わないさ。あ、でも念のため定期的に様子は見に行かせてもらう「待ちなさい」・・・ん?」

 

「ここまでされてはい、さよならする程薄情じゃないわよ」

 

「無論だ。巫女殿、資質がないことは承知している。が、私達だけ知らんぷりなどする訳にはいかない・・・元々は私達の過ちどうにか出来ないだろうか?」

 

「日常への未練はないの?」

 

「無い!元より私が修める天瞳流に置いて受けた恩は必ず報いることは掟の一つだ。道長殿が、いや道長様が戦っているのなら共に行かねば天瞳流の名折れです」

 

「私はミカヤみたいにご先祖が武士とかじゃないから未練は捨てきれないでしょうけど・・・あの街はお爺様とお母様の街よ。悪魔なんかに荒らされてたまるもんですか!」

 

二人揃って啖呵を切る様子を見て何だかんだで霊能分野を除けば傑物の器だったのかもしれないな。特に薙切は俺達の街の有力者の娘だし。

 

「分かった。ならあなた達を短気覚醒コースにぶちこむわ。半分悪魔になっているから覚醒じゃなくて最大レベルの限界突破目的だけどね。致死率5割以上の試練じゃないと意味ないから覚悟しなさい!」

 

「望む所!」

 

「やってやるわ!」

 

「あ、あれか・・・いや俺が覚醒したのもそのコースだったけどキツイんだよな」

 

当時を懐かしむ様に苦笑をしていると脇巫女ネキがこちらにも顔を向ける・・・あれ何かいやな予感が

 

「あ、道長は私が直々に組んだ特訓をしてもらうから。強くなりたいんでしょう?」

 

「・・・え?」

 

今回の一番の代償ってこれじゃね?俺の心の呟きに聞いているはずのハデスさんとペルセポネさんの応答は無かった。

 

 

 

 

 

「参る!・・・ってスライムの数が多くないか!?キャ!」

 

「ちょっと待ってこれ回復とか追いつかないわよ!?わっぷ!」

 

「あ、二人共スライムの波に飲み込まれた!?ってあぶね!キンキさんあんた本気で殴ったでしょ今!え?【食いしばり】あるから大丈夫?いや普通にメッチャ痛いヘブウウウ!!」

 

『うわ、地獄かな?』

 

『頑張るのだ我が氏子よ!』

 

「俺まだ氏子じゃないフゲ!?」

 

・・・まぁこんな感じでしばらく揉まれましたとさ。




読了ありがとうございます!道長達のこれからは本編でも偶に出しますが短編でまた出るかは気分次第かな。因みに道長は一番最初にネオベテル産の造魔型デモニカを買ったという設定もあります。制作班としては初号機のデータを取って後の造魔型デモニカに生かそうと思ったら主人と同じ神の加護を受けてしまいレベルの上限上昇や「流石に原作通りのゾンビ化の毒はヤバいだろう」とオミットして普通の毒だけのつもりがハデスの加護のお陰でゾンビ化が出来る様になったとかの各種強化のイレギュラーが起こって「こんなデータいかせねぇよ!」とかなったりしました。本編で言ってたデモニカの件とはこのことです。なおベルセポネが気を効かせて造魔型の方にも加護を与えたのでまた色々強化されてます・・・まぁそれでもキンキにはぶっとばされるんですけどね!あ、因みに道長のコテハンは名無しのゾンビ仮面ライダーです。ゾンビ仮面ニキの由来ですね、あとこの話の時系列的は鬼ヶ島発見の少し前です。

ゾンビ化
基本道長は悪魔にしか使用しませんが一定時間の間対象を種族「屍鬼」の悪魔に変貌させ使役することができ時間経過後は身体が崩壊し、魂をハデス神の元に送る能力です。ゾンビ化出来るのは道長単独のレベル未満の存在に限定され素体ごとのレベルに応じて変貌出来る屍鬼のレベルと悪魔の種類が決定します。大体同レベルくらいの屍鬼に変えられると思ってください。因みにベルセポネの加護を得たことで生み出す屍鬼が強化されたり、使役可能時間が延長されました。


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縛りプレイを強いられたゾンビ転生者の遠征

外伝二話目です。本当は新キャラ単品で出す予定でしたが、諸事情あってゾンビ仮面ニキもで張る合作になりました。

※本家様との設定の擦り合わせを行った結果一部設定を変更致しました。
2023/02/09


「くく、とうとう来たぞCOMPの神アプデが!!」

 

「私達にとっては素直に喜べないけど・・・まぁ仕方ないわね」

 

「鍛錬をしているとはいえシンプルにレベルが離れ過ぎているからな」

 

 

【覚醒者 後藤道長 Lv30】【造魔 バッファ Lv22】

 

【夜魔 ミカヤ・シェベル Lv5】【夜魔 薙切えりな Lv5】

 

俺達三人は神社で修行を重ね効率よくレベルアップし、新たなスキルも手に入れることが出来た!・・・まぁそれでも5レベルなのだから二人の霊的才能の無さが露骨に出ているな。悪魔化した影響でまだレベル限界には至っていない様だけど。其の為戦闘では足を引っ張っていたのだがこれでこのアプデで少しはマシになるというもの!

 

「このアプデでCOMPに収納できる対象が悪魔人間やデビルシフターなどの悪魔要素のある人間までに拡大!つまりお前らも仕舞えるって訳だ!」

 

「COMPの中に入るのは少し怖いけどただでさえ平時は召喚させっぱなしだったからね。これで戦闘時に切り替えが出来るから相手に有利な仲魔に交代とかが出来るはずよ」

 

「えりなは家の力で道長を支援出来るけど私は"これ"しかないからな。幸い霊能はダメでも戦闘センスはあると言われたから出来れば戦闘で返したいんだが・・・」

 

「安心しろちゃん望めば戦闘に出してやるさ」

 

刀を掲げて戦闘に出ることを望んでいる。えりなの実家がこの街や埼玉県の有力者でこちらの事情やネオベテルを紹介した所喜んで協力してくれことになった。これは俺が「金が自己強化と消耗品とかにお金使って回復施設とか設置する余裕がないな」と家計簿とにらみ合いを続けているときにえりなが勇気を出してくれて事情を説明してくれたのだ。このときにミカヤもえりなが話すなら自分もと事情を両親に説明している。勿論二人はかなり怒られたが俺が取りなすことで如何にか収まってくれた訳だが・・・そんなこんなでえりなは今俺達がいる回復施設付きの拠点を用意してくれたので非常に助かっている。ミカヤは道場の娘なので売りは代々受け継がれている天瞳流を修めているので戦闘で活躍したいようだが霊能の才が無い為少し気にしているのだ。

 

「すまないな本来はこちらが力になってやる立場だが装備などでマッカの負担を掛けて・・・」

 

「人間的要素がまだあるから普通の霊能装備も装備出来る利点は生かさなくちゃだからな!えりなのご実家も流石に魔界の通貨は持ってないし!」

 

「流石にそれはね。取り敢えず私達を格納してみたら?」

 

「おっそうだな。すぐ戻すから一旦収納するぞー」

 

「「ああ(はいはい)」」

 

了解を得ると早速COMPを起動し、格納機能を使用して二人をCOMPの中に・・・

 

【ERROR】

 

「「「え?」」」

 

格納することが出来なかった。

 

「は?【ERROR】???」

 

「ま、まさかこれが噂に聞くアプデ後直ぐメンテ案件か!?」

 

「どこで聞いたそれ・・・ネオベテルコールセンターに連絡して見るか?」

 

三人とも疑問符を浮かべながら首を貸しげていると頭に声が響く。

 

【あーうん。多分これあのザクロのせいだね】

 

「は!?ベルセポネさん!どういうこと!?」

 

【ほらあのザクロで人間界に縛り付けたじゃない?しかも私の時と違って実とも全部食べさせて】

 

「だ、だけどあのザクロの効果はあの一時の有限なものでは!?」

 

【ええ、実際人間側の存在を寄らせる効果は一時的だったから私もそう思ってたけどどうやら人間界への縛りは残ってるみたいなのよね】

 

「・・・ということは」

 

【COMPに格納するのは・・・無理でしょうね。流石に機械の中は人間界とは言えないし】

 

「ウソーン!?」

 

「「えぇ・・・?」」

 

通常の異界や終末となりこの世が魔界になった場合は人間界の要素が混じり合ってるみたいだから影響はないとのことだが・・・どうやら俺の縛りプレイはまだまだ続くようです。

 

※二人は霊的才能がクソ雑魚過ぎて低レベルのうちは神託や加護を受けられない。道長が急に独り言言い始めた感じになってます。神様関係のことは知ってますので説明されれば納得するしじきに慣れますが。

 

 

 

 

 

「そんなこんなでこの依頼を受けた訳ですよ。二人に合わせてレベル上げしよう思うと俺が挙げられないので資金稼ぎが手っ取り早く強くなれるかなって、でも地方は初めてなんで危険性が少ない依頼を選んだんです」

 

「まぁ確かに今回は戦闘よりも調査主体だから報酬の割にやることは簡単だしなぁ・・・」

 

そのようなことがあった数日後、俺達はとある地方依頼を受けて香川県にまで遠征に出ている。目の前にいるのはギリメニキ。今回の依頼主になるが言った通り今回は初めての地方依頼なので単純な調査依頼を受けた感じだ。

 

『とはいえ用心するのに越したことはないでしょう。調査対象は【鬼ヶ島】ですからな』

 

瀬戸内海に現れた大型異界【鬼ヶ島】今回の調査はその島から十分に離れた海域からの外縁部の調査なのでまだ安全だがもしももあり得る。実際この調査には俺達三人、ギリメニキとその仲魔達、ハヤタさん、才人さん、ルイズさん、郡さんと意外とメンバーが揃っている・・・高校勇者部の人達はギリメニキ以外現地人なのにここまで身内の二人と霊能の才の差があるとは・・・才能とは残酷なものである。因みに普段の調査は大社の方々とデッキ―さんが対応しているようだが俺が今回依頼を受けた為交代で休んで貰っている。

 

「ただの調査なんだからもうちょっと肩の力を抜いても、あいた!?」

 

「アンタは油断し過ぎよ!もうちょっとしゃきっとしなさい!」

 

「だからって頭を叩くなよルイズ!」

 

「それはそうとわりぃな気を使わせて」

 

「気にしないでくれ、これぐらいお安い御用さ」

 

「え、無視?」

 

後方で起こっている夫婦漫才を慣れているかのようにスルーして前方で楽しくお喋りしている郡さんとえりなとミカヤを見て礼を言ってくれる。彼女は初めて会って挨拶したときに俺にびくついていたので「あ、男がダメな人かな?」と思ったので二人にそれとなく気にしてやるように言っていたのだが正解だったようだ。もう楽しくお喋り出来ている辺り本当霊能以外は優秀なんだけどなー。そんなことを考えながらも比較的空気も和気藹々としていて、船が出る港を目指していた・・・が。俺達はそこでここでメガテン世界であるということを改めて理解することとなる。

 

 

【港】

 

「くそ数が多い!何だこの鬼の数は!?」

 

「雑魚的でもレベルは一桁台から二桁までいるわね。知ってはいたけど取り巻きより弱い何て本当に腹立つ!!」

 

「更に鬼は【物理耐性】もあるから面倒だね」

 

俺達が港に近づくとエネミー・サーチに反応があり急いで向かうと無数の鬼が港を襲っていたのだ。慌てて助けに入ったが既に犠牲者が出てしまっている。

 

「邪魔すんな!鬼ども!」

 

『落ち着かれよ通行殿!ご友人の件は残念ですが怒りに身をませては!』

 

「・・・分かってる。分かってんだよ!」

 

ギリメニキも仲魔を召喚して応戦しているが普段を知らない俺でも彼が攻撃的になっているのが分かる。先ほど言っていた犠牲者だが実はその中に彼の学友がいたからだ。一人は同級生でクラスメイトの大野吉木、二人目は彼の兄で同じ学校の先輩で今年卒業するに当たり生徒会長の役職を副会長だった弟に託した大野津久志。彼らは姿が見えない悪魔の襲撃に混乱する中偶々港に見学に来ていた子供達を庇う形で鬼の攻撃を受けており、弟の方は残念ながら致命傷を受けて既に死亡していて兄の方も一刻も早く治療をしなければならない状況だった。

 

「才人さん達が一般人を避難させている間にブラックカード組で決めないとマズい。魔法組もMPが怪しくなってきてるし・・・パワーさん、そっちは大丈夫か!」

 

「流石に余裕はないがまだ折れる程ではない・・・だがなぜこれほどの鬼が鬼ヶ島から流れてくるのだ?」

 

特殊な個体で通常の個体よりも強いはずのパワーさんも余裕はない、そして彼女が疑問に思うことに少し心当たりはある。

 

「恐らくですがこれは神話再現ではないかと!そもそも何故桃太郎が鬼退治を行ったか思い出して下さい!」

 

「・・・まさか鬼の略奪の神話再現か!?」

 

桃太郎が鬼退治を行ったのは鬼達が人里で略奪行為を行ったことに起因する。恐らく【鬼ヶ島】という異界を人間側が認識してしまったことで神話再現が始まってしまったのだろう。日本最古の昔話は竹取物語だが、日本で最も知られている昔話は桃太郎であることは疑いようもない。なんせ特にそう言うのに興味のないものでも日本人ならその内容を諳んじられる程なのだ。更に神話再現はその神話の知名度の高さが強度に直結する。神話との関連性が深い地で神話再現が起こりやすいのはその為で実際俺がミカヤ達を蘇生を行ったように人為的に神話再現を起こす場合でも土地や知名度を考慮して行ったものの方が強度が高くなるのは実証されている。その為たかが一略奪部隊がここまで大規模なのだ・・・【鬼ヶ島】内部の鬼達やそのトップに立つ異界ボスの強さが伺い知れるってもんだろう。

 

「アノ男トオ供達ガイナイ人間ナド恐レル必要ハナイ!同胞達ヨ欲望ノママ突キ進メ!!」

 

【邪鬼 グレンデル Lv46】

 

『オオオオオオ!!!』

 

「更に活気づいたか・・・仕方ない余りやりたくないが仕込みを使わせてもらう!」

 

ここまで数十体を屠って来たがそのすべての個体にゾンビ化の毒は注入されている。俺はそのすべてに加護によって得た【屍鬼作成】のスキルを使用する。

 

「【冥界の神に贄達の魂を捧げる!その対価として一時の間その者達の肉体を屍の兵として我に侍らせ、我が敵を討て!!】」

 

『グ・・・・グオオオオオオオオ!!!!』

 

「【屍鬼作成(アンデット・クリエイト)】!さぁ派手に暴れて散って来い亡者共!!」

 

俺の周りに鬼の死体たちが変貌し、ゾンビからコープスなど多様な屍鬼に変貌していく。屍鬼のレベルは個体差が激しいものが多いが作成者である道長が冥界の二柱の神に加護を貰っている為彼らにも加護の下位互換である祝福を獲得している。その二柱の祝福のお陰で一番低位のゾンビでもレベルは十数レベルに達している。

 

「チ、厄介ダガ一部ヲ除ケバ数ガ多イダケダ!」

 

「おう、だからこうするんだよ・・・マッカが勿体ねーけどな!」

 

懐から手持ちの各種マハ系のストーンを全てばらまき屍鬼達に持たせる。これで準備は完了だ

 

「お、おいまさかお前!?」

 

「そのまさかですよ・・・亡者共、突撃ー!!!!」

 

一斉に屍鬼を突撃させる。その過程で互いに何体か倒れたが懐に入れたのならこっちのものだ!

 

「よし、ストーン発動!」

 

「エ?」

 

グレンデルが呆けているのは尻目に屍鬼達が抱えているストーンを起動し、グレンデルと多数の鬼達を巻き込んで自爆させる。炎が吹雪が暴風が雷が光が闇が荒れ狂い周りの取り巻きを壊滅させることは出来た。

 

「フゴオ!?」

 

「どうだこれが真のゾンビアタックよ!」

 

「ちょっとそれ採算が合わないから使わないって言ってた戦法じゃない!お財布的に大丈夫なんでしょうね!?」

 

「はは・・・ギリメニキ、後で戦利品の分け方の相談したいんだけどいいかな(震え声)?」

 

「お、おう」

 

「ま、まぁこれで後はあのグレンデルだけだ仕留めるとしよう」

 

今回使ったストーンの代金を考えると背筋が凍るがお陰で取り巻きの数は激減している。ミカヤの言う通りそうそうに仕留めてしまおう。

 

「クソ・・・ヤモヤ現代ノ人間ニシテヤラレルトハ。略奪ハ失敗ガコノ情報ダケデモ持チ帰ル!【トラフ」

 

『逃がさん!』

 

【トラフーリ】を行使して逃げようとするグレンデル。通常は覚えていないスキルのはずだが伊達に略奪部隊の隊長を務めているだけはある。ハヤタさんが阻止しようととびかかる。その後に気付き俺達も追うがギリギリハヤタさんでも間に合わずグレンデルの姿が掻き消えた!

 

 

 

 

 

・・・下半身が地面に埋まる形で

 

 

『エ(え)?』

 

下半身が埋まっているグレンデルは勿論俺達も唖然としている。魔法が失敗したのか?と思ったが地面の様子から物理的に引きずり込まれたように見えるが。

 

「よっしゃ!ナイス兄貴!!おら喰らえ!」

 

「ナニ!?」

 

更にグレンデルの上半身に頭から白いネットの様な物が掛かり拘束する。

 

「通行!今のうちに決めちまえ!!!」

 

「っ!!やるぞ!」

 

誰かが分からないが援護してくれたようだ。その声に背中を押させて俺達はグレンデルに止めを刺したが・・・援護をしてくれたのは誰だったんだろうか?

 

「ギリメニキ・・・今の援護はいったい?」

 

「分からねぇが・・・さっきの声はもしかして!」

 

「そのもしかしてだぜ!通行!」

 

通行の声に呼応するように崖から白い影が港に降り立つ。その者ははっきり言って悪魔と同様の異形であった。灰色がかった白い肌はまるで鎧のように見え不気味だが白い異形は陽気に通行に声を掛ける。

 

「いやーすげぇなお前!あんな強そうな鬼共を撃退するなんてな!俺達は隠れてチャンスを伺うくらいしか出来なかったのに」

 

「吉木なのか?・・・死んだはずじゃ」

 

「ああ、人間としてはな。でも兄貴が助けてくれたぜ!」

 

「津久志先輩が?・・・そういえば俺達って」

 

「そういうことだ通行君、私も弟と同じ様に蘇ったようだ。自力か人為的かは別だけどね」

 

彼のお兄さんに話の焦点が移ったのを待っていたかのように地面からニョキリと別の白い異形が姿を現した。地中に潜んでいたのだろうか?所々土やコンクリートの粉が身体に付着している。

 

「先輩・・・吉木・・・その姿は」

 

「聞いたいことはこちらもあるが状況的にこちらから話すしかないだろう。通行と一緒にいる君達も聞いてくれて構わない」

 

兄の方は自分達よりもこちらのことを優先してくれるようだ。ならばと通行と俺は同じ疑問が口に出た。

 

「「なんでツクシとオクラ???」」

 

「「あ、人外になったとかじゃなくて最初に聞くのはそれなんだ」」

 

彼らの姿は前世の仮面ライダー555という平成仮面ライダーシリーズの作品の怪人オルフェノクのツクシオルフェノク、オクラオルフェノクだったのだから。

 

「ってこの世界オルフェノクもいるんかい!?」

 

「そうなんだよ!私の戦う姿がこれとか最初軽くへこんだ・・・む、何故オルフェノクという種族の名を?まだ仮面ライダー555は放送されていないはず・・・」

 

「「え?」」

 

「ん?・・・あ、もしかして」

 

「「「君達(貴方)も転生者か!?」」」

 

とまぁそんな一幕もありつつこの依頼は終了した。犠牲者は少なくないが隠蔽は大社が行ってくれるだろう。それと今回の略奪の件とオルフェノクの存在のことを脇巫女ネキに伝えるとオルフェノク特有の寿命などもあり調べたいそうだ。あの兄妹もそれに応じてネオベテル傘下の病院で診断を受けることになったそうだ。それから数日鬼の襲撃も無く俺達は故郷の埼玉県に帰還したが掲示板で兄弟の診断結果が公開された。結論から言えば脇巫女ネキ曰くオルフェノクとは姿形などは似ているが別物らしい。原作設定の「オルフェノクの記号」の代わりに悪魔の因子が体内から発見されたそうだ。こう言われると普通の悪魔変身者か?と思うかも知れないが、この悪魔の因子は変種らしく覚醒したものの自身の戦う姿のイメージが変種、命名は「無色の悪魔の因子」に作用し、それに応じた異形に姿を変えるとのこと。この部分だけは原作のオルフェノクと同様に見えるがその際そのイメージに即した魔界の悪魔の本霊と接続して力を引き出す性質があるらしい。これらのことから一番気になる寿命云々は別物である以上気にしなくて良いらしい。そして兄が行った使徒再生は正確には魔界に接続した何らかの悪魔(兄の場合脇巫女ネキは豊穣神、自然の化身的な存在と繋がっていると考えているらしい)から齎された能力らしく植物の繁殖能力に関する能力で悪魔の因子を体内に送り込むのだそうだ。兄曰く弟の方は覚醒することで生き返った兄が才人さん達に未覚醒者の蘇生は難しいと聞いたときに最後の賭けで試した結果偶々成功したのだというが・・・もしかすると彼までオルフェノクっぽくなったのはそのせいなのかも知れない。とはいえこれで覚醒出来るかは非常に確率が低い。たしか原作の使徒再生の成功率は良くて5%程だったか?これより確率は上がるのか下がるのかは分からないが、少なくともそれ程確率は高くないだろう。そういう事情もあり転生者でもある兄には使徒再生擬きは控えるように、弟の方にも言い聞かせるように注意を行ったそうだ。兄の悪魔変身の姿がオルフェノク擬きになった理由だがイメージが具現化する過程で彼の原作知識が影響したのではないかとのこと。弟もそんな兄の悪魔の因子を分け与えられた為似たような感じになったのかね?ツクシとオクラは個人差かな?この感じだと弟の方も兄と同じ悪魔と繋がっているかも知れないな。

 

「ただ繋がった悪魔が悪質だったときのことを考えて脇巫女ネキに修行を付けてもらってるんだと・・・俺も通った道だけど大分キツイから大丈夫かな?」

 

「確か鬼ヶ島の攻略も手伝いたいって言ってるけど大丈夫なの?レベル的に」

 

「二人共お前らよりも才能あるからサポートならいけるだろう」

 

「そ、そうか・・・才能有無はやっぱり残酷だね」

 

指摘したえりなよりミカヤが凹んでしまったが脇巫女ネキが直々に鍛えているのだから多分大丈夫だろう。

 

「というか問題はこっちだぞ。お前らが雑魚過ぎて俺が参加出来るかかなり際どいんだからな?」

 

「「うっ!」」

 

『加護によるお手軽ブーストも出来んしな』

 

ハデスさんのツッコミは俺にしか聞こえないがそれでも溜息を吐いてしまう。あの兄弟に次会うのは鬼ヶ島攻略だろうが兄の方だけでは無く弟にも抜かされているような気がするのは気のせいではないのだろう。




読了ありがとうございます!いやー本当はギリメニキ達とオルフェノク擬き兄弟だけの話だったんですけど「黒札の最大のメリットはやっぱり造魔」でCOMPに悪魔要素のある人間を取り込める設定が開示されたので慌てて縛りの辻褄を合わせようとしたら話がとっちらかってしまった気がします。ごめんなさい。元々あの兄弟の話を潰してしまったのでまた別の機会に彼らを中心とした話を外伝で一話くらい書こうかと考えています。

大野津久志(オオオノツクシ)
大野吉木(オオノヨシキ)の兄にしてギリメニキの学校の元生徒会長。容姿としては眼鏡を掛け知的で厳しそうな印象を受けるが以外にもユーモラスなどには寛容など意外と自由人。イメージ的にヒロアカのナイトアイをもっと柔らかくした感じで、弟がカリスマと元気で皆を引っ張るなら知性と実績の積み重ねで皆を導くタイプ。前世では地質学を専攻する学生だったので今世こそその道の研究者になるつもりで高校までは日本にいるがそれからは海外の大学進学を予定していたが、この世界の裏を知り故郷を守る為地元の高校、大学に進むことを決める(専攻は変わらない)。最初はツクシという姿に不満を持っていたがネオベテル内では一部造魔しか対応出来ていなかった地中戦に対応することが出来る初の異能者となっていて、地質学調査にも有用と意外と使えるな?と最近は前向きに考えている。とはいえガチャの様な感じで繋がりを持った悪魔が悪質だったときのことを考えて、弟と共に修行も欠かさない。ハンドルネームは名無しのツクシで愛称はツクシニキ、弟には黒札の権利の一つである親族や身内限定の金札(一部権限制限)を渡している。厳密にはオルフェノクではないのだが掲示板では二人のことをオルフェノク兄弟と言われている。


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元天使と神殺しの邂逅

外伝ですが折紙と狩谷の出会いのお話です。本編に挟みにくいお話も外伝で書いて行きたいですね。あとこの話を書くにあたって本編を見直したら「あれ?折紙中三だけど二歳下だったら年齢的にもう高校生じゃないか!?」ということが発覚したので三歳差になりました。本編で歳に言及した所も修正済みです。


あれは今から十一年前・・・私がまだ"鳶一折紙/■■■■■"だったころ、あの事件が起こった六年前より以前の話。今年で十八歳、十五歳になるカリヤと私が六歳、四歳だったときの出会いの記憶・・・そして私の罪の始まり。

 

 

「・・・」

 

私は人間であって人間ではない。それは物心が付いたとき、とはいっても通常の人間がニ~三歳の間なのに対して私は赤子の頃首が座ったときだから生後三ヶ月程のときから私は私の全てを把握していた。当時は自分の力を隠すことに頭を悩ませていた。結界などを駆使しても強すぎる天使の力を隠すのは無理があり、それなりの格の天使なら目視すれば見破られる程度のものだった。この問題は後々真名封印で解決することになるのだが、その時はなるべく人目を引く行動は避けるように平凡で消極的な生活をしていた。そのせいで友達と言える人間は居らず両親と一緒にいる間以外では一人で過ごしていたが・・・特にそれに不満がある訳では無かった。単純に友達の温かさを知らなかったということもあるが、私の周りにいることで一般人を危険に晒す可能性も考えてのことだ。とはいえ

 

「く、クリスマスイブに幼女が真顔で一人公園のブランコに乗っている・・・え、ナニコレ?怖いんだけど」

 

「公園で遊ぶのは普通」

 

「そりゃそうだが表情と状況で台無しだよ!」

 

ただ偶に普通の人間と感性がズレていることがあって目立ってしまう事はあったけど。私は表情の変化が少ないので初対面であったこともあってかカリヤはコミュニケーションを取るのに苦労していたが如何にか自己紹介を終えるとブランコを後ろから押してくれるようになった。

 

「折紙はまだ四歳なんだろ?クリスマスイブに一人で公園にいるって何かあったのか?」

 

「特に何も。両親が共働きで今日は帰れないから一人でいるだけ、明日には帰ると言っていたけど。所で貴方も一人の様だけど」

 

「あ、折紙もか。俺の両親も共働きでさ、明日には何とか帰るらしいから家族ぐるみで付き合いのある友人とのクリパも今日じゃなくて明日に延期されてな・・・まぁでも今日はイブだしちょっと豪華な夕食にしようと思って家に足りない食材を買い出しにいく途中だったんだよ」

 

「そう、カリヤも一人ということ?」

 

「だな」

 

聖夜に一人っきりだった子供が巡り合うという設定だけ見たらドラマの導入の様にも見える偶然だが、私は特にカリヤに関心がある訳では無かったのだが・・・。

 

「折紙はこのまま今日は一人で過ごすのか?」

 

「その予定」

 

「ふむ・・・なら今日一日街で俺と遊ばないか?一人よりも二人の方が楽しいって!」

 

「それは・・・」

 

そう言われても私には一人でいることと誰かといることの差異を私は理解していない。両親に対しても彼らがメシア教では無いとはいえ一神教徒なので他の天使達から逃亡中の私は一定の距離を保ち常に警戒しているのでそんなことを思う事は無かった。しかし息が合えば一人では不可能なことも可能に出来るというのは知っているので判断に迷う所だ。見た感じ一神教に染まっている様子は無さそうだ・・・そして顔を合わせたときの態度からして聖夜に子供が一人でいるのは非常識で目立ってしまう。ならカリヤと一緒にいる方が自然に見えるはず。危険に関しても今日一日だけ過ごすだけなら問題はないだろう。

 

「いや、分かった一緒に居る」

 

「よし!だったら早速街に繰り出すと!お小遣いは余りないけど!!」

 

カリヤが先ほど前押していたブランコを止めると手を伸ばしてくる。私はいつの間にか冷え切っていた手で握った・・・カリヤの手は反対にとても暖かかな手で私の手を暖めてくれた。

 

「やっぱクリスマスイブだから屋台とかも結構出ているな。少し冷やかしてみるか」

 

「買わないの?」

 

「今日の夕食分の金は両親から貰ってるけどこれ使ったら夕食が無くなるし、お小遣いもそんなある訳じゃないし。でもこういう時の店は傍から見ても楽しいからな!」

 

カリヤに連れられて街を巡る。やはりというか先日この街に越して来た私よりもカリヤの方がこの街を熟知している様で迷う様子もなく街を進む。時折知り合いに声を掛けられ挨拶を返す所を見るに社交性もあるようだ。そして私達が子供で今日が聖夜ということも関係してか、カリヤの知り合いがやっている店や屋台などからクリスマスプレゼントと称して物を貰うこともあった。飴玉からちょっとした玩具まで色々貰ってしまい困惑していると「こういうのが子供の特権だから気にすんな・・・もしそれでも気になるなら大人になったら彼らに恩を返すか、子供に同じことをしてやればいいのさ」というアドバイスを貰った。考慮するとしよう。

 

「そう言えば折紙が好きなものや嫌いなものを教えてくれよ。それを考慮して回るから」

 

「・・・特に意識したことはない」

 

「えぇ・・・擦れてる4歳児だな。俺は食べ物だったらラーメンやカレー、娯楽だったらアニメや漫画、ラノベとかも好きなんだけど」

 

「なるほど、嫌いなものは?」

 

「ストーカー(真顔)」

 

「それは嫌いなものではなくただの犯罪だと思う」

 

街を回る間私達の会話は以外にも途切れることは無かった。私というよりカリヤがいっぱい話しかけてくれるから話題が尽きないことが大きいがこちらとしても流石に無視するのは気が引けるので律儀に応えているせいでもある。

 

「出会ったのが昼過ぎなこともあってもう日が沈んでるな。子供二人で出歩けるのもあとちょっと出しな・・・よしちょっと店前で待っててくれ」

 

「?分かった」

 

スーパー前でしばらく待っていると買い物袋を複数持った狩谷が出て来た。重そうだがこのまま帰る訳ではないらしい。

 

「見せたい物があってな。はいこれココア」

 

「ありがとう」

 

缶のココアを受け取り大通りに出る。丁度ベンチが空いていたので座るとカリヤも缶を取り出す

 

「ブラックコーヒー?」

 

「ん、ああ・・・長い間相棒みたいな感じで飲んでるからこういう時でもつい選んじゃうんだよな」

 

缶コヒーを見て首を傾げるとカリヤが苦笑交じりに応えてくれたが味は考慮しないにしても7歳でカフェイン常飲って大丈夫なの?

 

「うーんやっぱこれよ。まぁいよいよってなったらエナドリ飲んでたけど」

 

「・・・美味しいの?」

 

「飲んで見るか?飲み掛けだから新しいの買ってきてもいいけど」

 

「気にしないから大丈夫。一口飲むだけだから」

 

「分かったよ、ほれ」

 

缶コーヒーを渡され独特の臭いを嗅ぎながら一口分飲んだ・・・うん

 

「・・・苦い」

 

「はは、そりゃそうさ!ココアで口直ししな」

 

「うん」

 

流石に吐くほどではないが結構な苦さに顔顰める。言われた通りココアを飲んで苦みを甘みで洗い流すと口の中には仄かな甘味が残る・・・それはそうと貰ってばかりは少し気が咎める。

 

「これ」

 

「お、ココア。なるほど一口飲めと」

 

「うん、お返し」

 

「ではお言葉に甘えまして・・・うん、甘い!」

 

甘いものいける口なのか受け取ると躊躇する様子もなく一口飲んでカリヤはその甘さに笑みを浮かべる。そうしているとカリヤが腕時計を確認し始めた。

 

「そろそろだな」

 

「そろそろ?」

 

「5、4、3、2、1、0!」

 

カリヤはこちらの疑問には答えずカウントを行い0になると街路樹や一部の建物が光輝く。

 

「これは・・・」

 

「凄いだろ?REDとはまだいかないが、それでもクリスマスのイルミネーションやライトアップは良いもんだな」

 

「・・・」

 

元天使の私が言うのもあれだが光り輝くその空間は幻想的な雰囲気が醸し出されていた。嘗て見たかの神の光とは違い、人工的な光とはいえ目の前の光景は人間達の賑わいも合わせて私の目を奪うものだった。他の天使はこの光景を見たことがあるのだろうか?

 

「折紙?気に入らなかったか?」

 

「いや、少し見とれていただけ」

 

素直に気持ちを伝えるとカリヤが一瞬驚いた顔をするとすぐに笑みを作る。

 

「初めて笑ってくれたな、良い顔してる」

 

「笑っていたの・・・?覚えはないけどこう?」

 

「うわ意識した笑顔めっちゃぎこちないな!?」

 

笑顔は要練習のようだ。いい笑顔と言ってカリヤを引かせるほどなのだから相当不味いのだろう目立たない為にも普通に笑える様になった方がいい。

 

「練習する」

 

「そうしとけ・・・時間も時間だし良ければ俺の家で飯食っていかないか?勿論帰りは送るからさ」

 

「いいの?」

 

「正直年齢一桁でクリぼっちはキツいからな・・・友人達も明日にならないと予定が空かないらしいし」

 

「・・・それなら両親が夕食用に作ってくれた料理が冷蔵庫にあるから持って行く」

 

「お、いいね!なら折紙の家によって行くか!運ぶの手伝うぜ」

 

夕食の話が決まるとまずは私の家に向かう為に手に持った飲み物を二人揃って飲み切り向かう。

 

「「苦(甘)い!?」」

 

缶を交換していたのを忘れていた。

 

 

 

「え、ここなの?」

 

「そうだけど?」

 

「いやその・・・隣の家が俺の家なんだけど」

 

「え?」

 

「最近引っ越して来たの折紙の家だったんだな」

 

まさか隣の家がカリヤの家だと思わなかった。両親が挨拶に行っていたけど私は留守番していたから会う事は無かったけど以外に世間は狭いのかしれない。

 

「よし、折紙は持って来た料理をチンしたりその料理や皿をテーブルに並べてくれ」

 

「了解」

 

その後カリヤの家に料理を持って行くと早速カリヤが調理を始める。元々家にある食材は下処理を済ませていたのか手際よく包丁やフライパンを操る。調理中は暇になるかと思っていたが食材が調理されて料理になる様子を見るだけでも興味深い。私も料理が出来た方がいいのだろうか?

 

「悪い悪い待たせたな」

 

「問題ない。調理というのも興味深かった」

 

「うん?ご両親も料理してるんじゃないか?珍しくもないと思うが」

 

「そういえばそう」

 

「まぁいいかテーブルに並べるから座っててくれ!」

 

確かに不思議だ。両親とは違い三歳差とは同じ子供が調理している様子が珍しかったのか、あるいはカリヤ自身に興味を持ったのかは分からない。でもそんな疑問は美味しそうな匂いを放つ料理達を前にすれば消えてしまう程度のものだ。

 

「取り敢えず定番は抑えたぞ。ローストチキン、ポテトサラダ、ミートパスタ、コーンスープ、グラタンなどなど・・・ちょっと作り過ぎた感はあるが。飲み物はどうする?」

 

「紅茶で」

 

「了解、俺はいつもは牛乳だが今夜はコーラにでもするかな」

 

それぞれの飲み物を注ぐとカリヤが席に座りコップを掲げ乾杯の音頭を取る。

 

「そんじゃまぁいつもは頂きますが今夜はイブということで・・・メリークリマス!」

 

「メリークリスマス」

 

乾杯すると手近な料理から手を付けていく。両親が作ってくれていた料理はいつも通り美味いがそれ以上にカリヤの料理が印象的だった。特に肉料理や香辛料を使った料理が得意なのか肉の下処理や焼き方、香辛料の使い方(質問したら教えてくれた)が一般の食卓とちょっとレベルが違うような気がする。

 

「ケーキは簡単なパウンドケーキですまないな。明日友人家に持って行こうと焼いた奴だがまぁ少しくらいなら食っても大丈夫だろう。あ、良ければ明日のクリパにも来るか?」

 

「その友人って?」

 

「近所に住んでる同い年の子だよ。確か家が一神教を信仰してるとも言ってたかな?宗派までは分からんけど」

 

「そう。パウンドケーキは頂くけど・・・明日は両親と外食の予定」

 

「ああ、なるほど。ならドタキャンはダメだよな」

 

嘘は言ってない。実際そういう予定はあるが一番の理由は今は一神教関係者に近づきたくないのが理由はカリヤはまだセーフだが、件の友人というよりその親でもしもがあるからだ。

 

「だったら今渡しておこうか」

 

「渡す?」

 

「これこれメリークリスマス!」

 

それは綺麗にラッピングされリボンが付いた小箱だった。先ほどの言葉からクリスマスプレゼントだと思われる。

 

「いつの間に・・・あのスーパーで?」

 

「そうそう。まぁスーパーだから別に高価なもんじゃないよ、小遣いも足りなかっただろうしなそれだと」

 

「ごめん、気を使わせた」

 

「いいって!いいいって!両親から貰った金はあくまで夕食用だしプレゼントは自分の金で買うもんだからな。それにこういう時はごめんじゃなくて、ありがとうでいいのよ」

 

「・・・分かった。ありがとうカリヤ」

 

「おう!それより早く開けて見ろよ?」

 

カリヤの言葉を受け早速丁寧にラッピングを外して硬めのプラスチックの小箱を開ける。中身は同じ形だがさまざまな色が綺麗に並べられた数多くのヘアピンというアクセサリーが入っていた。

 

「俺が買える範囲で普段から使えるものを考えたらこれかなって。まぁ金あってもピンポイントのアクセ以外のファッションアイテム、例えば服とか送っても女性のセンスと合わなかっただろうけどな」

 

「これは・・・同時に幾つ使えばいいの?」

 

「困り方が独特だな折紙は。二、三個でいいんじゃないか?」

 

「なるほど、参考にする」

 

世界一有名なクリマスソングを歌って柔らかなパウンドケーキを食べているとふととある考えが浮かぶ。

 

「私もプレゼントを贈る必要がある?」

 

「え・・・流石に四歳に金払わせるのは・・・あ、そうだ」

 

プレゼントを贈る話をしたら何故か顔を引き攣らせたが何か思いついたのか私に手を伸ばす。

 

「プレゼントの代わりにさ、俺の新しい友人になってくれよ!」

 

「友人?」

 

「ああ、折角のお隣さんだしな。また二人で遊びに行ったりしようぜ!」

 

笑顔を向けて来るカリヤを見ながら私は悩んでいた。もし私の正体が露見した場合カリヤに危害が及ぶ可能が高いなら距離を置いた方がいい、しかしプレゼントの対価として提示された以上これは一種の契約だ。元天使の私に取っては軽んじることは出来ない。

 

「・・・ダメか?」

 

「そう、いうわけじゃないけど」

 

「これでさよならは寂しんだよ。まぁお隣さんだしさよならとかはないかも知れんが」

 

「お隣さん・・・そうかどの道そうなったとき巻き込まれる可能性が高いなら・・・」

 

「ん?どうした?」

 

「何でもない・・・分かった。なら今日から私達は友人ということで」

 

「ああ!」

 

私はカリヤの手を取り握手を交わす。どの道お隣さんな以上バレた時に被害を被る可能性は元から高いのだ。もしもの時は私が守ればいいとこの時私は契約故に仕方ないと受け入れていた・・・もっとも既にカリヤへの執着は芽生えていたのかもしれないけど。

 

「カリヤ、コンゴトモヨロシク」

 

「こちらこそよろしく頼む!」

 

このことが私の今世で初めての契約(友人)となった。この後結局話が弾みクリマス特番などをテレビで見たら二人共ソファで眠ってしまい朝起きて互いの両親にバレないように慌てて片付けを行ったのは蛇足というものだろう。この通り悪魔とか異能とかの激動があったわけではない。日常からちょっとズレてはいたがそれでも平穏な聖夜に私達は出会った。でもこの契約が私の罪の始まりなのだと今では思える。そして今現在もその罪を重ねている・・・それがカリヤに"認識出来ない、出来なくなっている"ことだとしても。

 

 

 

「とまぁそんな馴れ初めよ。因みに今折紙がしてる三本のヘアピンがプレゼントした奴の一部だな」

 

「その日の気分とラッキーカラーとかで毎日変えている」

 

私達の馴れ初めを語り終える。教会でイリナとカリヤが昔話をしていたときにイリナから聞かれたのだがゼノヴィア達も喰いついて来たのでカリヤが語り手、私が補足を入れる形で話したので私が故意に隠した私の一部心情以外のことは正確に伝えられた。ただ何故か周りが静かだ。

 

「ど、どうした?別に日常の延長戦だったと思うんだが」

 

「「いや、知り合って初日でデートしてるのは全然日常でも普通でもないからね!?」」

 

「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!私達はシスコンブラコン義兄妹の馴れ初めを聞こうとしたら何故か好感度が上がるイベントや期間を挟まずに色々過程を飛ばして知り合って初日からお泊りデートをしていたことを聞かされた!な・・・何を言っているのかわからねーと思うが私も何をされたのかわからなかった・・・頭がどうにかなりそうだった・・・ラノベだとかエロゲだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…」

 

「知り合ってから当たり前の様にデートからお泊りに話が流れて言ったわね・・・これがW天然の恐ろしさなのね」

 

「「???」」

 

何故か教会組全員からビビられた。ニアに至ってはJOJOネタに例えられてしまった・・・私とカリヤは揃って疑問符を浮かべながらそういった反応をする理由が分からず頭を傾げるのだった。

 

 

私は罪を犯し続けてもカリヤと共にいる道を選んだ。これが正しい道は分からない、多分九分九厘間違っているのだろう。でもそれでもいい。この道は私が初めて自身で決めて道であり、自身の全てを賭けた道なのだから。この話を正しく記憶し、認識していながら他の記憶との致命的な矛盾(・・・・・・・)があることに気が付かないカリヤに罪悪感と怯えを抱えながら進む道だったのだとしても。




読了ありがとうございます!・・・俺は聖夜の二人の邂逅を書いていたのにいつの間にかお泊りデート回を書いていた何を言って(以下略)・・・筆が乗るって怖いですね。でも自分的には二人は意識してイチャイチャするよりも自然な形で当たり前の様にイチャイチャしているイメージなので設定通りと言えば設定通りなんですよね。不思議だなぁ。因みにイリナが狩谷と再開するまで折紙と面識がなかったのは折紙が一神教全体を避けていたので接触を避けていたからだったりします。ヘアピンは原作でもしていたのでネタの一つとして使いました。この作品の折紙は三本のヘアピンの色の組み合わせは毎日違う設定です。


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仲魔会議

今回の外伝の時系列は狩谷がアルケミスト社でカナリアを鍛えたり、十香のパレスに潜ったりしている間となります。後試験的にAAを導入してみました。とはいえ台詞の度に入れると邪魔になるので要所要所に挿絵みたいに入れる感じになると思います。まぁ自分はAAを作る技術はないので見つけたものを張るしか出来ませんのでAAが無い、あると知らないキャラには付くことが無いのはご容赦ください。


「それでは今週の仲魔会議を始めるのじゃ・・・毎度思うが何故妾が進行役をするのじゃ、妾はカーリーじゃぞ?加入順にしてもアズールだと思うのじゃが!」

 

「第一回の時は私はまだ喋れなかったから仕方ないでしょう?ロスヴァイセ、バフォメットは新人だったから自動的に当時スパルトイだった貴女が進行役になるのは必然よ」

 

 

「ぐぬぬ・・・!」

 

「まぁまぁ、落ち着てカーリーちゃん。それだけ頼りにされてるってことなんだから」

 

 

「はい、カーリーさんはマスターからの信頼も厚いですから」

 

ある日の昼下がりの神木家、主達が留守にしているが、狩谷の仲魔達が地下のネオベテル施設の一室を使い、恒例になっている週一の会議を行っている。そして進行役は仲魔随一の常識人であるカーリーが行うことが暗黙の了解になっている。

 

「それよりまずは各自の報告からであろう?いつも通りカーリーから話せ」

 

「・・・分かったのじゃ。といっても妾がしていることなどウサキチネキの妹君のことでアドバイスをしているだけじゃぞ?」

 

「妹さんと同じカーリー繋がりで、狩谷君のPCのメールとかでウサキチネキとやり取りしてるんだっけ?」

 

「うむ、ウサキチネキの妹君と同じで最初からカーリーとして目覚めて居たわけでは無い故、苦労した所やその克服、心を落ち着かせる方法などを教えたりしておるの。偶に電話を借りて話すこともあるのじゃが」

 

「なるほど、妹さんとは直接なやり取りはしていないのですか?同じ立場の方なら自身の気持ちを打ち明けやすいのでは?」

 

「・・・意味がないとは言わんが今はちと早いの。そもそも妾は正真正面の悪魔じゃぞ?そんな奴をまだ傷つけた幼馴染と向き合えず閉じこもっておる童に会わせた所で、拒絶されるか怯えられるのが落ちじゃ。前者に関してはそのまま戦闘になってもおかしくはないのじゃ、碌に事ならんじゃろうて」

 

「でしょうね。彼女に取って貴女はトラウマの具現化のようなものでしょうし」

 

「それに悪魔、人間というだけではなく妾らには割と結構異なっている所が多いのじゃ」

 

狩谷の仲魔であるカーリーは悪魔変化する前はスパルトイという戦士である。戦士として戦いを求める本能はあれどそれを制御出来なければただの狂人の類だ。その為その制御法も心得ているし、スパルトイの原典では元々英雄に仕える従者として描かれている為主への忠誠心が高くなりやすい。実際狩谷が一騎打ちで勝利して、仲魔に加えた時から高い忠誠心を持ち合わせていた。そして悪魔変化では悪魔の根本のパーソナリティは変化前の悪魔のものが大部分引き継がれる。悪魔合体に関しても同様なのだが、複数の悪魔が合わさることが理由なのか悪魔変化程では無かったりする。そういう事情から今のカーリーは『戦士の矜持を持ち、血と殺戮も好むが主への忠誠心と精神力の高さでそれを制御している常識人』という夫とされるシヴァが見たら『誰これ?』と言うこと間違いなしの意味の分からない状態になっているのだ。因みにカーリーはシヴァについてどう思ってるかと言うと、「ご先祖や同族の親類と結婚した人」程度の認識で特に恋慕している様子は無いとのこと。

 

「それにあちらは鬼女としてのカーリーじゃ、恐らく地母神としてのカーリーである妾とは凶暴性なども色々異なっているはずじゃ」

 

「確か大黒天女の側面が出ているから種族が地母神なのだったか・・・聞いて見れば確かに根本から色々異なっているのだな」

 

「だから今のところは妾に出来るのは体験から色々アドバイスすることまでじゃ、それ以降はせめて妹君が件の幼馴染と会えるようになるくらい、心の折り合いを付けられるのを待たねばならぬよ」

 

「貴女も一応戦闘外でも働いていたのね「煩いわ!」ふふ、褒めてるのよ?さて、次は私ね。とはいえ私の戦闘外の役割は知っての通り、造魔として他の皆よりも契約のラインが"強い"こともあってマスターの護衛が主ね」

 

「・・・護衛と言いながら傍から見たらイチャイチャしているようにしか見えんのじゃが?」

 

「それで結婚話をして来ようとする人達を牽制出来るのだからいいんじゃないかしら?それても嫉妬しているのかしら?知ってるかしら、マスターの中じゃ一番は折紙みたいだけど二番は私みたいよ?」

 

 

「あ゛あ゛!?何を言っておるのじゃ色々企んどる分際で!」

 

「ちょっとまってまってカーリーちゃん、進行役の役目を放り投げて剣を構えないで!」

 

「アズールさんも挑発して遊ばないでください!」

 

「相変わらずそりが合わんなお主達は」

 

常識人であるカーリーだがアズールとは頻繁に諍いを起こしている。元々スパルトイの頃からセトの分霊として正常起動を始めたアズールには自分達に隠し事があると警戒していたが、カーリーとなってからは理性でコントロールしているとはいえ普段でも多少は好戦的になっているのか、それとも性別が変わったからか狩谷を使った挑発には過敏に反応するようになってしまっている。それをロスヴァイセ、白織が止めるのはもはや恒例である。

 

「しかしそんなお主らでも主の妹君との間には入らないのか?」

 

「「いや、あれはもはや家族愛や兄妹愛を超越した何かじゃろ(でしょう)」」

 

「「「うーん、確かに」」」

 

そんな二人であってもあまりにも自然に無自覚でイチャイチャしている狩谷と折紙の仲には入り込めないのだが。

 

「それでは次は私ですね。最近はルフェイさんやライネスさん、ルヴィアさんと共に魔法や魔術の研究を行っています。幾つか新しい魔法・魔術の開発にも成功しました内容は手元の資料に纏めてありますよ」

 

「ふむふむ、大半は既存の術式の改良型だが・・・貴金属を別の貴金属に変える魔術?え、普通に凄くないかこれは?劣化賢者の石みたいなものであろう?」

 

「残念ながらそれほど便利なものでは無く・・・貴金属は元素の観点から見ると金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウムの8種類ですがこの魔術の術者はこれらの原子構造の正確な把握が必須です。それに変換には一度の行使で半日掛かりますし、一度に変換する量にも限りがあります。分かりやすく金で表すと金地金(インゴット)2kgまでですね。それに資料にあるように変換効率も悪いです」

 

「えー何々、効率は変える貴金属で若干変わるけど大体変換する貴金属の重さ×100倍の重さ、量が必要と・・・ということは」

 

「はい、10gの金を用意しようとしたら銀でも1kg要りますね。因みにインゴット換算の日本円だと金10gが73,000円~75,000円、銀1kgが時価にもよりますが150,000以上ですね」

 

「普通に大損で草。あ、でも金とかは残りの埋蔵量が少ないから損しても作る価値はあるのかな?」

 

「はは・・・実はこれらの結果はあくまで術式を開発した私達レベルの理解度と魔術の腕がある高レベルの異能者or悪魔が専用の機材を用いて漸くと言う所でして・・・私は勿論ライネスさん達も普通に高位異能者兼凄腕の魔術師なんですよね」

 

「ということはこれ、一般の魔術師共が行使しても」

 

「えーとその行使時間や変換上限、生産効率とかは・・・はい(目逸らし)」

 

「「「「あ(察し)」」」」

 

因みにルフェイはレベル40台に到達していて、ライネス、ルヴィアもとっくにレベル30を超えている。加えてルフェイはかのアーサー王の一族の血を引いており、ライネスとルヴィアも時計塔のロードの家系や魔術師界では有名な名家のご令嬢だったりと家柄も良く才能に溢れている・・・黒札と現地人にも言えることだが才能の差というのは残酷なものである。

 

「ま、まぁ研究についてはこんな所ですね。あとマスターがアルケミスト社を傘下に置いたのでそちらとも連携していく次第です。他に報告することは・・・先日マスターと初めてのデートを「はい、次はバフォメットじゃな」「うむ、我は」ちょっと!?」

 

「煩いのじゃ!あんなの誰がデートと認めるか!あれではラノベの鈍感主人公じゃなくても気づかんわ!」

 

「で、でも急に高級店でデートは私には荷が重いですし、何より重い女と思われてしまうので庶民的にしたのは正解だと思いますよ!」

 

「だからと言って"100円ショップ"は庶民的過ぎるわ愚か者!しかも服装も普段の外出用と一緒で、肝心の買い物の内容が切れた生活消耗品の購入って完全に日常の一コマではないか!だから貴様は売れ残っておるのだ!」

 

「ひ、酷い!?売れ残りって本当のこと言わないで下さい!」

 

「いや、ロスヴァイセちゃんには悪いけどあれは無いわ。元根暗オタクボッチ女子高生の私でも引くわよ?」

 

「え」

 

「私もデートのことを知っていたからマスターが帰って来たら揶揄おうとしていたのだけど、内容を聞いて哀れすぎてやめたわ。前世含めて生まれて初めてのデートがあれとか流石に可哀そうよ」

 

「・・・ぐふ!?」

 

限界を迎え血を吐いて机に突っ伏すロスヴァイセ、幸い死んではいない様だ。そして当然だが狩谷はこの出来事をデートとは思っていない。

 

「こ奴は放置して次じゃ次。何かあるのかバフォメットよ」

 

「無論あるとも!しかし今はまだ準備中故言う事ではないので口を噤むとしよう・・・!」

 

「おい」

 

「そういえば貴方フォルマや素材をマスターに強請っていたわね?お得意の邪法かしら?」

 

 

「まてまて!?事情も聞かずにそんな怖い顔をするなカーリー、アズール!寧ろ邪法を使ってないからこそこれほどのフォルマと素材が必要なのだ!そもそも契約上主の許可無しに使えぬであろうが!」

 

「そういえばそうだったわね」

 

「全く・・・この二人は普段はそこまで仲良くないくせに戦闘とこういう時だけは連係してきおって」

 

「喧嘩する程って奴ですよ。それで最後は私ですかね?」

 

「そうじゃな。戦闘以外で白織が一番の出世頭じゃの」

 

「ありがとう。でもカーリーちゃんの【大黒天女の加護】のお陰でもあるよ」

 

カーリーの商売繁盛効果のあるスキルのバックアップがあるとはいえ、ここまでの稼ぎを叩き出しているのは白織の生成するスパイダーシルクが良質な物だからだ。そして制作班の人達からアイテム製造のイロハを習っていたりもするので、スパイダーシルクの更なる質の向上と防具を自力制作出来る様になっている。勿論納品前にネオベテルで個人情報はキッチリ焼却して貰っている。

 

「まぁ自分で防具を作れると言ってもまだまだだけどね。最近になってスパイダーシルクに【火炎耐性】だけじゃなくて【毒耐性】【緊縛耐性】も生成時に付けられるようになったけど、この前狩谷さんが私の糸で制作班に頼んで作って貰ってヤタガラスの新人さんに送った和服型の防具みたいにその三つの耐性を無効にアップグレード!とかまだ出来ないから」

 

 

「それでも十分だと・・・思いますよ」

 

「あ、ロスヴァイセさん復活したんですね」

 

「ええ、こう言ってはあれですが恋愛でバカにされるのはなれていますので。次こそは・・・デパートデートを決行します!」

 

「「「「それだけ息巻いてデート先がデパートか・・・」」」」

 

 

ロスヴァイセ以外の仲魔が落胆していると共通の主である狩谷から契約のラインにより新たな異界攻略の情報が伝わる。

 

「む、新しい仕事の様じゃな」

 

「また【必殺の霊的国防兵器】絡み・・・やっぱり縁があるみたいね」

 

「普通こんなに頻繁に格上と戦うことってあるんですかね」

 

「普通は無さそうよな。自殺しに行っているような行為であろうし」

 

「でも大概格上との戦いが続く時って、それぞれの背景がバラバラだから格上と戦う機会を逃すとその分のレベルアップとかの強化無しで、更に強い格上とやり合うことになるから戦った方が結果的に生存率が高まるんだよね」

 

「まるでどこぞのRPGゲームじゃな。取り敢えずここを片付けて主が帰って来るまで待機じゃ、契約のラインからでは情報が大雑把にしか伝わってこんからな」

 

「私達以外も連れて行くのかしら?」

 

「手数を考えるとそうだろうな。とは言え異界が異界だから数はそれ程ではないはずだ」

 

「ここの防衛はどうしますか?」

 

「居残りメンバーでいいんじゃない?確かトキちゃんはまだ依頼中だけどジャンヌさんは部屋でゴロゴロしてたし」

 

「ならばよし!まぁまずは片付けしてからじゃがな」

 

「「「「了解!」」」」

 

そのまま部屋の片付けを始める狩谷の仲魔達。主人と仲魔だけでは無く仲魔同士との信頼関係もサマナー業には重要なのだ。




読了ありがとうございました!本編で言い合いなどをしていましたが、基本皆仲は良かったりします。苦手とかはあるかもだけど。

カーリー
元ネタ:『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』のカーリー
仲魔内で随一の常識人。破壊衝動も忠義と精神性で押さえ込んでいる稀有な個体(苛烈な戦闘時は別)。セトの分霊として確立したアズールとは反りが合わなくなったが、戦闘時には古参ツートップとしての連携の精度はかなり高い。戦闘スタイルは六本の腕にそれぞれ装備した武器で戦う近接アタッカーだが、武器や盾を用いて壁役も熟せる。基本戦闘専門だが、大黒天女としての側面の力で神木家に商売繁盛や幸運などの加護を齎している。原作とは違い常識人な彼女には狩谷の信頼も厚いが造魔の特性も含めるとアズールの方が信頼度が上。そのことには思う所があるらしい。カーリーとなった悪魔変化では仏教勢力の介入があったが理由はいまだ不明。元々が骨の身体だった為肉欲などは肉体を持った現在で漸く少し感じる様になって来た所らしく、そちら本命の暴走の心配も無い。

アズルニール
元ネタ:『最弱無敗の神装機竜』のクルルシファー・エインフォルク
狩谷に取って初めての仲魔であり造魔。試作機故に本霊であるセトの介入を受けたが、元々芽生え始めていた自我が消えている訳ではなくセトの分霊としての意識と融合することで逆に自我と意識を確立した。そう言った経緯もあって原作の彼女に少量悪女成分を足した感じになっている。制作時に【■■■■】というスキルが発現したが、解放条件をまだ満たしていないのか現在も使用できない。このスキルに関係しているのか不穏な行動が目立つが、造魔としての主人第一の思考回路は変わっていない為狩谷を思っての行動と思われる。戦闘スタイルは魔弾を生成しての遠距離から狙撃で、成長過程で折紙が広範囲攻撃を得意としていたので単体攻撃専門の遠距離アタッカーに落ち着ていて、見切り系のスキルを多く習得し、新たに固有スキル【財禍の叡智】を習得していて短時間且つ限定的だが未来予測を可能になっており、緊急時の危険感知にも応用できる。ただし、あくまで見切りと同様に今ある情報から導き出した予測でしかない為相手が咄嗟に予想外の行動を取ったくらいなら兎も角全くデータの無い予想外の要因に介入された場合は予測は外れてしまう(具体例:某太陽の子のアレ)。色々と揶揄うことが多く、狩谷が女性の仲魔を増やしても余裕があり特に気にしない・・・しかしその仲魔が新しい造魔だった場合どんな性別、型であっても焦るし、嫉妬するくらいには束縛が強い。因みに改名の理由は「クルルは兎も角ルシファーとも呼べるのは拙いだろ」とのこと。

ロスヴァイセ
元ネタ:『ハイスクールD×D』のロスヴァイセ
狩谷が悪魔召喚ガチャで契約したヴァルキリーの変種。自分の同世代は守りのルーンに秀でていたが、ロスヴァイセ自身はそれよりも攻撃のルーンへの適正が飛びぬけていた。仕事ぶりは有能なデキるOLと言った感じで優秀なのだが、恋愛経験は皆無で一度も男をものに出来ていない。原作よりも恋愛方面はポンコツになっているのは創造主のオーディンがメガテン基準のオーディンな為スケベ爺ではない為そう言った知識があまり無い模様。戦闘スタイルは【原初のルーン】による複数属性魔法の同時展開&攻撃。文字通り数で押しつぶす戦法で燃費も重めだが弱点も突きやすく、また要所要所では【北欧魔術】などの魔術も使用する。剣と駿馬により、接近戦も行えるが物理主体の通常バルキリーの同レベル相手だと若干劣る。
本編で出た魔術は黒札が使えばもうちょっと効率は良くなるが、まだまだ術式自体が不完全なのと科学と魔術両方の専門分野の深い知識がいる為一部の【俺ら】(制作班や研究班など)以外は使用するのは現実的ではない。ヴァルキリー達には情報同期や相互連絡機能により情報のやり取りが行われるが、悪魔召喚された個体は契約期間中はオーディンの制御下から外れるせいかこれらの機能は凍結されている。最初は様付けで狩谷を呼んでいたが、狩谷から「様はやめて!」とお願いされたので現在のマスター呼びになったそうな。

バフォメット
メガテンの姿まんまのシリーズ常連悪魔。呪殺系の魔法攻撃が得意でレベルを上げていくことでデバフを付加するスキルも習得している。基本この悪魔は邪法などを日夜行っているイメージはあるがそれらは狩谷の許可制になっており、精神的にも狩谷の方に寄っている。戦闘スタイルや広範囲呪殺やデバフによる攪乱が主。【召し寄せ】も使えるが基本狩谷はフルパーティで戦う為使う機会が中々ない。最近は何やら怪しい儀式をしているが折紙曰く「邪法の気配は無い」とのこと。その代わり儀式の為にフォルマ、素材を融通して貰っている。一見普通に見えるが件の儀式でとんでもない事を起こす予定。

白織
元ネタ:『蜘蛛ですが、なにか?』の白織
一番の新人にして狩谷と同じ転生者の【俺ら】のアルケニー(AAはアラクネのものが少ないので進化前のも使用)。実は前世で面識はあるのだが出会った状況が状況故転生して姿や声も違っている現状互いにそのことに気が付ていない。元根暗オタクボッチ女子高生だったが【恐山】でのサバイバルが強制的にそれを克服された・・・オタクは変わらないけど。戦闘スタイルは【子蜘蛛】時代とあまり変わらず糸や毒などによるデバフからの奇襲攻撃。図体がデカい為周面からの殴り合いも出来なくはないが、戦闘スタイルには合っていない為あまりやりたがらない。攻撃スキルは近距離遠距離の物理攻撃スキル以外にも魔法も多少は使える。しかし白織の本領は彼女が生成するシルバーシルクで、その布や防具の売買の利益は中野支部の財源の一部になっている。元ネタは色々ヤバイ背景があるのだが彼女曰く『そんな凄い背景はない!』と自称であるが証言している。趣味はゲームで良く狩谷や折紙、その他の仲魔達と良くプレイしている。狩谷とは今の所後輩の女友達感覚で接しているが、恩義も感じているので使役下にいることに不満は無い。


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悪運の強い転生者と不運すぎる相棒の場合 前編

外伝ですが今回は前後編で、戦闘は後編になります。後編の更新は狩谷達の本編更新の後になります。


いつもの日課である報告書代わりの日記を今日も記す。今日も平穏な日常が続いている。この時代での仕事である探偵業も大半が浮気調査や迷子のペットの捜索で平和なものだ・・・まぁそのペットがカメレオンや子供ライオン、ナイルワニなど明らかに一般的なペットではない動物達なのがこの横浜の面白い所なのだけど。だがこんな街でも誘拐事件や殺害事件などは割と起こっている。大抵は警察が対処するのだがそこからこぼれ出た事件がこの探偵事務所に持ち込まれる。勿論経緯が経緯なので碌でもない案件だったりするのだけどね。とはいえそんな事件を解決するのがこの時代に派遣された私・・・偉大なる種族であるイス人の今の役割だ。

 

 

 

 

 

「いや、『私』の前にポンコツ付けとけよ」

 

『少し黙っててくれる?』

 

俺の腕を動かして日記を書いているイス人にツッコミを入れると黙れと言われた。やれやれこちとら第二の人生だからとあいつが希望した探偵業で飯食ってやってるっていうのにな。自分の身体を他人が動かしていることにもすっかり慣れてしまっているが傍から見たらヤバいと思うし5年前イス人を宿した当初、17歳の高校二年生だった俺も同じことを思っただろうな。

 

【五年前】

 

『・・・きな・・・い・・・起きなさい!綾辻智也(あやつじともや)!』

 

「うお!?びっくりした!まだ朝には早いぜ・・・あれ?」

 

気持ち良く眠っていた所を叩き起こされ、起こしたであろう母さんに文句を言おうとして・・・自分が今まで聞いたことが無い声だと、というより声では無く思念が自分に流れ込んでいることに気付く。

 

『漸く起きたわね。まぁ現実での貴方は寝ているけど』

 

「いや、まずアンタ誰だよ。光球っぽい見た目なんだけど?」

 

『私は精神生命体だから固有の姿というものはないわ。光球に見えるのは貴方に私に対する具体的なイメージがないからでしょうね』

 

「なるほど・・・で、その精神生命体様はどうして俺に接触を?」

 

『一から話すのも時間が掛かるから読み取った貴方の記憶と知識を元に簡単説明してあげる』

 

「え、記憶を勝手に見たのか!?」

 

『ええ、中々興味深かったわよ。転生者さん?』

 

あの野郎精神生命体だからって勝手に取り憑いて記憶を勝手に閲覧しやがって!こちとら前世では黒歴史は結構あるんだぞ!お前は何処のどいつだ!

 

『クトゥルフ神話ではイスの偉大なる種族、或いはイス人と行った方が早いかしら?』

 

「あ、すみません。色々謝るんで帰ってくれません?」

 

イス人、はるか未来過去から精神交換でこの時代を訪れる時間の征服者。クトゥルフ神話やそこから作られたクトゥルフ神話trpgというゲームでも度々登場する種族だ。神話生物の一種にも数えられるがまだ人間と温厚に交流できる存在と言えるだろう・・・厄介事には変わりないがな!

 

『嫌よ、私にも任務があるんだから』

 

「というか精神交換なのに何で交換されてないんだよ。精神交換の装置が故障でもしたのか?」

 

『私達の科学力は知っているでしょう?理論は勿論機材に置いても瑕疵があるなんてありえないわ』

 

「それはそうだけど、それじゃなんで?」

 

『そ、それは・・・その・・・精神交換用の装置を起動する時に』

 

「時に?」

 

『床が清掃したばっかりだったのかつい滑って・・・貴方が想像するイス人の姿をしていたから転びはしなかったけどつい目の前の装置にがしゃんと手をついて・・・関係ないボタンを押しまくってしまっただけよ!!』

 

「まさかの人的ミス!こいつイス人の癖にポンコツじゃねーか!?」

 

【現在】

 

とまぁこんな感じでイス人と一心同体生活を送ることになった。それから早五年偶に身体を貸したりするのはいいとして、高校生探偵みたいなフィクション染みた活動を強制させられた。何で今世でも黒歴史が増えてるんです?・・・まぁ肉体の主導権はこちらにあるので最終的には言葉で丸め込まれたり、対価(主にイス人の知識)を貰っているので表立って抗議が出来ないのが不満だけど。幸いなのは彼女の知識からここがクトゥルフ神話世界では無く、メガテン世界だということが分かったことくらいだろうか?・・・どちらも大差ない気がする。

え、任務を優先するなら精神を離脱するのが最善なんじゃないかって?"彼女"曰く俺に入った直後に俺自身が覚醒していたようで覚醒時に手に入れたスキルが【精神干渉無効】というものらしい。これは通常の【精神無効】とは違い属性やカテゴリーの精神では無く、相手のスキルなどの属性によってではなく俺の精神に直接干渉すると判断されたものを無効化するとのこと。そして身体の貸し出しは俺が許可を出している形なのでこちらから干渉していることになる為無効化はされない、彼女が俺に思念で語り掛けることが出来るのも同様だ(一番最初に思念のやり取りが出来たのは俺が無意識に彼女の存在に気付いて興味を持っていたかららしい)。俺から身体を無理やり奪おうとしたり、俺の精神と合わさっている彼女の精神を離脱させようとすると合わさっているのを分断する過程が必要な為俺の精神に直接干渉することになってしまう。更に【精神干渉無効】は対象となるスキル、状態異常などが多いので個別にオンオフをするのが難しくこのパッシブスキルそのものをオンオフすることしか出来ないのだが。

 

『それはやめて置いた方がいいわね。貴方と私じゃレベル差があり過ぎるわ・・・通常そんな相手と一心同体なんてやったら例え私にその気が無くても人格の変容や浸蝕が起こってしまうものよ?貴方が何とも無いのはそのパッシブスキルのお陰ね』

 

「マジか」

 

【覚醒者 綾辻智也 Lv5(覚醒当時)】

 

【時の征服者 イス人 Lv60(智也覚醒当時)】

 

ということもあり彼女は俺から精神を離脱出来ないでいるのだが、任務のこともあり当座は気にしていないように見える。しかしイス人とはいえ精神が入ったまま肉体が死んでしまえば普通に死んでしまうのでいずれ俺が寿命を迎えて死ぬ前に如何にか方法を見つけてやらないとな。

 

 

『日記は今日の分はこれで終わりね・・・どうしたの急に昔の事なんて思い出して』

 

「毎度思うけど毎度思考を覗かないで貰います?幾ら俺がお前と思念の伝達の調整が伝達そのもののオンオフしか出来ないからってそっちが覗こうと思わなければ覗けないだろ!?俺は覗けないのに!いっそオフにしてやろうか!」

 

『そう?でも前に私が失神するクラスの痛みを肩代わりして一時的に意識を失った時「お前がいないと安心出来ない」とか言っていた様な気がするのだけど?』

 

「う・・・」

 

さっきまで俺の身体を使っていた彼女が俺のすぐ横に立っている。まぁ俺にしか見えない言わば思念体に近く、物理的な干渉は双方行えず本体の精神は俺の中に変わらずある。あれだ遊戯王の某ファラオ、某ヤンデレモンスター、某遊馬!の人のような感じの状態と思ってくれ、この世界じゃ高レベルの霊視やアナライズ系のスキルの使い手とかだと見える所か俺の中に本体がいることが分かってしまうらしいのだけど。そして先ほどから何故俺がイス人を彼女と呼称しているのは彼女の思念体がとある女性を模しているからだ。というのも

 

『私の思念体の姿はこっちが貴方のアニメやゲーム知識から私に合いそうなキャラクターのものにするわ。そうすればこの意識の世界でも私の本体もその姿に見えるはずよ』

 

「えぇ・・・いいのかそれ?」

 

『嫌なら貴方のイス人のイメージのままでもいいわよ?元はその身体に入っていた訳だし』

 

「真夜中に見たらちびりそうだからそれだけはやめてくれ」

 

という感じで決まったのが・・・

 

 

ダンガンロンパの霧切響子というキャラクターだ。

 

『中々に頭が切れる子のようね。貴方も近い歳の方がいいでしょう?』

 

「いや、お前のポンコツさから同じ声優さんの某アイドル大統領の方がイメージは近『何ですって!?』ほら」

 

その後互いに論争が巻き起こったが彼女は意地でも意見を曲げなかったのでこちらが折れることになる。そしてそのキャラクターを模して事で口調や性格などもそちらに少し寄っている・・・偶に見せるポンコツさ以外は。一応呼び名はキャラクターの名前を使ってやっているが。

 

 

『ポンコツな所なんてないわ。全て事故よ智也君』

 

「それはそれでヤバくないか?」

 

元のキャラクターと違い、俺だけ名前呼びなのは文字通り互いの距離感がゼロ距離だから遠慮するのもバカバカしいと思っているのだろう。

 

『そんなことを思い出している暇があるなら明日以降のことを考えなさい』

 

「・・・だよな」

 

俺の目の前には商店街のくじ引きで当たった豪華客船での海外クルージングのチケットがある。

 

『智也君、貴方こういうのに当たる時って大抵碌でもない事件に巻き込まれる時よね?悪霊や怪奇関係の事件だったこともあったり』

 

「大概は響子が作ってくれた【対悪魔レーダー】で躱せるけどこういう時に限ってレーダーが役に立たない事態になるんだよな。そして何より」

 

『智也君の前世の死因だったかしら?確か沈没事故だったはずだけど』

 

「正確には沈没した後水中で藻掻いている時にホオジロザメに貪り喰われたが正解だけどな。ふふ、会社のデカいプロジェクトが成功してボーナスが出たから『一度豪華客船乗って見たかったんだよな!』とか言って勢いで豪華客船ツアーに参加したらこれだもんな。笑っちゃうよ本当(白目)」

 

ホオジロザメさんも喰うなら一撃で喰って欲しかった。生きたまま喰われ続ける感覚とか経験したく無かったなー。そう言えば前世の俺はどういう扱いになったんだろうか。普通に行方不明扱いかな?時間による死亡認定かな?喰い残しの身体の一部でも見つかってちゃんと葬式出来たのかな?いずれにしても家族や会社、関係各所の方々に大変ご迷惑をお掛けした死に様だったのは間違いだろう。

 

『でもこの手のものを無視すると・・・』

 

「後々になって詰むんだよな」

 

実際に詰んだことはないもののある事件がきっかけで、手に入れた物品やコネなんかが別の事件で重要なカギになるなんてことが良く起こっている。つまり事件から逃げれば別の事件で如何にもならない事が起こってしまうかも知れないのだ。依頼だけでは無く巻き込まれる形で事件に会う場合もあるので普通に死にかねない。これらは俺のパラメータの中で運が一番伸びているからなのだろうか?事件には巻き込まれている以上幸運とかではなく悪運だと思うのだけど。

 

『少し気は進まないけど行くしか無いわね』

 

「そうだなってお前そう言ってさっき女性物の水着のカタログを買わせたじゃないか!絶対楽しみにしてるだろ!」

 

『船上には大きなプールもあるのでしょう?潮風もあって普段着のままだと様にならないわ。所詮思念体だから服は見れば着替えらるからお金は掛からないはずよ』

 

 

「ただでさえ『探偵は流行に敏感で無ければならない』とか良く分からない理由で毎週女性雑誌を買わされるこっちの身にもなれって!遠方の人は兎も角横浜周辺の人達には「腕は確かだけど変態でもある変人探偵」とか思われてんだぞ!後絶対趣味でもあるだろ!」

 

『男性よりも女性の方が流行に敏感よ。ファッションや化粧などは特にね、今の流行を抑えて置けば犯人や被害者が女性だった時の推理の材料としても使えるでしょ?』

 

「く、理論武装だけは立派だな!流石はイス人でも研究職に就いてただけは「趣味でもあるけど」あるんかい!」

 

『というか私は同胞達の中でもエリートの部類に入るのよ?そんな私と頭を使う勝負をするなんてそもそも智也君には無謀な事なのだから頭を使う事は私に全て任せればいいのよ』

 

「真のエリートなら精神交換に失敗して、そもそもこうなっていないと思うんですけど」

 

『黙りなさい』

 

「というか水着なんて来ても俺以外見えないだろお前」

 

『さっきも言ったけど様にならない、要は気分の問題よ。それに五感は同調しているから潮の香りや水の感触も感じられるわ』

 

俺と響子は五感と霊視を同調させて共有している。それらの基準は当然俺のものになるので俺が感知出来ないものは感じ取れないが俺にはない知識と観察眼で別の見方をすることは可能だ。感性とかは原作の霧切響子に似て来たが五感の一つである味覚とかは俺と同じ好みになっている。まぁその日の気分にも依るのでどんな飯を作るか、外食はどうするかとかで意見が分かれることはある。でも好みが合わずどちらかが不味いと感じる料理を食べる羽目に成らずに済んでいるのは言いことだ。因みにこの五感と霊視の同調も俺の方から遮断することは出来き、そうすると響子は外界の情報を取得出来なくなるし俺の身体を借りることも出来なくなる。

 

『智也君も今世でも社会人になって久しく立つのだし、いい加減前世のトラウマを克服する時よ。いつまでもうだうだ言わずにね』

 

「それは・・・そうだな」

 

船と鮫にトラウマがある俺だがこのメガテンの世界に置いては弱点は減らしておいた方が良いだろう。依頼や遭遇する事件も段々と悪魔絡みの事件が増えて来ているなら尚のことだ。

 

「よし、もしかしたら何も起こらない・・・というのは今までのジンクスからして多分無理だけど。手早く解決してバカンスを楽しむぞ!」

 

『その意気よ。私もバカンスは楽しみたいし、多少厚い推理物のシナリオ程度直ぐ解決してあげるわ』

 

 

「頼りにしてるぜ名探偵(相棒)!」

 

良く揉めるが頼りになる相棒に鼓舞されて準備万端整えて豪華客船に乗り込むのだった!

 

 

 

 

 

「我らはダゴン秘密教団。諸君らは我らが神の贄として選ばれた!このことを光栄に思いその命と魂を我が神に捧げるが良い!!」

 

 

「『シナリオはシナリオでもCoCシナリオじゃねーか(じゃない)!?』」

 

尚航海初日でインスマスの奴らにテロられた。




読了ありがとうございます!インスマス達との攻防は次回の後編になります。短編なんでボス戦以外は軽く流しますけどね。

【覚醒者 綾辻智也 Lv15】
22歳高卒の探偵で警察にもある程度顔が効く。とはいえ推理とかは相棒の担当なので役割としてはフィジカル面や被害者のメンタルケアなどを担当している(響子は人間の心を推理することは出来るが癒すことは出来ない為)。戦闘は近距離を得意にしているが遠距離もいけなくはないという感じ。装備はイス人の科学力を用いているので現地人の名家よりは数段良い装備だが、智也個人で用意出来る設備や素材程度ではスペックが下がってしまうので本編時点ではネオベテルの方が装備の質は上。因みに本編のハイジャックテロ後ネオベテルの存在を知り合流する予定で、本編の時間軸では【鬼ヶ島】発見直後辺り。悪魔関係の事件にも度々関わっているがイス人の機器で自分が関わった証拠を消している為当事者以外関わったことすら知られていないのだが、なぜか悪魔関係の依頼が度々舞い込む・・・実は依頼人を悟られずに彼らの探偵事務所に誘導する赤いスーツの車椅子の男性が居たりするが二人はその事を知らない。

【時の征服者 霧切響子 Lv65】
この時代に訪れたポンコツ不運エリートイス人。一心同体になったことで、メガテンやクトゥルフ神話のメタ知識を獲得している。推理やノリに乗っている時は姿の元にした霧切響子そのものだが、予想外の事やポンコツを発揮する時は某アイドル大統領的なキャラになる。ステータスの名前は霧切響子の姿を取った時に名前が変更されている。探偵稼業の頭脳担当。探偵としての名声は相方に渡っているが推理そのものを楽しんでいるので特に頓着していない。研究者でもあったのでイス人の科学力の武装や機器も製造可能。その腕や研究、知識は同じレベルの設備や素材を使うのであればネオベテルの制作班のトップ層とタメ張れるレベルでありイス人であるので、こと精神、時間の分野に置いてはトップ層と比べてもぶっちぎりでトップを取れるレベル。戦闘はイス人は一部例外を除いて魔術などに興味を示さないので製造した装備を用いた遠距離戦が主体となる。彼女と智也の戦い方は同じ身体を共有していることを利用しているので二人独特な戦法を取る。詳しくは後編にて。

Q.何でネオベテルのことを知らないの?
A.「霊能組織と繋がりがある訳でもないし、見た目だけとはいえ同年代の女性がずっと一緒にいてその視線を受けながらネットサーフィンが出来ると思っているのか?R18の画像すら一心同体となった後一回も見てもいないのに!」

精神交換
今作ではメガテン世界なので精神に関する状態異常の無効のスキルがあれば精神交換を防げ、耐性でも精神交換を行うイス人のレベルと交換対象のレベル次第で防ぐことは可能で原作同様精神の構造が違い過ぎる相手との交換も不可能。まぁ精神交換の装置自体でそう言ったスキル持ちや精神構造の者はそもそも精神交換の候補から外す機能があるので問題にはならない。その他多彩なサポート機能を搭載している装置ではあるが・・・機械であるが故に人的ミスはどうしようもないのだ。


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悪運の強い転生者と不運すぎる相棒の場合 後編

予告した通り今回の外伝は前回の後編です。大丈夫かなこれで・・・


航海初日で早速テロられた豪華客船内部、銃で武装した信者と深きものことディープワン達にが次々と乗員乗客達を制圧していく。銃を携行した警備員達やVIPのボディーガードなども居たが拳銃とライフルでは勝負に成らずそもそも悪魔であるディープワン達がいる時点で非覚醒者がどうこう出来る訳も無く捕らえられるしかないのだから。そんでもって俺達だが・・・

 

「最善手とは言え俺達だけ貨物室で一旦隠れるのはやっぱ罪悪感があるな」

 

『あそこで暴れた所で乗員乗客達を人質に取られたら何も出来ないからこれでいいの』

 

ディープワンを引き攣れた奴が行った犯行声明は夕食のパーティーで行なわれたのだが幸い自分は遅めに部屋を出た為廊下の船内放送でそれを聞くことが出来た。もし時間通りに来ていたらパーティー会場は包囲されていただろうし、詰んでいただろうな。

 

「ところでお前の悪魔センサーがあいつらに通じてなかったのはなんでだ?」

 

『恐らくだけど距離の問題よ。乗員乗客の中に"まだ"人間のままのダゴン教団関係者が混じっていたのでしょうね。ディープワン達は悪魔センサーの範囲外の海底にいて船内の中にいる仲間の合図で海上まで上がって来てこの客船を乗り込んだという所かしら』

 

 

「なるほど、まぁ俺達の対策じゃなくて日本の霊能組織に気取られないようにするためだろうけどな・・・よし組み立て完了!」

 

イス人の技術で作られた俺達の武装だがこの現代だと一見武器に見えないモノでもこの豪華客船に乗船するときなどに行われる荷物検査では怪し過ぎるので、パーツごとに分解し怪しまれない部品に見せかけ簡単に組み立てられるようになっている。

 

今回持って来た武装は俺が最も使い慣れている武装から選んでいる。腰のホルスターにイス人お馴染みの「電撃銃」、左手にはガントレット型補助ユニット「AMG-78」、そして隠蔽を必要としない靴とコートは蹴りの威力を上昇させる「重圧発生機付きブーツ」と「対刃対弾対霊用コート」。これらは純粋な科学力で作り出されているようので悪魔達には通じない様に思えるが、イス人が"科学の理論で神秘に干渉する"という理論を知っているからだという。これを理解出来れば理論上では人間でも同じことが出来るらしいのだが・・・正直論理を聞いたどころか俺の身体を使って武装を作製する様子を見ても何をやってるのかすら理解出来なかったので精神交換の技術のようにイス人の他の技術である電撃銃とはまた別格の技術であることは明白だろう。実際響子も理論は理解できるが、それを一から見つけ出した者はイス人の中でも化け物クラスの頭脳の持ち主だったとのこと・・・イス人のダヴィンチとかをイメージすればそのヤバさも分かるというものだろう。

 

「さて、一番困るのは人質を取られることだが」

 

『心配はいらないわ。教団側としても乗員乗客は生贄の為に傷つけたくないでしょうし、生贄を捧げるにしてもしかるべき場所があるはずよ』

 

「・・・そういえば確かにまだ船が動いているな。教団はどこに向かわせているのやら」

 

『その場所に着くまでは危害は加えないはず。捕まった方が安全なんて皮肉だけど・・・気になるなら生贄の見張りに気付かれないうちに頭を叩きなさい』

 

「了解、拘禁されている場所は霊視で人の魂が多く集まってる場所が幾つかあるから分かりやすいな。この船自体対霊能の細工とかがないから良く見える」

 

頭は恐らく一番霊視で見た中で魂の反応が強い操舵室にいる奴だろう・・・全く俺達は探偵なんだけどな。

 

「だが、楽しい旅行に文字通り水差してくれた礼はしないとな?」

 

 

【操舵室】

 

「定時連絡が来ていないと?」

 

「はい、いくつかのグループから報告が途絶えています」

 

船内を制圧して30分後、生贄(予定)の人間達を家族、友人などとは分散させて幾つかの部屋に隔離すると操舵室でアメリカの教団が押さえている港に進路を取っていた。一段落かと思った所での報告に苦虫を噛み潰したような顔をする男こそがダゴン教団の中でも司祭に当たる今回の事件のリーダーだ。

 

「一にはグループに最低でも二体のディープワンを配置しています。それを加味して複数のグループから連絡が途絶えたという事は・・・乗員乗客の中に覚醒者がいたことになります。今すぐ他のグループを」

 

カルト集団とはいえ一歩間違えれば日本の霊能組織の一斉攻撃を喰らいかねない作戦を任されているだけあって司祭の手腕は優秀である。即座に状況を整理し、次の手を打つところから見てもそれは明らかだが・・・流石に反乱者がイス人の全面バックアップ付きとか予想は出来なかった。

 

一撃、外部から加えられた拳の一撃で元々頑丈な作りであり簡易的ではあるが司祭が魔法で補強した操舵室の扉が吹き飛ばされる。命令を聞いていた教団員が扉ごと吹き飛ばされ下敷きになり気絶する。

 

「な」

 

予想外の事態に司祭の思考も一瞬停止してしまう。そしてその一瞬が襲撃者に取って値千金の時間となる。

 

『敵はディープワンが四体と人間三人!』

 

「(OK、先に人間を仕留める。響子"右手"は任せる)」

 

『了解』

 

 

襲撃者である智也が部屋に勢いよく乗り込むとまずは響子が右手を操り電気銃のノールックショットで三人に電撃銃の銃撃を浴びせる。

 

【銃プレロマ】【トリガーハッピー】【タスラムショット】

 

スキルの効果に加え電撃銃の性能によって威力の上昇と電撃属性が付加されている。

 

「「ぐああ!?」」

 

「もうここまで・・・!ディープワンやりなさい!」

 

三人共銃撃を喰らうがリーダーである司祭はギリギリ耐えることに成功し、ディープワン達に指示を出す。人間相手に意識を割いていた襲撃者が別々の咆哮からのディープワン達の同時攻撃に対応出来ないと考えたのだろう。

 

『チャージ完了』

 

「砕けろ」

 

【物理プレロマ】【チャージ】【鬼神楽】

 

しかしディープワンの一体目の顔面に電子音を響かせたガントレットの拳が突き刺さる。それは覚醒者から見ても人外の威力を誇る。そして四方向からディープワンの槍の攻撃を受ける。攻撃直後の隙を狙った一撃だが・・・

 

『両足借りるわよ』

 

「(頼む)」

 

いち早く攻撃を終えていた響子が両足を操りステップで二体目の攻撃を躱し、その間に智也は上半身を捻り後ろを向くと拳を握りしめる。

 

『チャージ開始』

 

『両足返すわ』

 

そのまま真後ろに迫っていた三体目の槍をガントレットで受け流し、上半身の捻りから左足の回し蹴りを放つ。

 

【物理プレロマ】【グラム・カット】

 

重圧発生機付きブーツにより蹴りの威力が更に増した一撃が三体目の首の骨を折り即死させる。

 

『チャージ完了』

 

【物理プレロマ】【チャージ】【鬼神楽】

 

そして回し蹴りをした遠心力も乗せた拳の左ストレートで四体目の槍ごと真正面から叩き潰す。

 

「(後ラスト一体!任せた!)」

 

『任せなさい!』

 

 

【銃プレロマ】【トリガーハッピー】【タスラムショット】

 

再び右手と両足を響子に預けると響子は両足を使い先ほど殴って死体になったディープワンの死体を踏み台にして飛び上がり上空から電撃銃を連射し最後の一体を仕留める。

 

「バカな。十秒も関わらず全滅、だと?」

 

「装備とスキルの差だ」

 

怒涛の連続行動を可能にしたのは智也と響子の連携と肉体其のものが鍛えられ柔軟な筋肉を有しているという肉体的性能とこの戦い方を続けているうちに習得していたスキル【身体精密制御】のお陰である。そこにスペックが低くなっているとはいえイス人の技術を用いた武装を身に纏えばこれくらい出来るのだ。あとレベルが俺とほぼ同等の敵だったことも大きい。

 

「さて、詰みだなリーダーさん」

 

「殺すつもりですか?ですが「ああ、分かってるアンタが死ねばこの船に居る仲間全員に連絡がいくんだろ?相方の【ハイ・アナライズ】で知ってるよ」何!?」

 

「だから殺さない殺さないが・・・"殺すより惨めなことになるかもね?"」

 

 

智也の身体の制御権を全て響子に渡す。こうすることでイス人としての能力を全て発揮できる。一部の制御権譲渡でも響子のスキルを一部使用出来たが、イス人由来の能力は使えず、使えるスキルも智也のレベルに合わせて弱体化してしまう。しかし全権を譲渡することでLv65のイス人としての力を振るえるのだ。

 

「お、お前は誰だ!?」

 

「勘はいいわね。大したことじゃないわ、少し私の言う通りにしてくれればいいだけよ」

 

「・・・!?あ・・・あ・・・」

 

無慈悲にも【精神操作】のスキルを発動させる。耐性も無いうえレベル差もあって司祭も抵抗することは出来ない。このスキルは文字通り他者の精神すら操れる便利なものだがある程度の衝撃を受けると切れてしまうのに加え完全に掛かるまで少し時間が掛かるのもあって智也達が戦闘後の情報収集に良く用いている・・・正直これがあれば探偵業でもオカルトの依頼は兎も角一般の依頼なら大体即解決出来ると思うのだが二人とも基本的に善人な為普通の一般人や犯罪の容疑者に使うのは抵抗があるのだ。※ただし現行犯は除く。

 

 

 

「その後司教から情報を吐かせて、仕上げに操って一か所に教徒とディープワンを集めて電撃銃の最大威力で屠りました。俗に言うレールガンですね、初めて使ったんですけど威力設定が頭おかしかったので船の甲板を貫通して天まで風穴開けた時はガチでビビりました。乗員乗客が分散していたとはいえ離れた場所に軟禁されてたからダゴン教団以外犠牲者はいませんでしたけど。まぁ下のフロアから放つんじゃなくて真上のフロアから撃ってたら船底が貫通して豪華客船沈んでたかもしれませんが」

 

『ダゴン教団の奴ら?手元に置いてた司祭とそれまでに倒した死体以外は塵も残らなかったわ』

 

「手持ち武器からレールガン、しかも明らかに人間の技術で予想されている威力よりも遥かに高い威力をぶっ放せるとかイス人ってやっぱ頭おかしいと思います」

 

『忘れてるかも知れないけど「もうめんどいから教団の他メンバーを一か所に集めて電撃銃の最大出力で吹き飛ばさないか?」って言って提案したのは智也君でしょう?』

 

「・・・なるほどね。で、こうなったと」

 

目の前の少女が今朝発売された新聞の一面を見せる。そこには「海上から雷の柱が!?これは科学現象か、オカルトか。同時刻に起こっていた豪華客船ハイジャックとの関係は如何に!」という非常に身に覚えもある文言のタイトルがデカデカと書かれていた。

 

「『・・・』」

 

「で、何か言うことは?」

 

「『いや、その・・・ご迷惑掛けてすみませんでした!』」

 

イス人の技術を用いた隠蔽にも限度があるのである。あとレベル差によるごり押しとか。




読了ありがとうございます!駆け足気味でしたが後編も出せてよかったです。

脇巫女ネキ視点

周回ネキからダゴン教団のハイジャックがあるらしいから見張っておかなきゃ!託宣などもして間違いないみたいだし、ヤタガラスにも連絡して連携しないと。
                  ↓
よし、乗り込む準備は出来たわ。ずっと監視してたけどこちらに気付いている様子はないから皆乗り込んで・・・はえ?(雷の柱が出現)・・・ああああああ!?(隠蔽作業でまた仕事が増えた)
                  ↓
何あれ・・・周回ネキも知らないって言うしし託宣で見て見るわ。・・・この人が原因って彼転生者じゃない!?(レベル差による隠蔽能力へのゴリ押し突破)・・・え、何か中に別の精神、魂が見えるんだけど、彼の魂と身体に普通に順応してるのこっわ!?取り敢えず本部に拉致って来なさい!
                  ↓
えぇ・・・取り敢えずうちの組織で借り分は返してね?(本編ラスト)

と言った経緯で智也達がネオンベテル入りしました(白目)。


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人間はどこまで人と呼べるのか

予告していた外伝となります!・・・これ下手したら原作の製造方法より外道じゃないか?今回は短めです。


・・・思考が混濁する。自分のものではない誰かの記憶が頭に雪崩込む。そもそも自分とはなんだろうか?分からない。自己認識の喪失、詰め込まれた知識からこの状態が精神上、生物上よくないことであることは分かる。理解は出来る・・・出来るが普通なら湧くはずの危機感が湧くことは無く、ただ己の魂が肉体に再び定着する刻を待つ。

 

 

 

「ふーん、一週間前の戦闘は良いデータになれましたね!撃破されたデータも有用でした!」

 

巨大な円柱形のガラスケースの前で狂気的に微笑む。一週間前にとある異界で倒された彼の最高傑作だが、魂をアメリカにある自身の研究所に帰還させていた。その後も予備の身体に魂を定着させメシア教の本拠地であるアメリカで暴れさせデータを取っていた。一週間という期間は傍から見れば短いが、彼に取っては大した違いはないのだろう。

 

「他には・・・ああ、メシア教の本部への報告書の内容が理解できない?特に製造法の説部分ってこんなことも分からないんですか!?もう仕方ないですね、開発経緯まで超絶簡単に纏めて上げますよ!」

 

彼は高らかに、自慢する様に笑いながらPCのキーを叩き先程の言葉通り誰にでも分かる内容の報告書・・・というよりは一見すると子供の戯言のようなものを作り上げた。

 

 

ある日私は本部のお偉い方にとある無茶ぶりをされました。そのとき頭を悩ませた結果私が以前作製し、本部で採用されたある発明品とターミネーターを組み合わせれば解決できるのでは!と思ったのですが。

「ターミネーターって性能低くね?これだと理論上できるけど実際には無理的な机上の空論になるんですけど!?」という事実に気付いちゃったんですね。という訳でまずはターミネーターの質を上げることにしたんです!本来なら天使や他の悪魔の素材を使うのですが残念ならそれで強化してしまったら本部の無茶ぶりを達成出来ないんですよねもう本当に無茶言ってくれますよ!そんな感じで純人間の素材でどうこうしないといけないんですよね。

 

とはいえ流石に理論も手探りの状態の研究に自身を捧げてくれる信者は中々いません!この研究に参加するくらいなら天使召喚の生贄になったり天使の子供を孕んだり、MAGを捧げるだけの電池みたいな廃人になる方が良いとか言うんですよ?ドン引きですよ。まぁ今回は異教徒を素材にしないとダメなのであくまで実験の為だけの使い捨てで使うだけなので仕方ないのですが。という訳で適当に異教徒を拉致って来て実験に使用することにしました!

 

でも手探りなだけあって苦労の連続だったんですよねぇ・・・私の専門である魂の研究の技術を応用しようと数人の魂を混ぜて霊的素養の拡張を目指したのですがこれが中々上手くいかない!魂同士の相性もあるので失敗して崩壊する魂が多いこと多いこと!まぁその残骸も霊的リソースになるので無駄にはないのですが、費用対効果が低いんですよね。

 

 

ただ数をこなして言えば相性の良い魂の見分け方も分かって来たのでどうにか合成すること出来ました!これで万事上手く行く・・・とはならないのが研究というもの。適当に合成にしようした魂の持ち主の身体に宿らせてみたのですがここでも暴走が起こって折角の合成の魂が肉体と共に崩壊しちゃったんです!思わず缶コーヒーをぶん投げちゃいましたよ!

 

 

調べてみたら純粋に肉体の強度が魂に比べて脆弱過ぎたのが原因のようで、今度は肉体も合成していくのですが・・・合成には魂の提供元の肉体を使うのですが如何やら魂は合成に適正があっても肉体はダメ、もしくはその反対もあるようで両方とも適合してくれる確率がめちゃくちゃ低いんですよねこれが。

 

こうなって来ると本部が確保している異教徒の数も足りなくなるので海外の田舎を襲撃して数を確保します。地元に霊能組織が出張ることもありますが霊能が高い人間はこっちとしてもバッチこいのカモネギなので霊能組織を壊滅させたあとで素材に利用します。

 

 

そしてそんなこんなで半年掛けて両方共適合する合成した魂と肉体を用意することが出来ました!さらに大幅に拡張された霊的素養や容量を使って普通の人間なら確実にぶっ壊れるような肉体改造を施してはい完成!ある程度知性もあって強靭な肉体を持つ戦士、名前は暴力の化身ということでタイラントと呼ぼうか!あとはこれを量産化すればこの研究もお終い!

 

 

 

アホくさ!コストが掛かり過ぎるわボケ!!こんなん量産出来るか!?

 

当たり前だが本部からもっとコストを抑えなさいと言われたよ!・・・仕方ない少々妥協しよう。量産型はクローン技術でタイラントのオリジナルの肉体を複製して魂の代わりに術式などで制御して動かす兵器にすることにした。名前はタイラントマイルドにでもしようか、ただ単純な命令は兎も角複雑な命令などは理解しない・・・本部な無茶な要望に沿うかは微妙だけどオリジナルに指揮を任せれば行けるかもしれない。でもこれオリジナルを倒されたら全部ご破算じゃないの?という疑問が生まれたので次はこれを如何にかしないといけない。だが幸いにもこれは直ぐ答えが出た。

 

複製した肉体はオリジナルの肉体に比べてスペックは下がってしまっているがタイラントの魂を宿すことは出来る。弱体化は免れないが例えこの状態で殺されても別の肉体に魂が宿れば復活も出来るという訳だ。まぁ肉体から肉体への魂の転移させる術式の開発に少し手間取ったけどね。まだ肉体の転移後に定着の時間を要するけどデータを蓄積させていけば肉体への転移後すぐに戦えるようになることだろう。

 

 

「まぁこんな所かな?」

 

PCで報告書を書き終えて本部に送った後電源を落として伸びをする男。報告書の内容はふざけた口調で書かれていたが内容は肝を冷やすどころの内容ではない、それを平然と報告書に書いている辺り碌でもない人間なのは確かだろう。

 

「各種戦場にタイラント、タイラントマイルド達を送っているけどまだまだデータが足りないね。オリジナルの肉体の大幅改修計画はもうちょっと先の話か、本調子が出ない複製の身体を使わせてごめんね。近い将来絶対にオリジナルの肉体を用いた完璧なタイラントを作ってみせますからね!」

 

狂気に満ちた笑みをガラスケースのようなポットに入って肉体との定着中のタイラントに笑い掛ける。これからの計画も含め彼の狂気的な研究は止まらない。

 

「果たして我らが主は人間をどこまで人と呼ぶのでしょうね?」

 

 

 

目の前の人物が自分に笑いかけている・・・知識では彼こそが自分を生み出した博士のはずだ。親の様な存在を目の前のしても何か湧き上がるべき感情というものは存在しない・・・ただそう記憶するのみ、ただ彼の存在に呼応して彼の計画を思い出す。その計画の名は・・・

 

『ネメシス計画』




読了ありがとうございます!自分で書いてて頭痛くなってきたので短めにしましたがやっぱ明るいギャグが自分の好みですね。タイラントの生みの親の博士やその博士にした無茶ぶりの内容は後々本編で明らかになる予定です。

それと新しくポケモンの作品も書き始めました。そちらもご覧いただけると幸いです!


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