この素晴らしい世界にねこですよろしくおねがいします (アカツメヒビキ)
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ねこです。女神様とお話しです。

 

 

 

気がつくと、目の前には美少女が立っていた。

 

 

「ようこそ死後の世界へ。貴方はつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、貴方の生は終わってしまったのです」

 

 

そして目が合ったと思った次の瞬間に死を宣告された。目と目が合い、恋心ではなく命を取られてしまったのだろうか。そんな馬鹿な。盗まれたのは貴方の心(の臓)ですってか。どこの暗殺一家だおめぇ。

 

 

目の前の美少女の首を絞めたい衝動に駆られたが、なんとか抑える。そして自分の胸に手を当ててみる。トクン、トクン、と規則正しい音が手のひらに響いた。心臓は動いているし、呼吸もしている。この情報からだと生命活動は停止していないと思うのだが。はて、どういうことだろう。

 

 

この美少女は『貴方は亡くなられました』と迷いなく告げた。だが、今こうして自分は生きている。この矛盾は一体全体なんなのだろうか。もしかして、生命の死ではなく"社会的な死"のことを言ったのだろうか。

 

 

だが生憎、自分は社会的に罰せられるような事をした覚えがない。スクランブル交差点のど真ん中で全裸でソーラン節を踊った訳でもないし、学年集会中に校長先生と教頭先生のカツラを取っ替えた訳でもない。

 

 

因みに、今の例えは頭にパッと思い付いたから出しただけであって、特に意味はない。やろうと思ったことすらない。

 

 

「なんで一人で亜空間を見つめるような顔してるの? 一人顔芸大会なのかしら。アテレコなら私凄い得意なの、してあげましょうか?」

 

 

遠慮します。急に何言ってんだこの美少女。こちとら、お前が言った意味不明な言葉に頭を悩ましてるんだよ。ジトリとした目付きで美少女を睨み、小さくため息をつく。ていうか、この美少女は一体誰なんだ?

 

 

「っと、話が脱線しちゃったわね。初めまして、私の名はアクア。日本において若くして死んだ人間を導く女神よ」

 

 

急に何言ってんだこの美少女(二回目)。中二病なのだろうか、自称女神を名乗る美少女__改めアクアはドヤ顔でそう言い張る。顔にデカデカと『崇めなさい!』と書いてあるなコレ。可哀想に、現実と妄想の区別がついていないんだな。

 

 

「ねぇ……なんでずっと黙ってるの? なんでそんな私に哀れみの目を向けるの? 私、女神なんですけど。凄く偉くて美人な完璧女神なんですけど」

 

 

うんともすんとも言わないからか、おろおろと少し焦ってきたアクア。そんなアクアの肩にポンっと片手を置き、優しく微笑むともう片方の手でサムズアップをしてやる。大丈夫だ。人生まだまだやり直せるサ! 時が経てばこの行いを漆黒の歴史と懐かしむ日が来るからな。

 

 

大丈夫、大丈夫と赤子をあやすように、寝かしつけるようなリズムで肩を優しく叩いていると、アクアが「本当に女神だも"ん"っっっ!!」と涙目で言うので頭を撫でてやった。よしよし、ゆっくり自覚していこうな。

 

 

「もうっ! 長年この仕事やってきたけど貴方みたいなの初めてよ!! 早く仕事終わらせたいからコレから特典を選んでっ!!」

 

 

頭を撫でられたのが馬鹿にされたと捉えたのか、アクアはうぎいぃっと顔を真っ赤にして分厚い本を投げてきた。飛んできたそれを顔面の目の前でキャッチして開いてみると、そこにはずらりと文字が並んでいる。

 

 

《怪力》《超魔力》《聖剣アロンダイト》《魔剣ムラマサ》etc.……もしかしてこれは、中二病を患った者が書き綴ると言われる【僕が考えた最強の〇〇】のシリーズ本だろうか。物凄く分厚いぞ。一体中二病歴何年のベテランなんだ……?

 

 

「その目! その目をやめなさいよおおお!! アンタ、まだ私が女神だって信じてないわね?! 死ぬ直前の記憶ぐらい覚えてるでしょっ?! それでもって『死んだと思ったら女神様が異世界転生してくれるだって〜?!』ってなりなさいよおおおおぉぉ!!」

 

 

死ぬ直前の記憶? ぎゃーぎゃー喚くアクアから発せられた言葉にズキンと頭が痛む。瞬間、フラッシュバックのように自分の脳内に記憶が流れ込んでくる。

 

 

確か、路地裏で猫を傷付けている(クズ)がいて……それで思わず猫を助けようと飛び出して……そこで邪魔されたことに腹を立てた(ゴミクズ)がナイフで腹を刺してきて……嗚呼、あれは凄い痛かったなぁ。まるで熱湯をぶっかけられて火傷したところにムヒをグサッと刺された気分だったよ。実際に刺されたのはナイフだけど。

 

 

刺された所を服を捲って確認してみる。血が出ているどころか、かすり傷一つなかった。さわさわと撫でてみるも、全く痛みも違和感も感じない。刺されたのは夢だったのではないかと思ってしまう。

 

 

だが、鮮明に思い出す刺された腹部の熱や痛み。血がドクドクと体から流れ落ちていく感覚や水音。

 

 

……どうやらここが死後の世界で、自分が死んだというのは間違いないらしいな。まあ、アクアが女神かどうかは放って置いて__中二病だったり言ったのは悪かったかな。謝らないけど。さてと、じゃあ気を取り直して転生特典を選びますかな〜。

 

 

持ち前の切り替えの早さを発揮し、パラパラ、ペラペラと分厚いカタログをめくっていく。そこでふと、目に止まったのは強そうだからとか格好良さそうだから気になったというわけでもなく……ただ、ここに並んでいるのが場違いなモノが書いてあったからだ。

 

 

「《ねこですよろしくおねがいします》……???」

 

 

全ての文字が平仮名で書かれ、その特典名の隣には不恰好な猫の絵が書かれていた。思わず声に出してしまったほど不思議で、とても気になった。

 

 

「もうそれでいいからはーやーくぅー。次が詰まってるんだから早く魔法陣乗ってさっさと旅立っちゃってー!!」

 

 

不貞腐れているアクアはヤケ食いのようにポテチをバクバク口に入れ、しっしっと手を払う。お前、女神は女神でも駄目な部類の残念女神だろ。……っとまぁいいか。多分、これは使い魔的な特典だろう。もしかしたら某猫型ロボットが出てくるかもしれないし、楽しみだ。

 

 

すぐに足元に光り輝く魔法陣が浮かび上がり、小さな光がふわふわと綿毛のように周りに流されていく。どうやら、もうすぐここから去ることになるみたいだ。

 

 

「ごほんっ。貴方をこれから、異世界へと送ります。魔王討伐のための勇者候補の一人として。魔王を倒した暁には、神々からの贈り物を授けましょう」

 

 

何言ってんだこの美少女(駄女神)(三回目)。魔王討伐って何? 聞いてないんですけど。というか贈り物とは? しかも勇者とかなろうぜ系の小説かよ。

 

 

「さあ、勇者よ! 願わくば、数多の勇者候補の中から、貴方が魔王を打ち倒す事を祈っています。……さあ、旅立ちなさい!」

 

 

ポテチを口の端につけたまま、アクアは両手を広げて高々にそう言った。瞬間、体が明るい光の中に包まれる。

 

 

__そして、気がつくと中世風のレンガで出来ている街の中に立っていた。異世界転生、完了である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、異世界転生して早二秒。周りの視線がグサグサと刺さりまくっている件について話そうではないか。

 

 

道行く人から感じる視線を気にしながら、キョロキョロと辺りを見回す。なんなんだ、この異常な視線の集まり方は。視線を可視化できるなら、自分は今まさにウニかハリネズミか毬栗状態だぞ。

 

 

やけに刺さる視線と、何故かよく聞こえるヒソヒソとした声。広範囲に渡った生活音やらが鬱陶しい。いつもならこのくらいの雑音くらいどうって事ない筈なのに、いつもよりはっきり聴こえて嫌になる。

 

 

思わず、耳を塞ごうと目の横の辺りにある両耳を両手で塞ごうとした。__そう、塞ごうとしたにも関わらず、そこには"両耳がなかった"

 

 

……はぁ? 何が起こっているか分からないまま、両耳があるはずの場所をペタペタと撫でて叩いて触りまくる。あるはずの耳がない、あったという痕跡すらもない。こんな腹の傷がなくなってたみたいなデジャブは二回もいらない。

 

 

訳も分からず頭にクエスチョンマークを浮かべていると、通りすがりの子供が自分を指差し子供特有の高い声を響かせる。

 

 

「にゃんこだにゃんこっ!! ふわふわのもふもふの耳だ!」

 

 

何言ってるんだこの子供は。こちとら人間様だぞ。どこが猫なんだどこが。猫耳なんか、どこにも付いてる訳じゃあるまい……し??? あれ???

 

 

頭にある、髪の毛ではない謎の肌触りが手のひらから伝わってくる。そして、それを触ると自分がさっきまで探していた、少しのくすぐったさとがくる。

 

 

あ、あああ……まじか、なんてこったパンナコッタ。恐る恐る、近くの家の窓ガラスに近寄り反射で自分の頭を見てみる。

 

 

そこには、黒髪と同じ色の黒い二つの耳が圧倒的な存在感を主張していた。そう、推しにコレを生やすのは義務とされている"猫耳"が誰得か知らないが、自分の頭に立派に生えているのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうですか。自分はねこですか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もふもふの自分の耳を触りながら、目が死んでいくのをじっくりと味わった。

 

 

 



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ねこです。狂気と理解です。※ちょい修正

投稿してすぐに投票が二票も入って驚いてます……ねこもおどろいてます。

個人的なお願いですが、このすば原作のSCPの特典小説がすっっっごい読みたいです。誰か書いてくれぇ……(切実)


 

 

 

道理で視線が集まってた訳だよねって。理由がご立派な猫耳を頭に付けてたからだからねって。窓に映る自分の姿に絶望してたら、子供に尻尾を思っクソ握られたよねって。尻尾までついてんのかよってね。……てな訳で、これ以上は目立つから草原へとやってきた自分でありますドンドンパフパフー。

 

 

あの駄目神からもらった特典の《ねこですよろしくおねがいします》とは、自分に猫耳と尻尾を生やす特典だったというのか? なんだそれ、『ご主人様、ねこですよろしくおねがいします……』とでも言わせたいのか馬鹿野郎。そんな猫耳メイドこっちが欲しいわ。

 

 

街の外にある平原地帯。広い広い草原は、地平線までずっと草原だ。なんとなくごろんと寝転がると、自分の体に潰された草の青い匂いが鼻口をくすぐる。仰向けになったことで、太陽の光が顔に当たる。思わず目を細めるが、こうして日向ぼっこをしていると段々と眠気が襲ってきた。

 

 

ポカポカ降り注ぐ太陽。時々髪を揺らす涼しい風。本来なら眠るまでに結構時間が掛かるタイプなのだが、すぐに眠くなってくるので猫みたいだと思う。ねこですがね。一応二つの意味も含めて。

 

 

そんなことを思っていると、生臭いような匂いが鼻をツンとさせる。起き上がり、辺りをキョロキョロと見回してみると、なんか遠くの方でドスンドスンとナニカが跳ねてこちらに向かってきている。

 

 

なんだなんだ? 音だけなら某配管工事のおじさんに出てくるドスンとする奴だが、この匂いからして生き物なのは間違いない。視力があまり良くないのか、ぼんやりとしていて形がわからない。と、そうこうしている間に段々と近付いてきた謎の生き物X。距離は10mほどというところで、漸くはっきりと謎の生き物Xを視認できた。

 

 

色は緑。喉をぷくーっと膨らませ、ただでさえ大きい巨体をさらに大きく見せている。人を飲み込めそうな巨大な口からはゲコッと独特な鳴き声を発し、つぶらな瞳で一直線にこちらに向かってきている。

 

 

カエルだ。バリバリのカエルだ。カエルと言えばど根性を彷彿とさせるが、それが吹き飛ぶくらいの巨体である。カエルと自分との距離は3mほどとなったところで、カエルが口をパカっと開ける。うん。すごく……大きいです。それを見て『カエルさんの口はどうしてそんなに大きいの?』と赤い頭巾を被った少女のように聞いてみたい衝動に駆られる。

 

 

すぐ側にまでカエルが迫り、大きな口をこちらの頭上でスタンバイ。そう、まるで『それはね、お前を食うためさ!』と言わんばかりに……ちょっと待て。肉食だった、そう言えば。(意図しない五七五)

 

 

目の前の危機に漸く気が付き咄嗟に横にローリング。自分が一瞬前までいた場所を、大きな口で包むカエル。ヤバイヤバイヤバヤバーイ。このままでは捕食エンドまっしぐらだ。知ってる、どうせ胃液で衣服が溶かされヌルヌルプレイになるんだろ、そんなの死んでもお断りだ。逆にこんなんで喜ぶ奴は末期の変態だ。

 

 

そうこう無駄なことを考えているうちにカエルがこちらを向き、もう一度捕食しようと大きな口をこちらに向けてくる。怖い、すごい怖い。恐怖で足が生まれたての子鹿のように震えている。恐怖が八割膝にきていて、まともに走れないながらも必死に足を前へ前へと進める。

 

 

すぐそこまでに迫る死の恐怖に耐え切れず、視界から涙が溢れる。くそっ、ただでさえ目が悪いのにさらに見えにくくなったじゃないか。くそっ、くそっ!!

 

 

捕食エンドは嫌だ。絶対に嫌だ。まだ死にたくないし、また死にたくない。死にたくない、死にたくない。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。

 

 

そう思っても、自分には武器も何もない。逃げることだけが唯一の抵抗。『誰か助けてくれ、お願いだから、誰でもいいから助けてくれよっ!!』そう叫んだ___はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ねこですよろしくおねがいします』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

口から出てきたのは、忘れかけていた特典の名前。どうしてこの言葉が出てきたのか理解が出来なかった。そして、突然カエルが自分のすぐ横を何もないにも関わらず捕食する動作をしたのも、理解出来なかった。

 

 

「『ねこはいます、井戸小屋です。ずっとそこにいます、ねこです』」

 

 

自分は『一体全体どうなってるの?』と口を開くとまたも意味不明な言葉に変換される。カエルのつぶらな瞳を見つめながら言った。目の前に餌がいるにも関わらず、見当違いの方向を何回も、何回も、何回も捕食の動作を繰り返している。

 

 

誰か説明してくれ。この状況を、分かりやすく今北産業の人にも説明してくれよ。ずっといた自分でさえ意味が分からないんだ。

 

 

自分が話す言葉は、全て意味不明な言葉に変換させられる。そして、その言葉を聞いたカエルは、狂ったように奇行を続けている。先程よりも更に激しく、何もない空間を捕食し続けている。

 

 

このカエルは狂っている。直感的に__いや、本能的に、そう断定した。ならば次は、何故狂ったかだ。理由は決まってる、この自分の口から発せられる言葉だ。この言葉を聞いた者は狂ってしまうのだ。

 

 

そうと気付けば、自分が行動に移すのは早かった。地面の土を掴み、カエルに投げ付ける。そして目が合った瞬間に畳み掛ける。

 

 

 

 

 

「『ねこです、ねこはそこにいました。ずっとまえからいたのに、やっときがついたのですね。ねこです、ねこはいます。ねこはここにもあそこにもいます。ねこです、ねこは井戸の中にいます。ねこといっしょにこもりましょう。きいてますか? ねこです、ねこをみてください。ねこはここにいます。ここにねこはいます。どこみてるんですか、ねこです。ねこはいます、ねこはいました。ねこはどこにでもいます。ねこはそばにいます、ずっといます。ねこははなれたところでじっとみてます。ねこです、ねこはいますねこはあそこにいます、ねこはあなたのよこにいます。ねこです、ねこはねこじゃありません。ねこです、あなたはねこではありません。ねこはどこにでもいます。ねこは寝るときも起きるときもいます。ねこはひとりです。ねこはこっちですよ。ここにねこはいません。ねこはあなたが嫌いです。ねこはずっとずっと側にいますよ。ねこです、ねこのきもちがわかりません。ねこはずっとさがしています。ねこはたいくつです。そうですよ、ねこはみていました。あんなところにもねこはいます。ねこですねこにはわかりません。ねこといますか? ねこです、ねこはまわりみちをします。ねこはなにもしりません。ねこはひとつだけしっています。ねこです、ねこは十字路がすきです。ここはしずかですね。ねこですよんでますよ? ねこです、どこかにいかないでください。ねこです、どこにもいけないでしょう? どこかにいきたいです。ねこです、ねこはここにのこります。ねこはのらねこではありません。ねこはすぐにきえます。ねこですねこですねねこですよ。ねこです、ねこはさびしがりなんですね。ねこはみてませんねこはみえてます。ねこですねこですよ、ねこはねこですねこはねこなんです。みえてますよね? ねこです。

 

 

__ねこです。そのまま狂って狂って死に晒せばいいのですよ。ねこです、地獄はひとりでよろしくおねがいします』」

 

 

 

 

 

最初は狂いながらも聞いていた。半分を過ぎると狂いながら踊り始めた。最後には自分の目玉を抉り取りながらもまだ狂って蠢いている。最後の最後には、カエルの手が目から脳へと届いて動かなくなった。

 

 

目に痛いほどの鮮やかな赤色が、目の前に飛び散った。

 

 

 

 

 

 

 





話しかけることによって認識→感染。話せば話すほど症状は酷くなる

《修正箇所》

くすんだ灰色が、目の前に飛び散った

→目に痛いほどの鮮やかな赤色が、目の前に飛び散った


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ねこです。微笑みと理解です。

お気に入り八十超え&八投票ありがとうございます。そして誤字報告もありがとうございます。

番外編の構想やらも大分決まってきました〜。SCPこのすば小説が難しいのはわかっていますが……増えてくれっっ!!


 

 

 

目の前には、目玉が潰され脳漿と鮮血を撒き散らすカエル。直接ではないとしても、このカエルは自分が殺した。狂わせて、狂わせて、狂わせながら死の淵へと誘導したのだ。

 

 

そよ風が吹き、鉄の匂いが鼻口を刺激する。正直、目の前の光景は気持ち悪くて仕方がなかった。R18Gのタグをつけてもいいくらいだ。だが、罪悪感は一切感じない。『撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ』ならぬ、殺していいのは、殺される覚悟のある奴だけだ的な思考をしているからだろうか。

 

 

まあ、人を殺したなら兎も角、カエル一匹殺したところで罪悪感など生まれる筈もないか。この異世界は弱肉強食の世界なのだろう。流石に言葉通りこんなカエルを食べるほど、異世界はゲテモノ好きじゃないと思うが、強い者だけが生き残る世界なのは間違いない。

 

 

カエルは弱いから死んだ。自分は強いから生き残った。ハイ、単純明快!! よって脳内会議は終了っ!!

 

 

パンパンッと手を叩き、弱者のレッテルをお供え物とされたカエルに背を向ける。次の議題はこれからどうするか、だが……この見た目じゃあ町には入りづらい。尻尾は腰に巻くとして、何か頭を隠す物が欲しいところだ。

 

 

そんなことを考えていれば、またも生臭い匂いが鼻にツンとくる。舌打ちしながら匂いの方向を見れば、今度は桃色のカエル。その後ろには黄色。そのまた後ろには水色のカエルがドスンドスンと地響きを立てながら此方へと向かってくる。

 

 

なんだお前ら繁殖期か。飛んで火に入る夏の虫__いや両生類め。此方に来れば脳漿破裂パーティー真っ逆さまだぞ。地獄絵図だ。目に毒どころか鼻にも毒である。むせ返るほどの鉄の匂いが充満する光景を想像してしまい、自分は気分が悪くなった。

 

 

そうこうしてる間にもカエルは近付いてくる。自分の攻撃手段は狂わせることしかない。それは自分が一番良く分かってる。今の自分にある選択肢は▽逃げる か▽狂わせる の二択。首の付け根に星がある血統に伝わる戦法に則って、逃げてしまおうか? いや、隠れる場所もないこの草原で、鬼ごっこをするのは勘弁してもらいたいものだ。逃げた先にカエルがいる可能性もある。かと言って複数同時に相手を狂わせられるか確証がないまま戦うのも危険だ。数の暴力でパクリと頂かれてしまう。

 

 

タイムリミット付きの二者択一を迫られる。セーブがしたいがこれは現実。こんな非現実的な現実があってたまるかと怒鳴りたいが、それは今はどうでもいい事だ。こんな時でも空は青いな、これこそどうでもいい事だが。いけないいけない、目の前の現実から目を逸らしたくなっても今逸らしたら捕食エンドが確定してしまう。

 

 

迫ってくるカエルを見据え、ゆっくりと深呼吸をする。やらない後悔よりやる後悔だ。一匹残らず狂わせて、地獄への片道切符を買わせてやる。大丈夫。戦う覚悟は今、出来た。

 

 

迫るカエル。額に伝う汗。緊張を誤魔化すための、不格好な作り笑い。大丈夫。ここは異世界。ファンタジー。異世界転生した自分は俺TUEEEE展開になること間違いなし!! こんなカエル数匹くらいはお茶の子さいさい朝飯前!!……の筈。

 

 

唾を飲み込み、息を吸う。そして意を決して大きく声を張り上げ__!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ね』」

 

「『カースド・クリスタルプリズン』っ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後方からの声に自分の言葉が遮られたと思った刹那。吹き抜ける冷気と共に目の前のカエル達が分厚い氷に覆われる。まるで樹脂の中に閉じ込められた虫入りの琥珀__と言うより、まるで奇抜な現代アートの彫刻のようだ。

 

 

驚いた自分が後ろを振り返ると、そこには美人なお姉さんが栗色の長髪を風に(なび)かせ、にっこりと微笑んでいた。

 

 

「お怪我はありませんか? ……どうやら、大丈夫そうですね。よかったです」

 

 

そしておっとり美人のお姉さんが近づいて来たかと思えば、怪我がないことにほっとため息をついた。良い匂いがしてドキリとしました。そして、すごく……大きいです(視線を少し下にして)。

 

 

と、変態思考はそこまでにしておいて……自分は命の恩人に感謝の意を示すためにペコリと斜め45度に頭を下げた。するとお姉さんは「いえいえ。そんな……」と謙遜したと思うと、じっと頭頂部を見つめられる。

 

 

「その耳と尾……獣人さんですかね? 獣人は大体複数人で行動する習性があるはずですが、迷子ですか?」

 

 

流石異世界(ファンタジー)。獣人がこの世界にいることを知ったモフリストの自分としては、今すぐ探し出し問答無用でもふもふしたいところだが……取り敢えず今は誤解を解いておこうと口を開く。

 

 

__が、声を出そうとした(すんで)の所で口を固く閉じた。

 

 

「……どうしたんですか? 大丈夫です。私は悪い人ではないので、安心して喋ってください!」

 

 

違います。そうじゃないんです。喋らないんじゃなくて、喋ったら駄目なんです。命の恩人に、恩を仇で返したくないんです。

 

 

ずっと黙っている自分を見て、心配そうにオロオロとしているお姉さん。どうにか喋れないことを伝えなければと、精一杯身振り手振りで伝えようとする。

 

 

「えぇと……口がバッテン? あ、あのうさぎさんですか!」

 

 

違う、そうじゃない。というか、この世界にも口がホッチキス説のうさぎが存在するのか。首をぶんぶんと横に振り違うアピールをし、身振り手振りを続ける。

 

 

「え、えーっと……口を開くと相手が……踊る? あ、歌が上手いんですか? 思わず、その歌声を聞くだけで踊らずにはいられなくなるとか」

 

 

違う、そうじゃない。実際に歌えば、踊り狂いながら観客全員らりって最終的に死ぬぞ。また首を横に振り、精一杯伝えようと体全体を使う。

 

 

「え、えぇ……口を閉じてると丸で、開けると聞いた相手が奇妙な踊りをして、倒れてしまう……? はっ、ま、まさか……?!

 

 

__貴方、マンドラゴラのハーフなのですねっ?! 口を開くと聞いた相手は死に至ってしまう……安心してください! 私は大丈夫ですよ!!」

 

 

ちっっっがう!! そうじゃないっっ!!! 惜しい所まで行ったが、伝わらなすぎて思わず地団駄を踏んでしまう。ていうか、マンドラゴラのハーフってなんだよ?!

 

 

地団駄を踏むケモ耳。オロオロするおっとり美人。側から見れば、一体どんな光景なのだろうか。そう思っていれば、二度あることは三度ある__ツンと鼻を刺激する匂いに、またカエルかとため息をついた。

 

 

ドスンドスンと此方に向かってくるカエル。それに気付き、お姉さんは「任せてください!」とカエルに手のひらを向ける。カースドなんとかかんたらを撃つつもりだろうか、手のひらに冷気が集まり、背筋が震えてくる。

 

 

自分はそんな戦闘体制のお姉さんの前に立ち、首を振る。そしてカエルに向けていた手のひらを降ろしてやる。

 

 

「え? えぇと、貴方が倒す……ということですか?」

 

 

お姉さんは戸惑いながらも、今度こそ正解を言い当ててくれた。自分は首を縦に振ると、カエルに向かって歩き出す。近付くにつれ、巨体と小さな自分との差がよく分かる。カエルがはっきりと見える位置に来たところで、ちらりとお姉さんを横目で見てみれば心配そうにハラハラしていた。

 

 

まあ、見た目はまだピッチピチの16歳の猫耳生やしたか弱い少女だしな。心配になるのも無理はない。

 

 

カエルが大きく口を開くので、自分も真似して大きく口を開く。ゲコッと真似して声に出してみるが、やはり出てくるのは意味不明な言葉。

 

 

これを見たら、お姉さんは理解するだろう。目の前にいる少女が、どれだけ異質であるのかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え??????」

 

 

混乱するお姉さんに、口元にバッテンを作りながらにっこり微笑んだ。理解し(わかり)ましたか? なんて意味も含めて。

 

 

そんな微笑む自分の側には、目玉が潰れ、内臓をぶち撒けたカエルの死体が無惨に転がっていた。

 

 

 



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ねこです。恩人と就職です。


お気に入り290人以上、評価17人ありがとうございますねこでした! たくさんの人に見てもらえてとてもねこは嬉しいです!

……もう、このすば×SCP小説増えていてもおかしくないですよね???


 

 

 

緩やかな午後のティータイム。お姉さんはポットから紅茶?(ハーブのような匂いがする)を綺麗な動作でカップへと注ぎ渡してくれる。そして少し混乱した面持ちでおずおずと尋ねてきた。

 

 

「えっと……その、つまり貴方が話す言葉は生き物を狂わせてしまう力がある……ということですか?」

 

 

お姉さんの言葉に、肯定の返事の代わりに縦に頷く。そしてほんのりと温かいティーカップを手に取り口へと持っていき、中の紅茶をごくごくと喉を鳴らし、飲む。若干ぬるいが、猫舌の自分としては丁度いい温度だ。そして美味しい。

 

 

さて、説明が遅れたな。ここはお姉さんが経営している魔道具店らしい(お客さんがさっきから全く来ないのはスルーしておく)。その名も『ウィズ魔道具店』。お姉さん改めウィズさんは凄腕のアークウィザード__つまりは魔法使いだそうだ。あのカエル共を一瞬で氷の彫刻にした時点で只者ではないと思っていましたよ、ええはい。

 

 

さて、何故ウィズさんの店に来たのかという疑問に答えさせてもらおう。勿論、あのまま草原にいればカエルが邪魔になるということもあるが、一番の理由は喋れないことを理解したウィズさんが自分に"良いものがある"と誘ってきたからだ。

 

 

まあ、自分は命の恩人だからと言って見知らぬ人にホイホイ着いて行く警戒心皆無な人間(ねこ)ではない。だがしかし、先程も言った通り命の恩人でもあるし、耳を指差し目立つのが嫌だと示したらフードを貸してくれるし、どうにも人を騙すというよりも騙されるような印象を受ける。

 

 

それに、このまま意思疎通の手段がジェスチャーだけになるのは死活問題だ。何も会話だけがコミュニケーションの全てではないが、人間関係やらその他諸々は会話で成り立っていると言っても過言ではない。そんな訳で"良いもの"を譲ってくれるなら行くしかないのである。

 

 

「えーっと、確かここら辺に……あ、ありましたよ! これです、これ!」

 

 

紅茶を飲んでいると、店の奥でゴソゴソガサガサなにやら一匹いたら百匹はいると言われている黒光りする虫のような音を立てていたウィズさんは、手に指輪のような物を持ってきた。そしてその指輪を渡たされる。はめてみろという事だろうか?

 

 

取り敢えず、利き手の人差し指に指輪をはめてみる。少し大きいと思った指輪は指にはまると少し光り、次の瞬間には自分の指にぴったりな大きさに変化した。

 

 

「ふふ、驚きましたか? 次は、指輪をはめた指に魔力を少し集中させて空中に何か書いてみてください」

 

 

ウィズさんはこの後のこちらの反応を予想してか、少し楽しそうに笑った。魔力を集中という行為の仕方が全くもって分からない。が、取り敢えず指先に力を入れて意識を集中させると、何やら変な感じがするものが指先に集まっていく感覚がする。きっと、これがウィズさんの言う"魔力"というものなのだろう。

 

 

指先に魔力を集中させた後は、すぅーっと空中を優しくなぞるように線を引いてみる。すると、それをなぞるように光が自分の指の後をついてくる。

 

 

__空中に文字が書けている! 驚きと感動から目をキラキラと輝かせた自分は、記号や文字や某ネコ型ロボットを書いては、ほぉ…と感嘆の息を漏らす。流石異世界(ファンタジー)だ。VRかなんかで似たようなのが現代ではあったが、それの完全上位互換である。

 

 

「それは『声封じ』の呪いや怪我や病気で声が出なくなってしまった人に向けて作られた指輪です。少量の魔力を使って空中に文字が書け、紙やペンがなくても筆談できる優れ物なんです!」

 

【ねこです凄いですねこれ!】

 

「ふふふ、そうでしょう? そうでしょう? 凄い商品なのに、何故か売れないんですよね…」

 

 

早速この指輪のコツを掴んだ自分は、ウィズさんの前に文字を書いていく。変な言葉は筆談でさえも口癖のように付き纏っているが、まあ支障はないようだし無視しよう。

 

 

【便利な井戸です商品なのに、何故売れないのか心当たりとかありませんか?】

 

「うぅん……強いて言うなら、もう『声封じ』の呪いを持つモンスターは絶滅してることと、プリーストの職業の人に頼めば呪いや怪我は治してもらえることぐらいでしょうか…?」

 

 

思わず言葉を失った。いや、実質文字通り失ってるようなものだが、ウィズさんにかける言葉ならぬ、書ける言葉が見つからない。

 

 

……何故だ。何故それを知っていながらこの指輪を仕入れたんだウィズさん。

 

 

「因みにですが、お値段は130万エリスとなっています」

 

 

書ける言葉はブラックホールへと吸い込まれた。そして自分は項垂れた。駄目だ、この人絶対に商売の才能が絶望する程ない。ここの店に来る前に見た看板に書いてあったのだが、ここはアクセルと言う、始まりの街と呼ばれる場所だ。RPGでは攻撃力が1のスライムでまずはレベル上げをするような街で、どうしてそんな高額な買い物が出来ると勘違いしているのであろう? (1エリスが何円なのかは知らないが)

 

 

【あの、自分は一文無しなんですが……とてもそんな大金なんて払えませんです】

 

「あ、いえいえお代はいただきませんよ。そのような体質では困ることばかりでしょうし……これは、私が勝手にプレゼントした物ですので。どうぞ受け取ってください」

 

 

ウィズさん、貴方って人は……!! 項垂れ、落としていた視線を今度は上に上げて天を仰ぐ。駄目だこの人は、絶対いつか……というか、近いうちにでも店を潰しかねない。お人好しすぎるし、人に騙されそうだ。

 

 

よく見るとウィズさんの顔は青白く、頬が少し痩けている。もしかすると、経営難で十分に食事が取れていないのだろうか? 自分は、恐る恐るウィズさんに向かって指を動かす。

 

 

【あの、顔色が悪いですけどきちんと食事を取っていますか? どこにでもいます】

 

「ええと、固形物を最後に食べたのは、今から2ヶ月前で……」

 

【ねこはここで働きます】

 

「……ふぇ?」

 

 

高らかと天を仰いでいた手でバンッとテーブルを叩き、ウィズさんにそう伝えた。ウィズさんは混乱しているが、そんなことはお構いなしにウィズさんに頭を下げながらお願いする。

 

 

【ここで働かせてください!! ねこはいますここで働かせてください!!】

 

「え、えぇ!! いや、あの、自分で言うのもあれなんですけど、この店は赤字続きでお給料を払うことができなくて…」

 

【お給料はいらないです。この指輪代だけでも、働かせてください。お願いです。あと食事を取ってくださいお願いします死んでしまいますねこはいました】

 

「ああ!! そ、そんなに頭を下げないでください! 分かりました! 雇います、雇いますから!!」

 

 

ヘッドバンギング並みに頭を上げ下げしたお陰で、晴れて自分はウィズ魔道具店の店員へとジョブチェンジした。自分の今の目標はただ一つ、命の恩人の命を食い止めることだ。必ず朝昼晩の三食をきっちり食べて健康的にさせてやると誓いながら、取り敢えずはウィズさんが持ってきた帳簿を開いた。

 

 

帳簿に目を通した。目を擦った。もう一度目を通した。パラパラとめくった。目を擦った。もう一度最初のページから見直した。目頭を抑えた。帳簿を閉じた。深い、深いため息を吐きながらウィズさんと向き合う。

 

 

【ウィズさん、ねこでした貴方クビにしていいですか?】

 

「ひ、ひどいっ!!! 雇って一日未満の人にクビを宣告されました!!」

 

 

__暫くの目標は、ウィズさんを働かせないことにする。

 

 

 

 





友達に貸したこのすばが帰ってこないので、遅くなってます。すみません


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ねこです。謎の爆発と日常です。



遅くなりましてスミマセン。
漸くこのすば一巻が帰還したので、進めていきます。


このすば×SCP増えてくださいよ。280や682、49とか個人的に好きです。





 

 

あれから数ヶ月が経った。

 

 

__なんてあっさり十数文字で終わらせられるほど時が経つのが早かった訳じゃない。なる訳ないじゃないか。時は金なりとは昔の人はよく言ったものだ、なんせ時間が経てば経つほどウィズさんは無駄遣いをしてお金を湯水のように浪費するのだから。少し目を離した隙にやっとのこと稼いだお金があんな魔道具(ゴミ)に早変わりなんて一流のマジシャンによる手品のようだ。

 

 

種も仕掛けも悪意もない。ひたすらにウィズさんはあの魔道具(ゴミクズ)が売れると思って買っているのだ。どこの漫画だったか、世界の引き金の本物の悪党と言われている少年とウィズさんは同じタイプなのであろう。

 

 

……だが、きちんとメリット・デメリットを聞いた上でこんな魔道具(ゴミクズクソ)に大金を払う思考回路が謎だ。この店で働くようになって明かされたのだが、ウィズさんはリッチーというアンデッドの王である種族らしい。元は人間だったのだが、なんか色々あって禁断の術を使ってなったとか。多分、その影響で狂ってしまったんだと思う。目利きというか、思考判断力? 逆に凄いよね。

 

 

「……あら? なんだか褒められたような気が……」

 

 

なんでその一部分だけ受信してんだよ。99%勘違いだからな。棚の掃除をしていたウィズさんに心の中でそう呟き、ウィズさんの発言自体は無視をしてご近所のママさんとの約束があるのでカウンターから席を立つ。

 

 

【ねこです少しだけ留守にします】

 

「そうですか。なら、私が代わりに…」

 

【ということで、店は一時的に閉めてください井戸小屋です。何か仕入れてこれ以上借金を増やされたくないので】

 

「ひどいですっ! と、というか私のお店なのになんでねこさんが仕切ってるんですか!」

 

【無駄に育った自分の胸に手を当てて聞いてみやがれです。ねこでした】

 

 

と、軽くウィズさんと言葉を交わせ店を出る。これから近所のママさんから野菜とカエル肉のお裾分けがあるのだ。まさか本当にカエルを食べるとは思わなかったがもう慣れたもので、それに久しぶりの肉である。喜んで食べようじゃないか! ……未だに野菜が飛び回るのは慣れないし、あまり気が進まないが。

 

 

今日は雲がひとつもない晴天だ。フードをしていないお陰で髪がそよ風に流され、少し視界に入る。元気に客寄せをするおじさんがいる八百屋や、よくパンの耳をくれる焼きたての良い匂いがするパン屋。なんだかよく分からない物が置いてある骨董品店に、お酒を飲み過ぎた人たちの吐瀉物がたまにある路地裏。

 

 

初めの数週間は全く出歩かなかった町も、今ではフード無しでもちょくちょく散歩をするほどに慣れてしまった。子供たちからはこの魅惑のふわふわもふもふ猫耳と尻尾のお陰で大人気である。そんな子供たちと遊んでやっていると自然に近所の人たちとも交流が増え、偶にだがこうしてお裾分けが貰えることがあるのだ。

 

 

すれ違う子供たちが手を振ってくるので振り返しながら歩いていると、お裾分けをしてくれるママさんがわざわざ家から出て待っていてくれている。手には紙袋と中のものが暴れまくっている布袋を持っていた。

 

 

小走りでそこに向かい、待たせてしまった謝罪とお裾分けの感謝を込めて深くお辞儀をする。するとママさんは「家の子供が世話になってるお礼よ〜!」とニコニコしながら紙袋と布袋を渡してくれた。紙袋は少し温かく、揚げ物の良い匂いが鼻腔をくすぐる。布袋は相変わらず暴れているけれども。

 

 

「これ、ジャイアントトードの唐揚げね。あとそっちはミニトマト。小さいから攻撃力は弱いけど、動きが素早いから注意するんだよ。ヘタを持つと大人しくなるから」

 

 

首根っこを掴まれると大人しくなる猫かよ、と心の中でツッコミつつ、もう一度ペコリと頭を下げて【ありがとうございます】と書いて伝える。さて、ウィズさんがやらかす前に早く帰らなければ…

 

 

__そう考えた瞬間に、今まで感じたことのない魔力に思わず体がビクッと跳ね、尻尾の毛が逆立った。

 

 

体がぶるりと震え、思わずミニトマトが入っている布袋を落としてしまったが、ミニトマトも先程の魔力に怯えているのか大人しかった。布袋を拾い上げ、魔力を感じた方向を見る。

 

 

なんだ、なんだ今のは。ウィズさんの魔法を間近で見た時よりも凄いこの魔力は。立ち止まり、辺り一帯に耳を澄ましてみる。と、同時に響く爆発音。距離的には町から少し離れているだろうか、振動まで伝わってきたので、火山でも爆発したのかと少し不安になる。

 

 

超魔力の次は謎の爆発、これらが関係しているのかは分からない。……気になるが、今はこの唐揚げが冷めない内に、そしてウィズさんが稼いだお金をゴミに変えてしまう前に早く店に帰らなければ。そうして立ち止まっていた足を動かし、歩を進める。

 

 

 

 

 

この世界には人を丸呑みできるようなカエルがいて

 

 

 

自分を食われてたまるかと攻撃してくる野菜がいて

 

 

 

魚なのに畑に生えてるサンマがいて

 

 

 

魚ではないのに川で泳いでいるバナナがいて

 

 

 

働けば働くほど貧乏になるリッチーがいて

 

 

 

 

 

そんな世界だ。きっと、こういうことも日常茶飯時なのだろう。そうではなくとも、大事件なら王都が対処するだろうし、自分には関係ないことだろう。……とにかく今は、ウィズさんが待っている魔道具店に帰ろう。

 

 

足早に魔道具店へと向かう自分の耳に、少し離れたところで少し聞き覚えのある叫び声というか、発狂音が聞こえた気がしたが、空耳だろうと片付け先を急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

店に帰ってくると、ウィズさんの姿はなく、よく見ると店の奥から此方をそーっと覗いていた。だが、見知った顔だと分かった途端に笑顔で「おかえりなさい!」と駆け寄ってくる。いつの間にか犬属性を身に付けたらしい。犬(属性)のお姉さんと猫の少女がいる店と売りに出せば客は増えるだろうか?

 

 

【ただいまです。ねこですよ。どうしたんですか?】

 

「……ねこさんも感じたでしょう? あの魔力を。私、なんだか寒気が止まらなくて、少し怖かったんです

__ですけど、ねこさんの顔を見て安心しました。もうなんでもありません!」

 

 

少し青白い顔のウィズさんが目を細めて笑う。体調が悪そうだがそれが一周回って儚げで、思わず心臓が高鳴ってしまった。これで浪費癖というか、まともな商売をしてくれるなら文句無しの美人なのだが……天は二物を与えずというからな。

 

 

よし、ウィズさん分の唐揚げを多くしてあげよう。店長がそんなのだと見栄えが悪いからな。そう思った自分はミニトマトを奥に置き、お皿を出して唐揚げを盛るが……おや、冷えてしまっている。まあ、残念だが仕方がない。もう少し速く走って帰るべきだったな。

 

 

そう、少し残念そうにした自分を見て、久しぶりの肉に目を輝かせていたウィズさんはポケットから箱を取り出した。

 

 

おい、なんだそれは。そんな物は見たことないぞ。まさか、まさかウィズさん、貴方……!!

 

 

「そういう時はこれですよ! 先程買ったこの箱はですね、物を入れればすぐに温めてくれるんです! これで冷めてしまった唐揚げもほっかほかですよ!! ただ、箱自体も熱くなるため氷系の魔法を使わないと中の物を取り出せないのが難点なんですが……って、ああああ!!」

 

 

自分は箱を取り上げると、思いっきりセール品という名のゴミ箱へと投げ入れる。そして、自信満々に紹介した魔道具を投げられショックを受けるウィズさんに一言。

 

 

【ねこは唐揚げを没収します】

 

「そ、そんなああああああああああああぁぁぁ!!!!」

 

 

ウィズさんの悲痛の叫びが店中に響き渡った。嗚呼、井戸に……いや、日本に帰りたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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ねこです。苛つきとお久しぶりです。


お久しぶりですねねこです。SCP×このすば小説はまだですか? ねぇねぇねぇねぇ


 

 

 

謎の超魔力&謎の爆発から約一ヶ月ほど経ったある日のこと。いつも通り赤字のため簡素な夕食__というより夜食を用意していた。

 

 

今日はウィズさんが定期的に共同墓地に眠る魂を天に還してあげる日だからだ。心優しい人(リッチー)に向けてお疲れ様の意を込め、奮発してスイーツを用意した。疲れた時には甘いものと相場が決まっている。深夜にスイーツという甘い誘惑にウィズさんが迷いを見せたのも最初だけだった。今では嬉しそうに某服が弾けなくなる料理漫画のように見てるこっちが涎が出そうな顔でパクつく姿は癖になる。成程……これが餌付けか。

 

 

本当に優しい人なのだ。お人好しとも言う。……だけれども、これで何度目か数えるのはとっくにやめたが、これでゴミにしかならないぽんこつ魔道具さえ仕入れなければ……本当にもう……はぁ、考えるのはよそう。

 

 

そんなことを考えため息をついていると、ガチャリと扉が開いて黒いローブを着たウィズさんが帰ってきた。今日は思っていたより遅いご帰宅のようだ。欠伸が出るのを抑えながら、お帰りなさいと伝えようとかけよった。

 

 

__のだが、そのウィズさんの姿を近くで見て思わず肩を掴んで攻め寄ってしまった。

 

 

「ね、ねこさん?! どどど、どうしたんですか?!」

 

【それは此方のセリフです。いました。どこの屑に襲われたんですか、粛清してやります。きいてますか? 顔や特徴、背丈まで詳しく教えてくださいよろしくおねがいします】

 

 

ウィズさんに詰め寄りながら、目の前にそう文字を書いてやる。ウィズさんは少し涙目で顔色も悪く、目立った外傷はないが息が少し荒い。そしてフラフラとしていて倒れそうである。……一体、どんな手練れに攻撃されたんだろう。

 

 

ウィズさんは凄腕のアークウィザードだし、アンデッドの王であるリッチーでもある。そのウィズさんをこんな目に合わせられる奴がこんな駆け出しの街に居るというのは衝撃だ。いや、もしかしたら凄腕の冒険者がたまたまこの街に来てウィズさんに攻撃をしたのかもしれない。

 

 

ならば街を旅立たれる前に急いで処さねば。うちの店主をこんな目に合わせやがって……旅を手伝ってあげようではないか。あの世へ狂いながら旅立たせてやるよ屑野郎が。

 

 

そんな怒りが伝わったのか、ウィズさんは慌てて「違います!」と叫ぶ。

 

 

「違いますから! えっと、襲われたのではなくて、浄化されかけたというか……倒されかけたというか……?」

 

【ねこでした。なるほど相手はプリーストなのですね。しかもウィズさんを浄化するほどの力を持つとなるとアークプリーストですね。この街にプリースト職は少ないのでこの情報だけでも充分追えます。処してきますねこです。】

 

「あああああああ!!! いつになく饒舌でしかも私のことで怒ってくれるのは嬉しいのですが違うんです違うんです! ちょっとしたトラブルがあったんですよ話を聞いてください!!」

 

 

魔法使いの癖に意外にも強い握力で店から出ようとするのを阻止され、結局話を聞くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話を聞いてみるに、浄化__つまりは魂を還すために訪れた墓地でウィズさんの魔力に反応した死体が目覚めてしまうそうだ。それを見た人がウィズさんをゾンビメーカーと見間違ってギルドにクエストを出し、それを討伐にきた冒険者の一人に浄化されかけるも、理由を話すと墓地の浄化を引き受けてくれたらしい。

 

 

「……という訳なんです。決して相手にも悪気があった訳ではないですし、むしろ正義感だと思いますし、私のせいで目撃した人を怖がらせてしまっているみたいですし……それに今後の浄化は代わってくれるそうなんです! ほ、ほら、とっても良い人なので許してあげてください!」

 

 

そう、必死そうに弁明するウィズさん。それを自分はむすっとした顔で聞いていた。何故そのような顔なのかと言えば、ただ苛ついた……という子供のような理由になってしまうだろう。

 

 

ウィズさんの説明で、その冒険者たちがウィズさんを倒そうとした訳ではないと理解できている。ウィズさんにも少なからず非があった訳だし、前に一度だけ浄化する場面を見たことがあるが、あれは側から見れば勘違いしてしまうのも無理はない。つまりは報告者にも非はない。

 

 

偶然の事故__というのが適切かは知らないが、そんな所だろう。それでも、何故だか苛ついてしまったのだ。

 

 

「ねこさん……? あの、怒ってるんですか? えっと、その、ずっと黙っていると怖いんですが……もしかして、相手の方への殴り込みとか考えてませんよね?! 何度も言いますが、どちらかと言えば私の方が悪いんです!」

 

 

ほら、またそうやって冒険者ら(ソイツら)を庇う。見ず知らずの奴らにウィズさんがそうしていると思うと、苛々としてくるのだ。なんというか、一言で言えばこれは嫉妬なのだろう。

 

 

自分が思っているよりも、自分はウィズさんに執着しているらしい。ここは異世界。家族や友人と二度と会えないこの世界で、一番最初に関わった人、それがウィズさんだ。命まで助けられ、居住を共にするまでになった同居人兼雇い主に執着しない訳がない。

 

 

恥ずかしいから絶対に本人には言わないが、自分はウィズさんを親のように思っているのだ。血は繋がっていないが、家族なのだと。

 

 

「……ねこさぁん。無視しないでくださいよぉ…うぅ」

 

 

そう考えていれば、ウィズさんがついに泣き出した。やばい、放置し過ぎてしまった。嫉妬心から勝手に苛ついて放置とか……自分は思っているより面倒臭いガキだったようだ。謝らなければと、ウィズさんの涙をハンカチで拭きながら、空中に文字を書いていく。

 

 

【すみませんねこです。少しねこが自分で思うより井戸ガキですと考えていただけですから。無視してごめんなさい】

 

「井戸ガキ……? ガキ……? えっと、それはどういう意味で」

 

【さて、遅くなりましたねこですが、深夜のスイーツのお時間ですよ。今日のねこはコチラになりますです】

 

「こ、これはっ! ご近所で話題になっていた、ネロイドアイスクリーム……?!」

 

 

はわわと涎を垂らすウィズさんに餌付けの喜びを感じつつ、さあどうぞと食べるように促した。

 

 

冒険者の件は水に流そう。次にウィズさんを狙ってきた場合は問答無用で狂わせてやると考えながらも、それはないかと首を振る。こんな誠実な人と知れば、倒そうとするなどあり得ない事なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__その約一か月後。

 

 

いつも通りに閑古鳥が鳴くどころか合唱している店に、カランカランと鐘の音が来客を知らせてくれる。久しぶりのお客様に、ウィズさんがいらっしゃいませと言おうとする。

 

 

が、お客様を見るとウィズさんは驚き声を上げる。そういう自分も久しぶりに見たアイツを見て、固まってしまったのだが。

 

 

「あああっ?! 出たわねこのクソアンデッド! あんた、こんなところで店なんて出してたの?! 女神であるこの私が馬小屋で寝泊まりしてるってのに、あんたはお店の経営者ってわけ?! リッチーのくせに生意気よ! こんな店、神の名の下に燃やして…」

 

 

ウィズさんをクソアンデッドと言った所から自分は動き出し、そして燃やすと発言したその瞬間に首元を掴んで耳元ですぅと息を吸い込み、呟いた。

 

 

 

 

 

「『ねこです。お久しぶりですねよろしくおねがいします』」

 

 

 

 

 

__瞬間。駄女神はその場に崩れ落ちた。

 

 

 







猫のストーカー行為って飼い主を親だと思ってるかららしいですね。うちの猫がストーカーしないのは親だと思われてないのでしょうか


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ねこです。駄目神と再会です。


カズマさんsideにするか、ねこsideにするかで迷いました。一旦どちらも書いてみて、ねこsideにしました。

…そこの貴方、このすば×SCPで小説を書いてみませんか?




 

 

 

 

崩れ落ちた駄目神に、隣にいた男(同い年くらいだろうか)が「お、おい!!」と声をかける。そんな男を自分は首だけを向け、ぎろりと睨みながら指を動かした。

 

 

【ねこです貴方はこの駄目神と同じこれはねこです発言をしますか? するのですか? そうならば貴方も問答無用で狂わせ】

 

「わあぁーー!!! ねこさん! ねこさんやり過ぎです!! 落ち着いてください落ち着いてください。ほ、ほら喉でも背中でも撫でてあげますから……いたっ、なんで叩いたんですかっ?!」

 

 

書き途中で喉をこしょこしょしてくるウィズさんの手を叩き落とす。自分は猫ではない。そう書こうとすれば、今度は背中を撫でてきたので強めに胸部に偏った脂肪を引っ叩く。

 

 

ぶるん。そう大きく揺れたのがムカついたので、もう一度叩く。「なんでですかぁ?!」と悲鳴を上げたウィズさんと格闘していれば、すっかり蚊帳の外となった男が話しかけてきた。

 

 

「あのー……えっと、と、取り敢えず。ウィズ、約束通り来たんだけど…」

 

 

そう言えばいたな。そう思いながらも、自分は男と話をすることにした。

 

 

男の名前は佐藤和真というみたいだ。聞いてみれば、ウィズさんと約束をしていたので来たらしい。名前からして察していたが、どうやらカズマも転生者らしい。特典で駄目神を連れてくるとか、自分でもやらなかったことをやってのけるその勇気は賞賛に値する。

 

 

まあ、そんな話をして、ウィズさんに敵意はないみたいで安心する。……ウィズさんの揺れる胸を見ていたのは見逃してやろう。健全な反応である。だが、度が過ぎれば狂わせてやろう。

 

 

「うふふ、この店にはねこが沢山いるのね。猫カフェってやつかしら。あらカズマ、あなたの肩にねこがいるわよ。白くて毛がなくて人間のような目で…」

 

「あーー!! あぁーー!! やめろお前ふざけんな! 俺に汚染されろってんのか?! 正気に戻れアクア!!」

 

 

と、そんな事を考えながら目の前でぎゃーぎゃーしているカズマ達を見る。一応狂わせてしまった謝罪とその理由、そして自分の事を説明するとカズマは大変驚いた。主に、この特典のことで。そして「ジェノサイドでもしたいのか?」とまで言われた。

 

 

カズマはこの特典の元ネタとやらを知っているようで、さっきからアクアを正気に戻そうとしたり怒鳴ったりしている。自分は思っていたより効きが薄いのに驚いているが……腐っても女神ということだろうか? なんて、この光景を見てそう思う辺り、自分はなんと軽薄なことだろう。

 

 

「あらあら、このねこ怪我しているわ。治してあげましょうねぇ」

 

 

目が虚なアクアは聖母のように優しく膝上の何もない空間を撫でるようにして口を開き、「『セイクリッド・ハイネス・ヒール』」と唱える。瞬間、光がアクアごと包み込む。その感じた覚えがある魔力に、お茶を出すためにキッチンにいるウィズさんの悲鳴が聞こえ、嗚呼、あの時の魔力はアクアだったのかと気付く。

 

 

すると、突然目に光が戻ったアクアが辺りをキョロキョロし始めた。そして「あの、紅茶でもお飲みになりますか…?」とトレイにティーカップを乗せてきたウィズさんの前までずんずんと歩き、カップを手に取り口に運ぶと__

 

 

「ぬるいわ!! リッチーっていうのはお茶の一つも満足に入れられないのね!!」

 

 

と、姑のように言い放った。突然なんだコイツ、もう一回狂わせてやろうか? そういう気配を察知したのか、カズマが先回りとしてアクアの後頭部にダガーの柄を喰らわせる。

 

 

そして蹲るアクアから目を逸らすと、カズマは此方に顔を向けた。

 

 

「アクアも元に戻ったみたいだし、ウィズ。スキルについて教えてくれ」

 

【ねこもそうですが……貴方、女神の扱いがアレすぎやしませんか?】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウィズ。以前言ってたろ? 何か、リッチーのスキルを教えてくれるって。スキルポイントに余裕ができたからさ。何か教えてくれないか?」

 

「はぁ?! カズマ、あんた何考えてんのよっ!! リッチーなんて薄暗くてジメジメした所が大好きななめくじの親戚みたいな連中なのよ?! そんな奴らのスキルを取ろうって言うのっ!?」

 

 

カズマが切り出した話に、売り物のポーションを興味深そうに手に取っていたアクアが大声を上げ、罵声を飛ばす。そしてその罵声がクリーンヒットしたウィズさんは「ひ、酷いっ!」と涙ぐむ。

 

 

…………。自分はマッチをチラつかせながらアクアに向かって指を動かす。

 

 

【その手にあるのは、温めると爆発するねこです。ポーションですよ。マッチの火を放り投げてもいいですか?

 

……因みに小屋ですが、貴方が今後ずさっている背後には衝撃が与えられると爆発するポーションがあるので気を付けてください。でした】

 

 

自分の脅しに後退りしたアクアに追い討ちをかけると、アクアは小さく悲鳴を上げてすみっこに体育座りをしてビビシのようにたけっている。大人しくしてくれるのはいいが、そのまますみっこで暮らすなよ。

 

 

その様子を見たカズマが、苦笑しながら口を開いた。なんだその目は。

 

 

「俺もそうだが……ねこも女神の扱いがアレ過ぎないか?」

 

【ウィズさんの方が女神としては相応しいですね、ねこです】

 

「あ、それは俺も思った」

 

 

だよなぁ、それなぁ、と言っていればおずおずとウィズさんが聞いてくる。

 

 

「そ、その。さっきから思ってたんですが、以前私を簡単にターンアンデッドで消し去りかけたりしたのは……。ひょっとして、本物の女神様だったりするのですか?」

 

 

……これ、言ってもいいのだろうか? ウィズさんなら周りに言いふらさないと思うが(そもそもこの性格では信じる奴は少ないだろう)。だが、リッチーであるウィズさんに女神は天敵ではないだろうか? 女神だと知らせて怖がらせるのも…

 

 

「まあね。私はアクア。そう、アクシズ教団で崇められている清らかで美しい女神、アクアよ! 控えなさいリッチー!」

 

「ひいっ?!」

 

 

お、おまええぇ!!! いつの間にか立ち直っていたアクアが、ウィズさんの前で高らかに名乗ると、自分でなければ見逃してしまうほどの速さで自分の後ろに回り込んできた。携帯のマナーモードくらいにガタガタ震えているので、振動が伝わってくる。これは震度7強だな。可哀想なウィズさんだ、ウィズさんをこんなに怖がらせるなんて許せないぞ。

 

 

……やはり、あんな駄目神とはいえ女神なんだよな。神とリッチー。聖属性と闇属性。例えるならばアクアにとってウィズさんは『こうかは ばつぐんだ!』なのだ。そんな言わば天敵に会ってしまったら、ここまで怯えるのも仕方がないといえよう。

 

 

「おいウィズ、そんな怯えなくてもいい。アンデッドと女神なんて水と油みたいな関係なんだろうけどもさ」

 

 

カズマがそう慰めると、自分に頭を撫でられているウィズさんが震える声で言う。

 

 

「い、いえその……。アクシズ教団の人は頭のおかしい人が多く、関わり合いにならない方がいいというのが世間の常識なので、アクシズ教団の元締めの女神様と聞いて……」

 

【かなり恐怖を感じた、というねこですか】

 

「何ですってぇっ?! うちの子たちは頭の良い、賢い子達ばかりなんですけど! 謝って! うちの可愛い子たちに可愛くないことを言ったことを謝って!」

 

 

詰め寄って来たアクアに、ウィズさんを庇うように前に立って応戦していれば、カズマがぽつりと呟いた。

 

 

「………は、話が進まねぇ…」

 

 

 

 

 

 






今更ですが、ねこの一人称は"自分"です。ねこ語に変換されると"ねこ"になってしまうので、心の中だけですが

ねこがなんか、ウィズさんのセコムに見えてきました。そんなつもりではなかったのに、何故でしょうか……


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ねこです。嫉妬と漸く本題です。



【急募】SCP×このすばを増やす方法【求む】

ぼんやりする頭で書いたので、なんかアレですけど許してください。
いやはや、毎度毎度の誤字報告助かります、ありがとうございますねこです。




 

 

 

 

「そう言えば、私、最近知ったのですが。カズマさん達があのベルディアさんを倒されたそうで。あの方は幹部の中でも剣の腕に関しては相当なものだったはずなのですが、凄いですねぇ」

 

 

ウィズさんに襲い掛かるアクアを高級クッキー(消費期限切れ)で宥め、大人しくさせて暫く。ハムスターのようにサクサクとクッキーを齧るアクアをチラチラ気にしながら、ウィズさんは穏やかな笑みを浮かべる。

 

 

嗚呼、このアクセルの街を留守にしていた時があったっけ。自分は魔法の素材を集めるために、この大陸で最も深いダンジョンへ潜っていた時の事を思い出す。

 

 

どうやら、その時に魔王幹部のベルディアというデュラハンがカチコミに来たらしい。ご近所さんに聞いた話だと、毎日毎日、家に魔法をぶっ放されているのでクレームを言いに来た、とのこと。

 

 

まあ、所詮他人事なので適当に軽ーく同情しただけで終わった。魔王幹部だからそんな嫌がらせをやられるのでは? とも思った。で、そのベルディア討伐の際にとあるアークプリーストが洪水級の水を出し、街の一部が洪水被害にあったそうな。今考えると、絶対にそのアークプリーストはアクアだと分かる。トラブルメーカーかよ。

 

 

ふうむ、この駄目神の洪水被害で、この街の住民は防災意識が高まっているだろう。なら、防災グッズでも作れば売れるかも知れないな。よし、試しに今度作ってみよう。最近、毎日鳴り響く爆発音対策の耳栓もセットにして販売計画を練って……

 

 

はて、防災グッズには何が入っていたかと自分が思い出していれば、カズマが不思議そうな顔でウィズさんに問う。

 

 

「"あのベルディアさん"って、なんかベルディアを知ってたみたいな口ぶりだな。あれか? 同じアンデッド仲間だから繋がりでもあったのか?」

 

「嗚呼、言ってませんでしたっけ。私、魔王軍幹部の一人ですから」

 

 

カズマの問いかけに、さらっと自分でも知らなかったことを言いのけるウィズさん。隕石の如く強い衝撃発言に思わず思考停止していれば、アクアが「確保ーっ!!」とウィズさんに襲い掛かったので、はっと我にかえり羽交い締めにして引き剥がす。

 

 

「ちょっと、離しなさいよ!! これで借金がチャラになるの! 面倒くさいバイトをしなくて済むし、お酒が飲み放題になるほどの借金返済のお釣りがくるのよ! お昼過ぎまで寝て、起きたら冒険者ギルドに行ってお酒を夜まで飲んで、銭湯に行って、お風呂上がりの牛乳をキューっとやって、高級なワインを寝る前に飲んで……ってのを毎日繰り返せるのよ!! アンデッドが女神の役に立てるんだから感謝なさ」

 

「『一旦黙ってねこになりましょうです』」

 

 

バタバタと抵抗するアクアが煩いので、耳元でぼそっと呟けば、アクアはへなへなと力が抜けて床に這いつくばる。そんなアクアの頬をぺちぺちと叩いてみれば、焦点が合わない目で「うふふ、ねこぱんち、ねこぱんち……」と笑っている。よし、軽い症状で済んでるし大丈夫だろう。多分。自分はアクアの事を確認すると、ウィズさんに向かう。

 

 

【取り敢えず、今ねこのうちです。何か理由がねこなんですよね? 聞かせてくださいウィズさん】

 

 

倒れたアクアを気にしながらも、ウィズさんはおずおずと話し始めた。

 

 

「は、はい。その、実はですね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

曰く、ウィズさんは魔王城の結界の維持の為の"なんちゃって幹部"らしい。人に危害を加えたこともなければ、そもそも賞金が掛かってないと言う。結界は魔王城を守る壁のようなもので、通常は魔王幹部全員を倒さなければ魔王城へと侵入できないが、アクアほどの力ならば残り二、三人が維持する結界ならなんなく破れる。今、自分を倒しても残りは六人。ならば、数がもっと減るまで、やるべきことがある自分はまだ生かして欲しい……との事だった。

 

 

泣きながら「生かしてください」と懇願するウィズさんに、カズマはなんとも居心地が悪そうな顔で目を泳がし、虚空にねこじゃらしを振るアクアをチラ見すると、口を開いた。

 

 

「ええっと。まあ、そういう事なら俺は別に無理に浄化しない。アクアにも説明して、やめさせる。俺みたいな未熟なパーティーに幹部をどうこうできるはずも、というか、会うはずもないし……ウィズ以外の幹部が倒されるのを気長に待っていた方がいい。その間にレベルを上げて、魔王討伐を目指すさ」

 

 

カズマのその言葉に、ウィズさんの表情は明るくなり、笑う。そりゃそうだ。人畜無害(自身の店以外に)なウィズさんを、わざわざ倒そうとする冒険者はそうそういまい。カズマが「よし、倒そう」と言おうものなら問答無用で狂わせる考えだったので、未来のお客様候補が減ることはなさそうな事にほっとする。

 

 

良い決断をしたなと思っていれば、カズマは少しばつが悪そうに聞いてきた。

 

 

「でも、良いのか? 幹部って連中は一応ウィズの知り合いとかなんだろ? ベルディアを倒した俺達に恨みとかは無いのか?」

 

 

カズマの言葉を聞いて、自分はすぐにウィズさんを見た。確かに、このお人好しは知り合いがこの世にいなくなったと知ったら悲しむかも知れない。そんな姿は見たくない。見てしまえば、カズマ達を少し恨んでしまう。魔王幹部から街を救ったヒーローなのに……

 

 

不安で拳を強く握ってウィズさんの答えを待つ。ウィズさんはちょっとの時間悩んだ後、口を開く。

 

 

「……ベルディアさんとは、特に仲が良かったとか、そんな事も無かったですからね……。私が歩いていると、よく足元に自分の首を転がしてきて、スカートの中を覗こうとする人でした。幹部の中で私と仲が良かった方は一人しかいませんし、その方は……、まあ簡単に死ぬような方でも無いですから」

 

 

一呼吸置いて、ウィズさんは「……それに」と言い。

 

 

「__私は今でも、心だけは人間のつもりですしね」

 

 

そう、少しだけ寂しげに笑った。ウィズさんがベルディアの事で悲しんでいないのにほっとしつつ、自分はアクアに少しだけ感謝した。

 

 

……ウィズさんのスカートの中を覗こうとするクソ変態アンデッドをこの世から抹消してくれてありがとう、と。取り敢えず、そのクソ変態アンデッドの城に今度行ってやろう。慰謝料として金目の物を全て奪い、赤字を減らすのだ。

 

 

そう思いながらチラリとアクアを見ると、またねこの怪我を治そうとしたのか、優しい笑顔で自分の頭の上(そこにねこがいるらしい)に回復魔法を唱えている。……狂っている方が女神らしく見えるのは何故だろうか。

 

 

そんな疑問を浮かべていれば、急に目にハイライトが戻ったアクアが「あら、私ってば何をして……」と言う。ほう、これは発見だな。どうやら、最上級の回復魔法は狂いすら治すらしい。なんというか、効き目も悪いし治せるし、ウィズさんとまではいかないが、自分もこの駄目神とは戦うとしたら相性が悪いらしい。

 

 

正気に戻ったアクアにウィズさんの事情を説明中のカズマを横目で見ながら、ウィズさんの服の裾をちょいちょいっと引っ張る。そうすれば、ウィズさんは「なんですか?」と此方を見た。

 

 

【スキルの件ですが、どうするんですか? どこにでもいますか?】

 

「あっ……ちょっと忘れかけてましたね。以前私を見逃してくれた事への、せめてもの恩返しですし……うーん、アレにしましょうかね……あ、あのねこさん」

 

【井戸の中ですなんですか?】

 

「私のスキルは相手がいないと使えない物ばかりなので……その、よろしければねこさんに試してもいいですかね? も、勿論手加減はしますし、ちょっぴりしかしませんし、大事になったりはしませんよ?!」

 

 

慌てたように早口で言うウィズさんが可笑しくて、少し笑う。ウィズさんは自分の命の恩人だ。あの時ウィズさんがいなければ、死んでいたかもしれない。そう考えれば、ウィズさんに殺されたって自分は文句は少ししか言わないつもりだ。

 

 

自分がOKのサインをしながら頷くとウィズさんはペコペコと謝り、丁度良いタイミングで説明が終わったらしいカズマに声をかける。

 

 

「カズマさん、えっと、今からドレインタッチというスキルを使うので、見ていて下さい」

 

「ほー? アンデッドがスキルを使う所を女神は目の前で黙って見てろって言うのね?」

 

「えっ?! いや、その」

 

「……これじゃ、どっちがリッチーと女神か分からないなっと!」

 

 

二度あることは三度ある。またもウィズさんに絡むアクアの頭を、バシンとカズマが引っ叩く。「痛いっ?!」と悲鳴を上げるアクアを無視して、カズマは此方に向き直った。

 

 

さて、漸く本題のスキルを教えることができるらしい。

 

 

 

 

 

 





漸く本題ではない件について。次が本題ですね。
カズマさんが影薄いですわねこです。頑張り所ですね。


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ねこです。フラグを建築です。


そろそろ、このすば×SCP小説が増えてもいい頃なんじゃないかって思うの。思うのよ。思うんだなぁ。

………思うんだよなぁ。チラッ


 

 

 

 

「で、ではいきます………………。ふぅ、終わりです。これで習得できるはずですが……ね、ねこさん大丈夫ですか? 気分は悪くないですか? お腹空いたりしてませんか?」

 

 

自分が差し出した手をウィズさんは壊れ物を扱うかのように手に取った。すると、手先から魔力が吸い取られて行く感覚がした。ホースから水が出て行くようなイメージだろうか。それが終わると、ウィズさんは自分に何かなかったかと聞いてくる。確かに少し疲れたが、そこまで心配されるものではない。

 

 

大丈夫だ、問題ない。の意味を込めてサムズアップをしてやると、ウィズさんは安心からかほっと息を吐きながら胸を撫で下ろした。

 

 

「ありがとうウィズ。ちゃんと習得できたよ」

 

「いえいえ、何度も言いますが、これは前に見逃してくれた恩返しですので……」

 

「リッチーのくせに良い子ぶって気に食わないわ。……ふう!」

 

 

アクアが割と強めに耳元に息を吹きかければ、ウィズさんは「きゃあああああああああああ!!!!」と、どんがらがっしゃんと勢いよく床に置いてある魔道具(ゴミ)を巻き込みながら吹き飛んだ。

 

 

どんだけちょっかい出せば気が済むんだお前!! 学習能力ゼロか!! そう心の中で悪態をつきながら倒れたウィズさんの元へと駆け寄ると、しきりにり「耳が…耳が……」と耳を抑えてぷるぷる震えている。

 

 

「アクアお前! そろそろガチで怒るからな!!」

 

「な、なによ?! ちょっとした悪戯心じゃない! 私の聖なる息吹(ホーリーブレス)は私が女神だから常時発動してるの! 仕方ないのよ!!」

 

「なぁにが聖なる息吹(ホーリーブレス)だ!! お前の息は酒とゲロの臭いしかしねぇド◯クエの『くさい息』だわこんの汚神が!!」

 

「うわああぁぁ!! カズマが、カズマが言っちゃいけないこと言ったああああぁぁぁ!!!」

 

 

外野の声が煩いが、それに構わずにウィズさんの耳を見てみると……薄い。いや、透けているか透明になっているというのが正しい表現だろうか。

 

 

取り敢えず、ウィズさんをこれ以上虐められないために奥に避難させることにした。避難完了後も「だからちょっとした悪戯心だったのよおお!!」やら「近付くな汚神!!」やらギャーギャー騒いでいる二人を横目に、先程のウィズさんが吹き飛んだ衝撃で巻き添えを喰らった魔道具(ゴミ)がいくつか壊れていたのでその請求書をさらさらと書いていれば、チリンチリンと店の鐘が鳴り、中年の男性が入ってきた。

 

 

「ごめんください、ウィズさんはいらっしゃいますか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【井戸悪霊ですか……】

 

「あ、いえ。井戸じゃありません。屋敷です」

 

【……ねこの口癖のようなねこです気にしないでくださいおねがいします】

 

 

ウィズさんを訪ねてきたこの男性は、不動産業を営んでいるそうだ。最近この街の空き家に何故か様々な悪霊が住み着き困っているそう。冒険者ギルドも初めての事態で対処不可能。祓っても祓っても悪霊はわんさかゴキブリのように湧いてくるらしい。

 

 

「ウィズさんは、店を持つ前は高名な魔法使いでしてね。商店街の者は、困った事があるとウィズさんに頼むのですよ。特に、アンデッド絡みの問題に関してはウィズさんはエキスパートみたいなものでして。

……ああ、そうそう。そこのねこさんは、ジャイアントトードキラーと街の方々からには呼ばれていまして。なんでも、最近では姿を見ただけで逃げ出すほど恐れられているとか。そこに売っている猫のぬいぐるみを牧場に飾っておくと、家畜が食われないとこれまた効果覿面だそうで…」

 

【ねこの事は、今は関係ないのですきいてますか?】

 

「あ、そうですね。すみません、話が逸れてしまいました。……と、先程説明した通り、アンデッド絡みなので、ここはエキスパートであるウィズさんに相談に来たのですが……おや、ウィズさんはお留守ですか?」

 

 

キョロキョロと店内を見回し、困ったような表情を浮かべる男性。カズマがアクアを見ると、ふいっと視線を逸らす。自分は無言でアクアを見ると、視線を合わすまいと物凄い勢いで首ごとぐりんと回す。

 

 

…………。自分は眉を八の字に下げ、悲しげな表情を浮かべながら指を動かした。

 

 

【ねこですね実は……ウィズさん、体調が優れないんですます】

 

「ええ! いつも心配になるほど青白い顔をしてましたが…今日は余程具合が悪いんですね」

 

【そうねこです。……青白く、小刻みに震えていて、立ち上がることさえ辛いようでした、です】

 

「そ、そこまで?! ……何か、悪いものでも憑いているのでしょうか」

 

【……とびっきり悪い者に、何かされたのかもですねねこはいます】

 

 

横目で今の会話をチラ見していたアクアに向けて、最後の文を見せてやれば、冷や汗をダラダラとかきながら震え出した。そして、カズマと自分の無言の圧力をかけてやると、アクアは控えめに手を挙げ小さな声で呟いた。

 

 

「…………わ、私が、やります……」

 

 

自分はその言葉を待ってましたと言わんばかりに褒めてやった。頭をよしよしと撫でてやると、アクアは涙目になりながら携帯のマナーモードのようにより一層震え出したので面白かった。

 

 

【アクア、頑張ってくださいねこです】

 

「…………はい、がんばるます……」

 

【あ、アクアの保護者であるみてますよ貴方にこの請求書は渡しておきますねねこでした】

 

 

にっこり笑顔でカズマに魔道具(ゴミ)の請求書を渡すと金額を見て「げえぇ?!」と驚きながらも「まあ、俺らの責任か…」と渋々受け取ってくれた。分割払いはありなので、そこは安心してほしいところだ。

 

 

店から出て行くのを見届けると、自分はまずはティーカップの片付けから始めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねこさん、ただいま帰りました!」

 

 

一夜明け、すっかり調子が戻ったウィズさんが散歩から帰ってきた。何やら嬉しそうだ。鼻歌まで歌っているので、こんなご機嫌なウィズさんが不思議な自分は、はて、何があったのだろうか? と、思わず首を傾げれば、ウィズさんは疑問を汲み取ってくれたのか、口を開いた。

 

 

「例の悪霊騒ぎのお屋敷、カズマさんたちが報酬で住むことになったんですよ。きっと、これであの子も寂しくないはずです!」

 

 

エプロンを付けながら笑顔で答えるウィズさんに、此方も釣られて口角が上がる。あの子、とは一体誰だか自分は知らない。ただ、たまに悪霊騒ぎのあった屋敷でウィズさんが誰かのお墓を掃除していることは知っていたので、何となく察することはできた。

 

 

まあ、なんにせよ良い結果になったみたいで満足だ。自分としても、例の魔道具(ゴミ)を高値で売れて今月の家賃分稼げたことだし、とてもとても満足である。

 

 

このまま、魔道具店の黒字を目指して平和に過ごせたらいいなぁ…。と、自分はセールス品(ゴミ置き場)魔道具(ゴミ)を入れながら考えていた。

 

 

悲しいかな。これは世間一般でいうフラグであると、この時の自分は微塵も気付かなかったのである。

 

 

 

 







祓っても祓っても湧き出る悪霊。ごーすと。
分け入っても分入っても白い猫。ねこ。

ねこはジャイアントトードを惹きつけやすい体質らしく、散歩に出ると八割の確率でエンカウントするためそのたびに脳漿破裂パーティーをしていたらカエル共から「あいつヤベェ」判定を受けました。



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ねこです。機動要塞デストロイヤーです。


あけましておめでねこございます。

ろぼとみーもねこはすきです。SCPだけじゃなくて、ろぼとみーでもいいので……どうかねこに、このすば小説をお恵みくださいよろしくおねがいします。

キリのいい所まで、と思ってたらいつもより長めになりましたです。

今年もねこですよろしくおねがいします。




 

 

 

 

 

『デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 機動要塞デストロイヤーが、現在この街へと接近中です! 冒険者の皆様は、装備を整えて冒険者ギルドへ! そして、街の住人の皆様は、直ちに避難してくださーいっ!!』

 

 

いつも通りにせっかく稼いだ金を水の泡にしてきたウィズさんを縛り上げ、お仕置きと称して目の前でジャイアントトードの唐揚げをもちゃりもちゃりと食べていれば、そんな警報が街の中心部から離れているこの店にまで聴こえてきた。

 

 

デストロイヤー? 随分大層な名前である。冒険者が緊急で集められているということは、名前に負けないほどの強い敵なのだろうか。……まあ、自分は冒険者登録をしていない(するタイミングを逃した)この街の住人なので大人しく避難でもするかな。

 

 

そう、のんびりと考えていれば、縛られ床に涎を垂らしていたウィズさんが暴れ出した。

 

 

「大変です大変です! ねこさん大変ですよ! デストロイヤーです! 機動要塞デストロイヤーが接近中なんですって!!」

 

【警報で聞いた通りですねこ。…そこまで焦るものなんですか? よろしくおねがいします】

 

「すっっごく大変なんですよ! デストロイヤーが通った後にはアクシズ教徒以外、草すら残らないとまで言われている最悪の大物賞金首ですっ! こ、このままじゃ私の店が物理的に潰されちゃいますぅぅ!!!」

 

 

な、なんだってえええ?! せ、せっかく今月分の家賃を死守したのに、意味の分からん物体に店を物理的に潰されるのか?!

 

 

ショックのあまり、食べていたジャイアントトードの唐揚げを落としてしまう。そして膝から崩れ落ちる自分に、目敏く落ちた唐揚げを拾い食いしたウィズさんが口を開いて話しかける。

 

 

「だ、伊達に氷の魔女と呼ばれていた訳じゃありません! ちょっと昔の話ですが、私の力がこの店……いえ、この街を守る手伝いくらいはできます!!

……と、いうことなのでねこさん! 縄を解いてください!!」

 

 

やけにきりっとした顔で言ったウィズさんだが、縄で縛られて床に転がり、唐揚げを食べながらじゃなきゃ大変格好いい台詞だった。だがしかし、そんな事を言っている事態ではないのは分かっていたので急いで縄を解く作業に入る。

 

 

縄を解いている間に、ウィズさんは機動要塞デストロイヤーを知らない自分のために簡潔にデストロイヤーについて説明をしてくれた。

 

 

元々は対魔王軍用の兵器として『魔導技術大国ノイズ』で造られた、蜘蛛のような形の超大型ゴーレム。特筆すべきは、小さな城ほどある巨体と馬を越える進行速度。凄まじい速度で動く八本の脚で踏まれれば大型モンスターでさえ挽肉にされるほどであり、常時、強力な魔力結界が張られているお陰で魔法攻撃は効かない。……つまり、物理しかない。

 

 

それも、接近すれば挽肉かミンチにされるため弓や投擲に頼るしかないのだが、弓は魔法金属で弾かれ投擲もデストロイヤーの速度からして運用が難しい。

 

 

その上、自立型ゴーレムやらが配備されていて、要塞の中枢部にはデストロイヤーの開発責任者がいて指示を出しているというのだから……まあ……こりゃあ、無理ゲーというやつではないだろうか。金目になるものだけでも持って逃げた方がいい気がする。

 

 

自分のそんな顔から考えを察したのだろうか。縄から解放されたウィズさんは立ち上がると拳を握り、呟くように、しかし力強く声を出す。

 

 

「……やれることはあるはずです。私は、約束を守るためにこの店を失う訳にはいかないんです」

 

 

真剣なウィズさんの言葉に、話を聞いただけで諦めていた自分を恥じる。そうだ、自分のこの『ねこですよろしくおねがいします(特典)』が役に立つかもしれない。なんとかしてデストロイヤーの中へ入れれば、研究者を狂わせてデストロイヤーの進行を止められるかもしれない。

 

 

【行きましょう、ウィズさん!】

 

「はい! ねこさん!」

 

 

店から出て走り出した自分とウィズさん。冒険者の資格を自分は持っていないことを途中で思い出したが、雰囲気が台無しになるので、黙ってギルドへと走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すいません、遅くなりました……! ウィズ魔道具店の店主です。一応冒険者の資格を持っているので、私もお手伝いに……」

 

【ウィズ魔道具店の実質店主であるねこです。店主(仮)と共にお手伝いですよろしくおねがいします】

 

「わ、私は仮の店主じゃありませんよ!」

 

 

二人揃ってローブにエプロン姿でギルドに飛び込めば、途端に熱烈な歓声がギルド内に湧き上がる。

 

 

「店主さんとねこさんだ!」

 

「貧乏店主さんと敏腕バイトねこちゃんが来た!」

 

「店主さん、いつもあの店の夢でお世話になってます!」

 

「いつもあの店の夢で踏んでもらってありがとうございますねこ様!」

 

「店主さんが来た! 勝てる! ねこちゃんが来たからオーバーキル気味にこれで勝てる! 勝ったな、風呂入ってくるっ!!」

 

 

流石ウィズさんだ。この盛り上がりは、元が高名で素晴らしい魔法使いだと知れ渡っている証拠だろう。……それはさておき、あの店やら夢やらの発言は聞き逃さないからな。何か嫌な予感がしたので、後できっちり締め上げて聞き出そう。特に「踏んでもらって〜」うんぬん言ってた奴な。

 

 

歓声を上げる冒険者たちに「お店をよろしくお願いします」と選挙のようにぺこぺこ頭を下げている。頭を下げても、ウィズさんを覗き見しかしない奴らがほとんどなので意味がないのだけれども。その覗き見の奴らを店内へ連行して魔道具(ゴミ)を売りつけるのは中々大変だし、面倒なのだ。まともな商品さえあれば連行する必要はないのに……。

 

 

そのままギルドの職員に促されるまま中央テーブルの席に座らせられると、自分たちが来るまでに考えていたらしい作戦を説明し始めた。

 

 

「……まず、アークプリーストのアクアさんが、デストロイヤーの結界を解除。そして、おかし……、めぐみんさんが、結界の消えたデストロイヤーに爆裂魔法を撃ち込む、という話になっておりました」

 

「……爆裂魔法で、脚を破壊した方が良さそうですね。デストロイヤーの脚は本体の左右に四本ずつ。これを、めぐみんさんと私で、左右に爆裂魔法を撃ち込むのは如何でしょう。機動要塞の脚さえ何とかしてしまえば、後は何とでもなると思うのですが……」

 

 

ウィズさんの提案に職員はコクコクと頷く。周りの冒険者も名案だと納得した顔でいる。確信した。……この状況を理解しきれていないのは、自分だけだと。

 

 

爆裂魔法って何? めぐみんって誰? なんで自分だけこんなに話題についていけないの? ご近所の奥さん方かその子供たちくらいしかまともに会話しなかったから? 旬の野菜とか献立とか節約術とか綺麗な泥団子の作り方しか話題がなかったから? 魔道具店の赤字回避のことに集中してたから冒険者ギルドとかに行かなかった自分が悪いのか?

 

 

そんな感じで脳内は荒ぶりまくっている自分だったが、それは全く表に出さずに、代わりに『あー、そーゆーことね完全に理解した』みたいな雰囲気を出した。本当はわかってない。

 

 

……後で、ウィズさんに聞こう。その後ウィズさんの提案の元に組まれた作戦を、今度こそ完全に理解した自分はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

街の正門前に広がる草原が、機動要塞デストロイヤーを迎え撃つ場所だ。無駄とは知りつつも、《クリエイター》と呼ばれる人たちが地面に魔法陣()を描いていたり、土木業の人たちが即席のバリケードを作ったりしている。

 

 

そんな中、自分はデストロイヤーの迎撃地点の脇でウィズさんと待機していた。アクアがおまけのようについているが、取り敢えず離れてくれと思う。長時間太陽に晒され頭から煙が出ているウィズさんを日陰に連れ込み、文字を書く。

 

 

【ねこですウィズさんウィズさん。今更聞けないのですが、爆裂魔法ってなんですか? それと、めぐねこみんとは、向こうの赤目のロリっ子のことですか?】

 

 

自分の質問にウィズさんは一瞬驚き目を見開く。そして、「えっと、爆裂魔法とは……」と説明し出したところで、アクアが割り込んできた。

 

 

「あらあらねこちゃん。うちのめぐみんと爆裂魔法を知らないの? なら、このお優しい女神様が分かりやすーく教えてあげるわね!」

 

 

お前じゃなくていい。そう文字を書く前に、アクアのよく回る口はペラペラと説明し始めてしまった。

 

 

「爆裂魔法は長い射程と最強とも言える威力が特徴なんだけど……爆風に巻き込まれるため近距離では使えないし、当然ダンジョンといった密閉空間でも使えないし、それに消費魔力がとても大きいから、1日一回撃つのが限界なの。それ故にネタ魔法と言われているわ。

そのネタ魔法しか使えないし使わないのが、巷で『頭のおかしい爆裂娘』と呼ばれている私のパーティーメンバーであるめぐみんよ。ほら、あそこにいるとんがり帽子とマントを羽織った小さい子よ。カズマといる……。因みに、一日一回起きる爆発音はめぐみんの一日一爆裂のせいよ」

 

 

アクアが指を差した先にいるのは、自分がロリっ子と称した赤目の子。あんな子が、未だに自分の中で謎だった謎の爆発音の元凶だったとは……。嗚呼、説明を聞けば聞くほど、あの子の頭はおかしいと理解していく。というか、カズマのパーティーメンバーって今のところ頭が逝ってる奴しかいなくないか? なんか後一人女騎士っぽい人が居たが、あの人もおかしいのだろうか。

 

 

そう考えていると、魔法で拡大されたギルド職員の声が、広い平原に響き渡った。

 

 

『冒険者の皆さん、そろそろ機動要塞デストロイヤーが見えてきます! 街の住人の皆さんは、直ちに街の外に遠く離れていて下さい! それでは、冒険者の各員は、戦闘準備をお願いします!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

__機動要塞デストロイヤー。

 

 

その名前を聞いて、一番最初に思い浮かんだイメージはジブリ映画のあの動く城だった。

 

 

「何あれでけぇ……」

 

 

誰かがぽつりと呟いたその言葉に、激しく同意した。小さな城サイズと聞いていたが、その城すら見たことないのだから……咄嗟に出てくる言葉は『でかい』の一言だけだろう。自分はその一言すら言えないが。

 

 

近くの冒険者から悲鳴やら檄が飛びまくる。パニックを起こしかけている人も多数いる。そんな中で戦闘準備の声が聞こえた。仕掛けられた罠を無いもののように地面を抉り、踏みしだきながら機動要塞デストロイヤーがこちらに真っ直ぐ、アクセルの街を破壊しようと迫って来る。

 

 

 

『アクア! 今だ、やれっ!』

 

 

 

拡声器のような魔道具から発せられたカズマの合図で、アクアが魔法を放つ。

 

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』ッ!」

 

 

複雑な魔法陣がアクアの周囲に浮かび上がり、アクアの手に白い光の玉が現れる。アクアがそれをデストロイヤーに撃ち出せば、デストロイヤーに触れた瞬間に魔法結界がガラスのように粉々に弾け飛ぶ。

 

 

次はいよいよ爆裂魔法だ。カズマからウィズさんに指示が飛ぶと、ウィズさんは詠唱を始めた。

 

 

声をかけられない。それがどんなにむず痒いか、改めて痛感した。応援なんてする柄じゃ無いが、それでも街の運命を背負っていると言っても過言では無いウィズさんに一言だけでも声をかけたかった。応援すらできない、何もすることができない自分は手のひらを力の限り握る。

 

 

そんな自分の心情を知ってか知らずか、ウィズさんはこちらに一瞬だけ視線を向けて__いつも通り綺麗に微笑んだ。そしてデストロイヤーに向き直ると、口を開く。

 

 

 

 

 

 

「「『エクスプロージョン』ッッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

かつて氷の魔女と呼ばれた凄腕のアークウィザードは、氷を一瞬で蒸発させるほどの魔法を頭のおかしい爆裂娘と全く同じタイミングで放ち、デストロイヤーの脚を一つ残らず粉砕した。

 

 

……何も心配することなんてなかったかぁ。自分は、そっと苦笑した。

 

 

 

 

 

 






デストロイヤー編を一度にまとめようとしたのは無茶でしたね。ねこですねこです。今年もねこはすばらしい世界とともにいます。




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ねこです。機動要塞デストロイヤーです。2


ねこです。ろぼとみーすきです。ねこです。うれしいろぼねこです。

このすばファンタスティックデイズの小説を読んで、ウィズさんに借金を返済させるためにアイドルを目指してもらう妄想まではしましたよろしくおねがいします。

例の手記は要約しましたです。ご了承くださいです。


 

 

 

 

二人の魔法使いから放たれた爆裂魔法で、脚を失った機動要塞デストロイヤー。脚を失ってもなお慣性の法則で真っ直ぐ地を滑り、最前線で微動だにしないカズマのパーティーメンバーである女騎士の目と鼻の先で漸く止まった。

 

 

爆裂魔法で粉砕__いや、爆砕した脚の欠片がパラパラと頭上に降ってくる。ウィズさんの方はほぼ跡形もなく爆砕できたのか、頭を軽く手で払うだけで粉のようになった欠片が吹き飛んだ。流石ウィズさんの魔法だ。頭のおかしいと言われるめぐみんよりも、アンデッドの王であるリッチーの魔法が強いのは仕方がないかもしれないが。

 

 

「ふぅ……これで、お店が潰れない…」

 

 

安心からのため息をつくウィズさんを横目に、フラグっぽいなぁと思いつつ自分はデストロイヤーをじっと見詰めていた。

 

 

動かない。もう、終わりなのだろうか? デストロイヤーという大層な名前なのだ。これがゲームの展開ならば、誰かが『やったか?!』とでもテンプレ的フラグを建築して、すぐさまフラグ回収をするというのがお決まりの流れだが……。面倒くさいので、誰も言わないように願おう。

 

 

……あ、こう考えるのもフラグなのか? いや、まさか、まさかぁ…

 

 

と、嫌な予感がしていれば、アクアが安心からか満面の笑みで大きく口を開き、今まさに声を発そうとしている。……冷や汗と嫌な予感が止まらない。

 

 

 

「やったわ! 何よ、機動要塞デストロイヤーなんて大層な名前しておいて、期待外れもいいところだわ。さあ、帰ってお酒でも飲みましょうか!なんたって一国を亡す原因になった賞金首よ、報酬は、一体お幾らかしらね!!」

 

 

 

おま、アクア、アクアてめえぇぇぇぇ!!!

 

 

百点満点のフラグを数秒で建築した一級フラグ建築士アクアの口を、カズマも不味いと思ったのだろう、塞ごうとするが……時すでに遅し。自分は天を仰いだ。

 

 

大地が揺れた。大地が揺れ、天変地異かと思うほどに震える。だが、明らかにこの地響きの原因は、今はもう動かないノイズさんの機動要塞だ。

 

 

「……? な、なんでしょうか、この地響きは……」

 

【デストロイヤーからですねこですアクア死すべしよろしくおねがいします】

 

「な、なによぉ!!」

 

 

不安そうに、地響きの震源であるデストロイヤーを見上げるウィズさんだが、自分はまだまだ現実から目を背けたくて空を見る。おそら、きれい。

 

 

冒険者の皆がデストロイヤーの巨体を見上げる中。それは唐突にこの場の全員の耳に、広く広大な空に響き渡った。

 

 

 

 

『この機体は、機動を停止致しました。この機体は、機動を停止致しました。排熱、及び機動エネルギーの消費ができなくなっています。搭乗員は速やかに、この機体から離れ、避難して下さい。この機体は…』

 

 

 

 

 

取り敢えず、自分は「今回はまだなにもしてない!!」とほざく駄女神に腹パンをお見舞いした。お前はもう、やらかしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「多分だが。このままだとボンッとなるんじゃないかと思うんだ。こういう場合だと」

 

【ボンッではなくドカンだと井戸思いますです。アクアをもう一度ポコっとしていいですかよろしくしません】

 

「ドゴォッとかの間違いだろ。アクアのHPはもう0だ、やめてやってくれ」

 

 

最悪の事態を想像して、皆が顔を引き攣らせ絶望している。デストロイヤーの脚を爆砕したら、今度は自分たちが爆砕されるかもしれないのだ。絶望しても仕方がない。

 

 

そんな中、いつも青い顔をより一層青くさせ、泣きそうになっているウィズさんが「み、店が……。お、お店が、お店がなくなっちゃう…」と震えている。

 

 

そんな震えるウィズさんを落ち着かせようと背中をさすっていれば、誰かがぽつりと呟いた。

 

 

「……やるぞ。俺は」

 

 

誰の呟きか分からなかったが、その声には確かな決意があった。その決意が伝播していくのか、次々に「俺も」という声が聞こえる。……男性冒険者ばかりなのは特に気にする必要はないだろう。

 

 

すぅ、と近くだからか聞こえた空気を吸う音。見れば、カズマが他の冒険者達と同じ、決意に満ちた目をしていた。大きく空気を吸えば、その後の行動は決まっている。自分が何度もしてきた事だ。

 

 

__カズマは拡声器を手に、大声を張り上げる。

 

 

 

『機動要塞デストロイヤーに、乗り込む奴は手を挙げろー!!』

 

 

 

手を挙げる冒険者の雄叫びと共に、フック付きロープのついた矢が、デストロイヤーに向かって飛んで行く。まるで、流星のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロープを伝ってデストロイヤーに乗り込んだ自分達。いつの日か近所の奥様から「いつ借金取りがきても抵抗できるようにね」と渡された鉈。一応持ってきて置いて正解だったな。

 

 

鉈をバットを振るような動作でゴーレムの足をひしゃげさせ、倒れた所で頭上に振り上げた鉈を脳天目がけて重力に従い振り下ろす。

 

 

汚い金属音と共に火花が散る。中々に硬いな、流石ゴーレム。間髪入れずにもう一撃を叩き込むと、潰れたカエルのような顔になった。おまけに醜い潰れた顔と胴体を分けてやる。

 

 

「ひっ……ちょ、ちょっとウィズ。あんた、飼い猫にどんな教育してるのよ。一体どんな調教をしたらあんな躊躇なく鉈を振り回せるのよ。顔を見なさい、ほら、真顔よ。いっそのこと笑ってる方が良いわ。あんな冷徹な暗殺者みたいに飼い猫を育てた感想はどうなの?」

 

「きょ、教育も調教も育てもしてません……!!」

 

「っぎゃー! 腕が! 腕があああああっ!」

 

「ちょっとそっちで何やってるのよカズマ! 私が目を離してる隙に馬鹿なことしないでちょうだい!!」

 

 

なんともまあ、騒がしい侵略である。潰し終わったゴーレムを地面へと落としている間にも、街を襲った責任者への罵倒やらがそこかしこから聞こえてくる。聴力が人より高い自分には少し……いや、凄く煩すぎるほどだ。

 

 

鳴り響く警報に顔を顰めながら、建物の中へと潜っていく。カズマたちと共に奥へと進むと、ある部屋の前で人だかりができていた。先程までの山賊のようなヒャッハーなテンションではなく、皆が顔を曇らせ俯いている。

 

 

なんだなんだと部屋の中央を見れば__そこには白骨化した人の骨。嗚呼、そうか。この機動要塞を乗っ取った研究者は既に死んでいたのか。

 

 

なんだか気分が重くなった中、アクアが部屋に入ってきた。そして静かに首を振ると「未練の欠片もないぐらいにスッキリさっぱり成仏してるわ」……と。

 

 

……スッキリさっぱり? いかにも孤独に死んでいきましたよと演出されているのに?

 

 

混乱する中。机の上に乱雑に積まれた書類に埋もれた一冊の手記を、アクアは手に取った。空気を察して押し黙る冒険者達の視線を浴びながら、アクアは手記を読み上げ始める。

 

 

 

 

 

「国のお偉いさんが無茶言い出した。低予算で機動兵器作れるかよ。動力源なんて知るか。適当に伝説のコロナタイトでも持って来いと言ってやった。持ってこれるもんなら持ってこい!!」

 

「本当に持ってきちゃった。どうしよう。これで動かなかったら死刑じゃないの? 動いてください、お願いしま……終わった。現在只今暴走中。コロナタイトに根性焼きなんてするんじゃなかった」

 

「国滅んだ。やべー!滅んじゃったよ、やっべー!でも何かスカッとした! よし決めた、もうここで余生を暮らすとしよう。だって降りられないしな。止められないしな。これ作った奴絶対バカだろ」

 

「…おっと、これ作った責任者、俺でした!」

 

 

 

 

 

最後まで読み上げたらしいアクアが、困った顔で手記を閉じて「あの、終わりデス」と口を閉じた。

 

 

瞬間。冒険者達から「なめんな!!」と見事なハモリが!

 

 

……いや、本当に舐めないでほしい。なんだこのクソみたいなのは。生きてたら問答無用で狂わせて臓物を引っ張り出してたぞ。だがまあ、あんなクソな手記からでも収穫はある。デストロイヤーが、コロナタイトという鉱石で動いているということだ。

 

 

机の上にあったデストロイヤー内部の地図によると、コロナタイトは中枢部にあるらしい。大人数で行ってもしょうがないとのことなので、カズマとアクア、そしてウィズさんの三人が行くことになった。

 

 

まあ、元凶の研究者が生きていないなら自分にできることはもうない。自分にできるのは命ある者を狂わせるだけなのだから、これ以上同行するのは危険だ。

 

 

自分でも分かっている。だけれどまあ、それはそれでね。

 

 

【……ねこも分かっていました。理解してました。ですが、ウィズさんに言われると少し落ち込みます。ました。】

 

「え、え! ご、ごめんなさいねこさん!! でも、何かあったら危ないですし、ゴーレムなどで疲れているようですし、これ以上の無理はしてほしくないと言いますか……」

 

【はいはいねこです。分かりましたしますか? ちゃんと戻ってきてくださいです。まだお仕置きの途中なんですからね】

 

 

慌てるウィズさんの姿にくすりと笑うと、自分はいってらっしゃいと手を振った。

 

 

店長(飼い主)が戻ってくるまでのお留守番くらい、バイト(飼い猫)の自分はきちんとこなせるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやまあ、帰ってきたけどね? テレポートとかいう魔法で爆発寸前のコロナタイトを何処かに転送させてもう安心……と思うじゃん? 結局熱が溜まってて爆発しそうになるデストロイヤーを、頭のおかしいめぐみんが爆裂魔法を撃ったお陰でアクセルの街は無事に済んだけどさ。

 

 

そう、無事に済んだのだ。

 

 

 

「冒険者、佐藤カズマ! 貴様には現在、国家転覆罪の容疑が掛けられている! 自分と共に来てもらおうか!」

 

 

 

「あ、あわわわわわっ! じ、実行犯は私ですから、カズマさんを連れて行くなら私も……!!」

 

【せっかく無事に帰ってこれたんですから余計なことはしないでくださいよろしくおねがいします!!!】

 

 

 

だからもう、これ以上巻き込まれるのはやめてくれ!!

 

 

 

 

 

 





ふとねこ思いましたが、ねこは周りが幸せですになればなるほどねこです自分は幸せになれないと闇が深くなるタイプだと思いますました。




ウィズさんとバニルの約束が果たされたらひっそりと居なくなるかなぁ、と。飼い主の見えない所で息を引き取るのがねこですから。


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ねこです。お勤め確定です。



SCP×このすばを絶対に諦めないですよろしくおねがいします。ろぼとみーも可です。

番外編を書きたいんじゃ。構想は決まってるのに……。ちな、内容は紅魔族一のぼっち娘とアイタタな勇者様(笑)からエリスをむしり取る話です。



 

 

 

 

機動要塞デストロイヤー。なんやかんやありつつ、自分の出番は一切ないまま倒された大物賞金首である。……まあ、ウィズさんはデストロイヤーの脚を爆砕したし、自分もゴーレムは複数体スクラップにしたので賞金を貰うのは当たり前なのだ。

 

 

そんな訳で、賞金を受け取るためギルドまでやって来たのだが…

 

 

「冒険者、サトウカズマ! 貴様には現在、国家転覆罪の容疑が掛けられている! 自分と共に来てもらおうか!」

 

 

……なんか、凄い面倒くさい事になってる。

 

 

国家転覆って、クーデターとかだよな? カズマにそんな事をするメリットも度胸もないと自分は思っているのだが…。嗚呼、ほら、仲間達が言っている。「小さい犯罪はしても大それた罪をする度胸はない」やら「薄着の私を獣の様な目で見ておきながら夜這いの一つもできない」やら。

 

 

この発言からカズマがヘタレだと言うことがよく分かった。そもそも自分が未来のお客様候補として見込んでいるのだ、こんな犯罪を犯して捕まっては赤字回避計画が思うように進まなくなってしまう。

 

 

何もやましい事はやってないのだから、堂々と胸を張っていればいい。そう、魔道具(ゴミカス)をドヤ顔でプレゼンしてくるウィズさんのように……な。

 

 

「ね、ねこさん…。カズマさん、大丈夫でしょうか…? 何がなんだか分かりませんが、私に何か出来る事はないのですか?」

 

【ぶっちゃけ言って他ねこ事です。ねこたちは何も関わってないのですから、何もする事はないですよろしくおねがいします】

 

 

隣にいるウィズさんが「そんなぁ…」と落ち込む中。自分は早く賞金を貰おうと、カズマたちに目を奪われている職員に話しかけようとした。

 

 

__その次の瞬間、セナと名乗る王国検察官が言い放った言葉にピクリと自分の耳が反応した。

 

 

「その男の指示で転送された、機動要塞デストロイヤーの核であるコロナタイト。それが、この地を治める領主殿の屋敷に転送されました」

 

 

急にどばっと、冷や汗が吹き出してきた。

 

 

恐る恐る、油の切れた人形のようなぎこちない動作でウィズさんの顔を見てみる。

 

 

自分以上にだらだらと冷や汗をかき、がたがたと震えている。顔色は、青く白い。つまりは青白い。この前にポーションの発注数をケタ二つ間違えたお仕置き__必要最低限の水分と塩分…つまりは塩水だけしか与えなかった時よりも顔色が優れない。

 

 

テレポートの指示を出したのは確かにカズマだと聞いた。そして、テレポートを使った本人はウィズさんという事も。

 

 

ひ、ひと、人殺しにウィズさんは間接的に関わってしまった…? 思わず、ぶるりと体が震えた。ウィズさんに、そんな罪を背負わせてはいけない。そうなるなら、いっそ検察官共を狂わせてどうにか記憶を改竄して……

 

 

そう、思考がダークサイドに落ちかけた自分だが、カズマが「領主が爆死したのか?!」と言う叫びにセナの「勝手に殺すな!」返しによって、誰も死傷者が居ない事にほっとウィズさんと共に胸を撫で下ろした。

 

 

「使用人は出払っていた上に、領主殿は地下室におられたとの事で、怪我人も出てはいない。屋敷は吹っ飛んでしまったがな」

 

「それじゃあ、今回のデストロイヤー戦での死者はゼロって事か、良かった良かった」

 

「何が良い! 貴様、状況が分かっているのか? 領主殿の屋敷に爆発物を送り、屋敷を吹き飛ばしたのだ。先程も言ったが、今の貴様にはテロリストか魔王軍の手の者ではないかとの嫌疑が掛かっている」

 

 

魔王軍という単語にまたもピクリと反応してしまう。ウィズさんまでも捕まらなくて本当に良かった。

 

 

ウィズさんは今すぐにでも飛び出して行きそうだけど、服の裾を全力で掴んでいるため何とか止めれている状態だ。ウィズさんが捕まったら自分は警察署を破壊するつもりなので大人しくしてほしい。夜逃げの準備は借金取りが来た時のためにしてあるけれども。

 

 

詳しい話は署で…と、どの世界でもお決まりの台詞を言ったセナだが、それまで静まり返っていたギルド内がざわ……ざわざわ…と煩くなり始めた。

 

 

カズマのパーティーメンバーであるロリ魔女めぐみんがテレポートの理由を説明し「褒められはしても、批難させるいわれはありません」と一喝した事で、ギルド内からあちこちその通りだと声が上がる。

 

 

巷ではカスマやらクズマやら言われているが、なんだかんだで実績がある功労者である。そりゃあ、パーティー内の信頼は勿論、ギルド内の信頼も厚いに決まっているだろう。

 

 

抗議の声が大きくなる中。眉一つ動かさずに冷徹に、心がブリザード…いや、エターナルフォースブリザード並みに冷たいのか、淡々とセナは「ちなみに」と口を開く。

 

 

「国家転覆罪は、反抗を行った主犯以外にも適応される場合がある。裁判が終わるまでは、言動に注意した方がいいぞ。この男と共に牢獄に入りたいというのなら止めはしないが」

 

 

__ギルドは静寂に包まれた。耳の良い自分でも、先程までわーわーぎゃーぎゃー叫んでいた抗議の声はおろか、布の擦れる音すら聞こえない。判断が早すぎて少し引いた。

 

 

「……確か、あの時カズマはこう言ったはずよね。『大丈夫だ! 世の中ってのは広いんだ! 人のいる場所に転送されるよりも、無人の場所に送られる可能性の方が、ずっと確率は高いはずだ! 大丈夫、全責任は俺が取る! こう見えて、俺は運が良いらしいぞ!』……って」

 

 

ギルド内の静寂を破ったのは、アクアだった。流石は駄女神。先陣を切って誰よりも早くパーティーメンバーを売りやがった…!! そこに痺れはするが憧れない…!

 

 

けどまあ、その発言自体はナイスだ。全責任はカズマが取る……。嗚呼、良かった。ウィズさんはお咎め無しだ。未来のお客様候補が減るのは痛いが、これもまた運命(さだめ)。切り替えていこう!

 

 

そう、自分と同じ事を考えたのか、先程カズマを庇っためぐみんまでもが、

 

 

「私は、そもそもデストロイヤーの中に乗り込みませんでしたからね。もし私がその場にいれば、きっとカズマを止められたはずなのに。しかし、その場にいなかったものは仕方ありません。ええ、仕方ありませんね」

 

 

と、とてもとても大きな独り言をギルド内に響かせる。それに乗じて、他の冒険者達も「俺もいなかったから仕方ないな」「いれば殴ってでも止めたのにな」「ちくわ大明神」「嗚呼、あの時いればなぁ!」「仕方ない、仕方ないな。全責任はカズマだしな!!」と、大きく独り言合戦をし始めた。てか、誰だ今の。日本人か?

 

 

次にダクネスが牢獄プレイをしたいがために主犯を名乗り出るが、デストロイヤーの前で突っ立ってただけなのを指摘されて撃沈。何を馬鹿な事を……。そう呆れていれば、隣にいるウィズさんが、あわあわと慌てながら手を挙げてしまう。

 

 

「じ、実行犯は私ですから、カズマさんを連れて行くなら私も……!! テレポートを使ったのは、私! 私なんです…!」

 

 

自分はウィズさんの手を掴んで降ろさせ、勢いよく指を走らせ、

 

 

【せっかく無事に帰ってこれたんですから余計なことはしないでくださいよろしくおねがいします!!!】

 

 

と、文字をウィズさんの目の前に突きつける。「で、でも…」とまだ納得できないウィズさんに、アクアがウィズさんの肩をポンっと叩き、慈愛の女神が如く優しい微笑みで言った。

 

 

「ダメよウィズ。犠牲が一人で済むのならそれに越した事はないの。辛いでしょうね、だけど、そこは我慢するのよ。カズマとお別れする訳じゃあないもの……。私に出来る事は、カズマがお勤めを終えるまで待っていてあげる事よ。『仲間の罪を共に背負ってはなりません。貴方は仲間の分まで酒を飲み、昼まで寝て、気楽に待つのです。帰ってきたら笑顔で迎えてあげなさい』これは、アクシズ教教義よ。たった今考えたわ」

 

 

忌み嫌われているアクシズ教だが、この時ばかりはこの教義に乗っ取った形でギルド内は「お勤め完了まで待ってるぜ!」「お前の分まで酒を飲んでやるからな!」と全員がカズマを見送る言葉を投げかける。

 

 

「お、お前らあっさり手のひら返しやがって! お勤め確定みたいに言うんじゃねぇー!! 今言った連中の顔は覚えたからな! 無実を証明した暁にはどうなるか……!

 

どいつもこいつも覚えてろよおおおおおお!!

 

 

捨て台詞を吐いたカズマは、両腕を騎士に掴まれ連行されて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんと悲しいことにカズマさんが連れ去られちゃった訳なんだけど……どうしましょう」

 

【どうするもなにも、ねこたちには関係ありませんね。でした。それでは賞金を受け取りたいのであっち行け】

 

「いやあああ!! カズマが出てきたら怖いのお! 幸運値やばいし、引きニートの癖に妙に頭が回るから執行猶予くらいは付けてきそうで怖いのおお!! お願いだから一緒に考えてよおおぉ!!」

 

 

カズマが連行された後。少し気まずくなったものの、賞金は配られる事になった。先に賞金を受け取った冒険者達は、憂さ晴らしか昼間から酒を飲んでちょっとした宴会のようになっている。

 

 

腰に抱きついてくるアクアの頬をぶっ叩き、受け取り場へと足を進める。後ろでは泣いているアクアをウィズさんが「私でよければ考えますから…! ねこさんも、賞金を受け取った後は考えてくれますから…!」と慰めている。勝手に話を進めないでほしい。

 

 

まあ、今はそんな事より賞金だ。私は受付の金髪お姉さんの所まで行くと、指を動かす。

 

 

【ねこです。デストロイヤーの賞金を貰います。ウィズさんの分も一緒におねがいします。しました】

 

「はい、わかりました。それでは冒険者カードを……って、そう言えば、冒険者カードを発行されてませんでしたよね? 受け取りのため、発行していただく必要がありますが…」

 

 

そこで漸く自分が冒険者カードを持っていないことを思い出す。カエルを狩った後も、素材を売る時も、店を留守にする事ができないからウィズさんに全部やってもらっていたのだ。そろそろ、冒険者カードを作らなければと考えていた所だ。

 

 

自分は受付のお姉さんに冒険者カードを作ることを伝えると、お姉さんは書類を差し出す。自分は身長、体重、年齢、その他特徴をもろもろを書いていく。

 

 

ねこ語になってしまうので、悪戦苦闘しながら項目を埋めていれば後ろからいつの間にか泣き止んだのか、普段通りのアクアの声が聞こえた。

 

 

「ねぇウィズ。そう言えばっていうか、本当に今までなんで放って置いたのか不思議なんだけど……ねこって、名前なんて言うの?」

 

「え? それは……あら? あらあら? い、いつの間にかねこさんはねこさんだと、自然に当然になってたというか…わ、私! まだねこさんの名前知らない?!」

 

 

周りの冒険者も「確かに…」と、釣られて後ろが騒がしくなってきた。というか、アクアは女神なんだから名前くらい知ってると思ったが……まあ、頭が悪いから忘れてるのかもな。

 

 

「ねぇー!! 今更だけど、名前なんていうのよ! 気になってしょうがないじゃない!」

 

【うるさいですね、ねこはねこですよ。しっしっです】

 

「ねこさん! わ、私も気になります!」

 

【だから、ねこですねこなのです】

 

 

無視してペンを走らせていたのだが、あまりにも二人がしつこいので、自分は受付のお姉さんから一枚メモ用紙を貰い、そこに名前を書いて後ろに飛ばした。

 

 

ばっ、っと、素早い動きで取りに行ったアクアは書いてある名前を読み上げると「本当にぃ!?」と声を上げる。

 

 

なんだなんだと騒ぐ後ろがもっと騒がしくなってくる。漸く書類を書き終えたので、今度は差し出されたカードに触れれば、何やら文字が浮かび上がってきた。

 

 

「……はい、ありがとうございま…ひぃっ?!」

 

 

カードを見た途端、悲鳴を上げて固まってしまった受付のお姉さん。お姉さんの手から落ちたカードを見ると、まあ、そうなるのも納得した。

 

 

そこには、欄をはみ出してまでねこ語で埋め尽くされていたのだから。唯一無事なのは自分の名前と、職業の欄、そして討伐モンスターの表示欄ぐらいだ。

 

 

「こ、これでは数値を読み取れないので……基本職業である《冒険者》しか選べませんね。ですが、選んだとしてもスキル欄まで…その、アレなので、スキルを習得できるかすら分かりませんが…」

 

 

あまりこのカードを見たくないのか、目を逸らしながら言うお姉さん。冒険者カードとして機能さえすれば、自分は別にスキルなど覚えなくても特典があるからいいので、それでいいと頷いた。

 

 

引き気味に渡された冒険者カードを受け取り、無事(?)発行し終えたので帰ろうかと後ろを向けば、ガシッと腕を掴まれる。

 

 

「ちょっと待ちなさい。カズマを助ける方法を考えなさいよ!」

 

 

名前の件で忘れていたと思ったのに、こういう時だけ覚えてやがるなコイツ。

 

 

自分は面倒臭いので、咄嗟に思いついた案を文字にする。それは、街の近くで爆裂魔法を放ち、署員の気を引いている隙に逃すという作戦。

 

 

この街で爆裂魔法を使えるのはめぐみんかウィズさんだけなのですぐ犯人は特定されるし、そもそもどうやって逃すかは牢屋の構造を知らないとできない。ガバガバな作戦だが、アクアは満面の笑みで「頭良いわね! それで行くわ!! 早速伝えて来る!」と去って行ってしまった。

 

 

馬鹿か? いや、馬鹿だ。いや、猪突猛進だから猪だ。いや、猪の方が賢いな。

 

 

そんな事を考えながらも、メモ用紙を手に首を傾げているウィズさんを連れて自分はギルドを出た。

 

 

【さて、井戸の中にいます。店に帰りますよ。……どうしたんですか】

 

「いえ……その、アクア様は読めたみたいなんですが、このメモ用紙に書いてある言語がどうしても読めなくて……ねこさんの名前が分からないんです…」

 

 

しょぼんと、肩を落とすウィズさん。自分が書いたメモ用紙を覗いてみるが、確かに名字は難読かもしれないが、名前まで難しい漢字を使った覚えは……。と、そこまで考えた所で、この世界の人間は日本語を読めないのでは? と思い付く。

 

 

咄嗟に名前を書けと言われると、漢字を使ってしまう。メモ用紙に群がった冒険者の中で、自分の名前を読めたのはアクアだけらしい。まあ、読めなくてもいつも通りに『ねこ』と呼んでくれればいいのだが。

 

 

とぼとぼと歩くウィズさんをツンツンと突き、ふりがなを振ったメモ用紙をもう一度差し出す。

 

 

 

 

 

四十物(あいもの) 音子(ねこ)

 

 

 

 

 

【ねこです。これからもねこと呼んでください、よろしくおねがいします】

 

 

 

ペコリと頭を下げると、ウィズさんも釣られて頭を下げ「よろしくお願いします」と言った。

 

 

店に着くまでに何度もメモ用紙を大事そうに持ち、眺めては笑顔になっているのを見ると、名前を教えてよかったなぁと心がポカポカした。まあ、呼び方はねこで変わらないんですがね。

 

 

 

 

 

 

 

 





ウィズさん、アクア様って呼び方だっけ…?

ねこの名字は、ねこですよろしくおねがいしますの番号からです。

変わらずねことお呼びください。よろしくおねがいします。


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ねこです。請求書と新しい店員です。


ねこです。SCP不足を補うために友ねこに勧められたFGOに手を出したら推しがことごとく消えていく未亡ねこになってます。

誰かこの傷を癒すためにSCP×このすばを書いたくださいよろしくおねがいします…。
ねこの推しはツンデレ所長とゆるふわドクターです。初めのに至っては退場が早すぎませんかね?????




 

 

深夜の爆裂魔法でちょっとした安眠妨害がされたその後。いつものようにせっせと魔道具(ゴミ)の分別をしていれば、

 

 

「さあ出てきなさいアンデッド! あんたに引導を渡しに来てやったわよっ!」

 

 

と、行儀悪く扉を蹴り飛ばした駄女神が入ってきた。ウィズさんにとっては強盗やヤクザよりも恐れている悪魔のような奴の襲来である。

私は、すっ…と流れるような動作で懐に忍ばせておいた請求書を取り出す。よし、現在借金塗れでしかも裁判の後のカズマには可哀想だが、扉の修繕費を請求させてもらおう。こちとら今月も厳しいのだ。

 

 

……そう言えば、裁判の結果はどうなったのだろうか? これ以上赤字にしないために働いていたので見に行かなかったが…。

 

 

請求書を書くついでに裁判の結果を聞いてみれば、死刑判決を受けたものの、ダクネスのお陰で猶予が与えられたとかなんとか。それを聞いたウィズさんは、無事で良かったとほっと胸を撫で下ろす。

 

 

「すいませんカズマさん、そもそもの発端は、私がテレポートで石を転送したせいなのに……」

 

「そうそう、あんた、ちゃんと分かってるふべっ…?!」

 

 

扉の修繕費の請求書をアクアの顔に叩きつける。そして視線でカズマに話してどうぞと促した。

 

 

「…気にしなくていいさ。あの時ウィズがいなきゃ、俺達皆助からなかったんだ。領主の屋敷は吹っ飛んだらしいが、怪我人もいなかったらしいし。あとは、俺が魔王軍の手の者じゃないってセナに証明すれば、それで俺の嫌疑は晴れる事になる。まあ、残る問題は領主の屋敷を建て直す金が必要だって事だな」

 

「なるほど。まずは時間が稼げた訳ですね。でも、お金ですか……。私も何とかしてあげたいのですが、お店は赤字経営でお金もなく…」

 

【10割ウィズさんのせいですがね、ねこはいます】

 

「ふぐっ……。そ、それは本当にすみません…。で、でも今度はちゃんと売れる商品を仕入れたので少し待っていただければ、お金に関してはなんとか協力できるはずですよ!」

 

 

そう言うと、ウィズさんは自信満々に腰に手を当てて胸を張る。自分はウィズさんの胸をおもっくそ鷲掴んで目の前に文字を書く。

 

 

【ねこです。おい待て新しい商品を仕入れたとか聞いてないですよ? きいてますか? この胸をもぎ取りますよ?】

 

「ひゃっ?! あ、ねこさんに言うのを忘れてました!で、ですが、今回はすっごいんですよ!! なんと魔力をインク代わりにする事でインク切れを無くすペンなんです! 登録した持ち主の魔力を自動で吸い取り続けるので、魔力量の多い人だとすぐに許容量を超えてペンが爆発するのが難点ですが……。あ、あと使わないで放っておくと魔力を永遠に吸い取られ続けるのでペンを壊さないといけなくて……。いっ! ね、ねこさん痛いですぅ!!」

 

【呪いの道具じゃないですかっ!! いました。ウィズさんは誰か暗殺したい井戸小屋でもいるんですか?! 因みに登録方法は?!】

 

「いたっ、痛いですって…! えっと、方法はペンを10秒握ることで…いひゃいぃぃ?!」

 

 

栄養やらが頭にではなく胸部に溜まってしまった悲しき塊を、ガチ目にもぎ取ってやろうとしていれば、カズマが「ちょっと話したいからいいか…?」と割り込んで来た。

 

 

【その扉の修繕費の桁を1つでも増やしてくれるという話なら聞きますがです】

 

「いや増やさねぇよ? 話っていうのは、俺が作る道具を店に置かせてもらえないかって話だ」

 

【……聞きましょう。ここにもねこはいます】

 

 

ウィズさんの胸から手を離し、カズマへと向き直って話を聞く。ある便利な道具を作るから良ければ置かせてくれないか、と、カズマは言う。売れた場合は利益の一部を支払うし、見てから置くかどうかは決めていい…と。

 

 

「冒険者稼業で簡単に金が稼げないのはもう分かってる。となると商売でもやって稼ぐしかないんだが……。いきなりこんな事を頼めるのは、ウィズ__というより、ねこしかいなくてさ」

 

「つまりカズマが言っているのはこういう事よ、これからこの店は私達が経営するからとっとと店の権利書をいだいっ!!」

 

 

やかましいアクアの後頭部をダガーの柄で殴って黙らせると、カズマは頭を下げて頼み込んできた。勿論自分としては構わないのだが、一応、店主のウィズさんの許可もいるだろう。

 

 

どうするのかという視線を送ると、ウィズさんは優しげな微笑を浮かべ。

 

 

「そんな事なら構いませんとも。むしろ商品が増えるのは願ったり叶ったりです。……それに、領主さんの屋敷の弁償となると、私だって他人事ではありませんから…。何を売るのか知りませんが、期待してますよカズマさん」

 

 

にこりと笑うと、あっさり承諾した。いやはや、ウィズさんの笑顔には、なんとも癒されるものがある。釣られてこちらも笑顔になるような…そんなものだ。

 

 

これで魔道具(ゴミ)を仕入れてしまう才能がなければ…! なければ……!! うぅ、天は二物を与えずと言うが、こればかりは本当に…。

 

 

天を、そしてウィズさんの才能を恨んでいれば、ウィズさんが少し表情を曇らせた。それに気付いたカズマは口を開く。

 

 

「……? どうした? 気になる事があるなら言ってくれよ? 無理に頼んでる訳じゃないから、もし何か、思うところがあるなら……」

 

 

カズマの言葉に、ウィズさんが慌てて手を振り「その、アクア様の事なんですが……」と困った様に口ごもるので、自分はあの事かと察して近くの引き出しを漁り始めた。

 

 

「ああ、これから商品を置いて貰う事になったらアクアがちょくちょく顔出しに来ると困るとか? こいつが怖いなら、なるべくここには来させないようにするが」

 

「そうではなく…いつもここに来るたび、ここの商品はこの女店主とバイトがとても人には言えない様な製法で作った物ばかりだから、買わない方がいいと吹き込んで……」

 

「おい、どういう事だ」

 

 

問い詰めるカズマの低い声に、アクアが頭を抱えながらビクリとする。

ごそごそと、引き出しを漁りながら自分も口と言うか文字を挟む。

 

 

【まあ、なんと不思議な事に、聖水やらが男性冒ねこ者に飛ぶように売れ出したんですがね。でした。そこの特別コーナーに置いてあるのでどうぞ気になるなら散財をよろしくおねがいします】

 

 

自分が指を差した先には、『たっぷりサイズ!』やら『清らかな乙女が生み出した…!』やら多数のポップ広告がある棚。別に間違ってないし、誤解が金を生み出すなら万々歳なので目立つようにしているだけだ。

 

 

カズマが「売れてよかったですね…?」と疑問符を付けながら言ったのと同じタイミングで自分は大量の請求書をカウンターに乗せる。

 

 

【それよりもねこです。呪術用の薬や、ネこロマンシーに使う秘薬がねこっ端から浄化されてかなりの商品が駄女神のように使えなくなってます。ですので、見慣れましたね? こちら、ねこです請求書です】

 

「どういう事だこのクソ女神!」

 

 

カズマはアクアを引き起こすと、頭を掴んで下げさせようとする。が、しかし無駄にプライドが高いのかアクアはじたばたと抵抗している。

 

 

「ウィズにねこ、悪い! ダメにした商品の分は俺が責任を持ってこいつから金を巻き上げ弁償させる! こ、こらっ、抵抗するな、お前もちゃんとごめんなさいしろよ!」

 

「待ってよカズマ! 嫌よ! ねこはともかく、何で女神がリッチーに頭下げなきゃ……。あっ、待ってその光がない真っ暗な目でこっちを見詰めないでちょうだい。下げます、下げますからそんな目で見ないで…」

 

 

素直に頭を下げるようになったアクアと、その保護者のカズマ。そして「あ、頭を上げてください!」とあたふたするウィズさん。

 

 

ウィズさんの方が女神という職業に合っているんじゃないかと思いつつ、自分は例のペンの発注を取り消す為に書類を書き始めた。

 

 

ああ、この魔道具店の経営は猫の手も借りたいくらいだ。女神でも悪魔でも、人外でいいから来てくれないものか…。はぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数週間後。ウィズ魔道具店には口元が開いた仮面を付け、黒いタキシードに身を包んだ大柄な男が、新しく店員として居た。

 

 

「フハハハハハハ! 魔王軍元幹部、悪魔達を率いる地獄の公爵であり、この世の全てを見通す魔王よりも強いかもしれない大悪魔、バニルさんである! ……おっと? 自己紹介をしただけで何故か感じる悪感情…! 美味である、美味である!」

 

 

 

……確かに悪魔でもいいと言ったが、本当に悪魔が来るなんて聞いてないんだがぁ?!

 

 

これで楽になるか苦になるか、未来を想像するのも疲れた自分は全てを諦めたようにため息をついた。

 

 

 





そろそろオマケ話を書きたいでごさるねこ。
さーて、来週(か分からない)のねこさんは〜?



    ぼっち、悪魔を倒す為に不良品を買う

ナルシ勇者、魔剣の行方の為に不良品を買わされる

    ウィズ、半身がない猫を拾ってくる


の三本でお送りいたしま〜す! ……いたせたらいいなぁ…。はぁ…。



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■とある日のウィズ魔道具店


FGOにハマりすぎました。ティアマトマッマを追い求め、今や6章ですわ…。石が欲しいし排出率バグってる。
FGO×このすばもいいですね、まァ、一番SCP×このすばは諦めませんが!!!

今回は前回に言った通りオマケ話です。
時系列は、最初の話はウィズさんと出会ってすぐら辺で、そしてめぐみんがカズマパーティーに入る前。
次は、カズマたちパーティーが揃ったら辺。ウィズさんと会う前。
次に、カズマたちがバニルを倒した後。

こんな感じの時系列です。ま、読んでたらなんとなく分かります。


 

 

 

□ぼっち、来店□

 

 

 

今日も今日とて赤字である。

ウィズさんの店に勤めてまだ日が浅い。だが、実質自分が店主なのでは? と思い始めてきた。

 

 

魔道具店の経営費だけでは暮らしていけない自分達の主な収入源はカエルになりつつある。この世界、何故か野菜が跳ねる。抵抗があるが、それに比べたらまだカエル肉の方がマシである。うん、毎日パンの耳よりは遥かにマシである。

 

 

「あ、いらっしゃいませ〜!」

 

「……!! あ、はい、えとお邪魔します…

 

 

棚を整理していれば、久方ぶりにカランと扉に付けたベルが鳴る。

 

 

入ってきたのは、赤い瞳に艶やかな黒い髪をおさげにした自分よりも年下だろう見た目をした少女。人見知りなのか、ウィズさんの挨拶にビクッと小さく体を跳ねさせたので、胸元がたゆんと揺れた。

 

 

自分よりも、と、年下……? いや、うん。発育は人それぞれだし。

 

 

自分の胸元へと視線を下げると悲しくなるので、上を向いて作業を続ける。その間に、たゆん少女(仮名)は此方を……というか、自分とウィズさんを気にしているのかチラチラと横目で見ながら身を縮みこませて店内を見て回る。

 

 

ちょっと不審者っぽい動きだなと思いつつ、作業を続けていた。ワンチャン万引きかもしれないので、ちょっと気にしつつ。

__と、気にしながら暫く経ったのだが……。

 

 

「……あ、

 

 

後ろでたゆん少女が小さく声を漏らす。耳が良い自分はぴくりとその声を拾い後ろに向き帰り【どうかなさいましたか? 井戸ですか?】と聞くのだが、たゆん少女は蚊の鳴くような声で「な、なんでも…ない、です」と店の隅へと行ってしまう。

 

 

因みに、これでこのやり取りは4度目である。

これはたゆん少女が人見知りなせいだろうか? それとも、自分の顔が悪いのだろうか? 確かに少しジト目気味なので、黙っていれば怒ってるようにも見えなくもない顔と理解はしているが……、嗚呼、もう手っ取り早く済ましてしまおう。

 

 

作業を終わらせると、自分はカウンターに立っているウィズさんに指を動かす。

 

 

【あそこのお客様、何か探してるみたいねこですから、聞いてきてくださいですよろしくおねがいします】

 

「え、あ、はい! 分かりました。聞いてきますね」

 

 

そうしてたゆん少女の元へと向かうウィズさん。そして、ふんわりスマイルで「何をお探しですか?」と声をかける。

 

 

この笑顔で呼び込みをしたら客はどんどん入るだろう。そして商品を見て去って行くのだろうな…。嗚呼、誰かお客様を店内に留まらせるのが得意なバイトとか入らないものか。

 

 

うぅんと唸っていれば、ウィズさんが奥の方へと行ってごそごそと箱を漁る。はて、奥にある箱と言えばウィズさんが仕入れた魔道具(ゴミ)が殆どのはずだが……。

 

 

なんとなく察した自分は、自分も奥に入る。すると丁度「あ、あった!」とまるで宝物を見つけ出したように目を輝かせるウィズさんの姿が。

 

 

勿論、手に持っているのは魔道具(ゴミ)である。確かあれはパラライズとか言う麻痺系魔法の効果範囲と威力を問答無用で強化させるポーションだったか……。

 

 

その高すぎる効能故、魔法を唱えた術者までもが作用するというクソポーションだったはずだ。カエルか何かに使うのだろうか? 幼気な少女にこんな不良品を買わすのは流石に良心が痛む…。

 

 

そう考えながらチラッとたゆん少女の方を見てみれば、カウンターには大量のマナタイトやスクロールが置かれていた。今月分の家賃を大幅に超える金額である。ポーションも加えたなら、来月分も…。

 

 

……………。……、…。

 

 

それを見た自分は、ウィズさんからマジックポーションを貰いカウンターに乗せ、満面の笑みで頭を下げる。

 

 

【お会計ですねこですね! ねこがとうございますです! 貴方様はとても素晴らしいお客様です命の恩人ですでした!!】

 

 

良心よりも金に心の天秤が傾いた瞬間である。

 

 

今後ともご贔屓に…、ええ、本当にそうしていただけると嬉しいです…! と、ニコニコしながらエリスを受け取れば、たゆん少女は顔を少し赤く染めながら謙遜してくる。

 

 

「えっ、いや、命の恩人とか…! 商品を買っただけですし。え、えへへ…。そ、そんなに褒められると恥ずかしい…です、よぉ」

 

【お客様はねこ神様です! 何か足りない魔道具があれば是非当店によろしくおねがいします! また何か買っていただけたら店主がなんでもしますしました!!】

 

「え、今なんでもって……、なんでも…。………」

 

 

おっと、大量のエリスに思わず口ならぬ手を滑らしてしまった。

たゆん少女が嬉々として話さないとは思うが、万が一これが外に漏れると店主であるウィズさんが家賃2ヶ月分を払えば『なんでもしてくれる』という痴女になってしまう…!!

 

 

急いで【常識の範囲内で】と付け足すが、たゆん少女は目を紅く光らせ黙ったままだ。

 

 

冷や汗を流していれば、暫く経って「…てください」と、小さな声で何か言う。一体何を…と聞き返せば、今度はしっかりはっきりした声で、

 

 

 

「お、お友達になってください!!!」

 

 

 

そう、顔も真っ赤にしながら叫んだのだ。

 

 

自分は宇宙猫を背負った。

え、なに? この言葉の裏に何か隠されていたりするのか? もしかして不純な関係なフレンドだったりするのか? それとも、「私たち友達だよね?」を武器にパシリに使ったり…?

 

 

「わ、私紅魔族のゆんゆんって言います! お友達になってくれるならもう全財産使います! もっとお金持ってきます!!」

 

 

そう考えたのだが、このたゆん少女__改め、ゆんゆんの必死そうな表情から本気で友達が欲しいことが伺える。目が真っ赤で紅くて怖い。

 

 

取り敢えず、ウィズさんにいいかどうか聞いてみることにする。

 

 

【ねこです、ウィズさんこの少女とお友達、どうですか?】

 

「はい、断る理由もないですが…。けれど、私でいいんでしょうか? 年の近そうなねこさんの方が私なんかよりもいいと思うのですが…」

 

【いや、まぁねこも別にいいんですけれども】

 

 

「え! あの、ねこちゃ…じゃなくてねこさんもお友達になってくれるんですか?!」

 

 

こそっと話していれば、クソデカボイスで興奮気味にゆんゆんが声を上げる。

 

 

いや、どんだけ友達が欲しいんだよ。今までずっと友達の一人もできずに、ぼっちだった訳でも無いだろうに…。

 

 

そう思いながらも、友達になるという意味を込めて頷けば、ゆんゆんは「やったーー!!」とるんるんでお帰りになった。

 

 

数日後、例のポーションで死にそうなほど恥ずかしい思いをしたとかなんとかクレームを言いにきたのだが、そこは「友達だから許して」と魔法の言葉ですぐに許してくれた。

 

 

この少女、チョロすぎる。

 

 

 

□ぼっちのご購入品□

 

・スクロール複数 ・マナタイト複数

・パラライズのマジックポーション(自分まで巻き込む不良品)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□ナルシ勇者、来店□

 

 

 

今日も今日とて赤字である。

折角稼いだ金も湯水のように溶け、幻のように消え去って行く。諸行無常なんかクソ喰らえだ。

 

 

先程ウィズさんがまたも金を使って来た。それを返品しに街の外まで走ったので疲れたのなんの。なんでわざわざ旅商人から買うんだ…、もう少しでテレポートされるところだったので焦ったのなんの。てか、うちは魔道具店であっていくら魔力が込もっていても武器なんか…。

 

 

カランコロン、とベルを鳴らしながら扉を開けると、丁度店の中に居た青い鎧の男がウィズさんの手を取り、口を開く。

 

 

「街の人に聞きました、貴方は凄腕のアークウィザードだったとか。そんな青白い顔になるまで働くのは辞めて、僕の魔王討伐のためにパーティーに入っぼへぇっ?!

 

「「キ、キョウヤァァァァァァァ!?」」

 

 

不審者には正義の鉄槌ならぬドロップキックを。

 

 

仮借なく、加減なく、温情なく。そして、命の価値に区別なく。二枚目なその顔をベコベコに凹ませる気持ちで、自分は躊躇なく攻撃した。

 

 

倒れるキョウヤと呼ばれた青年に、取り巻きらしき少女たちが駆け寄って行く。そして此方をキッと睨みつけ「急に何するのよ!」と叫ぶ。

 

狂わせなかっただけありがたいと思え。そう思いながらトドメの一撃を刺そうとすれば、ウィズさんに止められた。

 

 

「ねこさん! ちょっと落ち着いてくださいっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、その。僕らは魔王討伐が目的で…、この街には魔法使いとプリースト職を求めて来てて……」

 

【そこでうちのねこ店主を見つけて、しかも凄腕魔法使いだと街の人から聞いていた。きいてますか? から自分のハーレムに加えようと? すぐに店をほっぽり出せる訳でもないのにですか? 貴方の頭は井戸小屋以下ですか? 貴方面白い脳味噌してますねねこです。ちょっと弄って狂わせていいですかね? でした】

 

「は、はわわ……。ねこさんがキレてる…」

 

 

名を、ミツルギキョウヤと言うらしいコイツとその取り巻きたちを、ウィズさんを奥に避難させ、そして自分はカウンターを隔てて睨みつける。

 

 

なんだコイツ。なんで着いていくと思ったんだよ。シンプルにキモい。ナルシストかよ、ナルシスト自体が悪い訳じゃないけれどもコイツのナルシニズムは群を抜いて気持ち悪い。ウィズさんの手が汚れたので後で聖水で殺菌消毒しなければ…。あ、いや聖水なら手が溶けるか? ……いや、一度溶かしてしまってそれから…。

 

 

【で、ねこでした。勧誘でしたっけ? ウィズさん、どうするんですか? しますか?】

 

「いえ、行きませんけど…。やるべき事とかあるので…」

 

【だ、そうです。きいてますか? さっさと立ち去るのですよ。あ、立ち去る前に迷惑料を5万エリスほど置いてってくれますかでしたか?】

 

「ねこさん!? それもうカツアゲですよ?!」

 

 

ゴミを見るような目で睨みながらしっしっと手を払うが、それでもまだ出ていかないナルシ勇者気取り野郎。どうしたのだろうかと思えば、申し訳なさそうにナルシ勇者は口を開く。

 

 

「実は、勧誘だけが目的で来たんじゃないんだ。ここには色々な魔道具があると聞いて、僕の魔剣__魔剣グラムを見付ける魔道具がないかとね。だから今すぐ立ち去ることは出来ない。迷惑料(?)はその魔道具代からって事にできないかな…?」

 

 

二人の取り巻きが「キョウヤの勧誘が迷惑とかあり得ないけどね!」「むしろ蹴られた分こっちが迷惑してるんだけどね!」とかごちゃごちゃ言ってるのは無視。

 

 

自分は、ピンと予感がした。脳が高速で回り、察する。これは金が稼げる予感がする…!!

 

 

先程とは打って変わった笑顔(営業スマイル)で、奥から魔道具がたんまりと入った箱を持ってくると、机も引っ張ってきて商品を並べた。

 

 

【探し物を探す魔道具は生憎ないのねこですが、それらしき情報を知っています。ついでに役に立つ道具を買ってくださいですよろしくおねがいします。どれもこれも良い井戸小屋の品なんです。でしたか?】

 

 

例えば…と、マジックポーションを自分は手に取る。

 

 

【このねこポーションは、バインドの効果範囲などを上げるポーションなんです。此方のスティールのと今ならセットですよ。ねこはいいました】

 

「あ、あぁ。それはとても良い品だね」

 

【そうでしょう、ねこでしょう! 次に此方は武器に塗ると炎属性が付与されるポーションねこです。剣や槍が炎を纏い、上級魔法ほどの水でもないかぎり消えないので敵ねこを燃やし尽くせるのです!】

 

「じゃあ、それも買うよ。えっと、情報はまだかな?」

 

【まだまだ商品はあるので、それを買っていただけたら……ですね。ねこですよろしくおねがいしますよ勇者様?】

 

 

にこりと自分は微笑み、奥からもう一箱をドンッとナルシ勇者と取り巻きの前に置いてやった。

 

 

見たところ、まだまだ金は持ってるみたいだし…いっそぜーんぶ使ってくれたら嬉しいなぁ…という思いを込めて、自分は魔道具の紹介を小一時間ほどすると、

 

 

ナルシ勇者が「あの、本当にもうそろそろ情報をお願いできないかな…?」と随分と軽くなった財布と大量に魔道具が入って重い袋を手に持ち言ってきた。

 

 

ふぅむ、ゴミ処理も出来たし金も巻き上げられた。そろそろいいか、と自分は手を動かす。

 

 

【確か、魔剣ねこグラムとやらをお探しだったですかね? でしたか?】

 

「嗚呼、恥ずかしい話、賭に負けて売られてしまって……。この街の武器屋を回っても見つからなかったんだ」

 

【それって……もしかねこすると、こんな剣でしたか?】

 

 

その辺の紙にさらさら〜っと絵を描けば、ナルシ勇者が「それですそれっ!!」と大声を上げる。

 

 

「その剣どこで知ったんですか? というか見たんですか?!」

 

【見たも知ったも……うちの駄目店主が買ってきた剣ですしねこすし】

 

 

そう書けば、口をギャグ漫画のようにぽかーんと開けるナルシ。

 

うちは魔道具店だってのに、特定の人しか効果を発揮しない魔剣__つまり、その人以外にはただのちょっと良く斬れる剣を買ってきた店主の才能にはほとほと呆れる。

 

 

「そのっ!! その剣、買います!! 買いますから僕に売ってくださいっ!!」

 

 

カウンターという壁を越えようと身を乗り出すナルシに……ふつふつと、笑いが込み上げてくる。

 

 

「?何故笑って…」

 

【いや、ねこが渡せるのは情報だと書きましたよね? きいてましたか? 聞いたねこですよね?】

 

 

笑いをなんとか堪えながら、ヒクヒクと反応する口角を片手で隠し、もう片方の手で「まさか…」と顔色が鎧と同じ色になっていくナルシにトドメを刺す。

 

 

【生憎、その剣は旅商人に返品しました。その商人はすでに何処かの場所にテレポート済みですよ。ねこです情報と魔道具のお買い上げありがとうございました】

 

 

 

「ちっくしょおおおおおお!!!」

 

 

 

勢いよく店から出て行ったナルシと「キョウヤァァァ!」と、叫びながらその後を追う取り巻き。

 

 

不用品が高値で売れてホクホクな自分は、笑顔で勇者様ご一行を見送ったのだった。

 

 

 

□ナルシ勇者+取り巻きのご購入品□

 

・バインドのマジックポーション(自分まで巻き込む不良品)+スティールのマジックポーション(自分まで巻き込む不良品)

・炎付与のポーション(上級魔法の水魔法以外では"決して"消えない不良品)

・その他諸々(全て不良品) ・オマケで魔剣の情報

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□半身猫、来店□

 

 

 

今日も今日とて赤字である。

自分の他に新しいバイト(悪魔)が増えたのは嬉しくもありウザくもある。

 

 

ウィズさんが魔道具(ゴミ)を買うと出てくる悪感情を「余り好みではないため、ほんの少しの慰めにしかならん。ねこよ、我輩好みの悪感情に寄せるように努力してくれ」と、言われたのが最近で一番苛ついた。

 

 

さて、今の季節は冬である。冬は高レベルな魔物が蔓延る危険な季節だ。そんな季節なので、始まりの街の冒険者がクエストを受ける訳がない。つまりは冒険に出ないので、うちの商品の売れ行きも落ちてしまっている。

 

 

【バニル、そういえばねこですがウィズさんはどこですか?】

 

「我らが雇い主でありながら足を引っ張る貧乏店主は2、3時間ほど前に散歩に行かせたぞ。無一文で雪原の中に放り投げたからな、みっともなく見窄らしい格好である故、商人が魔道具を売り付けようと近づくことはないだろう」

 

【悪魔か】

 

「大悪魔である。なに、そこまで褒めるでない。……おっと、『いや褒めてねーし』的な悪感情美味であるな!」

 

 

などと喋りながらせっせと商品を整理したり、返品する魔道具(ゴミ)を箱詰めしたりと仕事をしていれば、カランコロンと扉のベルが鳴る。

 

 

時間的にウィズさんが戻って来たのかと、お帰りなさいを伝えるために扉の方向を見ようとすれば、耳に届く小さな声。

 

 

「にゃ〜」

 

 

素早く扉へと振り返れば、そこには頭に雪が積もったウィズさんと、ウィズさんの上着に包まれた猫。猫は顔だけをだし媚を売るように鳴いている。

 

 

【ウィズさん、猫なんて飼う余裕はないですよ。……いやまぁ、ねこが言うと複雑ですが、一応ねこは猫じゃなくてねこですしねこは…】

 

 

だがしかし、飼う余裕は本気でない。可哀想だが元の場所……いや、ギルドに頼んで飼い主を探してもらうか書こうとしたが、ウィズさんが猫を上着から出した事でその言葉も引っ込んだ。

 

 

 

その猫は、灰色の波模様を持つ、小柄な普通の猫だった。

__ただ一つ、下半身がない(・・・・・・)ことを除いて。

 

 

 

猫はにゃぁんと、なんでもないように、また鳴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【な、な、な、なんですかそれ猫なんですかそれともねこなんですか猫ではなく魔物の猫なのかねこなのか…????】

 

「ね、ねこさん落ち着いてください! この子は普通の猫ですよ、下半身が存在しないだけで普通の猫です!」

 

【百歩譲って猫だとしても普通じゃないです。でした!!!】

 

 

店内をうろうろする半身がない猫をお客様に見せないため、一時的に店を閉めた。(どうせ客は暫く来ないのでノーダメージだ)

 

 

そしてウィズさんに一体ナニを拾ってきたのか問い詰めるが、ウィズさんもよく分からないらしい。曰く、気が付いたら目の前に居たのだとか。

 

 

「ふむ……、この猫、我輩の見通しによると特に害はないようだな」

 

「あっ、バニルさん! 落とさないでくださいよ?」

 

 

半身がない猫の首根っこをひょいっとバニルは掴むと、ジロジロと見た後でそう告げた。

 

 

宙に釣られながら、ぶらぶら揺れる猫。下半身がないのでその揺れが余り伝わらないが…。そうやって摘まれ状態のまま、バニルは見通した内容を話し続ける。

 

 

「名前はジョーシー、好奇心旺盛な普通の(・・・)猫だ。そこの断面部分を優しく撫でられるのが好きらしいな。因みにチーズをあげるのはやめておいた方がいいぞ。その猫が満足する量でなければ悲しむからな」

 

【……ねこよりも普通の猫なようですね】

 

 

パッと説明し終えたバニルが手を離せば、ウィズさんが小さく悲鳴を上げる。しかし、下半身がまるであるかのように何事も無く着地した。前足、後ろ足の順番で、見えないのにそう着地したと分かった。

 

 

自分よりも猫らしい。そして自分よりも普通の猫だ。別にそこはどうでもいいのだが…。

 

 

ともかく、この猫をどうするかが問題なのだ。見た目が異常なこの猫が、果たして引き取り手がいるか不安だが……。うちで飼うのは厳しいのでギルドに飼い主募集の張り紙を貼ってもらって…。

 

 

「ふふ、可愛いですね〜。よしよしよしよし…って痛い! え、え、撫ですぎましたか…? あぁごめんなさい…」

 

 

そう考えていたのだが、猫とウィズさんの戯れる様子を見て少し気持ちが揺らぐ。

 

 

ウィズさん楽しそう。ウィズさんと猫の戯れは癒される。猫も可愛いし猫は好きだし自分も触りたい。でも、でもなんだか見てて少しモヤモヤするのも…。

 

 

「して、あの猫はどうするのだ? ウィズがあの猫に構いきりにならないかと心配な感情と自分以外の猫を撫でるなという嫉妬の感情が鬩ぎ合っているバイトのねこよ」

 

【見通すな殺す】

 

「ふははははは!! その悪感情美味である! 因みに見通していないぞ? 貴様を見通すと流石の我輩も『ねこ』とやらに感染して残機を削られるはめになるのでな」

 

 

残機減らしてやろうかと本気で思う。口を大きく開けて豪快に笑う悪魔に殺意を抱いていれば、足元を擽ったい感触が通り抜ける。

 

 

下に視線を向けると、自分の足に擦り寄るジョーシーがいた。上目遣いで此方を見上げ、目が合うとにゃあと一鳴き。うーん、あざとい。

 

 

「あら、ジョーシーさんはねこさんの事が気に入ったんですね! 流石猫同士です!」

 

 

するする、すりすり、足元をぐるぐる回りながらジョーシーは体を擦り付けてくる。正直擽ったいのでやめて欲しい。……いや、なんだか懐かしい気がするから、もうちょっとだけはやってもいい。…やっぱり擽ったい。

 

 

足を一歩後ろに下がらせ、そしてしゃがみ込む。そしてジョーシーの額にそぉっと手を伸ばせば、ジョーシーはぐりっと頭を手のひらに擦り付けてくる。

 

 

…………。

 

 

あざとい、あざといぞ貴様。ハニートラップと言うやつか? こっちは飼う余裕……というか、金が無いんだ。それに、ここには度々リッチーより危険な女神の皮を被った疫病神が襲いに来るから危険なんだ…!!

 

 

猫好きな心を振り落とすように自分の頭をポカポカ叩き、一度深呼吸をする。そして意を決した顔つきでウィズさんに文字を書く。

 

 

【ウィズさん、どこかでギルドに飼い主募集のお願いを…】

 

「にゃっ!」

 

 

そう空中を滑るように文字を書く自分の指を猫じゃらしのように思ったのだろうか、ジョーシーは書き途中にも関わらずジャンプして指を捕まえる。

 

 

……………………。

 

 

指を、肉球のついた小さな両手で挟まれる。見ると、無理をして背伸びしているのかぷるぷると足元が(見えないが多分)震えていた。

 

 

……………………………。

 

 

暫くすると、こてっとやはり倒れてしまった。仰向けに倒れたジョーシーは、へそ天(胸の上部しかない)のポーズで目を細めながら、目の前の自分にトドメを刺した。

 

 

 

「にゃあ〜ぁ」

 

 

 

かいしんのいちげき!! ねこに529のダメージがはいった!

 

 

自分は、ジョーシーを抱き抱えて立ち上がると、外に出るため扉に手をかけた。

 

 

「ねこさん、何処に行くんですか? まさか、ギルドにジョーシーさんを……」

 

 

くるりと振り返ると、表情を崩さないまま手を動かす。

 

 

【ねこは、ジョーシーのためのご飯などを買ってきますです。……この子は、うちの猫ですから】

 

「! そうですかっ! あ、私も着いて行きますね。外は寒いので暖かくして行きましょう。ジョーシーさんの毛布とかも買いましょうね!」

 

【そうですね。因みに買えば買うほど断食の期間が長くなるのでよろしくおねがいします】

 

「え」

 

 

こうして、ウィズ魔道具店に看板猫が一匹増えた。

 

 

 

□ジョーシーのための購入品□

 

・ペット用ミルク ・ペット用の寝床セット

・ペット用のトイレ ・猫用爪研ぎ

・首輪(探知魔法付き) ・その他もろもろ…

 

断食期間・約二週間

 

 

 

 

 





「SCP-529の半身猫のジョーシー」 は《作者不明》の「SCP-529」に基づきます。
http://scp-jp.wikidot.com/scp-529

次はアルカンレティアですねー。
ウィズさんが登場する回についてねこあり…です。書きたいところだけ書いてる感がすごい。実際合ってますが。


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ねこです。温泉に向かうのです。


FGO、2部7章クリアしました。半年でよくここまで来たなぁと思いますです。7章鯖は全員手に入れたのでうはうはです。ねこでした。

SCP×このすばを絶対に諦めないキャットこと、ねこですよろしくおねがいします。


 

 

 

 

カランカラン、と久しぶりにドアに取り付けたベルの音が鳴る。

 

 

入ってきたのはカズマである。そんなカズマに、元気よく「へいらっしゃい!」の挨拶と共にさらりとウィズさんに『バニル式殺人光線』をした事を伝えた、自分と同じ『ウィズ魔道具店』で働くバニル。

 

 

自分も一応ぺこりと会釈をしつつ、特にウィズさんに気を使う様子は見せずに箱に魔道具(ゴミ)を詰める作業に戻る。

カズマはそんな様子を見てか、雇い主にそんな事をしていいのか? と聞いてくる。

 

 

【雇いねこなら雇いねこらしい事をしてほしいですよろしくおねがいします】

 

「このねこの言う通りだ。ガラクタを買ってくるガラクタ店主を自由にやらせていたら、我輩が千年働いても赤字のまま。そして、その頃にはねこはぽっくり逝っているだろうから我輩の働く量が増える。折角計上した黒字を使い潰す店主と二人きりなど、我輩は考えたくもない」

 

 

心底嫌そうな顔をするバニルに、自分は同情した。何となく、今の話は実現してしまう気がする。その時は悪魔のバニルにすらも同情し、憐れみ、可哀想な物を見る目でぽっくりするだろう。これが現実にならないことを祈るばかりである。

 

 

いやまァ、ウィズさんが魔道具(ゴミ)を買って来なければいい話なのだが、それはもう……うん。

 

 

遠い目をした自分を見て「お疲れ様です」と憐れみの目を向けてくるカズマ。同情するなら金をくれと言いたい。

 

 

「と、いや実はだな。今日はバニルに用があって来たんだよ。ちょっと温泉旅行に行く事になってな。それで例の商売の話なんだが、帰ってくるまで待っててほしいんだよ」

 

 

例の商売という言葉に、ぴくりと耳が反応する。

嗚呼、そういえば前にカズマに商品を置かせてくれないかと言われ了承したが、目利きは『見通す悪魔』とやらのバニルが向かった方が良いと思い、向かわせたのだった。

 

 

風船やライターなどのサンプルを持って帰ってきたバニルが言うに、カズマには『知的財産権を売れば3億一括』or『生産ルート確立後に月々百万以上』の提案をしてきたらしい。

 

 

「何だ、そんな事か。未だ商品の生産ラインは調っておらぬので、ゆっくりと羽を伸ばすなり混浴を期待するなりしてくるが良い」

 

「ここここ、混浴なんて期待してねーし?! ねこもそんな目で見るな! 首の古傷が痛むから、湯治に行くだけだし!

……それより、箱に詰めてるそれはなんだ? ていうか、何でウィズは焦げてるんだよ」

 

 

話を逸らしたな、と思いつつ自分は箱に詰めていた魔道具(ゴミ)を取り出し、指を動かす。

 

 

【これはウィズさんが『絶対に売れるから殺人光線はやめてください!』と遺言を残し置いて行ったものです。

冒ねこ者を悩ませる、旅先での野外におけるトイレ事情を解決する魔道具です。でした。箱を開ければ即完成の、魔法で圧縮された簡易井戸小屋トイレですよろしくおねがいします。用を足す際にねこプライバシーを守るため、音が出る水洗仕様なのです】

 

「何それ凄い、超便利じゃないか」

 

【欠点は、消音用の音が大きねこ過ぎてモンスターを呼び寄せる事と、水を生成する機構が強すぎて、辺りが水で大惨事になる事です】

 

「何それ酷い、超不便じゃないか。……他に、何かオススメとかないのか?」

 

 

デスヨネー、と思いつつ、箱にツメツメする作業に戻る自分。カズマの質問には、バニルが答えるようだ。棚からポーションを取り出すと、プレゼンし始める。

 

 

「オススメか。ウチの金欠店主が何を考えて仕入れたか分からない、開けると爆発するポーションはどうだ。一本たったの三万エリスだが、これを持って銀行に行き、銀行員の前で開けようとするだけで大金が貰えるお得ポーションだ。お一つどうか?」

 

 

それに対し、カズマは一言。

 

 

「いらんわい」

 

 

そりゃそうだ。箱に詰め終わったので奥に返品するためのスペース(の積み上がった箱の山)に箱を置いて入れば、カズマとバニルの話にぴくりと耳が反応した。

 

 

「……そう言えば。小僧、貴様温泉旅行に行くと言ったな。このポンコツ店主も、一緒に持って行ってくれまいか。貴様との商品を量産するために、近々まとまった金がいるのだ。コレが店にいると……言わなくても分かるな? 我輩と実力が拮抗する相手には見通す力も使えなく困っているのだ」

 

「それってウィズのお守りをしろって事か? いや、俺はいいけどさぁ。アンデッドを毛嫌いしてるアクアが、どんな反応をするかが……」

 

「……意外と着痩せするタイプのこの店主は、実は大の風呂好きでな。見通す悪魔が宣言しよう。汝はこの旅先にて、混浴風呂に入る機会が」

 

「俺に任せろ、責任もって連れて行」

 

 

【変な事を考えるな、ねこです殺します】

 

 

ぬっ、とカズマの背後から音もなく近付き、腰部分にぐりっと例の爆発するポーションを押し付ける。

 

 

【ねこです。ねこも付いて行きます。何か嫌な予感がしますので】

 

「ふむ、まぁいいだろう。元々、厄災店主が旅先で無駄遣いをするのを危惧していたからな。ねこが行くならばその心配はないだろう」

 

【……という事になりました。カズマ、よろしくおねがいします】

 

 

にこり、と笑いながらぐりぐりとポーションを押し付け続ける。

カズマは「此方こそ宜しくお願いします…」と涙目になりながらも了承したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──馬車の待合所らしい場所に着くと、そこにはカズマのパーティーメンバーが全員揃っていた。

 

 

「ちょっと、先に行って席を取っておいてって頼んだのに……って何背負って何を連れてるのよ」

 

 

白目を剥いて、焦げて気を失っているウィズさんを背負ったカズマは、皆にバニルとのやり取りを説明する。そして自分はウィズさんのお目付役として宜しくお願いするため、ぺこりと頭を下げた。

 

 

「ふーん? まあいいけど。でもこの子、何だか薄くなってるんですけど」

 

 

意外にもあっさりと快諾したアクアに驚く。そしてウィズさんを見てみれば、確かに薄い。持ってきた砂糖水をぶっかければいいだろうか?

 

 

「おお、おいこれ大丈夫なのかよ! 回復魔法……は、アンデッド相手じゃ逆効果か!」

 

 

そんな慌てるカズマに、久方ぶりに見た厨二少女めぐみんが「こんな時はドレインタッチです!」とまともな事を言う。

なるほど、ドレインタッチか。自分は無言で、すっ…とカズマに向かって手を出した。

 

 

「え? 何? どうしたんだ、ねこ?」

 

【会話の文脈から察しろです。ねこからドレインタッチをしてください】

 

「…いいのか? 俺、ダクネスから取ろうと思ってたんだが」

 

【いざとなった時の盾が生命力不足で使えない……なんて事があれば大変ですし。ほら、ねこです。早くどうぞ】

 

 

パーティーメンバーには躊躇なく使うが、一応他人にはちゃんと許可をする辺り、まァさっきの混浴どうのこうのは水に流してやろうと思う。

 

 

カズマに手を取られ、ドレインタッチを発動される。

 

 

「『ね""』⁈ っ〜〜?!」

 

 

思っていたよりも刺激というか、吸い取られる感覚が強く、危うく言葉を発しそうになったのだが何とか耐える。一文字はセーフだ。多分。

 

 

「あら……? カズマさんじゃないですか、ここは……? あら、ねこさんも…、あらら? ねこさんの肩に猫さんが…ジョーシーさんとは違う猫さんですね…?」

 

 

目覚めたてのウィズさんが、キョロキョロしながらそんな事を言う。どうやら、自分の生命力をまぁまぁ多く分け与えられた事で『ねこ』が感染しているらしい。存在しないはずの猫が見えるだけで、意識はしっかりしているからほとんど無傷よりの軽症だろう。このくらいなら放って置いてたら治る。

 

 

「ジョーシー? てか、ウィズ大丈夫か? ねこの肩に猫なんていな……あれ、待って俺も見えるんだけど。待って俺も感染してんの?! ここから重症化しないよな? ちょ、アクア! アクアーーー!! 俺に『セイクリッド・ハイネス・ヒール』してくれお願いしますー!!」

 

「え、なんかカズマさん涙目なんですけど。なんか憐れで面白いんですけど。プークスクス!」

 

「お前にも感染させてやろうかこのクソ駄女神!!」

 

「なんですって! このクソヒキニート!!」

 

 

ぎゃーぎゃーとお互いの首を絞め合う二人。その二人を止めようと、ダクネスとめぐみんがそこに入る。ウィズさんは見えない猫を撫でるのに忙しい。自分は猫(存在しない)に向けるウィズさんの笑顔を金にならないかなぁと思いながら写真を撮る。

 

 

 

「お客さん方ー! 乗らないのなら置いてきますよー!」

 

 

 

そんな自分達に向けられた少し呆れた声は、青い空によく響いた。

 

 

 

 

 

 





今のところ、アンケートだと

「ねこですよろしくおねがいします」が1番。
「ねこですよろしくおねがいしません」が2番ですかね。

ねこですよろしくおねがいしますは、最早オマケなのですが。前回の実質1番は「半身猫のジョーシー」ですね。次の実質1番はどうなるのでしょうか?



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ねこです。穏やかな旅路だったはずです。


どうしてもセイバーのライダー(メドゥーサ)が引けなくて血涙を流すねこです。紙の月は結構簡単でしたね。わし様が引けなくて残念ですが、アーチャーは引けたので満足…な訳ない。セイバーが欲しい。


SCP×このすばさえ見れれば諦めがつく気がする。




 

 

 

 

誰が荷台に行くかで色々揉めた結果、ジャンケンに負けた駄女神と「ふむ、尻を刺激する長時間の放置プレイは悪くないな!」と意味の分からない理由で荷台に嬉々として行ったダクネスの二人が荷台に行く事に決まった。

 

 

所謂『マゾヒスト』という奴だろうか。カズマに聞いてみたが、返ってきたのは「あまり刺激しないでやってくれ」との事。

すぐには意味が分からなかったが、ダクネスが頬を赤らめ、

 

 

「んんっ、ストレートな怪訝な視線…!! はぁ、私よりも年下の少女にこんな風に見られるなんて…、なんのご褒美だ?!」

 

 

と、くねくねし始めたので、自分はダメだコイツと察し、ふと考える。

カズマのパーティーってヤバい奴しかいなくないか? 一人は不運を呼ぶ駄女神。一人は厨二病のネタ魔法使い。一人は途方もないドM……

 

 

ぽんっ、とカズマの肩に手を置き、憐れみの目を向ける。

 

 

「……そんな目で見んな。俺だって、俺だってなぁ…!!」

 

 

涙が出てきたカズマ。面倒くさい雰囲気を感じたので【ドンマイ】と一文書いてさっさと馬車に乗り込んだ。

そうして、ふと思う。自分もカズマに引けを取らず中々やばいのでは? と。

 

 

一人(?)は働けば働くほどに赤字を生み出す貧乏リッチー。一人(?)は美少女に化けて男性冒険者を虜にした後『残念、じつは我輩でした!』と血涙を流させる大悪魔。そして人を狂わせるねこの自分…

 

 

──よし、もう考えるのはよそう。

 

 

自分は考えるのを止め、荷台は嫌だと泣き喚くアクアの悲鳴を聞きながら馬車が動き出すのを待つ事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガタゴトと、意外と電車に近い揺れを体感してどのくらい経っただろうか。

 

ご近所と魔道具店くらいしか行動範囲のない自分からしたら、外の世界は珍しいものだ。街は見えなくなり、時々映る見たこともないモンスターや、遠くに見える森などの移り変わる景色を堪能する。

 

 

めぐみんは違う馬車に乗っている人が置いたケージに入った小さいドラゴンを眺め、ウィズさんはめぐみんが飼っているらしい黒猫──ちょむすけと言うらしい──を膝に乗せて微笑みながら頭を撫でている。

 

 

時折、「お尻痛くて最悪なんですけど」とアクア。「痛くて最高だな。もう少し強ければ尚よし」とダクネスが真反対の事を言っているが、穏やかな旅路である。

 

 

「ねぇー、そろそろ私のお尻が我慢の限界なんですけどー! そろそろ替わってくれないと可哀想なんですけどー!」

 

「しょうがねぇなあ…。じゃあ休憩になったら場所変わってやるから、それまで我慢しろよ」

 

「私はどうぞお構い無く」

 

「おう、お前の事は気にして無いからずっとそこにいろ」

 

「はぅ! なんて冷たい返し…!」

 

 

……穏やかな旅路が台無しである。

 

 

そんな中、ウィズさんが「何なら、私が替わりましょうか?」と手を挙げる。そしてフフ、と笑った。

 

 

「このところ、バニルさんとねこさんにはとても気遣われていましたからね。『ウィズ。汝はカウンターでただニコニコして座ってればそれでいい。頼むから働いてくれるな』とか『いいですか、もう今月はこれ以上働かないでくださいおねがいしますねこは泣きます』とか…。今回の旅行も私を休ませるためですかね? 私は大丈夫なのに二人は心配症ですね」

 

 

ニコニコしながらそんな事を言うウィズさん。

自分は空気が読めるから言わない。心配しているのは店であって、ウィズさんの体調や身体ではない。そして、今回ウィズさんを旅行に行かせたのは、金を無駄に使わせないためである。

 

 

「……ねこ、金の面で苦労してるんだな」

 

【同情するなら金をくれです】

 

 

此方に憐れみの目を向けてくるカズマに言い(書き)返す。カズマも少し前までは借金塗れだったのに、今じゃ金持ちだ。どうせなら全額うちの店に使ってくれたらいいのに……。まァ、そんな事ある訳ないか。

 

 

そんな事を考えながらまた窓の外の景色を眺めるが、ガタゴトと体を揺らす心地よい振動に自分はくぁ、と欠伸が出たので休憩までは寝ることにした。

自分はねこだが猫である。少しくらい寝ていても、問題は起きないだろう。

 

 

 

 

 

そう考え、目を瞑ったその時だった。

 

 

「すみません、なんかこっちに土煙が向かって来てるんですが。それも結構な速度で。……アレ、何だか分かりません?」

 

 

千里眼とやらの遠くが見えるスキルを持っているカズマは何かを見たのだろう。そう手綱を引くおじさんに聞くと、おじさんは「走り鷹鳶ですかねぇ」と冗談みたいな名前を口にする。

 

 

直接聞いたカズマと同じく、なんだそれ。という気持ちが顔に出てたのか、おじさんが少し困ったように「そんな目で見ないでください」と言う。

 

 

「タカとトンビの異種間交配の末に生まれた鳥類界の王者ですよ。鳥のクセに飛べないモンスターでして、代わりにとんでもない脚力を持って高速で走り回り、獲物を見付けるとそのままジャンプしてかっ飛んで来る、大変危険なモンスターなんですよ。

この時期はメスにアピールするため、激突すると大惨事になりそうな硬い獲物にかっ飛んで行き、ギリギリで回避する変わった求愛行動をします。まぁ、その辺の木や石に突っ込むでしょうから安心してくださいな」

 

 

それはまァ……変わった鳥だな。下手をすれば死にかねない求愛行動など、見せ付けられても自分からすればドン引き一択である。

 

 

心配はないなら眠りに戻ろうと目を瞑るが、そこでまたもカズマが「なんか凄い勢いで突っ込んで来てるんですけど」と言うので、なんだか嫌な予感がして目を開ける。

 

 

「お客さん、もしかするとこの商隊の中に、アダマンタイトみたいな凄まじい硬度を誇る鉱石を積んでいるのかもしれません。他の商隊の者も気付いたみたいですね。安心して……。……? なんか、こっちに来ますね。というか、この馬車に。というか……!」

 

【……というねこか、荷台に突っ込もうとしてませんですか?】

 

 

荷台には、鉱石なんか積んではいない。アクアとダクネスがいるが、それがアダマンタイトみたいに硬い訳が……

 

 

ふと、そこで自分はバニルが『あの小娘、最強とされる爆裂魔法に耐えるとは一体何者なのだ?』と呟いていた事を思い出す。

あの爆裂魔法だ。機動要塞デストロイヤーを爆砕した、あの魔法に耐えたクルセイダーは、きっとアダマンタイトよりも硬いだろう。

 

 

……その、クルセイダーの名前は、

 

 

「カズマ! 物凄く速い生き物が、真っ直ぐこちらへ向かって来ている! というか……。連中が、私を凝視している気がするぞ! なっ、なんという熱視線! はぁ…はぁ…! た、大変だ、カズマ、大変だ! このままでは私は、あの高速で突っ込んでくる集団に激しく激突され、蹂躙されてしまうのでは……っ!!」

 

 

お前かダクネスー!!!!

 

 

このままでは危ないため、おじさんが馬車を止めようとする。こうすれば他の馬車に乗っている護衛の冒険者達がこの馬車と自分達を守ってくれるらしい。

 

 

「いやぁーー!! ダクネスのせいで私まで巻き添えになるんですけど! ダクネスが筋肉ムキムキのカチカチなせいで私まで蹂躙されるハメになるんですけどぉ!!」

 

「わ、私の筋肉は硬くない! この鎧がアダマンタイトを少量含んでいる特注品だからで…! 私は硬くないからな!?」

 

 

馬車が止まり、カズマとダクネスが馬車から飛び降りる体勢に。自分達の尻拭いは自分達でやるようだ。

 

 

ウィズさんも手伝おうとしたが、カズマが止めたため、御者のおじさんを守る事になる。

そして誰かの声を合図として、冒険者達が武器を構えて飛び出した。

 

 

──嗚呼、穏やかな旅路は何処へやら!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは焦らしプレイの一環なのだろうか?! このギリギリでのお預け感がまた……! なんて事だ、私の体の上を次々と発情したオス達が通り過ぎていく…!」

 

「よし、人目もあるんだお前はもう黙ってろ!」

 

 

自分からバインドに突っ込み、手と足を拘束されたまま地面を転がるダクネスの上を、鷹鳶がスレスレで飛び越えていく。

 

 

自分達から見ればただの行き過ぎたマゾ行為が、他の冒険者から見たら自ら囮になっている素晴らしいクルセイダーとして格好良く映っているらしい。何故だ、コイツはただのど変態だぞ。

 

 

「魔法だ! 動きが速いから、魔法を使え!」

 

 

誰かのその言葉に、魔法使い達が一斉に魔法を唱え始める。それよりも先に、自分が大きく息を吸い込み声を出した。

 

 

「『ねこですねこはみています』!!」

 

 

瞬間、鷹鳶達は足をもつれさせたり失速したり、方向が狂ったりしたところで魔法使い達の魔法が当たる。仕留めても慣性に従い馬車や冒険者に突撃するため、狂わせてそれを出来る限り被害を少なくさせる。

 

 

そうしていれば、何か思い付いたカズマがダクネスに繋いだロープを荷台の柱に結び、そのまま馬車を走らせる。

仲間を引きずるその行為に、流石に皆ドン引きしているらしい。馬車に乗っているアクア達がカズマを非難している。

 

流石の自分もあれはないと思う。流石鬼畜のクズマと名高い冒険者だ。ご近所の奥様方からも「年端も行かない少女にヌルヌルプレイをした」と、噂されるだけはある。

 

 

「お客さん、どうします!? 連中がこっちに向かってきてますよ! 追いつかれます! どこへ向かえばいいんです?!」

 

「洞窟へ! さっき言ってた洞窟へと向かってくれ!」

 

 

カズマには何やら考えがあるようだが、速度は向こうの方が上のため、追い付かれそうだ。

その時、ウィズさんが小さく詠唱を唱えているのを聞き、それに合わせて自分は、すぅ、と息を吸い、窓から顔を出して鷹鳶達を睨む。

 

 

「『ねこはここにいます』!!」

 

「『ボトムレス・スワンプ』!」

 

 

馬車の外に自分の声。そして馬車の中にウィズさんの澄んだ声が響き渡り、それと同時に馬車と鷹鳶の間に巨大な沼が現れる。

自分の声が届いた先頭から中程までは、思考が狂い沼にそのまま突っ込んで沈んでいく。

 

 

ダクネスは無事かと思い視線をそちらに向けるが…!

 

 

「んあああ、こっ、こんなのはっ! 鎧がガリガリ鳴っている! ああっ、マントがこんなに破け、貴族にあるまじきボロボロの格好にっ……! や、止めろぉ! カズマ、ねこ、見るな、こんなボロボロにされていくみすぼらしい私を見るなああぁっ!」

 

 

どうやら頭が重傷なようだ。チラチラと此方を伺う余裕まである。

必死に回復魔法をかけているアクアの方がまだ今回はマトモだ。

 

 

「カズマ! 洞窟が見えてきました! 私の方はいつでも魔法が撃てますよ!」

 

「よし、俺が合図を出したら頼む! おっちゃん、洞窟が見えたらそのわきに馬車を止めてくれ! アクア、俺にも筋力増強の支援魔法を! ねこは鷹鳶を狂わせて少しでも速度を落としてくれ!

 

──ッ! 狙撃狙撃狙撃狙撃ーっ!」

 

 

激走してガタガタと車酔い必須の馬車中。片方の窓から自分が頭を出して鷹鳶を狂わせ、もう片方の窓から身を乗り出しカズマが矢を飛ばす。

 

 

ピィーヒョロロロと威嚇するように甲高く泣き叫ぶ鷹鳶。攻撃されて怒っているのか、勢いを落とすどころか更に集団のスピードは一層速くなり、風のように駆ける。

 

 

「お客さん、洞窟前です! あの洞窟は雨でも降らない限りは人なんて近付きもしません、遠慮なくやっちゃってください! ……急に止まりますから、何かにしっかり掴まっていてくださいよっ!」

 

 

その言葉に全員が手近な物に掴まる中、馬車は勢いよく洞窟の入口脇へと急停車した。バスや電車の急停止よりも強い揺れと衝撃に身体をぶつけて痛い。

 

 

──アクアからの支援魔法で筋力が強化されたカズマは、馬車から飛び降り、ダクネスと馬車を繋いでいたロープを引っ張ると、ダクネスをハンマー投げでもするかのように振り回し、洞窟前に放り投げる!

 

 

いや、やっぱりいくらダクネスがドMでもこれはないんじゃないか?! と思い見るが「悪くない、悪くないぞこの仕打ち!」と喜んでいるのを見たのでもう心配はしない事にする。

 

 

そんなダクネスの上を勢いそのままに正面跳び、背面跳び。ベリーロールに挟み跳びと、多種多様な跳びで洞窟の中へと突っ込んで行く。あっという間に最後の一匹が洞窟へと消えると、カズマは「やれっ!」とめぐみんに合図を出し、ダクネスを洞窟から少しでも離す。

 

 

 

「『エクスプロージョン』ッッッ!」

 

 

 

放たれた閃光と爆発が、小さい小山のような洞窟を吹き飛ばす。轟音と共に瓦礫が吹き飛び、それに少し当たってしまったダクネスは心底幸せそうだ。

 

 

それを見ながら、とっくのとうに眠気が吹き飛んだ自分は爆発音が響く中で静かにため息を吐いた。

 

 

嗚呼、穏やかな旅路の筈が……、もう、これ以上は何も起きないでくれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──その夜、

深夜にアンデッド騒ぎが起きた時は、ウィズさんまでターンアンデッドに巻き込まれたのもあって流石にブチギレた。

 

 

アクアはすっかり静かになったのでよく眠れた。

 

 

 

 

 

 






┏┛墓┗┓



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ねこです。アルカンレティアです。


バサトリア爆死(現在進行形)

ここまでの爆死はオルタニキ以来です…。ねこはかなしい。ねこはバーサーカーに嫌われている…?
SCP×このすばを見れば運気が爆上がりして引けること間違い無しなのにな…。



 

 

 

「いらっしゃいませ! 旦那様からお話は伺っております! どうか、ごゆるりとおくつろぎください!」

 

 

水と温泉の都と呼ばれるアルカンレティアに着いた自分達一行は、カズマ達のマッチポンプのお陰で商隊のリーダーから貰えた宿泊券に書かれた店に来ていた。

 

 

この宿に着くまでが大変だった…。なにせ、三歩歩けばアクシズ教徒に勧誘され、あしらってもすぐに別のアクシズ教徒の集団が回り込んで先を塞ぐ。ポケ◯ンの道を塞ぐ奴らみたいだ、物凄くうざい。というか、アクシズ教徒が多すぎやしないか? と、思い聞けば、ここはアクシズ教の総本山らしい。

 

 

到る所に水路が張り巡らされ、青を基調とした色で統一された美しい街並みも、そこに住む人々のせいで観光できないという…。この青がアクアの色だと思うと、その美しさも濁って見えるので不思議だ。

 

 

さて、そんなアクシズ教の巣窟なアルカンレティア一の宿屋だが、店構えは想像していたよりも立派なものだった。温泉街の宿=和風な旅館を想像していたが、実際は上流階級御用達といった感じの洋式な高級ホテルだった。

 

 

従業員が自分達の荷物を運んでくれ、部屋に自分達だけになったところでやっと一息吐く。

 

 

【ねこは疲れたので、ウィズさんが起きるまで宿で待っていますです。二人はどうするんですか? きいてないですね?】

 

 

そう、自分はカズマとダクネスに問うた。アクアとめぐみんはどうしたかと言えば、宿に着く前にアクアが「教団本部でチヤホヤされてくるわ!」と馬鹿みたいな理由で教団本部とやらに行ってしまった。めぐみんはその付き添いだそうだ。

 

 

「俺は夕飯の時間まで外をうろついてこようかと思うんだが……ダクネスは?」

 

「む、それなら私も行こう。アクセル以外の街を、あまり知らないのだ」

 

 

アクセル以外の街を知らない、か。

世間知らず、とカズマ達に言われるダクネスよりも世間知らずな自分の行動範囲は、基本的に魔道具店のご近所だけだ。

 

 

観光はしたいが、ウィズさんを一人にする事はしたくない。少しだけ、羨ましいなぁと感じたが、アクシズ教のしつこさを思い出してやっぱり今日の観光はしたくないと結論付けた。

 

 

お土産を宜しくと伝えると、二人は笑いながら了承して出て行った。

さて、ウィズさんが起きた時用に風呂の支度でも早めに終わらせておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、んぅ………ねこ、さん…?」

 

 

おしぼりを変えていると、ウィズさんの目が開いた。そして、ゆっくりと上半身を起こしてキョロキョロと辺りを見回す。

 

 

【おはようです。もうアルカンレティアに着きまして、ねこはいますが、ここは宿でした。します】

 

「嗚呼…そうですか。私を放って置いて観光してもらってもよかったんですが……」

 

【観光するなら、ねこはウィズさんと一緒がいいです。それに、今日は疲れたのでする予定はないねこです】

 

「ふふ、なら明日は一緒に観光しましょうか。楽しみですね」

 

 

素直な気持ちを伝えれば、ウィズさんは口元に手をやり上品に笑う。嗚呼、この笑顔が好きだなぁ……と思いながら、自分はお風呂セットをウィズさんに手渡した。

 

 

ウィズさんが目覚める少し前に従業員から聞いたのだが、今は混浴風呂が誰もいなくて、貸切状態らしい。ナイスタイミングで目覚めたウィズさんに行きましょうと伝えれば、風呂が大好きなウィズさんは花が咲くような笑顔で元気よく「はい!」と答えた。

 

 

……うん、こっちの笑顔も好きだ。温泉とウィズさんの掛け算とは、なんて素晴らしい。今この瞬間は、アルカンレティア(地獄)を天国に思う。

 

 

 

 

 

──てなわけで、入浴である。

 

 

「広いですね…! 誰もいないので、本当に貸切みたいです!」

 

 

洋式の外観や内観とは違い、風呂は日本風のThe温泉だった。子供のようにはしゃぐウィズさんを見ると、なんとも微笑ましい気持ちになる。

 

 

それにしても……いや、こんなまじまじ見るものではないが、服を着てても分かってはいたが……、ウィズさんのアレはUDK(うおっ、でっか)である。貸切状態でよかった。これをどこの馬の骨とも知らない奴に──具体例を上げるとカズマのようなスケベ野郎に見られた時にはソイツの記憶を物理的に消すつもりだったからな。

 

 

「ねこさーん、早く入りましょう! お水は苦手ですか? あ。私が頭とか身体とか洗ってあげましょうか? ……って、身体を洗う事は一旦あったまってからにしましょう。最初はかけ湯ですよね」

 

 

そう考えていれば、ウィズさんがかけ湯用の桶を持ち、手を振って自分を呼んでいる。

 

 

指輪は(錆びるかもしれないので)外しているため、こくりと頷き、話すことができないのでテンションが高いウィズさんにされるがままになることにした。

子供扱いを受けているが、ウィズさんと比べればやはり自分は子供なのだろう。子供らしく、飼い猫らしく──今は従順でいてあげようじゃないか。

 

 

 

 

 

──嗚呼、いい湯だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンキンに冷えた牛乳でお風呂上がりの熱った身体を冷ましていれば、どうも疲れ切った「ただいま…」というカズマ達の声が聞こえた。

 

 

「あっ、皆さんお帰りなさい! ご心配お掛けしました、お先にねこさんと二人でお風呂頂きました。ねこさんが店員さんに教えてもらったらしいので入ってきたんですが、混浴のお風呂、とても広いですよ。人が居なかったので貸し切りみたいでした」

 

【アルねこレティアの唯一の誇れる点と言っていいでしょうね。でした】

 

 

湯上がりで顔色が良いウィズさんに同意すると、何やらカズマが「あわわわ」と震えている。

 

どうしたのだろう、と一瞬心配したが「後十分…せめて五分早ければ……アクアなんか放っておけば…」とぶつぶつ小声で呟いたのを聞き逃さなかった自分は、養豚場の豚を見る目でカスマを睨んだ。

 

 

「ひっ……えっと、ねこ? なんで俺をそんな目で見るの?」

 

【いえ、別に? それよりもカスマ、観光はどうでしたか?】

 

「えっと、どうもこうもなかったよ……。明日は宿から出たくない。この街は色々おかし──待って、今なんか俺の名前おかしくなかったか?」

 

 

そんなカズマは無視して、めぐみんとダクネスに同様の質問をしてみると、めぐみんは「とても恐怖を感じた」と震え、ダクネスは「とても気持ちよかった」と震え(意味深)た。

 

 

成程。この街は自分が予想しているよりもずっと酷いらしい。ご近所の奥様方や子供達のお土産は、自分一人で買いに行った方がいいだろうか。ウィズさんを危険な目に合わせてまで一緒に観光したいとは思わないからな。

 

 

悶々と考え込んでいれば、カズマが一人「風呂に入ってくるから」と立ち上がる。そして扉まで歩くと、振り返って「……俺は風呂に入ってくるから」と何故か二度目の宣言。

 

 

「聞こえましたよ。ゆっくりしてきてくださいね」

 

「私はお先に入らせて頂きましたので、カズマさんも、どうぞごゆっくり」

 

 

めぐみんとウィズさんは律儀に答えるが、自分とダクネスは無言。カズマは此方二人を見ながら、もう一度。

 

 

「………俺は風呂に」

 

「早く行け」【はよいけ】

 

 

ダクネスと共に冷たく言い(書き)放った。誰も着いて行かないから一人寂しく行けやカスマ。明日も明後日も、ウィズさんの裸は絶対に見せないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマが部屋から去って暫く。

 

 

「じゃあ、そろそろ私もお風呂に入りますかね。ほら、ちょむすけも来るのですよ」

 

「それでは、私も行こう」

 

 

ダクネスとめぐみんの二人が立ち上がる。自分は二人に向かって【混浴には気をつけてくださいです】と、指を動かした。

 

 

それを見た二人は笑って頷き、

 

 

「安心してください! とっちめる方法はこの紅魔族随一の天才が考えてありますから!」

 

 

特にめぐみんは自信満々にふんぞり返った。

なら安心だと、二人を見送り、いつまで経っても帰ってこないアクアに何かやらかしてないだろうな……と考えていれば、ウィズさんが自分の髪を撫でるように触り、口を開く。

 

 

「ねこさん、髪を洗ってた時も気になってたんですけど、毛先が白くなってきてますね。出会った最初は真っ黒だったのに」

 

 

ウィズさんは、不思議そうに呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 






サバフェス楽しかったです。
実質モルガン様の水着は呼符でゲットしたから余裕だと思ってたのに……バサトリア、バサトリア…!! 魔猪の氏族が欲しい!!!!


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ねこです。穏やかは消え去りました


ワンジナちゃん、早すぎるってばよ……。 extraとCCC買ったので早速始めます。ねこはたのしみでした。

四巻無くしてて焦りましたです。ねこはものわすれがこわい。
SCP×このすばを見ればそんな事もなくせるはずです。おねがいします


 

 

 

 

「うわぁああああ! あんまりよぉ、あんまりよぉおおおおお!!! 私……! 私何も悪い事なんてしてないのに……っ!! 温泉入ってただけなのに!!」

 

「ア、アクア様どうか泣き止んでください…ピリピリしますぅ…!! 私、ピリピリして消えちゃいますからぁ…!!」

 

 

カズマ達が温泉に行ったら、なんかアクアがウィズさんに飛び付き泣きついた。話を聞いてみるに、温泉がただのお湯へと変わってしまったらしい。

なんとも気の毒な話だ。勿論、温泉の管理人側の人がだが。折角の効能が全てパァになってしまったのだ。けれど、アクアもちょっぴりだけ可哀想かもしれないな。

 

 

まぁ、それはそれ。これはこれ──

 

 

【うるせぇです、ウィズさんの胸から離れやがれくださいよろしくおねがいしました】

 

「いったあああぁぁい!!!」

 

 

自分はアクアの頭におもっくそ力を込めて拳を振り下ろした。

 

 

ウィズさんの胸に顔を埋めるなんてけしからん!!! 自分だってやった事ないのに!!!!!

──いやまぁ、別にやりたいと思ったこともないですが??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宿の一階では食事が取れる様になっている。

だが、昨夜のアクアの涙のせいで具合が悪くなってしまったらしく、ウィズさんは布団で体調を崩し、寝込んでしまったので、自分はウィズさん用に食事を運び食べさせていた。

 

 

そんな時だ。またも唐突にアクアが、スパァン! と襖を開けて、

 

 

「この街の危険が危ないから街を守るために守りに行くのよ!!」

 

 

と、頭が悪いとしか思えない事を大声でほざいたので静かにしろという意味でラリアットを喰らわせた。アクアの隣にいたダクネスが「な、なんて躊躇のない暴力…!! やはり暴力は私の欲求(全て)を解決する……!!」とはぁはぁしていた。気持ち悪い。

 

 

そんな変態の横で頭を打ったようで暫く床で悶絶しながらラリっていたアクアに一体なんの話だか聞いてみると、どうやら温泉が魔王軍によって汚染されているから、街を守るために協力してくれとのこと。

 

 

勿論、自分の答えは一択だ。

 

 

【ねこは全力で拒否します】

 

「なんでよぉぉおお!! この街が危険なの! 危ないの! この街の可愛い私の信者達が酷い目に合ってしまうかもなのよ? そんなの嫌でしょ?」

 

 

ぐずぐずと、涙を浮かべた上目遣いでこちらの足下に縋り付き情に訴えてくるアクア。

 

 

そんなアクアに、自分はにっこり笑って返事をした。

 

 

 

【くっっそどうでもいいですよろしくおねがいしません】

 

 

 

アクアは泣きながらダクネスを引っ張って去っていた。ゲリラ豪雨みたいな奴だな、本当に。

 

 

そう思っていれば、ウィズさんが青白い顔をしたまま起き上がろうとする。先程まで「お久しぶりですね」やら「今そっちに……え、駄目なんですか?」やらうなされて(?)いたので心配だ。

 

 

【ウィズさん、ねこはみてました大丈夫ですか? 何やら変なねことばを発していましたのですが……】

 

「えぇ、もう大丈夫です……。さっきまで私が冒険者をやっていた頃のパーティーが、川の向こうでこっちに来るなと慌てる姿が見えていただけですので。ねこさんは私のせいでお食事まだですよね? お腹空いていませんか?」

 

 

それってもしかしなくても三途の川では? なんて言葉は飲み込み言われてみれば確かにお腹が空いていて、途端にぐぅぅと間抜けな腹の音が鳴る。

 

 

ちょっと恥ずかしくなって顔を伏せれば、ウィズさんは青白いを通り越して真っ白な顔でくすくすと笑う。それが余計に恥ずかしいので【体調が悪いんですから暫くねころんでくださいよろです!!】と、書いて足早に一階へと降りて行った。

 

 

するとそこにはカズマとめぐみんが。手を挙げて「よぉ」と言われたのでこちらも手を挙げ返す。

そして、朝食をテーブルに置いてもぐもぐと咀嚼しながら手を動かす。

 

 

「ウィズはまだ寝込んでるのか? 俺とめぐみんは、これから街の外にでも行こうかと思うんだが」

 

【ねこはまずは朝食を井戸で食べるのでした。ます。その後にお土産探しです。それと、ウィズさんが言うにこの辺では強い魔物が多いそうなのでお勧めはねこはしません】

 

「マジか。めぐみん、この街にいる間は爆裂魔法は止めようぜ。俺、背負って逃げられる自信ないし……って言ってもやるんだろ?」

 

「当たり前ですとも! 一日一爆裂しないと私のアレがああなってボンッするのですから」

 

 

何を言ってるか分からないが、カズマだけが付き添うと死にそうなのでウィズさんが起きたら付き合って貰うのはどうかと提案したら、めぐみんは「確かにカズマより遥かに私の生存確率が高いです」と頷いた。

 

 

まぁ、そりゃそうだろう。なんたってウィズさんはアンデッド最強のリッチーなのだから。ステータスが貧弱なカズマより強いのは当たり前であり、不変の事実だ。

 

 

「そういう訳なので、私はウィズが起きてくるまで待ちますね。なので、暇なカズマはねこのお土産探しに付き合ってあげてください。アルカンレティアの街を一通り回ったカズマが案内するのです」

 

「勝手に決めんな。……いやまぁ、いいけどさぁ。ねこもそれでいいか?」

 

 

案内は願ったり叶ったりだ。いざという時の盾ともなるし、自分はこくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──さて、何買うんだ?」

 

【ねこはご近所の奥様方からのご要望お土産メモの通りを買います。メモに書いてあるのが売ってそうな井戸はありましたですか? ありえません。ねこはみています】

 

 

活気のある街へと出てきた自分は、問うてきたカズマにメモを見せてみた。

 

 

内容は、

・トイレットペーパー ・石鹸  ・洗剤 

・入浴剤  ・それと便座カバー

 

 

これを見て、カズマが一言。

 

 

「ただの主婦のお使いリストじゃねぇか!!」

 

 

確かにカズマの気持ちも分かる。お饅頭とか欲しくないのか聞いてみたが、アクシズ教の街で作られた食べ物ってなんか怖いらしい。

とても納得できる答えだった。

 

 

それを伝えると、カズマも「確かに」と頷く。

 

 

そして、石鹸や洗剤なら売っている所を見たらしいので、そこを目指してフラフラと歩く事になった。

途中でアクシズ教の入信書を破いたり、踏んだり、破り捨てたり、顔面に叩き付けたり……まぁ色々ありながらもお土産を買って行く。

 

 

「なんなんだよコイツら本当…!! 歌舞伎町のキャッチでもここまでしつこくねぇぞ、行った事ねぇけど!」

 

【本当ですね、逃げたら回り込まれるタイプの魔物の集団ですよ。ねこはねこです】

 

「お、ねこもド◯クエやってたのか?! 一番好きなシリーズとかあるか? 俺はやっぱ天空の花嫁。俺はフローラ選んだんだけど」

 

【ねこはビアンカです。よろしいならば戦争ですね】

 

「いや、俺幼馴染にトラウマがあってな?!」

 

 

まぁ、なんやかんやでわいわい会話しながら、過ぎ去りし時の天空ぱふぱふに花を咲かせていれば、何やら歓楽街のど真ん中に人だかりができている。

 

 

「何だあれ? イベントでもやってんのか?」

 

【死刑台でねこゴム人間の首切りショーがあるのでは】

 

「死刑台ってお前なぁ……」

 

 

興味を引かれて、そちらの方へと二人揃って向かっていけば、そこには見覚えしか無い青と黄色と赤と紫の四色が……

 

 

人だかりの中心はアクアで、木箱の上に乗って拡声器を持っている。その隣に真っ赤な顔で恥ずかしそうにしているダクネス。そのダクネスにおぶられて死んだふりをしているめぐみん。ウィズさんはオロオロと青白い顔のまま隅で立ちすくんでいた。

 

 

やっぱりここは死刑台であっていたのかもしれない。なんだ、この今からとんでも無い事が起こりますという自己主張の強さは……!! というか、何をするつもりなんだ。

 

 

そんな疑問に応えるように、アクアが大声で拡声器を通して演説を始めた。

 

 

「我が親愛なるアクシズ教徒よ! この街では現在、魔王軍による破壊活動が行われています!

何が行われているかというと、この街の温泉に毒が混ぜられています! 既に多くの温泉で破壊工作が行われていた事を私が片っ端から温泉に入って確認しました! そして、確認後に浄化をしたのですが、まだ安心はできません。なので、この事件が解決するまでは温泉に入らないで欲しいのです!!

 

これは、この街の観光資源を使えなくし、アクシズ教団の収入源を潰すための魔王軍の工作であり、決して私が温泉に入らず皆だけズルいと、嫌がらせで言っている訳では…」

 

 

長ったらしい演説の途中だった。

どこかの温泉の店主らしき人々が次々に「うちの温泉になにしやがった!」と怒鳴り込んできたのだ。

 

 

「おい皆、ソイツを捕まえてくれ! ソイツは街中の温泉をお湯に変えるっていうタチの悪い嫌がらせをする女だ!」

 

「ああ、アクシズ教団の本拠地である温泉街を破綻するために派遣された戦闘員……じゃなくて工作員。つまり魔王軍の手先かもしれねぇ!」

 

 

なんかとてつもない展開になってきてしまった。駄女神はどうやら魔王軍の手先へと堕ちてしまったみたいだ。善意でやってこれとは、とんだトラブルメーカーである。

 

 

「おい、ねこ! アクアに見付からない内にここから離れるぞ! 他人のフリだ他人のフリ!!」

 

【ウィ、ウィズさんがあのままじゃ…アクアの連れと誤認されてしまうのですねこはいけません!!】

 

「言ってる場合か! このままだとアクアがもっとやらかして俺らも巻き込まれる可能性が…!!」

 

 

綱引きのような状態だ。手を引っ張られ、しかし自分はウィズさんを助けようと反対側に行こうと抵抗する。

ダクネスとウィズさんが小さな声でボソボソと「ア、アクシズ教を……お願…しま…」とアクアの打ち合わせとやら通りに言っている所を見ると、共感性羞恥で体全体が、かゆ…

 

 

せ、せめてウィズさんだけ…! いや、ウィズだけを助けるんだ!!

 

 

まだ、アクアが最大のやらかしをしていない今が助けるチャンス──!!

 

 

そう思ったのも束の間だった。そう、思った時点で既に自分は負けていた。

 

 

「ああもう! いいわ、ならこの私の正体を明かします! お集まりの、敬愛なるアクシズ教徒よ、私の名はアクア! 貴方達の崇める存在

 

──水の女神アクアよ!」

 

 

 

途端に、辺り一帯がシンと静まり返る。

これはやばい、とカズマの手を振り切り全速力でウィズさんの元へと走ってひったくりのようにウィズさんの腕に手を回しカズマの元へと戻って来る。

 

 

「え、え!! ね、ねこさんにカズマさん!?」

 

【いいから! いきますですよ! ねこはねこですがねこなのです】

 

 

隅にいるウィズさんは、特にヘイトの対象にならなかったのだろう。突如として響き渡る罵声はアクアへと集中攻撃される。

 

 

「ふざけんなこの不届き者!」

 

「青い髪と瞳だからって、アクア様を騙るなんて罰が当たるわよ! 具体的に言うと階段から落ちて持ってた傘が喉を突き刺すくらいの天罰よ!」

 

「簀巻きだ! 簀巻きにして湖に放り込んじまえ! 水の女神のアクア様だってのなら、湖に放り込まれても問題ないだろうよ!」

 

 

 

次々と飛び交う罵声と石つぶて。もうアクアが何をどう弁解しても無駄で、言葉のキャッチボールすらできない。これはもう、ホームランの代わりに狙う目標がアクアとダクネスのみの、言葉のバッティングセンターだ。

 

 

「わああああぁ!! やめてぇ! 本当だから! 私、本当に神様ですからぁ!!」

 

「ああっ! い、石を投げるのは……っ! や、やめ…っ!! すまんアクア! めぐみんを庇うのに精一杯なんだ、羨ましい限りだが耐えてくれ!!」

 

「うわぁああああん!! 私、本当に女神なのに、女神なのにいいぃぃ!!! かじゅまさん! 助けてかじゅまさあぁぁん!!」

 

 

石を投げつけられるアクアとダクネスを置いて、カズマとウィズさんと共に自分は走って逃げた。

 

 

──なんなんだ、穏やかな旅は本当にどこ行ったんだ?!

 

 

 

 

 

 

 





聖杯に足が生えましたね。サムレムの聖杯は手ですね。次は顔が生えると予想します。

よりみち3回目が発売しててびっくりしました。早速買いましたよ、うへへへ()


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ねこです。トラブルは懲り懲りです。


お久しぶりです。
バサトリア付近から一生爆死し続けているねこです。キャストリアに250連ほど掻き集めた石を使ったのですが、ねこのデアには来ませんでした……。ねこはかなしい
プトレお爺ちゃんは絶対に当ててみせる…!!

どけっ!! ねこはお爺ちゃんの孫だぞっ!!!!




 

 

 

 

あれから、宿に戻ってきて泣き喚くアクアを慰めたり宥めたり……そんなこんなで、パーティーメンバーにはちょっぴり甘いカズマが『戦闘になるようだったら冒険者ギルドに任せる』という条件で、いつもの"しょうがねぇな"を発揮した。

 

 

何故、いつものだと知っているのかは女性陣は──つまりカズマ以外──大部屋で泊まっているのだが、その中で修学旅行気分だかなんだかアクアが提案した夜更かしをしていたのだ。(勿論、まだ平和(?)な夜にである)

そこで色々知ったのだが、カズマはクズマやらカスマやら言われている割に、意外とお人よしであるようだ。

 

 

さて、話が脱線したが今の時間は朝。

ウィズさんは連絡係として宿に残るそうなので、それならばと自分も残らせてもらった。

 

 

カズマ達の見送りをした後は、カズマ達の連絡か帰りを待つだけなので暇である。

そんな訳で、旅館に備え付けてあったトランプでウィズさんと遊びながらダラダラと雑談をしている現在だ。

 

 

「カズマさん達、大丈夫でしょうか……。昨日あんな事が起こったのに街に出るなんて心配です。……あ、絵柄揃いました。次はねこさんの番ですよ」

 

 

心の底から心配しているのだろう、何処となく気分が落ち込んでいるウィズさんの手札から一枚カードを引き、同じ絵柄を揃えると山札に捨てる。

そんなウィズさんのために、自分は片手を動かした。

 

 

【アクア一人ねこなら井戸も角、カズマ達もいるのです。大丈夫でしょう】

 

 

アクセルでは関わるとロクなことにならないか大当たりになるかの博打パーティーと言われているパーティーだ。とことん落ちた今なら、後は這い上がるだけだろう。そんな言葉も付け足して、カードを引くように促す。

 

 

ウィズさんは自分の言葉に「そうですね、『苦あれば楽あり』です」と微笑んだ──かと思えば、「やりました!!」と声を弾ませる。

 

 

「また揃いました、上がりです! ふふ、先程言った通りに『苦あれば楽あり』ですね、漸くねこさんに勝てました! ここからダイレクトアタックを──!!」

 

 

手札がなくなったウィズさんは、余程嬉しいのか胸元でガッツポーズをしている。そんな様子に思わず此方も笑みが溢れ、その表情のまま、ウィズさんが最後に捨てた二枚のカードの隅を指さす。

 

 

【残念ながら、まだまだウィズさんは苦のようですねこです。『邪神エリスマーク』が付いてるカードでの終わりなので、ウィズさんの負けです。対戦ありでした。ここはねこがいるましたよ?】

 

「あ、ああああぁぁあああ!!! わ、忘れてましたそのルール…!!」

 

 

崩れ落ちるウィズさんを見てくすくす笑いながら、きちんとトドメを刺して勝負を終えた後に、自分はカードの片付けに入る。

 

 

【もうここにあるカードゲームは網羅しまねこしたですし、のんびり雑談でもしましょうか。でした。爆裂散歩に出かけた話でもしてくださいです】

 

「そ、そうですね……。ねこさんが強すぎて勝てないですし…一つ前のゲームは最後の駒爆破がなければ勝てたのですが…。

嗚呼、いえ、爆裂散歩の話ですね? めぐみんさんの爆裂魔法はやはり間近で見ると凄かったです! もうすぐ私なんかを超えてしまいますね! あ、後は街中で何処かで見た事があるような人を見かけまして……うーん、誰だったでしょうか?」

 

 

ウィズさんは、ううんと唸り、首を傾げる。

思い出せないという事は、ウィズさんの昔の知り合いという事だろうか? つまりは、ウィズさんの冒険者時代か魔王軍での知り合いという事になるが……

 

 

いや、冒険者時代の事は詳しくは知らないが強く印象に残っている気がする。つまり、必然的に魔王軍の……嗚呼、いや、辞めておこう。魔王軍の一人が折角この街で観光しているのだ、水を差すつもりはない。今回の自分達の事件には関係ないだろう、アクアは魔王軍の仕業うんぬんと煩いし黙っておこう。

 

 

「うーん……、こう、ここまで出かかっているのですが…、えーっと…なんでしたっけ。ポイズンなんとかの……ハ…ううん、あと少しで……」

 

 

ポイズン……毒…、アクアの浄化に時間がかかるほど汚染された温泉。魔王軍……、

 

 

自分はすくっと立ち上がり、ウィズさんの肩に手を置いて手を動かす。

 

 

【きいてますか? ねこですよ? 昼風呂と行きましょうです! マッサージもついてくるとかなんとか、なので、ええ是非行きましょう!!】

 

「わぁ、素敵ですね! 行きましょうかねこさん!」

 

 

これ以上はいけないと察した自分は、先程の脳内で揃ったピースを忘れるため……そして、ウィズさんにこれ以上思い出させないために温泉に向かうことにした。

 

 

嗚呼、神様仏様エリス様……これ以上、頼むから本当に何も起きないでくれ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──お、お帰りなさい……、どうでしたか…?」

 

「ど、どうしたんだウィズ、それにねこも……二人ともぐったりしてないか?」

 

【いえ、気にしないでください。ただ、マッサージと宗教ねこ勧誘が同時に始まり……ねこはこわいです、ねことわかいせよ…】

 

 

石鹸洗剤石鹸洗剤……、飲めない、あれは絶対飲めない。飲んでる奴は頭がおかしいんだ、アクシズ教はきっとアレを飲んでるから頭がおかしくて、いや、おかしいからアレを飲む奇行を……嗚呼、駄目だ! これ以上考えては頭がねこよりも恐ろしいもので汚染されてしまう!

 

 

ぶるぶると、温泉で温まったはずなのに震える身体を抱きしめ、カズマからの報告を聞く。

 

 

どうやら、魔王軍の男の手配書をギルドに渡し、各温泉に配って注意を促したらしい。

魔王軍と聞いて先程まで石鹸洗剤のお陰(せい)で忘れていた、温泉に入る前の記憶が戻りそうになったが慌てて記憶に蓋をする。これは思い出してはいけない、厄介ごとなどごめんである。

 

 

「何だかんだで色々働いたな。にしても、魔王軍の企みを事前に食い止められて良かったじゃないか。……おいダクネス。お嬢様なお前は世間知らずだから知らないだろうが、庶民のしきたりでは、一緒に旅行に来た男女は、一度混浴に入る習わしがあるんだよ。明日には帰るんだし、一緒に入ってノルマを達成させるぞ」

 

「?! そ、そんなしきたり聞いた事がないぞ?! ウィズ、ウィズはどうだ?!」

 

「わ、私も聞いた事がないのですが……」

 

「だから、庶民のしきたりだって言ってるだろうに。貴族のダクネスが知らないのは当たり前で、ウィズは働き詰めだし知らなかったんだろう。どうせだし、みんなで仲良く習わしにしたが……ん? なんだ、ねこ…………?!」

 

 

ペラペラと舌がよく回るカズマの服の裾を後ろから引っ張る。

そして、ニコニコ笑顔を浮かべて胸元を鷲掴んで距離を縮めた後に顔の目の前に日本語で文字を書いた。笑顔を絶やさず、ニコニコと。

 

 

 

【それなら、ねこと二人で入りますか? ええ、二人で入りましょう。同郷のよしみです、一気に苦しませて苦死ぬように、気持ちの良い温泉で最期を看取ってあげますです。ねこはみました】

 

 

「マジですみませんでした調子に乗りましたどうか許してください」

 

 

瞬間、自分でなくては見逃してしまう程のスピードで見事な土下座を決めたカズマ。どうせなら焼き土下座でもさせたいが、今はそんな準備も出来ないので辞めておいてやろう。

 

 

「? お、おい、急にどうしたんだ……。その、庶民の習わしとやらは本当にあるのか? やらなくては駄目なのか?」

 

「ありませんよそんなもん。ダクネスは馬鹿ですか?」

 

「ぶっ殺してやる!!」

 

 

めぐみんの発言に、秒で土下座をしているカズマに殴りかかるダクネスを眺めていれば、自分達のいる部屋の扉が激しくノックされる。

 

 

アクアが「どちら様ー?」と呑気に扉を開ければ、服装から見て冒険者ギルドの職員らしき人が荒い息をして立っていた。額の汗の量から、ここまで走ってきたのだろう。

 

 

一体どうしたのだろうか、嫌な予感に自分も冷や汗を額に滲ませていれば、ギルド職員は焦った顔で口を開いた。

 

 

 

 

 

「大変です! 温泉が……! 街中の温泉から、次々と汚染された湯が湧き出して……!!」

 

 

 

 

 

もうトラブルメーカー(コイツら)とは一生一緒に旅なんかしない。

 

 

 

 

 

 





漸く、そろそろアルカンレティア編が終わりますね。

ねこの話はウィズさんが登場するシーン以外には基本的に書くきがないので、次は結構原作が飛ばされるかもです。

SCP×このすばは一生待ってますよ


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ねこです。ハンスなのですよ。



お久しぶりです。ねこです。

Fate extraを3周し、CCCに最近突入しました。
現在のFGOではサムレム未履修ですが宮本伊織に一目惚れしたので120にしてますです。




 

 

 

「源泉が怪しいと思うの」

 

 

街中の温泉が汚染された翌朝。昨日は一日中街の温泉を浄化して回っていたアクアがそう言った。

 

 

汚染されたお湯が湧き出したのは一時的な事で、すぐに収まったそうだが……これで終わりではないだろう。そう、トラブルメーカーのコイツらがいるのだ、もうひと騒動起こるに決まっている。

 

 

アクアはこの件を何としてでも解決しようと意気込んでいるし、ウィズさんもそれを手伝う気満々だ。

自分としては、あまり関わりたく無いがウィズさんが行くならば自分も行くと決めている。

 

 

そんな訳で、カズマに「ここ最近アクアよりバカに見えるぞ」と言われ、この旅の中でも影が薄いダクネスはやたらとテンションと声の大きさを上げ、早く行くぞと自分たちを急かしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山道をひたすらに歩く。

 

 

山に入る前に一悶着(ダクネスが貴族だと判明し、その権力にて無事に山へ入れた)

山に入ってから初心者殺しの死体とご対面(何やら溶かされていた)

 

 

まぁ、そんなイベントもこなしつつ、ひたすらに山道を歩いている。

登山に適した格好ではないし随分と歩いたが、自分はステータスとやらがカエルでレベル上げしたお陰でそれほど疲れてはいない。多分、高い方だろう、ねこ語に変換されて一体いくつなのかは分からないが。

 

 

そんな中、突如として道案内の印だった源泉が流れているパイプの一本が途切れている場所に出くわした。

 

 

源泉の色は真っ黒である。明らかにおかしい、まるでこれは──

 

 

「?! 毒なんですけど! これ、思いっきり毒なんですけどっ! あち、あつっ! 熱いぃ!! わあああぁあ、火傷! 火傷する!」

 

「このバカ、源泉に手を突っ込むヤツがあるか! とっとと手を抜け!」

 

「だ、だってだって! 熱い熱い熱ーい!!」

 

【狂わせて熱いと感じる感覚をねこが消し去りましょうか? ねこはここにもいます】

 

「狂気の発想やめろっ、あーもう『フリーズ』!」

 

 

……やっぱり毒かぁ!

源泉に手を突っ込んだバカに一応言葉をかけた(書いた)後に天を仰ぐ。

 

 

もう確定だ、確定演出だ。魔王軍の奴がこの先にいるのだろう、そしてこの街に恨みを持っていて、今まさにそれを晴らそうと毒を送り込んでいるに違いない。

 

 

正直、理解も納得もできる動機だ。自分だって被害者であるし、自分だけがこの事を知っていたら心の中で応援してフルシカトする。

 

 

けれど──

 

 

前を見ると、カズマの魔力では冷却しきれないのだろう、ウィズさんがフリーズを唱え、アクアの浄化を手伝っている。

 

 

自分の信者のために行動し、涙目で嗚咽をしながらも必死に浄化を続けるアクア。

そんなの、見た事もないし、想像もしなかった。

 

 

嗚呼、駄目神はこんな一面もあるんだな。そう思っただけだが。

 

 

けれど、だ。

ウィズさんが行くならば行く。ここで無理やりウィズさんを連れて帰る事もできるが、もしも、その後でこの温泉騒ぎが解決出来なかったならば……いつものバカみたいなテンションのバカなアクアはどうなるのだろうか。

 

 

案外ケロッと立ち直るかもしれないが、ウィズさんの笑顔は確実に減ってしまうだろう。

 

 

自分は、それが嫌だ。

 

 

だから、あくまでウィズさんを悲しませないためにこのまま進むのだ。そんな訳で魔王軍の奴は手っ取り早くお縄に付いてもらう。

 

 

【浄化は完了しましたか? くるしんでますか? では、先に進みましょうです。はい、ねこです、この分ではまだ汚染パイプがありそうなので、途中ねこ途中で浄化を挟みながら】

 

「……ねこ、貴方意外とやる気あったのね! そうよ、私の可愛い信者のために先に進みましょう!」

 

【ました。いや、登山でかいた汗を流す温泉がないと困るだけです井戸小屋にはだれもいません】

 

 

アクシズ教への怨恨は、大事な人の笑顔のためという、私利私欲に負けてもらおうじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ? やっぱりアイツじゃないか」

 

 

山の八合目辺り。息を切らしながらぶつぶつと「もう帰ろうかな…」なんて独り言を漏らしていたカズマが不意に立ち止まる。

 

 

カズマが指差す方向には、例の手配書の男がいた。夜目が効くのではっきり見える。浅黒い肌に短髪の、筋肉質な男だ。

ここの温泉の管理人は金髪の老人らしいが、全く違う容姿なので管理人ではないだろう。

 

 

「しかし、あんな所で何をしているのだ。あそこから源泉が湧き出しているのか?」

 

「でしょうね。見てください、あそこでパイプが途切れています」

 

【………これ、ねこですが現行犯では?】

 

 

自分の言葉をきっかけに、慌てて皆が走り出す。

 

 

勿論向こうも気付く訳で……男は心底不思議そうに「ここは温泉の管理人以外立ち入り禁止ですよ?」とほざく。

 

 

そんな男にアクアが、

 

 

「ちょっとあんた何しらばっくれてんの?! よくもこの街の温泉を台無しにしてくれたわね! 成敗してあげるから覚悟なさい!」

 

 

と、指を突きつけ叫ぶが、男は“ちょっと何言ってるのか分かんない”ととぼけるばかり。

 

 

「とぼけても無駄ですよ? あなたはここで何をしているのですか? 温泉に毒を混ぜるのがまどろっこしくなり、源泉に直接毒を混ぜに来たのでしょう? 大方、昨日の汚染騒ぎは、ここの源泉と街の温泉が繋がっているか、その確認だったのでは?」

 

「ここに来るまでの源泉が、既に汚染させられていた。めぐみんの言う通り、そこの源泉で何をしていたのか説明してもらおうか。私はダスティネス・フォード・ララティーナ。貴族特権により、あなたには詰め所までの同行を願う」

 

「はぁ……だから、何を言ってるのかが分かりませんね。何なら、今ここで私の持ち物を調べてもらってもいいですよ。毒薬なんて絶対に出てきません……から……?」

 

 

そこでめぐみんとダクネスが詰め寄っても男は平然と首を傾げ──おや、急に声が尻すぼんだ。

 

 

男の視線を辿れば「何処かで見覚えが……」と、うんうん唸るウィズさん。それを見て、バッと背を向け顔を隠す男。

……うむ、成程。自分は頷き、ウィズさんに向けて手を動かした。

 

 

「と、とにかく、私もこの騒ぎの調査に来ただけなので、その……」

 

【ウィズさん井戸さん、ほら、前に言ってたアレじゃないですか?ねこなのですね? 魔王軍のポイズンでハから始まるらしいあの…】

 

「ちょっ?!」

 

「ああーっ! ハンスさん、ハンスさんです!! そうそう、ハンスさんでした!」

 

 

ゴニョゴニョと言い訳を並べて逃げようとした男を指差し、大声でウィズさんが男の名前──ハンスの名前を連呼する。

 

 

「ハ、ハンスとは誰の事ですか? 私は、この街の管理人……」

 

「ハンスさん! お久しぶりです、私ですよ、ウィズです! リッチーのウィズですよ!」

 

「リ、リッチーとはとびきり危険なアンデットモンスターのリッチーですか? ちょっと何を言ってるのかが分かりませんね。……と、とにかく。私は毒など持ち合わせておりませんので、何の証拠も……」

 

「あっ、毒と言えば! 確かハンスさんは、デッドリーポイズンスライムの変異種でしたね!」

 

「…………」

 

 

ハンスの言い訳を悉く潰していくウィズさん。流石だ、これで無自覚というのが恐ろしい。

 

 

そんなウィズさんは冷や汗ダラダラなハンスの隣に駆け寄り、肩を掴んでユサユサ揺すりながら「なんでさっきから無視するんですか!」と、訴えている。

 

 

「私ですよ、ウィズですってば! そう言えば、ハンスさんは擬態ができましたね、温泉の管理人のおじいさんに擬態してここまで来たんですか? ハンスさん、ねぇハンスさんってば! 無視しないでくださいー!! ひょっとして本当に忘れたんですか? ほら、昔魔王軍さんのお城で」

 

「あああああああーっ! っと、急ぎの用があるんですよ! 実はこの源泉を調べていたらですね、汚染の原因が分かったので! 今から急ぎ、街へと戻りますので、それでは……。……そこを通しては頂けませんか?」

 

 

逃げようとするハンスの前に、自分を含めた五人が立ち塞がり、それぞれ口を開く。

 

 

「どこへ行こうというのだハンス」

 

「ここは通さないわよハンス!」

 

「そんな言い訳が通じると思うのですがハンス」

 

「悪あがきは止めて、そろそろ正体を現せよハンス」

 

【ウィズさん涙目じゃねぇかいい加減認めろよハンス。きいてますか? お前ぶっ狂わせて殺すぞ。ました。早くハンスだって認めてウィズさんに土下座しろハンス。ほら、ハンス早くしろとねこがいっていましたいつかのはなしです】

 

 

 

「ハンスハンスと俺の名を気安く呼ぶなクソ共がぁあああああ!!!!」

 

 

 

なんと、ハンスは逆ギレしてしまった!

 

取り敢えず、はよウィズさんに土下座しやがれマジでぶっ狂わせて殺してやるぞ。

 

 

 

 





次でアルカンレティアは最後ですね。
それが終われば今のところアンケートで一位(ねこですよろしおねがいします)を除いたよろしくおねがいしませんの番外編ですね。


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