ダンまち×FGO ~ 許されよ 我らが罪を~ (はしゅまる)
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プロローグ
~始まり~




迷宮都市オラリオ ──ダンジョンと呼ばれる壮大な地下迷宮を保有する巨大都市

少年は出会いを求めこの地にやってきた
少女は使命を抱きこの地にやってきた

このふたりが出会う時 運命は切り開かれたあとは進むだけだ


君たちの辿る道行きに花の祝福があらんことを...




むかし むかし これ以上はないほどむかしのことです

 

 

 

まだ神が地上に降り立つ前の話

 

まだモンスターという怪物が地上にはびこる前のお話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おしまいで海になった。はじまりに海があった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ながれぼしがすぎたあと、大地はみんな河になった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ろくにんの████がそとにでると、せかいは海になっていました。

 

 

土もなければ岩もない。魚もいないし鳥もいない。

 

 

もちろん、ろくにんがだいすきだった山も森も、もうありません。

 

 

ろくにんはとほうにくれて、もうかえろうかとかなしみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『かわいそうなことを』

 

『こんなせかいになってしまって』

 

そんなとき、海のなかから おおきなかげがたちあがりました。

 

ふわふわ、ふさふさの大きなからだ。

 

その肩には、いなくなったはずの動物ひとり。

 

肩にすわった動物は、このふさふさを██████ とよんでいました。

 

 

 

██████ と 動物 は、ろくにん と ともだちになりました。

 

なにもない海はつまらなくて、すみづらくて、

たいへんなものでしたが、

 

██████ が 波をせきとめてくれるので

ろくにんはらくちんです。

 

██████ は ████ なので、

ささげものがひつようだと 動物はいいました。

 

ろくにんは ██████ に よろこび をささげました。

 

 

ろくにんは ██████ に おねがい をささげました。

 

“波のない海もいいけれど”

 

“ぼくたちやっぱり 大地が恋しい!”

 

 

 

ねがい は かなえられました。

 

おまつりは おわりました。

 

██████は つかれて ねむりました。

 

 

 

 

 

ろくにんは ██████ を たいせつにまつりました。

 

のこったものも たいせつに つかいました。

 

こうして世界はできたのです。

 

はじまりのろくにん に すくいあれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは人類史最大の英雄譚

 

数多の英雄達が世界を救うそんなありふれた話....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数多の階層に分かれる無限の迷宮。凶悪なモンスターが坩堝。

 

富や名声を求め彼女と一緒に冒険者の仲間入り ギルドに名前を登録をしていざ出陣。

 

手に持つ剣1本でのし上がり紡ぐは輝かしい物語。怪物を倒し美少女を助け、残るはクールに佇むかっこいい自分

ほんのり染まる頬、自分の姿を瞳に映す潤んだ綺麗な瞳、芽吹く淡い恋心。

 

時には酒場で可愛い店員とその日の冒険を語り仲を深めてみたり。

 

時には野蛮な同業者からエルフの少女の身を守ってみたり。

 

時には伸び悩むアマゾネスの戦士を慰め手を貸し、パーティーを組んでみたり。

 

時には他の女の子との仲睦まじい様を目撃され、嫉妬されてみたり

 

 

時には時には時には...

 

英雄の冒険譚に憧れたものはみな考えるんじゃないだろうか?

 

可愛い女の子と仲良くしたい 異種族の女性と交流してみたい

少し邪で、青臭い考えを持つのはやっぱり若い雄なりの性なのだろう。

 

 

ダンジョンに出会いを...おほん!!....訂正....ハーレム求めるのは間違っているだろうか

 

 

 

 

結論

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴヴォオオオオオオオオオオオッ!!!!」

 

「ほぁァァあああああああああああああぁぁぁ!!!???」

「わぁぁああああああああああああああぁぁぁ!!!???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕が間違っていた(断言)。

 




イタッ...何をするんだいキャスパリーグいきなり私の顔を蹴るなんて

んん?何だって「なんで本文があらすじみたいなんだよ」って...そこはまぁ...ほら...彼 まだ原作を持っていないんだ、だからどう書いていいかわからないんじゃないかな(メタ発言)

やめなさい彼のメンタルはトウフ?より柔らかいらしいからそんな睨まない睨まない

わかった...何とかすればいいんだろう この超絶イケメンのお兄さんに任せなさい

ふぅ...「王の話をすると『フォウ!!』ブハァッ!!」


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第一章 是は、僕達の物語だ
1話


やぁはじめましてみんな大好き超絶イケメンのお兄さんだよ。

え?もう会ってるだろって? そこは軽くながしておくれ

さぁそんなことより彼らの冒険だ

辛く険しい道のりのその最初の冒険だ

どうか彼らに星の導きがあらんことを


走る

 

 

 

 

 

 

 

走る

 

 

 

 

 

 

 

後ろから迫る脅威から逃げるため僕達は暗い『ダンジョン』の中を全力で走っている。

 

 

牛頭人体のモンスター、『ミノタウロス』

 

 

Lv.1の僕達の攻撃では一切ダメージを与えられない怪物

 

詰んだ。間違いなく僕たちの冒険は始まった瞬間に詰んでしまった

 

「なんでッ!!...ミノタウロスがこんな上層にいるんですか!?」

 

長い杖を持ちながら叫ぶ彼女。

 

全くもって同意見だ。

 

あぁ戻りたい。いい歳をして瞳をキラキラさせて、ギルドの冒険者登録書にサインした僕自身を殴るために、そして自分の浅はかな考えで巻き添えをくらってしまった彼女に

申し訳が立たない あの時僕は君に救われたのに君を死なせてしまうかもしれないことに...

 

 

『ヴゥムゥンッ!!』

 

 

「でぇっ!?」「うわっ!?」

 

 

ミノタウロスの蹄。背後からの一撃は誰にも当たることはなかったけれど、土の地面を砕き、僕達の足場も巻き込んだ。

 

足をとられ、ごろごろとダンジョンの床を転がる。

 

 

『フゥー、フゥーッ...!!』

 

 

怪物が僕達の前に立っている

 

当たりを見渡すとここは正方形の空間 1本だけの通路は怪物の後ろのみ....死んだ....絶体絶命とはこのことを言うのだろう

 

カチカチと歯を鳴らし 目尻に溜まる涙。

 

ミノタウロスの荒く臭い鼻息が僕達の肌を殴る。

 

 

「....ベル...」

 

 

僕を呼ぶ声、この絶望的な状況で足を震わせながら杖の先端をミノタウロスに向けて僕を庇うように立つ彼女

 

 

「逃げてくださいベル...私がミノタウロスの注意を引きます。その間に全力で走ってください。きっと数秒も稼げないでしょうから...」

 

 

あぁ...かっこ悪い...本来守るべき女の子に庇われている、それだけにとどまらず腰を抜かしてしまい動けない僕....

 

 

「ベルッ...!!早く立って!!」

 

 

あぁ...ごめんなさい...君の勇断を無駄にしてしまった...

 

僕の目には蹄を彼女に振りかぶるモンスターの姿を映す。

 

次の瞬間、その怪物の胴体に一線が走った。

 

 

「「えっ?」」

 

『ヴぉ?』

 

 

僕達とミノタウロスの間抜けな声。

 

走り抜けた線は胴だけにとどまらず、厚い胸部、大木の幹はありそうな上腕、大腿部、下肢、肩、そして首と連続して刻み込まれる。

 

銀の光が最後だけに見えた。

 

僕達では傷一つ付けられなかったモンスターがただの肉塊に成り下がる。

 

 

『ヴモォ!?、ヴゥモオオオオォォォォォォ!!!???』

 

 

断末魔が響く。

 

刻まれた線に沿ってミノタウロスが崩れ落ちていく、赤黒

い血しぶきをシャワーのように僕達に降り注ぐ、僕達は呆然と時を止める。

 

 

「........大丈夫ですか?」

 

 

怪物だったものの後ろから現れる金髪の美少女。

 

蒼色の軽装に包まれた細身の体。

 

手に持つサーベル。地に向けられた剣の先端からは血が滴っている。

 

 

(....ぁ)

 

 

Lv.1の駆け出しの僕でも目の前の人物が誰だかわかってしまった。

 

【ロキ・ファミリア】に所属する第一級冒険者。

 

ヒューマン、いや異種族間の女性の中でも最強と謳われるLv,5。

 

【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

 

「あの...大丈夫...ですか?」

 

 

全然大丈夫じゃない。

 

 

今にも何かに締め付けられ止まる寸前なのではと思うぐらい苦しい僕の心臓が、大丈夫なわけがない。

 

 

「...あ...えっと...はい...大丈夫です 助けてくださり、ありが「ありがとうございましたあああああああぁああぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」...えっ!?ちょっと!!ベル!?」

 

 

僕は何かを言っていた途中の彼女を横切りお礼をいいながら走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと...!ベル!!止まってください!!」

 

 

どれだけ走ったかわからないけれど、後ろから聞こえる抗議の声

 

その声で僕は正気を取り戻した。

 

 

「もう...やっと追いつきました...なんで助けて貰った人にお礼をちゃんと言わずに走って行っちゃうんですか!?」

 

 

全くもってその通りだ

 

 

「........ごめん......」

 

 

「私に謝っても仕方ないでしょう...」

 

 

全くもってその通りだ(2回目)

 

 

「今からお礼を言いに戻るもの危険ですし、ギルドに戻ってエイナさんに相談しましょうか」

 

 

「はい.....」

 

 

「......5層まで降りたこと...ちゃんと誤魔化さずに報告しますからね」

 

 

「............はぃ...」

 

 

「ここは2層辺りでしょうか?...ほら気を引き締め直して帰りましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん...帰ろう.....トネリコ...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕は君のとなりに立つ資格なんてもうない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




女の子に庇わられ 女の子に助けられ 今の君は第三者からみればとてもみっともなく映ることだろう。

君はまだただ夢見る子供さ そこから成長しどうか彼女を救っておくれ

君は主人公なんだから.....ね




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2話


やぁみんな 物知りお兄さんだよ

どうやらギルドについて説明する機会がなかったらしいから代わりに説明してみたよ。

と言ってもすごく簡単にだけどね

ん?なんだい本文で説明してんじゃねぇよだって...ふむ

私だって出番が欲しいのさ!わかってくr「フォッウ!!!」ダハァー!?




 

 

「お互いに真っ赤ですしシャワーを浴びてからギルドに行きましょう」

 

 

今僕達は、恐ろしい体験をしたダンジョンを抜け、地上に立っている。

 

照りつける太陽 周りからは奇怪を見るような目で真っ赤に染まってる僕たちを遠巻きから見ている。

 

まぁそれもそうだと思う 今の僕達は全身ミノタウロスの返り血で文字通り真っ赤になっている、この様でギルドに行けば色んな人に迷惑がかかるだろうから一度シャワーを浴びに行く

 

 

「覗かないでくださいね?」

 

 

「覗かないよ!!!」

 

 

彼女の言う冗談に割と強めに反応する

 

以前彼女にハーレムを作るのが男の浪漫なのだと語ってからたまにからかわれてしまう(ほんとにたまにだけど)

 

シャワーを浴び、ダンジョンに潜る前の白髪の姿に戻った僕

 

その隣で、濡れた金色の髪をタオルで拭きながら出てきたトネリコ... いつも思うけれどシャワーを浴びた後を見るとドキッしてしまう。

『今じゃ!!男を見せる時じゃ!! 』

何かを言っているお爺ちゃんが頭に浮かんだけど、頭を左右にぶんぶん振りその考えを霧散させる。

 

 

「ベル?」

 

 

どうやらこの一連の流れが彼女に見られたようだ恥ずかしい

 

 

「ううん、なんでもないよ!じゃあ...ギルドに...イコウカ...」

 

 

怒られるだろうなぁと肩を落とす。

 

 

「そんな落ち込まないでください...ベルを止めれなかった私にも責任はありますから一緒に怒られます」

 

 

そう言うトネリコに被せるように叫ぶ僕

 

 

「トネリコは悪くないよ...僕が君やエイナさんの話を真剣に聞かないで5層に行ったから....あんなことに....」

 

 

「それがわかっているなら私からは何も言いませんよ。むしろあそこにミノタウロスがいた事自体がイレギュラーですし...まぁ今生きてることが奇跡ですね」

 

 

「...ッ......」

 

 

彼女の言う通りだ 僕達は運が良かった、アイズ・ヴァレンシュタインさんが来なければ僕達は死んでいた。それが事実だ。でもそれに僕は君を...

 

 

「そろそろ行きましょう もう少ししたらほかの冒険者が戻ってきて魔石の換金にも時間がかかってしまいますよ」

 

 

「......うん」

 

 

そうして僕達はギルドに向かった。

 

 

 

[ギルド]

それはダンジョンを管理している組織の名前である。モンスターを倒した時に出る彼ら生命の源 魔石。それをギルド本部にて換金することによって、主に冒険者は生活資金を稼いでいる。

まぁ他にも色々あるのだが割愛しようbyマギマリ

 

 

「「こんにちは~」」

 

 

僕達は換金所に行く前に窓口受付嬢であり僕達のダンジョン攻略アドバイザーである、エイナさんのもとに向かう。

 

「...!?...こんにちは、ベル君にトネリコさん、 今日は随分と早いんだね」

 

ほんのり尖った耳に、セミロングのブラウンの髪、澄んだエメラルド色の瞳のギルドの制服を綺麗に着こなし、どこか親しみやすいと評判(僕もそう思う)の妙齢の彼女こそ

ハーフエルフのエイナ・チュールさんである。

今時は昼下がりぐらいなので 他に冒険者はほぼいなくてギルドが()いていたため目的の人物はすぐに見つかった。

 

 

「今日...ダンジョンで何かあったの?」

 

 

ギルド本部のロビーに設けられた小さな一室、そこに案内され 備品の椅子に僕達とエイナさんで向かい合わせに机を挟み座っている。いわゆる個室だ。

 

 

「実は...」

 

 

トネリコが今日のダンジョンで起きたことを細かく説明する。

 

エイナさんに「まだ3層まで!」と強く言われていたけどそれを守らず5層まで降りてしまったこと。

 

その結果 、足を踏み入れた瞬間ミノタウロスに遭遇して追いかけ回され、追い詰められたところを、アイズ・ヴァレンシュタインさんに救われたこと。

 

助けられた挙句、逃げるようにお礼の言葉を叫びながらその場を離れたこと。

 

耳を傾けてくれていたエイナさんの表情はだんだん険しくなっていく...

 

 

「━━もぉ、どうして私の言いつけを守ってくれなかったの!不用意に下層には行っちゃダメなの!冒険者は冒険しちゃいけないって口酸っぱく言ってるでしょう!?君達は冒険者になってまだ2週間なのよ!?トネリコさんもちゃんとベル君の手網を握ってねってお願いしましたよね!」

 

 

「ごめんなさい」「...............ごめんなさい」

 

 

ちなみに沈黙が長い方が僕だ...

『冒険者は冒険しちゃいけない』

エイナさんの口癖だ。矛盾しているように聞こえるけど、つまりは『常に保険をかけて安全第一に』という意味だ。

 

特に駆け出しの冒険者は肝に銘じておかなければいけないと。冒険者に成り立ての時期が1番命を落とすケースが多いらしい。

 

 

「エイナさん」

 

 

トネリコが静かに口を開き、今日一番の本題を聞く

 

 

「ミノタウロスのようなLv.2級モンスターが上層に現れることは有り得るんですか?」

 

 

エイナさんの纏う雰囲気が変わる ビシッと仕事をしている時の感じだ

 

 

「.....今までギルドへの報告にそのようなことはないかな、ダンジョンは何が起こるかわからない、イレギュラーで溢れてるから私個人として『有り得る』としか答えられないの...ダンジョンのことはほとんど謎のままだから.....」

 

 

「なるほど...ありがとうございます エイナさん」

 

 

お礼を言うトネリコ

 

 

「ううん、あと私の考えでなんだけどね...モンスターは理性じゃなくて本能で生きている。それにヴァレンシュタイン氏が5層にいたということは、ロキ・ファミリアの遠征組がミノタウロスと遭遇してしまい彼らに本能を刺激するほどの恐怖を感じたミノタウロスが上層に逃げてきた...とか............あとはミノタウロスが5層に産まれ落ちたっていう仮説が思いつくけどちょっと現実感がないかな、あまり力になれなくてごめんね」

 

 

すごい...この短時間でそんな考えが出るなんてさすがエイナさんだ

 

 

 

「この件に関しては、なにか分かったら教えるね」

 

 

 

「「はい」」

 

 

「少し話し込んじゃったね...換金はしていくでしょ?」

 

 

「そうですね...一応ミノタウロスに出くわすまではベルとモンスターを倒していたんで... 」

 

 

「じゃあ換金所まで行こっか。私も付いていくから」

 

 

そうして僕達は部屋を出て換金所に向かう。

 

本日の収穫は 、主にゴブリンやコボルトを中心に倒して手にした『魔石の欠片』。全て合わせて2000ヴァリスほど。

いつもより低いけどしょうがない...命があるだけマシなのだから。

 

 

「武器の整備や食費を考えると、アイテムの補充はできないですね...。」

 

 

今日の収入に頭を悩ませるトネリコ、僕達の家計簿は彼女がつけていると言ってもいいほど頼ってしまっている。

 

「ベル君ベル君」

 

肩を突然指でつつかれ振り返るとエイナさんが逡巡(しゅんじゅん)する素振りを見せながら、僕にしか聞こえないような声量で聞いてきた

 

 

「勘違いならいいんだけどね.....もし...なにか悩み事や相談事があるならいつでも頼って?本当は同じファミリアの人に頼った方がいいんだろうけど、きっと今の君の悩みはファミリアだからこそ話せないことなんだよね?」

 

 

バレてるみたいだ あまり顔に出ないように気をつけていたつもりだけど...

 

 

「.........ありがとうございます、でも大丈夫ですから」

 

 

何が大丈夫なんだろうか...今日はつくづく自分が嫌になる日だ

 

 

「...よし、換金も終わりましたし帰りましょうか」

 

 

ちょうどトネリコの脳内計算が終わったらしい

エイナさんもそれ以上聞いてくることはなかったので

用を済ました僕達はギルド本部の出口へと向かう

 

 

「今日はありがとうございました」

「ありがとうございました」

 

 

出口まで見送りに来てくれたエイナさんにお礼を言いギルドを後にする

 

 

「またね」

 

 

と少し心配そうな顔をしながら小さく手を振る彼女を横目に僕はトネリコの後ろについて行く

 

 

━━━━━━━━━━━━━━

sideエイナ

 

 

2つの背中が遠ざかる。

 

白髪の少年に金髪の少女、彼らがギルドで手続きをして冒険者になってからすでに2週間も経った。

 

白髪の少年とはそれより1週間前に出会っている。赤い瞳を盛大にキラキラさせながら冒険者になりに来ました!と言われたのだ。

 

彼は田舎から来たらしく、何も知らない様だった。

冒険者になるにはファミリアに入り神様に神の恩恵(ファルナ)を授けてもらわなければならないと説明して彼が入りたいと言った探索系のファミリアを複数紹介した。

 

それから1週間経ち、金髪の少女...トネリコさんと一緒に冒険者登録に来た。

 

どうやらどこに行っても門前払いをされて収入もなくついには資金が底をついてしまったところを、トネリコさんに助けてもらいそして彼らの神様と出会えたらしい。

 

それからはほとんど毎日彼らと顔を合わせた。ダンジョンでの知識を教えたり、その日のダンジョン攻略の出来事を聞くのが日課になっていた、彼らが無事に帰って来るだけで私はとても嬉しいのだ。

 

でも今日は違った。

 

いつもよりとても早い時間に来た彼ら、そしてあんなに目をキラキラと輝かせていつも報告をしてくれていたベル君の目が暗く淀んでいるように見えた。

 

何かあったのだろう

 

そう確信した私は彼らをロビーに設けられた個室へと案内し、いつも通りにそして一語一句聞き逃がさないようにと心し話を聞いた。

 

話を聞き終え、息を吸う...そして

 

怒鳴ってしまった。

 

しょうがないじゃない!あれだけ言ってたのに!冒険者は冒険をしちゃいけないって!

全く...トネリコさんは妙にベル君に甘いところがある。きっとベル君の勢いに押し負けて5層まで降りてしまったのだろう...

 

でも無事で本当に良かったと思う。

 

それから色々話したけれど、結局ベル君の様子が違う理由はわからなかった。

 

他の人に話すことで解決できることではないのかもしれない。その答えはベル君自身でしか出せないことなのかもしれない。

それでもいつかは誰かに話して欲しい、一人で抱え込まないで欲しい。君がダンジョンから無事に帰ってくるのを祈ることしかできないけれど、私は君の担当アドバイザーなんだから...頼って欲しい。

 




1話から話がほとんど進んでないって?

これから長くなる予定だからね

作者の頑張り次第さ


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誤字脱字見つけましたらどんどん報告ください
お願いしますm(_ _)m


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3話

いずれ出すキャラの設定や世界観設定など考えてたら投稿するのがかなり遅れました。





 

 

ギルドから出た僕達は雑談をしながらホームを目指す。

 

メインストリートを抜け、細い裏道を進み角を幾度も曲がる。

そしてその先にうらぶれた教会が見えたあれが僕たちの拠点(ホーム)だ。扉のない玄関口を潜り、教会の中へと入る。

 

 

「......ボロボロですね」

 

 

「.......そうだね」

 

 

中は外見と同じく半壊模様、廃墟と言われても反論できない有様だ。かろうじて原型を留めている祭壇の先にある小部屋へと向かい、部屋の中には本が収まっていない本棚が連なっている。1番奥の棚の裏に地下へと続く階段がある。

 

階段を下り、光が漏れているドアを開く。

 

 

「「ただいま帰りました!」」

 

 

声を張り上げて部屋へと入る。ソファーの上に寝転がりながら仰向けの姿勢で本を読んでいた彼女は、ばっと起きて立ち上がる。外見だけ見れば幼女……と少女の半ばという感じ。僕より身長は低くく、幼い顔に笑みを浮かべるその女の子は、漆黒の髪のツインテールと服の上からでもわかるくらい豊かに成熟している胸元を揺らし、トトトトと音を立てて僕達の目の前までやって来た。

 

 

「おっかえりー!今日はいつもより早かったね?」

 

 

「ちょっとダンジョンで危険な目に...」

 

 

「おいおい、大丈夫だったかい?どこか怪我は?」

 

 

小さい両手が忙しなくパタパタと僕達の体に触れて、怪我はないか確かめてくる。少しくすぐったい。

 

 

「大丈夫です。神様を路頭に迷わせることはしませんから」

 

 

「あっ、言ったなー?なら大船に乗ったつもりでいるから、覚悟しておいてくれよ?」

 

 

「なんか変な言い方ですね……」 

 

上から僕、神様、トネリコだ

3人して笑みを漏らし、部屋の奥に進む。部屋の中は正方形と長方形をくっつけた、「P」の字のような形。正方形の部分にあたる出入り口前で、置いてある二つのソファーに僕とトネリコ、そして神様はそれぞれ座る。

 

神様と呼んだ通りこの人は神様だ。()の女神──ヘスティア。天界から下界に降り立った。超越存在(デウスデア)なのだ。

 

 

「それじゃあ、今日の稼ぎはあまり見込めないのかな?」

 

 

「いつもより少ないですね。神ヘスティアの方は?」

 

 

ちなみに僕は神様、トネリコは神ヘスティアと呼んでいる。

 

 

「ふっふーん!、これを見るんだ! デデン!!」

 

 

神様の手には大量の「ジャガ丸くん」があった

 

 

「そ、それは!?」

 

 

「露店の売上げに貢献したということで、頂戴したんだ!夕飯はこれでパーティーだ! ふふっ、ベル君、トネリコくん、今夜は君達を寝かせないぜ?」

 

 

「神様すごい!」 

 

 

そんなスゴイ御方は、ヒューマンのお店で普通にアルバイトをしてしまっているわけだけど。 勿論、お金を稼いで明日を生き抜くためだ。

 

 

「...本当は売れ残りを貰ってきたんじゃないんですか?」

 

 

「ギクッ!!??」

 

 

トネリコが言い放った言葉は、神様に突き刺さる。

 

 

「神様...」

 

 

「うぐっ!?...そんな目で見ないでおくれよベル君!ちょっと見栄を張っただけじゃないか!」

 

 

プク~と聞こえてきそうになるぐらい頬を膨らませそっぽを向く神様、そんな彼女を揶揄った僕達は互いに顔を見合わせ...

 

 

「............ふふ」「............ぷぷ」

 

 

「............んふふ」

 

 

「「「あはははははははは!」」」

 

 

笑い声が部屋に響く。

これが僕の家族『 ヘスティア・ファミリア 』だ。

 

 

「よし!少し早いけど夕飯にしようか!」

 

 

パンっと手を叩き、ジャガ丸くんをお皿に並べる神様。

 

 

「ジャガ丸くんパーティーでも、流石にそれだけじゃ物足りないですよね?」

 

 

「うん、ベル君に任せるよ」

 

 

「はい!」 

 

 

にこっと笑う神様に背を向けてキッチンへ歩む。簡単な料理しかできないけど、ちなみにキッチンは僕とトネリコで交代制だ。そして今日の担当は僕なのだ。背中で神様達の視線を感じつつ、調理を始める。

 

━━━━━━━━

 

「それじゃあベル君、トネリコくん、今日もダンジョン攻略お疲れ様、カンパーイ!」

 

 

「「カンパーイ!」」

 

 

グラスを鳴らし、一気に水を喫する。そして夕飯に手をつけながら今日の出来事を話す。

 

 

「そういえば危険な目にあったと言っていたけど、何があったのか、聞いてもいいかい?」

 

 

「実は...」

 

 

神様に5層まで降りたこと、それからミノタウロスに追いかけ回され絶体絶命の時「ロキ・ファミリア」のアイズ・ヴァレンタインさんに助けてもらったことを話す。

 

ちなみに神様には『 嘘』が通じない。原理はわからないけど、なんでも嘘をついたら‪”‬‪わかる”‬らしい。すごいなぁ神様。

 

 

「そんなことがあったのかい…」

 

 

僕の話に、食事の手を止めて真剣に聞いてくれた神様。

 

 

「言いたいことはあるけれどまずは...」

 

 

そう言ってソファーから立ち上がり、

 

 

「よく帰ってきてくれたね。」

 

 

僕達を優しく抱きしめる。

 

 

「君達に死なれたらボクはかなりショックだよ。柄にもなく悲しんでしまう...いや絶対泣くね、それはもうすっごく」

 

 

僕達の頭を撫でながら言う神様。

 

その告げられた言葉に頰を染めて照れてしまう。

 

 

「ゆっくりでいいんだ...ゆっくり堅実に強くなっていけばいい」

 

 

「「はい」」

 

 

「じゃあこれでこの話は終わりだ」

 

 

神様が元の位置に戻り、食事の手を再開させる。

 

━━━━━━━━

 

「さてと...じゃあステイタスの更新をしようかベル君からでいいかい?」

 

 

「わかりました!」

 

 

「じゃあ私は隣で魔導具(・・・)を作ってますね」

 

 

夕飯を食べ終え、それぞれ行動する。

 

トネリコは部屋を出て隣の小部屋へと向かう。そこでは『 魔導具』を作ってるらしいんだけど、その魔導具がとてもすごいのだ。爆発するものや、煙を出すものなど色々とダンジョンで使えるものを作ってくれている。(作り方は教えてくれなかったけど)

 

 

「お~いベル君、準備できたからこっちに来ていつものように服を脱いで寝っ転がってくれるかい」

 

 

「は~い」 

 

 

神様に呼ばれ、部屋の奥にあるベッドへ向かい、インナーを脱ぐ。

上半身を包むものが一切無くなったところで、僕はちらと後ろを振り返った。

 

後ろの壁に取りつけられた姿見。そこに映るのは、老人のような白髪と少し色素の薄い肌を持つ僕の後ろ姿で、特筆すべきは背中にびっしりと刻まれた黒の文字群だ。 

 

これ全部、ヘスティア様が僕に刻み込んだもので、これこそが神様達の『恩恵』──『神の恩恵』。

 

 

「はいはい、寝た寝た」 

 

 

神様に促されるままベッドに体を沈める。 

 

うつ伏せでいると神様はぴょんっと飛び乗り、僕のお尻の辺りに座り込んだ。

 

 

「じゃあ始めるよ」

 

 

チャリという金属の音が鳴った。神様が針を取り出したのだ。

 

神様は自分の指先に針を刺し、滲み出るその血を、そっと僕の背へと滴り落とす。 

 

皮膚に落下した赤い滴は波紋を広げ、僕の背中へと染み込んでいく。

 

神様は血を落とした場所を中心に指でなぞり始め、左端からゆっくりと刻印を施していった。 

 

今、僕の背中に刻まれているのが【ステイタス】──『神の恩恵(ファルナ)』。 

 

神様達が扱う【神聖文字(ヒエログリフ)】を、神血(イコル)を媒介にして刻むことで対象の能力を引き上げる、神様達のみに許された力。【⠀経験値(エクセリア)】というものがある。

 

『モンスターを倒した』という軌跡を引き抜いて、成長の糧へと変化させる。 

 

なし遂げたことの質と量の値、それが【経験値】。 神様にはそれが見えて、更に料理することができるのだ。敵に打ち勝った偉業を称えて祝福する、っていう古代の仕来りに似ているのかもしれない。

 

背中の【神聖文字】を塗り替えては付け足して、レベルアップ、能力向上。 この力によって神様達は下界の者達に持ち上げられる。

 

 

「はいっ終わり!」

 

 

ポンポンっと背中を優しく叩かれる

 

僕が着替えを行っている最中、神様は準備した用紙に更新した【ステイタス】を書き写していた。

 

僕は【神聖文字】なんて読めないから、神様が下界で用いられている共通語に書き換えて【ステイタス】の詳細を教えてくれる。

 

そもそも、背中に書き込まれた文字というのはちょっと見えにくい。

 

 

「ほら、君の新しい【ステイタス】」 

 

 

ありがとうございます、と差し出された用紙を手に取る。僕はそれに視線を落とした。 

 

 

 

ベル・クラネル 

 

Lv.1 

 

力:I77→I80

 

耐久:I10

 

器用:I93→I95

 

敏捷:H120→H135

 

魔力:I0

 

《魔法》【 】

 

《スキル》【 】

 

 

 

これが僕の背中に記されている【ステイタス】の概要だ。

 

基本アビリティ──『力』『耐久』『器用』『敏捷』『魔力』の諸項目──は五つあって、更にSからA、B、C、D、E、F、G、H、Iの十段階で能力の高低が示される。

 

この段階が高ければ高いほど僕達の能力は強化される。

 

Iに隣接する数字は熟練度。0~99がI、100~199がH、という風に基本アビリティの能力段階と連動している。

 

ちなみに999が上限値。その分野の能力を酷使すればするほど熟練度は上昇するけど、最大値の999──アビリティ評価Sに近付くにつれ伸びは悪くなっていくらしい。 

 

Lv.は一番重要。これが一つ上がるだけで基本アビリティ補正以上の強化が執行され。Lv.1とLv.2の間には途方もない力の差が生まれることになる。

 

Lv.1の僕達が、Lv.2にカテゴライズされるミノタウロスに大敗を喫したように。 

詰まるところ、Lv.が上がればめちゃくちゃ強くなるっていうこと。

 

神様はこれを【ランクアップ】と呼んでいた。

 

僕は敏捷が1番高く、モンスターの攻撃を避けてばかりだから耐久はほとんどない。防具や武器で防御しても上昇するらしいけど、どうしても咄嗟に回避してしまう。

 

 

「……神様。僕はいつになったらトネリコのみたいに魔法が使えるようになると思いますか?」

 

 

「それはボクにもわからないなぁ。主に知識に関わる【経験値】が反映されるみたいだけど……ベル君、本とか読まないでしょ?」

 

 

「....はい」

 

 

神様達が下界に来る前は、魔法はエルフの専売特許に過ぎなかった。けれど、神様達の『恩恵』はいかなる者でも魔法を発現させることを可能としたのだ。 

 

最低一つ、最高三つと、魔法が発現する数は決まっている。一つ使用できるのが一般的で。魔法を二種類扱えるだけでその人は仲間内で引っ張りだこになると聞いたことがある。 

それだけ魔法の存在は肝要なのだ。

 

 

「それにトネリコくんの魔法(あれ)はまた特殊だからなぁ」(ボソッ)

 

 

「.....?なにか言いましたか?」

 

 

「ううん なんでもないよ」

 

 

「そうですか...」

 

 

いかなる相手でも形勢を逆転させるだけの必殺になりうる力。 まぁ、炎の海とか目にも止まらない光を出しちゃう相手に剣を持って挑んでも勝てる気がしないから、つまりそういうことなんだろう。

 

【ステイタス】を確認しても僕の魔法スロットは一つしかないから、使えるようになる魔法は一種類だけなのだ……そして僕の目はその下に向かう

 

 

「スキルも発現してないですね」

 

 

「そうだねぇ」

 

 

『スキル』というのは【ステイタス】の数値とは別に、一定条件の特殊効果や作用を肉体にもたらす能力のことだ。

 

 魔法のように目に見えた派手さはないが、発現して損なものは極めて少ないとのこと。……ゼロではないようだ。 

 

神様が壁に設置されてある時計を見上げ、それから僕の方に振り向いた。

 

 

「それじゃあベル君、トネリコくんを呼んできてもらえるかい?」

 

 

「わかりました」

 

 

ステイタス更新を終えた僕は、小部屋へと向かう。

 

 

「ベル君」

 

 

突然呼ばれて、神様の方を振り向く

 

 

「君は冒険者になったばかりだ。これから色んな体験して、数多の困難にぶつかり、乗り越え、成長をしていくだろう。それをボクは応援しているし君達の為に出来ることならなんだってする。」

 

 

「神様...」

 

 

「だから...1人で抱え込まないで欲しい。ボクは君達の無事を祈ることしかできないけれど、進み続け、変わり続ける君達の手伝いがしたいんだ。」

 

 

その言葉は...

 

 

「今ここで話せなんて言わないよ、君が答えを出せた時にでも教えてくれればいい。でも本当に行き詰まってしまってどうしようもない時は、トネリコくんでもアドバイザーくんでもいい、誰かに相談してくれ、君はひとりじゃないんだ。」

 

 

紛れもない神様からのお願い(・・・)

 

 

「でも最初はボクを頼ってくれると嬉しいな!」

 

 

「.....はいっ...」

 

 

とても温かくて僕を想っての言葉が身にしみる。心の底から思う。このヒトの眷属(こども)になれて僕は幸せ者だ。

 

 

━━━━━━━━━

ヘスティアSide

 

申し訳なそうな、泣き出してしまいそうな、嬉しそうなそんな顔をした彼は、少しだけ吹っ切れたような顔をしてもう1人の眷属(かぞく)を呼びに行った。

 

帰って来た時から気づいていた。顔に出やすい子だ。わからないわけが無い。

 

でも彼から言わないということは、なにか後ろめたいことがあるのだろう。

 

ベル君の悩みは、嘘がわかる(ボク)でも内容まではわからない、けれど彼がよく気にしている魔法やスキル等のステイタスのことではないのだろう。

 

静かに視線を落とし、彼の背中に刻まれた神の恩恵(ファルナ)を写した【ステイタス】の用紙を見る。

 

まだ彼には魔法もスキル(・・・)も発現していない。

 

子供達は本当に変わりやすい……不変のボク達とは違って些細なことでもすぐさま影響が肉体に、精神に(あらわ)れる。 

 

欲望でも文化でもなく、その『変質』こそ、彼等下界の住人の本質なのかもしれない。グシャグシャグシャと両手で思いっ切りその漆黒の髪をかき乱す。 

 

 

「ちくしょー....」

 

 

ベル君の抱えるものが晴れた時、それはスキルとして目に見えるようになるかもしれない。それが少し楽しみで、その手助けが今すぐできないのが少し悔しい。

それでもボクはベル君を信じてる。どれだけ時間をかけようときっと答えを必ず出せると、愛する眷属(こども)を信じるのは当然だ

 

だって

 

「ボクは君の主神(おや)なんだぜ?」

 

そんな独り言をつぶやく。

 

コンコン

 

「神ヘスティア、いいですか?」

 

 

扉がノックされる。どうやら来たみたいだ。

 

 

「あぁ、入ってきていいよ」

 

 

「失礼します」

 

 

彼女が部屋に入ってくる。ベル君と同じくらい大切な眷属(かぞく)だ。

 

 

「さぁ!ここに横になってくれ、トネリコくん!!」

 

 

こうしてボク達の一日は終わるのだ。

 




この回で原作との大きな違いが明らかになったね。

ここからの君の成長が私も楽しみだよ

ん?トネリコのステイタスはどうしたのかって?

ふふふっそれはまだ秘密さ





ちなみに

(魔導具は誤字ではありません)


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4話

あとがきでその回で出した単語の設定の開示しようか迷うんですがどうですか?それとも設定集を作ってそこにまとめた方がいいですかね?


 

 

「……ん」

 

 

【ヘスティア・ファミリア】の本拠、教会の隠し部屋。

 

地中に作られているため朝日も鳥の鳴き声も届かないこの場所で、僕は目を覚ました。

 

まだぼんやりとしたまま、ソファーの上から頭を巡らして、壁に備え付けてある時計を確認する。 

 

 

(……六時、ぴったし) 

 

 

今日も起床を定めている時間に起きられた。

 

朝日が届かないはずなのに時計を確認できたのは、『魔石灯』が天井でぼんやり燐光のごとく輝いているから。地下でありながら部屋は完璧な暗闇に包まれてはいない。周囲を見渡せる程度には肉眼がしっかり機能する。

 

この『魔石灯』を作り出したヒューマンの技術を、神様は「本当に手先が器用」と言っていた。あの神様達の舌を巻かせるほどなのだから、発明された当時『世紀の大発明』とまで言われた魔石製品のすごさがよくわかる。 

 

ちなみにこの魔石灯は買ったものではなく、トネリコがちょちょいと作ったものだ。

 

昨日、ステイタスの更新を終えた後、トネリコを呼びに行き僕はソファーに座っていたのだがいつの間にか寝ていたらしい。

 

結構狭いけどよく眠れたものだ。瞬きを数度繰り返し、顔を洗うために体を起こそうとして……ふと気付く。

 

シーツ以外に、丸いものが僕の上にもたれるようにして乗っかっている。とても軽い。息苦しくないから全く気にもならなかった。 疑問を感じながらその丸い何かに手を伸ばすと……神様だ。 

 

僕の胸に顔を埋めるようにして眠りこけている。ぎょっとしたけど、すぐに苦笑した。

 

(寝ぼけちゃった……のかな?) 

 

珍しいこともあるものだと思って、困ったなぁと考える。神様を起こさずソファーを抜け出すのには自信があるけど、なんだか、すごく温かくて抱き心地のいいこの存在を放したくない。最高級な抱き枕を超えた、まさに神作級の抱き枕。

 

強力な武器やアイテムを確保しているどんな【ファミリア】にも、これ以上のアイテムなんてないって断言する。

 

神様やっぱりスゴイ。畏れ多くもつい手を回して柔く抱く。ほわん、とした感触。あぁ不味い、本当に抜け出せなくなってしまう。もしこの光景がトネリコに見られたらどんな目で見られるか予想がつく。それは嫌だと抜け出そうとする僕。

 

 

「んっ……」

 

 

と小さく身じろぎして、赤ん坊のように顔を僕の胸板に擦りつけてきた。 あぁもう可愛い……! などと、心中で悶えまくっていると──「むぎゅ」と神様の双丘が鳴って、僕の上で圧倒的質量のソレが潰れた。

 

そこからの僕の行動は迅速だった。

 

神アイテムから劇薬アイテムに変貌した神様を直ちに除去し、場所を入れ替えるように寝かせソファーから脱出した。

 

 

(神様が僕を殺しに来るなんて……!)

 

 

 初めて神様に戦慄を抱いた瞬間だった。あと一秒遅かったら僕の呼吸は止まっていたかもしれない。神様にシーツをかけ僕はいそいそと顔を洗いに行く。

 

冷静になって考えてみると、僕の馬鹿野郎、神様相手になんちゅーことを。

 

顔を洗いながら思っていると。

 

 

「おはようございます」

 

 

「うひゃぁぁ!?!?」

 

 

後ろから声をかけられて驚いてしまう。

 

 

「ト...トネリコ!?いつからそこに?」

 

 

「ついさっきですよ」

 

 

「.........」

全く気づけなかった

 

 

「起きた時に神ヘスティアの姿が見えないから探してみればベルの所に潜り込んでるなんて...神としての威厳が...」

 

 

「あ...あはは...神様も寝ぼけたりしちゃうんだよ」

 

 

「.........なんというか純粋ですね…ほんと」

 

 

「...え?」

 

 

「でもまぁ...ベルもいい思いができてたみたいですし?良かったですね」

 

 

「!?!?」

 

 

「ふふっ...じゃあ私朝ごはんの準備してきますね、ソファーに座って待っていてください」

 

 

どうやらあの激闘(?)を見られていたらしい...恥ずかしい!

そんな爆弾発言を残して行ったトネリコは、エプロンをつけて昨日残ってしまったジャガ丸くんを使って料理している。

 

トネリコは料理がとても上手だ。なんでも育ててくれた人が料理上手だったらしく、よく教えて貰っていたのだとか。

 

そんなことを考えている間にマッシュされたジャガ丸くんがあっという間に別の料理へと変化していく。

 

 

「......うん.....よし、出来ました」

 

 

どうやら完成したみたいだ。

 

 

「神ヘスティアを起こしてきてもらっていいでs」

 

 

「いやもう起きてるぜ!」

 

 

いつの間にか僕の隣に座っていた神様。

 

 

「トネリコくんの料理はとても美味しいからね!いい香りがしてきたから飛び起きてきたのさ!」

 

 

もちろんベル君の料理も美味しいぜ?と言ってくれる神様。

さっきの事があってちょっと神様に目を向けれないけれど嬉しい言葉だ。ただ僕ではジャガ丸くんで作ったこのスープの味を超えるものは作れないと思う。トネリコはポタージュと言っていた。

 

本人曰く「潰して調味料を足しただけですよ?」と言っているがもうこれを超える朝ごはんはないと言える。

 

 

「では冷めないうちにどうぞ」

 

 

「「いただきます!」」

 

 

━━━━━━━━━━

 

朝ご飯を食べ終え、僕達は今日のダンジョン攻略の身支度をする。

 

 

「じゃあ行きましょうか」

 

 

「うん」

 

 

トネリコが扉に手をかけた時

 

 

「...あー...トネリコくん...ちょっとだけいいかい?」

 

 

「...はい?」

 

 

神様がトネリコを呼びかける

 

 

「...........」

 

 

「...........」

 

 

部屋を沈黙が支配する

呼び止めたはずの神様が何かを言いたそうにするがなかなか声に出さない。あと僕の方をチラッチラッと見てくる

 

 

「ベル、先に行っていてください。すぐに追いつきますから」

 

 

「わかった」

 

 

僕が居ては話せないことなのだろう

ちょっと気になるけど、なにか話せない理由があるかもしれない。そう思った僕はドアを越えて階段を昇る。

 

 

━━━━━━━━━

ヘスティアSide

 

 

ベル君が階段を昇る音が聞こえなくなった。

彼には少し申し訳ないけど、ここからの会話はあまり聞かれたくない。

 

 

「それで神ヘスティア、なぜ私を呼び止めたのですか?」

 

 

彼女が聞いてくる。当然だ。理由もなく呼び止めることなどないのだから

 

 

「あー...その...だね」

 

 

思わず言い淀む、これを聞くということは、君を疑っていると言っているようなものだ。同じ家族(ファミリア)としてこのようなこと思いたくないが、それでも聞かなくてはならない。

 

 

「トネリコくん」

 

 

「はい」

 

 

「昨日5層でイレギュラーが起きてミノタウロスに襲われたと言っていたね?」

 

 

「はいその通りです」

 

 

「スー...ハー...あまりこういうことを聞きたくはないんだけど、君に本心以外は通じないからね(・・・・・・・・・)思い切って聞くよ」

 

 

「はい」

 

 

「あのようなイレギュラーが発生したのは君のスキルの影響かい(・・・・・・・・・・)?」

 

 

「............」

 

 

再び沈黙が部屋を支配する。彼女の顔は、やっぱりそのことですか...と言っているように見える。

 

 

「確証はありませんが違うと思います。

あのスキルは、その道を歩み始めたものに対して発動するものです。ベルはまだ(・・)その域に達していません」

 

 

「そう...か」

 

 

その目は、嘘をついていない。

 

 

「正直に話してくれてありがとう、それとほんとにごめん!!ボクは君を疑ってしまった!!」

 

 

ボクはドゲザをする。それは東方に伝わる最終奥義。知り合いの神から教えてもらったけど最大限の謝罪をする時にも使うものだとか

 

 

「顔をあげてください神ヘスティア、貴女は何も間違ったことをしていないのですから」

 

 

「でも...」

 

 

眷属()の心配を主神(おや)がするのは当たり前のこと、それにいずれは私のスキルが発動する時が来るでしょうし、遅かれ早かれといった感じです」

 

 

あの時はほんとにダメかと思いました。と遠い目をしながら呟いている彼女。

 

「......ベル君じゃないとダメなのかい?」

 

 

「...........はい」

 

 

「...わかったこの件に関しては終わりだ。ただ昨日も言ったけどボクは君達に死んで欲しくないんだ」

 

 

「それが試練だとしても、必要なことだとしても無茶をせず出来れば逃げて帰ってきてほしいと思っている」

 

 

「約束して欲しい、必ず二人でボクのところに帰って来るって」

 

 

「...はい、約束します。必ず生きて貴女の元に二人で戻ります」

 

 

「うん、その言葉が聞けて良かったよ......よし、じゃあ行っておいで。ベル君を待たせてしまってるだろうからね」

 

 

「行ってきます」

 

 

彼女はドアを越え階段を昇る...音が聞こえなくなったと同時に……。

昨日更新した彼女のステータスを写した紙を見る。

 

 

「英雄...か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トネリコ 《ヴィヴィアン》

 

Lv.1 

 

力:I50→I60

 

耐久:I9→I 12

 

 器用:H 100→I110

 

敏捷:I 30→I 40

 

 魔力:H 150→170

 

 

《魔法》【 】

 

 

《スキル》

魔力放出

・武器や自身の肉体に精神力(マインド)魔素(まそ)を変換した『魔力』を帯びさせ、能力を向上させる。

 

道具作成

・『魔力』を帯びた器具を作成可能。

 

陣地作成

・自らに有利な陣地を作り上げる。

・上限は1つまで。

・新しい陣地を作った場合、古いものは消去される

 

■■眼

・あらゆる嘘を見抜き、真実を映す眼。

・常時発動。

 

■■の■■

・早熟する。 

・使命を全うするまで効果持続。 

 

英雄作成

対象■■・■■■■

・ 対象者は早熟する。 

・ 対象者を英雄へと導く。

・ 対象者に試練を課す。

 

 

━━━━━━━━━━━━

ベルSide

 

 

先に教会を出た僕は、昼間とは趣が異なったメインストリートを一人で歩いていた。

 

朝といってもそれなりに時間が経っているからそれなりに人影がある。露店で商売をしているパルゥムもいれば、僕等と同じ冒険者の人達が徒党を組んで何か話し合っている。

これからダンジョンに向かうのかな?

 

僕もダンジョンへ潜る装備を身に付けているし、傍から見れば彼等と似たり寄ったりかもしれない。

 

それにしても気になる。神様が呼び止めるほどだし、なにか大事な話なのだろうか?....うーん僕が無茶をしないよう止めるように釘を刺してる....とか?(だいたい間違っていない)

 

トネリコが来たら聞いてみy......

 

 

「...!?」 

 

 

ばっ!っと振り返った。立ち止まって、自分の背後を見る。

 

……いやな感じだ。気配とか感じられるほど一端の冒険者じゃないけど……視られてた?

 

肌を冒されるような感覚。まるで物を値踏みするかのような、普通の人にはとても真似できない、無遠慮過ぎる視線。

 

一人でカフェテラスの呼び込みを行う店員、路地の角でたむろする獣人の二人組、商店の二階の窓から大通りを見下ろす女の子……広がる景色の中、動くものに何度も視点を移す。ぐるりと周りを見渡しても、不審な影はない。むしろ通りのど真ん中で棒立ちになる僕に奇異の目が集まっていた。 

 

勘違いかな...?

やけに耳にへばりつく心臓の音を聞きながら、ちっとも納得できない顔を浮かべてしまった。

 

 

「あの...」

 

 

「!」 

 

 

突然の後ろからの声に、身構えてしまった。周りから見れば大げさだと思われただろう。

 

声をかけてきたのは僕より少し年上(?)の、ヒューマンの少女だった。服装は白いブラウスと膝下まで丈のある若葉色のジャンパースカートに、その上から長目のサロンエプロン。薄鈍色の髪を後頭部でお団子にまとめ、そこからぴょんと一本の尻尾が垂れている。ポニーテールと言うんだろうか?髪と同色の瞳は純真そうで可愛らしいその少女は僕の挙動に驚いているようだった。

 

明らかに無害な一般の市民.....なんてことを!?

 

 

「ご、ごめんなさいっ! ちょっとびっくりしちゃって……!」

 

 

「い、いえ、こちらこそ驚かせてしまって……」

 

 

慌てて謝るとあっちも頭を下げてきた。申し訳なさ過ぎる。 

 

 

「な、何か僕に?」

 

 

「あ...はい。これ、落としましたよ」 

 

 

差し出された手の平に乗っていたのは、紫紺の色をした結晶だった。

 

 

「え、あれ? 魔石?」

 

 

おかしいな…魔石は昨日全部トネリコに渡して一緒に換金したはずだけど...と腰巾着を見る。僕達はモンスターから得られる魔石を、それぞれが持つこの大の腰巾着の中に回収していた。これもトネリコが作った『魔導具』の1つで、見た目以上に魔石が入る。どれだけ物を入れても一定の重さ以上は感じたことがない。トネリコ凄すぎる。

 

..... は! 思考を戻そう......冒険者じゃない人が魔石なんか持っている訳ないし......うん、きっと渡し損ねたものが落ちたのだろう。

 

 

「すいません。ありがとうございます」

 

 

「いえ、お気になさらないでください」 

 

 

ほわっとする微笑みが返ってきた。僕もつられて笑ってしまう。

 

 

「これから、ダンジョンへ行かれるんですか?」

 

 

「はい、軽く行ってみようと仲間と決めまして」

 

 

「お仲間さんがいらっしゃるんですね」

 

 

「はいとても頼りになる人です」

 

 

「うふふっ、そうなんですね」

 

 

少し話しているうちに初対面の人に対する壁みたいなものを、完璧に取り払われてしまった。

 

 

「そうだ!冒険者さん、私実はあの酒場で、働かせて貰っているんですが、今日の晩ご飯をお仲間さんと一緒に召し上がりに来ませんか?」

 

 

「......」 

 

 

急な展開に僕が目を丸くする番だった。

 

 

「もしかしてご迷惑だったりしますか?」

 

 

少し申し訳なさそうな顔を浮かべる彼女...くっ...それはずるい!

 

 

「い...いえそんなことはないんですが…トネ..仲間と相談させてもらってもいいですか?」

 

 

「はい!もちろんです!それに...」

 

 

と今度は少し意地悪そうな笑みを浮かべて、僕の目の前に顔をすっと寄せてきた。ちょ...近い.....

 

 

「もし来てくださったら...おもてなし(サービス)しちゃいますよ?」

 

 

「............ぇ?」

 

 

え?ちょっと今なんて?突然の彼女の言葉に思考が停止する。

いや脳内でおじいちゃんがおねショタじゃーー!と叫んでいる

うるさいよ!なんだよおねショタって!いやそれよりえっと...

 

 

「ふふっすいません、少しからかっちゃいました。ちゃんとした酒場ですので安心してください」

 

 

びっくりした。ほんともう心臓に悪いよ今のは……

 

 

「あ...あはは.....えっとじゃあ...そろそろ僕は行きますね」

 

 

「はい、お待ちしております冒険者さん」

 

 

とびっきりの笑顔で僕を送り出してくれる...なんて人だ。きっと数多の冒険者が彼女の笑顔にやられてきたことだろう。

 

 

「あ」

 

 

僕は思い出したように後ろを振り返った。 

不思議そうに見つめ返してくる店員さんに向かって、言う。

 

 

「僕ベル・クラネルって言います。貴方の名前は?」

 

 

瞳を僅かに見開いた後、彼女はすぐに微笑んだ。

 

 

「シル・フローヴァです。ベルさん」 

 

 

名前と笑みを、僕等は交わし合った。

 

 

 

 

 

 

 




次回 戦闘


『魔力』について説明
これはステイタスの魔力とは別の物
精神力や魔素が魔術回路で加工されることで発生する力
簡単に言えば電力みたいな物
トネリコはこの魔力を使って戦っているので詠唱を必要としない



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5話

やぁ物知りお兄さんだよ

今回も解説をしようと思ったんだけどね...

ベル君にその役を取られてしまってね

今回は大人しく見守ることにするよ


 

 

「はぁっ!!」

『ギャッ!?』

 

あれからバベル中央広場(セントラルパーク)にて合流した僕達は、ダンジョンへと潜っていた。

 

ここは3階層、目の前にはコボルトの死体がちらほらと、さっき僕がナイフを振り下ろし倒したりトネリコの魔法で吹き飛ばしたからだ。

 

 

「あ...またドロップアイテムです」

 

 

モンスターを倒し、その身体に埋まっている魔石をナイフを使って取り出すとモンスターは灰となって消えていく。その時たまに身体の一部が消えないで残る場合がある。それがドロップアイテムだ。

 

 

「ふふっ今日の収穫は期待できそうですね」

 

 

そんなこと言いながら腰に着けたナイフでコボルトの胸を次々と抉り、魔石を取り出す作業を繰り返すトネリコ...なんか...うん

 

 

『ギャア!』

 

 

そんなことを考えていると声が聞こえてきた。どうやらまたモンスターが現れたみたいだ。

 

 

「トネリコ!」

 

 

「はい!はぁぁ!!」

 

 

こっちに向かってくる姿が見える。ゴブリンだ、数は5、6匹か…今日は群れとの遭遇率が高い。あんまりモンスターは群れないってエイナさんに聞いてたんだけど...

 

 

「せいっ!!」

 

 

トネリコが持つ杖の先端に光が灯る。そしてその光をゴブリン達に向けて、放った。

 

 

『ギャアアア!?』

 

 

その一撃で、2体は吹き飛んだ。あとは僕の仕事だ!

 

 

「はっ!」

 

『ギャ!?』

 

「ふっ!」

 

『ギャア!?』

 

「たぁ!!」

 

『ギャアア!?』

 

 

ナイフでゴブリンを斬る。これで3匹、残り1匹は...

 

 

「後ろですっ!」

 

『ギャアア!!』

 

「そこ!!」

 

『ガッ!?』

 

トネリコの声に反応し、後ろに回し蹴りを放ち、ゴブリンの首がボキッと折れる。これで全部だ。

 

 

「ふぅ、ありがとうトネリコ」

 

 

「もう、周りを見て動かないとダメですよ?」

 

 

「...はい」

 

 

注意された。つい気合いが入り、突撃してしまった。

 

 

「ほらベルも手伝ってください!昨日稼げなかった分を今日で取り返しますよ!」

 

 

「はーい」

 

倒したゴブリンの胸を抉っては魔石を取る彼女

そして僕も魔石を取るためにナイフをゴブリンに突き刺した。

 

 

━━━━━━━━━━

 

「そろそろ休憩しない?」

 

 

あれからも連戦が続いた。数は多くなくて1匹や2匹ずつだったけど、それでも疲労は溜まる。

 

 

「そうですね...時間も多分お昼過ぎたぐらいですし、少し休みましょうか」

 

 

その言葉を合図に僕は腰を下ろす...前に

 

 

「ベル...また忘れてましたか?」

 

 

「いや!覚えてるようんちゃんと覚えてるから」

 

 

そうダンジョンで休憩するためにはやらなければならないことがある。それは壁に傷をつけることだ。そうすることでダンジョンはモンスターを生み出すより壁の修復を優先させるため、一時的に安全になるのだ。

 

壁に傷をつけながら僕は考える。ダンジョンは摩訶不思議に満ちている。世界に一つしかないこの地下迷宮は、神様が降臨する前から既に下界にあったらしい。一説によると、ダンジョンの最下層には地獄やら魔界やらに繋がっているとかいないとか...。

 

神様達もダンジョンのことは何もわからない(・・・・・・・)らしい。 

 

ダンジョンの話を聞いて最も驚くのが、ダンジョンは生きている、ということ。別に生きているからといって壁が襲ってくることはないし、階層ごとの地形が時が経つにつれて変わるなんてこともない。

 

生きているとはつまり、修復されるのだ、破壊されたダンジョンの構造が、勝手に。ダンジョンは魔石の下位、あるいは上位物質でできているらしい。

 

魔石に近い物質ということで、ダンジョンの中は日の光が届かずとも明るい。1階層なんて天井に当たる部分が照明のように点々と光を発しているものだから、時間を問わずはっきりと見えるほどだ。

 

 

そしてモンスターもダンジョンの中で産まれる。嘘ような話だけど、迷宮の壁から卵の殻を破るように這い出てくるのだ。実際見た人は沢山いる。冒険者がどれだけモンスターを倒しても、数がつきないのはそういう理由。

 

また、階層ごとに壁面から産まれるモンスターは決まっているらしい。そして下層に行けば行くほどモンスターの力は強くなる。

 

でもダンジョンの脅威は、モンスターだけじゃない。それの名前は「災害(モース)」すごく危険な存在だ、身体中に魔素を纏っていて黒くモヤモヤしているらしく、どこの階層でも見られるそれはモンスターを取り込み、より凶悪となるため見つけたら取り込む前に必ず倒さなければならない。実体がなさそうに見えるけど剣で斬ることが出来るし魔法も当たるため実体があると予想されているが倒したモースは塵となって消える。あと魔石の存在が確認されなかったらしい。

 

そして1番の厄介さはモースの持つ呪いだ。モースの攻撃に当たったりモースに長時間触れていると呪われてしまい身体中が激痛に苛まれ最終的に死に至る。個人差はあるけれどエルフの人はほかの種族より呪いにかかりやすいと聞く。

その呪いはとても強力で解呪することが出来ず、痛みを緩和することもできないらしい。

 

故に冒険者からは呪いの災害とも呼ばれている。出来れば遭遇したくない。

 

ここら一帯の壁に傷をつけ、ようやくと腰を地面に下ろす

 

 

「ふぅ疲れたぁ」

 

 

「お疲れ様です」

 

 

隣に座ったトネリコはゴソゴソと魔法の腰巾着をあさり、中からパンをふたつ取り出した。

 

 

「広場に向かう道中に焼きたてのパンが売っていまして、お昼にどうかと思い買ってしまいました」

 

 

さすがに冷めてしまっていますがどうぞ とパンをひとつ僕にくれた

 

 

「ありがとう」

 

 

「ではいただきましょう」

 

 

2人でパンを食べながらこれからの事を話す。

 

 

「さすがに4層まで潜るとエイナさんに怒られるでしょうし、今日はずっと3階層(ここ)を探索でいいですか?」

 

 

「もちろん」

 

 

エイナさんが怒ると怖いんだよなぁ…美人さんが怒ると怖いって言ってたおじいちゃんの言葉が理解出来た。あっ...そういえば

 

 

「ねぇトネリコ」

 

 

「はい?」

 

 

「今日の夜なんだけどさ、外にご飯食べに行かない?」

 

 

「...はい?」

 

 

朝の広場に向かうまでのシルさんとの出来事を話した。

 

 

「なるほど、つまり可愛い店員さんの客引きという罠にバッチリと嵌ったわけですね」

 

 

酷い言い草である。だけど間違ってはいないので訂正ができない...

 

 

「でもたまには外でご飯もいいかもしれませんね…神ヘスティアも喜びそうです」

 

 

「でしょ?」

 

 

「じゃあそろそろ休憩はおしまいにして今日の晩ご飯の分も稼ぎましょう」

 

 

「おー!」

 

 

立ち上がった僕達は晩ご飯を少しでも豪勢にするためにモンスター探しを再開した。

 

 

━━━━━━━━━━

 

夕刻...

 

 

「「ただいま戻りました!」」

 

 

「おかえりー!」

 

 

本日のダンジョン探索を終え、かなり良い稼ぎを持って教会(ホーム)に帰って来た。

 

 

「よしよし大した怪我はなさそうだね」

 

 

「「はい」」

 

 

「それじゃ早速ステイタスの更新をしようか!今日はトネリコくんからね」

 

 

と奥にある神様の部屋にトネリコを連れていく。

 

今更だがこの教会の地下には部屋が4つある。最初はリビング?しか無くて他の部屋なんて無かったのだが、トネリコが「狭いですね…広げましょうか」なんて言った次の日には、僕達それぞれの部屋が出来ていた。作った本人は一言

 

「もっとヴァリスを貯めてすごいのを建てましょう。えぇすっごいのをです」

 

 

一体何ができるんだろう。城?

 

 

「おーいベル君入っておいでー」

 

 

神様に呼ばれた。ステータスがすごく上がってますように!!

 

ベル・クラネル 

 

 

 

Lv.1 

 

 

 

力:I82→I91

 

 

 

耐久:I11→I 21

 

 

 

器用:I96→H107

 

 

 

敏捷:H137→H150

 

 

 

魔力:I0

 

 

 

《魔法》【 】

 

 

 

《スキル》【 】

 

 

 

 

 

「おぉ」

 

 

いい感じに上がっている。頑張った甲斐があった。あっ

 

 

「そういえば神様今日の晩ご飯なんですけど外に食べに行きませんか?」

 

 

「......へっ?外で...ご飯!?い...いいのかい?トネリコくん?」

 

 

「えぇ、最近は順調に稼げてるので1回の食事では、懐は寒くなりません」

 

 

「やったー!早速準備して行こうぜぃ!」

 

 

ぴょんぴょん跳んでる神様...

 

 

「随分と喜びますね。貴女」

 

 

「だって家族(ファミリア)で行く初めての外食なんだよ!?喜ぶに決まってるじゃないか!」

 

 

そういえばそうだった...今までずっと節約生活だったからなぁ…

 

 

「じゃあ行きましょうか、ベル案内をお願いします」

 

 

「うん任せて」

 

 

「しゅっぱーつ!」

 

 

━━━━━━━━━━

 

「朝、シルさんと会ったのは、この辺りの筈なんだけどなぁ……」 

 

人の往来が絶えないメインストリートを歩みながら、僕は迷子のように顔を振っていた。 周囲の光景は人気のなかった朝とは様変わりしてしまい、本当に同じ場所だったとは思えない。

 

 

「もしかしてあのお店ですか?」

 

 

トネリコが指さす先にようやく見覚えのあるカフェテラスを見つけた。

 

「うん、あのお店だよ」

 

僕達はその店頭で足を止めた。 他の商店と同じ石造り。二階建てでやけに奥行きのある建物は、周りにある酒場の中でも一番大きいかもしれない。 シルさんの働いている酒場、『豊饒の女主人』。

 

 

「ここ...名前からして本当に普通の酒場なのかい?」

 

 

「そう聞いたんですけど…」

 

 

そっと入口から店内を覗いてみる。カウンターで料理やお酒を振る舞うドワーフの女性...女将さんかな…ほかの店員さんは当然のように全員ウエイトレス。

 

…名前の由来をなんとなしに察した。

ちょっと僕には難易度高いなぁ...

 

あっシルさんと目が合った

 

 

「ベルさん来てくださったんですね!」

 

 

こちらに寄ってきて朝見せてくれた以上の笑顔を向けてくる。

 

 

「や...やってきました」

 

 

「照れてますねベル」「初心だねベル君」

 

 

「ちょ!?」

 

 

「はい、いらっしゃいませ。そちらの方々がベルさんのお仲間さんですか?初めましてここの酒場で働かせて貰っています。シル・フローヴァです。」

 

 

シルさんが後ろで僕を揶揄ってくる2人に気づく

 

 

「はい、こちらが僕達の神様ヘスティア様と、同じファミリアのトネリコです」

 

 

「ヘスティアだよ、よろしくね給仕君」

 

 

「......よろしくお願いします。シルさんとお呼びしても?」

 

 

「はい! よろしくお願いします。ヘスティア様トネリコさん、私の事はぜひシルとお呼びください」

 

 

お客様3名入りまーす、と声を張り上げるシルさん...目立ってるなぁと胸の中で呟きながら、店内へ進むシルさんの後に続く。 

 

 

「では、こちらにどうぞ」

 

 

案内されたのはカウンター席。女将さんが鍋を振っているのがよく見える位置に3人並んで座る。

 

 

「アンタ達がシルのお客さんかい? これはこれは女神様に...ははっ、冒険者のくせに可愛い顔してる子達だねえ!」 

 

 

「「あ、あはは」」

 

 

 カウンターから乗り出してきたドワーフの女将さんの勢いに僕達は苦笑いしか浮かべられない。

 

 

「それに坊主、何でもアタシ達に悲鳴を上げさせるほど大食漢なんだそうじゃないか! じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金を使ってってくれよぉ!」

 

 

「!?」

 

 

告げられた言葉に度肝を抜かれる。 

 

 

「ベル、貴方シルさんの前だからってカッコつけたんですか?」

 

 

「へっ!?いやそんなことしていないよ!」

 

 

どういうことですか!?とばっと背後を振り返ると、側に控えていたシルさんはさっと目を向ける。あ...逸らした。

 

 

「その、ミアお母さんに知り合った方をお呼びしたいから、たっくさんおもてなしをしてあげてと伝えたら……尾鰭がついてしまって」

 

 

「............(唖然)」

 

 

「...えへへ」

 

 

えへへじゃないんですよ...。

 

 

「頑張ってくださいベル」

 

 

「頑張ってくれよベル君」

 

 

味方がいない!

 

 

「僕大食いなんてしませんよ!? ただでさえうちの【ファミリア】は出来て日が浅いから金欠なんです!」

 

 

「私、応援してますから!」

 

 

「今日は沢山稼いで来て良かったですね」

 

 

「ねー」

 

 

味方が...いない(泣)

 

 

「ふふ、すいませんからかってしまって。ちょっとだけ奮発してくれるだけでいいんで、ごゆっくりしていってください」

 

 

「ごめんねぇ」「すいませんベル」

 

 

いつから結託してたんだ...と僕は溜息をつきたくなるのを我慢しながらカウンターに向き直った。丁寧に用意されているメニューを手に取り、頼む料理を決めようと3人一緒に見るが内容より値段に目が行き、動きが止まった。

 

 

「......え?」

 

 

「これは...」

 

 

「ボクのバイト代の10倍以上だと...!」

 

 

外食での一度の食事は五〇ヴァリスもあれば十分お腹を満たせるけど…ここはそれよりかなり高い。酒場で食事なんてここが初めてだけど、手をかけているような分、他のところより高いのかも。長考の結果、3人で無難にパスタを頼んだ。それでも全部で900ヴァリスか...

 

 

「酒は?」

 

 

女将さんに尋ねられたけど遠慮しますと答えた。お金も余計にかかっちゃうし。僕達はあまりお酒は飲まないからだ。

料理が来るまでの間、今日の出来事の話に花を咲かせる。

 

 

「お待ちどお!」

 

 

ドンッ!と山盛りの美味しそうなパスタが僕たちの目の前に置かれる

文字通りの山盛りだ。

 

 

「これはまた...」

 

 

「おぉ!すごい量だねぇ!」

 

 

「いい反応だねぇ!さぁ冷めないうちに食べな」

 

 

「「「いただきます!」」」

 

 

熱々のパスタを1口......んん!!

 

 

「「「美味しい!」」」

 

 

...こんなに美味しいパスタを食べたのは初めてだ。1口食べ、そしてすぐ次の1口を口に入れる。

僕達は無言でそれを繰り返す。まさに魅了されてしまったように

 

 

「あっはっは、いい食べっぷりだねぇ!」

 

 

ほらよ、と女将さんは醸造酒(エール)をカウンターに叩きつけるように置く。さっき遠慮したことを忘れたかのようにジョッキを掴みグビっと喉を潤す。

 

 

「「「ぷはぁ」」」

 

 

最高だ...仲間と美味しいご飯にお酒、夢に見てた冒険者のそれだ。

 

 

「楽しんでいますか?」

 

 

「もちろんです!」 

 

 

パスタを半分食べたところで、シルさんがやってきた。僕は素直な感想を述べる。 彼女はエプロンを外すと、壁際に置いてあった丸イスを持って、僕の隣に座った。

 

 

「お仕事はいいんですか?」

 

 

「キッチンは忙しいですけど、給仕の方は十分間に合ってますので。今は余裕もありますし」 

 

 

いいですよね? とシルさんは視線で女将さんに尋ねる。 女将さんも口を吊り上げながらくいっと顎を上げて許しを出した。

 

 

「私ベルさん達と沢山お話したいです!」

 

 

その言葉を皮切りにたくさんの話をした。ダンジョンでの出来事、神様のアルバイトのことそしてここ『豊饒の女主人』についても。

 

女将さんのミアさん(店員の人はお母さんと呼んでいるらしい)が建てたもので、彼女は昔冒険者だったらしい。所属する【ファミリア】からは半脱退状態らしく、神様からの許可を貰っているらしい。そんな人もいるのかと思う。 従業員は女性のみ受け付けと徹底的。何でも結構わけありな人が集まっているらしく、そんな人達でもミアさんは気前良く迎え入れてくれているのだとか。

 

 

「じゃあシルさんも?」

 

 

と思い切って聞いてみた。ちょっと失礼だったかも

 

 

「このお店、冒険者さん達に人気があって繁盛しているんですよ。」

 

 

「沢山の人がいると、沢山の発見があって……私、目を輝かせちゃうんです」

 

 

 瞳を細めてシルさんはそうこぼした。 横からじっと注視する僕達の視線にはっと気付いた彼女は、頰を赤らめてわざとらしく「こほん」と咳をつく。

 

 

「とにかく、そういうことなんです。知らない人と触れ合うのが、ちょっと趣味になってきているというか……その、心が疼いてしまうんです」

 

 

「……結構すごいこと言うんだねシル君」 

 

 

と神様も一言そうこぼす。

でも、それはわかるような気がする。僕もオラリオに来て興奮ばかりしている口だ。

 

 

「ニャア、ご予約のお客様ご来店ニャ!」

 

 

入口から猫人(キャットピープル)の店員さんの声が聞こえてきた。

 

 

『……おい』

 

『おお、えれぇ上玉ッ』

 

『馬鹿、ちげえよ。エンブレム見ろ』

 

 

「んん?......げっあれはまさか...」

 

 

どっと十数人規模の団体が酒場に入店している。そこにこの前僕達を助けてくれた恩人の姿を見つける。アイズ・ヴァレンシュタインさんだ。じゃああの人たちは...

 

「【ロキ・ファミリア】さんはうちのお得意さんなんです。彼等の主神であるロキ様に、私達のお店がいたく気に入られてしまって」

 

 

と僕達の視線が彼らに向いていることに気づいたシルさんはそう教えてくれた。

 

 

「やっぱりロキだったのかい......」

 

 

とそんな声を漏らす神様。

あらかじめ予約をしていたのか、僕達の位置とちょうど対角線上の、ぽっかりと席の空いた一角に案内される。

 

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん! 今日は宴や! 飲めぇ!!」 

 

 

一人の人物が立って音頭をとり、【ロキ・ファミリア】の人達はお酒の入ったジョッキをガキンとぶつけ合い騒ぎ出した。あの人がロキ様かな...

 

 

「ベル」

 

 

トネリコに呼ばれのでそちらを向く。

 

 

「彼らの方が落ち着いたら改めてお礼を言いに行きませんか?」

 

 

確かにそうだ。あの時僕はちゃんとお礼を言わずにその場を後にしたのだから。

 

 

「ちょっと待ってくれ、君達を救ってくれたアイズ・ヴァレンシュタイン君とやらはロキの眷属()なのかい?」

 

 

と神様が聞いてくる。あれ?言わなかったっけと思ったが、あ...名前しか言ってないや...

 

 

「えぇそうですよ、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインさんです。」

 

 

トネリコが神様に説明している。それを聞いた神様は「そうなのかぁそっかぁロキのとこの眷属()かぁ」と言っている。ロキ・ファミリアだとなにかまずいだろうか?

 

 

「実はボクとロキは仲が悪くてね…犬猿の仲ってやつなのさ」

 

 

「なるほど...」

 

 

一体神様達に何があったんだろう。

 

盛り上がっている彼らの邪魔をする訳にはいかないので、お礼を言うタイミングを測りながら残りをパスタを食べる僕達とうぐぐっとロキ様を警戒する神様、そしてそれを見ながら苦笑を浮かべるシルさん...カオス?ってやつかなこれ

 

 

「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

 

突然聞こえてきたその言葉になぜだか僕は、嫌な予感を感じるのだった。

 

 




原作読みながら、書いてるんですがどうしても文が原作みたいになってしまう...ちくしょうこのままでは大変なことに...早く原作ブレイカーしなければと焦る一方です。

実はこの小説の世界観のコンセプトはオラリオハードモードです

頑張ります。


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6話

かっこいいヘスティアが書きたかった後悔はないです


 

 

「畜生っ!畜生っ!ちくしょおっー!!」 

 

 

僕は叫びながら走る。道行く人々を追い抜いて、周囲の風景を置き去りにし、自分を呼ぶ声すらも背後に押しやって。僕は、夜の街を駆け抜けていく。

 

目から水滴が浮かんでは、後ろへと流れていく。 頭の中を過ぎるのは先程の出来事。

 

 

━━━━━━━━━━

 

「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよ!」

 

 

「あの話......?」 

 

 

狼人(ウェアウルフ)の青年が、アイズ・ヴァレンシュタインさんに何かの話を振る。

 

 

「あれだって、昨日帰る途中で逃がした何匹かのミノタウロス! 最後の一匹をお前が5階層で始末しただろ!?そんで、あん時いたトマト共!」

 

 

そんな声が聞こえてきた。

 

 

「ミノタウロスって、17階層で襲いかかってきて返り討ちにしたら、すぐに集団で逃げ出していった?」

 

 

「それそれ!奇跡みてぇに上層にどんどん上っていきやがって、俺達が追いかけていったやつ!こっちは遠征帰りの途中で疲れていたってのによっ」

 

 

「それでよ、いたんだよ、いかにも駆け出しっていうようなひょろくせえ冒険者(ガキども)が!」 

 

 

僕たちのことだ。

 

 

「しかも前衛装備の兎野郎が魔導師の女に庇われててよ!いやぁ笑いもんだったぜ、可哀相なくらい震え上がっちまって腰抜かして、顔を引きつらせながら涙浮かべてやんの!」 

 

 

僕の頭の中は凍りついたかのように動きを止めると同時に身体から熱が冷めていく感覚。

 

 

「ふむぅ?それで、その冒険者達どうしたん? 助かったん?」

 

 

「アイズが間一髪ってところでミノを細切れにしてやったんだよ、なっ?」

 

 

「......」

 

 

歯を食いしばる、もう何も聞きたくなくてテーブルに顔を伏せる。

 

 

「それでそいつら、あのくっせー牛の血を全身に浴びて……真っ赤なトマトみたいになっちまったんだよ! くくっ、腹痛えぇ......!」

 

 

「うわぁ......」

 

 

「アイズ、あれ狙ったんだよな?そうだよな?頼むからそう言ってくれ......!」

 

 

「......そんなこと...ないです」

 

 

話題を振った青年は目元に涙を溜めながら笑いを堪え、他のメンバーは失笑し、別のテーブルで話を聞いている人達は、釣られて出る笑みを必死に嚙み殺す。

 

 

「それにだぜ? その腰抜かしてた兎野郎、なんか叫びながら魔導師の女を置いてどっか行っちまってっ……くくっ!うちの姫様、助けた相手に逃げられてやんのっ!」

 

 

「......くっ」

 

 

「アハハハッ! そりゃ傑作やわぁー! 冒険者も怖がらせてまうアイズたんマジ萌えー!!」

 

 

「ふふっ......ご、ごめんなさい、アイズっ、流石に我慢できない......!」

 

 

「......」

 

 

「あぁん、ほら、そんな怖い目しないの! 可愛い顔が台無しだぞー?」 

 

 

どっと笑い声に包まれる【ロキ・ファミリア】の人達。反対に自分のいる場所は大きな穴が開いてしまったかのようで。あちらとこちらで世界が別れたようだった。

 

 

「気持ちは分かりますが落ち着いてください神ヘスティア」

 

 

「わかってるよ...わかっているけど…ロキぃ...!」

 

 

隣から人の話声がするけれど、頭を素通りする。そして彼等はまたにわかに騒ぎ出して。

 

 

「しかしまぁ、久々にあんな情けねえヤツを目にしちまって、胸糞悪くなったな。野郎のくせに、みっともない」

 

 

「......あらぁ~」

 

 

「ったく、泣き喚くくらいだったら最初から冒険者になんかなるんじゃねぇっての。なぁアイズ?」

 

 

「.......」

 

 

食いしばる力がさらに強くなる。

 

 

「ああいうヤツがいるからよ、俺達の品位が下がるんだよ、勘弁して欲しいぜ」

 

 

「いい加減その口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃がしたのは我々の不手際だ。巻き込んでしまったその冒険者に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」

 

 

「おーおー、流石は誇り高きエルフ様なこって。でもよぉ、そんな救えねぇヤツを擁護して何になるってんだ? それはてめえの失敗をてめえで誤魔化すための、ただの自己満足だろ? 雑魚を雑魚と言って何が悪い」

 

 

「これ、やめえ。ベートもリヴェリアも。酒が不味くなるわ」 

 

 

───鮮明に思い出す。

 

 

「アイズはどう思うよ? 自分の目の前で震え上がるだけの情けねえ野郎を。あれが俺達と同じ冒険者を名乗ってるんだぜ?」

 

 

「……あの状況だったら、しょうがなかったと思います」 

 

 

───何も出来ずに怖気づいた自分を。

 

 

「何だよ、いい子ちゃんぶっちまって。......じゃあ、質問を変えるぜ?あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」

 

 

「......ベート、君、酔ってるの?」

 

 

「うるせえ。ほら、アイズ、選べよ。お前はどっちの雄に尻尾を振って、どっちの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」

 

 

───庇われた情けない自分を。

 

 

「......私は、そんなことを言うベートさんとだけは、嫌です」

 

 

「ふっ、無様だな」

 

 

「黙れババアッ。......じゃあ何か、お前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」

 

 

「......っ」 

 

 

───今度は僕が君を助けると誓ったのに。

 

 

「はっ、そんな筈ねえよなぁ。自分より弱くて、軟弱で、救えない、気持ちだけが空回りしてる雑魚野郎(・・・・・・・・・・・・・・・・)にお前の隣に立つ資格なんてありはしねえ。他ならないお前がそれを認めねえ」

 

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ(・・・・・・)」 

 

 

椅子を飛ばして、立ち上がり。僕は外へ飛び出した。

 

 

━━━━━━━━━━

現在

 

 

「あああああぁぁぁァァ!」

 

自分が恥ずかしくてみっともなくてあまりに思い上がっていた。笑い種に使われ侮され失笑され挙句の果てには庇われるこんな自分を、消し去ってしまいたいと思った。

 

 

(僕は、馬鹿かっ!!) 

 

 

青年が放った言葉全てが今の僕を体現している。

 

誰かを守るためには!強くなるためには!『何をすればいいのだろうか』じゃない!『何もかもしなければ』、自分は大切な女の子の前に立つことすらできない。

 

殺意を覚えるのは青年でも周囲で馬鹿にしていた他人でもない。何もしていないくせに「きっといつかは」なんて期待していた、愚かな自分に対してだ。

 

 

(悔しい、悔しい、くそっっ!!) 

 

 

青年の言葉を肯定してしまう弱い自分が悔しい。何も言い返すことのできないほど無力な自分が悔しい。彼女の隣に立つ資格を、失ったと思い何もしなかった自分が、堪らなく悔しい。

 

 

「……ッ!......あれは」

 

 

気づけば目の前に迷宮の上に築き上げられた摩天楼施設(バベル)が見えた、腰に着けたナイフを握りしめ、装備もままならないまま、目指すはダンジョン。目指すは高み。僕は闇に屹立する塔に向かってひた走った。

 

 

━━━━━━━━━━

豊饒の女主人 ヘスティアSide

 

 

「ベル(さん)(君)!?」

 

 

ベル君が走ってお店を飛び出して行った。追いかけなくちゃ!

 

 

「シルさんこれ代金です!」

 

 

トネリコくんがシル...君にお金を渡し、席を立つ。

 

 

「あぁン?食い逃げか?」

 

 

「うっわぁ、ミア母ちゃんのところでやらかすなんて......怖いもん知らずやなぁ」

 

 

困惑したざわめきがあちらこちらから燻ぶり始める。

 

...ベル君が立ち去った時、ボクははっきりと見た...その赤い瞳に涙を浮かべてたことをっ...!!

めちゃくちゃ言ってやりたいことがあるけど今は、ベル君だ。覚えとけよロキぃ!

 

 

「行きましょう」

 

 

「うん!」

 

 

と駆け出す

 

 

「待って」

 

 

寸前のところで金髪の長い髪の少女...アイズ・ヴァレンシュタイン君に呼び止められた。

 

 

「アイズたん...どしたん?ってげっ!ドチビなんでここにいるんや!」

 

 

ちっ...見つかってしまった...よし腹を括るか。

 

 

「トネリコくん、ベル君のことは任せた。ここはボクに任せて追いかけてくれ」

 

 

「神ヘスティア...あまり感情的にならないでくださいね」

 

 

「わかっているよ、ちょっと話すだけさ」

 

 

「......はぁ...ちょっと(・・・・)ですよ」

 

 

「あの...えっと」

 

 

ありゃバレてるなこれ...あとヴァレンシュタイン君が言い淀んでいる...決して無視してるわけじゃあないんだよ?

 

 

「......あっ...アイズ・ヴァレンシュタインさん、あの時はベル共々助けていただきありがとうございました。すみませんが失礼します。」シュタッ!

 

 

「あっ...」

 

 

素っ気ない対応の速さにすごく悲しそうな顔してるぞヴァレンシュタイン君、......さてと

 

 

「ロキ、ボクが何故ここにいるかって?さっきまでここでボクの大切な眷属達とご飯を食べに来てたからさ!その1人が君たちの酒の肴にされてしまってお店を飛び出して行っちゃって中断になってしまったけどね!!」

 

 

「なんやと...?」

 

 

ごめんよトネリコくん...今ボクはこれ以上ないぐらい怒っているんだ。

 

 

「おいおい大きな声で言ったつもりだけど、聞こえなかったかい?君の眷属が話題に出してたトマト共はボクの大切な眷属(かぞく)だって言ったんだ!」

 

 

『......ッ!?』

 

 

ヘスティアの身体から光が漏れ出し酒場の中だけ時間が止まった感覚に陥る。誰も体を動かせず。立っていたものは跪く。

 

 

「さっきの話を聞いていれば…ミノタウロスが上層に出たのは君たちから逃げたかららしいじゃないか」

 

 

「ああ、いや勘違いしないで欲しい。どうしてミノタウロスを早く倒さなかったんだとか言う気はないぜ?ダンジョンはイレギュラーで満ちている。モンスターが逃げるなんて事例は今まで無かっただろうしね。ダンジョンの中でのことは互いに不干渉だろ?。それに冒険者になって、たった2週間の彼らが5層に行くのも無謀な事だった。それは認めるさ、ただね…」

 

 

「ボクはその時の彼らを笑い話にしたことが許せない」

 

 

より一層光が強くなる。

 

 

「都市最大派閥の一角として君達の築き上げてきた偉業はボクでも知ってる。だからこそ自分達の失態で起こった悲劇を嗤った今の君たちをボクは許せない」

 

 

「彼らは死にかけた(・・・・・)んだ、君たちにとっては取るに足らない相手かもしれないが、駆け出しがミノタウロスと出会って怖気付くことがおかしいかい?必死に生きるために逃げて行き止まりに追い込まれ、死の恐怖に襲われ絶望した彼らがそんなに可笑しいかい!?ヴァレンシュタイン君が間に合ってなかったら2人して死んでたんだ!!」

 

 

誰も何も言わない。いや正確には喋れない。ヘスティアの逆鱗を踏み抜いたことで漏れだした神威(アルカナム)によって。

 

 

「......やめい...ヘスティア(・・・・・)......神威(アルカナム)抑えんかい…ほかの神のなら大丈夫やろうけど元オリュンポス十二神(・・・・・・・・・・)の一柱のお前の神威を受けて(うち)はともかく子供達が何も言えんくなってるわ」

 

 

ロキに咎められ少し落ち着く。

 

 

「......すまないね…ここまで怒ったことなんてないから加減ができないんだ」

 

 

ロキに言われてというのは癪に障るが神威を抑える。

 

 

「......失礼、女神ヘスティア」

 

 

「君達は?」

 

 

ボクの前に小人族(パルゥム)、エルフ、ドワーフが1人ずつ跪く。

 

 

「僕は二つ名を【勇者(ブレイバー)】、真名をフィン・ディムナ、【ロキ・ファミリア】団長をしています。こちらは幹部の」

 

 

「二つ名を【九魔姫(ナイン・ヘル)】、真名はリヴェリア・リヨス・アールヴといいます」

 

 

「儂は二つ名を【重傑(エルガレム)】、真名をガレス・ランドロック」

 

 

「...ボクはヘスティア、【ヘスティア・ファミリア】の主神で炉の女神だ。」

 

 

簡単な自己紹介を行う。

 

 

「まずは立ちなさい。それで何だい?」

 

 

彼らは立ち上がり、ボクの目を見て、

 

 

「女神ヘスティア、うちの団員が貴女の眷属を侮辱し嘲笑ったことをここに謝罪させてほしい。」

 

 

「本当に申し訳なかった」

 

 

小人族くんに続き、他2人も頭を深く下げてくる。

それを見て驚く若い団員と…動ける範囲で頭を下げてくる他のロキの眷属達...こういうのは少しむず痒い...ボクのキャラじゃないのさ。

 

 

「うちも主神(おや)として謝るわ。すまんかった。」

 

 

はぁ...あのロキも頭を下げるなんてね...彼女は眷属を持って本当に変わった。良い方にね。

 

 

「わかった、君達の誠意を受け取ろう。だがそれを言う本当の相手はボクじゃあない」

 

 

「もちろんです。女神ヘスティア、後日改めて貴女の眷属に謝罪するための機会を設けていただきたい。無論贖罪もさせてほしい」

 

 

と言ってくる小人族くん、空いてるといえばいつでも空いてるしなぁ。

 

 

「日程は君達に合わせるよ。まだ遠征の後処理が残ってるだろう?後でギルドを通して教えてくれればいい」

 

 

「わかりました」

 

 

「あぁそれと、このことを公にするつもりはないぜ」

 

 

「感謝します」

 

 

ならこれで話は終わりだ。と女将くんの方を向く。

 

 

「騒がしくしてすまなかったね女将くん」

 

 

「別にいいさ...それにしてもあんた根性のある女神だね」

 

 

「子供のためならなんだってできるよ、愛する子供がバカにされて怒らない主神はいないだろう?」

 

 

「あっはっはっは!いい女だねぇ!いつでもここに来な、金さえ払えば、美味いもん食わせてやるよ」

 

 

「あぁ、3人でまた来るよ」

 

 

と、ボクもベル君を探すために外に出ようと……

 

 

「待って!...ください」

 

 

デジャブ。出入口の方を向けばアイズ・ヴァレンシュタイン君が行かせないとばかりに佇んでいる。

 

 

「アイズ!何してる!?これ以上迷惑をかけるんじゃ「ごめんなさい」......」

 

 

エルフくんがヴァレンシュタイン君を怒る声が聞こえていたけど、それでもはっきりと聞こえてきた謝罪の声。でもそれを伝えてる相手はエルフくんではなく、ボクだった。

 

 

「...私達のせいで2人を危険な目に遭わせ...ました」

 

 

「今だって...貴方たちを傷つけ...ました」

 

 

「......ごめんなさい」

 

 

なんか怒られる前の子供みたいだ...正直なんだね彼女は...ボクも伝えなきゃいけないことがある。

 

 

「君が謝ることなんてないさ」

 

 

「...でも」

 

 

「ベル君とトネリコくんから君のことは聞いていたよ、君が助けてくれたから自分たちは今生きているんだってね」

 

 

「だから感謝こそすれ、恨むことはないよ」

 

 

「ボクの眷属を救ってくれてありがとう」

 

 

「君はボクたちの恩人だ」

 

 

「いつか2人と会ってあげてくれないかい?2人してちゃんとお礼がしたいって言ってたからね」

 

 

ボクの言葉を聞いてヴァレンシュタイン君は微笑みを浮かべた。と同時に出入口から退いてくれた。よし今度こそベル君を探しに...あっ

 

 

「狼人君」

 

 

「............なんだ」

 

 

「ベル・クラネルは必ず強くなるよ」

 

 

「............」

 

 

その言葉を最後に今度こそボクは酒場を飛び出した。

 

━━━━━━━━━━

ロキ・ファミリアSide

 

 

巨乳黒髪ツインテールの女神が出ていってからも酒場のある一角、ロキ・ファミリアが座る席は静かだった...

 

 

「......ふぅ...あんなにガチギレしたドチビは初めて見たわ」

 

 

ロキが口を開き、呟く様に言う。

ヘスティアと知り合ってから100年と少し、いつも言い合いや取っ組み合いはするがあそこまでの怒りはロキも見たことがなかった。

 

神威が漏れ出す程の怒り、自分も同じ立場だったら同じことをしたかもしれない。いや絶対するわ、とロキは結論に至った。

 

 

「ロキ」

 

 

「なんやフィン?」

 

 

「今回の件は全て我々の不手際が招いたことだ。女神の怒りを買ったにも関わらずこちらの面子まで守ってもらった。だからこそ後日に贖罪として彼らの提案を可能な限り全て呑むがいいかい?」

 

 

と提案するフィンにしぶしぶ答えるロキ。

 

 

「ええで...あのドチビに貸しができたのは確かやしな」

 

 

「ありがとう」

 

 

「それにしても女神が怒るとすごいんだねー」

 

 

「あんたねぇ...」

 

と緊張感のない感想を述べる「女戦士(アマゾネス)」の少女……ティオナ・ヒリュテと、呆れたような視線を送るティオナの姉……ティオネ・ヒリュテ。

 

 

「なんかもう足が動けなくってさ!よくアイズは動けたね」

 

 

「......?普通だったけど」

 

 

「えぇ?」

 

 

アイズとティオナに認識の違いがあると周りは感じた。

 

 

「まぁせやろな」

 

 

「どういうことですか?」

 

 

違いを肯定したロキに質問をしたのは山吹色のエルフ……レフィーヤ・ウィリディス。

 

 

「自分の眷属からアイズたんに救われたって聞いてたみたいやし、アイズたんだけには神威向かないようにしたんやろ」

 

 

と答えるロキ。

 

 

「じゃあさ、ロキもあの女神みたいなことできるの?」

 

 

あの跪かせるやつー、と単純な好奇心から聞くティオナ。

 

 

「あれほどのは無理やな」

 

 

ロキは断言した。

 

 

「神は下界では神の力を使えんし、子供たちとなんら変わりない身体で生活しとるからここでの違いはない」

 

 

「けど天界(あっち)では違う」

 

 

「神格が違うんや...ドチビとうちは......あっちの方が上や」

 

 

「あのロキ様、オリュンポス十二神ってなんですか?」

 

 

先程、ロキが言っていた単語を聞くレフィーヤ。

 

 

「あーそれな...説明するのややこしいんやけど」

 

 

「うちら神には神話体系っていう...派閥みたいのがあるんや」

 

 

「うちは北欧神話っちゅうところやけど、その派閥の中で1番の勢力があるのがドチビのいるギリシャ神話や」

 

 

「そんでギリシャ神話の中で上位12柱の神の事をオリュンポス十二神って言うんや。そこにドチビは入ってる」

 

 

ゼウスとヘラもやと話すロキ、「男神ゼウス」「女神ヘラ」この名前を知らないオラリオの民はいないだろう。

かつての世界最強派閥、1000年以上続くオラリオの歴史に寄り添い君臨し続けた伝説。その主神。

 

 

「怒らせちゃいけない(ひと)を怒らせちゃったんだね」

 

 

「ある意味でここにいたのがドチビで良かったわ、あれは善性の中の善性。ヘラだったら末代まで呪われてたで」

 

 

思いがけない名前に名前に青ざめる団員。

 

 

「っかァァ!こんなん飲まんとやってられんわ!ミア母ちゃん、酒ちょーだい!」

 

 

「無いよ」

 

 

「ヘあ?」

 

 

つい素っ頓狂な声が出たロキ。

 

 

「今日はもう、あんたら【ロキ・ファミリア】に出す酒も料理も無いよ。今あるやつ食ったらとっとと出ていきな」

 

 

「な...なんや...と...?」

 

 

「あれだけの騒ぎ起こしておいて追い出されないだけ感謝しな」

 

 

「......ベートを吊るせぇぇ!」

 

 

ロキの八つ当たりを受ける狼人の青年……ベート・ローガ

 

 

「はあ!?ざっけんじゃねえ!っておい!離しやが…ぐぉおおおおおおおおおお!?」

 

 

皆の手で地面に取り押さえられ、縄でぐるぐる巻きにされるベート。

 

 

「何をやってるんだあいつらは...」

 

 

「あはは...あれだけのことがあったのに賑やかなものだ」

 

 

呆れたリヴェリアにそう感想を言うフィン。

 

 

「今回の件は【ロキ・ファミリア】全体の落ち度だ」

 

 

「女神の怒りを買ってしまったにも拘わらずこの程度で済んでいるのは、神ヘスティアが温情のある神だったからだ。だからとはいえお咎めなしは許されない。黄昏の舘に戻り次第全員に罰を与える」

 

 

「そうだな...」

 

 

「それにしてもベル・クラネルか...どんな人物なんだろうね」

 

 

「何...?」

 

 

疑問を投げかけるリヴェリア。

 

 

「神ヘスティアが最後に言った言葉を聞いてから親指の疼きが止まらない」

 

 

「なんだと...?」

 

 

親指の疼き。いわゆる「勘」だが彼のはよく当たる。「第六感」とも言えるそれはその殆どが危機を知らせに来たものであり、【ロキ・ファミリア】がこの「勘」で危機的状況を脱したことは少なくない。だが

 

 

『ベル・クラネルは必ず強くなるよ』

 

 

「ベル・クラネルという者は、危険ということか?」

 

 

「それはわからない...ただベル・クラネルはこれから何かを為す...そんな気がするんだ」

 

 

この時、疼きの意味を理解できるものは誰もいなかった。

 

 

それは、誕生を予感したものということに

 

 




この世界観では、神話体系が存在しています

そして1番神格が強いのはギリシャ神話ということになっています

なぜヘスティアが跪かせたかというと、神威を浴びた結果跪いてしまっただけで意図してやった訳ではありません。

2部第5章のオリュンポスでのワンシーンをイメージしました


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7話

 

 

酒場を飛び出してから数時間たったと思う。

僕は今ダンジョンにいる。

 

見つけたモンスターをすれ違いざまにナイフで切りつけ、襲ってきたモンスターは全て迎撃しながら先へと進む。

 

八つ当たりだ。弱い自分が嫌だからその苛立ちをモンスターへとぶつけている。

 

ずっと走り続けているのに、全く疲れを感じない。攻撃を受けても痛みはそんなに感じない。むしろ絶えずに湧き出てくる悔しさを糧としてナイフを振り続ける。

 

ゴブリンを、コボルトを、倒し続ける。

 

そして今、目の前には人と同じぐらいの大きさの茶色のトカゲ「ダンジョン・リザード」がいる。

 

トネリコと一緒に何度も倒したことのあるモンスターだ

でも今、彼女は傍にはいない 僕だけだ。

 

ナイフを強く握る。まだ戦える。まだ足りない!

 

 

「はぁぁあああ!」

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

あれからもずっとモンスターを倒し続けた。

 

 

「はあっ!」

 

 

巨大な単眼を持った蛙のモンスター『フロッグ・シューター』。

 

 

『ィィアッ!?』

 

 

を倒し、まだ先へと進む。

 

 

「っ...!?ぐぅ......はぁ...はぁ...」

 

 

身体中の傷から痛みが送られてきた。と同時に理性が戻ってくる。

 

現状を一旦把握しようと周りを見渡す。

僕を取り囲むダンジョンの壁は見慣れていた薄青色のものから、淡い緑に変わっていた。先程まで出くわしていたモンスターの種類も、今まで交戦してきた低級モンスターとは違っていた。

 

 

「5階層......いや、6階層...かな」 

 

 

曖昧な記憶の、自分が下った階段の数を計算し、結論する。

 

どうやら、僕はこれまで足を踏み入れたことのなかった新階層にいるみたい。痛みで意識を保っている状態で、何かに突き動かされるように、次なる標的を探す。引き返すという選択肢は、今の僕が考えつくことはなかった。 

 

 

「はっ、は……」 

 

 

それにどっと疲労を感じる...感じてなかっただけで蓄積されているみたいだ。

 

 

「......ここは」 

 

 

歩み続けて。僕は広い空間に辿り着いた。

 

僕は部屋の真ん中まで足を進め中央の辺りで立ちつくす。

ざっと周囲を眺めてもこの広間から先に繋がる道は見当たらない。

 

どうやら僕が来た道が、この広間に繫がる唯一の出入り口のようだ。あの時のトラウマを思い出す。

 

ここにいては危険だと判断した、引き返そうと体を後ろに回す。

 

──その直後だった。

 

 

「......!?」

 

 

ビキリ、ビキリ、と。静まり返っていた広間に、何かが割れるような、得体の知れない音が鳴る。僕は弾かれたように顔を上げ、音の発生源を探すために辺りを大きく見回した。

 

見つけた...音の発生源はダンジョンの壁からだった。

 

つまりモンスターが生まれる。

 

生じた亀裂から飛び出したモンスターの手が宙をもがく。力任せに壁にひびを刻んでは一つ、一つ、体のパーツを露わにしていく。ばらばらと地面に落下するダンジョンの破片。最後に一際大きな破砕音を鳴らし、モンスターは地面に足をついた。 

 

一言で言い表すなら『影』だった。

 

身長は僕とほぼ同等。手足の先から頭のてっぺんまで黒色に染まり、そのシルエットは限りなく人の形に近い。

 

影がそのまま浮かび上がったような怪物

6階層出現モンスター、『ウォーシャドウ』。

 

 

「...っ!」

 

 

がしゃりっ、と後ろからも上がる音に振り向けば、もう一体のウォーシャドウが同じように壁から産まれ落ちるところだった。

 

二対一。形勢不利。ここに来てダンジョンが本性を現してきた。

 

 

『......』 

 

 

発声器官が備わっていないウォーシャドウ達は無言で体を起こし、静かに戦闘態勢をとる。

 

 

「......ふぅ」 

 

 

呼気を一つ吐き出し、モンスターの血で赤く汚れてしまったナイフを握り直す。あの時と同じ絶体絶命。頭に浮かぶのはあの酒場で起きた光景。叩きつけられた現実。あのような醜態を晒した自分への怒りで身体中を走る痛みを押さえつけ再び戦闘態勢を取る。

 

 

「倒す!!」

 

 

僕の無謀な戦いが始まった。

 

ウォーシャドウは鋭利な爪...いや『指』を持つ。異様に長い両腕の先には三本の指が備わっており、鋭いそれはナイフの形状そのものだ。ゴブリンやコボルトとは比較にならない移動速度でその両手の武器を用いて攻撃を仕掛けてくる。 

 

ウォーシャドウの戦闘能力は6階層のモンスターの中でも随一と言っていい。『上層』と定められるダンジョン1階層から12階層の内、新米の冒険者では敵わないモンスターの筆頭だ。

 

 

「っっ!?」

 

 

事実、その通りだ。

 

一方的に攻められ、傷を負う。

 

2匹のウォーシャドウが繰り出す攻撃は1匹ならば単調なものだが息のあった連携のせいで全く隙がない。一撃でも喰らえば生死に関わる威力を持っているため、絶対に喰らう訳にはいかない。

 

これまで体験のしたことのない速さで黒手が振るわれ、服ごと肌を薄く傷つける。

 

長いリーチを誇る腕のせいで自分の間合いへ相手を引き込めない。

 

近付くことを、許されない。

 

今まで命を預けてきたナイフを心許ないと思ったのは初めてだ。

 

今までのモンスターとは明らかに違う。反撃がままならないほど、付け入る隙が見つけられないほど、逃げ出すこともかなわないほど。

 

ただ単純に、強い。

 

 

『...』

 

 

「ぐ──っ!?」 

 

 

一言も発さずに放たれる一撃。

 

それを回避すれば後ろからもう1匹の腕が伸びてきて僕を襲う。

 

避けるので精一杯。いやそれでも掠めるギリギリだ。

これがいつまで続くかわからない。未だに身体中の痛みに襲われているからだ。

 

死ぬ─────なんて考えが頭をよぎる。

 

でも死ねない...絶対死ねない。

 

考えろこの状況を打破できる方法を!隙がない訳がない。必ずどこかで綻びが生まれる。待て、その時まで相手の動きをよく見ろ!

 

2匹のウォーシャドウの攻撃を観察する。腕を振りかぶってきたら攻撃...いや突っ込むだけじゃ2匹目にやられてしまう。

 

ウォーシャドウAが大きく右腕を振り下ろす。それをバックステップで避けた。

 

距離が空く。だが腕を振り下ろしたウォーシャドウの後ろにいた2匹目は僕に向かって高く跳び上がり、距離を詰めてくる。

 

──────────今だ。

 

地面を蹴り、跳んでいるウォーシャドウの下を通り、右腕を振り下ろしたウォーシャドウに接近する、今まで避けてただけの僕が突っ込んできたことに対する狼狽えを感じた。

 

その隙を逃さない!

 

 

『...!!』

 

 

「ふっ!」

 

 

ウォーシャドウは接近する僕を迎撃するため左腕を横に振るうが、それを左手に持つナイフで弾く。

 

 

「はぁぁぁあああ!!」

 

 

『......!?』

 

 

顔面の鏡面に向けて右拳で一撃を放つ。僕のパンチは相手を貫いた。ドロっとした黒い液体が僕の腕を通って下に滴る。顔を貫かれ短く痙攣したウォーシャドウは、全身から力を消失させがくっと膝を屈する。

 

次だ。

 

モンスターの顔面から腕を引き抜き、着地し仲間を倒され硬直した様子を見せているウォーシャドウに、電光石火の勢いで攻撃を仕掛ける。再び敵の懐へと潜り込もうとするが、ウォーシャドウが僕に腕を振ろうとする、ナイフでは間に合わないと思った僕は、渾身の蹴りを相手の顔面に放つ。

 

パキリと音を立て目を潰した。

 

 

『...!?...!!!』

 

 

前が見えなくなったせいか、両腕で暴れながら手当り次第攻撃している。そのままダンジョンの壁側へと進み、ぶつかった。

 

 

「今!......ッ!?」

 

 

壁にぶつかり倒れたウォーシャドウにトドメを刺すべく僕は走り出す。

 

だがその時、今まで感じたことの無い程の恐怖を感じた。まるでお前を殺すと言わんばかりの殺気と言えばいいのだろうか。

 

さっきまで僕の意識は、目の前のウォーシャドウにしか向いてなかった。

 

だから僕は...倒れたウォーシャドウの真上、天井から黒いモヤが立ち込めていることを見逃していた。

 

 

「あれは...何?」

 

 

身体があれを拒否している。理解してはいけない。見てはいけない。体の中の何かがそう訴えている。

 

そしてそのモヤはウォーシャドウへと向かい。

 

 

『...!!!......!!!!!』

 

 

取り憑いた。

ウォーシャドウはさっき以上に暴れ出す。まるで体に張り付いた何かを取ろうともがいているようにみえる。

 

僕はそれを見ることしか出来ない。ミノタウロスの時とは違う恐怖に支配されている。それは「未知」だ。

 

あれがわからない /怖い

 

理解できない /怖い

 

足が動かない /怖い

 

 

ウォーシャドウがぴくりとも動かなくなった。僕の位置からは背中しか視認できない、逃げろと頭の中に警鐘が鳴り響くも僕は動けない。

 

そして『それ』はゆっくりとこちらを振り向いた。

 

赤い目のようなものと視線が合う。

 

 

「...!?」

 

 

恐怖 怨み 悲しみ 苦しみ 憎悪 嫌悪 怒り 困惑 軽蔑 殺意

 

何を考えているかわからないその瞳からはそれらが感じ取れた。

黒いモヤモヤに赤い目、見たことは無いが話で聞いたことがある。

 

「『災害(モース)』......」

 

 

そう口からこぼれた。出会いたくないといつも思っていた…それに僕は今相対している。

 

いやあれはもうモースでは無い。僕がさっき蹴り壊した顔面に黒いモヤが憑いてる。まるで仮面のようだ。モースがモンスターに取り憑いた姿をギルドは『死の仮面(デッドフェイス)

と呼称している。

 

 

気持ち悪い

 

 

「っ.......ぐっ!?......ガハッ!!」

 

 

恐怖と思考に捕らわれた隙を突かれ、理解できない唸り声をあげたデッドフェイスの攻撃が僕を襲う。直撃してしまった。僕の体が空中を舞い、ダンジョンの壁に叩きつけられる。

 

 

「はっ...はぁ...ぐぅ!...」

 

 

強い衝撃が身体を走る。それに呼応するように痛みがさらに強くなる。意識が薄れ、視界がぼやける中、こちらにゆっくりと近づいてきたデッドフェイスの姿が見える。止めとばかりにそれは右腕を振りあげる。

 

目の前の光景に時間の流れがどうしようもないほどゆっくりになった。壮絶な勢いで過去の記憶が頭の中に流れていく。走馬灯...か、今までの人生の記録が再生された。その中でも、一際鮮明な光を放つ彼女との出会い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ある出会いがあった。

 

 

おそらくは、彼女にとってなんでもないありふれた光景。

 

 

────けれど。

 

 

その姿を、僕は二度と忘れない、何度生まれ変わろうとも必ず思い出す。

 

僕の魂にやきついた黄金の記憶。

 

月光に照らさせた金色の髪。

 

優しく微笑む顔にとても綺麗な碧眼。

 

こちらに差し出す手には冷めてしまったジャガ丸くん。

 

 

────その日、僕は運命に出会ったんだ。

 

 

 

 




誤字脱字報告ありがとうございます。ちゃんと見直してはいるのですが、やっぱりあるみたいです。

頑張ります


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8話

原作を読みながら執筆してるもんだから、書いた話とダンまちの設定、そして今後の展開の調整をしていると話が全く進まないです!

頑張ります


 

 

僕はオラリオから少し離れた田舎で育った。

 

両親は僕が物心つく前に既に他界しており顔も声も知らない、一年前に育ての親の祖父が亡くなり保護者を失った後、残った財産を持って村を飛び出した。

 

言わずもがなダンジョンでの出会いを渇望していたからだ。

 

 

『男ならハーレム目指さなきゃな!』

 

 

幼い僕へ何度もそう言い聞かせていた祖父の清々しい笑みを、今でも鮮明に覚えている。

 

祖父が読み聞かせてくれた英雄譚が大好きだった。怪物を退治し、人々を救い、助けを求める女の子の元に颯爽と現れる、そんな格好良い英雄達のように自分もなりたいと、当時の僕は本気でそんな夢を見ていた。

 

オラリオに行けば、冒険者になれば、ダンジョンにもぐれば、その夢は叶うかもしれないと思っていた。

 

だけどオラリオに着いた先に待っていたのは、酷く冷たい洗礼だった。

 

オラリオに着いた僕は、最初にギルドに向かった。冒険者になりに来ました!と告げたけれど、冒険者になるには神様からの恩恵を授けてもらわないといけないらしい。僕の話を聞いてくれたエイナさんから探索系ファミリアの拠点の場所を教えてもらい、宿を取ってから入団試験を受けに向かった。

 

結果は惨敗。門前払いにされたし、身長とかバカにされたりした。オラリオについて3日目で資金は底をついた。宿からは追い出され、行く宛てもなかった。

 

それからはどこかの裏路地でずっとうずくまっていた。お腹がすいた。辺りは既に暗くなっていた。なんでここに来てしまったんだろうと考えることもあった。

 

僕の冒険は始まる前から終わってしまった。と絶望していたら。

 

 

「あの...大丈夫ですか?」

 

 

そんな透き通った声が聞こえてきた。

 

顔をあげればそこには金色の髪を月明かりに照らし、魔導師が持っていそうな杖を持ちながら心配する表情を浮かべている少女が立っていた。

 

 

「...ぇ...ぁ...大丈夫...です」

 

 

声が掠れている...そういえば水も飲んでいなかったな……なんて、そんなことを思っていた矢先、ぐゥと僕の腹が情けない声を吐いた。

 

 

「お腹空いてるんですか?」

 

 

「.........はぃ」

 

 

「だったらこれ...どうぞ」

 

 

そう言って僕に差し出してきたのは、茶色の食べ物...たしか...。

 

 

「これはジャガ丸くんです。お芋を潰して揚げただけのものなんですけどね、おやつに食べようと思って買ったのですが、少し買いすぎてしまって...もう冷めてしまってますが良かったら」

 

 

「ありがとう...ございます...」

 

 

僕は彼女からジャガ丸くんをひとつ貰い口に運ぶ。

 

なんてことは無い。普通の味のはずなのに。

 

 

「......っ......ぐぅっ.......うぅ...」

 

 

ちょっとしょっぱい、そしてとても温かい。すごく...すごく美味しい。

 

 

「......まだありますからゆっくり食べてください」

 

 

これお水です、と水も恵んでもらった。

 

久しぶりに人に優しくしてもらったからか…涙が止まらない。

その時の僕はみっともなく彼女の前で泣き続けた。

 

 

それから少し経ち、気持ちが落ち着いてきた、ジャガ丸くんでお腹も膨れて精神的にも余裕が出来た。

 

 

「それでどうしたんですか?こんなところに居たら風邪ひいちゃいますよ?」

 

 

「えっと...」

 

 

僕は簡潔に話した。今日までの出来事を、初対面の人に言うことではないのかもしれないけど、それでもこの人になら話しても大丈夫と確信を持っていた。

 

 

「なるほど冒険者に...」

 

 

「...はい」

 

 

「大変でしたね」

 

 

「......はいっ...」

 

 

「ふむ...」

 

 

いつの間にか隣に並んで座っていた彼女は、手を口に当て何かを考える、そして数秒後、意を決したように顔をこちらに向けて言った。

 

 

「私と来ませんか?」

 

 

「え?」

 

 

「実は私もやるべき事があってオラリオに来て冒険者に...というかファミリアに入りに来たんです」

 

 

「ですがどこに行ってもここだ!っていうところが無くて...それにまだオラリオに来て2日目で...土地勘も無くて...あはは...」

 

 

「それであの...2人でまだ行ってないファミリアに行ってみませんか?きっと私たちを入れてくれる所があるはずです」

 

 

そんな提案をされて僕はすごく驚いた。でも。

 

 

「僕が居たら...迷惑かけちゃいますよ?」

 

 

実際そうだろう。きっと彼女だけなら入れるとか言われて僕は断られちゃう。そんな考えが頭を支配する。

 

 

「なら私もそんな所には入りません」

 

 

「え...?」

 

 

「言ったでしょう?私たち2人を入れてくれるファミリアが見つかるまで探しましょうって」

 

 

と彼女は言う。まるで僕の考えが見透かされてるみたいだ。

 

 

「...ヤバ...あ...えっと...貴方結構顔に出やすいんですね!」

 

 

考えていることバレバレですよ!と言う彼女...まぁ村の人にもわかりやすいと言われてたし...え...そんなに?

 

 

「それにきっとこれは運命だったんです」

 

 

「はい?」

 

 

なにか言い出したぞ。この美少女。

 

 

「ビ!?...つまりですね…えっとなんかほっとけなかったんです!」

 

 

ええー。

 

 

「貴方がここにうずくまっていて私がたまたまここを通った、そしてほっとけなかったからつい声をかけてしまった。ほら運命でしょ?」

 

 

ええー...。

 

 

「なんなんですかその表情は、私のジャガ丸くん食べたんだから協力してくださいよ!」

 

 

そっちからくれたのに!?

 

 

「......ふふっ...冗談です...少しは元気が出たみたいですね」

 

 

からかわれてどっと疲れたけど、うん...少し気持ちが晴れたみたいだ。

 

 

「ありがとうございます。食べ物も頂いちゃって...」

 

 

「気にしないでください、あげたくてあげたんですから」

 

 

「それでどうしますか?一緒に来ます?」

 

 

再度問いかけられる。

 

 

「あっお金のことは気にしないでください。あなたを1週間は養えるぐらいはありますから」

 

 

「それに無くなったら作ればいいですし…」ボソ

 

 

えっ...今なんかやばいことが聞こえてきたぞ。

 

 

「...ンンッ...コホン...えっとそれで答えは?」

 

 

「本当に...いいんですか?」

 

 

「私の方から誘ってるんですよ?いいに決まってます」

 

 

「旅は道連れ世は情けという言葉が東洋にあるみたいですし、まさにそれです」

 

 

「じゃあ...よろしくお願いします」

 

 

「ええ、こちらこそ」

 

 

よいしょっと立ち上がる彼女。

 

 

「あ、そういえばまだ名前聞いていませんでしたね、私はトネリコ、ただのトネリコです。貴方は?」

 

 

「ベル...ベル・クラネルです」

 

 

「響きのいい名前ですね、ではベル、と...そう呼んでも?」

 

 

「はい、いいですよトネリコさん」

 

 

「さん付けはいいですよ。同年代でしょう?トネリコと呼んでください」

 

 

あと敬語もやめてくださいね?と言う彼女。

 

 

「...わかった、よろしくね。トネリコ」

 

 

「はい!これからよろしくお願いしますね!ベル」

 

 

と手を差し伸ばしてくる彼女の顔はとても...とても綺麗な笑顔だった。あぁ...そうか、僕はこの時、君に心を奪われたんだ。

 

ダンジョンの中ではなかったけれど、僕が助けられる側だったけれど、

 

『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか?』

 

再結論

僕は間違ってなんかいなかった。

 

 

だから今度は、僕が君の力になりたい...そう心に誓ったんだ。

 

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

「穿て!シャスティフォルッ!」

 

 

そんな声が聞こえてきて、僕の意識は現実へと帰ってきた。

 

 

鋭い速さを持った光が彼女の持つ短剣(魔導具)の剣先から放たれ、デッドフェイスを狙う。

 

 

『......!?』

 

 

振り上げていた黒腕を盾にして、その一撃から身を守るも、光の勢いで横に吹き飛んだ。

 

 

「ベルッ!生きていますか!?」

 

 

「............なんで...」

 

 

君がここにいるんだ。トネリコ...。

 

 

「あなたを追いかけてきたに決まってるでしょう!なんでこんな装備でダンジョンなんかにッ......死にたいんですか!」

 

 

そう声を荒らげる。当たり前だ。僕の今の服装はダンジョンに潜る用のものではなく。ただナイフを帯刀してただけの普段着だ。こんな装備でダンジョンに来れば自殺行為と思われても仕方ない。

 

 

「とにかく私の後ろにいてください!あれを排除します」

 

 

そして彼女は、僕を庇うように、怪物との間に入る。

 

庇われる。あの時と同じように。

 

まただ。また僕は彼女に助けられる。

 

さっき思い出したのに。僕の根源を、強くなりたい理由を。

 

 

「ぃ...やだ......」

 

 

「ベル?」

 

 

...立て。

 

......立てっ。

 

.........立てよッ! 

 

何度助けられば、気が済むんだよっ!?

 

同じ時を繰り返すのはもう御免だ!

 

この人に助けられるだけの弱い自分なんて、絶対に、御免だ!

 

大切な人の前でこれ以上醜態を晒してどうする!

 

誰よりも想いを伝えたい人の前で、これ以上格好悪い姿を見せてどうするんだ!

 

 

「嫌だ...僕はもう...助けられるだけなんて...絶対嫌だ!」

 

 

そんなこと、耐えられない! 

 

ここで格好をつけないで、いつ格好をつけるんだ!

 

ここで立ち上がらなくて、いつ立ち上がるっていうんだ!

 

ここで立ち向かわないで、立ち向かうっていうんだ!

 

 

「貴方はこんな時に何を言って「僕はッ!」......!?」

 

 

僕は立ち上がり、トネリコを真っ直ぐ見る。

 

 

「僕は、強くなりたい」

 

 

君の力になれるように。

 

 

君の支えになれるように。

 

 

「だから僕は、もう君に助けられてばかりではいられないんだッ!!」

 

 

彼女の手をつかみ、自分の背後に押しやる。僕は、自分の意志で彼女の前に出た。

 

背中に刻まれている【神聖文字】が、熱を帯びたような気がした。ここには居ない。もう1人の大事な人の笑顔が浮かぶ。

 

 

「行くぞ...!」

 

 

僕はあの怪物へと駆け出す。

 

 

『...!!!』

 

 

「勝負だッ!」

 

 

ナイフと右腕がぶつかり合う。

 

 

「くっ!」

 

 

だが相手の方が力が強く、後ろへと押し返される。

 

 

『......』

 

 

デッドフェイスは左腕を振るい追撃してくる。それを間一髪で躱し、すれ違いざまにナイフで腹を切り裂く。

 

だが、痛みを感じないのか(・・・・・・・・・)気にする素振りすら見せず、体ごと一回転し再度左腕を振り抜いた。

 

 

「ぐっ!?」

 

 

その攻撃は、僕に直撃した、すごく痛い。

 

 

「ベルッ!」

 

 

悲痛な声が聞こえる。短剣を握りしめ、今にも助太刀してきそうだけど、どうやら見守ってくれるらしい。

 

なら。

 

負けられるわけがないだろう(・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「ああぁァァ!」

 

 

『...』

 

 

ナイフを振るい、黒腕を弾く。

 

戦法を変える。

 

一撃を与えたら、1歩引く。ヒットアンドアウェイというやつだ。

 

何とか一撃を貰わずに戦えている。けど。

 

攻撃は当たっているはずなのに...ダメージをちゃんと与えているはずなのに...こいつ全く怯まない!

 

モンスターは、生き物だ。痛覚もあるし、恐怖を感じる本能がある。なのにこいつにはまるでそれがない!

 

ただ腕を振り下ろす。1連の動作を繰り返すように、僕の命を削り取ろうとする。

 

不気味だ。まるで既に死んでいる相手と戦っている(・・・・・・・・・・・・・・・)と錯覚する程に。

 

 

「くっ!?」

 

 

『...』

 

 

常に攻撃し続けること。それがこんなにも脅威だなんて!?

 

どうすればいい。モンスターの弱点である魔石は、モースに取り憑かれた際、失っていると聞く。

 

この状態が続けば、僕の限界が先に来る。

 

大きく振りかぶった右腕を避け、反撃とばかりにナイフをデッドフェイスの(仮面)に向けて、振るった時。

 

 

『...!!』

 

 

初めて...デッドフェイスは防御(・・)の行動をとった。

 

 

「っ!?」

 

 

防御されるとは思わなかったからか、少し動揺してしまった。

 

それを見逃す相手ではない。体全体を使って突進してくるデッドフェイス。

 

 

「ぐぁっ!」

 

 

もろに食らってしまい後ろへと飛ばされるけど...確認しなければいけないことができた。

 

僕が吹き飛ばされたところには先程倒した1匹目のウォーシャドウの死骸から生まれた。灰にならなかったもの、ドロップアイテム『ウォーシャドウの指刃』が3本落ちていた。

 

それをひとつ拾い、相手の顔に目掛けて全力で投擲した。

 

今度はそれを回避(・・)した。間違いない、弱点はあれだ(仮面)

 

2本残った内の1本の指刃を拾い上げ、その即席の武器を左手に持つ。柄のない刀身だけの指刃(ナイフ)を握ると、手の平は簡単に切れて、見る見るうちに血が流れ始めた。

 

 

──やってやる。

 

 

2つの武器を携えた僕は、狙いを一点に絞る。あの仮面を壊す。

 

 

「うああああァァァァァ!」

 

 

僕は、走る。

 

 

『...!!』

 

 

デッドフェイスも、こちらに向かってくる。

 

 

「はっ!」

 

 

『...』

 

 

剣同士がぶつかり合う。目の前の命を奪うために、剣戟を何度も繰り返す。

 

 

『...!!!』

 

 

そして大きく上げた左腕からの攻撃をナイフで逸らす。

 

するとデッドフェイスの赤い目は、細くなり、僕を嘲笑う。

 

左側から見える黒腕の攻撃、つまり先の攻撃は、囮だった。回避はできない。防御で受けきることもできない。当たれば死。それほどの一撃だけど。

 

僕の方が、速い。

 

 

「ふっ!」

 

 

デッドフェイスの黒腕が届く前に、左手に持った指刃を至近距離で相手に投げつける。

 

 

『...!?』

 

 

指刃は赤い両目の間に突き刺さる。けどまだ足りない。

 

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

 

右拳でナイフを握ったまま、突き刺さった指刃を殴り、さらに奥に刺しこむ。

 

 

『──────────』

 

 

デッドフェイスの動きが止まる。やがて仮面は...モースは黒い塵となって消えていく。それと同時にウォーシャドウの身体も塵になる。つまり。勝った。

 

僕は、倒した。あの災害を。

 

そんな事実を、認識した時。

 

限界が来たのか…体から力が抜け僕の視界は、真っ暗になった。

 

最後に見えたのは慌ててこちらに駆け寄ってくるトネリコの姿だった。

 

 

 




今まで出てきた(これから出す予定)魔導具解説

シャスティフォル=ビームが出る短剣、込める『魔力』に応じて威力が変わる。穿て!と言う必要は無いのです。

魔法のポーチ=簡単に言えば入れる物の大きさに制限がある四次元ポケット。

トネリコの杖=1番魔術が扱いやすくなるという理由で使っている。あと育ての母から貰ったもの。

爆弾=『魔力』を込めて使う。衝撃を与えると爆発するようになる。

煙幕=『魔力』を込めて使う。衝撃を与えると白い煙が出てくる。







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9話

いてて、キャスパリーグめ、僕の顔を引っ掻いて行ったよ…

さすがに塔の窓から落とすのは、嫌だったかな?あはは

君は触れてくるといい、本当に美しいものにね...


 

 

私が彼に出会ったのは、ただの偶然(・・)でした。

 

英雄候補(最後の英雄)を求めて、本当は彼より2週間前にオラリオに来た私は、色んなファミリアを見て回りました。

 

ですが1人たりともめぼしい人はいませんでした。

 

【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】の話を小耳に挟み、少し覗いてみれば、強い人はたくさんいました、きっと英雄というものになれる人もいました。ですが彼らでは最後の英雄にはなり得ないでしょう。

 

力だけでは、その資格を得ることは出来ない。

 

世界(・・)が求めている英雄は、純粋でなければならない。

 

ですが人間である以上、それは厳しいと思うのです。

 

人間は争いからは切り離せない、人間は善いことをしたいのではない、人間は善い明日のために最善を選び続ける生き物だから。その結果、多くの人が救われたことで人々から英雄と言われるのです。

 

最も冒険者にそれを求めることが間違いかもしれませんけどね。

 

だからこそこんなところ(オラリオ)の路地裏でうずくまってる貴方を見た時、ホントにいるんだと感心してしまったほどです。

 

その時は、魂が多少濁ってしまっていたけど、その奥にある純白の輝きを私は視た。透明?まさかそんなのはガワでしかない。その輝きはどんな穢れでも呑み込む程の強い光だ。

 

彼には資格がある。今この輝きを絶やす訳には行かない。

 

 

「あの...大丈夫ですか?」

 

 

だからこの手を、差し伸ばした。

 

そして彼から色んな話を聞いた。

 

育ての親の死、夢への憧れでオラリオに来たこと、この都市での洗礼。特に衝撃だったのは彼のオラリオに来た夢が...女の子との出会い...それもハーレムは志向...と貴方、育ての親を絶対間違えましたよ…。

 

えっ?ホントに彼が最後の英雄なんですか?純粋ってなんなんですか!?

 

いやでも単純とか素直という意味なのでしたらそうなのかも知れません。

 

話を聞くに宿屋にぼったくられてるし...今だって私に警戒心を見せていない、本当は手助けだけをして影から彼が成熟するまで見守ろうと思っていたけれどこれではいつか騙されて大変な事になってしまう。と思った私は彼のそばで見守ることにし、彼にファミリア探しの協力の提案をしました。

 

多少の嘘を混じえて。

 

なかなか納得しない彼に、運命とかわけわかんないことを言っちゃったけど、どうにか納得して貰えた。ちなみに彼ちょっと鋭いところあるんですね。この眼がバレたかと...。

 

 

「よろしくね。トネリコ」

 

 

そんな安心したと言わんばかりに笑顔を向けてくる彼に私は......。

 

世界の命運なんてものを背負わせる(・・・・・・・・・・・・・・・・)ことに罪悪感を感じながらも私は。

 

 

「はい!これからよろしくお願いしますね!ベル」

 

 

彼に向けて手を、再度差し伸ばした。

 

 

━━━━━━━━━━

 

私の目の前で繰り広げられていた戦いは、ベルの勝ちで終わった。

 

そしてベルが力なく倒れた。

 

 

「ベルッ!ベル!大丈夫ですか!?」

 

 

急いで駆け寄り、体を揺するけど反応がない、でも呼吸はしてる。どうやら疲労と蓄積したダメージで意識を失っただけみたい。

 

それもそうだろう、彼の身体のあちこちに傷があり、血が滲んでいる。こんな装備で駆け出しがソロで6層まで来て生きてることが奇跡なのだ。

 

ちなみに私は、ベルをホームに探しに行った時、そこにはいなかったので、一応装備をしてついでに短剣を持って再度探しに出た。すれ違いに神ヘスティアに会えたので、ホームで待つように言ったけど、まさかダンジョンにいるとは思わなかった。

 

それに気づけたのは、もう探すところが思い当たらず、広場でどこ行くか考えていたところ、背中に熱を感じたからだ。確証なんてなかった。それでも私のスキルが発動したと確信した。

 

『英雄作成』それはベルに対してのスキル...だと思う。

神ヘスティアが言うには、文字化けしているせいで1部が読み取れないらしい。でもその効果はきっとベルを苦しめる。

 

今回は間に合ったから良かった。あの怪物『デッドフェイス』は普通じゃなかった。『モース』はなぜ発生したかは解明されていない謎多き存在。でもわかってることもある。あれはダンジョン内を徘徊しモンスターに取り憑いて冒険者に襲いかかる。でもそこには意志を、感情を感じない、まるで無機物のような存在。

 

だからこそ不思議なのだ。あそこまでの悪感情を撒き散らす化け物ではなかったはずなのに。あれからは明確なベルへの殺意と嫌悪が視て取れた。モースが進化していると言われればそれで終わりなのだけど、そんなものでは無いと思う。むしろ存在自体が違う。まるでこの世界に終末を呼ぶようなそんな...。

 

 

『ギャァ!』

 

 

まずい、考え事に没頭しすぎた。どうやらモンスターがこっちに向かってきてるようだ。ベルは動けないから、彼を担いでモンスターを打倒しながら出口に向かわなければならない。

 

くそう、ダンジョンめ!やり方が汚いんだ。

 

でもベルは死なせない。きっと彼以降、資格を持ったものは現れない。

 

それに、先程の彼の目を見て確信した。ベルが叫んだ時に見えた赤い瞳は、深みを増し、深紅(ルベライト)の瞳へと変わり、その魂が一層輝いた。

 

なら命に変えても、彼を地上に送ろう。私が死んでも、どうせ後釜(・・)が生まれる。それならあとはその子に任せよう。彼を、最後の英雄になる可能性がある彼を、きっと導けるはずだ。

 

短剣を握る。これで魔力をぶっぱなせば、大抵の怪物は、倒せると思うから。彼を背負い、走る。

 

ほとんどのモンスターは無視だ。前にいるやつを、魔術で吹き飛ばし道を作る。この時間帯なら冒険者もほとんどいなくて、怪物進呈(モンスターパレード)になる心配もないだろう。

 

よし、行っくぞぉ!

 

すごい数のモンスターに追われるという絶望の中、私は少し安堵していた。彼を見出した私は間違ってなかったんだ......と。

 

━━━━━━━━━━

 

 

「はぁ...はぁ...」

 

 

結果的に、五体満足で出口までたどり着き、ダンジョンから脱出できた。今はホームの前に居る。

 

多少ピンチなところがあったけど、爆弾やら使ってやった。どうだ見たか!私の『道具作成』なめんなよ!

 

いや...疲れたからこのテンションはやめよう。

 

それに、早く彼の治療をしなければならない。神ヘスティアが心労で倒れてるかもしれないし…急ごう。

 

私は、地下部屋へと急ぎ足で歩を進め、目の前のドアを勢いよく開ける。

 

 

「ベル君!トネリコくん!」

 

 

祈るように手を合わせていた彼女は、こちらに気づき一目散に駆け寄ってくる。

 

 

「神ヘスティア、彼の治療しますから、水と清潔な布を持ってきてください、あとポーションありったけ!」

 

 

「君だって酷い怪我してるだろ僕が「早く!」...わかった!」

 

 

神ヘスティアに指示をし、私はベルをベッドに寝かせる。

 

上下の服を脱がせ、傷口の汚れを布で拭き取り、ポーションを含ませた布で覆う。

 

応急処置でしかないけど、幸いすごく酷い傷はない。あとは私の回復魔術を掛けて終わりだ。

 

 

「トネリコくん、何があったか聞かせてくれるかい?」

 

 

「実は...」

 

 

私は彼がダンジョンに潜っていたことを説明した。だけど詳しいことはベルが目覚めてからだろう。だから今できることは。

 

 

「神ヘスティア、私のステイタスの更新をお願いします」

 

 

「君もちゃんと治療しないとだろ?「お願いします」...わかったよ...君たちほんと強情なんだから...」

 

 

確認しなければならない、あのスキルを。

 

 

━━━━━━━━━━

 

トネリコ ヴィヴィアン

 

Lv.1 

 

力:I60→H 130

 

耐久:I20→I 88

 

器用:H 110→H 150

 

敏捷:I 50→H 106

 

魔力:H 170→G 253

 

 

《魔法》【 】

 

 

《スキル》

 

魔力放出

 

・武器や自身の肉体に精神力か魔素を変換した『魔力』を帯びさせ、能力を向上させる。

 

 

道具作成

 

・『魔力』を帯びた器具を作成可能。

 

 

陣地作成

 

・自らに有利な陣地を作り上げる。

 

・上限は1つまで。

 

・新しい陣地を作った場合、古いものは消去される

 

 

■■眼

 

・あらゆる嘘を見抜き、真実を映す眼。

 

・常時発動。

 

 

■■の■■

 

・早熟する。 

 

・使命を全うするまで効果持続。 

 

 

英雄作成

 

対象 ベ■・■ラ■ル

 

・ 対象者は早熟する。 

 

・ 対象者を英雄へと導く。

 

・ 対象者に試練を課す。

 

━━━━━━━━━━

 

「これは...」

 

 

「ひぇ...」

 

 

『英雄作成』の対象者は、やはりベルだったと思うけど。まだ文字化けしてるらしい。まだ完全には決まってないの?

というか、隣の神ヘスティアから変な声が聞こえてきた。

 

 

「いや...このステイタスの上がり方はなんなんだ......あっ!ほらほら、考え事は後にして、そのまま横になってるんだ。ちゃんと治療しなきゃだからね!」

 

 

「はい...」

 

 

神ヘスティアに絶対動くなよーと念押しされながら、スキルについて考える…けど文字化けの理由なんてわかんないし...すごく眠い。

 

 

「トネリコくん?」

 

 

「......すぅ...すぅ...」

 

 

「お疲れ様、ベル君を助けてくれてありがとね」

 

 

優しい声が聞こえて、頭を撫でられてるような...暖かいなぁ...。

 

 

「お母...さん」

 

 

そこで私の意識は眠りへと沈んだ。

 

━━━━━━━━━━

翌日 ベルSide

 

 

「...見覚えのある天井だ」

 

 

僕は、あれからどうしたんだっけ…ダンジョンでモンスターと戦って...それで...。

 

 

「あ...そうか」

 

 

そうだ...デッドフェイスと戦った時、トネリコが来てくれたから、きっと彼女に...と考えていたその時。ガチャっと扉が開いた。

 

 

「ベルくーん、起きてるかーい...って、ベル君起きてるじゃないか!?」

 

 

おーいトネリコくんベル君起きたよー!っと神様が慌ただしく出ていった...と思ったらすぐ戻ってきた。トネリコを連れて。

 

 

「起きたんですね、ベル。気分はどうですか?」

 

 

大丈夫って言いたいけど、体が重く感じる。

 

 

「...ちょっと体がだるいかも...」

 

 

「でしょうね...あれから丸1日ずっと寝てましたから」

 

 

「えっ!?」

 

 

丸1日!?そんなに寝てたの!

 

 

「ベル君」

 

 

僕を呼ぶ神様の顔はすごく真剣だった。

 

 

「なぜあんな無茶をしたのか聞かせてくれ...君の口からちゃんと聞きたいんだ」

 

 

神様は、優しい声音で語りかけてくれた。

 

 

「..........」

 

 

「...私、ご飯の準備してきますね」

 

 

と彼女は部屋から出ていった。どうやら気を利かせてくれたみたいだ。彼女の前ではちょっと言い難い。

 

 

「...神様」

 

 

「うん」

 

 

「...僕、強くなりたいです」

 

 

「...うん」

 

 

「守りたい子がいるんです。でも今の僕じゃ、逆に助けられてばっかりで...」

 

 

「......うん」

 

 

「...もう大切な人を失いたくないから」

 

 

「......!...うん」

 

 

「強くなって...大切な人を...守りたい」

 

 

「...うん...」

 

 

「僕は、彼女の英雄(ヒーロー)になりたい」

 

 

「!............そっか...それが君の答えなんだね」

 

 

「......はい」

 

 

そう、これが僕の答え...あの時、トネリコにミノタウロスから庇われて情けない自分が嫌になって自己嫌悪に陥った。彼女の隣にはもう立てないって、でもそれは違う。立つことを諦めたんだ。何もしていないのに勝手に諦めた。けど、あの酒場にいた狼人の青年のおかげで、気づけた。弱いままでいることが、1番情けないことなんだって。だから...英雄(高み)を目指すんだ。

 

 

「ベル君...君が無茶をしてボク達が残されたらとか考えなかったのかい?」

 

 

「...うっ......すみません」

 

 

僕に突き刺さる一言を放つ神様、あの時は、自分のことに必死で全く考えてなかった。

 

 

「今回の件で君が結構な無茶をすることがわかったからね...だからこれから言うことを、絶対に約束して欲しい」

 

 

「はい......」

 

 

「もう、このような真似をしないと、自暴自棄になる前に必ずボク達を頼ってくれ、そして」

 

 

ボク達を置いて逝かないでくれ(・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

「...!?」

 

 

「強くなりたいっていう君の意志をボクは反対しない、尊重もするし。応援も、手伝いも、力も貸すよ。......前にもトネリコくんに言ったんだけどね…君にも約束して欲しい...いや誓って欲しい、必ず2人でボクのところに帰ってきてくれるかい?」

 

 

その言葉は僕に効果覿面だった。本当に、この人は優しい神様だ。絶対に...絶対にもうこの人を裏切りたくない。

 

 

「.........はいっ...もうこんな無茶はしません。頑張って、必死になって、強くなりにいきますけど......絶対、神様達を置いていきません。心配させません、約束します」

 

 

「うん、約束だぜ」

 

 

「はい」

 

 

「じゃあ、ご飯の前にステイタスの更新しとこっか」

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

ベル・クラネル 

 

Lv.1 

 

力:I90→E406

 

 

耐久:I53→F340

 

 

器用:H 110→G252

 

 

敏捷:H140→E430

 

 

魔力:I0

 

 

《魔法》【 】

 

 

《スキル》

 

憧憬躍動(リアリス・フレーゼ)

 

・早熟する。

 

・懸想が続く限り効果持続。

 

・想いが続く限り効果持続。

 

・上記2つの丈により効果向上。

 

・走り続ける限りさらに効果向上。

 

━━━━━━━━━━

 

「は?」

 

 

ステイタスが書いてある紙を見ながら神様は固まった。一体どうしたんだろう。

 

 

「あの...神様?」

 

 

「...あ、ごめんごめん...あのさベル君、今日は口頭でステイタスの内容を伝えてもいいかい?」

 

 

「え、はい。構いませんけど……」

 

 

そして神様にステイタスを教えてもらったけど、熟練度上がりすぎじゃない!?でも魔法やスキルはまだか…

 

 

「ヤバイヤバイヤバイ...」

 

 

神様も目をぐるぐる回してる。やっぱりこれ...。

 

 

「この伸び方はおかしくないですか?」

 

 

「ヤバイヤバイヤバ...へ?......ふーん...ベル君はボクがこんな読み書きもできないなんて、そう思っているのかい?」

 

 

「いえっ!そういうことじゃなくて……」

 

 

「ごめんごめんわかってるよ...理由ははっきりしないけど、成長する速度がすごく早い。いつまで続くかはわからないけど、言っちゃえば成長期だ」

 

 

「は、はい」

 

 

「......君はきっと強くなれる。そして君自身も、今より強くなりたいと望んでいる、そうだね?」

 

 

「はい」

 

 

「うん...今の君ならもう大丈夫だね...頑張ろうぜ、ボク達みんなで」

 

 

「はいッ!」

 

 

「じゃあさっそく、トネリコくんの所に行こう!お腹空いてるだろ?」

 

 

「あ...あはは、ものすごく空いてます。」

 

 

「先に行っといで、あとからボクも行くからさ」

 

 

「わかりました」

 

 

僕は先に部屋を出た。

 

 

━━━━━━━━━━

 

ヘスティアSide

 

 

「なんなんだよ...これ」

 

 

憧憬躍動(リアリス・フレーゼ)

 

・早熟する。

 

・懸想が続く限り効果持続。

 

・想いが続く限り効果持続。

 

・上記2つの丈により効果向上。

 

・走り続ける限りさらに効果向上。

 

 

彼の想いがスキルになったのはわかるけど、あのステイタスの上がり方は異常だ。このままだとほかの神がちょっかい出しに来るぞ…それだけは回避しないと。

 

それに...。

 

 

・走り続ける限りさらに効果向上。

 

 

走り続けるとはどういうことなんだろう?走りこみのこと?

 

まぁでも隠さなくてはいけないことに変わりはない。ベル君は噓が下手だ、問い詰められたら余計なことを言ってしまいそうなほど。

 

悪いけど、これだけは教えられない。【憧憬躍動】は、ボクの胸の中だけにしまい込んでおこう。

 

 

「神様ー」

 

 

おっと呼ばれてしまった。

 

 

「今行くよー!」

 

 

こうしてボク達の日常はまた始まった。

 

 

 

 

第一章 是は、僕達の物語だ。




チート能力をさらにチートにしたいなら、2倍にしちゃえばいいじゃないか作戦大成功だ。




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1章 あとがき

今更ですけど初めまして皆さん、このような見切り発車で始めたSSを読んでいただき本当にありがとうございます。行き当たりばったりで書いてるので更新するのにかなり時間がかかると思いますがどうかお付き合いください。

あとがきでは本編で解説出来なかった設定やら色々書いていきます。ネタバレをもしかしたらどこかでやらかす可能性があるので、気になる方のみ読んでいただければなと思います。




1章までの振り返り。

 

ミノタウロスに追いかけられ、死にかけたヘスティア・ファミリアに所属するベル・クラネルとトネリコは万事休すのところで【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインに助けてもらうが、ベルは脱兎のごとくダッシュで逃げてしまう。

その翌日に、女神ヘスティアを加えた彼ら3人は【豊穣の女主人】にて晩御飯に舌鼓を打つも、その後来店したロキ・ファミリアに所属する【凶狼】ベート・ローガの口から、ミノタウロスの時のベル達が見せた醜態を酒の肴にされてしまう。

そしてベルは、店を飛び出しダンジョンに向かう。モンスターと死闘を繰り返していたところ、そこにモースが現れ。モンスターに取り憑きデッドフェイスへと変貌する。化物の攻撃によって立ち上がれないベルを助けるトネリコを見て覚悟を改めたベルは、自分自身の力で立ち上がり、デッドフェイスを撃退。その後気絶したベルは、トネリコによってホームへと帰還する。

 

『1章終了時点でのステイタス』

 

ベル・クラネル 

 

Lv.1 

 

力:E406

 

 

耐久:F340

 

 

器用:G252

 

 

敏捷:E430

 

 

魔力:I0

 

 

《魔法》【 】

 

 

《スキル》

 

憧憬躍動(リアリス・フレーゼ)

 

・早熟する。

 

・懸想が続く限り効果持続。

 

・想いが続く限り効果持続。

 

・上記2つの丈により効果向上。

 

・走り続ける限りさらに効果向上。

 

 

 

 

 

 

 

トネリコ

 

Lv.1 

 

力:H 130

 

 

耐久:I 88

 

 

器用:H 150

 

 

敏捷:H 106

 

 

魔力:G 253

 

 

 

《魔法》【 】

 

 

《スキル》

 

魔力放出

 

・武器や自身の肉体に精神力か魔素を変換した『魔力』を帯びさせ、能力を向上させる。

 

 

道具作成

 

・『魔力』を帯びた器具を作成可能。

 

 

陣地作成

 

・自らに有利な陣地を作り上げる。

 

・上限は1つまで。

 

・新しい陣地を作った場合、古いものは消去される

 

 

■■眼

 

・あらゆる嘘を見抜き、真実を映す眼。

 

・常時発動。

 

 

■■の■■

 

・早熟する。 

 

・使命を全うするまで効果持続。 

 

 

英雄作成

 

対象 ベ■・■ラ■ル

 

・ 対象者は早熟する。 

 

・ 対象者を英雄へと導く。

 

・ 対象者に試練を課す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すごく大雑把に書くとこんな感じが1章でした。

 

ここからは本編で細かく話していない裏設定の解説です。あと気になったかもと思ったところの補足をします。

なにか気になったことがあれば感想欄にて質問してください。言えることならここに追加します。

 

 

まずはホームから、原作では一部屋しかない教会地下ですが、トネリコのスキル【陣地作成】にて広げました。その時に、それぞれの個人の部屋と魔導具制作用部屋を作りました。もちろんヘスティアの許可は取っています。(へファさんには取っていない)

ちなみにヘスティアが神の恩恵をトネリコに授けた時、レアスキルの多さに1度失神しています。

 

 

 

次に魔導具と魔道具の違いについて、

 

魔導具の読み方は『まどうぐ』です。

 

魔道具の読み方は『マジックアイテム』です。

 

違う点をあげるとすれば、トネリコが作ったものは全て『魔力』を流さないと使えない物です(現時点で使えるのはトネリコだけ)。マジックアイテムがどのようなものかは詳しくはわかってないのですが一応違いはそれだけです。

 

ちなみに神秘も持ってないけど作れてます。スキルがありますので。

 

 

今まで出てきた(これから出す予定)魔導具解説

 

シャスティフォル=ビームが出る短剣、込める『魔力』に応じて威力が変わる。穿て!と言う必要は無いのです。

 

魔法のポーチ=簡単に言えば入れる物の大きさに制限がある四次元ポケット。

 

トネリコの杖=1番魔術が扱いやすくなるという理由で使っている。あと育ての母から貰ったもの。

 

爆弾=『魔力』を込めて使う。衝撃を与えると爆発するようになる。

 

煙幕=『魔力』を込めて使う。衝撃を与えると白い煙が出てくる。

 

 

 

 

 

 

『魔力』について説明

これはステイタスの魔力とは別の物

精神力や魔素が魔術回路で加工されることで発生する力

簡単に言えば電力みたいな物

トネリコはこの魔力を使って戦っているので詠唱を必要としない

 

 

 

トネリコは魔法が発言していないのにステイタスの魔力が上がっている理由

 

トネリコは【魔力放出】を使って『魔力』をそのまま相手にぶつけたり、『魔力』を纏わせ殴ったりしてます。(キャストリアのモーション参考にしてます)

『魔力』を生み出すためにマインドを使うので、ステイタスが上がります。

 

 

 

デッドフェイスについて

 

見た目は、LastEncoreのデッドフェイスみたいな感じです

 

それか妖怪ウォッチの怪魔が取り憑いた姿と思ってください

どっちかと言うと後者が近いです。

 

 




これからもよろしくお願いします


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第二章
10話


報告です。FGOフェス当たったんですが、コロナが酷いので行くこと辞めました。7/30のA席だったんだけどなぁ…

第3章のあるところでつまずきました。さらに更新が遅れます。ご容赦ください


 

 

「ベル君、トネリコくん、ボクは今日の夜...いや何日か部屋を留守にするけど。構わないかな?」

 

 

トネリコが作った朝ごはんを食べ終わった頃、神様が聞いてくる。

 

 

「えっ?わかりました、もしかしてバイトですか?」

 

 

「いや、行く気はなかったんだけど、友神の開くパーティーに顔を出そうかと思ってね。久しぶりにみんなの顔を見たくなったんだ」

 

 

「だったら遠慮なく行ってきてください」

 

 

友達は大切ですからね。

 

 

「ありがとう」

 

 

と神様は頷いて、クローゼットを物色する。何着もない服の中で一番マシなものを選びバッグに詰め、その他の荷物も整理する。部屋の外に向かっていった。ドアに手をかけたところで、もう一度僕達の方を向く。

 

「ベル君、君は今日絶対安静!と言いたいけど、無茶しないなら、ダンジョンに行ってきてもいいよ」

 

 

「えっ、いいんですか?」

 

 

「いいよ。ただし引き際は考えるんだよ?君はまだ本調子では無いだろうからね」

 

 

「はいっ、ありがとうございます」

 

 

「トネリコくん、ベル君を頼むぜ?」

 

 

「任せてください」

 

 

なら安心だ。と言った神様は行ってきますと地下部屋を出ていった。

 

 

「ではベル、ダンジョン攻略の準備をしましょうか」

 

 

「うん、あ...あのさ」

 

 

「はい?」

 

 

「助けてくれてありがとう、今回のことも、あの時のことも」

 

 

少し照れくさい、けど僕はまだちゃんとお礼をトネリコに伝えられていない。今まで何度も君に助けられたことを。

 

 

「ええ、どういたしまして、家族なんですから、助けるのは当然でしょう?」

 

 

「うんッ」

 

 

今度は僕が、君の力になるんだ。よし頑張るぞ!

僕は、やる気に満ち満ちた。装備をつけるために部屋へと向かう。

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

ダンジョンに行く前に僕は、『豊穣の女主人』へと来た。一昨日の件で迷惑をかけてしまったので謝罪をしに。トネリコは少し用事があると先に行ってしまった。

 

 

「ちょっと気まずいなぁ……」

 

 

神様が言うには『大丈夫大丈夫、女将くんは怒ってなんかなかったぜ』と。

 

 

「...よし」

 

 

Closedと札がかかっているドアの前で足を止め。僕はちょっとその場で悩んでから、意を決して酒場へ足を踏み入れた。

 

 

「申し訳ありません、お客様。当店はまだ準備中です。時間を改めてお越しになっていただけないでしょうか?」

 

 

「まだミャー達のお店はやってニャいのニャ!」

 

 

お店の準備をしているエルフの店員とキャットピープルの店員が、僕にすぐ気付いて対応しにきた。

 

 

「すいません、僕はお客じゃなくて......その、シル・フローヴァさんはいらっしゃいますか? あと女将さんも......」

 

 

僕の言葉に少し目を丸くした二人は、何かに気付いたようにこちらを見る視線を改めた。

 

 

「ああ!シルに貢がせるだけ貢がせといて役に立たニャくニャったらポイしていった、あん時のクソ白髪野郎ニャ!!」

 

 

「貴方は黙っていてください」

 

 

「ぶニャ!?」

 

 

「失礼しました。すぐにシルとミア母さんを連れてきます」

 

 

「は、はい......」

 

 

今の一撃全く見えなかった。そのままキャットピープルの少女の襟を掴み、ずるずると引きずっていくエルフの店員を見送る。

 

 

「ベルさん!?」

 

 

すると、階段を急ぎ足で下りる音がして、すぐに店の奥からシルさんが現れた。最後に別れた時のことを思い出すと穴を掘って埋まりたくなるけど、彼女に歩み寄る。

 

 

「一昨日は、すいませんでした。いきなり出ていってしまって」

 

 

「......いえ、大丈夫ですよ。こうして戻ってきてもらえて、私は嬉しいです」

 

 

心配してたんですよと言ってくれる彼女。事情を尋ねようともせず温かく包み込んでくれるこの人の姿に、不覚にも涙が出そうになった。

 

 

「もしかしてこれからダンジョンに?」

 

 

「はいっそうです」

 

 

「では、少し待っていてください」

 

 

「?」

 

 

とキッチンの方へ消える。戻ってきたシルさんは、大きめなバスケットを抱えていた。

 

 

「よろしかったら、これをもらっていただけませんか?」

 

 

「えっ?」

 

 

「これは私達のシェフが作った賄い料理なので、味は折り紙つきです。その、私が手をつけたものも少々あるんですけど.......」

 

 

「いやいやッ!?そんな悪いですよ!何で僕に......」

 

 

「差し上げたくなったから、では駄目ですか?」

 

 

シルさんは、照れ臭そうに苦笑する。その優しい表情を見て、鈍感な僕でも察することができた。応援してくれているのだ。

 

 

「......すいません。じゃあ、いただきます」

 

 

「はい...あ!ちゃんとトネリコさんの分も入ってますから」

 

 

「ありがとうございます、トネリコもきっと喜びます」

 

 

そうして僕はバスケットを受け取ると...。

 

 

「坊主が来てるって?」

 

 

カウンターバーの内側にあるドアからぬっと出てきたのは女将さん──ミアさんだった。

 

突如現れた貫禄のある存在感に、僕は少し後退してしまう。 というか、ドワーフの中でも一層でかい。僕より逞しい。

 

 

「ああ、なるほど、一昨日の件で来たのかい。感心じゃないか」

 

 

「どうも.......」

 

 

「シル、アンタはもう引っ込んでな。仕事ほっぽり出して来たんだろう?」

 

 

「はい。わかりました」

 

 

シルさんがお辞儀をして戻っていく、ミアさんは豪傑な笑みを浮かべて僕の胸をその太い指でどついてきた。

 

 

「いい顔になったじゃないか」

 

 

「え?」

 

 

「目指す場所が見つかっても死んじまったら元もこうもないだろ。冒険者なんてカッコつけるだけ無駄な職業さ。最初の内は生きることだけに必死になってればいい。背伸びしてみたって碌なことは起きないんだからね」

 

 

「!?」

 

 

僕は目を見開いた。

あの時はミアさんもカウンターにいたから、僕の事情を見通しているのだろうか?彼女はニッと笑みを浮かべ。

 

 

「今できることをやって、がむしゃらに足掻いて、最後まで二本の足で立ってたヤツが一番なのさ。みじめだろうが何だろうがね。そうすりゃ、帰ってきたソイツにアタシが盛大に酒を振る舞ってやる。ほら、勝ち組だろ?」

 

 

ミア...母さんッ!

 

 

「気持ち悪い顔してるんじゃないよ。店の準備の邪魔だよ、そら、行った行った」

 

 

今できることを、最高速度で、無茶なく、目標に向かう、後は必死に生きる。これからの方針が固まった。

 

 

「坊主、アタシにここまで言わせたんだ、くたばったら許さないからね」

 

 

「大丈夫です、ありがとうございます!」 

 

 

「あんないい女神様に逢えたんだ。大事にしな」

 

 

「はいッ!」

 

 

店を出る際、僕は深くお辞儀をして、店を出た。

 

 

━━━━━━━━━━

 

 

それからトネリコと合流して、今はダンジョンの4層にいる。

 

 

「はっ!」

 

 

『ギャィ!?』

 

 

コボルトの群れと相対してる時に、違和感に気づいた。体が思ってるように動かない。悪い意味ではなく、いつもより早く動けるのだ。

 

戦闘が終わり、昼休憩でシルさんから頂いた物を食べている時に、トネリコに聞いてみた。

 

 

「多分ですけど、体の急成長に貴方がまだ追いついてないんじゃないですか?」

 

 

あのステイタスの上昇量なら有り得ますね。との事。

 

 

「なら今日は、ここより上の階で体を動かして慣れることを最優先にした方がいいかもしれません」

 

 

「上で?」

 

 

「はい、体が慣れたら明日からは6層まで行ってみましょう」

 

 

「いいの?」

 

 

「無茶をしないが約束ですけどね」

 

 

「うん」

 

 

ついに6層か...あの時はフライングというか、あまりに無謀だったから今度はちゃんとした準備をして行く。どこまで通用するか、少し楽しみだったりする。

 

 

「それはそうと、直剣の使った感じはどうですか?」

 

 

「大丈夫、問題ないよ」

 

 

そうなのだ。僕の今の得物は、短刀やナイフではなく、直剣。今日の朝食時にもっと長い剣を使ってみたいと神様たちの前で呟いた一言のせいで、わざわざトネリコが朝から別行動を取って、ヘファイストス・ファミリアまで買いに行ったらしい。僕だけでも行けるのに。と伝えたら。

 

 

「ダメです、あなただけで行ったら間違いなくいい鴨にされます」

 

 

いや...鴨って......次行く時は僕も行くと言ったら、渋々と承諾してくれた。剣の長さは約80cの物、最初は重そうとか思ったけど、手に馴染んできたら全く気にならない。

 

 

「ではそろそろ行きましょうか」

 

 

「うん、行こう」

 

 

そうして僕達は、上層へと向かった。

 

 

━━━━━━━━━━

ヘスティアSide

 

今は夜。

 

 

「そこの給仕君、踏み台を持ってきてくれ、早く!」

 

 

「は、はい!」

 

 

ボクは、『神の宴』に来ている。

と言ってもただの同窓会みたいなものだ。毎回主催する神やら日程やらバラバラだけど共通点がひとつあるそれは。

 

 

『俺がガネーシャだ~!』

 

 

『イエーーーイ!!』

 

 

騒ぎたいやつが集まるのだ。

 

 

『本日はよく集まってくれたみなの者!今回の宴もこれほどの同郷者に出席して頂きガネーシャ超感激!愛しているぞお前達!さて積もる話はあるが、今年も例年通り三日後にはフィリア祭を開催するにあたり、みなのファミリアにはどうかご協力をお願いしたく──』

 

 

なんて主催者の声が聞こえるけど、そんなことよりこっちだ!

 

 

「(さっ!さっ!さっ!)」

 

 

目の前にある美味しそうな料理を、持参したタッパーに詰め込んでいく。これが目的のひとつだったりする。ベル君とトネリコくんへのお土産ができるぞ!

 

 

『あれ、ロリ巨乳来てんじゃん』『ていうか生きてたのか』『あいつ北の商店街でバイト頑張ってるぞ。露店で客に頭撫でられてたぜ』『さすが・ロリ・神……!!』

 

 

外野から色んな声が聞こえてきたが無視だ無視。

いやここの料理すごく美味しいな。早く2人にも食べさせてあげたいなと考えながら、料理を口いっぱいに頬張る。

 

 

「何やってんのよ、あんた……」

 

 

「むぐ? むっー!」 

 

 

探していた神友の声が聞こえてきたためそちらを振り向く。

そこには燃えるような紅い髪と真紅のドレスを着こなし。耳につけた貴金属のイヤリングはその炎のような美貌に力負けしている。そしてそんな美貌の中でも目を引くのが、顔半分を覆い隠してしまっている黒色の布だ。そう彼女こそが。

 

 

「ヘファヒフホフ!」

 

 

「ちゃんと飲み込んでから喋りなさい」

 

 

「むぐっ...もぐ......ごくん...久しぶりだね!ヘファイストス!」

 

 

「ええ、久しぶりねヘスティア。元気そうで何よりよ。もっとマシな姿を見せてくれたら、もっと嬉しかったんだけど...」

 

 

ヘファイストス─────ボクがベル君とトネリコくんに出会う前に厄介になっていた神友が、このヘファイストスだ。

オラリオに来たばかりの時に、彼女のファミリアに住まわせてもらってたんだけど今では色々とあって(ボクが全面的に悪いんだけど)追い出されてしまった。でもなかなか上手くいかなくて何度も頼ってしまって彼女の手を焼かせてしまったけど、今のバイト先や教会の隠し部屋を貸してくれたりしてくれる面倒見のいい神なのだ。

 

 

「いやー良かった、やっぱり来たんだね。ここに来て正解だったよ」

 

 

「ふーん、言っとくけどお金はもう1ヴァリスも貸さないからね」

 

 

「失敬な!わかっているよ」

 

 

「えー?ほんとかしらね〜?」

 

 

「ボクがそんなことをする神に見えるかい!そりゃあヘファイストスには何度も手を貸してもらったけど、今はおかげで何とかやっていけてる!今のボクが親友の懐を食いあさる真似なんかするもんかっ!」

 

 

「たった今、タダ飯を食いあさっていたじゃない」

 

 

「うっ...いや、これは、どうせ残るんだし...捨てるくらいならボクが有効利用して2人へのお土産にしようかなって...」

 

 

「ほーほー、立派じゃない、そのケチ臭い精神。...その2人ってあなたの眷属のこと?負担ばっかかけてんじゃないでしょうね」

 

 

「なんだとぅ!」

 

 

むしろ2人の事に(特にステイタスに)ボクが頭を抱えることの方が多いんだぞぅ!!...いや...あれ?そういえばトネリコくんに酒場での出来事を話したら頭抱えてたな…。

 

 

「ふふ……相変わらず仲が良いのね」

 

 

と、ヘファイストスの後ろからそんなコツコツと靴を鳴らす音ともに、声が聞こえてきた。

 

 

「え...フ...フレイヤ...!?」

 

 

その女神は、容姿の優れた神達の中でも群を抜いていた。一線を画してしまっていると言ってもいいぐらいに。きめ細かな白いの肌。細長い肢体は見る者を魅惑するような色香を漂わせている。金の刺繡が施されているドレスは胸元が開いており、完璧なプロポーションだ。もはや超越していると形容してもいいほどの美貌。美に魅入られた神、フレイヤが、長い銀髪を揺らしてボクの前までやって来た。

 

 

「な...なんで君がここに...」

 

 

「ああ、すぐそこで会ったのよ。久しぶりー、って話していてね、じゃあ一緒に会場回りましょうかって流れになったの」

 

 

「軽いよ、ヘファイストス......」

 

 

「お邪魔だったかしら、ヘスティア?」

 

 

「そんなことはないけど.......ボクは君が苦手なんだよ...ふぅ...久しぶりだね(・・・・・・)フレイヤ」

 

 

「ええ、久しぶりね(・・・・・)ヘスティア。...うふふ、貴方のそういうところ、私は好きよ?」

 

 

やめてくれよ......思いっきりその話はするなと眼光で訴えてるじゃないか…。

 

 

彼女は、『美の神』と呼ばれる存在だ、神々の中でも特に見目麗しい者達の中の一人だ。基本的に移り気な神達が、涎を垂らして夢中になってしまうほどの力が...『美』が彼等彼女達にはある。下界の者が一目見ればその瞬間より骨の髄から虜になることだろう。だが、『美の神』達は一様に食えない性格をしている。これも他の神々が霞んでしまうくらいに。程度はあるけれど、あまり関わりたくはないというのが本音だ。

 

 

「そういえば、ファミリアを結成したのねヘスティア。遅くなってしまったけどおめでとう」

 

 

「......あぁ実はそうなんだよ、ありがとう。フレイヤ」

 

 

「ええ、貴方達の活躍を陰ながら応援してるわ」

 

 

『豊穣の女主人』での出来事はきっと彼女は知っているだろうし…何も無いことを願うだけだけど、もしベル君やトネリコくんが『美』に堕とされたらやだな。

 

なんて考えていると。

 

 

「おーい! ファーイたーん、フレーイヤー」

 

 

あまり聞きたくない声が聞こえてきた。

 

 

「あら、ロキじゃない」

 

 

微笑むフレイヤから視線を切ってさらに後ろに注目すると、大きく手を振りながら歩み寄ってくる女神がいた。

 

ロキだ。

 

朱色の髪に朱色の瞳いつもは紐で結びまとめてある簡単な髪型を今日はパーティーに合わせてか夜会巻きにしている。細身の黒いドレスを着こなしていた。

 

 

「あ...ドチビもおったんか」

 

 

「...そうだよ」

 

 

どうやら僕の前にいる2人の影でボクが見えなかったらしい。

あんなことがあったため、いつも以上に彼女には会いたくはなかった。が、出会ってしまったものはしょうがない。

 

 

「......なんかロキいつもと違くない?いつもヘスティアと軽口叩き合って言い合いを始めるのに」

 

 

「...ん...まぁ、ちょっとな...」

 

 

「......」

 

 

ボクからは語ることは無い。あとは当事者の問題だからだ。

 

 

「あぁ...そういえば、ロキ、貴方今ちょっと大変らしいわね」

 

 

とフレイヤが、話を切り出す。

 

 

「ギルドからの重たいペナルティに、遠征もイレギュラーのせいで失敗したんでしょう?大丈夫?必要なら力になるわよ?」

 

 

「まぁ...せやな」

 

 

明らかな挑発だった。でもロキは飛びつかない。ほんとにあのロキなのかとこの場にいる神達は目を疑った。

 

 

「私も眷族から聞いたわ。ロキの所が事件を起こすのは珍しいわね」

 

 

と、ヘファイストスが語る。

それはギルドによって、今日の朝に発表されたダンジョンで起こったある事件のこと。それは『ミノタウロスの上層進出』。これが事件の内容だ。

 

【ロキ・ファミリア】が起こしてしまったこの事件の事は既にオラリオ中に広がっていた。

 

 

「その事なんやけどな...ドチビ」

 

 

「......なんだい」

 

 

「すまんかった」

 

 

彼女は再び、ボクに頭下げた。

 

 

「あの後、ギルドに事件の被害者数を調べさせてな…そんで被害者はお前んとこだけやった」

 

 

そして頭を下げたまま、伝えてくる。

 

 

「そうなんだね...良かったよ、死人が出なくて」

 

 

これは、心から思ってることだ。

 

 

「ヘスティア...」

 

 

ヘファイストスが、心配そうな目を向けてくる。けど。

 

 

「事件の話も、ベル君達が...被害者である彼らがどうするかによるだけだ」

 

 

「それにあの時、君たちから既に誠意を示してもらった。だからもうボクに頭を下げる必要はないよ」

 

 

酒場での話はボクの中では既に終わっていると暗に伝える。

 

 

「それでもや...主神としてのけじめをつけるためや」

 

 

「...わかったよ、わかったからもう顔をあげてくれ、君にそうされてると背中がムズムズするんだ」

 

 

「......恩に着るわ」

 

 

ようやくロキは顔をあげた。

 

 

「そうやドチビ、フィンから伝言を頼まれてるんや」

 

 

勇者(ブレイバー)君から?」

 

 

「例の謝罪の日なんやけどな…『怪物祭』の次の日でどうや?やって」

 

 

『怪物祭』の次の日ってことは約4日後か。

 

 

「あぁ構わないぜ」

 

 

「ならフィンにもそう伝えとくわ、ギルドに話は通してあるから、お前の眷属にも伝わってるやろ」

 

 

「そうなのかい?」

 

 

「で...自分今どこに住んでるん?」

 

 

「え...あぁ...いやー」

 

 

「場所がわからんと謝りにも行けへんから聞いてこいって言われてな」

 

 

「ヘスティアなら今~~~~~に住んでるわよ」

 

 

と言い淀んでるボクの代わりにヘファイストスが答えた。

 

 

「アハハハハッ、貧乏神ここにありやなぁ」

 

 

(うぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ)

 

 

さっきまでしおらしいと思ったらすぐにこうだ!口をにへらと...いや二マァと擬音がつきそうなほど口を吊り上げて!!!

 

 

「まっ...その日は空けとき、うちも顔出すからな」

 

 

「へっ?君も来るのかい?」

 

 

「当たり前やろ…主神やぞうち。それに自分が最後に言った言葉が気になってな」

 

 

「?」

 

 

「『ベル・クラネルは必ず強くなる』やったか…一目見てみたくなってな…お前がそこまで断言する理由はなんや?」

 

 

ロキが、見たことない人に興味を持つのは珍しいんじゃないか?

 

 

「ええ、私も気になるわね…ヘスティアの眷属ってどんな子なのかしら?」

 

 

まさかフレイヤまで聞いてくるとは...それに周りの神も聞き耳を立てている。答えたくないけど聞かれたからにはしょうがないか。

 

 

「とても...目が離せない子だよ、ちょっとした事でいなくなってしまいそうなね。でも彼には理由ができたからもう大丈夫。ロキ、断言した理由なんてひとつだよ。ボクが主神(おや)だからさ。それ以外あるはずないだろう?」

 

 

「ロキ...ボクがあの時、なぜ怒ったかわかるかい?」

 

 

「......」

 

 

ロキは何も言わないで、ボクの次の言葉を待っている。

 

 

「【ロキ・ファミリア】はね...ベル君にとって憧れ(・・)の1つなんだよ。冒険者という夢を1番体現できてたのが君たちのところだったんだ」

 

 

「そんな夢である存在に、憧れの存在に、自分が否定されるなんてそんな悲しい話は無いだろう」

 

 

「でも彼は、折れずに立ち上がった。その結果、無謀なことをしたけどね。でもボクは信じてた。それだけだよ」

 

 

「...ますます気になってきたわ。で?あの金髪の美少女もそうやろ?あの娘はどうなんや?うちに紹介してぇや。というか教えろ」

 

 

「ええ、私も気になるわね」

 

 

おい、この北欧コンビ息ぴったりじゃないか!というかフレイヤ、君さっきも同じこと言ってただろう!?

 

『何!?金髪美少女だと!?』『ええやんええやん俺大好き』『いいよなー金髪美少女』『きっと可憐だ』『は?黒髪が1番だろうが!?』『あぁ!?』『戦争すっかオラァ』『ちくわ大明神』『誰だ今の』『つか古い』『ぴえん』『古いわ』

 

周りも騒ぎだしたぁ!?助けてくれヘファイストス!と彼女の方を向くが。なになに...が・ん・ば・り・な・さ・い...口パクで伝えてきたぁぁぁぁぁぁ!?

 

神友にすら、見放されてしまった。まぁボクでもこんな状況に自分から関わろうだなんて思わないけどね。

 

でもトネリコくんのことは、また話しが別だ。彼女のことだけは秘密にしたいけど、ここで答えないと『じゃあ見てくるわ』と軽い感じで、ストーキング行為に走るだろう。なんなんだお前らは!神だよ!くそう1人漫才なんて誰得なんだ。

 

なんて答えるべきか...。

 

 

「彼女は...」

 

 

『彼女は...!?』

 

 

「普通の、どこにでもいるような女の子...だよ」

 

 

「............」

 

 

「............」

 

 

『............』

 

 

え、何この空気。ボクはちゃんと答えたぞぉ!

 

 

「まっ、うちはそんとき会えば良いしな…邪魔したなドチビ」

 

 

「...今日は、確認したいことを聞けたし私もこれで失礼するわ」

 

 

『...酒飲み直しだな』

 

 

ええ...結果的にはいい...のかな。

 

 

「ヘスティア...その誤魔化し方は無いでしょう...」

 

 

ヘファイストスが頭を押さえて言う。

だってしょうがないだろう!?彼女のことはボクもほとんどわからないけど、神が知れば…必ず娯楽の対象になってしまう。それだけは阻止しないといけない。そうしないと彼女はきっと壊れてしまう。そんな予感がするんだ。

 

 

「で、ヘスティア、貴方この後どうするの?私はもう少しみんなの顔を見て回ろうかと思うけど、帰る?」

 

 

「へ?」

 

 

「もし残るんだったら、どう?久しぶりに飲みにでもいかない?貴方のファミリアの話、少しは聞かせなさいよ」

 

 

「う、うん......あっ...えっとー...あのねヘファイストス」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「その......頼みたいことがあるんだけど」

 

 

「……」 

 

 

すっ、と左目が細まる。さっきまでの親しみやすい雰囲気から一変して、厳しさに溢れた空気を、彼女は纏った。

 

 

「この期に及んで、また頼み事ですって? あんた、さっき自分が口にしていたことをよーく思い出してみなさい?」

 

 

「えと、何だっけ...?」

 

 

「私の懐は食いあさらないって、そう言ってなかったかしら?」

 

 

「......そうだね。言ってたね…」

 

 

あんなに啖呵切っておいて、またボクは彼女を頼ろうとしている。今度こそ愛想疲れちゃうかな…でもこのためにボクはここに来たんだ!(実はさっきまで忘れていた)

 

 

「......一応聞いておいてあげるわ。な・に・を、私に頼みたいですって?」

 

 

彼女が作った【ヘファイストス・ファミリア】は、この都市に住む冒険者ならば誰もが知る有名な『鍛冶師』のファミリアだ。ブランド、と言ってもいい。だからこそ彼女にしか頼めない。ボクは深く深呼吸をして、大きな声で自分の願望を、言った。

 

 

「ボクのファミリアの子達に、武器を作って欲しいんだ!」

 

 




ロキの口調がいまいちわからない...


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11話

お気に入りだった小説が、全部の話が消えてて、めっちゃ曇ったけど...読者を曇らせるとは流石だと思いました。

頑張ってください応援してます(1ファン)


僕達は今、教会の修繕作業をしている。

 

実は昨日ダンジョンから戻り、ギルドに寄って換金していた時にエイナさんに呼ばれ、ある事を聞いた。

 

 

「『怪物祭』の次の日、えっと約4日後に【ロキ・ファミリア】が、一昨日のことやミノタウロスの件で君たちと話しがしたいって言っててね。それでベル君達のホームに伺いたいって...」

 

 

心臓が止まるかと思った。けどすぐに再起して、必要になりそうな材料を買い集め、トネリコと共に教会を直している。さすがにこのままでは人様を呼べない。住めば都と言うけれど、住んでない人からすればただの廃墟だ...。作業を開始して既に2日経っている。

 

2日前のダンジョン帰りにバスケットをシルさんに返して、雑談をしている時に、うっかり教会を直さなくちゃいけないことを話してしまってから毎日シルさんが来て、お昼ご飯を届けてくれる。ほんとにありがたくて...うん...涙がでる。トネリコは、無表情で食べてるけど。

 

そんなこともありながら。外観は修繕できたけど、中をするには時間もお金も足りない。明日にはダンジョンに潜らないと、生活が少し...いやかなり厳しくなる。

 

 

「もう中は諦めましょう、当日何とか魔術で誤魔化しますから...今日はもう...寝かせてください」

 

 

「...うん...そうだね」

 

 

そして一睡も僕達はしていない。既に限界は超えている。そういえば神様、まだ帰ってこないのか...な...zzz

 

 

━━━翌日

 

 

朝が来た。目覚めのいい朝だ。まだ疲労は残ってるけど...神様はまだ戻ってきていないらしい。まだやらなきゃいけないことがあるが…その前にダンジョンに行かなくちゃ...トネリコも準備は終わっている。

 

 

「......では行きましょう」

 

 

「......うん」

 

 

そうして僕達は、疲労を叫ぶ体に鞭を打って歩き出す。ホームを出て、西のメインストリートを通り、ダンジョンヘ向かっていると。

 

 

「おーい、待つニャそこの白髪頭と金髪ー!」

 

 

そんな特定されやすい髪色の2人組は僕達しかいないため、僕達は足を止め声のした方向に振り向く。『豊饒の女主人』の店先で、キャットピープルの少女が、ぶんぶんと大きく手を振っていた。

 

……前にクソ白髪野郎なんて叫ばれたからよく覚えている。一応確認のために「僕達ですか?」と自分たちに指を指しながら聞くと、こくこくと頷かれた。どうしたんだろうと頭に?を浮かべながら少女に近づく。

 

 

「おはようございます、ニャ。いきなり呼び止めて、悪かったニャー」

 

 

「「おはようございます」」

 

 

「えっと、僕たちに何か?」 

 

 

挨拶を交わしたら店員さんは、早速とばかりに用件を切り出した。

 

 

「ちょっと面倒ニャこと頼みたいニャ。2人はシルのマブダチニャ。だからコレをあのおっちょこちょいに渡して欲しいニャ。はい、これ」 

 

 

「え?」

 

 

手渡されたものはお財布だった。布袋状で、口金のついた紫色の小ぢんまりしていて可愛らしい『がま口財布』。

 

 

「アーニャ。それでは説明不足です。クラネルさん達も困っています」

 

 

今度はあのエルフの店員さんが現れ、僕達に近寄ってくる。 

 

......場違いかもしれないけど、僕はあのエルフに自分の名前を呼ばれたことに少し感動している。僕の名前覚えてもらったよ。

 

 

「リューはアホだニャー。店番サボって『怪物祭』見に行ったシルに、この忘れていった財布を届けて欲しいニャんて、そんニャこと話さずともわかることニャ。ニャア、2人とも?」

 

 

「というわけです。言葉足らずで申し訳ありませんでした」

 

 

「あ、いえ、よくわかりました。そういうことだったんですね」 

 

 

ふぅーヤレヤレだニャという顔をするキャットピープルの店員さんを綺麗に無視して、リューと呼ばれたエルフの店員さんは謝罪してきた。なるほどそういうことだったのかと僕達も理解出来た。

 

一瞬で蚊帳の外に置かれたアーニャと呼ばれたキャットピープルの少女は、だんだんと顔を赤くしうつむけてわなわなと震え出す。

 

 

「彼女のことは気にしないでください。それで、どうか頼まれてもらえないでしょうか?私とアーニャ、他のスタッフ達も店の準備で手が離せないのです。これからダンジョンに向かう貴方達には悪いとは思うのですが......」

 

 

どうしようかとトネリコの方を向くと彼女は。

 

 

「届けるだけなら構わないですよ、シルさんにはお世話になってますから」

 

 

「だ、そうです......けどシルさんがお店をさぼっちゃったって、本当なんですか?」

 

 

「さぼる、というのは語弊があります。ここに住まわせてもらっている私達とシルでは、環境が違うので」 

 

 

リューさんから話を聞けば、どうやら休暇扱いらしい。住み込みで働いている目の前の彼女達と異なって、シルさんは毎日働いているわけではないのだと。ミアさんの許可も取っているのだそうだ。

 

要は、シルさんは自宅通いだから、例外的な非番を認められているってことか。それで、シルさんは今回の休暇を利用して『お祭り』に行ったらしくて......。

 

 

「そういえば『怪物祭』ってどういうものなんですか?」

 

 

聞きなれない単語をリューさんに聞く。...名前からして物騒だけど...。

 

 

「初耳ですか? この都市に身を置く者なら知らないということはない筈ですが」

 

 

「実は僕達、オラリオに来たのが結構最近で...。良かったら、教えてくれませんか?」

 

 

「ニャら、ミャーが教えてやるニャ!」 

 

 

僕がそう申し出ると、うつむいていたアーニャさんがずいずいっと僕達の間に割って入った。

 

 

「『怪物祭』は、年に一回開かれる【ガネーシャ・ファミリア】主催のドでかい祭りニャ!闘技場を一日中占領して、ダンジョンから引っ張ってきたモンスターを調教するニャ!」

 

 

「ちょ、調教!?モンスターを?」

 

 

「.........ぇ...」

 

 

驚くような内容を告げられて僕は面食らった。調教って......飼いならすって意味だよね?あの凶暴なモンスターを?

 

 

「別にモンスターを手懐けること自体はおかしいことじゃニャいニャ。お前らだって冒険者ニャら一度は経験したことがある筈だニャ。ぶっ倒したモンスターがむくりと起き上がり、仲間になりたそうな眼差しを送ってくるあの瞬間を......」

 

 

「いえ、あの、一度もないんですけど...」

 

 

どんな眼差しなんだろうと一向に半信半疑でいると、リューさんが口を開く。

 

 

「調教という技術自体は確立されています。素質に依るところもあるようですが、モンスターに自分のことを格上だと認識させることで、従順にさせてしまうのです」

 

 

モンスターを従順に......何だか別世界の話のように聞こえちゃうな。

 

 

「ダンジョンにいるモンスターはタチが悪くて調教をしにくいけど、普通は地上のモンスターを手懐けるもんニャんだけどニャー......【ガネーシャ・ファミリア】の構成員は実力が半端じゃニャいから、ダンジョン育ちのモンスターでも成功させるニャ」

 

 

【ガネーシャ・ファミリア】の名前は僕でも聞いたことがある。その実力は折紙付き。抱える構成員の数もすごいらしい。

 

 

「つまり、モンスターと戦って調教させるまでの流れを、見世物にしてるってことですか?」

 

 

「そういうことニャ。ぶっちゃけるとサーカスみたいなもんニャ」

 

 

ただしかなりハードの、とアーニャさんは最後に付け加えた。やっぱり危険は伴うらしい。

 

 

「ミャー達だって本当は見に行きたいニャ、でも母ちゃんが許してくれねーんだニャ。シルは土産を買ってくるとか言って、笑顔でビシッと敬礼していったけど......財布を店に忘れていくというドジをかましたニャ。シルはうっかり娘ニャー」

 

 

「貴方が言えたことではないと思いますよ、アーニャ」

 

 

「あはは……」 

 

 

まぁ、おおよその事情はわかった。お金がないとお土産が買えなくて苦労するだろうし。シルさんには恩を受けてばっかりだから、早く届けてあげよう。

 

 

「闘技場に繫がる東のメインストリートは既に混雑している筈ですので、まずはそこに向かってください。人波に付いていけば現地には迷わず辿り着けるはずです」

 

 

「シルはさっき出かけたばっかだから、今から急いで行けば追い付ける筈ニャー」

 

 

「わかりました」

 

 

背負っているバックパックは邪魔だろうと言われ預かってもらった。

 

 

「怪物祭か......どんな感じなんだろう、ちょっと見てみたいね?」

 

 

身軽になった僕はシルさんの財布を受け取り、摩天楼(バベル)のそびえる都市の中心のその奥で伸びているだろう東のメインストリートの方角を見つめながら。隣にいるトネリコに喋りかける。

 

 

「.........」

 

 

「トネリコ?」

 

 

反応がない...いや何か様子がおかしい。

 

 

「......ハァ...ハァ」

 

 

「金髪?」「トネリコさん?」

 

 

アーニャさん達の声にも反応しないし、まるで息切れのような音が聞こえる...というより呼吸が荒い...?

 

 

「ハァハァハァハァ......」

 

 

「トネリコ!」

 

 

彼女の肩を強く揺さぶり、声をかける。

 

 

「...ぇ...あ...ベル...?」

 

 

「うん、そうだよ」

 

 

「...えっと...何の話でしたっけ?すいません少しボーッとしてました」

 

 

「......今からシルさんにお財布を届けるんだけど...大丈夫?トネリコは休んでた方が...」

 

 

「いえ...大丈夫ですよ。そうでしたねお財布を届けないとでしたね...」

 

 

何が大丈夫なんだよ...大丈夫ならなんでそんな辛そうな顔してるんだよ。

 

 

「...トネリコさん、今のそのようなの状態でダンジョンに行くことはあまりおすすめしません。クラネルさんの言う通り少し休んだ方がいい」

 

 

リューさんも異変を感じたのかトネリコを説得してくれる。

 

 

「ですが...」

 

 

「ここはお店ですが。営業はまだしていないので、ミア母さんに頼めば中で休ませてくれるはずです」

 

 

「...」

 

杖を握りしめ、顔を俯かせるトネリコ。

その状態のままで、ダンジョンに行けばきっと大怪我に繋がってしまう。リューさんもこう言ってるし、ここで休んで欲しい。

 

 

「トネリコはここで休んでて」

 

 

「ベル...」

 

 

「教会の修繕するためにずっと魔法を使ってたでしょ?その疲れがまだ抜けてないんだよ。大丈夫、お財布を届けるだけだからね。あとお土産を少し買ってくるから、ちょっと遅くなるかもだけどそれまでちゃんと休んでて。」

 

 

「...わかり...ました」

 

 

渋々だけど頷いてくれた。

 

 

「えっと...リューさんにアーニャさん、トネリコのことお願いします」

 

 

「はい、元々こちらの用を頼んでいるのでそれぐらいは任せてください」

 

 

「金髪のことはちゃんと見張ってるから早く行くニャー」

 

 

「はい」

 

 

ほんとにいい人達だな。

 

 

「じゃあ行ってきます!」

 

 

何故かそう叫んでしまい、走りながらでもわかるぐらい僕の顔は真っ赤になっていただろう。

 

 

━━━━━━━━━━

 

時刻は朝の九時を回った。多くの冒険者がダンジョンにもぐっていくこの時間帯に、東のメインストリートは大勢の人で賑わっていた。数え切れないほどの店が通りのど真ん中や隅に出店している。

 

メインストリートを進む人の流れを、一つ高い位置から見下ろしている女神がいた。大通りに面する喫茶店の二階。通りを一望できる窓際の席に一人で座っている。長い紺色のローブを羽織り顔を隠している。が、布一枚で彼女の『美』を抑え込むのは不可能であった。その証拠に、店内の視線という視線が彼女のもとに集まっている。

 

『美の女神』フレイヤは、視線を窓の外に向け、静かに時を過ごしていた。

 

 

「……」

 

 

「よぉー、待たせたか?」

 

 

ぎしりと木製の床が軋む音と共に、こちらに近づくふたつの気配。そしてこの前聞いた同郷の神の声が聞こえてきた。

 

 

「いいえ、少し前に来たばかり」

 

 

手を上げ気軽に声をかけてきた神は...ロキはくたびれたシャツとパンツという服装で、どこかだらしない印象を見る者に感じさせながら、漏れかける欠伸を嚙み殺し、涙目のまま、にへっと笑みを作る。

 

 

「なぁ、うちまだ朝飯食ってないんや。ここで頼んでもええか?」

 

 

「お好きなように」

 

 

椅子を引き寄せながらそんなことを言うロキに、フレイヤは微笑を浮かべた。

 

 

「ちょっと疲れてるんじゃない?目に隈があるわよ」

 

 

「オイ、お前はなんでそんなこと突っ込むんやこちとら必死に隠してるっちゅうのに」

 

 

「ふふふ、ごめんなさいね」

 

 

「かーっ、流石美の女神やな...いい性格してるわぁ」

 

 

フレイヤを呼び出したのはロキで、待ち合わせ場所をこの店に指定したのも彼女だ。

 

 

「ところで、いつになったらその子を紹介してくれるのかしら?」

 

 

「なんや、紹介がいるんか?知っとるやろ」

 

 

「知ってるけど。一応、彼女と私は初対面よ」

 

 

この場所にやって来たのは、ロキとフレイヤを除けばもう一人。剣を携え、ロキを護衛するかのように少し後ろで立っている美しい金髪金眼の少女。アイズ・ヴァレンシュタインだった。

 

 

「んじゃ、ちゃちゃっと紹介するか。うちのアイズや。これで十分やろ?アイズ、こんなやつでも一応神やから、挨拶だけはしとき」

 

 

「......初めまして」

 

 

「ええ...初めまして、アイズ...より『剣姫』と呼んだ方がいいかしら?」

 

 

「うちが名前呼びを許すと思ってんのかこの腐れおっぱい」

 

 

「じゃあ剣姫で呼ぶわね」

 

 

「座ってもええよ」と促され、素直にロキの隣へ腰を下ろす。

 

 

「可愛いわね。ええ、ロキがこの子を大切にする理由、よくわかった」

 

 

フレイヤの瞳とアイズを見る。が、アイズは表情を崩すことなく、ぺこりとお辞儀をした。そんな様子を見せる彼女の姿を見て、フレイヤは思わず微笑みを浮かべる。

 

 

「どうしてここに彼女を連れてきたのか聞いても?」

 

 

「ぬふふふっ!そらお前、せっかくの祭や、この後きっちりアイズたんとのラブラブデートを堪能するんじゃ!」

 

 

下卑た笑みを浮かべるロキ。

 

 

「......ま、それに、遠征も終わって帰ってきたばっかでも放っておくと、またすぐダンジョンにもぐろうとするからなぁ、このお姫様は」

 

 

「......」

 

 

「誰かが気を抜いてやらんと一生休みもせん」

 

 

とロキは隣に手を伸ばし、アイズの頭をぽんぽんと叩く。アイズは自分の非を認めるかのように少しだけ視線を下げて、ロキになされるがままだった。

 

 

「それじゃあ、此処に呼び出した理由をそろそろ教えてくれない?」

 

 

「ん、ちょいと久々に駄弁ろうと思ってなぁ」

 

 

「ふふ、噓ばっかり」

 

 

薄く笑うフレイヤに、ロキもそれまでの態度を変え、ニッと不敵に笑う。それまであった両者の空気ががらっと一変した。

 

運悪く注文を取りにきてしまったお店の従業員は、二柱の神が作り出す圧力感に思わず頰肉を痙攣させ、金縛りに遭ったかのようにその場に立ちつくす。アイズはというと顔色を変えず、真横から静観に徹していた。

 

 

「じゃあ率直に聞くけど。自分何やらかす気や」

 

 

「何を言っているのかしら、ロキ?」

 

 

「とぼけんなや、阿呆」

 

 

動けないでいる男の従業員にフレイヤが微笑むと、彼は目をはっと見開いて、熱病に侵されたかのように赤面。次には背を向けてその場から即退散する。

 

店の中に誰もいなくなり視線を戻すと、ロキはその細い目を猛禽類のように鋭く構えていた。

 

 

「最近動き過ぎやろ、フレイヤ。興味ないとかほざいておった『神の宴』に顔を出すわ、ほかの神の眷属のことを気にしてる時点でなにか企んどるやろが」

 

 

「企むだなんて、そんな人聞きの悪いこと言わないで?」

 

 

「じゃかあしいわ」

 

 

『お前が妙な真似をすると碌なことが起きない』とロキが口にする言葉の端々からそのように告げてくる。こちらに面倒が及ぶようなら叩き潰すぞと、細い瞳は己の意向を明確にしていた。

 

お互いの視線が交差する。が、フレイヤはずっと微笑むままだ。

 

アイズが見守る中、永劫続くかと思われたそんな無言のやり取りは、おもむろに、ロキは脱力する。それまでの雰囲気を霧散させ、確信した口調で声を打つ。

 

 

「そんなに『ベル・クラネル』が気に入ったんか」

 

 

「......」

 

 

美の女神は答えない。ただフードの奥で微笑を湛えるのみ。 だがロキはその笑みを肯定と取った。そして呆れたように長く大きな溜息をつく。

 

 

「はぁ......ドチビも苦労するなぁ...宴であいつの眷属のことを聞き出そうとしたうちに同調したのは、そういうわけっちゅうことか」

 

 

フレイヤの多情……いわゆる男癖の悪さは、神々の中では周知の事実。気に入った異性、いや性別は関係なく下界の子供達を見つければすぐにでもアプローチを行い、その類ない『美』を用いて自分のモノとする。魔性とも言えるその美の牙にかかり彼女の虜となった者は数知れない。 

 

フレイヤが今回目をつけたのは、恐らくヘスティアの眷属のどちらかまたは両方とロキは目をつけた。『神の宴』に足を運んだのは、その2人の所属を突き止めるため。

 

当然のことだが、既に他の神と契約している子供に手を出そうものなら、いや、奪い取ろうものなら間違いなく抗争が起きる。もし喧嘩を売ってしまった【ファミリア】の勢力が強大だった場合、フレイヤは小さくない損害を被って泣きを見ることになるであろう。そこで迂闊な真似は避け、まずは情報収集に走った。ロキはそう推理したのだ。

 

そしてフレイヤはロキの言葉を否定しなかった。

 

 

「ったく、この色ボケ女神が。年中盛りおって、誰だろうがお構いなしか」

 

 

「あら、心外ね。分別くらいあるわよ」

 

 

「抜かせ、男神どもも既に誑かしとるくせに」

 

 

「彼等と繫がっておけば色々便利だもの。何かと融通が利くし」

 

 

かっ、とロキは喉を鳴らし。悪趣味めと吐き捨てる。そんなロキに対し、フレイヤは本当に、ほんの少しだけ、その細い肩をすくめた。 

 

 

「で?」

 

 

「......?」

 

 

「どんなヤツなんや、今度自分の目にとまった『ベル・クラネル』ってのは?いつ見つけた?何が気に入ったんや?」 

 

 

教えろ、とロキは口端を吊り上げる。

 

 

それくらいは言えと要求してくる彼女は神特有の野次馬精神を全開にしていた。言わなければ帰さない、とその目から伝わってくる。

 

 

「......明日会うのでしょう?なら私が言う必要ないと思うけど」

 

 

「それのせいでうちは余計な気を使わされたんや、自分が何思ったかぐらい聞く権利くらいあるやろ」 

 

 

そんな強引な理由を振りかざすロキに、フレイヤは顔を窓側に向け。あたかも過ぎ去った光景を思い出すかのように、フードの奥の瞳が遠い目をした。

 

 

「......強くはないわ。貴方や私のファミリアの子と比べても、今はまだとても頼りない。少しのことで傷付いてしまって、簡単に泣いてしまうような......そんな子」 

 

 

でもね、と言葉が続く。

 

 

「綺麗だったの。透き通っていたその魂は。あの子は私が今まで見たことのない色をしていたわ」 

 

 

だから目を奪われた、見惚れてしまった、そしてその魂の色がどう変わるのかが見たいと。

 

 

誰も気付けないほどの、ほんの微かな熱がソプラノの声に帯びる。

 

 

「見つけたのは本当に偶然。たまたま視界に入ったの」

 

 

当時の光景に思いを巡らせながらフレイヤは言葉を連ねる。その相手との出会いを再現するかのように、窓の外の光景を見下ろす。

 

 

「あの時も、こんな風に......」

 

 

日の光が刺す早朝、西のメインストリート。通りの向こうから、あの少年はこちらへやって来て。

そう、たった今、視界の中を走り抜けていったように。

 

 

「......!」 

 

 

フレイヤの動きが止まる。その視線が、冒険者の防具を纏った白い髪の少年に釘付けとなった。ひしめく人の群れを縫って先へと駆けていく。

 

その足が向かう先は闘技場、つまり怪物祭。周囲の流れに同伴するように少年は進路を取る。徐々に遠のいていく背中を見つめるフレイヤは、ゆっくりと、蠱惑的な笑みを浮かべ。

 

 

「ごめんなさい、ロキ、急用ができたわ」

 

 

「はぁっ?」

 

 

「また今度会いましょう」 

 

 

ぽかんとするロキを置いてフレイヤは席を立った。ローブで全身をしっかり覆い隠し、店を後にする。その場にはロキとアイズだけが残された。

 

 

「何や、アイツ。いきなり立ち上がって」

 

 

怪訝そうな顔を浮かべ、ロキはフレイヤが消えた階段を眺める。と、そこで「ん?」とロキは小首を傾げ。自分の隣を見ると、アイズが外の方角をじっと見つめている。

 

 

「アイズ、どうした?何かあったんか?」

 

 

「......いえ」

 

 

そんな言葉とは裏腹に、アイズは外を見続けた。彼女の金の瞳は、フレイヤの銀の瞳と同じように、見覚えのある白い髪を追っていた。

 




今後の展開を考えていくのがすごく楽しいけど文字に起こすと、綺麗にまとまらなくて苦労する。

弓王が当たって嬉しいはしゅまるからでした


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12話

原作ブレイクを始めましょう(ほんの一部分だけだけど)


 

「はい、これ」

 

 

「おおおぉぉぉぉぉ......!?」

 

 

作業着姿のヘファイストスから手渡された長箱を、ボクは感嘆の声をあげながら両手で受け取る。

 

 

「あなたのご要望には応えられたかしら?」

 

 

「うんうん、十分だよっ!文句なんてあるわけがない!」

 

 

ぱかっと蓋を開けてボクは箱の中を見る。黒の鞘に収められた、黒の柄を持つ直剣。上から下まで黒ずくめの、一見簡素な作りをしたこの武器は、ボクも僅かながら力添えをして完成した、ヘファイストス入魂の作品。約1日かけて作り上げられたベル君の武器に、ボクは、嬉しさが込み上げてくる。

 

 

「あっ!そうだ、この武器の名前はどうするんだい?何だったらボクがつけてもいいかな!そうだねー、ボクとベル君の愛の結晶ってことでラブ・ソードとか!!」

 

 

「やめてよ、駄作臭しかしないじゃないの。......でも、そうね、これは神の武器としか形容しようがないものだし......神の剣(ヘスティア・ソード)ってとこかしらね」

 

 

とヘファイストスはこぼす。いやー照れるじゃーないか。

 

 

「言っておくけど、借金踏み倒すんじゃないわよ」

 

 

「わかってるわかってる!」

 

 

まとめてあった髪を解きながら、ちゃんと釘を刺してくるヘファイストスの言葉に、ボクは頷く。さーてと、早くベル君に届けてあげなくちゃ。

 

 

「もう行くの?」

 

 

「ああ、悪いけど!」

 

 

もう居ても立ってもいられない、ボクは部屋の扉へと直行した。

 

 

「ヘスティア、あんた少しは休みなさいよー!」

 

 

「わかってるよー!」

 

 

声を背中で聞き、振り向かずに返事をしながら手を振る。ボクは工房の隣に設けられた小部屋から出た。

 

 

(あぁ、早くコレをベル君に渡してあげたいなぁ!...あとトネリコくんになんて説明しよう...)

 

━━━━━━━━━━

 

急いで出ていった神友の背中を見送りながらヘファイストスが思い出すのは一昨日のこと。

 

 

「......あんた、いつまでそうやっているつもり?」

 

 

「......」

 

 

とある店の内では、ヘファイストスが、呆れたような疲れたような声をこぼしていた。

 

 

自分のファミリアの制服姿で執務室にある机に座っている彼女の声が向かう先は、床に跪いてこれでもかと頭を下げているヘスティアである。

 

 

「私、これでも忙しいんだけど?」

 

 

「......」

 

 

「騒いでなくても、そこで虫みたいに丸まっていられると、気が削がれて仕事の効率が落ちるの。わかる?」

 

 

「......」

 

 

「ねぇ、ちょっと、ヘスティア?」

 

 

「......」

 

 

「......はぁ」

 

 

ずっと黙り同じ態勢のままでいる神友に、ヘファイストスは溜息をつく。丸一日。それはヘスティアがヘファイストスに頭を下げ続けている時間である。

 

『神の宴』があった日、自分の眷属に武器を作って欲しいというヘスティアの頼みを、ヘファイストスはばっさりと切り捨てた。

 

自分のファミリアの作品は言ってしまえばブランド品だ。売買ならなんの問題もないが。ヘスティアに大金があるとは思えないし、たとえそれが親友のよしみで譲るなどというのは決してあってはならない。

 

なぜならファミリアを統率する立場にあるヘファイストスにとって、眷属達が血と汗を流し生み出した武具を軽く扱うような真似はタブーだ。認められるわけがない。

 

オーダーメイドを注文するなら少しは金を集めてからにしろとヘファイストスは容赦なくヘスティアを突っぱねた。が、断られたヘスティアは、宴が終わった後も何度も頭を下げて頼み込んできた。

 

いくら追い払おうがしつこくお願いしてくるヘスティアに、ヘファイストスの方が先に参りそうになる。こうなったらヘスティアを好きにさせ、諦めるまで放置することにした。そうすれば腹が空いてとぼとぼと帰っていくだろうと考えて。

 

そして、宴から2日経っても。まだヘスティアはヘファイストスにお願いし続けていた。

 

 

(何があんたをそうさせるのよ……) 

 

 

ヘファイストスは渋い顔をする。ずっとこのポーズを取っている神友の心情が、理解できない。今まで頼られることはあったが、今回は全く様子が違う。強い意志が伝わってくる。

 

 

「あんた昨日から何やってるのよ、その格好は何?」

 

 

「...土下座」

 

 

「ドゲザ?」

 

 

「これをすれば何をしたって許されるし、何を頼んでも頷いてもらえるってタケから聞いたんだ」

 

 

「タケ?」

 

 

「タケミカヅチ」 

 

 

ああとヘファイストスはある神の顔を思い浮かべる。それから少し無言が続く。

 

もう無理だ。仕事に身が入らない。と、今行っている事務を投げ出すヘファイストス。こちらに土下座をしているヘスティアをじっと見据え。直球に聞いた。

 

 

「...ヘスティア、教えてちょうだい。あんたがどうしてそうまでするのか」 

 

 

「あの子たちの力になりたいんだ」 

 

 

ヘスティアは土下座を崩さず、答える。

 

 

「あの子達は、あんな小さな背中に、背負いきれない程の何かを背負っているんだ。だから怪我をして、死にかけて、それでもまた立ち上がり、進み続けるんだ」

 

 

それは自白であり。

 

 

「そんなあの子達をッ!ボクはただ見守ることしか出来ない!彼らの帰りを祈りながらただあの教会で待つことしかできないッ!」

 

 

そう言った彼女は顔を上げ。

 

 

「......ッ!」

 

 

ヘファイストスは、息を飲む。

なぜならヘスティアは大粒の涙をぽろぽろと流していたからだ。

そんな自分の状態に気づかないまま、ヘスティアは言葉を紡ぐ。

 

 

「一つの目標を目指して我武者羅に進む、ベル君は、すごく険しい道のりを走り出してる!とても危険な道だ、だから欲しい!あの子を手助けできる力が!あの子の背中を押せる、武器が!」

 

 

「一つの使命を全うするために自分すら犠牲にして進む、トネリコくんは、とても激しい嵐の中を走っている!自分では気づいてないようだけど、こっちが見ていらない程、心をボロボロにしながら、だから欲しい!あの子を手助けできる力が!あの子の道を切り開いてあげられる、武器が!」

 

 

ヘファイストスの方を向き、視線でも訴えてくる。

 

 

「ボクはあの子達に助けられてばっかだ!ひたすら養ってもらってるだけで!ボクはあの子達の主神なのに、神らしいことは何一つだってしてやれてない!」

 

 

最後は絞り出すようにして、ヘスティアはぐっと体を強張らせ。

 

 

「彼らが傷ついていく様子をただ見てるだけなんて、嫌だ......何もしてあげれないのは、嫌なんだ......」 

 

 

消え入りそうな弱々しいその言葉は、自分の力不足を嘆く言葉だった、がしかしヘファイストスを動かすに十分すぎる程足りた。この時のヘスティアの想いを、彼女は同じ下界の子供を持つ親として、神として、親友として認めた。

 

 

「......わかった。作ってあげる、あんたの子に」

 

 

その言葉に目を輝かせ始めるヘスティアにヘファイストスは肩をすくめてみせる。

 

 

「私が頷かなきゃ、あんたテコでも動かないでしょう」

 

 

「ありがとう、ヘファイストス!」

 

 

長時間土下座をした反動か、立ち上がるとすぐにぐらっとよろめいて四つん這いに戻ってしまい頰を染めて破顔一笑する友の姿に、ヘファイストスは形だけの溜息をつく。 

 

甘やかし過ぎだなと自覚しつつも、今のヘスティアになら手を貸すのはやぶさかではないと思う自分がいた。

 

少なくとも、ぐーたらと部屋に引きこもっていた以前よりは、微笑ましいものがある。

 

 

「それで、言っておくけど、ちゃんと代価は払うのよ。何十年何百年かかったとしても、このツケは必ず返しなさいよ」

 

 

それだけの覚悟があるなら身を粉にして見せなさいと、椅子から立ち上がり、今尚四つん這いのヘスティアに歩み寄ったヘファイストスは、びしりと指を突きつけた。

 

 

「わかってるさっ、ボクだってやる時はやるんだぞ。ベル君達へのこの愛が本物だって、身をもってヘファイストスに証明して見せるよ」

 

 

「はいはい、楽しみに待ってるわ」 

 

 

たゆん、と胸を張ってみせるヘスティアの言葉を話半分で聞きながら、ヘファイストスは壁に作り付けされた棚へ向かう。その細長い棚には新品同然に磨き抜かれて置いてあるショートハンマーが綺麗に並べられている。

 

 

「あと言っとくけど、打ってあげるのは1振りだけよ」

 

 

「え...?」

 

 

さっきまでウキウキだったヘスティアは疑問を抱いた。

 

 

「さすがに親友だからってふたつも打ってあげれないわ、公平じゃないもの」

 

 

それはヘファイストス・ファミリアとして、誇りあるブランドとして矜恃があるからだ。

 

 

「あんたの子が...ベルだっけ?その子が使う得物は?」

 

 

「え......ナ、ナイフだけど?」

 

 

「じゃあもう1人は?」

 

 

「えっと...彼女は魔導師なんだ」

 

 

そう、と一言呟いてヘファイストスは緋色の鎚を手に取り腰に常備しているポーチにしまい込む。

 

 

「ならベルって子の分だけでいいわね」

 

 

「え...あぁ...そのー」

 

 

「何よ...魔法剣士にでもしたいの?どっちにしたって1つしか打たないわよ」

 

 

「うぅ...うぎぎぎ...」

 

 

禁断の質問に迷うヘスティア、どちらにも打ってもらう体でいた為、その答えはすぐには出せない。なぜならどっちにも必要だと思っているからだ。

 

もちろんヘファイストスが意地悪で言ってる訳ではないことをヘスティアはわかっている。けど、ここでまた土下座をかませば、今度こそ此処から追い出され口も聞いてもらえないかもしれない。

 

故に、選ぶしかない。と決心した時、ふと頭を横切ったのは彼、ベルの事だった。

 

彼の赤い瞳...いや深紅の瞳の中で、燃え始めた炎をヘスティアはその目で見た。彼の決意をその耳で聞いた。トネリコには悪いと思うけど彼が強くなりたい理由を考えると、ベルに渡せば、トネリコにも利があると考えた。

 

 

「ベル君に造ってくれ。ヘファイストス」

 

 

「わかったわ」

 

 

そう聞いたヘファイストスは透明のクリスタルケースのもとに行き、ケースの中で鎮座している数種類の金属塊の中から、白銀色に輝く『ミスリル』を選ぶ。

 

鉄より軽くて堅く、そして鉄より遥かに鍛えやすい完成された精製金属。

 

特別の力もない女の鍛冶師でも比較的容易に扱うことができる、上等な金属。

 

 

「あれ?...ヘファイストス。もしかして、君が打ってくれるのかい?」

 

 

「そらそうよ、当たり前でしょう?。これはあんたとのプライベートなんだから。私の事情にファミリアの団員を巻き込むわけにはいかないわ」

 

 

まさか文句でもあるの?とヘファイストスは眼帯をしていない左の眼でジロリとヘスティアを一睨み。だがヘスティアの方は首を横に勢いよく振り、そして顔を輝かせ。

 

 

「まさか、文句なんてあるわけないじゃないか!天界でも神匠と謳われた君に作ってもらうんだから、むしろ大歓迎だよ!」

 

 

「あんた、忘れてないでしょうね?ここは天界じゃないから、私は一切『力』を使えないんだからね」

 

 

神々の間で決められたルールによって、下界では『神の力』の使用は禁じられているため、【鍛冶神】ヘファイストスは、この下界においては『神の恩恵』を授かっていない子供、ただのヒューマンと何も変わらない職人に過ぎない。

 

 

「構うもんか!ボクは君に武器を打ってもらう事が一番嬉しいんだから!」

 

 

「......そう」 

 

 

ヘファイストスの腕を全く疑っていないのか。無条件でこのこと受け入れているヘスティアに、ヘファイストスは難しい表情を作るが。全く悪い気はしなかった。

 

 

「......これからやる作業、あんたも手伝いなさい。今からしっかり働いてもらうからね」

 

 

「ああ、任せてくれ!」

 

 

照れ隠しのためか指示をぶっきらぼうに伝えヘファイストスは体を翻した。部屋の扉へと進む彼女の後を、ヘスティアは機嫌良くにぴょんぴょんと跳び跳ねながら追ってくる。

 

 

(ま、客の要望には応えないとね)

 

 

ちょっと気分を高揚させられたヘファイストスは、意識を主神のものから鍛冶師のものへと即座に切り換える。ヘスティアの望む武器。冒険者が進む道を切り開く為の刃。【鍛冶神】の名に恥じぬ一品を作ってみせよう。

 

 

(とは言ったものの)

 

 

記憶から引き出すのは、その武器の使い手となる人物であるベル・クラネル。種族はヒューマンで、歳は14。 

『神の恩恵』を授かってからまだ半月しか経っていない。冒険者としては完璧な新米だ。

 

 

(駆け出しの冒険者に持たせる、一級品の武器)

 

 

無理難題だ。武器の威力が強過ぎては冒険者として腐る。装備品の力に頼ってしまう行為は使い手の成長を妨げるからだ。もとより使いこなせるとは思っていないが。

 

しかし、適当に作ってしまうことは、【鍛冶神】の名折れ。

 

ヘファイストスは、自らは神である前に一人の鍛冶師であると考えている。そんな根っからの職人気質であるから、己が手がける武器を中途半端なもので終わらせる気など毛頭ない。

 

やるからには全力で最高のモノを作り出すのだ。

 

 

(さてと、どうするか......)

 

 

今まで自分が鍛えてきた数多の作品を参照しながら思考の海に潜る。厄介な依頼をしてくると、隣で嬉しそうに付いてくるヘスティアをちらりと見やりながら、思わず心の中で呟く。

 

 

「あ」

 

 

そしてなんか嫌な予感がした。

 

 

「あのね...ヘファイストス」

 

 

「何よ」

 

 

「出来れば、直剣を打って欲しいんだ」

 

 

先程は、ナイフを使ってると言っていたはずだが?

 

 

「使い慣れてない武器をいきなり使うとそれだけで危険なのよ」

 

 

特にナイフと直剣ではリーチの長さに重さも全く違う。戦闘スタイルが変わり、今まで通りのパフォーマンスが行えず、モンスターに殺られるなんて今まで何度も聞いてきた話だ。

 

 

「わかってるよ、それはわかってるけど、今頃彼は、直剣で戦ってるはずだから」(教会の修繕中です)

 

 

「武器を変えたの?」

 

 

「前に戦った時に、ナイフでのリーチの長さが気になったみたいで」

 

 

そう、朝にベル君がこぼしてた。と言うヘスティア。

 

 

「トネリコくんが朝から、直剣を買いに君の所の店に行くと言っていたから、多分...ね」

 

 

「ふぅん」

 

 

まぁ武器を変えることは珍しいことではない。なんなら自分にしっくりくる武器種の方が安全に戦える。けどこの親バカめ、そんなことならもっと先に言いなさいよ、と心の中で悪態つくヘファイストス。それより心配なのは。

 

 

「ナイフより直剣の方が高いわよ」

 

 

「!?」

 

 

事実をヘスティアに叩きつける。面食らったような顔をする親友にくすりと笑い。

 

 

「頑張んなさい」

 

 

「!......ああ!!」

 

 

そんな親友からの激励によーし、と気合いを入れ直したヘスティア。そんなこんなで2柱は、ベルのための1振りを造るため、工房へと入っていった。

 

 

金属を加工し、打ち鍛えている時、ふと気になったヘファイストスは、汗をだらだらと流しながらも真剣な表情でこちらの作業を見つめるヘスティアに聞いてみた。

 

どうやって2人の眷属と知り合ったの?と。

 

帰ってきた返答は、

 

 

「偶然だよ」

 

 

「偶然、ボクのバイト先に2人で来てね。いつもの感じでボクの眷属にならないかい?って聞いたら、ベル君が目を輝かせて、良いんですか!?ってね。『神の恩恵』を授けてこれからは家族だって言ったら急に泣き出しちゃうし…」

 

 

そんな懐かしむように、言葉を紡ぐヘスティア。

 

 

「それからはドタバタだったなぁ。住んでる教会を見せたらトネリコくんに引かれたし、その後少し弄ってもいいですかって聞かれたからいいよって答えたら次の日には、部屋がいっぱい出来てたんだ!」

 

 

聞いてもないことを話し始める彼女。あえて相槌もせず黙って作業をしながら聞く。(というか教会を改造したの?勝手に?私の許可は?)

 

 

「2人が初めてダンジョンに行った日は心配で堪らなかったよ。帰って来た時は、ついボクが泣いちゃってね。それにつられてか何故か2人も泣いてね、いやー思い出すなぁ...」

 

 

その一つ一つが、彼女にとって大切なもの思い出。

 

 

「あのミノタウロス上層進出が起きてから色んなことがあってね。ベル君は急に悩み始めるし、トネリコくんも少し気落ちしてたな...それで、ある酒場でロキの所と1悶着あってね。その後、ベル君はダンジョンに装備しないまま行ってたらしくて、ボロボロになってトネリコくんに背負われながら帰ってきたんだ」

 

 

そんな苦い記憶すらも今では、愛おしい。

 

 

「自分だってボロボロのくせにさ、トネリコくんはベル君の治療を優先した。それぐらいやばかったってのもあるけど、何か切羽詰まってたように感じたんだ。まだこの事は誰にも話していないんだけどね、彼女...寂しそうに笑うんだ。全く隠せてないのに...でもベル君と一緒にいる時は、そんなことないんだぜ。我慢しているというより安堵の表情って感じで微笑むんだ」

 

 

その顔をベル君が見る度に、薄く頬っぺが赤くなってるんだ。と楽しそうに笑うヘスティア。

 

 

「そして目が覚めたベル君はね、とっても吹っ切れた目をしてた。自分の覚悟を...目指す先を...目標決めれたみたいでね。言いづらいことだろうにちゃんとボクに話してくれたんだ。だから...ボクは、彼の力になりたいって思ったんだ」

 

 

そんな自分にとってかけがえのない宝物を大切に...大切に扱うように話す彼女の顔は。同性のヘファイストスから見てもとっても美しいものだった。

 

 

「そう、いい子たちね」

 

 

ならきっとそのヘスティアの思いは、生まれてくるこの剣を更に強くする。

 

 

「うん、とっても」

 

 

彼女の気持ちの熱が移ったかのように、鎚を握る手に力が籠る感じがする。

 

まだ出会ったことは無いヘスティアの眷属である2人に、ヘファイストスは、ある思いを託す。

 

 

『ヘスティアのこと、よろしくお願いね』

 

 




思ったより、2章は短くなりそう。


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13話

アルクェイドは予想外すぎて財布から金の音が聞こえた。

(宝具5にしました)


 

「おーい、ベルくーん!」

 

 

「え?」 

 

 

遠くから聞こえてきた自分を呼ぶ声の方に振り向くと、そこには今まで所在のわからなかった神様が、手を振りながら人ごみをかき分けてこちらに駆け寄って来ていた。そして何か大きな箱を背負っている。

 

 

「神様!?今までどちらに?」

 

 

「何ちょっとした用事でね。でも終わったからこれからはまた一緒だぜ」 

 

 

目の前で立ち止まった神様は、詳しくは答えてくれなかったけど、何か事件に巻き込まれたわけじゃないみたいだ。良かったぁ

 

 

「そういえばどうして神様はここに?」

 

 

「なーに、ベル君はきっと『怪物祭』に興味を持つと思ったからね...ベル君のことならお見通しだぞ!いやー、それにしても素晴らしいね!ここに居るだろうと思ったら本当に出くわしちゃうなんて!やっぱりボク達は固く結ばれた絆で繋がってるんだね!ふふふ!」

 

 

神様と顔を合わせなかったのはほんの三日間なのにとても懐かしく感じる。

 

 

「そういえばベル君、トネリコくんは一緒じゃないのかい?」

 

 

「えっと実は...」

 

 

僕は先程の出来事を伝えた。僕の話を聞いた神様は、真剣な顔で手を口につけ考え込んでいる。

 

 

「.........ベル君」

 

 

「はい?」

 

 

「トネリコくんのことだけど、多分僕達じゃ何も解決できないと思う」

 

 

「え」

 

 

その口ぶりだと、トネリコの不調の原因を神様は知っているということなのだろうか。

 

 

「勘違いしないでくれよ、これはあくまでボクの推察だ。それにきっと君と同じだよ、自分自身で答えを出さなくちゃいけない」

 

 

僕と...同じ...。

 

 

「だからって、答えが出るまで放っておけってことじゃないぜ?手を貸してもいいし、一緒に悩んでもいいと思う。まぁ全部トネリコくんが他の人を頼るかどうか次第だけどね」

 

 

君に似て強情だからね、と神様は続ける。

 

 

「そしてトネリコくんが助けを求めた時、君がするべきことは...わかるね?」

 

 

「はい!」

 

 

何がなんでも手を伸ばす。僕の手を掴んでくれるまで、手を掴んでくれたなら、決して離さない。必ず。

 

 

「うん、それでこそベル君だ。だからこれを君に」

 

 

「ッ!?」

 

 

「......どうしたんだい、ベル君?」

 

 

僕は神様の言葉を遮るかのように後ろを振り向いた。返答も忘れ、辺り一体を見回す。なぜなら今、確かに。聞こえたのだ。祭りのざわめきとは違う。切迫じみたような。

 

 

「...悲鳴?」

 

 

そう口からこぼれ落ちた瞬間。

 

 

「モンスターだぁああああああああああああっ!?」

 

 

そんな声が、通りに響き渡る。それと同時に凍り付いたかのように、平和そのものだった大通りは一瞬言葉を無くした。

 

そして、僕は見た。闘技場方面の通りの奥に。白の毛並みを持つ一匹のモンスターが、荒々しく突き進んでくるの。

 

そして僕が見えたということは、他の人も確認したのだろう。絶叫とともに、人の群れは、ばらばらに散っていった。

 

 

「ベ、ベル君...」

 

 

僕は神様の手を取り、1歩後ずさる。全身の毛が逆立ち、汗が一斉に噴き出す感覚は、まるでミノタウロスと遭遇した時に似ている。あのどうしようもない絶望が僕を襲う。

 

そのモンスター、シルバーバックは、僕たちを視界に入れると、理性がないギョロっとした目を、僕に...いや神様に向ける。

 

すると、シルバーバックの口角が上がる。まるで獲物を見つけたと言わんばかりに。

 

 

『グガァ!』

 

 

シルバーバックが、飛びかかってきた。その僕より何倍もあるその巨体で突っ込んでくる。多分狙いは神様、理由は分からない。頭の理解が追いつく前に、神様を抱き抱え横へ跳ぶ。

 

 

「ッ!!」

 

 

「うわっ」

 

 

勢いに任せ地面を転がる。2転3転と回り、勢いが落ち着いたため片足を地面に立たせ、神様を背中に隠しながらモンスターの方を見る。

 

 

『グウッ...!』

 

 

突撃を躱されたシルバーバックは既にこちらを向いていた。ぎらぎらとした眼光を向けながら、再び、僕達に襲いかかってくる。

 

 

「ごめんなさい!」

 

 

「うえぇ!」

 

 

神様を再び抱き抱え、モンスターの突進を躱す。その勢いは凄まじく後ろの壁へと激突する。それを一瞥し、神様を横抱き...つまりお姫様抱っこをして、逃走する。

 

 

「......すまない、ベル君。ボクはこんな状況なのに、心から幸せを感じてしまっている!」

 

 

「こんな時になにを言ってるんですか神様!?」

 

 

神様の神意が全く読めない!アクシデントに遭って半ば取り乱している僕はとにかく走り続ける。

 

が、すぐに雄叫びが背後から打ち上がる。再びこっちを追いかけてきているだろう。

 

 

「どうして、神様が狙われてるんですか!?」

 

 

「し、知るもんか!?あんなモンスターとは初対面だ!ボクは何もしちゃいない!」 

 

 

そう叫びながら神様は僕の服をぎゅっと握る。こっちが聞きたいというように答えた神様、そして後方から迫る気配は一向に消えない。

 

シルバーバックの目的は神様なのだろう。そうでもなければこんなに僕達だけを追いかけるなんてありえない!もしかしたら誰かに操られてるんじゃないかとさえ思う。。

 

 

(何が起きてるんだ、一体!?)

 

 

答えが出ない疑問を抱えながら、僕は神様を連れ逃げ回っていった。

 

できるだけ人は巻き込みたくない。でも今の僕では、5層より下層に出現するあの化け物を倒せる気がしない。故に、他の冒険者の救援が来るまで逃げ続けなければならない。そんないつ終わるかが分からないこの逃走劇は、全部僕の体力次第ということだ。

 

人が少ない方へと、僕はただ進み続けることしか考えてなかった。

 

だから。

 

 

「ベル君!こっちはダメだ!」

 

 

「えっ!?」

 

 

神様の切羽詰まった声に、はっと意識が戻る。そして道なりの大きなカーブを曲がり切った瞬間、僕はその言葉の意味を悟る。

 

 

「ここは...まさか...」

 

 

細い通り道は終わり、代わりに、雑多としか言いようのない空間が現れる。不規則にできた通路に、数多く存在する上下の階段、それはまるで迷路の構造、その名は。

 

『ダイダロス通り』

 

オラリオに存在するもう一つの迷宮。度重なる区画整理で狂った、広域住宅街。都市の貧民層が住むこの複雑な通りは、一度迷い込んだら、二度と出てこられないとまで言われている。

 

その人工迷宮は今僕がいる場所より低い位置にあった。眼下に広がる光景を前に僕は棒立ちとなる。

 

無茶だ。よりにもよって、こんなところでモンスターと追いかけっこをするなんて。

 

いつ行き止まりに出くわし、追い詰められるかわかったもんじゃない。

 

 

『ガァアアアアァァッ!』

 

 

「っ!?」 

 

 

後ろにシルバーバックが姿を現す。もう前に進むしかないのだ。神様を地面に降ろし、その細い手を引っ張って『ダイダロス通り』に入る。

 

だが、建物を破壊し進んでくるシルバーバックの方が速い。そんな恐怖の鬼ごっこをする僕達をこの通りに住む人々は、見るやいなや、悲鳴をあげ、逃げていき、すぐさま人気が失せた。

 

 

「神様、そこ曲がります!」

 

 

「う、うんっ......!」

 

 

それまで走っていた道を曲がり別の通路へ出る。それを何度も繰り返し、他の径路へ。次の通路ヘと僕は進む方向を変えた。

そして後ろからの気配が消えた。

 

 

(振り切った!?)

 

 

迷路のような構造を利用してシルバーバックを引き離した僕は後方を確認する。モンスターの姿はない。撒けたのか、と僕は安堵するが。

 

 

「しまっ!?」 

 

 

聴覚が拾う。何かを蹴るような音と、石材が軋む音。そんな不穏な音が近付いてきたかと思うと、足元の石畳に大きな影が写る。

 

真上、それは完全な死角だった。シルバーバックは、真っ直ぐ落下して来る。

 

 

『ギァアアアアアアアア!』

 

 

「ッ!」「ぁ!?」

 

 

頭上からの奇襲。砕かれた石畳が見る影もない破片となって宙に舞う。顔を振り上げたシルバーバックと正対する格好になった僕は、神様の前に身を乗り出し、帯刀していた。直剣を抜こうと...。

 

 

『ガァオオオオオオオオッ!!』

 

 

それはなんてことは無い。攻撃ではない。ただの威嚇。けれどその咆哮は、僕に植え付けられた恐怖を再び思い出させるのに充分の効果を持っていた。

 

 

「───ぁ......」

 

 

幻視するのは、ミノタウロス。狂牛の雄叫びが鮮明に蘇り、僕の足を竦ませる。

 

僕の行動を容易く強制停止へと追いやった。完璧な、『恐怖』状態。

 

 

『ガアァッ!』 

 

 

眼前の敵は僕に手を伸ばす。頭を握りつぶす気なのだろう。今の僕ではきっと敵わない怪物。絶望の象徴(トラウマ)と被る面影。

 

だからって後ろにいる人を。今、僕が守るしかない大切な存在を。見捨てる訳にはいかない。僕を殺したその次は、神様をその剛腕で握りつぶす。させない。

 

 

そんなことさせるもんか。

 

 

目に炎が灯る。

 

 

手に力が入る。

 

 

助けなきゃ 。

 

 

怖い。

 

 

怖いけど。

 

 

それでも。

 

 

(僕は、『男』だろうが!) 

 

 

なけなしの意地が、僕を突き動かす。

 

 

戦え!

 

 

戦えッ! 

 

 

戦えぇぇぇぇッ!

 

 

「うあああああああっ!」

 

 

ありったけの勇気をこめて腹から声を出す。体の中の恐怖を追い出すように、無理矢理全身を稼働させる。僕は、1度しゃがみこみ、そして剣抜きながら立ち上がる。シルバーバックの手の平を剣で切りつける。

 

 

『グルゥ...』 

 

 

が、シルバーバックは気にした様子はない。なぜなら...。剣が、白い剛毛の前にして刃が通っていないからだ。

 

その事実に僕は、頭が真っ白になった。振り絞った勇気を使って、繰り出した一撃は、無駄になった。勝てない...そう思ってしまった。

 

 

「ベル君ッ!避けろォ!」

 

 

神様の悲痛な声が聞こえた同時に。鎖を垂らす手錠が付いた棍棒のような腕から繰り出されるパンチを、僕は避けられなかった。

 

 

『ガァアアッ!』

 

 

「ぐッ!?」

 

 

僕は、吹き飛ばされた。だが無意識なのか、そのパンチを食らう前に直剣を体の前に出して、盾のように使ったらしい。でもその威力は凄まじく全く威力は緩和されてない。そしてトネリコから貰った直剣は、粉々に砕けてしまった。

 

これは、ほんとにまずい。逃げれない。戦えない。打つ手なし。絶対絶命。

 

 

「...っ...」

 

 

体は痛い。心も半ば折れている。今の僕じゃ、神様を守れない。

 

 

「...神...様」

 

 

「ベル君!」

 

 

だから。

 

 

「に.......げ...て...」

 

 

「ッ...!?」

 

 

神様さえ、逃げてくれれば…助かってくれれば...それでいい。この体でも囮ぐらいにはなるはずだ。そのまま神様が、誰かに助けを求めれば大丈夫。

 

痛みを訴える体を無理やりに動かし、神様の前に再び立つ。

 

神様...貴女との約束を反映にすることを、許してください。

 

貴女達を置いて逝く、僕を許してください。

 

ごめん...トネリコ...。

 

 

「目を閉じて!!」

 

 

そんな声が聞こえて来たと同時に、シルバーバックの顔に何かがぶつかり、それは光を放ち始め、辺り一体に目が潰れるような閃光を発生させる。

 

 

『ギィアアアアァァァァアアッ!!!』

 

 

「うぐぅ...眩しい...」

 

 

「ッ......」

 

 

目を閉じていても、瞼を通して光を感じることができる。こんなものを直視してしまえば失明するんじゃないかと思うぐらいだ。

 

 

「2人ともこっちです」

 

 

と、腕を引っ張られる。強い光が収まったのを感じ、目を開け、その人物を見る。そこにいたのは。

 

 

「「トネリコ(くん)!」」

 

 

今は、『豊饒の女主人』にいるはずの彼女だった。

 

 

「閃光玉をぶつけてやりました、しばらく動けないでしょう!その間に身を隠します!」

 

 

そう言いながらトネリコは、僕達の腕を引っ張り、進んだ先に狭い地下道が見えそこへと入る。

 

 

「それで今がどういう状況なのか、教えてください」

 

 

あとこれを飲んでくださいと、青い液体、ポーションを渡される。

いや、それより。

 

 

「君は大丈夫なのかい?ベル君から聞いたが体調が悪いって」

 

 

僕が思った疑問を、代わりに神様が聞いてくれた。

 

 

「少し休んだら、落ち着きましたから大丈夫です。それで状況は?」

 

 

「それが...」

 

 

僕は説明する。急にモンスターが現れ、自分たちを追いかけてくること。理由は分からないが狙いは神様。そして僕では、あいつに勝てないから自らを囮にして神様を誰かに救ってもらおうとしたこと。

 

そこまで話し、トネリコは口を開く。

 

 

「とても言いづらいですが、救助は期待できません」

 

 

「えっ?」

 

 

それはどういう意味なのか、理解できない。いや理解したくない。

 

 

「ここに来るまで、私はほかの冒険者らしき人を見ていない。おそらく人払いされています」

 

 

何者かの手によって、とその言葉は続き。それにここまで来るのに時間がかかるでしょう。と、トネリコは語る。

 

じゃあもう、どうしようもないじゃないか...。隠れ続けることはできない、いずれ視界が回復したモンスターに僕らは蹂躙される。

 

僕の脳内は、絶望に塗りつぶされる。

 

顔を下げて俯いしまう。けど、僕の頬を優しく手で包み込む温かい感触がし、顔を上げられる。目の前には神様がいて。

 

 

「ベル君、諦めるにはまだ早いぜ」

 

 

...えっ?

 

 

「ボクに考えがある」

 

 

そう言った神様は背中に背負っていた。箱を僕の前に出し、開封する。

 

その中には、漆黒の鞘に、収まっている様々な刻印が施された長さ100c程の直剣があった。

 

 

「これは...」

 

 

君の武器だ(・・・・・)

 

 

「え...?」

 

 

「君のために、ボクの親友に打ってもらった」

 

 

僕の...ために...。

 

 

「君の力になりたかった」

 

 

まさか今まで帰ってこなかったのは...。

 

 

「ボクが、君を勝たせてやる。勝たせてみせる」

 

 

「ボクは君を信じてるよ、あんなモンスターより君の方が強いって。そんな君を信じるボクを信じてくれ」

 

 

鼻の先がツンとする。今の僕は泣いているのかもしれない。

 

 

「私もベルを信じてます。必ず勝てるって」

 

 

神様...トネリコ...。

 

 

「さぁ、受け取ってくれ」

 

 

黒い剣を両手で受け取る。その剣からは見た目以上の重量を感じるが、刻まれた刻印が僕に呼応するかのように淡い紫色に発光する。すると、まるで手に馴染むかのように、今まで感じてた重量が程よい重さへと変わる。

 

 

「トネリコくん、今からここでベル君のステイタスを更新するから、終わるまであのモンスターを引き付けておいて欲しい。できるかい?」

 

 

「ええ、やってみせます」

 

 

「トネリコ...」

 

 

正直に言うと、行かないでほしい。僕と同じ駆け出しの彼女ではきっとあのモンスターに太刀打ちすることは難しいと思うし、何かあったら嫌だ。でも...。トネリコの方を見ると彼女と目線がかち合う。

 

 

「ええ......そうです。私のことも信じてください。必ずあなたにバトンを繋ぎます」

 

 

僕を信じてくれる彼女を、僕は信じることにした。

 

 

「...では、行ってきます」

 

 

僕の思ったことが伝わったのか、トネリコは少し微笑み地下道を出ていった。

 

 

「さぁベル君、急ぎでやるぞ」

 

 

「はい!」

 

 

━━━━━━━━━━

トネリコSide

 

 

異変が起きたのは、キャットピープルの店員さんから『怪物祭』の詳細を聞いた時だった。

 

急に息苦しくなり、視界はぼやけ始め、一切の音すら聞こえない。

なのに幻視するのは、赤、赤、赤、赤。

 

ベルが強く肩を揺さぶってくれて、その苦しみからは解放された。

 

なんだったんだ...今の。

 

その後、ベルがお使いをしている間、私は『豊饒の女主人』の中で休ませてもらった。いや休んでいたというより。

 

 

「何チンたらしてんだい!開店まで時間ないんだよ!」

 

 

「はいっ!」

 

 

私は開店準備の手伝いをしていた。

ただ休ませて貰うだけなのは、気が引けたため、私から何かを手伝わせて欲しいと頼んだ。

 

少し悩んだ女将さん...ミアさんは、じゃあ掃除でもしてもらおうかと、言ってくれた。

 

そうしてベルが戻ってくるまでの間、手伝いをさせてもらおうと思っていたけど、少し時間が経ち、外が騒がしくなった。その様子は普通ではない。店から顔を出したミアさんは、走ってくる男性に、何があったかと聞けば、闘技場からモンスターが脱走したとの事だ。

 

嫌な予感がする。背中に熱を感じた。これはあの時と同じもの。

 

そう思った私は、置いておいた装備を持って酒場を飛び出す。後ろから呼び止める声が聞こえたけど、振り向かず、手をあげることで答えた。

 

ベルがシルさんにお財布を届けに行った東側のメインストリートに着いた時、周りに人がほとんど居なかった。既に逃げたのだろうか。でも誰もいないのは不自然すぎるし静かすぎる。そしてモンスターの声が聞こえた。聞こえた先は『ダイダロス通り』そこにベルもいると確信していた。

 

きっとこれは試練なのだろう。

彼が乗り越えなくてはいけない。ひとつの壁。

 

私が介入するべきではない。余計な手出しをしてしまっては、試練の横槍を入れては、ダメだと思いつつもベル達を探すために『ダイダロス通り』へと入る、そして見つけ、ベルが壁を乗り越える様子を見守ることに徹しようと思った。けどものすごくピンチだったベル達を見た時、気づけば、閃光玉を投げていた。

 

心の中で、ああやっちゃった、と思いつつも、神ヘスティアとの約束を守れたことにほっとしながら2人の手を引っ張り、地下道を見つけそこに身を隠す。

 

それで、ベルからこの状況を説明してもらったけど、あまりに絶望的なものだ。救援は期待出来ず、自分より一回りも強い相手、ベルの心は、彼の右手に持つ直剣だった物のように、砕け散っている。

 

でも、神ヘスティアは黒い剣と彼女自身の嘘偽りのない言葉で、彼の心に再び炎を灯させた。そしてベルはまた挑もうとしている、新しい力を手にして、なら私も、ベルを信じるんだ。必ずベルなら乗り越えると。そのために。

 

 

『グゥゥッ!!』

 

 

「どうやら閃光玉で片目が失明したようですね」

 

 

私は今、シルバーバックの前にいる。力は負けるだろうし、図体の差も大きい、負ける気しかしない......けど。

 

 

『フーッ!、フーッ!』

 

 

「怒ってますか?怒ってますよね…実は私もです」

 

 

たとえ世界からの試練だとしても、こいつは友達を...家族を傷つけたんだ。その事実は変わらない。私が怒ってもいいはずだ。

 

全身にある魔術回路に『魔力』を流す。体に青白いラインが浮かび上がる。これは私のスキル【魔力放出】の能力。これで私のステータスを底上げする。本来は武器に『魔力』を纏わせるとか、ジャンプやパンチをする時に力を込める一部分の場所に『魔力』を流すのだが。今回は全身にする。

 

初めての試みだからどうなるかは分からないけど。うん、やってやる。私は、シルバーバックを睨みつけ、宣言する。

 

 

「今から私があなたをボッコボコにしてやります。覚悟しろ、この万年発情猿め!」

 

 

『グガァァァッ!!!』

 

 

戦いの火蓋は切られた。

 

 

 

 

 

 




この2章が書き終えたらすぐ3章に入りたいけど、トネリコの██眼のおかげでリリの立ち回りをどうするべきか決まらない。ですのでかなりの時間をかけることになるため、更新が更に遅れます。申し訳ありません


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14話

今年の水着ガチャマジでやばいメンツばっかじゃん…


 

「今から私があなたをボッコボコにしてやります。覚悟しろ、この万年発情猿め!」

 

 

なんて言ったけど...。

 

 

『ガアァアッ!』

 

 

「...っ...!」

 

 

モンスターの攻撃を避けるだけで精一杯だ。片目が潰れているから、私との距離を正確に測れていないため被弾することはないけれど、この狭い場所で、そのでかい腕を振るわれるだけで脅威なのだ。

 

 

「やぁあああ!」

 

 

『グゥゥッ!?』

 

 

モンスターが剛腕を振り下ろした瞬間に、跳び上がりその攻撃を避け、モンスターの顔に杖を叩きつける。

本当なら魔術で遠距離から攻撃をしたい、けれどさっき何度か試してみたが全く効いてない様子なので、杖で殴ることにした。

 

私が持つ最高威力の魔術であるシャスティフォルならばあの身体を貫通できると思う、けど街中では危なすぎる。あれは短剣の先に『魔力』を集め圧縮し、限界まで溜めた『魔力』を鋭い光線として放ち、相手を貫く魔術だ。モンスターを貫通してもその光線はすぐには消えない。そのまま進み続けもしかしたら一般人をも貫いてしまう可能性があるため、地上では使わないと決めた。

 

それに今の私はただの時間稼ぎ、ベルが来るまで、モンスターをもっと広い場所まで誘い込む。そうすれば、ベルも戦いやすいだろう。

 

 

「はぁ...はぁ...っ......こっちだ!追いつけるものなら着いてこい!」

 

 

『グアアアアア!!』

 

 

正直言うときっつい。私だってあれは怖いのだ。今だって頑張れてることが不思議なぐらい。ベルー早く来てーっと思いながら私は、モンスターを誘う。...が。

 

 

『ガァアアアア!!』

 

 

「うそ!?」

 

 

私は見誤っていた。そのまま後ろから追ってくると思っていた。だから突進してくるとは思わなかった。

この狭い通路の中、その巨体で私に向かってくる。壁に体を擦りながら来る。逃げ道は後ろしかないがすぐに追いつかれる。そのため自分の体を『魔力』で補強し、その一撃を耐えるため防御を選択した。

 

 

「ぐッ!?」

 

 

だけど一撃に耐えきれず、私は後方へと吹き飛ばされる。幸いでいいのか分からないが、吹き飛んだ方向に壁はなく、私は勢いが消えるまで転がり続けた。

 

ダメージは思ったより少ない、全身に響いた衝撃のせいで体を自由に動かせない。転がり続けて辿り着いたこの場所は、東側のメインストリートだった。そこには大勢の人がいた。きっと私が『ダイダロス通り』に入るより奥の方にはまだ人がいたのかもしれない。

 

そして自分が出てきた方向を再度見ると白い影が見えた。そんな私を辺りの人は不思議そうに見るが、私が出てきたところから、シルバーバックが姿を現した。そしてメインストリートに悲鳴が上がり周りはパニック状態へと変わる。

 

 

『グゥ...』

 

 

「皆逃げて...!?」

 

 

シルバーバックは、周りを一切気にせず私目掛けて一直線、そのまま私の体を掴み、足が地面から離れるぐらい高く上にあげた。万事休す。このまま握りつぶされれば、私は死ぬ。そんな状態の私を見たシルバーバックはニヤケ顔をする。勝利を確信したのか...腹立つ。だから私も笑みを浮かべ挑発気味に言ってやった。

 

 

「これで勝ったつもりなんですか?なら随分とおめでたい頭をしてるんですね」

 

 

『グゥゥ...ガアアアァァッァア!!』

 

 

私に対して怒りの叫びを上げ、その手を強く握り始める。

 

 

「ぐっ!?...うぅッ......」

 

 

体が悲鳴を上げる。それでも笑みを絶やさず、目だけはモンスターを睨み言葉を紡ぐ。

 

 

「私の番は終わりです...上を見てみろシルバーバック!」

 

 

『グアァ?』

 

 

建物の上から白い影がこちらに近づいてくる、あの時に見えたのはシルバーバックではなく。

 

 

「トネリコをッ...離せぇぇええええ!!」

 

 

ベルだ。

建物の上からこちらに飛び降り、彼の握る黒い剣をシルバーバックの背中へと突き刺す。

 

 

『グガァァァァアアアアアッ!!』

 

 

今初めて攻撃らしい攻撃を受けたシルバーバックは痛みからか叫び、背中に張り付くベルを落とそうともがく。その際、右手に握られていた私のことを勢いよく放り投げる。

 

 

「嘘ぉぉ!?」

 

 

また私は転がるのかと、いずれ来る衝撃に備え体を丸める。......が。何か地面ではない物に体がぶつかり衝撃は全くない。

 

 

「......大丈夫?」

 

 

「...え?」

 

 

衝撃の代わりに、言葉をかけられる。そこにいたのは、アイズ・ヴァレンシュタインさんだった。どうやら投げ飛ばされた私を受け止めてくれたらしい。

 

 

「...はい、大丈夫です...助けていただきありがとうございます」

 

 

「...うん...これ」

 

 

そう言って渡されたのはポーションだった。

 

 

「え、いや......ありがとうございます」

 

 

「...?」

 

 

自前のものを持ってはいるのだけど、善意を無下にしたくないし、これを受け取らないと失礼だと思い受け取った。

 

 

「...じゃあここで待ってて」

 

 

「?」

 

 

渡されたポーションを飲みながら傷を癒していると、もう私は大丈夫だと判断したのか。ヴァレンシュタインさんが剣を抜きながら、シルバーバックの方へと向かう。って。

 

 

「ちょっと待ってください!」

 

 

「...?」

 

 

そう言って私は、彼女の腕を掴む。不思議そうに首をコテンと傾げるヴァレンシュタインさん。

 

 

「ベルに...やらせてください」

 

 

「...でも、危ないよ?」

 

 

ヴァレンシュタインさんは正しい。1週間前、ミノタウロスの時に私たちは助けられているしその時私たちは駆け出しということも見抜かれているはずだ。そんな駆け出しがシルバーバックと戦うことなんて無謀だと思われても仕方ない。でもこれは。

 

 

「ベルが...乗り越えないといけないことなんです。だから手を出さないでください」

 

 

「......」

 

 

少し困った顔をする彼女。ダンジョン内でのモンスターの横取りはご法度。だが今は緊急事態であり地上なのでこのルールは適応されないし、そんなことを言っている場合では無いことは重々承知だ。

 

 

「なら自分、あの兎を見殺しにするつもりなんか?」

 

 

私の後ろから、声が聞こえた。いやこの独特な喋り方は前に聞いたことがある。

 

 

「...ロキ」

 

 

私が振り向くのと同時にヴァレンシュタインさんは呟く。

こっちに近づいてくる赤毛の短髪...と思えば後ろに髪を束ねているそして男性用のようなラフな格好。そして開いてるのか判断できないぐらいの細目。彼女が...。

 

 

「神ロキ...」

 

 

「自分らどチビんとこの子やろ」

 

 

「どチビ...?」

 

 

「あー...ヘスティアやヘスティア...ぴったりなニックネームやろ」

 

 

「ええ...そうですけど」

 

 

「スルーかいな…まぁええ...あいつからちょっと聞いただけやけどな、まだ冒険者になって約3週間のやつがシルバーバックを相手にすんのはきついやろ」

 

 

神ロキの判断は正しい、ヴァレンシュタインさんが動けば一瞬のうちに片がつく。誰も傷つかず、1番安全な終幕だ。でも...。

 

 

「そうかもしれませんが、これは...ベルが超えなくちゃいけないものなんです」

 

 

私がそう言うと、神ロキの視線がさらに鋭いものへと変わる。

 

 

「...お前...あの色ボケとどんな関係や?」

 

 

「え...?」

 

 

今度は色ボケ?この神のネーミングセンスがよく分からない。多分的をえてるんだろうけど、誰のことなのか私には分からない。

 

 

「......関係はなさそうやな」

 

 

「...はい」

 

 

神ロキから感じる重圧が、すっと消えた。

 

 

「はぁ...アイズ、あの兎がピンチになったら助けてやりぃ」

 

 

「...わかった」

 

 

「いいんですか?」

 

 

恐る恐る聞いてみる。

 

 

「まぁ言ってしまえば他の派閥のことや、首を突っ込む訳にもいかんし...それに見てみぃ」

 

 

神ロキに促され、ベルの方に目を向ける...あれ?

 

 

「動いてない?」

 

 

私が投げられてからそれなりの時間は経っているのに、両者はお互いを睨むだけで、動いていない。

 

 

「あれを邪魔するのは無粋ってことや」

 

 

━━━━━━━━━━

ベルSide

 

僕は、建物の上を渡り、シルバーバックの元へと向かっていた。ようやく追いついた時、目に入ったのは、モンスターの大きな手に握られているトネリコの姿だった。その瞬間頭の中で何かが弾け。気づけば高さ6mはある所を飛び降り、神の剣(ヘスティア・ソード)をシルバーバックの背中に突き刺していた。

 

そして暴れるシルバーバックに振り落とされ、すぐに体勢を直し距離をとる。その際トネリコが投げられた方向を見るとそこにはアイズ・ヴァレンシュタインさんの姿があるけどトネリコが彼女の腕を掴み何かを言っている。そんな様子を一瞥しシルバーバックの方へと再度向き直す。

 

先程までの恐怖はない。それにあの背中にこの剣は傷を与えることができた。つまり倒せるということ。

 

シルバーバックは片目を閉じている...いや目が開けられないのかな?多分トネリコがやったのだろう。シルバーバックは残った片目で僕を見ながら動く気配がない。それでも視線はこちらを射ている。

 

僕は右手に持つ剣を握り直し、ここに来るまでの神様との会話を思い出す。

 

 

『いいかいベル君?』

 

 

『この剣には、ボクの『神聖文字(ヒエログリフ)』が刻まれている。つまり生きているんだ』

 

 

『君たち『神の恩恵(ファルナ)』を持ってる者と同じで経験値を糧にすることでその剣は成長する。どうやら装備した者によって変わるらしいけどね』

 

 

『今のままだと紙すらも切れない貧弱な武器だ。でもボクの恩恵が刻まれている君達が持つことでこの剣はより強くなる』

 

 

『そうだ君が強くなれば、その剣は必ず君に応える。...あれ気づいたかい?その剣を打ってくれたボクの親友ってのはヘファイストスのことだよ。そうあのヘファイストスだ』

 

 

『......知ってたよ、ボクやトネリコくんがバイトで留守にしてる時、君は教会の掃除をした後、この都市の散策に出てることはね、それでいつもヘファイストスの店の陳列窓に置かれた武器を羨望の眼差しで見てたことをね』

 

 

『へ?お金?そんなのちゃんとヘファイストスに話をつけてきたさ、君達の負担になるようなことはしないよ』

 

 

『ボクはもう君達の帰りを待つだけは嫌だったんだ。そしてあの日の夜、君の思いを聞いた。それで君達の力になる為に何をしてあげられるか悩んだ結果、君達の進む道を切り開く武器が必要だと思ったんだ』

 

 

『強くなりたいんだろ?』

 

 

『大切なものを守りたいんだろ?』

 

 

『英雄を目指すんだろ?』

 

 

『言ったじゃないか、手を貸すってさ。これぐらいのお節介はさせてくれよ』

 

 

『ボクは君達の神様だぜ?いつだって頼って欲しい。必ずボクが力になると約束するよ』

 

 

『よしこれでステイタスの更新は終わりだ!...おいおい嬉しいのはありがたいけど泣いてる暇なんてないぜ?さぁほら顔を拭いて。こんなの君にとって冒険の内にも入らない。だって君の目標はもっと高い場所にある。あんなモンスターけちょんけちょんにして来るんだ』

 

 

『うんうん、とてもかっこいいよベル君。さぁ行くんだ!』

 

 

僕を信じて送り出してくれた神様...そして僕を信じてここまでシルバーバックを追い詰めてくれたトネリコ...ありがとう必ず...勝つよ。

 

 

「僕は、ヘスティア・ファミリア、団長ベル・クラネル!今からお前を倒すッ!!」

 

 

『...ガアァアアアアアア!!』

 

 

どうして名乗ったかはわからない。けど自然と口から出ていた。シルバーバックは僕の言葉に答えるように叫び、そして僕達は同時に目の前の敵へと走り出していた。

 

さぁ...勝負だ!

 

 

 

ベル・クラネル 

 

Lv.1 

 

力:E440→C625

 

耐久:F356→E400

 

器用:G280→E450

 

敏捷:E440→C660

 

魔力:I0

 

 

《魔法》【 】

 

 

《スキル》

 

【憧憬躍動】

 

 

・早熟する。

 

・懸想が続く限り効果持続。

 

・想いが続く限り効果持続。

 

・上記2つの丈により効果向上。

 

・走り続ける限りさらに効果向上。

 

 

━━━━━━━━━━

 

東側のメインストリート、摩天楼から闘技場へと続く1本の大通り。そこには異様な光景があった。

 

1人の白い少年と1匹の白い怪物の戦いを周りの人々は、逃げることも無く観戦していた。

 

ベルが黒い剣を振るい、怪物は剛腕を地面に叩きつける。なんの力もない一般人にとってそれは、恐怖の何物でもない。一目散に逃げるべきとそれぞれの本能が言っている。だが。

 

今戦っているベルの名乗りという雄叫びを聞いた時、そこにいるものは全て足を止めこの戦いを見ることに徹し始めた。

 

この戦いは先程まで闘技場で行われていたような魅せる闘いではない。それにベルは見るからに、経験不足だ。拙い足さばきでギリギリ攻撃を躱し。扱い始めたばかりの黒い剣を力いっぱい振るけれどモンスターとの距離が空いている為か、大きな傷を与えることはできず、ちょっとした切り傷をつけていくだけ。

 

それでも、目が離せない。ベルも怪物も自身の力を最大限引き出し相手にぶつけている。目の前の相手を倒し自分が生き残る為に。剣を振るい、腕を振るう。その全力のぶつかり合いにここにいるものは皆魅せられていた。

 

戦いはさらに苛烈を極めた。シルバーバックが自らの腕についていた手錠だったものから垂れ下がる鎖を武器として使い始めたからだ。剣と鎖がぶつかり合い火花を散らす。そして徐々にベルは押され始める。体格の差の影響というものがここで現れた。

 

その様子を見ていた1人の幼い男子は息を吐くようにぼそっと口から言葉を発した。

 

 

「...がんばれ」

 

 

戦いの音でかき消される程の声量だったため、周りのものには聞こえなかったかもしれない。だけどその思いは確かに周りへと伝播した。

 

 

『頑張れッ!』

 

 

『負けんな!もっと腰入れろぉ!』

 

 

『今日の分の酒全部お前に賭けてやるから勝てぇ!』

 

 

『いけぇ!兎ぃ!』

 

 

「うぉおおおおおおおおッ!」

 

 

周りからの声援に答えるかのように、ベルは雄叫びを上げる。鎖を剣で受けながら前に出てシルバーバックの胸元に剣を振るう。

 

 

『グオッ!?』

 

 

その一撃によって、鎧ごと切り裂かれた傷口から紫色の結晶の頭が姿を見せた。それはシルバーバックの魔石。モンスターであるものが持つモンスターたらしめるものであり、弱点になるもの。

 

 

(見えた!)

 

 

ベルの狙いは魔石を壊すことでの決着。胸元にあるのはエイナから聞いていたが、このような巨体の中にある魔石に当たるまで剣を刺し続けるのは今のベルには不可能だった。だが魔石が見えたことで勝利の道がより明確へと変わる。

 

 

『グオオオッ!』

 

 

「ッ...!?」

 

 

だがシルバーバックはそうやすやすと殺されるつもりは無い。まだ自分の懐にいるベルに向かって左拳を振り落とす。それを間一髪でベルは回避するが、シルバーバックの拳は地面を叩き周りに砂煙を発生させた。

 

 

「...!」

 

 

シルバーバックの姿をベルは視認出来なくなる。だが突如ベルは膝を曲げその場にしゃがみ込む。次の瞬間ベルの頭より少し上を鎖が勢いよく横断した。もし少しでも動くのが遅ければベルの上半身と下半身は分かたれていた。

 

ベルはこの戦いの中で、たまに不思議な感覚を味わっていた。頭の中にとある光景が瞬時に映し出されその通り動くと、相手の攻撃を避けることができた。そのことからこれはまるで最適解の行動を自分に教えているように思えた。そしてこの時も、その勘のような未来予知のようなものに身を任せその場にしゃがみ込む。その結果は上々。不可視からの一撃を避けることが出来た。

 

『勇者』フィン・ディムナが持つ「第六感」、親指の疼きに似て非なるこれは名ずけるならば『直感』。自らの行動の最適な未来を映し出す、ベルに目覚めた「第六感」。この勘のおかげで、ベルは未だにモンスターから直撃を受けていないと言ってもいい。

 

その理屈がわからない力を信じベルは戦う。目の前にいる敵に勝つ為ならば、ベルは使えるものはなんでも使うスタンスでいるから。

 

 

「はァッ!」

 

 

鎖が自分の真上を通過し、すぐにベルは駆け出す。そして砂煙を抜け、左に振りかざしたままでいるシルバーバックの右腕の肘を斬り裂く。

 

 

『グゥオッッ!?』

 

 

ベルは止まらず、シルバーバックの足元に滑り込み左足の膝裏を斬る。足を斬られ、体勢を維持できなくなった為か、シルバーバックの左足が地面に膝を着く。

 

 

『ガァ!』

 

 

シルバーバックはベルの姿を確認するために後ろを向くが、そこにはもうベルの姿はなく、直後に右足からの激痛。ベルはシルバーバックの足の関節を斬った。

 

遂にシルバーバックは自らを支える足の力を失い、両膝を地につけた。そして前を向けば、剣先を自分の胸に向けて無防備となった魔石を砕く行動に移ろうとするベルに姿がある。

 

 

『やれぇぇえ兎ぃー!』

 

 

『ぶっ刺せーッ!』

 

 

『お願い勝って!』

 

 

誰もが勝ちを願い、または勝ちを確信した。

 

シルバーバックにも雄としてのプライドがある。とある今まで見た事がない美しい存在から言い渡された使命。

 

 

『小さな女神(わたし)を追いかけて?』

 

 

『そしてそれを守ろうとする小さな騎士(ナイト)を蹂躙しなさい』

 

 

黒髪の女神を見つけた時、その近くには自分の姿に恐れを抱き、震える矮小な雑魚がいた。敵ですらなかった。そいつからの攻撃は自分の毛鎧を通すことはなく、ただ蹂躙する対象でしかなかった。そのはずなのに。再び目の前現れたこいつは、雄の顔になっていた。ならば倒さねばならない敵だ。それに自分は己の運命を察している。目の前の雄を倒してもあの奥にいる金髪の雌に自分は何も出来ず殺されるだろう。そうだとしてもあいつに、ベルに勝ちたいとシルバーバックは思った。それがモンスターである自分に名乗り決闘を申し込んできたあいつへの礼儀でもあるから。

 

 

『ガアアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 

そしてシルバーバックは、周りの声援をかき消すように咆哮を放つ。今度のは威嚇ではなく攻撃。周りにいるものの鼓膜を震わせ一時的に行動不能にするもの。したがってギャラリーにいる一般人は耳を塞ぎ、シルバーバックの存在に恐れをなした。だけどこの場にいるにも関わらず耳を塞がずにこの戦いを見守るものが4人いた。『剣姫』アイズ・ヴァレンシュタイン、女神ロキ、トネリコ、そしてようやくここまで追いついてきた女神ヘスティア。

 

 

「勝って!ベルッ!」

 

 

「行っけぇええ!ベルくん!」

 

 

「ぁあああああああああああああああッ!!」

 

 

ベルは止まらなかった。1番シルバーバックの近くにいたのでかなりの効果があるはずなのに、ベルはただ気合いのみで足を動かした。それに自分の大切な人達の声が聞こえるから。咆哮のせいで聞こえないはずの声援を糧に負けじと腹から声を張り上げて、剣をシルバーバックの胸に...魔石に向けて突き刺す。

 

 

『ガァッッ!!』

 

 

魔石が真っ二つに割れる。シルバーバックは力なくうなだれ、手が地に着く。やがて体がぼろぼろと崩れ始める。魔石が砕かれその体は灰へと変わっていく。そして完全にモンスターの姿を消えるのを見届けたベルは、剣を天に掲げる。

 

 

「うぉおおおおぉぉぉぉッッ!!」

 

 

『────────ッッ!!』

 

 

ベルは勝利を叫ぶ。人々は歓声をあげる。そしてその光景をとある家の屋上。ベルがいる場所を一望できる高い所。ふたつの人影が見下ろしていた。

 

 

「おめでとうベル。まだ不恰好だったけれど...ええ、格好良かったわ」 

 

 

そうつぶやく彼女の顔は、誰もが見惚れる程美しいものだ。『美の女神』フレイヤ。今回のシルバーバックによるベル達への襲撃を企てた存在。だが理由はちょっとちょかいを出したかっただけ、そしてベルがさらに強くなるようにと彼女は試練を与えた。これが神なのだ。

 

 

「でも、1つだけ...たった1つだけ、あの子の輝きを邪魔している淀みがある。まるで枷のようにあの子を縛っているわ」

 

 

「......枷...ですか」

 

 

「ええ、貴方にはそれがわかったりするのかしら?」

 

 

「ねぇオッタル?」とフレイヤは振り返り意見を求めた。

 

 

同じ男の子なんだからわからない?、とでも言うように尋ねた。巌のような獣人でありこの都市最強の男『猛者』オッタルはしばし考え、フレイヤの問いに答えた。

 

 

「因縁かと思います」

 

 

「因縁?」

 

 

「はい...フレイヤ様がお話してくださった、そのベルという者と『ミノタウロス』との因縁......払拭できない程の過去の汚点が、本人の知らない場所で突き刺さる棘となり、苛んでいるのかもしれません」

 

 

オッタルにベルとミノタウロスの話を聞かせたことがある。フレイヤ自身、直接その話をベルの口から聞いたわけでもなく、あくまでそれらしい話が耳に入っただけだ。

 

 

「つまり、トラウマね......本当に子供達(あなたたち)は繊細なのね。私達は執着することはあっても過去にはほぼ縛られない。ほんとに興味深いわ。それとも、貴方達の方から見たら、私達は能天気に見えるのかしら?」

 

 

「......滅相もありません」

 

 

「もう少し乗ってくれると、退屈しないで済んだのだけど......」

 

 

礼儀を示す態度を崩さないオッタルに「まぁいいわ」と微笑し、再び彼を見る。

 

 

「それなら、あの子に取りついている棘を取るには、どうしたらいいのかしら?」

 

 

挑戦的に見える笑みを向け、フレイヤはオッタルに問う。

 

 

「因縁と決別するというのなら、己の手で打ち破る以外に、方法はないでしょう」

 

 

そしてオッタルもまた、フレイヤの問いを真正面から受け止め答える。

 

 

「ふふふ...ええ...そうね。そうやって貴方たちは今も尚強くなり続けている。きっとこのまま待てばあの子は、ミノタウロスを倒しその因縁を乗り越えるわ」

 

 

でも、と言葉を1度区切り再び口を開く。

 

 

「それでいいのかって思うのよ。ただあの子が強くなるのを待つだけなんて退屈でつまらない。私はもっとあの子の輝きが見たいわ。ねぇオッタル貴方はどう思う?このまま時間が過ぎるのを待った方がいいと思うかしら?」

 

 

「...いずれは因縁を乗り越えることは出来ると思います。ですが」

 

 

「......」

 

 

「冒険をしない者が殻を破れぬのも、また真理でしょう」

 

 

言い切った。

 

己の持論を。

 

いくども己の命を賭し現在の自分を築き上げた武人は、冒険しない者は高みへ至れないと、はっきりと言い切った。

 

それはフレイヤでさえ見通すことのできない少年の『未知』を引き出す可能性も示唆している。神では見通せず、同じ男である自分が見込んだ、少年の可能性。

 

 

「ふぅん...ならお願いがあるのオッタル」

 

 

少しぶっきらぼうにそしてちょっと拗ねたように彼女は従者へと命令を言い放つ。

 

 

「ダンジョンに行ってあの子にぶつける壁を用意しなさい。どれだけ高くしても構わないわ」

 

 

「...よろしいので?」

 

 

「ええ...あの子のことを私より貴方の方が今はわかってるみたいだし...貴方に任せるわ」

 

 

「それに...あの子...自分より格上相手と戦ってる時が...いいえ、あの大切な存在のために戦っている時が1番輝いてるんだもの」

 

 

ベルが知らないところで新たな災難が恋する神によって準備されつつあるのだった。

 

 




原作より早い段階で準備されるヒロイン...どれだけ強くなるのか楽しみですね


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15話

ガチャラッシュきつい


 

周りからの歓声によって僕は改めて実感する。

 

勝てた...あのシルバーバックに僕は勝ったんだ!

 

 

「やりました!神様!トネリコ!」

 

 

そう言おうと、彼女たちがいるであろう方向を向いた時。地面が揺れ爆発したような音と共に、僕の後ろにそれは現れた。

 

 

『ジャアアアア!』

 

 

蛇のような胴体の先から花が開く。

 

 

「...え...」

 

 

花の中心にある牙が僕に向き、僕を捕食するためその口をいっぱい広げる。その姿はまるで人食花。僕にはその攻撃を逃れる体力はもう無く。ただ貪られるだけだ。

 

人食花の口が僕に近づき食べられると思った時、僕の横を一陣の風が吹く。その瞬間、目の前の人食花はバラバラになっていた。

 

その片手剣を持つ後ろ姿、風になびく美しい金色の髪はとても見覚えがある。僕達を救ってくれた人であり、僕の憧れの人。

 

 

「...おめでとう...強くなったんだね」

 

 

アイズ・ヴァレンシュタインさんは、僕の方を見てそう言ってくれた。

 

 

「あ...ありがとう...ございます」

 

 

「...うん...あのね......」

 

 

ヴァレンシュタインさんが何かを言おうとした時、さらに地響きがなり、先程倒された食人花が今度は三体現れた。

 

 

「......あとは任せて...【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 

そう呟いたヴァレンシュタインさんの周りに風が集まり、彼女の体が風を纏う。そこからは圧倒的だった。魔法を発動し踊るように剣と舞う彼女に為す術なく人食花は切り刻まれた。強い...と思ったし綺麗だと思った。あれが【剣姫】...あれぐらい強くなりたい。僕も彼女のように強く...なるんだ。

 

 

「神ヘスティア!?」

 

 

その声が聞こえたと同時に、僕は振り向くとそこには路上に倒れた神様の姿があった。

 

 

「神様っ!?」

 

 

恐ろしい程体が冷える感覚がする。僕はすぐさま神様のもとへ駆け寄って。力なく横たわる体を抱き起こし、何度も神様を呼ぶが返事は返ってこない。閉じられている両目を見てより一層不安になる。

 

 

「ベル、神ヘスティアが休めるところに運びましょう」

 

 

「や...休めるところって」

 

 

休めるところと言っても僕には宛がない。ここの近くは全く来ないから、どこに何があるかわからないし、頭がパニック状態で何も浮かばない。

 

 

「ベルさーん!トネリコさーん!」

 

 

こちらに手を振りながら僕達を呼ぶ声が聞こえた。僕達を呼んだのは。

 

 

「「シルさん!」」

 

 

「女神様を休ませるところを探してるんですよね?だったら豊穣の女主人(うち)はどうでしょうか?」

 

 

「「...そこだ!」」

 

 

そこからは迅速に行動した。

東のメインストリートからは距離があったけど、辿り着き次第ミアさんに、状況をお話してお店の奥で休ませて貰えることになった。(トネリコはなんか怒られていたがすぐ解放された...というか神様と一緒に寝かされた)

 

 

━━━━━━━━━━

ちなみにこの時、アイズ・ヴァレンシュタインはまたベル達に逃げられたと思っている。

 

 

「ロキ」

 

 

「な、なんやアイズたん?」

 

 

「...明日私も行く」

 

 

「明日?ってどチビのとこか!?」

 

 

「行くから」

 

 

「わ...わかった...フィンに言っとくわ...」

 

 

そんな事があるなんて思いもせず、ベルはただヘスティアの容態を案じていた。

 

━━━━━━━━━━

 

 

パタンと扉を閉める音が鳴る。部屋から出てきたシルさんに、僕は慌てて駆け寄った。

 

 

「シルさん...か...神様は?」

 

 

「安心してくださいベルさん。ただの過労です」

 

 

「過労...じゃあ命には?」

 

 

「はい、なんの問題もありませんよ」

 

 

「よ...良かったぁ」

 

 

全身から力が抜ける...。

 

 

「急に倒れちゃったから、すごく心配で」

 

 

「ふふ...お疲れ様です、ベルさん」

 

 

安心して脱力するに僕に微笑むシルさん。

 

 

「今日は本当にすいませんでした。私がお財布を忘れてしまったせいで、とんだ災難に巻き込まれてしまって...」

 

 

「い...いえいえ、そんな。別にシルさんのせいじゃないですよ」

 

 

慌てて僕は否定する、あの事件『モンスター脱出事件』と呼ばれるようになったそれは一体誰が、なんの為に、そんなことを行ったのかは何もわかっていない。他にも暴れていたモンスターがいたらしいけどそのほとんどはヴァレンシュタインさんに討伐されたらしい。

 

それはともかくとして。決してシルさんのせいではないと説明するとシルさんはしばらく申し訳なさそうにしていたが、やがて頰を緩めて口元を和らげてくれた。

 

 

「でも今回の騒ぎで、街のみなさんは口々に言われてましたよ。ベルさんはとても勇敢だったって」

 

 

「え」

 

 

「私もそう思いますよ。実は私...あの大通りでベルさんがモンスターと戦うところを目にしていたんですけど......」

 

 

「そんな勇敢だなんて。僕だけじゃ勝てませんでしたし。それにモンスターにも全然歯が立たなくて...」

 

 

僕だけじゃダメだった。神様がいて、トネリコがいてくれたから僕はシルバーバックに勝てた。運が良かっただけだ。

 

 

「それでも、格好良かったですよ?」

 

 

「え?」

 

 

「...少し不謹慎かもですけど、あの時モンスターへ名乗りを上げて立ち向かっていたベルさんに...私、見惚れちゃってました」 

 

 

そっと近付いてきたシルさんは、手で壁を作りながら、そっと耳元で囁く。その内容とその行動に僕は目を見張る。

 

僕から離れたシルさんの顔は夕日によって朱色に染められていながら、にっこり、そして艶やかに微笑んだ。

 

 

「早くお店の方を手伝えと言われたので、失礼しますね」

 

 

「あ、はい...」

 

 

「ベッドは使って貰って大丈夫ですから。それじゃあベルさん、どうかお大事に」 

 

 

パタパタと廊下を進むシルさんを見送った後、僕は何とも言えない顔で頭をかいた。

 

 

「からかわれちゃったのかな...」 

 

 

シルさんの見せた表情の何を信じていいかわからない僕は、顔が赤くなっているのを自覚していた。

 

 

「随分楽しそうですねー。ベル」

 

 

「......ッ!!??」

 

 

そっと扉を少し開けてこちらを見ているトネリコ。その僕を見る目からは少しの呆れを感じ取る。あまりに気配が無く思わず肩がビクッ!となってしまった。

 

 

「...いえ...違いますね…まずはこちらに来てください」

 

 

トネリコは扉を開き僕を手招きする。

 

 

「もういいの?」

 

 

「神ヘスティアも起きてますよ。まぁ...あんな状態ですけど」

 

 

そう言うので扉をくぐり部屋に入るとそこには...。

 

 

「や...やぁベル君...全員無事で何よりだよ」

 

 

顔面を枕に埋めてあられもない奇天烈なポーズを取っている神様の姿が。

 

 

「え...何をしているんですか神様?」

 

 

「どうやら力が入らないようでして」

 

 

「ち、力が入らないって...あの、過労って聞きましたけど、この三日間の間、何をなさっていたんですか?」

 

 

ふっと神様は遠い目をする。

 

 

「土下座だよ」

 

 

「...ドゲザ?」

 

 

「首を全く縦に振ろうとしない頑固な女神の前で、土下座を三十時間も続けるという耐久レースをしてたのさ」

 

 

「さっ、三十時間って1日以上!?ご、拷問なんですか、そのドゲザって!?」

 

 

「いや土下座は最終奥義なんだよ」

 

 

うわごとのように奥義さ奥義だよ奥義なんだよと呟く神様に、僕とトネリコの頭に?が浮かぶ。けど僕は1つ思い当たることがある。

 

 

「全く貴女という人は...何でそんなことを......」

 

 

「...もしかしてこのためですか?」

 

 

「...まぁそうだね」

 

 

僕は、黒い剣を両手で神様の前に出す。そして片膝を地面につかせる。

 

 

「ありがとうございます神様。おかげで僕はモンスターに勝つことが出来ました」

 

 

「うん...でも勘違いしちゃあいけないよ、ボクは君の背中をちょっと押しただけ。あれはほとんど君の力さ」

 

 

「......はい」

 

 

「よく頑張ったね」

 

 

「はい!」

 

 

「感動的な場面を邪魔するようですが、その剣ってどういったもの何ですか?」

 

 

ヘファイストス・ファミリアのロゴがあるんですけど...。とトネリコが聞いてくる......そういえば。

 

 

「そういえばトネリコくんはいなかったからね、今説明するよ。この剣はね」

 

 

そう言って神様は僕にしてくれた説明をトネリコにもする。

 

 

「なるほど...つまり私が握ってもこの剣の効果は発揮すると?」

 

 

「そういうことだね」

 

 

さすがトネリコ飲み込みが早いな。

 

 

「ベル君、トネリコくん」

 

 

こっちこっちと手招きする神様、呼ばれた僕達はお互いを1度見合ってから神様に寄った。すると神様は僕達を力いっぱい抱きしめた。

 

 

「ボクは神だからダンジョンには潜れない、だから代わりにこの剣をボクだと思って欲しい。ボクの想いを沢山込めたからねきっと加護があるはずさ。この剣を通してボクは君達をずっと見守っている。君達の道を切り開く。そしていつも通りただいまと言って欲しい」

 

 

「「はい」」

 

 

僕達の言葉に呼応するかのように剣に刻まれた神聖文字が紫紺に光る。

 

 

「よし、じゃあ明日は人が来るから早く帰ろうか。君達もたくさん休んでおかないといけないからね」

 

 

「そういえばそう...で...した......」

 

 

「......あっ」

 

 

今日やろうとしていた作業に手をつけていない。朝からあんなアクシデントがあったから当たり前なのだがこれはまずい。

 

 

「ど、どうしよう...トネリコ」

 

 

僕は今とても顔が青くなっている。中が廃墟のままではやっぱり失礼だろうし、今からやるべきか...。

 

 

「......大丈夫...きっとなるようになります」

 

 

トネリコーーーーーーー!?

 

 

「ねぇねぇ2人とも、今思いついたんだけど、今日はみんな頑張ったってことでここで晩ご飯を摂らないかい?疲れた体には美味しいご飯が1番さ!」

 

 

と1人はしゃぐ神様...まぁそうだよね...なるようになるよね(諦め)

 

 

「そうですね。ぱーっとやりましょう」

 

 

「おっ!乗り気だねトネリコくん、さぁさぁベル君も早く立つんだ」

 

 

「はい神様」

 

 

僕は2人の後ろをついていく。きちんと明日を乗り越えるために今から栄養を取っておかなくては!

 

 

その後、所持金すらも素寒貧になった僕達は教会で泣いた。

 

 

 

 

第二章 是は、生きるための戦いである

 




この時アイズは、デスぺレート(剣)で食人花を倒しました


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