とある科学の超電磁砲W 二人で一人の仮面ライダー (かなん)
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その名はW/街に起こる異変 

 学園都市、総人口約230万人でその八割が学生を占めている。そこはまるで異国の地。外部との接触は限られているのだ。

 科学研究や技術開発により超能力に目覚めた学生たちはレベル0〜5まで段階分けされていて、レベル5は七人しかいない。

 そんな街に風を吹かせる人物がいた。

 

「ここが学園都市か。風都並にいい風が吹くぜ」

 

「いいかい翔太郎。ここに来た目的は」

「わかってるよ相棒。ここにいるんだよな。財団Xの生き残りが……」

 

 帽子を被ったハードボイルド気取りの青年と本を抱えた青年。二人は学園都市のゲートをくぐり抜けた。

 

 

 

「あ〜暑くてやる気が出ませんの。初春、ワタクシの代わりに巡回をしてくれてもいいんですのよ」

 

「嫌ですよ。白井さんはただ暑いから外に出たくないだけですよね」

 

「うっ……」

 

 

街の風紀を守る風紀委員(ジャッジメント)の一七七支部では白井黒子と初春飾利がいつもの日常を送っていた。最近は大きな事件がなくパトロールが主な仕事だ。

 

 

「はぁやっぱり外は暑いですわね」

 

 結局パトロールを開始した黒子。最近多いのはスキルアウト、いわゆる不良達の喧嘩だ。そのため、路地裏を特に警戒していたのだが、やはり当たりだったようだ。     

三,四人のスキルアウトがスーツ姿の男と何やらやり取りをしている。スーツの男はスキルアウトにUSBメモリのようなものを渡している。

 

(また怪しげなモノの取引ですか。幻想御手(レベルアッパー)のような危険なモノでないといいのですが……)

 

 黒子は物陰に隠れ様子を伺う。

 

「これがあれば能力者共をボコボコにできるんだな」

 

「もちろん。とにかく挿してごらん」

 

 不良はメモリを腕に挿す。

 

『マスカレイド!』

 

 メモリが体内に入ると、体は化け物へ変わってしまった。

 

「すげぇ!これがあれば何でもできるぜ!」

 

 あまりの衝撃に黒子は足元に転がっていた瓶に気づかず足で蹴ってしまった。

 

「誰だ!」

 

 不良たちは一斉に探し始める。黒子はギリギリで近くのビルの屋上にテレポートしていた。

 

「一体何なんですのあれは!?」

 

『バード!』

 

「見つけたぜ」

 

 後ろを振り返ると、鳥のような姿の怪物が。瞬時に戦闘態勢に入るが、怪物が持っていた銃のようなものに撃たれてしまった。強い脱力感に襲われる。

 

「力が入らない……何をしたんですの」

 

「そのうざい能力を使えなくしてやったのさ。この銃でな」

 

 黒子は倒れ、そのまま意識を失ってしまった。

 

「チビでお子様な体だがみんなで楽しむとしよう」

 

 鳥の怪物は黒子を抱えて地上の仲間と共に去っていった。

 


 

「こんにちは初春さん。黒子来てない?」

 

 あれから一日経ち、ジャッジメント一七七支部を訪れたのは御坂美琴。黒子のルームメイトでありレベル5の電撃使い(エレクトロマスター)である。

 

「あれ?御坂さん。白井さんなら来てないですが」

 

 御坂は顔をしかめる。

 

「実は昨日から寮に帰って来てないの。寮監から早く探してこいって言われて……まさか何か事件に巻き込まれたんじゃ!?」

 

「と、とにかく監視カメラを使って何があったか確かめてみましょう!」

 

 初春はパソコンを使って街の監視カメラの映像を映し出していく。

 

「どうやら路地裏に入っていったみたいです。……え?これって……」

 

「どうしたの?」

 

「これ……ビル屋上を映したカメラなんですけど白井さんと一緒にこれが……」

 

 映像には鳥の怪物にさらわれる黒子の姿が。

 

「何よこの化け物……」

 

 学園都市ならありえないわけではない。世界を相手にできる程の兵器、レベル5のクローンなんて話がある程だ。だが、それはあくまで裏の話。今回はただの学生が化け物に変化している。あの黒子でさえも敵わないほどに。

 

「アンチスキルに通報しないと……」

 

 初春はすぐさま携帯でさっき見た光景を伝えたが、何やら様子がおかしい。

 

「どうだった?」

 

「全然ダメです。後日調査をするとしか……」

 

 この街の裏事情を知っている御坂は何かを察した。

 

「誰かがアンチスキルを操作してる……?」

 

 『操作』という言葉で御坂の頭に思い浮かんだのはキラキラとした目のアイツ(食蜂操祈)だ。レベル5の心理掌握(メンタルアウト)である食蜂ならそれが可能である。でも、だとしたら何故アンチスキルを?疑問は深まるばかりだ。とにかく直接聞いてみるのが一番良いだろう。

 そう思った御坂は外に出るためにドアを開けようとした。しかし、御坂が手を伸ばした瞬間、何者かがドアを開けた。

 

「その事件、俺たちに任せてくれないか?」

 

「は?誰よアンタたち」

 

 入ってきたのは学園都市に来たばかりの二人の青年だった。

 

「俺は左翔太郎、探偵だ。でこっちが相棒の……」

 

「フィリップだ。よろしくね」

 

 御坂と初春は顔を見合わせた。その後、御坂は翔太郎の横をすり抜け再びドアに手を伸ばした。が、翔太郎は御坂の腕を掴んで引き止めた。

 

「ちょっと待ちな。話は聞いてた。君たちの友達を誘拐したのはドーパントって怪物の仕業だ。俺たちはそいつらを追ってこの街に来たんだ」

 

「あのね、アンタたちに頼まなくても私たちだけでなんとかするから。余計なお世話よ」

 

「困ってる人を助ける、それが探偵だ。それに、お前みたいなガキになにができんだよ?」 

 

『ガキ』という言葉に反応を示した御坂。腕を掴んでいる翔太郎の手に電撃をお見舞いする。

 

「痛っ!テメェ何すんだ!」

 

「その電撃、君はエレクトロマスターの能力者か。実に興味深い」

 

 フィリップは御坂に興味津々だ。初春も御坂も若干引いている。

 

「と、とにかくわかったでしょ?何の能力もないアンタたちがいても意味がないの!」

 

「それはどうかな……」

 

 フィリップはボソッと呟いた。

 

「あー悪かったよビリビリガール。でもな、俺たちも君たちの力が必要なんだ」

 

「『ビリビリガール』ですって……?」

 

 どことなくあのツンツン頭の彼の言い方に似ている。それが腹立たしい。

 

「ビリビリって言うな〜!」

 

 ジャッジメント177支部に大きな雷が落ちた。

 

 

 

 なんだかんだで行動を共にすることになった御坂、翔太郎、フィリップ。初春はパソコンで情報収集だ。

 

「で?アンチスキルはあんたの仕業?」

 

 御坂たちは早速疑わしき食蜂操祈に会っていた。

 

「さぁ?何のことかしらぁ?」

 

「はぐらかさないで!黒子が危険にさらされてるってのに!」

 

「やだぁ御坂さんってば怖いわぁ。ねぇ?ハンサムさん?」

 

 翔太郎の視線は食蜂の顔の数センチ下を向いていた。思わず御坂は電撃を放つ。

 

「どこ見てんのよこのバカ!」

 

「いや、お前らホントに同じ中学生かよ」

 

 デリカシーのなさはアイツに似ているようだ。

 ギャーギャーと言い合っている二人には気にせずフィリップは目を閉じている。

 

「あら?お隣のイケメンさんはどうしちゃったのかしら〜」

 

「ん?あぁ、地球の本棚(検索)か。まぁこいつの能力みたいなもんだ」

 

「能力?だってあんたたちは外の人間じゃない。使えるはずが……」

 

「あ~お前らのとはちょっと違うな。フィリップには地球のあらゆる情報を知ることができる力があるんだ」

 

 翔太郎の解説を聞いた食蜂はテレビのリモコンのようなものを取り出し、フィリップに向けた。

 

「へぇ〜あなたたちが噂のアレなのね。会えて感激だわぁ」

 

「は?」

 

 御坂は頭をポリポリ掻きながら食蜂の能力を説明する。

 

「えっと・・・こいつは人の記憶を勝手に覗いたりできるのよ」

 

「それだけではないね」

 

 フィリップが割って入ってきた。

 

「検索が完了した。彼女の能力はレベル5の心理掌握。他人の記憶を読むだけでなく、記憶を改ざんすることも可能だ。本来はリモコン無しでも使えるが、能力の安定や精度を高めるためにそれを使っているんだね」

 

「まぁ!私の能力をそこまで解説できるなんてすごい検索力だわぁ」

 

 これこそが地球の本棚(検索)である。この力でいくつもの事件を解決に導いたのだ。

 

「ま、とにかく御坂さんの言ってるのは私じゃないわよ。人違いだゾ☆」

 

「だったら最初からそう言いなさいよ!」

 


 

「ここは……」

 

 黒子は薄暗い倉庫で目を覚ました。周りを見渡すとあのときのスキルアウトやその仲間達、合わせて十人くらいがいた。手や足はロープで縛られており、能力はもちろん使えない。

 

「おぉ。目が覚めたかお嬢ちゃん。もう少し待ってな、今下っ端にお使いを頼んでんだ。とびきり気持ちよくなれるクスリをな」

 

 鳥肌が止まらない。普段ソレ系のは御坂に使おうとしたりするが、それは御坂に対し好意を抱いているから。好きでもない輩に使われるのは気持ちが悪い。

 

「誰があなた方のような猿共に身を捧げるもんですか」

 

「威勢がいいな。気持ちいいのじゃなくて痛いのが好みか?」

 

「……いえ。とびきりいいモノをお願いしますわ」

 

 決してコイツらに服従したわけではない。時間稼ぎだ。

 あれから半日は経っている。異変に気づいた誰かが自分を探すはず。もしくは能力が使えるようになって自力で脱出もできるかもしれない。

 

 (頼みますわよ、初春、お姉様……)

 

 黒子は信じた。友を、奇跡を。



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その名はW/風紀委員を救え

 結局黒子に繋がる情報は無し。初春やその先輩の固法なども完全にお手上げ状態だ。

 

「はぁ……あんたの検索でなんとかなんとかなんないわけ?」

 

「無理だね。キーワードが不足しすぎている。白井黒子の場所は検索できない」

 

 表情一つ変えずに言われカチンときた御坂は電撃を放とうとする。

 

「あれ?御坂さん?おーい」

 

 黒髪の少女は大きく手を振って走ってきた。

 

「佐天さんじゃない!あ、実は……」

 

 初春と同じ中学であり友人の佐天涙子。彼女に今日起こったことを話した。

 

「何でそんな大事なこと早く言ってくれなかったんですか!?」

 

「ごめん、こいつらのせいでバタバタしてて」

 

「はじめましてお嬢さん。俺は左翔太郎。でこいつが相棒のフィリップだ」

 

「あ、どうも、佐天涙子です。で、さっき言ってた怪物なんですけど……」

 

 佐天は聞いたいの画面を三人に見せた。それは佐天が好きな都市伝説サイトだった。

 

「都市伝説なんですけど、スキルアウトが怪物に変身して強盗や事件を起こしてるらしいです。しかも、アンチスキルもグルだとか」

 

「スキルアウト。不良連中のことか。そいつらがガイアメモリに手を出したってことだな」

 

「ガイアメモリ?」

 

御坂と佐天には何のことかわからない。

 

「USBメモリのような形で、体に挿すことによってドーパントという怪物に変化する。その力は君たちの能力に匹敵する」

 

「その力で黒子は奴らに捕まった。……でも黒子なら能力で何とかなるはず。まだなにかタネがありそうね」

 

御坂の携帯が鳴る。初春からだ。

 

『御坂さん。監視カメラの映像から白井さんがさらわれたビルのすぐ下にスキルアウトが数人いたようです。で、一人だけ顔が映っていたので照会をかけて身元が判明しました!』

 

携帯の画面に一人の男の情報が映し出された。

 

『この人が所属する組織のアジトも特定済みです。これだけの情報があればアンチスキルも……』

 

「いや、ここは私一人で行くわ。ありがとう、初春さん」

 

ちょっと!という初春の声を遮って通話を切った御坂はアジトの方向へ走り始めた。

 

「おい!まてよビリビリガール!」

「待ってくだい御坂さん!」

「待ちたまえ!君一人では危険だ!」

 

三人は御坂の後を追いかける。

 


 

 そこは大きな倉庫だった。かつて何かの研究をしていたであろう研究所の倉庫だ。今は不良のたまり場になっている。

 

「見つけたわよ!黒子を……その子を開放しなさい!」

 

 スキルアウトたちの視線が一気に集まった。ざっと十人くらいか。男らの中心には手と足を縛られた黒子が横たわっていた。

 

「へぇ〜この子のお友達かな?よくここがわかったね」

 

「うっさい。いい加減にしないと痛い目を見るわよ」

 

 御坂の近くに電流が走ったことで不良たちはその少女の正体に気づいた。

 

「まさか常盤台の超電磁砲(レールガン)のお友達だったのかこいつは。ずっと『お姉さま』って言ってたぜぇ」

 

「意識が戻るまで待ってたのに思わぬ邪魔が入ったな」

 

「超電磁砲もまとめて遊んでやるよ」

 

 屈強な男たちが御坂を取り囲んだ。

 

「いいわ。全員まとめて相手してあげる!」

 

 しかし、電撃を放つ間もなく突然と体の力が抜けてしまった。

 

「なによ……これ……」

 

 うずくまる御坂の髪を引っ張りあげる。

 

「『ナノデバイス』とやらの技術を応用してるんだってさ。この銃は」

 

 ナノデバイス。かつて大覇星祭の裏で起きた事件に使われていたものだ。段々と意識が遠のいていく。このまま黒子を救えないのか。そう考えていたその時だった。

 

「やっと追いついたぜ、ビリビリガール」

 

「大丈夫ですか御坂さん!?白井さんも!」

 

「なるほど。高熱と能力の無効化で有利な状況を作ったと」

 

 不良の一人、恐らくリーダーであろう男が大声で叫んだ。

 

「この学園都市は俺のもの!金も、女も、仲間も!欲しいものは全て手に入れる!コイツを使ってな!」

 

男は『B』のイニシャルのガイアメモリをポケットから出して自らの腕に挿した。

 

『バード!』

 

 他の男達も『M』のメモリを挿す。

 

『マスカレイド!』

 

 全員人間とは違う生き物になって襲いかかってきた。翔太郎とフィリップは佐天と御坂を守るように立ちふさがった。

 

「涙子ちゃん!ビリビリと友達を安全な場所に!」

 

「で、でも!翔太郎さんたちも」

 

「止めてやるよ。俺たちが!いくぜ、相棒」

 

「了解した」

 

 いつの間にか二人の腰にはベルトが巻かれていた。そして、それぞれ『C』『J』のガイアメモリを構えた。

 

『サイクロン!』『ジョーカー!』

 

「「変身!」」

 

 メモリをベルトに装填したフィリップは意識を失う。そして翔太郎のベルトにサイクロンメモリが転送、もう一つのスロットにジョーカーメモリを装填。ベルトを展開。

 

『サイクロン!ジョーカー!』

 

 翔太郎の体は風に包まれて、姿を変える。

 

「え……あれって……仮面……ライダー?」

 

 そう。二人は怪物と戦う戦士、『仮面ライダーダブル』なのだ。右は緑、左は黒のツートンカラーの戦士はマスカレイドドーパントを次々と倒していく。倒したマスカレイドは元の姿に戻っていく。

 

『一気に片付けよう、翔太郎』

 

「あぁ」

 

 ジョーカーメモリを引き抜いて、『T』のメモリを起動した。

 

『サイクロン!トリガー』

 

 黒色だった左半身は青色に変わり、銃を装備している。敵の攻撃を避けつつサイクロンメモリを銃『トリガーマグナム』に装填した。

 

『サイクロン!マキシマムドライブ!』

 

「『トリガーエアロバスター!』」

 

 風の如く速い弾丸がマスカレイドドーパントを貫いていく。

 

「あとはお前だけだ」

 

 ダブルはサイクロンジョーカーに戻りジョーカーメモリをベルト横にある『マキシマムスロット』に入れた。

 

『ジョーカー!マキシマムドライブ!』

 

 ダブルは空高く舞い上がった。

 

「さぁ、お前の罪を数えろ!」

 

「『ジョーカーエクストリーム!』」

 

 ダブルの体は縦半分に割れ、そのままキックを放つ。

 

「くそ!おれの計画が!うあああ!」

 

 バードドーパントは爆発し、ガイアメモリは粉々に散った。

 

 

「ん……ここは……?」

 

 黒子が目を覚まし辺りを見回すとと、そこは病室であった。

 

「あ、目が覚めましたか。おはようございます、白井さん」

 

 ベッドの隣には初春が椅子に腰掛けていた。目が覚めるまでずっといたのだろうか。

 

「も〜大変だったんですよ。白井さんがスキルアウトに捕まって……」

 

「怪物やスキルアウトはどうなったんですの?」

 

「大丈夫ですよ。その件ならもう片付きましたから」

 

「へっ?」

 

「二人の探偵さんが助けてくれたんですよ。なんでもメタモルフォーゼの力で怪物を倒したとか!」

 

 黒子は仮面ライダーのことを熱く語る初春を見てくすりと笑った。

 

「体が半分こになってですね・・・白井さん?どうしたんですか?」

 

「いえ……初春。心配かけたかと思ったのですがその様子なら大丈夫ですわね」

 

「もちろん心配しましたよ!御坂さんも佐天さんも固法先輩もみんなそうです。だから、あとでいちごパフェ奢ってくださいね!」

 

「……えぇ。その二人の殿方にもお礼をしなくてはいけませんわね」

 


 

「まさかここに仮面ライダーが現れるとは。だが、復讐をするいい機会だ」

 

 昨日おきた事件についてのニュース記事を見ている男。部屋には実験で使うようなガラスケースが並んでおり、その一つに茶髪の少女が裸で眠っていた。

 

「覚醒まであと少し。この子が異次元のゲートの鍵になる」

 

 男は着ていた白衣を乱暴に脱ぎ捨てて研究室を去っていく。その白衣の背には『X』と印が記されていた。

 

 

 



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能力狩りのG/死神はそこにいる

謎の怪物、ドーパントに誘拐された黒子。絶体絶命のピンチに駆けつけたのは二人の青年。彼らは仮面ライダーダブルとなってドーパントを倒したのだった。


「ごきげんよう、御坂様」

 

「おはよう〜」

 

 常盤台中学。学園都市における名門校でありいわゆるお嬢様学校である。高レベルの能力者が集うこの学校に御坂と黒子は通っている。ちなみに初春と佐天は柵川中学という別の学校だ。

数日前に起こったドーパント事件のことは校内でも話題になっていた。もちろん、仮面ライダーのことも。佐天によれば仮面ライダーは都市伝説の存在。仮面ライダーに関連した都市伝説はいろいろあり、悪の組織に改造され生まれたとか鏡の中に入りバトルロワイヤルをするとかよくわからないものばかりだが。

 

「御坂様はあの事件についてどう思われますか?」

 

「へ?う〜ん。やっぱりいるんじゃないかしら。仮面ライダー」

 

 まさにその仮面ライダーを目の前で見た、なんて言えない。どうせ信じてくれないのだから。

 

「あらあら?御坂さんはそういうの信じちゃうタイプなのかしら〜」

 

「げっ!その声は……」

 

 振り返るとそこにいたのは食蜂操祈だ。御坂の隣にいる生徒を操作し、どこかへ行かせた。

 

「あんたは知ってんでしょ。この間の探偵がそうだって」

 

「えぇ。記憶をバッチリ読んだわ。まさかホントにいるとは思わなかったけど」

 

 食蜂はゆっくりと歩み寄ってくる。そして顔を御坂の耳元まで持ってきて囁いた。

 

「校内でよからぬことが起こっているわ。気をつけるんだゾ」

 

 全く理解できなかったがその言葉の意味を後々知ることになるのだった。

 


 

「で、何であなた方がここにいるんですの?」

 

 放課後、ジャッジメント一七七支部に来た黒子はどこか不機嫌そうだった。翔太郎とフィリップがいることに対してだろう。

 

「そりゃあ探偵として事件を解決していかないといけないしな」

 

「そうじゃなく、許可がないあなた方を容易く招き入れるわけには……」

 

「それなら問題ない」

 

 フィリップは右手に持っていた紙をみせた。その紙は《学園都市における風都警察署の協力について》と題されていた。

 

「ドーパントによる犯罪が多発しているため、風都警察署より超常犯罪に詳しい二人の探偵に協力を依頼……それがあなた方と」

 

「あぁ。知り合いに警察官がいてな」

 

「まぁせいぜい足を引っ張らないでくださいまし」

 

 そろそろ初春が来る時間。そう思っていると誰かが扉を開けた。入ってきたのは初春ではなく常盤台の生徒。なにやら慌てている。

 

「あの!助けてください!」

 

 怯えた表情の彼女は声を震わせている。

 

「どうしたんですの!?」

 

「能力が……奪われたんです」

 

 黒子は生徒を落ち着かせるためにとりあえずお茶を出した。お茶を飲み干した彼女は深呼吸をしてゆっくりと語り始めた。

 

「私、五脱雨子留(ごだつうする)といいます。それはつい10分前の出来事でした……」

 

 

 放課後、この日はたまたま部活が無かったため、友人とお茶会をする予定だった。道中、小学生がテレキネシスでぬいぐるみを飛ばして木に引っかかりとれなくなって困っていた。

 

「あ……能力が使えない……わたしのぬいぐるみが……」

 

「お困りのようですね。お姉さんたちに任せてくださいな」

 

 この子能力はレベル1程度だろう。テレキネシスで力加減を誤り思いっきり上に飛ばしてしまい、それが木に引っかかった。そして範囲外になってしまい能力が届かないんだろう。

 

「私のテレキネシスでぬいぐるみの周りの枝を除けます。雨子留さんは補助をお願いします」

 

「はい」

 

雨子留の能力は『能力援護(アビリティサポート)』。他人の能力を増幅させたり強化する。その力で友人のテレキネシスの精度を高めた。

 

「もう少しで……あっ!?」

 

 宙を浮いていた枝が突然落下し、雨子留の頭に直撃してしまった。

 

「痛いです……どうかされましたか?」

 

「頭がっ……!」

 

 友人は頭を抱えたまま倒れこんでしまった。何が起きたか理解できない雨子留と小学生。だが友人はなんとか立ち上がる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「ええ。なんとか…」

 

 友人は再びテレキネシスを発動させようとした。が、ぬいぐるみは微動だにしない。

 

「あら?雨子留さん、アビリティサポートを」

 

「いえ、既に行っていますが」

 

「そんな……能力が」

 

 さっきの影響か能力が全く発動しない。

 

「あら、どうしました?」

 

「泡浮さん!お願いがございまして……」

 

 同じ水泳部の友人の能力によってぬいぐるみは無事救出。「ありがとうお姉ちゃん!」と小学生は去っていった。

 

「でもなぜ能力が使えなくなったのでしょうか?……あ!すみません!私湾内さんとの約束がありますので……」

 

「ええ。私たちも一度学舎の園に戻って検査をしてもらいましょう」

 

 二人はもと来た道を戻るために振り返った。すると誰もいないはずなのに地面に影があった。上に鳥でもいるのだろうかと空を見上げると、そこにいたのは宙に浮いた死神だ。真っ黒なマントに大きな鎌、絵に描いたような姿だ。

 

「ば、化け物……!?」

 

 恐怖のあまり二人とも腰が抜けてしまう。

 

「次はお前だ茶髪ショートの雨子留ちゃん」

 

 見た目とは裏腹に可愛げのある声で喋った。そして徐々にこちらに向かってくる。やっとの思いで立ち上がることができた二人は急いで逃げる。

 

「狙いは私です!一緒にいては危険ですよ!」

 

「でも……!」

 

「私はこのまま人通り多い場所へ向かいます!」

 

 二人はそれぞれ別行動となり、やはり怪物は雨子留を狙ってきた。

 

「なんで誰もいないの!?」

 

 どこまで走っても人に会うことがない。公園も、コンビニも、学校も、誰もいない。まさにゴーストタウンだ。

 

「喰らいな!」

 

 怪物の左腕から飛び出た細い針が雨子留の背中に刺さった。

 

「一体何を!?」

 

 針が刺さったことによる痛みは全く無かったが、数秒後に突然激しい頭痛が襲いかかってきた。

 

「これ……まさかあのときの……」

 

 友人も同じように頭痛に遭っていた。そして怪物が語った「次はお前だ」の意味……雨子留は悟った。この怪物こそが友人の能力を使えなくした張本人だと。そして今、自分も能力が無くなっていることも。

 頭痛を我慢しひたすら走り続けた。どのくらい走ったかはわからないが、気づけば後ろには怪物がいなくなっていた。頭痛も無くなっている。そしてジャッジメント一七七支部に助けを求めた。

 

 

「それが先程起こった事の全てです」

 

「恐らくそれはドーパントの仕業だな」

 

 翔太郎は帽子を深く被り直した。

 

「俺たちに任せな。こう見えても探偵だからな」

 

「お待ちなさい。ここはジャッジメントであるワタクシの仕事ですの」

 

 黒子は立ち上がり翔太郎に詰め寄った。

 

「確かにここは俺の庭じゃねえ。だがな、愛する風都を泣かせ続けてきたガイアメモリがこの街にある。もうガイアメモリのせいで苦しむ人々を見たくないんだ」

 

 翔太郎の熱い眼差しに負けを感じた黒子はため息をついた。

 

「仕方ありませんわね。では何かわかったら連絡をくださいな。これ、ワタクシのIDですの」

 

 黒子は携帯を取り出し登録画面を見せた。

 

「これが携帯かよ……見づらくねぇか?」

 

「うるさいですわね!アナタこそいつの時代の方ですの?ガラケーなど……」

 

「うっせぇ!これは変形してクワガタにだな……」

 

「全く。君たちは子供じゃないんだから。被害者の彼女がかわいそうだ」

 

 フィリップは雨子留に微笑んだ。

 

「あんな奴だけど、安心して。僕たちが必ず犯人を暴いてみせる。何か心当たりはないかい?」

 

「いえ……特には」

 

「ならばまずは聞き込みから始めるとしよう。行くよ、翔太郎」

 

「ではワタクシはアンチスキルに彼女の保護を依頼しますわ」

 

 フィリップは翔太郎の腕を掴み強引に外に連れて行った。

 


 

 学園都市での仕事は初。いつもなら顔なじみの風都イレギュラーズに情報を集めてもらうがそれができない以上、自分たちで聞き込みをするしかない。

 

「ちょっと失礼。聞きたいことがあるんだ」

 

 フィリップと別で動いている翔太郎は手当り次第に調査を行っていた。

 

「バケモンを見たとかそんな噂があったりしないか?」

 

「ん〜人間の姿をしたやつならよく知ってるケド。結局、人間が一番怖いわけよ」

 

「まぁたしかにな。わかった、サンキューな」

 

 何十人と話しかけたが情報は一切ない。やはり一筋縄ではいかないようだ。

 場所を変えて今度は常盤台中学の付近で聞き込みをしてみる。被害者はどちらも常盤台生。偶然かもしれないが犯人が常盤台生のみを狙っている可能性もある。

 

「あら、この間のハンサムさんじゃない」

 

 偶然にも金髪キラキラ瞳の食蜂に出会った。

 

「お、ちょうどいいところに。実は……」

 

「あーハイハイ。説明なんか不要だゾ☆」

 

 食蜂の能力ですべて理解してくれたみたいだ。説明する手間が省けた。

 

「その事件ならよく知ってるわ。《常盤台の能力強盗》って呼ばれていたかしら」

 

「強盗……やっぱり他人の能力を奪ってるのか」

 

「何が目的かさっぱりわからないけどね。でも、大体検討がつくわ。高レベルの能力者に恨みでもあるんじゃないの~?」

 

 仮にそうだとして生徒全員がレベル3以上の常盤台を狙うのも納得がいく。だが能力を奪って何をするのか。やはり能力を消失させているだけなのでは?と翔太郎は考える。

 

「私もそいつに狙われて大変だったわ。ま、認識をいじって上手く逃げたけど」

 

「おいおい、大丈夫かよ。犯人に心当たりは?」

 

「ないわ。でも、怪物は私を見て喜んでいたわ。頭の中を覗いたら『レベル5か!高く売れるじゃん!』って」

 

「売る……?そんなことができんのかよ」

 

 食蜂は首を横に振った。そもそも能力を他人に譲渡することなどできない。

 

「そういえば、御坂さんは大丈夫かしらね。一応警告はしたけど」

 

「は?まさか!」

 

「えぇ。当然狙われるでしょうね」

 

 翔太郎はすぐに白井に電話をかけた。

 

「おい!ビリビリの居場所はどこだ!」

 

『お姉さまならセブンスミストという衣料品店でお買い物とおっしゃっていましたが……』

 

「アイツの能力が狙われるかもしれない!」

 

『なんですって!? とにかく他のジャッジメントに連絡して周辺の安全を確保しておきますわ!』

 

 翔太郎は帽子が落ちないよう押さえながら無我夢中で走った。食蜂が何か叫んでいたが、聞き返す余裕はない。

 

「はぁ……行っちゃった。タクシー呼んであげようとしたのに」



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能力狩りのG/怪物になった少女

 死神の魔の手が迫っていることを知らない御坂はショッピングを楽しんでいた。

 

「これもいいわね……でもゲコ太Tシャツのほうが可愛いわ」

 

 お気に入りのキャラクター、『ゲコ太』の顔が描かれたTシャツを手に取り、ルンルン気分でレジに向かった。お金を携帯のキャッシュレスで払おうとしたとき、店内でキャー!という大きな悲鳴が響く。

 ふと入り口の方を見ると、いかにも死神といった感じの見た目をした怪物が他校の生徒を鎌で斬りつけていた。その光景は悲惨なものだが倒れた生徒には斬られた跡も出血も見られなかった。

 

「どうなってんのよ!」

 

「次はお前だ。超電磁砲、御坂美琴」

 

 死神の狙いは御坂だったようだ。他の人はついでに斬ったといった感じである。

 

「いいわ。かかってきなさい!」

 

 死神は鎌を振り下ろすが、御坂はそれを軽々と回避した。店内にあった鉄パイプを磁力で操りものすごいスピードでふっ飛ばした。普通の人間なら骨折レベルの攻撃だったが、簡単に弾かれてしまった。

 

「くっ……!室内じゃレールガンが使えない!」

 

「お前の能力、貰うぞ!」

 

 怪物は左手をかざした。その手から細い針が銃弾のように発射される。しかし、目に見えないスピードの針は御坂まであと一センチくらいのところで落ちた。

 

「馬鹿な!」

 

 怪物だけでなく御坂も驚いている。針を落としたのは蜘蛛のロボットだった。

 

「はぁ……はぁ……見つけたぜ!死神野郎!」

 

 翔太郎が息を切らしながらも駆けつけた。

 

「何なのよその蜘蛛!?」

 

「コイツはスパイダーショック。腕時計型のメカだ。素早い動きの針でさえも撃ち落とせる糸を吐けるのさ」

 

「邪魔をするな!」

 

 翔太郎はダブルドライバーを腰にあて、ジョーカーメモリを起動した。

 

『ジョーカー!』

 

「アンタ、相棒がいなきゃ変身できないでしょ!?」

 

「いいや、相棒ならもうすぐ来る」

 

 ドライバーの右スロットにサイクロンメモリが転送されてきた。

 

「変身!」

 

 ジョーカーメモリを左側に装填、展開。仮面ライダーダブルへと姿を変えたのだった。

 

『御坂美琴。君の質問に答えよう。僕らが離れていても変身が可能だ』

 

「は、はぁ」

 

「ごちゃごちゃ言ってないでさっさといくぞ!フィリップ!」

 

 ダブルは敵に攻撃の隙を与えない。赤い『H』のメモリをサイクロンメモリと交換する。

 

『ヒート!ジョーカー!』

 

「火葬してやるぜ」

 

 右半身が赤になったダブルの拳は熱く燃えたぎる。

 

「くそっ!やられてたまるか!」

 

 死神は店を出て空を飛ぼうとした。

 

「やらせるか!」

 

 死神の足を掴んで引きずり落としたダブルは何度も殴る。もはや死神に戦意はない。逃げることしか頭にないようだ。

 

「やめろォォ!」

 

 死神の眼が赤く光った。そしてダブルの拳は体をすり抜ける。

 

『ピンチで能力が上がったようだね』

 

 死神の体は徐々に消えていき、ついには見えなくなってしまった。

 

「逃げられたか……」

 

『大丈夫。一度一七七支部に戻ろう』

 


 

一七七支部に集まった一同。雨子留はアンチスキルに保護されたようだ。全員がフィリップに注目している。

 

「検索を始めよう。最初のキーワードは、『死神』」

 

 フィリップの意識は地球の本棚に転送された。そこは真っ白な空間で、膨大な量の情報が本として記されている。キーワードを使って求めている情報を絞り込むのだ。

 

「次に『超能力』」

 

 二つ目のキーワードで半分以上絞れたが、まだキーワードが足りないようだ。

 

「何か他にないのか……」

 

「もう一度だ、フィリップ。キーワードは『死神』『超能力』そして『能力売買』」

 

 翔太郎のキーワードによって一冊の本だけが残った。

 

「ヤツは奪った能力を何かしらの方法で売る。普通だったらできないしあり得ないけどな」

 

「検索が完了した。あのドーパントのメモリイニシャルは『G』グリムリーパードーパントだ」

 

「日本語で死神ね。他に情報はないのかしら」

 

「あの大きな鎌、もしくは手のひらから射出される針による能力強奪だ。奪われた能力はヤツを撃破すれば元に戻る」

 

「その力で奪った能力に値段をつけて売る……ってこと?」

 

「食蜂操祈の言い分が正しければ、ですが」

 

 黒子、佐天、初春は過去に記憶操作されたことがある。結局それは御坂の友人である彼女らを巻き込まないようにするための食蜂なりの配慮だったのだが三人は良く思っていない。御坂との思い出や友人としての認識を消されたのだから。

 

「あの!」

 

 初春が右手を挙げた。視線はフィリップから初春に移る。

 

「学園都市のバンクを調べたんですが、他人の能力を奪う能力を持つ人がいたんです」

 

 初春が見せたパソコンの画面には肩くらいの黒髪でメガネをかけた地味めな女の子が映っていた。

 

「名前は氷崎霊佳。霧ヶ丘中学の二年。レベル4の『能力強奪(スキルスティール)』最近その能力の危険性から施設に隔離されたみたいです」

 

 ならなぜ全く同じ能力の怪物が現れたのか。様々な憶測が飛び交う。

 

「やっぱり幽体離脱ですよ!で、怪物が生まれたとか」

 

「あり得ない話ではない。かつてバイラスという精神体のみのドーパントも存在した。故意になったわけではないが、同じような状況なら納得できる」

 

「馬鹿馬鹿しい。そもそも施設を抜け出したかもしれないですの」

 

「仮にグリムリーパーのメモリ自体に能力を奪う力があったとすれば、ダブルのメモリの力を奪っていたはずだ。だがアイツはサイクロンやヒートの力を奪わなかった」

 

「……奪えなかったと」

 

 学生の能力のみが対象となるとやはり犯人は氷崎霊佳なのだろう。御坂たちは確信していた。

 

「あの……この氷崎霊佳って人なんですけど」

 

 初春が口にした一言でその場は凍りつくこととなる。

 

「二日前に……死亡しています」

 

 あまりの衝撃に長い間沈黙が続いた。

 

「やっぱり佐天さんの言うとおりかも……」

 

「お姉様!?まぁ確かにそれとしか言いようがないですが」

 

『初春さん!白井さん!謎の怪物が無差別に人を襲っているわ!手が必要なの!来て!』

 

 固法先輩の連絡を聞いた全員の目が変わった。

 

「さっさと正体を暴いてやろうぜ」

 

「ええ。同感よ」

 

「お姉様、佐天。二人はワタクシや初春と一緒に避難誘導をお願いしますわ」

 

「オッケー!行くよ初春!」

 

「はい!」

 

「グリムリーパーの正体か。ゾクゾクするね」

 

 

 現場に到着するや否やグリムリーパードーパントは御坂を襲った。が、ダブルがそれを阻止する。

 

「待ちな、死神野郎」

 

「またお前か!仮面ライダー」

 

 ダブルは『L』『M』のメモリでイエローとシルバーのルナメタルとなる。そして鋼鉄棍メタルシャフトが伸びグリムリーパーを拘束した。

 

「こうなったら奥の手だ!」

 

 グリムリーパーは自らに針を打ち込み、パイロキネシスの能力を発動した。

 

「ならこっちも熱くいこうぜ!」

 

『ヒート!メタル!』

 

 グリムリーパーを放り投げ、右半身が赤く燃え盛る。落ちてきたところをメタルシャフトで打つ。グリムリーパーは再び逃走を図ったが、スパイダーショックの糸によって身動きが取れなくなった。そのままメタルシャフトにくっつき、合体状態となる。

 

『これで決めよう』

 

『メタル!マキシマムドライブ!』

 

 スパイダーショックから吐き出された糸が街灯に絡み付きダブルはターザンのように勢いをつける。

 

「『メタルスパイダーウェーブ!』」

 

 渾身の一撃でグリムリーパーのメモリが体外へ飛び出し粉々に飛び散った。

 死神の体は人の形へと変化し、少女の姿となった。見覚えのある姿、彼女の正体は五脱雨子留だったのだ。そこに、避難誘導を終えた黒子たちがやってきた。

 

「そんな……あなたがこの事件の真犯人だったのですね」

 

 雨子留はニヤリと笑った。その笑みはジャッジメントに助けを求めてきたときとは似ても似つかない。

 

「いいえ。私はあなたたちの知っている五脱雨子留ではないわ。私の本当の名は鎌里晴よ」

 

 本当の姿を見せた彼女は全てを語り始めた。

 

 それは数日前に遡る。いつもどおりの日常を送る私。と言ってもそれは平穏なものではない。同級生に脅され金を奪われ、暴力を振るわれ身も心もボロボロになる。それが私にとっての日常なのだ。

 私に少しでも能力があれば。抵抗できる力があればいいのに。

 学園都市では能力が全て。例え勇気を出して抵抗しても能力で返り討ちに遭うだけ。こんな私を助けてくれるヒーローなんていない。

 衣服を剥がされたまま路地裏でしゃがみ込んでいると、誰かが肩を優しく叩いた。

 

「辛いですよね。あなたは何も悪くない。この学園都市さえなければあなたは美しく輝くことができる」

 

 顔をあげると目の前にはスーツ姿の爽やかな男が立っていた。『R』と書かれたネクタイがジャケットから覗くその男は『G』と刻まれたUSBメモリのようなモノを差し出した。

 

「これがあれば君の理想郷が作れる。私と一緒に来ないかい?」

 

「あなたは一体……?」

 

「僕はイアン・ウルスランド。そして財団Xの幹部で新組織のリーダーだ」

 

 説明をされても怪しさは拭えない。でも何故か彼を信用できるような気がした。彼の瞳は今の私と同じだからかもしれない。悲しみと憎しみに満ちた、希望を感じることのない目。

 この学園都市を壊したい。弱き者が救われないこの世界を変えたい。そんな思いが溢れ出す。

 

「私……許せない。この街が。能力者たちが!」

 

「ならこのガイアメモリを使うといい。今こそ報復の時だ」

 

 そうして化け物へ姿を変えた私は言われるがままとある施設に向かった。指定された部屋を襲撃すると、そこには黒髪メガネの女の子が部屋の隅でうずくまっていた。

 

「あなたは……?」

 

「私は死神。あなたの命を奪いに来た」

 

 目的は彼女の持つ能力。他人の能力を奪うその力を得るためだ。その方法はただ一つ。鎌を大きく振りかぶった。

 

「殺すの?私を」

 

「ええ。悪く思わないで」

 

「いいの。ありがとう」

 

 思ってもいなかった返答に鎌を持つ手が震えた。

今、私は何の罪もない人を殺そうとしている。自分の為に。

 本当にいいのか?私のしていることは間違ったことではないか?ただ憎悪や怒りで他人を傷つけているだけかも。色々な感情がごちゃごちゃになる。

 

「……あなたは死ぬのが怖くないの?」

 

「いいえ。怖い。でも、今生きることがとても苦しい。何もしていないのに、みんなから能力強盗だって言われて。能力なんてなければいいのに」

 

 私と同じだ。彼女は能力者でありながら能力者を憎んでいる。でも、私とは違う。

 

「確かに苦しいかもしれない。だけどあなたは能力がある。私は無能力者。レベル4のあなたにはわからないでしょう。その辛さが」

 

「あなたにもわからないでしょ。能力を持つ苦しみが」

 

 反抗的とも言えるその態度に私は無意識に彼女の首を掴んでいた。

 

「アンタは!心が傷ついただけ!こうして施設で生活できてる!でも私は助けを求めても誰も助けてくれなかった。ジャッジメントもアンチスキルも。おかげで心も体も傷つき、怪物になった!……もう後には引けないの!」

 

 彼女の意識が無くなったことを悟ると、私の中の何かが弾けた。途端に笑いが止まらなくなったのだ。

 

「アハハハ!もうどーでもいいや!私は……この学園都市を破壊する!」

 

「上出来です」

 

どこからか現れたイアンは死体になった彼女に真っ白なメモリを挿した。そして生まれた謎のメモリを私にくれた。

 

「少々実験に付き合ってください。そのメモリは彼女の能力を真似たもの。それを使えば能力強奪のスキルが身につくはず」

 

 そうして私は死神として数々の能力者たちを襲っては、その体を擬態として使ったりして事件そのものの存在を抹消した。

 五脱雨子留を狙ったのは能力強化のため。一度取り逃がし再び見つけたときはアンチスキルに守られていたが、私からすれば護衛はいないも同然。

 

「つまり本物の五脱雨子留はもう……」

 

「殺したわ。いい表情だったわよ。ついでに彼女を護衛してたアンチスキルもね。まあ能力持ってないから無意味だったけど」

 

 もはや彼女には人の心が残っていないことをその場にいた全員が理解した。

 御坂が殴りかかろうとしたが、翔太郎と黒子が制止する。

 

「いけませんわお姉さま」

 

「気持ちはわかるがコイツも被害者だ。心の闇につけ込まれて利用されて……」

 

「……そうね。悪いのはこの街と、こんな子にガイアメモリを渡したヤツよ」

 

「あぁ。そのヤツを追って俺たちはここに来たんだ。その名は……財団X」

 

 こうしてこの事件は幕を閉じた。




[グリムリーパードーパント]
死神の記憶を宿したメモリの怪人。手のひらから針を射出できる。その針や武器である鎌で相手の体内にウイルスを注入。注入されれば脳が異常をきたして高熱や頭痛を引き起こす。透明になることができ、相手の攻撃をすり抜けられる。氷崎霊佳から生成された謎のメモリを使用して能力強奪の力を得た。

[鎌里晴]
中学三年生。顔が隠れるくらい髪が長い。学校でイジメに遭い、友人と呼べる人物は誰もいない。グリムリーパードーパントに変身する。メモリブレイク後、アンチスキルによって逮捕され更生施設へ送られた。


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悪夢N/インディアンポーカーが招く闇

「この前言ってた財団Xって何?」

 

 なんとか『能力強盗事件』を解決した翔太郎たち。犯人である鎌里晴はアンチスキルに逮捕され、更生施設へと移送された。

 いつものファミレスで集まった御坂たち。翔太郎は財団Xについて語り始めた。

 

「俺たちは風の街、風都で様々な事件を解決した。ミュージアムと呼ばれるガイアメモリ製造組織の壊滅。そのスポンサーである財団Xも痛手を負った。風都でガイアメモリを使った犯罪は激減し、平和に近づきつつあったんだ」

 

 フィリップは続けて語る。

 

 「財団Xはガイアメモリの研究開発をやめ、新たな力を研究し始めた。僕ら以外の仮面ライダーに関する研究をね。コアメダルやアストロスイッチ、最近ではバイスタンプちいうのも開発しているらしい」

 

 「つまり翔太郎さんやフィリップさん以外にも仮面ライダーがいるということですの?」

 

 「あぁ。この世界には存在していないが。平行世界、つまりパラレルワールドにはたくさんの仮面ライダーがいる。財団Xの狙いはそれだ」

 

「パラレルワールドって存在したんだ……」

 

「つまり、他の世界に行けるってことですよね?その世界には別の私がいるはず!」

 

 オカルトな話に盛り上がる佐天。フィリップは首を横に振った。

 

「行くことはできない。かつて『エニグマ』と呼ばれる平行世界合体ゲートを財団Xの科学者が作った。未完成のままだったらしいけどそれで平行世界の研究をしていたらしい」

 

「そのエニグマは後輩たちが破壊したけどな。完成したらやばかったし」

 

「でもその財団Xはガイアメモリの研究をやめたんでしょ?アイツの言ってたイアンウルスランドってやつは財団Xだって言ってはずだけど」

 

 死神事件の鎌里晴にガイアメモリを渡したイアンという男は財団Xの幹部と名乗っている。

 

「考えられるのは財団X内部の分断だな。ガイアメモリ肯定派が別の組織として確立してるんじゃないか」

 

 フィリップは黒子が何か言いたげな顔をしているのに気が付く。

 

「初春ちゃん。何か考え事かい?」

 

「はい……先日の能力強盗事件についてなんですけど。ガイアメモリを破壊し奪った能力が元に戻ったはずなんですが……一部の方はまだ能力が使えないままらしいです」

 

 翔太郎は目を丸くした。

 

「まさか……グリムリーパーの能力は消失しているはずだ」

 

「事件は解決しても謎は多く残ったね。イアン・ウルスランド。消失したままの能力。そして新たな組織。わからないことだらけだ」

 

 全員が頭を抱え込む。沈黙を破り佐天が立ち上がった。

 

「気晴らしに都市伝説シリーズでもどうですか?人類を脅かす脅威の悪魔、ギフ!とか」

 

「ワタクシは結構ですわ。ジャッジメントの仕事が残っているので。行きますわよ、初春」

 

「は、はい!」

 

 二人は腕章をつけると店を出ていった。残ったのは翔太郎、フィリップ、御坂、佐天だ。

 

「僕も失礼するよ。少し気になることがあってね」

 

「俺も行くぜ、相棒」

 

「君も気になるかい?いちごカレー」

 

「は?」

 

 翔太郎はてっきりドーパント絡みの件かと思ったが、違ったようだ。実にフィリップらしい。一人で行ってろと叫び、結局残ったのは三人。

 

「……どうすんのよこの状況」

 


 

 噂のいちごカレーを食し満足気なフィリップ。ついでなので辺りを散策していた。街の至るところに警備ロボが巡回。さらにジャッジメントやアンチスキルも加わりものすごい警備だ。とても風都では考えられない。

 ふと学園都市に来たときのことを思い出した。外部の人間が学園都市に入る際のチェックはとても厳しい。ダブルドライバーやガイアメモリ、メモリガジェットはもちろん、普段移動に使っているバイクのハードボイルダーでさえも持ち込みが許可されなかったのだ。まぁダブルドライバーなどは自律型ガイアメモリにこっそり運ばせたが。 

 いちごとカレーが混ざった微妙な味が舌にこびりつく中、考え事をしていた。イアン・ウルスランドについてだ。地球の本棚で検索をしたら、ネオン・ウルスランドの息子であったことがわかった。ネオンは財団Xの局長でありかつてダブルが戦った加頭順という男の上司だ。その姿を見たことはないが、財団Xがガイアメモリから手を引いたのは彼女の判断だったらしい。イアンは財団Xの幹部として今も活動しているのだろう。

 外での長時間に渡る検索は危険だ。敵に襲われるかもしれない。仕方ないので今の住居(翔太郎と住むボロボロのアパートの一室)に帰ることにした。

 


 

 第十九学区。学園都市にしては古臭い町並みが特徴的な場所。その端、学園都市を囲む大きな壁が見えるところにある研究施設がある。そこには約六十人近くの研究員がいて、日々能力に関する実験などが行われている。

……というのは表向きの話。裏では非人道的な実験や、外部組織との提携などを行う『暗部』の組織である。その名は『リベンジ』 復讐や恨みを原動力として活動する者たち。そのリーダーこそグリムリーパーの少女にガイアメモリを与えたイアン・ウルスランドだ。

 

「ガイアメモリの流通は思ったより早いスピードで成功したよ、母さん」

 

 ガイアメモリ製造ラインを一望できる場所でイアンは母親であるネオン・ウルスランドに経過報告を行っていた。

 

「リベンジでのガイアメモリ開発の成果は出たようね。その調子で例のメモリを完成させなさい」

 

 イアンと違い日本人ではない顔つきのネオンは手に持っていた白いストップウォッチを止めるとどこかへ去っていった。母の姿が見えなくなったのを確認し、携帯を取り出す。

 

「ワールドキーはどうなっている?……そうか。あとはネットワークに繋ぐだけか。ならば最終信号の回収を急げ」

 

 電話を切り、側にあった大きなカバンの中を開く。そこにはダブルが使うものと同じ形をしたガイアメモリが収納されていた。唯一、端子の部分の色が異なるがジョーカーやサイクロンなどのメモリもある。

 

「そろそろばら撒くとするか」

 

 イアンは自分のメモリを自身の左腰に挿した。

 


 

 ファミレスを後にした翔太郎、御坂、佐天の三人は移動販売車のアイスクリームを頬張っていた。

 

「美味いな!これ!」

 

「ですよね!ただのバニラなんですけど深い味わいで最高ですよ!」

 

 はしゃぐ二人だったが御坂の様子がおかしいことに気づいた。

 

「どうしたビリビリ?」

 

「……アンタってどうして仮面ライダーになったの?力が欲しかったから?」

 

 その言葉に過剰に反応する佐天。力を欲しがるなんてまさにあのとき、レベルアッパー事件の私と一緒だと感じた。

 

「……ビギンズナイト。俺たちはダブルになったあの日をそう呼んでいる」

 

 そして翔太郎は語り始めた。師匠であるおやっさんこと鳴海荘吉が仮面ライダーだったこと、そのおやっさんが死んでしまったこと、フィリップとの出会いのこと。

 

「そして俺たちはダブルとなってその島を脱出した」

 

「……いろいろあったのね」

 

「悪魔と相乗りする勇気……ですか」

 

「そうだ。出会ったばかりのフィリップに対して悪魔と言ったことを皮肉にしたんだろうな。今でも俺は悪魔と相乗りだ」

 

「仮面ライダーは正義じゃないの?悪魔と相乗りってことは仮面ライダーは悪ってことでしょ?」

 

「確かに正義さ。でも、使い方を誤ればそれは誰かを守る力でなく命を奪うためだけの戦闘兵器と化す。まさにそういう奴がいてな、運命が少しでも違えば悪でなく正義の仮面ライダーになれた奴さ」

 

 翔太郎の頭に思い浮かぶのはEのメモリの仮面ライダーだ。風都を地獄に変えたテロリストであり、箱庭の住人たちを救おうとした英雄でもある。

 

「……もし私がガイアメモリを使ったらヒーローになれますか」

 

「ちょっと、佐天さん!」

 

「わかってます。レベルアッパーの件で痛いくらいに。けど私が仮面ライダーになれればみんなの力に……学園都市を脅かす連中に復讐が」

 

「そんな甘くねぇよ。涙子ちゃん」

 

 佐天の言葉を遮るように言い放った。その目はさっきよりも険しい。

 

「復讐。アイツが一番嫌いな言葉だ」

 

「アイツ?」

 

「俺の知り合いさ。家族がドーパントに殺されてな。ソイツは復讐の化身となってそのドーパントを追っていた。そして俺たちともぶつかり合ったりして復讐にこだわるのをやめて、人々のために戦ったんだ」

 

 翔太郎が微笑むと佐天は申し訳無さそうに頭を下げた。

 

「ごめんなさい!都合のいいことばかり言って……翔太郎さんたちがどんな想いで戦っているのか分からなくて……」

 

「いいんだよ。友達を想う気持ちは必要だ。でも、それを復讐の心に変えるんじゃなくて友達を守りたいって勇気に変えるんだ」

 

「翔太郎さん……」

 

「アンタめちゃくちゃカッコつけてたわね今」

 

「うるせぇ!これがハードボイルドってんだよ」

 

「こんなヤツ放っておいて黒子達のところへ行こうか。ね?佐天さん?」

 

 御坂はわめく翔太郎をよそに佐天を引っ張りジャッジメント一七七支部へ向かった。

 

 

「こんにちはー」

 

 一七七支部に初春と黒子の姿はなく、固法がパソコンとにらめっこしていた。

 

「あれ?白井さんと初春は?」

 

「二人ならある事件の捜査中よ」

 

「事件?」

 

 

 時は巻き戻り、昨夜。とある寮の一室では月島留奈という女の子の誕生日パーティーが行われていた。六人の女子が豪華な料理を取り囲み、和気あいあいとしている。そんな中、誕生日プレゼントを渡す時間がやってきた。時計、化粧品、アニメのキーホルダーなどごくごく普通の品だ。ある一人以外は。最後に渡されたのはカード。オレンジ色のカードだ。

 

「これは?」

 

「インディアンポーカーっていう、夢を自由に見れるカードなんだって」

 

「へぇ〜寝るときに使ってみようかな」

 

 そしてそのまま誕生日会は終わり、夜遅いこともあり全員部屋で泊まることに。少し狭いが布団は寮の貸出で揃えられた。月島留奈は早速インディアンポーカーを額に乗せて眠りについた。

 目を開けるとそこは学園都市ではないどこかの街だった。街の中心では大きな風車が回っている。 興味本位で街を散策してみるとラーメンの屋台や風車をイメージしたマスコットキャラなど、普段見慣れないものばかりだ。どうしたものかと近くの広場で辺りを見渡す。夢とはいえ本当にそこにいるかのような感覚だ。街を歩く人々の会話も、どこか懐かしい雰囲気の匂いも、冷たくもどこか暖かさを感じる風も。        

 それからしばらくして、街の人々とは異なる異様な気配を感じた。突然目の前が真っ暗になり、意識が薄れていく。最後に聞こえたのは女の囁き声だった。

 

「夢の中で永遠に寝てな」

 

 現実世界では朝を迎え、同級生達が目を覚ました。だが月島留奈だけ目を覚まさない。どれだけ叫んでも、叩いても起きない。一人が前髪で隠れたおでこに謎の印があることに気づいた。恐る恐る前髪をあげると、そこに書かれていたのは……

 

「『R』の文字だった、ってわけ。月島留奈は寝言で怪物がって呟いていたらしいわ。恐らくは……」

 

「ドーパントの仕業……」

 

「そう。だから白井さんも初春さんもその学生たちに聞き込みをしているのよ」

 

「アンチスキルとやらの組織は動かないのか?」

 

「それがこの件はジャッジメントに任せるって。投げやりよね」

 

「うーん。でもアンチスキルの中にもいい人はいると思うけどなぁ」

 

 御坂たちは知っている。かつて乱雑解放(ポルターガイスト)事件で上層部からの圧力がかかりつつも生徒たちの為に必死に頑張った人たちを。

 

「白井がさらわれたときにも言ったが、何か大きな組織がアンチスキルを動かしているに違いねぇ。その組織こそ……」

 

「さっき言ってた財団Xってやつね」

 

「あぁ。とりあえず俺はフィリップと合流して犯人を割り出す」

 


 

「なるほど。夢の中の怪物。額に浮き上がる文字。恐らくはナイトメアドーパントだろう。検索するまでもない」

 

 現在の翔太郎の住まいで合流した翔太郎とフィリップ。御坂も一緒だ。

 

「ナイトメア?」

 

「あぁ。前に一度戦った。夢の中に出てきて捕まれば最後、永遠に眠ったままだ」

 

「夢の中って……倒せないじゃないの」

 

「いや、あくまで他人の夢に入り込むだけで、本体は現実世界にいる。それを探すのが今やるべきことさ」

 

 翔太郎は被害者とその友人の名前、悪夢、Rの文字、インディアンポーカーとフィリップにキーワードを言う。

 

「ダメだ。絞れない」

 

「やっぱあの文字の意味がわかればなぁ」

 

 以前ナイトメアドーパントと戦ったときは額にHの文字が浮かんでいた。それはドーパントとなった加害者と被害者のイニシャルだった。今回のRも被害者の月島留奈のイニシャルだ。偶然かもしれないが。

 

「まずは彼女が狙われた原因を探してみよう。まだ他に被害者が出ていない以上彼女を狙った犯行の可能性がある」

 

「じゃあ私はインディアンポーカーをあたってみるわ。何かあったら連絡するから」

 

 御坂はインディアンポーカーを調べるためにそ部屋を出た。翔太郎は早速犯人の目星をつける。

 

「まず怪しいのは同じ部屋にいた同級生たち五人だ。とりあえず被害者の学校で情報収集だな」

 

「じゃあ僕はナイトメアドーパントについてもう一度詳しく調べてみるよ」

 

 翔太郎は被害者の月島留奈が在籍している学校に足を運んだ。同じクラスの子や教職員に話を聞いてみると、皆口を揃えてこう言った。

「彼女に恨みを持つ人間なんていない」と。

 月島はクラスの学級委員と生徒会長を務め、もうすぐジャッジメントの適性試験を受ける予定だったらしい。学級委員というと翔太郎にとっては風紀が絶対の真面目ちゃんがやっているイメージで、不良などから嫌われている感じだ。だが月島は全然違うらしい。

 

「あぁ。いいヤツっすよ。アイツ」

 

 体育館裏でたむろする不良たちの話は意外なものだった。翔太郎は驚きつつも耳を傾ける。

 

「俺たち、暑くてたまらなくなってアイス欲し〜ってぼやいてたんす。そしたら会長がその話を聞いたらしくて自動販売機を校内に置きたいって提案したみたいで」

 

 確かに生徒会長としての役割を果たしているみたいだがそれでいいヤツ判定なのか?と翔太郎は首をかしげる。

 

「他にも携帯の持ち込み禁止を撤廃したりイジメの撲滅とか……アレはすごかったなぁ」

 

「そうそう。生徒同士はもちろん、センコーからのイジメも許さないヤツでな。探偵ばりに証拠を集めてジャッジメントに提出してたっけな」

 

 もっと月島を恨む話かと思っていた翔太郎は頭をポリポリと掻いた。

 

「それいいヤツっていうか単に甘いだけなんじゃねぇのか?」

 

 月島の担任の男とも話してみた。彼は現在の状況を聞いて大きなため息をついた。

 

「月島が意識不明か……彼女は何も悪いことをしていないのに何故なんだ……」

 

「あの、センセーから見て彼女はどんな子でしたか?」

 

「それはもう優秀で。学校の風紀と生徒の個性を大切にしている子でしてね。この二つを両立させるのは我々教員でも非常に難しい。だが彼女はそれを見事に実現させた。それで生徒からも教員からも好かれているんですよ」

 

「つまり恨まれるような子ではないと?」

 

「えぇ。才能ある者に批判はつきものですが彼女は例外です。彼女に対して嫉妬などの感情を持つ者はいませんよ」

 

 いつもならこの聞き込みで裏に隠れた闇が露わになるはずだったが、今回はそうもいかない。他人の心の中でも見れれば良いのだが。

 

「……心の中を……はっ!アイツだ!」

 

 翔太郎は思い出した。ここは学園都市。そんなSFチックなことも可能な場所。そして他人の考えていることがわかる人物がいることを。

 

「……で、私を探して常盤台の不審者になったのねぇ」

 

「ちげぇよ!確かに帽子を深く被ってて怪しかったんだろうけどな!」

 

 守衛に訪ねたのがまずかったのだろう。すぐに怪しまれて別室に連れて行かれ事情聴取されたのだ。たまたまその一部始終を見ていた目的の人物、食蜂操祈に助けられ誤解を解くことができた。

 

「女の子をいかがわしい目で見るのはどうかと思うゾ☆ましてやそれをインディアンポーカーにするなんて……あの話はなかったことにしておきましょ」

 

「何言ってんだ?まぁいい、お前なら真実を突き止められると思ってな。やってくれるか?」

 

「ま、いいわよ。その代わり一つだけ聞いてもいいかしら?」

 

「あぁ。いいぜ」

 

 食蜂はおちゃらけた態度から一変。鋭い眼差しであるものをカバンから取り出した。

 

「これのこと、詳しく聞かせてもらおうかしら」

 

 それはQ『』と描かれたピンク色のガイアメモリだった。端子部分が青く光っている。

 

「T2メモリ……!」

 

 T2メモリとはかつて風都にばら撒かれたもので、メモリの適合者と過剰に惹かれ合う性質を持つ厄介なもの。ダブルがメモリブレイクし破壊したはずだが……

 

「何故か私のカバンの中に入っていたのよ。あなたたちが使うガイアメモリ?だったかしら。それと似ているから気になるのよね〜」

 

「それは俺たちが変身に使うのとほぼ同じだ。そのメモリには変わった性質があってそのせいでお前のところに来たんだろう。勝手に挿さってドーパントになったりするかもしれないな」

 

 食蜂はため息をつきメモリを翔太郎に渡した。

 

「な〜んだ。そんな危ないものならいらないわぁ。怪物になんかなりたくないし」

 

「お、おう。まぁとにかく頼んだぜ」

 

「えぇ。なにか分かったら連絡するわぁ」

 

 食蜂は手をひらひらと振り去っていった。



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悪夢N/バッドティーチャー

 フィリップは一七七支部を訪れていた。

黒子や固法はいない。巡回だろうか。

 

「やあ初春ちゃん。捜査は順調かい?」

 

「フィリップさん!それが……」

 

「何か問題でも?」

 

「月島留奈さんが誘拐されるかもしれないんです!」

 

 初春はパソコンの画面を見せた。そこには数名の生徒の情報が並んでいる。学校も能力も性別もバラバラでまるで共通点がない。

 

「この生徒の共通点がインディアンポーカーなんです。全員それを使って昏睡状態になった後、何者かに誘拐されていて。今白井さんと固法先輩が月島留奈さんが入院中の病院に急行してます!」

 

「月島留奈以外の被害者が出たか。昏睡……ナイトメアドーパントの仕業だろう。犯人なら僕に任せたまえ。検索を始めよう」

 

 フィリップは意識を集中させる。目を開けると真っ白い空間にたくさんの本が並んでいる。ここは地球の本棚だ。

 

「まず一つ目は、インディアンポーカー」

 

 本棚が素早く動き回り、さっきよりも数が減っている。

 

「次に、悪夢、昏睡、誘拐」

 

 四つ目のキーワードで無数にあった本は一つを残し消えていた。

 白紙の本をペラペラとめくるフィリップを不思議そうに見つめる初春。本を読み終えたフィリップは眉をひそめる。

 

「その連続誘拐事件の犯人は分かった。けど、まだ引っかかる感じがする」

 

「どういうことです?」

 

「いや、今は月島留奈が危ない。翔太郎に連絡して犯人を捕らえる」

 

 

 とある病院、月島留奈が入院しているこの場所では黒子と固法と数名のジャッジメントが厳重な警備体制をとっている。 それを外から眺めていたある男は花束を抱え病院へ入ろうとしたが、駆けつけた翔太郎に気づいて足を止めた。

 

「お見舞いにしてはコソコソしすぎじゃないですか、先生」

 

 翔太郎の言葉に答えるようにその犯人はゆっくりと振り向いた。連続誘拐事件の犯人は月島留奈の担任、新谷だったのだ。

 

「何か用ですか?探偵さん」

 

「あぁ。アンタの邪魔をしに来た。月島留奈ちゃん誘拐の邪魔をね」

 

 もう隠しても無駄だと悟った新谷はそれまでの爽やかな態度が嘘のように狂い始めた。

 

「あ~あ。これで十人目達成だったのになぁ。よく気づきましたね」

 

「相棒ととあるお嬢様のおかげさ」

 

 フィリップが連続誘拐事件の犯人を特定し翔太郎に連絡をいれる数分前、食蜂から調査結果が届けられた。

 

『もしも〜し。月島留奈の件なんだけど、特に異常はなかったわ。あなたの聞いてたとおり良い子だったみたい。ケド……』

 

「なんだ?」

 

『実は一人だけ、変な考えがダダ漏れなのよ』

 

「どういうことだ?」

 

『月島留奈誘拐計画を企てているってことよ』

 

 そして新谷が誘拐犯であると知った翔太郎はフィリップから連絡を受けた。

 

『翔太郎!月島留奈が危ない!彼女の担任の新谷は誘拐犯だ!』

 

「あぁ!今さっきそれを知ったとこだ!今から向かう!」

 

 

「相棒の調べではその連続誘拐事件の共通点があったらしいぜ。まずは学校だ。みんなバラバラだが、全てアンタが教員をやってた学校だったんだ。異動の後に起こったのが八件、在籍中のが一」

 

 翔太郎はゆっくり歩み始める。

 

「次に能力だ。被害者の能力はそれぞれ違うが、レベルは3〜4。アンタが勤務する学校は能力開発以外で有名なところばかりで高レベルの能力者が少ない。なぜなら常盤台みたいな名門校に行きたくても許可が降りなかったからだ。だから数少ない高レベルの能力者を狙っては異動して次のターゲットを探した」

 

 新谷の目の前まで迫り花束を思い切り蹴り飛ばした。落ちた花束の中からガイアメモリが飛び出す。

 

「そのゾーンメモリを使って眠ったターゲットを移動させ監禁した。違うか?」

 

 地面に転がったメモリはゾーン。対象を瞬間移動させることができる力を持つ。新谷はため息をついてメモリを拾い上げた。

 

「やれやれ。彼女は金になると思ったが諦めるか」

 

「金?お前の目的は人身売買か?」

 

 新谷は小馬鹿にするかのように鼻で笑った。

 

「違うよ。僕の目的は能力さ。高レベルの能力者から能力だけを奪い、それを高値で売るんだよ」

 

 能力売買。グリムリーパードーパントも同じことをしていた。能力を奪い、他人に売る。彼にもそれができるようだ。

 

「このメモリデバイスを使えば能力者の力が入ったアビリティメモリが作れる。そしてこのメモリは通常のメモリと組み合わせれば強力な力を発揮できる。こんなふうにね!」

 

 新谷はポケットから赤く光る基盤がむき出しのメモリを取り出して、ゾーンメモリと同時に両膝に挿した。

 

『ゾーン!テレポーター!』

 

 ピラミッドのような見た目をしたドーパントに変わり、そこから更に進化を遂げた。手や足が生え、限りなく人に近い姿になり、まるでエイリアンのように気味の悪い化け物となった。

 

「前に戦ったゾーンドーパントと違う!?これがアビリティメモリか!」

 

 翔太郎はダブルドライバーを腰にあてる。シュルシュルとベルトが巻き付き、変身準備が整った。

 

「フィリップ!変身だ!」

 

『あぁ』

 

 ダブルドライバーを通じて変身を呼びかけジョーカーメモリのボタンを押した。

 

『ジョーカー!』

 

「変身!」

 

『サイクロン!ジョーカー!』

 

 激しい風に包まれて仮面ライダーダブルとなった翔太郎はゾーンドーパントに殴りかかる。ゾーンドーパントは瞬間移動でダブルの背後にまわり鋭い爪で引っ掻いた。

 

『おかしい。前に戦ったゾーンドーパントとは見た目も能力も異なっている』

 

「いろいろあってな。ルナトリガーでいくぞ」

 

 サイクロンとジョーカー、両方のメモリを入れ替えた。

 

『ルナ!トリガー!』

 

 黄色と青のダブルが放つ銃弾はクネクネと曲がりゾーンドーパントに命中した。

 

「追尾弾か。ならば!」

 

 直撃寸前の弾丸をダブルの背後にテレポートさせる。弾丸はゾーンドーパントを追うが目の前のダブルの背中に辺り火花を散らせた。

 

「くっ!なかなかやるじゃねぇか。どうするフィリップ?」

 

『ヒートに変えて炎でダメージを与える』

 

『ヒート!トリガー!』

 

 ヒートメモリをトリガーマグナムに装填し、マキシマムドライブを発動した。

 

『ヒート!マキシマムドライブ!』

 

「『トリガーエクスプロージョン!』」

 

 回転しながらの銃撃によりダブルの周囲は炎に包まれた。再び背後に回り込んでいたゾーンは体が炎上しもがき苦しむ。そしてゾーンにゼロ距離での必殺を行い大爆発を起こした。

 爆発音を聞いた黒子がテレポートで駆けつけると、破壊されたゾーンメモリの横で倒れている新谷がいた。意識はまだあるようだ。

 

「この方が初春の言っていた……」

 

「そう。連続誘拐事件の犯人をとっ捕まえたのさ。連行よろしくな」

 

 ダブルは右手でもう一つのメモリを拾った。アビリティメモリは傷一つない。

 

『このメモリはブレイクできなかったようだね』

 

 意識のない新谷を手錠で拘束した黒子はホッと息をついた。

 

「これで悪夢事件は解決ですわね。夢の中の怪物はこの方だったのでしょう」

 

「ははは……これで終わりか」

 

「インディアンポーカーを使い生徒を眠らせた挙げ句能力を奪い取る……なんと悪趣味な。罪を償ってくださいな」

 

「インディアンポーカー……?なんのことだ?私は昏睡状態の生徒を誘拐しただけだ」

 

 黒子は思わず「は?」と声が出た。

 

『いや、まだ終わっていない』

 

「コイツのメモリはゾーンだ。他にナイトメアドーパントがいるはず」

 

 その後、新谷はアンチスキルに逮捕された。家宅捜索で被害に遭った生徒たちが発見されたが、夢の世界から開放されることはなかった。




[新谷]
月島留奈の担任。ゾーンドーパントに変身。数人の生徒を誘拐してその能力を奪った。

[アビリティメモリ]
学園都市の能力者の記憶を宿したメモリ。生成には能力者の力を奪う必要がある。ドーパントメモリと併用で強力な力を生み出す。メモリブレイクはできない。

[ゾーンドーパントT]
ゾーンメモリとテレポーターメモリの同時使用で強化されたゾーンドーパント。ゾーンメモリでは不可能だった自身の瞬間移動が可能。さらに光弾も強化されている。


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切り札はQ/悪夢を打ち砕け

 事件は再び最初に戻った。結局、ナイトメアドーパントの正体は不明だ。 

 

「新谷も連行後に昏睡状態、Rの文字入りらしいです」

 

「これで捜査は振り出しに戻るわけだ」

 

「そもそもそのナイトメアドーパントってのに会えてないじゃない」

 

 一同が集まる一七七支部での捜査は難航していた。昏睡事件の被害は増える一方で手がかりは全くない。

 

「仕方ねぇ。あの手でいくか」

 

「あの手って?」

 

 翔太郎の考えを察したフィリップはやれやれと呆れている。

 

「もうあれは御免だよ」

 

「じゃあ今回は俺だけで行く。お前はお留守番だ」

 

「あの……何をするんですか?」

 

「決まってんだろ。寝るんだ」

 

「「「「はぁぁ!?」」」」

 

 その場にいた女子たちの叫びが外にまで聞こえた。

 


 

 はぁ。不幸だ。ある夏の暑い日、俺はベランダに干されていた謎のシスターさんを助けた。彼女は事あるごとに電撃を放つ。そのせいで冷蔵庫が壊れせっかく買った特売の卵が腐ってしまった。

 

「なぁ。お前はいつまで居候してるんだ?」

 

 俺は聞いてみた。すると予想どおり髪を逆立たせ電撃が俺の体に直撃した。

 

「私がアンタに勝てるまでよ!」

 

 どうやら俺の変な力が気に入らないらしい。こんな女の子に勝負を挑まれるなんて、不幸だ。

 

「……ってなんじゃこりゃ!?」

 

 

 翔太郎は正気に戻った。ここはインディアンポーカーで見た夢の中。このインディアンポーカーはとある高校生の生活を表現しているらしい。

 

「ひゃぁぁ!?何よこれ!?修道服!?」

 

 御坂も自我を取り戻したようだ。普段制服しか来てない分そういう服が恥ずかしいのか顔が真っ赤になっている。

 

「にしてもこんな夢何の意味があるんだ?」

 

「さぁ……たまたま貰ったのよ、ブラウってやつに。マシなカードがこれしかなくてね。まぁいかがわしいのじゃなくて良かったわ」

 

 御坂はごまかすようにブツブツ呟く。

 

「さてと……」

 

 翔太郎は深呼吸をして叫んだ。

 

「出てこい!ドーパント!!」

 

 翔太郎の呼びかけに応じるかのようにナイトメアドーパントが窓を割って侵入してきた。

 

「夢だからなんでもありだな。さっさと片付けるぞ!フィリッ……あ!」

 

 この作戦最大の誤算は変身できないこと。フィリップがいないのでダブルになれない。しかしここは夢。なんでもありなのだ。それに気づいた翔太郎は叫ぶ。

 

「ビリビリ!変身だ!」

 

「……はぁ!?バカじゃないの!?」

 

 翔太郎は御坂との変身を強くイメージした。するとダブルドライバーが出現しメモリもいつの間にか手に持っている。

 

『ジョーカー!』

 

「早くしろビリビリ!」

 

「あぁぁもう!どうにでもなれ!」

 

 御坂はやけくそでサイクロンメモリをスロットに装填した。

 

『サイクロン!ジョーカー!』

 

「さぁ、お前の罪を数えろ!……なんでお前は言わねぇんだよ!」

 

「恥ずかしいじゃん!それ」

 

 ダブルは二人で一人の仮面ライダー。つまり二人の連携が重要になってくる。当然御坂との連携は皆無。歩くのがやっとだ。

 

「ヴゥゥ……」

 

 ナイトメアドーパントは唸り容赦なく攻撃してくる。かわすことが出来ないのでなんとか左腕と左脚で受け止める。

 

「やべぇな……」

 

 ナイトメアドーパントのエネルギー弾を跳ね返せずダメージを負ってしまう。間髪入れずもう一度放ったエネルギー弾はダブルに当たらず爆散した。

 

「なんだかわからないけど助かったわね……」

 

「あれはエクストリームメモリか!?」

 

 エネルギー弾を爆発させたのはベルトと同じくらいの大きさの鳥のメカだった。その鳥は何かのデータのようなものを真下に形成していく。それは人間の型だった。

 

「お待たせ、翔太郎」

 

「フィリップ!」

 

「ホントになんでもありね……」

 

「この夢は翔太郎の夢。美琴ちゃんは同じインディアンポーカーを使ったからたまたま一緒だったんだ。そして僕は寝ている翔太郎と変身して夢の世界に入り込んだ」

 

「変身?だってコイツが起きないと変身できないでしょ?」

 

「いや、僕の体をベースに変身するフォームもある。実はあらかじめジョーカーメモリを装填したまま寝てもらった」

 

「そのためだったのかよ。全くわからなかったぜ」

 

 ダブルはサイクロンメモリを抜いて変身解除。ジョーカーメモリはそのままフィリップのドライバーに転送された。そしていつもと逆で翔太郎が意識を失う。

 

「お見せしよう。これがそのフォームだ。来い、ファング!」

 

 襲いかかるナイトメアドーパントを蹴散らしたのはファングと呼ばれた小さな自律型ガイアメモリだ。ファングメモリはフィリップの手の上にジャンプで乗ると敵を威嚇するかのように吠えた。フィリップの手によってメモリ型に変形しダブルドライバーへ挿入される。

 

「変身!」

 

『ファング!ジョーカー!』

 

 フィリップの体は白と黒のダブルに変化する。他のフォームと違い全身が荒々しく鋭い。

 

「『さぁ、お前の罪を数えろ』」

 

「嘘でしょ……」

 

 御坂は倒れた翔太郎の前で立ち尽くす。ナイトメアドーパントは果敢にも襲いかかるが、ダブルは簡単に押しのける。

 

「このファングジョーカーは通常のダブル以上に高い能力を持つ。まぁ、そのせいで暴走のリスクもあるんだけどね」

 

 ダブルはドライバーに装填されたファングメモリ、恐竜のような顔の角部分を弾いた。

 

『アームファング!』

 

 メモリから音声が鳴り、右腕に鋭く大きな刃が現れる。エネルギー弾を真っ二つに切り裂くとそのまま突進しナイトメアの体を斬る。

 

「ヴゥゥ……」

 

 ナイトメアはもう一度斬られるのを阻止するように距離を置く。しかし、ファングの力はこれだけではない。

 

『ショルダーファング!』

 

 ファングメモリを更に二回弾くと、今度は右肩に刃が生える。それを引き抜いてブーメランのように投げた。刃は左右に振れながらナイトメアの顔面にヒットし倒れた。

 

「これで決めよう」

 

『ファング!マキシマムドライブ!』

 

 ファングメモリを三回弾きマキシマムドライブを発動。足に刃が出現しダブルは空高く舞う。

 

「『ファングストライザー!』」

 

 回転しながらのライダーキックが炸裂しナイトメアは悲鳴をあげ大きな爆破を引き起こした。

 

「一体どこのどいつが……」

 

 人間の姿に戻ったナイトメアの顔を見て御坂はあっと声が漏れた。

 

『おいおいマジかよ……』

 

「月島留奈……君がナイトメアドーパントだったんだね」

 

 悪夢事件の犯人は最初の被害者である月島留奈本人だった。彼女は意識を失っている。しばらくしてゆっくりと目を開けた。辺りを見渡していて状況を理解できていないようだ。

 

「私……一体何を……?」

 

「もしかして記憶がないわけ?」

 

 

 

 それは月島留奈が誕生日を迎える前日の出来事だった。誕生日パーティー準備の買い物の帰り道、謎の男に話しかけられた。

 

「君、ちょっといいかな」

 

「はい?」

 

 爽やかな男のネクタイにRの文字、彼はイアン・ウルスランドだった。イアンは手に持っていた大きなカバンを開いた。カバンの中にはぎっしりとT2ガイアメモリが詰め込まれている。

 

「これは能力のレベルを徐々に上げていくアイテムだ。どうだい?」

 

「いえ、そういうのはちょっと……」

 

 あまりに都合が良いアイテムに不審感を抱いた。レベルアッパーの件もあり怪しいものには手をださないようにしていたのだ。イアンは何かを探るように月島を眺めている。

 

「ほう。君にはT2じゃなく旧型が良いのか」

 

「どういうことです?」

 

「僕には君にぴったりのメモリを探せる力があるのさ。その相性に免じて今回はサービスするよ」

 

 カバンの中は二段になっていて一段目をめくるとドーパントメモリが顔を出した。その中からナイトメアメモリを選び月島に無理やり手渡した。

 

「あの!いらないです!」

 

 月島はメモリをカバンに戻すと足早に駆け出した。

 

「まったく。良い実験台になると思ったんだが。生体コネクタなしでもそれなりにはなるだろう」

 

 走る月島めがけナイトメアメモリを投げる。メモリは月島の背中に沈んでいく。だが、ドーパントになることはなかった。意識を失って倒れただけだ。

 

「さて、メモリに耐性がない学生と異常なまでに相性が良いメモリ。暴走するか適応するか……楽しみだ」

 

 そうしてメモリを体内に宿した月島は目を覚まして何事もなかったかのように家に帰宅した。ナイトメアメモリと相性が良すぎて脳が異変を起こし記憶障害を患っていたからである。そしてインディアンポーカーを使用して眠りについた後、メモリが異常反応し実体を持たないドーパントになった彼女は人々の夢の中で暴走したのだ。

 

 

「思い出した……私、ガイアメモリを……男の人に貰って……メモリの相性とかT2とか訳のわからないこと言ってて……」

 

「イアン・ウルスランド。鎌里晴にグリムリーパーメモリを渡した男だ。恐らくは同一人物だろう」

 

『ったく。ミュージアムみたいにメモリをばら撒いてるのかよ』

 

 月島は涙を流しダブルに抱きついた。

 

「お願い……この悪夢から開放して!」

 

「確かにまだ悪夢は終わっていない」

 

「どういうことよ?」

 

『ここは夢の中だ。俺もビリビリも月島留奈ちゃんも眠ったまま。現実世界でメモリブレイクしないと意味ねぇ』

 

 だが厄介なことに夢を終わりにしたくても起きれない。インディアンポーカーを使っているせいで当分は戻れないだろう。

 

『問題はどうやってこの夢から出るかだな』

 

「それなら大丈夫さ翔太郎」

 

 突如翔太郎に激痛が走る。まるで殴られたかのような感覚だ。

 

「おいおいなんだよ!」

 

「あらかじめタイムリミットを設定しておいた。その時間を過ぎれば翔太郎は涙子ちゃんに殴られ、美琴ちゃんは黒子ちゃんに抱きつかれ、僕は初春ちゃんに熱々のたこ焼きを食べさせられることになっている」

 

「ちょっと黒子!どこ触ってんのよ!」

 

「やめてくれ!涙子ちゃん!」

 

「口の中が火傷しそうだ!」

 

「「「うわぁぁ!」」」

 

 三人は絶叫し目を覚ました。一七七支部の天井が見える。

 

「やった!起きたよ初春!」

 

「はい!フィリップさんのたこ焼きは口から飛び出しましたけど」

 

「おねぇさまぁ!あぁこの慎ましいお胸!ハァハァ……堪らないですわ!」

 

 黒子も別世界へ行っていたようだが御坂が起き上がると顔を青ざめた。

 

「こ、これは……フィリップさんが考案して」

 

「いや、君から言ってきたんだよね?お姉さまに抱きつくチャンスだって」

 

「くーろーこー?覚悟はできてるんでしょうね〜?」

 

 静かにうなずいた黒子は一瞬にしてまっ黒焦げになってしまった。満更でもない様子だが。

 

「いい……愛の鞭……」

 

「さて、犯人もわかったし後は仮面ライダーがちゃちゃっと倒しておしまいね」

 

「犯人、わかったんですか?」

 

 夢の中での出来事を三人に語る。そして月島留奈のいる病院へ向かった。

 


 

「いやぁ、テレポートって楽だよな」

 

「ワタクシはタクシーじゃありませんのよ!」

 

 病室の前にいたアンチスキルを説得してなんとか中に入ることができた。問題はここからだ。

 

「一体どうやって彼女のメモリを壊すんですか?」

 

「エクストリームでも生身じゃ危ないか。どうする?フィリップ」

 

「彼女に負担がかからないように最小限の攻撃をするしかない」

 

「……他にやり方がないなら自分で見つけるまでだ」

 

 翔太郎とフィリップはダブルに変身した。何事かと部屋の前にいたアンチスキルがドアを開けようとしたが初春と佐天がドアを必死で抑える。

 

「今のうちに早く〜!」

 

「あぁ!どうすりゃいいんだよ!」

 

 翔太郎が自分の頭を叩くと、ピンクのガイアメモリが落ちた。食蜂から預かったメモリだ。それを見てフィリップは作戦を思いつく。

 

「そのメモリを使おう!」

 

「はぁ?このクイーンメモリをか?」

 

「あぁ。あと黒子ちゃんの力も借りたい」

 

「え、えぇ。初春、アンチスキルの足止めを任せましたわよ」

 

 そう言って白井は初春をドアの向こう側へテレポートさせた。ドアを開けさせないために初春が必死に説得を試みる。

 

『まずトリガーとバットショットで正確な射撃ができるようにする。そして、このクイーンメモリを使って月島留奈の体内をシールドで守る』

 

「クイーンメモリにバリア機能なんてあったのか……」

 

『そして体内のメモリに弾丸をテレポートさせる。そうすれば体を一切傷つけずメモリを破壊できる』

 

「つまりワタクシは弾丸をメモリまで正確に移動させると。なかなか難しいことをおっしゃいますのね」

 

 『ルナ!トリガー!』

 

 ダブルの持つトリガーマグナムにカメラ型機械コウモリのバットショットが装着された。

 

『弾速が遅いルナでいく。準備はいいかい?』

 

「はいですの!」

 

 ダブルはトリガーメモリをマグナムへ、クイーンメモリをマキシマムスロットに装填した。

 

『トリガー!マキシマムドライブ!』

 

『クイーン!マキシマムドライブ!』

 

 月島の体が光る。クイーンメモリによって体内に強力なバリアが張られた。

 

『メモリのある場所だけバリアを外した。他の臓器系にはバリアがあるから安心して』

 

「いくぜ!」

 

「『トリガーバットシューティング!』」

 

 黄色の弾丸はゆっくりと黒子に近づく。黒子のかざす手に当たる瞬間、弾丸は消えた。弾丸は月島の体内にあるナイトメアメモリを正確に貫いて消滅した。

 

「やったか?」

 

『あぁ。成功だ』

 

 中央に穴が空いたナイトメアメモリが飛び出て床に落ちた。しばらくして月島留奈が目を開ける。悪夢から開放されたのだ。

 

「ここは……夢……?」

 

『いや、現実だよ』

 

「ありがとう……仮面ライダーさん……」

 

 黒子、佐天、御坂は笑顔でハイタッチを交わした。

 

 

 その後、足止めされていたアンチスキルにこっぴどく怒られたが、これで悪夢事件は無事解決となった。昏睡していた人々も意識を取り戻し、生徒誘拐の罪に問われた新谷は更生施設へ移送されたらしい。

 だがこのとき、裏ではリベンジが大きな動きを見せていたことを翔太郎らはまだ知らなかった。



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もうひとりのF/妹からの依頼

 とある病院、そこに学園都市第一位、一方通行(アクセラレータ)は入院している。ある少女のために命をかけた彼はその子と一緒に平穏な生活を送っていた。

 

「ねぇねぇ、今日はどこにお散歩に行くの?ってミサカはミサカは尋ねてみたり!」

 

「あぁん?」

 

 眩しい彼女の笑顔に思わず顔をそむけた。外は青空で広がっていて、開いた窓から爽やかな風が吹きアクセラレータの白い髪をなびかせる。

 

「お前はどこか行きたいところがあんのか」

 

「うん、カラオケってところに行きたい!ってミサカはミサカは初めての場所に心を踊らせてみる!」

 

 少女は左右に揺れそのたびにアホ毛がぴょこぴょこと動く。

 

「チッ。今回だけだぞ」

 

「やったー!」

 

 後にアクセラレータはこの行動を後悔することになる。

 

 

 アクセラレータが外出するときは杖を使う。それは脳に深刻なダメージを受けてまともに歩くこともできないからだ。アクセラレータの能力はベクトル変換。指一本触れることができない脅威の能力で学園都市第一位に君臨した。最強の座を手に入れたアクセラレータは絶対能力進化(レベル6シフト)計画に参加。『神ならぬ身にて天上の意思に辿り着くもの』を目指したがある無能力者(レベル0)に敗北し最強の座を失った。唯一手に入れたのは少女、最終信号(ラストオーダー)との出会いだ。彼女が今のアクセラレータを支えている。

 

「ねぇねぇ、まだつかないの?ってミサカはミサカは我慢の限界を伝えてみたり」

 

「もう少しだ、我慢しろ」

 

 さらに歩いてついにカラオケ店の目の前に到着。うきうきで入ろうとするラストオーダーの首元を掴んだ。

 

「なにするの!ってミサカはミサカは怒ってみる」

 

「何かおかしい」

 

 アクセラレータに言われたラストオーダーは辺りをぐるっと見渡してみる。いくら平日の昼間とはいえアンチスキルの巡回くらいはいるはすだ。だが誰もいない。怖くなりカラオケ店に入ろうとしたがガラス越しに人の姿はない。辺り一帯ゴーストタウンだ。

 

「誰がこんなことしてんだ?」

 

「私だよそれは。第一位くんと二万一号ちゃん」

 

 気づかないうちに何者かが後ろに佇んでいた。スーツ姿でRのネクタイ、イアンだった。

 

「暗部のヤツか」

 

「まぁそうだね」

 

「何が狙いだ?」

 

「本当は君の能力が欲しかったが、君から能力を奪ってしまうと統括理事会が黙っていなくてね。だからラストオーダーちゃんだけ貰っていくよ」

 

 イアンはゆっくりラストオーダーに近づいていく。それを邪魔するようにアクセラレータは立ちふさがった。

 

「ンなことさせるかよ」

 

「いいでしょう。君の能力は全開で約十分、それまでに私を倒せるかな?」

 

 アクセラレータはチョーカーに手をあてた。そして地面を蹴る。すると地震のように大きな地響きが鳴りイアンの足元が爆発した。イアンは空中に投げ出され、アクセラレータは直接拳で殴り追撃した。地面にめり込んだイアンは苦しそうに立ち上がった。

 

「おいおい、つまんねぇな」

 

「……」

 

 アクセラレータはイアンの不気味さに眉をひそめた。彼は攻撃を受けて苦しんでいるのではない。笑っていたのだ。

 

「流石だよ。私も本気を出さなくてはね」

 

 イアンが手をかざした。その瞬間、アクセラレータは立っていられなくなるほどの頭痛に襲われた。

 

「チッ……なんだこりゃ!?」

 

「君の能力を無効化した。能力がない君は立っているのがやっとだろう」

 

「やめて!ってミサカは……」

 

 アクセラレータの前に立ったラストオーダー。イアンはやれやれと肩をすくめた。

 

「人間じゃない分際で感情を露わにするなんてね」

 

『カタストロフィ!』

 

 Cのイニシャルがはいったドーパントメモリを起動するとメモリは宙に浮いた。

 

「見せてあげよう。かつてある街を恐怖に陥れた組織、ミュージアムが使っていたゴールドランクのメモリと、新型ガイアドライバーの力を合わせたドーパントの姿をね」

 

 ダブルドライバーとは異なるがスロットつきのバックルを巻いてメモリを装填した。

 

『カタストロフィ!』

 

 まばゆい光を放ち現れたのは赤と紫の怪物だった。火山や隕石を彷彿とさせるカタストロフィドーパントは抵抗するラストオーダーを抱え姿を消した。

 

「……くそがァァァァァ!!」

 

 アクセラレータはカタストロフィドーパントの能力が切れ自身の能力が使えるようになったが既に活動限界に達している。カタストロフィに叫んだ後に意識を失ってしまった。

 


 

 それから一日経ち、翔太郎は昼飯を買いにスーパーに来ていた。

 

「平日だから学生はほとんどいないな。ゆっくり買い物ができるぜ」

 

 弁当を買い店を出ようとすると、見慣れた制服の少女を発見した。御坂だ。御坂は何かを探すように辺りを見渡し、目的のものがなかったのかスーパーを出ていった。翔太郎はそれを追いかけ御坂に追いつくと肩を叩いた。

 

「平日の昼間に何出歩いてんだよビリビリ」

 

 御坂は振り向いた。だが何か様子がおかしい。まるで別人のような反応だ。

 

「『ビリビリ』というのはミサカのことでしょうか」

 

「お前以外誰がいるんだよ」

 

「人違いです。あなたが言っているのはお姉様のほうではないでしょうか、とミサカは推測します」

 

 確かにいつもと違い大きなゴーグルをつけている。別人のようだ。

 

「ビリビリに妹がいたのか……しかも同じ顔で同じ制服かよ」

 

「あくまでこれはコスプレです、とミサカは釘を刺します」

 

「こんな時間に何してんだ?」

 

「人捜しです」

 

 まさに翔太郎の仕事だ。

 

「で、どんな人だ?」

 

「ミサカにそっくりで、かつ幼い姿の少女です、とミサカは説明します。あなたも手伝ってくださるのですか?」

 

「任せな。俺は探偵、左翔太郎だ。……ただ昼飯は食わせてくれ」

 

 空腹を満たすために一度自分の家に帰り弁当を食した。御坂妹も一緒だ。

 

「翔太郎と美琴ちゃんが一緒とは珍しいね」

 

 フィリップが別室から顔を出した。御坂ではないと気づいていないようだ。

 

「コイツは妹だとさ。人捜しを頼まれたんだ」

 

「お邪魔しています、とミサカは懇切丁寧に挨拶をします」

 

「へぇ。君の名前は?」

 

「ミサカはミサカ一〇〇三二号です」

 

 意味不明な発言に二人は首をかしげた。表情一つ変えない御坂妹がさらに不気味に思えてくる。

 

「と、とにかく検索だ。なぁ御坂妹。その子のことをなんでもいいから教えてくれ」

 

「はい。彼女は二〇〇〇一号、別名最終信号(ラストオーダー)と呼ばれています。恐らく彼女を誘拐した目的は『ミサカネットワーク』でしょう。ミサカネットワークを乗っ取って全個体のミサカを制御しようと……」

 

「まてまて!情報が多すぎるしわけわからんことばっかりだ!」

 

 御坂妹が発言の中に残したキーワードをもとにフィリップが検索を始めた。ラストオーダー、ミサカネットワーク、御坂妹……何冊か本が残ったが、気になるタイトルの本が一つあった。

 

「『絶対能力進化(レベル6シフト)計画』……これは一体?」

 

 本を読み進めていくフィリップの顔がだんだんと暗い表情へと変わっていく。そして全て読み終えたがそれを話すかどうか迷い黙り込む。

 

「どうしたフィリップ?検索は終わったか?」

 

「……翔太郎に話してもいいかい?妹ちゃん。いや、一〇〇三二号ちゃん。『妹達(シスターズ)』のことを」

 

「はい。その件についてはすでに凍結されているので情報の共有は構いませんが、何故あなたがそのことを?とミサカは疑問を投げかけます」

 

「僕も君たちと同じ『元人外』だからね。特殊な能力があるのさ」

 

フィリップは翔太郎に目を向ける。

 

「翔太郎。この話を聞けばきっと君はこの街を嫌いになる。その覚悟はあるかな?」

 

「あぁ」

 

そして完全に置いてけぼりな翔太郎にフィリップは語り始めた。

 

「彼女は美琴ちゃんのDNAマップ、つまりは遺伝子をもとに造られたクローンさ」

 

「クローン……どおりでビリビリと瓜二つなわけだ」

 

「ちなみにミサカは全てで二万人、そこにラストオーダーなどの特殊個体は含まれません、とミサカは補足します」

 

「ちょ、ちょっと待てよ!この街に二万人もビリビリと同じ顔がいるってことか?」

 

 質問に答えるのを渋るフィリップ。代わりに御坂妹が淡々と答えた。

 

「いえ、一〇〇三一号までのミサカは死亡しました、とミサカは質問に答えます」

 

 翔太郎はフィリップが黙っていた理由を知り同じく絶句してしまった。いくらクローンとはいえ命は命だ。それがたくさん失われたことに憤りを隠せずにいた。

 

「誰が……お前たちを殺したんだ。そんだけ死んでりゃ事故じゃねぇよな」

 

「……彼女が生み出されたのも、殺されたのも、全てこの学園都市のせいさ。学園都市統括理事会、そう呼ばれている」

 

 翔太郎は怒りで震えていた。風都と同じくらい良い風が吹くこの街でクローンの殺戮が行われていたことに。

 

絶対能力進化(レベル6シフト)計画。美琴ちゃんのクローン二万体を殺害することで未だ存在しないレベル6に到達できる。妹達は本来別の実験で生まれたがその計画で使われることになった」

 

「……ふざけてやがる。実験?殺害?この子らはモルモットじゃねぇ」

 

「あぁ。恐らく誘拐されたラストオーダーちゃんも何かしらの実験に必要なんだろう。この事件はガイアメモリとは関係ないだろうが……」

 

 既に捜す支度を始めていた翔太郎には聞こえていなかったようだ。フィリップはやれやれと立ち上がった。

 

「僕らは仮面ライダーである前に探偵だ。例えガイアメモリが関係していなくても依頼人のために動く。それが『二人で一人の探偵』さ」

 


 

「ラストオーダーが放った電波の最終地点はここです、とミサカは説明します」

 

「ここは……更地?」

 

 十〇学区のある場所、そこにラストオーダーがいるという。だが御坂妹が指差すのはただの更地だ。建物はまるでない。

 

「考えられる可能性は……地下か」

 

 フィリップだけ妙な胸騒ぎがしていた。広大な土地、地下の密閉空間。そして……

 

「妹ちゃん。電磁波を捉えるのは可能かい?」

 

「はい。お姉様よりは低レベルですが」

 

「Gマイクロ波はこの辺りにあるかい?」

 

「フィリップ……まさか!」

 

 翔太郎も遅れて気づいた。この事件はガイアメモリが大きく関係している。その理由はこの場所だ。一見何もない更地だが……

 

「はい。通常ではありえない謎の電磁波を感知しました、とミサカは答えます」

 

「やはり……この地下にガイアメモリ製造工場がある」

 

 フィリップは過去にガイアメモリ製造工場の条件を知った。広大な土地と地下スペース、ガイアメモリ製造時に必要な特殊電磁波のGマイクロ波、そしてそれを使用しても影響がない場所。それらが満たされたとき、製造工場が建設できる。

 風都ではそのような場所は限られているため、財団Xやミュージアムなどが主体となっているのがほとんどだ。広大な土地が必要なためかかる費用がとんでもない。だから個人で持つのはほぼ不可能である。

 

「そうなるとラストオーダーをさらったのは……」

 

「うん。恐らくリベンジだ」

 

 翔太郎はゴクリとつばを飲む。まさかの展開だ。

 

「地下にはどう行くのでしょうか、とミサカは尋ねます」

 

「簡単だ。無理やり掘ればいい」

 

「は?おいフィリップ!もっとまともな策はないのかよ?」

 

 頭脳派のフィリップが思いがけないほど脳筋な作戦を立てたので翔太郎は驚いていた。

 

「掘る、と言っても数メートルだけだ。この土の下にはコンクリートの層がある。だからファングでいこう」

 

「……仕方ねぇ」

 

 二人はベルトを装着してメモリを挿した。

 

『ファング!ジョーカー!』

 

『ファング!マキシマムドライブ!』

 

 右脚に鋭い刃、マキシマムセイバーが出現し回転しながら地面をえぐる。

 

「あれが仮面ライダーですか、とミサカは独り言をつぶやきながらどこからともなくロープを取り出して後を追います」

 

 空き地を囲っていたロープを外し地下へと降りていく。コンクリートの層を超えるととてつもない大きさの空間が現れた。人はいなく、稼働している感じはない。

 

「まだ作られたばかりのようだね」

 

 ダブルに変身したまま御坂妹と共に先へ進んでいく。

 

ヒュン!

 

 突然何かが目の前を通過した。早すぎてよく見えなかったが、ファングのショルダーセイバーのようなものだ。右の扉には穴が空いていて、そこから発射されたのだろう。

 

「何かの気配を感じる。気をつけてくれ、翔太郎」

 

『あぁ』

 

 穴の開いた扉が開き、スーツの男が現れた。

 

「君がイアン・ウルスランドだね」

 

 御坂妹を守るように前へ出たダブル。男は爽やかな笑顔で答えた。

 

「そう。私がリベンジのリーダー、イアンだ。はじめまして、仮面ライダーダブル。いや、左翔太郎君とフィリップ君」

 

『俺たちの名前を知ってんのか。有名人だもんな。まぁそれはいいからとっとと少女を返しやがれ』

 

 ダブルは挑発するように左腕で手招きをする。

 

「彼女はまだ返せない。そんなことより、君たちの実力が知りたいよ」

 

『あぁん?』

 

 イアンの後ろからライトブルーの髪の女性が顔を出した。ショートカットだが前髪が長く、左目が隠れている。

 

「へぇ。アンタが噂の仮面ライダーね。……しかもファングじゃん」

 

「幹部か」

 

「そう。彼女はリベンジの暴れん坊、歯牙木場乃だ。使うメモリは……」

 

 青髪の女性、歯牙は白いメモリを見せた。端子は青、T2だ。

 

「運命ね。アンタとおんなじ」

 

 刻まれた記憶は『F』ダブルと同じファングだった。

 

『ファング!』

 

 メモリを起動し右の手の甲に挿した。華奢な体から一気に二倍近くのたくましい体に変化し、全身に鋭い刃が生えている。

 

「ファングドーパント……実に興味深い」

 

『んなこと言ってる場合か!ビリビリ妹!逃げろ!』

 

 来た道を戻ろうとする御坂妹を狙いファングドーパントは肩の刃を投げた。

 

「まさか!さっきの物体も彼女が投げたショルダーセイバーだったのか!」

 

 慌ててかばったダブルのボディに大きなキズがつく。

 

「なんて威力だ。僕以上にファングの力を引き出している……」

 

『なぁ。あいつまさか……』

 

「ハイドープの可能性が高い」

 

 ハイドープとはガイアメモリとの適合率が限界を超え、新たな力を覚醒させるドーパントのことだ。フィリップ以上にファングと適合しているためダブルよりも一枚上手なのかもしれない。

 

「歯牙くん、そのへんにしておこう。ワールドキーを……」

 

 イアンは撤退する素振りを見せたが、ダブルに攻撃を続けるファングドーパントは聞く耳を持たない。

 

「はぁ……彼女の悪い癖が出たようだ。すまないね、仮面ライダー」

 

 ファングドーパント、歯牙は決して自我を失っているわけだはない。確かにフィリップがファングを単体使用すれば暴走し敵味方関係なく襲いかかる危険性があるが、歯牙はその驚異的な適合率のおかげで自我を保っている。が、彼女自身一度夢中になると周りの声が聞こえなくなり自分の世界にのめりこんでしまう性格なのだ。

 

「オラァ!どうした仮面ライダー!そのままじゃ細切れになっちまうぜぇ!」

 

『なんだコイツ!?いきなり性格変わっちまったぞ!?』

 

 もはや防御するので精一杯なダブル。変身解除も時間の問題だろう。

 

『俺の体は地上だからエクストリームになれねぇ!どうする!?』

 

「くっ……せめて一瞬でも隙があれば……」

 

 そしてついに強烈な斬撃がダブルの胸アーマーを襲いフィリップの姿に戻ってしまった。

 

「これで終わりだァ!仮面ライダー!……あ」

 

 トドメの一撃があと少しというところで止まった。変身を解いた歯牙は後ろで腕を組んで待っていたイアンに頭を下げた。

 

「ごめんなさい。つい夢中になっちゃって……」

 

「いいんだ。それが君の魅力でもある。それに今攻撃をやめたということは僕の意思をわかってくれたという証拠さ」

 

 イアンは立ち上がれないフィリップを見下ろす。

 

「君のことも研究したくてね。死なれては困る」

 

 イアンをお構い無しでスタッグフォンを取り出したフィリップ。翔太郎に助けを求めようとしているのだろう。

 

「無駄だよ。もはや仮面ライダーになれない左側には何もできない」

 

 スタッグフォンを蹴り飛ばし背中を踏みつける。フィリップは意識を失ってしまった。

 

「さぁ行くよ歯牙くん。まずはワールドキーの起動だ」

 

 イアンはフィリップを抱え深部へ消えた。




次回更新は二週間後になります。


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もうひとりのF/彼はジョーカー

「目が覚めましたか」

 

 翔太郎が目を覚ますと御坂妹が顔を近づけた。

 

「あ、あぁ……それよりフィリップが……」

 

 ダブルドライバーを装着しているのでフィリップの状況がなんとなくわかる。殺されてはいないが敵に捕まってしまったらしい。

 

「ファングドーパント。あいつがなかなかだな……」

 

 実は変身解除の直前に喰らった攻撃はエクストリームメモリが盾になってくれある程度緩和されていた。もしエクストリームメモリがいなかったら変身解除どころか変身したまま死んでいたかもしれない。

 状況は最悪である。エクストリームメモリがあればフィリップを助けるのは簡単だ。だがダメージを負って機能停止している。強敵ファングドーパントが待ち構えているかもしれない以上黒子や御坂を巻き込むわけにもいかない。

 

「ビリビリ妹。依頼は必ず達成する。だからそれまで安全な場所にいてくれ」

 

 翔太郎は立ち上がるとふらふらな足取りでどこかへ言ってしまった。

 

「……ミサカはあの人の体が心配です」

 

 

 自分のアパートに帰った翔太郎は部屋の隅に置かれたデスクの引き出しを開けた。そこには報告書や請求書が山ほど入れられていた。その紙をどかすように放り投げ、奥底に眠っていた箱を取った。

 

「やるしか……ないか」

 

 箱を開けると左側のスロットがないダブルドライバーがしまわれている。ダブルドライバーのプロトタイプであるロストドライバーだった。これを使えば翔太郎やフィリップは一人で変身が可能になる。

 ある理由でしばらく使っていなく、ロストドライバーの場所もわからなかった。学園都市に来た際にフィリップが持ってきていたらしく、風都での依頼の報告書やガス代、水道代などの請求書をカモフラージュとして利用したようだ。

 

「あのフィリップがこいつの場所を伝えたってことは……これを使うしかないってことだ」

 

 翔太郎が変身解除後に意識を失っている際、フィリップがスタッグフォンでメールを送っていた。

 

《ロストドライバーはデスクの紙山》

 

 それはダブルに変身できない翔太郎にさした唯一の希望だ。

 

 「待ってろフィリップ……ラストオーダー!」

 


 

 再び製造工場に侵入した翔太郎。厳重な警備が敷かれているかと慎重に行動するが、先程と同じく無人だ。

 

「まさか丸腰で来るとはね」

 

 工場の中央でイアンと歯牙が待ち伏せしていた。フィリップとラストオーダーの姿も見える。意識はないようだが。

 

「さっさと俺の相棒とその子を返してもらおうか」

 

「ファングどころか仮面ライダーにすら変身できないアンタに何ができるの?」

 

『ファング!』

 

 歯牙はファングドーパントに変わり翔太郎の首に刃をつきつけた。だが翔太郎は怖気づく様子がない。それどころか立ち向かおうとしている。

 

「おいおい。二人してダブルは知ってるくせにアレは知らないのかよ」

 

「なんですって?」

 

「歯牙。例の計画は完了だ。三人とも殺して構わない。ここは任せたよ」

 

 イアンはファングドーパントの肩を叩いて去っていく。

 

「あーあ。せっかくの変身を見れないなんてアイツはかわいそうだぜ」

 

「さっきから何を言ってんの?」

 

「覚悟しな、ファングレディ」

 

 翔太郎はロストドライバーとジョーカーメモリを取り出した。

 

「へんし……!?」

 

 ジョーカーメモリを装填しようとした瞬間、首に刃をつきつけていたはずのファングドーパントは遠くへ吹き飛んでいた。大きな瓦礫がファングを襲ったようだ。

 

「おい、もう終わりか?バケモンがよォ」

 

 現れたのは白い髪で杖をついた少年、アクセラレータだった。

 

「能力者か?」

 

「てめぇこそただの無能力者か?」

 

「何でここにいんのかわかんねぇけど早く逃げろ!」

 

「俺はあのガキを連れ戻しに来ただけだ」

 

「お前がビリビリ妹の言ってた保護者代わりのヤツか?ならちょうどいい!一緒にいくぜ!」

 

 あやうく喧嘩が勃発しかけたが二人は並び立った。

 

「変身……」

 

『ジョーカー!』

 

アクセラレータの隣で黒いダブル、すなわち仮面ライダージョーカーに変身。アクセラレータは目を見開いた。

 

「メタモルフォーゼか……?」

 

「フォーゼなら後輩だ。俺の名は仮面ライダージョーカー」

 

 ジョーカーは格闘の構えでファングドーパントに歩み寄る。ファングは瓦礫を投げ立ち上がった。

 

「へぇ。アンタだけでもなれるんだ。それに……第一位も来るとは」

 

「第一位?こいつが?」

 

 ジョーカーが振り向くとアクセラレータは面倒そうに首に手をあてる。

 

「自己紹介がまだだったな。俺はアクセラレータってんだ」

 

「アクセラレータ。俺があの怪物を引き付ける。その間に人質を助けてくれ」

 

「俺に命令すんじゃねェ!」

 

「ふっ。なんだか照井みたいなやつだな!」

 

 二人は同時に走り出した。ジョーカーはファングドーパントにパンチを繰り出す。あっけなくかわされたがもう一度殴りかかる。

 

「アンタはダブルの半分。ファングジョーカーでさえ敵わなかったのに勝てるわけないでしょ」

 

「さぁどうかな?」 

 

 ジョーカーはメモリをマキシマムスロットに装填した。たちまち拳が紫色の炎を噴き出す。

 

『ジョーカー!マキシマムドライブ!』

 

「……ライダーパンチ!」

 

 ジョーカーの必殺技をファングは真正面から受けた。それは受けて立つという意味ではない。もはやよける必要もないと思っていたからである。

 

「ふん……ッ!?」

 

 完全に舐めていた。一瞬耐えた素振りを見せたがあっという間に数メートル吹き飛び大ダメージを負った。

 

「ばかなっ!」

 

「お前はジョーカーの力を舐めてたな?」

 

 さらに追い打ちをかけるようにマキシマムスロットを叩いた。

 

『ジョーカー!マキシマムドライブ!』

 

「いくぜ!ライダーキック!」

 

 右足を大きく上げファングの胴体にキックをお見舞いした。先ほどの戦いとは真逆、ジョーカーが優勢だ。

 

「ジョーカー……何故単体でこれほどの力を……?」

 

「ジョーカーはな、俺の想いに答えてくれる。俺の気持ちが熱くなればなるほど強くなれるんだよ!」

 

 ジョーカーがもう一度キックを放ち、ファングの全身の刃が砕けた。

 

「左翔太郎……得体のしれないヤツ」

 

「おいおい。楽しそうだな。俺も混ぜてくれよ」

 

ラストオーダーとフィリップを救出したアクセラレータもファングを挟んだ。

 

「もう逃げ道はないぜ、どうする?」

 

「もういいよ、歯牙くん」

 

 突如無からカタストロフィドーパントが現れ、ファングを逃がすようにワープゲートを作った。

 

「助かる、イアン」

 

「イアン?お前もドーパントだったのか!」

 

「想定外だったよ。ロストドライバーを持っていたとは。良いデータがとれた。ではさらばだ、仮面ライダーと第一位くん」

 

 ワープゲートは閉じ、脅威は完全に消え去った。アクセラレータは手荒にフィリップを投げた。変身解除した翔太郎がそれを慌ててキャッチする。

 

「互いに用は済んだだろ。俺は帰る」

 

「おい待てアクセラレータ!」

 

 アクセラレータを追おうとしたがフィリップが想像以上に重く歩くことができない。

 

「無事依頼は達成したようですね、とミサカは状況を確認します」

 

 御坂妹はアクセラレータと入れ違いでやって来ると、翔太郎を手伝う。

 

「あいつに任せていいのか?あんな少女を」

 

「はい。彼は言いたいことをはっきり言わない人ですが、悪い人ではありません」

 

「お前を……お前の前任者を殺したのにか?」

 

「……彼は変わりました。口には出さないですが、私たちを破壊した罪を償うためにこうして彼女に優しくしているのかもしれません、とミサカは推測します」

 

 御坂妹はポケットから何かを取り出し翔太郎に渡した。

 

「これは依頼代です。受け取ってください、とミサカは報酬を差し出します」

 

 それは緑色のメモリ、T2ロケットだった。

 

「お前これ……」

 

「たまたま拾ったものですが、あなたの役に立つかもしれませんよ」

 

「まぁ使われるよりはマシか……」

 

 

 一方、ラストオーダーを背負ったアクセラレータも御坂妹に出くわしていた。

 

「どうやら一件落着ですね。ミサカ一〇〇三二号に感謝してください、とミサカはミサカにも感謝すべきだという思いを押し殺しアドバイスを……」

 

「あぁ。テメェが俺の能力の演算を手伝ってたんだろ?」

 

 この御坂妹は一〇〇四六号。翔太郎に依頼をした御坂妹とは別の個体だ。実はこの御坂妹がアクセラレータの能力を妹達の共有脳波リンクであるミサカネットワークで演算し、手助けしていた。彼女がいなければアクセラレータは歩くので精一杯だっただろう。

 

「俺に礼を求めるなんて馬鹿なヤツだな。俺がするとでも?」

 

「はい。なんせあなたはツンデレで……」

 

「口を動かす余裕があんならコイツを抱えやがれ。重いんだよ」

 

「むー!今重いって言ったね!女子にそれは禁句だよ!ってミサカはミサカは怒ってみたり!」

 

「起きてやがったのか。なら自分で歩きやがれ」

 

 学園都市第一位アクセラレータ。彼はこれからも自分の罪と向き合っていく。罪を数え、たくさんの命を守るために。

 


 

「いってぇな!」

 

「あのね!あの子たちに会ったんなら連絡くらいしなさいよ!ってか何よそれ?タイプライターでローマ字って……」

 

「これは俺にとって必要なものだ!」

 

 後に翔太郎の部屋を訪れた御坂に電撃を喰らい、悶絶した。フィリップは意識を取り戻したものの、全身にダメージを負っていてしばらくは戦えそうにない。街を守る仮面ライダーはジョーカー一人だ。

 

 場所は変わり、とある路地裏。二人の少女は絶対絶命の危機にさらされていた。

 

「湾内さん!私が囮になるのでその隙に!」

 

「いえ!泡浮さんこそ逃げてください!私は大丈夫ですので!」

 

 常盤台の水泳部員、湾内絹保と泡浮万彬はゴキブリのような姿をしたドーパントに襲われている。

 

「かわいいなぁ!二人とも美味しく食べてあげるよ!」

 

「来ないでください!」

 

 ドーパントは湾内の腕を掴んだ。だが、突如背中に激痛が走った。何か刃物で斬られたようだ。

 

「なんだ!?」

 

 ドーパントの背後には謎の赤い戦士が剣を構えていた。顔のバイザーのような部分が青く光る。

 

「君たち、逃げるんだ」

 

「え?……わかりました。行きましょう、湾内さん」

 

「はい……」

 

 二人は路地裏を無我夢中で走り抜けた。ドーパントは悔しがり足で地面を蹴りつけた。

 

「なんなんだよお前は!」

 

 赤い戦士はドーパントの問に答えることなく剣にメモリを挿した。

 

『エンジン!マキシマムドライブ!』

 

 Aの形をしたエネルギーがドーパントの体を貫いた。メモリが大破し、中年の男が地面に倒れた。赤い戦士は男に向かって呟く。

 

「……俺に質問するな」

 




これからは二週間に一回のペースになります。よろしくお願いします。


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Sの決意/狩りの獲物はレベル5

「おはようございま〜す!初春いますか〜?」

 

 いつものように一七七支部に遊びに来た佐天。黒子と固法が仕事をしているが初春の姿はない。

 

「あら佐天じゃありませんの。初春なら今日は非番ですわよ」

 

「たまには休まないとね。初春さんここ最近頑張ってたし」

 

 非番ならこれから一緒に遊びに行けるな、と考える。だがせっかくのお休みを邪魔しちゃいけないかもと気遣い今日はそっとしておくことにした。

 

「あ、せっかくだし新しくできたお店にでも行こうかな〜」

 

 佐天が一七七支部を出てすぐ、黒子に電話がかかってきた。初春からだ。

 

「はい、もしもし」

 

『白井さんですか?今すぐセブンスミスト近くの銀行に来てください!』

 

 初春は小声で話す。初春の声をかき消すように警報が鳴っている。すぐに事件だと悟った黒子はスピーカーに切り替えて固法にも聞こえるようにした。

 

「一体何事ですの!?」

 

『強盗です!犯人は四人、全員黒ずくめの格好でバンダナを巻いてます!』

 

「初春は今現場に!?」

 

『はい。たまたま居合わせて……とにかく早く来てください!じゃないと……あ……』

 

 人が殴られたかのような鈍い音を最後に、通話は終わってしまった。

 

「まずいわね……白井さん!先に現場に行ってて。私はアンチスキルに連絡するわ!」

 

「えぇ!わかりましたわ!」

 

 黒子はテレポートを駆使し数十秒で現場に到着した。銀行の中を覗いてみると、バンダナを頭に巻いた犯人らしき集団と隅に集められている人質、中には子どもやお年寄りも含まれている。リーダーと思われる赤いバンダナを巻いた男は初春に銃を突きつけている。初春の頬は赤く腫れ上がっていてさっきの電話のときに殴られたのだろう。ここは慎重にと銀行の外で様子を伺うことにした。

 しかし、何かがおかしい。犯人らは警戒する様子もなく、ただただ立っているだけ。その気になれば一瞬で全滅させられそうだ。

 

「警戒していない……?それほどまでの自信がどこから来ているんですの……?」

 

 黒子がぼそっと呟いた瞬間、銃声が鳴り響いた。人質が撃たれた!?ととっさに突撃しようとしたが、その銃弾は黒子のすぐ真横を通過していた。

 

「え……?」

 

「そこにいるのは分かってるんだよ、ガキが」

 

 まさか、見つかった!?顔を出しすぎたか?それとも能力か?とにかくバレてしまった以上真正面からいくしかないと犯人たちの前に立った。

 

「バレてしまっては仕方ありません。ジャッジメントですの!あなた方を拘束します」

 

「白井さん!」

 

「へぇ……確かに今までの俺たちならやられてたかもな」

 

 リーダーは鼻を人差し指で指さした。

 

「でも……今の俺は鼻が良い。これのおかげでな」

 

 取り出したのはドーパントメモリ。Wのイニシャルで端子は銀、シルバーメモリと呼ばれる上級メモリだ。

 

「おいお前ら!やっちまいな!」

 

 リーダーに指示された下っ端たちはHのメモリを起動し自分の体に挿した。

 

『ハイエナ!』

 

 茶色の体にまだら模様、頭部に丸い耳のようなものがついている。三体のハイエナドーパントは高速で動き回り黒子を翻弄する。

 

「どうだ!これが俺たちプレデターズの力だ!」

 

 三体のうち一体が黒子の首を掴んだ。だが黒子は瞬間移動で脱出。すぐさま足に巻かれたホルスターから金属矢を引き抜いてハイエナに刺さるようテレポートさせた。

 

「ぐッ!?いてぇ!?」

 

「舐めてかかると痛い目に遭いますわよ」

 

 黒子はそのままリーダーの目の前に現れ拳銃を蹴った。そして初春をテレポートで他の人質と同じ場所へ飛ばした。

 

「初春!ワタクシがテレポートで人質を外に逃がしますわ!その後の避難誘導を任せましたの!」

 

「……はい!」

 

 黒子は三体のハイエナと戦いながらも少しずつ人質を外に逃がしていく。

 

「クソ!ちょこまかと!」

 

「いい加減にしやがれ!」

 

 人質を全員逃がし終わり、ハイエナたちと戦闘を繰り広げようとした瞬間、三体のハイエナをとてつもない光線が襲った。光線の正体はコインだ。ゲーセンのコインが電撃を放っている。

 

「これは……まさか!」

 

超電磁砲(レールガン)か」

 

 大きな穴が空いた銀行の壁から入ってきたのは御坂美琴だった。

 

「銀行強盗?随分物騒じゃない」

 

 さすがのドーパントでもレールガンは耐えられない。直撃した一体が人間に戻る。メモリは破壊できず残ったままだ。

 

「アイツらじゃないとメモリは壊せないか」

 

「おい、超電磁砲。こいつがどうなってもいいのか?」

 

 ハイエナではない別のドーパントが初春の腕を掴んで登場した。ハイエナと同じような生物的で、白銀の体毛に覆われている。このドーパントはリーダーが変身したものだろう。隙をついて物陰から様子を見ていた初春を捕まえたようだ。

 

「くっ……」

 

 御坂は一瞬だけ黒子に目を向けた。そして御坂の考えを理解した黒子は大きく深呼吸する。一瞬でドーパントに接近し、初春をテレポートで逃がす。御坂はその瞬間にレールガンでドーパントを吹き飛ばす。それが作戦だ。

 

「今よ黒子!」

 

「させるか!」

 

 御坂の思考は完全に読まれていた。黒子がドーパントの目の前に来た瞬間、鋭い爪で引っ掻きさらにパンチを繰り出した。。黒子は数メートル吹っ飛び壁にめり込んでしまう。

 

「黒子!!」

 

 ドーパントはさらに初春も殴る。何度も何度も殴り初春の顔面が赤く染まっていく。

 

「初春さん!!……いい加減にしなさい!」

 

「殺すまではしない。お前の能力と引き換えに解放してやるよ」

 

「狙いは私の能力ってわけ?」

 

「そう。お前がおとなしく能力を渡してくれればコイツを解放して今日は撤退してやる。もし拒否すれば……わかるよな?」

 

 初春の意識はない。かろうじて生きてはいるがこれ以上は命をに関わる危険だ。御坂は静かにドーパントへ向かい歩き出した。そして目の前まで来ると腕を差し出す。

 

「さっさと能力を奪って」

 

「交渉成立だな」

 

 拳銃のような形をしたアダプターを腕にあてて撃つ。御坂の能力を奪って生まれた新たなアビリティメモリ、レールガンメモリが排出された。

 

「レベル5のアビリティメモリか。こりゃ高く売れるぜ」

 

『サイクロン!ジョーカー!』

 

 ドーパントたちが去ろうとするが、ダブルが駆けつける。

 

「すまねぇ!遅くなった!」

 

『僕の怪我は完治してない。さっさと倒そう』

 

 リーダーはダブルに目もくれない。下っ端のハイエナ二人が代わりに戦闘体制に入る。

 

「俺達が相手だ!半分こ怪人!」

 

「半分こ怪人じゃねぇ!ダブルだ!お前らに構ってる場合じゃないから一気に決めるぜ!」

 

『ジョーカー!マキシマムドライブ!』

 

「『ジョーカーエクストリーム!』」

 

 半分に割れたダブルはハイエナを貫いた。メモリが破壊されて砕け散る。ダブルはそのまま御坂のもとに走った。

 

「大丈夫かビリビリ!」

 

 御坂は魂が抜けたかのようにペタっと座ったまま動かない。目も合わせないままただ一言だけ呟いた。

 

「能力が……」

 

「能力?まさか!」

 

 

 アンチスキルが到着したあとも座り込んだままの御坂。意識を取り戻した黒子が何度も御坂に頭を下げた。御坂はに気にしていない素振りを見せたが、心に大きな傷を負っているのは明白だ。

 

「本当にすみません……お姉さまにご迷惑を……」

 

「何回言ってるのよそれ。私は大丈夫だから。黒子が無事でよかったわ。あとは初春さんね……」

 

 翔太郎も含め三人で初春が搬送された病院へ向かった。先に佐天が来ていたらしく、佐天と初春の話し声が聞こえている。

 

「失礼しますの」

 

「見舞いに来たぜ」

 

「初春さん、怪我の具合はどう?」

 

「あ、えーっと……骨折程度で済んだみたいで。明日には退院できるみたいです」

 

「もービックリしたんだから。白井さんから連絡もらったときは初春大丈夫かなって心配で……」

 

「あ……そういえばあの後はどうなたんですか?」

 

 初春は御坂が能力を奪われたことをまだ知らない。言うべきか迷っていた黒子と翔太郎よりも先に御坂が状況を話し始めた。当然初春も御坂に対し謝罪の言葉を繰り返す。御坂がなだめ事は収まったが、その様子を見ていた翔太郎はどこか引っかかりを覚える。やはり能力のことを引きずっているかもしれない。そう思いアビリティメモリを探すことにした。

 


 

「やはりな……」

 

 翔太郎が病院に向かったあと、フィリップは自室で検索にふけっていた。検索対象はリベンジのメンバーだ。

 イアンに関しては前に一度調べたが、財団Xの幹部であることくらいしかわからなかった。そこに新たなキーワード、『ワールドキー』を加えると一冊だけだった本が二冊に増えた。題名は『平行世界融合について』イアンは財団Xのガイアメモリ関係の後任者だったのだ。数年前、エージェント加頭順によってミュージアムと契約。ガイアメモリ流通は順調だったが仮面ライダーによって加頭順が倒されガイアメモリから手を引くことに。その後、コアメダルやアストロスイッチ、さらにはネビュラシステムなどの計画が進行。ガイアメモリの存在が忘れられる中、ガイアメモリの研究に没頭し続けた人物が一人。それがイアンだったのだ。彼は自らガイアメモリを開発。そしてガイアメモリの性能を上げるためにアビリティメモリを開発した。しかし、アビリティメモリには超能力と呼べるくらいの力が必要で、それを調達するのは困難。そこで目をつけたのが学園都市だったのだ。超能力者が集まるこの街は実験、研究に都合の良い場所。そして彼はこの街にやって来た。

 

「もう一度検索だ。キーワードは歯牙木場乃」

 

 歯牙木場乃。彼女は大人っぽい見た目だが高校生らしい。高校生ながら研究にのめり込み財団Xにスカウトされた。中学生までは風都にいたらしくそこでガイアメモリに出会ったのだろう。特に仮面ライダーに関して興味を持っていて、彼女自身ライダーになるための研究も行っているようだ。

 

「実に興味深い……」

 

 検索に夢中なフィリップのスタッグフォンが鳴る。

 

「誰だい?……君か。……なんだって!?わかった。待っているよ」

 

 フィリップは大きくため息をついた。

 

「まずいな……リベンジだけでなく裏の住人達も動き出したか」

 


 

 翌日、初春はギブスをつけてはいるが無事退院し一七七支部でパソコン業務にあたっていた。

 

「初春さん。あまり無茶しないでね?」

 

「わかってます。でも……御坂さんの能力を早く取り返さないと……」

 

 固法はやれやれとため息をついて自分のパソコンと向き合う。

 

「白井さんも頑張ってますし、私も何か手がかりを……ん?」

 

 強盗集団『プレデターズ』メンバーのバンクを調べていた初春はあることに気づいた。

 

「この人…………木原幻生の助手を……!」

 

「木原幻生ね……大覇星祭で目撃したっていう噂もあるわ」

 

木原幻生。レベル6の理論を唱えた人物で、大覇星祭にて御坂を暴走させた張本人である。プレデターズのリーダー、髪矢大儀はその助手をしていた。

 

「やはり御坂さんの能力を故意に狙ったのね」

 

「いえ、多分違うと思います。このプレデターズはリベンジと繋がっているはずです」

 

「え?どうして?」

 

「プレデターズが狙った銀行ですよ。全て『ウインド銀行』で、この銀行は風都から進出しているんです」

 

 そして画面に映されたのはある週刊誌の記事。

 

「過去にこの銀行はスクープされてて、その内容が……」

 

 見出しに書かれていたのは『ガイアメモリ裏取引!?』本文は進出前、風都にて社長がガイアメモリ流通に関係していたという内容だ。

 

「この事件以降逃げるように他の市に進出していて、この学園都市にも来たんです」

 

「そしてプレデターズが銀行を襲いガイアメモリを奪おうとしたと。けどたまたま御坂さんが来て能力を奪うことに成功した」

 

「はい。彼らの本来の目的は能力ではなくガイアメモリということです」

 

「ビンゴ〜!俺らのことわかってんじゃん!」

 

 男の声に驚いた二人は後ろを振り返った。気配を全く感じなかったが、確かにいる。赤いバンダナで目が見えないが殺意を感じさせるオーラだ。

 

「俺らの目的はガイアメモリを集めてリベンジとの契約を果たす。木原先生の叶えられなかったアレを完成させるためにな」

 

 その手にはWのドーパントメモリが握られていた。そしてTシャツを脱ぐと左肩に生体コネクタが出現。メモリを挿した。

 

「さぁ、狩りの時間だ」




現在アンケートをやってます。風都探偵を見ている人が多ければその要素も絡めていきたいと思います。既にいくつか風都探偵要素を書いてしまっていますが…


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Sの決意/彼女は悪魔となる

 能力が無くなった御坂の生活は大きく変化してしまった。たった一夜で噂が広まり常盤台の中ではその話題で持ちきり。影からこそこそと何かを言われるようになったのである。御坂と言えば常盤台の名の知れたエースで、食蜂派閥以外からは憧れの的となっていた。しかし、今は無能力者。レベル3以上の能力が在学条件の常盤台にはいてはならない存在にまで落ちぶれてしまった。  

 当然食蜂にもその話が届いているはずだが食蜂はその話題に触れることはなくいつもどおりのウザさで接してくる。良きライバルであり一応の友人である御坂を気遣ったのだろう。それが少しだけ嬉しい御坂であったが……

 

「まさかガイアメモリに木原幻生が絡んでいるとはねぇ……今は御坂さんどころじゃないわ」

 

 御坂は大きく勘違いをしていたようだ。

 影響は常盤台の中だけにとどまらない。街中ではもっと厄介なことに巻き込まれる。

 

「おいおい、お前が常盤台のレールガンだな!聞いたぜ。無能力者になったんだってな!俺の方が上になるなんて思わなかったが、可愛がってやるよ!」

 

 このように調子に乗った輩が襲いかかってくる。いつもなら軽くあしらえば尻尾を巻いて逃げていくが、今はそんな能力がない。ただただ逃げるしかないのだ。

 

 能力さえあれば……

 

 そんな思いがどんどん積もっていく。人並みにはメンタルが強いと思っていたがそんな御坂でもレベル5からレベル0に転落した生活を送るのには一日ももたなかった。

 

「はぁ……」

 

「まだ能力のことを引きずっているんですの?」

 

「そりゃそうでしょ。能力のないアタシは何もできないんだな……って」

 

 寮の自室で布団をひっかぶり黒子に弱々しい姿を見せないように全身を覆った。黒子は結っていた髪を解いて就寝の準備を整える。

 

「だからこそ今は無理をしないでくださいな。ワタクシだけでなく、佐天や初春も心配しているのですから」

 

「黒子……ありがとう。でも……」

 

 御坂はちゃっかり布団越しに抱きついていた黒子を布団ごとふっ飛ばした。

 

「どさくさに紛れて抱きつくな!」

 

「あぁ〜ん!お姉さま!」

 


 

 翌朝、黒子の携帯の着信音で二人は目を覚ました。それは翔太郎からだった。

 

「はい、なんですの?……え?初春と固法先輩が!?わかりましたわ、今から準備をして向かいますの」

 

 それを聞いていた御坂はパジャマから制服に着替え黒子と共に行く準備をする。

 

「初春と固法先輩が何者かに襲われたらしいですの!」

 

「初春さんと固法先輩が!?一体誰が……とにかく病院へ急がないと!」

 

 テレポートですぐに病院へ向かう。看護師からの話によると、二人とも全身を何か爪のようなもので引っかかれたり刺されたりしていたようで、首には噛みつかれたような跡があるそうだ。あまりに悲惨な姿なためすぐに集中治療室に運ばれ今も処置を行っているらしい。

 

「……許せない。初春さんたちをあんなふうに傷つけて。今すぐに探し出して痛い目に……」

 

「昨夜言ったばかりですわよ。無理はするなと。ここはジャッジメントであるワタクシにお任せくださいな」

 

「で、でも……」

 

「白井だけじゃ不安だな。俺たちも行くぜ」

 

 同じく病院に来ていた翔太郎も合流した。フィリップの姿はなくまだ怪我を引きずっているらしい。

 

「ええ。今回の襲撃者の正体を知るためにフィリップさんのお力も借りたいのですが」

 

「あぁ。アイツならアパートにいるぜ。俺は聞き込みをして情報を掴む」

 

 二人の会話に入れない御坂。能力がない自分をまるで邪魔者のように扱っているのが気に入らなかった。だがそれ以上に、能力を奪われた自責の念が御坂の心をえぐる。初春が人質となっていたので仕方なかったと言えばそうだが、ドーパントになっていない相手なら電撃でどうにかなったはず。どうしても自分を責めずにはいられなかった。

 

「アタシって邪魔者なのかな……」

 

 そんな声に黒子と翔太郎が耳を傾けることはなかった。

 


 

「初春……」

 

 黒子らが来る少し前、誰よりも早く病院に駆けつけたのは佐天だった。包帯に包まれた初春や固法の顔を見ることはできなかったが、きっと見たとしても安心はできなかっただろう。

 

 許せない。

 

 初春と固法先輩を襲った犯人に復讐してやりたい。その一心だったが、前に翔太郎に言われたことを思いだして踏みとどまる。

 

『友達を想う気持ちは必要だ。でも、それを復讐の心に変えるんじゃなくて友達を守りたいって勇気に変えるんだ』

 

『復讐』という言葉に呪われれば私が私でなくなる。それは理解している。だがもし大切な友達が危険に晒されていたら……きっと復讐に溺れモンスターとなってしまうかもしれない。

 そんな恐怖が心に残り思わず足がすくむ。

 

(今日はちょっと回り道して帰ろうかな)

 

 学園都市では珍しい地下歩道、あまり人通りのないマイナーな道だ。佐天にとってそういう場所が自身の探究心をくすぐる。トンネルの中は薄暗くて不気味な雰囲気を醸し出している。佐天はお構い無しで歩いていく。すると、前から帽子を被った女性が歩いて来た。顔は良く見えないが、この季節にそぐわない黒いロングコートを着ている。その女性は佐天の目の前で歩みを止めた。何か嫌な予感を感じた佐天は早足で抜けようとしたが、ふと振り向くと女性が持っていたアタッシュケースを開いてこちらに見せつけていた。その中身を見て思わず体が硬直してしまう。

 

「ガイアメモリ……」

 

 俗に言うドーパントメモリが大量に並んだアタッシュケースを前に息を飲む。

 

「あなた、知っているのね。なら話は早いわ。治験をしてみない?」

 

 女は一本のガイアメモリを佐天に手渡した。

 

「このメモリは試作品。もし気に入ったらまたここに来て。私とあなたは……運命によって再び出会うはず」

 

「あの!あなたは一体誰なんですか!」

 

「その心に眠る『復讐の炎』を燃やしなさい。怒りや憎しみ……それがあなたを強くする」

 

 女性はまるで幽霊のようにあっという間に消えてしまった。立ち尽くす佐天の右手には『T』のメモリが握られていた。

 

「復讐の炎……」

 

 佐天の心の中の悪魔が顔を覗かせる。恐怖よりも大きな何かが勝ち、ガイアメモリをバッグへしまうのだった。

 


 

「ここがフィリップさんの住むアパートですのね」

 

 黒子はフィリップがいる205号室を探す。そして部屋を見つけチャイムを鳴らそうとしたが、何者かに口を塞がれた。テレポートですぐさま抜け出し、背後をとる。

 

「やっぱ一筋縄ではいかねぇな」

 

「何者ですの!?……あなたは!?」

 

 その男はプレデターズのリーダー、髪矢だった。髪矢はケタケタと笑う。

 

「銀行強盗の……何故あなたが!?」

 

「いやぁ気持ちよかったぜ。泣き叫ぶ花飾りの子とそれを守るメガネちゃん。その綺麗で純粋な心をズタズタにしてさぁ」

 

「……あなたが初春や固法先輩を襲った凶悪犯ですか」

 

 身構える黒子。彼女の頭の中では膨大な量の演算が行われていた。様々なパターンを予測し、相手を的確に行動不能にする方法を探る。その時間はわずか数秒だ。

 

「あなたがドーパントであることはわかりきったこと。だからメモリを使う前に拘束しますの!」

 

 スカートの中に隠されていた鉄の矢が髪矢の服ごと壁に突き刺さった。髪矢は抵抗することなく壁に張り付いたまま黒子を見る。

 

「メモリを使う前にか。いい作戦だが誤算が一つ……」

 

 髪矢の服に刺さっていた鉄の矢が突然壁から抜けて落ちた。超能力としか思えないそれは黒子を驚嘆させた。

 

「能力者!?」

 

「いや、なんだっけか……あ、そうそう。ハイドープってやつ。メモリを使わずとも能力に目覚めるやつなんだとさ」

 

 矢はテレキネシスで宙に浮いたままだ。神谷が手をかざすと黒子に向かって高速で飛んでいった。間一髪さけることができた黒子だが髪矢のタックルによってアパートの通路から落ちる。高さはさほどないものの顔面から落ちれば重症を負う可能性もある。テレポートで地面と顔が激突することは免れたが髪矢が覆いかぶさるように落ちてきて黒子に馬乗りになった。

 

「オラオラどうした!」

 

 何度も殴られて上手く演算ができない。テレポートもできずただサンドバッグとなるしかなかった。

 

「くっ……ワタクシは……」

 

 顔が腫れ上がるのがわかる。意識が薄れていき視界がぼやけはじまったとき、髪矢を何かが襲った。小さな恐竜だ。

 

「黒子ちゃん!大丈夫かい?」

 

「フィリップさん……」

 

 駆けつけたのはフィリップだ。アパートの外が騒がしいと様子を見に来たらしい。小さな恐竜、ファングメモリはフィリップの肩に飛び乗った。

 

「翔太郎!変身だ!」

 

 スタッグフォンで翔太郎に連絡をとる。ファングジョーカーになる際は翔太郎に連絡しダブルドライバーを装着してもらわないと変身できないのだ。

 

「変身!」

 

『ファング!ジョーカー!』

 

 ダブル、ファングジョーカーとなったフィリップは髪矢を睨みつけた。

 

『お前……強盗犯の!てめぇが初春ちゃんや固法ちゃんを!』

 

「髪矢多儀(おおぎ)。君がハイドープで、ウルフメモリを持っているのはわかっている」

 

 初春と固法が襲われたことを知ったフィリップは既に情報を集め検索していたのだ。

 

「君はかつて木原幻生という研究者の助手だった。そして共に能力に関する研究に没頭した。そこに現れたのが……財団X」

 

「正解!あいつらはこの街の能力に目をつけたみたいでな。能力に関する情報と引き換えにガイアメモリをくれた」

 

「そして木原幻生はそのガイアメモリを使ってある計画を立てた。それが『異世界融合(パラレル)計画だった」

 

「あぁ。だがその計画を立てた直後消息不明になった。だから俺はその跡継ぎをする。その計画の先にあるものを手に入れるためにな!」

 

 髪矢はウルフメモリを左肩に挿した。

 

『ウルフ!』

 

 ハイエナドーパントと似たような姿だが、色は銀色。口にははみ出るほどの大きな牙が二本。

 ウルフは凄まじいスピードでダブルに迫り武器のクナイで斬る。ダブルもアームファングで応戦するがその速さについていけない。

 

『フィリップ!このままじゃらちが明かねぇぞ!』

 

「わかってる。せめて翔太郎の体が近くにあれば……」

 

 ファング以外の形態になるには翔太郎が変身しなくてはいけない。だが翔太郎は聞き込み途中で変身して公園のベンチで横たわっている。黒子に頼めばすぐに体を持ってこれるが既に意識がない。

 

「翔太郎。一か八かだけどアレを使おう」

 

『……あぁ!』

 

 ダブルはベルトのスロット部分を閉じジョーカーメモリを引き抜いた。そしてトリガーメモリを装填する。

 

「させるか!」

 

 ベルトを展開する直前、ウルフは一瞬でダブルのベルトめがけパンチを繰り出した。衝撃でファングメモリに大きなヒビが入り変身が解けてしまった。

 

「まずいな……」

 

『フィリップ!今すぐそっちに行く!それまで耐えてくれ!』

 

 ダブルドライバーを装着しているので変身してなくとも翔太郎と会話ができる。翔太郎が来るまではとにかく逃げるしかない。黒子にヘイトがいかないようウルフを誘導しつつ攻撃を避けて逃げる。

 

「ちょこまかと!」

 

 だがそう長くは続かない。ウルフの攻撃があたってしまった。激痛が走り倒れてしまう。

 

「これで終わりだ」

 

 ウルフがクナイを構える。しかし、フィリップは飛んできたエクストリームメモリの中に逃げ込みトドメをさされることはなかった。

 

「ちっ!逃げたか」

 

『このまま翔太郎が来るまではここにいよう』

 

 エクストリームメモリの中は安全、そう思っていた。当然攻撃が当たることはない。あくまでフィリップは。フィリップを匿ったエクストリームメモリに鋭い刃が刺さる。

 

『なんだ!?』

 

 エクストリームメモリはたちまち機能停止に追い込まれ、強制的にフィリップを外に追い出した。エクストリームメモリに刺さった刃はウルフのものではない。真っ白な刃、見覚えがあった。

 

「手を貸すわ、ウルフ」

 

 ウルフと並んだのはファングドーパントだった。

 

「いらないことすんなよ」

 

「あら?このまま逃げられて最強のダブルになられたらあなたでも勝てないわよ?」

 

「うるさい!コイツは俺の獲物だ!」

 

 フィリップにとって絶対絶命の状況の中、ファングドーパントは何かの気配を感じ取った。

 

「!?この感じ……ヤバいのが来る!?」

 

 ファングドーパントは身震いをさせるとフィリップに近づくウルフドーパントを引き戻した。

 

「ウルフ!逃げるわよ!」

 

「はぁ!?なんでだよ」

 

「とてつもない殺気を感じる……倒されても知らないわよ!」

 

 ファングドーパントはウルフを蹴飛ばすと足早に去っていった。

 

「なんだ?なぜ幹部が逃げたんだ……?」

 

「やっと見つけた。あんたが……」

 

 現れたのは佐天。しかし様子がおかしい。ウルフを睨むその目つきはまるで怪物のようだった。

 

「よくも……初春や……固法先輩や……白井さんを……許さない……」

 

 

 数分前、メモリを受け取った佐天の顔は曇ったままだった。あの女性が言っていた『復讐の炎』をずっと考えていたからだ。今、手の中には能力以上の『強大な力』がある。それを使えば初春と固法を襲った奴に復讐ができる。だが、あるときの翔太郎の顔が頭から離れない。

 前に一度、翔太郎に仮面ライダーになった理由を聞いたときだった。自分もガイアメモリを手に入れて襲われた黒子の復讐をしたいと言った。それを聞いた翔太郎の顔が思い浮かぶのだ。普段カッコつけてばかりいる彼が初めて自分たちに対して怒りを露わにしたのだった。優しい言葉で否定していたが内心『軽はずみにそんなこと言うんじゃねぇ』と思っていたのだろう。

 

(私……これを使ったら……)

 

 怖かった。自分が自分でなくなるんじゃないかと。レベルアッパー事件のときのようになってしまうのではないかと。

 

(ダメだ……御坂さんたちに申し訳無いし)

 

 これをつかったらきっと友人たちは悲しむ。あのときと同じになる。そう言い聞かせメモリをしまった。翔太郎に渡して何かの役に立てばと捨てることはしなかった。

 そして翔太郎とフィリップが住むアパートにやってきたが、そこでダブルとドーパントが戦っているのを目撃した。少し離れたところで横たわっている黒子の姿もある。

 

「白井さん!?しっかりして!」

 

 肩を掴んで揺するが反応はない。慌てて御坂に電話をかけた。

 

「もしもし御坂さん?白井さんが怪我で……とにかく来てください!」

 

 一呼吸置いて御坂は答えた。

 

『ごめん……今の私じゃ誰も助けられない』

 

 能力のことをまだ引きずっている様子だ。必死の説得を試みる。

 

「そんなことないです!能力とかは関係ない!友だちがピンチなんですよ!?」

 

『佐天さんはすごいね……私はレベル0になって実感したの。能力が無い私は何もできない。だから……みんなに会わせる顔がない』

 

 弱々しいその声を聞いた佐天は黙り込んだ。

 

「……そうですか。御坂さんに頼んだ私が馬鹿でした」

 

 電話を切るとバッグからメモリを取り出しウルフドーパントに向かって歩き始めた。

 

「よくも……初春や……固法先輩や……白井さんを……許さない……」

 

『トルネード!』

 

 メモリを起動すると右腕に生体コネクタが浮かび上がった。

 

「ダメだ涙子ちゃん!」

 

 フィリップの声は届かず佐天は青色の怪物へと姿を変えた。

 晴れていたはずの空は突然雲に覆われ、突風が吹き始める。

 

「おいおい、なんだありゃ……」

 

 駆けつけた翔太郎も言葉が出ない。佐天が変身したトルネードドーパントはウルフドーパントに負けない速さで攻撃を仕掛ける。

 

「なかなかやるじゃねぇか……だが俺には勝てない!」

 

「うるさい……この力でお前を倒す!」

 

 風をまとった腕でウルフを切り裂く。切れ味の良い刃となった腕で斬られたウルフの体毛がごっそり落ちる。

 

「やべぇ!」

 

 続いて喰らったキックで後方に吹き飛んだウルフはメモリが弾け飛び人間のすがたへ戻った。

 

「くそっ!こんなガキに!」

 

 メモリに手を伸ばす髪矢だったが、その手をトルネードが掴んだ。そして手刀を首に近づける。

 

「復讐してやる……その首をふっとばす」

 

「やめろ涙子ちゃん!」

 

 翔太郎が走る。だが間に合わない。

 

『エンジン!マキシマムドライブ!』

 

 謎のエネルギー波がトルネードドーパントから髪矢を逃した。

 

「誰……?なんのつもり?邪魔しないで!コイツを初春たちと同じ目に……それ以上にしてやるんだから!」

 

 邪魔をした赤い戦士は一言だけ呟いた。

 

「俺に質問するな……!」

 



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復讐のT/照らし出す希望

「誰……?どいうつもり?邪魔しないで!コイツを初春たちと同じ目に……いや、もっとひどい目に遭わせてやるんだから!」

 

「俺に質問するな……!」

 

 トルネードドーパントとなった佐天は生身の髪矢を攻撃しようとしたが謎の赤い戦士に妨害された。髪矢は泣きそうになりながらもメモリを掴んだまま逃げる。

 

「照井竜……!」

 

「待たせたな、フィリップ」

 

 照井と呼ばれた赤い戦士はフィリップに肩を貸した。翔太郎も反対側を支える。

 

「なんでお前がここに?風都はどうすんだよ?まだ裏の住人たちだっているってのに!」

 

「左!少し黙っていろ」

 

 フィリップを翔太郎に任せると、トルネードドーパントと戦闘態勢に入る。

 

「お前が復讐に呑まれた子か。今助け出してやる」

 

「うるさい!私は初春たちを救いたいだけ……そのためなら悪魔にでもなってやる!だから邪魔しないで!」

 

「無理だな。俺は左やフィリップと同じこの街を救う仮面ライダー、アクセルだ。君の心も救ってみせる」

 

アクセルはベルトにあるバイクのハンドルのレバーのようなものを握るとグリップを何度もひねった。

 

『アクセル!マキシマムドライブ!』

 

 トルネードドーパントの作った嵐を走り抜け大きくジャンプした。そしてそのまま回転し回し蹴りを喰らわせる。トルネードメモリは砕け呪縛から開放された佐天は座り込んだ。

 

「私……誰も救えなかった……」

 

 アクセルは変身を解除し彼女に近づく。てっきり殴られると思った佐天は目をつむるが肩にポンと手が置かれただけだった。

 

「確かに君は復讐にこだわりすぎて正義を履き違えていた。だが、人は変われる。約束してくれ。もう復讐という言葉を使うな」

 

「……」

 

 照井と目が合い赤くなった顔がメモリの毒素のせいで徐々に青ざめていく。照井は佐天を抱きかかえると自分のバイクの後部シートに乗せた。

 

「近くの病院まで行く。俺に掴まれ。安心しろ。他の友だちもじきに来るアンチスキルが病院まで運ぶ」

 

 佐天はなんとか照井の腰に手を回し赤いバイクは走り出した。

 

「ってか何でハードボイルダーがダメであれは持ち込みOKなんだよ!」

 

「とにかく今は照井竜に任せて僕らは髪矢の後を追おう……ッ!」

 

「フィリップ!?……まずはゆっくり休め。俺がヤツの足取りを掴む。白井は任せた」

 

 まだウルフドーパントのダメージが残るフィリップに黒子を任せ翔太郎は走り出した。

 


 

「はぁ……はぁ……」

 

 トルネードドーパントに大ダメージを負わされた髪矢。なんとか走り廃墟ビルに逃げ込んだ。

 

「なんなんだよアイツ……しかもあれはシルバーメモリ……俺と同じじゃねぇか」

 

「そのとおり。だから言ったでしょ。やばいって」

 

 どこからともなく歯牙が現れた。入り口とは逆方向から歩いてきたようだ。どうやってこのビルに来たかは謎である。

 

「おい、頼む!このメモリより強いやつをよこしてくれ!」

 

「無理」

 

「なんでだよ!レールガンの能力だって奪ったし、お前らの言うとおりにしてきたじゃねぇかよ!」

 

 髪矢は歯牙の肩を掴むが、歯牙の嫌そうな顔を見て一歩下がった。

 

「そのメモリだってなかなか強いはずよ。足りないのはあなたの実力。ね?イアン」

 

 歯牙と同じく突然柱の陰からイアンが顔を出した。イアンは中学生くらいの女の子を連れている。

 

「そうだね。実力は後々身につけていくと良い。でも、彼女たちの始末はこの子に任せてくれないかい?」

 

「誰だよソイツ。……ってレールガン!?」

 

 その少女の見た目は御坂にそっくりだった。ただ、髪は縛ってあり透き通った青い目をしている。子供っぽい御坂と対称的で麗しく上品な雰囲気である。

 

「この子は御坂美琴のDNAマップを元に作ったクローン、変異個体(ワールドキー)だ」

 

「く、クローン?」

 

「この子はまだ目覚めたばかりでね。調整をしたいんだ」

 

 ワールドキーは会話の最中も全く動かない。瞬きもせずただ正面を見ている。

 

「君には新しいミッションを与えよう。歯牙くん、アレを」

 

 髪矢に渡されたのはレールガンのアビリティメモリだった。

 

「ほら。これを持ってて」

 

「は?せっかく手に入れたのにもう用済みかよ」

 

「まぁまぁそう怒らないで髪矢くん。アビリティメモリは本来人工的に作ることは困難。能力者から能力を奪うしかない、ということは知ってるね?しかし、歯牙くんの研究によって一つメモリを作れば後は量産できるようになったんだよ。だからそれは君に返すさ」

 

「お、おう。でもそんな研究してんなら俺にも教えろよ。俺だって一応研究者だった身だからな」

 

「歯牙くんは研究に没頭すると暴走するからね。研究中は人に会わないようにしてるのさ」

 

 髪矢はウルフドーパントとなりアビリティメモリを自らの身体に挿した。全身の体毛が電気を帯びて左腕にレールガンを模した武器が生成された。

 

「こりゃ良いね!流石レベル5のメモリだ」

 

「どうせ試すならちょっと手を貸してよ。イアンはワールドキーの調整で忙しいし。人捜しをしてもらいたいの」

 

「は?どんなやつだ?」

 

 歯牙の手にはドーパントメモリがある。青色の『O』イニシャルだ。

 

「これと同じ力を持つ能力者よ」

 

 歯牙と髪矢が出ていったことを確認すると、イアンはワールドキーにメモリを渡す。そのメモリは今までのどのメモリとも見た目が異なっていて、イニシャルがない。透明で基盤が丸見えのメモリはまるで試作品のようだ。

 

「これは君のメモリだ。まだ未完成だが」

 

「……私にご命令を」

 

「仮面ライダーの抹殺だ」

 

「了解しました。探知モードに切り替えます」

 

 ワールドキーの目が青から黄に変わりビルを出ていった。

 

「御坂美琴たちは殺すのには惜しい……髪矢くんには悪いが彼女らはまだ殺さないよ。それよりも仮面ライダーのほうだ。エクストリームを使われる前に倒さなくては」

 


 

黒子が搬送された、初春や固法も入院している病院では佐天の検査が行われていた。その結果を聞くために照井は待合室で腕組をして待っていた。しばらくしてカエルと間違えそうな顔つきの医者が診察室から顔を出した。

 

「君、ちょっといいかな?」

 

 手招きされた照井は立ち上がり部屋に入る。

 

「検査結果だけど、特に異常はなかったよ。君が言っていたガイアメモリとやらの毒素は彼女自身の抗体でほぼ消滅したようだね」

 

「まだ彼女は毒素に飲まれていないということか」

 

「うん。君から聞いた話じゃ次に使えば体に影響が出るだろう。他の患者同様に意識不明になる可能性がある」

 

「毒素に侵された人間はメモリブレイクするしかない。なんとしても阻止しなければ……」

 

「まぁ、難しいだろうね……僕が思うにガイアメモリは薬物と同じようなものだ。一度でも使えば手放すのは困難だろう」

 

 確かに言うとおりだ、と照井は頷く。

 

「この街にはガイアメモリ使用で逮捕できる法がない。上層部が動かなければ無法地帯だ」

 

「まぁ上は動かないだろう。色々複雑な事情があるからね。アンチスキルどころか統括理事会すらも闇を抱えている」

 

「あぁ。とにかく助かった。また世話になるかもしれんがその時は頼む」

 

「なるべく怪我はしてほしくないが、街を守る仮面ライダーなら仕方ないね」

 

 照井がフッと笑い部屋を出るとカエル医者はため息をついた。

 

「やれやれ……また患者が増えそうだ」

 

 

 照井が病院のホールに出ると椅子に座っていた佐天が近づいてきた。気まずそうにしているが照井は気にせずついてこいと目で合図する。

 

「あ、あの」

 

「何だ」

 

「翔太郎さんから聞いてます。照井さん……でしたよね?ご家族がドーパントに……」

 

「何が言いたい?」

 

「その……すみませんでした!復讐に夢中になって」

 

 謝罪とともに頭を深く下げた佐天。照井のため息が聞こえる。きっと逮捕されちゃうんだとネガティブな感情が心を覆い尽くすが、照井は優しく佐天の上半身を起こした。

 

「物分かりの良い子で良かった。 前にも君と同じように親友を救って欲しいという子がいてな。その子はその『悪魔の言葉』を軽々しく口にしていた。自覚するまでにかなり時間がかかったが……」

 

「私……自分の心に負けたんです。ガイアメモリを渡されたときに、一度は断りました。でも……これがあれば友だちを助けられるって思ったんです。私も翔太郎さんやフィリップさんのように誰かを守るヒーローでありたくて……変身したんです」

 

「君は十分ヒーローさ。友達のために命をかけて戦った。だがもうそんな無茶はするな。君は守るだけじゃない、守られることも必要なんだ」

 

「守られること?」

 

「君は友達を救った。だが君を救うのは誰だ?今君の友達は動ける状態じゃない。君は孤独だ。俺達仮面ライダーが君を守る。だからこそ君は守られてくれ」

 

 照井の熱くまっすぐな目は佐天の心の雲を晴らしていく。そして雲は消え心の中は青空で満たされていった。

 

「わかりました。迷惑かけちゃうこともあるでしょうけど……それでもいいですか?」

 

「もちろんだ。俺は君をドーパントにはさせない」

 

 二人はヘルメットを被るとバイクに跨り走り出した。

 


 

「にしてもこの街での人捜しは大変だな……」

 

 髪矢を追う翔太郎の追跡は完全に止まってしまっていた。やはり顔なじみの人間が少なくお得意の情報集めができないのが原因だろう。

 

「あの……もしかして左翔太郎さんでしょうか?」

 

 声を掛けてきたのは茶色のウェーブ髪と黒髪ロングの常盤台生だった。

 

「あぁそうだけど……君たちは?」

 

「私は湾内絹保と申します」

 

「泡浮万彩ですわ。実は御坂様の件で力を貸してほしいと白井さんから頼まれていて……ずっと探していたんです」

 

「左翔太郎さんという方が御坂様の能力を奪った犯人を追っているとお聞きしたものですから探していたんですわ」

 

 湾内は白井から送られてきた髪矢の顔写真を見せた。

 

「この方が犯人でしょうか?クラスメイトや先輩方に協力していただいて目撃情報を集めたのですが……」

 

 さながら探偵のような湾内と泡浮に悔しさを覚えつつも二人が集めた情報に目を通した。

 

「すげぇ……行きつけの店もプレデターズのアジトも把握してるのか」

 

「テレパスや記憶系の能力を持つ先輩方のおかげなんです。これで御坂様の能力を取り戻せるでしょうか?」

 

「あぁバッチリだ!と言いたいところだが……ヤツのメモリは強力だ。早いとこ相棒が回復してくれないとな…ロストドライバーも修理中だし」

 

「そいつは好都合だな!」

 

 裏路地から髪矢と歯牙、そして御坂に似たクローンのワールドキーが現れた。

 

「そっちから来てくれるとはな」

 

「対象を発見。戦闘モードに切り替えます」

 

「お前は……誰だ?」

 

「この子は御坂美琴のクローン、シスターズの特殊個体。ワールドキーよ。アンタには調整に付き合ってもらいたかったけど、変身できないなら死んでもらうしかないわ」

 

 ワールドキーは御坂と同じ電撃で翔太郎を襲う。なんとか回避したが次々と攻撃してくる彼女に近づくのは困難だ。懐からスタッグフォン、バットショット、スパイダーショックを取り出し自分の身を守らせる。機械といえそれなりに電気に耐え、翔太郎の体に直撃しないよう必死で攻撃を受けている。

 

「やっぱコイツじゃダメじゃんかよ歯牙。俺の出番だな」

 

「気安く呼ばないで。ま、勝手にすれば?ただ……さっきのセリフは完全に死亡フラグだったけど」

 

「うっせぇ。じゃ、狩り開始だ!」

 

『ウルフ!レールガン!』

 

 ウルフドーパントの鋭い爪が翔太郎の背中に突き刺さった。

 

「ッ……!湾内ちゃん、泡浮ちゃん!早く逃げろ!」

 

「左さん……!」

 

「サヨナラだ。仮面ライダー!」

 

 ウルフの爪が背中をえぐり大量の血が噴き出す。翔太郎の悲鳴を聞き湾内と泡浮は腰を抜かしてしまった。

 もはや絶対絶命。そんなとき、男女二人が乗っている赤いバイクがウルフを跳ね飛ばした。

 

「くっ!誰だ!」

 

「俺に質問をするな!……佐天。君は左と女の子達を頼む」

 

「はい!」

 

 ヘルメットをとり照井と佐天がバイクを降りた。佐天はすぐさま翔太郎に駆け寄る。傷口が酷く開いていて今すぐ応急処置が必要だ。

 

「湾内さん、泡浮さん!近くにジャッジメントの支部があるので応援要請と救急箱を持ってきてもらえますか?」

 

「ええ、わかりました!」

 

「湾内さん、立てますか?」

 

「はい……いきましょう」

 

 憎き相手が倒れる姿を見ておどけていたウルフに対し照井は武器のエンジンブレードを振り下ろした。二十キロの重量を誇るこの大剣の斬撃はドーパント化した怪物でさえも怯むほどのダメージだ。

 

「いってぇな!ホントになんなんだよテメェは!」

 

「俺はこの街を守るもうひとりの仮面ライダー、アクセルだ」

 

「ナニィ!?」

 

 バイクのハンドルを模したバックル、アクセルドライバーを腰に装着すると、『A』アクセルのガイアメモリをスロットに装填した。

 

「変……身!」

 

 右のグリップを握り思いっきり回した。一回だけでなく、まるでバイクを吹かすように何度も何度も。

 

『アクセル!』

 

 照井の身体は赤い装甲に包まれ、顔の青いシールドにあるフェイスフラッシャーが輝く。

 

「さぁ……振り切るぜ!」



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復讐のT/守ること、守られること

「さぁ……振り切るぜ!」

 

 新たな戦士、仮面ライダーアクセルはエンジンブレードを掲げウルフに近づく。ウルフはクナイをテレキネシスに似た力でアクセルめがけ飛ばすが簡単に弾かれてしまう。

 

「くそっ!ハイドープの力が効かねぇ!?おいワールドキー!歯牙!手を貸せ!」

 

「了解しました。援護モードに切り替えます」

 

「断る。お前なんかに力を貸したくはない」

 

後ろで腕組をして待つ歯牙に苛つくウルフはがむしゃらに突っ込むが全て防がれてしまう。

 

「コイツ!?強すぎだろ!?」

 

「俺はお前みたいな奴らを幾度となく捕まえてきた。何をしても無駄だ」 

 

 ワールドキーが放ったライフルの弾丸もエンジンブレードで真っ二つに斬る。アクセルから漂う殺気にその場にいる全員がぞっとする。

 

「すごい……メモリを使ってた私を止めたときもあんな感じだったな……」

 

「どうした?もう終わりか?ならこっちの番だ」

 

「やはりウルフに見込みはないか。撤退よ、ワールドキー」

 

「おい!待ってくれ!置いていくな!」

 

エンジンブレードにエンジンメモリを挿し電気を纏った刃でウルフを攻撃する。

 

『エンジン!エレクトリック!』

 

「ぐっ!まだまだ!」

 

 必死で立ち上がるウルフだが繰り返される斬撃で体がボロボロになっていく。

 

「何でだよ!手も足も出ないじゃねぇか!」

 

 アクセルはベルトの左側にあるマキシマムクラッチレバーを引いて反対側のスロットルをひねる。

 

『アクセル!マキシマムドライブ!』

 

 炎に包まれたアクセルのキックがウルフの胴体に炸裂し、メモリが砕けた。レールガンのアビリティメモリは遠くへ投げ出されてしまった。

 

「絶望がお前のゴールだ」

 

 地面に這いつくばった髪矢の手を掴んで手錠をかけた。

 

「ガイアメモリ使用の罪で貴様を逮捕する」

 

「はぁ?そんな罪状この学園都市には存在しねぇよ……ハハハ!残念だったな!」

 

「苦しい言い訳だな」

 

 湾内や泡浮の通報により駆けつけたアンチスキルが照井と髪矢を囲う。他の隊員は重症の翔太郎を救急車に運んでいる。照井を囲むその中の一人に佐天の知り合いがいた。

 

「黄泉川先生……?」

 

「お前は……!また事件に巻き込まれたのか?」

 

「え〜っと……まぁそんなところです」

 

 戦闘服姿の女性、黄泉川愛穂は教師でアンチスキルだ。過去に佐天にとある理由で補修授業を行って以来、何かと事件の度に遭遇する。

 

「まぁ見る限り事件はあらかた片付いたみたいじゃん。照井くんのおかげで」

 

「あぁ。後はお前たちアンチスキルの仕事だ。こいつを頼む」

 

 どうやら照井も黄泉川を知っているようだ。照井は手錠で両手を縛られている髪矢を黄泉川のもとまで連れていき引き渡した。

 

「お、おい。アンチスキルはわかってんだろ!ガイアメモリの使用は罪に問われない!そうだろうが!」

 

「確かに罪に問われないじゃん。今までだったらな」

 

「は?」

 

 照井が見せつけたのはある文字が書かれた文書。

 

「『学園都市におけるガイアメモリ犯罪の改正』だぁ……?」

 

「本日よりこの学園都市にてガイアメモリを使用し犯罪行為を行った場合はアンチスキルが取り仕切る更生施設に送られる。貴様がその第一号だ」

 

「さ、大人しく従ってもらおうじゃん」

 

「くそっ!ふざけやがって……仮面ライダーアクセル、照井竜!いつかぜってぇお前を叩き潰す!」

 

 護送車に乗せられた髪矢はいつまでも照井を睨んだままだ。だがそんなことを気にしない照井はバイクに跨りヘルメットを被った。

 

「佐天。左のところへ行くぞ」

 


 

 翔太郎は意識が戻らないままの危ない状態が続いていた。ウルフの身体を貫けるほどに長い鉤爪は幸いにも心臓よりも少し離れた場所に刺さったがこのままでは時間の問題である。カエル医者の賢明な措置でなんとか延命されているという状況だ。

 手術が終わり病室のベッドに寝かされた翔太郎にある尋ね人がやって来た。その人物は全身に包帯を巻き付け、帽子やサングラスに身を包んだ女性だった。そう、佐天にメモリを渡した女である。

 

「ここで死なれては困るわ。彼に復讐するまでは……貴方達の力が必要なのよ」

 

 女はコートのポケットからドーパントメモリを取り出し、怪人へと姿を変えた。

 

『メディカル!』

 

 全身が雪のように白いドーパント、メディカルは背中に生えた翼で翔太郎を包み込んだ。

 

「さぁ目覚めなさい……そしてなりなさい。究極を超えた存在に」

 

 メディカルの能力だろうか。翔太郎の体の傷は消え、ゆっくりと目を開けた。メディカルは自分の姿を見られまいと光を放ち消えていった。それと同時に病室の扉が開きフィリップ、照井、佐天が慌てて飛び出してきた。

 

「翔太郎!身体は大丈夫かい!?」

 

「ん?……あぁ。むしろなんだか今までの疲れとかが取れたような感じだ」

 

 翔太郎は自分の違和感に気づき胸辺りに巻かれていた包帯を取った。刺されていたはずの箇所は何事もなかったかのように元通りになっていた。

 

「流石はあの医者だ。もぎ取られた腕すら治すと言われているほどのことはあるな」

 

「良かったです!翔太郎さんが無事で!」

 

 安堵する三人。と、カエル医者が入ってきた。完全回復の翔太郎を見て驚いたのか目を見開いた。

 

「驚異的な回復力だね。ビックリしたよ」

 

「これもアンタのおかげだ。礼を言うぜ」

 

「いや……僕はほとんど何もしていないよ」

 

「何だって!?」

 

 カエル医者の言葉に思わず聞き返す翔太郎。フィリップは納得したような顔だ。

 

「やはり……いくら凄腕の医者とはいえここまでの完治は難しい。かと言って翔太郎の自然回復にしては早すぎる」

 

「え?じゃあどうして翔太郎さんは……?」

 

「あくまで俺の推測だが、能力者の仕業だろう。何者かが左の様子を見て能力を使ったと考えられる」

 

「いや、いくら回復系の能力者でもあの傷はレベル5クラスでないと治せないだろう」

 

「ま、まぁいいじゃないですか!翔太郎さんも元気になったことですし!」

 

 しかしまだ事件は解決していない。フィリップが切り出した。

 

「問題は美琴ちゃんの能力だ。髪矢が変身時に使っていたが、メモリブレイクと同時に何処かへ行ってしまった。早く探さなければ……」

 

「それなら心配いらないですわ」

 

 カエル医者と入れ替わりで入ってきたのは黒子と初春だった。二人とも顔には絆創膏、腕や足に包帯を巻いている。

 

「白井さん!初春!怪我は大丈夫なの!?」

 

「まぁちょっと痛みますけどね……御坂さんをあんなふうにしてしまったのは私ですから。だからなんとしても御坂さんの能力を取り戻したいんです」

 

「実は湾内さんや泡浮さんにアビリティメモリの捜索をお願いしていたのですが、見つかったみたいですの。今から合流してお姉さまのところへ向かおうとしていたところですわ」

 

「あ、私も行きます!」

 

 黒子は初春と佐天を連れ御坂がいる寮へと向かった。事件解決も目前、翔太郎たちも安堵の表情だった。

 

「これで一件落着だな。ところで照井。この間も聞いたが風都は大丈夫なのか?」

 

「あぁ。実は『裏の住人』はしばらく姿を現していない。それにドーパント絡みの事件に関しては刃野刑事や真倉刑事が主体となって動いている。ドーパントを倒すのには知り合いに任せた。彼は日本一のお節介らしくてな。快く引き受けてくれた」

 

「実は照井竜を呼んだのは僕なんだ。リベンジのメンバーに関する情報を検索していたときに歯牙木場乃、ファングドーパントのある情報を見てね。僕らだけでは厳しいから照井竜にも来てもらった」

 

「その情報ってのは?」

 

「歯牙木場乃は……NEVERだ」

 

「NEVERだって……!?」

 

 NEVERとはNECRO OVER、死者蘇生兵士である。かつて戦った最強最悪のテロリスト、大道克己もその一人だ。ゾンビのように死なない身体、圧倒的な身体能力。それが特徴だ。彼を含む五人と財団Xの加頭順という男がNEVERとなったが、財団Xの事実上の壊滅により新たなNEVERが生まれることはなかった。

 

「彼女は数年前、風都に住んでいた。だが大道克己たちが起こした事件に巻き込まれ死亡した。そして財団Xの研究者は歯牙をNEVERとして蘇らせた。彼女は幼いながら優秀な研究者となり、やがて自らの身体を実験台にした。NEVERの弱点を完全に消すことに成功したんだ」

 

「確か酵素を定期的に注入しないと体が崩壊するんだっけか」

 

「そう。だが彼女は生命維持装置を埋め込み酵素を必要とせずに生きていられるようになった。やがてガイアメモリの存在を知りその研究に没頭し、イアン・ウルスランドと出会った」

 

「不死身の体に強力なファングメモリか。メモリブレイクするのは極めて難しい。だから俺の力が必要になったわけだ」

 

「リベンジ……財団Xの残党かと思ってたがもっと巨大な組織かもしれないな。こりゃ風都に帰るのはしばらくお預けだな」

 


 

「お待たせしました。これが白井さんの言っていたものです」

 

 黒子たちは湾内、泡浮と合流し御坂のアビリティメモリを受け取った。

 

「ではお姉さまのところへ行きましょうか。お二人とも、感謝しますわ」

 

「いえ、これで御坂様が元気になられるといいのですが……」

 

「湾内さんも泡浮さんも気をつけてくださいね。ドーパントに襲われるかもしれないので」

 

 

 二人と別れた後、常盤台の寮に入り二〇八号室へ向かう。

 

「ただいま戻りましたわ」

 

「「お邪魔します……」」

 

 既に日が落ちて薄暗くなった部屋に廊下からの光が差す。黒子が電気をつけるが御坂の姿は見えない。ベッドの布団に潜ったままのようだ。

 

「お姉さま……奪われた能力を取り戻しましたの。受け取ってくださいな」

 

 布団の膨らみは一切動かない。ただ弱々しい声だけが聞こえた。

 

「ごめん……私にはそれを受け取れない」

 

「御坂さん……ごめんなさい!私がしっかりしてないせいでこんなことになってしまって……」

 

「いいのよ。初春さんは悪くない。悪いのはこんな能力が無いと何もできない私なの……」

 

 そんなことないと否定する黒子と初春だったが、佐天は黙ってうつむいている。

 

「私は……能力が無いからみんなを守れない。無能力者になった私を狙ってあらゆる奴らが襲いかかってくる。そんな危険に黒子や、初春さんや佐天さんを巻き込むわけにはいかないから……」

 

 黙っていた佐天の拳が震える。そして今まで溜め込んでいたものを全て吐き出すように、大声で叫んだ。

 

「そんなことない!!私は巻き込まれられたって迷惑じゃないです!御坂さん。御坂さんはいつも私たちを守ってくれます。だからたまには私たちに守られてください」

 

「佐天さん……」

 

「白井さんはともかく、私や初春じゃ頼りないかもですけど……湾内さんや泡浮さん、婚后さんに固法先輩もいます。みんな御坂さんが助けてって言えば全力で守ります!だから……一人で全部抱え込まないでください!私たちがいますから!」

 

「佐天さん、私そんなに頼りないですか?」

 

「初春はいつでも危なっかしいですの」

 

「白井さんまで……」

 

 三人は目を合わせる。一瞬沈黙したが、すぐに笑みがこぼれた。そうして笑い合っているうちに、いつの間にか御坂が布団から這い出てきて恥ずかしそうに顔を赤らめていた。

 

「みんな……ありがと。私、みんなを守れるように頑張るから。だからみんなも私を守って欲しいの……ダメかな?」

 

「もちろん!だって私たち、友達じゃないですか!」

 

「お姉さまの体はこの黒子が守り抜いてみせますの!そしてそのままワタクシにその身を捧げてくださいな!」

 

「ちょっ!抱きつくな!この変態!」

 

「白井さんが言うと意味合いが変わりますね……」

 

「うん……」

 

 こうして御坂は佐天の言葉に救われたのだった。復讐に呪われた少女が今度は誰かを助ける希望となる。これであの二人も大きく成長し、絆も深まっただろう。人は変われるのだ。

 


 

「やっと見つけた。O(オーシャン)の適合者」

 

 歯牙の視線は、泡浮と共に歩いていた湾内に向けられていた。

 

「本当に助かるわ、そのメモリの適合者を見つけられる能力」

 

 歯牙の背後には翔太郎を救ったメディカルドーパントが立っていた。

 

「私は驚いているわ。まさか新しいメモリを持ってあの世から帰ってくるとはね。シュラウド、いや……園咲文音さん」

 




遅くなりました。すみません。次の投稿はかなり先になると思います。


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Iは何処に/それはすぐそこにいる

 俺、左翔太郎と相棒のフィリップが学園都市に来て数日。もともとは財団Xの残党狩りとしてやって来たが、事態は思った以上に深刻だった。残党は新たな組織『リベンジ』を創設。財団X幹部のイアン・ウルスランドを始めとするメモリに関連した人物が集うその組織は学園都市でメモリを流通させ、何かを起こすつもりなんだ。レベル5、第三位の御坂美琴に似たクローン『変異個体(ワールドキー)』が大きな鍵になるとイアンは言っていたが……

 メモリ流通の影響はもちろん学生たちにも及ぶ。未成年がメモリを使えば人体への影響も大きいし、何より超能力が当たり前に使える学生たちがドーパントになれば倒すのも一苦労だ。フィリップはもう一人の仮面ライダーである照井を呼び俺たちは新たな体制でこの学園都市を守る決意をした。

 そして……今回の依頼はある一人の女の子とその幼なじみの男の恋物語だ。

 

 鳴海探偵事務所の代わりにと俺はジャッジメント一七七支部に来ていた。ここには悩みの種を咲かせた人々がやって来る。それをジャッジメントの固法美偉ちゃん、初春ちゃん、白井と共に解決へ導くのだ。許可は取ってあるのかって?それなら大丈夫だ。照井が手回ししてくれたおかげでガイアメモリ犯罪特別委員として一時的にジャッジメントの仲間入りをしたからさ。メモリ絡みの事件には足を運びドーパントを倒す、それが俺たちの仕事だ。

 

「すみません……」

 

 依頼人がドアを叩く。その瞬間、俺の気が引き締まる。ネクタイを締め直して椅子から立ち上がった。入ってきたのは制服を着た女の子、高校生くらいだろうか。

 

「ご依頼ですか。それならこの探偵、左翔太郎にお任せを」

 

「あ、いえ。ジャッジメントの固法はいらっしゃいますか?」

 

 俺は軽くあしらわれ心に傷を負った。奥から固法ちゃんが顔を出した。

 

「私のこと呼んだ?……って華蓮じゃない!どうしてここに?」

 

 よく見ると少女は美偉ちゃんと同じ制服だ。美偉ちゃんの反応を見るに知り合いのようだ。

 

「実は……人を捜してほしいの」

 

 その瞬間、再び俺の気が引き締まった。それは嫌な予感がしたからだ。ただの人捜しではない、そんなふうに思えるんだ。そしてその予感は大体的中する。そう……今回もだ。

 

「その依頼、引き受けるぜ」

 

「まずは事情を聞かせて?華蓮」

 

そして彼女は語り始める。

 まず彼女の名は本田華蓮。美偉ちゃんと同じ学校の友人であり中学からの仲らしい。捜してほしいのは幼馴染の鈴木隼。隼くんだけ別の高校だが三人は中学時代に仲良くしていたらしい

 隼くんは三日も行方をくらませているそうだ。不審に思った華蓮ちゃんは寮を訪ねたが、寮でも行方不明の騒ぎになっていたらしい。そしてアンチスキルに捜索願を出したが美偉ちゃんがいるジャッジメントにも知らせようと来たのだ。

 

「まさか隼がね……何か事件に巻き込まれていないといいけど」

 

「隼のバイクも無いみたいなの。もしかしたらバイク絡みで何かあったのかも……」

 

「その言い方だと前にも何かあったみたいだな」

 

 俺の予想は当たった。華蓮ちゃんは大きなため息をつく。

 

「実は昔、私達三人が不良グループに絡まれたことがあったんです。その原因がバイクでした。不良は私達のバイクが欲しくて奪おうとしたんです」

 

 なるほど。今回の失踪でバイクも無いとなるとその線が怪しいのは確かだ。

 

「華蓮ちゃん。最後に会った日、何か変わったことはなかったかい?」

 

 うーん…と頭を悩ませる華蓮ちゃん。数秒経ったあと、何かひらめいたような顔を見せた。

 

「あ!そういえば!最後に会ったときに『面白いものを見せてやる』って」

 

「面白いものか……それが原因なのは間違いないな」

 

 ひとまず俺は隼くんの住む寮に足を運んだ。寮は基本二人一部屋。ルームメイトである川崎くんを訪ねた。

 

「もう三日も帰ってきていないんですよ、アイツは。アンチスキルだってまともに動かないですし……頼りになるのはジャッジメントくらいですよ」

 

「なぁ、アンチスキルってのはそんなに動かないもんなのか?」

 

 俺は今回のアンチスキルの動向に違和感を感じた。アンチスキルはいわば警察。行方不明事件ならすぐにでも動くはず。だが今回、アンチスキルは全く相手にしてくれないらしい。

 

「いえ、普通なら捜索とかしてくれるんですが……」

 

 この事件、ドーパント絡みの線が浮上してきた。照井が来たことによってガイアメモリ使用が立派な犯罪になったが、まだまだアンチスキル内部ではその状況を受け入れられていないという。俺はとりあえず照井にこのことを連絡し、アンチスキルにも動いてもらうよう要請した。

 

「隼くんは必ず見つけるさ。ところで何か変わったことはなかったか?」

 

 川崎くんはしばらく悩んだ後、何かを思い出した。

 

「そういえばアイツ、ヤバいのに手を出したんですよ!確か……ガイアメモリ?ってヤツに」

 

「何だって!?」

 

 ビンゴだ。これで隼くんはメモリ関連の事件に巻き込まれたと確信した。

 とりあえず一度一七七支部に戻ろうと聞き込みを終えたその時だった。突然轟音が響く。化け物の叫び声ともとれるその甲高い音は徐々に近づいてくる。そして川崎くんの腕が何者かに引っ掻かれ赤い液体が辺りに飛び散った。

 

「ハァ……ハァ……何なんだよッ!」

 

「大丈夫か!?」

 

 俺は川崎くんを守るように手を伸ばした。声の主はどこかへ消えたらしく、気配も感じなかった。

 この事件にガイアメモリが関係している可能性が出てきた。俺は川崎くんを病院まで送った後に一七七支部へ戻った。

 

「翔太郎さん、何か手がかりはあった?」

 

 美偉ちゃんと華蓮ちゃんがお出迎えをしてくれた。二人はパソコンを使って情報を探していたようだ。

 

「あぁばっちりだ。隼くんはガイアメモリ犯罪に巻き込まれた可能性が高い。それに、隼くんのルームメイトがドーパントに襲われた。そのドーパントが隼くんなのかはわからねぇが……」

 

「ガイアメモリ……!隼が怪物に……」

 

 どうやら華蓮ちゃんもガイアメモリのことは知っていたようだ。この街におけるメモリの知名度もなかなか上がってきたみたいだな。

 

「とにかくだ。一刻も早く見つけないと隼くんが危ない」

 

 美偉ちゃんは再びパソコン画面に向き直った。そしてすぐに何かを見つけたみたいだ。

 

「見つけたわ。最後に監視カメラに映ったのは第六学区のバイクショップね」

 

 ジャッジメントってのはやっぱりすげぇな。街中の監視カメラを全て調べてたらしい。

 

映像ではバイク屋の店内で並んだバイクを見つめている。その後、謎の男と会話し店を出ていった。男は明らかに店員じゃない。スーツ姿でアタッシュケースを持っている。見た目からするに奴はメモリの売人か?

 

「よし。俺は現場に行く」

 

「私たちも行かせて」

 

 俺はドーパントと戦闘になる可能性を考慮しフィリップに事情を説明した。いつでも戦闘態勢をとれるようにな。

 バイク屋は人通りの少ない薄暗い路地にポツンと建っている。中に入るといかにもヤンキーが乗っていそうなバイクが並んでいた。俺たちの気配を感じたのか店主が奥の部屋から出てきた。

 

「おぉいらっしゃい。嬢ちゃんたちか。ゆっくりしていきな」

 

 どうやら美偉ちゃんも華蓮ちゃんも顔なじみらしい。固法ちゃん曰くボケボケな老人だが良い人だとのこと。俺はおっさんに隼くんの写真を見せた。

 

「実はこの子を捜しているんだが何か心当たりはないか?」

 

「ん〜?あぁ〜最後に来たのは三日前だったかなぁ。他の客と会話していて……ガイドメアリー?って」

 

まさか……!美偉ちゃん、華蓮ちゃんと目を合わせた。おっさんは聞き間違えているが間違いない。

 

「ガイアメモリ……」

 

 隼くんはガイアメモリの取引をしていたのか。だが爺さんに聞いてもそれ以上の情報は出てこなかった。肝心の隼くん本人が今どこにいるかわからない。

 

「結局振り出しに戻るわけね」

 

 華蓮ちゃんの顔に疲れが見える。きっと心配でまともに寝られていないんだろう。俺は一刻も早く依頼人の笑顔を見たい。依頼人の悲しむ顔、今も苦しい思いをしているであろう被害者を思うと俺は自然と拳を握りしめていた。

 

「……くそっ!」

 

 俺が叫んだ瞬間、辺りに強風が吹いた。風でめくれそうになるスカートを抑える二人。俺も帽子を抑えるが何かの存在に気づき慌てて回避行動をとった。この気配は……さっきのと同じだ!見えない何かは公園の噴水にぶつかり噴水のオブジェが崩れてしまった。

 

「何なの!?」

 

「下がってろ!二人とも!」

 

 俺はすかさずダブルドライバーを取り出した。腰に装着するなりすぐさまサイクロンメモリが転送されてきた。

 

『やはりドーパントかい?』

 

「まだわからねぇ。ただの能力者かもしれねぇしな。変身!」

 

 ジョーカーメモリを装填して変身。仮面ライダーダブルとなった。

 

「え……?仮面……ライダー?」

 

 華蓮ちゃんが驚くのも無理はない。能力者でもない大人が変身したからな。

 

『翔太郎。見えない相手にはこれが有効だ。トリガーに変えてくれ』

 

「あぁ!」

 

相棒はルナメモリを使いルナトリガーに変化した。そしてメモリをマキシマムスロットに装填した。

 

『ルナ!マキシマムドライブ!』

 

 右手に出現した光の球を握り潰し粒子を空気中に漂わせる、トリガーシャインフィールドが炸裂。これで見えない敵もセンサーで感じ取れる。捉えたのは正面。全身が赤く機械のようなものに覆われた怪人が姿を現した。装甲が高温なのか蒸気を発している。

 

「何だあのドーパント?まるで車みたいだな」

 

『美偉ちゃん。隼くんの能力は?』

 

「レベル3の認識阻害よ」

 

『なるほど。つまりあの透明化は能力ではない。認識阻害を働かせたところでダブルのシステムカメラに映るはずだからね』

 

 認識阻害はあくまで人間の目に作用するもので、監視カメラやダブルの機能には効かない。

 

「つまりは変身者が隼くんとも限らないわけだ」

 

『リリィ白銀と同じインビジブルのメモリだ。あれは改造で怪人にはならなかったがこれが本来の姿なのだろうね』

 

 リリィ白銀。俺たちの協力者である風都イレギュラーズの一人で、かつてインビジブルメモリを使ったことのある女性だ。だがメモリに細工され透明人間になってしまい命の危機に陥った。それを照井は救ったわけだ。

 

「んじゃあとっとと片付けるか」

 

 トリガーマグナムの弾がドーパントを追うがすぐに見失ってしまった。

 

「トリガーシャインフィールドを無効化したのか!?」

 

『いや、そんなはずはない。僕達には見えているだろう?』

 

 だがそれは一瞬の出来事だった。ドーパントが消えたのだ。

 

「おいおい……俺たちには見えるんじゃなかったのか」

 

『馬鹿な……ダブルが視認できないはずは……まさかインビジブルではないというのか!?』

 

 俺たちが混乱している間にドーパントは攻撃を仕掛けてきた。為す術もない俺たちはその攻撃を受け宙を舞った。

 

「どうする相棒?メタルでいくか?」

 

『ファングとエクストリームが使えない今対抗策が思いつかない……』

 

 ファングメモリもエクストリームメモリもこの間のウルフとファングの野郎にやられてから修理できていない。現状は六本のメモリで対抗するしかない。

 しばらく構えていたが敵からの攻撃はない。それどころか気配さえ消えていた。

 

『どうやら逃げたみたいだね』

 

「あぁ」

 

 変身解除した俺に美偉ちゃんと華蓮ちゃんが駆け寄ってきた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

「まさか……あれが隼……?」

 

 この事件の謎は多い。なぜ隼くんがガイアメモリに手を出したのか。ルームメイトが襲われた理由。ドーパントの正体。ドーパントの能力。それらの謎を解く鍵は華蓮ちゃんにあることをこのときはまだ知らなかった。そしてこのドーパントに対する切り札が現れることも。

 

 

 

 

 




今までと違い今回は翔太郎視点で物語が進んでいきます。今回からずっとというわけではなく今までの書き方もやります。


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Iは何処に/ノンストップレース

 インビジブルドーパントと戦った俺ははすぐに照井のもとへ向かった。照井は普段アンチスキルの総合司令部といういわゆる本部のようなところにいる。

 

「そういうわけで隼くんを捜してほしいんだが」

 

「任せろ。仮にもそのドーパントが別人だったとしても両方見つけ出してやる」

 

 こういうとき頼りになるな、照井は。風都での事件のときは様々な人の協力で解決に導く。街のことを知り尽くした情報屋、風都イレギュラーズ。警察が動いたときに情報をくれる照井や刃さん。鳴海探偵事務所の重鎮、ミック。メモリの力を感じ取れる俺の助手のときめ。思わぬ言動で事件解決に繋がる亜樹子。そして二人で一人である俺の相棒、フィリップ。こいつらに俺は何度助けられたことか。

 だからこそこの学園都市では今までと同じようにはいかないし、苦労する。敵もかなり強い。園崎家に匹敵するほどの組織、リベンジ。財団Xの一員であるイアン・ウルスランド。ファングメモリを使いこなす歯牙木場乃。奴らを倒すまでの道のりは長い。

 とにかく、今は隼くんだ。一刻も早く見つけ出さないとな。フィリップが地球の本棚でインビジブルドーパントの対抗策を見つけている間、俺はとにかく走った。そして公園にある人物たちを見つけた。

 

「おっ。ビリビリたちじゃねぇか」

 

「ビリビリ言うな!っていうか何でそんなに汗だくなのよ?」

 

「うるせぇ!こっちは依頼人のために人捜ししてんだよ!」

 

 ビリビリ、白井、初春ちゃん、涙子ちゃんの四人にも事情を話し協力してくれることになった。

 

「固法先輩も連絡してくれればもっと早く協力できたのに……」

 

「あなたならわかるでしょう初春。固法先輩が後輩の非番を潰すような人ではないと」

 

「でも透明人間相手にどうやって捜せばいいのかな?」

 

「能力は認識阻害か。それはカメラを使えばいいけどメモリの能力は厄介ね」

 

 いつの間にか作戦会議が始まっている。俺はその場を去ろうとすると涙子ちゃんが大声をあげた。

 

「あっ!」

 

「いきなりどうしたんですか佐天さん!?」

 

「閃いた!透明人間を倒す方法!」

 

 何だって?俺は振り向き涙子ちゃんに駆け寄った。

 

「倒す方法だって?一体どういう?」

 

「相手が見えなくても攻撃すればいいんですよ!」

 

 はっ。バカバカしい。そんなのできてりゃとっくにやってるぜ。他の皆も呆れている。

 

「あのさ……もっとこう……具体的なヤツを……」

 

「つまりですよ?見えなくても相手の場所がわかれば攻撃は通じます。だから相手を上手く拘束できれば動きを封じられる。そこを一気に叩けば完璧です!」

 

 理屈は通ってるがどうやってドーパントの動きを封じるか。どうやってドーパントを見つけるか。この作戦には穴が多い。

 

「ダメだな。……と言いたいところだが……」

 

 俺はスタッグフォンを取り出しフィリップに電話をかけた。

 

「フィリップ。ちょっといいか?」

 

『あぁ。ちょうどこっちも連絡しようと思っていたところだよ』

 

「わかったのか?対抗策が」

 

『いや、まだだ。だけどある仮説が立ったんだ。僕達はまだあのドーパントが変身するところを見ていないだろう?』

 

「確かにな……そりゃつまり変身者が違うってことか?」

 

『かもしれない。だが僕の予想では変身しているのは隼くんだ。それでそっちはどうだい?』

 

「実はドーパントの対抗策で涙子ちゃんが思いついた作戦があるんだ。まだまだボコボコな作戦だが相棒の力を使えば舗装できるんじゃないかと思ってな。ドーパントの動きを止めて攻撃するって作戦なんだが」

 

『その作戦、良いんじゃないかな。実はもう一つ、僕の仮説がある。あのドーパントはインビジブルではない。それがわかればその作戦が使えるかもしれない。だから確信を得たいんだ。それを君に任せたい』

 

「あぁ。わかった。こっちもビリビリたちが協力してくれるし照井も動いているはずだ。任せろ」

 

 フィリップの仮説、ドーパントの正体がインビジブルではないというのを証明するための準備を始めた。ビリビリたちにも説明し、俺はある人物とコンタクトをとった。

 

「お待ちしておりました、左様」

 

 おしとやかなお嬢さん方、湾内絹保ちゃんと泡浮万彩ちゃんだ。二人は今回の作戦に必要不可欠な存在なんだ。

 

「突然呼び出して悪い、ビリビリ……御坂から聞いたとは思うがよろしく頼むぜ」

 

 さて、早速作戦開始だ。まず俺たちは美偉ちゃんからの情報を待つ。ドーパントを確実に一定のポイントに誘導するためにビリビリ、白井、涙子ちゃん、照井が追い込む。と言っても相手は透明。カメラにも映らない。だが初春ちゃんは映像のわずかな違和感も見逃さない。的確に位置を特定しビリビリたちに指示を出す。

 

「白井さん!三番街の路地裏で強風が吹いてます!ドーパントかもしれません!」

 

「了解ですの。確認しますわ……くっ!当たりでしたの!東へ向かって行きましたわ!」

 

「ねぇ初春!なんか動き速くない?さっき私のところにいてすぐに御坂さんのところに行って、照井さんのところにも来たじゃん?テレポートかっての」

 

 無線を聞く限り相当速いスピードで動いているらしい。初春ちゃんの計算では学園都市の端から端まで一分でいけるとのこと。

 

「まさかアイツ透明に加えてテレポートとかの能力も持ってるわけ!?」

 

「フィリップ。左。作戦はどうなっている?」

 

「順調だ。ドーパントは君たちの誘導でこっちに向かってきている。後は彼女たちに任せよう」

 

「絹保ちゃん、万彬ちゃん!準備はいいか?」

 

「はい!」

 

 二人は元気よく返事をした。

 ドーパントが目標の場所、高速道路の入り口に接近。道路はアンチスキルが封鎖しているので一般人が入ることはない。照井がいなかったらアンチスキルも動かなかっただろう。俺、フィリップ、絹保ちゃん、万彬ちゃんは道路で待機している。

 

「……来た!」

 

 フィリップがカタツムリ型のゴーグルガジェット『デンデンセンサー』でドーパントを視認した。このデンデンセンサーは肉眼では見えないものも見ることができるスグレモノだ。

 

「いきます!」

 

 絹保ちゃんはアンチスキルの装甲車に積まれたタンクから水を操り道路を浸水させる。これが絹保ちゃんの能力、水流操作(ハイドロハンド)だ。さらに万彬ちゃんが周囲の浮力を操り水が宙に浮いていく。

 

「頼むぜ……」

 

 そして、見事ドーパントは水で足止めされ浮力操作によって宙に浮いた。赤い体に胸に巨大な飾り。体中をパイプのような管が通り背中から炎を排出している。

 

「よし。いこう、翔太郎」

 

「あぁ」

 

「「変身!」」

 

『ヒート!トリガー!』

 

 初っ端からのヒートトリガー、水を蒸発させながらもドーパントを集中砲火だ。すると体から出ていた蒸気が消え赤かった体が灰色に変わっていった。浮力を戻すとドーパントは地面に倒れた。

 

「お前は隼くんなのか……?」

 

 正体を確かめるために近づこうとしたが道路の奥から何かが来るのが見えて歩みを止めた。

 

「あれは……」

 

 爆音のエンジンを唸らせて来たのは二台のバイクだった。二人とも赤い革ジャンを着ている。ヘルメットを脱いだその二人は見覚えのある顔、美偉ちゃんと華蓮ちゃんだった。

 

「隼……ホントにあなたなの?」

 

「ねぇ。一緒に帰ろ?私、話したいこといっぱいあるからさ」

 

 さらにもう一台、バイクがやって来た。赤いバイク、照井だ。後ろには涙子ちゃんも乗っている。白井とビリビリも合流し全員揃った。

 

「ふぅ……やっと終わったわね……」

 

「あら?固法先輩が着ているその服は……確か……」

 

「ええ。私も、可憐も、隼も元々ビッグスパイダーだったの」

 

 ビッグスパイダー?なんかの組織か?フィリップはすぐさま検索し解説を始めた。

 

『ビッグスパイダー。スキルアウトの集まりで、創設者は黒妻という男。つい最近壊滅したみたいだね』

 

「じゃあその革ジャンはビッグスパイダー時代の思い出ってところか」

 

 そしてドーパントの正体を確かめようと照井が触れた瞬間、ドーパントは立ち上がった。そして……

 

「オレ……ヲ……タス……ケ……」

 

 苦しそうにしつつ何かを話して再び走り出した。

 

「あの声は……隼で間違いないわ!追いかけないと!」

 

「お、おい!ちょっと待て!」

 

『翔太郎。僕が立てた仮説どおりだ。彼は隼くんでメモリはインビジブルではない』

 

「じゃあ本当の正体はなんだ?」

 

『恐らくは車だろう。形状を見るに特に速さに特化したF1といったところだね。あの胸は空気抵抗を考慮したもの、配管のようなものはマフラーだよ。体が赤くなり蒸気を発するのは体が赤熱しあまりの熱さによって蒸気が出たからだ。さっきは動きが止まり熱が発生しなくなって変色していたんだ』

 

「あ〜よくわかった。だがどうやって追っかけんだ?こっちもバイクがありゃいいんだが」

 

 そう。ダブルの専用マシンであるハードボイルダーは学園都市に持ち込めなかった。照井は普通のバイクだからOKだったがハードボイルダーは見た目で怪しまれてダメだったんだ。

 

「左、そのことなら心配ない」

 

 照井はそう言うとビートルフォンで誰かに電話をかけた。

 

「そっちはどうだ?……わかった」

 

 珍しく微笑むと電話を切りすぐに真剣な顔に戻った。

 

「心配ないってどういうことだよ?」

 

「来たぞ」

 

 照井が指を差した方向から巨大な何かがこっちに向かってきている。ダブルに似たアンテナ、数多くのタイヤ……あれはまさか!

 

「リボルギャリーか!」

 

「何よあれ……」

 

 あまりの巨体に御坂たちも開いた口が塞がらない。

 

『あれは僕らのサポートマシン、リボルギャリーさ。あの中に翔太郎が普段使うバイク、ハードボイルダーが格納されているんだ』

 

 リボルギャリーは俺たちの目の前で停車するとハッチ部分が開き、黒と緑のツートンカラーのバイクが姿を現した。

 

「おっしゃ!久しぶりにぶちかますぜ!」

 

 俺はうきうきでハードボイルダーに跨がろうとしたが、後頭部に何かが当たりスパァァン!と心地よい音が響いた。この感覚……なんだか懐かしい。今までさんざんやられてきたように感じる。そう思って後ろを振り向くと御坂たちと同じ中学生くらいの小さな女の子が。だが俺やフィリップ、ましてや照井なんかが知らないわけがないあの人物だった。

 

「相変わらずハーフボイルドね!翔太郎くん!」

 

『亜樹ちゃん!』

 

「おい亜樹子!久しぶりの再会でそれはねぇだろ!」

 

 鳴海亜樹子。鳴海探偵事務所の所長であり照井の妻でありおやっさんの娘だ。彼女もまたメモリ犯罪と戦ってきた一人ってとこだな。亜樹子を知らない御坂たちは変わらずポカンとしている。

 

「あ〜こいつはウチの事務所の所長な。で、照井の妻」

 

「あっ!あなたが照井さんの奥さんですか!?キレイだな〜!」

 

 そういえば涙子ちゃんには話してたっけな、亜樹子の話。

 

「そう?ん〜なんだか嬉しいな!……ってそれどころじゃない!翔太郎くん、フィリップくん、竜くん!やっちゃって!」

 

「あぁ!」

『了解した』

「わかった」

 

 ハードボイルダーに乗った俺たちダブルは勢いよくリボルギャリーから飛び出した。さらに照井もアクセルに変身し、アクセルドライバーをバックルから外し構えた。そして空中で一回転する間にバイク形態へ変形していく。

 

「なんなんですの……照井さんがバイクに……?」

 

 御坂、白井、涙子ちゃん、美偉ちゃん、華蓮ちゃんにとっては衝撃の連発だ。ちなみに初春ちゃんは無線でしか状況を把握していないから何が起きているかわかっていないらしい。

 

『え!?照井さんがバイク!?りぼるぎゃりーって何ですか!?照井さんの奥さんが!?』

 

「落ち着け初春ちゃん。とりあえずはあのドーパントを片付ける」

 

 F1ドーパントを追い二台のバイクが走り出す。俺たちはハードボイルダーに最も相性の良いサイクロンジョーカーにチェンジしより風を感じる。アクセルも負けじとスロットルをひねり加速。徐々にF1ドーパントとそれを追いかける美偉ちゃんと華蓮ちゃんも見えてきた。

 だが、突然二台のバイクは止まってしまった。F1ドーパントが道を破壊し道路が崩れてしまっていたからだ。

 

「まずいぜ!どうする!?」

 

『後部ユニットを交換する』

 

 ものすごいスピードでリボルギャリーが走行してくる。そしてハッチが開き赤と黄の二つのユニットが収納されているドラム部分にハードボイルダーを停車させた。後ろ半分緑色のボイルダーユニットか取り外される。ドラム部分が回転して赤いタービュラーユニットが代わりに装着された。ジャッキアップと同時に前輪が水平に倒れタービュラーユニットの力で空に浮く。これこそが飛行に特化したハードタービュラーだ。

 

「おっしゃ!一気に飛ぶぜ!」

 

 超音速での飛行が可能なこのハードタービュラーであっという間にドーパントに追いついた。

 

「逃さないぜ!」

 

『翔太郎、トリガーでいこう!』

 

 トリガーにメモリを変えて空中から高速弾丸をお見舞いした。ドーパントのタイヤとも言える部分が爆発し走行不可になった。

 

「メモリブレイクだ」

 

『トリガー!マキシマムドライブ!』

 

「『トリガーエアロバスター!』」

 

 風の力を宿した弾丸が体内のメモリを貫く。ドーパントの姿から開放された隼くんがうめき声をあげ倒れた。

 

「とりあえずあいつらが来るまで待つか」

 

 それからしばらくして、隼くんが目を覚ました。そのときにはもう全員集まっていた。

 

「美偉……華蓮……」

 

「隼!良かったわ……」

 

「何でガイアメモリなんかに手を出したの?私すごく心配だったのに!」

 

 そして隼くんは全てを話しだした。それはいつものようにバイク屋にいたときだった。

 

「君。バイクが好きなのかい?」

 

 スーツの男が近づいてきた。赤いネクタイに大きなアタッシュケースを持ったビジネスマンのような風貌だ。

 

「まぁそうですけど」

 

「だったらこれを使うと良い」

 

 男はアタッシュケースを開き大量に入っていたガイアメモリの中から「F」のメモリを差し出した。

 

「これって?」

 

「これを使えば極限までの速さを得られる。その姿はさぞカッコいいだろうね」

 

 そのとき、脳裏によぎったのは華蓮ちゃんの姿だった。華蓮ちゃんとは幼い頃からの仲。だが最近、華蓮ちゃんに対する想いが変わりつつあった。

 

「いいんですか?お金はあまり持っていませんが……」

 

「お金は要らない。君の幸せのためならね」

 

 隼くんはガイアメモリを使用すればどうなるかはわかっていた。だが、一度だけなら……と誰もいないような路地裏でメモリを挿した。それはまるで最速マシンに乗ったかのようだった。その速さは音速に等しい、あるいはそれ以上だったからだ。

 もう一つ、速さの他にも手に入ったものがあった。それは力。人を超えたその力があれば不良たちも怖くない。元ビッグスパイダーだった隼くんや華蓮ちゃんは頻繁に絡まれていた。だから華蓮ちゃんを守りたかったんだ。

 

「これで華蓮を守れる!強くなったんだ!」

 

 だが人生にトラブルはつきもの。変身を解除したくてもメモリが排出されず体内に残ったままになってしまった。そしてメモリの能力で暴走を始め今に至ったわけらしい。

 

「どうやらメモリが不良品だったみたいだね。もしくは……イアン・ウルスランドが意図して渡したか。実験として」

 

「だから自我が無いまま建物にぶつかり破壊したりしたんですのね」

 

「あの……僕はやはりアンチスキルに捕まるんでしょうか」

 

 不安げな顔をした隼くんに照井と華蓮ちゃんが近づく。

 

「ガイアメモリ使用特別法で逮捕だな。だが、今回の被害者が君以外いなかった。それで罰は軽くなるだろう」

 

「隼。私待ってるから。あなたの本当の想いを聞くために」

 

「……ありがとう。華蓮」

 

 その後、隼くんはアンチスキルに連行された。幸いにも今回の被害状況からジャッジメントの更生施設で一定期間過ごすだけになった。華蓮ちゃんと隼くんが再び会える日はそう遠くはないだろう。

 俺は改めてガイアメモリの危険性を認識しなおした。動作不良を起こしたメモリは今回のように暴走を引き起こす。いち早くこの学園都市からメモリを根絶しないとな。

 

 

 俺がそんな報告書を作っていた中、イアン・ウルスランド率いるリベンジはいよいよ本格的に動き出していた。『C』『F』『A』『M』それぞれのメモリを持ったリベンジの幹部たちは俺たち仮面ライダーと激しくぶつかり合うことになる。

 そして、まさか常盤台のあの子が狙われるなんてな……

 

 

 

 

 



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