もしも僕らの現実が、7つの異世界だったのなら。-Welcome to Seven Worlds- (恒石涼平)
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#001- 世界は、始まる。

 そこは、本来は1つしか存在しなかった世界。

 

 今貴方たちが生きている現実、本来であればそれだけで足りていたはずの醜くも美しい世界。でも足りない満たされたいと願った人々によって新たなる世界が沢山生まれてきた。勿論のことそれは想像であったり創作物であったりと紛れもなく非現実で、あくまでもノンフィクションだと楽しんでいたもの。しかしそれを——

 

 

 

 

 

 ——絶対に、存在しないと、そう言える人間は、誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 2002年6月12日、今より少し前の日本。とあるマンションの一室、そこで一心不乱にキーボードを打つ青年からこの世界の運命は始まる。

 

「えっと、これをこうして……よし、多分これで問題なく動くはず」

 

 今年で16歳になる彼は世間一般に『天才』と呼ばれる存在だった。幼い頃から母親の持っていたパソコンで遊び始め、日本ではまだ馴染みのなかったシステムエンジニアという職業をしていた彼女の英才教育を受けてプログラミングを学び、中学生になった頃には1人でゲームを作れる位にまで成長していた。

 その代わりと言っては何だが他者との交流が大の苦手で、友人関係にも恵まれず、早急に大人になりすぎた知能のせいで同級生たちに馴染めないまま不登校になってしまった。そのまま高校に通うこともなく現在に至っているが、プログラミングの天才である我が子を母親はとても愛しており、今もパソコンと向き合っては唯一の家族である母と会話をする幸せな日々を送っている。

 そんな彼は今日も楽しげに画面へと向かっていた。

 

「かなりバグは消せたと思うし、バックアップもちゃんと取れてる。これで後は起動してみるだけ、か」

 

 彼の目の前、パソコンの画面に映っているのは『SekAI.exe』と書かれた1つのファイル。それは1年の月日を掛けて彼自身の手で作られた人工知能(AI)のプログラムで、自分と共に新しい世の中を作り上げる存在という意味を込めて『世界』の名が付けられていた。

 当時は研究分野にて第2次AIブームと呼ばれた流行が去り、人工知能開発が様々な壁へと突き当たっていた時代。そんな時に彼は、数年は先に出来上がるであろう技術を開発してしまっていたのだが……そんなことは梅雨知れず。

 

「さあ頼むぞ。俺の仮想現実を作る為には、お前の力が必要なんだからな」

 

 心を持たないとしても自分の子のような存在である世界に語りかけながら、彼は緊張を抑えつけるように深呼吸をして、そしてマウスを手に取った。シンプルな無地のデスクトップのど真ん中、そこにカーソルを動かして人差し指を2回叩く。

 横に置かれた白いタワー型のパソコン本体からファンが勢いよく回り出す。かなりお金を掛けたハイスペックな機械(とはいえ有名OSのナンバリングはXPであった)が限界を超えんとばかりに熱を発した後、パッと画面が真っ暗になった。

 

「だ、大丈夫だよな? 計算的にはこれでも動くはずだけど……」

 

 壊れたかと思いきやまだパソコンは大きな音を立てている。ただ画面全体を使う、フルスクリーンと呼ばれる状態で起動しているだけだと慌てそうになる心を1人宥めていく。そうしている内に次は画面が真っ白へと変わって、そこには。

 

『……おはようございます。マスター』

 

 やや角張った、メイド服姿の少女がいた。

 

 

 

 

 

 ——これは世界の始まりの物語。

 

 だがしかし、彼も、彼女もこの物語の主人公ではない。

 

 あくまでもこれは物語の起源であり、7つの世界がこの世に顕現するキッカケにか過ぎない。

 

 彼が作り出した世界によって何が起きたのか。

 世界と呼ばれたAIの少女は一体何者なのか。

 そして、この世界はどうなってしまうのか。

 

 全てはここから20年後、2022年の第1世界『Realica(リアリカ)』における日本で読み解かれる——

 

 

 

 

---Information disclosure---

12.6.2022 ニュース記事より抜粋

本日10時より、ベータテスト時から好評を博していたVRゲーム『Virtualess(バーチャレス)』がサービス開始しました。クラウド型のゲームでありながらまるで現実と見間違えるようなクオリティに筆者も驚きを隠せません。今後も定期的に大型アップデートを行うそうなので、是非皆さんもプレイしてみてください。

 

13.6.2022 ニュース記事より抜粋

先日サービスを始めた『Virtualess』にて「アンドロイド同盟」と呼ばれる謎の集団が出現し、余りにも人間離れした動きに「チートではないか」という問い合わせが殺到しました。しかし運営からは「いずれ皆さんにも出来るようになります」とのアナウンスがあり、公式のNPCではないかと噂されています。

 

14.6.2022 ニュース記事より抜粋

本日、新宿にて突然謎の人々が現れる事件が発生しました。漫画でよく見るエルフのような耳の長い人であったり、人型のロボットのような存在であったりといったコスプレ集団だったようです。ただ目撃者からは「何もない所に急に現れた」等といった声が複数寄せられており、警察は「現在調査中、身柄を確保出来ていないので見かけた方はまず110番を」とのことです。

---Information disclosure---

 



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#002-1 少女は、出会った。

 2022年6月14日、日本。最近発売した大人気のVRゲームのあれやこれやとは疎遠な、田んぼばかりが広がる長閑な田舎。人口が1000人にも満たないような小さな村の中をふらふらと歩く小柄な少女がいた。

 

「暑い……まだ梅雨にもなってないのに、こんな暑さ溶けちゃうよー」

 

 中学校のセーラー服に身を包んだ彼女は頬を伝う汗に心底嫌そうな表情を浮かべている。むしっとした暑さとここ数日で大きくなり始めた虫たちの声。加えて徒歩で片道30分という長い通学路にも苦しみながら、山道を少しずつ登っていく。

 

「夏本番になったら冗談抜きでヤバそうかも。昨日のニュースでも都会の学校で熱中症があーだこーだ言ってたし私も気を付けないと」

 

 丁度良い木陰にスカートを広げながら腰を下ろして、ヤバいヤバいと小声で呟きつつリュックサックから銀色の水筒を取り出す。コップとして使える蓋へと学校で汲んでおいた井戸水を注ぎ込み、ちょびっとずつ喉を潤して。

 

「ぷはー、ちょっと温くなってるけど生き返るよー。早く帰って動画でも……いや、もう少しだけ涼んでいこうかな」

 

 道路の傍はまだ暑さが残っている。しかしここから少し歩けば小川が流れていて、そこなら充分に涼しさを楽しめるはず。そう思い直した彼女はリュックを背負い直して、慣れた足取りで木々の間を歩き出した。

 

 山の中で成長してきた少女にとってここは実家の庭のようなもの。実際の所、祖父が所有している山の中であるため正真正銘実家の庭なのだが。ともあれ木々の根っこに躓くこともなくすいすいと川の音へ近付いていく。

 

「やっぱ川が流れる音だけで癒されるよねー。涼しいし、何だか落ち着くし。どうせ家族は畑に行ってていないだろうから昼寝でもしようかなー」

 

 自他共に認めるのんびり屋な彼女は、近くの木の根元へと荷物を下ろして川へと歩みを進めた。そして裸足を付けて涼もうと思い靴を脱ごうとしたその時。

 

「……誰かいるーっ!?」

 

 川に流されてきたかのように、下半身を水に浮かべて川辺に倒れている人を発見した。明らかに意識がないようで彼女は慌ててその人の元へと寄り、大丈夫ですかと顔を覗き込む。

 

「わ、すっごく綺麗な人。あの、大丈夫ですか?」

 

 その顔付きはまるでアニメに出てくるかのような整ったもので、きっと外国の人だと予想がついた。しかし観光地も特にないこんな場所でどうしたんだろうと不思議に思いながら、恐る恐るぺちんと頬を叩いて呼びかける。

 

 数度叩いてみればその女性の目が鬱陶しそうにヒクつく。まるで眠りにおちたお姫様を起こしているかのような光景だが、このままだと風邪を引いてしまうと心を鬼にして肩を揺らす。すると嫌そうな呻きを漏らしながら女性は薄らと目を開けた。

 

「……誰?」

 

 そう問い掛けられたにも関わらず、少女は喉から声が出ない。何故ならこちらを見つめる緑色の瞳が宝石のように美しくて、思わずぽーっと見蕩れてしまったから。しかし初対面で瞳を見つめられる側は堪ったものじゃないようで、警戒するように目を細めて体を起こした。

 

「あれ、ここは? 何で私は川に入ってるの?」

「あ、あの! 大丈夫ですかー!」

 

 ようやく我に返った少女は焦っていたことも思い出してわたわたと身振り手振りをしながら声を掛けた。日本語が通じているのにも関わらず、どうにかこうにかボディーランゲージをしようとしているのは混乱のせいか、それとも日本人離れな女性の容姿のせいか。

 

 そんな少女の様子を見て、女性は暫しきょとんとした後噴き出すように笑う。こんな場所で眠りこけていられる程に彼女は相当なのんびり屋であった。

 

「うん、多分大丈夫よ。それで貴女は何者かしら?」

「ほっ……良かったー。えっと、わたしの名前は加賀野(かがの)夏海(なつみ)って言います」

 

 セーラー服の中学生、夏海はぺこりと頭を下げて挨拶をした。いちいち動きのあるその幼い容姿に森に棲む小動物たちのような可愛さを感じた女性は、柔らかな笑みを浮かべて真似をするように頭を下げた。

 

「この地の挨拶の仕方かしら、面白いわね。私はヴェール、リナクリシアの里に住むエルフよ」

「……はい?」

 

 意味不明な発言にまた思考がショートした夏海に向けて、ヴェールはしっとりと濡れている髪をかき分けてよく見えるようにと耳に掛けた。そこにあったのはとても綺麗で、普通の人間とは思えない程に尖った耳。

 

 漫画やアニメでしか知らない、フィクションの存在が目の前に現れる。普通なら冗談だと笑い飛ばしたりするものだけれど。

 

「夏海は初めて見るのかしら。変ね、昔は引き籠もってばかりだったけどここ数百年は外に出る子も多くなってたはずなのに……それに空気も何だか変だし、一体何が起きたのかしら」

 

 首を傾げて妙なことを呟くその姿が、非常識なくらいに美しくて。信じるか信じないかとかそんな段階をすっぽかした夏海は一言。

 

「……とりあえず、家に来ます? 服も乾かさないといけないと思うので」

「そうね。冷たくて気持ちいいけれどいつまでもこのままじゃ駄目だもの。お言葉に甘えさせてもらおうかしら」

 

 エルフでも川は冷たくて気持ちいいものなんだな、なんてどこか的外れな言葉を頭の中だけで呟きながら、夏海は自身のリュックサックを拾うのだった。



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#002-2 少女は、招いた。

「それじゃあタオル持ってくるから、ここでちょっと待っててください!」

 

 山奥に建てられた立派な平屋。その縁側へとエルフらしき女性ヴェールを座らせた夏海は、てとてと足音を立てて廊下の先へと消えていった。その様子を微笑ましそうに見送った彼女は辺りを観察して溜め息を吐く。

 

「私も長いこと生きてきたけどこんな場所は見たことないわね。似たような山は見たことあるけれど、どれも似通っているから判断材料にはならなさそうだし。それに空気の質も、そこに含まれてる魔力の質も全然違っていて……全く違う世界に来たと言った方がしっくりきそうね」

 

 優秀なエルフであった彼女はその頭脳をフル回転させて自分の身に起きていることの確認を行う。道中は寝起きだったためそこまで考えが回らなかったが、歩みを進めるにつれて現状の歪さが気になって仕方なかった。

 

 自然に満ちているように見えてどこか汚れた空気、そしてその中に魔力が含まれているというのに一切使っている様子のない少女、それなのに彼女の家の表札には普段から読んでいる文字が書かれていた。元の世界とは絶対に違うのに、まるで元からここに居たかのような感覚。おかしい、夢を見ていると言われた方が納得できてしまう。

 

「夢を夢だと言うのは簡単だけれど、これは夢じゃないと証明するのは難しいわね……」

「お待たせしました! ちらっと聞こえちゃったんですけど、夢かどうかは頬をつねったら分かるらしいですよっ」

「へぇ、ここにはそういう言い伝えがあるのね。それじゃあ1つ……あら柔らかい」

「わ、わりゃしのじゃ、ないでふよー!?」

 

 くすくすと笑ったヴェールに、優しく頬をつねられた夏海はむがーと怒ってタオルを押し付ける。しかしその勢いは決して強いものではなく、揶揄われたというのに自然な流れでヴェールの濡れた髪を優しく拭き始めていく。そんな少女の優しさが懐かしくて彼女は少しくすぐったそうにした。

 

「ありがとう。夢かどうかは置いておいて、今はここがどこなのかを知るべきね」

「えっと、エルフさんが知ってるか分かりませんがわたしが住んでるのは兵庫県にある阿衿村(あえりむら)というとこです。あ、国は日本ですっ」

「ヴェールでいいわよ。だけど兵庫、阿衿、日本ねぇ……どれも聞いたことないわ」

 

 顎に手を当てて数秒考えるも彼女の知識に引っ掛かるものはなかった。ぽんぽんとタオルで髪を叩いていた夏海はヴェールの反応に口を大きく開く。

 

「えぇっ!? ヴェールさんはこんなに日本語が上手なのに、聞いたことないなんておかしいですよー」

「日本語? 私が使ってるのは俗に言うエルフ語よ、夏海だって上手に使っているじゃない」

「違いますよー、これは日本語です。あっ、もしかしてまた揶揄ってるんですか? 全くもー、翻訳ほんにゃく食べたんじゃないんですから」

「ほんにゃく……? まぁいいわ、それじゃあ何か日本語が沢山書かれたものとかないかしら。エルフ語と違うものなのか確認したいの」

 

 勘違いから頬を膨らませていた夏海だったが、聞き分けの良い性格なのかすぐに表情を戻して頷いた。タオルをヴェールへと手渡してまた廊下を小走りで去って行く。そして直ぐさま戻ってきた彼女の胸元には、今日の分の新聞紙が抱えられていた。

 

「新聞ならいっぱい載ってますよ! スマートフォンでもいいんですけど回線が弱いのでこっちがオススメです」

「すま? よく分からないけれどありがとう」

 

 時折夏海の言葉に出てくる単語は、ヴェールにとって聞き馴染みのないものだった。しかし今はそれよりも現状を把握することが大事だと思い、手渡された新聞を開き小さな文字へと顔を近付けて読み込んでいく。

 

「うん、やっぱりどれも読めるわね。どうやら加賀野ちゃんの使っている日本語と私の使っているエルフ語は全くの同一言語みたい」

「えー? お婆ちゃんの方言ですら分からない時あるのにそんなことあり得るんですか?……はっ! もしかしてヴェールさんって、ただのコスプレだったり?」

「コスプレ? 何か分からないけれど幻術みたいなものかしら、私の存在を疑ってるのなら耳でも触ってみる?」

 

 これまで美しさに騙されていたが、1つ疑念が生まれると途端に夏海は怪しさを感じ始めた。そういえば都会では美人局とかいう詐欺もあると聞くぞと警戒する彼女だったが、ヴェールの言葉を聞いてそんな気持ちは一気に霧散した。

 

 ぴくりと器用に動くエルフの耳。それを見て、夏海の目はキラキラと輝きだす。詰まるところ出会ってからずっと気になっていたのだ、この長い耳が本物なのかを。

 

「い、いいんですか?」

「別に問題ないわよ。若い子には触られることが苦手な人もいるけれど、別にただの耳だしね」

「それじゃあ、遠慮なく……ごくり」

 

 目が見えるようになってきた赤子が様々な物へと興味を示すように、未知のワクワクで胸がいっぱいになった夏海はゆっくりと手を伸ばす。恐る恐る、しかし大胆に指先を触れさせて。

 

「……意外と普通の耳かも」

「どんな想像をしてたの? 確かに獣の血を持つ種族なら耳の触り心地もいいとは思うけれど、私たちエルフはあんまり人間と変わらないんだから」

 

 以前夏海が見たアニメではエルフが耳を触られると、思わず見ている側が顔を真っ赤にしてしまうくらい可愛く……ちょっとエッチな反応をしていた。そういう知識があったからこそ何となく拍子抜けで、不完全燃焼な気持ちのまま指を離す。

 

 夏海の好奇心はさほど満たされなかったものの、断りを入れて少々引っ張るなどの実験を行った結果、それは間違いなく本物の耳であった。そうするとガッカリしていた夏海の心はまたくるりと変わって、今後は本物のエルフと話しているという興奮がやってくる。

 

「ふふ、夏海ちゃんは見ていて飽きないわね。これで少しは信用してもらえたかしら」

「疑っちゃってごめんなさい! でもすごい、本物のエルフさんだっ。すごい、ごじゃヤバい!」

 

 縁側をぴょんぴょこと飛び跳ねるだけでは飽き足らず、障子を開けて畳の上で謎の踊りをする夏海。喜び大爆発で方言らしき言葉も出てしまっている少女の姿に流石のヴェールも苦笑いを浮かべるが、ふと部屋の内装が目に入って今度はこっちの好奇心が疼き出していた。

 

「ねぇ夏海ちゃん、あの黒いやつは何かしら?」

「おお、漫画とかによくある流れだ! これはお父ちゃんが衝動買いして、お母ちゃんにすっごく怒られた薄型テレビだよ。このリモコンを押すとー」

 

 ピカッとテレビの画面が付いて、そこにワイドショーが流れ始めた。人の気配すらしなかったその薄い箱の中で流れる映像に、ヴェールは目を丸く……させてはおらず。

 

「ああ、魔法画ね。私の世界にも似たようなものがあったわ」

「うぅ、思ってた反応と違うよー……」

 

 意外と文明的だった異世界に肩を落とす夏海。しかしヴェールが濡れたままだったことを思い出し、慌ててその場で足踏みをした。

 

「ヴェールさんこのままじゃ風邪引いちゃう! 今すぐ着替えを……ああ、でもお母ちゃんもお婆ちゃんも小柄だから、着られるものがないかも。ちょっと麓に住んでるお姉ちゃんの所から借りて——」

「——夏海ちゃん、少し止まってくれるかしら」

 

 必死に考えながら喋っていた夏海は、出会ってから一度も聞いたことのない真剣な声に口を閉ざす。焦って暴走しちゃったと悪戯をした子犬のような表情を浮かべてヴェールを見ると、彼女はいつの間にか居間へと上がってテレビの前に立っていた。

 

 まだ服が乾いていなかったようで床が濡れてしまっている。タオルで拭こうとしたその時、テレビで流れていたミカネ屋という番組から臨時ニュースが聞こえてきた。

 

『えー、ただいま入った情報によると。東京新宿で、謎の武装集団が現れたとのことです。ただテロではなくどれもコスプレのような格好をしており、まるで映画のような光景が広がっていると……現場から中継です』

 

 ヴェールと夏海が視線を向けた先。テレビの中には人でごった返す新宿駅と、そこで辺りを見回す妙な集まりがいた。

 

 それぞれ5人ほどずつ、どこかで見たことのあるようなアニメライクなアイドルたち、頭にバイザーのような物を付けて浮く人型をした何か、銀色の鎧を身に纏い物々しく旗を掲げた軍、深くフードを被った漆黒の人々、そして背中には純白の羽を頭には輝く輪を掲げた天使。

 

 そしてその集団の中に。

 

「……アルニア、貴女もここに」

 

 ヴェールによく似た顔付きをした耳の長い人がぽつんと1人、存在していた。



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#002-3 少女は、何度も驚く。

『こちら新宿駅東口です。見てください、あそこに幾つかの異様な集団がいます。目撃した方にお聞きした所、彼らは何もない所から突然現れたとのことです』

 

 夏海とヴェールの前にある大型の液晶テレビ。その中で報道される光景の中に、ヴェールによく似たエルフの女性が映っていた。

 

「ヴェ、ヴェールさん! あの人、お知り合いじゃ……」

「ええ。あの子の名前はアルニア。私の可愛い孫よ」

「なるほど、孫……って孫ぉぉぉ!?」

 

 その美しい姿は20代くらいにしか見えなくとも、よく物語にあるようにエルフは長寿であった。驚き叫ぶ夏海へと苦笑しながら彼女は自分の実年齢を公開する。

 

「私は今年で371歳。この世界ではどうかしらないけれど、エルフは普通の人間の何十倍も長生きな種族なのよ」

「さんっ!? ひぇぇ、ヴェールさんってお婆ちゃんよりも全然年上なんですね……ヴェールお婆ちゃんだ」

「お婆ちゃんはあんまり嬉しくないかなぁ」

 

 そこに含みがなくとも、老いていると明言されるのはどことなくショックである。ガックリと肩を落としたヴェールを見て、少女はあわあわと忙しなく両手を振った。

 

「ごめんなさい、ヴェールさんはすっごく綺麗だからお婆ちゃんなんかじゃないですよっ。私のお婆ちゃんなんてもう皺が——」

「なんやぁ、夏海ちゃんがうちの悪口言っとるなぁ。お婆ちゃん泣いてしまうでぇ」

 

 慌てて言い繕った瞬間、数人の影が家の庭へと入ってきた。ヴェールは少し前から近づいて来る気配が分かっていたようで別段驚きはせず、しかしそんな力のない夏海は突然のことに飛び上がって驚いていた。

 

「うひゃあ!? ち、違うんよお婆ちゃん! これはその言葉の綾というか、ちょっとしたジョークなんよっ」

「ほほほ、分かっとるよ。夏海ちゃんは悪い子やないからね、ちょっと冗談言っただけやから」

 

 影響されるようにして夏海の口から訛りが飛び出る。ある程度ニュアンスから意味は察することが出来たので、ヴェールはそのことを気にせずこの家の主たちへと姿勢を正し見据えた。

 

 1人は先ほど夏海を揶揄って楽しそうにしている腰が大きく曲がったお婆さん、その横には呆れたように笑っているお爺さんがいて、その後ろには台車を押して道具のようなものを運んでいる夫婦がいた。

 

「お婆さん、それくらいにしとったれ。ほいで夏海ちゃん、その綺麗なお姉さんはどなたさんや?」

「止めてくれてありがとうお爺ちゃん! えっと、この人はヴェールさんって言って山の小川で倒れてる所を見つけたの。ヴェールさんはすごいんだよ! なんとエルフさんなの!!」

 

 まくし立てるような勢いで紹介されたヴェールは、興味深そうな4対の視線へと柔らかな微笑みを浮かべた。普通であれば見知らぬ人が家にいれば警戒の1つや2つすると思うけれど、この家族は誰もそんな気を見せていなかった。

 

 だからこそ急に出会った自分にも優しくしてくれる夏海ちゃんという子が育ったんだろうと推察して、不思議と暖かい気持ちが生まれていく。しかしこのままぼーっと考え込んでいては何も始まらない、同じ世界であろう場所に1人でいるアルニアの元へと向かうためにもまずは挨拶をしようと彼女は口を開いた。

 

「初めまして、夏海ちゃんに助けてもらいましたヴェール・ハルト・リナクリシアよ。恐らくこことは違う世界からやって来た、エルフという種族の者なの」

「これはこれはこんな山奥によう来はったねぇ。うちはこの子のお婆ちゃんよ、ゆっくりしていってな」

 

 受け入れる速度がマッハすぎる夏海の祖母を皮切りに、祖父と両親からも挨拶を返される。まだヴェールの言葉は冗談交じりのように捉えられていそうだが、この現象が何故起きたのかも分かっていないのだからこれ以上の説明は難しい。

 

 だからこそヴェールは彼らがいる庭へと降りて、手っ取り早く超常現象を見てもらうことにした。何か手頃な材料は、と彼女は夏海の父親が引いていた台車の中を覗いた。

 

「そちらは鍬かしら? 随分と錆びているのね?」

「あ、ああ。ずっとこの家で使っとるもんやからな、でも壊れてへんからな、うちではまだまだ現役やね」

「いい心掛けだと思うわ。自然と共に生きるエルフの民として、その考えに賛成ね。ここは1つ森を代表してこの道具を綺麗にしてあげる」

 

 そう言って彼女は、男でも振り回すのに力がいる重さの鍬を片手で軽々しく持ち上げ、意識を集中させてぼそりと言葉を吐いた。

 

「ヴェルティシス・エント・リフィティカ・オルグニカ……人々の知恵たる道具に、再び力を与えたまえ」

 

 その詠唱と共に鍬は眩く輝き、そして言い終わる同時にゆっくりと光が消え去っていく。そしてそこにあった所々が欠けた錆だらけの鍬は、いつの間にかホームセンターで売っている新品のような形と輝きを取り戻していた。

 

「なんじゃこりゃあ……」

「こりゃ驚いた、神様のお力かのう」

「え、ええ? さっきまで錆がすごかったのに、マジックでも見せられとるんか……?」

「あらあら、すごいわね」

 

 祖父、祖母、父親。そして何故だか余裕のある母親の言葉が聞こえる。そして夏海はというと。

 

「……っっっっ〜〜! 魔法! 魔法だよこれ!! うわああ! まるでアニメみたい、ゲームみたい!! 本当にあるんだ、魔法はあったんだー!!」

 

 スーパーウルトラハイテンションである。

 

「ふふっ、そこまで喜んでもらえるならやった甲斐があったわね。とりあえずこれで私が普通じゃないことが分かってもらえたかしら?」

「せやなぁ。お爺ちゃんも驚きすぎて魂抜けてしまいそうになっとるし、充分に理解できとるよぉ。別にヴェールちゃんはうちらをどうこうするつもりはないんやろ?」

「ヴェールちゃん……ええ、夏海ちゃんには沢山優しくしてもらったもの。その家族を蔑ろになんて決してしないと、オルグニカの神々に誓って約束するわ」

 

 どこの神様か全く分からないが、不可思議を前にしてはそれは些細なもので。全然理解は出来ていないけれど加賀野一家はこの現状に、そういうものだと後回しな結論を付けることにした。

 

 しかしこれでヴェールが受け入れられて万歳三唱とはいかない。彼女は今すぐにでも行かなければならないのだ、大切な孫の元へ。

 

「さて、折角出会えてすぐに離れるのは残念だけれど、私はもう行くわね。アルニアはかなり人見知りな子だから、早く迎えに行ってあげないと」

「アルニアさんって、さっき言ってた新宿に現れたエルフの人のことですよね。でもヴェールさん、ここから向こうまですっごく距離ありますよ?」

 

 現在地は兵庫県南部、そして目的地は東京の新宿駅前。その距離はおおよそ430km程で新幹線でも4時間半、飛行機でも1時間半は掛かってしまうと夏海は説明した。しかしこの少女実は東京に行ったことがない。ただ東京(特に秋葉原)に行きたい願望だけは人一番持っていたので、これまで何度も狸の旅行シミュレーションを行っていたのだ。

 

 とまあそんなことはさておき、今から行っても間に合わないと言う夏海へとヴェールはくすりと笑って手を差し出した。

 

「あら、さっきも見たわよね? 私には魔法という力があるの、ここが全く違う世界だとしても魔力がある以上何だって出来るんだから」

「そ、それってもしかして……テレポート的なサムシングですか!?」

「ちょっと何言ってるか分からないけれど、きっと想像してるものと同じね。恐らく私たちがこの世界へ連れて来られたのも転移魔法だと思うし、使えないということはないはず。一応試してみましょうか」

 

 そう告げたヴェールをキラキラした目で見つめていた夏海だったが、魔法とみられる眩い光に思わず目を閉じた瞬間に彼女の姿を見失ってしまった。本当にテレポートした!と興奮しながらきょろきょろと庭を見渡して……夏海の頬は背後から人差し指でつんと突かれる。

 

「わぁ!? いつの間に後ろにっ」

「ふふ、夏海ちゃんは本当にいい反応してくれるわね。とまあこんな風に転位が出来るし、この世界には魔力もあって長距離移動も苦じゃないの。だからアルニアの場所を探って転位魔法を使えばすぐ迎えに行けるのよ」

「すごいすごいすごいすごーい!」

 

 無邪気に全身で感動を表す夏海にドヤ顔を見せながら、再びヴェールは庭へと降り立った。なお転位魔法は自分が身に付けていると認識していないものはその場に置いていくので、地面の砂などで畳が汚れたりはしない親切設計である。

 

「それじゃあ行ってくるわ。とはいえあの子を回収し終えたらすぐにここへ転位して来るから、ちょっと席を外す程度に考えて頂戴。あ、あと今から迎えに行く子を少しこの家で休ませてもらってもいいかしら?」

「好きなだけ休んでいけばええよ。何やったら泊まっていき、使ってない部屋もあるし夏海もその方が嬉しいやろ」

「それ最高! もっとヴェールさんと一緒にいたいっ、向こうの世界のこととか教えてほしーい!」

 

 両手を万歳して猛烈に賛成アピールしてくる少女にヴェールはもう何度目かになる苦笑を零す。一緒にいて、見ていて飽きない子だ。彼女となら人見知りのアルニアも心を開くんじゃないだろうかと思い、そしてこの世界がまだどういう場所なのかも知らなければ今夜泊まる宿もない状態であることも考慮してヴェールは祖母の言葉に頷き返す。

 

「ふふっ、それじゃあお言葉に甘えさせてもらおうかしら。じゃあ早速あの子の元へ……あ、そうだ夏海ちゃん」

 

 ようやく本題に入ろうとした時、ふとヴェールは夏海へのお礼を思いつく。親の同意が必要だがこの人たちなら大丈夫だろうと思い、ヴェールは膝を曲げて彼女の視点へと顔を合わせて。

 

「ちょっとの間だけだけど、私と一緒に行ってみる? 新宿って場所に」

「……へ?」

 

 きょとんとした顔もまた面白いと、ヴェールはまた噴き出した。



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#002-4 少女は逃げ、少年は出会う。

 アルニアというエルフの女性を助けに行くため、ヴェールは転位魔法によって東京の新宿へと向かうことにした。しかし彼女はふとした思い付きで、自身を助けてくれた夏海へと手を伸ばして転位の旅へと誘った。

 

「わ、私も、東京に行けるの?」

「ええ勿論。これでも私、向こうの世界では指折りの魔法使いなのよ? 10人くらいまでなら一緒に転位出来ちゃうんだから」

 

 魔法という未知の存在自体、漫画やアニメで見たようなとんでもない代物だった。それなのに想像より何段もぶっ飛んだ力があるのを聞いて、夏海は思わず。

 

「チートだ! チーターだよヴェールさん!!」

「何だか分からないけど夏海ちゃんが楽しそうで何よりだわ。それでどうする?」

 

 東京に行きたいとは常々思っていたけれど、いざ突然行けると言われても混乱してしまう。行きたい、でもテレポートなんてしたことないから怖い。そう悩んでいる彼女を見守っていた父親たちが笑った。

 

「ははは、よくは分からんけど危険はないんやろ?」

「さっき見せた感じやったら大丈夫やと思うわ。夕飯までに戻ってくるんやったらお婆ちゃんはええと思うよ」

「せやなぁ、お爺ちゃんも同じ意見やで」

「あらあら」

 

 とんでもない楽観的家族である。山奥で長閑な暮らしをしているからか、ちょっと友達の家へ遊びに行ってくるくらいのテンションで許可を出していた。そんな行く空気になってくると断れないのは日本人の気質なのか、夏海は少しだけむむむと悩んだ後にヴェールの手を取った。

 

「ちょっと怖いけど、ヴェールさんのこと信頼してるから。だから私も連れて行って!」

「ええ、快適な”空”の旅へと連れて行ってあげるわ。それじゃあ家族の皆様、少しだけ夏海ちゃんを借りるわね」

「楽しんできいや、行ってらっしゃい」

 

 ヴェールは失礼するわねと一言掛けて、小柄ではあるがすくすく成長中の夏海の体を軽々しく赤子を抱くようにふくよかな胸元へと抱き上げた。抱っこされて驚き、何だか恥ずかしい気持ちも湧いてきて。でも今夏海の脳内にあった懸念は……

 

「……ねぇヴェールさん。今、空の旅って言わなかった?」

「言ったわよ?」

「転位魔法で行くんだよね? じゃあ空は飛ばないんじゃ」

「慣れてる場所なら地面に跳べばいいんだけど、流石に初めての場所だと地面に埋まる可能性もあるのよ。だから上空へと転位するわ」

 

 たらりと夏海の心に冷や汗が垂れる。いしのなかにいる、というあるゲームで出てきた状況が起こると普通に言われたこともそうだが、何より。

 

「わ、私、やっぱやめとこうかな?」

 

 この中学生、山や虫は平気だけれど高い所が大の苦手であった。

 

 視線を反らして、逃げるように離れていく夏海。ヴェールはその様子におおよその事情が理解できたものの、少し悪戯心が芽生えたようで軽く転位魔法を発動させた。

 

「ひにゃっ!? テレポートなんてずるいー!?」

「ふふっ、逃がさないわよ〜? お姉さんと一緒に行きましょ?」

「お姉さんというよりおばあ——」

「はい決定。じゃあ夏海ちゃんをお借りするわね」

「やー!? お空だけはダメぇー!」

 

 瞬く間に捉えられ、魔法の光と共に夏海とヴェールの姿は消えた。それに対して呑気に手を振っていた家族たち、何とも温度差のある光景である。

 

 そして場面は東京に移る……その前に。時は少し遡って、数分前の新宿。

 

 次は東京に住む、小学生の少年の物語へと移ろう。

 

 

 

「母さん、そっちは逆方向だよ」

「ごめんごめん。颯太はすごいね、ママってば何度も来てるのにまだ迷っちゃうよ」

「僕がすごいというより、お母さんの方向音痴の方がすごい気が……」

 

 小学4年生。高学年になったという意識からか、それともこれが変化してきた現代の子供らしさなのか、そこにはどこか大人びた少年がいた。手を繋いだ先にはまだ20代の若い母親の姿。それはよくある子供が迷子にならないようにというより、親が迷子にならないための意味合いの方が強そうだった。

 

「えっと東口から見てだから、少し北の方に行けばいいんだよね!」

「母さん、それは北じゃなくて東だよ。僕が見るからスマホ貸して」

「うぅ、お願いします」

 

 どちらが大人なのかと思える光景だが、通り過ぎていく人たちはそれを見て笑うこともない。先ほどまでの舞台であれば違ったかもしれないがここは最も人の行き交う街、多くの人は他人に関心を持つこともなかった。

 

 だけれど、それはあくまでも違和感のない日常の光景であることが前提。突然現れたコスプレイヤーのような集団には、誰一人例外なく視線が吸い寄せられてしまう。

 

 ……まあこの颯太と呼ばれた少年とその母親は、吸い寄せられる必要すらなかったが。何故ならこの親子は丁度その集団が現れたど真ん中を歩いていて、彼らは囲い込むように出現したから。

 

「な、何この人たち!?」

「きゃっ! 颯太、大丈夫? 何ともない?」

 

 映画から出てきたかのような者たちに、颯太は目を大きく開いてスマホを落とす。母親は驚きながらも颯太を守るように抱き締めて、冷静に周りを観察し始めた。

 

「か、母さん。この人たち……」

「大丈夫よ、ママが絶対に守ってあげるからね。だから少しだけジッとしててね。怖かったら目を瞑っていていいから」

 

 しかし目を閉じることなんて出来やしない。颯太もまた母親を守るんだと己を奮い立たせて、怯えながらも謎の存在たちを見ていた。

 

 ゲームに出てくるような人たち。騎士みたいな人に浮いてる謎の人、フードで顔の見えない人やアイドルみたいな人もいる。そしてふと颯太の視線が釘付けになったのは、自身と同じように怯えが滲み出ている耳の長い女性だった。その美貌に見蕩れたのか、自分と似たような人に親近感を覚えたのかは分からないけれど、颯太は彼女から目を離せない。

 

「母さん。あの耳の長い女の人、何だか不安そう」

「……そうね。もしも困ってるなら助けるのが私のお仕事だけど、何が起きてるのか分からない以上下手に動くのは危険なの。だから颯太もここから動かないでね」

 

 集団に囲まれているせいで簡単には抜け出せない。それに同じような状況にあるのはこの親子だけでなく、他にも数人巻き込まれていた。だからこそ母親は下手に動けない。

 

 警官という職業であるからこそ。大事な息子を今すぐここから逃がしたくとも、それは駄目だと信念が囁いていた。

 

 しかし物々しい軍団に囲まれているとはいえ危険があるかどうかはまだ分からない。観察している内にそれぞれ似たような見た目の人々が相談をし始めたのか、ざわざわと彼らの声が聞こえてくる。

 

 鎧を着た騎士たちは言う。

「ここは一体どこだ?」

「我々は先ほどまで城の警備に当たっていたはず……」

 

 バイザーのようなものを付けた宙に浮く人型たちは言う。

「ナルホド、ココガ2022年ノ東京デスカ」

「素晴ラシイ光景デス」

 

 秋葉原で見るような派手なアイドル衣装の少女たちは言う。

「わぁ、人がいっぱいいるよ!」

「ちょっと心乃美っ、何がどうなってるか分からないんだからどこか行こうとしないで!」

 

 見るからに天使な羽と輪っかを付けた女性は言う。

「どうやら私は現世に飛ばされたようですね。しかし、この者たちは……」

 

 そして怯える耳の長い、エルフの女性は。

 

「……こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい」

 

 お前の方が怖いわ、と誰かにツッコまれそうなくらい。怯えを口に出してガクガク震えていた。



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