転生したらスーパー戦隊になっていた件 (盈月さん)
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転生と森の騒乱編
01話 拝啓、死んで転生しました


通勤時の東京のとある駅のホーム。会社や学校へ行く人たちでホームは多くの人で混んでいた。

そんなホームで、黄色の線まで下がり、イヤホンを付けて電車を待っているサラリーマンが居た。

 

「~♪」

 

サリーマン服の男性が何かの歌をイヤホンで聞きながら電車を待っていた。彼こと、五永 雄太(ごえい ゆうた)が聞いているのは暴太郎戦隊ドンブラザーズの主題歌、『俺こそオンリーワン』だった。

そう、何を隠そう雄太は大のスーパー戦隊好きなのだ。

 

「ん~!やっぱりスーパー戦隊の主題歌はいいのばっかりだな!」

 

聞いていた曲の感想を言いつつ、会社へ向かうために乗る電車が間もなく来るため、仕方なく曲を止めようとした瞬間…

 

ドン

 

「は?」

 

人混みの中、背中を何者かに強く押された雄太は、勢いよく線路の上に押し飛ばされた。そして、雄太は地面に落ちる前に来ていた電車と勢いよくぶつかって死んでしまった。

 

 

…えっ?俺死んだの?こんな突然に?……まじかあぁ~!…せめてスーパー戦隊が50周年に行くまでは、死にたくなかったぁー!

 

《確認しました。ユニークスキル不死者(シヲコバムモノ)を獲得…成功しました》

 

は、ははっ…もし、可能だったら全スーパー戦隊に変身したかったな~…

 

《確認しました。ユニークスキル変身者(カワルモノ)を獲得…成功しました。並びに、ユニークスキル製作者(ツクリダスモノ)を獲得…成功しました》

 

へぇ~そいつは凄い…じゃねぇよ!なんだよ!変わる者とか、作り出す者ってさあ!なーにがユニークだよ…こちとら死んで笑い事じゃねぇよ……

 

そして段々と俺の意識は遠のいていって、そのまま俺は眠りについた。

 

……

………

 

「人が倒れてた?…本当かソウエイ?」

 

ソウエイから蜥蜴人族(リザードマン)の報告を聞いていた後、付け加えるように人が倒れていたと報告を受けた。

 

(はい、オークの軍勢の様子を見に行く際に森にて発見しました。どういたしましょう…)

 

このまま放置してたらオークの餌になる可能性が高いな。仕方ない、保護するか

 

「俺達と合流するまでソウエイの方で保護しといてくれないか?」

 

(御意!)

 

人か、一体どんな奴か楽しみだな~。もしかして、俺と同じ異世界転生者だった…まあ、それはないか!ヴェルドラが異世界転生者は知ってる限りだと、俺だけって言ってたし、近い日に2人も異世界転生者が来るとかどんだけすごい偶然だって話だな…!

そんなことを考えつつ、オークとの戦いに向けて俺達は準備を進めた。



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02話 名付け

何か違和感があり、ふと目を開けると木にもたれかかって俺は寝ていた。

あれ?俺って死んだはずなんじゃ…?

周りを見渡すと角が生えた褐色肌の人が俺を見下げていた。

…まさか今、俺ってピンチ?

今の状況に理解しようとするも、どうしても脳が追い付かない。

 

「おっ!目覚めたか…!」

 

俺が混乱していると、角男の後ろから少女?が現れた。

少女?の見た目は銀髪の髪色、金色の瞳、白色の肌、まるでゲームのヒロインのようだ。

 

「はい、たった今目覚めたところです」

 

何故か角男は、少女に敬語を使い報告した。

 

「そうか…戦い前に起きてよかったな」

 

「ええ…では、自分は偵察してきます」

 

「嗚呼、よろしく頼む」

 

角男は少女に一礼した後、忍者のように消えた。

 

「さて、色々と話す前に…服を着てくれ…」

 

そう言いながら、少女は服を渡してきた。

ふと、自分の体を見ると服が無かった。

あっ…社会的に死んだわこれ…

そう思いながら、死んだ目で服を着る。

着た服は誰かの予備なのか、少しサイズが合わなかったが、用意してくれたから文句を言うわけにはいかなかった。

 

「自己紹介とかする前に一つ聞いていいか?」

 

「なんだ?」

 

「日本って知ってるか?」

 

「?…知ってるが?」

 

「マジか!」

 

俺がそう答えたら、少女は目をキラ付かせて嬉しがった。

俺が何が何だか分からない中、少女が訳を説明始めた。

 

「実は俺は転生者でな…向こうで刺されて死んで、気が付いたらスライムに転生していたって事よ」

 

そう言い、少女はスライムへと姿を変えた。余計脳内がめちゃくちゃになる。俺と同じく転生?刺された?スライム?

 

「それで?お前はどうやってこの世界に来たんだ?」

 

人が混乱している中、このスライムは平然と聞いてきた。

正直イラついたが、俺が転生した理由を話せば何かわかると思った俺は、正直に話すことにした。

俺がスーパー戦隊が大好きなこと、向こうで誰かに押されて電車に引かれて死んだことなど。すると、スライムは不思議そうに

 

「…てことは、お前の顔や身体は転生前の物か?」

 

そう言われてみれば違和感がある。身長が少し縮んでいる気がする。

 

「…俺の顔ってどうなってる?…確認方法が見て言ってもらうしかないからな」

 

「だな…え~っと、白銀色の髪に、青い瞳、そして俺のような白い肌だな…」

 

あれ~?俺って黒髪で黒目のどこにでも居る普通の日本人だったはずなんだがな~…

 

「前世は普通の髪色と目の色だったんだが…」

 

「ん~…何故こうなったかは俺もよくわからないな…まあ、先に自己紹介するか!

俺はの名は、リムル=テンペスト…前世はまた別の名前だったがな…」

 

自己紹介しつつリムルは元の人サイズへと戻った。

 

「え~っと俺の名は……あれ?」

 

俺の名前ってなんだけ?え、え~っと……駄目だ全くもって思い出せない、電車で引かれてからか?

 

「…もしかして記憶をなくしているのか?」

 

「一部だけだがな…」

 

転生する前のこととスーパー戦隊のことは覚えているのだが、それ以外の記憶が思い出せない…頭でもぶつけたか?

そんなことを考えていると、パンっとリムルが両手を叩き、何かをひらめいたようだ。

 

「だったら、俺が名づけようか?」

 

「は?」

 

名前を付ける…?

 

「いやだって、名前があった方がいいだろ、俺こゆうのは得意だからさ!」

 

「お、おう…」

 

少し引いてしまっているが、自分の名前や他の記憶を取り戻すまで有難く、その名前を使わせてもらおう。

 

「そうだな~…スーパー戦隊が好きなのか……俺のリムルと英雄をくっつけて、エムル=テンペストなんてどうだ?」

 

「おお!エムルか…確かに良いが、したのテンペストも貰っていいのか?」

 

「嗚呼!同じ転生者なじみだ…!これからはエムル=テンペストと名乗ってくれ」

 

「有難く、そうさせてもらうよ…これからよろしくなリムル!」

 

俺が片手を出してリムルに握手を求めると

 

「嗚呼!よろしく!」

 

リムルは笑顔で握ってくれた。

こうして俺は、この世界での名前を手に入れてのだ。

 

 

 

(今、宜しいですか?)

 

「ん?どうした?」

 

エムルと握手をしてすぐにソウエイから念話が届いた。

 

(なんだ? もう何か掴めたのか?)

 

(いえ、リザードマンが一匹、此方に向けて走って来ております)

 

(何? 何かあったのか判るか?)

 

(はい。分身体の話では、湿地帯にて既に戦が始まっている様子。先走るなと念を押したのですが…)

 

(ああ、ガビルとか言うリザードマンが先走ったんじゃないか? あいつも無駄に自信ありげだったし…)

 

(その可能性が高いかと。して、このリザードマンは如何致しましょう?)

 

ふーむ。戦が始まってたか。だが、まだ局面が動く程では無いのか?

 

 むしろ、タイミング的には絶妙な状況に間に合ったのかも知れない。上空から、戦局の確認をすべきだろう。

 

さて、リザードマンだが・・・

 

(話を聞いてみろ。戦が首領の判断では無かったとしても、どちらにせよ、真意を確認する必要がある。)

 

(御意!)

 

 

俺はソウエイとの念話を打ち切り、あることを考えた。

 

「なあ、今から戦いが起きるんだが…折角だしエムルの能力を確かめないか?」

 

「………ちょうど俺も知りたいところだったが、安全だよな?…流石に二度目の人生、すぐに死んでしまうのは勘弁だぞ…」

 

「大丈夫だ!俺や俺の仲間が付いてるから、安全は保障するって…それじゃあ行くか!」

 

「お、おう…」

 

俺はエムルをソウエイが居る場所へと案内した。




次ぐらいでスーパー戦隊になりますが、自分が知っているスーパー戦隊がガオレンジャーより後のため、ガオレンジャーより前のスーパー戦隊はあんまり期待しないでください。


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03話 初変身

リムルに連れられて先程の褐色肌の角男こと、ソウエイの下へ連れてこられた。

 

「リムル様と同郷だと聞いたが、本当か?」

 

物凄く冷酷な目で見てくるソウエイ…

 

「う、うん…まあね……で、これどうゆう状況…?」

 

俺とソウエイは木の上から数匹のオークと思われる魔物?と蜥蜴のような人型の魔物が一人で戦っていた。

移動中に聞いた話なのだが、この世界には魔物が居て、今オークとリザードマンがぶつかっているようなのだ。そして、リムルがリザードマン達に加勢するために、向かっていた時に俺を見つけたと言うことらしい…そして肝心のリムルは俺をソウエイに預けた後、皆を指揮する必要があるからと言い、戦場となっている沼地に飛んで行った。

どうすればいいんだよ…!確かに能力とか調べたいって言ったけど!言ったけど!いきなり複数のオークを相手するとは聞いてないぞ!

 

「……ソウエイ、先にあのリザードマンを助けてやってくれ…後は俺がやる」

 

「了解した…」

 

ソウエイが消えたと思ったら、いつの間にかリザードマンの下に居て、間一髪のところでリザードマンを助けた。

 

「…やるかぁ~…」

 

渋々木を降りては、オークの前に立つ。

 

「なんだ?オーガの次は人か?」

 

偉そうなオークが俺に剣を向けてくる。

どうしようどうしようどうしよう…!

この状況をどうするべきか悩んでいるとふと、脳内にボウケンジャーのアクセルラーが脳内を横切った。

なんで今なんだよ!

しかし、右手に違和感を感じふと、見てみるとアクセルラーが右手に握られていた。

 

「…」

 

もしかしてっと思った俺は

 

「レディ!」

 

アクセルラーを開き構えた。

 

「ボウケンジャー、スタートアップ!」

 

ボウケンジャーの変身の際の掛け声と共に左肩に当てたアクセルラーを当てながら左手まで滑り落した。

するとどうゆうわけか、エンジン音と共に俺はボウケンレッドへと姿を変えた。

 

「なに!?」

 

「…」

 

俺が姿を変えたことに周りの者たちは驚いているが、無理もない…事実、俺も驚いてるんだもん、だが折角ならこの力でオーク討伐だ!

 

「熱き冒険者!ボウケンレッド!…アタック!」

 

名乗った後、指をパチンと鳴らして、俺はオークに向かって走り出した。

 

「ぐぬぬぬ…人間風情が…!」

 

オークは持っていた剣を俺目掛けて振り下ろしてきた。

俺は試しにボウケンボーを頭の中でイメージすると、予想通りに手元にボウケンボーが現れる。

早速、現れたボウケンボーのアーム部分を使って剣を掴む。

 

「なに!?」

 

「ジャベリンモード!」

 

アーム部分が開き、そこから刃が突き出る。

 

「おらぁ!」

 

「ぐはあぁ!」

 

俺が力を込めてボウケンジャベリンを振り下ろすと、オークは鎧ごと身体を斬られ、切口から大量の血が噴き出る。

 

「う、嘘だろ…!?」

 

「や、やべぇよ…!」

 

見ていた他のオーク達は動揺を隠せない様子だったが、俺はすかさず

 

「デュアルクラッシャー!」

 

一掃するためデュアルクラッシャーを装備した。

何匹かが逃げようと試みたが

 

「逃がさんぞ」

 

ソウエイが出した糸により、全員まとめて一束に集められた。

俺がデュアルクラッシャーを構えると、先端のドリルが回転し始めた。

 

「ゴー!」

 

デュアルクラッシャーから放たれた光線は数体のオーク達を貫き、真ん中らへんで大爆発を起こした。

デュアルクラッシャーに当たらなかったオーク達は爆発に巻き込まれて散っていった。

 

「…」

 

オーク達の死体が燃えているのを無言で見ながら変身を解除した。

 

「…リムル達は今、コイツらと戦ってるのか?」

 

ソウエイの方を振り向くとソウエイはクールに

 

「嗚呼…」

 

と、答えた。

こんな奴らが阿保みたいに居るのか……よし、俺も覚悟を決めて加勢するか

 

「…ソウエイ、戦場の湿地帯はどこにある…」

 

「…それならこの先だが、少しかかるぞ…」

 

「そこは大丈夫…!」

 

俺がスカイホーキーを頭の中でイメージすると、目の前にスカイホーキーが現れる。

 

「んじゃあ、またな!」

 

スカイホーキーに跨り、早速飛ばしてリムルの下へと向かった。

 

 

 

「あ、あの方も、ソウエイ殿のお仲間なのですか?」

 

「嗚呼、リムル様曰く、同郷の者らしい…」

 

「…リムル殿は本当に凄いですね…」

 

「だな…」

 

名もなきリザードマンとソウエイは少しの間、エムルが去った方を眺めていた。



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04話 戦況

「ようリムル…戦況はどんな感じだ?」

 

スカイホーキーのお蔭ですぐに湿地帯に行きつき、空で司令塔となっていたリムルと合流ができた。

 

「見ての通りだよ…」

 

「…」

 

俺が空から下を見ると、オーク側で燃え上がっている黒いドーム状の炎、そして地面ごとどんどんオーク達を斬りまくっている鬼人。さらにここに来る途中で聞こえた雷…数だったら圧倒的にオーク達が優勢だが、兵などの質で見ればリムル達の方が圧倒的に上だな。

もうこれ、勝ち戦じゃねぇか…俺が来なくてもよかったな。

 

「…で?お前のスキルは分かったのか?」

 

「まあな…俺の予想が正しかったら…俺のスキルは、スーパー戦隊の力を使えるスキルだろうな…実際、今も使ってるし」

 

「……なあ、それって一種のチートじゃないか?」

 

「…」

 

リムルにスキルをチート扱いされて俺は顔を背けた。

 

「ん?」

 

俺が顔を背けた先で俺はあるものを見つけた。

他のオークより明らかやばそうな圧、そして禍々しい装備…恐らく、あれがオーク共の親玉、豚頭帝(オークロード)だろうな。

俺とリムルは戦場の様子を引き続き、空から観察していた。

今は、両陣営共に一旦戦力の再編を行い、対峙し睨みあう状態へと移行している。

俺達は冷静に冷静にその様子を観察する。

調子に乗っていたオーク達も、流石に自分達の優位性が失われている事に気づき始めたみたいだ。

そしてここで、豚頭帝(オークロード)が前へと出た。

すると、豚頭帝(オークロード)は生き残っていた2体の豚頭将(オークジェネラル)と呼ばれる者の一体の頭を手刀で飛ばし、その頭を貪り喰う。

 

「……リムル、あれは何をやってるんだ…?」

 

豚頭帝(オークロード)について、余り知らない俺は豚頭帝(オークロード)がやっている行動に理解ができなかった。

豚頭帝(オークロード)がやっていることは、自ら自身の戦力を削っているのと同じだ。

しかも、同じ種族の者を…

 

豚頭帝(オークロード)のユニークスキル…飢餓者(ウエルモノ)を使うためだろうな、飢餓者(ウエルモノ)はある程度の相手の能力を吸収することができるスキルだ…飢えれば飢える程、戦闘能力が上がる…恐らく、ベニマル達を見て、戦闘能力を上げる必要があるって思ったんだろうな」

 

「なるほどな…」

 

豚頭帝(オークロード)は、黄色い濁った瞳に敵意を漲らせ、妖気(オーラ)を放出させていく。

そのオーラを受けて、オーク兵に力が漲っていくようだった。

 

「……よし、エムル!豚頭帝(オークロード)を倒しにいくぞ!」

 

少し間があった後、リムルが張り切った様子で言い張る。

 

「おう…!」

 

俺達が豚頭帝(オークロード)の下へ向かおうとしたその時、

 

キィーーーーーーーーン!!!!

 

という、耳障りな音が聞こえた。

辺りを見渡して音の発生源を探していると、湿地帯の中央に両軍が対峙しているその真ん中に誰かが降り立った。

 

かなり強い圧を感じる。ピエロの様な格好をした変な男。

恐らく、上位の魔族か、何かだろうな。

俺達も後を追うように地面へと降り立つ。

そのピエロの様な男は、こちらを一瞥し、

 

「これは一体どういう事だ! このゲルミュッド様の計画を台無しにしやがって!!!」

 

そう大声で叫んだ。

ゲルミュッド。上位の魔族にして、恐らく今回の黒幕。

そして、俺がこの世界で最初に出会った魔族であった。




次回から文字数が増えてきます


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05話 ゲルミュッド

ストーリー上の都合で、主人公の能力を一つだけ変えました。
生存者(イキノコルモノ)不死者(シヲコバムモノ)のちに、説明入ります。


このピエロの様な男、計画がとか何とか叫んでいた。

それを聞いて俺はピンと来た、恐らく、この戦はこの魔族が仕向けたものだと。

しかし、聞きもしないのに自白するとは…バカなのか?あいつ…

ピエロこと、ゲルミュッドさんは大激怒している様子。

しかもだ、何だか大慌てしていて、自分でも何を叫んでいるのか判らなくなっているみたいだ。

大激怒しながらゲルミュッドは言った。

 

「役立たずの鈍間ノロマが!貴様がさっさと蜥蜴人(トカゲ)子鬼(ゴミ)を喰って魔王に進化しないから!わざわざ、この上位魔人であるゲルミュッド様が出向く事になったのだぞ!!!」

 

飽きるほど、酷い言い様だ。

そのゲルミュッドの言葉で、気絶していた一匹のリザードマン?が起き上がり、叫ぶ。

 

「こ、これはゲルミュッド様!我輩を助けに此処まで来て下さるとは!」

 

…どういうゆうことだ…?様を付けるってことは、ゲルミュッドはあのリザードマンの主か何かなのか?

でも、今…蜥蜴は餌とか言ってたが…

 

「あ? 何だ、ガビルか。貴様もさっさと殺されておれば良いものを!まあいい。せっかく出向いたのだ、貴様は俺の手で殺してやる。俺の役に立って死ねるのだ、光栄に思うがいい!!」

 

そう告げて、ゲルミュッドはガビルと呼ばれるリザードマンに向けて手の平を突き出した。

 

死者之行進演舞(デスマーチダンス)!」

 

無数の魔力弾をガビルに向けて放った。

 

「危ない!ガビル様!」

 

「危険ですぞ!」

 

口々に叫びながら、ガビルの部下だろうリザードマン達が庇った。

一発の魔力弾で、5体程のリザードマンは吹き飛ばされたようだが、複数に威力が分散したからか幸運だったからか、それとも案外タフだったからかは不明だが、死んだ者は居なかった。

 

「お、お前達…い、一体、これはどういう事ですか、ゲルミュッド様!!!?」

 

混乱し、ゲルミュッドに問うガビル。

察しが悪いリザードマンだな…明らか利用されていたのに…まあ、言える雰囲気じゃあなさそうだから、言えないが…

 

「が、ガビル様、危険です…早くお逃げ下され…!」

 

絶望しているガビルに早く逃げるように、部下だろうリザードマンが言った。

いい部下を持っているようだな、あのリザードマン…

 

下等生物(トカゲ)どもが!そんなに死にたいなら、纏めて殺してやるわ!そして、豚頭帝(オークロード)の餌となるがいい!!!」

 

そう言いながら、特大の魔力弾を撃ち出そうと頭上に妖気(オーラ)を集中し始めた。

それに対して、リムルは歩き出した、リザードマン達の前に。

それを見て俺もリザードマン達の前に向かって歩き出した。

歩き出した俺の左手にはモーフィンブレスが装備されていた。

 

レッツ、モーフィンターイム!

 

「ふはははは!上位魔人の強さを教えてやる。死ね!死者之行進演舞(デスマーチダンス)!!!」

 

「…レッツ!モーフィン!」

 

特大の魔力弾は、空中でお手玉のように分裂し、円を描くように襲って来た。

だが、意味はなかった…リムルは恐らく、自身のスキルで吸収。吸収できなかった魔力弾は俺に直撃するも、レットバスターに変身することで相殺ができた。

 

「なんだと…!?」

 

少し後退りして驚くゲルミュッド。

 

「なあ、こんなつまらん技で、俺に死ねだって?試しに、お前がどうやって死ぬか手本を見せてくれよ!」

 

そう言いながら、リムルは魔力を込め魔力弾を撃ち返した。

えげつねぇな…リムルの奴…

そう思いながら、俺はソウガンブレードを頭の中でイメージし、手元に作り出して構える。

リムルが放った魔力弾が加速し、ゲルミュッドの身体に接触すると、ゲルミュッドは吹き飛んだ。

 

「バスターズ…レディ~…ゴー!」

 

そのすきを付いて、俺はスーパーダッシュを行って、ゲルミュッドとの一気に距離を詰めては、

 

「はっ!」

 

ソウガンブレードでゲルミュッドを斬った。

 

「ぐがあぁー!!」

 

俺とリムルの連携攻撃を食らったゲルミュッドは、叫びながら転げ回り、ダメージの回復をしようと必死になっている。

この世界には再生系の能力があるのか…俺も欲しいものだ。

すると、リムルはゲルミュッドに傍まで近寄って行った。

 

「さっさと立てよ。上位魔人の強さとやらを教えてくれるんだろ?」

 

そう言いながら、リムルは転がっているゲルミュッドを蹴り飛ばした。

ゲルミュッドがタフじゃないのか、リムルの威力が凄かったのか分からないが、ゲルミュッドは面白いほど吹き飛んだ。

…まぁ、リムルを絶対怒らせないようしよう、うん…

俺はこっそりと、リムルを怒らせないようにすると、心から決めた。

 

「き、キサ、貴様ら!この上位魔人の…」

 

ゲルミュッドは地を蹴り、立ち上がった。

そのすきをついて、今度は一瞬で近づいた俺が斬り飛ばす。

 

「ぐは!…人間風情がァ…!嘗めやがって!!…死者之行進演舞(デスマーチダンス)!!」

 

先程の分裂をする魔力弾を俺に放ってきたが、意味はない。

再びレットバスターのスーパーダッシュを使って、綺麗に避け続ける。

 

「くそっ!くそっ!くそがぁー…」

 

俺が煽るように綺麗に避け続けるため、ゲルミュッドは相当腹立っている。

そのため、リムルが背後まで近づいていたことに気づいておらず、背後から来たリムルのパンチを諸に食らった。

 

「やめ、やめて!待ってくれ!俺には魔王の後ろ盾があるんだぞ!貴様ら、こんな事をして!!!」

 

何か言いだした…てか、この世界魔王が居るのか。

 

「で?お前、その後ろ盾にどうやって泣きつくの?まさか、生かして逃がして貰えるとか、思ってないよね?」

 

…マジでリムルが恐ろしい…前世はやばいことしていたんだろうな~…

一方、ゲルミュッドは顔面を引きつらせ、ガクガク震え始める。

リムルに怯えたゲルミュッドは何やらブツブツと独り言を言った後、宙へ浮く。恐らく、飛んで逃げる気のようだ。

だが、逃がしはしない。

 

「逃がすわけないだろ…!」

 

今度はイチガンバスターを作り出し、空中のゲルミュッドに向けてエネルギー弾を放つと、俺と同時にリムルも炎弾を放った。

俺達の攻撃はゲルミュッドに見事に当てって、ゲルミュッドは落下し、地面に激突する。受身も取れない程、慌てているようだ。

止めを刺すために俺達が近づいていくと

 

「キエーーーーーー!!!寄るな!貴様ら、終わるぞ!魔王様がお前を許さんぞ!!!」

 

そんな事を口走りながら、這う様に逃げ出そうとする。

そんな中、リムルが無言にさらに近づいていく。

ゲルミュッドは恐慌状態になり、リムルに向けて魔力弾を連射し始めたが、リムルが結界でも張っているのか、全て弾かれる。

流石のゲルミュッドでも、その事を悟ったのか、立ち上がり逃げようとしている。

その先には豚頭帝(オークロード)が居る、恐らく助けを求めるのだろうな…

 

「この愚図が!見てないで俺様を助けろ!ひゃはは!どこのどいつか知らんが、こいつの強さを思い知るがいい!やれ、豚頭帝(オークロード)!この俺に歯向かった事を後悔…」ドシュッ!

 

ゲルミュッドの首が刎ねられた。

転がる首…見ていて気分が悪くなってきた。

 

「」バキ、バキボリ

 

豚頭帝(オークロード)はゲルミュッドの身体を食い千切りながら、食べ進んでいく。

 

「」グッチャッグチャバリボリグチャバキ

 

うぷっ…マジで食っていやがる…子供とかが見たら、一生のトラウマものだぞ。

豚頭帝(オークロード)の下まで逃げて、此方を威嚇していたゲルミュッドは、豚頭帝(オークロード)の持つ肉切包丁(ミートクラッシャー)によって首を刎ねられ死んだ。

マジで小物だったな、あいつ…

だが、そんなのはどうでもいい、今一番まずいのは豚頭帝(オークロード)だ。

黄色く濁っていた目に光が宿り、知性の輝きが見て取れる。

本能のまま動いていたであろう豚頭帝オークロードが、自らの自我を獲得した瞬間である。

先程までとは比べ物にならない圧を感じる。

 

《確認しました。個体名ゲルドが魔王種への進化を開始します。》

 

なんだ?今の声…どこかで聞いたことがあるが…いいや、今はそんなことはどうでもいい…今、魔王種って聞こえた…つまり、豚頭帝(オークロード)こと、ゲルドは魔王の種?になったことだよな?……小物だったゲルミュッドを食っただけで、強くなりすぎだろ…!

すると、豚頭帝(オークロード)からオーラみたいなのが大量に出てきた。

 

「離れろ!奴から溢れ出る妖気(オーラ)に触れるな!」

 

リムルがそう叫び、俺やリムルの部下達が慌てて、豚頭帝(オークロード)から距離を取る。

 

「と、溶けたっす!オークの死体が溶けたっすよ!!」

 

1人のゴブリンが自身の目の前で起きたことを叫んだ。

触れただけで溶かす妖気(オーラ)か…何かのスキルか?

 

《…成功しました。個体名ゲルドは豚頭魔王(オーク・ディザスター)へと進化完了しました》

 

再び、あの声が聞こえてきて豚頭帝(オークロード)の進化が終わったと報告してきた。

豚頭魔王(オーク・ディザスター)……まさかの魔王になるとはな…!



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06話 誕生、豚頭魔王ゲルド

はい、また能力変更です
妄想者(オモイコムモノ)製作者(ツクリダスモノ)に変更します。


「オレの名はゲルド、豚頭魔王(オーク・ディザスター)ゲルドと呼ぶがいい!!」

 

豚頭魔王(オーク・ディザスター)となったゲルドは大声で魔王と名乗った。

すると、ソウエイと同族だろう者たちと一匹の大きな狼が臨戦体勢になった。

恐らく、豚頭魔王(オーク・ディザスター)を脅威だと察知したのだろう、俺も構えなしながら、GBバイザーをモーフィンブレスに設置した。

 

「リムル様!ここは俺達が!…シオン!」

 

リムルの後ろから現れた赤の鬼人が前に出て、誰かの名前を言う。

 

「はい!」

 

シオンと呼ばれた紫の鬼人が大剣を持って走り出し、豚頭魔王(オーク・ディザスター)へ斬りかかるも、肉切包丁(ミートクラッシャー)で受け止められる。

最初はシオンが押していたが、豚頭魔王(オーク・ディザスター)が力を込めて一気に押し返した。

隙を突いた豚頭魔王(オーク・ディザスター)がシオンを斬ろうとするが、後ろから現れた老人の鬼人によって首を斬り落とされたが、豚頭魔王(オーク・ディザスター)は一瞬は怯むも、そのままシオンを斬ろうとする。

シオンに避けられた後、豚頭魔王(オーク・ディザスター)は落ちた首を拾い上げて、首にくっつけた。

 

「首を断たれてもなお、動きよるか!」

 

首を斬られても死なないとか、魔王化しただけで強くなりすぎだろ!マジで!

これは俺も加勢をする必要があるなと思い、赤の鬼人の下へ近づいた。

 

「エムル殿…」

 

俺に気づいた赤の鬼人は右手に黒い炎を纏っていた。

名前を聞きたいが、今はそれどころじゃないな。

 

「えっと…お前達の技を全部アイツにぶつけてくれ、止めは俺がやる…!」パワードカスタム!レッツ、モーフィンターイム

 

「パワードモーフィン!」

 

レッドバスター パワードカスタムとなった、俺を見て周りの者達は少し驚いているが、最初に動き出したのはいつの間にか来ていたソウエイだった。

 

「操糸妖縛陣」

 

ソウエイが出した糸が繭の形をしながら、豚頭魔王(オーク・ディザスター)を覆う

 

「これでもう逃げられん」

 

「次はこっちだ…」

 

今度は赤の鬼人が繭に捕らえらている豚頭魔王(オーク・ディザスター)を中心に黒い半球形(ドーム)状の炎を作り出す。

 

「ランガ!黒炎獄(ヘルフレア)が消えたら、即ぶち込んでやれ!」

 

(リムル様より命じられたかったが…)「……承知した…」

 

ランガと呼ばれた狼は渋々承諾し、身構える。

十数秒後、半球形ドームが消失したその瞬間、ランガが空から黒い稲妻を豚頭魔王(オーク・ディザスター)目掛けて落とした。

 

「」レッツタイム、バスター

 

GBバイザーのボタンを押し構える。

稲妻が落ちた瞬間、目の前の輪っかを潜り抜け、豚頭魔王(オーク・ディザスター)目掛けて走り出す。

 

「ボルカニックアタック!!」

 

輪っかを潜り抜けた後、俺はCB-01チーターを模した炎の塊となって豚頭魔王(オーク・ディザスター)に突撃し、俺が身体を突き抜け瞬間、豚頭魔王(オーク・ディザスター)が大爆発する。

豚頭魔王(オーク・ディザスター)を突き抜けた後、俺は後ろを向いて様子を見た。

これだけの連撃を食らってるんだ…流石に死んでいるはず。

だが、流石は魔王…アレを食らってなお、生きていた。

 

「」グチャァ…

 

不気味なことに豚頭魔王(オーク・ディザスター)は自身の左腕を食べていた。

また気分が悪くなってきた…

 

「王よどうか私を…」

 

呆れながら見ていると、一体のオークが近づいてきては豚頭魔王(オーク・ディザスター)の前に跪いた。

 

「…ウム」

 

次の瞬間、豚頭魔王(オーク・ディザスター)肉切包丁(ミートクラッシャー)で、オークの首を斬り落としては、食い始めた。

そして、どんどんゲルドの身体が元通りになっていく。

一撃じゃあないと倒されないのか…!

俺がどのスーパー戦隊の力を使うか考えていたら、いつの間にかリムルが豚頭魔王(オーク・ディザスター)に傍に居た。

 

「リムル!今加勢に…!」

 

リムルに加勢しようとした時、

 

「シオン、エムル殿」

 

赤の鬼人に止められた。

どやらシオンも行こうとしていたらしい。

 

「何故止めるんですか!ベニマル様!」

 

なるほど、あの赤の鬼人はベニマルって言うのか…それより、何で止めるんだ?

 

「リムル様に言われたんだ…任せろってな」

 

リムルの奴、一人で倒すつもりか!?

だが、俺達の攻撃が効きにくかったのは事実だ…今はアイツにかけるしかないな…

 

「…鬼人、デカい牙狼…うまそうなエサが五匹はいたはずダ。牙狼はどこに行っタ?」

 

「ランガのことか?…俺の影の中だよ」

 

リムルが自身の影を指さした。

スキルで影の中に居るだろうか…?

 

「…喰ったのカ?」

 

「まさか、理由もなく仲間を食ったりしない……お前じゃあるまいし」

 

リムルの最後の言葉に腹が立ったのか、豚頭魔王(オーク・ディザスター)は急に肉切包丁(ミートクラッシャー)でリムルを斬りつけた。

 

「怒ったのか?意外だな…喰うことしか頭にないって思っていたのに」

 

リムルが火に油を注ぐように豚頭魔王(オーク・ディザスター)を煽る。

 

「っと!」

 

再び豚頭魔王(オーク・ディザスター)肉切包丁(ミートクラッシャー)を振った時、リムルの仮面に擦れその衝撃で仮面が外れる。

 

「リムル様!」

 

居ても立っても居られなくなったシオンが駆け寄る。

 

「仮面を持っといてくれシオン。大事なものなんだ」

 

「え?あ、はい」

 

シオンはリムルの言うとおりに仮面を拾い上げた。

 

「…つまらヌ…見た目通り、如何にも矮小な存在ダ」

 

豚頭魔王(オーク・ディザスター)は右手にゲルミュッドと同じような魔力弾を生成し始めた。

 

餓鬼之行進演舞(デスマーチダンス)!!」

 

ゲルミュッドの技を豚頭魔王(オーク・ディザスター)はリムルに向けて放った。

そのせいで土煙が立ち、リムルの姿が見えなくなった。

 

「…死んだカ」ザスッ

 

煙が晴れた次の瞬間、豚頭魔王(オーク・ディザスター)の腕が斬れて吹き飛んだ。

 

「了。」

 

豚頭魔王(オーク・ディザスター)の後ろで背を向けて居たリムルが、少し妙な事を口走った。

 

「「大賢者」へ主導権の一任を確認。自動戦闘状態(オートバトルモード)へ移行します。」



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07話 捕食者

黒炎を剣に纏わせ、リムルが走り出し、豚頭魔王(オーク・ディザスター)に斬りかかる。

左手で肉切包丁(ミートクラッシャー)を持った豚頭魔王(オーク・ディザスター)がガードするが、剣の炎により刀身が溶け出す。

 

「ちっ!」

 

豚頭魔王(オーク・ディザスター)が左腕で振り払うも、リムルは素早くゲルドから距離を取る。

 

混沌喰(カオスイーター)!」

 

妖気(オーラ)が実現化したものがリムルに一斉に襲いかかる。

リムルは妖気(オーラ)を淡々と避けていた。

ふと、あることに気づいた。いくら時間が経っても豚頭魔王(オーク・ディザスター)の再生が始まらない。

 

豚頭魔王(オーク・ディザスター)の腕が再生しない…?」

 

「斬り口に黒炎を燻らせヤツの再生を阻んでおるのでしょう。血止めになってしまうため致命傷には至りませんが…」

 

どうやらベニマルも気づいていたらしく、壮年の侍が説明してくれる。

もうなんでもアリだな、アイツは…

 

餓鬼之行進演舞(デスマーチダンス)!!」

 

再び豚頭魔王(オーク・ディザスター)が魔力弾を放つ、今度は俺達にも届く勢いだ。

 

「触れるな!腐食効果があるぞ!」

 

どうやらゲルミュッドの時と違って、腐食効果があるみたいだ。

ソウエイと俺で魔力弾に当たりそうになった者達を助け出す。

ソウエイは糸で、俺はスーパーダッシュで移動しながらイチガンバスターのエネルギー弾で相殺して行く。

 

「ようやく捕まえたゾ」

 

豚頭魔王(オーク・ディザスター)がそんなことを言ったため見てみると、豚頭魔王(オーク・ディザスター)の右腕が再生しており、再生した右手でリムルが捕まっていた。

 

「リムル様!」

 

「う、腕が再生してるっす!」

 

「彼奴め、炎ごと自らの腕を喰ろうたか」

 

「…悪食が」

 

全員が戸惑っている中、壮年の侍が冷静に説明してくれた。

ベニマルの言葉には共感できる…仲間を喰ったまではなく、自分の身体も喰らうなんて、とんだ悪食だな…

 

「残念だったナ…お前はここでオレに喰われるのダ…飢餓者(ウエルモノ)で「腐食」されたものはそのまま我らの糧となる」

 

「お前は腐り溶けて死ヌ」

 

豚頭魔王(オーク・ディザスター)が言う通りにリムルの身体が解け始めるが、少しだけ不自然だった。

 

「…否。」

 

炎化爆獄陣(フレアサークル)。」

 

豚頭魔王(オーク・ディザスター)の足元に魔法陣が現れ、そこから炎が一気に燃え上がる。

リムルは耐性があるのか、苦痛ではなさそうだった。

 

「な…にッ!?」

 

炎により、豚頭魔王(オーク・ディザスター)の身体がどんどん崩壊し始める。

この調子だと倒せそうだが、一筋縄ではいかないのが魔王だ。

 

「ふーっはっはっはっはっはぁ!!」

 

やはり、魔王だ…あっさりと耐性とかを獲得した。

 

「ふん、オレに炎は効かぬようだぞ…」

 

「そうかよ、炎で焼け死んだ方が幸せだったかもしれねぞ?」

 

「俺はお前を敵として認めた…今こそ、本気でお前の相手をしてやるよ!」

 

リムルは冷静さを保ったまま宣言した、その瞬間リムルが溶かされた…いや、自ら溶けた。

リムルの溶けてできた液体は豚頭魔王(オーク・ディザスター)にへばり付いた。

 

「き、貴様ァ…!!」

 

「言ってなかったけ?俺スライムなんだよ……喰うのはお前の専売特許じゃねぇんだよ」

 

あっ、そういえばスライムだったなアイツ…

 

「お前が俺を喰うのが先か…」

 

リムルは液体となった身体を豚頭魔王(オーク・ディザスター)の身体にさらにへばり付かせる。

 

「俺がお前を喰うのが先か……相手を喰い尽くした方の勝ちだ!」

 

「ぬおぉー--!!」

 

豚頭魔王(オーク・ディザスター)は腐食でリムルを溶かすが、リムルの再生スピードが圧倒的に早いため、どんどん豚頭魔王(オーク・ディザスター)を食べていく。

皆が見守る中、液体の中からリムルが人型になって出てきた。

 

「俺の勝ちだ…安らかに眠れ、ゲルド…」

 

リムルが出てきた…つまり、俺達の勝利だ。

 

ワアァァァァァァァ!!

 

オォオォォォ!!

 

味方は全員、武器を空に投げて勝利に喜び、敵側は武器を地面に落として敗北に嘆いた。

戦争は終わったが、まだまだ続きがある。

ゲルミュッドが言っていた後ろ盾の魔王について、そして何よりオーク達をどうするかだ…まあ、リムルに任せたらいいだろ。

そんなことを思っていたら、風が吹き、誰かが現れる。

 

「流石はリムル様、見事に約束を果たして下さいましたね」

 

現れたのは、リムルと知り合いらしい美人だった。

 

「いいタイミングだな、トレイニーさん」

 

なるほど、あの美人の名前はトレイニーというのか…

羨ましいなぁと俺が思っていた時、

 

「おい、あれ樹妖精(ドライアド)様じゃないか!?」

 

「えっ!?」

 

えっ!?樹妖精(ドライアド)だと!?あの、ゲームで有名な樹妖精(ドライアド)!!?おいおい、リムルの奴…なんて人と知り合いなんだよ…是非、俺も知り合いになりたいもんだ…

 

「森の管理者の権限において、事態の収束へ向けた話し合いを行います。日時は明日、早朝…場所はここより少し南西、森よりの広場…参加を希望する種族は、一族の意見をまとめ、代表を選んでおくように、以上です」

 

おお、流石は樹妖精(ドライアド)、まとめるのが上手いな~…

俺がほれぼれしていたら、トレイニーさんが後から付け足すように

 

「それから、異論はないと思いますが…議長はリムル=テンペストとします!」

 

と宣言し、リムルがえ!?という表情を浮かべる。

リムルお疲れさん、でも…こうなるとリムルに色々と聞くのは結構後になりそうだな~…

だが、この時の俺は知らなかった。この後、ジュラ大同盟成立として歴史に刻まれる重要な会談が行われた際、まさかの事態が起きることに…



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08話 ジュラの大森林副盟主

豚頭魔王(オーク・ディザスター)討伐の翌日。

 

「どうするつもりだ?」

 

会議前に俺はリムルに尋ねた。

 

「実はな俺はこうしたいんだ」

 

リムルが思っていることを聞いた俺は驚いた。

 

「確かにそれは夢物語かもしれないな…だが、俺もどっちかと言うとそっちの方がいいな」

 

リムルが思っていることは夢物語かもしれない。

だが、俺的にもそっちの方がいいと思い、賛成することにした。

 

「でも、それならこうした方が良くないか?」

 

「ほうほう、確かにいいかもしれないな…!」

 

会議までの時間、俺とリムルは案を出し合って話し合った。

そして、会議の時間となった。

湿地帯中央に仮設されたテントに、各々の種族の代表が集っていた。

この会議の出席者はリムルの鬼人とリムル、そして何故か居させられている俺。

リザードマンからは首領と新鋭隊長と副隊長、ガビルはどうやら反逆していたらしく、連れていかれた。

ガビルに連れてこられた数人のゴブリン達、樹人族(トレント)のトレイニーさん…そして、オーク達10名、飢餓者(ウエルモノ)の影響がなくなって、理性的な様子だが、その分罪の重さを自覚しているため、今にも死にそうな顔になっている。

 

「…えっー」

 

俺の膝の上に乗っかているスライム姿のリムルが話を始めた。この議会の議長はリムルなのだが、何故俺がリムルを膝の上に乗せる必要があるのかが、疑問だ…

 

「こういう会議は初めてで苦手なんだ…だから思ったことだけを言う、そのあとは民まで検討して欲しい」

 

まあ、戦後の会議なんて中々しないよな…

 

「まず最初に明言するが、俺はオークに罪を問う考えはない」

 

リムルの言葉で、オーク達が戸惑い始める。

正直、俺も驚いたがリムルは続けた。

 

「被害の大きいリザードマンからしては不服だろうが、聞いてくれ…彼らが武力蜂起に至った原因と現在の状況を話す」

 

リムルが話したのは、オークを襲った大飢饉、そしてゲルミュッドによる暗躍。

 

「────なるほど、大飢饉…それにゲルミュッドなる魔人の存在ですか…」

 

少し納得気味にリザードマンの首領は言った。

 

「だからと言って、侵略行為が許されないのは当然だが、逼迫した状況から分かる通り、彼らに賠償できるだけのた蓄えはない……っていうのはまぁ、建前なんだけどな」

 

「建前?」

 

リムルの建前という発言にリザードマンの首領は不思議そうに聞いた。

 

「では、本音の方を伺ってもよろしいかな?」

 

「……オークの罪は全て、俺が引き受けた。文句があるなら俺に言え」

 

リムルの言葉に、会議前に聞かされていた俺と鬼人達以外は少し驚いた表情をした。中でも、オーク達が一番驚いていた。

 

「お、お待ち頂きたい!いくらなんでも、それでは道理が…」

 

オークの中で一番上だろう、フードを被ったオークがリムルに申し出たが、

 

「それが魔王ゲルドとの約束だ」

 

リムルの次の言葉を聞いて黙り込んだ。

 

「なるほど…しかし、それは少々ずるいお答えですな」

 

まぁ、簡単には受け入れられないだろうな…

だが、リムルはここで引き下がるつもりはないようだ。

 

「魔物に共通する、唯一不変の法律(ルール)がある…弱肉強食、立ち向かった時点で、覚悟はできていたはずだ」

 

少し不満そうだったリザードマンの首領に対し、ベニマルが発言した。

ベニマルを見たリザードマンの首領は驚きながら、

 

「そなたは、ソウエイ殿と同じ鬼人か!」

 

と、言った後、納得した様子で

 

「弱肉強食…確かにその通り…駄々を捏ねては、リザードマンの沽券が下がりましょう」

 

「いいのか?」

 

「もとより、この戦の勝者はリムル様です。あなたの決定に異論などありません」

 

おぉ!なんて、素直なんだ…人間じゃあこうはいかないぞ。

 

「しかし、それはそれとして…どうしても確認せねばならぬことがございます」

 

「オークの罪を問わぬということは、生き残った彼らを全てをこの森にて、受け入れるおつもりですか?」

 

「確かにな、戦で数が減ったとはいえ、15万は下らないだろう」

 

確かにな…リムルから聞いた話だと、15万という数字は戦士だけの数ではなかった。

飢饉から逃れるため、全部族総出で出てきたらしい。

 

「エムルと共に考えたけど…夢物語のように聞こえるかもしれないが、森にすむ各種族間で、大同盟を結べたらどうだろうか」

 

「大同盟…」

 

大同盟ね…ありかもしれないな。

 

「オーク達には、ひとまず各地に散ってもらうが、その土地土地で労働力を提供してもらいたい」

 

「その見返りに我らは食糧や住む場所を提供するということですか?」

 

「そうだ…住む家なんかの技術支援は俺達の町の職人に頼む、もちろんタダじゃないぞ、ウチも人手不足だからオークの労働は当てにしてる…技術を身につけたら、そのうち自分たちの町を作ればいい。各地に散った者達とも一緒に住めるようになるだろう…最終的に他種族共生国家とか出来たら、面白いんだけどな」

 

リムルの説明を聞いた、リザードマン達やゴブリン、オーク達が驚いた顔で固まっていたり、ザワついていた。

 

「わ、我々がその同盟に、参加してもよろしいのでしょうか…」

 

少し不安そうな表情でオーク達が聞いてきた。

 

「ちゃんと働けよ?サボることは許さんからな?」

 

「もちろん…もちろんです!!」

 

リムルの言葉を聞いたオーク達は、リムルに向かって跪いた。

 

「…我らも異論はありません。ぜひ協力させて頂きたい」

 

今度はリザードマンが跪いた。

何やってるんだ?…同盟を結ぶために何か儀式でもあるのか…?

俺とリムルが跪こうとした瞬間

 

「何をなさろうとしておられるのですか?」

 

「「え?そういう儀式?みたいなのがあるんじゃ(ないか?」」

 

止めに入ったシオンに対して、息ぴったりに俺達は尋ねた。

 

「ありません、本当にもう、リムル様とエムル様(・・・・)は…」

 

次は鬼人達が跪き、後ろにはゴブリン達も跪いていた。

うん?今、シオンの奴…俺のことを様付けしたよな…?

俺と(恐らくリムルも)頭の上にはてなを浮かべていたら、

 

「よろしいでしょう…では森の管理者として、わたくしトレイニーが宣誓します」

 

トレイニーさんが何か言い始めた。

 

「リムル様をジュラの大森林の新たなる盟主、エムル様をジュラの大森林を副盟主として認め、その名の下に”ジュラの森大同盟”は成立しました!!」

 

はぁ!?リムルは分かるが、なんで俺が副盟主なんだよ!?…俺、数日前に来たばかりだぞ!!

待て待て待て!トレイニーさんが盟主じゃないのか!?森の管理者だろ!!?

そんな俺の思いとは裏腹に、トレイニーさんも跪いた。

…………………

 

「じゃあ、あの、そういうことみたいなんで、よろしく頼む」

 

「俺からもよろしく頼む」

 

ハハッ!!

 

こうして冷や汗が止まらない俺達を置き去りして、ジュラの森大同盟は成立した。

 

「き、休憩!いったん休憩にするぞ!!」

 

リムルが休憩を宣言した後、すぐさま俺はリムルを連れて、離れた場所に連れて行った。

 

「おいリムル!どういうことだ!!」

 

俺は思いっきりリムルを引っ張った。

 

「俺が聞きたいよ!!」

 

俺らが少し口論をしていたら、トレイニーさんがやってきた。

 

「あらあら、リムル様にエムル様…」

 

軽くお辞儀をしたトレイニーさんに俺は問い詰めた。

 

「なんで、俺が副盟主なんだよ!俺、数日前に来たばかりなんだが!!?」

 

怒っている俺に対して、トレイニーさんは澄ました顔で

 

「聞きましたよ、エムル様はリムル様と同郷の上に、不思議な力を扱うことができると…リムル様だけが盟主だと、大変だろうと思いまして、エムル様を副盟主にしたのです…実際、先程の大同盟を考えたのは、リムル様とエムル様のお二人なのでしょう?」

 

納得のいく事を言われたため、俺は何も言えなくなった。

トレイニーさん…なんて、食えない人なんだ…

俺は頭を抱えてリムルとトレイニーさんと共に会議場に戻った。



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09話 戦の後始末

短いです


ジュラの森大同盟が首領にアビルの森大同盟が成立したその日、最初に浮上したのは15万の飢えたオーク達の食糧問題だ。

 

「なにかいい案のある者はいるか!?」

 

リムルと俺が周りを見渡す。多くの者は考え込んだり、周りの者達と話し始めた。

このままオーク達が散っても移住先の食事情を脅かしてしまう。

魚や果物を採っても根絶やしにしそうだな…

考え込んでいたら、トレイニーさんが立ち上がった。

 

「それならばわたくしがお役に立てるかと」

 

「当てるがあるのか?」

 

「ええ」

 

俺が尋ねるとトレイニーさんは頷く。

 

「わたくしの守護する樹人族(トレント)も同盟に参加させて頂くのです。出し惜しみせず森の実りを提供致しましょう」

 

おぉ!有難いな、それは…!

だが、少しばかり問題があるようで

 

「ただ食糧を運ぶのに人手を借りたいのですけど」

 

…まだやってみたことがないが、特急烈車を使ったら全員分運べそうだな…だが、特急烈車はイマジネーションが強い者しか、見えない…どうした者かと考えていたら

 

「では俺が運搬の指揮をとります、嵐牙狼族(テンペストウルフ)を借りていいですか?」

 

「ランガ」

 

ベニマルが運搬の提案をし、リムルが影の方を見ながら、あの狼の名前を呼ぶと

 

「…我が一族を外に待たせてある、好きに連れて行くがいい」

 

リムルの影からランガが顔だけを出し、ベニマルに言った。

 

「なに?…お前行かないの?」

 

「我はリムル様のお傍にいます」

 

リムルがランガに訊ねると、ランガは答えてから影の中へと潜っていった。

ランガって、意外と甘えん坊だな…

 

「じゃあ、行ってきます」

 

ベニマルは食糧の運搬の指揮を取るために、場を後にした。

まあ、これで食糧問題は大丈夫そうだな。

 

「聞くが、今すでに飢え死にしそうな者はいるか?」

 

「王亡き今、「飢餓者(ウエルモノ)」の影響も弱まってきています。体力のない者から、倒れるのも時間の問題かと…」

 

……リムルが言うには、オーク達は飢餓者(ウエルモノ)の影響で一時的に、魔素…魔力のようなものが増えていたらしいが、豚頭魔王(オーク・ディザスター)が死んだ今、効果が徐々に失われている…弱った者は死を待つしかない。

それを防ぐには魔素が無くなる前に、同等量の魔素を与える必要があるらしい、その方法は至ってシンプル…名付けをすればいいらしい…15万の

普通、魔物には名前がないみたいなのだが、リムルは部下全員に名前を付けたらしい。

名前を貰った者は、種族の進化をしたり、スキルを獲得するらしい。まぁ、俺は魔素?がそんなにないと思うから、リムルの様子を見ているだけなんだけどな

朝っぱらから初めて、夕方ごろで最後の一人になった。

最後の者は豚頭魔王(オーク・ディザスター)の傍に居た側近らしきオークだった。

 

「お前には豚頭魔王(オーク・ディザスター)の遺志を継いでもらいたい…名はゲルド、死の間際まで仲間を思った、偉大なる王の名を継ぎ、ゲルドと名乗れ」

 

リムルの名付けにゲルドは跪き、

 

「その名を賜ることの重み、しかと受け止めました…我が忠誠を貴方様に!」

 

しっかりと返事をした。

 

「期待してるぞゲルド」

 

「ははっ」

 

次の瞬間、リムルが何かが切れたようにどろっと溶け出した。

 

「リムル!?」

 

「リムル様?リムル様!?」

 

俺はぐってりしているリムルを拾い上げた。

なるほど、これが言ってた魔素切れ…低位活動状態(スリープモード)か…さてさて、俺の仕事はこれからか…裏で、リムルに指揮を頼まれていた俺は、ベニマル達が戻ってくるのを待った。

ベニマル達が戻ってきてからはことがスムーズに進んだ。無事、オーク達への食糧配分が終わり、終わった頃にリムルが起き、二人でリザードマンの首領へ挨拶&リムルが首領にアビルと名付け、俺とリムル達はリムル達の町へとオーク達を連れて帰った。



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10話 俺のスキル

あれから3か月…俺は街の視察をしながらリムルの自室へ向かっていた。

最初は、リムルの部下達に受け入れられてもらえるか不安だったが、リムルと同郷なだけで、物凄い歓迎をされた。

街に出るとあっちこっちから挨拶をされる。

なんか、いい気分だな~

街は只今、建築ラッシュ状態だ…お蔭で街はどんどん大きくなっていっている。

そうこうしていたら、他のゴブリン達が一族郎党を引き連れてやってきた。

全員名前が欲しかったようで、リムルが燃え尽きるように名前を付け終わった頃には、街に住むもの全員の家が行き渡った。

まだまだな所もあるが、ある程度の体裁が整ったらしい。

今となっては1万を超える魔物達が平和に暮らしている。

そして、ようやくある程度片付けたことで、俺はリムルに色々と聞く暇ができた。

 

「よう、リムル居るか?」

 

「ん?どうしたんだ、エムル」

 

「エムル様…おはようございます」

 

リムルの自室に入ると、リムルは縁側で、シュナに膝枕をされていた。

少し羨ましいが、今日こそは聞いたかったので、リムルの隣に座り込む。

 

「シュナ…悪いんだけど、これからリムルと二人で話したいことがあるから、席を外してくれないか?」

 

「分かりました」

 

シュナは、リムルを俺の隣に置き、一礼して部屋から出て行った。

 

「でだ、リムル…お前のスキルで俺のスキルを見ることはできるか?」

 

「できるが…なんでだ?」

 

「まあ、俺のスキルがどんなものなのか、知りたいんだよ…知らなかったら、宝の持ち腐れだからな…」

 

「ふむふむ…よし!俺に任せなさい!」

 

そう言い、リムルはスライムの姿から人の姿へと変わった。

しばらくの間、沈黙が続いが、

 

「え!?」

 

リムルの驚いた声で破られた。

 

「お前、魔力感知持ってないの!?」

 

「魔力感知?なんだそれ…」

 

「そこからか…まあ、やってみる方が早いな…目をつぶって、周りを集中してみろ、そうしたら靄みたいなのが見えてくるから、それに意識を集中させてみろ」

 

リムルに言われたとおりに、目を瞑って周りに集中していたら、何かが漂っていた。

それにさらに意識を向けていると

 

《確認しました。エクストラスキル『魔力感知』を獲得…成功しました》

 

あの声が聞こえてきた。

 

《エクストラスキル『魔力感知』を使用しますか?YES/NO 》

 

取りあえず、YESで

俺がそう心の中で言った瞬間、頭に頭痛が走った。

 

「アダダダ!!」

 

「大丈夫か!?」

 

リムルが心配してくれている中、必死に痛みに耐えて、理解しようとしていたら

 

《確認しました。エクストラスキル『自動演算』を獲得…成功しました》

 

またあの声が聞こえてきた。

 

《エクストラスキル『自動演算』を使用しますか?YES/NO 》

 

い、YES!

俺が答えたら、脳の痛みがすっと引いて、死角だった場所が鮮明に脳内に流れて来た。

 

「…うおぉ!すげぇ!」

 

俺が感心していると、リムルはため息をつき

 

「はぁ…でも、驚いたよ…まさか、魔力感知がないのに俺らと話せていたとはな…」

 

「?…どういう意味だ?」

 

「そのままの意味だ、魔力感知はあらゆる場所が分かるだけじゃなくて、翻訳とかもできるんだよ…俺もそれで皆と会話しているから、てっきり、お前も魔力感知を持っているものかと思ったんだよ」

 

なるほど…うん?てことは、俺は何故か魔物の言葉を理解していたのか?……今考えてもどうにもならなそうだな…スキルについて聞くか

 

「まぁ、それは置いといて…俺のスキルはどうだった?」

 

「嗚呼…えっと、最初に目が付いたのは、ユニークスキル不死者(シヲコバムモノ)だな…まぁ、そのままの意味でお前は何がっても死ぬことはないけど、精神系の攻撃は食らうらしいぞ…」

 

なんだ、そのチート級のスキル…でも、よく考えたら、封印とかには弱そうだな。

 

「他は~…変身者(カワルモノ)もあったな…変身者(カワルモノ)は、お前が思っている者などに変わることができるみたいだな、物にでもなれるみたいだぞ」

 

ふむふむ、怪盗とかが使ったら最強だな。

 

「後は、製作者(ツクリダスモノ)だな…製作者(ツクリダスモノ)は頭の中で思った物を作り出すことができるみたいだな…だけど、作り出す物の大きさによってはお前の魔素を消費するらしいから、気を付けろよ」

 

「ああ…そうするよ」

 

ある程度のスキルを理解することできた。

リムル様々だな…

それからは、リムルと色々な雑談をした。

…何故だが、懐かしく感じるな…

俺はそう思いながら、リムルとシュナが用意しといてくれた茶を縁側で啜った。

 

 

ステータス

 

名前:エムル=テンペスト

種族:人間

加護:暴風の守り

称号:なし

魔法:なし

技能:ユニークスキル『不死者(シヲコバムモノ)

           ・不死…あらゆる攻撃を受けても死ぬことがないが、

            精神系の攻撃は食らうため、要注意。

           ・再生…普通の自己再生とは違って、自身の思い通りに

            再生スピードを変えることが出来る。

          『変身者(カワルモノ)

           ・変身…自分が思ったモノに変身することが出来る。

          『製作者(ツクリダスモノ)

           ・製作…頭の中でイメージした物を作り出すことが

               出来るが、大きさによって使用時の魔素の

               消費量が変わる。

エクストラスキル『魔力感知』『自動演算』

耐性:なし




『自動演算』
・自動的に演算してくれるスキル
簡単に言えば、自動的に演算処理をしてくれる大賢者の下位互換です。

では、これにて転生と森の騒乱編は終わりです。では、また次回に!

次回に転生する?
  >Yes
   No


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大空の支配者編
11話 魔物の町に注目する者達


たまに、バクかなんかで同じ文章が出てくるので、気づいたら訂正します。
良かったら、誤字とかと一緒にご報告お願いします。


ドワーフの王ガゼル・ドワルゴは、暗部より報告を受けると思案に暮れる。

気になる魔物スライムを観察するよう申し付けた暗部は、無視出来ぬ報告を王へともたらしたのだ。

魔物の住む町を建設中。

冗談か? そう思いかけたが、暗部が冗談を吐く事など有り得ない。

事実を端的に報告してくる。そして、報告には続きがあった。

豚頭族(オーク)の群れが暴走を開始。

蜥蜴人族(リザードマン)と戦闘状態に。

謎の魔物集団の参戦により、終戦。

謎の魔物達は、例の魔物スライムの一味であると思われる。

 

「───王よ、暗部はなんと?」

 

「…新勢力の介入により豚頭帝(オークロード)は討伐されたと」

 

「なんですって!?一体どこの国の部隊が…」

 

「国と呼べるかはまだわからんな」

 

報告書を蝋燭の火にくべて、燃やす。

 

「確認出来たのは、ホブゴブリンに牙狼族の変異種、それに鬼人と思しき、魔人が4名…それに恐らく、スキルだろうが、不思議な力を使う人間が1人…」

 

「鬼人!?」

 

「その全てが例のスライムの配下だと思われる…という報告だ」

 

「鬼人を従えるスライムだって?豚頭帝(オークロード)より、よっぽど捨て置けないじゃないか」

 

「どうなさるおつもりですか、王よ」

 

 

現在、森の魔物の活性化による被害は思いのほか少ない。

ヴェルドラが存在していた時期より若干増えたのは確かだが、多い年と比べたら差異は無かった。

最低でも、この倍以上の被害が出ると予想されていたのだ。

森の治安を維持する要因があるのは間違いない。それは恐らく、例の魔物スライムが関係している。

そして、豚頭族オークの群れの暴走と終息。

もし、オーク達が暴走を続け町へと雪崩れ込んでいたら、被害の規模は想像を絶する。

その矛先が自分達へ向かなかったという保障は無い。事は、運が良かったで済む問題ではないのだ。

至急、会う必要がある。王の判断は早かった。

敵にまわるのは避けたい。幸いにも、自分達には、ドワーフの協力者がついている。

国外追放の件には触れず、上手く交渉を進めるべきだ。

いや…、それよりも確実な手を打つ方が良いかも知れぬ。

王は決断を下し行動を開始する。

 

「決まっておろう」

 

王は燃えカスとなった紙から手を放す。

 

「余、自ら見極めてやろうではないか…あのふてぶてしい、スライムの正体をな」

 

────────────

 

ある魔王の城にて、3人の魔王がテーブルを囲んで座っていた。

 

「…来ましたか」

 

4人目の魔王がようやく来たようで、4人目の魔王…ツインテールの少女は空いていた席に座り込んだ。

 

「で?計画はどうなったのだ?」

 

「それが…」

 

少女は白いタキシードのような者から、計画の失敗を聞く。

 

「───何だと!?では、豚頭帝(オークロード)を魔王化させるという話はどうなるのだ?」

 

「ですからミリム、豚頭帝(オークロード)が死んだ以上、この計画は白紙に戻すしかないでしょう」

 

「久々に新しい魔王(オモチャ)が生まれると思ったのに!」

 

ミリムと呼ばれた少女は、イラついていたのか、机の上にあったティーカップを投げつけた。

 

「つまらぬのだ! どこのどいつなのだ!?豚頭帝(オークロード)を倒したのはっ」

 

イラつきながら、ミリムは椅子に座り込んだ。

 

「そもそも、ゲルミュッドの野郎は急ぎすぎたな、計画の言い出しっぺが、出張って返り討ちに遭うなんざ、世話のねぇこった」

 

金髪の男、十大魔王が一柱 カリオンが椅子に持たれていた。

 

「カリオンの言う通りなのだ! フレイもそう思うだろ?」

 

背中から翼が生えている十大魔王が一柱 フレイと呼ばれた女性は、呆れた表情を浮かべ

 

「あのねぇ、ミリム…私があなた達の計画とやらを知るわけがないでしょう?」

 

どうやら、フレイは無理やり連れて来られたようだ。

 

「む、そうか」

 

あっ、とした表情をミリムは浮かべた。

 

「つーかよ、なんでここにいるんだ、フレイ」

 

「それは私が聞きたいくらいだわ」

 

カリオンの質問にフレイは少しだるそうに答えた。

 

「面白いから来いって、ミリムに無理矢理連れて来られたのよ…私は忙しいと、断ったのだけどね」

 

フレイの言葉に、ミリムは満面の笑み浮かべていた。

 

「いいのかよ、クレイマン」

 

「……」

 

カリオンにクレイマンと呼ばれた白いタキシードのような物を身に纏っていた男は

 

「…まぁ、いいでしょう、今更です」

 

パチン、と指を鳴らし、4つの水晶玉を出現させる。

 

「ひとまず、計画は頓挫したわけですが…少々軌道を修正してやれば、まだチャンスはあります」

 

十大魔王が一柱 クレイマンは、4つの水晶玉に片手をかざしては、水晶玉を光らす。

 

「まずはこれをご覧ください」

 

「なんだこりゃ」

 

カリオンが不思議そうに水晶玉を覗き込む。

 

「ゲルミュッドの置き土産です」

 

「む?なんなのだこいつら」

 

ミリムが持ち上げた水晶玉には、ベニマル、ハクロウ、シオンが映った。

 

「鬼人?」

 

ミリムがボソッと、呟くとクレイマンが続けて喋り続けた。

 

「ジュラの大森林から湿地帯にかけての戦いの記録です…豚頭帝(オークロード)以外にも、面白い者どもが映っているでしょう?」

 

水晶玉にはベニマル達だけどはなく、ソウエイ、ランガ、リムル…そしてレットバスターに変身するエムルが映っていた。

 

「おお…っ!」

 

目をキラキラと光らして、ミリムが水晶玉を見ていたが、突然真っ暗になる。

 

「ゲルミュッドが死んだせいで、これ以降の展開は不明ですが、これ程の者達が相手となると、豚頭帝(オークロード)は倒されたと、見るべきでしょうね」

 

「もしも、生き残っていた場合、彼らを餌に豚頭帝(オークロード)は魔王へと進化している…」

 

クレイマンとフレイが話し合っている中、ミリムはもう一度、水晶玉の映像を再生した。

 

「そうでなかったとしても、彼らの中には、魔王に相当する力をつけている者がいるかもしれない…なるほどね、つまり貴方達の計画というのは、新たな魔王の擁立…といったところかしら」

 

「さすがフレイ、ワタシ達の目論見を見事に看破するとは!」

 

ミリムは、満面の笑みを浮かべながらフレイを褒めた。

 

「呆れた、随分大胆なことを考えたものね…あの森が不可侵条約に守られていることをお忘れかしら」

 

野良の魔人(ゲルミュッド)が私に持ち込んだ計画です。魔王(我々)が直接、動くわけではないので、条約に抵触しませんよ」

 

呆れているフレイに対して、クレイマンは紳士的な笑みを浮かべる。

 

「いいじゃねぇか、別に大軍率いて、攻め込もうってワケじゃねぇし…強者を引き入れるチャンスだっつーから、俺も乗ったんだ」

 

カリオンは、1つの水晶玉を掴み、映像を再生し始める。

カリオンが持った水晶玉には、エムルが映っていた。

 

「見た限りじゃあ、豚頭帝(オークロード)より、こいつらの方が美味い…しかもだ、この人間は面白そうなスキルを持っていそうだしな」

 

クレイマンは椅子に平然と座りながら、考え事をしていた。

 

(…まぁカリオンとミリムはそんなところでしょう…問題は飛び入りのフレイですが…来訪時から何か別のことに心を囚われている様子、その内容によっては恩を売ることが可能でしょう)

 

魔王間の条約において、その可否を決める時、提案した魔王の他、二名の魔王の賛同が必要となる。

自分の意見に追従する。魔王の存在は他の魔王に対し大きく優位性を得ることになるのだ。

 

(…悪くない。豚頭帝(オークロード)を失ったのは痛手ですが、むしろこの展開は理想的だ。魔王二人…うまくいけば三人に貸しを作ることが出来るのなら、十分にお釣りが来る…あの魔人どもには、ミリム達を釣る餌になってもらいましょうか。まずは森の調査を…「よし!」

 

「では、今から生き残った者へ、挨拶に行くとするか!」

 

「…は?」

 

ミリムは胸を張って宣言し、その宣言に対して、他の魔王達は驚いていた。

 

「いやいやいや、落ち着けよミリム、ジュラの大森林には不可侵条約があるっつってんだろ」

 

「そうですよミリム、堂々と侵入しては他の魔王たちが黙っていません。まずは私が内密に調査を…」

 

クレイマンの提案にミリムはきょとんとした顔で

 

「何を言っているのだ…不可侵条約など、今この場で撤廃してしまえばいいではないか、ここには魔王が四人もいるのだぞ?」

 

「え!?…あっ」

 

全員がはっとした表情を浮かべる。

 

「あの条約はそもそも、暴風竜ヴェルドラの封印が解けないように締結されたものなのだ…暴風竜は消えたというウワサだしな、もう必要なかろう? 数百年前の話だし、お前達は若い魔王だから、知らないのも無理はないのだ」

 

他の魔王達は互いの顔を見合わせ

 

「そういうことなら、条約破棄に反対する者もいないだろう…俺は賛成だ」

 

「私も賛成ですわね、元々私の領土はあの森に接しているし、不可侵と言われても面倒だったのよね」

 

最初に賛成をしたのはカリオンだった、それに続いてフレイも賛成した。

クレイマンはため息をした。

 

(…最も単純に見えて最も老獪な魔王、やはり侮れませんね)

 

「…いいでしょう、私も条約の撤廃に賛成です」

 

クレイマンが指を鳴らすと、書類とペンが現れた。

 

「今すぐ、他の魔王たちへ通達しましょう…受理が確認され次第、行動を始めることになります…無難なのはまず、人をやって調査することかと思いますが…」

 

「おいおい、こりゃ新しい戦力を手に入れようって話だろ。まさか協力しよってか?」

 

「そうね…どうせなら競争した方が潔いのではなくて?…それで遺恨を残すほど、器の小さい者はここにはいないでしょう?」

 

「いいな、それ。恨みっこなしで、早い者勝ちなのだ!」

 

一番最初に書き終わったミリムがにこやかに言った。

 

「お互いに手出しは厳禁、約束なのだぞ?」

 

「ええ、わかったわ」

 

獅子王(ビーストマスター)の名にかけて、俺様も約束しよう」

 

「そうなるだろうと思いました…では、今後は各々の自己責任ということで」

 

クレイマンはため息をつくなか、ミリムは

 

「ワタシはもう行くのだ!…またな!!」

 

笑いながら部屋から出て行った。

 

「俺ももう行くぜ、配下から調査に向かうヤツを選らばにゃならねぇ」

 

「ワタシも失礼するわ」

 

ミリムに続けてカリオンとフレイも立ち上がって、去ろうとする。

 

「フレイ」

 

クレイマンがフレイの名前を言い、フレイを止めた。

 

「何かお困りでしたら、相談に乗りますよ…いつでも頼ってください」

 

「……」

 

紳士的な笑みを浮かべているクレイマンを少しの間、振り返って見ていたフレイは、正面に顔を向け

 

「…そ、ありがとう」

 

そう言っては去っていた。

最後のフレイが去った後、クレイマンはニィと笑う。

 

「ミリム、カリオン、そしてフレイ…さてさて、また森が騒がしくなりそうですね…」



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12話 魔素量上昇修行

人によってはグロ注意です。


「お前、魔素量上げた方がいいぞ」

 

縁側でくつろいでいたら、スライム姿のリムルがなんか言ってきた。

 

「なんで?」

 

別に魔素量を気にしてなかった俺は不思議そうにリムルに聞いた。

 

「だって、お前の魔素量この町で低い方だぞ、実力はお前の方が高いけど…魔素量で言うと、まだまだだ…だからこそ、魔素量を上げる必要があるんだよ」

 

スライム顔でニヤっと笑ったリムルに、俺は恐る恐る言った。

 

「魔素量を上げる方法とかあるのかよ…まさかと思うが、お前みたいに魔物を食らうとかじゃないよな?」

 

「そのまさかだよ」

 

かっこつけた顔で言うリムルに対して、俺はその場で固まった。

何言ってんだこいつ、俺にはそんな便利なスキルなんてないし、俺は普通の人間だ。

 

「実はな、いいスキルを俺(大賢者)が見つけたんだよ…その名も、エクストラスキル悪食!」

 

人の姿へと変わったリムルは自慢げに言った。

悪食…聞くからにやばそうなスキルだなおい…!

 

「まあ、百閒は一見に如かずだ!…それじゃあ、俺は悪食の習得に居る物を取ってくる…!」

 

そう言い、リムルは翼を背中から出し飛び去って行った。

いやな予感がする…

嫌な予感を感じつつも、俺はリムルの帰りを待った。

数分後、リムルが帰ってきた…デカい蝙蝠を片手に、

 

「さあ、食え!」

 

笑顔で蝙蝠を俺の横に置く。

…何これ、嫌がらせか?

 

「…マジで行ってる?」

 

「マジだ、悪食の習得方法は、人が食べないゲテモノを食べること…俺ら魔物は習得できにくいが、人間のお前なら習得できるはずだ…あっ、ちなみに調理したら意味がないから生で食えよ、お前の場合不死者(シヲコバムモノ)なら、菌と書いて大丈夫だろ?…それに血抜きはしてあるから」

 

こ、この悪魔がぁ~…!!いくら、俺のスキルが不死だからって、それはないだろ~…

だが、これしか俺の魔素量を上げるしか方法がない…ええい!男は根性!!

もうどうにでもなれと思いながら、俺は蝙蝠にかぶりついた。

マッッッッッッズゥ!!!

心の中でそう叫んだ。

うへぇ、クソ不味いぃ…!

後で美味しい物を食べようと思いながら、俺は食べ続けた。

蝙蝠を数十分かけて、食べ終わった時

 

《確認しました。エクストラスキル『悪食』を獲得…成功しました》

 

マジでゲットしちゃったよ…悪食…

確認し終えた俺は、すぐさま口直しのお菓子を食べた。

ああ、いつも食べているお菓子なのに、なんでこんなにも美味しいんだろう…

俺がシミジミとお菓子を食べていたら、

 

「はい、追加入りまーす!」

 

そう言い、リムルがいつの間にかに作っていた魔物の料理が運ばれてきた。

数匹の蝙蝠の天ぷら、蛇の丸焼き、そしてやばいオーラを出している紫色の物体。

 

「な、なぁ…まさかとか思うが、これ全部食べろと?」

 

「そうだが?」

 

……こいつの前世マジで何やってたんだよ!

絶望をしている俺に、リムルはポンと、肩に手を置いては

 

「安心しろ、最後の物体以外はゴブイチが美味しく仕上げてくれたから…」

 

「…おい、じゃあこのダークマターみたいなのは誰が作ったんだよ…」

 

「………シオン…」

 

「」

 

嗚呼…なんだか今、俺のシオンのイメージがバラバラと崩れ去っていく気がする…

 

「ま、まあ上手いことに言ったら、ゴブタのように耐性を手に入るかもしれないから、がんばれ!…じゃあ、俺は町の様子を見てくるから!」

 

リムルはそそくさと、その場を去っていった。

逃げたな、あのプニプニ…

しばらく料理を見つめては、恐る恐る蝙蝠の天ぷらを箸で取り、出汁につけて食べる。

触感は良くないが、先程の蝙蝠と比べたらましだ。

下処理をしてくれているお蔭か、生よりマシだ。

サクサクと食べ進めては、次は蛇の丸焼きだ。

結構な大きさのだから、食うのに時間がかかりそうだな~と思いながら、食べ始める。

美味い、物凄く美味い!…蛇肉は鳥肉とかと似ているとよく効くが、その通りかもしれない。

だが、俺は途中で箸を止めた、いや手が止まったのだ。

ビリビリと全身が痺れる…もしかして、これって…

 

《確認しました。麻痺耐性を獲得…成功しました》

 

あのクソスライム…!!相手を麻痺らせる能力を持っている蛇を喰わせやがった!

ま、まあ…麻痺耐性が入ったのはいいかもしれない、うん…問題がこれだよ

チラッと、俺はダークマターに目を向けた。

 

オォォオォォォオォ

 

なんか叫んでるよ!何をどうすればそうなるんだよ!

こ、この場で俺の命が助かる方法は…

辺りを見渡しても、誰も居ない…あぁ、終わった…

腹をくくり、思い切って俺は食べた。

 

「…グ…ぐがああぁあぁぁぁあ!!」

 

一口食べた瞬間、俺は地面に倒れこんではのたうち回った。

 

「あがあぁぁぁあぁぁああ!!」

 

散々叫んだあと、俺は泡を吹いた。

 

《確認しました。毒耐性を獲得…成功しました》

 

意識がもうろうとしている中、声が聞こえ、俺はその場で気絶した。

 

────────────

 

気が付いた時、俺はベットで寝かされていた。

 

「おぉ!お目覚めになりましたか!エムル様!」

 

ふと、声がした方を見ると、この前の戦いに居たガビルが居た。

だが、カビルの姿は少し変わっていた。

聞いたら、どうやら蜥蜴人(リザードマン)から龍の角、龍のうろこ、龍の翼(収納可)がある、龍人族(ドラゴニュート)となっていた。

 

「我らは、リムル様に名づけをしてもらったため、龍人族(ドラゴニュート)へと進化できたのです…これからは、リムル様とエムル様のために働かせてもらいます」

 

「お、おう…」

 

こうして、ガビル達が仲間となった。

そして、どうやら蜥蜴人(リザードマン)の元親衛隊長も、見聞を広める目的で、リムルの下に来たらしい、勿論名づけをしたのだが…ガビル達と違って、元親衛隊長こと、蒼華(ソーカ)とソウエイの下に付いた者達は、人型に近い姿に進化した。

角や羽は収納可能のようなので、人間の国とかで、諜報活動なんかもできそうだ。

余談だが、リムルはガビルを最後に名付けた後、低位活動状態(スリープモード)になったらしい。

それを聞いて俺は、心の底から笑った。

 

────────────

 

数日後、俺は死に物狂いで魔物を食べて行ったため、『悪食』のお蔭で魔素量がどんどん増えていき、今ではシュナと同等の魔素量になっていた。

自分用に作ってくれた自部屋で、今日も今日とて、ゴブイチが美味しく仕上げてくれた魔物の料理を食べている。

あんなに不味い魔物をどうすれば、こんなにも美味しく作れるのだろうか…!

…そういえば、ベニマルが死んだ目で、

 

「も、もう魔物の料理を食べるのはやめてください…!!」

 

と、必死に止めて来たな…何故だがは知らんが…

ふと、ダークマターを思い浮かべる。

ま、まぁ、気のせいだろうな…うん、きっとそうだ!

俺がいつも通りに飯を食べていたら、外が騒がしくなってきた。

 

「エムル様!」

 

俺のところに来た筋肉マッチョのホブゴブリンである、リグルドが慌てた様子で入ってきた。

 

「どうしたんだ?」

 

料理を口にほおばりながら俺は尋ねた。

 

「実は、リムル様が避難命令を出されまして…」

 

リムルが避難命令を?…なんかやばそうだな…

 

「分かった、俺はリムルの下に向かう…リグルドは引き続き、皆の避難誘導を頼む」

 

「ははっ!」

 

一礼をしたリグルドは、部屋から出て行った。

魔力感知をフルで発動させていると、リムルと髭の濃いおっさんが剣を抜いて、一騎打ちをしていた。

おっさんの後ろには、ペガサスと武装した兵士達が居た。

そして、リムルの後ろには、何故かブチ切れ寸前のベニマル、ソウエイ、シオン、シュナが居た。

どういう状況だよこれ!

そう思いながら、現場へ向かった。




『悪食』
・魔物の魔素量(エネルギー)を奪うことが出来る、料理しても吸収魔素量(エネルギー)は変わらないが、魔物の一部だけを食べるとなると、一部の魔素量(エネルギー)しか奪えない。
魔物の魔素量(エネルギー)のみ喰らうことが出来る捕食者の下位互換。


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13話 魔国連邦

リムルの下に向かっていると

 

「エムル様」

 

と、声が聞こえたので、後ろを振り返ると、ハクロウが歩いていた。

 

「エムル様も向かわれるのですか?」

 

「まぁな…でも決着がついたな」

 

「ですな…」

 

俺らが着いた時には、おっさんが高笑いしながら負けを認めた。

 

「ほっほっほっ、お見事でしたなリムル様」

 

「ハクロウ…それにエムルも」

 

ハクロウの声で俺達に気づいたリムルは、俺らの方に顔を向けた。

 

「ですが、打ち込みの方はまだまだ…明日からもっと厳しくせんとなりませんな」

 

「うへぇ」

 

ハクロウの言葉に、リムルは嫌そうな声を上げる。

ハクロウはリムルの部下達だけではなく、リムルと俺にも剣術を教え込んでくれている。

なお、今の俺の実力だと、スキル(スーパー戦隊の力)を使ってもハクロウには勝てない。

リムルとハクロウが話していると、ハクロウに気づいたおっさんが、

 

「失礼ですが、剣鬼殿ではありませんか?」

 

目を見開いてハクロウに尋ねた。

 

「…先ほどの剣気、如何なる猛者かと思ってみれば、ずいぶんと成長なされた」

 

ん?

 

「剣鬼殿にそう言って頂けるとは、恐縮です」

 

え?

 

「ふむ、森に迷っていた小僧に剣を教えたのは、懐しき思い出」

 

え?

 

「あれから300年になりますか」

 

え?なに?ハクロウとおっさんって知り合いなのか?

魔力感知でリムルの様子を見てみると、リムルも驚いていた。

…てことは、あのおっさんとリムルと俺は、兄弟子ってことになるのか?

そうこうしていたら、おっさんは

 

「さぁ、早く案内してくれリムル」

 

勢いよく、リムルの背中を叩いた。

どうやら知り合いらしい…

 

「上空から見たかぎりじゃ美しい町並みだったぞ? 美味い酒くらいあるのだろう?」

 

「…まぁ、あるけど」

 

────────────

 

そして、おっさん達…武装国家ドワルゴンのガゼル王と幹部達がやってきたその晩に、宴が始まった。

 

「「魔物の危険度?」」

 

ガゼル王の言葉に、俺とリムルははもりながら、言い返す。

 

「そうだ、大まかな区分だがな」

 

ガゼル王は魔物の危険度を教えてくれた。

 

「”災害級(ハザード)””災厄級(カラミティ)””災禍級(ディザスター)”と上がっていく、例えば豚頭帝(オークロード)災害級(ハザード)だ、軍勢は別だがな」

 

なるほどな、でもリムルが倒した時は魔王に進化してたが…

 

「魔王はどこに区分されるんだ?」

 

俺と同じことを考えていたのか、リムルがガゼル王に尋ねる。

ガゼル王は酒を飲みながら答えた。

 

「魔王ならば災禍級(ディザスター)だな、怒れる魔王など災禍そのものだ、うっかり出会っても手を出すなよ」

 

後に付け足すようにガゼル王は助けてやらんぞと言った。

リムルはそれに対して、

 

「出さないって」

 

笑って返事をした。

 

「それにしても、ここの料理は美味いな」

 

「まぁ、魔物を美味い料理に調理できる、料理人が居るからな!…あっ、出されている料理には魔物を使ってないからな」

 

「……リムルよ、あの人間はどのような食生活をしてるのだ?」

 

「…」

 

俺が笑って答えたら、ガゼル王は少し心配した顔で、リムルに尋ねるが、リムルは顔を背けた。

にしても、魔王ねぇ…どんな奴が魔王なんだろうな…!

しばらくの間、料理と酒を楽しんでいたら、

 

「リムル、エムルよ。俺と盟約を結ぶつもりはあるか?」

 

それを聞いて、俺とリムルは目を見開いて驚いた。

何言ってんだこのおっさん。

 

「二人揃って、「何言ってんだこのオッサン」みたいな顔をすんじゃない」

 

ガゼル王はツッコミをした後、話を続ける。

 

「この町は素晴らしい造りをしていた。ここはいずれ交易路の中心都市となるだろう…後ろ盾となる国があれば、便利だぞ?」

 

少しの間があり、リムルが喋る。

 

「…いいのかよ、それは俺達を…魔物の集団を国として認めるということだぞ?」

 

「無論だ、これ王として言っておる。当然だが、善意の言葉ではない…双方の国に利のある話だ」

 

「…俺達をだまそうとしてないよな?」

 

俺が疑いのまなざしでガゼル王を見ると、ガゼル王は笑いながら

 

「ふははははっ、恩師や樹妖精(ドライアド)を前に、その主らを謀ろうなどとはせん…条件は取りあえず二つだ…一つ、国家の危機に際しての相互協力、二つ、相互技術提供の確約……なに、答えは急がずともよい、よく考えるがよい」

 

ガゼル王は酒が入ったコップを口に運び、酒を飲む。

ガゼル王が一口、酒を飲んだ後、リムルは決断した。

 

「…いや、この話、喜んで受けたいと思う」

 

リムルの決断を聞いたガゼル王は、ふっと笑い

 

「王者に相応しき決断力だ、さすがは俺の弟弟子よ!」

 

リムルの事を褒めながら、背中を叩いた。

だが、これは願ってもない話だ。

本来なら何十年以上も魔物の町が人間や、亜人に受け入れられるには時間がかかると俺とリムルは思っていた。

まさかこんなに早く、認めてもらえるとはな…

 

「で、お前達の国の名はなんというのだ?」

 

え?

ガゼル王の言葉にリムルはチラッとこっちらを見てきたが、俺達は首を横に振った。

 

「いや…まだ国という段階でもなかったからな、俺とエムルはジュラの森大同盟の盟主と副盟主だけど、国王ってワケじゃないし…」

 

「リムル様とエムル様を王と認めぬ者がいたならば、このシオンが…」

 

シオンは剛力丸を取り出し、鞘から抜こうとしていた。

 

「ちょ!しまいなさい!」

 

俺が注意すると、シオンは寂しそうな顔をした。

 

「国の主を決めるって話ならリムル様とエムル様で決まりだと思うぜ…力ある者に従うのは、魔物の本能だが、少なくとも俺たちは、それだけで配下になったわけじゃないしな」

 

ベニマル達はリムルと俺を推した。

 

「待て待て、国の主は一人しか駄目だろ」

 

「エムルの言うとおりだ、しかも、ここには森の管理者だってい───

 

「あら?別に陛下が二人居てもいいと思いますよ、リムル陛下、エムル陛下」

 

トレイニーさんは笑顔で言い、コクコクと酒を飲み進めている。

俺とリムルがトレイニーさんをジト目で見ていると、

 

「ここの王は貴様ら以外におらんようだな」

 

ガゼル王がそれぞれの頭に手をのせて来た。

 

「では明日の朝までに国名を考えておけ、そして今夜は酒に付き合え」

 

「「考える時間くれないのかよ!!」」

 

なんだかんだで、ドワーフ達との宴会は、朝方近くまで続いた。

なお、国名は宴会の合間を縫って、俺とリムルで話し合った。

 

─────翌日

 

魔方陣が書かれているテーブルを挟んで、ガゼル王達とリムルと俺達が向か遭っていた。

 

「では、これよりドワルゴンと、ジュラ・テンペスト連邦国における協定に証として、両国の代表による調印を行います」

 

俺達のこの盟約は、魔法により保証され、世に公開される。

俺達の国の名前は『ジュラ・テンペスト連邦国』蜥蜴人族(リザードマン)樹人族(トレント)など、支配地域を持つ種族も加わるので「連邦」にしたのだ。

リムルが名前を書いた後、次は俺の名前を書く、まだこの世界の字は書けないため、少し前にリムルに教えて貰った文字を書く。

何故か、文字だけは読めるんだよな…

俺が書き終わった瞬間、光の玉が出てきて、はるか上空に昇って行っては、上空で炸裂した。

そして、この瞬間、俺たちの国の名が、初めて世に知られることになる。

ちなみに、この町の首都は中央都市「リムル」、リムルは恥ずかしいのでやめさせたかったようだが、皆で押し切った。



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14話 魔王襲来

テンペストの首都リムルは、毎日千客万来だ。

多くの者達は友好的な魔物やドワーフ達で、俺とリムルへの挨拶や町の見学が目的のようだ。

たまに、庇護を求めての来訪なんてのもあった。

そのため、リムルに妖気(オーラ)を抑えるように言われ、リムルの教え通りに妖気(オーラ)を抑えている、だからか、たまに他所の魔物達に嘗められる。

 

「へっ!!人間風情が嘗めるなよ!!」

 

物騒な奴らがちょくちょく、俺にかかてくるが…

 

「ようこそ、魔都リムルへ…で、ご用件はなんでしょう?」

 

「ずびなぜんでじだ」

 

大体が俺とリムルの秘書をやっているシオンにボコられ、半殺し状態で終わる。

俺とシオンに抱えられたリムルが、様子を見るために森の中を歩き進む。

そんな俺らを木の影から見ている者達が居た。

 

「スライムと人間が王だと?調子に乗りやがって…」

 

「しかも、襲ってきた相手を殺しもしない、お人好しらしい…」

 

「じゃあその座も、笑顔で譲ってくれんじゃねぇ…ガッ!」

 

一人が空中に浮かび上がる。

 

「なっ…誰だ!?」

 

1人が空中でバタバタと暴れている中、もう一人が上を見ると、ソウエイが木の上に居た。

 

「確かにあの方々はおやさしい…お前らのような輩すら「殺すな」と、命じられているくらいだ…だが」

 

ソウエイは刀を抜き、釣り上げた一人に刀を向ける。

 

「「甚振るな」とは命じられていない」

 

ソウエイは少し不気味な笑みを浮かべた。

 

「今、何か悲鳴が聞こえなかったか?」

 

確かに、今なんか悲鳴が聞こえたな。

リムルの言葉に俺は共感していると

 

「今朝、ハクロウ様がゴブタの訓練レベルを上げると、言ってましたから」

 

「「…納得」」

 

シオンの説明を聞いて、俺とリムルは納得した。

恐らく、俺たちは新興勢力として試されている所だろうな。

とりあえず、来る者は拒まず、俺たちの存在を認知してもらうとするか。

と、俺たちは思っていたが

何かを察したリムルが、シオンから離れ、猛スピードで走って?行った。

 

「リムル様どちらへ…」

 

リムルが向かった目的は、あれ(・・)だろうな、俺もリムルの後を追って、走り出す。

魔力感知で強大な魔力の塊が飛来してくるのを捉えた。

リムルに追いついた俺は門の外へと飛び出す。

案の定、魔力の塊は空中で軌道を変化させ、俺ら…いや、恐らくリムルを追尾して来た。

とんでもない速度だ、何をどうすればあんな速度が出るのだろうか。

町の外出て、森の中で俺らは迎え撃つ事にした。

俺はアクセルラーをリムルはいつでも刀を抜ける態勢になった。

覚悟を決めると、その魔力の塊が俺らの目の前に着地した。

魔力の塊が着地した際、地面はえぐれ、風圧で木々が倒れていく。

 

「初めまして」

 

煙の中から少女の声が聞こえて来た。

煙が晴れると、そこに居たのは、少女だった。

桜金色の髪をツインテールに結び、露出の多い服で身を包んでいる。

 

「ワタシは魔王ミリム・ナーヴァだぞ。お前らがこの町で一番強そうだったから、挨拶に来てやったぞ!」

 

…………いきなり魔王かよ!!普通最初に来るのって、四天王(最弱)とかだろ!!

俺は心の中で叫んだ。

魔王こと、ミリムはスライム姿のリムルを指で突いていた。

 

「初めまして、リムルと申します…こっちはエムルです。なぜ私達が一番強いって思ったのですか?」

 

リムルが丁寧にミリムに聞く。

まぁ、妥当な判断だろうな。

リムルの質問に、ミリムは

 

「ふふん、それで妖気(オーラ)を隠したつもりか?…この「竜瞳(ミリムアイ)」にかかれば、相手の隠している魔素量(エネルギー)など、まる見えなのだ…ワタシの前で、弱者のフリなど出来ぬと思うがいい!」

 

自慢げにいいながら、ミリムはリムルを持ち上げた。

 

「ところで、お前はその姿が本性なのか?ゲルミュッドの残した水晶では人型だったが」

 

ゲルミュッド?

何で知ってるんだ?と、俺が思っていたら

 

「この姿のことですかね」

 

「おおっ、これだ!」

 

リムルが人型になると、ミリムはまじまじとリムルの観察を始める。

そういえば、ゲルミュッドの奴が魔王がどうとかこうとか言ってたな。

 

「水晶ではもう少しちまかった気がするのだ。さてはお前…豚頭帝(オークロード)を喰ったのか?」

 

「…ええ、まぁ」

 

2人が話している中、考える。

何が目的なんだこの魔王…ゲルミュッドか豚頭帝(オークロード)の復讐か?

 

「それで今日は、どんな御用でのお起こしでしょうか?」

 

「む?」

 

リムルの質問に、ミリムは何を言っているのだという顔で

 

「最初に言ったではないか、挨拶だぞ?」

 

リムルの言葉に間ができる。

それだけかよ!?

俺と恐らく、リムルも心の中で叫んだ。

ま、まぁ戦わずに済むならそれでいい、多分今戦ったら俺らが負ける可能性の方が高い。

俺が一安心していたら、後ろから気配を感じ振り返る。

リムルも気づいたようで、後ろを見ると、誰かが剣を持って飛び上がっており、そのままミリムに斬りかかった。

 

「ランガ!リムル様とエムル様を連れて逃げなさい!」

 

ミリムに斬りかかったのは、シオンだった。

何やってるんだよ、あの秘書!

俺が止めようとするが、

 

「心得た!」

 

リムルの影から出てきたランガが、俺とリムルを背中に乗せて走り出す。

 

「なんだ? ワタシと遊びたいのか?」

 

シオンの剣をミリムは片手で掴んで止めていた。

 

「ま、待て!待てランガ!」

 

「待てません!お許しをリムル様、エムル様!」

 

リムルが止まるように言うが、ランガはそのままは走り続けた。

 

「待てって!!」

 

リムルは木の枝を両手で掴み、両足をランガの首を挟んだ。

 

「キャイン!」

 

俺はランガが止められた瞬間、地面に降りた。

リムルにやられたランガは、ぐってりとする。

そんな中、俺とリムルはシオンとミリムの方を向いた。

だが、ミリムに仕掛けていたのはシオンではなく、ソウエイだった。

ソウエイはミリムを糸で拘束していた。

 

「魔王とはいえども、この糸の束縛より逃れることは簡単には出来まい…少なくとも数秒はな」

 

「数秒で十分だ」

 

今度はベニマルが現れ、ベニマルは左手に黒炎を生成していた。

 

黒炎獄(ヘルフレア)

 

ミリムは諸にベニマルの黒炎獄(へルフレア)を食らった。

 

「火傷くらいしてくれると嬉しいが…」

 

黒炎が燃え続けているなか、ベニマルは呟くが

 

「わはははは!すごのだ! これ程の攻撃、他の魔王ならあるいは倒すことが出来たかも知れぬ、だが…」

 

黒炎獄(へルフレア)を諸に喰らったミリムだったが、無傷の状態で立っていた。

 

「ワタシには通用しないのだ!」

 

ミリムが妖気(オーラ)を一気に解放した瞬間、風圧で地面がえぐれ、木々が吹き飛ばされていく。

俺とリムルはランガが俺達の上に乗って守ってくれた。

 

「…なんとすさまじい…」

 

ランガの言うとおりだ、妖気(オーラ)を放っただけで、地面が大きくえぐれ、木々が無くなっている。

 

「!リムル様!?」

 

気が付くとリムルの姿が無かった。

リムルは怪我をしているシオン達に近づき、

 

「大丈夫かシオン、ホレ、回復薬だ」

 

「…リムル様!」

 

「リムル様…なにしてんだ、早く逃げてくれ」

 

「お前らもホレ、それを飲んで寝てろ」

 

リムルは回復薬をベニマル、シオン、ソウエイに渡してミリムの方を向く。

 

「あとは俺がやる」

 

それだけを言い、ミリムと見つめ合う。

リムルの奴、ミリムをどうやって倒すつもりだ…!

そう思いながら、俺はリムルとミリムの戦いの結末を見届けることにした。



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15話 ミリム旋風

「ほう?お前はワタシに通用しそうな攻撃手段を持っているのか?」

 

「一つだけな」

 

「わはははは!いいだろう、受けてやるのだ」

 

リムルの言葉を聞いて、ミリムは笑う。

そして、付け加えるように条件を付けた。

 

「ただし、それが通用しなかったらお前は、ワタシの部下になると約束するのだぞ?」

 

こっちから仕掛けたのに、部下になるだけでいいのかよ…案外優しいな

 

「分かった…では喰らえ!」

 

リムルは少し体を動かしたのち、深呼吸をしては地面を蹴って、ミリム目掛けて走り出す。

リムルは走りながら右手に握りこぶしを作る。

どうするつもりだ?

次の瞬間、リムルはミリムに何かを食わせた。

ミリムに何かを食わせたリムルは、少し距離を取る。

しばらくの沈黙が続いたが、次のミリムの言葉で沈黙が破られた。

 

「…………な、なんなのだこれは!?こんな美味しいもの、今まで食べた事がないのだ!!」

 

目をキラ付かせながらミリムが言った。

 

「くっくっくっどうした、魔王ミリム…こいつの正体が気になるか?」

 

リムルは空中に何かを浮かばしている。

俺はよく黄色の液体を目を凝らしてみていたが、すぐに気づいた。

あれは蜂蜜だ。

リムルの奴、いつの間に手に入れてんだよ…自分はうまい物を食って、俺には魔物を食わせてたのか…

後で問い詰めようと俺は心の底から思った。

そうこうしているうちにリムルは、ミリムの子供心を揺さぶって、今後、手を出さないことを約束させた。

リムルが勝利し、俺たちは町に戻ることにしたのだが…

ベニマル、ソウエイ、シオンが俺らの前を歩き、俺とリムル、そして何故か居るミリムは、ランガの上に乗って三人の後を追うように町に戻っていた。

ミリムはご機嫌そうに、リムルが渡した蜂蜜を舐めていた。

なんでいるんだ、こいつ…

 

「なぁなぁ、お前らは魔王になろうとしたりしないのか?」

 

「…しねーよ」

 

「同意見」

 

いきなり、聞いてきたミリムに対して俺は、何言ってんだこいつと思いながら、答えた。

 

「え、だって、魔王だぞ!?格好いいだろ?憧れたりとか、するだろ?」

 

「しねーって」

 

「嗚呼…」

 

ほんと、何だよこいつ…

 

「えええー---!?じゃあ何を楽しみに生きているんだ!?」

 

「そりゃあ色々だよ、やることが多くて大変なんだぞ」

 

確かにな、ここの所色々としてるから大変だな…魔王が来たら余計忙しくなる。

 

「でも…魔王は魔人や人間に威張れるのだぞ?」

 

「退屈なんじゃないか?それ」

 

「うん、俺もそう思う」

 

リムルの言葉に、雷にでも打たれたかの如く、衝撃を受けた表情になる魔王。

どうやら退屈していたようだ。

リムルの言葉が図星過ぎて、言葉も出ないのだろう。

そう思っていたら、前に居た俺の両肩を両手で掴んでは、

 

「おま、お前ら!?魔王になるより面白い事してるんだろ!?ズルイぞ!ずるいずるい!!もう怒った。ワタシも仲間に入れるのだ!!」

 

俺を前後に激しく揺らしてきた。

魔王だからか、力が半端ない。

誰だよこんな駄々っ子を魔王にした奴は!

 

「分かった、分かった!俺達の町に案内するから!…いいだろ、リムル!?」

 

「…嗚呼、分かったよ」

 

「本当だな!?」

 

リムルはため息をついて、ミリムが町に行くことを承認した。

嗚呼…危うく、脳がバターみたいになるところだった。

 

「えー…じゃあ、俺とエムルはお前のことをミリムと呼ぶ、お前も俺らのことはリムルとエムルと呼んだらいい」

 

「むっ、いいけど…特別なのだぞ?」

 

ミリムは溜息をついては、説明をする。

 

「ワタシをミリムと呼んでいいのは仲間の魔王達だけなのだ」

 

「はいはいありがとうよ…じゃあ、今日から俺達も友達だな」

 

友達…

友達と聞いた瞬間、頭痛がして、俺は頭を片手で抑えた。

 

「大丈夫ですか?エムル様…」

 

「嗚呼…大丈夫だ」

 

心配してくれたシオンに礼を言い、ランガから降りる。

 

「ホラ、着いたぞ」

 

俺たちの町を見て、ミリムは初めて遊園地に来た子供のような表情を浮かべる。

 

「「ようこそ、魔国連邦(テンペスト)へ」」

 

辺りをキョロキョロと見渡すミリムに、リムルは約束事を言った。

 

「とりあえず、これだけは約束してくれ、まずウロチョロしないこと、それから俺らの許可なく暴れないこと」

 

「うむ!」

 

ミリムは返事をした瞬間、走っていった。

 

「っておいいい!!」

 

「待て―!ミリムーー!!」

 

これは想像以上の重労働だな。

いとことレジャーランドに行った時、監視を任された時みたいだな!

そう思いながら、俺らはミリムを走って追いかけた。

 

「リムル様にエムル様、丁度良かった。回復薬についてお話が…」

 

すると、反対方向から回復薬の生産を任せれているガビルが、部下の一人とこちらにやってきた。

ミリムはガビルを見つけては、傍に近寄った。

 

「おお!龍人族(ドラゴニュート)ではないか!珍しいな!」

 

「我輩はガビルと申す!この町は初めてか、チビっ娘よ」

 

そう言いながら、ガビルは笑顔でミリムの頭を撫でた。

 

「…チビッ娘?…それはまさか、ワタシの事か?」

 

「えっ」

 

チビッ娘扱いされたミリムの殺気は半端なかった。

 

「おい、待っ…」

 

リムルが止めようとした瞬間、ミリムの左ストレートが炸裂し、ガビルの腹に突き刺さる。

ガビルは道の舗装を壊しながら吹き飛んでいった。

 

「「ガ…ガビルーっ!!」」

 

煙が晴れ、ガビルの姿を見ると、某犬神家の一族のポーズをして気絶していた。

 

「いいか、リムルとエムルとの約束があるから、今回はこれで許してやるのだ…次はないから気おつけるのだぞ」

 

どうやら、一応暴れないという約束は守ってくれた…らしい。

ガビルの部下が持っていた回復薬をかけて、ガビルの傷を治す。

 

「はっ、親父殿が川の向こうで手を振って…」

 

「いや、アビルは健在だろうが」

 

ガビルにツッコミをしながら俺は、ゲルドに直してもらわないっと思っていた。

 

「し、しかしあの娘…いや、お嬢様は一体…」

 

「ああ、あれが魔王ミリムだよ」

 

「ほほう、あれが……はぃいーッ!?」

 

リムルの回答に驚くガビル…うん、気持ちは分かるよ、うん。

これはミリムの姿を覚えてもらった方がいいな…ゴブタとか知らず知らずのうちに地雷を踏みそう…

それは、リムルも同意見だったようで、ガビルに頼んで皆を中央広場に集まるように伝えた。

 

「アイツ結構頑丈だったな! 今度はもう少し、強めで行っとくか?」

 

俺、リムル、ミリムは皆が集まるまで、中央広場に設置されている舞台の上で、ポテチ(もどき)を食べて待っていた。

リムルがミリムに軽く説教している中、俺は久々の日本のお菓子に夢中になっていた。

ポテチが美味しい…!久々のポテチはこんなにも美味しい物だったのか!

 

「ええと、今日から新しい仲間が滞在することになった」

 

俺がポテチに夢中になっていたら、皆が集まっていた。

ドワーフのドルドが作った魔イクでリムルが話し始めた。

 

「客人という扱いなので、くれぐれも失礼のないように」

 

ミリムの姿が見れた者達が、少し騒がしくなる。

 

「じゃ、本人から一言」

 

「うむ」

 

リムルから魔イクを受け取ったミリムは、

 

「ミリム・ナーヴァだ、今日からここに住むことなった、よろしくな!」

 

え?…待て待て待て!そんなの聞いてないぞ!

 

「待て待て待て!どういう意味だ!?」

 

俺がミリムに問いただすとミリムは平然とした顔で

 

「そのままの意味だぞ?ワタシもここに住むことにしたのだ」

 

「おい、ミリム…お前には今住んでいる所があるだろ?」

 

「大丈夫なのだ!たまに帰れば問題ない!」

 

胸を張って答えるミリム。

なんてこったい、これからさらに忙しくなるのかよ…

俺は頭を抱えて、しゃがみこんだ。

唯一の救いは住民の感触が悪くないことだ。

 

「うむ、ワタシとリムル、エムルは友達だから、何かあったらワタシを頼ってもいいのだ!」

 

皆が歓喜の声を上げる中、俺とリムルはそれぞれ端の方で頭を抱えて、しゃがみ込んでいた。

 

「…いや、そ、そうだな…友達というより…親友(マブダチ)だな!」

 

え?

ミリムの言葉に驚く俺とリムル

 

「えっと…親友(マブダチ)?」

 

リムルが呟くと、聞こえたミリムは

 

「ち、違うのか!?」

 

右拳を作り、魔素を集中させる。

 

「冗談だよ冗談!!リムルは人を驚かせるのが得意だからな!なーリムル!」

 

「お、おう!そうだ!俺たちは親友(マブダチ)だ!」

 

あ、危ない…!危うくこの町が吹き飛ぶところだった…

かくして最も危険な魔王がテンペストに滞在することなったのだ。

はぁ、この先が思いやられる…




あれ?ここの所、スーパー戦隊要素が少ない気がする。


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16話 ミリムの今後の会議

ミリムがテンペストに来たその晩、俺たちはベニマル達を集めて会議をしていた。

なお、ミリムはシュナとシオン達と、お風呂に入っている。

 

「────という訳で、魔王ミリムの滞在が決まった。一人で出歩かれるのも不安なので、常に誰か側で見てやって欲しい」

 

「ちょっといいか、旦那」

 

「どうした?」

 

手を上げたのは、テンペストの鍛冶師、ドワーフのカイジンだった。

カイジンは続けるように喋った。

 

「魔王ミリムの動向も気になるが、俺ぁ他の魔王の出方にも気を付けた方がいいと思うぜ」

 

「どういう意味だ?」

 

カイジンの言葉に、俺は首をかしげながら聞く。

 

「魔王は何名かいるんだが、彼らは仲間同士ってわけじゃないんだよ。互いににらみをきかせ牽制し合ってる間柄だ」

 

カイジンに続くように、ハクロウがさらに詳しく説明してくれた。

 

「いかにも、しかもリムル様とエムル様は、ジュラ・テンペスト連邦国の盟主と副盟主というお立場…そのリムル様とエムル様が、ミリム様との友好を宣言し、ミリム様がこの国へ滞在している…つまり、「テンペストが魔王ミリムと同盟を結んだ」…事の経緯を知らぬ、他の魔王達にはそう見えるでしょうな」

 

「同盟が事実なら、今まで配下を持つ事すらなかった魔王ミリムの勢力が一気に増すことになり、魔王間の力の均衡が崩れる。そして…それを面白く思わない魔王も居るかもしれないってことです」

 

ベニマルが、俺とリムルがミリムと友好関係を宣言したことによって、乗じる問題を言ってくれた。

確かに…ミリムは見た感じ、圧倒的に強そうだ…そんな中、強い者が多いテンペストが同盟を結んだことにより、まさに鬼に金棒状態だ。

もしかしたら、魔王同士の勢力争いに巻き込まれる可能性もある。

どうしたものか…

 

「しかし実際にお帰り頂こうとしても無理なのでは…言っても聞いて下さるとは思いません」

 

リグルドの言葉は正しい、ミリムは絶対に聞かないだろうな。

それに、無理矢理帰らせようとして、機嫌を損なわれても後が怖い。

 

「飽きて去ってくれるのを待つしかないか…」

 

「だな」

 

リムルの言う通り、飽きて去ってくれるまで待つしかない。

でも、あの調子だと帰るのか…?

 

「ですが、敵対するのなら他の魔王を相手にする方がマシです、魔王ミリムは正しく天災ですので」

 

天災ね…聞く限りやばそうだ。

 

「じゃあ、敵対する魔王が現れたら、その時考えよう」

 

リムルの提案は投げやりだが、今はそれしかないな。

こうして、会議はミリムが飽きて帰ってくれるまで待つっと言うことになった。

ちなみに、ミリムの世話係はリムルに(押し)決めた。

 

────翌日

 

俺とリムル、ミリムの三人でリムルの庵にて朝食を食べていた。

なんで俺も居るんだろう…

果物のジャム(砂糖不使用)が乗っているパンモドキに野菜のスープ、牛乳(牛鹿の乳)を食べながら思っていた。

 

「野菜のスープなのに、美味しいのだ!」

 

「牛鹿の燻製肉が入ってるからな」

 

どうやら、ミリムはここの食べ物を気に入っているらしい…一体、今までどんな食事をしていたんだよ…

すると、何かをひらめいたリムルが提案してくる。

 

「ミリム、飯が終わったら製作工房に連れて行ってやるよ…エムルも行こうぜ、お前だってそろそろ自分用の服とかほしいだろ…」

 

確かに、俺もリムルのような戦闘時用の服とかが欲しい…よし、折角だし行くか。

 

「だな、飯を食い終わったら、製作工房に行くか」

 

「うむ!ワタシも可愛い服が欲しいのだ!」

 

さっさと朝食を済ました俺たちは、製作工房へ向かった。

 

「おお~~~~~っ、すごいのだ!服だらけなのだ!」

 

ミリムがキラキラと目をかがやせて、様々な服を見ている。

どうして、女物の服が多いのかが疑問だが、触れない方は身のためだと思い、あえて言わなかった。

 

「てことでエムル、後は任せるぞ」

 

そう言い、リムルは去っていった。

あの野郎!逃げやがった!…くそ、してやられた…!

まぁ、ついでに俺の服も見繕ってもらうか

 

「シュナ、俺もリムルが前、戦闘時に着ていた服…戦闘時用の服を見繕ってほしいんだけど…」

 

「分かりました、では、どんな感じにしますか?」

 

「そうだな~…」

 

俺の頭の中は、スーパー戦隊の者達が着ていた服を思い浮かべていた。

う~ん…何がいいんだろう…?

色々な衣装を思い浮かべて考えていたが、俺は決めた。

紙がないので、木の板に服装を書いていく。

よし、あの人の衣装にするか

書いたのは伊賀崎天晴の服だった。

 

「こうゆうのできるか?」

 

「はい、できますよ…採寸をする準備をするので、少しばかり待ってくださいね」

 

シュナは一礼して、サイズを測る用意をするためにどこかに行った。

その間、他の女性陣がミリムに色々な服を着せていっている。

しばらくして、シュナが採寸道具を持ってきた。

 

「それでは採寸しますね~」

 

そう言いながら、シュナは採寸を始めた。

 

「色合いはどんな感じがいいですか?」

 

「そうだな~…」

 

流石に赤だと、違和感が出てくる。

俺の髪色は白銀だよな…

 

「…上の服はシルバーグレーにしてくれ、下は…シュナに任せていいか?」

 

「はい!お任せください」

 

そして、着々とシュナが採寸してくれていると、

 

「なぁなぁ、エムル!お前も何か着るのだ!」

 

「はい?」

 

ゴスロリ格好のミリムが、突然言ってきた。

 

「いや、いやいやいや!俺男だからな!そういうのは嫌なんだが!?」

 

採寸が終わった俺は、首を振りながら断った。

 

「いいから、着るのだ!」

 

両手を激しく振って駄々を捏ねるミリム。

 

「無理に決まってるだろ!なぁ、シュ──

 

俺がシュナや他の女性陣の方を見ると、シュナはキラキラとした目で白い色のワンピースを持っていた。

 

「シュ、シュナ…?」

 

おい、まさか…シュナ?嘘だよな?

 

「…エムル様、申し訳ございません…我々もどうしてもエムル様の女装姿が見たくて…!」

 

「…」

 

絶望で膝から崩れ落ちる俺。

それと、なんでここにこんなにも沢山の女性物の服があるのも何となくわかった。

リムル、お前…着せ替え人形にされたのだな。

そんなこと思いながら扉の方を見るが、シュナはそれに気づき、

 

「エムル様…これは折角のチャンスなのです…逃がすわけにはいきません!」

 

シュナは扉の前に立ち塞がった。

 

「エムル様、どうかお許しを…!」

 

他の女性陣が俺を囲い、ジリジリろと迫ってきた。

 

「わはははは!観念するのだエムル!」

 

誇らしげな顔で宣言するミリム。

どうにかして、この状況を打破する方法は…!

すると、突然ミリムが壁の方を向いて睨んだと思ったら、工房が飛び出て行った。

 

「ミリム様!?」

 

「シュナ!俺が後を追うから!リムルやソウエイ達に連絡をしといてくれ」

 

「わ、分かりました…!」

 

俺はスカイホーキーを作り出し、フルスロットルで飛びつつ、魔力感知を使いながらミリムの後を追った。

ミリムが向かった先は広場だった。

俺が降りようとスピードを落とした瞬間、

 

「豹牙爆炎掌!」

 

聞いたことのない声が聞こえたと思った瞬間、炎が上空に巻き上げられた。

 

「…」

 

開いた口が塞がらないとはこのことだろうか、俺はしばらく上空を見上げていたが、顔を横に振り、下を見る。

下では泡を吹いて気絶している魔人とミリムがその魔人を見ていた。

ゆっくりと下に降りていくと、丁度リムルも来た所だった。

 

「ソウエイ、どうしたんだこの騒ぎ…」

 

場に居たソウエイは、俺らに身体を向けて、跪いた。

 

「は、連絡を遅れ申し訳ありません…実は警戒網を抜けた反応がありまして──」

 

「来てみると複数人の魔人が広場におりました」

 

ソウエイは何があったのか説明してくれた。

 

(ここはいい町だな、魔王カリオン様が支配するのに相応しい、そうは思わんか?)

 

「リーダーらしき男の言葉にリグルド殿が答えた途端…」

 

(ご冗談を…)

 

なるほど、リグルドを殴ったと

 

「リグルド、大丈夫か!?」

 

「リムル様…それにエムル様も…っ」

 

殴られたと思われる顔を手で隠して、しゃがみ込んでいたリグルドにリムルが近寄る。

 

「いやなに、この程度どうということもございません」

 

そう言ったリグルドは、顔半分がえぐれており、まるでターミネーターみたいになっていた。

だが、今ので大体分かった…魔人がリグルドを殴ったのに気づいたミリムが、飛んで行ったんだろうな…

 

「……エムル…なんでミリムが居るんだ?」

 

リムルはミリムの方を向き、ミリムがリーダーと思われる魔人を気絶させているのを見て、俺に聞いてきた。

 

「どうやらミリムがそこの侵入者に気づいたみたいなんだよ…そんで、工房から飛び出て俺が追いかけたら……これよ」

 

「まぁ、本気で動いたミリムを止められる者はいないしな」

 

「それもそうだな…」

 

俺とリムルが会話していると、ミリムがこちらに気づいたようで

 

「おお、リムルよ。あやつが舐めた真似をしおったからワタシが、お仕置きしておいたのだ」

 

「私を庇ってくださったのです。あまり叱らないであげてください…」

 

俺とリムルが頭を悩ましていると、回復中のリグルドが言ってきた。

 

「…しかし奴らは、魔王カリオンの部下だと言っておりました。先に手を出したのは向こうですが…」

 

「アイツらの報告次第で、俺らの印象が悪くなると…」

 

「その通りです、エムル様…」

 

「……」

 

俺とリムルは少し考えこむ。

 

「…俺らの許可なく、暴れないと約束してなかったか?」

 

「うぇ!?」

 

どうやらリムルは、取りあえずミリムを叱ることにしたらしい。

 

「これは…これは違うのだ! この町の者ではないからセーフ、そうセーフなのだ!」

 

必死に言い訳を言うミリムだが、リムルにそんなことは通じるわけがなく

 

「アウトだよ、だがまあ今回は、昼飯ヌキで許してやるか」

 

「ヒドイ!ヒドイのだ!!」

 

どうやらミリムは、昼飯ヌキは嫌なようで、泣き叫び始めた。

 

「くそう、これも全てこいつが悪いのだ、一発では飽き足らぬ…っ」

 

「やめろーー!!」

 

ミリムが気絶した魔人にもう一発、パンチを食らわそうとしていたため、俺は間割って入ったが、俺はそのまま頭にミリムのパンチを諸に喰らった。

 

「がはっ!」

 

ミリムのパンチの威力がありすぎて、俺は盛大に吹っ飛んだ。

 

「え、エムルーーー!!」

 

吹き飛ぶ俺を見たリムルが、俺の名前を叫ぶ。

俺が地面を抉りながら突き進む中、

 

《確認しました。物理攻撃耐性を獲得…成功しました》

 

い、今はそれどころじゃねぇよ…!

そう思いながら、俺は気絶した。



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17話 鬼人稽古

「ちょっ!タンマタンマ!!」

 

「稽古をつけて欲しいと言ってきたのはエムル様ですぞ」

 

会話しながら俺はシンケンレッドで、指南役である鬼人、ハクロウと稽古をしていた。

無限ループのように剣を撃ち込んでくるハクロウと防衛一方の俺。

どうしてこうなったというと…遡ること数時間前

 

────数時間前

 

ふと、目を覚ますと天井が見えた。

頭がくらくらする…

頭を押さえながら俺はベットから上半身だけ起こした。

頭がクラクラするのは無理もない、魔人を一発で気絶させるパンチを人間が頭に喰らったのだ。普通ならば、死ぬのだろうが…俺のスキル不死者(シヲコバムモノ)によって助かったのだろう。

ハハッ…スキル様々だな…

 

「エムル様、起きられましたか」

 

シュナが俺の傍にやってくる。

 

「えっと…俺は確かミリムのパンチを諸に喰らって…」

 

そこからのまったく記憶がない…気絶したのだろうな。

 

「えぇ、それで頭が凄いことになっていたので…ある程度再生するまで待ったのち、ここへ運んだのです」

 

「…」

 

俺の頭どうなってたんだよ…

そんなことを思いながら、あることを思い出した。

 

「そういえば、あの魔人らはどうなった?」

 

「嗚呼、魔王カリオンの部下のフォビオのことですね、あの人たちならもう帰ってしまいましたよ」

 

「うん?」

 

俺は頭の上にハテナを浮かべた。

 

「……俺が気絶してから何時間たった?」

 

「三日ですよ」

 

「はい?」

 

「ですから三日ですよ、エムル様が寝ていたのは…」

 

…俺、そんなに寝ていたのか!?ま、まずは状況を聞くことにするか

 

「…俺が寝ている間、何があったんだ?」

 

「実は───

 

シュナ曰く、魔人の名は先程、言っていた"黒豹牙(コクヒョウガ)"フォビオという獣人族(ライカンスロープ)だったらしい、しかも魔王カリオンの幹部。

フォビオが来た理由は、どうやら魔王カリオンが前の豚頭帝(オークロード)との戦いを見ていたようで、俺らか、豚頭帝(オークロード)…つまり、あの戦いで生き残った方をスカウトして来いとのことだ。

フォビオを帰らせた後、それを聞いたリムルがミリムに問い詰めたところ、ミリムと他の魔王達が共謀し、豚頭帝(オークロード)を魔王にさせようとしていたとのことだ。

だから、ミリムが来たのか…確かミリムって配下とか居ないんだっけ?

 

「まぁ、大体の状況は分かった…取りあえず、腹が減ったから何かくれない?」

 

「……そ、それがですね…」

 

「?」

 

シュナが少し顔がこばわるのを見て、俺は疑問だったが、その答えはすぐ分かった。

 

「エムル様!お昼お持ちしました!」

 

部屋に入ってきたのは、ダークマターを器に入れたシオンだった。

ダークマターから物凄い異臭がしたため、俺は鼻をつまみ、シュナは着物の袖で鼻を覆う。

 

「最近、エムル様が魔物を使った料理を食べていると聞いたので、私も作ってみ」ました!」

 

う、嘘だろ…!ただでさえ、普通の食材でダークマターを作り出すシオンが、魔物を使って料理したら……ど、どうにかして回避する方法は…!

俺が必死に考えてると、ふと、あることを思いつく。

 

「し、シオン…料理はうれしいんだが、俺は三日間寝ていたから身体がなまってるんだ…だから、ハクロウに稽古を先につけて欲しいんだ…だからな、それを置いといたら冷めてしまうから、ベニマルとかに食べさせてあげて…」

 

「そうですか…」

 

寂しげな顔をしたシオンは、料理を持って失礼しますとだけ、言い出て行った。

すまんな、ベニマル…

 

「それじゃあ、ハクロウと戦ってくるか…」

 

「気負つけてくださいね」

 

「嗚呼…」

 

シュナを部屋に残し、俺はハクロウの下へ向かった。

 

────現在

 

「ぐわぁー!」

 

ハクロウの剣で吹き飛ばされ、木にぶつかって止まる。

その際、変身が解除されてしまう。

 

「まだまだですな、エムル様…」

 

「まだまだ…!」

 

次に俺はリュウソウチェンジャーを作り出し、左腕に付け、次は赤い色のリュウソウルを作り出しては、ナイトモードへと変える。

 

「リュウソウチェンジ!」

 

そう叫んでは、リュウソウルをリュウソウチェンジャーに装填する。

 

ケ・ボーン! ワッセイ!ワッセイ!ソウ!ソウ!ソウ!ワッセイ!ワッセイ!ソレ!ソレ!ソレ!ソレ

 

待機音が鳴り終わったのと同時に、バイザーを回す。

 

リュウ SO COOL! ウワ~ッハッハッハッハァ!

 

俺はリュウソウレッドへと姿を変えた。

 

「栄光の騎士!リュウソウレッド!…ソウルを一つに、行くぞ!」

 

名乗った後、俺はリュウソウケンを片手にハクロウに斬りかかる。

 

「その意気ですぞ、エムル様」

 

しかし、俺の剣はすぐにはじき返されたため、距離を取る。

 

「…」ツヨソウル!

 

リュウソウケンにツヨソウルを装填しては、恐竜の頭部を二回程動かす。

 

リュウ、ソウ、ソウ、ソウ!コノカンジ!

 

更にリズムに合わせて恐竜の頭部を四回程動かしながら、ハクロウに向かって走り出す。

 

「はあぁー!」

 

ツヨソウルの効果により身体能力を強化し、ハクロウに斬りかかる。

 

「ふむ、身体強化ですか…」

 

流石はハクロウだ、剣を受け止めただけで、俺がしたことが分かるらしい。

 

「まだまだ!」

 

無造作に剣を勢いよく振り続けては、少しずつハクロウを押していく。

 

「確かにそのお力はお強い…じゃが…」

 

俺の腹にハクロウの剣が三連撃で入ってくる。

 

「がはっ!」

 

吹き飛ばされた俺は地面に転がり、その際にツヨソウルの竜装が強制解除される。

 

「まだまだ使えこなされてませんな」

 

「くっ…!」

 

ハクロウの言う通りだ。実際、俺はスーパー戦隊の力を使えこなせていない…まぁ、何百人もいるスーパー戦隊の力を一人が使うとなると、全員の力を習得するには時間がかかる。

まぁ、そこは時間をかけるしかないな、目指せ!ゴーカイジャー並みの使いこなし!

 

「余所見しているとは余裕そうですな、エムル様」

 

「えっ…」

 

こうして、俺はハクロウに数時間叩きのめされた。

 

────

 

「し、死ぬ…」

 

やっとの思いで、俺は自分の庵に戻ってきた。

 

「遅かったな」

 

声が聞こえた、縁側に居たのはスライム姿のリムルだった。

 

「ハクロウに殺されかけたよ…」

 

「死なないのに?」

 

軽く笑うリムル。

 

「痛いモノは痛いんだよ…で、何か用?」

 

リムルが何用もなく俺の所に来るはずがないと思った俺は、リムルに尋ねる。

 

「ふっふっふ…実はな、ある計画を進めることになったんだ?」

 

「ある計画?」

 

「そう!その名も、ヨウム英雄化計画!!」

 

「…ヨウム、英雄化計画…?」

 

ヨウムって誰?

俺がそんなこと思っているが、リムルは話を続けた。

 

「実はな───

 

リムル曰く、前に、リムルが人の国に流した豚頭帝(オークロード)の噂を調査するために、国からもらえる防衛費を着服していたクソ伯爵が、金をケチって派遣させたヨウム達と偶々森の中で、ゴブタ達があったらしい。

リムルがヨウムと話していたのだが、ヨウムが見た目と違って、いい奴だと判断したリムルが、英雄化計画をすることにしたらしい。

元々はリムルが豚頭帝(オークロード)を倒したのだが、人達と国交を結びたいリムルにとって、それは少し都合が悪いらしい。

まぁ、豚頭帝(オークロード)を倒した魔物の集団となると、人からしたら豚頭帝(オークロード)より脅威になるな。

そこで、ヨウム達を英雄だとでっち上げ、リムルや俺らは、勇敢な英雄に装備や食料を渡したいい魔物の集団とアピールするのと、人間である俺と英雄が居ることで安全だとアピールするつもりらしい。

 

「…なるほど、ヨウム達は英雄と称賛を受けることができ、俺らは人に安全だとアピールすることが出来ると…まさに、win-winな関係だな…」

 

「だろ~?」

 

リムルの説明を受け、俺は納得した。

 

「…てことは、これからヨウム達がハクロウの稽古に参加するのか?」

 

「当分はな」

 

正直な所、俺は心の中で喜んだ。

だって、ハクロウのしごきが少し楽になるからだ。

 

「あっ、そうそう…酒を持ってきたから、飲もうぜ…!」

 

そう言い、リムルは酒を取り出したのち、人の姿へと変わる。

 

「んじゃあ、頂きますか!」

 

こうして、月を見ながら俺達は酒を楽しんだ。

酒のせいか、途中で頭が痛くなり、それと共に誰かと酒を飲んでいる記憶が見えるが、視界に入っていた全員の顔に黒い靄がかかっていて、よくわからなかった。

これは、俺の前世の記憶が少しずつ戻っているっということか?

まぁ、今は酒を楽しむか…!



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18話 未来の英雄一行

次回から、週二投稿にし、時間を変えさせてもらいます。
そして、もし余裕があったら祝日にも投稿します。
土曜日 18:00~
日曜日・祝日 18:30~
このように変更させてもらいます。申し訳ございません。


──翌朝

 

俺とリムルは朝方近くまで飲んでいた。

リムルはスライムだからか、酔うことはないみたいだ。

俺の場合、アルコールを摂取することが、不死者(シヲコバムモノ)が死ぬと判定されているためか、酒を浴びるほど飲んでも酔うことはなかった。

そして、俺とリムルは睡眠がいらない。

俺は一応眠くなるが、頑張れば何徹しても余裕だ。

まぁ、そんなことは置いといて、俺はヨウムに挨拶するために、身支度を始めた。

それと、最近になって気づいたのだが、俺のユニークスキル製作者(ツクリダスモノ)なら、色々な服とかを作り出せることに、今更気づいた。

これなら、態々シュナに頼むこともなかったな…まぁ折角ならこれからも作ってもらうか。

俺が用意してくれた服を着ていたら、

 

「…悪いエムル…俺、もう戻らないといけなくなったわ…」

 

リムルが両手を合わせてきた。

 

「……ミリムか?」

 

「……あ、ああ…」

 

目をそらしながらリムルが頷く。

恐らく、ミリムが暴れていると、思念伝達で来たのだろう。

 

「それじゃあまたな…!」

 

「嗚呼…」

 

リムルは着替えながら、そそくさと庵から出て行った。

 

「さて、英雄達に挨拶と行くか…」

 

身支度を済ませた俺は、恐らく、ハクロウにしごかれているヨウム達に会うために向かった。

 

────────────

 

俺が訓練場に行くと、案の定、数人の人達がハクロウにしごかれていた。

 

「なんだよ!あの鬼人…!」

 

ボロボロ状態の男がよろめきながら立ち上がる。

そこに来たのは、吹き飛ばされてきたゴブタだった。

 

「…ハァ、ハァハァ……いいから、行くっすよ!今度こそ、あのジジィにいっぱい食わせ──

 

どうやらゴブタ達は、集団でハクロウに襲い掛かるみたいだが、

 

「ほぅ…喋れるほど、まだまだ余裕そうじゃな」

 

ハクロウが一瞬でゴブタとの間を狭めたと思った瞬間、ゴブタが空高く吹き飛んだ。

いつもより吹き飛んでいるのは気のせいだろうか…?

俺が座って訓練を見ていたら、

 

「ここに居ましたか、エムル様」

 

ふと、声がした方を見ると、ベニマルが居た。

 

「…で、あの人達がヨウムって人達か?」

 

「はい、文句は言ってますが、真面目に修行を受けているみたいですよ」

 

「へ~…それは楽しみだな」

 

「それで、エムル様…」

 

笑顔のまま、ベニマルが俺の肩に手を置いてきた。

 

「エムル様もハクロウに修行付けてもらいませんか?」

 

笑顔を保ちながら、妖気(オーラ)を放ってくる。

あれ?俺、何かベニマルにやったかな?

 

「い、いや~…ただヨウムに挨拶しに来ただけだから…修行はちょっと…」

 

「…ハクロウ!エムル様が稽古をつけて欲しいと言ってるぞ!!」

 

ちょ!何言ってくれてんだこのイケメン野郎!

俺が無言で逃げようと試みるが、ベニマルが肩を掴む力を強くしたせいで逃げれなくなった。

 

「ちょっ!ベニマル離せ!」

 

「エムル様、今回だけは…あの料理の仕返しをさせてもらいます…!」

 

あの料理?…あ~…シオンのダークマターのことか、そういえばベニマルって、シオンの手料理の矯正を任されていたな…そして、そのせいで俺用に作られた魔物のダークマターも食ってたっけ?…あっ、今日はその仕返しとして、ハクロウに俺をしごいてもらおうとしてるのか!なーるほど!納得するわけねぇだろ!!

と、心の中で叫ぶが、現状が変わることはない、昨日しごかれたばっかりなので、連続でしごかれるのは、是が非で避けたい。

 

「頼む!昨日しごかれたばかりだから、離してくれベニマル!」

 

「ハハハ…駄目ですよエムル様」

 

爽やかな笑みを浮かべるベニマル。

他人事と思いやがって。

 

「エムル様、稽古をつけて欲しいとは、本当ですか?」

 

全員に休憩を言い渡した、ハクロウが俺らの下に来た。

 

「あー……いや、俺はただ未来の英雄に挨拶しに来ただけで…稽古は…ね?」

 

俺は冷や汗を垂らしつつ、ここに来た目的をハクロウに言った。

それを聞いたハクロウは、髭を触りながら

 

「ほっほっほっ…それなら、休憩している今のうちですぞ…」

 

「お、おう!それじゃあ行ってくる!」

 

俺はそそくさと逃げながら、英雄一行の下へ向かった。

 

────────────

 

「え~…君が、ヨウムか?」

 

「あ?」

 

俺はボロボロ状態の男に喋りかけた。

 

「あー…この人が、リムル様と同郷のエムル様っす!」

 

「この人が…」

 

ゴブタが俺のことを紹介してくれた。

どうやら、他の誰かから俺のことを聞いていたらしい。

 

「リムルと同郷で、ジュラの森大同盟の副盟主をやっているエムル=テンペストだ、よろしくな」

 

俺は自己紹介をしながら手を伸ばして、握手を求める。

 

「リムルの旦那から聞いているだろうが、ヨウムだ…よろしくお願いするぜ、エムルさん」

 

ヨウムは俺の手を取り、しっかりと握手してくれた。

 

「ふむ、自己紹介は終わったようですな…皆の者!修行を再開するぞ!」

 

「うへぇ~…」

 

ハクロウが修行の再開を大きな声で言うと、全員が不満そうな声を上げる。

 

「それじゃあ、頑張ってくれ!」

 

「あっ!」

 

俺は脱兎のごとく訓練場から去って行った。




余裕があるので、祝日投稿します。


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19話 復活の支配者

「それじゃあリムルの旦那にエムルさん、行ってくるぜ」

 

髪を整え、魔国連邦(テンペスト)産の特質級(ユニークレベル)の装備を付けたヨウム達が今、出発しようとしていた。

 

「佇まいに隙がなくなりましたな、短期間じゃが、真面目に修行した成果といえましょう」

 

少し満足げにハクロウがヨウム達の激変の説明をしてくれた。

数週間前まで、ごろつき集団だったヨウム達は、装備を整え、ハクロウの修行を付けてもらった結果。

英雄に相応しい一団へと変わっていた。

うん、これなら豚頭帝(オークロード)を倒した集団として信用されそうだな…まぁ、豚頭帝(オークロード)が魔王になったり、20万の軍勢とか知られたらやばそうだけどな…

 

「ロンメルのやつは、一足先にファルムスに戻ってる。 豚頭帝(オークロード)との死闘を、盛りに盛って報告するって張り切ってたよ。 まぁ…やってもいない死闘を盛るってのも気恥ずかしい話なんだが…」

 

少し恥ずかしそうに、ヨウムは顔少し赤くしながら頬を掻いた。

 

「いいんだよ、win-winなんだから」

 

「うぃん…?」

 

ヨウム達は今後、魔国連邦(ウチ)を拠点として、英雄活動をしてもらうつもりだ。

ヨウム達の名声が上がれば上がるほど、俺達の評価も上がるという寸法だ。

 

「まぁ、これから頑張ってくれ!英雄ヨウム!」

 

俺は笑いながら、ヨウムの背中を軽く叩いた。

 

「嗚呼…ありがとうエムルさん、じゃあ行ってくるぜ!」

 

こうして、ヨウム達は旅立っていた。

これから頑張ってくれよ~…英雄ヨウム。

そう思いながらヨウム一行を俺達は見送った。

 

────────────

 

「あー…暇だ」

 

自身の庵で、俺は大の字になって寝転がっていた。

いつもなら、リムルと遊んでいるのだが、今、リムルはブルムンド王国から派遣された自由組合支部長(ギルドマスター)のフューズ君の相手をしている。

一方、ミリムはフューズの付き添いできた冒険者、エレン、ギド、ガバルと共に森に居る魔物を狩りに行っている。

そのため、余った俺は暇を弄んでいた。

このまま寝ようとしたその時、

 

「エムルーーーー!!!」

 

騒々しい足音と共に、ミリムが扉を突き破って入ってきた。

 

「うおっ!何なんだよミリム!」

 

ミリムに少し驚いた俺は、何をしに来たのか尋ねた。

 

「わはははは!大量に魔物を狩れたから、リムルと共に見に来るのだ!」

 

「……分かった、分かった…すぐに行くから、リムルに言ってこい」

 

「そうするのだ!」

 

ミリムは返事をしながら去って行った。

 

「…後で扉を直してもらわないとな…」

 

ミリムに壊された扉を見ながら呟き、大量の狩られた魔物を見に行くために、森へと向かった。

 

────────────

 

「よっ!エムル」

 

向かっている途中で、エレンとミリムを背中に乗せたランガと、シオンに抱えられたスライム姿のリムル達と合流した。

 

「おーい、こっちでやすよ」

 

俺達が合流してすぐ、目的地のすぐそこまで来た。

こっちに気が付いたギドが手を振ってくれている。

だが…

 

「エムル様!」

 

「…」

 

何かに気づいたシオンが、俺にリムルを託し、剛力丸を構え

 

「何者ですか!」

 

そう言いながら、ギドとガバルの方を睨む。

 

「え? あの…え??」

 

「ギド…」

 

「ガバル…」

 

混乱している二人が、それぞれ自分の名前を言う。

恐らく、気づいていないんだろうな。

 

「…………いや、その人は敵じゃない」

 

リムルがシオンに対して言うと、ギドとガバルの後ろから一人の樹妖精(ドライアド)が現れた。

確か、ガゼル王が来た時に居た…

 

「だ、誰でやんすかこの人!?」

 

ギドが驚いている中、少し透けている樹妖精(ドライアド)

 

「…私は樹妖精(ドライアド)のトライア」

 

自己紹介をしてくれた。

しかし、好けているうえにこの殺気…

 

「覚えているよ、ガゼル王が来た時、トレイニーさんと一緒にいたな」

 

「お久しぶりでございます。 盟主様、副盟主様」

 

「嗚呼……まっ、そんなことより…その殺気、何かと戦っていたのか?」

 

俺がトライアさんに殺気と透けていることを尋ねると、トライアさんは顔をしかめある報告をしてくれた。

 

「…ご報告申し上げます。 暴風大妖渦(カリュブディス)が復活致しました。 そして、彼の大妖はこの地を目指しております」

 

────────────

 

すぐさま、会議室に幹部たちが集められた。

 

「なんと!あの「天空の支配者」が復活ですと!?」

 

話を聞いたリグルドが声を上げて驚いた。

 

「あれは遥か昔に封じられたはず、理由もなく封印が解けるなど、考えられませぬが…」

 

今度は、ハクロウが少し疑うも、トライアさんは汗を垂らしながら

 

「事実でございます。 我が姉トレイニーが足止めを行っておりますが、あまり長くは保ちません」

 

復活は事実だと言った。

まぁ、そんなことはどうでもいい…うん……カリュブディスってなんだ?マジで何だ? 封印されていたってことはやばいのは分かるけど…どんなやつなんだ?

そう思いながら、俺は会議内容を聞いていた。

まぁ、後でリムルに聞けばわかるだろ。

そうこうしていたら、会議が終わってしまっていた。



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20話 暴風大妖渦

書き間違えていました。
週二投稿→週一で二話投稿です。
投稿してから気づきました。


「いかがですか?エムル様」

 

「ああ、ぴったりだよ。 ありがとうシュナ」

 

工房にて、シュナに頼んでいた戦闘服を試着していた。

戦闘服はシルバーグレーのコートに、黒い色の手裏剣のマークがある白いTシャツ、そしてダメージジーンズ…結構再現力高いな…

 

「では、私はこれで…」

 

「ああ、またな」

 

シュナは、一礼して去って行った。

服を着た俺は、出撃の準備を進めた。

今回、戦うのは暴風大妖渦(カリュブディス)

リムルに聞いた話なのだが、暴風大妖渦(カリュブディス)は、知性が無く、死亡しても一定の時間で復活してしまうえに、物質体を持たない精神生命体、復活するには屍や依代が必要となるので、昔に勇者によって封印された災厄級魔物(カラミティモンスター)とのこと。

しかも、デカいらしい…うん、ここは戦隊ロボの出番だな!折角この衣装だし…よし、ニンニンジャーで行くか!

俺は忍者一番刀と忍シュリケンを頭の中でイメージし、手元に作り出した。

 

「行くか…」

 

俺は一人で暴風大妖渦(カリュブディス)を迎え撃つ場所は、ゲルド達が造ってくれている途中の魔国連邦(テンペスト)と武装国家ドワルゴを結ぶ街道。

俺が着いた時には、多くの者達が暴風大妖渦(カリュブディス)に対して待っていた。

 

「ヴェルドラの申し子?」

 

トライアさんから他のことを聞いていたリムルが、復唱した。

 

「はい、暴風大妖渦(カリュブディス)はヴェルドラ様から漏れ出た魔素溜まりから発生した魔物です」

 

ヴェルドラ…?…ヴェルドラって誰?

皆は知っているようだが、俺は知らない。 うん、またリムルに聞くか。

 

「…ヴェルドラ様の因子を持つということで、その危険性は伝わったかと思います」

 

何、ヴェルドラってやつ、相当危険な奴なの?

 

「はじめに申し上げておきます。 暴風大妖渦(カリュブディス)に魔法は殆ど通用しない物と思ってください。 あの者の持つ、エクストラスキル「魔力妨害」の影響で魔素の動きが乱されるのです」

 

「…と、言うことは物理で倒すしかないって事か」

 

「はい…ですが、どれだけ傷を負わせても直ぐに回復してしまうのです。 あの凄まじさは、間違いなく「超速再生」を保有しているものと…」

 

「その上───

 

「まだあるのかよ!」

 

リムルが大きな声で突っ込む。

 

「あの者は 異界より召喚した魔物…空泳巨大鮫(メガロドン)を複数従わせています。 厄介なことに、その従魔も「魔力妨害」を持っているのです」

 

魔法は効きにくく、そして超速再生を保有…さらに従魔ねぇ~……あれ?もしかして豚頭帝(オークロード)より厄介?

そう考えた俺は頭を抱えた。

 

「となると黒炎獄(ヘルフレア)も効き辛いか」

 

「おそらく、魔法ではなくとも、魔素を媒体とする術は効かないかと」

 

うおぉ…聞けば聞くほどやっかいだな……まぁ、戦隊ロボなら効きやすいだろうな…

 

「ふっふっふっ、何か忘れているのではないか? ワタシが誰だが覚えていないとは言わせぬのだ!」

 

「あっ…」

 

「ミリム!」

 

「デカいだけの魚など、このワタシの敵ではない」

 

そうだ、すっかり忘れてた…魔王であるミリムの力なら、暴風大妖渦(カリュブディス)を余裕倒せるだろうな…よし、今回はミリムに任せ───

 

「そのような訳には参りません。 ミリム様、私達の町の問題ですので」

 

俺がミリムに任せようと思っていたら、シオンが口ずさむ。

え?シオン、何言ってんだ!?

 

「そうですよ、友達だからと、何でも頼ろうとするのは間違いです」

 

シュナまで!何言ってんだ君たち!!

 

「リムル様とエムル様がどうしても困った時、その時は是非ともお力添えをお願い申し上げます」

 

シュナは、いい笑顔でミリムを説得した。

いや、いやいやいや!俺達困ってますよ!?

 

「そっか…」

 

シュナに説得されたミリムは、残念そうに俯き、俺らの方をちらっと、見て来た。

 

「………………そうだミリム、まぁ俺らを信じろ」

 

悩みに悩んでリムルが胸を張って言い切る。

おそらく、リムルも俺と同じ気持ちなんだろうな…

リムルに言われたミリムは、しょんぼりと隅の方へ行き、しゃがみ込んでアリの行列を観察し始めた。

そうこうしていたら、魔力感知に反応があり、反応の方に顔を向ける。

空から徐々に何かが近づいてきていた。

そう、こちらに向かっていたのは、天空の支配者暴風大妖渦(カリュブディス)だった。

暴風大妖渦(カリュブディス)は、巨大な単眼の魚のような竜の姿をしており、トライアさんが言っていた空泳巨大鮫(メガロドン)は、数匹で暴風大妖渦(カリュブディス)の周りを空を飛んでいた。

 

「…さて、全員戦闘準備だ!」

 

俺は皆に言いながら、忍シュリケンを忍者一番刀にセットし、忍者一番刀の変と書かれているボタンを押す。

 

ザ・ヘンゲ!ニンニンニン!ニンニニンニン!

 

「シュリケン変化!」ニンニンニン!ニンニニンニン!

 

俺は勢いよく、忍者一番刀にセットしている忍シュリケンを回す。

 

アカジャー!ニンジャー!

 

「まだまだ!」

 

アカニンジャーに変化した俺は、続けざまに超絶勝負チェンジャーを作り出し、左手首に装着したのち、勢いよく回した。

 

チョーゼツ ニンジャー!

 

「暴れてあっぱれ!アカニンジャー!」

 

俺はアカニンジャー超絶に変化し、決め台詞と決めポーズを言い放った。

 

「おお!カッコいいのだ!」

 

ミリムが目をキラキラと光りながら俺をまじまじと見て来た。

 

「…腹をくくるしかないな…まぁ、やるだけやってみるか…」

 

「ああ、忍ぶどころか、暴れるぜ!」

 

「…黒炎獄(ヘルフレア)!」

 

俺とリムルの言葉を聞いたベニマルが、開戦の合図である黒炎獄(ヘルフレア)暴風大妖渦(カリュブディス)目掛けて放った。

こうして、俺達と暴風大妖渦(カリュブディス)との戦いの幕は開いた。



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21話 参上、天空のオトモ忍

黒炎獄(ヘルフレア)は結界内の敵を焼き尽くし、本来の威力が出ていれば、結界が消えた後には炭すら残らない。

俺らの目の前に黒く焦げ死んだ空泳巨大鮫(メガロドン)が落ちて来た。

 

「…お供が一頭焦げただけか、聞きしに勝る厄介だな、魔力妨害ってのは」

 

黒く焦げた空泳巨大鮫(メガロドン)を見上げながらベニマルが呟く。

 

「ええ、それに…範囲内に捕らえたはずの本命は、もはや痛痒を感じてはいないようです」

 

シュナが平然と空に漂っている暴風大妖渦(カリュブディス)を見上げながら言ってきた。

ピリピリとした雰囲気が漂う中、

 

「グ…グギョォオォォオォオ!!!」

 

暴風大妖渦(カリュブディス)が大きく叫び、その叫び声に多くの者達が耳をふさいだ。

だが、悠長に耳を塞いでいる間はなかった。

暴風大妖渦(カリュブディス)の叫びと共に、空泳巨大鮫(メガロドン)達が、俺ら目掛けて飛んできた。

 

「俺に任せとけ!」

 

空泳巨大鮫(メガロドン)が向かってくる中、俺は忍者一番刀に召と書かれたボタンを押し、オトモ忍シュリケン 覇王をセットする。

 

ザ・ショウカン! ダレジャ? ダレジャ? ダレジャダレジャダ~レダレジャ?

 

「シュリケン忍法!召喚の術!」

 

待機音が鳴る中、俺はオトモ忍シュリケン 覇王を勢いよく回す。

 

ライオンハオージョウ!

 

「ガオォーーー!!」

 

空の一部に霧が立ち込め、そこからライオンのような雄叫びと共に、俺が召喚…作り出したライオンハオージョウが現れ、空泳巨大鮫(メガロドン)目掛けて光線を放った。

ライオンハオージョウが放った光線は、空泳巨大鮫(メガロドン)に命中し、当たった空泳巨大鮫(メガロドン)は、爆発四散した。

 

「な、なんというデカさ…」

 

「流石は、エムル様です!」

 

皆が、ライオンハオージョウに呆気を取られているなか、

 

「…リムル、俺をライオンハオージョウの上に運んでくれ…」

 

魔素を使いすぎたせいか、力が入りにくい…だから、ライオンハオージョウの上に登ることが出来ないのだ。

なので、リムルに頼んで上に移動することにした。

 

「…分かった」

 

リムルは翼を広げ、俺を担いでライオンハオージョウの上に運んでくれた。

俺らに続いてミリムもライオンハオージョウの上に乗ってき、ライオンハオージョウの上が暴風大妖渦(カリュブディス)と同等の高さまで浮上し始めた。

 

「全員!戦闘開始だ!」

 

ウオォォォオォオォォ!!

 

侍大将であるベニマルが皆に指示を送り、皆が空泳巨大鮫(メガロドン)と戦闘を始める。

どうやら、暴風大妖渦(カリュブディス)は 攻撃を手下に任せて文字通りの高みの見物を始めた。

 

「先に空泳巨大鮫(メガロドン)を殲滅する! 各隊引き付けて一体ずつ相手取れ!」

 

ベニマルが皆に的確な指示を送る。

上から皆の様子を確認すると、ゲルド率いる猪人族(ハイオーク)部隊とガビル率いる龍人族(ドラゴニュート)部隊が共闘していた。

元は敵同士だったと思うと、胸熱だな。

他の部隊はどうだろうと思い、次はソウエイ率いる隠密部隊に目をやる。

 

「…操妖傀儡糸」

 

空泳巨大鮫(メガロドン)の背中に乗っていたソウエイが、左指をくいっと動かすと、空泳巨大鮫(メガロドン)は不自然に身体の向きを変え、他の空泳巨大鮫(メガロドン)に噛みつき、喰らっていく。

開いた口が塞がらない…

俺とリムルは、口を開けながら引いていた。

 

「おおっ神経網を操って共食いさせたのか!」

 

面白そうに笑顔でミリムが解説した。

ソウエイのやつえげつないな…

 

「ソウエイに負けてはいられません、行きますよランガ!」

 

「承知!」

 

今度は下からランガの上に乗ったシオンが、空高く登って来たと思ったら、シオンが両手で持っている剛力丸に妖気(オーラ)を纏わせ構えた。

 

「見よ! 断頭鬼刃!!」

 

妖気(オーラ)を纏わせた剛力丸を勢いよく振りかざして、空泳巨大鮫(メガロドン)の頭を切り落とした。

まさに、シオンらしく豪快な技だ。

そうこうしているうちに、最後の一体もハクロウによってサイコロ状に切り刻まられた。

 

「これでもう高みの見物は終わりだなカリュブディ…」

 

俺らが暴風大妖渦(カリュブディス)の方を見ると、暴風大妖渦(カリュブディス)からガラス同士を擦り合うような不快な音が聞こえて来た。

なんだ、嫌な予感がする。

そう思った瞬間、暴風大妖渦(カリュブディス)を覆っていた大量の鱗が俺ら目掛けて放ってきた。

あの量は躱し切れない。

 

「…躱せぬなら突き進むまで、行きますよラン…」

 

「バカ言うな」

 

躱さず、突き進もうとするシオンとランガを前に出たリムルが止めた。

 

「リムル様!」

 

「リムル!何をするつもりだ!」

 

「二人とも、こういう時くらい俺を頼ってくれよ」

 

「ですが…っ」

 

一体何をするつもりなんだリムルのやつ…

 

「リムル様!俺のうしろに…」

 

今度は、俺の影から出て来たソウエイが、俺の目の前に立ってリムルに向かっていった。

大量の鱗がそこまで来てる中、リムルは左手を鱗に向ける。

 

暴食者(グラトニー)

 

リムルから出た、黒い靄は大量の鱗を覆い、鱗ごと黒い塊になっていき消えた。

ミリム以外の全員が目を見開いて驚いた。

皆が驚いている中、リムルは続けて暴風大妖渦(カリュブディス)に近づき、両手で暴風大妖渦(カリュブディス)に触れた。

リムルの両手から妖気(オーラ)が溢れ出し、その妖気(オーラ)に触れた暴風大妖渦(カリュブディス)は、苦しみだし、リムルを振り払おうと巨体を左右に揺らす。

あの妖気(オーラ)…もしかして、豚頭帝(オークロード)の腐食の妖気(オーラ)か?

振り払われたリムルは、暴風大妖渦(カリュブディス)から距離を取り、空中で止まった。

そして、暴風大妖渦(カリュブディス)はリムル目掛けて目から光線を放つが、リムルは身体をねじりながら避けた。

なるほど、そういうことか。

 

「全員、なんでもいい!あらゆる方法で攻撃をしまくれ!ヤツ再生する暇を与えるな!!」

 

リムルの意図に気づいた俺は、全員に総攻撃をするよう指示を出す。

リムルの意図は、自身が囮になり、全員が攻撃しやすくするつもりなんだろう。

俺の指示通り、皆はそれぞれの攻撃を暴風大妖渦(カリュブディス)目掛けて放ち続けた。

勿論、俺もライオンハオージョウの光線で暴風大妖渦(カリュブディス)を攻撃した。

怪我をした者や、疲労した者はシュナが指示をしている救護班で回復薬などで怪我や疲労を回復させたのち、前線に戻るを繰り返している。

その後、トレイニーさん達やドワルゴの天翔騎士団(ペガサスナイツ)が応援に来てくれた。

援軍も加えて一気に撃墜するつもりで、総攻撃を行った。



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22話 破壊の暴君

祝!UA10000!
皆さま、ありがとうございます。
特別編はリムルVSエムル三番勝負となりました。
特別編の投稿は、訳あって、だいぶ先になりますが、気長に待ってくれると幸いです。
そして、夏休み特別期間として、8月1日~8月24日まで、毎日投稿します。


───10時間後

総攻撃を始めて10時間が経過した。

正直言うと、状況は結構まずい。

暴風大妖渦(カリュブディス)も消耗しているのだろが、斃れる気配は全くない。

それに比べ、こちらは回復薬が尽くそうな上に、皆の疲労が相当たまっている。

仕切りなおすのも必要そうだな。

 

「お…の…れ…」

 

うん?今喋ったか?…暴風大妖渦(カリュブディス)って知性がないって聞いたんだが…

 

「ミリ……ミリムめ…!!」

 

恨みがこもった声で暴風大妖渦(カリュブディス)がミリムの名を言った。

なんで、ミリムの事を知ってるんだ?

 

「うむ、覚えがあるのだ。 この感じ、確かフォビオとかいう魔人だ」

 

ミリムの目が光りながら、言ってくれた。

 

「ミリ……ム…!」

 

確か、フォビオってミリムに伸ばされていたよな…もしかして、依代となったフォビオの強い意志に従って暴風大妖渦(カリュブディス)魔国連邦(テンペスト)に…あれ?もしかして俺ら(テンペスト)関係なくね!?

 

「なぁなぁ、リムル、エムル~」

 

ミリムが俺らの顔を覗き込んできた。

まぁ、そうだな…これはミリムの客だ。

 

「…わかったよ、ありゃミリムの客だ」

 

「ああ、盛大に暴れて来い」

 

俺らの許可を貰ったミリムは嬉しそうに笑みを浮かべた。

リムルが思念伝達で皆の避難を指示を送っている中、俺はリムルをライオンハオージョウ乗せた状態で、遠くに移動し始めた。

 

「何を仰いますか!我々はまだあきらめてなど…っ」

 

「頼む、言うとおりにしてほしい…巻き込まれたくなければな」

 

「えっ…?」

 

援軍としてくれたドルフが、俺らの傍によって来ては、諦めてないって言ってきたが、リムルに説得されて、避難を始めてくれた。

リムルとミリムが思念伝達で話しているなと、思っていたら、ミリムの一蹴りで暴風大妖渦(カリュブディス)が盛大に吹き飛んで行った。

それから、ミリムの片手から大量の魔素の反応が確認できる。

何するつもりなんだ、ミリムのやつ。

俺の頬から冷や汗が垂れる中、ミリムは両手を暴風大妖渦(カリュブディス)に向ける。

 

竜星拡散爆(ドラゴ・バスター)!!」

 

ミリムが放った光線は、拡散するように分裂をし、暴風大妖渦(カリュブディス)に命中した。

爆発音と共に突風が辺りに吹き荒れる。

風のせいでライオンハオージョウが少し揺れる。

 

「「うわぁ…」」

 

ミリムの技を見た俺とリムルは、少しばかり引いてしまった。

立ち込める煙を見ていると、何かを見つけたリムルが翼を広げて、飛んで行った。

リムルが捕まえたのは、フォビオ。 依代となったあの魔人だ。

リムルはフォビオを抱えて、地面に降り立った。

俺も地面に降りるために、ライオンハオージョウを地面に着陸させ、リムルの傍に近寄ると、丁度ミリムも来た所だったようだ。

フォビオを見ると、胸部分に心臓なような物が、大きな心音を立ててくっついていた。

 

「何をするきだ?」

 

「放っておいたら復活しちまうからな。 フォビオからカリュブディスを完全に分離する」

 

俺の問いに、リムルは答えながら髪を一つに結んだ。

 

「変質者と暴食者(グラトニー)を並列起動」

 

リムルの身体から黒い靄が所々から出始めた。

そうこうしていると、リムルはフォビオと暴風大妖渦(カリュブディス)を切り離す手術を始めた。

少しばかり時間が経ち、リムルが疲れたように、後ろに両手をついて、安堵した。

 

「……どうなのだ?」

 

俺と共にリムルを見ていたミリムが聞くと

 

「ああ…成功したよ」

 

リムルは手術が成功したと、報告してくれた。

 

────────────

 

「スマン!…いや、スミマセンでした!」

 

回復薬で回復させたフォビオが、俺らに身体を向けて土下座して謝ってきた。

 

「今回の件は、俺の一存でしたこと、魔王カリオン様は関係ないんだ…なんとか俺の命一つで許してほしい…!」

 

土下座しながらフォビオが言ってきたが、スライム姿のリムルはため息をつき、

 

「ここでお前を殺したら、何のために助けたのかわからんだろ、それより質問に答えてくれ…トレイニーさん」

 

リムルはそう言っては、トレイニーさんに託した。

 

「はい。 貴方はなぜ、カリュブディスの封印場所を知っていたのですか? あれは勇者から託された我ら樹妖精(ドライアド)しか知らぬ場所、偶然見つけたとは、言わせませんよ」

 

トレイニーさんの質問にフォビオは、土下座したまま

 

「…教えられた」

 

そこからフォビオから事情を聞いた。

どうやら、豚頭帝(オークロード)の時と同様、黒幕と言えるやつらが居るらしい。

黒幕と言えるやつらの名は、中庸道化連という何でも屋で、仮面を被った道化師。

ミリムを恨んでいたフォビオに、中庸道化連のフットマンとティアと言う者達がカリュブディスの力を使わないかと、話を持ち掛けてきたのだそうだ。

そして、ゲルド曰く、フットマンという怒った仮面を付けた魔人は、ベニマル達の里襲撃の件関わっているみたいで、ベニマルが少しばかり怒っていた。

他にも、豚頭帝(オークロード)と俺らが戦っていた時、トレイニーさんがゲルミュッドと怪しげに暗躍をしていたラプラスという道化にあったらしい。

されに、ガビルもラプラスに会っていたらしく、中庸道化連の一味であると言っていたらしい。

そして、ミリム曰く、クレイマンと言う、悪だくみが大好きな魔王が居ると言うことも聞いた。

まぁ、一時保留だな…確定要素もないし

 

「今後は、謎のなんでも屋に注意するとして…とりあえず今日はお開きだ。 みんなゆっくり身体を休めてくれ」

 

ォオォォオオ!

 

リムルの言葉に皆は、武器を上に投げて喜んだ。

 

「じゃあフォビオ、お前も気を付けて帰れよ」

 

「……はっ!? 待ってくれ、俺は許されないだろう!?」

 

リムルの言葉に、フォビオは目を見開いて驚いた。

確かに無罪ではないが、フォビオは利用されただけみたいでし、俺達に人的被害は出ていないからな、俺的にはライオンハオージョウを呼び出せて、暴れられたから満足だ。

 

「ミリム、お前もそれでいいよな?」

 

「うむ!一発殴ってやろうと思っていたが、許してやるのだ」

 

……一発殴ろうとはしてたのかよ…!

 

「カリオンもそれでいいだろう?」

 

は?え?

ミリムの言葉に俺と恐らくリムルも困惑した。

 

「やはり気付いていたか、ミリム」

 

ミリムが顔を向けた木陰から、大柄な男が姿を現した。

なるほど、この大柄な男が…

 

「よう、そいつを殺さずに助けてくれたこと、礼を言うぜ」

 

「カリオン様…!」

 

フォビオのあの反応、あの大柄な男こそ、魔王カリオンだな。

魔王カリオンは、逆立った短い金髪に鋭い眼光、野性味のある風貌で、圧倒的な威圧感を立ち上らせている。

確かに魔王に相応しいな。

カリオンは、俺らに対して謝罪をした後、カリオンは、お詫びとしてカリオンが治める獣王国(ユーラザニア)魔国連邦(テンペスト)との不可侵条約を結んでくれた。

のちに、カリオンは使者を送ると言ってくれた。

流石は魔王、身体だけじゃなくて、器もでか───

 

ズカン!!

 

俺が感心していると、大きな音が聞こえ、音の方を見ると、カリオンが拳でフォビオを吹き飛ばしていた。

 

「ったく、仕方ねぇな…おら、帰るぞ」

 

カリオンは、血がいっぱい出るほどの重症に戻った。瀕死のフォビオを担いで転移魔法で去って行った。

 

「一件落着…か?」

 

「問題は山ほどありそうだけどな…」

 

「ああ、頭が痛い…」

 

「男が、そんなことを一々気にするんじゃねぇ!」

 

「そうだ……」

 

「「え?」」

 

リムルと俺が会話をしていたら、何処からか、声がしてきた。

俺とリムルは、声の主を探すために、周りをキョロキョロと見渡す。

 

「何キョロキョロしてんだ!」

 

声は俺の左側…いや、左手首から聞こえ、俺とリムルは声の方を見る。

 

「おう、何かようか」

 

声と共に超絶勝負チェンジャーのライオンの目が光っていた。

俺とリムルは一度顔を合わせ、再び超絶勝負チェンジャーを顔を向けた。

 

「「……………しゃ、喋ったァアァァアァァァア!!?」」

 

俺らの叫びは辺りに響き渡り、暴風大妖渦(カリュブディス)との戦いは、割と締まらない感じで終わった。




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魔国連邦外交編
23話 暴風大妖渦戦の後始末


暴風大妖渦(カリュブディス)との戦いは終わったのだが、その後が大変だった。

ドワルゴンから、援軍として来てくれた天翔騎士団(ペガサスナイツ)の団長ドルフにライオンハオージョウについて説明を聞かれ、さらにミリムの攻撃をライオンハオージョウが放った物だと誤解されたせいで、ライオンハオージョウが高出力の魔法兵器と誤解された。

後日、ドワルゴンから国賓待遇が来たので、説明はリムルに任せようと思う。

それから数日後、戦いを見届けたフューズやカバル達もブルムンド王国へと帰って行った。

俺達とブルムンド王国が友誼を結べるように、国王や貴族達を脅はk…説得をしてくれるそうだ。

そして、獣王国(ユーラザニア)からフォビオが改めてやって来た。

どうやら、フォビオは、自ら使者に志願したらしく、前と違って慇懃な物腰で来てくれた。

カリオンからの書状に書かれていたことは、魔国連邦(テンペスト)獣王国(ユーラザニア)の間で互いに使節団を派遣しようという書かれていたらしく、リムルはすぐさま了承した。

他国との交流が増え、魔国連邦(テンペスト)はどんどんと国家らしくなってきた。

まぁ、それも大切なのだが…

庵に居る俺は、畳の上に置いている超絶勝負チェンジャーを見る。

 

「……獅子王なのか…?」

 

「おうよ!正真正銘、俺がライオンハオーの精霊、獅子王だ」

 

「…」

 

俺は頭を抱えた、でも超絶勝負チェンジャーから声を出せるのは、獅子王のみだ。

と、なると…本当に獅子王なのだろうが、なんで喋れるのかが不思議だ。

まぁ、こういうのは本人に聞くのが一番だ。

 

「…あの~…なんで喋られるんです?」

 

「お前が俺を作ったというのに、分からねぇとはな」

 

少し切れ気味に獅子王は言うと、超絶勝負チェンジャーから赤い色の玉が出てきて、俺の向かいに光の玉が飛んで行った。

光の玉は、赤い法被に首には動物の毛皮で身を纏い、そして頭に巻いたねじり鉢巻きにボサボサの茶髪と孫悟空を思わせる暑苦しい風貌のおっさんこそ、人の姿になった獅子王だ。

 

「仕方ねぇ、教えてやるよ…お前の能力、製作者(ツクリダスモノ)はな、本人の記憶を元に作られているんだよ。 つまりだ、超絶勝負チェンジャーを作り出した時、俺が憑りついている超絶勝負チェンジャーを思い浮かべから、俺がついでに生まれたって事よ」

 

「…」

 

…?理解が追い付かない…え~っと、つまりだ。俺があの時、劇中で使われていた超絶勝負チェンジャーをイメージしたから、超絶勝負チェンジャーのついでに、獅子王が生まれたって事か……ということは、スピードルやミニティラとかも作り出すことが出来るのか。

 

「まぁ、そういうことだ、俺を呼びたかったらいつでも呼びな!」

 

そう言い、獅子王は光の玉に変わって超絶勝負チェンジャーの中へと戻って行った。

 

「……早速試してみるか」

 

そう思った俺は、頭の中を想像した。

想像したのは、ミニティラ。理由は簡単、俺もランガみたいなペットが欲しいからだ。

 

「おっと…」

 

一瞬だけ、ふらつき、倒れそうになるが、机を支えにしたおかげで踏ん張れた。

ライオンハオージョウの時より魔素は減らなかったが、そこそこ持っていかれた気がする。

黒い靄が一か所に集まり始める。

 

「ギャォン!」

 

黒い靄の塊から、ミニティラが飛び出て来た。

 

「おお!」

 

飛び出て来たミニティラをキャッチし、俺はミニティラの頭を撫でた。

これはいい、頼れる者達が増えた。

俺がホクホクしていると、

 

「エムル様、料理をお持ちました」

 

シュナが庵に料理を持って入ってきた。

そして、俺の目の前のテーブルに次々と並ばれる魚料理。そう、この料理は、空泳巨大鮫(メガロドン)を使った魚料理なのだ。

あるのは、天ぷら、煮つけ、刺身、かまぼこの和え物、焼き物…いくら、種類が多いとはいえ、飽きる物は飽きる。なんせ、ここの所、毎日朝昼晩これなのだ。

丸々一匹の空泳巨大鮫(メガロドン)を一人に食べるのはキツイ。

まぁ、魔素量(エネルギー)を増やすためには仕方ない…これが終わったら、当分は魚は見たくない。

ミニティラが見てくれている中、無心で空泳巨大鮫(メガロドン)の料理を食べ続ける。

そして、後から聞いた話なのだが、俺が空泳巨大鮫(メガロドン)を食べている時、ミリムが仕事とか言って去って行ったそうだ。

全く、来るときも去る時も突然だったな…

…まずは一段落と言った所だな。




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24話 獣王国との外交

「…ミニティラ、似合うか?」

 

「ギャォン…!」

 

俺は庵で、獣王国(ユーラザニア)に向かう使節団のために、シュナが用意してくれたタキシードに身を包んでいた。

 

「エムル様、そろそろ時間ですよ」

 

庭からシオンが声をかけてくれた。俺の所に来たと言うことは、リムルの方にはシュナが行ってるんだろうな。

 

「ああ、今行くよ」

 

俺はシオンの後に続いて、広場にある演説台に向かった。

使節団のメンバーは、幹部候補のホブゴブリン数名と取り纏め役のリグル、そして使節団の団長にはベニマルを任命した。

俺とリムルは演説台に登っていく、俺とリムルの姿を見た皆は、歓喜の声を上げてくれた。

予定では、先にリムルの言葉からだ。

俺がどんなこと言うのか、気になっていたら

 

「諸君、是非とも頑張ってきてくれたまえ!」

 

と、リムルは短めの言葉で済まそうとしていた。

…そんだけ!?

俺がそう思っていると

 

「…それだけですか?」

 

シュナがそれでいいのか、不安そうな顔で言った。

 

「えー…じゃあもう少しだけ、いいか、お前ら、今回は、相手と今後も付き合っていけるのかを見極めるという目的がある。 我慢しながらじゃないと付き合えそうもないのなら、そんな関係はいらん。 お前達の後ろには、俺にエムル、そして仲間たちがいる…恐れず自分の意思はキッチリ伝えろ、友誼を結べる相手か否か、その目で確かめて欲しい。 頼んだぞ!」

 

ウオォォオォオ!

 

リムルの演説に皆が歓喜の声を上げる。

ちなみにだが、俺は演説を胡麻化してパスした。

俺達は演説台から降り、ベニマルの下に向かった。

 

「任せたぞ、ベニマル」

 

「は、カリオンが信用に足る人物か、この目で見極めてきます」

 

「だからって言って、ケンカとかするなよ…」

 

「…はい」

 

俺が釘を刺すと、するつもりだったのか、ベニマルが少し残念そうな顔をした。

…なんだろう、とても不安になってきた。

 

「リグル達も頑張ってくれ、良い点はどんどん取り入れたいからな」

 

「見聞を広めて参ります!」

 

…うん、リグルは大丈夫そうだな。

 

「では行くぞ!」

 

「はい!」

 

ベニマルが、手を振りながら牙狼族が引っ張る狼車に乗り込み、他の者達もそれぞれの狼車に乗り込んでいく。

こうして、ベニマルが率いる使節団は、皆に見送れながら出発した。

うん、彼らなら心配はないだろうな…ベニマル以外……ま、まぁ後はこっちの準備だ。

 

「迎賓館の料理人はどうだ?」

 

綺麗で立派な建物が立ち並ぶ区画に俺とリムル、それにシュナとシオンが歩いてやってきた。リムルがシュナに聞くとシュナは笑みを浮かべて

 

「はい十全に」

 

リムルの質問に答えてくれた。

確か、シュナが料理の盛り付けの指導をしていて、ガゼル王が連れて来たベスタ―と言う元大臣が、皆に貴族に対するマナーを指導していたんだっけ?まぁ、これならこっちの準備は良さげだな。

そう思っていたら、ヨウム一行が魔国連邦(テンペスト)によってきた。

俺らがヨウムと酒を飲んでいる場所は、アメリカのホワイトハウスをイメージした執務館の一部屋だ。

 

「──なんか忙しそうな時に来ちまったかな」

 

そう言いながら、風呂上がりのヨウムはテーブルを挟んで、長椅子に座っていた。

 

「いやいいよ、せっかくだし接客の練習相手になってやってくれ」

 

俺の隣に座っているリムルが答える。

 

「接客?誰か来んの?」

 

「ああ、もうじき魔王カリオンところから使節団が来るんだよ」

 

酒を口に含みながらヨウムが聞き、リムルが答えると、ヨウムはその場で固まり、次の瞬間、口に含んでいた酒を俺の顔に目掛けて、吹いてきた。

 

「ゴホッゴホッ!…悪い、エムルさん!」

 

「……ま、まぁ…驚くのは当たり前だな…」

 

近くにあった布で、俺は顔に付いた酒を拭き始めた。

酷い目に遭ったな…しかも、リムルに関しては素早く離れやがった。

 

「で、でも…魔王カリオンって…」

 

「まぁ話せば長いんだぞが…」

 

俺が顔を拭いている中、リムルがヨウムに事の経緯を説明してくれた。

 

「──というわけで、国交樹立のチャンスってワケなんだよ」

 

「は、ははぁ…なるほど…それにしても魔王かぁ…その配下ならさぞおっかないのが来るんだろうな…」

 

そう言いながら、俺と自身のコップに酒を注いでくれるヨウム。

確かに、どんな奴が来るのだろうか気になるな。

 

「どうだろうな、別にケンカが目的じゃないし」

 

「だな、使節団の送り合いだから、ケンカはないと思うな」

 

俺はコップに入った酒の一口飲む。

 

「でも、不測の事態に備えてあちらには、ベニマルさんを行かせたんだろう? 向こうだって、同じように考えるんじゃねぇのかなぁ」

 

「だとしても関係ないな、下手に手を出して、チャンスをふいにしたくないし」

 

リムルの言葉にヨウムは、確かに、という表情を浮かべた。

 

「だからって、お前らも使者にケンカ売るなよ?」

 

「俺も手下どもも、そこまでバカじゃねーですって」

 

「それもそうか」

 

俺とヨウムは笑い合ったが、

 

「そういや、ハクロウが会いたがってぞ、腕が鈍ってないか、確かめたいってさ」

 

「師匠が!?一気に酔いが醒めた」

 

リムルの発言で、ヨウムは一気に酔いが醒めたらしい。

 

────数日後

 

魔国連邦(テンペスト)に入る門前で、獣王国(ユーラザニア)からの使者を待っていた。

 

「…来たか」

 

シオンに抱えられているスライム姿のリムルが呟く。

獣王国(ユーラザニア)の使者が乗ってきたのは、馬車ならぬ虎車だった。

虎車を見ながら、このまま穏便に行くことを願った。



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25話 獣人との仕合い

「お初にお目にかかります。 ジュラの大森林の盟主様、副盟主様」

 

車の扉が開き、綺麗な女性が錫杖を片手に降りて来た。

 

「私はカリオン様の三銃士が一人、"黄蛇角(オウダカク)"のアルビスといいます」

 

「初めまして俺が───

 

リムルが自己紹介をしようとした時、

 

「弱小なるスライムが盟主?それに、矮小で小賢しく卑怯な人間が副盟主だと?馬鹿にしてんのか!?」

 

別の車の扉が勢いよく開き、そこから虎のような耳が頭に生えている白髪の女性が出て来た。

 

「しかもだ、副盟主だけではなく、別の人間とも絡んでいるとは、魔物の風上にも置けねぇ」

 

白髪の女性は、イラ立っている様子で言い張った。

 

「控えなさいスフィア。 カリオン様の顔に泥を塗るつもりですか?」

 

 

「うるさいぞアルビス、オレに命令するな」

 

アルビスがスフィアという獣人を止めようとするが、スフィアは喧嘩腰を続けた。

俺とリムルに暴言を吐いたため、皆の気配が不穏なものへ変化する。

頼むから、喧嘩だけはしないでくれよな…

俺は内心ハラハラしていた。

 

「…ずいぶんな物言いだな、エムルは俺と同郷だし、このヨウムは俺の友人で、同じ師についた弟弟子でもあるんだが」

 

「お、おいリムルの旦那…」

 

リムルの言葉に対してスフィアは、

 

「それがどうした?」

 

スフィアは関係ないように吐き捨てた。

 

「…リムル、これは俺らの実力を見せた方がいいよな」

 

「だな…」

 

「おいおい、平和的にいくんじゃないのかよ!?」

 

ヨウムが止めようとしてきたが、それとこれとは話が別なのだ。

確かに、俺達は平和的に行きたい…だが、向こうが仕掛けてくるのはまた別だ。

 

「それでいいよな、アルビスさん」

 

俺がアルビスの方を向いて聞くと、アルビスはため息を吐いた後、

 

「いいでしょう、立会人は私がやります…それと、グルーシス、貴方はあの人間の相手をなさい」

 

「え?」

 

アルビスは虎車の御者をしていたグルーシスという獣人が指名され、指名されたグルーシスは少しばかり嫌そうに承諾した。

 

「リムル、俺に行かせてくれ…色々と試したいことがあるからさ…!」

 

「………分かった」

 

俺は両手を合わせて頼んだ。

それを見たリムルは少し嫌そうな顔をしたが、了承してくれた。

対戦カードは、俺対スフィア、ヨウム対グルーシスとなった。

俺とスフィアは向かいあい、俺は龍虎之戟とアバタロウギアドンドラゴクウのを作り出した。

 

「副盟主がどんなものか…この俺、"白虎爪(ビャッコソウ)"のスフィアが確かめてやる!」

 

「俺はジュラの大森林副盟主、エムル=テンペストだ。 よろしく頼むぜ、スフィアさん!」

 

変身する前に、自己紹介を済ませ、俺は刃の根元にあるギアテーブルにアバタロウギアドンドラゴクウをセットした。

 

ドラ!ドラ!ドラゴン!! ドラ!ドラ!ドラゴン!!

 

「行くぜ!」

 

「あぶな!……アバター…チェンジ!」

 

待機音が鳴る中、スフィアが殴りかかってきた。

変身中は攻撃しないのがお約束だろが!

そう思いながら、俺はスフィアの攻撃を避け、龍虎之戟の柄部分のトリガーを押した。

 

チョウイチリュウ! アチョーーッ!!

 

俺はドンドラゴクウへと変身した。

 

「ほう、それが噂に聞く変身か」

 

どうやら、俺の変身は結構広まっているらしい。

まぁ、このまま行くか。

 

「覚醒…!ドンドラゴクウ!!……さぁ来い!」

 

「ああ、遠慮なくいくぜ!」

 

スフィアは、雷のように早く移動しては、俺との間を詰め、殴りかかってきたが、俺は龍虎之戟の柄部分で受け止め、連続で刃の部分でスフィアを突こうとしたが、あっさりと避けられた。

 

「中々やるな!」

 

「まだまだ!」

 

今度は、俺から近づき刃を当てようと、龍虎之戟の刃と柄部分の両方を使って、斬りかかったり、柄部分で殴ろうとするも、それぞれ手で防御された。

 

「今度は…こっちだ!」

 

「おっと!…せい!ほ~~…ほわちゃ!」

 

スフィアの雷を纏った拳を柄で防御したのち、俺は龍虎之戟を回し、勢いよく突き、スフィアは刃を避けようとしたため、バランスを崩した。

そこを狙った俺は、柄部分でスフィアを弾き飛ばした。

 

「止めだ!」

 

そう言い、俺は再び龍虎之戟の柄部分のトリガーを長押した。

 

ドラゴンオウギ!

 

待機音が鳴る中、俺は龍虎之戟を何度か回しては、構えた。

 

「…いいぞ、見せてみろ」

 

「ああ、見せてやるよ…これが、英雄(ヒーロー)達の力だ!…ライトニングドラゴンフラ───」

 

「本能を解き放て!!そして俺をもっと楽───

 

「そこまで」

 

俺がスフィアに必殺技をぶつけようとした時、下半身が蛇になっているアルビルが持っていた錫杖で止めに入った。

 

「…もう十分です、このあたりに致しましょう」

 

「…ちっ、いいトコだったのに」

 

そう言いながらスフィアは、頭を掻いた。

あー…ちょっとやり過ぎたな。

そう思いながら、俺は変身を解除した。

 

「剣をおろせヨウム」

 

「旦那」

 

困惑していたヨウムはリムルの指示でゆっくりと剣を下した。

 

「それで? 俺達は合格なのか?」

 

「ええ、堪能させていただきました」

 

「合格!?ってことはまさか、この仕合いは…」

 

「ああ、どうやら俺達は、試されていたらしいな」

 

リムルとヨウムが話し合っている時、車から乗っていた獣人達が、ゾロゾロと降りてきた。

すると、スフィアは右拳を上げ、

 

「見たか、お前ら。彼は強く度胸もある。 我らが友誼を結ぶに相応しい相手だ。 彼らとその友人を軽んじることは、カリオン様に対する不敬と思え、わかったな!!」

 

「ははッ」

 

スフィアの言葉に獣人達は、跪いて返事をした。

 

「スフィア様の言われる通りだ。 獣人とこれだけやり合える人間は滅多にいない」

 

「…嬉しいね」

 

別で戦っていたグルーシスとヨウムは、握手を交わしていた。

 

「貴方方と貴方方の国と縁が出来たことに感謝します」

 

アルビスの言葉を聞いた俺とリムルは、互いに顔を合わせ、答えた。

 

「こちらこそ」

 

「「ようこそ、魔国連邦(テンペスト)へ!」」



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26話 獣王国との取引

獣王国(ユーラザニア)の使節団が訪ねてきたその夜、新築した和風の迎賓館で歓迎の宴を催しているのだが…

 

「ああ幸せ…♡」

 

えらく酒のウケがいい…

特にアルビルに…一瞬、酒好きのオッサンかなっと思ったのは秘密にしとかないとな…

ちなみに、獅子王こと、おっちゃんは端の方にヒョウタンに入った酒を渡したら、大人しく飲んでいる。

 

「おい誰だ!樽ごと渡したのは…!」

 

アルビルが下半身蛇になり、尻尾を器用に使って樽を持ち上げ、樽ごと酒を飲んでいる。

アルビルの周辺には、既に空となった樽があちらこちらに転がっていた。

どんだけ飲むんだよこの人……これは同僚に止めてもらう必要があるな…

そう思いながら、俺はスフィアの方を視線を向けると、スフィアが完全に虎になっていて、酒が入った盃をペロペロと、猫のように飲んでいた。

完全に虎だよ…驚きのあまり、声も出なかった。

リムルの方は、声を上げて驚いていた。

 

「この姿、他人に見せていいのか…?」

 

「特段、見せてはいけないものではないのですが…些か、お恥ずかしいですな。 油断しすぎで」

 

俺の質問に部下が恥ずかしそうに答えた。

というか、あれも酒だし……もしかして、"三獣士"の中でフォビオが一番まともなのでは…?

 

「ああ… りんごのブランデーがどんどん空に…」

 

どんどん空になっていく酒樽を見ながらリムルが呟く。

 

「あまり量は造れませんの?」

 

また一つ、酒樽を空にしたアルビルがしょんぼりとした顔で聞いてきた。

アルビスは後、何杯飲むつもりなんだ。

 

「あ、客人に振る舞うのがメインだから気にしないでくれ、果物は試験的にしか使ってなくて、森からの恵みに頼ってるんだ」

 

「酒はまだ嗜好品だから、皆には行き渡ってないしな」

 

一口、酒を飲んだ俺がリムルの説明に付け加えると、アルビルは少し考え始め、

 

「…では良い考えがございます。 我がユーラザニアの果物をこちらにまわすよう、手配いたしましょう」

 

「「えっ!?いいのか?」」

 

俺とリムルが喜びながら、アルビルとスフィアの方を振り返ると、二人は「それで酒を造ってこっちにも寄越せ」っと、言わんばかりに、目で訴えかけていた。

 

「割合は?」

 

「細かいことは任せる! オレは美味い酒が飲めればそれでいい」

 

なるほど、雑務はこっちに丸投げかよ、物々交換となると色々と難しい…

俺とリムルは顔を見合わせ、頷いた。

 

「ゴブタ、それが終わってからでいいから、商人詰め所にいる代表を呼んできてくれ」

 

「はいっす」

 

リムルは腹踊りをしていたゴブタに頼み、商人詰め所から代表を呼んでくるように頼んだ。

 

「そういえばさ、リムル様とエムル様って、よく息が合うよな…」

 

「「そうか?」」

 

俺とリムルは首をかしげながら答えた。

 

「ほら今だってさ…」

 

「確かに、お二人ってよく息が合いますね」

 

酒を飲みながらシオンが、スフィアに共感した。

 

「思念伝達で合わせてるのか?」

 

「「してないって」

 

「…」

 

スフィアの質問に、俺とリムルがまた息ぴったりに否定したため、スフィアは疑いの目で俺らを見ている。

本当に会話していないんだけどね…完全に誤解してるな、あの目は…

だが、スフィアの言う通りだ。 よく俺とリムルは色々と息が合う時がある。

なんでだろか? 俺とリムルは会うのは、豚頭帝(オークロード)戦の前に会った時が初めてだったし……うーん、考えるほど分からないな…なんでこんなにも俺とリムルは息が合うのだろうか…

俺が考えていると少しばかり頭痛がした。

前世のことを思い出そうと頑張ると、それを阻むように頭痛がいつも来る。 となると、俺の前世が関わっているのだろうが…今は完全に思い出せないな。

というか、俺の転生には、色々と不思議なことがあるんだよな…俺は向こうで死んで気が付いたら素っ裸で森の中に居た。そして、魔力感知を手に入れてないのに言語を理解することが出来て、字は書けないが読める…この三つが謎なのだが、原因が全くもって分からないんだよな…それらしいスキルもなかったし…どうなってるんだ?

 

「リ、リムル様、エムル様これは一体…!」

 

俺が酒が入ったコップを片手に持って考えていると、腹芸が終わったゴブタが、商人詰め所から呼んできた代表の犬頭族(コボルト)のコビーがやって来た。

ちなみにだが、コビーと言う名は、リムルが名づけた訳ではない。

 

「じゃ、あとよろしく」

 

「えぇ!?」 

 

どうやらリムルは、コビーに丸投げするようだ。

てか、取引を酒の席でまとめるものなのか? まぁ、何がともあれ、他国との交流の始まりとしては、上々だと思う。

 

────────────

 

使節団の到着から数日後、アルビスとスフィアは大量のお土産()を持って、獣王国(ユーラザニア)へ帰って行ったが、彼女たちの配下達は魔国連邦(テンペスト)の首都、リムルに滞在し続けている。

なんでも、魔国連邦(ウチ)の技術を色々と学んで来いって、言われているらしい。

ある者は、ドワーフの職人から技術を学んだり、またある者は、俺らの役に立つっと言って、警備隊に混ざったりしている。



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27話 留守番の副盟主

数日後、こちらの使節団も帰ってきた。

俺とリムルは部屋の中で、ベニマルとリグルの報告を聞いていた。

 

「獣人達の強さは流石の一言です。 一兵卒に至るまで、徹底的に鍛え上げられていました。 やはり、魔王カリオンと獣王戦士団の影響が大きいようです。」

 

「そのためか王宮には、贅が凝らされ、一般市民の住居は質素なものでした。 ですが、悪い意味ではなく、住民がそれを望んでいるようです」

 

魔物は弱肉強食なんだが、獣人は特に強者を讃える傾向でもあるのか?

 

「それからお土産をもらったのですが…ぜひ、リムル様とエムル様に召し上がって頂きたいとのことです」

 

すると、ゴブリナのハルナが獣王国(ユーラザニア)から、お土産として貰ってきた果物を切って、持って来てくれた。

早速、俺は切り分けられたメロンを、リムルはウサギのように切られたリンゴを一つ取り、それぞれで食べた。

 

「「甘い!」」

 

果物を食べた俺とリムルは、感想を述べた。

確かに、これなら美味しい酒が造れそうだな…

 

「でしょう?」

 

「素晴らしい品質だな、天然ものなのか?」

 

「何代にも渡って改良を重ねたそうです」

 

「へ~」

 

幸せそうに食べているベニマルを背景に、二人が会話をし続ける。

 

「リリナ」

 

「はい」

 

ゴブリンロードの一人であるリリナが、リグルに呼ばれて立ち上がり、報告書を見ながら報告してくれた。

 

「生産管理部門から、次回の使節団に加わる者を選出します。 ぜひ、その技術を我が国にも取り入れましょう!」

 

「うむ、期待してるぞ」

 

リムルが真面目に相談している中、俺はリムル達の会話を聞き流しながら、果物を食べ続けた。

どれもこれも、甘くて美味しい…

 

「よっと、じゃあ、俺はドワーフ王国へ行く準備があるから、あとの取り決めは頼んだぞエムル、リグルド」

 

椅子から降りたリムルが、部屋から出る際に、言ってきた。

そう言えば、明日だったなドワーフ王国に行くのは…

ちなみにだが、俺はもちろん留守番です。 チクショウが!! 俺も行きたいよ! 俺、この世界に転生してから、魔国連邦(テンペスト)から出たことないんだよ!

留守番と言われたときは、心の中で泣き叫んだよ。

…シオンみたいに、泣き暴れたら行かせてくれるかな?

だが、俺は副盟主のため、盟主であるリムルの代わりをしないと行けないので仕方なく残ることにしたのだ。

ドワーフ王国に行くのは、リムルとシュナ、泣きわめいて行くことになったシオン、狼車を引くランガ、そして、カイジンとドワーフ兄弟の四人…後は、護衛の狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)だ。

 

「お任せください」

 

「…分かったよ」

 

俺はリムルを見送った後、ヤケクソで果物を食べまくった。

 

────翌日

 

ドワーフ王国に向かうリムル達を送るために、多くの者達が集まっていた。

このまま、何も起こらず、出発をするのだろうと思っていたら、

 

(リムル様、エムル様)

 

ソウエイから思念伝達が来た。

 

(どうしたんだ?)

 

リムルがソウエイに訊ねる。

 

(お二方に渡したい物があると、言う者を捕まえました…そちらに送ってもよろしいでしょうか?)

 

(渡したい物か…どうするリムル?)

 

ソウエイの報告を聞き、俺はリムルにどうするか聞いた。

まぁ、答えは決まってるけどな。

 

(勿論!有難く貰うことにするよ、ソウエイ、頼むぞ)

 

(御意…)

 

しばらくすると、俺達の目の前に狐の獣人族(ライカンスロープ)と子供のゴブリナが、ソウエイの影移動で運ばれてきた。

 

「リム…ル様…エ…ムル様っ!?」

 

二人は俺らの姿を見るなり、驚いた表情を浮かべた。

 

「…俺らに用があるんだって?」

 

リムルが二人に訊ねると、子供のゴブリナが俺達の近くまで来ては、

 

「あのっ、リムル様!これお守作ったの!!リムル様の旅があんぜんでありますようにって」

 

子供のゴブリナは片手に持っていたスライム姿のリムルをモチーフにしたお守りをリムルに渡した。

 

「え、エムル様にもお守り作ったの!」

 

「おっ、ありがとうな、大事にするよ」

 

リムルに礼を言われた子供のゴブリナは、嬉しそうな表情を浮かべ、今度は俺に近寄ってきては、もう片方の手から俺をモチーフにしたキーホルダーのお守りを俺に渡してくれた。

 

「ありがとうな、俺も大切にするよ」

 

俺も礼を言うと、リムルの時と同様に、嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「それで、そこの獣人族(ライカンスロープ)は?」

 

「この警備隊のお姉ちゃんが、お守り探してくれたの!!」

 

跪いていた獣人族(ライカンスロープ)は、少しばかりビビっているみたいだな。

 

「…ほほう、警備隊の新人…か…これからもよろしくな!」

 

「…っ! はい! 任せるです…!!」

 

警備隊の新人だろう獣人族(ライカンスロープ)は、しっかりと返事をした。

 

「俺からもよろしくな!」

 

「はい!了解なのです!」

 

俺から頼むと、また、いい返事をしてくれた。

こうして、微笑ましい出来事があったのち、リムル達はドワーフ王国に向けて、出発していった。




というわけで、トリニティから某獣人族(ライカンスロープ)を出してみました。
これからも、ちょくちょくトリニティのキャラや、漫画が追い付いたら、魔物の国の歩き方のキャラも出そうと思ったます。


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28話 副盟主と魔国連邦

リムル達がドワーフ王国に旅立って数日たった。

魔国連邦(テンペスト)の皆は、リムルが居なくても、いつもと変わらない日常を送っていた。

俺は以外は…

窓の外を数分見てから、俺は机の上に山積みになっている木の板に顔を向け、死んだ魚のような目をした。

俺は副盟主と言っても、見回りやリムルと案の相談と言った、文字を書かない仕事が大半だったのだ。

これは、文字をかけない俺のためにリムルがしてくれた配慮なのだ。

だが、流石に今回は回避することが出来なかった。

と言っても、リグルド達がまとめてくれた書類を俺が見て、ハンコかサインするだけなのだけどね…リムルの分もあるから、これがまた大変なんだよ…

 

「さてさて、今回は……完全回復薬(フルポーション)の生産の安定化が完了した報告書、路面工事の増員と倉庫を増やす許可、鍛冶場の増築許可、警備隊の休暇を増やす許可…か」

 

紙の代わりに木の板に書かれていることを読み上げながら確認しする。

どんな怪我でも治すことが出来る、完全回復薬(フルポーション)の生産が安定したことはいいことだし、路面工事に関することは許可だな、鍛冶場の増築は…ゲルド達は、暴風大妖渦(カリュブディス)戦で壊れた街道の修復に専念して欲しいから、カイジン達には悪いが、保留にさせてもらうか…後、この警備隊の休暇の件に関しは、ゴブタの奴がドワーフ王国に行く前に、こっそりと混ぜたのだろうな…後で、ハクロウにゴブタが帰ってきたら、訓練レベルを上げてもらうことにしとくか。

そう思いながら、俺は、報告書に確認したことを示すために、サインをした後、机の空いているスペースに置き、路面工事の件が書かれている木の板には承諾のハンコを、鍛冶場の件が書かれている木の板には保留のハンコを、そして、警備隊の件については、拒否のハンコをそれぞれ押した。

俺がハンコを押し終わった時、誰かが扉をノックしてきた。

 

「入っていいぞ」

 

「失礼します」

 

部屋に入ってきたのは、リグルドだった。

 

「エムル様、書類を回収しにまいりました」

 

「ああ、丁度終わったところだよ」

 

「では、息抜きされてはどうですか? 今は急ぎの件もないですし」

 

「そうだな~…」

 

リグルドの提案に、俺は顎に指をあてながら考えた。

確かに、ここの所は部屋に籠ってばっかりだったし、外を見まわるのもいいかもしれないな。

そう考えた俺は、立ち上がり。

 

「じゃあ、そうさせてもらうよ」

 

「では、後は我々にお任せを!」

 

「ああ、行ってくるよ」

 

見送ってくれるリグルドを部屋に残して、俺は外に出かけることにした。

外は実に平和だ。

風は気持ちいいし、太陽の陽光は暖かい。

折角だし、串肉でも食べに行くか。

 

「エムル様、ご機嫌麗しゅう」

 

「エムル様!おはようございます!」

 

「ああ、皆おはよう」

 

俺が町の皆とすり違うと、全員が挨拶をしてくれる。

そうこうしていると、串肉が売っている露店に着いた。

 

「エムル様、今日はどうしたのですか?」

 

「いや~、息抜きとして、串肉を買いに来たんだよ…ってことで、一本くれる?」

 

「分かりました、少しばかりお待ちください」

 

店に居たゴブイチに串肉を一本注文し、できあがるのを待った。

 

「エムル様、おはようございます」

 

俺に気づいた一人のホブゴブリンが、俺に挨拶をしてきた。

 

「えーっと、確か…君は…」

 

「自分は警備隊の、ゴブエモンと言います」

 

ゴブエモンは跪いた状態で、俺が名前を言う前に答えた。

 

「警備隊か……そう言えば、最近警備隊に入った獣人族(ライカンスロープ)の様子はどうだ?」

 

「っ!? フォスを知っているのですか!?」

 

ゴブエモンは、驚いた表情で聞いてきた。

なるほど、あの獣人族(ライカンスロープ)はフォスと言うのか、

 

「まぁな、この前、俺とリムルにお守りを渡したい子を連れてきてくれたんだよ…名前は聞いてなかったけどな」

 

「…」

 

俺が理由を説明すると、ゴブエモンは少しばかり頭を抱えていた。

 

「エムル様、アイツ、何かご迷惑になるようなことをしましたか?」

 

「いいや、別にしてないぞ?」

 

ゴブエモンの問いに、俺は首を傾げながら答えた。

 

「そうですか…アイツは、色々と問題を起こしやすいので…」

 

…ゴブエモンって、意外と苦労人なのかな?

そう思っていたら、

 

「エムル様、串肉焼き上がりましたよ」

 

ゴブイチが焼きが上がった串肉を俺に渡してくれた。

 

「では、自分はこれで…」

 

「ああ、またな」

 

ゴブエモンは俺に一礼したのち、警備へと戻って行った。

 

「じゃあ、ゴブイチもまたな、晩飯、楽しみにしてるぞ」

 

「はい、お任せください」

 

俺はゴブイチと離れ、歩きながら串肉を食べ始めた。

ゴブイチが焼き上げたと言うのもあって、串肉は物凄く美味しかった。

満足しながら、俺は施設を見学したり、最近出来た美味しい食べ物屋などを巡り、昼過ぎ辺りに仕事に戻った。

 

────数日後

 

リムル達がドワーフ王国から帰ってき、その翌日の朝、リムルとゴブタがシオンの料理を食べている。

ゴブタの部下に、訳を聞いたところ、ドワーフ王国にあるエルフのキャバクラに行っていたらしく、それをシュナとシオンに見つかり、罰として、シオンの手料理を食べることになったという…自業自得だな。

ちなみに、ゴブタはシュナとシオンに、情報を言った部下を、ちゃんと教育していなかった、と言う理由で、一緒に食べることになったという。



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29話 リムルは人の国へ

俺らは会議室に集められていた。

 

「──という訳で、人間の国に行こうと思う」

 

リムルが人間の国に行こうとしている理由を俺含め、皆に言った。

リムルは、シズさんと言う、大切な人の心残りを無くすために、イングラシアと言う国に行こうとしているみたいだ。

 

「ドワルゴンとは違い、魔物を受け入れてくれるとは限らないからな、今回は人間に化けて、コッソリ潜入するつもりだ」

 

リムルは大丈夫そうに言うが、

 

「…お話はわかりました。 ですが、リムル様がお一人で旅立たれるというのは…」

 

リグルドが心配そうに言うと、それに続くように

 

「左様じゃな、万が一のことがあれば、ジュラの大同盟を根底から、崩壊するやもしれぬ」

 

ハクロウが発言すると、リムルはテーブルの下に影移動で出て来たランガを見ては、

 

「コッソリと言っても、一人旅じゃないぞ、陰に潜んだランガは連れて行くし、それに…」

 

リムルはソウエイの方に視線を向けると、

 

「俺の分身体を一体、リムル様との連絡役に回しておく、何かあれば皆にも、すぐ知らせよう」

 

ソウエイが説明してくれた。

ランガとソウエイが居るなら、大丈夫そうだな…

 

「ということだから、安心して欲しい、案内役も頼むつもりだしな」

 

「案内役?」

 

リムルの言葉に、リグルドが言い返す。

案内役?……ああ、あいつらのことか。

俺は案内役が誰かすぐに分かったが、皆は分からないようで、リムルが説明を始めた。

 

「──なるほど、カバル殿にエレン殿、それにギド殿ですか」

 

「イングラシア王国に行くにはブルムンドを経由するし、彼らなら俺はスライムなのも知ってるしな」

 

「確かに…人間の国に入るのに、我ら魔物が付き添っては、却ってひだねになりかねません…それに、人間であるエムル様が行くとなっても、この国の二人の王が、もし、何かあったら、大変なことになりますし…」

 

「だろ?」

 

確かに、シュナの言うとおりだ。

リムルの護衛と言って、ベニマル達が人の国に一緒に行ったら、逆に怖がられるし、と言って、人間である俺がリムルと行って、俺らに何があったら、魔国連邦(テンペスト)が無くなる可能性もある。

 

「リムル様!」

 

そうこうしていたら、カバル達を呼びに行っていたゴブタが、影移動で帰ってきた。

 

「戻ったか、どうだった?」

 

「大船に乗ったつもりで、任せてくれ!!だそうっす」

 

「引き受けてくれたのか」

 

リムルが聞くと、ゴブタは手で笑顔で答え、それを聞いたリムルはうれしそうな表情を浮かべた。

だが、皆は心配のようで、不安そうな表情を浮かべた。

 

「…わかりました。ですが、くれぐれもご注意くださいね」

 

「ああ、わかってる」

 

シュナの注意を、リムルは平然と返事をした。

 

「リムル様に、もしものことがあれば我らは…ッ」

 

「十分、気を付けるよ」

 

涙を流しながらリグルドが大きめの声で叫び、リムルは少し引き気味に返事をした。

 

「頼んだぞ、ソウエイ」

 

「無論だ」

 

ベニマルはソウエイにリムルを守るよう頼み、ソウエイは当然のように答えた。

こうして、カバル達の到着次第、リムルが人の国へ行くことが決まった。

 

────その晩

 

リムルの庵で俺とリムルは、酒を飲んでいた。

実をいうと、カバル達が思っていたより早く、魔国連邦(テンペスト)に来たため、明日の早朝に出ることになったので、今、リムルと晩酌をしているのだ。

 

「あっ、そうそう、ガゼル王との交渉で、ドワルゴンの薬師達がこっちに来ることになって、完全回復薬(フルポーション)が三本作られるようになるみたいだから、そこのところわかっといてくれ…後、上位回復薬(ハイポーション)魔国連邦(テンペスト)の特産品にしたんだ」

 

「…というと?」

 

「ああ、それはな───

 

リムルから、俺は色々と話を聞いた。

リムルは、冒険者をメインで回復薬を売ろうとしているのだが、カイジン曰く、完全回復薬(フルポーション)を売ろうとしたら、国や貴族しか買えない金額になってしまう。逆に、完全回復薬(フルポーション)を百分の一に薄めた下位回復薬(ローポーション)は、冒険者にとって、一番馴染み深い薬なので、今更どこぞの特産品として、売るのは難しいらしい。そこで、一番特産品にできるのは、完全回復薬(フルポーション)を20分の一に薄めた、上位回復薬(ハイポーション)が、一番有力的だそうだ。上位回復薬(ハイポーション)は、ベテランの冒険者が、いざっという時に、用意する代物で、そこそこのお金を持っているとのこと。

こうして、一番儲かりやすいだろう、上位回復薬(ハイポーション)を特産品にすることにし、リムルがシズさんの心残りを無くすついでに、他国に上位回復薬(ハイポーション)を高値で売るみたいだ。

 

「…頑張れよ、上位回復薬(ハイポーション)を俺らの特産品にすることが出来たら、国庫が潤うことが出来るんだかさ」

 

「分かってるさ」

 

俺は酒を一気に飲み、リムルの方を見ては、

 

「…魔国連邦(テンペスト)のことは俺に任せて、お前は大切な人の心残りを無くしてやってくれ」

 

「……分かった、お前に任せるぞ」

 

「ああ…!」

 

俺とリムルはまた、朝方近くまで酒を楽しんだ。

 

───早朝

 

「よし、と…じゃあ、留守は頼んだぞ」

 

ウオォォオォ!!

イッテラッシャイマセ!!

 

かくして、リムル達は人の国へと出発していった。



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30話 商人ミョルマイル

お気に入り100人突破、ありがとうございます!


リムルが旅立って数週間経った。

ドワルゴンの時と同様、リムルが居なくても、皆は平和に暮らしていた。

俺の仕事も、シュナのお蔭でだいぶ楽になっている。

今日も、執務室で仕事をしていたら、

誰かがノックして来た。

 

「入っていいぞ」

 

「失礼します…エムル様、エムル様とお会いしたい人が参りました…通してよろしいでしょうか?」

 

シュナが執務室に入って来ては、来客が居ると言ってきた。

 

「分かった、今行く」

 

俺は仕事を一回中断し、来客が居る場所へと向かった。

 

────────────

 

来客室で待っていたのは、丸々と太った身体で、立派な髭を生やした商人らしき男だった。

 

「お初にお目にかかります…私は、フューズ殿の紹介で参りました。 商人のガルド・ミョルマイルと申します」

 

ミョルマイルと言った、商人は紹介状のような物を取り出した。

 

「自分は、ジュラの大同盟の副盟主、エムル=テンペストです。紹介状を拝見させてもらいますね」

 

俺は、ミョルマイルから紹介状を貰い、紹介状の内容を確認した。

確かに、フューズが書いた紹介状だ。 リムルの奴、ちゃんと上位回復薬(ハイポーション)の販売先を確保してくれたな。

 

「はい、確かに、フューズ殿からの紹介状を拝見しました。 今すぐ、上位回復薬(ハイポーション)1000本をご用意致します…リグルド、用意してきてくれ」

 

「承知しました」

 

同伴してくれていたリグルドは、一礼してから、上位回復薬(ハイポーション)を用意するために来客室から出て行った。

 

「宜しくお願い致しますぞ……失礼なことを伺いますが、何故、人でありながら、魔物に肩入りするのですか?」

 

やはり聞いてきたか、確かに通の人なら、脅威である魔物に肩入りしようとは、思わないだろうな。

少しの間を空けたのち、俺は口を開いた。

 

「確かに、魔物は脅威です…ですが、魔物の中には、争いもせず、良好な者も居るのです。だからこそ、自分と盟主であるリムル殿で、この国、魔国連邦(テンペスト)を様々な種族と共存が出来る国にしたいのですよ…そのためには、人の協力は不可欠と、自分とリムル殿は考えているのですよ」

 

俺たちの考えをミョルマイルに伝えると、ミョルマイルは目を瞑って考え始めたのち、ミョルマイルは

 

「…なるほど、よくわかりました」

 

ミョルマイルが少し納得しているように、頷いていると、

 

「失礼します。 ご要望の上位回復薬(ハイポーション)1000本を馬車にご用意させていただきました」

 

リグルドが、来客室に入ってきた。

 

「では、私はこれで失礼致します…これからも是非、宜しくお願い致しますぞ」

 

そう言い、ミョルマイルは来客室から退出していった。

上位回復薬(ハイポーション)を一気に1000本ねぇ、相当な商人なんだろうな。

俺はそう思いつつ、執務室に戻った。

 

────────────

 

ミョルマイルが来てから数日後、俺は自分の庵で寝転がっていら、少し懐かしい気配を感じ、庭の方を見ると、そこにはスライム姿のリムルが居た。

 

「よっ!久しぶりだな」

 

「……せめて、思念伝達で前連絡を言ってくれよ」

 

「悪い悪い、お土産買ってきたから、それで許してくれ」

 

そう言いながら、リムルは庵に上がって来ては、何かが入った箱を取り出してくれた。

箱の中身が気になり、開けてみると、そこにはシュークリームが入っていた。

 

「…た、食べていいよな?」

 

俺がリムルに訊ねる。

 

「ああ、今、思念伝達でシュナとシオンも呼んだから、もう少しで来ると思うぞ」

 

リムルの返事を聞きながら、俺はシュークリームを食べ始めた。

俺が夢中でシュークリームを食べていたら、シュナとシオンも到着した。

 

「まぁ! なんと愛らしい形のお菓子なのでしょう、これがシュークリムル(・・・)というスイーツなのですね!」

 

「シュークリームな」

 

シオンとシュナは、美味しそうにシュークリームを食べ始めた。

 

「あれ?リムル様?」

 

「よぅ、ベニマル、お土産あるぞ」

 

今度はベニマルがやって来た。

 

「いつの間に帰っていたんです?」

 

「ついさっきだよ、影移動で一時帰国だ」

 

リムルがベニマルに説明していると、次はハクロウとゴブタ達がやって来ては、リムルが帰ってきたと聞いた者達が次々へと俺の庵に集まってきて、庵の中はぎゅうぎゅう詰めになった。

皆が集まる中、俺はリムルに町の運営について話した。

勿論、ミョルマイルについても話した。

 

「リムル様、リムル様のお話もお聞かせください。 人間の国で先生になられたとか」

 

「実はな…」

 

シュナが気になって、リムルの話を訊ねると、リムルは全て話してくれた。

シズさんの心残りだという子供達は、国が強制的に呼び出し、そのせいで魔素が安定せず、死を待つだけなのだそうだ。

これを聞いたいリグルドは、子供達同情し、涙を流した。

 

「気の毒だとは思うが、手を貸してどうにかなるもんですか?」

 

「難しいでしょうな、膨大な魔素を安定させる程のスキルとなるとユニーク級…厳しい修行を課したとて、獲得できるとは限りませぬ」

 

ベニマルの質問にハクロウが茶を啜りながら答えた。

だが、リムルには一つ、思い当たることがあるようで、鍵は精霊らしい。

リムル曰く、シズさんも元は子供の頃に魔王に呼び出されたそうで、その魔王に炎の巨人(イフリート)を憑依させられたのだが、イフリートのお蔭で魔素を制御できていたのでは?というのが、リムルの仮説なのだ。

しかし、いつの間にか四つもシュークリームを食べていたトレイニーさんが、口ばさんだ。

トレイニーさん曰く、上位精霊は気まぐれで、気に入らないと行けないらしいので、どうにかして、精霊女王と呼ばれる者が治める、精霊の住処に行ければ、相性のいい精霊と会えるかもしれないらしい。

 

「まぁ、皆ありがとうな…またな!」

 

色々な情報を集めることが出来たリムルは、俺らに礼を行った後、影移動で戻って行った。

俺らも、少しばかり庵で休んだ後、それぞれが仕事に戻った。




はい、大半の人が予想出来ているでしょうが、次章から胸クソやグロシーンが多めになってきます。
ご注意ください。

次章に転生する?
  >Yes
   No


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魔王誕生編
31話 災厄の前兆


執務室に居た俺は、リムルからの連絡を受けたので、リムルと水晶玉を通じて話していた。

 

「───というわけでな、子供達のことは無事に解決した、そろそろ先生業も一段落って感じだ」

 

「それは良かった…じゃあ、すぐにでも戻ってくるのか?」

 

子供達が無事、魔素を安定すことが出来たことを聞いた俺は安心し、すぐに帰ってくるのかを聞いた。

 

「いや、子供達に精霊が馴染んだのを確認するまではこっちに居るつもりだ」

 

「…了解、お土産を楽しみにしてるぞ」

 

「ああ、任せといてくれ…それと、そっちの様子はどうだ?」

 

「皆元気だし、至って平和だよ」

 

リムルの質問に、俺は微笑みながら答えた。

だが、あることを思い出したので、それだけリムルに報告することにした。

 

「そう言えば…少し前にヨウム達が来たんだが…新顔が一人居たな…」

 

「新顔?へぇ…」

 

「なんでも、失言したヨウムを倒したのが切っ掛けだとか…」

 

「え!? ヨウムが負かされたのか!?」

 

ヨウムが負けたと俺が言ったら、リムルは驚いた表情を浮かべた。

正直言うと、初めに俺が聞いた時も驚いた。

 

「たいしたもんだな、その新人…戦士系か?」

 

「いや、俺は話したことがないんだが、魔導師(ウィザード)って聞いたな…名前は確か…ミュウラン、ヨウム達の軍事顧問になったとか」

 

リムルの質問に俺は、外に居るヨウム達を見ながら答えた。

 

魔導師(ウィザード)か…どんな奴か気になるな」

 

「当分は滞在するみたいだぞ…もしかしたら、会えるかもしれないな」

 

「それは楽しみだ…じゃあ、俺はそろそろ戻らないと行けないから、またな!」

 

「ああ、皆、お前の帰りを待ってるからな」

 

こうして、俺らは通信を切った。

俺は、このまま何事も起きないと思い、リムルの帰りを待とうと思っていた。

だが、数日後、ソウエイからの知らせで、事態は急変した。

 

────────────

 

「ファルムス王国が戦争準備?」

 

「はい…ですが、ファルムス王国と表立って敵対している人間の国はないため、どこに仕掛けるつもりなのかを探っております…」

 

「わかった、何か摑めたら連絡してくれ」

 

「御意…」

 

ソウエイとの通信を切り、俺は考え込んだ。

この話を聞いていたのは、俺とリグルドとベニマル、そして、報告をしに、途中から来たゴブリナのリリナだった。

 

「あの、何かあったのでしょうか…」

 

途中から来たため、話がつかめていないリリナが訊ねて来た。

 

「うむ…先日、百名程の武装した人間がここへ向かっているのが、報告されたのだ…彼らの所属先をソウエイ殿に、探ってもらっていたのだが…どうにもきな臭い」

 

腕を組んでいるリグルドが答えた。

 

「…リムルに知らせるか…リリナ、リグルを呼んできてくれ、対応を誤らないよう、警備隊に注意喚起しておく、リグルドはリムルに繋げといてくれ」

 

「分かりました…」

 

「承知いたしました」

 

リリナはリグルを呼びに部屋から出て行き、リグルドはリムルと通信を繋がるために、水晶玉に近づいた。

リグルドが通信を繋げようとしたその時、

 

「───ます…応答──…ます…こちら獣王国ユーラザニアのアルビス、テンペストの幹部の方、応答をお願いします。 緊急要請でございます」

 

三獣士のアルビスから連絡が入った。

 

「…エムルだ、緊急だと言ったが、どうしたんだ?」

 

俺が何のようなのか、アルビスに訊ねると、次のアルビスの言葉は信じられないものだった。

 

「エムル様…我が国ユーラザニアは一週間後、魔王ミリムとの交戦状態に入ります」

 

「は?」

 

俺は耳を疑った。

なんでミリムがいきなり、ユーラザニアと交戦状態に入るんだ…!?

俺らが困惑する中、アルビスは続けた。

 

「ついては貴国にて、避難民の受け入れを頼みたいのです。 突然の要請をどうか、お許しください」

 

「おい待て!一体全体、どういうことだ!?」

 

「ど…か、お願い…」

 

俺は問いただそうとしたが、通信は途中で切れた。

 

「なんで、ミリムが…」

 

俺はそう呟いて色々と考えたが、今はそれどころじゃない。

 

「ベニマル、先にベスタ―達にユーラザニアのことを報せてくれ」

 

「承知しました」

 

ベニマルがベスタ―達にユーラザニアのことを報せている間、俺は椅子に座り込み、色々と考えた。

ミリムも気になるが、ファルムス王国の動向も気になる…なんでこう、忙しい時に限って、リムルは居ないし、次々と色々な知らせが入ってくるんだ…何より、胸騒ぎがする…

俺はタイミングを見計らって、ベスタ―達と通信を切り、リムルと通信を繋げ、獣王国(ユーラザニア)のことを話そうとしたが、いくら頑張っても、リムルに繋がらない。

 

「なんで…」

 

もう一度、リムルと繋げようとしたその時、

 

「なっ…!」

 

「くぅ…!」

 

ベニマルとリグルドが、まるで力が抜けたように、その場に崩れこんだ。

 

「二人共、大丈夫か!?」

 

俺は慌てて二人に近づく

 

「す、すみません…エムル様…」

 

辛そうな表情を浮かべるベニマル。

 

「不味いことになったぞ」

 

今度は、窓から光の玉になった獅子王が入ってきた。

 

「どういうことだ、おっちゃん!」

 

俺が獅子王に訊ねると、獅子王は少し顔をこわばらさせ

 

「外を見てみろ、この町に結界が張られている…一つは分からねぇが、もう一つは恐らく…魔物を弱体化させる結界だ…」

 

「っ!!」

 

獅子王の言葉を聞いて、俺は気づいた。

ファルムス王国の奴らが…ここ、魔国連邦(テンペスト)に戦争を仕掛けるつもりのことに…

 

「急いだほうがいいぞ、広場の方で何か、騒ぎが起きていやがった」

 

「分かった、ベニマル!住民や冒険者、商人達を安全な場所に避難するように思念伝達で伝えといてくれ…! 俺は広場に行ってくる!」

 

「承知しました…エムル様、どうかお気をつけて…!」

 

「ああ…ミニティラ、来い!」

 

「ギャォン…!」

 

俺は執務室の窓を全開にあけ、壁に立てかけておいたスカイホーキーにまたがり、寝ていたミニティラを連れて広場へと向かった。

獅子王も俺に続いて光の玉となって付いてきてくれた。

 

「…思い過ごしであってくれ……」

 

そう呟きながら、俺は広場へと向かった。




投稿の日にちついてのアンケートを取ります。
締め切りは来週までです!


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32話 悲劇の始まり

俺がスカイホーキーで広場に向かっていると、ある物が見えた。

それは日本人だろう男が、シュナを拳で殴ろうとしている所だった。

 

「やめろ!」

 

俺はスカイホーキーをフルスロットルにし、男目掛けて、スカイホーキーを蹴り飛ばした。

 

「なに!?…ぐはっ!!」

 

俺は地面に転がりながら着地しながら、男の方を見た。

男の腹に、スカイホーキーの先端が突き刺さり、勢いよく男を吹き飛ばしていった。

 

「へぇ、やっぱり来たか…」

 

剣を持った別の男が俺を見ていたが、今はそれどころじゃない。

 

「え、エムル様…」

 

ハクロウの声がし、声の方を見ると、ハクロウが傷だらけになっていた。

そして、ハクロウの隣には傷だらけのゴブタが倒れていた。

 

「シュナ、何があった!?」

 

警備隊とシオンに守られているシュナに俺が聞くと、シュナは顔を下に向けながら答えてくれた。

 

「襲撃です。 警備隊の一人が絡まれまして、そこからあの者達と交戦に至ったのです…そして、結界が張られてから、商人や冒険者に紛れた者達が…」

 

それを聞き、改めて周りを見渡す。

露店や家は壊されており、あちらこちらで警備隊が倒れている。

…リムルが約束した、人を襲わないが裏目に出たか……!

 

「分かった、後は俺に任せろおっちゃん!」

 

「おうよ!お供なれども、暴れるぜ!!」

 

俺は襲撃者に面を向けては、忍者一番刀を作り出した。

 

「小僧、お前の能力製作者(ツクリダスモノ)には、周辺の魔素を使っている…だが、今は周辺の魔素の量が減っている…気を付けて使えよ」

 

持っていた超絶勝負チェンジャーに入った獅子王が忠告してくれる。

どうで、魔素の減りが多いなっと思ったわけだ。

そう思いつつ、忍者一番刀に忍シュリケンをセットし、変と書かれている場所を押した。

 

ザ・ヘンゲ!ニンニンニン!ニンニニンニン!

 

「シュリケン変化!」ニンニンニン!ニンニニンニン!

 

俺は勢いよく忍シュリケンを回した。

 

アカジャー!ニンジャー!

 

「それが変身か…」

 

アカニンジャーとなった俺は、続けざまに超絶勝負チェンジャーも回した。

 

チョーゼツ ニンジャー!

 

「暴れてあっぱれ!アカニンジャー!」

 

アカニンジャー超絶となった俺は、決めセリフと決めポーズを取った。

 

「忍ぶどころか、暴れるぜ!!」

 

俺はアカニンジャー超絶となったことで、素早く移動し、一気に剣を持っている男と距離を詰め、斬りかかる。

 

「うっ…!」

 

男は慌てて剣で防御し、剣と刀の押し合いが始めった。

 

「テメェ!さっきはよくも!」

 

後ろから先ほど吹き飛ばした男が殴りかかってくるが、俺が消えるように移動したため、簡単に避けられた。

 

「チッ!」

 

「悪いな…一気に決めさせてもらう!」

 

俺は勝負チェンジャーを忍者一番刀にセットする。

 

N・I・N・I・NIN・NININ

 

待機音と共に、忍者一番刀が炎を纏って刃がどんどんと伸びていく。

 

「超~絶…シュリケン斬!」イチバンショウブ!

 

掛け声とともに忍者一番刀を振り回し、男達目掛けて振り下ろした。

忍者一番刀の刃が敵めがけて更に伸びてそのまま一刀両断したその時、

 

「この騒ぎは何事か!」

 

男達を切る直前で俺は刃を止めた。

声の方を見ると馬にまたがった騎士達がやってきた。

騎士の数はおよそ百名。

 

「魔物の国と聞き、調査に来てみればこの騒ぎとは…我らは人類の法に従い加勢する!」

 

「待て!」

 

俺は変身を解き、騎士たちの目の前に立ち塞がった。

 

「貴様、何のつもりだ!」

 

「この騒ぎは向こうが仕掛けて来たものだ…証人なら多くいるぞ」

 

「ふっ、何見苦しい言い訳を…! この騒ぎは明らか、魔物が仕掛けてとしか思えんだろ! もしやお主…人に化けた魔物だな!? それならば、今ここで我らが成敗してくれる!」

 

俺が声を上げて、止めようとしたら騎士は無茶苦茶な理由で、俺だけではなく、成り行きを見守っていた市民たちにも斬りかかった。

 

「っ!」

 

俺は軽々と避ける事が出来たが、魔物達は弱体化しているため、動きが鈍くなっている。

周囲で上がる悲鳴。

皆の悲鳴を聞き、俺は少し動揺しかけたが首を横に振り行動に出た。

 

「ミニティラ…!」

 

「ギャォン!」

 

子供に向けて剣を振ろうとしていた騎士を、弾き飛ばしていたミニティラに向けて獣電池を投げた。

 

ガブリッチョ!

 

小さかったミニティラは、本来の姿であるガブティラへと姿を変えた。

 

「な、なんだアイツ!?」

 

ガブティラを見た騎士達は、驚き動揺していた。

 

「ガブティラ!騎士達を追い返せ!」

 

「ギャォオン!!」

 

「に、逃げろー!!」

 

ガブティラの叫びにビビった騎士達が逃げ出し始める。

 

「ふっ、こけおどしが」

 

だが、ビビったのは十数名のみだったようで、他の者達は再び市民達に襲い掛かった。

 

「…っ!皆聞け! 四人以上で集まり、仲間を守れ!何としても絶対に死ぬな!これは命令だ!!」

 

俺は声を張り上げて、皆に言った。

 

「おっちゃん!皆を守ってくれ!」

 

「おうよ!」

 

超絶勝負チェンジャーから出た獅子王は、市民達を守りながら避難誘導を始めた。

 

「人手が足りないな……仕方ない」

 

俺はギリギリまで魔力を使い、金色の剣を作り出すと、剣が人の姿へと変わっていた。

 

「ズバーン!」

 

俺が作り出したのは大剣人ズバーン、ボウケンジャーの七人目の戦士だ。

 

「ズバーン…そうそうで悪いが、皆を助けてやってくれ」

 

「ズンズン!」

 

返事をしたズバーンは獅子王が向かった方とは別の方面へと向かっていた。

 

「エムル様、どうか避難を…!」

 

シオンが俺に避難するように言ってきたが、俺は首を横に振り、

 

「俺はリムルからこの国を預かってるんだ…逃げるわけにはいかない…!」

 

「…」

 

俺はそれだけ言い、シオンの返事を聞かずに逃げ遅れた者達を助け始めた。

 

「はっ!」

 

「エムル様…! ありがとうございます!」

 

俺は親子を襲っていた騎士の剣を受け止めては、蹴り飛ばした。

 

「いいから、早く逃げろ…ベニマルが避難をしてくれているはずだ」

 

「分かりました…」

 

母親だろうゴブリナは、俺に一礼したのち、小さいホブゴブリンを抱えて逃げて行った。

 

「…」

 

怒りが沸々と湧き上がってくる中、俺は他に居ないか走り出した。

 

「キャアァァ!!」

 

子供の悲鳴が聞こえ、そちらの方に向かった。

そこには、あの男と騎士が子供達を襲おうとしていた。

 

「ぐっ!」

 

俺は身をていして子供達を守るために、背中を男と騎士に向けた。

だが、いつになっても痛みが来なかった。

不思議に思っていると、地面に何かが落ちた音がし、俺は振り返った。

俺の視線の先には、角が欠け、腹部から血が出ているシオンが、俺を守るように立っていた。

 

「……シオンっ!!」

 

俺は忍者一番刀を振って、騎士と男を追い払ったのち、倒れこむシオンを抱えた。

 

「も、申しわ…ご、ざい…ません……エ、ムル様……命令を…背いて、し…まって…」

 

「いいから、喋るな!!」

 

虫の息になっているシオンに対して俺は喋らないように言ったが、シオンは

 

「……どうか…お許し…を──」

 

力を振り絞り言った言葉を最後に、シオンは目を瞑った。

シオンの息と心肺が止まったことを確認した俺に、シオンを殺した者や無能すぎる自分に対する怒りや憎しみ、どうしてこうなったかの後悔、シオンや町の者を失った悲しみなどの、激しい感情が俺の頭の中で渦巻いていた。

 

ブツッ

 

俺の頭の中で、激しい感情が渦巻いている中、何かが切れる音が聞こえた。



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33話 災禍

今回は、第三者視点でお送ります


「ハハハっ! 死ねぇ!!」

 

襲撃者の一人、田口 省吾(ショウゴ・タグチ)がシオンの亡骸を抱えているエムル目掛けて殴りかかった。

 

「エムル様!!」

 

衛兵やシュナ達がエムルの下へ走り出すも、明らか間に合わない。

だが、ショウゴの拳は途中で止まり、周辺に居た騎士やショウゴ達は、ビビりながらも、エムルから距離を取った。

それと共に、エムルがシオンを抱えながらゆっくりと立ち上がった。

 

「エムル様!」

 

衛兵の一人がエムルの下に駆け寄ると、エムルは無言でシオンを衛兵に渡した。

 

「エムル様!どうか避難を…!」

 

エムルからシオンを受け取った衛兵は、エムルに避難するように呼び掛けるも、エムルは無言のまま、騎士達に向かって歩み出した。

エムルが一歩、また一歩と歩くたびに、騎士や襲撃者を含め、周りの者達の多くはエムルに恐怖を感じた。

下を向いているせいで、顔は見えないが、エムルが放っている殺意はおぞましいモノだった。

 

「本性を現したな!皆の者!あやつは、人の皮を被った魔物だ!! 今こそ、悪を討つのだ!」

 

ファルムス王国軍騎士団長であるフォルゲンは、副盟主であるエムルを殺せる好機だと思い、騎士達に命令した。

騎士達は、少しビビりながらもエムルを殺すために、エムル目掛けて走り出した。

 

「…」

 

騎士達が向かってくる中、エムルは顔をゆっくりと上げた。

エムルの顔を見ることが出来た、多くの者達をまた恐怖に感じた。

エムルの綺麗な瞳は光を失っており、常に微笑んでいる顔は憎悪で悍ましいモノになっていた。

 

「…っ! 皆の者!行くぞ!!」

 

流石のフォルゲンでも、エムルの表情に少しばかり恐怖を感じたが、すぐさま騎士団をエムルに向かわせた。

だが、騎士団の前列が、横から飛んできた紫色の妖気(オーラ)を放つ剣によって崩された。

 

「なんだ!?」

 

騎士達が混乱する中、紫色の剣はまるで、意思があるように騎士達や襲撃者達を襲った。

紫色の剣はある程度の騎士達や襲撃者を斬ったあと、自身を作り出してくれた主、エムルの下へと飛んで行った。

剣こと、ニンジャークソードはエムルの背中に収まっては、ギアディスクを自動で回転させた。

 

What's Up!?

 

待機音が鳴る中、エムルの姿がニンジャークソードと触れている所から、ドンムラサメへと、姿を変え始めた。

 

DON、MURASAME!!キリステ、Sorry!!

 

完全にドンムラサメへと姿を変えたエムルは、ゆっくりと歩み出した。

 

「…」

 

エムルは無言で歩き続けたが、エムルの目の前に二人の日本人が立ち塞がった。

 

「はっ!どうせ雑魚だろ?キョウヤ行くぞ!」

 

「うん、僕達なら余裕だろうね」

 

ショウゴとキョウヤは二人掛かりでエムルに襲い掛かった。

だが、二人の攻撃はニンジャークソードで受け止められ、エムルは、二人の攻撃を押し返したのち、ニンジャークソードを勢いよく振った。

 

「うおっ!」

 

「…っ!」

 

二人はギリギリで避けては、距離を取り、すぐさま態勢を整えた。

そんな中、エムルはニンジャークソードのギアディスクを一回転させ、トリガーを引いた。

 

イチシャーク・キリシャーマン

 

エムルはニンジャークソードを地面に突き立て、その場にしゃがみ込んだ。

しゃがみ込んだエムルは、潜水するかの如く地中に潜り込んでいった。

 

「なに!?」

 

「どこに…」

 

騎士や襲撃者達は最初は警戒していたが、中々現れないため逃げたと判断した。

 

「ハハッ! 副盟主は随分と腰抜けだな」

 

一人の騎士が、エムルをバカにし、それを聞いた他の騎士達が笑い始めたその時、最初にエムルをバカにした騎士が、地中から飛び出て来たエムルによって切り倒された。

 

「がはっ!」

 

切り倒された騎士は、切口から大量の血を吹き出しながら、その場で倒れて死んだ。

騎士を斬り殺したエムルは、再び地中に潜った。

 

「よくも、我らが同士を…!」

 

騎士を一人をやられたフォルゲンは、頭にきたのか、騎士全員に指示を送った。

騎士達は地面に警戒心を強めたが、それの行動は無意味だった。

エムルは地面だけではなく、壁から飛び出たりして、様々な方向から飛び出ては騎士達を次々と斬り殺していった。

 

「いい加減…ウザいんだよ!」

 

ショウゴは、襲い掛かって来たエムルの腹を左腕で貫いた。

 

「ハハッ!ザマァねぇな!!」

 

高らかに笑うショウゴは、エムルの腹を貫いた左腕を抜こうしたが、いくら動かしても腕は抜けなかった。

 

「はぁ!?ふざけるなよ!」

 

ショウゴは更に腕を抜こうと頑張ったが、それでも腕は抜けなかった。

 

「クッソ!…っ!ギャァァァ! う、腕が! 俺の腕がァァアァア!」

 

ショウゴが頑張って、腕を抜こうとしている中、エムルはニンジャークソードを使い、自身の腹を突き抜けているショウゴの左腕を切り落とた。

エムルに左腕を切り落とされたショウゴは痛みで、叫びながら地面を転がり回った。

 

「…」

 

エムルは自身の腹に、突き刺さったままのショウゴの腕を抜き、そこら辺に投げ捨てた。

ショウゴに貫かれ、穴が開いていた腹は、ドンムラサメのスーツと共に再生していった。

 

「化物が、我らファルムスの親愛なる民傷つけおって!皆の者!掛かれ!!」

 

オォオオォォォオ!!

 

怯える騎士達を置いて、勇敢な騎士達は一斉にエムルに襲い掛かり、剣でエムルを串刺しにした。

エムルから大量の血が溢れ出るが、ユニークスキル、不死者(シヲコバムモノ)により、エムルは無事だった。

騎士達はエムルの血だまりを踏みながら、更に深く、エムルに剣を刺し込んだ。

そんな中、エムルはふと思い、血に意識を集中させた。

エムルが意識を血に集中させたその時、血だまりから血と同様の赤さを持つ針が、無数に飛び出て、自身を刺していた騎士達を貫いた。

 

《確認しました。エクストラスキル「血液操作」を獲得…成功しました》

 

エムルの頭の中で世界の言葉が鳴り響いた。

エムルは早速、新たに手に入れた血液操作を使い、自身の血で矢のような物を、無数に作り出し、騎士達目掛けて放った。

 

「ぐうぅ!」

 

騎士達は盾や建物を使い、血の矢を回避した。

 

「…撤退するしかないか……この町は魔物に汚染されている!我らが神ルミナスは、魔物の国など断じて認めぬ! 故に! 西方正教会の助力を受け、武力を持って制圧する! 時は今日より一週間の後、指揮官は英傑と誉れ高いエドマリス王、その人である! 恭順の意を示すならば良し、さもなくば神の名の下に、貴様らを根絶やしにしてくれようぞ」

 

流石に撤退することにしたフォルゲンは、撤退ざまに声を張り上げて言い放った。

それを見たエムルは安心したのか、変身を解除し、その場に倒れ込んだ。

 

「エムル様!」

 

シュナがエムルの下に近づくと、エムルは目を瞑って眠っていた。

恐らく、魔素の使い過ぎで低位活動状態(スリープモード)になったのだろう。

シュナはエムルを安全な場所に運ぶように衛兵に伝え、後から来た、ベニマルとリグルドに状況を説明したのち、自分は怪我人の治療に向かった。



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34話 絶望の魔国連邦

今回は、リムル視点です。


イングラシア王国からの帰路で、西方聖教会の誇る聖騎士団(クルセイダーズ)の長、坂口日向(ヒナタ・サカグチ)と交戦していた俺は大賢者とランガから、町中に空間転移と影移動ができないこと聞き、ランガにまたがり洞窟の近くに転移することにした。

エムルが居るから、間が一があっても大丈夫かもしれないが…

俺は皆の無事を願いながら転移した。

 

「リムル様!」

 

洞窟からガビルが出て来た。

恐らく、俺の気配を感じて出て来たのだろう。

ガビルと共に出て来たベスタ―から、町が何からの魔法に覆われて、外部からの干渉を阻まれているのではないかとベスタ―の予測を聞き、さらに、ミリムの宣戦布告にユーラザニアの避難民受け入れ要請。

ミリムの方も気になるが、今は魔国連邦(テンペスト)に起こった異変だ。

 

「ご無事で何よりです。 リムル様」

 

「ソウエイ」

 

俺の影からソウエイが現れた。

恐らく、ヒナタ達にやられ、消えたソ分身体の気配を察し、俺の身に何かあったのだろうと心配してくれてたのだろう。

俺はソウエイと、ソーカ達を始めたソウエイの部下達と、町の端に来ていた。

 

《内部に基点のある大魔法"魔法不能領域(アンマジックエリア)"の影響と、外部から仕掛けられた結界による魔素濃度の低下を確認。》

 

大賢者に結界の解析鑑定をさせ、その結果を俺は聞いていた。

 

(魔素濃度の低下?ヒナタと戦った時の"聖浄化結界(ホーリーフィールド)"と同じものか?)

 

《否。原理は同じですが、浄化能力が弱く。 劣化版だと推測。 多重結界で抵抗可能です。》

 

俺は、ソウエイに聖浄化結界(ホーリーフィールド)の劣化版を張っている者を探すように伝え、魔法不能領域(アンマジックエリア)の影響を受けず、思念伝達を送れるようにするために、粘鋼糸をソウエイに預け、町の中に入った。

町の中は、とてもひどい状態で、あちらこちらで、家や露店が壊され、火が燃えていたり、壁に血が付いていた。

胸騒ぎが増していく中、俺は広場に向かうと、広場には人だかりができていて、俺に気が付いたリグルドやカイジン達が走って来た。

俺と連絡が付かなくなったことで心配を掛けたようで、リグルドは泣き出す始末だ。

リグルドが落ち着いたころで、俺が人だかりを聞こうとしたその時、爆発音が響いた。

爆発音が聞こえた裏路地へ駆け付けると、ゲルド達、猪人族(ハイオーク)達が道を封鎖し、内側ではベニマルとグルーシスが戦っていた。

その背後で見知らぬ美女が蹲り、意識のないヨウムを抱えている。

グルーシスはどうやら二人を守ろうとしているみたいだ。

 

「……そこを退け、グルーシス」

 

「それは出来んな。 冷静さを欠いた今のあんたらに、この女は渡せねーよ!」

 

「そいつは、第一容疑者だ」

 

刀を抜いていないベニマルは、襲い掛かって来たグルーシスを左手一本で地面に叩きつけた。

 

「お前やヨウムには悪いが、追求しない訳にはいかない」

 

「やめろベニマル!」

 

俺はベニマルを止め、改めて何があったかを聞き、町の中央広場へと移動した。

そこには、多くの魔物達が横たえられていた。

男も女も子供も関係なく。

広場で横たえられていた全員が息絶えていた。

……なんだ? なんで、町の住人達が血塗れになって…死んでいるんだ? 

ベニマルやゴブリンロードの一人が、人間達による襲撃があったと、説明してくれる中、俺は説明を聞き流しながらその光景を見続けた。

そうか……俺が言った、人間を襲うなという命令に従ったせいか。

弱体化していた魔物達は、抵抗もできず…

 

「私が大魔法を使用しなければ、こんなことにはならなかったでしょう」

 

ミュウランの言葉を聞き、俺は殺意がこもった目でミュウランを見たが、

 

《告。大魔法"魔法不能領域(アンマジックエリア)"よりも、町の外部から張られている、もう一つの結界のほうが影響は上だと推定。》

 

それを『大賢者』が止めてくれた。

そうだ…落ち着け。冷静にならないと…

俺は心の中で、何度も自分に言い聞かせ、怒りを押し込めた。

俺は息を吐き、ミュウランの処遇を保留し、宿に軟禁することにした。

そして、俺はふと思い、ベニマル達に訊ねた。

 

「なぁ…エムルはどうしたんだ?」

 

先ほどからエムルの姿が見ない。

あいつがこの事態を放置するはずがない。

 

「……リムル様、詳しいことは会議室で話しましょう…」

 

皆が視線を落としている中、ベニマルが声を絞り出すように会議室へ移動を提案してきた。

 

「…分かった、そっちで聞く」

 

俺は頷き、その場にいる幹部達と共に、会議室へ移動しようとした時、

 

「リムル様」

 

聞き覚えのある声に呼び止められ、俺は声の方を振り返る。

 

「よろしければワシも会議に参加させてもらいませんか? 今回の件について、外の者の視点でお話しできるかと」

 

「あんたは──来ていたのか…ああ、助かるよ。 ミョルマイル」

 

俺の視線の先には商人で、前に魔国連邦(テンペスト)から上位回復薬(ハイポーション)を1000本買ってくれたミョルマイルが居た。



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35話 絶望と希望

はい、今回もリムル視点です。


俺達はミョルマイルと冒険者数名を連れて、事情説明を受けるために会議室へと場所を移した。

ベニマル曰く、最初の襲撃者は人間の男女三名で、衛兵の一人が絡まれ、そこから交戦に至ったそうだ。

シュナやゴブタ達、少し後にハクロウが応援に加わったそうだが、戦闘が始まってすぐに、町が結界で覆われて、"聖浄化結界(ホーリーフィールド)"の影響でハクロウが負けたそうだ。

その後、エムルが応援に駆け付け、襲撃者達を追い返す勢いで戦ったのだが、ファルムス王国の騎士達が現れ、エムルと襲撃者の戦いを見て、剣を抜いたそうだ。

エムルは止めようとしたそうだが、騎士達は無茶苦茶な理由で、魔物達だけではなく、同族であるエムルに襲い掛かったそうだ。

"聖浄化結界(ホーリーフィールド)"の影響で住民の多くは動けなかったが、エムルが作り出していた、獅子王とガブティラ、大剣人ズバーンが魔物達を守ってくれたが、流石に三体だけだと、カバーできず、およそ五十名が命を落とした。

しかし、エムルが居なかったらもっと酷い状態になっていただろうとリグルドが話していた。

そして、ベニマルの次の言葉に、俺は驚愕した。 

 

「……エムルが…人間を殺した…だと…?」

 

町で虐殺が始まった後、それに対して激怒したエムルが、次々と騎士団を殺したそうで、エムルが殺した騎士の数は四十人以上だそうだ。

 

「…エムル様は…俺達が何もできない状態の中、お一人で騎士達の相手をしていました……俺達にもっと力があったら…! エムル様が同族を殺す必要がなかったんだ…!!」

 

ベニマルが自身に対する怒りで、机を叩いた。

エムルが、同族の人間を殺した…なんでこうなったんだ………そうか、俺の甘えがエムルに同族を殺させるハメになったのか…

そして、エムルによって撤退せざず状況になった、ファルムス王国の騎士団は去り際に、こう宣言したらしい。

 

『我らが神ルミナスは、人類を脅かす魔物の国など認めぬ! 故に、西方聖教会の助力を受け武力をもって制圧するものなり! 時は今日より一週間の後、指揮官は英傑と誉れ高いエドマリス王その人である! 恭順の意を示すならば良し、さもなくば神の名の下に貴様らを根絶やしにしてくれようぞ!』

 

「…茶番だな」 

 

それを聞いた俺が呟いた。

だが、魔物の殲滅を掲げている西方正教会は、ともかく、ファルムス王国の動向が気になる。

俺が考えていると、ミョルマイルが発言の求めた。

ミョルマイル曰く、ファルムス王国は元々、貿易で潤っていた王国なのだが、危険地帯だったジュラの森に魔国連邦(テンペスト)という、安全で税が安い交易路が誕生した。

そんな魔国連邦(テンペスト)は、ファルムス王国とって、利害の競合相手であり、潰すより手中に治めたい国なのだそうだ。

 

「エムル様は伏せと聞き及んでおります……ワシはこの町に残る商人の代表として、ここ居ります。ファルムス王国を迎え撃つのならば協力は惜しみませんぞ…!」

 

「オレぁブルムンドの冒険者だ。 最近はずっとこの町を活動拠点にさせてもらってた。 戦力が必要なら、手を貸すぜ?」

 

「わ、私も力になります!」

 

エムルが人間達を殺した事実を隠さず伝えてあるのに、商人や冒険者達は俺達に力を貸してくれるそうだ。

だが、これは俺達の問題だ。他国の人々を巻き込むわけには行けないと俺は判断し、ファルムス王国が彼らを口封じする可能性があったため、街道で空間転移で帰って貰った。

全員を見送った後、怪我人が治療されている建物へ向かった。

皆の様子を見ながら、俺は奥の部屋へ移動した。

 

「リムル様! お帰りだったのですね。 よくご無事で…」

 

「リムル様…ご無事で安心しましただ」

 

奥の部屋では、シュナとクロベエが働いており、シュナに関しては、両手が血で染まっていた。

部屋のベッドにはハクロウとゴブタが寝かされており、二人とも、切り傷からは血が滲んでいた。

ハクロウは意識があるが、ゴブタは意識がないらしい。

普段なら、回復薬や治癒魔法で回復させることが出来るのだが、二人に傷を負わせた襲撃者は、空間属性のスキルを使う者だったらしく、そのせいで回復薬や治癒魔法が効きにくく、傷口に直接働きかけることしかできないんだそうだ。

だが、俺なら暴食者(グラトニー)で捕食することが出来るはずだ。

 

(大賢者、暴食者(グラトニー)はもう使えるか?)

 

《解。 問題ありません。 個体名ヒナタとの戦闘で切り離した分は、復元完了しています。 空間属性の影響を確認しました。「暴食者(グラトニー)」にて影響を捕食しますか?》

 

(もちろん、YESだ)

 

優秀な大賢者のお蔭で、ヒナタとの戦いで切り離していた暴食者(グラトニー)は、復元が完了しており、俺は暴食者(グラトニー)で空間属性で捕食した。

空間属性を捕食したことにより、二人に回復薬が効くようになり、ハクロウは傷の癒えた身体を起こし、意識がなかったゴブタも起きたが、ハクロウに対して失言をしたため、また重症に戻りそうになっていた。

 

「…シュナ、エムルはどこにいるんだ?」

 

「エムル様は…上の部屋で寝ておられます…」

 

寝ている? アイツがこの状況で呑気に寝てるのか?

そもそも、アイツは不死者(シヲコバムモノ)で別に寝る必要はないはずだ。

 

「…そこは俺が説明するぜ」

 

「お前は…」

 

扉の方から声がし、声の方を見ると、そこには獅子王が居た。

 

「エムルのスキル、製作者(ツクリダスモノ)は、周囲の魔素と自身の魔素を使って物を作り出すんだが…魔素濃度が低下している今、何かを一個作るだけで、自身の魔素を大量に消費するんだ…そんな中、無茶して物を作り出したんだ。 おかげで今は低位活動状態(スリープモード)だ」

 

皆が黙り込む中、獅子王がエムルの状態を説明してくれた。

……無茶をしたのか、エムル…

俺は、自分自身への怒りで頭がどうにかなりそうだった。

自身を落ち着かせ、俺はもう一つ、疑問になっていたことを聞いた。

 

「…なぁ、ベニマル…あいつはどこだ?」

 

俺がベニマルに訊ねると、ベニマルは質問に答えず、ただ一言、

 

「付いて来てください」

 

とだけ言うと、魔物達の遺体が安置されている広場に向かって歩き出した。

広場を進むたびに、胸騒ぎが増した。

白い布を掛けられている者の前で、ベニマルが止まり、布を取った。

そこには、角が欠け、身体を貫く剣の傷跡と、そこから出た血でシャツが赤く染まっているシオンが居た。

目の前の状況に、俺は信じることが出来なかった。

その場で、立ち尽くす俺の近くに、同じように横たわるゴブゾウを見付けたゴブタが泣き始めた。

ゴブゾウは、ゴブタの部下で、狼鬼兵部隊(ゴブリンライダー)の一員だ。

ゴブゾウはシュナを守って、その命を奪われたそうだ。

そして、シオンは…

 

「シオンは、子供達を庇おうとしたエムル様を守るために……」

 

その言葉を聞き、エムルが激怒した理由が分かった。

俺は聞いただけで、理性が弾け飛びそうになるのに、エムルはその光景をまじかで

見たうえに、自分のせいでシオンが死んだとなると相当苦しかっただろ。

シオンを殺した者に対しての怒り、エムルを強く苦しめ皆を危険な目に遭わせた自分に対する怒り…

様々な感情が俺を襲ってき、俺はつい、強い妖気(オーラ)を放ってしまった。

 

「すまん、しばらく一人にさせてくれ」

 

俺の言葉に、皆が去って行った。

シュナが、去り際に、俺にハグをしてくれた。

 

《告。弱体化した魔物にとって、強すぎる妖気(オーラ)圧力(プレッシャー)になります。》

 

大賢者に言われ、俺は複製した抗魔の仮面を付けた。

泣きたいのに、俺は涙の一筋も流せなかった、シズさんの時は涙が出たのに…

そうか………俺はもう…心から魔物になっていたのか

広場に横たわるシオンやゴブゾウ達を前に、俺は大賢者を使い、何度も…何度も…蘇生をする方法を検索した。

そんな中、時間だけが過ぎていった。

 

《告。検索結果該当なし。 完全なる死者の蘇生に関する魔法は、検出されませんでした》

 

「…そうか」

 

俺は冷たい風が吹く中、ゆっくりと立ち上がった。

いつまでここでこうしてはいられない。

遺体はやがて朽ち、魔素に還元されて消えてしまうのだろう……消えて…

周りの見渡すと、全員との記憶が蘇ってき、押し込めていた怒りが、湧き出て来た。

そのせいで、抗魔の仮面にヒビが入った。

俺が暴食者(グラトニー)で皆の遺体を捕食しようとした時、

 

「リムルさん!」

 

俺の下にエレン達が来てくれた。

だが、今は…

 

「…来てくれたのか、ありがとう…だけど少し待ってくれ…そろそろ、眠らせてやらないと」

 

少しの間があったのち、エレンが振り絞ってた声で

 

「…あのね、リムルさん…可能性は低いけど…ううん、ほとんどないかもしれないんだけど。 でも、あるのよ! 死者が蘇生したという、お伽噺が」

 

死者が蘇生したお伽噺?

普段なら、所詮は作り話だと思って、軽く聞き流す話……だが、今の俺にとってそれは希望だった。

こいつらのために、俺に出来ることがまだ残されていると……こいつらのため? 本当にそうなのか? ……違う、俺が失いたくないんだ。

 

「所詮は作り話だって、思うかもしれないけどぉ…でも、これは史実に基づいた伝説なの…だから──」

 

「ふ、ははは」

 

「リムルさん?」

 

「いや、悪いな…つい嬉しくて、死者の蘇生か、まるで夢物語だな。 可能性が零じゃないだけで十分だ…詳しく聞かせてくれ、エレン」

 

俺は抗魔の仮面を外しながら、エレン達の方を見た。




次回も、多分リムル視点になります。


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36話 希望の条件

俺は来客室でエレンから話を聞くために、ソウエイと連絡を取ったのち椅子に座った。

エレンが語り出したのは、ある少女と(ドラゴン)の物語。

昔、この世に四体のみ存在する"竜種"、その最初の一体が、大地にて人間と子を生した。

我が子に力の大半を譲渡することになった最初の竜種は、残る力を全ての力を結晶化させ、自分の分身体ともいえる子竜を生み出した。

そしてその子竜を我が子──竜皇女へと贈ったのである。

幼い竜皇女はすぐに子竜と仲良くなった。

平和な日々は永遠に続くかと思われたが──ある刻悲劇が起きる。

栄華を極めていた魔法大国が竜皇女を意のままに操ろうと目論み、子竜を手に掛けた。

親友でもあった子竜を亡くし、少女は怒り狂った。

父より受け継いだその力は凄まじく、その魔法大国を十数万の国民もろとも消滅させ、そして、竜皇女は魔王へと進化した。

すると、子竜は少女の魔王進化に伴い、死して尚、進化したのだ。

立ち上がろうとするその姿に竜皇女は喜んだ。

しかし、奇跡は望む形ではなかった。

死と同時に魂を失った竜は邪悪な混沌竜(カオスドラゴン)に変貌しており、破壊の限りを尽くす。

友はもういないと理解した竜皇女は、嘆きつつも自らの手で友の亡骸を封じたという。

だが、意思のない怪物になっても意味がない…となると、問題は魂の有無か…

 

「リムルさん。この町は今、結界に覆われているでしょう? だから、ひょっとしたらだけど……シオンちゃん達、まだここに居るんじゃないかなぁ……」

 

《告。 絶命した者達の魂は、本来拡散して消滅するのですが、二種の結界に阻まれ、残存している可能性はあります。 その確率──3.14%です》

 

「円周率かよ!」

 

俺はつい叫んでしまった。

低い? いや逆だ。 死から蘇生出来る可能性が三%以上もあるのだ。

俺が魔王になりさえすれ…皆は…!

希望が見て来た俺は、エレンから色々と聞いた。

どうやら、エレンは魔導王朝サリオンの貴族のお嬢様らしい。

エレンは、冒険者に憧れて国を飛び出し、エレンの護衛としてカバルとギドは来たそうだ。

ビジネスライクな間柄なのかと思ったが、三人の関係は見た目通り「仲間」なのだろう。

だが、竜皇女のお伽噺はサリオンでも一部の者しか知らないようで、魔法の誕生に協力したとなればエレンの立場は、厳しいものになる上に、国に連れ戻される可能性が高いのに、覚悟の上に情報をくれた彼女が連行されるのを静観するつもりはない。

エレンは、国に連れ戻されるまで、ここに居たいそうで、俺は勿論承諾した。

 

────────────

 

俺は再び、皆が眠る広場に立った。

 

「…魔王、か」

 

《告。 個体名リムル=テンペストは既に魔王種を獲得してます。》

 

俺が呟くと、それに答えるように大賢者が答えてくれた。

 

(魔王種を獲得?どういうことだ?)

 

俺は大賢者に訊ねる。

 

《解。魔王種の有無は、魔素量、保有のスキル等が、真なる魔王として覚醒するに足るか否かを指します。 豚頭魔王(オークディザスター)を捕食した時点で獲得していました。 条件を満たせば、真なる魔王へと進化が可能です。》

 

(ホントか!? それで、条件ってのはなんだ?)

 

大賢者の言葉で希望が見えてきた。

 

《お伽噺から推測するに、種を発芽させるには養分が必要です。 生け贄(ようぶん)となるのは人間の魂。 必要となるのは一万名分以上と推測────》

 

(それは、俺が一万人以上の人間を殺す必要があるということか?)

 

《是。 ですが、個体名リムル=テンペストの意思が介在していれば他の者に任せても問題ありません。》

 

「…そうか」

 

人間を殺す必要があるのか……考えてみれば酷い話だ。

スライムに転生してからも、俺の判断基準はかつて三上悟だった頃の常識が根底にあった。

…魔物の基本理念は弱肉強食なのにな。

シオンだけでじゃない、この国の者は皆、そんな俺の考えに従って────そして殺されたんだ。

俺は決意した。

今回は、俺自身でケジメをつけるために、人間を殺し、魔王になること……

 

(リムル様)

 

俺は次の事を片付けるために、町中を歩いているとソウエイから連絡が入った。

 

「ソウエイか、何かあったのか?」 

 

(トレイニー殿から連絡が、ファルムスと西方聖教会の連合軍が我らの領土へと進行中とのことです。 その総数およそ三万…一万が先導しており、それを追うように二万が行進しております…)

 

「三万…そうか、良かった」

 

(? 良かったとは…?)

 

「いや、大したことじゃない、十分に足りそうだと安心しただけだ」

 

そうか、三万人か…良かった、それなら充分足りそうだ。

 

《告。 町を覆う二種の結界の解析が完了しました。 大魔法「魔法不能領域(アンマジックエリア)」の解除は可能ですが、他方、複合結界は解除困難です。》

 

弱体化を引き起こしている複合結界の方を解除したかったのだが、仕方ない。

 

《大魔法を解除しますか?》

 

(いや、まだいい)

 

大賢者が大魔法の解除を提案してくれたが、俺は提案を却下し、シオン達の魂が拡散を防ぐために、俺は町に三つ目の結界を張った。

俺が三つ目の結界を張ったことに気づいたリグルドとベニマルが俺の下にやって来た。

二人は心配そうにしていたが、俺が張った結界と説明し、リグルドに皆を会議室に集めるように言った。

リグルドは勢いよく走り出して皆を集めに行ってくれた。

 

「リムル様…エムル様が先程、目覚めたとシュナが申しておりました」

 

「ホントか!?」

 

確かに、もう三日も経っているのだ、目覚めていてもおかしくないな。

先にエムルの顔でも見に行くか、

 

「分かった、エムルの下に案内してくれ」

 

「承知しました」

 

俺はベニマルに案内されながら、エムルの下に向かった。



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37話 副盟主の決意

「…」

 

ついさっき、起きた俺はベットに足を延ばして座っていた。

俺は低位活動状態(スリープモード)になる前のことを思い出していた。

……やって、しまったんだな俺は……同族である人を…

俺は人を殺めた両手を見た。

だが、不思議と罪悪感などは感じない。

もしかしたら…俺は、あの騎士が言っていた通り人の皮を被った魔物なのかもしれないな…

 

「よ、大丈夫か?」

 

そうこうしていたら、リムルがやって来た。

 

「リムル……すまん! お前に魔国連邦(テンペスト)は任せてもらっていたの…俺は…! 何も出来ず…!!」

 

俺はベットから降りて、土下座をしてリムルに謝った。

俺はリムルに責められるつもりだったが、リムルは怒らず、

 

「顔を上げろ、今回の件は俺の責任だ…後、アイツらを蘇生する方法を見つけたんだ…」

 

と言ってきた。

 

「え?」

 

呆気を取られた俺は、声漏らし混乱した。

蘇生…死んだシオン達をか?

俺が混乱している中、リムルは死者蘇生について話してくれた。

シオン達を蘇生する方法は簡単、リムルが魔王になれば蘇生できる可能性があるそうで、前例である竜皇女…ミリムの話の場合、魂が消滅したため、友が化物になってしまったが、シオン達の場合、結界で魂の拡散が抑え込まれている可能性があり、その可能性は3.14%と、十分だった。

それに、リムルは魔王種を獲得していたため、後は種を発芽させるだけだ。

だが、種を発芽させるには、条件があり、その条件は──人間の魂一万以上が必要になる。

そして今、ファルムス王国と西方聖教会の連盟軍およそ三万が進軍中だそうだ。

だが、そこで問題が起きた。

ベニマル達で魔物を弱体化させている結界を破壊してもらおうと、リムルは思っているそうだが、問題が先導している軍たちだ。

二手に分かれているため、どっちに指揮官が居るか分からないし、リムルが片方と戦っている間に、逃げられた、後々めんどくさいことになる。

……リムルは今回の件は、自分がケジメをつける必要があると言って居るが、俺も今回の件にはケジメをつけたい、シオンは俺を守るために死んだんだ…このまま、指をくわえ、何もできないのは嫌だ。

俺は真剣な眼差しでリムルを見て、リムルに頼み込んだ。

 

「リムル、先導している軍の方は、俺に任せてくれないか!? 今回の件は俺もケジメをつけたいんだ!」

 

「……だけど、お前は人間だろ? 俺らはこれ以上、お前に同族である人を殺させたくないんだ…」

 

リムルは嫌そうな顔をしたが、それでも俺は、真剣な眼差しでリムルを見た。

 

「頼む…! 覚悟は出来てるんだ!!」

 

「…………分かった…先導している軍は、お前に任せる…だが、前みたいに無茶はするなよ」

 

「…ああ、分かっている…ありがとうなリムル…」

 

俺が先導している軍の相手を任せてくれたリムルに、俺はお礼を言った。

 

「じゃあ、俺はやることあるから、先に会議室に行っといてくれ」

 

「分かった、早く来いよ」

 

俺はリムルを見送り、服装を整えた後、会議室へと向かった。

 

────────────

 

俺が会議室に来て、しばらくの時間が経ち、リムルが会議室に入ってき、魔王になることだけ、皆に宣言して皆が人々をどう思っているかを聞いた。

不意を突いて襲撃してきた人が許せないと言う者も居れば、今まで通りに人と接する自信がない者もなどいった者が多かった。

だが、ゴブタとリグル、リグルド達は、同じ師匠の下で同じ釜めしを食べたヨウム達、俺らを心配して駆け付けてくれたエレン達、冒険者や商人達、そして、自分たちのために尽力を尽くしてくれた…俺が居るこそ、人間と一括りにすべきではないという者も居た。

人との今後の関係に対して、様々な意見が交わされた中、リムルがあることを話した。

 

「…あのな皆、俺は元人間で、俺とエムルは転生者だ…」

 

リムルの発言に、多くの者が驚いた顔をする。

そして、リムルは転生前と転生後…皆と会うまでのことを話し、自身が元人間だったから、人間と仲良くしようと考えた。

そして、そんな甘い考えが今回の事態を引き起こしたと言い、リムルは皆に謝った。

リムルは会議が始まる前、思念伝達で聞いてた。

俺が転生者だということを、俺は勿論了承した。

最初こそ、リムルに驚かれたが、覚悟を決めたのに、俺だけ言わないのはおかしいからな。

 

「……俺の前世のことを言おう…」

 

リムル同様、俺も前世で何があったことを話した。

俺のスーパー戦隊の力のことも、向こうで電車に引かれて死んで、色々なことを忘れていることを…そして、町を襲撃した異世界人達と同じ世界だと…

俺とリムルは、裏切り者と罵られ、最悪この町を追われると、覚悟していたが、皆は

俺らの前世を無視して、俺らが何者だろうと、自身の主であることには変わりはない、となり、今回の件は自分たち全員の甘えと油断で、今回の件が起こったと、いう事になった。

少し休憩を挟み、今後について話し合った。

リムルは、魔王になる理由を述べた。

理由は二つあるそうで、一つはシオン達の復活。

二つ目は、人と友好関係を結ぶために、魔王の箔を使うことで、武力による交渉は不可能だと悟らせ、同時に他の魔王に対して、牽制を行い、人類の盾になると悟らせる。

そして、リムルは相手に対して鏡のように接すると、今後の方針は決まった。

だが、カイジンは、新たな魔王の誕生となると西方聖教会当たりが強くなると予想しているそうだ。

西方聖教会…確か、魔物の殲滅を掲げている教会で、今、ファルムス王国と共に魔国連邦(テンペスト)に攻めてきてるんだよな…まぁ、リムルは誰であろうと、敵対するなら断固して戦うみたいだな。

 

「差し当たって、対処すべき人間は侵攻中の連合軍ですね。 布陣を考えませんと…」

 

ベニマルが布陣を考えていると、リムルが口を出した。

 

「ああ、それなんだが、連合軍の相手は俺とエムルに任せて欲しい」

 

「え?」

 

ベニマルは驚いた顔していたが、リムルは続けた。

 

「理由はある、これを成すには、俺が魔王になることが絶対条件だ…それに、これは俺とエムルのケジメなんだ…」

 

「ああ、勿論だが、俺らは油断もしないし…手加減もしない…」

 

俺らの身を心配する声もあったが、俺らは皆を説得し、人選を選んだ。

魔物を弱体化させている結界の元を、北はソウエイ達諜報部隊が、東がベニマルが、南をガビル率いる、龍人族(ドラゴニュート)が、そして、戦力が固まっているだろう西側を、ゴブタ、リグル、ゲルド、ハクロウの四人が行くことになった。

俺とリムルは、出撃前に準備をしていた。

いつもの戦闘服を着て、リムルは翼広げ、俺はスカイホーキーに跨った。

 

「ほれ、お前も、変身までこれを付けとけ…」

 

「これって…」

 

リムルが渡してきたのは、リムルが良くつけている抗魔の仮面と言っていた物だった。

だが、色が変わっており、白色の部分は変わらないが、銀色の線の部分が金色に変わっていた。

 

「それなら妖気(オーラ)が完全に消えるから、付けとけ」

 

「…分かった」

 

俺はリムルに言われるとおりに、仮面を付けた。

リムルも俺に続くように仮面を付けた。

俺とリムルは顔を合わせ、頷いた。

 

「「────行くか」」

 

俺とリムルは空に飛びあがり、連合軍の相手をするために向かった。



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38話 激怒之英雄

「じゃあ、無茶するなよ」

 

「分かってるって…」

 

先導している一万の軍が駐屯している上空で、俺はリムルに無茶をするなと釘を刺され、リムルと別れた。

リムルと別れた後、地上に降りる前に、俺はトッキュウチェンジャーを左腕に装着した。

リムルに頼み、一万の軍を覆うように魔法不能領域(アンマジックエリア)を張って貰った。

張って貰った理由は、元素魔法:拠点移動(ワープポータル)による逃亡防止、それに魔法による防御を無効化するためだ。

俺はゆっくりとスカイホーキーに跨った状態で、軍の真ん中に降りてスカイホーキーから降りた。

軍が駐屯していた場所は、宿場建設の予定地で、しかも、そこにあった建材を勝手に使ってる。

怒りが込めあげてくるが、今は我慢…

 

「おい、ガキ! 何の用だ!」

 

多くの者が俺の姿を見て、困惑している中、一人のエラそうな騎士が俺の目の前に立ち塞がった。

ガキか…まぁ、俺の身長は人型のリムルより、少し大きいぐらいだから、子供に見られても仕方ないか…

 

「………お前ら全員を、皆殺しに来た…」

 

「プッ…フハハハハハ!!」

 

俺の言葉を聞いた騎士達は、バカにするように笑った。

 

「ハハハッ! ガキが、俺達を殺せるわ──」

 

俺はレールスラッシャー作り出し、俺を最初にバカにした騎士の首を切り落とした。

俺が首を切り落としたことで、騎士達の笑い声が止まり、多くの者がその場に膠着する。

 

「…言っただろ、全員皆殺しするって……どうした?かかって来いよ…」

 

「こ、殺せー!!」

 

俺の挑発を受けた騎士達が、一気に襲い掛かてくる。

俺は騎士達が向かってくる中、トッキュウチェンジャーの金色のボタンを押し、遮断機を上げた。

 

ヘンシンイタシマ~ス、ハクセンノウチガワニサガッテオマチグダサ~イ

 

音声と共に俺を中心に、円状に白線が現れた。

 

「トッキュウチェンジ…はぁ!!」

 

トッキュウレッシャーをトッキュウチェンジャーにセットし、遮断機を下ろした。

俺が遮断機を降ろした時、騎士達が剣で斬りかかってきたが、現れたレッドレッシャーの幻影が騎士達を吹き飛ばした。

 

トッキュウ1ゴウ~、トッキュウ1ゴウ~

 

俺はトッキュウブラックへと変身し、俺は両腕をクロスさせ、内側に力を溜め込むイメージで騎士達の剣が当たるギリギリまで溜め込み、一気に放った。

俺が放った闇は一気に広がり、多くの騎士達を飲み込んでいった。

魔力感知で見る限り、俺が放った闇は魔法不能領域(アンマジックエリア)をギリ越えたみたいだ。

 

(残りは…千ちょいか)

 

魔力感知で生き残った強者の騎士たちの反応を確認する。

ゼットなら、生き残った騎士達を倒すことが出来たかもしれないが、俺が放った闇だと、倒しきれなかった。

だが、これは俺の予想通りで、残りは俺の手で殺すつもりだ。

闇が消え、残っていた者達が俺の方を見る。

俺の周りには、大量の闇に耐え切れず、消滅した者達が着ていた鎧などが散乱していた。

 

「化物が…! 皆の者! 陣形を取って、化物を討つぞ!」

 

オォオオォォォオ!!

 

一人の騎士が、残っていた騎士達の統率し始めた。

恐らく、アイツがこの軍を率いている者だな…

俺が見ていると、マントを付けている者達が整列し始め、

 

神殿騎士団(テンプルナイツ)、総員整列!! 多重対魔障壁を発動させ、神聖なる力の前には、如何なる攻撃も無力であると敵に知らしめるのだ!」

 

魔法陣のようなものを展開してきた。

あれが神聖魔法か…まぁ、魔法不能領域(アンマジックエリア)内では、あの魔法陣は張りぼてに過ぎないがな…

俺はレールスラッシャーを闇に纏わせ、闇を纏った斬撃を飛ばした。

マントを付けている騎士達は、魔法の防御に自信があったのか、避ける行動をしなかったため、全員が斬撃で斬られた。

 

「かかれー!!」

 

陣形を取った騎士達が、俺目掛けて向かってくる中、俺はショドウフォンを作り出しては、筆モードへと変形させた。

 

「一筆奏上…」

 

空中に火の文字を書いて、字を回転させた。

そして俺は、外道シンケンレッドへと変身した。

外道シンケンレッドへと変身した俺は、烈火大斬刀を作り出しては、大筒モードして騎士達に銃口を向けた。

 

「な、なんだ…」

 

烈火大斬刀に警戒した騎士達が、その場に足を止めた。

俺は兜ディスクも作り出し、刀身の溝にセットしては、構えた。

 

「兜、五輪弾!……成敗!!」

 

俺が放ったエネルギー弾は、カブトムシの角のような形になり、騎士達の陣形の真ん中を貫き、大爆発を引き起こした。

 

ワアァァアァアァァ!!

 

陣形を組んでいた者達が死に、勝てないと悟った騎士達が逃げ始める。

 

「逃がすわけないだろ…」

 

俺は一度、変身を解除した。

 

「レッツ…モーフィン」

 

俺は手を左から右へと顔の前で移動させ、ダークバスターへと姿を変えた。

 

「…」

 

俺は剣を構えては、猛スピードで移動しながら騎士達を確実に殺していった。

そして、この瞬間から、ファルムス王国とって、長く、短い悪夢が始まった。

生き残った者達は、全員等しくその命を奪っていく、ふと他の人を見ると、血を吹き出して倒れている。

逃げようとした者は優先的に殺され、勇敢に戦おうとした者は手も足も出ず、命を狩られる。

俺が魔力感知で残った者を探すが、反応はない…恐らく、全員殺せたのだろう。

…やっぱり、人を殺したのに罪悪感などを感じない……

だが、このままここに居るわけには行かない。

 

「念のため、リムルの下に行くか」

 

俺はそう呟き、ダークバスターままリムルの下へ向かった。

 

────────────

 

ダークバスターのスピードのお蔭で、リムルの下にすぐに着いた。

 

「な、なんじゃ、お主は!?」

 

俺の姿を見た、エラそうなオッサンが驚いた顔で俺を見て来た。

オッサンは左手首が切り落とされており、切口から黒炎が燃えていた。

恐らく、リムルに斬り落とされたのだろう。

 

「リムル…そいつが責任者なのか?」

 

「ああ…そこのおっさんが証明してくれたよ…」

 

俺がリムルに訊ねると、仮面を付けているリムルが答えてくれた。

仮面をしているため、表情は分からないが、きっと激怒しているのだろう。

リムルの目線の先を見ると、俺らに向けて頭を地面に着くまで下げているオッサンが居た。

 

「まぁいい…エドマリス王、さっき俺に話があると言ったな、聞くだけ聞いてやる。 いいか、相手を見て物を言えよ? 俺らが甘ちゃんだと思っていたなら、それは間違えだ。 発言を許す、続けろ」

 

リムルは、わざと妖気(オーラ)を漏らし、恐怖を与えている。

怯えているエドマリスは、だだ、無言で頷くしかできないようだ。

そして、そこからエドマリスの言い訳が始まり、エドマリスの言い訳が始まった時、騎士達が武器を地面に置き、命乞いをするために、俺らに頭を向けて土下座した。

エドマリスの言い訳はこうだ。

今回の件は誤解で、俺らに友誼を結びに来ただけらしい、軍勢を率いていたのは自身の身を守るためとかだった。

リムルが先遣隊が俺らを傷つけた上に、一方的に宣戦布告した理由を聞くと、エドマリスはショウゴと呼ばれる異世界人が暴挙に出たと言い訳を言った。

それを聞いた俺は、心の底から呆れた。

よくもまぁ、その現場を見ていた者の前で言えるな…

別にそのことを言ってもよかったが、今は黙っていくことにした。

エドマリスの言い訳をリムルは聞き流している。

そして次の瞬間、生き残っただろう者達が、一斉に死んだのだ

リムルの事だ、新たなスキルを使って全員を殺したのだろうが…これはやばすぎるだろ!?

俺は内心で驚きながら見ていると、エドマリスはリムルの威圧に耐え切れず、気絶した。



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39話 進化の眠り

 

「あっ…」

 

言葉を漏らし、リムルがふらついて、座り込む。

 

「大丈夫か…?」

 

「あ、ああ…物凄く眠いが…」

 

俺はリムルの目の前でしゃがみ込み、意識を確認する。

リムルは相当眠そうで、気を抜いたらぐっすり寝そうだ。

 

「…生き残っている奴はどうする」

 

「ああ…それか…」

 

魔力感知に一人残っているのが分かる。

 

「他の奴に任せる…ランガ」

 

「ここに…!」

 

影からランガが飛び出て来た。

 

「よしよしいい子だ…ランガ、最重要命令だ、俺をエムルと守りながら町に戻ってくれ……ついでに、そこの捕虜も連れていけ…捕虜はエムルやカバル達に預けてやれ………」

 

リムルは、眠気が限界なのか、スライムの姿へと変わった。

 

「あと…生き残っている奴は…」

 

俺はスライム姿のリムルを持ち上げると、リムルは周辺の魔法不能領域(アンマジックエリア)を解除した。

 

「…魔法を使うだったら、俺の魔素を使え…魔王に進化した時、魔素が必要になる可能性があるだろ…」

 

「……確かに…なら、魔素を貰うぞ…暴食者(グラトニー)……」

 

リムルは俺から必要分の魔素を取り、魔法を使い始めた。

 

「俺の役に立ちやがれ!!」

 

リムルは魔法で悪魔を召喚した。

呼び出された悪魔は三人、召喚の対価として周辺に横たわっていた死体が黒い靄になり、跡形もなく消え去って行った。

 

「クフフフフ…懐かしき気配、新たなる魔王の誕生…」

 

真ん中の悪魔が、少し不気味な笑みを浮かべる。

 

「いいかお前ら、死んだふりをして隠れている奴が一人いる…そいつを捕まえて、エムルかランガに届けろ……二人とも、町の皆との顔つなぎを頼むぞ」

 

「了解…」

 

「はッ」

 

リムルから仕事を貰った悪魔は、

 

「実に素晴らしい! これほどの供物に、初仕事…光栄の極みで少々張り切ってしまいます。 どうか、今後もお仕えしても宜しいでしょうか…?」

 

歓喜に打ち震えていた。

…リムルの奴、変なのを呼び出してないか?

そうこうしていると、リムルは完全に寝てしまった。

リムルは寝たのを確認した俺は、スカイホーキーに跨り、リムルをしっかりと抱えた。

ランガに乗ってもよかったのだが、ランガには捕虜を連れてきて欲しいので、俺がスカイホーキーに乗って、リムルを連れ帰ることになったのだ。

 

「エムル様、どうかお気を付けて…」

 

「あ、ああ…そっちも頼むぞ」

 

「承知しております…」

 

悪魔は深々と頭を下げ、俺とランガを見送ってくれた。 

 

────────────

 

俺とランガは、眠るリムルと捕虜を連れて、街道を使って町に向かっていた。

その道中に、声が聞こえて来た。

 

《告。 個体名リムル=テンペストの魔王への進化が開始されます。 その完了と同時に、系譜の者達への祝福(ギフト)が配られます》

 

リムルが言っていた世界の言葉が聞こえた。

 

「エムル様、先程の声は…!」

 

走りながら尻尾を振るランガに俺は答えた。

 

「世界の言葉だ…リムルは、魔王へと進化を始めたんだ」

 

俺は微笑み、寝ているリムルを突いた。

頼むぞリムル…シオン達を、皆を蘇らせてくれな。

そうこうしていると、俺達は町に着いた。

俺はスライム姿のリムルをシュナに渡し、死なないように被膜魔法をかけた捕虜はカバルやヨウム達に見とくよう頼んだ。

シュナはリムルをマントで包み、台座の上にそっと置いた。

町の住民達は、リムルが無事進化することを願い、その場で祈り続けている。

そして、俺らの頭の中で世界の言葉が響き渡った。

 

《告。 個体名:リムル=テンペストの魔王への進化が完了しました。 続いて、系譜の者達への祝福(ギフト)の授与を開始します》

 

祝福(ギフト)?…そう言えば、そんなことを言ってた気が…

次の瞬間、俺に低位活動状態(スリープモード)とは、比にならない程の眠気が襲ってきて、俺は台座に横たわった。

 

「ね、寝るな……皆に何かあったら…!」

 

俺はそう自分に言い聞かせながら周りを見た。

周りを見ると、多くの者達がその場に倒れ、寝ていた。

だが、ベニマルは俺と同様に、眠気に逆らっていた。

俺とベニマルが眠気に逆らっていたその時、眠っていたリムルが人の姿へと変わり、立ち上がった。

 

「…告。 後は任せて眠りにつきなさい。」

 

その言葉を聞いた俺達は安心し、眠りについた。

 

────────────

 

《確認しました。個体名エムル=テンペストの魔王種への進化を開始します…成功しました。 個体エムル=テンペストは種族:人間(ヒューマン)から人魔族(デモンノイド)への進化完了しました。 よって、全ての身体能力が大幅に上昇しました。 続けて旧個体にて既得の各種スキル及び、耐性を再習得…成功しました。》

 

世界の言葉が聞こえる中、俺は辺りを見渡した。

俺の周りには、様々な映像が流れており、とある映像に俺は目を止めた。

 

《新規スキル『万能感知・魔力操作・覇気・多重結界・天眼』を獲得………成功しました。》

 

俺が見ている映像には、二人の少年がアイスを食べていた。

その映像の周りには、二人の少年が川遊びや、勉強会、雪遊びなどの様々なことをしていた。

映像を見たとき、俺は、前世の事を全て思い出した。

 

《新規耐性『痛覚無効・物理攻撃無効・自然影響耐性・状態異常耐性・精神攻撃耐性・聖魔攻撃耐性』を獲得──成功しました。》

 

そうだ、なんでこんなにも大切なことを忘れてたんだろう…俺の名は───五永 雄太(ごえい ゆうた)…リムル…いや、リムルの前世である三上悟の────

 

 

 

 

 

 

 

親友だ。

 

 

 

 

 

 

 

そして、エムルこと、五永 雄太の心の声に答えるように、世界の言葉が鳴り響いた。

 

《確認しました。ユニークスキル親友(シンジルモノ)を獲得…成功しました。並びに、ユニークスキル親友(シンジルモノ)の進化を開始します…成功しました。 ユニークスキル親友(シンジルモノ)はユニークスキル大親友(バディ)に進化しました。》



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40話 誕生する魔王

今回は、第三者視点で、短めです。


中央広場では、ほぼ全ての魔物達が深い眠りに就いていた。

人間や魔女、ドワーフ達は、エムルとベニマルを寝かせたリムルの姿をした、究極能力(アルティメットスキル)智慧之王(ラファエル)を見ていた。

身体に巻き付けた白いマントに美しく流れる銀髪。

ラファエルは、感情の無い瞳で周囲を見渡しては、視線をエムルに向ける。

 

「…告。 個体名エムル=テンペストの保有スキル、ユニークスキル大親友(バディ)を通して、個体名エムル=テンペストとの魂の回路を接続…成功しました。 並びに、個体名エムル=テンペストの更なる進化を始めます。」

 

眠るエムルの頭に、ラファエルは手を置いては目を閉じ、エムルの更なる進化を始めた。

 

《「不死者(シヲコバムモノ)」の進化を希求、エクストラスキル「血液操作」を統合(イケニエ)魔王への進化(ハーベストフェスティバル)祝福(ギフト)を得て進化…───成功しました。 ユニークスキル「不死者(シヲコバムモノ)」は究極能力(アルティメットスキル)不死之王(イーコール)」に進化しました。》

 

エムルのユニークスキル不死者(シヲコバムモノ)が、究極能力不死之王(イーコール)に進化したことを確認したラファエルは、ゆっくりと目を開けた。

 

「……告。 個体名エムル=テンペストの進化が完了しました。 これより、"反魂の秘術"を始めます。」

 

ラファエルは、ゆっくりと死んだ者の遺体が安置されている場所の中心部分へと向かった。

 

「告。 智慧之王(ラファエル)の名において命ずる。 「暴食者(グラトニー)」改め、究極能力(アルティメットスキル)暴食之王(ベルゼビュート)」よ、結界内の全ての魔素を喰らい尽くせ──ひと欠片の魂さえも残さずに。」

 

ラファエルに命じられた暴食之王(ベルゼビュート)は、結界ごと町中の魔素などを喰らい始めた。

暴食之王(ベルゼビュート)が魔素を喰らい始めたその時、空が真っ黒の雲に包まれる。

暴食之王(ベルゼビュート)により、町中に漂っていた魔素はきれいさっぱり消え去り、ラファエルは反魂の秘術を始めた。

 

「告。 魔素量(エネルギー)が足りません。 代行処置として、個体名エムル=テンペストから魔素量(エネルギー)を吸収…既定の魔素量(エネルギー)に達しました。"反魂の秘術"を再開します。」

 

ラファエルは途中で魔素が足りなくなったため、ユニークスキル大親友(バディ)を通じて、エムルから魔素を取っては、反魂の秘術を再開した。

ラファエルが反魂の秘術を行っている時、

 

「只今戻りました、我が君」

 

悪魔召喚で呼び出された三人の悪魔たちが町に来ており、リムルへ向けて頭を下げたが、ラファエルは見向きもせず、作業を続けた。

悪魔たちは、儀式の邪魔にならないように静かに見守っていた。

だが、あることに察した、悪魔の一人である上位魔将(アークデーモン)が口を開いた。

 

「失礼ながら申し上げます。 どうも魔素量(エネルギー)が足らぬようですが…」

 

上位魔将(アークデーモン)の質問に、ラファエルは一度顔を向け、答えた。

 

「…是。 必要量を満たしておりません。 生命力を消費し代用します。」

 

「お待ちください我が君! 代用にご自身の生命を用いずとも…っ」

 

生命力を消費して、"死者蘇生の秘術"を行おうとしていたラファエルを上位魔将(アークデーモン)は止めて、配下である上位悪魔(グレーターデーモン)をチラッと見ては、ある提案をした。

 

「…良き考えがあります。 この者達をお役立てください、主の役に立つことこそが、我らにとって最大の喜びなのですから」

 

上位魔将(アークデーモン)の提案を聞いたラファエルは、少し考えこんではその案に賛成した。

賛成したラファエルは、暴食之王(ベルゼビュート)で二体の上位悪魔(グレーターデーモン)を喰らい、魔素へと還元した。

 

「既定の魔素量に達したことを確認しました。 これより、"死者蘇生の秘術"を再開します。」

 

反魂の秘術、死者蘇生の秘術…この二つの秘術の行使と、制御には想像を絶する魔素量が必要になる。

成功確率は3.14%…この数値は魔王へと進化をする前に出されたモノ。

だが、進化を果たした今──

ラファエルが魂を皆に入れたとき、全員の傷が癒され、雲が晴れて光が差し込む。

 

「…」

 

反魂の秘術と死者蘇生の秘術を終えたラファエルはふらつき、スライムの姿へとなった。

スライムの姿へとなったラファエルを、上位魔将(アークデーモン)が拾い上げ、台座へと移動させた。

魔国連邦(テンペスト)の中央広場に眩い光が差し込む中、シオンの指がピクッと動き、シオンはゆっくりと目を開けた。




次章に転生する?
  >Yes
   No


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暴風の復活編
41話 テンペストの復活祭


ふと、目を開けた。

 

「おはようございます、エムル様」

 

目を開けた俺の視界に、笑顔のシオンが話しかけてく来てくれた。

 

「ああ……おはよう、シオン…」

 

俺は嬉しくて、つい涙を出してしまったため、バレないよう顔を下に向けた。

 

「エムル様、ご覧ください」

 

俺は庭の方を見ると、全員が俺に対して跪いており、

 

「我ら一同、一名の欠落なく、無事に生還いたしました!!」

 

と言ってくれた。

良かった、本当に良かった…

俺は心から安堵し、喜んだ。

 

「…エムル様、この度はご命令に背き…悲しませてしまい、申し訳ございませんでした…」

 

シオンが膝をつき、頭を下げて俺に対して謝った。

シオンの光景を見た俺は少し黙り込んでから、口を開いた。

 

「…確かに、シオンは俺の生き残れと言う命令に背いた……だけど、リムルのお蔭で、こうやってシオン含め、皆が生きてるんだ…これからもリムルに仕えることを詫びにするよ…!」

 

俺の言葉を聞いたシオンは顔を上げ、

 

「はいっ! お任せください!」

 

元気よく返事をしてくれた。

元気のいいシオンの返事を聞いた俺は、笑みを浮かべた。

だが、いつまでも喜びに浸っているわけには行かない。

まずは、リムルの様子だ。

 

「シオン、リムルはどうだ?」

 

俺の問いにシオンは、笑みを浮かべて答えてくれた。

 

「リムル様なら今は庵で休んでおられます…恐らく、もうしばらくかかるかと…」

 

なるほど…リムルはまだ寝ているのか…

 

「じゃあ、俺は早速仕事してくるから…シオン、リムルの世話を頼んだぞ」

 

「お任せください…!」

 

シオンは元気に返事をして、見送ってくれた。

 

────────────

 

俺の庵から中央広場に移動した俺は、ベニマルとリグルドに会った。

 

「エムル様! お目覚めになられたのですか!」

 

「エムル様、お目覚めになられたのですね…」

 

「ああ、ついさっきな…で、皆の状態はどうだ?」

 

俺の問いにベニマルが答えてくれた。

 

「本調子ではない者も居ますが、多くの者が大丈夫そうです」

 

「そうか…」

 

それを聞いた俺は考え込んだ。

確か、もう少ししたら獣王国(ユーラザニア)から避難民が来るはずだ…それなのに、この状態は不味いな。

 

「ベニマル、ゲルドに動ける者を集めて瓦礫の撤去を始めてくれって、言って来てくれ、リグルドはシュナと料理人たちに、炊き出しの準備を始めるように伝えてくれ」

 

「承知しました」

 

「御意!」

 

二人はそれぞれ、ゲルドとシュナに命令を伝えるために去って行った。

それから数日が経ち、獣王国(ユーラザニア)からの避難民が到着した。

避難民の中には、警備隊の避難に従おうとしない者が居たらしいが、アルビスとスフィア、リグルの説得で落ちたらしい。

なお、フォビオはカリオンとミリムの戦いの顛末を見届けるために残ったらしいが、後日、瀕死のフォビオが見つかった。

フォビオの表情を見る限り、何となく顛末は分かるが、報告はリムルが起きてから聞くと伝えた。

そして、リムルが魔王になって一週間後、リムルが目覚めたそうだ。

そして、リグルドの提案で、急遽祭りが決まった。

急遽で祭りが開催されるのが、ウチの凄いことの一つだよな…

リムルの色々と話したいことがあるんだが…居ないな。

俺はリムルを探していたのだが、どこにもリムルは居なかった。

そうこうしていると、祭りが始まり、俺は酒が入ったコップを片手に持って探していたら、一人で椅子に並んで飲んでいるリムルを見つけた。

 

「よっ、魔王化おめでとうさん」

 

「エムル」

 

俺はリムルの隣に座り込んだ。

 

「なぁ、リムル…少し話が」

 

俺がリムルに話しかけようとしたその時、

 

「我が君、魔王と成られましたこと、心よりお祝い申し上げます」

 

リムルが眠る前に召喚した悪魔がリムルの魔王化を祝いの言葉を伝えに来た。

それに対して、リムルは

 

「誰だお前?」

 

っと、衝撃なことを悪魔に放った。

その言葉を聞いた悪魔は、相当ショックだったのか、ふらついた。

 

「…っ、ご冗談を…悪魔である私心核(ココロ)にダメージを受けました」

 

これは悪魔が可哀そうだな…助け舟を出すか

 

「リムル、こいつはお前が眠る前に呼び出した悪魔だぞ」

 

「エムル様…!」

 

俺の言葉を聞いた悪魔の顔が明るくなったが、

 

「色々と手伝ってもらって助かったよ、もう帰っていいよ」

 

何を思ってか、リムルが止めを刺すような言葉を言い、それを聞いた悪魔は今にも泣きそうな顔になる。

それに対して、リムルは何か勝手に、納得していた。

 

「…リムル」

 

「ん?どうした?」

 

「アイツ、泣きそうだぞ…」

 

「えっ!? あれか? 報酬が足りなかったのか?」

 

「いえ、先だってお願いしておりました通り、配下の末席に加えて頂きたいのです」

 

悪魔は俺らに向かって跪いた。

 

「……リムル、別にいいんじゃねぇか? 配下にしたって…仲間が増えるから、俺は大ばんざいだぞ」

 

俺の言葉を聞いたリムルは、少し考えこみ決断した。

 

「………………分かった、今日からお前は、俺らの仲間だ」

 

「おおお! 感謝します我が君!!」

 

「我が君はやめろ…これからは、リムルと呼ぶように」

 

「リムル様…甘美な響きです」

 

リムルと悪魔の会話を俺は聞きながら、酒を少し飲んだ。

 

「そう言えば、お前は名前があるのか?」

 

「私など名もなき悪魔で十分でございます」

 

俺の質問に、悪魔は名前がないようで、名もなき悪魔で良いと言った。

だけど、名前が無かったら不便だよなぁ…

 

「…じゃあ、お前の名は"ディアブロ"だ…その名に相応しく、俺らの役に立ってくれ」

 

リムルは悪魔こと、ディアブロに名前を与えた。

なるほど、悪魔だからディアブロね…案外いい名前なのかもしれないな。

 

「おおっ!」

 

そして、案の定リムルから大量の魔素が取られていった。

ディアブロは黒い靄で全身を纏い、進化を始めた。

しばらくすると、靄から執事服へと衣替えしたディアブロが現れた。

そして、そこにベニマルが三獣士を引き連れてやってきた。

俺とリムルはディアブロ達と共に、三獣士の話、ミリム対カリオンの戦いの顛末を聞くためにリムルの庵へと移動した。



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42話 獣王国が滅ぶ日

リムルの自宅である庵で、俺とリムル、ディアブロは三獣士から話を聞いていた。

戦いの行く末を見守るために、一人、獣王国(ユーラザニア)に残ったフォビオ曰く、一週間前…魔国連邦(テンペスト)がファルムスに襲撃さえた日、ミリムは獣王国(ユーラザニア)に宣戦布告したそうだ。

最初は獣王戦士団で全員で、カリオンと共にミリムとたたかうつもりだったのだが、カリオンがそれを止めた。

そして、一週間後、ミリムがやってきて、カリオンとミリムの一騎打ちが始まったそうだ。

最初はカリオンがミリムを勢いで押し、さらに百獣化という獣人族(ライカンスロープ)特有の獣化の強化版で身体を強化したのち、獣魔粒子咆(ビースト・ロア)を放ちミリムに直撃させたが、ミリムは無傷で耐えては竜星爆炎覇(ドラゴ・ノヴァ)を放っては、獣王国(ユーラザニア)の首都を跡形もなく消し飛ばしたそうだ。

勿論、フォビオは巻き込まれて瓦礫の下敷きになり、自力で瓦礫をどけた時に見えた光景は、魔王フレイと呼ばれる有翼族(ハーピィ)の女王がカリオンを抱えて飛んで行ったそうだ。

 

「……ミリムらしくないな…」

 

俺はそう呟きながら、味だけいいシオン製のお茶を啜った。

 

「確かにな、アイツが一対一の勝負に他人の介入を許したことが気になるな…」

 

リムルがテーブルに肘を付けなけながら喋ると、シュナが入れたお茶を持っていたスフィアが自身が不思議に思ったことをつぶやいた。

 

「らしくないと言えば、フレイがフォビオを見逃したのも腑に落ちないな…有翼族(ハーピィ)は空から獲物を狙撃する視力をもっている、その上天空女王(スカイクイーン)と呼ばれる有翼族(ハーピィ)の女王がフォビオを見逃すとは思えねぇんだよな…」

 

魔王フレイ…確か、豚頭帝(オークロード)を傀儡の魔王にする計画に加担していた一人だよな。 加担していた魔王達は確か、ミリムとカリオンとフレイと…

 

「…シオン、地図と一緒にミュウランを呼んできてくれ」

 

「はい」

 

────────────

 

シオンがミュウランを連れてきてくれて、俺達はミュウランから色々と話を聞いていた。

 

「────はい、確かにクレイマンは魔王ミリムに接触を図っていました。 あと、私の印象になりますが…クレイマンはミリム様の獣王国(ユーラザニア)に対する宣戦布告は想定外だったそうで、とても苛立っていました」

 

「お、お待ちください!」

 

ミュウランの証言を聞いたアルビスが声を上げて立ち上がった。

 

「魔王クレイマンが獣王国(ユーラザニア)滅亡を裏で糸を引いていたと…?」

 

驚いた顔でアルビスが表情を浮かべている中、スフィアが静かに立ち上がり、どこかへ行こうとしたが

 

「待ちなさいスフィア!」

 

アルビスがスフィアを止めた。

 

「行くなら、全員で攻め込みますよ」

 

怒りの表情を浮かべているアルビス。

獣人族は激情家が多いな…

 

「まぁ待て、もう少し判断材料が欲しい…フォビオ、どっちの方向にフレイは飛んで行ったんだ?」

 

リムルはアルビス達を宥めながらシオンが持ってきた地図を広げた。

 

「魔王フレイは獣王国(ユーラザニア)の北東…おそらくミリム様の支配領域である忘れられた竜の都へ向かったのかと…」

 

フォビオは獣王国(ユーラザニア)から忘れられた竜の都へ指を動かした。

獣王国(ユーラザニア)の北東…フレイの目的地が先にあると言えば…

リムルが獣王国(ユーラザニア)の北東方向へと真っ直ぐに指を動かし、その先にある一つの国に指をさした。

 

「…傀儡国ジスタ―ヴ、魔王クレイマンの支配領域です」

 

────────────

 

考えるために俺は一人、自分の庵に戻っていた。

幸い、今すぐにクレイマン領に攻め込まんばかりだった三獣士達だったが、ベニマルが宥めておいてくれたおかげで今は落ち着いている。

う~ん。 今、魔国連邦(ウチ)は問題が重なってるんだよな…まず一つ目はカリオンの件、ミリムの考えはよくわからない。

二つ目はファルムス王国の後始末…そして、最後に西方聖教会への牽制。

どれもこれも無視することができない問題ばかりなのだが、明らか許容量を超えている。

 

「……悟は、アイツはどうするんだろうな…」

 

畳の上に俺は寝ころび、いつになったら悟に俺の事を話せるか考えた。

悟と俺は親友だ。 よく二人で遊んだし悪戯もしてた。

何をするにもほとんど一緒だった…だが、互いに社会人になってからはあまり会えなくなって、俺とリムルの間には距離が出来てしまった。

だから、今度おごりで酒を飲もうと思っていた時、俺は死に、記憶を失った。

けど、転生先の世界で偶然、俺と同じく転生した親友が居た。

 

「……そりゃ、俺とリムルがよく息が合うわけだ…」

 

様々な三上悟と五永雄太の記憶が頭の中で浮かぶ中、俺は起き上がっては、頬を軽く叩いた。

 

「…よし決めた…前世では色々と後悔があったが、今度こそ! 悔いのないように生きてやる…それが俺の目標だ!」

 

月光が俺を照らす中、俺は一人、高らかに宣言した。



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43話 暴風の復活

テンペスト復活祭から一夜が明け、俺らはリムルの庵に集められていた。

そこでリムルは十大魔王に名乗りを上げて魔王クレイマンを討つと宣言した。

昨日の会議通りで聞いた話を皆に言った。

クレイマンがミュウランを操り・襲撃事件の被害を拡大を目論んだ上、ミリムの獣王国(ユーラザニア)滅亡に関わっている可能性が高いことを伝えた。

そして、ソウエイ達諜報部が報告を持ってくるまで本格的な作戦は後ということになった。

 

────────────

 

作戦会議から丸二日たった。

作戦会議後、洞窟の方から強い妖気(オーラ)を感じたのだが、皆曰く、暴風竜ヴェルドラの妖気(オーラ)らしい。

最初は皆困惑していたが、リムルから連絡があったのち、獣王国(ユーラザニア)の避難民を除き、皆は安堵していた。

暴風竜ヴェルドラの妖気(オーラ)を感じながらも、皆はいつも通りに暮らしていた。 勿論、俺もその一人だ。

 

「ズン!」

 

「おお、ありがとズバーン」

 

「ズンズン!」

 

庵の縁で寛いでいたら、ズバーンがお茶を持って来てくれて、俺は礼を言いお茶を啜った。

今、俺の庵には庭で遊んでいるミニティラと、昼間から酒を飲んでいる獅子王、そして俺の隣でまったりとしているズバーンが居る。

俺がまったりと寛いでいると、二日前から洞窟方面に閉じこもっているリムルから思念伝達が来た。

 

(エムル、ちょっと洞窟まで来てくれないか?)

 

「? 分かった」

 

俺はなぜ洞窟に呼ぶのか疑問に思いつつ、ズバーン達を庵に残して洞窟へと向かった。

まぁ、二人で話すには丁度いいかもしれないな。

俺が洞窟の入口まで来るとそこにはガビルとガビルの部下達が居た。

 

「エムル様、申し訳ございませんが、これより先はリムル様から誰も近寄らないよう言われていますゆえ…」

 

と、止めて来た。

ガビルが昇進したって聞いたから、今頃調子に乗っていそうだなって思ってたが、しっかりとリムルの命令を行ってるな…関心、関心。

そう思いつつ、俺はガビルに訳を言った。

 

「リムルに来るよう言われたんだよ、だから通してくれないか?」

 

「なるほど、そういうことでしたか…では」

 

ガビルは一礼して、道を開けてくれた。

 

「ありがとさん」

 

俺はガビル達に礼を言い、洞窟の奥へと向かっていた。

洞窟の奥へと向かうたびに濃度が高い魔素を感じ、肌がヒリヒリとする。

これだけの魔素なら、普通の人間ならとっくに死んでいるのだろうな。

 

「おっ、来た来た」

 

洞窟の最奥に着くと、リムルと妖気(オーラ)を抑え込もうとしている金髪の男が居た。

 

「むっ、お主も来たか!」

 

金髪の男は俺の事を知っているような口ぶりで言ってきた。

 

「あー…エムル、こちら、ヴェルドラ君です、是非仲良くしてやってくれ」

 

リムルが金髪の男の名前を紹介した。

ヴェルドラ…確か、暴風大妖渦(カリュブディス)が生まれる理由になった奴だよな?

 

「…何があったんだ?」

 

「実はな────」

 

リムルから俺は色々と聞いた。

リムル曰く、ヴェルドラは世界に四体しかいない竜種の一体だったのだが、大昔に暴れ、勇者により洞窟(ここ)に無限牢獄というスキルで封印されたらしく、そこに偶々来たリムルと友達になり、リムルが封印を解くために捕食者で、一度胃袋内で収納していたのだが、リムルが魔王と成りったお蔭で、無限牢獄を解析鑑定していたスキルがパワーアップし、最近になって無限牢獄の解析鑑定が終わったそうだ。

そして二日前、ヴェルドラの妖気(オーラ)を感じた日に胃袋から出したのだが、その時のヴェルドラは精神生命体で、肉体がない状態だった。 そのため、ヴェルドラが消えないようにリムルがブン身体を与えた結果、あの金髪の男になったそうだ。

そして今、ヴェルドラの強すぎる妖気(オーラ)を抑え込める修行をしているそうだ。

 

「なるほどな…」

 

俺は納得しながら洞窟の岩の上に座り込んだ。

こっちの世界で初めての友達ね…なーんか、嫉妬してしまうな。

 

「にしても…あれ、逆に出しまくってないか?」

 

「俺もそう思う」

 

俺とリムルは、ドラゴ〇ボール如く妖気(オーラ)を勢いよく出しているヴェルドラを見た。

あれじゃあ、弱い魔物や人間だと死んでしまうぞ。

 

「リムルにエムルよ! これはどうだ!?」

 

自分が妖気(オーラ)を抑え込めていると思っているヴェルドラは、俺らに妖気(オーラ)を抑え込めているかを聞いてきた。

俺とリムルは一度顔を見合わせては

 

「「むしろ出まくっているよ!」」

 

口をそろえて言った。

 

「むぅ…そんなこと言われても、難しい物は難しいのだ…」

 

「内側に溜めるよう感じにしてみろ」

 

「冷静になるとやりやすいぞ」

 

不満を言うヴェルドラに俺とリムルがアドバイスを送る。

…今なら言えそうだな。

 

「リムル…」

 

今なら言えると判断した俺はリムルを呼んだ。

 

「ん? どうした?」

 

リムルがこちらに向かってくる中、俺は立ち上がっては真剣な顔でリムルを見た。

 

「…リムル……お前は、五永 雄太を知っているか…?」

 

「えっ───」

 

俺の言葉を聞いたリムルは、驚いた表情でその場に立ちどまった。



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44話 親友と本当の再開

「……おい、まさか……お前…」

 

リムルが震えながら聞いてきた。

 

「…嗚呼、進化したことでようやく思い出したんだよ…俺の本当の名は五永 雄太だ」

 

「…フハハハッ…まさか、俺達揃って異世界転生するとはな、ある意味運命かもしれないな」

 

「だな!」

 

笑顔でリムルが言い、俺は微笑み答えた。

少しばかり俺とリムルは談笑していたが、俺はふとあることを思い出し、リムルに訊ねた。

 

「そう言えば、何で俺を呼んだんだ?」

 

「ああ、それは俺のスキルに見慣れない者があって、俺の究極能力(アルティメットスキル)智慧之王(ラファエル)に聞いたらお前のスキルって言ってな…だから聞きたくて呼んだんだ」

 

そう言うことだったのか…でも、俺自身のスキルをよくわかってないんだよな…進化っぽいことをしたのは覚えているんだが、その他の事は分かってないんだよな…どうしたものか…

 

《告。 聞こえますか?》

 

「えっ?誰?」

 

俺の頭の中に直接声が聞こえてきて、俺はつい声を出してしまった。

 

《解。 私は主様(マスター)究極能力(アルティメットスキル) 智慧之王(ラファエル)です。 貴方のユニークスキル大親友(バディ)による魂の確立を確認しに来ました。並びに、主様(マスター)と共にユニークスキル大親友(バディ)の説明をします。》

 

((へぇ~…え?))

 

リムルの声が聞こえ、俺はリムルの方を向くと、リムルもこちらを見ていた。

 

「…思念伝達した?」

 

「いいや?」

 

「じゃあ、なんで?」

 

俺とリムルは互いに疑問に思っていると、ラファエルさんが説明してくれた。

 

《解。 ユニークスキル大親友(バディ)の効果です。 大親友(バディ)の意思疎通で、あらゆる影響を受けることなく思念伝達が可能となっております。》

 

(ってことは、前に張られた結界の影響も受けないのか?)

 

《是。 その通りです。》

 

なるほど、色々と便利だな俺の新たなスキルは…

そして俺は思ったことをラファエルさんに訊ねた。

 

大親友(バディ)って、他にも力はあるのか?)

 

ユニークスキルなのだから、意思疎通だけではないと思った俺はラファエルさんに訊ねた。

 

《解。 あります。 ユニークスキル大親友(バディ)にはスキル、権能を共有することが出来る能力共有があります。》

 

((能力共有?))

 

俺とリムルが復唱すると、ラファエルさんは淡々と説明してくれた。

 

《是。 能力共有はメイン共有能力とサブ共有能力があり、メイン共有能力はどちらかのスキルを共有することができ、サブ共有能力はスキル権能を二つまで共有する能力です。》

 

なるほど、そこそこ強いチートだなこれ…

 

《案。 このまま、究極能力(アルティメットスキル)智慧之王(ラファエル)を共有能力にセットし、究極能力(アルティメットスキル)智慧之王(ラファエル)にサブ共有能力のセットを任せますか? YES/NO》

 

俺とリムルは顔を合わせては互いに頷き、

 

((勿論、YESだ!))

 

《了。 ユニークスキル大親友(バディ)のメイン共有能力を究極能力(アルティメットスキル)智慧之王(ラファエル)にセットします。 完了しました。並びにサブ共有能力に究極能力(アルティメットスキル) 誓約之王(ウリエル)の権能、法則操作、空間支配をセットします。》

 

うおぉ…勝手に進めてくれるのは嬉しいんだけど、俺のスキルが使われていない件について…ちょっと悲しいよ。

 

「これで良さそうだな、俺はヴェルドラの様子を見てくから、お前はスキル確認としとけよ」

 

「分かった…ラファエルさん頼める?」

 

《了。》

 

俺はラファエルさんから自分のスキルの説明を聞くことにした。

 

(えっと、俺のスキルで大親友(バディ)以外にも新しいのあるのか?)

 

《解。 ユニークスキル不死者(シヲコバムモノ)究極能力(アルティメットスキル)不死之王(イーコール)へと進化をしました。 権能は以下の通りです。》

 

そう言い、ラファエルさんは俺のステータスを表示してくれた。

 

ステータス

 

名前:エムル=テンペスト

 

種族:人魔族(デトロイト)

 

加護:暴風の加護

 

称号:"不死"

 

魔法:なし

 

技能:究極能力(アルティメットスキル)

    『不死之王(イーコール)

      ・不死…あらゆる攻撃を受けても死ぬことがないが、

          精神攻撃は食らってしまう。

      ・再生…普通の自己再生とは違って、自身の思い通りに

          再生スピードを変えることが出来る。

      ・血液操作…自身の血液を自由自在に操ることが出来る。

      ・魂分裂…自身の魂を複数に分裂させ、

           意思のある分身体を作り出すことが出来る。

      ・不死系魔物(アンデッド)召喚…眷属の不死系魔物(アンデッド)を召喚して、使役することが出来る。

 

   ユニークスキル

    『変身者(カワルモノ)

      ・変身…自分が思ったモノに変身することが出来る。

    『製作者(ツクリダスモノ)

      ・製作…頭の中でイメージした物を作り出すことが出来るが、

          大きさによって使用時の魔素の消費量が変わる。

    『大親友(バディ)

      ・意思疎通…思念伝達の上位互換で、妨害、盗聴などを無効化する。 

      ・能力共有(メイン)…片方のスキルを一つ、共有することが出来る。

      ・共有能力(メイン)究極能力(アルティメットスキル)智慧之王(ラファエル)

      ・能力共有(サブ)…片方のスキルの権能を二つまで、共有することが出来る。

      ・共有能力(サブ)究極能力(アルティメットスキル)誓約之王(ウリエル)(法則操作 空間支配のみ)

 

   エクストラスキル

    『万能感知』『自動演算』『魔力操作』『覇気』『多重結界』『天眼』

 

耐性:痛覚無効 物理攻撃無効 自然影響耐性 状態異常耐性 精神攻撃耐性 聖魔攻撃耐性

 

…ふむ、不死者(シヲコバムモノ)が進化したことに手に入れた。 不死之王(イーコール)はそこそこ強いし、 何度見ても大親友(バディ)が強い…後は新しいエクストラスキルと耐性を手に入れたのと、前まであったモノが進化しているって感じだな。

後で色々と試してみるか。

ある程度のスキル確認が終わり、俺が顔を上げると、正面にリムルとヴェルドラが立っていた。

どうやら、ヴェルドラの妖気(オーラ)を抑え込む修業が終わったらしい。

 

「じゃあ、行こうか」

 

「うむ!」

 

「ああ」

 

俺とヴェルドラはそれぞれ、リムルに返事をして洞窟の外へと向かった。



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45話 暴風竜の友達

「そう言えばエムルよ、お主…前世のリムルと親友だったそうだな」

 

「そうだけど…」

 

洞窟内を歩いていると、ヴェルドラがそんなことを聞いてきたので、答えた。

俺はリムルの方を見ると、リムルは俺から顔そらした。

あの反応的に、リムルはヴェルドラに言ったのだろうな。

まぁ、どうせ何も起きないだろうし、いいか…

俺がそう思っていると、

 

「ならば、リムル同様、我と盟友だな!」

 

「「はぁ?」」

 

ヴェルドラが意味が分からないことを言ってきたため、俺とリムルはその場にフリーズした。

一体全体意味が分からない…あれか? 友達の友達はまた友達理論なのかこいつ?

 

「なんでそうなるんだよ…!」

 

「クワーハッハッハッハ! 別に良いではないか!」

 

胸を張って笑うヴェルドラに対して、俺は頭を抱えた。

これから先、色々と面倒くさいことになりそうだな…

 

「あーっ、分かったよ…これからよろしく頼むぞ、ヴェルドラ」

 

「うむ! 我の方こそよろしく頼むぞ!」

 

俺とヴェルドラは、洞窟内を歩きながら固い握手を交わした。

そうこうしていると、俺らは洞窟から出れたのだが、入口付近が何やら騒がしい。

 

「ソフィア殿、落ち着いて下され! リムル様はお考えがあって、エムル様と洞窟にこもっておられるのです」

 

「だが、リムル様は三日前に、そして、エムル様が丸一日経っても洞窟から出てこないんだぜ!? しかも、あの伝説の暴風竜が復活したんだろ!? 主らが危険かもしれないのに、手をこまねいているつもりなのかよ!」

 

洞窟の前では、獣王戦士団の者達とガビル達が口論していた。

 

「煩いネコですね、大人しくしない潰しま「やめろディアブロ! それじゃあ仲裁になってねえ!」

 

ソフィアに殺意を向けているディアブロをベニマルが止めた。

ナイスだベニマル…今のディアブロ、普通にソフィアを潰そうとしていたぞ。

 

「リムル様とエムル様がご無事なのは間違いないが、ヴェルドラ様が復活なされたとなると、我らとしても迂闊に動けないのだ。 とにかくここは我々に任せて────」

 

ベニマルが獣王戦士団を宥めていると、

 

「あー…心配かけたな皆」

 

リムルが少し申し訳なさそうに、皆に声をかけた。

 

「悪い悪い、俺達で色々としてたんだよ」

 

「リムル様、エムル様!……と…」

 

俺らの姿を見た皆は安堵していたが、目線はすぐに、人の姿をしているヴェルドラへと向いた。

 

「とにかく安心しました。何せ、あの暴風竜ヴェルドラの気配が復活したのです…一体何が起こったのかと」

 

安堵しているアルビスの言葉を聞きながら、リムルはヴェルドラを皆の前へと押し出しては、

 

「皆に紹介しておこう、こちら、ヴェルドラ君です! ちょっと人見知りだけど、皆も仲良くしてあげてください」

 

「なっ! 馬鹿を言うな! 我は人見知りでないぞ!?」

 

笑顔でヴェルドラを紹介した。

リムルに人見知りと言われたヴェルドラは、なにやら人見知りではないと、言い訳を言い始めたが、皆はそれどころではないそうで、驚きのあまり口を開けて、突っ立ていた。

 

「ヴェルドラ、自己紹介をしてやってくれ、皆、お前の妖気(オーラ)が前と違うから半信半疑だぞ」

 

「む、それもそうだな」

 

俺の助言にヴェルドラは納得し、軽く咳払いをした。

 

「我は暴風竜ヴェルドラ=テンペストである! 我が貴様らの主らである、リムルとエムルとどういう関係なのか気になっておるだろう! 知りたいか!? 知りたかろう!!」

 

えっ、はっ、え?何言ってんだヴェルドラは!

驚いている俺とリムル以外の者達はとても気になっているようで、何名かが頷いた。

 

「友達だ!!」

 

ヴェルドラは胸を張り、ドヤ顔をしながら言い張った。

 

トモダチ!!!!?

 

一方、それを聞いた皆は一度、目を見開いてフリーズしていたが、すぐに正気に戻っては大声で叫んだ。

やめてくれ、俺達が恥ずかしいから…

俺とリムルが顔を真っ赤にしていたら、リムルの影から、何かの情報を手に入れただろうソウエイがやって来た。

 

「リムル様、エムル様、クレイマンの動向ですが…」

 

ソウエイはヴェルドラを見ると、何かを察した顔をした。

 

「後にした方がよろしいでしょうか?」

 

小さな声でソウエイが聞いてきたが、恥ずかしい思いをするここから早く逃げたい俺らは

 

「むしろ、この恥ずかしい空気変えたいから、調査結果は会議室で聞こう」

 

「そうだな、ソウエイ、この場に居ない幹部達と、ヨウムやカバル達も全員を大会議室に招集してくれ」

 

「承知」

 

リムルは報告を聞くと、ソウエイに伝え、会議室とこの場の空間を能力で繋げ始めた。

俺は、リムルが空間を繋げている間、ソウエイに頼み込み、この場に居ない者達を集めるように言った。

 

「リムルにエムルよ、何かあったのか?」

 

皆と喋っていたヴェルドラが、俺らに気づいて訊ねて来た。

 

「ああ、今後の方針を決める準備が整ったんだよ」

 

「ふむ、我にも手伝えることはないか?」

 

俺らの傍にヴェルドラは聞きながら近寄ってきて、リムルは微笑んで

 

「もちろんある」

 

と言った。

 

────────────

 

大会議室で会議を始める前に、執務室で俺とリムル、シオン、ベニマルがソウエイの報告を聞いていた。

 

「───クレイマンが軍を?」

 

「は、進軍経路を見るに、忘れられた竜の都を目指しているかと」

 

忘れられた竜の都…ミリムの領地か…

 

「その数はおよそ三万…」

 

ソウエイの報告を聞いていた途中に、万能感知に反応があった。

来たのは俺たちの知り合いだった。



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46話 人魔会談【前編】

来たのは、ブルムンド王国の自由組合支部長(ギルドマスター)、フューズだった。

話を聞くと、どうやら魔国連邦(ウチ)との間で結ばれた安全保障条約に従い、魔国連邦(テンペスト)と共に、ファルムス王国と戦ってくれるつもりだったらしく、本体の到着に時間が掛かるので、フューズが数名を引き連れて、先に来てくれたらしい。

ブルムンドの行動は、心からありがたいのだが……もう戦い終わったんだよな……

 

「え~っと、フューズ君、実は───

 

リムルがファルムス王国との戦いは終わったことを、フューズに伝えた。

 

「は?終わった? どういうことですか!? ミョルマイル達、商人や冒険者からの話だと、ファルムスの宣戦布告からまだ二週間も経ってないでしょう!?」

 

リムルの言葉に、フューズが大声で驚きながらっ訊ねて来た。

そして、リグルド曰く、ブルムンドに使者を送ったそうなのだが、恐らく、途中で入違ってしまったのだろうとのこと。

どこから説明するか…

俺らが頭を悩ませていると、

 

《告。 30騎の接近を確認──先頭はガゼル・ドワルゴです。》

 

ラファエルさんが、ガゼル王が来ていることを報告してくれて、俺らは空を見上げると、ガゼル王とその部下達がペガサスに跨って空を飛んでいて、俺らの目の前へと降り立った。

 

「──久しいな、リムルにエムル。リムルよ、魔王になったらしいな?」

 

「まあね、ちょっと色々あってさ」

 

ガゼル王に言葉を聞く限り、恐らくベスタ―辺りがリムルが魔王になったことを報告したのだろうな、そんでもって、今回はその確認と…

ガゼル王とリムルが少し話していると、

 

「魔王…? 一体どういうことですか? 魔王…?」

 

ガゼル王のリムルが魔王になったと言う言葉に、フューズが血相を変えた。

流石に、魔王は聞き捨てにならなかったようで、フューズはリムルに問い詰め始めた。

 

「…ガゼル王の言うとおりだよ、必要があったから魔王になった。 ファルムス軍はそのための生贄に「待て、リムルよ」

 

フューズの質問に、リムルが答えようとしていたら、途中でガゼル王が止めた。

 

「知っているのなら、俺にも聞かせて欲しい…ファルムス王国軍が進軍中、なぜ行方不明(・・・・)になった。 その理由を」

 

ガゼル王の言葉で、俺は大体理解した。

ガゼル王達は、俺とリムルが三万もの軍勢を虐殺したことを有耶無耶にしようとしてくれていることを…

それもそうだ、本人たちの気分次第で、大量の軍勢を滅ぼせる者達は、準備などが掛かる核兵器以上に恐ろしい。

"隠蔽"というと、聞こえは悪いが、混乱を煽るのを避けるためには仕方ないな。

 

「ま、そう言うことだ。 今、ファルムス王国軍は行方不明なんだよ」

 

俺が笑顔でフューズに言うも、フューズは怖い顔をした。

まあさっき、リムルが生贄にしたって、言ってるしな…

フューズは少し悩んだのち、深いため息を吐いた。

 

「疲れているせいか、幻聴が聞こえたそうだ…ファルムス軍は行方不明、分かりました…ですが、対策会議には俺も出席させてもらいますよ、俺らだけ、傍観するわけには行かないので…」

 

「もちろんだ」

 

リムルから、対策会議の参加の許可を貰ったフューズは、深いため息を吐きながらシュナに案内され、トイレに向かった。

さて、どうしたものか…

これからの会議をどうするか、俺が悩んでいると

 

《告。 個体名ソーカが、害意の無い数名の者達をこちらに案内しています。なお、そのうちの一人は人造人間(ホムンクルス)の肉体に憑依させております。》

 

ラファエルさんからまた報告が来た。

また客人か…それより人造人間(ホルンクス)ってなんだ?

 

《解。人造人間(ホルンクス)は、人造的に作り出した肉体に、精神体(スピリチュアルボディ)を憑依させた者を指します。》

 

俺の問いに、ラファエルさんが答えてくれた。

マジで有能だなラファエルさんは…

そうしていたら、ソーカが数名の男たちを連れてやって来た。

 

「リムル様、エムル様」

 

男達を案内していたソーカが、俺達の傍に近寄って来ては説明してくれた。

どうやら、魔導王朝サリオンの使者らしく、人造人間(ホルンクス)の男はサリオンの公爵家らしい。

俺達がソーカと話していたら、

 

「リムル…そうですか、貴方が私の娘を誑かした魔王リムルですか!!」

 

公爵が俺らに向けて、すごそうな大魔法をぶっ放すために詠唱を始めた。

 

《告。 火炎、および爆発の合成魔法です。 魔法制御を自前で行う高騰術式が展開されています。》

 

いや、そんな解説よりも! 止めないと不味っ!!

俺がスーパー戦隊の力で止めようとしたら、公爵の頭に思いっきりエレンの張り手が入った。

エレン!? なんで!?

俺が驚いていると、さらに驚く言葉が聞こえた。

 

「ちょっとぉ、何しに来たのよぉ、パパ!」

 

パ……パパぁ!!?

俺は目を見開いて驚いた。

 

「いやー申し訳ない。娘が魔王に攫われたと報告を受けたもので、慌ててしまったのです」

 

「いいえ閣下、キチンと報告致しました」

 

「パパの早とちりじゃないのよぅ」

 

…あの人、相当な親バカみたいだな。

そこから、エレンが紹介してくれた。

エレンのお父さんこと、魔導王朝サリオンの大公爵、エラルド・グリムワルト。

エラルドはエレンの件と、俺たちを見極めるために来たらしい。

 

「リムル様、エムル様…いつもの会議室では入らりきれないやもしれません」

 

リグルドが小声で言ってきた。

確かに、全員で会議するとなると、いつもの会議室では入りきらなそうだな。

リグルド後から、今別の場所を準備しているから、しばらく耐えてください、と付け足した。

その後、ヴェルドラが来たため、全員がリムルや俺に説明を求めて来たので、俺はリムルに丸投げして逃げて来た。

 

────────────

 

準備が整った大会議室で、全員がそれぞれの代表が席に着き、シュナがガゼル王、アルビス、フューズ、エラルド、リムルの順に紹介し、俺達は後の世に人魔会談と称される会議を始めた。

後、上半身裸だったヴェルドラは、ちゃんとした衣装を着させてから漫画と、俺がラファエルさん頼み込んで、俺の記憶を元に、俺が好きなスーパー戦隊ベスト3を脳内に転写させて見せているため、既に没頭している。

ちなみに、俺が選んだのは、侍戦隊シンケンジャー、海賊戦隊ゴーカイジャー、獣電戦隊キョウリュウジャーの三つだ。

まず、俺が自身の前世の事と、外遊からの帰国時にヒナタに襲われ、何とかして帰って来た時には襲撃の後だったこと、そして魔王に至る経緯を話した。

リムルの話が終わると、俺も前世の事と俺自身の力であるスーパー戦隊のこと、そして襲撃の際、多くの者を殺したことを全て話した。

俺の話が終わると、リムルが口を開いた。

 

「でだ───事実は俺とエムルが言った通りだが、公にする筋書きは大きく変える」

 

リムルの発言に多くの者達が騒めき始める。

リムルとガゼル王、エラルドは、ファルムス軍は天災である"暴風竜"…ヴェルドラによって、捕虜を除いて全て行方不明になり、新たな魔王によって、ヴェルドラが大人しくなった、ということにすると決めていた。

これは三人が密談で決めたことで、俺は大親友(バディ)の意思疎通を秘かにつなげて、コッソリと三人の会話を聞いていたため、俺は知っていた。

 

「反対が居る奴は居るか? 特にヴェルドラには、俺らの罪をかぶってもらうことになるが…」

 

「特に問題はないぞ、我はお前らと(カルマ)を共に背負うと決めていた。 暴風の威を存分に使うがよい」

 

リムルがこれでいいかとヴェルドラに聞くと、ヴェルドラはソファに寝ころびながら、頼もしいことを言ってくれた。

だが、そこからある問題が上がった。

 

「捕虜はどうするのだリムルよ、そやつ等から真実が語られるかもしれないぞ」

 

ガゼル王の言う通りだ。

いくら俺らが隠蔽したところで、捕虜が話す可能性もある。

だが、リムルは既に対策案を考えているため、皆にその対策案を言った。

 

「…ああ、ファルムスを一度滅ぼし、国民から人気が篤い英雄ヨウムを王に据える、新しい国に生まれ変わらせる」

 

リムルが対策案を言っている中、座っていたヨウムが立ち上がった。

皆からは様々な声が上がる中、ガゼル王が英雄覇気を発動させて、ヨウムを試した。

ガゼル王の覇気を耐えたヨウムは、根性と覚悟をガゼル王に伝えたため、ガゼル王はヨウムを認めて、何かがあった時、頼るように言った。

さらに、フューズがファルムスに居る知り合いの貴族が居るから、助力が出来ると言ってくれた。

すると

 

「プハハハハ! これは愉快だ! 国を跨いで本音で語り合うとは…これでは警戒している私の方が滑稽です…では、私なりの結論を答える前に、リムル殿とエムル殿、ひとつ伺えたい」

 

「ちょっとぉパパ! 勿体ぶらずに、さっさと答えてよぉ!」

 

エレンに促進されたエドマリスは、エレンに少し待っといてっと宥めていた。

ははっ…公爵形無しだな。

エラルドがエレンを宥めていると、

 

「…それで、聞こうかエラルド」

 

俺と同じことを思っただろうリムルが、雰囲気を作るために、魔王覇気を放った。

 

「…では魔王リムルに魔人エムルよ、貴殿らはその力をどう扱うおつもりで?」

 

一瞬、リムルの魔王覇気に怯んだが、すぐに態勢を戻しては、俺とリムルに質問をした。

 

「──何だ、そんなことか、俺とエムルは俺らが望むままに暮らしやすい世界を創りたい、出来るだけ皆が笑って暮らせる豊かな国をな…」

 

「そんな、夢物語のようなことを…っ」

 

リムルの言葉にエラルドは反論を言った。

そこで、俺は口を開きながら、立ち上がった。

 

「確かに、俺達はやろうとしているのは夢物語かもしれない…だからこその、俺らの力だ。俺らはこの力を使って叶える。 力ない理想は戯言だし、理想なき力は虚しいだけだ。 俺達はただ力を求めている趣味なんてないしさ」

 

俺は言いながら歩いていき、リムルの横に立ち、エドマリスの質問に答えた。

俺の回答を聞いたエラルドは少し立ちすくんでいた。

 

「…は、ははは…はははははっ、これは愉快ですな魔王リムル、魔人エムルよ!……失礼しました。 私は魔導王朝サリオンよりの使者として貴国───ジュラ・テンペスト連邦国との国交樹立を希望致します」

 

「その話、是非ともお受けしたい。 こちらからも善き関係を築きたいと思っていた」

 

こうして、魔国連邦(テンペスト)と魔導王朝サリオンとの国交が結ばれたのだ。




やべぇ、いつも以上に長くなってしまった。


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47話 人魔会談【後編】

会談の休憩時間、俺は休憩しながら、別室で魔国連邦(テンペスト)と魔導王朝サリオンを結ぶ直通の街道の話をしているリムル達の会話を聞いていた。

リムルの言い分は、魔国連邦(テンペスト)が開通工事をする代わりに街道上の警備や宿屋の運営を俺達に任せてもらい、通行税を頂くようにしてほしいっといったもので、それに対してエラルドは、何年かに一度の交渉権が欲しい代わりに、俺たちの条件を飲むとのこと、少し間があったのち、リムルは了承した。

軽くね?

心の中でそう思ったが、口を出すわけには行かないので、黙っていた。

そうこうしていると、休憩が終わり、会談が再開した。

 

「──さて、休憩を挟んで頭もリフレッシュしたところで、会談を再開する」

 

リムルが会談の再開を宣言したのち、会談を始めようとしたその時、

 

「あ! ちょっと困るだす!」

 

光の玉がこちらに向かって来ていた。

光の色的に、獅子王ではないのは一目瞭然だ。

そして、光の玉は俺らの目の前で止まっては

 

「話は聞かせて貰ったわ! この国は、滅亡する!」

 

「「「「な…なんだってーー!!」」」」

 

俺は妖精(?)の言葉に、何故か本能的に叫んでしまった。

 

「煩いハエですね」

 

皆が膠着している中、ディアブロが妖精の羽を掴んだ。

 

「リムル様、エムル様…この巫山戯た羽虫にどのような処分を下しましょう?」

 

「何よ!ワタシが何をしたって言うのさ!」

 

必死にディアブロの拘束を解こうと妖精は頑張るが、微動だにしない。

 

「ディアブロ、一応それ…ラミリスという魔王なんだけど」

 

「一応って何よ!」

 

……ミリムに引き続き、魔王にはまともそうなやつが少なそうだな…

そうこうしていると、リムルはラミリスをヴェルドラに見守ってもらおうとしたが

 

「我は今、トリンが死なぬように心の中で応援しておるのだ!邪魔をするではない!」

 

ヴェルドラはソファに寝転がって、目を瞑っていた。

恐らく、スーパー戦隊を見ていたのだろう。

トリンって…あっ、恐らくあのシーンだな。

 

「ヴェルドラ、その後、トリンはキョウリュウジンの五連獣電剣を自分で刺して自害するぞ」

 

「なぬっ!?」

 

俺の盛大なネタバレを食らったヴェルドラは、半泣き状態になっては、ラミリスを押し付けられ、何故かぐったりしているラミリスを膝の上にのせては、真っ白に燃え尽きていた。

 

「申し訳ない、じゃあ、会談を再開しよう」

 

リムルは会談を再開した。

今度の話は西方聖教会への牽制だった。

リムルが話したのは、これから魔国連邦(テンペスト)は魔王クレイマンと事を構えるので、二方面で戦うことにならないように、西方聖教会とは積極的にたいりつをしないつもりという物だった。

 

「シオン、捕虜の中に西方聖教会の大司教がいただろう? 何か情報は掴めたか?」

 

「フッフッフ、勿論です」

 

自信満々な表情を浮かべてながらシオンは立ち上がった。

 

「黒幕が判明しました。その名は───」

 

シオンが黒幕の名前を言いかけたが、長い間ができる。

長すぎるだろ…

俺がそう思っていると

 

「……元凶はニコラウス・シュペルタス枢機卿」

 

立ち上がったミュウラがシオンに助け船を出した。

ナイスアシストだミュウラ…

そこからは、シオンが経緯を説明してくれた。

どうやら、ファルムス王国に派遣されている大司祭であるレイヒムが、西方聖教会の魔国連邦(テンペスト)のことを報告したら、神敵として討伐する予定すると、返事が来たのだが、レイヒムは枢機卿からの親書を決定事項だと、ファルムスの王や貴族に説明し、挙兵を後押ししたそうだ。

その結果、まだ交渉の余地があると皆は判断し、フューズが西方諸国評議会(カウンシル・オブ・ウェスト)という大きな評議会で、多くの国に利用されて居る交易の中継地として魔国連邦(テンペスト)を宣伝し、西方聖教会が魔国連邦(テンペスト)に手出しをしにくくさせると、約束してくれた。

 

「シオン、エドマリス王から何か情報は掴めたか?」

 

「はい!エドマリス王曰く、とある商人が地獄蛾(ヘルモス)の繭で織られた反物を持ち込み、それで我が国に目を付けたそうです。 あと、今後の流通の主流が奪われることを恐れ、今回の件に繋がったと…」

 

動機はミョルマイルが言っていた通りだった。

だが、気になるのはエドマリスに地獄蛾(ヘルモス)の反物を見せた商人だな。

しかし、シオン曰く、その商人のことは分からなかったそうだ。

俺は考えていたのだが、あることを思い出して、シオンに訊ねた。

 

「そう言えばシオン、捕虜は三名だったな?後のもう一人はどうした?」

 

「はい、もう一人の捕虜はエムル様が腕を切り落としたと聞いた、黒髪の襲撃者なのですが、ひどく怯えていて会話が出来ませんでした」

 

俺が腕を切り落としたって、あの異世界人か?

リムルがどんな奴だったかを、相手を任せていたディアブロに聞くと、どうやら魔法使いらしい。

そして、俺は少し不安な気持ちを持ちながら、シオンに名前を訊ねた。

 

「じゃあ、名前は聞けたか?」

 

「はい!」

 

また、自信満々にシオンは返事をした。

頼むから、今度は大丈夫であってくれ…

俺は心から願っていると、シオンがはっきりと最後の捕虜の名前を言った。

 

「ラーメンです!」

 

ラーメン…? あのラーメンか?

俺は?を頭に浮かべていたが、皆もラーメンという名は聞いたことが無いらしく、代わりにラーゼンという男の名が浮かび上がって来た。

ラーゼンという男は、ガゼル王や三獣士達にも、名が轟いているみたいだ。

でも、おかしいな…あの顔立ち、日本人の顔だったから日本人の名前だと思うんだけどな…

俺が疑問に思っていると、ゲルドが異世界人の一人に止めを刺そうとした時、ラーゼンと呼ばれる魔法使いが邪魔して来たと言った。

俺が何故かと考えていたら、

 

《告。 精神系魔法の秘儀を用いれば、肉体を乗り換えることが可能となります。》

 

ラファエル先生が、重要そうな情報を報告してくれた。

あー…てことは…

俺はもしかして、と思っていたら。

ミュウランがまた助け船を出し、男の名はラーゼンだと確定した。

そして、皆が警戒していたラーゼンを小物扱いしていたディアブロを、リムルはヨウムと共にファルムス王国の件を片付けるように言った。

ディアブロは、最初こそはショックを受けていたみたいだが、リムルが行かせる理由を聞くと納得したようだ。

これで俺らはクレイマンとしっかりと戦える。

かくして、長かった会談が終わろうとしていたのだが、フューズがラミリスの話を木になっていたらしく、リムルが呼ぶために後ろを見ると、ヴェルドラから教えて貰っただろう少女漫画にハマっていた。

 

「おい、ラミリス…」

 

「ウルサイわね、アタシは今とても忙しいの!」

 

漫画に熱中しているラミリスに、リムルは呆れ顔で

 

「そのヒロインが誰とくっつくかバラされたくなければ、ここに来た目的を言え」

 

「はい!」

 

ネタバレすると脅し、ネタバレされたくないラミリスは一目散に漫画をやめて飛んできた。

ラミリス曰く、人間にも関係があるらしく、皆が聞こえる声で魔国連邦(テンペスト)が滅亡するとか言った理由を説明し始めた。

 

ラミリスが言うには、魔王クレイマンが、全ての魔王が集まる特別な会合、魔王達の宴(ワルプルギス)を提案したらしく、議題がリムルが魔王を名乗ったことについてらしいのだが、ラミリス曰く、魔王の業界(?)で、制裁するなら自由にやるのが暗黙のルールらしい。

だが、問題なのはそこではないそうで、ラミリスに届いた報せによると、クレイマンは既に軍事行動を起こしているみたいで、先手を取られた戦争だと言ったが、リムルは少し落ち着いた様子だった。

 

「なるほど、ようやくわかりやすい敵意を向けてくれたな……魔王クレイマン」

 

落ち着いていた様子だったリムルだったが、魔王クレイマンが敵意を現したことに、恐怖を感じるだろう笑みを浮かべた。

だが、リムルの言うとおりだ。

今まで裏からこそこそしていた元凶が、分かりやすい敵意を向けてくれたのだ、リムルの反応は正しいだろうな。

そして、色々なことがあったものの、人魔会談はしめやかに締めくくられた。



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48話 宴への備え

各国の代表が帰った後、俺らは談話室に集まってり、ラミリスから色々と聞いていた。

ラミリス曰く、魔王達の宴ワルプルギスは、元々ラミリスとミリムに、ギィという魔王が、三人でお茶会みたいなのをしていたのだが、後に他の魔王達も集まるようになり、揉め事があったら多数決で決める場所になったそうだ。

そして、今から千年前に人間が魔王達の宴ワルプルギスと名付けたそうだ。 

 

「まあ、その時は大戦で混乱していた頃だし、人間からしたら、魔王達が集まって話し合っているのは不吉に思えたんじゃない?」 

 

「「大戦があったのか」」

 

俺とリムルは口をそろえて言うと、ラミリスはマカロンをサクサクと食べ続けながら答えた。

 

「そ、五百年周期で発生する天魔大戦」 

 

それを聞き、俺に疑問が浮かんだ。

あれ? 千年前に、魔王達の宴ワルプルギスの呼称が広まっている時に、五百年周期で起こる天魔大戦が起こっているってことか? もしかして、近々大戦があるってこと!?

リムルがラミリスに問い詰めようとしたが、流された。 

 

「そんなことより、大切なことは今回の魔王達の宴ワルプルギスよ! リムルあんた…魔王達の宴ワルプルギスに参加するつもりなの?」

 

「魔王達の宴ワルプルギスにはクレイマンが来るんだろ? こっちから出向いてみたら面白いて思ってな…飛び入り参加は駄目か?」 

 

「う~ん、大丈夫だと思うけど…」

 

 

ラミリスの問いに、リムルはスライム姿で冷静に答えた。

リムルの答えを聞いた皆からは、クレイマン以外に敵が居ないとは限らないという心配する声や、クレイマンの城に攻め込む機会だという意見が上がった。

だが、俺とリムルが一番気にかけているのは 

 

「…ミリム様の事ですよね?」 

 

俺らの考えを察したベニマルが代わりに言ってくれた。

 

「確かに、ミリム様の今回の動向の裏にはクレイマンの影が見れ隠れしている。 だが操れているのか、自身の意思なのか決め手に欠ける」

 

「それはありません!」

 

シオンはミリムが操られていることを否定した。

ソウエイがミリムの心を読むことはできないと言うも、

 

「根拠はありませんが、あれは絶対本気で懐いていました!」

 

シオンは流石と言いたくなるほど潔かった。

 

「まぁ、何がともあれ、ミリムに直接問いただすしかないな…」

 

「だな、俺らが真相を知る術はないし」

 

「じゃあ、決まりだね!」

 

ラミリスは、座っていたところから浮き上がった。

 

「ワタシがリムルの参加をばっちり認めさせてやるわ! あっ、そうそう…従者は二人までだから、誰にするか決めといてよね!」

 

ラミリスの最後の言葉にシオンやディアブロだけではなく、棚に並んでいた漫画を選んでいたヴェルドラが、自分が行くと喧嘩を始めた。

 

「リムルよ! 無論、我が共に行くよな!?」

 

「いや、お前は留守番だぞ」

 

「…る、留守っ!?」

 

リムルの言葉が余ほどショックだったのか、ヴェルドラはフラついた。

 

「嗚呼、連れて行くのはシオンとエムルだな…」

 

俺とリムルのお供が出来ると分かったシオンは嬉しがり、その他の幹部達は悔しそうな表情を浮かべた。

 

「ベニマル、ガビル、ゲルド達は三獣士と共に進軍中のクレイマン軍を出来る限り捕まえろ、ハクロウ、シュナ、ソウエイでクレイマンの城に攻め込んでくれ…後、ヴェルドラは町の防衛を頼むぞ」

 

「承知」

 

「仰せのままに!」

 

リムルに命令された幹部達が返事をする中、

 

「何故だリムル! 我なら他の魔王どもに引けを取らむぞ!」

 

唯一、ヴェルドラだけは納得していないらしい。

 

「仕方ないだろ、対クレイマン戦では魔国連邦国(テンペスト)の全軍が出動するんだからさ、町には一応、オッチャンとミニティラ、ズバーンを残していくけど、お前が居たらより完璧になるんだよ…頼んだぞ、親友!」

 

俺の説得にヴェルドラは不満そうな顔をしたが、早速町に、強固な結界を張ってくれた。

 

────────────

 

俺らは執務室で迎えを待っていた。

リムルのお供は俺とシオン、ラミリスのお供はリムルが作った人形に受肉させた悪魔のベレッタと、元々はラミリスの下に居て、霊樹人形妖精(ドリュアス・ドール・ドライアド)へと進化を果たしたトレイニーさんだ。

ちなみに、俺らが知らない魔王の情報を聞くためにヴェルドラを呼んでいる。

 

「魔王は、我が知っている限り、我が戯れで滅ぼした吸血鬼族(ヴァンパイア)の都を治めていた魔王と、我と何回か喧嘩したが、勝負がつかなかった巨人族(ジャイアント)の魔王、ダグリュールが居ったな」

 

ヴェルドラが滅ぼした都を治めていた魔王と、ヴェルドラと互角に戦い合える魔王ね…ダグリュールと言う魔王はともかく、吸血鬼族(ヴァンパイア)の魔王に関しては、恨みが薄れていることを祈るしかないな。

 

吸血鬼族(ヴァンパイア)の魔王の名は確か…ル、ルルス? ミルスだったか?」

 

吸血鬼族(ヴァンパイア)の魔王なら結構前に代替わりしたよ、今はヴァレンタイって男」

 

魔王ヴァレンタイね…すごく関係ないのだが、某カップルイベントを思い出してしまう…!

 

「そう言えば、師匠ってギィとは戦ったことはないの?」

 

「む? うーむ…奴は、はるか北方に居を構えて居るため、何もないところに行く必要はないのだ!」

 

ラミリスの問いに、ヴェルドラは何かを胡麻化すように、スライム姿のリムルを横に引っ張った。

 

「まぁギィは強いし、ギィはこのワタシとミリムと同格の最古の魔王の一人だからね!」

 

ラミリスはドヤ顔で言い張った。

それを見た俺は、途端にギィも大した事ないように思えてしまった。

絶対、油断しないようにしないとな…うん。

俺がそう思っていると、万能感知に反応があり、俺らを見送るために待機してくれているランガとミニティラが壁に向かって唸り始めた。

 

「ランガとミニティラ大丈夫だ」

 

リムルはスライムの姿から、シュナが作った黒が基調の新衣装に身を包んだ人型へと変わっては、ランガとミニティラを落ち着かせた。

 

「折角、魔王からの招待なんだ、これくらいの無礼が丁度いい」

 

俺も立ち上がっては、リムルの右後ろ斜めに立った。

そして、光と共に壁に作り込まれている大きな扉が現れ、ゆっくりと扉が開いた。

 

「───お迎えに参りました。 ラミリス様」

 

扉から緑色の髪色をした、ディアブロと同様の威圧を放つ悪魔族(デーモン)…それも最上位種である悪魔公(デーモンロード)が現れた。

 

「そちらが、リムル様ですね…我が主であるギィ様より、お連れするよう仰せつかりました。 どうぞこちらの門を通り、魔王達の宴(ワルプルギス)の会場へ、お進みください」

 

門には、ミリムやクレイマン、ヴェルドラと互角に戦える奴ら、そしてラミリスと同様、最古の魔王が居る、文字通りの魔窟だろうな。

 

「リムル様、行こうぜ」

 

俺は少しからかうようにリムルを様付けした。

 

「…お前にリムル様って言われるのは違和感があるな…」

 

「仕方ねえだろ、俺はリムル様の配下として付き添うんだから、様付けしないとリムル様が配下に嘗められていって思われないようにしないといけないんだからさ」

 

「だとしてもさ…」

 

少し違和感を感じているリムルだが、こればかりは耐えてもらうしかない。

正直なことを言うと、俺も違和感を感じている。

 

「…行くか」

 

リムルが門の向こう側に歩き出したので、俺とシオンはリムルの後を追うように歩き出した。




次回、リムルVSエムル三番勝負


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閑話 リムルVSエムル三番勝負

「…リムルとエムル、お主らはどっちが強いのだ?」

 

「「え?」」

 

ソファに寝転がって、漫画を読んでいるヴェルドラがそんなことを言ってき、俺とリムルは書類処理していた手を止めた。

 

「いやなに、どちらが強いか気になってな!」

 

俺達は溜息を吐いた。

 

「何言ってんだヴェルドラ…」

 

「そんなの決まってるだろ」

 

「「勿論、リムル(エムル)だろ…え?」」

 

俺とリムルはそれぞれの回答におかしな点があったので、互いに顔を見合わせた。

 

「いや、いやいやいや、リムルが圧倒的に強いだろ…!」

 

「待て待て待て、不死のお前の方が圧倒的に強いだろ!」

 

俺とリムルは互いに強いと譲り合うが、このままだと埒が明かない。

どうするか考えていると、漫画を閉じたヴェルドラが立ちあがり

 

「ならば、本気の三番勝負で決めるのはどうだ?」

 

「「………それだ!」」

 

ヴェルドラの言葉に俺らは少しの間、無言の空間を作ったが、ヴェルドラの案を採用した。

こうして、リムルVSエムル三番勝負が幕を開けた。

 

────────────

 

「最初の勝負は、我が漫画で見たあっち向いてホイだ!」

 

ヴェルドラの言葉を聞いた俺達は、早速ヴェルドラに三番勝負の内容を頼んだことを後悔した。

どんな内容が来るかと思ったら、まさかのあっち向いてホイかよ…まぁ、やるしかないな。

 

「じゃあ、リムルやるか」

 

「だな…」

 

俺とリムルは顔を見合わせて頷いた。

正直、少し不安な所がある中、俺とリムルはじゃんけんをした。

 

「「最初はグー!じゃんけんポン!」」

 

じゃんけんの結果はあいこだった。

 

「「あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ! あいこでしょ!あいこでしょ! しょ!しょ!しょ!しょ!」」

 

そう、俺が懸念していたのは永遠と続くじゃんけんだ。

実際、小学校の時に給食で残ったプリンを、俺とリムルがじゃんけんで争ったが、中々決着がつかず、結局は先生に食べられたっということがあったのだ。

 

「「しょ!しょ!しょ!しょ!しょ!」」

 

じゃんけんを始めて数時間が経った。

実をいうと、まだあっち向いてホイは一回もしていない。

ここまで続くならもう怖いよ…

 

「ええい! いつまでやっておるのだ! 我、ワン〇ンマンを読み終えてしまったぞ!」

 

いつの間にか漫画を読んでいたヴェルドラが文句を言ってきた。

 

「こうなれば、くじで決めようぞ!」

 

「うん、それがいい気がする」

 

ヴェルドラの提案で、くじ引きで決めることになり、くじ引きの結果、リムルが最初にあっち向いてホイをすることになった。

 

「それじゃあ、行くぞ?」

 

「ああ、ばっちり来い!」

 

「あっち向いて~…」

 

俺はリムルの人差し指に集中した。

 

「ホイ!」

 

「っ!」

 

行き成り言ってきたため、俺は咄嗟に上を向いた。

そして、万能感知で見るとリムルの指は上を指していた。

 

「や、やってしまったぁー!」

 

俺は膝から崩れ落ちた。

 

「フッフッフ、お前が行き成りあっち向いてホイをすると、必ず上を見ることは把握済みなんだよ!」

 

胸を張ってリムルはドヤ顔した。

正直に言うと、物凄く悔しい…

 

「ようやく終わったか…ならば、次に行くぞ!」

 

────────────

 

場所は、執務室からヴェルドラが封印されていた洞窟の最奥へと移った。

次の勝負は虫相撲、それぞれで用意した昆虫で相撲をすることになった。

 

「フッフッフ、この勝負、この世界で先に虫相撲していた俺が貰った!」

 

リムルは相当自信があるようだが、そんなの関係ない。

アイツ、俺の異名を忘れているな…

そう俺は思いつつ、虫相撲が始まった。

リムルの虫はカブトムシで、俺が用意した虫はクワガタだった。

そして、勝負は虫相撲が始まって、すぐに着いた。

 

「なん…だと…!?」

 

勝負の結果は俺の圧勝、相当自信があったリムルだったが、俺には敵うことはできない。

 

「リムル、お前は俺の異名を忘れたのか?」

 

「……あっ…」

 

ようやく思い出したリムルが声を漏らした。

何を隠そう、俺の虫相撲の時の異名は、無敗の昆虫使いということに…

事実、俺が育てた昆虫達は、一度も虫相撲で負けたことがないのだ。

 

「くそぉ、また負けた~…」

 

どうやらリムルは、俺とは別の人と虫相撲をしていたようで、それも負けたらしい。

まぁ、次の勝負で勝敗が決まるな…

 

「では、最後の勝負を言うぞ! 最後の勝負はズバリ!! 胸圧な戦いだ!」

 

「おい、それってまさか…」

 

「うむ! お主らは今から我が決めた範囲内から出ないように、全力でぶつかり合ってもらおう!」

 

…最後は結局、実力かよ……というか、最初からそうした方が良かったんじゃ…

俺がそう思っていると、ヴェルドラは洞窟内に円を描き始めた。

恐らく、あの円の中で戦ってことだろう。

俺とリムルは瀕死や気絶することがないので、範囲外に出なかった方の勝ちにしたのだろうな。

 

「では、互いに位置に着け!」

 

ヴェルドラの指示通りに、俺達は位置に着いた。

 

「互いに真剣にやるのだぞ? では、始め!」

 

ヴェルドラの言葉を聞いた俺達は、見極めながら横に移動し始めた。

 

「まさか、お前とガチでやり合うことになるとはな…」

 

「俺は不死だから、遠慮はするなよ?」

 

「ああ、そっちも…な!」

 

最初に仕掛けたのはリムルだった。

リムルは黒雷を俺目掛けて放っては、剣を鞘から抜いた。

 

「トッキュウチェンジ!」

 

俺はトッキューチェンジャーで、トッキュウ一号へと変身と共に、リムルの攻撃を無効化しては、レールスラッシャーを構えて、リムルに向かって走り出した。

 

「はっ!」

 

俺は大親友(バディ)で共有している誓約之王(ウリエル)の権能の一つである法則操作で、黒炎雷をレールスラッシャーに纏わせては、リムルに斬りかかった。

一方、リムルも自身の剣に黒炎雷を纏わせて、レールスラッシャーを受け止めた。

俺はレールスラッシャーを予測しにくいよう動かしつつ、リムルに何度も斬りかかったが、リムルはレールスラッシャーを受け流すように、剣を動かした。

 

「…」

 

ウチマース!

 

このままでは分が悪いと判断した俺は、リムルから距離を取っては、トッキュウブラスターをウチマスモードにしては、何発か撃った後、スコープレッシャーをセットした。

 

「うおっ!」

 

少し慌てつつも、リムルは剣で弾を弾き飛ばしたが、俺がスコープレッシャーをセットしたトッキュウブラスターを構えると、リムルの前に赤色で一番と書かれたマークが現れた。

 

ウチマスヨー、ゴチュウイクダサ~イ!ゴチュウイクダサ~イ!

 

「トッキュウブラスター、発射オーライ!…はっ!」

 

俺はリムル目掛けて赤色の弾を放った。

俺が放った弾は、トッキュウブラスターから現れた、線路の上を通りながらリムルに向かっていたのだが、

 

暴食之王(ベルゼビュート)!」

 

俺が放った弾は線路ごと、リムルのスキルに食べられてしまった。

 

「さぁて、次はこっちの番だ!」

 

リムルは再び剣に黒炎雷を纏わせ、俺に向かって斬りかかった。

 

「トッキュウチェンジ!」

 

トッキューイチゴウレッド~ノリカエテ~オレンジ~!

 

俺はトッキュウ六号へと変わっては、ユウドウブレイカーで剣を受け止めた。

 

「くっ!」

 

俺とリムルは剣で押し合いを始めたが、このままでは炎が俺に移りそうだったため、俺はリムルを蹴り飛ばした。

 

「おっと!」

 

後ろへ吹き飛ばされたリムルだったが、地面に剣を突き立て、場外のあと一歩というところで止まった。

 

「ドリルレッシャー、セット!」

 

オーライ、オオーラーイ!

 

ユウドウブレイカーに、作り出したドリルレッシャーをセットした俺は、待機音が鳴る中構えた。

 

「はぁあぁぁあぁ…!」

 

「俺も行くか…!」

 

俺が構えたのを見た、リムルは黒炎雷を纏った剣を構えた。

少し見合っては、俺とリムルは同時に走り出た。

 

「とりゃぁー!!」

 

「はぁー!!」

 

俺とリムルはすれ違う際、互いの剣で斬り、その瞬間、その場で大爆発が起きた。

煙が無くなると、俺はダメージで身体から火花が散ってはその場に跪き、トッキュウ一号に戻ってしまった。

一方、リムルは身体を再生しながら、俺と同様その場に跪いた。

だが、痛覚無効を互いに持っている俺達は、すぐに立ち上がり、それぞれ構えた。

リムルの周りには魔力弾が何個か浮かび上がっていた。

それに対して俺は、他のトッキュウジャーの専用武器を作り出し、レンケツバズカーを作り出した。

 

「レインボーラッシュ! 山盛り塩漬け!」

 

技名を叫びながら、俺はエナジーレッシャーをレンケツバズカーにセットし、互いに技を放とうとしたその時、

 

「リムル様、エムル様…?」

 

圧が掛かった言葉が聞こえ、俺とリムルは互いに震えながら、声のした方を見ると、そこには冷や汗を出しているヴェルドラと、威圧を放っているシュナが居た。

 

「お仕事、まだ終わってませんよね?」

 

「「あっ、あっ…」」

 

震えが止まらない俺らに、シュナが近寄って来た。

 

「い、いや~…ヴェルドラがどっちが強いか聞いてきてな…それで…」

 

リムルが訳を言うも、シュナは威圧を放ったまま、

 

「だからといって、仕事をサボっていい理由にはなりませんよ?」

 

「いや、勘弁してk「やりましょうね、お仕事…」

 

いつもは可愛いと思うシュナの笑顔が、今回は物凄く怖い…

一度、俺とリムルは顔を合わせ、

 

「「…はい…」」

 

シュナに返事をした。

こうして、どっちらの方が強いかが、分からないまま、リムルVSエムル三番勝負は幕を閉じた。



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魔王の宴編
49話 魔王の宴の開催


俺らが門を潜ると、そこには円卓を囲うように椅子が並んでおり、俺たちの真正面の椅子に、赤髪の男が堂々と座っていた。

 

「やっほーギィ!」

 

男の下へラミリスが飛んで行っては、挨拶をした。

あれがギィか…なるほど、これはやばいな…ムラのある魔素(エネルギー)量、妖気(オーラ)を制御できない未熟者だと思わせる偽装だな。

解析能力がない者は論外、偽装をに気づけるかどうかで判断しているのだろう。

 

「座ったらどうだ? そこに居て、踏みつけられても知らんぞ」

 

踏み?

俺が疑問に思っていたら扉が開き、大男が入ってきた。

 

「どいてもらえるか? 小さきもの」

 

「あ、ああ…失礼」

 

リムルは大男に謝罪をして席に座った。

もしかして、アイツがヴェルドラの喧嘩相手である、巨人族(ジャイアント)の魔王ダクリュールか?

ダクリュールは隠す気がないのか、出鱈目な魔素量(エネルギー)が溢れ出ていた。

確かに、あれほどの魔素(エネルギー)量ならヴェルドラといい勝負しそうだな。

後、俺が聞いたのは吸血鬼(ヴァンパイア)の魔王ヴァレンタイだったよな?

そう思っていると、それらしい男が二人の従者を連れて椅子に座った。

ヴァレンタイの魔素(エネルギー)量はそこそこだったのだが、俺は従者のメイドの方に目を付けた。

 

《告。 測定可能な範囲の解析において、対象者(メイド)の魔素量は当代の魔王より多いと推定されます。》

 

だよな?

智慧之王(ラファエル)先生の解析結果を聞き、俺は共感した。

 

《魔素量の大小はあくまでも参考程度とお考え下さい、戦闘を想定した場合、技量の差がより重要な要素となります。》

 

確かに、智慧之王(ラファエル)先生の言うとおりだ。

事実、俺はスーパー戦隊の力を使ってもハクロウには敵わない。

うーん、でも…あのメイドは只者には見えないんだよな~…もしかして…いや、やめとくか。

心の中でそう思っていると、欠伸をする声が聞こえたので、声が聞こえた方に目線を向けた。

そこには、眠そうに頭を掻きながら、少年らしい者が歩いていた。

そして、ラミリスを見つけては、ラミリスを煽っては楽しんでいた。

 

「って、なんでお前、従者を連れているの? ボッチ仲間じゃなかったのかよ?」

 

トレイニーさんとベレッタを見かけた少年が驚いた表情を浮かべた。

 

「ふふん!この二人の前では無力だと知るといいわ、ディーノ!」

 

ラミリスにディーノと呼ばれた少年は、少し悔しそうな表情を浮かべては、二人を指さして

 

「じゃあ壊していいか?」

 

と、ラミリスに言ったため、ラミリスはまた怒った。

まあ、関係性は何となくわかったな…

こんな自由でいいのかと思ったが、他の魔王達は何も言わないため別にいらしい。

 

智慧之王(ラファエル)さん、ディーノの魔素量は計れたか?)

 

俺が居る位置ではディーノの魔素量が分からなかったため、恐らく、魔素量を計っているだろう智慧之王(ラファエル)に聞くが、

 

《否。 妨害(ジャミング)をされたため、魔素量は計れませんでした。》

 

どうやら、ディーノが妨害(ジャミング)をしたそうで、実力は分からなかったらしい。

そうこうしていると再び門が開き、そこから二人の従者を連れている美女が入ってきた。

何という美貌…あれが、三獣士が言っていた有翼族(ハーピィ)の女王、魔王フレイか~…

俺が見とれていたら、リムルに何かを言いに行っていたシオンが俺の下に戻って気は、小声で

 

「エムル様…」

 

「な、なんだ?」

 

と、俺の名を呼んだので俺は慌てて返事をした。

もしかして、見とれているのがバレていたか?

俺は内心、ハラハラしていたが、どうやらそのことではないようで、シオンは

 

「リムル様にも申したのですが…後ろの男の従者、なんだか気になりませんか?」

 

自身が気になっていることを俺に伝えた。

 

「…確かに」

 

俺はシオンに意見に共感した。

あの男の魔素量はかなりのもので、この場で集う者達の中でもそこそこだ…それ以前に、あの男の気配は、記憶に引っかかる。

 

智慧之王(ラファエル)さん、リムルも頼んでいるだろうから、俺にも結果を教えてくれ)

 

リムルが、智慧之王(ラファエル)先生に解析を頼んでいるのを前提で、俺は智慧之王(ラファエル)先生に訊ねた。

 

《告。 解析鑑定の結果───》

 

智慧之王(ラファエル)先生から解析鑑定を聞いた俺は、周りの者に気づかれないように驚いた。

なんで、あの人が!?

俺が驚いている一方で、リムルは新たに来た魔王の目の前に立っていた。

 

(な、何してるんだリムルは?)

 

それどころじゃないだろって、思っていたが、俺はあることを思い出した。

リムルにはクレイマンとは別に、喧嘩を売りたい魔王が居たって言っていたことに。

名は確か、レオン・クロムウェル…リムルが看取った女性である、シズエ・イザワを日本から呼び出しては、イフリートという炎の上位精霊を宿した張本人だったよな?

リムルとレオンは、互いにいがみ合いっては、席に着いた。

そして、二人が席についてすぐ、また門が開いた。

入って来たのは、ミリムと魔王クレイマン…

ミリムが無事そうだったので、俺が一安心したその瞬間、

 

「さっさと歩きなさい、このノロマが」

 

クレイマンがミリムに暴言を吐いたのち、ミリムの顔を殴った。

それは見た俺やリムル、魔王達は目を見開いて驚き、会場に不穏な空気が流れ始めた。

そんな中、俺の驚きはすぐにクレイマンへの怒りへと変わった。

 

「……エムル様、お怒りは分かりますが、今は押させてください…」

 

どうやら、俺の怒りの妖気(オーラ)は少し漏れていたらしく、シオンに注意された。

 

「…分かってる」

 

俺は何とか怒りを押し込めては、ミリムの様子を見た。

ミリムは無表情で自分の席に座った。

 

「──皆さま、本日は私の呼びかけにお応えて頂き誠にありがとうございます…それでは、ここに魔王達の宴(ワルプルギス)の開催を宣言します!!」

 

クレイマンは、何もなかったように魔王達の宴(ワルプルギス)の開幕を宣言した。

そんなクレイマンの姿を見て、俺は無性に苛立った。

先程から怒りが抑え込めない。

俺が不思議に思っていると、

 

《告。》

 

智慧之王(ラファエル)さんがあることを報告してくれた。

それを聞いた俺はあることを智慧之王(ラファエル)さんに頼んみ、クレイマンを見た。

クレイマン、お前の計画は俺達で全部壊す…絶対にな!

俺は怒りを出来るだけ抑え込みつつ、心の中でクレイマンを叩きのめすと誓った。



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50話 クレイマンの嘘

魔王達の宴(ワルプルギス)が始まった直後、クレイマンのくだらない作り話が始まった。

クレイマンの言い分は、魔王カリオンがリムルに魔王を成るように誘い、魔王になりたくなったリムルは、カリオンにヴェルドラの封印を解くことを提案、生贄としてファルムス王国が選ばれ、焚きつけられたファルムス王国が魔国連邦(テンペスト)に侵攻、そして俺が作り出した城みたいな兵器…ライオンハオージョウを使って、ファルムス王国の軍を大量に虐殺し、ある程度血が流れたところで、思惑通りに"暴風竜"ヴェルドラが復活、そして残っていたファルムス王国の軍勢はヴェルドラによって全滅。

これで魔王になれると確信したリムルだったが、カリオンが魔王には定員があり、今は満席状態だから、共謀してクレイマンを殺ること提案したそうだ。

欠伸が出る程の呆れた言い分に付け足すように、クレイマンは自身にそれを報告した配下であるミュウランが死んだことを、リムルに擦り付けようとしてきた。

真実が一つも入っていない作り話に俺の怒りは更に増した。

クレイマンの話を聞いたダクリュールが、クレイマンにカリオンがこの場に居ない理由を聞くと、クレイマンは今度、ミリムが獣王国ユーラザニアと共にカリオンを葬った事に仕出した。

クレイマンが嘘をつく中、他の魔王の反応を見てみると、ギィとラミリスの反応が一番分かりやすかった。

ギィは疑いの眼差しでクレイマンを見ており、真実を知っているラミリスはクレイマンの話を一切信用していなかった。

 

「これにて、私の話は終わりです…魔王になろうとする、身の程知らずのスライムはこの場で始末することが宜しいかと」

 

一礼したクレイマンは、少し顔を上げてはリムルの方を見た。

 

「それでは次に、来客よりの説明となります」

 

青髪をした悪魔族(デーモン)が言うと、リムルが立ち上がった。

 

「…クレイマンだっけ? お前、嘘つきだな」

 

「何ぃ?」

 

リムルに嘘つき呼ばわりされたクレイマンは、リムルを軽く睨んだ。

 

「第一な、死んだ配下の証言は信用できないし、カリオンさんはそんなことを考えるタイプじゃないだろ…そもそも、俺は魔王の座に興味がない」

 

「ハッ! そんな言い訳を誰が信じると言うのだ! 邪竜に縋ることしかできないスライム風情が!」

 

少し焦ったのか、クレイマンから汗が少し流れ落ちる。

クレイマンの反応を聞いたリムルは

 

「確かに、アイツの威を借りているところはある…だが、それ以前に、俺達はヴェルドラの友達だ」

 

「ともっ…!?」

 

リムルの友達発言を聞いたクレイマンが目を見開いて驚く。

だが、俺はクレイマンの反応よりも、リムルが言った俺達と言う言葉を聞き、少し嬉しくなった。

 

「ミュウランはこちらで保護してる…今、呼んでもいいが…お前に都合のいい事は何一つも言わないだろうな」

 

「フッ、ミュウランの骸に悪霊でも取り憑かせたのか? なんと卑猥な真似をすることやら…」

 

「遺体に悪霊を取り憑かせた? 流石は心臓を人質にする奴の発想だな…俺の発想とは全く違う」

 

どうしても、リムルを悪人にしたいクレイマンだったが、リムルから見事なカウンターを食らい、反論を言わずに、悔しそうな表情を浮かべた。

 

「皆さん、いつまで暴風竜の威を借りて、魔王になろうとしているスライム如きに、話をさせるおつもりですか!?」

 

何も言えなくなったクレイマンが、リムルの始末をゴリ押そうとしたその瞬間、リムルが自身で座っていた椅子を、クレイマンの顔の横に飛ぶように蹴り飛ばした。

それを見たクレイマンは冷や汗を垂らした。

 

「あのな、さっきから言っている通り、俺は魔王なんてどうでもいいんだ…俺らは俺らが楽しく過ごしたい国を作りたいんだ。 それには人間の協力が不可欠だ…だから、人間を守ることにした」

 

リムルは話しながらクレイマンに向かって歩き始めた。

 

「それを邪魔する奴は、聖教会だろうが魔王だろうが、全員等しく、俺らの敵だ…お前のようにな…!」

 

クレイマンの目の前で止まったリムルは、クレイマンを睨み上げた。

 

「お前が俺を気に入らないと言うなら、これは俺とお前の問題だ」

 

「おい、お前…魔王を名乗るつもりはあるか?」

 

今まで黙って聞いていたギィがリムルに訊ねる。

それに対してリムルはギィの方を向いて

 

「ああ、人間から見たら俺は魔王だからな」

 

と、答えた。

それを聞いたギィはニヤリと笑った。

 

「ならば良し、見届け人はここに揃っている、オレ達の前で、お前がクレイマンに勝てたなら、魔王と名乗ることを許そう…クレイマン、お前も魔王ならば強さを持って、ソイツを倒してみろ」

 

「っ!」

 

「ありたいな、分かりやすくて」

 

何かを言おうとしたクレイマンだったが、ギィの言葉で黙り込んでしまった。

そして、リムルはギィに礼を言いながら円卓に触れ、暴食之王(ベルゼビュート)で円卓を喰らい、場所を作った。

リムルは円卓があった場所の真ん中に移動しては、仁王立ちした。

 

「クレイマン、場所は作った。 さっさと始めようぜ」

 

こうして、事態は進んで行く、ある者にとっては予想通りに、またある物にとっては予定通りに…



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51話 対クレイマン戦

「クッ…クックック…やれやれです。 自分の手を汚したくないと言う理由で、面倒なことになってしまった…ミリム、命令です。 リムル=テンペストを殺りなさい」

 

連れて来た狐を抱き上げたクレイマンは、ミリムにそう命令した。

クレイマンに命令されたミリムは席から一瞬で消え、リムルに殴りかかった。

リムルはミリムのパンチを避けるために空中へと飛んだ。

 

「よく言うよ、他人に頼っているくせに」

 

「何を言う、ミリムは人の命令を聞くような者ではないでしょう? ということは、今のはミリムの意思だ」

 

リムルが問い詰めるも、クレイマンは屁理屈を言い放った。

 

「まぁ、いいさ…どうせミリムは助け出すつもりだったし、それに俺らが出たら弱い者いじめになってしまうからな…お前の相手は、俺らの部下が丁度いい」

 

煽るようにリムルは言い、シオンの方をチラッと見た。

 

「ほざくなよスライム風情が…! 貴様は絶望して死ぬの────」

 

クレイマンがそこまで言いかけた次の瞬間、拳に妖気(オーラ)を纏わせたシオンが、一瞬で30発くらいクレイマンを殴りつけ吹き飛ばしては、すっきりした顔で、

 

「宜しいのですか?リムル様、エムル様」

 

お前、そうゆうのは殴る前に言う物だぞ…

俺がそう思っていると、ボコボコにされたクレイマンが、自己再生辺りのスキルで傷を再生しつつ、立ち上がった。

 

「きさ、キサマ…貴様あぁあぁあ!!」

 

クレイマンがドス黒い妖気(オーラ)は放つと、上から人形が現れ、小さかった狐が大きくなった。

 

「図に乗るなよ…貴様ら! ビオーラ、九頭獣(ナインヘッド)!!」

 

クレイマンは人形と狐に命令して、俺達に向かってきた。

 

(リムル、あの人形と狐は俺に任せてくれ)

 

(ああ、頼む…!)

 

大親友(バディ)の意思疎通なら、いくら魔王でも盗み聞きができないで、作戦などは意思疎通で会話することにしていた俺らは、早速、意思疎通で人形と狐を相手を俺がすることに決めた。

そして、俺達が対峙し始めたその時、ギィが内側から破壊が出来ない結界張ったのち、空間拡張を行った。

これなら思いっきり戦えるな。

そう思った俺は、早速智慧之王(ラファエル)さんに頼み込んだ。

 

智慧之王(ラファエル)さん、解析鑑定をお願いします!)

 

《告。解析鑑定の結果、個体名ビオーラから支配の呪法(デモンドミネイト)は確認されませんでしたが、九頭獣(ナインヘッド)からは支配の呪法(デモンドミネイト)の影響を確認しました。頭に触れることで解呪が可能です。》

 

なるほど、あの人形はともかく…あの狐は操られているだけか…それなら!

俺はこの際なら、と思い俺が作り出した新技を使うことにした。

二体の攻撃を避けつつ、俺はガブリカリバーを作り出し、左手の指を全て切り落とした。

 

「新技、魂分裂体(ソウルクレイヴィジ)!」

 

俺が切り落とした五本の指にから、五人の俺が現れては、それぞれがビオーラに向かって妖気(オーラ)を纏わせた拳で殴りかかった。

 

「なん…だと…!?」

 

俺の新技を見たクレイマンが、動揺で一歩下がった。

俺の新技である魂分裂体(ソウルクレイヴィジ)不死之王(イーコール)の権能である「魂分裂」で、俺自身の魂を分裂させ、身体から切り離した部位に魂を宿す技、魂分裂体(ソウルクレイヴィジ)で作られた分裂体は、それぞれに意思があるので俺の命令なく動いてくれる。

しかし、ラファエルさん曰く、分裂体を多く作れば作るほど、分裂体に分ける魂のサイズが小さくなり、分裂体の活動時間が減るとのこと。 本体である俺の魂は、不死之王(イーコール)が魂が小さくなることを死と判断するため、時間はかかる物の、魂の大きさは元のサイズに戻るらしい。

そして、今回作り出した五体の分裂体は五分後には消えるが、五分もあるのなら十分だ。

 

「よしよし、怖くないぞ~…」

 

分裂体が人形を取り押さえている中、俺は狐の頭に手を置いた。

 

《告。支配の呪法(デモンドミネイト)を解呪します。》

 

あっさりと智慧之王(ラファエル)さんは狐にかけられていた呪法を解呪した。

呪法を解呪された狐は小さくなり、その場で寝始めたので、俺は拾い上げた。

可愛い…

そう思いながら、いい毛並みをしている狐を俺は撫でた。

ふと、人形の方を見ると、俺の分裂体達は俺が置いていたガブリカリバーで、人形のコアらしき物を貫き、それによって人形の動きが止まった。

これで、クレイマンの従者は片付けた。

 

「魔王ギィ、流石に戦意がない子を戦い巻き込むことはしたくないから、この子だけ外に出していいか?」

 

これからミリムと戦っているリムルに加勢したい俺は、俺の腕の中ですやすやと寝ている狐を外に出すために、ギィの目の前で頼み込んだ。

 

「仕方ない…」

 

ギィが指を鳴らすと、結界に大きめの穴が開いた。

 

「トレイニーさん頼むぞ」

 

「お任せください…!」

 

俺はラミリスの後ろに居たトレイニーさんに狐を預け、リムルに加勢しに向かった。

俺がリムルの下に向かうと、リムルは苦戦していた。

 

(リムル!加勢するぞ!)

 

(おお、頼むぞ!)

 

(ああ…!)

 

意思疎通で会話をしつつ、俺はまだ時間がある分裂体をミリムにぶつけた。

 

「…」

 

数でミリムは徐々に押されかけ、少し不満そうな顔をした。

 

(そう言えば、ミリムの呪法は分かったのか?)

 

(それが、呪法は腕輪に埋め込まれている宝珠みたいなんだが…ラファエルさんでも解呪できなそうなんだよ。 クレイマンの奴、実は相当な実力者みたいだ)

 

それを聞き、俺は疑問の思った。

あれ?さっき、智慧之王(ラファエル)さん…支配の呪法(デモンドミネイト)を簡単に見つけて、解呪してなかったか?

不思議に思った俺は智慧之王(ラファエル)さんに訊ねた。

 

(…智慧之王(ラファエル)、今のリムルの話は本当か?)

 

(なんでお前、うたが──)

 

リムルが話している途中で意思疎通が切れた。

何故切れたか驚いていると、智慧之王(ラファエル)さんから解説が入った。

 

《解。 支配の呪法(デモンドミネイト)を発見することはできませんでした。 ですが、これは個体名ミリムが自ら解呪した、または呪法が効いていなかったと思われます。 なお、主様(マスター)は解析鑑定の結果を聞かず、個体名ミリムが呪法に掛かっていると思い込んでます。》

 

少し不機嫌そうに言う智慧之王(ラファエル)さん。

 

(あ~…それはリムルが悪いな…面白そうだし、このままにしとくか)

 

《是。 その案を採用させてもらいます。》

 

なんだろう、智慧之王(ラファエル)さんが今、悪い顔をしている気がする。

そうしていたら、

 

(──い、おーい!聞こえるか!?)

 

リムルとの意思疎通が再び繋がった。

どうやら、智慧之王(ラファエル)さんが切っていたみたいだ。

 

(ああ、とにかくミリムを助けるぞ)

 

(だな!)

 

…後でリムルに智慧之王(ラファエル)さんの話をちゃんと聞くように言い聞かせないとな、と思いつつ、俺らは操られているフリをしているミリムと戦い始めた。

 




魂分裂体(ソウルクレイヴィジ)…身体の一部を切り離す前に、切り離す部位に魂分裂で分裂させた魂を宿す技。
       魂を宿した部位は、切り離された部位から再生を行い、エムルの分裂体となる。
       魂を宿しているためか、分裂体は本体の命令が無くても、本体の意思通りに動く。
       魂のサイズで活動ができる時間が変わり、最大で30分までとなっている。
       活動時間を超えた分裂体は、肉体事自然消滅し、魂がエムルに戻ることはない。
       本体の魂が本来のサイズに戻るには、身体の再生よりも
       時間がかかるが、元のサイズにちゃんと戻る。
       ※エムルの分裂体はちゃんと服を着ております。


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52話 ヴェルドラ参戦

不味い…何がまずいって? それは勿論、ミリムの事だ!

俺とリムルはそれぞれの片腕を犠牲にして、ミリムの攻撃が直撃するのを回避した。

風圧だけでこれかよ…!?

犠牲にした片腕を再生しつつ、次々と襲い掛かって来るミリムの攻撃を避け続けた。

分裂体は時間が来たため消滅してしまった。

そのため、当分は魂分裂体(ソウルクレイヴィジ)は使えない。

一度、俺とリムルはミリムから距離を取った。

 

(どうするんだ?)

 

意思疎通でリムル訊ねて来た。

別に、操られていないことを言ってもいいのだが、それだと智慧之王(ラファエル)先生の仕返しが出来なくなるので言わなかった。

 

(と言っても、俺は当分の間分裂体は作れないし…ミリムの力だとスーパー戦隊の力でも太刀打ちできないだろうな……万事休すだな……)

 

(…腕輪を壊せるまで、チャンスを伺うしかないな…)

 

(……そうだな…)

 

軽く作戦会議をした直後、ミリムが俺ら目掛けて飛んできたと思ったら、ミリムが瓦礫に足を引っかけて態勢を崩した。

チャンスだと思ったリムルが、ミリムと一気に間を詰め、腕輪を壊そうと右手を伸ばしたが、

 

《告。 罠と推定──》

 

意思疎通を勝手に繋げた智慧之王(ラファエル)が、リムルに向かって言った。

智慧之王(ラファエル)さんが言う通り、態勢が崩れたのはミリムの罠だったようで、ミリムは左手でリムルの胸を掴んでは、右手に魔素を纏わせてリムルに向けて拳を振るった。

 

「やっべ!」

 

流石に不味いと思った俺は、咄嗟にガブリボルバーを作り出して、数発のエネルギー弾を放っては、ミリムの攻撃の軌道をズラそうとしたその時、

 

ボグ!!

 

「グオッ!」

 

鈍い音と共に、一人の男がリムルの目の前に現れた。

現れたのはなんと、留守番をしているはずのヴェルドラだった。

 

 

「いきなり何をする!!酷いでhゲフッ!」

 

ミリムの方を向いて文句を言っているヴェルドラに、俺がリムルを助けるために撃ったエネルギー弾が当たった。

 

「……~~~っ!次から次へと!!痛いではないか!!」

 

ヴェルドラは俺の方を向いては、文句を言ってきた。

慌てて俺はガブリボルバーを隠したが、時はすでに遅かった。

 

「エムルよ、お主が撃ったのか?」

 

圧を感じる言い方でヴェルドラが問い詰めて来た。

 

「……最後のは俺だけど…最初のはミリムのパンチだよ」

 

「むっ? 我が兄の一粒種か?」

 

俺がミリムを指すと、ヴェルドラは何やら気になることを言いつつ、ミリムの方を向いた。

でも、なんでヴェルドラがいきなり来たんだ?

 

《…告。個体名ヴェルドラは、主様(マスター)が保有している究極能力(アルティメットスキル)暴風之王(ヴェルドラ)の権能「暴風竜召喚」の召喚経路を自力で逆走してきた模様です。》

 

智慧之王(ラファエル)先生が解説してくれた。

自力でここまで来たのか…いや、そんなことより何の用だ?

 

「なぁ、お前…なんで来たんだ?」

 

「そうであったは!我が来た理由はな…」

 

ヴェルドラはキョロキョロと辺りを見渡し、リムルを見つけてはマントの中を探り始めては、リムルに漫画を見せつけた。

 

「あっ…あー…」

 

ヴェルドラが出した漫画を見たリムルは、何かを思い出した表情を浮かべた。

そして、俺もリムルがヴェルドラに悪戯をしていたことを思い出した。

 

「カバーと中身が別物ではないか!! 最終巻にして、この嫌がらせは悪質すぎるぞ!!これも面白かったが!!」

 

なるほど、リムルに文句を言うのと、本来の中身を貰うために来たのか…

ここまで来たら、漫画の執念凄いな…

俺が呆れていたら、リムルがヴェルドラに何かを頼んでいた。

二人が話している中、ミリムが二人目掛けて蹴りを食らわそうとしたが、ヴェルドラはミリムの蹴りを片手で止めた。

 

(あ~…エムル? 俺、ソウエイから報告を聞きたいから、ヴェルドラと一緒にミリムを助けてやってくれ!)

 

意思疎通でリムルが頼み込んでくる。

 

(……アレに混ざれと?)

 

(……不死なんだから、頑張れ)

 

(…)

 

俺らの目の前では、ヴェルドラとミリムがバトル漫画並みの戦闘を行っていた。

あの中に入ったら、俺、一瞬で粉々にされそう…

だが、リムルは既にソウエイと連絡を取り始めていたので、俺は仕方なくヴェルドラと共に戦うことにした。

 

「俺は、俺らしくやるか…」

 

俺は獣電池を作り出した。

 

「ブレイブイン!!」

 

ガブリッチョ!!ドッフィールラァ

 

「キョウリュウチェンジ!」

 

ガブリボルバーに獣電池をセットした俺は、ガブリボルバーの口を閉じ、シリンダーを回した。

シリンダーを回すと、サンバ調の待機音が鳴り始め、俺は待機音に会うように踊ったのち、銃口を真上に向けた。

 

「ファイヤー!」

 

俺がトリガーを引くと、ガブティラの形をした赤い妖気(オーラ)が上から俺に噛みつくように飛んできた。

そして、俺はキョウリュウレッドへと変身した。

俺が変身したのを見た魔王達は、物珍しそうに見て来た。

 

「牙の勇者!キョウリュウレッド!!」

 

名乗った後、決めポーズを決めては、

 

「荒れるぜ~…止めてみな!!」

 

俺は準備体操をした後、決め台詞を言いながら別の決めポーズを取り、ミリムに向けてガブリボルバーの弾を数発放った。

 

「クワーハッハッハッハ!ならば我も、聖典で習得した技を見せるとしよう!」

 

俺がエネルギー弾を放ったのを見たヴェルドラは、ミリムに向かったどこかで聞いたことある技名を言いながら、魔力弾を連続でぶつけ始めた。

どこで覚えたんだよ…

そう思いつつ、俺は撃ち続けた。

俺とヴェルドラが放っているエネルギー弾をミリムは片手で弾き飛ばしている。

これじゃあ、ジリ貧だな…

俺がそう思っていると、ヴェルドラが近づいて来ては

 

「エムルよ、我と共に鉄砕の必殺技を撃とうぞ!」

 

と、言ってきた。

 

「なんでしないといけないんだよ…」

 

呆れながらヴェルドラに言ったが、

 

「ほぅ…我の背中を撃っといて、それはないと思うが?」

 

「くぅ…」

 

ヴェルドラは間違えて撃った詫びとしてやれと、遠回しで言ってきた。

 

「…あー!分かったよ!やるよ!」

 

「そう来なくてはな!」

 

俺は了承し、ヴェルドラと共にポーズを取っては構えた。

 

「では、行くぞエムル!」

 

「ああ!」

 

俺とヴェルドラは共に、空中で止まっているミリムに向けて走り出し、高く飛び上がった。

 

「「鉄砕拳!激烈突破!!」」

 

互いの腕が当たらないように片腕の手首を回しつつ、身体をねじっては、同時にブンパッキーの鉄球と同じ形をしたエネルギー弾を放った。

俺らが放ったエネルギー弾は合わさり合い、大きなエネルギー弾になっては、ミリムに向かって行った。

ミリムは弾き飛ばそうとしたが、エネルギー弾は弾き飛ばされず、空中に居るミリムを結界ギリギリまで弾き飛ばした。

 

「…」

 

ミリムは楽しいのか、笑みを浮かべては、猛スピードで俺らに襲い掛かって来たが、ヴェルドラが食い止めてくれた。

 

「エムル、お主、トリンの技は撃てるな?」

 

ミリムの攻撃を受け止めながら、ヴェルドラが聞いてきた。

恐らくやれと言う意味なのだろう。

 

「はいはい!分かった、分かった!」

 

「クワーハッハッハッハ!分かるではないか!」

 

ヴェルドラはミリムを払いのけては、後ろに回り込んだ。

恐らく、俺とヴェルドラの技でミリムを倒そうと考えているのだろうな。

ヴェルドラ考えを推測しつつ、俺はフェザーエッジを作り出した。

 

「かーめー…ドー…ラー…」

 

ヴェルドラの方は何処かで見た事のある構えをしては、エネルギーを集め始めた。

まさか…な?

俺はそう思いつつ、フェザーエッジを構えた。

フェザーエッジを構えると、フェザーエッジが白く光り、俺の髪色と同じ銀色の翼が妖気(オーラ)として現れた。

 

「トリニティストレイザー!」

 

そんなか、俺はフェザーエッジで描くように三角形を作り、斬撃を飛ばした。

そして、俺が技を放ったのを確認したヴェルドラは、

 

「波────ッ!!」

 

溜めていたエネルギーを光線として、ミリムに向けて一気に放った。

やりやがった…

まさかと思っていたことをやったヴェルドラに対して、俺は頭を抱えた。

俺が放ったトリニティストレイザーと、ヴェルドラが放った波は、勢いよくミリムに飛んでいき、直撃した。

それにより大爆発が起き、大量の煙が辺りに立ち込めた。

 

「あの桁外れの力はなんだ!?」

 

驚くクレイマンの声が聞こえ、俺が声の方を見ると、ボコボコ状態だが姿が変わっているクレイマンと、無傷のリムルとシオンがヴェルドラを見ていた。

 

「ヴェルドラだよ、友達って言っただろ?」

 

リムルの言葉を聞いたクレイマンは、少し絶望したような顔をした。

正直な所、クレイマンは追い詰められている。

先程、ミリムと戦いながら見ていたのだが、ソウエイ達がクレイマンの城を攻め落としたその際、証拠となる水晶玉手に入れていたらしく、それをゲルド経緯でリムルに渡したそうだ。

そして、リムルはその水晶玉をクレイマンや他の魔王に見せた。

その結果、殆どの魔王達がクレイマンに疑いの眼差しを向けるようになったのだ。

焦ったクレイマンはリムル、少し前にはシオンに操魔王支配(デモンマリアネット)という、ミリムを操ったと言っている究極(?)の呪法を掛けたが、リムルには智慧之王(ラファエル)さんが居るし、シオンに関しては、復活時に完全記憶を習得してる。

ちなみにだが、俺がクレイマンに怒りのオーラを出した時、クレイマンは俺に目を付けたのか、精神支配を仕掛けて来た。

だが、こちらも智慧之王(ラファエル)さんお蔭で無効化できた。

こうなれば、もう言い逃れが出来ない

 

「…ミリム、命令です…「狂戦士化(スタンピード)」をしなさい、この場に居る者全て殺し尽くすのです!」

 

追い詰められたクレイマンは、強行手段を取るためにミリムに命令したが、

 

「何故そんなことをする必要があるのだ?リムルやエムル達は友達なのだぞ」

 

腕輪を外したミリムが、クレイマンに対して言った。



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53話 崩れる策謀

「ミリム!? えっ、お前操られていたんじゃ…」

 

ミリムが操られていないことをバラし、リムルは目を開いて驚いた。

 

周りの反応を見てみると、数名の魔王達は気づいていたらしい。

 

「わーはっはっはっは!見事に騙されてくれたなリムル! ワタシがクレイマンなんかで操られるわけがなかろう!」

 

胸を張って自慢をするミリム。

ヴェルドラの反応を見ると、どうやらヴェルドラも気づいていたみたいだ。

そして、肝心のクレイマンと言うと、驚きのあまりか立ちすくんでいた。

 

(…エムル、お前気づいてたか?)

 

リムルが意思疎通で聞いてきたので、俺はこの際だし、ウザっと思われる言い方で言ってやろうと思った。

 

(ああ、何処かの誰かさんと違って、俺はしっかりと智慧之王(ラファエル)先生の解析鑑定結果を聞いていたからな!)

 

《……………》

 

(…)

 

ウザい言い方で俺に返事を言われた上に、智慧之王(ラファエル)さんからの圧力を受けたリムルは黙り込んでしまった。

 

智慧之王(ラファエル)さん、ごめんなさい…)

 

リムルは智慧之王(ラファエル)さんに謝りながらミリムに、何故操られているフリをしたのか聞いた。

 

「うむ! クレイマンの企みを探るために操られているフリをしたのだ!」

 

「振り…!? そ、そんなはずはない…! あの方より授かった支配の宝珠(オーブ・オブ・ドミネイト)に、私の全魔力を注いだ究極の支配の呪法(デモンドミネイト)で、私の支配下にあったのは間違いないです! それに、たとえ意図的であろうと、受けたら最後、自らの意思を失うはずだ!」

 

クレイマンは必死にミリムにかけた呪法を説明してくれた。

聞いても居ないのに…お疲れさん。

 

「これのことか?呪法が成功したと見せかけないと、用心深いお前を騙すことはできないだろう? だがら、技と受けたのだ! それに、ワタシを支配するのは無理なのだ」

 

ミリムは腕輪を一握りで潰しては、クレイマンの下へと投げた。

 

「で、では! 貴方は私を騙すために、カリオンを殺したのですか!?」

 

クレイマンは目を見開いて、ミリムに問い詰めた。

 

「おいおい、誰が死んだって?」

 

クレイマンの質問に答えたのはミリムではなく、ライオンの被り物をつけ、フレイの従者として正体を隠していたカリオンが、ライオンの被り物を外して答えた。

ふと、リムルの表情を見ると、少し驚いているみたいだ。

 

(…エムル、お前知っていたよな?)

 

(勿論!)

 

(…)

 

俺が元気よく返事をしたら、リムルが頭を抱えているような気がした。

 

(これからはちゃんと、智慧之王(ラファエル)の話を聞こうな)

 

《是。 私からもお願いします。》

 

(…はい…これからは、しっかりと聞くようにします…)

 

俺と智慧之王(ラファエル)さんに注意されたリムルは、短く返事をしては誓った。

 

「よぉ、リムルにエムル、俺の民が世話になったな」

 

「いいって」

 

「ああ、困った時はお互い様だしさ」

 

カリオンに声を掛けられたリムルは、気づいていました感を出していた。

俺もリムルに対して、内心苦笑いしつつ、カリオンに返事をした。

 

「なんだと…だが、フレイの報告では…!」

 

カリオンが生きていることに、クレイマンは混乱していたら、

 

「あら、私がいつから味方だと勘違いしていたの?」

 

フレイが恐怖を感じることを言ってきた。

怖すぎるだろ…!

 

「…フレイ……貴様ぁあぁぁぁああ!!」

 

怒りで、結界の外に居るフレイにクレイマンが襲い掛かろうとしたが、操られているフリをしている間にされた分のお返しを込めただろうパンチをミリムが放ち、一撃でクレイマンを地面にめり込みさせ、気絶させた。

 

「ギィ、結界を解いてくれ」

 

ミリムがギィに結界を解くように言うと、ギィは指を鳴らし、結界を解いた。

だが、空間は拡張されたままなので、ギィはまだ戦闘があると踏んでいるみたいだな。

そう思いながらミリムを見ると、フレイから、リムルがミリムに送ったドラゴンナックル(対ミリム安全装置)を受け取っていた。

 

「ミリム、一つ聞いていいか?」

 

「むっ?なんだ?」

 

ご機嫌なミリムにカリオンが訊ねた。

 

「お前さん、操られなかったってことは、ノリノリで俺を甚振ってくれたのかな?」

 

カリオンが殺気を出しながらミリムに問い詰めた。

まぁ、それは気になるな。

ミリムはあやふやにしようとしたが、カリオンは文句を言いながらミリムを怒った。

 

「まぁまぁ、幸い人的な被害はなかったんだ」

 

ミリムが俺とリムルの後ろに移動して来たので、リムルがミリムを庇い始める。

 

「それにクレイマン軍は出来るだけ殺さず、捕虜にするよう伝えてある。捕虜を労働力に加えて町を再建すればいい、勿論俺達も手伝うし、何なら前よりもより立派で、住みやすい町にしようぜ」

 

「悪いな、何から何まで」

 

「いいって、困ったときはお互い様なんだからさ」

 

リムルの説得を聞いたカリオンは、礼をリムルに言った。

 

「わーはっはっはっは、良かったなカリオン!」

 

「てめぇは、もう少しすまなそうにしろ!」

 

少し調子に乗ったミリムをカリオンはすぐに怒った。

これで終わりかなっと、思っていたが、

 

《確認しました。 これまでに集めた魂を魔素に変換……成功しました。肉体を分解し、再構築を開始します。》

 

気絶していたクレイマンが立ち上がると、世界の言葉が響き渡った。

魔王種の進化、クレイマンはそれを達成し、真なる魔王になった。

だが、これはリムル…智慧之王(ラファエル)さんにとって、予定通りの出来事だ。



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54話 人形傀儡師の最後

「見よ! 私は力を手に入れた!! ハハハハハハッ、ハァーッハハハハハハ! ハヒャハハハ!」

 

真なる魔王へと進化をしたクレイマンが、笑いながら妖気(オーラ)を放った。

あの妖気(オーラ)は明らか、今までのクレイマンとは全く違う。

 

「リムル、俺様も加勢を───」

 

クレイマンの妖気(オーラ)を見たカリオンが、少し冷や汗を垂らしながらリムルに言うが、リムルは

 

「いや、悪いが譲ってくれないか? 魔王を名乗る以上、自分の席は自分で用意したいでね」

 

何処か余裕そうな表情で、カリオンの申し出を断り、クレイマンの下へと歩み出した。

 

「お、おい!」

 

カリオンが止めようとした時、リムルは指を鳴らし、智彗之王(ラファエル)さんが解析鑑定をして習得したギィの結界を張った。

 

「オレの技を盗むか…図々しい野郎だ」

 

リムルが結界を張ったのを見たギィはそんなことを呟いた。

 

「さてクレイマン、これで正真正銘の一対一だ…次で終わりにしようか」

 

俺らが結界の外で見守る中、リムルは真剣な眼差しでクレイマンを見た。

 

「いいだろう…では、喰らうがいい…私の最高の奥義を…!」

 

そう言い、クレイマンはエネルギーを溜め始めた。

それに対してリムルは何も行わず、その場に留まっていた。

 

《告。クレイマンは正当な手順で覚醒を行っておりません。故に眠りを必要とせず、暫定的に魔王化を果たしました。》

 

大親友(バディ)を通して智慧之王(ラファエル)さんが説明してくれた。

 

(リムルみたいに眠ることが無かったのは、それでか…でもなんで出来たんだろうな…?)

 

《…覚悟が経験値を底上げしたようです。》

 

(…そうか)

 

智慧之王(ラファエル)さんの答えに俺は少し納得してしまった。

でも、智慧之王(ラファエル)さんのあの言い方だと、想定内だったんだろうな。

そして、ギィみたいな格上の相手が居る中、俺とリムルのように"あのお方"と特別な繋がりがない以上、連絡は取れないはずだ。となると、事の顛末を伝えたいクレイマンはこの場から逃げようとするはずだ。なら、リムルが行う行動は…

エネルギーが溜め終えたのだろうクレイマンはリムルを睨み、また、リムルも構えてはクレイマンを睨んだ。

 

「喰らうがいい!龍脈破壊砲(デモンブラスター)───ッ!!」

 

「…喰らい尽くせ、暴食之王(ベルゼビュート)!!」

 

クレイマンの奥義である龍脈破壊砲(デモンブラスター)がリムルの目の前に迫って来たその時、リムルは片手を龍脈破壊砲(デモンブラスター)に向けては、容赦なくクレイマンの奥義を暴食之王(ベルゼビュート)で喰らった。

 

「勝てないと悟ったか?」

 

その場に立ちすくしているクレイマンに、リムルがゆっくりと近づき、クレイマンの顔を見るために顔を上げた。

 

「お前が知っている黒幕の情報を全て話せ、そうしたら苦痛なく殺してやろう」

 

「フッ………フハハハハハァ! 舐めるなよ、私は妖死族(デスマン)! たとえ殺されても、私は何度も復活する! 貴様は未来永劫、この私に怯え─────」

 

自信満々のクレイマンの言葉を遮るように、リムルはクレイマンに思考加速を施したのち顔を殴った。

 

「グフゥ…!」

 

数日分の苦痛を喰らったクレイマンはその場で倒れ込み、ふらつきながらゆっくりと顔を上げた。

 

「クレイマン、もう一度最後に聞く…黒幕は誰だ?」

 

「わ…私が仲間を、またしても依頼人を裏切ることはあり得ない!…それが、それだけが!中庸道化連の絶対のルールなのだ!!」

 

リムルの問いにクレイマンは胸を張って答えた。

これだと口が割るのは難しい…これを見る限り、仲間に対する情は本物だな…

 

「…今からクレイマンを処刑するが、反対する人はいるか?」

 

俺と同じ結論に至ったのだろうリムルが、結界の外に居る魔王達に訊ねる。

 

「好きにしろ」

 

ギィがそう答える。

他の魔王達の反応を見るも、クレイマンの処刑に反対する者は居なかった。

 

「ああ、そうそう…言い忘れていたが、クレイマン、お前復活は出来ないぞ」

 

「っ!!!」

 

リムルの言葉にクレイマンは驚いた表情を受けべた。

 

「死を偽装して、ここから脱出して復活しようとしたみたいだったが、俺はお前の星幽体(アストラル・ボディー)ごと喰らう…」

 

「なっ…何故──!?」

 

クレイマンは、リムルが自分の復活する条件を知っているのに対して、驚いている様子だった。

 

「検索したんだよ…どうやったら死者蘇生が叶う方法を何度も何度も……お前の計略によって失ったものを取り戻すためにな…」

 

怒りの表情をあらわにしたリムルは、片手をクレイマンに向け、暴食之王(ベルゼビュート)を発動した。

 

「や、やめ…やめろお──!!」

 

暴食之王(ベルゼビュート)の靄が迫ってくる中、満身創痍のクレイマンは地面に這いつくばって逃げようとするが、クレイマンはどんどん吸い込まれて行く。

 

「た、助けてくれフットマン! 助けてティア! 私はまだ、こんなところで死ぬ訳には行くものか───! お、お助け下さいカザ────」

 

暴食之王(ベルゼビュート)に吸い込まれないように抗っていたクレイマンは、中庸道化連のメンバーの名前を言って助けを求めていたが、三人目の名前を言いかけたところで力尽き、リムルの暴食之王(ベルゼビュート)によって跡形もなく喰い尽くされ、クレイマンが居た場所に破壊された仮面が音を立てて落ちる。

 

──…君の忠告通り、大人しくしていれば良かったよ…本当に君はいつも正しいな───ラプ…




コロナになっていたため、余裕がないです…もしかしたら、祝日投稿はないと思います…


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55話 魔王バレンタイン

間にあったぁー!!


大親友(バディ)を通してクレイマンの後悔の念が聞こえて来た。

今更同情なんてしないが、リムルがクレイマンに与えた死で少しでも反省することを願おう。

会場が静まり返った中、ギィが拍手を始めた。

 

「見事だ。お前を今日から魔王と名乗ることを許そう…異論があるやつは居るか?」

 

ギィが他の魔王に聞くと、それに最初に答えたのはラミリスだった。

 

「ないない!ワタシはリムルのこと信じてたし! なんなら、リムルにエムルも弟子として認めてやっても…」

 

「「あっ、そういうの間に合ってるから」」

 

「食い気味!?」

 

ラミリスが調子に乗って言ったことを、俺とリムルはラミリスの申し出をきっぱりと断った。

 

「ふふん、リムルとエムルは私の親友(マブダチ)だから、お前とは仲良くしたくないそうだぞ? リムルは魔王となったわけだし、もう、お前に気を遣う必要もあるまい!」

 

「!!!?」

 

ミリムが放った言葉が、ラミリスに止めを刺すように刺さり、そのままラミリスはショックで魂が抜けたような表情を浮かべ、トレイニーさんとベレッタに心配されていた。

そこまで言ってはいないんだがな…

 

「私は誰が魔王になろうと、興味がない…好きにすればいい」

 

ラミリスの次に、興味がなさそうな表情でレオンが答えた。

 

「ま、いいんじゃない?」

 

「うむ、ヴェルドラが認めるのなら、これ以上の保証はないだろう」

 

レオンの次は後ろで腕を組んでいるディーノが答え、それに続くようにダクリュールがヴェルドラの方を見ながら答えた。

ヴェルドラとダクリュールはよく戦っていたためか、信頼関係があるらしい。

そして、カリオンもフレイも、リムルが魔王と名乗るのに賛成みたいだ。

となると、後は…

俺と同じことを思っているだろうリムルは、俺と同じように最後の魔王の方に顔を向けた。

 

「余としては、卑劣な人間と絡んでいる下賤なスライムが魔王を名乗るなど、断じて認めたくないが」

 

魔王ヴァレンタイは反対か…なんかの拍子で、敵視されたら後々めんどくさいな。

てか、ヴェルドラが滅ぼした都の魔王らしいし。

 

「クァーハッハッハッハ! 下郎、我が友達を侮辱するか」

 

おいコラ!…頼むからめんどくさいことにしないでくれ…!

 

「おいミルスよ、従者の躾がなっておらんな、我が教育してやろうか?」

 

笑顔で魔王ヴァレンタイが連れて来た従者の一人である、メイドに話しかけるヴェルドラだったが、メイドは少々苛立ちながら、

 

「私に話しておいてですか? 私は魔王ヴァレンタイ様の侍女に過ぎませんが」

 

「ん?」

 

メイドの返事を聞いたヴェルドラは不思議そうな顔をした。

ヴェルドラが不思議そうな顔をしていると、ミリムが近づいてきては

 

「おい駄目だぞヴェルドラよ、バレンタインは正体を隠しているのだ、今の魔王が代理なのは皆には内緒なのだぞ?」

 

「何ぃ!?」

 

ヴェルドラとミリムは互いに、普通の人が聞こえるほどの音量で内緒話をした。

そのため、色々とばらされたメイドはミリムに対して怒りのオーラを向け、それに気づいたミリムは下手な口笛を始めた。

まぁ、やっぱりかとしか言いようがないな…俺らも薄々そうじゃないか思っていたし。

 

「忌々しい邪竜め、どれだけ我の邪魔をすれば気が済むんじゃ…それに妾の名前も忘れおって…もうよい、妾のことはバレンタインと呼ぶがいい」

 

相当苛立っているメイドこと、バレンタインは黒い靄のようなもの出しては、メイド服から黒が基調のドレスの姿へと変わっていった。

…代理である魔王ヴァレンタイも相当な妖気(オーラ)だったけど、本物は別格だな…

バレンタインの妖気(オーラ)を見た俺は目を見開いて驚いた。

 

「宜しいのですか、ルミナス様」

 

ヴァレンタイが連れて来た執事の従者がバレンタインに訊ねると、バレンタインは一度溜息を吐き、

 

「致し方あるまい、もはや正体を偽るのは不可能…あの邪竜のせいでな」

 

カリオンやフレイなどの、比較的新しい魔王達の反応を一回見ては、ヴェルドラを睨んだ。

 

「わ、我悪くしないし、隠しているの知らなかったし~…バラしたのはミリムだし…」

 

睨まれたヴェルドラはこっそりと俺らの後ろに隠れるように移動して来た。

案の定、都を滅ぼされた怒りはまだ続いているらしい。

 

「ミルスじゃなくて、ルミナスか…そうそうそうだあったわ」

 

ヴェルドラが名前を間違えて覚えていたことを確認している中、俺はあること思い出した。

そう言えば、ルミナスって確か西方聖教会が信仰している神も同じ名前だったような…

俺が考えていると、ルミナスはヴァレンタイの方を見ては、

 

「ロイ、少し気になることがある、貴様は先に戻っておれ」

 

と、命令した。

 

「しかしルミナス様…」

 

それに対してヴァレンタイことロイは、ルミナスに何かを言おうとしたが、

 

「この前、貴様が追い払った道化の格好をした侵入者、クレイマンの奴と何か関係があるかも知れぬ、戻って聖神殿の警備を厳重にするよう伝えるのじゃ」

 

「───承知」

 

ルミナスが命令の内容をロイ言い、命令を受けたロイは一礼しては、吸血鬼らしく無数の蝙蝠となって飛んで行った。

だけど、西方聖教会との関係が気になるな…名前が同じだけかもしれないけど…



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56話 八星魔王

長い間お待たせしました!転スパの投稿を再開させていただきます!!


「なぁ、リムル…これを見てくれよ…」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

魔王の宴(ワルプルギス)でお茶の用意がされている中、俺とリムル、ラミリスたちは待合室で待っていた。

俺がリムルに見せたのは、俺の分身が倒したビオーラという人形が持っていた武器だった。

 

「…これ、倒したビオーラの武器だけど…」

 

「……全部特質級(ユニーク)じゃねぇか…」

 

リムルの言う通り、回収した武器は全て特質級(ユニーク)なのだ。

クレイマンの奴め…アイテムに関しては一流だな…

俺らがそう話していると、

 

「リムル様、エムル様…少々お話が…」

 

ベレッタが話しかけて来た。

 

「どうしたんだ、ベレッタ?」

 

「…じ、実はですね…魔国連邦(テンペスト)にワレとラミリス様の居場所を提供してくれないでしょうか…」

 

ベレッタが言ってきたのは予想だもしていなかったことだった。

 

「…ラミリスもそんなこと言っていたけどさ…ベレッタならアイツの我儘止めてくれると思っていたんだけど…」

 

それに対してベレッタは一度溜息をつき、理由を述べた。

 

「少々事情が変わったのです…御二人が戦っていらっしゃる際、ギィに問われたのです。 己の唯一の主は誰か…と…それに、ワレはラミリス様と答えました…」

 

それを聞き、俺は思い出した。

ベレッタはリムルによって召喚された悪魔だったんだけど、リムルの命令によりラミリスに仕えるように言われていた事を。

 

「ですが、ワレ気づいたのです。ラミリス様ごと魔国連邦(テンペスト)への移住が叶えば、リムル様とエムル様、御二人の役に立てることに!」

 

「「…お前、ラミリスに似て来たな」

 

「っ!!!」

 

目を輝かせて話したベレッタを見た俺達は、一度目を合わせて後に言った。

その言葉を聞いたベレッタはショックのあまりで驚きを隠せきれてなかった。

 

「失礼します。 ラミリス様、リムル=テンペスト様、お茶の準備が整いました」

 

ベレッタが動揺している中、待合室に緑色の髪色をしている悪魔のメイドが入って、そう報告して来た。

 

「あ、はい……ベレッタ、その件は保留だ。俺とエムルで考えておく」

 

「は…はい!」

 

リムルは返事をした後、ベレッタにそう告げ、お茶会の会場へと向かった。

勿論、配下としてきたシオンと俺、トレイニーさんにベレッタは、ここでお留守番なのだが、ヴェルドラだけは特別にお茶会に参加するようだ。

まぁ、俺の場合大親友(バディ)でお茶会の内容をこっそり見ることできるけど…

 

「……すみません、ワレって天真爛漫な自由人に見えます?」

 

リムルとラミリス、ヴェルドラが行った後、ベレッタは九頭獣(ナインヘッド)とじゃれているシオンとトレイニーさんに聞くも、二人とも話を聞いていなかったため、何の事と言う表情を浮かべ、首を傾げた。

ベレッタ…ラミリスのことをそう思っていたのかよ…まぁ、俺もそう思っていたから、あまり言えないけど。

俺はそう思いながら、シオンの膝の上に居る九頭獣(ナインヘッド)を持ち上げた。

 

「…名前がないってのも不便だな……俺もリムルみたいに名付けしてみるか…」

 

九頭獣(ナインヘッド)を見ながら呟いた。

九頭獣(ナインヘッド)は元々クレイマンが強制的に飼っていた魔物、そのためクレイマンは名前を与えていなかったため、種族名で答えるしかない。

 

「いいと思いますよ!」

 

俺の呟きに反応したのはシオンだった。

ここ居る全員が、リムルの名づけを経験、またはその様子を見ていたから、驚いた反応とかはなかった。

うーん、名前…か。そうだな~……

 

「……よし、お前の名前はクマラだ!」

 

少しの間考えたのち、俺は九頭獣(ナインヘッド)にクマラという名前を名付けた。

それと同時に俺から四分の一ぐらいの魔力を持っていかれたのだが、名づけ恒例の進化がいくら経っても始まらなかった。

 

「?…いつもなら、進化が始まるはずですが…おかしいですね?」

 

「ああ…」

 

クマラを見ながら俺とシオンは会話をし、俺は智慧之王(ラファエル)さんに訊ねることにした。

智慧之王(ラファエル)さん、クマラが進化しない理由、分かるか?

俺が大親友(バディ)を通して智慧之王(ラファエル)に訊ねた。

しばらくしてから、智慧之王(ラファエル)さんから返事が返って来た。

 

《解。推測ですが、恐らく個体名クマラの実力がまだ幼いためだと思われます。これから特訓などすれば、強くなるかと…》

 

智慧之王(ラファエル)さんの解析結果を聞いて、俺は納得した。

クレイマンの事だろう、クマラが自分より強くなるのを恐れて、ある程度しか鍛えさせてなかったんだろうな。

 

「…実力が足りないだとよ、まぁ十分な実力を持つまで、進化を気長に待とうぜ」

 

「そうなんですか、分かりました…!」

 

俺はシオンに、智慧之王(ラファエル)さんに言われたことを言うと、シオンは納得したように返事をしてくれた。

ったく、全員を均一に育ててなかったら、育成ゲーなら何処かで詰むぞ…

クレイマンに対する愚痴を思いながら、俺は別で用意されていたソファに寝転がろうとしたその時だった。

 

「私は"魔王"の地位を返上させてもらうわ、そして、ミリムに仕えることを認めてもらいたいの」

 

大親友(バディ)を通してお茶会の様子を盗み聞きしていたら、フレイからとんでもない発言が聞こえ、俺は手を滑らして危うく転びかけた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ…」

 

少し動揺しつつも、心配してくれたシオンを安心させるように返事を返したのち、俺はソファに座りなおして話を聞くことにした。

フレイが言うには、自分が他の魔王より弱いのが原因だと言った。

フレイの理由を聞き、俺含めてリムルに魔王達は納得していたその時、今度はカリオンが魔王を返上すると言ってきた。

カリオンが魔王の座を返上する理由は、本気を出していないミリムに負けたため、大人しくミリムの軍門に下ると言うものだった。

ミリムは二人が部下になることに対して、猛反対したが、フレイには言いくるめられ、カリオンにはごり押されたため、渋々承諾することになった。

ミリムの部下となったフレイとカリオンは、俺らが居る待合室とはまた、別の部屋へと向かって行った。

 

「…そうか、()大魔王じゃなくなったのか」

 

二人が会場を去った後、リムルがそんなこと呟き、会場に変な空気が漂い始めた。

そして、魔王達の会話を聞く限り、魔王達の名称を考えるために魔王達の宴(ワルプルギス)が開催せていたようだったのだが、中々決まらなかったようで、結局十大魔王という名称は、人間によって決められたそうだ。

魔王って暇なのか…?

そう思っていると、漫画を読み終えたヴェルドラがリムルの傍に近寄っては、言い合っている魔王達に向けて

 

「魔王の呼称という話ならば、リムルの奴が得意としておるぞ!」

 

と、余計なことを魔王達に言った。

更に、リムルに追い打ちをかけるようにラミリスが

 

「そう言えば、ベレッタにもサクッと名付けていたよね!」

 

「ほぅ…」

 

思い出したようにギィに言った。

 

「今日、新たな魔王として立つリムルよ、君に素晴らしい特権を与えたい」

 

「あっ、いらないので遠慮します」

 

ラミリスの言葉を聞いたギィが笑顔で、ある特権を提案するも、リムルは笑顔で即座に拒否し、互いに笑顔で向かい合っていたが、ギィが手刀で円卓を割り、リムルに近寄っては顔をリムルの耳元まで近づけ、小声でリムルを説得させた。

説得させられたリムルは、悩みながら空を見上げ、しばらくの間見つめた。

 

「"八星魔王(オクタグラム)"…なんてどうだ?」

 

リムルが提案した新たな魔王の呼称、八星魔王(オクタグラム)を魔王達は気に入ったようだ。

 

「決まり、だな」

 

その様子を見たギィはニヤッと笑みを受けべて告げた。

悪魔族(デーモン) "暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)" ギィ・クリムゾン

竜人族(ドラゴノイド) "破壊の暴君(デストロイ)" ミリム・ナーヴァ

妖精族(ピクシー) "迷宮妖精(ラビリンス)" ラミリス

巨人族(ジャイアント) "大地の怒り(アースクエイク)" ダグリュール。

吸血鬼(ヴァンパイア) "夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)" ルミナス・バレンタイン

堕天族(フォールン)"眠る支配者(スリーピング・ルーラー)" ディーノ

人魔族(デモンノイ) "白金の剣王(プラチナムセイバー)" レオン・クロムウェル

妖魔族(スライム) "新星(ニュービー)" リムル=テンペスト

かくして、魔王達は新たな呼称で恐れられるとなる。

その呼び名は八星魔王(オクタグラム)

新月の夜、新たな魔王達による時代が幕を開ける。



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57話 魔王達の宴の閉幕

やらかしました、間違えて削除してしまいました…申し訳ないです…!


「────さて、魔王達の宴(ワルプルギス)もそろそろ終いだが、最後に支配領域の分配を決めるぞ」

 

ギィの指示で悪魔のメイドの二人が、魔王達に紙書かれている地図を全員に渡した。

それによってリムルの支配領域は、ヴェルドラが封印されていたため、不可視となっていたジュラの大森林全域が、正式にリムルの支配領域となった。

新参者としては破格の待遇なのだが、ミリムはもっと凄い、元々ミリムの支配領域だった忘れられた竜の都に、カリオンが支配していたユーラザニア、フレイが支配していたフルブロジア、そしてクレイマンが支配していたジスタ―ヴの三つの支配領域が加えられた。

だが、実際の領地運営はミリムの仕事ではなく、支配領域分配を決めることになって、やってきたカリオンとフレイの仕事だろう。

ミリムが飽きたような表情を浮かべる中、カリオンとフレイが話し合っていた。

そんな中、リムルの隣に居たレオンがあることを呟いた。

 

「そう言えば、傀儡国ジスタ―ヴは元々前の魔王の支配領域だったな…」

 

「ああ、そうだったな、奴が死んで、クレイマンがそのまま地盤を引き継いだってことは、裏でアイツらは繋がっていたんだろうな…二人とも妖死族(デスマン)だったし」

 

レオンとカリオンの言葉を聞いた俺は片手を顎に当てて考えこんだ。

…死んだ魔王、妖死族(デスマン)なら星幽体(アストラルボディー)を離脱させることで、肉体的な死からは復活することできるはずだ。

…もし、その魔王が生きているとなると、恐らく今回の件の黒幕、もしくはそれに近い存在だろうな。

 

「教えてくれレオン、ソイツの名を」

 

リムルは真剣な眼差しでレオンに訊ね、それを見たレオンは質問に答えた。

 

「…呪術王(カースロード)カザリーム、二百年前に私が殺した魔王だ」

 

カザリーム、か…一体どんな奴なんだ? 呪術王ってことはクレイマンみたいな魔法を扱うんだろうけど…まぁ、今考えてもきりがないな。

カザリームについて考えていると、向こうでは食事会が始まっていたのだが、どうやらバレンタインとレオンは先に帰ったらしく、どうやら食事会は自由参加らしい。

 

「こちら黒毛虎の煮込みシチューでございます」

 

リムルの前にシチューが置かれ、それを食べたリムルの顔をとてもおいしそうな表情を浮かべた。

正直羨ましい…!

大親友(バディ)を切ってもいいのだが、それをすると大切な話を聞き逃してしまう可能性があるので、切ろうにも切れない…

俺が悩んでいると

 

《…告。主人(マスター)により、レシピの解析を行っているので、安心してください。》

 

マジで!?リムルと智慧之王(ラファエル)先生ありがとう…!!

帰ったら、シュナ達にレシピ通りに作ってもらうか…!

俺は内心で楽しみにしつつ、食事会が終わるのを待った。

なお、向こうでは魔国連邦(テンペスト)産の蒸留酒(ブランデー)の話になっており、多くの魔王達が気に入っていた。

そうこうしていたら食事会が終わり、リムルとヴェルドラ、そしてディーノに意地を張るために酒を飲んで、酔いつぶれたラミリスがやって来た。

 

「ラミリス様、お気を確かに…!」

 

「リムル様達が帰ってしまいますよ!?移住の件をもう一度…」

 

ソファに寝転がっている酔いつぶれたラミリスを、トレイニーさんとベレッタが心配しており、ベレッタに関してはもう一度、魔国連邦(テンペスト)への移住をリムルと俺に頼み込むつもりだったのだが、それを聞いたリムルは

 

「じゃ!」

 

と、笑顔で別れの挨拶を簡単に済ませては、俺、シオン、ヴェルドラと共に転移で魔国連邦(テンペスト)へと共に帰った。

リムルが転移先に選んだのは、首都リムルを見渡せる丘の上だった。

 

「んじゃ、帰るか!」

 

「ああ…」

 

「うむ!」

 

「はい!」

 

リムルの帰ろうと言う発言に対して、俺達はそれぞれで返事をし、首都リムルへと歩み始めた。

 

────────────

 

「お帰りなさいませ!リムル様、エムル様!!」

 

帰って来て早々リグルドが迎えに来てくれた。

そして、リグルドに続くように

 

「この度は八星魔王(オクタグラム)襲名の儀、誠におめでたき事にございます。 何よりも、御二方ともよくぞご無事でお戻りくださいました!!」

 

ファルムス王国に行っているはずのディアブロが、何故か、つい先ほど決まったばっかりの八星魔王(オクタグラム)について知った状態で迎えてくれただけではなく、いつ練習したんだよと、言いたくなるほど、住民たちが道の端により、綺麗に整列した状態で、俺達に向かって跪きながら迎えてくれた。



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58話 聖神殿にて

「待っていたよヒナタ…」

 

西方聖教会の聖神殿で、聖騎士団長ヒナタを迎えたのは、法皇役であるルイと呼ばれる者だった。

 

「何の用かしら?…ルイ」

 

ヒナタは髪の毛を耳にかけなおしルイを少しばかり冷たい目で見た。

法皇役であるルイと魔王役のロイは双子の吸血鬼の上、聖地では同じ法衣で身を纏うためどっちがどっちなのか分からないことがあるのだ。

 

「…実はな、昨夜、ロイが殺された」

 

「!…冗談?」

 

「冗談で、実の弟を殺す趣味は持ってないよ」

 

ルイの衝撃的な発言を聞き、ヒナタは目を見開いて驚いた。

一応、ヒナタは冗談かどうかを聞くも、ルイは首を横に振りながら否定した。

 

「深夜、聖神殿に侵入した何者かにより殺されたようだ…侵入者は魔王達の宴(ワルプルギス)より帰還したロイを殺害したのち、駆け付けた衛兵を全滅させたようだ…私はロイの最後を感じ取ったのだが、殺された衛兵以外に目撃者は居ないようだ」

 

(侵入者…昨日私が遭遇したあの道化師のようね…あの時は誘導の可能性を考えて、追いかけたりしなかったけど……ロイは決して弱くない、偽りの称号であれ、魔王に足りる能力をロイは持っていた。 そうなると、あの道化師は魔王(ロイ)以上に強かったということ。)

 

ルイの言葉を聞いたヒナタは、昨晩に出くわした道化師が犯人だと、決定づけてはその道化師に対して考察を行った。

 

「貴方はここに居ていいのかしら、衛兵が殺されたとなったら、騒ぎになっているでしょ?」

 

「ああ、後始末は法皇不在でも問題ない……直にルミナス様がお戻りになられる。 ロイの死、それによって生じる問題をお伝えしなければならない…」

 

二人は会話をしながら聖神殿の中へと入って行った。

ルイと話しながら、ヒナタは魔王役であるロイが消えることによって、生じる問題について思い浮かべていた。

 

────────────

 

しばらくすると、執事であるギュンダーと共にルミナスが魔王達の宴(ワルプルギス)から戻って来た。

唯一神ルミナス、ルベリオンの秩序を象徴する絶対的存在。

そして、ルミナスはギュンダーが持ってきた、ワインとおつまみを食べ飲みしながら、魔王達の宴(ワルプルギス)で起こったことを二人に話した。

 

「あの邪竜め、どこまで妾の邪魔をしてくれたわ」

 

邪竜こと暴風竜ヴェルドラに対して、ルミナスは相当苛立っていた。

 

「ロイもロイじゃ!…妾の目が届く所であれば、生き返らせてやったものを」

 

ルミナスは持っていたワイングラスをテーブルに強く叩き突けては、残念そうな表情を浮かべた。

 

「ルミナス様、我が弟が期待に応えられなかった結果です。どうかお気に病まれませんよう」

 

ルミナスが自身を責めないために、ルイが声をかけた。

 

「…ふむ、今は喪失を嘆いている場合ではないな。邪竜に新な魔王、そしてその二人と仲が良い魔人、その対策を考えねばならぬ…奴らとの関係は今後のルベリオンの在り方を決めるだろう、忌憚のない意見を述べよ」

 

「はい」

 

「仰せのままに」

 

ルミナスは二人に意見を聞くことにし、そして最初に意見を述べたのはルイだった。

 

「ジュラの大森林に脅威が出現した…これに対して西側諸国は一丸となることでしょう、人類共通の敵として認識されれば都合がいいのですが」

 

ルイの意見を聞いたルミナスは、無言で少し考えたのち、ワイングラスを手に取って一口ワインを飲んだ。

 

「確かにな、ロイが亡くなった今、信仰心が薄れている可能性がある…ならば我らの良き共犯者として迎えるか────否、それは無理じゃな」

 

ルミナスはワイングラスをテーブルに置いては、今度はおつまみを一つ取り、口へと運び一口食べた。

 

「リムルとかいう新参の魔王はな、楽しく過ごせる国を作りたいそうでな、そのためには人間の力が、必要不可欠だから守ると、妾達の前で大見得を切りおったぞ」

 

魔王達の宴(ワルプルギス)の際に、リムルが言っていたことを思い出しながら、ルミナスは二人に説明した。

 

「ヴェルドラの方はどうでしょう?必要であれば、私が逆鱗に触れて参りますが…」

 

ヒナタの発言に、ルミナスは目を見開いて驚いたのち、ヴェルドラについて、嫌そうな表情を浮かべながら、説明し始めた。

 

「ヒナタよ、そなたは確かに強くなった…じゃがな、自然エネルギーとも言えるヴェルドラには勝てぬ…あの邪竜には並みの剣や魔法は通じぬ、そして奴が暴れた衝撃波は下手な魔法以上の力で、地上を蹂躙するのじゃ…ソナタまで失いたくない、自重せよ」

 

「…はい」

 

自分が経験したヴェルドラの力についてルミナスは説明した後、ヒナタに気を付けるように忠告した。

 

「ヴェルドラは今、大人しくしているため、下手に刺激をしない方が賢明でしょう」

 

「うむ、各国の信者達には事実だけを告げよ、暴風竜ヴェルドラが復活したとな」

 

ソファに寝転がら、ルミナスはヴェルドラの対処を決定させた。

 

「…では、彼らの町はどうしますか? "魔物は人類共通の敵"、ルミナス教を信仰する者達にとって、あの町は混乱の招く可能性があります」

 

ヒナタの質問に、ルミナスは足をパタパタと動かしながら、少し考えたのち、答えを出した。

 

「幸いにも、まだ"神敵"と正式に出してはおらぬだろう?西側諸国にはうまく誤魔化しておくがよい、リムルとはまた話す機会が出来るであろうし……それに、無視が出来ぬのが、魔人エムルよ…奴が使う力は、最悪の場合あの邪竜に匹敵する可能性があるからの…」

 

クレイマンとリムル達が戦う際にエムルの実力を見たルミナスは、エムルのスーパー戦隊の力を危険視していた。

 

「それに、魔人エムルが保有しているスキルの中には、究極能力(アルティメットスキル)に匹敵するユニークスキル、不死者(シヲコバムモノ)があると言われてますからね」

 

ファルムス王国が魔国連邦(テンペスト)を襲撃した際、エムルの再生を目の当たりしていた者達が、噂をしていたことを聞いたルイが、ルミナスに話した。

 

不死者(シヲコバムモノ)…それはまた厄介なことになったわ」

 

不死者(シヲコバムモノ)…?」

 

会話をしている三人の中、唯一不死者(シヲコバムモノ)について知らないヒナタは首を傾げた。

 

「そうか、ヒナタは知らなかったな…いいかヒナタ、不死者(シヲコバムモノ)はその名通り、どのような攻撃を受けても死ぬことが無くなるユニークスキルじゃ、無論、霊子崩壊(ディスインテグレーション)を受けても、奴は無事じゃろうな」

 

「名前でしか存在していなかったスキルだったが、今、こうして存在が証明されたという訳だ」

 

ルミナスとルイからの説明を受けたヒナタは、不死者(シヲコバムモノ)に頭を抱えた。

 

霊子崩壊(ディスインテグレーション)が効かないとなったら、私の七彩終焉刺突激(デッド・エンド・レインボー)も効かないでしょうね…)

 

自身の技が効かないだろうと推測しているヒナタを置いて、ルミナスはソファから立ち上がった。

 

「ヒナタよ、もしリムルと敵対することになったら、神ルミナスの正体を明かしても構わぬ…よいな?」

 

「……善処いたします」

 

ヒナタとリムルが対峙した際、自身の正体を明かしてもいいと言ったルミナスは、そのまま別部屋へと移動していった。

話を終えたヒナタは、聖神殿を後にした。

階段を降りていく中、ヒナタはふと、綺麗な空を鋭い目で見上げた。



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59話 悪魔の謀略

魔王達の宴(ワルプルギス)から帰宅して来た俺達は、ファルムス攻略に行ったはずなのに、何故か居るディアブロから、色々と話を聞くために、執務室で話を聞くことになった。

 

「で、何かファルムス攻略に問題でも起きたのか?」

 

「いえいえ、とんでもございません」

 

リムルの質問に、ディアブロは満面の笑みを浮かべた。

正直、少し恐怖を感じるが、それを口に出したらいけないため、俺は静かにすることにした。

 

「全て順調に進んでいます。経過を報告してもよろしいですか?」

 

「あ、ああ…」

 

絶対やり過ぎているような予感を感じながら、俺らはディアブロからファルムス攻略の経過を聞くことにした。

ディアブロが説明してくれたファルムス攻略の内容は、非常に悪魔らしいものだった。

まず、手始めに王座に、シオンによってモザイクがかかるほど、グロイ姿になった王が入った木箱を置いたそうだ。

それを王宮の者達に発見し、王を元の姿に戻すために、あらゆるポーションや回復魔法を試させたそうだが、案の定効くことはなかった。

多くの者達が戸惑っている中、そこにショウゴを行かせたそうだ。

 

「え、まった…その異世界人には、ラーゼンの精神に入っているんだよな?…ラーゼンって、ファルムスの伝説的な魔導師(ウィザード)何だろ? お前の指示に従うのか…?」

 

ディアブロの報告を聞いていたリムルが、一つ疑問に思ったことを、ディアブロに訊ねた。

リムルの言う通り、ラーゼンはファルムスの魔導師(ウィザード)だ、そんな奴が、ファルムスを滅亡させようとしている、ディアブロの指示を聞くのかが不思議だ。

 

「王宮魔術師長の地位は、説得するのに丁度よかったので、使役することにしたのです…本人からの申し出もありましたしね」

 

なるほど、自分からディアブロの下に付いたのか…一体何があったのやら…

 

「では報告を続けますね」

 

ディアブロはファルムス攻略の報告を続けることにした。

ショウゴこと、ラーゼンは自身がラーゼンであること、そして暴風竜ヴェルドラが復活したと、皆に伝えると案の定、全員が驚いたそうだ。

暴風竜ヴェルドラによって、ファルムス軍は死体も残らず全滅したと告げ、次にラーゼン達が無事だったことを説明するために、次はレイヒムを向かわせ、生き残った理由を言わせたみたいだ。

王宮の者達が絶望する中、そこに現れたのは、魔国連邦(テンペスト)産の完全回復薬(フルポーション)を持っているヨウム達だ。

そして、ヨウムがリムルと俺が、唯一ヴェルドラと交渉できる存在だと説明した後、ファルムスが俺らにしたことを突き付け、和睦協議を提案した。

周りの者達が困惑する中、一人の貴族が偉そうに反対するが、ラーゼンによって、氷漬けにされたらしく、その後は別の貴族が、和睦協議の提案を受け入れると言ったそうだ。

それを聞いたディアブロが、王に近づいたのち、完全回復薬(フルポーション)をかけて、元の姿へと戻したそうだ。

そして、ディアブロは自身が考えた和睦協議の条件を述べた。

一つ目は王が退位して戦争賠償金を払うこと、二つ目は魔国連邦(テンペスト)の属国になること、三つ目は戦争を継続するかのどれかだ。

そして、返事は一週間後に決めたのだが、そこで一人の貴族が時間を延ばしてくれと、言ってきたのだが、ディアブロの圧により、その貴族を含めて全員が黙り込んだそうだ。

それを見たディアブロは、そのまま王室を後にし、魔国連邦(テンペスト)へと帰って来たそうだ。

 

「なるほどな…」

 

リムルと俺はコーヒーが入ったカップが、テーブルに置かれてあったのでそれを手に取り、互いに飲もうとしたその時、

 

「ああ、それとですね…講和の条件ですが、賠償金として星金貨一万枚を要求しました」

 

それを聞いて、俺らは口に含んでいたコーヒーを吹いた。

星金貨一万枚…国が傾くんじゃないのか?

 

「それだけの量…応じるのか?」

 

俺はカップを置いて、ディアブロに訊ねた。

 

「クフフフフ、問題はございません…何せ彼らは賠償に応じるしかないのです…戦争継続が不可能なのは言うに及ばず、属国になるのは貴族達が納得しない」

 

ディアブロの開設を聞いたリムルが手をポンと叩いた。

 

「なるほど、三つの選択肢を与えているが、実質一択ということか」

 

「その通りでございます…貴族の一部は王に責任を全て擦り付けることでしょう、ここでファルムスは国王派と貴族派に二分されます。貴族派にとって都合がいいことに、王を守る騎士団はもいない」

 

ディアブロの新たな説明を聞き、次は俺が手を叩いた。

 

「ああなるほど、そこで国王派はヨウムを引き込むわけか、確かに、いくら国内で人気の英雄でも、いきなり王座を譲るのは無理があるな」

 

「ヨウムが国を救ったという事実が出来たら、国民も納得しやすいしな…!」

 

「お二方のご明察恐れ入ります」

 

ディアブロは胸に手を当てて俺らに頭を下げた。

君の作戦の方が凄いんだけどな…てっきり、無理矢理ヨウムを王とするとごり押したのかと思った。

 

「デザートをお持ち致しました!」

 

俺らが話し合っていると、ハルナが盆に乗せた抹茶プリンを持って来てくれた。

早速、一口を食べてみると、物凄く美味しい。

 

「クァーハッハッハッハ、ディアブロよ、貴様は中々義理堅い男のようだ」

 

ふと、ヴェルドラの声が聞こえ、ヴェルドラの方を見てみると、ヴェルドラがディアブロから抹茶プリンを受け取って行った。

 

「なんだディアブロ、ヴェルドラにあげちゃったのか?」

 

ヴェルドラがスプーンでプリンを突いている中、リムルがディアブロに聞くとディアブロは笑顔で答えた。

 

「ええ、情報の対価として、お支払いしたのです」

 

情報ぉ…?

 

「あぁ、そういうことか…」

 

「なるほど…」

 

ディアブロの言葉を聞いた俺とリムルは、ヴェルドラの方を睨み、俺らの声が聞こえたヴェルドラは、ビクッと身体を震わせて驚いた。

 

「なんで魔王達の宴(ワルプルギス)で決まったことを、ディアブロが知っているのかと思ったら…」

 

「な、何故二人して我を睨む!仲間に「ほーれんそー」して、怒られることがあろうか…!」

 

はぁ、確かに悪くはないが…大事な仕事中のディアブロに茶々を入れたのか…?

 

「ま、まぁ…ちょっとタイミングが悪くて、講和の条件を読み上げてた時に声を掛けちゃったが、それ以外はいい感じにやり取りだったとも」

 

「…なんて声をかけたんだ?」

 

「うむ、魔王達の宴(ワルプルギス)がそろそろ終わるから帰って来いとな!」

 

あっ、バカ…

リムルが怒らないと判断したヴェルドラが、生き生きとして言うが、前世から親友の俺からしたら、リムルの口車にまんまと乗せたられたとしか、言いようがない。

 

「はい、お陰様でリムル様とエムル様をお出迎えの準備もできました」

 

「へー、なるほどなるほど」

 

ディアブロが付け足すように笑みで言い、それを聞いたリムルは笑顔で頷いては、しばらく沈黙を保っていだが、

 

「おい」

 

「我、ちょっとトイレ…」

 

魔王覇気を発動させて、鋭い眼光でヴェルドラを睨んだ。

怒られると判断したヴェルドラは、すぐさまトイレに行くとして、その場を立ち去ろうと試みたが、

 

「君、精神生命体なんだから、排泄とかする必要ないよね?」

 

リムルに肩を掴まれてしまった。

 

「もしディアブロがしくじっていたらどーするんだ!自分の影響力を考えろ!!」

 

リムルはヴェルドラに指をさしながら説教しては、ヴェルドラがディアブロからもらった抹茶プリンを没収した。

まぁ、実際ヴェルドラの影響力は凄いからな、ディアブロだからよかったけど、他の者なら混乱を招く可能性があったからな。

 

「ハルナさん、当分ヴェルドラのおやつは抜きにしてくれ」

 

「なっ…!酷すぎるぞリムル!!」

 

恐らくファルムスの者達は誰も知らないだろう、新たな魔王と暴風竜の在り方を



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60話 それぞれの報告

投稿が開いてしまって申し訳ございません!
体調不良やらテストやらで投稿できませんでした…
後、後書きに発表があるので楽しみにしてくれれば幸いです。


ディアブロの報告を受けた翌日、クレイマンの城に向かっていたシュナとソウエイ、そして二人の空間移動にへばり憑いてきたアダルマンと配下達が帰って来た。

そして、空間移動が使えないハクロウは、ゲルドと共に城の調査や戦利品の仕分け、捕虜の指揮をやっているらしい、リムルが後で迎えに行くと言って居たので、そこは安心できた。

そして、その夜には仕事を終わらせたベニマルが帰って来た。

ベニマル曰く、クレイマンの捕虜だけではなく、寝食がなくなった者や技術を得たい獣王国ユーラザニアの者達も来るらしく、捕虜の大分はゲルドに任せているらしい。

 

「なぁ、それ暴動とか起きないか?…起きないならいいけど…」

 

二人の会話を聞いていた俺は、ベニマルに捕虜が暴動を起こさないか聞くと、ベニマルはイケメンスマイルで質問に答えてくれた。

 

「目の前で軽く説明いあつしておいたので、大丈夫かと思います」

 

うん、まぁ…暴風大妖渦カリブディスを瞬殺した奴の説明いあつを受けたら、嫌でも言うことを聞くか…

 

────────────

 

数日後、和睦協議を締結させてきたディアブロが報告しに帰って来た。

 

「こちらが証書になります…そしてこちらが……賠償金の一部として払われた、星金貨千五百枚です」

 

 

ディアブロが持っていたケースを開けると、そこには星金貨千五百枚が一枚一枚、丁寧に箱詰めされていた。

 

「流石って感じだな…」

 

「ああ」

 

俺とリムルはケースから、一枚の星金貨を取り出しては、箱から取り出さず、それぞれで眺めていた。

金貨や星金貨などの製造元であるガゼル王曰く、この世界に出回っている星金貨は一万あるかないからしく、今その一割以上がここにあると言うことだ。

 

「予定通り戦争になりそうか?」

 

 

「はい、間違えなく…足りない分を借款としておいたため、新王エドワルドは我慢できないことでしょう」

 

リムルの質問に、ディアブロは内戦が起きることを断言した。 

 

「で、エドワルドがエドマリスに全責任を擦り付けようとするのを、ヨウムが阻止するって魂胆か…」

 

「流石はエムル様…ご明察恐れ入ります」

 

二人の会話を聞いていた俺が、頭の中でこれから起きるだろうことを予想で言うと、ディアブロが褒めてくれた。

まぁ、流石は悪魔…人の心を操るのはお手の物だな…

 

「後の事はお前に任せるよ、ただし、出来るだけ市民に被害が出ないようにな」

 

「お望みとあらば、このディアブロにお任せください」

 

リムルからの頼みにディアブロは、胸に手を当てながら答えた。

 

「…それと、もう一つご報告がありまして…」

 

「「なんだ?」」

 

ディアブロのもう一つの報告を気になった俺とリムルは、口をそろえてディアブロに訊ねた。

 

「はい、西方聖教会がレイヒムに出頭を命じたそうです…」

 

「「レイヒム…?」」

 

俺とリムルが首を傾げて復唱すると、

 

《こちらです。》

 

智慧之王(ラファエル)さんが脳内に、教会の大司教の顔を映してくれた。

そう言えば、捕虜の中にそんな奴いたな…

 

「どうやら魔国(テンペスト)とファルムスの戦争状況を詳しく知りたがっているそうで…いかがいたしましょうか?」

 

「そうだなー…」

 

ディアブロの質問を聞いたリムルは、座っている椅子に背もたれながら考えた。

西方聖教会…あそこはヴェルドラを敵視しているし、もし作り話を話させても気づく可能性がある。そして、何より厄介なのが魔物を認めないという教義だ。

その教義を否定はしないが、魔国連邦(俺ら)に強いらても困る。

 

「…よし、レイヒムにメッセージを持たせよう。シオン、クレイマンの城から押収した水晶を持って来てくれ」

 

「はい!」

 

俺と同じように考えていただろうリムルが口を開き、レイヒムにメッセージを持たせることを決め、程なくしてからシオンが、クレイマンの城で押収した水晶を持って来てくれため、その水晶にメッセージを残すことにした。

 

────────────

 

更に数日後、獣人と捕虜を連れ、ガビル達が帰って来た。

 

「リムル様!エムル様!只今戻りましたぞ!」

 

迎えに来た俺達を見つけたカビルが、空から降りて来た。

 

「おう、ご苦労さん…戦で大活躍したそうだな」

 

リムルが労いの言葉をガビルにかけるも、ガビルは少し照れ臭そうに

 

「いやはや我輩などまだまだです…竜を祀る民、ミッドレイ殿にコテンパンにやられてしまいました」

 

と、自分の実力はまだ未熟だと言った。

ミッドレイ…確かベニマルが言っていた異様な強さがある龍人族(ドラゴニュート)だったか?まぁ、主人であるミリムと似て、闘争本能が強いのだろうな。

 

「嗚呼、それと…ミリム様がお二方にこれを…」

 

「「なんだ?」」

 

ガビルが俺らに渡してきたのは、一通の手紙だった。

俺が読みやすいように人型になったリムルが、手紙の内容を確認するため開けた。

 

ようリムルにエムルよ!久しいな!

今度遊びに行く時に私の世話を焼きたがる者達も連れて行くのだ!

その者達に"料理"と言う物がどういうものか教えて欲しい

これは本当に切実な願いなので、親友(マブダチ)である二人に頼みたい

本当に、本当にお願いするのだ!!

 

「……ガビル、ミリムのこれって、料理人の腕が悪いから、こっちで改善してくれって意味か?」

 

滅茶苦茶必至だな。

俺はそう思い、ガビルに訊ねた。

 

「いや……あの国に料理人は居なかったような…?」

 

「「え?」」

 

俺とリムルは耳を疑った。

 

「我輩らは、戦場の後始末をミッドレイ殿たちとやっていたのですが、彼らが炊き出しを行っている所を見たことないのです…龍人族(ドラゴニュート)の味覚は、人間とほぼ同じのため、中には死んだ魚の目をして、食材をそのままかじって食べている者も居りました」

 

「「…料理人とかの問題以前に、"料理"という概念がないの!?」」

 

ガビルから聞いた衝撃的な事実に、俺らは声を上げて驚いた。

 

「聞けば、ミリム様に捧げる時もそのままだとか…」

 

カビルからの追加の情報を聞き、俺(恐らくリムルも)は、ミリムが食事の度に喜んでいた理由が分かった。

善意でやってくれているから、文句を言うこともできなかったのか。

 

「まぁ、そういうことならば…」

 

「また食べたいと思いたくなるほどの料理で、持て成してやるか!」

 

俺とリムルは顔を見合わせ、ミリムの民たちを最高の料理で持て成すことを決意した。

その後はガビル達と会話をしばらく続け、俺とリムルはガビルが仲間たちに慕われていることを再確認した。

 

「それでは、我輩たちは洞窟に戻ります」

 

「「お疲れさん」」

 

俺らはカビル達に労い言葉をかけ、ガビル達を見送った。




電車に引かれ、死んだと思ったらこっちの世界に不死の人間として転生して、そこで前世の親友であるリムルと再会したり、大好きなスーパー戦隊に変身したり、リムルと共に魔物の国を作ったり、大切なものを取り戻すために強くなったりした。
俺はエムル=テンペスト、一人の魔人だ。

リムルと同じ能力を持ち、突如として俺らに襲い掛かって来た謎の少女。
そして、俺とリムルと瓜二つの少女達。
  「俺達はお前らで、お前らは俺達…だ!」

一体全体、こいつらは何者なんだ。
俺達はとんでもない相手と戦うこととなる。
長編版 転生したらスーパー戦隊になっていた件 もう一人の魔王と英雄編

紅蓮の絆編の予告を参考にして作りました…詳しいことは明日、発表です!


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聖魔対立編
61話 魔国連邦会議


魔王達の宴(ワルプルギス)から約一か月…町は人が増えたことにより、襲撃前以上に活気で溢れていた。

そんな中、ハクロウやゲルドが街に帰ってきたため、幹部全員とこれからのことを相談するため会議を開くこととなり、会議室に幹部全員が集まった。

 

「──というわけで、ようやく全員揃ったな」

 

スライム姿のリムルが、全員の顔を見てからそう告げた。

 

「えーと皆さん、既にご承知の方もおられるでしょうが、この度、私は魔王に就任いたしました!」

 

会社で、上司とかが何か上の立場に就任した時のような話し方で、リムルが皆に魔王になったことを告げると、全員から拍手と祝いの言葉が聞こえて来、それに対してリムルは、少し照れ臭そうな表情を浮かべた。

 

「というわけで、俺の支配領土はジュラの大森林全域に決まったから」

 

「えっ!?」

 

リムルが自身の領土がジュラの大森林全域になったことを伝えると、このことを知っているシオンと俺、ヴェルドラ以外が驚いた表情を浮かべ、ざわつき始めた。

あれ?なんかまずい発言でもしたのか?リムルは…

俺が少し不安になっていると、

 

「全域となると…アメルド大河の向こう側もですよね?」

 

「お、おう」

 

冷や汗を垂らしているベニマルが、リムルに確認してき、リムルはぎこちない様子で返事を返した。

リムルは盟主をやっていたから、あんまり変わらないと思うんだけど…

そう疑問に思っていると、皆が説明してくれた。

リムル、ついでで俺はジュラの森の盟主と副盟主だったが、それが通じていたのはトレイニーさん、樹妖精(ドライアド)の影響下にあった地盤だけだ。

それが今回、リムルが魔王になり、ジュラの大森林全域を支配することになったので、樹妖精(ドライアド)の影響下になかった大河の向こう側まで、それが通じることとなる。

つまり、大河の向こう側の住人は、これから今までのように森に住むなら、ジュラの大森林の支配者であるリムルに、挨拶をする必要があるのだ。

 

「それじゃあ、これから既に森に住んでいる者達が、挨拶に来るのか…?」

 

「もちろんです。リムル様が正式な魔王となられた今、挨拶に来ない者は叛意ありと受け取られてしまうでしょうから」

 

リムルの質問にシュナが微笑んで答える。

 

「新たな魔王となれば、頭の痛い問題でしょう……まぁ、挨拶に来るのならよし、逆らうようなら……やりようは色々とあります」

 

ベニマルが不敵な笑みを浮かべ、間接的に逆らう者は潰すと言った。

それだけはやめてくれ…多分リムルはそれしきで怒らないと思うし…

心の中で俺は冷や冷やしていると、リムルが何かを思いついた表情を浮かべた。

 

「……だったらさ、どうせ来るのなら、全員まとめて来て貰った方がいいんじゃないのか?」

 

「と、言いますと…?」

 

リムルの発言にリグルドがどういう意味か訊ねた。

 

「ほら、最近はずっと緊張していたし、偶には息抜きしたいだろ?だからさ、皆でお祭りやろうぜ!ミリムからの頼みもあるし、新規の住人を獲得するチャンスも欲しい…どうせ、俺のお披露目をやるのなら、ここは一つ、盛大にやろうじゃないの!」

 

「はい!!」

 

リムルの説明を聞いた俺らは、口をそろえて返事をした。

祭り…!リムルの言う通り、ここの所は緊張した日々が続いてたし、息抜きとしては丁度いいだろうな…!

リムルの提案の祭りをするための会議が始めると、あれよあれよと意見が出揃い、いつの間にか各国の首脳も招待することとなった。

予算については疑問に思ったが、恐らくリムルは気にしていないだろうと思い、俺は予算について何も言わなかった。

まぁ、俺もリムルも元は祭り好きの日本人だ…ここは盛大にかつ、自重しない大規模な祭りを企画しよう。

完全に祭りで頭がいっぱいだが、楽しむためにはやることを終わらせないとだな。

まずはファルムスの方だ。

 

「ディアブロ、計画は順調か?」

 

「はい、予想通りに新王エドワルドが兵力を集め始めました。内乱が起こるのは時間の問題でしょう」

 

それを聞いて俺は一安心したが、ディアブロの次の言葉で少し不安になってしまった。

 

「──ですが…西方聖教会に向かったレイヒムが戻らないのです」

 

「確か、俺のメッセージを持たせたんだよな?もしかして、届いてないのか?」

 

リムルも少し不安になったようで、ディアブロに確認すると、ディアブロは首を横に振った。

 

「いえ、手の者に護送させましたので、西方聖教会の本拠地に行ったこと確実ですし、私のユニークスキル、誘惑者(オトスモノ)は支配した対象が死んだことが分かりますので」

 

それなら心配はないが…西方聖教会についての情報があまりないから、心配な所だな…

 

「やっぱり、敵に回るかな…?」

 

「難しい質問ですね…」

 

俺の呟きにベニマルが反応してくれた。

 

「積極的に介入してくるのなら、ここでどうするか決めておきたいところですが」

 

「リムル様が魔王と成り、更にヴェルドラ様が居る以上、向こうから手出しをするとは考えにくい」

 

ベニマルの言葉に続くようにソウエイが、西方聖教会がこちらに手出しができにくいことを話した。

 

「リムルと聖人ヒナタが戦っている間に、俺らは襲撃を受けた……明らか偶然とは思えないな」

 

俺は椅子にもたれかかりながら、今回の事件は偶然ではないことを確認した。

 

「だよな…それに、クレイマンがそれを裏付けるように、"あの方"という黒幕の存在を言っていたし……今回も介入してくる可能性がある」

 

俺の発言にリムルが、クレイマンが言っていた黒幕が居ることを思い出したかのように話した。

…でも、いまいち目的が見えてこないな…

俺が頭の上にハテナマークを浮かべていると、

 

《告。ファルムス、ヒナタ、クレイマン、三者の行動背景を一つの意思に統一するのは不可能だと思われます。》

 

智慧之王(ラファエル)さんからの助言があり、その助言を聞いた俺とリムルは、あることに気づいた。

 

「そうか、俺らは勘違いしていたのかもしれないな」

 

「えっ?」

 

「どういうことです?」

 

リムルの発言を聞いたシュナ達が首を傾げ、ベニマルがリムルに訊ねた。

 

「黒幕は一人だけじゃないと言うことだ」

 

ベニマルの問いは俺が答えた。

俺らは黒幕は一人だけだと考えていたが、よく考えると西方聖教会で事実上のトップであるヒナタを動かせるのは限られているはずだ。

まぁ、教義を盾にされた可能性はあるが……という訳は、ヒナタは利用されただけなのか?

だが、俺らは真実を知る方法がまだわからないため、黒幕については一時保留となった。




はい、転スパ作者の盈月です。
皆さん、もうすぐしたら年末年始ですね。そこで!正月のに転スパの長編を投稿しようと思います!

長編版 転生したらスーパー戦隊になっていた件 もう一人の魔王と英雄編上
一月一日(日)0:00
長編版 転生したらスーパー戦隊になっていた件 もう一人の魔王と英雄編下
一月一日(日)12:00

順番に公開いたします!楽しみにしてくれれば幸いです。


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62話 神聖法皇国会議

今回は三人称視点でございます。


「待たせたわね、それでは法皇両翼合同会議を始めましょう」

 

坂口ヒナタの宣言で、聖騎士団(クルセイダーズ)法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)による合同会議が始まった。

今回、いがみ合っている聖騎士(ホーリーナイト)法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)が合同会議を開いた理由は他でもない、暴風竜ヴェルドラの復活とそれに伴う新たな魔王の誕生についてだ。

 

「ではまず、魔物の国についての報告です。街道は綺麗に整備されており、商人が多くみられました。流石に魔素濃度は少しばかり高かったですが、人体に影響が出るレベルではありませんでした。魔王リムルは、その言葉通りに人との友好関係を望んでいる、という印象を受けました」

 

報告書を見ながら、聖騎士(ホーリーナイト)"水"のリティスが全員に聞こえる大きさで、魔物の国についての内容を伝えた。

 

「…暴風竜ヴェルドラは見たの?」

 

ヒナタの質問に、リティスは首を横に振った。

 

「いえ…封印の洞窟への立ち入りは禁じられており、その所在は分かりませんでした」

 

「そう…」

 

ヴェルドラの姿を確認できなかったことを、リティスは申し訳なくヒナタに伝え、ヒナタは少し残念そうな表情を浮かべた。

そんなヒナタを見て、口を開けたのは法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)"蒼穹"のサーレだった。

 

「まぁ焦る気持ちも分かるは…どっかの誰かさんが、スライムを取り逃がしたせいで、新な魔王の誕生と暴風竜の復活を阻止できなかったからね」

 

嘲笑うような言い方で、サーレはヒナタの方を見た。

そんなサーレを見た聖騎士(ホーリーナイト)"光"のレナードは、鋭い眼光でサーレを見つめ、

 

「ヒナタ様に不敬ですよ、サーレ殿」

 

と、サーレに忠告した。

更に、それに続くように聖騎士(ホーリーナイト)"空"のアルノーが

 

「おう小僧、団長に文句があるのなら、俺が相手になるぜ?」

 

サーレを子供扱いしながら睨んだ。

そんな二人を見た法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)"巨岩"のグレゴリーが

 

「けっ!お上品な聖騎士様方が、俺達と喧嘩しようってか?」

 

二人に対して嫌悪感を込めた目で見ながら、皮肉を言い放った。

 

「なんだと?」

 

「死にたいようですね…」

 

グレゴリーの言葉が癪に障ったのか、二人の怒りは頂点に到達しようとしていた。

聖騎士団(クルセイダーズ)法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)は同じ神を信仰しているものの、決して良好な中ではない。

 

「…いい加減にして頂戴。帳の向こうには法皇猊下も居られるのよ、争いは結構だけど、今はくだらないことで争う時じゃないでしょう」

 

だからこそ、その二つの組織を取りまとめる者、聖騎士団長と法皇直属師団(ルークジーニアス)筆頭騎士を兼任する事実上の最強騎士、ヒナタ・サカグチなのだ。

ヒナタの威圧がある一言で、全員が静かになった。

 

「…それじゃあ、私から神ルミナスより下りた信託を言うわよ……"暴風竜ヴェルドラを御せることが出来るのは、魔王リムルに魔人エムルであると、故に「魔王リムル、魔人エムルに手出しをするのは、まかりならぬ」そうよ」

 

ヒナタが神ルミナスから受けた信託を皆に伝えると、全員が驚いた表情を浮かべた。

 

「そりゃあ魔王は不可侵存在(アンタッチャブル)だけど!十大聖人なら魔人どころか、魔王にも後れは取らない!」

 

ヒナタが皆に伝えた信託に、セーラが勢いよく立ち上がって、納得できないという表情を受かべた。

 

「しかし…魔王リムルはまだ分かりますが…何故、魔人エムルにも手を出しては行けないんですか?」

 

エムルに手を出してはいけない理由を分からないリティスが、ヒナタに訊ねた。

 

「…魔人エムルが保有している力はヴェルドラと同等の力があると言われているわ。実際、魔国連邦(テンペスト)暴風大妖渦(カリブディス)がぶつかり合った時、巨大な獅子を召喚し、空泳巨大鮫(メガロドン)を一撃で屠ったみたいだし」

 

「確かに、魔人エムルはゴーレムと思わしき魔人、ドラゴンのような魔物、そして赤い精霊と、魔国連邦(テンペスト)に住む魔物とは別に従えている噂がありますし……何より、結界が張られている中、たった一人で四十人以上の騎士を虐殺した情報もあります」

 

ヒナタの説明を受け、それに納得するようにレナードが、エムルについての追加の情報を話した。

 

「ええ、それに…彼には不死者(シヲコバムモノ)と呼ばれるユニークスキルを保持している可能性があるわ…事実、魔人エムルと騎士達が戦った際、魔人エムルは異常までの再生能力を見せたそうよ」

 

ヒナタの発言に、多くの者達が目を見開いて驚いた。

不死者(シヲコバムモノ)、大昔に書かれた本に記載されていたユニークスキル、その本以降に出版された物には存在が確認することが出来なかったため、伝説のユニークスキルと名高いのだが、転生者であるヒナタは知らなかった。

そして、あまりにも不死者(シヲコバムモノ)を保持した者の記録がなかったため、そもそも存在していなかったのではないかと呼ばれていたが、今、エムルにより証明されたのだ。

 

「…そう言えば、魔人エムルと魔王リムルは親友関係だと言う噂を聞いたことがあったね」

 

話を聞いていた法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)"荒海"のグレンダが、テーブルに肘をつきながら、自身が聞いたことがある噂をヒナタに伝えた。

 

「その噂が本当なら、厄介ですね…もし、魔人エムルを討伐することが出来たとしても、魔王リムル、最悪の場合暴風竜の逆鱗に触れる可能性があります」

 

グレンダからの情報が正しい場合、魔人エムルには手出しがほぼ不可能な事を考えたアルノーがヒナタに話す。

 

「……決定的に敵対する前に一度、話し合いに向かおうと思ってるわ」

 

ヒナタが魔王リムルと話し合いをしたいと言うと、全員が口々に止めようと声を上げたが、ヒナタは片手で全員に待つように指示し、扉の方を見た。

 

「まぁ、待ちなさい…彼の考えを…」

 

ヒナタがそう言いかけた時、扉からノックする音が聞こえ、レイヒムとニコラウスが入って来た。

 

「ファルムス大司教レイヒム、招集に応じ罷り越しました」

 

「貴方には真実を教えて欲しいのよ…巷で噂されている暴風竜の経緯は不自然な所がある。恐らく魔王リムルが流したデマでしょう…それじゃあ、話してくれる?」

 

「…は、はい…」

 

入って来たレイヒムにヒナタは、あの戦場で何があったか真実を話すように伝えた。

そして、レイヒムは身震いしながら真実を話し始めた。

 

「…私は……私は愚かでした。最初に、先導していた一万の軍から化物が現れたと、報告を受けたのです…そして、その数十秒後でした…降り注ぐ光線、音もなく倒れていく兵士達…アレは正真正目の魔王です。我らの手で、新たな魔王を誕生させてしまったのです!」

 

レイヒムの言葉を聞いたヒナタ以外全員が、冷や汗を垂らした。

 

「──たった三万を一人で!?」

 

「いや、それにしては移動時間と準備時間が短すぎる」

 

レナードが目の開いて驚くと、聖騎士(ホーリーナイト)"火"のギャルドが否定した。

 

魔国連邦(テンペスト)に住む魔物達によって四方印封魔結界(プリズンフィールド)が破壊されたと言う報告から…恐らく先導していた軍は魔人エムルが、そして、大司教が居た軍は魔王リムルが屠ったのか」

 

「冗談だろ、それだと魔王リムルと魔人エムルがまるで…真の魔王じゃないか…!」

 

サーレが出した推測をアルノーは、信じられない表情を浮かべた。

 

「どうする?魔王リムルは恐らく真の魔王になっているだろし、魔人エムルに関しては魔王種に進化を果たしているはずだ。このままだと第二の暗黒皇帝(ロード・オブ・ダークネス)破壊の暴君(デストロイ)になりかねないんじゃない?」

 

全員が焦りかける中、ヒナタは髪を耳にかけ直し、

 

「皆黙りなさい。神託は絶対よ…どうあれリムルと魔人エムルには手出しを…」

 

ヒナタは神託が絶対ということで、会議を終わらせようとしたその時だった。

 

「レイヒムよ、他に伝言はないのか?」

 

レイヒムの方から声が聞こえ、ヒナタは目を見開いてレイヒムを見た。

すると、レイヒムから光が漏れ出し、顔を隠したローブ姿の三人の男達、西方聖教会の最高顧問である七曜が現れた。

 

「そ、そうでした。これを預かってます」

 

そう言うとレイヒムは、袖の所から水晶を取り出し、水晶に映っている映像をヒナタに見せた。

映像にはリムルが映っており、真っ直ぐとした目で告げた。

 

《相手してやるよ。俺とお前の一騎打ちでな》

 

リムルが短く一言言うと、水晶の映像は切れ、水晶は真っ暗になってしまった。

リムルからの宣戦布告と受け取れるメッセージに対して、色々な意見が飛び交う中、ヒナタは冷静に考えた。

 

(メッセージが短い…ファルムスの攻略に比べて余りにも短絡的だわ…)

 

そう考える中、ヒナタは七曜の発言を思い出した。

 

「やれやれね、私が指定されている以上、私が一度行くしかないわ」

 

「危険です!魔王リムルに害意がある以上…!」

 

「今の伝言はあまりにも短すぎて、真偽を知ることはできない…だからこそ、一度会って話し合ってみるべきでしょ?」

 

ヒナタがリムル下に行かないように、ニコラウスは止めに入ったが、ヒナタの意思は固かった。

 

「フフフ、その意思良し、お前ならば倒せるだろう…しかし、魔王リムルの傍にはあの邪竜が居る…そこでだ、お前にこれを渡そう」

 

ヒナタの意思を見た七曜の一人は、ヒナタの目の前に竜破聖剣(ドラゴンバスター)を出現させた。

 

「さあ受け取るがいい、もしもの場合、その剣がお前を守るだろう」

 

「…謹んでお預かりします。七曜の老師よ」

 

ヒナタは七曜が自分を排除したいと言う思惑を分かりながらも、その剣を手に取った。

 

「これにて合議を終了する。各自それぞれの役目を全うするように」

 

ヒナタの言葉で、法皇両翼合同会議は終了した。




突如として俺らに襲い掛かって来た少女、シンシア…なんと、別世界リムルの娘だとか。
シンシアは俺達の世界を助けるため、別世界からやってきた。
「お願い…皆の…パパの仇を一緒に…!」

魔国連邦(テンペスト)を狙う二つの影

「今度こそ、お前らの力を頂こうか…!」

俺達を狙う大きな影。
皆、準備は良いか…!?

長編版 転生したらスーパー戦隊になっていた件 もう一人の魔王と英雄編


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63話 緊急事態

「──拝謁の僥倖賜りましたこと、誠にありがたく」

 

「アダルマンその辺で」

 

「ですがシュナ様…!」

 

「その辺で!」

 

長いな…

俺とリムルは会議室で、アダルマンの長い挨拶を聞いていて、余りの長さだったため、シュナがアダルマンの挨拶を途中でやめさせた。

俺らはソーカ達から武装したヒナタがこの町を目指して出発し、それを追うように四人の聖騎士(ホーリーナイト)が出立した、という報告を受けた。

しかし、俺らは西方聖教会についての情報がないため、かつてルミナス教の高層を務めていたアダルマンに、色々と話を聞くことになったのだ。

 

「神聖法皇国ルベリオンは、神ルミナスを頂点と定める宗教国家です。私が枢機卿だった頃は、今程の武力や権力は持っておらず、ルミナス教の布教に従事することでした。しかし、"七曜"が立て直しを行ったことで、変わったのです」

 

「「七曜…?」」

 

俺とリムルは、アダルマンが言っていた七曜という単語を復唱した。

 

「はい、偉大なる英雄(笑)、ルベリオンの最高顧問とされている老人共です。今もご存命しやがっていることでしょう」

 

「嫌いなんだな…」

 

アダルマンは俺らに七曜について、嫌悪を感じるオーラを出しつつ説明してくれた。

 

「申し訳ございません。私は七曜に嵌められ、命と信仰を失うことになったので…友人の秘術"輪廻転生(リンカーネーション)"により、死霊(ワイト)となって復活したのです」

 

なるほど、それは七曜を恨むな…

俺はアダルマンが七曜に恨んでいる理由を聞いては納得してしまった。

 

「ともかくルベリオンの方針には、七曜が絡んでいると思われます。実力のほどは措いとくとして、ヒナタ・サカグチとて奴らの発言は無下にできないことでしょう」

 

アダルマンの話を聞く限り、七曜は覚えといた方がいいな。

その他にも俺らはアダルマンから、傘下の国に駐屯している神殿騎士団(テンプルナイツ)、神と法皇のみ忠誠を誓う法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)、そして聖騎士団(クルセーダーズ)についての情報を聞いた。

何故、アダルマンが情報のソースが古くなかった理由は、

 

「私もクレイマンの幹部だったので、一応情報を与えられていました…まぁ、意見は求められていませんでしたが」

 

一応クレイマンに情報を貰っていたらしい…思わぬところでクレイマンが役に立ったな。

 

「お二方、法皇直属近衛師団(ルークジーニアス)聖騎士(ホーリーナイト)には"十大聖人"と呼ばれる"仙人"級の者達がいますので、くれぐれもお気を付けください」

 

仙人?聖人じゃなくて?

俺が首を傾げていると、

 

《解。人が過酷な修練を積んだ果てに至る存在進化です。魔物で例えると"魔王種"が近いでしょう。"聖人"は仙人の更なる上、覚醒魔王に値します。》

 

智慧之王(ラファエル)さんが説明してくれた。

それにしても魔王種に近いって…もしかして俺と同じ、もしくはそれ以上の実力を持った奴らが十人ほど居るのか…

俺が考えこんでいると、部屋にディアブロが入って来た。

入って来たディアブロは、浮かない表情をしていた。

 

「リムル様、エムル様…ご報告があります…レイヒムが何者かによって殺されました」

 

「「えっ?」」

 

俺とリムルは少し驚いた表情を浮かべた。

 

「それにともなってラーゼンから報告で──『「悪魔の謀略によって大司教が殺害された」という情報が魔法通信で広まっております。それに呼応し、周辺各国の神殿騎士団(テンプルナイツ)がファルムス王国に向かって動き出しました。』とのことです」

 

ディアブロがラーゼンからの報告を俺らに伝えてくれた。

周辺各国はファルムス王国の内乱に関わろうとはしないと思うから…目的は

 

「大司教殺しの悪魔討伐…」

 

ソウエイが俺が思っていたことを言ってくれた。

 

「…ヨウムの後ろ盾になっている悪魔が大司教を殺した…そんな情報が出回っている以上、他国や有力な貴族達は討伐するために動く上に、新王の方を援助を行って、逆にヨウムへの援助は少なくなるだろうな」

 

大司教が悪魔に殺されたと言う情報が出回ることによって、生じる問題を俺が述べると、

 

「はい、エムル様の言う通り…先程配下から報告があり、神殿騎士団(テンプルナイツ)、総勢三万が悪魔討伐に動き出しました」

 

ソウエイが先程得た情報を伝えてくれた。

三万…ファルムス王国が俺らに襲撃を行った数と同じだ。

新王の軍+神殿騎士団(テンプルナイツ)を今回はヨウム自身に勝ってもらう必要がある。俺らの所からハクロウやゴブタ達を送り出すつもりだから負ける心配はないだろうが、本気で戦うとなるとファルムスに決定的なダメージが入るはずだ。

 

「…最悪、今回は諦めるって手もある。俺が残りの債権を放棄すれば、新王は先王を攻撃する理由がなくなるしな…」

 

リムルがそう弱音を吐くと、リムルを膝の上に乗せているシオンが、リムルの顔を見ながら、

 

「駄目です!そんなことをしてしまったら、リムル様が舐められてしまいます!」

 

と、リムルに対して怒り、リムルを隣で座っていた俺の膝の上に置いた後、立ち上がってはディアブロの方を向き、

 

「ディアブロ!お前の失態だぞ!お前がこのまま与えられた仕事をほうきするつもりならば、私が引き取ってしまうぞ!」

 

胸を張って、後輩であるディアブロに対して厳しい言葉を言い放った。

 

「そうですよ、貴方も小さい失敗で落ち込んでいる場合じゃありません。後、分かりにくいですが、今のはシオンなりの激励です」

 

「しゅ、シュナ様…!」

 

ディアブロを励ますようにシュナは声をかけ、それと共にシオンの先程の言葉は、激励だったことをディアブロに伝えた。

シオンの奴、偶には粋なことをするじゃん。

 

「まぁ、今問題なのは大司教殺しが誰かって話だろ?それがディアブロじゃないことを証明すればいい話だ」

 

俺がシオンに対して尊敬していると、俺の膝の上にいるリムルがディアブロにそう言った。

 

「では、私がこのまま続けてしまっていいのでしょうか?」

 

ディアブロは少し不安そうな表情でリムルに訊ね、それに対してリムルは怒ることなく、

 

「もちろんだ、それともシオンに代わってもらうか?」

 

ディアブロがこのまま作戦を続けるのを承諾した。

それに対しディアブロは、

 

「いえ──是非とも最後まで、私にお任せください」

 

と、跪いて返事をした。

 

「おう、キッチリと汚名返上して来い!…それで?どうするつもりなんだ?」

 

「はい、真犯人を見つけ出そうと思います。そして優しく問いただしてみるとしましょう」

 

リムルの質問に、立ち直ったディアブロは優しさなんて微塵もない奴の笑顔となった。

 

「一応言っとくが、関係のない奴は殺すなよ?」

 

「ええ、分かっております…リムル様やエムル様の意を叛くような真似はしませんよ」

 

ベニマルが一応釘を刺してみたが、その心配はなさそうだ。

 

「…三万となると、こちらから送る部隊を再編成しときますね」

 

「ああ、頼むよベニマル君」

 

三万の軍勢の対策をするとベニマルは俺らに告げてくれた。

ホント、頼もしいなベニマルは…

そう思いながら、俺は用意してくれた紅茶を片手にクッキーを食べ始めた。




余裕があるので、大晦日は三本立てにしようと思います!
そのため、少し投稿時間を変更するので、ご了承ください。

12月31日(土)
17時 第64話 18時 第65話 
の以上となっております!


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64話 衝突直前

さて、大司教殺しとファルムス攻略はディアブロに任せるとして、俺らはヒナタ含む聖騎士(ホーリーナイト)五人をどうするかだ。

武装しているみたいだし…話し合いとかは難しそうだな…ヒナタはリムルに任せるとして、残りの四人だ。

一人や二人ぐらいなら、スーパー戦隊の力を使ったら何とかなるけど…それ以上となると俺でもやりづらい。

俺、そして恐らくリムルも残りの四人を誰が抑えるかで悩んでいると、今まで大人しくしていたヴェルドラが咳き込んだので、そちらへと顔を向ける。

すると、ヴェルドラは目をキラキラとさせて、

 

「ふむ!我の出番のようだな!」

 

と、自慢げに言った。

だが、ヴェルドラが出ると被害が酷いことになる上、西方聖教会はヴェルドラを敵視しているので、話し合いの可能性が潰れてしまうので、

 

「「違います」」

 

俺とリムルは口をそろえ、ヴェルドラが出撃するのをやめさせた。

俺とリムルの言葉で、自分は出れないと思ったヴェルドラは落ち込んでいたが、

 

「お前には最終防衛ラインを任せたいんだよ…カッコいいと思わないか?最・終・防・衛・ラインだ」

 

「フッ、まぁそれなら仕方あるまい…!」

 

リムルの口車に乗せられ、ヴェルドラは自ら出撃するのをやめた。

なんとまぁ、単純な竜だな…

俺が心の中でそう思っていると、

 

「…リムル様、エムル様…緊急事態です」

 

「どうしたソウエイ?」

 

ヴェルドラを宥めていると、思念伝達で話し合っていただろうソウエイが、冷や汗を垂らしながら、声をかけてきた。

リムルがどうしたかと聞くと、ソウエイは少し焦った表情で、

 

聖騎士団(クルセイダーズ)に動きがありました」

 

聖騎士団(クルセイダーズ)に動きがあったことを報告してくれた。

 

「ヒナタ達…か?」

 

俺の質問に対して、ソウエイは首を横に振った。

 

「いえ、イングラシアから百騎の人馬が出撃したとのことです」

 

ソウエイの追加の情報を聞いた俺達に緊張が走った。

 

「そいつらはヒナタ達と合流するつもりなのか…?」

 

リムルがソウエイに訊ねたが、ソウエイはまた首を横に振った。

 

「分かりません。ですが、行軍の速度からして、魔都リムルへの到着時間は同じ時期になるかと」

 

ソウエイから聖騎士団(クルセイダーズ)の到着時期がヒナタ達と同じ頃合いになるのを聞き、俺は首を傾げ疑問に思った。

だが、今はそれどころではない、急いで聖騎士団(クルセイダーズ)の対策を取る必要があるのだ。

 

「ベニマル、急いで戦力の編成と配置を決めるぞ!」

 

「はっ!」

 

リムルはベニマルにそう言った後、全員に聞こえる声量で話し始めた。

 

「今回の一番の目的は、話し合いだ。だから、聖騎士団(クルセイダーズ)側にもできるだけ被害を出さないつもりだ。だが、もしも戦いになってしまった場合、もしも戦況が不利になった時、即座に敵の殲滅に移れ、優先するのは仲間の命だ」

 

そして、声を大きくして

 

「今回も全員が無事に乗り切れることを期待する!」

 

「ははっ!!」

 

全員に活を入れた。

 

────────────

 

「アダルマン、少し頼みを聞いてもいいか?」

 

「なんでしょう、エムル様…」

 

皆が出撃準備を進める中、俺も出撃準備の一端として、アダルマンに頼みごとをしに来た。

 

「アダルマンが使役する不死系魔物(アンデッド)を何体か譲ってほしいんだけど…」

 

俺はアダルマンに、アダルマンが使役している不死系魔物(アンデッド)を譲ってほしいと頼んだ。

理由は俺の究極能力(アルティメットスキル)不死之王(イーコール)の中にある権能、不死系魔物(アンデッド)を使えるようにするためだ。

死体なんて中々回収する機会がないので、大量の不死系魔物(アンデッド)を使役しているアダルマンに一部借りようと言う魂胆だ。

すると、アダルマンから飛んでもない返事が返って来た。

 

「それならば、何体かとは言わず、私が使役している不死系魔物(アンデッド)を全て譲ります」

 

「えっ、いいの!?」

 

「はい、エムル様のためなら」

 

俺は驚いてアダルマンに再確認すると、アダルマンはカランカランと音を出しながら頷き、不死系魔物(アンデッド)を全て譲っていいと言ってくれた。

こうして、俺はアダルマンが持っていた不死系魔物(アンデッド)を全て使役することが可能となった。

そのことを後からベニマルに伝えたせいで、ベニマルの仕事を増やすことになったとか、ならなかったとか…



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65話 聖魔衝突

「押し返せー!!」

 

「何なんだよこいつら!」

 

四方に散開しようとした聖騎士団(クルセイダーズ)とシオン達が戦闘となった。

聖騎士団(クルセイダーズ)と戦っているのは、シオンが率いている部隊、紫克衆(ヨミガエリ)紫克衆(ヨミガエリ)は襲撃された際に一度死亡して蘇った百名。エクストラスキル自己再生と完全記憶を習得し、死を克服した者達だけで組まれた部隊だ。

そして、俺が率いる部隊、白銀衆(シロガネ)。アダルマンから貰った不死系魔物(アンデッド)と俺が作り出した獅子王やズバーン、ガブティラで構成されている部隊。太陽が出ている時は少数精鋭になるが、太陽がなくなると、不死系魔物(アンデッド)が加わり、質量で押すことが出来るようになる。

今回の場合、太陽がある上に神聖魔法などを使う聖騎士団(クルセイダーズ)が相手のため、不死系魔物(アンデッド)達は出ることが出来ないが、その分おっちゃんやズバーン、ガブティラが暴れてくれるため、心配することは何一つないだろう。

 

「エムル様、行ってまいりますね!」

 

「ああ、慢心だけはするなよ?」

 

「はい!では…!」

 

俺とシオンは少し遠くから戦況を見ていており、そろそろ行くべきだとシオンは思ったらしく、俺に声だけかけて戦場へと赴いていった。

 

(エムル、そっちはどうだ?)

 

後から来るリムルが、大親友(バディ)の意思疎通で話しかけて来た。

 

(今シオンが向かった所だよ…戦況もこっちが優勢だ)

 

俺はリムルに、戦況とシオンが今、出撃していったことを伝えた。

 

(そうか、そろそろ俺らもそっちに着くから、待っといてくれ)

 

(了解)

 

リムルに返事を送った後、意思疎通を切り、俺はリムル達の到着を待ち、その後合流した。

 

「あれ、聖浄化結界(ホーリーフィールド)の簡易版か」

 

ヒナタが来るまで、俺らはシオン達と聖騎士団(クルセイダーズ)の戦いを遠くから見ていた。

すると、シオンに対して簡易版であろう聖浄化結界(ホーリーフィールド)が張られたのを見たリムルがそう呟いた。

そして、俺らの後ろからヒナタ達がやって来た。

 

「なぁヒナタ…ここは俺の領土だ、軍事行動を起こして、好き勝手に暴れられたら、お前達に害があると判断できる。先制攻撃を許すほど、俺らは甘くはないんだよ」

 

リムルは刀を片手に持ち、ゆっくりとヒナタの方を見た。

 

「…それが当然でしょうね、けれど何故、ウチの副官が命令違反したのか、私も分からないのよ」

 

「よく言うよ」

 

白を切ろうとしたヒナタに、リムルは刀の頭をヒナタに向けた。

 

「レイヒムを殺した罪を、ウチの執事に擦り付けたくせに」

 

リムルが、大司教を殺した罪をディアブロに擦り付けたことをヒナタに問い詰めると、ヒナタは少し驚いた顔した。

 

「レイヒムが殺された?」

 

演技なのか、はたまた本当に知らないのか判断がしにくい。

すると、ヒナタの後ろから四人の聖騎士(ホーリーナイト)がやって来た。

 

「俺の伝言は受け取ったんだろうな?」

 

「ええ…」

 

レイヒムはしっかりと、メッセージを届いたらしい。

 

「その答えがこれでいいのか?」

 

リムルはヒナタに問い詰めながら、刀を持っていない手で後ろを親指で指した。

 

「…違う…と言っても信じてはくれないでしょう?」

 

「信じてもいい…だが、その前にあれを止めるのが先だ」

 

「それは──」

 

リムルが出した条件をヒナタが返事しようとしたその時、

 

「何を言う!この状況で、こちらの戦力を引き戻す訳がないだろう!第一!ヒナタ様を呼び出した貴様が、何もしないという保証は、誰が出来る!」

 

一人の聖騎士(ホーリーナイト)がヒナタの返事を遮るように声を上げた。

 

「…今、この場で話していいのはリムル様とヒナタ・サカグチだけだ。呼ばれていない奴は大人しくしてろ」

 

ベニマルがヒナタの返事を遮るように喋った聖騎士(ホーリーナイト)の前に立ち塞がった。

 

「…へぇ、そうか…よ!」

 

聖騎士(ホーリーナイト)は剣を振るったが、ベニマルは鞘に収まっている刀で、攻撃を受け止めた。

 

「…ヒナタ様の交渉の邪魔をされたくなかったから、少し脅す程度つもりだったが、まさか反応されるとは」

 

「邪魔したくないのは同義だ…話なら向こうで聞こう」

 

そして、ベニマルと聖騎士(ホーリーナイト)はそのまま、二人の邪魔をしないようにするため、別の場所へと移動していった。

 

「アルノー!」

 

先程の聖騎士(ホーリーナイト)とは別の聖騎士(ホーリーナイト)が、ベニマルと戦いに行った聖騎士(ホーリーナイト)の名前を呼んだ。

そして、俺はソウエイと顔を見合わせた。

 

「んじゃあ、頼むぞ」

 

「御意…」

 

俺は女性の聖騎士(ホーリーナイト)をソウエイに任せ、残りの二人の目の前に立った。

 

「それじゃあ、俺らもやろうか」

 

「魔人エムル!」

 

どうやら、俺の名前と力は相当広がっているらしく、俺の名前を呼んだ聖騎士(ホーリーナイト)は驚いた表情を浮かべていた。

 

「世間知らずの魔人に、十大聖人の力を見せてくれ」

 

「…応じるしかないか」

 

二人の聖騎士(ホーリーナイト)は俺の事を警戒しつつも、ベニマル達と同じように場所を変えて、戦うことになった。

これで、リムルとヒナタの一騎打ちに邪魔が入ることはないだろう。




長編版は新規小説として投稿するので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。
それでは皆さん、良いお年を!


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66話 魔人と聖人

長い間休んでしまい、申し訳ございません!色々あり、中々投稿ができませんでした…申し訳ございません


「それじゃあ始めるか」

ドン、ブラスター!

 

少し離れた場所で、俺は聖騎士(ホーリーナイト)の方を向きながら、ドンブラスターとアバタロウギアを作り出し、ギアをドンブラスターにセットした。

 

イヨォー!ドン、ドン、ドン、ドンブラコー!アバタロウ!

 

桃のエンブレムがあるスクラッチギアを回転させ、上に現れた扉に向かってトリガーを引いた。

 

ドン、モモタローウ!ヨッ!ニホンイチ!

「桃から生まれた、あっ!ドン、モモタロウ!!」

 

俺はドンモモタロウへと変身し、ドンモモタロウの名乗りを行った。

 

「さぁ、楽しもうぜ!勝負勝負!」

 

作ったザングラゾードを構えて聖騎士(ホーリーナイト)の元へと向かって走り出した。

 

「来るぞ!」

 

大柄な男は戦棍をしっかりと持ち、俺目掛けて振り落としてきて、俺はザングラソードで受け止めた。

 

「俺のことも忘れてもらったら困りますよ!」

 

俺たちの上からもう一人の男が双剣を持った男が襲い掛かってきた。

 

「忘れているわけがないだろう…!」

 

大男を蹴り飛ばしては、ザングラソードを振って双剣の男を弾き返した。

 

「ぐっ…強い…」

「これが魔王リムルの親友、魔人エムルの力…!」

 

男達は構えなおしながら、俺の方を見ていた。

 

「どうした?そんなものか?」

「まだまだ!」

「おい!」

 

俺の軽い挑発に乗った双剣の男が俺目掛けて走ってきた。

 

「風魔法!」

 

双剣の男は風魔法を地面に向けて放って、風圧で俺との間を詰めて切りかかってきた。

 

「無暗に突っ込むのはよくないぞ?」

 

俺は男の双剣をザングラソードで受け止め、至近距離から急所を外してドンブラスターのトリガーを引いた。

 

「なっ!!」

 

ドンブラスターから出たエネルギー弾をまともに食らった双剣の男は吹き飛んだ。

見事に吹き飛んだな…

そんなことを思っていると、後ろから大男が戦棍を振りかざしてきた。

 

「重いな…だが」

 

戦棍をザングラソードで受け止め、ザングラソードの刃で俺は自身の指を数本切り落とした。

 

魂分裂体(ソウルクレイヴィジ)!」

 

切り落とした指から俺の分裂体が出てきては、そのまま大男の四肢にしがみついた。

 

「分身体!?いや、不死者(シヲコバムモノ)の力か」

 

四肢にしがみついている俺の分身体を振り払うために、身体を動かそうとしている大男だったが、重みのためか難しいようだ。

 

「バッカス!」

 

双剣の男はボロボロの状態で立ち上がり、バッカスと言う名の大男を助けようとした。

 

「固まってくれたな…」

「っ!離れろ!フリッツ!」

エイ、エイ、エイ、エイ…カモ~ン!

 

フリッツと言う名の男が双剣で、分身体をバッカスから引き剥がそうとする中、俺はザングラソードのギアを数回回した。

何かすると察知したバッカスは、フリッツを逃がそうとするがすでに遅かった。

 

「ザングラソード!」

ア~バタロザン、アバタロザン、ア~バタロザン、アバタロザン!

「ぐっ!」

「うおっ!」

 

左腕の分身体をようやく剥がすことができたバッカスは戦棍を左手で持ち、フリッツは双剣でザングラソードを受け止めた。

 

「さ、先程より重い…」

「だが、受け止められましたよ!」

「それはどうかな?」

 

受け止められ、安堵している二人に首を少しかしげながらそう言い、ザングラソードのトリガーを引いた。

 

ヒッサツオウギ!

「「なっ!!」」

「怪桃乱麻!!」

アバタロザン!

「はぁ!!」

 

エネルギーを刃に纏ったザングラソードを勢いよく振り、間合いに入っている二人を断ち切った。

 

「ぐあぁーー!!」

「うわぁーーー!!」

 

それぞれが叫び声を上げて爆発に巻き込まれ、煙が晴れた頃には二人とも満身創痍だった。

 

「勝負あり…だな」

 

満身創痍でぐったりとしている聖騎士の二人を置いて他を見ると、それぞれ勝負がついており、どこもテンペスト(こっち)の勝利のようだ。

後はリムルとヒナタの勝負を見守るだけ、リムルは刀を構えており、一方のヒナタは六つの羽を生やしていた。

何だあれ?

 

《解。聖霊力を具現化した対魔に特化した聖属性の武具です。》

 

なるほど

智彗之王(ラファエル)さんの解説を聞きながら、二人の勝負の行方を見守ることにした。

二人はこのままだと埒が明かないと判断したようで、ヒナタが放つ必殺技をリムルが受け止めれるか、止めれないかで勝負をつけるようだ。

 

「神の祈りを捧げたてまつる…我の望み、聖霊の御力を欲する…我が願い聞き届け給え……万物よ尽きよ」

 

魔法の詠唱を始めたヒナタは、左掌の上に作り出した魔法の塊を剣に付与した。

 

「覚悟はいいかしら?」

「ああ、来い!」

 

リムルの言葉を聞いたヒナタは、一瞬でリムルとの間を詰めて剣先でリムルを刺そうとした。

 

崩魔霊子斬(メルトスラッシュ)!!」

 

ヒナタが放った必殺技、それをリムルは微動だにせず受けた。

爆音と共に砂煙が立ち込め、煙が晴れるとそこには無傷で立っているリムルが居た。

恐らく、暴食之王(ベルゼビュート)で捕食したのだろう。

 

「ふふふっ…あははははっ!…すごいね君、あの状況でワザと受けたのね?」

 

技を受け止められたヒナタは笑い出しリムルを褒めたのだが、一方のリムルは何のことかわかっていない表情だった。

智彗之王(ラファエル)さん?

 

《解。なんでしょう?》

 

リムルにワザと当たるように言ったね?

 

《……。》

 

おい!

図星なのか、智彗之王(ラファエル)さんは何も言わず黙り込んでしまった。

まぁ、何がともあれ、ようやく話し合いができる空気に…

ひと段落だと思い込んだ時、リムルの背後に刺さっていた剣の柄の部分から魔力を感じ、竜のような頭の口が開いたと思えば、そこから光線がリムル目掛けて放たれた。

 

「リムル!!」

 

万能感知があるはずなのに、気づいていないリムルに注意しながら俺は前に出て身代わりとなったが、光線の貫通性が高いのか、光線は俺の身体を貫通した。

不味い!

そう思ってリムルの方を向くと、光線はリムルを押し飛ばしたヒナタの胸を貫いた。

 

「エムル大丈夫か!?」

「…俺より、ヒナタだ!」

 

光線が貫いた所を抑え再生しながら、重症のヒナタの方を向いた。

 

「ヒナタ様!!」

「…完全回復薬(フルポーション)が効かない…」

 

完全回復薬(フルポーション)をかけてヒナタの傷を癒そうとしたが、効いている様子はなかった。

聖騎士達がヒナタの元に集まる中、ベニマルと戦っていた聖騎士が

 

「ヒナタ様は、魔法への高い抵抗力があり、それ故に魔素を介する魔法や薬は通用しません!」

 

聖騎士は完全回復薬(フルポーション)がヒナタに効かない理由は体質故だと教えてくれた。

 

「それなら、神聖魔法なら効くだろ!ぼさっとするな!!」

「リティス!治癒魔法を!!」

「は、は…え?」

 

リティスと呼ばれる女性の聖騎士が神聖魔法でヒナタを治癒するために、歩き出した時だ。

 

「な、なんだこれ!?」

「はずれぬ…!」

 

聖騎士達に光の輪のようなものが拘束し、身動きが取れないようになった。

 

「…リムル様、エムル様…」

「ああ…」

「何か来る」

 

空間が歪み、そこからローブで全身を隠している者が三人現れた。

 

「魔王リムルよ…お初にお目にかかります……我らは七曜の老師と申す者…この度は違反を行った……ヒナタ・サカグチを始末しに参りました」




間違えて長編の方に投稿していたため、投稿しなおしました…


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