ラブライブ! 〜出逢いのキセキ〜 (Plime)
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序章、それは物語の始まり

「おはよう、プロデューサー。なにみてるの?」

 

朝、事務所でディスクに座りながらとある資料を読んでいると後ろから声がかかった。

 

「あぁ、おはよう。」

 

資料を読むのを一時中断し、振り向きながら挨拶をする。

そこに立っていたのは、今をトキメくウチの事務所の筆頭アイドル、渋谷凛だった。艶のある黒髪を腰まで伸ばし、耳にはピアスを開けている。高校の制服に身を包み、その表情は少し気怠げで不良のように見える。

しかし、彼女の瞳には見る者全てを惹きつける魅力があった。その魅力は数多のアイドルが群雄割拠しているこの時代においても、輝きが失せることはなく、新進気鋭の人気アイドルユニット、『ニュージェネレーション』の一角を担うに十分足るものだ。どこかのメディアが、彼女の瞳には『蒼い炎』が灯っている、と発言していたが、たしかにその通りだな、と感じた。

 

「ところで凛、まだ仕事にはだいぶ時間があるけど?」

 

そうなのだ。凛の今日の仕事は昼過ぎから。しかし今の時間は昼を回るまでにあと3時間は必要。どう考えても早く来すぎだ。

 

「いいじゃん別に…。」

 

視線を俺から、フイッ、っと逸らし凛は呟く。

 

「しかしだなぁ、プロデューサーとして担当アイドルの体調管理も業務の一貫なんだよ。」

 

そうなのだ。なにを隠そう今、目の前に立っているアイドル戦国自体においても、なお輝き続ける渋谷凛と、そんな彼女に負けるとも劣らない2人のアイドルとで構成されるアイドルユニット、『ニュージェネレーション』の担当プロデューサーが、俺なのだ。

てかぶっちゃけ、この事務所のアイドルは全部自分が担当している。ブラックすぎる。

 

「そ、そんなことよりっ!それ、なに?」

 

凛が俺の手にある書類を指差しながら声を荒げる。話を逸らしやがった。あとで説教だな。

しかし、この書類のことを話していいものか躊躇う。

実は前々からアイドルたちに話す機会を伺っていたのだ。だがタイミングを計っているうちにズルズルと言えないでいた。決して、ヘタレなどではない。

でもまぁ、そろそろ頃合いだな。書類に記載している内容の実行日もすぐそこだ。

 

「なあ凛、落ち着いて聴いてくれよ。この書類はな俺のてんkーーー」

 

ガチャ!

 

「おはようございまーす!」

 

凛にこの書類の内容を告げることはできなかった。なぜなら、事務所の玄関を開け、侵入してくる人物がいたからだ。まぁ、この時間に出社してくる人なんてだいたい予想はつくが。

 

「おはようございます、ちひろさん」

 

侵入者にそう告げる。するとロッカールームに荷物を置いてでてきた彼女が姿を現す。

 

「おはようございます、プロデューサーさん。相変わらずいつもお早いですね。」

 

俺の挨拶に、髪を後ろで一本の三つ編みにしたアイドル並みに美しい女性が返事をくれる。彼女は千川ちひろさん、このアイドル事務所の事務員、CGプロダクションになくてはならない存在だ。

 

「なんで事務員の私より早いんですか……もう。ってあら?今日は凛ちゃんも早いんですね。なにかありましたっけ?」

 

ちひろさんが俺の側に立っていた凛に気づき、予定を確認してくる。でもねちひろさん、凛の仕事まであと3時間以上あるんですよ…。

 

「あら、そうなんですか?でもそれならちょうどよかったじゃないですか。」

 

「なにがちょうどいいんですか?」

 

まったくもって心当たりがないので、質問する。

するとちひろさんは、俺の手にあり、今ちょうど凛に追求されていた書類を指差し、

 

「それについて、アイドルのみんなに話すことが、ですよ。」

 

笑顔でそう告げた。



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STAGE 1 始まり、それは突然の転勤

「ぇ、ちょっと多くないですか?」

 

「あたまりまえですよ。なんせウチの所属アイドルほぼ全員ですもの。」

 

ついつい口から零れた言葉に、美しすぎる事務員、千川ちひろはさも当然のように返す。

現在は午前9時ちょっと前。場所は我がCGプロの事務所。登場人物は、1,2,3,4,5,……、数えるのが面倒なくらいいる。さっきちひろさんが言ったようにどうやらウチの所属アイドルの大半がいるようだ。こんな日曜の朝からよく集まったものだ、と感心する。

 

「みんなには、プロデューサーさんから重大発表かがある!って連絡しましたから、当然です。」

 

しれっと言い放つ事務員。なにが当然か分からない。

ちなみに、今来れてないアイドルたちは、地方でロケがあったり、ジャングルで野生の動物たちと追いかけっこしちゃったりなんかしている。ゆえに、いま事務所に来れているアイドルは8割くらいである。それでも100人をゆうにこえる。

 

「でもなんでこんな時間からなんですか?」

 

当然の疑問だ。今日仕事が入っている娘ならまぁ事務所で時間を潰せるが、入っていない娘なんかはただの早起きである。わざわざ事務連絡の為に来てもらって、正直申し訳ない。

 

「はぁ…、これだから朴念仁は…」

 

ちひろさんの口からため息が漏れる。そんなんじゃ幸せが逃げますよ?

 

「誰のせいですかっ、誰のっ!」

 

「そ、そんな大声ださないで下さいよ!」

 

急にちひろさんが大きな声を出すので、ビックリした。

 

「す、すみません。それで、なんでしたっけ?こんな早くからみんなに来てもらった理由でしたっけ?それはもう、もちろんありますよ。ありまくりですよ。」

 

どうやらちゃんと理由はあるらしい。よかった、これでみんなから怒られることはないだろう。

 

「それでは改めまして、んっん″っ。プロデューサーさんにはみんなへの報告が終わったあとに、一足先に転勤場所に言って、先方に挨拶にいってもらおうかと思いまして。」

 

なぜだか咳払いをし、気持ち声を大きくして理由を述べるちひろさん。しかしこのちひろさんの発言を目ざとく聴いていたアイドルたちから驚きの声があがる。

 

「えっ、プロデューサー辞めちゃうのっ!?」

 

なかでも一際大きな声が響く。

声をあげたのは、この事務所でも古株であり、筆頭アイドルユニットでもある『ニュージェネレーション』のひとり、本田未央である。

肩まで伸びた栗色の髪は彼女の元気さを象徴するかの様にハネている。その瞳にはやる気の炎がいつでも燃えており、何事も全力勝負で挑む。とても人懐っこく、まさに天真爛漫を地でいくアイドルだ。ニュージェネの中でも遅咲きだったのだが、いまはそんな苦労を微塵も感じさせない明るさでアイドル活動をしている。

 

「辞めはしないよ。ただ、まぁ?なんていうか、期間限定移籍?みたいなのかな。とりあえず帰ってはくるさ。」

 

正直、アイドルのプロデューサーが転勤なんて言うのもおかしい話だ。しかしこの事務所で一番偉い社長からの命令なら従うのが当たり前である。

 

「期間限定でも、プロデューサーさんは事務所を離れちゃうんですよね!その間私たちのプロデュースはどうするんですか!?」

 

未央に続いて物申したのは、これまたニュージェネ3人娘の一人、島村卯月だ。

渋谷凛のように長い髪をしているが、ストレートではなく、ところどころクセっ毛がある。彼女のもつ雰囲気はとても柔らかく、優しさにみちている。誰かが、島村卯月は普通だ無個性だ、なんて言っていたがそれは大きな間違いだ。彼女には彼女しかできない、『笑顔』がある。全ての人を惹き込む武器が彼女にはある。その武器はアイドルにとって何よりも価値のあるものだ。

しかしまぁ、流石古株中の古株、我がプロダクションの最初のデビューユニット、ニュージェネレーションだ。一緒に過ごした時間も長いので意見をズバズバ言ってくる。こうなるのがわかっていたからアイドルのみんなへの報告を渋っていたのだが……。

 

「あぁもう!分かったから!全部説明するから!」

 

一つ一つ質問に答えていくのより、自分から全員に全部話すほうが確実に楽だと判断した俺はみんなの前へ出る。

 

「聞いていたやつがいたとも思うが、もっかい言うぞ。俺はとある学校にとある目的をもって転勤することになった。でも、社長曰く期間限定らしいから戻ってくる。あと俺が不在の間は、真奈美さんと留美さんにプロデュース業務を任せようと思う。二人ともいまは地方業務にでかけているが、明日には帰ってくる。二人にももう確認をとっているから安心してアイドル活動に専念してくれ。」

 

真奈美さんと留美さんとは、この事務所に所属しているアイドルだ。二人とも年齢が俺に近くしっかりしているからみんなも心置き無くアイドルできるわけだ。これでみんなの心配ごとも消えて、俺もみんなに笑顔で送り出される。ちなみに、この事務所には二人以外にも大人のアイドルは所属しているだが、如何せん、25歳児やあまり頼りにならないお方ばかりだ「分かるわ」。おい誰だいまの。

 

「まぁ、帰ってくるのらいいよ。笑顔では無理だけど、送り出してあげる。」

 

凛が言う。笑顔がいいんだがなぁ…。

 

「ところで、プロデューサー?ある目的ってなに?」

 

やはり凛は凛だ。核心を突いた質問をしてくる。だてにニュージェネとトライアドを兼任しているだけはある。

だがまぁ俺も俺で確実にこの質問が来ると予想していたので、用意していたセリフを口から放つ。

 

「ある学校とは、音ノ木坂学院。ある目的とは、そこでスクールアイドルのプロデュースをすることだっ!!」



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