クラス最弱地位の俺が異世界転生して、クラス最強になる俺物語 (渡月 夢幻)
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〜第一章 転生〜

   〜第一章 転生〜

 

 「俺は一体・・・」

この一言から俺の新しい物語が始まった。いわゆる、異世界最強への旅ってことだ。まぁここに至るまでの話を知らなきゃ俺のことは知らないはずだし、少し語るとしよう。俺のことを!

 

  〜令和四年 六月七日 火曜日〜

俺はいつも通り、五時四十分に目を覚ました。まぁ飼っているインコの鳴き声でだけど。俺は眠くて目がほぼ半開き状態だったけど、まぁ何となく身体をリビングへと思い動かした。脳はほとんど働いていないから、いわゆる、オートモードって感じかな。六年間身体に染み付いた感じの。そうだ俺のことなんにも説明してなかった!

俺は、中山翔太。高校二年生。二年四組二十七番の!っても、クラス地位最弱なんだけどね。あははは・・・。なんでこんなに元気なのに、クラス地位最弱かだって?そりゃーもちろん理由はある。しかも一言で言える。それは、「陰キャ友達無しすみっコぐらし」だからだよ!・・・あぁ悲し。とまぁいつもこんな感じです。心の中では。

 「翔太〜ご飯だよ!早く起きな!」

と、ルーティーンと呼べるぐらいの朝行事が始まった。俺はしゃーないって思いつつ、いつものようにベットに留まる意識を根こそぎ剥がそうとした。やっと剥がせたのは母親に呼ばれてから五分後の事だった。急いで自分の部屋のドアを開け、階段を超高速で駆け下り、リビングについた。これだけでもうトレーニングじゃねぇのか?と毎日思ってる。そんなことを考えていると、親はいつも通り朝ごはんを準備して「早くしろ」と言わんばかりにこっちを見ていた。俺は急いで顔を洗って、自分の椅子に座った。今日の朝ごはんは、トーストした食パンとスクランブルエッグ、そして、レタスが異様に多いサラダだ。俺、あんまレタス好きじゃないのに・・・まぁ出されたもんは食うしかねぇしな。と、自分の心に秘めた家訓のようなものを蘇らせ、食事を始めた。味はまぁ、いつも通りだ。何一つ変わらない家の味。可もなく不可もない、俺の日常の味。黙々と食べ進めるとほんの二十分程で完食した。うん、今日も美味しかったなぁ。レタスは例外だけど・・・。変な心残りを感じたところで時刻は六時十分だった。「あと二十分で家出なきゃなぁ」俺は少し急ぎめに階段を駆け上がり、自分の部屋に飛び込んだ。部屋に飛び込んでからは制服に着替えたり、今日の持ち物チェックしたり、そして寝癖がないかを確認したりした。少しバタバタしてた俺はいつも学校に持っていくバックから何か封筒を落とした。そう、身に覚えの無い封筒だ。色は青色で珍しい封筒だ。しかも差出人も不明だし、昨日学校から帰って来る時にクラスメイトの誰かの物を俺が持って帰ってきたのかもしれない。色々な不安を抱えながら、誰のものかを確認すべく封筒を開けた。封筒を開けると何やら魔法陣のような紋章が書いてあった。そして、その右隣には「拝啓、中山翔太様」と書いてあった。手紙を開けてこの文章を見たがやはり記憶がない。誰に貰った?誰が俺に?などと色々な憶測が飛び交った。だから俺は手紙を最後まで読むことにした。しかし、時刻を見るともう六時二十八分だ。仕方なく、その手紙を封筒にまた戻し、カバンに入れた。もちろん、学校に着いてからじっくり読むためだ。陰キャな俺には暇な時間が沢山あるし。とりあえず部屋を出て、階段を下り、玄関へと向かった。親は食器を洗っているので、親に聞こえるぐらいの声量で「んじゃ、行ってきまぁす」と言った。親はそれを聞き取り、流すかのように「行ってらっしゃい。」といった。俺は玄関を出て、徒歩十分の所にある、駅に向かった。歩いている途中でも、あの手紙のことが気になって仕方がなかった。色々予想を立てたりしたものの、やはり答えにはたどり着かなかった。そんなことをしている内に駅についた。俺が乗る電車はいつも六時五十八分の各駅停車の電車だ。時間は六時四十二分。まだ少し時間がある。俺は改札近くの自動販売機に向かった。俺は躊躇なくお茶を選んだ。まぁ毎回恒例だからね。ほんの数分で買ったので、時間はそんなに経っていなかった。俺は改札口へ向かった。いつも通りだ。定期を改札へ通し、通過する。階段を下り、四番線へ向かった。四番線に到着するとそこにはたくさんの人がいた。駅の隅から隅まで全て人で埋め尽くされている。それもそうだ、この朝の通勤ラッシュ中駅が空いている事なんて滅多にないのだから。俺は急いで少しでも人だかりが少ないところを選び、並んだ。学生はもちろん、スーツを着たサラリーマンが大多数を占めている。数分後、電車が駅のホームについた。ドアが空くと、電車内からどんどん人が降りてきて階段を登って行った。電車内が少し空になり、降りてくる人も居なくなると、先頭になっていた人が電車内へ乗り込みを始めた。それに続きどんどん、どんどんと乗り込む。また、数分経つと電車内は飽和状態と化した。そんな中、俺は何とかドア付近に立つことが出来た。乗り込みが完了し、定時になると電車は音を鳴らし、続けざまにアナウンスが流れた。

「四番線、ドアが閉まります。ご注意ください。」

と。ドアが閉まり、電車が動き始めた。俺はそれに十五分ほど揺られながらボーッとしていた。そして、ボーッとしている時にふと思い出した。そう、あの謎の手紙のことだ。続きを見る余裕がなく途中で断念したが、今になるとものすごく気になってしょうがない。だが、ここは電車の中。しかも、満員だ。気になる欲求をグッと堪えつつ、電車が駅に着くのを待った。十五分後俺はようやく駅に着いた。俺はドア付近に立っていたのですぐに降りることが出来た。階段を登って、改札口に定期をかざし駅をあとにした。俺の通う学校は、駅から徒歩約十分のところに位置している。学校へ向かう途中にたくさんの学生の集団と合流した。まぁ、この時間帯に着く電車は多いからだ。しばらくすると、俺の通う学校が見えてきた。校門を見ると朝のあいさつ運動を生徒会諸君と先生が行っていた。俺は陰キャなので当然人とのコミュニケーションが苦手で、今日も人混みに紛れてあいさつ運動を回避することに成功した。回避し、足早に昇降口に向かい、靴を上履きに履き替え、自分の教室がある三階へ向かった。三階へつき、角を曲がり、二クラス分通り越すと俺が所属する二年四組だ。ドアを開け、クラスに入った瞬間俺より先に来ていたクラスメイトがこちらをじっと見ていた。・・・いつもと違う。そう思った。何故かと理由を考えていると、一人のクラスメイトがある封筒を持ってこちらによってきた。すると、

「ねぇ、翔太くん。これ、君の仕業?ふざけないでくれるかな?」

と言ってきたのだ。彼女は佐久間 鳳香。出席番号十一番の女だ。気が強く、少し嫌味がある女だ。そして、何かと情熱的で俺とは正反対の奴だ。確かに、俺は陰キャですみっコぐらしだからって言っても俺にはそんなことをする気力がない。むしろ、そんなことをしたらクラスメイト全員を敵に回し、より一層居場所が無くなるからだ。俺は慌てて、誤解をとこうとた。しかし、根拠になるものを持っていない。どうしよう。と思い、手をポケットに入れた瞬間ある物を掴んだ。そう、封筒だ。しかも、よくよく考えると、鳳香が持っている封筒とよく似ている事に気づいた。そして、

「あの、佐久間さん・・・。ぼ、ぼ、僕も同じ封筒を持っているんだけど・・・。」

と、取り出してみた。すると、鳳香は驚いた。いや、どちらかと言うと呆れていた。

「はぁ・・・。翔太くん、翔太くん本人も持ってるからって被害者ズラしようとしてんの?信じられないんだけど!そうやって、周りの人を悪くして自分は無関係だって言いたい訳?頭に来るんだけど!これだから、陰キャは。」

と、思いつくままに俺に向かって暴言を吐いた鳳香はスタスタと自分の席へ戻って行った。一難去って、一安心した俺は自分の席へ着いた。俺の席は窓側から二列目の一番後ろ、隣は出席番号三十三番、李城 来夏だ。彼女はみんなからも人気者でとても優しい人だ。この俺にも優しくしてくれる。しかし、彼女、李城 来夏よりも人気な女の子がいる。それは俺の幼馴染の宇佐美 由姫。出席番号四番である。俺は由姫のことが好きだ。幼稚園から一緒で、ずっと、ずっと一緒にいた。彼女のことを一番知っているのは、自分だと誇りを持って言える気がするのだ。俺は今日、彼女に告白する準備もできている。彼女とは一緒にいたい。彼女は、俺の事をいつも一番に優先してくれた。俺は陰キャなのに・・・。だから俺は告白して今までの生活を変えようと思う。そして!・・・。

「ガラガラガラ・・・」

と、ドアが開いた。すると、この世のものとは思えない天使のような彼女そう、宇佐美 由姫が登校してきた。みなの視線は毎度彼女に集中し、男子はベタ惚れ、女子は「可愛い」や、「綺麗」と言った言葉で毎日が賞賛の嵐である。すると、

「みんな、おはよう。」

と、美声が響き渡る。まるで白鳥が空へ飛び立つかのように。彼女は一直線に俺の方へ向かってきた。俺は毎度のことながら、彼女にベタ惚れしていたので、彼女が俺の近くに来ていることに気づいていなかった。しかし、隣の席の来夏が俺の肩を叩いてくれた事で現実を理解した。彼女は俺の真ん前にいる。近くで見るとより可愛い。と言う余韻に浸っている暇もなかった。すかさず俺は、

「おっ、おはようございます。えっと、宇佐美さん。」

「おはよう〜翔太くん!今日も寝癖ついてるよ。」

と、笑って俺の寝癖を指摘してくれた。笑ってる顔も可愛い。この笑顔をずっと見られれば良いのに・・・。と思っていたら、学校のチャイムが全クラス中に響き渡った。すると、たちまち皆は自分の席へ着席し先生が来るのを待っていた。そんな中俺は朝からしようと思っていたことを実行した。自分の机の脇にかけたリュックの中から、あの手紙を取り出した。すると、中には・・・

「拝啓、中山翔太様。お初にお目にかかります。私は神でございます。貴方にこの手紙を送った理由、それは世界を救うためです。もちろん貴方以外の方も招待しております。それはもちろん、貴方のクラスメイト達です。なお、この手紙はクラスメイト全員に送付されています。きっと、楽しい異世界ライフを送れるでしょう。詳細は向こうの世界に着いたら説明されます。時間は令和四年六月七日。午前八時二十分でございます。それではご武運を。」

「えっ?・・・。」

俺は悶絶した。焦りが止まらない。急いで時計を確認しようとすると、午前八時十九分四十八秒。俺は咄嗟に来夏に訴えた。

「来夏!早く逃げよう。」

「ちょっと、いつも大声を出さない翔太くんがいきなりどうしたの?みんな、こっちみてるよ。」

残り五秒。

「この手紙が・・・」

そう言いかけた途端、目の前が真っ白になった。空白の時間が流れている。さまよっている感覚がした。

「奥に光が・・・」

手を伸ばしてつかもうとすると、いきなり空白の時間から振り落とされた。当たりを見渡すと、クラスメイトが横たわっていた。どうやら、一番に目が覚めたのは俺らしい。

「俺は一体・・・」

そうつぶやくと

「おぉ!我が君よ。神の言い伝えによる異世界召喚魔法とやらが成功いたしましたぞ。これは我国にとって利益になるものかと。」

その声の主はどうやら四十代半ばの男性らしい声だ。その声のする方を見ると、

「おはようございます。召喚されし者殿。我はこのラザミール王国の王直属の近衛騎士団、騎士団長を務めている、グリフォン・クラヴィスというものです。」

「あっ、えっと・・おはようございます。グリフォン殿。えっと、私は中山翔太と言います・・よろしくお願いします。」

少々たどたどしい挨拶になってしまった。

「貴方は、中山殿というのですね。私達の勝手な召喚に応じていただき誠に感謝しております。」

「えっと・・貴方は?」

「大変申し訳ございません。私はこのラザミール王国第一王女のエキドナ・ラザミールと申します。」

「・・・。王女様?」

「はい、王女様です。」

「・・・。えぇ!?」

と、思わず奇声を上げてしまった。俺は咄嗟に

「えっと、只今の無礼お許しください。私は中山翔太と申します。えっと、本当にごめんなさぁい!」

と、俺は深々と土下座した。すると、

「気にしておりませんので、どうか頭をあげてください。本当に面白い方ですね。」

と、微笑していた。彼女は、金髪で顔立ちがよく、特に鼻が高い。それでもって、王女様という身分もあるのかとても、スタイルが良かった。ざっと、十九歳ぐらいだろうか。

「あれ?・・ここはどこ?・・。」

と、次に目を覚ましたのは俺の席の隣の来夏だった。

「来夏さん、ここはえっと・・異世界です。」

「はっ?・・翔太くん、頭おかしくなった?」

「いえ、本当に異世界です。周りみてください。」

「うーん?・・・えっ?マジで?」

「はい、マジです。」

「・・・。えぇ〜!」

と思わず彼女は発狂してしまった。その反動でほかのクラスメイト達も起きてしまった。

「おい、どうした。来夏何叫んでんだよ。」

「あっ、冬馬起きたの?えっとね私達異世界召喚されちゃったみたい・・・。あはは」

「おい、冗談はよしてくれよ。俺とお前の仲だからといって異世界なんて冗談ある訳・・・。えっ?」

彼は出席番号二番の阿部冬馬。彼はクラスでも率先的で頼り甲斐のある「ザ・リーダー」って感じの奴だ。すると、ほかのクラスメイトたちも続々と起きてきて、今の現状を把握した。そして、今俺らがいるのは王宮の西端にある召喚大広間だと言う。すると、

「あの、エキドナ王女様。私たちは元の世界に帰れるんですか?」

来夏が質問した。すると、奥から声がした。

「それはワシが説明しよう。」

「あっ、お父様。」

エキドナはそう言って一礼した。

「異世界から召喚されし者よ。わしは、この国の王であるグレリオ・ラザミールじゃ。率直に言うと、今のままでは帰れないだろう。何故なら、この召喚には条件が存在するからだ。」

「条件?・・・条件ってどんなものなんですか?」

「うむ。条件はこの世界の魔王を主らが討伐することだ。」

そう、グレリオ国王は告げた。クラスの連中は唖然とし、中には恐怖を感じている者もいた。理由はもちろん《死》この一択だろう。自分だって死ぬのは嫌さ。死んだら何も残らない。そう思っていたその時、

「案ずるな。異世界から召喚されし者よ。まずはこの紙切れに触れてくれ。」

そう言って、一人一人に何の変哲もない紙切れが渡された。すると、突然みんなが手にした紙が光出した。驚くまもなく、その紙切れはステータスプレートのようなものへと変貌した。すると、冬馬のカードはまた更に光始めた。そして、

「阿部冬馬。職業・勇者。属性・水・風・光。Lv118。スキル・勇者の加護(英雄級)ホーリーグリッター(光)神風刃(風)彗星の怒号(水)」

と表示された。すると、国王であるグレリオがせっせと冬馬に近づいて、

「貴方様が勇者であったか。これは誠にありがたい。」

と、冬馬に国王を筆頭に深々と頭を下げたのである。冬馬は今の現状に少し焦りつつも

「グレリオ国王。我々がこの国に持てる力を全て総動員して、魔王を討伐致します。」

彼はここでも、個性であるリーダーシップを発揮して、この国に全力で力を尽くそうと決意した。すると国王は

「ありがとうございます、勇者殿そして、皆様方。では、東棟にある食卓の間で今のこの国の現状と世界の現状について食べながら説明したいと思います。」

そして、みなは、ステータスプレートを片手に東棟へ移動した。その途中で、俺は来夏にこう聞かれた。

「ねぇ、翔太くん貴方のステータスってどんな感じなの?」

「えっ?あぁ〜僕。僕はその・・・。」

と恥づかしがりながらステータスプレートを彼女に見せた。すると、彼女の近くにいた出席番号一番の安嶋俊介に

「えっ?お前のステータス雑魚すぎね?」

その安嶋の声に一番に反応して、出席番号十四番の鈴木昂河がやってきて

「ホントじゃん!うわぁ流石陰キャ翔太だな」

と嘲笑っていた。それもそのはず、俺のステータスプレートは

「中山翔太。職業・鑑定士。属性・無。Lv14。スキル・図書館。」

だからだ。

「もう、俊介君も昂河君も翔太くんの事あんまりいじめちゃダメだよ!」

そう言って俺らの会話に介入してきたのはクラスの女神である宇佐美由姫だった。彼女の姿を見た瞬間二人ともメロメロになり、ホンワカした返事をしてその場を去っていった。由姫は、

「翔太くん心配しないでね。私が翔太くんの事しっかりサポートしてあげるからね!」

と、一言言って俺の前を去っていった。俺はその優しさに酔っていた。とまぁそんなことをている間に、東棟の食卓の間に到着した。各々食事をする席へつき、国王再来を待った。俺は幸運な事にも隣の席に座っていたのが、由姫だった。俺は己の力を振り絞って彼女に話しかけた。

「ねっ、ねぇ。由姫さん。由姫さんのステータスプレート見せてもらってもいいかな?」

相変わらず、コミュ障が治っていない。俺は情けないと少し反省をしていると、

「もちろん、いいよ!ちょっと待っててね。・・・。はい、これだよ!」

と、にこやかに由姫は俺にステータスプレートを見せてくれた。彼女のステータスプレートは

「宇佐美由姫。職業・魔術師。属性・光。Lv71。スキル・ホーリーレイン(上級)ライトブレス(中級)」

と、表示されていた。やはり、現実の体力やらなんやらが影響しているのかと思った。そんなこんなを考えているうちに国王グレリオは堂々たる姿で俺らの前に現れた。

「異世界から召喚されし者たちよ。ここに集ってくれたことを感謝している。さて、今我々の国ラザミールは危機に陥っている。何故ならば、この人々の暮らす領地が魔族によって脅かされようしているからだ。少し、昔の話になるが付き合ってくれ。百年ほど前、世界には五人の王がいた。○○王、魔王、妖精王、竜王、そして人の王。だが、このうちの一人○○王が忽然と姿を消しおった。彼はこの世のものとは思えぬほど強く、いわば神のような存在だった。しかし、その○○王が姿を消したことにより、○○王は長くに渡り空席となっていて、王族間の均衡が崩れ、最も強かった魔王がこの世界を支配しようとしていた。眷属である魔人、魔族、魔物も暴れだし、各地で出没し始めた。そこでそれに立ち向かうために各種族で対策を練っていた。その中でヒューマンは神の力を行使し、異世界召喚術という神のみに許された秘術により地球のあるクラスを転生させた。という訳じゃ。ここに集いし者たちよ今一度我々を救ってくれることに感謝いたすぞ。」

と、国王グレリオは再び深々と頭を下げた。その直後、後ろから二十代くらいの若くて通りのいい声がした。

「グレリオ国王。この方々が例の?」

「あぁ。そうだ。我々の国を支えてくれる人々だよ。」

「なるほど。つまり、この中の勇者を私が鍛えれば良いのですね。」

と、自信ありきの声で国王に申し出たのは・・・

「そういえば、君たちにまだ名前を言ってなかったね。私は、宇宙の十新星(コズミック・ノヴァ)、第一の席 ディアブロ・フェルナンデスだ。皆、よろしくな。」

「あの・・・。宇宙の十新星(コズミック・ノヴァ)って何ですか?」

俺はふと思ったので、そのディアブロさんに聞いてみた。

「あぁ〜宇宙の十新星(コズミック・ノヴァ)ね。宇宙の十新星(コズミック・ノヴァ)って言うの人の国で最も強い十人の魔術師や呪術師のことを指すんだ。俺はその中で一番強いそして、称号・太陽(サン)の持ち主だ。」

「称号?」

皆が疑問に思った。頭上に「?」が浮かんでいるのがよく分かるぐらいに。それに気づいたディアブロは

「じゃあ、少し称号についてするね。称号とはこの世界を司る神が随時我々に進呈してくるものなんだ。だが、称号を渡されるのはある条件をクリアする必要がある。だが、それについて詳しく知るものは居ないんだ。称号の獲得条件は人によって違うかもしれない、それとも一定かも・・・。だから、君たちには全力で俺の修練を受けてもらう。そして、強くなって魔王を討伐しよう!」

この心づよい鼓舞により、クラスメイト全員やる気であふれていた。そこから俺たちは、コズミック・ノヴァの第一の席であるディアブロさんの指示の下、修練を行った。これは約二年ほど続いた。その修練中には、コズミック・ノヴァ第五の席リーゼロッテ・ベルモント称号・冥王星(プルートー)、同じく第八の席ラーハルト・ファレル称号・火星(マーズ)という方々にもお会いした。第四の席であるリーゼロッテさんは、闇属性の呪術を得意としている。そして、第八の席であるラーハルトさんは火属性魔法を得意としていた。そして、俺たちの能力は格段に飛躍した!はずなのだが・・・。

「おい、見ろよ〜お前ら〜!翔太は二年前とほとんどステータスが変わってないぜ!しかも、固有スキルの図書館が大図書館に進化したのに、持ってるもの全然変わってねぇ〜んだけど!」

と、言い始めたのは俺の事を嫌っている俊介と、昴河だった。

「いつもの事だな」

俺はいつもそう思っていたが、今回は気が少し変わっていた。《悔しい》たった一つの単語が頭に浮かんでいた。ふと俺は殴りかかった、俊介と昴河に。そう、《怒り》だ。だがしかし、決着はものの数秒で決まった。そう、俺が完敗した、一振されて。すると、周りに居たクラスメイトのほとんどが、

「やっぱり、俊介君と昴河君は最強のペアだよね!」

「二人に一人で勝負をしかけた翔太くんダサすぎでしょ。しかも不意打ちしても勝てないなんて。」

「やっぱり、二年前から一切成長してないね。」

と、クラスメイトは口々に言った。罵倒が続く。俺は成長していない。また、クラスの底辺に逆戻り・・・人生を謳歌するための異世界召喚じゃない。変わらないこの現状を再認識する為の異世界召喚だったのかもしれないと脳裏をよぎる。絶望を味わうのはもう懲り懲りだ。そう思った。ふと、顔を上げ目の前を見ると、一本の剣が地面に突き刺さっていた。これはさっき不意打ちした時に落とした剣だった。

「死のう・・・。」

やはり、変わることの出来ない俺にはこの道しかないと、ゆっくりゆっくり、剣の刺さっている方へと向かった。誰も気づかない。もう必要ないのだと思っていた。

俺は剣に手をかけ、喉元に刺そうとすると、

「翔太くん!ダメー!」

その一言が聞こえた。誰の声だ?何故俺を止める?そう考えといたら手元に剣は残っていなかった。剣はどこは?当たりを見渡すと、剣を持っていたのは由姫だった。

「翔太くん、死んじゃやだよ。私は翔太くんの事ずっと信じてる。だから諦めないで!翔太くんのサポートなら私がする。何度失敗したっていい、私はずっとずっと翔太くんの味方だから。」

「由姫・・さん・・。」

思わず、心の底からの気持ちを吐いてしまった。次の瞬間、由姫は俊介と昴河に近づいて

「二人も翔太くんの事、いじめないでよね!」

はっきりとふたりに告げた。

「悪ぃ、由姫。俺らも本気じゃなかったんだ・・・。許してくれ。」

「そうだ!お詫びとして、俺らのパーティで翔太のレベルアップ手伝ってやるよ!だから、そんでチャラにしてくんないかな?もう二度といじめないと誓うから。」

と、二人は俺に畳みかけてきた。俺は渋々承諾した。理由は二つあった。一つは俺のレベルが上がること。多少上がる程度だが、みんなのサポートには回れるぐらいにはなるだろうと言うこと、そして二つ目は由姫さんを守れるくらい強くなりたいからだ。鍛錬の一貫であり、俺が由姫さんに近づくための一歩である。そんなこんなを考えていると、

「おい、翔太。明日の早朝五時半に出発だからな!準備しとけよ!」

俺は少し不安と期待を持ち明日に備えた。俺は自分の部屋に戻ってすぐ、明日の準備を直ちに行った。回復のポーション、短剣、地図、多少なりの食料、俺の大切な御守り、そして俺のスキル大図書館に活用出来そうな本を何冊かを自分のストレージに入れた。明日の準備も出来て、俺はすぐ寝床に着いた。

「明日はどんな一日になるんだ・・ろ・・。」

と、楽しみすぎていつの間にか深い眠りに落ちてしまった。

 〜翌朝〜

俺はふと、目を覚ました。時間は・・・五時十分だった。

「あっ、まずい。」

俺はそれに気づくのに少々タイムラグが発生した。俺は焦って朝食を食べて集合場所であるギルドへと向かった。全速力で走ったのでざっと十分程で着いた。時間は五時二十五分、ギリギリ間に合った。そして、

「ごめんなさい、遅くなって・・はぁ、はぁ」

と、俺は息を切らしつつ、みんなに謝罪した。

「まぁ、時間に間に合ったんだから良いんじゃない?」

由姫はそう言ってみんなに許しを乞いた。それを聞いて、俊介と昴河は頷き、俺の謝罪を受け入れてくれた。すると、

「今回の依頼は、ラザミール王国の北西にあるレストレージ山脈という場所に行く。ここは、魔族領に近いからゴブリンやらスライムといった下級魔物が出やすい。翔太はこれを倒してレベルアップを行うと共に、依頼である魔鉱石の採取を行う。俺らは翔太のサポートをしつつ、魔鉱石の採取を行う。それでいいな?」

と、依頼内容の確認を割って入ったのは、勇者となった冬馬だった。そう、なんてたって今日のパーティーメンバーは勇者の冬馬、魔術師の俊介、由姫、騎士の昴河、そして、鑑定士の俺だ。パーティーメンバーとしては申し分のない人達だ。俺らは早速、北西にあるレストレージ山脈に向かった。道中の移動はほぼ馬車であった。所々でレベル10から20ぐらいの魔物に遭遇したが、パーティーがパーティーなので余裕でくぐり抜けた。二時間もすると、俺らの目的地であるレストレージ山脈に到着した。そこは、広大な湖が広がっていて山の高さははだいたい富士山ぐらいある。俺らは早速レストレージ山脈内部に入った。ここからは魔物も多くなるため、先頭に勇者の冬馬、後方に騎士の昴河、間に挟まれる形で由姫、俺、俊介の陣形で山脈内の探索を開始した。山脈の奥に進むこと十分程が経過した。すると、もくもくとスライムが現れた。俺は冬馬の指示を貰いながら、自身の身を守るために記憶していたスキルの初級魔法の詠唱を開始した。

「火の力を纏いし球よ、今我が目の前の敵を穿て!ファイアーボール!」

そう言い放った時、目の前のスライムにヒットした。ファイアーボールがヒットしたスライムはたちまち、原型を崩して経験値やアイテムをドロップした。すると後ろにいた俊介が

「なぁ、翔太。今のファイアーボールの詠唱をもっと簡略化できるようにしようぜ?」

「詠唱の簡略化?」

「そう、詠唱の簡略化だ。そうだな・・・ちょっと見せてやるよ!詠唱の簡略化を」

そう言って、俊介は目の前の岩に向かって

「火の球よ、敵を穿て」

すると、術が発動して、俺より威力の高いファイアーボールが放たれた。目の前の岩にヒットすると、ドーンと音を立てて岩が崩れていった。

「すっ、すげぇ」

心の底から俺はそう思った。

「だろ?まぁお前も練習すれば、いつかは出来るようになるさ。」

そう、俊介は言った。再び歩き始めると今度はコボルトやバジリスクと言ったレベル20〜40ぐらいの魔物いわゆる、中級魔物が出てきた。俺にとっては脅威に近いものだが、パーティーメンバーがサポートをしてくれたおかげで倒すことが出来た。そして、俺の経験値は少しずつではあるが溜まっていき、気づくとレベル26に上がっていた。最初の時のレベル14からすると格段的に良くなった。俺がひとりで喜んでいると、魔鉱石の採掘地へ到着した。そこは今までの通路より広く、大きさ的には少し広めの公園と言ったところだろうか。俺は早速依頼書の魔鉱石の五袋分の採取に取り掛り、三十分程黙々と掘り続けた。冬馬から一旦集合の合図がかかり、集まって採取した量を確認すると、依頼書の魔鉱石五袋分よりも一袋分多く収集してしまった。

「ねぇ、みんな。一袋多く採った分は翔太くんにあげない?初めての依頼達成記念として!」

そう言ったのは、由姫だった。

「まぁ由姫がそういうんだったら俺は賛成だぜ。」

「うんうん、俺も賛成だ!」

「じゃあ、俺も」

と、立て続けに冬馬、俊介、昴河も賛成の意をしめたした。みんなが優しくしてくれるパーティー・・・。こんなに心地よいとは・・・冒険っていいな、楽しいなと俺は心の中で思い始めていた。すると、

「なぁ、お前ら!もうすぐ昼飯の時間だしここで作って食べよぉぜ!」

俊介はそう言って、自分のストレージから鍋と食料をと出した。俺も自分のストレージから食料を取りだした。みんなの材料を見るとカレーが作れそうだった。

「よし、カレーを作るか。」

そう話を切ったのは冬馬だった。冬馬は俺たちに指示を仰ぎ、着々と料理を作っていった。

「俊介!鍋の中に水を、そして薪に火をつけてくれ。由姫は野菜を切ってくれ。翔太は俺と食器の準備を、そして、昴河は・・・ゆっくり休んでてくれ。」

「おい、俺だけ休憩かよ!」

と、昴河はツッコんだ。その場は笑顔が溢れ、とても楽しいものとなった。ほんの二十分もするとカレーのいい匂いが空気中を漂った。

「お前ら!出来たから食おうぜぇ!」

「一番腹ぺこで躍起になって、食いたそうにしてんのは自分じゃねぇか、冬馬」

とまたも昴河はツッコミを入れた。みんなにカレーが配分されて各々で食べ始めた。

「なぁ、由姫。カレーにこのスパイス少しかけてみねぇか?美味しいぞ!」

俊介はそういい、由姫のカレーに少々のスパイスをかけた。由姫は、俊介のスパイス入りカレーを一口食べると

「えっ?なにこれ?すごく美味しいんだけど!」

と、呟いた。由姫は一心不乱に食べ続け、気がつくと食べ終わっていた。

「あぁ〜!すごく美味しかったよぉ!」

由姫はとても満足していた。俺らも食べ終わり、後片付けをしていた。すると、

「あれ?私・・・なんか眠くなってきた・・・。」

と、言い由姫はその場に横たわり眠り始めた。俺は冬馬たちに

「由姫さん、相当疲れていたみたいですね・・・。」

と、口を開いたその時、

「我が敵を痺れさせろ、パラライズショット」

そう詠唱が聞こえた。急いで当たりを見渡そうとしたが間に合わなかった。その理由はただ一つ、俺への攻撃だったからだ。俺は詠唱した主に聞き覚えがあった。そう、なんてったって、その声の主は・・・同じパーティーの魔術師、俊介だったからだ。

「やっと、始末出来そうだよ。さぁ、冬馬、昴河。翔太のことどうする?」

そう、悪魔のような笑い方をしながら、俊介の後ろにいた冬馬と昴河に言った。

「うーん、俺は少し先の谷底に落とせばいいと思うよ!」

「いいや、念を押して、レストレージ山脈近くのダンジョンに転送しとく?そうすれば、雑魚翔太の始末もしっかりしてくれるしね。」

と、二人は口々に行った。俺は力を振り絞って、

「俊介!・・・なんでこんなことを・・・」

「決まってるじゃないか?お前が邪魔なんだよ。お前がいると由姫がいつもお前を庇うし、殴れない。だがなぁ、こっちの世界に召喚されたからさ、向こうの法律や憲法は適応されないからお前を殺したって事故死って偽装もしやすいじゃん?だから、殺すんだよ?わかったかな?まぁ、由姫を殺さないのは色々と役に立つからねぇ、色々と。あははははははははは!あっ、ちなみに、由姫が眠ってる理由はさっきのスパイスだよ。あのスパイスには睡眠薬を入れておいたからね。」

と、俊介は高笑いをしながら答えた。すると、冬馬が近づいてきて、

「やっとお前がいなくなるって考えてるとマジでせいせいするわぁ〜ありがとな、翔太。あっ、安心してね?お前の大好きな大好きな由姫にはお前は帰える途中ハイランクモンスターにやられたって言っておくから。」

そう言うと、俺のストレージを勝手に開いてその中にあった俺の御守りを盗った。

「じゃあ、これはお前が死んだ証拠として預かっておくわ。」

そう言って、俺から離れていった。

「なぁ俊介、やっぱりダンジョンにこいつを転送しようぜ。」

「そうだな、ここからダンジョンまでは近いからなぁ〜。あっ、そうだ翔太。この近くのダンジョンは誰も生き残ることは出来ないから?安心して、お陀仏してね?」

「どっ、どうして生き残れないんだ・・・。」

俺はそう彼らに聞いた。

「あれ?分からない?それは簡単だよ。このレストレージ山脈は魔族領に近いのは知ってるよね?そして、このレストレージ山脈の近くにある、ガラゴンダダンジョンは魔族の中の最上位に存在する魔王軍幹部、水神の人魔ルサールカが管理してるらしいぜ。だから、お前みたいな雑魚が潜った瞬間死しかねぇんだよ!あはははははは!」

こいつらは悪魔だ。俺はそう思った。まだ痺れているが、少しは動ける。《逃げなきゃ》頭にはそうよぎった。俺は今俺の事を殺そうとしてる俊介から学んだ詠唱の簡略化を使って、

「火の球よ、敵を穿て!」

と、渾身の魔力を込めて放った。

「今のうちにッ!」

俺はそう思い、逃げようとしたが、

「あぁ〜、やっぱ雑魚だわぁ。」

そう言って、冬馬は剣で俺のファイアーボールを弾いた。そして俺の背中に思い切り腕をねじ込み、圧をかけた。

「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

ものすごい激痛が走り俺は叫んだ。すると、後方で声がした。その声は俊介による、転送魔法の詠唱だった。冬馬は俺の腕を折り、足を固定しその場からサッと離れた。

「我、今時を歪める者なり、万象の力を持って汝を特定の場所へと転送せよ。」

その詠唱聞いてる途中に俺は展開された魔法陣の外へ抜け出そうとした。だが、時すでに遅かった。99%詠唱は完成していたので、抜け出せない。

「終わった・・・。」

俺がそう思っていると、

「じゃぁな翔太、また会えるといいな。まぁ会えないと思うけどな!あはははははは!」

その声を聞いて、心の底から

「ダンジョンから生き延びたらお前らを殺す。」

湧き出てきた殺意を言葉にのせた。俺の目は本気だった。あいつらを殺して報復してやる。転送前の最後の悪あがきであった。すると、

「それは無理だな!だって、お前が送られるのはダンジョン最下層のルサールカの間だよ!せいぜいそれは来世に行ってから言いな。」

この言葉を最後に俺はガラゴンダダンジョンの最下層に転送された・・・。

 

 〜俺が転送された翌日〜

西暦2056年、六月二日、昨日のレストレージ山脈での魔鉱石採取依頼について

依頼内容 魔鉱石五袋分、   採取完了。

     依頼主への配達   完了。

パーティーメンバー五名。生還者、四名。うち一名死亡。なお、死体なし。遺留品・御守り。

 

 

 

             第一章 転生  ー完ー



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〜第二章 覚醒と魔王城〜

六月一日、俺は転送させられた。そう、ガラゴンダダンジョン最下層に。

 

   〜第二章 覚醒と魔王城〜

 

 意識が覚醒した。周りを見渡すと、そこは少しジメジメとした湿地帯に近い様な場所であった。特に特徴的なのは人魚らしき石像が大きな門の両脇に配置されていて、門にも人魚が描かれている事だった。不可思議なこの門の向こうに俺は違和感と恐怖感を同時に悟ったのだ。ドアを開けようかと、心の中でそう思ったが身体は恐怖に襲われそれどころではなかった。異様な危機感を放っているこの門に俺は頭より身体が先に動いた。そう、逃走だ。だがしかし、逃走したとしてもどこか逃走経路があるという算段はなく、焦りと不安しか無かった。不安の感じるまま俺はその門から急いで立ち去るかのように走った。門から離れるように走って、走って、走って走って・・・。

「うわぁぁぁぁぁ!」

俺は悲鳴をあげた。端的に言うと右腕の感覚が無くなり、確実に腕の重量が感じられなかったからだ。発狂と同時に辺りを見回した。だが、ここはダンジョン。そして、最も魔族領に近いガラゴンダダンジョン。漆黒と化したこの場所に明かりなど存在しない。唯一感じるのは自身の身体のみ。軽くなった、重くなった、足が泥濘に取られた。という感覚のみ。このような場所で何の道具もなしで生き残るのは、針山に糸を通すような難しさ、否それ以上だ。やがて、出血が酷くなっているこの右腕何とかしなければと思い、必死に考えた。《このままだと死ぬ》そう分かっていたからだ。

「なにか、なにか方法は・・・。」

これまで以上に思考の加速を肌で感じるほどに脳を集中させた。生きるために。数秒が経ち、俺はある方法を思いついた。

「そうだっ!インストールしよう。回復魔法の書を。」

俺は咄嗟にそれを思いつき、急いで自分のストレージを確認した。

「あっ、あった!」

俺は取り出して、怪我を庇いながら回復魔法の書を読み込んだ。回復魔法の所はページとしては三十ページぐらいの書物であった。しかし、その三十ページにはとても複雑な魔法陣が書き込まれており、自分で使用するのは困難だった。しかも、回復魔法は一般人及び、専門外職業の人々の場合、完全回復させるのは難しいと書いてある。なお、例外として勇者と回復術師は完全回復は可能である。また、魔術師は完全回復に近い回復魔法は行える。俺はこの文章を見て、

「終わった。俺死ぬのか・・・。異世界召喚されても何も変わらない俺にはもう、意味は無いのか・・・。」

と、一人で呟いた。しかし、俺はこの時、由姫が言っていた言葉を思い出した。そう、まだ俺にはやることがある。俺はここを抜け出して、アイツらが俺をバカにしたことを後悔させるという復讐する。殺しまでしてしまうと由姫に合わせる顔がない、だから殺しはしない。そして、由姫に告白をする。そう思い返した俺は、自分の心に火がついた。俺はまだ何か策はあると思い、右腕を押さえながら必死に考えた。すると・・・

「マスター。私がお力添えを致しましょうか?」

と、この声が脳裏をよぎった。

「お力添え?どういうことだ?説明してくれ!」

俺には訳が分からなく、質問を投げかけた。いきなり、得体の知れない女性の声がしてお力添えをするというのだ。俺は不信感を覚え、警戒していた。

「失礼しました。マスター。私は、マスターのスキル、大図書館に進化したことにより生み出されました。私の事は、メーティス・クトゥルフとでもお呼びください。さて、本題になりますが率直に申し上げるとするとマスターは回復魔法を使用できます。」

「えっ?・・・。回復魔法使えるの?」

「はい、もちろんでございます。マスターのスキルである大図書館は一度最後まで読み終えた書物の魔法はこの大図書館に保存され、いつでも取り出し可能となります。」

俺はその言葉を聞いて唖然とし、思考が一時停止した。そして、俺はふとこんな質問をした。

「・・・。えっとつまり、一度読んだ魔法の書物とかはいつでも使えるってことで良いのかな?えっとメーティスさん。」

「左様でございます、マスター。なので今からお使いになりますか?」

「えぇ!?ももも、もちろんハイだよ!こんなところで死にたくないし。」

「承知しました、マスター。では右腕の方を左手で覆ってください。」

言われるがまま、俺は右腕を左手で覆うようにした。すると、

「では、回復魔法を開始します。マスターの名により、大図書館管理者であるメーティス・クトゥルフが執行致します。大図書館第三列、H段、回復魔法の書。第一節・ヒール。」

メーティスがそう言うと、俺の左手から暖かい緑色の光が放出した。たちまち右腕は出血が止まり、肉片の再生が始まった。ものの数秒で右腕が完全復活した。

「マスター、申し上げたいことがあるのですが宜しいでしょうか?」

右腕が戻った直後、メーティスはそう言った。

「なんだ?言ってくれ。」

俺はすぐさま返答すると、

「では、申し上げます。ただいまマスターが回復魔法を使用した事により、元々所持していた解析・鑑定により、回復魔法の全てを手に入れることに成功致しました。ただし、現段階のマスターのレベルにより使用できないものもありますが、それを含めて表示致します。」

彼女はそう言って、俺の目の前に回復魔法一覧を表示した。それはよくアニメやSFものの表示の仕方であった。緑色の光が放たれつつ、その中に白い文字で回復魔法の一覧が記載されているものである。そこには、

    〜回復魔法〜

・第一節 回復《ヒール》(失われた部分または出血の酷い箇所等に使用し、元の状態に戻すことの出来る魔法。また、アンデットや魔族以外に使用可能。)

・第二節 常時回復(これは常時発動系の魔法で、剣や魔法で傷ついた場合、または出血した場合に自動で回復する魔法。)

・第三節 超速再生(これは常時回復で対応できなかった腕や足といった四肢の損失等を一瞬で回復する魔法。また、アンデットや魔族以外に使用可能。)

・第四節 範囲回復《エリアヒール》(これは第一節 回復《ヒール》を応用した魔法。範囲指定をし、その範囲内のもの全てを回復する魔法。)

・第五節 状態異常回復(これは毒や麻痺、弱体化等といった状態異常系の魔法を回復する魔法。)

・第六節 死者蘇生(これは死んだ者を生き返らせる魔法。)

・第七節 自己蘇生(これは自身を生き返らせる魔法。ただし死ぬ直前の一分前から死後一分後の間に使用しなければ、自己蘇生はできない。)

・第八節 他生回復《アナザーヒール》(これは第一節 回復《ヒール》と第五節 範囲回復《エリアヒール》の対象外であったアンデットや魔族等の回復ができる魔法。)

・第九節 範囲他生回復《エリアアナザーヒール》(これは第八節 他生回復《アナザーヒール》の範囲回復魔法。)

・第十節 ???(こ???の??・・・魔法。)

と表示されていた。続けてメーティスはこう言った。

「以上が回復魔法の一覧でございます。現在マスターが使用出来る回復魔法は第一節の回復《ヒール》、第二節の常時回復、そして第三節の超速再生でございます。なお、その他の魔法はレベルが上がる事に解放されますので、それについては随時お知らせ致します。ここまで何かご不明な点はありますでしょうか?マスター。」

「うーん・・・。そうだな、一つ質問をするとしたら、やはり第十節についてだな。なぁ、メーティス。なんで第十節は文字化けの様な感じなんだ?」

俺はそう質問した。それもそのはず、第十節には誰にも分からないような暗号?否、それよりも複雑な表示の仕方をしていたからだ。するとメーティスは、

「申し訳ございません、マスター。今は私からこのことについては答えることが出来ません。ただし、マスターのレベルが450になった時に必ずお伝えすると約束致します。」

と言って話を終えた。現在の俺のレベルは26だ。ここからレベル450まであげるのはとてつもない険しい道のりだ。こんなことを考えていると俺は二つほど疑問が浮かんだ。

「なぁ、メーティス。二つほど質問したいんだが良いか?」

「もちろんです。マスター。」

「俺が聞きたいことは、なんで、さっき右腕を失ったのにも関わらず、敵は襲ってこないのか?そして、もう一つは、何故俺が初級スキル以外の各職業のスキルが使用できるのかって話だ。」

俺はメーティスそう問いかけた。すると、メーティスは考える素振りもなく、こう語った。

「分かりました、マスター。では、後者の方の質問からお答え致します。初級スキル全般及び、中級スキルの一部は専門職でなくても使用できるのは周知の事実です。確かに回復魔法第一節 回復《ヒール》はどんな方でも使用可能です。しかし、本職の力の45%の力しか一般人そして、専門外の職業の方々発揮出来ません。だから、魔法書には完全回復は難しいと記載されています。ですが、マスターの場合はそのような事は全くもって関係ありません。何故ならば、マスターのスキル大図書館は魔法書に記載されている100%の力を発揮することが出来るからです。具体的にに説明致しますと、術者の能力や職業により見えない魔力のフィルターがかけられていると考えてください。もちろん、本職の方々はそのフィルターが存在しません。ですから、本職以外の方が使用すると魔力のフィルターにより本来の力の45%でしか発動することが出来ないのです。そしてさらにマスターの場合、私メーティスが管理し、マスターの術使用のお手伝いをしているので、120%の力が発揮されています。つまり、本職の人々より強い力で魔力の放出や回復等を行えるのです。」

と、細々と分かりやすいように説明してくれた。俺はメーティスの話に《ほへぇー》と頷く他なかったのだ。そして、彼女はさらに続けて、

「では、前者の質問に答えさせていただきます。マスター、二分後に戦闘態勢をとってください。」

「え?・・・。どゆこと?」

「理由は、私はマスターのスキル大図書館の管理者。正式には、大図書館情報管理機構《ライブアドミニストレータ》と呼ばれます。ただいま私はその権限を使用してマスター防衛システムを私の上位に存在する全魔法世界管理権限最高創始神《ゴットオブオールマジックアドミニストレータ》に申請しました。申請許可がおり、ただいま魔力障壁《マジックバリア》、物理障壁《ディフェンス》、永久魔力供給の三つを展開しております。ただし、このシステムは三十分のみ使用可能で現在二十九分が経過しました。なので、マスター早く戦いの準備をしてください。そして、もう一つ。マスターのストレージに保存されていた、残り二つの魔法書を誠に勝手ながら解析・鑑定を行っております。解析・鑑定が終わり次第、随時マスターにお知らせします。」

俺は焦った。あと一分で今張られている二つの障壁が解除され、また、闇夜に放り出されるのだ。しかも、戦う相手の情報もなくこちらが負ける確率はとても高い。俺は負けの兆ししか見えなかった。今度こそ本当に終わる・・・、そう思っていた。しかし、俺のスキルを使えば勝てるのではないかとふと思いつき、大図書館情報管理機構《ライブアドミニストレータ》であるメーティスに質問した。

「なぁ、メーティス。お前の仕事結構増えるけどこの窮地を打開するためにはこの方法しかないんだが手伝ってくれるか?」

するとメーティスは戸惑うことも無く、

「もちろんです、マスター。私にとって不可能と言う言葉は存在致しませんので。しっかりとマスターの戦いをサポートしたいと思います。」

「ありがとう、メーティス。じゃあ、説明するぜ。まず、この二つの障壁が解けたと同時に敵の解析・鑑定とこの辺り一体に初級スキル発光玉《ライト》を頼む。そして、俺はバトルの経験が浅いから、これのサポートも頼む。俺自身でもできるところまでしっかり戦ってみようと思う。もしダメなところがあればすぐに指摘を頼む。あとは三十分間の魔力供給の付与を頼みたい。俺はまだ十分な魔力を持っていないと思う。だから、発光玉《ライト》を使用する時にその全魔法世界管理権限最高創始神《ゴットオブオールマジックアドミニストレータ》に再申請してもらえるか?じゃないと俺の魔力が持たないかもしれない。」

俺は口早にそう伝達した。全ての作戦を話終えると同時に二つの障壁は徐々に崩れ始めた。崩れ始めたその瞬間、俺は作戦通りに動いた。同時にメーティスは、

「マスターの権限により、初級スキル発光玉《ライト》を使用します。指定範囲は半径十メートル、等間隔の発光玉《ライト》を生成します。生成個数、十六個。達成完了の予想時刻、六秒。消費魔力140。マスターの魔力残量60。これより、大図書館情報管理機構《ライブアドミニストレータ》メーティスは、全魔法世界管理権限最高創始神《ゴットオブオールマジックアドミニストレータ》に再度、三十分間の魔力供給の使用許可を申請します。」

と言って、俺が言ったことの全てをものの十秒で済ませた。そこから十秒も経つと発光玉《ライト》は指定通りに設置され、魔力循環の許可が降りたのだ。ただし、今回も三十分という制約があった。そして、いよいよ俺の腕を喰らった相手の顔を見ることができた。俺は両手でしっかりと剣を握っていたが、武者震いが止まらなかった。解析・鑑定の結果、俺を襲ったのはレベル320のオロチであった。やつは八岐ではなく、一つの胴体から三つの首が伸びた怪物だった。俺は唖然とした。歯が立たないのが目に見えていたからだ。だがしかし、俺はここを抜けて、アイツらに後悔させてやる。いや、やはり殺すことも視野に入れておくべきかなと思っていた。そして俺は、由姫に告白をしなければならない。何としてもここを抜け出す。そう固く決心した俺だが、今の状況の打破はとても難しいことは察していた。俺はメーティスの解析・鑑定が終わるのを待ちつつ、俺が持ってきていた魔法書の使用可能か否かを探っていた。逃げ回ろうとしたその時、俺は鮮やかな濃い赤色が右腕から飛び散るのを確認した。そう、血だ。あいつはまた、同じ所を喰いに来たのだ。これは本能と言うより探りに近いのかもしれない。それもそうだ、俺があの二つの障壁にこもっている間に右腕は元通りになっているからだ。相手のオロチは怯むことなく俺が攻撃を仕掛けることに警戒しつつ、右腕の様子を観察していた。たちまち俺の腕は、回復魔法第二節 常時回復と、第三節 超速再生の同時発動により元に戻った。そして、俺の魔力量は減っても供給されるというチートスキルを使って戦いに挑んでいる。ただし、効果は三十分しか持たない。この光景を見て、オロチは少し怯んだがレベルの差によりオロチはまだ少し奢《おご》り昂《たかぶ》っていた。

「どうにかして打開しないと。」

そう思っていたが、打開するための材料やら魔力やら自分の所有スキルが足りなくて手も足も出ない状況にあった。俺が悩みに悩んでいると、突然メーティスが脳裏に語り掛けてきた。

「マスター。相手の詳しい解析・鑑定が終了致しました。相手の得意属性は水属性、土属性そして無属性の魔法でございます。ですので不利属性は、木属性、風属性、無属性でございます。そして、やつの弱点は一番右側の首の中央に刻まれているルサールカの紋章です。さらに、マスターのストレージに保存されていた魔法書の解析・鑑定も終了致しました。内容の説明に移ります。

  〜魔力書〜

・第一節 魔力制御(体内にある魔素及び、魔力を自由自在に操作できる魔法。》

・第二節 魔力操作(相手又は、自身が体外に放った魔法や魔力の塊を強めたり、弱めたりすることができる魔法。ただし、相手の魔力量が極端に見合っていないものは制御することは不可能に近い。)

・第三節 魔力鑑定(相手の隠している魔力や解析・鑑定で発見できなかった魔力を知ることができる魔法。)

・第四節 魔力限界突破(これは体内の魔素及び、魔力を空にして魔力吸収の容量を大きくする魔法。)

・第五節 世???操作《ワー??マジ??オペ???ョ?》(これは???を???する??の魔法。)

以上が解析・鑑定の結果です。ちなみにマスターが使用できるのは第一節の魔力制御と第二節の魔力操作です。」

俺はその説明をオロチから逃げ回りながら聞いていた。しかし、初級スキルのファイアーボールでは全くオロチに効果がない。しかも、「おや、蚊に刺されたのか?」ぐらいの平然な態度をしているのだ。そこまで余裕を見せられると逆に心の奥底からムカついてきた。攻撃しても意味がなく、ただの無駄なあがきにしか見えない自分が悔しくて悔しくてたまらなかった。俺はそんな状況かの中、

「くそっ!どうすればオロチを倒せるんだ。俺は全力を尽くしても勝てないのか・・・。元々敵う相手では無いのはわかっていたけれど、どうにかしてこのガラゴンダダンジョンを抜け出したいのに・・・。くそっ、くそっ、くそっ、くそくそくそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

俺は嘆いた。何も解決しないことはわかっているのに。ただ、俺の死期が迫っていることを感じた。そろそろ、オロチも俺との戯れに飽きて喰い殺す頃だろうと思った。何か策をと、俺は必死に考えた。死ぬ事は分かっているのにも関わらず、最後の足掻きとして何か!すると、俺の頭には一つの方法が浮かんだ。そして、

「メーティス!ちょっといいか!」

「なんでしょうか?マスター。」

「一つあいつを倒すための方法を思いついた。それは大気中の魔素及び、魔力をさっき手に入れた魔力制御を使って体内で魔力の圧縮を行い、魔力操作で相手に解き放ち、大きな爆発を起こす!これなら勝てると思うんだ!」

俺はメーティスに必死に訴えかけた。

「確かにその方法ならオロチを倒すことができます。申請した魔力供給の効果終了までにも間に合い、ギリギリ自動回復と超速再生により生還の可能性も十分にあります。しかし、この作戦の大きな問題点はマスターの魔力の吸収できる容量が圧倒的に足りないことです。もしこの爆発を起こすのであれば、最低15000もの魔力量を吸収できる器が必要になります。しかし、現時点のマスターの魔力を吸収できる最大容量は1500。十分の一しかございません。その部分はどうするつも・・・。」

メーティスができないと語り、理由を述べているその時俺はメーティスの話を割って、

「大丈夫だ!安心してくれ、メーティス。その部分を補うこともしっかり考えてある。それは、俺のストレージだ。俺のストレージは異世界召喚された時から少しづつではあるが拡張してきた。特に意味は無かったが、ストレージを拡張しておけば、大きな獣や金銀財宝の持ち帰りも楽かなって思って。まぁ、本当の理由は勇者パーティのお荷物係なんだけどね。このダンジョンに来る前に居たあいつらが毎回俺に荷物をどっさりと預けてきてたんだ。流石に俺は全てを持ちきれなかったから、あいつらの荷物を全部しまえるようなストレージ作りをしておけば、バカにされるネタが少しでも減るかなって思って今日までしてきたことが役に立つなんてね。俺の今のストレージの容量は魔力換算すると、約16000。つまり、最低基準は突破しているからこれなら勝てるかなって思ったんだ。どうだ?メーティス。不安材料になる所はあるか?」

俺は理由を説明し、彼女の意見を求めた。すると、

「流石はマスターでございます。このような考えをお持ちでいらしたとは。私はまだまだでございますね。私も成長できるように頑張りたいと思います。では、マスターのストレージを使って大気中の魔素及び、魔力の吸収を開始します。時間は五分ほどかかりますがよろしいでしょうか?マスター。」

「あぁ!もちろんだメーティス!大量に魔力を吸収してくれ!」

俺はそう意気込んで再びオロチの攻撃を避け続けた。オロチは何かを察したかのように、攻撃手段を多くすると同時に、攻撃の威力をあげてきた。オロチの攻撃の手数の多さに驚きながらも時間を稼ぐために俺は逃げ続けた。予定時間の五分が経つと、

「マスター。魔力の収束及び、圧縮が完了致しました。魔力補填総数・17500。いつでも解放可能でございます!」

俺はその報告を聞いて、確信した。これなら、勝てる。そして、魔力供給は残り二分で終了する。

「勝負はこの一回きり。絶対に決める!」

そう思った俺はオロチの攻撃を掻い潜り、懐まで近づくいて、オロチの右首の中央に刻まれているルサールカの紋章目掛けて、

「おりゃあぁぁぁぁぁぁぁ!これで終わりだぁぁぁぁあ!」

と言い放ち、魔力制御していたストレージと自身の保有魔力を自身の体外に放出させ、魔力制御から魔力操作のスキルに移動して放出した魔力の球を全て相手にぶつけた。オロチの右首にある紋章と接触した瞬間、俺が作り出した魔力の球はどんどん膨張し、やがて爆発を始めた。その威力は現代で言う《水爆》の威力と同等だった。その時、オロチは「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁあ!」と叫び、自分が相手を見下しすぎたことを後悔しているような感じであった。辺りに轟音が飛び交い、発光が繰り返されて放射線が辺りを舞って数十秒後、発光と轟音とが消え失せた。俺は魔力を全て使い果たし、魔力供給の効果が切れた。そして、魔力供給によって完全回復した魔力は第二節 常時回復、第三節 超速再生に使われ、魔力は残り40しか無かった。辺りを取り巻いていた煙は徐々に消え去り、オロチが姿を現した。オロチは右首が地面に落ちていて、中央の首は胴体とかろうじて繋がっているが、もう取れかけている。そして左首も右首同様、地面に落ちていた。

「やっ、やった・・・。」

俺は安堵して、地面に座った。するとオロチは光に包まれ分散し、原型を留めることなく消えていった。残ったのはオロチの核であっただろう大きな魔石がポツンと残されていた。大きさは約五十センチぐらいであり、色は綺麗なエメラルドグリーンであった。

「マスター、突然申し訳ございません。単刀直入に申し上げます。早く逃げましょう。嫌な気配がします。」

メーティスは俺にそう言った。メーティスはすごく焦っていて、いつもと雰囲気が違った。俺はそれを察して、

「分かった、道案内を頼めるか?」

と問い、立ち上がろうとすると

「あれれ?私の可愛い可愛いオロちゃんの気配が消えちゃったけど・・・何事?」

オロチの魔石が転がってる奥の方から声が聞こえた。それも女性の声だ。その声はとてもミステリアスで聖女が聖歌を歌う時のような高い声をしていた。徐々にその声の主が近づいてくる。俺は《逃げなきゃ》と思ったが、足が動かなかった。その理由は大きすぎる魔力故、その魔力がオーラとなって具現化されているからである。俺は震えが止まらなかった。それも、オロチの時より数十倍震えていた。どんどん声の主が近づいて来ると同時に、何故か分からないが高さ五十から六十センチぐらいまで水が張っていた。俺は急いで立ち上がって、ゆっくり後退りをした。バレないようにと思っているが実際はバレてしまうのは明確だと思っていたので、少しでも逃げるための距離を稼ごうとした。すると、声の主の姿が見えた。驚いた事に悪魔ではなく、普通の人間であった。髪は茶髪で胸の位置までの長さがあった。スタイルはいわゆる、ナイスボディってやつだ。このダンジョンの最下層のボスは邪悪な魔王軍の幹部の悪魔だと思っていたが、姿は人間であった。だから、魔王軍の幹部では無いのでは?と心の中で思っていた。しかも、敵意が無いように感じた。しかし、魔力量は俺がここに来る前に鍛えてもらっていた宇宙の十新星《コズミック・ノヴァ》の第一の席 ディアブロ・フェルナンデスよりも高かった。俺はその魔力に震えて、その場から動くことが出来ずその人間に見つかってしまった。

「ねぇ、君。私さ魔王軍の幹部なんだけど、質問するね?君が私のオロちゃんを倒したの?答えて?」

そう言って俺に詰め寄ってきた。威圧感が感じられた。流石、魔王軍の幹部だと俺は感心しつつ、震えていた。すると彼女は俺の姿を見て何かを察しこう言った。

「うーん・・・。君が私のオロちゃんを倒したのは確かだと思うんだよね〜。でもさ、一つ聞いていい?言っちゃ悪いけど、なんで君みたいな雑魚がここまで来れたの?だって一個上の階層にはオロちゃんより強ぉぉぉいシーサーペントのシーちゃんを放ってるんだよね!今の君を見ると私のオロちゃんを倒すので精一杯だったと思うから、おかしいと思うんだよね?だから、ここに来た理由教えてくれる?」

俺は、とりあえず話してみるかと思い、今までの経緯をありのままに伝えた。

「えっと、俺がここに来た経緯としてはその・・・。」

「あっ、ちょっと注意点。ちなみに嘘ついたら首飛ぶから気をつけてね?」

彼女は話を割って、そう言うと彼女の目は赤から緑色に変わり、《さっ、話の続きをして?》と言わんばかりに催促してきた。俺は言われるがまま経緯を再び説明した。

「俺がここに来た理由は、仲間の裏切りによる転移です。あいつらは俺のレベルアップを手伝ってくれるといい、レストレージ山脈の魔鉱石採取の依頼と同時に、モンスター狩りをしていました。奥に進み、広い場所に出るとあいつらは、俺のことを信じてくれた由姫って言う女の子を気絶させ、俺の動きを封じ、そして転移陣を作りこのガラゴンダダンジョンの最下層に飛ばしたのです。俺は今のレベルのままだと確実に死ぬことは分かっていたので早く逃げようと出口に向かっていたところ、オロチに襲われてギリギリ勝てたという感じです。」

「なるほどねぇ、君も大変だったんだね・・・。」

彼女は頷きながら同情した。俺は続けて、

「だから、俺はあいつらに復讐してやるんだ!」

俺の心の奥底から思っていることをぶちまけた。

「殺した後、どうするの?」

彼女は不意に問いかけてきた。俺はその問いになんの感情も持たずに、

「えっ?」

と心の底からの本音を呟いた。

「だから、殺した後はどうするの?他の人も殺すの?例えば目撃者とか。それって、ホントに意味ある行為なの?殺して満足、はい終わり。って訳じゃないんだよ?ここからが本番だよ。人は、殺されたらその殺した相手を地の果てまで追い詰めて復讐する。するとまた、その殺された側の人は殺した相手を殺すだろう。つまり、負の連鎖だ。これが数年後、数十年後には民族同士や派閥同士の争い事の火種となる。今はこれで終わりかもしれないけど、後々大きなことになりかねない。だから、相手を殺して復讐する、なんて考え方は捨てた方がいいぞ。そんな考えをしてる奴が人には多い。やがて権力者が争いに介入してきて、奴隷や市民を使ってなんの関係も無い人々を巻き込んでいく。まぁ、この事も踏まえて殺し合いをおっぱじめるのは良いよ。ただし、後世への責任は必ず取れるものならね。だが、人はそんなに長く生きられないから後世への責任は100%取れないだろう。古代遺産物《アーティファクト》の使用者を除いては・・・。だから、責任の取れない戦いはするな。関係ない人を巻き込むな。無益な争いの結果は結局なんだ?富か?名声か?英雄か?そんなんじゃ、英雄もへったくれもない。ただの自己満だ。戦争で犠牲になった人の責任は取れるのか?意味の無い争いに他人を巻き込む勇気はいらない。むしろ、あるやつほど人とは呼べない。言い換えるならば、クソと呼んでやるべきだ。そこをよく踏まえるんだな。」

彼女はそう言い捨てて、俺にもう一度問いた。

「んで、君はホントに復讐したいか?」

「俺は・・・。すみませんでした!後先考えず、ただ今の自分の事だけを考えて。俺はあいつらを殺した所でなんの意味もないことに気づきました。馬鹿な事をする前に止めていただき、ありがとうございます!」

と謝って、俺は彼女に問いだ出された事により冷静な自分に戻れた。

「うん、良い事だ。そういう人が増えてくれるといいんだけどね・・・。」

そう彼女はボソッと呟いた。声が小さかったので俺はその事に気づけなかった。

「あの・・・。ひとつ伺っていいですか?」

俺はふとした疑問があったのだ。そうそれは、

「お名前なんて言うんですか?」

至って真面目であり、シンプルな質問だった。魔王軍の幹部含め魔族は《悪者》で人間は《正義》というのが世の中の常識であるのに俺の事を殺さずに諭してくれたからである。これもひとつの偏見だと俺は心の中で思いながら聞いた。

「あぁ、私の名前?私は魔王軍幹部、水神の人魔 ルサールカよ。私の事は、ルサールカって呼んでもいいし他の幹部たちは、ルサって呼んでるね。あっ、君の名前も教えて!」

と、彼女ルサールカは答えつつ、質問を投げ返してきた。

「俺は翔太、中山翔太って言います。」

俺はそう咄嗟に答えた。すると、ルサールカは納得したのか相槌をしてこう言った。

「ねぇ、提案したいことがあるんだけど翔太君さ、魔王軍入らない?」

彼女は、なんの前触れなく言った。そして、俺の思考は瞬く間に停止した。そう、俺の心の中はこうなっていた。

「えっ?魔王軍の仲間。それはありがたいけどいきなりすぎる。なんで?えっ?えっ?えっ?・・・。」

俺は激しい戸惑いの中、彼女にこう告げた。

「えっと、俺なんかが魔王軍に入っちゃっていいんですか?第一俺は魔族にとって敵である、人間。それも、異世界から召喚された人間なんですよ?」

「それがどうした。魔王様ならきっとそんなの関係ないだろって言うよ。魔王様は再び人々や妖精、竜と仲良くなり共存関係を作りたいって考えてるお方だぞ。」

そう彼女は言った。彼女にとって魔王様は心が寛容で優しい方なのだ言うことがわかった。だが、一つ話が矛盾する点があった。そう、魔王が今頂点に立ち、ほかの王達を牽制していると言う話を人間国の王に聞いた事だ。

「あの、ルサールカさん。俺ここに来る前、ラザミールの国王グレリオに魔王がほかの種族に牽制しているって言うのを聞いたんですけど・・・。」

俺は彼女に本音をズバリと言った。すると、

「それは半分正解かな。魔王様の前○○王の話は聞いたよね?○○王は全ての種族の協力と平和を願っていたんだ。だけど、この考えに反対したのが、ドラゴン族、神、そして人族だった。ドラゴン族は自分たちの威厳が無くなると言っていたが○○王に言われて仕方なくという感じで賛成をした。しかし、神と人間は違った。神と人族は悪魔や魔族と仲良くなるのは絶対嫌だと陰で嫌っていた。このことは○○王の前では言えないから表向きは賛成。裏面では大反対。だから、○○王が居なくなったあと人族と神は協力して異世界召喚をし、我々を討ち取ろうとしているのだ。私たちには戦う意思は無いのにね。」

彼女は悲しそうな声でそう言っていた。その話を聞いた俺は辻褄が合うことに気づき彼女の話を信じた。しかし、信じたと言っても何がホントで何が嘘かは未だに分からない。何か、何か真実を知る方法はないか、そう思っていると

「マスター、世界の真実を知る方法が一つだけ存在します。」

と、メーティスは言い、続けて

「その方法はレベル750で手に入るスキル・世界網羅で知ることができます。世界網羅のスキルは過去から今までに起こった出来事を全てありのままに映し出し、未来に起こることも映し出されます。」

「えっ?そんなスキルがあるの!?でもレベル750なんて種族ホントに居るの?滅多に会えなそうだなぁ。」

俺は疑った。そんなにレベルが高いやつなんて指で数えられるほどしかいないだろうと思っていたからだ。しかも、そこまで到達している種族がいればむしろ弟子入りしたいくらいだ。

「居ますよ。目の前に。魔王軍の幹部である彼女、ルサールカのレベルは795です。」

そう、サラッとメーティスは言った。俺は驚きが隠せず、

「れっ、レベル795!?」

と大々的にダンジョン内で騒いでしまった。その声に驚いたルサールカは、

「ちょっと、いきなりどうしたんだい?ってか、私のレベル分かるの?」

と、彼女も彼女で焦っていた。

「はっ、はい・・・。一応、鑑定師なんで。」

俺は一言彼女に申した。

「こんなにすごい鑑定師、初めて見た・・・。って事は、あのスキルが使えるかもしれないなぁ。よし、翔太くん。ちょっと眠っててね。」

彼女はそう言うと、俺の後ろに瞬間移動し、首に手刀でガツンと刺激して俺を気絶させた。俺はそこから意識が無くなった。

 

 〜二日後〜

俺はやっと意識が覚醒し始めた。最初は肌と肌が接触している感覚がした。《柔らかい》そう感じながら、段々と意識が覚醒し始めてものの数秒で意識の完全覚醒をした。完全覚醒すると、目の前には大きな二つの山らしき物がそびえ立っていた。そして、後頭部には柔らかい太ももらしき感覚がした。これはもしやと思い、段々状況を理解し始めると山の向こう側から

「おはよ!翔太くん。やっと目覚ましたね〜。どうだったお姉さんの膝枕は。」

「おっ、お姉ちゃん!?えっ?どゆこと!?」

俺は焦ってその場を飛び起きた。すると、膝枕をしてくれていたルサールカがこちらを見ていた。俺には状況の理解が追いついていなかった。頭が今まで以上に回転して悩みに悩みまくっていると、

「あはは!ごめん、ごめん。でも、お姉ちゃんっていうのはある意味ホントだよぉ〜。あはは!」

とルサールカは言うが、俺はますます意味がわからなくなった。

「混乱してるのは分かるけど、とりあえず私の話聞いてもらっていい?」

彼女はそう言った。だから、俺は一回考える事をやめて彼女の話を聞くことにした。俺が今焦って物事を理解するよりも、彼女の話を聞いてからの方がよっぽど早く理解できると思ったからだ。

「よし、じゃあ話すね。翔太くんが眠っていた二日間の間に私が何をしたか。まず、私は翔太くんをあのガラゴンダダンジョンで気絶させた後、私がよく魔王城とその城下町がある所と行き来する時に使う魔法陣で魔王城に移動。そして魔王城に移動した後、魔王様に翔太くんの話をしたんだ。例えば、レベルとか職業とか私のペットのオロちゃんを倒した事とかもね。魔王様はやっぱり理解してくれたよ。君を受け入れてくれることに。そして、その話が終わったあとに約一日私は翔太くんに膝枕を提供してたって訳さ。勝手に魔王軍に入らせちゃってごめんね。」

彼女は今までの経緯を全て話し、俺に謝ってきた。

「いやいや、むしろありがたい話ですよ!行くあてのない僕をこの様な形で保護してくれるなんて。ほんとにありがとうございます!でも、丸一日膝枕って大変ですよね?あはは・・・。」

俺は全身全霊で感謝した。そして膝枕の件についてもだ。俺は魔王軍についていく。そう固く決心した。まだあの話の真偽は分からないが、兎に角ここまで優しくしてくれる魔王様やルサールカに感謝し、貢献しようとも思った。自分に気合を入れて頑張ろうとしたその時、

「あっ、言い忘れてた。今から魔王城で面接するから一緒に来て!」

「えっ?」

彼女にそう言われると、俺は咄嗟のことで心からの声がダダ漏れになってしまった。

「大丈夫、心配しないで。面接って言っても君がホントに安心できる人間か確かめるだけだから。」

そう言って彼女は魔王城に向かう支度を始めた。俺も急いで準備しなければと思い早急に支度を始めた。ものの五分で支度が終わり、彼女の部屋を出て階段を下り、ドアを開けるとそこには馬車が一台止まっていた。馬車と言っても引き馬は普通の中世ヨーロッパにいた馬ではなく、ザ・ファンタジーとも言える種族、ケンタウロスが引いていた。俺らはそれに乗り込むと、彼女は

「ケンタウロス達、魔王城まで頼む。」

そう言うと、ケンタウロス達はこくりと頷き走り始めた。俺はその道中素晴らしいものを見た。道路端で遊ぶ魔族の子供たち、市場や武器商業を行う魔人等が行き交っていた。そこは人間の街並みとは変わらないものであった。そしてその街並みはほとんど中世ヨーロッパと同様なものであった。その街を抜けると、魔王城までの道が一直線で繋がれていた。そこはとても長かった。街並みを抜けるのに十分しか掛からなかったのに対し、魔王城までの直線を抜けるのには三十分ほど掛かった。ようやく魔王城に着いた。そこはとても広く、ラザミール王国の王城よりも二、三倍広かった。俺らが降りるとルサールカは、近くにいた門番のミノタウロスにこう伝えた。

「魔王様に伝えてくれ。中山翔太を連れてまいりました。と。」

十分ほど経つと、門が開いた。

「私が送れるのはここまでだ。後は門番であるミノタウロスくんが案内してくれるだろう。じゃあ、頑張ってね、翔太くん!」

と言い、彼女は俺の背中を押してくれた。

「よし、お前ついてこい。」

ミノタウロスはイカつい声で俺の事を呼び、案内しようとした。すると、門は閉まってルサールカと隔てられた。俺は再び気を引き締めて、面接会場へと足を運んだ。

「さぁ、しっかり合格しなければ!」

 

 

 

           第二章 覚醒と魔王城  ー完ー

 

 



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〜第三章 種族とは、言葉とは、〜

〜第三章 種族とは、言葉とは、〜

 

 門から面接会場へと向かう途中にはまず一つの建物が大きく身構えていた。この施設は、今までに亡くなってしまった歴代の魔王を悼む場所であった。外見は黒一色であり、どちらかと言うと教会に近いものであった。この施設については来る途中にルサールカに教えて貰っていた。すると、前を先行していたミノタウロスが歩みを止めた。そしてミノタウロスは歴代の魔王の名前を一人一人紹介してくれた。

「魔王様から面接をする前に、お前に魔王城内を案内としろと命令が下っている。だから、魔王城を案内する。」

と言ってきた。続けて、

「ここは歴代の魔王様が眠られているお墓であり、我々の教会だ。今までに魔王様は六人いた。左から初代魔王・クシャーナティア王、二代魔王・アルバルト王、三代魔王・グプトル王、四代魔王・ガイオス賢王、五代魔王・シャーペリオン王、六代魔王・ヘクトリアダム暴王だ。そして、女王であるのは初代魔王・クシャーナティア王と現在の魔王・ルシ王だけだ。」

この話を聞いて俺にはひとつの疑問が浮かんだ。

「あの、ミノタウロスさん。一つ質問していいですか?」

するとミノタウロスは《なんだ?》という合図か頷いた。その合図を見て俺は、

「なんで四代魔王・ガイオス様と六代魔王ヘクトリアダム様には、賢王や暴王と言った称号のようなものがついているのですか?」

と質問した。それを聞いたミノタウロスは、突然震え上がった。周りからも見てわかるように小刻みに震えていた。そして恐る恐るこう答えた。

「賢王様であるガイオス王はとても優秀であり、伝説とでも謳われるようなお方であった。ガイオス賢王の時代は戦乱の世の中であった。当時は種族平和という考えがなくただ貴族に命じられるがまま、市民たちは戦争へ駆り出されていた。しかし、この戦乱の世の中を変えたのがガイオス賢王である。彼は平和を訴えた結果、その当時から今まで繋がれてきた平和の関係を築いた。彼は戦争を辞めるために○○王と話し合い、王会議でそれを議題とした会議を行われた。そしてその議題は可決され、実行された王であるから賢王と言う称号がついているという説がある。また、彼はなぜ戦争するのかと疑問に思い、全種族聴衆会と言う公の場で大々的に戦争はするべきではないと発表したんだ。この事が大きな功績と謳われ賢王という称号がついたという説もあるのだ。」

俺はその話を聞いて《なるほど》と思い、深く頷いた。そして、ミノタウロスは

「だが、問題はこの先にある。」

そう言って、話を続けた・・・。

  

  〜戦乱の世であった時代、各々の種族の為に戦いに尽くした時代〜

 

 六代魔王・ヘクトリアダム暴王はガイオス賢王とは真逆の考えを持っていた。ガイオス賢王は先程も話したように、《戦争を辞め、各種族が一体となり、みんなで平和な世の中にしよう。》そして《種族同士の交流によりもっと仲を深めいがみ合いをやめよう。》というような全種族間平和主義と呼ばれるような考え方をしていた。もちろん、戦争をしていた人間や妖精、ドラゴンそして魔族にもこの考え方を支持するものはとても多かった。何故ならば戦争に駆り出されていたもののほとんどは《なんで俺らは殺しあっているのだろう》と思っていたらしい。六代魔王・ヘクトリアダム暴王はその考えに反対していた。何故ならば彼が掲げる考えは《戦争をして民や領地を獲得し我らが魔族の威厳を示すのだ》と言う考えや、《平和なんぞただのままごとで、危機感の欠如を示す最大の恥だ》と言うような狂喜乱舞に近い存在、いや狂喜乱舞の塊と言うような奴だった。そして、その考え方が事件が起こすキッカケとなった。四代魔王・ガイオス賢王で築かれた大きな平和はやがて、五代魔王・シャーペリオン王に引き継がれた。彼もまた、四代魔王・ガイオス賢王には劣るがとても優秀な魔王であった。魔王を引き継ぎシャーペリオン王の時代になって三ヶ月後ガイオス賢王はお亡くなりになった。その時に起こった出来事こそが魔族の間ではとても有名な事件となった。その事件の名は、《魔王殺害及び裏切り魔族領征服事件》。通称、グスタフ裏切り事件。五代魔王・シャーペリオン王の補佐官であるグスタフ・オリオンと言う奴が主犯となった事件だ。それは十一年前の六月に起こった。その六月は丁度四代魔王・ガイオス賢王がお亡くなりになられた日であった。その当時の葬式は魔王補佐官庁の補佐官長を勤めていたグスタフ・オリオン(のちの六代魔王・ヘクトリアダム暴王)や副補佐官長を勤めていたヘルメス・オーガスト(のちの六代魔王・ヘクトリアダム暴王の最高幹部・幻妖の怪魔ジャスティスロード)同じく副補佐官長のハロルド・ロジャー。そして、新人補佐官のルシファ・シャトーリア(のちの七代魔王・ルシ王)を含めた計二十名で行われた。だが、今回の葬式は異例であった。普通の葬式であれば、補佐官全員の追悼酒という《先代魔王の意志を受け継ぎより良い魔族の国を作る》と言うような儀式があり、その儀式が終わると全国民に向けて先代魔王のお悔やみを現魔王が言い渡すという伝統がある。五代魔王・シャーペリオン王が挨拶とお悔やみを初めて七分が過ぎた時、事件は起こった。中央の大きなお立ち台でシャーペリオン王が全国民にお悔やみの言葉を申し上げている途中に補佐官長のグスタフが近づいてきた。そして、それに気づいたシャーペリオン王は一時話を中断して

「どうした?」

とお聞きになったそうだ。すると次の瞬間グスタフは

「お前の時代は終わりだ」

そう呟き、シャーペリオン王を刺した。何せそれが公衆の面前であった為、会場にいた国民達は慌て始めパニックと化した。慌て狂う国民に鮮やかで魔族特有の赤と青が混じりあった混血がシャーペリオン王を刺したナイフから溢れ出ている。まさにカオスと化したこの場をグスタフは逃げも隠れもしなかった。しかも、補佐官達も捕まえようとしなかった。何故なら、共犯の副補佐官長のヘルメスを含めた五名の補佐官やグスタフの考えに賛同していた魔族がシャーペリオン王を刺す直前に密かに他の補佐官を捕らえていたからだ。その補佐官達は身動きも取れずに、魔法を封じる手錠を手と足に付けられて一箇所に集められていた。すると、グスタフは捕らえた補佐官十五名にこう言った。

「今から一人一人処刑してやる。だが、俺の味方になると言うやつが居るなら今すぐ俺の前に出ろ。」

だが、ここにいる補佐官達は、皆動きもしなかった。シャーペリオン王への厚い忠誠心があったからだ。誰も動かないところを見たグスタフは、

「あぁ〜そうかい、そうかい。皆シャーペリオンが好きなのか。仕方ないな、今すぐお前らをあいつの元へ送ってやるよ!」

と言い、補佐官を一人一人殺し始めた。愉快にそして万遍の笑みを浮かべながら。だが、ここで思わぬ事がグスタフの身に起こった。十五名中十三名を殺し終えて残った二人が新人補佐官のルシファともう一人の副補佐官長・ハロルド・ロジャーだった。不思議な事にハロルドは自力で拘束具を解除した。近くにいたグリフォンは驚いて、

「おい、ハロルド!なんで魔力封じの手錠を解錠できてんだよ!」

と大声で叫んだ。周りにいたグスタフを支持する魔族達もその事に驚きを隠せず、少々パニック状態になった。

「まぁ、俺の魔力を注ぎ込んだだけだよ。解呪のポーションを使って。まぁこの解呪のポーションは魔力封じの手錠の効力を一分だけで弱める機能があって、その一分でこの手錠が壊れるくらいの魔力を突っ込んだ。まぁそのおかげで魔力はほぼ残っていねぇけどな。」

疲れ果てた顔をして、驚いているヘルメス達に説明した。だがこの話を聞いても冷静だった男がいる。そう、グスタフだ。彼は、

「まぁ、お前ならやりかねないと思ったさ。この作戦を始める前にお前から解呪のポーションを回収しておけば良かったよ。そうだ、魔力が残っていないお前にプレゼントをくれてやろう。このプレゼントからは嫌でも逃げられまい。」

そう言って、最上位魔法の詠唱を開始しハロルドもろとも消し去ろうとした。彼は多少部下が消えても構わないと思っていたからだ。グスタフが使った魔法は火属性最上位魔法の一つ、鳳凰煉獄乱舞槍《ピュルガトワールフレイムランス》だ。この魔法は自身を中心とする半径十メートル以内にいる人全てに煉獄の槍が刺さり焼き殺されるという魔法だ。

「おいおい、マジかよ。グスタフ補佐官長。」

ハロルドは冗談だろと言わんばかりにグスタフに言った。そしてグスタフはその言葉を嘲るかのように、

「あっ、そうだ足元にあるのは重力付与の術式だからね。これでもう君はおしまいだ。」

そう、この詠唱をすることを事前から決めていたのか分からないが、グスタフはこの場所に重力付与の魔法を設置していたのだ。逃げ出す事も不可能に等しいこの場所で副補佐官長・ハロルドがとった行動は、

「ルシファ、お前だけでも逃げろ。」

そう言った。彼が最終的に導き出した答えは、新人補佐官のルシファ・シャートリアをこの場から逃がす、つまり転送することだった。咄嗟の事でルシファは、

「ダメです!ハロルド副補佐官長がお逃げ下さい!私はどの道殺されます!ですから!」

彼女は心の底からそう叫んだ。だが、ハロルドはこう言った。

「無理だ!理由は二つある。一つは、お前が生き残ることで今起きている事を解決してくれると思ったからだ。お前には未来を変えられる力がある。だから、この後のことはお前に託したい。今までのお前を見て俺は、お前はすごく熱心に働いていた。責任感もある。だからだ!そしてもう一つの理由は、副補佐官長である自分の不甲斐なさにケリをつける為だ。自分がこの事態にいち早く気づく事が出来ず、対応が遅れたからだ。だから、若いお前の芽をアイツらに摘ませる訳にはいかねぇ。いいかよく聞けよ!」

そう言って、ハロルドはルシファを拘束していた魔力封じの手錠を外し、近くに転がっていた補佐官たちの死体から湧き出る血を自分の人差し指につけて、文字を書き始めた。

「いいか、やつの魔法が発動するまであと一分だ!俺は今から転送魔法の術式を書く。四十秒でだ。そしてこの魔法陣は魔力が要らないから、魔力が尽きた俺でも書ける。書いている間に周りに居るグスタフ側の魔族たちを近づけさせるな。頼んだぞ!」

そう言い放ったことを聞いて、ルシファは急いで自身のストレージから剣を取りだして戦闘態勢に入った。だがしかし彼女は反重力魔法の付与が施されていた。なので、グスタフの設置型魔法陣の影響を受けていなかった。立ち上がったルシファは敵の数を確認した。見渡す限り敵の魔族は約二十匹と言ったところだろうか。すると手前にいた一匹の魔族が《うぉぉぉお!》と叫び、剣を振り回しこちらへ近づいてきた。だが、臆することは無かった。ルシファは補佐官の中でも頭一つ抜けて剣術は強いからだ。彼女はかかってくる火の粉を振り払うかのように冷静に対処した。今の二十秒で魔族四匹を葬った。一旦落ち着き周りを見渡すと、奥の方でブツブツと魔法詠唱を行うグスタフの姿が見えた。ルシファはダメもとでグスタフの元へ近づき切り殺そうとしたが、そう易々とは行かなかった。周りに控えていたグスタフ側の補佐官たちがファイアボールやライジングスピアといった魔法を放ちルシファの行く手を阻んでいた。その隙を見計らってハロルド副補佐官長の元へ近づこうとする魔族が二匹いた。それに気づいたルシファは急いで彼の元へ後退し、二匹の魔族を切り払った。ハロルドが転移術式を書き終えるまで残り十秒。

「あと十秒持ち応えれば体勢を立て直せる。」

ルシファはそう思った。油断しないように自分の心に喝を入れ直した。しかし、妙なことが起きた。あと十秒で魔法陣が完成するというのにグスタフ側の魔族、補佐官はルシファ達から離れていったのだ。

「おかしい・・・。もうすぐ術式が完成するはずなのに誰一人として襲ってこない。」

ルシファが少し違和感を感じ、一滴汗を流した。戦闘態勢のままグスタフがいる方を確認した。やはり、彼はまだ火属性最上位魔法の一つ、鳳凰煉獄乱舞槍《ピュルガトワールフレイムランス》の詠唱を続けていた。そして彼の魔法陣は赤色。何よりこれが火属性魔法を詠唱している証拠だ。重力下で一生懸命魔法陣を構築しているハロルドはもうすぐ最後の文字を書き終える。そしてルシファはそれを確認し後ろへ下がると、風向きが変わった。そう、彼女が感じていた違和感はこれであった。転送魔法陣を書き終えようとするハロルドに向かって、

「ハロルド副補佐官長!転移術式を完成させないでください!」

焦っていたルシファは大声でそう叫びハロルド副補佐官長に伝えた。だが、一足遅かった。ルシファが叫んだ時にはもう魔法陣が構築されていたからだ。すると彼が書き終えた魔法陣が暴走を始め、ほんの数秒で跡形もなく消え去った。この光景にハロルド副補佐官長は、

「どういうことだ・・・。」

そう絶望していた。その問いに答えるためにルシファはハロルド副補佐官長にこう告げた。

「ハロルド副補佐官長、これは罠だったのです。私も先程気づいたのですが、おそらくこれは風系統の魔法で転移魔法陣等の移動系の魔法を妨害する強制移動解除術《アブソリュートトランスゼロ》です。」

それを聞いたハロルドは驚き、風魔法を使うやつを探した。すると、一人の人物が頭の中に浮かんだ。

「まさか!?・・・。ヘルメスか!」

そう言うと、

「大当たりですよ〜ハロルド副補佐官長。いやぁ〜まさかルシファが気づくとは思いもよらなかったなぁ〜。なぜ気づいた?」

ヘルメスは白状して、新たな問いをルシファに投げかけてきた。

「それは風向きです。私が転移魔法陣の方へ後退した時、一瞬ですが風向きが変わりました。それがあなたの強制移動解除術《アブソリュートトランスゼロ》に気づいた理由です。あと何故か魔族達が攻撃をやめたってとこもありますね。」

「なるほどねぇ〜。まぁでも〜もう君たちの負けは決まったから〜ほら見てみ〜。」

ヘルメスはそう言ってグスタフがいる方を指し示した。すると彼の詠唱が完成していた。それを見たルシファとハロルド副補佐官長は絶望をした。すると、

「じゃあねぇ〜!せいぜい天国で仲良く暮らしなぁ〜。」

そう言ってヘルメスはその場から立ち去った。そして取り残されたルシファとハロルド副補佐官長はなにか逃げる策はないかと考えた。それも必死に。だが、ルシファは何も思い浮かばなかった。だが、ハロルド副補佐官長は何かを覚悟したかのようにして身につけていた指輪とポケットから取り出した手紙をルシファの服のポケットに入れた。それを目の当たりにしたルシファは、

「ハロルド副補佐官長!何をしているのですか!」

とハロルド副補佐官長に訴えかけた。すると、

「最初にも言っただろ。若いお前の芽を奴らにつませる訳には行かないと。だから今から言うことをよく聞いてくれ。ここから転移したらまず、俺の隠れ家があるラーヴァナ地区に向かえ。そこには俺が信じられる仲間たちがいる。そしたら今渡した手紙を奴らに見せるんだ。そうすれば奴らは協力してくれるだろう。そこで体勢を立て直し、グスタフ達を王の座から退けてくれ。頼むぞ。」

そう言って彼は最終手段を用いた。生命代償転移魔法だ。この魔法は先程ヘルメスが放った強制移動解除《アブソリュートトランスゼロ》の効果を受けない転移魔法だ。しかし、この魔法は術者の生命を代償とし行われる。だから、最終手段なのだ。それを使用することを知ったルシファは、

「お止め下さい、ハロルド副補佐官長!あなたが生きる方が大事です!ですから!」

と泣きながら彼に訴えた。

「そんなことを言うんじゃねぇ。俺はお前の上司としての務めを果たしているだけだ。だから、自分のせいで俺が死んだと思うな。魔族だって、魔人だって、人間だって、死は必ず訪れる。どんなに抗おうとしてもそれは絶対に避けられない。だから、自分が生きている間に好きなことをするんだ。お前はまだ自分の好きなこと堪能していないだろ?まだ若いし。だが俺はもう自分の好きなことを堪能した。それはお前と一緒に補佐官として働くことだ。この生活が俺にとっての好きな事だ。お前はこの補佐官庁に入った当時はドジばっかりしていたな。でも今じゃ、立派な補佐官員じゃないか。だからお前は俺にとっての一生の宝と同然だ。誇れ、お前は強い。そして誰よりも優しい。そんなお前と一緒に働けてよかったよ。じゃあな・・・。」

ハロルド副補佐官長はそう言って涙を一滴流し、足元から徐々に消え始め、それと同時に転移が行われた。その光景を目撃したグスタフは、

「ハロルドの奴!そんなもんまで隠し持っていたのか!だが逃がす訳には行かねぇな!死ねぇぇぇぇぇえ!」

そう憤慨しながら、鳳凰煉獄乱舞槍《ピュルガトワールフレイムランス》をルシファに向けて放った。無数にある炎の槍は一直線にルシファに向かっていった。しかしそれよりも早く転移魔法が発動し、ルシファが転移完了しこの場から消え去ったと同時に無数にある炎の槍は後ろにあった柱に命中した。そして、ものすごい爆音とともに建物が徐々に崩壊を始めていった。倒壊が始まった時にグスタフは、

「おい、ヘルメス。ここは一旦仕切り直すぞ。魔王城に行き、ルシファを拘束するための部隊を構成しろ。話はそれからだ。いいな。」

「わかりました、我が君よ。」

二人は会話をさっさと終わらせ魔王城へと転移を開始した。それを見たグスタフ側の補佐官達も次々と転移を開始した。しかし、下級の魔族たちは転移魔法を使えるものがほとんど居なかったので建物の下敷きとなり死んでしまった。

 

 

 

「これが当時の戦乱の世で最も悲惨だと言われたグスタフ裏切り事件の全貌だ。当時捕まっていたルシ様も酷く心を痛めていただろう。」

ミノタウロスはそう呟いた。俺はグスタフ裏切り事件についての全貌を知った時、言葉では表せなかった。まさかこんな裏切りが起こるなんて・・・。今までの魔族の王政の国家がこんな形で崩れ始めるとは誰もが予想できなかった。俺は歴代の王に向けて黙祷を捧げた。それも六代魔王・ヘクトリアダム暴王以外に。俺はその黙祷を終えて教会を後にした。すると、ミノタウロスは次の場所へと案内した。その場所は魔王城入口だ。魔王城の入口は先程居た教会からそう遠くない所に位置していた。歩いて五・六分と言ったところだろうか。その入口はとても豪華で、両サイドに綺麗な新緑の芝が広がっている。また入口のドアは木製でその脇には二つの像が建ち並んでいた。その二つの像は現在の魔王を象徴しているのか片方の羽が折れた天使を表していて、互いに向き合っていた。この光景を目の当たりにした俺はふと、

「ホントにこれが魔王城なのか?・・・。」

と、少し疑問を感じていた。それもそのはず魔王城といえば、もっとお堅いイメージでThe・要塞って感じだからだ。どこの世界の魔王城も固くて頑丈なアダマンタイトやオリハルコンといった鉱石等を精錬し、如何なる敵をも阻むと言ったものだと思っていた。既成概念のせいか自身の考え方が乏しいものだというのを実感した。俺はこの魔王城を見てから、《既成概念》という人により人のために作られたと言っても過言ではないような呪縛を断ち切って全てを無の状態から見るという考えにたどり着いた。それは俺の人生を180度変えるものであり、この出会いこそが俺の最強を手に入れる為の一歩なのかもしれない。と勝手に想像していた。俺は今のことも踏まえ、ボッーと魔王城の門を眺めていると、案内人のミノタウロスが俺にこう言っててきた。

「おい・・おい、お前。大丈夫か?今から魔王様と面接なのにそんなボッーとしていて。」

「あっ・・申し訳ない。この門構えを見るとどうも魔王城には思えなくてつい、見入ってしまった。」

すぐさま俺はミノタウロスにそう返事をした。

「確かにお前が言うこともわからんではない。以前の魔王・ヘクトリアダム暴王はこんな平和じみた魔王城の門など腑抜けている、気色悪いなどと言っていたからな。だから、昔の魔王城は要塞のような感じで地獄絵図のようなもんでもあったんだ。」

ミノタウロスはそう言った。俺がふいにミノタウロスの目を見ると、その目を見ると光を失ったかのような目をしていた。やはり、一個前の魔王・ヘクトリアダム暴王は魔王の中でも《最凶》と呼べるような奴だったのだと再び認識させた。魔族の皆もただ平和に暮らしたいだけだとというのに・・・。

「あぁ、すまない。魔王様の所へ案内するからついてきてくれ。面接がんばれよ。」

自身の落ち込みから抜け出してきたミノタウロスは、一言の謝罪と一言の激励を俺にしてくれた。門を潜ると、そこは一種の貴族邸と言えるような広さであった。壁はコンクリートのような少し灰色がかっている壁で、決して白一色と言えるようなものではなかった。そして目の前には横幅四メートルある大きな階段が聳《そび》えていた。城内の景色に見とれていると、ミノタウロスは、

「こっちだ、ついてきてくれ。この城は結構広い、そして所々に簡易的な転移陣が設置してある。賊や魔王を討伐しに来た者を足止めする為のトラップだ。俺たち魔王様に使える者は全てトラップの位置の把握はできている。だからお前は合格するまでむやみに立ち歩いたりしないようにな。」

そう言って案内を続けた。俺はとにかくミノタウロスの後ろをついて行った。仮に俺がトラップをむやみに作動させては魔王との面接が予定より遅くなってしまう。決してそのようなことは避けなければ・・・。階段を四回上り、五階へ着いた。五階に上がってすぐ東へ少し進み、案内人ミノタウロスの後ろをついていくとようやく魔王がいる部屋に着いた。するとミノタウロスは、

「俺の役目はここまでだ。さぁ、面接頑張ってこい!俺の感覚だがお前は魔族に対しての偏見がないような気がする。だから、信じてるぞ。」

俺はこの言葉に勇気づけられた。そして俺はルサールカのことも思い出した。俺は二人の声援を胸に、高さ約三メートルのドアをノックした。すると、

「入るが良い。」

その一言に魔王の強烈な威圧を感じさせた。俺は、

「しっ、失礼します!」

と、大きな声を出してドアを力いっぱい押した。少し開けると中から光がこぼれていた。ここからが本番。緊張が高まり、血の巡りが早くなる。その血の巡りが心臓へ、心臓から全身へとまた駆け巡る。バクバクと活動をする心臓がいつも以上に身体に刺激を与える。そこには少しの恐怖と緊張が一進一退して俺はどうしていいか分からなくなっていた。そしてその状況を一度リセットする為に俺が自身に向けて放った言葉は・・《めげるな!》であった。今まで地球にいた頃の学校生活では、嫌なことからは全力で避けて陽キャ人種とはほとんど関わりを持たないようにしていた。だが今は違う。今は地球にいた頃の俺とは違う。神様に与えられたチャンスを踏みにじる訳には行かない。ここで変わらなきゃなんの意味もないだろ!と自分自身を鼓舞した。そして、緊張と恐怖を押し殺し前へ進んだ。ドアが完全に開かれるとそこには魔王の部屋とは思えない美しさが広がっていた。大きな窓が南がに設置してあって、その近くには趣味程度に手が加えられている植木鉢と高さ一メートルの真っ直ぐな気が置かれていた。その反対側、すなわち北側には魔王の両親らしき人との写真が飾られ、一つの大きな机と二つの木製の椅子が対になるように並べられていた。とても簡素ではあるがとても美しいものだった。すると、

「いつまで見入っているの?面接始められないでしょ?」

その言葉が放たれた方をむくと、そこにはとてつもないお姉さん系美少女が立っていた。俺はすぐさまそれが魔王と気づき、顔を少し赤くした。理由は明確で、先程言ったお姉さん系美少女+身体のボンキュッボンが完璧な黄金比であったからだ。そしてその魔王は髪色は金髪で胸元が少し強調されている白のニットを着ていた。もう、えっちの塊だ俺は心の中でそう思った。俺は意識を面接へ戻し、

「すみません、魔王様の部屋がとても美しかったもので・・・。」

と謝罪をして率直な感想を述べた。

「うむ!確かに私の部屋が美しいのは分かるけど、面接は集中して受けてよね!」

軽く注意を受け、北側にある机と椅子の方へ案内された。移動すると魔王は奥の棚にあった一枚の書類を持ってきて《座って》と合図した。俺はそのことを察して《失礼します》の意を込め一礼をして着席した。気のせいかもしれないが最初の《入るが良い》と《うむ!確かに私の部屋が美しいのは分かるけど、面接は集中して受けてよね!》の時の印象が違っていた。前者の方は、威圧感があり、The魔王という感じがした。だがしかし後者の方は、友達に語りかけるような軽やかな口調で緊張感と威圧感がなく気軽に接していけそうな感じだった。このことについて少し悩んでいると、書類に目を通していた魔王はこっちを見て、

「なんで、最初の時に私が言った言葉とさっき言った言葉の口調が変わっているんだろ〜って思ってるでしょ?」

俺は驚いた。そして身体が少しピクっと動いてしまった。咄嗟にそんなことを言われて動揺してしまった。動揺して数秒経ったとき俺は一つの答えにたどり着いた。そう、魔王は俺の心が読めるということに。自信ありげに納得していると、

「ふふふっ・・。翔太くん正解だよ。私は相手の心を読めるの!だから、この面接で嘘を言ったらすぐバレるからね?あっ、ちなみにさっき君が私の事見て《えっちの塊だ》って言ってたのもわかってるだからね?」

魔王は微笑していた。俺は、色んな意味で一瞬思考が止まった。そして、

「魔王様、大変申し訳ございませんでした!」

と流れるような土下座をして全力で謝った。

「全然いいよ、むしろ君みたいに全力で謝ってくるのは初めて見たかも。」

また魔王は微笑して少しからかってきた。それでもまだ俺は床に頭を擦り付けて土下座をしていた。

「まぁ、からかうのはこれくらいにして面接始めるよ!さっ、座って、座って〜。」

と言いつつ、魔王は席につき俺を早く座るように催促した。

「じゃあ面接を始めるね!質問は全部で五つ。この五つの質問を終えたら、君の魔王軍への入隊の合否を出すからね。ちなみに注意事項だけど、嘘をついたら即刻不合格ね〜」

魔王はそう言って質問が書かれた紙を手に俺の方を見て問いかけてきた。

「じゃあ、質問一ね〜。まぁ〜オーソドックスな質問だね。なんで我々魔王軍に入隊を希望したんですか?」

魔王は紙を見て何故かは分からないが上目遣いで質問してきた。ちょっとえろいなと思いつつ、俺は真剣に質問に答えた。

「はい、俺がこの魔王軍に入隊した理由は、魔王軍幹部ルサールカに助けてもらったことです。俺は以前まで魔族は悪だと考えていました。しかし、それは嘘でした。それより人間の方がもっと悪だと思ってもいます。なぜなら、人間は常に自分たちの輪の中で分類を行い酷い扱いを受ける者と裕福に暮らし他人を見下すような者とで隔てられているからです。ですがしかし、人間にも良い人は沢山います。それも飛びっきり良い人が・・・。だけど、それを潰そうとするのが悪の人間です。その人々は自分が儲かって、自分の利益を優先する為にわざと魔族=悪の存在という考えを植え付け、罪のない魔族を殺させている悪の人々を許せないと思ったから俺は魔王軍に入隊したいと思っています。」

と、俺はありのままに思ったことを述べた。魔王の顔を見ると、少し微笑んでいた。その様子に俺は俺の心からの思いが伝わったと確信した。すると場の雰囲気が少し変わった。それも冷酷な方に・・・。すると魔王は、

「なるほどね。翔太くんの意見は十分理解できたよ。じゃあちょっと質問をはしょって、次の質問を最後の質問とするけど良いかな?」

俺はその言葉に少し戸惑いを隠せなかった。俺はなにか変なことを言ってしまったのではないかと不安になってきてしまった。だが、俺は迷わずに、

「わかりました、お願いします。」

とはっきり伝えた。どんな結果であろうと俺は受け止める覚悟をしていたからだ。

「うむ、君の気持ちはよく分かった。じゃあ最後の質問ね。」

「はい・・・。」

場の雰囲気が冷酷のまま最終質問へと移った。

「最後の質問は・・仮に今から出撃命令を出したとして、人間の村や町、王都をおそうとするじゃん?そしたら君の言う悪の人間はどうやって見つけるの?そしてどうやって対処するの?」

そう、最後の質問は俺にとって合否を左右するとても重要な質問であった。もし、この質問の答えを間違ったら不合格、また嘘を言ったとしても不合格俺は悩みに悩んだ。そして、

「俺の答えはただ一つです。・・分かりません。」

俺は、心に思った事をありのままに答えた。すると、

「うん、わかったよ。じゃあ君は不ご・・」

と、不合格の通達をしようとしたところを断ち切って俺は続けた。

「ですが、一つできることがあります。それは人々の考え方です。魔王を含める魔族は人々から恐れられる存在です。ですが、こちらが魔族領を通り掛かった人や近くで怪我をしてしまった人達に手当をするなど精一杯誠意を見せて自分たちは敵対勢力ではないことを示します。現に今の魔界はとても平和的で友好な魔族が多いです。だから、良い心を持つ人々にはこのことが伝わると思います。そして、そこから魔族は悪いやつじゃないと言う噂が広がり人間と友好な関係が結べると思います。これは理想論かもしれませんが俺はこれが一番平和的で誰もが傷つかない解決手段だと考えます。」

俺は魔王に心からそう伝えた。理想論でもいい、ただ魔族は悪でないと人々に伝われば・・・。すると、魔王の表情が変わり少しニヤッとして、

「中山翔太くん、君は合格だ!今日から君は魔族軍そして魔界の住人として認めようじゃないか!」

と、魔王は大きな声で告げた。俺は感動のあまり、数秒声が出なかった。ただ涙だけが溢れこぼれるだけだった。嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて心から感謝を感じ取れた。すると、

「皆の者〜!今日は宴だ〜!準備して参れぇ〜!」

と近くに居た魔王の側近たち良い宴の支度をさせた。

「おめでとう、翔太くん。君みたいな人を私は探してたよ。」

と、肩を叩いてくれた。

「ありがとうございます、魔王。」

「これこれ〜魔王じゃなくてルシって呼んで?」

「ルッ、ルシですか!?」

俺は少々戸惑った。会ってまだ数時間だと言うのに・・どういう風の吹き回しなのだろうかと考えていると、

「私は翔太くんのことが好きだからだよ。人族として。」

「えっ?・・・。」

俺は驚きを隠せなかった。どういうことかも分からず、頭が《?》で大渋滞していた。頭が大渋滞している中、ルシを見てみると、彼女は顔を赤くしていて、それをバレないようにするためなのか顔を手で覆っていた。これはこれでて・・可愛い。

「あっ、そうだ。宴の準備は時間が掛かるから魔王城の客間でゆっくりしているといいよ、翔太くん。集合は一時間後にここね。」

そう言ってルシはスタスタとその場を立ち去った。俺は先程のルシの恥ずかしがっている顔が頭から離れなかった。そうこうしていると、この魔王城まで案内してくれたミノタウロスが目の前に立っていた。

「翔太!合格おめでとう!これで俺らも仲間だな。さっき魔王様から客間に案内するように言われてるから案内するぞ。ついてきてくれ。」

そう言って再び俺のことをミノタウロスが案内してくれた。魔王の部屋から西に進み、突き当たりの階段を一つ降りてまた西へ進むと客間が廊下を挟んで両サイドに八つずつ設置してあった。すると、

「じゃあ、翔太の部屋は左側の手前から三つ目だ。あっ、ちなみに一番手前の部屋はお客様が居るからあんまり騒ぎすぎんなよ?」

そう言って俺を手前から三番目の部屋に案内してくれた。ドアを開け部屋に入ると、とても綺麗で清潔感のある部屋だった。正面には窓も結構大きめで緑があり、左側にはシングルベット、そして右側には木製の机と椅子が並んでいた。明かりとして天井には小さなシャンデリアがあった。

「結構広いですね。しかも、めちゃくちゃ綺麗だ。」

「だろ?さすがは魔王城だろ!」

ミノタウロスは誇らしげに言った。

「じゃあ、一時間後に迎えに来るからゆっくりしてくれ。じゃあな!」

と言い、俺が滞在する部屋のドアを閉めてミノタウロスは持ち場へ戻っていった。

「さて、俺は一応魔王軍に入れたからな、これから頑張って貢献しなければ。新しい魔法の書を買いたいな。どこかに魔法の書を売っている場所を探さなければなぁ〜。」

俺は独り言を呟いた。すると久々に脳裏にある声がよぎった。

「マスター、魔王軍への入隊おめでとうございます。」

「誰かと思えば、メーティスじゃないか。久々に喋りかけてきたかと思えばどうした?」

「あの、私が話しかけた理由は二つあります。一つはマスターの現状の報告をしなければと思い馳せ参じました。」

「俺の・・・現状?」

「はい、マスターの現在のレベルや魔力量、使える魔法についてのご報告です。ご報告してもよろしいでしょうか?」

「あぁ、頼む。」

俺は即決した。何せ今の自分の実力状況を知りたいと思ったからだ。鑑定スキルは、相手の事しか測れないからだ。

「では、マスターの現状についてご報告致します。個体名・中山翔太。レベル26→レベル282。」

「えっ?・・・レベル282?どゆこと?・・えっ?えっ?」

俺は本当に戸惑いを隠せなかった。何せつい四・五日前までレベル26だったのが現在レベル282は異様な成長具合はだからだ。

「どうして、そんなにレベルが上がってるの?」

「はい、その理由はレベル320のオロチを討伐したからです。あの時のマスターのレベルは26。その状態で天と地の差ほどある実力を埋め、討伐したことが大量の経験値をもたらしたのです。」

「なっ、なるほどね・・。」

確かにその通りだと思った。転移陣で勝手に移動させられて、オロチと戦って、危うく死にかけまで行ったからな。そう考えると、経験値も大量に貰えるのも理解出来る。

「では、報告を続けます。魔力量・1500→34000。」

「魔力量の桁一個間違ってない?」

「いえ、間違っておりません。そして、このことを含めもう一つの理由をお答えします。もう一つの理由は、マスターの魔力4000分を私に頂けませんでしょうか?」

「俺の魔力4000分?」

俺は疑問に思った。何故俺の魔力4000分が必要なのかと。少々悩んだ結果俺はこんな決断を下した。

「分かった、良いよ。でも、何に使うんだ?」

「じきに分かります!」

と言って俺の魔力を4000分吸い取った。すると目の前が白く光り始めた。数秒すると発光した白の光はやがて、人の輪郭となり現れた。しかも女性だ。髪は鮮やかな紅で、低身長で年齢的には十五から十六歳ぐらいだろうか。そしてどちらかと言うと、幼女のジャンルに分類できそうだ。

「ありがとうございます、マスター。これでいつでもマスターのサポートが出来ますね。」

「よろしく、メーティス。ってか、その見た目(幼女)は、わざとそうしてるの?」

「そういう訳ではありません。たまたまです。」

俺はその言葉に少し威圧を感じた。

「マスター、呼び方を変えてもよろしいでしょうか?」

「呼び方?まぁ、別にいいけど。」

「でっ、では失礼して・・・翔太お兄ちゃん。」

「おっ、お兄ちゃん!?」

再び驚いた。なんかもう、今回は驚くことが多い気がする。自分自身もどうして良いかわからなくなってきた。すると、メーティスは突然話題を変えてこんな話をしてきた。

「では、レベルアップした事により、使える火の魔法が増えたのでご紹介致します。」

  〜火の魔法〜

・炎の槍《ファイアランス》(火属性の槍を作り出し、敵に放つ魔法)

・炎の連弾《ファイアバレット》(火属性で生成された球を連続で撃ち続ける。魔力が尽きない限り撃ち続けることが出来る魔法)

・爆裂魔法《エクスプロージョン》(火属性最上位魔法の一つ。炎の密度をより濃くしてそれを敵に放つ魔法)

・鳳凰煉獄乱舞槍《ピュルガトワールフレイムランス》(火属性最上位魔法の一つ。煉獄の炎を槍五本を生成して、相手を囲み五重の魔法陣を上空に組み込み炎を集約して敵へ撃ち込む)

「この四つ程でしょうか。使用出来るようになった魔法は随時報告します。おっ、お兄ちゃん!」

「ここでもお兄ちゃん言うのね。」

俺はさりげなくメーティスに突っ込んだ。少し混乱気味になっている俺はとりあえず、シングルベットに横たわった。すると、コンコンと木製のドアを軽くノックする音が聞こえた。俺は、《はぁ〜い》と言いつつドアを開けた。そして、光が溢れていたドアを開けるとその向こうには・・・。

 

 

 

     第三章 種族とは、言葉とは、    ー完ー



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〜第四章 神なる宴〜

この章では魔族領について語られる場面があります。文章だけでは不十分だと思ったので後書きの方に簡単な地図を掲載します。是非、ご活用ください。それでは第四章 ー神なる宴ー始まりです!


 「時」とは人々が知恵を絞って目に見えない抽象的な物を我々の目に見えるように具現化した物、すなわち我々の想像上の中で生み出されたものである。日本やアメリカ、フランスなどの美術作品(例えば、曼荼羅や最後の審判)は全て人々が思い描いた存在である。果たしてそれは本物だと断言出来るのだろうか?神や天使、はたまた悪魔や地獄それは空想上にしかない物なのだろうか?永遠と語り継がれるこのことは、ただ一言でしか表せないのかもしれない。そう、それは《未知》という言葉でしか表せない。そして人間も未知なる存在なのかもしれない。全てを変えられるだろうか、否全てを元に戻せるだろうか?

 

 

   〜第四章 神なる宴〜

 

 

     ー某月・某日・一時三十八分ー

 

 

 一人の男が何かを成し遂げたかのような顔をしてこちらを見てこう言った。

 「やっと完成したよ!今回の球は最高傑作だ!僕ながら良くやったよ本当に。」

 「楽しそうにしてるとこ悪いんだがもう作らないでくれ。我の仕事が増える。この球全ての生誕と結末の管理は、全てを我が担っておるのだぞ。お前はさすがに作りすぎだ。今回の青い球は壊させてもらうぞ。」

そう言って、闇から姿を現した男は何かを唱え始めた。それを見て青い球を作った男は焦りながら彼の手を止めた。

 「ちょっと止めてよグレイシア!今回のは僕にとっての切り札でもあるんだ。何故なら僕の予知能力がそう言っているんだ。だから壊さないでくれ!頼むよ!僕の予知能力が正しければ、そうだなぁ・・・面白いものが見れるのは二十二時間と二十秒が経ってからかな。ちなみに、この時間になったら君の力で凍結させてくれ。君が好きそうなエンターテインメントショーが見れるはずだからさ!ねっ?」

彼はそう言って、グレイシアを説得した。

 「・・・たくっ。今回だけだからな。主の言う通り、二十二時間と二十秒が経ったら凍結させる。本当に我にとっての娯楽となるのか?」

 「もちろんだよ!そしてありがとぉぉお!グレイシア!やっぱり、君と僕は永遠の相棒だよぉぉ!」

 「おう、そうだな ケラ。とりあえず、今回で一旦球作りは終了だからな?」

 「もちろんだよ!あっ、あとさ今回の転送はどんな感じだった?魔族全滅したかな?」

ご機嫌なケラは、グレイシアにそう質問した。すると、グレイシアは一番左側にあった薄いタブレットのようなものを取り出してきてケラに見せた。すると、

「えぇ〜、もう一人死んじゃったの?雑魚じゃん!ただの雑魚じゃん!しかも味方の裏切りかよ〜。僕こういうの好きだけど、序盤すぎてなんかつまんねぇ〜や。はぁぁぁ。やっぱり、二年五組の方送ればよかったかな?」

「いや、一人の死者なんて想定内だろ。多少の死者なんて出て当たり前だからな。まぁそいつが死んだ代わりにあの勇者職に任命した奴はガンガン強くなってるから結果オーライかと。」

グレイシアのその発言にケラは勇者職に選ばれた奴のステータスを見始めた。そしてしばらくしてから、

「ほんとだ!強くなってんじゃん!それなら死んだ奴の事はもう気にしなくていいね。さてと、死んだ奴はさっさと除外しないとね〜。」

そう言ってケラはタブレットをいじり始め、その死者の生命活動報告書を破棄した。

「はい、グレイシア!これで君の仕事は減ったよ〜。いやぁ〜僕って良い事するなぁ〜。さぁてと、ジュースでも飲もぉっと!」

ケラは万遍の笑みを浮かべながら奥へと消えていった。それを見届けたグレイシアは、

 「さてと・・。転生させたアイツら情勢がどれだけ変わるかだよなぁ・・。しかも、勇者職を与えたアイツは我々の最上位に存在するあの方のお気に入りだからな。しっかり観察しておかなければ・・。」

そう言ってグレイシアは最前列の椅子に座り、モニターを起動させ記録作業を開始した。

 

 

   ー一方魔王城に滞在している翔太はー

 

 

 俺はノックをする音が聞こえたので、(はぁ〜い)と言ってシングルベットから起き上がりドアの方へ向かった。ドアを開けるとそこにはルサールカが立っていた。すると俺を見た彼女は

「やぁ、翔太くん!お姉さんが遊びに来たぞぉ〜!」

と言って、勢い良く俺が滞在している部屋に入ってきた。俺はあたふたしながら、

「ルッ、ルサールカ!?な、な、なんでここに!?」

と叫んだ。俺は結構大声で叫んだので二つ隣の部屋まで響いていたと思う。俺は迷惑をかけてしまったのではないかと少しその場で反省した。

「もう、翔太くん!ルサお姉さんか、ルサ姉って呼ぶんでしょ!忘れないでよね、もぅ〜。」

彼女は少し苛立っていた。だが、俺には少し違和感に感じた。ルサールカが何の理由もなくこんなに怒るはずがないと。いや、最も違和感を覚えたのは(ルサ姉)という発言だ。俺がルサールカに膝枕をされていた時、彼女は自分のことを(お姉さん)と呼ぶように言った。いくら彼女が俺に親しくても、(ルサールカお姉さん)と多少堅苦しいような呼び方をするように強要してくると思った。そして俺は数秒考え込み、カマをかけることにした。

「なっ、なぁ〜ルサ姉。」

「どうしたんだい翔太くん?」

「お前、本当にルサールカなのか?」

「やっ、やだなぁ〜。翔太くんどうしちゃったの?なんかいつもより変じゃない?」

彼女の様子が少しばかり変化した。そう、それもマイナスな方に。すると彼女はゆっくりと後退し、左手を腰の辺りに押し付けていた。(明らかに変だ)そう思った次の瞬間、

「お兄ちゃん、伏せて!」

俺の後方からメーティスの声がした。俺は咄嗟に自分の体を思い切り下へと引きずり下ろした。完全に体を引きずり下ろし俺は上を見上げると、そこには偽物だと睨んでいたルサールカがこちらに刃渡り十五センチ程の鋭利な短剣をこちらに向けていた。(間違いない、こいつはルサールカじゃない)疑問が確信に変わった瞬間だった。すると、

「正体を現せ!偽装解除《ディスガイド》!」

メーティスはさり気なく魔法を使っていた。俺はそれに驚き、

「えっ?メーティスって魔法使えたの!?」

「いや、お兄ちゃんの魔力と全魔法世界管理権限最高創始神《ゴットオブオールマジックアドミニストレータ》の力です!詳しい事は後で説明します!とにかく、目の前の奴を。」

つまり、後方に立っていたメーティスはこの短時間で全魔法世界管理権限最高創始神《ゴットオブオールマジックアドミニストレータ》に解除系魔法《ディスペル》の申請をしていたのだ。そして、俺は彼女の忠告に答え目の前にいたルサールカの偽物に戦闘態勢をとった。

「うっ、うぅぅ!」

メーティスが放った魔法をもろに食らったルサールカは少しばかり苦しみながら地面に膝を着いた。その瞬間彼女の体はひとまわり程横に大きくなり、ガタイが良くより筋肉質になった。すらっとしていた太腿からふくらはぎはより引き締まったものとなった。更には足先は三前趾足となった。やがて背中からは漆黒の羽が生えてきて体を見るとまるで半人半鳥のような姿をしていた。顔を見ると少しタレ目で鼻が高く、口から少し牙が見えていた。また、髪は羽と同様で漆黒に染まっていた。

「おっ、お前は誰だ?」

その姿を見て俺は問いかけた。だが、俺の体は少しばかり震えていた。理由としては単純だった。それはルサールカの魔力量より大きく、強者としてのオーラが半端なく解き放たれていたからだ。

「俺・・か?お前に教える必要なんて無い。何せお前はここで死ぬからな。」

そう言うと、半人半鳥の奴は先程の短剣をこちらに向けた。そして俺が瞬きをした瞬間、奴はゼロ距離に迫っていた。それに気づいた時にはもう遅かった。短剣は俺の目の前で寸止めしていて、いわゆるチェックメイトの状況にあったのだ。

「お前、何か遺言はあるか?」

半人半鳥の奴は俺に向かってそう言った。

「お兄ちゃんに近づかないでください!四大要素魔力障壁《エレメントウォール》!」

そう言って、俺とやつのほんの少し間にメーティスは障壁を展開した。その障壁は時間が経つ毎に大きくなり、俺とやつの間に空間が生まれた。すると奴は少しニヤッとしていた。まるでこの状況を想定済みだったかのように。すると奴は一瞬で距離を詰めてきた。今度は俺ではなくメーティスの方に。それに驚いたメーティスは一歩後退りするが間に合わず首の後ろに手刀を打たれその場で気絶してしまった。やはり、奴は強い。魔力障壁が展開された時点で次の殲滅プランが組み立てられていた。

「さてと、邪魔なちびっ子魔法使いが居なくなったし、やっと殺せそうだ。もう遺言は聞かねぇ、じゃあな。」

奴はすごく冷静に事を運ぶ為にそう言った。何かに焦っているのかは分からないがとにかく、少し焦っている事は分かった。(俺はもう殺されるのか)と、走馬灯に触れることなくこの異世界人生が終わろうとしている。なのに、何故か死ぬ気がしなかった。理由は分からない。しかも、何かしら死を告げるような事も起きる気がしない。そう感じた。今までたくさんの死に直面してきた俺だったから分かるような気がした。否、これは慣れなのでは無いかと不安を覚える自分もいた。そんなこんなを考えていると時間が一秒すぎることさえ遅く感じた。

「死ね。」

そう一言放って奴は俺の首筋へと勢いよく短剣を降り下ろした。首筋へと一直線に向かってくる短剣。俺は回避行動を取ることもせず、ただただボーッとしていた。すると、ドアがミシミシという音を立てて破壊された。俺と奴の視線がドアの方へと集中させた。そして次の瞬間、

「水聖刃斬《アクアブレイク》!」

無詠唱で発動された水属性の技は奴が持っていた短剣を一瞬で打ち砕いた。

「大丈夫かい?翔太くん。」

そこに現れたのはルサールカだった。ルサールカは汗を流しながら俺に声をかけた。俺はコクリと頷いた。すると、奴の視線は俺ではなくルサールカの方へと向かっていった。そして、

「おい、ルサールカ。てめぇ、何しやがる。同じ魔王軍幹部だからといって手を出していい事と悪い事があんだろ。状況判断しっかりしろ。ぶっ殺すぞ。」

奴の癪に触って、怒りと興奮の両方を兼ね備えさせてしまった。奴はそれを糧にして、

「七大罪スキル発動!火山の如き怒りの力よ、俺のもとに顕現せよ。憤怒《イラ》!」

そう唱えると、奴のステータスが約二倍ほど上昇し一時的に回復系統の魔術、超速再生と付与系統の魔術、攻撃超上昇《グレイドパワー》が付与された。どうやらこれが七大罪スキルの力らしい。

「わざわざこんな場所で本気を出すですか?マルファス。いや、あなたのスキルの偽装者《フェイカー》の可能性もあるか・・・。」

ルサールカはそう呟いた。俺はその言葉に引っかかり、鑑定を始めた。鑑定には一部文字化けしたような箇所もあるが、一つ大きなことがわかった。

「ルサールカ!油断しないで!アイツは憤怒《イラ》を使っている!しかも、トラップも何ヶ所か設置しているよ!」

と、大声で鑑定結果を叫びルサールカに警戒するように求めた。すると、

「おい、ルサールカ。アイツの言う事聞くのか?聞くのはいいが、俺がステータスを偽装《フェイク》している可能性もあるんだぜ?」

と惑わせるようなことを言ってきた。だが、ルサールカはなにか確信したかのように、

「そうですか・・・警告ありがとうございます。ですが・・・」

「ん?ですが・・何だよ、答えろ。まさか、アイツの言うこと信じるのか?お前も堕ちたもんだな、ルサールカ。まさか、俺よりあいつを信用するなんて」

とマルファスが少し嘲笑い、油断していた隙に

「翔太くんをバカにしないでください!静寂の水流道《フェネティリア・ゼロ》!」

水属性最強と謳われる魔法の一つである静寂の水流道《フェネティリア・ゼロ》を放った。この静寂の水流道《フェネティリア・ゼロ》は水属性の魔力を一点集中させ相手に撃ち込む超強力な技である。その技を発動したルサールカを見てマルファスは油断していた体を無理やり起こし0.1秒で戦闘態勢に入った。攻略方法を見出したマルファスは偽りの罠部屋《トリックルーム》を発動させ、(こい!)と言わんばかりに興奮状態で短剣を構えていた。偽りの罠部屋《トリックルーム》とは、半径一キロに様々な罠を張り自身のスピードとパワーを倍増させ有利なフィールドを生み出す技である。ここでのマルファスのパワー、スピード、魔力量等は七大罪スキル憤怒《イラ》との効果を掛け算しているのでステータス的には警戒態勢をとっていない俺が初めて会った時の温厚な魔王ルシの通常時のステータスと同等である。そのマルファスの力と最上級魔法を放つルサールカの力がぶつかり合うその瞬間、二つの力が無と化した。理由は単純だった。そう、第三者の力が消し去ったのだ。

「やめろ、マルファス!私が招き認めた人間だぞ。私は翔太を幹部と認めた。例え種族が違えども幹部は幹部だ!いつもと同じ対応をしろ。」

二人の魔力消し去りその場で説教をしたのは魔王ルシであった。彼女が降臨すると一同は静まりかえった。すると辺りの気温は僅かながら低下し、体にゾッと寒気を感じ始めた。やがてそれは俺たちの目に完全に具現化されるようになった。そう、俺が今たっている部屋の隅という隅が少しずつ凍り始めているのだ。

「申し訳ございません、魔王様。ですが私の目から見ると翔太と言うやつの実力は弱く感じます。そこから我々幹部の域に達していないと言う結論に至りこのような行為に出ました。」

「ほぅ、それが今回の翔太の暗殺というわけか?」

「いえ、決してそのようなことはございません。第一私はやつの首元で寸止めするつもりでした。」

「わかった、今回はそういう事にしておく。ただし、次同じような事があったらお前を破門とし、この国から出ていってもらう。それで良いな?」

「ははっ、仰せのままに。」

一瞬のうちにマルファスの今回の行動動機と処分とが決まった。まさかこんな一瞬で事態が片付くとは思ってもいなかった。俺はここで魔王ルシの力の強さを改めて知ることとなったのだ。すると、マルファスは魔王に一礼をして俺が泊まっている部屋から出ていったのだ。

「大丈夫だった?翔太くん。」

「あっ、何とか大丈夫でした。ルッ、ルシ。」

俺は魔王様のことを(ルシ)と呼ぶことに今でも抵抗を感じていた。すると、

「こら、翔太くん!魔王様に向かってルシなんて呼んじゃダメでしょ!お姉さん怒るよ?」

ルサールカは俺が魔王様をルシと呼んだことを軽く注意し、俺の頭を軽く叩いた。すると、

「良いんだよ、ルサールカ。私がルシって呼んでって翔太くんに言ったんだから。」

ルシがそう言うと、ルサールカは納得していた。

「あっそうそう、翔太くん。君に伝えなきゃいけないことがあるんだけど・・・。」

ルシはそう言いながら、わざとらしく胸を強調しながら上目遣いでこちらへ近づいてきた。

「やべぇ、えっちだ。」

心の中でそう思った。やはり、魔王様の破壊力は半端なかった。色んな意味で・・・

「翔太くん、えっち。今から大事な話をしようとしてるのに。」

「えっ、いいっ、いや、そんなこと全く考えてません。」

俺は咄嗟に嘘をついてしまった。あんなもん見せられたら雄は抵抗できない。

「嘘ついたのバレてるよ。私の目誤魔化せないの知ってるでしょ?」

ルシはそう言ってその上目遣いの姿勢から少し睨んでいた。ルシは少し怒っているようだが、男の俺からしたら(可愛い)たったその一言であった。そう思っていると、心を読むことが出来るルシは顔を赤くした。理由は何となくわかった。俺が心の中で可愛いと言ったからである。多分こういう風に思われるのは新鮮なのだろう。やはり魔王としての威厳もあるため、あまりこういう風に思われることは無いのだろうと察した。すると、ルシは(おっほん)と軽く咳き払いをして俺の視線を注目させた。

「翔太くんの今の実力だと魔王軍の幹部達より劣っていることは分かるよね?」

「はい、もちろんです・・・マルファスが俺の所に奇襲しに来た際に鑑定したらレベルの差、ステータスの差が比べ物にならないくらい広かったです。・・ん?・・魔王軍の幹部?」

「うむ、翔太くんは魔王軍の幹部だよ。」

「はっ!?えっ、なんで俺なんかが魔王軍の幹部!?」

「うむ、魔王軍の幹部だよ。」

俺はその話を聞いて一瞬思考停止した。俺は魔界の住民として認められたのは知っていたがこの俺が魔王軍の幹部を務めることは初めて知った。頭には(?)と(俺が魔王軍の幹部)という二つで埋め尽くされた。考える余裕さえもなかった。

「あっ、あの・・・ルシ。俺いつから幹部扱いされてたの?」

「最初からだよ。・・・あっ、しまった。これ宴の時にサプライズで発表するつもりだったわ。てへぺろ♡」

「えっ、えぇぇぇぇぇぇえ!」

まさかのサプライズをうっかり漏らすとは思っても無く俺は驚きを隠せなかった。しかも、ルシが(てへぺろ♡)する時にあざと可愛い感じで言っていた。こんなサラッと言われるとは・・・少し残念に思う気持ちで満たされた。

「とにかく、翔太くんは魔王軍の幹部だからねっ!分かった?」

「はい・・・というか俺が魔王軍の幹部になったところで戦力になるんですか?多分というか俺は100パーセント幹部の中で一番弱いですよ!」

「うむ、その通りだよ。だから、今幹部として今一番弱いの翔太くんはレベルアップをする為に鍛錬しなければならない。だが、ただ鍛錬するだけでは幹部の皆に追いつけない。だから、今から強くなる方法を二つ教えるね。まず一つ目は、ルサールカのペット達と模擬戦をしつつ、ガラゴンダダンジョンの魔物を魔法付与やスキルを使わず普通の一本の剣だけで魔物を全て討伐すること。そしてもう一つは・・・」

ルシがもう一つの方法を言いかけると俺の部屋のドアにノックする音が聞こえた。その音にいち早く気づいたルサールカは、

「はいはぁい、ちょっと待っててねぇ」

と言ってドアを開けた。そこにはルシの側近が立っていた。

「魔王様、宴の準備が整いました。移動の方よろしくお願いします。」

そう言って一礼した。

「わかった、今すぐ向かう。」

そう言ってルシは立ち去ろうとした。だが、ルシは一度こちらに戻ってきて

「話の続きは宴で言うね。あっ、その時ルサールカも一緒に連れてきてね。」

俺の耳元にそう呟いてルシは宴会場へと向かっていった。ルシが出ていくとルシの側近は俺達に一礼をして

「翔太様、幹部昇進おめでとうございます。宴会場にてお待ちしております。」

と丁寧な言葉で祝福しその場を後にした。ドアが閉まり俺は一安心したせいかベットに横になった。するとルサールカは俺のベットに近づいてきて俺の顔を覗きながら

「ねぇ、翔太くん。さっき魔王様になんて言われたの?」

と問いかけてきた。俺はベットに横たわりながら、

「宴会場でもう一つの方法話すからルサールカと一緒に来てくれって言われたんだよ。」

そう答えた。

「そういう事ね!了解。・・・あぁ〜良かった!翔太くん魔王様に告白されたんじゃないかと思って心配したよぉぉお!翔太くんはお姉さんの物だから魔王様にも取られたくないんだよぉぉお!」

ルサールカは涙ながらに俺の胸に飛び込んできた。この状況を目の当たりにした俺は、ルサールカは甘えん坊なのか、それとも少しメンヘラ気質なのか、はたまたショタっ子なのか・・・もう分からなくなってきた。

「そういえば翔太くん、君の後ろに居るのは誰なの?」

ルサールカは疑問に思い、俺に聞いてきた。

「あぁ〜、この子は・・・」

と紹介しょうとすると

「私はお兄ちゃんの魔法とスキル大図書館の管理するメーティスです。正式には、大図書館情報管理機構《ライブアドミニストレータ》です。」

とメーティスは自分から説明した。

「なるほどねぇ〜翔太くんの魔法とスキルの管理者かぁ・・へぇ〜・・なんで人間の姿をしているの?そしてもう一つ質問!なんで翔太くんのことお兄ちゃんって呼んでるの?」

ルサールカはメーティスが俺のことを(お兄ちゃん)と呼んでることに引っかかった。そして、メーティスが人間の姿であることも・・。それもそうだ、俺が具現化した大図書館情報管理機構《ライブアドミニストレータ》がお兄ちゃんなんて呼ぶことは聞いたことがない。ましてや、大図書館というスキルすら人間の国でも聞いたことがある人は居なく特殊スキルとまで言われたものだから疑うのも無理はない。

「では、ルサールカさんの質問に簡単に答えさせていただきます。まず、私が具現化できている理由としては、お兄ちゃんの魔力のおかげです。お兄ちゃんの魔力を媒体としてこの世界に私を認知させているのです。二つ目の質問の答えは私の姿を見たお兄ちゃんが妹ぽいからお兄ちゃんと呼べと強制したからです。ぐすん・・・。」

「はっ?・・えぇぇ?」

俺はメーティスの言葉を疑った。俺はメーティスに一言もお兄ちゃんと呼べなんて言っていないからだ。変な誤解をされる。俺はその時とてもパニックになりあたふたしていた。すると、

「翔太くん・・・こんなちっちゃな女の子になんてことしてるの!!」

ルサールカは怒り出した。俺はとりあえず謝ることしか出来なかった。謝罪に謝罪を重ねることしか出来なかった。

「メーティスめ、俺のことをハメやがってぇ。」

俺は心の中でそう呟いた。多少の怒りの感情と共に。

五分後、ようやくルサールカの怒りは収まり俺の部屋の時計を見て

「あっ、翔太くん!もうすぐ宴の時間じゃない?急がないと!」

そう言って俺のことを催促した。俺はますますルサールカが謎の存在に思えた。さっきまで泣いていたのに時計を見るやいな(宴が始まる)と少しワクワクしながら俺のことを急かす。だが、(可愛い)これは普遍の事実であった。その事を考えてボーッと一点を見つめていると、

「翔太くん、大丈夫?」

「・・・えっ、あっ!?大丈夫だよルサ姉。」

「へっ・・・ルサ姉・・もう一回言って翔太くん!」

「えっ・・大丈夫だよ」

「いや、そこじゃないよ、その次に言ったことだよ!」

「えっ、あぁ〜ルサ姉ってこと?・・・」

俺はその時はっと気づいた。無意識にルサールカのことを(ルサ姉)と呼んでいたことに・・・俺は顔を赤らめて咄嗟に顔を隠した。いつも感じる時の流れがだんだん遅くなっているように感じた。少し静寂という名の前線が訪れ、体内時計で五分が経つと少しずつ北上し過ぎ去っていった。顔を隠していた指の隙間から目の前に立っていたルサールカを見ると、彼女も俺と同様で顔を赤らめていた。だが、俺とはいってん違う点があった。そうそれは、恥ずかしがりつつも喜んでいたことだ。彼女は隠しているつもりでも態度に出てしまっているので察するのが容易であった。それをまじまじと見つめていた俺の視線にルサールカは気づき顔を合わせようとするが、俺もルサールカも恥ずかしくなってしまいまた互いに顔を赤らめ隠れてしまった。そして再び静寂という名の前線が訪れた。

「ねぇ、お兄ちゃん。この状況何回繰り返すの?」

静寂を打ち切り場の空気を変えたのはメーティスだった。メーティスは俺のことをゴミを見るような目でこちらを見ていた。それに気づいた俺は冷静さを取り戻し、メーティスの視線に少しビビっていた。それを見たメーティスは(はぁー)と一息ため息をついて

「お兄ちゃん私先行ってるから。ルサールカさんと一緒に来てね。お兄ちゃんは迷子になりかねないから。」

「いや、俺は迷子になんねぇよ!」

「・・・ふぅーん。」

そう告げてメーティスは俺たちの部屋をあとにした。そして部屋には俺とルサールカの二人取り残された。暫く沈黙が続くのでは無いかと思い俺は(何か良い話題はないか)と頭をフル回転させて考えようとした。しかし、その必要は無かった。

「ねっ、ねぇ翔太くん。そろそろ宴会場行こうか。翔太くんには魔王軍幹部としてのケジメをつけなきゃいけないからね。」

「けっ、ケジメ?」

「うん、魔王軍の幹部になるってことは魔界の領地の一部保有や警備、運営をしていかなくてはならないんだよ。まぁ領地の運営が良く、安全で治安が良いと判断されると魔族の移住する魔族が増えるんだよ!じゃあここで魔族領のことについて軽く説明するね。あっもうすぐ宴会始まるから会場に向かいながら説明するね。」

そう言って俺たちは部屋をあとにした。ルサールカは廊下を歩く際、俺との二人きりを楽しんでいるように見えた。足取りが軽くとても笑顔が眩しかった。

 

 

「んじゃ、手短に説明するね!まず率直に言うと、今いるこの場所は中央都市ベルセリオンって言うんだ。ちなみに、今一番安全で治安が良いと言われてるのは中央都市ベルセリオンから見て東側にあるマルファスの統治下でエイナ、ファラス、エンヨウ、デトラの四国だよ。逆に、今一番危険で治安が悪いと言われるのは中央都市ベルセリオンから見て南側に位置する無法地帯のグシャク、アルバドーラ、リクセンオルビア、ヤクビューダの四国だね。」

「南側か・・・中央都市から南側って確か人間の国との境界だったと思うけど・・・ってか、マルファスの領地って一番治安いいの!?意外なんだけど・・・。」

「意外だよねぇ、あんな見た目してる癖にこーゆーのは一番なんて・・なんかちょっとムカついてきた。」

と、軽くヤキモチを焼いたルサールカは少し歩くスピードをあげた。ルサールカの早歩きについて行くこと十分、ようやく宴会場に着いた。俺は結構息切れが激しかった。それもそうだ、前居た世界では(クラス最弱地位)という称号さえあったから勉強はもちろん、運動もクラス最弱地位なのだ。しかし、女子には負けていない。そこだけが唯一誇れる(?)ようなところであった。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」

呼吸が乱れ体温は上昇し、汗までも出てきた。ルサールカの早歩きの速度は一般男性の早歩きの速度の1.5倍ほどのスピードであった。

「翔太くん、大丈夫?疲れちゃった?お姉さん意外と歩くスピード早いからね・・・あはははは!」

少し高笑いをしながら、俺に手を差し伸べる。

「もっ、もう少し歩くスピード遅くしてよねルサ姉・・はぁはぁ・・・。」

俺は完全に息を切らし、なんなら咳き込みそうになっている。

「とっ、とりあえず中に入ろうか。」

ルサールカはそう言い、悪魔なのか分からないが何か生き物が彫られた鉄製の両扉を開けた。中に入るとそこはある意味絶景であった。広さは学校の教室が縦四つ分、横六つ分とというとても大きな空間である。左から右の壁沿いに、サラダや魚料理、ローストビーフのような食べ物が所狭しと並べてあった。そして、最大の魅力は宴会場中央に設置されたワイルドボアの丸焼きであった。轟々とたちこめる炎に包まれたワイルドボアはたくさんの香草を使用しており、空腹を刺激する素晴らしい食べ物であった。また、宴会の席は中世の丸机で白のテーブルクロスがかけられており、椅子はそれに見合った背もたれ付きの木製椅子が一つのテーブルにつき四から五脚設置されていた。壁にはスワッグが一メートルおきに設置されていた。照明は言うまでもなく、シャンデリアであった。

「さっ、翔太くん!お姉さん達も取りに行こうか!」

ルサールカが俺をリードして飯を取りに行くのを誘ってくれた。俺たちはビュッフェの列に並び、二人で会話を弾ませながら料理を取っていった。ちなみに俺が取った料理は、フランスパンに似た物とサラダ、アクアパッツァみたいな料理と、ローストビーフ、ワイルドボアの丸焼きのもも肉の部分・・・言葉に表すのは難しいがとにかく前の世界と似た料理を取っていった。ルサールカもまた俺と同じようなものを取っていた。そして、俺たちは席に着いた。俺たちが座っている場所は中央のワイルドボアの丸焼きが行われている場所から左側で前方にあるステージの目の前のところである。その席は四人席であった。俺はルサールカと向かい合う形で席に着いた。すると、先に部屋を出ていったメーティスが遅れて俺の右側の席に着いた。それを見たルサールカは、

「メーティスが翔太くんの右側に座るなら、私は翔太くんの左側に座る!」

そう言ってルサールカは俺と向かい合わせになっていた席から移動して俺の左の席へと移ってきた。

「あと一席余っている。俺の目の前には誰が座るんだろう?」

ふと考えていると、後ろから声がした。

「おぉ〜、翔太くん、やっと来たかぁ〜。もぅ、待ちくたびれじゃないかぁ!」

ついさっき俺の部屋で聞き覚えのある声がした。そう俺の後ろにいたのは・・・魔王ルシであった。

「ルッ、ルシ!?」

「ルシ様!?」

俺とルサールカは各々反応の仕方は違かったけれども驚いていたことには変わりなかった。

「二人とも、飯を食うている場合じゃないよ。ほら、前のステージに一緒についてきて!」

ルシは俺たちを催促した。そして、俺たちがステージ向かう途中、

「あなたもついて来て、メーティスさん!」

と、メーティスを呼んだ。俺は驚いた。俺はルシに一言もメーティスの話はしていないはずなのに・・と頭を悩ませていると、

「翔太くんの心を読んだからだよ。だからメーティスのことはわかるの!」

「あっ、なるほど・・。」

俺は魔王の一言に納得した。確かに魔族や人の心を読める魔王にとってはメーティスのことを知ることも容易いことだ。

 

 

 俺たちは黙々とステージ上へと向かった。ステージに上がろうとすると既に先客がおり俺たちを見ていた。そして、

「やぁ、ルサールカ。まぁたショタっ子攫ってきたのぉ?」

「お姉さんはショタっ子は攫いません!もうこのネタ何回やるの!全くぅ・・。」

「あははは、ごめんごめん。」

簡単なジョークを混じえた会話が行われた。その会話の相手は誰かわからなかったので、俺は密かに鑑定を使った。すると、

 

 名前・オノケリス 性別・女

 異名・契約の馬魔 レベル・796

 得意属性・光   魔術系統・契約召喚 契約条

 その他・魔王軍の幹部

 

俺はその情報を見て、

「まっ、魔王軍の幹部!?」

と心の中で少し発狂してしまった。声に出すと何かと絡まれる気がしたからだ。また彼女の風格は、鮮明な紅色の髪の毛でこめかみの上部から角が生えていた。また、上半身は人間で容姿はルサールカに劣らないくらいとても綺麗だった。だが、一番驚いたのは下半身であった。なんと彼女の下半身はロバの足をしているのだ。二足歩行をしているので人間の足かと思いきや、ロバの足・・・。これが彼女の全貌である。すると、

「お主ら、席についてくれ。あっ、翔太は皆に挨拶をする予定だから考えておいてくれ。」

いつもと違う口調でルシがステージ上にいた俺とほかの魔族に言った。

「御意!」

その一言を放ち、各自席に着いた。俺はどこに座っていいのかわからず、あたふたしていたがルサールカが(こっちだよ)と手招いて教えてくれた。俺は小走りでルサールカの元へ向かいその場に着席した。すると俺の後ろにいたメーティスも俺に着いてきて隣に着席した。

 

 

 舞台が一段と明るくなった。すると、ステージ上にいた魔族たちの容姿が顕になった。

「会場におる我が魔族達よ!皆楽しんでおるか!」

ルシのその一言で会場にいた魔族たちは(うぉぉぉお!)と歓声を上げた。

「では、いつも通り魔王軍の幹部を紹介する!だが、今回は新しい幹部を追加することにした!そやつには、今一番危険で治安の悪いあの無法地帯を統治してもらうことにしておる!」

その話を聞いた俺はまたもや心の中で(ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!)と叫ばざるを得なかった。それもそのはず、ルサールカがここに来る前に言っていた無法地帯を俺が治める!?そんな無理だろ!と思いながら話を聞いていた。しかも、俺は挨拶を考えなければ行けないのに今の話で頭で考えていたスピーチが一瞬で飛び去ったのだ。

「では、いつも通り紹介していくぞ!まずは、ベルセリオンから見て北側を治めているアザゼル!」

ルシの一言でまたもや会場がざわめき出した。アザゼルは席から立ち上がり皆に姿を見せた。彼の容姿は、オノケリスと似ていて鮮明な紅色の髪の毛でこめかみの上部から角が生えてる。だが違う点はアザゼルは完璧と言っていいほどの悪魔の姿をしているのでシッポが生えていて地獄の門番的な存在感を放っていた。

「次はぁ!ベルセリオンの東を治めているマルファス!」

これもまた歓声が鳴り止まない。奴はすごい人気を誇っていたのだ。

「続いてぇ、ベルセリオンの北西を治めているイフリート!」

イフリートは皆が想像するような容姿をしている。全身を炎に包まれた悪魔だ。

「続いてぇ、ベルセリオンの西南西を治めているメフィスト!」

メフィストとは人間の体で魔女のように長い爪をしているまた肩甲骨の辺りから悪魔特有の大きな羽が生えている。また、メフィストは女性である。

「そしてそしてぇ、ベルセリオンの南南西を治めているオノケリス!」

「最後に!ベルセリオンの南東を治めているルサールカ!」

ルサールカとオノケリスについては以前話した通りである。

「サプライズ発表の新幹部はぁぁぁぁあ!」

ルシのその一言に会場にいる悪魔たちは最高潮に興奮している。新しい幹部はどのような実力者なのかと・・。

「人間の国のラザミール王国からきた中山翔太くんです!ちなみに補佐としてメーティスさんという方がいます!メーティスさんはとっても頭がいいです!では、翔太くんに挨拶してもらいましょう!」

ルシがそう告げるが会場の最高潮の興奮は一瞬で地に落ちた。なんてったって、新幹部が人間だからである。人間は悪魔の敵そういう認識をしている悪魔は多いからだ。俺はステージ中央へ行き、スピーチをした。

「えっと、人間の中山翔太です。魔族の皆さんは俺のことをよく思っていない人も多いと思います。ですが、俺はその人間たちに裏切られここまで追いやられました。ええっと、こんな話で同情してもらうつもりではありません。俺は俺なりにこの魔界で強くなっていきたいと思います。頼りない幹部かもしれませんが応援してください!お願いします!」

俺は今思っていることを全て正直に話した。だが、皆唖然としてしまったのか静まり返ってしまった。拍手も何も無い。シーンと静まり返った会場に所々でざわつき始める。

「おい、新しい幹部は本当に人間で良いのかよ?」

「人間なんかすぐ裏切ったりするだろ。信じらんねぇぜ。」

ざわめきの波が大きくなる中、とある魔族の言葉で雰囲気が一転した。

「おい、お前ら。魔王様が幹部にすると認めたやつに文句あんのか?魔王様直々に面接なさり下した判断だ。つまり魔王様の意見を否定することになるぞ。それでもお前たちは魔族か?主従関係をはき違えるな。愚か者たちが!」

そう言ったのはステージ上に立っていた魔王軍の幹部イフリートであった。彼は永遠と燃える炎の如く厚き忠誠心を持ち合わせているのだ。彼の信念は(魔王様の意見は絶対)と言っても過言ではなかった。その言葉に皆の心が打たれ、

「たっ、確かにそうだな。」

「魔王様は絶対だから・・。」

そんなこんなで会場全体に拍手が湧いた。皆俺のことを幹部と認めてくれたらしい。だが、マルファスのように俺の事をよく思わないやつもいるだろうと考えていると、

「皆、この人間の中山翔太をよく思わないやつもいるだろう。だから私は、彼に今無法地帯である土地を統治させるように命じたのである。そこを統治するのは誰がやろうとしても難しいであろう。だが、もし彼があの無法地帯を治めることが出来たら皆快く彼を受け入れて欲しい。頼む。」

そう言ってルシは自ら頭を下げた。その光景を目の当たりにした魔族たちは、

「もちろんです、頭をあげてください、魔王様!魔王様が頭を下げることなんてないですよ!」

と歓喜の声が混じり合い始めた。

「皆の者、ありがとな!」

その一言を放つと同時にルシはとても笑顔でにっこりしていた。その顔を拝めることが出来た魔族たちはいわゆる(キュン死)というやつで倒れてしまった。慌てる魔王に少し喜ばしい俺。これからもいい関係が築けるかもしれない。そう思っていた。幹部の発表が終わるとステージ上にいた幹部は皆降段し、飯を囲み始めた。俺らが降段するのと同時にサキュバスやダークエルフがステージ上に上がり舞いを舞い始めた。俺らも席に戻ると、

「翔太くぅぅぅぅん!発表めちゃくちゃ良かったよぉぉお!いやぁ泣かせてくれるねぇお姉さんのこと。」

「あはは、ありがとう・・・ってか、なんで拍手も何もしてくれなかったんですか!?こんなに感動してるのに!」

俺はルサールカに問い詰めた。今も感動しているのにルサールカは何もしないわけないと思ったからだ。

「あぁ、それはね・・・」

とルサールカが説明しようとすると、

「それは私が説明するねぇ〜。」

そう言って俺の前に現れたのはルシだった。

「ごめんね、翔太くん。私が何もするなってルサールカに言ったんだ。ルサールカが君を助けちゃうと君のためにならないと思ったんだ。まぁ、あそこでイフリートが出てくるとは思ってなかったんだけどね。」

軽く微笑しながら説明してくれた。要は俺を成長させる為の訓練のようなものだったらしい。まぁある意味感謝をすべきなのか・・・。そうこう考え込んでいると、

「そうだ、翔太くん!君の部屋で言ったもう一つの方法教えるからついてきて!」

ルシからお誘いが来た。俺はルシが言っていたことを半分忘れかけていたがルシの発言により記憶が完全によみがえった。俺は分かったと頷き、席を立ち彼女について行こうとした。すると、

「お兄ちゃん!そういえば、マルファスが襲来した時のことまだ話してない!」

ふと思い出したかのようにメーティスが俺に呼びかけた。だが先約はルシの要件なので、

「悪い、ルシとの話が終わって俺が戻ってきてからにしてくれ。その間ルサ姉とゆっくり食事しててくれ!」

俺はそう言い残しルシについて言った。彼女はまずこの宴会場から出て俺をルシが俺の面接をしてくれた部屋に案内した。俺はこの部屋に秘密があるのかと思い、

「なぁ、ルシ。この部屋に何かあるのか?」

そう問うと、

「いや、この部屋はただの応接室のようなものだよ。そして、この部屋では君が強くなる為に必要なものが揃っている。」

彼女はにやけながら、俺に言った。不穏な空気が立ちこめる。俺は少し恐怖を感じた。何が起こる?俺の強化に必要なもの?意味が分からなかった。一体ここで何が始まるのか・・・。俺には予測がつかなかった。が、次の瞬間ルシの中からあるものが出てきた。魔族特有のものか?否、そんなものではなかった。もっと・・こう、何かすごい・・・ダメだ。俺の語彙力では言い表せなかった。窓の外では暗雲が立ち込め、雷がどよめいている。一体、何が起こるというのか?・・・

 

 

 

            第四章 神なる宴   ー完ー

 

 

 

 

 

 




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