fate/zero~ノーライフキング~ (おかえり伯爵)
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おかえり伯爵

初投稿ですのでご容赦を。



私は暗い暗い穴の中で貪られ作り替えられていく。

昔の記憶は薄れていき今ではお祖父様の許しがなければ息をすることすら出来ない。

 

「ーーあ」

 

全身を、体内を這いまわる蟲。

刻印蟲と呼ばれるそれは私を犯し私を狂わし私を壊す。

いつからだろうか。

私の感情というものが消えていったのは。

今の私は嬲られるのをまるで他人事のように感じていた。

 

「呵呵・・・桜よ、お前は良い器になりそうじゃ。雁夜よそうは思わんか?」

 

最早人間とは思えぬ姿になっても生にしがみつく怪物。

虫を操り人を弄ぶ老人。

この方こそ私のお祖父様の間桐臓硯。

私はお祖父様には逆らえない。

でなければ私は直ぐにでも壊されてしまうのだから。

 

「貴様ーー臓硯!!どこまで桜ちゃんを弄ぶ気だ!!」

 

「言ったであろう?お前が聖杯を手にするまでは教育を続けると。桜を助けたければさっさと聖杯をもってくるんじゃな」

 

雁夜おじさんは悔しそうに歯を食いしばる。

私の事なんて放っておいてくれて良いのに。

馬鹿なおじさん。

お祖父様に逆らって生きていられるわけがないのに。

 

「それよりも今宵はサーヴァント召喚の儀を行うのじゃが覚えて来たのじゃろうな?」

 

「当たり前だ。必ず聖杯は手にしてやるから桜ちゃんには無理をさせるなよ間桐臓硯!!」

 

「生意気な口を利く前にサーヴァントを召喚してみせよ。お前にやった刻印蟲があっても怪しいものだからの」

 

お祖父様は蟲蔵から出て部屋に来いとおっしゃられたのでその通りにしました。

シャワーを浴びて、鏡を見てみると鏡に写る私の目は昔のような輝きはありませんし、髪の色も紫掛かった間桐の色に染められています。

悲しみなんてもうありません。

だって感情を見せればみせるほどお祖父様が喜ぶだけだもの。

私は人形。

お祖父様の言いつけを守る人形。

人形だったら傷つく事もないから。

だから私は人形でいい。

 

「来たか桜よ。お前を救うと豪語した叔父に何か言ってやれ。もしかすると助けてくれるかもしれんぞ?」

 

お祖父様は面白そうに私に言います。

私に期待を持たせてからまた絶望させるお積もりなんでしょう。

でも私は人形ですからそのような期待はしません。

 

「呵呵。雁夜よ、桜が何か言いたいそうだぞ」

 

「どうしたの桜ちゃん?」

 

顔の半分が蟲の影響で壊死し、髪は白く老人のようになったその姿はお祖父様に逆らった罰なのでしょう。

それでも必死に笑いかけるこの人は哀れで可愛想です。

 

「がんばって」

 

心にもない言葉が口から漏れます。

私の言葉でこの人が少しでも安心出来たらと少し思ってしまったのかもしれません。

私の為に命を捨てようとしているのですからこのくらいは良いでしょう。

幸いお祖父様も笑っていらっしゃいますのでお仕置きはされないと思います。

 

「ああ。必ず助けてあげるからね」

 

嬉しそうに微笑むおじさんは見ていられません。

未来などわかりきっているのですから。

ボロボロの身体で何をしたって結局変えられません。

 

「素に鉄。礎に石と契約の大公ーー」

 

いよいよサーヴァント召喚の儀が始まります。

おじさんの足元には大きな魔法陣。

それが呪文と共に輝き出します。

 

「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

 

段々とおじさんの表情が苦しげに歪んでいきます。

 

「ーー告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

更に増していく輝き。

不意に私の頬を何かが流れていきます。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。されど汝はその眼を混沌に曇らせ侍るべし。汝、狂乱の檻に囚われし者。我はその鎖を手繰る者――。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!!!」

 

私の視界は光に包まれやがて闇に染まっていきます。

闇の中には男性が一人片膝を地に着け臣下の礼をとる騎士の様に存在していました。

 

「ほう・・・召喚は成功のようじゃな。呵呵、そうでなければつまらん。雁夜よせいぜい頑張ることだ」

 

お祖父様は満足そうに頷いています。

肝心の雁夜おじさんは血反吐を吐いていました。

 

「ぐはっ・・・」

 

倒れそうなおじさんをサーヴァントが支えます。

確か狂戦士のはずなんですが様子が少しおかしいです。

着ている服装は現代でもありそうな紅いロングコート。

紅い帽子をかぶり、目は黄色いサングラスで隠していて身長は2mくらいありそうです。

 

「今回のマスターはずいぶんと人間らしい男のようだ。問おう、お前が私のマスターか?」

 

「そう・・・だ。絶対に、桜ちゃんを助けるんだ・・・絶対に」

 

おじさんは意識を失ったみたいです。

おじさんを地面に寝かせるとサーヴァントは私を見つめます。

暗がりでわかりにくいですが口元は少し笑っているように見えます。

 

「ほう・・・これは面白い、とても面白い」

 

ニヤニヤと嗤うサーヴァント。

不快な顔。

忘れたはずの感情というものが溢れてくる。

ーーやめて。

止まらない止まらない。

ーーやめて。

私の視界が滲む。

ーーやめて!!

 

「フハハハっ!!」

 

「ほう、バーサーカーの癖に理性を残しておるのか。桜に興味を持つのは構わんが手を出すのであればオヌシのマスターは死ぬことになるぞ?」

 

お祖父様はサーヴァントを睨みます。

でもサーヴァントはまるで声が聞こえていないかのように私をただ見つめています。

 

「私は殺せる。微塵の躊躇も無く。一片の後悔も無く鏖殺できる。何故なら私は化物だからだ。ではお前はどうだお嬢さん。銃は私が構えよう。照準も私が定めよう。弾を弾倉に入れ、スライドを引き、安全装置も私が外そう。だが殺すのはお前の殺意だ。さぁどうする?命令を!!」

 

サーヴァントはチラリとお祖父様を見ます。

いけません、貴方はお祖父様の恐ろしさが分かっていないのです。

逆らったら・・・逆らったら殺されてしまいます!!

 

「サーヴァントの分際で儂を殺すと?呵呵、愉快愉快。貴様のような者に儂が殺せると思うたか!?」

 

「どうした?お前の一言でお前は助かる。それともこのまま豚のような悲鳴をあげて死んでいくのか?」

 

その言葉に私の中に微かに残っていたものが弾けました。

 

「あ  たにーー貴方に何が分かるって言うんですか!!」

 

「私には何もわからん。興味も無い。だが私のマスターがお前を助けると言った。だからお前が望めば助けよう」

 

「今更・・・今更助けてくれるなんて虫の良い話があるわけがありません!!」

 

「桜・・ちゃんは・・・絶対に・・・ま、もるんだ・・・」

 

激昂する私に聞こえてくる微かな声。

この家に来て初めて優しくしてくれた人。

私のせいであの優しいおじさんが死んじゃう。

私のせいで・・・。

滲む視界に写る雁夜おじさん。

ボロボロの雑巾みたいに横たわるおじさん。

薄れていった記憶が鮮明に写しだされる。

ーー久し振りだね桜ちゃん。

ーー今日は桜ちゃんにプレゼントがあるんだよ。

ーー可愛いな桜ちゃんは。

ーー絶対に守るからね、桜ちゃん。

ーー桜ちゃん、桜ちゃん、桜ちゃん。

 

「お願いします・・・私とおじさんを助けて下さい!!!」

 

心が熱い。

そうか、これが感情。

忘れていた、押し込めていた感情なんだ。

 

「了解だお嬢さん」

 

嗤うサーヴァント。

さっきまでは嫌悪すら覚えたその笑みが今はとても頼もしく思えた。

 

「桜ーー貴様後で覚えておけよ?儂を怒らせるとどうなるか後で教育してやる」

 

お祖父様が怒っている。

ーー怖い。怖い。怖い。

 

「動くなよお嬢さん」

 

そう言ってサーヴァントが突然姿を変えました。

この世のものとは思えないそれは私の口から体内に侵入していきます。

けれど何故か不快ではありません。

むしろ温かい。

たくさんの命が私の中を温めてくれているようです。

 

「ふむ、これで終わりか」

 

再び口から出てきたサーヴァントは元の姿に戻っています。

そして懐から白銀と黒銀の二丁の拳銃を取り出しました。

 

「呵呵、驚いたな。まさか桜の中の刻印蟲を全て取り除くとは。だが同時に貴様の中に蟲が入ったようじゃな。楽には死なせぬ。苦しみながら死ね」

 

お祖父様が杖で床を突きます。

その音を聞くだけで私の身体は震えます。

あれはお祖父様が蟲を動かす時の合図。

きっとサーヴァントの中では蟲が暴れまわっているはずです。

なのに何故平然と笑っているのでしょうか。

 

「どういうことじゃ・・・貴様何をした!!」

 

お祖父様の問を無視してサーヴァントは白銀の銃を発砲します。

それはお祖父様の足を貫くどころか吹き飛ばしていました。

当然お祖父様は床に倒れます。

でもこれくらいではお祖父様は死にません。

何故ならお祖父様はマキリの魔術師であり500年を生きる化物なのですから。

 

「いきなりとはな。だがその程度では死なぬよ」

 

何処からか蟲がお祖父様の足元に集まりそして足になりました。

立ち上がるお祖父様を興味深そうに眺めるサーヴァント。

そして今度は黒銀の銃を発砲しました。

心臓を貫いた弾丸は先ほどとは比べ物にならないほどにお祖父様の身体を抉り、大穴を開けていました。

でもお祖父様は死にません。

やはり無理だったんです。

お祖父様を殺すことなんて。

 

「効かぬなぁ。貴様程度では儂は殺せんよ」

 

「フハハハハハハハハハハハハ!!」

 

お祖父様は蟲を使ってサーヴァントの足元から食らいつきます。

それを銃で潰して再びお祖父様の頭を吹き飛ばしますがやはり効果がないようです。

次から次へと生み出される蟲を躱し殺す姿はさすが英雄ですがでもお祖父様には勝てないのです。

なのにサーヴァントは笑っています。

なにが面白いのでしょう。

 

「楽しい!!こんなに楽しいのは久しぶりだ!!貴様を分類A以上の化物と認識する」

 

手でカメラの形を作るようにすると、白い手袋の甲に描かれた魔法陣が紅く光り出します。

次の瞬間サーヴァントの形が崩れたくさんの瞳が目を開きました。

そして中から突然銃が飛び出てお祖父様に発泡します。

連続して打ち出される弾丸を受けてお祖父様の身体がバラバラになっていきます。

でもどれだけ粉々にしても蘇ります。

 

「なるほど、ここまでくれば唯の化物か。まさか私の劣化コピーがこんな所にあるとはな。お前はまるで糞のような男だ。狗の糞になってしまえ」

 

バラバラの状態から形を戻したお祖父様にとても大きな狗の顔が襲いかかります。

そしてそのままお祖父様に喰らいつき、砕き、飲み込んでしまいました。

 

「・・・終ったの?」

 

「ああ、終わった、全て終わった。改めて問おう、お前の名は?」

 

「桜・・・間桐桜」

 

「・・・桜。私はアーカード。バーサーカーのクラスで呼び出されたサーヴァントだ。お前は狗か?化物か?」

 

「私は・・・私は人間です。アーカード!!必ずおじさんを助けてください。できなかったら私は貴方をどこまでも追いかけて殺します」

 

私の脅迫にアーカードは恍惚の笑みを浮かべています。

心底嬉しそうで悲しそうで儚げで。

 

「ああ・・やはり人間は素晴らしい」

 

カーテンの隙間から月の光が差し込んでいます。

照らされるアーカードはとても美しく私は目を離すことが出来ませんでした。

 

 

 

そうして一夜が終わる。

この出会いは偶然か必然か。

全ての答えは聖杯の中にーー。

 

 

 

 

name アーカード(ヴラド・ツェペシュ、ヴラド・ドラキュラ)

クラス バーサーカー

筋力B+ 魔力E 耐久D 幸運E 敏捷B+ 宝具D+~EX

 

宝具

 

454カスールカスタムオートマチック ランクD+ 吸血鬼に対しては補正がかかりCになる

 

13mm拳銃ジャッカル ランクC+ 吸血鬼に対しては補正がかかりBになる

 

拘束術式開放第1~3号 ランクC~B++ ほぼありとあらゆる姿に変形変身できる。幻想種などの神聖系は不可

 

眷属セラス・ヴィクトリア ランクA+ セラスを召喚する。単独行動スキルAをもつが血を吸わずにいると徐々にステータスが下がっていく。

 

拘束術式開放第零号(死の河) ランクEX 全てを飲み込む死の河。ストックされた命全てをサーヴァントとして召喚する。結界系ではないので街をそのまま飲み込む。範囲の設定は出来ない。また、吸収した命を全て放出するため、本体が殺されれば本体ごと全て消滅する。それぞれのサーヴァントは単独行動スキルAを持つ。

 

保有スキル

 

変身D 動物などに形を変える事ができる。

 

同化A 物や風景や生物と同化、すり抜けなどができる。日が出ていると制限されるものがある。

 

狂化B バーサーカー固有のスキル。吸血鬼であるため狂化しても言語を話すことができる。

 

吸血A 相手の血を吸うとその分命をストック出来る。既にとてつもない量のストックがあるためあまり意味は無い

 

再生EX 失った身体を再生させる。吸血で得た命分だけ死んでも蘇生する。ストックがとてつもない為ほぼ死なない。不死殺しの概念をもった武器でも殺せない。治癒ではなく再生の為、治らない傷が出来ても死ねば元に戻る。例外は直視の魔眼のみ。

 

魅惑の魔眼E 目を合わせた人間を従わせる。魔術師やサーヴァントには効果がない。

 

吸血鬼 日に当たる場所だと身体能力全般が1ランク下がる。逆に満月だとワンランクアップ。

 

カリスマE 戦闘における統率・士気を司る天性の能力。吸血鬼化によってほとんど失われてしまったためほぼ無意味。一人か二人を上手く統率できる程度の能力。

 

千里眼C 吸血鬼化による副産物。夜であれば更にワンランクアップ。

 

直感A 人類を超えた感覚から生まれたもの。未来予知に近い。

 

説明

 

15世紀のワラキア公国の君主。オスマン帝国からルーマニアを守った英雄。

別名 悪魔 吸血鬼 ドラキュラ ノーライフキング 伯爵 ナイトウォーカー 



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一瞬の平穏

深い、深い闇の中。

私という個が失われ溶けていく。

抜け出すことなどできるはずもありません。

だってお祖父様の許しがないもの。

心臓を鷲掴みにされているような感触を感じて私は目を覚ました。

最悪の目覚め。

起きていても寝ていてもお祖父様に支配される。

人形の私にはそれがお似合いということだろう。

 

「お目覚めかなお嬢さん」

 

不意に壁から声が聞こえました。

見渡してみても誰もいません。

私はやっぱり完全に壊れているようです。

 

「目が覚めたのなら食堂まで来い。お前のおじさんはそこにいる」

 

「ーーっ!?」

 

幻聴かと思ったそれはやはり誰かの声で私に食堂までこいと言う。

お祖父様以外に魔術師はおじさんしかいないはず。

一体どうなっているんだろう。

ふらつく身体を奮い立たせて食堂に向かいます。

なんでこんなに身体が重いんだろう。

お祖父様に初めて蟲蔵に入れられた時と同じくらい苦しい。

 

食堂に入るとおじさんがいました。

相変わらずの服装で私にに微笑みかけます。

この人はなんで笑っているんでしょうか。

今日もまたお祖父様に教育されるというのに。

 

「おはよう桜ちゃん。昨夜は良く寝むれたかい?」

 

「・・・」

 

いつもよりもテンションが高い雁夜おじさん。

私と同じく狂ってしまったのでしょうか。

 

「でももう大丈夫だよ。俺のバーサーカーがあの臓硯をやっつけてくれたからね。だからもう怯える事はないんだ」

 

「えっ?」

 

ナニヲイッテルノ?

オジイサマガシンダ?

 

「気が早過ぎるのではないかマスター?あの怪物はまだ生きている」

 

「なっ!!それはどういうことだバーサーカー!!終わったとさっき言ってたばかりじゃないか!!」

 

「ーーっ!!」

 

食堂の壁から帽子が生えています。

壁と同化していたそれは、徐々に壁から抜け出て、手足が現れそして全体が浮かび上がってきます。

私はこれを見たことがある。

そう、昨日確かに見た。

彼はバーサーカー。

お祖父様を殺したサーヴァント。

 

「言葉通りだ。昨夜確かに全て終わった。だがあの怪物はあくまで虚像。仮の姿にすぎない。本体はお嬢さんの心臓と同化してしまって取り出す事はほぼ出来ない」

 

「なんだって・・・・。ちくしょう!!どこまで桜ちゃんを苦しめれば気が済むんだ!!」

 

「そうでなければあの臆病者が私とやり合おうなどとは思わんさ。私がお嬢さんの中にあった蟲を取り除いたことで焦りを感じ、襲いかかって来たのだろうな」

 

「けど奴が生きてるなら蟲を殺したって意味ないじゃないか!!何が全て終わっただ!!」

 

雁夜おじさんが怒っています。

他のだれでもない私の為に。

最初は唯の馬鹿だと思った。

でも今は違う。

私の家族。

たった一人の家族なんです。

だからそんなに怒らないでください。

 

「慌てるなマスター。取り除く事はできないが私の力で活動出来ないようにしてやった。だからこそ終わったと言った。この子が処女であればドラキュリーナにしてやっても良かったのだが非処女ではグールにしかならん。それはマスターの望むところではないだろう」

 

「それじゃあ桜ちゃんは大丈夫なんだな?」

 

「少なくとも私が残っている限りは大丈夫だ。だが戦争が終わり私が消えれば再び力を取り戻すだろう」

 

「それじゃあ解決になってないじゃないか!!」

 

聖杯戦争の期間は分かりませんがおじさんの焦り方からそんなに長くはないんだと思います。

やっぱりお祖父様を殺すことなんて出来ないんです。

 

「そうだな。だが方法はある」

 

「どんな方法なんだそれは」

 

「簡単なことだ。マスターの権利をお嬢さんに渡せば良い。幸い私自身の魔力貯蔵量は他のサーヴァントとは比較できないほどある。お嬢さんの魔力をほとんど使わなくてもこの戦争は乗りきれるだろう」

 

「それだったら俺でも良いんじゃないか?」

 

「残念だがマスターの寿命はそう長くはない。そしてお嬢さんから離れすぎると効果が薄れる。更にマスターの魔力では私を長く存命させることは出来ない。もっと言えば桜の魔力はマスターの倍を遥かに超える。どのみちやらなければいけないのであれば今やっておくべきだ」

 

「桜ちゃんを巻き添えにするって言うのか!!」

 

おじさんは私を守ると言ってくれる。

でも、おじさんはどんどん壊れていっちゃう。

苦しい。

 

「仕方あるまい。マスターが死んだ場合令呪は大聖杯に吸収される。そうなれば魔力の補給なしでの存命になる。いくら私でも1年程度しか持たない。つまりお嬢さんの平穏は1年だ」

 

「くっ、でも・・・」

 

「最悪人の血を啜れば存命期間は格段どころか100年は持つ。ただし他の人間は残らない」

 

私のせいで他の誰かが死ぬ。

それは・・・できません。

 

「・・・桜ちゃんはどうしたい?」

 

「・・・私は」

 

出来るのであれば生きていたい。

でもそのために誰かが死ぬなんて・・・。

無意識だったのだろう。

気づけば私はリボンを触っていた。

 

「私は・・・私が戦います。おじさんの代わりに戦ってみせます」

 

「さ、桜ちゃん」

 

意を決した私に驚く雁夜おじさん。

頑張ります。

だから少しでも長く生きてください。

 

「ごめんよ桜ちゃん・・・俺は君を守れない・・・」

 

「大丈夫です雁夜おじさん。私は負けません。それに聖杯を手に入れれば願い事が叶うんですよね。だったら私は雁夜おじさんが長く生きられるようにお願いします。だから心配しないでください」

 

そんな悲しそうな顔をしないでおじさん。

大丈夫だから。

私は大丈夫だから。

 

「絶対に・・・死なないでくれ。桜ちゃんが死んだら葵さんや凛ちゃんに顔向けできない」

 

「・・・」

 

私がかつて居た場所。

楽しかった場所。

おじさんはあそこに返すと言っていたけど、私は帰りたくない。

私はおじさんと一緒にここで暮らしたい。

だからおじさん死んじゃダメだよ。

 

「それじゃあ令呪を移すね」

 

私の左手の甲に刻まれる令呪。

痛いのは嫌なはずなのに今はどこか心地良い。

次に襲ってきたのは私の中の魔力が流れていく感覚。

はっきりと分かる。

そこに存在する者と繋がっている。

 

「これでおしまい。秘密裏に令呪について調べておいてよかった」

 

「ありがとう雁夜おじさん」

 

「俺はありがとうなんて言われる資格はないよ・・・無力で馬鹿な男なんだから」

 

「ううん。おじさんは私のために傷ついてくれた。私のたった一人の家族になってくれた。だから今度は私がおじさんに返す番。待ってて。必ず聖杯を手に入れてくるから」

 

私は笑う。

おじさんが安心出来るように。

今はまだ醜い笑みかもしれないけど。

おじさんと一緒にいれば必ず心から笑えると思う。

だから今は今できる最高の笑顔をおじさんにあげたい。

 

「うん、待ってるよ。だから辛くなったら俺に相談してくれ。必ず桜ちゃんの役に立ってみせるから」

 

そう言っておじさんも微笑む。

私は汚くて醜いけどそれでも良い。

だっておじさんはそんな私にも微笑んでくれるから。

 

「何をニヤニヤしているんですか。やっぱりこうなる事も予想済で昨夜全て終わったと言ったんですね」

 

「そのとおりだ新たなマスター」

 

「食えない人ですね・・・人で合っていますか?」

 

私の問に一層笑みを深めるバーサーカー。

やはり私は貴方が苦手です。

 

「私は人間ではない化物だ。簡単に言えば吸血鬼だ」

 

「そういえばさっきドラキュリーナとか言ってたな・・・まさかお前の真名って・・・」

 

「そのとおりだ人間」

 

バーサーカーが窓の外に手を伸ばす。

すると遠くから何かが地面に落ちる音がした。

 

「使い魔・・・ではないな単純な機械のようだ。どうやら魔術師以外の人間も混じっているらしい」

 

「やはり他のマスター達も早速動き出してるな。間桐、遠坂、アインツベルンは御三家だから居場所なんて既にバレてるだろうし、ここも危ないかな」

 

「問題ない。ここは既に私の領域だ。ミサイルが飛んでこようとも問題はない」

 

「・・・恐ろしいなお前」

 

「貴様のような半端者が呼んだのだから当然半端者の化物に決っているだろう」

 

やはり楽しそうだ。

彼はこの戦争を楽しんでいるように見える。

さすがは鬼と言ったところでしょうか。

 

「今更ですけど私は貴方を何と呼べば良いですか?」

 

「アーカード。アーカードとお呼びくださいマイマスター」

 

「それじゃアーカード。貴方は聖杯に何を望むの?」

 

「何も望まない。ただ、化物は人間によって倒されなければならない。だからこそ私は聖杯の呼びかけに応じた」

 

彼の言っていることの矛盾。

望まないのに倒されることを望む。

しかし倒されたからこそ彼はここにいるのではないのか。

過去に倒され死んだからこそ英霊になったのではないのか。

 

「不思議そうな顔をしているな。ならば答えよう。私は死んでなどいない。死ぬ前に聖杯によって呼び出されたからだ」

 

「そうですか。よく分かりませんがでも私がマスターである限りは負けは許しません。絶対にです」

 

「そのオーダーを認証した。全力で戦う事を約束しよう」

 

「なら良いです」

 

私がそういった時お腹からぐぅぅっと音がなった。

・・・そういえば昨日から何も食べていませんでした。

 

「ははは、それじゃご飯を作るから桜ちゃんは待っててね」

 

雁夜おじさんがキッチンへと歩いていきます。

顔が熱いです。

 

「あの・・・アーカードは食べないんですか?」

 

「私は後で食事をしに行く。マスターは今のうちに食事を済ませておけ」

 

「アーカードはどこかに出かけるんですか?まだ日が出ていますが・・・」

 

「私にとって日の光は大敵ではない大嫌いなだけだ」

 

アーカード

 

「そ、そうですか」

 

「もちろんマスターも一緒に行くのだから食事を済ませたら直ぐに支度をしてくれ」

 

「わかりました」

 

「出来たよ。さぁ食べよう」

 

丁度雁夜おじさんが朝食を作り終えたようです。

テーブルに並べられたパンと牛乳。

パンの上には目玉焼きが乗っています。

 

「ごめんよ、こんなものしかなかったんだ。せめてジャムだけでもあればよかったんだけど」

 

「いいえ、私はこれで十分です」

 

思っていたよりも静かに流れていく食事ですけどそれがたまらなく愛おしく感じます。

私はどうなってしまったのでしょうか。

たった一日でこんなにも心が揺れ動く。

捨てたはずのものが際限なく溢れてくる。

これが夢なら覚めないでください。

この中であれば私は頑張れるから。

 

朝の食卓は味気ないものでも良い。

私にとっては最高に幸せで狂おしいほどの日常がここにあるんですから。

 

 

 

name 間桐桜(まとうさくら)

マスター

元遠坂桜。

 

娘の幸せを願って父の遠坂時臣によって間桐に養子に出される。

だが実際は教育という虐待を受け続け、更に間桐の魔術に無理やり合わせた為髪の色が変わってしまった。

本来の属性は「架空元素・虚数」と呼ばれる属性で、魔術師による庇護がなければ引き寄せてしまう怪異によって桜と周囲に危害が及んでしまう。それ故養子に出された。

 

原作では常に日陰で虐げられている存在。

人気投票でもメインヒロインなのに他のキャラに負ける始末。

でも作者は好きです。

 

name 間桐雁夜

元マスター

 

間桐家の魔術を嫌って家を飛び出したが、想い人である禅城葵(遠坂葵)の娘である間桐桜が魔術訓練のため蟲による調教を受けてることを知り、11年の歳月を経て間桐家に戻ってきた。

しかし、臓硯に植えられた刻印蟲によって寿命は縮み、もって1ヶ月。バーサーカーとの契約で更に縮んだ模様。

 

原作ではキャスターに並ぶ最高の噛ませ犬。

負をまき散らすだけのダークヒーローになりきれなかった人。

だけど愛されてるおじさん。

 

name 監視ロボ?

機械

 

間桐邸に侵入して即撃退されたロボ。

 



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偶然と必然の出会い

食事を済ませて私とアーカードは街へと向かいました。

聖杯戦争とは言っても日中は平和そのものです。

魔術は衆目に晒してはいけない。

これは魔術師全てに共通の認識らしいので人が多い日中に戦うなんて馬鹿な真似はしないと思います。

ただ、魔術以外の方法で暗殺される可能性も零ではないので警戒はします。

 

「どうした桜。そんなにビクついていては戦争に生き残れないぞ」

 

アーカードはいつも私を試すような、馬鹿にするような口調です。

吸血鬼がどんな事を考えているかなんて知りませんがあなり気分が良いものではありません。

 

「大きなお世話です。それよりも、さっき聖杯戦争について色々知っているような口ぶりでしたけど何故あんなにも詳しく知っていたんですか?」

 

「ふっ、我々サーヴァントはこの世界に召喚された際に現代の知識や簡単な聖杯戦争のルールなどを予め聖杯から与えられる。そして雁夜の家は御三家の中でも令呪のシステムの作り上げた家で令呪関係などの文献などが残っていた。厳重に封印されていたそれを読んだだけだ」

 

「そんなものが間桐の家にあったなんて・・・」

 

「臆病者なだけあって子孫や後継者にすら教えるつもりはなかったのだろう」

 

「ならどうしてそんな文献を残したんでしょうか?」

 

「大方あの身体を維持していくのに魂が削れていったのだろう。故に忘れてしまう前に文献にして残して置いたのだろうな」

 

「・・・はぁ、なんであんな馬鹿の為に僕が本を買ってこなくちゃいけないんだよ・・・」

 

偶然視界の端に写った人物は本屋でため息を吐きつつ戦闘機の本?を次々とカートに入れていました。

小さな本屋のドアが偶然開いていたので目に止まったのですが、あの人は軍事マニアか何かでしょうか。

 

「ったく、あいつサーヴァントの癖に現代兵器なんて見てどうするんだよ・・・」

 

その言葉に私の身体が強張ります。

ーーあの人マスターだ。

どうしましょう。

見たところ怖い人には見えませんが・・・。

 

「おいクソガキ・・・お前マスターだろう?」

 

どうしようか迷っている私の気も知らずにアーカードは堂々と問いかけます。

もしかするとこの人は・・・馬鹿なんでしょうか。

 

「え・・・ええええええ!!」

 

話しかけた男性はすごく驚いています。

黒いオカッパ頭に黒に少し緑が入ったような瞳が特徴的です。

何よりも・・・可愛い。

男性に可愛いというものでは無いかもしれませんがとにかく可愛いです。

挙動の一つ一つが妙に面白くてつい笑ってしまいました。

 

「くすくすっ」

 

「えっえっえっ?」

 

未だ動転している様子も可愛くてなんだかホッとしています。

やっぱり怖い人じゃないみたいです。

 

「ごめんなさい面白くて」

 

「面白いってなぁ・・・まぁいいけど」

 

照れた顔も・・・いえこれ以上はやめておきます。

細い身体に加えて身長も・・・男性の平均身長からすると少し低いかもしれません。

 

「それよりも、マスターってことはお前たちも参加者ってことか・・・もしかして、サーヴァント?」

 

アーカードを指さしています。

私が頷くと後ずさるように数歩下がりました。

 

「ま、まさかここで始めるつもりじゃないだろうな・・・」

 

「いえ、そのつもりはありません。でも少しだけお話しませんか?」

 

アーカードに目配せすると彼は頷きました。

 

「ううう、分かったよ。これ買ってくるから少し待っててくれるかい?」

 

「はい、分かりました」

 

「はぁ、ついてないや・・・」

 

とぼとぼと店内に入っていきました。

 

「アーカードはもう少し配慮してください」

 

「ふっ」

 

なるほど従うつもりは無いってことですか。

 

「おまたせ。近くに公園があるから場所を移そう」

 

着いて行くと小さな公園がありました。

周りはマンションに囲まれていてシーソーとブランコとベンチが置かれています。

男性は迷わずベンチに座ると手招きをしています。

男性の隣にはハンカチが置かれていてここに座れと言うことでしょうか。

 

「ここのベンチなんでこんなにも汚いんだよ。ごめんねこんな汚いところで」

 

「いえ・・・でもハンカチはいいんですか?」

 

「ああ、構わないよ。イギリス紳士としてのたしなみさ。」

 

得意気に話すこの人は格好をつけても様にならないですね。

・・・私なんだかどんどん悪い子になって来てるような気がします。

 

「ふぅ、さて話なんだけど・・・君がマスターで間違いない?」

 

「・・・はいそうです」

 

一瞬迷いましたけど正直に答えました。

 

「君みたいな小さなこどもがねぇ・・・何か事情でもあるの?」

 

「はい、私には叶えないといけない願いがありますから」

 

「一応聞いとくけど根源関係ではないんだよね?」

 

「・・・はい」

 

「詳しくは聞かないけどきっと大事なことなんだよね・・・それに比べて僕は・・・はぁ」

 

なんで落ち込んでいるんでしょうか。

アーカードは興味がないみたいで少し離れた木にもたれかかっています。

 

「あの、お兄さんの願い事はなんですか?」

 

「む・・・僕の願い事は他の人に僕の事を認めさせること。正しく評価されたいんだ」

 

「そう、なんですか」

 

「この聖杯戦争に参加したのだって先生を見返したかったからだし・・・ああもう!!こんな子どもに愚痴るなんて!!しかも僕よりしっかりしてるし!!自分が嫌になってくる!!」

 

髪の毛を掻きむしり声を上げるお兄さん。

私には理解できませんがお兄さんには耐えられないんでしょう。

やがて落ち着いたお兄さんは意を決したように立ち上がりました。

 

「よし、決めた!!僕が生き残ったら君の願いを代わりに叶えてあげるよ!!」

 

「でも私はお兄さんを殺してしまうかもしれません」

 

「・・・その時はその時だよ。僕だって手は抜かないからな。だからお互いがんばろう」

 

「はい。絶対に負けません」

 

そして一時間ほど話した後お兄さんが慌てて立ち上がりました。

 

「やばい、あいつが家から出てくる!!くそ、あいついい加減にしろよな!!大人しく家でゲームでもしてろよ!!・・・ごめん帰るね」

 

去り際に『僕の名前はウェイバー・ベルベットだ』と言ったので私も『桜です』と返してウェイバーさんと別れました。

やっぱりウェイバーさんは可愛いです。

 

「ようやく終わったか桜。ならば食事に行くぞ。私はもう限界だ」

 

「お待たせしました。それでどこに行くんですか?」

 

「病院だ」

 

「病院?」

 

冬木にある一番大きな病院に到着すると私を椅子に座らせて『待っていろ』と言って歩いていきました。

受付の看護師さんに『何も問題はない』と繰り返し呟いていましたがあれは何でしょうか。

謎ばかりです。

通り過ぎて行く人たちを眺めながら待つこと30分ほどでアーカードは戻ってきました。

若干血の匂いがしますが気にしない事にします。

 

「満足しましたか?」

 

「ああ満足だ、とても満足だ、とてもとても満足だ」

 

人類ではありえない尖った犬歯をむき出しにしているアーカードはやはり吸血鬼なのですね。

 

「では帰ろうかマスター」

 

帰り道、私はいくつかの視線を感じました。

特にすれ違った黒髪の女性はとても鋭い視線を向けて来ました。

きっと聖杯戦争関係者なのでしょう。

でも隣にアーカードがいるので怖くはありません。

まだまだ日は沈みませんがまずは帰って雁夜おじさんを安心させてあげましょう。

 

偶然の出会いなんて事がありましたがとても楽しい一日でした。

それだけは間違いありません。

 

青く澄み切った空を睨みながら私はそう思いましたーー。

 

 

 

name ウェイバー・ベルベット(Waver Velvet)

マスター

 

魔術師としては3代目になるが実力は・・・。

魔術師は血統だけではないという論文を教師である男に提出するも馬鹿にされた。

その腹いせにその教師宛の聖遺物(英霊が生前持っていたとされるもの)を盗み、それを使ってマスターとなる。

自信家でナルシストの癖に臆病で、身長が低いことを気にしている。

聖杯で求めるのは馬鹿にした人々に自分の価値を認めさせること。

しかし彼のサーヴァントに「小さい」と言われ、落ち込んでいる。

 

原作でのメインヒロイン。

もはや主人公とか騎士王とか金ピカとかよりも目立つほどのキャラ。

主人公よりも主人公をしていたキャラ。

唯一4次で生き残った人物。

後に時計塔の講師として頭角を現す。

 

今作では目標を与えてあげたので若干男らしいかもしれません。

また、アーカードのステータスを読み取っていますが日中のため低いステータスで覚えています。

 

作者がzeroで一番好きなキャラです。

 

name 久宇 舞弥(ひさう まいや)

協力者

 

武器はステアーAUGとキャリコM950。

幼少から兵士となる為に訓練を受けており、切嗣に拾われるまで桜と似たような境遇にあった。

実は出産経験もあるらしい(もちろん望んだものではない)。

実は甘党。

純真無垢で一途。

とあるマスターと愛人関係にある。

 

原作ではそこまで重要な登場人物ではない。

この作品では重要人物にしたいな。

 

 



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闇と黄金の邂逅

月の光と街灯によって写しだされる2つの影。

それは時に交じり合い時に離れ時に睨み合う。

振り下ろされる武器を長い槍で受け止め逸し反撃とばかりに突き出す。

私の眼前には神話でしか許されない戦いが繰り広げられています。

 

一人は金色の髪の騎士。

外見は美しく華奢な少女ですがブルーのドレスに銀の鎧を纏っています。

襲いかかる2本の槍を見えない何かで弾いています。

 

もう一人は泣きホクロが特徴の黒髪の男性。

2本の槍を駆使して何度も攻め立てます。

 

私の目には捉えられないほどの速度で進行していく戦いに呆けてしまいそうになります。

しかし、目をそらす事は出来ません。

 

現在私はコンテナの影に隠れてそれを見ています。

突然アーカードに連れられて来た時は驚きましたが、今のうちに慣れておけということでしょうか。

あれだけ動いても汗一つかかないのとはさすが英霊です。

私にこれを見ておけと言う割にアーカード本人は闇に溶け込んで消えてしまいました。

なので今私は一人です。

 

「じゃれあいはそこまでだランサー」

 

「ランサーのマスター!?」

 

「これ以上勝負を長引かせるな。そこのセイバーは難敵だ。速やかに始末しろ。宝具の開帳を許す」

 

どこからか声がします。

やけに偉そうな口ぶりですが様子からあの槍使いのマスターの声みたいです。

透明の武器を持ったサーヴァントのマスターらしき白髪の女性の身体がビクッと震えています。

宝具については多少話は聞きましたがよくわからなかったのでどんなものか見せていただきましょう。

 

「了解した我が主よ」

 

勿体つけたように言うと槍使いは持っていた短槍を地面に落とし長槍を両手で持ちます。

すると槍に巻きつけてあった布が解かれ、紅い槍が顔を出します。

禍々しい妖気を発しているあれが宝具のようです。

 

「そういうわけだ。ここから先は獲りに行かせてもらう。セイバーお前は束ねた風の魔力で剣を隠したままか?」

 

セイバーと呼ばれたサーヴァントは僅かに力が入ります。

 

「なるほど、剣を覆い隠しておきたい理由がお前にはあるということか。お前の真名、その剣にあるとみた」

 

「残念だなランサー。貴殿が我が宝剣の正体を知ることはない。その前に勝負を決めて見せる」

 

セイバーは剣を構えました。

 

それに合わせてランサーが歩き出しました。

 

「それはどうかな?見えない剣を暴かせて貰うぞ、セイバー」

 

身体の重心を落とすと一瞬で距離を詰めてセイバーに槍を突き出しました。

爆音を風と共に透明だった剣から黄金の光が溢れでています。

 

「晒したな、秘蔵の剣を・・・」

 

「インヴィジブル・エアが解れた・・・」

 

ランサーは足元に槍を突き刺し、次々と攻撃をつなげていきます。

それをセイバーは躱し、弾きます。

コンテナ側に追い詰められたセイバーはコンテナを駆け上がり反転します。

二人の立ち位置が丁度反対になりました。

 

「刃渡りも確かに見て取った。これで見えぬ間合いに惑わされることはない」

 

走りだすランサーに対してセイバーは動きません。

目を閉じてじっと何かを考えているみたいです。

そして目をあげると剣を頭の上で構えて走りだしました。

 

「ーーっ!!」

 

私の予想を大きく外れてセイバーは脇腹辺りを刺されました。

掠っただけですが血が滲みでています。

 

「セイバー!!」

 

「ありがとう、アイリスフィール。大丈夫治癒は効いています」

 

一瞬光ったのは治癒らしいです。

とても興味深いです。

 

「やはりやすやすと勝ちを獲らせてはくれんか」

 

心なしかセイバーの顔に焦りが見えます。

貫かれた鎧の位置に手を当てていますが、どうしたのでしょうか?

手を離した場所をじっと見てみると鎧に傷がついていません。

 

「そうか、その槍の秘密が見えてきたぞランサー」

 

「ほう」

 

「その紅い槍は魔力を断つのだな?」

 

「ふっ、その甲冑は魔力で生成されたもの。それを頼みにしていたのなら諦めるのだな、セイバー。俺の槍の前では丸裸も同然だ。」

 

「たかだか鎧を剥いだぐらいで得意になってもらっては困る」

 

そう言ってセイバーは鎧を脱ぎ捨てました。

なるほど。

確かに鎧があってもなくても変わらないのであれば少しでも軽くしたほうが戦い易いでしょう。

 

「防ぎ得ぬ槍ならば、防ぐより先に斬るまでの事。覚悟してもらおう、ランサー」

 

「思い切ったものだな。乾坤一擲(けんこんいってき)ときたか。鎧を奪われた不利を鎧を捨てることの利点で覆す。その勇敢さ、潔い決断。決して嫌いでは無いがな。この場に言わせてもらえばそれは失策だったぞ、セイバー」

 

「さて、どうだか。甘言は次の打ち込みを受けてからにしてもらおうか」

 

セイバーは剣によって生じた風を使って水平に跳躍しました。

襲い来るセイバーを嘲笑う様にランサーは足元にあった槍を足で蹴り上げ、空いていた手で握りしめました。

それを振り、セイバーの手首を斬り裂きました。

同時に短槍を持っていた手の手首を斬られ、槍を落としました。

 

「つくづくすんなりとは勝たせてくれんのか。良いがなその不屈ぶりは」

 

「何を悠長な事を言っている。馬鹿め。仕留め損ねおって」

 

斬られたランサーの手首の傷が消えました。

サーヴァントの回復はマスターなら出来るのかもしれませんね。

・・・私はやり方が分かりませんけど。

 

「痛み入る、我が主よ」

 

「アイリスフィール、私にも治癒を」

 

「・・・かけたわ。かけたのに・・・そんな!!治癒は間違いなく効いているはずよ。セイバー貴方は今の状態で完治しているはずなのっ」

 

「我がゲイ・ジャルグを前にして鎧が無意だと悟ったまでは良かったな・・・が、鎧を捨てたのは早計だった」

 

地面に落ちた黄色い短槍を蹴りあげて再び握り、ドヤ顔です。

 

「そうでなければゲイ・ボウは防げていたものを」

 

「なるほど、一度穿てばその傷を決してい癒やさぬという呪いの槍・・・もっと早くに気づくべきだった。魔を断つ赤槍。呪いの黄槍。加えて、乙女を惑わす右目の泣き黒子。フィオナ騎士団随一の戦士。輝く猊のディルムッド。まさか手合わせの栄に預かるとは思いませんでした」

 

「それがこの聖杯戦争の冥であろうな。だがな、誉高いのは俺の方だ。時空を超えて英霊の座に招かれたものならばその黄金の宝剣を見違えはせん。かの名高き騎士王と鍔迫り合って一矢報いるまで至ったとは・・・。ふふん、どうやらこの俺も捨てたものではないらしい」

 

騎士王?

誰のことでしょうか・・・。

女性の騎士で王・・・?

帰ったら調べてみようかな。

 

「さて、互いの名も知れた所で、ようやく騎士として尋常なる勝負に挑めるわけだが・・・それとも、片腕を奪われたままでは不満かなセイバー?」

 

挑発するランサーに答えるようにセイバーは鎧を纏いました。

剣を正面に構えてギッっとランサーを睨みます。

 

「戯言を・・・。この程度の手傷に気兼ねされたのではむしろ屈辱だ」

 

「覚悟しろセイバー。次こそは獲る!!」

 

「それは私に獲られなかった時の話だぞ、ランサー!!」

 

お互い一歩も引かない状態。

好敵手同士の譲れない戦いに私は汗ばんだ手を握りしめます。

しかし呼吸をするのも躊躇われる状態のこの場に突如として雷が落ちました。

私は驚いて腰を抜かしてしまいました。

 

「アーララララララライイイィィィィィ!!!!」

 

轟音と雷の中、二頭の牛に引かれた牛車?に乗った大男がセイバーとランサーの間に割り込みました。

赤いマントに赤い髪に赤い髭。

全身はとてつもない筋肉で覆われています。

その男が両手を広げました。

 

「双方剣を治めよ。王の前であるぞ」

 

チラッチラッっとセイバーとランサーを見て目を閉じました。

 

「我が名は征服王イスカンダル!!此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスを得て現界した」

 

これはどう反応すれば良いのでしょうか・・・。

セイバーもランサーも呆れた顔です。

一緒に乗っているオカッパ頭の・・・ウェイバーさんは焦りと怒りで凄い顔をしています。

可愛い顔が台無しです。

 

「何を考えてやがりますか!!この馬鹿は!!」

 

ウェイバーさんは泣きながら大男の服に掴みかかりましたがデコピンで弾き飛ばされました。

 

「いてっ!!」

 

額を抑えて泣く姿は・・・ふふふ。

 

「うぬらとは聖杯を求めて相争う巡り合わせだが、まずは問うておくことがある。うぬら・・・一つ我が軍門に下り聖杯を

 

余に譲る気はないか!!さすれば余は貴様らを朋友として遇し、世界を征する快悦を共に分かちあう所存でおる」

 

ランサーは『こいつ馬鹿だ』と首を振った。

 

「その提案には承諾しかねる。俺が聖杯を捧げるのは今生にて誓いを交わした新たなる君主ただ一人だけ。断じて貴様ではないぞライダー!!」

 

セイバーも呆れた様にため息を付いています。

 

「そもそも、そんな戯言を並び立てるために貴様は私とランサーの勝負を邪魔立てしたと言うのか?騎士として許しがたい侮辱だ!!」

 

セイバーの怒りを受けてもライダーと呼ばれる大男は耳を指で掻いていました。

・・・この人は好きになれそうにありません。

自分勝手で周りに迷惑をかける事に戸惑いすら見られません。

こんな人がいるから私のような人が増えるんです。

私の中の暗く嫌な感情が沸々と湧き上がっていきます。

 

「待遇は応相談だが?」

 

指でお金の形を作っています。

・・・。

 

「「くどいっ!!」」

 

セイバーとランサーの声が重なりました。

残念だと己の作った指を見ています。

 

「重ねて言うなら私も一人の王としてブリテン国を預かる身だ。如何な大王といえど臣下に下るわけには行かぬ」

 

ぎゅっと剣を握りしめたセイバー。

 

「ほう、ブリテンの王とな?こりゃ驚いた。名にし騎士王がこんな小娘だったとは!!」

 

セイバーは唇を噛み締めています。

飛び出してライダーを怒鳴りつけたい衝動に駆られましたが、せっかくアーカードが結界?を張ってくれたのが無駄になってしまいます。

ここは我慢しないと。

 

「その小娘の一太刀を浴びてみるか、征服王!!」

 

「はぁ・・・こりゃ交渉決裂か。勿体無いなぁ。残念だなぁ」

 

「ーーライダー!!!!」

 

ウェイバーさんが叫びました。

 

「大体お前はーー」

 

「そうか。よりによって貴様か。一体何を血迷って私の聖遺物を盗み出したのかと思ってみればまさか君自らが聖杯戦争に参加する腹だったとはね。ウェイバー・ベルベット君」

 

ウェイバーさんは怯えてライダーにすがりついています。

この声の人物を知っているようですね。

 

「君については私が特別に課外授業を受け持ってあげようではないか。魔術師同士が殺しあうという本当の意味。その恐怖と苦痛を余すこと無く教えてあげよう。光栄に思い給え」

 

ウェイバーさんは耳を塞いで縮こまってしまいました。

ウェイバーさんを脅すなんて・・・許しません。

そんなウェイバーさんの肩を叩き、ライダーは叫びました。

 

「おう、魔術師よ!!察するに貴様はこの坊主に成り代わって余のマスターになる腹だったらしいな。だとしたら片腹痛いのぉ。余のマスターたるべき男は余とともに戦場を馳せる勇者でなければならぬ!!姿を晒す度胸さえ無い臆病者など役者不足も甚だしいぞ!!」

 

そう言って大笑いしました。

馬鹿だと思っていましたが良いこと言うじゃないですか。

少しだけ見直しました。

 

「おいこら!!他にもおるだろうが!!闇に紛れて覗き見しておる連中は!!」

 

「どういうことだライダー?」

 

私の心臓が跳ね上がりました。

バレてる!!

まずいです。まずいです。

アーカードもいないのにどうしよう!!

 

「セイバー、それにランサーよ。ウヌらの真っ向切っての競い合い。誠に見事であった!!あれほど清澄な剣戟を響かせては惹かれて出てきた英霊がよもや余一人ということはあるまいて」

 

腕を振り上げてぎゅっと握るとライダーは宣言しました。

 

「聖杯に招かれし英霊は今ここに集うがいい!!なおも顔見世を怖じるような臆病者は征服王イスカンダルの侮蔑を免れぬものと知れ!!」

 

響く轟音。

これは出て行くしか・・・ないんでしょうか。

足元を見てみると眼が私を見ていました。

行けと言うんですねアーカード。

分かりました。

私は絶対に勝ちます。

雁夜おじさんの為に。

踏み出す一歩。

身体が月の光を浴びて色を成します。

私と同時に街灯の上に黄金のサーヴァントが出現しました。

ゆっくりと顔を上げた黄金のサーヴァントは不機嫌な顔をしています。

 

「俺を差し置いて王を称する不埒者が一夜に2匹も湧くとはな」

 

「難癖着けられたところでなぁ・・・イスカンダルたる余は世に知れ渡る征服王にほかならぬのだが」

 

「戯け。真の王たる英雄は天上天下に我ただ一人。後は有象無象の雑種にすぎん」

 

「そこまで言うならまずは名乗りをあげたらどうだ?貴様も王たるものならばまさか己の偉名を憚りはすまい」

 

「問を投げるか、雑種風情が。王たるこの我に向けて。我が配列の栄に欲してなおこの面貌を見知らぬと申すならそんな蒙昧は活かしておく価値すら無い!!」

 

黄金のサーヴァントの背後が揺らぎ、波紋が広がると武器らしきものが幾つか出てきました。

黄金のサーヴァントが街灯を踏みつけると光は失われました。

 

「あ・・・」

 

思わず声をあげてしまいました。

小さな声だったはずですが全員が一斉に私の方へ顔を向けてきました。

足がすくみそうです。

特にあの黄金のサーヴァントは武器をしまう素振りすら向けず、見下ろしてきます。

怖い。

全員が私の登場に困惑しているようにも見えます。

 

「なっ!!子どもが何故こんな所に!!」

 

「くっ、不味いな・・・」

 

「不味いのぉ・・・」

 

「さ、桜・・・?」

 

「何だ坊主、知り合いか?」

 

「ああ・・・うん」

 

やはり私のような子どもがこの場にいるのが不思議でならないようです。

私自身場違いなのはわかっています。

でも私は逃げたくありません。

 

「ふん、誰かと思ってみれば薄汚れた雌狗ではないか。・・・貴様、誰の許しを得て俺を仰ぎ見る?分を弁えよ雑種!!」

 

矛先が私に向きました。

そして放たれる容赦の無い一撃。

私ではあれを躱すこのなんてできません。

ここで終わるの?

何も得ず、何も与えられず、何も出来ないまま終わっちゃうの?

・・・許しません。

こんな私にしたお父様も、お祖父様も・・・神様も。

私は絶対に許しません。

こんな下らないつまらない無駄な人生は・・・コワシテシマイマショウ。

 

 

 

「来なさい、アーカード」

 

 

 

私の呼びかけに応じるように影から現れる真紅の鬼。

人類を遥かに超越した不死者。

ノーライフキング。

私の絶対にして唯一の力。

 

放たれた剣から私を守るように間に立つアーカード。

その顔は絶望ではなく笑み。

凶悪な笑み。

見せてあげましょう。

私達の憎しみを。

 

剣がアーカードに突き刺さりました。

吹き出す血。

真紅のコートが更に紅く染まっていきます。

私以外の全員が唖然と見ています。

普通であれば致命的なダメージ。

そのまま消えることでしょう。

でも、彼はーーアーカードに普通は当てはまりません。

 

「ほう」

 

「バーサーカー!?」

 

黄金のサーヴァントの目が細められました。

面白いものを見つけたと言わんばかりに。

セイバーは何処からともなく現れたアーカードに驚いているようです。

 

「な・・・」

 

「どうなっておる・・・」

 

「なんで消えないんだ!?」

 

「フフフフハハハハハハハハハッ!!!」

 

鬼が嗤う。

心底嬉しそうに。

 

「・・・初めまして黄金の王。そしてさよならだ。貴様は私の主を雌狗と呼んだ。お前生きてここから帰れると思うなよ・・・ぶち殺すぞサーヴァント!!」

 

アーカードが懐から拳銃を抜きました。

白銀と黒銀の美しい拳銃。

それらは確かな殺意を持って黄金のサーヴァントを狙います。

 

「貴様、俺に向かってその戯言ーーそこまで死に急ぐか狗!!」

 

私達に向けられる恐ろしい数の武器。

一つとして同じものはありません。

ですが一つ一つが必殺の武器である事は間違いありません。

先に動いたのは黄金のサーヴァント。

何本もの武器が襲いかかります。

アーカードはそれを的確に撃ち落とします。

 

「やつめ・・・本当にバーサーカーか?」

 

「狂化して理性を失って・・・おらんのか?だがバーサーカーにしてはえらく芸達者なやつよのぉ」

 

「セイバー・・・あれだけの傷を負って現界したままでいられるの?」

 

「いえ・・・あれはありえません。あれほど深いキズを負えば消滅するはずです。おそらく特殊な宝具を所有している可能性が高い。あのサーヴァントは最低でも3つは宝具をもっています。ですがあの黄金のサーヴァントも・・・」

 

「ええ、あの武器は全部宝具のようね・・・認めたくはないけれど。やっかいなサーヴァントが増えたってことね」

 

「ちぃ、狂狗風情が我の攻撃を防ぐだと!!」

 

攻撃が弱まった隙にアーカードの黒銀の銃が街灯に向けられました。

金属と金属がぶつかり合う甲高い音を立てて街灯は真っ二つになりました。

黄金のサーヴァントは飛び上がり、危なげもなく地に降り立ちました。

 

「・・・痴れ者が。天に仰ぎ見るべきこの俺をーー同じ大地に立たせるかっ!!その不敬は万死に値する!!そこな雑種よ。もはや肉片一つも残さぬぞ!!」

 

展開される必殺武器の数々。

アーカードはそれすら愉しむように嗤う。

 

「ーーっ!!貴様ごときの官言で王たる我に退けと?大きく出たな・・・時臣」

 

「とき・・・おみ」

 

黄金のサーヴァントが手をふると向けられた武器は消えました。

退くということでしょうか。

私はそのことに安心しましたがそれ以上にあのサーヴァントが言った言葉に動揺していました。

時臣。

それは私がこの世で2番めに嫌いな人物。

縁を切った怨敵。

言葉から察するにあのサーヴァントのマスターのようです。

だとすればあのサーヴァントは許しません。

いつの間にか私は歯を噛み締めていたようです。

落ち着かなければいけませんね。

 

「命拾いしたな狂狗・・・。雑種共、次までに有象無象を間引いておけ。我と見(まみ)えるのは真の英雄のみで良い」

 

それだけ言って消えて生きました。

 

「ううむ・・・どうやらあれのマスターはアーチャー自身ほど豪気な質では無かったようだな」

 

ライダーが終わったとばかりにため息をつきます。

アーカードは逃げていった黄金のサーヴァントーーアーチャーが去ったことで興味の対象がセイバーへと変わったようです。

じっと紅い瞳でセイバーを見つめています。

 

「・・・バーサーカーで間違いはないか?」

 

セイバーが警戒しながらこちらを見ていました。

アーカードはそれには答えず私を見ます。

 

「桜、オーダーを寄越せ」

 

「・・・全部消して。私達を邪魔するありとあらゆるものを叩いて潰して壊して」

 

「フフフッ、そうだそれでこそ我が主だ。ならば打って出るぞ、とくとご覧あれ。桜」

 

私の命令(オーダー)を待っていたと鬼は言う。

私は震えた。

この頼もしい吸血鬼を美しいと感じてしまったから。

 

夜はまだまだ続きそうです。

目指すは目の前の敵。

今はそれだけを考えましょう。

 

 

 



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不死者

長い夜が始まりました。

アーカードは警戒することもなく悠然と3人のサーヴァントに向かっていきます。

アーカードの傷は既になくなっているようです。

足取りもしっかりしているので全快したのでしょう。

黄色いサングラスを外して銃を持つ手に力が入りました。

いよいよ始まるんですね。

 

「なぁ征服王・・・あいつには誘いはかけんのか?」

 

「誘おうにもなぁ・・・あれはのっけから交渉の余地が無さそうだわなぁ」

 

冗談を交わしているランサーとライダーにアーカードは一丁ずつ拳銃を構えました。

そして容赦なく発泡しました。

バンッと渇いた音が響きます。

人間であれば避けることが出来ない銃弾。

ですが彼等はサーヴァントです。

危なげでしたがキッチリと躱しました。

それに合わせてセイバーが走り出します。

アーカードも釣られて走りだしました。

アーカードによる銃弾の嵐をセイバーは予め知っているかのような動きで躱しています。

時には武器で弾いていますのでやはり英雄は恐ろしいものです。

武器が届く距離になったセイバーは距離を空けられないように執拗に攻め立てます。

ですがアーカードは避けることもなくただ撃ち続けています。

 

「くっ、どうなっている!!」

 

セイバーが怒るもの無理はありません。

セイバーの攻撃は確かにあたっています。

アーカードは血を吹き出し、腕を切り落とされ心臓を突かれ、首すら落とされました。

ですがそれらはまるで無かったかのように瞬時に再生しています。

 

「どうなっているの!?あれじゃまるで不死じゃない!!」

 

セイバーのマスターは目を見開いています。

 

「おい坊主・・・何かわからんのか?」

 

「無茶言うなよ・・・サーヴァントの宝具までは分からないんだよ!!それに・・・前に見た時よりもステータスが上がってるんだ!!どう考えたっておかしいだろ!!」

 

前にウェイバーさんに会ったのは日中でしたね。

でしたら仕方がありません。

彼は夜でこそその真価を表せるのですから。

 

「どうした、お前たち二人は見ているだけか?お前たち英霊が欲して止まない化物はここにいるぞ!!」

 

アーカードの挑発に二人は動き出しました。

まずはじめにランサーが地を蹴って突進してきました。

2本の槍を駆使してアーカードを攻め立てます。

 

「馬鹿なっ!!我がゲイ・ボウの呪いが効いていないとでも言うのかっ!!」

 

「ランサー!!二人でバーサーカーを打倒しましょう!!」

 

「了解だ!!遅れを取るなよ、セイバー!!」

 

セイバーとランサーの共闘。

騎士同士の絆ですか。

前から後ろから翻弄してきますがアーカードは立ったまま打ち続けています。

そう、アーカードは回避する必要すらないのです。

 

「二人共どけぃ!!」

 

二人の騎士の間に割って出るのはやはりライダー。

牛車でアーカードを踏み潰しました。

潰れるアーカード。

辺りは夥しい血が流れ、ほとんど原型を留めていません。

騎士二人はそこから離れてライダーを睨みます。

その視線は『次はないぞ』という意味が込められています。

 

「終わったの?」

 

「・・・まだだ。まだ終わってないっ!!あのバーサーカー何なんだよ!!」

 

アーカードの残骸に群がるコウモリたち。

それらは吸収されていき、象られた影はゆっくりと身体を起こします。

 

「・・・素晴らしいぞ英霊(サーヴァント)。ならば見せてやろう、本当の吸血鬼(わたし)の闘争というものをーー」

 

ーー拘束術式第一号まで開放。

 

アーカードの形が崩れる。

死んだのではありません。

液状になった彼から夥しい程の瞳が現れたのですから。

サーヴァントが皆動きを止めました。

ここにいる全員がこう思っているでしょう。

『あれは本当に英霊なのか?』と。

 

「不味い、あれは物凄く不味いのぉ」

 

「同感だライダー・・・下手をすればマスターも危険だ。一時撤退するべきだ」

 

「・・・やむおえん。我が主よ、今回は引かせて頂きたい」

 

「まぁ良い。今回は撤退を許す」

 

ランサーのマスターの気配が消えて安心したのでしょう。

ランサーから殺気が消えました。

セイバーも逃げるつもりのようです。

 

「悪いが引かせてもらう」

 

「どこへ逃げるつもりだ?」

 

ランサーの顔が驚愕に染まる。

そう、ランサーの左腕が宝具ごと喰われていたのですから。

 

「ぐぁぁぁぁああああああああ!!!!」

 

「ら、ランサー!!貴様ぁ!!」

 

セイバーは狗を真っ二つに斬り裂きました。

ですが斬られた狗から腕が飛び出しました。

その手には白銀の銃。

セイバーはそれすら予想していたのか腕を斬り飛ばします。

セイバーはとてつもない直感をもっているようです。

 

「大丈夫かランサー!!」

 

「ぐっ・・・腕を持って行かれた」

 

苦しそうな表情です。

このまま倒せるでしょうか。

 

「さぁどうした?まだ腕がちぎれただけだぞ。かかってこい!!剣を振れ!!槍で突き刺せ!!チャリオットで踏み潰せ!!一撃必殺の技を出せ!!さぁ夜はこれからだ!!お楽しみはこれからだ!!ハリー!ハリー!ハリー!ハリー!ハリー!ハリー!!!」

 

興奮を抑えきれないアーカードを見て他のサーヴァントは苦虫を潰したような顔をしています。

 

「ここは任せて退けランサー」

 

セイバーの剣から暴風が吹き荒れました。

光で前が見えません。

 

「忝ない・・・勝負は必ず」

 

「ああ、我が名に誓おう。さぁ行け」

 

ランサーは粒子になって消えてしまいました。

これで残るはセイバーとライダー・・・あれ?

見渡してもライダーがいません。

セイバーに目を取られていた隙に逃げたようです。

思っていたよりも頭が回るようです。

でもこれでセイバーだけです。

あちらにもマスターがいますので置いて逃げることはしないでしょう。

なにせ騎士なのですから。

 

「どいつもこいつも逃げ出すとは・・・貴様らそれでも英霊のつもりか、恥を知れ!!」

 

おそらく逃げた人達は誰一人聴いていないでしょう。

唯一残ったセイバーだけは悔しそうです。

あちらのマスターは一向に逃げませんが何か策があるのでしょうか?

 

「アイリスフィール、この場は私が食い止めます。その隙にせめて貴方だけでも離脱してください!!出来る限り遠くまで」

 

セイバーの頼みを聴いてもあちらのマスターは動きません。

首をふるばかりです。

 

「アイリスフィール、どうか!!」

 

「大丈夫よセイバー・・・貴方のマスターを信じて!!」

 

アーカードに勝てるということでしょうか。

確かにあのセイバーはまだ何か隠し持っているような気がします。

果たしてそれはアーカードを倒し得るものなのですか。

 

「来ないと言うのであれば私が行こう。覚悟は良いか、お嬢さん」

 

「ハアアアアァァァァァァ!!!」

 

再び交差する銃と剣。

撃っては躱し、斬っては再生する。

止まらない攻防。

しかしセイバーの疲労が見て取れます。

終わりは近いかも知れませんね。

 

「ああ、終わりだ」

 

何処からでしょうか。

アーカードのものではない銃声音が聞こえました。

なるほど、最初から狙いはーー私だったんですね。

銃弾は私を撃ちぬくでしょう。

そう思っていました。

 

「なん、だと!?」

 

私の前に突然女性が現れました。

金髪に黄色服装で丈の短いパンツを履いています。

外国の婦警さんのような格好の人が何故こんな所に?

 

「遅いぞ婦警。もう少しで我が主が撃ち抜かれるところだった」

 

「す、すみませんマスター!!でも・・・ここ何処ですか?しかも撃たれましたし」

 

「今は気にするな」

 

「や、ヤー!!」

 

「そんな、新しいサーヴァントなんて!!」

 

「見たところキャスターというわけでも無さそうですね。だとすれば宝具。サーヴァントを召喚する宝具ですか」

 

アーカードにそんな能力があったんですね。

でもこの婦警さんは・・・頼りにならなさそうなんですが、アーカードが信頼しているのですからそれなりに強いのでしょう。

 

「おい、婦警。銃を出してあそことあそことあそこを狙え」

 

「ヤー!!」

 

婦警さんは虚空から銃を出現させました。

アーカードの銃とは比べ物にならない大きさの銃。

いえ銃ではなく大砲みたいです。

見た目からしてすごく重そうですがそれを軽々と持ち上げています。

・・・あの腕でどうやって持っているんでしょうか?

 

「令呪を持って我が傀儡に命ず!!セイバー!!アイリスフィールを連れて必ず逃げ切れ!!」

 

「ドンッ!!・・・ドンッ!!・・・ドンッ!!」

 

アーカードが指さした方角に放たれる弾丸。

弾丸が風を切る高音が駆け抜けていきます。

一つも命中しなかったようです。

セイバーも令呪によって逃げてしまったようです。

 

「結局全員に逃げられてしまいましたね」

 

「そうでもない。こちらに来い桜」

 

「・・・これは」

 

アーカードに付いて行ってみると血を流して倒れている女性がいました。

この人は街に行った時にすれ違ったような。

 

「どうやら関係者らしいな。どうする、殺すか?」

 

「人間ですよねマスター?殺すのは不味いんじゃ・・・?」

 

「お前は黙っていろ婦警」

 

「は、ハイぃぃ!!」

 

この人を生かしておけば私が危険です。

ですが気になってしまいます。

私と似たような感じがしてなりません。

 

「・・・連れて帰ります。運んでください」

 

「婦警、任せたぞ」

 

「イェス、マイマスター!!」

 

長い夜が終わりました。

帰ったらおじさんと一緒に寝ようと思います。

私は担ぎあげられる女性を見ながらそう考えるのでした。

 

 

 

name ディルムッド・オディナ

クラス ランサー

筋力:B 耐久:C 敏捷:A+ 魔力:D 幸運:E 宝具:B

 

宝具

 

破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ) ランクB 魔力の循環を断つ宝具。

 

必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ) ランクB 治癒不可な傷を負わせる。

 

保有スキル

 

対魔力:B 詠唱が三節以下の魔術の無効化。それ以上の魔術でも傷つけるのは難しい。

 

心眼(真):B 修行・鍛錬により得た戦闘論理。窮地において活路を導きだす。

 

愛の黒子:C 異性にディルムッドへの強烈な恋愛感情を懷かせる魅惑。対魔力や抗魔力で回避可能。

 

説明

 

フィン・マックールの許嫁と共に駆け落ちしたのちフィンに許される。しかし、瀕死の重傷をおったディルムッド。居合わせたフィンはすくった水で傷を癒せる能力を持っていたがすくってきた水を2度もこぼし、3度めを汲んできた頃にはディルムッドは事切れていた。

作者はこの事実を知りませんでしたので知った時の後悔がすごかったです。

ランサークラスは非業の死が多すぎですね。

 

name ギルガメッシュ(AUO)

クラス アーチャー

筋力:B 耐久:B 敏捷:B 魔力:B 幸運:A 宝具E~EX

 

宝具

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン) ランクE~A++ 黄金の都へつながる鍵剣。宝物庫を開けて中から取り出せる。

 

エア ランクEX 技名 天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)。乖離剣。対界宝具であり、固有結界などを破壊できる他、威力もエクスカリバーに匹敵、またはそれ以上の威力をもつ。

 

保有スキル

 

対魔力:C 二節以下の詠唱による魔術を無効化。

 

単独行動:A マスター不在でも行動可能。ただし宝具使用など大掛かりなものはマスターのバックアップが必要。聖杯戦争が終わればスキルの影響がなくなるので現界不可。

 

黄金律:A 人生において金銭がどれだけついて回るかの宿命。Aなので金ピカ。

 

カリスマA+ 大軍団を指揮。統率する才能。もはや呪いの領域。

 

神性B(A+) 3分の2神で3分の1人間であるため。しかし本人が神を嫌っているのでランクダウン。

 

 

説明

 

古代バビロニアの王。

蔵には世界の全ての財の原型が眠っている。

神によって翻弄された生涯で、不老不死を求めて冒険したが一歩及ばなかった。

我らが英雄王で残虐なシーンが多いがそれ以上に王としての品格があるため殺すはずの人物を遺臣として扱ったりするなどとにかくカッコイイ。

ただし、慢心が過ぎる為やられることが多い。

スタッフ曰く「慢心しなければ最強」とまで言われている。

 

name イスカンダル

クラス ライダー

筋力:B 耐久:A 敏捷:D 魔力:C 幸運:A+ 宝具:A+~EX

 

宝具

 

遙かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ) ランクA+ 二匹の神獣を呼び出して使役。速度、敏捷性に優れている。

 

王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ) ランクEX 生前のイスカンダル軍団をまるごとサーヴァントとして召喚する固有結界。それぞれが単独行動E-をもっているのでかかる魔力は起動時がほとんどで、維持にはそれほど魔力を使わない。まるごとではなく個別でも出せる為、利便性が良い。マスターがケイネスだった場合かなり厄介。ちなみに呼び出されたサーヴァントは宝具を所持しておらず、宝具開放などは出来ない。

 

説明

我らが王。

漢の中の漢。

作者も同胞に・・・無理ですよね。

オケアノスを求めて遠征、征服を続けたがやがて崩壊した。

声優さんの本気を感じました。

 

name アルトリア(アーサー・ペンドラゴン)

クラス セイバー

筋力:B 耐久:A 敏捷:A 魔力:A 幸運:D 宝具:A++

 

宝具

 

風王結界【インビジブル・エア】 ランクC 風の魔力。剣を隠したり、空を飛んだり、攻撃にも使える。攻防隠に優れた宝具。

 

約束された勝利の剣【エクスカリバー】ランクA++ 湖の乙女から授かった聖剣。星に鍛えられた神造兵器。聖剣の中では頂点に君臨する。

 

全て遠き理想郷【アヴァロン】 ランクEX 聖剣の鞘。不老不死の効果を有し、呪いも傷も跳ね返す。セイバーの魔力がなければ効果を発揮しない。セイバー自身がこれを持っていないため使用不可。

 

name アイリスフィール・フォン・アインツベルン

マスター

アインツベルンによって造られたホムンクルス。聖杯の器でもあり、イリアスフィールの母でもある。切嗣の夢を共に歩む良妻。ふつくしい。

 

name ケイネス・エルメロイ・アーチボルト(ケイネス先生)

マスター

ランサーのマスター。風と水のニ重属性。名門アーチボルトの嫡男で神童。降霊科講師、政治的手腕、芸術、召喚術、錬金術など多才。ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリに一目惚れしていて一途。プライドの高さから素直になれない。

哀れ過ぎるので誰か救済してあげて欲しいです。

 

name 衛宮切嗣

マスター

魔術師らしからぬ人物で魔術ではなく近代兵器(銃、爆弾など)を使用する。起源弾という切り札を持っている。妻だけでなく愛人も持つ。正義の味方を目指していたが挫折。聖杯に全てをかけている。

 

name セラス・ヴィクトリア

クラス 吸血鬼

筋力B 耐久C 敏捷B 魔力C 幸運A+ 宝具B+

 

宝具

 

ハルコンネン ランクB+ 長距離ライフル。主力戦車を除く大体のものに通用する。

 

アーカードによって召喚。

本人はここがどこかわかっていない。

アーカードによってドラキュリーナになった。

別名婦警。おっかなびっくり夕方を歩く超巨乳。

呼び出された時期によりまだ誰の血も吸っていない。

 

name アーカード(桜がマスターの場合)

クラス バーサーカー

筋力A 耐久B 敏捷A 魔力A 幸運E- 宝具D+~EX

 

以下同文

 

 



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人形、愛、依存

未だ目を覚まさない黒髪の女性。

昨夜から12時間ほど経っているのですが目覚める気配がありません。

暗殺者のような全体的に黒っぽい色をしていて腰にナイフと銃が隠されていましたので没収しました。

昨夜婦警さんが片手でラクラクと運んだのには度肝を抜かれました。

婦警さんも吸血鬼みたいですがアーカードと違って目は赤くありません。

禍々しさではなく優しさの方が優っているのは彼女の美点ですね。

更に目を引くのが存在感の塊。

ありえない大きさの胸。

何を食べたら・・・。

私は平らな自分の胸を触ってしまいました。

 

加えて今日はとても暇です。

雁夜おじさんは日中だというのに情報収集の為に出かけてしまいましたし、アーカードは地下の蟲蔵の蟲を全て排除したあと眠ると言って消えてしまいました。

暗い所が好きとは吸血鬼らしいですね。

対して婦警さんは珍しそうに間桐邸を見て回っています。

色々と案内をしてあげたのですがどうしてあんなにおっかなびっくりなんでしょうか。

お祖父様もいませんので安全なはずなのですが。

キョロキョロと落ち着いてくれません。

案内が終わると婦警さんは街に行くと言って出て行った後、帰ってきてケーキだけ置いてまた出て行きました。

お客様用との事ですが、状況が分かっているのでしょうか。

私もこの女性を家に入れている時点で人のことは言えませんので本人には言わず胸の内に仕舞っています。

結果私だけ家でやることもなく、なんとなくこの女性と一緒にいます。

肩に届かないくらいのショートヘアで前髪は分けています。

細いまつ毛に無駄のない体つきなので羨ましいです。

私の身体が成長したらこんなスレンダーな身体になるでしょうか。

 

雁夜おじさんは遠坂葵の事が好きみたいです。

目標はあんなおっとりお嬢様でしょうか。

ですがあの人の替わりにはなりたくありませんから私なりの可愛さや美しさを追求していきたいですね。

 

この部屋は私の部屋なのですが本当に何もありません。

テレビはありませんし、服も最低限しかありません。

本は教科書だけで後はベットが置かれているだけです。

 

当然ですね。

私はつい最近まで人形だったのですから。

娯楽に興味などもてるはずもありませんでした。

何をするにもお祖父様の許可が必要でしたのでどのみちどうにもなりませんでしたけど。

 

不思議なことに今の私は心を持っているように思います。

こんなに何かを考えることなんてしませんでした。

これも全て雁夜おじさんのお陰ですね。

昨夜は一緒に寝て貰えませんでしたので帰ってきたら思いっきり抱きしめてもらいますからね。

 

ちょっとした好奇心から指でこの女性の頬を突いてみます。

フニフニとしていて癖になりそうです。

なら胸はどうなんでしょうか?

・・・やめておきましょう。

いけない道に迷いこんでしまいそうですから。

ぼぉっと眺めては頬を突いてみます。

僅かに反応がありますのでそろそろ起きても良いんですけど。

 

それにしても私も眠くなってしまいました。

どうせ起きないんですから私も寝てしまいましょう。

女性の腕に入り込むように身体を丸めると私は目を閉じました。

 

ーーーはっ!!

 

目を開けて最初に見えたのは傷を負って寝ていたはずの女性でした。

じっと私を無表情に見つめています。

私は手を伸ばして女性の頬を触るとすべすべな肌がとても気持ち良いです。

 

「貴方は確かバーサーカーのマスターでしたね」

 

「はい、そうです」

 

「何故助けたのですか。私がいても邪魔なだけでしょう?」

 

私に聞かれても困ってしまいます。

自分自身でさえ理解していないのですから。

 

「理由なんてありません。ただ放っておけなかっただけです」

 

「・・・そうですか」

 

女性は私に覆いかぶさると私の背中に手を回してぎゅっと抱きしめました。

なんだか凄く温かいです。

 

「貴方の目・・・見ていられませんね。まるで切嗣に会う前の私のようです」

 

「切嗣?」

 

「あ・・・。私は頭でも打ってどうにかなってしまったみたいですね。今の言葉は忘れてください」

 

「じゃぁ貴方のお名前は?」

 

「・・・ありません」

 

「じゃあいつもは何て呼ばれているんですか?」

 

「久宇 舞弥・・・。大切な人がくれた名前です」

 

遠い目をしています。

よほど大事な人なんですね。

私にとっての雁夜おじさんみたいに。

 

「それにしても、貴方は子どもにしては丁寧な言葉づかいなのですね」

 

「そうでしょうか?」

 

思いの外私と舞弥さんの会話は弾みました。

家族の事、バーサーカーの事など色々なお話をしました。

舞弥さんは見た目ほど冷徹で怖い人ではないかもしれません。

けれどバーサーカーの宝具や真名、スキルなどは伏せました。

聖杯戦争なのですから仕方ないです。

しかし弾んでいた会話もお互いに同じような過去を持っていることを知ると途端に話しにくくなってしまいました。

 

「そう、貴方も大変だったのですね」

 

「・・・」

 

「良く頑張りました」

 

抱きしめられる私。

本当は私じゃなくて舞弥さんが抱きしめられるべきなのに・・・。

そう思って私も抱き返しました。

人とくっつくのがこんなにも心地よいものだったなんて知りませんでした。

私の視界が歪んでいってしまいます。

泣きたくないのに・・・・。

もう止まりません。

 

「大丈夫。大丈夫」

 

「・・・グスッ・・・ズズッ」

 

「怖い夢は終わったんでしょう?なら前を向きなさい。後ろは見ちゃダメ。貴方は耐え切った。だからそれを誇りなさい。

 

汚れていても必要としてくれる人のために頑張りなさい」

 

「・・・はいっ」

 

「ふふ、よく出来ました」

 

恥ずかしいくらいに取り乱してしまいました。

心から泣いたのは久しぶりのような気がします。

 

「なんだか慣れているように感じます。お母さんなんですか?」

 

「・・・昔こどもを産んだこともありました。直ぐに分かればなれになりましたけど」

 

「・・・そうなんですか」

 

「子どもに聞かせる話ではありませんでしたね」

 

「えっと・・・そ、そうでした。リビングに婦警さんが買ってきてくれたケーキがありますから一緒に食べませんか?」

 

「け、ケーキですかっ!!・・・こほん、頂きます」

 

妙に嬉しそうですが良かったです。

このまま話していても暗い話になってしまいそうですから。

 

リビングに場所を移して、テーブルを挟んで座り、ケーキの箱を開けました。

中にはショートケーキ、チョコレートケーキ、モンブランケーキなど様々なケーキが入っていました。

舞弥さんは食い入るように見ています。

どうやらよほどケーキがお好きなようです。

 

「お好きなモノをどうぞ」

 

「い、いえ。家主より先に決めるのはいけません」

 

「お気になさらず。私はどれも好きですから」

 

「で、でしたらそのチョコレートケーキを頂きます」

 

「どうぞ」

 

さっきまで切れ目でカッコイイ人だと思っていましたが今は普通の女性に見えます。

甘いものが好きなんて意外すぎて可愛いです。

 

「これは・・・駅前の有名店のものではないですか」

 

「そうみたいです。お好きなんですか?」

 

「ええ、あそこのケーキは絶品です」

 

舞弥さんはどこのお店が美味しい、あそこはコスパが悪いなどと力説しています。

触れてはいけないスイッチに触ってしまったようです。

 

「はっ、すみません。取り乱しました」

 

「い、いえ」

 

フォークを置くと舞弥さんの瞳が先ほどとは違う人形のような瞳に変わりました。

 

「一つだけお聞きしたい。貴方が聖杯に願うものはなんですか?」

 

「私は・・・雁夜おじさんの身体を元に戻してあげたいんです。もう一ヶ月も持たないみたいですから」

 

「・・・そう、ですか。わかりました。でしたら私と貴方はやはり敵ですね。ケーキありがとうございました。次にあった時は・・・殺します」

 

舞弥さんの瞳には何も写っていません。

行ってしまうんですね。

名残惜しいですが引き止めることなど出来ません。

それをしてしまったら私は私でなくなってしまいます。

大切な人の為に戦う私が消えてなくなってしまいます。

決してそれは許されません。

 

「それで良い。私と貴方は敵。今日は何かの間違いだったんです。それでは・・・」

 

舞弥さんは振り向くこともなく間桐邸から出て行きました。

床に落ちた水はきっと気のせいなんでしょう。

 

暇だった一日は満たされてまたこぼれました。

それで良いんです。

元々私はそういう存在なのですから。

 

外を見ると日が沈みかけていました。

視線を下ろすと丁度雁夜おじさんが帰って来たようです。

玄関で待っててあげましょう。

 

「ただいま、桜ちゃん」

 

「おかえりなさい雁夜おじさん」

 

「さっきあの女性とすれ違ったんだけどよかったのかい?」

 

「はい、もうお話は終わりましたから」

 

「そっか、なら今からご飯を作るから待っててね」

 

雁夜おじさんは若干足を引きずってキッチンに向かいました。

私もそれに付いていきます。

 

「おや、おかえりのようだ」

 

「バーサーカーか。なんだか最近蟲達が大人しくてな。魔力を使ってないからかな」

 

「何を言っている?お前の中の蟲は既に取り除いた」

 

「・・・えっ。いつのまに!!」

 

「お前が私を召喚して倒れるのを支えた時だ。でなければあの化物に殺されていただろう」

 

雁夜おじさんがメデューサの目を見たみたいに固まってます。

でも良かった。

蟲さえいなければおじさんが苦しむ事がなくなります。

寿命は・・・変わらないかもしれませんが少しは変化すると思います。

それまでにおじさんを何とかしないと。

 

「バーサーカーには世話になりっぱなしだな。ありがとう」

 

「お前正気か?フフフフハハハ!!吸血鬼にありがとうだと!?やはりお前は人間らしい」

 

吸血鬼に感謝すると面白いのでしょうか。

・・・珍しいことは確かですが。

 

雁夜おじさんが夕食を作り終え、いつもの様に二人で食事を済ませました。

そしておじさんにごねてごねてようやく抱きしめてもらいました。

おじさんに抱きしめられると身体が疼いてきます。

 

「さ、桜ちゃん?」

 

「このままでいてください」

 

「今日はやけに甘えん坊だね。・・・やっぱり葵さんや凛ちゃんと会いたいよね」

 

雁夜おじさんは勘違いをしています。

私は甘える対象がいないからおじさんに甘えているわけじゃないです。

おじさんだからこそ甘えているんです。

これを口にできたらどんなに良いんでしょう。

私の臆病な心ではとても伝えられません。

屈んでくれたおじさんの胸に顔を埋めます。

雁夜おじさんの腕の隙間から見える窓の外。

夜の世界が冬木を覆い尽くしています。

私はこの温もりの為に戦います。

おじさんを愛するが故にーー。

 

 



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狂信者達の宴

COOOOOOOOOOOOL!!!!!!!



舞弥さんが出て行ってから数夜。

私は今未遠川の堤防の上にいます。

隣にはキャスターのマスター。

それ以外の人もちらほらいます。

キャスターのマスターは興奮を隠せないようで、キラキラと子どもみたいな目をしています。

 

祭りでもないのに何故こんな騒ぎになっているかというとその答えは河に現れた巨大なタコ?のせいです。

キャスターの宝具らしいのですが凄く気持ち悪いです。

それをみて興奮するキャスターのマスターも正気を疑いますが・・・。

 

私はこんな場所に来たくはなかったのですが、おじさんが姉さんを助けようとしてキャスターの魔術の餌になりそうな所を

 

特別に助けて頂いたようですので仕方なく今回だけ協力することになりました。

姉さんは本当に迷惑です。

私達がキャスターから頼まれた事は2つ。

キャスターを今回に限り攻撃しない事と来るであろうアーチャーのサーヴァントを足止めすることだそうです。

その代わりにあちらのサーヴァントの真名とおおまかな過去を教えてもらいました。

何度も何度もジャンヌと言っていたので怖かったです。

また、キャスターはアーカードの正体も知っていました。

なんでも『黒魔術に触れたものなら誰でも思いあたる』との事です。

恭しく礼をしていました。

 

それにしてもアーカードがお祖父様を眠らせているのですがこんなに離れても大丈夫なのでしょうか。

アーカードの代わりに婦警さんが私の警護についてくれていますから外敵には対処出来るでしょうけど。

でも婦警さん。

間の抜けた声で「はぁ、すごいっすねぇ。でもあの沢山の目を見てるとマスターを想像しちゃいますね」と言いました。

気が抜けてしまいますので・・・今は集中して貰えますか?

たぶん狙われていますから。

 

「・・・冷たい」

 

キャスターの宝具の触手が水面を叩く度に水飛沫が飛んできます。

キャスター一人にあちらはサーヴァント2人がかりですね。

ずるいと思います。

セイバーが触手を斬っても直ぐ再生していますので数はあまり関係はないようですが。

ランサーの姿が見当たりませんので参加していないのでしょう。

片腕で戦うというのも厳しいですからね。

ライダーは・・・役に立っているのでしょうか。

あそこにウェイバーさんがいるとしたらさぞや可愛い声をあげているのでしょう。

考察している私の隣でキャスターのマスターは叫び始めました。

 

「くふふふふ・・・もう退屈なんてさよならだ。手間暇かけて人殺しなんてすることもねぇ。ほおっておいてもガンガン死ぬ。潰されて、千切られて、砕かれて、喰われて。死んで死んで死にまくる。まだ見たこともない腸も次から次へと見られるんだ。毎日、毎日、世界中、そこいら中で!!引っ切り無しの終わりなし!!」

 

苦手ですこの人。

静かにしてもらいたいです。

その願いが叶ったのでしょうか。

 

「あっ・・・」

 

後ろに吹っ飛んだキャスターのマスター。

誰もが彼を見て後ずさりました。

 

「なに?・・・ねぇなに?」

 

本人は気づいていません。

目のいる女性は恐怖が顔に出ています。

キャスターのマスターが自分のお腹にあてた手を見ると、発狂するわけでもなく逆に見つからなかったものが見つかったとばかりに微笑みました。

 

「すっげぇきれぇ・・・。そっか・・・そりゃ気づかねぇよな。灯台下暗しとは良く言ったもんだぜ。誰でもねぇ。俺の腸の中に探し求めてたもんが隠れていやがったんだ。ふぅ・・・やっと見つけたよ。ずっと探してたんだぜ?なんだよ・・・俺の中にあるならあるって言ってくれりゃあいいのにさ」

 

そう言ってもう一度衝撃を受けると、無垢な子どものような微笑みを浮かべて死んでいきました。

額には穴が開いています。

 

「うわぁぁ!!・・・狙撃みたいですね。場所わかりますけどどうしますか?」

 

「いえ、放っておきましょう。婦警さんがいれば撃たれても・・・大丈夫ですよね?」

 

「や、ヤー!」

 

いま、うわぁぁ!!って言っていましたが本当に大丈夫ですよね?

心配になって来ました。

 

「・・・あ、戦闘機が来てますね」

 

婦警さんが指さした方角に2つの小さな光が見えました。

まっすぐこちらに向かっています。

上空に霧がかかっているせいか1機がキャスターに接近しました。

確認しに行ったのでしょう。

しかしたくさんの触手が追いかけ、あっけなく捕まってしまいました。

そして口?の中へ・・・。

もう1機も突進していきます。

死ぬ気でしょうか。

 

「あ、マスターですよ。あの戦闘機の上にいます」

 

「・・・えっ?」

 

私では見えませんがきっとそうなんでしょう。

飛行機の発している微かに黒く光っているようですし。

 

「ミサイル撃っちゃいましたね。あの金ピカの飛行機大丈夫でしょうか?」

 

「よく見えますね?」

 

「だって吸血鬼になっちゃいましたから」

 

後悔しているのでしょうか。

表情からは読み取れません。

 

「私に見えるのは碧い軌跡と紅い軌跡だけです」

 

「あはは・・・人間ならそれが普通ですよ」

 

・・・あれ?

戦闘機がこちらに向かってきています。

このままだとキャスターに当ってしまいます。

 

「あ、消えた」

 

運の良いことにキャスターは突如消えました。

同時にライダーも消えました。

また逃げたのでしょうか。

黒い戦闘機を追いかけていた黄金の戦闘機?もばら撒かれた黒い塊によってバランスを崩したようです。

河の水面に片翼をもがれ着水しました。

アーカードが操作している戦闘機は橋の下をくぐりました。

 

アーカードはそのまま飛行を続け攻撃目標をセイバーに変更しました。

戦闘機から溢れる黒い塊がセイバーを襲います。

セイバーは剣を黄金に輝かせて反撃のチャンスを狙っているようです。

逃げまわっていたセイバーが突然振り向いて剣を構えました。

剣が更に輝きを増しているので宝具を使用するようですね。

アーカードは戦闘機から飛び出て懐から銃を取り出しました。

 

「危ないマスター!!」

 

アーカードの後ろから飛来する武器。

婦警さんの声も虚しくそれはアーカードの両腕を落とし、身体を貫きました。

アーカードは自由落下して河に落ちていきました。

武器を放ったのは橋に付いている照明器具で反射している黄金の鎧のサーヴァント、アーチャー。

腕を組んで悠然と見下ろしています。

 

「アーカードは大丈夫ですよ。それよりもあれは?」

 

「信号弾みたいですね」

 

信号弾の位置にキャスターが再び現れました。

水上に立つセイバーが黄金の剣を天に向けて振り上げます。

収束していく光と風。

そして放たれるーー黄金の剣。

 

「エクス・カリバーぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

河を裂き、キャスターを飲み込んでいきました。

舞い上がる黄金の風。

あれが、宝具。

手に届くことのない理想を見ているような。

幻想的な輝き。

この場にいる全員がその有り様に心を奪われています。

・・・私には眩しすぎます。

婦警さんも同様みたいです。

婦警さんは堪らないと光が収まる前に私の手を握って歩き始めました。

置き去りにしたキャスターのマスターは誰かが処理してくれるでしょう。

 

「どこへ行くんですか?」

 

「マスターのところです。あそこにずっといても怪しまれますからね」

 

だいぶ歩いたところの川辺にアーカードとキャスターがいました。

私達は少し離れたところで足を止めました。

近寄ってはいけないと感じてしまったからです。

キャスターは下半身を失っていてもう長くはないでしょう。

 

「ふふ・・・何故貴方が憐れむですドラキュラ(あくま)よ。」

 

「お前は・・・お前は俺だ!!呆れ返る祈りの果てに神は降りてくる、祈りと祈りの果てに哀れな私達の元に神は降りてくると信じて裏切られ狂った、化物だ!!」

 

「・・・そうかも、しれませんねぇ。ですが私と貴方は違います。あなたには護るべき国も領地も国民も愛する人さえいな

 

いのですから。あの光のなかで私は確かに答えを見つけました。私は逝きます。ですが貴方はいつまで生き続けなければな

 

らないのですか?私以上に哀れで心の弱い貴方はいつまで戦い続けなければならないのですか?」

 

「膨大な私の過去を膨大な私の未来が粉砕するまでだ」

 

「ふふそうですか。・・・おお、声が、声が聞こえます。・・・彼女の声が、あの光が見えます。逝かなければ・・・彼女がーージャンヌが待っています。ーー次はジャンヌと共にゆっくり語らいましょう・・・エイメン」

 

「・・・エイメン」

 

キャスターの身体は光となって消滅しました。

最後の言葉は誰に向けたものだったのでしょうか。

闇の空を仰いだアーカードはふっと笑うと振り向きました。

お互いに悪魔の所業を続け一方は人間として、一方は吸血鬼(ばけもの)として理解し合う事ができたのでしょうか。

紅い瞳には先程までの迷いが見られません。

それが答えなのでしょう。

 

「帰るぞ桜、婦警」

 

私を通り過ぎるアーカードの背中を見ながら私は間桐邸への帰路につきます。

その背中はどこか寂しそうでしたーー。

 

 

name ジル・ド・レ

クラス キャスター

筋力:D  耐久:E  敏捷:D  魔力:C  幸運:E  宝具:A+

 

宝具

 

螺湮城教本(プレラーティーズ・スペルブック)ランクA+ 水魔を容易に召喚して戦わせる。魔導書がある限り水魔は倒し

 

ても復活する。また本自体も修復機能をもつ。キャスターのクラスとして呼び出された所以はこの本にある。

 

説明

 

百年戦争のオルレアン包囲戦でジャンヌ・ダルクに協力し、戦争の終結に貢献し「救国の英雄」とも呼ばれた。しかしジャ

 

ンヌが異端として火炙りになった後錬金術(おそらくハガレンっぽい理由)、黒魔術にのめり込む(財産を狙う政敵達によ

 

り誇張された一面もある)。その後絞首刑、死体が火刑になった。

 

zeroの世界ではCOOL教に鞍替えした。セイバーをジャンヌと間違えるほど狂っており、最後の瞬間もジャンヌを思い浮かべ

 

た。

 

声優さんの握手会では大人気だったらしく、他の声優さんが『やめておけ』とからかったりしたらしいです。

 

 

name 雨生龍之介

マスター

 

数代前に断絶した魔術の家系出身。好奇心が人を殺すを実現した人。彼の最初の犠牲者は姉。cool大好き。

軽いようで哲学的な面もあったりなかったり。

COOL以外特に印象に残っていません。

 




COOOOOOOOOL!!!


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間桐桜

翌日。

雁夜おじさんは全身火傷を負って間桐邸に帰ってきました。

これほど衝撃的なことは初めてです。

何度も声をかけますが気絶しているため返事がありません。

婦警さんにお願いして私の私室に運んでもらいました。

その時お義父様がなにやらふざけた事を言っていたのでアーカードに頼んでお仕置きしてもらいました。

叫び声を上げていましたがそんなことはどうでも良いことです。

雁夜おじさんを連れてきたのは神父服を着た言峰綺礼という男で偶然通りかかって助けたということでした。

胡散臭い人ですが今回はいてくれて助かりました。

聞く所によると、おじさんに火傷を負わせたのは遠坂時臣らしいです。

ゼッタイニユルシマセン。

直ぐにでも殺しに行きたいのですがおじさんを一人には出来ません。

あの人はお仕置きされて役に立ちませんから。

 

「勝手に助けておいて恐縮だが一つ頼まれてはくれないか?」

 

「・・・頼みですか?」

 

「ああ。今回の聖杯ーーアイリスフィール・フォン・アインツベルンを手に入れて欲しいのだ。バーサーカーであれば容易だろう?」

 

「・・・良く分かりませんが、助けて頂きましたので協力します」

 

「ありがとう。期待している」

 

「夜になったら連れて行きます。場所の指定は任せます」

 

「了解した。また会おう」

 

場所と時間の指定など必要最低限の用事を済ませるとすぐに帰って行きました。

私は直ぐにおじさんの様子を見に私の部屋に向かいます。

全身火傷を負っているので所々肌の色が変色し、変形しています。

なんで雁夜おじさんばっかり・・・。

 

「アーカード。雁夜おじさんは死なないよね?」

 

「まだ死なないが前よりも寿命が減っている可能性は高い。あまり歩かせないほうが良いな」

 

「・・・」

 

雁夜おじさんの額からは汗が流れ、体温も平熱とは思えません。

苦しそうな顔。

心臓を鷲掴みにされているようです。

おじさんが苦しいと私も苦しい。

私の頬を伝う涙。

どうして・・・どうして!・・・どうして!!

落下寸前の私の涙。

それを救ってくれるのは優しい手。

私をいつも助けてくれる優しすぎる手。

 

「・・・さ、くら、ちゃん。な、かないで、くれよ」

 

震える手が必死に私の涙を拭います。

私はおじさんの手をぎゅっと握りました。

するとおじさんは無理に微笑んでくれました。

 

「・・・さ、くら、ちゃんは・・・わら、ってなくちゃ・・・だ、めだよ」

 

「・・・はい。私は笑います・・・だから死なないでおじさん!!」

 

「だ、いじょ、ぶ・・・だか、ら・・・すこ、しやす、むね」

 

事切れたようにおじさんの全身の力が抜けました。

先ほどまでとは違う穏やかな寝顔。

 

「よかった・・・」

 

「出かけるのだから桜も休んでおけ。出発は日没前だ」

 

「・・・はい」

 

「では私は寝る。婦警、桜についていろ」

 

「ヤー!」

 

アーカードは地下へ。

婦警さんは心配そうに雁夜おじさんを見ています。

今はゆっくり休んでください。

私はおじさんのあの照れくさそうな笑顔が大好きなんですからーー。

 

 

 

そして日没前。

朱み掛かった夕焼けの中、言峰神父に教えられた場所に到着しました。

アーカードが玄関からどうどうと中に入りました。

しかしどの部屋もいません。

縁側から出て屋敷を歩くと小さな建物がありました。

倉庫のようですが一応見ておきましょうか。

 

「アーカード。あそこもおねがいします」

 

「ふんっ」

 

黒い扉を蹴り飛ばして中に入ると舞弥さんと赤い魔法陣の上で寝ている白髪のターゲットがいました。

舞弥さんが慌てて携帯を取り出しましたがアーカードがそれを打ち抜きました。

舞弥さんは銃を乱射しますがアーカードにそんなものは効きません。

あっという間に球切れになったようでターゲットを一瞬見た後腰からスプレー缶を取り出しピンを抜いて床に投げました。

スプレー缶から煙が放出され視界が奪われました。

私は身構えました。

 

「煙で私を撒けるとでも思っているのか、人間?」

 

アーカードの銃が音を鳴らすと舞弥さんの苦悶の声が聞こえてきました。

煙のせいで見えません・・・。

 

「ほう、まだ動けるのか。お前はそこいらのフリークスよりも骨がありそうだ」

 

床に倒れる音がしました。

視界が晴れてきて周りを見ると床に倒れている舞弥さんがいました。

右足がないので撃たれたのでしょう。

一瞬ドキッとしましたが私の心は意外にも冷静です。

 

「くっ・・・ま、だむ」

 

「舞弥さんこんにちは。あの人は貰っていきますね。婦警さん運んで頂けますか?」

 

「や、ヤー!・・・なんだか私運んでばっかりな気がする・・・シクシクッ」

 

「引き上げましょうアーカード。もう用はありません」

 

「この女を殺さないのか?」

 

「気絶しているみたいですから殺す必要もないでしょう」

 

私の回答を聴いてニヤッと嗤うアーカード。

甘いのはわかっています。

ですが、殺しても殺さなくても良いのであれば私は殺しません。

殺してしまえば私は人間ではなくなってしまうのですから。

 

「ばいばい」

 

私は手を振ってこの場を後にしました。

受け渡しの場所は距離があるので近場にあった車を頂きました。

運転をするのは婦警さん。

手慣れた手つきで鍵もないのにエンジンをかけました。

 

「あの・・・手慣れていますね」

 

「あはは・・・こんなことをしている現場を抑えた事がありまして。その時に詳しく聞いていたので覚えていました」

 

「さすが婦警さんですね」

 

「・・・褒められているんですかね」

 

複雑そうですね。

私は純粋に誉めているのですが。

 

受け渡し場所に着いた頃には夜が更けていました。

ビルの屋上から見る景色は初めてですが、美しいものですね。

言峰綺礼は時間よりも前に来ていましたので直ぐに女性を渡しました。

 

「礼を言う。よければ令呪を進呈するが如何かな?」

 

「結構です。これで貸し借りなしです。それではーー」

 

「ああ、そうだ一つ言い忘れていた。早く教会に向かうと良い。手遅れになるかもしれんからな」

 

「どういうことですか?」

 

言峰神父は答えること無く屋上から出て行きました。

なんだか胸騒ぎがします。

取り返しの付かないことが起ころうとしている。

そんな気がします。

 

「アーカード、直ぐに教会に向かいます」

 

「どこにある?」

 

「あ、私分かりますよ!!」

 

「婦警さんお願いします。急ぎましょう」

 

車に乗り込み猛スピードで走行していきます。

後ろからバイクが来ていますがあれは一体・・・。

 

「えええええぇぇぇ!!あれ、セイバーって人じゃないですか!?不味いですよマスター!!」

 

「慌てるな婦警」

 

アーカードは車の天井に素手で穴をかけて上半身を外に出しました。

懐から白銀の銃と黒銀の銃を取り出し、十字に構えます。

セイバーとの距離はだいぶ開いています。

逃げ切れれば良いのですが。

 

「うわぁぁぁぁ!!なんじゃそりゃぁぁぁ!!」

 

事もあろうかセイバーはバイクで跳びました。

本来道路に沿って走るはずのバイクが曲がり道をまっすぐショートカットをして迫ってきます。

常識外れです。

ありえません。

 

「・・・素晴らしい」

 

アーカードは銃を構えると飛行中のセイバーに向けて発砲しました。

私は瞬時に鼓膜が破れないように耳をふさぎます。

外でさえあれだけ五月蠅いのに車内だとその比ではないからです。

 

「はぁぁぁぁああ!!」

 

セイバーは片手で剣を握って弾丸を弾きます。

そしてそのまま道路に着地します。

 

「覚悟しろバーサーカー!!」

 

「そうだかかってこい!!」

 

バイクを横につけたセイバーは車に乗り移ろうと飛び上がりました。

振り下ろされる剣をアーカードは白銀の銃で受け止め、黒銀の銃で反撃。

寸前で躱しましたが鎧に少し掠ったみたいです。

セイバーは足場を無くして道路に転がって行きました。

一難去ったようです。

 

「た、助かったぁ」

 

「この程度で声を上げるとは半人前め」

 

「す、すみません・・・」

 

セイバーから逃げ切った私達はようやく教会に着きました。

教会のドアを開け、暗い教会内をみます。

月明かりだけが照明代わりですので開けっ放しにしておきます。

 

「奥に誰か居るみたいですけど」

 

「・・・」

 

ゆっくり近づくと見覚えのある後ろ姿です。

 

「遠坂・・・時臣」

 

「・・・」

 

反応がありません。

無視というわけですか。

ですがそうはいきません。

私は力の限り時臣の身体を蹴りました。

・・・。

 

「・・・えっ?」

 

時臣は蹴られた方向に倒れてしまいました。

どうなって・・・。

 

「死んでいるな。あの神父がやったのだろう」

 

「・・・なるほどそれであの言葉ですか」

 

私が殺したかったのにあの神父・・・。

結果は同じですので構いませんが一言くらいはこの男に恨み事を言いたかったですね。

 

「時間を気にしていたので何かあるんでしょうか?」

 

「ふん、下らない茶番だろうな。桜、その影に隠れておけ」

 

言われるまま私は壇上の後ろに隠れました。

アーカードは時臣の遺体を元の位置に戻して闇に紛れました。

とても静かな教会に足音が近づいてきます。

けれど規則的な足音ではなく足を引きずっているようです。

 

「遠坂・・・時臣!!」

 

なぜ・・・なぜおじさんの声が!!

 

「くっ・・・俺を殺した気でいたか、時臣!!」

 

一歩一歩ゆっくりと気配は近づいてきます。

 

「だが甘かったな・・・貴様に報いを与えるまで俺は何度でもーーっ!!」

 

そんなに、そんなに時臣が憎かったんですね。

おじさん、でも時臣は・・・。

 

「遠坂!!」

 

おじさんが立ち止まりました。

ポスンッともたれかかる音がしました。

 

「なっ・・・あ・・・あぁ・・・・なに?」

 

「雁夜くん?」

 

ーーっ!!

このタイミングで来てしまうのですか!!

こんな、こんなことって!!

 

「葵さん?ーー違うっ!!俺じゃない!!これは!!」

 

床に倒れる音。

微かに聞こえるあの女の足音。

 

「・・・満足してる、雁夜くん?これで聖杯は間桐の元に渡ったも同然ね」

 

「俺は・・・お、おれ」

 

「どうしてよ?私から桜を奪っただけじゃ物足りないの?」

 

ナニヲイッテイルノコノオンナハ。

 

「よりにもよってこの人を私の目の前で殺すなんて。どうしてっ」

 

「ソイツが!!ソイツのせいで、その男さえいなければ誰も不幸にならずにすんだ!!葵さんだって、桜ちゃんだって!!

 

幸せになれたはずーー」

 

「ふざけないでよ!!アンタなんかに・・・何が分かるって言うのよ!!あんた・・・アンタなんか。ーー誰かを好きにな

 

ったことさえ無いくせにっ!!」

 

「あ、あああああ、アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァあああああ!!!!!」

 

雁夜おじさんが泣いてる。

私の雁夜おじさんが心から泣いてる。

こんな、こんな女の為に。

おじさんの大切な涙がこんな女の為に。

遠坂はいつもいつもいつもいつもいつもいつも私を不幸にする。

アナタタチハゼッタイニゼッタイニユルサナイ!!

 

「・・・おじさん。それ以上はダメですよ。大丈夫私がいます。私はおじさんの事を全部理解していますよ。だから泣かないで。そんな女の為に泣かないで」

 

「・・・さくら、ちゃん?」

 

「・・・さくら?」

 

「気安く呼ばないでください遠坂葵。貴方は許しませんよ絶対に」

 

「ど、どうして?ーーまさか雁夜くん桜になにかしたの!!」

 

この女はどこまでーー。

 

「何もしていませんよ。むしろ私を救ってくれました」

 

「な、ならどうして貴方はそんな目をしているの?桜はそんな目はしないわ!!」

 

「うるさいですよ。それにこんな私にしたのは貴方ですよ?私が間桐に引き取られてからの事を教えてあげましょうか?まず蟲蔵に放り込まれて処女を奪われました、蟲にですよ?その後全身を蟲に侵されました。内も外も全部です。やめてくださいといってもあの人達は逆に喜ぶんですよ?その後心を侵されました。お陰で見てください、この髪。遠坂の色から間桐の色に変わっちゃったんですよ?毎日毎日侵され続けた私を救ってくれたのは雁夜おじさんです。それに比べて貴方はなんですか?桜を奪った?時臣を奪った?じゃあ貴方はなにかしたんですか?私が間桐に養子に出されるという時に最後まで反対したんですか?時臣が聖杯戦争に参加するときに生き残れるようになにかしたんですか?何もしていない癖に全部他人任せ、挙句の果てに八つ当たりですか?笑えませんよ、私達はこんなになってまで必死にあがいているのに貴方は綺麗なままなんて。だから私は貴方に罰を与えます。それを眺めながら一生後悔しながら生きなさい。」

 

手をあげるとアーカードが銃を構えました。

 

「懺悔なんて聞きません。何もしなかった貴方が自分の危機が迫った時だけ行動するなんて許されません」

 

私は容赦なく手を振り下ろしました。

放たれる弾丸。

それは確実に遠坂葵の両足を砕き分離させました。

涙を流して許しを請うこの女は凄く醜いですね。

 

「私や雁夜おじさんにもし何かしたら・・・今度は殺しますからね」

 

意識を失った遠坂葵。

寄り添うように眠る遠坂時臣。

 

「馬鹿な人達」

 

私は視線を雁夜おじさんに移しました。

おじさんはカタカタと震えていました。

可愛そうなおじさん。

でもこれで終わりました。

おじさんと私はもう遠坂に縛られることなんて無いんですよ。

 

「どうせ見ているんでしょう?遺体とこの女は任せますね。女は殺さないでくださいね」

 

パチパチと拍手が聞こえました。

 

「まだ幼いというのにその言動、態度。やはりお前は狂っている。だがそれを許そう。私は神に仕える者なのだから」

 

「・・・」

 

芝居がかった声を無視して教会を出ました。

婦警さんにかかえられたおじさんは寝ていました。

疲れていたのでしょうね。

雁夜おじさんの寝顔を見ながら明けていく夜を恨めしく思いましたーー。

 

 



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持つ者、持たぬ者

雁夜おじさんの命は今夜まで。

そうアーカードから告げられた私の顔はさぞや絶望に染まっていることでしょう。

身体をボロボロにされ、心も踏みにじられたおじさんは生きる希望すら残っていないのです。

もう目覚めることはないでしょう。

雁夜おじさんは頑張りすぎたんです。

休ませてあげるのも優しさなのかもしれません。

ですが、私は優しくはありません。

私は私のためにおじさんを苦しめます。

ライダーの事が嫌いだと言っていた私がこんな事を考えるだなんて思いもしませんでした。

人は変われる、変わってしまう。

些細なきっかけで変わってしまうのです。

雁夜おじさん。

目覚めた貴方は私を恨むかもしれません。

それでも私はやります。

おじさんに生きていてほしいからーー。

 

「間桐桜が令呪をもって命じます。おじさんを吸血鬼にしなさい」

 

「yes,my master」

 

ベッドに横になっているおじさんの首筋にアーカードの鋭い歯が食い込みました。

童貞であればドラキュラに、非童貞であればグールになる賭けですがどのみちおじさんを死なせないためにはこれしかありません。

アーカードがおじさんから離れたのでおじさんの顔色を良く見てみます。

暗がりで分かりづらいですがきっと生きてくれるはずです。

なら私は残りの戦いを終わらせるだけです。

 

「行きましょうアーカード。聖杯戦争を終わらせます」

 

床に血まみれで倒れているお義父様を尻目に私は赤と碧の光の元へと向かいました。

婦警さんには先行してもらいました。

本人もやる気だったのでサーヴァント相手でも少しは頑張れるはずです。

 

「ここに来るのはあの金ピカだと思ったのだがなぁ。まさか貴様たちとは・・・」

 

丁度赤い橋を渡り切ろうとしている時でした。

橋の反対側から声が聞こえました。

あの野太い声はライダーですね。

馬に跨がりこちらの様子を見ています。

 

「ほう、未だ生き残っていたとはな」

 

「何故か戦の機会がなかったもんでな。だが、ようやく戦ができる・・・そうだろう、吸血鬼(ドラキュラ)ーーいやヴラド三世よ!!」

 

「それは私であって私ではない。だが何処でその名を知った?」

 

「そこのお嬢さんがアーカードと呼んでいたのを思い出してな。試しに逆から読んでみたら驚いたことにドラキュラになった。かの串刺公がこのような戦に現れるとは思いもしなんだが・・・是非征服してみたくなった」

 

「私を征服すると言うのかイスカンダル?」

 

「無論だ!!」

 

アーカードは嬉しそうに嗤う。

 

「集え我が同胞よ!!今宵我らはかの伝説のドラキュラに勇姿を示す!!」

 

ライダーを中心に光が展開されました。

それは私達をも飲み込んでいきます。

気づけば私達は果てしない砂漠にいました。

砂塵が舞い、現れるのはイスカンダルの臣下達。

槍を誇り高く天に向け、王の言葉を待っているようです。

アーカードはその光景を羨望の目で見つめています。

 

「敵は悪逆非道の串刺公。相手にとって不足なし!!いざ益荒男(ますらお)たちよ伝説の怪物に我らの覇道を示そうぞ!!」

 

剣を掲げるライダーに答える臣下達。

その声は大地を震わせました。

 

「アーラララララライィィ!!!!」

 

剣を振り下ろすと同時にイスカンダルの軍勢が進軍を始めました。

圧倒的な数。

あの物量で押し切られれば私達など一溜りもないでしょう。

ならばその物量すら超える力を使わせてもらいます。

 

「拘束術式零号を開放してください・・・歌いなさいアーカード」

 

「・・・認識した」

 

アーカードがふぅっと息を吐きました。

始まります。

全てを崩壊させる歌が。

 

「私はーーヘルメスの鳥」

 

アーカードの前に現れる棺。

その蓋が徐々に開いていきます。

 

「私は自ら羽根を喰らい。・・・飼い、ならされる」

 

来ます。

河が来ます。

死の川が。

死人が舞い。

ーー地獄が歌う!!

棺の隙間から出現する無数の目。

 

「あ、なんだよあれ!!」

 

アーカードは形を無くし河となる。

大地を地で染め上げる河となります。

 

「全軍備えろ!!」

 

これが吸血鬼アーカード。

死とは魂の通貨、命の貨幣。

命の取引の媒介物に過ぎません。

血を吸うことは命の全存在を自らのものにすること。

 

死の河から次々と現れる亡者たち。

それは明確な形となって現界します。

 

「カザン・・・イェニチェリ軍団。貴様はそんなものまで喰らったと言うのか!!道理で死なんわけだ道理で殺せぬはずだ

 

!!貴様は一体どれだけの命を持っている!!どれほどの命を吸った!!」

 

「・・・ワラキア、公国軍!!お前は自分の兵、自分の家臣、自分の領民まで・・・なんてやつだ!!悪魔だ!!」

 

河の底から現れる黒い甲冑の騎士。

背中のマントはボロボロです。

それを堂々と靡かせるこの男こそ本当の伯爵ーーアーカード本体です。

両手を広げるとアーカードの背に数えきれないほどの騎兵が姿を表しました。

その手には槍を持っています。

馬が声をあげ、騎兵たちは怨嗟の声を上げイスカンダルの兵に向かっていきます。

 

「アァァララララライイイィィィ!!!」

 

 

交じり合う2つの軍団。

乱戦の中ライダーはまっすぐに亡者たちを切り裂き、踏み砕き、打ち破って猛進してきます。

ライダーの軍勢が半分ほどになった頃、ライダーは私達にたどり着きました。

 

「たどり着いたぞ吸血鬼!!」

 

「見事だ我が仇敵よ。ならばその剣を突き立ててみせよ!!奴らのようにーーこの私の夢の狭間を終わらせて見せろ!!」

 

ライダーの剣をアーカードの大剣が打ち払いました。

そしてアーカードは大剣で馬の足を切り落としてライダーとウェイバーさんを馬から降ろしました。

アーカードはその隙に私を抱えて距離を取りました。

 

「語るに及ばず!!貴様は国も領地も領民も愛するものさえ失った!!だが余には全てある!!だからこそ貴様を終わらせるのは余の責務でもある!!」

 

ライダーの世界が崩壊していきます。

私とアーカード、そして殺しきれなかった亡者たち。

それに対するはライダーとウェイバーさん。

 

「・・・ウェイバー・ベルベットよ。臣として余に使える気はあるか?」

 

「貴方こそ・・・貴方こそ僕の王だ。貴方に仕える。貴方に尽くす。どうか僕を導いて欲しい!!同じ夢を見させて欲しい!!」

 

「うむ、よかろう。夢を示すは王たるよの勤め。そして王の示した夢を見極め後世に語り継ぐのが臣たる貴様の勤めである!!」

 

ライダーはニカッっと笑います。

まるで最後を悟っているかのように。

 

「生きろウェイバー。全てを見届けそして生きながらえて語るのだ。貴様の王のあり方をーーこのイスカンダルの疾走を!!」

 

ウェイバーさんは顔を逸らして涙を流しています。

ライダーは頷いて剣を振りました。

現れる牛車。

それに乗ってライダーは手綱を引きました。

 

「アーラララララララララライイイイィィィィ!!!」

 

雷と共に亡者達を退け向かってきます。

牛は血に塗れながらも進み続けます。

正面から堂々と征服するライダー。

アーカードは懐から2丁の銃を取り出して連射します。

同時にアーカードの身体の一部が狗となり向かっていきました。

狗が牛の一頭に喰らいつき離しませんが勢いは衰えません。

もう一頭に向けて連射される弾丸は弾かれつつも何発かは牛の身体を捉えています。

吹き飛ばしつつも進むライダーを横から亡者騎士達が襲いかかりました。

河から絶え間なく出現する亡者たち。

2頭の牛は足を取られ動きが鈍りました。

剣を必死に振り亡者を倒していきますが速度の落ちた牛車に掴みかかる亡者たちによってライダーは牛車から引きずり降ろされました。

ライダーは牛に群がる亡者たちを無視してアーカードに向けて走りだしました。

斬りつけては前へ前へ前へ前へ前へ。

アーカードの容赦のない射撃がライダーの腕、足、脇腹に突き刺さります。

けれど止まりません。

ついにはアーカードにたどり着きました。

 

「うおおおぉぉぉぉ!!」

 

ライダーは剣を振り下ろしました。

アーカードの腕が切り裂かれ左腕が落とされました。

そして剣を正面に向けて突き出しました。

その先はアーカードの心臓です。

ですが・・・その剣はアーカードの残った腕に掴まれました。

 

「イスカンダル。お前に倒されても良かった。あの日ならーーあの日暮れの荒野なら。お前に心臓をくれてやっても良かった。でも、もはやダメだ。・・・お前に私は倒せない。化物を倒すのはいつだって人間だ。人間でなくてはいけないのだ!!」

 

アーカードの左腕が再生し、ライダーの心臓に突き刺さりました。

ライダーの口からは夥しい量の血が流れます。

アーカードの顔は悔しさに満ちています。

私にはその表情が死を求めて叫んでいるように見えました。

 

「全く貴様・・・次から次へと珍妙な事を」

 

「夢より覚めたか征服王?」

 

「そうさなぁ。此度の遠征もまた存分に・・・心踊ったのぉ」

 

「そうか・・・私も膨大な私の未来が終わり次第そちらへ向かう。また戦争をしようではないか征服王よ」

 

「そりゃぁ・・・いいな」

 

目を閉じてライダーは静かに粒子となって消えていきました。

アーカードは周りの亡者を全て吸収すると橋の向かい側に立っているウェイバーさんのところへ歩き出しました。

私もそれに付いていきます。

ウェイバーさんの顔は涙で濡れ、顔がクシャクシャになっています。

 

「小僧、お前は狗か化物か?」

 

「・・・違う、僕は人間であの人の臣下だ」

 

拳を握りしめるウェイバーさん。

 

「だが小僧、お前がライダーの臣下ならば亡き王の敵を討つべきだと思うが?」

 

「お前に挑めば僕は死ぬ・・・それは出来ない。・・・僕は生きろと命じられた!!」

 

「ふっ・・・やはり人間は素晴らしい。その心を忘れぬことだ人間」

 

アーカードは身体を翻しました。

その顔は喜びに満ちています。

聖杯戦争終了まで後少し。

私は決意を新たにして決戦場へと向かいましたーー。

 

 

解説

 

Q、ライダーの遙かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)が途中で飲み込まれてしまったのは何故?

A、令呪3つで「必ず勝て」という命令をされていますが代わりに魔力を補給できません。さらに、最初に王の軍勢(アイオ

 

ニオン・ヘタイロイ)を使用しました。王の軍勢は起動に莫大な魔力を必要とします。一度展開すれば維持魔力は少なくて済

 

みますが、長時間戦っている為(軽く流しましたが)相当の魔力を消費しています。

また、その後に遙かなる蹂躙制覇を使用した為ランクA+からB程度に下がっている物と考えられます。

そこから更にアーカードの狗、弾丸を受けて弱った所に亡者達による攻撃があったため飲み込まれてしまいました。

 

Q、死の河を使ったのに腕が再生したのは何故?

A、吸血鬼が持つ能力だからです。命のストックとは関係がありません。

 



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ただいま伯爵

諸君私は桜が好きだ。諸君私は桜が好きだ。諸君私は桜が大好きだ!!エプロン姿が好きだ、制服姿が好きだ、水着姿が好きだ、私服姿が好きだ、ボンテージ姿が好きだ、保険医姿が好きだ、アンリ服姿が好きだ、ワイシャツ姿が好きだ、弓道姿が好きだ。橋で、教室で、廊下で、弓道場で、間桐邸で、衛宮邸で、柳洞寺で、プールで、祭壇で、ベッドの上で、この地上で存在する全ての桜が好きだ。偉そうに命令する間桐慎二が怯える声と共に桜に殺されるのが好きだ。聖杯の器になった桜が心臓に残る間桐臓硯を潰すシーンなど心が躍る!!誰かのせいだと己を肯定して人を飲み込む様が好きだ。宝具を使った英霊を飲み込む時など胸がすくような気持ちだった。絶望しきって雨の中たたずんでいるところを主人公の衛宮くんが抱きしめるところなど感動すら覚える!!黒く染まっていく様などはもうたまらない。泣き叫ぶ桜を衛宮くんが叱るシーンも最高だ。桜とのデートでプールに行ったときなど絶頂すら覚える!!桜が弱って汗をかいているシーンが好きだ。必死に護るはずだった桜が自身に耐えられずに壊れていく様はとてもとても悲しいものだ。桜の魔術によって創られた影に飲み込まれるのが好きだ。桜の影に追い回されてセイバーが飲み込まれてしまったのは屈辱の極みだ。諸君私は桜をーー可愛い桜を望んでいる。諸君、私に付いてきてくれる桜好き諸君。君たちは一体何を望んでいる?更なる桜の笑顔を望むか?バッドエンドなどありえない桜を望むか?ありとあらゆる妄想を尽くし、邪魔な存在を全て殺す新しいルートを望むか?

よろしいならば桜ハッピーエンドだ。我々は満身の力をこめて今まさに打ち込まんとする作者だ。だがこの暗い桜ルートで何年もの間耐え続けてきた我々にただの桜ハッピーエンドではもはや足りない!!原作すら無視する桜ルートを!!一心不乱な桜ルートを!!この作品わずか千人強。千人をようやく超えたお気に入り作品に過ぎない。だが諸君は私の作品を超える作品を生み出す一騎当千の古強者だと私は信仰している。ならば我らは諸君と私で千人と一人の作者となる。我々を忘却の彼方へと追いやり眠りこけている連中を叩き起こそう。パソコンを起動させfateを起動し眼を明けさせ思い出させよう。連中に桜の可愛さを思い出させてやる。連中に我々の桜の美しさを思い出させてやる。原作と2次作品との狭間には奴らの哲学では思いも寄らぬ事があることを思い出させてやる。一千人の桜好きで世界を桜愛にしてやる!!

最後ですのでやりたかったんです申し訳ございません。


順番にライトが点灯していき部屋の全体が見渡せるようになりました。

真っ白な空間に佇む真っ黒な存在。

言峰綺礼。

聖職者でありながら人の不幸を笑う男。

そのことに愉悦を感じる男。

『フッ』と不敵に笑い十字架のネックレスにキスをしています。

次の瞬間どこからか剣を取り出しました。

持ち方が独特で右左に3本ずつ指の間に挟むように持ち、手を交差させています。

距離があるはずなのですが一瞬にして距離をつめてきました。

アーカードは懐から白銀、黒銀の銃を取り出すと、白銀の銃を発砲しました。

それを剣を重ねてガードしました。

6本の剣は砕けましたが言峰は今だ勢いが止まりません。

今度は黒銀の銃を撃つと身を屈めて回避、どこからか取り出した6本の新たな剣をもって接近します。

 

「はぁぁぁあああ!!」

 

滑るように接近し剣を突き出しました。

アーカードはそれを避けずに黒銀の銃を撃ちます。

言峰の左腕に命中した弾丸は言峰の腕の機能を奪うには十分な威力です。

対してアーカードに刺さった剣は大した威力ではないと、私はそう思っていました。

お互いに距離をとって様子を見ているようですがアーカードの様子がおかしいです。

 

「・・・なんだと?」

 

「やはり吸血鬼にはこれが有効なようだ」

 

「・・・なるほど概念武装か。私の概念を上書きするとはな。この世界には私を倒しうるものが存在するようだ」

 

「私程度では突き刺すのが精一杯だがな。令呪のバックアップがあってこの程度。一流になれないことをこんなにも悔やむ日が来るとは思いもよらなかった」

 

アーカードは白銀の銃を発砲しますが言峰の服にはじかれてしまいます。

その隙に言峰は距離を詰めて拳を突き出します。

ありえないことに吹き飛び壁に叩きつけられました。

もはや人間の領域を超えた一撃の後に言峰は3本の剣を再び取り出しアーカードに投げつけました。

 

「人の身で良くぞここまで練り上げた・・・。だが、足りない!!」

 

アーカードは投げられた剣を銃で全て撃ち落とし最後に接近してくる言峰に発砲しました。

右肩に命中した弾丸。

これで剣を持つことはできません。

膝を付く言峰にゆっくりとアーカードが近づいていきます。

 

「なぜ私に挑んだ?負けることなど分かりきっていたはずだ」

 

「ふっ、本来であれば衛宮切嗣と戦うはずだったのだがな・・・欲が出たようだ」

 

他人の不幸を観たいという欲望以外に欲などあったのですか。

自嘲気味に言峰は息をつきます。

 

「問いたかったのだよ。神に狂信し、愛も夢も失ったお前が何を手にしたかを」

 

「くだらないな。お前はおもちゃを手に入れてはしゃぐだけのクソガキだ。クソガキに教えてやろう。お前の進む道には何も残らない。何も得られない。最後は惨めに死ぬか、人間であることに耐え切れず化物になるだけだ」

 

「ふっ、なるほど本当にくだらないな」

 

アーカードは銃の引き金に指を置くと戸惑いなくその指に力を加えました。

弾丸は言峰の心臓と捉え、言峰綺礼は床に倒れました。

ぶちまけられた血。

倒れた言峰にアーカードは黄色の槍を突き刺しました。

その槍には腕が残っており私にはそれが歪な十字架に見えました。

 

「言峰ーーお、お前たちは!!」

 

突然現れた衛宮切嗣。

手に持った銃はすでに私に向けられていました。

 

「・・・あっ」

 

撃たれた。

私は人事のようにそれを感じました。

ああ、やっぱり私は間違っていたのでしょう。

一体どこで間違えたんでしょうか。

アーカードのマスターになったこと?

舞弥さんを助けたこと?

アイリスフィールさんを言峰に渡したこと?

それとも・・・おじさんを吸血鬼(ばけもの)にしてしまったこと?

走馬灯のように駆け巡る後悔と疑念。

そして天井に穴が空き私は黒い泥に飲み込まれました。

 

 

 

「おかえり桜ちゃん」

 

雁夜おじさんが微笑みながら私を迎えてくれています。

 

「今日は遅かったのね桜。今日は雁夜くんが来るから早く帰ってきてって言ったのに」

 

え、お母さん?

 

「桜見てみて!!これおじさんが買ってきてくれたのよ!!似合うでしょう!?」

 

姉さん?

 

「桜は私の自慢の娘だからな。いくらお土産で桜の気を引こうとしても私が許さんぞ」

 

お父さん。

 

ーーここは貴方の理想の世界。

 

理想?

 

ーーそう、本来はありえない世界。でも私はそれを叶えてあげられる。奇跡を起こしてね。

 

本当にこんな幸せな世界にいられるの?

 

ーーもちろんだよ。聖杯は君にこそふさわしい。さぁ、僕と契約して聖杯の担い手になってよ!!

 

 

 

「ここは・・・どこ?」

 

見渡す限りの瓦礫の山。

荒廃しきった世界に私は一人存在していました。

瓦礫の奥から垣間見える明かりは火災でしょうか。

思い出したように胸に手を当てると鼓動がありません。

私は死んでしまったのでしょうか。

歩けども歩けども聞こえる助けてと叫ぶ声。

道に転がる人間だったもの。

特別何かを感じるわけではありません。

今はただおじさんの安否を確認したいだけです。

 

「アーカード、いないんですか?」

 

試しに呼んでみましたが返事がありません。

婦警さんも見当たりませんし二人とも消えてしまったのでしょうか。

間桐邸にたどり着くまでに衛宮切嗣を見かけましたが形を保っているだけで魂が抜けていました。

宛てもなく彷徨うさまは撃たれた私から見ても異様でした。

何はともあれ間桐邸にたどり着きました。

玄関の鍵を開けて私の部屋に入ります。

ベッドの上に寝かせていたおじさんは未だ眠ったままですが、様子からグールになる心配もなさそうです。

やっと、やっと終わりました。

私は雁屋おじさんの横に入り込んで目を閉じました。

ーー良い夢が観られるようにお祈りを、エイメン。

 

 

 

 

 

 

あれから十年が経とうとしています。

聖杯戦争が終わった一週間後に来た魔法使いさんにお話という名の事情聴取を受けまして、過去のことも話したら『じゃあ、戻してあげる』と軽い言葉と共に私の体が間桐に来る前の姿に戻っていました。

この矛盾のしわ寄せがいつ来るのか今更ながら怯える毎日です。

 

さて、現在私は魔法使いさんに紹介して頂いた魔法使いさんのお姉さんの下で魔術を習っています。

間桐の『吸収』は失われましたので私が本来持っていた『虚数』を伸ばしているのですが扱いが難しいです。

それでも師匠からはokサインを頂きましたので少し自身を持っていたりします。

 

それから雁夜おじさんですが、めでたくドラキュラになれました。

もちろん血は私のものしか飲ませていません。

他の人の血を吸ったら絶対に許しません。

 

高校生活ですが、特に問題もなく過ごしています。

たまにすれ違う遠坂先輩に胸を恨めしそうに見られたりするくらいですね。

婦警さんの胸を拝んだかいがありました。

 

今日も弓道部の部活が終わって帰路に着きます。

すっかり夜も更けてしまっておじさんには迷惑をかけっぱなしです。

元の姿に戻ったとはいえ日中に買い物は大変でしょうに。

せっかく衛宮先輩からお料理を習っているのに作って上げられないなんて・・・。

 

アーカードの消息は分からないままです。

聖杯が破壊されたことで消滅してしまったというのが私とおじさんの考えです。

 

食事を済ませて自室のドアを開けました。

昔とくらべて私物の増えた部屋の椅子に誰かが座っています。

ーーまさか。

 

「フッフッフ・・・フフフフフフッ」

 

「アー、カード?」

 

「その通りだ桜」

 

「今まで何をしていたんですか?」

 

「殺し続けていた私を。聖杯の泥に飲み込まれていく私の中のものに引っ張られぬように殺して殺して殺し続けた。そして唯一になった私は受肉を果たし今ここにいる」

 

遅いですよ。

待っていたんですよ。

貴方にありがとうと伝えたかった。

私を護ってくれてありがとうと。

でもまずは言いたいことがあるんです。

 

「ーーおかえり伯爵」

 

「ーーただいま伯爵・・・いや間桐桜」

 

わたしの物語は続いていきます。

きっとこれからもずっと。

雁夜おじさんとアーカードと共に。

ずっとずっとーー。

 

 



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後日談1

正義の味方

 

 

冬木の大火災が人々の記憶から少しずつ忘れられていく頃。

衛宮切嗣と養子の衛宮士郎は縁側で満月の空を見上げていた。

二人は一人分ほどの距離を空けて座っている。

虫の鳴き声がやけに大きく感じられ、士郎は養父である切嗣に話しかけた。

 

「おい・・・おい、じいさん」

 

「ん?」

 

士郎の声に遅れるように相槌を返す切嗣。

士郎はいつも疲れたような顔をしている切嗣をじいさんと呼んでいた。

年齢には似合わない呼び方だが切嗣はそれを正そうとはしなかった。

本人もその呼び方を気に入っていたのである。

 

「寝るならちゃんと布団に行けよ、じいさん」

 

時々外国に行っては辛そうな顔で帰ってくる養父が最近になってそれを止め一日中家にいるようになった。

病気かと思ったがそうでもないらしい。

士郎が聞いても「これは僕に与えられた罰なんだ」と言って話してくれない。

納得はできなかったが深く聞くのも躊躇われた。

それだけ切嗣の顔は疲れきっていたのだから。

 

「ああ・・・いや大丈夫だよ」

 

いつも同じ答えが返ってくる養父。

士郎は月に照らされた養父の顔を覗き込んだ。

 

「子供の頃・・・僕は正義の味方に憧れていた」

 

「・・・何だよそれ。憧れてたって・・・諦めたのかよ?」

 

士郎は切嗣に憧れていた。

何しろあの大火災から自分を救ってくれたのだ。

養子にまでしてくれたこの人が弱気を吐くところなど見たくはなかった。

 

「うん・・・残念ながらね。ヒーローは期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ。そんなこと・・・もっと早くに気づけばよかった」

 

後悔を口にする切嗣。

士郎は幼いながらこの男の道が険しく辛いものだったことを感じた。

 

「そっか・・・それじゃあしょうがないな」

 

「そうだね・・・本当にしょうがない」

 

気まずくなってしまった空気を紛らわせるために切嗣は大きく息を吐いた。

 

「ああ・・・本当に良い月だ」

 

「うん、しょうがないから俺が代わりになってやるよ」

 

士郎は自分を救ってくれた切嗣を心だけでも救ってやりたいと思った。

これで救われるなら良いと。

 

「ん?」

 

「じいさんは大人だからもう無理だけど俺なら大丈夫だろ。任せろって。じいさんの夢は俺が叶えてやるよ」

 

切嗣の体から力が抜けていく。

最後に思い残したことをこの少年はやってくれる。

それだけで彼をこの世界に留めていたものは清清しいほどに綺麗に消えた。

 

「ああ・・・安心した」

 

切嗣の瞳はゆっくりと閉じられていく。

これでやっと終われると。

微動だにしない切嗣を不審に思い士郎は養父に話しかけた。

 

「おい、じいさん?」

 

返事はない。

目を閉じたまま全く動かない。

そんな二人の間に一人の女性が割って入る。

 

「士郎・・・切嗣はとても傷ついて、とても苦しんだの。だから休ませてあげて」

 

「義母さん」

 

二人を抱きしめる優しく細い腕。

その瞳からは涙が流れていた。

いつもクールな義母が泣いている。

士郎は困惑していた。

 

「よかったね切嗣。やっとあの人の元に行けるね。・・・行ってらっしゃい。士郎は私に任せて」

 

眠ってしまった義父の顔は子供のように安らかな笑顔だったーー。

 

 

 

 

 

生まれ変わった二人、始める二人

 

 

間桐桜の朝は早い。

午前5時に起床。

おきて直ぐに少し茶色の入った黒髪にブラシを通し、髪をセット。

リボンをつけてキッチンへと向かう。

指先にナイフをあて血を絞り出す。

最初は大変だったが今では慣れたものだ。

指を消毒して絆創膏を巻くと二人分の朝食に取り掛かる。

おじさんである雁夜は血をあまり必要としなかった。

だが抑えすぎると大変なので毎日朝食時に少しだけ混ぜていた。

雁夜も気づいてはいるのだが言っても聞かないので諦めている。

特に今日は多めに入っている。

なぜならば昨日雁夜と初めての交換ができたのだ。

本来であれば桜は初めてではないが『青』の魔法によって体が遠坂の頃まで遡っているため膜は残っていた。

そのため今日の桜のテンションは恐ろしいほどに高い。

 

「おはよう桜ちゃん。朝から凄い豪勢な食事だけどどうしたの?」

 

「おはようございます雁夜さん。今日は私と雁夜さんが契りを結んでから始めての食事ですからこのくらい当然です。私の愛(血液)もたっぷり入ってますから味わって食べてくださいね」

 

「あ、ああ」

 

雁夜は若干引いていた。

昔から可愛いと思っていたし、葵との事を忘れさせてくれたのは他でもない桜だ。

可愛いとも思うし大事にしたいとも思っている。

いつかは結婚をしても良いとすら思っている。

だが昨日のことを思い出すと雁夜の体は震える。

吸血鬼の体になってしまった雁夜だが生活リズムは人間と変わらない。

したがって昨夜部屋で横になっていた。

意識が薄れようやく眠りにつけると思った矢先事件は起きた。

そう、部屋に桜が入ってきたのだ。

学生らしく瑞々しくも張りのある肌を惜しげもなくさらす桜。

胸は昔とは比べ物にならないほど成長した。

雁夜が異変に気づいたのは桜の中に入った時だ。

目覚めると同時に果ててしまったのは内緒だがそのときに目覚めたのだ。

妖しく光る妖艶な瞳に飲み込まれてしまった雁夜は為すすべもなく何度も果てた。

気が付けば朝。

やってしまったという後悔の念が彼を攻め立てた。

おじと姪。

血の繋がりはないがこれはまずい。

雁夜はなかったことにしてやり過ごそうと思っていたが桜はこんなにも喜んでいた。

思わず雁夜は頭を抱えた。

 

「雁夜さん?顔色がよくありませんけど・・・」

 

そしてこの呼び方だ。

昨日までは雁夜おじさんだったはずだ。

それが今日になって突然雁夜さんに変わった。

もちろんあちらからとは言え雁夜も責任はとるつもりだ。

しかし昨日まで童貞だった雁夜にとってこの急激な変化は負担になっていた。

鼻歌まで歌う彼女を誰が止められようか。

結果雁夜は並べられた食事に集中するしかなかった。

 

「ふふふ、そんなに急いで食べなくても大丈夫ですよ。あ、それとこれ渡しておきますね。必要なことは全部書いてありますから後は雁夜さんの名前だけですよ」

 

「・・・えっ?」

 

雁夜の前には一枚の紙。

名前の欄には『間桐桜』の文字。

もう一方は空欄になっておりそれ以外の場所は既に埋められていた。

左上にはこう書かれている。

 

「・・・婚姻届?」

 

「はい、そうですよ。・・・まさか書かないなんて言いませんよね?」

 

全身から溢れる汗。

これに記入すれば間違いなく今日桜は提出するだろう。

雁夜の手に持った箸はプルプルと震える。

対する桜は笑顔。

それも今までで一番の笑顔。

雁夜の脳裏にある言葉が聞こえた。

『男は諦めが肝心』

 

「あ、忘れていました。はい、ボールペンです」

 

「あ、ああ・・・」

 

渡されるボールペン。

雁夜の手は依然として震えたままだ。

汗が顎から落ちてテーブルに落ちる。

 

「酷い汗ですね・・・どうしたんですか?」

 

雁夜は顔を上げることができないでいた。

きっと今の桜の顔を見てしまえば終わってしまうと。

叔父と姪という関係が本当に終わってしまうと。

 

「・・・やっぱり、だめですよね・・・私なんて」

 

「そんなことはない!!」

 

雁夜は顔を上げる。

泣いている。

桜が泣いている。

自分のせいで泣いている。

雁夜は苦悶を浮かべる。

そして立ち上がり桜を抱きしめた。

 

「ごめんよ桜ちゃんーーいや、桜。結婚しよう。俺、意気地なしだからさ・・・迷惑かけてばっかりだけど。絶対に幸せにするから!!」

 

「ーーはいっ!!」

 

抱き合う二人。

そこには誰にも介入できない絶対的な愛があったーー。

 

 

 

 

忘れていた二人の絆

 

 

彼、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトは聖杯戦争を生き抜いた。

まずはそれについて語りたい。

片腕を無くしたランサーと魔術を二度と行使できない体になったケイネス。

ソラウはどうしてもランサーとの繋がりが欲しかった。

故にケイネスを脅そうと彼の所へと向かったソラウ。

しかしケイネスには先約がいた。

そう片腕を無くしたランサー。

彼は片腕になったせいで主を護れなかったと悔やんでいた。

実際は両腕でも関係はなかったのだが彼はそう思い込んでいたのだ。

ソラウは仕方なく話が終わるまで待つことにした。

 

「主よ、具合は如何ですか?」

 

「ふんっ、見て分からんのか?お前から見てさぞや無様な格好だろうな。恋人を奪われ魔術師としての生涯すら終わった。私に残されたのはこの令呪とくだらないプライドだけだ」

 

ケイネスは自暴自棄になっていた。

何でも持っていた自分が今や全てを失い、加えてウェイバーのことを馬鹿にしていた事もあって今の自分の惨めさを感じてしまっていたのだから当然かもしれない。

彼のプライドは粉々に砕け散っていた。

 

「ケイネス殿、自分を責めてはいけません。自分を責めたところで何も変わりはしないのですから」

 

「気休めを言うな!!・・・私が何故この聖杯戦争に参加したか分かるか?」

 

「ケイネス殿の権威をさらに高めるためでは?」

 

「それもある・・・だがそれだけではないのだ」

 

ランサーは立ち上がってケイネスの顔を見た。

そこには紛れもなくケイネスの全てがあった。

 

「私は・・・ソラウに認めて欲しかったのだ。時計塔で天才講師として崇められても彼女はあの冷たい表情を変えてはくれなかった。だからこそ私は武功を上げたかった。まだ見ぬソラウを見たかったのだ。実際私は見たこともないソラウを見つけた・・・ランサー、貴様のおかげでな」

 

ケイネスは皮肉を込めてそういった。

ランサーもうなだれた様子だ。

 

「だが、もう無理だ。愛を失い、職も無くし、私には何も残されていない。であればさっさと死ぬのが道理だ」

 

「聖杯を・・・諦めたのですか?」

 

「諦められるはずが無い・・・。だが仕方ないだろう!!私ではもう戦いぬけない。だからお前はソラウを護れ。令呪は全てソラウに渡す。だからお前はソラウだけ護りぬけ」

 

涙を流すケイネス。

ランサーの瞳にも涙が流れる。

 

「何故お前までなくのだランサー。ソラウはお前を愛している。私の事は良いからソラウを護ってやってくれ」

 

「それは・・・」

 

「できぬとは言わせぬ。お前の腕は一本だけだ。ならばその一本で彼女を護れ。私は・・・」

 

物陰に隠れていたソラウは息を呑んでいた。

いつもは気取って自慢話ばかりの彼が実は自分の事を第一に考えていたのだ。

いつの間にかソラウの意識はケイネスを追っていた。

 

「ケイネス殿。私はご存知の通り主君を裏切り最後には裏切られました。ですが今私は感動しております。私は初めて主君

 

から本当の信頼を頂けました。なればこそ私は貴方も護ります。このディルムッド、片腕であっても必ずやお二人をお護り

 

いたします」

 

ランサーの涙が廃墟の床に落ちる。

ケイネスの涙も留まることを知らない。

ランサーの右腕がケイネスの手を握る。

この方の命を必ず果たすと心に刻んで彼は外に歩き出した。

隠れるタイミングを逃したソラウはディルムッドに見つかってしまい顔を赤くした。

ディルムッドは微笑んで横を通り過ぎていった。

ソラウは何知らぬ顔でケイネスの元へ歩き出す。

ケイネスは泣いている顔を見られまいと顔を背けた。

その様子がソラウには妙に愛おしく思えた。

 

「酷い汗ねケイネス」

 

「わ、私はどうなったのだ?」

 

「魔術回路がぐちゃぐちゃになっているわ」

 

「・・・そうか。ソラウ話があるのだが」

 

「いいえ話なんてしなくて良いのよ。貴方の気持ちはもう十分すぎるくらい分かってるから」

 

ソラウの唇がケイネスの唇を奪う。

ケイネスの目が開かれる。

一瞬触れるだけのキスだったがケイネスには永遠に思えた。

 

「愛しているわケイネス。今はまだダメかもしれないけどいつかきっと貴方だけを愛します。だから・・・待っていてくれますか?」

 

「・・・ああ・・・ああ・・・もちろんだともっ!」

 

抱き合う二人をランサーはふっと満足げに微笑んだ。

 

 

これをきっかけにケイネスとランサーはお互いを信頼しあうようになる。

ランサーに思いを告げたソラウはすっきりした様子で楽しそうに笑いあう二人を眺めていた。

 

それはランサーがセイバーに倒されるまで続いた。

ケイネスの提案で切嗣の協力者のことを徹底的に調べ上げたのが良かったのかランサーとセイバーの戦いの前にギアススクロールを作成し、問題なく決闘が終わった。

ランサーの最後は穏やかなものだった。

 

ランサー死後もギアススクロールの呪いによって殺されることなく無事に国へ帰還を果たした二人は結ばれたそうだ。

でもそれはまた別のお話ーー。

 

 



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後日談2

「今日は本当に月が綺麗ですねぇ」

 

コバルトブルーの瞳が闇に輝く月を見つめる。

今宵は最終決戦になる。

セラスの人間離れした思考がそれを確信していた。

この戦いの果てに自分はどうするのだろう。

ドラキュリーナになったばかりの彼女にとってその問は些か難しい。

片手で抱えているハルコンネンを両手で抱きしめて視線を落とす。

 

「もう、来ちゃうんですね」

 

闇に紛れて一つの光がセラスを捕らえる。

常人では決して視認できない僅かな光。

それは僅かな音と共に滑走する。

 

「ふぅ・・・足止めできるのかな」

 

うつ伏せの体制になり抱えたハルコンネンを光に向けて構える。

イメージするのは第三の目。

吸血鬼のみが持つアーチャークラス並みの視力。

写るのは黒い男装のセイバー。

まだ距離があるためセラスには気づいていない。

 

「迷っても仕方ない・・・やりますっ!!」

 

ハルコンネンのトリガーが引かれる。

慢心などありえない。

彼女のマスターの命令通り最初から全力で相手をしなければ彼女が倒されるのだから。

一発撃ってから直ぐに次弾を装填。

その間約1秒。

改めて構えるとやはりセイバーは持ち前の直感で回避していた。

セラスは慌てること無く二発目を発射する。

しかし、その弾もアスファルトを抉るだけで命中はしない。

セイバーは狙撃場所を特定したようで視線をセラスの方角に向けている。

直接がダメならとセラスはセイバーの走行ルートを予測して、三発目を装填する。

狙うはバイクの前輪の手前。

放たれた弾丸はアスファルトを抉る。

これにはセイバーも驚きバイクの前輪を穴にとられる。

当然猛スピードで走るバイクは慣性のまま後輪から縦回転を始める。

だがセイバーはこの程度では転ばない。

重心を上手く調整し後輪で着地したのだ。

そして前輪も大地に着けると再び走りだす。

 

「うわぁ・・・ありえないでしょ」

 

セラスから渇いた声が洩れる。

心なしか顔も引きつっている。

残弾は残り五発。

無駄撃ちは出来ない。

弾薬をもっと貰っておくべきだったと嘆きつつ状態を起こしてハルコンネンを肩に担ぐ。

 

「何やら物音がすると思えばコウモリであったとはな。我の周りを飛び回るのを許可した覚えはないぞ」

 

セラスは受け身を考えず横へ飛ぶ。

金属がコンクリートを貫く音と煙が充満する。

眼前には黄金の鎧のサーヴァントーーアーチャーが腕を組んで存在していた。

額を伝う汗を腕で拭いハルコンネンを構える。

 

「ほう、コウモリの分際で我の裁きを逃れるとはな。ならば我を興じさせてみよ。もしかすると我の寵愛に値するかもしれんぞ?」

 

アーチャーは機嫌良さそうに背後の空間を歪ませる。

飛び出す無数の武具。

一つ一つが必殺の宝具。

 

「む、無理ィィィイイイ!!」

 

「何処へ行く雑種!!」

 

セラスは一瞬の間もなく背を向ける。

飛来する宝具を躱し弾を装填。

振り返り後ろに飛びながら引き金を引く。

弾は剣に阻まれ勢いを無くしたがアーチャーの視界からは逃れた。

舌打ちしたアーチャーが踵を返して霊体化したのを見てふぅっと息を吐く。

 

「あぁ・・・死ぬかと思ったぁ。すいませんマスター。セイバーは止められませんでした」

 

時間稼ぎのつもりがとんだ災難だ。

アーカードに怒られるのを想像してブルっと身を震わせたセラスは急いで決戦場へと走りだした。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「アイリス、フィール」

 

コンサートホールに到着したセイバーが眼にしたのは黄金の杯。

すなわち聖杯があった。

あれが守ろうとしたものだと誰が思おうか。

誰を犠牲にしても絶対に過去をやり直すと決めた決意が揺らぐのをグッと堪える。

これさえあれば願いが叶うと、そう信じて。

 

「遅いぞセイバー。コウモリなどと戯れるにしてもこの我を待たせるとは不心得も甚だしい」

 

「アーチャー・・・」

 

コンサートホールのステージは穴が開いておりその手前でアーチャーは不敵に嘲笑う。

薄暗い場所にも関わらずアーチャーの輝きは曇ることはない。

むしろ一層艶やかさを内包しているようだ。

 

「ふふ、何という顔をしている。まるで飢えた痩せ狗のようではないか?」

 

「そこを・・・どけ。聖杯は・・・私の、ものだ!!」

 

この戦いを征すれば聖杯がーーあの日の願いが成就される。

ブリテンの悲劇。

自分ではない王にふさわしい者が剣を取りあの悲劇を繰り返さない為に。

普段冷静なセイバーの顔はアーチャーが言う痩せ狗に似ていた。

 

「ーーっ!!」

 

迫る武具を躱し席の背もたれに足を乗せてそのままアーチャーへと飛びかかる。

風王結界に隠された剣がアーチャーを襲う。

しかしアーチャーは悠然と腰に手をあて立っている。

取ったと思われたそれはアーチャーが王の財宝から飛び出した剣によって阻まれた。

そしてアーチャーは空間から鍵を取り出す。

ーー曰く世界を切り裂き天地を切り開いた創造と破壊の剣。

それが今抜かれた。

 

「そ、それは!?」

 

セイバーの眼が見開かれる。

剣とは思えぬ円環の剣。

回転を繰り返すそれはドリルのようにも見えた。

 

「このまま射ち合っても良いがもしもが有ると面倒だ」

 

アーチャーは前面を埋め尽くす大量の武具を展開しセイバーを会場から吹き飛ばす。

その際セイバーの左足に剣が突き刺さる。

足が止まったセイバーを蹴り飛ばし外へと出る。

しかしセイバーはアーチャーから視線を外さない。

向き合う二人。

少しの沈黙の中先に動いたのはアーチャー。

手に持った剣が高速回転を始める。

吹き出る力の奔流。

セイバーの聖剣を超える宝具の開放が今為されようとしていた。

 

「目覚めよエア、お前に相応しき舞台だ。・・・セイバーよせめて相殺くらいはして見せよ」

 

「くっ、良いでしょう!!我が願いはそのような物に負ける道理はない!!」

 

風が弾け顕になる黄金の剣。

比類なき伝説の剣に光が収束する。

約束された勝利の剣。

伝説に語り継がれる最強の聖剣が光を放つーー。

 

「エクスッ!!」

 

「エヌマっ!!」

 

「カリバァアアアアア!!!」「エリッシュッ!!!」

 

2つの絶対的力はお互いを認めず拮抗する。

だが徐々に均衡は崩される。

飲み込まれていく光。

セイバーの表情が苦悶に変わる。

 

「アアアアァァァァァァァアアアア!!!!」

 

「ふっ」

 

セイバーの叫びは虚しく闇に消えていく。

そしてセイバーは世界最古の前に敗れる。

 

「か・・・くっ、か・・かはっ!!」

 

込み上げる血の塊。

吐き出しても次から次へと込み上げる。

霞む眼はまだだと訴えるが体は動かない。

後ろでまとめた髪も解けている。

 

「ふ、フフハハハハハハッ!!これが人類の願い?最強の聖剣だと?笑わせてくれるではないかセイバー!!だが、妄執に落ち地に這って尚お前という女は美しい。剣を捨て我が妻となれ!!奇跡を叶える聖杯などとそんな胡乱な物に執着する理由が何処にある?下らぬ理想も誓いとやらも全て捨てよ。これより先は我のみを求め我のみの色に染まるが良い。さすれば万象の王の元にこの世の快と悦の全てを賜そう」

 

嘲笑うアーチャー。

セイバーはフラつきながらも立ち上がりアーチャーを睨む。

 

「貴様は・・・そんな戯言の為に、私の聖杯を奪うのかっ!!」

 

飛来する剣。

それを弾くが勢いを殺しきれず倒れる。

 

「お前の意志など聴いておらぬ。これは我が下した決定だ。さぁ、返答を聴こうではないか」

 

「こ、とわる・・・断じーー」

 

今度は斧がセイバーの足に食い込む。

現界に近いセイバーは痛みに藻掻く。

 

「恥じらうあまり言葉に詰まるか・・・。良いぞ、何度言い違えようとも許す。我に尽くす喜びを知るにはまず痛みをもって学ぶべきだからな・・・ふっ」

 

ボロボロのセイバーを更に痛めつけんと展開される王の財宝。

セイバーは息を飲む。

 

「どうした?答えぬならば答えさせるしかないな」

 

槍を手で引き抜きセイバー目掛けて投擲される。

動けないセイバーは歯を噛みしめる。

だが予想された痛みはやってこず、槍はあらぬ方向へと飛ばされる。

聞こえた銃声音。

そこにはサファイアブルーの瞳の吸血鬼が荒い息で銃を構えていた。

銃口から硝煙が出ていることから槍を弾いたのが彼女だと理解できた。

アーチャーの愉悦の表情が怒りの表情へと変わった。

 

「コウモリよ・・・よほど死にたいらしいな」

 

「い、いやぁできれば死にたくないなぁって思ったりして」

 

「な、何故貴様が私を助ける?」

 

セイバーの問にうーんと首を傾げて、思いついたとセラスは言う。

 

「私って婦警だったんですよ。だから弱ってる女性を見捨てることなんて出来ないんです」

 

ビシッと敬礼するセラス。

その顔に嘘は見られない。

唖然とするセイバー。

逆にアーチャーは不愉快そうに鼻を鳴らす。

 

「あれは我の物だ。我が所持品をどう扱おうと兎や角言われる筋合いはない。王に対して大言を吐いたのだ。もはや見逃しはせんっ!!」

 

セラスは死を回避しつつセイバーを抱き上げて草陰の安全な場所に移す。

アーチャーの元へと戻ろうとするセラス。

咄嗟にセイバーは服を掴んだ。

 

「え、えーと?」

 

「・・・私も多少動ける程度には回復しました。不本意ですが今だけ共闘を申し込みます」

 

「は、はいっ!!頑張りましょうね!!」

 

セイバーの手を取って起き上がらせる。

そして左右に分かれた。

二人のいた場所に爆音とクレーターが出来る。

 

「おのれっ!!」

 

「ハァァアアアアア!!!」

 

「セイバーかっ!!」

 

剣を躱し距離を取るアーチャーの背中から銃声音。

アーチャーの右腕に命中した一発の弾丸はそのままアーチャーの腕をもぎ取る。

手に持っていたエアが地面に落ちる。

 

「グウウウウゥゥ!!」

 

「逃がしません!!」

 

セイバーの追撃を武具の放出で逃れ左腕に剣を持つ。

その間に装填したセラスがアーチャーに照準を合わせる。

 

「次弾敵右腕!!」

 

「ヤー!!」

 

「クッ!!」

 

飛び上がり弾を回避。

狙撃場所に目掛けて武器を降らせる。

点ではなく面の攻撃。

セラスは為す術もない。

幸い両足と腹と右腕だけで済んだが長くはもたない。

 

「はぁはぁはぁ」

 

「とく逝ね」

 

「これで最後です」

 

ハルコンネンの弾丸は惜しくも的を外れセラスに魔の手が差し掛かる。

爆発と共に土煙が上がる。

やがて煙が晴れたがそこには誰もいない。

アーチャーの顔に余裕が戻る。

 

「さて、多少面倒はあったが元に戻ったなセイバー。だが我の手を煩わせたのだ。相応の教育が必要のようだ」

 

「巫山戯たことを。これで最後です、アーチャー」

 

聖剣が再び光を集める。

もはやセイバーに残された魔力は少ない。

この一撃で決まらなければすなわち敗北。

これは不味いと焦るアーチャー。

しかし助けは以外なところから現れた。

ボサボサの黒髪、黒いコート。

感情を感じさせない濁った瞳。

セイバーのマスター衛宮切嗣が現れたのだ。

セイバーも気がついたようで一瞬だけ視線がそちらに向く。

その隙にアーチャーはエアを拾い真名を開放する。

 

「なんてタイミングに・・・!!」

 

焦るセイバーを見ようともせず衛宮切嗣は自身の腕に刻まれた令呪に語りかける。

 

「そ、そうか!!切嗣、令呪で敵をーーアーチャーを倒せと命令してください!!」

 

「衛宮切嗣の名のもとに令呪を持って命ずる」

 

勝った。

セイバーは勝利を確信した。

お互いに睨み合う中切嗣はゆっくりと言った。

 

「セイバーよ。宝具にて聖杯を・・・破壊せよ」

 

「なっ!!」

 

「ば、馬鹿な何のつもりだ雑種!!」

 

抗うセイバー。

車線上にいるアーチャーは驚きを隠せない。

そして二人のサーヴァントはこの男の言葉を信じられずにいた。

聖杯を手にする絶好のチャンスを捨てるというのだ。

正気の沙汰ではない。

だが衛宮切嗣は止まらない。

 

「第三の令呪をもって重ねて命ずる」

 

「何故だ切嗣!!よりにもよって貴方が何故!!」

 

震える腕。

セイバーの意志とは関係なく聖剣はその力を開放しようとしている。

 

「おのれぇ!!我が婚儀を邪魔立てするか、雑種!!」

 

「セイバー、聖杯を破壊しろ」

 

「やめろぉぉぉぉおお!!!!」

 

「エヌマ・エリッシュ!!」

 

振り下ろされる聖剣。

押されてはいるが拮抗する乖離剣。

だが令呪のバックアップもありエクスカリバーの威力は通常のそれを遥かに上回る。

押されていくアーチャーは背後に武具を展開する。

徐々にではあるが相殺していく。

 

「このような結末を認めろとでも言うのか!!」

 

「あはは・・・残念ですけどこれで終わらせます、我が主桜の為に」

 

「き、貴様ァァァアアアアア!!」

 

弾丸はアーチャーの頭に吸い込まれるように命中してアーチャーの頭を吹き飛ばした。

必然的にエアの力は失われエクスカリバーがセラスを飲み込む。

 

こうして聖杯戦争は幕を閉じたーー。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

リクエスト その後の遠坂家

 

 

遠坂凛。

彼女には目標がある。

それは父のような優雅で気品のある魔術師になることだ。

だがそれを脅かす事態が起きているのも事実だ。

そう思って窓の外を見るとやはりいつものように彼女がそこにいた。

凛と同じ髪の色だが顔立ちは柔らかな少女。

かつて遠坂であった少女が無表情に門の前に立っている。

 

「あの子、また来てる」

 

間桐の当主が亡くなったとは聞いたが毎日見に来るのは一体何故だろうか。

凛は最初帰ってきたのだと歓喜したものだが桜は無表情で違うと明言している。

そして更におかしいのが母の葵だ。

桜の顔を見るだけで発作を起こして発狂する。

明らかに異常であるため足の怪我と何か関係があるのかと思い、桜に問い詰めたが私がその怪我を負わせたわけじゃないとこれまた否定した。

葵も発狂の原因を自覚しているが頑として話そうとはしない。

何かに怯えているようだが桜を怯えるというのも分からない。

常識的に考えて小学生に怯える大人などいないからだ。

確かに桜も魔術師の家系なのだから唯の小学生ではない。

しかし仮にも母親なのだ。

ここまでひどい事をするとは思えない。

謎は深まる一方で、凛は毎日を悶々と過ごしている。

この謎が分からなければ優雅にもなれそうにない。

溜息を吐く凛を見つけた葵は車いすに乗って凛に手を振る。

 

「あら、凛どうしたの・・・あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」

 

「ええ、ちょ、ちょっと落ち着いてーー」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!許してお願い!!もう二度としないから!!お願い!!お願いよぉぉォォおお!!!」

 

母の発狂。

まだ幼い凛にはキツイ。

世話役として派遣された人が慌てて駆け寄ってきた。

視線を門へと向けてまたかと溜息を吐く。

葵の車いすを押して部屋に戻っていった。

凛はそれを見送ってまた視線を門へと向ける。

ちょうど桜も凛を見ていたので視線が合う。

見つめ合うこと30秒。

桜は凍えるような笑みを浮かべて帰っていった。

凛は背筋に薄ら寒いものを感じて母の元へと歩いて行ったのだったーー。

 

FIN




これにて完全に終了です。
今後の活動は未定です。
このような稚拙な文に最後までお付き合い頂きまして本当にありがとうございました。
それではまたどこかで!!


桜だいすきだー!!


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