無職転生 小噺集 (USHIかく (錦))
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マイリトルソード・ストーリー

Pixivより転載です。

ルディが剣の鋭さについて懊悩する話です。
無職転生原作ネタバレ注意。

勢いだけで書いたバカな話なので、解像度や展開に無理があるかもしれません。
少々のキャラ崩壊、微エロ等注意。
いろいろごめんなさい。


 この世界には人間がいる。人間には二種類ある。

 

 俺か俺以外かだ。

 ――なんてぁ言わん。俺よりすごい奴が周りにめちゃくちゃいるからな。

 ……というかやってみようかなそれ。妹達にも嫁達にも引かれそうだが。

 

 それはさておき。

 もちろん性別だ。つまるところ、男と女ということだ。

 男と女は似ているようで全く違うのだ。

 考え方や心が違う。声なども違う。

 しかし、それよりも当たり前に異なるものがあるであろう。

 

 そのとおり、身体的な違いだ。

 体格から機能や部品まで色違いなのだ。

 

 女性の体という物は曲線がうねり、とても柔肌がもちもちしていて、人生の幸福が凝縮されているかのような肌触りと美しさ、すなわち神々しさが衣服の下に眠っている。

 

 前半に童貞が出ていたが、俺は決して童貞ではないぞ。

 

 そして女性の胴体には柔らかいマシュマロがついている。温水が流れ行く肌を追うと、その素晴らしい谷の頂上に咲くは桜の蕾である。綿菓子が大きい者もいれば小さい者もいる。どちらにも貴賎はなく、どちらも素晴らしい者である。

 だがしかし、構造も見た目も違えど、我々男にも匹敵する物は一応上半身に存在するのだ。

 

 そしてだ、後ろを覗き下の方へ目線を送り比べてみると、桃を目撃するであろう。真っ白な背中から桃に流れる水が非常にエロスを感じさせる。

 だがしかし驚くことなかれ、俺の岩山とこれはなんとどちらも同じ者なのである。

 

 ではしかし、一番違う物であり、一番特徴的な物は何か。横から重ね合わせたら著しく差異が発生するのはなにか。

 それは、このふくよかな白桃を180°回転させるとわかる。

 俺にはあって、目の前にはない。

 その通り。

 

 漢の剣である。

 俺には息子が二人いるが、ムスコが一人いるのだ。

 名前を聞くってのは、野暮ってもんだろうよ。

 

 俺にはリトルソードがあり、目の前にはそれがない。

 目の前にあるのは、曼珠沙華であり桃源郷だ。あらゆる男をも惹きつける翼なのだ。

 待て、今のは前言撤回だ。引き寄せるのも目を集めるのも却下だ。

 目の前のムスメは俺だけのもんってんだからな。

 

 まあ良い。問題はこちらのマイソード。

 こいつは果たして、世界が必要としている基準に満ちているのだろうか。身近な人ではどうだろうか。日常的に愛用している人たちは本当はどう思っているのだろうか。

 そもそもマイリトルソードを愛用してもらえているのだろうか。他のエクスカリバーに奪われてはしまわないだろうか。

 ……それはないとは言え、内心不満があるのではなかろうか。

 

 そう思うと、目の前の愛しき華畑を凝視せざるを得ない。

 それだけでない。上に行き、彼女のしなやかな体と薄っすら膨れるマシュマロ、そしてその上にある可憐な顔を眺める。あら今日も可愛い。

 尖った耳とセミロングの白い髪に、綺麗な赤い瞳。おっと、なぜ顔も赤くしているんだい。

 

「……あのねぇルディ。いつまでボクの体を回してるつもりなのさ……。エリス達が待ってるんだから」

 

 目の前の我が妻が問いかけてきた。

 おっと、哲学の世界に囚われて忘れていた。

 今は元祖天使こと愛妻シルフィとの入浴タイムだった。

 

 一緒に仲良く話しながら身を温めた後、浴槽から出て身体を洗っている間、そんな事を考えてしまっていたのだった。勝手に身体をまさぐりながら。

 

「お風呂でえっちな事をするのは禁止なんだからね。……今でもそんな見られるとドキドキしちゃうし」

 

 うーん、今日も愛おしい。

 

「ねえ、シルフィ。俺とのえっちって満足してる?」

 

「どうしたのいきなり。えっと、ボクはいつも幸せだし満足させてもらってるよ?」

 

「そっか。よし、最後に水流して出ようか」

 

「きゃっ冷たい! コラ!」

 

 なんやかんやあってお風呂を出た。妻と入る風呂というのは至極幸福なものだ。

 今日はシルフィの番という事もあり、若干夕方の盛り上げがハッスルしてしまったようだが。

 

 ……入れ替わりのエリスがなぜか少し睨んできたのは見なかったことにしておこう。

 

 さて、だ。しっぽりタイムと行く前に任務がある。

 我がマイリトルソードの強さを探しに行こうと思う。

 

 聖級くらいはあるといいが、実際は中級くらいなのかもしれない。

 剣術はあまり上手くないが、なんと真剣の扱いにも影響をもたらすのか。

 ああ神よ、闘気をください。

 ロキシーは魔術師だったな。

 

 この答えはどこにあるか分からない。

 ベガリットよりも荒く、大森林よりも深いどこかに眠っている。

 

 そう。

 妻たちだ。それ以外に何がある。

 しかし、どう聞くべきか――。

 

 世紀の問題に頭を悩ませながら、自室へ向かったのだった。

 

 

 ***

 

 

 夕も深まり夜の帳が掛かる時。

 

 アイシャたちのお陰で変わらず美味しい夕食を食べた。

 子供たちと少し遊んだが、あまり構ってくれなくてお父ちゃんは寂しい。

 ちびっ子たちはおねむだろう。

 俺も今さっきクリスを抱っこでねんねさせてきたところだ。可愛すぎるマイドーター。

 

 さて、一人の時間ときたら、作業をする時間だ。進めておきたい個人の仕事がいくつかある。

 しかし、今はそんなのはどうでもいい。

 今は、コトよりモノだからだ。

 いや、コトのためのモノか。

 

 思い出したくないが、一番の比較対象として前世の惨めな姿を思い出してみる。

 この腕輪がある限りはあの情けない容姿を二度と見なくて済みそうだが、当時はどうだっただろうか。

 ――言うまでもない。隠すつもりもない。

 

 マイソードはとても矮小なモノであった。運動不足の引きこもりのデブなら、平均以下の日本人サイズだっただろう。

「包茎」と虐められていた通りだ。

 どれだけ惨めな見た目でも、いきなり寝取られ作品に出てきそうな最強肉体の汚いおっさんになどなれない。

 この世界に来るまで通算47年間、DのTを貫き続けてきたからな。

 

 ちなみに俺が小汚い男だったからと言って俺の性癖は正常だからな。

 一途……三途な純愛を心がけている。

 まだ川は渡らん。

 

 その時と比べてみよう。

 無論、今の方が全然デカい。

 あっちだと今の姿はヨーロッパ系かと思うが、この世界でもそういうモノの傾向は引き継いでいるのかもしれない。多分。

 ヨーロッパ人の下半身なんて見た事ないが。

 

 それでも、この世界には日本もヨーロッパもない。

 どこのどんな人たちがどのような剣を掲げ、そこにどのような水準があるのかは誰にもわからないのだ。

 

 ……分かったぞ。

 もしかしたらこれは未研究の領域なのかもしれない。

 この世界の人類が成し遂げることの出来なかった知への新たな扉だ。

 確信した。学会を立ち上げて、研究目的に世界の人々に国勢調査ならぬ世勢調査を行うのだ。

 

 そうすると協力を願うならナナホシ以外にはいるまい。

 ――ガチでドン引きされそう。

 却下。

 

 あとは、日本人魂といえば風呂であり温泉だが、そこでは意識せずとも他人のブツが目に入ってきてしまう場所であり、それが当たり前であった。

 

 だが、この世界では銭湯などに入る事もそう多くない。

 大森林の方に用事がある際に温泉に寄り道することはあるが、家のお風呂以外では少し珍しい風習だろう。

 

 うーん。

 比べられる人物として思い浮かべることができるのは片手に入る程度かなぁ。

 

 ……ずっとブツの話ばかりしてると男色が潜んでるんじゃないかって気がしてきた。

 だが安心していい。俺の心と剣が向いているのは一方向だけだ。

 いや、一方向ではない。三方向だ。

 

 ――もしかして、こんなことは気にしなくてもいいのではないだろうか。

 自信を持っていいのではないだろうか。

 パワフルでギガンティックでマグニフィセントなマグナム砲でもない事はなんとなくわかる。

 でも短小って事はない。普通くらいはある。エクスカリバーくらいは傲慢ではないだろう。多分。

 

 こっちにきて最初に目の当たりにしたのはパウロだろう。

 父様の父様はとても父様でビックリしたのは覚えている。

 でも、今父様のムスコと息子のムスコに大きな違いがあるかと言われると、そうでもないのではないか。

 惜敗する程度だと信じたい。

 パウロの血、すなわちグレイラットの血を引いてるだけあって、女を満足させるられるように身体に栄養が行き届いているのかもしれないな。

 

 それ以外だと誰だろう。思い浮かばないな……。

 

 タルハンドさんとかか。

 ……ミリシオン旅行記を思い出してみると、何故か背中に怖気が走ったのでやめておこう。

 

 魔族とかを含め始めると体の構造が違うので、人族だけで考えると周りでナイトソードが逞しそうなのはルークとかだな。

 なんとなく。プレイボーイだったみたいだし。

 

 ――なんでこんな事を考えているんだろう……。

 やめだやめ。

 

 シルフィとの深い夜までまだいくらか時間がある。

 

 考え過ぎは良くないが、悩みを溜めるのも良くない。って先生が言ってた。

 と言う事で、まずはロキシーに話を聞きに行ってみることにした。

 

 

 ***

 

 

 部屋を出てどのように聞けばいいかを考えながら静かに廊下を歩く。

 自室に行ってみるといなかったので、リビングに行ってみるとロキシーは読書タイム中だった。

 火の前のソファでリラックスしていたのか、少しだらしない格好でうとうとしていたが。

 愛おしい。

 

「ロキシー、ちょっといいですか?」

 

「あっ、ルディ。ごめんなさい、眠りそうでした。どうしたんですか」

 

 ハッと目を覚ましてこちらを見てくる。

 瞳には疲労が見え隠れしている。邪魔してしまったようで申し訳ないな。

 

「ごめんなさい、邪魔しちゃって。折行ってちょっと相談があって」

 

「相談ですか……。ちょっと待って下さいね」

 

 そういうと、ロキシーは手元の本を閉じ、背筋を正してこちらを見てくる。

 眠気が宿っていた目がしっかりと開いた。

 

「はい、それで、そんな不安そうな顔をしてまでしたい相談とはなんでしょう」

 

「あ、そんな顔してましたか。えーっと、ですねぇ……」

 

 切り出せん。切り出せんぞ。

 いきなり冷静になってきた。俺は疲れている先生になんと愚問を。

 でも大丈夫だ。妻なのだから。

 

「また何かで悩んでるんですか? もしかして、またヒトガミのことで何かあったり……」

 

「いやいやいやいや! そんな大したことじゃないですよ。まあ、ちょっとした悩みでして」

 

 妻だから問題ナシ。男ならはっきり聞こう。

 

「そのですね、俺のマグナムなエクスカリバーがロキシーにとって十分なのかわからなくて」

 

「……はい?」

 

「……まあつまりですね。その、夜の方の、ムスコの大きさが足りないのかとか、先生を満足出来ているかどうかっていうですね……」

 

 そう言うと、ロキシーは非常に困惑した表情でこちらを見てきた。

 

 当たり前だな。

 

「そんなことで何を悩んでるんですか。そもそも私はルディ以外の人としたことなんてないし見たこともないんですから」

 

 そうじゃん。

 ロキシーの初めては俺だし、俺が夫。

 つまり、今までで俺だけだ。そしてこれからも俺だけだ。

 

 いや、よく考えてみよう。

 そもそも、3人とも初体験が俺だ。そして俺だけが夫だ。

 そして、3人の天使を生涯独り占めするのは俺。

 燃えてきた。罪作りな男ってもんだ。幸せものだな。

 

 つまり、みんなにとって俺しか相手はいないのだ。

 比較も何もできようがないだろう。

 

「夜の方は私は満足していますしいつも気持ちよく……ゴニョゴニョ」

 

 頬を朱に染めながら、ロキシーはそんなことを言っていた。

 なんとなく抱きしめてみた。

 

「まったくもう。だいたい、そんなこと気にしなくていいんですよ。他の人がどうだって、私たちはルディに幸せにしてもらってるんですから。……十分大きいと思いますしね……ゴニョゴニョ」

 

「ありがとうロキシー。参考になります」

 

 照れているその顔の額に軽く口付けし、ゆっくりと部屋に戻った。

 

 答えは出た。ロキシーならすぐに答えてくれると思った。やはり相談なら先生だ。

 

 でも、ここで部屋に戻ってこの未解決問題を忘れることが正しいのか。

 未解決でなくなったとしても、学会がそれで満足するのか。

 ムスコが眠るパウロ学会は男らしくないと叱ってくるのでないか。

 知的好奇心の検証ををオルステッドコーポレーション発行ネイチャーに掲載しなくてもいいのか。

 それに迷ってしまった。

 

 このまま悩みを抱えたままだと苦悩の病を患ってしまうかもしれない。

 ということで、セカンドオピニオンを貰いに行くことにした。一度は病を患った原因の人のもとへ。

 今は絞り尽くされた骸骨になってしまう無骨な悩みの種の張本人へ。骨だけに。

 

 

 ***

 

 

「ふぅ~、あっついわね」

 

 そう言いながらクッションに体を預けるのは赤毛の美女。

 近くに放り投げられたタオルから見るに風呂から上がったばかりなのか、その赤い髪は未だ濡れそぼっており、ショーパンとTシャツ姿で暑そうに服をパタパタしている。

 

 狂剣王とは思えないほど脱力していて、よく見たら犬のぬいぐるみに頭を乗っけていた。

 確か俺があげたやつだ。

 

 ドアの前からでもそのムチムチの太ももに始まった肌色の多い格好に色気を覚えないわけがない。

 その上、エリスの身体はまだ濡れているのか白いシャツは服に張り付いており、浮き出るボディからパタパタするたびに鍛えられた腹と豊満な下乳がチラ見している。

 したがって、双丘の頂上には魔剣が二本と直立しているのが千里眼からも観測できるのは無理もないだろう。

 

 要するに、俺の嫁がエロすぎる。

 目に毒すぎて俺も今にも直立してしまいそうだ。

 

 話が逸れた。

 見入ってしまっていた。いつものことか。

 

 何をどう聞こう。

 強気で攻撃的なエリスだが、二人きりになると実は純情で可愛らしい女の子なのだ。

 そんな彼女に聞くのが馬鹿らしくなってくるが、それでも追求するべきなのだろうか。

 ……するべきだ。

 

「エリス、ちょっといい?」

 

「どうしたの、ルーデウス」

 

 俺が扉の前から様子を伺っていることに気付いていたのか、エリスは身を少し起こしながらいつも通りのように語りかけてくる。

 積み上がる申し訳無さ。

 

「エリス、儚き夢にまで見ていたのだが、挟ませてほしい」

 

「何言ってるのよバカ!」

 

 まずい殴られる! 何言ってんの俺!

 

「冗談ですごめんなさい! ちょっと相談があって来ました」

 

 この前やったしな。二次で。

 

「なんなのよ、もう。助けにはなれるか分からないけど、言ってみなさい」

 

 このときのエリスは、まるで母の表情をしていた。子供たちの話しを聞いてくれる頼れるママだ。

 ママにしたのは俺だ。

 ……なんで今日の俺はピンクなことしか浮かばないんや。

 

「エリスってさ、魔剣を使ってるじゃん。でも、俺との夜のときも魔剣を扱うじゃん。でも俺の剣をいつも使ってくれてるエリスに聞くと、この剣が魔剣に値するのかってのが気になってさ。鞘が満足してるのかとか、もっと強い剣を使いたがらないかって思って。」

 

「……」

 

 しばらく何を言ったのかを理解するように考えて。

 数秒後、顔が真っ赤になった。

 

「わ、私はルーデウスとしかしたことないし、十分おっきいと思うわよ」

 

 赤らめた顔としおらしくて可愛らしい態度で、身体をもじもじさせながらそう答えた。

 

「それにそんなこと気にしなくても、私はルーデウスが好きよ。だから、ま、満足してるわ」

 

「つまり……?」

 

「い、いつも気持ち良いってことよ!」

 

 声が大きい! 子どもたちに聞こえるよ!

 

 美しい髪よりも朱色に染まった頬をして、エリスはその気持ちを披瀝した。

 知ってたことだから披瀝ではなかれど、毎度愛の告白をされると嬉しくなっちゃう。

 あらやだ、あたしまで真っ赤になっちゃうわ。

 

 不意に愛おしさを感じたので、ゆっくりと近づいて行き、エリスの前で静止した。

 

 すると、そのエリスからは一瞬襲いかかりたそうな意気を息がかかりそうな距離から感じた。その息も少しだけ荒くなっている。

 だが、まだその時間ではないことや、その上でエリスの番ではないから怒られることを分かっていたのかなんとか堪えて座り尽くしていた。

 

 興奮のスイッチが入りそうな劣情の眼を視界に捉えた時、これ以上刺激するのは良くないなと思い、同じくおでこにそっとキスをし、微笑んだ。

 

 顔を赤くして、そっぽを向いたエリスから聞こえてきた小さな「もう」に癒やされながら、俺はエリスの部屋を後にした。

 

 ロキシーとすれ違いながら、自室へ戻って情報を整理することとした。

 

 

 ***

 

 

 研究結果をまとめよう。

 

 科学的な論証や根拠は何も得られなかった。当然の至福の結果から、データのサンプルは一通りのみ。

 

 それは、「関係ない」「十分大きい」「気持ちいい」と言った供述だ。

 

 これから何が得られるか。

 気にしなくても良いということだ。

 少なくとも、不満を抱くほどのサイズではなく、むしろ二人とも満足してくれていた。

 

 俺にもプレイボーイのパウロに負けない程度のパウロが備わっているはずだ。

 

 それに、そもそもパウロのパウロで大事なのは長パウロだけではない。太パウロや、硬パウロなども重要な要素なのだ。

 

 どれをとっても、前世と比べたら自信を持てる内容が備わっていると思う。

 平均程度はあるはずだし、俺も嫁たちも満足であれば誰も不幸になっていない。

 これにて終了だ。

 

 長かった。ブツも議論も。

 これで一安心だ。

 

 でも、一応本当に気になってきたので、秘密部隊を組み、酒場やギルドを中心に情報を集めて、性について比較的奔放なこの世界で性に関するデータを大まかにまとめよう。

 秘密裏の極秘調査に使うのであれば社長の金になるが、妥当か。

 バレなければいい。多額な費用というわけでもないし、大事な問題なのだ。

 

 そんなこんなと考えていると、子どもたちの声も聞こえなくなり、足音も聞こえなくなった。

 みんなもう寝静まる時間なので、そろそろお風呂でのイチャイチャを再開しに行かなければ。悩むのもやめて、シルフィとしっぽりしてからぐっすり寝よう。

 リラックスすれば落ち着くだろう。

 

 でも、せっかくそういうことをするなら最後にシルフィにも聞いておこう。

 俺はいつからこんな悩みを引きずるようになったんだか。

 いちゃいちゃばっかりしてたからか、俺のお腹がもうバーニングしそうだぜ。

 

 

 ***

 

 

「シルフィは俺のダークブレードの刃渡りに不安はないかね? よりシニスターなソードを儀式で求めていたりは……」

 

 可愛らしいネグリジェを身につけて、シルフィはにこやかに俺に向かって笑いかけている。

 薄暗い寝室のベッドで肩を寄せ合いながら、俺がいきなりそう問いかけた。

 それに対し、

 

「ダーク? シニスター? ……あ、やっぱりそういうこと? そもそもルディのしか見たことないけど、いつもすごく気持ちよくてすっごく幸せだから、満足してるよ。お風呂と言いどうしたの?」

 

 天使のように微笑みながらそう返した。

 やっぱりって何だ。

 甘い二人きりの声もとても可憐だ。シルフィは可愛いなぁ。

 

 我慢できなくなってきた。二人の時間に行こうでないか。

 

 綺麗な白い髪に指を通し、軽く頭を撫でる。

 腰に手を当てか細いしなやかな身体を再度引き寄せ、そのまま腕を肩にゆっくり回した。

 そして、ゆっくりと長い耳に甘噛みした。

 

「んっ……」

 

 そのまま頬に鼻を触れさせゆっくりと唇を乗せると、そのまま手で顔をこちらに向けた。

 欲情の表情を浮かべている美しい、整った顔。

 

 目の前でつむる目と共に俺も目を閉じ、唇と唇が柔らかくぶつかった。

 何度味わっても包み込まれるような小さく柔らかな感触に、感情が昂ってくる。

 

 額をくっつけて唇を息のかかる距離で離し、至近距離から瞳を見つめ合う。

 綺麗な赤い瞳に何度心を奪われたか。

 

「シルフィ……」

 

「ルディ……ダメっ」

 

 また柔らかい唇と衝突する。

 今度は、その乾いた口の表面を赤い小さな赤い舌が濡らした。

 二つに絡み合う舌が、小さくみだらな音を部屋に響かせる。

 

 シルフィの腕は俺に抱きつき背中をさすっていて、俺の腕もシルフィの腰に回している。

 

 また唇が湿った音と共に離れた。

 

 もう出来上がっている。待つ必要はない。

 そうして押し倒そうとした時。

 

「えっと、ちょっと待って、ルディ」

 

 えっ? 今日ダメなの? それとも俺なんかした?

 でもこれ以上はR18タグがつきそうだからちょうどいいと涙ながら。

 

「実はね、もう話は聞いてたんだ。――二人とも、入っていいよ」

 

 そう言うと、寝室にロキシーとエリスが入ってきた。

 二人とも色っぽい肌着のような寝間着姿で、心なしか少し興奮した表情をしている。

 

「ルディが大きさや行為のことでなぜか不安になっているので、みんなで自信を取り戻せるようにと提案したんですよ」

 

「そんなことをずっと気にしてるって、まったくルディったら」

 

「みんな満足してるって言ったじゃない。それで聞きに来てそういう気にさせていくとか、卑怯だわ」

 

 三人が次々とそう告げ、俺の近くに来た。

 そして、ゆっくりと一緒に抱擁してきた。

 柔らかい嫁たちの体が密着し、腕が左右と前から絡まってくる。

 

「それで、話し合って今晩はみんなでしようと言うことになってですね……っ」

 

 三人がベッドに腰を掛け、俺の太ももをさすってきた。滾らざるを得ない。

 

 状況を整理しよう。

 ロキシーに相談した時に、思った以上に新酷な悩みだと思ってしまったのか、シルフィとロキシーにも話をしに行き、結果シルフィが譲り四人ですることになったということか。

 

「ねえ、もういいかしら、ルーデウス……」

 

 そして、三人とも床に膝をつき、半ズボン姿の俺の半開きの脚の前に座った。

 とても近いです。ゴクリ。

 

 みなその瞳には性なる欲を浮かべているように見える。

 どうやらこの相談を持ちかけていちゃついて来たことで、エリスとロキシーをその気にさせてしまったらしい。

 もしかしたら嫁を三人貰っても相変わらず鈍感系主人公をやってるのかもしれないな。

 

「ボクもさっきのでドキドキしっぱなしだよ。大好きだよ、ルディ……っ」

 

 また太ももから内股がたくさんの手で撫でられる。

 明日はお休みだし問題ない。3倍の幸福タイムを堪能しようでないか。

 

「ルディ。誰かから見て平均点でも、私たちからしたら満点ですから。それが好きなんですから、気にしないでください。ね……っ」

 

 三者三様の吐息がムスコに当たってくる。

 

 自信を取り戻した俺は最強だ。

 俺のエクスカリバーがアーサーしちまう準備は万端だぜ。

 

 こんな愛おしい嫁を相手に何を心配していたのだろうか。

 三人とも満足しているなら、それ以上は求めなくてもいい。

 求めすぎず、自分の持ってるもので満足しようでないか。

 今夜はいつも以上に火を噴きそうだぜ。

 

 ――夜は始まったばかりだ。

 

〈了〉




ふざけました。
すみません。


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「お母さんより」

ルーデウスと「お母さん」のお話です。
オリジナル要素やツッコミどころがあればお許しください。
正確には小説じゃないかもしれないですね。

アニメ1期最終話を見た後に読んでいただくと良いかもしれません。
あの後家族がどう思ってたのかをよく考えたりする。


 私は間違っていないと思っていた。

 私の子どもたちはみんな健やかに育っていった。

 それぞれの道を選び幸せになると願っていた。

 たまに揉めることもあったが、一人の母としてすべきことはしてきたと思った。

 

 でも違った。一人だけ他の子達のようにはいかなかった。

 次男は、この子だけは、普通にはなれなかった。

 

 もともと自尊心が高くて、自分の好きなことに熱心な子だった。

 たまに要領が悪いことがあっても、ひたむきに取り組んだ。

 自分の決めたことを守る少し意固地で、頭のよくて、笑顔の多い、そんな子だった。

 でも、高校に入ってすぐに、彼は同級生からいじめに遭った。どんなことをされたかの詳細は話してくれなかった。それでも、彼を深く傷つけることがあったのは想像がついた。

 親として許せなくて、同時に守ってあげられなかったことにやるせなくなった。元通りになるまでそばにいて励まし続けようとおもった。

 

 いじめは彼の意思をへし折ってしまった。

 逃げるという意志が出来上がってしまっていた。

 一度部屋に逃げ込んでしまったら、もう出てこなくなった。

 

 時間がそれを解決してくれると思った。

 でも、してくれなかった。

 あらゆる意味で荒れていってしまった。

 私たちはできる限りのことをしたつもりだった。それで元通りになると思っていた。

 

 でも、態度は軟化するどころか、日に日に悪化した。

 明るく話しかけてくれたあの子との時間を思い出しても、聞こえるのは怒声と衝突音ばかりになった。

 

 彼の欲しい物は時折買ってあげた。

 声を荒げることもなく、少ない口数ながらも穏やかな声で私に欲しい物を伝えてくれたことが嬉しかったからだ。

 あまり彼の趣味に詳しくないからちゃんと覚えてはないけれど、パソコンとか、ゲームとか、アニメのフィギュアとか、いろいろなものがあった。

 手に入れたばかりのときは、まるで子供のように嬉しそうに触って。小さい頃の好きなことに熱心に取り組む少年の目をしていた。いじめも引きこもりも忘れて、没頭していた、気がした。それが嬉しかった。そうして少しでも生きることに希望を見出して前に進んでくれて嬉しかったのだ。

 

 でも、欲しい物を頼まれる頻度も減った。会話する数少ない機会も減り、ありがとうも言われなくなった。

 私は、彼に見えないところで涙した。

 これしかできることはない。

 親としてできることは、支えてあげることだけなのだから。だけど、それが彼を救い出すものではなく、一時的な現実逃避の道具に過ぎなかったのかもしれない。

 そう。これを続けていけばきっとこの状況も良くなる。孤独の部屋から抜け出し、一歩踏み出してくれる。そう思っていたが、そうはならなかったから。

 

 小さい頃のような無垢で熱心なあの子はどんどん廃れてしまっていた。

 しばらくしたら買ってあげたあれこれの匙を投げてしまった。

 いわゆる三日坊主だ。

 それも子供らしいのかもしれない。

 でも、瞳にあるのは子供の目移りではない。

 ……諦念だ。諦念が関心を失わせたのだ。

 そのまま放りだして、いつもどおり引きこもって、音沙汰もなくなってしまうのだ。

 

 すでに何年も前の話だが、ある時、彼の父が痺れを切らし、激昂しながら部屋へ無理やり入ったことがあった。私は反対しながらも、それに追随してしまった。

 当然、彼は私たちが部屋に入ろうとしていることに気がつくと反抗した。

 部屋は電気がついておらず、暗かった。遠くから様子を見に来たのは長男だけだった。

 部屋に入ってからは自暴自棄かのように怒鳴りながら物を投げたりとめちゃくちゃにした。

 ――投げたものの一つに、私が買ってあげたフィギュア制作道具と、完成途中の作品があった。

 フィギュア作りのことなんてわからないけれど、不器用ながらも頑張って作っていたことが窺えた。とても時間を掛けて作っていながら、途中で諦めてしまったようだった。

 それが、バラバラになってしまっていた。

 頑張って作ったものを壊してしまったこと。私が買ってあげたものを怒りで投げたこと。

 些細なことかもしれないが、そのことにただ悲しさがこみ上げてきた。

 そして、彼の顔を初めて見た。

 彼は泣いていた。私の息子が一人泣いていたときに、私たちは扉を開けることを強行し、辛さと戦っている真っ只中に癇に触れたのだ。

 その時の悲痛な罪悪感は忘れられない。

 それ以来、彼の部屋に入ることはなくなった。

 私たちは、彼を救うことはできなかった。

 

 引きこもり調査のようなものが家に来たことがあった。

 その時、私は依然として、「いいえ」と答えた。

 あの子を引きこもりだと認めたくなかったから。

 あの子なら、もうすぐ、いずれ、いつか、立ち直ってくれると信じたかったから。

 そんな自分の拙い思惑のために、国に嘘をついた。

 そのことを知られた長男に叱責された。

 支援があるかもしれない、と。何かできるのかもしれない、と。

 

 私は、これ以上どうすればいいのかわからなかった。

 大切に思っていたのは間違いないと言いたいが、母失格だろうか、私は億劫で疲れてしまった。

 そして、いつしか考えないようにして、何事もない平穏な時間を過ごそうと心がけていた。

 普通の平和な中年夫婦だと考えることにした。

 それが日常になってしまっていた。

 

 その長男だが、次男のことを一番考えていたのは彼だろう。

 孫も生まれ、家族で集まったある正月のことだった。三男と長女は彼のことを話題に出した途端に態度を豹変させ、関わりたくないとの如く口を閉じた。だが、長男だけは声を荒げながらも対話に応じ、二人きりになったときに負い目を吐露したのだった。

「どれだけクズであっても、兄の俺が面倒を見てやれなかったから、助けられなかった」

 そう自責の念を示した。そのことに――自分の無力さが原因の重りが子供にのしかかっていることに――ただ悲しむことしかできなかった。

 その後、長男は言った。「もし母さんたちがいなくなったら、誰が責任を取るのか」と。

 

 それを、おそらく折れた肋骨の老体を見下ろしながら、思い出して痛感している。

 

 もうすぐ私の意識も途切れてしまうだろう。

 高速道路でトラックとの事故に巻き込まれた。致命的だろう。隣りに座っている主人が心配だ。顔から血が出ており意識を失っているようだ。助かって欲しい。

 

 私たちがいなくなったとしても、子どもたちは大丈夫だろうか。やっていけるだろうか。

 いや。彼らはそれぞれ自分の道を歩み独り立ちしていったから大丈夫だろう。

 私の子どもたちはみんな強いから、大丈夫だろう。

 

 でも、だから。

 ――願わくば、私の意識が途切れた先の未来で、あなたが幸せになれますように。

 一人で立ち上がって、兄弟と仲良くしながら前を向けますように。

 

 最後に、こんなことを思い出した。

 いつか次男に宛てた書き置きにもあったし、よく言っていたこと。

 私の子どもたちはみんな強い、と。

 それは、間違っていたのかもしれない。

 みんな強いから大丈夫だと決めつけていた。

 彼のことを兄弟としての括りではなく、一人の子供として考えてあげられなかった。

 今更反省しても遅い。私はダメな母親だったのかもしれない。

 

 みんな、悲しんでくれるだろうか。

 彼は、悲しんでくれるだろうか。

 最後に、こんな年でも、一度だけでも、抱きしめてあげたかった。

 

 こう考えてしまうのは母親失格かもしれないけど、今際の際ならば言ってしまおう。

 もしあの子に次の人生があるなら。願わくば、その時は、いじめ、苦しみ、孤独とは無縁な人生を送れますように。

 大切な人に囲まれて暖かな人生を送れますように。

 笑って過ごせますように。

 

 幸せに、なれますように。

 

 願わくば――

 

〈了〉




最後の方は気に入ってます。


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一粒、三叉槍に滴る日に

初めてルイジェルドさんとノルンのSSを描きました。
ネタバレ注意。解像度などご容赦ください。

ただくろさんのご厚意でコミケット100の「夏のむしょ本」に寄稿させて頂きました作品をこちらでも掲載させて頂きます。色々とありがとうございました。


「ルイジェルドさん、スペルド族の寿命ってどれくらいでしたっけ?」

 闘神戦からしばし月日が経ち、二人で森を歩いてた時。

 かつて、ルーデウスはこう訊いてきたことがあった。

 

「2000年くらいは生きる」

「すごい長生きなんですね、ラプラス戦役の頃からいるから当然か」

「お前はそれくらいとっくに知っていると思っていたが」

 

 土を踏む音とやり取りの声が森の空に響く。

 

「人間は長くても100年しか生きれませんからね。……いや、こっちだと6、70くらいが限界かな」

 

 なぜまたそんな話を、と思っていたが、

「俺だってもう30代なんですから、いずれ死ぬことになるんですよね」

「そうだな。人族の寿命は短いからな。だが、お前はまだ死などを考えるには早いだろう。言っていた役目も多く残っているだろう。嫁や子供も養わねばならん」

「死ぬつもりなんてありませんよ。死にそうになる経験なんてもうこりごりですし」

「ふっ、そうだな」

 

 そこで、ルーデウスは少しだけ言葉を濁らせ、こちらを見据えた。

「まあまあ、前々から備えておくのも大事ですよ。俺もいつ死ぬか分からないし。ノルンだって同じくらいしか生きれないんですから」

「……ああ、そうだな。だが、そんな考えはお前らしくないぞ、ルーデウス」

 

 ノルンの寿命のことなどとっくに知っている。

 だが、そのことは考えないようにしていた。

 

 間違いなくルーデウスのおかげで俺は変わることができた。

 二人の過去の記憶に時折思いを馳せるのも悪くない。

 

 初めて出会ってから二十年以上が経った。その数十年という月日は俺にとってはそう長い時間ではない。だが、ルーデウスはすでに老け始めている。いずれは寿命に呼ばれるだろう。

 

 人族である以上は仕方がない。だが、寂しいものがある。

 そして、歳の近いノルンの今際の時もまたルーデウスの最期とそう遠くはなかろう。

 

「大丈夫ですよ。俺はお迎えが来るまでは嫁たちとイチャイチャして人生大往生しますからね!」

 

 

 

 

「ルイジェルドさんの、昔のお嫁さんの話を聞きたいです」

 その日の夜。眠るルイシェリアを横に、突然ノルンは俺をじっと見つめて告げた。

 共に過ごした時間は積み上がっているが、何を考えているか分からないことがたまにある。

 

「……あ、勘繰らなくてもいいですよ。もっとルイジェルドさんの話が聞きたいと思って」

「聞いても面白くないぞ。少し暗い話になるが、それでも良いなら――」

 

 初めて結婚したのはもう随分と昔になる。

 村で出会った、献身的で優しく、しかし自分を持ったスペルド族の女性だった。

 思えば、ノルンと重なる部分も多い。

 

 彼女との間の息子もそれを継ぎ優しく、だが強固なるスペルド族の戦士に育った。

 しかし、俺たちは……俺は、彼らを殺した。

 ラプラス戦役にもたらされた狂気は、大切な家族すら喪わせた。

 今でもその絶望と悔いは消えない。

 

 その後数百年、新たに嫁を娶ることも、子を作ることも考えることはあまりなかった。

 明くる日も周囲から忌み嫌われ、恐怖の対象として罵詈雑言を投げられた。それは、多くの命を簒奪した己への罰であり、相応の報復であると考えた。

 

 スペルド族の矜持を穢した身として同志の前から姿を消した。

 勇敢な一族の名声を地に落とした責務は自分にこそある。その事実をしまい込み、新たな相手を探し別の人生を歩むことなど許されない――それが俺のすべき贖いだと。

 

 その苦しみから解いてくれたのはノルン・グレイラットだった。

 兄に似て世話焼きだが、時にそれは孤独の心を癒した。

 彼女のほころんだ笑顔は俺の心を穏やかにした。

 

 かつて彼女はよく懐いた守るべき子供だった。しかし、十数年後には彼女は美しい女性へと成長した。

 そこに、久しく抱いていない恋慕の情が訪れた。

 

 ルーデウスの妹は、のちにノルン・スペルディアへと名前を変えた。

「ルイジェルドさんだって、幸せになってもいいんですよ」

 というノルンのその言葉には、少し救われた。

 

 回想を追憶しながら、ルーデウスと交わした言葉を思い出した。

 

「俺はまだ寿命が長い。だが、人族のノルンはそうともいかないだろう」

 

 そのことに、悲しそうな顔を浮かべながら彼女は俺の手を取った。

「私がルイジェルドさんと過ごせる時間は、ルイジェルドさんにとってとても短いかもしれません。でも、その短い時間を決して忘れないほど、鮮やかで幸せなものにすれば、きっと、この先のルイジェルドさんの心にも残り続けてくれます――」

 

 

 ――昔、そう言っていた。

 そんな言葉を思い出した。

 ルーデウスがこの世を去ってから少し経つ。

 ――人の寿命は短い。

 

「ルイジェルドさん……大好き、です」

「ヒック……ヒック……」

 

 ベッドの側で、歳を取っても美しさの片鱗が残る顔を見つめ手を握りしめる。

 反対側には、娘のルイシェリアが瞳を潤わせ母の手を握っている。

 

「ルイシェリア……元気で、ね……」

 すっかり大人になった彼女も、今は幼子のようにただ強く握った指先に絶えない涙を落としていた。

 

「あなたと出会えて……とても……幸せ、でした……」

「……俺もだ」

 

 俺は、出来る限り優しい笑顔を作った。いや、自然とそうなっていたのだろう。

 

 薄く微笑み、家族の手を取りながら、ノルンは静かに息を引き取った。

 彼女の平和な生涯を守れたという誇らしさと、そこはかとない喪失感に感情がせめぎあう。

 穏やかな顔で妻を看取ることができたのも、またあの男――ルーデウス・グレイラットが守った一生だろう。

 

「お母さん……ありがとう……」

 微笑で涙を流す娘を見て。

 涙が、少し溢れた。

 

 俺の人生の、最後にして最大の関門が訪れようとしている。

 命は助からぬかもしれない。

 

 救いを求め、救われたと錯覚させられた「魔神」。

 ――ラプラスの復活に、俺はノルンの、そしてルーデウスの遺志を持って、この世界を守ろう。

 

 龍神オルステッドも未だ万全ではない。

 未曾有の出来事に緊迫感は止まない。

 魔神がどこから再誕するかも依然として定かでない。

 

 そして、ルーデウスが死ぬまで謳い続けてきたヒトガミという存在の討伐。

 ルーデウスの悲願に応えてこそ、あの兄妹にはなむけができよう。

 

 ルイシェリアにも与えられるものは十分に託した。

 あの子ならきっと、たくさんの人の役に立てるだろう。

 父として、共にラプラスを討伐せねばなるまい。

 

 そして、ルーデウスの悲願をも叶えた時、俺の役目を果たした時。

 また会おう。またその優しい笑顔で、美味い手料理を振舞ってくれ。

 ……そう言い、ノルンの墓を後にした。

 

 人の寿命は短い。

 自然の摂理だ。

 だからその短い間にできる限りのことをするだけだ。

 ノルンはその短い時間に家族で幸せを分かち合い、分け合った。俺の人生を、その短い間であれ、鮮やかにしてくれた。感謝している

 そんな彼女に出会えて、俺も幸せだっただろう。

 

 左手に担いだ三叉槍には、涙の跡が一つ残っていた。

 ――ノルン。愛している。

 

〈了〉




久々の無職転生二次創作です。
手に取って自分の作品が見れるのはいいですね。


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