忘れ物を取りに行こうとしたら、五つ子に会いました (昂牙)
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第一章【五つ子と家庭教師と謎の少女】
第一話:転校生


主人公紹介

【プロフィール】
名前:南里 久里須(みなざと くりす)
誕生日:4月23日
身長:160cm
体重:54.2kg
趣味:和菓子作り

【容姿】
腰ぐらいの長さの漆黒のロングヘア
ミントグリーンの瞳
普段着はタンクトップのインナーに肩出しの七分袖シャツ
黒のプリーツスカート

【どんな子?】
便利屋を営む養子縁組の両親と共に暮らす少女
誰に対しても丁寧な言葉で話す生真面目な性格だがトゲのある言葉が飛び出す事も

文武両道で容姿も悪くは無い為、クリスナイフが由来である日本人離れした名前ではあるがファンも多いものの彼女は生涯独身を考えているらしく、告白をされてもその悉くをフッている為【孤高の女王】の異名を付けられている(本人は知らない)


教室……かつての自分では考える事も無かったその空間にその少女は座していた

一年の頃は半月程居心地が悪かったものの、今は普通に過ごせている自分の適応力もだいぶ高められているのだな……と考えながら歴史書を開いている

 

彼女の名は南里久里須(みなざとくりす)。こんな名前だがれっきとした日本人だ。そのせいで好奇の眼差しを向けられたが、大和撫子の如き振る舞いから自然とそういったモノは消えていった

 

「南里さんおはよー!」

 

黒板側のドア辺りから聞こえて来た声の方に顔を向ける。クセッ毛のレイヤーボブの女子生徒がコチラに向かってくる。新庄 美咲…………吹奏楽部に所属しており久里須の最初の友人である

 

「その本、ソレ日露戦争の奴だよね?」

「えぇ、そうですよ」

「ホンット本読むの好きだよねぇ」

「好き……というよりもこれくらいしか時間の使い方が思いつかないだけですよ」

 

自分の席につくや否や身体を反転させて他愛のない話をしていると、ふと思い出したかのように話題を切り替えられる

 

「そうそう。今日から転校生が来るって知ってた?」

「転校生?」

 

初耳だった。友人は少ない訳ではないが特段親しくしている訳でもない

遊びに誘われたら行くし、声を掛けられれば返事もする。あくまでも必要最低限の交流してこなかった為、そういった話が合った時も気にも留めていなかったのだ

 

「そうそう、女子らしいよ?しかも五人!」

「…………」

「あれ……?そういうのはあんま興味ない感じ?」

「興味はないといいますか……そうなんですね。としか」

「あーうん。ま~そんくらいの反応しかしないよね南里さんなら」

 

そうこうしているうちにクラス担の教師が入ってくる

ソレを把握するや否やそそくさと自分たちの席に戻ろうとする級友達。久里須も読んでいた本に栞を挟み込み、机の中にしまうとスイッチを切り替える

 

「おーいお前ら席に着け~これから転入生を紹介する」

 

ざわめきを聞き流しながらも入ってくるであろう地点を注視する

件の人物は……

 

「中野二乃です。よろしくお願いします」

 

蝶の意匠が施されたリボンを左右に付けた美少女だった。美少女が自身の姓名を名乗ると刹那、教室のざわめきが一段階上がったような気がした

 

オイ、あの制服って黒薔薇女子の……だよな?

マジで?まじもんのお嬢様じゃん

イヤイヤじゃあなんでウチみたいな所に?

 

所々聞こえて来た言葉を要約すると、彼女は元々お嬢様学校に通っていたらしい。ソレが何らかの事情があってココ、旭高校に転校してきたようだ

 

(なんだか気の強そうな人ですね……)

 

ソレが久里須の第一印象だった

何故かは分からない。だが、自分の第六感がそう告げたのだ

 

「席は……南里の隣だな」

 

目が合う二人。それとなく久里須が微笑みながら会釈をすると、二乃も少し面食らった様子で返礼した

 

―――――――――――――――――――――――

 

授業の後、二人は改めて会話を交わす

 

「えっと、改めまして『南里 久里須』と申します。宜しくお願い致しますね、中野さん」

「二乃で良いわ、ややこしくなるし。しっかしへぇんな名前ね」

「よく言われますね。誰も短剣が由来とは思いませんから」

「短剣?」

 

そんな会話をしている二人を遠目から見ている男子生徒達

 

オイオイオイオイ。ウチのクラスでもトップレベルの女子二人が隣同士かよ

いやぁ~眼福ですなぁ

 

ひそひそ話を聞いて眉を顰める二乃を見て苦笑しながらも釈明する

 

「ねぇ、もしかしてアンタってかなりモテてる?」

「入学当初からこんな感じで……予め彼氏を作るつもりはありません。と釘を刺したのですが……」

「うっそホント?やっぱ清楚系ってモテるのね~……ってちょっと待って、彼氏作らないってどういう事よ?

 

身を乗り出しながら捲し立ててくる二乃の対応をしながら自分の予想が正しかった事を実感する。後、どうも恋バナに興味があるらしい事も解った。まさに今時のJKといった感じだ

 

「私は既に卒業後の進路が決まっているので、この町を出る事が確定しているんですよ。だから告白をされた所で……なんですよね」

「そ、そうなの?あ~……なんか大変ね」

「………もう慣れました」

 

窓の方を見てそうポツリと呟く彼女の反応から二乃はそれ以上追及はしない事にした



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第二話:五つ子との邂逅

第二話です。今回で五つ子と主人公が顔合わせをします

特に書く事とかなくてどうしようかと思ったんですが

前書きでは
キャラクターの設定やこぼれ話。秘密なんかを書いていきたいと思います

久里須の秘密①
モンハンでは狩りピスト(狩猟笛使い)


「あぁーーーーー!ムカツク!ちょっと聞いてよ久里須!」

「おはようございます二乃さん。これはまた随分とお冠のようで」

 

翌日、二乃が登校してくるなり不満たらたらといった様子で話しかけて来るのを手馴れた様子で返す

 

「昨日さ!いきなり家に家庭教師だって言う奴が来てさ!いきなり……」

 

要約するとこうだ

親が家庭教師のバイトを募集していたらしく、昨日その家庭教師が来たらしい。それが気に入らなかった二乃はソイツを強硬手段を用いて追い出したらしい

 

「ハァーーーーーーー……なんでまたそんな事を」

 

左腕と右肘を机に付けて右手で頭を抱えながら溜め息をついて理由を尋ねる

 

「はぁ?そんなのいらないからに決まってるでしょ!?」

 

というのが彼女の釈明だが

 

「なる程…………うん。ちょっと何言ってるか分からない」

 

一刀両断である。なにせ二乃が昨日の小テストで壊滅的な点数を取っていたのを知っているから。しかもその結果を見た時に「げっ」と言っていたのも聞き逃さなかった

 

「あの点数で家庭教師は必要無いというのは流石に無理があるかと……」

「うっ、そ、ソレはそうだけど……」

「コチラに転校して来たのも家庭教師のアルバイトを親御さんが募集したのもソレが理由なのでは?部外者の私が言うのもアレですけれども」

「……………………」

 

コチラを睨みながらも黙り込んでしまった二乃に対して、少し思案した後、こんな提案をする

 

「えっと……差し支えなければ、私が代わりに……」

 

難しい顔をしたままムムムム…………と唸る二乃

正直、勉強をするのは好きでは無い。だが折角友人からの誘いを無下にするのも気が引けるし、このままではマズイ事は自分だって承知している。だから

 

「分かった。そこまで言うなら考えてみる」

「ハイ、構いませんよ(素直じゃないですね……)」

 

―――――――――――――――――――――――

 

昼食時――

久里須は一人屋上でサンドイッチを片手に電話をしていた

 

『へぇ~転校生がねぇ。で、どんな奴なんだ?』

「えぇ……と。負けん気の強そうな人で、なんだかお姉様みたいな人です。それと、その方と席が隣同士になって」

『そうか。コレを機会に仲良くなるのも良いかも知れんな』

「……ですね」

 

暫しの沈黙の後

 

「…………お養父さん」

『ん?』

「私の我儘を聞いてくれて、本当に有り難う御座います」

 

電話口の相手……彼女の養父に礼を告げる。高校に通いたいと申し出たのは彼女のわがままから来たものだった。ソレを彼女の養父は快く受け入れ、中卒認定を取得させた後この旭高校に入学した……というのが経緯である

 

『気にすんな。俺とお前さんの仲だ』

「フフッ……っ!じゃあ切りますね」

『おう』

 

ふと背後から人が来る気配を感じた彼女は早々に電話を切り上げる。入って来たのは

 

「ん?お前は……」

「上杉さんでしたか。こんにちは」

「お、おう」

 

上杉風太郎。学年トップの秀才、しかし人付き合いに難ありという勉強だけに全てを奉げて来た勉強馬鹿である

おまけに鋭い三白眼のせいで目つきも悪いのもあって学徒達からの評判はあまり良くない

そんな彼であってもいつものように頭を下げて挨拶をする。こればかりは完全に癖になってしまっているし、逆に良い印象を与られるのもあって直すつもりもない

 

「もしかして誰かと待ち合わせ……ですか?」

「あ、あぁ。そんな所だ、で~……えっと」

「……お気に入りの場所なんですよ。ココが学校で一番空に近い場所なので」

 

バツの悪そうな彼が何が言いたいのかを汲み取り、先手を打つ。それを聞いた風太郎は、そうなのか。と返す

 

(あんま喋った事はねぇけど、コイツそんな一面があったのか)

 

風太郎自身は久里須の名前だけは知っていた。国語と英語は全て満点、加えて珍しい名前なのもあって気にとめていた程度ではあったが

 

「あっ、すみません。お邪魔になりそうなので失礼しますね」

 

そう言い残してそそくさと立ち去る久里須

そして手すりや壁、踊り場を使ってパルクールで軽快に下の階へ降りて行く。その途中で誰かとすれ違った

 

「ひゃっ……」

「っと、すみません!」

 

意図せず、コレが久里須にとっての中野5姉妹の二人目との邂逅だった

 

――――――――――――――――

 

「で~ココなんだけどさ……」

「えっと、コレはココに公式を当て嵌めて……」

 

昨日の約束通り、久里須は二乃に勉強を教えていた

教えるのにだいぶ苦労してはいるものの根気よく彼女に付き合い、彼女にも解りやすいようにかみ砕いて説明する

一度言い出した手前、投げ出すのが許せないのは養父譲りだ

 

「あ、そうだ。これから時間ある?」

 

昼休み、二乃が唐突にこう切り出した。おおかた姉妹に自分を紹介してくれるのだろうか?と思いながらも久里須はその提案を快諾して二乃と共に食堂に向かった

 

注文した物をお盆に乗せて二人で席を探していると、それらしき団体を見つけて小走り気味に近寄っていく二乃。そんな彼女をヤレヤレと思いながらも後ろにつく久里須

 

「おや〜?二乃、もしかして前に話してたお節介女子ってこの子?」

「一花、失礼」

「お気になさらず。いつもの事ですので」

 

一花と呼ばれた女子のからかうような物言いに首にヘッドフォンを掛けた女子が窘めるもまたか……と思いながらお決まりの言葉を口にする

 

「改めまして、南里久里須と申します。二乃さんとは同じクラスで皆さんは五つ子と伺っていたのですが、本当に似てますね」

「あははっ、そんなかしこまらなくっても良いよ。あ、私は中野一花。よろしくね」

「ハーイ!中野四葉ですっ!」

「中野五月です。よろしくお願いしますね、南里さん」

「中野三玖…………昨日見かけた」

「昨日…………?あっ!」

 

言われて思い出した。一瞬過ぎて顔は見えなかったが確かに誰かとすれ違った事があった。まさかそれが三玖だったとは

 

「す、すみませんでした!昨日は驚かせてしまって……怪我はしませんでしたか?」

「大丈夫……少しびっくりしたけど」

「ちょっと三玖に何したの?いくら久里須でもことによっては……」

 

睨みつける二乃に慌てて箸を置くなり早口気味に異論をたてる

 

「イヤイヤイヤイヤ、パルクールをしていた時に鉢合わせただけですって」

「パルクール?聞いた事が無いですね……」

「パルクールは移動に重点を置いたスポーツの事で、どんな環境でも自由に、かつ手早く動けるような身のこなしを得る事を目的として居るんです。同時にパフォーマンスにも向いているので密かに人気なんですよ」

「そういうのもあるんですね!なんか興味わいてきました!」

 

フンスッみたいなドヤ顔をしながら両手でガッツポーズをするうさ耳のようなカチューシャの女子(四葉)

 

「ふ~ん、君の噂は色々聞いてたけど意外とアグレッシブだねぇ『孤高の女王』さん♪」

「はい!?」

「ブフッ!ほら私の転校初日に言ってたアレよ、彼氏を作るつもりはありません~って言った奴」

「えぇ!?私裏でそんなあだ名付けられてたんですか?ハァーーーーーーー……」

 

右手で頭を抱えて項垂れる。自分が勉強を教えられている時も何度か見た事があるため、多分癖なんだろうなぁ、等と思う二乃

 

その様子にアホ毛の目立つ星の髪留めの女子(五月)がその事について掘り下げを試みる

 

「南里さんはなぜ彼氏を作りません!って言ったんですか?」

「家の事情……とか?」

「そうですね。家が流れの便利屋をしていまして、この高校の合格が決まったのもあってこの街に」

 

自分の話ばかりするのも悪いと思い、二乃から聞いた事について聞いてみる

 

「あっ、そうだ。不躾は承知の上でお聞きしますけど、家庭教師の方はどうですか?調子は」

「イヤ〜あんまり…………」

「頑張ってるけど難しい……」

「やる気だけはあります!」

「あんな人から教わる事は何もありません」

「あっ…………」

 

それぞれ一花、三玖、四葉、五月の発言で察した。どうやら予想以上に難儀な事になっているようだ

そうこうしているうちに昼食を食べ終えた久里須は五人に別れを告げてお盆を下げに行った

 

「あの子なんか面白い子だね」

その後ろ姿を見ながら一花が姉妹達に話題を振る

 

「優しい子なのは分かる」と三玖

 

「南里さんみたいな人が家庭教師なら了承してました」と五月

 

「うん、私ももうちょっと可愛げのある五月って感じ。って印象」

「ちょっ、ソレはどういう事ですか!」

二乃に噛みつく五月

 

(仲良しですね……)

 

五つ子の談笑にそんな感想を思いながら静かに教室へ戻るのだった




電話口だけでの登場でしたが主人公の父親が登場しました

ネタバラシすると
本格的に出てくるのは花火大会の回です


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第三話:花火大会と便利屋①

久里須の秘密2
カラオケでよく歌うジャンルはユーロビート


日曜日の朝、久里須は自室でベッドに腰掛けながらスマホを弄っていた

金曜日に二乃と電話番号とLI〇Eを交換し、今朝届いたチャットに返信をしている所だ

 

二【今日の花火大会一緒に見に行かない?】

 

ク【すみません!】

 【今日は両親が設営のお手伝いの依頼を受ける筈だったんですが】

【父が不在なので私が応援に行く事になってしまって(>_<;)】

 

二【あ~そっか。便利屋だったもんね】

 【忘れてたわ】

 

ク【申し訳ありません、折角お誘いいただいたのに】

 

二【いいっていいって】

 【残念だけど仕事ならしょうがないわ】

 

久里須はスマホの画面を消してベッドから立ち上がり自室にある仕事着に着替えながら一階に降りてそのまま外に出る

 

(確か現地集合だった筈ですよね……)

 

そう思いながら久里須は出発するのだった

 

―夜も更けて……―

 

「イヤ~悪いねクリスちゃん。お店の方手伝って貰っちゃって」

「いえいえ、お気になさらず。コレも仕事ですので」

 

タコ焼きの屋台で店の手伝いをしている久里須。慣れた手つきで調理を進めていく

 

「はいどうぞ!」

 

「300円になります。はい、ありがとうございました!」

「イヤーやっぱ美人さんがやってくれると映えるねぇ」

黒ロングの髪をポニテに纏めて接客をする様に店主のおっちゃんが茶々を入れる

 

「か、からかわないで下さいよ!」

「おっと、そうだ。コレ食べちゃって良いよ。まかないって事でさ」

 

そう言って店主が取り出したのは一セット分のタコ焼き

まだそれほど時間も経っていないのか湯気が立ち上っている

 

「え、良いんですか!?頂きます」

 

お礼を言って後ろの方に下がって食べ始める

数分後、後ろから賑やかな声が聞こえて来た

 

(団体のお客さんですかね?)

「お姉さんかわいいからオマケしちゃう!」

(調子の良い事を……)

 

すっと客側の方を見ると……

 

「あれ?南里さん?」

ッ!?あっっっつ!?ゴホッガヘッ!」

 

……中野一花と中野五月

思いっきり知っている顔に出くわして驚いてしまい、むせてしまった。オマケに熱々のタコ焼きが喉にダイレクトアタックして悶絶する

 

「だ、大丈夫ですか?」

「わぁお一気に」

「ハァ……ハァ……すみません、お見苦しい所を……」

 

未開封の500mlペットボトルの水を一気に流し込んでいると遠くから急かすような声が聞こえて来た

 

「そうでした。急がないと……ほら、行きますよ」

「分かったから……じゃーねクリスちゃん」

「はい。お気をつけて!…………二乃さん、なんかヤケに張り切ってるみたいですね……」

 

離れていく6人を見送った後、そう呟いた。一握の淋しさを感じながら

 

「あの子達は知り合い?」

「クラスメイトの姉妹さん達です。五つ子なんですよ、彼女達は」

「五つ子!?ありゃーそりゃ申し訳無い事しちゃったね」

「ホントですよ」

「あっ、そうだ。店の事は良いから友達と花火見に行きなよ」

「え?」

 

そんな事を言われるとは思ってもいなかった久里須は驚いた表情で店主の方を見る

 

「せっかくの祭りなんだし楽しまなきゃ損でしょ」

「そういう事でしたら……」

 

とりあえずその好意に甘える事にして、彼女達を追いかける

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

(まだ遠くには行っていない筈ですが……)

 

コレだけの人混みの中だ。そこまで大きくは動けない筈だ

 

『大変長らくお待たせ致しました。まもなく開始いたします』

 

花火大会開始のアナウンスを皮切りに一気に人々が動き出す。それはもう波の如き様相で

 

「わっとっと……うわぁ凄い勢い……っ!?もしや…………!」

 

嫌な予感が脳裏を過ぎり、足早に進もうとするが思うようにいかない

四苦八苦していると視界の端に鮮やかな光が映ると同時に『ドーン』という轟音が響いた

 

(確か花火が上がっている時間は一時間程だった筈……もしさっきの大移動ではぐれてしまっているなら……)

 

「いた……!」

 

人形焼きの屋台の前でスマホを片手に不安そうな表情の五月を見つけた

 

(あれ?名前はなんでしたっけ……いや、それは後っ!)

「中野さん!」

「南里さん!?お仕事の方は良いんですか!?」

「店の方は良いから花火を……って今はそれ所じゃないですよね!?」

 

事情を聴くと予想通り皆とはぐれてしまったらしい。加えて集合場所も分からないという

 

「分かりました。行きましょう」

「え?」

「ひとまず他の皆さんと合流しなくては。っといっても……」

「…………なぜ」

「はい?」

 

五月の手を掴んで人混みの中を進む久里須に疑問を投げかける

 

「なぜそこまで気を掛けてくれるんですか?私達、まだ数回しか話をした事が無いじゃないですか」

「なんだ。そんな事ですか」

「そんな事って……!」

 

文句を言う五月を尻目に歩みを緩めながら立ち止まり、彼女の方に向き直って更に続ける

 

「『例えはねのけられても良い、まずは手を差し伸べる事から始めろ』私が養父(ちち)の仕事を手伝うと決めた時にそう言われたんです。私の信条でもありますね」

「信条……」

「五月さん達にとっては余計なお世話かも知れませんし、私の自己満足である事も承知しています。でも……それでも手伝わせて下さい」

 

久里須のどこまでも真っ直ぐな言葉に思わず破顔してしまう五月。そんな二人に声を掛ける人物が

 

「五月」

「っ!…………なんだ、あなたですか……」

「残念さを少しは隠しなさい」

 

相手が風太郎と分かった瞬間一気に白ける五月とそれにツッコミを入れる当人

 

「そうだ上杉さん、他の皆さんの居場所はご存じですか?」

「南里……お前が五月を捕まえててくれたのか」

「捕っ……!」

「まぁ兎に角コレで行方不明なのは一花だけか。脇道に三玖が休んでる、四葉とらいはは時計台にいる」

「わかりました」

了解(ヤー)

((?))

 

唐突なドイツ語―である事を二人は知らない―に疑問符を浮かべる二人

 

しばらく歩いていると風太郎が口を開いた

 

「……なぁ、一つ聞いていいか?俺達ってどういう関係?」

 

「なんですかその気味の悪い質問……」

 

「……………………」

 

しばしの沈黙。久里須は気を抜かずに周囲に目を光らせているが

 

「そうですね……百歩譲って赤の他人でしょうか」

 

「百歩譲っても!?」

 

「アハハハッ…………」

 

「イヤ笑い事じゃねぇよ!」

 

「すみません。仲が良いなと思いまして」

「「誰がコイツと/この人と!」」

 

そういう所なんですが……と思いながらも前から五月、久里須、風太郎の順で並んで歩いていく

 

「それに、私に聞かずともあなたはその答えを既に持ってるじゃないですか」

 

「え?なんだそれ」

 

「それにしても、一花さんは何処に行ったのでしょう…………ッ!あっ、そうだ。此処の花火大会、去年もやっていましたけれど五月さん達も見に行ったんですか?」

 

「はい、お母さんとの思い出なので」

 

「お母様との?」

 

足を止めた久里須の横に立ち、花火を仰ぎながら切り出す

 

「お母さんが花火が好きで、毎年揃って見に行ってたんです。お母さんがいなくなってからも、姉妹揃って」

 

「……亡くなられたんですね」

 

「はい……五年前に」

 

成る程、それならば二乃があれだけ張り切っているのも納得が行く

そう考えていると五月がハッとしたように後ろを振り返る

 

「どうしました?」

 

「上杉君がいません!」

 

慌てている五月をよそに久里須は別のことを考えるのだった

 

(一花さん、貴女は……)




この作品では初めての長編になりますね。予定としては後2話ほど続く予定です

口には出していませんが主人公は一花が風太郎を引っ張って行った事に気づいています
ちょくちょく意味深な表現が出て来ます。はい


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第四話:花火大会と便利屋②

久里須の秘密③
好きなおにぎりの具は鯖


「コレは……」

 

久里須と五月はブロック塀の上に置かれているお面とヘッドフォンを前に立ち尽くしていた。五月はそのヘッドフォンに見覚えがあった

 

「このヘッドフォンは三玖の物です」

 

「えぇ!?じゃあ一体何処に……」

 

「一先ず時計台に行きましょう。四葉とらいはちゃんがいる筈です」

 

「五月さん!」

 

五月は三玖が残した持ち物を持って走り出すのを向かおうとしている方角とは違う場所を指差して引き留める

 

「時計台はこっちです!」

 

ム~…………///

(かわいい……)

 

自分の方向音痴っぷりが恥ずかしくて顔を真っ赤にして肩を震わせながら久里須の所に戻る五月であった

 

―――――――――――――――――――――――――

 

とりあえず時計台に向かった二人は四葉と風太郎の妹、上杉らいはと合流した

 

「五月!南里さん!」

 

「すみません……色々あって時間が掛かってしまいました」

 

「ふぅ〜ひとまずは三人……イヤ、二乃さんも加えて四人ですね」

 

「皆どこに行っちゃったんだろう……」

 

どうしたもんかと悩んでいると久里須の携帯が鳴る

 

「もしもし?」

 

『久里須!私だけど、今何処にいるの!?』

 

電話の相手は二乃だった。やけに焦った様子だ

 

「今ですか?今四葉さんとらいはさん、五月さんと時計台に居ます」

 

『そう。分かった……そっちに行くから三人に伝えて』

 

「えっ……」

 

それだけを告げられて電話を切られた

 

「誰からですか?」

 

「二乃さんです……今からコチラに向かうとの事です」

 

「えっ、ソレって……」

 

コッチに来る。それはつまり姉妹全員で花火を見る事を諦めたも同然という事

彼女だってソレは不本意であろうにその選択をした理由は分からない

 

重苦しい空気の中久里須の携帯に再び着信が入る。が、先程とは違う着信音だ

 

『よぉクリス』

 

「お養父さん!依頼はもう?」

 

その声を聞くや否や久里須は一気に晴れやかな表情になった

 

「えっと、南里さんのお父さんから?」

 

「そのようですね」

 

楽しそうに話をしている様子を見ながら話をしている四葉と五月。の隣で久里須とは対照的にしょんぼりしているらいは

 

「花火……みんなで見たかったな…………」

 

「らいはちゃん……」

 

名残惜しそうに呟くらいはを前になんと声を掛ければいいか分からない五月。対して四葉は彼女が持っている物に視線を向けている。ソレは四葉が彼女の為に買った花火セットである

 

「あっ!良い事を思い付きました!」

 

妙案を思い付いたらしい四葉と同時に久里須が三人の方に向き直り頭を下げる

 

「すみません。ちょっとお養父さんを迎えに行ってきます」

 

「南里さん!上杉さんにあったら伝えてほしい事があります!」

 

頭に疑問符を浮かべる三人をよそに「ししし」と笑うのであった

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

(そういや今日は花火の日だったか……)

 

ぼんやりと次々と打ちあがる花火を横目で見ながらそんな事を考えながら愛車を運転する男が一人

切れ長の藍色の眼、Tシャツとズボンにスーツの上着という出で立ちでその全てが黒に統一されており、左腰にはこれまた黒のインサイドホルスターと、その中にオートマグⅢが装着されている

 

「ん……?」

 

ふと前方に何やら人影が見え、その前方50メートルの所で停車させて現場に向かう

どうやら二人の男性と一人の女性が揉めているらしい。その後ろからもう一人女性が走って来た

 

「君は……なんだ君は!君はこの子のなんなんだ!?」

 

「俺は……俺はこいつの…………こいつらのパートナーだ。返してもらいたい」

 

七三分けのちょび髭の親父と後ろに髪を纏めた少女の手を掴んでいる頭頂部に二つのハネッ毛がある少年……そしてショートヘアの少女。この四人が当事者のようだ

事情は知らないが、カッコいい事を言っている少年に慌てているちょび髭親父

 

(ん……?あのおっさんどっかで見た事があるな?)

 

「な、何を訳のわからない事を!」

 

「よく見てくれ!こいつは一花じゃない!」

 

「あ、あの……」

 

「その顔は見間違いようがない!さあ早く……うちの大切な若手女優から手を放しなさい!」

 

(あぁ、思い出した。このおっさん織田芸能プロダクションの社長じゃねぇか)

 

男は合点がいったように頷いた。以前依頼を受けた時に彼の事務所の俳優と共演して顔合わせをした事があったのを思い出した

そんな男とは対照的に

 

「わかて……じょゆう……え?カメラで撮る仕事って……そっち?」

 

顔を真っ赤にしているショートの女子の方を振り向く少年

っというかこのままでは埒が明かないのでそろそろ行動に移さなければならない

男は止めていた足を一行の所へ向けて口を開いた

 

「全く、町に戻って早々揉め事に遭遇するとは……トラブル体質も考えもんだなぁこりゃ」

 

突然の闖入者に顔を向ける四人を意に介さずに男は煙管を燻らせるのだった

 

「全くなんなんだ今日は……なぜこうも次から次へと」

 

「つーか揉めるなら場所を変えてくれねぇか?通れねぇんだが」

 

後ろにある自分の車を親指で差すと、声を掛けた理由を察した四人はペコペコと頭を下げて謝罪する

 

「あぁーすいません!すぐ退きますので……」

 

「すんません」

 

「「ごめんなさい」」

 

「ん…………?」

 

一旦歩道に移動した一行

少女達を見て違和感を感じた男はじぃっと二人の顔を見つめる

 

「お前さん達、もしやとは思うが『中野』か?五つ子の『中野』姉妹」

 

「は?五つ子?」

 

「…………アンタ、一花と三玖を知ってるのか?」

 

「イヤ、私は初対面だけど?」

 

「私も……」

 

「知らねぇのも無理はねぇ。俺も養子(むすめ)経由で知ったクチだからな」

 

怪訝な顔をする二人だったがハッとしたような様子で織田は一花の方に歩み寄る

 

「おっと、こうしちゃいられない。行こう一花ちゃん」

 

「待てって!」

 

「止めないでくれ。人違いをしてしまったのは本当にすまなかったね。でも、一花ちゃんはこれから大事なオーディションがあるんだ」

 

「そんな急な話があるか!こっちの約束の方が先だ。一花、花火いいのかよ?」

 

そういう少年の問いかけに一花と呼ばれた少女は

 

「皆によろしくね」

 

一切振り向かずに笑顔のままそう言った

 

「一花ちゃん急ごう。会場は近い、車でなら間に合う」

 

「あいつ……」

 

「フータロー……」

 

悔しそうに歯ぎしりをする少年に三玖と呼ばれた少女が話しかける

 

「足……これ以上無理っぽい。一花をお願い」

 

「だが、ココでお前を一人にする訳には……っ!そうだ!おい、アンタ」

 

フータローと呼ばれた少年はスーツの男に向かって提案をする

 

「アンタの車で三玖を送っちゃくれねぇか?場所は……」

 

「ん~その必要はたった今無くなったわ」

 

反対側の歩道に目線を向けたまま煙管をペン回しのようにクルクルと回しながらそう告げる男

それを裏付けるように

 

「お養父(とう)さん!」

 

「おー」

 

コチラの方に駆け寄ってくるクリスに空いている左腕を上げて挨拶をする男を見て二人は呆気にとられる

 

「お……」

「「お父さん!?」」




此処でクリスの父親が登場しました
ちなみに彼はモーションアクターの仕事帰りに風太郎達に遭遇しました


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第五話:花火大会と便利屋③

久里須の秘密4

好きな料理はエビフライ


花火大会も終わりに近づいたからか人々もまばらになっている中、シュウは生垣の裏にしゃがみ込んで風太郎の様子を窺う

 

「一花!」

 

「……っ!?」

 

階段の上から声を張り上げる風太郎に反応した一花が彼を見上げる

 

「髭のオッサンはどうした?」

 

「車を取りに行ってるとこ」

 

「……本当に戻る気はないんだな?」

 

「…………」

 

片膝をついて二人の会話に耳をすませている

 

「フータロー君、もう一度聞くね?なんでただの家庭教師の君がそこまでお節介焼いてくれるの?」

 

「俺とお前が協力関係にあるパートナーだからだ」

 

ハッキリと言い切る風太郎に口元が緩むシュウ。ソレは恐らく一花も同様だろう

そしてポツポツと経緯を語りだした

 

半年前に織田からスカウトされた一花は時々名無しの役を回されていたらしい

そして先程、それなりの知名度を持つ映画の代役のオーディションの話が舞い込んで来たらしい

 

「そうだ!折角だから練習相手になってよ。相手役がフータロー君ね」

 

「こ、断る」

 

「協力関係でしょ?」

 

「ぐっ……」

 

階段を降りた風太郎を追って屈んだまま飛び込み前転をしてもう少し近くに迫る

真下からちょうど見えない位置に陣取り、匍匐姿勢で聞き耳を立てる

どうやら練習をする流れになったようで台本を読み上げる風太郎。内容から察するに学園物のラストシーンのようだ

 

「あなたが先生でよかった。あなたの生徒でよかった」

 

「…………」

 

「あれ?もしかして私の演技力にジーンときちゃった?」

 

黙りこくる風太郎を茶化すような事を言う一花だったが

 

「あなたが先生でよかったなんてお前の口から聞けるとは……」

 

「あっ、そっちですか」

 

スニーキング中でなければズッコケていたなと思うシュウ

 

そうこうしているうちに織田の車が来たようで一花はいよいよ出発するらしい……が

 

パンッ

 

「ほえ?」

 

軽い叩くような音と気の抜けた一花の声

 

「その作り笑いをやめろ」

 

「ハハハ……え?」

 

「お前は何時も大事な所で笑って本心を隠す。ムカッと来るぜ」

 

すると今度は風太郎が自分の身の上話を語りだした

借金持ちでその返済の為に家庭教師をしているようだが、何の成果を得られないまま金を貰うのは忍びない。だからその分の義理を果たしたい。との事

 

それにつられるように今度は一花が己の本心をさらけ出す

 

「この仕事を始めてやっと長女して胸を張れるようになれると思ったの」

 

「…………」

 

「一人前になるまであの子達には言わないって決めてたから、花火の約束あるのに最後まで言えずに黙ってきちゃった。コレでオーディション落ちたら……皆に会わせる顔が無いよ」

 

そう呟く一花達の頭上で数々の花火が立て続けに打ちあがる

どうやらコレが〆のようだ

 

「……もう花火大会終わっちゃうね」

 

そう呟く一花の心境をシュウは理解していた

何かを得る為には何かを捨てる必要がある。ソレを身をもって知っているが故に

 

「それにしてもまさか君が私の細かな違いに気が付くなんて思わなかったよ。お姉さんビックリだ」

 

「俺がそんな敏感な男に見えるか?」

 

「自覚はあるんだ」

 

(自覚あるんか~い)

 

「お前の些細な違いなんて気づくはずもない。ただあいつ等と違う笑顔だと思っただけだ」

 

そんな言葉をかけた後、再度軽口の叩き合いを始める二人

 

(これなら大丈夫だな)

 

「一花ちゃん早く乗って!」

 

「は、はーい」

 

「…………まぁ、謝る時は付き合ってやるよ。パートナーだからな」

 

バタンッと扉が閉まる音がしてエンジンの音が遠ざかる

それなりに小さくなったのを見計らって立ち上がり、風太郎のいる所に飛び降りる

 

「シッ……!」(スタッ

 

「うっお!ビックリした~南里の親父さんかよ……」

 

「カハハハッ、悪い悪い…………追うか?」

 

突然の提案に「聞いてたんスか……」と苦笑する風太郎だが

 

「すんません。頼みます」

 

真っ直ぐに見据えてそう告げた

 

――――――――――――――――

 

オーディション会場前

「そういや、娘さんはなんて?」

 

「ん?あぁ、お前さんに伝言があるとさ『近場の公園で待ってる』。だとよ」

 

「へぇ……」

 

シュウの運転でオーディション会場であるビルの前に来た男二人は終わるまで世間話を始めた

話題は風太郎が一花を追いかけに行った時に久里須が事情を説明し、シュウに風太郎と一花の送迎と伝言を任せて三玖を約束の場所へ連れて行った事についてだ

 

「しっかしアレだな。お前さんも苦労してんのな……あっ、そうだ。俺とクリスはさ、実は血が繋がってねぇんだわ。いわゆる養子って奴だわな」

 

「えっ……?」

 

「俺と嫁の間にゃ子供が出来なくてな。それで迎え入れたのがアイツなんさ」

 

「俺と歳近いですよね?」

 

「美魔女っていう言葉があるだろ?ソレと似たようなもんよ」

 

再びカハハハッと笑うシュウに風太郎は自分の父親と似たようなモノを感じた

主に喋り方というか気さくさというかそういう所が

 

「で~……後はアレだ。クリスの奴は学校で上手くやれてるか?」

 

そう聞かれてバツの悪い顔をして頭をかく風太郎

 

「あ~……あんま話した事は無いですけど、結構噂は聞きます」

 

「噂?どっち方面の?」

 

「聞いた限り悪い方では無かったようなそうでないような……」

 

「そーかい。あんま話した事ねぇならしゃーないか」

 

時間を潰していると一花と織田が出て来た

 

「おっ」

 

「うわっ」

 

「ん?」

 

「手ごたえはどうだ、ミスター織田?」

 

各々別の反応をするなか真っ先に要件を告げるシュウ。仕事をしている成人男性同士だからこそ出来る軽い口調で出来を窺う

 

「うーん……どうでしょう」

 

見た目は自分達と変わらない年齢だがオーラが違うのを感じ取った一花は丁寧な口調で微妙な反応をする

 

「どうも何も最高の演技でしたよ。私は間違いなく通ったと思いますよ。それにしてもまさか貴方だったとはねぇ……その節はどうも」

 

「イヤイヤ。俺は俺の仕事を、お前さんはお前さんの仕事をしただけだ。たまたま同じ枠に入っただけさね」

 

「…………?」

 

ポカンとした顔をしている一花に風太郎が補足に入る

 

「この人南里の養父(おやじ)さんなんだ。で、お前の所の事務所……だっけ?そこの人と一緒に仕事をした事があるらしい」

 

ソレを聞いた一花は酷く驚いてシュウを見る

 

「えぇ!?同い年に見えるけど!?」

 

「おっとそうだ。ミスター、彼女を借りていいか?彼女の身内が待っているんでね」

 

「あーいえいえ!お気になさらず!では私はコレで」

 

車を出して事務所へと戻っていく織田社長を見送った三人は再びシュウが運転する車に乗り込み、皆の待つ公園に向かうのだった

ちなみに

 

「えっ、これフェ〇ーリ!?」

 

「そうよ~宝くじ当たって買った奴でね」

 

「……………………(チーン」

 

外車だとは知っていた風太郎だったが、二回目で一花と一緒に乗る時に有名なブランドの品と知って白目を向いていたのは余談である

 

――――――――――――――

 

「あいつらが待ってる」

 

「待ってるって……皆まだ会場にいるの?」

 

「イヤ、この近くの公園だ。二乃もついている筈だ」

 

車から降りて目的地の公園に向かっている最中に会話をする二人

皆祭りに行っていたからか住宅地であるが部屋の灯りは一つも点いておらず、所々にある街灯だけが鈍く光っている

 

「皆怒ってるよね……花火を見られなかった事謝らなくちゃ」

 

「まっ、そうだな。だが……花火を諦めるにはまだ早いんじゃないか?」

 

「ッ!?」

 

驚愕する一花の目に映ったのは手持ち花火をしている4人の様子だった

 

「あ!一花に上杉さん!我慢できずにおっ始めちゃいました」

 

あの時四葉がらいはに買ってあげた花火である。それがこんな形で役に立つとはあの時風太郎は思ってもいなかった。大手柄だ

ちなみに当のらいはは疲れて寝てしまっており、その彼女を久里須が膝枕をしている

 

「ちょっとキミ!久里須から聞いたわよ!散々うろつき回って手間かけさせたらしいじゃない!」

 

風太郎に気づいた二乃がいかにもといった様子で詰め寄ってくる

 

「あ~ソレは悪い。色々あってな……」

 

「アンタに一言言わなきゃ気が済まないわ!お!つ!か!れ!」

 

「ブフォッ!(見事なツンデレ……!)」

 

「ハイそこ!笑わないの!」

 

鮮やかなツンデレ振りに思わず噴き出した久里須にすかさず指差し込みでツッコミを入れる二乃

対して五月は一花に一緒に花火をしようと誘う

さて本格的に始めようという流れになった矢先。一花が謝罪をする

 

「みんなゴメン!私の勝手でこんな事になっちゃって……本当にごめんね」

 

「一花、そんなに謝らなくても」

 

「全くよ、なんで連絡くれなかったのよ。今回の原因の一端はアンタにあるわ。後、目的地を伝え忘れてた私も悪い」

 

「っ……!」

 

「私は自分の方向音痴に嫌気がさしました」

 

「私も……今回は失敗ばかり」

 

「よく分かりませんが、私も悪かったという事で!屋台ばかり見てしまったので」

 

「みんな……」

 

一しきり謝罪合戦が終わった所で改めて五人揃っての花火大会が始まる

 

「お母さんがよく言ってましたね。誰かの失敗は五人で乗り越える事。誰かの幸せは五人で分かち合う事。喜びも、悲しみも、怒りも、慈しみも、私たち全員で、五等分ですから」

 

(皆で分かち合う……か……)

 

五月の言葉に思う事があるのからいはの頭を撫でながら微笑ましい様子で眺める久里須

そんな様子に気づいたのか四葉が花火に誘う

 

「南里さんも一緒にやりましょうよ!」

 

「いえ、私はらいはさんを見ているのでお構いなく」

 

「イヤ、待てよ?あいつらは五人全員で花火をしている。らいはは満足して寝てるし、俺帰っても良いんじゃねぇか?」

 

こんな時でもそんな事を呟いている勉強馬鹿の風太郎だったが横から静かに声を掛けられる

 

「上杉さん」

 

「ん?」

 

「見て下さい」

 

久里須が指差したのは花火を無邪気に楽しんでいる五つ子達

 

「…………そうだな。もう少しだけ付き合うか」

 

彼女の意図に気づいたのか花火が尽きる最後まで花火を楽しむ五つ子を久里須と共に見つめるのであった

 

―――――――――――――――――――――――――

 

後の祭りとなった所で一花が風太郎に礼を言うために座っているベンチに近寄っていく

 

「まだお礼言ってなかったね。応援して貰った分、私も君に協力しなくちゃ。パートナーだもんね、私は一筋縄じゃ行かないから覚悟しててよ?」

 

「………………」

 

反応が無い。ソレもそのはず

 

「Zzzz……」

 

この男、目を開けたまま寝ていたのである

 

「……もう!」

 

等と言いながらその顔は晴れやかであり、そっと風太郎に膝枕をしてやる一花

 

「頑張ったね……ありがとう。あっ、そうだ。もう一人にもお礼言わないと」

 

苦笑いしながらそのもう一人の功労者を労う

 

「クリスちゃんもありがとう。二乃から来たよ?五月ちゃんの事とか色々走り回ってたって」

 

「私がしたかったからしただけですよ。特別な事はしていません」

 

「え~?サラッとそんな事言っちゃうんだ?」

 

首だけを久里須に向けて笑いかける

今二人は上杉兄妹を仲良く膝枕をしている状況である

今一度五月に語った己の信条を語ると一花はそっか。と相槌を打つ

 

「えらいね~クリスちゃんは。同い年なのに、私よりずぅっとお姉ちゃんっぽいや」

 

「おだてないで下さいよ。私は経験も浅いですし、養父母(両親)のように沢山の技能を持ってる訳でもありません。まだまだ勉強していかなくては」

 

「イヤイヤホントに立派だよ。中々自分からそういう事言えないよ~?うん」

 

褒めちぎる一花に顔を赤くして照れてしまう

 

「じゃあさ、お互い頑張んないとね」

 

「はい!勇往邁進していきましょう」

 

夜の公園で、二人の少女が互いの望みの為に頑張る事を誓い合うのであった




【プロフィール】
名前:シュウ・ガーランド
誕生日:10月17日
身長:178cm
体重:75.2kg
趣味:ゲーム

【どんな人?】
便利屋、『Spinnengewebe(シュピネンゲヴェーベ)』の店主であり久里須の養父。店名はドイツ語で蜘蛛の巣を意味する
眼光のせいで誤解されがちだが実際は気さくで面倒見のいいことに加えて多数の資格を所有している
常人離れの身体能力を有しており、かつて軍属だった疑惑があがっている


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第六話:交流とメアド交換

久里須の秘密⑤
座右の銘は『万里一空』


旭高校には図書室とは別に図書館棟が存在する

久里須はのんびりといつも座っている席に着いて読書をしていた

 

屋上がお気に入りの場所である彼女だが、図書館もまたお気に入りの場所でもある。本は知識を得るのに最も手軽な手段の一つだ。ましてや図書館はジャンルを問わず様々な本が置いてある為、ソレを利用しない手はない

 

ふと、背後から誰かが近づいてくるのを感じて振り返る

 

「三玖さん?」

 

気配の主は三玖だった。幾つかの本を持っており、よく見ると歴史系の本だとわかる

 

「歴史のお話……好きなんですか?」

「ッ!?えっ、えっと…………」

「実は私もなんですよ。ほら」

 

そう言って三玖に自分が読んでいる本の表紙を見せる。その本はかの大戦のスラバヤにてイギリス海軍兵400人余りの救助を命じた駆逐艦『雷』艦長の伝記であった

 

「そんな凄い人がいたんだ」

 

久里須から聞いたその人物が成した事の詳細を三玖は感銘を受けた様子で聞いていた

 

「はい。この話を知った時は本当に感動してしまって……三玖さんは何を?」

「わ、私!?」

 

逃げ道を塞がれた事に気づいてビクッと身体を震わせる三玖だったが観念して自分の話をする

 

「えっと……笑わない?」

「当然」

「…………好きなんだ。戦国武将」

「……そうですか」

 

思っていたよりも普通の内容で薄い反応が出てしまう

 

「それ、隠す必要あります?」

「だって、クラスの皆が好きなのはイケメン俳優に美人なモデル。それに比べて私は髭のおじさん……でもね」

「でも?」

「フータローが背中を押してくれたんだ。こんな私でも出来るんじゃないかって」

 

何があったのかは久里須には分からない。だが、彼が確実に彼女の()()を変えた事だけは理解出来た

 

「それにしても意外でした。上杉さんは存外気遣いが出来ないって訳でも……って、失言ですねコレ」

「私もちょっと思った」

 

アハハハと頭を掻きながら苦笑いすると三玖もフフフッと笑いながらそれに同意する

 

二人のやり取りは風太郎、一花、四葉が来た事でお開きとなり、三人は勉強会を始め、久里須は読書の続きを始める

 

風太郎の横に三玖、対面で四葉と一花、彼に背を向ける様に久里須が座っている構図だ

本来風太郎達は勉強会の予定だったのだが

 

「アドレス交換!大賛成です!その前にコレ終わらせちゃいますね」

「…………一応聞くが何やってんだ?」

「千羽鶴です!友達の友達が入院したらしくて!」

「勉強しろぉぉぉぉぉ!!」

 

四葉の安定のお人よしが発動し、一向に進んでいなかった。おまけに教員にクラスの面々に配るノートも頼まれたものだから風太郎のイライラはさらに増していく

 

「そもそも俺はお前たちの連絡先なんて…………………………みんなのメアド知りたいなー……」

 

突然の変わり身に久里須は苦笑すると三玖が自身のスマホを差し出した

 

「協力してあげる」

「わーいやったぜー」

(清々しいまでの棒読み……)

「……足は平気か?」

 

その言葉で花火大会の事を思い出す。確かあの時に足を怪我したと言っていた事を思い出しながらページを捲る

 

「これでよし。五月と二乃は今度でいいだろ」

「その二人ならさっき見ましたよ。今のうちに聞きに行きましょう!」

「なんでお前も行くんだよ!ってか四葉、お前のアドレスは……」

「早くしないと帰っちゃいますよ!」

「やっぱ勉強する気無いだろお前!」

 

どうやら二乃と五月のアドレスを聞きに行く流れになったらしく、コレは助け船を出さなくてはと本を閉じて二人を追う

 

「上杉さん私もお供します!クラスメイトですから二乃さんの説得は私が適役かと!」

「マジか!助かる」

 

――――――――――――――――――

 

「お断りよ。お・こ・と・わ・り!」

「確かに私たちにはあなたのアドレスを聞くメリットがありません」

 

食堂に来た三人だったが予想通りの返答が帰って来た

しかし、風太郎はそれに怯まず

 

「これならどうだ!今なら俺のアドレスに加えてらいはのアドレスもセットでお値段据え置きお買得だ!」

「なんですかその悪徳商法みたいな売り文句は」

 

冷ややかなツッコミが飛んでくるが対する五月は

 

「背に腹はかえられません」

「それでいいんですか五月さん……」

「身内を売るなんて卑怯よ!」

 

将来が心配になる久里須。お次は二乃の番になるのだが

 

「二乃は教えてくれないのか?」

「当たり前よ」

(ん?二乃さんのアドレス?)

「仕方ない……では「あっ!」どうした?」

 

藪から棒に声を張り上げた久里須が風太郎達に自分のスマホの画面を見せながら

 

「二乃さんのアドレス、私持ってます」

 

と自己申告をすると三者三様のリアクションが返ってきた

 

「そういう事は早く言えよ!」

(しまった〜!そうだった!)

「南里さん意外とおっちょこちょいですねー」

 

風太郎にアドレスを見せている久里須に「裏切り者〜……」と恨み節を吐く二乃だったが「それはそれ、これはこれですよ」と切り返されてしまう。ついでにお互いのアドレス交換も済ませておく

 

「これで全員分揃いましたね」

「あと一人いるだろ」

「え?一花、三玖、五月、二乃……あー!四葉!私です!」

(やっぱコイツただのアホだ)

(四葉さんって実は条件反射だけで生きてます?)

 

改めてアドレスを貰おうとした風太郎だったがバスケ部の部長から電話があって四葉はソチラに行ってしまった

 

「アララ……えっと、これ以上お邪魔をするのもどうかと思いますので私はコレで失礼させて……」

「待って下さい南里さん。私とも交換してくれませんか?」

「えっ?上杉さんにはメリットが無いから交換する必要性が無いと仰っていたのに」

「うっ……み、南里さんは上杉君よりも柔軟な考えをお持ちですし、彼よりは頼りになりますから!」

 

腑に落ちない顔をしながらも久里須が五月とアドレスを交換して改めて立ち去ろうとすると、今度は横から二乃が口を挟んで来た

 

「改めて言っておくわ。この前の事、助けてくれたのは感謝してる」

「………………」

「勉強の事もそうだし、姉妹達と仲良くしてくれてるのもね。でも」

 

二乃が言い終わる前に足を止めた久里須は先は言わせぬとばかりに口を開いた

 

「…………解っていますよ二乃さん。所詮私は……」

「「?!」」

 

振り返ると同時に二人は目を丸くして呆気に取られてしまう。何故なら彼女が

 

アウトサイダー(部外者)ですから」

 

自嘲、悲観、諦観……様々な感情の入り混じった表情をしていたから

 

(今の……何?えっと……ホントに何?あの顔……)

(南里さん……あなたは一体……)




第六話、いかがだったでしょうか
今回で主人公の真意の一端が見えましたね

まぁ賛否両論は必至だろうなと思い、敢えて概要の方で先にネタバラシしたのはご容赦をば。その分心境の変化を描写……出来たらなぁ


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第七話:久里須のお悩み相談室

久里須の秘密⑥
イラっとした時に舌打ちをするのはユーリの癖がうつったから


「来週から中間試験が始まる。一応言っておくが今回も30点以下の奴は赤点だからちゃんと復習しとけよ〜?」

 

中間試験……学校によっては中間考査・中間テストとも呼ばれたりする学生にとって避けては通れない壁である

久里須は特段焦る様子もないようで、いつものように過ごしていた

「南里さん勉強は順調?中野さんは?」

「まぁボチボチですかね」

「同じく」

 

身体を反転させて二人に状況を聞く新庄

 

「そうなんだ?時々南里さんが勉強教えてるのを聞くけど?」

「あ~……言い触らさないでくれると助かるかな~って」

 

流石に席が久里須の前なのだから自分が余り勉強が得意でない事はバレるか。と観念して苦笑いするしかない二乃だったが、そんな彼女を余所に新庄は更に続ける

 

「でもちょっと分かるかも。南里さん国語と英語は今のところ全部満点だし」

「そうなの!?国語はまだ分かるけど、英語もはちょっと意外だわ」

養父(ちち)の影響で別の国の方と話す機会が時々あったので困らない様に勉強していたので……」

 

改めて便利屋って凄いなと思う二乃であった

 

―――――――――――――

 

「二乃」

 

三人で廊下を歩いていると階段の踊り場で仁王立ちしているのは二乃が最も嫌う人物。嫌悪感を隠す事なく「げっ」と漏らす

 

「お前、中間試験は」

「皆行こー」

(相変わらず嫌われてますねぇ……)

 

風太郎に構わずさっさと階段を上る二乃を追う二人。もちろん久里須は風太郎に会釈をする

 

「あの人中野さんの事呼んでなかった?」

「あいつ私のストーカー」

「ストーカー!?こっっわ……」

 

しかしここまで言われても引き下がる事をしないのが上杉風太郎という男な訳で

 

「二乃!俺は諦めないぞ!祭りの日一度は付き合ってくれただろ!考え直してくれないか」

「え?」

 

風太郎の言葉に思わず足を止めて振り返る新庄

 

「何ならお前の家でもいいんだ!あと一回だけ!一回だけでいいから!お前の知らない事をたくさん教えてやるよ!だから」

「くっ……くくくっ……」

 

あらぬ誤解を招きかねない失言のオンパレードに笑いを堪える久里須。その隣では顔を真っ赤にした二乃が風太郎の方に近づいて……

 

「おぉ!分かってくれ……」

「アンタねぇ……」

 

誤解されるでしょうがぁぁぁぁぁぁぁ!

 

\バチーン!/

 

盛大に平手打ちを喰らわせ、それがトドメとなって

 

「アッハハハハハハハ!」

 

久里須は大笑いしてしまった

 

「ちょっ!?久里須何笑ってんのよ!」

「いやぁすみません……だっていくらでも言い方がある筈なのに、よりにもよってあんな……アハハハッ」

 

ヒーヒー言いながら腹を抱えて笑い続け、風太郎はすごすごと退散する

 

「ごめんなさい本当に……フフフッ」

「いいっていいって!珍しいモノも見れたしさ」

 

二人のやり取りを見て二乃はふと思い至った

 

(そういえば、久里須(この子)があんなに笑った所を見たのは初めてかも……)

 

――――――――――――――――――――

 

「ふぅ~終わった終わった!」

「この後何処行く~?」

 

放課後、級友たちが慌ただしく教室の外に出て行く中、今日のこの後の予定について思考をする

(特に予定は無いしこのままゲームセンターにでも……いやいや、テスト期間なんですからちゃんと勉強しなくては……!)

 

二乃は他の友人とさっさと下校してしまっているし、ココは大人しく一人で帰る事にする

 

「ただいま」

「おう」

「お帰り~」

 

聞き慣れた声、やり慣れたやりとり。正直、飽きてきた。それでもやってしまうのは生粋の生真面目さ故か

 

「そういえば来週試験よね?まぁ、アンタの事だから心配はしてないけど」

 

前髪の白のヘアピンが目立つ鮮やかな金髪を腰まで伸ばし、白の長袖シャツの上にデニムカラーのベストを羽織り、ジーンズを履いた女性が久里須に近況を訪ねる。彼女の養母であるユーリだ

 

「まっ、根詰めすぎるのもアレだがね」

 

ソファの背もたれに左腕を乗せて缶ビールを煽るシュウ

この二人は長い付き合いであり、基本的にやり取りも短い。それも信頼から来るものなのだが

因みに夫婦とはいっているがあくまでも形式上のモノであり、一緒にいるだけで満足しているんだから別に良いよね。という共通認識が存在している

 

それはさておき、テスト勉強の為に自室に入る久里須。鞄をベッドに無造作に置き、机の上にあるノートPCを机上にある簡易式の棚に置き、ノートと参考書・筆記用具を並べる

 

「さて、やりますか」

 

夕食とソシャゲのデイリーも済ませた後、再び勉強机に向かう。しばらく問題と格闘し続け、そろそろ小休止を……と思っていた所でスマホにメールが届いた

 

【すみません南里さん。少しお時間よろしいでしょうか?】

 

送り主は五月だった。今日アドレスを交換したばかりだというのにどうしたのだろうか

 

ク【小休止しようと思っていた所なので大丈夫ですよ】

【突然どうしたんですか?】

 

五【実は今日の放課後に上杉君と諍いを起こしてしまって】

 

「(またですか……)チッ」

思わず舌打ちが出てしまった

 

ク【諍い?今回はどういった理由で衝突してしまったんですか?】

 

五【父から上杉君に取り次ぎの電話がありまして】

 【そこから中間試験の話題が理由でついカッとなってしまって】

 【あなたからは絶対に教わりません。と】

 

ク【売り言葉に買い言葉……ですか】

 【私に相談のメールをしたという事は、関係を修復したいという意思はあるんですね?】

 

久里須が一番聞きたかった事はこれだ。仲直りをする意思があるか、それが無ければ関係修復はまず無理だ

 

五【はい】

 【しかし、どうも彼とは馬が合いません。今回の件も些細な事でムキになってしまって】

 

ク【無理をしなくても良いんじゃないですか?】

 【そのつもりがあるのであれば、謝れるタイミングというのは自ずとやってくる筈ですし】

 

しかし、どういう内容の電話だったのか?

その辺りを聞いてみる必要があると思った久里須はその事についても訊ねてみる

 

ク【そういえば親御さんから電話があったと先程書いてましたけど、その時どういった反応をされていました?】

 

五【そうですね】

 【世間話をしただけ。と言っていましたけれど、ものすごい量の汗をかいていました】

(汗……?)

 【今回赤点ならもう次は無い。とも】

 

ク【次が無い?それはつまり、切られるって事ですか?】

 

成る程合点がいった。大方、次の中間試験で赤点回避出来なければさようなら。という条件でも出されたのだろう

 

ク【そんな条件を突き付けられて、彼に精神的余裕が無かった事も視野に入れなくてはなりませんね。それだと】

五【確かに……】

 

五月は文面を打ちながらやはり彼女に打ち明けて正解だったと思っていた。彼女がいなければ一人さめざめと泣いていただろうから

 

ク【こういうのはアレですけど】

 【やっぱり五月さんと上杉さんって仲がいい。というか似てますよね】

 【似てる二人は喧嘩する。って漫画のサブタイトルもある位ですし】

 【変な所が真面目で不器用といいますか】

 【私もそういう人をよく見て来たのでなんとなく分かるんです】

 【お互いに歩み寄る意思があるなら、自然と機が巡って来ますよ】

 

五【南里さん。ありがとうございます】

 【少しだけ気持ちがすっきりしました】

 

ク【私などがお役に立てたのであれば良かったです】

 【焦らなくて良いですからね?】

 

そういえばと五月は久里須に聞きたかった事を聞いてみようと思い立つと同時に彼女の言葉を思い出す

 

——所詮私は、部外者ですから——

 

五【そうだ。南里さん】

 【今日のお昼、凄く悲しそうな顔をしていました】

 【あの……何か理由でも?】

 

あの様々な感情の入り混じった表情。何かあると思わない方がおかしい

恐らく二乃も彼女に聞く筈だろう。しかし、返って来たのは……

 

【それは言えません。語った所で、信用して貰えるとは思っていませんので】

 

またもや意味深な言葉だった




第一章も残り1話となりました

お気づきとは思いますが【】はチャットでの会話になっています


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第八話:いざ、中間試験

久里須の秘密⑦
好きな動物は鷹


いよいよ今日は中間試験。風太郎と五つ子にとっては関門となる。最も、ソレはある一人を除いて

 

「ファ……」

「あら~?どうしたの久里須?珍しくあくびなんかしちゃって?」

 

ニヤニヤしながら隣席である友人の顔を覗き込む二乃

 

「実は昨日、少し夜更かししてしまいまして……」

「へぇ~アンタがねぇ」

「でも貴女も今日は遅刻ギリギリで登校して来ましたよね?」

「ぐえぇ」

 

強烈な切り返しをされて思わず仰け反ってリアクションをとってしまう

 

「とはいえ中間試験、お互い頑張りましょう」

「え?あぁ、そうね」

 

この時二乃は風太郎が赤点回避出来なければ家庭教師をクビになる事を泊まり込みで勉強会をする事になった際に知った為、他の四人に比べて余りしていなかったのでその問いにあやふやな返事をしてしまった

 

一方その頃久里須の家では――

 

Spinnengewebe(シュピネンゲヴェーベ)だ。要件はなんだ?」

【失礼。私は……】

 

―――――――――――――――

 

数日後、中間試験の結果が帰ってきたのだったが浮かない顔をしているのがチラホラいる。それというのも……

 

(今回の社会のテストだいぶ難しかった様な……?)

 

答案を見ながら頭を捻る久里須。しかし、気になるのは先日養父から聞かされた依頼の件だ

 

まさか指名の依頼とは……しかもその内容も驚きだった

 

「えっと……確か図書室に行くと二乃さんは言っていましたよね……」

 

自分もこっそり行ってみようかと思い至ったが乗り込むのも違う気もする。ウロウロしながら考え、結局外で待っている事にした

 

その頃、図書室では風太郎が五つ子それぞれに助言を送っている所だった

 

「三玖、今回の難易度で偏りはあるが68点は大したもんだ。今後は姉妹に教えられる箇所は自信を持って教えてやってくれ」

「え?」

 

三玖

国語…25 数学…29 理科…25

社会…68 英語…15 合計…162

 

「四葉、イージーミスが目立つぞ?もったいない。焦らず慎重にな」

「了解です!」

 

四葉

国語…30 数学…09 理科…18

社会…22 英語…16 合計…95

 

「一花、お前は一つの問題に拘らなさすぎだ。最後まで諦めんなよ?」

「はーい」

 

一花

国語…19 数学…39 理科…26

社会…15 英語…28 合計…127

 

「二乃、結局最後まで言う事を聞かなかったな。きっと俺は他のバイトで今までのように来られなくなるが、今まで通り南里に教えて貰えればいい。ここまで食い下がれたのはアイツのフォローのお陰だろうからな」

「ふん」

 

二乃

国語…21 数学…23 理科…32

社会…18 英語…49 合計…143

 

後は五月だけとなった所で三玖が不安な表情のままどういう事かと伺いをかける

 

「フータロー?他のバイトってどういう事?来られないって……なんでそんなこと言うの?私……」

 

重苦しい沈黙に包まれる六人

無理も無いだろう。事情を知らないとはいえ風太郎のお陰で前を向く事が出来た三玖にとって彼は精神的支柱でもあり、初めて意識した異性でもあるのだから

 

「三玖……今は聞きましょう」

 

そんな彼女を五月は表情を変えずに言い聞かせる。まぁ、その顔も直ぐに崩れる事になるのだが

 

「五月、お前は本当に……バカ不器用だな!」

「なっ!?」

「一問に時間かけすぎて最後まで解けてねぇじゃねぇか!」

「は、反省点ではあります……」

「自分で理解してるならいい。次から気を付けろよ?」

 

五月

国語…27 数学…22 理科…56

社会…20 英語…23 合計…148

 

その時、タイミングを見計らったかのように五つ子の父からの着信が入った

 

「上杉です」

『あぁ、五月君と一緒にいたのか。個々に聞いていこうと思ったが、君の口から結果を聞こうか。嘘は分かるからね』

「つきませんよ。ただ……次からこいつらにはもっと良い家庭教師をつけてやってください」

『うん、その事なんだがね……』

 

突然、二乃が風太郎からスマホをひったくる

 

「え?」

「パパ?二乃だけど。一つ聞いていい?なんでこんな条件出したの?」

『僕にも娘を預ける親としての責任がある。高校生の上杉君がそれに見合うか計らせて貰っただけだよ』

「私たちのためって事ね。ありがとうパパ。でも相応しいかなんて数字だけじゃ分からないわ」

『それが一番の判断基準だ』

 

押しも押されぬ状況で両者一歩も引かない。そして、二乃はとんでもない事を言いだした

 

「あっそ、じゃあ教えてあげる。私達五人で五科目全ての赤点を回避したわ」

「!?」

『……本当かい?』

「嘘じゃないわ」

『二乃君が言うのなら間違いはないんだろうね。これからも上杉君達と励むといい』

「え?」

 

一瞬彼女にとって聞き捨てならない言葉が聞こえた為に追及しようとしたが、その前に切られてしまった

 

「二乃……今のは?」

「私は英語と理科、一花は数学、四葉は国語、三久は社会、五月は理科。五人で五教科クリア、嘘はついてないわ」

「そんなのありかよ……」

 

久里須のように右手で頭を抱えて呆れる風太郎

 

「結果的にパパを騙す事になった。多分二度と通用しない。次は実現させなさい?」

「……やってやるよ」

「…………それはそれとして、さっき気になる事を言っていたわね。まるでもう一人家庭教師を雇ったみたいな」

 

眉をひそめる二乃に対して一花が予想を立てた

 

「もしかしてクリスちゃんだったりして~?」

「はぁ!?何言ってんのよ!?そんな事……いや、あり得るわ。あの子の家は便利屋だったし」

 

思わず納得してしまった

以前から彼女に勉強を教わっている事、そして彼女が便利屋なのはこの場にいる皆が知っている事。白羽の矢が立つには十分な条件が揃っている

 

――――――――――――

(長い……)

 

それなりの時間が経ったがテストの結果を知らせるだけにしてはやけに時間が掛かっている

もういい加減突撃してしまおうか?と思っていると突然大きな笑い声が聞こえて来たと同時にパタパタと複数の足音が聞こえて来た

 

「ん……終わりましたかね?」

 

そう呟く事数秒後、ガラッと図書室のドアが開いた

 

「わぁお、南里さん!」

 

真っ先に気づいた四葉の声に遅れて全員が彼女の方を見る

久里須は背中を壁に寄り掛からせて片膝を軽く曲げた態勢で両腕を組んで佇んでいた。反射した夕影に照らされたミントグリーンの瞳と彼女の纏う凛とした雰囲気が絶妙な組み合わせを生んでいる

 

「なんだ、待ってたのか」

「お取込み中だったようですので」

 

腕を組んだまま首だけを6人に向けたまま口を開く友人に二乃と五月は恐る恐る聞いてみた

 

「ねぇ、もしかして……」

「私達の家庭教師……いえ、上杉君の補佐を任されたのですか?」

「ハイ。中間試験直前に養父(ちち)から皆さんのお父様からの依頼を承諾したと連絡がありまして」

 

複雑な顔をしている二乃とは対照的に喜びを全面に出して四葉が久里須の手を両手で握って大きく振っている

 

「わぁ~!南里さんも一緒なんですね!嬉しいです!よろしくお願いします!」

「そうですか。それならば今後も南里さんからしっかり教わる事が出来ますね。二乃?」

「う、うるさいわね!そんなのどうでもいいでしょ!?」

 

無理矢理話題をぶった切ってずんずん先に進んで行ってしまう

 

「おい二乃!待てって!パフェ食いに行くんじゃねぇのかよ!」

「そうだったんですか?タイミング、間違えてしまいましたね」

 

さっさと一行から離れようとする久里須だったが五月に呼び止められる

 

「あの、良ければ南里さんもご一緒にどうですか?」

「え?私もですか?」

 

唐突なお誘いに困惑する久里須だったが、思わぬ所から追撃が飛んで来た

 

「良いんじゃねぇか?一応知らない仲って訳じゃないんだしさ」

「う、上杉さんまで……」

「……まぁ、良いけど。その代わり…………」

 

いつの間にか戻って来ていた二乃が手を差し出してくる

 

「見せなさい」

「え、テストの結果を……ですか?」

「何が得意なのか位は把握しとかなきゃダメでしょ?だからよ」

(恐るべし友情パワー……)

 

意外とあっさり補佐に入る事を受け入れた二乃に苦笑いしながら風太郎は仕方なく鞄から答案用紙を出す久里須を眺めている

 

「どれどれ~?」

「私も気になる……」

 

二乃の後ろからどうにか覗こうとする四人。どんな結果だったのか……

 

久里須

国語…100 数学…84 理科…74

社会…60 英語…100 合計…418

 

「うわっ!結構高い!」

「ホントに国語と英語が満点……」

(社会だけ勝ってる)

「南里さんホントに勉強できるんですね!」

「こうして結果を見ると、南里さんが一緒に教えてくれる事になったのは喜ばしい事です」

「コレが公開処刑ですか…………」

「あ~まぁうん。気にすんな」

 

羞恥で顔を真っ赤にして蹲ったまま黙りこくってしまった久里須を慰める風太郎であった




これにて第一章はおしまいです

次回から本格的に家庭教師が始まります

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